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保険(その4)(採用者数を減らして「質」を高めよ 生保レディ「大量採用&大量脱落」の悪循環、元金融庁幹部が語る保険行政のあり方 「金融庁は保険会社依存をやめよ」、インタビュー/第一生命社長 稲垣精二 「営業職員の販売モデルは非常にいいシステムだ」) [金融]

保険については、3月4日に取上げた。今日は、(その4)(採用者数を減らして「質」を高めよ 生保レディ「大量採用&大量脱落」の悪循環、元金融庁幹部が語る保険行政のあり方 「金融庁は保険会社依存をやめよ」、インタビュー/第一生命社長 稲垣精二 「営業職員の販売モデルは非常にいいシステムだ」)である。

先ずは、4月7日付け東洋経済Plus「採用者数を減らして「質」を高めよ 生保レディ「大量採用&大量脱落」の悪循環」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26653
・『古くて新しい課題――。 生命保険会社の営業職員チャネルの「大量採用・大量脱落(ターンオーバー)」の問題はこのように表現されることが多い。 今回インタビューをした生命保険協会の会長を務める明治安田生命の根岸秋男社長も、「ターンオーバー、ノルマ、給与の3つは生保営業の本質的なテーマであり、積年の課題だ」と危機感をにじませる』、興味深そうだ。
・『採用と離職の「悪循環」  ターンオーバーは、大量に採用した営業職員が、①新規契約の獲得などのノルマを達成できず、②その結果として給与が下がり、③揚げ句の果てに離職を余儀なくされ(または、雇用契約が打ち切りとなる)、さらに、④営業職員を大量採用するという悪循環の下に繰り返されてきた。 営業職員の在籍率を見ると、この仕事を続けていくことがいかに難しいことなのかがよくわかる。会社によって異なるが、2年目(入社後25カ月目)の在籍率はおおむね50~70%台で、3年目(入社後37カ月目)の在籍率は30~50%台、6年目(61カ月目)になると20%前後まで下がる。 つまり、5年以内に実に10人のうち8人が辞めていく計算になる。 では、ターンオーバーのいったい何が問題なのか。それは、結果的に「顧客の信頼を損なう」という一点に尽きる。 生命保険商品は長期にわたる契約が多い。契約の際に「一生涯お守りします」と約束しておきながら、ターンオーバーの結果、担当者がコロコロと変わる。それでは契約者からの信頼は得られない。 さらに、営利企業の社員である以上、目標の達成を求められることは当然だが、過重なノルマを課せられていることは、顧客ニーズとかけ離れた保障の提案や過度な顧客訪問活動を引き起こしてしまう原因となりかねない。 ビジネスパーソンなら、社内にやってくる保険会社の営業職員に声をかけられた経験はあるだろう。エレベーター前や休憩室などで複数の営業職員が待機していることもある。営業職員の知人や友人、家族などから「保険に入ってほしい」などと言われた人も多いのではないだろうか。 生命保険会社の中には、コロナ禍においても営業職員に対面での営業活動を行わせていた会社もあった。そして、それが顧客や営業職員の大きなクレームにつながっていた。 さらに、ターンオーバーは、退職した多くの営業職員が生保会社や生保業界に対して「良くない印象」を持ったまま辞めていく事態を引き起こしている。顧客満足度調査を行うJ.D.パワー社の「生命保険契約満足度調査」によると、生保レディによる販売を中心とする国内の生保会社の顧客満足度は、代理店チャネルを中心とする生保会社と比べて例年低い水準にある。 営業職員の離職者は年間約4.3万人(2019年度、生保15社の集計値)になる。毎年これだけの人数が、少なからず良い印象を持たずに業界を去っていくことは、中長期的にみて生保業界にとっても決してプラスにはならないだろう』、「5年以内に実に10人のうち8人が辞めていく」、とは確かに離職者が多いようだ。「毎年これだけの人数が、少なからず良い印象を持たずに業界を去っていくことは、中長期的にみて生保業界にとっても決してプラスにはならない」、その通りだ。
