複合機業界(その1)(在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」 複合機ビジネスの生存策、後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長、「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却) [産業動向]
今日は、複合機業界(その1)(在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」 複合機ビジネスの生存策、後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長、「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却)を取上げよう。
先ずは、7月9日付け東洋経済Plus「在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」、複合機ビジネスの生存策」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27449
・『ペーパーレス化に、コロナ禍による在宅勤務拡大が加わり、複合機ビジネスが苦境に立たされている。変貌を遂げつつある複合機ビジネスの「いま」。 ペーパーレス化による市場縮小に直面する複合機業界が、コロナ禍によって一層の苦境に立たされている。 モノクロ印刷機からカラー印刷機への置き換え需要もあったことから、2019年までは市場の縮小は緩やかなものにとどまっていた。そこに直撃したのがコロナ禍による在宅勤務の拡大だ。 オフィスへの出社減少は印刷量の激減に直結する。リコーによると、コロナの感染が急拡大した2020年4~5月のプリントボリューム(印刷量、PV)は、欧米で前年同期比5割超、アジア圏でも3~4割の大幅な減少となった。2020年の複写機・複合機の世界出荷額は前年比22%減の6547億円。2007年に1兆0600億円あった出荷額は、この10年余りで4割も減少している』、「出荷額は、この10年余りで4割も減少」、とは本当に厳しそうだ。
・『リカーリングモデルに限界 複合機各社は、2021年もPVはコロナ前の水準に戻らないと踏む。必要なのはビジネスモデルの変革だ。リコーの山下良則社長は「小手先の対応では乗り切れない」(2020年8月の決算説明会)と覚悟をにじませる。 これまで主流だったビジネスモデルは、複合機本体の料金を抑え、トナーや印刷用紙など消耗品を安定的に買ってもらう「リカーリングモデル」だった。ただ、印刷量が激減したことでこのモデルには限界が近づいている。 今後はオフィスのDX化を支援するITサービスの提供にシフトする。情報を紙へ印刷することは減っても、情報をデジタルデータとして活用することへのニーズは強いからだ。デジタルデータの活用だけでなく、どのようにセキュリティを高め、保管・管理するか。紙以上に繊細な扱いが必要になる。 在宅勤務の広がりにより、社内のデジタルデータを社外で活用しやすくする環境整備も企業の悩みの種に加わった。こうした課題を解決するサービスの拡充も急務だ。複合機各社はピンチを商機に変えようと、変革に注力している』、確かに「課題を解決するサービスの拡充も急務だ」。
・『リコー:強力な営業部隊がDX化をパッケージ支援 「OA(事務機器)メーカー」から「デジタルサービスの会社」への転換を掲げるのが、2020年の複合機出荷額世界1位(IDC調べ。A3機とA4機の出荷額を合算)のリコーだ。狙うのは複合機にこだわらないDX支援事業だ。 リコーの武器は、自社の営業マンが顧客を直接訪問することで築く強力な販売網だ。代理店販売に依存する他社と異なり、DX化の難しい中小・中堅企業の悩みを直接聞くことができる。外部のソフトウェアも組み込みながら、業種ごとに最適なITサービスをパッケージ化して販売することで効率的にDX化を支援する。 2021年3月期のパッケージサービスの国内販売本数は前年比64%増の約7万本だった。中でもヨーロッパの売上高は前年比27%増の1236億円(オフィスサービス事業)と大きく伸びた。それでも開拓済みの顧客は国内では10%、ヨーロッパでは5%に過ぎず、まだまだ開拓余地はある。 さらに他社協業も積極化させる。従来、業界内では複合機の中でも主力機器は技術力向上のためにも自前で生産すべきという風潮が強かった。だが、リコーは複合機の本体のみで競争力が決まる時代ではなくなったと判断し、自らの持つ高い生産能力を生かし、他社へのOEM供給を加速させる。 複合機が収益の過半を占めるリコーだが、複合機にこだわらない独自の事業にも意欲的だ。最近では自社製の360度カメラを使ったバーチャルツアー作成・公開サービスが話題を集めた。このことはリコーにおいて複合機がITサービス提供に活用するデバイスの一つという位置づけへと変化したことを示している。 2021年3月期は454億円の営業赤字に沈んだが、複合機依存の収益モデルからいかに早く転換できるかが試されている』、「自社の営業マンが顧客を直接訪問することで築く強力な販売網だ。代理店販売に依存する他社と異なり、DX化の難しい中小・中堅企業の悩みを直接聞くことができる」、顧客ニーズの把握・提案はお手のものだろう。
・『キヤノン:紙もデジタルも、両面作戦 複合機で世界出荷額2位のキヤノン。2020年12月期の複合機売上高は5100億円、前年比約2割減となったのと対照的に、自宅でも使われるインクジェットプリンター(IJP)の売上高は同11%増の3198億円と、在宅勤務需要を追い風に好調だった。 キヤノンの本間利夫副社長は「仕事において紙を使う作業を完全になくすことはできない」と述べる。一方で、デジタルデータも重視する両にらみの戦略をとる。キヤノンが追求するのは、従来の「紙の印刷」に加え、デジタルデータとして生成される情報の処理も含めた「総プリントボリューム」だ。 複合機、IJPともに世界市場の上位につけていることが強みだ。従来、ITサービスはオフィス向けがメインターゲットだったが、家庭向けに多く使われるIJPへもセキュリティ強化サービスなどを提供し、在宅勤務への対応を目指す。 2020年には複合機とインクジェットプリンターの事業部を統合し、印刷関連事業の開発・生産能力を向上させてきた。欧米では複合機の販売台数がコロナ前の2019年並みに回復する月もあるなど明るい兆候もある。ITサービスだけでなく、機器の販売でも一歩も引かない姿勢だ』、なるほど。
