イーロン・マスク(その2)(Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ、イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】、「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む) [イノベーション]
イーロン・マスクについては、本年8月30日に取上げた。今日は、(その2)(Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ、イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】、「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む)である。
先ずは、9月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家のジュリア・ガレフ氏と、ポッドキャスター・英日翻訳者の児島 修氏による「Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327732
・『Twitterを「X」に名称変更したイーロン・マスク。彼が成功に導いた電機自動車メーカーのテスラは、20年で時価総額世界第9位にまで成長した。しかし、彼は意外にも「自分の会社は失敗するのではないか」と考えていたという。成功の確率をわずか1割だと見積もったにもかかわらず、起業に踏み切った背景には、イーロン・マスク流の「価値ある賭け」への見極め方があった――。 ※本稿は、全世界17言語で翻訳されたジュリア・ガレフ著『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『“突拍子もない夢”を追い求めるイーロン・マスク イーロン・マスクは、宇宙飛行会社を設立すると決意したとき、友人たちから頭がおかしくなったと思われた。 マスクは、自身が手がけた2番目の事業である「ペイパル」の売却によって手に入れたばかりの1億8000万ドルの多くを、後の「スペースX」となる会社に投じようとしていた。 「きっと失敗する。せっかくペイパルを売って稼いだ金が、ごっそり消えてしまうぞ」と周囲は忠告した。 ある友人は、ロケットが爆発する映像をつなぎあわせた動画を編集し、マスクに「頼むからこれを見てくれ。バカな真似はよせ」と伝えた。 ちまたによくある“突拍子もない夢”を追い求めた成功者の物語では、ここで「だが、彼は思いとどまったりはしなかった。心のなかで、自分を疑う人たちが間違っているのを知っているからだ――」という展開になるはずだ。 しかし、マスクの場合はそうはならなかった。友人たちから「きっと失敗する」と言われたときも、こう答えている。 「ああ、僕もそう思う。おそらく失敗するだろうね」 実際、マスクはスペースXの宇宙船が宇宙飛行を成功させる確率を、1割程度と見積もっていた。 2年後、マスクはペイパルを売却して得た残りの資金を、電動自動車の「テスラ」に投じると決めた。マスクはこのときも、成功の確率は1割程度と見積もっていた。 本人が自身のプロジェクトが成功する確率を低く見積もっていることに、周囲は首をかしげた。 2014年にテレビ番組の『60ミニッツ』に出演した際にも、そのロジックを理解しようとするインタビュアーのスコット・ペリーから、次のように尋ねられている。 マスク「テスラが成功するとは思っていませんでした。おそらく失敗するだろう、と」 ペリー「成功しないと見込んでいたのに、なぜ挑戦したんです?」 マスク「挑戦するだけの価値があるのなら、やってみるべきだと判断したからですよ」 マスクの成功に対する期待値の低さは、周りを困惑させた。 なぜなら、人は「誰かが何かに挑むのは、成功する可能性が高いから」と考えるからだ。 しかし、マスクのような人は、必ずしも「これは成功する」と思っているから行動するのではない。彼らは「賭ける価値がある」という考えによってモチベーションを高めるのだ。) 誰でもある程度は、目の前の行動を取るかどうかを「賭ける価値があるかどうか」という基準で判断しているものだ。 簡単な例として、一般的な6面体のサイコロを振る賭けをする場合のことを考えてみよう。この賭けでは、6が出れば200ドルの賞金がもらえるが、それ以外の目が出た場合は10ドルを失うことになっている。 Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ 賭ける価値があるだろうか。 そう、これは賭ける価値があるといえる。 この賭けにどれくらいの価値があるのかは、「期待値」を計算することで具体的に知ることができる。 期待値とは、その賭けを際限なく行った場合に平均的に得られる値のことだ。賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう』、「賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう」、なるほど。
・『「たとえ『テスラ』が失敗しても…」 とはいえ、起業のような対象を賭けにして正確な確率を導こうとするのは、より複雑で主観的な試みになる。 その価値には、お金以外のさまざまな要素も含まれている。 たとえば、「会社を経営することで、どれだけの楽しみが得られるか?」「たとえ失敗したとしても、その後で役に立つ人脈やスキルを手に入れられるか?」「自分の時間がどれだけ奪われるか?」「社会的な信用度(または汚名)はどれくらい得られるか?」といったことだ。 とはいえ、たいていの場合、大まかな見積もりをすることならできる。 これまで見てきたように、イーロン・マスクはテスラが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見積もっていた。) それでも、成功して得られる価値はとてつもなく大きいと思えた。電気自動車という(当時は)夢物語のような概念を実現することは、現代社会が化石燃料依存から脱却するための大きな一歩になる。 Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ マスクは、たとえ失敗したとしてもテスラは価値あることを少なくとも1つ成し遂げられる、と考えた。 「“電気自動車はゴルフカートのように格好悪くて、遅くて、退屈なものだ”という人々の誤った認識を変えられると思ったのです」と語っている。 マスクがスペースXを立ち上げた理由もこれに似ている。 マスクはテスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ。 「わずかであれボールを前に動かせるのなら、たとえ僕たちの会社が倒産したとしてもどこかの会社がバトンタッチしてそのボールをさらに前に運んでくれるかもしれない。だとすればなおさら挑戦する価値はある」』、「テスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ」、なるほど。
