資本主義(その10)(岸田首相の“新しい資本主義”に「今更感」が強い理由 何が足りない?、世界の富を独占する「上位0.1%の超金持ち」は“善良”なのか? 哲学者・斎藤幸平が考える 資本主義の限界の克服法、「資本主義体制のまま 気候変動を解決できるか」と問われて…世界が注目する論客 ルトガー・ブレグマンの回答は?) [経済]
資本主義については、昨年3月5日に取上げた。今日は、(その10)(岸田首相の“新しい資本主義”に「今更感」が強い理由 何が足りない?、世界の富を独占する「上位0.1%の超金持ち」は“善良”なのか? 哲学者・斎藤幸平が考える 資本主義の限界の克服法、「資本主義体制のまま 気候変動を解決できるか」と問われて…世界が注目する論客 ルトガー・ブレグマンの回答は?)である。
先ずは、昨年6月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「岸田首相の“新しい資本主義”に「今更感」が強い理由、何が足りない?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304720
・『岸田文雄首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」の実行計画の骨子が明らかになった。だが筆者は、その内容に違和感を覚えた。決して目新しいものではなく、以前から認識されていながら有効な手を打てなかった「古い政策課題」ばかりが並んでいたからだ。新政策はなぜ新規性がなく、どのような視点が欠けているのか』、興味深そうだ。
・『「新しい資本主義」に目新しさは全くない 岸田文雄首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」の実行計画と「骨太の方針」が6月上旬に閣議決定された。岸田首相は「新しい資本主義」について、「一言で言うならば、資本主義のバージョンアップ」と説明している。 だが、この経済政策は目新しさが全くない。この連載では、自民党はほとんど全ての政策分野に取り組んでいながら、それが「Too Little(少なすぎる)」「Too Late(遅すぎる)」「Too Old(古すぎる)」ことが問題だと批判してきた(本連載第290回)。「新しい資本主義」は、そのことをあらためて痛感させる内容だった。 「新しい資本主義」の実行計画と「骨太の方針」の根幹をなすのは、「人」「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「グリーン・デジタル」の4分野に重点的に投資するという方針だ。 「人」への投資では、これまで以上に「賃上げ」に取り組むとともに、非正規雇用も含めた約100万人に向けて能力開発や再就職の支援を行うとしている。 ただし、この「賃上げ」については、安倍晋三政権期(第2次)にさんざん民間企業に呼び掛けたが、思うような成果を上げられなかったことを忘れてはいけない(第80回・p6)。) 当時は「アベノミクス」による「円安」によって輸出企業の利益が増え、「失われた20年」という長期経済停滞から脱することができた。だが、従業員の賃金は一向に上がらなかった。アベノミクスの最も批判される部分だ(第163回)。 第2次安倍政権の約8年弱の期間、グローバリゼーションによる厳しい競争にさらされた企業は内部留保をため込むばかりで、賃上げを行わなかった。また、一部の企業は年功序列の雇用慣行を廃し、終身雇用の正社員を減らして非正規雇用を増やすことでコストダウンを続けた。 正規・非正規雇用の格差問題が国会で議論されたのは、2001年~06年の小泉純一郎政権期までさかのぼる。だが、この問題は長年解決せず、21年4月にようやく、全ての企業を対象とした「同一労働同一賃金」の原則に基づく政策が打ち出された。 だが、政策の裏をかき、正社員の賃金を下げて非正規雇用に合わせることで同一賃金とする企業が少なくなかった。その結果、格差は縮まらず、賃金も一向に上がってこなかった。 「新しい資本主義」の実行計画には、そうした過去の過ちを繰り返さないという視点も盛り込むべきではないだろうか』、「第2次安倍政権の約8年弱の期間、グローバリゼーションによる厳しい競争にさらされた企業は内部留保をため込むばかりで、賃上げを行わなかった。また、一部の企業は年功序列の雇用慣行を廃し、終身雇用の正社員を減らして非正規雇用を増やすことでコストダウンを続けた」、「「同一労働同一賃金」の原則に基づく政策が打ち出された。 だが、政策の裏をかき、正社員の賃金を下げて非正規雇用に合わせることで同一賃金とする企業が少なくなかった。その結果、格差は縮まらず、賃金も一向に上がってこなかった」、その通りだ。
・『AI投資においては米国の事例を他山の石とすべき 「科学技術・イノベーション」への投資では、大学を支援する10兆円規模のファンドを立ち上げ、人工知能(AI)や量子技術などの高度な研究活動に投資するとしている。加えて、AIの活用や研究開発を国家戦略に据え、科学技術投資の抜本拡充を図る方針だ。 しかし、AIを国家戦略に据えることは、諸外国では10年以上前から取り組まれており、目新しさはない(第113回)。そして、AIの研究や利活用を進めたとしても、必ずしも全国民が得をするとは限らないという結果も出ている。 例えば、米国ではバラク・オバマ政権期(09~17年)から、AI活用を国家戦略に据えてきた。オバマ政権は「製造業を国内に残す唯一の方法は、諸外国に比べて高い生産性を実現することだ」と主張し、多数の雇用を生み出す製造業の米国回帰をAI導入によって目指そうとした。 当時の米国は、工場のオペレーションや製造ラインを、AIを搭載した次世代ロボットに置き換えて自動化することを試みた。安い労働コストを求めて海外に移転した工場を米国に戻すべく、自動化によって人件費を低減しようとしたのだ。 その一方で、「製品設計」「工程管理」「製品の販売」「マーケティング」といった付加価値の高い分野では、優秀な人材の雇用を生み出そうとした。また、これらの作業を担う高度人材を育てるための教育を充実させた。 続くドナルド・トランプ政権期(17~21年)でも、この国家戦略は粛々と続いていた。トランプ氏が「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を打ち出し、国内外の企業に対して、工場を米国に移転させることを強く要求したのは周知の通りだ(第150回)。) 当時、多くの企業がトランプ大統領に従い、工場を米国に移転させた。トランプ政権期、コロナ禍が起こるまでは米国経済は非常に好調だった。しかし、好調な経済にもかかわらず、労働者の雇用は増えなかった。 工場の多くが自動化されたことで、未熟練労働者の働き口がなくなったのだ。そのため、石炭や鉄鋼といった産業の衰退が進む「ラストベルト」地域の労働者が、「トランプ大統領はうそつきだ」と反発する事態を招いた。 だが今の日本は、米国の事例を他山の石としておらず、いまだにAIを「未熟練労働者の代替」だと位置付けている印象だ。かといって、米国のように国を挙げて工場の全面自動化を進めてきたわけでもなく、全てが中途半端である。 その要因はいくつか考えられる。一つは年功序列・終身雇用が今も根強く残り、非正規社員を切り捨ててでも正社員の雇用を守ろうとする企業が多いこと。もう一つは、1980年代に通商産業省(当時)主導で、欧米に先駆けて初期のAIを導入するプロジェクトを推進し、失敗した悪夢があることだ。 もし岸田首相が、新政策によってこうした状況を変えたいのであれば、単にAI関連の研究活動に投資するだけでは不十分だ。過去の失敗事例を踏まえて「AIの発展に伴う雇用面のデメリット」という視点を盛り込み、それに対する改善策を併せて議論すべきではないだろうか』、「今の日本は、米国の事例を他山の石としておらず、いまだにAIを「未熟練労働者の代替」だと位置付けている印象だ。かといって、米国のように国を挙げて工場の全面自動化を進めてきたわけでもなく、全てが中途半端である。 その要因はいくつか考えられる。一つは年功序列・終身雇用が今も根強く残り、非正規社員を切り捨ててでも正社員の雇用を守ろうとする企業が多いこと。もう一つは、1980年代に通商産業省(当時)主導で、欧米に先駆けて初期のAIを導入するプロジェクトを推進し、失敗した悪夢があることだ」、「もし岸田首相が、新政策によってこうした状況を変えたいのであれば、単にAI関連の研究活動に投資するだけでは不十分だ。過去の失敗事例を踏まえて「AIの発展に伴う雇用面のデメリット」という視点を盛り込み、それに対する改善策を併せて議論すべきではないだろうか」、その通りである。
・『日本のスタートアップ投資も遅れており自慢できるレベルではない 実行計画における「スタートアップ」の項目では、新興企業への投資額を5年で10倍に増やすことを視野に入れた「5カ年計画」を年末に策定するとしている。 だが、日本政府のスタートアップ支援は他の先進国に比べて相当に遅れており、今さら「新しいことをやっている」とアピールしていることに違和感を覚えざるを得ない。 というのも、私が大学生だった約35年前、すでに「米国の大学では、最も優秀な学生は起業する」と聞いたものだった。 例えば、大学を中退したスティーブ・ジョブズが、ビデオゲーム会社アタリを経てAppleを共同で創業したのが1976年。ビル・ゲイツがハーバード大学を休学し、Microsoftを共同経営でスタートさせたのは75年だった。 80年代、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれ、日本型の年功序列・終身雇用の企業システムは世界に称賛された時期があった。米国経済は停滞し、日本に追い越されるのではないかと言われていた。 だが、その時期の若者の起業によって生まれた萌芽は、90年代以降、米国経済を劇的に復活させた「IT革命」に結実した。 前述のスティーブ・ジョブズらに加えて、Googleを起業したラリー・ペイジやセルゲイ・ブリン、Facebookを起業したマーク・ザッカーバーグ、Amazon.comを起業したジェフ・ベゾスらが登場して、「GAFAM」と呼ばれる国際的巨大IT企業群が次々と米国で台頭したのだ。 それに伴って、世界における「時価総額ランキング」の顔ぶれも変動。かつて上位を占めていた日本企業は、今では上記の巨大IT企業群に取って代わられてしまった。 企業の開業率でも明確な差がついており、欧米諸国では10%前後に上るのに対し、日本では4.2%にとどまっている(19年時点)。 また、スタートアップに対するM&A(企業の合併・買収)も同様で、18年時点での日本における件数はわずか15件。米国の約1%にすぎなかったという(産経新聞『スタートアップ支援、政府に司令塔、新しい資本主義実現会議、実行計画に反映へ』2022年4月12日)。 米国のみならず中国でも、AlibabaをはじめとするIT大手の成長は著しく、星の数ほどのスタートアップが今も誕生していることはいうまでもない。 岸田首相は、今年を「スタートアップ創出元年」とする意向だという。だが、「元年」だといっていること自体が、世界からすれば笑いもののレベルなのだ。 これだけ後れを取っている中、投資額を増やすだけで、世界と伍して戦えるスタートアップが出てくるのか。教育面など、他の領域においても抜本的なテコ入れが不可欠である』、「岸田首相は、今年を「スタートアップ創出元年」とする意向だという。だが、「元年」だといっていること自体が、世界からすれば笑いもののレベルなのだ」、宏池会出身者とは思えないようなお粗末な経済知識だ。
