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トランプ訪日と日米関係(その1)(日本人はまだトランプ大統領をなめている、安倍首相のトランプ占いは「吉」か「凶」か、トランプ訪日で浮き彫りになった「アメリカファースト」の真実、トランプがむさぼる8兆円) [外交]

今日は、トランプ訪日と日米関係(その1)(日本人はまだトランプ大統領をなめている、安倍首相のトランプ占いは「吉」か「凶」か、トランプ訪日で浮き彫りになった「アメリカファースト」の真実、トランプがむさぼる8兆円) を取上げよう。

先ずは、スタンフォード大学教授のダニエル・スナイダー氏は11月5日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人はまだトランプ大統領をなめている 3人の偉大な「お守り役」も手を焼いている」を紹介しよう(▽は小見出し。+は段落)。
・計画どおりにすべてが進めば、11月5~7日に予定されている米国のドナルド・トランプ大統領の日本訪問は、大成功を収めるはずだ。 この巧妙に計画された訪問は、1分刻みで予定が入っており、トランプ大統領と安倍晋三首相の非常に親密な関係を示すために巧みに計画されたイベントが目白押しだ。拉致家族との会談から、米軍と自衛隊の前に一緒に姿を現すことまで、今回の訪問は北朝鮮に対して、日米の「統一戦線」を実証するものとなるだろう。
▽日本は世界から「絶縁」された状態にある
・日本の政府関係者は、日本が米国との強固な協調関係をあてにできるだけでなく、安倍首相らがトランプ大統領に対して大きな影響力を及ぼすこともできる、と確信している。日本の国益の観点から、この目的はつじつまが合っている。日本政府の政策立案者たちが指摘するように、日本はトランプ大統領と仲良くせざるをえないのだ。
・しかし、安倍首相以下、日本政府関係者はトランプ大統領に対して期待を持ちすぎではないだろうか。それどころか、日本の政策立案者、いや、日本国民はトランプ大統領の「ヤバさ」を過小評価しすぎではないだろうか。
・米政府が発信するニュースから、日本が隔絶されている、ということはない。しかし、この2年間に欧州や米国を襲った政治的混乱から「絶縁」状態にあるのだ。英国のEU離脱(ブレグジット)から、欧州や米国での選挙に至るまで、欧米では右翼的愛国主義が発生。既存のリーダーや政党、支配体制に対するポピュリストの反発が高まったほか、そこへ人種差別や反移民感情が加わり、これは戦前の欧州でファシズムが拡大した頃を彷彿とさせた。
・日本はグローバリゼーションのこうした一部の反応、とりわけ移民への敵意や愛国主義的感情に対して、免疫がないわけではない。とはいえ、欧米で起こったようなポピュリストの反乱が起きることは、この国では考えがたい。このため、日本人が「トランプ現象」を本質的に理解することは難しいのである。
・ここで改めて、多くあるいは、一部の日本人に欠けているかもしれない米国の現状とトランプ大統領について知ってもらいたい。
 1. 米国はいまや、激しく分裂している(「赤い米国」と「青い米国」というように、米国は政治的に2極化しているが、いまやこの2極化は進み、完全に別の国を形成していると言ってもいいほどだ。それぞれの米国人が読んだり、見たりしている情報源から、住んでいる地域に至るまで、共和党員と民主党員は違う国に住んでいるのだ。そして、日常生活からSNS上まで、互いが交わることはほぼない。
+こうした分裂は報道機関にも影響している。トランプ陣営の報道機関はFOXニュースが主導しているが、スティーブン・バノン氏のブライトバート・ニュースのような強力なオンライン情報源もある。こうしたメディアは、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙のような新聞、CNNやMSNBCで報じられるものとは、ほぼ完全に異なった内容のニュースを流している。
+ベトナム戦争以降、米国にはこれほど激しい分裂は存在しなかった。実際に先般、ワシントン・ポスト紙が発表した世論調査によれば、米国人の10人中7人がいまや、この分裂はベトナム戦争当時に相当する激しさであると考えている。
 2. トランプ大統領は歴史上最も不人気な大統領だ(Twitterのフィードから、ホワイトハウス内の絶え間なく続くドラマに至るまで、トランプ大統領が注目を集めている一方で、同大統領はあっという間に近代史において最も不人気な大統領の1人になってしまった。 ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCニュースの最新の世論調査結果によると、同大統領の支持率はいまや37%であり、9月から5ポイントも下落した。調査対象の約58%、つまりほぼ3人中2人がトランプ氏の大統領としての仕事ぶりを支持していないのだ。
+この「低評価」は、トランプ大統領の核問題に対する対処法から、米国が直面している危機に至るまで影響している。たとえば約51%が、北朝鮮による対応に不支持を表明しているほか、53%が同大統領は最高司令官に不適切だと考えている。比較的「好評価」の経済対策についても、同大統領がうまくやっていると考えているのは、42%にすぎない(しかも、37%はうまくやっていないと考えている)
+これまでのところ特筆すべき功績はなく、肝いりの大型減税も棚上げ状態となっている。「上下両院を支配する政党に所属し、ホワイトハウスに暮らした大統領の中でも、トランプ大統領は非常に劣っている」と、日米関係の専門家で、多摩大学のルール形成戦略研究所のブラッド・グロッサーマン客員教授は述べている。  「彼は『最高破壊責任者』だと言っても過言ではない。何かを壊して混乱を生み出すことで期待を巻き起こすことはできるが、何かを創造する能力には著しく欠けていることが明らかになっている」(グロッサーマン客員教授)。
▽共和党員は単なる共和党員になった
 3.米議会はもはやその機能を果たしていない
・米国の立憲制度では、米議会は政府と分離して対等な立法府として機能することになっていて、無能な、あるいは危険な首脳陣を覆さないまでも、制限を与える責任を持っている。最終的にこれは、大統領の弾劾を意味することにもなる。しかし、上院軍事委員会や、下院外交委員会の会長を含む共和党の上院議員数人が、公に大統領を批判するという異例の行動に出たにもかかわらず、議会が行動準備を整えているといった兆しはほとんど見られない。
+いまや共和党のリーダーたちがトランプ大統領の是非を問う段階にない。それどころか、その活動は「チェックとバランスの立法府、三権分立の権力の一員というよりは、共和党に所属する議員」にとどまっていると、『日本封じ込め』などの著書があるジャーナリストのジェームス・ファローズ氏は『アトランティック』誌に書いている。
 4. トランプ大統領の暴走を止められるかどうかわからない
・議会のリーダーシップがない中、米軍がトランプ大統領の脱線を止めてくれるだろうと多くの人は思っている。現在米国には3人の重要人物がいる。1人は元海兵隊員のジョン・ケリー大統領補佐官、もう1人は現役中将のハーバート・マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官、そしてもう1人は、元海兵隊員のジェームズ・マティス氏である。
+つまり、トランプ政権の外交・安全保障政策の主要ポストは、現役の軍人あるいは元高官で占められている。日米政府関係者の多くは、トランプ大統領による中東あるいは北朝鮮における向こう見ずな軍事行動を、彼らが「止めて」くれるだろうと信じているのである。 彼らのうち、最も信頼がおけるのはマティス氏だろう。同氏は「民間人的な考え方をし、広範な知識があり、歴史をわかっている。トランプ政権の主要ポストに指名された人物の中で、入閣前の評判と威厳を保っているのは彼だ」と、ファローズ氏は話す。
+一方、学者的な軍事指導者と考えられているマクマスター氏は、政権内での力比べに苦心していると見られている。ケリー氏は西アフリカで死亡した兵士に対して、大統領が遺族に無神経な発言をしたとき、大統領を擁護してしまったために、好感度が急降下している。
+今のところ、彼らは予測不可能なトランプ大統領が怒り出して、戦争の引き金を引かせないようにする「防止役」であると、一般的には考えられている。しかし、「長期的には、彼らの存在と重要性はあまりヘルシーな状態にあるとは言えない。なぜなら、通常の文民統制とはかなり違う状態にあるからだ」と、ファローズ氏は指摘する。
 5. トランプ大統領の精神状態
・米国の政策アナリストたちにとって最も厄介な問題は、トランプ大統領が感情的に、そして精神的に安定しているかどうかということだ。精神科医の多くは、同大統領が自己愛性パーソナリティ障害を持っている可能性があるのではないか、と指摘してきた。あるいは、注意力が著しくかけていると指摘する医師もいる。
+たとえば、トランプ大統領はインタビューで、「絶え間なく話題を変え、中途半端な思考を述べたり、中途半端な文章を書いたりするだけではなく、『話題からそれない』ようにすること難しい」と、米国のアジア政策に関して影響力を持つ、ザ・二ルソン・レポート・ニュースレターの編集者、クリス・ネルソン氏は懸念を示す。
+もちろん、正確な診断があるわけではなく、こうした指摘を不謹慎だとする見方もある。また、注意力にかけていたり、精神的問題を抱えていたとしても、重要な職務を果たすことができる人も大勢いる。が、トランプ大統領の場合は、軍事専門家やホワイトハウスのスタッフは、トランプ大統領に要点説明資料を準備する際、大統領の注意を引きつけ続けるための方法を考えなければならないほど周りが奔走している、と伝えられている。
+今回の12日にわたるアジア歴訪は、トランプ大統領にとって就任後、最も長旅となる。こうした中、トランプ大統領の側近は、大統領の注意をそがないための仕掛けや準備に余念がないとされる。大統領の側近にとっては、長い旅行になることは間違いない。
http://toyokeizai.net/articles/-/195890

次に、政治ジャーナリストの泉 宏氏が11月8日付け東洋経済オンラインに寄稿した「安倍首相のトランプ占いは「吉」か「凶」か ドナルド&シンゾー蜜月に「巻き込まれ不安」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・群衆の歓声とカメラやスマホのシャッター音のあふれる"トランプ狂騒曲"が終わった。「世界のお騒がせ男」ドナルド・トランプ米大統領の初訪日は、ファーストドーターと呼ばれるイバンカ大統領補佐官による"露払い"もあって、首都・東京を舞台に6日間にわたる「トランプウイーク」のお祭り騒ぎに沸いた。ファーストネームで呼び合う「ドナルド&シンゾー」コンビ結成で、今回はホスト役の安倍晋三首相は「首脳同士がここまで濃密に深い絆で結ばれた1年はなかった」と得意満面で、アッキーこと昭恵夫人とともに大統領夫妻へのおもてなしに全力投球した。
・視聴率至上主義のテレビ各局はNHKも含めて大統領夫妻や娘の一挙手一投足をライブ映像などでたれ流し、大統領宿泊先の名門ホテルの周辺は、物見高い群衆による喧騒に包まれた。ひときわ目立つ長身ぞろいのトランプ一家は、行く先々で日の丸と星条旗の小旗で歓迎され、「幸せな日本訪問」を満喫しているようにも見えた。
・ただ、最大の焦点の北朝鮮危機への対応は「最大限の圧力」と「すべての選択肢」で「完全に一致」したが、外交的解決への道はかすみ、安全保障を"人質"に日米貿易摩擦解消を迫る大統領に、首相は防戦も強いられた。過去にも例のない日米首脳の「異様な親密さ」も双方の国益一致には直結せず、「世界の安倍」を自認する1強首相も"トランプ占い"の結果は「吉凶相半ば」と見えた。
▽先乗りイバンカ氏が首相らを"悩殺"
・「トランプウイーク」の始まりは2日からのイバンカ補佐官の訪日だった。同日夕、民間機で成田空港に到着したイバンカ氏は水色の上着に黒のパンツという装いで、元モデルらしい長身と小顔で、カメラの砲列に笑顔を振りまいた。本来、大統領補佐官は外交賓客とはいえない事務方にすぎないはずが、「トランプ大統領がいちばん言うことを聞く愛娘」だけに首相ら政府側も「将を射んとすれば……」との格言どおり、重要閣僚級の接遇で対応した。
・イバンカ氏は当初、日本に先乗りしたうえで大統領アジア歴訪に合わせて韓国、中国も訪れる予定だったが、国内事情もあって4日帰国に変更した。日本と同様に「重要賓客」の訪問に期待していた韓国と中国の関係者は、"人気アイドル"のドタキャンにがっくりと肩を落としたとされる。
・才色兼備のイバンカ氏だけに、同氏の公式日程となる3日の「国際女性会議」では首相自身が出迎えや講演前の紹介を行うなど気遣いは半端ではなく、同夜は「大手町の日本旅館」として有名なホテルで歓迎夕食会を開催した。和室の会食でのハイライトとなった雅楽演奏では、曲の途中で3日前に誕生日を迎えたイバンカ氏を祝う「ハッピーバースデー」が奏でられ、気づいたイバンカ氏が「オー!」と口を押さえて喜ぶ姿に、サプライズ仕掛け人の首相もご満悦だったという。
・自らのファッションブランドも持つイバンカ氏は、国際女性会議にはピンクの上着とミニスカートで脚線美を披露、夜の会食には花柄のワンピースに黒のリボンベルトという華やかな装いで首相らを"悩殺"した。4日朝の散歩も含め、TPOを意識したイバンカファッションはモデルさながらだったが、首相らとの会話の中では、大統領補佐官としてトランプ外交を支える手腕も垣間見られたとされる。
▽会食は肉づくし、ゴルフ対決も接待優先
・主役のトランプ大統領は、娘の帰国した翌日の5日午前、大統領専用機「エアフォースワン」でメラニア夫人とともに都下の米軍横田基地に降り立った。大統領は同基地内で行われた歓迎式で世界最強を誇る米軍の最高司令官としてスピーチし「どんな独裁者もアメリカの決意を過小評価してはいけない」と北朝鮮を強く牽制。「USAコール」が響く会場で米軍兵士や自衛隊の面々と握手を繰り返した後、専用ヘリコプター「マリーンワン」で埼玉県下の霞ケ関カンツリー倶楽部に移動し、今年2月以来の首相とのゴルフ対決に興じた。
・世界の目を意識してか、ゴルフ場なのに双方とも背広姿で再会した大統領と首相はまず、クラブハウスでわざわざシェフを招いて焼き上げた米国産牛肉を挟んだハンバーガーをぱくつき、記念の帽子にサインし合って親密ぶりをアピールした。ステーキ大好きの大統領と焼き肉大好きの首相だけに、その後の3回の会食もすべてメインデイッシュは和牛の肉づくし。「ステーキはウエルダン(十分焼く)でケチャップたっぷり」というトランプ流に、首相だけでなくシェフたちも苦笑しながら調子を合わせたとされる。
・米プロゴルフツアーで活躍する松山英樹選手も交えてのゴルフプレーでは「勝負はデッドヒート」(首相)となったとされるが、首相がファーストパットで大きくオーバーした球を大統領が笑って拾い上げるなど、和気あいあいの接待ゴルフでもあった。ただ、わずか90分足らずのハーフラウンドでも、首相は「リラックスする中で難しい話もできた」と納得顔。ただ、プレーの合間の2人だけの「密談」は日米外交史の隠された1ページとなった。
・ゴルフに続いて、東銀座の高級ステーキハウスで夫人同伴の夕食を楽しんだ両首脳は、翌6日には迎賓館での昼食会も含めた日米首脳会談と共同記者会見という公式行事をこなし、同じ場所の晩餐会で「とても楽しい訪日」(大統領)を締めくくった。晩餐会にはイバンカ氏の娘(大統領の孫)がファンになった「ペン、パイナッポー、アッポーペン」が世界で大ヒットした歌手のピコ太郎さんも招かれ、大統領夫妻との軽妙な掛け合いが参会者の笑いを誘った。
・こうした合計9時間半にも及ぶ首脳交流は過去に例のない華やかさで、イバンカ氏の"露払い"訪日も合わせた6日間の"トランプウイーク"は、「安倍外交のプライムタイム」(外務省)となり政府高官も「大成功」と胸を張った。しかし、一連の首脳協議での重要テーマだった北朝鮮危機や対中国外交、さらには日米貿易摩擦などへの対応では軋轢もあり、「日米外交の難しさ」も垣間見られた。
▽安倍外交のプライムタイムには"落とし穴"も
・4日にハワイに立ち寄って日米開戦の地・真珠湾に沈んだ戦艦アリゾナの犠牲者を慰霊した大統領は、ツイッターに「リメンバー・パールハーバー」と書き込んだ。横田基地のスピーチでは日本を「宝のようなパートナーで、誇り高い歴史を持っている」と絶賛した大統領だが、過去の日本軍の米国奇襲への複雑な思いがにじんだ瞬間でもあった。
・5度目となった6日の日米首脳会談での最優先議題は当然、ICBM発射や核実験を繰り返す北朝鮮への対応だった。両首脳は過去の対話を無視して暴走する北朝鮮に対し、日米両国が「最大限の圧力をかける」ことで一致し、共同会見でも「日米が100パーセント共にあることを力強く確認した」(首相)、「われわれは黙って見ていない。戦略的忍耐の時期は終わった」(大統領)と共に強い言葉で北朝鮮を牽制した。
・ただ、こうした日米首脳の言動に対して北朝鮮は機関紙・労働新聞を通じて「破滅を免れたいなら滅多に口を開くな」と恫喝するなど対話の気配はまったく見せない。非公表になったとされる米朝軍事衝突時の韓国からの邦人退避策協議が、解決の方途もない事態の深刻さを物語る。武力行使を含む「すべての選択肢がテーブルの上にある」と繰り返す大統領の対北戦略を、首相が「完全に一致している」と明言したことで、「日本が巻き込まれるリスクが高まった」(元外務省高官)ことも否定できない。
・さらに両首脳は対北戦略で「中国が大きな役割を果たすことが重要」と口をそろえたが、直ちに中国外務省が「誰からも言われる必要はない」と不快感を示すなど、中国との連携も困難視される状況だ。日本にとって、米国と完全に手を組んでの対中外交は、軍事衝突に徹底反対している韓国との協議とも合わせて、「安倍外交の重大なネック」(自民幹部)ともなりかねない。
・一方、日米貿易でも両首脳の立場は食い違った。巨額の対日貿易赤字を問題視する大統領は、6日朝の日米企業家との会合で「日米貿易は公平でない」と批判した。大統領は首脳会談でも「対日貿易赤字を減らしていかねばならない」と迫ったが、首相は麻生太郎副総理とペンス副大統領による日米経済対話を深化させるとしてなんとか体をかわした。
・大統領が就任時に離脱を決断した環太平洋経済連携協定(TPP)の米国抜きでの締結問題や、TPPに代わる日米FTA(2国間自由貿易協定)についても議題に上った可能性が大きいが、両首脳は共同会見でまったく触れなかった。これは「世界に日米蜜月関係をアピールするためあえて言及を避けた」(官邸筋)のが真相とみられている。
・そうした中、大統領は共同会見で「非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ」と得意気に語った。大統領は、北朝鮮が日本上空を通過するICBM発射を繰り返していることについて「(自衛隊は)なんで撃ち落とさないのか」とつぶやいたとされる。日本の米国製防衛装備品の購入はその延長線上の要求でもある。首相も「努力する」姿勢を示したが、防衛省幹部は「予算上も、とても対応できない」と首を傾げる。
・平和憲法を背景に安全保障では「米国頼り」の日本に、あえて防衛力強化を求める大統領は「武器商人」ともいえる。会談後、ツイッターに「(日本から)大量の軍関連やエネルギーの注文が来ている」と書き込んだ大統領は「友好の仮面を外せば、安全保障と武器輸出をディール(取引)するようなしたたかな商売人」(外務省幹部)の素顔も見せた格好だ。
▽「猛獣使い」が食い殺される不安も
・もちろん、首脳会談の前に北朝鮮の拉致被害者や家族との面会に応じ、「解決への協力」を約束した大統領に、高齢の被害家族たちは「感謝と期待」に胸を詰まらせた。首相との個人的関係も含め、日米両首脳が強い絆で結ばれていることは否定しようがない「安倍外交の成果」(自民幹部)ではある。
・しかし野党からは「すり寄りへつらう対米追従」(社民党)との批判も出た。自民党内でもポスト安倍を狙う石破茂元地方創生相も首相と大統領による"日米蜜月"について、「国民の支持あっての同盟だ。トランプ政権が多くの国民の支持が得られるかどうかについて、つねにウォッチしていく必要がある。必ずしも国民の全幅の信任を得ていない政権であるぞということはよく認識しながらやっていかないとならない」と警鐘を鳴らした。
・大統領は7日午前、次の訪問国の韓国に向かった。同国では「反トランプ」の抗議デモも広がるが、日本では多くの国民が大統領訪日を素直に喜んだようにみえる。首相は、国際舞台でトランプ氏やプーチン・ロシア大統領らと親交を重ねて「猛獣使い」の異名もとるが、「深入りしすぎると、猛獣に食い殺される」(元外務省高官)との不安も付きまとう。首相周辺は「これで内閣支持率も上がり、株価もバブル崩壊後の高値を更新し続けるはず」と手放しの喜びようだが、今後の国会論戦も含め、今回の「ドナルド&シンゾー」蜜月外交の成果がなお問われ続けることは間違いなさそうだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/196489

第三に、立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長の上久保誠人氏が11月8日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプ訪日で浮き彫りになった「アメリカファースト」の真実」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ドナルド・トランプ米大統領が11月5日に初来日した。ゴルフ、銀座、4度の食事会と、まるで「成金の社長さんを接待する」かのようにご機嫌を取り、ことさらに「今ほど日米関係が緊密なことはなかった」を強調した。しかし、具体的に何か進展したかといえば、何もない。
・この連載ではトランプ大統領の「アメリカ第一主義(アメリカファースト)は変わっていないと指摘した。結局、米国は北朝鮮が米軍グアム基地や米国本土を直接攻撃できるミサイルを開発する可能性が出てきた時に、初めて北朝鮮問題に介入してきたからである(本連載第155回)。 今回の訪日でも、大統領はひたすらアメリカファーストであった。安倍首相は、大統領が機嫌を損ねて「日本を捨てる」と言い出さないように、ひたすら歓待するしかなかったように見える。
・この連載では、日本がなぜ「奇跡」と呼ばれた高度経済成長を成し遂げて、経済大国となれたかを振り返ってきた(第149回)。それは、東西冷戦期の米国の戦略に日本が組み込まれ、「米国に守ってもらい、米国に食わせてもらった」からに他ならない。今回は、これまで断片的に何度か論じてきた「米国の戦略」を整理し、メディアが「シンゾー・ドナルド関係」とひたすら持ち上げる日米関係の「本質」を考えてみたい。
▽米国の戦略(1):米国が世界の警察官になり「世界を食わせた」理由
・日本が高度経済成長を成し遂げたのは、端的にいえば、米国が日米安保条約に基づいて日本の安全保障を肩代わりし、日本の製品をどんどん購入してくれたからだった。「軽武装経済至上主義」の「吉田ドクトリン」を打ち出した吉田茂元首相は、これについて「日本は米国を番犬として飼っていると思えばいい」とまで言った。日本がしたたかに米国を利用して、先進国にのし上がったといえる。
・しかし、日本は先進国になりながらも、米国にどんどん輸出をする一方で、市場を保護して米国からの輸入をブロックし続けた。これが、米国の不満となり、70-80年代には、日本は上記のトランプ氏のような発言を、米国から散々聞かされた来た歴史がある。これは日本だけの話ではない。東西冷戦期から今日に至るまで、世界中の新興国が、米国に製品を買ってもらって成長しているし、米国に守ってもらっている(第150回)。
・米国は、なぜ「世界を食わせてやってきた」のか。なぜ「世界の警察官」を務めてきたのか。今日では、それは当たり前のこととなっているので、皆忘れているようだが、そもそもは東西冷戦になり、ソ連・中国共産党の共産主義ブロックに対抗するための米国の戦略であった。
・第二次大戦後、ソ連の台頭、中華人民共和国の成立による共産主義の拡大を防ぐために、米国は地政学的な拠点にある国々と同盟関係を築こうとした。例えば、西ドイツ、フランスなど西欧、日本、韓国、トルコなどアジアが共産主義と対峙するフロントラインであり、戦略的拠点であった。まず米国は、これらの国々を同盟国とするために、「ソ連の侵略から守る」という約束をする必要があった。
・第二次大戦で荒廃した国々は、自ら国を守る軍事力を失っていた。また、米国から巨額の援助を受けることなしに、経済復興することもできなかった。ソ連からの独立を維持するには、米国から軍事的、経済的に守ってもらうことしか方法がなかった。
・こうして、米国は世界各地に米軍を展開し、同盟国の領土をソ連の軍事的脅威から防衛する「世界の警察官」になったのである。米軍は同盟国の安全保障をほぼ肩代わりし、同盟国で無制限に軍事作戦を展開する自由を得た。例えば、朝鮮戦争やベトナム戦争では、同盟国の領土内でありながら、米軍が主力となり、同盟国を従える形で、共産主義と直接戦った。
・ただ、「世界の警察官」は、同盟国を守るだけではなかった。次に米国は、米国自身と同盟国が安全に石油・ガスなど天然資源を確保するため、世界的に展開できる唯一の海軍を提供して「世界の全ての海上交通路」を防衛した。それまで同盟国は、国家の軍事力のかなりの部分を、特に公海上での商人とその貨物の護衛に割く必要があった。米国が「世界の警察官」となることで、同盟国、自国の沿岸線をパトロールする小規模な海軍を維持するだけでよくなった。
・さらに米国は同盟国に、「米国市場への自由なアクセス」を許した。第二次世界大戦で世界中の市場が荒廃した後、米国市場は世界で唯一、ある程度の規模を持ち、各国がアクセスを求めるに値する市場となっていた。米国は、同盟国を自らの貿易システムに招き、工業化と経済成長を促した。その目的は、同盟国を豊かにすることで、同盟国の国内に貧困や格差による不満が爆発し、共産主義が蔓延することを防ぐことだった。これが米国が「世界の国を食わせてやった」理由である。
▽米国の戦略(2):なぜ日本と西独が「奇跡」の高度成長を成し遂げたのか
・最初に米国が接近したのが、かつての敵国だった日本と西ドイツであった。第二次世界大戦後、米国は当初、日本と西ドイツが二度と軍事大国化することを防ぐために、再工業化は行わない方針だった。その方針が変わったのは、1950年の朝鮮戦争の勃発であった。日本は、自由主義圏と共産圏によって南北に分断された朝鮮半島に近接し、アジアにおいて共産主義ブロックと対峙する前線となった。
・一方、ドイツは自由主義圏と共産圏に分断されて、西ドイツはより直接的に共産主義ブロックと向き合う最前線となった。米国は、両国を再度工業化して防衛力を強化することに方針を転換した。そして、日本とドイツは「奇跡的な高度経済成長」を成し遂げて、共産主義に対抗するフロントラインとして機能したのである。
・そもそも、両国が第二次世界大戦を始めた最大の理由は、資源と市場へのアクセスを確保するためだった。どちらも第二次世界大戦で完膚なきまでに叩きのめされたが、戦後の「戦勝国」の米国から、元々の望みをはるかに上回るものを提供された。その上、米国から自力では到達しえない完璧な安全保障を提供されたのである。これを「奇跡」と呼ばずに、他に奇跡と呼べるものがあるだろうか。
▽米国の戦略(3):米国の同盟国同士の歴史的な紛争が回避できた
・米国市場への自由なアクセスは、日本、ドイツだけではなく、韓国、台湾、オセアニアの諸国、北米大陸、西ヨーロッパ、そして後には共産主義の大国である中国までもが参加した。ピーター・ゼイハンは、多くの国が米国の同盟国になることで得たメリットを以下の通り整理している。
 1.フランスとドイツは、お互いに相手を警戒して武装する必要がなくなった。
 2.スウェーデンやオランダなどの中規模の国家は、貿易に焦点をあてて自国の強みを活かすことに集中できるようになり、防衛には最小限の努力を割くだけでよくなった。
 3.世界中の貿易路の安全が保障されたことで、さまざまな土地を占領する必要がなくなった。最古の小麦生産地であるエジプトは、過去2000年で初めて、自由に息をつけるようになった。
 4.世界中に散らばるヨーロッパの植民地が解放された。東南アジア諸国連合(ASEAN)を設立し、独自の自由貿易ネットワークを形成した。
 5.日本はもはや東アジア沿岸地域を搾取する必要がなくなった。アメリカの安全保障下で、韓国、台湾、シンガポールの3国が世界で最もダイナミックな経済国として台頭した。中国はその歴史上で初めて、外部の干渉のない安全な環境で国の基盤を固めることができた(ゼイハン,2016:135-7)。
・つまり、米国が築いた同盟体制とは、単に米国が同盟国を共産主義から守ったというだけではない。より重要なことは、それぞれの国が、領土の安全の確保、資源の確保、市場の確保のために、長年の歴史において「敵」となっていた隣国を警戒する必要がなくなったということだ。それらを全て、米国がやってくれたからである。
▽あらためて、アメリカファーストとは何かを考える
・ここで、トランプ大統領のアメリカファーストとは何かを、あらためて考えてみたい。大統領はご存じの通り、過激な発言を繰り返してきた。例えば、同盟国・日本に対しては、 「日本から、何百万台もの車が、ひっきりなしに輸入されてくる。アメリカは、日本に何か買わせたか? 牛肉を輸出した、だが日本は買いたがらない。これは貿易不均衡だ」 「(もし中国などが日本を攻撃したらどうするかという質問に)アメリカが一歩引いても、日本は自ら防衛できるだろう。 日本は中国との戦争に勝ち続けた歴史がある。なぜ、アメリカは日本を守ってやっているのか?ご存じの通り、日米安保条約は心憎い。なぜなら、他国がアメリカを攻撃しても、日本はアメリカを助けなくてよい。なのに、他国が日本を攻撃したら、アメリカは日本を助けなければならない」 といった調子である。
・一見荒唐無稽に聞こえるが、事の本質を突いている。大統領は、米国が「世界の警察官」を続ける意思がなく、「世界を食わせる」ことをやめると明快に言っている。これから米国は、米国自身のために軍隊とカネを使う。むしろ同盟国は、米国のために少なくともカネを出せ。これがアメリカファーストなのである。
・ここで、日本社会に広がる1つの「誤解」を解いておきたい。それは、トランプ大統領がアメリカファーストを唱えるのは、米国が弱体化したからだという誤解だ。むしろ実態は逆で、米国は「史上最強」と呼んでもいい状態だ。 米国のアメリカファーストは、トランプ大統領の個人的な思いつきではない。前任のバラク・オバマ大統領の時代から進められてきた、米国の国家戦略の変化と見なすべきものなのである。オバマ前大統領は、2013年9月に対シリア内戦への軍事不介入声明を発表した際、「もはやアメリカは世界の警察官ではない」と宣言し、中東からの米軍撤退、将来の韓国からの米軍撤退(公表)、2020年から2026年の間に沖縄から海兵隊を含む全米軍撤退(非公式)、NATO(北大西洋条約機構)の閉鎖又は欧州中央軍への統合、中南米、アフリカ地域からの米軍撤退等々を打ち出してきた。「世界の警察官を少しずつやめていく」のは、米国内で党派を超えたコンセンサスなのだ(第145回)。
・その背景には「シェール革命」があると考える。主に米国で生産されるシェール石油・ガスによって、米国が石油の輸入国から輸出国に変わる劇的な変化が起こった。エネルギー自給を達成し、米国内で「ものづくり」が復活し、新たな雇用が生まれた。しかし、その結果として、米国は独りでやっていけるということになった。「世界の警察官」として、産油国が多数ある中東など国際社会に関わっていく必要性がなくなったのである。これが、アメリカファーストの背景にある
▽トランプ訪日は「大統領を接待した」だけに終わった 日本は引き続き「超対米従属」に徹するしかない
・今回の訪日で、トランプ大統領は「どんな独裁者も、どんな政権も、どんな国も米国の決意を甘く見ないほうがよい」「私が大統領である限り、米国は圧倒的な力と資金で必ず勝利する」と発言し、北朝鮮への圧力を一段と強化する方針を示した。それは大変心強いことだが、発言の内容は、従来以上に踏み込んだものではない。
・むしろ驚かされたのは、トランプ大統領が「日本が米国からさらに軍装備品を購入すれば、安倍首相は北朝鮮のミサイルを撃ち落とすことができるだろう」と発言したことだ。安倍首相は「日本の防衛力を質的に、量的に拡充していかなければならない」と応じ、イージス艦などのミサイル防衛体制強化のために、米国からさらに装備品を購入していくことになるとの見通しを示した。
・また、トランプ大統領は、日米の企業経営者らとの会合で、日本との貿易は「公平で開かれたものではない」と強調し、「日本との慢性的な貿易不均衡を是正していかなければならない」と発言するなど、貿易赤字解消への意欲を示している。
・結局、「過去にない緊密な日米関係」をいくら強調してみたところで、トランプ大統領は「アメリカから武器を買って、日本に飛んでくるミサイルは自分で撃ち落とせ」なのである。何度でも強調するが、アメリカファーストなのである。
・今、日本ができることは「超対米従属」のみである(第149回)。米国が築いた同盟関係から最も恩恵を受けてきた日本は、同盟関係を維持する以外に、生きていく道はない。その意味で、安倍首相がトランプ大統領をまるで「成金社長を接待漬け」にするように歓待したのは、正しいと思う。
・気がついたら、米国は中国とうまく「ディール」して、米国に北朝鮮からミサイルが飛んでこないことだけを決めて、「あとはシンゾー、うまくやれ。武器は売ってやる」と言って去っていく。日本は「東洋の一小国」として孤立してしまうという、最悪の事態を想定しておくべきではないだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/148555

