保険(その7)(癌になって思う「がん保険は やっぱり不要だ」、保険営業がいまだ抜け出せない不祥事の連鎖 再発防止を妨げる大量採用・大量離職問題、あんしん生命 元営業職員4億円詐取に透ける課題 大量離職問題がもたらす再発防止の高い壁) [金融]
保険については、昨年5月27日に取上げた。今日は、(その7)(癌になって思う「がん保険は やっぱり不要だ」、保険営業がいまだ抜け出せない不祥事の連鎖 再発防止を妨げる大量採用・大量離職問題、あんしん生命 元営業職員4億円詐取に透ける課題 大量離職問題がもたらす再発防止の高い壁)である。
先ずは、本年2月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「癌になって思う「がん保険は、やっぱり不要だ」」を紹介しよう。
・『「がん保険は要らない」と言っていた筆者が癌になった。それでも「がん保険は、やっぱり不要だ」と思った。これは筆者としての結論だが、その判断に影響を与えた要素が筆者と同様の方は少なくないはずだ。今回はその要素についてお伝えするので、読者は、ご自身としての結論を得てほしい』、興味深そうだ。
・『私の癌と治療経過 冒頭から私事で恐縮だが、筆者は昨年不幸にして癌にかかった。ステージIIIの食道癌である。そして、幸いにして治療は順調であり、体力はかなり回復した。現在、再発防止目的で薬剤を投与しており、向こう一年ほど検査なども含めて1カ月に一度程度通院する予定だが、仕事を含めて日常生活に支障はない。 ただし、「不幸」と「幸い」の比較は、残念ながら「不幸」の勝ちだ。最大限に治っても病前の状態までは回復しない。端的に言って、以前と同じように飲んだり食べたりできるようにはならない。飲んだり、食べたりは、本当に楽しかった。ビジネスや人間関係の上でも大変有効だった。そして、何よりも再発のリスクを抱えている。食道癌は再発や転移が多い癌なのだ。読者は癌にかからない方がいい。 さて、癌になってみると、筆者の元にはがん保険に関する質問が多数寄せられた。「がん保険は要らない」と言っていた人物が、実際に癌になってどう感じたか興味を持たれたのだろう。 本稿では、筆者の癌とその治療経過を手掛かりに、がん保険の要否について考える。筆者と似た条件にある方は多いと思うが、読者と筆者とで意思決定のための条件が同じでない点はあるかもしれない。もとより自分一人の経験を一般化して押しつけるつもりはない。 読者は、ご自分の問題として改めて考え直してご自身の結論を得てほしい。) なお本記事では、病気としての癌の表記として漢字の「癌」を充てる一方、「がん保険」への言及では「がん」を充てる。保険会社は癌が恐ろしい病気ではないというイメージを醸し出したいのだろうと推察して、その慣行を尊重する。 患者になってみた実感としても、文章の字面としても、癌一般には「癌」が適切だと強く思う。ひらがなの「がん」は間抜けだし、それで病気が軽くなるわけでもない』、「「不幸」と「幸い」の比較は、残念ながら「不幸」の勝ちだ。最大限に治っても病前の状態までは回復しない。端的に言って、以前と同じように飲んだり食べたりできるようにはならない。飲んだり、食べたりは、本当に楽しかった。ビジネスや人間関係の上でも大変有効だった。そして、何よりも再発のリスクを抱えている。食道癌は再発や転移が多い癌なのだ。読者は癌にかからない方がいい』、「最大限に治っても病前の状態までは回復しない。端的に言って、以前と同じように飲んだり食べたりできるようにはならない」、「食道癌は再発や転移が多い癌なのだ」、なるほど。
・『癌患者としての筆者の条件 筆者の癌治療の概要を簡単に説明する。 癌が見つかったのは昨年の夏だ。ある大学病院を選んで治療することにした。手術で病変部分を取り切れると見込まれる食道癌の現在の標準治療は、先に抗癌剤治療を二度程度入院して行い、その後に手術を行うものだ。筆者は、つごう三度、合計40日程度入院した。 手術を受けたのは昨年の10月下旬で、術後13日で退院した。治療の進歩とともに厚生労働省の方針もあってか、入院は意外に短かった。 現在、手術後3カ月と少々が経過し、再発防止のための投薬治療を続けている。幸い、概ね順調な回復過程をたどっていて、先般の術後3カ月目のCT(コンピュータ断層撮影)検査では再発・転移は見つかっていない。 筆者は発病時も現在も満64歳で、証券会社の社員であり、東京証券業健康保険組合に加入している。民間保険会社のがん保険には一切入っていなかった。さて、筆者の癌に治療費はいくらかかったのだろうか?』、「つごう三度、合計40日程度入院」、した場合の「治療費」はいくらかかったのだろう。
・『筆者の場合の治療費負担 確定申告を控えた時節柄、筆者の手元には医療費の領収書がまとめられている。支払いで大きなものは、3回の入院から退院した際に行った支払いだが、1回目の入院の際に67万円、2回目の入院で55万円、手術を含む3回目の入院の際の支払いが83万円だ。合計で205万円である。なお、以下も含めて、金額は1万円単位で大まかに記述する。 それぞれの支払いは、まず診察券を支払い用の端末機に入れ、次にクレジットカードを入れて暗証番号を打ち込むだけだった。その後に、機械から領収書と診療明細書など数枚がプリントアウトされて完了だ。支払い自体には3分もかからない。 手術入院の退院までを一区切りと考えると、ここまでに、大学病院で支払ったその他の医療費(検査費用、処方薬代など)と、大学病院に至る前の段階でお世話になった街のお医者さん3軒や調剤薬局で払った費用の領収書が、「合計で、20万円を超えるかもしれないけれども、30万円には至るまい」と思える程度に存在する。多めに見て、医療費の合計を235万円と見積もっておこう。 この235万円の支払いの大きな部分は、いわゆる差額ベッド代だ。一泊約4万円で、合計40泊している。この大学病院は個室(シャワー付き)の部屋代が相対的にやや高めだと後から分かった。近隣の大きな病院は3万円台半ばくらいの設定が多い。地方の病院だともっと安い場合が多いだろう。 病院の選択に当たっては、個室代などの価格を全く気にしていなかった。病院の症例数や執刀してくれる医師の経験や評判などで決定した。結果的に「当たり」だったと思うが、この点は真剣に選んだ。少々の値段の差よりも、受けられる治療の質が重要だと考えた(普通の考えだと思う)。 個室を選んだ理由は、主に、消灯時間が自由であることや、原稿書きや電子メール、オンライン会議ができることなどだ。個室代分を稼ぎ出すほど熱心に仕事をしたわけではないが、仕事に穴を空けずに済んだし、他の患者さんに気を遣わずに済んだので、これで良かったと思っている。 同じ病院でもっと高い部屋のオプションが複数あったし、4人一部屋の入院だと一泊約7000円なのだが、この辺を自分の現状にとってほどほどだと判断した。もう入院せずに済むといいのだが、仮に再入院するとしたら、同様の条件の部屋をまた選ぶだろう』、「病院の選択に当たっては、個室代などの価格を全く気にしていなかった。病院の症例数や執刀してくれる医師の経験や評判などで決定した。結果的に「当たり」だったと思うが、この点は真剣に選んだ。少々の値段の差よりも、受けられる治療の質が重要だと考えた」、オーソドックスな考え方だ。「個室を選んだ理由は、主に、消灯時間が自由であることや、原稿書きや電子メール、オンライン会議ができることなどだ。個室代分を稼ぎ出すほど熱心に仕事をしたわけではないが、仕事に穴を空けずに済んだし、他の患者さんに気を遣わずに済んだので、これで良かったと思っている」、私が大腸ヘルニアで聖路加国際病院で手術した際には、「個室」以外の選択肢はなく、高いけど優雅な入院生活を送った。
・『健康保険組合の給付金制度で医療費は思ったより安く ちなみに、差額ベッド代は健康保険の対象外だ。また、税務的にも医療費として控除の対象にはならないと聞いている。この一泊4万円は、筆者の「自発的贅沢(ぜいたく)」だと思ってくれていい。もっと安く済ませることが十分可能だ。 加えて、差額ベッド代を除いた約75万円が全て自己負担の医療費になるかというと、現実はもっともっとお財布に優しかった。筆者の場合、健康保険組合独自の給付金制度があるからだ。 東京証券業健康保険組合の場合、一回に2万円を超える保険診療の医療費支払いは、2万円との差額が給付される制度がある。給付のタイミングは自己負担額の支払いの3カ月後だ。 他の健康保険組合では、医療費の支払い一回当たりに自己負担の上限を設けて計算するケースもあるし、1カ月の医療費に上限があって差額が後から補填されるケースもあるようだ。 また、加入員の自己負担における上限金額の設定に違いがある。個々の健康保険組合によって条件が異なるが、企業や業界単位の健康保険組合の場合は何らかの補填的給付があるケースが多い。特に、サラリーマンはご自身が加入する健康保険組合の条件をホームページなどで確認しておくといい。 例えば、初回の入院費を支払った昨年9月分の医療費では、保険診療分として筆者が窓口で機械に支払った金額が25万円だった。ところが、「一部負担還元金現金給付」として健康保険組合が支給してくれた金額が23万円あって、この支払いは12月半ばに行われている。 2度目の入院の支払い27万円と、2万円を超える通院の支払い3万円があった10月分には、後から26万円が支給されている。支給額の決定は支払い一件単位なので、前者の支払いに対して25万円と、後者の支払いに対して1万円の合計が26万円だということなのだろう。この月は2万円を超える支払いが2回あったので、筆者は4万円負担した。 3度目の入院の支払いがあった11月は、筆者の支払いが14万円で、健保組合からの給付は12万円だ。ここまでの3回で合計61万円支給されている。 なお、煩雑になるが本記事の性質上記しておくと、筆者が窓口で支払った金額のうち保険診療に該当する金額については、国民健康保険の高額療養費制度の上限額が支払いの上限になるように病院側が調整する仕組みがある。一回当たりの支払い額があまり大きくならないようにとの配慮だろう。 これが先に適用されて高額療養費制度で支払いの上限があり、まずこれを支払う。その支払い額に対して健康保険組合が一件2万円を超える分をさらに負担してくれる仕組みだ』、「健康保険組合独自の給付金制度」とはいい仕組みだ。