・『「就職、起業、投資、人間関係 あらゆることに応用可能」 全体としてみれば、テスラもスペースXも、失敗する可能性は高かったものの、マスクにとってはいい賭けだったようだ。 期待値は、その賭けを何度もくり返すことを想像することによってもとらえやすくなる。そのとき、成功によって得られる価値は、失敗によって失う価値を上回るだろうか? イーロン・マスクのようなスケールの大きな起業家なら、一生のうちにテスラやスペースXのような会社を10社はつくる時間と財力があるだろう。 もしその10社のうち9社が失敗するのだとすれば、最大の問題「1回の大きな成功と引き換えに、9回失敗する価値はあるか?」ということになる。) 現実的には、まったく同じ賭けを何度もくり返すことはめったにない。それでも、人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる』、「人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる」、なるほど。
・『覚悟のうえで、運命に任す 「自信があれば成功できる」という発想でモチベーションを高めようとする人たちは、失敗の可能性を認めれば、やる気が削がれ、リスクを取ろうとしなくなると見なす。 そして「絶対に失敗しない」と固く信じることが、最大限の努力をして成功を目指す秘訣だと考える。 だが現実には、それとは逆であることが多い。 書影『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』 つまり、事前に失敗の可能性を受け入れるからこそ、さまざまな縛りから解放されて、目標に向かって邁進できるようになるのだ。 「失敗する可能性だってある」とわかっているからこそ、臆病ではなく大胆になれる。必要なリスクを取る理由が得られる。 マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで』、「マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで」、なるほど。
次に、9月14日付けテレ東BIZ「イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/05c541726249202998f6057d2dd91f723f045378
・『アメリカの著名実業家、イーロン・マスク氏の半生を綴った書籍「イーロン・マスク」が発売されました。数々の事業を成功させる一方、世間を騒がす発言を繰り返すマスク氏。マスク氏の人生哲学について著者のウォルター・アイザックソン氏に聞きました。 伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着しました。実は、アイザックソン氏は、以前タイム誌やCNNなど、大手メディアの要職を歴任。その後は作家となり、アップルの故スティーブ・ジョブス氏の伝記を書いたことでも知られています』、「伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着」、凄いことだ。
・『今回なぜマスク氏に注目したのでしょうか? 「私は昔からイノベーターに興味がある。中でもマスク氏は今、最も重要な人物だ。電気自動車や宇宙旅行の分野で新境地を開いたほか、ツイッターを買収するなど人々を魅了してやまない」 マスク氏はこれまで、スペースXやテスラなど次世代技術でリードする会社を創業したほか、Xと改名したツイッターも去年買収。現在運営する企業は5社に上っています。 多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」』、「多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」、「マスク氏」は「雰囲気が“優しい”会社だった」「ツイッター」を、自分好みに変革したようだ。
・『伝記作家のウォルター・アイザックソン氏 ただ、リスクを好む姿勢は、波乱を呼び寄せる要因となることも。新技術の安全性などを巡り、規制当局との衝突を繰り返しているのです。 「マスク氏は規制やルール、他人にコントロールされることを嫌う。彼の行動原理のひとつに『あらゆる規則を疑え』がある。誰かが『規則だからこうしろ』と言えば、『その規則はなぜ存在するのか?』と返す」 「例えばテスラの自動運転機能。これは機械学習を通じて開発されている。テスラ車のカメラが捉えた数百万の映像をコンピュータが分析し、人間の運転方法を学習する。ただここで問題なのは『止まれ』の標識に遭遇した場合、(元データとなる)人間のほとんどが完全停止していないにも関わらず、規制当局は自動運転機能では法律通り完全停止すべきだと主張する。マスク氏は激怒し『誰が作った法律なのか』と相手を詰問する始末だ」 マスク氏はルールを嫌うあまり新型コロナの行動規制を無視するなど、世間のひんしゅくを買ってきた一面もあります。ただ、逆に世間こそルールに従うことに慣れきってしまっているのではと、アイザックソン氏は問いかけます。 「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」 ※Newsモーニングサテライト』、「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、「失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、同感である。
第三に、11月6日付け文春オンラインが掲載した一橋大学大学院特任教授の楠木 建氏による「「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/66789
