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賃上げをめぐる不都合な真実 [経済]

このブログの4月4日で「安倍首相の賃上げ要請」を取り上げたが、4月21日付けの東洋経済オンラインは「2014年度の賃金は前年割れだった!「官製」春闘の効果は薄く、2015年度にも不安」と題して、厚生労働省の毎月勤労統計の発表遅延をめぐる混乱と、所定内給与が2014年に前年比0.4%減と下方修正され、2015年度も期待薄であると報じている。
http://toyokeizai.net/articles/-/67144?mm=2015-04-21

確かに2014年の大企業の賃上げ率は、厚生労働省によれば、2.19%と13年ぶりに2%超えとなったが、この殆どは定期昇給分で、ベア率分は僅か0.4%に過ぎない。定期昇給分は個々人の所得には影響があるが、雇用者全体の所得には影響しない。雇用者全体の所得に影響があるのはベア率である。足元を本年1月と2月の毎月勤労統計で見ると、所定内給与の前年同月比はそれぞれ0.2%、0.0%増、時間外やボーナスを含めた現金給与総額では0.6%、0.1%増であった。今年の賃上げ率は、中小企業にまで政府が要請していることもあり、昨年を多少上回るとしても、肝心のベア率分は引き続き僅かに留まる可能性が強い。かすかな救いは、消費者物価上昇率が4月以降に消費増税の影響がなくなること程度か。いずれにしろ、安倍首相がいくら旗を振っても、労働組合がますます「聞き分けが良く」なっている下では、賃上げに過度な期待は禁物だろう。
明日は金曜日なのでブログは休むつもりです。
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「官製相場」(続報) [経済]

4月15日付けの本欄で「「官製相場」の増殖」を書いたが、今日は日経平均株価が終値で20133.9円と、15年ぶりに終値で2万円の大台を回復したこともあり、その後の「官製相場」報道と、「官製相場」色は認めつつもむりそファンダメンタルズで上がっているとの見方の2つを紹介しよう。
その後の「官製相場」報道としては、昨日のZAKZAKの「【永田町・霞が関インサイド】官製相場報道、安倍首相は“勝てば官軍” 株価2万円台突破と景気回復ムード漂うが…」がある。これは各紙の「官製相場」を紹介した後、ゆうちょ銀行による国内株式の“爆買い”にも触れている。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150421/plt1504211140001-n1.htm
ファンダメンタルズで上がっているとの代表的な見方は、本日付けのダイヤモンド・オンラインにみずほ総研チーフエコノミストの高田創氏による「日本株がバブルではなく まだ回復の途上にある理由」である。ここでは、『環境で重要なのは、日本株だけでなく世界中の株式市場が堅調なこと・・・。日本株は2009年9月の政権交代後の「失われた3年」からの戻りに過ぎない・・・日本のメディアのなかには日本株2万円は「官製相場」で持続性がないとの見方も根強いが、より重要なのは世界の中央銀行の金融緩和による「金利水没」の影響・・・日本株が今回は選ばれる立場になってきた。・・・日本株の株価収益率(PER)は歴史的に見ても、欧米と比べても割安・・・。日本企業がコーポレートガバナンスの重視も含めて、企業行動を変えようとしていることへの評価・・・日本人が意識する以上に、海外投資家は日本の株式市場の見直しに入っているのではないか』、と強気筋の投資家が泣いて喜びそうな見方を披露。
http://diamond.jp/articles/-/70506
理路整然として説得力がある見方ではあるが、ヘッジファンドなど海外投資家の比重が高くなった株式市場では、買い煽った上で、「達成感」が出たら一気に売り崩しに転じるなどの動きもあり得る。「5月暴落説」も根強い。「エコノミスト」は「理路整然と間違う」こともしばしばあることには留意が必要だ。
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新規上場(IPO)ブームの裏面 [経済]

本日の日経新聞夕刊は、トップ記事で「新規上場 世界で復調 14年度、3年ぶり1000社超 中国3倍 日本も6割増」と報じた。主要国での超低金利と超金融緩和の下では当然の流れではある。ただ、本日の東洋経済オンラインは、「続出する"お粗末IPO"、問題の本質はどこに「上場ゴール銘柄」(注)はgumiだけではない」(下記リンク)として、日本市場での歪みを指摘。確かに、2014年12月に東証1部に華々しく直接上場したgumiが、わずか2カ月半で業績予想を黒字から赤字へ下方修正。投資家の失望で株価が急落した例は最近の典型例だ。他にもお粗末なIPOの類似例を挙げている。東京証券取引所(東証)はあわてて、3月31日に「最近の新規公開を巡る問題と対応について」を発表し、引受証券会社や監査法人にも上場審査の強化を要請した。
(注)上場ゴール銘柄とは、経営者が上場自体を目的と誤解して、肝心なその後の企業成長をなおざりにする姿勢の意味で使ったと思われる
http://toyokeizai.net/articles/-/66052?mm=2015-04-13

gumiのケースは、記事で指摘している「予想の粉飾」であるとしても、決算実績まで粉飾したのが、2009年11月に東証マザーズに上場した半導体製造装置メーカーのFOI。上場後、僅か半年で2009年3月期の売上高118億円のうち、100億円が虚偽であったと判明、上場廃止、破産。NEC出身の社長、野村證券出身の専務が有罪判決を受けたほか、株主がこの2名、監査証明を出した公認会計士、引受証券、さらには東証に対し、損害賠償を求め訴訟中である。特に、東証が上場審査を巡って訴訟で責任を問われるのは初めて。
上場審査の甘さという点では、2007年4月に東証マザーズに中国系企業の第一号として上場したアジア・メディアが、CEOの子会社資金私的流用で、2008年9月に上場廃止になったケース。さらに遡れば、1999年12月に東証マザーズ開設時の上場第一号となったリキッドオーディオ・ジャパンは、後日、裏社会との関係が判明、業績低迷、不透明な増資を繰り返すという漂流の末、2009年3月に上場廃止。

上記で触れた「甘い上場審査」は「氷山の一角」にすぎず、実際には極めて多いのが実情。甘い上場審査が頻発する背景には、1999年以降、相次いで新興企業向けの新興市場が設立され、6取引所の間の「市場間競争」を通じ新興企業の上場促進を図ろうとした政策がある。日本での開業率の低さは確かに問題であるとしても、安易な政策で打開しようとしたことの弊害は甚大である。最近でこそ、新興市場は活況を取り戻したが、長期間にわたって投資家から不信の目で見られ、低迷を続けていたことを忘れてはなるまい。その意味では、責任を問われるのは、会計監査人、引受証券会社だけでなく、特に監督当局、東証の責任は重大である。東証としても、前述の声明発表や引受証券会社・監査法人への上場審査の強化などを要請する前に、徹底的な総括(自己批判)が必要なのではあるまいか。
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