・『脱炭素シフトの潮流の中で 日本のエネルギー企業は遅れている 「グリーン・デジタル」投資では、「脱炭素社会」の実現のために、今後10年間に官民協調で150兆円の関連投資を行う計画だ。だが、これも胸を張って自慢するような話ではない。 というのも、現在、化石燃料を扱う企業に対して「ダイベストメント(投資撤退)」を宣言する世界の投資家・金融機関が急増している(週刊エコノミストOnline『沸騰!脱炭素マネー:環境対応が遅れる日本企業から投資家が資金を引き揚げている……石油メジャーでさえ「最エネ転換」を宣言 環境対応できない企業には淘汰の道が待っている』)。 そして、石油資源開発(JAPEX)、中国電力、INPEX(旧国際石油開発帝石)、電源開発(J-POWER)、北陸電力、北海道電力、出光興産、ENEOSホールディングスなどの日本企業が、「脱炭素事業戦略」が遅れていることを理由として、ダイベストメントされる事例が増えている。いまだに、石炭火力発電所を多く運用しているからだ。 加えて、日本は「再生可能エネルギー」への取り組みが遅れている。それは、安倍政権以降、東日本大震災によって国内の全基が停止した原子力発電所の再稼働を最優先する方向でエネルギー政策を進めてきたからである』、多くの「日本企業が、「脱炭素事業戦略」が遅れていることを理由として、ダイベストメントされる事例が増えている。いまだに、石炭火力発電所を多く運用しているからだ。 加えて、日本は「再生可能エネルギー」への取り組みが遅れている」、みっともない限りだ。
・『岸田首相の“新しい資本主義”に「今更感」が強い理由、何が足りない? 一方、海外では、ただでさえ強大な力を持っていた「石油メジャー」が再生可能エネルギーに取り組み、「総合エネルギー企業」とでも呼ぶべき企業体への変貌を遂げている。 例えば英BPは、再生可能エネルギーの発電所などを中心とした脱炭素関連事業の年間投資額を、30年までに現状の10倍となる約50億ドル(約5300億円)に拡大する計画だ。水素やCCUS(二酸化炭素の貯蔵・利用)事業も手掛けながら、石油・天然ガスの生産量を削減し、30年までに二酸化炭素排出量を最大40%削減する方針である。 日本のエネルギー企業がダイベストメントされる一方で、海外大手はさらに先に進もうとしているのだ。この差を埋めるにはどうすべきか、日本では官民連携でより深い議論を行うべきではないか』、「日本のエネルギー企業がダイベストメントされる一方で、海外大手はさらに先に進もうとしているのだ」、「岸田首相」はもっと危機感をもって打開策を立案すべきだ。
・『全てが中途半端な自民党政治は厳しく批判されるべき この連載では、自民党の最大の特徴を「キャッチ・オール・パーティー(包括政党)」だと指摘してきた(第169回・p3)。要は、政策の「総合商社」か「デパート」のようなものであり、一応全ての政策課題に対応している。「新しい資本主義」も、現在の全ての政策課題を一覧に並べたようなものだ。 だが、残念なことに、重点投資4分野は新しい政策課題ではない。以前から認識されていながら、有効な手を打てなかった「古い政策課題」ばかりだ。 それらの課題解決のためのプロセスを決めて、予算を組んで実行して取り組むのは悪いことではない。 だが、そもそも欧米や中国などが何年も前に済ませていることを、「新しいことをやります」と胸を張ってアピールするような自民党や官僚組織の姿勢は、真摯(しんし)さも謙虚さも著しく欠いている。 岸田首相は“どや顔”で計画を発表するだけでなく、「なぜ、これまで長年にわたって有効な手を打てなかったのか」「今回の施策は、従来とどう違うのか」といったポイントが国民に伝わるよう、より詳細な説明を行うべきではないだろうか』、「そもそも欧米や中国などが何年も前に済ませていることを、「新しいことをやります」と胸を張ってアピールするような自民党や官僚組織の姿勢は、真摯(しんし)さも謙虚さも著しく欠いている。 岸田首相は“どや顔”で計画を発表するだけでなく、「なぜ、これまで長年にわたって有効な手を打てなかったのか」「今回の施策は、従来とどう違うのか」といったポイントが国民に伝わるよう、より詳細な説明を行うべきではないだろうか」、全く同感である。「岸田首相」にはもっと真摯に経済政策に向き合ってほしいものだ。
次に、本年3月13日付け文春オンラインが掲載した「哲学者」の斎藤幸平氏と「歴史家」のルトガー・ブレグマン 特別対談 #1「世界の富を独占する「上位0.1%の超金持ち」は“善良”なのか? 哲学者・斎藤幸平が考える、資本主義の限界の克服法」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/61174
・『暴走する資本主義にノーを突きつけ、『人新世の「資本論」』でマルクス主義を21世紀に復活させた斎藤幸平さん。危機意識を共有できる同世代として対話を重ねてきたのが、オランダ出身34歳の歴史家ルトガー・ブレグマンさんだ。 ブレグマンさんは、世界46カ国ベストセラー『Humankind 希望の歴史」で科学に裏付けられた“性善説”を提唱。世界が注目する気鋭の論者ふたりによる、来日特別対談!(全2回の1回目/続きを読む) ルトガー・ブレグマン(以下、ブレグマン) 日本で50万部近いセールスを記録した『人新世の「資本論」』のなかで、斎藤さんは大胆なアイデアを唱えていますね。行きすぎた資本主義の限界や気候危機を乗り越えるため、マルクス主義の立場から経済における「脱成長」が必要である、と。現行のシステムを大胆に変えるべく、いわば“ユートピア”を提案しているのですね。 斎藤幸平(以下、斎藤) はい、理想(ユートピア)を持たなければ、大きな社会変革はできませんから。とはいえ、困難も感じています。「資本主義が危機に瀕しているのは分かるが、『脱成長』は現実的でない」と批判されることもしばしばです。今日は、ポスト資本主義や新たな社会の可能性について、同世代のブレグマンさんと話し合えることを楽しみにしています』、興味深そうだ。
・『人間は本質的に善良である? ブレグマン こちらこそ。最新刊『Humankind 希望の歴史』のなかで、私も斎藤さんに負けないラディカルな考えを展開してます――「ほとんどの人間は本質的に善良である」。そんなはずはない、と驚かれる人も多いかも知れません。しかしこれは、人類学、歴史学、心理学、社会学などにおける最新の研究からも証明されている事実なのです。 世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏も、「わたしの人間観を、一新させてくれた」という応援の言葉を寄せてくれました。私はこの「新しい人間観」に基づいて、今後の社会や未来をつくっていくべきだと考えています。 斎藤 ブレグマンさんも私と同じく、現行のシステムとは違う新たな“ユートピア”の重要性を感じているのですね。 ブレグマン ええ。でも、それに対して、「無理に決まっている」「過激過ぎる」「現状を破壊する気か」と言ってくる人もやはりいます。ただし気候変動ひとつ取っても、科学的な見地からも、待ったなしなのは明らかなのですが……。』、「ほとんどの人間は本質的に善良である」、私は本当だろうかと、懐疑的だ。
・『なぜ善良な人々が戦争するのか 斎藤 おっしゃる通りです。ただし私自身、じつはブレグマンさんの説への疑問もあるんです。 「ほとんどの人間は本質的に善良である」というあなたの主張にもかかわらず、今この瞬間にも、ウクライナでは戦争が起きています。なぜなのでしょうか。 ブレグマン 確かにヨーロッパの歴史は戦争にまみれています。とくに20世紀の前半は二度の大戦が起こり悲惨でした。 しかし、私が言いたいのはこうです――「ほとんどの人間は善良だ。しかし、権力は腐敗する」。 ウクライナ戦争も、権力を持った独裁的な人間が始めました。まさに私の住んでいる欧州で起きています。だからこそ、民主主義の大切さ、自由に集まり自由に発言できることの大切さを痛感しています。ウクライナは、民主主義のために戦っているのです。 同じようなことが、第二次世界大戦でも起きました。ナチスドイツは、ロンドンを空爆したらイギリスが降参すると思いました。しかし空爆を受けたことで、逆にロンドン市民は頑張り士気は高まったのです。ヒトラーと同じくプーチンも、ウクライナを攻撃すれば、士気を挫くことができると思いました。けれどもご存知の通り、ウクライナは善戦しています。 そもそも、いわゆる“戦争”が起き始めたのは人類史において最近のことなんですよ。農耕文化や定住の始まりが、そのきっかけになったとの研究もあります。 なぜ善良な人々が戦争するのかについては、仲間への共感、社会的な同調という観点からも説明が可能です』、「なぜ善良な人々が戦争するのかについては、仲間への共感、社会的な同調という観点からも説明が可能です」、ふーん。
