東京オリンピック(五輪)(その21)(太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」、五輪経済効果「ここまでアテが外れた」残念な総括 「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」、五輪「無観客」の大赤字 東京都は負担の“ルビコン川”を渡っていた) [国内政治]
東京オリンピック(五輪)については、7月27日に取上げたままだった。今日は、(その21)(太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」、五輪経済効果「ここまでアテが外れた」残念な総括 「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」、五輪「無観客」の大赤字 東京都は負担の“ルビコン川”を渡っていた)である。
先ずは、8月5日付けNewsweek日本版が掲載した経済評論家の加谷珪一氏による「太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/08/post-152_1.php
・『<五輪開幕前、迷走に迷走を重ねた日本。その根本にある「病理」は太平洋戦争を避けられなかった当時から変わっていない> 東京五輪は、国民から100%の支持が得られないという状況下での開催となった。コロナ危機という要因があったとはいえ、ほとんどの国民が支持するはずのイベントがここまでネガティブになってしまったのは、政府の意思決定が迷走に迷走を重ねたことが大きい。 順調に物事が進んでいるときには大きな問題は発生しないが、非常時になると全く機能しなくなるという日本社会の特質を改めて露呈する形となったが、一部からは太平洋戦争との類似性を指摘する声が出ている。80年前と今を比較するのはナンセンスという意見もあるが、事態の推移を考えるとこの類似性を否定するのは難しそうだ。 今回の五輪は当初から問題が山積していた。2015年7月、新国立競技場の建設費が当初予定を大幅に上回ることが判明したが、政府がうやむやに処理しようとしたことから批判が殺到。同年9月には公式エンブレムの盗作疑惑が発覚し、当初は盗作はないと強気の対応を見せたものの、選考過程の不透明性が指摘されるなど外堀が埋められ、使用中止が決断された。 18年には日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長が仏捜査当局から贈賄容疑で捜査され、19年には記者からの質問を一切受け付けず、何の説明もないまま退任。21年2月には森喜朗大会組織委会長が女性蔑視発言をきっかけに辞任し、後任指名された川淵三郎氏にも密室人事批判が殺到。結局、川淵氏も役職を辞退してしまった』、問題がよくぞ次々に出てくるものと、呆れ果てた。
・『佐々木氏、小山田氏、小林氏...... 開会式の演出では能楽師の野村萬斎氏を総合統括とするチームが解散を表明。その後、統括に起用されたクリエーティブディレクターの佐々木宏氏は、女性タレントを蔑視する演出プランがきっかけで辞任し、今度は楽曲担当で参加していた小山田圭吾氏が、障害者への虐待を自慢する発言が問題視され、やはり辞任に追い込まれた。 最後は、過去のホロコースト揶揄発言によって開会式ショーディレクターの小林賢太郎氏が解任されるというありさまである。 次から次へと目を覆いたくなる事態が発生したわけだが、これは個別問題へのずさんな対応の積み重ねが大きく影響している。最初に発生した問題に対して責任の所在をはっきりさせ、適切に処理していれば、次の問題処理の難易度は下がる。だが、最初の問題をうやむやにすれば次の問題処理はさらに難しくなる。 太平洋戦争の直接的なきっかけは、アメリカのコーデル・ハル国務長官が突き付けた文書(いわゆるハルノート)だが、これは事実上の最後通牒であり、その時点で日本側に選択肢はなかった。 日米開戦の発端となったのは、1931年の満州事変と翌年のリットン調査団への対応だし、さらにさかのぼれば、南満州鉄道の日米共同経営をめぐって1905年に締結された桂・ハリマン協定の破棄が遠因であるとの見方もある。 日々の小さな交渉や対策の積み重ねとして事態は推移するので、単体として判断することには意味がない。日本政府が満州事変という軍部の違憲行為(統帥権干犯)を適切に処理していれば、先の大戦は避けられた可能性が高く、同 じように国立競技場の問題が発覚した段階で組織のガバナンスを改革していれば、ここまでの事態には至らなかっただろう。 太平洋戦争の直接的なきっかけは、アメリカのコーデル・ハル国務長官が突き付けた文書(いわゆるハルノート)だが、これは事実上の最後通牒であり、その時点で日本側に選択肢はなかった。 日米開戦の発端となったのは、1931年の満州事変と翌年のリットン調査団への対応だし、さらにさかのぼれば、南満州鉄道の日米共同経営をめぐって1905年に締結された桂・ハリマン協定の破棄が遠因であるとの見方もある。 日々の小さな交渉や対策の積み重ねとして事態は推移するので、単体として判断することには意味がない。日本政府が満州事変という軍部の違憲行為(統帥権干犯)を適切に処理していれば、先の大戦は避けられた可能性が高く、同じように国立競技場の問題が発覚した段階で組織のガバナンスを改革していれば、ここまでの事態には至らなかっただろう。 日本社会が抱える病理は戦後76年たった今でも変わっていない。日本社会が抱える病理は戦後76年たった今でも変わっていない』、「最初に発生した問題に対して責任の所在をはっきりさせ、適切に処理していれば、次の問題処理の難易度は下がる。だが、最初の問題をうやむやにすれば次の問題処理はさらに難しくなる」、「日本政府が満州事変という軍部の違憲行為(統帥権干犯)を適切に処理していれば、先の大戦は避けられた可能性が高く、同じように国立競技場の問題が発覚した段階で組織のガバナンスを改革していれば、ここまでの事態には至らなかっただろう」、確かに太平洋戦争突入当時との類似点はある。「日本社会が抱える病理は戦後76年たった今でも変わっていない」、恐ろしいことだ。
次に、8月20日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表の鈴木 貴博氏による「五輪経済効果「ここまでアテが外れた」残念な総括 「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/449300