・『大量採用を見直し、厳選採用を  こうした中、大手生保の一角である明治安田生命の根岸社長が「(営業職員の)職業的な魅力度に課題がある」「仕事と処遇が見合っていない」という踏み込んだ発言が出たのは前向きに捉えたい。同社では2021年度から、営業職員の給与体系やノルマなどを見直すことにしている。 しかし、ターンオーバー問題を現実的に解決するもっとも近道は、採用人数を減らすことにある。これまでのように目標を採用者数に置くのではなく、採用者数を絞り込んで営業職員の質を高めていくべきだ。 根岸社長も含め、生保会社の複数の幹部や社員から、「保険の募集人として成功するかしないかは実際にやってみなければわからない。大量に営業職員を採用する理由はそこにある」という声が聞かれた。だが、本当にそうだろうか? これまで数十年間にわたって綿々とターンオーバーを繰り返してきた結果、皮肉なことだが、「どんな人が成功して」「どんな人が挫折する」ということは十分なデータとして蓄積され、採用段階でかなり精度高く、見極められるのではないだろうか。 金融行政に長く関わり、現在SBI生命保険の社長を務める小野尚氏は「これだけ経営学が発達した世の中で、『当たるも八卦当たらぬも八卦』という採用手法は科学的ではない」と断言する。 そのうえで、小野氏は「(ネットでの情報収集などで)お客様の金融リテラシーは高まっており、高度な金融知識と高い倫理観を持たないと、営業職員がお客様から信頼を得ることは難しい」と訴える。 それができなければ、複数の生保商品を比較検討できる保険ショップや、簡便な手続きと安い保険料が売りのネット系生保を顧客は選ぶことになるだろう。 今こそ、生命保険各社は旧態依然のビジネスモデルからの脱却が求められている』、「生保会社の複数の幹部や社員から、「保険の募集人として成功するかしないかは実際にやってみなければわからない。大量に営業職員を採用する理由はそこにある」という声」、は言い訳なのだろう。「これだけ経営学が発達した世の中で、『当たるも八卦当たらぬも八卦』という採用手法は科学的ではない」、その通りだろう。

次に、4月7日付け東洋経済Plus「元金融庁幹部が語る保険行政のあり方 「金融庁は保険会社依存をやめよ」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26649
・『新型コロナウイルス一色に染まった2020年度は、営業職員を通じた契約を主力にする生命保険会社にとっては苦難の1年だった。 対面の強みが一転して弱みに転じ、営業活動の自粛を余儀なくされた。その一方、非対面を強みに新規契約を急拡大させたのがインターネット販売を中核に置く生保各社だ。 中でも、2008年に営業を開始したライフネット生命、アクサダイレクト生命に続き、2016年2月からネット専用保険の販売を開始したSBI生命保険は好調だ。同社の2020年4~12月の新契約件数は前年同期比約183%増の約1.8万件となった。 その同社の社長に2019年4月に就任したのが、金融庁の監督局保険課長や総務企画局総括審議官などを歴任した小野尚氏だ。規制当局と生命保険経営の両方の経験を持つ小野氏に、生命保険ビジネスや金融庁による生命保険行政の課題について聞いた(Qは聞き手の質問、Aは小野氏の回答)』、「規制当局と生命保険経営の両方の経験を持つ小野氏」への質問とは興味深そうだ。
