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アメリカ大統領選挙:トランプ候補によるイスラム教徒「入国拒否」発言を中心に [世界情勢]

今日は、アメリカ大統領選挙:トランプ候補によるイスラム教徒「入国拒否」発言を中心に を取上げよう。

在米作家の冷泉彰彦氏が12月12日付けのメールマガジンJMMに寄稿した「[JMM875Sa]「筋書きのないドラマとなって来た米大統領選」from911/USAレポート・・・」を紹介したい
・12月2日(水)にカリフォルニア州サン・ベルナルディーノ市で発生した「ISIL」(イスラム国)の影響が疑われる」テロ事件を受けて、共和党の大統領候補で、現時点での支持率1位であるドナルド・トランプは「当局が事態を把握するまでの当面の間、全てのイスラム教徒のアメリカ入国を拒否すべきだ」と発言しました
・テロ容疑者だけでなく、そしてシリアなどの難民や移民だけでもなく、観光や商用などの一時滞在を含めた全てのイスラム教徒の「入国を拒否」するというのです
・これまでも「不法移民の全員強制送還」に始まって、「イスラム教徒は全員登録制にする」などという「言いたい放題の放言・暴言」を繰り返してきたトランプ候補ですが、今回という今回は、与野党一体となっての非難の大合唱に包まれることとなりました
・批判のほとんど全ては、「合衆国憲法に保障されている信教の自由」を否定する発言であり「憲法違反」だという認識で共通しています。ホワイトハウスのアーネスト報道官が「大統領候補の資格なし」と断罪したのを筆頭に、ブッシュ前大統領、チェイニー前副大統領、ライアン下院議長などの共和党の大物、そして大統領選の他の候補たちも一斉に最大級の非難をしています
・例えば、トランプの最大のライバルであるヒラリー・クリントンは「トランプの過去の一連の発言は、恥ずべきものであり、誤りという形容ができた。だが、今回のものは違う。発言として危険という一語に尽きる」としています
・また、ペンシルベニア州のフィラデルフィア市のマイケル・ヌター市長は「トランプの入市禁止」を宣言。一方で英国では、「ドナルド・トランプの英国入国禁止措置を求める請願」が数日間のうちに50万の署名を集めるなど、大変に盛り上がっています。また、トランプお膝元のNY市では、共和党の市の委員会が「追放措置」の検討に入りました
・NY市の共和党だけではありません。共和党の全国委員会は、何とかして「トランプ降ろし」ができないか、この間色々な検討をしているそうです。ですが、そうは簡単には行かないようです。何しろ、今でも共和党内の支持率1位という位置をトランプは維持しているからです
・これに加えて、共和党全国委員会が「トランプは候補として失格」と一方的に宣言したりした場合は、「トランプが無所属で出馬する」という可能性があると言われています。どうして、共和党全国委員会が「トランプの無所属出馬」を警戒しているのかというと、1992年の選挙の際に、二期目に挑んだ現職のジョージ・H・W・ブッシュ(父)が、無所属で出たロス・ペローという保守系の富豪に18.9%の得票率を取られて「保守分裂」の結果、惨敗しているからです
・ちなみに8年後の2000年には、民主党のアル・ゴア候補はジョージ・W・ブッシュに「フロリダ再集計」の結果、僅差で敗北していますが、環境運動家のラルフ・ネーダーという第三極候補に3%ほどの票を取られたことが直接の敗因という見方も可能です。この場合は「リベラルの分裂選挙」ということになります
・今回の選挙も、仮にトランプが「無所属」として出てくると、似たような結果、つまり1992年と同様に共和党の正規の候補が負けて、恐らくは「クリントン」、今度は夫ではなく妻の方の勝利が濃厚になってくるというわけです
・では、反対に「堂々と予備選を勝ち抜いて共和党の候補となる」というシナリオはどうかというと、こちらも、党としては全く歓迎していません。このような「憲法違反の暴言」を繰り返すトランプには、中道票、無党派票は全く動かないので、やはり民主党の勝利を助けるだけだというのです。更に共和党として「統一候補トランプ」を2016年の11月の選挙に担ぐというのは、リベラル州やスイング州での上下両院議員選挙にも相当な悪影響が心配されるという問題があります