・『富士フイルム:「ゼロックス後」のフロンティア開拓できるか ゼロックスとの合弁を解消し、4月に社名を変更したのが富士フイルムビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)だ。2021年3月期の複合機などドキュメントソリューション事業の売上高は前年比約1割減の8547億円だった。 ゼロックスとの合弁解消により、アジア太平洋地域のみに制限された販売地域規定も消えた。今後の課題は新たに販売地域に加わったアメリカとヨーロッパの攻略だ。「ゼロックスと離れてチャンスは広がった」と真茅久則社長は自信満々だ。 2020年の複合機世界シェアはゼロックスを含めれば1位だったが、富士フイルムビジネスイノベーション単体では6位にすぎない。欧米地域では、富士フイルムブランドの拡販とOEM供給の二兎を追う。すでにOEM供給はスタートしており、富士フイルムブランドの拡販も早い時期に開始できると真茅社長は語る。 こうした戦略を支えるのが、独自の暗号化技術をはじめとした高い技術力をもった製品・ITサービスだ。アメリカの基準に準拠した高いセキュリティ性をもつ複合機のほか、在宅支援となるITサービス「ドキュワークス」(クラウド上で文章データを管理し、効率よく編集・整理できるITソフト)はコロナ感染拡大時、数カ月で数十万本と売り上げが急増した。 2021年度中に「今までの世の中にない」(真茅社長)ような、革新性ある複合機やITソフトの投入を目指すとするが、その具体像はまだ見えない』、「アメリカの基準に準拠した高いセキュリティ性をもつ複合機のほか、在宅支援となるITサービス「ドキュワークス」・・・はコロナ感染拡大時、数カ月で数十万本と売り上げが急増」、頼もしい商品群だ。
・『セイコーエプソン:学校向けを新規開拓 苦境にある複合機業界にあえて飛び込む企業もある。「インクジェット複合機」を武器にするセイコーエプソンだ。小川恭範社長は「複合機市場は縮小しているが、オフィス市場向けは開拓できておらず、拡大の余地がある」と話す。 レーザー印刷が主流の複合機市場にセイコーエプソンが本格参入したのは2017年。シェアはまだ数%だが、レーザー印刷に比べてインクジェット複合機は熱を使わないため消費電力が少ない。 ただ、ライバル各社が営業・保守網を全国に張りめぐらせているのに比べ、セイコーエプソンのそれは見劣りする。そこで目をつけたのがプロジェクターの販売を通じて関係が深い、学校や教育委員会など教育機関向けだ。一定枚数までは定額で印刷できる料金プランを打ち出すなど、教育需要の取り込みに躍起だ。 学校現場は保護者向けの連絡や小テストなど紙の印刷量が多い。レーザー印刷の印刷スピードは毎分60~80枚ほどであるのに対し、インクジェット複合機は毎分で最大100枚印刷できる。素早く印刷できることは教員の長時間労働を緩和するとアピールする』、「プロジェクターの販売を通じて関係が深い、学校や教育委員会など教育機関向け」、に目をつけたとはさすがだ。
次に、5月13日付け東洋経済Plus「後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26946
・『20年にわたって会社を率いてきた古森重隆氏が退いた後、富士フイルムはどんな成長軌道を描くのか。舵取りを託された後藤禎一氏の重責と課題を追った。 富士フイルムを20年にわたって率いてきた「カリスマ」、古森重隆氏が6月に会長兼CEOの職を退く。 中核事業を維持しつつ、同時にイノベーションを起こす、成熟企業の「両利きの経営」のお手本とされる富士フイルムがここに至るまでは紆余曲折があった。 2005年3月期に当時主力の写真フィルム関連事業が赤字に転落し、「本業消失の危機」に陥る。CEOの古森氏は「第二の創業」を掲げて改革の大ナタをふるい、目をつけたのが、写真フィルム製造で培ってきた技術が生かせるヘルスケア領域だった』、「本業消失の危機」から「目をつけたのが、写真フィルム製造で培ってきた技術が生かせるヘルスケア領域だった」、さすがだ。
・『ヘルスケア進出で経営が安定 古森氏が就任した2000年当時、売上高の6割、営業利益の3分の2を写真フィルム関連事業が占めていたが、ヘルスケア部門への進出に成功したことで経営が安定した。2兆円規模の売上高や1500億円程度の営業利益規模を大きく変えることなく、事業構造を大きく入れ替えた。 新型コロナのため、2021年3月期の営業利益は前期比11%減の1654億円となった。キヤノンなど競合他社に比べてコロナ影響を軽微に抑えられたのは、構造改革で事業が多角化し、コロナ影響を受けづらいヘルスケア事業を収益源に育て上げたためだ。 古森前会長は3月末の社長交代会見で、「コロナ禍でもしなやかに対応できる強さが磨かれてきたと感じている。後進に託す適切な時期がきた」と語った。 古森氏の後を継ぐのは、医療機器事業に長年携わってきた取締役であり、メディカルシステム事業部長を務める後藤禎一氏だ。 4月15日に発表した2024年3月期までの中期経営計画では、売上高2兆7000億円、営業利益2600億円を目標に掲げた。2021年3月期の業績が売上高2兆1925億円、営業利益1654億円だったことを考えれば、かなりの急成長が必要だ。 成長の牽引役は、積極的に買収を進めているバイオCDMO(開発製造受託)などのヘルスケアセグメントだ。後藤氏はこの分野を成長領域と位置づけるほか、パソコンなどの需要が高まる半導体・ディスプレイ向け材料を有するマテリアルズセグメントの成長にも期待を寄せる。 中計の中でとくに目を引くのは投資計画だ。前の中計期間中の2018年3月期からの3年間に投じた設備投資と研究開発費の総額は約7100億円。このとき、ヘルスケア&マテリアルズセグメントだけで約3600億円を投じたが、2022年3月期から始まる新しい中計期間中には、ヘルスケアセグメントだけで、さらに多い5940億円を投じる。これは、全事業への投資総計の約半分にあたる額だ。 ヘルスケアセグメントは現在、会社全体の売上高の25%を占める。2024年3月期にはこの数字を32%に引き上げる計画であることを踏まえても、投資額は莫大だ。これらの投資額を賄うために運転資金の回収期間であるCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を短縮させる』、「新しい中計期間中には、ヘルスケアセグメントだけで・・・全事業への投資総計の約半分にあたる額だ」、「売上高では25%から「32%に引き上げる計画」、「投資額を賄うために運転資金の回収期間であるCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を短縮させる」、とはなかなか巧みだ。
