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異次元緩和政策(その44)(日銀の金融政策見直し 新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の「超低金利固定」からの脱却はなぜ「必要だが困難」なのか、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由) [経済政策]

異次元緩和政策については、昨年12月3日に取上げた。日銀の金融政策見直しを踏まえた今日は、(その44)(日銀の金融政策見直し 新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の「超低金利固定」からの脱却はなぜ「必要だが困難」なのか、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由)である。

先ずは、12月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「日銀の金融政策見直し、新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ」を紹介しよう。これは有料だが、今月は私の場合、あと4本まで無料)
https://diamond.jp/articles/-/315232
・『YCCの長期金利上限引き上げ 「利上げでない」との日銀の弁明は苦しい  日本銀行が12月20日にイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の長期金利上限の引き上げを決めたが、日銀は利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもないと、説明した。 他方でマーケットは、この決定にただちに反応し、金利や為替レート、株価が大きく変動した。 これは、20日の日銀の決定が金融政策の大転換であり、「低金利時代の終焉」と捉えられたことを意味している。 決定の影響は、日本国内だけでなく世界に及んだ。米英独などの国債利回りが日銀の決定を受けて0.1%以上高くなったのだ。 「利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもない」という説明と、「金融緩和時代の終了」という見方のどちらが正しいのか? それを判断するには、YCCの政策変更ががなぜ行なわれたのか、その背景を振り返る必要がある。 金融政策の手段や目標見直しが必要だ』、「日銀は利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもないと、説明」、これはどうみても苦しい言い訳だ。
・『市場の圧力に屈した日銀 緩和政策修正以外の何ものでもない  日銀が長期金利の誘導目標の上限を引き上げた理由は、一言で言えば、市場の圧力に屈したということだ。 金融市場では、このところ、地方債の国債とのスプレッド拡大やイールドカーブの歪みなどの異常な状況が生じていた(これらについての詳しい説明は、本コラム12月15日付け「日銀が金利を抑えても長期金利はすでに上昇、『YCC修正』は避けられない」を参照)。 また、長期国債の売買が不成立の日が多発し、12月1日には発行直後の国債の約半分を日銀が購入するという異常事態が起きた。 こうしたことになったのは、日銀が設定している0.25%の長期金利上限が、経済の実態に則して低すぎる(日銀が設定している10年物国債の価格が高すぎる)からだ。 つまり、10年物国債は、市場が望ましいと考える以上に発行されており、民間の金融機関はもっと安い価格でないと購入しない。現在の価格で購入するのは、ほとんど日銀だけという状況になっていたのだ。 だから、国債との信用度格差が変わらなかったにもかかわらず地方債はもっと安い価格(もっと高い金利)でないと資金調達できない状態に追い込まれた。社債による資金調達も同じだ。 長期金利の直接コントロールは、2016年のYCC導入以降、金融緩和政策の柱になっている。それに対して市場が拒否反応を示したことになる。 だから、日銀が市場の要求を認めたことは、金融緩和政策の基本的な修正以外の何物でもない』、「長期金利の直接コントロールは、2016年のYCC導入以降、金融緩和政策の柱になっている。それに対して市場が拒否反応を示したことになる」、「日銀が市場の要求を認めたことは、金融緩和政策の基本的な修正以外の何物でもない」、その通りだ。