第四に、11月8日付け日刊ゲンダイ「トランプがむさぼる8兆円」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・蜜月アピールの代償は、やはり大きかった。トランプ米大統領が3日間の日本滞在を終え、次の訪問先の韓国へ飛び立ったが、度肝を抜かれたのは安倍首相の気前の良さだ。先立って来日した長女・イバンカ補佐官が関わる女性起業家の支援基金に、ポンと5000万ドル(約57億円)を拠出すると表明したのはホンの序の口。トランプに渡した“手土産”の額は軽く1兆円を上回る。
・「米国は日本との間に年700億ドル(約8兆円)もの貿易赤字を抱えている。対日貿易は公正ではなく、開かれてもいない」 ゴルフなどの接待漬けも通用せず、トランプが安倍首相に一歩も譲らなかったのが、対日貿易赤字の是正だ。 第2次安倍政権になってから、単年度で賄い切れない高額兵器の購入時に、次年度以降に分割して支払う「後年度負担」をフル活用。米国の言い値で高額兵器を買いまくり、後年度負担のツケは約5兆円の年間予算とは別に5兆円以上もたまっている。 事実上、GDPの2%に達する防衛費を投じても、対日貿易赤字は一向に埋まらない。そこで安倍政権がトランプ政権に持ちかけたのが、米国産シェールガス輸出拡大への全面協力である。
・日米両政府はきのう(6日)の首脳会談に合わせ、新興国へのエネルギーインフラ輸出で協力する覚書を締結。東南アジア各国やインドなどに、米国のシェール由来の液化天然ガス(LNG)を売り込むため、日本が官民挙げて現地でLNGの発電所や運搬船基地などの建設を支援する。支援額について、日本政府は「1兆円規模」(世耕経産相)と表明した。
▽米国の輸入“地ならし”に1兆円差し出す馬鹿さ加減
・シェールガスの輸出が増えれば、米国の貿易赤字も削減できる。トランプに手っ取り早く赤字を解消してもらうお膳立てに1兆円ものジャパンマネーを差し出すのだ。 「米国産LNGは石油や他国のLNGと比べて割高です。今年から輸入を始めた日本の電力会社も、コスト押し上げの要因となって苦しんでいます。北極圏開発を進めるロシアが、より格安のLNGを売る計画もある。日本が輸出の“地ならし”をしても、新興国が米国産LNGの調達に二の足を踏めば意味がない。1兆円規模の支援が単なる外交目的の『捨て金』となりかねません」(経済評論家・斎藤満氏)
・安倍首相が人気取りのため、トランプに拉致被害者の家族と面会させたことにもデメリットはある。トランプが核・ミサイル問題に加え、拉致という人権問題にまでクチバシを突っ込めば、北朝鮮はさらに反発。いよいよ対話の糸口を探すのが困難となる。
・「会計検査院は先日、米国から調達した武器の購入費を巡り、過払いの可能性を指摘。計64件、総額約672億円の支払いに過払いの疑いがあるのです。安倍首相も首脳会談の席で『調べて返金せよ』とトランプ大統領に迫るべきなのに、逆に『日本は大量の装備品を買うことが好ましい』と念を押される始末。消費税率10%引き上げで見込まれる5兆円強の増収分を全額、武器購入に充てなければ許されない勢いで、心配になります」(斎藤満氏)
・安倍首相の隷従外交により、トランプは完全に図に乗ってしまった。今後も8兆円の赤字が埋まるまで、対日FTA交渉などで容赦なく無理難題を押しつけてくるに違いない。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/217120/1

第一の記事で  『多くあるいは、一部の日本人に欠けているかもしれない米国の現状とトランプ大統領について知ってもらいたい・・・1. 米国はいまや、激しく分裂している・・・2. トランプ大統領は歴史上最も不人気な大統領だ・・・3.米議会はもはやその機能を果たしていない・・・4. トランプ大統領の暴走を止められるかどうかわからない・・・5. トランプ大統領の精神状態』、との指摘は楽観バイアスに陥り易い我々日本人は、改めて心しておく必要がありそうだ。
第二の記事は、今回のトランプ訪日を要領よくまとめているので、紹介した次第である。 『過去にも例のない日米首脳の「異様な親密さ」も双方の国益一致には直結せず、「世界の安倍」を自認する1強首相も"トランプ占い"の結果は「吉凶相半ば」と見えた・・・一連の首脳協議での重要テーマだった北朝鮮危機や対中国外交、さらには日米貿易摩擦などへの対応では軋轢もあり、「日米外交の難しさ」も垣間見られた・・・「猛獣使い」が食い殺される不安も』、などは言い得て妙である。
第三の記事は、アメリカファーストが出てきた背景を歴史的な流れのなかで分析しているのが、興味深い。さすが大学教授だけある。 『米国の戦略(1):米国が世界の警察官になり「世界を食わせた」理由・・・米国の戦略(2):なぜ日本と西独が「奇跡」の高度成長を成し遂げたのか・・・米国の戦略(3):米国の同盟国同士の歴史的な紛争が回避できた』、 『トランプ大統領がアメリカファーストを唱えるのは、米国が弱体化したからだという誤解だ。むしろ実態は逆で、米国は「史上最強」と呼んでもいい状態だ。 米国のアメリカファーストは、トランプ大統領の個人的な思いつきではない。前任のバラク・オバマ大統領の時代から進められてきた、米国の国家戦略の変化と見なすべきものなのである』、 などの指摘はなるほどと納得させられた。
第四の記事で、 『第2次安倍政権になってから、単年度で賄い切れない高額兵器の購入時に、次年度以降に分割して支払う「後年度負担」をフル活用。米国の言い値で高額兵器を買いまくり、後年度負担のツケは約5兆円の年間予算とは別に5兆円以上もたまっている。事実上、GDPの2%に達する防衛費』、との指摘には驚かされた。今後、防衛費の予算記事は、もっと熟読する必要がありそうだ。
タグ:大統領は、米国が「世界の警察官」を続ける意思がなく、「世界を食わせる」ことをやめると明快に言っている 同盟国に、「米国市場への自由なアクセス」を許した 先乗りイバンカ氏が首相らを"悩殺" 米国と完全に手を組んでの対中外交は、軍事衝突に徹底反対している韓国との協議とも合わせて、「安倍外交の重大なネック」(自民幹部)ともなりかねない 大統領の対北戦略を、首相が「完全に一致している」と明言したことで、「日本が巻き込まれるリスクが高まった」(元外務省高官) 米国の戦略(3):米国の同盟国同士の歴史的な紛争が回避できた 米国の戦略(2):なぜ日本と西独が「奇跡」の高度成長を成し遂げたのか 4. トランプ大統領の暴走を止められるかどうかわからない 3.米議会はもはやその機能を果たしていない トランプ狂騒曲"が終わった 「安倍首相のトランプ占いは「吉」か「凶」か ドナルド&シンゾー蜜月に「巻き込まれ不安」」 米国の輸入“地ならし”に1兆円差し出す馬鹿さ加減 トランプ訪日は「大統領を接待した」だけに終わった 日本は引き続き「超対米従属」に徹するしかない 米国の国家戦略の変化と見なすべきものなのである トランプに渡した“手土産”の額は軽く1兆円を上回る ・その背景には「シェール革命」があると考える 米国産LNGは石油や他国のLNGと比べて割高です。今年から輸入を始めた日本の電力会社も、コスト押し上げの要因となって苦しんでいます 第2次安倍政権になってから、単年度で賄い切れない高額兵器の購入時に、次年度以降に分割して支払う「後年度負担」をフル活用。米国の言い値で高額兵器を買いまくり、後年度負担のツケは約5兆円の年間予算とは別に5兆円以上もたまっている (その1)(日本人はまだトランプ大統領をなめている、安倍首相のトランプ占いは「吉」か「凶」か、トランプ訪日で浮き彫りになった「アメリカファースト」の真実、トランプがむさぼる8兆円) 世界中の貿易路の安全が保障されたことで、さまざまな土地を占領する必要がなくなった 日本はもはや東アジア沿岸地域を搾取する必要がなくなった 5. トランプ大統領の精神状態 自己愛性パーソナリティ障害 米国が築いた同盟体制とは、単に米国が同盟国を共産主義から守ったというだけではない。より重要なことは、それぞれの国が、領土の安全の確保、資源の確保、市場の確保のために、長年の歴史において「敵」となっていた隣国を警戒する必要がなくなったということだ 多くあるいは、一部の日本人に欠けているかもしれない米国の現状とトランプ大統領について知ってもらいたい 事実上、GDPの2%に達する防衛費を投じても、対日貿易赤字は一向に埋まらない 非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ 2. トランプ大統領は歴史上最も不人気な大統領だ 安倍外交のプライムタイムには"落とし穴"も 蜜月アピールの代償は、やはり大きかった 「トランプがむさぼる8兆円」 米国は、なぜ「世界を食わせてやってきた」のか。なぜ「世界の警察官」を務めてきたのか 軽武装経済至上主義 1. 米国はいまや、激しく分裂している 会食は肉づくし、ゴルフ対決も接待優先 最初に米国が接近したのが、かつての敵国だった日本と西ドイツ 米国の戦略(1):米国が世界の警察官になり「世界を食わせた」理由 東洋経済オンライン 日米貿易でも両首脳の立場は食い違った。巨額の対日貿易赤字を問題視する大統領は、6日朝の日米企業家との会合で「日米貿易は公平でない」と批判した 日本とドイツは「奇跡的な高度経済成長」を成し遂げて、共産主義に対抗するフロントラインとして機能 ドナルド・トランプ大統領 米国自身と同盟国が安全に石油・ガスなど天然資源を確保するため、世界的に展開できる唯一の海軍を提供して「世界の全ての海上交通路」を防衛した 米国産シェールガス輸出拡大への全面協力 フランスとドイツは、お互いに相手を警戒して武装する必要がなくなった ダニエル・スナイダー 安倍首相の隷従外交により、トランプは完全に図に乗ってしまった。今後も8兆円の赤字が埋まるまで、対日FTA交渉などで容赦なく無理難題を押しつけてくるに違いない 世界中に散らばるヨーロッパの植民地が解放された。東南アジア諸国連合(ASEAN)を設立し、独自の自由貿易ネットワークを形成した スウェーデンやオランダなどの中規模の国家は、貿易に焦点をあてて自国の強みを活かすことに集中できるようになり、防衛には最小限の努力を割くだけでよくなった 、「過去にない緊密な日米関係」をいくら強調してみたところで、トランプ大統領は「アメリカから武器を買って、日本に飛んでくるミサイルは自分で撃ち落とせ」なのである トランプ大統領が「日本が米国からさらに軍装備品を購入すれば、安倍首相は北朝鮮のミサイルを撃ち落とすことができるだろう」と発言 「日本人はまだトランプ大統領をなめている 3人の偉大な「お守り役」も手を焼いている」 ダイヤモンド・オンライン 米国のアメリカファーストは、トランプ大統領の個人的な思いつきではない。前任のバラク・オバマ大統領の時代から進められてきた そもそもは東西冷戦になり、ソ連・中国共産党の共産主義ブロックに対抗するための米国の戦略 ツイッターに「(日本から)大量の軍関連やエネルギーの注文が来ている」と書き込んだ大統領は「友好の仮面を外せば、安全保障と武器輸出をディール(取引)するようなしたたかな商売人」(外務省幹部)の素顔も見せた格好 米国は日本との間に年700億ドル(約8兆円)もの貿易赤字 「トランプ訪日で浮き彫りになった「アメリカファースト」の真実」 日刊ゲンダイ 上久保誠人 泉 宏 日本の政策立案者、いや、日本国民はトランプ大統領の「ヤバさ」を過小評価しすぎ 北朝鮮が日本上空を通過するICBM発射を繰り返していることについて「(自衛隊は)なんで撃ち落とさないのか」とつぶやいたとされる 猛獣使い」が食い殺される不安も トランプ訪日と日米関係
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マスコミ(その5)(詩織さん準強姦容疑事件 検察審「不起訴相当」の不可解、小田嶋氏:それが困難な理由を考えてみる) [メディア]

マスコミについては、6月9日に取上げたが、今日は、(その5)(詩織さん準強姦容疑事件 検察審「不起訴相当」の不可解、小田嶋氏:それが困難な理由を考えてみる) である。

先ずは、9月26日付け日刊ゲンダイ「詩織さん準強姦容疑事件 検察審「不起訴相当」の不可解」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・一体、何が話し合われたのか。審査内容の詳細をぜひ、知りたいものである。フリージャーナリストの詩織さん(28)が、元TBS記者でジャーナリストの山口敬之氏(51)から性的暴行を受けた――と訴えていた準強姦容疑事件で、東京地検の不起訴処分に対し、東京第6検察審査会(検察審)が「不起訴相当」と議決した。
・詩織さんは5月に会見を開き、2015年4月に山口氏と食事をした後にホテルで乱暴されたと告白した上で、検察審に審査を申し立てたことを明らかにしていた。 「(議決)結果を知り驚きました。『不起訴処分を覆すに足る事由がない』と判断されたことについて、なぜそうなったのか、しっかり説明していただきたかったです」
・詩織さんがこうコメントを出したのもムリはない。A4判の紙っぺら1枚に記された〈議決の理由〉には、〈慎重に審査したが、検察官がした不起訴処分の裁定を覆すに足りる事由がない〉と記されているだけ。〈慎重審査〉の中身がサッパリ分からないからだ。
▽なぜ審査補助員はいなかったのか?
・注目すべきは、議決書の作成を補助した審査補助員の弁護士名がないことだ。一般市民から選ばれる検察審の審査員はほとんどが法律のシロウトだ。そのため、多くの検察審査会では、中立的な立場から法令の解釈や説明、問題点を整理する弁護士を審査補助員に選任(委嘱)している。
・自由党の小沢一郎代表が「強制起訴」された小沢事件では、特捜検事がウソの報告書を作って審査員を誘導していたことが問題になった。検察から「不起訴裁定書」を示されたシロウト市民が、審査補助員の説明もなく、どんな法的根拠に基づいて当否を判断し、〈裁定を覆すに足りる事由がない〉と結論づけたのか。
・検察審制度に詳しい山下幸夫弁護士はこう言う。 「慎重審査が必要であるからこそ、審査補助員の弁護士を選任するべきだったでしょう。(準強姦容疑という)事件を考えれば、男女比の構成も重要です。いずれにしても、(審査に至った)審議時間などの客観的データを示すべきだと思います」
・「本当に審査したのか」「検察の誘導ではないか」――との疑問を払拭するためにも制度改正が必要だ。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/214254/1

次に、この問題に関連してコラムニストの小田嶋隆氏が10月27日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「それが困難な理由を考えてみる」を紹介しよう。
・日本中のメディアが選挙報道で賑わっている10月24日、日本外国特派員協会でひとつの記者会見が開催された。 会見を開いたのは伊藤詩織さんという女性ジャーナリストだ。 彼女は、この18日に、自身が経験したレイプ被害と、その被害事案をめぐる捜査や訴訟の顛末ならびに報道のあり方などなどについて書いた『Black Box(ブラックボックス)』(文藝春秋社)という著書を出版している。
・会見では、出版に至った経緯や、日本の社会でレイプ被害が無視されがちな現実について語っている(記事はこちら)。 以下、簡単に経緯を振り返っておく。
・伊藤詩織さんのレイプ被害は、「週刊新潮」が今年の5月18日号で記事化したことで、大きな話題になった(「デイリー新潮」に載った記事はこちら)。 記事内では、2015年に当時TBSの社員だったY氏が就職相談のために会食した20代の女性と性交渉を持ったこと、女性が、薬(デートレイプドラッグ)を飲まされてレイプされたと主張していること、一度は発行された逮捕状を当時の警視庁幹部が握り潰したことなどが報じられている。
・レイプに関する事実認定はとりあえず措くとして、性交渉を持ったことは、Y氏自身が認めている。記事内には、Y氏から被害女性にあてた「お詫び」のメールの写真が添えられている。 逮捕状が発行され、それが直前に取り下げられたことについては、逮捕状の執行を止めた本人である中村格刑事部長(当時)が、週刊新潮の取材に対して 「事件の中身として(逮捕は必要ないと)私が判断した。(捜査の中止については)指揮として当然だと思います。自分として判断した覚えがあります」 と明言している。
・記事が出て約半月後の5月29日、被害女性は、名字は伏せたものの、「詩織」という名前を公表したうえで、司法記者クラブで記者会見を開いた。会見の中で、詩織さんは、準強姦容疑で書類送検されたY氏が嫌疑不十分で不起訴となったことを不服として検察審査会に審査を申し立てたことを明らかにし、あわせて、被害の実態を詳細に語った。
・なお、この詩織さんによる不服申立てに対しては、約4カ月後の9月21日、東京第六検察審査会が「慎重に審査したが、検察官がした不起訴処分の裁定を覆すに足りる事由がなかった」として、「不起訴相当」の議決を下している。
・……と、以上の経緯を踏まえて、伊藤詩織さんが、この10月の18日に『Black Box』を出版し、24日に会見を開いたというところまでが、これまでに起こったことの概要だ。
・今回の外国特派員協会での記者会見は、ネット上ではそこそこに大きな注目を集めている。 しかしながら、その一方で、テレビや新聞をはじめとするメジャーなマスコミでは、ほとんど記事化されていない。というよりも、ありていに言えば「黙殺」に近い扱いだ。 今回は、この伊藤詩織さんのレイプ被害をマスコミが無視する理由について考えてみようと思っている。
・第一感で考えて、一般向けのメディアが、「レイプ」「強姦」「準強姦」といったタイプの言葉の字面や語感を忌避する感じはなんとなくわかる。特に子供を含むファミリー層が視聴する時間帯のテレビは、このタイプのあからさまな出来事を正面から描写する単語を嫌う。 であるからして、私が子供だった当時から、テレビのニュースは、性犯罪については、単に「乱暴」と言ってみたり、「いたずら」と言い替えたりして、直接の言及を避けてきたものだった。
・現代に至ってなお、状況はそんなに変わっていない。 ニュースは性犯罪の話題を避ける。 テレビ画面の中では、レイプは存在しないことになっている。  というよりも、2時間ワイドサスペンスドラマの中ではわりと頻出単語だったりするレイプという同じ言葉が、報道の番組の中では放送自粛用語になっているということだ。
・報道局所属のご清潔な記者のみなさんは、もしかすると品の無い言葉を使うと放送原稿が汚れると思っているのかもしれない。 もっとも、そうした一般論とは別に、このレイプ事案に関しては、報道をはばかる独特な理由が介在している。
・その理由は、加害者と目されている元TBS社員のY氏の立場の微妙さから来るもので、なんというのか、実態としては、この人が二重のタブーに守られているということだったりする。 メディアは知っていることのすべてを記事にするわけではない。
・たとえば、相手構わず喧嘩を売っているように見える週刊誌にも、「作家タブー」があると言われている。 自社から書籍を出していたり、自分のところの誌面にエッセイや連載小説を書いている作家については、たとえどんなおいしいスキャンダルをつかんでも、それを記事化しない、ということだ。
・このタブーが、業界の仁義を通すための道徳律なのか、あるいは営業上の計算を反映した配慮なのかは、議論の分かれるところだが、ともあれ、どんなメディアにもそれなりのタブーがあるというのは確かなことだ。  そんな中で、Y氏のケースは、おそらく「同業者タブー」ないしは「記者タブー」に抵触している。
・「タブー」という言葉を使うほど強い禁忌ではないにしろ、報道にたずさわる人間の間に、同業者の不祥事はあまり積極的に扱いたくない気分があることは事実で、その意味でY氏のやりざまは、記事にして面白がるにふさわしい出来事ではなかったということだ。
・もっとも、記者タブーのような露骨な身内びいきは、あるタイプの読者なり視聴者が最も強烈に批判しているところのものでもあるわけで、そういう意味では、記者の不祥事をお目こぼしにすることは、きょうび、簡単なことではない。 特にネットメディアがそれなりの取材力と情報拡散力を持ち始めている昨今では、記者仲間が身内の恥を隠し通そうとすることは、メディアの信用を毀損する意味で、かえってリスクが大きい。
・ヘタに隠し立てをすると、「マスゴミ」という言葉を好んで使う一部のネット民の格好の餌食になる。 これは、大変にまずい展開だ。 思うに、Y氏の立場が独特なのは、マスコミ内部の記者タブーにひっかかっているだけでなく、メディア不信を抱いている「マスゴミ」告発者の多くが抱いている「政権タブー」にも微妙にひっかかっているところだ。
・どういうことなのかというと、本来ならマスコミの記者の不祥事を絶対に許さないはずのメディア嫌いのネット民たちが、Y氏に関しては、別の理由から告発をためらっているということだ。 というのも、メディア不信を言い立てている人々は、多くの部分で、現政権のコアな支持者とカブっているからで、その人々の心情からすると、安倍さんの親しい仲間うちであった記者の不祥事を暴き立てることは、いかにも不都合だからだ。  つい先日もほかならぬTBS本社前で、「TBS偏向報道糾弾大会・デモ」と銘打ったデモが行われ、一部報道によれば500人が集まったと言われている(こちら)。
・リンク先の記事に添付された写真の中で、デモ参加者の多くが日の丸を掲げていることからもわかる通り、昨今のメディア批判者には安倍氏のシンパが相当な割合で含まれている。ということは、彼らは、たとえ大嫌いなTBSの記者であっても、Y氏については糾弾をためらわざるを得ないのである。
・もうひとつ、Y氏のレイプ疑惑が黙殺されがちな理由は、それがあまりにも深刻な犯罪だからだ。 こう言うと、意外に聞こえるかもしれない。 深刻な犯罪の疑惑であるのなら、なおのこと大々的に報じるべきだと、そう考える人もたくさんいるはずだ。 が、実際のところ、凶悪な犯罪の疑惑であればあるほど、気軽に記事にすることはできないものなのだ。
・というのも、少なくとも形式上は不起訴になっている刑事犯罪について、その疑惑を事実であるかのように書くことは、悪くすると名誉毀損で返り討ちに遭うリスクを伴う一大事だからだ。 私自身、この文章を書くにあたって、件の元TBS記者については、実名を書かずに「Y氏」という表記を採用している。犯罪の事実関係そのものについても、あえて踏み込んで論じることはしていない。
・というよりも、「なぜ、レイプ犯罪が記事化されにくいのか」という、一歩外した視点で見直すことで、かろうじてこの問題を扱えているというのが実情なわけで、つまりは、誰かの犯罪について文章を書くことは、それほど厄介な仕事なのだ。
・Y氏もそこのところはよくわかっていて、検察審査会の議決が出たタイミングで、 「今般の検察審査会の判断により、今後は私に関して誤った報道がなされることはないものと期待しております。万が一、私の名誉を傷つけるような報道が引き続きなされた場合には、そちらも法的措置の検討対象となることもご承知おきください。」 というコメントを発表している(こちら)。
・ほとんど恫喝に近い響きを帯びた言葉だ。 本人が「恫喝ではない」と言ったのだとしても、聞く方の耳に恫喝として聞こえているのであれば、それは恫喝で、つまりこれは事実上恫喝なのだ。 コトが深刻であればあるほど、うかつなことは書けない。
・だからこそ、レイプ加害者のような、当事者の社会的生命を跡形もなく消し去ることになる事案については、間違っても憶測まじりの主張や当てずっぽうの推理を書くことはできない。それ以前に、そもそも文字にすることそのものを怖がるのが、文章を書く人間の偽らざる心情であるわけだ。
・レイプについて書かれた当事者は、事実であろうがあるまいが、いずれにせよ必死で抵抗する。 とすれば、訴訟リスクはもちろん、様々な角度からの反撃を想定せねばならない。
・有名人のスキャンダルは、メディアにとっては良い商売になるネタだ。 一方、有名人がメディア相手に名誉毀損やプライバシー侵害の訴訟を起こしても大きな対価は望めない。 仮に裁判で勝っていくばくかの賠償金を取ることができたのだとしても、訴訟の過程を通じて私生活を暴露されるデメリットと比べて明らかに割が合わない。 だから、有名人は訴訟を起こさない。
・だから、メディアは遠慮なくプライバシーを暴きにかかる。 そして、だからこそ、山尾志桜里議員の外泊疑惑や、ベッキー嬢をはじめとする芸能人の不倫交際疑惑は、犯罪性が皆無であっても、大々的に報道され、後追いした各種目メディアによる徹底的な社会的制裁が発動されているわけなのだ。
・つまり、犯罪でもなんでもない、私的な交際に過ぎない婚外交渉疑惑が、確たる証拠が提示されていない(同宿の証拠は示唆されていても性交渉の証拠は示されていない)にもかかわらず、商業目的の雑誌で記事化され、推定有罪の人民裁判で裁かれている一方で、犯罪の可能性を強く示唆する複数の証拠を伴った凶悪な事件については、その可能性に言及することさえもがはばかられているわけなのである。
・毎度不思議に思うことなのだが、本当のことなのだからしかたがない。 うちの国のメディアでは、犯罪でもなんでもない不倫がおいしい記事にされているかたわらで、明らかな犯罪である強姦やセクハラは記事にならない。つまり、些細な逸脱は盛大に断罪され、深刻な非道は見てみぬふりで放置されている。なんとバカな話ではないか。
・もっとも、単純な有名人のスキャンダルがメディアのエサになる一方で、権力を持った人間の性犯罪や性的な逸脱が見逃されがちな傾向は、どうやらうちの国に限った話ではない。 ここしばらくハリウッドを騒がせている大物映画プロデューサーによるセクハラのスキャンダルを眺めるに、あらためてその感を強くする。高い地位にある人間のセクハラを告発することが、自立するリッチで利発な女が溢れているかに見えるハリウッドの中であってさえ、著しく困難な挑戦だということは、この2週間ほどの間に次々と登場した告発者の面々の豪華さを見ればよくわかる。
・というのも、告発しているメンバーの豪華な顔ぶれは、最初の告発者が声を上げるまでの10年以上の長きにわたって、名だたるハリウッドのセレブ女優や有名監督たちが、いずれもワインスティーン(ワインスタインと表記している人もいるようだが、まだ表記が固まっていないようなので、ここでは現地発音に近いカタカナを採用する)の横暴に黙って耐え、黙殺し、調子を合わせていたことを物語るものであるからだ。
・あれほどカネも名誉も力もある人たちが、それでも他人のセクハラには口出しできなかったことの重さに、暗然とせざるを得ない。 逆に言えば、最初に猫のクビに鈴をつけるネズミがあらわれれば、後を続くのがそんなに難しい仕事ではないことを、ハリウッドの事件は教えてくれている。
・その、猫のクビに最初に鈴をつける役割を、ほかならぬ当事者である伊藤詩織さん、そして海外メディアの記者諸氏に担わせていることを、自分を含めたメディア関係者は、等しく恥じなければならない。 オチはありません。  記者諸君は各自考えてください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/102600116/?P=1

第一の記事で、 『注目すべきは、議決書の作成を補助した審査補助員の弁護士名がないことだ』、ちなみに、裁判所のホームページによれば、「検察審査会は,審査会議において,法律上の問題点等について,弁護士である審査補助員から助言を受けることができます。審査補助員の職務は,助言を求められた特定の事件について,(1)法令及びその解釈を説明すること,(2)その事件の事実上及び法律上の問題点を整理すること,(3)その問題点に関する証拠を整理すること,(4)その事件の審査に関して法的観点から必要な助言を行うことです」とあるだけなので、今回のケースでは審査補助員を置く必要がないと事務局が判断したのであろう。 『制度改正が必要だ』、との記事の指摘はその通りだ。
第二の記事は、この事件をマスコミが「黙殺」した背景を詳しく解説している。一般論として、 『2時間ワイドサスペンスドラマの中ではわりと頻出単語だったりするレイプという同じ言葉が、報道の番組の中では放送自粛用語になっているということだ』、との解説はなるほどである。 『加害者と目されている元TBS社員のY氏の立場の微妙さから来るもので、なんというのか、実態としては、この人が二重のタブーに守られているということだったりする・・・「同業者タブー」ないしは「記者タブー」に抵触している・・・「政権タブー」にも微妙にひっかかっているところだ・・・少なくとも形式上は不起訴になっている刑事犯罪について、その疑惑を事実であるかのように書くことは、悪くすると名誉毀損で返り討ちに遭うリスクを伴う一大事だからだ』、との解説は、実に分かり易く、納得させられた。 『犯罪でもなんでもない、(有名人の)私的な交際に過ぎない婚外交渉疑惑が、確たる証拠が提示されていない・・・にもかかわらず、商業目的の雑誌で記事化され、推定有罪の人民裁判で裁かれている一方で、犯罪の可能性を強く示唆する複数の証拠を伴った凶悪な事件については、その可能性に言及することさえもがはばかられているわけなのである』、との対比は鮮やかだ。 しかし、名誉毀損で返り討ちに遭うリスクはともかく、「同業者タブー」ないしは「記者タブー」、「政権タブー」は、マスコミの使命からすれば、あってはならないものなのではなかろうか。 『猫のクビに最初に鈴をつける役割を、ほかならぬ当事者である伊藤詩織さん、そして海外メディアの記者諸氏に担わせていることを、自分を含めたメディア関係者は、等しく恥じなければならない』、との指摘はその通りだ。
タグ:猫のクビに最初に鈴をつける役割を、ほかならぬ当事者である伊藤詩織さん、そして海外メディアの記者諸氏に担わせていることを、自分を含めたメディア関係者は、等しく恥じなければならない 高い地位にある人間のセクハラを告発することが、自立するリッチで利発な女が溢れているかに見えるハリウッドの中であってさえ、著しく困難な挑戦だ ハリウッドを騒がせている大物映画プロデューサーによるセクハラのスキャンダル 犯罪でもなんでもない、私的な交際に過ぎない婚外交渉疑惑が、確たる証拠が提示されていない(同宿の証拠は示唆されていても性交渉の証拠は示されていない)にもかかわらず、商業目的の雑誌で記事化され、推定有罪の人民裁判で裁かれている一方で、犯罪の可能性を強く示唆する複数の証拠を伴った凶悪な事件については、その可能性に言及することさえもがはばかられているわけなのである だから、メディアは遠慮なくプライバシーを暴きにかかる 有名人は訴訟を起こさない 有名人のスキャンダルは、メディアにとっては良い商売になるネタだ 恫喝に近い響きを帯びた言葉 今般の検察審査会の判断により、今後は私に関して誤った報道がなされることはないものと期待しております。万が一、私の名誉を傷つけるような報道が引き続きなされた場合には、そちらも法的措置の検討対象となることもご承知おきください。」 Y氏 少なくとも形式上は不起訴になっている刑事犯罪について、その疑惑を事実であるかのように書くことは、悪くすると名誉毀損で返り討ちに遭うリスクを伴う一大事だからだ 「政権タブー」にも微妙にひっかかっているところだ 「同業者タブー」ないしは「記者タブー」に抵触 二重のタブーに守られているということだったりする 加害者と目されている元TBS社員のY氏の立場の微妙さから来るもので 2時間ワイドサスペンスドラマの中ではわりと頻出単語だったりするレイプという同じ言葉が、報道の番組の中では放送自粛用語になっているということだ。 特に子供を含むファミリー層が視聴する時間帯のテレビは、このタイプのあからさまな出来事を正面から描写する単語を嫌う 一般向けのメディアが、「レイプ」「強姦」「準強姦」といったタイプの言葉の字面や語感を忌避する感じはなんとなくわかる 伊藤詩織さんのレイプ被害をマスコミが無視する理由 「黙殺」に近い扱いだ 事件の中身として(逮捕は必要ないと)私が判断した。(捜査の中止については)指揮として当然だと思います。自分として判断した覚えがあります 逮捕状の執行を止めた本人である中村格刑事部長(当時) 一度は発行された逮捕状を当時の警視庁幹部が握り潰した 薬(デートレイプドラッグ)を飲まされてレイプされたと主張 『Black Box(ブラックボックス)』(文藝春秋社) 伊藤詩織さんという女性ジャーナリスト 記者会見 日本外国特派員協会 「それが困難な理由を考えてみる」 日経ビジネスオンライン 小田嶋隆 制度改正が必要だ 男女比の構成も重要 注目すべきは、議決書の作成を補助した審査補助員の弁護士名がないことだ 〈議決の理由〉には、〈慎重に審査したが、検察官がした不起訴処分の裁定を覆すに足りる事由がない〉と記されているだけ 不起訴相当 検察審査会 詩織さん から性的暴行を受けた 山口敬之氏 元TBS記者 詩織さん準強姦容疑事件 検察審「不起訴相当」の不可解 日刊ゲンダイ (その5)(詩織さん準強姦容疑事件 検察審「不起訴相当」の不可解、小田嶋氏:それが困難な理由を考えてみる) マスコミ
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資本主義(知日派エモット氏:「衰退する西洋と日本の共通点」、デジタル時代、消費者は商品を「所有」できない 米国では「所有権」を取り戻す州法成立の動きも) [経済]