・『複合機事業のアキレス腱 ヘルスケアに投じる5940億円とは別枠でM&Aも積極化させる。後藤氏は「今までのM&Aを通じて加速力や(案件への)敏感さを身に着けた。コロナ禍で売りに出ることが予想されていなかった会社も売りに出るだろう。今もノック(打診)をしている会社がある」と語る。ただ、買収に伴うのれんなど財務的なリスクへの目配りだけでなく、目利き力も問われることになる。 莫大な投資からも伺えるように、後藤氏がヘルスケアセグメントに寄せる期待は大きい。後藤氏は、「2030年度(2031年3月期)にへルスケアで売上高の約半分を占めるイメージ」と述べる。化粧品から液晶フィルムまで事業の多角化を進めてきた古森氏と異なり、後藤氏は古森氏が育てた事業の幹を太くする方針だろう。 こうした積極的な投資姿勢を支えるのが、現在の「キャッシュカウ」である複合機事業だ。稼ぎ頭として期待される同事業は、アキレス腱にもなりかねないリスクをはらむ。 事務機子会社は2020年、アメリカのゼロックスとのブランドライセンスや販売地域を規定した契約打ち切りを発表、2021年4月に富士ゼロックスから富士フイルムビジネスイノベーションに社名を変更した。その結果、ゼロックスブランドを使用できなくなるが、代わりに、ブランドの契約上、今まで販売できなかった欧米市場にも自社ブランドの複合機を販売できるようになる。 ただ、2021年以降、リコーは年4~5%、コニカミノルタは年3~4%のペースで印刷量が減少していくとみるのに対し、「(富士フイルムは市場の縮小)率を年2~3%とみており、やや見通しが甘いのでは」(三菱UFJモルガンスタンレー証券の小宮知希氏)という指摘もある。富士フイルムの主要顧客はよりペーパーレス化も加速していくと考えられる大企業が多く、甘い市場見通しには不安も漂う。 【2021年5月13日14時55分追記】初出時の記事の表記を一部見直しました』、「印刷量が減少していく」速度が同業他社比小さいという「見通しの甘さ」は、確かに大丈夫かと「不安」を感じさせる。
・『ゼロックスとのブランド解消後の戦略は? コロナ影響でオフィスでの印刷量が激減したこともあり、複合機事業の売上高は2024年3月期に8200億円、営業利益は820億円を見込む。ゼロックスとのブランド契約を解消すると決めた2020年には2025年3月期に売上高約1兆3000億円、営業利益約1700億円を目指したことを踏まえると、大幅な下方修正になる。 真茅氏は、「コロナ影響(による)見直しはあったが、2020年に掲げた目標は環境が回復すれば達成できる。ハード・ソフトの両輪で全世界を攻める」と語る。 主要市場のアジアに加え、欧米ではOEM供給(他社ブランドへの製品の製造・供給)と自社ブランドの拡販を同時に進める。富士フイルムにとって、OEM供給は最終製品の販売網を整備する手間がかからない一方、ゼロックスブランドに比べて知名度の低い自社ブランドの複合機販売は、販売網の整備も必要なため時間がかかる。 まずはOEM供給で収益基盤を確立しながら、ゆくゆくはOEM供給と自社ブランド拡販の2本柱に育て上げる計画だ。すでにOEMについては数社と取引が始まっているという。オフィスのIT化・効率化を支援するサービスソフトウェア販売は、堅牢性・高いセキュリティー性などハードの特徴と組み合わせることで訴求力を高めていく。 複合機などの既存事業でキャッシュを生み出しつつ、ヘルスケアなどの成長分野をどれだけ早く大樹へと育て上げられるのか。古森氏の後を継ぐ後藤氏は早速、その手腕を問われることになる』、「複合機などの既存事業でキャッシュを生み出しつつ、ヘルスケアなどの成長分野をどれだけ早く大樹へと育て上げられるのか」、バランスの良い事業ポートフォリオを遺すとは、さすが「古森氏」だけある。
第三に、8月11日付け東洋経済Plus「「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27734
・『「野武士」とも評される強力な営業部隊を持ち、業界を牽引してきたリコー。複合機販売だけでは生き残れないと、ITサービスのパッケージ販売に力を入れる。 2020年の複合機出荷額が世界1位のリコー。「士」とも評される強力な営業部隊を持ち、業績を拡大してきた。だが、ペーパーレス化の進展に加え、新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークが浸透したことで印刷量は激減。2021年3月期は454億円の営業赤字に。過去最大の赤字を計上した2018年3月期以来の試練の年となった。 ただ、ここ最近注力してきたITサービスを柱とするビジネスモデルへの転換は着実に進みつつある。2020年3月期には、リコージャパンのITサービス事業の売上高が複合機事業を逆転した。ITサービス事業をどのように拡大していくのか、日本国内の販売戦略を担うリコージャパンの坂主智弘社長に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは坂主氏の回答)』、「野武士」がこの厳しい環境をどう生き延びてゆくのだろう。
・『これからはサービスが主役 Q:コロナ後、オフィスを取り巻く環境や働き方はどう変わっていくのでしょうか。 A:一番の問題は、労働人口が減少していくことだ。2040年に国内の生産労働人口は2020年比で2割減少するという試算もある。 働き手が減るなか、仕事の質を保っていくために、人手をかけてやっている仕事をなるべくAI(人工知能)などを用いて自動化する。人にしかできない創造性を発揮する仕事に集中できる支援を行うことが求められる。 (そのときには)DaaS(Device as a Service)と呼ばれる端末とサービスをセットにした商品を、サブスクリプション(継続課金)の形で提供していくビジネスが主流になるかもしれない。端末は主役ではなくなり、(仕事のパフォーマンスをより向上させるための)サービスが主役になる。つねに新しい価値を提供していかないと顧客から必要とされなくなっていくだろう。 Q:サービスが主役ですか。 A:リコーの顧客の中心である中小企業は、業務のIT化という課題を認識しながらも「いずれ対処しよう」という様子見の状態だった。それがコロナによりすぐに対処しなきゃいけないと意識が変わったのを感じている。 リコーは(企業のDX化を支援するための)製品・サービス・サポートをセットにした「スクラムパッケージ」という商品を販売している。2021年3月期の販売本数は前年比64%増の約7万本と好調だった。 なかでも、PCやクラウドサービスを一括で提供し、リモートワーク環境を整えられる「テレワークまるごとパック」が人気だ。国内のリコー製品を使っている(中小企業以外も含む)顧客でスクラムパッケージも利用している比率は約10%。2023年3月期には20%にまで高めたい。 Q:「スクラムパッケージ」の提供はコロナ以前の2017年からですね。 A:2016年頃からペーパレス化により複合機が提供できる価値は減少してきていると意識してきた。(価格競争が激しいため)複合機のシェアを追い続けると、安くてもいいから買ってくださいになってしまい、持続的な成長は不可能だ。 そこでシェアを追うのをやめ、複合機に依存した事業構造からの転換を図った。国内だけで営業先の100万事業所を生かし、顧客の働き方改革を支援することで、新しい価値を提供するITサービス事業を収益の柱にしようと決めた。
坂主智弘(さかぬし・ともひろ) 1958年生まれ。1982年明治学院大学社会学部社会学科卒業、同年リコー入社。2010年リコージャパン執行役員、2017年販売事業本部長、取締役専務執行役員などを経て、2018年代表取締役社長就任』、「複合機のシェアを追い続けると、安くてもいいから買ってくださいになってしまい、持続的な成長は不可能だ。 そこでシェアを追うのをやめ、複合機に依存した事業構造からの転換を図った」、なるほど。