・『最後の低金利国だった日本 低金利時代の終わり」が始まった  これまで、世界のヘッジファンドなどが、日銀のYCC維持は不可能との見通しの下に、10年物日本国債の先物売り投機を仕掛けていた。 ヘッジファンドと日銀の戦いは、今年の6月に顕著になったのだが、このときは、日銀の勝ちに終わった。そして、「中央銀行に勝てるはずはない」というのが、つい先頃までの見方だった。 ところが12月20日の決定で長期金利が上昇したため、ヘッジファンドの勝ちとなった。投機を仕掛けていたファンドは巨額の利益を手にしたはずだ。 投機が巨大中央銀行を屈服させたのは、1992年にイングランド銀行をポンド切り下げに追い込んだジョージ・ソロス氏の例以来の歴史的な事件だとの見方もある。 日銀と同じようなコントロールを行なっていたオーストラリア準備銀行(中央銀行)は2021年11月に、スイス中銀は今年の6月に、市場の圧力によって、金融緩和策の修正に追い込まれている。同じことが日本でも起こったのだ。 「低金利時代の終わり」は、日本を除く全世界ですでに進行していたことだが、最後の低金利国日本にもその時代の終わりが始まったことになる。 これをきっかけに、海外ヘッジファンドの日本国債売りが加速するとの見方もある』、「日銀と同じようなコントロールを行なっていたオーストラリア準備銀行・・・は2021年11月に、スイス中銀は今年の6月に、市場の圧力によって、金融緩和策の修正に追い込まれている」、「オーストラリア」や「スイス」でも中央銀行が、「金融緩和策の修正に追い込まれ」たとは初めて知った。
・『YCCは停止、短期金利操作に 物価は金融政策の目標として適切でない  今後、金融政策をどのように修正する必要があるか? まず第1に、手法の見直しが必要だ。 長期金利の直接コントロールは市場原理に反することだ。政策金利を決めれば市場の原理によって、イールドカーブの形が決まりしたがって長期金利も決まるからだ。 イールドカーブコントロールを停止し、短期市場での金利操作を主とした中央銀行の元々の政策手法に戻ることが必要だ。 さらに、金融政策の目的についても見直しが必要だ。 異次元金融緩和は、物価上昇率を政策目標とした。しかし、物価は、金融政策の目標として適切ではないことが分かった。 その理由は、次の二つだ(これについての詳しい議論は、本コラム11月3日付「日銀の異次元緩和『本当の目的』は物価でなく低金利と円安」で行なった)。 第1に、政策手段(国債の大量購入あるいはイールドカーブコントロール)と、物価上昇率の関係が明らかでない。 第2に、物価が上昇しても賃金が上がらないことが分かった。そして、賃金を日本銀行が動かすことができないことも分かった。また、政府も賃金を直接には動かせないことも分かった。 つまり、物価上昇は、働く者の立場から見れば望ましくないものであることが明らかになったのだ。 したがって、2%物価目標達成を目指した2013年の政府と日銀のアコードは破棄されるべきだ』、「物価が上昇」と「賃金」上昇にはタイムラグがあるので、「物価が上昇しても賃金が上がらない」とは言えない可能性がある。事実、ベア引上げの動きが広がりつつある。「物価目標達成」は国際的潮流なので、これから外れるには余程の根拠が求められる。
・『物価に代わり「通貨価値の維持」を目標に 国民生活に円安のデメリット大きい  では、物価に代って金融政策の目標にすべきものは何か?  私は「通貨価値の維持」が尊重されるべきだと思う。 日本の場合には、特に円の対外的な価値の維持だ。) これまで日本では、企業の利益増大の観点から円安が望まれてきた。その反面で、円の対外的な価値を維持する必要性は、ほとんど意識されなかった。 しかし、2022年に急激な円安が進んだことによって、円安が国民生活にいかに大きな問題をもたらすかが、多くの人によって理解されるようになった。 対外的な円の価値の維持とは、大まかに言えば、市場為替レートが購買力平価から大きく離れないことだ。 ここで購買力平価とは、世界的な一物一価が成立するような為替レートだ。OECDなどいくつかの機関が、この考えに基づく指数を計算している。 そして、現在の円の市場レートは購買力平価に比べて大きく円安になっている。 22年の秋には、急激な円安の進行を背景として、人々が円建て預金を外貨預金に移す動きが生じた。幸いにしてこれは大きな流れにはならなかったのだが、仮にこの傾向が広がれば、日本からの大規模な資本流出という事態になりかねない。 そうなれば、日本経済は破綻してしまう。 また、円安が国際間の労働力移動に影響を与えていることも問題だ。 フィリピンなどからの介護人材が日本に来なくなり、オーストラリアなどに流れていると報道されている。また、高度専門人材の日本からの流出が生じつつある。 こうした事態は日本にとって大きな損失だ。 市場レートが購買力平価に比べて円安になる基本的な原因は、日本の金利があるべき水準に比べて低すぎることだ。 