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税制一般(その2)(確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説、111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!、金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」) [経済政策]

税制一般については、2017年1月12日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その2)(確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説、111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!、金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」)である。

先ずは、本年2月4日付け東洋経済オンラインが掲載した公認会計士・税理士 の渡辺 義則氏による「確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/408996
・『今年の確定申告では、改正点がいやというほど目白押し。毎年、申告している方ほど混乱必至かもしれません。そこで、『自分ですらすらできる確定申告の書き方 令和3年3月15日締切分』から、注意したい改正点をピックアップして解説します』、私は実は恥ずかしながら、「確定申告「雑にやる人」に該当する。修正申告を何回もやるのが普通だ。
・『確定申告の改正の注意点6つ  まずは、どんな改正があったのかを、ザっと見てみましょう。今年、注意したいのは、主に次の6つです。 ①すべての人に関係する基礎控除の改正⇒減税 ②給与やアルバイト収入のある人に関係する改正⇒増税 ③年金をもらっている人に関係する改正⇒増税 ④青色申告をしている人に関係する改正⇒増税の場合あり ⑤寡婦、ひとり親の人に関係する改正⇒減税または増税 ⑥配偶者、扶養家族に関係する改正⇒減税の場合あり パッとみると非常にややこしいですね。しかし、改正による影響について見てみると、②③で増税となりますが、①で減税となるため、全体としては増減なく変わらない人の多い改正となっています。 個人事業や不動産賃貸業をしている方は、①で減税となりますが、青色申告者の場合、e-Taxを使って申告しないと増税となる④の改正があるため、要注意です。 未婚のひとり親の方、寡夫の方は、⑤の改正により減税となります。ただし、今回の改正で対象から外れて増税となる人もいるので注意しましょう。⑥は控除対象になる人の範囲が広がるため、場合によっては減税となります。 では、それぞれの内容について見ていきましょう』、興味深そうだ。
・『①すべての人に関係する基礎控除の改正  注意したい改正点の1つ目は、「基礎控除」です。これは、申告する人すべてに関わってくる控除になります。 従来、基礎控除の金額は38万円でしたが、今年の申告からは48万円となり、10万円引き上げられています。とくに例年申告している方は、昨年分と金額が違いますので、注意しましょう。 基礎控除は、所得から引くこと(控除)のできる項目(所得控除)ですから、多いほど、税金面では有利となります。 したがって、通常は減税となりますが、合計所得が2400万円を超える方は、下図のように控除額が段階的に引き下げられ、増税となります』、なるほど。
・『年収850万円超の人は増税に  ②給与やアルバイト収入のある人に関係する改正  注意したい改正点の2つ目は、給料やアルバイト・パート収入のある人に関係する改正です。大きく2つあります。ただし、年末調整を受けた方は、会社がすでに改正を反映させて給与所得を計算してくれていますので、「こんな改正があったのだな」くらいに思っていただければ、大丈夫です。 1. 給与所得控除額の引き下げ 1つは給与所得控除額の改正です。下図のように、年収850万円以下の人は給与所得控除額が一律10万円引き下げになり、年収850万円超の人は一律給与所得控除額が195万円となります。 給与所得控除額は、給料収入から所得を計算するときに、必要経費のように引くことができる項目です。その金額が少なくなったということですから、増税となります。 ただし、前述の基礎控除が10万円引き上げられたため、年収850万円以下の人については、全体としては増税も減税もなし、という建て付けになっています』、「増減税」なしで一安心だ。
・『①すべての人に関係する基礎控除の改正  注意したい改正点の1つ目は、「基礎控除」です。これは、申告する人すべてに関わってくる控除になります。 従来、基礎控除の金額は38万円でしたが、今年の申告からは48万円となり、10万円引き上げられています。とくに例年申告している方は、昨年分と金額が違いますので、注意しましょう。 基礎控除は、所得から引くこと(控除)のできる項目(所得控除)ですから、多いほど、税金面では有利となります。 したがって、通常は減税となりますが、合計所得が2400万円を超える方は、下図のように控除額が段階的に引き下げられ、増税となります』、「減税」になる方が圧倒的に多いのだろう。
・『年収850万円超の人は増税に  ②給与やアルバイト収入のある人に関係する改正  注意したい改正点の2つ目は、給料やアルバイト・パート収入のある人に関係する改正です。大きく2つあります。ただし、年末調整を受けた方は、会社がすでに改正を反映させて給与所得を計算してくれていますので、「こんな改正があったのだな」くらいに思っていただければ、大丈夫です。 1. 給与所得控除額の引き下げ 1つは給与所得控除額の改正です。下図のように、年収850万円以下の人は給与所得控除額が一律10万円引き下げになり、年収850万円超の人は一律給与所得控除額が195万円となります。 給与所得控除額は、給料収入から所得を計算するときに、必要経費のように引くことができる項目です。その金額が少なくなったということですから、増税となります。 ただし、前述の基礎控除が10万円引き上げられたため、年収850万円以下の人については、全体としては増税も減税もなし、という建て付けになっています』、なるほど。
・『2. 所得金額調整控除の創設  年収850万円超の方については、前述の改正による影響があまり大きくならないよう、「所得金額調整控除」というものが創設されました。これは、子育て世帯と特別障害者のいる世帯(本人または家族)に限って、最大15万円の所得金額調整控除額を、給与所得の金額から引くことができるというものです』、余り関係ないようだ。
・『年金に関する改正の注意点は2つ  ③年金をもらっている人に関係する改正  注意したい改正点の3つ目は、年金をもらっている人に関係する改正です。大きく2つあります。 1. 公的年金等控除額の引き下げ 1つは、公的年金等控除額が一律10万円引き下げられたことです。また、合計所得の金額によって計算区分が3つに分けられました。図は公的年金等の所得を計算するための図ですが、赤字の部分が引き下げられた箇所になります。 公的年金等控除額は、年金収入から所得を計算するときに、必要経費のように引くことができる項目です。その金額が少なくなったということですから増税となりますが、前述の基礎控除が10万円引き上げられたため、結果的に増税も減税もないことになっています。 2. 所得金額調整控除の創設  公的年金収入に加えて給料、アルバイト・パート収入がある方に対して、最大10万円の「所得金額調整控除」が設けられました。 今回の改正では、前述したように給与所得控除額と公的年金等控除額が10万円引き下げられました。両方の所得がある人は、20万円の所得アップとなってしまいます。そこで、10万円の所得アップですむよう、調整するために設けられたものです』、私の場合、もともと「10万円の所得アップ」となるようだ。
・『e-Taxを始めるには  ④青色申告をしている人に関係する改正  青色申告をしている人が注意したいのは、今年からe-Tax(インターネットを使った電子申告)をしないと、青色申告特別控除額が55万円に引き下げられてしまうことです。e-Taxで申告しないと増税となりますが、e-Taxを使えば、従来どおりの65万円の控除を受けることができます。 e-Taxを始めるには、マイナンバーカードとICカードリーダライタを使う方法と、IDとパスワードを税務署に発行してもらう方法の2つがあります。くわしくは、図をご参照ください。 ⑤寡婦、ひとり親の人に関係する改正  寡婦、ひとり親の人に関係するものでは、大きく3つの改正があります。また、「寡婦、寡夫控除」という名称が「寡婦、ひとり親控除」という名称に変更されました。 改正の1つ目は、未婚のシングルマザー・ファーザーの人も控除を受けられるようになったことです。従来は結婚していた人でないと、控除が認められませんでした。これは減税となる改正で、控除額は35万円となります。 2つ目は、寡夫控除が廃止されて、「ひとり親控除」に統合されたことです。控除額は従来の27万円から35万円に引き上げられ、減税となります。 3つ目は、「合計所得500万円以下」という所得制限が加わったことです。従来は、夫と死別・離婚して子どもか扶養親族のいる人であれば、所得と関係なく、控除を受けることができました。合計所得が500万円を超える方は対象から外されますので、増税となります。 具体的な要件などをまとめると、次のようになります』、私は既に「e-Taxで申告」しているので、関係なさそうだ。
・『確定申告の際には改正内容をよく確認して  ⑥配偶者、扶養親族に関係する改正  注意したい改正点の最後は、配偶者や扶養親族がいる人に関係する改正です。 控除の対象にできる家族の所得(合計所得)が10万円引き上げられました。 扶養控除と配偶者控除は、合計所得48万円以下(改正前38万円以下)になり、配偶者特別控除は、合計所得48万円超133万円以下(改正前38万円超123万円以下)となります。 ただし、合計所得が10万円引き上げられた一方、給与所得控除額も10万円引き下げられたため、対象となる年収は従来と同じです。具体的には、扶養控除と配偶者控除は給与年収が103万円以下、配偶者特別控除は103万円超201万5999円以下であることが条件となります。 以上、今年の変更点をご紹介しました。今回の改正は、フリーランスやシングルマザーの方は減税、給与年収が高い方は増税など、ケースによって増税と減税に分かれます。また、青色申告をしている人は、e-Taxを使わないと増税です。 今年は、所得金額調整控除も創設されましたので、改正内容についてよく確認をして確定申告をしていただくとよいでしょう』、普段は間違った申告を後日、修正申告することが多かったが、今回は間違えないよう慎重にやろう。

次に、5月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した税理士の橘慶太氏による「「111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/271602
・『コロナ禍では、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。 相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。 本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuber税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は6万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し、現在3.5万部。遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。(この記事は2020年12月3日付の記事を再構成したものです』、「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています」、大いに気を付けたいところだ。
・『なぜ税務署にマークされるのか?  111万円の贈与をして、贈与税を少しだけ納税すれば、贈与契約書を作成しなくても問題ないと聞きました」 よくいただく質問ですが、これは間違っています。あえて110万円を1万円だけ超える111万円を贈与し、贈与税を1000円だけ納める税務調査対策があります。 これは税務署に対して「私は贈与税の申告をして、贈与税も払って、きちんとした形で贈与を受けていますよ」とアピールするために行います。 一見よい対策に見えますが、むしろ税務署から目を付けられ、税務調査を誘発するケースがあります。詳しく見ていきましょう。 本来、贈与税の申告は財産をもらった人が行わなければいけません。それにもかかわらず、財産をあげた人(親)が、もらった人(子)の名前で勝手に贈与税申告書を作成し、納税まで済ませてしまうことがよくあります。 贈与税の申告は、提出の際に身分証明書は一切必要なく、郵送だけでも可能です。そのため、親が子の名前の申告書を作り、郵送で提出すれば手続きは完了です。 しかし、贈与税申告書の筆跡や、納税された通帳の履歴等を見れば、親が子の名前で勝手に申告をしていたかどうかは、税務署側では大体わかります』、建前通り「本人申告」の形をとるべきなのだろう。
・『税務署が「これは怪しい」と疑うポイントとは?  生前贈与そのものは「あげた、もらったの約束」等がしっかりできていれば成立します。贈与税の申告を親が代わりに行ったとしても、直ちに贈与そのものが否定されるわけではありません。 しかし、そういった贈与税申告が行われている場合、調査官には「贈与税の申告書は提出されているものの、子どもは贈与のことを知らされていないのではないか?」と映り、疑いを持たれます。 結果として、相続が発生したときに税務調査に選ばれ、過去の贈与税申告の真相について追及される可能性があります。 このやり方の本来の趣旨通り、贈与で財産をもらった人が、自ら贈与税の申告をし、納税まで済ませるのであれば、何も問題ありません。 しかしいつの間にか、「贈与税を少しだけ納めれば、名義預金にならない」という間違った認識が世の中に広がり、余計に怪しい贈与税申告書が税務署に提出される結果になっています。 贈与税を払うこと自体に意味があるのではなく、贈与で財産をもらった人自らが申告手続きをすることに意味があるのです。) 橘慶太氏の略歴はリンク先参照)』、「名義預金」とされれば、大変だ。
・『相続争いの大半は「普通の家庭」で起きている  「相続争いは金持ちだけの話」ではありません。 実は「普通の家庭」が一番危ないのです。 2018年に起こった相続争いの調停・審判は1万5706件。そのうち、遺産額1000万円以下が33%、5000万円以下が43.3%。つまり、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」 で起きています。 さらに、2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます。 相続トラブルはなぜ起こるのか? なぜ、普通の家庭で相続争いが起こるのでしょうか? 「財産がたくさんある家庭」が揉めると思われがちですが、それは間違いです。  揉めるのは 「バランスが取れるだけの金銭がない家庭」 です。 例えば、同じ5000万円の財産でも、「不動産が2500万円、預金が2500万円」という家庭であれば、一方が不動産を、もう一方は預金を相続すれば問題ありません。 しかし、「不動産が4500万円、預金が500万円」ならどうでしょうか? 不動産をどちらか一方が相続すれば、大きな不平等が生じます。こういった家庭に相続争いが起こりやすいのです。 多くの方が「私たちの家庭事情は特殊だから」と考えがちです。しかし、相続にまつわるトラブルには明確なパターンが存在します。パターンが存在するということは、それを未然に防ぐ処方箋も存在します』、「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」 で起きています。 さらに、2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます」、「揉めるのは 「バランスが取れるだけの金銭がない家庭」 です」、どうしても不動産に偏っており、やはり周到な準備が必要なようだ。
・『日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!  はじめまして。円満相続税理士法人の橘慶太(たちばな・けいた)と申します。 この度『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』を出版しました。 私は、相続税専門の税理士法人の代表として、これまで5000人以上の方の相続相談に乗ってきました。また、これまで日本全国で500回以上、相続セミナーの講師を務めた経験もあります。 限られた人にしか伝えることができないセミナーよりも、もっと多くの人に相続の知識を広めたいと想い、2018年からYou Tubeを始めました。現在、チャンネル登録者は4.8万人を超えており、相続に関する情報発信者としては、間違いなく日本一の実績を持っています。 相続にまつわる法律や税金を解説した本は星の数ほどあります。しかし、本に書いてあることと、実際の現場で起きていることはまったく別物です。 「教科書的な本ではなく、相続の現場で起きている真実をぶっちゃけた1冊にしたい!」 という想いを込めて、本書を執筆しました。 専門用語は使わず、イメージがつかみやすいよう随所に工夫をちりばめました。ただ、わかりやすさを追求しつつも、伝えるべき相続の勘所(ポイント)は一切カットしていません。この1冊で、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所といった深い部分まで学べる内容になっています。 さらには2019年、約40年ぶりに相続にまつわる法律が改正され、遺言書のルールが大きく変更されたり、配偶者居住権という新しい制度が始まったりするなど、「相続の常識」が大きく様変わりしました。もちろん本書は、この大改正に完全対応しており、変更点・注意点をあますところなく解説します。 本書を読み終わるころには、相続にまつわる網羅的な基礎知識が身につき、円満相続への準備がうこと間違いありません。自分が今すべきことが明確になり、暗中模索だった状態から、パーッと目の前が明るくなることをお約束します。 そして巻末資料として、「知りたいことすぐわかるお悩み別索引」「いつまでに何をすべきかがわかる相続対策シート」も完備。ここを読むだけで、相続にまつわる網羅的な知識が身につき、円満相続への準備が整うこと間違いありません! 『本書の主な内容 (リンク先参照)』、一度、図書館ででも目を通しておこう。

第三に、12月18日付け東洋経済Plus「金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29221
・『2021年末、与党の税制改正大綱がまとまり、金融所得課税の増税は見送られた。しかしその陰で、富裕層の徴税強化は着々と進められていた。  「金融所得に対する課税のあり方について検討する必要がある」 12月10日、自民・公明両党がまとめた2022年度税制改正大綱のこの文言に、溜飲が下がった投資家は多かっただろう。 そもそも、岸田文雄首相は政権発足当初、「成長と分配」路線の実現に向けて、株式の配当や売却による金融所得について、増税を声高に訴えていた。それが一転、市場関係者の猛反発や株価の急落という事態を受けて、発言はみるみるトーンダウン。結果として課税のあり方について「検討する」と表明しただけで、肝心の見直し期限すら大綱に盛り込めなかったわけだ。 ところが、金融所得が多く影響が大きいと思われる富裕層の表情は、一様に硬いままだ。というのも、まるで金融所得課税において増税できなかった意趣返しをするかのように、富裕層への徴税強化に向けた税制の見直し方針を、大綱の至る所にちりばめてきたからだ』、「金融所得」「増税」を見送ったとはいえ、「増税できなかった意趣返しをするかのように、富裕層への徴税強化に向けた税制の見直し方針を、大綱の至る所にちりばめてきた」、興味深そうだ。
・『所得基準一部廃止の衝撃  中でも、富裕層がため息を漏らすのが、「財産債務調書制度」の見直しだ。 これは、億円単位の資産を持つ富裕層を対象に、不動産や株式などの資産の状況を、毎年詳細に税務署に報告させるものだ(下表参照)。 その目的は、富裕層における「所得税・相続税の申告の適正性を確保」(国税庁)すること。つまり、資産の状況について毎年詳しく税務署に報告させることで、所得隠しや相続時の資産隠しといった課税逃れを、簡単にはできないようにしているわけだ。 調書の提出は、これまで「所得が2000万円超」かつ「資産の合計額が3億円以上」の富裕層が対象だった。それを今回の税制改正によって、2024年から「合計10億円以上の資産」を持つ人には所得金額に関係なく提出を義務づけることにしたのだ。 10億円以上もの資産を持つ富裕層であれば、すでに毎年調書を提出しており、今さらため息をつくようなことではないと思うかもしれないが、そうではない。実は一部の富裕層は、調書提出の条件になっている2000万円超という所得基準を逆手に取り、提出しなくて済むようにさまざまな策を弄していたのだ。 その代表的なものが、少額の減価償却資産を活用したスキーム。課税所得を2000万円以下に圧縮し、提出義務の対象者にならないようにしていた。しかし、所得基準がなくなれば、問答無用で資産について報告しなければならなくなってしまう。 ため息の理由はほかにもある。それは、資産隠しなどを目的に海外業者の口座で保有している暗号資産(仮想通貨)についても、「財産債務調書」に詳細に記載しなければいけなくなるという点だ。 国税当局はすでに、海外への資産フライト(逃避)による課税逃れを防ぐため、2014年から「国外財産調書制度」を導入。調書提出の条件は5000万円を超える資産が海外にある場合となっているが、国税庁は暗号資産について「調書に記載しなくていい」と取り扱い方針の中で整理している。 これが、いわゆる税務上の「抜け穴」の1つになっているが、財産債務調書に関しては海外口座にある暗号資産についても調書に記載する必要がある。国外財産調書よりも、国内外を問わずかける資産把握の網が広いわけだ。 それゆえ、これまであの手この手で課税逃れを模索してきた資産10億円以上の富裕層にとって、今回の財産債務調書制度の大幅な見直しは憂鬱なのだ』、「課税逃れ」の穴を塞ぐ意味は大きい。
・『税務当局が手に入れた武器  富裕層の海外資産に対する“課税包囲網”を着々と築き上げている国税庁にとって、目下強力な武器となっている1つの制度がある。それは「共通報告基準(CRS)に基づく金融口座情報の自動交換制度」だ(下図参照)。 経済協力開発機構(OECD)が旗振り役となって進めているもので、制度を導入している国や地域の税務当局が、非居住者の銀行口座の残高といった情報(CRS情報)を、定期的に交換する仕組みだ。 日本は2017年から制度を導入しており、2020年7月から2021年1月までの約7カ月間で、84 の国・地域から219万件の情報を受領したという。口座残高の総額は約10兆円にのぼるとされており、国税庁はその巨額な資金に対し監視の目を強めることで、申告漏れなどの事案を洗い出しているわけだ。 国税庁が2021年11月に公表した個別の申告漏れ事案では、日本の企業経営者が海外のA国に多額の預金を持っていることがCRS情報によって発覚した。国外送金をした形跡がなかったことから調査を進めたところ、タックスヘイブン(租税回避地)のB国に法人を設立、A国の預金口座に役員報酬として入金させていたことがわかったという。 さらに、その役員報酬を元手にファンドに投資して配当を得ていたほか、A国にある預金を隠す目的で日本円として出金し、手荷物として日本に持ち込んでいたことも判明した。結果として、この経営者の申告漏れ所得は約1億3000億円、追徴税額は5100万円にのぼっている。 この事例を見ても、海外の口座残高情報という“端緒”をつかむことが、国税庁にとっていかに税務調査における大きな武器になっているかがよくわかる』、「84 の国・地域から219万件の情報を受領したという。口座残高の総額は約10兆円にのぼるとされており、国税庁はその巨額な資金に対し監視の目を強めることで、申告漏れなどの事案を洗い出しているわけだ」、大いにやってほしいものだ。
・『カンボジアに資産フライト  一方、そうした国税庁による課税包囲網の形成を、富裕層は指をくわえてただ眺めているわけではない。金融所得をはじめ税率の低いシンガポールなど、海外に移住するのはよくある話だが、「カンボジアなどCRSの枠組みに参加していない国に資産フライトさせている富裕層の話は、いまだによく耳にする」と、国際税務に詳しいある税理士は明かす。 カンボジアはCRSに参加してないうえ、日本との2国間の租税条約も結んでいない。そのため、税務当局同士の個別の口座情報などの交換ができておらず、富裕層にとって“ラストリゾート”となっているわけだ。 この税理士は、「そうした国の銀行は信用力が乏しく、資金を預けていても『いつのまにか消えてなくなってしまうのでは』といった不安が少なからずあった。しかし今は、日本のメガバンクが出資している銀行も多く、信用不安が解消されていることも資産フライトを後押ししているようだ」と話す。 海外資産をめぐる富裕層と税務当局のいたちごっこは、まだまだ続きそうだ。 雑誌『週刊東洋経済』では、2022年1月4日に特集号「狙われる富裕層」を発売予定です』、「カンボジアはCRSに参加してないうえ、日本との2国間の租税条約も結んでいない。そのため、税務当局同士の個別の口座情報などの交換ができておらず、富裕層にとって“ラストリゾート”となっている」、「日本のメガバンクが出資している銀行も多く、信用不安が解消されていることも資産フライトを後押し」、日本政府がその気になれば、「カンボジア」に圧力をかけることも可能な筈だ。いずれにしても「富裕層」だけがおいしい思いをするような仕組みを許してはならない。
タグ:税制一般 (その2)(確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説、111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!、金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」) 東洋経済オンライン 渡辺 義則 「確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説」 私は実は恥ずかしながら、「確定申告「雑にやる人」に該当する。修正申告を何回もやるのが普通だ。 「増減税」なしで一安心だ。 「減税」になる方が圧倒的に多いのだろう。 私の場合、もともと「10万円の所得アップ」となるようだ。 私は既に「e-Taxで申告」しているので、関係なさそうだ。 普段は間違った申告を後日、修正申告することが多かったが、今回は間違えないよう慎重にやろう。 ダイヤモンド・オンライン 橘慶太 「「111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!」 「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています」、大いに気を付けたいところだ。 建前通り「本人申告」の形をとるべきなのだろう。 「名義預金」とされれば、大変だ。 「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」 で起きています。 さらに、2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます」、「揉めるのは 「バランスが取れるだけの金銭がない家庭」 です」、どうしても不動産に偏っており、やはり周到な準備が必要なようだ。 一度、図書館ででも目を通しておこう。 東洋経済Plus 「金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」」 「課税逃れ」の穴を塞ぐ意味は大きい。 「84 の国・地域から219万件の情報を受領したという。口座残高の総額は約10兆円にのぼるとされており、国税庁はその巨額な資金に対し監視の目を強めることで、申告漏れなどの事案を洗い出しているわけだ」、大いにやってほしいものだ。 「カンボジアはCRSに参加してないうえ、日本との2国間の租税条約も結んでいない。そのため、税務当局同士の個別の口座情報などの交換ができておらず、富裕層にとって“ラストリゾート”となっている」、「日本のメガバンクが出資している銀行も多く、信用不安が解消されていることも資産フライトを後押し」、日本政府がその気になれば、「カンボジア」に圧力をかけることも可能な筈だ。いずれにしても「富裕層」だけがおいしい思いをするような仕組みを許してはならない。
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働き方改革(その35)(若者がハマる「ギグワーク」脱法的仕組みの大問題 労働問題に詳しい弁護士が指摘「日本は対応遅い」、日本企業でブーム 「欧米流働き方」の光と影 日本の「ジョブ型雇用」はここが間違っている、東レ・日覺昭廣社長が語る終身雇用の可能性 日本型の「終身雇用」のほうが会社は強くなる) [経済政策]

働き方改革については、10月23日に取上げた。今日は、(その35)(若者がハマる「ギグワーク」脱法的仕組みの大問題 労働問題に詳しい弁護士が指摘「日本は対応遅い」、日本企業でブーム 「欧米流働き方」の光と影 日本の「ジョブ型雇用」はここが間違っている、東レ・日覺昭廣社長が語る終身雇用の可能性 日本型の「終身雇用」のほうが会社は強くなる)である。

先ずは、12月1日付け東洋経済オンライン「若者がハマる「ギグワーク」脱法的仕組みの大問題 労働問題に詳しい弁護士が指摘「日本は対応遅い」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/470783
・『インターネットを通じて単発の仕事を請け負う「ギグワーク」。柔軟で自由な働き方として若者には魅力的に映るが、その実態は「個人請負」であり、事実上の無権利状態に置かれているなど、問題点は山積している。同様の問題が発生している諸外国では、すでに対策も進められつつある。 貧困に陥った若者たちの実態に4日連続で迫る特集「見過ごされる若者の貧困」2日目の第2回は、ギグワークの法的な問題点について、日本の労働問題に加え海外事情にも詳しい東京法律事務所の菅俊治弁護士に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは菅俊治弁護士の回答)(1日目の記事はこちらからご覧ください)。 【2日目の記事】第1回:若者がハマる「ギグワーク」脱法的仕組みの大問題 第3回:「最低賃金も稼げない」米国ギグワークの衝撃実態 最大の問題は「あらゆる労働法規の脱法」』、興味深そうだ。
・『Q:台頭するデジタルプラットフォーム型ビジネスなどでサービスを提供する「個人請負」という働き方にはどんな問題があるのでしょうか。 A:最大の問題はあらゆる労働法規の脱法だ。委託された業務に対して報酬が支払われる形式のため、時間外、休日、深夜労働手当などはつかない。また最低賃金の保障や解雇規制もなく、職を失っても失業保険が使えない。 そのため、実態としては継続的な労務提供がなされているにもかかわらず、プラットフォーマー側の一存で、いつでも「アカウント停止」とされて仕事を失うリスクがある。報酬体系もブラックボックス化が進み、かつ一方的で著しい不利益変更がなされるケースもある。 さまざまなプラットフォーム型ビジネスが、コロナ禍で急拡大した。各プラットフォーマーとも立ち上げ期こそは、働き手の確保と囲い込みのために高い報酬を約束するなど好条件を提示するが、一定の寡占的なポジションを確保すると手のひらを返すように条件の切り下げへと転じている。 とりわけ最近問題となっているのが、収入維持のために相当無理して長時間労働を余儀なくされている人が増えている点だ。長時間労働による過労に伴う事故も発生している。労災保険も適用されず、また事故相手への補償も個人請負の自己責任が問われる場合すらある。 多くの場合で労働法が適用されるべきにもかかわらず、未解決、未整理のまま放置されているというのが日本の現状だ。) Q:労働法規以外にも問題は多いですね。 A:個人請負は年金や健康保険も全額自己負担で、国民健康保険、国民年金に加入することになる。会社側負担分がある労働者に比べて、負担が重い。また貨物運送や食品衛生などの各業法的な規制についても、誰が公的な責任を負うのかがあいまいにされている。 そんな個人請負が労働強化にまで直面しているというのは、相当危機的な状況だと思っている。こうした働き方が出始めたときから、上記のような問題が生じることはわかっていたはずなのに、厚生労働省も経済産業省もきちんとした手立てを取ろうとしなかった。また裁判所に救済を求める動きも進んでいない』、「立ち上げ期こそは、働き手の確保と囲い込みのために高い報酬を約束するなど好条件を提示するが、一定の寡占的なポジションを確保すると手のひらを返すように条件の切り下げへと転じている。 とりわけ最近問題となっているのが、収入維持のために相当無理して長時間労働を余儀なくされている人が増えている点だ」、「厚生労働省も経済産業省もきちんとした手立てを取ろうとしなかった」、由々しい問題だ。
・『「労働基準法上の労働者性」のハードルが高い  Q:日本ではまだプラットフォーマーを相手にした訴訟は多くないですね。なぜなのでしょうか。 A:日本では残業代や労災補償、失業給付などの対象となる「労働基準法上の労働者性」が裁判所で認められるためのハードルが高い。 (菅弁護士の略歴はリンク先参照) 自車を持ち込む形のトラック運転手の労働者性をめぐって、最高裁判所は運転手がその会社の運送業務に専属的にかかわり、運送係の指示を拒否する自由はなく、毎日の始業終業時間も事実上決められていたケースでも、労基法上の労働者性を否定した(横浜南労基署長事件、1996年11月判決)。 この最高裁判決に沿えば、始業・終業時間は自由で、サービス提供の拒否も可能なプラットフォーム型ビジネスの個人請負が労基法上の労働者性を認められるためのハードルはかなり高い。弁護士側にも容易ではないという認識が広がっているのは事実だ。 ただ、日本とは異なり諸外国では個人請負の救済に向けた議論や動きが急速に進んでいる。こうした海外からの波が、遅からず日本にも来るとみている。 Q:個人請負をめぐり、他の先進諸国ではどういった流れになっているのでしょうか。 A:まずわかりやすいのはフランスで、日本の最高裁に当たる破棄院はここ数年、従来の方針を転換して「ウーバーイーツ」のような料理配達人やウーバータクシーの運転手の労働者性を認めるようになった。GPSによる監視と指揮命令、アクセス停止などの制裁、報酬の一方的決定などが考慮されたとみられている。同時に立法的救済にも着手している。 イギリスは立法によって「被用者(employee)」を対象にしたものと、より広い概念の「労働者(worker)」を対象としたものに分かれているが、やはり最近の最高裁判決で、ウーバータクシーの運転手を「労働者」だと認定し、最低賃金の適用や有給休暇の付与などを認めた。 Q:アメリカは州レベルでも活発な動きがあるそうですね。 A:激しいせめぎ合いが起きているのが、カリフォルニア州だ。同州の最高裁はプラットフォーム型ビジネスの個人請負が独立した事業主であることの証明を、雇い主側に課す判決を出した。 これに対してウーバーなどプラットフォーマー側が猛反発して、州の住民投票でウーバーなどのアプリによる運転手を独立事業主することを賛成多数で承認させた』、「カリフォルニア州」で「プラットフォーマー側が猛反発して、州の住民投票でウーバーなどのアプリによる運転手を独立事業主することを賛成多数で承認させた」、リベラルな州なのに、ウーバーなどの抵抗が通ったとは意外だ。
・『最低賃金や安全衛生の規制の対象となるケースも  この点をめぐる争いは今でも議論や訴訟が続いているが、アメリカのほかの州でもさまざまな動きがある。労働者性が認められない独立事業主とされても、最低賃金の規制や安全衛生の規制の対象とされるケースも出始めている。 バイデン政権は、先のカリフォルニア州のような立証責任を雇い主側に課すモデルを連邦レベルで採用する法案を議会に提出し、下院では可決されている。 Q:改めて、日本の対応の遅れが目立ちます。 A:日本でも今春、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が定められたが、中身は労災補償の特別加入制度の一部拡大といった限定的なものにとどまる。 プラットフォーム型ビジネスは今後、さらに広い分野に浸透するだろうことは間違いない。アプリによる指示や事実上の拘束、ランキングや点数化などによるコントロールなどの従来とは異なる実態をしっかり踏まえたうえで、そこで働く個人請負の就業実態に即した労働者概念の見直しは喫緊の課題だろう』、日本の行政も、問題を放置することなく、実態調査やそれに「即した労働者概念の見直し」を積極的に取組むべきだろう。

