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人工知能(AI)(その15)(野口 悠紀雄氏による生成系AIの3考察(生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」 マネージメントや高度金融サービスにも波及、生成系AIがもたらす格差拡大 「シンギュラリティ時代」の政府の責任、ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」) [イノベーション]

人工知能(AI)については、本年4月17日に取上げた。今日は、(その15)(野口 悠紀雄氏による生成系AIの3考察(生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」 マネージメントや高度金融サービスにも波及、生成系AIがもたらす格差拡大 「シンギュラリティ時代」の政府の責任、ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」)である。

先ずは、6月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」、マネージメントや高度金融サービスにも波及」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324441
・『AIが変える未来の雇用事情 「バタフライ・エフェクト」で思わぬ変化も  ChatGPTなどの生成系AIによって文章を書くなどの作業が代替され雇用への影響が懸念されている。 生成系AIが人々の仕事や雇用に与える影響を考える際には、まず生成系AIの機能を理解することが重要だ。 多くの人は、生成系AIは創作をしたりデータを集めて提供したりするものだと誤解している。しかし、生成系AIは創作もできず、正しいデータを提供することもできない。生成系AIとは指示に従って文章を生成するための仕組みだ。 そのうえで文章を書く仕事を中心として、ホワイトカラーの仕事にこれからどのような変化が起きるかを考えてみると、業務用の翻訳や形式的な校正などの仕事は生成系AIに代替される可能性が高いが、マネージメントや高度な金融サービスでも仕事は残っても職が減る。 だがその一方、生成系AIで言葉の壁が低くなり国際分業が進むなどでプラスの「バタフライ・エフェクト」が起きる可能性もある』、「業務用の翻訳や形式的な校正などの仕事は生成系AIに代替される可能性が高いが、マネージメントや高度な金融サービスでも仕事は残っても職が減る。 だがその一方、生成系AIで言葉の壁が低くなり国際分業が進むなどでプラスの「バタフライ・エフェクト」が起きる可能性もある」、なるほど。
・『将来は大幅に仕事が減る翻訳や校正、文字起こし  生成系AIの登場によってすでに潜在的には不要になっており、将来は大幅に減る仕事として、次の三つがある。 一つは翻訳、特に業務用の翻訳や資料翻訳の仕事だ。生成系AIが十分実用になる翻訳を作成でき、要旨の作成も可能だ。これらについての生成系AIの仕事ぶりは、ほぼ完全といってよい。 ただし、文学書などの翻訳は例外で、その需要は減少するが、完全になくなることはないだろう。 二つ目は文章の校正・校閲だ。形式的な誤りは、生成系AIによってほぼ完全に検出・修正可能だ。しかし表現法などに関する好みの問題は残るだろう。 事実や統計数字のチェックは、生成系AIにはできないので、これらについての誤りの検出が、校閲の主要な作業となるだろう。 三つ目は、ライターや文字起こしの仕事だ。録音したものを音声認識でテキスト化し、生成系AIがそれを校正することで、ほぼ自動的に文章を作成できる。 したがって、ライターや文字起こしの作業は、不要になるか、内容が大きく変わるだろう。例えば、事実やデータのチェック、資料の収集などを主な業務とする形に変化するだろう』、「翻訳、特に業務用の翻訳や資料翻訳の仕事だ。生成系AIが十分実用になる翻訳を作成でき、要旨の作成も可能だ・・・ただし、文学書などの翻訳は例外で、その需要は減少するが、完全になくなることはないだろう」、「二つ目は文章の校正・校閲だ。形式的な誤りは、生成系AIによってほぼ完全に検出・修正可能だ。しかし表現法などに関する好みの問題は残るだろう」、「三つ目は、ライターや文字起こしの仕事だ。録音したものを音声認識でテキスト化し、生成系AIがそれを校正することで、ほぼ自動的に文章を作成できる。 したがって、ライターや文字起こしの作業は、不要になるか、内容が大きく変わるだろう」、なるほど。
・『著者や記者の仕事は重要性増す AIにはできないテーマ設定や真実追及  著者の仕事そのものは残るだろうが、作業内容は大きく変わる可能性がある。音声入力と生成系AIの組み合わせを上手く利用することによって、作業効率が飛躍的に向上する。また外国文献の要約などを生成系AIに依頼することによって、資料が得やすくなる。 しかし、事実の調査やデータの入手が現在より格別に便利になるわけではない。著者の最も重要な仕事はテーマの選択だが、この重要性がさらに増すだろう。 文章を書く前段階でのデータの分析は、一見すると生成系AIによって自動化できる場合が多いように思われるが、実際にはそう簡単にはいかない。適切なデータの選択から始って、それをどう分析するかなど、人間が個別に判断しなければならない仕事が多い。 記者の取材活動を生成系AIで代替することはできない。取材は現場での情報収集だけでなく、人々との対話などを通じて真実を追求する重要なプロセスだ。 信頼性のある情報を提供し、社会的な意義を持つ報道を行なうという記者の役割は重要なものとして残るだろう。) 編集者の仕事への影響は場合によって大きく異なる。形式的な仕事しか行なっていない場合、その役割は生成系AIに置き換えられるだろう。しかし、雑誌の特集企画や書籍の企画、著者とのコミュニケーションなどは生成系AIによっては置き換えられない仕事だ。 生成系AIの進歩は金融業務にも影響を与えるだろうが、分析的作業への影響は比較的少ないだろう。しかし、データサイエンスへの影響は大きいだろう。高度なアルゴリズムや機械学習を利用したデータ分析により、リスク評価の精緻化が可能となるだろう』、「記者の取材活動を生成系AIで代替することはできない。取材は現場での情報収集だけでなく、人々との対話などを通じて真実を追求する重要なプロセスだ。 信頼性のある情報を提供し、社会的な意義を持つ報道を行なうという記者の役割は重要なものとして残るだろう」、「編集者の仕事への影響は場合によって大きく異なる。形式的な仕事しか行なっていない場合、その役割は生成系AIに置き換えられるだろう。しかし、雑誌の特集企画や書籍の企画、著者とのコミュニケーションなどは生成系AIによっては置き換えられない仕事だ」、「金融業務にも影響を与えるだろうが、分析的作業への影響は比較的少ないだろう。しかし、データサイエンスへの影響は大きいだろう。高度なアルゴリズムや機械学習を利用したデータ分析により、リスク評価の精緻化が可能となるだろう」、なるほど。
・『「GPTはGPT(汎用技術)」 労働者の80%が10%の業務で影響  オープンAIとペンシルベニア大学の研究者が2023年3月27日に発表した論文(GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact,Potential of Large Language Models)は、LLM(大規模言語モデル:ChatGPTなどの対話型生成系AIの基礎技術)がホワイトカラーに与える影響について、次のように予測している。 +アメリカの労働者の約80%が少なくとも10%の業務で影響を受ける。 +約19%の労働者は、少なくとも50%の業務で影響を受ける。 +高学歴で高い賃金を得ているホワイトカラーへの影響が特に大きい。 なお、この論文のタイトルは、なかなか洒落ている。GPTはGenerative Pre-trained Trensformerの略だが、これは同時に、「汎用技術」(General Purpose Technology)という意味でのGPTでもあるというのだ。 したがって、社会に対する影響は極めて大きいことになる。「文章を書く」というのは、知的作業の一部に過ぎないような気がするのだが、実はそうでなく、知的作業全般の中で基本的な地位を占めているのだ。 なお、汎用技術については、次を参照していただきたい。『ジェネラルパーパス・テクノロジー日本の停滞を打破する究極手段』(アスキー新書、2008年7月。筆者と遠藤諭氏との共著)』、「+アメリカの労働者の約80%が少なくとも10%の業務で影響を受ける。 +約19%の労働者は、少なくとも50%の業務で影響を受ける。 +高学歴で高い賃金を得ているホワイトカラーへの影響が特に大きい」、このうち、3番目は衝撃的だ。
・『マネージメントや高度金融サービスは人間と人間との職の奪い合いに  「GPTs are GPTs」の指摘で重要なのは、「作業時間が減少する」ということだ。「ある仕事が残るかどうかと、失業が生じるかどうかは別」なのだ。 だから、ある仕事がChatGPTによって代替されないとしても、それに従事している人々全てが安泰だというわけではない。) それらの人々の中には、ChatGPTを活用することによって生産性を高められる人が現われるだろう。それらの人々は、その分野の他の人々を駆逐するだろう。このような事態が広範囲に発生する可能性がある。 ホワイトカラーについても、このことが言える。ホワイトカラーの仕事の全てがAIによって代替されないとしても、ホワイトカラーの中の誰かがAIを使いこなすことによって生産性を上げ、「これまで2人でやっていた仕事を1人でできるようになる」といった類いのことが起きるだろう。そうなれば、残りの1人は余分になるわけで、職を失うことになるだろう。 このようなことが、高度に知的な活動、例えばマネージメントの仕事や高度な金融サービス等について頻発するだろう。 「AIが職を奪う」としばしば言われる。確かにその危険があるが、それは、人間がいまやっている仕事がAIにとって変わられるというだけのことではない。AIを巧みに使う人が生産性を上げ、そのため他の人が失業するといった場合のほうが多いのではないかと考えられる。 つまり、AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との間の職の奪い合いが起こると考えられる』、「AIを巧みに使う人が生産性を上げ、そのため他の人が失業するといった場合のほうが多いのではないかと考えられる。 つまり、AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との間の職の奪い合いが起こる」、「AI」を使いこなせる人と、そうでない人との「職の奪い合いが起こる」、というのは納得的だ。 
・『風が吹けば桶屋が儲かる面も 言葉の壁低くなりプラスの変化も  このように、ChatGPTが引き起こす影響は複雑だ。確実に分かるのは、知的活動に関して非常に大きな変化が起きたということだ。それが、人々にどのような影響を与えるかについては、まだ分からない点が多い。 「バタフライ・エフェクト」は、気象学者のエドワード・ローレンツによる「ブラジルでの蝶のはばたきがテキサスに竜巻を引き起こすか?」という問題提起が由来の言葉で、「些細な出来事が、後の大きな出来事のきっかけとなる」という意味だ。「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じようなことだ。 生成系AIの影響として一般的に検討の対象とされるのは、直接的な変化だ。ここでの議論も直接的効果を取り上げた。しかし、生成系AIの効果は、直接的なものだけではないだろう。思いもよらぬところに大きな影響が及ぶことは十分あり得る。 生成系AIがある分野で引き起こした変化が、次々に連鎖反応を引き起こし、最初に変化が起きた分野からは想像もできないところで大きな変化を引き起こすこともあるだろう。 生成系AIの登場は「些細な出来事」とは到底言えないので、それが巻き起こす雇用上の変化は、テキサスの竜巻や桶屋どころのものではないだろう。 ここまでは失業とか、仕事がなくなるというようなネガティブな面を中心に取り上げた。もちろん、これとは逆の側面もある。実際、「風が吹けば……」は、桶屋の仕事が増えるというポジティブな変化だ。 生成系AIによる変化は、最初は文章を書く仕事に関して起きるが、それは次々に連鎖反応を引き起こし、さまざまな経済活動を大きく変える可能性がある。生成系AIは汎用技術であるために、こうしたことが起きるのだ。 例えば、生成系AIが翻訳を簡単にやってくれるため、日本人にとって言葉の壁が低くなり、海外との情報交換がより頻繁に行われるようになることが期待される。 これまで、日本は言葉の壁のために国際分業で遅れていたが、この状況が変わるかもしれない。それによって日本と外国とのさまざまな分業関係が促進され、それが日本再生のきっかけになることもあり得るだろう。このようなポジティブな変化が起きることを期待したい』、「これまで、日本は言葉の壁のために国際分業で遅れていたが、この状況が変わるかもしれない。それによって日本と外国とのさまざまな分業関係が促進され、それが日本再生のきっかけになることもあり得るだろう。このようなポジティブな変化が起きることを期待したい」、その通りだ。

次に、7月21日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「生成系AIがもたらす格差拡大、「シンギュラリティ時代」の政府の責任」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/326335
・『「シンギュラリティ」はすでに到来? AIの進歩「火や電気より深遠な影響」  「ニューヨーク・タイムズ」(2023年6月11日)に掲載されたデイヴィッド・ストレイトフェルド記者の論考は、「シリコンバレーがシンギュラリティの到来に直面している」とした。 「シンギュラリティ」(技術的特異点)とは、AI(人工知能)の急速な進化によって、人間が理解できないほど高度な能力を持つ機械が出現することを指す。 人と機械の立場が逆転し、人間が理解できるスピードより、AIが発展するスピードの方が早くなる。変化は劇的で、指数関数的、かつ不可逆だ。 多くの人々が、AIの急速な進歩を見て、AIが人間を超える日がいつかは来るかもしれないと不安を覚えつつ、「AIが人の仕事を奪うほど賢くなるのはだいぶ先のこと」と考えていた。 しかし、シンギュラリティは、ChatGPTの出現によってすでに実現してしまったのではないだろうか? これが、ストレイトフェルド氏の論考が指摘するところだ。 GoogleのCEOサンダー・ピチャイ氏は、人工知能を「火や電気よりも深遠な影響を持つ。われわれが過去に行ったどんなことよりも深遠」と述べた。今我々はそんな未知の時代に入ろうとしている』、「シンギュラリティは、ChatGPTの出現によってすでに実現してしまったのではないだろうか? これが、ストレイトフェルド氏の論考が指摘するところだ」、先のことと思っていたら、既に「実現」していたとは・・・。
・『シンギュラリティの到来 2045年と予測されていたが  シンギュラリティの概念を最初に提出したのは、アメリカの発明家、思想家、未来学者、実業家であるレイ・カーツワイル氏だ。 彼は2005年の著作の中で、「100兆の極端に遅い結合(シナプス)しかない人間の脳の限界を、人間と機械が統合された文明が超越する瞬間が訪れる」とした。そして、シンギュラリティが起こるのは、2045年頃だろうと予測した。 ストレイトフェルド氏は、この考えは、コンピュータ科学者のジョン・フォン・ノイマンによって、すでに1950年代に語られていたと指摘している。 フォン・ノイマンは、同僚だったスタニスラウ・ウラムとの会話で、「技術の急速に加速する進歩」が「人類の歴史における何か本質的な特異点」をもたらすだろうと語っていた。その後の人間の世は永遠に変わってしまうだろうと、予言めいて話していたというのだ』、「シンギュラリティの到来 2045年と予測されていたが」、なるほど。
・『チューリング・テストにはChatGPTなどは明らかに合格  コンピュータの能力を測るのに、「チューリング・テスト」というものが提唱されている。これは、数学者のアラン・チューリングが提えたものだ。 テストを通して、審査員が人間とコンピュータを判別し間違えたら、そのコンピュータは人間並みの知能を持っているかのように振る舞えるわけであり、「合格」になる(参加者は全員隔離されているので、会話の内容以外からは相手を判断できない)。 ChatGPTは、このテストには明らかに合格しているように思われる。実際、学生がレポートをChatGPTに書かせて提出しても、先生は見抜けない。 現在のChatGPTの能力は不完全だが、人間も不完全だ(ビリー・ワイルダーに指摘されるまでもなく、Nobody's perfectである)。ChatGPTは嘘を言うことがあるが、人間でも知ったかぶりをする人は大勢いる。だから、ChatGPTが間違えるということと、ChatGPTが人間のレベルになっているのは、別のことだ。 ChatGPTは完全ではないし、創造もできないけれども、もはや人間のレベルになっていると考えることができる。そして、幾つかの面では人間をはるかに超えている。例えば、外国語の文献をあっという間に翻訳してしまう。処理スピードの点では、問題なく人間のレベルをはるかに超えている』、「外国語の文献をあっという間に翻訳してしまう。処理スピードの点では、問題なく人間のレベルをはるかに超えている」、限定された分野では、あり得ることだ。
・『約束されてきた“楽園“は富める者はますます豊かに  シンギュラリティは不可逆的なものだと説明されている。そして、政府は急速に進展する技術開発を監督するには遅すぎ、愚かすぎるとシリコンバレーの人々は考えている。 「政府の中には、それを正しく理解できる人はいない。しかし、業界はおおよそ正しく行うことができる」と、Googleの元CEOエリック・シュミット氏は述べた。 AIは技術やビジネス、政治を前例のないように揺さぶっている。長らく約束されてきた仮想的な楽園がついに来たように思える。教育分野でいえば、何でも答えてくれる先生がいつでもそばにいるようなものだ。 しかし、暗い側面もある。これから何が起こるかの予測が難しい。豊かさの時代がもたらされる一方で、人類を滅ぼす可能性もある。) ステレイトフェルド氏は、生成系AIは無限の富を生み出すマシンであるはずなのに、金持ちになっているのは、すでに金持ちである人々だけだと指摘している。 実際、Microsoftの市場価値は、今年に入ってから半兆ドル強増加した(この増加額だけで、トヨタ自動車の時価総額のほぼ2.5倍になる)。AIシステムを動かすチップの製造会社であるNvidiaは、これらのチップの需要が急増したことによって、最も価値のあるアメリカ企業の一つとなった(現在、時価総額の世界ランキングで第6位)。 生成系AIの開発には膨大な資金が必要となることから、これを行える企業は限定的だ。ChatGPTを開発したオープンAIは、Microsoftから130億ドルもの巨額の資金を調達できたために、開発が可能になった。 大企業はこれを利用して生産性を上げる。そして、人員を削減する道具として用いる。一方で小企業はこれを使えずに排除されてしまう。このようにして、格差がますます拡大することは十分にあり得る。富める者はさらに富み、強い者がますます強くなる。そして貧しい者はさらに貧しくなり、弱い者はますます弱くなる。 仮にシンギュラリティがまだ起きてないとしても、このような変化が起きる可能性は大いにある。というより、すでに起きつつあると考えることができる』、「生成系AIの開発には膨大な資金が必要となることから、これを行える企業は限定的だ。ChatGPTを開発したオープンAIは、Microsoftから130億ドルもの巨額の資金を調達できたために、開発が可能になった。 大企業はこれを利用して生産性を上げる。そして、人員を削減する道具として用いる。一方で小企業はこれを使えずに排除されてしまう。このようにして、格差がますます拡大することは十分にあり得る。富める者はさらに富み、強い者がますます強くなる。そして貧しい者はさらに貧しくなり、弱い者はますます弱くなる」、なるほど。
・『全ての人が無料で使える環境が必要 政府は補助金を整理して支援を  こうした事態に対して、技術開発の面で日本が世界のリーダーとなるのは難しいだろう。しかし、国民の全てがこれらのサービスを利用できるような条件を整備することは、十分に可能だ。 ChatGPT3.5やBingやBardは無料で使えるが、ChatGPT4.0はすでに有料になっている。年間240ドル(約3万4000円)という利用料は決してべらぼうな額ではないが、誰もが簡単に払える額でもない。したがって、これを払える人と払えない人との間で、すでに情報処理能力の差が生じてしまっていることになる。 仮にこれを国民の全てが使えるように補助金を出すとすれば、年間で4兆円を超える。マイナンバーカード普及のために、マイナポイントに約2兆円の支出を行ったことを考えれば、日本政府ができないことはない。 今後に登場する生成系AIのサービスには、有料のものも増えるだろう。そうなると、それらを使える人は、ますます能力を高め、使えない人が振り落とされていくことになる。 他方で、政府がこれらのサービスを無料で利用できるようにし、多くの人々が利用できるようになれば、日本再生のための強力な手段とすることも可能だろう。現在支出しているさまざまな補助金を大胆に廃止して、上記のことに集中すれば、これは、決してできないことではない。 シンギュラリティは技術的な問題なので、これを完全にコントロールすることは難しい。しかし、いま指摘した経済的・社会的問題は政府の政策によって変えることが十分に可能だ。 政府がいま起こりつつある事態の重大性を理解し、それに対して適切な対策を行えるかどうかが、これからの日本の進路に対して重大な意味を持っている』、「政府がこれらのサービスを無料で利用できるようにし、多くの人々が利用できるようになれば、日本再生のための強力な手段とすることも可能だろう。現在支出しているさまざまな補助金を大胆に廃止して、上記のことに集中すれば、これは、決してできないことではない。 シンギュラリティは技術的な問題なので、これを完全にコントロールすることは難しい。しかし、いま指摘した経済的・社会的問題は政府の政策によって変えることが十分に可能だ」、その通りだ。

第三に、8月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327111
・『生成系AIの雇用や賃金への影響 低スキル労働者に有利か?  ChatGPTのような生成系AIは、雇用や賃金にどのような影響を与えるか? 多くの人が、この問題に強い関心を寄せている。 カール・フレイ・オックスフォード大学准教授は、これらの技術は低スキル労働者に有利に働くだろうと、経済紙で解説しているが、そうなる可能性もあるが、そうならない可能性もある。 生成系AIは登場したばかりの技術であり、実際に広く使われているわけではない。したがって、雇用を始めとする経済活動にどのような影響があるかについては、さまざまな可能性があり、見通すことが難しい。 ただ生成系AIが雇用を増やしたり賃金が上がったりするプラスの影響を与えるかは、AIによって生産性が上昇するのに応じて需要が増えるかどうかが大きく左右するだろう』、「生成系AIが雇用を増やしたり賃金が上がったりするプラスの影響を与えるかは、AIによって生産性が上昇するのに応じて需要が増えるかどうかが大きく左右するだろう」、その通りだ。
・『需要が増えなければ失業が発生する  生成系AI(正確には、その中で、文章の生成を行う大規模言語モデル:LLM)は、人間の指示や質問に対応して文章を生成する。したがって、文書に関わるさまざまな仕事の効率を飛躍的に高める。 とりわけ翻訳や要約、校正などでは驚くべき力を発揮する。また定型的な文章を事情の変更に応じて書き直すといったことも自動的に行うことができる。このため、こうした仕事に携わっていた人々の生産性は向上する。それに伴って賃金が上昇するだろうと考えるのは自然なことだ。 しかし、この考えには重要な仮定がある。それは、作成された文書に対する需要が生産性の向上に合わせて増えることだ。 しかし、実際にこうなる保証はない。作成された文書に対する需要は増えないことがあり得る。その場合には、従業員にとっての条件が悪化することがある。 例えば、2人の従業員がいて、各人が1時間働き、合わせて2nの量の文章を作っていたとしよう。そして各人が2anの賃金を得ていたとする。ここで、aは文章量に対する賃金の比率だ。 生成系AIの導入によって能率が2倍になり、1人が1時間働けば2nの文章が作れるようになったとする。もし文章に対する需要の総量が4nに増えるなら、各人とも1時間働いて2nずつの文章を作り、1時間当たりの収入(賃金)は2anに増加する(aの値は不変と仮定。なお、このようになるのは生成系AIが「労働増加的技術進歩」と考えられるからだが、詳細の議論は省略)。 しかし、もし文章の需要総量が2nのままだとすれば、企業は1人の従業員を解雇し、残りの1人の従業員だけで2nの量の文章を作ることができる。この場合、解雇されなかった従業員は賃金が2anに増えるが、解雇された従業員の収入は0になる。 2人の生産性が厳密には同一ではなく、少しの差があるとすれば、生産性の低い従業員が解雇されるだろう。つまり低スキル従業員に不利に働くわけだ。こうしたことが起る可能性はかなり高いと考えられる。 生成系AIをうまく使える人々が生産性を上げ、これまでより高い賃金を得るようになる。そして、うまく使えない人々を駆逐して仕事を独占することになるわけだ。) ただ、もちろんこれへの対処は可能だ。2人の従業員を雇いつつ、2人とも30分働いてもらえばよい。その場合には、各人の賃金(1時間あたり収入)は変わらない(ただし、収入は半分になる)。 生産性が上昇すればそれに応じて需要が増え、したがって生産額が増えるということを前提にすれば、恩恵はすべての従業員に及ぶ。 しかし、需要が現実にどうなるかは分からない(フレイ氏も、需要が増大するかどうかが重要な条件だと指摘している)。現在の日本経済の状況では需要が増えないのは、十分にあり得ることだ』、「 生成系AIをうまく使える人々が生産性を上げ、これまでより高い賃金を得るようになる。そして、うまく使えない人々を駆逐して仕事を独占することになるわけだ。) ただ、もちろんこれへの対処は可能だ。2人の従業員を雇いつつ、2人とも30分働いてもらえばよい。その場合には、各人の賃金(1時間あたり収入)は変わらない(ただし、収入は半分になる)。 生産性が上昇すればそれに応じて需要が増え、したがって生産額が増えるということを前提にすれば、恩恵はすべての従業員に及・・・現在の日本経済の状況では需要が増えないのは、十分にあり得ることだ」、なるほど。
・『事務的な仕事は人手が過剰で人手不足の建設や介護には影響少ない  生産性の向上に対して雇用の需要が増えるか増えないかを判断するには、有効求人倍率が参考になる。 最近の数字を見ると、一般事務従事者の有効求人倍率は、0.33だ(厚生労働省、一般職業紹介状況、2023年5月)。 日本経済全体としては、事務的な仕事については人が余っていることになる。生成系AIは、こうした仕事についての生産性を上昇させる。だから上で述べたメカニズムによれば、それにかかわる従業員にとって不利な状況をもたらす可能性が高い。 いまの日本で労働力不足が顕著なのは次の分野だ。 ・建設・採掘従事者(有効求人倍率 4.95) ・介護サービス職業従事者(同 3.54) こうした分野においても、AIが重要な役割を果たすことはある。例えば、介護における介護ロボットは、省力化を進めるために重要な役割を果たす。しかしこれは生成系AIの役割である文書作成とは、あまり関係がない』、「一般事務従事者の有効求人倍率は、0.33だ(厚生労働省、一般職業紹介状況、2023年5月)。 日本経済全体としては、事務的な仕事については人が余っていることになる。生成系AIは、こうした仕事についての生産性を上昇させる。だから上で述べたメカニズムによれば、それにかかわる従業員にとって不利な状況をもたらす可能性が高い」、なるほど。
・『職種間・産業間移動が重要 職に応じたリスキング必要  以上では、従業員が企業間や職種間を移動しないことを前提にして考えた。しかし実際には移動することが可能だ。これによって次のような変化が起こり得る。 労働力不足があまり深刻でない分野(例えば事務職)で生成系AIによって事務能率が向上し、その結果、従業員数が過剰になり、労働力不足が深刻である分野に移動する。これによって、経済全体としての労働力不足が緩和されるはずだ。 ここで重要なのは労働力の職種間・産業間移動だ。『職種間、産業間の労働力の移動は日本でも経済発展や産業の盛衰によってこれまでも行われてきた。 例えば、農業から製造業への転換、あるいは炭鉱の閉鎖などだ。ただしそれは、かなり長い時間をかけて行われた。 ところが、生成系AIによる変化は急激に起こる可能性がある。したがって、社会的に大きな混乱をもたらす可能性がある。さらに、1950年代、60年代に日本で行われた産業間の雇用移動は全体としての経済規模が拡大していく中で行われた。したがって調整に伴うコストが比較的少なかった。 しかし日本はいま、低成長問題に直面している。そうした中で調整を行うのは極めて難しいことだ。いま必要なのは、このような移動を容易にする経済・社会の仕組みを作ることだ。 ところが、実際の政策は、それまでの仕事を続けられるように支援するというものが多い。したがって職種間の移動を妨げる結果になっている。 コロナ禍で採られた雇用調整助成金はその典型的な例だ。こうした政策から脱却する必要がある なお、新しい職種に就くためには新しいスキルが必要であり、そのためにリスキリングが必要だ。このことは最近ではよく言われるが、必要とされるのは、生成系AIという新しい技術を使うためのもの(例えば、プロンプトの作り方)に限らない。これまでとは違う職種に就くとすれば、それに応じたリスキリングが必要になるだろう』、「実際の政策は、それまでの仕事を続けられるように支援するというものが多い。したがって職種間の移動を妨げる結果になっている。 コロナ禍で採られた雇用調整助成金はその典型的な例だ。こうした政策から脱却する必要がある なお、新しい職種に就くためには新しいスキルが必要であり、そのためにリスキリングが必要だ」、その通りだ。
・『生成系AIは「第3次産業革命」 経済社会構造を柔軟に変えられるか  第3次産業革命ということがしばしば言われてきた。あるいは、第4次革命、第5次革命とも言われた。しかし、その中身は大したものではなく、人目を引くためのキャッチフレーズに過ぎない場合が多かった。 だが、生成系AI(大規模言語モデル)は、間違いなく第1次産業革命(蒸気機関の導入)や第2次産業革命(電気の導入)に次ぐ、第3次産業革命だ。 この技術の本質は、人間が日常用語によってコンピューターを操れるようになったことだ。これは、経済社会の基本的な構造を変える。これにうまく対応できるように、社会経済の構造を柔軟に変えていけるかどうかが、今後の経済の成長を決めることになる。 日本政府は、ぜひこのような問題意識を持って政策を進めてもらいたい。生成系AIを国会答弁に用いるというようなこととは全く次元の違う対応が必要なのだ。 さらに、教育の仕組み、特に大学教育が改革されなければならない。日本の大学はこれまで、時代の変化や技術の変化に対して柔軟に対応してきたとは言いがたい。 生成系AIがもたらす変化は、これまでのさまざまな技術革新がもたらしたもの以上に大きなものになる可能性が強い。そうした変革を可能にするために、高等教育の内容を変革していくことが重要な課題だ』、「生成系AI(大規模言語モデル)は、間違いなく第1次産業革命(蒸気機関の導入)や第2次産業革命(電気の導入)に次ぐ、第3次産業革命だ。 この技術の本質は、人間が日常用語によってコンピューターを操れるようになったことだ。これは、経済社会の基本的な構造を変える。これにうまく対応できるように、社会経済の構造を柔軟に変えていけるかどうかが、今後の経済の成長を決めることになる。 日本政府は、ぜひこのような問題意識を持って政策を進めてもらいたい。生成系AIを国会答弁に用いるというようなこととは全く次元の違う対応が必要なのだ。 さらに、教育の仕組み、特に大学教育が改革されなければならない。日本の大学はこれまで、時代の変化や技術の変化に対して柔軟に対応してきたとは言いがたい。 生成系AIがもたらす変化は、これまでのさまざまな技術革新がもたらしたもの以上に大きなものになる可能性が強い。そうした変革を可能にするために、高等教育の内容を変革していくことが重要な課題だ」、同感である。
タグ:人工知能(AI) (その15)(野口 悠紀雄氏による生成系AIの3考察(生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」 マネージメントや高度金融サービスにも波及、生成系AIがもたらす格差拡大 「シンギュラリティ時代」の政府の責任、ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」) ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」、マネージメントや高度金融サービスにも波及」 「業務用の翻訳や形式的な校正などの仕事は生成系AIに代替される可能性が高いが、マネージメントや高度な金融サービスでも仕事は残っても職が減る。 だがその一方、生成系AIで言葉の壁が低くなり国際分業が進むなどでプラスの「バタフライ・エフェクト」が起きる可能性もある」、なるほど。 「翻訳、特に業務用の翻訳や資料翻訳の仕事だ。生成系AIが十分実用になる翻訳を作成でき、要旨の作成も可能だ・・・ただし、文学書などの翻訳は例外で、その需要は減少するが、完全になくなることはないだろう」、「二つ目は文章の校正・校閲だ。形式的な誤りは、生成系AIによってほぼ完全に検出・修正可能だ。しかし表現法などに関する好みの問題は残るだろう」、「三つ目は、ライターや文字起こしの仕事だ。録音したものを音声認識でテキスト化し、生成系AIがそれを校正することで、ほぼ自動的に文章を作成できる。 したがって、ライターや 「記者の取材活動を生成系AIで代替することはできない。取材は現場での情報収集だけでなく、人々との対話などを通じて真実を追求する重要なプロセスだ。 信頼性のある情報を提供し、社会的な意義を持つ報道を行なうという記者の役割は重要なものとして残るだろう」、「編集者の仕事への影響は場合によって大きく異なる。形式的な仕事しか行なっていない場合、その役割は生成系AIに置き換えられるだろう。しかし、雑誌の特集企画や書籍の企画、著者とのコミュニケーションなどは生成系AIによっては置き換えられない仕事だ」、 「金融業務にも影響を与えるだろうが、分析的作業への影響は比較的少ないだろう。しかし、データサイエンスへの影響は大きいだろう。高度なアルゴリズムや機械学習を利用したデータ分析により、リスク評価の精緻化が可能となるだろう」、なるほど。 このうち、3番目は衝撃的だ。 「AIを巧みに使う人が生産性を上げ、そのため他の人が失業するといった場合のほうが多いのではないかと考えられる。 つまり、AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との間の職の奪い合いが起こる」、「AI」を使いこなせる人と、そうでない人との「職の奪い合いが起こる」、というのは納得的だ。 「これまで、日本は言葉の壁のために国際分業で遅れていたが、この状況が変わるかもしれない。それによって日本と外国とのさまざまな分業関係が促進され、それが日本再生のきっかけになることもあり得るだろう。このようなポジティブな変化が起きることを期待したい」、その通りだ。 野口悠紀雄氏による「生成系AIがもたらす格差拡大、「シンギュラリティ時代」の政府の責任」 「シンギュラリティは、ChatGPTの出現によってすでに実現してしまったのではないだろうか? これが、ストレイトフェルド氏の論考が指摘するところだ」、先のことと思っていたら、既に「実現」していたとは・・・。 「シンギュラリティの到来 2045年と予測されていたが」、なるほど。 「外国語の文献をあっという間に翻訳してしまう。処理スピードの点では、問題なく人間のレベルをはるかに超えている」、限定された分野では、あり得ることだ。 「生成系AIの開発には膨大な資金が必要となることから、これを行える企業は限定的だ。ChatGPTを開発したオープンAIは、Microsoftから130億ドルもの巨額の資金を調達できたために、開発が可能になった。 大企業はこれを利用して生産性を上げる。そして、人員を削減する道具として用いる。一方で小企業はこれを使えずに排除されてしまう。このようにして、格差がますます拡大することは十分にあり得る。富める者はさらに富み、強い者がますます強くなる。そして貧しい者はさらに貧しくなり、弱い者はますます弱くなる」、なる ほど。 「政府がこれらのサービスを無料で利用できるようにし、多くの人々が利用できるようになれば、日本再生のための強力な手段とすることも可能だろう。現在支出しているさまざまな補助金を大胆に廃止して、上記のことに集中すれば、これは、決してできないことではない。 シンギュラリティは技術的な問題なので、これを完全にコントロールすることは難しい。しかし、いま指摘した経済的・社会的問題は政府の政策によって変えることが十分に可能だ」、その通りだ。 野口悠紀雄氏による「ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」」 「生成系AIが雇用を増やしたり賃金が上がったりするプラスの影響を与えるかは、AIによって生産性が上昇するのに応じて需要が増えるかどうかが大きく左右するだろう」、その通りだ。 「 生成系AIをうまく使える人々が生産性を上げ、これまでより高い賃金を得るようになる。そして、うまく使えない人々を駆逐して仕事を独占することになるわけだ。) ただ、もちろんこれへの対処は可能だ。2人の従業員を雇いつつ、2人とも30分働いてもらえばよい。その場合には、各人の賃金(1時間あたり収入)は変わらない(ただし、収入は半分になる)。 生産性が上昇すればそれに応じて需要が増え、したがって生産額が増えるということを前提にすれば、恩恵はすべての従業員に及・・・現在の日本経済の状況では需要が増えないのは、十分 にあり得ることだ」、なるほど。 「一般事務従事者の有効求人倍率は、0.33だ(厚生労働省、一般職業紹介状況、2023年5月)。 日本経済全体としては、事務的な仕事については人が余っていることになる。生成系AIは、こうした仕事についての生産性を上昇させる。だから上で述べたメカニズムによれば、それにかかわる従業員にとって不利な状況をもたらす可能性が高い」、なるほど。 「実際の政策は、それまでの仕事を続けられるように支援するというものが多い。したがって職種間の移動を妨げる結果になっている。 コロナ禍で採られた雇用調整助成金はその典型的な例だ。こうした政策から脱却する必要がある なお、新しい職種に就くためには新しいスキルが必要であり、そのためにリスキリングが必要だ」、その通りだ。 「生成系AI(大規模言語モデル)は、間違いなく第1次産業革命(蒸気機関の導入)や第2次産業革命(電気の導入)に次ぐ、第3次産業革命だ。 この技術の本質は、人間が日常用語によってコンピューターを操れるようになったことだ。これは、経済社会の基本的な構造を変える。これにうまく対応できるように、社会経済の構造を柔軟に変えていけるかどうかが、今後の経済の成長を決めることになる。 日本政府は、ぜひこのような問題意識を持って政策を進めてもらいたい。生成系AIを国会答弁に用いるというようなこととは全く次元の違う対応が必要 なのだ。 さらに、教育の仕組み、特に大学教育が改革されなければならない。日本の大学はこれまで、時代の変化や技術の変化に対して柔軟に対応してきたとは言いがたい。 生成系AIがもたらす変化は、これまでのさまざまな技術革新がもたらしたもの以上に大きなものになる可能性が強い。そうした変革を可能にするために、高等教育の内容を変革していくことが重要な課題だ」、同感である。
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フランス(その4)(フランス暴動は収まっても政治にくすぶる火種 移民地区を財政支援すれば極右の伸長を招く、日本の報道では分からない「移民大国」フランスの試行錯誤【池上彰・増田ユリヤ対談】) [世界情勢]

フランスについては、昨年1月3日に取上げた。今日は、(その4)(フランス暴動は収まっても政治にくすぶる火種 移民地区を財政支援すれば極右の伸長を招く、日本の報道では分からない「移民大国」フランスの試行錯誤【池上彰・増田ユリヤ対談】)である。

