生命科学(その3)(【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】、【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】、恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み) [科学]
生命科学については、1月7日に取上げた。今日は、(その3)(【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】、【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】、恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み)である。
先ずは、8月8日付けダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307355
・『NHK『100分de名著 for ティーンズ』(2022年8月放送)で話題沸騰! ノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者ポール・ナースの初の著書『WHAT IS LIFE? (ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』が世界各国で話題作となっている。 ポール・ナースが、生物学について真剣に考え始めたきっかけは一羽の蝶だった。12歳か13歳のある春の日、ひらひらと庭の垣根を飛び越えた黄色い蝶の、複雑で、完璧に作られた姿を見て、著者は思った。生きているっていったいどういうことだろう? 生命って、なんなのだろう? 著者は旺盛な好奇心から生物の世界にのめり込み、生物学分野の最前線に立った。本書ではその経験をもとに、生物学の5つの重要な考え方をとりあげながら、生命の仕組みについての、はっきりとした見通しを、語りかけるようなやさしい文章で提示する。 養老孟司氏「生命とは何か。この疑問はだれでも一度は感じたことがあろう。本書は現代生物学の知見を十分に踏まえたうえで、その疑問に答えようとする。現代生物学の入門書、教科書としても使えると思う。」、池谷裕二氏「著名なノーベル賞学者が初めて著した本。それだけで瞠目すべきだが、初心者から専門家まで読者の間口が広く、期待をはるかに超える充実度だ。誠実にして大胆な生物学譚は、この歴史の中核を担った当事者にしか書けまい。」、更科功氏「近代科学四百年の集大成、時代の向こう側まで色褪せない新しい生命論だ。」、さらには、ブライアン・コックス(素粒子物理学者 マンチェスター大学教授)、シッダールタ・ムカジー(医師、がん研究者 コロンビア大学准教授)、アリス・ロバーツ(人類学者 バーミンガム大学教授)など、世界の第一人者から絶賛されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。(初出:2021年3月7日)』、「地球上の生命の始まりは「たった1回」だけ」、とはどういう意味なのだろう。
・『生命の樹 生き物には、全面的に他に依存するウイルスから、自給自足の生活を送るシアノバクテリアや古細菌や植物まで、境目のないグラデーションがある。こうした異なる形態はすべて生きている、と私は言いたい。すべての形態は、程度の差こそあれ、他の生き物に依存しつつ、自然淘汰で進化し、自らを律する物理的存在であることに変わりないからだ。 この広い視野に立って生命を眺めてみると、生物界に対する広々とした視界が開ける。地球上の生命は一つの生態系に属している。そこには、あらゆる生き物が組み込まれ、相互にあまねくつながっている。 このつながりは本質的なものだ。それは、相互依存の深さだけでなく、あらゆる生命が共通の進化のルーツを通して遺伝的に親戚であることによってもたらされる。 こうした深い関連性と相互のつながりという見方は、ずっと以前から生態学者が主張し続けてきたものだ。元をたどれば、一九世紀初めの探検家で博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトの考えに端を発している。 彼は「あらゆる生命は、全体がつながったクモの巣のようなもの」と主張した。思いがけないことかもしれないが、こうした相互のつながりこそが、生命の中核なのだ。だからこそ、人間の活動が他の生物界に与えてきた影響について、われわれは、立ち止まって、じっくり考えるべきなのだ。 生命が共有する家系図、生命の樹のたくさんの枝の生き物たちは、驚くほど多様だ。しかし、そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ。 たとえば、同じ小さなATP分子を「エネルギー貨幣」として利用し、同じく基本的なDNAとRNAとタンパク質のあいだをつなぐ関係に頼り、リボソームを使ってタンパク質を作る。 フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。それ以来、このルールに従わない、小さな例外を指摘した人もいたが、クリックの要点は依然として破られていない』、「そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ」、「フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。・・・クリックの要点は依然として破られていない」、なるほど。
