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日韓関係(その6)(姜尚中「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」、「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”、日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…) [外交]

日韓関係については、8月28日に取上げた。今日は、(その6)(姜尚中「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」、「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”、日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…)である。

先ずは、東大名誉教授の姜尚中が8月28日付けAERA.Dotに掲載した「「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2019082700039.html?page=1
・『政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします』、姜氏の見解とは興味深そうだ。
・『日韓関係は底が抜けたように悪化の一途を辿りつつあります。韓国大統領府は8月22日、関係閣僚らが出席する国家安全保障会議(NSC)を開いて日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延長の可否を議論し、協定を延長せず終了させることを決めました。これまで私はGSOMIAの破棄には反対の意を示してきたつもりですし、今も変わりはありません。 日韓が鍔迫(つばぜ)り合いを演じる間隙を縫うように、北朝鮮は立て続けに新型の短距離ミサイル開発に邁進し、貴重な実戦配備のためのデータを獲得しています。北朝鮮によるこの無謀な挑発をトランプ大統領は事実上、黙認しています。 金正恩(キムジョンウン)委員長と「ブロマンス」(「ブラザー」と「ロマンス」の掛け合わせ)の関係にあるらしいトランプ大統領が、米国本土を脅威に晒す大陸間弾道ミサイル(ICBM)以外のミサイルはどうでもいいと高を括っていて、これまで開発された核兵器のフリーズだけを条件に北朝鮮との交渉を進めようとしているのだとしたら、北朝鮮の核とミサイルという「ダモクレスの剣」のもとに常在、危機にさらされる日韓はたまったものではありません』、「ダモクレスの剣」とは、常に身に迫る一触即発の危険な状態をいう(コトバンク)。韓国はそれを危機と捉えてないような気もするが・・・。
・『しかも、トランプ大統領は、在日、在韓ともに駐留米軍経費の大幅な積み上げを要求し、経済的なコストの面から在日、在韓米軍の見直し検討を公言しています。そんなトランプ大統領に日韓が個別的な愛顧関係のさや当てを演じて、一体何の意味があるのでしょう。もはや同盟国に対する米国の寛容な外交・安保政策を期待することはできなくなっています。「ギブ・アンド・テイク」のビジネスライクな同盟関係へと移行せざるをえなくなっているのですから、米国をめぐる日韓の「求愛ゲーム」のバカバカしさに気づくべきでしょう。 たとえ日韓の間に親密な友好関係を築くことが難しいとしても、ビジネスライクな関係を結ぶことは可能ですし、その立場から安全保障上の脅威の削減に向けて協力し合うことはできるはずです。狭量なナショナリズムによる「パトリオット・ゲーム」にうつつを抜かしている余裕などないのです』、「米国をめぐる日韓の「求愛ゲーム」」とは言い得て妙だ。日韓とも冷静になってほしいものだ。

次に、8月30日付け文春オンライン「「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/13658
・『この夏、韓国の「反日」が止まらない。 これまでの徴用工、慰安婦などの歴史問題を飛び越えて、日本製品の不買運動など経済分野、さらには、GSOMIA破棄という安全保障分野にまで対日強硬策が拡大している。連日のように“暴挙”ともいうべき政策を繰り出す文在寅大統領、そして彼を支持する韓国社会は、いったい何を思っているのか――。 そんな「反日」に埋め尽くされた韓国で一人気を吐くのが、落星台経済研究所の李宇衍(イ・ウヨン)研究委員だ』、韓国“良識派”の見解とは興味深そうだ。
・『韓国“良識派”がクリアに分析  李氏は歴史学者で、いわゆる「徴用工」ら戦時中の朝鮮半島出身の労働者の労働状況などを研究。今年7月にはジュネーブの国連欧州本部で開かれたシンポジウムで、「賃金に民族差別はなかった」と発表したことでも話題となった。 この夏には共著で、韓国社会の反日主義を強く批判した『反日種族主義』(共著)を刊行し、韓国国内で異例のベストセラーとなっている。 韓国の“良識派”は、韓国という国をどのように見つめているのだろうか――。「週刊文春デジタル」では、李氏に単独インタビューを行った。 李氏はインタビューの中で、現在の文在寅政権について、「過去もっとも反日的な政権である上に、自分の政治的利益のために反日的な情緒や認識を利用しようとしている」と指摘。文大統領や周辺の歴史観を次のように説明した』、説明を見てみよう。
・『日本人が疑問に抱かずにはいられない「52の質問」  「もっとも重要な特徴が『大韓民国は生まれてはいけない国だった』と考えていることです。つまり、本来は社会主義の人と手を握って、『統一祖国』を建国しなければいけなかったのに、親日派と手を握ってしまったがために、南と北に国が分かれてしまったという考えです。ですから、その分断の責任がある『親日派』は清算しなくてはいけないという訳です」 そのほか、文在寅大統領の“頭の中身”、北朝鮮にミサイルを撃たれ続ける韓国人の気持ち、朝日新聞などメディアの影響、ベストセラーで訴えた「反日種族主義」とは何か……など、日本人が疑問に抱かずにはいられない「52の質問」について、わかりやすく答えてくれた。約1万4000字にわたる全回答は「週刊文春デジタル」で公開している。 以下に、主な回答を紹介したい』、「『大韓民国は生まれてはいけない国だった』と考えている」、言われてみれば、なるほどと納得した。
・『こじれた理由は、過去もっとも反日的な政権だから(【Q】は質問、【A】は回答)  【Q】日韓関係が緊迫しています。2018年10月に大法院(韓国の最高裁判所)が元徴用工に対しての賠償を命じる判決を下したことなどが契機となり、日本は韓国を「ホワイト国」リストから除外するなど輸出管理規制の強化を打ち出し、それに対抗して韓国が軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄する事態にまで発展しました。これまでも日韓関係が悪化することがありましたが、今回はなぜここまでこじれたのでしょうか。 【A】今回の事態は、これまでと違うと思います。文在寅政権が過去もっとも反日的な政権である上に、自分の政治的利益のために反日的な情緒や認識を利用しようとしている政権です。一方の日本では、安倍政権が「韓国の勝手な言動はこれ以上許さない」という強い立場をとっている。この両極端に位置する政権同士が向かい合っているので、ここまでこじれたのだと思います』、「両極端に位置する政権同士が向かい合っているので、ここまでこじれた」、というのはその通りだろう。
・『「統一祖国」建国のために「親日派」は清算する  【Q】文大統領は、なぜ日本に対して厳しい態度を取り続けるのか。どういう人物だと考えていますか。 【A】彼はまさに「左派の歴史観」を持った人物だと考えています。左派の歴史観において、もっとも重要な特徴が「大韓民国は生まれてはいけない国だった」と考えていることです。 つまり、本来は社会主義の人と手を握って、「統一祖国」を建国しなければいけなかったのに、親日派と手を握ってしまったがために、南と北に国が分かれてしまったという考えです。ですから、その分断の責任がある「親日派」は清算しなくてはいけないという訳です』、従来は「左派」といっても、そこまで極端ではなかったような気もするので、「極左」といえるのかも知れない。
・『文大統領は“永遠の学生運動家”  【Q】文大統領の周辺には「革命家」「左派」が多いというのは本当ですか。 【A】本当です。文政権には、「転向していない革命家」や「左派」が、たくさんいることは常識だと思います。 私は、86学番(1986年に大学入学。反米・親北の学生運動が激しかった世代)の学生ですが、同世代でも国会議員や、青瓦台(韓国大統領府)に近い仕事をしている人がたくさんいます。中でも、文政権の周辺にいるのは、「(学生時代に北朝鮮の主体思想などを信奉して、資本主義に)まだ転向していない学生運動家」ですね』、「“永遠の学生運動家”」とは上手い表現だ。