・『健康保険の保障は手厚い ここまでのところ、個室代の160万円を筆者の個人的贅沢として考えて除外すると、健康保険でカバーされなかった「どうしても必要だった」医療費の支払いは、手術の入院が終わって治療が一段落した段階で十数万円だった(75万円マイナス61万円は14万円だ)ということになる。 今後の医療費はどうなるか。筆者は主治医と相談して、再発防止のための薬剤投与を行うことにした。毎月一回、1年間である。その他に、定期的に検査があったり、飲み薬の処方があったりするが、大きな金額ではない。 高価な薬だが、毎月の窓口の支払いは、保険適用部分が12万円に、時間を予約して診療できる仕組みの利用料が1万円の合計で13万円見当の予定だ。そして、12万円の方は健康保険組合の給付金を考えると負担が2万円に減る。結局、1カ月当たり3万円を1年間負担することになると見込んでいる。 改めて計算してみて、そもそものわが国の健康保険制度および健康保険組合(筆者の場合は東京証券業健康保険組合)の付加的な給付制度が、こんなに手厚いものなのかと感心する。 証券会社のサラリーマンである筆者の場合、どうしても必要な医療費支出は煎じ詰めると十数万円だった。本人の収入によって負担額が変わるが、国民健康保険の高額療養費制度までが負担の上限額になるフリーランスの場合も、筆者程度の癌にかかった場合の負担額は数十万円の単位だろう。「治療費が足りなくなる心配」だという理由からがん保険に加入する必要性はない場合が多いだろう。 読者は何らかの健康保険に加入しているに違いない。ならば、少々余裕を見るとして自由になる預金が200万円か300万円くらいあれば、入院の条件などをその都度考えるとして、健康保険が適用される標準的な治療を行う限り、がん保険に入っていなければ癌の治療費が払えないという事態はまずないだろう。 がん保険の保険料を毎月支払うよりも、預金なり積立投資なりで早く何百万円かの備えを作ることを考えた方がいいと筆者は思う。老後の生活に備えた蓄えの形成も必要なのだから、同時に行うといい』、「読者は何らかの健康保険に加入しているに違いない。ならば、少々余裕を見るとして自由になる預金が200万円か300万円くらいあれば、入院の条件などをその都度考えるとして、健康保険が適用される標準的な治療を行う限り、がん保険に入っていなければ癌の治療費が払えないという事態はまずないだろう。 がん保険の保険料を毎月支払うよりも、預金なり積立投資なりで早く何百万円かの備えを作ることを考えた方がいいと筆者は思う」、その通りだろう。
・『意思決定は結果論ではなく「事前」がベース 筆者が、がん保険に加入していたらどうだっただろうか。例えば、癌と診断を受けた時に50万円とか100万円といった一時金をもらえるケースもあるだろうし、入院一日当たり1万円とか2万円といった保険金も大いに助けになったはずだ。 筆者の場合も、癌にかかることが前から分かっていたなら、何らかのがん保険に入っておいた方が金銭的に「得」だった可能性は大きい。 しかし、がん保険に加入するか否かの意思決定は、自分が将来癌にかかるかどうかが分からない「事前の」時点で行うものだ。かつての筆者にとってもそうだったし、多くの読者にとってもそうあるべきだ。 筆者が思うに、特定の結果の損得と、確率を考えた「事前の」損得を区別して、後者のロジックに従って判断できるかどうかが、経済的に正しい意思決定ができるか否か、いわゆる「カモになるか否か」の一つの大きな分岐点だ。せっかく人間に生まれて、多少なりとも確率の概念が分かるのなら、正しく考えたいものだ。 ここで、しゃくし定規に真面目な人なら、将来自分が癌にかかる確率、その場合に支払われる保険金の予想額などを考え、他方の保険料負担と、保険料を他の運用に回した場合の期待リターンなどを考慮して、損得の期待値を計算するのかもしれないが、これは賢くない。本気でやるなら人生の時間の浪費だ。 保険会社が商品設計の際の計算に失敗しない限り、がん保険の条件は保険会社が十分利益を期待できる水準に設定されていて、加入者側にとって損であるに決まっている。なぜなら、平均的に加入者が得をするのであれば、原理的に保険会社はつぶれてしまうからだ。そして、商品としてのがん保険は長年にわたって継続しており、保険会社はもうかっているし、保険を売るための熱心なセールスの努力が続いている。推測の根拠は十分だ。 損得の点に関しては、営利会社であり保険の専門家でもある保険会社を大いに信用していいはずだ。「大人の経済常識」を働かせた判断として、確率と期待値を考えた損得の問題として、保険会社がもうかっているなら、加入者は損をしていると考えて間違いない』、「保険会社が商品設計の際の計算に失敗しない限り、がん保険の条件は保険会社が十分利益を期待できる水準に設定されていて、加入者側にとって損であるに決まっている」、「保険会社がもうかっているなら、加入者は損をしていると考えて間違いない」、その通りだ。
・『「がん保険には入らない」という結論を何度でも出すだろう 従って、仮に筆者が30代、40代の時分に戻って、将来癌にかかるかどうか分からない時点でがん保険の加入について検討するなら、「がん保険には入らない」という結論を、自信を持って出すはずだ。 なぜなら、がん保険に入ることが確率を考えると大幅に損である一方、万一癌にかかっても自分の手元のお金で十分対処できるからだ。この意思決定に不安はない。そして、この種の架空の状況の繰り返しが何度も可能であるとすれば、何度でもそうするだろう。 ただし、架空の人生のうち、何度かに一度は癌にかかって何らかの治療費を自己負担することになるに違いない。しかし、架空の人生を何度も通算すると、保険に加入しない方が大いに得になっているはずだ。 保険はお金の問題だ。感情を交えずに損得と必要性の有無で判断したい。 例えば、通院には交通費が掛かるが、この交通費をがん保険が支給してくれると嬉しいといった声がある。結果論として、嬉しかったり、助かったりする場合があるのはその通りだろう。しかし、保険会社は交通費を支払うような保険の場合に、交通費の発生確率や期待値も計算して保険料を設定しているはずだ。 また、そもそもがん保険に入る動機の小さくない部分が、癌にかかることへの不安の感情だろう。冷静に考えると、がん保険に入っても癌に罹患(りかん)する確率は少しも小さくならないのだが、不安な問題に何らかの対処を行ったということが、精神的な満足感につながることがある。率直に言ってこの満足感は賢くないし、賢くないことが我慢できても相当に高く付く。 保険一般として、利用の判断基準は、「損か、得か?」ではなく、「損だけれども、必要か?」であるべきだ。保険の専門家ほど、これが当たり前だと思っているはずだ。 自動車を運転する際の自賠責保険のように、平均的に損ではあろうけれども必要な保険というものはある。 他方、がん保険は、それ自体が損であることと同時に、がん保険がなくても治療費の支払いに心配はないので不要である。 これは、筆者の状況での判断だが、意思決定に影響を与える要素が筆者と同様の方は少なくないはずだ。ご参考になれば幸いだ。 読者ご自身の場合はどうなのか。ご判断は読者にお任せする』、「保険一般として、利用の判断基準は、「損か、得か?」ではなく、「損だけれども、必要か?」であるべきだ」、「がん保険は、それ自体が損であることと同時に、がん保険がなくても治療費の支払いに心配はないので不要である」、同感である。
次に、4月10日付け東洋経済オンライン「保険営業がいまだ抜け出せない不祥事の連鎖 再発防止を妨げる大量採用・大量離職問題」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/664676