・『スーパーリッチな人々の実態は 斎藤 仲間や家族を敵から守るために、人間は残虐になってしまうということですね。まさに人間性の持つジレンマです。 一方で「腐敗した権力」という言葉から私が連想するのが、世界の上位0.1パーセントを占めるような現代のスーパーリッチな人たちです。彼らは、他の人の生活を想像し、共感する力に欠けているように思えます。地球環境に悪影響を与えるプライベートジェットやクルーズ船を所持したりと、まるで地球は我々のものだと言わんばかりです。 人権を侵害する独裁者に制限を加えるように、スーパーリッチたちにも制限を加えるべきではないでしょうか。 ブレグマン 私は、スーパーリッチや世界的エリートが集うダボス会議へ出席したことがあります。しかし彼らが傲慢で自己中心的かというと、実際はフレンドリーで人柄もあたたかいのです。そして彼らは、ネットフリックスで放映されている「OUR PLANET 私たちの地球」という環境ドキュメンタリー番組を観て、この地球が破壊されている、と共感して涙を流しているんです。 でも私は、そんなあなたたちが地球を破壊しているのですよ、と言いたい(笑)。だって、1500機ものプライベートジェットでダボス会議に参加しているのですから。 もともと人間は、映画「ダークナイト」のジョーカーのような、悪それ自体を楽しむような邪悪な存在ではありません。にもかかわらず、戦争や環境破壊などが起きてしまうのは、本当に悲劇的ですよね』、「もともと人間は、映画「ダークナイト」のジョーカーのような、悪それ自体を楽しむような邪悪な存在ではありません。にもかかわらず、戦争や環境破壊などが起きてしまうのは、本当に悲劇的ですよね」、「悲劇的ですよね」で逃げて済む問題ではない。正面から捉えるべきだ。
・『「SDGsは大衆のアヘン」なのか 斎藤 共感する能力というのは、人間の強みでもあり、弱点でもあるということでしょうか。 ブレグマン はい。共感する能力、そして集団の一員でありたいという願望は、私たちのDNAに備わっています。日本は文化的にも、とくにその傾向が強いと感じています。人と違う意見を表明して目立ってしまうと、社会的なペナルティを受けるという現象も、日本においては顕著ですね。 とはいえ、おかしいことにおかしいと声を上げないと社会は進歩しません。18世紀に奴隷制廃止のため、19世紀に女性解放のために声を上げて戦った人々には、“嫌われる勇気”がありました。彼ら彼女らは当時、変人扱いされましたし、生きているあいだに目に見える成果を得られなかったかも知れません。でも、そんなペナルティにもかかわらず、声を上げたのです。 斎藤 全く同感です。その意味で、グレタ・トゥンベリさんは本当に勇敢ですね。地球環境が危機的状況にあることを世界に知らしめて、私たちの考えを根本から変えてくれたのですから。 けれども状況はあまり変わっていません。二酸化炭素の排出量は減っていない。私は『人新世の「資本論」』の冒頭で「SDGsは大衆のアヘンだ」と述べましたが、再生可能エネルギーに投資したり電気自動車を作ったりすれば環境によいことをしている、と私たちは安心しがちです。しかしやっていることは、今までと同じくお金儲けなのではないでしょうか。 世界が直面している危機に対しては、もっとほかにするべきことがあります。たとえばコロナ禍の際には、人々の命を守るためにロックダウンや市場介入が実現しました。これらは、政治家や科学者が必要だと提唱したからです。同じような大胆な政策を、環境問題についても行うべきです』、「「SDGsは大衆のアヘンだ」と述べましたが、再生可能エネルギーに投資したり電気自動車を作ったりすれば環境によいことをしている、と私たちは安心しがちです。しかしやっていることは、今までと同じくお金儲けなのではないでしょうか」、「SDGsは大衆のアヘンだ」とは言い得て妙だ。
・『資本主義の限界を克服する方法 ブレグマン だからこそ斎藤さんは、資本主義の限界を克服するために、脱成長を唱えているのですね。 斎藤 はい。脱成長については、マスコミや研究者のあいだでも、多くの反対意見があります。けれども『人新世の「資本論」』への読者からの反響は大きく、とくに若い世代からの支持を感じています。また、企業のSDGs担当者のなかにも、「自分がやっている仕事は、まやかしなのでないか」との矛盾した思いを私に打ち明ける人もいます。大企業に勤める人々も「じつは斎藤さんと、全く同じ意見です」「でも、大胆な変革の仕方が分からない」と悩んでいるのには驚きました。 ブレグマン なるほど、そうなのですね。僭越かも知れませんが、日本社会については部外者ながらに感じていることがあります。それは、無駄な仕事がとても多いということです。人類学者のデヴィッド・グレーバーが“ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)”と呼ぶような「社会に何の貢献もしていない仕事」ですね。 たとえば私が日本の空港に着いたときに驚いたのが、「階段」「注意」と書かれたボードを持って立っている空港スタッフがいたことです。人間が看板の代わりをさせられているんです。 日本には、誰もが何でもいいから仕事をしないといけないという強迫観念があるよう感じます』、確かに「日本」には「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」がある。
・『日本人は明らかに働き過ぎ 斎藤 日本でも、コロナ禍で『ブルシット・ジョブ』がよく読まれました。われわれはコロナを経て、“ブルシット・ジョブ”と“エッセンシャル・ワーク”の違いに気づいたのだと思います。“エッセンシャル・ワーク”は人間の生存に不可欠な仕事です。たとえば看護師や保育士、介護士などですね。自らがコロナに感染する危険をおかして、われわれを守ってくれています。 一方、デヴィッド・グレーバーはとくに、広告、金融、コンサルティングなどに“クソどうでもいい仕事”が多いと指摘しています。これらの仕事は、コロナからわれわれを守ってはくれません。にもかかわらず、広告、金融、コンサルティングの仕事のほうが高収入です。看護や介護などのエッセンシャル・ワーカーにもっと高い賃金を払うなど、資本主義の枠内でも出来ることはあると思うのです。 ブレグマン 私が思うに、ひとくちに資本主義と言っても、「日本の資本主義」と「オランダの資本主義」は、大分違うと感じています。たとえば労働時間を見てみましょう。オランダでは週35時間労働です。一方で日本は、残業も含めると週60時間、70時間の労働も珍しくないようですね。日本人は明らかに働き過ぎです。まずは現行の資本主義の枠内でも、変えるべきことはあるのではないでしょうか。 (ヨーロッパ文芸フェスティバル2022 オープニング対談にて収録)』、「デヴィッド・グレーバーはとくに、広告、金融、コンサルティングなどに“クソどうでもいい仕事”が多いと指摘しています。これらの仕事は、コロナからわれわれを守ってはくれません。にもかかわらず、広告、金融、コンサルティングの仕事のほうが高収入です」、これはどうみても暴論に近い、何が“クソどうでもいい仕事”かは、そんなに簡単には決められない筈だ。
第三に、この続きを、3月13日付け文春オンラインが掲載した:「哲学者」の斎藤幸平氏と「歴史家」のルトガー・ブレグマン 特別対談 #2「「資本主義体制のまま、気候変動を解決できるか」と問われて…世界が注目する論客、ルトガー・ブレグマンの回答は?」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/61175
・暴走する資本主義にノーを突きつけ、『人新世の「資本論」』でマルクス主義を21世紀に復活させた斎藤幸平さん。危機意識を共有できる同世代として対話を重ねてきたのが、オランダ出身34歳の歴史家ルトガー・ブレグマンさんだ。 ブレグマンさんは、世界46カ国ベストセラー『Humankind 希望の歴史』で科学に裏付けられた“性善説“を提唱。世界が注目する気鋭の論者ふたりによる、来日特別対談!(全2回の2回目/最初から読む)』、興味深そうだ。
・『小さなグループが世界を変える ルトガー・ブレグマン(以下、ブレグマン) 「世界を変えるのは小さなグループだ」――これは文化人類学者マーガレット・ミードの言葉にありますし、過去の歴史からも明らかです。良い例でいうと、奴隷解放や女性の権利獲得運動が挙げられます。ともに最初は少数の人々によって始められて広まっていったんです。悪い例ですと、ナチスドイツです。ヒトラーとその周辺の人たちによって、“悪への道”が始まったのです。 いまの世界が直面している行き過ぎた資本主義や、気候変動問題をどう解決していくか。斎藤さんも、小さなグループが世界を変えると主張をなさっていますよね』、「小さなグループが世界を変える」、もう少し説明が必要だ。
・『日本の同調圧力の強さ 斎藤幸平(以下、斎藤) はい、政治学者エリカ・チェノウェスの研究にならって、3.5パーセントの人々が世界を変える、と主張しています。歴史を振り返ると、少数派の人たちが命を懸けたから、社会はよい方向に変わってきました。ただしその際には、多数派の人々が少数派の人々に対して、オープンなマインドを持つ必要があります。ヨーロッパでは、マイノリティの意見からも学ぼうという姿勢があるように感じます。一方で、日本では、なかなか当事者が声を上げても、マジョリティが耳を貸さないことが多い。 ブレグマン あくまで部外者としての私の意見ですが、日本の同調圧力が強いことも関係しているのではないでしょうか。たとえば法律で義務付けられていないにもかかわらず、人混みのない屋外でもマスクを着用し続ける。また、長時間労働も当たり前となっているようですね。しかし、「屋外でマスクをつける根拠はなかった」「週に70時間も働きたくないのは自分だけじゃなかった」とみなが気づけば、事態は急速に変化する気もしています。 革命が起きるときは、1人が2人、2人が4人にと一挙に増えるものです。斎藤さんの『人新世の「資本論」』は、50万部近く売れていると聞きました。しかも若い人たちに読まれているということに、日本における変革への大きな可能性を感じています』、「斎藤さんの『人新世の「資本論」』は、50万部近く売れている」、「日本における変革への大きな可能性を感じています」、大げさ過ぎる印象だ。
・『資本主義体制のまま、気候変動は解決できるか 斎藤 多くの日本人は、現在の経済システムに満足していません。でも他に選択肢はないと思っているから、現行システムを続けているのです。そして、人口問題や、労働環境、気候危機も解決できないと諦めてしまっている。 この状況を変えるために、『人新世の「資本論」』は、とにかく別の未来がありうるということを示すことを目指しました。でもそうしたことをやろうと思ったのも、資本主義への疑問、脱成長への共感が、欧州はじめ各国でも広まりつつあるのに触れたからです。 ブレグマンさんは脱成長についてどう考えますか? 資本主義体制のまま気候変動を解決できると思っていますか?』、どうなのだろう。