先ずは、本年7月14日付け東洋経済オンラインが掲載した第一生命経済研究所主席エコノミストの田中 理氏による「フランス暴動は収まっても政治にくすぶる火種 移民地区を財政支援すれば極右の伸長を招く」を紹介しよう。
・『フランスのパリ郊外のナンテールで6月27日に起きた、北アフリカにルーツを持つ17歳の少年が警察に射殺された事件は、人種差別や自身の置かれた境遇に不満を持ち、国家や社会から見捨てられていると感じている移民二世や三世の若者による暴動を引き起こした。 パリ北東部や南東部の移民やその家族が多く居住するバンリュー地区(フランス語で「郊外」を意味する)やフランス各地の地方都市で、暴徒化した若者が警察署、学校、図書館、市庁舎、バス、路面電車、車、商店などを襲撃・放火し、警官隊や治安維持隊と激しく衝突した。 事件後の数日間で数千人が逮捕され、炎上する車や花火を投げる若者の姿が世界中に伝えられたが、暴動は1週間足らずでひとまず沈静化の兆しをみせている』、「事件後の数日間で数千人が逮捕」、とは大規模だ。
・『移民地区で警察との間に不信感  暴動のきっかけとなった射殺事件は、無免許でレンタカーを運転中だった「ナヘルM」少年(ナヘルは少年の名前、Mは苗字の伏せ字)のスピード違反を目撃した2人の警官が車両を追走。停止した車から降りるように命じられた少年がこれを拒絶し、警官の制止を振り切って車を再発進させたところ、1人の警官が運転席にいた少年に向かって発砲した。 バンリュー地区では、貧困、教育の荒廃、麻薬の密売、暴力犯罪などが蔓延し、不良化した少年と警察による衝突やいざこざが後を絶たず、両者の間に不信感が渦巻いている。2005年には北アフリカ出身の10代の少年2人が警察からの逃走中に変電所に逃げ込み、感電死する事件が発生し、フランス各地で3週間にわたって暴動が続いた。 類似した事件は最近もたびたび発生しているが、今回は少年と警官のやり取りを撮影した動画がソーシャルメディアで拡散され、若者の不満が爆発した。 フランスは古くはアフリカの旧植民地諸国から、最近ではより幅広い国々から多くの移民を受け入れてきた。人口に占める移民の割合は1968年の6.5%から2021年には10.3%に増加し、フランス国籍を持つ移民の子孫を含めると、外国にルーツを持つ人口の割合はその数倍に達する。 移民や移民の子孫は、移民のバックグラウンドを持たないフランス人と比べて、失業率が高く、低技能・低賃金労働に従事し、生活環境や住環境が厳しく、健康状態も悪いことが各種の統計から確認される』、「人口に占める移民の割合は1968年の6.5%から2021年には10.3%に増加し、フランス国籍を持つ移民の子孫を含めると、外国にルーツを持つ人口の割合はその数倍に達する」、「移民や移民の子孫は、移民のバックグラウンドを持たないフランス人と比べて、失業率が高く、低技能・低賃金労働に従事し、生活環境や住環境が厳しく、健康状態も悪いことが各種の統計から確認される」、なるほど。
・『こうした状況は、フランス語の運用能力やフランスの文化や生活習慣への理解が十分でなかった第一世代の移民だけでなく、フランスで生まれ育った第二世代や第三世代の移民の子孫でもそれほど改善していない。2020年の調査では、両親が移民である子弟の30%が「民族、国籍、人種に基づく差別を経験したことがある」と回答している。 マグレブ(モロッコ、アルジェリア、チュニジアなどの北アフリカ諸国の総称)にルーツを持つ移民や移民の子孫は、同じような経歴を持つ非移民のフランス人に比べて、採用担当者から面接に呼ばれることが少なく、失業のリスクが高く、不当に仕事を拒否されることが多いとの調査結果もある』、「マグレブ・・・にルーツを持つ移民や移民の子孫は、同じような経歴を持つ非移民のフランス人に比べて、採用担当者から面接に呼ばれることが少なく、失業のリスクが高く、不当に仕事を拒否されることが多いとの調査結果もある」、やはり就職差別もあるようだ。
・『9月ラグビーW杯の会場は目と鼻の先  暴動が比較的短期間で落ち着きそうなことから、フランス経済への影響は、それほど深刻なものとはならないだろう。とはいえ、フランスはこれから観光シーズンの最盛期に入り、新型コロナウイルスの感染拡大で自粛していた海外からの観光客が押し寄せてくることが期待されていた。暴動の発生を受け、宿泊予約の一部がキャンセルされたようだ。 9月初旬から10月下旬までの間、フランス各地で開催されるラグビー・ワールドカップの準決勝や決勝戦が行われるパリ郊外のスタッド・ド・フランス(サン=ドニ・スタジアム)は、バンリュー地区に隣接し、今回の暴動の発生現場の1つから目と鼻の先だ。 サン=ドニ・スタジアムは、2024年夏のパリ・オリンピック=パラリンピックの開会式・閉会式が行われるメインスタジアムでもあり、選手村、メディアセンター、水泳・バドミントン・バレーボール競技の会場もパリ北部の移民居住地域の中に点在する。 同スタジアム周辺は、2015年のパリ同時多発テロ事件での自爆テロ現場の1つだったほか、2023年のサッカー・チャンピオンズリーグの決勝戦後にも暴動が発生した。 マクロン大統領は就任以来、教育や公共住宅など、バンリュー地区に大規模な投資を行ってきた。この地域では、2024年夏のオリンピック・パラリンピック関連の建設工事も同時に進んでいる』、「9月ラグビーW杯の会場は目と鼻の先」、やはり地価が安いからなのだろう。
・『移民地区への支援に「農村軽視」と批判  一方、過去2度の大統領選挙でマクロン氏と対峙した極右政党・国民連合のルペン氏は、政府によるバンリュー地区への手厚い政策支援の結果、地方の貧しい農村地域が軽視されていると批判してきた。 長期的な財政安定に向けて、国民に年金の支給開始年齢の引き上げでの協力を求めてきたマクロン大統領が、社会的不平等の是正を目的にバンリュー地区への追加の財政支援を決定すれば、ルペン氏に格好の得点機会を提供することになりかねない。 ルペン氏は2022年の大統領選挙での敗北後、極端な政策主張を封印し、責任ある政党への脱皮を有権者にアピールしている。物価高騰による生活困窮や年金改革での国民の反発も追い風に、支持を伸ばしてきた』、「マクロン大統領が、社会的不平等の是正を目的にバンリュー地区への追加の財政支援を決定すれば、ルペン氏に格好の得点機会を提供することになりかねない」、「ルペン氏」はズル賢いようだ。
・『フランスでは大統領の3選が禁止され、マクロン大統領は2027年の大統領選に出馬できない。マクロン大統領の誕生以降、フランス政界を引っ張ってきた伝統的な右派の共和党と伝統的な左派の社会党は党勢凋落が著しい。 今回の問題への対応は、ポスト・マクロンをにらんだ政局展開を左右しかねない。) 事件はフランス内外で政治的な波紋を広げている。 マクロン大統領は6月30日、ブリュッセルで開かれていた欧州連合(EU)首脳会議を途中で切り上げて帰国し、7月2日からのドイツへの公式訪問を取りやめ、事件への対応に当たった。 3月には年金改革を巡る混乱の発生を受け、英国のチャールズ新国王がフランス訪問を延期したばかりで、フランスの内政混乱はマクロン大統領が重視する外交にも少なからず影響を及ぼしている。 EUの二大国であるドイツとフランスは最近、将来的な原子力エネルギー利用の是非、対空防衛システムの共同調達、ウクライナ支援、財政規律の見直し協議など、さまざまな政策分野で足並みの乱れを露呈してきた。 フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相は、かつてのミッテラン=コール時代やサルコジ=メルケル時代のような、首脳同士の個人的な信頼関係を構築できていないとも噂される』、「フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相は、かつてのミッテラン=コール時代やサルコジ=メルケル時代のような、首脳同士の個人的な信頼関係を構築できていない」、残念ながらその通りだ。
・『独仏のスキマ風はEUにもマイナス  フランスは年金改革に暴動と内政が混乱、ドイツはイデオロギーの異なる3党が集まる連立政権内の不協和音に追われ、両国とも内向きになっている。ドイツは合意したはずの政策が連立政権内でひっくり返されることもあり、フランスの政府関係者からは、「ドイツにはまるで3人の首相がいるようだ」との不満の声も聞かれる。 独仏関係の弱体化とそれに伴うリーダーシップの低下は、EUの政策運営や統合強化の行方にも影を落としかねない。2024年半ばにはEUの共同立法機関である欧州議会の選挙が控えており、EUの執行部が総入れ替えとなる。現体制の下でEU関連の政策実現に残された時間は少ない。) フランス国内では、年金改革を巡る数カ月に及んだデモや衝突が一服し、次の政策課題に取り組もうとしていた矢先の内政混乱により、マクロン2期目の改革推進力が一段と低下する恐れがある。 マクロン大統領の議会会派アンサンブルは、2022年の国民議会(下院)選挙で過半数を失い、法案成立に野党の協力が必要となる』、「独仏関係の弱体化とそれに伴うリーダーシップの低下は、EUの政策運営や統合強化の行方にも影を落としかねない。2024年半ばにはEUの共同立法機関である欧州議会の選挙が控えており、EUの執行部が総入れ替えとなる。現体制の下でEU関連の政策実現に残された時間は少ない」、「フランス国内では、年金改革を巡る数カ月に及んだデモや衝突が一服し、次の政策課題に取り組もうとしていた矢先の内政混乱により、マクロン2期目の改革推進力が一段と低下する恐れがある」、なるほど。『野党の協力が得られなかった年金改革では、憲法第49条第3項の特例を用いて議会採決なしで法案を成立させ、このことが国民の反発をさらに高めた。秋にはグリーン産業促進法、移民法改正、来年度予算など、重要法案の審議が目白押しだ。議会を迂回する非常手段を多用することは難しい』。
・『与野党の亀裂深まり、政策停滞は必至  これまでのところマクロン大統領は、射殺事件とそれを機に起きた暴動に手堅く対処している。右派の主張に肩入れし過ぎれば、弱者切り捨てや差別容認と受け止められかねず、左派の主張に傾き過ぎると、極右政党の伸長を招く恐れがある。 マクロン大統領は発砲した警官を擁護せず、移民社会への配慮を示すと同時に、若者による暴力行為を厳しく非難している。非常事態を宣言すべきとの極右政党の主張を退け、警官隊や治安維持隊の大規模投入で暴動を比較的早期に沈静化することに成功した。緊急閣議を招集し、事態の収拾に向けて指導力を発揮した。 不安要素もある。 今回の事件と暴動の発生を受け、与野党間の亀裂は一段と深まっている。 極右政党・国民連合のルペン氏は、政府が暴徒や犯罪に甘いと批判し、刑事事件で成人として責任追及される年齢を18歳から16歳に引き下げることや、有罪判決を受けた住民の公営住宅に住む権利や生活保護を受給する権利を剥奪することを訴えている。 極左政党・不服従のフランスを率いるメランション氏は、警察による暴力行為を非難し、低所得者への支援拡大を求めている。 マクロン大統領が法案審議での協力に期待を寄せる伝統的な右派政党の共和党は最近、極右勢力への対抗意識から、ルペン氏率いる国民連合と似通った司法制度改革案を発表した。移民法改正などの議会審議は紛糾が予想され、政策停滞が避けられそうにない』、「今回の事件と暴動の発生を受け、与野党間の亀裂は一段と深まっている」、「マクロン大統領が法案審議での協力に期待を寄せる伝統的な右派政党の共和党は最近、極右勢力への対抗意識から、ルペン氏率いる国民連合と似通った司法制度改革案を発表した。移民法改正などの議会審議は紛糾が予想され、政策停滞が避けられそうにない」、「マクロン大統領」は中国寄りの姿勢など、問題が多い。国内政治は難題が多そうだ。

次に、8月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの池上 彰氏とジャーナリストの増田ユリヤ氏の対談「日本の報道では分からない「移民大国」フランスの試行錯誤【池上彰・増田ユリヤ対談】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/326960
・『フランスでは6月に移民の子の少年が警察官に射殺された事件が起きてから、デモや暴動が続発した。ジャーナリストの増田ユリヤ氏は「日本では『やっぱり移民は問題だ』で終わってしまいがちだが、移民大国フランスでは20年近く試行錯誤を繰り返し、少しずつ前に進んでいる」という。池上彰氏が聞いた』、興味深そうだ。
・『年始からデモが続発 五輪ムードとは程遠いパリ  池上 2024年夏、パリ五輪・パラリンピックが開催されます。五輪は7月26日から、パラリンピックは8月28日からと開催を1年後に控え、日本での関連報道も増えてきています。パリ五輪は第1次世界大戦と第2次世界大戦の「戦間期」である1924年にも開催されており、ちょうど100年目に再び、同じ地で五輪が開かれることでも注目されていますね。 でもパリは五輪ムードには程遠いのではないですか。 増田 パリは年始から「年金支給年齢引き上げ」を決めた政府に反対するデモが続発しており、私は3月下旬に続いて、6月6日にも現地取材に行きました。大規模なデモが起きるという情報があったからなのですが、実際に現地では鉄鋼業や農業など、各組合が呼び掛けて集まった人々が合流した、当初よりも小規模のデモが行われていました。 ナポレオンのお墓があるアンバリッドから、プラス・ディタリー(イタリア広場)までのコースを行進するもので、この政府批判デモにはフランス国内の地方自治体の市長や副市長も参加していたんです。しかも、トリコロールのたすきをかけて。 池上 日本ではなかなか考えられないことですね』、なるほど。
・『移民系の人たちの怒りに火を付けた警察官による少年射殺事件  増田 日本の多くの人はデモと暴動を同一視していて、「パリで大規模なデモ」というと、パリ中のそこかしこで暴徒や抗議者が店舗の窓ガラスを割ったり放火したりと過激な行為に及んでいる、と思っているのではないでしょうか。日本でパリの様子が報じられる際に使われているのは、デモでなく暴動の映像ということも多いです。 6月27日にアフリカにルーツを持つ移民の子の少年が警察官に銃で撃たれ死亡した事件が起きてから抗議活動は激化しており、ベルギーのブリュッセルでも大規模な暴動が起きています。射殺された17歳の少年はこれまでにも窃盗などによる逮捕歴があり、今回も交通検問を逃れようと車を発進させたところ、撃たれた。これが市民、特に移民系の人たちの怒りに火を付けたのです』、「射殺された17歳の少年はこれまでにも窃盗などによる逮捕歴があり、今回も交通検問を逃れようと車を発進させたところ、撃たれた」、「警察」の発砲はやむを得ないと思われるが、現地ならではの事情もあるのだろうか。
・『フランスでは「3代さかのぼればみんな移民」  増田 フランスでは凶悪犯罪の増加に伴い、2017年に法律が改正され、警察の発砲条件が緩和されています。また、右派のマリーヌ・ルペンを支持するなど移民に対する厳しい措置を望む人たちは、今回の件でも警察側を支持しているようです。 池上 元々フランスはデモの権利を最大限認めている一方、警察国家でもあるんですよね。日本では現行犯か、裁判所による逮捕状がなければ怪しい人物を逮捕できませんが、フランスの警察は警察官自身の判断で、最大24時間、特定の人物の身柄を拘束することができます。今回のデモ、あるいは抗議活動や暴動によって6月末までに3500人が拘束されたと報じられていますが、これは日本でいう「逮捕」とは違います。 増田 多数の拘束者が出るのも無理はない面もあって、事件を口実に暴れたいだけの若者も少なくない、と話す現地の声もあります。 中には動画を撮影してYouTubeで拡散し、再生回数を稼ぐために店舗を襲っているケースもある。日本では「移民問題が噴出した」という定型的な切り口で報じられていますが、移民を巡る問題は、一口ではとても言い表せないほど複雑な課題を孕んでいるのです。 池上 欧州の移民というと多くの人は中東やアフリカから来た人たちのことを思い浮かべると思いますが、フランスは欧州内からの移民も多い「移民大国」ですよね。2007年から12年まで大統領を務めたニコラ・サルコジ氏はハンガリー系ですし、その後大統領になったフランソワ・オランド氏のルーツはオランダです。 増田 フランスでは「3代さかのぼればみんな移民」と言う人もいますよ。もちろん、欧州外から来た移民との間であつれきがあるのは事実ですが』、「フランスは欧州内からの移民も多い「移民大国」ですよね。2007年から12年まで大統領を務めたニコラ・サルコジ氏はハンガリー系ですし、その後大統領になったフランソワ・オランド氏のルーツはオランダです」、なるほど。「フランスでは「3代さかのぼればみんな移民」と言う人もいますよ」、これには驚かされた。
・『学校長が治安の悪い地域に住み込んで毎朝、校門前で生徒と握手する  池上 移民系の若者たちが契機となり、フランス全土に波及した事件は以前にもありました。パリ郊外で北アフリカ出身の移民の若者が窃盗を働き、警察に追われながら変電所に逃げ込んで感電死するという痛ましい事件が起きたのは2005年のことです。 増田 その後、事件が起こった地域では、保育所や小中学校が協力して教育改革に取り組んでいました。例えば、民間団体の協力を得て、フランス各地を回っての歴史教育を行うプログラムの拡充を図ったり、ある中学校では毎朝、校長先生が校門に立って、移民を含む全ての生徒たちとあいさつと握手を交わして学校になじんでもらう努力をしていました。 フランスの小中学校は校長以下3人の役職者が学校内か学校のすぐ近くに住まなければならないという決まりがあるため、移民の多い治安の悪い地域に住み込んで、問題解決に尽力している人たちもいるのです』、「フランスの小中学校は校長以下3人の役職者が学校内か学校のすぐ近くに住まなければならないという決まりがあるため、移民の多い治安の悪い地域に住み込んで、問題解決に尽力している人たちもいる」、初めて知ったが、いい試みだ。もっとも、「治安の悪い地域」なら住宅を見つけるのは簡単だが、「治安」が良い「地域」では見つけるのはそんなに簡単にはいかないだろう。
・『階層の違う人々が同じ場所に暮らす、保護者にも語学指導…様々な取り組み  池上 フランスは移民の存在を前提として、どうすればあつれきを減らせるかを考えている。そのためにはまずは教育だ、と。 増田 はい。当時も現地を取材しましたが、鍵になるのはフランス語。学習内容を理解するには不可欠ですから、移民の子どもを対象に補習を行ったり、フランス語を話せない保護者にも学んでもらおうと活動をしたりしている団体もありました。フランス政府も、移民の子でも頑張ればグランゼコール(高等教育機関)にまで行ける教育改革を始めました。 また、移民の多い英国のロンドンで実施されているような、「社会の階層の違う人たちを、あえて同じ場所に住まわせ、交流させる」取り組みも導入しています。もちろん生活上のいざこざもありますが、相互理解を深める以外にないという観点から少しずつ努力を重ね、社会も少しずついい方向へ進みつつあるのも事実なのです。 池上 「移民による暴動」という報道だけでは見えてこない、社会の実相ですね。 増田 日本では「やっぱり移民は問題だ」「差別はなくならない」で終わってしまいがちですが、試行錯誤を繰り返し少しずつ前に進んでいる欧州の取り組みを、まずは知る必要があるでしょう』、私は日本の場合は、「移民」を引き続き制限的に扱えば、さほど問題にならないと考える。  
タグ:フランス (その4)(フランス暴動は収まっても政治にくすぶる火種 移民地区を財政支援すれば極右の伸長を招く、日本の報道では分からない「移民大国」フランスの試行錯誤【池上彰・増田ユリヤ対談】) 東洋経済オンライン 田中 理氏による「フランス暴動は収まっても政治にくすぶる火種 移民地区を財政支援すれば極右の伸長を招く」 「事件後の数日間で数千人が逮捕」、とは大規模だ。 「人口に占める移民の割合は1968年の6.5%から2021年には10.3%に増加し、フランス国籍を持つ移民の子孫を含めると、外国にルーツを持つ人口の割合はその数倍に達する」、「移民や移民の子孫は、移民のバックグラウンドを持たないフランス人と比べて、失業率が高く、低技能・低賃金労働に従事し、生活環境や住環境が厳しく、健康状態も悪いことが各種の統計から確認される」、なるほど。 「マグレブ・・・にルーツを持つ移民や移民の子孫は、同じような経歴を持つ非移民のフランス人に比べて、採用担当者から面接に呼ばれることが少なく、失業のリスクが高く、不当に仕事を拒否されることが多いとの調査結果もある」、やはり就職差別もあるようだ。 「9月ラグビーW杯の会場は目と鼻の先」、やはり地価が安いからなのだろう。 「マクロン大統領が、社会的不平等の是正を目的にバンリュー地区への追加の財政支援を決定すれば、ルペン氏に格好の得点機会を提供することになりかねない」、「ルペン氏」はズル賢いようだ。 「フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相は、かつてのミッテラン=コール時代やサルコジ=メルケル時代のような、首脳同士の個人的な信頼関係を構築できていない」、残念ながらその通りだ。 「独仏関係の弱体化とそれに伴うリーダーシップの低下は、EUの政策運営や統合強化の行方にも影を落としかねない。2024年半ばにはEUの共同立法機関である欧州議会の選挙が控えており、EUの執行部が総入れ替えとなる。現体制の下でEU関連の政策実現に残された時間は少ない」、「フランス国内では、年金改革を巡る数カ月に及んだデモや衝突が一服し、次の政策課題に取り組もうとしていた矢先の内政混乱により、マクロン2期目の改革推進力が一段と低下する恐れがある」、なるほど。 『野党の協力が得られなかった年金改革では、憲法第49条第3項の特例を用いて議会採決なしで法案を成立させ、このことが国民の反発をさらに高めた。秋にはグリーン産業促進法、移民法改正、来年度予算など、重要法案の審議が目白押しだ。議会を迂回する非常手段を多用することは難しい』。 「今回の事件と暴動の発生を受け、与野党間の亀裂は一段と深まっている」、「マクロン大統領が法案審議での協力に期待を寄せる伝統的な右派政党の共和党は最近、極右勢力への対抗意識から、ルペン氏率いる国民連合と似通った司法制度改革案を発表した。移民法改正などの議会審議は紛糾が予想され、政策停滞が避けられそうにない」、「マクロン大統領」は中国寄りの姿勢など、問題が多い。国内政治は難題が多そうだ。 ダイヤモンド・オンライン 池上 彰氏 増田ユリヤ氏の対談「日本の報道では分からない「移民大国」フランスの試行錯誤【池上彰・増田ユリヤ対談】」 「射殺された17歳の少年はこれまでにも窃盗などによる逮捕歴があり、今回も交通検問を逃れようと車を発進させたところ、撃たれた」、「警察」の発砲はやむを得ないと思われるが、現地ならではの事情もあるのだろうか。 「フランスは欧州内からの移民も多い「移民大国」ですよね。2007年から12年まで大統領を務めたニコラ・サルコジ氏はハンガリー系ですし、その後大統領になったフランソワ・オランド氏のルーツはオランダです」、なるほど。 「フランスでは「3代さかのぼればみんな移民」と言う人もいますよ」、これには驚かされた。 「フランスの小中学校は校長以下3人の役職者が学校内か学校のすぐ近くに住まなければならないという決まりがあるため、移民の多い治安の悪い地域に住み込んで、問題解決に尽力している人たちもいる」、初めて知ったが、いい試みだ。 もっとも、「治安の悪い地域」なら住宅を見つけるのは簡単だが、「治安」が良い「地域」では見つけるのはそんなに簡単にはいかないだろう。 私は日本の場合は、「移民」を引き続き制限的に扱えば、さほど問題にならないと考える。
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メディア(その33)(どこまでズブズブ!岸田首相と大メディア上層部が“談合”会食…「放送法解釈変更」炎上中に、「日経テレ東大学」を潰し 看板プロデューサーを退任に追い込んだ…テレ東株主総会・元日経記者の「告発」の迫力、朝日新聞で起こっている“異常事態” なぜ「Colabo支援者」からの抗議で記事取り消し?) [メディア]

昨日に続いて、メディア(その33)(どこまでズブズブ!岸田首相と大メディア上層部が“談合”会食…「放送法解釈変更」炎上中に、「日経テレ東大学」を潰し 看板プロデューサーを退任に追い込んだ…テレ東株主総会・元日経記者の「告発」の迫力、朝日新聞で起こっている“異常事態” なぜ「Colabo支援者」からの抗議で記事取り消し?)を取上げよう。

先ずは、本年2月16日付け日刊ゲンダイ「どこまでズブズブ!岸田首相と大メディア上層部が“談合”会食…「放送法解釈変更」炎上中に」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/320160
・『まさか、放送法の政治的公平をめぐる解釈変更が国会で大炎上しているこのタイミングで──。驚きの会合が14日夜にあった。岸田首相が大手メディア上層部や大手メディア出身のジャーナリストと、東京・日比谷公園のフレンチレストランで約2時間にわたって会食したのだ。 首相動静によれば参加したメンバーは、山田孝男毎日新聞社特別編集委員、小田尚読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員、芹川洋一日本経済新聞社論説フェロー、島田敏男NHK放送文化研究所エグゼクティブ・リード、粕谷賢之日本テレビ取締役常務執行役員、政治ジャーナリストの田崎史郎氏の6人。 朝日新聞官邸クラブのツイッターが、会食終了後にレストランから岸田首相や参加者が出てくる様子を動画で撮影して投稿している。直撃された田崎氏は「中身はいろいろ……だな」と答えていた』、「放送法の政治的公平をめぐる解釈変更が国会で大炎上しているこのタイミングで」、「岸田首相が大手メディア上層部や大手メディア出身のジャーナリストと、東京・日比谷公園のフレンチレストランで約2時間にわたって会食」、とは呆れ果てた。 
・『批判殺到、付ける薬ナシ  これには、<放送法解釈が問題になっているときに、これ?? どんな感覚してるんだ?><大手メディアも政府広報の下請けに成り下がった感じですかね>など批判コメントが殺到だった。)岸田首相はこの6人と昨年の参院選直後の7月15日にも会食している。 「安倍元首相時代からのメディアとのメシ食い情報交換を岸田首相も定例化して踏襲している形」(官邸関係者)らしく、日程もずいぶん前から決まっていたのだろう。だが、よりによって、である。 高市大臣が総務省が認めた「行政文書」について「捏造」と言い張ったことで、この問題に対する世論の関心は高まっている。報道の自由への不当な政治介入があったのかどうか、まさに政治とメディアの“距離感”が問われている真っただ中に、首相と複数のメディア上層部が“談合”よろしく親しく会食すれば世間にどう映るのか、子どもでも分かるはずだ。 「政治とメディアが徹底的に癒着していることを見せつけるもので、国民のメディア不信がますます高まる。ジャーナリズムは国民のために権力を監視するという重要な責務があり、単なる民間企業とは違う。どうしてここまで倫理観とケジメがなくなってしまったのか。品性がないし、恥ずかしい」(政治評論家・本澤二郎氏) メディア懐柔に精を出す首相もホイホイ乗っかるメディアも、もはや付ける薬がない』、「「政治とメディアが徹底的に癒着していることを見せつけるもので、国民のメディア不信がますます高まる。ジャーナリズムは国民のために権力を監視するという重要な責務があり、単なる民間企業とは違う。どうしてここまで倫理観とケジメがなくなってしまったのか。品性がないし、恥ずかしい」、同感である。

次に、6月1日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの伊藤 博敏氏による「「日経テレ東大学」を潰し、看板プロデューサーを退任に追い込んだ…テレ東株主総会・元日経記者の「告発」の迫力」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/111118?imp=0
・『「これは人殺しと同じだわ」  登録者数が100万人を突破した人気YouTubeチャンネル「日経テレ東大学」は、なぜ打ち切りとなり、番組を企画して立ち上げ、進行役の「ピラメキパンダ」を務めた高橋弘樹プロデューサーは、なぜテレビ東京を退社したのか――。 テレビ東京ホールディングス(東証プライム)の株主総会は6月15日に開催されるが、筆者が最も注目しているのは、香港に本社を置く米国籍アクティビスト(物言う株主)のリム・アドバイザーズ(リム社、提案株主名義はLIM JAPAN EVENT MASTER FUND)が、この点を問題視して<日本経済新聞社との共同事業運営契約の開示>などを求めて株主提案していることだ。 「日経テレ東大学」は、「本格的な経済を身近に楽しく」をコンセプトにしたニュース情報番組で、堅いテーマを扱ってもMCを務める実業家の「ひろゆき」こと西村博之氏やイェール大学助教授の成田悠輔氏が、雑談に引き込んで面白く展開し人気を博した。 高橋氏は、「家、ついて行ってイイですか?」「空から日本を見てみよう」「吉木りさに怒られたい」と、低予算でも切り口と面白さで勝負する“テレ東らしさ”を持つプロデューサーである。 「ビジネス系では過去に例のない成功番組」と言われていただけに、今年3月末の配信打ち切りは本人にとっても寝耳に水だったようで、決定を告げられ「これは“人殺し”と同じだわ」と思わずつぶやき、退社に至った。 経済の専門家だけでなく、菅義偉前首相、泉健太・立憲民主党代表、松井一郎・日本維新の会前代表、木原誠二・内閣官房副長官といった有力政治家が登場したのは、「意識的な人々」を引き付けているこの番組の影響力を承知していたからだろう』、私は「日経テレ東大学」を観たことはないが、面白そうなのに、「配信打ち切り」とは残念だ。
・『テレ東の天下り問題の「歪み」  テレビ局にとって番組改編の時、「諸般の事情」で打ち切りを決めるのは日常茶飯だ。だが、「日経テレ東大学」の場合、約32%の株式を保有してテレビ東京を「天下り先」としている日経新聞OBの経営陣が、後述するような理解できない事情で打ち切りの断を下し、それにリム社が噛みついた。 株主提案したリム社のポートフォリオ・マネージャーで日本投資責任者の松浦肇氏は、元日経記者として天下り問題の“歪み”を熟知している。日経の元上司がこう評する。 「証券部の記者としてマーケットの問題を鋭く突く優秀な記者でした。運用会社に転じて上場企業に注文をつけていますが、発想は新聞記者と同じで“歪み”を許さない。企業統治とマーケットの監視役であるべき未上場の日経OBが、上場企業のテレ東に『会社員生活のゴール』として天下りし、説明責任や資本効率といた上場企業の基本を無視したまま、『保身の経営』に汲々としている。彼はそれが許せないんです」 リム社のテレ東に対する株主提案は、昨年に次いで2回目である。昨年、約1%の株式を取得したリム社は、日経からの「天下り禁止」「社外取締役の選任」など7項目の株主提案を送り付けた。 テレ東社長は50年近く日経出身者が占め続け、昨年の総会でも小孫茂会長、石川一郎社長、新実傑専務とトップ3は日経OBだった。天下り禁止の株主提案の賛成率は8・15%。否決はされたものの、「日経の矛盾」はマーケットに示せた。 今年の提案は、冒頭の<共同事業運営契約の開示>を含む4項目の定款の一部変更と剰余金の処分を求めている。 なぜ日経との共同事業の開示を求めるのか。リム社は「提案理由」にこう書いている。 《(「日経テレ東大学」の)再生回数や製作本数などを鑑みるに、2022年10月~12月に約3500万円の税引き前利益を稼いだと推計できるが、提案株主がディスカウント・キャッシュフロー(DCF)方式で算定したところ、事業価値は約30億円に達した。》』、「日経テレ東大学」の「事業価値は約30億円に達した」、試算値とはいえすごいことだ。
・『「日経テレ東大学」の担当役員が昇格  そして30億円の価値あるものを捨てた背景に疑問を呈している。 《現在も首脳陣4人が日経元幹部である。様々な分野で両者は事業を共同運営しているが、日経に有利な契約が結ばれている又は当社が契約にある権利を十分に生かしていないリスクが内在する。》 今年は「天下り禁止」といった直截な提案はしていない。そして小孫会長は退任するものの、石川社長、新実副社長というツートップを日経OBが占める。その体制ではテレ東の利益を毀損し、それが現われているのが「日経テレ東大学」の打ち切りだ、という主張である。しかも、直近の人事で専務から昇格した新実副社長は、「日経テレ東大学」の担当者だった。 株主提案に書き尽くしたということか、松浦氏に株主提案理由を改めて尋ねたものの、「テレビ東京ホールディングス様の企業・株主価値向上に寄与する株主提案であると自負しております」と短く答えた。 テレビ東京は、「取締会意見」で「(株主提案が指摘する)利益及び事業価値には到底及ばない」と回答していたが、筆者が「到底及ばない根拠を示して欲しい」と質すと次のように答えた。 「利益及び人件費を含めた費用の実態が判断の根拠です。株主提案では、3カ月で約3500万円の税引き前利益を稼いだと推計できるとしていますが、実際にそのような利益は得られていません」(広報・IR部)』、真実は伺いようもないが、親会社の主張も疑わしい。
・『日経新聞の嫉妬  だが、21年3月の配信からわずか2年で登録会員100万人を突破した優良コンテンツを捨て去らねばならない理由とは思えない。利益は出ているのだ。 高橋氏は軽妙なピラメキパンダとして、番組内で「テレ東が大好き。常務になるまで会社員を続ける」と広言していた。また、テレ東を退職したプロデューサー・佐久間宣行氏、JAXA退職の宇宙飛行士・野口聡一氏、朝日新聞退職の探検家・角幡唯介氏、日経新聞退職の経済ジャーナリスト・後藤達也氏らを招いて「なんで会社を辞めたんですか?」という番組を製作している。 安定を捨ててリスクを取るのはなぜなのか。高橋氏が「常務まで」というのは、上は日経OBの指定席だからだろうが、リスクを取るのは怖く、「でもそう“冒険”したい」と思っている視聴者=会社員の気持ちを代弁した。その高橋氏をテレ東が追い込んでしまった。損失以外の何ものでもない。 テレ東の現経営陣を知る日経OBは、人気コンテンツの打ち切り理由をシンプルにこう語る。 「日経新聞の嫉妬です。その圧力に上場企業としての立場を忘れたテレ東が折れた。『日経テレ東大学』は、新聞を離れ、後ろ足で砂をかけていった退職者とコラボするような番組を製作していた。それが許せなかった」 後藤氏のことである。 新聞・テレビという旧来型の情報プラットフォームが、やがてYouTubeなどのSNSやチャットGPTに奪われ、衰退していくのはもはや自明だ。22年4月に日経新聞を辞めた後藤達也氏は、Twitterのフォロワー数が50万人超、YouTubeのチャンネル登録数約25万人、noteの優良読者(月500円)約2万人を誇る。 この3つのSNSを駆使して視聴者・読者に経済をわかりやすく伝え、「良いカメラを買った以外に新たな投資はない」といいつつ、note会員からだけでも月に約1000万円の収入がある。それにYouTubeや講演料なども加えると年間売り上げは2億円近いのではないか。もはや、メディアがひとつ誕生したといっていい。 日経もテレ東も、デジタルメディアをどう採り入れるか、優良コンテンツといっていい記者をどう活用するか、そして最大のライバルとなるチャットGPTにどう対抗するかを本気で考え、改革すべき時に来ている。なのに、打ち切り理由が「嫉妬」だとすれば嘆息するしかなく、もはやメディアとしての将来性が失われているというしかない』、「日経もテレ東も、デジタルメディアをどう採り入れるか、優良コンテンツといっていい記者をどう活用するか、そして最大のライバルとなるチャットGPTにどう対抗するかを本気で考え、改革すべき時に来ている。なのに、打ち切り理由が「嫉妬」だとすれば嘆息するしかなく、もはやメディアとしての将来性が失われているというしかない」、同感である。