・『「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」 この夏を俳句で詠むとこんな感じでしょうか。もちろんこの句はパロディーで、基になるのは松尾芭蕉が長良川の鵜飼いを見て詠んだ句「おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな」です。 鵜飼いの一夜が明けてみて、昨晩はあれだけ楽しかった心が、切なく悲しい心に変わっていくさまを芭蕉が詠んだのだといいます。それと同じで東京五輪の開催期間はあれほど興奮し感動し日本を明るくしてくれたものが、閉会してコロナが拡大して開催の赤字も拡大してみると、何やら日本人の心にも切なく悲しいものが込み上げてくるという点では、冒頭の句は今の私たちの気持ちを表していると言っていいでしょう。 東京2020組織委員会が昨年12月に発表していた組織委員会予算(バージョン5)では東京五輪開催に関わる広義の予算(組織委員会負担分以外を含んだもの)は総額で1兆6440億円まで膨らんでいました』、今後は「東京五輪開催に関わる」費用負担が問題になる。
・『税金補填分は1兆円を超えそう 組織委で負担できない赤字分は東京都と国で協議して分担を決めるのですが、その合計額がこの時点で9230億円とされていました。そこに今回、無観客開催が決まったことでチケット収入の赤字(チケット代900億円プラス払い戻し経費)が加わるので、パラリンピックも含めすべてが終わってみれば税金補填分は1兆円を超えそうです。 これを都民で割ることになれば1人10万円、国民全員で割ることになれば1人1万円の負担です。いずれにしても最終的な請求書は政治家からわたしたちに回ってくるわけで「やがて悲しき」気持ちはじわじわと私たちの心に染み込んでいくことになるでしょう。 では「おもしろうてやがて悲しき」イベントは開催してもよかったのでしょうか?経済面で検証してみましょう。 オリンピック開催前にシンクタンク各社が東京五輪開催の経済効果を試算し公表しています。おおむね各社とも東京五輪の経済効果は30兆円を超えると発表しています。その中からみずほフィナンシャルグループ(みずほ総研、みずほ銀行産業調査部の共同調査)が2017年2月に発表した「経済効果30.3兆円」という試算を基に、今回の開催の最終的な経済効果を振り返ってみます。 最初に重要な点を指摘しておきますと、東京五輪開催の直接効果はわずか1.8兆円にすぎないということです。開会式から閉会式までの期間は17日間。この短い期間に世界全体がオリンピックで盛り上がったわけです。そのうちIOCが世界のメディアから得た莫大な放映権収入も日本経済には関係ないわけで、日本の中で行われた五輪の新規経済需要だけ積み上げると1.8兆円だということです。 シンクタンクの試算と組織委の予算は厳密に対応している数字ではないのですが、結果的にそこから1兆円の赤字が出るわけなので、イベントの赤字としては巨額です。ですがそのマイナスはほかの経済効果で埋めることができるかもしれないわけです。 ではその「ほかの経済効果」とは何でしょう。いちばん大きいのが五輪開催に伴う事前のインフラ投資です。実際に東京への招致決定以降、首都高の老朽化対策や、首都圏の鉄道の整備予算が下りて交通インフラ整備事業が前倒しで進みました。都内では民間でも1000億円規模の大型再開発計画が30件以上も起工し、各所に新たな街並みが出現しました。 また重要な点としては既存インフラのバリアフリー化も進みました。都心のJRでもホームへのエレベーターがなかった駅にエレベーターが新設されたり、ホームドアが設置されたりと公共交通機関のダイバーシティー対応も加速しました』、「東京五輪の経済効果は30兆円を超える」、と「五輪の新規経済需要だけ積み上げると1.8兆円」との差は、「ほかの経済効果」で「いちばん大きいのが五輪開催に伴う事前のインフラ投資」、なるほど。
・『赤字1兆円を上回る経済効果はすでに発現 これらの建設投資についてすべてを合計すると12.9兆円の新規需要が生まれ、121万人の雇用が誘発されると試算されていたのですが、これらの大半はすでに実現しています。言い換えれば東京五輪がなければ日本のGDPは累積でそれだけ低かったことになるわけで、もうこの段階で開催の赤字1兆円を大きく上回る経済的なプラスは手に入ったことになるわけです。 また五輪開催で消費が上向く点は日本経済全体の効果としては無視できないはずです。 政治家は「東京五輪と新型コロナ第5波の拡大は関係ない」と言っていますが、数字を見れば五輪開催とコロナ拡大の時期は一致します。開催前の7月1日に1.02だった新型コロナの実効再生産数(1人の感染者が何人にうつすかの数値)はオリンピック開催後に急増し、開会式の7月23日には1.34、そして8月1日にピークの1.79を記録します。その後閉会式に向けて下降し閉会後の8月中旬時点では1.1台にまで下がっています。(実効再生産数は東洋経済オンライン「新型コロナウイルス国内感染の状況」より) 政府がいくら関係ないと強弁しても、政府がオリンピックというお祭りを主催していれば国民はどうしても外に出て騒ぎ始めるわけです。するとコロナの新規陽性者数は爆発的に増加しますが、結果として消費も増加したことになるはずです。 2021年1~3月期のわが国のGDPは年率で3.9%のマイナス(第2次速報値)だったのですが、8月16日に発表された速報値では4~6月のGDPは年率1.3%のプラスと回復の様相を示しています。この後、11月になれば7~9月の経済成長率が発表されることになりますが、オリンピックが誘発した消費需要だけを考えれば7月後半から8月前半にかけてはそれ以上に経済が成長していたはずです。 このオリンピックの消費誘発効果をプラスの要素と考える一方で、デルタ株のまん延によって緊急事態宣言が日本中に拡大し、お盆の帰省の自粛など政府が逆に経済にブレーキをかけなければならない方向で動いていることは大きなマイナス要素です。東京五輪が国民の外出を増やし、それによって第5波の拡大が加速したという仮定に基づいてお話しすれば、短期的な消費増よりもその後の消費減によるGDPの押し下げ効果のほうが大きいかもしれません。 実際、4~6月期の実質GDP成長率1.3%というのは先進国の中では極めて低い数字でした。ワクチン接種が進んでいるアメリカが6.5%、ドイツが6.1%、コロナでの打撃が大きかったイギリスに至っては20.7%と、社会がアフターコロナへの移行を始めている国々と比べれば、日本の数字は見劣りします。 これらの情報を総合すれば「五輪開催で消費が上向く」という皮算用はトータルでは逆の結果になるのではないでしょうか。五輪で消費が上向き始めたけれどもそのことで逆にコロナが増加し経済に水を差す結果になった。ほかの先進国と比較すれば五輪を開催せずにコロナ対策だけに集中していたほうが、2021年の日本経済はよくなっていたかもしれません。この点は残念な結果になりそうです』、「五輪で消費が上向き始めたけれどもそのことで逆にコロナが増加し経済に水を差す結果になった」、なるほど。