次に、12月15日付け東洋経済Plus「日本企業でブーム、「欧米流働き方」の光と影 日本の「ジョブ型雇用」はここが間違っている」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29052
・『日本で注目されているジョブ型雇用は、欧米で採用されている本来のジョブ型雇用とは大きくかけ離れている。ジョブ型雇用の専門家の話をもとに、その功罪を整理した。 フジテレビと博報堂、三菱ケミカル、それに味の素――。 大手企業の間でここ2年の間、共通した動きがあった。それは50歳以上を対象とする希望退職を募ったことだ。日本では今、こうした人員整理が目立っている。 欧米で採用されている「ジョブ型」と呼ばれる雇用形態のもとでは、このような形での退職募集は通常考えられない。大した仕事ができないまま歳を重ねても、日本のように年齢をもとに退職を請われることはない』、それはそうだろう。
・『日本型雇用は「甘くない」  雇用体系を整理し、欧米型の雇用を「ジョブ型」、日本型雇用を「メンバーシップ型」などと名付けたのは、労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎氏だ。濱口氏は「日本のメンバーシップ型雇用がジョブ型雇用と比べて甘いと思うのはとんでもない。働かない50代が許されないという厳しさがある」と話す。 「年功序列」「終身雇用」といった特徴を持つメンバーシップ型雇用は、ともすればぬるま湯のようにも思われてきた。「職能等級制度」とも呼ばれ、年齢や勤続年数に応じて段階的に処遇(給与やポスト)も向上する。しかし、裏を返せば、本来はそれだけの結果を求められるということだ。 一方、欧米のジョブ型雇用は、「職務等級制度」と呼ばれるものだ。企業を人の集まりではなく、ジョブの集まりと見立て、ジョブの価値に値段をつける。ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)をつくり、職務内容や責任範囲、勤務地、必要なスキルをあらかじめ明確に示す。そして、その職務の椅子に座るのにふさわしい人を採用する。 ジョブ型雇用では年齢や勤続年数を重ねても、昇進や昇給をすることはない(ただし若年期のみ、最初の数年は一括で昇給することがある)。そればかりか、成果や能力、意欲も一切考慮しない。なぜならばジョブ型雇用ではごく一部の幹部層を除き、社員1人ひとりの仕事内容や能力の評価を行わないからだ。働きぶりには関係なく、あらかじめ職務につけられた価値(値段)の賃金のみが支払われる。 そのため、20代であるジョブに就き、そのまま同じ職務で働き続ければ、50代になっても昇進することはない。ベースアップといった全社的な賃金水準の引き上げを除けば、給与が上がることもない。その代わり、日本のように「働きぶりが高い賃金に見合わない」などと中高年社員が冷たい目で見られることはない。 かつての日本では「働きぶりは微妙だが、中高年なので高給取り」の社員を抱えている余裕があった。年功序列のもとでは、中高年社員の給与は高い一方で、若手社員の給与を低く抑えられる。40~50代の社員数と20~30代の社員数のバランスがとれている間は、仕事ぶりに見合っていない中高年社員の給与を抱えることができていた。 だが、「人口構成が変わり、多くの有名企業では40代や50代が一番大きなブロック(人数)になった。メンバーシップ型雇用が想定していた企業内人的資源のありかたからすれば矛盾をはらんだ構成になり、大した仕事はしないが給与は高いという人をたくさん抱えることは企業にとって非常に大きなマイナスになってきている」(濱口氏)。 この深刻な問題は、昨日今日の話ではない。1990年代後半以降、この日本型雇用の矛盾を是正しようと、「成果主義」を導入する企業が相次いだ。だが、成果主義の多くは失敗に終わっている。それはなぜか』、「ジョブ型雇用ではごく一部の幹部層を除き、社員1人ひとりの仕事内容や能力の評価を行わないからだ。働きぶりには関係なく、あらかじめ職務につけられた価値(値段)の賃金のみが支払われる」、なるほど。
・『日本企業は成果を「働きぶり」で評価  欧米と違い、日本では長年、「働きぶり」という主観的、抽象的なものさしで社員を評価してきた。例えば「あいつは夜中まで頑張っている」「いつも周りに気配りをしている」「意欲が高い」といった情意考課の要素を入れた、客観性の低い評価だ。 メンバーシップ型雇用は社員が「なんでもやる」前提のため、本人が希望しなくても社命で異動や転勤を命じることができる。野球でいうと、野手を希望しているのにチーム都合で投手をやれと言われるようなものだ。しかも、成果を出せなければ、評価が下がってしまう。 結果的にメンバーシップ型雇用のままでの成果主義の拡大は、多くの社員が評価やそれに伴う処遇に不満を持って退社したり、意欲を失ったりするという結果に終わった。 その代わりに注目されているのがジョブ型雇用というわけだ。だが、濱口氏は「成果主義のリベンジとしてジョブ型雇用を導入しようとしているのだろうが、どうも根本的な勘違いがあるようだ」と懸念する。というのも、欧米のジョブ型雇用では原則的に幹部を除く社員の成果や能力を評価せず、成果主義とは対極にあるからだ。 日本企業が「ジョブ型」と呼ぶ雇用形態はたいていの場合、職務等級制度ではなく、役割等級制度だ。役割等級制度では社員が担当する職務を固定化し、責任範囲もある程度示したうえで、責任や役割をどれだけ果たしたかで評価する。社員の能力や成果も見る点が、ジョブ型雇用とは大きく異なる。 日本で欧米型のジョブ型雇用の導入が進まないのは、職務の価値を評価して値付けしてこなかったためだ。すでにそれぞれの職務に社員がついている中、この仕事はいくら、と後から値付けをすることは難しい。また、このスキルや資格があるからこのジョブに就けるといった考え方やノウハウも持ち合わせていない。 加えて、日本の高等教育は実学よりも教養教育を志向しており、多くの場合では学生が学ぶ中身が仕事と直結しない。そのため、企業の新卒採用では職務を限定しない総合職採用が多い。大半の学生は仕事で使える専門性を持っていないため、採否は成長可能性(ポテンシャル)を重視して決めるのが一般的だ。入り口の段階からして、職務に適性のある人材を採用する欧米のジョブ型雇用とずれている』、「日本企業が「ジョブ型」と呼ぶ雇用形態はたいていの場合・・・役割等級制度だ。役割等級制度では社員が担当する職務を固定化し、責任範囲もある程度示したうえで、責任や役割をどれだけ果たしたかで評価する。社員の能力や成果も見る点が、ジョブ型雇用とは大きく異なる」、「入り口の段階からして、職務に適性のある人材を採用する欧米のジョブ型雇用とずれている」、確かに日本では「欧米のジョブ型雇用」は採用不可能だ。
・『雇用制度に正解はない  メンバーシップ型雇用に比べると、役割等級制度は求める役割と成果が明確かつ具体的なため、評価される社員の納得度は高いと言えそうだ。上述の通り、年功序列のメンバーシップ型雇用制度を維持することには限界があるが、単に成果主義を拡大するだけでは失敗する。そうした反省のうえに、日本流ジョブ型雇用として役割等級制度が広がっているとみられる。 そもそも、欧米のジョブ型雇用も完璧なわけではない。 欧米のジョブ型雇用では働きぶりや能力評価といった曖昧なものではなく、公的な資格がモノをいう。会社で上の職務に就くには、自分の実力を客観的に証明する資格を取り、それを武器に上の職務の公募に手を挙げる方法が一般的だ。だが、資格があるからといって必ずしも実務で「使えるヤツ」なのかと言えば、そうとも限らない。逆もまたしかりだ。 濱口氏によると、そのためか、欧米では旧来の日本型雇用のような要素を少し採り入れる動きも出てきているという。「パフォーマンスペイ」と称し、仕事の成果も評価して報酬を決める傾向が以前と比べれば強まってきたという。 濱口氏は「欧米のジョブ型雇用はかなり合理的で公平性を第一にしているが、そこで測れない指標が抜け落ちてしまっている。向こうではそこへの問題意識が出てきている」と指摘したうえで、「どの雇用制度が正解と言うつもりはない。日本企業がこれまでの賃金処遇制度に問題意識を持ち、何とかしようとして新たな人事制度を採り入れようとしていること自体は理解できる。ただ、制度の違いや中身を本質的によく理解したうえで考えるべきだ」と話す。 ジョブ型雇用は職務が固定化され、専門性が高まる一方、「つぶし」が利かなくなる一面を持つ。その職務がAI(人工知能)に取って代わられたりして、消えてなくなる可能性も否定できない。雇用の大転換期にある今、働く側が身の振り方を主体的に考えることが重要になる』、「雇用の大転換期にある今、働く側が身の振り方を主体的に考えることが重要になる」、確かにその通りだ。

第三に、12月15日付け東洋経済Plus「東レ・日覺昭廣社長が語る終身雇用の可能性 日本型の「終身雇用」のほうが会社は強くなる」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29063
・『日本企業に特有のメンバーシップ型雇用を続ける素材メーカー大手の東レ。「ジョブ型よりも会社は成長できる」という同社の日覺昭廣社長に聞いた。 素材メーカー大手の東レはいわゆる日本のメンバーシップ型雇用を続けており、終身雇用も堅持している。ジョブ型の本場、欧米での勤務も経験したうえで「終身雇用のほうが会社は成長できる」と主張する日覺昭廣社長に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは日覺氏の回答)』、「欧米での勤務も経験したうえで「終身雇用のほうが会社は成長できる」と主張」、説得力がありそうだ。
・『ジョブ型という言葉が独り歩き  Q:日本でもメンバーシップ型雇用を見直し、ジョブ型に近い雇用制度を導入する動きが広がってきました。どうみていますか。 A:ジョブ型という言葉だけが独り歩きしてメンバーシップ型と比較されているが、本来は二律背反するものではないはずだ。 ジョブ型雇用では専門性とスキルさえあればいい。手っ取り早く、中途採用で外から人材を連れてきてもいい。われわれもそうだが、メンバーシップ型が中心の企業でも、職種や場合によってはそのようにしている。いわばジョブ型とのハイブリッドだ。 企業の成熟度によっても判断は違ってくる。新興企業では社員を一から教育しているようでは話にならないので、職務への適性を持つ人材を外部から集めるのが普通だ。 しかし、10年、15年経ってきてある程度成長してくると、新卒できちんと採用し、社内で人材を育成することが重要になってくる。会社でさまざまな経験を積んで、いろいろなことを理解し、専門的な知識を持った人がほしくなる。つまり、(ジョブ型とメンバーシップ型の)どちらを採るのかは企業の背景によっても変わってくるだろう。 Q:東レの人事制度のベースはメンバーシップ型です。 A:それは、会社というのは単にモノを作るだけでなく、ビジョンをしっかりと持つべきだからだ。ジョブを中心に考えるのであれば、そういうもの(ビジョンに共感してくれるかどうか)は全部無視して、適性がある人を集めればいい。だが、それだけではしっかりした企業ブランドを確立できない。 こういうやり方では、会社に帰属意識を持ってもらい、会社のために頑張ろうという気持ちを持ってもらうのは難しい。ジョブ型は決まった職務の内容に応じて報酬を支払うが、さらに「当社の理念までよく理解して働いてくれ」と言っても、「そんなことは契約には書いてない」と思われてしまうかもしれない。 (日覺氏の略歴はリンク先参照)』、「会社というのは単にモノを作るだけでなく、ビジョンをしっかりと持つべきだからだ。ジョブを中心に考えるのであれば、そういうもの(ビジョンに共感してくれるかどうか)は全部無視して、適性がある人を集めればいい。だが、それだけではしっかりした企業ブランドを確立できない」、立派な経営理念だ。
・『終身雇用のほうが会社は強くなる  :東レでは終身雇用の維持も掲げています。 A:私は、終身雇用のほうが会社は強くなると思っている。日本ではわれわれみたいな企業が10年先、20年先に向かって研究開発を続けている。東レの事業でいえば、例えば水処理膜は1968年から始まって、最初にきちんとしたものができたのは1980年。12年かかっている。 どんどん改良して今がある。今のアメリカのような短期の利潤を追求する金融資本主義のもとで、こんなことはできないだろう。長期的な視野で事業をやるには会社や事業のベースを理解したうえで、さまざまな技術や知識を蓄積していることが必要だ。そのためにも、人材の育成や終身雇用は非常に重要だと思っている。 Q:「年功序列」についてはどう思いますか。 A:単に年齢が上だからというだけではなく、年齢に応じて知識と経験が付き、仕事をするうえでの能力も上がっている場合が多いので、(結果的に)年齢が上の人の給料が高くなる場合が多い。したがって、日本がいくら終身雇用で年功序列だと言っても、能力が上がらない人は職務も上がらず、給料もそこまでは上がらない。終身雇用は年功序列だから競争がないという人もいるが、実際にはそんなことはない。 ただし、人が成長をしていくには必要な時間というものがある。若い時に伸びる人もいれば、中高年になってから伸びる人もいる。ある程度時間も与えながら、人のモチベーションをうまく引き上げることが会社の強さになってくる。 Q:日本でジョブ型を導入したと称する企業では、ジョブローテーションをやめてポストを公募制にし、「自律的なキャリア形成を図れるようにした」という趣旨の説明をしています。メンバーシップ型では社員が意思を反映してもらうことは難しいのではないですか。 A:東レではまずキャリアシートをつくって社員を教育している。一人前になるには8年間かかるとみて、職種ごとに必要な技術や知識、経験を書き出し、それをしっかりマスターしてもらう。 シートを通じ、社員には将来像も明確にしてもらっている。この職種で一人前になるにはこういう現場の経験もいるよ、という説明もしっかりやる。いろいろな仕事を経験させるのはあくまでも育成に必要なためであり、育成に関係ないものを経験させるわけではない。 東レでは以前から、社内公募制度もある。「この人にはこの仕事をやったほうがいいじゃないか」と上司らが思っていても、本人はどうしても別の仕事をやりたいと思っているかもしれない。そういう人が手を挙げて、希望する部署に行ける機会を設けている。希望とのミスマッチを防ぐ意味がある。 こうしたことは、別にメンバーシップ型をやめないとやれない話ではない。終身雇用のもとで、ジョブローテーションをしながらでもできることだ』、「人が成長をしていくには必要な時間というものがある。若い時に伸びる人もいれば、中高年になってから伸びる人もいる。ある程度時間も与えながら、人のモチベーションをうまく引き上げることが会社の強さになってくる。 ある程度時間も与えながら、人のモチベーションをうまく引き上げることが会社の強さになってくる」、なるほど。
・『教えたメモがゴミ箱に  Q:ジョブ型で社員を育成していくのは難しいのでしょうか。 A:ジョブ型だと、社員は他の人に仕事を教えない。私はアメリカとフランスに10年いて、それを嫌というほど経験している。 アメリカにいたとき、若い人たちにもこうやって教えたらいいよと仕事の仕方をメモに書いて社員に渡したら、後でそれがゴミ箱に捨てられていたこともあった。ジョブ型では、若い人たちに自分が知っているやり方を教えて、彼らが同じレベルのことができるようになったら、いつか自分の椅子(職務)が奪われるかもしれないと考えてしまう。だから絶対に他の人に仕事は教えない。あれには驚いた』、「ジョブ型では、若い人たちに自分が知っているやり方を教えて、彼らが同じレベルのことができるようになったら、いつか自分の椅子(職務)が奪われるかもしれないと考えてしまう。だから絶対に他の人に仕事は教えない。あれには驚いた」、アメリカとフランスに10年いて」実感しただけに、説得力がある。
・『ジョブ型の能力発揮はよくて100%  Q:日本企業の間で雇用制度が見直されているのは、右肩上がりの経済がとっくに終わり、多くの日本企業が厳しい事業環境に直面しているからではないでしょうか。 A:日本企業の事業環境が厳しくなっていることは事実だろう。だから派遣社員を増やすなど、これまでも工夫や対策をしている。最近は日本企業も欧米のように金融資本主義的なことを外部から言われてしまうので、(雇用も含めた経営方針が)フラフラとしてしまっているのが現実なのではないか。 しかし、(メンバーシップ型とジョブ型のうち)どちらに競争力があるのか。現実的に給料を下げられたり、首を切られたりして喜ぶ人はいないはず。日本は現場と現実をきちんと理解して、何が本当にいいやり方なのかを考える必要がある。日本企業には、日本の良さを見失わないようにする気骨を持ってほしい。 Q:昔と比べて事業の変革スピードが速くなっている中、事業環境が変わっても、メンバーシップ型では以前と同じ社員を残しながら対応していかなければなりません。 A:その点はみんな悩むところだと思う。 それでも、東レでは雇用をしっかり守って、人を大事にして、思う存分能力を発揮してもらうことを重視している。そういう形なら本人の能力が100%、150%出る可能性がある。 しかし、(契約で決められた職務さえできればいい)ジョブ型だと、(本人が発揮する能力は)よくて100%。悪くすると70%や80%にとどまる。ジョブ型では会社のカルチャーとか方針に共感できるかどうかを考慮していない。人間はモチベーションの有無で全然パフォーマンスが違ってくる。 ジョブ型というのは、その職務についての能力がある人を雇って力を発揮してもらう。だが、会社も成長していくわけだから、われわれが期待するのは社員にはさらに上を目指してもらうこと。そのためには、社員にも(メンバーシップ型で)基礎から時間をかけて成長してもらうことが大事なのではないか』、「会社も成長していくわけだから、われわれが期待するのは社員にはさらに上を目指してもらうこと。そのためには、社員にも(メンバーシップ型で)基礎から時間をかけて成長してもらうことが大事なのではないか」、同感である。
タグ:働き方改革 (その35)(若者がハマる「ギグワーク」脱法的仕組みの大問題 労働問題に詳しい弁護士が指摘「日本は対応遅い」、日本企業でブーム 「欧米流働き方」の光と影 日本の「ジョブ型雇用」はここが間違っている、東レ・日覺昭廣社長が語る終身雇用の可能性 日本型の「終身雇用」のほうが会社は強くなる) 東洋経済オンライン 「若者がハマる「ギグワーク」脱法的仕組みの大問題 労働問題に詳しい弁護士が指摘「日本は対応遅い」」 菅俊治弁護士 「立ち上げ期こそは、働き手の確保と囲い込みのために高い報酬を約束するなど好条件を提示するが、一定の寡占的なポジションを確保すると手のひらを返すように条件の切り下げへと転じている。 とりわけ最近問題となっているのが、収入維持のために相当無理して長時間労働を余儀なくされている人が増えている点だ」、「厚生労働省も経済産業省もきちんとした手立てを取ろうとしなかった」、由々しい問題だ。 「カリフォルニア州」で「プラットフォーマー側が猛反発して、州の住民投票でウーバーなどのアプリによる運転手を独立事業主することを賛成多数で承認させた」、リベラルな州なのに、ウーバーなどの抵抗が通ったとは意外だ。 日本の行政も、問題を放置することなく、実態調査やそれに「即した労働者概念の見直し」を積極的に取組むべきだろう。 東洋経済Plus 「日本企業でブーム、「欧米流働き方」の光と影 日本の「ジョブ型雇用」はここが間違っている」 それはそうだろう。 「ジョブ型雇用ではごく一部の幹部層を除き、社員1人ひとりの仕事内容や能力の評価を行わないからだ。働きぶりには関係なく、あらかじめ職務につけられた価値(値段)の賃金のみが支払われる」、なるほど。 「日本企業が「ジョブ型」と呼ぶ雇用形態はたいていの場合・・・役割等級制度だ。役割等級制度では社員が担当する職務を固定化し、責任範囲もある程度示したうえで、責任や役割をどれだけ果たしたかで評価する。社員の能力や成果も見る点が、ジョブ型雇用とは大きく異なる」、「入り口の段階からして、職務に適性のある人材を採用する欧米のジョブ型雇用とずれている」、確かに日本では「欧米のジョブ型雇用」は採用不可能だ 「雇用の大転換期にある今、働く側が身の振り方を主体的に考えることが重要になる」、確かにその通りだ。 「東レ・日覺昭廣社長が語る終身雇用の可能性 日本型の「終身雇用」のほうが会社は強くなる」 日覺昭廣社長 「欧米での勤務も経験したうえで「終身雇用のほうが会社は成長できる」と主張」、説得力がありそうだ。 「会社というのは単にモノを作るだけでなく、ビジョンをしっかりと持つべきだからだ。ジョブを中心に考えるのであれば、そういうもの(ビジョンに共感してくれるかどうか)は全部無視して、適性がある人を集めればいい。だが、それだけではしっかりした企業ブランドを確立できない」、立派な経営理念だ。 「人が成長をしていくには必要な時間というものがある。若い時に伸びる人もいれば、中高年になってから伸びる人もいる。ある程度時間も与えながら、人のモチベーションをうまく引き上げることが会社の強さになってくる。 ある程度時間も与えながら、人のモチベーションをうまく引き上げることが会社の強さになってくる」、なるほど。 「ジョブ型では、若い人たちに自分が知っているやり方を教えて、彼らが同じレベルのことができるようになったら、いつか自分の椅子(職務)が奪われるかもしれないと考えてしまう。だから絶対に他の人に仕事は教えない。あれには驚いた」、アメリカとフランスに10年いて」実感しただけに、説得力がある。 「会社も成長していくわけだから、われわれが期待するのは社員にはさらに上を目指してもらうこと。そのためには、社員にも(メンバーシップ型で)基礎から時間をかけて成長してもらうことが大事なのではないか」、同感である。
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マイナンバー制度(その1)(マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた 「税務署が怖い」は先入観?、マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>) [経済政策]

今日は、マイナンバー制度(その1)(マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた 「税務署が怖い」は先入観?、マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>)を取上げよう。

先ずは、11月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた、「税務署が怖い」は先入観?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/288413
・『マイナンバーカードの申請やマイナンバーと銀行口座のひも付けといった条件をクリアすると、最大2万円相当分のマイナポイントが付与されるという。税務署が怖くて銀行口座とマイナンバーのひも付けを嫌がる人は多いが、先入観で勘違いしている場合も多い。一方、国は「同調圧力戦略」でマイナンバーの浸透を図るが、国民を不安にさせる大問題を放置したままだ。あなたと国は、マイナンバーをどうするべきか』、興味深そうだ。
・『複雑なマイナポイント付与制度 銀行口座とマイナンバーをひも付けする?  先般、岸田内閣が閣議決定したもろもろの経済対策の中に、マイナンバーカードの利用に関する項目が含まれていた。 まず、マイナンバーカードの申請に対してマイナポイントを5000円相当分付与する。次に、マイナンバーカードを健康保険証として利用登録すると7500円相当、さらに銀行口座とマイナンバーをひも付けすると同じく7500円相当のマイナポイントが付与されるという。いかにも細かくて面倒くさい。 一方、ポイント自体には経済価値があるので、他人に対するアドバイスとして正しいのは「不都合がないなら、手続きをしてポイントをもらおう」だろう。 率直に言ってこの記事を書くのでなければ、筆者は三つのいずれについても手続きをしなかっただろう。 問題は、不都合の有無だ』、私の場合は、「マイナンバーカード」は既に税務申告用に作成し、銀行にも届け出ているので、「健康保険証として利用登録すると7500円相当」のメリットしかない。早く手続きをした正直者には余りメリットがないようだ。
・『マイナンバーカードを作るか?  政府は「同調圧力戦術」で普及推進(筆者はマイナンバーカードを昨年作った。自分のマイナンバーは既に与えられており、この情報を持ち歩けるカードを作ることには特に問題はないし、「今のところあってもいいことは特にないが、そろそろカードがないと不便なことが生じるだろう」と思って申請することにした。 申請はスマートフォンを使って行うと比較的簡単だった。カードに使いたい写真をあらかじめスマートフォンに読み込んでおくと手続きがスムーズだった。申請からカードができるまでに1カ月以上時間が掛かったし、区役所での受け取りには1時間程度を要した(単にカードを受け取るだけなのだが)。ただ、申請が受け付けられたことは確認できたし、カードの受け取りに特段の不愉快はなかった。 実は、5000円分のマイナポイントは申し込み手続きが必要なので、そのまま放置していた。だが、今回申請の期限が2021年12月末まで延長されたことを知って申し込もうというやる気が出た。マイナポイントのアプリをダウンロードしなければならないし、マイナポイントのリンク先をクレジットカードにしたので、カード会社側のID・パスワードその他の入力がなかなか面倒だった。別のキャッシュレス決済手段とリンクさせた方が良かったのかもしれないが、手間賃5000円ならまあいいだろうと思えた。 マイナンバーカードは現在の仕組み上、これを作ることを国民に強制するわけにはいかない。従って、インセンティブを付与して徐々に普及率を高め、カードを持っていない国民に手続きの不便と少数派意識を与えることによって普及を進めようという意図なのだろうか。一種の同調圧力戦術だ』、「一種の同調圧力戦術」は言い得て妙だ。
・『健康保険証とマイナンバーカード リンクに不都合はなさそうだ  マイナンバーカードと健康保険証とのリンクに不都合はないか。自分の健康保険利用に関わるデータは既に健康保険組合にあるのだから、データがマイナンバーとひも付くことに不都合は無さそうに思えた。 今度は、別途マイナポータルのアプリをダウンロードするところから始まって、前回よりもさらに面倒だった。前回の5000円に対して、今回7500円が手間賃なのは妥当な気がした。) 厚生労働省のサイトは、受付がなされたのか、マイナポイントに申し込みがいるのか否か等が分かりにくい。健康保険証とのリンクができたらしい反応があったので、できたと考えることにした。 これでいいのかどうかは、次に病院に行く機会がないと(ない方がいいのだが)分からない。また、7500円がどうなっているのかも申し込み後すぐの現在分からない。 今後、健康保険が代わっても、マイナンバーカードが保険証代わりになって使えて、健康保険関連の医療データがまとめてひも付けできるなら、いいことだと納得することにした』、私は「マイナンバーカード」は紛失を恐れて、持ち歩くことはしない主義だ。使用頻度が高い「保険証」を常時、持ち歩くようにしている。ただ、後期高齢者になって「健康保険」が代わった際のささやかなメリットを受け損ねたのかも知れない。
・『銀行口座とマイナンバーの連携 油断ならないと思ったが…  銀行口座とマイナンバーのひも付けについては少々考えた。銀行口座の情報(支払いと受け取り両方の相手・時期・金額が分かる)は個人のさまざまな経済活動にリンクしている。仮に第三者が入手した場合に経済価値が高いし、自分のプライバシーの一部の流出にもつながり得る。 しかし、自分は政府に目を付けられそうな重要人物ではないし、税務署に知られて困るお金の動きもない。内閣府のサイトには、Q&Aの形で「マイナンバーの届け出をきっかけに、銀行が行政機関に預貯金残高などをお知らせすることはありません」(https://www.cao.go.jp/bangouseido/pdf/leaflet_yokin.pdf)とある。 微妙な書きぶりだが、まあいいだろう。銀行口座のひも付けもやってみようと思った。 この手続きは、銀行側から行う。使っている銀行のアプリをダウンロードして手続きしたら、簡単に完了できた。 手続きの途中に、銀行の使用目的が列挙されているページをチェックしたら、以下のようなビジネス目的が並んでいる(※スクリーンショット画面参照)。 ・市場調査 ・金融商品やサービスの研究や開発のため ・ダイレクトメールの発送・電話によるご案内等、金融商品やサービスに関する各種ご提案のため ・その他、お客様とのお取引を適切かつ円滑に履行するため) 銀行としては、マイナンバーが何らかのビジネスに使える場合があると考えているのかもしれない。油断ならないと思ったが、筆者の場合、銀行のセールスに影響される可能性はなさそうだから、いいことにした』、私の場合、「銀行」に「マイナンバー」を知らせただけで、あと銀行がどう処理したかは知らない。
・『税務署が怖い人も追加的に不利を被ることは少ないのではないか  一般の人で、例えば税務署が怖い場合も、既に税務署は金融口座を把握しているのだから、マイナンバーとのひも付けで追加的な不利を被ることは少ないのではないか。もっとも、マイナンバーがあることによって税務署側のデータ処理は効率化されるので、「網」が大きくなったり、「漏れ」が減ったりすることはあるのかもしれない。 筆者には「絶対に損はないから、7500円もらおう」と言い切る自信はないので、読者ご自身が損得を判断してほしい。 筆者は、自身の63歳という年齢を調整してITリテラシーを考えた場合、「上」のグループにも、「下」のグループにも入っていないだろうと自己評価している。そのような筆者が、スマートフォンとマイナンバーカードと時間的余裕があれば、三つの手続きができたことをご報告しておく(途中で少し心配したけれども)』、私はちょっとした手続きでもエラーになって、ヘルプデスクの助けでなんとか完了するが、トラブルもなく「三つの手続きができた」とは、大したものだ。
・『マイナンバーのあるべき姿 脱税が難しくなるのは大歓迎すべきことさて、例えばマイナンバーと税金について考えてみよう。マイナンバーでデータが管理できることによって、脱税が難しくなったり徴税の漏れが減ったりすることの、個人にとっての損得はどうか。税務署がより強力になるのだとすると、何となく不利になるように感じるかもしれないが、大多数の人にとってそれは違う。 脱税しようとする意図も能力もない多くの納税者にとって(筆者自身もその一人だと思っている)、脱税がより難しくなって徴収される税金が増えることは、「他人が払う税金が増える!」ことなので、大いに歓迎すべき事態だ。大いに進んでほしい。 このことは国税庁をはじめとして政府が、具体的な見込みの数字なども添えて、もっと訴えていい話ではないだろうか。 また、そもそも「お金」「金融」は公共性の高いシステムなので、その管理のために取引・残高などのデータが漏れなく集約できるような管理システムがあるのは良いことだろう。国レベルで脱税を減らすためにも、金融システムをより便利に管理するためにも、全ての金融口座とマイナンバーを結び付けることが望ましいと筆者は考えている』、私も「全ての金融口座とマイナンバーを結び付ける」のは大賛成だ。
・『マイナンバーの問題点は国民が安心できない「曖昧な規定」  問題は、その際のデータ利用目的の明確化とその保証、さらにデータ管理の安全性と責任について、国民が安心できるような具体的な規定がなされていないことだ。 例えば、公務員がマイナンバーから得られたデータを目的外に利用したり、外部にこっそり売ったりした場合に、その公務員がどのような罰則を受けるのか。生じた被害に対する賠償がどうなされるのか。こういった点が、明確に伝えられているようには思えない。自分のデータをマイナンバーにリンクさせて提供するに当たって、これでは安心できないと思う国民が少なくないのではないか。 将来、不適切な事例が起こってかつ露見した場合、刑法、民法など諸々の法律が適用されて罰則や賠償は生じ得るのだろう。しかし、そのような曖昧な条件では、政府とマイナンバーを信用しきれない国民が多いのではないだろうか。 マイナンバーを普及させてかつ有効に利用するためには、マイナポイントで登録者を増やして後に同調圧力で普及を図るよりも、データの利用に関して政府(と公務員)自身にとって厳しい規定を発表することが効果的ではないだろうか。 十分に厳しい規定を作った後なら、省庁をまたぐデータの利用があってもいいし、全ての金融口座のマイナンバー登録が義務であってもいいと思う。 デジタル後進国を脱するためにも、マイナンバーは有効に活用したい』、完全に同感である。

次に、11月23日付けエコノミストOnline「マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211119/se1/00m/020/001000d
・『マイナンバー制度が始まって近く丸6年。マイナンバーと金融口座とのひも付けが新たな局面を迎えている。預金口座とのひも付けは、コロナ対応給付金の支給が遅れたことを教訓に新たな管理制度が来年度に動き出すが、義務化は見送られた。一方、証券口座とのひも付けは今年末に完了する見通しだ。なぜ、こうした差が生じたのだろうか。口座のひも付けは、国民感情を考慮してナイーブに取り扱われてきた経緯があり、状況がわかりにくいという人は多い。現状と課題を整理した』、「証券口座」の方が順調に進んでいるのは、何故だろう。
・『証券口座は「ひも付け代行」サービスも  マイナンバーはすべての人に一人一つの番号を割り振る制度で2016年に始まった。当面、利用は「社会保障・税・災害」の3分野に限定するが、将来は幅広い行政分野や官民連携での利用を念頭に置く。 制度の目的は、行政手続きを合理化し国民の利便性を高めるとともに、社会保障や税の「給付と負担」の公平性を保つことにある。そのためには、所得や資産を正しく把握する必要があり、金融口座とマイナンバーのひも付けは既定路線だ。 ただし、金融分野ごとに温度差がある。証券口座については、制度導入時から所有者にマイナンバー登録を義務づけた。16年以降に口座を開設する人は登録が必須で、15年までに開設した既存口座は18年までの登録を求めた。 だが、罰則はなく、既存口座で登録したのは18年6月で41%と低迷した。そこで19年度税制改正で登録期限を21年までに延長した。 その期限まで2カ月を切った。まだ登録していない人はどうなるのだろうか。 実は、登録しなくてもすでに問題はなくなった。未登録の場合、証券会社が「証券保管振替機構(ほふり)」を通じてマイナンバーを取得できる法的措置ができているためだ。 株式売買する際は、その都度、株券名義を書き換えるわけではなく、所有権を電子管理している。ほふりはその管理機関だ。新たな措置は、証券会社が口座のマイナンバーをほふりに請求すると、ほふりは、マイナンバー事務を行う「地方公共団体情報システム機構」に照会し、証券会社に伝える仕組みだ。 この措置は、未登録者の手をわずらわせず、証券会社が登録代行する「サービス」という位置付けだ。これを利用し、証券会社はほぼ登録を終えた状況だ。 一方、預金口座は事情が異なる。 制度導入時は扱いを先送りし、法改正で18年に口座とマイナンバーをひも付ける「口座付番制度」を導入し、金融機関にはマイナンバーで検索できるよう口座管理することを義務付けた。しかし、預金者には登録を義務付けず、登録状況を踏まえて3年後をめどに制度を見直すと先送りした。 全銀協ガイドラインは、金融機関が口座開設などの手続きを受け付ける際、預金者にマイナンバーの案内をすることを期待するとしたが、対応は各金融機関の判断に委ねた。 こうした結果、ひも付けはほとんど進んでいない』、「証券会社が口座のマイナンバーをほふりに請求すると、ほふりは、マイナンバー事務を行う「地方公共団体情報システム機構」に照会し、証券会社に伝える仕組みだ・・・これを利用し、証券会社はほぼ登録を終えた状況だ」、他方、「預金者にマイナンバーの案内をすることを期待するとしたが、対応は各金融機関の判断に委ねた。 こうした結果、ひも付けはほとんど進んでいない」、好対照だ。
・『証券と預金の差「三つの理由」  (なぜ、証券と預金で扱いにこれほど差があるのか。理由は主に三つだ。 第一に課税の違いだ。証券には、複数口座間で利益と損失を相殺できる損益通算制度があり、国税当局は一人一人の口座を正しく把握する必要がある。一方、預金の利子は源泉分離課税で、口座ごとに課税が完結するため、その必要が薄い。 第二に個人口座数の差だ。14年の政府税制調査会で、金融機関側は、預金口座は約13億と膨大で、急速にひも付けるにはコストが過大になるという懸念を示した。一方、証券口座は2166万口座(14年3月)にとどまり、証券会社の負担はそれほど重くないとみなされた。 第三に国民の意識だ。預金口座のひも付けには「中身が国に筒抜けになる」と漠然と不安に感じる人が少なくない。それを払拭(ふっしょく)せずに、ひも付けを進めればマイナンバー制度自体への不信につながりかねない。 1980年代には、少額貯蓄非課税制度(マル優)の不正利用を防ぐため、口座利用者を番号管理する「グリーンカード制度」を導入しようとしたが、大反対で実施を断念した経緯がある。その教訓から、政府は預金口座のひも付けにはことさら慎重になっている。 ここで面白いのは「中身を知られたくない」のは証券口座でも同じだと考えられるのに、その配慮はないことだ。日本では「証券取引は富裕層が行うもの」という見方が根強く、証券口座とのひも付けには反対する動きがほとんどないという事情がありそうだ』、「1980年代には・・・「グリーンカード制度」を導入しようとしたが、大反対で実施を断念した経緯がある。その教訓から、政府は預金口座のひも付けにはことさら慎重になっている」、口実に過ぎず、「中身を知られたくない」政治家の意向を反映している可能性もあるのではなかろうか。
・『給付金支給で22年度から新制度  だが、コロナ禍で風向きは変わった。特別定額給付金の支給では、マイナンバーを利用した申請システムに不備があり、給付金を振り込む預金口座のチェックにも膨大な手間がかかることが問題になった。社会保障や納税のため預金口座と個人番号をひも付ける欧米各国は給付金支給がスムーズで、一転して日本の「遅れ」が批判を浴びた。 5月に成立したデジタル改革関連法は、これに対応する新制度を盛り込んだ。ひも付けを希望する人は、金融機関の窓口やマイナンバーカードのポータルサイト「マイナポータル」で登録すれば、緊急時の給付金や児童手当などの支給で利用できるようになる。22年度に実施の見通しだ。 また、金融機関は、口座開設などの手続きの際は預金者にひも付けの意思を確認しなければならない。 新制度では、国民1人1口座をマイナンバーとひも付ける義務も検討したが、現実にひも付けが進む方法を優先した結果、義務付けは見送ったという。 将来はどうなるだろうか。社会保障と税の公平性という観点からは、将来、すべての金融口座とマイナンバーをひも付ける方針は揺るがないだろう。 口座のひも付けが進めば、社会保障の所得再分配を効果的に行うことが可能になる。所得の規模や変化を正しくつかむことで、ゆとりのある人は負担を増やし、困っている人には給付を増やすことができる。公的支援があっても仕組みを知らなかったり申請をためらったりする人がいても、率先して手を差し伸べる「プッシュ型支援」も可能だ。 また、医療・介護・年金など社会保険料は原則、所得に応じた負担だが、所得はなくても資産が多く豊かな生活をしている人もいる。資産が把握できれば「負担と給付」のバランスを見直すこともできる。 「口座の中身を見られてしまう」という懸念には誤解が大きい。マイナンバーは利用範囲を限定しており、預金口座をひも付けても、法的根拠がなければ、政府がその中身を見ることはできない。逆に、ひも付けがない口座でも、税務調査の必要があれば、国税当局が内容を把握することはできる。 ひも付けを進めるには、こうした点を整理し、国民の理解を得る努力が必要になってくるだろう』、一般国民の間には誤解も多い。国税当局には丁寧な説明により「理解を得る努力」がますます求められている。
タグ:ダイヤモンド・オンライン マイナンバー制度 (その1)(マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた 「税務署が怖い」は先入観?、マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>) 山崎 元 「マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた、「税務署が怖い」は先入観?」 私の場合は、「マイナンバーカード」は既に税務申告用に作成し、銀行にも届け出ているので、「健康保険証として利用登録すると7500円相当」のメリットしかない。早く手続きをした正直者には余りメリットがないようだ。 「一種の同調圧力戦術」は言い得て妙だ。 私は「マイナンバーカード」は紛失を恐れて、持ち歩くことはしない主義だ。使用頻度が高い「保険証」を常時、持ち歩くようにしている。ただ、後期高齢者になって「健康保険」が代わった際のささやかなメリットを受け損ねたのかも知れない。 私の場合、「銀行」に「マイナンバー」を知らせただけで、あと銀行がどう処理したかは知らない。 私はちょっとした手続きでもエラーになって、ヘルプデスクの助けでなんとか完了するが、トラブルもなく「三つの手続きができた」とは、大したものだ。 私も「全ての金融口座とマイナンバーを結び付ける」のは大賛成だ。 完全に同感である。 エコノミストOnline 「マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>」 「証券口座」の方が順調に進んでいるのは、何故だろう。 「証券会社が口座のマイナンバーをほふりに請求すると、ほふりは、マイナンバー事務を行う「地方公共団体情報システム機構」に照会し、証券会社に伝える仕組みだ・・・これを利用し、証券会社はほぼ登録を終えた状況だ」、他方、「預金者にマイナンバーの案内をすることを期待するとしたが、対応は各金融機関の判断に委ねた。 こうした結果、ひも付けはほとんど進んでいない」、好対照だ。 「1980年代には・・・「グリーンカード制度」を導入しようとしたが、大反対で実施を断念した経緯がある。その教訓から、政府は預金口座のひも付けにはことさら慎重になっている」、口実に過ぎず、「中身を知られたくない」政治家の意向を反映している可能性もあるのではなかろうか。 一般国民の間には誤解も多い。国税当局には丁寧な説明により「理解を得る努力」がますます求められている。
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政府財政問題(その5)(財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?、「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論、「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ) [経済政策]