今日は、資本主義(知日派エモット氏:「衰退する西洋と日本の共通点」、デジタル時代、消費者は商品を「所有」できない 米国では「所有権」を取り戻す州法成立の動きも) を取上げよう。

先ずは、7月25日付けダイヤモンド・オンライン「「衰退する西洋と日本の共通点」知日派エモット氏語る ビル・エモット(国際ジャーナリスト)特別インタビュー」を紹介しよう(Qは聞き手の質問、Aはエモット氏の回答、+は回答内の段落)。
・元「エコノミスト」誌編集長で、知日派として著名なビル・エモット氏。同氏は最新作『「西洋」の終わり』で、日本や欧米先進国の繁栄の基盤となった「平等」と「開放性」が、衰退の危機にあると警鐘を鳴らしている。世界と日本は今、どう変容しようとしているのだろうか。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)
Q:著書『「西洋」の終わり』の中で、西洋の繁栄を支えた二つのキーワードである「平等」と「開放性」が、衰退の危機にあると指摘しています。衰退のきっかけは何だったのでしょうか。
A:トリガーは、2008年のリーマンショックによって引き起こされた金融危機だと考えています。 世界中に広まったこの問題は、多くの人々に対して所得の減少や、教育や福祉など子どもたちに対するさまざまな機会の喪失、それによって将来への希望の喪失をもたらしました。
+一方で、元凶となった金融機関の経営陣や富裕層は生き残り、責任者が罰せられることはありませんでした。所得の低い人々を中心に被害を受けたということです。多くの人々はそんな実態を見て、西洋的市場メカニズムに疑問を持ち、信頼は大きく揺らぎました。 この影響が政治に及び、西洋の繁栄の基礎となった平等や開放性に対する信頼が地に落ちることになり、今は危険な状態にあります。
+これから日本や欧米先進国は平等や開放性の価値を再び認め、維持するのか、または、衰退して経済や政治が長い凋落の時代を迎えるのか、今はターニングポイントにあるといえるでしょう。
Q:格差の拡大も、世界中で問題視されています。
A:私は格差の拡大は、「平等の欠如」によって生まれる差だと考えています。 自分は政治的に存在を認められているのか。同じ権利があるのに、平等に扱われているのか。自分たちの声は届いているのか──。多くの人々は、リーマンショックで富裕層が生き残り、自分たちが損害を被ったことで、富裕層は政治的にも大きな力を持っているんだと分かってしまいました。 そこで、ドナルド・トランプ米大統領は選挙戦で、「忘れ去られていたアメリカ人のために」ということを強調して、支持を得たわけです。
▽日本の監視社会化は将来的な脅威となる
Q:日本でも、平等性や開放性は危機的状況にあるとみていますか。
A:日本でも平等については衰退していると思います。それによって収入の格差は拡大し、貧困率も上がっています。顕著なのが、増え続ける非正規雇用者と、正規雇用者とが分断されている点です。非正規雇用者はいつでも不安定な状況にあります。
+ですが、開放性については衰退しておらず、米国や英国のように閉鎖的な方向に進んでいるわけではありません。 ただ、残念なのが、開放性をさらに拡大する方向にはいっていない、いわば“ステイ”な状況だということです。日本が今後、成長してゆくためには、経済のダイナミズムが必要です。それには開放性の向上が大切なはずです。
Q:著書の中で、二つのキーワードから、西洋が従うべき八つの原則が示されていて、その中で監視社会は法の支配をむしばみ、平等を損なうと指摘しています。日本は共謀罪や特定秘密保護法等、国民への監視を強め、閉鎖的な方向へと進んでいるように見えます。
A:確かに、そうです。日本政府が最近通した法律の中には、監視社会を強める法律があります。監視する力が増すということは、政府の力が増すということ。将来的に平等や開放性が損なわれる脅威であるといえると思います。 こうした政府の動きには、日本国民は抵抗しなくてはならないのではないでしょうか。
Q:今、安倍政権の支持率は急落しています。これも著書にありましたが、政府は支持率が落ちると、短期的に支持を得るために、大衆迎合的な政策を打つ傾向があります。今後、安倍政権はどういう方向へ政策を進めると考えますか。
A:そもそも、安倍晋三首相は、ポピュリストです。これは何も新しいことではありません。 日本の政治の先行きを見通すのは非常に難しいのですが、私はフランス大統領選挙が参考になるのではと思っています。  マクロン仏大統領はポピュリストで穏健右派。短期間で多くの支持を集めました。同様に、日本では東京都知事選挙で大きな支持を集めた小池百合子氏も、ポピュリストであり穏健右派です。小池氏のように、新しいメッセージを示せば、短期間で多くの支持を集められることも実証されました。
+次にどのような政策が打ち出されるかの詳細は分かりません。楽観主義的な見方かもしれませんが、極端な政策が出てくることはないと思っています。  都知事選を見ていると多くの人々が、平等の欠如による格差拡大や不公平感、女性や子どもに対する支援の充実について、高い関心を持っていることが分かりました。つまり政治的には、こうしたテーマについて何かポジティブなことをやっていく、強いインセンティブになっているわけです。 もちろん、これからどのような政治や政党の勢いが増すのかについては分かりませんが。
Q:平等と開放性は、外的要因によって失われることもあります。日本でいえば、「北朝鮮情勢の不安定化」のように、二つのキーワードの価値観を全否定する存在が脅威として浮上すると、その脅威から自らの価値観を守るために、閉鎖的な政策にかじを切ることがあると思います。
A:確かに、外の脅威はいつの時代にもあります。今は北朝鮮やIS(過激派組織「イスラム国」)がそうで、欧州ではテロの脅威があります。 ですが、今がこれまでと違うのは、私たちの内部からこの二つのキーワードを衰退させる要因が生み出されているという事実です。
+私たちは「平等」と「開放性」がもたらした繁栄や強さをもう一度認識して、これまでの市場や社会の仕組みを再構築しなければならない時期にきています。 08年の金融危機を発端にした大惨事が、いかにして起きてしまったのか。それを振り返る必要があります。民主主義がカネで覆いかぶされてしまい、本来の民主主義の強さが半減されていなかったのか。富が一部の富裕層に独占されていなかったのか──。
+西洋の仕組みの脆弱さを正しく理解すれば、もう一度、私たちはかつての強さを取り戻すことができると考えています。
http://diamond.jp/articles/-/136184

次に、10月23日付け日経ビジネスオンラインがThe Economistの記事を転載した「デジタル時代、消費者は商品を「所有」できない 米国では「所有権」を取り戻す州法成立の動きも」を紹介しよう。
・かつて、「(ものを)所有」するということは、小切手を切るのと同じくらい単純な行為だった。何かを購入したら、それを所有することになった。壊れたら修理をするし、不要になったら売るか捨てる、といった具合だ。  一部の企業は、アフターサービス市場で儲ける技を編み出した。有料の長期保証を導入したり、メーカーが認定する修理店を展開したり、あるいはプリンター本体の価格は安く抑えて、定期的に買い替えが必要なインクカートリッジを高値で売りつけるといった手法を発案した。 ただ、利益をさらに絞り出すためのこうした手法が登場しても、何かを「所有する」という意味の本質が変わることはなかった。
▽今や消費者は「買った」商品の「使用を許されているだけ」だ
・ところが、デジタル時代においては、「所有」という概念はつかみどころのないものに変わってしまった。例えば、米電気自動車(EV)メーカー、テスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏は、米ウーバー・テクノロジーズなどのライドシェア企業においてテスラのクルマを購入し、そのクルマを使ってウーバーなどの運転手が働くことを禁じている。
・あるいは米トラクターの「ジョンディア」を所有する人は、それを制御するソフトウェアをいじらないよう“推奨”されている。スマートフォンが登場して以来、消費者はデバイスの中のソフトに手を加える権利を奪われ、単にその使用を許されているだけ、ということを受け入れざるを得なくなっている。
・だが、デジタル化が進み、自動車や温度自動調節器、そして性具にいたるまで、あらゆる機器がメーカー側の都合でこれらの機器を自由にする権利がますます制限される中、誰が何を「どこまで所有し」、「コントロールできるのか」という問題が生じつつある。消費者は、今や最も基本的な「所有権」というものが脅かされていることを認識すべきだ。
・こうした最近の流れは、決して悪いことばかりではない。メーカー各社が、ますます複雑な技術により所有者の行動を制限しようとするのには、それなりに正当な理由がある。具体的には、著作権の保護だったり、機械の故障を防ぐことだったり、環境基準を満たすためだったり、ハッキングを防止するためといった理由がある。
▽ハリケーンに備え、遠隔操作でバッテリー寿命を伸ばしたテスラ
・場合によっては、メーカーがソフトを制御していることで、消費者が恩恵を受けるケースもある。例えば、9月に大型ハリケーン「イルマ」が米フロリダ州を襲った際、テスラは一部のモデルのソフトを遠隔で更新し、安全な場所へ避難できるようにバッテリーの寿命を延ばしたという。
・だが、商品にデジタルの面で様々な制限が課されれば課されるほど、商品の所有者よりも生産者の方が大きな裁量権を握るようになりつつある。これは、なかなか厄介な話だ。 どのクルマを買うかを選ぶだけでも難しいのに、そのクルマの使い方がどのように制限されるのか、また、どういった個人データをメーカー側が収集するのか、といったことをクルマの仕様から読み解かなければならないとなれば、なおさら困難だ。
・さらに、そうした仕組みによってメーカーの都合で商品が長くは使えないようになっていたら、消費者にとってはそれだけコストがかかることになる(注*1)。既に、スマホから洗濯機まで、あらゆる商品は修理がしにくくなっている。つまり、壊れたら修理されることはなく、廃棄されているのだ。 (注*1) 一部のスマートフォンは、電池がだめになっても電池だけを交換することができず、買い換えなければならないようなケースを指していると思われる)
▽家庭内の間取り情報を吸い上げる「ルンバ」
・消費者のプライバシーも脅かされている。例えば、米アイロボットの掃除機「ルンバ」が、床を掃除するだけでなく家庭内の間取りデータを収集し、メーカー側がそれを外部企業に売り込もうとしていると報じられた時は、ユーザーたちを愕然とさせた(しかし、アイロボットはそのような意図はないと強調している)。
・また、「ウィーバイブ」というバイブレーターを製造販売しているカナダのスタンダード・イノベーションは、そのユーザーに関する非常にプライベートな情報を収集、記録していることがハッカーによって暴かれた。これを受けて、同社は、原告1人当たり最大127ドル(約1万4300円)、総計で最大320万ドル(約3億6100万円)を支払うことで示談に同意した。
・さらに、トラクターのジョンディアについては、メーカーが認定したソフトしか使用が認められていないことに対し、農家側が反発している。問題が発生した場合、遠く離れた修理店まで行かなければならないため、繁忙期に故障が起きたら商売上、大きな痛手を被る可能性があるというのだ。一部の農家は、ユーザーが自分で直せないように組んであるソフトの制限を解除してある。制限を回避するために、東欧で開発されたソフトを利用しているという。
・こうしたメーカー側による消費者のプライバシーへの介入を前に消費者たちは、自分たちの所有権というものを注意深く守らなければならないことを改めて認識すべきだ。 自分の「所有物」に手を加え、改造したければ好きなように改造できる権利、そして、そこから収集されるデータを誰が使っていいのかを決める権利に至るまで、闘ってでも守らなければならない。
▽米国の十数の州では「修理する権利」を法制化する動きも
・米国ではこうした考え方が浸透し、「修理をする権利」というのを定めるための法案が十数の州で検討されている。また、欧州議会は、洗濯機などの製品をもっと修理しやすくするようにメーカーに働きかけている。  フランスの家電メーカーは、予想される耐用年数を買い手に伝えることを義務付けられている。それによって、修理しやすいかどうかがある程度わかるというわけだ。
▽デバイスによって得られる「自由」が損なわれる
・さらに、規制当局はもっと競争を促すために、メーカーが認定する修理店と同様に、独立系の修理店も商品に関する情報やスペア部品、修理ツールなどを入手できるようにするべきだろう。これは既に自動車業界では当たり前のルールとなっている。
・「所有」という概念は決して消滅しつつあるわけではない。その意味が変化しつつあるだけに、今よく考える必要があるということだ。 概してスマホをはじめとしたデバイスは、それを使う人にとって、様々なやりたいことを実現させるための手段という前提で販売されている。しかし、それが他の誰かにコントロールされているとなれば、せっかくそのデバイスの入手によって新たに手にした自由が損なわれてしまうことを意味する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/224217/101900144/?P=1

第一の記事で、 『西洋の繁栄を支えた二つのキーワードである「平等」と「開放性」が、衰退の危機にある・・・トリガーは、2008年のリーマンショックによって引き起こされた金融危機』、 『元凶となった金融機関の経営陣や富裕層は生き残り、責任者が罰せられることはありませんでした。所得の低い人々を中心に被害を受けたということです。多くの人々はそんな実態を見て、西洋的市場メカニズムに疑問を持ち、信頼は大きく揺らぎました。 この影響が政治に及び、西洋の繁栄の基礎となった平等や開放性に対する信頼が地に落ちることになり、今は危険な状態にあります・・・そこで、ドナルド・トランプ米大統領は選挙戦で、「忘れ去られていたアメリカ人のために」ということを強調して、支持を得たわけです』、との鋭い指摘はさすがエモット氏ならではである。 『日本でも平等については衰退していると思います・・・ですが、開放性については衰退しておらず、米国や英国のように閉鎖的な方向に進んでいるわけではありません』、との日本の開放性についての指摘には違和感がある。 『日本政府が最近通した法律(共謀罪や特定秘密保護法等)の中には、監視社会を強める法律があります。監視する力が増すということは、政府の力が増すということ。将来的に平等や開放性が損なわれる脅威であるといえると思います。 こうした政府の動きには、日本国民は抵抗しなくてはならないのではないでしょうか』、 『08年の金融危機を発端にした大惨事が、いかにして起きてしまったのか。それを振り返る必要があります。民主主義がカネで覆いかぶされてしまい、本来の民主主義の強さが半減されていなかったのか。富が一部の富裕層に独占されていなかったのか──。』、などの指摘はその通りだ。
第二の記事で、 『今や消費者は「買った」商品の「使用を許されているだけ」だ』、との指摘は、これまで、自分では気づかなかったが、言われてみれば確かにその通りだ。ただ、日本ではかつて、湯沸かし器の不正修理で死亡事故が起きたこともあり、所有権が完全にはないことが一概に不合理な訳ではない。 『ハリケーンに備え、遠隔操作でバッテリー寿命を伸ばしたテスラ』、はいいとしても、 『家庭内の間取り情報を吸い上げる「ルンバ」』には、驚かされた。 『米国の十数の州では「修理する権利」を法制化する動きも』、というは、日本も見習う必要があるだろう。
今日は、「資本主義」とおおげさなタイトルをつけた割には、その端をかすっただけで終わってしまったが、今後、よりふさわしいネタが出てきてほしいものだ。
タグ:ビル・エモット 「衰退する西洋と日本の共通点」知日派エモット氏語る ビル・エモット(国際ジャーナリスト)特別インタビュー」 資本主義 (知日派エモット氏:「衰退する西洋と日本の共通点」、デジタル時代、消費者は商品を「所有」できない 米国では「所有権」を取り戻す州法成立の動きも) ダイヤモンド・オンライン メーカーが認定する修理店と同様に、独立系の修理店も商品に関する情報やスペア部品、修理ツールなどを入手できるようにするべきだろう 米国の十数の州では「修理する権利」を法制化する動きも メーカー側による消費者のプライバシーへの介入を前に消費者たちは、自分たちの所有権というものを注意深く守らなければならないことを改めて認識すべきだ 非常にプライベートな情報を収集、記録していることがハッカーによって暴かれた バイブレーターを製造販売しているカナダのスタンダード・イノベーション 家庭内の間取りデータを収集し、メーカー側がそれを外部企業に売り込もうとしていると報じられた 家庭内の間取り情報を吸い上げる「ルンバ」 ハリケーンに備え、遠隔操作でバッテリー寿命を伸ばしたテスラ メーカー各社が、ますます複雑な技術により所有者の行動を制限しようとするのには、それなりに正当な理由がある。具体的には、著作権の保護だったり、機械の故障を防ぐことだったり、環境基準を満たすためだったり、ハッキングを防止するためといった理由がある。 今や消費者は「買った」商品の「使用を許されているだけ」だ 一部の企業は、アフターサービス市場で儲ける技を編み出した 「デジタル時代、消費者は商品を「所有」できない 米国では「所有権」を取り戻す州法成立の動きも」 The Economist 日経ビジネスオンライン 08年の金融危機を発端にした大惨事が、いかにして起きてしまったのか。それを振り返る必要があります。民主主義がカネで覆いかぶされてしまい、本来の民主主義の強さが半減されていなかったのか。富が一部の富裕層に独占されていなかったのか──。 こうした政府の動きには、日本国民は抵抗しなくてはならないのではないでしょうか 日本政府が最近通した法律の中には、監視社会を強める法律があります。監視する力が増すということは、政府の力が増すということ。将来的に平等や開放性が損なわれる脅威であるといえると思います 共謀罪や特定秘密保護法等 開放性については衰退しておらず、米国や英国のように閉鎖的な方向に進んでいるわけではありません 日本でも平等については衰退していると思います ドナルド・トランプ米大統領は選挙戦で、「忘れ去られていたアメリカ人のために」ということを強調して、支持を得たわけです 多くの人々はそんな実態を見て、西洋的市場メカニズムに疑問を持ち、信頼は大きく揺らぎました。 この影響が政治に及び、西洋の繁栄の基礎となった平等や開放性に対する信頼が地に落ちることになり、今は危険な状態にあります 元凶となった金融機関の経営陣や富裕層は生き残り、責任者が罰せられることはありませんでした。所得の低い人々を中心に被害を受けたということです トリガーは、2008年のリーマンショックによって引き起こされた金融危機だと考えています 日本や欧米先進国の繁栄の基盤となった「平等」と「開放性」が、衰退の危機にあると警鐘を鳴らしている 『「西洋」の終わり』
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環境問題(その1)(夏の「酷暑」は年々悪化!スパコンが予測した恐ろしい未来、揺らぐ日本企業の「環境先進」イメージ 中国政府の規制強化で摘発相次ぐ、「石炭火力」偏重が日本に負の影響を与える ESG投資で注目、「環境情報開示」創始者が警鐘) [世界情勢]

今日は、環境問題(その1)(夏の「酷暑」は年々悪化!スパコンが予測した恐ろしい未来、揺らぐ日本企業の「環境先進」イメージ 中国政府の規制強化で摘発相次ぐ、「石炭火力」偏重が日本に負の影響を与える ESG投資で注目、「環境情報開示」創始者が警鐘) を取上げよう。

先ずは、百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏が7月21日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「夏の「酷暑」は年々悪化!スパコンが予測した恐ろしい未来」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽酷暑」がもたらす未来は10年以上前に予測されていた
・今回は、猛暑ならぬ「酷暑」についての話をする。昔話から始めると、私が社会人になった1985年頃、クライアントに会うときは夏もウールのスーツにネクタイ姿が当たり前だった。2005年に始まったクールビズでは、お役所の掛け声は「ノーネクタイ・ノージャケット」になったが、それでも最初の数年はネクタイだけ外してスーツの上下で過ごすのが、私の周囲の大企業では通例だった。
・そして今では、夏はポロシャツにチノパンで大企業を訪問してもそれほど不自然ではなくなった。そうなってみて改めて振り返ると、不思議なのは2005年まで「なぜ、スーツにネクタイで夏を過ごしていても平気だったのか?」ということである。 理由は単純である。明らかに今ほど暑くなかったのだ。暑い夏はヒートアイランド現象と地球温暖化がもたらしている。前者は20世紀後半から問題になっていたが、後者が効いてきたのはここ10年くらいのことだ。
・実際、2005年頃には「地球シミュレータ」という、日本が世界に誇るスーパーコンピュータによる地球温暖化のシミュレーションが、頻繁にドキュメンタリー番組で放送された。それによれば、世界中で二酸化炭素をかなりの努力で削減したとしても、今後東京の夏が涼しくなることはないということだった。 2005年当時は、最高気温が30℃を超える真夏日は、東京では7月中旬から8月末までの時期に限られていた。それが21世紀を通じて見ると、夏は6月中旬から9月末までの100日間と年々長くなっていく。
・また当時、東京の最高気温は、毎年8月に30℃から32℃の間というのが相場だった。これが2020年までには毎年35℃を超えるようになると、シミュレータでは予測されていた。 実際にその後どうなったかというと、2010年以降、最高気温が33℃を超える年が続いたのだが、2014年に気象庁が観測場所を移転して、データが不連続になった。そして不思議なことに、新しい観測場所では今年まで、東京の最高気温が32℃を超えることはなかった。
・勘繰ると、節電政策を打ち出していた政権に対する何らかの忖度が働いたのかもしれない。しかし、ついに新しい観測場所でも、今年7月に最高気温が32℃を超えた。やはり、日本は確実に暑くなっているのだ。  まだ先の話ではあるが、2070年頃には40℃を超える年が出現し、東京にも災害規模の熱波が到来するようになると言われる。ちなみにその頃の東京では、1月に紅葉を迎えた後、冬がないまま春を迎える。そして、ゴールデンウィークから10月末まで1年の半分が夏になる。温暖化はそこまで行くと予想されているのだ。
▽恐ろしいシミュレーションに現実が近づいてきてしまった
・このようなシミュレーションの精度はかなり高い。にもかかわらず、最近、地球シミュレータが報道に登場することがあまりなくなってきたように思える。先ほど気象庁のデータについて「忖度」という言葉を使ったが、地球温暖化については、報道に関する何らかの自主規制が本当にあるのではないかと思えるフシがあるのだ。
・理由は、シミュレーションに現実が追いついてきたからだと私は推測している。2005年当時は、温室効果ガスを減らすキャンペーンの一環としてシミュレーションを繰り返し、報道するのがブームだったが、その当時のシミュレーションでは、2020年以降の日本はかなり悲惨なことになることが予測されていた。その予測に現実が近づいているので、放送できなくなったのではというのが、私の勘繰りである。
・当時シミュレータが予測していた2020年から2050年にかけての日本には、3つの災害がもたらされるとされていた。「巨大台風」「豪雨」そして「熱波」である。 東京、横浜、名古屋といった大都市は熱波に見舞われ、20世紀の台湾やフィリピンと気温がそれほど変わらなくなる。熱波と連動してゲリラ豪雨などの大雨も年々増加する。それに加えて、西日本を中心に大規模な台風被害が確実に増加すると予測されていた。台風の数が年々増えるだけでなく、これまで日本を襲ったことがない巨大台風も上陸することが予測されている。
▽熱波、巨大台風、豪雨が続発 これまでの常識は通用しない
・振り返ってみると、当時の予測はここ数年の災害の発生状況と完全に一致している。先頃、九州と愛知を襲った集中豪雨の記憶はまだ新しい。昨年は8月に相次いで4つの台風が上陸し、猛威を振るったが、こんなことも従来はなかったことだ。
・これらの災害も痛ましいが、実はそれ以上に熱波の犠牲者が増加していることはあまり知られていない。夏の熱波による熱中症死は1996年から2000年頃は毎年150人から200人程度だったが、近年は毎年1000人前後と急増中。死者の4分の3が65歳以上の高齢者で、発生場所で多いのが住居内である。
・こうした「酷暑」問題の本質は、もう後戻りできないことと、年々悪い方に向かっていくだろうということだ。  そもそも、世界が地球温暖化対策にどれだけ力を入れたとしても、事態の悪化を食い止めることは難しいことがわかっている。そんな状況にもかかわらず、世界は京都議定書に続いてパリ協定も骨抜きにする方向へと動いている。
・そんなご時世に我々個人が肝に銘じるべきことは、去年までの経験則で物事を判断しないことだ。「去年の夏はこれで過ごせた」「台風が来たけどいつも通り外出してもいいだろう」というように、去年まで大丈夫だったからといって、今後も同じ行動をとることは控えたほうがいい。
・とにかく、この暑さは年々ひどくなり、これまでになかったリスクも起きることが予測されている。それが夏の「新しい常識」だということを理解することが、何よりも重要なのだ。
http://diamond.jp/articles/-/135886

次に、9月6日付け日経ビジネスオンライン「揺らぐ日本企業の「環境先進」イメージ 中国政府の規制強化で摘発相次ぐ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「環境汚染大国」中国が抱える問題の深刻さは、前回、9月5日公開の記事(「嘆く農民と赤茶けた水の池、中国汚染地帯を歩く」)で見た通りだ。 中国の環境問題は突然起きたわけではなく、以前から問題視されてきた。しかし、経済成長を優先する地方政府は、一時的には経済の足を引っ張りかねない環境保護に本腰を入れることはなかった。現場には厳格に取り締まるより私腹を肥やすことに熱心な役人も数多くいた。企業側も小手先の対応で、目先の取り締まりを逃れられればいいという姿勢に終始した。
・そんな中国でもようやく環境保護意識が高まりつつある。経済成長で人々が豊かになり、健康や食の安全などにも関心が向くようになったからだ。特に2008年に北京の米国大使館が独自に大気汚染の状況を測定するようになってからは、中国の大気汚染が世界的に問題視されるようになり、中国の国民の間からも環境汚染を嘆く声が高まった。
▽世論に押されて中国政府も環境対策に本腰
・そうした世論を受け、中国政府も近年、環境問題に本腰を入れ始めている。2015年1月には環境規制を強化。違反企業への罰則を強化するとともに、違反を取り締まらない地方政府当局も処罰の対象とした。  2016年には、「環境保護の勅使」とも言われる「中央環保督察組」が組織された。督察組は各地方に赴き、独自に環境汚染を調査。汚染物質を排出している企業などを取り締まる。
・環境対策を地方政府任せにしていては、現地企業とつながりの深い役人が「手心」を加えて、汚染源となる企業を野放しにしかねない。これではいつまで経っても環境対策が進まない。そんな中央政府の危機感がにじむ。実際、ある企業経営者は「中央の役人が来て、有無を言わさず取り締まるようになった」と話す。企業も地方政府も、督察組の存在を無視できなくなりつつある。
・地方政府は動かざるを得ない。日本企業も数多く進出している江蘇省常熟市では今年6月、当局の“異例”の取り締まりに企業関係者が肝を冷やした。担当者がパトロールに出たのが夜間だったからだ。 環境対策を施していない工場は、当局の監視の目が厳しい昼間の操業をやめ、夜間に稼動するケースも少なくない。ある工場関係者は「こちらだって金を稼がなくてはならないのだから仕方ない」と明かす。
・常熟市当局の動きは、こうした企業の動きに対応したものだ。100人近い職員を20チームに分けて、汚染物質を排出している企業60社を取り締まった。取り締まる企業に関する情報が事前に漏れないように、職員のチーム分けや担当企業はすべて抽選で決める徹底ぶりだった。
・もちろん日本企業も、中国の環境関連の取り締まり強化の動きとは無縁ではいられない。日本企業の多くが中国での拠点を置く上海市では、2015年ごろから環境規制が厳しくなり、「このままでは工場を動かすことはできないのではないか」(日系企業幹部)といった声もある。
▽半年で日系企業の処罰事例が30件以上
・懸念は現実のものになっている。上海市の環境保護局が公表している取り締まり企業の情報によると、15年7月から16年12月末までに日系企業が処罰を受けたケースは50件以上に上る。さらに今年1?6月の半年間だけで30件以上の処罰事例が出ている。
・現地企業を含めると、毎月数百件の違反企業が出ている中で、日系企業は決して多いとは言えない。だが、違反企業に名を連ねた日系企業の中には、環境への取り組みを喧伝している企業もある。 ある大手日本企業の現地法人は、数回にわたる当局の調査の結果、単に環境規制の違反として取り締まられただけでなく、調査を忌避したとして処罰を受けている。環境コンサルティング企業、上海清環環保科技の清水泰雅CEO(最高経営責任者)は「もともと日本企業は『環境問題に対して先進的』と思われているだけに、日本企業のイメージが悪化する可能性がある」と話す。
・清水氏は「規制強化の動きを日本人の幹部社員や日本の本社が把握しきれておらず、対応が後手に回って処罰されるケースが多い」と指摘する。日系企業では、本社の役員が現地法人の法定代表人になっていることも多い。「本人があずかり知らないうちに、違反企業の代表として名前を公表されている例もある」(清水氏)。過去の経験を基に「当局との関係が築けているから問題ない」「すぐにやらなくても大丈夫」といった対応が、日系企業が摘発される要因の一つになっている。
・中には長期にわたり、工場の操業を止められている違反企業もある。自らの企業に違反はないものの、部材などを購入していた中国企業が操業停止になり、サプライチェーンに影響が出ている日本企業もあるという。中国政府の環境対策がこれまでとはステージが異なるとの認識を持たなければ、環境経営に熱心に取り組んできた日本企業であっても足をすくわれかねない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082800158/083000009/?P=1