・『コロナ禍でシンプルな保険商品が選ばれた  Q:2020年度は新型コロナを抜きには語れない1年になりました。御社はどんな影響を受けましたか。 A:当社は個人向け保険では、インターネット販売に加えて保険ショップなどを通じた販売を行っている。住宅ローンや事業ローンの利用者向けに、金融機関を通じて団体信用生命保険(団信)も取り扱っている。 緊急事態宣言などで保険ショップや金融機関は影響を受けたが、ネット販売は想定以上に好調で、2020年4~6月の個人向け保険の新契約件数は、前年同期比で3倍以上伸びた。 Q:ネット販売が好調だったのはなぜでしょうか。 A:理由は3つある。1つ目は、コロナの影響で多くの人が巣ごもりになり、インターネットを活用する人が非常に増えた。(保険商品の購入も)ネット利用のハードルが相当下がったと思う。 2つ目は、コロナの恐怖を身近に感じて死や病気に対してのリスク意識が高まり、保険未加入の人たちのニーズを喚起した。3つ目は、在宅の時間が増え、加入している生命保険の見直しにつながった。 特に(20~30代の)若い世代で、あまり保険に関心がなかった人たちが「いつ新型コロナにかかるか、わからない」と不安に思い、保険に加入してくれたようだ。 伝統的な(主契約に特約を多く付けた)フルセットの生命保険に入っている人が(コロナを機に)保障内容を見直して、シンプルで安い当社の保険に切り替えてくれたということもある。 おの・ひさし/1959年生まれ、宮崎県出身。1983年東京大学教養学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。2004年金融庁監督局保険課長、2015年総務企画局総括審議官などを経て、2017年7月退官。日本信用情報機構常務執行役員などを経て、2019年4月にSBI生命保険社長に就任。一般社団法人全国団信推進協会の業務執行理事も務める(撮影:梅谷秀司)』、「ネット販売」が好調な理由のうち、「2つ目は、コロナの恐怖を身近に感じて死や病気に対してのリスク意識が高まり、保険未加入の人たちのニーズを喚起した。3つ目は、在宅の時間が増え、加入している生命保険の見直しにつながった」、というのはいかにも生命保険らしい。
・『ビジネスモデルは時代に合っていない  Q:保険契約加入の約5割を占める営業職員チャネルは、大量採用・大量脱落(ターンオーバー)問題は長年の課題でした。生命保険行政にも携わった小野さんは、営業職員チャネルのあり方についてどう考えていますか。 A:個人的な見解だが、まず言っておきたいのは、(生命保険各社の)営業職員チャネルが戦後の生保業界の発展に果たした役割は大きいということだ。今では国民の約8割が生命保険に加入するなど、日本は世界でも有数の保険大国になっている。 経済が拡大し、年功序列で給与も上がっていく中、夫と専業主婦の妻、子ども2~3人という平均的な世帯では、死亡保障に各種特約を付帯させたフルカバーの生命保険に入っていれば安心できた。そこに、大量の営業職員を投入して人海戦術で保険を獲得する戦術は時代の要請にマッチしていた。 だが、終身雇用は主流でなくなり、少子化が進んで単身世帯も増えている。女性が働くのは普通になり、共働きの家庭も多い。しかも、職場や家庭はセキュリテイが厳しくなり、顧客訪問も容易ではない。こうした時代や環境の変化に、今の営業職員チャネルのビジネスモデルは合わなくなっている。 Q:ビジネスモデルを変えることは難しいのでしょうか? A:これは私自身の反省点でもあるが、(営業職員チャネルが抱える問題点については)行政側にも責任があった。保険業には専門性が高い領域もあり、保険会社に行政が依存してしまっている。そのため、(金融庁が保険会社に対して)「新しいビジネスモデルに変えなくて良いのですか」などと問い掛けることができない。 例えば、銀行にはリレーションシップバンキングの必要性や(融資に際して)目利き力を発揮するよう求めるなど、新しいビジネスモデルを提示することはできていた。だが、保険会社に対しては現状追認しかできない。 金融庁も生命保険会社も現状を変えようとしないのは、生命保険商品の開発にあたって金融庁の審査が必要な「認可制」をいまだに維持していることにも表れている。(標準的に90日間の審査日数を要する)認可制が残っていることで、商品開発の創意工夫や開発のスピードを削いでしまっている。 私が金融庁にいたとき、「こんな認可制は早くやめましょう」と提案したが賛同を得られず、特に保険会社から「維持したい」という声が多かった。 