・『テクノロジーには可能性がある ブレグマン 脱成長についてはじつは私自身、矛盾した思いを抱いています。たとえば資本主義の象徴のひとつである広告について言うと、昔の公共空間には存在しなかった種類の広告は、なくてもよいかも知れません。公共空間(コモン)を取り戻そうという斎藤さんの考えには同感です。 ただし政治的なスローガンとして「脱成長」を掲げるのは、得策ではないかもしれません。「脱成長させますから、私に投票してください」と言うよりも、「成長させます」「豊かにさせます」と言った方が、人々からの支持が集まりますから。 また、ここは斎藤さんと意見が違うかも知れないの ですが、私自身はテクノロジーには可能性があると思います。太陽光や風力発電なども技術の進歩があり、安価に利用できるようなりました。家畜の牛を食べることは環境に悪いかも知れません。1キロの牛肉を得るために、25キロの飼料が必要です。そのため、健康によくて美味しくて安価な代用肉のイノベーションが必要とされているのです』、「テクノロジーには可能性がある」、「政治的なスローガンとして「脱成長」を掲げるのは、得策ではないかもしれません。「脱成長させますから、私に投票してください」と言うよりも、「成長させます」「豊かにさせます」と言った方が、人々からの支持が集まりますから」、なるほど。
・『間接民主主義は「じつは浅い考え」 斎藤 私も技術革新の必要性を否定しているわけではありません。けれども、技術がいくら発展しても、資本主義が大型化や計画的陳腐化を繰り返し、資源やエネルギーを浪費する限りで、環境危機を解決することができないのではないか。「成長しよう」「もっと豊かになろう」という人気取りを繰り返すことも、自分が次の選挙で勝つための無責任なスローガンだと、多くの人は気がつくようになっているのではないでしょうか。 この点と関連して、もう一つ聞きたいのですが、資本主義の危機と並んで、民主主義の危機も深刻な問題です。今、日本では、AIやアルゴリズムを使った「無意識民主主義」という議論が注目を集めています。民主主義というシステムについてはどう思われますか。 ブレグマン 政治家を選ぶために数年ごとに選挙する間接民主主義は、じつは浅い考えです。そもそも選挙は、簡単に操られてしまいますから。じつは古代ギリシャの民主主義は真逆でした。選挙は非民主主義的だと思われていたんです。そのため代表は、抽選によって選ばれていました。 間接民主主義を超えようとする試みは、現代でもあります。ラテンアメリカの一部の国では、市民が予算の使い方を決めるなど新しい試みを行い、うまくいっているそうです。市民を大人として扱えば大人として振る舞う、市民を無能として扱えば無能になるんです。だからこそ私は、ほとんどの人間は基本的に善であり、内なる力を秘めているという「新しい人間観」に基づいて社会設計をすべきと考えているんです。ちなみ にAIやアルゴリズムを使った資本主義や民主主義については、誰が設計するのか、という問題があります。 ) 斎藤 私の本でも、バルセロナのミュニシパリズム(地域自治主義)を紹介しています。スペインでは消費問題相が脱成長を唱えています。より厳しい気候変動の時代を生きることになる若い世代がこの動きをとくに支持しています。そう考えると、10年か15年後には政治勢力図も変わるかも知れません。 新しい経済の尺度も必要ですね。GDPだけではなく、環境への影響や人間の幸福度、社会の安全性などを測る尺度などです。たとえばGPI(世界平和度指数)を見ると、アメリカはナンバーワンではなく、ヨーロッパ諸国の方がランキングは高いのです。世界の見方を変える必要があります』、「民主主義の危機も深刻な問題です。今、日本では、AIやアルゴリズムを使った「無意識民主主義」という議論が注目を集めています。民主主義というシステムについてはどう思われますか。 ブレグマン 政治家を選ぶために数年ごとに選挙する間接民主主義は、じつは浅い考えです。そもそも選挙は、簡単に操られてしまいますから。じつは古代ギリシャの民主主義は真逆でした。選挙は非民主主義的だと思われていたんです。そのため代表は、抽選によって選ばれていました。 間接民主主義を超えようとする試みは、現代でもあります。ラテンアメリカの一部の国では、市民が予算の使い方を決めるなど新しい試みを行い、うまくいっているそうです」、「古代ギリシャの民主主義は真逆でした。選挙は非民主主義的だと思われていたんです。そのため代表は、抽選によって選ばれていました」、というのは興味深い。「バルセロナのミュニシパリズム(地域自治主義)を紹介しています。スペインでは消費問題相が脱成長を唱えています。より厳しい気候変動の時代を生きることになる若い世代がこの動きをとくに支持しています。そう考えると、10年か15年後には政治勢力図も変わるかも知れません」、なるほど。
・『高齢権力者が支配する日本の停滞 ブレグマン 歴史を見ると、大胆な変革には時間がかかることが多いです。奴隷制度の廃止には2世紀以上かかりました。米国での女性解放運動も1世紀かかりました。 これは一般論なのですが、ほとんどの人は30歳を過ぎると変化を好まなくなる傾向があります。日本は高齢権力者が支配している社会なので、とくに停滞しています。 けれども気候変動を回避するために残されている時間は短い。なので、つい悲観的になってしまいます。もしこのまま気温が2度、3度と上がったときに、科学者が示す未来予測は恐ろしいものです。多くの死者が出るかも知れませんし、エコシステムも壊されるでしょう。じつは私の住むオランダは、国土の一番低いところが海抜より7メートル低いんです。ですから地球温暖化への危機感も半端ではないのです。 斎藤 だからこそユートピア的な思想が必要ですね。戦争やパンデミックは、地球環境やわれわれの生活を悪化させてしまう。もし希望を捨てて受け身になれば、さらに悪いかたちの戦争、差別や暴力が生まれるのではないでしょうか。これらのバックラッシュに負けないように、民主主義を打ち立てないと。その意味で、今日ユートピア主義というのは現実主義なのです。 (ヨーロッパ文芸フェスティバル2022 オープニング対談にて収録)』、「私の住むオランダは、国土の一番低いところが海抜より7メートル低いんです。ですから地球温暖化への危機感も半端ではないのです」、「オランダ」の環境意識の高さには、国土の低さが影響しているとは初めて知った。「戦争やパンデミックは、地球環境やわれわれの生活を悪化させてしまう。もし希望を捨てて受け身になれば、さらに悪いかたちの戦争、差別や暴力が生まれるのではないでしょうか。これらのバックラッシュに負けないように、民主主義を打ち立てないと。その意味で、今日ユートピア主義というのは現実主義なのです」、「今日ユートピア主義というのは現実主義なのです」、逆説的だが、説得力がある。
先ずは、昨年6月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「岸田首相の“新しい資本主義”に「今更感」が強い理由、何が足りない?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304720
・『岸田文雄首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」の実行計画の骨子が明らかになった。だが筆者は、その内容に違和感を覚えた。決して目新しいものではなく、以前から認識されていながら有効な手を打てなかった「古い政策課題」ばかりが並んでいたからだ。新政策はなぜ新規性がなく、どのような視点が欠けているのか』、興味深そうだ。
・『「新しい資本主義」に目新しさは全くない 岸田文雄首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」の実行計画と「骨太の方針」が6月上旬に閣議決定された。岸田首相は「新しい資本主義」について、「一言で言うならば、資本主義のバージョンアップ」と説明している。 だが、この経済政策は目新しさが全くない。この連載では、自民党はほとんど全ての政策分野に取り組んでいながら、それが「Too Little(少なすぎる)」「Too Late(遅すぎる)」「Too Old(古すぎる)」ことが問題だと批判してきた(本連載第290回)。「新しい資本主義」は、そのことをあらためて痛感させる内容だった。 「新しい資本主義」の実行計画と「骨太の方針」の根幹をなすのは、「人」「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「グリーン・デジタル」の4分野に重点的に投資するという方針だ。 「人」への投資では、これまで以上に「賃上げ」に取り組むとともに、非正規雇用も含めた約100万人に向けて能力開発や再就職の支援を行うとしている。 ただし、この「賃上げ」については、安倍晋三政権期(第2次)にさんざん民間企業に呼び掛けたが、思うような成果を上げられなかったことを忘れてはいけない(第80回・p6)。) 当時は「アベノミクス」による「円安」によって輸出企業の利益が増え、「失われた20年」という長期経済停滞から脱することができた。だが、従業員の賃金は一向に上がらなかった。アベノミクスの最も批判される部分だ(第163回)。 第2次安倍政権の約8年弱の期間、グローバリゼーションによる厳しい競争にさらされた企業は内部留保をため込むばかりで、賃上げを行わなかった。また、一部の企業は年功序列の雇用慣行を廃し、終身雇用の正社員を減らして非正規雇用を増やすことでコストダウンを続けた。 正規・非正規雇用の格差問題が国会で議論されたのは、2001年~06年の小泉純一郎政権期までさかのぼる。だが、この問題は長年解決せず、21年4月にようやく、全ての企業を対象とした「同一労働同一賃金」の原則に基づく政策が打ち出された。 だが、政策の裏をかき、正社員の賃金を下げて非正規雇用に合わせることで同一賃金とする企業が少なくなかった。その結果、格差は縮まらず、賃金も一向に上がってこなかった。 「新しい資本主義」の実行計画には、そうした過去の過ちを繰り返さないという視点も盛り込むべきではないだろうか』、「第2次安倍政権の約8年弱の期間、グローバリゼーションによる厳しい競争にさらされた企業は内部留保をため込むばかりで、賃上げを行わなかった。また、一部の企業は年功序列の雇用慣行を廃し、終身雇用の正社員を減らして非正規雇用を増やすことでコストダウンを続けた」、「「同一労働同一賃金」の原則に基づく政策が打ち出された。 だが、政策の裏をかき、正社員の賃金を下げて非正規雇用に合わせることで同一賃金とする企業が少なくなかった。その結果、格差は縮まらず、賃金も一向に上がってこなかった」、その通りだ。