・『物語のはじまり 生命の化学的基礎におけるこうした深い共通性は、驚くべき結論を指し示している。なんと、今日地球上にある生命の始まりは「たった一回」だけだったのだ。もし異なる生命体が、それぞれ何回かにわたって別々に出現し、生き延びてきたとしたら、その全子孫が、これほどまで同じ基本機能で動いている可能性はきわめて低い。 あらゆる生命が、巨大な同じ生命の樹の一部だとすれば、その樹はどんな種類の種子から成長したのだろう? どういうわけか、どこかで、はるか昔に、無生物の無秩序な化学物質が、より秩序だった形態に自分を配置した。 自らを永続させ、自らをコピーし、最終的に自然淘汰によって進化するという、きわめて重要な能力を獲得したのだ。しかし、われわれも登場人物の一人である、この物語は、実際にはどのようにして始まったのだろう? 地球は四五億年ちょっと前、太陽系の黎明期に形成された。初めの五億年ほどは、この惑星の表面は熱すぎて不安定で、われわれが知るような生命は物理的、化学的に出現できなかった。 これまでに曖昧さを残さない形で特定された、最も古い生命体の化石は、三五億年前に生息していたものだ。生命が立ち上がって走り出すまで、数億年かかったわけだ。想像を絶する、悠久の時の広がりだが、地球上の生命の歴史から見れば、僅かな時間にすぎない。フランシス・クリックは、その時間内で、生命がこの地球で始まった可能性は非常に低いと考えた。 だから彼は、生命は宇宙のどこかで誕生し、(部分的にか完全に形成された状態かは別として)地球まで運ばれてきたにちがいないと示唆したのだ。しかし、彼は、生命がどのようにして慎ましい発端から始まったのか、という重要な疑問に答えるどころか、はぐらかしてしまっている。現在、われわれは、未だ検証できないにしても、この物語について信用できる説明をすることができる。 最も古い化石は、現在の細菌のいくつかに似ている。これは、その時点で生命がすでに、膜に包まれた細胞、DNAに基づく遺伝システム、タンパク質に基づく代謝作用などを備え、充分に確立されていたことを意味する。 しかし、どれが最初だったのだろう? DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる。 しかし、酵素タンパク質は、DNAが保持する命令によってしか作ることができない。どうすれば片方ぬきで、もう片方を手に入れることができるのか? さらに、遺伝子と代謝作用は、どちらも、必須の化学物質を集めたり、エネルギーを得たり、環境から自らを守るために、細胞の外膜に頼っている。 ところが、現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、システム全体があっという間にバラバラになってしまうのだから。 細胞膜の形成を説明するのがいちばん簡単かもしれない。細胞分子を作り上げている脂質分子は、できたてほやほやの地球に存在していたと思われる材料や条件のもと、自然発生的な化学反応で形成されうることが分かっている。科学者が脂質を水に浸けると、それは思いがけないふるまいをする。膜で包まれた空洞の球体が自然にできるのだ。その大きさや形は、細菌細胞にきわめて近い。 (本原稿は、ポール・ナース氏の略歴はリンク先参照)。 (訳者:竹内 薫氏の略歴もリンク先参照)』、「DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる」、「現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、システム全体があっという間にバラバラになってしまうのだから」、確かに不思議だ。
・『これだけ心を打たれた本は、初めてだ――訳者より ポール・ナースは生物学の世界における巨人である。二〇〇一年にノーベル生理学・医学賞も受賞している。 本書を翻訳していて感じたことを書きたいと思う。 驚いたのは、この本がポール・ナースにとって初めての「本」の出版だということ。これだけ科学的な実績があり、二〇〇一年にノーベル賞を受賞しているのだから、何冊も本を書いていても不思議ではないが、ロックフェラー大学学長、王立協会(ロイヤル・ソサエティ)会長といった要職で忙しく、一般向けの本を書く暇がなかったのかもしれない。 これは私の推論にすぎないが、ポール・ナースは、次の世代のため、人類が悲惨な状態に陥らないために、生涯で一冊の一般向け科学書を書いたのではないか。この本はまさに、細胞周期の司会進行役を務めるタンパク質キナーゼと同様、新たな世代への橋渡しの役割を担っている。 私は数々の科学書を翻訳してきたが、これだけ心を打たれた本は、初めてだ。それほど、ポール・ナースという科学者の家族、友人、先輩、同僚、部下、人類、そして生き物への愛情を感じた』、大変な力作のようだ。
次に、8月9日付けダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】」を紹介しよう。
・(この部分は第一の記事と同じなので、紹介省略)