・『営業現場も変わった Q:中小企業にITを浸透させるのは大変ではないですか。 当社の武器は強固な直販網だ。直販網を通じて顧客の業種・業務ごとにフローをヒアリングし、課題を類型化することで、課題解決に必要なITソリューションやエッジデバイス(顧客とインターネットをつなぐ接点となる端末)をパッケージ化できた。 働き方改革を支援するといっても、営業マンが顧客の業務課題を聞き取り、複数あるITソフトやエッジデバイスからどの製品を組み合わせて提供するのが最適かを判断するのは難しい。 やはり、ITの専門知識がある社員でないとわからないことも多い。一方で、8000人の営業マンにITの専門知識を教育するのは時間がかかる。そこで、営業マン1人でもスムーズに顧客にソリューションを提案できる方法としてパッケージ化に至った。 営業ツールとしても工夫した。製品だけでなく、営業提案書や活用事例を紹介する動画など営業ツールもパッケージ化し、ある程度学習すれば効果的な提案ができる仕組みも組み込んだ。こうしたパッケージ商品は欧州でも展開しており、販売を伸ばしている。 Q:2020年3月期には、リコージャパンのITサービス事業の売上高が複合機事業を逆転しました。 A:サービスビジネスは複合機と違い、販売したらあとは保守・点検専門の社員だけに任せておけばいいというものではない。 顧客を開拓するだけでなく、顧客にサービスを継続してもらう、もしくは追加で別のサービスを導入してもらわなければ持続的に成長できない。そこで営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている。 当社は「野武士」といわれるほど強い営業力をもっていた。が、それはあくまで「もの売り」についての話。今後は、「こと売り」で営業力を発揮しないとならない。評価法や教育システムを変えることで「こと売り」思考を根付かせる。 従来のように営業マン1人ひとりを評価するだけでなく、チームでどれだけ顧客にITソリューションを提供できたかを評価する制度を整えた。従来のイメージのような「野武士」じゃなくなるかもしれない』、「サービスビジネスは複合機と違い、販売したらあとは保守・点検専門の社員だけに任せておけばいいというものではない。 顧客を開拓するだけでなく、顧客にサービスを継続してもらう、もしくは追加で別のサービスを導入してもらわなければ持続的に成長できない。そこで営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、なるほど。
・『すべてを自前主義でやるのではない Q:ITソリューションは今後どう展開しますか。 A:2020年3月にリコーグループとしてデジタルサービスの会社になると正式に表明した。(リコーの山下良則社長は)コロナ後、出社を前提とした働き方に完全には戻らないだろうと言っていたが、コロナ後の働き方に役に立てるサービスを準備しようと6月にはニューノーマルに対応した働き方を支援するソリューションサービス群「RDPS」(RICOH Digital Processing Service)を発表した。 「RDPS」とは「スクラムパッケージ」などのITサービスと、「EDWプラットフォーム」(エッジデバイスにITサービスをつなぐためのプラットフォーム)、複合機などのエッジデバイスで構成されるサービス群だ。 「RDPS」のコンセプトはオフィスだけでなく、すべての働く場でアナログデータとデジタルデータを相互に変換し、顧客に新たな価値を提供していくこと。手書きの書類だけでなく、音声などのアナログデータをデジタル化し、処理しやすい形にすることが求められる。 逆もまたしかりで、デジタルデータを複合機やプロジェクターで紙、映像といったアナログデータとして出力するニーズもある。リコーは複合機やカメラなどを手がけるエッジデバイスメーカー。アナログデータをキャプチャリングする技術、デジタルデータをアナログデータとして出力する技術ももっている。 2021年6月には、(RDPSの1つとして)「仕事のAI」というITソリューションを発表した。コールセンターに集まった情報などをAIが分析・分類し、重要度順に並べる。分析・分類に人手を割く必要がなく、また情報が分類されていることで効率的に情報を活用できる。 今「仕事のAI」が対応している業種は、食品業界だけだ。大手出版社などと組んでAIに情報を蓄積し、校正や保険の契約書づくりなど対応できる業務も広げていく。 Q:「EDWプラットフォーム」とは具体的にどのようなものなのですか。 A:「EDWプラットフォーム」上では、当社だけでなくパートナー企業のデバイスとアプリケーションを連携させるためのAPI(アプリケーションソフトウェアとプログラムをつなぐための手順やデータ形式)や開発キットなどを公開・提供している。これにより、当社と他社、他社同士で新たなソリューションを開発することができる。 中小企業にITソリューションを提供しているという意味では競合の大塚商会やスキャナーで高シェアを誇る富士通子会社のPFUなども「EDWプラットフォーム」のパートナー。例えば、PFUの提供するスキャナーと当社のソリューションを「EDWプラットフォーム」上で連携させて、納品書をPFUのスキャナーで読み取り、読み取ったデータを当社のAIソリューションが項目ごとに文字データ化。仕入れ管理システムなどと連携しやすくできるサービスを提供している。 自社のデバイスやソリューションは生かしつつも、すべてを自前主義で作るのではなく、他社との協力も進めるつもりだ』、「自社のデバイスやソリューションは生かしつつも、すべてを自前主義で作るのではなく、他社との協力も進めるつもりだ」、上手いやり方だ。「野武士」は「営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、方式に上手く対応できるのだろうか。
先ずは、7月9日付け東洋経済Plus「在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」、複合機ビジネスの生存策」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27449
・『ペーパーレス化に、コロナ禍による在宅勤務拡大が加わり、複合機ビジネスが苦境に立たされている。変貌を遂げつつある複合機ビジネスの「いま」。 ペーパーレス化による市場縮小に直面する複合機業界が、コロナ禍によって一層の苦境に立たされている。 モノクロ印刷機からカラー印刷機への置き換え需要もあったことから、2019年までは市場の縮小は緩やかなものにとどまっていた。そこに直撃したのがコロナ禍による在宅勤務の拡大だ。 オフィスへの出社減少は印刷量の激減に直結する。リコーによると、コロナの感染が急拡大した2020年4~5月のプリントボリューム(印刷量、PV)は、欧米で前年同期比5割超、アジア圏でも3~4割の大幅な減少となった。2020年の複写機・複合機の世界出荷額は前年比22%減の6547億円。2007年に1兆0600億円あった出荷額は、この10年余りで4割も減少している』、「出荷額は、この10年余りで4割も減少」、とは本当に厳しそうだ。