Q:保険会社側から反対意見が出たのですか? A:一般的に商品開発の世界では、開発した側が製造物責任を負う。だが、現状の認可制を維持すれば、当局が商品の認可をしているのだから、自分たちがフルにリスクを取らなくていいという判断が働くのだろう。加えて、(商品開発のハードルを保つことで)競争を抑制しようという意図があるのだと思う。 銀行も証券も商品開発の自由度があるのに、保険だけ認可制というのはどう考えてもバランスがとれない。当局も認可制廃止の働きかけをしないし、保険会社も動こうとしない。規模も組織も「大きな巨艦」になって、変えることが難しくなっている。 Q:特に伝統的な国内の生保各社は、商品開発の先行メリットなど、既得権益を守ろうと必死ですね。 A:SBI生命のような「ニューカマー」からみると、既存の保険会社に有利に働く規制やルールが多く存在していることを改めて実感する。 例えば、当社が金融機関を通じて販売する団信の会計上のルールの問題がある。団信を販売した場合、翌年度に契約者に支払う配当金を見込んで、1年間分の契約者配当準備金を前年度に積み立てないといけない。保険料収入以上の準備金の積み立てが必要となるため、会社の体力がある既存の生保を守り、ニューカマーの新規参入を阻んでいるルールになっている。 銀行窓販における規制も問題だ。当社の就業不能保険は疾病だけでなく、ケガや精神疾患で働けなくなった場合も保障対象にしている。だが、窓販規制によって、疾病以外の保障が含まれている場合は金融機関で販売ができない。2005年に銀行窓販が解禁されたときにできたルールを硬直的に守っているためだが、近年は精神疾患の保障に対する消費者ニーズは非常に強くあり、こうした規制がいまだにあるのはおかしい』、「保険だけ認可制というのはどう考えてもバランスがとれない。当局も認可制廃止の働きかけをしないし、保険会社も動こうとしない。規模も組織も「大きな巨艦」になって、変えることが難しくなっている」、「窓販規制によって、疾病以外の保障が含まれている場合は金融機関で販売ができない。2005年に銀行窓販が解禁されたときにできたルールを硬直的に守っているためだが、近年は精神疾患の保障に対する消費者ニーズは非常に強くあり、こうした規制がいまだにあるのはおかしい」、保険行政は余りに保守的過ぎる。 
・「苦情」にこそ真実がある  Q:保険会社の社員や営業職員からよく聞くのは、「勇気を出して会社側に意見を言っても取り合ってくれない」「黙殺される」という声です。現場でパワハラやモラハラ、保険業法違反が起きていると伝えても、真面目に受け止めようとしない風土が保険会社にあるようです。 A:経営陣が現場に行って、社員や職員の声に耳をしっかりと傾ける姿勢を徹底すべきだ。各社は内部通報制度などを設けているが、形だけを整えて内実が伴わないと意味がない。 元行政官の立場からあえて厳しいことを言うと、行政側も自分たちから降りていって現場の声を聞きに行くべきだと思う。問題が発生したら報告書を出させるだけではなく、現場で何が起きているのかを把握すべきだろう。 私が監督局の保険課長時代に、(多くの生損保会社が行政処分を受けた)保険金・給付金の不払い問題を見つけたきっかけは、契約者からの1通の投書だった。「主人が死亡したが、なんだかんだと理由を付けられて保険金が下りなかった」という内容で、それを基に調べたところ、ほかにもそうした事例があったことがわかった。 Q:1人の声を大事にするのは、とても重要なことだと思います。 A:私はずっとそう思っていたので……。「あの保険課長は苦情ばっかり読んでいる」と揶揄されることもあったが、私はそこにこそ真実があると思っていた。 金融庁は、金融サービス利用者相談室などを設けて顧客からの苦情などを受け付けているほか、私が総括審議官のときに、金融機関の社員・職員などからの意見や批判を、(弁護士や大学教授などの)中立的な立場の専門家が受け付けて、金融庁の幹部にフィードバックする「金融行政モニター」という通報機関も設置した。