政府財政問題については、4月13日に取上げた。今日は、(その5)(財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?、「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論、「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ)である。

先ずは、10月14日付けデイリー新潮「財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/10140605/?all=1
・『コロナ禍で痛み、苦しむ人たちに  財務省の矢野康治事務次官による月刊誌「文藝春秋」(11月号)への寄稿が話題となっている。財政再建の必要性を訴え、新型コロナウイルスの経済対策を「バラマキ」と喝破し、国家財政破綻の可能性に言及する内容だ。財務省といえば霞が関の頂点に君臨する省庁で、その現役トップが自身の考えを表明するのは異例のことだ。しかし、財務省は過去に、国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定していた。それとの整合性はどうなのだろうか? 矢野氏は、与野党で10万円の定額給付金や消費税率引き下げなどが議論されている点について、「国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」「(今の日本の財政状況は)タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです」と主張。 さらに、「(この状況を放置すれば)日本国債の格付けに影響が生じかねず、そうなれば、日本経済全体にも大きな影響が出ることになります」と訴える。 選挙直前のタイミングということもあり、コロナ禍で痛み、苦しむ国民に救いの手を差し伸べようとしている点では与野党共通しているといえるだろう。そうした政策に異議申し立てをしているのだ。本人によれば寄稿の動機は「やむにやまれぬ大和魂」だという』、「寄稿の動機は「やむにやまれぬ大和魂」」とは苦しい言い訳だ。
・『日本円による借金で財政が破綻することはない  「財務官僚にとって悔やんでも悔やみ切れないのが、今や1200兆円を超える借金の山にあるのは言うまでもないでしょう」 と話すのは、読売新聞経済部で大蔵省などを担当し、現在は経済ジャーナリストとして活躍する岸宣仁氏。日本を牛耳る財務官僚たちの立身出世の掟などについて論じた『財務省の「ワル」』の著者でもある。 日本が抱える借金を表す数字として「1200兆円」がよく使われる。これは、国と地方を合わせた長期債務残高(2020年度末)を意味し、日本が1年間に生み出す付加価値の総和である国内総生産(GDP)の約2倍の水準にある。 長期債務は、建設国債と赤字国債(正式には特例公債)からなる普通国債のほか、国際機関への拠出国債、特別会計の借入金、地方公共団体が発行する地方債などを合計したものだ。このうち、国の借金に当たる普通国債の発行残高は906兆円にのぼり、長期債務全体の76%を占める。 気の遠くなるような金額を見れば、日本は大丈夫かと不安になるかもしれない。しかし、実はそういう不安を否定する文書を財務省はかつて作成していた。 「日本円による借金で財政が破綻することはない、と財務省自身が認めた文書があります。2002年、外国の格付け会社が“日本の国債にはデフォルト(債務不履行)のリスクがある”と指摘したのに対し、反論の意見書を提出したものです」(岸氏)』、「外国の格付け会社」向け「意見書」も当然、財務省にファイルされている筈だが、都合の悪い文書はなかったことにする姿勢が常態化しているので、見ていないことにしたのかも知れない。
・『財務省の公式文書  「外国格付け会社宛意見書要旨」と題されたその中身は、大要以下の通りである。 《貴社(外国の格付け会社を指す)による日本国債の格付けについては、当方としては日本経済の強固なファンダメンタルズを考えると既に低過ぎ、更なる格下げは根拠を欠くと考えている。貴社の格付け判定は、従来より定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。従って、以下の諸点に関し、貴社の考え方を具体的・定量的に明らかにされたい》 《(1)日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。(2)格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべきである。例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。 ・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国  ・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている  ・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高  (3)各国間の格付けの整合性に疑問。次のような例はどのように説明されるのか。 ・1人当たりのGDPが日本の1/3でかつ大きな経常赤字国でも、日本より格付けが高い国がある。・1976年のポンド危機とIMF借入れの僅か2年後(1978年)に発行された英国の外債や双子の赤字の持続性が疑問視された1980年代半ばの米国債はAAA格を維持した。 ・日本国債がシングルAに格下げされれば、日本より経済のファンダメンタルズではるかに格差のある新興市場国と同格付けとなる。》 ちなみにこれは黒田東彦日銀総裁が財務官だった当時に出されたもので、国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した財務省の公式文書である。今から19年前の文書ではあるが、財務省はこの主張をその後も変えていない。矢野次官の今回の主張とは正反対ではないか』、「事務次官」が従来の主張とは「正反対」の主張を平然とするとは、「財務省」の権威も地に落ちたものだ。
・『オオカミ少年になる危険がある  岸氏はこう解説する。 「《日本、米国など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか》という箇所には、その行間に怒りの感情さえ感じますね。折に触れてマスコミなどへの説明に、“歯止めのない国債発行はいつの日か財政破綻を招きかねない”と決まり文句のようにしてきた財務省ですが、海外向けについつい本音を漏らしてしまった格好です」 財務省自らが財政破綻のリスクを否定してしまっている以上、国債の大量発行、ひいては彼らの永遠なるスローガンである「財政再建」も色褪せて見えてきてしまう。 「理財局で国債を担当したことがあり、現在は予算を編成する主計局に籍を置く現役幹部は以前に、『国債の暴落をブラフに使うのは、確かにオオカミ少年になる危険がある』と素直に認めていました。長州人の矢野次官が『やむにやまれぬ大和魂』で書き上げた原稿なのだと思いますが、デフォルトを否定した反論書を公表した事実がある以上、単に赤字国債からの脱却を軸にした『財政再建』の4文字を声高に叫ぶだけでは、不可避的に積み上がる借金の山を前に手をこまぬいて見ているとしか思えません」』、国会審議がまだ始まってないが、始まれば野党の追及にどう答えるのだろう。

次に、11月18日付け文春オンライン「「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/50066
・『財務省は、東大法学部出身者の多い役所らしく理屈をこねるのが上手な官庁です。私も内閣官房参与として官邸に行った際、彼らが政治家をうまく説得するようすを見てきました。矢野さんは一橋大学の経済学部ご卒業のようですが、あの論文には、法律家集団である財務省の性格がよく出ていると感じました。 「ショッピングや外食や旅行をしたくてうずうずしている消費者が多い」(だから国民は給付金など求めていない)と書くのは、自分の結論に都合のよい人間像を証拠もなく作りあげているだけです。こういったところにいかにも財務省らしいところが出ています』、リフレ派の大物の「浜田」氏らしいコメントだ。
・『日本は『世界最悪の財政赤字国』ではない  経済は、理屈で勝っても、現実に合っていなければしようがない世界です。いくら政治家を説得できても、現実の経済が違ってしまったのでは話にならない。経済は、実際の人やモノの動きを事実として見つめる必要があり、ときに理屈では説明がつかない局面もある。日本が瀕死の借金国で、タイタニック号の運命にある、というのは単なるたとえ話であって事実と認めることはできません。 もちろん、現役の財務事務次官である矢野さんが「このままでは国家財政は破綻する」という論文を発表したことは、立派だったと思います。決定が下れば命令に服することを前提に、「勇気をもって意見具申せよ」という後藤田正晴さんの遺訓通り、あるべき国家財政のありようについて堂々と思うところを述べられた。霞が関全体に、ことなかれ主義の風潮がある中で、行政官のトップが自らの立場を踏まえながら、官僚や国民にどう持論を発すべきか、を示したことは、議論のよい出発点になりえます。ただし、論じられた内容についていえば、ほぼ100%、私は賛成できません。 矢野さんは「わが国の財政赤字は過去最悪、どの先進国よりも劣悪」という現状認識に立って、「将来必ず財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかか」ると警告し、与野党によるバラマキ合戦を諫める。そして日本の財政を氷山に向かって突進するタイタニック号に喩え、近い将来、国家財政は破綻すると警告する。 ただ、この論文を貫く「暗黙の前提条件」と、「経済メカニズムの理解」の両面で、矢野論文には大きな問題があります。自民党政調会長の高市早苗氏が「馬鹿げた話」と批判したそうですが、もっともな指摘です。こうして話題になったことは、財務省に考えを改めてもらうよい機会ですから、私からは「3つの誤り」を指摘しておきたいと思います』、「霞が関全体に、ことなかれ主義の風潮がある中で、行政官のトップが自らの立場を踏まえながら、官僚や国民にどう持論を発すべきか、を示したことは、議論のよい出発点になりえます」、と投稿した姿勢を評価しつつも、「論じられた内容についていえば、ほぼ100%、私は賛成できません」、と自論を展開するのは当然だろう。「3つの誤り」とは何なのだろう。
・『日本政府は金持ちである  第1に、「日本は世界最悪の財政赤字国である」という認識は事実ではありません。 矢野論文は、財政赤字の指標として、一般政府債務残高をGDPで割った数字が256.2%と先進各国の中でも突出して悪い、と強調しています。そして、この借金まみれの状況では、支出を切り詰めるか、増税を行う必要がある、と財務省の伝統的な主張を繰り返します。 財務省は「年収(経済規模)に比べて借金がどれだけあるか」という数字をよく用います。しかし、年収との比較だけで借金の重さを捉えるのは適切ではない。なぜならば、金融資産や実物資産があるならば、借金があっても、そのぶん実質的な借金は減るからです。 国際通貨基金(IMF)が公表した2018年の財政モニター・レポートは、実物資産を考慮して各国政府がどれだけ金持ちなのか、を試算しています。これによれば日本政府は十分な資産を持っているため、わずかに純債務国ではあるが、大債務国のポルトガル、英国、オーストラリア、米国よりも相対的に債務は少ない。試算に誤差はありえますが、「どの先進国よりも劣悪」という矢野氏の主張とは印象がだいぶ違います。 政府の資産とは、例えば、東京・港区の1等地に立つ国際会議場「三田共用会議所」のような優良不動産。広大な国有林も、独立行政法人の保有になっている高速道路のようなインフラもある。道路は売却できる資産ではありませんが、将来にわたって通行料金が入ってくるので、この将来キャッシュフローを資産と捉えることができます。 「日本は瀕死の借金国」という宣伝には熱心な財務省ですが、主張と矛盾する分析には冷淡で、翻訳すらしない。IMFには、財務省の出向者もいるはずなのに、不都合な真実については目立たせない工夫をしているのでは、と勘ぐってしまいます』、「国際通貨基金(IMF)が公表した2018年の財政モニター・レポートは、実物資産を考慮して各国政府がどれだけ金持ちなのか、を試算しています。これによれば日本政府は十分な資産を持っているため、わずかに純債務国ではあるが、大債務国のポルトガル、英国、オーストラリア、米国よりも相対的に債務は少ない」、こんなIMFのレポートは初めて知った。
・『MMT理論の根幹は正しい  第2の誤りは、「国家財政も家計と同じだ」という考え方です。これは財務省お得意の喩えですが、実際にはフェイクニュースに近いものです。 浜田宏一氏「国の借金はまだまだできる」全文は、文藝春秋「2021年12月号」と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます』、「「国家財政も家計と同じだ」という考え方」は、前者は苦しくなれば、増税も可能で、確かに手段がない「家計」とは異なる。中途半端な形で記事が終わってしまったことは、誠に残念だ。

第三に、10月21日付け東洋経済オンラインが掲載した元外資系証券会社のアナリストで小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏による「「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/462504
・『オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。 今回は、プライマリーバランスの黒字化目標を当面、凍結すべき理由を解説してもらう。 今回の記事のポイントは、以下のとおりです。 (1) 社会保障費の増加によって、政府の先行投資が著しく不足している (2) 生産的政府支出の対GDP比は先進国平均24.4%に対し、日本は10%以下 (3) 生産的政府支出の不足によって、GDPの成長率が低迷している (4) 結果、財政が悪化している (5) この状況を正すには、生産的政府支出を大幅に増やすべき (6) 金額は、最終的に年間数十兆円の規模まで増やすべき (7) したがって、当面はプライマリーバランスの黒字化の目標は凍結すべき  (8) 新規財政出動はバラマキではなく、乗数が1以上の元が取れる支出に集中させるべき (9) 何に対してどれだけ財政出動をするかは、雇用の量と質を基準にして決定するべき』、興味深そうだ。
・『毎年「数十兆円規模」の財政出動をせよ  日本は、人口減少と「3大基礎投資」の不足が要因となり、賃金が上昇せず、経済が成長しない状態に陥っています。この状況から脱却するには、研究開発、設備投資、人材投資という「3大基礎投資」を喚起し、経済を成長させ、その成果で賃金を上昇させるための経済政策が求められます。 つまり、長期的な経済成長や賃金の引き上げは、あくまでも投資によってのみ実行できるという経済学の大原則を忘れてはいけないということです。 持続的な経済成長は、バラマキによって達成できるものでは断じてありません。国際決済銀行の「Consumption-led expansions」の分析によると、個人消費主導の景気回復は相対的に回復力も持続性も弱いと確認されています。 私は5年前から日本経済に関してさまざまな分析を行い、以下に挙げる政策を提言してきました。 (1) 労働分配率の引き上げ (2) 研究開発予算の増加 (3) 設備投資の喚起 (4) 人材投資の促進 (5) 格差縮小のための最低賃金引き上げ (6) 輸出の促進 (7) 中小企業の強化 (8) 黒字廃業の回避  これらの政策を実現するためには、毎年かなりの額の政府支出が必要になります。 こういった投資を「生産的政府支出(Productive Government Spending:PGS)」と言います。GDP560兆円、世界第11位の人口大国の日本を動かすには、毎年数十兆円単位の予算が不可欠です。 将来的に経済を大きく改善させるためにこのくらいの規模の先行投資をしながら、なおかつ社会保障の負担もあるので、間違いなく当面プライマリーバランスの黒字化はできません。日本はプライマリーバランス黒字化を公約として掲げてきましたが、残念ながらこの公約は、当分の間、凍結せざるをえません。 しかし、先に挙げた政策を、賢く、かつ着実に行えば、やがて財政は健全化します。要するに、元の取れる政府支出を増やしてGDPを高めることで、財政を健全化させるということです』、なるほど。
・『経済成長に寄与する財政支出が先進国中、最も低い  プライマーバランス黒字化が当面不可能なのは、政府支出の中身を見れば一目瞭然です。 GDPに対する日本の政府支出の割合は、他国と比較しても決して低いわけではないのですが、社会保障費以外の予算が異常に少ないのです。日本では生産年齢人口の減少と高齢化が同時に進んでいるため、政府支出のうち社会保障費の金額が大きく膨らんでいます。特に2000年あたりから社会保障費は大きく増えているのに、生産的政府支出(PGS)は抑制されて、ほとんど増えていません。 社会保障費などは「移転的政府支出」と呼ばれ、経済成長には貢献しないと分析されています。一方、インフラ投資、教育や基礎研究などの政府支出は、経済全体の質の改善・向上につながるので、「生産的政府支出(PGS)」と位置づけられ、経済成長率の改善に寄与することが確認されています。 日本のPGSは対GDP比で見ると10%にも満たず、先進国平均の24.4%を大きく下回っています。おそらく、高齢者比率が世界一高いので、PGS比率が先進国最低水準になってしまっているのだと思います。 今後、高齢者の数は減りませんから、社会保障費の負担は減りません。しかし、経済を維持・成長させるには、PGSの増加は不可欠です。よって、諸外国以上に対GDPの政府支出を高めなければなりません。プライマリーバランスの黒字化が当面困難になるほどの巨額の財政出動が必要であることは、「成長戦略会議」の委員として何度も指摘してきました。 先述したように、日本は1億人以上の人口を抱えた人口大国です。人口が1億人を超えている国は世界で14カ国しかありません。人口は世界第11位、GDPは560兆円で世界第3位の経済大国です。 このような巨大な国の経済を動かすには、相当規模の金額でなくては不可能です。だから、これまで政府がつけてきたような1兆~2兆円レベルの予算では経済政策は成功しないと訴えてきました。 自民党総裁選挙に立候補した高市早苗議員が主張していた、10年100兆円のインフラ投資でも(中身の議論は別として)、規模的には足りないくらいだと思います。当初は抑えめに始めても、徐々に増やし、最終的には数十兆円単位の年間予算とするのが理想でしょう。 諸外国と同じレベルまでPGSの対GDP比率を引き上げようとすると、社会保障費の負担増もあるので、プライマリーバランスの黒字化はさらに難しくなります。 とはいえ、高齢化の進展で社会保障費の負担が増える中でも、あえて政府支出を増やして投資を喚起し、財政の健全性を示す「借金/GDP」の分母であるGDPを大きくするのは、国益にかなっています。これは甘利明幹事長が主張しているとおりです。 逆に、今までのようにPGSを抑え続けていけば、GDPも減ってしまいます。分子が減るのを分母が追いかけて減ることになるので、財政の健全化目標はいつまで経っても達成できません。似たような現象は江戸時代にも起きていたので、その歴史を振り返るだけで、同じ轍を踏む結果になるのは明らかです』、「生産的政府支出」について、実際の数字を示してもらいたいものだ。公共投資もこの中に含まれる筈だが、現実には必ずしも「生産的」でないものも多い。公共投資は無駄との認識が広まったことも、諸外国に比べ少ない一因だ。
・『財政出動の基準は「雇用の質、雇用の量、乗数効果」  ただし、やみくもに財政支出を増やしても、狙っている成果にはつながりません。財政出動の判断基準を何に置くかは、真剣に議論するべきです。 岸田文雄新総理は経済対策に積極的なようですが、すでに巨額の借金があるうえ、大地震への備えも必要なので、何に対して予算をつけるべきかの評価基準、またどういう成果を求めて政策を実施するべきかの基準は、絶対に定めておかなくてはいけません。 この議論の本質からすると、基軸にするべきは「(1)雇用の質(賃金水準)」「(2)雇用の量」の2つです。 これから、日本では生産年齢人口が約3000万人も減少します。GDPを縮小させることなく、ますます貴重になる人材を、どの業種のどういった企業を中心に配分するかも重要なポイントになります。労働参加率を低下させることなく、賃金を引き上げる政策が求められます。あえて言うまでもなく、これは日本にとってとても重要な「経済政策」です。 要するに、生産性を高め、それに伴って賃金を上昇させることでGDPを増やすのです。岸田総理にはリーダーとして、財政出動で投資した以上の金額が将来的には戻ってくることを想定し、思い切った国家運営にあたっていただきたいと思います。 過去に何度も指摘したように、アベノミクスの結果、日本の労働参加率は史上最高になり、世界的に見ても非常に高い水準にまで上がりました。しかし、増えた雇用のほとんどは、賃金水準が低いという意味で「質が低い」仕事でした。それによって生産性は上がりましたが、労働生産性は上がっていません。 これ以上労働参加率を高める、つまり雇用の量を増やすのは限界に近づいているので、岸田総理は雇用の質を高める政策に舵を切るべきです。それこそが日本に求められている政策であり、そのためにこそPGSを増やすべきなのです。 となると、「賃金の動向」と「雇用の動向」を財政出動の判断材料にするべきだという結論となります。「賃金の動向」と「雇用の動向」のデータはすでに整備されているので、目標を設定するための直接的な材料にできます』、「雇用の質を高める政策」、具体的にはどんなことをするのだろう。まさか、高賃金を払った企業への補助金などの古典的手法ではあるまい。
・『「本当に政府は破綻しないか」実験より先にできること  一部には、インフレにならないかぎり、政府の借金をどんなに増やしても政府は破綻しないという見解もあります。しかし、すでにここまで政府の借金が増えている中で、無尽蔵にばらまいて「本当に政府は破綻しないのか」という実験に挑戦するメリットがあるとは思えません。 財政出動を増やすのであれば、PGSを中心に、「元が取れる」支出に限定するべきでしょう。となると、オーソドックスなケインズ経済学に基づいて、乗数が1以上の支出でないといけません。ここでいう「乗数」とは、政府支出に対してどれだけGDPが増えるかを測る指標で、1億円の支出の乗数が1.2だった場合、GDPは1億2000万円増えることになります。これなら「政府の借金/GDP」の分子以上に分母が増えることになるので、現在の低い金利を考えれば、政府の借金の対GDP比率は改善します。 この乗数効果が大きい政府支出には、基礎研究やインフラ投資が含まれます。 ただ、乗数効果に関しては、勘違いをしている人が多いと最近わかりました。政府が100兆円の支出をすれば、GDPは自動的に100兆円以上、例えば330兆円も純増すると妄想している人がいるようです。実際の乗数効果は、それよりもずっと小さいことがわかっています。政府支出に過剰に期待してはいけません。この点は、次回の記事で検証します。 私自身、財政出動は必要だと考えていますが、2%のインフレ目標を判断基準にするべきではないとも考えています。財政出動の是非はあくまでも、「雇用の量」と「雇用の質」、そして「乗数効果」をもとに判断するべきです。 次回から2回にわたって、なぜ財政出動の基準を2%のインフレ目標にするべきではないのかを説明します』、いつもの「デービッド・アトキンソン氏」の具体的な提言と異なり、今回は肝心の「生産的政府支出」についての説明が不足し、説得力を欠くようだ。次回の「インフレ目標」ぶ期待しよう。
タグ:デイリー新潮 政府財政問題 (その5)(財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?、「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論、「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ) 「財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?」 「寄稿の動機は「やむにやまれぬ大和魂」」とは苦しい言い訳だ。 「外国の格付け会社」向け「意見書」も当然、財務省にファイルされている筈だが、都合の悪い文書はなかったことにする姿勢が常態化しているので、見ていないことにしたのかも知れない。 「事務次官」が従来の主張とは「正反対」の主張を平然とするとは、「財務省」の権威も地に落ちたものだ。 国会審議がまだ始まってないが、始まれば野党の追及にどう答えるのだろう。 文春オンライン 「「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論」 リフレ派の大物の「浜田」氏らしいコメントだ。 「霞が関全体に、ことなかれ主義の風潮がある中で、行政官のトップが自らの立場を踏まえながら、官僚や国民にどう持論を発すべきか、を示したことは、議論のよい出発点になりえます」、と投稿した姿勢を評価しつつも、「論じられた内容についていえば、ほぼ100%、私は賛成できません」、と自論を展開するのは当然だろう。「3つの誤り」とは何なのだろう。 「国際通貨基金(IMF)が公表した2018年の財政モニター・レポートは、実物資産を考慮して各国政府がどれだけ金持ちなのか、を試算しています。これによれば日本政府は十分な資産を持っているため、わずかに純債務国ではあるが、大債務国のポルトガル、英国、オーストラリア、米国よりも相対的に債務は少ない」、こんなIMFのレポートは初めて知った。 「「国家財政も家計と同じだ」という考え方」は、前者は苦しくなれば、増税も可能で、確かに手段がない「家計」とは異なる。中途半端な形で記事が終わってしまったことは、誠に残念だ。 東洋経済オンライン デービッド・アトキンソン 「「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ」 興味深そうだ。 「生産的政府支出」について、実際の数字を示してもらいたいものだ。公共投資もこの中に含まれる筈だが、現実には必ずしも「生産的」でないものも多い。公共投資は無駄との認識が広まったことも、諸外国に比べ少ない一因だ。 「雇用の質を高める政策」、具体的にはどんなことをするのだろう。まさか、高賃金を払った企業への補助金などではあるまい。 いつもの「デービッド・アトキンソン氏」の具体的な提言と異なり、今回は肝心の「生産的政府支出」についての説明が不足し、説得力を欠くようだ。次回の「インフレ目標」ぶ期待しよう。
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異次元緩和政策(その38)(世界でエネルギー価格が高騰 忍び寄るインフレの足音は日本にも?、米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める、日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か) [経済政策]

異次元緩和政策については、8月14日に取上げた。今日は、(その38)(世界でエネルギー価格が高騰 忍び寄るインフレの足音は日本にも?、米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める、日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か)である。

先ずは、10月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「世界でエネルギー価格が高騰、忍び寄るインフレの足音は日本にも?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/283820
・『世界的にエネルギー価格が上昇し、インフレの足音が忍び寄っている。特に石炭価格の上昇が鮮明で、各国が石炭をし烈に奪い合っている。世界全体でエネルギー資源、自動車、生鮮食料品などの供給が、需要に追い付いていない状況だ。10月から、わが国でもマーガリンやコーヒー豆などが値上がりした。物価の上昇ペースが鈍かった日本にもインフレの波が押し寄せつつある』、「日本にもインフレの波が押し寄せつつある」、本当だろうか。
・『物価の上昇ペースが鈍かった日本 インフレの波が押し寄せつつある(世界的にエネルギー価格が上昇し、インフレの足音が忍び寄っている。主要国の物価動向を見ると、まず目に付くのがエネルギー価格の上昇で、企業間物価の上昇が顕著になっていることだ。それが、徐々に川下の消費者物価にも波及し始めている。 エネルギーの中でも、特に石炭価格の上昇が鮮明化している。中国、米国、欧州各国など世界各国が石炭をし烈に奪い合っている。その背景には、中国とオーストラリアの対立、気候変動問題の深刻化、新型コロナウイルス感染再拡大による物流の寸断とそれによる供給制約の深刻化など複合的な要因が絡む。世界全体でエネルギー資源、自動車、生鮮食料品などの供給が、需要に追い付いていない状況だ。 今後、世界的にインフレ懸念は一段と強まる可能性がある。10月から、わが国でもマーガリンやコーヒー豆などが値上がりした。物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある。世界的な供給制約は長期化する恐れがあるだけに、今後のインフレ動向が国内外の経済、および金融市場に与える影響は軽視できない』、「物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある」、やはり事実のようだ。
・『各国の物価動向を見ると上昇圧力が強くなっている  今春以降、多くの国で企業間物価指数の上昇が鮮明だ。その状況が続くと、企業はコストの上昇に呼応して製品やサービスの価格を引き上げ始める。米国ではその動きが顕著だ。2020年12月、前年同月比で0.8%だった米国の生産者物価指数の上昇率は、21年8月には同8.3%まで跳ね上がった。その背景には、コロナ感染再拡大によって世界経済の供給制約が顕在化し、鉱山やエネルギー資源、自動車などの工業製品、あらゆる製品に用いられる半導体などの供給が減少、あるいは停滞したことがある。 また、コロナワクチン接種の増加などによって人々の移動が徐々に緩和されつつあるため、経済活動の正常化が進み、需要が盛り返しつつある。一方、供給サイドでは人手不足も発生している。その結果、米国をはじめ主要国では消費者物価指数が上昇している。 8月の米消費者物価指数の上昇率は前年対比5.3%だった。米国では国内の需要が旺盛であるため、企業はコストの増加分を最終価格に転嫁しやすい。7月の米家計貯蓄率は9.6%と高い。貯蓄が消費に回ることもインフレを押し上げるだろう。 中国でも徐々に消費者物価指数に上昇圧力がかかりつつある。また、ユーロ圏の物価推移を見ると、7月の生産者物価指数は前年同月比で12.1%上昇した。それはいずれ、川下の消費者物価指数の上昇圧力として作用することになる。これまで、主要国ではほとんどインフレに対して警戒する必要を感じてこなかったが、ここへ来て、世界的にインフレの足音が近づいていることは間違いない』、「米消費者物価指数の上昇率は」10月では前年対比6.2%と、1990年以来の高い上昇となった。FRBは依然として、上昇が一時的とみているようだが、旗色が悪くなってきた。
・『石炭価格が上昇している背景 中国とオーストラリアの対立(エネルギーや生鮮食品、さらにはタンカーの船賃まで幅広く物価が上昇する中、石炭価格の上昇が鮮明だ。過去1年間で石炭価格は約3.5倍も上昇して最高値を更新している。さらに足元、石炭価格の上昇の勢いは強まっている。需給は極めてタイトだ。天然ガスなどのエネルギー資源の価格も上昇している。 石炭価格が上昇している背景として見逃せないのが、世界最大の石炭消費国である中国と、インドネシアと並ぶ石炭輸出大国であるオーストラリアの対立だ。新型コロナウイルスの発生源を巡って中豪関係は悪化した。中国はオーストラリア産石炭の輸入を制限し、インドネシアやロシアからの輸入増加を重視した。 オーストラリアからの石炭調達が減少することもあり、中国は火力発電などに必要な石炭を確保できなくなっている。その結果、最近の中国では停電が発生し、遼寧省瀋陽市では信号が消えた。電力供給不足は生産活動にも深刻な影響を与える。中国国内の生産量を増やそうにも、追加の投資を行い、炭鉱を開発するには時間がかかる。不動産大手・恒大集団(エバーグランデ)の債務問題に加え、石炭不足による電力需給のひっ迫も中国経済にマイナス要因である。 同様の事態が世界各国でも発生している。脱炭素への取り組みが進む中、燃焼時の温室効果ガス発生量が相対的に少ない、液化天然ガスを用いた火力発電を重視する国が増えている。その一方で、世界的な気候変動の影響で冷暖房のための電力需要が急速に増えている。加えて、コロナワクチン接種などによる経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている。 そうした中、各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている。4月にドイツでは最新鋭の石炭火力発電所が稼働し始めた。経済運営のために世界各国が石炭を奪い合う状況はしばらく続くだろう』、「経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている・・・各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている」、やむを得ない「石炭火力」依存だ。
・『わが国にも忍び寄るインフレの足音  英国ではトラック運転手の不足によってガソリン供給が減少している。その結果、一部の買いだめ行動がハーディング現象(周りへの同調や行動追随)を引き起こしてパニックが起きた。米国ではハリケーンの襲来によってメキシコ湾での原油生産が減っている。原油の需給もひっ迫している。 そうした状況下、わが国にインフレの足音が近づいている。10月から、マーガリン、輸入車、電力・ガス、小麦などが値上がりした。異常気象の影響によって葉物野菜など生鮮食料品も値上がりしている。8月、わが国の企業物価指数は前年同月比5.5%上昇した。消費者物価は総合指数が同0.4%下落し、生鮮食品を除く総合指数は横ばい(同0.0%)だった。物価上昇の勢いは強まるとみておくべきだ。 今後、世界経済の供給制約はより深刻化する可能性がある。コロナ感染が再拡大すれば世界の物流がひっ迫する。中豪の対立は一段と深刻化する恐れがある。また、新興国でのワクチン接種の遅れは物流寸断を長引かせ、電子部品などの生産や鉱山資源などの供給が遅れる要因だ。 その結果、世界的なインフレ圧力は一段と強まる可能性がある。FRBのパウエル議長は、物価上昇は一時的としながらも「予想以上に長引く可能性」に言及し始めた。 その一方で、世界経済の回復ペースは徐々に鈍化する恐れもある。コロナ感染再拡大に加えて、中国のエバーグランデのデフォルトリスクが高まっている。仮に、エバーグランデの債務がクロスデフォルトのような状況に陥れば、中国の不動産市況は悪化し、中国の景気減速はさらに進むだろう。物価上昇懸念は金利を上昇させ、株価の下落リスクも高まる。いずれも世界経済にはマイナスだ。 今後、インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開は軽視できない。それは、需要が縮小均衡に向かうわが国経済にとって大きな逆風になるはずだ』、「インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開」、となれば典型的なスタグフレーションだ。やれやれ・・・。

次に、11月5日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/466587
・『米連邦公開市場委員会(FOMC)は2、3両日に開催した定例会合で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0-0.25%で据え置くことを決定した。毎月実施している資産購入については、月額150億ドル(約1兆7000億円)のペースで縮小を開始すると表明。新型コロナウイルス禍に導入した緊急支援策の解除を始める。インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた』、いわゆるテーパリング開始を決定した。「インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた」、一時は自信満々だったのに、弱気になったようだ。
・『市場関係者の見方は以下の通り。 ◎FOMC決定、150億ドルが最大のテーパリングペースを意味-BMO FOMCの決定は、150億ドルが当面のテーパリング(資産購入の段階的縮小)の最大のペースになることを意味しているとBMOキャピタル・マーケッツのストラテジスト、ベン・ジェフリー氏は指摘した。 ・2年債がアウトパフォームする一方で5年債が売られている理由はこれで説明される ・「FOMCは英中銀やカナダ中銀よりも遅く始める可能性もあり、後手に回って結局は劇的な利上げを行う必要に迫られるリスクがある」 ◎11月からのテーパリング、可及的速やかな開始望む意向を示唆-RBC FOMCが12月ではなく11月のテーパリング(資産購入の段階的縮小)開始を決めたことは、「若干タカ派的であり、できるだけ速やかに開始したい金融当局の意向を示唆している」と、RBCウェルス・マネジメントのシニア・ポートフォリオストラテジスト、トム・ギャレットソン氏が指摘した。 ・発表されたペースでの今月からのテーパリング開始は、それが来年6月までに終了し、金融政策の次の段階が設定されることを示唆 ・市場が来年に想定している利上げ回数はあまりにも多く、RBCの基本シナリオでは最初の利上げは2022年12月 ・金融当局が資産購入を今月と来月に月額150億ドルずつ縮小するとのFOMC決定を踏まえたコメント)   FOMCのインフレに関する文言、タカ派色少し強めた-BNYメロン FOMCがインフレに関する文言を「一過性と予想される」に変えたことは、11月の声明にタカ派色を添えたとバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)のストラテジスト、ジョン・ベリス氏が指摘した。 ・「150億ドルのテーパリングは予想されていただけに、これでほんの少しだけタカ派色が強まった」 ・市場はまだ大きく動いていないかもしれないが、トレーダーはパウエルFRB議長がインフレとテーパリングのペースをどう詳しく説明するかに注目するだろう ・「議長がインフレに関する質問にどう対処するか、テーパリングのペースを変える能力に関してどう話すのかが、より重要かもしれない」 ◎ドル売りは限定的に、FOMCのテーパリング調整余地で-ウェルズF」、FOMC決定で、テーパリングペースを調整する余地を自らに与え、これがドルへの影響を限定的なものにするだろうと、ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、エリック・ネルソン氏(ニューヨーク在勤)が指摘した。 ・テーパリングは「必要になれば加速できる」 ・「そのことが利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」 備考:ドルはFOMC決定の発表直後に下落したが、その後は下げを消した』、「利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」、とは、利上げをそれほどしないだろうとの見方が限定的になったので、ドルがそれだけ堅調になったとの意味である。