・『日本は「絶対悪」、韓国は「絶対善」  【Q】李先生らが書いた『反日種族主義』が韓国でベストセラーになっています。現在の韓国社会を支配している「反日」主義を、李先生は「反日種族主義」と定義していますが、どういったものですか。 【A】私は、以前まで韓国社会を覆う「反日」主義を「反日民族主義」と呼んでいました。しかし、今では近代的な性格を持つ「民族主義」ではなく、前近代的な「種族主義」だと位置づけました。 前近代的というのには、3つの理由があります。 1つ目は「観念的な性格」です。いまの韓国社会は、客観的な現実に基づかず、思い込みのレベルで「日本は絶対悪」という一つの総体を作っています。つまり、日本政府や個人、または日本社会が倫理的もしくは政治的に悪い点があるという具体的な話ではなく、観念的に「ただ一つの絶対悪」として日本が存在している。一方で韓国は「絶対善」です。絶対善の韓国は、絶対悪の日本に何をしても良くて、いつまでもその問題を提起して良いと思っているのです。 2つ目の理由は「非科学的な性格」。いまの韓国社会が客観的な事実でないことを主張し、受け入れていることです。例えば、韓国の慰安婦問題の支援者らが言うような、20万人の少女を連行して慰安婦としたというような一連の主張です。合理的、理性的な思考ができず、極めて感情的になっています。 3つ目は「歪んで偏った現実認識」です。韓国社会は、日本については“下”と考える一方、中国や米国に対しては迎合する。その極めて事大主義的な態度によって、国としてバランス感覚を喪失している点です。 これら前近代的な考え方のもとに、実体のない「悪魔としての日本」がイメージとして膨れ上がっている。そのイメージが、反日政策を進める原動力になっています』、「観念的に「ただ一つの絶対悪」として日本が存在している。一方で韓国は「絶対善」です。絶対善の韓国は、絶対悪の日本に何をしても良くて、いつまでもその問題を提起して良いと思っている」、最近の韓国の姿勢から見て、その通りなのだろう。
・『「同じ民族はミサイルを撃ってこないという根拠のない自信を持っています」  【Q】北朝鮮にミサイルを撃たれ続けている韓国人の気持ちはどういうものですか。 【A】「反日種族主義」の中にある韓国社会は、同じ民族である北朝鮮は我々をミサイルや核で攻撃しないだろうという、根拠のない自信を持っています。ですから、近年、北朝鮮がどんなにミサイルを撃っていても、国民の関心は反日活動に向けられます。ですから、北朝鮮がミサイルを東海(日本海)に10発撃つよりも、芸能人がアサヒビールを買って飲んでいる姿が新聞に出る方が、より大きな社会的反発を起こすでしょう』、「根拠のない自信」を一般の国民までが持っているとは信じ難い。
・『約束を破っても「罪悪感は持ちません」  【Q】韓国国民には、1965年の請求権協定という「約束」を守らないことに対する罪悪感や、「何かおかしい」という疑問の気持ちは出てこないのでしょうか。 【A】そんな疑問や罪悪感は持ちません。なぜならば繰り返しになりますが、「反日種族主義」の中では、日本に対しては何をしてもいいのです。「日本には、じゃんけんも勝たなければならない」とまで言います(笑)。日本との条約という約束を覆すことに罪悪感は当然なく、疑問を持つこともないのです』、こんなことでは、話し合いなど無駄なようだ。
・『朝日新聞は韓国に「多分に温情主義的」  【Q】慰安婦、徴用工などの歴史認識問題は、これまでの日本のマスメディアの報じ方に問題があるという指摘もあります。 【A】いわゆる“良識的”知識人らの問題と全く同じだと思います。朝日新聞をはじめ日本のメディアは、韓国に多分に温情主義的です。「そんなこと必要ない」と申し上げたいです・・・』、「日本のメディアは、韓国に多分に温情主義的です。「そんなこと必要ない」と申し上げたいです」、これには違和感がある。全てのメディアが韓国に厳しいい報道をすれば、日本国民の反韓国感情を煽ることになり、長期的な両国関係にはマイナスになるだけだと思う。

第三に、元外務省職員で作家の佐藤 優氏がラジオ番組で対談した内容を9月8日付け現代ビジネスが転載した「日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…」」を紹介しよう。※本記事は『佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」』に収録している文化放送「くにまるジャパン極」の放送内容(2019年8月30日)の一部抜粋です。野村邦丸氏は番組パーソナリティです』、佐藤氏の鋭い切り口が楽しみだ。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67024
・『文在寅政権の間は、難しい  邦丸:日米韓で軍事の機密情報を共有しましょう、というGSOMIAの枠組みから、韓国は「一抜けた」ということになって、日本はもちろん、アメリカ政府高官が「非常に失望した」とか「無責任だ」とずいぶん非難している。それに今度は韓国側が非難の応酬をしている。 佐藤:韓国は自分から、どんどん袋小路に入っているわけですよね。ただ、ここで重要なのは、ちょっと想定外のことが韓国国内で出てきた。文在寅(ムンジェイン)大統領の側近の不正入試疑惑です。 邦丸:はいはい。 佐藤:日本においても不正入試は深刻ですが、韓国は桁違い。不正入試と兵役拒否は、韓国世論を刺激するんです。極端な形だと、これからデモとか起きてきて、対処方針をうまくとらないと文在寅政権が倒れるかもしれない。 邦丸:ふむ。 佐藤:内政的にそれぐらいの緊張をはらんでいます。ということは、文在寅政権はGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の問題で少しナショナリズムを煽って政権基盤を固めようとしていたわけですが、効果がなくなっているんですよ。すると、もう譲歩できない。 大統領がこういう状態だと外務大臣以下、外交当局はなんの妥協もできないので、機械的に自分たちのスタンスを繰り返すだけ……と、こういうふうになっていますよね。 ですから「文在寅政権の間は、日韓関係の改善はない」と日本は腹を括って、とにかく軍事的な衝突だけは起きないようにする。経済的にも関係がそうとう悪くなってきています。特に観光客は極端に減っていますよね。日本の地方経済をかなり疲弊させることになるけれども、韓国との付き合いにはそういうリスクがあるんだ、と思って付き合うしかないですね』、「日本においても不正入試は深刻ですが、韓国は桁違い。不正入試と兵役拒否は、韓国世論を刺激するんです」、これからの捜査の進展が楽しみだ。
・『邦丸:そこでもう一つ、佐藤さんが指摘されているのが、韓国がこのGSOMIAを破棄することを決めたのが8月22日。日本政府に韓国政府が通告したのが翌23日。そしてさらに翌24日の朝、北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射しました。まあ、北朝鮮はよく実験というか、テストをやっているし、アメリカとしても「ああ、あれは大陸間弾道ミサイルじゃないから大丈夫だよ」というふうにトランプさんが言っている。 佐藤:ただ、これは単なる弾道ミサイルじゃなくて誘導装置が付いているので、弾道計算ができない、けっこう面倒くさいやつかもしれません。 ミサイル発射のスケジュール自体は、北朝鮮は前々から決めていて、22日に韓国が決定したから24日にあわてて、ということじゃないと思います。 ただし、あのときに韓国の軍が発射を発表するよりも、日本が発表するほうが確か26分早かった。韓国は今まで、中長距離ミサイルに関しては日本のイージス艦の能力が高いから頼るけども、短距離ミサイルなら韓国が絶対に強い。最近は北朝鮮も短距離しか撃たないから、GSOMIAを破棄したら日本が困るんだ……と、こういうふうに思っていたわけですね。でも、その思惑が外れた。 邦丸:ふむ。 佐藤:26分の時間差というのは、たとえば学力でいうと、小学校高学年と大学生の差ですよ。日本と韓国のミサイルを察知する能力というのは、これは大人と子どもの差だということがはっきりしちゃったんです。 邦丸:どっちが大人なんですか。 佐藤:もちろん、日本です。 邦丸:日本のほうがミサイルを探知する技術においては大学生並み、韓国はまだ小学生並み。 佐藤:そう。それぐらいです』、「日本と韓国のミサイルを察知する能力というのは、これは大人と子どもの差」、事実であれば頼もしい話だ。
・『韓国に国力で追いつかれると…  邦丸:ただ、こういうことをなるべく内緒にしておこうね、というのが今までだったんじゃないですか。 佐藤:もう信頼関係が崩れちゃっているから、この条約自体がもう機能していなかったんです。となると、どっちが先に撃つか──こういうゲームになっていたんですね。 日本はそこのところで韓国に撃たせる方向で、アメリカに向けてアピールしたわけですよ。韓国や日本の国内向けではなくて。アメリカもそれに乘ってきて、「韓国けしからん」となった。だから今回は日本外交の勝利というか、大勝利で、短期的にはうまくいき過ぎているぐらいなんですね。 ただ中長期的には、やはりまずいんですよ。 というのは、1965年の日韓基本条約の締結時点で、韓国の1人当たりGDPは100ドル強ぐらいだったんです。日本はその7倍。2018年時点で韓国が3万1000ドル、日本が3万9000ドル。近づいてきている。 つまり韓国の要求は──徴用工問題も、韓国に国力がついてきたから、今の国力に合わせた形でもう一回仕切り直しをしろ、ということなんですね。しかも、日本はそれに応じざるを得なくなるんです。 邦丸:なぜ? 佐藤:日朝国交正常化がいずれ起きる。これはトランプさんが北朝鮮との関係を調整するでしょ。米朝が国交正常化したら、日朝も国交正常化する。そうなると、日韓基本条約の改定問題が出てくるんです。 邦丸:順番からすると、来年のトランプさん再選というのが条件になると思うんですけど、トランプ政権が続いた場合、大統領選挙が終わった後ぐらいに米朝交渉が進んで、そこで国交樹立ということになる。 佐藤:朝鮮戦争が終わる。 邦丸:休戦状態から終戦になる。 佐藤:はい。それで、38度線の脅威がなくなる。アメリカと北朝鮮が外交関係を持つ。そうした条件が整うと、日本も北朝鮮と外交関係を持つということになってくるわけですよね。 邦丸:東京に北朝鮮の大使館ができる可能性もある。 佐藤:たぶん、朝鮮総連の本部が看板を掛け換えて「朝鮮民主主義人民共和国大使館」になると思います。 邦丸:はあ~』、「1人当たりGDP」が「2018年時点で韓国が3万1000ドル、日本が3万9000ドル」、ここまで近づいているとは改めて驚かされた。「米朝が国交正常化したら、日朝も国交正常化する。そうなると、日韓基本条約の改定問題が出てくるんです」、「文在寅政権」との交渉は出来れば避けたいものだ。