・『リカーリングモデルに限界 複合機各社は、2021年もPVはコロナ前の水準に戻らないと踏む。必要なのはビジネスモデルの変革だ。リコーの山下良則社長は「小手先の対応では乗り切れない」(2020年8月の決算説明会)と覚悟をにじませる。 これまで主流だったビジネスモデルは、複合機本体の料金を抑え、トナーや印刷用紙など消耗品を安定的に買ってもらう「リカーリングモデル」だった。ただ、印刷量が激減したことでこのモデルには限界が近づいている。 今後はオフィスのDX化を支援するITサービスの提供にシフトする。情報を紙へ印刷することは減っても、情報をデジタルデータとして活用することへのニーズは強いからだ。デジタルデータの活用だけでなく、どのようにセキュリティを高め、保管・管理するか。紙以上に繊細な扱いが必要になる。 在宅勤務の広がりにより、社内のデジタルデータを社外で活用しやすくする環境整備も企業の悩みの種に加わった。こうした課題を解決するサービスの拡充も急務だ。複合機各社はピンチを商機に変えようと、変革に注力している』、確かに「課題を解決するサービスの拡充も急務だ」。
・『リコー:強力な営業部隊がDX化をパッケージ支援 「OA(事務機器)メーカー」から「デジタルサービスの会社」への転換を掲げるのが、2020年の複合機出荷額世界1位(IDC調べ。A3機とA4機の出荷額を合算)のリコーだ。狙うのは複合機にこだわらないDX支援事業だ。 リコーの武器は、自社の営業マンが顧客を直接訪問することで築く強力な販売網だ。代理店販売に依存する他社と異なり、DX化の難しい中小・中堅企業の悩みを直接聞くことができる。外部のソフトウェアも組み込みながら、業種ごとに最適なITサービスをパッケージ化して販売することで効率的にDX化を支援する。 2021年3月期のパッケージサービスの国内販売本数は前年比64%増の約7万本だった。中でもヨーロッパの売上高は前年比27%増の1236億円(オフィスサービス事業)と大きく伸びた。それでも開拓済みの顧客は国内では10%、ヨーロッパでは5%に過ぎず、まだまだ開拓余地はある。 さらに他社協業も積極化させる。従来、業界内では複合機の中でも主力機器は技術力向上のためにも自前で生産すべきという風潮が強かった。だが、リコーは複合機の本体のみで競争力が決まる時代ではなくなったと判断し、自らの持つ高い生産能力を生かし、他社へのOEM供給を加速させる。 複合機が収益の過半を占めるリコーだが、複合機にこだわらない独自の事業にも意欲的だ。最近では自社製の360度カメラを使ったバーチャルツアー作成・公開サービスが話題を集めた。このことはリコーにおいて複合機がITサービス提供に活用するデバイスの一つという位置づけへと変化したことを示している。 2021年3月期は454億円の営業赤字に沈んだが、複合機依存の収益モデルからいかに早く転換できるかが試されている』、「自社の営業マンが顧客を直接訪問することで築く強力な販売網だ。代理店販売に依存する他社と異なり、DX化の難しい中小・中堅企業の悩みを直接聞くことができる」、顧客ニーズの把握・提案はお手のものだろう。
・『キヤノン:紙もデジタルも、両面作戦 複合機で世界出荷額2位のキヤノン。2020年12月期の複合機売上高は5100億円、前年比約2割減となったのと対照的に、自宅でも使われるインクジェットプリンター(IJP)の売上高は同11%増の3198億円と、在宅勤務需要を追い風に好調だった。 キヤノンの本間利夫副社長は「仕事において紙を使う作業を完全になくすことはできない」と述べる。一方で、デジタルデータも重視する両にらみの戦略をとる。キヤノンが追求するのは、従来の「紙の印刷」に加え、デジタルデータとして生成される情報の処理も含めた「総プリントボリューム」だ。 複合機、IJPともに世界市場の上位につけていることが強みだ。従来、ITサービスはオフィス向けがメインターゲットだったが、家庭向けに多く使われるIJPへもセキュリティ強化サービスなどを提供し、在宅勤務への対応を目指す。 2020年には複合機とインクジェットプリンターの事業部を統合し、印刷関連事業の開発・生産能力を向上させてきた。欧米では複合機の販売台数がコロナ前の2019年並みに回復する月もあるなど明るい兆候もある。ITサービスだけでなく、機器の販売でも一歩も引かない姿勢だ』、なるほど。
・『富士フイルム:「ゼロックス後」のフロンティア開拓できるか ゼロックスとの合弁を解消し、4月に社名を変更したのが富士フイルムビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)だ。2021年3月期の複合機などドキュメントソリューション事業の売上高は前年比約1割減の8547億円だった。 ゼロックスとの合弁解消により、アジア太平洋地域のみに制限された販売地域規定も消えた。今後の課題は新たに販売地域に加わったアメリカとヨーロッパの攻略だ。「ゼロックスと離れてチャンスは広がった」と真茅久則社長は自信満々だ。 2020年の複合機世界シェアはゼロックスを含めれば1位だったが、富士フイルムビジネスイノベーション単体では6位にすぎない。欧米地域では、富士フイルムブランドの拡販とOEM供給の二兎を追う。すでにOEM供給はスタートしており、富士フイルムブランドの拡販も早い時期に開始できると真茅社長は語る。 こうした戦略を支えるのが、独自の暗号化技術をはじめとした高い技術力をもった製品・ITサービスだ。アメリカの基準に準拠した高いセキュリティ性をもつ複合機のほか、在宅支援となるITサービス「ドキュワークス」(クラウド上で文章データを管理し、効率よく編集・整理できるITソフト)はコロナ感染拡大時、数カ月で数十万本と売り上げが急増した。 2021年度中に「今までの世の中にない」(真茅社長)ような、革新性ある複合機やITソフトの投入を目指すとするが、その具体像はまだ見えない』、「アメリカの基準に準拠した高いセキュリティ性をもつ複合機のほか、在宅支援となるITサービス「ドキュワークス」・・・はコロナ感染拡大時、数カ月で数十万本と売り上げが急増」、頼もしい商品群だ。
・『セイコーエプソン:学校向けを新規開拓 苦境にある複合機業界にあえて飛び込む企業もある。「インクジェット複合機」を武器にするセイコーエプソンだ。小川恭範社長は「複合機市場は縮小しているが、オフィス市場向けは開拓できておらず、拡大の余地がある」と話す。 レーザー印刷が主流の複合機市場にセイコーエプソンが本格参入したのは2017年。シェアはまだ数%だが、レーザー印刷に比べてインクジェット複合機は熱を使わないため消費電力が少ない。 ただ、ライバル各社が営業・保守網を全国に張りめぐらせているのに比べ、セイコーエプソンのそれは見劣りする。そこで目をつけたのがプロジェクターの販売を通じて関係が深い、学校や教育委員会など教育機関向けだ。一定枚数までは定額で印刷できる料金プランを打ち出すなど、教育需要の取り込みに躍起だ。 学校現場は保護者向けの連絡や小テストなど紙の印刷量が多い。レーザー印刷の印刷スピードは毎分60~80枚ほどであるのに対し、インクジェット複合機は毎分で最大100枚印刷できる。素早く印刷できることは教員の長時間労働を緩和するとアピールする』、「プロジェクターの販売を通じて関係が深い、学校や教育委員会など教育機関向け」、に目をつけたとはさすがだ。