・『期待されていたインバウンドの盛り上がりは? さて、みずほFGが試算した30.3兆円の五輪の経済効果ですが、実はまだ実現していない大きな項目で、しかも今回の開催方式の結果おそらくこれから先も実現しない可能性の高まったものがあります。それがインバウンド(訪日外国人旅行)での拡大効果です。 みずほFGは東京五輪が生み出す観光需要増大効果を12.7兆円、それに伴う雇用誘発効果を180万人と試算しており、東京五輪の経済効果としては最大級の要素として挙げていました。 根拠としては過去の開催国、オーストリア(2000年)、ギリシャ(2004年)、中国(2008年)、イギリス(2012年)ともに開催決定前のインバウンドのトレンドラインを大きく上回る形で外国人観光客が増加しているという事実があるのです(2017年公表のレポートのため2016年開催のブラジルについては分析されていません)。 ご承知のとおり2013年から2019年にかけて日本はインバウンド消費で沸き、2019年には3188万人の外国人が日本を訪れました。みずほFGのレポートではオリンピック開催で2020年には3600万人を超えることが予測されていたのですが、新型コロナで逆に2020年は411万人まで訪日外国人数は落ち込んでしまっています。 過去の開催国のインバウンドが増加したのは五輪で世界中から観戦客が訪れてよい体験をして、その口コミで開催年以降もリピーターや口コミによる観光客増効果が長く続くというメカニズムでした。一方で今回の東京五輪は、海外からの観光客をシャットアウトして無観客開催の決断をせざるをえませんでした。 その結果、オリンピックの訪日需要が失われただけではなく、2022年以降、たとえアフターコロナでインバウンドが回復したとしても、少なくとも五輪効果の口コミによる観光客増大効果は得られないことになります。つまり12.9兆円と試算されたインバウンド増大効果は取らぬ狸の皮算用で終わったと考えるべきでしょう。 さて、マクロでの収支も検証してみましょう。みずほFGのレポートによれば東京五輪招致以前の日本のGDP平均成長率は1.1%でした。これが五輪による押し上げ効果で2016年以降は平均で1.4%に増えることが予測されていました。その増分の累計が30兆円近くになることでGDPを見れば五輪の経済効果が実際に確認できるとされていました。 ところが実際には2016年以降の経済成長率を見ると順番に、年率の実質経済成長率は0.8%、1.7%、0.6%、0.0%、▲4.6%という結果でそれまでの平均1.1%よりも見劣りします。押し上げが想定された1.4%を超えた年は2017年だけ。残念ながら東京五輪の経済押し上げ効果はマクロ経済全体でみれば確認できません。建設ラッシュはGDPを押し上げた一方で、消費増税とコロナでトータルの景気は水を差された結果です。 結果をまとめてみれば、東京五輪招致の経済効果は開催前のインフラ整備分までは実際に日本経済を潤してくれました。2020年はコロナで1年お休み。2021年の開催では1兆円の赤字が発生し、2021年以降に期待されたインバウンド増大効果は幻に終わったというのが総括です』、「海外からの観光客をシャットアウトして無観客開催の決断をせざるをえませんでした。 その結果、オリンピックの訪日需要が失われただけではなく、2022年以降、たとえアフターコロナでインバウンドが回復したとしても、少なくとも五輪効果の口コミによる観光客増大効果は得られないことになります。つまり12.9兆円と試算されたインバウンド増大効果は取らぬ狸の皮算用で終わったと考えるべきでしょう」、残念だけどやむを得ない。
・『2020年度税収は過去最高だった 最後に1兆円の赤字補填を財務省は認めるでしょうか? そして財務省は新型コロナで大幅な税収減を想定していたのですが、今年7月5日に発表があったとおり、2020年度の一般会計税収は60.8兆円で予想よりも5.7兆円も多くなりました。1兆円の補填など気にする必要がない税収環境とはいえます。 こうしてまとめてみることでこの夏、野球、柔道、スケボー、ソフトボール、競泳など金メダルラッシュに沸いたあの日々を思い浮かべる私の気持ちに読者の皆さんも共感していただけるのではないでしょうか。やはり今回の東京五輪は、 「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」 だったのでした』、「2020年度の一般会計税収は60.8兆円で予想よりも5.7兆円も多くなりました」、こんなにも税収が良かったとは初めて知った。五輪予算の不足分を埋めるのに一部を使うべきだろう
第三に、8月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元東京都選挙管理委員会事務局長の澤 章氏による「五輪「無観客」の大赤字、東京都は負担の“ルビコン川”を渡っていた」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278706
・『日本人選手のメダルラッシュで東京オリンピックは盛況だったが、新型コロナウイルスの感染者は都内、そして全国で過去最高を記録し、医療崩壊の危機が近づいている。そして都民には、ほぼ無観客となったことによる大赤字の負担が待っている。これをめぐって都と政府が争うことになるが、都がすでに“ルビコン川”を渡っていることは、あまり知られていない』、「都がすでに“ルビコン川”を渡っている」、とはどういうことだろう。
・『「ステイホーム」の半面、万単位の入国者 都民も国民も引き裂かれたむなしい17日間 新型コロナウイルスのパンデミックが止まらず、医療崩壊が現実のものとなりかねない中、東京オリンピックが8日閉会した。万人単位の選手や関係者の接触が避けられないスポーツイベントの開催決行と、一般市民の「ステイホーム」という相矛盾するメッセージに引き裂かれた都民、そして国民の耳に、為政者たちの言葉がむなしく響いた17日間だった。 パラリンピックは8月24日に予定通り開催するかという問題は残されているが、とにかく五輪閉幕を一区切りとして、メダルラッシュに沸いた国民感情は、あっという間に冷めていくだろう。そして、祭りの後に残ったのが膨大な負の遺産であることを改めて認識し、多くの都民がぼうぜんとすることになる』、「膨大な負の遺産」については、殆ど知らされてないようだ。
・『国と東京都の醜い「赤字」の押し付け合い 武藤事務総長が小池知事に放ったジャブ 五輪組織委員会の収入は、国際オリンピック委員会(IOC)負担金とスポンサー収入、そしてチケット売り上げの3本柱からなる。そのチケット売り上げ約900億円が、ほとんどの会場で無観客になったことにより、限りなくゼロに近い金額となった。 だからといって、IOCやスポンサーが賄ってくれるはずもない。組織委の最終収支は、誰がどう考えても大赤字になることが避けられない。 では、この900億円を誰が負担するのか。そもそも組織委員会は、五輪パラリンピックのために期間限定で設置された組織だ。大会が終わればさっさと解散する。早ければ、秋にも残務処理部門を残して撤収してしまうだろう。 組織委自らが赤字を補填するすべは全くない。残された頼みの綱は、国か東京都しかないのだ。 組織委の武藤敏郎事務総長は、国と財政負担について話し合うのは大会後だとしているが、国と東京都の暗闘はすでに始まっている。 その武藤氏は7月11日、NHK「日曜討論」に出演し「小池(百合子)知事は、東京都では完全無観客にすると決定された」と述べ、「そうなると、近郊3県(神奈川、千葉、埼玉)も同じ判断にならざるを得ないというのが3知事の判断」と付け加えて、小池知事の意向が1都3県無観客開催の流れを作ったと主張した。 小池知事が「過労」による入院から復帰直後の7月2日の記者会見で「感染状況をよく注視しながら、どのような形がいいのか、無観客も軸として考えていく必要がある」と言及したことを、武藤氏は念頭に置いたのだろう。無観客による赤字負担をめぐって、さっそくジャブを繰り出していたのだ。 武藤氏は言わずと知れた元財務事務次官で、その中でもとりわけ大物で鳴らした人物だ。実質的に政府の利益を代表している。 チケット収入がなくなったのは無観客にしたためであり、それを強く主張した側に損失補填の責任があると遠回しに言っているのだ。裏返せば、「当然、東京都が穴埋めをするんですよね」と小池知事を牽制しているのである』、さすが「武藤氏」の立ち回り方は巧妙だ。