・『当代きっての奇矯な人物の実像を描く評伝。イーロン・マスクという不思議な人物の面白さだけで読者を引っ張る。上下巻の大部を一気に読んだ。 南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com(ペイパルの会社と後に合併)の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する。 誤解されがちだが、マスクはテスラの創業者ではない。彼はエジソンのような発明家ではない。普通の意味での経営者でもない。その本質は起業家ですらない。起業家は実のところリスクを取るタイプではない。ペイパルのピーター・ティールのようなプロの起業家は、成功のためにリスクを最小化しようとする。ところが、マスクはリスクを大きくしようとする。船に自ら火をつけて逃げ道を遮断する。持っているものをオールインして賭け続ける。その中で当たったのがスペースXとテスラだった。 抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない。はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう。 一義的なモティベーションはフロンティアの追求――20世紀前半に「地球上の富の半分を持つ男」「世界でいちばん猛烈な男」と言われたハワード・ヒューズにそっくりだ。ヒューズの「航空」「映画」が、マスクにとっては「宇宙」「インターネット」「クリーン・エネルギー」だった。古いタイプのアメリカン資本主義者と言ってよい。 ヒューズは大暴れの挙句に隠遁生活に入った。この際、マスクには最後の最後までこの調子で行ってもらいたい。そこに何があるのかは分からない。本人にも分からないだろう。(Walter Isaacson氏、くすのきけん氏の略歴はリンク先参照)』、「南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com・・・の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する・・・抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない。はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう」、全く信じ難いほどエネルギッシュだ。次は何をするのだろう。
先ずは、9月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家のジュリア・ガレフ氏と、ポッドキャスター・英日翻訳者の児島 修氏による「Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327732
・『Twitterを「X」に名称変更したイーロン・マスク。彼が成功に導いた電機自動車メーカーのテスラは、20年で時価総額世界第9位にまで成長した。しかし、彼は意外にも「自分の会社は失敗するのではないか」と考えていたという。成功の確率をわずか1割だと見積もったにもかかわらず、起業に踏み切った背景には、イーロン・マスク流の「価値ある賭け」への見極め方があった――。 ※本稿は、全世界17言語で翻訳されたジュリア・ガレフ著『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『“突拍子もない夢”を追い求めるイーロン・マスク イーロン・マスクは、宇宙飛行会社を設立すると決意したとき、友人たちから頭がおかしくなったと思われた。 マスクは、自身が手がけた2番目の事業である「ペイパル」の売却によって手に入れたばかりの1億8000万ドルの多くを、後の「スペースX」となる会社に投じようとしていた。 「きっと失敗する。せっかくペイパルを売って稼いだ金が、ごっそり消えてしまうぞ」と周囲は忠告した。 ある友人は、ロケットが爆発する映像をつなぎあわせた動画を編集し、マスクに「頼むからこれを見てくれ。バカな真似はよせ」と伝えた。 ちまたによくある“突拍子もない夢”を追い求めた成功者の物語では、ここで「だが、彼は思いとどまったりはしなかった。心のなかで、自分を疑う人たちが間違っているのを知っているからだ――」という展開になるはずだ。 しかし、マスクの場合はそうはならなかった。友人たちから「きっと失敗する」と言われたときも、こう答えている。 「ああ、僕もそう思う。おそらく失敗するだろうね」 実際、マスクはスペースXの宇宙船が宇宙飛行を成功させる確率を、1割程度と見積もっていた。 2年後、マスクはペイパルを売却して得た残りの資金を、電動自動車の「テスラ」に投じると決めた。マスクはこのときも、成功の確率は1割程度と見積もっていた。 本人が自身のプロジェクトが成功する確率を低く見積もっていることに、周囲は首をかしげた。 2014年にテレビ番組の『60ミニッツ』に出演した際にも、そのロジックを理解しようとするインタビュアーのスコット・ペリーから、次のように尋ねられている。 マスク「テスラが成功するとは思っていませんでした。おそらく失敗するだろう、と」 ペリー「成功しないと見込んでいたのに、なぜ挑戦したんです?」 マスク「挑戦するだけの価値があるのなら、やってみるべきだと判断したからですよ」 マスクの成功に対する期待値の低さは、周りを困惑させた。 なぜなら、人は「誰かが何かに挑むのは、成功する可能性が高いから」と考えるからだ。 しかし、マスクのような人は、必ずしも「これは成功する」と思っているから行動するのではない。彼らは「賭ける価値がある」という考えによってモチベーションを高めるのだ。) 誰でもある程度は、目の前の行動を取るかどうかを「賭ける価値があるかどうか」という基準で判断しているものだ。 簡単な例として、一般的な6面体のサイコロを振る賭けをする場合のことを考えてみよう。この賭けでは、6が出れば200ドルの賞金がもらえるが、それ以外の目が出た場合は10ドルを失うことになっている。 Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ 賭ける価値があるだろうか。 そう、これは賭ける価値があるといえる。 この賭けにどれくらいの価値があるのかは、「期待値」を計算することで具体的に知ることができる。 期待値とは、その賭けを際限なく行った場合に平均的に得られる値のことだ。賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう』、「賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう」、なるほど。