・『「未然防止や再発防止のための取り組みが形式的・表面的なものにとどまらず、営業現場の隅々にまで浸透するよう、実効性のある管理態勢を整備・確立していくことが課題となっている」 これは金融庁が昨秋に公表した「保険モニタリングレポート」で、生命保険業界が抱える課題として記した一節だ。 大手生保を中心に、営業職員による金銭詐取事案が依然として頻発する中で、業界を挙げて取り組みを徹底するよう圧力をかける意味合いがあった。 『週刊東洋経済』4月10日(月)発売号では「保険動乱」として、契約者に加えて保険会社の営業職員が引き起こす不正行為とその舞台裏について特集している。 同レポートの公表と時を同じくして、業界団体の生命保険協会(生保協)は、営業職員の管理態勢をめぐる新たな指針の策定に着手。協会長の稲垣精二氏(第一生命会長)が旗振り役となり、営業職員チャネルを持つ20社のトップと意見交換するなど、急ピッチで策定作業を進めることになった』、「大手生保を中心に、営業職員による金銭詐取事案が依然として頻発」、由々しい状況だ。
・『生保協が新たな指針を策定 「ガイドライン(指針)として、業界に一律での自主規制を求めるのは筋が違うのではないか」 複数の生保からそうした反発の声が出る状況で、複雑に絡み合った利害関係のひもをほどくのは、簡単ではなかった。当初は2022年中に指針を取りまとめるとしていたが、実際にこぎ着けたのは今年2月になってからだ。 そのタイトルは「営業職員チャネルのコンプライアンス・リスク管理態勢の更なる高度化にかかる着眼点」。「指針」の文字が抜け落ち「着眼点」となっているあたりに、一部生保の後ろ向きな姿勢がにじみ出ている。 ただし、その中身はというと、各社が管理態勢の強化に向けて取り組む際の原理・原則を、大きく15項目に分けて詳細に記しており、後々に言い訳できる逃げ場をなくそうとしていることが伝わってくる内容だ。 協会長会社として、管理指針取りまとめに奔走した第一生命の苦労がしのばれるが、そもそも新たな指針が必要な状況をつくったのは、第一生命でもある。) 今から2年半前の20年10月、第一生命は元営業職員が総額19億円の金銭詐取事件を引き起こしたと公表した。元職員は、特別調査役という第一生命で唯一与えられた肩書を利用し、「特別調査役に特別な特権・権限が与えられた。私にお金を預けたほうがよい」などと言って、顧客などに架空の投資話を持ちかけては金銭をだまし取っていた。 全国で約4万人いる営業職員の中で、優秀成績職員として第一生命の新聞広告にもたびたび登場していただけに、一営業職員の不祥事では済まされず、稲垣氏は当時社長として謝罪会見に追い込まれている』、「20年10月、第一生命は元営業職員が総額19億円の金銭詐取事件を引き起こしたと公表」、こんな巨額の「金銭詐取事件」を起こすとは、と驚いた記憶がある。
・『金銭詐取事案が頻発 その後、事態を重くみた金融庁は生保協を通じて、営業職員の管理に関する実態調査に踏み切ることになった。 21年4月に公表した実態調査では、19億円の金銭詐取事件を「特異な事例」としたうえで、当時の根岸秋男会長(当時の明治安田生命社長)は営業職員の管理について「各社に共通する課題や見直すべき問題点、また業界として課題視すべき事態は認められなかった」という発言をしていた。 ところが、それ以降も第一生命をはじめとして、金銭詐取事案が各社で継続的に発生。「いったい何をもってして、課題が認められなかったと言っていたのか」(金融庁幹部)と、金融庁の不興を買うことになった。 さらに金融庁と生保協は、22年1月にかけて2度目の実態調査に踏み切り、それが新たな管理指針を策定する契機になった。 指針を公表した直後の今年3月には、日本生命の長崎支社の元営業職員が、架空の保険商品を提案するなどして、約1530万円をだまし取る事案が発覚している。 不祥事が連鎖する事態を現場の営業職員はどうみているのか。 「伝説の営業職員」と呼ばれた柴田和子氏が名誉会長を務め、生保の営業職員を中心に約4万人の会員を抱えるJAIFA(生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会)は、「営業職員は、お客様一人ひとりに真摯に向き合い『安心』と『満足』を提供する顧客本位の活動が重要であると考えている。そのため、一部の営業職員による不祥事案が起こってしまったことはとても残念であり、今後、不祥事がなくなることを望んでいる」と文書で回答した。 生保協が策定した管理指針については、「内容に対する評価をする立場にはないが、当協会としても連携できることは連携していきたい」としている』、「当時の根岸秋男会長(当時の明治安田生命社長)は営業職員の管理について「各社に共通する課題や見直すべき問題点、また業界として課題視すべき事態は認められなかった」という発言をしていた。 ところが、それ以降も第一生命をはじめとして、金銭詐取事案が各社で継続的に発生。「いったい何をもってして、課題が認められなかったと言っていたのか」(金融庁幹部)と、金融庁の不興を買うことになった」、確かに「根岸秋男会長」の発言はお粗末だ。
・『大量離職が招く悪弊 生保協調べの営業職員数は全国で24万人。そのうち6割強に当たる15万人は国内大手4社の営業職員が占めている。 「これだけの数がいれば、年間数件の不祥事に対して、いちいち目くじらを立てるのもどうなのか」という声が業界関係者から時折聞こえてくる。だが、生保は免許制の金融機関だ。法令順守に対する体制や意識が、その程度で本当によいのだろうか。 そもそも、不祥事が頻発する構造的な要因に対して、生保各社がどれだけ正面から向き合い、解消しようとしているのか。構造的な要因とは、営業職員の大量採用・大量退職、いわゆる「ターンオーバー問題」だ。下表でわかるとおり、入社から25カ月目の在籍率は、10年前に比べ改善してはいるものの、各社5割前後にとどまっている。いまだに、採用した人のおよそ半数が2年の間に退職してしまうという状態だ。 コンプライアンス研修で意識を徹底させようにも、短いスパンで顔ぶれが大幅に変わってしまってはどうしても実効性が乏しくなる。) さらに、ターンオーバー問題は別の問題も引き起こす。それは優秀成績職員への依存と忖度(そんたく)だ。支社ごとに契約獲得数などの営業目標を課すケースが多い状況で、新人が定着しないのであれば、おのずと優績職員に頼らざるをえない。 そうなると、優績職員の立場が強くなり、部長や支社長でも口を挟めなくなる。何か注意でもしようものなら、「役員の携帯に直接電話して不満をぶちまけるといったことは、この業界ではよくある話」(大手生保幹部)。そうしたことが、優績職員が日中どこで何をしているのか、誰もわからないという状況を招くわけだ。 第一生命の19億円事件をはじめとして、生保各社の金銭詐取事案は、そうした優績者に対する管理・監督不足に起因している場合が多い。 第一生命では、長年にわたって染み付いてしまった悪弊を改善しようと、特別調査役などの肩書を見直した。採用についても人材の質を高めるために、ピーク時の半分以下に新規採用数を絞り込むといった取り組みを進めている。 業界内では、営業職員チャネルの改革が最も進んでいるのは第一生命という声が多い。だが実は、その裏側で、経営陣主導による必死の取り組みに冷や水を浴びせるような事案が発生していたことはほとんど知られていない』、「ターンオーバー問題」・・・入社から25カ月目の在籍率は、10年前に比べ改善してはいるものの、各社5割前後にとどまっている。いまだに、採用した人のおよそ半数が2年の間に退職してしまう」、「優秀成績職員への依存と忖度」、確かに不祥事の温床だ。
・『損失を自腹で補塡 同事案が発覚したのは、21年秋のこと。当時、高齢の優績職員が付き合いの深い顧客に、投資話を持ちかけていたことがわかったのだ。預かった金銭をだまし取ったり、投資仲介で手数料を得たりしていたわけでは決してない。 ただ、投資先が筋悪の業者とは知らずに紹介したことで顧客が損失を抱えてしまい、優績職員はそれに焦ったのか「損失を自腹で補塡していた」(第一生命元役員)という。 これは保険業法に照らして、直ちに違反になるような行為ではない。しかし、第一生命が優績職員の営業適正化を進める中で、あってはならないグレーな行為だった。 第一生命社内でも一定の影響力を持つ優績職員だっただけに、同事案を知った役員たちの衝撃はそうとう大きかったようだ。 同事案について、第一生命は「営業職員を守りたいので、個人が特定できるような形で記事にしないでもらいたい」としているが、はたして今後どこまで隠し通せるだろうか。 この事案がきっかけかは定かでないが、金融庁は今、明治安田生命への立ち入り検査で、副業や投資勧誘行為の有無について、営業職員へヒアリングを進めている。もし同様の事例が多数見つかるようなことがあれば、金融庁の逆鱗(げきりん)に触れ、さらなる処分や規制強化があるかもしれない』、「明治安田生命への立ち入り検査」の結果が注目される。
第三に、5月11日付け東洋経済オンライン「あんしん生命、元営業職員4億円詐取に透ける課題 大量離職問題がもたらす再発防止の高い壁」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/671567