・『無言の小池知事に代わってオリパラ局長が回答 コロナ対応をうたった「役人言葉」を翻訳すれば? 一方で、東京都側のアナウンスはどうか。7月8日に1都3県の会場の無観客が決定した後、メディアの取材に応じた小池知事は、無言。組織委の大幅減収について語ったのは、都の役人である中村倫治オリンピック・パラリンピック準備局長だった。その発言は以下である。 「コロナの対応という側面もある。関係者と十分に協議したい」 一見、いかにも如才ない役人が言いそうな模範解答のようにも聞こえるが、この「役人言葉」の中にこそ、今後を占うカギが隠されている。都庁OBである筆者が翻訳を試みよう。それが以下だ。 「この1年、コロナ対策で組織委もいろいろと出費がかさんだことでしょう。大変だったと思いますよ。でも、東京都が直接、赤字を穴埋めするというのは、さすがに都民感情もありますし、やりづらい。しかし、コロナ対策という名目であれば、少しは理解も得やすくなるでしょう。いずれにしても、今後、国とバチバチやらなければなりませんが、とにかく、東京都が何らかの形で組織委に助け船を出すことになるでしょうね、あんまり大きな声では言えませんけど……」』、「小池知事」は「無言」だったとはいえ、「中村倫治」氏の言明は「小池知事」の了解を得ている筈だ。
・『組織委は有観客前提でもすでに赤字! 抜け道「収支調整額」で都がこっそり負担 実は、東京都による赤字補填の下地は、すでに出来上がっているのをご存じだろうか。昨年末に発表された組織委の予算には「収支調整額」という見慣れない項目がある。そしてこの項目に150億円という巨費が計上されている。これは一体何か。 発表資料の注意書きには「組織委の経費削減努力や増収努力によっても賄いきれない費用について、東京都が負担するもの」と説明されている。何のことはない、最初から赤字補填の抜け道が用意されていたのである。 ということは、有観客を前提としていた昨年末の段階で組織委の収支はすでに赤字に転落していて、東京都から税金が投入されることが決まっていた。その後無観客開催が決まったが、都はすでに負担増につながる“ルビコン川”を渡っていたのだ。 こんな説明を聞いた覚えのある都民が一体何人いるのだろうか。「そんなの、聞いてないよ!」としか言いようがないではないか。 収支調整額なる裏技に、先のオリパラ局長の発言を重ねてみれば、東京都のスタンスはさらに明確になる。 「東京都はすでに150億円の税金投入を組織委に約束しています。これ以上、追加で赤字の穴埋めをするとなれば、どうにも都民に対して説明が付かない。コロナ対策にかかった経費を東京都が補填させていただきますのでどうか勘弁してください」と、頭を下げるしか方法がないのである。 大変残念だが、都民はさらなる多額の血税が組織委に投入されることを覚悟しなければならない。都民以外の国民にとっては、ただでさえ東京一極集中が批判される中、都が招致した五輪の赤字を、なぜ都民以外が負担しないといけないのかと問われれば、まともな答えが見つからないからだ。 日本人選手のメダルラッシュというつかの間の盛り上がりと引き換えに、都民がこれほど大きな代償を支払うとは、なんと皮肉なことか』、「有観客を前提としていた昨年末の段階で組織委の収支はすでに赤字に転落していて、東京都から税金が投入されることが決まっていた・・・都はすでに負担増につながる“ルビコン川”を渡っていたのだ」、こんな不透明な処理で都民を欺くとは「小池知事」は悪どい。
・『視界に解散・総選挙、責任感はまるでなし トンズラを決め込むであろう小池知事 こうした厳しい東京都の状況をよそに、当の小池知事が見据えているのは「国政復帰」の4文字であることは、おおよそ間違いない。菅義偉政権の支持率が30%台と危機的な水準に落ち込む中、「なんとしても大会を成功」させ、コロナ拡大をワクチンの普及で抑え込んだ先に小池知事の目に入って来るのは、秋の解散・総選挙である。 しかし、五輪開催都市のトップとして責任を全うするとは、事後処理まで確実にやり遂げ、都民に納得のいく説明を行うことではないか。 五輪の大赤字を都民に押し付け、コロナ対策を途中で投げ出したまま、後のことは次の知事さんヨロシクとばかりにトンズラを決め込もうとするとは、一体何ごとか。いつものことだが、小池知事の言動から、政治家として本来有しているべき覚悟や責任を感じることは、みじんもない』、自民党の新総裁に決戦投票で岸田氏が当選、「小池知事」が潜り込む余地は当面なくなった。「事後処理まで確実にやり遂げ、都民に納得のいく説明を行うことで」、「五輪開催都市のトップとして責任を全う」する義務がある。いずれにしろ、都民からみれば、予想以上の負担を押し付けられて、これまできちんと説明してこなかった「小池知事」への怒りが渦巻くことになるだろう。
先ずは、8月5日付けNewsweek日本版が掲載した経済評論家の加谷珪一氏による「太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/08/post-152_1.php
・『<五輪開幕前、迷走に迷走を重ねた日本。その根本にある「病理」は太平洋戦争を避けられなかった当時から変わっていない> 東京五輪は、国民から100%の支持が得られないという状況下での開催となった。コロナ危機という要因があったとはいえ、ほとんどの国民が支持するはずのイベントがここまでネガティブになってしまったのは、政府の意思決定が迷走に迷走を重ねたことが大きい。 順調に物事が進んでいるときには大きな問題は発生しないが、非常時になると全く機能しなくなるという日本社会の特質を改めて露呈する形となったが、一部からは太平洋戦争との類似性を指摘する声が出ている。80年前と今を比較するのはナンセンスという意見もあるが、事態の推移を考えるとこの類似性を否定するのは難しそうだ。 今回の五輪は当初から問題が山積していた。2015年7月、新国立競技場の建設費が当初予定を大幅に上回ることが判明したが、政府がうやむやに処理しようとしたことから批判が殺到。同年9月には公式エンブレムの盗作疑惑が発覚し、当初は盗作はないと強気の対応を見せたものの、選考過程の不透明性が指摘されるなど外堀が埋められ、使用中止が決断された。 18年には日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長が仏捜査当局から贈賄容疑で捜査され、19年には記者からの質問を一切受け付けず、何の説明もないまま退任。21年2月には森喜朗大会組織委会長が女性蔑視発言をきっかけに辞任し、後任指名された川淵三郎氏にも密室人事批判が殺到。結局、川淵氏も役職を辞退してしまった』、問題がよくぞ次々に出てくるものと、呆れ果てた。