この状態を改善する必要がある。 したがって円の対外価値維持が政策目標とされれば、物価上昇率を2%に引き上げるために金利を抑制してきた、これまでの日銀の政策とは反対に金利を引き上げる必要がある』、「22年の秋には、急激な円安の進行を背景として、人々が円建て預金を外貨預金に移す動きが生じた。幸いにしてこれは大きな流れにはならなかったのだが、仮にこの傾向が広がれば、日本からの大規模な資本流出という事態になりかねない」、「円の対外価値維持が政策目標とされれば、物価上昇率を2%に引き上げるために金利を抑制してきた、これまでの日銀の政策とは反対に金利を引き上げる必要がある」、しかしながら、「金利引き上げ」には、財政赤字の拡大など副作用も極めて大きい。自国通貨の「対外価値維持」を「政策目標」にしている先進国はない。「政策目標」の切り替えにはもっと慎重に検討すべきだ。

次に、1月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した「【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の「超低金利固定」からの脱却はなぜ「必要だが困難」なのか 」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/315477
・『日銀がついに2022年12月20日野金融政策決定会合で、事実上の金利引き上げに踏み切った。これは金融政策正常化への一歩となるのか。元日本銀行金融研究所所長で、『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』などの著書もある翁邦雄氏の寄稿を2回に分けてお届けする。 急激な円安の進行が一段落するなか、日銀の黒田総裁は出口の議論は時期尚早と位置づけ、粘り強く金融緩和を続けることをひたすら標榜してきた。しかし、12月20日の金融政策決定会合で、日銀は、YCC(イールドカーブ・コントロール)の手直しという名目で事実上の金利引き上げに踏み切った』、「翁」氏は90年代前半、金融政策を巡って「翁ー岩田論争」と呼ばれる議論で有名に。経済学者の岩田規久男さんが、「日銀が貨幣供給量を増やせばマネーストック(経済全体の通貨量)が増え、インフレ圧力を高めることができる」と主張したのに対し、当時、翁邦雄さんは「日銀がコントロールできる貨幣量は限られている」と反論」(日経BOOKPLUS)。
・『日銀の金融政策の中核にあるYCC (翁 邦雄氏の略歴はリンク先参照) これは、金融政策正常化への適切な第一歩なのだろうか。以下では「金融政策の正常化」について、現在の金融政策の中核をなしているYCCからの脱却に論点を絞る。 むろん、現在の日本の金融政策にはYCC以外にも他の先進国に例をみない緊急避難的な枠組みが混在する。例えば、日銀による民間企業の株式の大量取得だ。これは資本主義の根幹を揺るがしかねない要素をはらむ。ETFを介して日銀が大量に購入してきた株式をどう処理するかは、国債によるバランスシートの水膨れ対応よりも格段に難しい。国債には満期があり、満期が到来するとバランスシートから落ちるが、株式は満期がないからだ。このため、株式はいつまでも日銀のバランスシートにとどまり続ける。何もしなければ、中央銀行が多くの企業の大株主だったり、筆頭株主だったりし続ける、というおよそ社会主義国家のような事態が続く。 それをどう解消していくのか、というのも大きな問題だ。こうした問題の存在は出口の議論を複雑にしているが、金融政策の根幹であるYCC解除とはいちおう切り離せる問題なので、本稿では取り上げない』、「民間企業の株式の大量取得」を、「YCC解除とはいちおう切り離せる問題なので、本稿では取り上げない」、賢明なやり方だ。
・『中国のゼロコロナ政策と酷似したYCCの弊害  ところで、YCCの方は、なぜ解除が難しいのだろうか。それは、YCCが中国のゼロコロナ政策と類似の問題を引き起こしているからだ。 中国は、コロナの感染拡大という差し迫った脅威・リスクなどを理由に、特定の都市や地域で自由な外出や移動を厳しく制限してきた。同様に、YCCのもとで、政策金利である翌日物だけでなく、本来は市場の経済観に応じて自由に金利が形成されるべき10年物の国債金利も日銀が固定してきた。YCCは、中国がゼロコロナ政策で人流の感染拡大の影響を抑え込んだように財政拡大の金利への影響などを抑え込んできた。 中国のゼロコロナ政策の厳格な行動制限は、当初、大成功した、と喧伝された。その成功の幻想の下で医療体制の整備は立ち遅れ、欧米の先進型のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン導入や接種など、国民のコロナ感染への耐性強化といった課題は先送りされた。