・『AI投資においては米国の事例を他山の石とすべき 「科学技術・イノベーション」への投資では、大学を支援する10兆円規模のファンドを立ち上げ、人工知能(AI)や量子技術などの高度な研究活動に投資するとしている。加えて、AIの活用や研究開発を国家戦略に据え、科学技術投資の抜本拡充を図る方針だ。 しかし、AIを国家戦略に据えることは、諸外国では10年以上前から取り組まれており、目新しさはない(第113回)。そして、AIの研究や利活用を進めたとしても、必ずしも全国民が得をするとは限らないという結果も出ている。 例えば、米国ではバラク・オバマ政権期(09~17年)から、AI活用を国家戦略に据えてきた。オバマ政権は「製造業を国内に残す唯一の方法は、諸外国に比べて高い生産性を実現することだ」と主張し、多数の雇用を生み出す製造業の米国回帰をAI導入によって目指そうとした。 当時の米国は、工場のオペレーションや製造ラインを、AIを搭載した次世代ロボットに置き換えて自動化することを試みた。安い労働コストを求めて海外に移転した工場を米国に戻すべく、自動化によって人件費を低減しようとしたのだ。 その一方で、「製品設計」「工程管理」「製品の販売」「マーケティング」といった付加価値の高い分野では、優秀な人材の雇用を生み出そうとした。また、これらの作業を担う高度人材を育てるための教育を充実させた。 続くドナルド・トランプ政権期(17~21年)でも、この国家戦略は粛々と続いていた。トランプ氏が「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を打ち出し、国内外の企業に対して、工場を米国に移転させることを強く要求したのは周知の通りだ(第150回)。) 当時、多くの企業がトランプ大統領に従い、工場を米国に移転させた。トランプ政権期、コロナ禍が起こるまでは米国経済は非常に好調だった。しかし、好調な経済にもかかわらず、労働者の雇用は増えなかった。 工場の多くが自動化されたことで、未熟練労働者の働き口がなくなったのだ。そのため、石炭や鉄鋼といった産業の衰退が進む「ラストベルト」地域の労働者が、「トランプ大統領はうそつきだ」と反発する事態を招いた。 だが今の日本は、米国の事例を他山の石としておらず、いまだにAIを「未熟練労働者の代替」だと位置付けている印象だ。かといって、米国のように国を挙げて工場の全面自動化を進めてきたわけでもなく、全てが中途半端である。 その要因はいくつか考えられる。一つは年功序列・終身雇用が今も根強く残り、非正規社員を切り捨ててでも正社員の雇用を守ろうとする企業が多いこと。もう一つは、1980年代に通商産業省(当時)主導で、欧米に先駆けて初期のAIを導入するプロジェクトを推進し、失敗した悪夢があることだ。 もし岸田首相が、新政策によってこうした状況を変えたいのであれば、単にAI関連の研究活動に投資するだけでは不十分だ。過去の失敗事例を踏まえて「AIの発展に伴う雇用面のデメリット」という視点を盛り込み、それに対する改善策を併せて議論すべきではないだろうか』、「今の日本は、米国の事例を他山の石としておらず、いまだにAIを「未熟練労働者の代替」だと位置付けている印象だ。かといって、米国のように国を挙げて工場の全面自動化を進めてきたわけでもなく、全てが中途半端である。 その要因はいくつか考えられる。一つは年功序列・終身雇用が今も根強く残り、非正規社員を切り捨ててでも正社員の雇用を守ろうとする企業が多いこと。もう一つは、1980年代に通商産業省(当時)主導で、欧米に先駆けて初期のAIを導入するプロジェクトを推進し、失敗した悪夢があることだ」、「もし岸田首相が、新政策によってこうした状況を変えたいのであれば、単にAI関連の研究活動に投資するだけでは不十分だ。過去の失敗事例を踏まえて「AIの発展に伴う雇用面のデメリット」という視点を盛り込み、それに対する改善策を併せて議論すべきではないだろうか」、その通りである。
・『日本のスタートアップ投資も遅れており自慢できるレベルではない 実行計画における「スタートアップ」の項目では、新興企業への投資額を5年で10倍に増やすことを視野に入れた「5カ年計画」を年末に策定するとしている。 だが、日本政府のスタートアップ支援は他の先進国に比べて相当に遅れており、今さら「新しいことをやっている」とアピールしていることに違和感を覚えざるを得ない。 というのも、私が大学生だった約35年前、すでに「米国の大学では、最も優秀な学生は起業する」と聞いたものだった。 例えば、大学を中退したスティーブ・ジョブズが、ビデオゲーム会社アタリを経てAppleを共同で創業したのが1976年。ビル・ゲイツがハーバード大学を休学し、Microsoftを共同経営でスタートさせたのは75年だった。 80年代、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれ、日本型の年功序列・終身雇用の企業システムは世界に称賛された時期があった。米国経済は停滞し、日本に追い越されるのではないかと言われていた。 だが、その時期の若者の起業によって生まれた萌芽は、90年代以降、米国経済を劇的に復活させた「IT革命」に結実した。 前述のスティーブ・ジョブズらに加えて、Googleを起業したラリー・ペイジやセルゲイ・ブリン、Facebookを起業したマーク・ザッカーバーグ、Amazon.comを起業したジェフ・ベゾスらが登場して、「GAFAM」と呼ばれる国際的巨大IT企業群が次々と米国で台頭したのだ。 それに伴って、世界における「時価総額ランキング」の顔ぶれも変動。かつて上位を占めていた日本企業は、今では上記の巨大IT企業群に取って代わられてしまった。 企業の開業率でも明確な差がついており、欧米諸国では10%前後に上るのに対し、日本では4.2%にとどまっている(19年時点)。 また、スタートアップに対するM&A(企業の合併・買収)も同様で、18年時点での日本における件数はわずか15件。米国の約1%にすぎなかったという(産経新聞『スタートアップ支援、政府に司令塔、新しい資本主義実現会議、実行計画に反映へ』2022年4月12日)。 米国のみならず中国でも、AlibabaをはじめとするIT大手の成長は著しく、星の数ほどのスタートアップが今も誕生していることはいうまでもない。 岸田首相は、今年を「スタートアップ創出元年」とする意向だという。だが、「元年」だといっていること自体が、世界からすれば笑いもののレベルなのだ。 これだけ後れを取っている中、投資額を増やすだけで、世界と伍して戦えるスタートアップが出てくるのか。教育面など、他の領域においても抜本的なテコ入れが不可欠である』、「岸田首相は、今年を「スタートアップ創出元年」とする意向だという。だが、「元年」だといっていること自体が、世界からすれば笑いもののレベルなのだ」、宏池会出身者とは思えないようなお粗末な経済知識だ。
・『脱炭素シフトの潮流の中で 日本のエネルギー企業は遅れている 「グリーン・デジタル」投資では、「脱炭素社会」の実現のために、今後10年間に官民協調で150兆円の関連投資を行う計画だ。だが、これも胸を張って自慢するような話ではない。 というのも、現在、化石燃料を扱う企業に対して「ダイベストメント(投資撤退)」を宣言する世界の投資家・金融機関が急増している(週刊エコノミストOnline『沸騰!脱炭素マネー:環境対応が遅れる日本企業から投資家が資金を引き揚げている……石油メジャーでさえ「最エネ転換」を宣言 環境対応できない企業には淘汰の道が待っている』)。 そして、石油資源開発(JAPEX)、中国電力、INPEX(旧国際石油開発帝石)、電源開発(J-POWER)、北陸電力、北海道電力、出光興産、ENEOSホールディングスなどの日本企業が、「脱炭素事業戦略」が遅れていることを理由として、ダイベストメントされる事例が増えている。いまだに、石炭火力発電所を多く運用しているからだ。 加えて、日本は「再生可能エネルギー」への取り組みが遅れている。それは、安倍政権以降、東日本大震災によって国内の全基が停止した原子力発電所の再稼働を最優先する方向でエネルギー政策を進めてきたからである』、多くの「日本企業が、「脱炭素事業戦略」が遅れていることを理由として、ダイベストメントされる事例が増えている。いまだに、石炭火力発電所を多く運用しているからだ。 加えて、日本は「再生可能エネルギー」への取り組みが遅れている」、みっともない限りだ。
・『岸田首相の“新しい資本主義”に「今更感」が強い理由、何が足りない? 一方、海外では、ただでさえ強大な力を持っていた「石油メジャー」が再生可能エネルギーに取り組み、「総合エネルギー企業」とでも呼ぶべき企業体への変貌を遂げている。 例えば英BPは、再生可能エネルギーの発電所などを中心とした脱炭素関連事業の年間投資額を、30年までに現状の10倍となる約50億ドル(約5300億円)に拡大する計画だ。水素やCCUS(二酸化炭素の貯蔵・利用)事業も手掛けながら、石油・天然ガスの生産量を削減し、30年までに二酸化炭素排出量を最大40%削減する方針である。 日本のエネルギー企業がダイベストメントされる一方で、海外大手はさらに先に進もうとしているのだ。この差を埋めるにはどうすべきか、日本では官民連携でより深い議論を行うべきではないか』、「日本のエネルギー企業がダイベストメントされる一方で、海外大手はさらに先に進もうとしているのだ」、「岸田首相」はもっと危機感をもって打開策を立案すべきだ。