第三に、8月4日付けデイリー新潮「朝日新聞で起こっている“異常事態” なぜ「Colabo支援者」からの抗議で記事取り消し?」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/08040557/?all=1
・『部数激減、経営悪化、人材流出……。負のスパイラルに陥った、かつての自称「クオリティー・ペーパー」朝日新聞の内部では何が起こっているのか。取材を進めた先に見えてきたのは、会社を去っていく若手記者の「絶望」。そして、「ジャーナリズムの放棄」であった。 【写真を見る】ジョーカーのメイクを施した河合悠祐市議 改めて言うまでもないことだが、組織は人で成り立っている。組織を支える人が流出、あるいは劣化してしまっては、「クオリティー・ペーパー」を維持することなど到底かなうまい。 朝日新聞が苦境にあえいでいる。 今年1月のABC調査によれば、かつて840万部を誇った朝刊発行部数は、今や380万部まで落ち込んでいる。部数減は全国紙全体の問題とはいえ、読売が653万部で踏みとどまっていることを考えると、朝日の凋落ぶりは明白である。2021年3月期決算では約442億円の大幅赤字を計上。「200人規模の希望退職者」を募ったことで、エース級の記者を含む多くの人材が社を去った。 一体、朝日の内部で何が起こっているのか――』、「何が起こっているの」だろう。
・『若手有望記者の同時退職  取材を進めると、その苦境を象徴するような事案が相次いで発生し、社内に大いに動揺が走っていることが分かった。その一つが、「若手有望記者の同時退職」である。 朝日新聞関係者が語る。 「この8月までに退職するのは、いずれも30代前半の男性記者3人です。3人とも、将来を嘱望された記者が配属される警視庁や警察庁を担当した有能な人材。若手記者が3人も同時に辞めるのは前代未聞です」 3人の退職後の進路は大手損保会社、大手人材サービス会社、民放テレビ局。 「3人の退職が同時期になったのは示し合わせたわけではなく、偶然。ただし、その背景には今の社会部長による高圧的な言動があったのではないかといわれています。退職する3人は子供が生まれたり、結婚したばかり。そのため社会部長に“今は転勤は勘弁してほしい”と伝えていたものの、部長は“裏切り者”“そんなわがままは通用しない”などと言い放ったそうです」(同) とはいえ、件の社会部長は育児などに全く理解がないわけではなく、 「どちらかといえば男性記者が育休を取ることにも積極的な人です。実際、今回辞める3人のうちの一人は、社会部長のすすめで昨年から今年にかけて半年ほど育休を取得しています」 と、別の朝日関係者。 「その記者からすれば、育休が終わったら育児が終わるわけではないことを、当然、社会部長は理解していると思っていた。ところが、その部長から“来年は地方だな”と言われた。育児に理解があると思っていた社会部長ですら地方行きを平気で告げる。退職を決断した記者はそのことに絶望したようです」』、「その記者からすれば、育休が終わったら育児が終わるわけではないことを、当然、社会部長は理解していると思っていた。ところが、その部長から“来年は地方だな”と言われた。育児に理解があると思っていた社会部長ですら地方行きを平気で告げる。退職を決断した記者はそのことに絶望したようです」、なるほど。
・『女性記者に地方転勤を命じられない裏事情  リストラなどを進めたことにより、全国の支局を含めた会社全体で人員が減っている。そのため、たとえ子育て中であったとしても「地方転勤」の対象からは外されない。それに加えて、 「今の朝日社内には“女性の職場環境を改善しなければならない”との命題がある。ゆえに、女性記者に地方転勤を命じたら、それだけでパワハラと言われかねない。社会部長としては、社内での自分の立場を守るためには、男性記者と女性記者、どちらに地方転勤をお願いするかとなった時、男性を選ぶしかない」(同) 朝日新聞は3年前、「ジェンダー平等宣言」を発表している。ジェンダー格差の問題を報じるなら、“私たち自身が足元を見つめ直す必要がある”との考えかららしいが、まず取り組むべきは男性記者と女性記者の「地方転勤」の“平等”、ということになりそうだ。 元朝日新聞記者で『崩壊 朝日新聞』の著書もある長谷川煕氏が言う。 「記者が自身や家族との生活を大事にしたいというのは当然のこと。それでも昔は朝日に勤め続けることへの未練があり、転勤を命じられても我慢していました。今はその未練がないか、むしろ朝日に勤め続けることへのマイナスイメージがあるのでしょう」 現役記者たちにそう思わせる背景には、新聞社としての矜持が全く感じられない、次のような“騒動”の影響もあるのかもしれない。 記事削除に社内は大騒ぎ(「今年5月30日、朝日新聞デジタルは、自らを“ジョーカー議員”と称する河合悠祐・草加市議を紹介する記事を配信しました。しかしそれが女性支援団体のシンパなどから一斉に批判され、大炎上。すると朝日は記事を取り消し、削除したのです。この記事は紙の新聞に掲載される前段階で削除されたため、社外ではあまり知られていませんが、社内は大騒ぎになりました」(朝日新聞社員) 問題の記事は「ルポ インディーズ候補の戦い」と題する連載記事の第4回として配信された。 〈京大卒ジョーカー、挫折の先の自己実現 ウケ狙いから当選への分析〉 とのタイトルで、“ジョーカー議員”こと河合市議の経歴や、当選までの過程を本人へのインタビューを元にたどった人物ルポである。 一読して何の問題もなさそうなこの記事が炎上したのは、「Colabo(コラボ)」という団体と河合市議の因縁に“触れていない”ことが原因だった。この団体は、虐待や性被害などにあった女性を支援する一般社団法人。河合市議はツイッター上などでこの団体の活動を揶揄する言動を繰り返していた。そのため、記事が配信されると「Colabo」の支援者らが一斉に批判。朝日はそれに屈する形で記事を取り消したのだ。 ちなみにこの団体に関しては、東京都から受け取っていた事業委託料に「不正受給がある」と住民監査請求が出されて都が調査に入るなど、「カネ」の面でも注目されていた』、「問題の記事は「ルポ インディーズ候補の戦い」と題する連載記事の第4回として配信された。 〈京大卒ジョーカー、挫折の先の自己実現 ウケ狙いから当選への分析〉 とのタイトルで、“ジョーカー議員”こと河合市議の経歴や、当選までの過程を本人へのインタビューを元にたどった人物ルポである。 一読して何の問題もなさそうなこの記事が炎上したのは、「Colabo(コラボ)」という団体と河合市議の因縁に“触れていない”ことが原因だった。この団体は、虐待や性被害などにあった女性を支援する一般社団法人。河合市議はツイッター上などでこの団体の活動を揶揄する言動を繰り返していた。そのため、記事が配信されると「Colabo」の支援者らが一斉に批判。朝日はそれに屈する形で記事を取り消したのだ」、記事を一方的に「取り消した」とは公器にあるまじき行動だ。
・『河合市議に聞くと…  「配信された記事が炎上すると、朝日の担当記者が電話してきて“河合さん、Colaboと何かあったんですか?”と聞かれました。元々、僕とColaboがケンカしていることも知らなかったようなんですね」 そう振り返るのは、当の河合市議本人である。 「確かに、記事でColaboのことやフェミニズムについて扱っているなら、僕とColaboのケンカのことも入れるべきでしょう。しかしそれとは何の関係もない、僕の半生を紹介する記事でColaboから何を言われようと関係ない。だから“無視でええんちゃいますの?”と言ったんですが、記者は“あんまり抗議が多いと無視するわけにはいかない”と……」 批判が殺到した後、朝日は記事に〈おことわり〉を追加し、Colaboの問題に触れなかったことは〈不適切〉だったと釈明。が、それが火に油を注ぐことになり、さらなる炎上を招く。そして最終的に記事を取り消すに至ったのだ。 「どんな記事でも批判する人は一定数いるはずです。そもそもColaboと関係ない記事でいちいち批判を気にした朝日新聞社はどうかと思います。納得いかへん形で終わったなあ、という感じです」(同)』、初めから「Colaboのケンカのことも入れ」ていれば、ややこしいことになると予想され、記事にはしなかっただろう、
・『「驚くべき退廃」  元朝日新聞記者でノンフィクション作家の辰濃哲郎氏はこう苦言を呈す。 「批判を受けたから記事を削除したというのは驚きでしかない。事実と明らかに違ったとか、誤報・捏造の場合は記事の削除も仕方ないとは思います。しかし、批判を受けた内容と関係のない記事であれば“彼の政治家としての一面を捉えた記事です”と説明すればいいだけの話で、削除までする必要はないはずです」 朝日は2度過ちを犯した、と辰濃氏は言う。 「十分な取材ができていなかったことと、記事を削除したことです。外からの意見を気にしすぎて日和(ひよ)ってしまう、あっさり記事を削除してしまう、というのは、権力と戦う姿勢や、培ってきた朝日新聞の価値に逆行する行為に他なりません」 先の長谷川氏もこう話す。 「記事そのものに問題はないのに抗議を受けたからといって掲載をやめてしまっては報道機関として失格。驚くべき退廃です。新聞社として成立しておらず、会社そのものが腐っています」』、「「十分な取材ができていなかったことと、記事を削除したことです。外からの意見を気にしすぎて日和(ひよ)ってしまう、あっさり記事を削除してしまう、というのは、権力と戦う姿勢や、培ってきた朝日新聞の価値に逆行する行為に他なりません」、その通りだ。
・『OBも「衝撃を受けた」  元朝日新聞記者で『朝日新聞政治部』著者の鮫島浩氏は次のように指摘する。 「河合さんとColaboの問題そのものの是非はおいておくとして、今回の記事取り下げは非常に深刻なことです。あの記事が世に出るにあたっては、多くの人が関与しています。まず取材した記者がいて、次におそらくキャップクラスが原稿を見る。出稿したデスクだけではなく、もっと上の編集局長クラスも原稿に目を通しているはずです」 その幹部たちが誰も事前に問題を指摘しなかった。 「そのことに衝撃を受けます。そして一旦トラブルが起こるとトカゲのしっぽ切りのごとく記事を取り消してうやむやにして、編集局長も部長もデスクも、自分が責任を問われないことしか頭にない。こういうモラルハザードが起こっていると、現場の記者も、官公庁や捜査機関などの発表をそのまま流す“発表モノ”など差し障りのないことしかやらなくなります」 「ビジネスマンとしてもジャーナリストとしても失格」 若手有望記者3人が同時に退社することについては、 「朝日にいても展望がないし、辞めるのであれば若いうちにと思っているのでしょう。そもそも最近、朝日ではゴマをすって上にかわいがられた人だけが出世するのが顕著になっていて、ジャーナリズムで勝負する原稿を出す人は敬遠されるのです。部長もデスクも失敗しないように、野心的な記者は遠ざける。特ダネを持ってきてもそれを何とか成就させようと考えてくれる上司がいないのです」 もっとも、それは会社全体の方針でもあるそうで、 「朝日のOBやOGが所属する会の会報で社長は、これからは稼げる会社になりましょう、と言い、収益の3本柱はデジタル、イベント、不動産だとしていました。ジャーナリズムはどこへ行ったと批判が巻き起こったのは当然です。笑い話なのは、儲けることばかり考えているのに儲かっていないこと。もはやビジネスマンとしてもジャーナリストとしても失格です」(同) ャーナリズムを捨て、儲けることもできずにさまよう朝日。「クオリティー・ペーパー」たらんとする気概も失ったとなれば、その存在意義はどこにあるのか』、「「朝日のOBやOGが所属する会の会報で社長は、これからは稼げる会社になりましょう、と言い、収益の3本柱はデジタル、イベント、不動産だとしていました。ジャーナリズムはどこへ行ったと批判が巻き起こったのは当然です。笑い話なのは、儲けることばかり考えているのに儲かっていないこと。もはやビジネスマンとしてもジャーナリストとしても失格です」、「これからは稼げる会社になりましょう」、との社長の言葉の空疎ぶりには苦笑させられた。
タグ:メディア 「「十分な取材ができていなかったことと、記事を削除したことです。外からの意見を気にしすぎて日和(ひよ)ってしまう、あっさり記事を削除してしまう、というのは、権力と戦う姿勢や、培ってきた朝日新聞の価値に逆行する行為に他なりません」、その通りだ。 初めから「Colaboのケンカのことも入れ」ていれば、ややこしいことになると予想され、記事にはしなかっただろう、 この団体は、虐待や性被害などにあった女性を支援する一般社団法人。河合市議はツイッター上などでこの団体の活動を揶揄する言動を繰り返していた。そのため、記事が配信されると「Colabo」の支援者らが一斉に批判。朝日はそれに屈する形で記事を取り消したのだ」、記事を一方的に「取り消した」とは公器にあるまじき行動だ。 「問題の記事は「ルポ インディーズ候補の戦い」と題する連載記事の第4回として配信された。 〈京大卒ジョーカー、挫折の先の自己実現 ウケ狙いから当選への分析〉 とのタイトルで、“ジョーカー議員”こと河合市議の経歴や、当選までの過程を本人へのインタビューを元にたどった人物ルポである。 一読して何の問題もなさそうなこの記事が炎上したのは、「Colabo(コラボ)」という団体と河合市議の因縁に“触れていない”ことが原因だった。 「その記者からすれば、育休が終わったら育児が終わるわけではないことを、当然、社会部長は理解していると思っていた。ところが、その部長から“来年は地方だな”と言われた。育児に理解があると思っていた社会部長ですら地方行きを平気で告げる。退職を決断した記者はそのことに絶望したようです」、なるほど。 「何が起こっているの」だろう。 デイリー新潮「朝日新聞で起こっている“異常事態” なぜ「Colabo支援者」からの抗議で記事取り消し?」 「日経もテレ東も、デジタルメディアをどう採り入れるか、優良コンテンツといっていい記者をどう活用するか、そして最大のライバルとなるチャットGPTにどう対抗するかを本気で考え、改革すべき時に来ている。なのに、打ち切り理由が「嫉妬」だとすれば嘆息するしかなく、もはやメディアとしての将来性が失われているというしかない」、同感である。 真実は伺いようもないが、親会社の主張も疑わしい。 「日経テレ東大学」の「事業価値は約30億円に達した」、試算値とはいえすごいことだ。 私は「日経テレ東大学」を観たことはないが、面白そうなのに、「配信打ち切り」とは残念だ。 伊藤 博敏氏による「「日経テレ東大学」を潰し、看板プロデューサーを退任に追い込んだ…テレ東株主総会・元日経記者の「告発」の迫力」 現代ビジネス 「「政治とメディアが徹底的に癒着していることを見せつけるもので、国民のメディア不信がますます高まる。ジャーナリズムは国民のために権力を監視するという重要な責務があり、単なる民間企業とは違う。どうしてここまで倫理観とケジメがなくなってしまったのか。品性がないし、恥ずかしい」、同感である。 「放送法の政治的公平をめぐる解釈変更が国会で大炎上しているこのタイミングで」、「岸田首相が大手メディア上層部や大手メディア出身のジャーナリストと、東京・日比谷公園のフレンチレストランで約2時間にわたって会食」、とは呆れ果てた。 日刊ゲンダイ「どこまでズブズブ!岸田首相と大メディア上層部が“談合”会食…「放送法解釈変更」炎上中に」 (その33)(どこまでズブズブ!岸田首相と大メディア上層部が“談合”会食…「放送法解釈変更」炎上中に、「日経テレ東大学」を潰し 看板プロデューサーを退任に追い込んだ…テレ東株主総会・元日経記者の「告発」の迫力、朝日新聞で起こっている“異常事態” なぜ「Colabo支援者」からの抗議で記事取り消し?)
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メディア(その32)(鮫島 浩氏6題:元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(1)、元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(2)、話題の書『朝日新聞政治部』先行公開第3回〜小渕恵三首相「沈黙の10秒」、元朝日新聞エース記者が衝撃の暴露「朝日はこうして死んだ」、なぜ朝日新聞は「部数減」に悩んでいるのか? 元朝日スクープ記者が明かす) [メディア]

メディアについては、2022年5月29日に取上げた。今日は、(その32)(鮫島 浩氏7題:元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(1)、元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(2)、話題の書『朝日新聞政治部』先行公開第3回〜小渕恵三首相「沈黙の10秒」、元朝日新聞エース記者が衝撃の暴露「朝日はこうして死んだ」、なぜ朝日新聞は「部数減」に悩んでいるのか? 元朝日スクープ記者が明かす)である。

先ずは、本年5月23日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの鮫島 浩氏による「元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(1)朝日新聞政治部(1)」を紹介しよう。
・『「鮫島が暴露本を出版するらしい」「俺のことも書いてあるのか?」――いま朝日新聞社内各所で、こんな会話が交わされているという。元政治部記者の鮫島浩氏が上梓した​『朝日新聞政治部』は、登場する朝日新聞幹部は全員実名、衝撃の内部告発ノンフィクションだ。 戦後、日本の左派世論をリードし続けてきた、朝日新聞政治部。そこに身を置いた鮫島氏が明かす政治取材の裏側も興味深いが、本書がもっとも衝撃的なのは、2014年に朝日新聞を揺るがした「吉田調書事件」の内幕をすべて暴露していることだ。 今日から7回連続で、本書の内容を抜粋して紹介していく』、興味深そうだ。
・『夕刊紙に踊る「朝日エリート誤報記者」の見出し  2014年秋、私は久しぶりに横浜の中華街へ妻と向かった。息苦しい都心からとにかく逃れたかった。 朝日新聞の特別報道部デスクを解任され、編集局付という如何にも何かをやらかしたような肩書を付与され、事情聴取に呼び出される時だけ東京・築地の本社へ出向き、会社が下す沙汰を待つ日々だった。蟄居謹慎(ちっきょきんしん)とはこういう暮らしを言うのだろう。駅売りの夕刊紙には「朝日エリート誤報記者」の見出しが躍っていた。私のことだった。 ランチタイムを過ぎ、ディナーにはまだ早い。ふらりと入った中華料理店はがらんとしていた。私たちは円卓に案内された。注文を終えると、二胡を抱えたチャイナドレスの女性が私たちの前に腰掛け、演奏を始めた。私は紹興酒を片手に何気なく聴き入っていたが、ふと気づくと涙が溢れている。 「なぜ泣いているの?」 二胡の音色をさえぎる妻の声で私はふと我に返った。人前で涙を流したことなんていつ以来だろう。ちょっと思い出せないな。これからの私の人生はどうなるのだろう。 朝日新聞社は危機に瀕していた。私が特別報道部デスクとして出稿した福島原発事故を巡る「吉田調書」のスクープは、安倍政権やその支持勢力から「誤報」「捏造」と攻撃されていた。政治部出身の木村伊量社長は、過去の慰安婦報道を誤報と認めたことや、その対応が遅すぎたと批判する池上彰氏のコラム掲載を社長自ら拒否した問題で、社内外から激しい批判を浴びていた。 「吉田調書」「慰安婦」「池上コラム」の三点セットで朝日新聞社は創業以来最大の危機に直面していたのである。特にインターネット上で朝日バッシングは燃え盛っていた。 木村社長は驚くべき対応に出た。2014年9月11日に緊急記者会見し、自らが矢面に立つ「慰安婦」「池上コラム」ではなく、自らは直接関与していない「吉田調書」を理由にいきなり辞任を表明したのである。さらにその場で「吉田調書」のスクープを誤報と断定して取り消し、関係者を処罰すると宣告したのだ。 寝耳に水だった。 その後の社内の事情聴取は苛烈を極めた。会社上層部はデスクの私と記者2人の取材チームに全責任を転嫁しようとしていた。5月に「吉田調書」のスクープを報じた後、木村社長は「社長賞だ、今年の新聞協会賞だ」と絶賛し、7月には新聞協会賞に申請した。ところが9月に入って自らが「慰安婦」「池上コラム」で窮地に追い込まれると、手のひらを返したように態度を一変させたのである』、「木村社長」が「自らが矢面に立つ「慰安婦」「池上コラム」ではなく、自らは直接関与していない「吉田調書」を理由にいきなり辞任を表明した」、というのは解せない行動だ。
・『私がどんな「罪」に問われていたか  巨大組織が社員個人に全責任を押し付けようと上から襲いかかってくる恐怖は、体験した者でないとわからないかもしれない。それまで笑みを浮かべて私に近づいていた数多くの社員は蜘蛛の子を散らすように遠ざかっていった。 私は27歳で政治部に着任し、菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら与野党政治家の番記者を務めた。39歳で政治部デスクになった時は「異例の抜擢」と社内で見られた。その後、調査報道に専従する特別報道部のデスクに転じ、2013年には現場記者たちの努力で福島原発事故後の除染作業の不正を暴いた。この「手抜き除染」キャンペーンの取材班代表として新聞協会賞を受賞した。 朝日新聞の実権を握ってきたのは政治部だ。特別報道部は政治部出身の経営陣が主導して立ち上げた金看板だった。私は政治部の威光を後ろ盾に特別報道部デスクとして編集局内で遠慮なく意見を言える立場となり、紙面だけではなく人事にまで影響力を持っていた。それが一瞬にして奈落の底へ転落したのである。 ああ、会社員とはこういうものか――。そんな思いにふけっているところへ、妻の声が再び切り込んできた。二胡の妖艶な演奏は続いている。 「なぜ泣いているの?」 「なんでだろう……。たぶん厳しい処分が降りるだろう。懲戒解雇になると言ってくる人もいる。すべてを失うなあ……。いろんな人に世話になったなあと思うと、つい……」 妻はしばらく黙っていたが、「それ、ウソ」と言った。続く言葉は強烈だった。 「あなたはこれから自分が何の罪に問われるか、わかってる? 私は吉田調書報道が正しいのか間違っているのか、そんなことはわからない。でも、それはおそらく本質的なことじゃないのよ。あなたはね、会社という閉ざされた世界で『王国』を築いていたの。誰もあなたに文句を言わなかったけど、内心は面白くなかったの。あなたはそれに気づかずに威張っていた。あなたがこれから問われる罪、それは『傲慢罪』よ!」 紹興酒の酔いは一気に覚めた。妻はたたみかけてくる。 「あなたは過去の自分の栄光に浸っているだけでしょ。中国の皇帝は王国が崩壊した後、どうなるか、わかる? 紹興酒を手に、妖艶な演奏に身を浸して、我が身をあわれんで涙を流すのよ。そこへ宦官がやってきて『あなたのおこなってきたことは決して間違っておりません。後世必ずや評価されることでしょう』と言いつつ、料理に毒を盛るのよ!」 中国の皇帝とは、仰々しいたとえである。だが、妻の目に私はそのくらい尊大に映っていたのだろう。そして会社の同僚たちも社内を大手を振って歩く私を快く思っていなかったに違いない。私はそれにまったく気づかなかった。 「裸の王様」がついに転落し、我が身をあわれんで涙を流す姿ほど惨めなものはない。そのような者に誰が同情を寄せるだろうか。 私は、自分がこれから問われる「傲慢罪」やその後に盛られる「毒」を想像して背筋が凍る思いがした。泣いているどころではなかった。独裁国家でこのような立場に追い込まれれば、理屈抜きに生命そのものを絶たれるに違いない。今日の日本社会で私の生命が奪われることはなかろう。奈落の底にどんな人生が待ち受けているかわからないが、生きているだけで幸運かもしれない。 そんな思いがよぎった後、改めて「傲慢罪」という言葉を噛み締めた。「吉田調書」報道に向けられた数々の批判のなかで私の胸にストンと落ちるものはなかった。しかし「傲慢罪」という判決は実にしっくりくる。そうか、私は「傲慢」だったのだ! 政治記者として多くの政治家に食い込んできた。ペコペコすり寄ったつもりはない。権力者の内実を熟知することが権力監視に不可欠だと信じ、朝日新聞政治部がその先頭に立つことを目指してきた。調査報道記者として権力の不正を暴くことにも力を尽くした。朝日新聞に強力な調査報道チームをつくることを夢見て、特別報道部の活躍でそれが現実となりつつあった。それらを成し遂げるには、会社内における「権力」が必要だった――。 しかし、である。自分の発言力や影響力が大きくなるにつれ、知らず知らずのうちに私たちの原点である「一人一人の読者と向き合うこと」から遠ざかり、朝日新聞という組織を守ること、さらには自分自身の社内での栄達を優先するようになっていたのではないか。 私はいまからその罪を問われようとしている。そう思うと奈落の底に落ちた自分の境遇をはじめて受け入れることができた。 そして「傲慢罪」に問われるのは、私だけではないと思った。新聞界のリーダーを気取ってきた朝日新聞もまた「傲慢罪」に問われているのだ』、奥さんの指摘「「あなたはこれから自分が何の罪に問われるか、わかってる? 私は吉田調書報道が正しいのか間違っているのか、そんなことはわからない。でも、それはおそらく本質的なことじゃないのよ。あなたはね、会社という閉ざされた世界で『王国』を築いていたの。誰もあなたに文句を言わなかったけど、内心は面白くなかったの。あなたはそれに気づかずに威張っていた。あなたがこれから問われる罪、それは『傲慢罪』よ!」 紹興酒の酔いは一気に覚めた。妻はたたみかけてくる。 「あなたは過去の自分の栄光に浸っているだけでしょ。中国の皇帝は王国が崩壊した後、どうなるか、わかる? 紹興酒を手に、妖艶な演奏に身を浸して、我が身をあわれんで涙を流すのよ。そこへ宦官がやってきて『あなたのおこなってきたことは決して間違っておりません。後世必ずや評価されることでしょう』と言いつつ、料理に毒を盛るのよ!」、極めて本質を突いた鋭い指摘だ。
・『日本社会がオールドメディアに下した判決  誰もが自由に発信できるデジタル時代が到来して情報発信を独占するマスコミの優位が崩れ、既存メディアへの不満が一気に噴き出した。2014年秋に朝日新聞を襲ったインターネット上の強烈なバッシングは、日本社会がオールドメディアに下した「傲慢罪」の判決だったといえる。木村社長はそれに追われる形で社長から引きずり下ろされたのだ。 「吉田調書」報道の取り消し後、朝日新聞社内には一転して、安倍政権の追及に萎縮する空気が充満する。他のメディアにも飛び火し、報道界全体が国家権力からの反撃に怯え、権力批判を手控える風潮がはびこった。安倍政権は数々の権力私物化疑惑をものともせず、憲政史上最長の7年8ヵ月続く。 マスコミの権力監視機能の劣化は隠しようがなかった。民主党政権下の2010年に11位だった日本の世界報道自由度ランキングは急落し、2022年には71位まで転げ落ちた。新聞が国家権力に同調する姿はコロナ禍でより顕著になった。 木村社長が「吉田調書」報道を取り消した2014年9月11日は「新聞が死んだ日」である。日本の新聞界が権力に屈服した日としてメディア史に刻まれるに違いない。 私は2014年末、朝日新聞から停職2週間の処分を受け、記者職を解かれた。6年半の歳月を経て2021年2月に退職届を提出し、たった一人でウェブメディア「SAMEJIMA TIMES」を創刊した。 私と朝日新聞に突きつけられた「傲慢罪」を反省し、読者一人一人と向き合うことを大切にしようと決意した小さなメディアである。自らの新聞記者人生を見つめ直し、どこで道を踏み外したのかをじっくり考えた。本書はいわば「失敗談」の集大成である。 世の中には新聞批判が溢れている。その多くに私は同意する。新聞がデジタル化に対応できず時代に取り残されたのも事実だ。一方で、取材現場の肌感覚とかけ離れた新聞批判もある。新聞の歩みのすべてを否定する必要はない。そこから価値のあるものを抽出して新しいジャーナリズムを構築する材料とするのは、凋落する新聞界に身を置いた者の責務ではないかと思い、筆を執った。 この記事は大手新聞社の中枢に身を置き、その内情を知り尽くした立場からの「内部告発」でもある。 次回は「新人時代のサツ回りが新聞記者をダメにする」​です。 登場人物すべて実名の内部告発ノンフィクション『朝日新聞政治部』は好評発売中。現代ビジネスでは紹介しきれない衝撃の事実も赤裸々に綴られています』、「本書はいわば「失敗談」の集大成である」、興味深そうだ。

次に、5月24日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの鮫島 浩氏によう「元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(2)」を紹介しよう。
・『「鮫島が暴露本を出版するらしい」「俺のことも書いてあるのか?」――いま朝日新聞社内各所で、こんな会話が交わされているという。元政治部記者の鮫島浩氏が上梓する『朝日新聞政治部』(5月27日発売、現在予約受付中)​は、登場する朝日新聞幹部は全員実名、衝撃の内部告発ノンフィクションだ。 戦後、日本の左派世論をリードし続けてきた、朝日新聞政治部。そこに身を置いた鮫島氏が明かす政治取材の裏側も興味深いが、本書がもっとも衝撃的なのは、2014年に朝日新聞を揺るがした「吉田調書事件」の内幕をすべて暴露していることだ。 同書の内容を抜粋して紹介する。7日連続公開の第2回は、新聞記者が新人時代に必ず通る「地方支局でのサツ(警察)回り」の実態だ』、「新聞記者が新人時代に必ず通る「地方支局でのサツ(警察)回り」の実態」とは興味深そうだ。
・『キャリア官僚の話に興味が持てない  私は1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社した。バブル経済は崩壊していたものの、その余韻が残る時代だった。数年後にやってくる就職氷河期の「失われた世代」や現在の「コロナ禍世代」と比べれば、気楽な就職活動の時代であった。 当時の京大生のご多分に漏れず、学業に熱心とは言い難い生活だった。就活中の1993年は自民党が衆院選に敗北して下野し、細川連立内閣が発足した戦後政治史の重要な年である。京大キャンパスのある衆院京都1区(当時は中選挙区制)からは、のちに民主党代表となる前原誠司氏が日本新党から出馬して初当選した。だが、私にはこの衆院選の投票に行った記憶がない。 新聞も購読していなかった。母子家庭で仕送りがなく、奨学金とアルバイト代で辛うじて学生生活を送っていたというのは言い訳である。 トイレも風呂も洗面所もない「離れ」に下宿した入学当初はたしかに厳しい暮らしだったが、3~4年生になると塾講師のアルバイトで稼いで自分の車まで所有していた。単に「学び」に不熱心だったというほかない。国立大学なら奨学金とアルバイトで何とか下宿し、通学し、それなりに遊び、卒業して就職できる幸運な時代だった。 朝日新聞の採用試験を受けたのも、当時交際していた同じ年の女性が新聞社志望で、募集要項をもらってきたのがきっかけだった。今となってはそこに何を書き込んだのかも覚えていない。朝日新聞といえばリベラルというくらいの印象しかなかった。ただ、これを境にそろそろ就職活動をしないといけないとにわかに焦り始めたことを覚えている。 親しい友人たちが国家公務員一種試験(法律職)を目指して勉強していたので、遅ればせながらその輪に入れてもらった。2~3ヵ月、過去問をひたすら解いて挑んだ筆記試験に合格し、友人たちに驚かれた。要領は良かったのだろう。その後、キャリア官僚と「面接」を重ねたが、自慢話を聞かされるばかりで興味を持てなかった。そこで、様々な業種から名前を知っている大企業をひとつずつ選んで訪問することにした。銀行、生保、メーカー……。朝日新聞はそのひとつに過ぎなかった。世間知らずの学生だった。 面接は得意だった。当意即妙の受け答えには割と自信があった(政治記者になった後も記者会見やインタビューで二の矢三の矢を放つのが好きだった)。それが功を奏したのか、朝日新聞を含め、いくつか内定をいただいた。 朝日新聞の東京本社や京都支局にうかがって現役の新聞記者にも会ったが、興味のわく人はいなかった。キャリア官僚と同じ匂いがした。 私は朝日新聞の内定を断った。代わりに選んだのが新日鉄(現・日本製鉄)である。この会社は会う人会う人が魅力的だった。私は新日鉄にのめり込んでいった。各地の製鉄所も見学させてもらった。「鉄は国家なり」と熱く語る人、ヒッタイト以来の鉄の歴史を研究して披露する人、鉄鋼労働者が暮らす四畳半の宿舎を案内し「君がこの会社で最初にする仕事はこの部屋が煙草の不始末で火事にならないようにすることだ」と説く人。みんな思いが詰まっていて、キャリア官僚や新聞記者より輝いて見えた。 なかでも私を気に入ってくれたのが、Sさんだった。私は京都から大阪・梅田の高層ビルに入る高級店に何度となく呼び出され、「君と一緒に仕事をしたい」と口説かれた。Sさんはパリッとしたスーツに身を固め、紳士的で、格好良かった。キャリア官僚や新聞記者とはまるで違った。私は新日鉄へ入社する決意をSさんに告げた』、「親しい友人たちが国家公務員一種試験(法律職)を目指して勉強していたので、遅ればせながらその輪に入れてもらった。2~3ヵ月、過去問をひたすら解いて挑んだ筆記試験に合格し、友人たちに驚かれた」、「朝日新聞を含め、いくつか内定をいただいた。 朝日新聞の東京本社や京都支局にうかがって現役の新聞記者にも会ったが、興味のわく人はいなかった。キャリア官僚と同じ匂いがした」、「現役の新聞記者」が「キャリア官僚と同じ匂いがした」、というのは面白い感想だ。「新日鉄・・・である。この会社は会う人会う人が魅力的だった」、「キャリア官僚や新聞記者とはまるで違った。私は新日鉄へ入社する決意をSさんに告げた」、そのままだったら、「新日鉄」マンになっていたとは驚きだ。
・『「新聞記者は主役になれない」  迷走はここから始まる。私は世の中をあまりに知らなかった。自分がいざ「鉄鋼マン」になると思うと、「鉄は国家なり」と熱く語る人やヒッタイトの歴史を熟知する人のように鉄に人生を捧げる覚悟が湧いてこなかった。「鉄」に限らずビジネスの世界で生きる将来の自画像がまったく浮かんでこなかったのだ。 一度決断しないと本心に気づかないのは困ったものである。就活の季節はとっくに過ぎ去っていた。内定を断った会社に今一度問い合わせてみた。 そのなかで唯一「今からでも来ていいよ」と答えてくれたのが朝日新聞社だった。当時の採用担当者から「君は新聞のことを知らなすぎる。新聞記者としてうまくいくかわからないけれど、来たいのなら来てもいいよ」と言われ、負けん気に火がついたのである。 私は大阪・梅田で新日鉄のSさんに会い、内定をお断りした。「どこにいくのか」と聞かれ、「新聞記者になります」と答えた。Sさんは引かなかった。「なぜ新聞記者なのか」と繰り返し迫った。私はとっさに「いろんな人の人生を書きたいからです」と魅力を欠く返答をした。彼は決して譲らず、熱く語った。 「新聞記者は人の人生を書く。所詮は人の人生だ。主役にはなれない。我々は自分自身が人生の主役になる。新日鉄に入って一緒に主役になろう」 熱かった。心が揺れた。私はこののち多くの政治家や官僚を取材することになるが、このときのSさんほど誠実で心に迫る言葉に出会ったことがない。いわんや、朝日新聞の上司からこれほど心を揺さぶられる説得を受けたことはない。 しかし、Sさんの熱い言葉は、彼の思いを超えて、私に新たな「気づき」を与えたのだった。ビジネスの世界に身を投じることへの抵抗感が自らの心の奥底に強く横たわっていることを、私はこのときSさんの熱い言葉に追い詰められて初めて自覚したのである。 「なぜ新聞記者なのか」と繰り返すSさんに、私がとっさに吐いた言葉は「ビジネスではなく、政治に関心があるからです」だった。政治家になろうと考えたことはなかった。政治に詳しくもなかった。なぜ「政治に関心がある」という言葉が出てきたのか、自分でもわからない。 いま振り返ると、一介の学生が働き盛りの鉄鋼マンに「なぜ新聞記者なのか」と迫られ、「ビジネス」への対抗軸として絞り出した答えが「政治」だったのだろう。多くの書物を読んで勉学を重ねた学生なら「学問」「文化」「芸術」などという、もう少し気の利いた言葉が浮かんだのかもしれないが、当時の私はあまりにも無知で無学で野暮だった。「政治」という言葉しか持ち合わせていなかったのだ。 ところが、「政治」という言葉を耳にして、Sさんはついに黙った。ほどなくして「残念だ」とだけ言った。Sさんとの別れだった。彼にとって「政治」とは、どんな意味を持つ言葉だったのか。当時の私には想像すらできなかった。 Sさんに投げかけられた「なぜ新聞記者なのか」という問いを、私はその後の新聞記者人生で絶えず自問自答してきた。客観中立を口実に政治家の言い分を垂れ流す政治記事を見るたびに、「新聞記者は主役になれない」と言い切ったSさんの姿を思い出した。いつしかSさんに胸を張って「主役になりましたよ」と言える日が来ることを志し、27年間、新聞記者を続けてきた。山あり谷あり波乱万丈の記者人生だったが、Sさんと再会して「君は主役になったな」と認めてもらえる自信はない。「所詮は新聞という小さな世界の内輪の話だよ」と言われてしまう気もする。 鉄も新聞も斜陽と呼ばれて久しい業界だ。学生時代の私が進路を決めるにあたり鉄と新聞で揺れたのは、果たして偶然だったのだろうか。私がSさんにとっさに吐いた言葉の後を追うように「政治記者」となり、多くの政治家とかかわるようになったのは運命だったのだろうか。 いずれにせよ、私は「新聞記者は主役になれない」という言葉を背負って朝日新聞に入社した。そこには新聞記者を志し、とりわけ朝日新聞に憧れて難関を突破してきた大勢の同期がいた。朝日新聞記者の初任給は当時、日本企業でトップクラスだった。日本の新聞の発行部数はまだ伸びていた。1994年春である。 太平洋の向こう側、アメリカ西海岸ではIT革命が幕を開けようとしていた』、「私は「新聞記者は主役になれない」という言葉を背負って朝日新聞に入社した」、入社したなかではかなりひねた感じだったのだろう。
・『記者人生を決める「サツ回り」  新聞記者人生は大概、地方の県庁所在地から始まる。新人記者は県警本部の記者クラブに配属され、警察官を取材する「サツ回り」で同僚や他社の記者と競わされる。支局には入社1~5年目の記者がひしめく。同世代はみんなライバルだ。 私は違った。初任地は茨城県のつくば支局。大学と科学の街である。県庁所在地ではなく県警本部はない。他社に新人記者は一人もいなかった。大半は科学記者だ。朝日新聞つくば支局は科学部出身の支局長、科学部兼務の記者、新人の私の3人。畑が点在する住宅街にある赤煉瓦の一軒家に支局長が居住し、その一角が私たちのオフィスになっていた。 同期たちからは「まあ、気を落とすなよ」と言われた。彼らには私が会社員人生の初っぱなから「コースを外れた」と映ったようだ。すでに出世競争は始まっていた。サツ回りで評価された記者が政治部や社会部に進む新聞社の常識を、私は知らなかった。 1994年4月、私は水戸支局に赴任する同期のY記者と特急スーパーひたちに乗り込んだ。茨城県全域を統括する水戸支局長に着任の挨拶をするためだ。支局長は社会部の警視庁記者クラブで活躍した特ダネ記者という評判だった。 水戸支局は水戸城跡のお堀に面した通りにある。いちばん奥のソファに、彼は仰向けに寝そべっていた。黒いサングラスをかけ、白いエナメルの靴を履いた足を投げ出している。その姿勢を維持したまま、彼は少し頬を緩めボソボソと口を開いた。 「世の中の幸せの量は決まっている。Yの幸せはサメの不幸、サメの幸せはYの不幸」 訓示はそれで終わった。何が言いたいんだ、競争心を煽っているのか、とんでもないところに来てしまった、これが新聞社なのか……。 この水戸支局長、野秋碩志(のあきひろし)さんが私の最初の上司である。 Y記者は早速、3人チームのサツ回りに投入された。入社3年目の県警キャップと2年目のサブキャップのもとで徹底的にこき使われるのだ。昼間は県警記者クラブで交通事故や火災などの発表を短行記事にする。殺人事件や災害が起きれば現場へ向かい、関係者の話を聞いたり写真を撮ったりする。朝と夜は警察官の自宅を訪問して捜査情報を聞き出す。いわゆる「夜討ち朝駆け」だ。 当時携行させられていたのはポケベルだった。休日深夜を問わず鳴り続ける。警察官宅で酔いつぶれたキャップから車で迎えに来るように呼びつけられることもある。 県警発表を記事にするだけでは評価されない。未発表の捜査情報――「明日逮捕へ」とか「容疑者が~と供述」とか――を、他社を出し抜いて書く。これら特ダネは、警察官と仲良くなって正式発表前に特別に教えてもらうリーク型がほとんどだ。不都合な事実を暴く正真正銘の特ダネとは違う。 新聞というムラ社会の中だけで評価される特ダネを積み重ねることが「優秀な新聞記者」への第一歩となる。逆に他社に特ダネを書かれることを「抜かれ」といい、他の全社が報じているのに一社だけ記事にできずに取り残されることを「特オチ」という。それらが続くと「記者失格」の烙印を押される。サツ回りで特ダネを重ねた記者が支局長やデスクに昇進し、自らの「成功体験」を若手に吹聴して歪んだ記者文化が踏襲されていく。 駆け出し記者は特ダネをもらうのに必死だ。あの手この手で警察官にすり寄る。会食を重ねゴルフや麻雀に興じる。風俗店に一緒に行って秘密を共有する。警察官が不在時に手土産を持って自宅を訪れ、奥さんや子どもの相談相手となる。無償で家庭教師を買って出る……。休日も費やす。とにかく一体化する。こうして警察官と「癒着」を極めた記者が特ダネにありつける。 警察は記者同士の競争意識につけ込み、警察に批判的な記者には特ダネを与えない。他の記者全員にリークし、批判的な記者だけ「特オチ」させることもある。記者たちはそれに怯え、従順になる。こうした環境で警察の不祥事や不作為を追及する記事が出ることは奇跡に近い』、「警察は記者同士の競争意識につけ込み、警察に批判的な記者には特ダネを与えない。他の記者全員にリークし、批判的な記者だけ「特オチ」させることもある。記者たちはそれに怯え、従順になる。こうした環境で警察の不祥事や不作為を追及する記事が出ることは奇跡に近い」、こうした警察によるマスコミのコントロールの激しさは目に余る。
・『競わされる相手がいなかった(日本の新聞記者の大多数はこうしたサツ回りの洗礼を受け、そこで勝ち上がった記者が本社の政治部や社会部へ栄転していく。敗れた記者たちもサツ回り時代に埋め込まれた「特ダネへの欲求」や「抜かれの恐怖」のDNAをいつまでも抱え続ける。 純朴で真面目なY記者は日々、明らかに憔悴していった。 私は違った。つくばには他社を含め新人記者は私しかいない。警察本部もない。つくば中央警察署(現・つくば警察署)に取材に訪れる記者は私だけだった。競わされる相手がいなかったのだ。末端の警察官まで私を歓迎してくれた。 しかもメインの取材先は警察ではなかった。私は科学以外のすべてを一人で担う立場にあった。つくば市など茨城県南部の読者に向けて地域に密着した話題(いわゆる「街ダネ」)を県版に毎日写真入りで伝えることを期待された。カメラをぶら下げ、市井の人々と会い、日常のこぼれ話を来る日も来る日も記事にした。 27年間の新聞記者人生でこの時ほど原稿を書いた日々はない。当時はフィルム時代だった。つくば支局にはカラー現像機がなかった。私は毎日、白黒フィルムで撮影し、暗室にこもって写真を焼いた。 この記者生活は楽しかった。私は新人にして野放しだった。夜討ち朝駆けはほとんどしなかった。毎朝目覚めると「今日はどこへ行こうか」「誰と会おうか」「何を書こうか」と考えた。私は自由だった。毎日が新鮮だった。 この野放図な新人時代は、私の新聞記者像に絶大な影響を与えることになる』、「つくばには他社を含め新人記者は私しかいない。警察本部もない。つくば中央警察署(現・つくば警察署)に取材に訪れる記者は私だけだった。競わされる相手がいなかったのだ。末端の警察官まで私を歓迎してくれた。 しかもメインの取材先は警察ではなかった。私は科学以外のすべてを一人で担う立場にあった」、「私は新人にして野放しだった。夜討ち朝駆けはほとんどしなかった。毎朝目覚めると「今日はどこへ行こうか」「誰と会おうか」「何を書こうか」と考えた。私は自由だった。毎日が新鮮だった。 この野放図な新人時代は、私の新聞記者像に絶大な影響を与えることになる」、恵まれた「新人」時代だ。
・『権力は重大な事を隠す  当時の青木幹雄官房長官や野中広務幹事長代理ら「五人組」は小渕総理が倒れた事実を伏せ、後継総理――それは森喜朗氏だった――を密室協議で決めた。 権力は重大な事を隠す。小渕総理の入院が公表された時にはすでに森政権へ移行する流れは出来上がっていた。小渕総理が身をもって教えてくれた政治の冷徹な現実である。 小渕官邸の「総理番」で学んだことは多かった。もちろん、官邸と官邸記者クラブの「癒着」は当時からあった。いちばん驚いたのは官房機密費の使い方だ。さすがに「餞別」などの理由で現金が政治記者に配られることはなかったと思う。しかし政務担当の総理秘書官は連夜、総理番を集め高級店で会食していた。その多くの費用は官房機密費から出ていると政治部記者はみんな察していた。 当時、地方支局ではオンブズマンが情報公開制度を利用して官官接待を追及しており、行政と記者の癒着にも厳しい目が向けられていた。「取材相手との会食は割り勘」は常識だったし、記者懇談会で提供される弁当にも手を付けるなという指示が出るほどだった。それなのに永田町の政治取材の現場では官房機密費がばらまかれていた。官房機密費の使用には領収書が不要で、情報公開で決して表に出ることはないと政治家も官僚も記者も確信しているからだった。 私は政務の総理秘書官を担当しておらず会食に出席したことはなかったが、上司に「あれはおかしいのではないか」と言ったことがある。上司は「それはそうだが、あの会食に出ないと、総理日程などの情報が取れない」と説明した。それに抗って異論を唱え続ける胆力は新米政治記者の私にはなかった。 当時に比べると、今の取材現場では「割り勘」が浸透し、悪弊は解消されつつある。ただし、そのスピードは極めて遅い。そればかりか、安倍晋三、菅義偉、岸田文雄各総理の記者会見をみると、官邸と官邸記者クラブの緊張関係はまったく伝わってこない。 小渕総理と政治記者のぶらさがり取材には緊張関係があった。小渕総理が政治記者という職業に敬意を払っていたからだろう。当時は新聞の影響力が大きく無視できないという政治家としての現実的な判断もあっただろう。 政治取材は長らく、権力者側の「善意」や「誠意」に支えられる側面が大きかった。新聞の影響力低下に伴って政治記者が軽んじられるようになり、一方的に権力者にこびへつらうようになったのが今の官邸取材の実態である。権力者側の「善意」や「誠意」には期待できないことを前提に、新たな政治取材のあり方を構築しなければ、政治報道への信頼はますます失われていくだろう。 次回は「内閣官房長官の絶大な権力」​​。明日更新です』、「新聞の影響力低下に伴って政治記者が軽んじられるようになり、一方的に権力者にこびへつらうようになったのが今の官邸取材の実態である。権力者側の「善意」や「誠意」には期待できないことを前提に、新たな政治取材のあり方を構築しなければ、政治報道への信頼はますます失われていくだろう」、その通りだ。