だが、厳格な行動制限は永続化するほどひずみが拡大する。それが極限に達した結果、習近平政権のゼロコロナ政策は破綻した。感染力の強いオミクロン株が蔓延するなか、これまでの厳格な行動制限は人民の忍耐の限界を超えたため持続困難になり、中国政府はオミクロン株の弱毒性をもちだしてゼロコロナ政策を撤廃した。 中国政府はゼロコロナ政策をなぜもっと早く解除できなかったのか。これまでの政策の帰結として、中国国民は有効なワクチン接種も十分な集団免疫のいずれも達成されていない。そうした状況下でゼロコロナ政策を打ち切れば、感染者数・死亡者数が激増する。現に、そうなりつつあるようだ。中国で、新型コロナとの闘いがいつ・どのように終わるかは、現時点では誰にもわからない』、「これまでの厳格な行動制限は人民の忍耐の限界を超えたため持続困難になり、中国政府はオミクロン株の弱毒性をもちだしてゼロコロナ政策を撤廃」、「これまでの政策の帰結として、中国国民は有効なワクチン接種も十分な集団免疫のいずれも達成されていない。そうした状況下でゼロコロナ政策を打ち切れば、感染者数・死亡者数が激増する。現に、そうなりつつあるようだ」、その通りだ。
・『YCCによる行動制限長期化の弊害  日本で、YCCからの離脱と正常化はいずれ必要と認識されながら、日銀がその方向に舵を切れなかった事情も類似している。2年間の短期決戦であったはずの異次元緩和は、当初は大歓迎された。他方で、2%の物価目標は達成される気配がなく、長期戦となるなかで、YCCへ形を変えた。しかし、この異形の金融政策は、日本の課題を解決することなくむしろ日本衰退につながった。 たしかに、超低金利により、ゾンビ企業も含めて多くの企業が倒産を免れたことで大規模な失業は発生しなかった。だが、生き延びることを主眼とした企業経営のもとで生産性は伸び悩み、先進国の中でほぼ日本だけ賃金が上がらず非正規雇用が増えるなど雇用の質は低下し、非正規雇用の労働者を中心に、将来所得への不確実性と不安も高まった。日本の多くの企業は、ひたすら行動制限だけを続けて感染に脆弱になった国の市民に近い。他方、財政はほぼゼロの利払コストを前提としてバラまきに傾斜し、ワイズ・スペンディングの意識は希薄化した。日本経済に新陳代謝や市場経済のダイナミズムを取り戻すためには、金融市場に市場機能を回復させることは不可欠だ』、「生き延びることを主眼とした企業経営のもとで生産性は伸び悩み、先進国の中でほぼ日本だけ賃金が上がらず非正規雇用が増えるなど雇用の質は低下し、非正規雇用の労働者を中心に、将来所得への不確実性と不安も高まった。日本の多くの企業は、ひたすら行動制限だけを続けて感染に脆弱になった国の市民に近い。他方、財政はほぼゼロの利払コストを前提としてバラまきに傾斜し、ワイズ・スペンディングの意識は希薄化した」、その通りである。
・『YCC解除により金利のオーバーシュートが起きるリスク  しかし、中国のゼロコロナ解除が感染の急拡大を招きつつあるのと同様、YCCからの不用意な離脱は、10年物金利を急騰させかねず、大きな混乱を招きかねない。日銀のYCC同様、3年物金利にターゲットを設定していたオーストラリア連銀(RBA)は、2021年11月に3年物金利についての目標(YT)を解除したが、その過程で市場の混乱を招き、オーストラリア連銀は、その名声(reputation)も大きなダメージを被った。健全な財政運営や経済の新陳代謝には適正なプラスの金利が必要だとしても、ゼロ金利を所与の条件として生き延びてきた多くの企業を急激な金利上昇にさらせば、実体経済を大きく動揺させかねない。このようにYCCは中国のゼロコロナ政策と同様のジレンマを抱えている。 それでは、今回のYCCの修正は金融政策正常化への適切な第一歩になるのだろうか。(明日公開の次稿へつづく)』、「日銀のYCC同様、3年物金利にターゲットを設定していたオーストラリア連銀(RBA)は、2021年11月に3年物金利についての目標(YT)を解除したが、その過程で市場の混乱を招き、オーストラリア連銀は、その名声・・・も大きなダメージを被った」、「YCCは中国のゼロコロナ政策と同様のジレンマを抱えている」、「今回のYCCの修正は金融政策正常化への適切な第一歩になるのだろうか」、次の記事に移ろう。

第三に、この続きを、1月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した「【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/315479