次に、5月13日付け東洋経済Plus「後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26946
・『20年にわたって会社を率いてきた古森重隆氏が退いた後、富士フイルムはどんな成長軌道を描くのか。舵取りを託された後藤禎一氏の重責と課題を追った。 富士フイルムを20年にわたって率いてきた「カリスマ」、古森重隆氏が6月に会長兼CEOの職を退く。 中核事業を維持しつつ、同時にイノベーションを起こす、成熟企業の「両利きの経営」のお手本とされる富士フイルムがここに至るまでは紆余曲折があった。 2005年3月期に当時主力の写真フィルム関連事業が赤字に転落し、「本業消失の危機」に陥る。CEOの古森氏は「第二の創業」を掲げて改革の大ナタをふるい、目をつけたのが、写真フィルム製造で培ってきた技術が生かせるヘルスケア領域だった』、「本業消失の危機」から「目をつけたのが、写真フィルム製造で培ってきた技術が生かせるヘルスケア領域だった」、さすがだ。
・『ヘルスケア進出で経営が安定 古森氏が就任した2000年当時、売上高の6割、営業利益の3分の2を写真フィルム関連事業が占めていたが、ヘルスケア部門への進出に成功したことで経営が安定した。2兆円規模の売上高や1500億円程度の営業利益規模を大きく変えることなく、事業構造を大きく入れ替えた。 新型コロナのため、2021年3月期の営業利益は前期比11%減の1654億円となった。キヤノンなど競合他社に比べてコロナ影響を軽微に抑えられたのは、構造改革で事業が多角化し、コロナ影響を受けづらいヘルスケア事業を収益源に育て上げたためだ。 古森前会長は3月末の社長交代会見で、「コロナ禍でもしなやかに対応できる強さが磨かれてきたと感じている。後進に託す適切な時期がきた」と語った。 古森氏の後を継ぐのは、医療機器事業に長年携わってきた取締役であり、メディカルシステム事業部長を務める後藤禎一氏だ。 4月15日に発表した2024年3月期までの中期経営計画では、売上高2兆7000億円、営業利益2600億円を目標に掲げた。2021年3月期の業績が売上高2兆1925億円、営業利益1654億円だったことを考えれば、かなりの急成長が必要だ。 成長の牽引役は、積極的に買収を進めているバイオCDMO(開発製造受託)などのヘルスケアセグメントだ。後藤氏はこの分野を成長領域と位置づけるほか、パソコンなどの需要が高まる半導体・ディスプレイ向け材料を有するマテリアルズセグメントの成長にも期待を寄せる。 中計の中でとくに目を引くのは投資計画だ。前の中計期間中の2018年3月期からの3年間に投じた設備投資と研究開発費の総額は約7100億円。このとき、ヘルスケア&マテリアルズセグメントだけで約3600億円を投じたが、2022年3月期から始まる新しい中計期間中には、ヘルスケアセグメントだけで、さらに多い5940億円を投じる。これは、全事業への投資総計の約半分にあたる額だ。 ヘルスケアセグメントは現在、会社全体の売上高の25%を占める。2024年3月期にはこの数字を32%に引き上げる計画であることを踏まえても、投資額は莫大だ。これらの投資額を賄うために運転資金の回収期間であるCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を短縮させる』、「新しい中計期間中には、ヘルスケアセグメントだけで・・・全事業への投資総計の約半分にあたる額だ」、「売上高では25%から「32%に引き上げる計画」、「投資額を賄うために運転資金の回収期間であるCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を短縮させる」、とはなかなか巧みだ。
・『複合機事業のアキレス腱 ヘルスケアに投じる5940億円とは別枠でM&Aも積極化させる。後藤氏は「今までのM&Aを通じて加速力や(案件への)敏感さを身に着けた。コロナ禍で売りに出ることが予想されていなかった会社も売りに出るだろう。今もノック(打診)をしている会社がある」と語る。ただ、買収に伴うのれんなど財務的なリスクへの目配りだけでなく、目利き力も問われることになる。 莫大な投資からも伺えるように、後藤氏がヘルスケアセグメントに寄せる期待は大きい。後藤氏は、「2030年度(2031年3月期)にへルスケアで売上高の約半分を占めるイメージ」と述べる。化粧品から液晶フィルムまで事業の多角化を進めてきた古森氏と異なり、後藤氏は古森氏が育てた事業の幹を太くする方針だろう。 こうした積極的な投資姿勢を支えるのが、現在の「キャッシュカウ」である複合機事業だ。稼ぎ頭として期待される同事業は、アキレス腱にもなりかねないリスクをはらむ。 事務機子会社は2020年、アメリカのゼロックスとのブランドライセンスや販売地域を規定した契約打ち切りを発表、2021年4月に富士ゼロックスから富士フイルムビジネスイノベーションに社名を変更した。その結果、ゼロックスブランドを使用できなくなるが、代わりに、ブランドの契約上、今まで販売できなかった欧米市場にも自社ブランドの複合機を販売できるようになる。 ただ、2021年以降、リコーは年4~5%、コニカミノルタは年3~4%のペースで印刷量が減少していくとみるのに対し、「(富士フイルムは市場の縮小)率を年2~3%とみており、やや見通しが甘いのでは」(三菱UFJモルガンスタンレー証券の小宮知希氏)という指摘もある。富士フイルムの主要顧客はよりペーパーレス化も加速していくと考えられる大企業が多く、甘い市場見通しには不安も漂う。 【2021年5月13日14時55分追記】初出時の記事の表記を一部見直しました』、「印刷量が減少していく」速度が同業他社比小さいという「見通しの甘さ」は、確かに大丈夫かと「不安」を感じさせる。
・『ゼロックスとのブランド解消後の戦略は? コロナ影響でオフィスでの印刷量が激減したこともあり、複合機事業の売上高は2024年3月期に8200億円、営業利益は820億円を見込む。ゼロックスとのブランド契約を解消すると決めた2020年には2025年3月期に売上高約1兆3000億円、営業利益約1700億円を目指したことを踏まえると、大幅な下方修正になる。 真茅氏は、「コロナ影響(による)見直しはあったが、2020年に掲げた目標は環境が回復すれば達成できる。ハード・ソフトの両輪で全世界を攻める」と語る。 主要市場のアジアに加え、欧米ではOEM供給(他社ブランドへの製品の製造・供給)と自社ブランドの拡販を同時に進める。富士フイルムにとって、OEM供給は最終製品の販売網を整備する手間がかからない一方、ゼロックスブランドに比べて知名度の低い自社ブランドの複合機販売は、販売網の整備も必要なため時間がかかる。 まずはOEM供給で収益基盤を確立しながら、ゆくゆくはOEM供給と自社ブランド拡販の2本柱に育て上げる計画だ。すでにOEMについては数社と取引が始まっているという。オフィスのIT化・効率化を支援するサービスソフトウェア販売は、堅牢性・高いセキュリティー性などハードの特徴と組み合わせることで訴求力を高めていく。 複合機などの既存事業でキャッシュを生み出しつつ、ヘルスケアなどの成長分野をどれだけ早く大樹へと育て上げられるのか。古森氏の後を継ぐ後藤氏は早速、その手腕を問われることになる』、「複合機などの既存事業でキャッシュを生み出しつつ、ヘルスケアなどの成長分野をどれだけ早く大樹へと育て上げられるのか」、バランスの良い事業ポートフォリオを遺すとは、さすが「古森氏」だけある。