・『佐々木氏、小山田氏、小林氏...... 開会式の演出では能楽師の野村萬斎氏を総合統括とするチームが解散を表明。その後、統括に起用されたクリエーティブディレクターの佐々木宏氏は、女性タレントを蔑視する演出プランがきっかけで辞任し、今度は楽曲担当で参加していた小山田圭吾氏が、障害者への虐待を自慢する発言が問題視され、やはり辞任に追い込まれた。 最後は、過去のホロコースト揶揄発言によって開会式ショーディレクターの小林賢太郎氏が解任されるというありさまである。 次から次へと目を覆いたくなる事態が発生したわけだが、これは個別問題へのずさんな対応の積み重ねが大きく影響している。最初に発生した問題に対して責任の所在をはっきりさせ、適切に処理していれば、次の問題処理の難易度は下がる。だが、最初の問題をうやむやにすれば次の問題処理はさらに難しくなる。 太平洋戦争の直接的なきっかけは、アメリカのコーデル・ハル国務長官が突き付けた文書(いわゆるハルノート)だが、これは事実上の最後通牒であり、その時点で日本側に選択肢はなかった。 日米開戦の発端となったのは、1931年の満州事変と翌年のリットン調査団への対応だし、さらにさかのぼれば、南満州鉄道の日米共同経営をめぐって1905年に締結された桂・ハリマン協定の破棄が遠因であるとの見方もある。 日々の小さな交渉や対策の積み重ねとして事態は推移するので、単体として判断することには意味がない。日本政府が満州事変という軍部の違憲行為(統帥権干犯)を適切に処理していれば、先の大戦は避けられた可能性が高く、同 じように国立競技場の問題が発覚した段階で組織のガバナンスを改革していれば、ここまでの事態には至らなかっただろう。 太平洋戦争の直接的なきっかけは、アメリカのコーデル・ハル国務長官が突き付けた文書(いわゆるハルノート)だが、これは事実上の最後通牒であり、その時点で日本側に選択肢はなかった。 日米開戦の発端となったのは、1931年の満州事変と翌年のリットン調査団への対応だし、さらにさかのぼれば、南満州鉄道の日米共同経営をめぐって1905年に締結された桂・ハリマン協定の破棄が遠因であるとの見方もある。 日々の小さな交渉や対策の積み重ねとして事態は推移するので、単体として判断することには意味がない。日本政府が満州事変という軍部の違憲行為(統帥権干犯)を適切に処理していれば、先の大戦は避けられた可能性が高く、同じように国立競技場の問題が発覚した段階で組織のガバナンスを改革していれば、ここまでの事態には至らなかっただろう。 日本社会が抱える病理は戦後76年たった今でも変わっていない。日本社会が抱える病理は戦後76年たった今でも変わっていない』、「最初に発生した問題に対して責任の所在をはっきりさせ、適切に処理していれば、次の問題処理の難易度は下がる。だが、最初の問題をうやむやにすれば次の問題処理はさらに難しくなる」、「日本政府が満州事変という軍部の違憲行為(統帥権干犯)を適切に処理していれば、先の大戦は避けられた可能性が高く、同じように国立競技場の問題が発覚した段階で組織のガバナンスを改革していれば、ここまでの事態には至らなかっただろう」、確かに太平洋戦争突入当時との類似点はある。「日本社会が抱える病理は戦後76年たった今でも変わっていない」、恐ろしいことだ。
次に、8月20日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表の鈴木 貴博氏による「五輪経済効果「ここまでアテが外れた」残念な総括 「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/449300
・『「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」 この夏を俳句で詠むとこんな感じでしょうか。もちろんこの句はパロディーで、基になるのは松尾芭蕉が長良川の鵜飼いを見て詠んだ句「おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな」です。 鵜飼いの一夜が明けてみて、昨晩はあれだけ楽しかった心が、切なく悲しい心に変わっていくさまを芭蕉が詠んだのだといいます。それと同じで東京五輪の開催期間はあれほど興奮し感動し日本を明るくしてくれたものが、閉会してコロナが拡大して開催の赤字も拡大してみると、何やら日本人の心にも切なく悲しいものが込み上げてくるという点では、冒頭の句は今の私たちの気持ちを表していると言っていいでしょう。 東京2020組織委員会が昨年12月に発表していた組織委員会予算(バージョン5)では東京五輪開催に関わる広義の予算(組織委員会負担分以外を含んだもの)は総額で1兆6440億円まで膨らんでいました』、今後は「東京五輪開催に関わる」費用負担が問題になる。
・『税金補填分は1兆円を超えそう 組織委で負担できない赤字分は東京都と国で協議して分担を決めるのですが、その合計額がこの時点で9230億円とされていました。そこに今回、無観客開催が決まったことでチケット収入の赤字(チケット代900億円プラス払い戻し経費)が加わるので、パラリンピックも含めすべてが終わってみれば税金補填分は1兆円を超えそうです。 これを都民で割ることになれば1人10万円、国民全員で割ることになれば1人1万円の負担です。いずれにしても最終的な請求書は政治家からわたしたちに回ってくるわけで「やがて悲しき」気持ちはじわじわと私たちの心に染み込んでいくことになるでしょう。 では「おもしろうてやがて悲しき」イベントは開催してもよかったのでしょうか?経済面で検証してみましょう。 オリンピック開催前にシンクタンク各社が東京五輪開催の経済効果を試算し公表しています。おおむね各社とも東京五輪の経済効果は30兆円を超えると発表しています。その中からみずほフィナンシャルグループ(みずほ総研、みずほ銀行産業調査部の共同調査)が2017年2月に発表した「経済効果30.3兆円」という試算を基に、今回の開催の最終的な経済効果を振り返ってみます。 最初に重要な点を指摘しておきますと、東京五輪開催の直接効果はわずか1.8兆円にすぎないということです。開会式から閉会式までの期間は17日間。この短い期間に世界全体がオリンピックで盛り上がったわけです。そのうちIOCが世界のメディアから得た莫大な放映権収入も日本経済には関係ないわけで、日本の中で行われた五輪の新規経済需要だけ積み上げると1.8兆円だということです。 