・そこで、12月11日(金)には共和党全国委員会が、次のような「作戦」というか「覚悟」を検討しつつあるという報道が流れました。それは、「とにかく予備選と党員集会はこのまま進める」中で、「トランプの1位もやむを得ない」としながらも「絶対過半数の代議員を獲得することは何としても回避する」という方針です
・つまり2016年の7月時点での全50州の予備選の結果として、「トランプの候補指名が確定していない」という状況に持っていくというのです。そうなると、何が起きるのでしょう?2016年7月にオハイオ州のクリーブランドで予定されている共和党大会では、まず第一回投票が行われます。その際には代議員は、自分の州の予備選・党員集会の結果に拘束されます。その結果は、「トランプ1位、但し過半数には達せず」ということになるわけです
・ここで、ドラマチックなことが起きます。各州の代議員は「自分の州の予備選や党員集会の結果から解放される」のです。そこで、党大会は「フロアー・ファイト」という段階に進みます。各州に人口比で割り当てられた代議員は、自由に投票ができるようになるのです。但し、各州の憲法の規定により、予備選の結果にあくまで拘束される州、自由投票だが州の代議員数は「総取り」になる州、各代議員が完全に「一人一票」になる州など様々なバリエーションがあるのですが、いずれにしても全体としては「完全に仕切り直し」になるのです
・そうなれば、「生身の人間」である各州の代議員、つまり長年の共和党の党員や職業政治家をやっていた人間の多くは「トランプ以外の」恐らくは予備選2位の候補に投票するというのです。とにかく、共和党としては「このままでは党のブランドイメージが失墜」すると同時に、「上下両院議会選挙にも影響が出る」ということで、悩みに悩んでいるということで、その結果がこのような「案」だというのです
・共和党としての「ウルトラC」というわけですが、基本的にこのようなシナリオになれば、各州の州憲法で規定されている予備選への民意反映のための「縛り」に抵触しない形で、合法的に「トランプ降ろし」が可能になるというストーリーです。今から8ヶ月近くかかる大変に息の長い話ですが、とにかく、共和党の全国委員会としては、そのような「腹案」を持って進むということになりそうです
・では、その場合の「ナンバー2」というのは誰になるのでしょうか?  世間の話題がトランプばかりに集中する一方で、他の候補たちの支持率と順位も大きく変動してきています。現在の共和党内の支持率に関して、政治サイト「リアル・クリアー・ポリティクス」が集計した全国平均は、次のようになっています。  1位・・・・・ドナルド・トランプ(30.4%)  2位・・・・・テッド・クルーズ(15.6%)  3位・・・・・マルコ・ルビオ(13.6%)  同率3位・・・ベン・カーソン(13.6%)  5位・・・・・ジェブ・ブッシュ( 3.6%)
・これが12月11日現在の数字です。ちなみに、集計対象のデータは基本的に「パリ事件の後」「カリフォルニアの事件の前後」「トランプ暴言の前」のものが多数と思われますので、現状の「共和党支持者の心の中」を集計しているわけではありません
・この5人の中で、ジェブ・ブッシュは非常に難しいポジションに立っています。支持率だけで言えば、撤退寸前の難しい状況、しかし選挙資金はあるので当面は降りなくていい、降りたらルビオを推すのではという観測があるが果たしてそれでいいのか思案中・・・という感じであると言われています。パリ事件、カリフォルニアの事件、そしてトランプ暴言と、彼なりに「信頼感」を演出できるタイミングはあったのです  が、瞬間的に世論の心をつかむようなメッセージ発信はできていません
・またベン・カーソン医師は、流石に息切れしてきたというところがあります。トランプ「暴風」の吹き荒れる中で、また複数のテロ事件が現実のものとなる中で、この人の「知的で物静かな宗教保守派の黒人候補」という持ち味が通用しなくなってきているようです。ちなみにカーソン候補は、共和党全国委員会の「トランプ降ろし」に対しては露骨に不快感を表明しており、「そんな不正が検討されるようなら自分も無所属で出る」などという「脅迫」もしていますが、かえって支持率を落とすだけのように思われます