・『北朝鮮からの「莫大な賠償請求」  佐藤:そうなった場合、日韓基本条約の改定問題が出てくるんです。どうしてかというと、日韓基本条約で「大韓民国は朝鮮半島における唯一の合法政府である」という規定があるんです。もし、北朝鮮と日本が外交関係を樹立したら、韓国だけが唯一の合法政府とは言えないですよね。 邦丸:二つになるわけですね。 佐藤:そうです。だから、条約の根幹部分が変わっちゃう。改定しなきゃならないんですよ。 邦丸:あともう一つ言われるのが、もし日朝が国交樹立したときには当然、北朝鮮側としては第二次大戦のころの韓国が要求したのと同じような賠償請求をしてくる。 佐藤:第二次世界大戦だけじゃなくて、日韓併合以降の全体の賠償請求を当然してきます。ただ、賠償という形ではなく「経済協力」と言ってくるでしょうね。 邦丸:莫大なカネが北朝鮮にいく……。 佐藤:兆単位になる可能性もあります。でも、それはほとんど「タイド」になると思う。ひも付き、です。 邦丸:ひも付き。 佐藤:アンタイドで一般競争入札をするんじゃなくて、プロジェクトを決めて日本の企業をつけていく、こういう感じになるんじゃないかと思う。そうするとある意味、これは国内の産業振興政策とあまり変わらないですよね。 邦丸:なるほどね。 佐藤:だから、大きなおカネをつくっても、日本企業は儲かるし、日本から技術指導ができますから雇用の創出にもなる。今、そういった大義名分をかざす形で公共事業におカネを出せないですからね。対北朝鮮公共事業という大きい公共事業ができると思うんです。 邦丸:なるほど』、「日韓基本条約で「大韓民国は朝鮮半島における唯一の合法政府である」という規定があるんです」、というのでは、北朝鮮と日本が外交関係を樹立するには、改定の必要があるというのは初めて知った。北朝鮮側の賠償請求が、「兆単位」で「ひも付き」になるとすれば、新に大きな利権が発生することになりそうだ。、
・『日韓関係は「仕切り直し」になる  佐藤:しかし、そうすると韓国としては「オレたち、ちょっと安い値段で日本と話つけちゃったんじゃないの?」と、こういう感じになる。そうすると、全体を包括したところで、もう本当に最終的に不可逆的な合意を、新日韓基本条約に書き込んじゃえばいいわけですよね。そこで日韓関係を全部仕切り直すことになる。 邦丸:一回リセットしましょうと。 佐藤:しかし、そのときのリセットにおいて、日本はかなり譲歩することになりますよ。理由は簡単。外交の世界というのは、力と力の均衡なんです。 かつて1人当たりのGDPで韓国が日本の7分の1だったときは、人口を考えると十数倍離れているわけです。それが今は2・5倍くらいまで追いついてきている(注:GDP総額で)。そういう状況で、やはり昔のままにはできないですよね。だから日本は、中長期的には韓国に対して譲歩しなければならない、こういう状況に置かれちゃっているんですよ。 邦丸:ということは徴用工問題も、それから慰安婦問題にしても、もう一度歴史的な見直しを一緒にやらないか、ということになっていくんですか。 佐藤:そういう方向に追い込まれる可能性は十分あります。国際的な圧力もかかってきますから。特に、米朝関係が改善することによって、中国が韓国の後ろ盾になって中国・北朝鮮・韓国の三ヵ国連合になってきますからね。 邦丸:でも、そこはアメリカとしてもなんとかクサビを打ちたいところですよね。 佐藤:クサビを打ちたいと思っても、中国の国力が大きくなっているでしょ。アメリカは、貿易とかアメリカ自身のやっている問題で中国と対峙するのが精いっぱい。日韓の歴史認識問題なんて関与する余裕がないし、しかも第二次世界大戦の歴史認識ということになると、アメリカと中国と韓国と北朝鮮は同じ陣営ですから、日本にとってぜんぜん調子よくない。 邦丸:うーむ』、「新日韓基本条約」では、「中国が韓国の後ろ盾になって中国・北朝鮮・韓国の三ヵ国連合になってきます」、日本にとってはかつてないほどの窮地に追い込まれそうだ。
・『エリート教育が日本の急務  佐藤:だから今、日本は短期では大勝利なんですね。でも中長期的には、かなりの試練が待っていて、われわれは譲歩を迫られる。こういう二重の構造ですね。これは新聞を読んでいてもなかなか見えないですが、重要なところです。 邦丸:見誤らないように。 佐藤:そういうことです。それからあともう一つ重要なのは、韓国がこれだけ国力をつけてきたでしょ。韓国にはさまざまな問題があるんですが、それはやはり「教育」ですよ。 金惠京(キムヘギョン)さんの話を聞いても、彼女の『涙と花札』を読んでもわかるように、日本の子どもたちも一生懸命勉強しますけども、韓国の子どもたちはその比じゃないですよね。企業に入ってから、官庁に入ってからの競争も比べ物にならない。 経済もそうですよね。財閥を伸ばす。それでパイを広げていく。格差が広がっても構わないんだ、というやり方だと伸びるんですよ。このままだと、一人当たりのGDPで韓国に日本は抜かれる可能性すらある。向こうは人口が半分ですからね。 そういうことを考えると、韓国との関係でも中国との関係でも、これからわれわれが軽く見られないようにするためには、教育の強化なんですよ。基礎体力を強化して、今の若い人たちに頑張ってもらって、20年後ぐらいに再び中国や韓国を引き離すことができる基礎体力をどれだけ作れるか。だから私は、中長期的な戦略がすごく重要になってくると思います。 邦丸:昨日(政治アナリストの)伊藤惇夫さんも、これからの日本の将来を見据えたときに、いわゆるエリート層を養成するような学校とか組織とか体制が必要になってくるんじゃないか、と言っていました。 佐藤:金持ちを引きずりおろしても、みんなが金持ちになるわけではない。でも、エリート層が北方領土に行って酔っ払って暴れているようじゃ困るわけです。 成績がいいだけのエリートではなくて、ノブレスオブリージュ、すなわちノーブルな者、高貴な者、社会的な責任をまっとうするエリートを育てる。自分がおカネを稼いだら、そのおカネは社会に還元する。自分の能力をきちんと社会と国家のために還元する、そういう人をつくるエリート教育です。 日本は、学力のエリート教育は十分できています。むしろ問題は、ものの見方や考え方、価値観のエリート教育がないところですよね』、将来の打開策に「エリート教育」を上げるのは余りに安易で、違和感がある。今回の問題にも間に合わない。この部分は無視して、それまでの危機的状況だけを参考にしたい。 
タグ:第二次世界大戦の歴史認識ということになると、アメリカと中国と韓国と北朝鮮は同じ陣営ですから、日本にとってぜんぜん調子よくない AERA.dot 中国が韓国の後ろ盾になって中国・北朝鮮・韓国の三ヵ国連合になってきます もっとも重要な特徴が『大韓民国は生まれてはいけない国だった』と考えていることです。つまり、本来は社会主義の人と手を握って、『統一祖国』を建国しなければいけなかったのに、親日派と手を握ってしまったがために、南と北に国が分かれてしまったという考えです 日韓関係は「仕切り直し」になる 対北朝鮮公共事業という大きい公共事業ができると思うんです 韓国“良識派”がクリアに分析 それはほとんど「タイド」になる 兆単位になる可能性も 賠償という形ではなく「経済協力」と言ってくる 日韓基本条約で「大韓民国は朝鮮半島における唯一の合法政府である」という規定があるんです。もし、北朝鮮と日本が外交関係を樹立したら、韓国だけが唯一の合法政府とは言えないですよね 北朝鮮からの「莫大な賠償請求」 トランプ政権が続いた場合、大統領選挙が終わった後ぐらいに米朝交渉が進んで、そこで国交樹立ということになる 韓国の要求は──徴用工問題も、韓国に国力がついてきたから、今の国力に合わせた形でもう一回仕切り直しをしろ 1965年の日韓基本条約の締結時点で、韓国の1人当たりGDPは100ドル強ぐらいだったんです。日本はその7倍。2018年時点で韓国が3万1000ドル、日本が3万9000ドル。近づいてきている 1人当たりGDP 韓国に国力で追いつかれると… 日本と韓国のミサイルを察知する能力というのは、これは大人と子どもの差だということがはっきりしちゃった 「文在寅政権の間は、日韓関係の改善はない」と日本は腹を括って、とにかく軍事的な衝突だけは起きないようにする 日本においても不正入試は深刻ですが、韓国は桁違い。不正入試と兵役拒否は、韓国世論を刺激するんです 文在寅政権の間は、難しい 「くにまるジャパン極」の放送内容 「日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…」」 現代ビジネス 佐藤 優 約束を破っても「罪悪感は持ちません」 同じ民族はミサイルを撃ってこないという根拠のない自信を持っています 「歪んで偏った現実認識」 姜尚中 いまの韓国社会が客観的な事実でないことを主張し、受け入れている 日本は「絶対悪」、韓国は「絶対善」 文大統領は“永遠の学生運動家” 本来は社会主義の人と手を握って、「統一祖国」を建国しなければいけなかったのに、親日派と手を握ってしまったがために、南と北に国が分かれてしまったという考えです 日韓関係 現在の文在寅政権について、「過去もっとも反日的な政権である上に、自分の政治的利益のために反日的な情緒や認識を利用しようとしている」 日本人が疑問に抱かずにはいられない「52の質問」 「左派の歴史観」 この夏、韓国の「反日」が止まらない 「「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”」 文春オンライン 落星台経済研究所の李宇衍(イ・ウヨン)研究委員 こじれた理由は、過去もっとも反日的な政権だから 「ギブ・アンド・テイク」のビジネスライクな同盟関係へと移行せざるをえなくなっているのですから、米国をめぐる日韓の「求愛ゲーム」のバカバカしさに気づくべきでしょう 「「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」」 (その6)(姜尚中「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」、「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”、日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…)