・『2022年末、保険業界に衝撃を走らせた東京海上日動あんしん生命の元営業職員による巨額詐欺事件。 同社は事件発覚後、弁護士などを中心とする特別調査委員会を設置し、事件発生の経緯や営業管理体制など組織上の問題点について調査。2023年4月に報告書をまとめた。 報告書を読み進める中で見えてくるのは、あんしん生命に限らず業界全体に横たわる人材難という根深い問題と、それがもたらす再発防止に向けた高い壁だ。事件の経緯を振り返りながら、そうした問題点について詳しく解説していこう』、興味深そうだ。
・『巧妙だった詐欺の手口 まず元社員による巨額の金銭詐取事件が発覚したのは、2022年10月のこと。ライフパートナー(LP)と呼ばれる40代の男性営業職員が、警察署に駆け込み自供したことがきっかけだ。 その主な手口は、契約内容の変更などと顧客に虚偽の説明をしながら、名義を元LPの知人などに巧妙に変更したうえで、その後解約や契約者貸し付けなどを利用し金銭をだまし取るというものだった。 元LPは顧客が不審に思わないように、「名義変更」などと書かれた部分に付箋を貼り隠しながら手続きさせていたといい、書類を記入した顧客が名義変更の手続きだったと気付いていなかったケースもあったという。 あんしん生命では事件発覚前まで、契約名義を変更しても変更前の名義人には通知を送付しない対応をとっており、元LPはその仕組みを熟知したうえで悪用したとみられる。このほか架空契約といった手口も駆使しており、被害者は個人7人、法人13社で被害金額は合計で4.1億円にも上るという。) あんしん生命では2022年12月以降、名義変更手続きをした場合は変更前の名義人にも手続き完了の通知を送付するように対応を改めているが、それによって同様の手口を今後封じ切れるわけではない。なぜなら「『システム上どうしても通知が送付されてしまうけれども、不要なので廃棄してください』などと事前に言っておけば、顧客は不審に思わず、発覚しにくいからだ」と大手生保のある幹部は話す。 あんしん生命では、再発防止策として上記のほかに支社や本社における営業管理体制や新規契約に偏った人事評価・報酬制度の抜本的な見直し、コンプライアンス(法令順守)部門の増員なども打ち出している。だがそれらも結局は泥縄式の対応でしかなく、それさえこなせば根本的な原因の解消につながるというものではない。 では、再発防止策の実効性を高めるために求められる取り組みとはいったい何なのか。その1つは、今回の報告書ではまったく触れられていない「ターンオーバー」と呼ばれる営業職員の大量採用・大量離職問題への対応だ。 そもそもあんしん生命に在籍する約650人のLPのうち、入社から25カ月目に残っている人の割合は50.5%にとどまる。2年間で約半分の人が入れ替わってしまうというのが実情で、これはほかの生保にも共通する構造的な問題だ。 そうした状況の中で、不正を働いた元LPは中途採用で2010年に入社している。報告書によると、元LPは少なくとも入社から3年後には契約締結の見返りに金銭を契約者に提供するといった保険業法の違反行為に手を染め始めていたといい、もともとコンプライアンス意識の低い人物だったとみられる』、「主な手口は、契約内容の変更などと顧客に虚偽の説明をしながら、名義を元LPの知人などに巧妙に変更したうえで、その後解約や契約者貸し付けなどを利用し金銭をだまし取るというものだった。 元LPは顧客が不審に思わないように、「名義変更」などと書かれた部分に付箋を貼り隠しながら手続きさせていたといい、書類を記入した顧客が名義変更の手続きだったと気付いていなかったケースもあった」、「契約名義を変更しても変更前の名義人には通知を送付しない対応をとっており、元LPはその仕組みを熟知したうえで悪用したとみられる。このほか架空契約といった手口も駆使しており、被害者は個人7人、法人13社で被害金額は合計で4.1億円にも上る」、悪質だ。「再発防止策の実効性を高めるために求められる取り組みとはいったい何なのか。その1つは、今回の報告書ではまったく触れられていない「ターンオーバー」と呼ばれる営業職員の大量採用・大量離職問題への対応だ。 そもそもあんしん生命に在籍する約650人のLPのうち、入社から25カ月目に残っている人の割合は50.5%にとどまる。2年間で約半分の人が入れ替わってしまうというのが実情で、これはほかの生保にも共通する構造的な問題だ」、こんなに「ターンオーバー」が高いのであれば、コンプラインスに目がいく筈もないだろう。
・『人材の質を確保するには 不正の再発防止に向けたさまざまな仕組みを会社として整えたところで、そうした人物が営業部隊にひとたび入り込めば、管理の網をすり抜けるようにして不正行為が発生してしまう。その現状において、頼みの綱になるのは個々の職員の高い倫理観だ。しかしながら、たった2年で半数の顔ぶれが変わるような状況で、倫理観の高い人材を集め続けるというのは至難の業だろう。 もし現状の運用では人材の質を保てないというのであれば、おのずと採用者を厳選して質を維持できる水準まで営業の陣容を縮小するしかない。今から3年前、19億円の巨額詐欺事件を引き起こした大手生保の第一生命では、すでに営業職員の年間採用数をピーク時の約3分の1にまで絞り込んでいる。 東京海上グループの子会社として、これまで親会社から高い業績目標を課され、業容拡大を最優先してきたあんしん生命が、規模縮小という真逆の経営判断に踏み込めるかどうか。それが今後の経営改革の本気度を測る一つの指標になりそうだ』、「頼みの綱になるのは個々の職員の高い倫理観だ・・・もし現状の運用では人材の質を保てないというのであれば、おのずと採用者を厳選して質を維持できる水準まで営業の陣容を縮小するしかない。今から3年前、19億円の巨額詐欺事件を引き起こした大手生保の第一生命では、すでに営業職員の年間採用数をピーク時の約3分の1にまで絞り込んでいる」、「これまで親会社から高い業績目標を課され、業容拡大を最優先してきたあんしん生命が、規模縮小という真逆の経営判断に踏み込めるかどうか。それが今後の経営改革の本気度を測る一つの指標になりそうだ」、その通りだ。
先ずは、本年2月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「癌になって思う「がん保険は、やっぱり不要だ」」を紹介しよう。
・『「がん保険は要らない」と言っていた筆者が癌になった。それでも「がん保険は、やっぱり不要だ」と思った。これは筆者としての結論だが、その判断に影響を与えた要素が筆者と同様の方は少なくないはずだ。今回はその要素についてお伝えするので、読者は、ご自身としての結論を得てほしい』、興味深そうだ。
・『私の癌と治療経過 冒頭から私事で恐縮だが、筆者は昨年不幸にして癌にかかった。ステージIIIの食道癌である。そして、幸いにして治療は順調であり、体力はかなり回復した。現在、再発防止目的で薬剤を投与しており、向こう一年ほど検査なども含めて1カ月に一度程度通院する予定だが、仕事を含めて日常生活に支障はない。 ただし、「不幸」と「幸い」の比較は、残念ながら「不幸」の勝ちだ。最大限に治っても病前の状態までは回復しない。端的に言って、以前と同じように飲んだり食べたりできるようにはならない。飲んだり、食べたりは、本当に楽しかった。ビジネスや人間関係の上でも大変有効だった。そして、何よりも再発のリスクを抱えている。食道癌は再発や転移が多い癌なのだ。読者は癌にかからない方がいい。 さて、癌になってみると、筆者の元にはがん保険に関する質問が多数寄せられた。「がん保険は要らない」と言っていた人物が、実際に癌になってどう感じたか興味を持たれたのだろう。 本稿では、筆者の癌とその治療経過を手掛かりに、がん保険の要否について考える。筆者と似た条件にある方は多いと思うが、読者と筆者とで意思決定のための条件が同じでない点はあるかもしれない。もとより自分一人の経験を一般化して押しつけるつもりはない。 読者は、ご自分の問題として改めて考え直してご自身の結論を得てほしい。) なお本記事では、病気としての癌の表記として漢字の「癌」を充てる一方、「がん保険」への言及では「がん」を充てる。保険会社は癌が恐ろしい病気ではないというイメージを醸し出したいのだろうと推察して、その慣行を尊重する。 患者になってみた実感としても、文章の字面としても、癌一般には「癌」が適切だと強く思う。ひらがなの「がん」は間抜けだし、それで病気が軽くなるわけでもない』、「「不幸」と「幸い」の比較は、残念ながら「不幸」の勝ちだ。最大限に治っても病前の状態までは回復しない。端的に言って、以前と同じように飲んだり食べたりできるようにはならない。飲んだり、食べたりは、本当に楽しかった。ビジネスや人間関係の上でも大変有効だった。そして、何よりも再発のリスクを抱えている。食道癌は再発や転移が多い癌なのだ。読者は癌にかからない方がいい』、「最大限に治っても病前の状態までは回復しない。端的に言って、以前と同じように飲んだり食べたりできるようにはならない」、「食道癌は再発や転移が多い癌なのだ」、なるほど。