第三に、5月25日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの鮫島 浩氏による「話題の書『朝日新聞政治部』先行公開第3回〜小渕恵三首相「沈黙の10秒」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/95521?imp=0
・『「鮫島が暴露本を出版するらしい」「俺のことも書いてあるのか?」――いま朝日新聞社内各所で、こんな会話が交わされているという。元政治部記者の鮫島浩氏が上梓する『朝日新聞政治部』(5月27日発売、現在予約受付中)​は、登場する朝日新聞幹部は全員実名、渾身の内部告発ノンフィクションだ。 戦後、日本の左派世論をリードし続けてきた、朝日新聞政治部。そこに身を置いた鮫島氏が明かす政治取材の裏側も興味深いが、本書がもっとも衝撃的なのは、2014年に朝日新聞を揺るがした「吉田調書事件」の内幕をすべて暴露していることだ。 7日連続先行公開の第3回は、初めて政治部に着任した鮫島氏が小渕恵三総理と向き合う緊迫の場面を紹介する』、「鮫島氏が小渕恵三総理と向き合う緊迫の場面」とは興味深そうだ。
・『政治記者は「権力と付き合え」  1999年春、私は政治部へ着任した。時は小渕恵三政権である。自民、自由、公明の連立政権が動き始めていた。小泉純一郎政権から安倍晋三政権へ至る清和会支配が幕を開ける前夜、竹下登元首相が最大派閥・平成研究会(小渕派)を通じて隠然たる影響力を残していた時代である。 私は新聞記者6年目の27歳。政治や経済は無知であった。そればかりか初めての東京暮らしで右も左もわからなかった。政治部の恒例で着任初日は政治部長に挨拶し昼食をともにする。駆け出し政治記者が政治部長と直接話をすることなどこの時くらいである。 政治部長は若宮啓文さんだった。朝日新聞を代表するハト派・リベラル派論客で、のちに社説の責任者である論説主幹や主筆となる。韓国紙に連載するなど国際派でもあった。父親は朝日新聞政治部記者から鳩山一郎内閣の総理秘書官に転じた若宮小太郎氏。その子息の若宮さんは「政治記者として血統の良いサラブレット」という印象が強かった。朝日新聞をライバル視する読売新聞の渡辺恒雄氏とも昵懇で、政治家では河野洋平氏と密接な関係を築いていた。 その若宮さんが私たち駆け出し政治記者に投げかけた訓示が衝撃的だった。私はつくば、水戸、浦和で過ごした新聞記者5年間とは別世界に来たと思った。若宮さんは眼光鋭い目を見開きながら、静かにこう語ったのだった。 「君たちね、せっかく政治部に来たのだから、権力としっかり付き合いなさい」 新聞の役割は権力を監視することだと思ってきた。「権力としっかり付き合いなさい」という言葉は意外だった。私は当時、世間知らずで怖いもの知らずだった。日本の新聞界を代表する政治記者であり、朝日新聞を代表する論客であり、初対面である自分の上司に、やや挑発めいた口調でとっさに質問したのである』、「「君たちね、せっかく政治部に来たのだから、権力としっかり付き合いなさい」、なかなか味わいのある言葉だ。
・『日本という国家の「権力」  「権力って、誰ですか?」 若宮さんはしばし黙っていた。ほどなく、静かに簡潔に語った。 「経世会、宏池会、大蔵省、外務省、そして、アメリカと中国だよ」 経世会とは、田中角栄や竹下登の流れを汲み、当時は小渕首相が受け継いでいた自民党最大派閥・平成研究会のことである。永田町ではかつての名称「経世会」の名で呼ばれることも多い。数の力で長く日本政界に君臨し、たたき上げの党人派が多く「武闘派」と恐れられた。小沢一郎氏が竹下氏の後継争いで小渕氏に敗れ自民党を飛び出した「経世会の分裂」が、1990年代の政治改革(小選挙区制導入による二大政党政治への転換)の発端だ。 宏池会は、池田勇人、大平正芳、宮澤喜一ら大蔵省(現・財務省)出身の首相を輩出し、戦後日本の保守本流を自任してきた。経済・平和重視のハト派・リベラル派で、政策通の官僚出身が多い一方、権力闘争は不得手で「お公家集団」と揶揄される。経世会の威を借りて戦後の政策立案を担ってきた。 大蔵省と外務省は、言わずと知れた「官庁中の官庁」。自民党が選挙対策や国会対策に奔走する一方、内政は大蔵省、外交は外務省が主導するのが戦後日本の統治システムだった。とくに大蔵省は予算編成権を武器に政財界に強い影響力を行使し、通産省(現・経済産業省)や警察庁など霞が関の他官庁は頭が上がらなかった。この大蔵省・財務省支配は2012年末の第二次安倍内閣発足まで続く。 そしてアメリカと中国。日米同盟を基軸としつつ対中関係も重視するのが経世会や宏池会が牛耳る戦後日本外交の根幹だった。政治家やキャリア官僚は日頃から在京のアメリカ大使館や中国大使館の要人と接触し独自ルートを築く。政治記者を煙に巻いても米中の外交官には情報を明かすことがある。政治記者ならアメリカや中国にも人脈を築いてそこから情報を得るという「離れ業」も必要だ。国際情勢に対する識見を身につけたうえで、米中の外交官が欲する国内政局に精通し、明快に解説できないようでは見向きもされない。 若宮さんの訓示は、この6者(経世会、宏池会、大蔵省、外務省、アメリカ、中国)こそが日本という国家の「権力」であり、政治記者はこの6者としっかり付き合わなければならないということだった。戦後日本政治史の実態を端的に表現したといえるだろう。 私は当時、その意味を理解する知識も経験も持ち合わせていなかったが、政治記者として20年以上、日本の政治を眺めてきた今となっては、若輩記者の直撃に対して明快な答えを即座に返した若宮さんの慧眼と瞬発力に感動すら覚える』、「若輩記者の直撃に対して明快な答えを即座に返した若宮さんの慧眼と瞬発力に感動すら覚える」、なるほど。
・『小渕恵三首相の「沈黙の10秒」  小渕恵三という総理は、口下手だった。途中で言葉が詰まり上手に話せないこともしばしばあった。しかし、総理番の取材に丁寧に応じようとしていることはよく伝わってきた。短い時間に、歩きながら、必死に言葉を絞り出していた。 私も何度もぶらさがって小渕総理に厳しい質問をしたが、どんなに慌ただしい政局の中でも何とか言葉を探して一言は答えてくれたものだ。無視されることはなかった。 小渕総理は風貌は地味で、流暢に話せず、「冷めたピザ」と揶揄されたが、若手記者の取材に真摯に応じる姿勢に惹かれた総理番は少なくなかった。「人柄の小渕」がマスコミを通して世間にじわじわ浸透したのか、当初低迷していた内閣支持率は徐々に上向いた。時間がたつにつれ支持率が下がることの多い日本の政権にしては珍しいパターンだった。 私は2000年春に総理番を卒業することになった。最終日、4月1日は日本政治史に残る重大な日となる。当時の関係者が何年もたった後に私に打ち明けた話によると、自自公連立を組む自由党の小沢一郎氏はこの時、連立離脱をちらつかせながら小渕総理と水面下で接触し、自民党と自由党をともに解党して合流するという大胆な政界再編を秘密裏に迫っていたというのだ。この日は夕刻に官邸を訪れ、小渕総理と最後の直談判に及んだのだった。私たち総理番は執務室の前で待った。小沢氏が硬い表情で退出した後、ほどなくして小渕総理が現れ、総理番に取り囲まれた。 私は小渕総理の目の前にいた。小渕総理は何か語ろうとしたが、うまく声を発することができずに10秒ほど押し黙った。ようやく口を開いて「信頼関係を維持することは困難と判断した」と述べ、会談が決裂したことを告げた。 小渕総理はそのまま総理番たちに背中を向け、総理公邸へ向かう廊下を進んだ。最後にちらっと私たちのほうを振り向いた。 これが小渕総理との別れだった。小渕総理は公邸に戻り、大好きな司馬遼太郎の「街道をゆく」のビデオを観ながら倒れたという。あとで先輩から「お前はあの時、小渕さんの目の前にいながら、10秒も押し黙ったのに、体調に異変が生じていることに気づかなかったのか」と叱られた。まったくその通りである。 しかし当時の政局は緊迫していた。小沢氏と決裂して連立解消が決まった直後、小渕総理の口調がこわばっていても不思議ではない。しかも小渕総理は日頃から能弁ではなく、言葉に詰まることが珍しくなかった。とはいえ体調の異変に気づかなかったのは、毎日密着している総理番としては観察力に欠けていたと言われても仕方がない。 その夜、政治記者たちは連立解消の取材に遅くまで追われた。朝刊の締め切りが過ぎた4月2日未明、私は他社の総理番らに国会近くの飲み屋で「総理番卒業」の送別会を開いてもらった(4月2日は日曜だった)。私は外務省担当になることが決まっていた。「小渕政権の最後まで総理番として見届けたかった」と他社の総理番たちにほろ酔いで話していたまさにその頃、小渕総理は病魔に襲われ、密かに順天堂大学附属順天堂医院へ運び出されていたのである』、「あとで先輩から「お前はあの時、小渕さんの目の前にいながら、10秒も押し黙ったのに、体調に異変が生じていることに気づかなかったのか」と叱られた。まったくその通りである」、「小渕政権」の劇的な最後に立ち会うとは貴重な体験だ。

第四に、6月11日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの鮫島 浩氏による「元朝日新聞エース記者が衝撃の暴露「朝日はこうして死んだ」 『朝日新聞政治部』著者が明かす」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/95754?imp=0
・『巨大組織が現場社員に全責任を押し付ける。メディアが一斉に非難を浴びせるような出来事が、あの朝日新聞で行われた。大企業が陥った「危機管理の失敗」を、エース記者が精緻な目線で内部告発する』、興味深そうだ。
・『社長も大喜びだったのに  隠蔽、忖度、追従、保身、捏造、裏切り。 メディアが政権を責め立てるとき、頻繁に使われる言葉だ。だが、権力批判の急先鋒たる朝日新聞にこそ、向けられるべき指摘だという。元朝日新聞記者の鮫島浩氏(50歳)はこう振り返る。 「'14年9月11日、木村(伊量)社長(当時)が『吉田調書』報道を取り消したことで、朝日新聞は死んだと思っています。同時に、私の会社員人生は一瞬にして奈落の底へ転落してしまいました」 5月27日に刊行された『朝日新聞政治部』が大きな話題になっている。大新聞が凋落する様子が登場人物の実名とともに生々しく描かれたノンフィクションだ。 著者で政治部出身の鮫島氏は、与謝野馨元財務相や古賀誠元自民党幹事長などの大物政治家に食い込み、数々のスクープを放ったエース記者だった。なぜ大手新聞社の中枢に身を置いた彼が「内部告発」をするのか。そして、なぜ朝日新聞は「死んだ」と言えるのか』、後ろを読んでみよう。
・『原発事故報道でスクープを連発  時計の針を'12年に巻き戻そう。当時、政治部デスクだった鮫島氏は、先輩に誘われて特別報道部に異動した。 特別報道部は、'05年に朝日新聞の記者が田中康夫元長野県知事の発言を捏造した「虚偽メモ事件」をきっかけに創設されたチームだ。政治部や経済部などから記者を集めて調査報道に専従させる。'11年に起きた東日本大震災と原発事故で、調査報道の重要性が見直されていた頃だった。鮫島氏が加わった特別報道部は、原発事故の報道で輝かしい結果を残していく。 福島第一原発周辺で行われている国の除染作業をめぐり、一部の請負業者が除染で集めた土や洗浄で使った水などを、回収せずに山や川に捨てている様子を取り上げた「手抜き除染」は'13年の新聞協会賞を受賞した。 もっとも世間の注目を集めたのは、「吉田調書」報道だ。福島第一原発元所長の吉田昌郎氏が政府事故調査委員会の聴取に応じた記録を独自入手し、事故対応の問題点を報じたのだ。記事を手がけたのは、特別報道部の記者3人と担当デスクを務めた鮫島氏のチームだった』、確かに「「吉田調書」報道」はショッキングだった。
・『木村社長も大興奮、しかし……  このスクープは、'14年5月20日の朝刊1面と2面で大展開された。第一報では、「朝日新聞が吉田調書を独自入手したこと」、「吉田所長は第一原発での待機を命じていたのに、所員の9割が命令に違反し、第二原発に撤退していたこと」が主に報じられた。 報道直後から社内外では大反響が広がった。当時の朝日新聞社内の様子を著書から抜粋しよう。 〈朝日新聞社内は称賛の声に包まれた。市川誠一特別報道部長は「木村社長が大喜びしているぞ。社長賞を出す、今年の新聞協会賞も間違いないと興奮している」と声を弾ませていた〉 吉田調書報道を主導していた鮫島氏は、絶頂の真っ只中にいた。社内では多くの社員から取り囲まれて握手攻めにあい、同僚たちから祝福のメールが届いた。 特別報道部と鮫島氏が、わずか4ヵ月後に転落するとは誰も思わなかっただろう。 絶頂にあった特別報道部に対して、木村伊量社長らはまるで「手のひら返し」をするように冷淡になってゆく。そして事態は、特集記事「慰安婦問題を考える」の掲載をきっかけに急展開するのだった。特別報道部と鮫島氏を待ち受ける過酷な運命を、後編記事「なぜ朝日新聞は『読者に見捨てられる』のか? 元朝日スクープ記者が明かす」でお伝えする』、「絶頂にあった特別報道部に対して、木村伊量社長らはまるで「手のひら返し」をするように冷淡になってゆく」、「木村伊量社長らはまるで「手のひら返し」とは、理解できない動きだ。

第五に、6月11日付け現代ビジネス「なぜ朝日新聞は「部数減」に悩んでいるのか? 元朝日スクープ記者が明かす」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/95756?imp=0
・『元朝日新聞記者の鮫島浩氏は、2012年に政治部から「特別報道部」へ移り、東日本大震災・原発事故の調査報道でスクープを連発した。とりわけ、福島第一原発元所長の吉田昌郎氏の証言を独自入手した「吉田調書」報道は、社内外で大きな称賛を浴びた。 だが、あるきっかけで特別報道部、そして鮫島氏をとりまく状況は暗転する。前編「元朝日新聞エース記者が衝撃の暴露『朝日はこうして死んだ』」に続き、その一部始終を書籍『朝日新聞政治部』の内容も踏まえてお伝えする』、興味深そうだ。
・『突然の手のひら返し  「吉田調書」スクープは、'14年5月20日の朝刊1面と2面で大展開された。第一報では、「朝日新聞が吉田調書を独自入手したこと」、「吉田所長は第一原発での待機を命じていたのに、所員の9割が命令に違反し、第二原発に撤退していたこと」が主に報じられた。 だが6月になり、「所長の待機命令に違反し、所員の9割が原発から撤退した」という表現をめぐり批判が寄せられるようになる。混乱の中で、待機命令に気づかないまま第二原発へ向かった所員もいた可能性もあるからだ。 「第一報で伝えた吉田調書の内容は事実ですが、『撤退』や『待機命令に違反し』という表現は不十分でした。そこで、あらためて読者に丁寧に説明した特集紙面をつくることを提案したのです」 だが、編集担当、広報担当、社長室ら危機管理を扱う役員たちの了承がとれなかった。 「木村社長が『吉田調書報道を新聞協会賞に申請する』と意気込んでいて、第一報を修正する続報を出すと協会賞申請に水を差す、というのが理由でした。おそらく社長の取り巻きは、木村社長に直接相談はしていないでしょう。 つまり、経営陣の『忖度』が現場の求める紙面展開を抑え込んだのです。協会賞に申請できなくなることより、社長の機嫌を損ねることを恐れていたのだと思います」 結果的に吉田調書報道は受賞候補から早々に外れ、社内外での関心も薄れてしまった。事態は収まったかに見えた』、「第一報を修正する続報を出すと協会賞申請に水を差す、というのが理由でした。おそらく社長の取り巻きは、木村社長に直接相談はしていないでしょう。 つまり、経営陣の『忖度』が現場の求める紙面展開を抑え込んだのです。協会賞に申請できなくなることより、社長の機嫌を損ねることを恐れていたのだと思います」 結果的に吉田調書報道は受賞候補から早々に外れ、社内外での関心も薄れてしまった」、お粗末極まる動きだ。
・『ゲラを見て、社長は激怒した  急展開を迎えたのは、8月5日に朝日新聞が特集記事「慰安婦問題を考える」を掲載してからだ。ここで、戦時中に慰安婦を強制連行したとして、朝日新聞が紙面で報じてきた吉田清治氏の発言(吉田証言)を虚偽と判断し、過去の記事を取り消したのだ。訂正まで20年以上の時間がかかったことや、謝罪の言葉がないことに批判が殺到した。 その後、ジャーナリスト・池上彰氏のコラムが朝日新聞に掲載拒否されたことも週刊誌などで報じられた。慰安婦問題をめぐる朝日新聞の対応を批判する内容だったが、事前にゲラを見た木村社長が激怒したという。 朝日は、「吉田調書」「吉田証言」に加えて「池上コラム」で世論から猛烈な批判を浴び、経営陣は狼狽した。さらに、マスコミ他社や安倍政権からも「攻撃」を受けるようになる。菅義偉官房長官が「吉田調書を近いうちに公開する」と発表すると、各紙は朝日新聞に批判的な立場で吉田調書に関する報道を始めた。 過熱する朝日バッシングに経営陣は総崩れとなり、社長退任は避けられない事態となった。そして、政府が吉田調書を公開した9月11日、木村社長が緊急記者会見を行うこととなる。 それは鮫島氏にとって耳を疑いたくなるような内容だった。木村社長は自らが矢面に立っていた「吉田証言」と「池上コラム問題」ではなく、自らは直接関与していなかった「吉田調書」の責任を取るとして辞意を表明した。さらに記事を取り消して、関係者を厳正に処分すると発表したのだ。 「吉田調書の第一報が不十分であったことは認めます。ただ、それ以上に記事を出した後の危機管理に問題があったことは間違いありません。木村社長は、私たちをスケープゴートにするために吉田調書報道だけを取り上げて、他の問題の責任を隠蔽しようとしたのです。 しかも、『吉田証言』と『池上コラム問題』は木村社長が深く関わった案件。保身のための会見だったとしか思えません」』、「木村社長は、私たちをスケープゴートにするために吉田調書報道だけを取り上げて、他の問題の責任を隠蔽しようとしたのです。 しかも、『吉田証言』と『池上コラム問題』は木村社長が深く関わった案件。保身のための会見だったとしか思えません」、こんな見え見えの責任回避策が通用するとは「朝日新聞」も堕ちたものだ。
・『懲戒解雇の噂まで……  「吉田調書」のスクープをものにしたはずの鮫島氏ら取材班の記者たちは、異例の会見を経て「誤報記者」の烙印を押されてしまう。そして連日のように、人事部や第三者機関から長時間の事情聴取を受けることになる。とにかく非を認めさせて「処罰」を決めるための儀式のように感じたという。 「社内では私が懲戒解雇されるという噂も立っていました。上層部は様々な情報を流して私を精神的に追い込み、会社に屈服させようとしていたのです。信頼を寄せていた会社が、組織をあげて上から襲い掛かってくる恐怖は経験した者にしかわからないと思います」』、「「社内では私が懲戒解雇されるという噂も立っていました。上層部は様々な情報を流して私を精神的に追い込み、会社に屈服させようとしていたのです。信頼を寄せていた会社が、組織をあげて上から襲い掛かってくる恐怖は経験した者にしかわからないと思います」、組織は恐ろしい顔も持つようだ。
・『読者にも見捨てられる  鮫島氏は停職2週間の懲戒処分を受けて、管理部門に「左遷」された。それよりも鮫島氏が解せなかったのは、吉田調書を独自入手した記者も処分されたことだった。 「管理職だった私が結果責任を免れないのは理解できます。ただ、経営陣が自分たちの危機管理の失敗を棚上げして現場の記者に全責任をなすりつけたら、失敗を恐れて無難な仕事しかできなくなってしまう。これが、朝日新聞が死んだ最大の原因ではないでしょうか」 鮫島氏は昨年5月に会社を去った。今はネットメディアを立ち上げ、本来の報道倫理に立ち戻った言論活動を行っている。 昨年6月、朝日新聞社は創業以来最大の約458億円の大赤字を出した。'90年代は約800万部を誇っていた発行部数も、いまや500万部を割っている。記者が失敗を恐れて萎縮し、無難な記事しか載らない紙面が読者に見捨てられつつあるのか。朝日新聞の凋落は、誰にも止められないかもしれない』、「記者が失敗を恐れて萎縮し、無難な記事しか載らない紙面が読者に見捨てられつつある」、のは確かで、「朝日新聞の凋落は、誰にも止められないかもしれない」とは実に残念だ。
タグ:奥さんの指摘「「あなたはこれから自分が何の罪に問われるか、わかってる? 私は吉田調書報道が正しいのか間違っているのか、そんなことはわからない。でも、それはおそらく本質的なことじゃないのよ。あなたはね、会社という閉ざされた世界で『王国』を築いていたの。誰もあなたに文句を言わなかったけど、内心は面白くなかったの。あなたはそれに気づかずに威張っていた。あなたがこれから問われる罪、それは『傲慢罪』よ!」 「木村社長」が「自らが矢面に立つ「慰安婦」「池上コラム」ではなく、自らは直接関与していない「吉田調書」を理由にいきなり辞任を表明した」、というのは解せない行動だ。 「あとで先輩から「お前はあの時、小渕さんの目の前にいながら、10秒も押し黙ったのに、体調に異変が生じていることに気づかなかったのか」と叱られた。まったくその通りである」、「小渕政権」の劇的な最後に立ち会うとは貴重な体験だ。 (その32)(鮫島 浩氏6題:元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(1)、元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(2)、話題の書『朝日新聞政治部』先行公開第3回〜小渕恵三首相「沈黙の10秒」、元朝日新聞エース記者が衝撃の暴露「朝日はこうして死んだ」、なぜ朝日新聞は「部数減」に悩んでいるのか? 元朝日スクープ記者が明かす) 「「社内では私が懲戒解雇されるという噂も立っていました。上層部は様々な情報を流して私を精神的に追い込み、会社に屈服させようとしていたのです。信頼を寄せていた会社が、組織をあげて上から襲い掛かってくる恐怖は経験した者にしかわからないと思います」、組織は恐ろしい顔も持つようだ。 「記者が失敗を恐れて萎縮し、無難な記事しか載らない紙面が読者に見捨てられつつある」、のは確かで、「朝日新聞の凋落は、誰にも止められないかもしれない」とは実に残念だ。 確かに「「吉田調書」報道」はショッキングだった。 鮫島 浩氏による「話題の書『朝日新聞政治部』先行公開第3回〜小渕恵三首相「沈黙の10秒」 「若輩記者の直撃に対して明快な答えを即座に返した若宮さんの慧眼と瞬発力に感動すら覚える」、なるほど。 「つくばには他社を含め新人記者は私しかいない。警察本部もない。つくば中央警察署(現・つくば警察署)に取材に訪れる記者は私だけだった。競わされる相手がいなかったのだ。末端の警察官まで私を歓迎してくれた。 しかもメインの取材先は警察ではなかった。私は科学以外のすべてを一人で担う立場にあった」、 「木村社長は、私たちをスケープゴートにするために吉田調書報道だけを取り上げて、他の問題の責任を隠蔽しようとしたのです。 しかも、『吉田証言』と『池上コラム問題』は木村社長が深く関わった案件。保身のための会見だったとしか思えません」、こんな見え見えの責任回避策が通用するとは「朝日新聞」も堕ちたものだ。 「私は新人にして野放しだった。夜討ち朝駆けはほとんどしなかった。毎朝目覚めると「今日はどこへ行こうか」「誰と会おうか」「何を書こうか」と考えた。私は自由だった。毎日が新鮮だった。 この野放図な新人時代は、私の新聞記者像に絶大な影響を与えることになる」、恵まれた「新人」時代だ。 「第一報を修正する続報を出すと協会賞申請に水を差す、というのが理由でした。おそらく社長の取り巻きは、木村社長に直接相談はしていないでしょう。 つまり、経営陣の『忖度』が現場の求める紙面展開を抑え込んだのです。協会賞に申請できなくなることより、社長の機嫌を損ねることを恐れていたのだと思います」 結果的に吉田調書報道は受賞候補から早々に外れ、社内外での関心も薄れてしまった」、お粗末極まる動きだ。 「現役の新聞記者」が「キャリア官僚と同じ匂いがした」、というのは面白い感想だ。「新日鉄・・・である。この会社は会う人会う人が魅力的だった」、「キャリア官僚や新聞記者とはまるで違った。私は新日鉄へ入社する決意をSさんに告げた」、そのままだったら、「新日鉄」マンになっていたとは驚きだ。 「警察は記者同士の競争意識につけ込み、警察に批判的な記者には特ダネを与えない。他の記者全員にリークし、批判的な記者だけ「特オチ」させることもある。記者たちはそれに怯え、従順になる。こうした環境で警察の不祥事や不作為を追及する記事が出ることは奇跡に近い」、こうした警察によるマスコミのコントロールの激しさは目に余る。 現代ビジネス「なぜ朝日新聞は「部数減」に悩んでいるのか? 元朝日スクープ記者が明かす」 「親しい友人たちが国家公務員一種試験(法律職)を目指して勉強していたので、遅ればせながらその輪に入れてもらった。2~3ヵ月、過去問をひたすら解いて挑んだ筆記試験に合格し、友人たちに驚かれた」、「朝日新聞を含め、いくつか内定をいただいた。 朝日新聞の東京本社や京都支局にうかがって現役の新聞記者にも会ったが、興味のわく人はいなかった。キャリア官僚と同じ匂いがした」、 「新聞記者が新人時代に必ず通る「地方支局でのサツ(警察)回り」の実態」とは興味深そうだ。 「「君たちね、せっかく政治部に来たのだから、権力としっかり付き合いなさい」、なかなか味わいのある言葉だ。 鮫島 浩氏によう「元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(2)」 「新聞の影響力低下に伴って政治記者が軽んじられるようになり、一方的に権力者にこびへつらうようになったのが今の官邸取材の実態である。権力者側の「善意」や「誠意」には期待できないことを前提に、新たな政治取材のあり方を構築しなければ、政治報道への信頼はますます失われていくだろう」、その通りだ。 「本書はいわば「失敗談」の集大成である」、興味深そうだ。 メディア 紹興酒の酔いは一気に覚めた。妻はたたみかけてくる。 「あなたは過去の自分の栄光に浸っているだけでしょ。中国の皇帝は王国が崩壊した後、どうなるか、わかる? 紹興酒を手に、妖艶な演奏に身を浸して、我が身をあわれんで涙を流すのよ。そこへ宦官がやってきて『あなたのおこなってきたことは決して間違っておりません。後世必ずや評価されることでしょう』と言いつつ、料理に毒を盛るのよ!」、極めて本質を突いた鋭い指摘だ。 鮫島 浩氏による「元朝日新聞エース記者が衝撃の暴露「朝日はこうして死んだ」 『朝日新聞政治部』著者が明かす」 「私は「新聞記者は主役になれない」という言葉を背負って朝日新聞に入社した」、入社したなかではかなりひねた感じだったのだろう。 後ろを読んでみよう。 「鮫島氏が小渕恵三総理と向き合う緊迫の場面」とは興味深そうだ。 「絶頂にあった特別報道部に対して、木村伊量社長らはまるで「手のひら返し」をするように冷淡になってゆく」、「木村伊量社長らはまるで「手のひら返し」とは、理解できない動きだ。 鮫島 浩氏による「元エース記者が暴露する「朝日新聞の内部崩壊」〜「吉田調書事件」とは何だったのか(1)朝日新聞政治部(1)」 現代ビジネス
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半導体産業(その10)(半導体業界大手・NVIDIA「30年の浮沈」に学ぶ 日本企業のあるべき姿、台湾ホンハイ「インド半導体合弁」から撤退の誤算 モディ首相の故郷で「10万人雇用」計画が幻に) [産業動向]

半導体産業については、本年5月27日に取上げた。今日は、(その10)(半導体業界大手・NVIDIA「30年の浮沈」に学ぶ 日本企業のあるべき姿、台湾ホンハイ「インド半導体合弁」から撤退の誤算 モディ首相の故郷で「10万人雇用」計画が幻に)である。

先ずは、本年5月31日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したクライス&カンパニー顧問/Tably代表の及川卓也氏による「半導体業界大手・NVIDIA「30年の浮沈」に学ぶ、日本企業のあるべき姿」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/323643
・『コロナ禍による工場稼働率の低下に続き、ウクライナ侵攻で国家安全保障上も注目されるようになった半導体業界。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏は、AIの活用で成長著しい業界大手・NVIDIAの30年の歴史からは学べることが多いという。NVIDIA、そして半導体産業に見る日本企業のあるべき姿とは』、興味深そうだ。
・『再び注目される半導体業界 日本政府も製造強化に乗り出す  最近、半導体業界が再び注目されています。国家安全保障上の戦略的な意味合いも非常に強まっており、米国では中国への半導体の輸出を禁じたほか、自国内で半導体製造を行う取り組みも進めています。日本でも国内のメーカーや通信会社など大手8社が出資して、2022年に半導体プロセッサー(ロジック半導体)メーカー・Rapidus(ラピダス)を設立。政府が同社に3000億円超を支援しています。また台湾の半導体メーカー・TSMCの工場が2022年、熊本県へ進出したことも話題となりました。 半導体にはいくつかの種類があります。日本では従来、DRAM製造に強みがありましたが、価格競争となって投資が続けられず、競争力が落ちてしまいました。最後まで残っていたエルピーダメモリも、2013年にマイクロン・テクノロジーによる買収が完了しています。一方、NAND型フラッシュメモリーの領域では今でも強く、キオクシア(旧東芝メモリー)が世界シェア2位を維持しています。またアナログ半導体の領域では、特にセンサー系でソニーがシェアを持っています。 現在、世界的に需要が高く、最も不足しているのはロジック半導体です。CPUやGPUなど、コンピュータの頭脳を担う半導体なのですが、この領域では日本企業は強みを発揮できていません。そこで今回は政府も加わって国家プロジェクト的に強化が図られています。 実は、日本がDRAMやプロセッサーで強かった頃にも「超LSI技術研究組合」というプロジェクトがありました。これは官民合同でVLSIの製造技術の確立に取り組むというもので、1976年からの4年間で700億円の補助金が国から投入されています。このプロジェクトの成果は、1980年代の日本の半導体産業に隆盛をもたらしました。今回のプロジェクトも、同様にうまくいけばいいと願っているところです』、「超LSI技術研究組合」では「1976年からの4年間で700億円の補助金が国から投入」、「成果は、1980年代の日本の半導体産業に隆盛をもたらしました」、なるほど。
・『GPUの王者・NVIDIAが大きくシェアを落とした“危機的状況”  さて、ロジック半導体の分野で今一番注目を浴びている企業が米国のNVIDIA(エヌビディア)です。NVIDIAは現在、GPUで80%以上のシェアを持つといわれています。CPUがさまざまな処理をこなす汎用(はんよう)的なコンピュータの頭脳であるのに対して、GPUは3Dグラフィック処理などにおいて、単純な計算を並列で多数行うという特徴を持つプロセッサーです。 NVIDIAは1993年にGPUに可能性を感じて創業された企業で、当初は複雑な描画処理を行うゲームにフォーカスして事業をスタートしました。歴史を振り返ると、NVIDIAはこれまでに何度か危機的状況を迎えています。 GPUはCPUから命令を受けて動作するので、CPUとの連携が欠かせません。2006年、GPU設計・製造でNVIDIAの最大のライバルだったATIが、Intelに並ぶプロセッサー大手のAMDに買収され、AMD製CPUとの組み合わせでNVIDIA製品が採用されなくなりました。IntelはIntelで、1つのボードにネットワークやグラフィック処理ができるチップを自社で搭載し、廉価で販売し始めます。NVIDIAのGPUは、ハイエンドのゲームユーザーやグラフィッククリエイターを除いて売れなくなっていき、市場が一気に縮小してしまいました。 一般にプラットフォーマーは、他のプラットフォーマーを排除しようとする傾向があります。AMDはCPUではなくGPUが製品の核となることを避けるため、競合のATIを買収してNVIDIAを排除しようとしました。Intelも同様に、自社でオンボードグラフィックスを進めることで、NVIDIAを排除しようとしたわけです。 祖業であるゲームと自動車、そしてモバイル向けのGPU提供を主力事業とするようになったNVIDIA。危機的状況の中で2006年、彼らがリリースしたのが、GPU向けのプログラム開発基盤「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」でした』、「祖業であるゲームと自動車、そしてモバイル向けのGPU提供を主力事業とするようになったNVIDIA。危機的状況の中で2006年、彼らがリリースしたのが、GPU向けのプログラム開発基盤「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」でした」、なるほど。
・『AIの深層学習に画期的発展をもたらしたGPUと「CUDA」  先述したとおり、GPUはグラフィック処理のためのプロセッサーですが、並列処理に非常に長けています。単純な計算を大量に高速で行うのに適しているのです。そこでGPUをグラフィック以外の処理にも使えるよう、GPUによる汎用計算(GPGPU)のためにNVIDIAが開発したプラットフォームがCUDAです。 CUDAを使えば、GPUの高い演算性能を利用して、グラフィック以外の一般的な並列計算処理を実行することが可能になります。このCUDAはNVIDIAのビジネスを大きく変え、半導体が重要視される現在の状況にもつながっているといえます。 CUDAを開発したイアン・バック氏は、Silicon Graphicsにグラフィックエンジニアとして在籍した後、スタンフォード大学でBrookというGPUによる並列処理のためのプログラミングモデルを発表しました。その後NVIDIAに入社して研究を続け、CUDAを発表しています。 CUDAとGPGPUが大きな注目を浴び、広く普及したのはAIの深層学習(ディープラーニング)で活用できることが分かったからです。現在、AIは第3次ブームといわれていますが、このブームの発端は2012年に深層学習で起きたブレークスルーにあります。当時トロント大学教授だったジェフリー・ヒントン氏はアレックス・クリジェフスキー氏とともに、画像データベースImageNetを使った画像認識コンテストで飛躍的成果を出し、大差で優勝しました。そのときに使ったのが、GPUとCUDAを活用した深層学習モデルです。 ジェフリー・ヒントン氏はその後AI研究の第一人者としてGoogleでAI研究に携わってきましたが、今年5月に「AIの危険性について語るため」としてGoogle退職を発表し、話題となった人物でもあります』、「GPUはグラフィック処理のためのプロセッサーですが、並列処理に非常に長けています。単純な計算を大量に高速で行うのに適しているのです。そこでGPUをグラフィック以外の処理にも使えるよう、GPUによる汎用計算(GPGPU)のためにNVIDIAが開発したプラットフォームがCUDAです。 CUDAを使えば、GPUの高い演算性能を利用して、グラフィック以外の一般的な並列計算処理を実行することが可能になります。このCUDAはNVIDIAのビジネスを大きく変え、半導体が重要視される現在の状況にもつながっているといえます」、なるほど。
・『ファブレスでありながらソフトウェアでは「垂直統合」を実現  NVIDIAはプロセッサーメーカーとして誕生しましたが、もはやハードウェアではなくソフトウェアの会社といっていいほど、ソフトウェア開発に多額の投資を行い、大変優秀な人材を集めています。しかし、最初からソフトウェアに事業としての可能性があると強い自信を持っていたわけではないようです。 NVIDIA CEOのジェンセン・フアン氏は、2016年のForbes誌のインタビューに対し「自社のグラフィックチップが最新のビデオゲームを動かす以上の可能性をを秘めていることは知っていたが、ディープラーニングへのシフトは予想していなかった」と述べています。しかし、彼らはCUDAとAIに賭け、この10年ほどで大きく変貌を遂げることとなりました。 現在の半導体業界は、「水平分業」と「垂直統合」とでは、どちらかというと水平分業、つまりファブレス企業として設計だけを行う会社が、TSMCのような企業へ製造を委託する潮流の中にあります。Intelやサムスンは垂直統合モデルをとっていますが、Intelなどは特に水平分業モデルの企業による攻勢の影響を受け、業界の中では成長が鈍化しています。 一方のNVIDIAは、チップの製造は外部に委託するファブレスメーカーですが、「自社でソフトウェアまで提供している」という意味では水平分業と垂直統合の両面を実現しているといえそうです。CUDAを出して機械学習での賭けに勝ったことだけでなく、このことがNVIDIAの成功の要因といえるかもしれません。 NVIDIAは単にソフトウェアライブラリを持つだけではなく、自動運転のためのソフトウェア開発を自社で行い、フォルクスワーゲンやアウディへ提供しています。こうした一連の技術群に加え、データセンターレベルの機能も自社で展開し、下流から上流まで一通りの技術を有するのがNVIDIAの特徴です。 歴史的には「プラットフォーマーは他のプラットフォーマーを排除する」という法則によって、苦い経験を持つNVIDIA。単に一部品を展開するのではなく、できるだけ多くの部分で市場に食い込み、ロックインを避けたがる顧客もロックインせざるを得ないような状況を作る戦略を取っているとも考えられます』、「NVIDIAは、チップの製造は外部に委託するファブレスメーカーですが、「自社でソフトウェアまで提供している」という意味では水平分業と垂直統合の両面を実現しているといえそうです。CUDAを出して機械学習での賭けに勝ったことだけでなく、このことがNVIDIAの成功の要因といえるかもしれません。 NVIDIAは単にソフトウェアライブラリを持つだけではなく、自動運転のためのソフトウェア開発を自社で行い、フォルクスワーゲンやアウディへ提供しています。こうした一連の技術群に加え、データセンターレベルの機能も自社で展開し、下流から上流まで一通りの技術を有するのがNVIDIAの特徴です」、なるほど。
・『ソニーCMOSセンサーの奇跡と顧客の需要を想定する力  水平分業と垂直統合については、似たような話がソニーにもあります。 ソニーにとってイメージセンサーを中心とした半導体事業は現在、収益の柱の1つとなっています。しかし、一時はその事業を売却しようとするほど、会社にとって“お荷物”な存在と見なされていました。売却先がなかったため、できるだけ資産を持たない軽量な事業にしようと工場を売却し、ファブレスモデルへ移行。ギリギリのところで半導体事業がソニーの中で生き残ることとなりました。 ソニーはもともとカメラなどの製品が強く、民生用ビデオカメラのCCDセンサーでは圧倒的なシェアを誇っていました。しかし、これをCMOSセンサーへシフトさせるよう自ら仕掛けています。自身が築いたCCD市場を壊し、独自技術による高性能なCMOSセンサーを世に送り出すことで、イメージセンサー市場におけるシェアを守ったのです。 ソニーも単にイメージセンサーを持つだけでなく、実際に製品として使われる部分を自身で手がけており、その点で垂直統合型に近いところがあります。 2010年時点のイメージセンサー市場は、金額ベースで携帯電話向けが36%、デジタル一眼レフカメラ向けが27%、デジカメ向けが21%、監視カメラ向けが12%、カムコーダー向けが3%という構成でした。当時のソニーはカムコーダーでは98%(数量ベース)という高いシェアを持っていましたが、これはイメージセンサー市場全体の中では3%しかない領域です。市場の大きい携帯電話や一眼レフ、デジカメのシェアを取りに行かなければ、伸びしろはありません。 ソニーの半導体事業部は、自社の他の事業部や他社にCMOSセンサーの採用を働きかけ、それぞれの場で必要な機能を加えることで、普及を図ることに成功しました。他社製品でもデジカメで動画を撮影して楽しむといったユースケースを作ったほか、一眼レフ機へのセンサー採用の働きかけも行い、それをきっかけにソニー社内でもαシリーズへの採用が決まっています。 つまり、実際に使われるシーンをしっかり想定し、その需要を満たすためにどうすればいいか、部品の方を改良するというアプローチを取っていたということになります』、「ソニーにとってイメージセンサーを中心とした半導体事業は現在、収益の柱の1つとなっています。しかし、一時はその事業を売却しようとするほど、会社にとって“お荷物”な存在と見なされていました。売却先がなかったため、できるだけ資産を持たない軽量な事業にしようと工場を売却し、ファブレスモデルへ移行。ギリギリのところで半導体事業がソニーの中で生き残ることとなりました」、「売却先がなかったため、できるだけ資産を持たない軽量な事業にしようと工場を売却し、ファブレスモデルへ移行。ギリギリのところで半導体事業がソニーの中で生き残る」、それが、現在は収益の柱に成長したとは、分からないものだ。
・『「言われたものを作る」のではなくニーズをつかんで将来を描く  ソニーには、リチウムイオン電池を手がけていた部門の担当者が、バッテリーの寿命を画期的に長くする技術としてデル会長のマイケル・デル氏に直接売り込みをかけた逸話もあります。また話はITからは外れますが、“消せるボールペン”でおなじみの「フリクション」のインク開発者にも、自らインクの用途を説明するために国内外を営業してまわったエピソードがあるそうです。 部品メーカーには、マーケティング部門がない会社が結構あります。受託で作ってほしいと言われたものを作るだけでも十分大きなビジネスになるので、自分たちの技術をどう使ってほしいかを説明する、あるいは顧客に何が求められているかを把握する必要がないことも多いからです。しかし、ソニーのイメージセンサーやリチウムイオン電池、フリクションのインクの例を見ると、やはりそれだけでは、大きな事業の成長は得られないのではないかと感じます。 元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は、半導体製造業は「ユーザー企業の今後の製品戦略を知って、予測して先取りしていくことが大事」といっています。坂本氏はかつてテキサスインスツルメンツ(TI)にいたことがあるのですが、TIでは技術系営業が7割を占めていて、顧客のニーズや不満を常に吸い上げていたといいます。それに対して日本企業は顧客のニーズを把握せず、悪い意味での「プロダクトアウト」をやる傾向があると坂本氏は述べています』、「半導体製造業は「ユーザー企業の今後の製品戦略を知って、予測して先取りしていくことが大事」」だが、現実には難しそうだ。