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安倍外交(その6)(安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな、「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃、中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価、日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」) [外交]

安倍外交については、2月24日に取上げた。今日は、(その6)(安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな、「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃、中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価、日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」)である。

先ずは、慶応義塾大学経済学部教授の金子勝氏が5月29日付け日刊ゲンダイに掲載した「安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/254848
・『北朝鮮問題を巡り、“蚊帳の外”の安倍首相が焦って日朝首脳会談の「無条件実施」を表明したが、米朝会談の物別れを受けて安倍が“橋渡し役”を果たすとするNHKの岩田明子解説委員の“フェイク解説”には驚いた。 そもそも、Jアラートを鳴らしまくり、断交を叫んでおいて、前提条件なしで会うと言ったところで会談できるはずがない。しかも、「前提条件なし」は北方領土返還交渉を巡る対ロ外交の失敗で実証済みだ。日本のメディアは2島返還が実現するかのように煽ってきたが、全くのウソだった。 米中貿易バトルと日米通商協議を巡る報道もフェイクだらけ。ファーウェイを干上がらせれば米国の完全勝利で、日本は米国の尻馬に乗っていれば万事うまくいくかのように報じられている。コンピューターの先端分野のクラウド事業ではアマゾン、グーグル、マイクロソフトなどの米事業者が強いが、中国ではアリババが強い』、「NHKの岩田明子解説委員」は安倍首相の「お気に入り」なので、平然と“フェイク解説”が出来るのだろう。
・『次世代通信規格の5Gで最も特許を取得しているのはファーウェイなど中国企業で、スウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアを合わせると全体の半数超え。アジアやアフリカでは次々に通信網が敷かれ、中国の政治的、経済的影響力は圧倒的だ。 こうした状況に慌てたトランプ政権は大統領令まで発してファーウェイ排除に動いているが、国家レベルで同調しているのは日本と豪州くらい。このままでは、世界が米国圏と中国圏に分断されかねない。一方のファーウェイは、傘下のハイシリコンから半導体供給を増やし、自前調達で対抗する戦略だ。 このような状況では、米国追従で漁夫の利が得られることはない。日本経済は半導体や電子部品などの対中輸出で支えられてきたが、米中バトルの影響で大きく減少に転じ、先端技術の開発もできずに青息吐息。他方で、北米への自動車輸出でしのぐが、トランプの格好の標的とされている』、「ファーウェイ排除」では、確かに「米国追従で漁夫の利が得られることはない」、というのはその通りだろう。
・『トランプを「令和初の国賓」として招いたが、参院選前までに日米FTA交渉のひどい内容がばれるのは避けたい。そこでゴルフだ、相撲観戦だと、ご機嫌取りの接待漬けにする。しかし、こんな「おもてなし」が通用するわけもなく、間もなく馬脚を現すだろう。 安倍の外交無力によって、日本は輸出先まで失いつつある。現実をしっかり注視しないと、メディアに騙される』、本当は「外交無力」なのに、「外交の安倍」とゴマを擦る一部マスコミの姿勢も問題だ。

次に、6月14日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元駐イラン大使孫崎享氏へのインタビュー「「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/061400059/
・『イラン沖のホルムズ海峡で6月13日、日本企業が運航するタンカーが攻撃を受けた。日本企業が絡むこともさることながら、安倍首相がハメネイ師と会談するタイミングをとらえて起きた出来事に衝撃が走った。この事態から浮かび上がるメッセージは何か。駐イラン大使を務めた経験を持つ孫崎享氏に聞いた。 Q:孫崎さんは今回の件をどう見ていますか。 孫崎:安倍晋三首相による仲介外交が機能しなかったことを示していると思います。 今回のタンカーへの攻撃が本当にイランによるものかどうかは分かりません。しかし、同様の事態が頻発している事態を見ると、イランにつながる勢力による可能性が高いと思います。現在のイランは穏健派よりも保守強硬派が力を持っている。強硬派が米国に譲歩しない意思を示すために実行したと見ることができます。 安倍首相がイランを訪問し、ロウハニ大統領や最高指導者のハメネイ師と会談しても、強硬派の動きをとどめることはできなかったわけです。 安倍首相が仲介役を果たすつもりなら、トランプ大統領が訪日し、会談した際に、イラン核合意に復帰するよう説得すべきでした。緊張が高まった発端は、米国が2018年5月に同合意から離脱したことですから。しかし、安倍首相とトランプ大統領がイラン核合意復帰をテーマに話し合ったとの報道はありませんでした。 安倍首相と会談した後、ハメネイ師は想像以上に強硬な発言をしました。「トランプ氏を、メッセージを交換するに値する人物とみなしていない」と語り、米国との対話を拒否しました。この発言からも安倍首相のイラン訪問が成果を上げなかったことが分かるでしょう』、イラン側は安倍・トランプ会談に期待していたのに、裏切られたので、「ハメネイ師は想像以上に強硬な発言をしました」となったのかも知れない。
・『Q:今回の攻撃が、イランにつながる勢力だったとして、安倍首相がイランを訪問しているタイミングで、日本企業が運航するタンカーを狙ったことは何を示すでしょう。比較的良好な日本との関係を壊すことになれば、イラン強硬派にとっても好ましい話ではないのでは。 孫崎:私は、日本企業が運航する船であったのは「たまたま」だと見ています。攻撃された船はパナマ籍で、日の丸を掲げていたわけではないでしょう』、イラン側もタンカーが便宜置籍船であることは百も承知で、実質的な所有主の国籍も調べ上げている可能性もあるのではなかろうか。
・『偽装工作の可能性は低い  Q:米国のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)ら対イラン強硬派が、事態をかく乱するため偽装工作を行った、という陰謀論的な見方があります。 孫崎:私はその可能性は低いと思います。ホルムズ海峡を航行する船舶が5月に最初に攻撃されたとき、私も陰謀論が頭に浮かびました。しかし、同様の事態が頻発しているのを考え合わせると、陰謀論は難しいと思います。暴露する可能性が高くなるようなことをするのは考えづらいですから。 Q:米国ではなく、サウジアラビアなどの反イラン勢力が偽装に手を染めるケースは考えられますか。 孫崎:そちらもないでしょう。理由は米国のケースと同様です。 Q:2015年に成立した安保法制が議論されていた際、ホルムズ海峡が封鎖されるケースが議論の俎上に乗りました。今後、そうした事態が起こる可能性はあるでしょうか。 孫崎:イランが1カ月に1回、一時的に封鎖する、といったことはあるかもしれません。しかし、継続的に行うことはないと思います。イランが取る行動は、警告的なものにとどまると考えています』、米国は「ホルムズ海峡を航行する船舶」護衛のため、有志連合の結成を呼び掛けたが、参加を表明したのはオーストラリアや英国程度で、日本は逡巡しているようだ。

第三に、産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授の古森 義久氏が6月19日付けJBPress:に掲載した「中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56758