・『癌患者としての筆者の条件 筆者の癌治療の概要を簡単に説明する。 癌が見つかったのは昨年の夏だ。ある大学病院を選んで治療することにした。手術で病変部分を取り切れると見込まれる食道癌の現在の標準治療は、先に抗癌剤治療を二度程度入院して行い、その後に手術を行うものだ。筆者は、つごう三度、合計40日程度入院した。 手術を受けたのは昨年の10月下旬で、術後13日で退院した。治療の進歩とともに厚生労働省の方針もあってか、入院は意外に短かった。 現在、手術後3カ月と少々が経過し、再発防止のための投薬治療を続けている。幸い、概ね順調な回復過程をたどっていて、先般の術後3カ月目のCT(コンピュータ断層撮影)検査では再発・転移は見つかっていない。 筆者は発病時も現在も満64歳で、証券会社の社員であり、東京証券業健康保険組合に加入している。民間保険会社のがん保険には一切入っていなかった。さて、筆者の癌に治療費はいくらかかったのだろうか?』、「つごう三度、合計40日程度入院」、した場合の「治療費」はいくらかかったのだろう。
・『筆者の場合の治療費負担 確定申告を控えた時節柄、筆者の手元には医療費の領収書がまとめられている。支払いで大きなものは、3回の入院から退院した際に行った支払いだが、1回目の入院の際に67万円、2回目の入院で55万円、手術を含む3回目の入院の際の支払いが83万円だ。合計で205万円である。なお、以下も含めて、金額は1万円単位で大まかに記述する。 それぞれの支払いは、まず診察券を支払い用の端末機に入れ、次にクレジットカードを入れて暗証番号を打ち込むだけだった。その後に、機械から領収書と診療明細書など数枚がプリントアウトされて完了だ。支払い自体には3分もかからない。 手術入院の退院までを一区切りと考えると、ここまでに、大学病院で支払ったその他の医療費(検査費用、処方薬代など)と、大学病院に至る前の段階でお世話になった街のお医者さん3軒や調剤薬局で払った費用の領収書が、「合計で、20万円を超えるかもしれないけれども、30万円には至るまい」と思える程度に存在する。多めに見て、医療費の合計を235万円と見積もっておこう。 この235万円の支払いの大きな部分は、いわゆる差額ベッド代だ。一泊約4万円で、合計40泊している。この大学病院は個室(シャワー付き)の部屋代が相対的にやや高めだと後から分かった。近隣の大きな病院は3万円台半ばくらいの設定が多い。地方の病院だともっと安い場合が多いだろう。 病院の選択に当たっては、個室代などの価格を全く気にしていなかった。病院の症例数や執刀してくれる医師の経験や評判などで決定した。結果的に「当たり」だったと思うが、この点は真剣に選んだ。少々の値段の差よりも、受けられる治療の質が重要だと考えた(普通の考えだと思う)。 個室を選んだ理由は、主に、消灯時間が自由であることや、原稿書きや電子メール、オンライン会議ができることなどだ。個室代分を稼ぎ出すほど熱心に仕事をしたわけではないが、仕事に穴を空けずに済んだし、他の患者さんに気を遣わずに済んだので、これで良かったと思っている。 同じ病院でもっと高い部屋のオプションが複数あったし、4人一部屋の入院だと一泊約7000円なのだが、この辺を自分の現状にとってほどほどだと判断した。もう入院せずに済むといいのだが、仮に再入院するとしたら、同様の条件の部屋をまた選ぶだろう』、「病院の選択に当たっては、個室代などの価格を全く気にしていなかった。病院の症例数や執刀してくれる医師の経験や評判などで決定した。結果的に「当たり」だったと思うが、この点は真剣に選んだ。少々の値段の差よりも、受けられる治療の質が重要だと考えた」、オーソドックスな考え方だ。「個室を選んだ理由は、主に、消灯時間が自由であることや、原稿書きや電子メール、オンライン会議ができることなどだ。個室代分を稼ぎ出すほど熱心に仕事をしたわけではないが、仕事に穴を空けずに済んだし、他の患者さんに気を遣わずに済んだので、これで良かったと思っている」、私が大腸ヘルニアで聖路加国際病院で手術した際には、「個室」以外の選択肢はなく、高いけど優雅な入院生活を送った。
・『健康保険組合の給付金制度で医療費は思ったより安く ちなみに、差額ベッド代は健康保険の対象外だ。また、税務的にも医療費として控除の対象にはならないと聞いている。この一泊4万円は、筆者の「自発的贅沢(ぜいたく)」だと思ってくれていい。もっと安く済ませることが十分可能だ。 加えて、差額ベッド代を除いた約75万円が全て自己負担の医療費になるかというと、現実はもっともっとお財布に優しかった。筆者の場合、健康保険組合独自の給付金制度があるからだ。 東京証券業健康保険組合の場合、一回に2万円を超える保険診療の医療費支払いは、2万円との差額が給付される制度がある。給付のタイミングは自己負担額の支払いの3カ月後だ。 他の健康保険組合では、医療費の支払い一回当たりに自己負担の上限を設けて計算するケースもあるし、1カ月の医療費に上限があって差額が後から補填されるケースもあるようだ。 また、加入員の自己負担における上限金額の設定に違いがある。個々の健康保険組合によって条件が異なるが、企業や業界単位の健康保険組合の場合は何らかの補填的給付があるケースが多い。特に、サラリーマンはご自身が加入する健康保険組合の条件をホームページなどで確認しておくといい。 例えば、初回の入院費を支払った昨年9月分の医療費では、保険診療分として筆者が窓口で機械に支払った金額が25万円だった。ところが、「一部負担還元金現金給付」として健康保険組合が支給してくれた金額が23万円あって、この支払いは12月半ばに行われている。 2度目の入院の支払い27万円と、2万円を超える通院の支払い3万円があった10月分には、後から26万円が支給されている。支給額の決定は支払い一件単位なので、前者の支払いに対して25万円と、後者の支払いに対して1万円の合計が26万円だということなのだろう。この月は2万円を超える支払いが2回あったので、筆者は4万円負担した。 3度目の入院の支払いがあった11月は、筆者の支払いが14万円で、健保組合からの給付は12万円だ。ここまでの3回で合計61万円支給されている。 なお、煩雑になるが本記事の性質上記しておくと、筆者が窓口で支払った金額のうち保険診療に該当する金額については、国民健康保険の高額療養費制度の上限額が支払いの上限になるように病院側が調整する仕組みがある。一回当たりの支払い額があまり大きくならないようにとの配慮だろう。 これが先に適用されて高額療養費制度で支払いの上限があり、まずこれを支払う。その支払い額に対して健康保険組合が一件2万円を超える分をさらに負担してくれる仕組みだ』、「健康保険組合独自の給付金制度」とはいい仕組みだ。
・『健康保険の保障は手厚い ここまでのところ、個室代の160万円を筆者の個人的贅沢として考えて除外すると、健康保険でカバーされなかった「どうしても必要だった」医療費の支払いは、手術の入院が終わって治療が一段落した段階で十数万円だった(75万円マイナス61万円は14万円だ)ということになる。 今後の医療費はどうなるか。筆者は主治医と相談して、再発防止のための薬剤投与を行うことにした。毎月一回、1年間である。その他に、定期的に検査があったり、飲み薬の処方があったりするが、大きな金額ではない。 高価な薬だが、毎月の窓口の支払いは、保険適用部分が12万円に、時間を予約して診療できる仕組みの利用料が1万円の合計で13万円見当の予定だ。そして、12万円の方は健康保険組合の給付金を考えると負担が2万円に減る。結局、1カ月当たり3万円を1年間負担することになると見込んでいる。 改めて計算してみて、そもそものわが国の健康保険制度および健康保険組合(筆者の場合は東京証券業健康保険組合)の付加的な給付制度が、こんなに手厚いものなのかと感心する。 証券会社のサラリーマンである筆者の場合、どうしても必要な医療費支出は煎じ詰めると十数万円だった。本人の収入によって負担額が変わるが、国民健康保険の高額療養費制度までが負担の上限額になるフリーランスの場合も、筆者程度の癌にかかった場合の負担額は数十万円の単位だろう。「治療費が足りなくなる心配」だという理由からがん保険に加入する必要性はない場合が多いだろう。 読者は何らかの健康保険に加入しているに違いない。ならば、少々余裕を見るとして自由になる預金が200万円か300万円くらいあれば、入院の条件などをその都度考えるとして、健康保険が適用される標準的な治療を行う限り、がん保険に入っていなければ癌の治療費が払えないという事態はまずないだろう。 がん保険の保険料を毎月支払うよりも、預金なり積立投資なりで早く何百万円かの備えを作ることを考えた方がいいと筆者は思う。老後の生活に備えた蓄えの形成も必要なのだから、同時に行うといい』、「読者は何らかの健康保険に加入しているに違いない。ならば、少々余裕を見るとして自由になる預金が200万円か300万円くらいあれば、入院の条件などをその都度考えるとして、健康保険が適用される標準的な治療を行う限り、がん保険に入っていなければ癌の治療費が払えないという事態はまずないだろう。 がん保険の保険料を毎月支払うよりも、預金なり積立投資なりで早く何百万円かの備えを作ることを考えた方がいいと筆者は思う」、その通りだろう。