次に、7月26日付け東洋経済オンラインが転載した財新 Biz&Tech「台湾ホンハイ「インド半導体合弁」から撤退の誤算 モディ首相の故郷で「10万人雇用」計画が幻に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/688716
・『電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手の台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)は7月10日、インドでの半導体製造の合弁プロジェクトから撤退すると発表した。 同社は2022年2月、傘下の富士康科技集団(フォックスコン)を通じてインド資源大手のベダンタグループと合弁会社設立の覚書に調印。同年9月には、インドのモディ首相の故郷であるグジャラート州に195億ドル(約2兆7414億円)を投じて半導体工場を建設し、10万人の雇用を創出する計画をぶち上げた』、ずいぶん大規模な計画だ。
・『スタートから1年余りで頓挫  ところが、両社の協業はスタートからわずか1年余りで頓挫した格好だ。ホンハイの声明によれば、同社はベダンタとの合弁事業から完全に手を引き、合弁会社はベダンタの100%子会社に移行するという。 とはいえ、ホンハイはまだインドでの半導体製造を断念したわけではない。同社は声明のなかで、「わが社はインド政府の『メイク・イン・インディア』構想を引き続き支持しており、インドの半導体業界の発展を確信している」と強調した。) 同じく7月10日、インド情報技術省のラジーブ・チャンドラセカール副大臣はSNS(交流サイト)に投稿し、ホンハイとベダンタの合弁解消の背景を次のように述べた。 「両社は回路線幅28ナノメートルの半導体工場の建設計画をインド政府に提出していた。しかしホンハイもベダンタも半導体製造の経験がなく、外部の技術パートナーを必要としていたが、見つけられなかった」』、「ホンハイもベダンタも半導体製造の経験がなく、外部の技術パートナーを必要としていたが、見つけられなかった」、全く実体が伴ってないお粗末な計画だったようだ。
・『STマイクロとの交渉が難航か  本記事は「財新」の提供記事です ロイター通信の2023年5月の報道によれば、インド政府はスイス半導体大手のSTマイクロエレクトロニクスに対して、技術ライセンスの供与にとどまらない合弁プロジェクトへの深い参画を期待していた。 だが、実際には合弁会社とSTマイクロの交渉が難航し、プロジェクトは遅々として進まない膠着状態に陥っていた。(財新記者:劉沛林)※原文の配信は7月12日)』、なかなか「インド政府」の思惑通りにはいかないようだ。
タグ:財新 Biz&Tech「台湾ホンハイ「インド半導体合弁」から撤退の誤算 モディ首相の故郷で「10万人雇用」計画が幻に」 生き残る」、それが、現在は収益の柱に成長したとは、分からないものだ。 なかなか「インド政府」の思惑通りにはいかないようだ。 開し、下流から上流まで一通りの技術を有するのがNVIDIAの特徴です」、なるほど。 東洋経済オンライン 「半導体製造業は「ユーザー企業の今後の製品戦略を知って、予測して先取りしていくことが大事」」だが、現実には難しそうだ。 「ソニーにとってイメージセンサーを中心とした半導体事業は現在、収益の柱の1つとなっています。しかし、一時はその事業を売却しようとするほど、会社にとって“お荷物”な存在と見なされていました。売却先がなかったため、できるだけ資産を持たない軽量な事業にしようと工場を売却し、ファブレスモデルへ移行。ギリギリのところで半導体事業がソニーの中で生き残ることとなりました」、「売却先がなかったため、できるだけ資産を持たない軽量な事業にしようと工場を売却し、ファブレスモデルへ移行。ギリギリのところで半導体事業がソニーの中で 「ホンハイもベダンタも半導体製造の経験がなく、外部の技術パートナーを必要としていたが、見つけられなかった」、全く実体が伴ってないお粗末な計画だったようだ。 (その10)(半導体業界大手・NVIDIA「30年の浮沈」に学ぶ 日本企業のあるべき姿、台湾ホンハイ「インド半導体合弁」から撤退の誤算 モディ首相の故郷で「10万人雇用」計画が幻に) 半導体産業 「NVIDIAは、チップの製造は外部に委託するファブレスメーカーですが、「自社でソフトウェアまで提供している」という意味では水平分業と垂直統合の両面を実現しているといえそうです。CUDAを出して機械学習での賭けに勝ったことだけでなく、このことがNVIDIAの成功の要因といえるかもしれません。 NVIDIAは単にソフトウェアライブラリを持つだけではなく、自動運転のためのソフトウェア開発を自社で行い、フォルクスワーゲンやアウディへ提供しています。こうした一連の技術群に加え、データセンターレベルの機能も自社で展 CUDAを使えば、GPUの高い演算性能を利用して、グラフィック以外の一般的な並列計算処理を実行することが可能になります。このCUDAはNVIDIAのビジネスを大きく変え、半導体が重要視される現在の状況にもつながっているといえます」、なるほど。 「GPUはグラフィック処理のためのプロセッサーですが、並列処理に非常に長けています。単純な計算を大量に高速で行うのに適しているのです。そこでGPUをグラフィック以外の処理にも使えるよう、GPUによる汎用計算(GPGPU)のためにNVIDIAが開発したプラットフォームがCUDAです。 「祖業であるゲームと自動車、そしてモバイル向けのGPU提供を主力事業とするようになったNVIDIA。危機的状況の中で2006年、彼らがリリースしたのが、GPU向けのプログラム開発基盤「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」でした」、なるほど。 「超LSI技術研究組合」では「1976年からの4年間で700億円の補助金が国から投入」、「成果は、1980年代の日本の半導体産業に隆盛をもたらしました」、なるほど。 及川卓也氏による「半導体業界大手・NVIDIA「30年の浮沈」に学ぶ、日本企業のあるべき姿」 ダイヤモンド・オンライン
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ウクライナ(その6)(プリゴジンの「信用失墜」に成功したプーチン どうなる「料理番の運命 ワグネルはベラルーシで軍事訓練中 プーチンの狙いは「プリゴジンとの分断」、IAEA ザポロジエ原発で対人地雷確認 「安全基準に矛盾」とロシアを批判、「プーチンを倒せば平和になる」とは限らない 日本も危ない失脚後の最悪シナリオ、アメリカの“弱腰"を懸念し始めたウクライナ 戦争の終わりが見えないまま反攻に最大注力へ、プーチン政権の〝恫喝的行動〟に国際司法が怒り ICC裁判官を指名手配のロシア当局に非難声明「深い懸念」) [世界情勢]

ウクライナについては、本年3月1日に取上げた。今日は、(その6)(プリゴジンの「信用失墜」に成功したプーチン どうなる「料理番の運命 ワグネルはベラルーシで軍事訓練中 プーチンの狙いは「プリゴジンとの分断」、IAEA ザポロジエ原発で対人地雷確認 「安全基準に矛盾」とロシアを批判、「プーチンを倒せば平和になる」とは限らない 日本も危ない失脚後の最悪シナリオ、アメリカの“弱腰"を懸念し始めたウクライナ 戦争の終わりが見えないまま反攻に最大注力へ、プーチン政権の〝恫喝的行動〟に国際司法が怒り ICC裁判官を指名手配のロシア当局に非難声明「深い懸念」)である。

先ずは、本年7月18日付けJBPressが掲載した在英ジャーナリストの木村 正人氏による「プリゴジンの「信用失墜」に成功したプーチン、どうなる「料理番」の運命 ワグネルはベラルーシで軍事訓練中、プーチンの狙いは「プリゴジンとの分断」」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/76080
・『反乱5日後にプリゴジンと35人のワグネル司令官と面談  ウラジーミル・プーチン露大統領は民間軍事会社ワグネルグループから「プーチンの料理番」こと創設者のエフゲニー・プリゴジンを排除しようとしたが、失敗していたことを露の有力日刊紙「コメルサント」(電子版7月13日付)に明らかにした。プーチンは「プリゴジンの反乱」5日後の6月29日クレムリンでプリゴジンと35人のワグネル司令官と面談していた。 ドミトリー・ペスコフ露大統領報道官はこれに先立つ7月10日、プーチンとプリゴジンらの面談を認め、「大統領は『特別軍事作戦』中の前線におけるワグネルの功績を称え、6月24日の出来事(プリゴジンの反乱)の評価を下した。大統領は司令官たちの説明に耳を傾け、彼らに雇用のさらなる選択肢と契約を提示した」と説明していた。 プーチンとプリゴジン、ワグネル司令官の面談は3時間にも及んだという。コメルサント紙によると、プーチンは「ロシア社会にとって、すべては非常に単純で明白なことだ。一般的にワグネル戦闘員は立派に戦った。彼らがこのような出来事に引きずり込まれたことは遺憾の極みだ」と語った。 プーチンが最初に会いたかったのは「名誉ある戦いをしたワグネル司令官たちで、プリゴジンではなかった」との見方をコメルサント紙の特派員は伝えている。「私は彼らとの面談で、彼らが戦場で何をしたか、次に6月24日に彼らが何をしたかを評価した。第3に、私は彼らに今後の任務について可能な選択肢を示した。それだけだ」とプーチンは説明した』、「プーチン」にとっては、「ワグネル司令官」と「プリゴジン」を切り離す狙いだろう。
・『プリゴジンを参謀長「セドイ(白髪)」に交代させることを提案  「民間軍事会社ワグネルは戦闘部隊として存続するのか」という特派員の問いに、プーチンは「ワグネルは存在しない。ロシアに民間軍事会社を認める法律はない。ワグネルというグループはあっても法的には存在しない」と叫んだ。「今回の一件と民間軍事会社の合法化は別問題だ。これは議会や政府で議論されるべき問題で、簡単ではない」と強調した。 プーチンは面談で35人のワグネル司令官に雇用の選択肢をいくつか提示した。その中にはプリゴジンの代わりに「セドイ(白髪)」というコードネームを持つ司令官の下で働くという選択肢もあった。「セドイ」はアフガニスタン戦争やチェチェン紛争、シリア内戦に関わった元内務省工作員(大佐)で、ワグネル参謀長のアンドレイ・トロシェフのことだ。 プーチンはその時のことをコメルサント紙の特派員にこう語っている。 「この条件を飲めばワグネルが1つの場所に集まり、任務を続けることもできただろう。これまで実質的な司令官だった人物が指揮をとるのだから何も変わらないはずだった。多くのワグネル司令官が頷いた」 しかし、このプーチンとの会談で最前列に陣取ったプリゴジンはそのことに気づかず「いや、全員がこの決定には賛成していない」と首を縦には振らなかった。 「プリゴジンの反乱」を巡るさまざまな憶測が飛び交う中、プーチンは、ワグネルからプリゴジンの影響力を排除するため、東部ドネツク州の激戦地バフムートを制圧するなど、ウクライナ戦争におけるワグネルの功績を称える一方で、ウクライナの占領地を含むロシア国内ではワグネルは非合法な存在であることを改めて強調した』、「ウクライナ戦争におけるワグネルの功績を称える一方で、ウクライナの占領地を含むロシア国内ではワグネルは非合法な存在であることを改めて強調」、あくまで「非合法な存在」とさせたいようだ。
・『プリゴジンに対するネガティブ・キャンペーン  「ワグネルは存在しない」というプーチンの言葉が伝わる中、大きなテントの中のベッドに腰掛け、Tシャツにブリーフ、中年太りしたお腹というみっともない姿で撮影されたプリゴジンの写真がテレグラムチャンネルに出回った。英紙デーリー・テレグラフによると、写真のメタデータから、「プリゴジンの反乱」12日前の6月12日に撮影されたという。 テレグラムチャンネルに投稿されたプリゴジンの写真。でっぷりしたお腹が分かるTシャツにブリーフ姿というあられもない格好。この写真が出回った背景には、ロシア政府によるプリゴジンを貶めるネガティブキャンペーンがあると見られている(「REVERSE SIDE OF THE MEDAL」のテレグラムチャンネルより) 同紙は「恐れられた軍閥(プリゴジン)を弱体化させ、辱め、信用を失墜させようとするクレムリンのキャンペーンと軌を一にしている」と分析する。ロシアの治安部隊がサンクトペテルブルクにあるプリゴジンの邸宅を捜索した際、カツラでいっぱいの戸棚、黄金の延べ棒、ワニの剥製、屋内プールの写真が次々と公開された。プリゴジンを貶める狙いがある。 ジョー・バイデン米大統領は7月13日の記者会見で「もし私がプリゴジンだったら、食べるものに気をつけるだろう。メニューから目を離さないだろう。しかし冗談はさておき、ロシアにおけるプリゴジンの将来がどうなるのか、私たちの誰にも確かなことは分からない」と話した。 デーリー・テレグラフ紙によると、「セドイ」ことトロシェフは2017年、泥酔してサンクトペテルブルクの病院に救急車で運び込まれたことがある。トロシェフは現金で500万ルーブル(約770万円)と5000ドル(約70万円)、シリアの軍事地図、新兵器の領収書、電子航空券を持っており、救急隊員を驚かせたという』、そんな多額の「現金」を身につけているとは、さすが民間軍事組織の長だ。
・『ショイグ露国防相を「木偶の坊」呼ばわり  トロシェフはその前年の16年、シリアの過激派組織「イスラム国」に対するワグネルの攻撃を指揮し、古代都市パルミラを解放した功績でプーチンからロシアの英雄と称えられた。ウクライナ戦争では無能なセルゲイ・ショイグ露国防相を「木偶の坊」呼ばわりした上で、ロシア軍の司令官に悪態をつき、「砲弾をもっとよこせ」と要求した。 トロシェフは14年、プリゴジンによるワグネル創設を支援し、それ以来、シリア、アフリカ、ウクライナ戦争での軍事作戦を指揮するなど、重要な役割を果たしてきた。戦闘を忌避するワグネル戦闘員を罰する「内部保安部」のトップとも伝えられている。トロシェフのリーダーシップはプーチンに感銘を与えたとされる。 複数のテレグラムチャネルで公開された情報によると、アフリカに展開していたワグネルの軍事教官が7月11日、ロシアの占領下にあるウクライナ東部ルハンスク州から車列を組み、ベラルーシの軍事訓練場に到着した。 ロシア国防省は12日、ワグネルから戦車を含む2000もの重火器の引き渡しを受けたと発表した。14日にはワグネルの軍事教官がベラルーシ領土防衛隊の徴集兵に戦場での移動や戦術射撃、戦闘外傷救護を訓練している映像が公開された。 米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」は、ワグネルはアフリカに展開する部隊をローテーションさせようとしており、ベラルーシでの軍事教練はより広範なローテーションの一環であることを示唆していると指摘する。ワグネルは6月24日の反乱の後、休暇を取り、再編成を経て、8月前半にベラルーシに展開すると伝えられる』、「ワグネルはアフリカに展開する部隊をローテーションさせようとしており、ベラルーシでの軍事教練はより広範なローテーションの一環であることを示唆」、なるほど。
・『ベラルーシ国防省はワグネル部隊のためのロードマップを作成  ベラルーシでの軍事教練は、その地ならしの可能性が大きい。ベラルーシ国防省は7月14日、ベラルーシ軍を訓練するワグネル部隊のためのロードマップを作成したと発表した。 独立監視団体によると、翌15日朝、ベラルーシでドネツク、ルガンスク両人民共和国のナンバープレートを付けた60台以上の車列を護衛するベラルーシの交通警察が目撃された。ワグネル部隊、ワグネル戦闘員240人、40台のトラック、大量の武器が次々と到着したという。 ベラルーシ軍は旧ソ連時代のアフガン戦争以来、戦闘任務に参加していない。このため、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、ウクライナ戦争だけでなく中東・アフリカで豊富な実戦経験を持つワグネルのノウハウを吸収するため、自国での受け入れに前向きだった。 ロシアの国防問題に詳しい米シンクタンク、ランド研究所のダラ・マシコット上級政策リサーチャーは英紙ガーディアンに「プーチンはプリゴジンとワグネル戦闘員との間にくさびを打ち込もうとしている。プーチンはワグネルという道具を必要としている。だからプリゴジンだけをワグネルから引き離そうとした」との見方を示している。 最近、実施された2つのロシア全国世論調査ではプリゴジンの活動への支持率は「プリゴジンの反乱」前は55%(不支持率はわずか17%)にまで達したが、その後29%にまで急落(不支持率は39%に上昇)した。テレビは積極的にプリゴジンとワグネルの信用を失墜させるキャンペーンを展開、テレビ視聴者の半数以上がプリゴジンの活動を否定的に捉えていた。 プーチンは「プリゴジンの反乱」後、内政問題の後始末にひとまず成功したかたちだ』、「プーチンは「プリゴジンの反乱」後、内政問題の後始末にひとまず成功したかたちだ」、なーんだ、つまらない。

次に、7月25日付けNewsweek日本版「IAEA、ザポロジエ原発で対人地雷確認 「安全基準に矛盾」とロシアを批判」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/07/iaea-15.php
・『国際原子力機関(IAEA)は24日、ロシア軍が占領しているウクライナ南部のザポロジエ原子力発電所で対人地雷が見つかったとし、安全基準に違反すると批判した。 IAEAのグロッシ事務局長は声明で、現地に駐在するIAEA職員が原発の内部と外部のフェンスの間にある緩衝地帯で地雷を確認したとし、過去の調査でも地雷が見つかっていると指摘。 「こうした爆発物の存在はIAEAの安全基準と原子力安全保障の指針に矛盾するもので、発電所職員にさらなる心理的圧力を与える」とした。 同氏は6月にも地雷について同様の警告を発したが、その際も今回も原発の安全性を脅かすものではないとの見方を示した』、「IAEA」が「現地に駐在するIAEA職員」させるようにしたことは、監視の上で必須の存在だ。「ロシア」もその存在を意識せざるを得ないだろう。

第三に、7月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「「プーチンを倒せば平和になる」とは限らない、日本も危ない失脚後の最悪シナリオ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/326704
・『日本人の中には、プーチン大統領が失脚すればウクライナ紛争が終結し、ロシアの民主化が進むことを期待している人が多いように思える。だが、必ずしもそうとは限らない。プーチン大統領よりも強権的で、かつ“中国寄り”の指導者が登場する可能性もあるのだ。そうした「ポスト・プーチン」の最悪シナリオを、根拠と併せて解説する』、「プーチン大統領が失脚すればウクライナ紛争が終結し、ロシアの民主化が進むことを期待している人が多い」、恥ずかしながら私もその1人だ。
・『トルコの立ち回りによって スウェーデンの加盟が実現  去る7月中旬、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議がリトアニアで開催された。スウェーデンのNATO加盟が確実になり、今年4月のフィンランド加盟に続いてNATOのさらなる「東方拡大」が実現した。 一方、ウクライナのNATO加盟に向けた具体的な道筋は示されなかった。また、NATOの東京事務所の設置は、エマニュエル・マクロン仏大統領の反対で先送りとなった。 スウェーデンのNATO加盟はもともと、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が強硬に反対していた。エルドアン大統領の言い分は「トルコからの分離独立を目指すクルド人勢力をスウェーデンが支援している」というものだった。 だが首脳会談直前の7月10日、エルドアン大統領はスウェーデンのウルフ・クリステション首相と会談。その場でクリステション首相は、クルド人組織を支援しないこと、テロ対策の強化や反テロ法を施行すること、トルコのEU加盟を積極的に支援することを約束した。 その結果エルドアン大統領は、スウェーデンのNATO加盟を受け入れた。こうしたエルドアン大統領の姿勢からは、「トルコが態度を軟化させてNATOを救った」という演出によって存在感を高めたいという思惑が透けて見える。 トルコには「EU(欧州連合)への正式加盟」という長年の悲願がある。だが、イスラム教国であること、警察・司法制度が未整備であること、強権的な政治と人権抑圧の問題があることなどから、加盟は認められてこなかった。 また、EU加盟国のキプロスは南北で紛争状態にあるが、このうち北部を支配する未承認国家「北キプロス・トルコ共和国」をトルコだけが承認している。このこともEU加盟を妨げるハードルになってきた。 そうした状況の打開を狙って、エルドアン大統領はしたたかに振る舞ったわけだ。その結果実現したスウェーデンのNATO加盟は、フィンランドの加盟に続いてロシアに衝撃を与えただろう』、「エルドアン大統領」のしたたかさには脱帽だ。
・『ウクライナ紛争の開戦前から ロシアは極めて不利だった  というのも、ウクライナ紛争開戦時を振り返ると、ウラジーミル・プーチン露大統領はNATOに「三つの要求」を突き付けていた。その内容は以下の通りだ。 ・「NATOがこれ以上拡大しない」という法的拘束力のある確約をする ・NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない ・1997年以降にNATOに加盟した国々から、NATOの部隊や軍事機構を撤去する だが、ウクライナ紛争が長引く中、この「三つの要求」はまだ一つも実現していない。それどころか、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟によって、ロシアがNATOと接する国境は以前の2倍以上に広がった。 ロシア海軍の展開において極めて重要な「不凍港」があるバルト海に接する国もほぼすべてNATO加盟国になり、ロシアの海軍は身動きが取りづらくなった(本連載第306回・p3)。両国の加盟は、ロシアの安全保障戦略に大打撃を与えたはずだ。 とはいえ、長期的な視点での「ロシア不利」の状況は今に始まったことではない。東西冷戦終結後、約30年間にわたってNATO・EUの勢力は東方に拡大を続けてきた。その半面、ロシアの勢力圏は東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退していた(第297回)。 一連の勢力図を踏まえて、筆者はウクライナ戦争開戦時に「ロシアはすでに負けている」と表現したほどだ。 しかし、厳しい状況に置かれているのはウクライナも同じだ。冒頭でも述べたが、今回の首脳会議ではウクライナのNATO加盟について具体的な進展がなかった。それどころか、ジョー・バイデン米大統領は「ウクライナのNATO加盟は戦争終結後」と明言した。 NATO首脳会議に合わせて、主要7カ国(G7)は「ウクライナを守るために長期的な支援を行う」といった趣旨の共同宣言を発表したが、こうした支援が紛争の抜本的解決に結びつかないのは近年の戦況を見れば明らかだ。 NATOはウクライナの領土奪還よりも、戦争を延々と継続させることを重視し、中途半端に戦争に関与しているように思える(第325回)。 本連載で何度も指摘してきたが、米英をはじめとするNATOにとってウクライナ紛争とは、20年以上にわたって強大な権力を保持し、難攻不落の権力者と思われたプーチン大統領を弱体化させ、あわよくば打倒できるかもしれない好機である。紛争が長引けば長引くほど、プーチン大統領は追い込まれる。) そのため、NATOにはウクライナ紛争を積極的に停戦させる理由がない。NATO側がロシアに大打撃を与え、ウクライナ紛争を終わらせようと本気で考えているのであれば、支援を小出しにせず、戦局を大きく変える大量の武器をウクライナに供与しているはずだ。 今後どれだけロシアが攻勢を強めたとしても、戦況を俯瞰すると「NATOの東方拡大」「ロシアの勢力縮小」という大きな構図は変わらない。繰り返しになるが、世界的に見ればロシアの後退は続いており、ロシアはすでに敗北していると言っても過言ではない。 だからこそ、バイデン大統領やG7は「ウクライナのNATO加盟は戦争終結後」「ウクライナを守るために長期的な支援を行う」という発言をしたのだろう。やはり彼らは「ウクライナが戦い続けたいならば、少しずつ支援する」という煮え切らないスタンスなのである。このことが、NATO首脳会談を通じて再確認できたといえる』、「バイデン大統領やG7は」・・・「ウクライナが戦い続けたいならば、少しずつ支援する」という煮え切らないスタンスなのである。このことが、NATO首脳会談を通じて再確認できた』、なるほど。
・『プーチンを倒せば ロシアが民主化するとは限らない  では今後、長期的な視点では「追い込まれている」ロシアはどうなるのか。 NATO首脳会談よりも前の話になるが、6月末にロシアの民間軍事会社「ワグネル・グループ」の創設者であるエフゲニー・プリゴジン氏が武装蜂起したことは示唆に富んでいる。この「ワグネルの反乱」は24時間ほどで終結したが、プーチン大統領の就任以来最大の造反事件となった。 そして、この反乱を「プーチン体制の終わりの始まり」だと指摘する識者も出てきている。「プーチン大統領の次」に世間の関心が向き始めたようだ。 本連載でもウクライナ紛争の開戦時から、「紛争終結後にプーチン大統領が失脚する可能性がある」「ポスト・プーチンがどうなるかを今から考えておく必要がある」と提言してきた(第298回・p6)。 ここで「ポスト・プーチン」のカギを握るのが、ウクライナ紛争に関しては前面に立ちたがらない中国だ。 思い返せば、開戦のきっかけとなった「ウクライナ東部独立承認」をロシア議会に提案したのは、ロシアにおける野党「ロシア共産党」だった。この党は、中国共産党の強い影響下にあると指摘されている。 やや疑り深い見方をすれば、中国共産党がプーチン大統領を「進むも地獄、引くも地獄」の戦争に引き込んだと考えることもできる。 この見方が正しければ、プーチン大統領を苦境に追いやった中国が、水面下で「親中派のポスト・プーチン」の擁立を画策していたとしても不思議ではない。 一方で米英側も、ロシアを民主化するべく、ロシア人の民主主義者から「ポスト・プーチン」を担ぎ出そうと裏工作を続けているはずだ。 だが米英の情報機関が動いていても、楽観的な見方は禁物だ。プーチン大統領は長期政権の間に、反体制派や民主化勢力を徹底的に弾圧してきた。その影響がプーチン大統領の失脚後も色濃く残り、民主化勢力が権力を掌握できない可能性も否定できない』、「「ウクライナ東部独立承認」をロシア議会に提案したのは、ロシアにおける野党「ロシア共産党」だった。この党は、中国共産党の強い影響下にあると指摘されている。 やや疑り深い見方をすれば、中国共産党がプーチン大統領を「進むも地獄、引くも地獄」の戦争に引き込んだと考えることもできる」、初めて知った。「プーチン大統領は長期政権の間に、反体制派や民主化勢力を徹底的に弾圧してきた。その影響がプーチン大統領の失脚後も色濃く残り、民主化勢力が権力を掌握できない可能性も否定できない」、残念だ。
・『中国が力を増し 日本が被害を受けるリスクも  われわれ日本人の中にも、プーチン大統領が失脚すればウクライナ紛争が終結し、ロシアの民主化が進むことを期待している人が多いように思える。だが、必ずしもそうとは限らない。プーチン大統領よりも強権的で、かつ親中派の指導者が登場するかもしれないのだ。 もし本当に、親中派の強権的な指導者が権力を掌握した暁には、中国はロシアに対して圧倒的な影響力を持つ。例えるならば、かつて栄華を誇ったモンゴル帝国「元」が再出現するようなものだ(第300回)。そして、その“大帝国化”した中国に、日本は軍事的に包囲されることになる。 ただでさえ日本は今、中国の軍事力の急激な拡大や、中国による台湾侵攻・尖閣諸島侵攻の懸念といった安全保障上の重大なリスクを抱えている。その状況下で中国がロシアへの影響力を強めると、日本は極めて不利な状況に追い込まれる。 こうした事態に備えて、NATOの協力を得て強固な安全保障体制を築きたいところだが、先のNATO首脳会議で「NATOの東京事務所設置」が事実上白紙に戻ったのは重大な懸念事項だといえる。 この案には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が強く反対した。これを受け、ハンガリーなど複数の加盟国もフランスに同調した。 もともとは中国も「アジア版NATOは不要だ」と猛反発していたことから、中国との経済関係を重視するマクロン大統領は中国を必要以上に刺激したくなかったのだろう。 この案は米英主導で進められてきたが、NATO内部が一枚岩でないことが明るみに出た。今のままでは、強大化した中国が台湾に侵攻したときなどに、NATOが本気で日本を守ってくれるかは疑問が残る。 国を奪われ、生活を奪われ、命を奪われているウクライナ国民の方々には本当に申し訳ない言い方になるが、こうした危険性を踏まえると、日本にとっては「ウクライナの反転攻勢が成功せず、プーチン大統領が政権を維持するほうがマシ」かもしれないのだ。 プーチン大統領は日本に対して強硬な姿勢を示し続けているが、中長期的には極東において、中国と日本の間でバランスを取ろうとするはずだ。 プーチン大統領はウクライナ戦争開戦後に、日本の「サハリンI・II」の天然ガス開発の権益維持を容認したこともある。その理由は、中国への過度な依存による「属国化」を避けるためだったと考えられる(第327回・p4)。 要するに、日本にとってはウクライナが勝てばいいわけではなく、プーチン大統領が失脚すればいいという単純な話ではないのだ。世界で孤立するリスクを抱える日本が国際社会で生き抜くには、複雑な国際関係の情勢を先読みし、戦略的に行動しなければならない』、「プーチン大統領よりも強権的で、かつ親中派の指導者が登場するかもしれないのだ。 もし本当に、親中派の強権的な指導者が権力を掌握した暁には、中国はロシアに対して圧倒的な影響力を持つ。例えるならば、かつて栄華を誇ったモンゴル帝国「元」が再出現するようなものだ(第300回)。そして、その“大帝国化”した中国に、日本は軍事的に包囲されることになる」、「世界で孤立するリスクを抱える日本が国際社会で生き抜くには、複雑な国際関係の情勢を先読みし、戦略的に行動しなければならない」、その通りだ。

第四に、7月31日付け東洋経済オンラインが掲載した新聞通信調査会理事・共同通信ロシア・東欧ファイル編集長の吉田 成之氏による「アメリカの“弱腰"を懸念し始めたウクライナ 戦争の終わりが見えないまま反攻に最大注力へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/691208
・『難航していたウクライナ軍の反攻作戦に新たな動きがあった。さまざまな試行錯誤の末、ウクライナ軍は2023年7月末、大規模な攻撃作戦用にと温存してきた精鋭部隊の一部を満を持して初めて南部戦線に投入したのだ。 反攻作戦開始から約2カ月、反攻作戦のギアを一段上げたと言える。しかし、いよいよこれから、というこの時期、ウクライナ政府に今春までのような高揚感が乏しいのが実情だ。むしろ、今後に対する不安感が霧のように立ち込め始めている。それはなぜか。その内実を深掘りしてみた』、興味深そうだ。
・『ウクライナ顧問「何か、くさい臭いがする」  「憂鬱なアレストビッチ」。今キーウではこの言葉が政治的流行語のようにしきりに語られている。前ウクライナ大統領府長官顧問である安保問題専門家オレクシー・アレストビッチ氏が2023年7月半ばにネット上で行った発言がきっかけだ。少し長くなるが、悔しい思いのたけをぶちまけた彼の発言の内容を、以下に紹介する。 「(全占領地の奪還を意味する)1991年の国境線まで戻すことがわれわれの憲法上の義務であり、その目標は変わっていない。しかし、戦場でわれわれが決定的優位性を得るための武器が供与されない。なぜだ?何か、くさい臭いがする」 この「くさい臭い」発言に込められたのは、アメリカへの強い憤懣だ。ウクライナ側が強く要請している、アメリカ製F16戦闘機や、長射程地対地ミサイル「ATACMS」の供与がいまだに実現しないのは、アメリカのバイデン政権の意向を反映したもので、それがゆえに反攻作戦が思い通りに進まない、という不満だ。 F16に関してバイデン政権は2023年5月、ヨーロッパの同盟国が供与することを容認する方針に転じたものの、供与の前段階であるウクライナ軍パイロットの訓練すら始まっていない。 これについて、アメリカは公式的には様々な技術的理由を挙げているが、アレストビッチ氏は、実際には技術的な事情ではなく、ロシアに対する軍事的な「決定的優位性」をウクライナ軍に与えたくないというバイデン政権の戦略が隠されていると指摘したのだ。 曰く「われわれの外交上の目標は、われわれの主要なスポンサーのそれとは異なるのだ」。つまり、バイデン政権は侵攻してきたロシア軍に対し、ウクライナ軍が負けないよう軍事支援はするものの、圧倒的に勝つような軍事的優位性は与えないという戦略的目標を持っているという見方をアレストビッチ氏は示したのだ。 そのうえで、アレストビッチ氏は今後、領土奪還のテンポが大きく上がらず、反攻作戦が膠着状態に陥った時期を見計らって、バイデン政権がウクライナとロシアに対し、戦争を凍結し、停戦協議を行うよう提案するだろうとの見立てを示した。) この見立てを前提に、アレストビッチ氏は「ウクライナ全領土をキーウ側とロシアの間でそれぞれの実効支配地域ごとに分割する」といった内容の停戦協定を受け入れるという個人的立場を示した。 つまり、ウクライナ政府側がほぼ現状のまま全土の約80%、ロシアが約20%を占有するとの考えだ。この案を受け入れる前提として、アレストビッチ氏はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟が認められることを挙げた。ロシアに移譲される国土については、将来的に「非軍事的手段」で取り戻すと強調した。 アレストビッチ氏は、その言動が世界中のウクライナ・ウォッチャーから注目されている。元ロシア下院議員との掛け合いスタイルでアレストビッチ氏が流すユーチューブ・チャンネルは、侵攻に関するチャンネルの中で最もアクセスが多いと言われている。ウクライナ政府の意向を探るため、プーチン大統領も欠かさずチェックするといわれるほどだ。 それだけに、アレストビッチ氏としては、水面下に潜むバイデン政権の「本音」をウクライナ内外に広く知らせるため、意図的に今回刺激的発言をしたとみられる』、「バイデン政権は侵攻してきたロシア軍に対し、ウクライナ軍が負けないよう軍事支援はするものの、圧倒的に勝つような軍事的優位性は与えないという戦略的目標を持っている」、「バイデン政権がウクライナとロシアに対し、戦争を凍結し、停戦協議を行うよう提案するだろうとの見立てを示した。) この見立てを前提に、アレストビッチ氏は「ウクライナ全領土をキーウ側とロシアの間でそれぞれの実効支配地域ごとに分割する」といった内容の停戦協定を受け入れるという個人的立場を示した。 つまり、ウクライナ政府側がほぼ現状のまま全土の約80%、ロシアが約20%を占有するとの考えだ。この案を受け入れる前提として、アレストビッチ氏はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟が認められることを挙げた。ロシアに移譲される国土については、将来的に「非軍事的手段」で取り戻すと強調した」、ここまで極秘シナリオが出来ているとは驚かされた。
・『「領土分割やむなし」発言の真意  そのアレストビッチ氏による、今回のアメリカ批判と領土分割やむなし発言は、全領土奪還を掲げるゼレンスキー政権の公式的立場とは大きく異なる。しかし、筆者が取材した結果、実はゼレンスキー政権内部でもアレストビッチ氏と同様に、反攻作戦が膠着状態になればアメリカが「タオルを投げ入れ」、停戦協議の開始を提案してくるのではと真剣に警戒され始めていることがわかった。 すでにウクライナ政府は水面下で、ウクライナを最も強く支持しているバルト3国やポーランドなどの隣国に対し、仮にアメリカが停戦交渉開始を提案してきた場合、引き続きウクライナへの軍事支援を継続するか否か、を問い合わせ始めている。停戦交渉開始提案がワシントンから来た場合の対応策を真剣に検討し始めたことを示すものだ。 今回のアレストビッチ発言と、その背景にあるゼレンスキー政権の危機感の直接の引き金になったのは、2023年7月11、12日の両日にリトアニアの首都ビリニュスで開かれたNATO首脳会議だ。 ゼレンスキー政権は、会議でNATO即時加盟が決まることが無理なのことは事前に承知していたが、「ウクライナ戦争終了後」などという形で具体的な加盟の時期や道筋が明示されることを期待していた。 事実、ヨーロッパ各国やトルコは道筋明示を支持していたが、結局アメリカとドイツがこれに反対した。NATO加盟に関してはまったく具体的道筋が一切盛り込まれない、事実上ゼロ回答の共同声明が発表された。 これを受けて、ゼレンスキー政権は、アメリカがロシアとの対決回避のため、停戦交渉による紛争凍結に傾いており、NATO加盟が約束されたものでないことを思い知ったのだ。) これに加えもう1つ、ウクライナが神経を尖らせているアメリカの動きがある。バイデン政権内で対ロシア秘密交渉役を担っているバーンズ中央情報局(CIA)長官の閣僚級への格上げだ。今後、より権限のある地位になったバーンズ氏がロシアとウクライナの間に入って、停戦交渉開始に向けた外交工作を始める前触れではないかとゼレンスキー政権は警戒している。 バーンズ氏はすでに2023年6月末にロシア対外情報局(SVR)のナルイシキン長官と電話会談したことが明るみに出ている。ウクライナの軍事筋によると、本稿執筆時点で、バーンズ氏がロシア政府側と何らかの秘密交渉をしたという形跡はないという。 こうしたバイデン政権に対し、アメリカ内からもすでに公然と批判が出ている。その代表的人物が、ホッジス元アメリカ駐欧州陸軍司令官だ。 あるユーチューブ・チャンネルに出演したホッジス氏は、そもそも論として、バイデン政権には当初からウクライナに全占領地を奪還させる、つまり勝利させるつもりはなかったと指摘した』、「ホッジス元アメリカ駐欧州陸軍司令官だ。 あるユーチューブ・チャンネルに出演したホッジス氏は、そもそも論として、バイデン政権には当初からウクライナに全占領地を奪還させる、つまり勝利させるつもりはなかったと指摘」、なるほど。
・『アメリカはウクライナが勝つことを望んでいない  バイデン政権がウクライナへの軍事支援を巡り、合言葉のように掲げていた「as long as it takes (必要とされる限り)」という原則について、ホッジス氏はこう解説する。「必要な兵器をなるべく早く渡すという善意を意味しているだけで、必要な軍事支援を今全部行うとは約束してはいない。空虚な宣言だ」と。 つまり「アメリカは、ウクライナが敗戦することを望んでいないが、一方でウクライナが勝つことも望んでおらず、国際的に承認済みの1991年の国境線を回復することも望んでいないようだ」と指摘する。こうした見方はウクライナ側と軌を一にするものだ。 ホッジス氏は、最終的にどのような形で戦争を終わらせるか、についてバイデン政権内で明確な戦略が決まっていないようだと指摘する。この点では、停戦交渉を提案してくると警戒を強めるウクライナ政府とは若干見方が異なる。「今、ホワイトハウス、国務省、国防総省の間で今後どうするか、議論が行われていると思う」と指摘し、アメリカはATACMSなどを早く供与すべきと述べた。 いずれにしても、ホッジス氏はバイデン政権がプーチン政権を倒すつもりがないとの見方を示す。プーチン政権に対する戦略的姿勢として「ロシアとはいかなる問題が発生しても、話し合いで問題を最終的に解決できると考えている」と指摘する。 ここで話を反攻作戦に戻そう。戦況は地点ごとに、ウクライナが攻勢に出ている方面とロシア軍が主導権を握っているところがあり、まだら模様状態だ。 例えば、東部ドネツク州の要衝都市バフムトは、ロシアの民間軍事会社ワグネル部隊に一度は制圧された後、ウクライナ軍が周辺部からジリジリ盛り返して半ば包囲状態だ。包囲網が完成すれば、守るロシア正規軍に投降を呼び掛ける可能性があるという。 一方で同じく東部のクプヤンシク・リマン方面ではロシア軍が約10万人規模の増援部隊を投入して、激戦が続いている。 しかし、現在最も注目されているのは南部戦線だ。ウクライナ軍はドネツク州のマリウポリ、ザポリージャ州のベルジャンスクとメリトポリという3つのアゾフ海沿岸の都市に向け、ジリジリと南下作戦を続けている。 キーウの軍事筋は、詳しい場所を明らかにしていないものの、西側でNATO流の訓練を施され、NATO式の戦術や兵器を身に着けた、虎の子の8旅団(1旅団は3000人程度)のうち1個旅団程度が南部に投入されたことを明らかにした』、「西側でNATO流の訓練を施され、NATO式の戦術や兵器を身に着けた、虎の子の8旅団(1旅団は3000人程度)のうち1個旅団程度が南部に投入された」、なるほど。
・『ウクライナは精鋭中の精鋭旅団を投入か  筆者はこの旅団の投入先を、南部の交通の要衝でもあるメリトポリ方面だとにらんでいる。メリトポリは、ロシア本土からウクライナ東部、アゾフ海沿岸を経由して最終的にはクリミア半島に至る、いわいる地上輸送回廊の要所だ。上記した3都市の中で最もロシア軍の防御態勢が強固といわれる。 執筆時点でウクライナ軍はメリトポリの北方にあるトクマクまで約25キロメートルの地点まで進んできた。これからウクライナ軍を待ち構えるのが、俗に「スロビキン・ライン」とも呼ばれるロシア軍の堅固な防衛線だ。 「竜の歯」と呼ばれる、戦車の侵入を阻むためのコンクリート製の障害物が延々と並べられ、その後ろには塹壕線があり、さらに砲撃用陣地が並んでいるといわれる。また地雷原が広がっている。これらの防御線を突破しないとトクマクには到達できない。 戦況に詳しいイスラエルのロシア系軍事専門家グリゴーリー・タマル氏によると、地雷原は過去例がないほど密なもので、ロシア軍は敷設記録の地図さえ作らないまま、大慌てで地雷を敷設したという。 この地雷原がウクライナ軍の進軍を妨げる大きな要因になっていたが、タマル氏はアメリカが最近供与に踏み切ったクラスター(集束)弾が効果をあげていると強調した。 この弾が投下されると、中から多数の子爆弾が散らばって爆発し、地雷原を広く無効化するからだ。同時に榴弾砲などの火砲面でも、一時は砲弾数で優位に立つロシア軍に押されていたが、最近は高い命中精度を持つ西側製火砲を生かして優位に立ち始めたという。 当面トクマク制圧の可否が今後の戦況の分かれ目になるとみられる。ここからメリトポリに対し、高機動ロケット砲システム、ハイマースで集中的に砲撃できるようになるからだ。射程約80キロメートルのハイマースはゲームチェンジャーと呼ばれるほどこれまで効果を上げてきたが、最近はロシア軍のジャミング(電波妨害)作戦の結果、有効射程が約60キロメートルへ短縮され、命中精度も落ちてきているという。このためメリトポリまで約60キロメートルにあるトクマク制圧の重要性が増している。 ウクライナ軍としては、メリトポリ方面へのハイマース攻撃で、クリミアへの地上輸送回廊を寸断し、さらにアゾフ海沿岸に到達することでクリミアへの攻撃を強めることを狙っている。 しかし、先述したアメリカ政府の動きがあり、筆者はウクライナ軍にとってこの1カ月、つまり2023年8月末までが極めて重要だとみる。その時点までに、それなりの戦果を挙げることができないと、アメリカがタオルを投げてくる可能性が現実味を帯びてくるのではないか。 ウクライナ政府も同様の危機感を持っているとみられる。逆に言えば、今後ウクライナ軍が一定の戦果を確実に重ねていけば、ワシントンが停戦交渉提案を持ち込むタイミングを見失う可能性もあるとみる。 最近、ウクライナ軍はモスクワへのドローン攻撃など、実際の軍事的効果より宣伝効果を狙ったとみられる攻撃を増やしている。これも、アメリカをにらんでウクライナの継戦への強い意志を誇示する狙いがあるのではないかと筆者はみる。反攻作戦継続か、紛争凍結か――。ウクライナにとって、極めて重要な夏の決戦になりそうだ』、「地雷原がウクライナ軍の進軍を妨げる大きな要因になっていたが、タマル氏はアメリカが最近供与に踏み切ったクラスター(集束)弾が効果をあげていると強調した。 この弾が投下されると、中から多数の子爆弾が散らばって爆発し、地雷原を広く無効化するからだ。同時に榴弾砲などの火砲面でも、一時は砲弾数で優位に立つロシア軍に押されていたが、最近は高い命中精度を持つ西側製火砲を生かして優位に立ち始めたという」、「クラスター弾」が効果を上げているとは喜ばしいことだ。「ウクライナ軍にとってこの1カ月、つまり2023年8月末までが極めて重要だとみる。その時点までに、それなりの戦果を挙げることができないと、アメリカがタオルを投げてくる可能性が現実味を帯びてくるのではないか」、なるほど。