・『最古の化石の年代 光合成とは、ご存じのように、太陽光のエネルギーを利用して、水と二酸化炭素から糖と酸素を作る一連の化学反応だ。 光合成に必要な酵素は、葉緑体を取り巻く二層の細胞膜の内側に配置されている。近所の公園に生えている草の葉っぱも、その一つひとつの細胞に、クロロフィル(=葉緑素)と呼ばれるタンパク質を高レベルで含む、ほぼ球体の細胞小器官が一〇〇個ほど収まっている。 草が緑に見えるのは、このクロロフィルが原因だ。光のスペクトルの青と赤の部分からエネルギーを吸収し、そのエネルギーを光合成の動力に利用するため、結果として緑の波長を反射するのだ。 光合成を行うことができる植物や藻、そしていくつかの細菌は、光合成によって作り出された単糖を、当面のエネルギー源として、また、自分たちが生き残るために必要な分子を組み立てる材料として利用する。さらに、糖類および炭水化物も生み出し、それをさまざまな生き物が消費する。朽ちてゆく木を餌にする菌類、草を喰む羊、海で何トンもの光合成プランクトンをひと飲みにするクジラ、そして、世界中の人々を支える食用作物などだ。 実際、われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ。 光合成の化学反応は、今日、地球上に存在する大半の生命を作るためのエネルギーと材料を供給してくれるだけでなく、この惑星の歴史を形作る上で、決定的な役割を果たした。生命は、これまで発見された最古の化石の年代からすると、およそ三五億年前に初めてあらわれたと思われる。 最古の化石は単細胞の微生物で、地熱源からエネルギーを得ていたようだ。地球の生命の最も初期のころ、まだ光合成が行われていなかったため、酸素の大きな供給源はなかった。その結果、大気中には酸素がゼロに等しかった。この惑星の草創期の生命体が実際に酸素と遭遇したとき、数々の問題が生じたはずだ』、「われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ」、なるほど。
・『驚きの大惨事 酸素は生命を維持するものと考える人は多いだろう。実際にそのとおりなんだが、酸素は、生命に絶対欠くことができないDNAなどのポリマーを含む、他の化学物質を傷つけることもある。酸素は、非常に化学反応性の高い気体なのだ。 微生物たちは、いったん光合成する能力を進化させると、何千年もかけて増殖し、大気中の酸素の量が急上昇するほどまでになった。その後、二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる。 生命を作り出した条件が、生命をほぼまるまる終焉させたとは、なんと皮肉なことだろう。生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう。 現在、人間は、未だに酸素を注意して扱っているが、ほぼ完全に酸素に依存している。身体が食べたり、作ったり、吸収したりした、糖、脂肪、タンパク質からエネルギーを得るために酸素が不可欠だからだ。エネルギーは「細胞呼吸」と呼ばれる化学プロセスによってもたらされる。この一連の反応の最終段階は、あらゆる真核生物の細胞にとってきわめて重要な細胞小器官の区画、ミトコンドリア内で起こる。 ミトコンドリアの主な役割は、生命の化学反応に細胞が必要とするエネルギーを生み出すことだ。だから、エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる。 (本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)』、(以下は第一の記事と同じなので紹介を省略)「二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる・・・生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう」、「エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる」、本当によく出来た仕組みだ。
第三に、9月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したヘンリー・ジー氏による「恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309707
・『地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する』、興味深そうだ。
・『恐竜の秘密 獣弓類には、大型はゾウくらいから小型はテリアくらいまでの大きさのものがいたが、恐竜はそのどちらをも超えていた。 なぜ、恐竜はこれほどまでに大きく、そして小さくなれたのだろう? その秘密は、恐竜の呼吸の仕方にある』、どういうことなのだろう。
・『「換気」の効率 羊膜動物の歴史のなかで、深い断絶が起きていたのだ。ほ乳類、つまり三畳紀の生き残りで、恐竜の影で果敢にもまだ頑張って生きていた獣弓類にとって、「換気」とは、息を吸って、また吐き出すことだった。 客観的に考えて、これは体内に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するには効率の悪い方法だ。 口と鼻から新鮮な空気を吸い込み、肺に下ろし、そこでまわりの血管に酸素を吸収させるのは、エネルギーの無駄だ。 しかも、同じ血管から老廃物である二酸化炭素を同じ肺の空間に放出し、新鮮な空気が入ってきたのと同じ穴から吐き出さなければならない』、確かに「「換気」の効率」は悪そうだ。