・『意思決定は結果論ではなく「事前」がベース 筆者が、がん保険に加入していたらどうだっただろうか。例えば、癌と診断を受けた時に50万円とか100万円といった一時金をもらえるケースもあるだろうし、入院一日当たり1万円とか2万円といった保険金も大いに助けになったはずだ。 筆者の場合も、癌にかかることが前から分かっていたなら、何らかのがん保険に入っておいた方が金銭的に「得」だった可能性は大きい。 しかし、がん保険に加入するか否かの意思決定は、自分が将来癌にかかるかどうかが分からない「事前の」時点で行うものだ。かつての筆者にとってもそうだったし、多くの読者にとってもそうあるべきだ。 筆者が思うに、特定の結果の損得と、確率を考えた「事前の」損得を区別して、後者のロジックに従って判断できるかどうかが、経済的に正しい意思決定ができるか否か、いわゆる「カモになるか否か」の一つの大きな分岐点だ。せっかく人間に生まれて、多少なりとも確率の概念が分かるのなら、正しく考えたいものだ。 ここで、しゃくし定規に真面目な人なら、将来自分が癌にかかる確率、その場合に支払われる保険金の予想額などを考え、他方の保険料負担と、保険料を他の運用に回した場合の期待リターンなどを考慮して、損得の期待値を計算するのかもしれないが、これは賢くない。本気でやるなら人生の時間の浪費だ。 保険会社が商品設計の際の計算に失敗しない限り、がん保険の条件は保険会社が十分利益を期待できる水準に設定されていて、加入者側にとって損であるに決まっている。なぜなら、平均的に加入者が得をするのであれば、原理的に保険会社はつぶれてしまうからだ。そして、商品としてのがん保険は長年にわたって継続しており、保険会社はもうかっているし、保険を売るための熱心なセールスの努力が続いている。推測の根拠は十分だ。 損得の点に関しては、営利会社であり保険の専門家でもある保険会社を大いに信用していいはずだ。「大人の経済常識」を働かせた判断として、確率と期待値を考えた損得の問題として、保険会社がもうかっているなら、加入者は損をしていると考えて間違いない』、「保険会社が商品設計の際の計算に失敗しない限り、がん保険の条件は保険会社が十分利益を期待できる水準に設定されていて、加入者側にとって損であるに決まっている」、「保険会社がもうかっているなら、加入者は損をしていると考えて間違いない」、その通りだ。
・『「がん保険には入らない」という結論を何度でも出すだろう 従って、仮に筆者が30代、40代の時分に戻って、将来癌にかかるかどうか分からない時点でがん保険の加入について検討するなら、「がん保険には入らない」という結論を、自信を持って出すはずだ。 なぜなら、がん保険に入ることが確率を考えると大幅に損である一方、万一癌にかかっても自分の手元のお金で十分対処できるからだ。この意思決定に不安はない。そして、この種の架空の状況の繰り返しが何度も可能であるとすれば、何度でもそうするだろう。 ただし、架空の人生のうち、何度かに一度は癌にかかって何らかの治療費を自己負担することになるに違いない。しかし、架空の人生を何度も通算すると、保険に加入しない方が大いに得になっているはずだ。 保険はお金の問題だ。感情を交えずに損得と必要性の有無で判断したい。 例えば、通院には交通費が掛かるが、この交通費をがん保険が支給してくれると嬉しいといった声がある。結果論として、嬉しかったり、助かったりする場合があるのはその通りだろう。しかし、保険会社は交通費を支払うような保険の場合に、交通費の発生確率や期待値も計算して保険料を設定しているはずだ。 また、そもそもがん保険に入る動機の小さくない部分が、癌にかかることへの不安の感情だろう。冷静に考えると、がん保険に入っても癌に罹患(りかん)する確率は少しも小さくならないのだが、不安な問題に何らかの対処を行ったということが、精神的な満足感につながることがある。率直に言ってこの満足感は賢くないし、賢くないことが我慢できても相当に高く付く。 保険一般として、利用の判断基準は、「損か、得か?」ではなく、「損だけれども、必要か?」であるべきだ。保険の専門家ほど、これが当たり前だと思っているはずだ。 自動車を運転する際の自賠責保険のように、平均的に損ではあろうけれども必要な保険というものはある。 他方、がん保険は、それ自体が損であることと同時に、がん保険がなくても治療費の支払いに心配はないので不要である。 これは、筆者の状況での判断だが、意思決定に影響を与える要素が筆者と同様の方は少なくないはずだ。ご参考になれば幸いだ。 読者ご自身の場合はどうなのか。ご判断は読者にお任せする』、「保険一般として、利用の判断基準は、「損か、得か?」ではなく、「損だけれども、必要か?」であるべきだ」、「がん保険は、それ自体が損であることと同時に、がん保険がなくても治療費の支払いに心配はないので不要である」、同感である。
次に、4月10日付け東洋経済オンライン「保険営業がいまだ抜け出せない不祥事の連鎖 再発防止を妨げる大量採用・大量離職問題」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/664676
・『「未然防止や再発防止のための取り組みが形式的・表面的なものにとどまらず、営業現場の隅々にまで浸透するよう、実効性のある管理態勢を整備・確立していくことが課題となっている」 これは金融庁が昨秋に公表した「保険モニタリングレポート」で、生命保険業界が抱える課題として記した一節だ。 大手生保を中心に、営業職員による金銭詐取事案が依然として頻発する中で、業界を挙げて取り組みを徹底するよう圧力をかける意味合いがあった。 『週刊東洋経済』4月10日(月)発売号では「保険動乱」として、契約者に加えて保険会社の営業職員が引き起こす不正行為とその舞台裏について特集している。 同レポートの公表と時を同じくして、業界団体の生命保険協会(生保協)は、営業職員の管理態勢をめぐる新たな指針の策定に着手。協会長の稲垣精二氏(第一生命会長)が旗振り役となり、営業職員チャネルを持つ20社のトップと意見交換するなど、急ピッチで策定作業を進めることになった』、「大手生保を中心に、営業職員による金銭詐取事案が依然として頻発」、由々しい状況だ。
・『生保協が新たな指針を策定 「ガイドライン(指針)として、業界に一律での自主規制を求めるのは筋が違うのではないか」 複数の生保からそうした反発の声が出る状況で、複雑に絡み合った利害関係のひもをほどくのは、簡単ではなかった。当初は2022年中に指針を取りまとめるとしていたが、実際にこぎ着けたのは今年2月になってからだ。 そのタイトルは「営業職員チャネルのコンプライアンス・リスク管理態勢の更なる高度化にかかる着眼点」。「指針」の文字が抜け落ち「着眼点」となっているあたりに、一部生保の後ろ向きな姿勢がにじみ出ている。 ただし、その中身はというと、各社が管理態勢の強化に向けて取り組む際の原理・原則を、大きく15項目に分けて詳細に記しており、後々に言い訳できる逃げ場をなくそうとしていることが伝わってくる内容だ。 協会長会社として、管理指針取りまとめに奔走した第一生命の苦労がしのばれるが、そもそも新たな指針が必要な状況をつくったのは、第一生命でもある。) 今から2年半前の20年10月、第一生命は元営業職員が総額19億円の金銭詐取事件を引き起こしたと公表した。元職員は、特別調査役という第一生命で唯一与えられた肩書を利用し、「特別調査役に特別な特権・権限が与えられた。私にお金を預けたほうがよい」などと言って、顧客などに架空の投資話を持ちかけては金銭をだまし取っていた。 全国で約4万人いる営業職員の中で、優秀成績職員として第一生命の新聞広告にもたびたび登場していただけに、一営業職員の不祥事では済まされず、稲垣氏は当時社長として謝罪会見に追い込まれている』、「20年10月、第一生命は元営業職員が総額19億円の金銭詐取事件を引き起こしたと公表」、こんな巨額の「金銭詐取事件」を起こすとは、と驚いた記憶がある。