第三に、9月5日付け東洋経済オンラインが掲載した財務省出身で慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏による「日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/453017
・『ジェローム・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、注目された8月27日のジャクソンホール会議での講演で「まもなくテーパリング(緩和縮小、国債などの買い入れ額を削減すること)する」と明確に述べた。ついに、アメリカの中央銀行であるFEDはテーパリングを開始しようとしている。 さあ、日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた。即時開始すべきだ。今回は、日銀がすぐさまとるべき金融政策の変更を提言したい』、「日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた」、との衝撃的な見解を示したのは、私が知る限り小幡氏だけである。
・『日米2つの中央銀行の差は歴然  FEDと日本銀行とのパフォーマンスの差は歴然だ。ともに量的緩和を行ったが、アメリカは、行った2度とも脱出に成功している(ちなみにFEDは量的緩和という言葉を自らは決して使わない。バランスシート政策あるいは資産買い入れプログラムと呼んでいる)。 1度目は、世界金融危機(2008年のリーマンショック)のときのベン・バーナンキFRB議長(当時)だ。2013年に「バーナンキショック」などと投機関係者には八つ当たりされたが、しかし、自分が広げた風呂敷は、しっかりたたむメドをつけて去っていった。 だから、その後FEDのバランスシートはしっかりと縮小し、今回のコロナショックへの対応で、国債などの資産買い入れを大規模に行うことができた。そして、また、今回もその資産買い入れ政策の役割が終わったら、さっと引き揚げることに成功しつつある。資産買い入れ政策は危機対応の緊急政策であって、ドカンとやって、さっと引き揚げる。これが戦略の要諦である。アフガニスタンが、その反対の例だ。 一方、日本銀行は、言ってみれば昨今のアフガニスタンよりもひどい状況だ。2001年に量的緩和を開始し、福井俊彦総裁(当時)が2006年に解除した。これは、パウエル議長と同様、きちんと幕引きをして去っていったのだが、現在は見るも無残な状況になっており、国債発行残高の半分は日本銀行が保有するという有様だ。 しかし、日本銀行は、もともと世界的に珍しく、長期国債を恒常的に買ってきた中央銀行であった。当時は日銀ルール(銀行券ルール)という、紙幣の流通量以下に長期国債の保有額を抑えるという自主ルールがあった。自主ルールではあったが、強力な歯止めとして、これを破るのは日銀としては絶対のタブーだった。しかし、黒田東彦総裁があっさりと無視し、外し、現在はこのタガは外れっぱなしどころか、ほとんどの人が忘れている。もう2度と戻ってくることはないだろう。 つまり、FEDも量的緩和(資産買い入れ)という危険な政策をとったが、危機対応であるという認識は保持し、隙あらば撤回するという姿勢で臨み、退却に成功した。一方、日本はそれに失敗しただけでなく、危機対応であるという認識が一般には薄れてしまい、今では日銀自身も諦めたかのような状況だ』、日米の金融政策の大きな格差はどうして生じたのだろう。小幡氏が以下で謎解きをしてくれるようだ。
・『日銀は何を間違えたのか?  さて、日銀は何が悪かったのか。何を間違えてしまったのか。 第1に、2001年に量的緩和というものを発明してしまったことだ。この量的緩和こそが本当の量的緩和だが、それは長期国債を買い入れることではない。短期金利を政策目標にすることから、日銀当座預金残高を政策指標とすることに変更したことだった。これは、短期金利市場を壊すという副作用があるが、長期国債の市場を壊すよりは罪が軽く、「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった。 しかし、これにより、量的緩和という画期的なおもちゃが、金融市場を知らないばかりか、日本経済の将来に対して無邪気で無責任な人々に与えられてしまった。日銀の政策手段が、王道の金利操作だけでなく、資産の買い入れ(このときは超短期国債であったにせよ)という邪道なものまで追加されてしまったのである。これが、後にリーマンショック後の政策、そしてアベノミクスによるリフレ政策という最悪の事態を招くこととなる』、「「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった」、とは手厳しい批判だ。
・『第2に、量的緩和のイメージから、誤ったマネタリズムを振りかざす、いわゆる有識者の政策マーケットへの参入を招いてしまったことだ。彼ら(厳密に言うとマネタリズムを強引に都合よく解釈した「誤った」マネタリストたち)は、「とにかくマネーそのものを増やせ」と主張した。 実際、日銀の当初の量的緩和はそれを実行していたのだから、日銀がそれを否定するには、日銀の行った量的緩和と巷の誤ったマネタリストたちの主張する無邪気なマネタリズムを区別する厳密な議論が必要となった。結局、世間、メディア、政治家達には理解ができず、単純なお金が増えるというイメージに訴えかける彼らの主張がはびこることとなった。 彼らは「デフレと円高を解消し、日本経済の問題は一挙に解決し、バラ色の日本経済がやってくる」と騒いだ。これ以降、まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった。この結果、経済政策は金融政策だけでなく、すべての分野で不在となり、日本経済の停滞に寄与した』、「まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった」、その主犯の「「誤った」マネタリストたち」の罪はまことに深い。
・『第3の間違いは、このマネタリストの圧力により「インフレターゲット2%」を日銀が導入してしまったことだ。 これが現在も日銀の金融政策を縛っている。欧米主要国の多くが2%ターゲットをとっているから、日銀だけそれをターゲットとして数量的な目標を設定しないのは無責任だ、という議論に押されて導入してしまった。 だが、日本ではそもそもインフレ率が継続的に2%を超えていたのは、1990年のバブルのときまでさかのぼらなければならない。しかも、その当時は、世界的に日本の物価は異常に高すぎるとして、物価をとにかく下げろ、内外価格差是正、ということが経済政策の大きな目標の1つだった。 すなわち、2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった。 この結果、日銀の政策は、いわゆるデフレマインド、実際のところは、貧乏くさい萎縮マインドを改善する、というある程度意味のある効果を伴ったときはよかった。だが、現在の異次元緩和の主人公である黒田総裁自身が「日本経済の問題は需要不足ではないことが明らかになった」と宣言した後、7年たっても、なお2%のインフレ率達成がゴールとされ続けている。 これは不必要どころか、副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられていることにほかならない。長期国債を大量に購入するという政策からの出口を議論できなくなってしまったという最大の困難をもたらしている』、「2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった」、「副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられている」、これは日銀が犯した重大なミスだ。
・『さて、それ以外にも、日銀はさまざま過ちを犯している。第4として、上場株式ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)というリスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策を行った。これは、いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤りである。 ただし、日経平均株価が8000円台などの場合には、株価下支え効果がてきめんにあった。実際、アベノミクスでは、円安誘導、異常国債買い入れとともに、株価の急回復をもたらした』、「リスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策」は「いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤り」、その通りだ。
・『中央銀行が企業の株式を買うことは無意味  しかし、理論的には、意味がまったくないし、中央銀行が企業の株式を買うということはまったく意味がない。「リスクプレミアムに働きかける」というが、株式トレーダーのリスクプレミアムに働きかけることは理論的だけでなく、道義的、社会的にもやってはならないことであり、実体経済における設備投資や人的資本投資という実物投資行動へのリスクプレミアムに働きかけるものでなくてはならない。そこへ到達できる金融市場における唯一の道は金利であり、株価とは無関係である。 さらに、現在は、イールドカーブコントロールと呼ばれる、長期金利を直接コントロールするためのターゲット水準を設けている。今は10年物国債金利をゼロ程度にすることで、長期金利をゼロに釘付けにしている。これは、短期金利市場を政策金利で殺していると同時に、長期金利市場までをも殺すことによって、金融市場を完全に長短ともに殺してしまっている、という重大な罪を犯している。これが第5の誤りだ。 実は、この第5の誤りと第4の誤りは、第3の誤りの副作用として生じたものである。長期国債のさらなる買い入れを、世間から、メディアから、そして自ら宣言した政策方針によって迫られてしまい、逃げ場がなくなった。 しかし「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである。罪深いが、これが罪を犯した根本の原因ではない。それは日銀もわかっているはずだ』、「「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである」、痛烈な日銀批判だ。
・『日銀は「過ち」をどうすべきか?  では、このような経緯、環境の下で、今、日本銀行は、どのように、罪滅ぼし、いやさらなる罪を犯すことを止めるように動くべきか。第1と第2の過ちは取り返しがつかない。もう、そうなってしまっているから時計の針は元に戻せない。根本的な罪は、第3の過ち「インフレターゲット2%」、物価目標の存在である。これを撤廃するのが、根本的な解決の1つである。 日銀が行うべきもっとも重要なことは、継続的な物価下落(いわゆるデフレスパイラル)とはとことん戦うが、物価が安定的にプラスあるいはゼロ付近であれば、物価自体ではなく、景気の安定化という本来の目的を直接的な政策目標とする、と宣言することである。 もはやデフレではなく、デフレスパイラルが起こる恐れは小さいのだから「物価そのものではなく、景気減速を防止するために最大限の金融政策を行う」と宣言するべきである。 しかし、これが理想ではあるが、現実的ではない。なぜなら、中央銀行の政策目標は一義的には物価であり、物価の安定を通じて、景気安定、経済の長期的な発展に資するものである、という主張は理論的には否定できない。また、現実にも、その考え方を文字通りに捉えるべきだと考える経済学者、セントラルバンカーが数多くいるからだ。 今、このような根本的な論争をしている場合ではない。危機対応、異次元緩和という異常事態の是正であるから、このような根本の議論は長期的な課題として後回しにするべきである。 最小限やっておくべきことは「物価は重要だが、2%という絶対水準にこだわるのではなく、ある程度柔軟に考える」というスタンスをはっきり打ち出すことである。これは、はっきりとは打ち出されてはいないが、暗には成立しており、日銀は、この考え方で動いている。はっきりさせたほうがよいことはよいが、すべてを犠牲にして無理してやることもない。) なんといっても、日銀がまず第1に、誰の目から見てもやるべきことがある。それはテーパリングである。しかし、それは国債ではなく株である。「上場株式の買い入れ」という百害あって一利なしの政策をとっているのだから、即刻これを止めるのである。ETF(上場投資信託)、J-REIT(上場不動産投資信託)のテーパリングである』、「ETF・・・、J-REIT・・・のテーパリング」、とは面白いアイデアだ。
・『日銀はただちに少額でいいから株を売却せよ  これは誰もが賛成するはずだ。とにかく株価を高くして儲けたいという仕手筋のような投機家以外は賛成するはずである。 そこで、テーパリングだけでなく、さらに踏み込んで、即時、売却を開始するのである。 日銀は株を持つべきでない。また株式市場は今大暴落の底にあるわけでもない。また、世界的に株式は上昇局面にあり、日本株は相対的に鈍いとはいえ、ゆるやかな上昇基調にはある。ここで売らずにどこで売る。明日にでも、日銀が株の売却を始めるのである。 ただし、それは本当に需給に影響を与えないほどの小規模で行う。例えば1日10億円程度ではじめる。これなら年間でも2000億円程度であり、ほとんどインパクトはない。 もちろん、このペースでいけば、売却終了に30年もかかってしまう。それでもいい。売らないよりはましだ。そして「日銀が株を売る」というニュースのインパクトはかなりあり、株価は一時的には大幅に下落するだろう。だが、それは一時のショックであり、その後は止まるだろうし、相場が上昇基調なら、緩やかにそのショックによる下落分は回復していくだろう。その後は、1日当たり15億円、20億円と売却額を少しずつ増やしていけばよい。 しかし、株式市場関係者、そして株価を異常に気にする官邸は、強く懸念を持つだろう。「需給には影響なくとも、そのニュースインパクトでショックを与えてしまう。だから、やめろ」と。 この政策の問題点は、ニュースによりショックが起こる可能性がある、という1点に尽きる。それならば、対策を採っておけばよい。 それは、現物のETFは相場状況によらず、淡々と一定額売っていくのだが、相場のセンチメントが大きく揺らぎ、株式市場のリスクプレミアムが異常に大きくなった場合には、そのときこそ、買い入れを行えばよいのである。そして、それは企業経営にひずみをもたらさない、議決権などガバナンスをあいまいにするという副作用をなくすために、日経平均、TOPIX(東証株価指数)先物を売買することにすればよいのだ。 これは「日銀がヘッジファンド化する」という批判を受けるであろう。だが、そんなことはない。むしろ理論的には正統派である。企業経営に影響を与えず、市場のセンチメントがおかしくなることを防ぐだけなのだから、センチメントに直接関係あるのは先物市場であるから、そこで売買を行うのは、リスクプレミアムへの働き方としては、直接的、正統的である。 私は、日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい』、「日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい」、私も賛成だ。
・『日銀が株売却の次に行うこととは?  そして、その次に行うことは、イールドカーブコントロールの“テーパリング”である。こちらは量ではなく、金利を直接コントロールしている。金融政策とは、金利を通じて経済に働きかけることであるから、これは長期金利市場を殺すという重大な副作用があるものの、政策としては本筋である。したがって、これを枠組みは維持したまま、テーパリングならぬ出口に向かって進めるのである。 それは、利上げ、つまり10年物金利をゼロ付近から、0.2%、0.5%と上げていくのが普通だが、これは利上げ、というインパクトを名実ともにもたらしてしまう。 今回のFEDのテーパリングの打ち出しで、最新の注意を払ったのは、「国債買い入れ量は減らすが、金利は上げない」というメッセージであった。つまり、この2つは別物であり「金利引き上げはより一層慎重に行う」というメッセージを繰り返し強く伝えることだった。 日銀も同じである。金利は上げない。その代わり、ターゲット年限を短くしていくのである。つまり、10年から残存期間9年の国債の市場利回りをゼロ程度に、とし、次は8年、7年、6年、5年としていくのである。 そして、最後には短期金利ゼロのみ、と金利政策において、正常化を図るのである。短期金利をゼロにするのがゼロ金利政策の核であり、短期金利操作は金融政策の王道であり、本来はすべてである。だから、これこそが本当の正常化である。 そして、これにより、長期金利市場を少しずつ生き返らせるのである。10年物の金利がどのように動くか。それを丁寧に観察して、金融政策を調節していくのである。そして、これはアメリカのテーパリングからの同国長期金利の変動の動向と歩調を合わせるようにして、調節していくのである。 したがって、このイールドターゲット短期化政策は、今、FEDがテーパリングを始めるのに合わせて行うのが適切である。もちろん、アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである。 「こちらもショックがあるのでは」という意見もあるだろう。だが、現実には、10年物の金利はゼロでくぎ付けだが、15年、20年の金利は市場で日銀の買い入れ額をにらみながらも一応生きている。したがって、まったくの断絶があるわけではない。生きている残存期間11年金利の市場から10年へと波及してくることになる。 ETFの売却、イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”、実際には短期化、この2つを日銀の次の政策変更として提案したい』、「イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”」、もいいアイデアだ。「アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである」、現実味があってよさそうだ。今回の小幡氏の提案は、なかなかの力作だ。 
タグ:ダイヤモンド・オンライン 異次元緩和政策 (その38)(世界でエネルギー価格が高騰 忍び寄るインフレの足音は日本にも?、米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める、日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か) 真壁昭夫 「世界でエネルギー価格が高騰、忍び寄るインフレの足音は日本にも?」 「日本にもインフレの波が押し寄せつつある」、本当だろうか。 「物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある」、やはり事実のようだ。 「米消費者物価指数の上昇率は」10月では前年対比6.2%と、1990年以来の高い上昇となった。FRBは依然として、上昇が一時的とみているようだが、旗色が悪くなってきた。 「経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている・・・各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている」、やむを得ない「石炭火力」依存だ。 「インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開」、となれば典型的なスタグフレーションだ。やれやれ・・・。 東洋経済オンライン ブルームバーグ 「米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める」 いわゆるテーパリング開始を決定した。「インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた」、一時は自信満々だったのに、弱気になったようだ。 「利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」、とは、利上げをそれほどしないだろうとの見方が限定的になったので、ドルがそれだけ堅調になったとの意味である。 小幡 績 「日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か」 「日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた」、との衝撃的な見解を示したのは、私が知る限り小幡氏だけである。 、日米の金融政策の大きな格差はどうして生じたのだろう。小幡氏が以下で謎解きをしてくれるようだ。 「「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった」、とは手厳しい批判だ。 「まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった」、その主犯の「「誤った」マネタリストたち」の罪はまことに深い。 「2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった」、「副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられている」、これは日銀が犯した重大なミスだ。 「リスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策」は「いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤り」、その通りだ。 「「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである」、痛烈な日銀批判だ。 「ETF・・・、J-REIT・・・のテーパリング」、とは面白いアイデアだ。 「日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい」、私も賛成だ。 「イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”」、もいいアイデアだ。「アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである」、現実味があってよさそうだ。今回の小幡氏の提案は、なかなかの力作だ。
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景気動向(その1)(コロナ感染だけではない!日本のGDP落ち込みが他国と比べても悲惨な理由、18歳以下に10万円相当給付 所得制限もクーポンも頭が悪すぎる理由、今、本当に必要な経済政策を提案する) [経済政策]

今日は、景気動向(その1)(コロナ感染だけではない!日本のGDP落ち込みが他国と比べても悲惨な理由、18歳以下に10万円相当給付 所得制限もクーポンも頭が悪すぎる理由、今、本当に必要な経済政策を提案する)を取上げよう。景気動向が急に出てきた感があるが、これまでは、アベノミクス、スガノミクス、キシダノミクスなどのタイトルで取上げていたものである。

先ずは、5月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「コロナ感染だけではない!日本のGDP落ち込みが他国と比べても悲惨な理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/271634
・『案の定のGDP減、なぜ日本が顕著に落ち込むのか  2020年度の国内総生産(GDP)が、前年度比4.6%減とリーマンショックがあった08年度(3.6%減)を超え、戦後最大の落ち込み幅になったという。 自粛→緊急事態宣言→自粛→緊急事態宣言のエンドレスリピートで、日本の内需の2大柱である「消費」と「企業の設備投資」がすっかり冷え込んでいるのはご存じの通り。さらに、最近のヤケクソのような「人流抑制策」によってGDPのフリーフォールはまだしばらく続く見込みだ。 今年1~3月期の速報値も年率換算で5.1%減。ならば、3度目の緊急事態宣言が出されて、その対象地域も拡大している4〜6月期は、さらに目も当てられないひどい落ち込みになっているというのは容易に想像できよう。 「未知のウィルスと戦っているのだから、それくらい経済が落ち込むのはしょうがない」などと開き直る人も多いだろうが、日本よりも桁違いの感染者・死者を出しているアメリカの1〜3月期は、前年同期比年率でプラス6.4%と、経済を着々と回復させている。また、同じく日本以上の感染者・死者を出して、ロックダウンで経済も止めた欧州各国のGDPはたしかにマイナスも多いが、それでも日本ほど派手に落ち込んでいない。 「欧米はワクチン接種が進んでいるから」という話にもっていきたがる人も多いが、ワクチン接種率が2.3%(5月19日現在)と、日本とどんぐりの背比べ状態の韓国の1~3月期のGDP速報値は前期比1.6%増で、3期連続でプラスだ。 つまり、日本のGDPが諸外国と比べて際立って落ち込んでいるのは、「コロナ感染l拡大」「ワクチン接種率が低い」だけでは説明できぬ特殊な現象なのだ。 では、いったい何が日本経済をここまで壊滅させたのか』、「日本」の「4〜6月期」は年率でプラス1.9%と持ち直した形になった。
・『「コロナ経済死」する人たちを軽視してきたせいだ  いろいろな要素があるだろうが、個人的には、この1年以上続けてきた日本の「人命軽視」のツケが大きいと思っている。 と言っても、それは「自粛に従わないで飲みに行く」とか「SNSで日本の新規感染者数はそれほど多くないとツイートする」というような類の「人命軽視」ではない。コロナ自粛によって収入が激減し、身も心もボロボロになって夢や生きる目標を失ってしまう、言うなれば「コロナ経済死」ともいうべき苦境に陥る人たちがこの1年で膨大な数に膨れ上がっている。 にもかかわらず、そこから頑なに目を背け続けてきたという「人命軽視」である。 と言うと、「大変な人が多いのは事実だが経済死は大袈裟だろ、政府の対策もあって失業率はそこまで上がっていないじゃないか」という反論があるだろうが、今、日本でどれだけ多くの人が「コロナ経済死」しているかという実態を把握するには、失業率よりも「実質的失業者」に注目すべきだ』、「実質的失業者」とは何だろう。
・『政府が目を逸らす「実質的失業者」が急増中 自殺者増も…  「実質的失業者」とは野村総合研究所が、パート・アルバイトのうち、「シフトが5割以上減少」かつ「休業手当を受け取っていない」人たちのことを定義したもので、彼らは統計上の「失業者」「休業者」には含まれない。 野村総研が2月に、全国20~59歳のパート・アルバイト就業者6万4943人を対象に調査した結果と、総務省の労働力調査を用いて推計したところ、21年2月時点で、全国の「実質的失業者」は、女性で103.1万人、男性で43.4万人にのぼったという。 要するに、雇い主から「緊急事態宣言出ちゃったから今月はシフト半分で」なんてことを言われ、給料が激減している非正規雇用の方たちが、繰り返される緊急事態宣言の中で、急増しているということだ。 一方、政府は3月の完全失業者(180万人)は前月より23万人減っており、雇用情勢は緩やかに回復をしていると胸を張る。 しかし、実はその統計に組み込まれない形で、「かろうじて失業はしていないが、まともな生活ができないような低賃金で飼い殺しにされている労働者」が150万人近く存在しているかもしれないのだ。 もちろん、収入減で苦しんでいる「実質的失業者」はパートやアルバイトに限った話ではない。正社員の方でも出勤制限で残業代などをカットされて収入が大幅に減ったという方もいるだろう。個人事業主の方も、どうにか補助金で食いつないでいるという方もいるだろう。つまり、表面的には「失業者」ではないものの、実態としては失業しているのと同じくらい深刻な経済的困窮に追い込まれている日本人の数は150万人どころではなく、凄まじい数に膨れ上がっている恐れがあるのだ。 このように統計で浮かび上がらない「コロナ経済死」の深刻さがうかがえるようなデータもある。厚生労働省によれば、2020年の全国の自殺者数は2万1081人で19年比で4.5%増で、912人増えている。この10年、日本の自殺者数は減少傾向にあったが、11年ぶりに前年比を飛び越えたのだ。 自殺の理由は個人でさまざまだが、リーマンショックの時に自殺者が増えたという事実もあり、社会不安や失業率が影響するのではないかという専門家の指摘も少なくない。ならば、終わりの見えない経済活動自粛による「コロナ経済死」の増加が影響を及ぼしている可能性もゼロではないのではないか』、「かろうじて失業はしていないが、まともな生活ができないような低賃金で飼い殺しにされている労働者」が150万人近く存在しているかもしれない」、「この10年、日本の自殺者数は減少傾向にあったが、11年ぶりに前年比を飛び越えた」、確かに深刻だ。
・『経済活動再開の後押しを! 「人命軽視だ」と言う人もいるかもしれないが…  このような状況を踏まえると、早急に「コロナ経済死」の対策を真剣に議論すべきなのは明白だ。 「実質的失業者」からもわかるように、政府や自治体が今やっているような、事業者へのカネのバラまきは残念ながら、経営者の懐に入るか、運転資金に化けるだけで、末端の労働者にまで還元されない。彼らにダイレクトに届くような公的支援はもちろん、賃金を引き上げた事業者には減税などのインセンティブをつけるなどの実効性のある賃上げ施策が必要だろう。 だが、それよりも何よりも大切なのは、猫も杓子も「人流抑制」「自粛」ではなく、しっかりとした感染対策をしている分野に関しては、どんどん経済活動再開の後押しをしていくということだ。 このような意見を言うと、「人命軽視だ」と文句を言う人も多いが、「人命」を重視しているからこそ申し上げている。 新型コロナで亡くなった方は18日時点で、1万1847人にのぼり、その9割は70歳以上となっている。一人ひとりの方がかけがえのない大事な存在であり、それぞれに家族や大切な方たちがいることを想像すれば、これが甚大な被害であることは言うまでもない。亡くなられた方のご遺族からすれば、「緊急事態宣言など生ぬるい、なぜもっと強硬な姿勢で、感染を防いでくれなかったのだ」と政治や行政に怒りや不満を抱える方もいらっしゃるだろう。 その心中は察してあまりあるし、このような形で命を落とされる方を1人でも減らしていくには、「人命最優先」で人流なんぞすべて止めてロックダウンでもなんでもしてくれた方がいいのでは、という主張も心情的にはよく理解できる』、やや極論に近く、ついてゆけない。
・『経済的理由で、自殺しようとする人も救うべき  が、一方で「人命最優先」だというのなら、先ほども申し上げたように、日本ではコロナの死者の2倍の方が自ら命を絶っており、その中には経済的な理由で死を選ぶ方もかなりいるという、こちらの「甚大な被害」にも目を向けるべきではないか。特にコロナ禍になってからの特徴としては、女性や子どもの自殺も増えているのだ。 経済の落ち込みとともにこの傾向はさらに強まっている。警視庁によれば、今年4月に自殺した人は速報値で全国で1799人にのぼっており、去年の同じ時期に比べて292人も増えている。特に女性の自殺は37%も増えた。都道府県別でもっとも多いのが東京都で197人だという。ちなみに、今年4月の新型コロナの国内死者数は1067人、東京都の死者数は122人となっている。 自殺だろうが、コロナだろうが、高齢者だろうが、子どもだろうが、命の重みは変わらない。ならば、コロナによる死者を減らすため、経済活動をストップしたのと同じくらいの覚悟をもって、コロナ禍で増える自殺や、その予備軍となる恐れのある「コロナ経済死」を減らすための取り組みをしなくてはいけないのではないか。 もちろん、新型コロナは70歳以上を中心に多くの尊い命を奪った恐ろしい感染症だ。「人命最優先」「医療現場を守る」という観点ではいけば、感染者・死亡者0人を目指さなくてはいけないという理屈もわかる。いわゆる、「ゼロコロナ」だ。 しかし、その一方で現実としては、人口約1億2000万人の日本では毎日、病気や事故で無数の人が亡くなっている。特に高齢化が進んでいる日本では70歳以上の方がコロナが流行する以前から、毎日凄まじい数の方が命を失っていた。 例えば、「老衰」で年間10万人以上が亡くなっているし、「肺炎」でも例年10万人近くの尊い命が失われる。また、高齢者の方の場合、誤嚥性肺炎も深刻で毎年3万人以上が亡くなっている。コロナ流行で大激減したインフルエンザも年間約3000人が命を落としてきた。 こういう現実があるからコロナの1万1000人は騒ぎすぎだ、などと言いたいわけではない。しかし、毎年、老衰や肺炎で亡くなる70歳以上がこれだけいることをそれほど問題視していなかったのに、なぜコロナ患者や死亡者の数になると、マスコミをあげて恐怖を煽るのかということは正直、違和感しかない。まるで、肺炎やインフルエンザで亡くなる人と、コロナで亡くなる人の「命の重み」が違うのかと思ってしまうほど、報道の力の入れっぷりが違うのだ。 「人命最優先」と言いながら、我々はこの1年の集団パニックに陥ったことで、いつの間にか無意識に「コロナで失われる命」だけを特別待遇にしていないか。それが結果として、「コロナ患者以外の人々」の命を軽んじていることにつながっていないか。 GDP「戦後最悪の落ち込み」はそんな人命軽視への警鐘のように筆者は感じてしまう。日本政府にはぜひとも、「他の病気で失われる命」や「経済的理由で失われる命」にも光が当たるような、広い視野をもったコロナ対策を期待したい』、「「人命最優先」と言いながら、我々はこの1年の集団パニックに陥ったことで、いつの間にか無意識に「コロナで失われる命」だけを特別待遇にしていないか。それが結果として、「コロナ患者以外の人々」の命を軽んじていることにつながっていないか」、確かに冷静な議論が必要なようだ。

次に、11月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「18歳以下に10万円相当給付、所得制限もクーポンも頭が悪すぎる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/287033
・『「18歳以下に一律で10万円の現金を給付」するとされていた政策案が、自民・公明両党の幹事長会談を経て変容した。5万円分は教育関連に使途を限定したクーポンに姿を変えてしまったのだ。この「クーポン」と、自民党が主張している「所得制限」の導入が、いかに不公平で非効率で頭が悪すぎるかをお伝えしたい』、興味深そうだ。
・『「現金10万円」のはずが5万円はクーポンに化けた  18歳以下の国民に一律で10万円を給付する――。自民党と公明党の間でその調整が本格化している中、その是非が議論を呼んでいる。 いわく、「なぜ18歳なのか。19歳はだめなのか?」、いわく「裕福な家庭にも現金を給付するのは無駄だ」などの批判の声がある。 「18歳以下に1人10万円一律給付」は、矢野康治財務次官が「バラマキ合戦」と評した自民党の総裁選の議論に始まり、さらに衆議院議員選挙にあって各党の公約にも盛られた、国民への現金給付案の一つだ。 報道によると、11月9日の自民・公明両党の幹事長会談において、18歳以下に現金5万円と、使途を子育て関連などに限定した5万円相当のクーポンを支給することで大筋合意したという。直前まで「現金10万円」と取り沙汰されていたはずだが、半分はクーポンに姿を変えてしまった。 また、「一律給付」を主張する公明党に対して、自民党は「年収960万円以下」の所得制限を設けるよう求めたため、その点は継続協議となったとのことだ。) 先般の総選挙で議席を減らしたものの、261議席の絶対過半数を自民党単独で獲得して政治的な基盤を強化した岸田政権としては、独自の案を出しても良さそうな状況であった。しかし、一定の譲歩は求めたとはいえ、選挙情勢の詳細を踏まえて来年の参議院議員選挙を考えると、公明党の顔を立てることが上策だと判断したのだろう。 もう1点推測すると、各種の「バラマキ案」の中で、この案は比較的規模が小さく予算に対する負荷が小さい。岸田政権は、財務省にも気を遣ったのではないだろうか』、「公明党の顔を立てる」ことに加え、「財務省にも気を遣った」ようだ。
・『「所得制限」や「クーポン」は不公平で非効率で頭が悪い  本稿では、自民・公明両党の幹事長会談の前に取り沙汰されていた「18歳以下に1人10万円一律現金給付」を経済政策としてあらためて評価してみたい。「良い点」と「悪い点」がそれぞれ複数ある。そしてそのことを通して、会談後に突如として登場した「クーポン」や、自民党が主張する「所得制限」がいかに不公平で非効率で頭が悪いかを伝えたい。 なお、本稿では現金給付政策を「バラマキ案」と呼ぶが、すぐ後で説明するように筆者はバラマキが悪いとは思っていない。バラマキ政策にも良いものと悪いものがある。そして、良いバラマキ政策は最上の経済政策の一つであり、必要でもある』、「良いバラマキ政策は最上の経済政策の一つであり、必要でもある」、なるほど。
・『「18歳以下に一律現金10万円」 当初のバラマキ案の良い点  世間ではどうしても批判の声が大きく聞こえがちなので、はじめに「良い点」の方に目を向けよう。当初のバラマキ案である「18歳以下に1人10万円一律現金給付」には、良い点が二つある。以下の2点だ。 【「18歳以下に一律現金10万円」バラマキ案の良い点】(1)現金給付なので使い道が自由でメリットが公平であること (2)所得制限のない一律の支給であること 「現金」の支給は使途を限定しないので、国民生活への政府の介入や特定業界へのメリット供与につながりにくい点が大変良い。 家庭の事情はさまざまだ。食費が切実に必要な家庭もあるだろうし、「18歳以下」からイメージされやすい子供の学費に使いたい家庭もあるだろう。いわゆる学費ではない何らかのレッスンにお金が必要な場合もあるだろう。 こうした事情を無視して、自民・公明の幹事長会談後に持ち出された「教育クーポン」のような形で支援を行うと、家庭の必要性にバラツキがあるので、効果の大きな家庭と、そうでもない家庭に差が生じる。一般論として、政府が国民の生活上の選択に介入することは、自由を重んじる国家としては好ましくない。 同様に、「GoToなになに」のように特定の業界や予約サイトがもうかる政策も良くない。「トラベル」などが対象になっても、旅行の好き嫌いには個人差があるし、旅行に行ける家も、そうでない家もある。政治家と業界の癒着といった問題もあるが、それ以前に政策として「公平性」を考えるべきだ。 現金給付というと、「パチンコやギャンブルにお金を使う人もいるのではないか」などと難癖を付ける向きがあるが、それらが「悪い」なら法律で禁止すればいいだけのことであり、別の問題だ。お金の使い道は個人の自由でいい。 ちなみに、筆者自身は法律で認められているギャンブルを「悪い」とは思っていない。 当初のバラマキ案の手段が現金の給付とされていたことは概ね良いことだ』、「一般論として、政府が国民の生活上の選択に介入することは、自由を重んじる国家としては好ましくない。 同様に、「GoToなになに」のように特定の業界や予約サイトがもうかる政策も良くない」、その通りだ。「筆者自身は法律で認められているギャンブルを「悪い」とは思っていない」、競馬のことを東洋経済に寄稿しているから当然だろう。
・『所得制限の議論に終止符を! 「一律給付→税負担で差」が効率的  加えて、所得制限のない一律の給付であることも当初のバラマキ案の良い点だ。 所得制限については、民主党政権時代の「子ども手当」の際に、鳩山さん(当時首相の鳩山由紀夫氏)のようなお金持ちの子供にも現金を給付するのはおかしい」という議論があったと記憶している。 この問題への正解は、「一律に現金を給付して、鳩山さんのような人には追加的な税金をたくさん払ってもらえばいい」という点にある。 お金持ちにも現金を給付するのはおかしいという議論は、その部分だけを見ると正しいように思える。しかし再分配の効果は、「給付」と「負担」の「差額」で見るべきだ。 手続きを考えると、給付を一定にして迅速に行い、負担面である税制を変化させて「差額」をコントロールする方が圧倒的に効率的だし、それで問題はない。両方を調整するのは制度が複雑になるし、時間とお金の両面で非効率的だ。 国民の所得や資産に関する把握が完璧で、合理的なルール作りと合意形成が可能なら、国民一人一人の経済事情に応じて給付を調整しつつ、迅速で公平な給付が可能かもしれない。しかし、今年になってデジタル庁を作るくらい行政手続きが後進的なわが国にあって、個々人の事情に合わせた公平かつ効率的な給付を行うことは全く現実的ではない。 他方、給付を一定で迅速に行い、適切に税金を取るなら、「差額」で見る再分配は問題なくコントロールできる。税負担のあり方を変化させて再配分の効果を操作すればいい。 現金を追加的に配っているのだから、国民全体には間違いなく追加的な税負担能力がある。「財源はあるのか?」という問いに対しては、国民に追加的な現金を配るのだから、「財源は必ずある」と答えて良い。 所得ないし資産(筆者は後者に重点を置くことがいいと思うが)の面で富裕な国民に追加的な負担を求めたらいい。負担が増えた国民と、差額で使えるお金が増えた国民とがいて「再分配」が実現する。 ただし、「来年度給付するから、その財源分を来年度増税する」という議論に乗ることは、マクロ経済政策として不適切だ。インフレ目標が未達である日本経済にあっては、赤字国債を発行して、これを日本銀行が買い入れる(直接でも、民間銀行経由でも効果は同じだ)形で金融緩和政策を財政政策で後押しするべきだ。 長期的な財源の問題と、財源調達のタイミングの問題は、区別して考えるべきだ。 ともかく、何らかの給付政策を考える際に「所得制限が必要だ」という議論には、そろそろ終止符を打つべきだ。前述のように自民党は今回の「10万円相当給付」においても所得制限を主張しているようだが、それを導入するのは非効率的で、頭が悪すぎる。 生活保護などにも言えることだが、所得などに条件をつけて給付すると、行政手続きが煩雑になり、時間とコストがかかり、行政に不必要な権力が生じる。 また、制限の付け方によっては、国民の行動に余計な影響を与えることもある(パート収入の「壁」のような問題が起こる)。総選挙時に立憲民主党が掲げた、年収1000万円程度以下の人の所得税を免除する案なども(実施方法に工夫の余地はあるとしても)ダメな政策だ。 結論を繰り返す。所得制限無しの一律給付である当初のバラマキ案は正しい』、「給付を一定で迅速に行い、適切に税金を取るなら、「差額」で見る再分配は問題なくコントロールできる」、「何らかの給付政策を考える際に「所得制限が必要だ」という議論には、そろそろ終止符を打つべきだ」、同感である。
・『「18歳以下に一律現金10万円」 当初のバラマキ案のダメなところ  さて、逆に「18歳以下に1人10万円一律現金給付」とするバラマキ案のダメなところを挙げてみたい。これは、自民・公明の幹事長会談後のバラマキ案にも共通するところだ。 【「18歳以下に一律現金10万円」バラマキ案のダメなところ】(1)「18歳以下の子供」という支給対象選定が公平でないこと (2)継続的な効果がない一時金であること まず、対象が「18歳以下の子供(のいる家庭)」と、必ずしも公平でなく限定されていることには多くの国民から文句が出て当然だ。 例えば、「大学生の子供がいる母子家庭」のような家には支援がない。また、高齢者でも新型コロナウイルス感染症に伴う経済的困窮者はいるだろう。そもそも非正規で働いていて低所得であるといった理由で、子供を持つ余裕がない人もいるはずだ。 対象者はおそらく予算の都合(財務省は2兆円程度にうまく値切ったと思っているのではないか)と公明党の関係で落とし所が決まったのではないかと推測するのだが、支給対象者の選定は公平性を欠く』、言われてみれば、「「18歳以下の子供」という支給対象選定が公平でない」、というのは確かだ。
・『バラマキ案で一番ダメなのは「一時の給付」であること  そしてバラマキ案で一番ダメなのは、1回限りの1人当たり10万円支給であることだ。 昨年の国民1人当たり10万円の一時金支給でもそうだったが、経済的困窮者は「一時のお金」では、安心することができない。 昨年の給付金について、多くが貯蓄されて消費の下支えに回らなかったことを「失敗」とする見方が一部のエコノミストの間にある。しかし、これは景気だけに注意を向けた皮相的な議論だ。 そもそも給付の「効果」を、個人消費を通じた景気の下支えで測ろうという考え方が卑しくて正しくない。困った人にお金が渡れば、まずは十分いいと考えるべきではないか。 近年所得が伸びていない多くの勤労者の懐具合や、コロナによる生活への影響の不確実性と不安を思うと、一時的な収入を貯蓄に回すのは、家計管理として合理的で冷静な判断だ。あえて言えば、多くの国民は一時金で「貯蓄を買った」のだ。 「1回だけの10万円」のような給付は、受給者にとって安心感が乏しいし、従って前回と同様に支出を促す効果も乏しいはずだ。「子供の未来」などと言うなら、継続的な支援を考えるべきだ。 対案としては、「毎月1万円」のような給付が考えられる。例えば国民年金の保険料を全額一般会計負担(税負担)にすると、低所得な現役世代には苦しい毎月1万6610円の支払いがなくなって、「手取り収入」が将来にわたって増えることが予想できる。 自民党の総裁選で、河野太郎候補がこれに近い案を言っていたが、現役世代の負担軽減を十分訴えなかった点が失敗であったように思う。この他に、NHKの受信料なども所得にかかわらず一律に徴収される定額の負担なので、こうした徴収を止めて全額税負担にすると、国民に一律の給付を行ったのと同様の効果が生じる。 国民年金の保険料もNHKの受信料も、徴収のために多大なコストと手間が掛かっていて、現実的に不払いの問題がある。これらを全額税負担にすることの公平性確保と行政効率を改善する効果は圧倒的だし、デジタル化が遅れているわが国でも十分実現可能だ』、「国民年金の保険料もNHKの受信料も、徴収のために多大なコストと手間が掛かっていて、現実的に不払いの問題がある。これらを全額税負担にすることの公平性確保と行政効率を改善する効果は圧倒的だし、デジタル化が遅れているわが国でも十分実現可能だ」、同感である。
・『選挙のたびのバラマキが定着しないか? 残念すぎるリスクシナリオ  先に述べたように、現金を一律に給付するという政策自体は悪くないし、国民にも効果が分かりやすい。しかし、いささか心配なのは、この政策が国政選挙の度に繰り返されるのではないかという可能性だ。 選挙の都度行う一時金のバラマキ政策は、政治家にとって訴える政策があって好都合だろうし、財務省にとってもその都度政権と駆け引きができる材料を持つことができるので案外悪くない話ではないか。 しかし国民にとって、将来が予測できる継続的・安定的なサポートではないので「安心」への効果が乏しく、消費支出にもつながりにくいことは、前述の通りだ。 政治家は選挙のたびに一時的なバラマキを競い、有権者はバラマキをおねだりする、というような構図が繰り返されるのだとすると、わが国の政治的な将来は残念すぎる』、「選挙の都度行う一時金のバラマキ政策は、政治家にとって訴える政策があって好都合だろうし、財務省にとってもその都度政権と駆け引きができる材料を持つことができるので案外悪くない話ではないか」、ではあっても、こうした政治の劣化は出来れば避けるべきだろう。