・『恐竜もトカゲも… つまり、一回の吸気で、よどんだ空気をすべていっぺんに排出することも、隅々まで新鮮な空気で満たすことも非常に難しいのだ。 恐竜やトカゲなどのほかの羊膜類も、同じように鼻や口から息を吸ったり吐いたりしていたが、吸気と呼気のプロセスはかなり異なっていた。 彼らは空気を処理する一方通行のシステムを進化させ、呼吸をとても効率的なものにしていた。 空気は肺に入っても、すぐにまた出ていくわけではなく、逆止め弁に導かれて、全身に張り巡らされた気嚢へと送られた』、「逆止め弁」、「全身に張り巡らされた気嚢へと送られた」、これなら「効率的」にできそうだ。
・『精巧なしくみ 今日でも一部のトカゲに見られるが、このシステムを最高度に精巧なものにしたのは恐竜だった。 気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ。 この空気処理システムは、必要にして充分なまでに簡潔で洗練されていた。 強力な神経系を持ち、活動的だった恐竜は、大量のエネルギーを獲得して消費する必要があり、熱を帯びていた』、「気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ」、速く走ったりできるのは、このためだったようだ。
・『巨大化と空冷装置 こうしたエネルギー活動のためには、酸素を大量に消費する組織へ、尋常でない方法で、もっとも効率よく空気を送り込むことが不可欠だった。 このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ。 (本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です) 『超圧縮 地球生物全史』には、「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」までの全歴史が紹介されています。ぜひチェックしてみてください。(ヘンリー・ジー氏の略歴はリンク先参照)(訳者:竹内 薫氏の略歴もリンク先参照)』、「このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ」、「気嚢」が「空冷装置」にもなったとは、上手い仕組みだ。
・『地球生命史がわかると、世界の見え方が変わる――訳者より 世界的に権威のある科学雑誌ネイチャーの生物学編集者ヘンリー・ジー(もともと科学者で専門は古生物学と進化生物学)による、その名のとおり『超圧縮 地球生物全史』である。最初、原書を手にしたとき、「ずいぶんと無謀な試みだなぁ」と驚いた覚えがある。 なにしろ、約三八億年にわたる地球生命の誕生から絶滅(?)までをわずか二〇〇ページ(原書)で書くことなど、誰が考えても不可能な所業に思われたからだ。 悠久の時をめぐる歴史書ということで、ずいぶんと読み終えるのに時間がかかるにちがいないとも思った。だが、世界的ノンフィクション作家であり、進化生物学者のジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』倉骨彰訳、草思社文庫)が推薦していることもあり、つらつらとページをめくりはじめたのである。 実際に読みはじめると、不思議なことに、目の前で生命が誕生し、進化し、絶滅するダイナミックな映像が流れていくような錯覚に陥り、どんどん先が読みたくなり、ペルム紀の大量絶滅のあたりからはぐんぐんと読書のスピードが加速し、気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った。 文学に感銘を受けると人生が変わるものだが、本書も同じだ。地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ』、「気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った」、「地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ」、最大限のPRだが、確かに面白そうだ。
先ずは、8月8日付けダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307355
・『NHK『100分de名著 for ティーンズ』(2022年8月放送)で話題沸騰! ノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者ポール・ナースの初の著書『WHAT IS LIFE? (ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』が世界各国で話題作となっている。 ポール・ナースが、生物学について真剣に考え始めたきっかけは一羽の蝶だった。12歳か13歳のある春の日、ひらひらと庭の垣根を飛び越えた黄色い蝶の、複雑で、完璧に作られた姿を見て、著者は思った。生きているっていったいどういうことだろう? 生命って、なんなのだろう? 著者は旺盛な好奇心から生物の世界にのめり込み、生物学分野の最前線に立った。