・マルコ・ルビオ候補に関しては、中間層や若年層、女性票が取れるような「若さとカリスマ性」があり、期待されていた部分もあるのです。ですが、いかんせん「テロ不安の時代」となると、両親がキューバ移民という「純粋ヒスパニック候補」には、「時期尚早感」が出てきてしまいます。ジワジワと支持を伸ばしてきてはいるのですが、この14%辺りが天井という感覚もあります
・そんな中で、ここへ来て「意外な躍進」を遂げているのが、テッド・クルーズ上院議員です。全国平均でも16%弱まで支持を伸ばしていますし、2月1日にカレンダーの先頭を切って党員集会を実施するアイオワ州での支持は22.3%まで伸ばしており、アイオワだけで見ればトップのトランプに3%差まで迫っています
・そのクルーズ候補ですが、ここへ来て「トランプ旋風の中でどう振る舞うか」という戦術を練り直したようで、かなり変わった作戦に転じています
・一つは、問題の「イスラム教徒入国禁止発言」について、他の候補たちが一斉に批判に回る中で、クルーズ候補は発言の直後には批判的なコメントもしたのですが、その後は「トランプ批判を控えて」いるという点です
・もう一つは、ここへ来て妙な宣言をしているということです。それは「サダム・フセインを温存しておいた方がアメリカの安全には良かった」という発言です。更にリビアのカダフィ政権も「温存すべきだった」としています。これは非常に興味深いコメントです
・恐らくクルーズ候補は、トランプ支持者の「ホンネ」を相当に分析したのだと思います。その上で、「トランプ支持者の中の教育水準の高い層」は、決して「ドナルド・トランプという候補」には満足していないということを見抜いて、「その獲得」を決意したのだと思います
・では、どうして今になって「フセイン温存論」などを持ち出したのでしょうか? 勿論、フセインは絞首刑になっていますから蘇るはずもないわけで、要するにこれは「イラク戦争否定論」ということです。どうして2015年末の現在に、2003年のイラク戦争の否定論をブチ上げるのでしょうか? よく考えてみると、これが政治的には一石五鳥ぐらいの効果があるのです
・一番目は、まず「ブッシュ潰し」ができます。先月刊行された「ジョージ・H・W・ブッシュ(父)の伝記本」で、「ジョージ・H・W・ブッシュ(父)」はチェイニーとラムズフェルドを批判していたということが暴露されてしまい、「ブッシュ一族」の一貫性のなさが明らかとなることで、結果的にジェブ・ブッシュの支持率にマイナスの影響があったと言われています
・どうしてかというと、ジェブという人は「父の真意はフセイン温存」であった一方で、「兄はフセイン討伐」に走ったわけで、その間で「自分の信念を語りえない、あるいはイラク戦争については信念のない」人間だという印象が一部にはあります。これに対して、クルーズ候補が共和党内では一部のリバタリアンを除いては一種のタブーだった「イラク戦争否定論」をブチ上げれば、世論の相当な部分を引っ張りこんで、反対にジェブ潰しもできるということになるのです
・二番目は、これは「ヒラリー潰し」にもなるということです。ヒラリーの軍事外交路線というのは、基本的には「リベラル・ホーク」です。世界の人道危機に対して介入することで、アメリカは軍事的な覇権を維持すると共に、自由と民主主義と人権という思想的な覇権も維持できるという考え方です。イラク戦争にしても、確かに大量破壊兵器の存在疑惑という問題はありましたが、一方でクルド人への化学兵器使用疑惑への人道介入という側面もあったわけです。そうした思想を基本的に否定しようと言うわけです
・更に言えば、アラブの春肯定論などもそうですが、ヒラリー路線の中にある「アメリカの直接の利害よりも人道危機への介入」という「政治的に正しい戦争」志向というものが、「本当にアメリカの安全になるのか?」という疑義を唱える、そして「一見すると軍事タカ派に近く、アメリカの安全確保について経験豊富」というイメージを持つヒラリーを「本当に国益に適う政策」を採用してきたのか疑問だという「追い込み」が可能になるという寸法です
・三番目は、「ISILが出てきたのは、フセインを除去してスンニー派のイラク兵を浪人に追いやり、アサドの統治を潰そうとして権力の空白を招いた一連のアメリカの失政に原因がある」という、例えば「トランプ支持層」の中に根強い「ワシントン不信」の論理に寄り添うものだからです