・『「YCC手直しの内容」を検証  日銀がついに2022年12月20日野金融政策決定会合で、事実上の金利引き上げに踏み切った。これは金融政策正常化への一歩となるのか。元日本銀行金融研究所所長で、『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』などの著書もある翁邦雄氏による寄稿の後編をお届けする。 前編:【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀のYCC解除はなぜ「必要だが困難」なのか』、興味深そうだ。 
・『固定相場解除の内外の事例  これまでのYCCは、「10年物金利の固定」という要素と、その固定金利水準をゼロ近傍に設定する「超低金利政策」という2つの要素からなっていた。 黒田総裁は、これまで「粘り強く金融緩和を続ける」と「出口の議論は時期尚早」の2つを常套句にしてきた。これは出口をぎりぎりまで先に延ばし、どうしても金利を上げざるを得なくなった局面で金利を上げることになる。こうしたかたちでYCCを離脱すれば、金利の上昇圧力がきわめて強いときに、金利形成を自由化することになるから、金利に大きなオーバーシュートが発生するなど金融市場が混乱する蓋然性は高い。 オーストラリア連銀のYT解除のときにもそうした現象が起きた。為替相場についても固定相場制を放棄して変動相場制に移行する際に混乱が生じる大きな理由は、維持不能になるギリギリまで政策当局がそれまでの固定相場を維持しようとする傾向があること、そのために固定相場制に対する大きな調整圧力が蓄積されていること、による。こうした混乱は古くは1971年の日本の固定相場制(1ドル360円)からの離脱、近年では、スイスの無制限介入による対ユーロ固定相場制の放棄(2011年)などでも観察されている』、「オーストラリア連銀のYT解除のときにもそうした現象が起きた。為替相場についても固定相場制を放棄して変動相場制に移行する際に混乱が生じる大きな理由は、維持不能になるギリギリまで政策当局がそれまでの固定相場を維持しようとする傾向があること、そのために固定相場制に対する大きな調整圧力が蓄積されていること、による」、「移行する際に混乱が生じる大きな理由」は、「固定相場を維持しようとする」間に「大きな調整圧力が蓄積」、なるほど。
・『金利固定解除のベスト・タイミングは? (翁 邦雄氏の略歴はリンク先参照) この点を踏まえるとYCCの2つの要素を切り離し、金利水準の調整の必要のないときに金利固定を放棄し、そのあと政策金利水準を変更させるほうがよいことが分かる。 オーストラリア連銀も日銀のYCCと類似のYT解除の反省として、この政策はもっと早期に、例えば市場金利と目標金利がほぼ同水準であった2021年の早めの時期に終了させても良かった、と総括している。つまり、市場の実勢金利がYCCに近い状態、あるいはむしろ追加緩和期待があるようなときに金利固定の呪縛を解くことが望ましい、といえるだろう』、「オーストラリア連銀も」、「YT解除の反省として、この政策はもっと早期に、例えば市場金利と目標金利がほぼ同水準であった2021年の早めの時期に終了させても良かった、と総括」、なるほど。
・『「緩和政策に変更がない」のに金利が上がる理由  これらの点を踏まえて、12月20日の決定会合の「YCCの手直し」の内容を検討しよう。日銀の金融市場調節方針についての決定の骨格は、①現状維持(金利目標は変えない)、②YCCの運用について一部見直す、というものだ。 具体的には、国債買入れ額を大幅に増やしつつ、長期金利の変動幅を従来の±0.25%程度から±0.5%程度に拡大、0.5%の利回りでの指値オペを原則毎営業日実施、さらに、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限において、機動的に、買入れ額の更なる増額や指値オペを実施する、とした。 円安は一服して政策の手直しは相対的にしやすいタイミングだった。そこで政策変更を行った点は、評価できる。しかし、それでも10年物金利は上昇した。これは、市場の実勢金利がYCCに近い状態ではなかったことによる。長期金利の変動幅拡大、というと金利が上下に動くイメージだが、実際には日銀が強引に10年物金利を低位に固定していた状況での変動幅拡大という措置の効果は、金利が張り付く水準が0.25%から0.5%に上がるだけであり、より自由に変動するわけではない。このため、黒田総裁が金利政策に変更がないと強調したにもかかわらず、「日銀、事実上の利上げ」と報道され金利水準の修正が今回の措置の眼目となった』、「変動幅拡大という措置の効果は、金利が張り付く水準が0.25%から0.5%に上がるだけ」、「「日銀、事実上の利上げ」と報道され金利水準の修正が今回の措置の眼目となった」、なるほど。