本書ではその経験をもとに、生物学の5つの重要な考え方をとりあげながら、生命の仕組みについての、はっきりとした見通しを、語りかけるようなやさしい文章で提示する。 養老孟司氏「生命とは何か。この疑問はだれでも一度は感じたことがあろう。本書は現代生物学の知見を十分に踏まえたうえで、その疑問に答えようとする。現代生物学の入門書、教科書としても使えると思う。」、池谷裕二氏「著名なノーベル賞学者が初めて著した本。それだけで瞠目すべきだが、初心者から専門家まで読者の間口が広く、期待をはるかに超える充実度だ。誠実にして大胆な生物学譚は、この歴史の中核を担った当事者にしか書けまい。」、更科功氏「近代科学四百年の集大成、時代の向こう側まで色褪せない新しい生命論だ。」、さらには、ブライアン・コックス(素粒子物理学者 マンチェスター大学教授)、シッダールタ・ムカジー(医師、がん研究者 コロンビア大学准教授)、アリス・ロバーツ(人類学者 バーミンガム大学教授)など、世界の第一人者から絶賛されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。(初出:2021年3月7日)』、「地球上の生命の始まりは「たった1回」だけ」、とはどういう意味なのだろう。
・『生命の樹 生き物には、全面的に他に依存するウイルスから、自給自足の生活を送るシアノバクテリアや古細菌や植物まで、境目のないグラデーションがある。こうした異なる形態はすべて生きている、と私は言いたい。すべての形態は、程度の差こそあれ、他の生き物に依存しつつ、自然淘汰で進化し、自らを律する物理的存在であることに変わりないからだ。 この広い視野に立って生命を眺めてみると、生物界に対する広々とした視界が開ける。地球上の生命は一つの生態系に属している。そこには、あらゆる生き物が組み込まれ、相互にあまねくつながっている。 このつながりは本質的なものだ。それは、相互依存の深さだけでなく、あらゆる生命が共通の進化のルーツを通して遺伝的に親戚であることによってもたらされる。 こうした深い関連性と相互のつながりという見方は、ずっと以前から生態学者が主張し続けてきたものだ。元をたどれば、一九世紀初めの探検家で博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトの考えに端を発している。 彼は「あらゆる生命は、全体がつながったクモの巣のようなもの」と主張した。思いがけないことかもしれないが、こうした相互のつながりこそが、生命の中核なのだ。だからこそ、人間の活動が他の生物界に与えてきた影響について、われわれは、立ち止まって、じっくり考えるべきなのだ。 生命が共有する家系図、生命の樹のたくさんの枝の生き物たちは、驚くほど多様だ。しかし、そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ。 たとえば、同じ小さなATP分子を「エネルギー貨幣」として利用し、同じく基本的なDNAとRNAとタンパク質のあいだをつなぐ関係に頼り、リボソームを使ってタンパク質を作る。 フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。それ以来、このルールに従わない、小さな例外を指摘した人もいたが、クリックの要点は依然として破られていない』、「そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ」、「フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。・・・クリックの要点は依然として破られていない」、なるほど。
・『物語のはじまり 生命の化学的基礎におけるこうした深い共通性は、驚くべき結論を指し示している。なんと、今日地球上にある生命の始まりは「たった一回」だけだったのだ。もし異なる生命体が、それぞれ何回かにわたって別々に出現し、生き延びてきたとしたら、その全子孫が、これほどまで同じ基本機能で動いている可能性はきわめて低い。 あらゆる生命が、巨大な同じ生命の樹の一部だとすれば、その樹はどんな種類の種子から成長したのだろう? どういうわけか、どこかで、はるか昔に、無生物の無秩序な化学物質が、より秩序だった形態に自分を配置した。 自らを永続させ、自らをコピーし、最終的に自然淘汰によって進化するという、きわめて重要な能力を獲得したのだ。しかし、われわれも登場人物の一人である、この物語は、実際にはどのようにして始まったのだろう? 地球は四五億年ちょっと前、太陽系の黎明期に形成された。初めの五億年ほどは、この惑星の表面は熱すぎて不安定で、われわれが知るような生命は物理的、化学的に出現できなかった。 これまでに曖昧さを残さない形で特定された、最も古い生命体の化石は、三五億年前に生息していたものだ。生命が立ち上がって走り出すまで、数億年かかったわけだ。想像を絶する、悠久の時の広がりだが、地球上の生命の歴史から見れば、僅かな時間にすぎない。フランシス・クリックは、その時間内で、生命がこの地球で始まった可能性は非常に低いと考えた。 だから彼は、生命は宇宙のどこかで誕生し、(部分的にか完全に形成された状態かは別として)地球まで運ばれてきたにちがいないと示唆したのだ。しかし、彼は、生命がどのようにして慎ましい発端から始まったのか、という重要な疑問に答えるどころか、はぐらかしてしまっている。