第三に、11月7日付け東洋経済オンライン「「石炭火力」偏重が日本に負の影響を与える ESG投資で注目、「環境情報開示」創始者が警鐘」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aはポール・ディッキンソン氏の回答、+は回答内の段落)。
・短期的な収益の追求ではなく、環境や社会、ガバナンスに対する企業の取り組みを評価基準に据えた「ESG投資」が世界的な規模で拡大している。 ESG投資の基礎となる「国連責任投資原則」(PRI、PrinciplesforResponsibleInvestment)は、国際連合のコフィー・アナン事務総長(当時)によって2006年に提唱された。現在では、1700を超える年金基金や資産運用会社などがPRIに賛同署名し、投資決定にESGを組み込むことを公約している。日本でも、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に署名して以来、ESG投資に対する関心が急速に高まっている。
・ESG投資では、地球温暖化対策など環境にかかわる情報の開示が欠かせない。そこで大きな役割を果たしているのが、英国のNGO(非政府組織)であるCDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)だ。CDPは、世界規模で事業を展開する企業に、環境関連の情報開示を要請。現在、2000社を上回る大手企業がCDPが作成した調査票に基づいて環境関連の情報を開示している。CDPでは、経営陣による取り組みへの関与や目標設定の合理性などの内容を精査したうえで、AからD-(マイナス)までの8段階にスコアリングし、その結果を公表している。
・CDPの気候変動分野における取り組みには、運用資産総額で約100兆ドル、800を上回る機関投資家が賛同署名している。CDPから高評価を得ることが、機関投資家によるESG投資の対象銘柄に組み入れられることにつながる。そのため、企業の経営者の関心が年々高まっている。 このたび東洋経済では、10月下旬に来日したCDPの創設メンバーの1人であるポール・ディッキンソン・エグゼクティブチェアマンに単独インタビューし、CDPの取り組みの成果や日本企業の情報開示の現状、課題について聞いた。
▽CDPへの開示、大手企業の取り組みは前進
・Q:世界の大手企業による気候変動、水利用などに関する情報開示はどの程度進んでいるか。
・A:二酸化炭素の排出抑制など脱炭素化への取り組みという観点では、あらゆる場面で非常に大きな進歩が見られている。CDPに情報を開示した企業を見てみると、現在、約9割の企業が温室効果ガスについて何らかの削減目標を掲げている。そのうち約20%の企業は2030年時点での具体的な削減目標を設定している。
+2015年に合意されたパリ協定では、2050年までに全世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑えることが決まった。そのために必要な企業による温室効果ガス削減努力も、この1年で大きく進捗した。2016年時点では、必要な温室効果ガス削減の目標に対してのカバー率が25%だったが、2017年には31%に高まった。
・Q:CDPのスコアで最上位のAリストに選定されることを多くの企業が目標としている。
・A:2017年の調査で、気候変動分野では全世界で112社がAリストに選定された。Aリストは前年の193社から減少した。これは、Aリスト選定の条件とされる点数のハードルを引き上げたためだ。前年と同じレベルの開示努力ではAランクを維持するのは難しいことを意味している。オリンピック競技のように、これまでと同じ努力では金メダルを取ることはできない。
・Q:日本企業の情報開示のレベルについて、どのように評価しているか。
・A:日本企業の開示は非常に進んでいる。2017年に気候変動分野でAリストに選定された日本企業は13社(全世界で112社)、水分野では12社(全世界では73社)あり、地球環境保護に対しての日本企業の思慮の深さに敬意を抱いている。ただ、日本の産業界は困難な問題に直面している。脱炭素化を進めるうえで、使用する電力の炭素集約度が高い(消費電力当たりの温室効果ガスの排出量が多い)という問題がある。
・Q:日本の電力会社は再生可能エネルギー拡大への取り組みが遅れているうえ、産業界の間では、炭素税の本格導入などカーボンプライシングへの反対論が根強い。
・A:日本の産業界は、目先の痛みを回避することに目が向きがちで、長期的なリスクを見据えて対処することに消極的に見える。日本が低炭素技術を用いてイノベーションを起こすことに向かわなければ、長期的には大きな困難に直面する。
+このたび発表された2017年の年次報告によれば、温室効果ガス排出について前年よりも増えたと回答した日本企業が、減ったと回答した日本企業よりも多くなっている。日本では発電電力量に占める石炭火力発電の比率が高いため、製品の生産量が増加すると二酸化炭素の排出量が増加してしまう。化石燃料を基にした電力を使用するかぎり、この問題から抜け出すことは難しい。再生可能エネルギーが普及しているとも言いがたい。
▽グローバル企業のほうが視野が広い
・Q:現在のように電力分野で二酸化炭素排出量の高水準の状況が続くと、企業によるスコア向上の妨げにならないか。
・A:当然、妨げになる。海外では企業が温室効果ガスの排出係数の小さい電力を選んで購入することができる。それがスコア改善につながる。しかし日本ではそれが極めて難しい。将来を見渡した場合、消費者は炭素集約度の高い製品を買わなくなる可能性が高い。そうなると、温室効果ガス削減の取り組みで遅れた企業は競争で負けてしまいかねない。
+そうした状況を打開するために、政策の見直しを政府に働きかけるべきだ。米国を見ても明らかなように、グローバルに展開する企業のほうが、パリ協定の脱退を表明した政府よりも視野が広い。 安全保障上の脅威でもある気候変動に対して、企業にはリーダーシップを発揮して取り組む内在的な力がある。私はそのことを信じている。
・Q:温室効果ガス削減の取り組みを後押しするために、情報開示要請のほかにどのような取り組みをしてきたか。
・A:SBT(ScienceBasedTargets、科学的根拠に基づく削減目標)認定の取り組みがある。CDPは国連グローバル・コンパクトなどとともにSBTイニシアティブの設立や事務局の運営にかかわっており、科学的に「2℃目標」と整合的な取り組みをSBTとして認定している。SBTに認定されると、CDPのスコアリングも加点される仕組みだ。
+SBT認定を取得した企業は年々増えており、すでに300を超す企業が認定取得または2年以内での認定取得目標を掲げている。日本企業でも、第一三共や電通、富士通、川崎汽船など12社がSBT認定を取得。目標を掲げている企業を含めると39社に上っている。
+2℃目標と整合的な科学的根拠に基づく温室効果ガスの削減目標を設定し、それを達成しようと努力することは、企業活動にとって必要な最低限の要件だと思う。現在ではまだ道徳的に求められているレベルかもしれないが、遠くない将来、法的に義務づけられる可能性もある。その意味でもSBT認定取得が必須の方向になってほしい。
▽2018年から質問内容を大幅改訂
・Q:再生可能エネルギーの利用促進にどのように取り組んでいるか。
・A:CDPは、企業活動に必要な電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目的とした「RE100」の活動にもかかわっている。この活動には現在、100社強がコミットしている。日本企業ではリコーと積水ハウスの2社が名前を連ねている。CDPのスコアリングでは、RE100のコミットを求めているわけではないが、再生可能エネルギーの利用目標を設定しているか否かでスコアに差が設けられている。
・Q:最近の新たな取り組みとして、7月には気候変動が投資ファンドに与える影響についての評価も始めている。
・A:EU(欧州連合)の基金によってパートナーに選ばれた。これにより、欧州にある約3000のファンドや投資信託について、気候変動に関して評価することになった。日本や米国でも資金を得ることができればやってみたい。
・Q:G20(主要20カ国財務相・中央銀行総裁会議)の金融安定理事会が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)は今年6月末に最終報告を公表した。これに基づき、欧州では、気候関連などESG情報の開示促進を含む総合的な政策ロードマップを年末までにまとめる動きがあるという。
・A:TCFDの最終報告を踏まえて、CDPでも2018年から質問事項を大幅に見直す。つまり、将来を見据えての気候変動によるリスクや対処計画についても説明を求めていく。
http://toyokeizai.net/articles/-/196345

第一の記事で、 『気象庁が観測場所を移転して、データが不連続になった。そして不思議なことに、新しい観測場所では今年まで、東京の最高気温が32℃を超えることはなかった。 勘繰ると、節電政策を打ち出していた政権に対する何らかの忖度が働いたのかもしれない』。私も、観測場所を大手町から北の丸公園に移したのは何故だろうといぶかっていたが、これで謎が解けた。 『地球温暖化については、報道に関する何らかの自主規制が本当にあるのではないかと思えるフシがあるのだ。 理由は、シミュレーションに現実が追いついてきたからだと私は推測している』、というのもなるほどと納得できる説明だ。 『当時シミュレータが予測していた・・・3つの災害がもたらされるとされていた。「巨大台風」「豪雨」そして「熱波」・・・振り返ってみると、当時の予測はここ数年の災害の発生状況と完全に一致している』、との指摘を我々は改めて直視する必要がある。
第二の記事で、 『世論に押されて中国政府も環境対策に本腰』、というのは好ましいことだ。ただ、 『半年で日系企業の処罰事例が30件以上・・・「もともと日本企業は『環境問題に対して先進的』と思われているだけに、日本企業のイメージが悪化する可能性がある」』、というのは困ったことだ。
第三の記事で、CDPに対し、『日本企業の開示は非常に進んでいる。2017年に気候変動分野でAリストに選定された日本企業は13社(全世界で112社)、水分野では12社(全世界では73社)あり、地球環境保護に対しての日本企業の思慮の深さに敬意を抱いている。ただ、日本の産業界は困難な問題に直面している。脱炭素化を進めるうえで、使用する電力の炭素集約度が高い(消費電力当たりの温室効果ガスの排出量が多い)という問題がある』、というのは、原発再稼働を認めるべっきでないという私の立場からは悩ましい問題だが、少なくとも安さを追求する石炭火力偏重は止めるべきだろう。  『EU(欧州連合)の基金によってパートナーに選ばれた。これにより、欧州にある約3000のファンドや投資信託について、気候変動に関して評価することになった。日本や米国でも資金を得ることができればやってみたい』、日本では誰が資金を出すのか分からないが、やってもらいたいものだ。
タグ:もともと日本企業は『環境問題に対して先進的』と思われているだけに、日本企業のイメージが悪化する可能性がある 環境対策を地方政府任せにしていては、現地企業とつながりの深い役人が「手心」を加えて、汚染源となる企業を野放しにしかねない。これではいつまで経っても環境対策が進まない。そんな中央政府の危機感がにじむ 督察組は各地方に赴き、独自に環境汚染を調査。汚染物質を排出している企業などを取り締まる CDPから高評価を得ることが、機関投資家によるESG投資の対象銘柄に組み入れられることにつながる 東洋経済オンライン 半年で日系企業の処罰事例が30件以上 SBT(ScienceBasedTargets 日本では発電電力量に占める石炭火力発電の比率が高いため、製品の生産量が増加すると二酸化炭素の排出量が増加してしまう 日本の産業界は困難な問題に直面している。脱炭素化を進めるうえで、使用する電力の炭素集約度が高い(消費電力当たりの温室効果ガスの排出量が多い)という問題がある CDPに情報を開示した企業を見てみると、現在、約9割の企業が温室効果ガスについて何らかの削減目標を掲げている。そのうち約20%の企業は2030年時点での具体的な削減目標を設定 1700を超える年金基金や資産運用会社などがPRIに賛同署名し、投資決定にESGを組み込むことを公約している PRI 国連責任投資原則 運用資産総額で約100兆ドル、800を上回る機関投資家が賛同署名 ESG投資 (GPIF)が2015年に署名 「石炭火力」偏重が日本に負の影響を与える ESG投資で注目、「環境情報開示」創始者が警鐘 「中央環保督察組」 世論に押されて中国政府も環境対策に本腰 中国の大気汚染が世界的に問題視されるようになり、中国の国民の間からも環境汚染を嘆く声が高まった 「環境汚染大国」中国が抱える問題の深刻さ 日経ビジネスオンライン 当時の予測はここ数年の災害の発生状況と完全に一致している 日本には、3つの災害がもたらされるとされていた。「巨大台風」「豪雨」そして「熱波」である 理由は、シミュレーションに現実が追いついてきたからだと私は推測している 地球温暖化については、報道に関する何らかの自主規制が本当にあるのではないかと思えるフシがあるのだ。 しかし、ついに新しい観測場所でも、今年7月に最高気温が32℃を超えた 勘繰ると、節電政策を打ち出していた政権に対する何らかの忖度が働いたのかもしれない 2014年に気象庁が観測場所を移転して、データが不連続になった。そして不思議なことに、新しい観測場所では今年まで、東京の最高気温が32℃を超えることはなかっ 東京の最高気温は、毎年8月に30℃から32℃の間というのが相場だった。これが2020年までには毎年35℃を超えるようになると、シミュレータでは予測 2005年当時は、最高気温が30℃を超える真夏日は、東京では7月中旬から8月末までの時期に限られていた。それが21世紀を通じて見ると、夏は6月中旬から9月末までの100日間と年々長くなっていく スーパーコンピュータによる地球温暖化のシミュレーションが、頻繁にドキュメンタリー番組で放送された 地球シミュレータ ダイヤモンド・オンライン 鈴木貴博 夏の「酷暑」は年々悪化!スパコンが予測した恐ろしい未来 揺らぐ日本企業の「環境先進」イメージ 中国政府の規制強化で摘発相次ぐ 環境問題 (その1)(夏の「酷暑」は年々悪化!スパコンが予測した恐ろしい未来、揺らぐ日本企業の「環境先進」イメージ 中国政府の規制強化で摘発相次ぐ、「石炭火力」偏重が日本に負の影響を与える ESG投資で注目、「環境情報開示」創始者が警鐘)
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暗号通貨(仮想通貨)(その5)(ビットコインに11月再分裂の危機 前回より事態は深刻、ビットコインに「欠陥商品」の恐れ 異常な値上がりは不健全だ、仮想通貨使う国内初のICOが不発だったワケ) [金融]

暗号通貨(仮想通貨)については、9月22日に取上げたが、今日は、(その5)(ビットコインに11月再分裂の危機 前回より事態は深刻、ビットコインに「欠陥商品」の恐れ 異常な値上がりは不健全だ、仮想通貨使う国内初のICOが不発だったワケ) である。

先ずは、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏が10月19日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「ビットコインに11月再分裂の危機、前回より事態は深刻」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ビットコインの価格は著しく上昇しており、過去最高値を更新しつつある。 一方、ビットコインが11月に再び分裂する可能性が高まっている。8月の分裂のときとは違って、今回の分裂には、「リプレイアタック」という深刻な問題がある。これは、分かりにくい問題であり、かつ状況は不確実だが、軽視したり無視したりすべきではない。
▽「スケーリング」問題での対立 7月の決着と、分裂
・8月にビットコインが分裂したが、その背後には、「スケーリング」の問題がある。 ビットコインの取引処理能力は低いので、取引処理能力をいかに拡大するかが議論されてきた。 これについては、すでにこの連載で書いてきたが、その後の経緯も含めて要約すれば、つぎのとおりだ。
・解決策として、大きく分けて2つの方向が提案されていた。 第1は、取引を記録するブロックのサイズを拡大するもの。これを支持していたのは、主として大手マイナー(ビットコイン発掘者)だ。 第2は、一部のデータをブロックチェーンの外で管理するもので、具体的には「Segwit」という仕組みが提案された。これは、ビットコインのソフトウェアを開発する「コア開発者」からなされていた。
・こうした中で7月23日に、「Segwit」導入を盛り込んだ「Segwit2x」という方法に、大手マイナーを含む関係者が合意し、大きな混乱なく「Segwit」導入への道筋が開けた。 ところが、大手マイニングプール(発掘グループ)の1つが「ビットコインキャッシュ」(BCCまたはBCH)という新しい通貨の立ち上げを宣言し、8月1日にマイニングを開始した。 ビットコインキャッシュはブロックサイズを拡張しようとするものであり、ブロックチェーンに永続的な分岐(ハードフォーク)が生じることになった。その結果、ビットコインは分裂した。
▽その後のビットコインと ビットコインキャッシュ
・「Segwit」の導入によって、ライトニングと呼ばれるサービスが可能になると言われる。 これは、一部の取引をブロックチェーンの外で行なうことによって、手数料が非常に低い高速少額取引を可能にする仕組みだ。
・ビットコイン価格は、分岐前にやや下落したが、分岐後には値上がりし、9月2日に5013ドルまで上昇した。 しかし、4日に中国当局がICO(仮想通貨発行による資金調達)の全面禁止を発表したことなどを受けて、一転。9月半ばには3000ドルを割り込んだ。その後、再び上昇に転じた。冒頭で述べた高値更新は、9月以来のものだ。
・ビットコイン取引所は、新しく誕生した通貨を「ビットコインキャッシュ」(BCCまたはBCH)として、ビットコイン(BTC)とは異なる通貨として扱うことにした。 現在のところ、ビットコインキャッシュは、ビットコインの10分の1程度の価格を維持している。
▽1月に「Segwit2x」が分岐する? 「ビットコインゴールド」も誕生する?
・ところで、スケーリングの問題は、まだ決着していない。 なぜなら、「Segwit2x」は、「Segwit」を導入した後に、ビットコインのブロックサイズを1MBから2MBに拡大するという内容になっているからだ。 しかし、ビットコインのソフトウェアを開発するコアメンバーは、ブロック拡大に反対している。 このため、本当にビットコインからの分岐が生じるかどうかは、現段階では不透明だ。
・ただし、それを見込んだ先物が作られている。 香港を拠点とする仮想通貨取引所Bitfinexは、11月にビットコインから分岐する予定の新たなコイン「Bitcoin Segwit2x」(BT2)を、先物として上場した。 それだけではない。 ビットコインゴールド(BTG)という仮想通貨が新たに誕生する可能性がある。
・香港のマイニング企業ライトニングエーシックのCEOであるジャック・リャオ氏が、プロジェクトを10月25日にリリースし、11月1日に取引所で公開する予定だと発表している。 ビットコインゴールドは、マイニングの難度を下げ、誰でもマイニングに参加できるようにするとしている。これにより、演算能力が高い特定の企業がマイニングを独占するのを防げるという。 ただし、開発状況は不透明であり、こちらも本当に実行されるかどうか疑問視されている。
▽分岐によって「リプレイアタック」の危険がある
・ブロックサイズの拡張が行なわれると、ハードフォーク(永久に分かれたままの分岐)になる。 そうなると、「リプレイアタック」という問題が生じる危険がある。 これは、つぎのようなものだ。(この説明は、「What is a Bitcoin Replay Attack?」、「Replay Attacks Explained」などを参考にしている)。
・分岐前にビットコインを1BTCだけ持っている人(「花子」と呼ぶ)を考えよう。 ビットコインが、サイズを拡張しないビットコイン(BTCと呼ぶ)と、サイズを拡張したビットコイン(BT2と呼ぶ)に分岐したとする。 この人は、分岐後、1BTCと1BT2を持つ(一見して資産が増えるようだが、必ずしもそうではない:これについては後述する)。
・花子は太郎に1BTCだけ送金したいとする。1BT2は送金しないつもり。 ところが、1BTCの送金情報は世界中に公開されるので、問題が生じる。 攻撃者がその情報をコピーし、そのままBT2のネットワークに送信すると、1BT2が太郎に送金されてしまう(こうなるのは、BTCのネットワークでもBT2のネットワークでも、秘密鍵が同一だからだ。攻撃者は花子の秘密鍵を送金情報から知ることはできないのだが、BT2のネットワークでは花子の送金情報は「正しい」署名を含んだ情報とされるので、送金を認めてしまうのである)。
・これがリプレイアタックだ。 送金相手も金額も正確に同じでなければならないが、これだけでも多くの問題が生じる。 BT2を送金したつもりはなかったのに、気がついたら残高が減ってしまっているというだけで問題だ(昨年6月にEtheriumがハードフォークしたときには、つぎのようなことが言われた。取引所の自分の口座から、自分が持つウォレットに送金する。そのうち、片方のコインを取引所に戻してまた引き出すという操作を繰り返せば、他のコインをいくらでも引き出せる。「How to deal with the Ethereum Replay Attack」参照)。
▽「完全なプロテクション」は行なわれない見通し
・こうしたことにならないよう、マイナーがBTCとBT2の取引を区別できるようにする必要がある。これを「リプレイプロテクション」という。 これには、「完全なもの」と「弱いもの」がある。 ビットコインキャッシュが分離したときには、ビットコインキャッシュは完全なプロテクションを行なった。これにより、ビットコインキャッシュとビットコインの取引は完全に分離され、「ビットコインだけを送金したつもりだったのに、ビットコインキャッシュも送られてしまった」というようなことは発生しなかった。
・しかし、今回は、「弱いプロテクション」しか導入されないことになりそうだ(「How Segwit2x Replay Protection Works」参照)。 これは、「BTCの送金時には、あるアドレスへの少額の送金を含める」という方法だ。 このアドレスはBT2のチェーンで“ブラックリスト”として機能するので、BT2のチェーンでは、送金が無効とされる(普通は塩を混ぜない食べ物に塩を混ぜておけば、何か異常があることがわかる。少額の送金は この「塩」と同じような役割をするわけだ)。しかしBTCのチェーンでは有効なので、BTCだけが送金されることになる。
・このプロテクションはユーザーにとって面倒なものだが、こうした方法しか導入しないのは、「Segwit2x」側が「自分のほうが正当なビットコイン」と主張していることによる。完全なバージョンはBTCの側で導入すべきだとしているのだ。 この問題がどう決着するのか、現状では見通しがつかない。
▽ビットコイン価格は下がるはずだが、マーケットは強気
・上記のように、分岐すると、分岐前に残高を保有していた人は、分岐後、元のコインと新しいコインを同単位保有する。 ビットコインキャッシュ(BCC)の場合、分裂前の時点では、取引所がBCCを認めるかどうかは不確実だった。しかし、結果的にはほとんどの取引所が認めた。つまり、取引所は、ビットコインBTCの保有者に、BCCを無償で付与した。
・ただし、BTCを保有していた人の資産額が自動的に増えたわけではない。 なぜなら、理論的には、分裂後のBCCとBTCを合わせた価値が、分裂前のBTCの価値と同じになるはずだからだ。 つまり、他の条件が何も変わらないとすれば、BTCの時価総額は、BCCの時価総額の分だけ減るはずだ。したがって、BTCの価格は下がるはずである。 ところが、実際には両方とも値上がりした。これは、ビットコインに対する期待が高まったからなのだろう。
・11月に分裂が起きた場合、これと同じことが起きるかもしれないという思惑がある。 つまり、「タダで資産を増やせる」という思惑だ。それが現在の価格上昇の背後にあると言われる。 ただし、状況は、上で述べたように不確実だ。 とくに、リプレイアタックに対して「弱いプロテクション」しか導入されないのであれば、ビットコインの利用が不便になり、価格が下落することもあり得ることに注意しなければならない。
http://diamond.jp/articles/-/146154

次に、野口氏による上記の続き11月2日付けダイヤモンド・オンライン:「ビットコインに「欠陥商品」の恐れ、異常な値上がりは不健全だ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ビットコインの価格が高騰している。 今年1月中旬に比べて7倍以上になった。上昇の勢いは衰えず、市場最高値を更新しつつある。投機資金が流入しているようだ。
・しかし、ビットコインは、いま深刻な問題に直面している。ハードフォーク(永久に分かれたままの分岐)になった際に、情報がコピーされて、送金したつもりがないのに、もう片方のコインにも送金されるといった「リプレイアタック」は、差し迫った危険だ。 それだけではない。急激な価格の上昇は、円表示の手数料を引き上げてしまう。これは、ビットコインを送金手段に用いる際の障害となる。
▽リプレイアタックにどう対処したらよいか?
・リプレイアタックとは、ビットコインの分岐が生じた後の取引で、意図していない取引が行なわれてしまうことだ。詳細は、前々回(10月19日)の本コラム「ビットコインに11月再分裂の危機、前回より事態は深刻」を参照。 8月初めの分岐の際には、「ビットコインキャッシュ」が完全なプロテクションを行なったので、問題は起きなかった。
・しかし、10月25日に行なわれた「ビットコインゴールド」の分岐では、リプレイアタックへのプロテクションは不完全なようである。本稿の執筆時点では、ビットコインゴールドをどう扱うかについて、取引所の判断は分かれている。 リプレイアタックは、公表されているデータをそのままコピーするだけで起きる。そうなるのは、秘密鍵が分岐した2つの枝のどちらでも有効だからだ。ただし、秘密鍵が流出するわけではないので、それほど深刻ではないという評価も可能だ。そうはいっても、ビットコインの取引が、しばらくの間、危険にさらされることは否定できない。
・では、一般の利用者はどうしたらよいだろうか? リプレイアタックへの対処法が、このサイトに示されている。 要約すると、つぎのとおりだ。 (1)最も確実な対応は、取引をしないこと。つまり、「塵が収まるまで待つ」。 (2)塵が収まったら、分割する(「具体的にどのような方法で分割したらよいかは、11月になってから示す」としている)。
▽支払手段としてのビットコインの価値が大きく損なわれる
・「取引をしない」とは、その期間、ビットコインを支払い手段に使えないということだ。 だから、ビットコインを支払い手段として認めている商店にとっては、ありがたくない。これは、ビットコインの支払い手段としての価値を著しく減殺するものだと言わざるを得ない。 しかも、上に述べた対処法は、公的な機関や業界団体による公式の声明ではなく、「ビットコインマガジン」というウェブ・サイトで行なわれている警告にすぎない。
・もし銀行の預金振り込みが一定期間使用できないということになれば、大きな非難が集中するだろう。ビットコインは広く使われていないために大きな問題にならないが、今後もこういったことが起こるようでは、ビットコインを支払手段として導入しようとする動きが止まってしまうだろう。
▽分裂は資産が分割されるのと同じ 資産がタダで増える誤解で投機資金が流入
・ビットコインの保有者にとって、分岐は迷惑な事態である。仮にリプレイ攻撃がなかったとしても、問題だ。なぜなら、資産を勝手に分割されたことになるからだ。 分岐が起き、かつ取引所やウォレットが新しい通貨を認めたとすると、分裂前にビットコインを持っていた人は、同単位の新しい通貨を自動的に持つことになる。だから、一見したところ資産が増えたように思える。 しかし、コイン数量が増えるだけであって、価値が増えるわけではない。「何もせずに新しい通貨を得られるのでトクをした」と考える人が多いのだが、そうではない。
・他の事情が変わらないとすれば、原理的には、新しい通貨とビットコインの時価総額の合計は変わらないはずだ。したがって、ビットコインの時価総額は、分裂した新しい通貨の時価総額分だけ減少するはずである。だから、「資産が自動的に増える」というよりは、「資産を勝手に分割されること」と考えるほうがよい。
・ただし、8月にビットコインゴールドが分岐した際には、ビットコインの価格が下がらず、むしろ、その後、上昇した。ビットコインの成長可能性に対する期待が、分割による減少効果を打ち消したためと考えられる。このため、以上で述べた問題は、覆い隠されてしまった。しかし、同じことが今後も生じる保障はない。
・現在、ビットコインの価格が上昇しているのは理解しがたい現象だ。「タダで資産が増える」という誤解に基づいて投機資金が流入しているのではないだろうか?暴落が起こり、ビットコインそのものに対する信頼が失われることが懸念される。
▽関係者の対立は深刻 責任回避で「欠陥通貨」生むことに
・リプレイアタックの危険があるということは、「欠陥通貨」が提供されていることを意味する。欠陥があることがわかっていながら、一般の利用に供されているのは、大きな問題だ。 なお、この問題は、ブロックチェーンが本来、持っている技術的な問題ではない。実際、ビットコインキャッシュの場合には、プロテクションが導入された。 また、ブロックチェーンを用いて行なわれるさまざまなプロジェクトに影響するわけでもない。
・深刻なのは、プロテクションが技術的には可能なのに、今回は導入されないということだ。 これはグループ間の対立で、どちらも自分たちが正当なものであると争っていることによる。互いに、相手の側で完全なプロテクションを導入すべきだと主張しているのである。欠陥商品に対する責任を、どちらも取ろうとしないというのが、現在の状況だ。
・今年8月の時点では、ビットコインの仕様改定という難しい問題を、民主的に解決するための道筋が開けたように思えた。しかし、上に述べたような責任の押し付け合いを見ていると、関係者の対立はかなり深刻なものだと考えざるを得ない。 もっとも、今回の問題はまだ決着していない。プロテクションが導入されて、なんの問題もなく過ぎることを祈りたい。
・なお、この間の事情の詳しい説明は、つぎを参照(「2x or NO2X: Why Some Want to Hard Fork Bitcoin ? and Why Others Do Not」、「SegWit2X and the Case for Strong Replay Protection (And Why It's Controversial)」)。
▽価格上昇で送金手数料は銀行との差がなくなった
・仮に暴落がなかったとしても、問題がある。なぜなら、ビットコインの価格が上昇すると、手数料が上昇してしまうからだ。 ビットコイン価格が今年になって大きく上昇したため、円表示の手数料も上昇した。ビットフライヤーのビットコイン送付手数料は、0.0004BTCだ。10月末のビットコイン価格は円表示で1BTC=68万1260円なので、272.5円になる。銀行の他行あて振込手数料は、3万円未満で270円なので、若干ではあるが、それより高くなってしまった。
・銀行の預金振り込みに比べて、これまではビットコインが圧倒的に有利だった。しかし、その差がなくなっている。 ビットコインがこれまで持っていた「手数料が安い送金手段」としての魅力が減殺されてしまったことは、否定できない。 これは、ビットコインの健全な発展にとって、深刻な障害となる。取引所は、手数料の引き下げを検討すべきだろう。
▽取引所や金融庁は正確な情報提供を
・ビットコインゴールドや「Segwit2x」の分岐を、取引所はどう扱うだろうか? 前述したように、現在のところ、ビットコインゴールドの扱いは、取引所によって違いがある。無視される可能性もある。 ゴールドは分派であることがほぼ明らかなので、無視することもできよう。しかし、「Segwit2x」については、自分たちが正当だと主張しているので、面倒だ。
・なお、取引を登録制にしてある以上、金融庁の責任もある。対処の方向づけに関して指導する必要はないが、情報提供の責任はあると思う。 リプレイアタックの問題は技術的にわかりにくい内容を含んでいる。したがって、一般保有者が現在の事態に対してどのような注意を払えばよいかについて、正確な情報を提供すべきだろう。
http://diamond.jp/articles/-/147927