・『金利の固定を強化したYCC手直し  他方、黒田総裁は記者会見で「これはイールドカーブ・コントロールをやめるとか、あるいは出口というようなものでは全くありません」と述べた。実際、YCCの手直しは金利の固定範囲を拡大し、イールドカーブ全体へのロックダウンを強化する、という措置になっていた。 YCCの枠組み変更の理由について、日銀は、イールドカーブの歪みを挙げた。これは、10年物を無理に抑え込んでいる結果、イールドカーブの10年物が不自然に凹んでいることによる弊害を問題視したとみられる。この懸念から、日銀は変動幅拡大という名目で10年物金利を引き上げた。それだけでなく、これと同時に、2年、5年、20年の新発国債を対象に、指定した利回りで無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施する、とした。つまり、日銀は、翌日物金利、10年物金利だけでなく、利回り曲線の主要点にまで金利固定の戦線を拡大する措置を選んだことになる。 こうしてみると、金融政策正常化の第一歩との評価も見られる今回の措置だが、「金利水準正常化」への第一歩ではあっても、「金利形成の正常化」からはかえって遠のいていることがわかる』、「10年物を無理に抑え込んでいる結果、イールドカーブの10年物が不自然に凹んでいることによる弊害を問題視したとみられる。この懸念から、日銀は変動幅拡大という名目で10年物金利を引き上げた。それだけでなく、これと同時に、2年、5年、20年の新発国債を対象に、指定した利回りで無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施する、とした。つまり、日銀は、翌日物金利、10年物金利だけでなく、利回り曲線の主要点にまで金利固定の戦線を拡大する措置を選んだ」、「「金利水準正常化」への第一歩ではあっても、「金利形成の正常化」からはかえって遠のいていることがわかる」、その通りだ。
・『金融政策正常化の前に共同声明の再確認が必要  いずれにせよ、金融政策の本格的正常化はやはり来春の新執行部発足後になるだろう。 その場合、新たな金融政策の出発点は、内閣府、財務省、日銀の連名で2013年1月に公表された「デフレ脱却と持続的な成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」を引き継ぐのか、改定するのか、という点にあるのではないだろうか。実際、一部で共同声明の改定を政府が検討している、という報道が流れている。 しかし、共同声明は当時の安倍総理やその後の黒田総裁が喧伝したような「日銀が2%の目標達成にコミットした」ものではない。共同声明の実際の内容はこうした理解とは大きな隔たりがあり、機械的な2%のインフレ目標追求からはむしろ距離を置き、政府も成長力強化や財政の健全化努力を謳った内容になっているからだ。 いずれにせよ、共同声明はあくまでも「その時点の」政府と日銀の連携である。金融政策を決めるのはその時々の日銀政策委員会メンバー、財政・経済政策を決めるのは、その時々の政府である以上、執行部が代われば、あらためて共同声明の精神を受け継ぐのか、何らかの見直しを行うのかという吟味が必要とならざるを得ないはずである』、「金融政策を決めるのはその時々の日銀政策委員会メンバー、財政・経済政策を決めるのは、その時々の政府である以上、執行部が代われば、あらためて共同声明の精神を受け継ぐのか、何らかの見直しを行うのかという吟味が必要とならざるを得ないはずである」、その通りだ。
・『共同声明の内容  具体的に共同声明をみると、「日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価上昇率の前年比上昇率で2%とする」とし、「日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展」が2%達成の条件とされている。 また、「その際、日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」とされており、日銀は2%を絶対的な道標とするのではなく、持続的な成長を脅かす可能性のある様々な動き、とりわけ金融の不均衡(金融システムの不安定化リスク)など他の指標をにらみながら総合的視点で金融政策運営を行う、としている。 この間、「政府は(中略)日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組を具体化し、これを強力に推進する。」、「政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を具体化し、これを強力に推進する。」とされており、政府自身も課題への取り組むことを表明している』、「日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」とされており、日銀は2%を絶対的な道標とするのではなく、持続的な成長を脅かす可能性のある様々な動き、とりわけ金融の不均衡(金融システムの不安定化リスク)など他の指標をにらみながら総合的視点で金融政策運営を行う、としている」、総合的視点での判断そのものだ。