現在、われわれは、未だ検証できないにしても、この物語について信用できる説明をすることができる。 最も古い化石は、現在の細菌のいくつかに似ている。これは、その時点で生命がすでに、膜に包まれた細胞、DNAに基づく遺伝システム、タンパク質に基づく代謝作用などを備え、充分に確立されていたことを意味する。 しかし、どれが最初だったのだろう? DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる。 しかし、酵素タンパク質は、DNAが保持する命令によってしか作ることができない。どうすれば片方ぬきで、もう片方を手に入れることができるのか? さらに、遺伝子と代謝作用は、どちらも、必須の化学物質を集めたり、エネルギーを得たり、環境から自らを守るために、細胞の外膜に頼っている。 ところが、現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、システム全体があっという間にバラバラになってしまうのだから。 細胞膜の形成を説明するのがいちばん簡単かもしれない。細胞分子を作り上げている脂質分子は、できたてほやほやの地球に存在していたと思われる材料や条件のもと、自然発生的な化学反応で形成されうることが分かっている。科学者が脂質を水に浸けると、それは思いがけないふるまいをする。膜で包まれた空洞の球体が自然にできるのだ。その大きさや形は、細菌細胞にきわめて近い。 (本原稿は、ポール・ナース氏の略歴はリンク先参照)。 (訳者:竹内 薫氏の略歴もリンク先参照)』、「DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる」、「現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、システム全体があっという間にバラバラになってしまうのだから」、確かに不思議だ。
・『これだけ心を打たれた本は、初めてだ――訳者より ポール・ナースは生物学の世界における巨人である。二〇〇一年にノーベル生理学・医学賞も受賞している。 本書を翻訳していて感じたことを書きたいと思う。 驚いたのは、この本がポール・ナースにとって初めての「本」の出版だということ。これだけ科学的な実績があり、二〇〇一年にノーベル賞を受賞しているのだから、何冊も本を書いていても不思議ではないが、ロックフェラー大学学長、王立協会(ロイヤル・ソサエティ)会長といった要職で忙しく、一般向けの本を書く暇がなかったのかもしれない。 これは私の推論にすぎないが、ポール・ナースは、次の世代のため、人類が悲惨な状態に陥らないために、生涯で一冊の一般向け科学書を書いたのではないか。この本はまさに、細胞周期の司会進行役を務めるタンパク質キナーゼと同様、新たな世代への橋渡しの役割を担っている。 私は数々の科学書を翻訳してきたが、これだけ心を打たれた本は、初めてだ。それほど、ポール・ナースという科学者の家族、友人、先輩、同僚、部下、人類、そして生き物への愛情を感じた』、大変な力作のようだ。
次に、8月9日付けダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】」を紹介しよう。
・(この部分は第一の記事と同じなので、紹介省略)
・『最古の化石の年代 光合成とは、ご存じのように、太陽光のエネルギーを利用して、水と二酸化炭素から糖と酸素を作る一連の化学反応だ。 光合成に必要な酵素は、葉緑体を取り巻く二層の細胞膜の内側に配置されている。近所の公園に生えている草の葉っぱも、その一つひとつの細胞に、クロロフィル(=葉緑素)と呼ばれるタンパク質を高レベルで含む、ほぼ球体の細胞小器官が一〇〇個ほど収まっている。 草が緑に見えるのは、このクロロフィルが原因だ。光のスペクトルの青と赤の部分からエネルギーを吸収し、そのエネルギーを光合成の動力に利用するため、結果として緑の波長を反射するのだ。 光合成を行うことができる植物や藻、そしていくつかの細菌は、光合成によって作り出された単糖を、当面のエネルギー源として、また、自分たちが生き残るために必要な分子を組み立てる材料として利用する。さらに、糖類および炭水化物も生み出し、それをさまざまな生き物が消費する。朽ちてゆく木を餌にする菌類、草を喰む羊、海で何トンもの光合成プランクトンをひと飲みにするクジラ、そして、世界中の人々を支える食用作物などだ。 実際、われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ。 光合成の化学反応は、今日、地球上に存在する大半の生命を作るためのエネルギーと材料を供給してくれるだけでなく、この惑星の歴史を形作る上で、決定的な役割を果たした。生命は、これまで発見された最古の化石の年代からすると、およそ三五億年前に初めてあらわれたと思われる。 最古の化石は単細胞の微生物で、地熱源からエネルギーを得ていたようだ。地球の生命の最も初期のころ、まだ光合成が行われていなかったため、酸素の大きな供給源はなかった。その結果、大気中には酸素がゼロに等しかった。この惑星の草創期の生命体が実際に酸素と遭遇したとき、数々の問題が生じたはずだ』、「われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ」、なるほど。