第三に、11月4日付け東洋経済オンライン「調達額300万円に落胆したベンチャーの誤算 仮想通貨使う国内初のICOが不発だったワケ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「なぜこの額しか集まらなかった?」 「プロジェクトの内容はいいと思うが……」 そのような疑問を海外の投資家から投げかけられたのは、仮想通貨を使った新しい資金調達手段として世界的に注目を集めているICO(イニシャル・コイン・オファリング)を実施したベンチャー企業・メタモ代表の佐藤由太氏だ。
・今年3月に佐藤氏を中心に設立されたメタモは、8月15日~9月1日にかけてICOを行った。日本国内企業によるICOの第1号案件とされている。気になる調達額はなんと約3万ドル、日本円にすると300万円超で終わった。ICOに応じたのは54人。うち8割が海外だった。
・メディアで報じられる国内外のICO案件は100億円超の資金を集めているものもある。メタモも数億円単位で調達する算段だったというので不発に終わったといえる。少額しか集められなかった理由をみていくと、現在のICOを取り巻く実情も浮き彫りになってくる。
▽ICOはトークンを販売して資金を調達する
・『週刊東洋経済』10月30日発売号(11月4日号)の特集「ゼロから分かるビットコイン」では、ICOについて詳しくレポートした。その仕組みは次のように説明できる。 ICOを行うのは、新しいサービスの開発・提供を考えているベンチャー企業や開発者チームなどの集団だ。提供する予定のサービスにおいて何らかの形で使用できる「トークン」を発行・販売し、そのトークンを購入してもらうことで資金を集める。
・トークンはサービスの引換券のイメージに近いこと、仮想通貨であるビットコインやイーサリアムなどでトークンの購入代金を支払ってもらうことの2点がポイントだ。企業などは受け取った仮想通貨を仮想通貨取引所で売却してドルや円などの法定通貨に交換し、サービス開発の資金とする。
・販売後のトークンに価値があると見なされると、そのトークンは取引所に上場されて売買が可能になる。この上場期待があるからこそ、サービス普及時にトークンが値上がりすることを見込む投資家層をも取り込むものとなった。
・メタモのICOが少額に終わった理由は大きく2つある。1つはトークンの価値上昇というストーリーをうまく伝えられなかったことだ。 インターネット上で公開されトークン購入の判断材料となるのが、「ホワイトペーパー」と呼ばれる文書だ。事業展望や調達資金の使い道などが記載されている。
・「ゼロから分かるビットコイン」特集では、実際のホワイトペーパーを外部の識者に論評してもらった。評者は、日本デジタルマネー協会代表理事の本間善實氏、創法律事務所代表弁護士で日本ブロックチェーン協会顧問の斎藤創氏、『海外ETFとREITで始める インカムゲイン投資の教科書』などの著書である投資家の玉川陽介氏である。
・メタモのホワイトペーパーも読んでもらったが、トークンの価値上昇については3人ともに否定的な見方だった。事業の将来性を問う以前に「ホワイトペーパーを読んでもトークンの価値の源泉が何かがよくわからなかった」(斎藤氏)とする指摘も出た。
▽メタモが目指す「個人が持つスキルの可視化」
・メタモが目指しているのは「個人が持つスキルの可視化」だ。 求職時に個人は自分の職歴をアピールすることになるが、就労実績を証明する情報は多くの場合、それまでに勤めていた企業が所有・保管している。そのため個人自らが出せる情報は客観性に乏しくなる。フリーランスやパートタイマーだと、出せる情報がそもそも少ない。 結果として、企業は試用期間を設けたり賃金を一定期間安く設定したりして様子をみることになる。個人はその不利益を受け入れざるを得ない。
・そこでメタモは労働者自身がスマートフォンのGPS(全地球測位システム)位置情報を用いて勤務状況を記録する仕組みを作った。今後はこの仕組みをベースに就労実績が証明できる人を企業に紹介していくというサービスも計画している。企業が紹介料を支払う際にメタモの発行するトークンを使えるようにするなどして、トークンの利用範囲と価値を高めるという。
・ただ、取材を通じてもメタモが発行するトークンの価値がどう上がっていくのかは正直わかりにくかった。そのような指摘については、「関係各所との調整も必要なことからホワイトペーパーには記せないことも多かった」と佐藤氏は説明する。
・「ホワイトペーパーはきれいに作られているが、学生の妄想や絵空事のような話が多い。これがベンチャーキャピタルへの説明であれば門前払いであろう。夢を語るパンフレットにすぎない」(玉川氏)  「プロジェクトの実現性が全体的に低そうで、内容もフワフワしている。とはいえチームメンバーが若く、文章からは誠実そうな雰囲気を感じる。『チームを気に入った、応援したい』というならトークンの購入はありかも」(斎藤氏)
・この両者の意見、どちらかが正しくてどちらかが的外れというわけではない。ICOとは「予定していた開発は絵空事に終わるかもしれないが応援したい」というワリキリで、資金を出すものとも言えるからだ。
▽ICOの成否を左右するPRも不足
・メタモのICOが少額に終わった2つめの理由はPR不足だ。その点については佐藤氏も自覚している。 事前告知の期間からして2週間前後と短かった。まずはやってみようという思いが強かったのだという。さらに一般へのPRはプレスリリース配信代行サービスで行っただけだった。 そうしたことを踏まえると、調達額3万ドルという結果はある意味当然だったのかもしれない。
・だが、意識的にPRを押さえたという事情もあるようだ。ICOの現状に対しては、「PRにおカネをどこまでかけるかでICOの成否が決まってしまう」という佐藤氏なりの問題意識があったという。次のようにその思いを吐露する。 「自社のICOをブログで取り上げてもらうために人気ブロガーと会食して接待したとか、『こういう人もこれだけ自社のトークンを購入した』という話題を作るために一般の購入者には秘密の割安価格で著名人に購入してもらうといった話をよく聞く。そのようなやり方は不健全なうえに、ベンチャー自身も食い物にされていると感じる」
・これはあながち佐藤氏の負け惜しみというわけでもない。「誰が何を言って、何を買っているのか」「おカネの集まりの状況はどうなっているのか」が、トークン購入の判断基準になってしまいがちな現状を反映したものではないだろうか。
・メタモのケースからもわかるように、ICOはまだ確固としたものではなく手探りの状況で進められている。それもあって「ベンチャーなどにとって簡単におカネを生み出せる『打ち出の小槌』になっている」など、さまざまな批判が聞かれる。
・だが、東京と米シリコンバレーに拠点を置くベンチャー投資育成会社・WiLの久保田雅也パートナーはICOが登場したことの意義を次のように語る。 「最近のベンチャー企業が手掛けるサービスは、ネット上のサービスやシェアリングエコノミーなど『ユーザーコミュニティ』や『ネットワーク効果』に企業価値を依存するものが増えている。 しかし企業価値の拡大に貢献している一般ユーザーには利益の還元が十分にされない一方、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルのみが『成長の果実』を手にする不平等な状態にある。また、これまでオープンソースのソフトウェア開発はマネタイズが難しく資金調達も難しかったが、ICOであればトークンを通じて貢献したエンジニアが価値を享受できるため、協力するインセンティブが湧く。 ICOは、企業のステークホルダーたるユーザー、社員、投資家の3者の利益を一致させる画期的な仕組みだ」
▽「ICOが投資の民主化をもたらす」
・久保田氏の発言にある「ネットワーク効果」は、平たくいうと一般の利用者や関連サービスを提供する企業が増えれば増えるほどサービスの利便性や質が向上していくというものだ。 フェイスブックなど「プラットフォーム企業の価値の源泉は一般ユーザーにある。サービスの享受者たるユーザーは、ICOを通じてトークンの保有者となり、ネットワークの価値が上がることで経済的な利益を得ることができる。「ICOが投資の民主化をもたらす」というわけだ。
・規制議論が出てくるなどICOは世界的に過渡期を迎えている。久保田氏のような視点も含めて、あるべき姿を模索する段階に入っているようだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/196006

第一の記事で、 『香港を拠点とする仮想通貨取引所Bitfinexは、11月にビットコインから分岐する予定の新たなコイン「Bitcoin Segwit2x」(BT2)を、先物として上場した』、 随分、早手回しのようだが、Bitfinexが中国のマイナーたちのお先棒をかついでいる可能性があるのではなかろうか。内輪もめのために、リプレイアタックに対する 『「完全なプロテクション」は行なわれない見通し』、というのは困った事態だ。 『他の条件が何も変わらないとすれば、BTCの時価総額は、BCCの時価総額の分だけ減るはずだ。したがって、BTCの価格は下がるはずである。 ところが、実際には両方とも値上がりした。これは、ビットコインに対する期待が高まったからなのだろう』、というのは、何とも不思議な現象で、マーケットの値上がり期待が如何に強いかを物語っているようだ。
第二の記事で、 『リプレイアタックへの対処法・・・最も確実な対応は、取引をしないこと』、というのでは、野口氏が 『支払手段としてのビットコインの価値が大きく損なわれる』、と指摘しているのは、その通りだ。 『関係者の対立は深刻 責任回避で「欠陥通貨」生むことに』、というのは、政府や中央銀行のような権威に依存しない仕組みに内在する矛盾が出てきた、とみることも出来るのではなかろうか。 『取引所は、手数料の引き下げを検討すべきだろう。 取引所や金融庁は正確な情報提供を』、との指摘も正論である。
第三の記事で、 『メタモが目指す「個人が持つスキルの可視化」・・・メタモは労働者自身がスマートフォンのGPS(全地球測位システム)位置情報を用いて勤務状況を記録する仕組みを作った。今後はこの仕組みをベースに就労実績が証明できる人を企業に紹介していくというサービスも計画している』、というのには笑ってしまった。私には、コストを度外視した「思い付き」以外の何物でもないとしか思えない。失敗したのは、PR以前の問題なのではなかろうか。久保田氏の  『「ICOが投資の民主化をもたらす」』、との指摘は、全てが理想的な極めて例外的な場合に限定されるのではなかろうか。
タグ:ビットコインゴールド(BTG)という仮想通貨が新たに誕生する可能性 香港を拠点とする仮想通貨取引所Bitfinexは、11月にビットコインから分岐する予定の新たなコイン「Bitcoin Segwit2x」(BT2)を、先物として上場した 他の条件が何も変わらないとすれば、BTCの時価総額は、BCCの時価総額の分だけ減るはずだ。したがって、BTCの価格は下がるはずである。 ところが、実際には両方とも値上がりした。これは、ビットコインに対する期待が高まったからなのだろう ソフトウェアを開発するコアメンバーは、ブロック拡大に反対 関係者の対立は深刻 責任回避で「欠陥通貨」生むことに 2つの方向が提案 分裂は資産が分割されるのと同じ 資産がタダで増える誤解で投機資金が流入 東洋経済オンライン 銀行の預金振り込みに比べて、これまではビットコインが圧倒的に有利だった。しかし、その差がなくなっている ビットコイン価格は下がるはずだが、マーケットは強気 、「Segwit2x」側が「自分のほうが正当なビットコイン」と主張していることによる。完全なバージョンはBTCの側で導入すべきだとしているのだ 暗号通貨 スケーリング」問題での対立 7月の決着と、分裂 価格は著しく上昇しており、過去最高値を更新しつつある 野口悠紀雄 マイニングの難度を下げ、誰でもマイニングに参加できるようにするとしている。これにより、演算能力が高い特定の企業がマイニングを独占するのを防げるという 支払手段としてのビットコインの価値が大きく損なわれる 11月に再び分裂する可能性が高まっている 第2は、一部のデータをブロックチェーンの外で管理するもので、具体的には「Segwit」という仕組みが提案された。これは、ビットコインのソフトウェアを開発する「コア開発者」からなされていた 塵が収まったら、分割する 1月に「Segwit2x」が分岐する? 「ビットコインゴールド」も誕生する? 最も確実な対応は、取引をしないこと リプレイアタックにどう対処したらよいか? ビットコインに11月再分裂の危機、前回より事態は深刻 ダイヤモンド・オンライン 大手マイニングプール(発掘グループ)の1つが「ビットコインキャッシュ」(BCCまたはBCH)という新しい通貨の立ち上げを宣言し、8月1日にマイニングを開始 急激な価格の上昇は、円表示の手数料を引き上げてしまう。これは、ビットコインを送金手段に用いる際の障害となる 「リプレイアタック」は、差し迫った危険 「Segwit」導入を盛り込んだ「Segwit2x」という方法に、大手マイナーを含む関係者が合意し、大きな混乱なく「Segwit」導入への道筋が開けた ビットコインに「欠陥商品」の恐れ、異常な値上がりは不健全だ (仮想通貨) その5)(ビットコインに11月再分裂の危機 前回より事態は深刻、ビットコインに「欠陥商品」の恐れ 異常な値上がりは不健全だ、仮想通貨使う国内初のICOが不発だったワケ) 第1は、取引を記録するブロックのサイズを拡大するもの。これを支持していたのは、主として大手マイナー(ビットコイン発掘者 ホワイトペーパーを読んでもトークンの価値の源泉が何かがよくわからなかった ICOは、企業のステークホルダーたるユーザー、社員、投資家の3者の利益を一致させる画期的な仕組みだ ICOの成否を左右するPRも不足 学生の妄想や絵空事のような話が多い 今後はこの仕組みをベースに就労実績が証明できる人を企業に紹介していくというサービスも計画 労働者自身がスマートフォンのGPS(全地球測位システム)位置情報を用いて勤務状況を記録する仕組みを作った メタモが目指す「個人が持つスキルの可視化」 トークンの価値上昇というストーリーをうまく伝えられなかったことだ メタモも数億円単位で調達する算段だったというので不発に終わったといえる 日本国内企業によるICOの第1号案件 調達額はなんと約3万ドル メタモ 取引所や金融庁は正確な情報提供を ICO 調達額300万円に落胆したベンチャーの誤算 仮想通貨使う国内初のICOが不発だったワケ 完全なプロテクション」は行なわれない見通し 1BTCの送金情報は世界中に公開されるので、問題が生じる。 攻撃者がその情報をコピーし、そのままBT2のネットワークに送信すると、1BT2が太郎に送金されてしまう 取引所は、手数料の引き下げを検討すべきだろう 分岐によって「リプレイアタック」の危険 プロテクションが技術的には可能なのに、今回は導入されないということだ。 これはグループ間の対立で、どちらも自分たちが正当なものであると争っていることによる
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今日は急遽、更新を休むことになったので、明日の6日にご期待を!

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日本経済の構造問題(その4)(「人を大切にする日本企業」はウソ、One JAPAN「第二の労組」か「救世主」か、「ビジネスモデル革命」に中国が成功し 日本が乗り遅れる理由) [経済]

日本経済の構造問題については、8月1日に取上げたが、今日は、(その4)(「人を大切にする日本企業」はウソ、One JAPAN「第二の労組」か「救世主」か、「ビジネスモデル革命」に中国が成功し 日本が乗り遅れる理由) である。

先ずは、8月24日付けダイヤモンド・オンラインが、元マッキンゼーのディレクターおよび日本支社長で早稲田大学ビジネススクール教授の平野正雄氏と、マッキンゼージャパンて、コンサルタントを経て独立し、人材育成や組織改革に関するコンサルタントをしている伊賀泰代氏の対談を掲載した「平野正雄氏&伊賀泰代氏が喝破「人を大切にする日本企業」はウソ 平野正雄・早稲田大学ビジネススクール教授&伊賀泰代・組織・人事コンサルタント【特別対談・後編】」を紹介しよう(▽は小見出し、+は発言内の段落)。
・マッキンゼー日本支社長などを経て現在早稲田大学ビジネススクールで教鞭をとり、『経営の針路』を上梓した平野正雄氏。かたやマッキンゼーで採用担当を務めたのち、組織・人事コンサルタントとして活躍し、著書『採用基準』、『生産性』などの著書で組織・人事コンサルタントとして活躍中の伊賀泰代氏が、日本企業がこれから進むべき方向性や経済、組織改革について語る対談の後編。人をどう育てるかに話題は移り、人を大事にする日本企業のウソが暴かれる。
▽“Good is the enemy of great.”が通じない日本企業の役員
・伊賀 平野さんの本では人材育成についても詳しく書かれていました。日本企業は人を大切にすると言うが、それはウソだという指摘。私もまったく同感です。
・平野 先日、日本の超一流といわれている大企業の役員研修を担当しました。たぶん日本ではいいところにお勤めといわれる会社、まして、そこで役員にまでのぼりつめたなら万々歳といった会社です。役員研修に出向くと、なるほど「成功したサラリーマン」としてのプライドと余裕の雰囲気がありました。それで、僕は色々な世界企業の改革事例などを話したうえで研修の最後に”Good is the enemy of great. ”と大きく書かれたスライドで締めくくったんですが、「はあ?」という感じできわめて反応が薄かった(笑)。
+あなたたちはグッドでそれで満足しているかもしれないけれど、役員たるものはグレートを目指さなければだめだというメッセージです。「サラリーマンとして大会社に入って役員まで到達したのだから、悪くない人生だよな」とか、「ウチの会社は日本では一流会社で、今年は最高益も出てるし、頑張ってるよな」という「Good company, Good life」で満足せずに、役員たるもの「Great company, Great life」を目指してほしいのです。つまり、グッドはグレートになるための敵、つまり、偉大(great)な企業になれないのは、ほとんどの企業がそこそこ良い(good)に甘んじているからなのです。
+また、二つの企業のケースを出しました。ひとつはスマートフォンをつくっている、ファーウェイという世界一の通信機器会社。上場はしていないけれど、強烈なリーダーシップで世界を牽引しようというファミリーカンパニーです。もうひとつは米国のダナハーという、買収のみで大きくなって、買った会社にトヨタ流の改善を徹底的にやりとげて、バリューアップさせ、徹底的な合理性で急伸している会社です。でも、そのケースについて議論してもらったあとのフィードバックは、「我々に無関係だと思った」とか「あんまり参考にならなかった」というものです。学びの姿勢の薄さに衝撃でしたね。会社の決まりだから研修を受けているに過ぎないのです。
・伊賀 「Good では生き残れない」という意識が役員レベルでも共有されていないということでしょうか。世界ではどれだけ熾烈な競争が行われているのか、実感として理解されていないのかもしれません。
・平野 さきほど(前編)のデット経営ではありませんが、日本の優良企業のトップの「自分も会社もgoodでいい、そこそこの現状維持でいい」という意識が、会社の成長を阻害しています。これに対して、テスラ、グーグル、アマゾン、アリババなどの新興企業はもちろん、GEやJ&Jなどの伝統企業もいかにしてグレートになるのか、高い目標を掲げて邁進しています。
+何が違うかというと、CEOが「世界を変える」とか「実現したい世界」という明確なビジョンと野心を持っている。株主の期待をはるかに超えたところを目指しているので、配当もせず、議決権も渡さず、株主の言うことなんか聞いていられるか、自分はもっと先の未来を見ているんだ、という態度です。
+日本企業はかつて株主の影響力を排除して長期経営をやっていたら経営が緩んで、今、株主を意識した経営をしろ、と市場や役所に言われている。でも世界企業は、むしろ株主の影響力を排除してまで、長期視点で果敢なイノベーションに挑んでいる。なんだかな、という感じです。
▽そこそこの現状維持を重んじるデット文化の日本
・伊賀 そこの理解、とても大事だと思います。いまだに日本の経営層には「株主の要求ばかりを意識していると、長期的な成長ができない」といった認識が残っていたりしますが、今や世界を席巻している企業のトップはみんな、「株主の期待値なんて低すぎる」と考えていますよね。
+で、それに引っ張られて株主側の期待値も引き上げられてしまい、グレートカンパニーであるGEでさえも、ビヨンド・グレートになりきれていないと批判されてしまう。世界では、グレートかビヨンド・グレートかという比較になっているのに、日本ではいまだに「いい会社(グッド・カンパニー)であり続けること」が目標にされていたりする。
+これ、平野さんの本にあった、デット文化とエクイティ文化の違いの話が関係してるんだと思います。日本は経営者までもがデット文化で、利子がきちんと払えてデフォルトしない経営を目指している。だからリスクを取って次の大成長を狙いに行こうという意欲が高くない。でも、単一の競争市場で成長志向の人と現状維持の人がいれば、後者は遠からず淘汰されてしまいます。
+グローバル企業のトップに日本人がほとんどいないというのも、それを表しているように思います。欧米のグローバル企業のトップに就く人の中には、インドや中国など中進国出身者や、小国の出身者が少なくない。なのに、日本人はほとんどいません。
+「新卒で入った日本企業で最後は部長くらいにまではなりたいな」くらいのところで目標が止まってしまい、グローバル企業のリーダーを目指すなんて別世界だと思っているんですよね。これも大きな果実を得るためリスクを取るより、失敗しない人生のほうがいい、というデット文化の表れかなと。
+もちろん日本人全員が世界を目指す必要はないけど、少なくとも社会のリーダーを目指す2割くらいの人にとっては「舞台は当然、世界全体」という感覚が、わざわざ口にしなくてもあたりまえになってほしい。
・平野 また、日本の優秀な若者は、財閥系や公共系の会社に就職する傾向がまだまだ強いということもありますね。ただ、ここで声を大にして言いたいことは、日本企業が人を大切にするというのは大ウソだ、ということです。実際は、優秀な人を飼い殺しにしているだけです。
・伊賀 それは私も『採用基準』や『生産性』の中で何度も指摘しています。セクハラ防止や部下の健康管理の方法など「問題を起こさないようにするための研修」と、偉い人を呼んで講演をしてもらうといった目的や効果の不明確な研修が多く、次世代のリーダーを育てるための実務的、継続的な育成プログラムがほとんどありません。
・平野 伊賀さんにも興味を持ってもらえると思ったデータ(右図表参照)を『経営の針路』で紹介していますが、日本の企業が組織開発と人材教育にかける投資額は、他の先進国に較べて格段に低いのです。
・伊賀 確かにこのデータ、すごく面白かったので、いろんな人に紹介しました。あと額だけでなく、「人材育成への投資とは何か」という中身についても理解が進んでいません。よくあるのは「英語研修に補助を出す」「会計知識をつけるための通信教育費を出す」などですが、実際には人に投資をするというのは、時給の高い人、つまり経営者がどれくらい人材育成に時間を使うか、という話です。
+あとは、優秀な人材が本業に集中できるよう、付加価値の低い事務作業を最小化するための投資。これをやらないから、日本ではできるかぎり自分の専門分野に集中すべきコア人材が、毎月何時間も事務的な書類仕事に時間を奪われている。人を育てるための投資とは何のことなのか、本質的な部分も理解されていないと感じます。
・平野 YouTubeにGEのジャック・ウェルチのインタビューがアップされています。ウェルチは、事業のためなら血も涙もなく人を切ることで有名でした。「人だけを消して建物は残す中性子爆弾」になぞらえて「ニュートロンジャック」と揶揄されてきた人です。そのウェルチが「GEとは何ですか」と聞かれて、“My product is people.”、つまり「人だ」と答えている。
+リーダーを育成することが自分たちの使命で、経営の中枢は人だと。GEは120年あまりの歴史上10人しかトップがいない。長い時間をかけてリーダーを育成することこそが経営の中枢にあり、その結果、事業は成功し、企業が成長する。場合によっては、事業はすっかり入れ替えてもいい。なぜなら事業は競争状況や技術の変化によって成長の限界を迎えるから。リーダーシップ人材こそが経営の核であり、企業の持続的発展をもたらすものだ。だからリーダーの育成にトップの時間も会社の費用も傾ける。人を中心にした経営とは、そうあるべきです。
・伊賀 欧米の企業には長期の人材教育を根幹に据えた企業が多く、企業内大学も多いですよね。ヨーロッパ屈指のビジネス大学であるIMDもネスレが母体ですし。
・平野 人は採ったら適当にローテーションして、社内の評判と、ちょっとした業績とを合わせて役員候補にして、そして慌ててリーダー教育をする。日本ほど人を大切にしていない経営はないんじゃないか(笑)。
・伊賀 私もよく、「役員向けにリーダーシップの講演を」といった依頼を受けるのですが、いったいどういうことなのかと思います。リーダーシップを今から学ぶような人が役員になっていていいんでしょうか(笑)。彼らはむしろ、次世代のリーダーを育てるべく、リーダーシップを発揮している側の人のはずです。 講演なんて聴いているヒマがあったら、次の経営層である部長たちをグローバルな事業を率いるリーダーにするために、これからどんな経験をさせるべきなのか、そういったことを考えるのに時間を使うべきです。
・平野 おっしゃる通りでね、僕はマッキンゼーのパートナー(役員)を選ぶ委員会の委員をやっていたことがありました。当時は年間70人ぐらいパートナーを選ぶのに、年に2回選抜をします。僕は遠く離れたヒューストンとアトランタとメキシコシティのオフィスが担当だったのですが、それぞれの地に行って、候補者にインタビューして、来歴や業績を全部理解するというのにまず最低1週間かける。そして整理したものを持ち寄って委員が集まって、誰をパートナーにするか決める会議を、最低1週間かけてやる。
+なぜなら、パートナーの選抜とは「マッキンゼーの未来を作ること」だという重大な使命感がそこにあるから。それが年に2回ということは4週間で、その準備の資料を作ることも入れると、結局年に1ヵ月強を、現役のシニアコンサルタントが人のフェアな評価と会社のために時間を使う。リーダーの育成と選抜とは、そのくらい会社の根幹なわけですよね。
・伊賀 役員クラスの人間があれだけの時間を人材育成のために使う、というのは、私も驚きました。日本企業は人への投資に熱心と言われますが、新入社員向けに長すぎるほどの研修を行い、それによって自社の社風に染めていくとか、現場の新人に細かい技能を身に付けさせるための指導といったものが多く、一定以上のポジションになった人を戦略的に育成するという意識はまだまだ非常に希薄です。
▽どこに向かって競争力を高めるか リデザインすることが組織改革
・平野 データでも出しましたが、人材への投資と並んで組織への投資もしていませんね。組織は単なる人を入れる箱で、それを定期的にいじって、こっちの箱の人をこっちに移すとか、この2つの箱を一緒にするというのが、日本の組織改革なんですよ。
+組織を革新していくことがどれだけ経営にとって重要か。組織を革新するということは、働き方そのものを変えていくことです。働き方を変えて、人の評価のしかたを変えて、戦略に合わせて、その組織のモデルを変える。全般にどこへ向かって競争力を高めていくかをリデザインすることが組織改革です。でも、日本企業はその意識が非常に低い。だから人材教育とともに組織開発にも時間もコストもかけない。単なる部の統廃合でしかない。
・伊賀 社内の電話番号表の構成を定期的に変えているだけ、みたいな(笑)。
・平野 人を育てることを経営の中枢に置くという重要性。それから組織そのものが競争力に直結するという理解。この2つが決定的に日本の企業には欠けていましたね。
+それからいまの時代、世界的に富の格差が大きくなって、資本主義や市場主義の問題が露になっている。また、巨大企業はグローバル化を推進して、超国家的な存在になってきている。そのとき、経営には第三の柱としてエシカルであること、倫理性というものが重要になってくる。これはエコノミーを見る時のように数字で測定不可能だし、コンプライアンスのようにルールを守ってさえいればいいということでもない。誰かに決めてもらうものではなく、うちの会社はこういう理念でこういう価値観なのだと、自分たちで決めるものですね。そしてその企業の理念や価値観が組織に浸透することで、はじめて多様性のある人々をまとめていくことができる。
+そのためにも、人材教育や組織改革を通して、その理念や価値観、この会社にいる意味はなにか、われわれは社会に対してなにをすべきか、ということを共有していくような組織、経営になっていくべきですね。それはもちろん細かいルールではなくて大きな根幹部分の価値観を理解したら、あとは個々人がそれに沿って行動したり考えたりするというものです。それには、伊賀さんの本でいうように、一人ひとりがリーダーシップを持たなくてはならないのはいうまでもありません。
・伊賀 これからの企業経営を考えるための平野さんの本で、最終的な処方箋のひとつとして組織や人材育成という分野にスポットが当たったことは、その分野を専門とする私にはとても嬉しいことです。そういえばマッキンゼー出身の茂木敏充経済担当相も「人づくり革命」をスローガンに掲げていらっしゃいますし、今後は日本でも、もっと本質的な意味での人材育成に注目が集まるといいなと思います。今日はどうもありがとうございました。
http://diamond.jp/articles/-/139124

次に、10月12日付け日経ビジネスオンライン「One JAPAN「第二の労組」か「救世主」か 次々に生まれ始めた「共創」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・大企業の若手・中堅有志が集う団体「One JAPAN」。パナソニックや富士ゼロックス、NTTグループ、トヨタ自動車、ホンダ、JR東日本、三菱重工業、富士通、日本郵便など名立たる大企業の有志が、参加団体としてずらりと並ぶ。 彼らはみな、「大企業病」を憂う。「新しいことをやってはいけない空気」「イノベーションを起こせない空気」の中でもがき、悩む。その打破を狙う。
・「若手が集まっただけでは何も変わらない」「企業に対して意見を言うばかりで『第二の労働組合』に過ぎない」「ずっと前から同じような取り組みはあった。今さら注目する必要はない」。当初、彼らに対して、こんな辛辣な批判があったことは確かだ。 2016年9月の発足から1年。彼らの「現在地」を追った。
・壮観だった。 9月10日、秋葉原UDXのイベントスペースは800人以上の参加者であふれ、立ち見が出た。人気アイドルのライブではない。大企業若手の有志団体「One JAPAN」の1周年イベントである。その冒頭、代表の濱松誠(パナソニック)は、One JAPANの「現在地」を見せるための“仕掛け”を用意していた。参加する45団体の代表全員を、いきなり壇上に上げたのである。
・スクリーン上に所狭しと写された各企業のロゴとともに40数人が並び、頭を下げると、会場から自然と拍手が起こった。日本を代表する企業がずらり。「組織、立場を越えて、僕たちはつながり始めた」。濱松はこう言って胸を張った。 大企業若手・中堅の有志が集まり、大企業同士のコラボレーションや働き方の提案などを実践する共同体として産声を上げたOne JAPAN。発足1周年のイベントで、濱松が改めて語った「価値」はこうだ。 1)大企業同士が組織を越えた共創を生み出せること、2)One JAPANで得た気付きを持ち帰り、自社の変革ができること。「この2つの役割をそれぞれ持つ組織はあるが、2つを併せ持つ組織はない。これが何より我々のユニークネスなのだ」と。
・One JAPANは、それぞれの大企業が企業内で持つ若手の有志団体が集まった共同体である。新規事業開発の担当者やエンジニア、マーケティング、営業、デザイナーなど、参加者の職種は様々だ。 1年前の発足時、26だった参加団体は45まで増え、それぞれの参加団体の人数を単純合計すると1万人を有に超える。それぞれの団体を飛び越え、この1年でOne JAPANの活動に実際に参加した人数(アクティブユーザー数)は1000人以上に登る。
・異なる企業の若手が、これだけの規模でともに活動する取り組みは歴史上、類を見ないだろう。1周年イベントに集まったのは若手だけではない。各企業の幹部クラスを始め、その注目は若手から幅広い世代に拡大している。
▽若手が集まっただけ、という批判
・ただし、発足時からOne JAPANに対して批判の声は根強い。 「若手が集まったことで、声が大きいように見えるだけ。会社に要求を突きつけるだけの『第二の労働組合』とみることもできる」「現に、彼らはまだ何も成し遂げていない」。本誌の取材に対し、ある製造業の幹部はこういい切る。 若手からも反発がある。別の製造業の若手社員は「彼らは目立ちたがりというか、単に意識が高い系というか…。『まずは社内で結果出せよ』って思います。私には興味がないし、(One JAPANに)入りたいとは思わない」と言う。
・何をもって「成し遂げた」と表現するかは難しい。 確かにOne JAPANは実際に製品やサービスを形にし、一般消費者に届けられるステージには到達していない。ただ、それを持って彼らの活動を批判するのは早計に過ぎる。
・1周年イベントのこの日、濱松は1年間の成果として、徐々に生まれ始めたコラボレーションを一番に挙げた。その実例を見ていこう。 禅寺にいたのは、2人のキャビンアテンダント(CA)と、“ロボット”だった。9月上旬、神奈川県鎌倉市の建長寺で開かれたイベント「ZEN2.0」に、一風変わったブースが展示され、行列ができた。
・このイベントは、「マインドフルネス」の国際会議。マインドフルネスとは瞑想をベースとしたプログラムであり、シリコンバレー企業なども注目する訓練法の一つである。 持ち込んだ3席の機内シートに座った一般参加者に、ANAのCAが脳波を計測するヘッドセットを取り付ける。“瞑想”の始まりだ。
▽One JAPANから生まれた“ロボット”
・「ゆっくり深呼吸をしてください」。設置されたロボットの語りに従って、体験者がリラックスを始めた。3分間の瞑想の間、ヘッドセットが脳波を計測し、そのデータを計算してスクリーンに映像が映し出された。 個人の脳の状態をもとに、スクリーン上に「ダリア」や「百日草」、「クチナシ」などの花が咲いていく。体験者の精神状態によって、花の大きさや色味が変化する仕組み。刻々と変わる瞑想の度合いが数字で映し出される。
・このコミュニケーション・ロボット「CRE-P(クリップ)」は、One JAPAN内のコラボレーションで生まれた。東芝の音声認識技術や広告代理店マッキャン・ワールドグループのデザインスキルなどを持ち寄った。ベンチャー企業リトルソフトウェアの感情認識AI(人工知能)などOne JAPAN外の技術も活用する。
・このプロジェクトに、One JAPAN参加企業であるANAも加わった。One JAPANに所属する小野澤綾花(ANAホールディングス)はこう言う。「きっかけはOne JAPANでの何気ない会話だった。クリップの存在を知って、『これならうちの会社でも何かできることがあるんじゃないか』って考えた」。上司に提案して、数ヶ月でブース展示までこぎつけた。
・ANAグループは飛行機に乗った後も疲れない「乗ると元気になるヒコーキ」プロジェクトを進めている。マインドフルネスの活用はこのプロジェクトの一環である。 ANAがマインドフルネスを実際に機内に取り入れるかは未定だが「体験会などをうまく使って、消費者からのフィードバックをデータとして溜めて行きたい」と小野澤は話す。
・小野澤の上司であるANAホールディングスデジタル・デザイン・ラボの津田佳明チーフ・ディレクターは「我々の部署は既存事業にとらわれずに新しい挑戦をするのが役割。他社とのコラボレーションを含め、部下には『とにかく自由にやってくれ』と言っている」と話す。こうした企業の姿勢とOne JAPANの自由な議論が、うまく噛み合い始めた。 クリップだけではない。One JAPANが大企業同士の技術を結ぶ存在として機能した例は他にもある。
▽富士通研究所が500万円を拠出
・8月中旬の東京・代官山。猛暑日のこの日、所属の異なる大企業の若手7~8人が、貸しキッチンスペースに集まった。AR(拡張現実)グラスを装着した女性がキッチンに立つ。調理法の指示をしているのはロボットだった……。 チームが結成されたのはその2週間前。8月4日にOne JAPANが初めて開いたハッカソンで出会った。ハッカソンとは、「ハック」と「マラソン」を組み合わせた造語で、あるテーマに基いて参加者がマラソンのように数時間から数日かけてアイデアを練り、競うイベントを指す。
・この日のテーマは「家族」。チームを結成したら3週間程度の準備期間を経て、8月25日に開く発表会で1位を決める。 One JAPANらしいのは、このハッカソンに参加企業がそれぞれの技術やサービスを事前提供したこと。ミサワホームはハッカソンの実験場となる住宅を実際に用意し、読売新聞は女性向け掲示板である「発言小町」の膨大なテキストデータを提供。その他にも、ロボットや通信用デバイスなど10以上の技術がずらりと並べられた。
・参加者はOne JAPANの参加者やその紹介を受けた大企業の若手。普段から技術やサービスに対する感度が高い彼らにとって、こうしたアイデア出しは“十八番”である。 この枠組みに、富士通の子会社である富士通研究所が乗った。「優れたアイデアには、発展させるための資金として総額500万円を拠出する」。ハッカソン会場の貸出しや運営も同社が買って出た。 有志団体の取り組みに、企業が本格的に正対し始めたのである。
・“お袋の味”を記録して再現したい――。8月4日の個人によるアイデア出しで、個性的なプレゼンをしたのが末田奈実(富士ゼロックス)だった。彼女のアイデアに興味を持ったり技術を提供したいと思ったりした数人が集まって、チームができあがった。 2週間程度の議論で、提案の骨格が固まった。母親が使う調理器具に加速度センサーや温度センサーを設置、母親には筋電位センサーを付けて、それぞれのデータを取る。それをAI搭載ロボットに記憶させる。
・実際に調理する際には、ARグラスに母親の作業の様子が自分の手に重ね合わさったように表示される。ロボットの音声と映像をもとに調理を進める仕組み。将来的には、介護サービスや高齢者の見守りへの適用も視野にビジネスモデルを探っていく――。
・8月25日。最終発表会に参加したチームは21。単なるアイデアではなく、それぞれが実際のモックアップを使ってプレゼンする様子に、富士通研究所幹部からも感嘆の声が挙がった。 21チームの中で、「cooklin’」と名付けた末田チームの案は最優秀に輝いた。One JAPANと富士通研究所の支援を受けながら、実際の事業化や製品化を目指して既に動き出し始めた。
・10月3日に開幕した国内最大の家電・IT関連の見本市「CEATEC(シーテック)ジャパン2017」。One JAPANは有志団体でありながら、シーテックでブースを展示した。 AI搭載ロボットのクリップに加えて、東芝デジタルソリューションズの音声合成技術と朝日新聞社のスマートフォン向けニュースアプリを組み合わせた試作品や、ハッカソンから生まれたインターホンと画像認識技術を組み合わせるサービスなどを展示した。
・One JAPANは、その一つ目の目的である「共創」のプラットフォームとしての存在感を強めつつある。  共同発起人である大川陽介(富士ゼロックス)はこう言う。「まず(One JAPAN内の)人の信頼があって、その上で自分たちが持っているリソースを持ち寄って『こんなことができるんじゃないか』と考え始める。だからこそ、すぐに動ける。自分の意思で動ける」
・これまで見てきたコラボレーションは、One JAPANの公式なイベントだけでなく、ふとした会話や人の紹介など、ゲリラ的に始まって数カ月で企画化し、それぞれの企業の稟議を通して形になったものばかり。「この指止まれ」で立ち上がる数々のプロジェクトは、何より大企業特有の遅々とした意思決定とは無縁である。
・前述の通り、批判はあろう。クリップにしろcooklin’にしろ、One JAPANは製品化にこぎつけていない。ただし、まだ発足1年である。 共同体ではなく、「実践」共同体――。One JAPANはこの言葉にこだわる。  だからこそ、彼らは共創についても「もっと挑戦しなければ」(代表の濱松)と謙遜する。「何も成し遂げていない」。この批判は、今後数年先に「実践」される成果を前に意味をなさなくなる可能性がある。
・次回は、発足1年を振り返り、今のOne JAPANの課題を共同発起人3人へのインタビューから明らかにする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/100600170/100600001/?P=1