シンクタンクの試算と組織委の予算は厳密に対応している数字ではないのですが、結果的にそこから1兆円の赤字が出るわけなので、イベントの赤字としては巨額です。ですがそのマイナスはほかの経済効果で埋めることができるかもしれないわけです。 ではその「ほかの経済効果」とは何でしょう。いちばん大きいのが五輪開催に伴う事前のインフラ投資です。実際に東京への招致決定以降、首都高の老朽化対策や、首都圏の鉄道の整備予算が下りて交通インフラ整備事業が前倒しで進みました。都内では民間でも1000億円規模の大型再開発計画が30件以上も起工し、各所に新たな街並みが出現しました。 また重要な点としては既存インフラのバリアフリー化も進みました。都心のJRでもホームへのエレベーターがなかった駅にエレベーターが新設されたり、ホームドアが設置されたりと公共交通機関のダイバーシティー対応も加速しました』、「東京五輪の経済効果は30兆円を超える」、と「五輪の新規経済需要だけ積み上げると1.8兆円」との差は、「ほかの経済効果」で「いちばん大きいのが五輪開催に伴う事前のインフラ投資」、なるほど。
・『赤字1兆円を上回る経済効果はすでに発現 これらの建設投資についてすべてを合計すると12.9兆円の新規需要が生まれ、121万人の雇用が誘発されると試算されていたのですが、これらの大半はすでに実現しています。言い換えれば東京五輪がなければ日本のGDPは累積でそれだけ低かったことになるわけで、もうこの段階で開催の赤字1兆円を大きく上回る経済的なプラスは手に入ったことになるわけです。 また五輪開催で消費が上向く点は日本経済全体の効果としては無視できないはずです。 政治家は「東京五輪と新型コロナ第5波の拡大は関係ない」と言っていますが、数字を見れば五輪開催とコロナ拡大の時期は一致します。開催前の7月1日に1.02だった新型コロナの実効再生産数(1人の感染者が何人にうつすかの数値)はオリンピック開催後に急増し、開会式の7月23日には1.34、そして8月1日にピークの1.79を記録します。その後閉会式に向けて下降し閉会後の8月中旬時点では1.1台にまで下がっています。(実効再生産数は東洋経済オンライン「新型コロナウイルス国内感染の状況」より) 政府がいくら関係ないと強弁しても、政府がオリンピックというお祭りを主催していれば国民はどうしても外に出て騒ぎ始めるわけです。するとコロナの新規陽性者数は爆発的に増加しますが、結果として消費も増加したことになるはずです。 2021年1~3月期のわが国のGDPは年率で3.9%のマイナス(第2次速報値)だったのですが、8月16日に発表された速報値では4~6月のGDPは年率1.3%のプラスと回復の様相を示しています。この後、11月になれば7~9月の経済成長率が発表されることになりますが、オリンピックが誘発した消費需要だけを考えれば7月後半から8月前半にかけてはそれ以上に経済が成長していたはずです。 このオリンピックの消費誘発効果をプラスの要素と考える一方で、デルタ株のまん延によって緊急事態宣言が日本中に拡大し、お盆の帰省の自粛など政府が逆に経済にブレーキをかけなければならない方向で動いていることは大きなマイナス要素です。東京五輪が国民の外出を増やし、それによって第5波の拡大が加速したという仮定に基づいてお話しすれば、短期的な消費増よりもその後の消費減によるGDPの押し下げ効果のほうが大きいかもしれません。 実際、4~6月期の実質GDP成長率1.3%というのは先進国の中では極めて低い数字でした。ワクチン接種が進んでいるアメリカが6.5%、ドイツが6.1%、コロナでの打撃が大きかったイギリスに至っては20.7%と、社会がアフターコロナへの移行を始めている国々と比べれば、日本の数字は見劣りします。 これらの情報を総合すれば「五輪開催で消費が上向く」という皮算用はトータルでは逆の結果になるのではないでしょうか。五輪で消費が上向き始めたけれどもそのことで逆にコロナが増加し経済に水を差す結果になった。ほかの先進国と比較すれば五輪を開催せずにコロナ対策だけに集中していたほうが、2021年の日本経済はよくなっていたかもしれません。この点は残念な結果になりそうです』、「五輪で消費が上向き始めたけれどもそのことで逆にコロナが増加し経済に水を差す結果になった」、なるほど。
・『期待されていたインバウンドの盛り上がりは? さて、みずほFGが試算した30.3兆円の五輪の経済効果ですが、実はまだ実現していない大きな項目で、しかも今回の開催方式の結果おそらくこれから先も実現しない可能性の高まったものがあります。それがインバウンド(訪日外国人旅行)での拡大効果です。 みずほFGは東京五輪が生み出す観光需要増大効果を12.7兆円、それに伴う雇用誘発効果を180万人と試算しており、東京五輪の経済効果としては最大級の要素として挙げていました。 根拠としては過去の開催国、オーストリア(2000年)、ギリシャ(2004年)、中国(2008年)、イギリス(2012年)ともに開催決定前のインバウンドのトレンドラインを大きく上回る形で外国人観光客が増加しているという事実があるのです(2017年公表のレポートのため2016年開催のブラジルについては分析されていません)。 ご承知のとおり2013年から2019年にかけて日本はインバウンド消費で沸き、2019年には3188万人の外国人が日本を訪れました。みずほFGのレポートではオリンピック開催で2020年には3600万人を超えることが予測されていたのですが、新型コロナで逆に2020年は411万人まで訪日外国人数は落ち込んでしまっています。 過去の開催国のインバウンドが増加したのは五輪で世界中から観戦客が訪れてよい体験をして、その口コミで開催年以降もリピーターや口コミによる観光客増効果が長く続くというメカニズムでした。一方で今回の東京五輪は、海外からの観光客をシャットアウトして無観客開催の決断をせざるをえませんでした。 その結果、オリンピックの訪日需要が失われただけではなく、2022年以降、たとえアフターコロナでインバウンドが回復したとしても、少なくとも五輪効果の口コミによる観光客増大効果は得られないことになります。つまり12.9兆円と試算されたインバウンド増大効果は取らぬ狸の皮算用で終わったと考えるべきでしょう。 さて、マクロでの収支も検証してみましょう。みずほFGのレポートによれば東京五輪招致以前の日本のGDP平均成長率は1.1%でした。これが五輪による押し上げ効果で2016年以降は平均で1.4%に増えることが予測されていました。その増分の累計が30兆円近くになることでGDPを見れば五輪の経済効果が実際に確認できるとされていました。 ところが実際には2016年以降の経済成長率を見ると順番に、年率の実質経済成長率は0.8%、1.7%、0.6%、0.0%、▲4.6%という結果でそれまでの平均1.1%よりも見劣りします。押し上げが想定された1.4%を超えた年は2017年だけ。残念ながら東京五輪の経済押し上げ効果はマクロ経済全体でみれば確認できません。建設ラッシュはGDPを押し上げた一方で、消費増税とコロナでトータルの景気は水を差された結果です。 結果をまとめてみれば、東京五輪招致の経済効果は開催前のインフラ整備分までは実際に日本経済を潤してくれました。2020年はコロナで1年お休み。2021年の開催では1兆円の赤字が発生し、2021年以降に期待されたインバウンド増大効果は幻に終わったというのが総括です』、「海外からの観光客をシャットアウトして無観客開催の決断をせざるをえませんでした。 その結果、オリンピックの訪日需要が失われただけではなく、2022年以降、たとえアフターコロナでインバウンドが回復したとしても、少なくとも五輪効果の口コミによる観光客増大効果は得られないことになります。つまり12.9兆円と試算されたインバウンド増大効果は取らぬ狸の皮算用で終わったと考えるべきでしょう」、残念だけどやむを得ない。