第三に、8月11日付け東洋経済Plus「「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27734
・『「野武士」とも評される強力な営業部隊を持ち、業界を牽引してきたリコー。複合機販売だけでは生き残れないと、ITサービスのパッケージ販売に力を入れる。 2020年の複合機出荷額が世界1位のリコー。「士」とも評される強力な営業部隊を持ち、業績を拡大してきた。だが、ペーパーレス化の進展に加え、新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークが浸透したことで印刷量は激減。2021年3月期は454億円の営業赤字に。過去最大の赤字を計上した2018年3月期以来の試練の年となった。 ただ、ここ最近注力してきたITサービスを柱とするビジネスモデルへの転換は着実に進みつつある。2020年3月期には、リコージャパンのITサービス事業の売上高が複合機事業を逆転した。ITサービス事業をどのように拡大していくのか、日本国内の販売戦略を担うリコージャパンの坂主智弘社長に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは坂主氏の回答)』、「野武士」がこの厳しい環境をどう生き延びてゆくのだろう。
・『これからはサービスが主役 Q:コロナ後、オフィスを取り巻く環境や働き方はどう変わっていくのでしょうか。 A:一番の問題は、労働人口が減少していくことだ。2040年に国内の生産労働人口は2020年比で2割減少するという試算もある。 働き手が減るなか、仕事の質を保っていくために、人手をかけてやっている仕事をなるべくAI(人工知能)などを用いて自動化する。人にしかできない創造性を発揮する仕事に集中できる支援を行うことが求められる。 (そのときには)DaaS(Device as a Service)と呼ばれる端末とサービスをセットにした商品を、サブスクリプション(継続課金)の形で提供していくビジネスが主流になるかもしれない。端末は主役ではなくなり、(仕事のパフォーマンスをより向上させるための)サービスが主役になる。つねに新しい価値を提供していかないと顧客から必要とされなくなっていくだろう。 Q:サービスが主役ですか。 A:リコーの顧客の中心である中小企業は、業務のIT化という課題を認識しながらも「いずれ対処しよう」という様子見の状態だった。それがコロナによりすぐに対処しなきゃいけないと意識が変わったのを感じている。 リコーは(企業のDX化を支援するための)製品・サービス・サポートをセットにした「スクラムパッケージ」という商品を販売している。2021年3月期の販売本数は前年比64%増の約7万本と好調だった。 なかでも、PCやクラウドサービスを一括で提供し、リモートワーク環境を整えられる「テレワークまるごとパック」が人気だ。国内のリコー製品を使っている(中小企業以外も含む)顧客でスクラムパッケージも利用している比率は約10%。2023年3月期には20%にまで高めたい。 Q:「スクラムパッケージ」の提供はコロナ以前の2017年からですね。 A:2016年頃からペーパレス化により複合機が提供できる価値は減少してきていると意識してきた。(価格競争が激しいため)複合機のシェアを追い続けると、安くてもいいから買ってくださいになってしまい、持続的な成長は不可能だ。 そこでシェアを追うのをやめ、複合機に依存した事業構造からの転換を図った。国内だけで営業先の100万事業所を生かし、顧客の働き方改革を支援することで、新しい価値を提供するITサービス事業を収益の柱にしようと決めた。
坂主智弘(さかぬし・ともひろ) 1958年生まれ。1982年明治学院大学社会学部社会学科卒業、同年リコー入社。2010年リコージャパン執行役員、2017年販売事業本部長、取締役専務執行役員などを経て、2018年代表取締役社長就任』、「複合機のシェアを追い続けると、安くてもいいから買ってくださいになってしまい、持続的な成長は不可能だ。 そこでシェアを追うのをやめ、複合機に依存した事業構造からの転換を図った」、なるほど。
・『営業現場も変わった Q:中小企業にITを浸透させるのは大変ではないですか。 当社の武器は強固な直販網だ。直販網を通じて顧客の業種・業務ごとにフローをヒアリングし、課題を類型化することで、課題解決に必要なITソリューションやエッジデバイス(顧客とインターネットをつなぐ接点となる端末)をパッケージ化できた。 働き方改革を支援するといっても、営業マンが顧客の業務課題を聞き取り、複数あるITソフトやエッジデバイスからどの製品を組み合わせて提供するのが最適かを判断するのは難しい。 やはり、ITの専門知識がある社員でないとわからないことも多い。一方で、8000人の営業マンにITの専門知識を教育するのは時間がかかる。そこで、営業マン1人でもスムーズに顧客にソリューションを提案できる方法としてパッケージ化に至った。 営業ツールとしても工夫した。製品だけでなく、営業提案書や活用事例を紹介する動画など営業ツールもパッケージ化し、ある程度学習すれば効果的な提案ができる仕組みも組み込んだ。こうしたパッケージ商品は欧州でも展開しており、販売を伸ばしている。 Q:2020年3月期には、リコージャパンのITサービス事業の売上高が複合機事業を逆転しました。 A:サービスビジネスは複合機と違い、販売したらあとは保守・点検専門の社員だけに任せておけばいいというものではない。 顧客を開拓するだけでなく、顧客にサービスを継続してもらう、もしくは追加で別のサービスを導入してもらわなければ持続的に成長できない。そこで営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている。 当社は「野武士」といわれるほど強い営業力をもっていた。が、それはあくまで「もの売り」についての話。今後は、「こと売り」で営業力を発揮しないとならない。評価法や教育システムを変えることで「こと売り」思考を根付かせる。 従来のように営業マン1人ひとりを評価するだけでなく、チームでどれだけ顧客にITソリューションを提供できたかを評価する制度を整えた。従来のイメージのような「野武士」じゃなくなるかもしれない』、「サービスビジネスは複合機と違い、販売したらあとは保守・点検専門の社員だけに任せておけばいいというものではない。 顧客を開拓するだけでなく、顧客にサービスを継続してもらう、もしくは追加で別のサービスを導入してもらわなければ持続的に成長できない。そこで営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、なるほど。