第五に、8月2日付け夕刊フジ「プーチン政権の〝恫喝的行動〟に国際司法が怒り ICC裁判官を指名手配のロシア当局に非難声明「深い懸念」」を紹介しよう。
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/fuji/world/fuji-_society_foreign_KKIEDUOABRMU7KKEBA7NSXYSDQ
・『国際刑事裁判所(ICC)が、ロシアのウラジーミル・プーチン政権の恫喝(どうかつ)的行為を非難した。ロシア内務省が戦争犯罪の容疑でプーチン大統領らに逮捕状を出したICCの赤根智子裁判官を指名手配したことを受け、締約国会議の議長名の声明で「深い懸念」を表明したのだ。ロシアの非道な行動は、国際司法の世界でも批判にさらされている。 ロシア当局は3月、プーチン氏らの逮捕状を出したICCのカーン主任検察官や赤根氏ら4人に対する捜査を始め、5月にカーン氏ら2人を本人不在のまま起訴して指名手配。赤根氏については、タス通信が7月27日、指名手配を報じていた。 この報道を受け、ICCの締約国会議は同月31日付で声明を発表した。声明では、「ICCの国際的使命を損なう行為だ」とロシア当局による赤根氏の指名手配を批判し、裁判官らに対する「断固とした支持を改めて表明する」と強調した。 ウクライナ戦線でも、ロシアは守勢に立たされている。ロシア国内では最近、ウクライナのものとみられる無人機による攻撃が頻発。1日にも、モスクワ中心部のクレムリン(大統領府)から西に約5キロ離れた高層ビルに無人機が突っ込んだ』、「ロシア内務省」が「プーチン氏らの逮捕状を出したICCのカーン主任検察官や赤根氏ら4人に対する捜査を始め、5月にカーン氏ら2人を本人不在のまま起訴して指名手配」、とんだサル芝居だ。
タグ:ウクライナ JBPRESS 木村 正人氏による「プリゴジンの「信用失墜」に成功したプーチン、どうなる「料理番」の運命 ワグネルはベラルーシで軍事訓練中、プーチンの狙いは「プリゴジンとの分断」」 「プーチン」にとっては、「ワグネル司令官」と「プリゴジン」を切り離す狙いだろう。 「ウクライナ戦争におけるワグネルの功績を称える一方で、ウクライナの占領地を含むロシア国内ではワグネルは非合法な存在であることを改めて強調」、あくまで「非合法な存在」とさせたいようだ。 そんな多額の「現金」を身につけているとは、さすが民間軍事組織の長だ。 「ワグネルはアフリカに展開する部隊をローテーションさせようとしており、ベラルーシでの軍事教練はより広範なローテーションの一環であることを示唆」、なるほど。 「プーチンは「プリゴジンの反乱」後、内政問題の後始末にひとまず成功したかたちだ」、なーんだ、つまらない。 Newsweek日本版「IAEA、ザポロジエ原発で対人地雷確認 「安全基準に矛盾」とロシアを批判」 「IAEA」が「現地に駐在するIAEA職員」させるようにしたことは、監視の上で必須の存在だ。「ロシア」もその存在を意識せざるを得ないだろう。 ダイヤモンド・オンライン 上久保誠人氏による「「プーチンを倒せば平和になる」とは限らない、日本も危ない失脚後の最悪シナリオ」 「プーチン大統領が失脚すればウクライナ紛争が終結し、ロシアの民主化が進むことを期待している人が多い」、恥ずかしながら私もその1人だ。 「エルドアン大統領」のしたたかさには脱帽だ。 「バイデン大統領やG7は」・・・「ウクライナが戦い続けたいならば、少しずつ支援する」という煮え切らないスタンスなのである。このことが、NATO首脳会談を通じて再確認できた』、なるほど。 「「ウクライナ東部独立承認」をロシア議会に提案したのは、ロシアにおける野党「ロシア共産党」だった。この党は、中国共産党の強い影響下にあると指摘されている。 やや疑り深い見方をすれば、中国共産党がプーチン大統領を「進むも地獄、引くも地獄」の戦争に引き込んだと考えることもできる」、初めて知った。 「プーチン大統領は長期政権の間に、反体制派や民主化勢力を徹底的に弾圧してきた。その影響がプーチン大統領の失脚後も色濃く残り、民主化勢力が権力を掌握できない可能性も否定できない」、残念だ。 「プーチン大統領よりも強権的で、かつ親中派の指導者が登場するかもしれないのだ。 もし本当に、親中派の強権的な指導者が権力を掌握した暁には、中国はロシアに対して圧倒的な影響力を持つ。例えるならば、かつて栄華を誇ったモンゴル帝国「元」が再出現するようなものだ(第300回)。そして、その“大帝国化”した中国に、日本は軍事的に包囲されることになる」、 「世界で孤立するリスクを抱える日本が国際社会で生き抜くには、複雑な国際関係の情勢を先読みし、戦略的に行動しなければならない」、その通りだ。 東洋経済オンライン 吉田 成之氏による「アメリカの“弱腰"を懸念し始めたウクライナ 戦争の終わりが見えないまま反攻に最大注力へ」 興味深そうだ。 「バイデン政権は侵攻してきたロシア軍に対し、ウクライナ軍が負けないよう軍事支援はするものの、圧倒的に勝つような軍事的優位性は与えないという戦略的目標を持っている」、「バイデン政権がウクライナとロシアに対し、戦争を凍結し、停戦協議を行うよう提案するだろうとの見立てを示した。) この見立てを前提に、アレストビッチ氏は「ウクライナ全領土をキーウ側とロシアの間でそれぞれの実効支配地域ごとに分割する」といった内容の停戦協定を受け入れるという個人的立場を示した。 つまり、ウクライナ政府側がほぼ現状のまま全土の約80%、ロシアが約20%を占有するとの考えだ。この案を受け入れる前提として、アレストビッチ氏はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟が認められることを挙げた。ロシアに移譲される国土については、将来的に「非軍事的手段」で取り戻すと強調した」、ここまで極秘シナリオが出来ているとは 驚かされた。 「ホッジス元アメリカ駐欧州陸軍司令官だ。 あるユーチューブ・チャンネルに出演したホッジス氏は、そもそも論として、バイデン政権には当初からウクライナに全占領地を奪還させる、つまり勝利させるつもりはなかったと指摘」、なるほど。 「西側でNATO流の訓練を施され、NATO式の戦術や兵器を身に着けた、虎の子の8旅団(1旅団は3000人程度)のうち1個旅団程度が南部に投入された」、なるほど。 「地雷原がウクライナ軍の進軍を妨げる大きな要因になっていたが、タマル氏はアメリカが最近供与に踏み切ったクラスター(集束)弾が効果をあげていると強調した。 この弾が投下されると、中から多数の子爆弾が散らばって爆発し、地雷原を広く無効化するからだ。同時に榴弾砲などの火砲面でも、一時は砲弾数で優位に立つロシア軍に押されていたが、最近は高い命中精度を持つ西側製火砲を生かして優位に立ち始めたという」、「クラスター弾」が効果を上げているとは喜ばしいことだ。 「ウクライナ軍にとってこの1カ月、つまり2023年8月末までが極めて重要だとみる。その時点までに、それなりの戦果を挙げることができないと、アメリカがタオルを投げてくる可能性が現実味を帯びてくるのではないか」、なるほど。 夕刊フジ「プーチン政権の〝恫喝的行動〟に国際司法が怒り ICC裁判官を指名手配のロシア当局に非難声明「深い懸念」」 「ロシア内務省」が「プーチン氏らの逮捕状を出したICCのカーン主任検察官や赤根氏ら4人に対する捜査を始め、5月にカーン氏ら2人を本人不在のまま起訴して指名手配」、とんだサル芝居だ。
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安全保障(その13)(中国人研究員「先端技術情報」漏えい事件で露呈 “スパイ天国”日本のあきれた実態【元公安捜査官が解説】、「取材NG 撮影するな」…知らぬうちに日本で大躍進した「上海電力」の恐るべき実力 外資でも排除できない理由とは) [外交・防衛]

安全保障については、本年6月10日に取上げた。今日は、(その13)(中国人研究員「先端技術情報」漏えい事件で露呈 “スパイ天国”日本のあきれた実態【元公安捜査官が解説】、「取材NG 撮影するな」…知らぬうちに日本で大躍進した「上海電力」の恐るべき実力 外資でも排除できない理由とは)である。

先ずは、本年6月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村 悠氏による「中国人研究員「先端技術情報」漏えい事件で露呈、“スパイ天国”日本のあきれた実態【元公安捜査官が解説】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324668
・『国防七校の教職者が日本で産業スパイ  (国立研究開発法人「産業技術総合研究所」の上級主任研究員、権恒道容疑者(59)が、2018年4月、自身が研究している「フッ素化合物」に関する情報を中国の民間企業にメールで送り、営業秘密を漏えいしたとして、警視庁公安部は15日、不正競争防止法違反(営業秘密の開示)で同容疑者を逮捕した。 読売新聞の報道によれば、漏えいされた研究情報は「フッ素化合物の合成に関わる先端技術」であり、地球温暖化対策などに役立つ可能性があるとされている。 権容疑者は2002年4月から産総研に勤務していたが、そもそも中国人民解放軍と関連がある「国防七校」の一つである南京理工大学の出身。そして、一部の期間では「国防七校」の一つである北京理工大学の教職を兼任していたと報じられているほか、フッ素化学製品製造会社「陝西神光化学工業有限公司」の会長も務めていたという。 時事通信の報道では、権容疑者は2018年1月の全国科学技術大会で、地球温暖化を防ぐフッ素化合物の研究実績が評価され、「国家科学技術発明2等賞」を授与され、会場を訪れた習近平国家主席とも面会したという。 権容疑者の出身である南京理工大学や教職を兼任した北京理工大学をはじめとする国防七校は、中国の最高国家権力機関の執行機関である国務院に属する国防科技工業局によって直接管理されている大学であり、中国人民解放軍と軍事技術開発に関する契約を締結し、先端兵器などの開発や製造を一部行っており、その危険性は周知の事実だ。経済産業省のキャッチオール規制に関係する「外国ユーザーリスト」にも北京理工大学は掲載されている。) この国防七校に関しては、海外でも検挙事例がある。 例えば、米国では2018年6月、中国の国防七校の一つである西北工業大学が、対潜水艦戦闘に使用可能なハイドロフォン(水中聴音機)を入手するための共謀を行ったとして、米国輸出法違反で起訴されている。 また、国防七校に限らず、中国の技術窃取の手法は巧妙であり、豪州のシンクタンクが指摘しているように、中国人民解放軍関係者が秘密裏に留学生や研究者の身分で日本の大学や研究所に入り込んでいる可能性があり、善意の人物(ビジネスパーソンなど)が後に中国人民解放軍関係者に接触され、支配下に入って行動する事例も相当数確認されており、そのスキームは複雑化している』、日本の研究機関の守秘のお粗末さには空いた口が塞がらない。
・『問われる企業・研究機関の技術情報管理  今回適用された不正競争防止法は、「営業秘密」の侵害として(1)秘密管理性、(2)有用性、(3)非公知性を満たす必要がある。だが、企業や研究機関の事情により満たされていない場合があり、同法の適用が断念されることも少なくないのが実情だ。 特に(1)の秘密管理性は、主に「秘密保持のために必要な管理が実施されていること」と「アクセス者にとって、それが秘密であると認識できること」が必要とされるが、企業側で適切に管理されていない場合も散見される。 ただし、本件はさすがに研究機関ということもあり、(1)の秘密管理性をクリアできていた。 しかし、現実問題として、経済安全保障が声高に叫ばれる中、諸外国による日本への技術窃取などを試みる危険性およびリスクはなかなか顕在化しないため、危険な機関や組織や具体的な手口まで広く認識されていないのが現状だ。 実際、一部の日本を代表するグローバル企業でさえ、中国リスクについていまだ感度が低い状態だ。 今後は、これまでの情報セキュリティの概念から一歩踏み込み、経済安全保障の観点での情報セキュリティ・技術情報管理のあり方を再考しなければならない。 そこには、これまで絵空事のように思われていた「中国によるスパイ」や「国家による合法的手段による技術窃取の手法」もリスクシナリオとして捉えられなければならない。 本件で言えば、国防七校という“外事性”を有する機関の出身者であり、かつ教職者であったとの情報があれば、まず入り口の段階で制限すべきで、制限に掛からずにかつ産総研に入所した後も、当然セキュリティー・クリアランスの概念と同様に、アクセス権をコントロールすべきである。 だが、本件では、この2段階のコントロールが機能していなかった。 また、権容疑者が会長を務める中国企業の信用情報は、民間でも中国で取得でき、その内容を精査することも可能であっただろう(役員の情報など)。 ちなみに宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、先端技術の保護や重要物資の供給網確保といった政府の経済安全保障強化を踏まえ、軍事転用可能な技術情報などの流出を防止するため、「宇宙科学研究所」の外国人研究者や学生の受け入れ方針において、中国は一部の特例を除いて排除するほか、ロシアや北朝鮮については例外なく不可と位置づけ、既に運用を始めている。 では、研究所があずかり知らぬところで、在職中に、国防七校や中国人民解放軍系の組織と関係を有するに至った場合、検知できるのであろうか。) 難しいが、できる限りの対応を取るべきだ。 例えば、端緒の早期検知である。 ある人物が現在関与していないプロジェクト情報に過度にアクセスしている状況、勤務時間外のアクセスの増加、アクセス後の早期のファイル削除など、相当数の端緒が得られる。 それらを全てモニタリングすることは現実的ではないが、機微な技術情報の管理においては、人の属性や関与する研究内容によってそのモニタリング対象を増やすなどの施策が検討されるべきであろう。 また、内部通報はもちろんのこと、所内の風評は軽く見られがちだが、そこに端緒情報が見つかる場合もある。現に、風評から警察への相談に結び付く場合も多く、民間における情報漏えい事案においても風評が端緒となるケースは多く、軽視してはならない。 最後に、営業機密の持ち出しなど、産業スパイの兆候を感じた時点で速やかに捜査機関へ相談すべきである』、そもそも「権容疑者」を採用する段階では、研究所として、特段の情報流出対策は採られなかったのだろうか。
・『経済安保の観点における象徴的な事件  本件のように、「国防七校」という強烈なキーワードがあったにもかかわらず、技術が窃取された意味は非常に重い。 ましてや、国の研究機関において、その危険性が指摘されている国防七校出身者を受け入れ、アクセス権を制御せずに先端技術の研究に従事させていた。 この事実は、日本における経済安全保障の観点から見たリスクマネジメントにおいても非常に懸念されるべき状況だ。 今回の事件は単なる不正競争防止法違反事件ではなく、「国防七校」に関与した人物が日本の国立研究所で先端技術を窃取するという、経済安全保障の観点でも象徴的な事件となってしまった。 言うまでもないが、流出した日本の先端技術は既に中国の手に渡っており、二度と返ってはこない』、「経済安全保障」を持ち出すまでもなく、秘密情報の秘匿が破られるという単純なケースだ。
・『スパイ活動を取り締まる法・制度整備の必要性  捜査機関としては、このような状況下で、スパイ防止法のようなスパイ活動を取り締まる法的根拠がないため、法定刑がさほど重くない窃盗や不正競争防止法などの適用を駆使しながら、何とか対応している状況である。 今回も捜査機関の血のにじむような努力のもと、何とか検挙に至ったのだろう。 スパイ事件の特性上、任意捜査をしていれば察知されて帰国されてしまう可能性が高くなるため、よりハードルの高い強制捜査を目指さなければならない。 一方で、今回の事件が起訴されるかどうかは未知数だ。最悪、不起訴で処罰のないまま帰国される可能性も多いにある。 これが、「スパイ天国」といわれる日本の現状である。捜査機関から見ても、あまりにも酷ではないだろうか。機密情報を扱う人を国が認定する「セキュリティ・クリアランス」の必要性は言うまでもない。ぜひとも推進してほしい。 今回の事件を受け、まず国自身が内部の現況を把握すべきである。そうでなければ、企業に示しがつかないだろう。本事件が日本のカウンターインテリジェンスと社会の認識を大きく変える契機となることを強く望む』、「まず国自身が内部の現況を把握すべきである」、というのは当然だ。中国で「スパイ罪」の対象が拡大され、嫌疑をかけられる日本人駐在員も増えている状況を踏まえると、日本の捜査当局もより本格的に「中国人」への監視を強めるべきだろう。

次に、8月3日付け集英社オンラインが掲載した元農水省中部森林管理局長、姫路大学特任教授の平野秀樹氏による「「取材NG、撮影するな」…知らぬうちに日本で大躍進した「上海電力」の恐るべき実力。外資でも排除できない理由とは」を紹介しよう。
https://shueisha.online/culture/151020
・『“脱炭素”の名のもとに、現在の日本は外資による土地買収が行われており、国土が失われ続けている。再エネを利用した外資参入の危険性など現場取材のリアルを『サイレント国土買収 再エネ礼賛の罠』(角川新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする』、「サイレント国土買収」とは興味深そうだ。 
・『黒いワンボックスカー  私は以前からグリーン化にまつわる外資として上海電力に注目してきた。 複数の子会社をもち、合弁や提携の形でイラクやトルコなど、多くの国で発電所を経営している中国の巨大国営企業であるからだ。 福島県西郷村(にしごうむら)大字小田倉字馬場坂(図1-1)。 図1-1 上海電力のメガソーラー(福島県西郷村)【図版作成 小林美和子】。『サイレント国土買収 再エネ礼賛の罠』より 2021年11月29日。ようやく上海電力に視察させてもらえることになり、この日を迎えた。 迷いながらも何とかたどり着いた現場事務所は、高い鉄板の塀に囲まれていて、ひっきりなしに工事車両のトラックやバンが土ぼこりを上げながら出入りしていた。塀に貼られた赤いシールの文字「防犯カメラ作動中」がやけに目立つ。ゲートをくぐろうとすると、ビデオカメラらしきものがこちらを睨んでいた。 物々しい警戒ぶりが不自然に思えて緊張感を覚えたが、当日は地元西郷村でメガソーラーの問題を追い続けている大竹憂子議員も一緒だった。ヘアスタイリストの彼女は、一期目の新人だ。取材を通して知り合い、情報交換するようになった。地元住民を代表して純粋に意見しているから臆するところがない。 駐車場には50台以上の車が並んでいた。かなり市街地から遠いが、多くの人がいて活気を感じさせる。車を止めてドアを開けるや、やにわに真新しい長靴が2足、目の前に差し出された。 上海電力「現地で撮影してはならない」「サイズは何センチですか?」 待ち受けていた男性は、私たちをそう迎え入れた。 同時に白いヘルメットも手渡された。こちらも新品のようだ。側頭部に印字されている文字は「国家電投SPIC 上海電力日本」。赤と緑が向き合う「国家電投」のロゴが添えられていておしゃれだ。顎ひもを締めるとなんだか身が引き締まって、背筋がピンと伸びた。 現地での撮影はしてはならない。 前もって上海電力側からはそんな訪問条件が示されていた。写真は事務室でも事業地でも撮ってはならないという。その流儀はちょっと厳しいのではないか。写すといっても、伐採跡地と山を削った開発地があるだけなのだが。 案内者は3名の男性で、いずれも若い。30代だろうか。上海電力日本株式会社(以下、「上海電力日本」という)の東京本社幹部と、現地の事業会社の幹部2名だった。 黒いワンボックスカーは、私たち5人を乗せて出発し、場ちがいのように広い片側二車線の公道をゆっくりと走った。 山肌は抉られ、剝き出しになっていて、道路の両サイドには信じられないほど広大な平地が次々と造成されている』、「山肌は抉られ、剝き出しになっていて、道路の両サイドには信じられないほど広大な平地が次々と造成されている」、かなり大規模な開発のようだ。 
・『生態系へのインパクトが大きいのは間違いない  全体の広さは620ヘクタール(東京ドーム約132個分)、改変面積は240ヘクタールだ。1ヘクタールは100×100mのことで、ざっくりいうと、幅2㎞×長さ3㎞の巨大な一団の土地にソーラーパネルを並べられるだけ並べようという計画である。ゴルフ場だと六つ分(108ホール)、サッカー場なら87面がとれる。完成後は約161メガワットの巨大発電所になるという。 ソーラー用地は、平面を効率的に造り出していかなければならない。ゴルフ場のようにアンジュレーション(地形の起伏)は生かされず、山を大胆に削っていく。周縁にある雑木林の高木はソーラーの表面に日陰をつくってしまうからすべて伐り倒す。 とにかく規模が大きく、壮観である(写真1-1)。 長年、私は林野庁で働き、こうした林地開発現場を歩いてきたが、人里近くでこれほど大面積の皆伐と土地造成を見るのははじめてだった。かつてのゴルフ場開発よりも伐り方が激しく、生態系へのインパクトが大きいのは間違いない。 ガイド役のK氏は、上海電力日本のほか、現地の事業会社「株式会社そら’p」(以下、「株式会社P社」という)と「NOBSP合同会社」(以下、「N合同会社」という)に兼務する饒舌(じょうぜつ)な方で、よく対応してくれた。地元議員が村議会で見境なく暴れることなどないよう、現地の説明責任者として最大限の配慮をしているように私には思えた。 (懸念があるというならすべて払拭する)(しかし一言も聞き漏らさず、必要以上には決して話すまい……) 内心はうかがい知れなかったが、きっと上海電力側の3人は、皆がそのような気構えを徹底していたのだろう。 それゆえ、理由はよくわからないが、上海電力側の説明が一段落するたび、私たち5人が乗る車内には何とも言えない、いやーな沈黙が数十秒続き、それが何度も繰り返された。苦行のように思えた。 ガイド役のK氏は話をつなごうといろいろ気を遣ってくれたが、狭い車内のその重苦しい、微妙な空気が変わることはなかった』、「上海電力側の説明」は「懸念があるというならすべて払拭する)(しかし・・・必要以上には決して話すまい……皆がそのような気構えを徹底していたのだろう」、なるほど。
・『世界最大の発電企業  上海電力日本は、国内ではあまり報道機関の取材を受けない。2022年秋以降、同社のHPもメンテナンス中ということで、半年間も閉ざされたままだった。 そうした傾向は、13年9月の創業当時からのようで、東京・丸ビルにある本社は取材に応じなかったらしい。朝日新聞アエラの山田厚史氏(元編集委員)も断られた一人だ。 日本法人の責任者への接触を何度か試みたが、「忙しい」「外国出張中」という返事ばかりで、会えなかった。上海の本社に電話してみたが、「日本のことは日本の会社に聞いてくれ」とにべもない。 (「Asahi Shimbun Weekly AERA」14年1月27日) それから10年、上海電力日本は躍進した。 経団連の会員には15年になっている。中国企業ではファーウェイに次いで二番目で、両社は今も会員である。上海電力日本はこの間、若くて優秀な転職組を採用し、再エネ政策のメリットと地元対策を徹底して研究してきたものと推測する。なぜなら、13年当時と比べると、企業としての存在感と日本経済界への浸透具合には隔世の感があるからだ。 上海電力日本はこれまで、資源エネルギー庁から全国で90か所以上の認定(事業計画認定)を受け、事業を全国展開させている。昨今はソーラーのみならず、風力、バイオマス(間伐材)の分野にも進出しており、国内有数の発電事業体になっている。 歴史を遡さかのぼると、上海電力(上海電力股份有限公司)の伝統のすごさがわかる。 華東地区最大の電力会社(本社 上海市)で、1882年、世界で三番目、アジアで初めて電灯を灯ともしたという。1930年代には米国資本に買収されていたが、清国の共同租界の中で配電独占権をもっていた。当時、覇権争いをしていた日本は、この上海電力がほしかった』、「上海電力日本は、国内ではあまり報道機関の取材を受けない。2022年秋以降、同社のHPもメンテナンス中ということで、半年間も閉ざされたままだった。 そうした傾向は、13年9月の創業当時からのようで、東京・丸ビルにある本社は取材に応じなかったらしい」、「経団連の会員には15年になっている。中国企業ではファーウェイに次いで二番目」、「資源エネルギー庁から全国で90か所以上の認定(事業計画認定)を受け、事業を全国展開させている。昨今はソーラーのみならず、風力、バイオマス(間伐材)の分野にも進出しており、国内有数の発電事業体になっている」、なるほど。
・『いつの間にか逆転された日中関係  大阪毎日新聞は次のように報じている。 上海電力の日本電力への合流を政治的に解決するかせねばならない。…上海電力の買収は当然来たるべき問題である。(1938年2月4日) 列強諸国を前に日本が思うような買収はできなかったが、時代は下って、2012年。 八十余年の時を経て、基幹電力インフラへの進出という意味において、日中両国の立場は逆転した。 上海電力の売上高は12年に約2500億円までになり、翌13年、日本で全額出資の子会社をつくった。上海電力日本(本社東京、設立時資本金89億円)である。グリーンエネルギー発電事業への本格参入を見込んでの設立だという。 現在の上海電力日本の総元締めは、「国家電投SPIC」(国家電力投資集団有限公司 State Power Investment Corporation)だ。筆頭株主(46.3%)で、私が福島県西郷村で被ったヘルメットにも印字されていた企業である。 この「国家電投SPIC」は国有独資会社(国家が100%出資の国有企業)で、従業員総数はおよそ13万人。企業の規模として東京電力の約3倍だ。その発電規模は1億5000万キロワット(21年)。うちクリーン発電設備(原子力含む)が過半数(50.5%)を占める。太陽光発電に限れば、世界最大の事業者である』、「「国家電投SPIC」は国有独資会社・・・で、従業員総数はおよそ13万人。企業の規模として東京電力の約3倍だ・・・太陽光発電に限れば、世界最大の事業者」、なるほど。
・『外国資本でも日本で法人格を取得していれば排除することはできない  伸びゆく国家電投SPICの鼻息は荒く、25年の総発電設備は2億2000万キロワット、35年には2億7000万キロワットにまで増やす計画をもつ。 同社は、ブラジル、チリ、豪州でも、再エネ発電を積極的に展開しており、この先、原子力や太陽光などのクリーン発電設備のウェイトを今の50.5%から、25年には60%、35年には75%にまで引き上げるという。当然のことながら、これらクリーン発電設備の目標数値の中に、日本国内での太陽光等発電事業の飛躍的拡大もカウントされている。 新電力の参入が人気だった頃、環境省の中ではこんな評価が交わされていた。私が耳にした話である。 「同系グループをつくって、発電、送電、配電、さらに小売りまで一貫流通させることを視野に入れているでしょう。儲かるのは小売り(家庭向け)だからね……」(電力大手幹部) そんな思惑さえ想定される外資の巨大国有企業に対し、何の警戒感もなく、諸手を挙げて歓迎し続けてきたのがニッポンだ。 経産省新エネルギー対策課長は再エネ導入当時の14年、次のように発言していた。 「外国資本でも日本で法人格を取得していれば排除することはできない」 「登記が完了しているなら経産省は口出しできない」 (前掲「AERA」) #2『住民側は泣き寝入り…住民の要望・約束は置きざりに。上海電力が福島県でメガソーラーをやりたい放題、噛み合わない両者の話し合い』はこちら  脱炭素の美名のもと、不可解な用地買収が進み、国土が失われ続けている (本書で紹介する主な地域) ■メガソーラー福島県西郷村(上海電力のメガソーラー)、茨城県つくば市(日本最大の営農型ソーラー)、大阪湾咲洲、山口県柳井市・岩国市(岩国基地周辺メガソーラー)、熊本市、長崎県佐世保市 ・・・ (平野秀樹氏の略歴はリンク先参照)』、「外資の巨大国有企業に対し、何の警戒感もなく、諸手を挙げて歓迎し続けてきたのがニッポンだ。 経産省新エネルギー対策課長は再エネ導入当時の14年、次のように発言していた。 「外国資本でも日本で法人格を取得していれば排除することはできない」 「登記が完了しているなら経産省は口出しできない」 ・・・現在では経済安保を重視するようになったが、「上海電力」ははるかに強力な存在となった。しかし、「上海電力のメガソーラー」に対しては、環境保護の観点で問題がないことを確認すべきだろう。
タグ:「経済安全保障」を持ち出すまでもなく、秘密情報の秘匿が破られるという単純なケースだ。 そもそも「権容疑者」を採用する段階では、研究所として、特段の情報流出対策は採られなかったのだろうか。 日本の研究機関の守秘のお粗末さには空いた口が塞がらない。 稲村 悠氏による「中国人研究員「先端技術情報」漏えい事件で露呈、“スパイ天国”日本のあきれた実態【元公安捜査官が解説】」 安全保障 (その13)(中国人研究員「先端技術情報」漏えい事件で露呈 “スパイ天国”日本のあきれた実態【元公安捜査官が解説】、「取材NG 撮影するな」…知らぬうちに日本で大躍進した「上海電力」の恐るべき実力 外資でも排除できない理由とは) ダイヤモンド・オンライン 「まず国自身が内部の現況を把握すべきである」、というのは当然だ。中国で「スパイ罪」の対象が拡大され、嫌疑をかけられる日本人駐在員も増えている状況を踏まえると、日本の捜査当局もより本格的に「中国人」への監視を強めるべきだろう。 集英社オンライン 平野秀樹氏による「「取材NG、撮影するな」…知らぬうちに日本で大躍進した「上海電力」の恐るべき実力。外資でも排除できない理由とは」 『サイレント国土買収 再エネ礼賛の罠』(角川新書) 「サイレント国土買収」とは興味深そうだ。 「山肌は抉られ、剝き出しになっていて、道路の両サイドには信じられないほど広大な平地が次々と造成されている」、かなり大規模な開発のようだ。 「上海電力側の説明」は「懸念があるというならすべて払拭する)(しかし・・・必要以上には決して話すまい……皆がそのような気構えを徹底していたのだろう」、なるほど。 「上海電力日本は、国内ではあまり報道機関の取材を受けない。2022年秋以降、同社のHPもメンテナンス中ということで、半年間も閉ざされたままだった。 そうした傾向は、13年9月の創業当時からのようで、東京・丸ビルにある本社は取材に応じなかったらしい」、 「経団連の会員には15年になっている。中国企業ではファーウェイに次いで二番目」、「資源エネルギー庁から全国で90か所以上の認定(事業計画認定)を受け、事業を全国展開させている。昨今はソーラーのみならず、風力、バイオマス(間伐材)の分野にも進出しており、国内有数の発電事業体になっている」、なるほど。 「「国家電投SPIC」は国有独資会社・・・で、従業員総数はおよそ13万人。企業の規模として東京電力の約3倍だ・・・太陽光発電に限れば、世界最大の事業者」、なるほど。 「外資の巨大国有企業に対し、何の警戒感もなく、諸手を挙げて歓迎し続けてきたのがニッポンだ。 経産省新エネルギー対策課長は再エネ導入当時の14年、次のように発言していた。 「外国資本でも日本で法人格を取得していれば排除することはできない」 「登記が完了しているなら経産省は口出しできない」 ・・・現在では経済安保を重視するようになったが、「上海電力」ははるかに強力な存在となった。しかし、「上海電力のメガソーラー」に対しては、環境保護の観点で問題がないことを確認すべきだろう。
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バブル(歴史、一般)(その1)脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折、シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折) [金融]

今日は、バブル(歴史、一般)(その1)脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折、シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折)を取上げよう。