・『2020年度税収は過去最高だった 最後に1兆円の赤字補填を財務省は認めるでしょうか? そして財務省は新型コロナで大幅な税収減を想定していたのですが、今年7月5日に発表があったとおり、2020年度の一般会計税収は60.8兆円で予想よりも5.7兆円も多くなりました。1兆円の補填など気にする必要がない税収環境とはいえます。 こうしてまとめてみることでこの夏、野球、柔道、スケボー、ソフトボール、競泳など金メダルラッシュに沸いたあの日々を思い浮かべる私の気持ちに読者の皆さんも共感していただけるのではないでしょうか。やはり今回の東京五輪は、 「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」 だったのでした』、「2020年度の一般会計税収は60.8兆円で予想よりも5.7兆円も多くなりました」、こんなにも税収が良かったとは初めて知った。五輪予算の不足分を埋めるのに一部を使うべきだろう
第三に、8月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元東京都選挙管理委員会事務局長の澤 章氏による「五輪「無観客」の大赤字、東京都は負担の“ルビコン川”を渡っていた」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278706
・『日本人選手のメダルラッシュで東京オリンピックは盛況だったが、新型コロナウイルスの感染者は都内、そして全国で過去最高を記録し、医療崩壊の危機が近づいている。そして都民には、ほぼ無観客となったことによる大赤字の負担が待っている。これをめぐって都と政府が争うことになるが、都がすでに“ルビコン川”を渡っていることは、あまり知られていない』、「都がすでに“ルビコン川”を渡っている」、とはどういうことだろう。
・『「ステイホーム」の半面、万単位の入国者 都民も国民も引き裂かれたむなしい17日間 新型コロナウイルスのパンデミックが止まらず、医療崩壊が現実のものとなりかねない中、東京オリンピックが8日閉会した。万人単位の選手や関係者の接触が避けられないスポーツイベントの開催決行と、一般市民の「ステイホーム」という相矛盾するメッセージに引き裂かれた都民、そして国民の耳に、為政者たちの言葉がむなしく響いた17日間だった。 パラリンピックは8月24日に予定通り開催するかという問題は残されているが、とにかく五輪閉幕を一区切りとして、メダルラッシュに沸いた国民感情は、あっという間に冷めていくだろう。そして、祭りの後に残ったのが膨大な負の遺産であることを改めて認識し、多くの都民がぼうぜんとすることになる』、「膨大な負の遺産」については、殆ど知らされてないようだ。
・『国と東京都の醜い「赤字」の押し付け合い 武藤事務総長が小池知事に放ったジャブ 五輪組織委員会の収入は、国際オリンピック委員会(IOC)負担金とスポンサー収入、そしてチケット売り上げの3本柱からなる。そのチケット売り上げ約900億円が、ほとんどの会場で無観客になったことにより、限りなくゼロに近い金額となった。 だからといって、IOCやスポンサーが賄ってくれるはずもない。組織委の最終収支は、誰がどう考えても大赤字になることが避けられない。 では、この900億円を誰が負担するのか。そもそも組織委員会は、五輪パラリンピックのために期間限定で設置された組織だ。大会が終わればさっさと解散する。早ければ、秋にも残務処理部門を残して撤収してしまうだろう。 組織委自らが赤字を補填するすべは全くない。残された頼みの綱は、国か東京都しかないのだ。 組織委の武藤敏郎事務総長は、国と財政負担について話し合うのは大会後だとしているが、国と東京都の暗闘はすでに始まっている。 その武藤氏は7月11日、NHK「日曜討論」に出演し「小池(百合子)知事は、東京都では完全無観客にすると決定された」と述べ、「そうなると、近郊3県(神奈川、千葉、埼玉)も同じ判断にならざるを得ないというのが3知事の判断」と付け加えて、小池知事の意向が1都3県無観客開催の流れを作ったと主張した。 小池知事が「過労」による入院から復帰直後の7月2日の記者会見で「感染状況をよく注視しながら、どのような形がいいのか、無観客も軸として考えていく必要がある」と言及したことを、武藤氏は念頭に置いたのだろう。無観客による赤字負担をめぐって、さっそくジャブを繰り出していたのだ。 武藤氏は言わずと知れた元財務事務次官で、その中でもとりわけ大物で鳴らした人物だ。実質的に政府の利益を代表している。 チケット収入がなくなったのは無観客にしたためであり、それを強く主張した側に損失補填の責任があると遠回しに言っているのだ。裏返せば、「当然、東京都が穴埋めをするんですよね」と小池知事を牽制しているのである』、さすが「武藤氏」の立ち回り方は巧妙だ。
・『無言の小池知事に代わってオリパラ局長が回答 コロナ対応をうたった「役人言葉」を翻訳すれば? 一方で、東京都側のアナウンスはどうか。7月8日に1都3県の会場の無観客が決定した後、メディアの取材に応じた小池知事は、無言。組織委の大幅減収について語ったのは、都の役人である中村倫治オリンピック・パラリンピック準備局長だった。その発言は以下である。 「コロナの対応という側面もある。関係者と十分に協議したい」 一見、いかにも如才ない役人が言いそうな模範解答のようにも聞こえるが、この「役人言葉」の中にこそ、今後を占うカギが隠されている。都庁OBである筆者が翻訳を試みよう。それが以下だ。 「この1年、コロナ対策で組織委もいろいろと出費がかさんだことでしょう。大変だったと思いますよ。でも、東京都が直接、赤字を穴埋めするというのは、さすがに都民感情もありますし、やりづらい。しかし、コロナ対策という名目であれば、少しは理解も得やすくなるでしょう。いずれにしても、今後、国とバチバチやらなければなりませんが、とにかく、東京都が何らかの形で組織委に助け船を出すことになるでしょうね、あんまり大きな声では言えませんけど……」』、「小池知事」は「無言」だったとはいえ、「中村倫治」氏の言明は「小池知事」の了解を得ている筈だ。