・『金銭詐取事案が頻発 その後、事態を重くみた金融庁は生保協を通じて、営業職員の管理に関する実態調査に踏み切ることになった。 21年4月に公表した実態調査では、19億円の金銭詐取事件を「特異な事例」としたうえで、当時の根岸秋男会長(当時の明治安田生命社長)は営業職員の管理について「各社に共通する課題や見直すべき問題点、また業界として課題視すべき事態は認められなかった」という発言をしていた。 ところが、それ以降も第一生命をはじめとして、金銭詐取事案が各社で継続的に発生。「いったい何をもってして、課題が認められなかったと言っていたのか」(金融庁幹部)と、金融庁の不興を買うことになった。 さらに金融庁と生保協は、22年1月にかけて2度目の実態調査に踏み切り、それが新たな管理指針を策定する契機になった。 指針を公表した直後の今年3月には、日本生命の長崎支社の元営業職員が、架空の保険商品を提案するなどして、約1530万円をだまし取る事案が発覚している。 不祥事が連鎖する事態を現場の営業職員はどうみているのか。 「伝説の営業職員」と呼ばれた柴田和子氏が名誉会長を務め、生保の営業職員を中心に約4万人の会員を抱えるJAIFA(生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会)は、「営業職員は、お客様一人ひとりに真摯に向き合い『安心』と『満足』を提供する顧客本位の活動が重要であると考えている。そのため、一部の営業職員による不祥事案が起こってしまったことはとても残念であり、今後、不祥事がなくなることを望んでいる」と文書で回答した。 生保協が策定した管理指針については、「内容に対する評価をする立場にはないが、当協会としても連携できることは連携していきたい」としている』、「当時の根岸秋男会長(当時の明治安田生命社長)は営業職員の管理について「各社に共通する課題や見直すべき問題点、また業界として課題視すべき事態は認められなかった」という発言をしていた。 ところが、それ以降も第一生命をはじめとして、金銭詐取事案が各社で継続的に発生。「いったい何をもってして、課題が認められなかったと言っていたのか」(金融庁幹部)と、金融庁の不興を買うことになった」、確かに「根岸秋男会長」の発言はお粗末だ。
・『大量離職が招く悪弊 生保協調べの営業職員数は全国で24万人。そのうち6割強に当たる15万人は国内大手4社の営業職員が占めている。 「これだけの数がいれば、年間数件の不祥事に対して、いちいち目くじらを立てるのもどうなのか」という声が業界関係者から時折聞こえてくる。だが、生保は免許制の金融機関だ。法令順守に対する体制や意識が、その程度で本当によいのだろうか。 そもそも、不祥事が頻発する構造的な要因に対して、生保各社がどれだけ正面から向き合い、解消しようとしているのか。構造的な要因とは、営業職員の大量採用・大量退職、いわゆる「ターンオーバー問題」だ。下表でわかるとおり、入社から25カ月目の在籍率は、10年前に比べ改善してはいるものの、各社5割前後にとどまっている。いまだに、採用した人のおよそ半数が2年の間に退職してしまうという状態だ。 コンプライアンス研修で意識を徹底させようにも、短いスパンで顔ぶれが大幅に変わってしまってはどうしても実効性が乏しくなる。) さらに、ターンオーバー問題は別の問題も引き起こす。それは優秀成績職員への依存と忖度(そんたく)だ。支社ごとに契約獲得数などの営業目標を課すケースが多い状況で、新人が定着しないのであれば、おのずと優績職員に頼らざるをえない。 そうなると、優績職員の立場が強くなり、部長や支社長でも口を挟めなくなる。何か注意でもしようものなら、「役員の携帯に直接電話して不満をぶちまけるといったことは、この業界ではよくある話」(大手生保幹部)。そうしたことが、優績職員が日中どこで何をしているのか、誰もわからないという状況を招くわけだ。 第一生命の19億円事件をはじめとして、生保各社の金銭詐取事案は、そうした優績者に対する管理・監督不足に起因している場合が多い。 第一生命では、長年にわたって染み付いてしまった悪弊を改善しようと、特別調査役などの肩書を見直した。採用についても人材の質を高めるために、ピーク時の半分以下に新規採用数を絞り込むといった取り組みを進めている。 業界内では、営業職員チャネルの改革が最も進んでいるのは第一生命という声が多い。だが実は、その裏側で、経営陣主導による必死の取り組みに冷や水を浴びせるような事案が発生していたことはほとんど知られていない』、「ターンオーバー問題」・・・入社から25カ月目の在籍率は、10年前に比べ改善してはいるものの、各社5割前後にとどまっている。いまだに、採用した人のおよそ半数が2年の間に退職してしまう」、「優秀成績職員への依存と忖度」、確かに不祥事の温床だ。
・『損失を自腹で補塡 同事案が発覚したのは、21年秋のこと。当時、高齢の優績職員が付き合いの深い顧客に、投資話を持ちかけていたことがわかったのだ。預かった金銭をだまし取ったり、投資仲介で手数料を得たりしていたわけでは決してない。 ただ、投資先が筋悪の業者とは知らずに紹介したことで顧客が損失を抱えてしまい、優績職員はそれに焦ったのか「損失を自腹で補塡していた」(第一生命元役員)という。 これは保険業法に照らして、直ちに違反になるような行為ではない。しかし、第一生命が優績職員の営業適正化を進める中で、あってはならないグレーな行為だった。 第一生命社内でも一定の影響力を持つ優績職員だっただけに、同事案を知った役員たちの衝撃はそうとう大きかったようだ。 同事案について、第一生命は「営業職員を守りたいので、個人が特定できるような形で記事にしないでもらいたい」としているが、はたして今後どこまで隠し通せるだろうか。 この事案がきっかけかは定かでないが、金融庁は今、明治安田生命への立ち入り検査で、副業や投資勧誘行為の有無について、営業職員へヒアリングを進めている。もし同様の事例が多数見つかるようなことがあれば、金融庁の逆鱗(げきりん)に触れ、さらなる処分や規制強化があるかもしれない』、「明治安田生命への立ち入り検査」の結果が注目される。
第三に、5月11日付け東洋経済オンライン「あんしん生命、元営業職員4億円詐取に透ける課題 大量離職問題がもたらす再発防止の高い壁」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/671567
・『2022年末、保険業界に衝撃を走らせた東京海上日動あんしん生命の元営業職員による巨額詐欺事件。 同社は事件発覚後、弁護士などを中心とする特別調査委員会を設置し、事件発生の経緯や営業管理体制など組織上の問題点について調査。2023年4月に報告書をまとめた。 報告書を読み進める中で見えてくるのは、あんしん生命に限らず業界全体に横たわる人材難という根深い問題と、それがもたらす再発防止に向けた高い壁だ。事件の経緯を振り返りながら、そうした問題点について詳しく解説していこう』、興味深そうだ。
・『巧妙だった詐欺の手口 まず元社員による巨額の金銭詐取事件が発覚したのは、2022年10月のこと。ライフパートナー(LP)と呼ばれる40代の男性営業職員が、警察署に駆け込み自供したことがきっかけだ。 その主な手口は、契約内容の変更などと顧客に虚偽の説明をしながら、名義を元LPの知人などに巧妙に変更したうえで、その後解約や契約者貸し付けなどを利用し金銭をだまし取るというものだった。 元LPは顧客が不審に思わないように、「名義変更」などと書かれた部分に付箋を貼り隠しながら手続きさせていたといい、書類を記入した顧客が名義変更の手続きだったと気付いていなかったケースもあったという。 あんしん生命では事件発覚前まで、契約名義を変更しても変更前の名義人には通知を送付しない対応をとっており、元LPはその仕組みを熟知したうえで悪用したとみられる。このほか架空契約といった手口も駆使しており、被害者は個人7人、法人13社で被害金額は合計で4.1億円にも上るという。) あんしん生命では2022年12月以降、名義変更手続きをした場合は変更前の名義人にも手続き完了の通知を送付するように対応を改めているが、それによって同様の手口を今後封じ切れるわけではない。なぜなら「『システム上どうしても通知が送付されてしまうけれども、不要なので廃棄してください』などと事前に言っておけば、顧客は不審に思わず、発覚しにくいからだ」と大手生保のある幹部は話す。 あんしん生命では、再発防止策として上記のほかに支社や本社における営業管理体制や新規契約に偏った人事評価・報酬制度の抜本的な見直し、コンプライアンス(法令順守)部門の増員なども打ち出している。だがそれらも結局は泥縄式の対応でしかなく、それさえこなせば根本的な原因の解消につながるというものではない。 では、再発防止策の実効性を高めるために求められる取り組みとはいったい何なのか。その1つは、今回の報告書ではまったく触れられていない「ターンオーバー」と呼ばれる営業職員の大量採用・大量離職問題への対応だ。 そもそもあんしん生命に在籍する約650人のLPのうち、入社から25カ月目に残っている人の割合は50.5%にとどまる。2年間で約半分の人が入れ替わってしまうというのが実情で、これはほかの生保にも共通する構造的な問題だ。 そうした状況の中で、不正を働いた元LPは中途採用で2010年に入社している。報告書によると、元LPは少なくとも入社から3年後には契約締結の見返りに金銭を契約者に提供するといった保険業法の違反行為に手を染め始めていたといい、もともとコンプライアンス意識の低い人物だったとみられる』、「主な手口は、契約内容の変更などと顧客に虚偽の説明をしながら、名義を元LPの知人などに巧妙に変更したうえで、その後解約や契約者貸し付けなどを利用し金銭をだまし取るというものだった。 元LPは顧客が不審に思わないように、「名義変更」などと書かれた部分に付箋を貼り隠しながら手続きさせていたといい、書類を記入した顧客が名義変更の手続きだったと気付いていなかったケースもあった」、「契約名義を変更しても変更前の名義人には通知を送付しない対応をとっており、元LPはその仕組みを熟知したうえで悪用したとみられる。このほか架空契約といった手口も駆使しており、被害者は個人7人、法人13社で被害金額は合計で4.1億円にも上る」、悪質だ。「再発防止策の実効性を高めるために求められる取り組みとはいったい何なのか。その1つは、今回の報告書ではまったく触れられていない「ターンオーバー」と呼ばれる営業職員の大量採用・大量離職問題への対応だ。 そもそもあんしん生命に在籍する約650人のLPのうち、入社から25カ月目に残っている人の割合は50.5%にとどまる。2年間で約半分の人が入れ替わってしまうというのが実情で、これはほかの生保にも共通する構造的な問題だ」、こんなに「ターンオーバー」が高いのであれば、コンプラインスに目がいく筈もないだろう。