・『共同声明の扱いについての選択肢  このように「共同声明」はおよそ日銀が片務的に2%物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではなく、日銀と政府が連携しておのおのが果たすべき役割を明確に述べたものになっている。それだけに、その改定は喫緊の課題とは言えないとしても、日銀も、政府も、共同声明で謳われた課題にどう取り組んできたかを総括することには大きな意味があるだろう。そのうえで、現在の共同声明の文字通りの内容を政府・日銀が明示的に再確認し継承するのか、それとも、その後10年の経験を踏まえ、これになんらかの改定を加えるのか、は重要な選択肢になるだろう。 個人的には、2%の物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではないことを踏まえたうえで、日銀だけでなく政府サイドも取り組むべき課題を再確認すること、そのうえで日銀は経済情勢をにらみながら市場機能を回復させる金利形成の正常化に舵をきっていくことが望ましい、と考えている』、「2%の物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではないことを踏まえたうえで、日銀だけでなく政府サイドも取り組むべき課題を再確認すること、そのうえで日銀は経済情勢をにらみながら市場機能を回復させる金利形成の正常化に舵をきっていくことが望ましい、と考えている」、同感である。 
タグ:異次元緩和政策 (その44)(日銀の金融政策見直し 新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の「超低金利固定」からの脱却はなぜ「必要だが困難」なのか、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由) ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「日銀の金融政策見直し、新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ」 「日銀は利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもないと、説明」、これはどうみても苦しい言い訳だ。 「長期金利の直接コントロールは、2016年のYCC導入以降、金融緩和政策の柱になっている。それに対して市場が拒否反応を示したことになる」、「日銀が市場の要求を認めたことは、金融緩和政策の基本的な修正以外の何物でもない」、その通りだ。 「日銀と同じようなコントロールを行なっていたオーストラリア準備銀行・・・は2021年11月に、スイス中銀は今年の6月に、市場の圧力によって、金融緩和策の修正に追い込まれている」、「オーストラリア」や「スイス」でも中央銀行が、「金融緩和策の修正に追い込まれ」たとは初めて知った。 「物価が上昇」と「賃金」上昇にはタイムラグがあるので、「物価が上昇しても賃金が上がらない」とは言えない可能性がある。事実、ベア引上げの動きが広がりつつある。「物価目標達成」は国際的潮流なので、これから外れるには余程の根拠が求められる。 「22年の秋には、急激な円安の進行を背景として、人々が円建て預金を外貨預金に移す動きが生じた。幸いにしてこれは大きな流れにはならなかったのだが、仮にこの傾向が広がれば、日本からの大規模な資本流出という事態になりかねない」、 「円の対外価値維持が政策目標とされれば、物価上昇率を2%に引き上げるために金利を抑制してきた、これまでの日銀の政策とは反対に金利を引き上げる必要がある」、しかしながら、「金利引き上げ」には、財政赤字の拡大など副作用も極めて大きい。自国通貨の「対外価値維持」を「政策目標」にしている先進国はない。「政策目標」の切り替えにはもっと慎重に検討すべきだ。 「翁」氏は90年代前半、金融政策を巡って「翁ー岩田論争」と呼ばれる議論で有名に。