・『「中東和平への新参者が苦痛の教訓を得た」──米国の大手紙ウォール・ストリート・ジャーナルが安倍晋三首相の6月中旬のイラン訪問をこのように厳しく批判した。 安倍首相はイランを訪問し、米国・イランの紛争の調停を試みた。米国ではトランプ政権からの否定的な反応こそないが、メディアや専門家からは、安倍首相の調停工作が何も事態を改善せず、かえって日本企業が運航するタンカーが攻撃を受けたことへの冷ややかな評価が出ている。日本の戦後外交の特徴だった「架け橋外交」の限界が期せずして露呈したともいえそうである』、「中東和平への新参者が苦痛の教訓を得た」との米紙の批判は言い得て妙だ。
・『安倍首相の訪問中にタンカー攻撃  安倍首相は6月12日から14日までイランを訪問し、ロウハニ大統領や国家最高指導者のハメネイ師と会談した。イランと米国の険しい対立を緩和し、両国の歩み寄りを促す、という趣旨のイラン訪問だった。だが、こうした目的は現状ではなにも果たされなかったようにみえる。 イラン側は米国との話し合いを拒み、むしろトランプ政権への非難を強めた。そしてなによりも、安倍首相の訪問中に日本企業が運航するタンカーが攻撃を受け、炎上した。 米国政府はイギリス政府とともに、攻撃を行ったのはイランの革命防衛隊だとして、その証拠となるビデオ数点を公表した。一方、イラン側は攻撃の責任を全面的に否定する。だがこの種の見解の対立では過去の事例を見る限り米国や英国の政府の主張のほうが正しい場合が多い。 トランプ政権のポンペオ国務長官は、このタンカー攻撃を疑いなくイラン側の犯行だと断定して、「日本の安倍首相が来訪中にあえて日本のタンカーを攻撃することは、安倍首相や日本への侮辱だ」とまで述べた』、「ポンペオ国務長官」もイラン側が「日本のタンカー」と認識して攻撃したとの立場のようだ。
・『「中東和平への新参者」が得た教訓  こうした動きのなか、6月14日にウォール・ストリート・ジャーナルは以下のような趣旨の記事を掲載した。
 ・安倍首相はイランへの旅の後、米国・イラン紛争が旅の前よりもさらに激しくなるという事態に直面した。イランは米国に対する姿勢をさらに硬化させ、しかも安倍首相の訪問期間中に日本籍のタンカーが攻撃され、大打撃をこうむったからだ。
 ・安倍首相はトランプ大統領の同意を得て、日本の歴代政治指導者が避けてきた中東紛争の緊張緩和工作という領域に足を踏み入れた。安倍氏の動きには、外交面での成果をあげて、来るべき国内の議会選挙で有利な結果を生もうという意図も伺えた
 ・ポンペオ国務長官は「イランは安倍首相の外交努力を完全に拒み、さらに日本籍のタンカーを攻撃することで、安倍首相を侮辱した」と今回の安倍首相のイラン訪問を総括した。
 ・安倍首相はあくまで中立の調停者として振舞ったが、イラン側のメディアは、安倍首相とトランプ大統領の親密な関係や日本の米国との軍事同盟について詳しく報道し、安倍首相は結局米国側に立っているのだという構図を強調した。
 安倍首相のイラン訪問は日本の現職首相として41年ぶりだったが、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事は以上のように述べ、イラン訪問が何の成果も生み出さなかった現実を伝えた。記事には「中東和平への新参者が苦痛な教訓を得た」という見出しがつけられていた』、日本のマスコミの安倍首相に「忖度」した報道とは対照的に鋭く、批判的だ。
・『日本の「架け橋外交」の決定的な弱み  ニューヨーク・タイムズも6月12日の記事で安倍首相のイラン訪問を詳しく報じたが、米国・イランの調停の試みへの評価はやはり厳しい。同記事は、日本の政治や外交に詳しい米国人学者、トビアス・ハリス氏の「軍事という要因にまったく無力な日本はこの種の紛争解決には効果を発揮しえない」という見解を紹介していた。 ハリス氏は次のようにも述べる。「日本にとっては、米国とイランの間の緊張を緩和するという控えめな目標さえも、達成は難しいだろう。日本は確かに米国およびイランの両国と良好な関係にあるが、両国の対決を左右できるテコは持っていない。なぜなら日本には軍事パワーがまったくないからだ」。 米国とイランの対立も、中東紛争全体も、情勢を左右するのは軍事力である、という現実の指摘だろう。それは同時に、日本の「架け橋外交」の決定的な弱みを浮かび上がらせたといってもよい』、「両国の対決を左右できるテコ」が「軍事力である」とのトビアス・ハリス氏の見解には同意しかねる。「架け橋外交」を実効性あるものにするには、欧州諸国の同意を取った上で、トランプにイランとの交渉のテーブル戻らせるよう説得するが本道だが、安倍首相には到底無理だろう。

第四に、作家の適菜収氏が9月14日付け日刊ゲンダイに掲載した「日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/261802
・『プーチンに全力恭順  ロシア政府がウラジオストクで開いた「東方経済フォーラム」全体会合で安倍晋三が演説。プーチンに向かって、「ウラジーミル。君と僕は、同じ未来を見ている。行きましょう、プーチン大統領」「ゴールまで、ウラジーミル、2人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」と発言。ネットでは「気色悪いポエム」「青年の主張」などと揶揄されていたが、恋をしているのかもしれない。これまでもプーチンに会えば、体をくねくねと動かし、瞳を潤ませ、全力で恭順の意を示してきた。 一方、プーチンは安倍を「金づる」「ぱしり」くらいにしか思っていない。安倍がウラジオストクに到着した日には、色丹島に建設された水産加工場の稼働式典にテレビ中継で祝辞を述べ、実効支配をアピール。会合翌日には「(北方領土は)スターリンが全てを手に入れた。議論は終わりだ」と切り捨てた。要するに最初から1島たりとも返す気はない』、「気色悪いポエム」だけでなく、「これまでもプーチンに会えば、体をくねくねと動かし、瞳を潤ませ、全力で恭順の意を示してきた」、というには本当に気色悪い感じだ。
・『安倍は演説でロシアの四行詩を紹介。 「ロシアは、頭ではわからない。並の尺度では測れない。何しろいろいろ、特別ゆえ。ただ信じる。それがロシアとの付き合い方だ」 安倍がやっていることはこれだ。ホストに大金を貢ぐおばさんと同じ。プーチンが安倍と27回も会ったのはなぜか。「同じ未来を見ている」からではない。ボンクラが日本の総理をやっているうちに、むしり取れるものはむしり取るためだ。狡猾なプーチンが千載一遇のチャンスを見逃すわけがない。 2018年9月12日、プーチンは、平和条約締結後に2島の引き渡しを明記した日ソ共同宣言に言及した上で、「前提条件をつけずに年内に平和条約を締結し、すべての問題の議論を続けよう」と発言。これは日本とロシアが積み重ねてきた交渉のすべてを反故にするものだが、安倍は拒絶するどころか謎の満面の笑み。この態度が問題になると、「プーチンに対し直接反論した」と嘘までついている。ある意味で安倍の言う「戦後外交の総決算」は達成された。日本の完敗という形で。実際、政府は「北方四島は日本に帰属する」という記述を外交青書から削除している。この期に及んで安倍政権を支持する日本人がいるのだから、戦後の平和ボケもここに極まったと言うべきだろう』、「ボンクラが日本の総理をやっているうちに、むしり取れるものはむしり取るためだ。狡猾なプーチンが千載一遇のチャンスを見逃すわけがない」、ヤレヤレという他ない。「ある意味で安倍の言う「戦後外交の総決算」は達成された。日本の完敗という形で」、最大限の皮肉だ。「この期に及んで安倍政権を支持する日本人がいるのだから、戦後の平和ボケもここに極まったと言うべきだろう」、これには日本のマスコミの姿勢も大いに影響している筈だ。「忖度」は止めて、正々堂々と真実を報道してもらいたい。
タグ:仲介役を果たすつもりなら、トランプ大統領が訪日し、会談した際に、イラン核合意に復帰するよう説得すべき これまでもプーチンに会えば、体をくねくねと動かし、瞳を潤ませ、全力で恭順の意を示してきた 安倍は演説でロシアの四行詩を紹介 「日本の安倍首相が来訪中にあえて日本のタンカーを攻撃することは、安倍首相や日本への侮辱だ」 「「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃」 日刊ゲンダイ 安倍外交 次世代通信規格の5Gで最も特許を取得しているのはファーウェイなど中国企業で、スウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアを合わせると全体の半数超え 中東和平への新参者が苦痛の教訓を得た ウォール・ストリート・ジャーナル ポンペオ国務長官 古森 義久 ボンクラが日本の総理をやっているうちに、むしり取れるものはむしり取るためだ。狡猾なプーチンが千載一遇のチャンスを見逃すわけがない 安倍がやっていることはこれだ。ホストに大金を貢ぐおばさんと同じ プーチンは安倍を「金づる」「ぱしり」くらいにしか思っていない 気色悪いポエム 「ウラジーミル。君と僕は、同じ未来を見ている。行きましょう、プーチン大統領」 「東方経済フォーラム」 「日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」」 適菜収 両国の対決を左右できるテコは持っていない。なぜなら日本には軍事パワーがまったくないからだ 日本の「架け橋外交」の決定的な弱み JBPRESS 偽装工作の可能性は低い 日本企業が運航するタンカーが攻撃を受けた ホルムズ海峡 米中貿易バトルと日米通商協議を巡る報道もフェイクだらけ (その6)(安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな、「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃、中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価、日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」) 「安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな」 日経ビジネスオンライン 強硬派が米国に譲歩しない意思を示すために実行したと見ることができます 安倍晋三首相による仲介外交が機能しなかったことを示している 安倍首相がハメネイ師と会談するタイミングをとらえて起きた出来事に衝撃 金子勝 トランプ政権は大統領令まで発してファーウェイ排除に動いているが、国家レベルで同調しているのは日本と豪州くらい 「中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価」 安倍の外交無力によって、日本は輸出先まで失いつつある。現実をしっかり注視しないと、メディアに騙される 孫崎享 米国追従で漁夫の利が得られることはない。日本経済は半導体や電子部品などの対中輸出で支えられてきたが、米中バトルの影響で大きく減少に転じ、先端技術の開発もできずに青息吐息 米朝会談の物別れを受けて安倍が“橋渡し役”を果たすとするNHKの岩田明子解説委員の“フェイク解説” Jアラートを鳴らしまくり、断交を叫んでおいて、前提条件なしで会うと言ったところで会談できるはずがない