・『驚きの大惨事 酸素は生命を維持するものと考える人は多いだろう。実際にそのとおりなんだが、酸素は、生命に絶対欠くことができないDNAなどのポリマーを含む、他の化学物質を傷つけることもある。酸素は、非常に化学反応性の高い気体なのだ。 微生物たちは、いったん光合成する能力を進化させると、何千年もかけて増殖し、大気中の酸素の量が急上昇するほどまでになった。その後、二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる。 生命を作り出した条件が、生命をほぼまるまる終焉させたとは、なんと皮肉なことだろう。生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう。 現在、人間は、未だに酸素を注意して扱っているが、ほぼ完全に酸素に依存している。身体が食べたり、作ったり、吸収したりした、糖、脂肪、タンパク質からエネルギーを得るために酸素が不可欠だからだ。エネルギーは「細胞呼吸」と呼ばれる化学プロセスによってもたらされる。この一連の反応の最終段階は、あらゆる真核生物の細胞にとってきわめて重要な細胞小器官の区画、ミトコンドリア内で起こる。 ミトコンドリアの主な役割は、生命の化学反応に細胞が必要とするエネルギーを生み出すことだ。だから、エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる。 (本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)』、(以下は第一の記事と同じなので紹介を省略)「二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる・・・生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう」、「エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる」、本当によく出来た仕組みだ。
第三に、9月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したヘンリー・ジー氏による「恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309707
・『地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する』、興味深そうだ。
・『恐竜の秘密 獣弓類には、大型はゾウくらいから小型はテリアくらいまでの大きさのものがいたが、恐竜はそのどちらをも超えていた。 なぜ、恐竜はこれほどまでに大きく、そして小さくなれたのだろう? その秘密は、恐竜の呼吸の仕方にある』、どういうことなのだろう。
・『「換気」の効率 羊膜動物の歴史のなかで、深い断絶が起きていたのだ。ほ乳類、つまり三畳紀の生き残りで、恐竜の影で果敢にもまだ頑張って生きていた獣弓類にとって、「換気」とは、息を吸って、また吐き出すことだった。 客観的に考えて、これは体内に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するには効率の悪い方法だ。 口と鼻から新鮮な空気を吸い込み、肺に下ろし、そこでまわりの血管に酸素を吸収させるのは、エネルギーの無駄だ。 しかも、同じ血管から老廃物である二酸化炭素を同じ肺の空間に放出し、新鮮な空気が入ってきたのと同じ穴から吐き出さなければならない』、確かに「「換気」の効率」は悪そうだ。
・『恐竜もトカゲも… つまり、一回の吸気で、よどんだ空気をすべていっぺんに排出することも、隅々まで新鮮な空気で満たすことも非常に難しいのだ。 恐竜やトカゲなどのほかの羊膜類も、同じように鼻や口から息を吸ったり吐いたりしていたが、吸気と呼気のプロセスはかなり異なっていた。 彼らは空気を処理する一方通行のシステムを進化させ、呼吸をとても効率的なものにしていた。 空気は肺に入っても、すぐにまた出ていくわけではなく、逆止め弁に導かれて、全身に張り巡らされた気嚢へと送られた』、「逆止め弁」、「全身に張り巡らされた気嚢へと送られた」、これなら「効率的」にできそうだ。
・『精巧なしくみ 今日でも一部のトカゲに見られるが、このシステムを最高度に精巧なものにしたのは恐竜だった。 気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ。 この空気処理システムは、必要にして充分なまでに簡潔で洗練されていた。 強力な神経系を持ち、活動的だった恐竜は、大量のエネルギーを獲得して消費する必要があり、熱を帯びていた』、「気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ」、速く走ったりできるのは、このためだったようだ。