・『全てが中途半端な自民党政治は厳しく批判されるべき この連載では、自民党の最大の特徴を「キャッチ・オール・パーティー(包括政党)」だと指摘してきた(第169回・p3)。要は、政策の「総合商社」か「デパート」のようなものであり、一応全ての政策課題に対応している。「新しい資本主義」も、現在の全ての政策課題を一覧に並べたようなものだ。 だが、残念なことに、重点投資4分野は新しい政策課題ではない。以前から認識されていながら、有効な手を打てなかった「古い政策課題」ばかりだ。 それらの課題解決のためのプロセスを決めて、予算を組んで実行して取り組むのは悪いことではない。 だが、そもそも欧米や中国などが何年も前に済ませていることを、「新しいことをやります」と胸を張ってアピールするような自民党や官僚組織の姿勢は、真摯(しんし)さも謙虚さも著しく欠いている。 岸田首相は“どや顔”で計画を発表するだけでなく、「なぜ、これまで長年にわたって有効な手を打てなかったのか」「今回の施策は、従来とどう違うのか」といったポイントが国民に伝わるよう、より詳細な説明を行うべきではないだろうか』、「そもそも欧米や中国などが何年も前に済ませていることを、「新しいことをやります」と胸を張ってアピールするような自民党や官僚組織の姿勢は、真摯(しんし)さも謙虚さも著しく欠いている。 岸田首相は“どや顔”で計画を発表するだけでなく、「なぜ、これまで長年にわたって有効な手を打てなかったのか」「今回の施策は、従来とどう違うのか」といったポイントが国民に伝わるよう、より詳細な説明を行うべきではないだろうか」、全く同感である。「岸田首相」にはもっと真摯に経済政策に向き合ってほしいものだ。
次に、本年3月13日付け文春オンラインが掲載した「哲学者」の斎藤幸平氏と「歴史家」のルトガー・ブレグマン 特別対談 #1「世界の富を独占する「上位0.1%の超金持ち」は“善良”なのか? 哲学者・斎藤幸平が考える、資本主義の限界の克服法」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/61174
・『暴走する資本主義にノーを突きつけ、『人新世の「資本論」』でマルクス主義を21世紀に復活させた斎藤幸平さん。危機意識を共有できる同世代として対話を重ねてきたのが、オランダ出身34歳の歴史家ルトガー・ブレグマンさんだ。 ブレグマンさんは、世界46カ国ベストセラー『Humankind 希望の歴史」で科学に裏付けられた“性善説”を提唱。世界が注目する気鋭の論者ふたりによる、来日特別対談!(全2回の1回目/続きを読む) ルトガー・ブレグマン(以下、ブレグマン) 日本で50万部近いセールスを記録した『人新世の「資本論」』のなかで、斎藤さんは大胆なアイデアを唱えていますね。行きすぎた資本主義の限界や気候危機を乗り越えるため、マルクス主義の立場から経済における「脱成長」が必要である、と。現行のシステムを大胆に変えるべく、いわば“ユートピア”を提案しているのですね。 斎藤幸平(以下、斎藤) はい、理想(ユートピア)を持たなければ、大きな社会変革はできませんから。とはいえ、困難も感じています。「資本主義が危機に瀕しているのは分かるが、『脱成長』は現実的でない」と批判されることもしばしばです。今日は、ポスト資本主義や新たな社会の可能性について、同世代のブレグマンさんと話し合えることを楽しみにしています』、興味深そうだ。
・『人間は本質的に善良である? ブレグマン こちらこそ。最新刊『Humankind 希望の歴史』のなかで、私も斎藤さんに負けないラディカルな考えを展開してます――「ほとんどの人間は本質的に善良である」。そんなはずはない、と驚かれる人も多いかも知れません。しかしこれは、人類学、歴史学、心理学、社会学などにおける最新の研究からも証明されている事実なのです。 世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏も、「わたしの人間観を、一新させてくれた」という応援の言葉を寄せてくれました。私はこの「新しい人間観」に基づいて、今後の社会や未来をつくっていくべきだと考えています。 斎藤 ブレグマンさんも私と同じく、現行のシステムとは違う新たな“ユートピア”の重要性を感じているのですね。 ブレグマン ええ。でも、それに対して、「無理に決まっている」「過激過ぎる」「現状を破壊する気か」と言ってくる人もやはりいます。ただし気候変動ひとつ取っても、科学的な見地からも、待ったなしなのは明らかなのですが……。』、「ほとんどの人間は本質的に善良である」、私は本当だろうかと、懐疑的だ。
・『なぜ善良な人々が戦争するのか 斎藤 おっしゃる通りです。ただし私自身、じつはブレグマンさんの説への疑問もあるんです。 「ほとんどの人間は本質的に善良である」というあなたの主張にもかかわらず、今この瞬間にも、ウクライナでは戦争が起きています。なぜなのでしょうか。 ブレグマン 確かにヨーロッパの歴史は戦争にまみれています。とくに20世紀の前半は二度の大戦が起こり悲惨でした。 しかし、私が言いたいのはこうです――「ほとんどの人間は善良だ。しかし、権力は腐敗する」。 ウクライナ戦争も、権力を持った独裁的な人間が始めました。まさに私の住んでいる欧州で起きています。だからこそ、民主主義の大切さ、自由に集まり自由に発言できることの大切さを痛感しています。ウクライナは、民主主義のために戦っているのです。 同じようなことが、第二次世界大戦でも起きました。ナチスドイツは、ロンドンを空爆したらイギリスが降参すると思いました。しかし空爆を受けたことで、逆にロンドン市民は頑張り士気は高まったのです。ヒトラーと同じくプーチンも、ウクライナを攻撃すれば、士気を挫くことができると思いました。けれどもご存知の通り、ウクライナは善戦しています。 そもそも、いわゆる“戦争”が起き始めたのは人類史において最近のことなんですよ。農耕文化や定住の始まりが、そのきっかけになったとの研究もあります。 なぜ善良な人々が戦争するのかについては、仲間への共感、社会的な同調という観点からも説明が可能です』、「なぜ善良な人々が戦争するのかについては、仲間への共感、社会的な同調という観点からも説明が可能です」、ふーん。
・『スーパーリッチな人々の実態は 斎藤 仲間や家族を敵から守るために、人間は残虐になってしまうということですね。まさに人間性の持つジレンマです。 一方で「腐敗した権力」という言葉から私が連想するのが、世界の上位0.1パーセントを占めるような現代のスーパーリッチな人たちです。彼らは、他の人の生活を想像し、共感する力に欠けているように思えます。地球環境に悪影響を与えるプライベートジェットやクルーズ船を所持したりと、まるで地球は我々のものだと言わんばかりです。 人権を侵害する独裁者に制限を加えるように、スーパーリッチたちにも制限を加えるべきではないでしょうか。 ブレグマン 私は、スーパーリッチや世界的エリートが集うダボス会議へ出席したことがあります。しかし彼らが傲慢で自己中心的かというと、実際はフレンドリーで人柄もあたたかいのです。そして彼らは、ネットフリックスで放映されている「OUR PLANET 私たちの地球」という環境ドキュメンタリー番組を観て、この地球が破壊されている、と共感して涙を流しているんです。 でも私は、そんなあなたたちが地球を破壊しているのですよ、と言いたい(笑)。だって、1500機ものプライベートジェットでダボス会議に参加しているのですから。 もともと人間は、映画「ダークナイト」のジョーカーのような、悪それ自体を楽しむような邪悪な存在ではありません。にもかかわらず、戦争や環境破壊などが起きてしまうのは、本当に悲劇的ですよね』、「もともと人間は、映画「ダークナイト」のジョーカーのような、悪それ自体を楽しむような邪悪な存在ではありません。にもかかわらず、戦争や環境破壊などが起きてしまうのは、本当に悲劇的ですよね」、「悲劇的ですよね」で逃げて済む問題ではない。正面から捉えるべきだ。
・『「SDGsは大衆のアヘン」なのか 斎藤 共感する能力というのは、人間の強みでもあり、弱点でもあるということでしょうか。 ブレグマン はい。共感する能力、そして集団の一員でありたいという願望は、私たちのDNAに備わっています。日本は文化的にも、とくにその傾向が強いと感じています。人と違う意見を表明して目立ってしまうと、社会的なペナルティを受けるという現象も、日本においては顕著ですね。 とはいえ、おかしいことにおかしいと声を上げないと社会は進歩しません。18世紀に奴隷制廃止のため、19世紀に女性解放のために声を上げて戦った人々には、“嫌われる勇気”がありました。彼ら彼女らは当時、変人扱いされましたし、生きているあいだに目に見える成果を得られなかったかも知れません。でも、そんなペナルティにもかかわらず、声を上げたのです。 斎藤 全く同感です。その意味で、グレタ・トゥンベリさんは本当に勇敢ですね。地球環境が危機的状況にあることを世界に知らしめて、私たちの考えを根本から変えてくれたのですから。 けれども状況はあまり変わっていません。二酸化炭素の排出量は減っていない。私は『人新世の「資本論」』の冒頭で「SDGsは大衆のアヘンだ」と述べましたが、再生可能エネルギーに投資したり電気自動車を作ったりすれば環境によいことをしている、と私たちは安心しがちです。しかしやっていることは、今までと同じくお金儲けなのではないでしょうか。 世界が直面している危機に対しては、もっとほかにするべきことがあります。たとえばコロナ禍の際には、人々の命を守るためにロックダウンや市場介入が実現しました。これらは、政治家や科学者が必要だと提唱したからです。同じような大胆な政策を、環境問題についても行うべきです』、「「SDGsは大衆のアヘンだ」と述べましたが、再生可能エネルギーに投資したり電気自動車を作ったりすれば環境によいことをしている、と私たちは安心しがちです。しかしやっていることは、今までと同じくお金儲けなのではないでしょうか」、「SDGsは大衆のアヘンだ」とは言い得て妙だ。