もちろん、保険会社の社員や営業職員も活用できる。 Q:営業職員チャネルは今後、どうあるべきでしょうか。 A:当社が中心に置く非対面チャネルと、営業職員の対面チャネルとを比べたときに、対面チャネルが生き残る道は、双方向のコミュニケーションを大切にすることだ。 一方的な押し売りではなく、お客様のニーズや相談を真摯に聞いてあげて適切にアドバイスや情報提供してあげられるかにかかっている。もしそれができなければ、お客様はすべて非対面のインターネットなどで手続きをしてしまうだろう。 (ネットでの情報収集などで)お客様の金融リテラシーは以前より高まっており、相当高度な金融知識と高い倫理観を持たないと、お客様の信頼を得ることは困難だと思う』、「(多くの生損保会社が行政処分を受けた)保険金・給付金の不払い問題を見つけたきっかけは、契約者からの1通の投書」、初めて知ったが、まさに「「苦情」にこそ真実がある」を示した例だ。「対面チャネルが生き残る道は、双方向のコミュニケーションを大切にすることだ。 一方的な押し売りではなく、お客様のニーズや相談を真摯に聞いてあげて適切にアドバイスや情報提供してあげられるかにかかっている」、理屈の上ではその通りだが、大量の処理が前提なので、個別対応には自ずと限界がある。

第三に、5月11日付け東洋経済Plus「インタビュー/第一生命社長 稲垣精二 「営業職員の販売モデルは非常にいいシステムだ」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26942
・『生命保険大手・第一生命で相次ぐ営業職員による金銭詐取事件。事件の背景には何があるのか。稲垣精二社長を直撃した。 金銭搾取事件の闇はどこまで深いのか――。 第一生命が2020年10月に公表した、山口県の元営業職員(89)による約19億5000万円の巨額詐欺事件。その後、和歌山県や福岡県、神奈川県のほか、北海道と長野県でも元営業職員らによる金銭搾取事件が相次いで明らかになった。 北海道のケースは、旭川支社の60代の元営業職員が契約者3人から654万円を、長野県のケースでは松本支社の70代の元営業職員が8人から合計4836万円をそれぞれだましとっている。2人の元営業職員はいずれも懲戒解雇となっているが、北海道は2012年から2018年まで、長野県のケースは2011年から2020年にかけてと、不正が長期間に及んでいることが特徴だ。 同社は現在、全契約者を対象とした伏在調査(他に同様の事案がないか調べること)に着手し、まずは出金を伴う手続きなど合計61万件を対象に調べた。北海道と長野県の2事案はこの調査によって発覚したもので、不正を働いた営業職員が所属している営業拠点は全国に広がっていることから、今後の調査次第では新たな不正事案が出てくる可能性もある。 営業職員による一連の不祥事に対して、同社の稲垣精二社長はどのように向き合っていくのか。営業職員チャネルの今後のあり方を含めて聞いた(Qは聞き手の質問、Aは稲垣氏の回答)』、「山口県」の事件は有名だが、「和歌山県や福岡県、神奈川県のほか、北海道と長野県」でもあったのは初めて知った。
・『新しい不祥事の可能性はゼロとは言えない  Q:金銭不祥事に関する2020年12月末の記者会見で、稲垣社長は「今後も新たな不正が発覚するかもしれない」と言っていました。その後、2021年2月に北海道と長野で新たな不正が判明しました。 A:被害に遭った契約者の方々には本当に申し訳なく思っている。契約者貸し付けの利用者など、(これまでの不祥事案から考えて)リスクが高い層に対して個別通知や電話をする中で新たな事案が発覚した。今後は全契約者に対しての案内や確認作業を、2021年12月末の完了を目指して行っている。 残念ながら、「新たな不祥事案が出てくる可能性はゼロ」と力強く言い切ることはできない。ただ、過去の膿はすべて出しきる一方で、新たな不正事案を二度と発生させないという強い決意で経営陣、社員一同が気持ちを新たにしている。