第三に、10月18日付けNewsweek日本版が掲載した財務省出身で慶応義塾大学准教授の小幡 績氏による「今、本当に必要な経済政策を提案する」を紹介しよう。
https://m.newsweekjapan.jp/obata/2021/10/post-73_1.php
・『<景気対策は必要ない。コロナの反動需要で景気はこれからますます良くなるからだ(そのカネは、いずれ世界的スタグフレーションがやってきたときに必要になる)。それよりも、今や中国や韓国にも抜かれてしまった長期的な人と教育への投資を急がなければならない> 現在、各政党から出されている公約の経済政策の酷さは惨憺たるものだ。これは既に議論したので、今日は、では何をするべきか、を提案しよう。 まず、大前提として、景気対策は一切要らない。なぜなら、現在、景気は良いからであり、今後、さらに良くなるからだ。 世界的にも、コロナショックへの財政金融政策の総動員をしたところへ、コロナから回復して、一気に反動需要が出てきて、世界が21世紀最高の好景気となった。日本はショックも小さく反動も小さいが、それでも景気は良い。しかも、この8月9月の感染が日本では一番の感染者数だったので、一時的に落ち込んだが、日本の消費の反動的な増加はこれからだ。 だから、景気はさらに良くなる。 景気対策のカネがあれば、それは、来年以降、反動需要増加がピークアウトし、世界的なインフレと不況(いわゆるスタグフレーション)がやって来た時に使うべきである。それまで景気対策のカネは取っておくべきだ。 今景気対策をするとむしろ過熱しているところにさらに過熱させるのでマイナスですらある。 そもそも、コロナで経済はまったく傷んでいない。 傷んでいるのは、経済ではなく社会だ』、「コロナで経済はまったく傷んでいない。 傷んでいるのは、経済ではなく社会だ」、経済については強気なようだ。
・『バラまきでは困った人も救われない  経済的なショックは局部に集中している。特定の業界およびそれに関連する小規模の企業、自営業者だ。傷んだ彼らを、救うためには経済対策では効果がない。ましてや景気対策では、傷んでない、力が残っている強い企業にほとんどかっさらわれる。 必要なのは、経済対策ではなく、社会対策だ。 特定のセクターが公共性のあるセクターであれば、再建を支援する。小企業、個人事業主であれば、もともとの廃業タイミングが早まった企業・事業者が多いから、彼らの廃業を支援する。 廃業手当を失業保険と生活保護の両方の要素を含んだものとして支援する。このシステムを作る。10万円をすべての国民にバラまいても、彼らは救われない。 さて、では、何をするか。 今述べたように、日本に必要なのは、短期の景気対策、経済対策ではない。長期の経済基盤立て直しに全勢力を集中すべきである。 長期の経済基盤とは、人に尽きる。 経済の基盤は人材と社会であり、社会とは人である。 したがって、二重の意味で人がすべてなのである。 人を育てるのは教育、教育となっても、政治家とエコノミスト達は、短期の政策しか考えない。大学院、研究機関への資金注入、研究基金の設立。二重の意味で誤りだ。 第一に、金を投入していないから人材が育たない、という考えが誤りだ。金よりも先に人だ。 人を育てるのは、金ではなく人が必要だ。人が人を育てる。サッカーやバスケットでは、指導者の重要性が認識され、優れた指導者であれば、金に糸目をつけずに、人を世界中からスカウトするのに、学校の教師あるいは大学で研究を指導するよき研究者かつ教育者である人材の獲得にはそれほど注力しない。) 日本は、研究資金は足りないが、その理由は、人の数の不足、質の低下である。カネがないから人がないというのは結果論であり、鶏と卵ではなく、絶対的に人が先である。人がいれば、必ず金はやってくる。そして、研究者業界における最大の問題は、人材の層が圧倒的に薄いことである。 優れた人はいる。しかし、数が少ない。彼らが研究も引っ張り、大学院教育、大学教育も引っ張り、政策関係、政治的なこともしないといけない。無理だ。 いわゆる理科系とは異なるが、経済学でいえば、米国が圧倒的にレベルが高いが、トップもすごいが、本質は層の厚さである。とことん厚い。大学に籠って基礎的な理論をやり続ける人、応用分野で実業界ともやり取りする人、グーグル、マイクロソフトでも研究者、アドバイザーになる人、ワシントンで政権に入る人、シンクタンクに一時的に身を置く人、IMFエコノミストになる人、いろんな人がいるが、日本は、要はこれらを一人でやらないといけない。その結果、すべてが薄くなる。 さらに悪いことに、今後進むと思われるのが、政策マーケットに優秀な学者が入ってこなくなることだ。あまりに政治による経済政策は酷い。他の科学技術政策も酷いものが多い。政治のプロセスはあまりに前時代的だ。時間もエネルギーも取られ過ぎる。すべての研究者は気づいていたが、国のためと思い我慢してきた。その限界を今確実に超えつつある。 層を厚くするには、多くの研究者が必要だ。そして、その研究者を雇う雇い主が必要である。大学の体制にも問題があるが、最大の問題は、社会が、学者、研究者というものを軽視していることだ。企業は一部の研究職を除くと、研究者、博士号を持った人々を評価しない。修士号ですらそうだ。私の学校でMBAをとっても、評価されない。学部卒業生と同じ扱いである。むしろ学部生が好まれる』、強気の景気判断を前提にするので、「日本に必要なのは、短期の景気対策、経済対策ではない。長期の経済基盤立て直しに全勢力を集中すべきである。 長期の経済基盤とは、人に尽きる」、「人を育てるのは、金ではなく人が必要だ」、「研究者業界における最大の問題は、人材の層が圧倒的に薄いことである」、「最大の問題は、社会が、学者、研究者というものを軽視していることだ」、なるほど。
・『海外のMBAだけを英語のために採用する日本企業  私の学校のMBAは駄目で、米国のMBAなら雇うのだが、それは英語力を評価しているだけだ。教育自体は評価されない。皮肉なことに、日本のMBAを評価してくれるのは、外資系ばかりだ。日本企業の考え方が間違っているのである。 実社会では、博士は頭でっかちで使えない、というが、それは社会の側の問題だ。 日本企業が博士を重視しないのは、社会そのものが学問を軽視しているからである。政策決定でも問題になっているが、科学的分析、学問の専門家の意見よりも、政治的都合、雰囲気、そして、根拠のない感覚、イメージで政策が決まっている。これは世界特有の現象だ。 韓国に日本が差をつけられた、ということが しばしば話題になるが、このひとつの理由は、韓国は、学問を重視する。ソウル大学の経済学部の教授は歴史的に大臣になることも多かった。そして、最大の企業サムソンが博士号を最重要視したことで、さらに加速した。土壌には、学問に敬意を持った社会があり、そして、企業が実際に博士を要求した。これで、すべての分野の学者のレベルも実業界の科学的な経営レベルも上がったのだ。 日本の研究者は確かに研究しかできない雰囲気の人も多い。しかし、それは、研究が直接かかわる領域でしか、就職ができないからだ。社会が幅広く、博士、研究者を評価するようになり、いろいろな活躍の場ができれば、彼らの柔軟性、そして人材の多様性は育っていく。 同様な問題は、大学・大学院という研究の領域と同様に、初等教育、いや幼稚園、小中高、すべてに当てはまる。 経済対策と称して、子供1人に10万円配る。社会政策、若年層への社会福祉と称して、高校の授業料の無料化政策を実施する。 まったく間違いだ。 必要なのは、無料の教育ではなく、良い教育なのだ。安い教育を提供するのではなく、質の高い教育を提供することが唯一最大の公的教育の役割である。 低所得者への支援は別の形でいくらでもできる。教育費が高ければ、奨学金を充実させるのが一番だ。 政府、公的セクターにしかできないのは、質の高い公立学校を幼稚園、小中高に提供することだ。 さらに、最悪なことに、小中学校教育への投資の最大のものは、コロナ対応、オンライン授業にかこつけて、ICT、要は、カネを使ったモノの投入なのである。 180度間違っている』、「日本企業が博士を重視しないのは、社会そのものが学問を軽視しているからである。政策決定でも問題になっているが、科学的分析、学問の専門家の意見よりも、政治的都合、雰囲気、そして、根拠のない感覚、イメージで政策が決まっている」、「必要なのは、無料の教育ではなく、良い教育なのだ。安い教育を提供するのではなく、質の高い教育を提供することが唯一最大の公的教育の役割」、日本社会の高いハードルに相当頭にきているようだ。
・『ICT化より教師の質  教師の質を上げることだ。それがすべてである。 そしてある程度の人員の増加は必要で、かつ、部活動などの課外教育は、外の力を使い、学校の先生には、もっと授業そのものにエネルギーを注げる環境を作る。劣悪な労働時間を解消する。そうすれば、給料をそれほど上げなくても、人材は集まるし、何より優秀な人、教育に意欲のある人が定着するはずだ。 さらに重要なのは、教師を育てる教師を育てることである。 医者もそうだが、学校の教師はあまりに酷い。教員免許を取れば、その後は、形式的な研修があるばかりだ。これは、メディアでも話題になったが、結果として逆の方向に向かっている。研修がなくなる方向である。 そうではない。 無駄な研修はなくし、重要な質の高い教師への人的資本投資を行うことが必要だ。教員免許を与えた後の育て方も問題で、今回は詳細には議論できないが、チーム制を設け、チームで学級、学年を担当することが必要だ。その中で、若い先生は、中堅、ベテランのいろんな先生から吸収できる。行っている学校も一部にあるが、国を挙げて、よい教師の育て方の試行錯誤に投資すべきだ。 そして、無駄なお役所の書類だけの形式だけの中央からの監視は減らすべきだ。ただペーパーワークが増えて、教師が生徒に向き合う時間、授業の準備、改善に投資する時間を削っているだけだ。) ここでも再度、社会の問題が出てくる。 実は、日本は、世界的に、少なくともアジアの中では、もっとも教育に関心のない社会である。受験戦争は低年齢化しているが、これは楽な教育を受けるための手段だ。高校生で苦労しないようにと、要は楽に学校を乗り切り、良い学歴を身につければよい、という社会の教育の中身への無関心がある。これは一部では、改善の動きも見られるが、まだまだ少数派だ。 それは、伝統的に、この70年、教育を軽視してしまう社会になったことが根本にある。 アジアのほかの国の受験戦争は酷いほど激しいし、大学、大学院への進学もアジアの親たちは非常に熱心だ。 この差は決定的だ。中国、韓国に、人材の質でも抜かれる日は遠くない。いやすでに抜かれていると思う。 日本が経済成長するためには、人材が必要だ。科学技術の発展も要は人だ。そして、そのために、大学などの研究機関にただ金をつぎ込むのは間違っており、時間をかけて人を育てることが必要だ。そして、より有効なのは、より低年齢での幅広い層への基礎教育である。 これが、日本の学校関係への投資の第二の誤り、最大の誤りだ。 手間と金は初等教育に重点をおくべきだ。幼児教育へも将来は広げるべきだ。公的教育にできることは、基礎力、基礎的な思考力、柔軟性、多様な発想をもたらす基礎的な人格形成が最大、唯一のことであり、社会において最重要なことだ。 経済政策の金、エネルギーをここに集中的に投入すべきだ』、「手間と金は初等教育に重点をおくべきだ。幼児教育へも将来は広げるべきだ。公的教育にできることは、基礎力、基礎的な思考力、柔軟性、多様な発想をもたらす基礎的な人格形成が最大、唯一のことであり、社会において最重要なことだ」、小幡氏の見方は1つの参考になる。
・『子供は日本の隅々で育つのがいい  そして、最後に、国の基礎力を挙げるための教育は多様性、深みを社会にもたらすことであり、そのためには、東京や大都市での教育よりも、様々な地域で育つことが必要で、それぞれの地域で、教育をすることが重要だ。地方創生ではなく、現在の全国の各地域で、子供を地域社会で育てることが、日本社会の長期的な多様性の維持、創造性の発揮に大きく貢献、いや必須のはずだ。そのために、子育て、学校教育は東京などの大都市よりも地方の環境(自然だけでなく、教育者の質という面で)が優れているという状況を生み出すための国家的な政策が必要だ。教育中心の地方創生(言葉は嫌いだが、一般に言われている)政策が必要なのだ。これは、また別の機会に議論したい』、「子供は日本の隅々で育つのがいい」、1つのアイデアではあるが、筆者は幼児教育には素人なので、唐突な感が否めない。「教育中心の地方創生」を今後、さらに取上げるのだろうか。
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電子政府(その5)(大前研一「デジタル庁が日本を変えるのは無理」 日本はIT人材の給料が安すぎる、行政のDXは風前のともしび デジタル庁が失敗するこれだけの理由、国政選挙がネット投票に変わらない ちょっとだけ怖い裏事情) [経済政策]

電子政府については、8月4日に取上げた。今日は、(その5)(大前研一「デジタル庁が日本を変えるのは無理」 日本はIT人材の給料が安すぎる、行政のDXは風前のともしび デジタル庁が失敗するこれだけの理由、国政選挙がネット投票に変わらない ちょっとだけ怖い裏事情)である。

先ずは、9月30日付けプレジデント 2021年10月15日号が掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「デジタル庁が日本を変えるのは無理」 日本はIT人材の給料が安すぎる」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/50316?page=1
・『デジタル庁トップすら人材がいない  2021年9月1日にデジタル庁が発足した。注目を集めていたデジタル庁トップ「デジタル監」には、これまで何人か候補者の名前が噂されていたが、結局、一橋大学名誉教授(経営学)の石倉洋子氏が就任した。 発足式で石倉氏は「(私は)デジタルの専門家でもエンジニアでもない」「Python(プログラミング言語)にもチャレンジしたが、今のところ挫折している状況」と発言し、話題になった。 デジタル庁のトップがデジタルについて理解していないのも問題だが、それ以上に問題なのは、自分の役割を正しく認識していないことだ。日本のデジタル政策を構想することがデジタル庁の役割であるはずが、自身のプログラミング学習歴の話(しかも中学生でもできるレベルで挫折)をしていて、デジタルで日本をどう変革するかという構想の話がない。幹部人事で迷走したデジタル庁が日本を変えることは無理だろう。 デジタル庁トップに日本人では適任者がいないように、実は企業もIT人材が不足している。日本のIT人材不足には、根深い問題があるのだ。 世界でIT人材といえば、アメリカのシリコンバレー、中国の深圳、インドのバンガロールやプネ、ハイデラバードなどにはスーパースターのような優秀なエンジニアがごまんといる。 しかし、日本のIT業界は、「多重下請け、低賃金の温床」が実情だ。大正時代に紡績工場で過酷な労働をしていた女性たちのルポ『女工哀史』のように、今のデジタル業界もまさに「ITエンジニア哀史」のような悲惨な状況なのだ。 日本には全国各地にプログラミングの専門学校があれば、大学の工学部にもプログラミング教育を前面に出しているところもある。しかし哀しいことに、そういったプログラミング学校を卒業しても、米中印のスーパースターのような構想力を持ったエンジニアになれず、日本独自の年功序列制度の末端に入ることになる。 日本のIT教育の問題点は、作りたいシステムを構想し、それをスペック(仕様)に書き出すということを教えていないことだ。作りたいシステムがないままに、プログラミングのルールばかりを勉強する。だから、人に言われたことをプログラミング(コーディング)するだけの人材しか育たず、「ITエンジニア哀史」の物語が生まれることになるのだ。このような人材は、世界では到底評価されない』、「デジタル庁」担当大臣だった平井卓也氏は小選挙区で落選、新任の牧島かれん氏は当選したようだ。「日本のIT教育の問題点は、作りたいシステムを構想し、それをスペック(仕様)に書き出すということを教えていないことだ。作りたいシステムがないままに、プログラミングのルールばかりを勉強する。だから、人に言われたことをプログラミング・・・するだけの人材しか育たず、「ITエンジニア哀史」の物語が生まれることになるのだ。このような人材は、世界では到底評価されない」、その通りだ。
・『アメリカは事業会社に優秀なIT人材がいる  事実、日本のIT人材の給料は低い。経済産業省によれば、日本のIT人材の平均年収は、20代で413万円、30代で526万円、40代で646万円、50代で754万円と、自分が専門とするシステムが古くなって活躍する場が減っても年功序列で給料は上がってくる。一方、成果主義の米国は20代の平均年収が1023万円と、日本の20代の2.5倍だ。30代が最も高くて1238万円。40代は1159万円、50代で1041万円と年齢が上がっていくと徐々に下がっていくが、いずれの年代も日本よりもはるかに高給取りだ』、「日本」は単なるプログラマーなので、安いのは当然だ。
・『日米のIT人材の年代別平均年収  また、日本のIT人材はIT企業に集中しすぎだというデータもある。米国はIT企業にいるIT人材はわずか35%で、非IT企業にいるIT人材は65%だ。一方で、日本は72%ものIT人材がIT企業におり、非IT企業には28%しかIT人材がいない。 一例を挙げれば、ニューヨークにあるゴールドマン・サックス証券本社は、最盛期の2000年に600人のトレーダーが在籍していたが、今はたった2人しか残っていない。代わりにコンピュータ・エンジニアを大量採用し、200人で同じ量の仕事をしている。つまり、生産性を3倍向上させたわけだ。1人で3人分の成果を生み出すなら、給料も高くなるのは当たり前だ。 一方で、日本は非IT企業にIT人材がいないから、システム開発は外注することになる。外注するにしても、どういうシステムを作るのかというスペックが書けるレベルのIT人材が社内にいない。 会社の中に“情シス”などと呼ばれるシステム部門はあっても、彼らの仕事はベンダー選びにすぎない。ITコンサルタントやベンダーの社員を自社に呼んできて「ここで机を並べて働けば、うちの業務や管理の仕組みが理解できる。常駐しながらわが社に最適のシステムを提案してくれ」とベンダーに頼るのだ。発注側には、はじめから自分たちで必要なシステムを企画するつもりがない。 この仕様書作成の期間に半年、1年とかかることもある。システムの規模によっては、30人単位の派遣になるから、日本のITベンダーはいわば“ヒト入れ業”だ。人海戦術でシステムが構築されていくのだ。 それでシステムができたと思っても、発注側はシステムを評価する力もないから、そのまま運用を始めてしまう。実際に使い始めると営業などの現場から次々と改善要望のクレームが集まる。それを情シスはリストアップして、ベンダーに対して「お金はたくさん払っているから直してくれ」と、追加料金なしで修正事項をぶん投げるのだ。ベンダー側も、不満はあってもお客様に対してNOとは言えないから、“サービス残業”をして徹夜で修正作業に取り掛かるのだ。 こうしてカスタマイズを重ねていくと、その会社独自のシステムができあがる。開発したベンダー以外では、もう改修ができないほどに作り込まれるのだ。運用し始めたが最後、途中で「このベンダーはやめて別のベンダーに乗り換えよう」と思っても、社内常駐からやり直しで多額のコストがまた必要だ。そのため不満だらけのシステムを使い続けなければならず、ベトナム戦争のように泥沼化していくのだ。 この最たる例が、日本の行政だ。12省庁・47都道府県・1718市町村がそれぞれバラバラにシステムを開発しており、どれも開発ベンダー以外は改修できないくらいに作り込まれてしまっている。行政のシステムやデータベースは1つでいいので、この問題にデジタル庁は取り組む必要があるのだ。 しかし、IT企業の社長と頻繁に会食しているだけの自称「IT通」デジタル大臣と、デジタルの専門家でないデジタル監は、使い勝手が悪い「マイナンバー制度」を改修することしか頭にない。日本政府も、日本企業と同じように自治体別、省庁別に泥沼にはまっているのだ(デジタル庁が作るべき国民データベースについては28年前の拙著『新・大前研一レポート』にて詳述)。 アメリカ企業やインド企業であれば、発注側もカーネギー・メロン大学の提唱する厳格なシステム構築の手法を用いて(CMMIレベル5ベースの)スペックを書ける優秀な人材を抱えているから、このような問題はまず起こらない。日本はプロジェクトマネジメントをするのはITコンサルタントやベンダー側だが、アメリカ企業なら発注側にしっかりプロジェクトマネジメントできる人材がいるのだ』、「アメリカ企業なら発注側にしっかりプロジェクトマネジメントできる人材がいる」、うらやましい限りだ。
・『システムがわかる人が経営者になれ  経営者にとって、今やプログラミング思考は必須科目だ。自分のアイデアをどうシステム化するのかを語れることが重要で、優れた経営者たちはプログラミング思考を学び、挫折することなく習得している。 例えば、日本交通の川鍋一朗会長。彼は日本初のタクシー配車システム「日本交通タクシー配車アプリ」(後の「ジャパンタクシー」、現在「GO」)の原型を構築した。このシステムによって、タクシーをスマホで呼ぶことができるし、タブレット端末をタクシーに設置することでキャッシュレス支払いに対応し、乗客の属性に合わせた動画広告配信が可能となり、タクシーに新しい価値を生み出すことに成功した』、「日本交通の川鍋一朗会長」が「日本初のタクシー配車システム・・・の原型を構築した」、大したものだ。
・『彼らのような人材が、本当の「DX人材」  川鍋会長はアメリカでウーバーが登場したとき、「このままではタクシー業界は危ない」と危機感を持ったそうだ。そこで、プログラミングスクールに通ってシステム開発を進めたという。 2020年末にIPOをし、ロボアドバイザー投資事業で業界断トツのウェルスナビ柴山和久社長も、社長自らシステム開発をした経営者だ。柴山社長は、アメリカの家庭では当たり前のように資産運用がされていて、アメリカ人の妻の親は自分の親より資産が10倍もあったことに衝撃を覚えたことから、日本の働く世代のための資産運用サービスが必要だとして起業。自ら(川鍋氏と同じ)プログラミングスクールに通って、ロボアドバイザーによる資産運用システムの原型を構築した。 この2人はともに文系出身だが、見事にプログラミング思考を身につけた経営者だ。経営者の頭の中にある構想をシステムに落とし込むことできる、彼らのような人材が、本当の「DX人材」なのだ。 日本の将来を考えれば、システムがわかる人間が経営者になったほうが早いだろう。(日本では比較的人材開発がうまくいっている)ゲーム業界と同じように彼らに早めに経営を教えて、起業させる仕組みが重要である』、「プログラミングができる中高生を「ITエンジニア哀史」の世界に送り込むのもやめるべきだ」、「彼らに早めに経営を教えて、起業させる仕組みが重要である」、同感である。

次に、10月14日付け日経ビジネスオンラインが掲載した日経クロステック/日経コンピュータ編集長の木村 岳史氏による「行政のDXは風前のともしび、デジタル庁が失敗するこれだけの理由」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00322/091400014/
・『デジタル庁が2021年9月1日に発足したことで、行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)はうまくいくだろうか――。そう人から尋ねられたら、私はちゅうちょなく「駄目でしょ」と答える。変革の志に燃えてデジタル庁に集った人たちには申し訳ないが、行政のDXはほぼ無理だ。 「言い出しっぺ」の菅義偉首相がデジタル庁の発足直後に突然、退陣を表明したからこんな話をしているわけではない。菅首相であろうと新首相であろうと、政治家が「デジタル庁をつくっても行政のDXは不可能に近い」という構造問題を深く認識するはずがないからヤバいのだ。深く認識したとしても、これから説明するこの構造問題を解決し、行政のDXを完遂するのは、目まいがするほど困難ではあるが。 「おやおや、デジタル庁が発足した途端、おとしめるつもりだな。木村がやりそうなことだ」と、私を目の敵にする一部のIT関係者が言い出しそうだが、それは違うからな。当事者(当然、国民も当事者)が「ほぼ無理」という現実を認識しているかどうかで、結果は多少なりとも変わってくる。どんなことでも、結果はゼロかイチではない。行政のDXも成功か失敗かの二者択一ではない。目まいがするほど困難であるという認識が広く共有されれば、少しはましな方向に進むはずである。 さて本題に入る前に、読者にこんな謎をかけてみよう。お分かりになるだろうか。「デジタル庁ができたことで行政のDXはうまくいくか」と聞かれたら、私は「駄目でしょ」と答える。だが「行政のDXがうまくいくか、いかないかを賭けるとして、あなたはうまくいかないほうに賭けるか」と聞かれたら、私は「絶対にそんなばかげた賭けはしない」と答える。その賭けがたとえ合法であったとしても、絶対に負けるからである。さて、なぜでしょう。 答えは実に簡単だ。「絶対に成功したことになる」からだ。行政のDXの内実がどんなに悲惨なものであったとしても、行政のDXは成功裏に完遂したことになるのである。別に首相やデジタル相ら政治家だけが「成功した! 成功した!」と騒ぐわけではないぞ。「デジタル化かDXか何か知らんが、そんなことに付き合えないぞ」と足を引っ張っていた抵抗勢力の役人も「成功した」と言い出す。「うまくいかなかった」と失意に沈むデジタル庁の担当者も「成功だ」と語るだろう。 この現象は、民間の企業でおなじみの光景だ。ERP(統合基幹業務システム)導入による業務改革とか、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)など過去の取り組みの多くは皆、壮絶に破綻した。でも、関係者は誰も彼も「成功裏に完遂した」と口裏を合わせ、厚かましくもメディアに成功事例として登場したりした。ただ、これは当たり前である。「失敗した」と正直に話すアホウはどこにもいない。口裏を合わせておけば、ほぼバレないからな。行政のDXも同じ。だから、先ほどの賭けには勝てないのだ』、「「行政のDXがうまくいくか、いかないかを賭けるとして、あなたはうまくいかないほうに賭けるか」と聞かれたら、私は「絶対にそんなばかげた賭けはしない」と答える・・・絶対に負けるからである。さて、なぜでしょう。 答えは実に簡単だ。「絶対に成功したことになる」からだ。行政のDXの内実がどんなに悲惨なものであったとしても、行政のDXは成功裏に完遂したことになるのである」、「この現象は、民間の企業でおなじみの光景だ。ERP・・・導入による業務改革とか、BPR・・・など過去の取り組みの多くは皆、壮絶に破綻した。でも、関係者は誰も彼も「成功裏に完遂した」と口裏を合わせ、厚かましくもメディアに成功事例として登場したりした」、官民を問わず、人間の性なのかも知れない。
・『霞が関では「DX」と「行政改革」は別概念  技術者の読者、ひょっとしたらデジタル庁に関係する読者から「いや、それは違う。バレないはずがない。システム開発に失敗したら断罪されるではないか」といった反論が出るかもしれない。だが、それは勘違いだ。私が言っているのは行政のDXであって、個々のシステム開発の話ではない。DXを単なるデジタル化、システム化の問題に矮小(わいしょう)化して論じてはいけない。 ただ、行政のDXを単なるデジタル化の問題として捉えてしまうのは、仕方がない面もある。何度も言っているように、DXとは「デジタル(=IT)を活用したビジネス構造の変革」だ。広い意味では行政機関の業務も「ビジネス」なので、行政のDXもこの定義で問題ないのだが、もう少し行政寄りにカスタマイズしてみよう。すると「デジタルを活用した行政改革」となる。ところが不思議なことに、霞が関かいわいではDXと行政改革は別の概念なのである。 何でそんなことが言えるのかというと、デジタル改革相(デジタル庁発足後は「デジタル相」)と行政改革相の2人の大臣がいるからだ。大臣が別にいるということは、担当する役人らも別だし、そもそもデジタル改革(DX)と行政改革が別概念であることを示している。これは本当にナンセンスな話である。行政改革は省庁再編など「組織に手を突っ込む」というニュアンスが強いものの、デジタル革命の世なのに「デジタルを前提としない行政改革」なんてあり得るのだろうか。 いずれにせよ行政改革とは別概念なので、行政のDXではDXの魂であるはずの「X」、つまり「トランスフォーメーション=変革」の影が薄くなる。実際、発足したデジタル庁の役割を見ると「行政のDXを担う中核組織にはなり得ないよね」という感がある。そういえば、この「極言暴論」と対をなす私のコラム「極言正論」の記事で、国の行政機関を巨大企業グループと見立てると、デジタル庁はその企業グループの持ち株会社に設置されたIT部門に相当することを示した。 本当に、デジタル庁は持ち株会社に設置されたIT部門とそっくりなのだ。そもそもデジタル庁を設置した問題意識からして、企業のそれと同じだ。従来はグループ会社に相当する各省庁で独自にシステムを構築・運用してきたため、省庁間でのデータ連係ができていなかった。しかも各省庁のIT部門には人材が不足し、システム開発などはITベンダー任せ。ITベンダーに支払う料金が適正かどうかも不透明だった。顧客である国民に向けたシステムも各省庁によってバラバラで、使い勝手の悪い代物だった。 デジタル庁はこの問題の打開を図る。まさに持ち株会社にIT部門を設置するのと同様の発想で、行政のデジタル/ITに関する権限の多くをデジタル庁に集約したわけだ。しかも、システム内製化などのためにIT人材を中途採用するのも、DXを推進しようとする企業の取り組みと同じだ。さらに「サプライチェーンを構成する企業」とのデータ連係などのために、そうした「企業」のシステムの標準化などにも手を伸ばす。何の話かと言うと、デジタル庁が主導する地方自治体のシステムの標準化、クラウド化の件だ。 どれもこれも日本企業が取り組んできた、あるいは取り組みつつあるIT部門改革、システム開発運用体制の見直し、IT予算の一元化などとうり二つである。だから、それ自体は悪くない。どんどん推進すべきことでもある。だが、少しおかしくないかい。極言正論の記事でも指摘したが、これだけなら「デジタルによる変革(行政改革)」ではなく「行政におけるデジタル分野(システム関連)の変革」にすぎない』、「デジタル改革相・・・と行政改革相の2人の大臣がいるからだ。大臣が別にいるということは、担当する役人らも別だし、そもそもデジタル改革(DX)と行政改革が別概念であることを示している。これは本当にナンセンスな話である。行政改革は省庁再編など「組織に手を突っ込む」というニュアンスが強いものの、デジタル革命の世なのに「デジタルを前提としない行政改革」なんてあり得るのだろうか」、確かに一体であるべきものだ。
・『デジタル庁はIT絡みの勧告権しかない  「行政におけるシステム関連の変革」にすぎないにもかかわらず、デジタル庁が主導して行政のDXを推進するという。とても奇妙なロジックだが、恐らく次のようなストーリーだろう。政府機関や自治体のシステム(特に基幹システム)の標準化や再構築を通じて、役所の業務の変革につなげる。つまり、システムを業務に合わせるのではなく、システムに業務を合わせるというやつだ。 読者の中には「あぁ、駄目だ、こりゃ」と思った人が大勢いるはずだ。その通り。駄目だ、こりゃ、である。これはまさに民間の企業におけるしかばね累々の取り組みと同じだ。先ほども述べたERP導入による業務改革とか、システム刷新に伴うBPRの類いだ。IT部門が主導して「全社的に業務を抜本的に変革する」と大風呂敷を広げたものの、利用部門から「ふざけんな。それじゃ業務が回らないじゃないか」とねじ込まれて頓挫、という例のパターンである。 で、どうなったかというと、例えばERP導入による業務改革の場合、アドオンの山をつくることになる。旧来の基幹システムの機能のうち「これがないと業務が回らない」との利用部門のごり押しに負けてアドオンをつくっているうちに、何のことはない、旧システムとほとんど変わらないシステム(ERP+アドオン)が出来上がり、業務改革って何だっけ、という状態になる。もちろん多少の「改革」はやるが、それをもって「改革は成功した」とIT部門や利用部門、そしてITベンダーは口裏を合わせる。 もちろん最近では、企業の経営者がこの問題の重大性に気づき、基幹システム刷新をDXの一環として位置付けるケースも増えている。で、その際には「変革が主」となる。要は、業務をERPなどのシステムに合わせる形で改革を遂行するわけだ。行政機関のシステム刷新もそうなればよいが、それは期待できない。各省庁の大臣や自治体の首長のほとんどは、国民、市民向けのシステムやアプリには多少なりとも関心を持つだろうが、バックヤードの基幹システムなど知ったことではないからだ。 「デジタル庁にはIT予算の権限や監督権があるから、何とかなるんじゃないか」と考える人はまさかいないと思うが、念のために書いておく。デジタル庁が持つのはITに関わる権限だけだからな。他の役所の業務に手を突っ込む権限はない。「予算で縛って余計に機能をつくらせなければよいのでは」というのも甘い。各役所にへばりついている人月商売のITベンダーが、要望に合わせたシステムを予算の枠内でつくるからだ。赤字になってもシステム運用段階で回収すればよい。デジタル庁はそこまで目を光らせることができるだろうか。 特に危ういのは、デジタル庁から「遠い」自治体の基幹システムだ。各自治体のシステムを標準化、クラウド化を推進するという。政府機関のシステムともども、自治体のシステムもデータ連係できるようにしようというわけだが、それだけのために膨大なお金をかける。データ連係できるようにデータ項目やインターフェースなどを標準化したら、後は自治体の利用部門の要望に応じて、旧システムの機能をこれでもかとつくり込む。担当するITベンダーはそれこそ笑いが止まらないだろう。 「これまで役所のシステムは縦割りだったのだから、データを連係できるようになるだけでも画期的なのではないか」との意見もあるかもしれないが、それは違う。膨大なお金、つまり税金をかけたのに、データ連係という行政システムの最低限の要件だけを満たした、代わり映えのしないシステムが出来上がるだけだぞ。行政のDX、つまり行政改革は全く進まないのに、誰もが「DXに成功した」と口裏を合わせる。今のところ、そんな結果しか見えてこない』、「膨大なお金、つまり税金をかけたのに、データ連係という行政システムの最低限の要件だけを満たした、代わり映えのしないシステムが出来上がるだけだぞ。行政のDX、つまり行政改革は全く進まないのに、誰もが「DXに成功した」と口裏を合わせる。今のところ、そんな結果しか見えてこない」、やれやれだ。
・『「世界最高水準」と自賛する電子政府ができても……  さて、ここまで書いてこなかったが、フロントエンドつまり国民とのインターフェースとなる「電子政府」や「デジタル・ガバメント」と呼ばれステムやアプリのほうはどうか。「行政におけるデジタル分野(システム関連)の変革」という矮小化されたDXを担うデジタル庁にとっては、ここが主戦場である。マイナンバーカードとの組み合わせで、国民がワンストップで行政手続きなどを行えるし、必要な行政サービスも迅速に受けられる。そんな電子政府がゴールだろう。 新型コロナウイルス禍の各種対策のためにつくったシステムは軒並み駄目だったが、デジタル庁がつくるシステムは少しはまともになるはずだ。なぜなら、コロナ禍対策のシステムは有事のシステムであり、これからつくるのはアフターコロナの平時のシステムだからだ。そもそも行政関連で有事のシステム構築はうまくいかない。急ぎ構築するのでバグが多いといった理由だけではない。コロナ禍などの有事では各省庁や各自治体の枠を超えた連携が必要になるにもかかわらず、縦割りでシステムをつくってしまうからだ。 2021年8月下旬に、自宅療養中のコロナ感染者が保健所から認識されずに亡くなるという「事件」があった。一義的には保健所のミスだが、行政の縦割りを前提にしたシステムが招いた悲劇だ。亡くなったこの方は厚生労働省の「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」に症状の悪化を訴える内容を入力していた。厚労働はHER-SYSについて「急変時に気づいてもらえないことがなくなり、きめ細かな安否確認を受けられるようになる」などとうたうが、紙で情報を管理していた保健所は気づかなかった。 一方、デジタル庁がつくる電子政府のシステムは、行政の縦割りを前提にしても問題が露見する可能性は低い。各省庁や各自治体のシステムがデータ連係できるようになれば、電子政府で受け付けた手続き申請を担当組織のシステムに送る仕組みなどを構築すればよい。「データを送ったので、後はそちらで処理をよろしく」というわけだ。もちろん担当する自治体などでは、対応する機能や業務フローを新たにつくらなければならないかもしれないが、何せ有事のシステムではないから対応を検討する時間はある。 かくして、省庁や自治体などの行政の縦割り構造や、それぞれの組織の業務のやり方に手を加えることなく、バックヤードの基幹システムの刷新などを担当するITベンダーを肥え太らせながら、「世界最高水準」と自賛するデジタル・ガバメントが出来上がるだろう。もちろん、各組織の非効率な業務はそのまま、頑強な組織の壁もそのままである。アフターコロナの平時が続けばよいが、再びコロナ禍級の災難に見舞われたとき、果たして変革なき縦割り行政のデジタル・ガバメントは適切な有事対応が可能になるのだろうか。 そもそも官庁や自治体の縦割り行政は大きな問題だ。特に複数の組織をまたぐ課題に対しては、権限争いや消極的権限争い(責任の押し付け合い)を繰り広げ、調整に時間がかかるうえに、思わぬ機能不全を引き起こす。だからこそ菅首相が「行政の縦割り打破」を唱えてきたわけだし、行政のDXの目標はそれでなければならないはずだ。つまりデジタルを活用し、官庁や自治体の壁を越えて政策や実務面で連携できる体制をつくるということだ。 というわけで「行政のDXは無理」との結論になる。ただ、これで終わるのは極言暴論といえども、あまりに無責任なので最後に提言をしておこう。まず行政のDXと行政改革という2つの概念を統一する。そのうえで、発足したばかりなのに恐縮だが、デジタル庁を改組して「デジタル行政改革庁」をつくる。「このままじゃ、まずいんじゃないか」と憂う、志のある官僚らも一本釣りで集める。で、「システムに業務を合わせろ」とか「組織の壁を越えて必要な体制をつくれ」といった強い勧告権を与える。 もちろん、デジタル革命の世にふさわしい行政の在り方を検討し、首相に提言する機能もデジタル行政改革庁のミッションとすればよい。これでどうだ。もちろん、新たな首相の強いリーダーシップが大前提ではあるが』、「亡くなったこの方は厚生労働省の「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム・・・に症状の悪化を訴える内容を入力していた。厚労働はHER-SYSについて「急変時に気づいてもらえないことがなくなり、きめ細かな安否確認を受けられるようになる」などとうたうが、紙で情報を管理していた保健所は気づかなかった」、「縦割りでシステム」が機能せず失敗した典型例だ。「デジタル庁を改組して「デジタル行政改革庁」をつくる。「このままじゃ、まずいんじゃないか」と憂う、志のある官僚らも一本釣りで集める。で、「システムに業務を合わせろ」とか「組織の壁を越えて必要な体制をつくれ」といった強い勧告権を与える。 もちろん、デジタル革命の世にふさわしい行政の在り方を検討し、首相に提言する機能もデジタル行政改革庁のミッションとすればよい」、なるほど、その通りなのだろう。