・『資本主義の限界を克服する方法 ブレグマン だからこそ斎藤さんは、資本主義の限界を克服するために、脱成長を唱えているのですね。 斎藤 はい。脱成長については、マスコミや研究者のあいだでも、多くの反対意見があります。けれども『人新世の「資本論」』への読者からの反響は大きく、とくに若い世代からの支持を感じています。また、企業のSDGs担当者のなかにも、「自分がやっている仕事は、まやかしなのでないか」との矛盾した思いを私に打ち明ける人もいます。大企業に勤める人々も「じつは斎藤さんと、全く同じ意見です」「でも、大胆な変革の仕方が分からない」と悩んでいるのには驚きました。 ブレグマン なるほど、そうなのですね。僭越かも知れませんが、日本社会については部外者ながらに感じていることがあります。それは、無駄な仕事がとても多いということです。人類学者のデヴィッド・グレーバーが“ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)”と呼ぶような「社会に何の貢献もしていない仕事」ですね。 たとえば私が日本の空港に着いたときに驚いたのが、「階段」「注意」と書かれたボードを持って立っている空港スタッフがいたことです。人間が看板の代わりをさせられているんです。 日本には、誰もが何でもいいから仕事をしないといけないという強迫観念があるよう感じます』、確かに「日本」には「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」がある。
・『日本人は明らかに働き過ぎ 斎藤 日本でも、コロナ禍で『ブルシット・ジョブ』がよく読まれました。われわれはコロナを経て、“ブルシット・ジョブ”と“エッセンシャル・ワーク”の違いに気づいたのだと思います。“エッセンシャル・ワーク”は人間の生存に不可欠な仕事です。たとえば看護師や保育士、介護士などですね。自らがコロナに感染する危険をおかして、われわれを守ってくれています。 一方、デヴィッド・グレーバーはとくに、広告、金融、コンサルティングなどに“クソどうでもいい仕事”が多いと指摘しています。これらの仕事は、コロナからわれわれを守ってはくれません。にもかかわらず、広告、金融、コンサルティングの仕事のほうが高収入です。看護や介護などのエッセンシャル・ワーカーにもっと高い賃金を払うなど、資本主義の枠内でも出来ることはあると思うのです。 ブレグマン 私が思うに、ひとくちに資本主義と言っても、「日本の資本主義」と「オランダの資本主義」は、大分違うと感じています。たとえば労働時間を見てみましょう。オランダでは週35時間労働です。一方で日本は、残業も含めると週60時間、70時間の労働も珍しくないようですね。日本人は明らかに働き過ぎです。まずは現行の資本主義の枠内でも、変えるべきことはあるのではないでしょうか。 (ヨーロッパ文芸フェスティバル2022 オープニング対談にて収録)』、「デヴィッド・グレーバーはとくに、広告、金融、コンサルティングなどに“クソどうでもいい仕事”が多いと指摘しています。これらの仕事は、コロナからわれわれを守ってはくれません。にもかかわらず、広告、金融、コンサルティングの仕事のほうが高収入です」、これはどうみても暴論に近い、何が“クソどうでもいい仕事”かは、そんなに簡単には決められない筈だ。
第三に、この続きを、3月13日付け文春オンラインが掲載した:「哲学者」の斎藤幸平氏と「歴史家」のルトガー・ブレグマン 特別対談 #2「「資本主義体制のまま、気候変動を解決できるか」と問われて…世界が注目する論客、ルトガー・ブレグマンの回答は?」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/61175
・暴走する資本主義にノーを突きつけ、『人新世の「資本論」』でマルクス主義を21世紀に復活させた斎藤幸平さん。危機意識を共有できる同世代として対話を重ねてきたのが、オランダ出身34歳の歴史家ルトガー・ブレグマンさんだ。 ブレグマンさんは、世界46カ国ベストセラー『Humankind 希望の歴史』で科学に裏付けられた“性善説“を提唱。世界が注目する気鋭の論者ふたりによる、来日特別対談!(全2回の2回目/最初から読む)』、興味深そうだ。
・『小さなグループが世界を変える ルトガー・ブレグマン(以下、ブレグマン) 「世界を変えるのは小さなグループだ」――これは文化人類学者マーガレット・ミードの言葉にありますし、過去の歴史からも明らかです。良い例でいうと、奴隷解放や女性の権利獲得運動が挙げられます。ともに最初は少数の人々によって始められて広まっていったんです。悪い例ですと、ナチスドイツです。ヒトラーとその周辺の人たちによって、“悪への道”が始まったのです。 いまの世界が直面している行き過ぎた資本主義や、気候変動問題をどう解決していくか。斎藤さんも、小さなグループが世界を変えると主張をなさっていますよね』、「小さなグループが世界を変える」、もう少し説明が必要だ。
・『日本の同調圧力の強さ 斎藤幸平(以下、斎藤) はい、政治学者エリカ・チェノウェスの研究にならって、3.5パーセントの人々が世界を変える、と主張しています。歴史を振り返ると、少数派の人たちが命を懸けたから、社会はよい方向に変わってきました。ただしその際には、多数派の人々が少数派の人々に対して、オープンなマインドを持つ必要があります。ヨーロッパでは、マイノリティの意見からも学ぼうという姿勢があるように感じます。一方で、日本では、なかなか当事者が声を上げても、マジョリティが耳を貸さないことが多い。 ブレグマン あくまで部外者としての私の意見ですが、日本の同調圧力が強いことも関係しているのではないでしょうか。たとえば法律で義務付けられていないにもかかわらず、人混みのない屋外でもマスクを着用し続ける。また、長時間労働も当たり前となっているようですね。しかし、「屋外でマスクをつける根拠はなかった」「週に70時間も働きたくないのは自分だけじゃなかった」とみなが気づけば、事態は急速に変化する気もしています。 革命が起きるときは、1人が2人、2人が4人にと一挙に増えるものです。斎藤さんの『人新世の「資本論」』は、50万部近く売れていると聞きました。しかも若い人たちに読まれているということに、日本における変革への大きな可能性を感じています』、「斎藤さんの『人新世の「資本論」』は、50万部近く売れている」、「日本における変革への大きな可能性を感じています」、大げさ過ぎる印象だ。
・『資本主義体制のまま、気候変動は解決できるか 斎藤 多くの日本人は、現在の経済システムに満足していません。でも他に選択肢はないと思っているから、現行システムを続けているのです。そして、人口問題や、労働環境、気候危機も解決できないと諦めてしまっている。 この状況を変えるために、『人新世の「資本論」』は、とにかく別の未来がありうるということを示すことを目指しました。でもそうしたことをやろうと思ったのも、資本主義への疑問、脱成長への共感が、欧州はじめ各国でも広まりつつあるのに触れたからです。 ブレグマンさんは脱成長についてどう考えますか? 資本主義体制のまま気候変動を解決できると思っていますか?』、どうなのだろう。
・『テクノロジーには可能性がある ブレグマン 脱成長についてはじつは私自身、矛盾した思いを抱いています。たとえば資本主義の象徴のひとつである広告について言うと、昔の公共空間には存在しなかった種類の広告は、なくてもよいかも知れません。公共空間(コモン)を取り戻そうという斎藤さんの考えには同感です。 ただし政治的なスローガンとして「脱成長」を掲げるのは、得策ではないかもしれません。「脱成長させますから、私に投票してください」と言うよりも、「成長させます」「豊かにさせます」と言った方が、人々からの支持が集まりますから。 また、ここは斎藤さんと意見が違うかも知れないの ですが、私自身はテクノロジーには可能性があると思います。太陽光や風力発電なども技術の進歩があり、安価に利用できるようなりました。家畜の牛を食べることは環境に悪いかも知れません。1キロの牛肉を得るために、25キロの飼料が必要です。そのため、健康によくて美味しくて安価な代用肉のイノベーションが必要とされているのです』、「テクノロジーには可能性がある」、「政治的なスローガンとして「脱成長」を掲げるのは、得策ではないかもしれません。「脱成長させますから、私に投票してください」と言うよりも、「成長させます」「豊かにさせます」と言った方が、人々からの支持が集まりますから」、なるほど。
・『間接民主主義は「じつは浅い考え」 斎藤 私も技術革新の必要性を否定しているわけではありません。けれども、技術がいくら発展しても、資本主義が大型化や計画的陳腐化を繰り返し、資源やエネルギーを浪費する限りで、環境危機を解決することができないのではないか。「成長しよう」「もっと豊かになろう」という人気取りを繰り返すことも、自分が次の選挙で勝つための無責任なスローガンだと、多くの人は気がつくようになっているのではないでしょうか。 この点と関連して、もう一つ聞きたいのですが、資本主義の危機と並んで、民主主義の危機も深刻な問題です。今、日本では、AIやアルゴリズムを使った「無意識民主主義」という議論が注目を集めています。民主主義というシステムについてはどう思われますか。 ブレグマン 政治家を選ぶために数年ごとに選挙する間接民主主義は、じつは浅い考えです。そもそも選挙は、簡単に操られてしまいますから。じつは古代ギリシャの民主主義は真逆でした。選挙は非民主主義的だと思われていたんです。そのため代表は、抽選によって選ばれていました。 間接民主主義を超えようとする試みは、現代でもあります。ラテンアメリカの一部の国では、市民が予算の使い方を決めるなど新しい試みを行い、うまくいっているそうです。市民を大人として扱えば大人として振る舞う、市民を無能として扱えば無能になるんです。だからこそ私は、ほとんどの人間は基本的に善であり、内なる力を秘めているという「新しい人間観」に基づいて社会設計をすべきと考えているんです。ちなみ にAIやアルゴリズムを使った資本主義や民主主義については、誰が設計するのか、という問題があります。 ) 斎藤 私の本でも、バルセロナのミュニシパリズム(地域自治主義)を紹介しています。スペインでは消費問題相が脱成長を唱えています。より厳しい気候変動の時代を生きることになる若い世代がこの動きをとくに支持しています。そう考えると、10年か15年後には政治勢力図も変わるかも知れません。 新しい経済の尺度も必要ですね。GDPだけではなく、環境への影響や人間の幸福度、社会の安全性などを測る尺度などです。たとえばGPI(世界平和度指数)を見ると、アメリカはナンバーワンではなく、ヨーロッパ諸国の方がランキングは高いのです。世界の見方を変える必要があります』、「民主主義の危機も深刻な問題です。今、日本では、AIやアルゴリズムを使った「無意識民主主義」という議論が注目を集めています。民主主義というシステムについてはどう思われますか。 ブレグマン 政治家を選ぶために数年ごとに選挙する間接民主主義は、じつは浅い考えです。そもそも選挙は、簡単に操られてしまいますから。じつは古代ギリシャの民主主義は真逆でした。選挙は非民主主義的だと思われていたんです。そのため代表は、抽選によって選ばれていました。 間接民主主義を超えようとする試みは、現代でもあります。ラテンアメリカの一部の国では、市民が予算の使い方を決めるなど新しい試みを行い、うまくいっているそうです」、「古代ギリシャの民主主義は真逆でした。選挙は非民主主義的だと思われていたんです。そのため代表は、抽選によって選ばれていました」、というのは興味深い。「バルセロナのミュニシパリズム(地域自治主義)を紹介しています。スペインでは消費問題相が脱成長を唱えています。より厳しい気候変動の時代を生きることになる若い世代がこの動きをとくに支持しています。そう考えると、10年か15年後には政治勢力図も変わるかも知れません」、なるほど。