・『「たとえ『テスラ』が失敗しても…」 とはいえ、起業のような対象を賭けにして正確な確率を導こうとするのは、より複雑で主観的な試みになる。 その価値には、お金以外のさまざまな要素も含まれている。 たとえば、「会社を経営することで、どれだけの楽しみが得られるか?」「たとえ失敗したとしても、その後で役に立つ人脈やスキルを手に入れられるか?」「自分の時間がどれだけ奪われるか?」「社会的な信用度(または汚名)はどれくらい得られるか?」といったことだ。 とはいえ、たいていの場合、大まかな見積もりをすることならできる。 これまで見てきたように、イーロン・マスクはテスラが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見積もっていた。) それでも、成功して得られる価値はとてつもなく大きいと思えた。電気自動車という(当時は)夢物語のような概念を実現することは、現代社会が化石燃料依存から脱却するための大きな一歩になる。 Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ マスクは、たとえ失敗したとしてもテスラは価値あることを少なくとも1つ成し遂げられる、と考えた。 「“電気自動車はゴルフカートのように格好悪くて、遅くて、退屈なものだ”という人々の誤った認識を変えられると思ったのです」と語っている。 マスクがスペースXを立ち上げた理由もこれに似ている。 マスクはテスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ。 「わずかであれボールを前に動かせるのなら、たとえ僕たちの会社が倒産したとしてもどこかの会社がバトンタッチしてそのボールをさらに前に運んでくれるかもしれない。だとすればなおさら挑戦する価値はある」』、「テスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ」、なるほど。
・『「就職、起業、投資、人間関係 あらゆることに応用可能」 全体としてみれば、テスラもスペースXも、失敗する可能性は高かったものの、マスクにとってはいい賭けだったようだ。 期待値は、その賭けを何度もくり返すことを想像することによってもとらえやすくなる。そのとき、成功によって得られる価値は、失敗によって失う価値を上回るだろうか? イーロン・マスクのようなスケールの大きな起業家なら、一生のうちにテスラやスペースXのような会社を10社はつくる時間と財力があるだろう。 もしその10社のうち9社が失敗するのだとすれば、最大の問題「1回の大きな成功と引き換えに、9回失敗する価値はあるか?」ということになる。) 現実的には、まったく同じ賭けを何度もくり返すことはめったにない。それでも、人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる』、「人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる」、なるほど。
・『覚悟のうえで、運命に任す 「自信があれば成功できる」という発想でモチベーションを高めようとする人たちは、失敗の可能性を認めれば、やる気が削がれ、リスクを取ろうとしなくなると見なす。 そして「絶対に失敗しない」と固く信じることが、最大限の努力をして成功を目指す秘訣だと考える。 だが現実には、それとは逆であることが多い。 書影『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』 つまり、事前に失敗の可能性を受け入れるからこそ、さまざまな縛りから解放されて、目標に向かって邁進できるようになるのだ。 「失敗する可能性だってある」とわかっているからこそ、臆病ではなく大胆になれる。必要なリスクを取る理由が得られる。 マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで』、「マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで」、なるほど。
次に、9月14日付けテレ東BIZ「イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/05c541726249202998f6057d2dd91f723f045378
・『アメリカの著名実業家、イーロン・マスク氏の半生を綴った書籍「イーロン・マスク」が発売されました。数々の事業を成功させる一方、世間を騒がす発言を繰り返すマスク氏。マスク氏の人生哲学について著者のウォルター・アイザックソン氏に聞きました。 伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着しました。実は、アイザックソン氏は、以前タイム誌やCNNなど、大手メディアの要職を歴任。その後は作家となり、アップルの故スティーブ・ジョブス氏の伝記を書いたことでも知られています』、「伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着」、凄いことだ。
・『今回なぜマスク氏に注目したのでしょうか? 「私は昔からイノベーターに興味がある。中でもマスク氏は今、最も重要な人物だ。電気自動車や宇宙旅行の分野で新境地を開いたほか、ツイッターを買収するなど人々を魅了してやまない」 マスク氏はこれまで、スペースXやテスラなど次世代技術でリードする会社を創業したほか、Xと改名したツイッターも去年買収。現在運営する企業は5社に上っています。 多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」』、「多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」、「マスク氏」は「雰囲気が“優しい”会社だった」「ツイッター」を、自分好みに変革したようだ。