・『人材の質を確保するには 不正の再発防止に向けたさまざまな仕組みを会社として整えたところで、そうした人物が営業部隊にひとたび入り込めば、管理の網をすり抜けるようにして不正行為が発生してしまう。その現状において、頼みの綱になるのは個々の職員の高い倫理観だ。しかしながら、たった2年で半数の顔ぶれが変わるような状況で、倫理観の高い人材を集め続けるというのは至難の業だろう。 もし現状の運用では人材の質を保てないというのであれば、おのずと採用者を厳選して質を維持できる水準まで営業の陣容を縮小するしかない。今から3年前、19億円の巨額詐欺事件を引き起こした大手生保の第一生命では、すでに営業職員の年間採用数をピーク時の約3分の1にまで絞り込んでいる。 東京海上グループの子会社として、これまで親会社から高い業績目標を課され、業容拡大を最優先してきたあんしん生命が、規模縮小という真逆の経営判断に踏み込めるかどうか。それが今後の経営改革の本気度を測る一つの指標になりそうだ』、「頼みの綱になるのは個々の職員の高い倫理観だ・・・もし現状の運用では人材の質を保てないというのであれば、おのずと採用者を厳選して質を維持できる水準まで営業の陣容を縮小するしかない。今から3年前、19億円の巨額詐欺事件を引き起こした大手生保の第一生命では、すでに営業職員の年間採用数をピーク時の約3分の1にまで絞り込んでいる」、「これまで親会社から高い業績目標を課され、業容拡大を最優先してきたあんしん生命が、規模縮小という真逆の経営判断に踏み込めるかどうか。それが今後の経営改革の本気度を測る一つの指標になりそうだ」、その通りだ。
タグ:保険 (その7)(癌になって思う「がん保険は やっぱり不要だ」、保険営業がいまだ抜け出せない不祥事の連鎖 再発防止を妨げる大量採用・大量離職問題、あんしん生命 元営業職員4億円詐取に透ける課題 大量離職問題がもたらす再発防止の高い壁) ダイヤモンド・オンライン 山崎 元氏による「癌になって思う「がん保険は、やっぱり不要だ」」 「「不幸」と「幸い」の比較は、残念ながら「不幸」の勝ちだ。最大限に治っても病前の状態までは回復しない。端的に言って、以前と同じように飲んだり食べたりできるようにはならない。飲んだり、食べたりは、本当に楽しかった。ビジネスや人間関係の上でも大変有効だった。そして、何よりも再発のリスクを抱えている。食道癌は再発や転移が多い癌なのだ。読者は癌にかからない方がいい』、 「最大限に治っても病前の状態までは回復しない。端的に言って、以前と同じように飲んだり食べたりできるようにはならない」、「食道癌は再発や転移が多い癌なのだ」、なるほど。 「つごう三度、合計40日程度入院」、した場合の「治療費」はいくらかかったのだろう。 「病院の選択に当たっては、個室代などの価格を全く気にしていなかった。病院の症例数や執刀してくれる医師の経験や評判などで決定した。結果的に「当たり」だったと思うが、この点は真剣に選んだ。少々の値段の差よりも、受けられる治療の質が重要だと考えた」、オーソドックスな考え方だ。 「個室を選んだ理由は、主に、消灯時間が自由であることや、原稿書きや電子メール、オンライン会議ができることなどだ。個室代分を稼ぎ出すほど熱心に仕事をしたわけではないが、仕事に穴を空けずに済んだし、他の患者さんに気を遣わずに済んだので、これで良かったと思っている」、私が大腸ヘルニアで聖路加国際病院で手術した際には、「個室」以外の選択肢はなく、高いけど優雅な入院生活を送った。 「健康保険組合独自の給付金制度」とはいい仕組みだ。 「読者は何らかの健康保険に加入しているに違いない。ならば、少々余裕を見るとして自由になる預金が200万円か300万円くらいあれば、入院の条件などをその都度考えるとして、健康保険が適用される標準的な治療を行う限り、がん保険に入っていなければ癌の治療費が払えないという事態はまずないだろう。 がん保険の保険料を毎月支払うよりも、預金なり積立投資なりで早く何百万円かの備えを作ることを考えた方がいいと筆者は思う」、その通りだろう。 「保険会社が商品設計の際の計算に失敗しない限り、がん保険の条件は保険会社が十分利益を期待できる水準に設定されていて、加入者側にとって損であるに決まっている」、「保険会社がもうかっているなら、加入者は損をしていると考えて間違いない」、その通りだ。 「保険一般として、利用の判断基準は、「損か、得か?」ではなく、「損だけれども、必要か?」であるべきだ」、「がん保険は、それ自体が損であることと同時に、がん保険がなくても治療費の支払いに心配はないので不要である」、同感である。 東洋経済オンライン「保険営業がいまだ抜け出せない不祥事の連鎖 再発防止を妨げる大量採用・大量離職問題」 「大手生保を中心に、営業職員による金銭詐取事案が依然として頻発」、由々しい状況だ。 「20年10月、第一生命は元営業職員が総額19億円の金銭詐取事件を引き起こしたと公表」、こんな巨額の「金銭詐取事件」を起こすとは、と驚いた記憶がある。 「当時の根岸秋男会長(当時の明治安田生命社長)は営業職員の管理について「各社に共通する課題や見直すべき問題点、また業界として課題視すべき事態は認められなかった」という発言をしていた。 ところが、それ以降も第一生命をはじめとして、金銭詐取事案が各社で継続的に発生。「いったい何をもってして、課題が認められなかったと言っていたのか」(金融庁幹部)と、金融庁の不興を買うことになった」、確かに「根岸秋男会長」の発言はお粗末だ。 「ターンオーバー問題」・・・入社から25カ月目の在籍率は、10年前に比べ改善してはいるものの、各社5割前後にとどまっている。いまだに、採用した人のおよそ半数が2年の間に退職してしまう」、「優秀成績職員への依存と忖度」、確かに不祥事の温床だ。 「明治安田生命への立ち入り検査」の結果が注目される。 東洋経済オンライン「あんしん生命、元営業職員4億円詐取に透ける課題 大量離職問題がもたらす再発防止の高い壁」 「主な手口は、契約内容の変更などと顧客に虚偽の説明をしながら、名義を元LPの知人などに巧妙に変更したうえで、その後解約や契約者貸し付けなどを利用し金銭をだまし取るというものだった。 元LPは顧客が不審に思わないように、「名義変更」などと書かれた部分に付箋を貼り隠しながら手続きさせていたといい、書類を記入した顧客が名義変更の手続きだったと気付いていなかったケースもあった」、 「契約名義を変更しても変更前の名義人には通知を送付しない対応をとっており、元LPはその仕組みを熟知したうえで悪用したとみられる。このほか架空契約といった手口も駆使しており、被害者は個人7人、法人13社で被害金額は合計で4.1億円にも上る」、悪質だ。「再発防止策の実効性を高めるために求められる取り組みとはいったい何なのか。その1つは、今回の報告書ではまったく触れられていない「ターンオーバー」と呼ばれる営業職員の大量採用・大量離職問題への対応だ。 そもそもあんしん生命に在籍する約650人のLPのうち、入社から25カ月目に残っている人の割合は50.5%にとどまる。2年間で約半分の人が入れ替わってしまうというのが実情で、これはほかの生保にも共通する構造的な問題だ」、こんなに「ターンオーバー」が高いのであれば、コンプラインスに目がいく筈もないだろう。 「頼みの綱になるのは個々の職員の高い倫理観だ・・・もし現状の運用では人材の質を保てないというのであれば、おのずと採用者を厳選して質を維持できる水準まで営業の陣容を縮小するしかない。今から3年前、19億円の巨額詐欺事件を引き起こした大手生保の第一生命では、すでに営業職員の年間採用数をピーク時の約3分の1にまで絞り込んでいる」、 「これまで親会社から高い業績目標を課され、業容拡大を最優先してきたあんしん生命が、規模縮小という真逆の経営判断に踏み込めるかどうか。それが今後の経営改革の本気度を測る一つの指標になりそうだ」、その通りだ。