・『高齢権力者が支配する日本の停滞 ブレグマン 歴史を見ると、大胆な変革には時間がかかることが多いです。奴隷制度の廃止には2世紀以上かかりました。米国での女性解放運動も1世紀かかりました。 これは一般論なのですが、ほとんどの人は30歳を過ぎると変化を好まなくなる傾向があります。日本は高齢権力者が支配している社会なので、とくに停滞しています。 けれども気候変動を回避するために残されている時間は短い。なので、つい悲観的になってしまいます。もしこのまま気温が2度、3度と上がったときに、科学者が示す未来予測は恐ろしいものです。多くの死者が出るかも知れませんし、エコシステムも壊されるでしょう。じつは私の住むオランダは、国土の一番低いところが海抜より7メートル低いんです。ですから地球温暖化への危機感も半端ではないのです。 斎藤 だからこそユートピア的な思想が必要ですね。戦争やパンデミックは、地球環境やわれわれの生活を悪化させてしまう。もし希望を捨てて受け身になれば、さらに悪いかたちの戦争、差別や暴力が生まれるのではないでしょうか。これらのバックラッシュに負けないように、民主主義を打ち立てないと。その意味で、今日ユートピア主義というのは現実主義なのです。 (ヨーロッパ文芸フェスティバル2022 オープニング対談にて収録)』、「私の住むオランダは、国土の一番低いところが海抜より7メートル低いんです。ですから地球温暖化への危機感も半端ではないのです」、「オランダ」の環境意識の高さには、国土の低さが影響しているとは初めて知った。「戦争やパンデミックは、地球環境やわれわれの生活を悪化させてしまう。もし希望を捨てて受け身になれば、さらに悪いかたちの戦争、差別や暴力が生まれるのではないでしょうか。これらのバックラッシュに負けないように、民主主義を打ち立てないと。その意味で、今日ユートピア主義というのは現実主義なのです」、「今日ユートピア主義というのは現実主義なのです」、逆説的だが、説得力がある。
タグ:資本主義 (その10)(岸田首相の“新しい資本主義”に「今更感」が強い理由 何が足りない?、世界の富を独占する「上位0.1%の超金持ち」は“善良”なのか? 哲学者・斎藤幸平が考える 資本主義の限界の克服法、「資本主義体制のまま 気候変動を解決できるか」と問われて…世界が注目する論客 ルトガー・ブレグマンの回答は?) ダイヤモンド・オンライン 上久保誠人氏による「岸田首相の“新しい資本主義”に「今更感」が強い理由、何が足りない?」 「第2次安倍政権の約8年弱の期間、グローバリゼーションによる厳しい競争にさらされた企業は内部留保をため込むばかりで、賃上げを行わなかった。また、一部の企業は年功序列の雇用慣行を廃し、終身雇用の正社員を減らして非正規雇用を増やすことでコストダウンを続けた」、「「同一労働同一賃金」の原則に基づく政策が打ち出された。 だが、政策の裏をかき、正社員の賃金を下げて非正規雇用に合わせることで同一賃金とする企業が少なくなかった。その結果、格差は縮まらず、賃金も一向に上がってこなかった」、その通りだ。 「今の日本は、米国の事例を他山の石としておらず、いまだにAIを「未熟練労働者の代替」だと位置付けている印象だ。かといって、米国のように国を挙げて工場の全面自動化を進めてきたわけでもなく、全てが中途半端である。 その要因はいくつか考えられる。一つは年功序列・終身雇用が今も根強く残り、非正規社員を切り捨ててでも正社員の雇用を守ろうとする企業が多いこと。もう一つは、1980年代に通商産業省(当時)主導で、欧米に先駆けて初期のAIを導入するプロジェクトを推進し、失敗した悪夢があることだ」、 「もし岸田首相が、新政策によってこうした状況を変えたいのであれば、単にAI関連の研究活動に投資するだけでは不十分だ。過去の失敗事例を踏まえて「AIの発展に伴う雇用面のデメリット」という視点を盛り込み、それに対する改善策を併せて議論すべきではないだろうか」、その通りである。 「岸田首相は、今年を「スタートアップ創出元年」とする意向だという。だが、「元年」だといっていること自体が、世界からすれば笑いもののレベルなのだ」、宏池会出身者とは思えないようなお粗末な経済知識だ。 多くの「日本企業が、「脱炭素事業戦略」が遅れていることを理由として、ダイベストメントされる事例が増えている。いまだに、石炭火力発電所を多く運用しているからだ。 加えて、日本は「再生可能エネルギー」への取り組みが遅れている」、みっともない限りだ。 「日本のエネルギー企業がダイベストメントされる一方で、海外大手はさらに先に進もうとしているのだ」、「岸田首相」はもっと危機感をもって打開策を立案すべきだ。 「そもそも欧米や中国などが何年も前に済ませていることを、「新しいことをやります」と胸を張ってアピールするような自民党や官僚組織の姿勢は、真摯(しんし)さも謙虚さも著しく欠いている。 岸田首相は“どや顔”で計画を発表するだけでなく、「なぜ、これまで長年にわたって有効な手を打てなかったのか」「今回の施策は、従来とどう違うのか」といったポイントが国民に伝わるよう、より詳細な説明を行うべきではないだろうか」、全く同感である。「岸田首相」にはもっと真摯に経済政策に向き合ってほしいものだ。 文春オンライン 斎藤幸平氏 ルトガー・ブレグマン 特別対談 #1「世界の富を独占する「上位0.1%の超金持ち」は“善良”なのか? 哲学者・斎藤幸平が考える、資本主義の限界の克服法」 『Humankind 希望の歴史」 「ほとんどの人間は本質的に善良である」、私は本当だろうかと、懐疑的だ。 「なぜ善良な人々が戦争するのかについては、仲間への共感、社会的な同調という観点からも説明が可能です」、ふーん。 「もともと人間は、映画「ダークナイト」のジョーカーのような、悪それ自体を楽しむような邪悪な存在ではありません。にもかかわらず、戦争や環境破壊などが起きてしまうのは、本当に悲劇的ですよね」、「悲劇的ですよね」で逃げて済む問題ではない。正面から捉えるべきだ。 「「SDGsは大衆のアヘンだ」と述べましたが、再生可能エネルギーに投資したり電気自動車を作ったりすれば環境によいことをしている、と私たちは安心しがちです。しかしやっていることは、今までと同じくお金儲けなのではないでしょうか」、「SDGsは大衆のアヘンだ」とは言い得て妙だ。 確かに「日本」には「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」がある。 「デヴィッド・グレーバーはとくに、広告、金融、コンサルティングなどに“クソどうでもいい仕事”が多いと指摘しています。これらの仕事は、コロナからわれわれを守ってはくれません。にもかかわらず、広告、金融、コンサルティングの仕事のほうが高収入です」、これはどうみても暴論に近い、何が“クソどうでもいい仕事”かは、そんなに簡単には決められない筈だ。 ルトガー・ブレグマン 特別対談 #2「「資本主義体制のまま、気候変動を解決できるか」と問われて…世界が注目する論客、ルトガー・ブレグマンの回答は?」 「小さなグループが世界を変える」、もう少し説明が必要だ。 「斎藤さんの『人新世の「資本論」』は、50万部近く売れている」、「日本における変革への大きな可能性を感じています」、大げさ過ぎる印象だ。 どうなのだろう。 「テクノロジーには可能性がある」、「政治的なスローガンとして「脱成長」を掲げるのは、得策ではないかもしれません。「脱成長させますから、私に投票してください」と言うよりも、「成長させます」「豊かにさせます」と言った方が、人々からの支持が集まりますから」、なるほど。 「民主主義の危機も深刻な問題です。今、日本では、AIやアルゴリズムを使った「無意識民主主義」という議論が注目を集めています。民主主義というシステムについてはどう思われますか。 ブレグマン 政治家を選ぶために数年ごとに選挙する間接民主主義は、じつは浅い考えです。そもそも選挙は、簡単に操られてしまいますから。じつは古代ギリシャの民主主義は真逆でした。選挙は非民主主義的だと思われていたんです。そのため代表は、抽選によって選ばれていました。 間接民主主義を超えようとする試みは、現代でもあります。ラテンアメリカの一部の国では、市民が予算の使い方を決めるなど新しい試みを行い、うまくいっているそうです」、「古代ギリシャの民主主義は真逆でした。選挙は非民主主義的だと思われていたんです。そのため代表は、抽選によって選ばれていました」、というのは興味深い。「バルセロナのミュニシパリズム(地域自治主義)を紹介しています。スペインでは消費問題相が脱成長を唱えています。 より厳しい気候変動の時代を生きることになる若い世代がこの動きをとくに支持しています。そう考えると、10年か15年後には政治勢力図も変わるかも知れません」、なるほど。 「私の住むオランダは、国土の一番低いところが海抜より7メートル低いんです。ですから地球温暖化への危機感も半端ではないのです」、「オランダ」の環境意識の高さには、国土の低さが影響しているとは初めて知った。 「戦争やパンデミックは、地球環境やわれわれの生活を悪化させてしまう。もし希望を捨てて受け身になれば、さらに悪いかたちの戦争、差別や暴力が生まれるのではないでしょうか。これらのバックラッシュに負けないように、民主主義を打ち立てないと。その意味で、今日ユートピア主義というのは現実主義なのです」、「今日ユートピア主義というのは現実主義なのです」、逆説的だが、説得力がある。