・『伝記作家のウォルター・アイザックソン氏 ただ、リスクを好む姿勢は、波乱を呼び寄せる要因となることも。新技術の安全性などを巡り、規制当局との衝突を繰り返しているのです。 「マスク氏は規制やルール、他人にコントロールされることを嫌う。彼の行動原理のひとつに『あらゆる規則を疑え』がある。誰かが『規則だからこうしろ』と言えば、『その規則はなぜ存在するのか?』と返す」 「例えばテスラの自動運転機能。これは機械学習を通じて開発されている。テスラ車のカメラが捉えた数百万の映像をコンピュータが分析し、人間の運転方法を学習する。ただここで問題なのは『止まれ』の標識に遭遇した場合、(元データとなる)人間のほとんどが完全停止していないにも関わらず、規制当局は自動運転機能では法律通り完全停止すべきだと主張する。マスク氏は激怒し『誰が作った法律なのか』と相手を詰問する始末だ」 マスク氏はルールを嫌うあまり新型コロナの行動規制を無視するなど、世間のひんしゅくを買ってきた一面もあります。ただ、逆に世間こそルールに従うことに慣れきってしまっているのではと、アイザックソン氏は問いかけます。 「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」 ※Newsモーニングサテライト』、「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、「失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、同感である。
第三に、11月6日付け文春オンラインが掲載した一橋大学大学院特任教授の楠木 建氏による「「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/66789
・『当代きっての奇矯な人物の実像を描く評伝。イーロン・マスクという不思議な人物の面白さだけで読者を引っ張る。上下巻の大部を一気に読んだ。 南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com(ペイパルの会社と後に合併)の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する。 誤解されがちだが、マスクはテスラの創業者ではない。彼はエジソンのような発明家ではない。普通の意味での経営者でもない。その本質は起業家ですらない。起業家は実のところリスクを取るタイプではない。ペイパルのピーター・ティールのようなプロの起業家は、成功のためにリスクを最小化しようとする。ところが、マスクはリスクを大きくしようとする。船に自ら火をつけて逃げ道を遮断する。持っているものをオールインして賭け続ける。その中で当たったのがスペースXとテスラだった。 抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない。はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう。 一義的なモティベーションはフロンティアの追求――20世紀前半に「地球上の富の半分を持つ男」「世界でいちばん猛烈な男」と言われたハワード・ヒューズにそっくりだ。ヒューズの「航空」「映画」が、マスクにとっては「宇宙」「インターネット」「クリーン・エネルギー」だった。古いタイプのアメリカン資本主義者と言ってよい。 ヒューズは大暴れの挙句に隠遁生活に入った。この際、マスクには最後の最後までこの調子で行ってもらいたい。そこに何があるのかは分からない。本人にも分からないだろう。(Walter Isaacson氏、くすのきけん氏の略歴はリンク先参照)』、「南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com・・・の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する・・・抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない。はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう」、全く信じ難いほどエネルギッシュだ。次は何をするのだろう。
タグ:児島 修氏による「Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ」 ジュリア・ガレフ氏 ダイヤモンド・オンライン イーロン・マスク (その2)(Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ、イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】、「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む) 「賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう」、なるほど。 「テスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ」、なるほど。 「人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる」、なるほど。 「マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで」、なるほど。 テレ東BIZ「イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】」 「伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着」、凄いことだ。 「多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。 『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」、「マスク氏」は「雰囲気が“優しい”会社だった」「ツイッター」を、自分好みに変革したようだ。 「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、「失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、同感である。 文春オンライン 楠木 建氏による「「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む」 「南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com ・・・の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する・・・抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう」、全く信じ難いほどエネルギッシュだ。次は何をするのだろう。