第三に、10月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「国政選挙がネット投票に変わらない、ちょっとだけ怖い裏事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/286046
・『ネット投票実現の問題点は全て克服できる  衆議院選挙の投票日もだんだん近づいてきました。少し想像していただきたいのですが、スマホで投票ができたら楽ですよね。なぜ日本はネット投票を導入しないのでしょうか? 実は、そこにはある理由が存在しているという話をします。 まずは表向きの話から。ネット投票が実現できたら基本的に良いことばかりです。何より投票が手軽になります。投票所に出かける必要がなくなりますから。そんなことから投票率が上がります。在外投票や障がい者の投票も便利になります。投票を通じて政治に参加する国民が増えることは、民主主義にとっては歓迎すべきことです。 そして、投開票に関わるコストは論理的には減ります。無効票も減り、開票スピードは劇的に上がります。もし投票手段をネット投票のみに限定したら、選挙の投票が20時に締め切られる日本の場合、20時から始まる選挙特番の冒頭で、全議席が確定することになります。 一方で、ネット投票を実現しようとすると問題点が存在します。 (1)個人情報をどう守るか? (2)システム障害が起きたらどうするか? (3)新たなタイプの選挙違反をどう防ぐか? (4)サイバー攻撃によって国政がゆがむリスクをどう防ぐか? (5)有権者がその選挙結果が公正であることをどう検証できるか? 重要なことは、これらの問題点はすべて克服可能だという点です』、なるほど。
・『デジタル庁の発足、出口調査の徹底 法の整備で大半のトラブルは対応可能  1番目の問題は、そもそもこの10月にデジタル庁が発足した理由そのものです。これから5年以内に行政サービスでマイナンバーカードを便利に使えるように世の中の仕組みを一気呵成(かせい)に変えるというのがデジタル庁の存在意義なので、この記事ではそこは克服されることを前提に考えましょう。 2番目の問題ですが、システム障害が起きたら困ることはこの世の中には無数にあります。それでもデジタル社会では、銀行も鉄道の運行も病院のカルテもデジタル放送もすべてシステムは障害を克服しながら稼働を続けています。 メガバンクのシステム障害が起きる現代ですから、国政選挙がネット投票になれば何らかの障害が起きる状況もいつか発生するでしょう。ですから、「そうなったときにどうするのか?」のルールを決めておくことが大切です。最悪の場合、投票のやり直しを含めて、法改正をどうするのか、確かに検討項目は多いと思います。しかし、ネット投票が議論されはじめた2000年代とは違い、現在の情報通信インフラを前提にすればシステムの問題は解決可能な問題になっているはずです。 ひとつ飛んで、4番目の問題は本質的に重大です。システムインフラに携わっていらっしゃる方はよくご存じのように、インフラに対するサイバー攻撃は日常的に発生しています。もし某国が我が国の選挙システムに侵入して巧妙に選挙結果を書き換えたとしたら? それはどう防ぐことができるのでしょうか? 比較的起こりうるサイバー攻撃として有権者のパソコンやスマホをウイルス感染させて投票自体をゆがめられたことが選挙後にわかったとしたら? ないしは、その感染自体に誰も気づかなかったとしたら? この問題は五番目の問題と表裏の関係にあります。みんながAという候補者に投票したと思っているのに、結果としてBという候補者が圧勝したとします。紙の選挙であれば再開票を請求することができますが、ネット投票ならそれがありません。 理由もわからないとします。某国のウイルスが個人の投票をゆがめたのか、秘密裏に集計プログラムをB候補に書き換えたのか、それとも選挙集計プログラム自体に政府の陰謀があって、特定の候補の得票を上積みする秘密のコードが挿入されていたのか? そのような疑惑が無限に起こりうることを考えると、第三者による出口調査的なシステムが抑止力として、政府が運営するネット選挙システムとは別に存在すべきかもしれません。たとえば、NHKや大新聞からの「誰に投票しましたか?」という質問に有権者は積極的に回答するのがひとつの自衛策になります。もちろん、うそを言う人は一定数いるでしょうけれども、統計学的には大量のサンプルがあれば独自調査結果は実際の結果とかなりの確率で一致します。 ですから、どの調査を見てもA候補が当選しているのに、実際の選挙ではB候補が当選したとしたら、その選挙結果は「怪しい」と考えることができるわけです。 この問題の解決としては「ではどうするのか?」について、どのような法律を作るかが重要です。サイバー的な要素での不正が疑われるケースについて、プログラムのコードを検証したり、ウイルスの有無をチェックするよりも、実用的には「結果が疑わしいケースでは何らかの機関が再選挙を命じることができる」ようにするのが現実的かもしれません』、「第三者による出口調査的なシステムが抑止力として、政府が運営するネット選挙システムとは別に存在すべきかもしれません」、「実用的には「結果が疑わしいケースでは何らかの機関が再選挙を命じることができる」ようにするのが現実的かもしれません」、結構大変だ。
・『ネット投票を解禁した場合に起こりそうな新たな「選挙違反」とは?  残る問題としては、これは日本の社会的な問題だとも思うのですが、3番目のネット投票時代の新しい選挙違反への危惧が大きいかもしれません。 非常にわかりやすく例示すると、高齢者施設や障がい者施設で、運営者が入居者のスマホとマイナンバーカードを預かってしまい、勝手に投票したらどうするのか? という問題提起があります。実際に選挙になったら本当にそんな事件が起きそうです。 海外の事例では他人に投票されてしまった人も、後から自分で投票でき、かつ後から投票した票を有効票とするような仕組みが作られています。ただ、それだけではこの例で挙げたような弱者の票を奪う犯罪は防ぎきれません。となるとこの問題を解決するには、私は厳罰化しかないと思います。 そもそも、ネット犯罪は通常犯罪よりも手を染めやすい側面がある分、抑止力としての厳罰化が重要なのです。たとえばネット選挙での選挙違反は実刑でかつ凶悪犯と同等の刑罰になると決められ、それが周知されれば、そこまでして選挙違反に協力しようとする人は減るはずです。 さて、このようにして問題点を克服して、ネット選挙が導入されれば民主主義は一見、よくなりそうです。 日本では若者の投票率が低いことが社会問題だとされています。若者が収めた税金が高齢者の社会福祉にばかり使われているのは、投票率の高い有権者の方を政治家が向いているからだ、という説はそこそこ根拠のある説のようです。若者にとってもよりよい未来を望むのであれば、若者の投票率を上げるべきで、その手段としてネット投票は一番の解決策になるという意見は論理的に見えます。 実際、民主主義国家同士の比較で見ると日本は投票率が低い国のグループに入ります。いわゆる西側諸国であるOECD加盟国を例に取ると、オーストラリアの投票率は90%台、ベルギー、スウェーデン、トルコ、デンマークなどが80%台、ドイツ、イタリア、スペイン、カナダ、イギリスなどが60%台後半から70%台と高いのに対し、日本は50%台の下の方です。 そして、ネット投票の推進がこの状況を変えてくれそうなのですが、ここに新たな問題点として「が登場します』、「裏事情」とはどういうことだろう。
・『国政選挙がネット投票に変わらないちょっとだけ怖い裏事情  先にこの裏の事情を象徴する事実を紹介しておきましょう。技術的にはネット投票が実現できる社会が誕生しているのにもかかわらず、先進国中で国政選挙にネット投票を全面的に取り入れている事例が、いまだにエストニア1国しか存在しないのです。 もちろん国政選挙でもオーストラリアの一部の州で導入したとか、フランスでは在外フランス人の投票に導入したとか、部分的な事例は他にも存在しています。ほとんどの先進国で選挙制度のネット化に興味を示し、日本もそうですが地方自治体選挙での導入例は散見されているにもかかわらず、世界の潮流としてネット選挙へ突き進んでいる国がエストニアしかない。こういう問題にはそれなりの裏事情が存在しているものです。 ここから先は話が生々しくなるので、日本ではなく、日本と同じく投票率が50%台と先進国の中では比較的低いアメリカの事情をもとに、なぜアメリカが低い投票率を放置しているのか、そしてなぜ先進国がエストニアに倣わないのかを検討してみます。 アメリカの社会ドキュメンタリー番組で、選挙制度の問題は何度も題材として取り上げられています。アメリカでは州ごとに選挙制度が微妙に違い、その選挙制度は現職の議員が自分に有利な方向でルールを作る傾向があることが社会問題になっています。 たとえばアメリカ人が選挙に投票するためには登録をしなければならないのですが、その登録方法を不便で面倒にしておくと黒人の登録率が低くなる傾向があるといいます。あからさまにはそうは口に出さないのですが、保守系の政治家にとってはその方が有利だと考えて、不便な仕組みを変更しない。そして実際の選挙では現職の政治家が接戦を制するという結果になっている州がいくつも存在しているのです。 これはアメリカ全体の問題なのですが、政治家の対立軸は大きく保守と革新に分かれていて、世論調査では微妙に革新の方が多数派になるのですが、選挙では結果が拮抗している。この結果を引き起こしている一番の要因が選挙制度だと指摘されているのです。 そのような現職議員が、2007年から始まったエストニアのネット国政選挙から学んだことがあります。ネット選挙を導入したエストニアでは国政選挙に対する国民の投票行動が、がらりと変化しました。そして2003年までは第三党だった改革党が、2007年以降、4回の国政選挙ですべて第一党に躍進したのです。 「ネット選挙を導入すると、得票の傾向が大きく変わってしまう」 これが、ネット先進国エストニアが証明した、選挙のネット化の真実です。そしてこれはアメリカだけではなく、すべての国の現職議員にとって不都合な真実でした。 もちろん、状況証拠だけで証明することはできません。日本でもネット選挙の導入に向けて有識者会議は行われています。でも、そんな日本だけではなく、OECDに加盟する西側先進国でエストニア以外、ほとんどの国がネット国政選挙に踏み切らないことは事実です。そしてそのことと、選挙制度を決めるのが現職議員であるという当たり前の事実の間には、何やら深い因果関係がありそうだと私には見えるのです』、「ネット選挙を導入したエストニアでは国政選挙に対する国民の投票行動が、がらりと変化しました。そして2003年までは第三党だった改革党が、2007年以降、4回の国政選挙ですべて第一党に躍進したのです。 「ネット選挙を導入すると、得票の傾向が大きく変わってしまう」 これが、ネット先進国エストニアが証明した、選挙のネット化の真実です。そしてこれはアメリカだけではなく、すべての国の現職議員にとって不都合な真実でした」、「選挙制度を決めるのが現職議員である」、これでは「ネット選挙」が導入される可能性は限りなくゼロに近いようだ。 
タグ:(その5)(大前研一「デジタル庁が日本を変えるのは無理」 日本はIT人材の給料が安すぎる、行政のDXは風前のともしび デジタル庁が失敗するこれだけの理由、国政選挙がネット投票に変わらない ちょっとだけ怖い裏事情) 電子政府 プレジデント 2021年10月15日号 大前 研一 「大前研一「デジタル庁が日本を変えるのは無理」 日本はIT人材の給料が安すぎる」 「デジタル庁」担当大臣だった平井卓也氏は小選挙区で落選、新任の牧島かれん氏は当選したようだ。「日本のIT教育の問題点は、作りたいシステムを構想し、それをスペック(仕様)に書き出すということを教えていないことだ。作りたいシステムがないままに、プログラミングのルールばかりを勉強する。だから、人に言われたことをプログラミング・・・するだけの人材しか育たず、「ITエンジニア哀史」の物語が生まれることになるのだ。このような人材は、世界では到底評価されない」、その通りだ。 「アメリカ企業なら発注側にしっかりプロジェクトマネジメントできる人材がいる」、うらやましい限りだ。 「日本交通の川鍋一朗会長」が「日本初のタクシー配車システム・・・の原型を構築した」、大したものだ。 「日本」は単なるプログラマーなので、安いのは当然だ。 「プログラミングができる中高生を「ITエンジニア哀史」の世界に送り込むのもやめるべきだ」、「彼らに早めに経営を教えて、起業させる仕組みが重要である」、同感である。 日経ビジネスオンライン 木村 岳史 「行政のDXは風前のともしび、デジタル庁が失敗するこれだけの理由」 「「行政のDXがうまくいくか、いかないかを賭けるとして、あなたはうまくいかないほうに賭けるか」と聞かれたら、私は「絶対にそんなばかげた賭けはしない」と答える・・・絶対に負けるからである。さて、なぜでしょう。 答えは実に簡単だ。「絶対に成功したことになる」からだ。行政のDXの内実がどんなに悲惨なものであったとしても、行政のDXは成功裏に完遂したことになるのである」、「この現象は、民間の企業でおなじみの光景だ。ERP・・・導入による業務改革とか、BPR・・・など過去の取り組みの多くは皆、壮絶に破綻した。でも、 「デジタル改革相・・・と行政改革相の2人の大臣がいるからだ。大臣が別にいるということは、担当する役人らも別だし、そもそもデジタル改革(DX)と行政改革が別概念であることを示している。これは本当にナンセンスな話である。行政改革は省庁再編など「組織に手を突っ込む」というニュアンスが強いものの、デジタル革命の世なのに「デジタルを前提としない行政改革」なんてあり得るのだろうか」、確かに一体であるべきものだ。 「膨大なお金、つまり税金をかけたのに、データ連係という行政システムの最低限の要件だけを満たした、代わり映えのしないシステムが出来上がるだけだぞ。行政のDX、つまり行政改革は全く進まないのに、誰もが「DXに成功した」と口裏を合わせる。今のところ、そんな結果しか見えてこない」、やれやれだ。 「亡くなったこの方は厚生労働省の「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム・・・に症状の悪化を訴える内容を入力していた。厚労働はHER-SYSについて「急変時に気づいてもらえないことがなくなり、きめ細かな安否確認を受けられるようになる」などとうたうが、紙で情報を管理していた保健所は気づかなかった」、「縦割りでシステム」が機能せず失敗した典型例だ。「デジタル庁を改組して「デジタル行政改革庁」をつくる。「このままじゃ、まずいんじゃないか」と憂う、志のある官僚らも一本釣りで集める。で、「システムに業 ダイヤモンド・オンライン 鈴木貴博 「国政選挙がネット投票に変わらない、ちょっとだけ怖い裏事情」 「第三者による出口調査的なシステムが抑止力として、政府が運営するネット選挙システムとは別に存在すべきかもしれません」、「実用的には「結果が疑わしいケースでは何らかの機関が再選挙を命じることができる」ようにするのが現実的かもしれません」、結構大変だ。 「裏事情」とはどういうことだろう。 「ネット選挙を導入したエストニアでは国政選挙に対する国民の投票行動が、がらりと変化しました。そして2003年までは第三党だった改革党が、2007年以降、4回の国政選挙ですべて第一党に躍進したのです。 「ネット選挙を導入すると、得票の傾向が大きく変わってしまう」 これが、ネット先進国エストニアが証明した、選挙のネット化の真実です。そしてこれはアメリカだけではなく、すべての国の現職議員にとって不都合な真実でした」、「選挙制度を決めるのが現職議員である」、これでは「ネット選挙」が導入される可能性は限りなくゼロに
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働き方改革(その34)(サントリー新浪社長の「45歳定年説」はどこがダメか 山崎元の本質的考察、古参幹部が語る「それでもオフィスが重要」な理由 グーグル 社員14万人の「在宅勤務」で得た手応え、日本人が知らない「リモートワーク」不都合な真実 やはり「出社派」が出世!「日本特有の問題」は?) [経済政策]

働き方改革については、7月29日に取上げたが、今日は、(その34)(サントリー新浪社長の「45歳定年説」はどこがダメか 山崎元の本質的考察、古参幹部が語る「それでもオフィスが重要」な理由 グーグル 社員14万人の「在宅勤務」で得た手応え、日本人が知らない「リモートワーク」不都合な真実 やはり「出社派」が出世!「日本特有の問題」は?)である。

先ずは、9月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「サントリー新浪社長の「45歳定年説」はどこがダメか、山崎元の本質的考察」を紹介しよう。
・『サントリーホールディングスの新浪剛史社長が、「45歳定年制」の導入について提言したことが波紋を呼んでいる。この発言のどこが「ダメだった」のか、考えてみよう。そして、定年制を巡る問題の本質的な解決には、別の提案の仕方があると考えているので、そのアイディアもお目にかけたい』、鋭い山崎氏の主張とは、興味深そうだ。
・『新浪さん、「定年」という言葉はまずかった  サントリーホールディングスの新浪剛史社長が、「45歳定年制」の導入を提言して波紋を呼んでいる。今回は、職業人生における「45歳」の周辺について考えてみたい。 はじめに断っておくが、筆者は、新浪氏とかつて同じ会社で働いていたいわゆる「同期」であり、友人でもある。この事実は読者に隠さない。もちろん、だからといって、ここで彼のために一肌脱いで応援してやろうという趣旨で以下の文章を書くのではない。 率直に言うと、今回は「定年」という言葉の使い方が決定的にまずかった。 定年という言葉には、一律に年齢で区切って社員を辞めさせるイメージがつきまとう。そして、単にイメージだけでなく、現実に多くの会社にあって定年で雇用が打ち切られる。サラリーマンにとっては「期限を決められて職を失う時」が「定年」だ。 ただでさえ「人生100年時代」と言われて、長寿化に伴って長く働かなければ生活が成り立たないと思っているところに、定年を45歳まで繰り上げられるとする。平均的なサラリーマンにとって、これは「とんでもない事態」だ』、山崎氏が「新浪社長」と三菱商事で、「「同期」であり、友人でもある」、きちんと利益相反を避けてきちんと情報公開するのはさすがだ。
・『「稼ぎ時」の45歳に定年では社員にとって極端な不利益変更  さらに付け加えると、「45歳」は年功連動型の賃金制度が残る多くの日本企業にあって、サラリーマン人生の経済的収穫期のまっただ中だ。会社員の実感として、若い頃に低賃金で我慢して働いてきたのだから、キャリアの後半になる中年期に高い報酬をもらうのは当然だと思っているはずだ。これまでの制度を考えると、中年期を迎える社員の側に一定の期待を持つ権利はある。 一方、企業側の本音としては、中年期以降の年収が高い社員は、しばしば人件費に見合う貢献をしていないように見えることもあり、彼らを辞めさせてコストを下げたいはずだ。 新浪氏と私がかつて勤めていた大手総合商社のような会社では、「ウィンドウズ2000」(年収2000万円の窓際族という意味)などと陰で揶揄される中年社員がいるわけで、彼らに支払う人件費のコストは、経営者にとって頭の痛い問題だ。「45歳定年が実現できたら素晴らしい!」と思う経営者は少なくないだろう。 しかし、社員の側から見ると、それは極端な「不利益変更」に見える。給与カーブの設計を含む報酬制度全般の見直しや、セカンドキャリアに向けた支援措置などを会社が十分講じることを前提に、「45歳くらいで次のキャリアに歩み出す選択肢もある」という「職業人生・二期作の勧め」くらいのニュアンスで、サラリーマンの新しいキャリアプランを提案してみる――。それくらいの慎重さが必要だった。 しかし、そこまで丁寧に話すとしてもこの話題は、新浪氏の立場では「経営者側の露骨な本音だ」という印象を拭えなかったかもしれない』、年功賃金下では「45歳定年」はやはり「極端な「不利益変更」」だ。「ウィンドウズ2000」は若い頃の低賃金の埋め合わせで、今さらなくすのは信義則違反だ。
・『サラリーマンにとっての「45歳」の意味  今回、新浪氏が挙げた「45歳」という年齢は、ビジネスパーソンの人生を考える上で節目となりそうな、なかなかいいポイントを突いている。 個人差があると思うが、全く新しい仕事に取り組もうとする場合、45歳くらいからなら知力・体力にもまだ余裕があって一頑張りできそうだ。また、大まかには「60歳以降に、何をして、いつまで働き、どのくらい稼ぐか」というセカンドキャリアについて考え始めて、必要があれば具体的な準備を始めなければならない年齢のめどが「45歳」だと筆者は考えている。) 以下の図は、日本のサラリーマンの典型的なキャリア・プランニングとして考えておくといいと筆者が思う、年齢別の目標とアクションを描き込んだものだ。 (「年齢とキャリア・プランニング」の図はリンク先参照) 新しい分野でセカンドキャリアを得るためには、新しい仕事の「能力」と、その仕事を買ってくれる「顧客」の二つが必要であって、そのいずれの獲得にもそれなりに時間と努力を要する。 例えば大学の教師をやりたいと思えば、博士号を取るために社会人として大学院で勉強する期間が必要かもしれないし、博士号を取ったからといってすぐに教授のポストに就けるわけでもない。非常勤講師でも勤めながら、大学と人的なつながりを作り、ポストの空き待ちをしなければならない場合もあろう。税理士でも、コンサルタントでも、料理店のオーナーでも、それなりの準備期間が必要なはずだ。 また、これまでの延長線上にある仕事をする場合でも、ある程度の「学び直し」が必要になる場合が少なくない。職業にもよるが、古い知識やスキルのままでは、充実したセカンドキャリアを得ることは難しい』、「新しい分野でセカンドキャリアを得るためには、新しい仕事の「能力」と、その仕事を買ってくれる「顧客」の二つが必要であって、そのいずれの獲得にもそれなりに時間と努力を要する」、その通りだ。ただ、私の場合、それに気付くのが遅過ぎたようだ。
・『友人として新浪氏に伝えたいこと  なお、報道されている新浪氏の言葉を見ると、彼は、「45歳から準備をせよ」と言っているのではなくて、「ビジネスパーソンたる者は、45歳から新たなスタートを切れるように、20代、30代の頃から勉強して備えておけ」と言っている。 彼が三菱商事を辞めて、ローソンの社長に就いたのは44歳の時だったから、「45歳前後からなら、新天地で頑張れる(はずだ)」といった実感を自分の人生から得た可能性はある。さらに一歩進めて、45歳くらいをめどに「次の人生」への歩を促すくらいが、実は親切なのだと考えたかもしれない。 確かに、45歳くらいで過去のビジネス経験を生かしつつ、起業したり、スタートアップ企業に身を投じたりするビジネスパーソンが続々現れるなら、それは社会として素晴らしい。本人にも幸せな場合があるだろう。 ただし、中年期に経済的な収穫期を迎える日本企業の人事制度のままでは、離職者にとって「機会費用」が大きすぎる(捨てる報酬が大きい)。だから、「45歳で定年にしてしまえばいい」ということなのかもしれないが、「45歳までにいくら払うのか」「45歳からの再出発のために、会社はどんな支援をするのか」という辺りを大いに情熱的に説明しないと、人は納得するまい。 それに、率直に言って、全てのビジネスパーソンが、勉強の意欲とビジネス的な野心に満ちているわけではない。あえて友達口調を許してもらえば、「新浪さん、世の中の大半のビジネスパーソンは、あなたほど勉強熱心なわけでもないし、あなたほど機会に恵まれているわけでもないよ」』、最後の「新浪」氏への言葉は至言だ。
・『日本の「定年」をどうするか? この問題は重要かつ複雑だ  新浪氏の「45歳定年」発言は、経済同友会の夏期セミナーで出たらしいが、一連の発言の中で彼は、政府が企業に対して70歳まで社員を雇用する義務(当面は努力義務)を課そうとしている方針に対して危機感を表明している。 わが友人が、今さら経済団体などというつまらないものに関わっているのかと思うと、筆者は複雑な気持ちになるが、それはおいておこう。「定年」の問題は重要だ。そして、いささか複雑だ。 まず企業経営サイドから見て、近年65歳まで延ばされた雇用の義務を、矢継ぎ早に70歳まで延ばされることは、人件費コストの点からも人の滞留の点からも頭の痛い大問題だ。 現在、典型的な大企業では、「55歳で役職定年(「部長」などの肩書きが外れる)、60歳で一応定年、それ以降65歳まで雇用延長ないし再雇用」といったキャリアパスが用意されている。ところが、65歳まで会社に留まった場合に社員がモチベーションを高く保つことは容易ではない。こうした社員が70歳までどんよりと留まるのだとすると、企業にとっては重大な問題だ。 一つには、雇用義務年齢の引き上げは、着々と長寿化する社会の高齢者扶養を、国が企業に押しつけようとしていることから問題が起きている。しかし、企業による福祉は、企業の体力や業態によって差があるし、限界がある。 一方、公的年金制度などを含む社会保障制度を大きく変えるには巨大な政治的・行政的エネルギーを要する。企業に「あと5年、社員の面倒を見るように」と要望するのは政府にとって簡単で安易な方法だ。しかし、「一律70歳」は無理だ。企業にそこまで求めるのはいかがなものか』、なるほど。
・『定年という制度は「年齢による差別」に他ならない  一方、もともとビジネスパーソンには大きな個人差があるのだが、加齢によって心身のコンディションが変化することによって、高齢な社員間の個人差はもっと広がるだろう。彼らに対して、一律に年齢によって雇うか、雇わないかを決めるのは、そもそも無理があるし、同時に企業にとって大きな無駄を伴う。 また、改めて考えてみるに、「定年」という制度は「年齢による差別」に他ならない。能力主義は必ずしも万能の経済倫理ではないが、40歳のAさんよりも、明らかに仕事ができる70歳のBさんがいるとしよう。その場合、年齢だけを理由にAさんは雇われ続けて、Bさんが雇用されないのは、仕事の能力に対して不公平であるし、企業にとっても損失だ。 もっとも、「企業にとって損失」があっても、「定年」という制度がこれまで続いている理由は、個々の社員に「辞めてもらうこと」には莫大なエネルギーを要するからだろう。加えて、もちろん、正社員の解雇に対して制約が大きい日本の法制度の問題がある。 正社員の解雇に関しては、金銭的な補償を伴う正社員の解雇ルールの設定が必要だと思われる。企業の側が人事面で経営上のフリーハンドをより大きく持てるように、同時に社員の側にとっても解雇の不利益が一定程度確実に補填されるようにだ。 ただし、「正社員解雇の金銭解決ルール」はぜひ必要だと思うが、その道理を多くの人に納得してもらうためには、語り手によほどの明晰さと人徳が必要だろう。今のわが国に、適任者はいるのだろうか。 この問題を大事な宿題とするとしても、そろそろ日本の企業と社員は、「年齢」という大ざっぱなくくりによってではなく、個別にお互いを評価し合って一人一人が働く条件を決める、「より丁寧な人事」を徹底すべきだ。 「国際派の経営者」としても名高い新浪氏は、「45歳定年」ではなく、むしろ「年齢差別である定年制度の全面廃止」を提言したらよかったのではないか。もちろん、年齢によらない個々人別々の人事と、解雇の金銭解決ルールがセットだ。より根本的な提案だと思うが、いかがだろうか。 「こちらの方がグローバル・スタンダードではないかなあ、新浪さん?」』、「年齢差別である定年制度の全面廃止」、「年齢によらない個々人別々の人事と、解雇の金銭解決ルールがセット」、の提案には原則的には賛成だが、「年齢によらない個々人別々の人事」は現実には相当難しいと思う。