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日本・ロシア関係(その8)北方領土6(北方領土「日本人が知らない」真実 占領の黒幕・返還交渉の矛盾、北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”、三井物産が出資するロシア巨大LNG その命運を握る「黒い金庫番」の正体) [外交]

日本・ロシア関係については、2月21日に取上げた。今日は、(その8)北方領土6(北方領土「日本人が知らない」真実 占領の黒幕・返還交渉の矛盾、北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”、三井物産が出資するロシア巨大LNG その命運を握る「黒い金庫番」の正体)である。

先ずは、ジャーナリストの粟野仁雄氏が4月26日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「北方領土「日本人が知らない」真実、占領の黒幕・返還交渉の矛盾…」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/201097
・『ロシアにとっては「南方領土」 北方領土と日本の複雑すぎる関係  「今、日本でニュースになっているクリル列島(千島列島)の問題をどう思いますか。日本じゃ北方領土と呼ぶのだけれど……」 1月末、モスクワでの首脳会談に合わせて旧島民たちの取材に訪れた筆者は、北海道根室市のラーメン店で、隣に座った若いロシア人男性に拙いロシア語でこう尋ねた。サハリンから商売に来ていた体格のよい男は、「北方領土ではないよ。あの島は絶対に我国の『南方領土』なんだ。でも日本はいい国だよ。仲良くしたいね」と笑った。 安倍首相とプーチン大統領による日ロ首脳会談の度に取り沙汰される北方領土問題だが、3月15日、ロシアの『コメルサント』紙が「大きく交渉スピードが後退した」とプーチン大統領が発言していたことを報じた。足もとでは、5月上旬の対ロ協議を前に、河野太郎外相が国会答弁においてロシア側を刺激しない配慮を見せるなど、交渉の「難しさ」が伝わってくる。 近づいたとか思うと離れるブーメランのような「北方領土」とは、日本人にとってどんな存在なのか。筆者が若き記者時代から関わったこのテーマについて、まずは地理や歴史などの基本事項を解説したい。 背の低い白い灯台が立つ根室半島先端の納沙布岬。眼下の岩礁にはかつて作家の三島由紀夫を信奉する国粋主義団体「楯の会」がペンキで描いた「千島を返せ」の文字があったが、積年の波で消えている。沖へ視線をやると、水平線上にまっ平で樹木の1本もない不思議な水晶島が見える。貝殻島の「日本時代」からの古い灯台が見える。右には勇留(ゆり)島。いずれもロシアの実効支配下にある歯舞群島の1つだ。 「うわあ、ロシアが見えるなんて」-――。若いカップルが驚いていたが、寒がって車に引っ込んでしまった。夏のシーズンは濃霧で見にくいため寒い時期がいいのだが、この地域の冬の寒さは半端ではない。見えていた数隻の漁船は、あまりの近さに日本の船かと思いたくなるが、潜水でウニを採るロシアの船である。ここから日露の海上の「中間ライン」(固有の領土、領海を主張してきた国は国境とは言えない)はわずか1.7キロだ。 「ロシア人はウニなんて食べないから、みんな日本に売るんです。この寒いのによく潜るよ」とは食堂兼土産物店「請望苑」を経営する竹村秀夫さんだ。訪問者たちの「北方領土って、こんなに近かったんですか」の言葉に地元民は辟易しているが、北海道旅行も根室まで行く人は少ないから、それも仕方がない』、「訪問者たちの「北方領土って、こんなに近かったんですか」の言葉に地元民は辟易している」、というのは地元民の偽らざる実感だろう。
・『北方領土は、北から択捉島、国後島、並列する歯舞諸島と色丹島の「4島」だが、沖縄本島より大きい最大の択捉島と2番目に大きい国後島が、全面積の93%を占める。国後島は根室市からも見えるが、標津町からはより近く、好天なら主峰の爺々岳も見える。 北方領土をめぐる国際的な取り決めの柱は、(1)1855年の日露通交(和親)条約、(2)1875年の千島樺太交換条約、(3)1904年のポーツマス条約、(4)1951年のサンフランシスコ講和条約、そして(5)1956年の日ソ共同宣言だろう。日ロ間における北方領土を巡るターニングポイントについて、おさらいしてみよう』、歴史をなおざりにしがちな我々にとって、おさらいする意味はありそうだ。
・『開国時にロシアだけは友好な態度だった  1855年2月7日、江戸幕府はロシア帝国と「日露通好条約」を結ぶ。「日露和親条約」ともいう。ロシア語では「貿易と国境の条約」だが、日本語では「貿易」も「国境」も消え、和親だとか通好とか、わけのわからぬ言葉になる。 このとき、ニコライ一世の訓令・プチャーチン提督と対峙したのが、幕府の川路聖謨(かわじ・としあきら)という旗本。NHKの元モスクワ支局長の石川一洋解説委員は、2月に鳥取県倉吉市に招かれた講演会で、川路について「優れた人でしたが、ロシアの交渉団が彼の写真を撮ろうとしたら固辞した。『私のような醜男が貴国に紹介されては日本の恥です』と言ったのです」と素朴な人柄を紹介した。川路は戊辰戦争で幕府軍に殉じて自決した。 この時期、米国のペリー提督が軍艦を連ねて開国を迫るなど、欧米列強が「鎖国日本」を力でこじ開けようとしたが、石川氏は「ロシアだけは非常に友好的な態度で日本に接してきたのです」と強調した。確かにその通りだ。 この条約で国境線が得撫(ウルップ)島と択捉島の間とされ、樺太は「日露混住の地」となるが、20年後の1875年、ペテルブルグ(今のサンクトぺテルブルグ)で締結された「千島樺太交換条約」で、樺太は全島がロシア領、千島列島すべてが日本領となる。日本は大政奉還から7年目の明治8年、ロシア側は革命で銃殺されるロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ二世の父、アレクサンドル三世の時代だ。 20世紀初頭、日露戦争で日本が勝利し、1905年に「ポーツマス条約」で樺太の南半分が日本領となる。これはロシア人にとって大変な屈辱だった。南樺太のロシア人は北緯50度以北へ追いやられ、代わりに日本の開拓団が多数樺太へ移住し、石炭生産、製紙産業、林業、農業、漁業などを繁栄させた。樺太や千島の日本人は、第二次大戦末期に日本本土の人たちが空襲などに苦しんでいた頃も平和を謳歌した』、丸山穂高衆議院議員の認識とは異なり、戦争以外でも「千島樺太交換条約」で、領土が動いたことがあったようだ。
・『それが破られたのが、ポツダム宣言受諾後の1945年8月。日ソ中立条約を一方的に破ったソ連軍が、満州、樺太、北方領土へ侵攻したのだ。戦闘らしい戦闘もなかった北方領土では、樺太や満州のような悲劇は少ないが、金品を奪うソ連軍との諍いや、本土への脱走時に船が銃撃を受けるなどして、幾人かが命を落とした。 その後、色丹島などでは2年間ほど日露混住の時代もあった。色丹島の混住時代に小学生時代を過ごした得能宏さん(85)は、「先生は怖がっていたけれど、ロシア兵が黒板のほうに来て、生徒の算数の間違いを直してくれた」と振り返る。 最終的に4島から日本人すべてが追われた。根室や羅臼などに裸一貫で引き揚げた彼らの戦後の苦労は想像に難くない』、戦後も「色丹島などでは2年間ほど日露混住の時代もあった」、というのは初めて知った。
・『意外に知られていないサンフランシスコ平和会議での失態  ソ連の対日参戦は1945年2月の米、英、ソのヤルタ会談で密かに決められた。戦争を早期終結させ、米兵の犠牲を減らしたいルーズベルト・米国大統領の求めによるものだが、スターリン・ソ連書記長の談話録には「問題が起きているわけではない日本と戦争することに国民は納得しない」と、代償に領土拡大を求める巧みな会話が残されている。 後にスターリンは、釧路と留萌を結ぶライン以北の北海道の北半分までも要求したが、米国が拒否した。実現していたら北海道は今頃、どうなっていたのだろうか。 1951年、米国との単独講和だったサンフランシスコ平和条約で、日本は「クリルアイランズ(千島列島)」を放棄した。実はこのときに、現在に至るまで禍根を残す失態が生じる。批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ。 外務省はこの大失敗に触れられることを今も嫌がるが、和田春樹・東大名誉教授(ロシア史)は「どんなにつらくとも、放棄したことを認めて交渉すべきだ」と話す。外務省は、「サ条約にはソ連が参加していないから、ロシアのものとされたわけではない」としている』、「批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ」、初耳だが、そうなのであれば、「和田春樹・東大名誉教授(ロシア史)は「どんなにつらくとも、放棄したことを認めて交渉すべきだ」、というのが筋だ。「「サ条約にはソ連が参加していないから・・・」は苦しい言い逃れに過ぎない。