・四番目は、同じようにトランプ支持層の中には「トランプならプーチンとアサドと差し詰め談判」をして「アメリカに有利なディール」を引き出すに違いないという「ファンタジー」があるわけですが、その奥にある「別にシリアもロシアも独裁でいいじゃないか、アメリカが安全なら」という一国主義、孤立主義的発想法に乗っていこうという点です。サウジのサルマン新政権との協調という点にもつながっていく発想法です
・五番目は、突き詰めていけば「アメリカの中東政策は、各国の親米独裁政権を維持してパワーバランスを実現する」ということだというのは、実は共和党のクラシックなアプローチであって、「ブッシュ以前」に戻るという意味では、保守本流の有権者にも支持される可能性があるということです。その一方で「アラブの春を支持したナイーブなオバマ」への強烈なアンチにもなるということで、共和党のイデオロギーや政治力学の中では十分に成立するロジックだということです
・クルーズ候補は、この「フセイン温存論=イラク戦争否定論」だけでなく、移民政策に関しても独自の政策を繰り出してきています。例えば、「専門職ビザとしてのH1B」というのがあるのですが、その認可要件を「雇用主による年収11万ドル(1300万円相当)の保証」とするなど、「トランプ暴言が誰にでも分かる」一方で、同じように極論に近い内容を「教育水準の高い保守票に向けてスルッと出してくる」という戦術を使っているのです
・そのクルーズ候補は、アイオワ州での「ドブ板選挙」を相当に徹底しているようで、同州での支持率はジワジワと上昇しています。仮に党員集会でトップを取るようですと、一気に弾みがつくかもしれません。一部には「クルーズは声を小さくしたトランプ」だという警戒論も、民主党陣営から出始めていますが、このクルーズ候補、まだ当選一回ながら、上院議員として何度も予算を潰してきた猛者でもあり、大学生時代はプリンストンの弁論部で「無敵のディベート選手」だったそうですし、その後はハーバードの法科で法学博士(JD)まで取った人です
・仮に「トランプ暴風」が吹き止まない場合でも、2016年7月のクリーブランドで「フロアー・ファイト」に持ち込まれた場合のトランプのライバルは、この人になるかもしれません。但し、この人のイデオロギーは、やはり冷静に見ても「相当に右」です。ティーパーティー運動の持っている「極端な小さな政府論」が原点であり、銃規制反対、中絶反対、移民政策も厳格、医療保険改革にも反対ということで、例えば好況が続くとして「オバマ政権から、大きく異なる極右政権」を選ぶ理由はアメリカの中道層には薄いと思います
・ということは、仮に予備選最終段階でクルーズ候補が勝っても、ヒラリーに勝てる可能性は薄いと考えるのが常識的です。ですが、テキサス州選出の共和党上院議員でありながら、イラク戦争を否定してくるというのは、発想の大胆さという点では要注意でしょう。いずれにしても、来週、12月15日(火)に予定されている共和党のTV討論(主催のCNNはヤル気満々です)が注目されるところです。

これまでは、アメリカ大統領選挙の予備選挙など余り注目してこなかったが、トランプ候補の相次ぐ爆弾発言でにわかに面白くなった。冷泉彰彦氏の解説はいつもながら深く、参考になる。
トランプ候補について、「お膝元のNY市では、共和党の市の委員会が「追放措置」の検討に入りました」、というのもうなずける話だ。共和党首脳部が「フロアー・ファイト」を「ウルトラC」としているというのも、さすがプロの法律家集団があらゆるルールの裏まで活用しようという国らしい。
クルーズ候補が「フセイン温存論」などを持ち出した理由についての、解説も興味深い。
数日前のテレビでのアメリカ大統領選挙についての番組で、アメリカ政治の若手専門家が、トランプの目的は、大統領になることではなく、共和党で大統領候補として指名されることであると分析していたが、うなずける話である。いずれにしろ、指名選挙まで目が離せないところだ。
アメリカは大統領制をとっているとはいえ、日本の自民党などの総裁選挙の低調さは民主主義の危機というほかない。
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