次に、10月3日付け東洋経済Plus「古参幹部が語る「それでもオフィスが重要」な理由 グーグル、社員14万人の「在宅勤務」で得た手応え」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28378/?utm_campaign=EDtkprem_2110&utm_source=edTKO&utm_medium=article&utm_content=459749&login=Y&_ga=2.232025311.1700835517.1634949033-1848935068.1634949032#tkol-cont
・『コロナ禍で入社した数千人の社員は、その多くがいまだオフィスに足を踏み入れていないというグーグル。コミュニケーション体制や生産性をどう維持しているのか。 健康志向の料理やスナックが無料で食べ放題、スポーツジムやマッサージのサービスも完備――。豪華なオフィス環境で知られるのが、アメリカのIT大手グーグルだ。だが、コロナ禍で全世界14万人の社員が在宅勤務となり、同社にとって未経験の働き方を強いられている。 オフィスを充実させてきたのは、社員同士の対面コミュニケーションを重視していたからだ。自分のデスクに座っているだけでなく、休憩スペースやカフェなどで同僚と気軽に意見交換することで、新たなアイデアが生まれると信じられてきた。 アメリカなど各国で新型コロナウイルスの感染者が再び増加に転じたことを受け、グーグルは現状、来年1月まで原則在宅勤務を続けることを決めている。 イノベーションを生むための社内文化を在宅勤務でどう維持するのか、生産性は下がらないのか。1999年にグーグルに入社し人事部門を立ち上げ、現在は職場環境や社内文化の醸成を統括するチーフ・カルチャー・オフィサー(最高文化責任者)を務めるステイシー・サリバン氏に話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aはサリバン氏の回答)』、「社員同士の対面コミュニケーションを重視していた」「グーグル」の取り組みとは興味深そうだ。
・『生産性だけを見れば機能しているが  Q:コロナ禍の在宅勤務でグーグル社員の働き方はどう変わりましたか。 A:このコロナ禍をうまく乗り切るために学んだことは多くあるが、その1つは、どんな場所で働くかではなく、どんな人と働くかが重要だということだ。 グーグルでは日々の担当業務を超えてさまざまな取り組みをすることを社員に奨励している。コロナ禍においても、オフィスと同様の生産性を保つためにどうすればいいか、チームを超えて皆が助け合っている。 Q:在宅勤務になったことで、生産性は実際にどう変化したのですか。 A:生産性やコラボレーションのしやすさに関しては、コロナ禍のさまざまな要因で上下したように思う。もちろん社員が物理的に集まり、一つの部屋で対面でコミュニケーションしたほうが、意見交換したり理解し合ったりしやすく、仕事を簡単にこなせるのは間違いない。 ただ社内調査をすると、多くの社員が在宅勤務でもオフィスと同様の生産性を保てていることがわかった。オフィスにいるときよりも気が散る原因となることが少ないからだ。楽しさを感じることは減っているが、それでも以前と同じ量の仕事をこなしている。これは驚くべき発見だった。 コロナ禍で入社した数千人の社員は、その多くがいまだオフィスに足を踏み入れておらず、つながりを感じられないという声は多い。そのための環境やリソースの提供はしている。生産性だけを見れば今の働き方も機能してはいるが、会社としては対面のコミュニケーションの重要性を信じている』、「社内調査をすると、多くの社員が在宅勤務でもオフィスと同様の生産性を保てていることがわかった。オフィスにいるときよりも気が散る原因となることが少ないからだ。楽しさを感じることは減っているが、それでも以前と同じ量の仕事をこなしている」、なるほど。ただ、「楽しさを感じることは減っている」のは困ったことだ。
・『1000人超の社員がつながり醸成のボランティア  Q:リモートの環境で社員同士のコミュニケーションやコラボレーションをどう促しているのですか。 A:例えば経営陣やマネージャーたちは、カジュアルに話せる時間を確保するためにチームのオンラインミーティングの回数を増やしている。私の部署でも話したいトピックをただ話す「コーヒートーク」という時間を設けている。 会社全体でも「TGIF (Thank God, It's Friday)」という全社ミーティングを続けている。出席率は過去最高レベルで、社員は皆オンラインでも集まりたい、経営陣の声を聞き質問したいと思っているのだと実感する。 Q:従業員同士のつながりの醸成は、どのように行っていますか。 (ステイシー・サリバン氏の略歴はリンク先参照) A:コロナ禍以前は「ランチニンジャ」と呼ばれる、初対面のグーグル社員同士が1対1で交流する時間があったが、今はオンライン上で「バーチャルコーヒーニンジャ」を実施しており、話したいトピックを基に異なる国やチームの人とマッチングしてコミュニケーションを促している。 ほかにも、世界中のオフィスで1000人以上がボランティアとして参加している「カルチャークラブ」がある。さまざまなチームが社員同士のつながりを促し、コミュニティ作りに励んでいる。 日本ではカルチャークラブが率先し、オンライン音楽フェスやタレントショー(特技などを披露する会)、フィットネスのレッスンなど、社員とその家族が楽しみながらつながりを感じられるイベントを企画してくれた。 日本法人はこの9月で20周年を迎えたが、社員のエンゲージメントが非常に高く、自らの職務を超えて文化を浸透させる活動に積極的だ。 以前から実施している「Googler 2 Googler (G2G)」という社員同士がいろいろなことを教え合うプログラムも、オンラインで活発になっている。(プログラミング言語の)「パイソン」や子育て、マインドフルネスなどの講座がある。日本では3Dのラテアートの作り方や手話、プレゼンスキルなどの講座が開かれた』、「グーグル」は「「カルチャークラブ」がある。さまざまなチームが社員同士のつながりを促し、コミュニティ作りに励んでいる」、働き易そうな素晴らしい会社だ。
・『社員にとって重要な”特典”は大きく変容  Q:グーグルといえば、健康志向の食べ物を無料で振る舞っているカフェテリアがよく話題に上ります。ただ、在宅勤務ではそれがなくなりました。 A:それは確かに、グーグル社員にとっては在宅勤務のデメリットの一つだろう。今は皆自分で買ったり調理したりして食事を摂っている。食べる量が減って痩せた人もいるかもしれない。 ただそれよりも課題なのは、(オフィスの各所にある)小さなキッチンで居合わせた人と話をしたり、デスクにいる人に話しかけたりする機会が減ってしまったこと。だからこそオンラインでも、ミーティングの終わりにちょっとしたおしゃべりを挟んだりするなど、お互いにより親身になろうとしている。 いずれにせよ、社員にとって今何が重要なのかをきちんと理解しようとしている。それが(無料の食べ物のような)グーグルで働く特典的なものであれ、在宅でバーンアウトしてしまわないようにするサポートであれ、社員の声を聞くことに多くの時間を割いている。 グーグルの社員たちはシャイではないので、必要な物を率直に伝えてくれている。 Q:実際に社員からはどんなニーズが寄せられ、どう対応しましたか。 A:例えば学校が閉鎖された際は、家で仕事をしながら子どもの面倒も見なければならない状況になった。そこでグーグルでは6週間の「Carer’s Leave」という子育てをする親などに向けた有給休暇を設定した。休校が長引いた際には8週間増やし、合計14週間とした。 一日中パソコンの画面を見続けることなどで精神的に参るという声も多く寄せられ、スンダー・ピチャイCEO自ら、創業来初めて「Global Day Off」という全世界の社員の一斉休暇を打ち出した。この日はいっさいのメールが入ってこない。今後は10月22日と12月17日に実施される予定だ。 さらに、これまでほとんどの社員がオフィスで働いていたので、自宅で仕事をしやすくする設備が整っていなかった。そこで在宅勤務手当として昨年1000ドル(約11万円)を全社員に支給している。 このように、社員にとって重要な“特典”はこのコロナ禍で大きく変わった。以前は無料のお菓子などが置いてあるマイクロキッチンや、オフィスの常駐医師などがそうだったが、今は優先されるものではない』、「グーグル」は本当に働き易そうで羨ましくなるような、素晴らしい会社だ。
・『成長の”ひずみ”とどう向き合うか  Q:この5月には在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせるハイブリッドな働き方を進めていくと発表しました。会議室の設計も、オフィスにいる人とオンラインで参加する人が交ざっても会議をしやすいように変えていきます。具体的にどのような働き方になるのですか。 A:未来永劫そうなるかはわからないが、週のうち何日かは在宅で仕事をし、ほかの日はオフィスに来るというスタイルになるだろう。オフィスでさまざまな人と触れ合える賑やかさを大事にしつつ、(オフィスに来る必要のない)会議がない日も設ける。もちろん国によって状況は変わると思うが。 バーチャルな体験をどう設計していくかには、慎重になる必要がある。会議においては、オフィスにいる人もビデオ参加している人も、等しく発言でき、意見を聞いてもらっていると感じられるように注意しなければならない。 (在宅勤務者は)会議などにグーグルミートで参加しているが、会話に入り込むのが難しいと感じる人も多いようだ。会議や共同作業においてオンラインの人も等しく参加できるよう、研修を重ねつつ、テクノロジーの開発も進めていきたい。 グーグルでは従来、オフィスにいっさい来ずに在宅勤務をすることは非常に珍しかった。オフィスで勤務しないことをどこか軽視していた。最終的には皆がオフィスに戻ることが目標だが、他社と同様にコロナ禍で多くを学び、ハイブリッドな働き方を進めていきたいと思っている。 Q:この数年でグーグルでは成長のひずみともいえる出来事も起こりました。アメリカの国防総省との取引や中国での検索ビジネスの再参入が報道された際には社員から強い反発が生まれたり、幹部のセクハラ事件が明るみになったりしました。社員が安心して働ける環境をどう整備しますか。 A:特定の事案にはコメントできない。ただ過去数年間では、人事プロセスや社内のコミュニケーション、文化醸成のプログラムなど、あらゆる部分で社員の多様性を受け入れ、社員一人ひとりが「会社に居場所がある」と感じられるように、以前にも増して意識的に設計してきた。 そして経営陣や幹部が自らの言葉で、多様性を重視していることや、社員に不安があるときに声を上げる方法など、安全な職場環境を確保するうえで必要なコミットメントを伝えるようしてきた。その際、彼らに自らの経験を話してもらうようにも促している。 幹部陣にとっては自らの職務以上のことを求めたため、大きなチャレンジだった。だが“人間味のあるリーダーシップ”が重要だ。彼らが自らの言葉で話すことで、皆にとってグーグルが安全で心地のよい職場になることを目指す。 Q:とはいえグーグルはすでに14万人の社員を抱える巨大企業です。 A:例えば先に述べた「TGIF」では社内での大きな問題が話題に上る。そこでスンダー(CEO)が自ら意思決定の過程を説明する。もちろんときには(全社員が知ることが)適切でなかったり、機密事項があったりするため、詳細を話せないこともある。ただできるだけ明確に伝えることは社員から期待されていることだし、一種の契約ともいえることだ。 TGIFのようなコミュニケーションの機会を頻繁に設け、社員が質問をし、懸念を示す場を確保しようと最善を尽くしているつもりだ。双方向のコミュニケーションと信頼関係は創業以来重視している』、「「TGIF」では社内での大きな問題が話題に上る。そこでスンダー(CEO)が自ら意思決定の過程を説明する」、「TGIFのようなコミュニケーションの機会を頻繁に設け、社員が質問をし、懸念を示す場を確保しようと最善を尽くしているつもりだ。双方向のコミュニケーションと信頼関係は創業以来重視している」、「グーグル」の素晴らしさをますます印象付けられた。

第三に、10月7日付け東洋経済オンラインが掲載したコミュニケーション・ストラテジストの岡本 純子氏による「日本人が知らない「リモートワーク」不都合な真実 やはり「出社派」が出世!「日本特有の問題」は?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/460380
・『日本を代表する一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人の話し方を変えてきた岡本純子氏。 たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれ、好評を博している。 その岡本氏が、全メソッドを初公開した『世界最高の話し方1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた!「伝説の家庭教師」が教える門外不出の50のルール』は発売後、たちまち14万部を突破するベストセラーになっている。 コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「この先、リモートワークはどうなるのか」と「日本人が知らない不都合な真実」について解説する』、興味深そうだ。
・『「緊急事態宣言解除」で私たちの働き方は変わるか!?  感染者数も急減、緊急事態宣言も解除され、街がにぎわいを取り戻しています。「第6波」が到来し、再び感染が拡大するリスクも高いわけですが、ワクチンの普及や治療薬の開発で、長い長いトンネルの先に、薄日は差し始めているかのように見えます。 そこで気になるのが、この先の「私たちの働き方」です。はじめはどうなるかと思った「リモートワーク」ですが、通勤もなく、楽で、快適。仕事もしやすい。そう感じている人も少なくないようです。 実際に「生産性」という観点では、「リモートは出勤と同じ、もしくはそれを上回る生産性が維持できる」という結果が数々の調査から明らかになっています。 すっかりリモートに慣れ、このままでいいという人も多い一方で、「業務への支障」「孤独感」など問題点も浮き彫りになっています。 「リモートワークの未来」はどうなっていくのか。その生産性や問題点などについて、海外の最先端の研究や調査をもとに紐解いていきましょう。 では、まず、「以前のように出勤し、リアルで顔を合わせながらの勤務」と「リモートでの勤務」、果たしてどちらのほうが「生産性が高い」のでしょうか。 私の友人であるAIG損保の執行役員の林原麻里子さんは、コロナで会社がフルリモートになったのをきっかけに、昨年7月佐賀県唐津市に移住し、広報の責任者としての仕事を遠隔で問題なくこなしています。 通勤時間がない分、仕事に集中でき、労働時間も増え、「生産性は上がった」と実感しているそうです。 エクゼクティブに話し方を教えている私もコロナ禍当初、対面機会が減ってどうなるかと思っていましたが、オンラインでも問題なくコーチングできることがわかり、「対面とリモートのハイブリッド」が最も効果が高いことを発見しました。 スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授が、ある中国の旅行会社を対象に行った調査では、「リモートでは生産性が13%上がった」という結論でした。 同教授とシカゴ大学の教授らが3万人以上のアメリカ人を対象に行った今年4月の調査では、「リモートワークによって生産性が5%向上し、パンデミック後は全労働時間の2割はリモートで行われるだろう」と予測しています』、「スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授」と「シカゴ大学の教授らが3万人以上のアメリカ人を対象に行った今年4月の調査では、「リモートワークによって生産性が5%向上し、パンデミック後は全労働時間の2割はリモートで行われるだろう」と予測しています』、「3万人以上のアメリカ人」の職業などの属性はどんなものなのだろう。
・『まだまだ課題が多い「リモートワーク」  「従業員は通勤のストレスから解放され、生産性も上がるとなれば、いいことずくめではないか」となりそうですが、リモートワークにはまだまだ「解決すべき多くの課題」が残されています。 急速に広がったリモートワークですが、「それが向いている業種」と「そうでない業種」にくっきりと分かれます。 「IT系」「金融系」などはリモートとの親和性が高い一方で、「サービス産業系」は難しく、社内でも、現場の工場は全員出社だけれど事務系はリモートというケースも多くあります。 また、「大企業ほどリモート比率は高い」など、「高収入のエリートホワイトカラーほどリモートが許される」という現実があるわけです。結果として、「リモートが許される業種に人気が集中する」「社内での不公平感が生まれる」などの問題が生まれやすくなっています。 世界のリモートワーカーを対象にしたある白書によれば、リモートの問題点として「①(会議が多く)気が抜けない(27%)」「②コミュニケーションとコラボレーション(16%)」「③孤独感(16%)」という悩みがトップ3として挙がりました。 リモートの最も大きな課題は、「時空を超えた協力・連携関係を育むコミュニケーション」。これは多くの人が実感する共通認識のようですが、ここがボトルネックになって、イノベーションを阻害することが明らかになっています。 マイクロソフトが6万1000人の社員に行った調査では、リモートにより、労働時間は増えたものの、「リアルタイムの会話が格段に減った」ことがわかりました。グループ外の人とつながる時間も平均で25%短くなり、「コラボレーションの機会が失われた」というのです。 グループ内のコミュニケーションはできても、グループや部署外のメンバーとの関係性は希薄化し、まさに、「たこつぼ状態」に置かれてしまう。だから、会社に知り合いの少ない新入社員や、新しい部署に配属されたメンバーなどが孤独感を覚えるといった事態も生まれやすくなります。 「社内のネットワークが固定化」することで、新しいアイディアが生まれない、イノベーションが起きにくいというわけです。 アメリカでも、リモートの利便性やコスト削減効果を評価して、多くのIT企業が、リモートワークを今後も継続することを表明する一方で、こうした負の側面を懸念して、オフィスに戻るように呼びかける動きもあります。 ゴールドマン・サックスなどの金融機関はオフィスへの出勤を促す方向で、ネットフリックスのCEOは「社員はオフィスに戻るべきだ」と発言しています。一方で、「永久的にリモートを認めるIT企業」なども多く、対応はバラバラ。どの企業も、「ベストな働き方」の見極めに苦慮しているようです』、「グループや部署外のメンバーとの関係性は希薄化し、まさに、「たこつぼ状態」に置かれてしまう。だから、会社に知り合いの少ない新入社員や、新しい部署に配属されたメンバーなどが孤独感を覚えるといった事態も生まれやすくなります。 「社内のネットワークが固定化」することで、新しいアイディアが生まれない、イノベーションが起きにくいというわけです」、確かにありそうな話だ。
・『「出世競争」では「出社派」が有利になる現実  これからの働き方としては、リモートだけでも出社だけでもなく、両方を組み合わせた「ハイブリッド型」が一般的になると考えられています。 そこで将来的に問題になりそうなのが、「リモート派に比べて出社派のほうが『出世』しやすくなってしまう」こと。 日ごろ接している人との距離が縮まり理解が進む「近接性バイアス」の影響で、「出社する人ほど、経営幹部や上司の目に留まり、重用されやすい」という研究結果が出ています。 出社して、目に留まりやすい人のほうが、プロジェクトへの参画に声をかけられやすいといったことも起こってくるでしょう。全員が同じ条件であれば、問題ないのですが、一部の人はフルリモートとなった場合に、このバイアスをどう克服するのかも課題になると考えらえています。 日本では、企業によってもリモート対応のスピードや充実には随分と差があり、私の周りでも、「外資系企業」「大企業」「スタートアップ」などでは、リモートの導入が進む一方で、「中小企業」などでは、まだまだのところも多い印象です。 特に、トップがリモートワークに理解がなく、出社を強制されるなど、「リモートワークへの偏見」も根強く残り、インフラ整備がまったく進まない企業も少なくありません。 アドビが日本、アメリカ、英国、ドイツ、フランス、オーストラリア、ニュージーランドの7カ国で行った働き方に関する調査では、日本人が「テレワークはオフィスより仕事がはかどる」と答えた人の割合が断トツに低いという結果でした。 グローバル平均が69.1%に対し、日本は42.8%。アメリカ75%、オーストラリア75.4%に比べると、その低さが際立ちます』、「「近接性バイアス」の影響で、「出社する人ほど、経営幹部や上司の目に留まり、重用されやすい」という研究結果が出ています」、やむを得ないのだろう。
・『「日本特有の問題」を解決することが必要  こうした結果を鑑みると、海外に比べると、リモートを機動的に活用しながら、生産性もイノベーションも上げていくハイブリッドの労働環境を整備できる企業はそれほど、多くはないのかもしれません。 その遅れの大きな原因は「ハンコ」「印刷」といった商慣行によるものというよりは、そもそも、きっちりと言語化して、「ほめる」「叱る」「フィードバックをする」「説明する」「説得する」という職場のコミュニケーションの基礎ルールをほとんどの日本人が知らないがための「コミュニケーション不全」に起因しているように感じます。 ウィズコロナ、ポストコロナの企業の生産性向上のためには、リモートワークの物理的環境を整えるにとどまらず、「社員間の意思疎通」「コラボレーションを促進するベーシックなコミュニケーションのルール」を浸透させる必要があるのです』、「ウィズコロナ、ポストコロナの企業の生産性向上のためには、リモートワークの物理的環境を整えるにとどまらず、「社員間の意思疎通」「コラボレーションを促進するベーシックなコミュニケーションのルール」を浸透させる必要があるのです」、同感である。
タグ:働き方改革 (その34)(サントリー新浪社長の「45歳定年説」はどこがダメか 山崎元の本質的考察、古参幹部が語る「それでもオフィスが重要」な理由 グーグル 社員14万人の「在宅勤務」で得た手応え、日本人が知らない「リモートワーク」不都合な真実 やはり「出社派」が出世!「日本特有の問題」は?) ダイヤモンド・オンライン 山崎 元 「サントリー新浪社長の「45歳定年説」はどこがダメか、山崎元の本質的考察」 鋭い山崎氏の主張とは、興味深そうだ。 山崎氏が「新浪社長」と三菱商事で、「「同期」であり、友人でもある」、きちんと利益相反を避けてきちんと情報公開するのはさすがだ。 年功賃金下では「45歳定年」はやはり「極端な「不利益変更」」だ。「ウィンドウズ2000」は若い頃の低賃金の埋め合わせで、今さらなくすのは信義則違反だ。 「新しい分野でセカンドキャリアを得るためには、新しい仕事の「能力」と、その仕事を買ってくれる「顧客」の二つが必要であって、そのいずれの獲得にもそれなりに時間と努力を要する」、その通りだ。ただ、私の場合、それに気付くのが遅過ぎたようだ。 最後の「新浪」氏への言葉は至言だ。 「年齢差別である定年制度の全面廃止」、「年齢によらない個々人別々の人事と、解雇の金銭解決ルールがセット」、の提案には原則的には賛成だが、「年齢によらない個々人別々の人事」は現実には相当難しいと思う。 東洋経済Plus 「古参幹部が語る「それでもオフィスが重要」な理由 グーグル、社員14万人の「在宅勤務」で得た手応え」 「社員同士の対面コミュニケーションを重視していた」「グーグル」の取り組みとは興味深そうだ。 「社内調査をすると、多くの社員が在宅勤務でもオフィスと同様の生産性を保てていることがわかった。オフィスにいるときよりも気が散る原因となることが少ないからだ。楽しさを感じることは減っているが、それでも以前と同じ量の仕事をこなしている」、なるほど。ただ、「楽しさを感じることは減っている」のは困ったことだ。 「グーグル」は「「カルチャークラブ」がある。さまざまなチームが社員同士のつながりを促し、コミュニティ作りに励んでいる」、働き易そうな素晴らしい会社だ。 「グーグル」は本当に働き易そうで羨ましくなるような、素晴らしい会社だ。 「「TGIF」では社内での大きな問題が話題に上る。そこでスンダー(CEO)が自ら意思決定の過程を説明する」、「TGIFのようなコミュニケーションの機会を頻繁に設け、社員が質問をし、懸念を示す場を確保しようと最善を尽くしているつもりだ。双方向のコミュニケーションと信頼関係は創業以来重視している」、「グーグル」の素晴らしさをますます印象付けられた。 東洋経済オンライン 岡本 純子 「日本人が知らない「リモートワーク」不都合な真実 やはり「出社派」が出世!「日本特有の問題」は?」 「スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授」と「シカゴ大学の教授らが3万人以上のアメリカ人を対象に行った今年4月の調査では、「リモートワークによって生産性が5%向上し、パンデミック後は全労働時間の2割はリモートで行われるだろう」と予測しています』、「3万人以上のアメリカ人」の職業などの属性はどんなものなのだろう。 「グループや部署外のメンバーとの関係性は希薄化し、まさに、「たこつぼ状態」に置かれてしまう。だから、会社に知り合いの少ない新入社員や、新しい部署に配属されたメンバーなどが孤独感を覚えるといった事態も生まれやすくなります。 「社内のネットワークが固定化」することで、新しいアイディアが生まれない、イノベーションが起きにくいというわけです」、確かにありそうな話だ。 「「近接性バイアス」の影響で、「出社する人ほど、経営幹部や上司の目に留まり、重用されやすい」という研究結果が出ています」、やむを得ないのだろう。 「ウィズコロナ、ポストコロナの企業の生産性向上のためには、リモートワークの物理的環境を整えるにとどまらず、「社員間の意思疎通」「コラボレーションを促進するベーシックなコミュニケーションのルール」を浸透させる必要があるのです」、同感である。
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環境問題(その10)(「社内炭素価格」を取り入れる企業が増えるわけ 脱炭素の動きに対応、課題は投資判断への反映、早急な脱炭素化は日本企業や家計に「コスト増」 雇用が不安定になる可能性も、人為的な影響が主因、今こそ本気でCO2抑制を 国連報告書が指摘する「破局的温暖化」の現実味) [経済政策]

環境問題については、5月4日に取上げた。今日は、(その10)(「社内炭素価格」を取り入れる企業が増えるわけ 脱炭素の動きに対応、課題は投資判断への反映、早急な脱炭素化は日本企業や家計に「コスト増」 雇用が不安定になる可能性も、人為的な影響が主因、今こそ本気でCO2抑制を 国連報告書が指摘する「破局的温暖化」の現実味)である。

先ずは、5月13日付け東洋経済オンライン「「社内炭素価格」を取り入れる企業が増えるわけ 脱炭素の動きに対応、課題は投資判が断への反映」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/427590
・『加速する脱炭素化の動きに対応するため、「社内炭素価格」(インターナルカーボンプライシング、ICP)を採り入れる企業が少しずつ増えている。 ICPは、ビジネスの過程で排出する二酸化炭素(CO2)を各社が独自基準で金額に換算して仮想上のコストとみなし、投資判断等に組み入れる手法だ。 背景には、各国政府がCO2に価格を付けて(カーボンプライシング、CP)、排出量に応じて課税したり、排出量に上限を設けて超過分に罰金を科したりする制度が広がっている事情がある』、「各社が独自基準で金額に換算して仮想上のコストとみなし」、とはいっても、「各国政府」の「CP」や「課税」「罰金」などと整合的なのだろう。
・『炭素価格使い、環境配慮の投資判断  OECDの調査によると、すでに46の国と35の地域(アメリカの一部の州など)がCPを導入済みだが、今後一段と増えるとみられる。企業がICPで自主的にCO2の排出量を抑制することは、世界的なCP拡大への備えになる。 繊維大手の帝人は2021年1月からICPを導入し、グループでの設備投資計画に活用している。同社CSR企画推進部の大崎修一部長は「環境を優先した設備投資はコストアップになりがちで、事業部からは敬遠されることがあった。今後はICPによってCO2の排出量などを考慮した投資を後押ししていきたい」と語る。 ICPを使うと、これまでとは違った投資判断が可能になる。例えば、設備投資を検討する際に、CO2の排出量が多いが、30億円で済む設備Aと、CO2の排出量が少ないが、40億円かかる設備Bがあったとする。性能が同等なら10億円安い設備Aが選ばれるはずだが、今後はICPを加味した金額で比較した結果、設備Bが選ばれることも十分にありうる。 極端な場合、ICPの仮想コストを組み入れた将来的なキャッシュフローがマイナスになれば、「投資不適格」として設備投資自体を見送る可能性もある。) 帝人では、海外事業の一部がすでにCPの影響を受けている。環境問題で先進的なEUでは、事業内容や規模次第でCO2の排出量に上限規制が課される。規制の上限を超えた分は他社から排出権を買ってCO2の排出量を帳消ししなければならず、超過分は1トンあたり100ユーロ(約1万3200円)の罰金が科される。 帝人がドイツで展開している炭素繊維工場は、この排出上限の対象事業に該当する。排出量の上限を超過しているため、毎年、排出権を購入(金額は非公表)することで規制をクリアしているという』、「ドイツ」での事業であれば、「排出権を購入」でオフセットせざるを得ない場合もあり得るだろう。
・『脱炭素シフトで排出権価格が高騰  将来、CO2の排出に伴って企業が負担するコストはかなりのレベルまで上昇していきそうだ。CPの導入エリアが広がっているうえ、CPの対象になる事業も増えていく。 さらに、排出権も高騰する可能性が高い。2020年に1トン当たり20~30ユーロで推移していた排出権は、世界的な脱炭素化シフトの影響を受けて、足元では40ユーロ(約5300円)前後まで跳ね上がっている。 帝人はICPを1トンあたり6000円に設定するが、これは排出権の相場等を参考にして決めたものという。大崎氏は「CPの対象やエリアが広がれば排出権は奪い合いになる。罰金の100ユーロを超えることはないが、そこを上限にかなりのところまで排出権の相場は上がるのではないか」と話す。 同社はこうした見通しも念頭に、ICPを使った投資判断を積み重ねて、先回りして将来的なCO2の排出抑制を目指す。 一昔前は、企業が環境に配慮するのは社会貢献の意味合いが多かった。だが、この2~3年はCP拡大の流れが加速し、CO2抑制は企業の経営に関わる問題になっている。その結果、帝人のように経営戦略としてICPの導入に踏み切る企業が増加している。 環境省によると、2」020年3月時点での日本のICPの導入企業社数は118社でまだ少数派だが、世界ではアメリカ(122社)に次いで多い。2022年には250社程度まで増える見通しだ。 日本政府は2012年から原油や(天然)ガス、石炭などの化石燃料の使用量をCO2排出量に換算し、1トンあたり289円を徴収する地球温暖化対策税を導入しているが、それより負担の重い炭素税などはまだ取り入れていない。 環境省と経済産業省がそれぞれ検討委員会を設置してCPの本格的な導入を議論している最中だ。環境省は前向きだが、経産省や産業界からは企業の負担増を懸念する慎重論があり、先行きはまだ見通せない』、管理用に「ICP」を導入する企業が増えたのに、いまだに「慎重論」を唱える「経産省」はお粗末だ。
・『社内炭素価格をどこまで反映させるのか  そうした中、菅義偉首相は4月22日の気候変動サミットで、「2030年度にCO2等の温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指す」と表明した。目標達成に向けてCP導入の可能性が一気に高まったことは間違いない。菅首相は1月18日の施政方針演説で脱炭素化への道筋として、「成長につながるCPにも取り組んで参ります」と発言している。 企業にとって悩ましいのは、日本のCPがどのようなレベルになるのかがまだ不透明な今の段階で、ICPでの仮想コストを実際にどこまで投資判断に反映させるのかだ。 2021年4月にICPを導入した化学メーカー・クラレの福島健・経営企画部長は、「国内においてはバーチャル(仮想)での数字をどこまで使うのかは今後、社内で議論が出てくるかもしれない。世界的な流れは明確なのでそれに対応する面も当然あるが、設備投資はそもそも時間が掛かるもの。今から(国内含めてCP導入が増える)将来リスクを見越して取り組む必要がある」と語る。 単純に足元の利益への影響だけを見れば、ICPは利益を目減りさせることも当然ある。また、ICPはあくまでも社内の独自基準だけに、価格の付け方から適用範囲までさまざまなやり方がある。導入する企業は、判断基準や考え方を投資家ら外部に丁寧に伝えて、企業評価にしっかりとつなげていく必要があるだろう』、「ICP」を「導入する企業は、判断基準や考え方を投資家ら外部に丁寧に伝えて、企業評価にしっかりとつなげていく必要がある」、同感である。

次に、5月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「早急な脱炭素化は日本企業や家計に「コスト増」、雇用が不安定になる可能性も」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/272082
・『2030年度までにわが国は、2013年度対比で炭素排出量を46%削減する目標にチャレンジする。本邦企業は今ある技術の延長によって脱炭素を進めなければならず、負担は増大するだろう。脱炭素によってわが国の技術が生かされる面はあるものの、わが国企業が脱炭素のコストアップで競争力がそがれ、厳しい状況に追い込まれる懸念も軽視できない』、興味深そうだ。
・『コロナで傷ついた経済を立て直す「グリーン・ニューディール」  主要先進国を中心に「脱炭素化」への取り組みが加速している。具体的には、2030年度までにわが国は、2013年度対比で炭素排出量を46%削減する目標にチャレンジする。さらに、2050年までに欧州連合(EU)、英国、米国やわが国が「カーボンニュートラル」(温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること)を目指す。 各国が脱炭素社会を目指す背景には、温室効果ガスの排出削減による気候変動への対応に加え、再生可能エネルギーや水素の利用を支えるインフラ投資などを行い、雇用を創出してコロナ禍によって傷ついた経済を立て直す「グリーン・ニューディール」がある。脱炭素への取り組みは、経済活動の制約ではなく、経済の成長を支えるという考えだ。 ただ、脱炭素社会の実現にはかなり高いハードルがあることを覚悟する必要がある。現在のわが国経済から考えると、脱炭素はわが国の多くの企業や家計にとって「コスト増加」の要因となる可能性が高い。特に、2030年度までに本邦企業は今ある技術の延長によって脱炭素を進めなければならず、負担は増大するだろう。脱炭素によってわが国の技術が生かされる面はあるものの、わが国企業が脱炭素のコストアップで競争力が削がれ、厳しい状況に追い込まれる懸念も軽視できない』、「わが国企業が脱炭素のコストアップで競争力が削がれ、厳しい状況に追い込まれる懸念も軽視できない」、確かに覚悟が必要だ。
・『街にあふれる小型の風車 人工知能(AI)が電力を管理  脱炭素への取り組みによって、わが国の社会と経済は大きなパラダイムシフトに遭遇することになるだろう。そのインパクトをイメージするため、わが国がカーボンニュートラルを達成した場合の社会と経済の様子を頭の中に描いてみたい。 エネルギー分野では、化石燃料の消費がなくなる。電力供給のために、街の至るところに小型の風車が設置され、建物の屋上や屋根には太陽光パネルが敷き詰められる。各建物には消費電力量に応じた蓄電池が設置され、バッテリーシステムは人工知能(AI)に管理される。状況に応じてAIが流通市場で電力を売買し、自律、循環かつ持続的な電力システムが運営される。再生可能エネルギーを用いた電力システムを購入、あるいはサブスクライブする(継続課金でサービスやモノを使う)ことや、家計が企業などと「排出権取引」を行うことも当たり前になる可能性がある。 産業分野では、すべての自動車が電気自動車(EV)あるいは水素を用いた燃料電池自動車(FCV)に変わるだろう。自動車には自動運転・飛行など先端技術が搭載され、「移動する居住空間」として利用される。自動車と家電などの産業の境目は曖昧になり、設計・開発と生産の分離が加速し、わが国で用いられる自動車の多くが、人件費の安い海外の工場でユニット組み立て型の方式によって生産される可能性は高まる。自動車のボディをはじめ衣類や食器、建材などさまざまな資材や製品が、木材を原料とする「セルロースナノファイバー」から生産されるケースも増えるはずだ。 そうした状況下、わが国企業の多くが水素の生成・運搬・貯蔵、および二酸化炭素の回収・貯蔵・再利用、あるいは脱炭素につながる素材の開発製造などの分野で強みを発揮している可能性がある。以上は、わが国政府が脱炭素化への取り組みによって目指す、社会と経済のあり方の一つのイメージだ』、「わが国企業の多くが水素の生成・運搬・貯蔵、および二酸化炭素の回収・貯蔵・再利用、あるいは脱炭素につながる素材の開発製造などの分野で強みを発揮している可能性がある」、「強み」がこのように残って欲しいものだ。
・『必用な温室効果ガス削減量はこれまでの約1.5倍  このように脱炭素化は世の中を大きく変える。特筆すべきはまず、コストの増加だ。要因として、化石燃料依存からの脱却と、温室効果ガスの削減強化が挙げられる。 わが国の発電は化石燃料に依存している。2019年度の発電量の75.7%が石炭、天然ガス、石油等に由来する。政府は2030年度の温室効果ガス46%削減を達成するために、太陽光など再生可能エネルギーの割合を全体の30%台後半に引き上げて、火力発電を減らしたい。その費用は主に家計の負担によってカバーされるだろう。 次に、わが国は温室効果ガスの排出削減を強化しなければならない。国立環境研究所によると、2019年度のわが国の温室効果ガス排出量は12.1億トンだった。政府は2030年度までに排出量を7.6億トンに抑えようとしているので、必要な温室効果ガスの削減量は4.5億トンだ。なお、排出量の約39%を発電などのエネルギー転換部門、25%を産業部門、18%を運輸部門が占める。 2014年度から2019年度までの間、温室効果ガスの削減量は年度平均で約3000万トンだった。2020年度の排出量が11.8億トンだったと仮定すると、今後10年の間に、わが国は温室効果ガスの排出を4.2億トン削減しなければならない。年度に直すと毎年度4200万トン、これまでの年度平均の約1.5倍の削減が必要だ。 法人企業統計調査のデータから、金融・保険を除くわが国企業の営業利益の推移を確認すると、1989年度から2019年度までの営業利益の変化率は年度平均で、製造業でプラス4%、非製造業でプラス2%である。基本的にわが国経済は自動車、機械、素材など製造業の生産性改善によって成長を実現してきた。 2030年度までとなると、あまり時間がなく、かなり早急かつ強力な取り組みが不可欠だ。企業は既存の設備の改修、技術の改良など、さらなる取り組みを進めなければならない。それは、企業のコストを増加させる』、「今後10年の間に、わが国は温室効果ガスの排出を4.2億トン削減しなければならない。年度に直すと毎年度4200万トン、これまでの年度平均の約1.5倍の削減が必要だ」、かなりの努力が必要なようだ。
・『「国境炭素税」で海外に生産移転 国内の雇用が不安定化する可能性  一方、脱炭素はわが国企業に中長期的なビジネスチャンスをもたらすことも想定される。具体的には、二酸化炭素の回収などに用いられるセラミック製品などの素材、バッテリーや環境関連機器の生産に必要な精密機械などの分野で本邦企業は競争力を発揮できるだろう。FCVや、次世代電池として注目される「全固体電池」などの分野でもわが国企業の技術力は高い。パワー半導体などニッチかつ汎用型の半導体分野でも、わが国メーカーは一定の世界シェアを持っている。脱炭素関連ビジネスを強化する総合商社もある。 問題は、経済全体で考えた場合に、脱炭素社会の実現に必要なコストが、ベネフィットを上回る可能性が高いことだ。そう考える背景には複数の要因がある。温室効果ガス削減のコストを生産性向上や技術の改善で吸収することは容易ではない。風力発電の専門家によると、欧州に比べてわが国は風況に恵まれておらず、再生可能エネルギー利用のコストは想定を上回る可能性がある。 また、EUなどが、気候変動への対応が十分ではない国からの輸入品へ課税する「炭素国境調整措置」の導入を目指している。その背景には、脱炭素を世界全体で進めることや、経済対策の財源を確保する狙いがある。この「国境炭素税」を導入する国が増えれば、最終消費者に近い場所での生産や、生産コスト低減を目指して海外に生産拠点を移す本邦企業は増え、国内の雇用環境は不安定化する可能性がある。 以上より、企業をはじめわが国経済にとって、脱炭素への取り組みにかかるコストが潜在的なベネフィットを上回る可能性は軽視できない。もちろん、個別企業単位で見れば、脱炭素を追い風に成長を実現するケースはあるだろう。しかし、現時点で、それが経済全体で発生するコストを上回る付加価値を経済全体にもたらすとは考え難い。わが国にとって、脱炭素への取り組みは「いばらの道」といっても過言ではなく、政府をはじめ経済と社会全体で相当の覚悟が必要だ』、「問題は、経済全体で考えた場合に、脱炭素社会の実現に必要なコストが、ベネフィットを上回る可能性が高いことだ。そう考える背景には複数の要因がある。温室効果ガス削減のコストを生産性向上や技術の改善で吸収することは容易ではない。風力発電の専門家によると、欧州に比べてわが国は風況に恵まれておらず、再生可能エネルギー利用のコストは想定を上回る可能性がある。 また、EUなどが、気候変動への対応が十分ではない国からの輸入品へ課税する「炭素国境調整措置」の導入を目指している」、「わが国にとって、脱炭素への取り組みは「いばらの道」といっても過言ではなく、政府をはじめ経済と社会全体で相当の覚悟が必要だ」、やはりそうか。