経済学者の岩田規久男さんが、「日銀が貨幣供給量を増やせばマネーストック(経済全体の通貨量)が増え、インフレ圧力を高めることができる」と主張したのに対し、当時、翁邦雄さんは「日銀がコントロールできる貨幣量は限られている」と反論」(日経BOOKPLUS) 「民間企業の株式の大量取得」を、「YCC解除とはいちおう切り離せる問題なので、本稿では取り上げない」、賢明なやり方だ。 「これまでの厳格な行動制限は人民の忍耐の限界を超えたため持続困難になり、中国政府はオミクロン株の弱毒性をもちだしてゼロコロナ政策を撤廃」、「これまでの政策の帰結として、中国国民は有効なワクチン接種も十分な集団免疫のいずれも達成されていない。そうした状況下でゼロコロナ政策を打ち切れば、感染者数・死亡者数が激増する。現に、そうなりつつあるようだ」、その通りだ。 「生き延びることを主眼とした企業経営のもとで生産性は伸び悩み、先進国の中でほぼ日本だけ賃金が上がらず非正規雇用が増えるなど雇用の質は低下し、非正規雇用の労働者を中心に、将来所得への不確実性と不安も高まった。日本の多くの企業は、ひたすら行動制限だけを続けて感染に脆弱になった国の市民に近い。他方、財政はほぼゼロの利払コストを前提としてバラまきに傾斜し、ワイズ・スペンディングの意識は希薄化した」、その通りである。 「日銀のYCC同様、3年物金利にターゲットを設定していたオーストラリア連銀(RBA)は、2021年11月に3年物金利についての目標(YT)を解除したが、その過程で市場の混乱を招き、オーストラリア連銀は、その名声・・・も大きなダメージを被った」、「YCCは中国のゼロコロナ政策と同様のジレンマを抱えている」、「今回のYCCの修正は金融政策正常化への適切な第一歩になるのだろうか」、次の記事に移ろう。 「【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由」 金利と経済――高まるリスクと残された処方箋 「オーストラリア連銀のYT解除のときにもそうした現象が起きた。為替相場についても固定相場制を放棄して変動相場制に移行する際に混乱が生じる大きな理由は、維持不能になるギリギリまで政策当局がそれまでの固定相場を維持しようとする傾向があること、そのために固定相場制に対する大きな調整圧力が蓄積されていること、による」、「移行する際に混乱が生じる大きな理由」は、「固定相場を維持しようとする」間に「大きな調整圧力が蓄積」、なるほど。 「オーストラリア連銀も」、「YT解除の反省として、この政策はもっと早期に、例えば市場金利と目標金利がほぼ同水準であった2021年の早めの時期に終了させても良かった、と総括」、なるほど。 「変動幅拡大という措置の効果は、金利が張り付く水準が0.25%から0.5%に上がるだけ」、「「日銀、事実上の利上げ」と報道され金利水準の修正が今回の措置の眼目となった」、なるほど。 「10年物を無理に抑え込んでいる結果、イールドカーブの10年物が不自然に凹んでいることによる弊害を問題視したとみられる。この懸念から、日銀は変動幅拡大という名目で10年物金利を引き上げた。それだけでなく、これと同時に、2年、5年、20年の新発国債を対象に、指定した利回りで無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施する、とした。 つまり、日銀は、翌日物金利、10年物金利だけでなく、利回り曲線の主要点にまで金利固定の戦線を拡大する措置を選んだ」、「「金利水準正常化」への第一歩ではあっても、「金利形成の正常化」からはかえって遠のいていることがわかる」、その通りだ。 「金融政策を決めるのはその時々の日銀政策委員会メンバー、財政・経済政策を決めるのは、その時々の政府である以上、執行部が代われば、あらためて共同声明の精神を受け継ぐのか、何らかの見直しを行うのかという吟味が必要とならざるを得ないはずである」、その通りだ。 「日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」とされており、日銀は2%を絶対的な道標とするのではなく、持続的な成長を脅かす可能性のある様々な動き、とりわけ金融の不均衡(金融システムの不安定化リスク)など他の指標をにらみながら総合的視点で金融政策運営を行う、としている」、総合的視点での判断そのものだ。 「2%の物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではないことを踏まえたうえで、日銀だけでなく政府サイドも取り組むべき課題を再確認すること、そのうえで日銀は経済情勢をにらみながら市場機能を回復させる金利形成の正常化に舵をきっていくことが望ましい、と考えている」、同感である。
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