・『巨大化と空冷装置 こうしたエネルギー活動のためには、酸素を大量に消費する組織へ、尋常でない方法で、もっとも効率よく空気を送り込むことが不可欠だった。 このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ。 (本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です) 『超圧縮 地球生物全史』には、「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」までの全歴史が紹介されています。ぜひチェックしてみてください。(ヘンリー・ジー氏の略歴はリンク先参照)(訳者:竹内 薫氏の略歴もリンク先参照)』、「このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ」、「気嚢」が「空冷装置」にもなったとは、上手い仕組みだ。
・『地球生命史がわかると、世界の見え方が変わる――訳者より 世界的に権威のある科学雑誌ネイチャーの生物学編集者ヘンリー・ジー(もともと科学者で専門は古生物学と進化生物学)による、その名のとおり『超圧縮 地球生物全史』である。最初、原書を手にしたとき、「ずいぶんと無謀な試みだなぁ」と驚いた覚えがある。 なにしろ、約三八億年にわたる地球生命の誕生から絶滅(?)までをわずか二〇〇ページ(原書)で書くことなど、誰が考えても不可能な所業に思われたからだ。 悠久の時をめぐる歴史書ということで、ずいぶんと読み終えるのに時間がかかるにちがいないとも思った。だが、世界的ノンフィクション作家であり、進化生物学者のジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』倉骨彰訳、草思社文庫)が推薦していることもあり、つらつらとページをめくりはじめたのである。 実際に読みはじめると、不思議なことに、目の前で生命が誕生し、進化し、絶滅するダイナミックな映像が流れていくような錯覚に陥り、どんどん先が読みたくなり、ペルム紀の大量絶滅のあたりからはぐんぐんと読書のスピードが加速し、気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った。 文学に感銘を受けると人生が変わるものだが、本書も同じだ。地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ』、「気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った」、「地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ」、最大限のPRだが、確かに面白そうだ。
タグ:生命科学 「二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる・・・生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう」、 「われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】」 大変な力作のようだ。 「DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる」、「現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、シ ヘンリー・ジー氏による「恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み」 ダイヤモンド・オンライン 「エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる」、本当によく出来た仕組みだ。 「気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った」、「地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ」、最大限のPRだが、確かに面白そうだ。 「このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ」、「気嚢」が「空冷装置」にもなったとは、上手い仕組みだ。 「気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ」、速く走ったりできるのは、このためだったようだ。 「逆止め弁」、「全身に張り巡らされた気嚢へと送られた」、これなら「効率的」にできそうだ。 確かに「「換気」の効率」は悪そうだ。 「そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ」、「フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。・・・クリックの要点は依然として破られていない」、なるほど。 「地球上の生命の始まりは「たった1回」だけ」、とはどういう意味なのだろう。 ダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】」 (その3)(【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】、【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】、恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み)
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