ゴールデンウィーク明けから始める経営陣と全社員とのタウンホールミーティング(対話集会)を通じて、その思いを共有化していきたい。 Q:今回発覚した北海道の事案は6年半、長野県の事案は9年間、山口県の巨額詐欺事件については18年もの長期にわたって不正が行われていました。なぜ、長期間にわたって不祥事が発覚しなかったのでしょうか。 A:「金銭的な優遇制度がある」などと持ちかけて金銭を預かる話法が典型的だが、営業職員に対する顧客の信頼を逆手に取った事例と考えている。営業職員は転勤もなく、長期的に対面で顧客との信頼関係を築けるという意味では、優れた販売チャネルと考えていた。それだけにショックは非常に大きい。 今回の事案を受けて、契約者に対して「金銭は一切受け取りません」などの案内を徹底したり、契約者貸し付けが続いている顧客に対して本社側が(契約の現状などを)直接確認するなど、モニタリングの重要性を痛感している。 再発防止を狙いに新設したコンプライアンス・リスク分析室ではAI(人工知能)など最新技術も導入して、多角的にモニタリング強化に努めている。 いながき・せいじ/1963年生まれ。1986年慶應義塾大学経済学部卒、第一生命保険入社。経営企画部長などを経て、2017年に第一生命社長に就任。第一生命ホールディングスの社長を兼務(撮影:梅谷秀司)』、「営業職員に対する顧客の信頼を逆手に取った事例・・・営業職員は転勤もなく、長期的に対面で顧客との信頼関係を築けるという意味では、優れた販売チャネルと考えていた。それだけにショックは非常に大きい」、銀行では顧客との癒着防止のため、定期的な転勤があるが、これがないと、不正が発生し易くなる。こうした転勤を前提にせずにやる保険会社は、より緻密な不正防止策が必要だろう。
・『働ける年齢の上限は80歳までに  Q:不正事案では60代~80代の高齢の営業職員が問題を起こしているケースが目立ちます。ベテランの営業職員に対し、周囲の人はなかなか物を言えない雰囲気があるのではないですか。 A:(不正事案が長年にわたって発覚しなかった)反省として、そうした部分はあったように思う。例えば、山口県の事案では(80歳を超える元営業職員に)「特別調査役」などの称号を与えてしまった。高齢の営業職員からの契約の引き継ぎについても、必要性は認識していたものの、なかなか着手することができなかった。 Q:生涯現役社会において、高齢職員の活躍はある意味好ましいことだと思いますが、弊害を生むことにもなりかねません。 A:契約を(後進の営業職員に)どう引き継いでいくかというのは大きな課題と考えており、今後対応策を検討していきたい。 70歳を超えていても顧客にしっかりと寄り添って対応ができ、金融知識が豊富な営業職員はたくさんいる。年齢で一律に(業務の適性を)判断するのも時代に逆行するのかと思う。 今回の事案を受けて、働ける年齢の上限は80歳までと決めた。高齢の職員に対しては認知症のテストや金融・ITリテラシーのチェックなどを行って、しっかりと顧客に説明できる適性を維持できているか、判断できる仕掛けを取り入れていく。 Q:今後の調査で新たな不正事案が発覚した場合、公表するお考えですか? A:もし新たな事案が発覚した場合は、警察への届け出のタイミングなど調整が必要な場合もあるが、速やかに公表していきたい。当社からの発表やマスコミの報道などによって、顧客の注意喚起にもつながると考えている。 Q:2021年度からの3カ年を対象とした第一生命グループの中期経営計画の中で、営業職員の採用基準や採用期間を見直す方向性を打ち出しました。 A:営業職員の採用数についてはこれまで、営業拠点ごとに目標値が設定されていたが、2021年度はこの目標値を撤廃したうえで、上限値を設定する。これらには顧客に長期的に寄り添える人材をしっかりと見極めて採用しようという狙いがあり、採用のサイクルも従来の「毎月ごと」から「四半期ごと」に変更している。 この結果、2021年度の採用数は前年度から3割程度減る可能性があるが、数を減らすことが目的ではない。