先ずは、やや古いが、2019年5月9日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元外国為替ディーラー・ジャーナリストの玉手 義朗氏による「脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19nv/00046/050700009/
・『脱獄したお尋ね者が、なんとフランス財務大臣に! 驚きの成り上がり人生を歩んだギャンブルの達人、ジョン・ロー。しかし、自ら生み出した世界最大級のバブルが弾けた後、流浪の末に無一文で死を迎える――。経済学の巨人シュンペーターが絶賛し、ガルブレイズをもうならせた奇才の、鮮やかすぎる経済理論と転落劇。 一七二九年三月二十一日、男はイタリア・ヴェネチアで五十八年の生涯を終えた。 男はかつてフランスの「財務大臣」と「中央銀行総裁」、そして巨大国営企業のトップを兼任する経済界の支配者だった。パリ中心部にあるヴァンドーム広場の三分の一は男のもので、この他にも数多くの不動産を保有する大金持ちでもあった。 我が世の春を謳歌していた男だったが、ある日突然にフランスを追われ、放浪の末にヴェネチアにたどり着いた。死期が迫る中、男は遺言状を作るようにと促された。しかし、「自分の財産は全てフランスにあって、債権者に差し押さえられている。遺言状を作っても無意味だ」と語ったという。 男の名前はジョン・ロー(John Law)。 その経済政策は窮地にあったフランス経済を劇的に回復させると同時に、数多くの大金持ちを生み出した。「ミリオネア」という言葉が誕生したのもこのときで、ローの経済政策の恩恵を受けて、大金持ちになった人々を呼ぶためのものだった。後にこの男は、経済学者シュンペーターから賛辞を受け、ガルブレイズをもうならせることになる』、「ジョン・ロー」は「かつてフランスの「財務大臣」と「中央銀行総裁」、そして巨大国営企業のトップを兼任する経済界の支配者だった。パリ中心部にあるヴァンドーム広場の三分の一は男のもので、この他にも数多くの不動産を保有する大金持ちでもあった。 我が世の春を謳歌していた男だったが、ある日突然にフランスを追われ、放浪の末にヴェネチアにたどり着いた」、なるほど。「ミリオネア」という言葉が誕生したのもこのときで、ローの経済政策の恩恵を受けて、大金持ちになった人々を呼ぶためのものだった」、「ミリオネア」の語源を初めて知った。
・『世界初の「ミリオネア」  しかし、ローとミリオネアたち、そしてフランス国民も突如として奈落の底に突き落とされる。ミリオネアたちは全財産を失い、経済は大混乱に陥り、非難の的となったローはフランスを逃げ出したのであった。 ミリオネアを生んだ経済政策とは何なのか。なぜ、人々は奈落の底に落とされることになったのか。一度はフランス経済を支配し、巨万の富を獲得した男は、どのような失敗を犯して、一文無しで生涯を終えることになったのだろう。) 一六七一年四月二十一日、ローはイギリス(スコットランド)・エディンバラの裕福な金匠(Goldsmith Banker:金を扱う金融機関の一種)の家に生まれた。 中等学校に入る直前に父親は他界するが、ローは巨額の遺産を相続し、ロンドンに出て放蕩三昧の生活を始める。長身で端正なマスク、愛想が良くて会話も知的だったローは、上流階級の貴婦人たちと浮き名を流す一方で、ギャンブルに興じる日々を送った。 しかし、程なくしてローはギャンブルに大負けして破産してしまう。更に一六九四年四月、ローは女性を巡ってある男と決闘して刺し殺してしまった。殺人罪で死刑判決を受けたロー。人生もこれで終わり……と思われたが、ローは仲間の手助けを受けて脱獄に成功する。看守を薬で眠らせ、密かに持ち込んだノコギリで窓の鉄格子を切断し、窓から飛び降りて待機させていた馬車に飛び乗って、逃げ去ったという。(*1)』、「ローは女性を巡ってある男と決闘して刺し殺してしまった。殺人罪で死刑判決を受けたロー。人生もこれで終わり……と思われたが、ローは仲間の手助けを受けて脱獄に成功する」、血の気が多かったようだ。
・『「お尋ね者」が一転、「気鋭の経済学者」に  「キャプテン・ジョン・ロー、スコットランド人、殺人の罪で最近まで当王座裁判所の監獄に収容中の囚人。年齢二六歳。背が非常に高く色黒、やせぎすで姿勢よき男……この者当監獄より脱走。右の男を捕らえて当監獄に引き渡す者に対して、即刻五十ポンドの賞金を与える」 各地に配られた手配書をあざ笑うかのように、「お尋ね者ロー」は完全に姿を消してしまう。 それから二十年が経過した一七一四年、ローは突如としてフランス・パリに現れた。「お尋ね者」ではなく、大金持ちで、フランス政府が信頼を寄せる気鋭の経済学者としてだ。 ローは逃亡生活の間に、独自の確率論を駆使したギャンブル勝利法を会得し、各地の賭博場を渡り歩いて大儲けしたという。その経験と理論を基に、言葉巧みにフランス政府に、独自の経済政策を売り込んだのだ。 時のフランスはルイ十五世が王位を引き継いだばかり。政府は度重なる戦争と王室の浪費で財政難に喘ぎ、経済は深刻な不況に陥っていた。ところがローは、この危機的な状況を改善する経済政策があると、ルイ十五世の摂政だったオルレアン公フィリップに持ちかけたのだ。) ローはフランス経済が「デフレ状態」にあると考えていた。当時のフランスの貨幣システムは、政府の管理下にある正貨(金貨と銀貨)を使ったもの。政府が財政難になれば、貨幣の流通量が減少する。これによって物価が下落し、収益の悪化から消費が低迷し、これが景気を悪化させて所得が減少し、更なる物価下落と消費の低迷を生む。当時のフランスは、典型的なデフレ不況に陥っていたのである。 デフレ対策には、どんどん紙幣を刷って貨幣供給量を増やす金融緩和政策があることは、今なら誰でも知っているだろう。ところが、当時のフランスには紙幣が存在していなかった。あるのは自由に増やすことができない正貨だけであり、金融緩和政策の概念すらなかったのである。 では、どうすればよいのか。ローの答えは簡単だった。 紙幣を発行すればいい』、「「ローは逃亡生活の間に、独自の確率論を駆使したギャンブル勝利法を会得し、各地の賭博場を渡り歩いて大儲けしたという。その経験と理論を基に、言葉巧みにフランス政府に、独自の経済政策を売り込んだのだ。 時のフランスはルイ十五世が王位を引き継いだばかり。政府は度重なる戦争と王室の浪費で財政難に喘ぎ、経済は深刻な不況に陥っていた。ところがローは、この危機的な状況を改善する経済政策があると、ルイ十五世の摂政だったオルレアン公フィリップに持ちかけたのだ。) ローはフランス経済が「デフレ状態」にあると考えていた。当時のフランスの貨幣システムは、政府の管理下にある正貨(金貨と銀貨)を使ったもの。政府が財政難になれば、貨幣の流通量が減少する。これによって物価が下落し、収益の悪化から消費が低迷し、これが景気を悪化させて所得が減少し、更なる物価下落と消費の低迷を生む。当時のフランスは、典型的なデフレ不況に陥っていたのである」、「当時のフランスには紙幣が存在していなかった。あるのは自由に増やすことができない正貨だけであり、金融緩和政策の概念すらなかったのである。 では、どうすればよいのか。ローの答えは簡単だった。 紙幣を発行すればいい」、なるほど。
・『お金がないなら、刷ればいい  ローは摂政オルレアン公フィリップから、紙幣となる銀行券が発行できる「バンク・ジェネラル」の設立許可を得た。 この銀行はローが保有していた正貨を元手に設立されたもの。バンク・ジェネラルが発行する銀行券は、求められればいつでも正貨に戻すことが約束された「兌換(だかん)紙幣」だったため、高い信用力を得ることができた。更にローは政府に働きかけて、この銀行券で納税が可能になるようにし、貿易取引の決済にも使えるようにした。 度重なる改鋳で金や銀の含有量が低下し、価値が低下していた正貨に嫌気がさしていた人々は、使い勝手の良いローの銀行券を大歓迎した。 一七一六年五月に設立されたバンク・ジェネラルが発行する銀行券は瞬く間に普及し、これによって貨幣供給量が大幅に増加する。フランス経済を苦しめていたデフレは解消に向かい、景気は驚異的な回復を見せた。 ローは「金融緩和策の発明者」であり、人類史上初めてこれを実施して、フランス経済を救った「天才」だったのだ。 絶大な信頼を勝ち取ったバンク・ジェネラルは、一七一八年に国有化され、「バンク・ロワイアル」となる。 「お尋ね者」だったローは、自らの手で「中央銀行」を創設して「総裁」に就任したというわけだ。 しかし、ローの金融緩和策には限界があった。) ローの金融緩和策の限界とは何か。銀行券が兌換紙幣であったため、保有している正貨以上の発行ができなかったのだ。 そこでローは次のステップへ踏み出す。 ローは銀行券を正貨の交換を保証しない「不換紙幣」に変えたのだ。これによってバンク・ロワイアルは、正貨保有量に関係なく、好きなだけ銀行券を発行できるようになる。 正貨という後ろ盾を失ったものの、バンク・ロワイアルが発行する銀行券の信用力が揺らぐことはなかった。銀行券が更に発行されたことで金融緩和策が強化され、フランス経済はより一層の好景気に沸き立つことになる』、「ローは「金融緩和策の発明者」であり、人類史上初めてこれを実施して、フランス経済を救った「天才」だったのだ。 絶大な信頼を勝ち取ったバンク・ジェネラルは、一七一八年に国有化され、「バンク・ロワイアル」となる。 「お尋ね者」だったローは、自らの手で「中央銀行」を創設して「総裁」に就任したというわけだ」、「ローは銀行券を正貨の交換を保証しない「不換紙幣」に変えたのだ。これによってバンク・ロワイアルは、正貨保有量に関係なく、好きなだけ銀行券を発行できるようになる。 正貨という後ろ盾を失ったものの、バンク・ロワイアルが発行する銀行券の信用力が揺らぐことはなかった。銀行券が更に発行されたことで金融緩和策が強化され、フランス経済はより一層の好景気に沸き立つことになる」、なるほど。
・『バブルがやってきた  ローは膨大な財政赤字の削減にも取り組んだ。「ミシシッピ会社」という国営企業を創設、その株式を売り出すことで財政赤字を埋めようと考えたのだ。(*2) ローは政府に働きかけて、当時のフランスが所有していた、ミシシッピを中心とするアメリカ植民地の開発や貿易の権利をこの会社に集約した。目玉の事業は「金の採掘」。ミシシッピには金鉱があり、株式を購入した人には大きな利益がもたらされると宣伝したのだ。 更にローは、ミシシッピ会社の株式を購入しやすくするために、購入代金を国債で支払えるようにした。 これは現代の「債務の株式化」(Debt Equity Swap)の原型となる手法だ。銀行などが保有する貸出債権を、その会社の株式と交換することによって借金の負担を軽減し、経営再建を進めやすくする。 債務の株式化が、日本で本格化するのは二十一世紀に入ってからのこと。ダイエーやシャープなど、巨大企業の経営再建で適用されるようになった高度な手法だ。 現代の最先端の再建手法を先取りするようなアイデアを考案し、財政赤字で苦しんでいたフランス政府に適用したロー。ミシシッピ会社の株式が売れれば売れるほど、政府の財政赤字は減少していくという妙案だったのだ。 売り出されたミシシッピ会社の株式は、投資家の大きな人気を集めた。当時の国債は返済されるはずなどないという思惑から、額面五百リーブルの国債が、百五十~百六十リーブル程度の安値で取引されていた。そこでローは、ミシシッピ会社の株式を国債で購入する場合には、額面の五百リーブルで引き取るとしたのだ。 ここからバブルが発生する。) 「価値の下がった国債で、金鉱を持つミシシッピ会社の株式が買える! しかも額面価格で!」と投資家は大喜び。額面五百リーブルだったミシシッピ会社の株価は、一七一九年の十二月には一万リーブルを突破する大暴騰を演じる。 ミシシッピ会社の株式を買ったことで、一夜にして大金持ちになった人が続出する。「ミリオネア」と呼ばれるようになった彼らは、儲けたお金を不動産や宝石、貴金属などへ投資したため、それらの価格も三倍、四倍と跳ね上がった。 ミリオネアになりたいと押し寄せた人々で、ミシシッピ会社の株式が売買されていたカンカンポア通りは、連日大混雑となった。周辺のアパート家賃は跳ね上がり、靴店は店内で椅子や筆記用具を提供する「貸しオフィス」で大儲け、猫背だった男は背中を机代わりに使わせるだけで稼ぐことができたという。 ミシシッピ会社の株価暴騰に呼応する形で、銀行券の発行も急増していった。これが株式市場へ流れ込んだ結果、更なる株価上昇を生み、銀行券の増発を招くというスパイラルを生み出す』、「額面五百リーブルの国債が、百五十~百六十リーブル程度の安値で取引されていた。そこでローは、ミシシッピ会社の株式を国債で購入する場合には、額面の五百リーブルで引き取るとしたのだ。 ここからバブルが発生する。 「価値の下がった国債で、金鉱を持つミシシッピ会社の株式が買える! しかも額面価格で!」と投資家は大喜び。額面五百リーブルだったミシシッピ会社の株価は、一七一九年の十二月には一万リーブルを突破する大暴騰を演じる」、なるほど。
・『株式バブルで、財政再建!  その一方で、ミシシッピ会社の株式が飛ぶように売れたことから、政府の財政赤字も激減していった。「ロー・システム」と呼ばれた「中央銀行」と「巨大国営企業」のコラボレーションであった。 ミシシッピ会社は明らかに過大評価されていたが、株価暴騰に浮かれていた人々にとっては、どうでもよいことだったのだ。 景気回復と財政赤字削減を成し遂げたローは、一七二〇年一月に財務総監に任命される。首相の地位に匹敵する要職だった。「財務大臣」、「中央銀行総裁」、そして巨大国営会社ミシシッピ会社のトップを兼任する「経済界の巨人」が誕生したのだ。 各地に広大な地所を所有するなど、ローの個人資産も膨れ上がった。貴族の称号を与えられたローは、その端正な姿と相まって社交界の花形となる。「お尋ね者」として追われていた男が、流れ着いたフランスで銀行を設立してから、わずか三年でつかんだ栄光であった。 ロー・システムがもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである。 次回は後編。ローが生み出した「ミシシッピバブル」のあっけなくも、騒々しい幕切れ。さらに、ローが発明した「リフレ政策」の功罪を考察する。 *1 ジョン・ローの決闘のエピソードは、創作であるとする説もある *2 ミシシッピ会社の正式名称は「西方会社」。のちに「インド会社」となる(参考文献の紹介は省略)』、「景気回復と財政赤字削減を成し遂げたローは、一七二〇年一月に財務総監に任命される。首相の地位に匹敵する要職だった。「財務大臣」、「中央銀行総裁」、そして巨大国営会社ミシシッピ会社のトップを兼任する「経済界の巨人」が誕生したのだ。 各地に広大な地所を所有するなど、ローの個人資産も膨れ上がった。貴族の称号を与えられたローは、その端正な姿と相まって社交界の花形となる。「お尋ね者」として追われていた男が、流れ着いたフランスで銀行を設立してから、わずか三年でつかんだ栄光であった」、「ロー・システムがもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである」、次回の「崩壊」の姿が楽しみだ。

次に、この続きを2019年5月10日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元外国為替ディーラー・ジャーナリストの玉手 義朗氏による「シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19nv/00046/050700010/
・『お尋ね者の脱獄犯から、フランス財務大臣と中央銀行総裁を兼任するまで成り上がった、ジョン・ロー(詳しくは、前回を参照)。経済学の巨人シュンペーターも絶賛した奇才は、いかにして破滅したのか。 ギャンブルで荒稼ぎしたローには、天性の経済学的センスがあり、冷え切ったフランス経済をバブルの熱狂に導いた。だが、その末路は――。 18世紀を鮮やかに彩った「ミシシッピバブル」と、昭和の「NTT株」をめぐる狂騒が重なる。 十八世紀のフランスで、今でいう「リフレ政策」を展開したロー。紙幣をどんどん発行することでデフレ不況を克服し、国営企業ミシシッピ会社の株式売却で、国家財政の赤字を削減すると同時に、景気をさらに浮揚させた。 ローが編み出した金融緩和策「ロー・システム」がもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである』、「バブル」の「崩壊」とは興味深そうだ。
・『「素朴な疑問」が、崩壊の始まり  「ローの銀行券って、本当に信用できるの?」 「いざとなったら、本当に金貨か銀貨に換えてもらえるの?」 「ミシシッピ会社って、何をする会社なんだっけ?」 「金を採掘するって言っていたけど、金は出たんだっけ?」 ロー・システムの崩壊は、こうした素朴な疑問から始まった。 一部の貴族たちが、銀行券をバンク・ロワイアルに持ち込んで、金貨や銀貨に交換をし始める。これを知った他の人々も不安心理に駆られ、我先にと銀行券を正貨に交換しようとした。「取り付け」が起こったのだ。しかし、バンク・ロワイアルが発行する銀行券は不換紙幣であり、その全てを正貨に交換することは到底できない。 一七二〇年七月、バンク・ロワイアルは、正貨への交換を求める人々の激しい取り付けに対応できずに大混乱となり、十五人もの死者が出る事態となる。 激怒した七千人を超える人々が、担架に乗せた遺体と共にパレ・ロワイヤルの庭園までデモ行進し、ローやオルレアン公フィリップに惨状を見せつけようとした。ローが乗っていた馬車を破壊するなど、群衆の一部が暴徒化したことから軍隊が出動、オルレアン公フィリップが出てきて、遺体を責任を持って埋葬すると約束したことでようやく沈静化した。 バンク・ロワイアルの取り付けに合わせるように、ミシシッピ会社の信用も急速に失われ、株価の急落が始まった。少し前まではミシシッピ会社の株式を手に入れようと血眼になっていた人々は、大慌てで売り始め、本当に価値がある金貨や銀貨を手に入れようとしていた。 こうした状況を見たローは、驚きの株価対策を打ち出した。) ローが編み出した、驚きの株価対策とは何か。 パリにいた数千人ものホームレスを集め、シャベルなどの道具を持たせて港まで行進させたのだ。「ミシシッピに金が見つかりました。これから掘りに行きます!」と、ミシシッピ会社による開発計画が順調であることをアピールし、信用を取り戻そうとしたのである』、「一部の貴族たちが、銀行券をバンク・ロワイアルに持ち込んで、金貨や銀貨に交換をし始める。これを知った他の人々も不安心理に駆られ、我先にと銀行券を正貨に交換しようとした。「取り付け」が起こったのだ。しかし、バンク・ロワイアルが発行する銀行券は不換紙幣であり、その全てを正貨に交換することは到底できない。 一七二〇年七月、バンク・ロワイアルは、正貨への交換を求める人々の激しい取り付けに対応できずに大混乱となり、十五人もの死者が出る事態となる」、「バンク・ロワイアルの取り付けに合わせるように、ミシシッピ会社の信用も急速に失われ、株価の急落が始まった。少し前まではミシシッピ会社の株式を手に入れようと血眼になっていた人々は、大慌てで売り始め、本当に価値がある金貨や銀貨を手に入れようとしていた」、「ローが編み出した、驚きの株価対策とは何か。 パリにいた数千人ものホームレスを集め、シャベルなどの道具を持たせて港まで行進させたのだ。「ミシシッピに金が見つかりました。これから掘りに行きます!」と、ミシシッピ会社による開発計画が順調であることをアピールし、信用を取り戻そうとしたのである」、「ホームレスを」使って嘘をつくのは頂けない。
・『ホームレスを動員した“株価対策”  ところが、ホームレスたちは途中で行進を止めて逃げだし、渡されていた道具は換金されてしまった。ローの弥縫(びほう)策はミシシッピ会社の惨状を物語るものであり、その信用は更に失われる事態となった。 ローはその後も様々な株価維持策を打ち出したが効果は全くなく、むしろ株価の下落を加速させてしまう。一七二〇年一月に最高値の一万八千リーブルをつけていたミシシッピ会社の株価は、十月には二千リーブルにまで大暴落し、株式市場は人々の阿鼻叫喚(あびきょうかん)で覆われた。バンク・ロワイアルの銀行券の信用も完全に失われ、誰も受け取ろうとはしなくなったため、経済取引は元の金貨と銀貨の取引に逆戻りしてしまう。ロー・システムは完全に崩壊し、フランス経済は未曾有(みぞう)の大混乱に陥ったのである。 このときの状況を風刺した詩が残されている。 月曜日には株を買い、 火曜日には大儲け。 水曜日には家財道具をそろえ、 木曜日には身なりを整えた。 金曜日には舞踏会、そして土曜日には病院行き』、「一七二〇年一月に最高値の一万八千リーブルをつけていたミシシッピ会社の株価は、十月には二千リーブルにまで大暴落し、株式市場は人々の阿鼻叫喚(あびきょうかん)で覆われた。バンク・ロワイアルの銀行券の信用も完全に失われ、誰も受け取ろうとはしなくなったため、経済取引は元の金貨と銀貨の取引に逆戻りしてしまう。ロー・システムは完全に崩壊し、フランス経済は未曾有(みぞう)の大混乱に陥った」、なるほど。
・『死刑を求める大衆を前に、国外逃亡  一七二〇年十二月、死刑を求める民衆の叫び声に生命の危険を感じたローは、命からがらパリを脱出する。財産の大半はフランス国内の不動産であったこともあり、持ち出すことはできなかった。ローの出国後、保有していた不動産などは全て没収され、残された妻子は年金証書まで取り上げられてしまったという。 再びお尋ね者となったローは、ベルギーのブリュッセル、ドイツのハノーバー、デンマークのコペンハーゲンなど、およそ八年もの間ヨーロッパ各地を転々とした。そして、たどり着いたヴェネチアで死を迎えたのだった。 その墓碑銘にはこう記されていた。 高名なるスコットランド人、ここに眠る。 計算高さでは天下一品、 訳の分からぬ法則で、フランスを病院へ送った。 人類史上初めてとなる金融緩和策を、「訳の分からぬ法則」と批判されたロー。失われた栄光を取り戻すことなく、フランス経済の破壊者という汚名を着せられたまま、生涯を終えることになってしまったのである』、「フランス経済の破壊者という汚名を着せられたまま、生涯を終えることになってしまった」、「フランス」も「ロー」に乗せられたとは不名誉なことだ。
・『リフレ政策の発明者、バブルに飲まれる  ジョン・ローは驚くほど短期間にフランス経済を回復させた。ところが、その状態を維持できず、更に深い傷を負わせることになってしまう。その原因はローが自ら発明したリフレ政策の制御に失敗したことと、それによってバブルを発生させたことにある。 失敗の本質 ① デフレ対策が暴走(ローが打ち出した金融緩和政策は、大量の紙幣を発行して意図的にインフレを起こすリフレーション、いわゆる「リフレ政策」だ。 物価を建物の「室温」と考えるとインフレは「異常な高温」、デフレは「異常な低温」と考えられる。当時のフランスは深刻なデフレ状況にあり、冷え切った部屋で経済活動が鈍り、国民は凍死寸前に追い込まれていたのだ。 そこでローは、部屋を暖めるための政策を打ち出した。それがリフレ政策だ。バンク・ロワイアルを通じて、紙幣である銀行券を大量に発行し、それを燃料にした「たき火」を始めたのだ。売り出したミシシッピ会社の株価が急上昇、これに対応するための紙幣発行が増加したことで、火の勢いは更に強まる。ロー・システムを使ったリフレ政策によって、フランス経済の室温は瞬く間に上昇、見事にデフレを克服してみせたのだ』、「ジョン・ローは驚くほど短期間にフランス経済を回復させた。ところが、その状態を維持できず、更に深い傷を負わせることになってしまう。その原因はローが自ら発明したリフレ政策の制御に失敗したことと、それによってバブルを発生させたことにある」、なるほど。
・『ガルブレイズをもうならせた才能  ところが、ローはやり過ぎてしまう。デフレが克服された後もリフレ政策を継続した。これが必要以上の紙幣が供給される「過剰流動性」を招く。行き場を失った紙幣は、株式市場をはじめとした資産市場に流れ込み、ミシシッピ会社の株式を中心とした資産価格を押し上げてバブルを生み出したのだ。膨れ上がったバブルは遂に破裂して、経済は大混乱に陥ってしまう。部屋が十分に暖まったにもかかわらず、大量の燃料を供給し続けた結果、たき火がバブルとなって爆発し、フランス経済を炎上させてしまったのだ。 「ローがもしそこに留まっていたならば、彼は銀行業の歴史にささやかな貢献をしたという程度に記憶されただろう」と指摘するのは、経済学者ジョン・ガルブレイズ。 ローはデフレが解消された時点で「留まり」、リフレ政策を収束させるべきであったのだ。 人類史上初めてとなるリフレ政策を断行、フランス経済を立ち直らせたロー。しかし、その後は制御に失敗してバブルを生み出し、その崩壊が経済を破壊してしまった。これがローの失敗の第一の本質なのである。) 失敗の本質 ② 政治的圧力に負けてコントロールを失う(ジョン・ローのリフレ政策によってもたらされたミシシッピ会社の株価暴騰は「ミシシッピバブル」と呼ばれ、オランダの「チューリップバブル」、イギリスの「南海バブル」と並ぶ世界三大バブルの一つに数えられている。しかし、その規模と影響の大きさにおいて、ミシシッピバブルは、ずば抜けて巨大なバブルであったといえるだろう。 バブルは崩壊する運命にあることは、今でこそ多くの人が認識している。しかし、当時は「バブル」という言葉すらなかった時代であり、こうした知見も経験も乏しかった。人々は知らず知らずのうちに、バブルの熱狂の渦に巻き込まれてしまったのである』、「人類史上初めてとなるリフレ政策を断行、フランス経済を立ち直らせたロー。しかし、その後は制御に失敗してバブルを生み出し、その崩壊が経済を破壊してしまった。これがローの失敗の第一の本質なのである」、「ミシシッピ会社の株価暴騰は「ミシシッピバブル」と呼ばれ、オランダの「チューリップバブル」、イギリスの「南海バブル」と並ぶ世界三大バブルの一つに数えられている。しかし、その規模と影響の大きさにおいて、ミシシッピバブルは、ずば抜けて巨大なバブルであった」、なるほど。
・『危険を察知しても押し切られる  ロー自身はその危険性を認識していた。ミシシッピ会社の株価上昇に危機感を持ったローは、株価抑制策を数度にわたって打ち出している。その一つが「プレミアム」の販売だ。株式を購入できない人のために、株式購入の権利だけを売るという現代のオプションに類似したデリバティブ商品で、株式の追加発行に代わる手段として販売したのだ。ところが「プレミアム」は、権利だけではあっても、わずかな金額で購入できることから、その価格は販売直後に二倍に跳ね上がり、結果的に株価の上昇に拍車をかけてしまった。 ローは紙幣を発行しすぎると、信用力が低下することも認識していた。設立当初のバンク・ロワイアルは、銀行券を保有している正貨の範囲に収める兌換(だかん)紙幣とすることで、発行の上限を設定していた。「紙幣を良質の硬貨で償還するのに十分な支払い準備を保有しない銀行家は死に値する」。そんな信念を語っていたというロー。これが守られていたからこそ、人々は紙切れにすぎないローの銀行券に資産価値を認めていたのだ。 もし、ローが兌換紙幣にこだわり続けていれば、過剰流動性が生まれることはなく、バブルが発生することも、銀行券の信用が失われることもなかっただろう。しかし、兌換紙幣に固執し続ければ、経済成長の足かせになることも事実であり、いずれは不換紙幣に移行せざるを得なくなる。 そこで重要になるのが紙幣発行量の調整、つまり金融政策だ。経済の成長に合わせて適切な紙幣の発行量を維持し、過剰流動性を生まないように金融政策を遂行していく。これを実現するためには、紙幣を発行する中央銀行の独立性が求められる。政府は景気対策や財源の確保などの目的から、紙幣の発行量を増やすことを求めてくることが多い。しかし、これに安易に応じると、過剰流動性が生まれて、インフレ、さらにはバブルを生み出す恐れがある。こうした事態を避けるために、中央銀行は確固とした独立性を持つことが必要となるのだ。 中央銀行総裁であったローは、この独立性を守ることができなかった――。 ここに第二の失敗の本質がある。) バンク・ロワイアルの成功に気をよくしていた政府は、ローに更なる銀行券の発行を迫った。ローはこの圧力に耐えきれず、不換紙幣に切り替えた上に、銀行券の大量発行に踏み切ってしまう。この結果、銀行券の信用力が失われると同時に、巨大なバブルが生み出されてしまったのである。 しかし、ローはリフレ政策や債務の株式化を発明した天才であったことは間違いない。優れた洞察力で知られる経済学者のジョセフ・シュンペーターも、「あらゆる時代の貨幣理論家のなかで、最上の貨幣理論を構築した人物である」と、ローに賛辞を贈る。また、新古典派経済学の基礎を築いた経済学者アルフレッド・マーシャルも、「向こう見ずで、並外れた、しかし最も魅力的な天才」と、ローを高く評価しているのだ。 リフレ政策という画期的な金融緩和策を編みだしたものの、そのコントロールに失敗して沈んでしまったジョン・ロー。あまりに惜しまれる天才の過ちであった。 ローが作り出した人類史上最大のバブルであるミシシッピバブルだが、人類は同じような失敗をその後何度も繰り返してきた。一九二九年の「暗黒の木曜日」で破裂したアメリカの株式バブルは、全世界を巻き込む大恐慌を招いた。その後もITバブルなど、人類は幾度もバブルを生み出し、その崩壊によって辛酸を嘗めてきた』、「政府は景気対策や財源の確保などの目的から、紙幣の発行量を増やすことを求めてくることが多い。しかし、これに安易に応じると、過剰流動性が生まれて、インフレ、さらにはバブルを生み出す恐れがある。こうした事態を避けるために、中央銀行は確固とした独立性を持つことが必要となるのだ。 中央銀行総裁であったローは、この独立性を守ることができなかった――。 ここに第二の失敗の本質がある」、「ローはリフレ政策や債務の株式化を発明した天才であったことは間違いない。優れた洞察力で知られる経済学者のジョセフ・シュンペーターも、「あらゆる時代の貨幣理論家のなかで、最上の貨幣理論を構築した人物である」と、ローに賛辞を贈る。また、新古典派経済学の基礎を築いた経済学者アルフレッド・マーシャルも、「向こう見ずで、並外れた、しかし最も魅力的な天才」と、ローを高く評価しているのだ」、確かに偉大な人物のようだ。
・『NTT株とミシシッピ会社の重なり  一九八〇年代後半、プラザ合意に伴う急激な円高による景気悪化に対応して、日本銀行は通貨供給量を急激に増やす金融緩和政策を展開した。あふれ出したマネーは、株式や不動産に流れ込み、価格を押し上げていった。その象徴が、政府が売り出したNTT株の株価暴騰だった。バンク・ロワイアルを日本銀行に、NTTをミシシッピ会社に置き換えれば、その構図が全く同じであったことが分かる。また、政府がNTT株式の売却代金を、歳入の足しにした点でも同じといえるだろう。 「バブルの恩恵を一番受けたのは誰だと思う? それは政府だよ」。こう語ったのは、筆者がテレビ局で記者をしていた時代に知り合った大蔵官僚だ。バブル景気のおかげで所得税や法人税、固定資産税などの税収が急増したことで、一九九一年度からの三年間は赤字国債の発行がゼロになっている。大蔵省がローと同じく、財政赤字削減のためにバブルを起こしたのかと疑いたくもなる。 ジョン・ローはギャンブルの天才であった。「儲けたい!」という人の心理を巧みに読み取り、確実に勝利をものにしてきたのだ。そのローが仕掛けたとてつもなく大きなギャンブルがロー・システムであり、ミシシッピバブルだったのかもしれない。デフレ不況が長引く日本では、ジョン・ローのようにリフレ政策からバブルを起こしてその解消を図るべきとの声もある。その理非はさておき、ジョン・ローの亡霊は、今も世界各地に出没し、人々の心を揺り動かしているのである。(参考文献は省略)』、「デフレ不況が長引く日本では、ジョン・ローのようにリフレ政策からバブルを起こしてその解消を図るべきとの声もある」、「ロー」は「制御」に失敗したが、現在の中央銀行システムは「制御」できると楽観的に捉えるリフレ派もいる。しかし、現在の金融政策の「制御」能力には限界があることを考慮すれば、慎重に考えるべきだろう。
タグ:玉手 義朗氏による「脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」 日経ビジネスオンライン バブル(歴史、一般) (その1)脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折、シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折) 「ジョン・ロー」は「かつてフランスの「財務大臣」と「中央銀行総裁」、そして巨大国営企業のトップを兼任する経済界の支配者だった。パリ中心部にあるヴァンドーム広場の三分の一は男のもので、この他にも数多くの不動産を保有する大金持ちでもあった。 我が世の春を謳歌していた男だったが、ある日突然にフランスを追われ、放浪の末にヴェネチアにたどり着いた」、なるほど。 「ミリオネア」という言葉が誕生したのもこのときで、ローの経済政策の恩恵を受けて、大金持ちになった人々を呼ぶためのものだった」、「ミリオネア」の語源を初めて知った。 「ローは女性を巡ってある男と決闘して刺し殺してしまった。殺人罪で死刑判決を受けたロー。人生もこれで終わり……と思われたが、ローは仲間の手助けを受けて脱獄に成功する」、血の気が多かったようだ。 「「ローは逃亡生活の間に、独自の確率論を駆使したギャンブル勝利法を会得し、各地の賭博場を渡り歩いて大儲けしたという。その経験と理論を基に、言葉巧みにフランス政府に、独自の経済政策を売り込んだのだ。 時のフランスはルイ十五世が王位を引き継いだばかり。政府は度重なる戦争と王室の浪費で財政難に喘ぎ、経済は深刻な不況に陥っていた。ところがローは、この危機的な状況を改善する経済政策があると、ルイ十五世の摂政だったオルレアン公フィリップに持ちかけたのだ。) ローはフランス経済が「デフレ状態」にあると考えていた。当時のフランスの貨幣システムは、政府の管理下にある正貨(金貨と銀貨)を使ったもの。政府が財政難になれば、貨幣の流通量が減少する。これによって物価が下落し、収益の悪化から消費が低迷し、これが景気を悪化させて所得が減少し、更なる物価下落と消費の低迷を生む。当時のフランスは、典型的なデフレ不況に陥っていたのである」、「当時のフランスには紙幣が存在していなかった。あるのは自由に増やすことができない正貨だけであり、金融緩和政策の概念すらなかったのである。 では、 どうすればよいのか。ローの答えは簡単だった。 紙幣を発行すればいい」、なるほど。 「ローは「金融緩和策の発明者」であり、人類史上初めてこれを実施して、フランス経済を救った「天才」だったのだ。 絶大な信頼を勝ち取ったバンク・ジェネラルは、一七一八年に国有化され、「バンク・ロワイアル」となる。 「お尋ね者」だったローは、自らの手で「中央銀行」を創設して「総裁」に就任したというわけだ」、 「ローは銀行券を正貨の交換を保証しない「不換紙幣」に変えたのだ。これによってバンク・ロワイアルは、正貨保有量に関係なく、好きなだけ銀行券を発行できるようになる。 正貨という後ろ盾を失ったものの、バンク・ロワイアルが発行する銀行券の信用力が揺らぐことはなかった。銀行券が更に発行されたことで金融緩和策が強化され、フランス経済はより一層の好景気に沸き立つことになる」、なるほど。 「額面五百リーブルの国債が、百五十~百六十リーブル程度の安値で取引されていた。そこでローは、ミシシッピ会社の株式を国債で購入する場合には、額面の五百リーブルで引き取るとしたのだ。 ここからバブルが発生する。 「価値の下がった国債で、金鉱を持つミシシッピ会社の株式が買える! しかも額面価格で!」と投資家は大喜び。額面五百リーブルだったミシシッピ会社の株価は、一七一九年の十二月には一万リーブルを突破する大暴騰を演じる」、なるほど。 「景気回復と財政赤字削減を成し遂げたローは、一七二〇年一月に財務総監に任命される。首相の地位に匹敵する要職だった。「財務大臣」、「中央銀行総裁」、そして巨大国営会社ミシシッピ会社のトップを兼任する「経済界の巨人」が誕生したのだ。 各地に広大な地所を所有するなど、ローの個人資産も膨れ上がった。貴族の称号を与えられたローは、その端正な姿と相まって社交界の花形となる。「お尋ね者」として追われていた男が、流れ着いたフランスで銀行を設立してから、わずか三年でつかんだ栄光であった」、 「ロー・システムがもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである」、次回の「崩壊」の姿が楽しみだ。 玉手 義朗氏による「シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」 「バブル」の「崩壊」とは興味深そうだ。 「一部の貴族たちが、銀行券をバンク・ロワイアルに持ち込んで、金貨や銀貨に交換をし始める。これを知った他の人々も不安心理に駆られ、我先にと銀行券を正貨に交換しようとした。「取り付け」が起こったのだ。しかし、バンク・ロワイアルが発行する銀行券は不換紙幣であり、その全てを正貨に交換することは到底できない。 一七二〇年七月、バンク・ロワイアルは、正貨への交換を求める人々の激しい取り付けに対応できずに大混乱となり、十五人もの死者が出る事態となる」、「バンク・ロワイアルの取り付けに合わせるように、ミシシッピ会社の信用も急速に失われ、株価の急落が始まった。少し前まではミシシッピ会社の株式を手に入れようと血眼になっていた人々は、大慌てで売り始め、本当に価値がある金貨や銀貨を手に入れようとしていた」、「ローが編み出した、驚きの株価対策とは何か。 パリにいた数千人ものホームレスを集め、シャベルなどの道具を持たせて港まで 行進させたのだ。「ミシシッピに金が見つかりました。これから掘りに行きます!」と、ミシシッピ会社による開発計画が順調であることをアピールし、信用を取り戻そうとしたのである」、「ホームレスを」使って嘘をつくのは頂けない。 「一七二〇年一月に最高値の一万八千リーブルをつけていたミシシッピ会社の株価は、十月には二千リーブルにまで大暴落し、株式市場は人々の阿鼻叫喚(あびきょうかん)で覆われた。バンク・ロワイアルの銀行券の信用も完全に失われ、誰も受け取ろうとはしなくなったため、経済取引は元の金貨と銀貨の取引に逆戻りしてしまう。ロー・システムは完全に崩壊し、フランス経済は未曾有(みぞう)の大混乱に陥った」、なるほど。 「フランス経済の破壊者という汚名を着せられたまま、生涯を終えることになってしまった」、「フランス」も「ロー」に乗せられたとは不名誉なことだ。 「ジョン・ローは驚くほど短期間にフランス経済を回復させた。ところが、その状態を維持できず、更に深い傷を負わせることになってしまう。その原因はローが自ら発明したリフレ政策の制御に失敗したことと、それによってバブルを発生させたことにある」、なるほど。 「人類史上初めてとなるリフレ政策を断行、フランス経済を立ち直らせたロー。しかし、その後は制御に失敗してバブルを生み出し、その崩壊が経済を破壊してしまった。これがローの失敗の第一の本質なのである」、「ミシシッピ会社の株価暴騰は「ミシシッピバブル」と呼ばれ、オランダの「チューリップバブル」、イギリスの「南海バブル」と並ぶ世界三大バブルの一つに数えられている。しかし、その規模と影響の大きさにおいて、ミシシッピバブルは、ずば抜けて巨大なバブルであった」、なるほど。 「政府は景気対策や財源の確保などの目的から、紙幣の発行量を増やすことを求めてくることが多い。しかし、これに安易に応じると、過剰流動性が生まれて、インフレ、さらにはバブルを生み出す恐れがある。こうした事態を避けるために、中央銀行は確固とした独立性を持つことが必要となるのだ。 中央銀行総裁であったローは、この独立性を守ることができなかった――。 ここに第二の失敗の本質がある」、 「ローはリフレ政策や債務の株式化を発明した天才であったことは間違いない。優れた洞察力で知られる経済学者のジョセフ・シュンペーターも、「あらゆる時代の貨幣理論家のなかで、最上の貨幣理論を構築した人物である」と、ローに賛辞を贈る。また、新古典派経済学の基礎を築いた経済学者アルフレッド・マーシャルも、「向こう見ずで、並外れた、しかし最も魅力的な天才」と、ローを高く評価しているのだ」、確かに偉大な人物のようだ。 「デフレ不況が長引く日本では、ジョン・ローのようにリフレ政策からバブルを起こしてその解消を図るべきとの声もある」、「ロー」は「制御」に失敗したが、現在の中央銀行システムは「制御」できると楽観的に捉えるリフレ派もいる。しかし、現在の金融政策の「制御」能力には限界があることを考慮すれば、慎重に考えるべきだろう。
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医療問題(その39)(【胃カメラ】バリウムとの違い、楽な受け方は? 基本は50代以降、20~30代で検査が必要な人も、白衣を見るだけで血圧上昇?病院恐怖症の人が医者に上手にかかる法) [生活]

医療問題については、本年5月31日に取上げた。今日は、(その39)(【胃カメラ】バリウムとの違い、楽な受け方は? 基本は50代以降、20~30代で検査が必要な人も、白衣を見るだけで血圧上昇?病院恐怖症の人が医者に上手にかかる法)である。