・『組織委は有観客前提でもすでに赤字! 抜け道「収支調整額」で都がこっそり負担 実は、東京都による赤字補填の下地は、すでに出来上がっているのをご存じだろうか。昨年末に発表された組織委の予算には「収支調整額」という見慣れない項目がある。そしてこの項目に150億円という巨費が計上されている。これは一体何か。 発表資料の注意書きには「組織委の経費削減努力や増収努力によっても賄いきれない費用について、東京都が負担するもの」と説明されている。何のことはない、最初から赤字補填の抜け道が用意されていたのである。 ということは、有観客を前提としていた昨年末の段階で組織委の収支はすでに赤字に転落していて、東京都から税金が投入されることが決まっていた。その後無観客開催が決まったが、都はすでに負担増につながる“ルビコン川”を渡っていたのだ。 こんな説明を聞いた覚えのある都民が一体何人いるのだろうか。「そんなの、聞いてないよ!」としか言いようがないではないか。 収支調整額なる裏技に、先のオリパラ局長の発言を重ねてみれば、東京都のスタンスはさらに明確になる。 「東京都はすでに150億円の税金投入を組織委に約束しています。これ以上、追加で赤字の穴埋めをするとなれば、どうにも都民に対して説明が付かない。コロナ対策にかかった経費を東京都が補填させていただきますのでどうか勘弁してください」と、頭を下げるしか方法がないのである。 大変残念だが、都民はさらなる多額の血税が組織委に投入されることを覚悟しなければならない。都民以外の国民にとっては、ただでさえ東京一極集中が批判される中、都が招致した五輪の赤字を、なぜ都民以外が負担しないといけないのかと問われれば、まともな答えが見つからないからだ。 日本人選手のメダルラッシュというつかの間の盛り上がりと引き換えに、都民がこれほど大きな代償を支払うとは、なんと皮肉なことか』、「有観客を前提としていた昨年末の段階で組織委の収支はすでに赤字に転落していて、東京都から税金が投入されることが決まっていた・・・都はすでに負担増につながる“ルビコン川”を渡っていたのだ」、こんな不透明な処理で都民を欺くとは「小池知事」は悪どい。
・『視界に解散・総選挙、責任感はまるでなし トンズラを決め込むであろう小池知事 こうした厳しい東京都の状況をよそに、当の小池知事が見据えているのは「国政復帰」の4文字であることは、おおよそ間違いない。菅義偉政権の支持率が30%台と危機的な水準に落ち込む中、「なんとしても大会を成功」させ、コロナ拡大をワクチンの普及で抑え込んだ先に小池知事の目に入って来るのは、秋の解散・総選挙である。 しかし、五輪開催都市のトップとして責任を全うするとは、事後処理まで確実にやり遂げ、都民に納得のいく説明を行うことではないか。 五輪の大赤字を都民に押し付け、コロナ対策を途中で投げ出したまま、後のことは次の知事さんヨロシクとばかりにトンズラを決め込もうとするとは、一体何ごとか。いつものことだが、小池知事の言動から、政治家として本来有しているべき覚悟や責任を感じることは、みじんもない』、自民党の新総裁に決戦投票で岸田氏が当選、「小池知事」が潜り込む余地は当面なくなった。「事後処理まで確実にやり遂げ、都民に納得のいく説明を行うことで」、「五輪開催都市のトップとして責任を全う」する義務がある。いずれにしろ、都民からみれば、予想以上の負担を押し付けられて、これまできちんと説明してこなかった「小池知事」への怒りが渦巻くことになるだろう。
タグ:「都がすでに“ルビコン川”を渡っている」、とはどういうことだろう。 自民党の新総裁に決戦投票で岸田氏が当選、「小池知事」が潜り込む余地は当面なくなった。「事後処理まで確実にやり遂げ、都民に納得のいく説明を行うことで」、「五輪開催都市のトップとして責任を全う」する義務がある。いずれにしろ、都民からみれば、予想以上の負担を押し付けられて、これまできちんと説明してこなかった「小池知事」への怒りが渦巻くことになるだろう。 「有観客を前提としていた昨年末の段階で組織委の収支はすでに赤字に転落していて、東京都から税金が投入されることが決まっていた・・・都はすでに負担増につながる“ルビコン川”を渡っていたのだ」、こんな不透明な処理で都民を欺くとは「小池知事」は悪どい。 「小池知事」は「無言」だったとはいえ、「中村倫治」氏の言明は「小池知事」の了解を得ている筈だ。 さすが「武藤氏」の立ち回り方は巧妙だ。 「膨大な負の遺産」については、殆ど知らされてないようだ。 「五輪「無観客」の大赤字、東京都は負担の“ルビコン川”を渡っていた」 澤 章 ダイヤモンド・オンライン 「2020年度の一般会計税収は60.8兆円で予想よりも5.7兆円も多くなりました」、こんなにも税収が良かったとは初めて知った。五輪予算の不足分を埋めるのに一部を使うべきだろう 「海外からの観光客をシャットアウトして無観客開催の決断をせざるをえませんでした。 その結果、オリンピックの訪日需要が失われただけではなく、2022年以降、たとえアフターコロナでインバウンドが回復したとしても、少なくとも五輪効果の口コミによる観光客増大効果は得られないことになります。つまり12.9兆円と試算されたインバウンド増大効果は取らぬ狸の皮算用で終わったと考えるべきでしょう」、残念だけどやむを得ない。 「五輪で消費が上向き始めたけれどもそのことで逆にコロナが増加し経済に水を差す結果になった」、なるほど。 「東京五輪の経済効果は30兆円を超える」、と「五輪の新規経済需要だけ積み上げると1.8兆円」との差は、「ほかの経済効果」で「いちばん大きいのが五輪開催に伴う事前のインフラ投資」、なるほど。 今後は「東京五輪開催に関わる」費用負担が問題になる。 「五輪経済効果「ここまでアテが外れた」残念な総括 「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」」 鈴木 貴博 東洋経済オンライン 「最初に発生した問題に対して責任の所在をはっきりさせ、適切に処理していれば、次の問題処理の難易度は下がる。だが、最初の問題をうやむやにすれば次の問題処理はさらに難しくなる」、「日本政府が満州事変という軍部の違憲行為(統帥権干犯)を適切に処理していれば、先の大戦は避けられた可能性が高く、同じように国立競技場の問題が発覚した段階で組織のガバナンスを改革していれば、ここまでの事態には至らなかっただろう」、確かに太平洋戦争突入当時との類似点はある。「日本社会が抱える病理は戦後76年たった今でも変わっていない」、恐 問題がよくぞ次々に出てくるものと、呆れ果てた。 「太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」」 加谷珪一 Newsweek日本版 (その21)(太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」、五輪経済効果「ここまでアテが外れた」残念な総括 「おもしろうてやがて悲しき五輪かな」、五輪「無観客」の大赤字 東京都は負担の“ルビコン川”を渡っていた) (五輪) 東京オリンピック