・『すべてを自前主義でやるのではない Q:ITソリューションは今後どう展開しますか。 A:2020年3月にリコーグループとしてデジタルサービスの会社になると正式に表明した。(リコーの山下良則社長は)コロナ後、出社を前提とした働き方に完全には戻らないだろうと言っていたが、コロナ後の働き方に役に立てるサービスを準備しようと6月にはニューノーマルに対応した働き方を支援するソリューションサービス群「RDPS」(RICOH Digital Processing Service)を発表した。 「RDPS」とは「スクラムパッケージ」などのITサービスと、「EDWプラットフォーム」(エッジデバイスにITサービスをつなぐためのプラットフォーム)、複合機などのエッジデバイスで構成されるサービス群だ。 「RDPS」のコンセプトはオフィスだけでなく、すべての働く場でアナログデータとデジタルデータを相互に変換し、顧客に新たな価値を提供していくこと。手書きの書類だけでなく、音声などのアナログデータをデジタル化し、処理しやすい形にすることが求められる。 逆もまたしかりで、デジタルデータを複合機やプロジェクターで紙、映像といったアナログデータとして出力するニーズもある。リコーは複合機やカメラなどを手がけるエッジデバイスメーカー。アナログデータをキャプチャリングする技術、デジタルデータをアナログデータとして出力する技術ももっている。 2021年6月には、(RDPSの1つとして)「仕事のAI」というITソリューションを発表した。コールセンターに集まった情報などをAIが分析・分類し、重要度順に並べる。分析・分類に人手を割く必要がなく、また情報が分類されていることで効率的に情報を活用できる。 今「仕事のAI」が対応している業種は、食品業界だけだ。大手出版社などと組んでAIに情報を蓄積し、校正や保険の契約書づくりなど対応できる業務も広げていく。 Q:「EDWプラットフォーム」とは具体的にどのようなものなのですか。 A:「EDWプラットフォーム」上では、当社だけでなくパートナー企業のデバイスとアプリケーションを連携させるためのAPI(アプリケーションソフトウェアとプログラムをつなぐための手順やデータ形式)や開発キットなどを公開・提供している。これにより、当社と他社、他社同士で新たなソリューションを開発することができる。 中小企業にITソリューションを提供しているという意味では競合の大塚商会やスキャナーで高シェアを誇る富士通子会社のPFUなども「EDWプラットフォーム」のパートナー。例えば、PFUの提供するスキャナーと当社のソリューションを「EDWプラットフォーム」上で連携させて、納品書をPFUのスキャナーで読み取り、読み取ったデータを当社のAIソリューションが項目ごとに文字データ化。仕入れ管理システムなどと連携しやすくできるサービスを提供している。 自社のデバイスやソリューションは生かしつつも、すべてを自前主義で作るのではなく、他社との協力も進めるつもりだ』、「自社のデバイスやソリューションは生かしつつも、すべてを自前主義で作るのではなく、他社との協力も進めるつもりだ」、上手いやり方だ。「野武士」は「営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、方式に上手く対応できるのだろうか。
タグ:複合機業界 (その1)(在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」 複合機ビジネスの生存策、後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長、「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却) 東洋経済Plus 「在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」、複合機ビジネスの生存策」 「出荷額は、この10年余りで4割も減少」、とは本当に厳しそうだ。 確かに「課題を解決するサービスの拡充も急務だ」。 リコー:強力な営業部隊がDX化をパッケージ支援 「自社の営業マンが顧客を直接訪問することで築く強力な販売網だ。代理店販売に依存する他社と異なり、DX化の難しい中小・中堅企業の悩みを直接聞くことができる」、顧客ニーズの把握・提案はお手のものだろう。 キヤノン:紙もデジタルも、両面作戦 富士フイルム:「ゼロックス後」のフロンティア開拓できるか 「アメリカの基準に準拠した高いセキュリティ性をもつ複合機のほか、在宅支援となるITサービス「ドキュワークス」・・・はコロナ感染拡大時、数カ月で数十万本と売り上げが急増」、頼もしい商品群だ。 セイコーエプソン:学校向けを新規開拓 「プロジェクターの販売を通じて関係が深い、学校や教育委員会など教育機関向け」、に目をつけたとはさすがだ。 「後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長」 「本業消失の危機」から「目をつけたのが、写真フィルム製造で培ってきた技術が生かせるヘルスケア領域だった」、さすがだ。 「新しい中計期間中には、ヘルスケアセグメントだけで・・・全事業への投資総計の約半分にあたる額だ」、「売上高では25%から「32%に引き上げる計画」、「投資額を賄うために運転資金の回収期間であるCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を短縮させる」、とはなかなか巧みだ。 「印刷量が減少していく」速度が同業他社比小さいという「見通しの甘さ」は、確かに大丈夫かと「不安」を感じさせる。 「複合機などの既存事業でキャッシュを生み出しつつ、ヘルスケアなどの成長分野をどれだけ早く大樹へと育て上げられるのか」、バランスの良い事業ポートフォリオを遺すとは、さすが「古森氏」だけある。 「「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却」 「野武士」がこの厳しい環境をどう生き延びてゆくのだろう。 「複合機のシェアを追い続けると、安くてもいいから買ってくださいになってしまい、持続的な成長は不可能だ。 そこでシェアを追うのをやめ、複合機に依存した事業構造からの転換を図った」、なるほど。 「サービスビジネスは複合機と違い、販売したらあとは保守・点検専門の社員だけに任せておけばいいというものではない。 顧客を開拓するだけでなく、顧客にサービスを継続してもらう、もしくは追加で別のサービスを導入してもらわなければ持続的に成長できない。そこで営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、なるほど。 「自社のデバイスやソリューションは生かしつつも、すべてを自前主義で作るのではなく、他社との協力も進めるつもりだ」、上手いやり方だ。「野武士」は「営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、方式に上手く対応できるのだろうか。