第三に、大蔵省出身で早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口 悠紀雄氏が10月23日付け現代ビジネスに寄稿した「「ビジネスモデル革命」に中国が成功し、日本が乗り遅れる理由 いつの間にこんな差がついたのか…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・中国では、フィンテック関連で新しい事業が続々と誕生している。価値の高いスタートアップ企業の数でも、中国はアメリカと拮抗する状態になっている。 500年前、官僚帝国である明は、優れた技術を持ちながらそれをフロンティア拡大に用いず、ヨーロッパに後れをとった。現在の中国が社会主義経済の残滓を引きずっていることは事実だ。しかし、最先端技術の面では、目覚ましい躍進を実現している。
・日本が長く模範としてきたドイツは、モノづくり一辺倒から脱却できずに、情報技術の進展に後れがちだった。しかし、ここ数年、スタートアップ企業が目覚ましく誕生している。IoTとの関連で、ドイツは生まれ変わるのかもしれない。 日本が古い産業や企業の体質から脱却するためには、人材の転換が必要だ。
▽中国は日本の66倍!
・まず、フィンテック(金融へのITの応用)関係のデータを見よう。 アクセンチュアのデータによって2016年のフィンテック関連投資額をみると、中国と香港の合計で102億ドルになった。これはアジア・パシフィック地域の投資総額112億ドルの実に91%だ。 日本は、わずか1億5400万ドルに過ぎない。中国・香港は、日本の66倍なのだ。「まるで比較にならない」というのが現状だ。
・Fintech100(フィンテック100社)は、国際会計事務所大手のKPMGとベンチャー・キャピタルのH2Venturesが作成するフィンテック関連企業のリストだ。2016年においては、アメリカが35社、中国が14社となっている。世界首位は電子マネーを提供するAnt Financial(後述)だ。 中国企業は、2014年は1社だけだったが、15年には7社となり、インターネット専業の損害保険会社の衆安保険(ZhongAn)が世界首位となった。 16年には、さらに中国企業が躍進しているわけだ。
・ところが、このリストに日本企業の名はない。ユニコーン企業で見ても、中国の躍進ぶりは著しい(「ユニコーン企業」とは、未公開で時価総額が10億ドル以上の企業)。 Sage UKがまとめた調査結果によると、ユニコーン企業数は、アメリカ144社、中国47社、インド10社などとなっている。 このように、中国ユニコーン企業の数は、アメリカのそれに近づいている。 ところが、日本のユニコーンは1社しかない。
▽中国ITを牽引する「BAT」
・中国のIT産業を支配しているBaidu(百度、バイドゥ)、Alibaba(阿里巴巴、アリババ)、Tencent(騰訊、テンセント)の3社は、「BAT」と呼ばれる。 バイドゥは検索とAI技術、アリババはEコマース、テンセントはソーシャル・ネットワーキング・サービスだ。 アリババはNY市場に、バイドウはNASDAQに上場している。アメリカ株のランキングとして、アリババは4位(時価総額 463億ドル)、バイドウは93位(91億ドル)だ。
・日本で時価総額が最大であるトヨタ自動車が、38位で時価総額が184億ドルであることと比較すると、BAT企業(とくにアリババ)の価値の高さが分かる。 「中国のフィンテック投資額が巨額」と上で述べた。この背後には、アリババ傘下の金融サービス企業Ant Financial Services Groupが、16年4月に45億ドルの資金調達をしたことがある。
▽もはや、モノマネではない
・BAT企業成長の背後に、中国政府がインターネットを外国から遮断して独自の国内マーケットを作ったこと、中国の人口が巨大であるために国内マーケットが巨大であること、という事情があることは間違いない。 そして、BATがこれまで提供してきたのは、アメリカで始まった新しいビジネスモデルのクローンでしかなかった。アリババはアマゾンの、テンセントはフェイスブックの、そしてバイドウはグーグルの、それぞれ「パクリ」だったのである。
・しかし、最近では、単なる模倣と言えない状況になっている。新しいサービスが次々と誕生し、それが急速に市民生活に浸透して、中国社会を変えつつあるのだ。 アリペイという電子マネーが中国で普及していること、それだけでなく東南アジアにも進出していることを、すでに述べた(「中国の『フィンテック』が日本のはるか先を行くのは当然だった」)。
・また、ビッグデータを活用できる点でも、BATは有利な立場にある。ビッグデータは、AI(人工知能)の発展には不可欠だ。AIを用いた自動車の自動運転が近い将来に可能になることを考えると、このことの意味は、きわめて大きい。
・「中国製品」というと、「安かろう、悪かろう」を想像する人が多い。そうしたものがいまだに多いことは事実だ。中国の製造業が、先進国との比較ではいまだに低い賃金の労働者に支えられているのは、まぎれもない事実である。 しかし、世界の最先端をゆく製品やサービスを供給できる企業が登場しているのも、事実なのである。
▽大航海に後れた中国。だが、いまは違う
・先に述べたように、大航海時代、官僚国家である明は、優れた技術を持ちながら、官僚国家であるためにそれを新しい社会の創出に用いることができず、ヨーロッパに後れをとった。 日本も同じ頃、遠洋航海ができる技術を持ち、東南アジアに進出し始めていたが、日本国内ではそうした人たちを異端視した。そして、江戸時代になってからの鎖国で閉じこもることになった。(参照・拙書『世界史を創ったビジネスモデル』第3章、新潮選書)
▽現代の中国はどうか?
・一方において、社会主義経済の残滓を引きずっている面がある。金融やエネルギー分野では、巨大国有企業の支配が続いている。 これら国有大企業は、「フォーチュン・ファイブハンドレッド」に名を連ねている。このリストにあるのは、売上高は大きいが、成熟企業であるため成長率は低い巨大企業だ。世界10位までのリストに、State Grid、China National Petroleum、Sinopec Groupという中国国有企業が入っている。
・政治とビジネスの癒着による腐敗も著しい。 共産党による一党独裁という政治体制が、市場経済という経済体制と根本的に相いれないことも間違いない。中国は、根源的なところで本質的な矛盾を抱えているのだ。
・しかし、それにもかかわらず、これまで見てきたように、新しい技術に支えられた新しいセクターが誕生しつつあることも事実だ。混沌と混迷の中から生まれてきたものは、すでに世界経済において無視できぬ地位を占めるに至っている。
▽ドイツはモノづくりに固執して後れた
・ドイツは、産業革命において先発国イギリスを追い抜いた。この状態は第2次大戦後も続いた。しかし、モノづくりに固執した。 1980年代、英米で新自由主義的な経済政策が取られ、自由な市場を基本とする経済活動が広がった。しかし、東ドイツは社会主義経済のままであり、西ドイツでも、「社会的市場経済」の考えが支配的だった。 そして1990年代からのIT革命においては、アメリカ、イギリス、アイルランドなど、マーケットを積極的に活用する経済に後れをとった。この点で日本と似ている。
・日本では、ドイツ経済がヨーロッパ経済を牛耳っているように報道される。しかし、経済成長率を見ても1人当たりGDPを見ても、イギリスやアイルランドに後れをとっている。 新しい産業の時代において、ドイツは立ち遅れつつあったのだ。
・ところが、この数年、ドイツでIT関係での先端的スタートアップ企業の誕生が目立つ。 スマートロックをブロックチェーンで運営するシステムを開発したSlock.itや、IoT(モノのインターネット)に対応したチェーンを開発するITOAなどのスタ―トアップ企業が注目される。 アクセンチュアの調査によると、2014年において、ドイツのフィンテック投資額は前年より843%増加した。 日本の伸び率が20%増でしかなかったのに比べると、大きく違う。
・上述したSage UKによる調査結果でユニコーン企業の数を見ると、ヨーロッパでは、イギリス(9社)が最多だが、ドイツ(6社)がそれに続く。都市別でも、ベルリン(5社)がロンドン(7社)に続く。 ベルリンは、ヨーロッパのシリコンバレーだと言われる。暫く前から、ベルリン郊外の町クロイツベルクは、世界で最もビットコインにフレンドリーな町だと言われている。
・IoTとの関係で、ドイツの製造業は生まれ変わるのかもしれない。 IoTは、インダストリー4.0という新しい産業革命を引き起こすとされている。宣伝文句どおりに捉えれば、その本質は、職人芸の延長線上にある従来のモノづくりの局所的、ミクロ的な最適化から脱却し、システム全体のマクロ的最適化を目的とするものである。 これは、思想の大きな転換だ。なぜドイツでこのような転換が生じたのか、大変興味深い。
・「IT分野で、日本は巨大な国内マーケットを持つ中国には太刀打ちできない」と考える人がいるかもしれない。しかし、ドイツを見るべきだ。ドイツの総人口は日本より少ない。そうであっても、以上で見たような変化が生じているのだ。
▽日本が転換するには、人材の転換が必要
・上で述べた中国とドイツの状況に対して、日本は、どのように対応すべきか? まず、日本の状況がどうなっているかを見よう。 日本人は、フィンテック、仮想通貨、ブロックチェーンの分野で、何に関心を持っているかと言えば、技術開発ではない。 前回述べたように、ビットコインの値上がりやICOによるトークンの値上がりで儲けることしか頭にない。ビットコインやICOを用いて新しいプロジェクトを起こそうとする動きは出てきていない(「ビジネスモデルの歴史的大転換に、日本だけが取り残されている」)。
・IoTについてもそうだ。これがマクロの最適化であるという視点はほとんどない。 IoTの本質が理解されていないことは、新聞等の報道で、「IoTとはすべてのモノをインターネットでつなげること」という説明がまかり通っていることを見ても明らかだ。 「すべて」をインターネットでつなげるのは、経済的に無意味であるばかりでなく、セキュリティホールを増やしてしまうという意味で、極めて危険なことだ。日本では、IoTは単に「センサーの需要を増やすもの」としてしか捉えられていない。
・このような状況を転換させる基本的な力は、人材だ。 まず、ハードウェア関連に偏っている日本の工学部教育を、ソフトウェア関連にシフトさせる必要がある。それだけでは十分でない。企業の人材もシフトさせる必要がある。これまでの日本の製造業で中心だったのは、モノづくりのエンジニアだ。それらの人々は、現在でも会社の意思決定に重要な影響力を持っている。上で述べたような変化に対応するには、情報分野の専門家が中心人材になる必要がある。
・日本の企業は、これまで、このような要請に対応できなかった。エレクトロニクス産業が劣化した基本的な原因は、そこにある。日本の技術が劣化したのではなく、技術の性格が変わり、そのシフトに日本企業が対応できなかったのだ。(参照・拙書『仮想通貨革命で働き方が変わる』(第4章)、ダイヤモンド社) 日本の企業が、要求される人材シフトに対応できるかどうかが、これからの日本の産業の命運を決める。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53215

第一の記事で、 『“Good is the enemy of great.”が通じない日本企業の役員』、というのは日本の経営者の目線の低さを象徴している。 『日本企業はかつて株主の影響力を排除して長期経営をやっていたら経営が緩んで、今、株主を意識した経営をしろ、と市場や役所に言われている。でも世界企業は、むしろ株主の影響力を排除してまで、長期視点で果敢なイノベーションに挑んでいる。なんだかな、という感じです』、というのも、目線の低さを象徴しているのかも知れない。 『ウェルチが「GEとは何ですか」と聞かれて、“My product is people.”、つまり「人だ」と答えている』、 『日本企業が人を大切にするというのは大ウソだ、ということです。実際は、優秀な人を飼い殺しにしているだけです』、 『組織は単なる人を入れる箱で、それを定期的にいじって、こっちの箱の人をこっちに移すとか、この2つの箱を一緒にするというのが、日本の組織改革なんですよ』、などは彼我の差を見事に指摘している。
第二の記事で、 『One JAPAN』のことを初めて知ったが、なかなか面白そうな取り組みだ。上手くいくことを祈りたい。
第三の記事で、 『BAT企業成長の背後に、中国政府がインターネットを外国から遮断して独自の国内マーケットを作ったこと、中国の人口が巨大であるために国内マーケットが巨大であること、という事情があることは間違いない・・・最近では、単なる模倣と言えない状況になっている。新しいサービスが次々と誕生し、それが急速に市民生活に浸透して、中国社会を変えつつあるのだ』、との指摘には、日本企業の立ち遅れに危機感を覚えざるを得ない。 『IoTについてもそうだ。これがマクロの最適化であるという視点はほとんどない。 IoTの本質が理解されていないことは、新聞等の報道で、「IoTとはすべてのモノをインターネットでつなげること」という説明がまかり通っていることを見ても明らかだ』、というのはその通りだ。  『ドイツはモノづくりに固執して後れた・・・この数年、ドイツでIT関係での先端的スタートアップ企業の誕生が目立つ』、も日本企業の立ち遅れを示している。ただ、日本として、 『ハードウェア関連に偏っている日本の工学部教育を、ソフトウェア関連にシフトさせる必要がある。それだけでは十分でない。企業の人材もシフトさせる必要がある』、というのは、対応策としては時間がかかり過ぎる。むしろ、現在の経営陣の考え方を切り替えさせるのが、先決なのではなかろうか。
タグ:Fintech100 中国では、フィンテック関連で新しい事業が続々と誕生 組織を革新するということは、働き方そのものを変えていくことです。働き方を変えて、人の評価のしかたを変えて、戦略に合わせて、その組織のモデルを変える。全般にどこへ向かって競争力を高めていくかをリデザインすることが組織改革です IoTは、インダストリー4.0という新しい産業革命を引き起こすとされている 、「マインドフルネス」の国際会議 「「ビジネスモデル革命」に中国が成功し、日本が乗り遅れる理由 いつの間にこんな差がついたのか…」 現代ビジネス 野口 悠紀雄 それぞれの大企業が企業内で持つ若手の有志団体が集まった共同体 日本のユニコーンは1社しかない ドイツはモノづくりに固執して後れた 日本ほど人を大切にしていない経営はないんじゃないか ウェルチが「GEとは何ですか」と聞かれて、“My product is people.”、つまり「人だ」と答えている この2つの役割をそれぞれ持つ組織はあるが、2つを併せ持つ組織はない。これが何より我々のユニークネスなのだ 新しい技術に支えられた新しいセクターが誕生しつつあることも事実だ 中国は、根源的なところで本質的な矛盾を抱えている alibaba 日本企業の名はない ユニコーン企業の数 世界の最先端をゆく製品やサービスを供給できる企業が登場しているのも、事実なのである。 ビッグデータを活用できる点でも、BATは有利な立場にある ユニコーン企業数は、アメリカ144社、中国47社、インド10社 最近では、単なる模倣と言えない状況になっている。新しいサービスが次々と誕生し、それが急速に市民生活に浸透して、中国社会を変えつつあるのだ ずっと前から同じような取り組みはあった。今さら注目する必要はない 日本人全員が世界を目指す必要はないけど、少なくとも社会のリーダーを目指す2割くらいの人にとっては「舞台は当然、世界全体」という感覚が、わざわざ口にしなくてもあたりまえになってほしい 卒で入った日本企業で最後は部長くらいにまではなりたいな」くらいのところで目標が止まってしまい、グローバル企業のリーダーを目指すなんて別世界だと思っているんですよね そこそこの現状維持を重んじるデット文化の日本 日本企業はかつて株主の影響力を排除して長期経営をやっていたら経営が緩んで、今、株主を意識した経営をしろ、と市場や役所に言われている。でも世界企業は、むしろ株主の影響力を排除してまで、長期視点で果敢なイノベーションに挑んでいる。なんだかな、という感じです CEOが「世界を変える」とか「実現したい世界」という明確なビジョンと野心を持っている。株主の期待をはるかに超えたところを目指しているので、配当もせず、議決権も渡さず、株主の言うことなんか聞いていられるか、自分はもっと先の未来を見ているんだ、という態度です テスラ、グーグル、アマゾン、アリババなどの新興企業はもちろん、GEやJ&Jなどの伝統企業もいかにしてグレートになるのか、高い目標を掲げて邁進しています 日本の優良企業のトップの「自分も会社もgoodでいい、そこそこの現状維持でいい」という意識が、会社の成長を阻害しています グッドはグレートになるための敵、つまり、偉大(great)な企業になれないのは、ほとんどの企業がそこそこ良い(good)に甘んじているからなのです 日経ビジネスオンライン あなたたちはグッドでそれで満足しているかもしれないけれど、役員たるものはグレートを目指さなければだめだというメッセージです 大企業の若手・中堅有志が集う団体 企業に対して意見を言うばかりで『第二の労働組合』に過ぎない One JAPAN「第二の労組」か「救世主」か 次々に生まれ始めた「共創」 “Good is the enemy of great.”が通じない日本企業の役員 平野正雄氏&伊賀泰代氏が喝破「人を大切にする日本企業」はウソ 平野正雄・早稲田大学ビジネススクール教授&伊賀泰代・組織・人事コンサルタント【特別対談・後編】 伊賀泰代 若手が集まっただけでは何も変わらない この指止まれ」で立ち上がる数々のプロジェクト One JAPANで得た気付きを持ち帰り、自社の変革ができること 大企業同士が組織を越えた共創を生み出せること One JAPAN 、「大企業病」を憂う。「新しいことをやってはいけない空気」「イノベーションを起こせない空気」の中でもがき、悩む。その打破を狙う 平野正雄 名立たる大企業の有志が、参加団体としてずらりと並ぶ ダイヤモンド・オンライン 1周年イベント (その4)(「人を大切にする日本企業」はウソ、One JAPAN「第二の労組」か「救世主」か、「ビジネスモデル革命」に中国が成功し 日本が乗り遅れる理由) 大企業特有の遅々とした意思決定とは無縁 日本経済の構造問題 2016年9月の発足から1年 辛辣な批判 富士通研究所が500万円を拠出 イギリス(9社)が最多だが、ドイツ(6社)がそれに続く baidu BAT企業成長の背後に、中国政府がインターネットを外国から遮断して独自の国内マーケットを作ったこと、中国の人口が巨大であるために国内マーケットが巨大であること、という事情があることは間違いない この数年、ドイツでIT関係での先端的スタートアップ企業の誕生が目立つ Tencent 混沌と混迷の中から生まれてきたものは、すでに世界経済において無視できぬ地位を占めるに至っている アメリカが35社、中国が14社 ハードウェア関連に偏っている日本の工学部教育を、ソフトウェア関連にシフトさせる必要がある。それだけでは十分でない。企業の人材もシフトさせる必要がある IoTについてもそうだ。これがマクロの最適化であるという視点はほとんどない IoTの本質が理解されていないことは、新聞等の報道で、「IoTとはすべてのモノをインターネットでつなげること」という説明がまかり通っていることを見ても明らかだ 中国ITを牽引する「BAT」 Sage UK
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トランプ訪日直前の日米関係(どうなる?トランプ訪日と日米FTA交渉、トランプは北朝鮮安保の見返りで日本にどんな経済的譲歩を迫るか、トランプは訪中で「ポスト金正恩」を話し合う) [外交]

2日後に近づいたトランプ大統領の訪日を控えた今日は、事前にポイントを整理しておくために、トランプ訪日直前の日米関係(どうなる?トランプ訪日と日米FTA交渉、トランプは北朝鮮安保の見返りで日本にどんな経済的譲歩を迫るか、トランプは訪中で「ポスト金正恩」を話し合う) を取上げよう。なお、今回のテーマに近いものとしては、2月15日に トランプ後の日米関係(日米首脳会談1) を取上げた。

先ずは、元経産省米州課長で中部大学特任教授の細川昌彦氏氏が10月20日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「どうなる?トランプ訪日と日米FTA交渉 日米経済対話から読み解く日米中の水面下の駆け引き」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・10月16日(日本時間17日午前)、日米経済対話の第2回会合が開かれた。11月上旬に予定されているトランプ大統領の訪日を控えているだけに、その前さばき、心構えの準備の意味も持つ。米国が意欲を示しているとされる2国間FTA(自由貿易協定)の交渉の行方や、中国の脅威にどう向き合うか、水面下の駆け引きを読み解く。
・10月16日、第2回の日米経済対話が開催された。11月上旬に予定されているトランプ大統領の訪日を控えているだけに、その前さばき、心構えの準備の意味も持つ。 結果は予想通り、日米の思惑の違いが明確になった。
▽米国の関心は貿易赤字削減だけ
・米国は、一言で言えば、貿易赤字の削減にしか関心がない。赤字の過半は対中国であっても、日本もその対象だ。それに絡めて、特定業界の要望を受けて、個別問題の要求を次々と持ち出してくる。米国産冷凍牛肉に対するセーフガードの問題しかり、米国からの自動車輸出の際の検査手続きの問題しかり、医薬品の薬価算定の手続きしかりだ。具体的な個別利益で成果を出すことにしか関心がない。そこには戦略のかけらもない。 戦略を語るべき国務省の政府高官が未だ任命されておらず、米通商代表部(USTR)が主導すると、米国はこういうパターンに陥りがちだ。
▽「中国の脅威」にどう向き合うか
・他方、日本はどうか。台頭する中国を念頭に、日米協力を目指して戦略を練る。そのポイントは「中国の脅威」と「アジアの機会」にどう向き合うかである。それに米国を関与させることが、台頭する中国に日本が向き合ううえで不可欠な戦略だ。
・例えば、中国の国有企業優遇問題や知的財産権の侵害、不公正な補助金問題などに、日米が共同でどう立ち向かうか。米国は中国に対して通商法232条や301条といった、かつて1980年代に使った古いツールを持ち出している。これらは「一方的措置」と言われるもので、かつて米国は日本など貿易相手国に対して振り回していたが、その時代への懐古だろうか。
・ところが、当時と違って、今や中国こそが、「一方的措置」を振り回す恐れがある最大の国となっている。地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備に関して、韓国への経済制裁しかり、かつてのレアアースの輸出規制しかりだ。米国が一方的措置を中国に対して持ち出すことによって、中国に今後のお墨付きを与えかねない。日本としてはそのリスクを米国に気付かせる必要がある。それに代えて、日米共同で世界貿易機関(WTO)を活用する「ルールの道」を選ばせるべきだろう。
▽インターネット安全法も日米産業界の脅威だ
・また今年6月に施行された中国のインターネット安全法も脅威だ。これは国内の情報統制だけが問題なのではない。外国企業に対して、サーバー設置の現地化を要求したり、ソースコードの開示を求められたりする可能性がある。
・国境を超える情報の移転を中国当局に規制される恐れもある。こうしたことはIT業界だけがターゲットではない。コマツの建設機械のように、今や製造業もIoT(モノのインターネット)として顧客データの収集、活用することがビジネスの重要な競争力になっている。そうしたグローバルな取り組みが制約されかねないことから、恣意的運用が大きな懸念となっている。 同様の規制はベトナムでも導入され、このような動きが広がるのは大きな問題だ。
・日米両国の産業界が利害を共有することから、中国に対してルールで追い込んでいくことを日米共同で行うことも重要だ。実は環太平洋経済連携協定(TPP)の中には、そうした懸念する動きを禁止する条項も入っている。
▽LNG協力も「アジアの機会」
・次に「アジアの機会」はどうか。LNG(液化天然ガス)分野での協力は、日米共同で向き合う典型例だ。米国産のLNG輸出に日本が協力するが、既に日本はLNGを長期契約で十分調達済みである。 そこで、今後需要拡大が望めるアジアの市場開拓に日本が協力する。例えば、インドネシアへのLNG船による発電事業を支援するのもその一環だ。米国とアジアを結びつける手伝いを日本がするという構図だ。これは中国が一帯一路構想をもって、アジアのインフラ整備を戦略的に行う動きをも睨んでいる。
・米国はややもすれば、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国に対して2国間での貿易投資問題で要求ばかりが前面に出る傾向にある。そうするとASEAN諸国の離反を招き、結果的に中国を利することにもつながりかねない。アジアを日米共通の「機会」と捉えて、具体的なプロジェクトを仕掛けていけるかがポイントだ。
▽トランプのアジア歴訪へのかすかな期待は
・このような「中国の脅威」と「アジアの機会」という2大テーマで、日米共同で具体的項目、具体的プロジェクトを仕掛けていくのが日本の戦略だ。しかしながら、米国は未だそういう思考回路になっていないのが現状である。残念ながら、今のトランプ政権にはそういう戦略を噛み合って議論をする相手を見つけることさえ難しいのかもしれない。それでも、日本政府は根気よく対話を重ねる努力をするしかない。 また腰の定まらないトランプ政権のアジア政策を考えると、トランプ大統領のアジア歴訪を、そのことを気付かせる機会にできるかどうかだ。
▽日米FTAをどうすべきか
・ペンス副大統領は日米自由貿易協定(FTA)への意欲を示したと言う。恐らく対日貿易赤字の削減や個別利益の要求をするうえで効果的だと思ってのことだろう。トランプ大統領も来日時に持ち出す可能性があるので、どう対応するかがポイントだ。
・日本政府は米国の意図が明らかなだけに、もちろん慎重なポジションで、できれば避けたいところだ。しかし外交的には最終的には受けざるを得なくなるのではないだろうか。むしろ、どういう内容をFTAに盛り込むかが大事である。米国の要求項目の交渉に終始するという受け身ではなく、対中国を睨んだルールを日米共同でモデルを作るとの「攻めの発想」を盛り込むことも必要だろう。
・もちろんその前に11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に、TPP11を固められることが大前提で、そのうえで日米2国間に臨むという基本戦略は揺るがせてはならない。そして「農業分野の関税などでTPP以上の譲歩をしない」という土俵で最後まで踏ん張り切れるかが試される。
・来年秋には米国は中間選挙を控えて、議会や産業界の圧力も増してくる。そのことを考えると、来年前半が日米FTA向けて具体的に動き出す可能性が高いのではないだろうか。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/101900752/?P=1