・『1956年、鳩山一郎首相とソ連のブルガーニン首相との間で「日ソ共同宣言」が締結された。今、盛んにニュースになっている史実だ。「平和条約締結後に、色丹島と歯舞諸島は日本に引き渡すとされた」が、「引き渡す」(ロシア語では「ペレダーチ」)とは、「返す」ではなく、「私の物ですが差し上げます」というニュアンスだった。 結局、平和条約を結べないまま、世界は冷戦時代に突入。日本を自由主義陣営に引き込みたい米国のダレス国務長官が、「歯舞・色丹の返還を目指してソ連と平和条約を結ぶなら、沖縄を永久に占領する」とした有名な「恫喝」が大きな楔だった。 そして、1960年の日米安保条約延長でソ連は態度を硬化し、「領土問題は解決済み」とされる。1973年、田中角栄首相がブレジネフ書記長に「両国間の未解決諸問題」に領土問題が含まれることを認めさせたが、その後進展はなかった。80年代にゴルバチョフ政権が誕生し、91年にソ連が崩壊、続くエリツィン政権ではロシアが一旦態度を軟化させたものの、日本は何度も好機を逃してきた(これについては、後述する)。 日本人の最も身近にある国際問題の1つ、北方領土問題はこうした経緯を辿って来たのである』、「「日ソ共同宣言」では、「平和条約締結後に、色丹島と歯舞諸島は日本に引き渡すとされた」が、結局、平和条約を結べないまま、世界は冷戦時代に突入日本を自由主義陣営に引き込みたい米国のダレス国務長官が、「歯舞・色丹の返還を目指してソ連と平和条約を結ぶなら、沖縄を永久に占領する」とした有名な「恫喝」が大きな楔だった」、ここまでダレス国務長官に「恫喝」されれば、日本側が断念したのも理解できる。ただ、こうした歴史的経緯を無視・単純化して一方的に返還を要求する日本政府の姿勢にも無理がありそうだ
・『忘れられがちな史実 本当の先住民は誰だったのか  2月7日、筆者は大阪は中の島公会堂の「北方領土返還要求大会」に出かけた。入り口で「アイヌ民族抜きで交渉を進めることはおかしい」と抗議の横断幕を掲げる人たちがいた。 北方領土史で忘れられがちなのは、「本当の先住民は誰だったのか」だ。筆者は1980年代、北海道で知り合いのソ連担当の公安関係者から、「ソ連の学者たちが北海道のアイヌ民族の存在を口実に、北方領土が古来、自分たちの領土だったことにしようとしている」と聞いた経験がある。アイヌはロシア側にも居ることをテコに、「日本人より先にロシアのアイヌが千島にいた」として、日本が主張する「固有の領土」を否定しようとし、「AS協会」という組織を立ち上げたと、といった話だった。 詳細は省くが、国境という観念も希薄だったその昔、千島列島ではアリュート、樺太アイヌ、北海道アイヌら、様々な民族が狩猟生活や物々交換などをしていた。政府は、第二次大戦までは一度も外国の手に渡っていない「固有の領土」と強調している』、確かに「アイヌ民族」という先住民にまで遡れば、「国境」を超えて「アリュート、樺太アイヌ、北海道アイヌら、様々な民族が狩猟生活や物々交換などをしていた」、というのは動かし難い事実で、なかなか難しい問題だ。
・『ソ連の北方領土占領に米国が協力 なぜか後追いされない衝撃の事実  2017年12月30日の北海道新聞に「歴史の常識を覆す」報道があった。タイトルは「ソ連の北方四島占領、米が援助、極秘に艦船貸与、訓練も」というものだ。 概要は、1945年8、9月に行われた旧ソ連軍の北方4島占領作戦に、米国が艦船10隻を貸与していたというものだ。大量の艦船の提供だけではなく、ソ連兵の訓練も行ったといい、4島占領の背景に米国の強力な軍事援助があったことを示唆する内容だった。 ヤルタ会談の直後、連合国だった米ソは「プロジェクト・フラ」という極秘作戦を実施した。米国は45年5月から掃海艇55隻、上陸用舟艇30隻、護衛艦28隻など計145隻の艦船をソ連に無償貸与。ソ連兵1万2000人を米アラスカ州の基地に集め、1500人の米軍人が艦船やレーダーの習熟訓練を行った。 8月28日からソ連兵が攻め込んだ択捉、国後、色丹、歯舞の占領作戦には、米国に借りた艦船10隻を含む17隻が参加。ソ連軍は各島で日本兵の武装解除を行い、4島の占領は9月5日までに完了した。 記事には、和田春樹・東京大学教授が次のような談話を寄せている。 「北方4島を含むソ連の対日作戦を米国が軍事援助していたことは、日本ではほとんど知られておらず、発見と言える。ソ連が勝手に行ったのではなく、米国をリーダーとする連合国の作戦だったことを示す」 日本がポツダム宣言を受諾して降伏した後に、ソ連は日ソ中立条約を破棄して千島列島を南下、樺太からのソ連軍は米軍がいないことを確認して、択捉、国後島、歯舞群島、色丹島に侵攻したという「常識」を覆す話だ』、「ソ連の北方領土占領に米国が協力」というのは、全くの初耳だが、驚くべき話だ。日本のマスコミが政府を「忖度」して、この事実を無視しているとすれば、恥ずべきことだ。
・『ソ連が樺太南部と千島列島での作戦に投入した全艦船を調べた、ロシア・サハリン州戦勝記念館のイーゴリ・サマリン科学部長の論文を、同紙根室振興局が入手した。調査を主導した谷内紀夫前副局長は、「ボリス・スラビンスキーの著書『千島占領・一九四五年夏』(1993年)には、この経緯の一端が出ているが、話題にならなかった」と言う。 記事を見た千島歯舞諸島居住者連盟の宮谷内亮一・根室支部長は、「驚いた。ソ連の占領に関わっていたのなら領土問題はアメリカにも責任がある」と話す。旧島民も初耳の人は多い。一方、連盟の脇紀美夫理事長(元羅臼町長)は、「日本が降伏しているのに攻めて占領したソ連に対して、当時、アメリカが強く非難したということは聞かないから、米国のソ連軍支援は十分考えられる」と話す。 日本政府が「米軍の援助」を知らなかったはずはないが、冷戦下、米国とともに反ソ感情を煽るためにも都合の悪い事実だった。納沙布岬にある北方館の小田嶋英男館長も「ソ連は当時、連合国の一員なのでおかしくはない。引き揚げてきた人は国籍不明の船を見たとか、ロシアの船ではないと話していた。でも、ソ連軍の4島の占領にアメリカが関わった歴史を出さない方がいい、ということだったのでしょう」と推測する。 事実は北海道新聞の報道後、釧路新聞と根室新聞が報じたが、全国紙は無視した。中央メディアも外務省などに問い合わせはしたはずだ。米国に追従する安倍政権に「忖度」したのなら、情けない話だ。現代史の中で語られる出来事は、今の政治に直結しているケースが多いため、こうしたことは多い。日露首脳会談のときだけ賑やかになる北方領土問題も、その実、4島をめぐる現代史の根本事実すら国民には知らされていない』、こんなことでは、「北方領土問題」の解決など夢のまた夢だ。
・『一般人が島へ行くことはできるか?「渡航禁止」にも矛盾はらむ外務省  さて、こうした複雑な歴史を持つ北方領土だが、日本人が島を訪れることはできるのか。結論から言えば、行けないことはないものの、一般人が訪れるのはなかなか困難だ。 時代を遡れば、1989年4月、北海道新聞がメディアとして戦後初めて北方領土、国後島の上陸取材を報じた。まだソ連時代でロシア人でも簡単には入れなかった。歴史的快挙だ。 当時、筆者が親しくしていた札幌領事館のイワノフという副領事(日本語が堪能だった)は、「あんなところに大した秘密も何もないんです。日本のような発展した国の人に、あんな遅れた場所を見せたくないんですよ」と話した。 残留日本人や韓国人などの取材でサハリンに通っていた筆者は、自然やロシア人の素朴さには魅かれたが、「何と後れた場所か、1世紀前に戻ったようだ」と感じていた。戦後初めて故郷を再訪した引揚者の女性も、「ロスケ(筆者注:ロシア人。必ずしも蔑称ではない)は何してたのよ。日本時代の方が進んでたわ」と呆れていた。 ソ連社会の中で、極東地方はモスクワから見放された地域。筆者は「サハリン本島でこれなら、北方領土(同じくサハリン州)なんてどんなに原始的か」と感じていたので、イワノフ氏の話は納得できた。 1992年に「ビザなし交流」が始まった。4島交流、墓参り、自由訪問などがあるが、誰でも行けるわけではない。元居住者(子孫を含む)、返還要求運動関係者、報道関係者、学者などの専門家に限定される。日本政府は一般人の渡航を自粛するように求めている。「旅券や査証を取っての上陸はロシアの領土であることを認めてしまう」というのが言い分だ』、日本政府の言い分は苦しい言い訳に過ぎない。