先ずは、本年6月4日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済オンライン医療取材チームによる「【胃カメラ】バリウムとの違い、楽な受け方は? 基本は50代以降、20~30代で検査が必要な人も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/673073
・『胃の不調が気になるが、できれば胃カメラはやりたくない。でも、病気は初期のうちに見つけたい……。「痛い」「苦しい」といったイメージから、胃カメラを受けるタイミングを逃している人は少なくないだろう。 しかし近年、胃カメラは、苦痛が少なく、精度の高い検査へと機器や技術が進化している。検査の受け方やメリットなどについて、内視鏡検査・治療のエキスパートである内視鏡専門医の平澤欣吾医師(横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター内視鏡部准教授)に話を聞いた。 俗に「胃カメラ」と呼ばれている検査の正式名称は、「上部消化管内視鏡検査」だ。スコープの先に付いた小さなカメラによって、胃だけではなく、カメラが通過する喉や食道、十二指腸を含めた上部消化器官内のポリープやがん、炎症などを調べることができる』、興味深そうだ。
・『胃カメラでわかる病気はいろいろ  胃カメラで見つかる疾患は胃がんなど胃の病気に限らず、咽頭がんや喉頭がん、食道がん、逆流性食道炎、十二指腸がん、急性胃炎、萎縮性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など、数多い。 実は、胃がんの原因とされるピロリ菌(H.pylori)感染の有無も胃カメラ検査でわかる(ピロリ菌関連記事:胃がん原因の9割、感染ある人の特徴はこちら)。 「ピロリ菌に感染していると特徴的な胃炎の所見が見られるため、内視鏡の専門医であれば、胃粘膜の状態だけでも感染を疑うことができます」(平澤医師) 胃カメラで胃内にポリープが見つかるケースも多い。ポリープと聞くと、がん化を心配してしまうがどうなのだろうか。 「大腸のポリープと違い、胃にできる多くは『胃底腺ポリープ』という良性のもので、ピロリ菌に感染していない健康な胃粘膜にできることが多いとされています。複数できることも多いですが、胃カメラで見つかっても基本的に切除する必要はありません」(平澤医師) ただし、約1%程度、ポリープと見分けのつきにくいがんが紛れ込んでいることがある。そのため、専門医による正確な診断は欠かせないという。 ちなみに、胃カメラはスコープを挿入する場所が鼻か口によって呼称が変わる。口からの挿入するものは経口内視鏡、鼻から挿入するものは経鼻内視鏡と呼ばれている。 「痛い」「苦しい」といったイメージがある胃カメラだが、つらい思いをせずに受ける方法はないのか。 経口内視鏡を受ける流れは、検査前に、胃の中の観察をしやすくするため、胃の中の泡を消す消泡剤と胃の粘液を溶かす薬を飲む。のどにも局所麻酔薬のスプレーを吹きかける。 検査室では義歯やコルセット、時計・メガネなどをはずし、普段着のまま(検査着を着用することも)、ベルトを緩めて検査台に横になる。眠るための鎮静薬の注射を受け、リラックスした状態で検査を受ける。 「経口内視鏡は『オエッとなって苦しい』というイメージが強いと思いますが、今はほとんどの医療機関で鎮静薬を使っています。鎮静薬によって意識がぼんやりした状態になり、検査の不安やストレスも和らぎ、うとうと眠っている間に終わります。検査時間も3~5分ですし、痛みや苦しさを感じることはほぼありません。むしろ経口内視鏡が一番、楽に受けられる胃カメラだと思います」(平澤医師)』、私は「経口内視鏡」を「鎮静薬」つきで「検査」しているが、医者が悪いのか「苦しさ」をいつも感じる。
・『高機能化で超早期がんがわかる  経口内視鏡は近年、高機能化が進んでいるという。画像は最新機器だとフルズームで約100倍まで拡大観察できるようになり、NBI(狭帯域光観察:きょうたいいきこうかんさつ)と呼ばれる特殊な波長の光を使った観察も可能になっている。 「NBIでは、通常の光ではわかりにくいがん特有の血管構造などを強調させて観察できます。このおかげで、普通なら見つけられない2ミリ程度の“超早期がん”も発見できるようになりました」(平澤医師) 注意点としては、検査後、鎮静薬から覚めて意識がはっきりするまで、30~60分ほど横になって休む必要がある点だ。検査後に車の運転はできないなどの行動制限もある。 一方、経鼻内視鏡では、鼻血を予防する薬を鼻の穴にスプレーした後、ゼリー状の局所麻酔薬を注入する。これでスコープ挿入時の痛みが抑えられるため、前処置として鎮静薬を使用しないケースが多い。 経鼻内視鏡で使用するスコープの直径は約5~6ミリ。経口内視鏡の約半分の細さであることや、スコープが舌の根元に触れないため、嘔吐感が少なく、比較的楽に検査ができる。 「経鼻なら検査を受けている間、医師や看護師と一緒にモニターを見て、会話もできます。検査後の休憩も必要なく、行動制限がない点はメリットですね」(平澤医師) ただし、鼻腔内が狭いと、スコープが鼻の中を通過する際に痛みが出ることもあるという。また、鼻中隔(鼻の左右を分けている壁)の曲がっている人や、副鼻腔炎や鼻アレルギー、花粉症などで鼻づまりがあると検査できないケースも。鼻腔内の状態によっては、経鼻内視鏡を予定していても、経口内視鏡に変更となるケースもあるという。 何より、経鼻内視鏡は経口内視鏡よりもカメラの性能や画質の点でやや劣り、拡大観察もできないと平澤医師。 「『痛い検査は嫌だが、多少の休憩時間はとれる』という人は経口、『多少痛くてもいいが、休憩時間がとれない』という人は経鼻と、それぞれのメリットとデメリットをよく考慮して決めていただければと思います」) 胃がんは現在、日本人のがん死亡者数では1位の肺がん、2位の大腸がんに次いで3位(国立がん研究センター「がん統計2022」より)だ。 50歳前後から、とくに男性で急に罹患率が高まる。自治体の胃がん検診も50歳以上を対象としているが、「胃カメラは50代のうちに一度は受けること」を平澤医師は強く勧める。 「がんの多くがそうであるように、胃がんでも早期には症状が出ません。これといって気になる症状がないという人でも、50歳を過ぎたら一度は胃カメラを受けておくといいと思います」(平澤医師)』、「経鼻内視鏡」は楽そうだが、「経口内視鏡よりもカメラの性能や画質の点でやや劣り、拡大観察もできない」のであれば、やはり「経口内視鏡」を続けよう。
・『バリウムとの違い、検診について  ところで、胃がんの検査といえばバリウム検査(胃X線検査)を思い浮かべる人もいるだろう。2016年には検査の選択肢に胃カメラも加わったものの、いまも多くの自治体の胃がん検査で行われている。 現在は、バリウム検査であれば40歳以上を対象に年1回、胃カメラの場合で50歳以上を対象に2年に1回の受診が推奨されている。50歳以上であれば、バリウム検査か胃カメラかの検査方法を住民自身で選べることが多い。 ちなみにバリウム検査とは、バリウム(造影剤)を飲んで発泡剤(炭酸)で胃を膨らませ、X線(レントゲン)を連続的に照射しながら撮影する検査だ。体位を変えながらレントゲン撮影することで、バリウムが粘膜の表面を滑り落ちていく様子を観察する。それによって、食道、胃、十二指腸のポリープ、隆起、陥凹などの有無を捉えることができ、潰瘍やがんの存在もわかる。 平澤医師は胃がん検査ではバリウム検査ではなく、胃カメラを推奨する。バリウム検査では、バリウムを胃粘膜表面に付着させて凹凸を見分けるため、早期がんの小さな凸凹は見つけにくい。さらに、胃内に胃液などの液体が多い場合には、バリウムが薄まり、検査の精度が低くなってしまうという。 「バリウム検査でもある程度、早期がんは見つかりますが、2センチ以上の大きさでないと検出しにくい。2センチぐらいだと早期がんの場合もありますが、進行がんで見つかるケースもあります」(平澤医師) これに対し、胃カメラであればわずか数ミリという“超早期の胃がん”も見つけることができ、治療も内視鏡ですむ。早期の胃がんの生存率は高く、5年生存率は96.7% とされている。 さらに胃カメラは近年、機能にAI(人工知能)技術が加わり、進化を続けている。 「画像にがんやポリープなどが確認されるとアラートが出る機能や、ポリープとがんを見分けることのできる機能の付いたAIシステムも出てきています。こうした機能により、超早期のがんが発見しやすくなりつつあります」(平澤医師) ただ、AIはあくまでも医師のサポートであり、最終的な診断は医師が行うものだ。胃カメラでいかに早期のうちにがんを発見できるかは医師の腕にかかっている。) 「正直、胃カメラを操作する技術のクオリティは医師によって異なります」と平澤医師。こう続ける。 「つまり、“同じがんでもそれを見つけられる医師と見つけられない医師がいるということ”です。せっかく検査を受けるのであれば、消化器内科や消化器外科で、日本消化器内視鏡学会専門医の資格を持つ医師を選びましょう。ネットの口コミよりも、身近な人たちが実際に検査を受けて、勧める病院や医師のほうが信頼できると思います」(平澤医師)』、「胃カメラは近年、機能にAI・・・技術が加わり、進化を続けている。 「画像にがんやポリープなどが確認されるとアラートが出る機能や、ポリープとがんを見分けることのできる機能の付いたAIシステムも出てきています。こうした機能により、超早期のがんが発見しやすくなりつつあります」、もはや「バリウム検査」は古臭い。
・『若くても受けたほうがいい人とは?  がん検診とは別に、20代、30代の若い人でも胃カメラを受けたほうがいい場合があると、平澤医師は言う。それは、“ピロリ菌感染歴のある人や胃がんになった人が家族にいるケース”だ。 「ピロリ菌感染が胃がんの主な原因だとわかっています。ピロリ菌感染の有無をできるだけ早い段階で調べて、感染があれば速やかに除菌する。ピロリ菌による感染期間が短く、ピロリ菌感染による胃粘膜の萎縮がまだ見られない段階で除菌ができれば、胃がんリスクはぐっと低くなります」(平澤医師)』、私は幸い「ピロリ菌感染」はしてないようだ。 

次に、7月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家&教育・介護アドバイザーの鳥居りんこ氏による「白衣を見るだけで血圧上昇?病院恐怖症の人が医者に上手にかかる法」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/326716
・『病院に行くのが怖くて緊張するという人は多い。「もし大変な病気だったら……」「病院に行っても改善しなかったら……」「怖い医者だったらどうしよう……」「自分の症状を本当にわかってもらえるか……」などなど、次から次へと心配事が浮かび、余計に緊張してしまうということもなきにしもあらず。ただでさえ、「病院に出向く」のは面倒なのに、これでは、より一層、気が重くなりそうだ。 しかし、医者にかかる上手なコツがわかっていれば、緊張や不安も少しは減るのではないだろうか。 しんどい「お腹の悩み」を、消化器内科の名医にスッキリ解決してもらう当シリーズ、4回目の今回は「医者への上手なかかり方」をお伝えしよう』、興味深そうだ。
・『患者は緊張するのが当たり前 医療ウェアを見るだけで血圧が上がる人も  先頃『消化器内科の名医が本音で診断 「お腹のトラブル」撲滅宣言』(双葉社)を上梓した、湘南いしぐろクリニック院長の石黒智也氏は「病院で緊張するのは当然」と言い切る。 「病院は患者さんにとっては、非日常空間。待合室では誰もが、大なり小なりは不安でしょう。自分以外の人が落ち着き払って、余裕の表情をされているように見えても、内心は皆さん、ドキドキかもしれません。特に初対面の医者にかかる際は、ちゃんと伝わるかな……、冷たい対応をされたら……と不安になり緊張しますよね。 ただでさえ具合が悪いのに、誰だかよくわからない人につらい症状を訴えなければならないんですから、緊張したり、ブルーな気持ちになるのは当然です。まずは、緊張するご自分を『病院に来たんだから、無理もないよ。それが、普通だよ』と落ち着かせてください」 実際、病院で医療ウェアを着た人を見るだけで血圧が上がってしまう患者は多いという。原因は医者や看護師を前にして、緊張してしまうから。心身が「興奮モード」の時に活発化する交感神経が優位になった結果、一時的な血圧上昇に見舞われるのだそう。 「患者さんには、今、困っていることを診察室で自由に話してもらいたいです。話をしているうちに緊張もほどけてきますし、こちらも患者さんの言葉や動作から、今置かれている環境や状態を推察できるので、総合的な判断がつきやすくなるんですね。 特に、お腹の病はとてもデリケートな疾病。治療には医者が患者さんの様子をじっくりと観察し、お話をうかがうことが必要です。そのためにも、基本的には、医者に何でもざっくばらんに打ち明けてほしいです」と石黒医師。 ただし、病院の多くは沢山の患者を抱えているため、ひとりひとりに長い時間をかけることが事実上、難しいという問題もある。事実、治療とは関係ない世間話を始める患者もいると聞く。それをやられると、医者側も対処に困ることだろう。 やはり、病に打ち勝つには、患者と医者がより的確な症状の情報交換をしなければならないのだ。そのために石黒医師は、患者に教えてもらいたいという6項目を挙げている』、「患者に教えてもらいたいという6項目」とは便利だ。
・『医者が患者から教えてもらうと助かる情報  1 いつから 2 どこの、どんな症状が気になっているか? 3 今までも、こういうことがあったか? 4 痛みに波はあるか?(ずっと痛いか、それとも時々、痛むのか?) 5 熱はあるか? 6 便通はどうか?(下痢なら1日何回、便秘なら何日に1回) 「医者にご自身の症状をうまく伝える自信のない方は、1~6の情報を記載したメモを最初に見せてください。ご質問があれば、併せて箇条書きにしてくれると助かります。『結局、言いたいことも言えず、聞きたいことも聞けなかった』という状態では、治るものも治りません。快癒のためには、患者さんと医者の共闘が必要ですから、この6項目をはじめに教えてくださいね」) さらに、消化器内科では、医者と患者の的確な情報交換には「ウンコー日誌」も大切な資料になる。 「連載第1回の『下痢編』でも詳しくお伝えしましたが、お腹やうんちのことで悩みがある方は、拙書の付録にあるような『ウンコー日誌』をぜひ、ご持参ください。ウンコー日誌は排便の記録です。手帳のメモ書きでも構いませんが、少なくとも1週間分は見せていただきたいです。 意外と、排便の回数や便の状態をきちんと把握されていない患者さんは多いです。受診の際は、医者にできるだけ具体的に症状の重さや排便回数を伝えることも快復への重要なポイントになります」 消化器内科医が欲しい腹痛&排便情報は次の5つ。 (1) 便の回数(その日、何回出たか) (2) 便の状態(便秘・コロコロ便・普通便・下痢) (3) 便の量(多・中・少) (4) 痛みのレベル(10段階の自己評価) (5) 思い当たる原因のメモ(夕飯に焼肉・大事なプレゼン前など)』、「消化器内科医が欲しい腹痛&排便情報」、もさもありなんだ。
・『医者に「うんち」の状況を的確に伝えるスマホの利用法  さらに、現代ならではの「見せてほしいもの」があると石黒医師は言う。 「それはスマホで撮った便の様子です。前回の記事で『血便をスルーしない!』ということを申し上げましたが、便の色も診断の重要な資料になります。例えば、『うんちが黒い』ということを心配した患者さんが受診された場合。医者サイドが想像する黒はコールタールのような黒なんですが、実際には『いつもより黒っぽいだけ』というのも、よくあるケース。) このように、口で微妙な色を表現するのは難しいです。しかし、今の時代には“写メ”があります。うんちが何か変だなと思ったら、パシャリと撮って、医者に見せる。これで、双方の誤解は回避されます。うんちを恥ずかしく思う必要はありません。何故ならば、消化器内科医はうんちの専門家。うんちを見るのも仕事です。しかし、患者さんでたまにおられますが、現物は衛生上、持ってこないでくださいね(笑)」 ちなみに、血便は赤も気になるが、黒も血が混じっている可能性あり。白が連日、続いているならば、胆汁が止まっているかもしれず、胆石や胆管炎、酷いケースだと胆管がん、すい臓がんの恐れもあるそうなので、自分の便が硬いのか、軟らかいのかを把握するのと同時に、色も気にかけておいたほうが良さそうだ』、「今の時代には“写メ”があります。うんちが何か変だなと思ったら、パシャリと撮って、医者に見せる。これで、双方の誤解は回避されます」、これは便利だ。
・『医者の喜びは患者の笑顔 有意義な「作戦会議」を  石黒医師は力を込めて、こう語る。 「医者の喜びは、患者さんが治って、笑顔になること。これがすべてです」 そのためには、我々患者側の協力は欠かせない。まずは、自身の症状を具体的に把握し、医師に伝えることが大事だ。 残念ながら、お腹のトラブルは1回や2回の診察で完治とするほど簡単な病気ではないことが多いらしい。基本的には、状況に応じて、いろいろ薬を試しながら、長期戦で治療していくことがむしろ普通。ゆえに診察室は、病に打ち勝つための、患者と医者との“作戦会議”の場とも言えるだろう。 限られた診療時間の中で、医者が最大限のパフォーマンスを発揮するためにも、そして患者自身が「病を治す!」という方向に舵を切るためにも、意味のある“作戦会議”にするべく これまで述べたことを参考にしてほしい。 次回は、共に病と戦うことになる医者を患者はどのように選べばいいのかをお伝えしよう。 (【監修】石黒智也氏の略歴はリンク先参照)』、「残念ながら、お腹のトラブルは1回や2回の診察で完治とするほど簡単な病気ではないことが多いらしい。基本的には、状況に応じて、いろいろ薬を試しながら、長期戦で治療していくことがむしろ普通。ゆえに診察室は、病に打ち勝つための、患者と医者との“作戦会議”の場とも言えるだろう」、私は短期なので、「長期戦」はできれば避けたいところだが、そうせざるを得ない場合にはやむを得ないだろう。
タグ:東洋経済オンライン (その39)(【胃カメラ】バリウムとの違い、楽な受け方は? 基本は50代以降、20~30代で検査が必要な人も、白衣を見るだけで血圧上昇?病院恐怖症の人が医者に上手にかかる法) 東洋経済オンライン医療取材チームによる「【胃カメラ】バリウムとの違い、楽な受け方は? 基本は50代以降、20~30代で検査が必要な人も」 医療問題 「上部消化管内視鏡検査」だ。スコープの先に付いた小さなカメラによって、胃だけではなく、カメラが通過する喉や食道、十二指腸を含めた上部消化器官内のポリープやがん、炎症などを調べることができる 「経鼻内視鏡」は楽そうだが、「経口内視鏡よりもカメラの性能や画質の点でやや劣り、拡大観察もできない」のであれば、やはり「経口内視鏡」を続けよう。 私は「経口内視鏡」を「鎮静薬」つきで「検査」しているが、医者が悪いのか「苦しさ」をいつも感じる。 「胃カメラは近年、機能にAI・・・技術が加わり、進化を続けている。 「画像にがんやポリープなどが確認されるとアラートが出る機能や、ポリープとがんを見分けることのできる機能の付いたAIシステムも出てきています。こうした機能により、超早期のがんが発見しやすくなりつつあります」、もはや「バリウム検査」は古臭い。 私は幸い「ピロリ菌感染」はしてないようだ。 ダイヤモンド・オンライン 鳥居りんこ氏による「白衣を見るだけで血圧上昇?病院恐怖症の人が医者に上手にかかる法」 「医者への上手なかかり方」をお伝えしよう 「患者に教えてもらいたいという6項目」とは便利だ。 1 いつから 2 どこの、どんな症状が気になっているか? 3 今までも、こういうことがあったか? 4 痛みに波はあるか?(ずっと痛いか、それとも時々、痛むのか?) 5 熱はあるか? 6 便通はどうか? この6項目をはじめに教えてくださいね」 『ウンコー日誌』をぜひ、ご持参ください。ウンコー日誌は排便の記録です 消化器内科医が欲しい腹痛&排便情報は次の5つ。 1) 便の回数(その日、何回出たか) (2) 便の状態(便秘・コロコロ便・普通便・下痢) (3) 便の量(多・中・少) (4) 痛みのレベル(10段階の自己評価) (5) 思い当たる原因のメモ(夕飯に焼肉・大事なプレゼン前など) 「今の時代には“写メ”があります。うんちが何か変だなと思ったら、パシャリと撮って、医者に見せる。これで、双方の誤解は回避されます」、これは便利だ。 「残念ながら、お腹のトラブルは1回や2回の診察で完治とするほど簡単な病気ではないことが多いらしい。基本的には、状況に応じて、いろいろ薬を試しながら、長期戦で治療していくことがむしろ普通。ゆえに診察室は、病に打ち勝つための、患者と医者との“作戦会議”の場とも言えるだろう」、私は短期なので、「長期戦」はできれば避けたいところだが、そうせざるを得ない場合にはやむを得ないだろう。
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決済(その10)(「改悪」と呼ばれたPayPayのサービス変更 お得さを失ったQRコード決済の今後は、「ペイペイ」が他社クレカを締め出した本当の理由…「顧客離れ」のリスクを冒してでも) [金融]

決済については、本年4月16日に取上げた。今日は、(その10)(「改悪」と呼ばれたPayPayのサービス変更 お得さを失ったQRコード決済の今後は、「ペイペイ」が他社クレカを締め出した本当の理由…「顧客離れ」のリスクを冒してでも)である。

先ずは、本年6月5日付け日経ビジネスオンラインが掲載したフリーライターの佐野 正弘氏による「「改悪」と呼ばれたPayPayのサービス変更、お得さを失ったQRコード決済の今後は」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00297/052400126/
・『2023年5月1日、スマートフォン決済の「PayPay」がクレジットカードの新規登録および利用を停止するなどいくつかの変更を発表し波紋を呼んでいる。 だがクレジットカードに関する制限やポイント付与の縮小などは、ここ最近他のスマートフォン決済でも見られる。お得さを武器に利用者を増やしてきたQRコードベースのスマートフォン決済が曲がり角に差しかかっている様子が見えてくる』、興味深そうだ。
・『クレジットカードの利用停止などで批判が噴出  ゴールデンウイークに入った2023年5月1日、PayPayが提供するスマートフォン決済の「PayPay」がSNSを大きくにぎわせることとなった。その理由は同社が発表したサービス内容の変更にある。 1つは2023年8月1日以降、クレジットカードを利用した決済が使えなくなるというもの。PayPayは事前に料金をチャージして決済する方法だけでなく、登録したクレジットカードを使い、ある意味クレジットカードのスマートフォン決済インターフェースとして使うことも可能だった。だが2023年7月初旬にクレジットカードの新規登録を停止し、8月以降は登録自体が解除され、この使い方が利用できなくなる。 PayPayのWebサイトより。2023年8月以降「PayPayカード」などの例外を除いて、PayPayにクレジットカードを登録して利用することは基本的にできなくなるという (出所:PayPay) 一方、PayPayの子会社が提供する「PayPay カード」「PayPayカード ゴールド」は、7月初旬までに登録済みの場合継続利用が可能であるほか、それ以降も利用した金額を翌月にまとめて支払う「PayPayあと払い」に登録すれば利用できるという。グループのサービスは優遇する方針のようだ。 そしてもう1つは、同じく2023年8月1日より、「ソフトバンク・ワイモバイルまとめて支払い」でPayPayに残高をチャージする際、今まで不要だった手数料がかかるようになるというもの。 これはソフトバンクやワイモバイルの通信料金と合算で支払う、いわゆる「キャリア決済」と呼ばれるものだ。8月以降は毎月初回のチャージに手数料はかからないものの、2回目以降は2.5%の手数料がかかるようになる。 これら一連の措置は、率直にいってしまえば利用者にはデメリットしかない。それだけに一連の発表以降、SNSでは「PayPay改悪」との声が相次ぎ大きな注目を集めることとなった』、「PayPayにクレジットカードを登録して利用することは基本的にできなくなる」、「キャリア決済」「2回目以降は2.5%の手数料がかかる」、なぜ「PayPay改悪」が行われたのだろうか。
・『親会社の成長のため規模拡大から利益重視へ  今回変更されたサービスは、いずれも決済時に手数料を支払う必要がある。このため一連の措置は、PayPayが手数料の支出を抑える狙いが大きいだろう。 クレジットカードでの決済はキャンペーンなどを含めポイント還元の対象外となることが多かったし、ソフトバンク・ワイモバイルまとめて支払いも対象が各サービスの利用者に限られることから、いずれもPayPay利用者全体に占める割合は小さいと考えられる。 そうしたことからPayPayは、一連の変更を打ち出しても利用者に大きな影響は出ないとみていたかもしれない。これだけネガティブな反応が起きたことはPayPayとして想定外だっただろうが、少なくとも記事執筆時点(2023年5月3日)では何らかの緩和策が打ち出される様子はない。 利用者から反発を受けてもなお、手数料を削減し利益重視へとかじを切っている理由は、PayPayの業績を黒字化するためだろう。PayPayはこれまで顧客や加盟店の拡大のための投資で赤字が続いていたが、最近その赤字を抑制する動きが強まっている。 PayPayは2022年度時点で連結決済取扱高が10兆円を超えており、登録利用者も2023年4月時点で5700万人を突破。加盟店数も登録箇所数が累計で410万超に達するなど、QRコードベースのスマートフォン決済サービスでは頭一つ抜きんでた存在となっている。規模の面で他社に優位性を獲得したこともあって、投資から回収へとかじを切りつつあるのではないだろうか。 Zホールディングスの2022年度通期決算説明会資料より。急成長を遂げたPayPayは2022年度で連結決済取扱高が10兆円を超え、スマートフォン決済の中でも大きな存在感を示している (出所:Zホールディングス)) 特に現在は、PayPayの親会社であるソフトバンクが政府主導による携帯料金引き下げで厳しい状況にある。もう1つの親会社であるZホールディングスも、LINEとの経営統合による事業整理が進まず低迷が続いている。 それだけにグループ全体での成長を実現するべく、PayPayが黒字化を急ぐ必要に迫られたといえそうだ』、「利用者から反発を受けてもなお、手数料を削減し利益重視へとかじを切っている理由は、PayPayの業績を黒字化するためだろう。PayPayはこれまで顧客や加盟店の拡大のための投資で赤字が続いていたが、最近その赤字を抑制する動きが強まっている。 PayPayは2022年度時点で連結決済取扱高が10兆円を超えており、登録利用者も2023年4月時点で5700万人を突破。加盟店数も登録箇所数が累計で410万超に達するなど、QRコードベースのスマートフォン決済サービスでは頭一つ抜きんでた存在となっている。規模の面で他社に優位性を獲得したこともあって、投資から回収へとかじを切りつつあるのではないだろうか」、なるほど。
・『他のスマートフォン決済サービスでも進む「改悪」  ただスマートフォン決済サービスの動向を見るに、クレジットカードなどの手数料がかかるサービス利用時の「改悪」が進んでいるのはPayPayだけではない。 同じソフトバンクのグループ内のサービスでいえば、LINEの「LINE Pay」も2023年に「Visa LINE Payクレジットカード」での利用特典を変更。LINE Payにこのカードを登録して残高をチャージせずに支払う「チャージ&ペイ」利用時のポイント還元特典を、2023年4月に終了している。 他社の最近の事例では、KDDIの「au PAY」もクレジットカードに関連した変更を行っている。具体的には、「au PAYカード」を使って残高をチャージした際に従来は100円ごとに1ポイント還元されていたのが、2022年12月より還元の対象外となり、「au PAYゴールドカード」でチャージしたときの特典も縮小されている。 「au PAY」も2022年末にクレジットカード利用に関する変更が行われ、「au PAYカード」を利用して残高をチャージした際もポイント還元の対象外となった (出所:auフィナンシャルサービス) これについてもソフトバンクやZホールディングスと同様に、グループ会社の業績不調が影響しているといえよう。PayPayだけでなく他のスマートフォン決済も、基本的には携帯電話会社やその傘下の企業が提供、あるいは携帯電話会社と提携している。このため携帯電話会社とそのグループがスマートフォン決済の中心となっていることは間違いない。 そして携帯4社のうち、楽天モバイルは先行投資による大幅な赤字に苦しんでいるし、NTTドコモやKDDIもソフトバンクと同様政府主導の料金引き下げに加え、最近では電気代高騰が業績に大きな影響を与えるようになっている。 それ故各社とも利益重視の守りの戦略を重視するようになり、スマートフォン決済にもその影響が及んだ結果、利用者からして見れば「改悪」につながる変更が相次いでいるのではないだろうか。 それでも以前は、利用者を囲い込むため自社系列のサービス利用時はお得さを維持することに重点を置いてきた。だがau PAYやLINE Payの事例を見るに、系列のサービスを利用してもお得にならないケースが増えているのは気になる。 それだけ各社の経営状況が厳しいのだろうが、このことは複数サービスの利用によるお得さで利用者を囲い込む、いわゆる「経済圏ビジネス」を根幹から揺るがすことにもつながってくる。 確かにスマートフォン決済は、短い期間でお得なキャンペーンを連発したことで消費者に定着したが、電子マネーやクレジットカードのタッチ決済などと比べた場合、利用するのに手間がかかり不便な部分が多い決済手段でもある。 それだけにお得さを大きく打ち出せなくなった今後も、他の決済手段と比べ優位性を保てるのかは気がかりなところだ。 [日経クロステック 2023年5月15日掲載]情報は掲載時点のものです』、「確かにスマートフォン決済は、短い期間でお得なキャンペーンを連発したことで消費者に定着したが、電子マネーやクレジットカードのタッチ決済などと比べた場合、利用するのに手間がかかり不便な部分が多い決済手段でもある。 それだけにお得さを大きく打ち出せなくなった今後も、他の決済手段と比べ優位性を保てるのかは気がかりなところだ」、「優位性を保」つのは相当難しそうだ。

次に、6月14日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「「ペイペイ」が他社クレカを締め出した本当の理由…「顧客離れ」のリスクを冒してでも」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/111622?imp=0
・『不自然に見える急なコスト回収  スマートフォン(スマホ)決済最大手のPayPay(ペイペイ)が、8月から他社クレジットカードの利用を停止する。自社カードへの誘導が目的だが、他社カードを使う顧客を多数失う可能性がある。それでも他社カード排除に踏み切った背景には、親会社であるZホールディングス(ヤフーやLINEなどを運営)の成長鈍化と、ライバルである楽天の危機が密接に関係している。 PayPayはスマホ決済を実行するにあたり、銀行口座からのチャージ、クレジットカード払いなど、複数の手段から選択できるようになっている。これまでは、どのクレジットカード会社のカードでも登録できたが、8月以降はPayPayが発行するPayPayカード以外は利用できなくなる。 スマホ決済は同社が大規模なキャンペーンを展開したことで、すでに5700万人の利用者を獲得しており、ほぼ独走状態となっている。しかしシェア獲得に費やしたコストも大きく、それをどのように回収するのかが最大の課題となっていた。 利用者が他社クレジットカードを使う場合、同社が手数料を支払わなければならず、このコストが同社の収益を圧迫している。他社カードを締め出せば、当該コストを削減できるのは間違いないが、一方で大事な顧客を他社に奪われ、シェア低下を招く危険性がある。 すでに高いシェアを獲得している同社としては、顧客の囲い込みを行ったとしても、他社サービスへの流出は最小限に食い止められるとの判断があったことは想像に難くない。 また、カードが使えなくなっても、銀行からのチャージにすれば引き続き決済は可能であることから、それほど大きな影響はないとの見方もある。しかしながら、他社カード締め出しによって一定数の顧客が同社から離れてしまうのは確実だろう。 巨額の先行投資が必要であることや、シェア獲得後は、手数料の引き上げなどを通じて、初期投資を回収する必要があることは当初から想定済みだったはずだ。ここに来て、シェア低下のリスクを冒してまで、収益改善フェーズにシフトしたことは少々不自然に見える』、「ここに来て、シェア低下のリスクを冒してまで、収益改善フェーズにシフトしたことは少々不自然に見える」、なるほど。
・『急転換の「2つの理由」  同社が方針を急転換した背景には2つの理由があると考えられる。 ひとつは同社の業績が伸び悩んでおり、ソフトバンクグループ内での立ち位置が急速に悪化していること。もうひとつはEC(電子商取引)分野での最大のライバルである楽天が危機的状況に陥っており、楽天の牙城を崩す千載一遇のチャンスとなっていることである。 Zホールディングスは、傘下にヤフーやLINE、PayPayなど持つソフトバンクグループの企業である。LINEが持つ9000万人の顧客層を原動力に、EC(電子商取引)の分野で楽天を追い越し、グローバル市場に進出するというのが同社の基本戦略であった。 だが現実はかなり厳しい。 同社の国内物販系の取扱高は、2020年は2兆6712億円、2021年は2兆9525億円、2022年は2兆9880億円と伸び率の鈍化が鮮明となっており、しかもショッピング事業に至っては、前年比マイナスを記録した。 一方、2022年における楽天の国内EC流通総額は5.6兆円と1.8倍もの差がついている(厳密に言うと、両者の定義は同一ではないが、おおよその事業規模比較には十分と考える)。 金融事業でも楽天との差が際立つ。 PayPayは2023年4月、2022年度における決済取扱高が10兆円を突破したと発表したが、これはPayPayカード分(2.3兆円)とPayPay(7.9兆円)を合算した数字である。 これに対して、楽天はカードの取扱高だけで年間18兆円を超えており、これに楽天Edyの決済が加わる。楽天Edy単体の決済額は不明だが、PayPayに次ぐシェアがあることを考えると、さらに数字が上乗せされる』、「PayPay」の業績が伸び悩んでおり、ソフトバンクグループ内での立ち位置が急速に悪化していること。もうひとつはEC(電子商取引)分野での最大のライバルである楽天が危機的状況に陥っており、楽天の牙城を崩す千載一遇のチャンスとなっていることである」、「楽天」の「金融事業」ははるかに規模が大きいようだ。
・『創業以来の危機に瀕する楽天  PayPayの利用者自体は5700万人と飽和状態となりつつあるため、ここからさらに業容を拡大するには、ライバルである楽天から顧客を奪うしか方法がない。 インフラ系のビジネスはシェアが絶対的な意味を持っており、後れを取っている企業がシェアを挽回することは容易ではない。加えて、自社カードへの誘導を強めれば、それに反発する利用者も出てくるため、マイナスの影響も大きくなる。 それにもかかわらず同社がカード利用者の囲い込みを決断したのは、ライバルの楽天が、創業以来、最大の危機に直面しているからである。 1997年に創業した楽天は、国内EC事業者としては圧倒的な地位を確保してきた。2000年に上場した際には、当時としては過去最高額の資金を調達し、自己資本比率95.2%という圧倒的な財務体質を誇っていた。 同社はグローバル戦略を掲げ、豊富な資金を背景に次々と諸外国のネット企業を買収したが、一連の買収はあまりうまくいかなかった。 同社は当初の理想とは正反対に、楽天市場を中心に、楽天証券や楽天銀行など国内EC市場や金融市場で商圏を拡大する純然たるドメスティック企業になった。 だが日本は今後、急激な人口減少が予想されており、国内市場は縮小する一方である。成長鈍化という問題に直面した楽天は2017年12月、とうとう携帯電話事業への新規参入を決断してしまう。 携帯電話は巨額の設備投資を必要とする典型的なオールド・ビジネスであり、しかもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの寡占状態となっており、新規参入にとっては圧倒的に不利な市場環境にある』、「楽天」は「2000年に上場した際には・・・自己資本比率95.2%という圧倒的な財務体質を誇っていた」。しかし、「2017年12月、とうとう携帯電話事業への新規参入を決断してしまう。 携帯電話は巨額の設備投資を必要とする典型的なオールド・ビジネスであり、しかもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの寡占状態となっており、新規参入にとっては圧倒的に不利な市場環境にある」、本当に馬鹿げた意思決定をしたものだ。
・『ライバルのピンチがチャンス  同社が携帯電話市場に打って出たのは、成長鈍化への焦りが理由であることは確実だが、案の定、携帯電話事業は軌道に乗らず、楽天は4期連続の最終赤字を計上。資金も枯渇し、親子上場にもかかわらず楽天銀行の上場を強行すると同時に、3000億円の公募増資に踏み切った。 楽天は、アマゾンなど外資系の競合他社と異なり、AIを駆使した販売促進ではなく、高額なポイントを付与するという単純な手法で顧客の囲い込みを行ってきた。ポイント獲得に慣れてしまった利用者に消費を拡大してもらうには、さらに高額なポイントを付与するしかなく、キャッシュアウトの大きな要因になっている。 同社の財務体質は急激に悪化しており、もし今回の増資で携帯電話事業を軌道に乗せられなかった場合、大判振る舞いだったポイント制度を含め、大きな方向転換を迫られる可能性が高い。Zホールディングスにとっては、楽天からシェアを奪う最大のチャンスであり、自社カードへの誘導という強硬手段に打って出た。 この施策が功を奏するのかは、現時点では何とも言えない。だが最終的な成否のカギを握っているのは、PayPay側の戦略というよりも、相手方である楽天の経営状態かもしれない』、「楽天は、アマゾンなど外資系の競合他社と異なり、AIを駆使した販売促進ではなく、高額なポイントを付与するという単純な手法で顧客の囲い込みを行ってきた。ポイント獲得に慣れてしまった利用者に消費を拡大してもらうには、さらに高額なポイントを付与するしかなく、キャッシュアウトの大きな要因になっている。 同社の財務体質は急激に悪化しており、もし今回の増資で携帯電話事業を軌道に乗せられなかった場合、大判振る舞いだったポイント制度を含め、大きな方向転換を迫られる可能性が高い」、「大きな方向転換」には「ポイント制度」のような生易しいものだけでなく、ビジネス自体の売却も含まれるだろう。
タグ:日経ビジネスオンライン 佐野 正弘氏による「「改悪」と呼ばれたPayPayのサービス変更、お得さを失ったQRコード決済の今後は」 「PayPayにクレジットカードを登録して利用することは基本的にできなくなる」、「キャリア決済」「2回目以降は2.5%の手数料がかかる」、なぜ「PayPay改悪」が行われたのだろうか。 「利用者から反発を受けてもなお、手数料を削減し利益重視へとかじを切っている理由は、PayPayの業績を黒字化するためだろう。PayPayはこれまで顧客や加盟店の拡大のための投資で赤字が続いていたが、最近その赤字を抑制する動きが強まっている。 PayPayは2022年度時点で連結決済取扱高が10兆円を超えており、登録利用者も2023年4月時点で5700万人を突破。加盟店数も登録箇所数が累計で410万超に達するなど、QRコードベースのスマートフォン決済サービスでは頭一つ抜きんでた存在となっている。規模の面で他 社に優位性を獲得したこともあって、投資から回収へとかじを切りつつあるのではないだろうか」、なるほど。 「確かにスマートフォン決済は、短い期間でお得なキャンペーンを連発したことで消費者に定着したが、電子マネーやクレジットカードのタッチ決済などと比べた場合、利用するのに手間がかかり不便な部分が多い決済手段でもある。 それだけにお得さを大きく打ち出せなくなった今後も、他の決済手段と比べ優位性を保てるのかは気がかりなところだ」、「優位性を保」つのは相当難しそうだ。 現代ビジネス 加谷 珪一氏による「「ペイペイ」が他社クレカを締め出した本当の理由…「顧客離れ」のリスクを冒してでも」 「ここに来て、シェア低下のリスクを冒してまで、収益改善フェーズにシフトしたことは少々不自然に見える」、なるほど。 「PayPay」の業績が伸び悩んでおり、ソフトバンクグループ内での立ち位置が急速に悪化していること。もうひとつはEC(電子商取引)分野での最大のライバルである楽天が危機的状況に陥っており、楽天の牙城を崩す千載一遇のチャンスとなっていることである」、「楽天」の「金融事業」ははるかに規模が大きいようだ。 「楽天」は「2000年に上場した際には・・・自己資本比率95.2%という圧倒的な財務体質を誇っていた」。しかし、「2017年12月、とうとう携帯電話事業への新規参入を決断してしまう。 携帯電話は巨額の設備投資を必要とする典型的なオールド・ビジネスであり、しかもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの寡占状態となっており、新規参入にとっては圧倒的に不利な市場環境にある」、本当に馬鹿げた意思決定をしたものだ。 「楽天は、アマゾンなど外資系の競合他社と異なり、AIを駆使した販売促進ではなく、高額なポイントを付与するという単純な手法で顧客の囲い込みを行ってきた。ポイント獲得に慣れてしまった利用者に消費を拡大してもらうには、さらに高額なポイントを付与するしかなく、キャッシュアウトの大きな要因になっている。 同社の財務体質は急激に悪化しており、もし今回の増資で携帯電話事業を軌道に乗せられなかった場合、大判振る舞いだったポイント制度を含め、大きな方向転換を迫られる可能性が高い」、「大きな方向転換」には「ポイント制度」のような生易しいものだけでなく、ビジネス自体の売却も含まれるだろう。
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