次に、RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役の倉都康行氏が11月2日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプは北朝鮮安保の見返りで日本にどんな経済的譲歩を迫るか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・11月5日にいよいよトランプ大統領が日本を訪れる。その主たる目的である北朝鮮への対応協議は米国政府にとっても最重要な課題であり、相当に熱のこもった外交になると思われる。一方で日本は、対北朝鮮では米国の軍事力や対中外交戦略に依存せざるを得ず、「安保」の見返りとして、貿易自由化や為替(円安)問題などを持ち出されれば、米国の要求に「受け身」にならざるを得ないことになる。
▽「安保」の見返りに対日貿易赤字改善を迫る可能性
・今回のアジア歴訪は、日本を皮切りに韓国、中国、ベトナム、フィリピンと5ヵ国を1週間で飛び回る慌ただしいスケジュールだが、日本では拉致被害者の家族との面談や駐在米軍視察の予定が組まれており、北朝鮮を強く意識した訪日になることが予想されている。
・だが、貿易収支問題に執拗な執着心を寄せるトランプ大統領は、北朝鮮問題を最優先に置きつつも「日米間には解消すべき経済問題がある」との方針を強調することも忘れないだろう。 金総書記に対する強硬な姿勢を採ることで日本の安全保障を確約する見返りとして、暗に防衛費の拡大を求めるだけでなく、なかなか縮小しない対日貿易赤字の改善を迫ることは確実だ。
・国内では、米国が大統領訪問時に日米自由貿易協定(FTA)の早期締結への圧力を掛けるのではないか、との懸念が強まっている。 2016年に日米を含む12ヵ国で合意された環太平洋パートナーシップ(TPP)に対し、トランプ大統領は就任早々に離脱を表明、年間700億ドルにのぼる対日貿易赤字を一刻早く是正すべきだとして、新たな貿易協定の締結を望んでいるからだ。
・同大統領の「アメリカファースト」の姿勢からすれば、二国間交渉の舞台は米国が一方的な強硬姿勢で主役を演じるシナリオとなるだろう。 保護主義を扇動してきた主席戦略官のバノン氏が更迭されるなど、現政権は当初思われていたほどに反自由貿易主義的ではない、との見方も出始めているが、通商問題を担当するロス商務長官やライトハイザ―USTR(通商代表部)代表らの顔ぶれを見る限り、貿易赤字縮小を迫る強引な手法は常に手の内に準備されていると考えていた方が現実的である。
▽日本とのFTA締結は優先順位が低そうだが
・ただし、昨今のトランプ政権での通商問題の優先順位を付けるとすれば、喫緊の課題は北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉と米韓FTAの見直しであり、その次に来るのは中国との貿易収支不均衡の是正だろう。 先月に来日したローズ米副大統領補佐官は日米間での貿易・投資に関する新ルールの早期締結が必要との認識を示していたが、実際には、日本とのFTA締結はそれほどプライオリティが高くないようにも見える。
・NAFTAに関しては、自動車関税などにおけるカナダ、メキシコ両国と米国の考え方に大きな隔たりがあり、決着の見通しが見えないままの状況が続いている。3ヵ国は年内の妥結を断念し、具体的な協議の再開を来年第1四半期に持ち越している。
・また中国との通商協議は北朝鮮への制裁強化策次第だが、誤解を恐れずに言えば、今回のトランプ大統領のアジア歴訪の最大の山場は習近平総書記との対北朝鮮対応の協議であり、貿易不均衡や知的財産権などの経済問題は副次的な位置付けに止まるだろう。
・こうした状況では、今回の訪日に限って言えば、米国は日本とのFTA協議を急ぐムードにはないと思われる。何よりも米国経済は7-9月期も前期比年率3.0%成長と4-6月期の3.1%に続いて2期連続の3%台成長を達成し、主要株価指数が連日最高値を更新するなど、焦って通商交渉をまとめる必要は全くない状況にある。
・だが、安倍首相も安心ばかりしてはいられない。 総選挙で「国難」とまで言い切った北朝鮮問題に関して日本に打てる策はほとんどなく、米国の軍事力と対中外交戦略に依存するしかない現状では、トランプ大統領に対して有効なカードは一枚も持っていないからだ。 国内では「一強」と呼ばれる安倍首相も、トランプ大統領が「貿易赤字縮小を」と一言唱えれば、何らかの譲歩策を差し出さざるを得ない。
・ちなみに今年4月18日に始まった「日米経済対話」では、麻生副総理兼財務相とペンス副大統領が「自由で公正なルールに基づく貿易・投資」の必要性を確認したものの、10月16日に行われた第2回会合ではインフラ整備、エネルギー分野やデジタル・エコノミー分野での連携などを謳っただけで、FTAには表向きは触れずじまいだった。
・だが舞台裏では、ペンス副大統領がFTA交渉開始を強く迫ったとも言われており、トランプ大統領が首脳会談において具体的に言及する可能性もないとは言えない。 米国側も、来年秋の中間選挙が徐々に視野に入って来ることから、来年上半期までには通商問題で一定の成果を挙げたいとの思いが強い筈だ。
▽自動車、牛肉、医薬品は関心事項 時間をかけて成果求める
・昨今の動向からすれば、米国が強く要求して来るのは自動車の非関税障壁撤廃、牛肉市場の完全開放、医薬品の価格改定制度見直し、といった項目だろう。 特に牛肉に関しては、既に日本は豪州と経済連携協定(EPA)を締結済みで、関税が段階的に引き下げられる見通しとなっており、米国には出遅れ感がある。  自動車に関しては「日本には米国車がほとんど走っていない」と何度も不満を口にしてきたトランプ大統領が、今回の訪日でも、そんな発言を繰り返すかもしれない。
・もっとも、今年4月に公表されたUSTRの外国貿易障害報告書には、この他にもコメ・小麦・豚肉・乳製品・柑橘類・水産物といった農産・畜産関係から、金融・電気通信・法務・教育などサービス業関連などに至るまで、幅広い分野で「貿易障害が存在する」と指摘されている。 具体的な譲歩の要求が上記3項目以外に広がることは十分に有り得よう。
・これらのリストは2016年のTPP協議の際に既に言及されていたものだが、具体的な対日交渉で、トランプ政権が前政権以上の強烈な圧力を掛けてくることはほぼ確実である。 ライトハイザ―USTR代表は、レーガン政権下でUSTR次席代表として対日交渉で剛腕ぶりを発揮し、日本に鉄鋼輸出の自主規制を呑ませた「実績」がある。今回も妥協を急ぐことなく、じっくり時間をかけて日本を締め上げる作戦なのかもしれない。
▽円安・為替問題で日本は通貨政策の「監視対象」国
・日米間の経済的な課題は、通商問題に限定されるものではない。 為替レート問題は日本政府にとって触れてほしくない話題だろうが、米国はユーロや人民元と同じように、日本円の割安水準に対して常に不満を抱いている。
・今年4月に発表された米財務省の為替報告書で、日本は中国・ドイツ・スイス・韓国・台湾と並んでその通貨政策が「監視対象」と位置付けられ、「円は過去の平均に比べて20%弱い水準にある」と明記されていた。  今春のドル円相場は110円前後であり、20%の円高調整となれば約90円となる。現在は114円と若干ながらも更なる円安方向へと動いている。 今年のドルは総じて軟調傾向にあり、ユーロは対ドルで年初の1.04ドルから一時は1.20ドルと約15%上昇、人民元も6.96元から一時6.43元まで約8%上昇するなど「監視された通貨」が上昇する中で、円は下落傾向を辿っているため、米国がこの問題を再提起し始める可能性は否定できない。
▽1ドル=115円突破となれば大統領の「円安口先介入」も
・一方、日本市場では株高と同時に円安への期待も膨らみ始めている。 だが米連邦準備制度理事会(FRB)が着々と利上げを続け、バランスシート縮小を始める一方で、日銀が従来の「異次元緩和」という超金融緩和策を変更する可能性は乏しく、先の総選挙で安倍政権への支持が確認されたこともあって、日本の金融政策に転換点が到来することはまず考えられない。
・となると、日米の金利格差の点では、円の対ドルレートは確かに一段と円安へ向かってもおかしくない力学が働いている。 安倍政権は、物価目標が低迷している中で大規模な金融緩和を続けることに対しては、米国を含む世界各国が理解していると説明し続けてきたが、米欧ともに物価目標が未達の状況で正常化を目指し始めた以上、どこまでその理屈が通るのかは疑わしいところもある。
・日本株が上り調子になっているところに、「円安牽制」などで水を差されたくないだろうが、仮にドル円が115円を突破するような動きになれば、トランプ大統領の口先介入を避けて通るのは難しいかもしれない。
▽経済問題と北朝鮮問題はコインの裏表
・日本政府は本来、トランプ大統領を向いて仕事するのではなく、国民生活を直視した経済政策を中期的な視点で設定するべきである。それが総選挙で勝利した与党の責任でもあろう。 だが、9月の国連演説で「北朝鮮には対話でなく圧力で」と述べて、自ら対米従属以外の選択肢を捨ててしまった安倍首相が外交方針を軌道修正しない限り、日本経済はトランプ政権の「貿易赤字是正」との不当な圧力に押され、抵抗できないままに不必要な市場開放や為替レート水準訂正などに追い込まれるリスクに直面することも有り得る。
・日米関係において、北朝鮮問題と経済問題は実はコインの裏表なのだ。 日本経済はいま、好調な外需に恵まれて「いざなぎ景気」を超える景気拡大の基調にあり、雇用環境や企業業績は絶好調と言ってもいい状態だ。日経平均の連騰は、決してバブルや幻想ではなく、民間企業の実力が評価されたものだ。
・安倍首相は、この好況感を潰すことなく長期政権を目指すことが、果たしてできるのだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/147937

第三に、政治評論家の田原 総一朗氏が11月2日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプは訪中で「ポスト金正恩」を話し合う 米国は北朝鮮を「第2のイラク」にしたくない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・11月5日にトランプ米大統領が来日する。安倍晋三首相と首脳会談を行うほか、拉致被害者の横田めぐみさんの父・滋さんと母・早紀江さんと面会することも予定に組まれている。 これについて、拉致被害者の家族たちは非常に喜んでいるという。ただ、トランプ氏の面会は一種のサービスに過ぎない。その見返りに、トランプ氏は日本に非常に厳しいことを要求してくるのではないかと思う。
・一つは、経済だ。個別分野では、まず自動車だろう。麻生太郎財務相が10月中旬に訪米し、ペンス副大統領とロス商務長官と会談をした時、麻生氏は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱する意向を示していたトランプ政権に対して「TPP離脱を見直したらどうか」と伝えようとした。
・そもそも日本がTPPに加盟したのは、オバマ前大統領から「日本もぜひ参加するように」と強い要請があったからだ。TPPは、米国にとってもメリットが多分にあるはずである。離脱は撤回したらどうか。麻生氏はそのように訴えようとしていた。
・ところが、ペンス副大統領とロス商務長官は交渉の余地を与えず、非常に厳しいことを突きつけてきた。「年間約700億ドルある対日貿易赤字を限りなくゼロにしたい。そのために、日本はもっと米国産の車を輸入しろ」「日本は非関税障壁が非常に高い。安全基準や環境規制などをもっと緩めるべきだ」などと要求したようだ。
・しかし、日本は米国産の車に対して特に非関税障壁を高くしているわけではない。ドイツ車などはどんどん輸入されている。つまり、問題は非関税障壁ではなく、米国の自動車メーカーが日本人のニーズに合う車を作っていないことだと言える。
・次に、米国産牛肉の輸入についても触れるだろう。具体的には、日本が8月に発動した米国産冷凍牛肉の緊急輸入制限(セーフガード)の見直しだ。 さらには、薬価制度の見直しも迫ってくるといわれている。例えば、米国の製薬メーカーが日本に新薬を導入しやすくすることなどを狙っている。
・その上で、米国は日米自由貿易協定(FTA)の交渉に進もうとしているのだろう。今回の訪日では、日米FTAについて進展はないとの見方が強まっているが、いずれは厳しい条件を提示してくることは間違いない。 日本側としては、日米FTAの締結には反対が強い。交渉で米国のペースに巻き込まれる可能性が高いからだ。特に、農水省は断固反対の立場である。
▽対話と武力行使、2つに割れるトランプ政権
・もう一つの焦点は、北朝鮮問題だ。一体、トランプ氏は日本に何を要求するのだろうか。 米国政府では、北朝鮮問題の対応について二つの見方がある、一つは、「米朝のトップ会談で解決すべきだ」という意見だ。マティス国防長官とティラーソン国務長官は、この選択肢を支持している。 米国が下手に武力行使に踏み切れば、北朝鮮がどんな報復措置を取るか分からない。その時、韓国や日本に多大な被害が出る可能性がある。 それを避けるために、マティス氏やティラーソン氏は、トップ会談での解決を考えている。
・9月末、ティラーソン氏が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。そこで米朝対話について、「私たちは厳密に調査している。期待してほしい。(北朝鮮に)話し合いたいか、と聞いている。平壌とは複数の外交ルートがあり、暗い状況ではない」などと発言したと報じられている。
・ところが、トランプ大統領はその発言に大激怒した。「冗談じゃない。対話などをやれば、北朝鮮に核開発の時間を稼がせるだけだ」ということだ。 トランプ氏とティラーソン氏の関係は、悪化しているのではないか。米国内では、近々国務長官を解任するのではないかという憶測が広がっている。 それに加え、ティラーソン氏がトランプ氏を「ばか」と呼んだことも話題になった。ティラーソン氏がその報道を否定していないところを見ると、両者の溝が深まっている可能性は高い。
・だから、トランプ氏は今回のアジア歴訪にティラーソン氏を同行させないのではないかとの見方もある。今のところ、外務省が得ている情報では、ティラーソン氏はトランプ氏と一緒に訪日するという。ただ、外務省関係者は「トランプ氏のことだから、いつどうなるか分からない」と述べている。
・なぜ、トランプ氏は北朝鮮との対話に反対しているのだろうか。 トップ会談になると、結局、米国が北朝鮮に対して「核廃棄」を迫れないからだろう。日本の専門家の間でも、仮に米朝トップ会談に漕ぎ着けたとしても、最終的には核廃棄ではなく、「核凍結」にとどまるのではないかという意見が多い。
・なぜ、北朝鮮が核兵器を放棄しないのかといえば、かつてのイラクやリビアの惨状を見て、核兵器は強力な抑止力となることをよく分かっているからだ。核兵器を持てば、米国は攻撃をしてこない。核兵器を廃棄すれば、すぐにやられてしまう。だからトップ会談では、北朝鮮は核廃棄の要求を絶対にのまないだろう。
▽北朝鮮の後処理は、中国に任せようとしている
・となれば、米国に残された道は、武力行使しかないのだろうか。 10月27日、マティス氏は韓国を訪れ、文在寅大統領と面会した。そこで「朝鮮半島の非核化を成し遂げることを目指している」と述べている。つまり、米国は北朝鮮の核保有を絶対に認めないと念を押したわけだ。
・そこで、トランプ氏は日本に何を求めてくるのか。 トランプ氏は、安倍首相に「米国が武力行使をする際は、日本に事前に伝える」と言ったという話がある。外務省と防衛省は、いよいよ武力行使が現実味を帯びてきたと戦々恐々としている。
・先日、僕は防衛省の高官に「結局、米朝問題はトップ会談になるんじゃないかな」と言ったら、「田原さん、それは甘い。そうじゃない可能性もありますよ」という答えが返ってきた。 10月下旬、親日派のリチャード・アーミテージ元米国務副長官とジョセフ・ナイ元米国防次官補が来日した。その時、アーミテージ氏は「米国が北朝鮮を武力行使する可能性は、4分の1くらいある」と言ったという。
・今回のトランプ氏のアジア歴訪では、一部に習近平氏との対談で武力行使の後の話をするのではないかという見方がある。 米国が想定する武力行使とは、爆撃によって金正恩とその側近たちを殺害することだ。できる限り一般市民を巻き込まないように配慮すると思われる。あくまでも、狙いは金正恩政権だ。
・では、その後はどうするか。おそらく、中国に「後処理」を任せるのではないかと思う。ポスト金正恩をどうするのか。北朝鮮の体制をどのように建て直すのか。そこを中国に一任する。この点を、今回の訪中で確認するのではないかと思う。
・米国は、北朝鮮を「第2のイラク」にはしたくないと考えている。 かつて米国はイラク戦争を起こし、フセインを打ち負かした。ここでフセイン政権を倒せば、国民が安心して新しい政権をつくり、民主的なイラクが生まれると思ったわけだ。 ところが、実際は違った。周知の通り、フセインを倒したらイラクは大混乱に陥った。日本のように、敗戦後に戦時中の体制を潰し、民主主義の国をつくろうとしたが、完全に失敗したのである。
・だから、金正恩体制を倒した後、北朝鮮の体制は中国に任せて混乱を回避するのがベストだと考えている。 中国としては、北朝鮮という「外交カード」は手放したくないから、体制は維持したいだろう。ただ、コントロール不能となっている金正恩に対しては、不満を抱いている。金正恩は、中国と太いパイプのあった叔父の張成沢(チャン・ソンテク)国防副委員長も処刑してしまった。
・その点を考えると、習近平は、北朝鮮のレジーム・チェンジ(体制転換)には賛同するのではないかと思う。米国も中国の思惑を十分に分かっているから、後処理を任せようと持ちかける。 今回、トランプ氏が訪中する目的の一つには、そういったすり合わせもあるのではないかと思われる。 まずは、11月5日の訪日で、トランプ氏からどんなことが語られるのかに注目したい。僕としては、「武力衝突を了解せよ」という話にならないことを願っている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122000032/110100044/?P=1

第一の記事で、 『具体的な個別利益で成果を出すことにしか関心がない。そこには戦略のかけらもない。 戦略を語るべき国務省の政府高官が未だ任命されておらず、米通商代表部(USTR)が主導すると、米国はこういうパターンに陥りがちだ』、というのは困ったことだ。 『米国が一方的措置を中国に対して持ち出すことによって、中国に今後のお墨付きを与えかねない。日本としてはそのリスクを米国に気付かせる必要がある』、というのはその通りだ。 ただ、 『どういう内容をFTAに盛り込むかが大事である。米国の要求項目の交渉に終始するという受け身ではなく、対中国を睨んだルールを日米共同でモデルを作るとの「攻めの発想」を盛り込むことも必要だろう』、というのは、言葉だけが踊って、中身は薄そうだ。
第二の記事で、 『日本は、対北朝鮮では米国の軍事力や対中外交戦略に依存せざるを得ず、「安保」の見返りとして、貿易自由化や為替(円安)問題などを持ち出されれば、米国の要求に「受け身」にならざるを得ないことになる』、 『通商問題を担当するロス商務長官やライトハイザ―USTR(通商代表部)代表らの顔ぶれを見る限り、貿易赤字縮小を迫る強引な手法は常に手の内に準備されていると考えていた方が現実的である』、 『9月の国連演説で「北朝鮮には対話でなく圧力で」と述べて、自ら対米従属以外の選択肢を捨ててしまった安倍首相が外交方針を軌道修正しない限り、日本経済はトランプ政権の「貿易赤字是正」との不当な圧力に押され、抵抗できないままに不必要な市場開放や為替レート水準訂正などに追い込まれるリスクに直面することも有り得る』、などの厳しい指摘はその通りなのかも知れない。
第三の記事で、 (拉致被害者の家族と)、『トランプ氏の面会は一種のサービスに過ぎない。その見返りに、トランプ氏は日本に非常に厳しいことを要求してくるのではないかと思う』、 『今回の訪日では、日米FTAについて進展はないとの見方が強まっているが、いずれは厳しい条件を提示してくることは間違いない』、などの指摘は、やはり覚悟しておくべきなのだろう。  『米国に残された道は、武力行使しかないのだろうか』、 『外務省と防衛省は、いよいよ武力行使が現実味を帯びてきたと戦々恐々としている』、などの指摘は、総選挙実施などで、武力行使の可能性は小さくなったと思い込んでいた私にとっては、意外で、身が引き締まるものであった。 『僕としては、「武力衝突を了解せよ」という話にならないことを願っている』、というのは同感だ。
タグ:北朝鮮問題に関して日本に打てる策はほとんどなく、米国の軍事力と対中外交戦略に依存するしかない現状では、トランプ大統領に対して有効なカードは一枚も持っていないからだ 9月の国連演説で「北朝鮮には対話でなく圧力で」と述べて、自ら対米従属以外の選択肢を捨ててしまった安倍首相が外交方針を軌道修正しない限り、日本経済はトランプ政権の「貿易赤字是正」との不当な圧力に押され、抵抗できないままに不必要な市場開放や為替レート水準訂正などに追い込まれるリスクに直面することも有り得る 田原 総一朗 トランプは訪中で「ポスト金正恩」を話し合う 米国は北朝鮮を「第2のイラク」にしたくない 日米関係において、北朝鮮問題と経済問題は実はコインの裏表 通商問題を担当するロス商務長官やライトハイザ―USTR(通商代表部)代表らの顔ぶれを見る限り、貿易赤字縮小を迫る強引な手法は常に手の内に準備されていると考えていた方が現実的である 回の訪日に限って言えば、米国は日本とのFTA協議を急ぐムードにはないと思われる 安倍首相も、トランプ大統領が「貿易赤字縮小を」と一言唱えれば、何らかの譲歩策を差し出さざるを得ない ペンス副大統領がFTA交渉開始を強く迫った 習近平氏との対談で武力行使の後の話をするのではないかという見方 1ドル=115円突破となれば大統領の「円安口先介入」も 円安・為替問題で日本は通貨政策の「監視対象」国 トランプ氏とティラーソン氏の関係は、悪化しているのではないか トランプ氏の面会は一種のサービスに過ぎない。その見返りに、トランプ氏は日本に非常に厳しいことを要求してくるのではないかと思う 。「年間約700億ドルある対日貿易赤字を限りなくゼロにしたい。そのために、日本はもっと米国産の車を輸入しろ」「日本は非関税障壁が非常に高い。安全基準や環境規制などをもっと緩めるべきだ」などと要求したようだ。 米国産牛肉の輸入についても触れるだろう 対話と武力行使、2つに割れるトランプ政権 日本の専門家の間でも、仮に米朝トップ会談に漕ぎ着けたとしても、最終的には核廃棄ではなく、「核凍結」にとどまるのではないかという意見が多い トップ会談になると、結局、米国が北朝鮮に対して「核廃棄」を迫れないからだろう 習近平は、北朝鮮のレジーム・チェンジ(体制転換)には賛同するのではないかと思う 、米国に残された道は、武力行使しかないのだろうか 拉致被害者の家族 倉都康行 ダイヤモンド・オンライン インターネット安全法も日米産業界の脅威だ トランプ訪日直前の日米関係 「中国の脅威」と「アジアの機会」という2大テーマ 米国の関心は貿易赤字削減だけ LNG協力も「アジアの機会」 日本の戦略 (どうなる?トランプ訪日と日米FTA交渉、トランプは北朝鮮安保の見返りで日本にどんな経済的譲歩を迫るか、トランプは訪中で「ポスト金正恩」を話し合う) 細川昌彦 、対北朝鮮では米国の軍事力や対中外交戦略に依存せざるを得ず、「安保」の見返りとして、貿易自由化や為替(円安)問題などを持ち出されれば、米国の要求に「受け身」にならざるを得ないことになる 日経ビジネスオンライン どうなる?トランプ訪日と日米FTA交渉 日米経済対話から読み解く日米中の水面下の駆け引き トランプは北朝鮮安保の見返りで日本にどんな経済的譲歩を迫るか 中国の脅威」にどう向き合うか 日米経済対話の第2回会合 今や中国こそが、「一方的措置」を振り回す恐れがある最大の国となっている 外務省と防衛省は、いよいよ武力行使が現実味を帯びてきたと戦々恐々としている 米国が一方的措置を中国に対して持ち出すことによって、中国に今後のお墨付きを与えかねない。日本としてはそのリスクを米国に気付かせる必要がある その後はどうするか。おそらく、中国に「後処理」を任せるのではないかと思う 具体的な個別利益で成果を出すことにしか関心がない。そこには戦略のかけらもない。 戦略を語るべき国務省の政府高官が未だ任命されておらず、米通商代表部(USTR)が主導すると、米国はこういうパターンに陥りがちだ どういう内容をFTAに盛り込むかが大事である。米国の要求項目の交渉に終始するという受け身ではなく、対中国を睨んだルールを日米共同でモデルを作るとの「攻めの発想」を盛り込むことも必要だろう 米国は未だそういう思考回路になっていないのが現状である。残念ながら、今のトランプ政権にはそういう戦略を噛み合って議論をする相手を見つけることさえ難しいのかもしれない
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日本の政治情勢(その14)(「緑のタヌキ」は、すみやかに”排除”されるべき、小幡 績:日本の政党政治はこれからどうなるべきか(前編)、(後編)) [国内政治]

今日まで更新を休むつもりであったが、今日は日本の政治情勢(その14)(「緑のタヌキ」は、すみやかに”排除”されるべき、小幡 績:日本の政党政治はこれからどうなるべきか(前編)、(後編)) を取上げることにした。なお、前回このテーマを取上げたのは、10月20日である。

先ずは、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が10月25日付けで同氏のブログに掲載した「「緑のタヌキ」は、すみやかに”排除”されるべき」を紹介しよう。
・衆議院解散の直前に、「希望の党」設立の「緑の大イベント」を仕掛け、多数の前議員を合流の渦に巻き込んで民進党を事実上解党させ、「政権交代」をめざすなどと宣言して、全く当選可能性のない人物も含めて無理やり定員の過半数の候補者を擁立したものの、大惨敗が予想されるや、超大型台風の接近で東京都にも甚大な被害が発生する可能性があるのに、「災害から都民の命を守る都知事」の責任にも背を向けて、投票日前日にパリに渡航し、フランスの有力紙からも「逃亡中の女王」などと揶揄されていた小池百合子氏が、今日(10月25日)、「逃亡先」のパリから帰国した。
・パリでは、ケネディ前駐日大使と対談し、 都知事に当選してガラスの天井をカーンと1つ破ったかな。もう1つ、都議会の選挙というのがあって、そこもパーフェクトな戦いをして、ガラスの天井を破ったかなと思いましたけれども、今回、総選挙があって、鉄の天井があるということをあらためて知りましたなどと宣ったそうである。 「ガラスの天井」というのは、「資質又は成果にかかわらずマイノリティ及び女性の組織内での昇進を妨げる、見えないが打ち破れない障壁」のことである。今回の選挙結果は、小池氏が、「組織内で女性の昇進を妨げる障壁」に妨げられて敗北したものだというのである。
・恐るべき問題の「すり替え」だ。確かに、未だに日本の社会には、「ガラスの天井」が至る所に残っている。多くの働く女性達はその障壁と懸命に戦っている。小池氏がやってきたことは、その「ガラスの天井」を巧みに利用し、男性達をたぶらかして、自らの政治的野望を果たすことだった。今回の選挙結果は、小池氏の野望の「化けの皮」が剥がれただけだ。小池氏が今回の選挙結果と「ガラスの天井」を結びつけるのは、多くの働く女性達にとって許し難いことのはずだ。
・国政政党を立ち上げ自ら代表となって「政権交代」をめざすことと、都知事の職とは、もともと両立するものではなかった。政権交代をめざす以上、首班指名候補を決めることは不可欠だし、それは、代表の小池氏以外にはあり得ない。一方で、東京五輪まで3年を切ったこの時期に都知事を辞任するのは、あまりに無責任で都民に対する重大な裏切りだ。小池氏の策略は、都知事辞任をギリギリまで否定しつつ、希望の党による政権交代への期待を最高潮にまで高め、その期待に応えるための「決断」をすれば、マスコミも、「安倍・小池、総選挙での激突」を興行的に盛り上げることを優先し、「都知事投げ出し」を批判しないだろうという「したたかな読み」に基づいていたはずだ。
・ところが、小池氏の「策略」を知らされず、都知事辞任はあり得ないと常識的に考えていた腹心の若狭勝氏が、テレビ出演で、「政権交代は次の次」「小池氏は選挙には出ない」と、馬鹿正直に発言してしまった(この発言の後、小池氏は、若狭氏にテレビに出ないよう指示したようだが、「後の祭り」だった。
・民進リベラル系に対する「排除発言」も重なって、小池氏の「化けの皮」は剥がれ、希望の党による「政権交代」への期待は急速にしぼんでいった。
・そもそも、都議選で「パーフェクトな戦いをして、ガラスの天井を破った」という小池氏の認識は、見当違いも甚だしい。 都議選の直後、【“自民歴史的惨敗”の副産物「小池王国」の重大な危険 ~代表辞任は「都民への裏切り」】でも詳述したように、都議選での自民党の歴史的大敗は、安倍内閣の、加計学園問題、森友学園問題など安倍首相自身に関わる問題や、稲田防衛大臣の発言などの閣僚・党幹部の「不祥事」に対する都民の痛烈な批判の受け皿が、都議会民進党の崩壊のために、小池氏が率いる都民ファーストの会以外になかったことが、棚ぼた的な圧勝につながっただけだ。当時も、小池氏自身に対する人気は、築地・豊洲問題への対応への批判等で、確実に低下しつつあった。小池氏が言う「パーフェクトな戦い」とは、都議選の直前に都民ファーストの代表に就任、選挙の直後に代表を辞任して、選挙期間中だけ「小池・都民ファースト」の看板を掲げて、都民を騙したことを指すのであろう。
・一昨日の戦国ストーリー風ブログ記事【平成「緑のタヌキ」の変】でも書いたように、今回の選挙は、前原氏率いる民進党議員達が、「緑のタヌキ」にまんまと「化かされ」、自滅し、それが、安倍首相が、森友、加計疑惑についての説明もろくに行わないまま圧勝するという、前原氏が目指したのとは真逆の選挙結果をもたらしたということである。希望の党公認候補として苦しい選挙戦を強いられ、何とか勝ち上がった人も、苦杯をなめた人も、まず、行うべきことは、「緑のタヌキ」の実体を見抜くことができず、まんまと「化かされて」しまったことへの痛切な反省である。小池氏を責めることはほとんど無意味である。この「化かし」は、通常の人間の「詐言」とは異なる。「緑のタヌキ」は決して尻尾をつかまれるようなことはしない。「選挙には出ないと最初から言っていたじゃないですか」と開き直られて終わりだ。化かされた側の棟梁の前原氏の愚かさが際立つだけだ。
・彼らにとって必要なことは、「緑のタヌキ」に二度と化かされることがないように、今後の小池氏の在り方、行動に対して、厳しい目をもって対応していくことである。 パリでの「ガラスの天井」「鉄の天井」などの発言、帰国後の「せっかく希望の党がたちあがっているわけですから、国政に向けても進んでいきたい」などの発言を見る限り、小池氏が、今回の選挙結果について、そして、自分の所業が日本の政治や社会にいかに深刻な影響をもたらしたかについて、真摯に反省しているとは到底思えない。今後も、また、様々な策略を弄して、「緑のタヌキ」として巻き返しを図ろうとしてくることを十分に警戒しなければならない。
・小池氏は、「都政に専念せよという都民 国民の声であったと真摯に受け止めたい」と言っているようだが、都民の一人として率直に言わせてもらえば、小池氏には、国政だけでなく、都政にも実質的に関わってもらいたくない。都知事にとどまるのであれば、マスコミ対応や外交活動などをやるだけにとどめてもらいたい。小池氏が、都政に実質的に関わっていくことが、全く有害無益であることは、都知事就任以降のこれまでの経過を見れば明白だ。
・都知事としての小池氏について、私は、昨年11月以降、【小池都知事「豊洲市場問題対応」をコンプライアンス的に考える】【「小池劇場」で演じられる「コンプライアンス都政」の危うさ】【「拙速で無理な懲戒処分」に表れた「小池劇場」の“行き詰まり”】【豊洲市場問題、混乱収拾の唯一の方法は、小池知事の“謝罪と説明”】【「小池劇場」の”暴走”が招く「地方自治の危機」】などのブログ記事や、日経グローカル、都政新報などへの寄稿、片山善博氏との対談本【偽りの「都民ファースト」】の刊行などで、徹底して批判を行ってきた。
・それらを読んで頂ければ、小池氏が行ってきたことが、いかに「ごまかし」「まやかし」であり、都政を混乱させるだけであったかは理解して頂けるはずだ。 「緑のタヌキ」に「化かされた人」も、正体を見破って「化かされなかった人」も、今回の総選挙で、思い知ったはずだ。「緑のタヌキ」は、国政からはもちろん、都政からも、速やかに「排除」されるべきである。
https://nobuogohara.com/2017/10/25/%E3%80%8C%E7%B7%91%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%83%8C%E3%82%AD%E3%80%8D%E3%81%AF%E3%80%81%E3%81%99%E3%81%BF%E3%82%84%E3%81%8B%E3%81%AB%E3%80%8C%E6%8E%92%E9%99%A4%E3%80%8D%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%B9/