第三に、8月26日付け東洋経済Plusが掲載したWWFジャパン・専門ディレクターの小西 雅子氏による「人為的な影響が主因、今こそ本気でCO2抑制を 国連報告書が指摘する「破局的温暖化」の現実味」を紹介しよう。
・『世界中で異常気象とそれに伴う自然災害が多発している。このほど発表されたIPCCの最新報告書を読み解いた。 この夏、西日本から東日本にかけての広い範囲で、40度を超える猛暑や大洪水の被害が相次いでいる。世界を見渡しても、自然災害が多発している。 2021年7月のドイツとベルギーでの大規模な洪水では、濁流が家屋と車を洗い流し、100人以上が亡くなったと報告された。中国では7月の大洪水によって数百万人が被害を受けている。 さらに、北アメリカ北西部では、数日間にわたって40度を超える酷暑が続き、カナダ西部ブリティッシュコロンビア州のリトンでは同国での観測史上最高となる49.6度を記録している。 これらの自然災害は、産業革命以前と比べて約1.1度の平均気温上昇の過程で起こっているものだ。国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が8月9日に発表した最新の報告書によれば、地球がさらに温暖化していくにつれて、こういった「極端現象」の頻度と強度が一段と増していくという』、「IPCC」がいよいよ遠慮せずにストレートに主張し始めたようだ。
・『IPCC第6次報告書の要点  今回の報告書は、今後20年以内に産業革命以前と比べて世界の平均気温は1.5度上昇し、最も低いシナリオを除いては、1.5度を超えていくと指摘した。気温上昇を1.5度に抑え、深刻な影響を防げるかどうかは、この10年間の私たちの行動次第だということも改めて示された。 IPCCは地球温暖化に関して世界中の専門家の科学的知見を集約している国連の機関で、1990年から5~7年ごとに評価報告書を発表している。前回の第5次報告書(2013年から2014年にかけて順次発表)では「温暖化は人間活動による可能性が非常に高い」としたが、7年ぶりに発表された今回の第6次評価報告書は、さらに踏み込んで「温暖化が人間活動によることは疑う余地がない」と断定した。 人類による責任が科学的にはっきりした今、これ以上の危機を避けるために科学の知見にしたがって迷いなく行動しなければならない。10月31日からイギリス・グラスゴーで開催される第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)に向けて、世界一丸となった行動の加速が求められている。 IPCCの最新の報告書には、私たちが知るべきポイントが3つある。第1は、地球の気候システム全体に人間活動による爪痕が見られることだ。 地球の平均気温はすでに約1.1度上昇しており、熱波や激しい降水、干ばつといった極端現象や、氷河や北極圏の海氷の後退、海面上昇による沿岸部の洪水や海岸浸食、海洋酸性化、熱帯低気圧の強大化などに、人間活動による温暖化の影響が認められると明言した。 例えば海面上昇については、近年になるほど上昇速度が高まっており、少なくとも1971年以降は人為的な影響が主要な要因だと指摘した。 最近の極端現象が温暖化によるものなのか、といった反論がこれまではよくあった。しかし、「イベントアトリビューション」という新たな研究が進み、熱波や激しい降水といった個別の異常気象に関して、地球温暖化がどの程度寄与しているかを評価できるようになった。オックスフォード大学などによる研究速報は、6月のカナダなどの猛暑は人為的な温暖化がなければ発生しなかったと結論づけている』、「イベントアトリビューション」により「個別の異常気象に関して、地球温暖化がどの程度寄与しているかを評価できるようになった」、大きな前進だ。
・『気温上昇によって極端現象も増大  ポイントの2つめは、0.5度の気温上昇差でも温暖化による影響が大きく違ってくることだ。 IPCC報告書では、将来予測としてシナリオ分析が実施されている。私たちの今後の社会の選択によって、将来の気温上昇予測は変わるからだ。 これまでどおり化石燃料に頼り、温室効果ガスを大量に排出する社会のままなのか。それとも資源を循環させながら、脱炭素エネルギー中心の社会に変えていくのかなどによって、今後排出される温室効果ガスの量は異なる。気温上昇の予測もそれらのシナリオに従って変わっていく。 第5次評価報告書では4つの異なる排出量のシナリオが紹介され、それぞれのシナリオによって21世紀末の平均気温は産業革命前に比べておよそ2度から4度上がると示された。第6次評価報告書ではさらに排出量が非常に低いシナリオがもう1つ加わり、5つの将来予測の結果が公表された。 それによると、どのシナリオでも今後20年以内に平均気温が1.5度上昇し、非常に低い排出量のシナリオを除いては、さらに気温が上昇していくことが示された。 気温の上昇に応じて、極端現象が増大していくことも明示された。熱波や激しい降水の頻度や強度は、追加的に気温が0.5度上昇するだけで識別可能な増加が見られる。50年に一度の記録的な熱波が起きる頻度は、1.5度の気温上昇では産業革命前に比べて8.6倍、2度では13.9倍、4度では39.2倍にも達することが示された。 4度上昇するシナリオでは、50年に一度の熱波が毎年のように発生することになる。海面上昇は、1.5度に抑える非常に低い排出量のシナリオでも2100年には28~55センチメートル上昇し、4度上昇するシナリオでは最大1メートルに達する。もはや海面上昇は止めることができず、いずれのシナリオでも、今後何世紀にもわたって海面がさらに上昇し続けることも示された。 私たちはもはや後戻りできないところまで地球環境を変化させており、最悪の危機を避けるために残された道は、今後の気温上昇を1.5度に抑えることだ。 3つめは、1.5度に抑えるためには今後10年の行動がカギであることだ。 今後の気温の上昇幅は、過去からの累積の二酸化炭素(CO2)排出量にほぼ比例する。主要な温室効果ガスであるCO2は安定したガスであり、海洋や陸地生態系に吸収されない限り大気中に貯まっていく。今後の気温上昇を一定レベルに抑えるには、今後CO2の排出量に上限枠が必要になる。 どのシナリオでもCO2などの排出量をいずれゼロにしなければならず、いつゼロにするかによって今後の気温上昇予測は変わる。 今回の報告書では、累積CO2排出量1兆トンごとに約0.45度、平均気温が上がることが示された。人類はすでに約2兆4000億トン排出しているため、1.5度に抑えるために残された排出可能量は4000億トン程度しかない。この上限枠を「炭素予算」と呼ぶが、CO2は現在、年約350~400億トンペースで排出されているため、このままならば、あと10年で1.5度の炭素予算を使い切ってしまうことになる。 つまり、CO2排出量をただちに急減させ、貴重な炭素予算を使い切らないようにしながら、2050年ごろまでには排出量をゼロに持っていかなければ、1.5度の気温上昇に抑えることはできなくなってしまうのだ。もちろんメタンなどCO2以外の温室効果ガスも急減させる必要がある』、「人類はすでに約2兆4000億トン排出しているため、1.5度に抑えるために残された排出可能量は4000億トン程度しかない。この上限枠を「炭素予算」と呼ぶが、CO2は現在、年約350~400億トンペースで排出されているため、このままならば、あと10年で1.5度の炭素予算を使い切ってしまうことになる」、「炭素予算」は「あと10年で1.5度の炭素予算を使い切ってしまう」、衝撃的だ。
・『COP26で問われる具体的な削減計画  1.5度に抑えることは容易ではないが、私たちの選択次第で社会変革も可能であることもわかった。欧米や日本、韓国などの各国はそろって2050年ゼロを掲げている。2050年ゼロに至るまでに貴重な1.5度の炭素予算を使い切らないようにするためには、2030年に向かって現在の排出量をほぼ半減させていく必要がある。実際、欧米や日本は2030年に温室効果ガス排出量をほぼ半減させる目標を掲げた。 COP26で最大の焦点は、各国の2030年に向けた「国別削減目標」(NDC)が科学の知見に照らして十分な削減量となっているかどうかだ。そして目標を掲げるだけではなく、実際にそれを実現する計画が提出されるかどうか。 パリ協定事務局へ提出する国別削減目標には、具体的な削減計画も含まれていなければならない。日本の2030年目標(正確には2030年度目標)は欧米に比べてやや見劣りする2013年度比46%削減であるが、「50%の高みを目指す」と表明しており、今回の報告書をきっかけにさらに50%以上を目指してもらいたい。 そして日本にとって最も重要なことは、今後9年間で46%以上の削減を確実にするエネルギー計画づくりだ。排出量の多い石炭火力の廃止計画を立て、出遅れている再生可能エネルギーを最大限に導入、そして省エネルギーの取り組みを野心的に深掘りすることである』、「日本」は「石炭火力の廃止計画を立て、出遅れている再生可能エネルギーを最大限に導入、そして省エネルギーの取り組みを野心的に深掘りすることである」、同感である。
タグ:(その10)(「社内炭素価格」を取り入れる企業が増えるわけ 脱炭素の動きに対応、課題は投資判断への反映、早急な脱炭素化は日本企業や家計に「コスト増」 雇用が不安定になる可能性も、人為的な影響が主因、今こそ本気でCO2抑制を 国連報告書が指摘する「破局的温暖化」の現実味) 「各社が独自基準で金額に換算して仮想上のコストとみなし」、とはいっても、「各国政府」の「CP」や「課税」「罰金」などと整合的なのだろう。 「「社内炭素価格」を取り入れる企業が増えるわけ 脱炭素の動きに対応、課題は投資判が断への反映」 東洋経済オンライン 環境問題 管理用に「ICP」を導入する企業が増えたのに、いまだに「慎重論」を唱える「経産省」はお粗末だ。 「ドイツ」での事業であれば、「排出権を購入」でオフセットせざるを得ない場合もあり得るだろう。 「ICP」を「導入する企業は、判断基準や考え方を投資家ら外部に丁寧に伝えて、企業評価にしっかりとつなげていく必要がある」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 「早急な脱炭素化は日本企業や家計に「コスト増」、雇用が不安定になる可能性も」 「わが国企業が脱炭素のコストアップで競争力が削がれ、厳しい状況に追い込まれる懸念も軽視できない」、確かに覚悟が必要だ。 「わが国企業の多くが水素の生成・運搬・貯蔵、および二酸化炭素の回収・貯蔵・再利用、あるいは脱炭素につながる素材の開発製造などの分野で強みを発揮している可能性がある」、「強み」がこのように残って欲しいものだ。 「今後10年の間に、わが国は温室効果ガスの排出を4.2億トン削減しなければならない。年度に直すと毎年度4200万トン、これまでの年度平均の約1.5倍の削減が必要だ」、かなりの努力が必要なようだ。 「問題は、経済全体で考えた場合に、脱炭素社会の実現に必要なコストが、ベネフィットを上回る可能性が高いことだ。そう考える背景には複数の要因がある。温室効果ガス削減のコストを生産性向上や技術の改善で吸収することは容易ではない。風力発電の専門家によると、欧州に比べてわが国は風況に恵まれておらず、再生可能エネルギー利用のコストは想定を上回る可能性がある。 また、EUなどが、気候変動への対応が十分ではない国からの輸入品へ課税する「炭素国境調整措置」の導入を目指している」、「わが国にとって、脱炭素への取り組みは「いば 東洋経済Plus 小西 雅子 「人為的な影響が主因、今こそ本気でCO2抑制を 国連報告書が指摘する「破局的温暖化」の現実味」 「IPCC」がいよいよ遠慮せずにストレートに主張し始めたようだ。 「イベントアトリビューション」により「個別の異常気象に関して、地球温暖化がどの程度寄与しているかを評価できるようになった」、大きな前進だ 「人類はすでに約2兆4000億トン排出しているため、1.5度に抑えるために残された排出可能量は4000億トン程度しかない。この上限枠を「炭素予算」と呼ぶが、CO2は現在、年約350~400億トンペースで排出されているため、このままならば、あと10年で1.5度の炭素予算を使い切ってしまうことになる」、「炭素予算」は「あと10年で1.5度の炭素予算を使い切ってしまう」、衝撃的だ。 「日本」は「石炭火力の廃止計画を立て、出遅れている再生可能エネルギーを最大限に導入、そして省エネルギーの取り組みを野心的に深掘りすることである」、同感である。
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異次元緩和政策(その37)(アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない、訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった、アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く さらに上昇へ) [経済政策]

異次元緩和政策については、本年5月15日に取上げた。今日は、(その37)(アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない、訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった、アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く さらに上昇へ)である。

先ずは、7月28日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85604
・『原油価格の高騰や米国消費者物価指数の急上昇など、このところインフレの話題を見聞きするケースが増えている。日本経済の現状が変わらないまま、国内にもインフレが波及すると非常にやっかいなことになるが、そもそも物価上昇というのはどのようなメカニズムで発生するのだろうか』、興味深そうだ。
・『インフレには大きく分けて2種類ある  米国ではコロナ後の景気回復期待から企業が先行投資を加速しており、物価が猛烈な勢いで上がっている。2021年3月の消費者物価指数は前年同月比で2.6%だったが、4月は4.2%、5月は5.0%、そして6月は5.4%になった。これは2008年8月以来、約13年ぶりの水準である。2008年8月と言えば、リーマンショック直前で米国はまさにバブル経済の頂点にあった。コロナからの急回復という特殊要因はあるものの、異常な物価上昇であることは間違いない。 原油先物価格はこのところ上昇を続けており、7月初旬には一時、1バレル=75ドルを突破した。コロナ後の景気回復期待に加えて、石油輸出国機構にロシアなどの非加盟国を加えたOEPCプラスが増産に合意できなかったことなどが背景となっている。 日本はまだコロナ終息を見通せる段階ではなく、消費の急回復といった現象は見られない。だが困ったことに、諸外国でインフレが進むと、そのインフレは日本にも波及する可能性がある。景気回復が実現できない中で物価上昇が進むと国民生活は苦しくなるので、諸外国の動向には気を配っておく必要があるだろう。 米国のインフレが長期間継続するのか、またそれが日本にも波及するのかを正確に予想することはできないが、状況に対して適切に対応するためには、インフレがなぜ発生するのか知っておいた方がよい。 一般的にインフレは景気が良い時に発生する。景気がよくなって店舗に並ぶ商品がたくさん売れるようになると、値段を上げても客足が落ちなくなる。利益を最大化するためには値上げした方がよいとの判断が働く。その店舗に商品を納入している卸会社も同じように考えるので、景気がよくなると、同時多発的に値上げが起こり、社会全体の物価は上昇していく。 これは財・サービス市場での話だが、同じようなメカニズムは貨幣市場でも発生する。 景気がよくなり、次々と商品が売れる状況では、より多くの在庫を抱えておかないと品切れを起こすリスクが高まる。品切れで販売できないというのは極めて大きな機会損失であり、店舗としては何としても避けたい事態である。 ところが多くの事業者は、手元に大量の余剰資金は抱えていないので、在庫を増やすためには銀行から借り入れを増やさなければならない。結果として貨幣需要が増大し、銀行は利益を最大化するため金利を引き上げる。金利上昇は物価上昇を誘発するので、さらに物価が上がる。このようなインフレは需要が起点になっているのでディマンドプル・インフレとも呼ばれる』、「ディマンドプル・インフレ」は金融政策で抑制が可能な良質なインフレだ。
・『不景気下でのインフレは最悪  景気拡大に伴うインフレの場合、タイムラグこそ生じるものの、賃金も上がっていくので国民はあまり不満を感じない。だが、物価上昇は景気が悪い時にも発生する。それは商品価格の上昇が引き金となるコストプッシュ・インフレである。 コストプッシュ・インフレで最もわかりやすいのは1970年代に発生したオイルショックだろう。1973年、OPEC加盟6カ国は1バレルあたり3.01ドルだった原油公示価格を5.15ドルに引き上げ、に翌年1月からは一気に11.65ドルに引き上げる決定を行った。原油市場は大混乱となり、70年代後半には原油価格は30ドルを突破するまでに上昇。これを受けて先進各国ではあらゆる製品やサービスの価格が上昇し、インフレが一気に進んだ。 日本でも1973年から1980年にかけて物価は約2倍に高騰し、「狂乱物価」などという言葉が新聞の見出しを飾った。原油など重要な資源の価格が高騰すると、景気の良い悪いにかかわらず物価が上昇するので、国民生活は大きな打撃を受ける。企業の業績はむしろ悪化するので、賃上げもままならない。不景気化で物価上昇が進むと、いわゆるスタグフレーションという状況に陥るが、そうなってしまえば、そこから回復させるのは容易なことではない。 だが、当時の日本経済は60年代から長期にわたる好景気が続いており(いざなぎ景気)、この景気が一段落した後も田中角栄元首相による列島改造ブームが発生するなど成長が続いていた。原油価格の高騰で成長率こそ低下したが、ディマンドプル・インフレとコストプッシュ・インフレが併存する形で、何とか豊かな国民生活は維持された。 昭和時代の経済について、十把一絡げで「高度成長」と呼ぶ人も多いが、厳密には高度成長というのは1955年からオイルショックまでの極めて成長率の高い時代のことを指す。オイルショック以降は「低成長時代」と呼ばれるようになったが、バブル崩壊以降は、とうとうゼロ成長になってしまった。このため「低成長時代」という言葉は事実上、消滅した状況にある。 若い世代の人がバブル世代の上司に対して「高度成長時代の人は○×だから」と揶揄しているが、バブル世代は60年代生まれなので、実は彼等は典型的な低成長時代の人たちである。つまり失われた30年があまりにも酷い状況だったことから、低成長時代の人たちですら、高度成長に見えてしまっているという悲しい現実がある』、なるほど。
・『日本への波及を防ぐには成長しかないが…  米国で発生しているインフレは一過性のものであるとの見方も有力だが、一方でバイデン政権は巨額の財政出動に邁進しており、景気は今後、長期にわたって継続するとの予想も少なくない。景気が持続的に拡大すれば物価は上がりやすくなるし、財政出動が巨額になれば金利上昇を誘発するので、これも物価を上げる要因となる。 金利の上昇や、政府債務の増大は、景気にとってマイナス要因であり、いわゆる悪いインフレを誘発する可能性があるものの、米国の場合、景気拡大効果の方が大きいだろう。景気拡大による良いインフレに、若干悪いインフレの要因が加わり、物価の上昇が続くというシナリオが今のところ最有力候補だ。 では日本はどうだろうか。日本はワクチン接種の遅れから景気回復はまだ先になるとの予想が多い。しかも、米国や欧州が脱炭素やAI(人工知能)など、新しいテクノロジーに対する巨額投資を行っている中、日本はこうした先行投資をほとんど実施していない。コロナ終息後の反動以外に、日本の景気が急拡大する要因がないため、当分の間、低い成長率が続くだろう。 経済が日本国内だけで完結していれば、低成長とゼロ金利、物価上昇の停滞が続くことになるが、諸外国の物価と金利がさらに上がった場合にはそうはいかなくなる。諸外国の物価が上がれば輸入品の価格は上昇するし、債券市場の金利が上がると、日本の国債市場も無縁ではいられない。 輸入物価と金利が同時に上昇すると、いくら不景気であっても、日本国内の物価は上昇に転じるしかなくなる。企業の業績が伸びない中でのインフレなので賃金も上がりにくい。最悪のケースとしてはスタグフレーションということもあり得るという話になる。 こうした状況から脱却するためには、日本も諸外国と同レベルの成長を実現する必要があるが、現時点でその見通しは立てにくい。諸外国の景気があまり良くならない方が日本にとってはむしろ好都合という、皮肉な状況となっているのが現実だ』、「債券市場の金利が上がると」、日本の国債の発行利回りも上がり、国債費が膨張、市場は大混乱に陥るだろう。

次に、8月3日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの町田 徹氏による「訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった」を紹介しよう』
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85790?imp=0
・『「カネ余り」というつっかえ棒  内外の金融・資本市場の一部でインフレ懸念が根強く囁かれる中で、米連邦準備制度理事会(FRB)は7月27、28の両日、連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、ゼロ金利政策と量的緩和政策を維持することを全会一致で決めた。 28日発表のFOMCの声明の特色は、米景気について「依然として新型コロナウイルスの拡大状況に左右されている」「経済の先行きへのリスクは残っている」としたうえで、引き続き「雇用の最大化と物価の安定という目標を推進するために、あらゆる手段を使うことを約束する」としたことである。 これらは、当面の金融政策の対応として適切であり、十分に頷ける対応と言える。 注目すべきは、FRBがコロナ危機の収束後の懸案となるテーパリング(国債などの資産を買い入れる量的緩和の縮小)についても丁寧に言及したことだ。FRBのパウエル議長は28日の記者会見で、テーパリングの開始に触れ、「今後複数の会合」で経済情勢の進捗を確認すると表明した。 このため、関係者の間では、テーパリングの開始時期は、早くとも今年11月2、3日開催のFOMC以降との見方から安心感が広がったのである。 昨年来の新型コロナ危機の最大の特色の一つは、パンデミックが世界経済の歴史的な減速を招いたにもかかわらず、2008年のリーマン・ショックとは異なり、株式相場の暴落や金融危機は一時的なものにとどまり、大きな混乱に繋がらなかったことにある。 この背景には、FRBを始めとした各国の中央銀行がそろって大胆な金融緩和に踏み込み、市場に潤沢な資金を供給して世界的なカネ余り状況を作り出したことがある。 それだけに、カネ余りというつっかえ棒を失えば、日本では、コロナショック以前から軋みが見えていた金融機関やゾンビ企業の実態が露呈しかねない。国内経済が大きく動揺するリスクがあるのだ。FRBが見せたテーパリングの開始に向けた配慮は、改めて、コロナ危機の次にそうしたリスクが待ち構えていることを連想させずにはおかない』、「日本」では「テーパリング」が論議すら一切されてない状況で、「FRB」が「テーパリング」に踏み切れば、日本の円は暴落するリスクがある。
・『米国経済はなかなか急回復しない  今回、FRBが決めたのは、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)レートの誘導目標を0.00~0.25%とする金融政策と、市場から米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドル買い入れている量的緩和策の維持だ。 FOMCの声明文によると、政策維持の目的は、従来、FRBが掲げてきた「雇用の最大化と物価安定に向けてさらなる大きな前進を遂げる」ことにある。 その一方で、一部のマスメディアなどで行き過ぎや長期化が懸念されているインフレについては、「2%のインフレ達成を目指している」と改めてFRBの政策目標を確認したうえで、この「長期目標を下回る状態が続いている」との認識を示した。 そして「当面は2%よりやや上のインフレ達成を目指す。そうすることで、インフレ率が長期的に平均で2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする」との方針を表明したのである。 今後インフレ率が急騰したとしても、それは一時的な要因の影響であり、コロナ危機に伴う供給制約が改善すれば、いずれ落ち着くとの見方を維持した形なのだ。 そうした前提の下で、米国の景気動向については「依然としてウイルスの拡大状況に左右されている」と断言した。「ワクチン接種の普及により、公衆衛生の危機が景気に及ぼす影響は引き続き小さくなる可能性が高いものの、経済の先行きへのリスクは残っている」というのである。 実際のところ、FRBが懸念を示したように、米国ではここへきて新型コロナの感染が再拡大している。ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、1日当たりの新規感染者数は7月3日の4739人を底に増加に転じ、7月30日には19万4608人と1月16日(20万1858人)以来およそ半年ぶりの高水準を記録した。 原因として、ワクチン接種の頭打ちのほか、デルタ株の拡大、経済活動の再開などがあげられるという。ニューヨーク州やニューヨーク市、カリフォルニア州では公務員にワクチン接種か週1度のコロナ検査を義務付けるなど、様々な対策に追われている。 FRBが、今後一本調子でコロナ危機が速やかに終息し、経済の急回復が続くとみていないのは妥当な見方だろう』、「今後一本調子でコロナ危機が速やかに終息」するとみていないのはともかく、「経済の急回復が続く」可能性はあり、インフレが深刻化するリスクはあるだろう。
・『議論開始は11月以降から?  半面、新型コロナのパンデミックが世界の実態経済を歴史的な減速に追い込む中で、この経済危機が金融・資本市場に波及しなかったのは特筆すべきことだ。その裏に、積極的な財政出動と金融緩和が寄与したことは周知である。 それだけに、金融・資本市場関係者は、コロナ危機終息後、金融政策の正常化のために行われるテーパリングに神経質だ。 FRBのパウエル議長は28日の記者会見で、こうした市場関係者の懸念に対しても十分過ぎるほどの心配りを見せた。テーパリング開始に向けては、「今後複数の会合」を通じて経済情勢の進捗を確認すると表明したのである。 市場関係者は、パウエル議長が「今後複数の会合」と言う以上、それは9月に予定している次回のFOMCではなく、11月初めか、12月中旬のFOMCのことと受け止めて、胸を撫で下ろした。 しかも、パウエル議長は資産購入政策の変更時期について、重ねて「今後のデータ次第だ」とも述べている。つまり、テーパリング開始をまだ既定路線としていないとも述べているのだ。 テーパリング開始に対して神経質な市場との対話に、神経質なほどの配慮を見せたと言って良いだろう。 経済紙の報道によると、FRBのブレイナード理事はFOMCの翌々日にあたる30日、講演で、米経済の現状について、就業者数がコロナ危機前の水準をなお680万人下回っていることを挙げて、FRBの目標に「まだ距離がある」とも述べた。 そのうえで、経済の回復ぶりが「9月のデータが手に入れば進展の程度をもっと自信をもって評価できる」と語り、9月分の米雇用統計の公表後に開催される11月のFOMC以降にテーパリングの開始議論を行うとの見方を裏付けたという』、なるほど。
・『そのときは遠からずやってくる  とはいえ、FRBが実際にテーパリングを始めれば、その影響は大きい。米国以外の経済が揺さぶられる懸念もある。長期間にわたって低金利が続いた結果、膨らんだ新興国や途上国のドル建て債務の返済や借り換えに問題が生じる恐れがあるのだ。 日本でも、米国へのドル資金の還流が本格化すれば、米国よりもワクチンの接種で後れを取りコロナ危機からの脱却が遅れているにもかかわらず、日銀が想定しているよりも早い時期に金融緩和策の修正を迫られるリスクがある。 そうなれば、政府の国債の利払い負担は増す。政府の要請と支援を受けて、ゾンビ企業への安易な融資を増やしてきた日本の金融機関はもちろん、政策支援で経営がひと息ついていた脆弱な企業の資金繰りも覚束なくなる可能性が高い。 実際のところ、日本の金融機関は、一部の地方銀行などを中心にコロナ前から続く低金利政策により資金運用難に陥っていたところが少なくないだけに、事態は予断を許さない。 昔に比べれば、各国の中央銀行は、自国の政策が他国の経済に影響を及ぼすスピルオーバーを意識するようになったとされるが、FRBがテーパリングの開始に当たって、経営の不健全な日本の金融機関やゾンビ企業にまで配慮するとは考えにくい。が、その時期は遠からず、確実にやって来る』、「日本」への影響で最も懸念すべきは、資本の対外流出、「円」の暴落、国債利回り上昇と国債費の増大、などだろう。

第三に、8月13日付け東洋経済オンラインが掲載した みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く、さらに上昇へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/447789
・『世界中で新型コロナウイルスのデルタ変異株が蔓延し問題視されている。しかし、FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営は変わらず正常化プロセスに関してファイティングポーズを解いておらず、その限りにおいて、アメリカの金利とドルの相互連関的な上昇を見込む基本認識は変える必要がないと筆者は考えている。 8月2日、ウォラーFRB理事は「向こう2回分の雇用統計が自分自身の予想どおりになれば、2022年の利上げに向けた体制を整えるため、テーパリング(量的緩和の段階的縮小)に早期に着手し、迅速に進める必要がある」と述べている。 これは9月にテーパリングを決定し、10月に着手するとことを示唆したものだ。今後2回分とは7月・8月分を意味しており、同理事の予想とは具体的に「その2カ月間で雇用が160万~200万人増加した場合、失われた雇用の85%が9月までに回復することになるため、テーパリング開始を遅らせる理由はない」というものだった』、第二の記事での「ブレイナード理事」よりも早目を見込んでいるようだ。
・『ウォラー想定の実現は十分ありうる  この点、8月6日に発表されたアメリカの7月雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)の変化に関し、前月比プラス94.3万人と市場予想の中心(同プラス85.0万人)を超え、もともと強い結果が上方修正された6月(同プラス93.8万人)からも加速した。2020年4月時点で失われた雇用は未曾有の2236万人に達していたが、今年7月時点で570万人まで圧縮されている。これで約75%の雇用復元が完了したことになり、緩和縮小は妥当な判断に思える(下図)。 (外部配信先では図表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 2021年の雇用回復を振り返ると、年初来7カ月間で月平均61.7万人の増加、過去3カ月間では月平均83.2万人の増加となる。ウォラー理事の「2カ月で160万~200万人の増加」は難易度の高い予想だが、非現実的とは言えない。今回、94万人の増加を果たしたので、8月分(9月3日発表)が70万人弱の増加でウォラー理事の想定が実現する。過去3カ月の増勢に照らせば、十分可能性はある。 前掲図に示すように、アメリカ経済の雇用が減少したのはコロナ禍の初期に相当する2020年3~4月および、感染第2波によりロックダウンが実施された2020年12月の計3カ月間だけだ。その前後の2020年10~12月や2021年1月は雇用の増勢こそ鈍っていたものの、減少したわけではなかった。こうした事実は7月に全米経済研究所(NBER)が今次後退局面の「谷」を2020年4月、すなわち後退局面は2020年3月と4月の2カ月間しかなかったという異例の判断を下したことと符合している』、「今次後退局面」は僅か「2カ月間しかなかった」というのには驚かされた。
・『あと1年で雇用は完全回復へ  下図は筆者が折に触れて参考にしている前回の後退局面との比較である。コロナショックを伴う今次局面とリーマンショックを伴う前回局面では雇用回復の軌道がまったく異なっているのが一目瞭然だ。景気の「山」から起算した雇用の喪失・復元幅は今回のほうが比較にならないほど大きい。 例えば、前回局面では雇用喪失のピークは2010年2月の869万人だった。まずそこまで悪化するのに26カ月かかっている。これに対し、今回は「山」から2カ月後が喪失のピークという異例の軌道を描いている。だから景気後退局面がわずか2カ月間と判定されたのだろう。急性的に悪化した今次局面と、慢性的に徐々に悪化していった前回局面との対比はあまりにも鮮明である。 ちなみに現在(2021年7月時点)は景気の「山」から起算して17カ月目に相当するが、上述したように雇用喪失は570万人まで圧縮されている。前回局面で17カ月目にはまだ692万人が喪失したままだったので、当時の回復軌道を明確に上回ったことになる。今後、月平均で50万人程度の増勢が続くと保守的に仮定しても、あと1年もあればコロナ禍で失われた雇用は完全に復元されることになる。 すなわち来年の今頃には景気の遅行系列である雇用の「量」という面から見ても「コロナが終わった」という状態になる。) 前月比で非農業部門雇用者数の増加が90万人を超えたり、失業率が0.5%ポイントも低下したりする動きは過去に経験のないものだ。そのように実体経済の回復軌道が異なるのだから、金融政策の正常化プロセスの軌道も異なってくるのが自然であり、1年かけてテーパリングを完了した前回の経験を踏襲する必要はない。 かかる状況下、今年9月にテーパリングを決定、10月(遅くとも12月)に着手、2022年6月(遅くとも7月)に7~8カ月かけて完了というイメージはそれほどズレたものではないように思える。 セントルイス連銀のブラード総裁は7月30日、今秋にテーパリングを開始し、2022年初頭に完了させ、必要に応じて2022年中の利上げ実施を可能にするため「かなり速いペース」でテーパリングを進めることにも言及していた。2022年中の利上げを前提にした政策運営はFOMC(連邦公開市場委員会)の中でも極端な意見だろうが、雇用市場を筆頭とするアメリカの今の景気回復ペースを踏まえれば、無理な話でもないように思えてくる。 もしくは、テーパリングの期間を今年秋から来年秋まで、前回と同じ1年間と保守的に見積もったとしても、終了は2022年9月ないし10月になる。この軌道で正常化プロセスを進めたとしても、現在のドットチャートが示唆する「2023年に2回利上げ」という前提は大きく揺るがないだろう』、「2023年に2回利上げ」とは「日本」は大変だ。
・『ドルは底堅く、年内に115円まで上昇も  以上のようにFRBの政策運営が順調に進むことが見えている中、先進国で圧倒的に景気回復が出遅れている日本の円が対ドルで上昇する芽はほとんどないように思える。もちろん、新たな変異株の登場は常に世界経済のリスクだが、そうなればなおの事、ワクチン調達に優れる欧米市場は評価されやすいだろう。 今年4~6月期、為替市場では明確にドル全面安が進んだが、円高に振れることはほとんどなかった。これは日米実体経済の大きすぎる格差を前提に取引する向きが多かったからではないのか。当面、ドル円相場の底値は例年になく堅いものだと予想され、年内に115円付近までの上昇はあっても不思議ではないと考える。)ちなみに、7月の失業率は5.4%と前月の5.9%から0.5%ポイントも低下しており、2020年3月以来1年4カ月ぶりの低水準を記録している。現在、FRBスタッフ見通しで想定される自然失業率(4.0%)までには距離があるが、確実にそこへ接近している』、「テーパリング」が行われれば、私は円の暴落があってもおかしくないと思う。
タグ:異次元緩和政策 (その37)(アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない、訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった、アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く さらに上昇へ) 現代ビジネス 加谷 珪一 「アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない」 「債券市場の金利が上がると」、日本の国債の発行利回りも上がり、国債費が膨張、市場は大混乱に陥るだろう 町田 徹 「訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった」 「日本」では「テーパリング」が論議すら一切されてない状況で、「FRB」が「テーパリング」に踏み切れば、日本の円は暴落するリスクがある。 「今後一本調子でコロナ危機が速やかに終息」するとみていないのはともかく、「経済の急回復が続く」可能性はあり、インフレが深刻化するリスクはあるだろう。 「日本」への影響で最も懸念すべきは、資本の対外流出、「円」の暴落、国債利回り上昇と国債費の増大、などだろう。 東洋経済オンライン 唐鎌 大輔 「アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く、さらに上昇へ」 第二の記事での「ブレイナード理事」よりも早目を見込んでいるようだ。 「今次後退局面」は僅か「2カ月間しかなかった」というのには驚かされた。 「2023年に2回利上げ」とは「日本」は大変だ。 「テーパリング」が行われれば、私は円の暴落があってもおかしくないと思う。
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