あくまで採用の「量から質」への転換を図り、営業成績で社内の基準をクリアした「高能率」の営業職員を多く育てていきたいという思いがある。 また、2021年度は現場の営業目標も撤廃している。2022年度以降の目標をどうするかは、2021年度の状況を見てから判断したい。 Q:ただ問題は、営業拠点の採用数や営業目標をなくしたからといって、個々の営業職員には以前と変わらずノルマが課せられており、ノルマ未達なら給与が減ったり、資格が下がってしまうということです。 A:現在、営業職員の資格や給与設計などの評価制度の見直しに着手しており、2022年度から採用する営業職員に適用することを考えている。 まだ組合との交渉前なので詳細は話せないが、入社5年以内の営業職員の給与水準がより安定化するような給与体系に見直すことを検討している。 われわれの経験値から、入社5年目を超えて150~200人ぐらいの顧客数を持てると、紹介や保障の見直しなどが増えて、その後も長く働き続けられる営業職員が多い。そのため、5年を超えて自立している職員については今の制度で大きな問題はないと考えている』、「現在、営業職員の資格や給与設計などの評価制度の見直しに着手しており、2022年度から採用する営業職員に適用することを考えている。 まだ組合との交渉前なので詳細は話せないが、入社5年以内の営業職員の給与水準がより安定化するような給与体系に見直すことを検討している」、「入社5年目を超えて150~200人ぐらいの顧客数を持てると、紹介や保障の見直しなどが増えて、その後も長く働き続けられる営業職員が多い。そのため、5年を超えて自立している職員については今の制度で大きな問題はないと考えている」、なるほど。
・『営業職員チャネルはグループの中核に  Q:第一生命グループは営業職員だけでなく、代理店や銀行窓販、通販・ネット、新設した少額短期保険会社など、多様な販売網を持っています。その中で営業職員チャネルの位置付けをどのように考えていますか。 A:営業職員の販売モデルは、最も長く顧客に寄り添える非常にいいシステムだと思っている。もちろん今回発覚したような課題は多いが、そこを克服しながら、営業職員チャネルをグループの中核に据えていきたいと思っている。これは私の本心だ。 Q:今回のような金銭搾取事案が発生したにもかかわらず、なぜ、営業職員のモデルが一番いいのでしょうか。 A:生命保険の販売においては、人生におけるリスクや考えたくもないようなことを、しっかりと認識していただき、人生設計を立ててもらうことが必要だ。そのニーズ喚起には人間によるコンサルティングが最適であり、ネットなど非対面では困難な部分が多い。 生命保険の販売手法として対面が最適なのは、諸外国を見てもそうで、代理店などのヒューマンチャネルが販売網の中心であり、ネット経由の販売の比率は日本と同様に小さい。 保険金の支払い時などの局面でも営業職員が強みを発揮する場面が多い。東日本大震災のときは営業職員が被災地を回って安否確認をしたり、保険金・給付金の請求手続きや支払いも積極的に行ったことで、対面のよさが改めて見直されている。 不祥事案は二度と発生させない決意で臨んでおり、ほとんどの営業職員は「お客さま第一」で行動している。顧客の信頼を逆手に取るような営業職員が一部いたからといって、まじめに活動し、顧客の信頼を得ている大多数の職員を否定するようなことをしたくない。)』、「生命保険の販売においては、人生におけるリスクや考えたくもないようなことを、しっかりと認識していただき、人生設計を立ててもらうことが必要だ。そのニーズ喚起には人間によるコンサルティングが最適であり、ネットなど非対面では困難な部分が多い。 生命保険の販売手法として対面が最適」、「人生におけるリスクや考えたくもないようなこと」で脅すのはやはり人間でないとダメなようだ。
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