次に、財務省出身で慶応義塾大学准教授の小幡 績氏が10月25日付けNEWSWEEK日本版に寄稿した「日本の政党政治はこれからどうなるべきか(前編)」を紹介しよう(▽は小見出し)。
<大混乱の末、自民圧勝に終わった総選挙にも収穫はあった。「政策論争」「二大政党制」「政権交代」を理想と崇める日本政治の虚構を暴いたことだ>
・衆議院選挙が終わった。 これはほとんど意味のない選挙だった、といわれているが、まったく違う。 日本の間違った政党政治の終わりが来たのだ。 日本政治について語られる三つの誤りがある。そして、それは専門家ほど間違っている。メディアの政治部記者や政治学者たちがもっとも大きな誤りを犯しているが、多くの政治家自身も致命的に間違っているのだ。
・第一に、政策論争は必要ない。 第二に、二大政党制は必要ない。 第三に、そもそも政権交代も必要ない。 これらのことを改めて明確に提示したのが、今回の選挙だった。 この3つのことは、私は従来から指摘してきたが、ほとんどの人には理解されなかったし、相手にもされなかった。彼らの意見は、これらの3つが日本には必要で、これらを実現するのが政治改革の目的であり、民主主義政治のゴールいや第一歩であるというものだ。
・それは現実には起こりえない。日本では絶対に起こらない。そして、さらに重要なことに、それは理想論に過ぎないのではなく、誤った理想である。日本のこれまでの政治制度や政党政治のあり方に対する批判は、誤った理想に基づき議論されてきたのだ。
▽小池は取り巻きも「感じ悪かった」
・第一に、今回の選挙結果を見れば明らかなように、政策は選挙にはまったく関係ない。誰も消費税引き上げの是非も教育支出も、そして憲法改正さえも議論しなかった。メディアは専門家や政党の政策担当者を呼んで議論させたが、有権者は全く関心がなかった。彼らに必要だったのは、安倍首相と小池都知事、どちらが信用できるか、正確に言えば、どっちか「感じの良い人か」ということだけだった。小池都知事にとって不利だったのは、本人だけでなく、その取り巻きたちが輪をかけて「感じが悪かった」ことだった。これで決定的に希望の党は敗戦した。
・立憲民主党がなぜ躍進したか。 安倍政権への批判票の受け皿となったからではない。一番「感じが良かった」からである。共産党が衰退したのは、「希望の党は自民党の補完勢力」などと関係ないことばかりを言い続けたからである。希望の党というどうでもいい政党を攻撃したからで、攻撃は少なくとも自民党に向かうべきだったし、それよりも重要なことは、他の政党を攻撃だけしているのは、とっても「感じが悪かった」のである。 立憲民主党は、希望の党に苛められたことにより同情票があつまり、いじめられてもめげずに奮闘していたのが、「感じが良かった」のである。元民進党の仲間を攻撃しない、という態度が真の勝因だった。
・第二に、二大政党制は誰も必要としていないことが明らかになった。小選挙区制の導入は二大政党制の確立を目指したものであったが、それは所詮、学者の机上の空論であり、政界の混乱とレベル低下をもたらしただけに終わりつつある。民進党の希望の党への合流は、やり方が稚拙だったり、担い手の個人的な欠陥があったりしたこともあるが、根底には、日本においては、人々は選挙で二者択一の選択をすること、させることを望んでいないことがある。
・今回の立憲民主党の躍進は、ここ数回の選挙の共産党バブルを引き継いだものという面もあった。明確な自民党批判勢力として貴重な存在だった、ということだ。もし、二大政党制を有権者が望んでいるのであれば、安倍政権批判に徹する政党はまったく必要ないはずで、立憲民主党だけでなく、他の野党も政策提言よりも、民主主義を取り戻す、暴走を止める、といった徹底的な批判、理屈や政策を超えた演説が相対的に効果を発揮した。
▽情に訴える「無所属」は日本だけ
・同時に、政治家、候補者の側も二大政党制を望んでいない。 日本人の特徴は、協調性がない、トップの決定に従わない、一国一城の主になりたがる、というものがある。これが日本の選挙を支配している。党の公認がとれなければ無所属で勝負する。党も分裂が避けられなければ、無所属で分裂選挙を戦わせ、勝ったほうに公認を与える。公平に見えるが、それは日本人だけの感覚であり、日本以外の社会では、上が決定すればそれはどんな形であれ、絶対であり、公平もくそもないのだ。これでは、政党政治は成り立たないし、そもそも組織は機能しない。
・しかも、それを有権者が支持する。無所属でがんばっていると、支援する。だから、候補者も、無所属はいろいろなハンディは生じるが、むしろ人情的には戦いやすい。だから、無所属という選択肢がある。こんなことは他の国の政党政治には見られない。
・二大政党制においては、議員はただの駒である。当選1回、2回の議員では駒にもならない。ただの国会の議席数の頭数である。それを心情的に認められない政治家の気持ちはわかるが、有権者も有識者も、個々の議員に政策の研究、提案、活動を期待する。そんな465種類の意見があったらまとまるはずがない。参議院は人数も少ないし、任期も長いので、政策を重視する、ということがあってもよい。しかし、衆議院は数による権力闘争の場だ。個人の人格も政策も関係ない。関係あるのは、政党の政策と人格だけなのだ。
・そうではなく、個々の議員の人格が重要、選挙は人で選ぶ、という有権者の下では、二大政党制は成り立たないし、一国一城の主を望む議員たちによって、安定した二大政党制は成り立たない。 そもそも、二大政党制が安定して成立しているのは、アングロサクソンの国々、それも一部に限られ、ほぼ米国と英国に限られ、英国でさえ、三党である。
・欧州の多くの国においては、意見の多様性あるいは価値観の軸の多様性を反映して2つを超える政党が成立し、常に連立政権を組むことになっている国が多く、その連立の組み合わせで、毎回政権の政策は変わってくる。
・今回の選挙において、希望の党の代表が国会議員に立候補しなければ内閣総理大臣の指名候補がいない、政権選択選挙なのだから、首相候補が誰かわからなければ、有権者は判断ができない、野党なのか、与党を目指すのかわからないなどあり得ない、安倍首相なら駄目で、ほかの自民党議員なら連立の可能性があるなどおかしい、などという間違った議論が専門家から噴出した。これらはすべて間違っている。
▽与党か野党かは連立次第
・小選挙区制の導入の誰かの(政治家か専門家かしらないが)下心が、二大政党制の実現にあったとしても、法律に二大政党制とは書いていないのであるから、それは社会が選ぶことになるのであり、その場合に、少数政党が生まれるのはありうるし、日本をはじめほとんどの社会ではほぼ必然なのである。
・そのような場合に、党の政策を実現するために、妥協しつつ部分的にでも少しでも実現するために、野党として議会を運営するのか、与党に入るのか、それは選挙が終わってから、連立の組み方の駆け引きの中で当然条件闘争として起こるべきものである。大臣ポストとかの駆け引きばかり取り上げるが、本来は政策の駆け引きであり、例えば、公明党が消費税の軽減税率を盛り込ませたのは、連立与党に入ったことによる果実であり、このような形が選挙前、選挙中、選挙後の動きの中で模索されるのは当然なのである。
・選挙の結果が出る前に与党か野党かなど、決まるはずがない。政策は決まっていないといけないが、その実現手段を委ねるのが間接民主制であり、議会制なのだから、100%間違っているのは専門家の方なのである。希望の党の問題は、政策がまったく決まっていなかったことにあり、それの方が致命的であるが、専門家の批判は政策の中身に向かうべきであったのである。
・第三の政権交代については、日本においては、2009年の選挙で政権交代バブルが起きたために、政権交代こそが必要だと専門家や野党の候補が言うから、人々もそう信じてしまっているが、これも間違いだ。  もっとも悲惨なのは、旧民主党の人々で、いまだに政権交代可能な政党を、と叫んでおり、それがすべてに最優先する。今回の希望の党への合流騒動も、もともと小池新党は眉唾だったから、どうなっても不思議はないが、そのような蜃気楼に民進党の当選回数の多い議員が喜んで乗ったことが不思議であり、驚愕であり、多くの有能な議員を巻き込んだ大惨事を生み出したのだが、この奇怪な意思決定の理由の一つに政権交代至上主義がある。
・どんな形であれ、野党を一本化しなくては、政党をひとつにしなければ、政権交代可能な政党は作れない、というが、そんなことはない。前述したように、連立を組めばよいだけであり、選挙戦であっても、政党を一つにする必要はなく、選挙協力で一本化すればよいのである。それは難しいというが、それなら、政党を一つにすることはそれ以上に難しい。
▽打倒安倍より大事「安倍の後」
・そもそも、安倍政権を倒すことがすべてに優先する、正義である、かのように当然のように議論が行われたが、そんなことはあり得ず、倒した後が倒した前よりもましな政治、ましな政策、ましな社会になる場合に限って倒すことは正当化されるのである。
・しかし、本質的な不幸は、政権交代実現可能な政党でなければ、有権者からの支持が得られない、衆議院は政権選択選挙である、という誤解によりもたらされている。議員たちにとって見れば、与党をやった後に野党をやることは、本当につまらない、やりがいのないものだ、という気持ちはわかる。自分たちが、政党を結集するのに、政権交代を目指す、といわないと政治家たちの内輪で盛り上がらない、というのもわかるが、有権者は、安倍政権が緩んだことに対して批判的ではあるが、政権交代をしろ、と言っているわけでもないし、いまだにイメージの悪い旧民主党のメンバーに交代して欲しいとは思っていないし、一生思わないだろう。
・それは、品のない嫌らしいことだとは思うが、安倍首相がいまだに、民主党政権時代と比べて、というフレーズを多用するのは、それが効果的だからである。 民主党という個別の党のイメージはともかく、そもそも政権交代自身も日本の有権者は望んでいない。戦後の政党の闘いを知らない中年の有権者層は、なんか政権交代は面白そうだと思っていたが、起きてみたら酷いもんだ、と、政権交代という概念自体を、個別の新党と同様に使い捨てにしてしまったのだ。
・新自由クラブ、日本新党、新進党、民主党、みんなの党とすべて使い捨てにされたが、政権交代も同じような意味で使い捨てられたのである。希望の党は、使い捨てられる前に自滅したが。 日本の人々は、政権交代ではなく、権力に対する牽制を求めているだけで、政権交代などという、コストもリスクもあるものを望んではない。二つの対立軸も実はなく、どの政党の政策もすべての有権者層へ向かって八方美人なものになっているということでわかるように、交代ではなく、牽制と修正だけが必要なのだ。55年体制でもわかるように、確かに、たまには交代しないとけん制機能は低下してしまうのであるが、しかし、もうひとつの自民党を抱えるほどのコストを社会は負担する気はない。カネも人もそこで寝かせて置くわけだから、これは非常にコストがかかるのだ。
・ここまで、仕方がない、ということである意味、現状是認の議論をしてきたが、現在の政党政治がこのままでいいとは思わない。そこで、後半では、ひとつの提言をしてみたい。
http://www.newsweekjapan.jp/obata/2017/10/post-17_1.php

第三に、上記の小幡 績氏の続きである10月27日付けNEWSWEEK日本版「緑の党を作ろう──日本の政党政治はこれからどうなるべきか(後編)」を紹介しよう(▽は小見出し)。
<10.22の衆院選で見たように、野党の多くが自滅するのには理由がある。従来の常識を覆す、しかし、実は王道の政党を日本でも作れるのではないか> 
・緑と言っても希望の党とは無関係だ。その正反対の党を作るのだ。 現代日本の政党の構造的な問題が鮮烈に示されたのが、今回の選挙であった。 有権者は政策には関心がない。地方では人物重視、都市部ではイメージだけの争い。そのような現代日本社会の選挙においては、政党は重要でない。
・そうなると組織もいらなくなり、政治家は全員個人商店になるか、というとそういう面が強いが、それでも組織は絶対的に必要である。 政策は無関係、イメージだけの争いとなった場合、与党だけが組織として持続可能となる。政権交代を目指す野党は組織としては存続し得えない。 なぜか。 それは、組織の構成員が組織にとどまるインセンティブがない一方、組織を維持するにはカネとエネルギーと忍耐が揃うことが必要であり、それらは日本ではほぼ永遠に実現しないからである。
・選挙に負けた場合、次の選挙までは、野党である。野党の落選した候補者は、普通は無職で次の選挙まで地道に選挙のための活動を日々続ける必要がある。 これはつらい。政党から補助が出るといっても数十万円で、それで事務所を借りて、秘書を雇って、家族も養わないといけない。一度も当選したことがなければ、とにかく当選するまであらゆる手段を使って、なんとか生活していくかもしれないが、一度当選した後に落選すると、これは厳しい。むしろ制約条件が増えている。
▽城も兵糧もない主
・議員であったときに雇った秘書がいる。地元の秘書もスタッフもいる。事務所もある。毎日街頭演説をしなくてはいけない。支援者のネットワークもあるが、それの維持のために毎日回り続けなくてはならない。つまり、カネもエネルギーもかかるのである。そして、自分個人と家族の手を離れて、候補者の名前は支援者を中心とするコミュニティのものとなり、いわばその地方のものとなるのである。簡単には候補者を辞められない。 これはきつい。だから、是が非でも当選しなくてはいけない、と一度も当選できてない落選続きのときよりも身にしみて思うのである。
・このとき、日本の政党はあまり助けにならない。金銭的援助がないだけでなく、当選するためには、上述したように個人で、野党のその選挙区の一国一城の主として奮闘しなければならない。しかし、実は城はなく、兵糧もない。政党の評判、イメージが有権者の間で悪ければ、そんな助けにならない党にとどまる意味はないどころか、足かせになる。そこで、風を求めて、政党を移ったり、作ったりすることになる。
・この結果、政党の組織的な維持はさらに難しくなる。忍耐できない個人を組織へと結束させ続けるのは、個人の忍耐の次元を超えて難しい。組織の持続性は決定的に厳しいのだ。 とりわけ、二大政党制を目指し、政権交代を目指す、というような政党の場合、すべての小選挙区に候補者がいる。つまり、落選中の次回選挙の公認(予定)候補が多数いる。彼らをつなぎとめるには、票かカネしかない。しかし、支持層が確立していない歴史の浅い野党では基礎票はない。カネを配る、という時代でもない。だから、組織が意味を持つための手段もキャパシティもないのである。
・ちなみに、かつての派閥政治とは、このカネで結束が生まれていたのであり、かつカネは与党であり続けることにより、組織的に企業などから流れてきたものであるから、機能したのだ。今では、政策勉強会的に派閥が機能しているが、しかし、それでも一旦確立した派閥を崩す意味はなく、他のメンバーがどこかの派閥に属している以上、自分もどこかには属したほうが良い。これが一番重要で、歴史と伝統の効果だ。さらに、力が弱まったとは言ってもある程度の票と軍資金の助けにはなるから、与党においては派閥が機能し続けているのである。
・さらに、広く考えると野党は絶望的な状況にある。 党は、議員や候補者だけの集まりではない。党の職員も必要だし、全国に草の根ネットワークが必要である。要は草の根かつ全国規模の動員ネットワークが必要なのである。
・支持者が組織化され、安定的に支持し、投票してくれることが必要だ。彼らのファーストコンタクトが市町村会議員であり、次に県議会議員であり、その上に国会議員が乗っかる構造になっていることが必要だ。国会議員は中央で大きな仕事をし、地元のために大きな利益を持ってくる。それを県、市町村に配分する。その代わり、地方議員は、国政選挙のときは、自分の支援者を動員する。国会議員はそれらをカリスマティックにまとめることに専念する。市町村議員もこの活動を通じて、自分の支援者の結束を強め、広げることができる。市町村議会選挙のときに、カリスマのある、有名な国会議員が応援に来てくれれば、盛り上がり、自分の当選もより確実になる。これぞ組織のネットワークである。
▽国会議員になっても個人商店
・しかし、野党にはこれがない。民主党は、日本新党の流れから、21世紀に入って議席を伸ばし続け、期待が高まった。だから、地方選挙の新人候補はみな無所属ではなく民主党の地方議員として立候補した。この流れがもう少し継続すれば、彼らにもこのようなネットワークができたであろうが、政権獲得後、一瞬で崩壊してしまったから、地方議員はイメージの悪い党から抜け出し、無所属で闘い、再度自分の小さな支持基盤を固め直した。この結果、野党の国会議員は選挙のときに地方のネットワークをヒエラルキー的に動員することができない。国会議員になっても個人商店で、地元の小さな社会でも、すべて自分自身ですべてをやらなくてはいけない。これでは、カリスマは出てこない。大きな仕事に集中できない。
・当選している地方議員よりも草の根的に活動しないといけない。これは厳しい。この厳しい環境の中で、当選している議員もいるから、彼らは与党の議員よりも個人としてはより選挙に強いはずである。これで鍛えられた野党議員たちが、与党になれば、より強くなるのだが、それは実現しそうもない。
・逆説的だが、だからこそ、強い彼らは自分の力を頼り、または過信し、有権者にイメージの悪くなった所属政党を批判し、あるいは内部分裂をし、またはイメージをよくするために、代表を取り替えたり、政党名を取り替えたりする誘惑に駆られる。これでますます党は弱くなり、イメージも悪くなる。絶望的だ。だから、一発逆転を狙いたくなる。そして、自滅する。これが運命だ。
・こんな状況で新しく政治家になろうとする人は物好きだ。ものすごいギャンブルだ。ギャンブルはある意味公平な賭けであるが、これは望みがなく、自分だけの努力ではどうしようもない賭けだ。だから、有望な人材で合理的な人々は政治家にはならなくなる。政界は人材不足となるのである。
・秘書ともなるとさらに悲惨だ。 いつ落ちるかわからない野党議員の政策秘書になることほど不安定な職業はない。かつては、秘書をやって政治の勉強をして我慢していれば、後継者として自分もいつか議員になれた。いまはそういうことはほぼない。議員自身が生き残りが難しいのに、秘書が生き残れるはずはなく、議員になれるはずなどない。さらに、議員候補者は落選して次を忍耐強く頑張るのは自分次第だが、それについていく秘書はほとんどいない。政策秘書的な人間ならなおさら給与も高く払わないといけないから、断腸の思いで首にせざるを得ない。政治家の秘書の人材不足は議員以上に深刻となる。こうなると、ますます、選挙にも勝てなくなり、勝ち続けている与党議員との差は広がってしまう。
▽組織として最も優れた政党:公明党と共産党
・さて、このような状況では、健全な野党を作ることは諦めるしかないのか。 現在、自民党以外で組織として機能している政党は2つある。公明党と共産党だ。組織としては、自民党以上にしっかりしている。それは、彼らは与党でないか、与党になったのは最近であるから(そして少数政党だから)、自民党よりも組織として強くなければ存続は難しい。だから、機能している、ということはすごいのである。
・彼らの強みはもちろん、固定化された支持層である。数は多くないが、決して裏切らない結束の強い支持基盤がある。どんなことがあっても上層部の支持には従う。組織として安定しているから、個人商店として選挙を戦わない。だからこそ、選挙に強い人が偉くなるのではなく、組織人として優秀な人が偉くなるのである。比例名簿の上に載るのである。そして、定年などがあり、きちんとローテーションする(ことが多い)。組織文化として、インテリを尊敬するところがあるから、優秀な人材が出世する。これも組織の安定性に繋がる。だから、政党の中では、もっとも素晴らしい組織なのである。
・政策的な主張もはっきりしている。そして、公明党は与党に入ることで、政策的な一貫性を失ったようにも見えるが、与党に入り続けることから得られる実利を優先し、可能な限り妥協する、という方針がはっきりしている。その結果、もっとも自分たちの支持者のために有効な政策を実現する成果を得たのは公明党である。軽減税率はその一例である。
・選挙的には、彼らはなくてはならない票を持っている。安定した票を全国に持っているということだ。自民党は公明党の基礎票抜きには選挙を戦えないし、今回希望の党が惨敗したのは、連合の基礎票がばらばらになってしまったことで、立憲民主党は部分的に共産党の基礎票を取り込めたことが勝因となった。
・だから、選挙戦術的に言えば、共産党との共闘は、政策的な整合性から難しい、という民進党の一部の人々の判断は選挙に負けてもいいから、ということであれば、正論で素晴らしいが、選挙に勝つことを最優先するのであれば、致命的な失敗であった。
・現在の選挙は、組織的な基礎票をベースに浮動票をイメージ戦略でどこまで取り込むか、という闘いである。基礎票もなく、イメージも悪い民進党の有力議員は自力でがんばり続けるしかなかったが、風を求める議員たちの作り上げた人災によって、自己努力で得ていた票まで吹き飛ばされてしまった。 このような繰り返しをしていては未来はない。もし、組織的に安定的な政党を作るとすればどうしたらよいのか。
▽政権交代可能な政党は目指さない
・第一に、浮動票には頼らないことが必要である。無党派層と呼ばれる浮動票層は気まぐれで、適当である。日本新党に入れ、小泉郵政解散に入れ、政権交代に入れ、みんなの党に入れ、維新に入れる人々である。頼ったらこちらが使い捨てられてしまう。
・第二に、では基礎票を固めるしかないが、それには全国的なネットワークが必要である。しかし、それは思いつかない。私は、この30年、何がありうるか考え続けたが、ないという結論に達した。公明党や共産党は参考になるが、特殊である。同様のネットワークを今から作ることは不可能だし、代わりになるものも存在するようには見えない。何か代替案が必要である。
・第三に、ローコスト運営が必要である。政党をつくる、ということはゼロからのスタートである。もちろん、野党である。だから、長い間、もしくは永遠に野党であるから、利権も組織に帰属するインセンティブも生み出すことはできない。それでも組織を持続させるためには、組織の持続にコストがかからないようにする必要がある。
・第四に、そのためには、政権交代可能な政党は絶対に目指さない、という方針が必要である。日本では政権交代は望まれていない。過度に強くなった政権与党を牽制することだけが必要である。そのためには、公明党のように、少数政党として、連立政権に入るか、共産党のように、野党として一貫した主張をし続けるかである。そのためには、政権をとることを目指してはいけない。多数の候補者、小選挙区のすべての選挙区に候補者を擁立するにはコストがかかりすぎる。最初から少数政党であり続けることを前提に党を作る必要がある。
・これらを考慮すれば、結論はどうなるか。 一つは地域政党、という道があるだろう。大阪はそうであるが、あれは橋下氏という例外的なカリスマに頼ったものであり、かつ彼が全国展開、政権獲得を目指したことにより衰退していった。地域政党と政権獲得は両立しないのである。かつ地域政党であれば、地方自治であり、国政選挙政党としては持続的でない。全国的な政党になるための過渡期の手段でしかない。
・もう一つの道は、逆説的だが、現在の日本の選挙では政策がまったく関係ない、という状況を活かして、あえて政策の軸を据えて、それで勝負する政党を作ることである。 基礎票が得られないとなれば、浮動票層を狙うしかない。しかし、浮動票で過半数を目指すと無理が生じるし、政策も流行を追う必要があり、浮動に応じて右往左往しなくてはならない。徹底したポピュリズムとイメージ戦略に陥ってしまう。これまでの失敗を繰り返すだけである。だから、浮動票の中でも一部だけを獲得すればよい。そして、それを固定化することを目指すのである。
・これまで何回も新しい政党やイメージ戦略で膨らんだ政治バブルを自ら作り、自ら崩壊させ、一部の浮動表層の有権者たちは飽きていることがある。うんざりしている人も多いだろう。そのようなバブルを作っては壊し続ける周りの浮動表層に憤りを感じている人も一部はいるだろう。
・彼らは、政策で選挙に投票できる状況が生まれれば、非常に楽になるに違いない。これまでは、選挙にいかなくてはいけない。それは国民の義務である。しかし、どの政党もポピュリズムで、風目当てで、うんざりだ、投票したいところがない、と思っていた。だから、少しでも望みがあれば、あるいは少しでも目新しければ、試してみるか、ということで投票していたが、失望し、そんな党に投票した自分を後悔していたはずだ。だから、政策で投票できた、という実感を持てれば、非常に楽になるはずである。 だから、政策を軸に党を作ってみよう。
▽左翼、右翼、憲法、女性ではだめだ
・ただし、右とか左、というのではいけない。欧州の流行に従えば、極右政党となるかもしれないが、それは持続的ではないし、欧州の特殊事情もあるし、日本では極右は受けないと思う。同時に、左ではもちろんない。右とか左ではないのである。
・さらに、女性の代表とか、若者の代表、というのでもいけない。本来、政治とは、自分のバックグラウンドを支持するものではないのである。それでは、利権政治と同じである。 したがって、どんな属性を持つ人でも、政策に関する考えだけで投票できる可能性のある軸を打ち出す必要があるのである。それは何か。私は、環境、と考える。だから「緑の党」なのである。
・連立政権がほとんどである大陸欧州では、ほとんどの国で、緑の党が一定の議席を持っている。それがなぜ日本で成立しないのか。その理由は、環境意識が日本人は低い、という説もあるが、私は正反対に環境意識が誰もが強すぎて、政策としてあえて主張する、自分の信念として主張することにこれまで違和感があったからだと思う。あたりまえすぎて、あえて主張することではなかったのだ。
・しかし、環境破壊は激しく進んでいる。日本自体は、1960年代の公害問題を克服し、環境は戻る、良くなる、ということを実証した素晴らしい国だ。しかし、日本だけが良くなっても、世界の環境破壊は止まらない。地球温暖化は否定の仕様のない悪影響を地球に与え、異常気象は、世界で普遍的に起こり、日常的になり、異常気象が通常となっている。従来と違って、意識的に環境最優先と強く主張しないと、個々人の日常生活を超えて、日本として世界に主張していかないと、環境問題は解決できないと少しずつ日本の人々も実感し始めているのではないか。
・したがって、なぜ日本では「緑の党」が成立しなかったのか(過去にそういう党は存在したが、存続し得なかったのか)という問いに対しては、だから、これから作る、という回答があり得る。私は、この仮説を信じてみたい。 私は環境の専門家でもなんでもない。一有権者として、そのような党があったら投票してみたい、と思っただけである。そして、それは私だけではないのではないか、と感じている。だから、是非、誰かにこのような政党を作ってみて欲しいのである。
・具体的には、小選挙区には立候補しない。比例区だけ候補者を立てる。そして、候補者は、職業としての政治家ではない。環境問題に貢献したいというメンバーが組織をつくり、そのメンバーが交代で候補者になる。当選しても一期限りである。仕事は別に持ち続ける。当選した場合だけ、一定期間出向のような感覚で、その間だけ仕事を離れ、議員活動に専念する。1期終われば、いままでの仕事に戻るのである。こうすることによって、いいメンバーが集まる可能性があるのではないか。権力闘争や政治的なプロセスには興味はないが、環境政策に関心のある専門家が参加できるのではないか。
▽期待ゼロよりは建設的挑戦を
・中核には、政治の専門家としての政治家が必要だろう。1名あるいは数名の経験のある議員にいてもらう必要がある。そして政党運営のために、ベテランスタッフも最低数名は必要であろう。あとのメンバーはパートタイム、あるいはボランティアである。 選挙活動は従来のような形ではしない。環境問題の理解を深めるシンポジウムを開催したり、小規模な集会をボタンティアでしたり、そのような論考や主張を発表したりするだけである。政策については徹底的に勉強をする。
・カネは必要である。上述のスタッフの人件費は安定的に必要であり、また立候補にもカネが必要である。ただ、普通の政党に比べて格段に少なくて済む。毎回、風を求めて右往左往する必要はない。当選できなくても構わないのである。
・これでどこまで政策に影響力を持つことができるかは未知数である。大きな力にはならないかもしれない。しかし、ゼロよりはましではないか。環境を良くすることにマイナスにはならないだろう。政治に何も期待できないのであれば、ゼロよりましなものに賭けてみるのはありではないだろうか。
http://www.newsweekjapan.jp/obata/2017/10/post-19_1.php

第一の記事で、 『鉄の天井』発言は、 『恐るべき問題の「すり替え」だ』、 さらに小池氏が 『今後も、また、様々な策略を弄して、「緑のタヌキ」として巻き返しを図ろうとしてくることを十分に警戒しなければならない』、などというのはまさにその通りだ。 『「緑のタヌキ」は、国政からはもちろん、都政からも、速やかに「排除」されるべきである』、というのは正論だ。
第二の記事の小幡 績氏の見解は、俗論に流されずに、やや独断的ではあるが、極めてユニークなので、面白い。 『日本政治について語られる三つの誤りがある・・・第三に、そもそも政権交代も必要ない』、の第三については、若干の違和感を感じる。 『連立を組めばよいだけ』、とするが、 『政権交代至上主義』は問題があるとしても、与党が圧倒的多数を占めている昨今の状況を踏まえると、『連立』とは「空論」に近いのではなかろうか。ただ、 『日本の人々は、政権交代ではなく、権力に対する牽制を求めているだけで、政権交代などという、コストもリスクもあるものを望んではない』、というのはその通りだろう。
第三の記事で、 『浮動票の中でも一部だけを獲得すればよい。そして、それを固定化することを目指すのである』、 『どんな属性を持つ人でも、政策に関する考えだけで投票できる可能性のある軸を打ち出す必要があるのである。それは何か。私は、環境、と考える』、など小幡 績氏が、真剣に考察した提案は傾聴に値する。ただ、 『第四に、そのためには、政権交代可能な政党は絶対に目指さない、という方針が必要である』、というのも、上記の連立についての小幡 績氏の考え方に違和感を持つ以上、賛成しかねる。いずれにしても、小幡 績氏のユニークな考え方は、思考実験としても、興味深い。
タグ:私は、環境、と考える 、どんな属性を持つ人でも、政策に関する考えだけで投票できる可能性のある軸を打ち出す必要 政策を軸に党を作ってみよう 浮動票の中でも一部だけを獲得すればよい。そして、それを固定化することを目指すのである もう一つの道は、逆説的だが、現在の日本の選挙では政策がまったく関係ない、という状況を活かして、あえて政策の軸を据えて、それで勝負する政党を作ることである 第四に、そのためには、政権交代可能な政党は絶対に目指さない、という方針が必要 第三に、ローコスト運営が必要 第二に、では基礎票を固めるしかないが、それには全国的なネットワークが必要である。しかし、それは思いつかない 第一に、浮動票には頼らないことが必要 組織的に安定的な政党を作るとすればどうしたらよいのか 組織として最も優れた政党:公明党と共産党 国会議員になっても個人商店 かつての派閥政治とは、このカネで結束が生まれていたのであり 政党の評判、イメージが有権者の間で悪ければ、そんな助けにならない党にとどまる意味はないどころか、足かせになる。そこで、風を求めて、政党を移ったり、作ったりすることになる 個人で、野党のその選挙区の一国一城の主として奮闘しなければならない 城も兵糧もない主 組織の構成員が組織にとどまるインセンティブがない一方、組織を維持するにはカネとエネルギーと忍耐が揃うことが必要であり、それらは日本ではほぼ永遠に実現しないからである 政権交代を目指す野党は組織としては存続し得えない 政策は無関係、イメージだけの争いとなった場合、与党だけが組織として持続可能となる 地方では人物重視、都市部ではイメージだけの争い 有権者は政策には関心がない 緑の党を作ろう──日本の政党政治はこれからどうなるべきか(後編)」 戦後の政党の闘いを知らない中年の有権者層は、なんか政権交代は面白そうだと思っていたが、起きてみたら酷いもんだ、と、政権交代という概念自体を、個別の新党と同様に使い捨てにしてしまったのだ そもそも政権交代自身も日本の有権者は望んでいない 打倒安倍より大事「安倍の後」 連立を組めばよいだけであり、選挙戦であっても、政党を一つにする必要はなく、選挙協力で一本化すればよいのである 政権交代至上主義 2009年の選挙で政権交代バブル 常に連立政権を組むことになっている国が多く、その連立の組み合わせで、毎回政権の政策は変わってくる 欧州の多くの国においては 二大政党制が安定して成立しているのは、アングロサクソンの国々、それも一部に限られ、ほぼ米国と英国に限られ、英国でさえ、三党である 個々の議員の人格が重要、選挙は人で選ぶ、という有権者の下では、二大政党制は成り立たないし、一国一城の主を望む議員たちによって、安定した二大政党制は成り立たない 衆議院は数による権力闘争の場だ。個人の人格も政策も関係ない。関係あるのは、政党の政策と人格だけなのだ 二大政党制においては、議員はただの駒である。当選1回、2回の議員では駒にもならない 情に訴える「無所属」は日本だけ 安倍政権への批判票の受け皿となったからではない。一番「感じが良かった」からである 立憲民主党がなぜ躍進したか 小池は取り巻きも「感じ悪かった」 日本のこれまでの政治制度や政党政治のあり方に対する批判は、誤った理想に基づき議論されてきたのだ 第三に、そもそも政権交代も必要ない。 第二に、二大政党制は必要ない 第一に、政策論争は必要ない 日本政治について語られる三つの誤りがある 日本の間違った政党政治の終わりが来たのだ 「日本の政党政治はこれからどうなるべきか(前編)」 Newsweek日本版 小幡 績 。「緑のタヌキ」は、国政からはもちろん、都政からも、速やかに「排除」されるべきである 小池氏が、都政に実質的に関わっていくことが、全く有害無益であることは、都知事就任以降のこれまでの経過を見れば明白だ 今後も、また、様々な策略を弄して、「緑のタヌキ」として巻き返しを図ろうとしてくることを十分に警戒しなければならない 行うべきことは、「緑のタヌキ」の実体を見抜くことができず、まんまと「化かされて」しまったことへの痛切な反省である 前原氏率いる民進党議員達が、「緑のタヌキ」にまんまと「化かされ」、自滅 小池氏の「化けの皮」は剥がれ、希望の党による「政権交代」への期待は急速にしぼんでいった 民進リベラル系に対する「排除発言」 テレビ出演で、「政権交代は次の次」「小池氏は選挙には出ない」と、馬鹿正直に発言 若狭勝 都知事辞任をギリギリまで否定しつつ、希望の党による政権交代への期待を最高潮にまで高め、その期待に応えるための「決断」をすれば、マスコミも、「安倍・小池、総選挙での激突」を興行的に盛り上げることを優先し、「都知事投げ出し」を批判しないだろうという「したたかな読み」に基づいていたはずだ 国政政党を立ち上げ自ら代表となって「政権交代」をめざすことと、都知事の職とは、もともと両立するものではなかった 恐るべき問題の「すり替え」だ 今回、総選挙があって、鉄の天井があるということをあらためて知りました ケネディ前駐日大使と対談 大惨敗が予想されるや、超大型台風の接近で東京都にも甚大な被害が発生する可能性があるのに、「災害から都民の命を守る都知事」の責任にも背を向けて、投票日前日にパリに渡航し、フランスの有力紙からも「逃亡中の女王」などと揶揄 「緑のタヌキ」は、すみやかに”排除”されるべき」 郷原信郎 (その14)(「緑のタヌキ」は、すみやかに”排除”されるべき、小幡 績:日本の政党政治はこれからどうなるべきか(前編)、(後編)) 日本の政治情勢
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