・『ソ連に億単位のカネを払って北方領土の海域で漁をさせてもらう  とはいえ、北方領土や領海をめぐっては、政府とて「建前と本音」の狭間で矛盾だらけ。たとえば、一時期の中断を含めて1960年代から続く夏場の「貝殻島の昆布漁」は、ロシアに億単位の入漁料を払って北方領土の海域で昆布漁が続く。「日本固有の領土、領海」なら金を払うのは明らかにおかしいが、漁民救済の一助として止むを得ないのだ。 旅券、ビザで上陸した北海道新聞の記事をきっかけに、1990年代はピースボートなど様々な団体が旅券を取って、サハリン経由で北方領土へ渡っている。政府とて、こうした行為を日本の法律で取り締まることはできない。 1988年、アイヌ民族の男性が「国後のアイヌと共同事業をする」と言い、北海道水産部の制止を振り切って小舟で国後島へ渡った騒動があった。仲間と「ウタリ合同」というソ連との合弁会社を立ち上げて、色丹島海域で大量のカニを水揚げしてきた。北方領土を外国と認めてしまうことになる。結局、北海道海面漁業調整規則違反に問われ、国内法がソ連の実効支配海域に及ぶか どうかが最高裁まで争われたが、「及ぶ」と認定され、有罪となった。 検疫も税関も無視だから、戻れば検疫法違反や関税法違反などに問われる可能性があった。しかし、そうすると「北方領土を外国と認めてしまう」ことになるためか、その男性の罪は問われなかった。政府としても「痛し痒し」だったのだ。 日本人にとって「近くて遠い」北方領土――。返還を唱えるならば、まずはかの地を取り巻く状況がどうなっているのかを、日本人一人ひとりが深く知ることから始めるべきではないか』、マスコミは不都合な事実を含めて広く関連した情報を公開すべきだろう。

次に、6月11日付け日刊ゲンダイ「北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/255786
・『いつまで“外交の安倍”の幻想を振りまくつもりなのか。自民党は参院選公約のトップに「外交・防衛」を掲げ、「力強い外交・防衛で、国益を守る」とうたっているが、7年に迫ろうとする安倍政治で国益はむしろ失われる一方だ。ロシアとの平和条約締結交渉が暗礁に乗り上げる中、ロシアは北方領土の実効支配を強めている。 ロシアは国後、択捉両島の軍事拠点化を進め、色丹島では経済開発を進めている。色丹と歯舞群島は、1956年の日ソ共同宣言で平和条約締結後の日本への引き渡しが明記されているにもかかわらず、である。色丹島では7月中旬にもロシア資本の水産加工場が稼働するという。延べ床面積約7750平方メートルにのぼり、マイワシやサバ、スケトウダラを冷凍の切り身などに加工。日量900トンの処理能力を持ち、同じ敷地にある既存工場の日量200トンを合わせると、ロシア最大級となるという。 日ロは先月末、日本が3000億円規模で投資する北方領土での共同経済活動の早期具体化を外相会談で合意したばかりだ。河野外相とラブロフ外相による会談は、平和条約締結に向けた交渉責任者として4回目の協議だったが、こちらは成果なし。ロシアの関心が高い共同経済活動の調整を急ぎ、海産物の養殖、温室野菜の栽培、観光ツアー開発、風力発電の導入、ごみ減らし対策――の5項目の実現促進を確認した』、「ロシアは北方領土の実効支配を強めている」、のは確かで、日本は経済協力だけをタダでさせられているとの懸念が拭えない。
・『オイシイ資源はロ中で分配  筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)は言う。 「北方領土は漁業資源の宝庫。色丹島には中国資本の缶詰工場なども展開し、オイシイところはすでにロシアと中国が分け合っています。漁業をめぐって日本側にうまみがあるのは販路が広いコンブやサケ、カニなどですが、中国が権益を握っているため、袖にされてしまった。代わりにウニの養殖が振り分けられたわけですが、これは中国人がほとんどウニを食べないためです。ウニの養殖にしたって、技術提供がメインで加工工場を運営できるわけではない。その上、販売先は日本ですから、日本は支援させられるだけで、カネはロシアに落ちるという青写真なのです」 共同経済活動の具体化に向けた外務省の局長級作業部会が11日、都内で開かれるというが、ロシアの食い物にされるだけなのは目に見えている』、「オイシイ資源はロ中で分配」というのでは日本は「ロシアの食い物にされるだけなのは目に見えている」、これが「外交の安倍」の実態のようだ。

第三に、7月2日付けダイヤモンド・オンライン「三井物産が出資するロシア巨大LNG、その命運を握る「黒い金庫番」の正体」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/207369
・『三井物産がロシアのLNGプロジェクトに出資することを決めた。このプロジェクトに懸ける三井物産の安永竜夫社長の思いと、三井物産の命運を握る男の正体に迫った。 6月6日からロシア・サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラム。ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席といった超大物が顔を揃える中、三井物産の安永竜夫社長の姿があった。 ロシアの民間ガス大手ノバテクが北極圏で計画する液化天然ガス(LNG)プロジェクト「アークティックLNG2(アーク2)」へ出資判断の期限が迫っていた。 同じくアーク2への出資要請を受けていた三菱商事の垣内威彦社長の姿はなかった。アーク2に対する三井物産と三菱商事のスタンスの違いが明確に表れていた。 三井物産と政府出資の独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は6月29日、アーク2に出資することを決めた。出資総額は3000億円超で、その出資割合は三井物産が25%、JOGMECが75%となる』、「三井物産」にすれば、リスクの75%はJOGMECが負うので割が良さそうに思えるが、三菱商事が乗ってこなかった裏には理由があるのだろう。
・『思惑絡み、安倍首相とプーチン大統領の前で署名式  アーク2は2023年から年間約2000万トンのLNGを生産する予定の巨大プロジェクトだ。このプロジェクトは日本、米国、ロシアそれぞれの政府の思惑が絡み、極めて政治色が濃いと業界関係者は見ている。 G20サミット(20ヵ国・地域首脳会議)に合わせた日ロ首脳会談後、安倍晋三首相とプーチン大統領の前で署名式が行われたことがそれを物語っている。 シェール革命の恩恵を受けた米国のトランプ政権は、世界のLNG市場で覇権を握ろうとしている。それに対抗するかのように、豊富な天然ガスの埋蔵量を誇るロシアは、アーク2をはじめとする北極圏のLNGプロジェクトで米国の同盟国に揺さぶりをかけている。 アーク2にはすでにノバテク(注)が6割、仏メジャーのトタールが1割、中国海洋石油集団(CNOOC)が1割、中国石油天然気集団(CNPC)の子会社が1割、それぞれ出資することが決まっていた。ノバテクは三井物産、三菱商事に出資を要請し、回答を待っていた。 日本側にも思惑があった。6年以上の長期政権となり、後世に評価されるレガシーをつくりたい安倍晋三首相は、北方領土返還を含む日ロ平和条約の締結に向け、日本企業のアーク2への出資を交渉カードとして切る準備をしていた。だから三井物産と三菱商事の出資を“援護射撃”するかたちで、JOGMECはアーク2に出資を決めたのである。 三井物産と三菱商事は事業性を見極めるだけでなく、政府の思惑も意識しなければならなかった。悩みに悩む三井物産、三菱商事の足下を見て、ノバテクはG20サミット(20ヵ国・地域首脳会議)が開かれる6月末を出資への回答期限とした。もともと出資に前向きだった三井物産は、それに応えた。三菱商事は引き続き、出資の検討を続ける模様だ。 LNGプロジェクトは、数十年にわたって投資を回収する息の長い事業である。物産は大きなリスクを抱えながら、プロジェクトを完遂させていくことになる。このアーク2には、成否の鍵を握り、リスク要因ともなる、キーマンが存在する』、「ノバテク」とは、ロシアの独立系天然ガス生産・販売会社。天然ガス生産量はガスプロムに次いでロシア国内2位。主要株主はプーチン大統領の旧友でもある石油トレーダーのゲンナジー・チムチェンコ(後述)の所有するルクセンブルクのファンド、ヴォルガ・リソーシーズで、同社株の20.77%を保有する。次いでガスプロムが10%の株式を保有(Wikipedia)。
・“黒い金庫番”は米国の制裁対象  キーマンとなる男の名はゲンナジー・ティムチェンコ。プーチン大統領の“黒い金庫番”と呼ばれ、ロシアのクリミア半島併合をきっかけに始まった米国の経済制裁対象に指定されている。 ティムチェンコ氏は急成長を遂げたノバテクを支えたとされ、ノバテクの株を23%超保有する大株主で、取締役も務めている。米経済誌フォーブスの19年の億万長者リストに名を連ね、保有資産は2.2兆円にも上る。 ティムチェンコ氏とプーチン大統領の関係は、プーチン大統領がサンクトペテルブルク市長を務めていた1990年代から始まったとされる。ティムチェンコ氏はサンクトペテルブルクの柔道クラブを創設し、プーチン大統領はその柔道クラブの名誉総裁を務めている。 ティムチェンコ氏は石油トレーダー業の発展に力を入れ、2000年に石油貿易会社のグンヴォルを設立。ロシア産原油の輸出を手掛け、世界第4位の石油トレーダーに成長した。ロシア国内の製油所やパイプラインの建設も引き受け、巨万の富を築いた。 さらに2007年、ルクセンブルクに投資基金「ヴォルガ」を設立し、ノバテクに出資。ノバテクは北極圏のLNGプロジェクトで急成長を遂げた』、「“黒い金庫番”は米国の制裁対象」、でプーチン大統領とは腐れ縁もありそうな人物のようだ。
・『プーチンが退任すれば、キーマンの地位も危うい?  グンヴォル、ノバテクの急成長の陰には、いずれもプーチン大統領の後押しがあったとされている。アーク2を含むノバテクが手掛ける北極圏のLNGプロジェクトは、ロシア政府の補助金や免税措置によって“げた”を履かされている。 米政府はティムチェンコ氏がプーチン大統領の資金源になっていると断定し、民間人ながら制裁対象に加えたのである。 権力闘争が激しいロシアでティムチェンコ氏の隆盛がいつまでも続くか見通せない上、プーチン大統領が退任すれば、ティムチェンコ氏の地位も危うくなる可能性は小さくない。業界関係者は「プーチンの後はプーチンとも言われるが、永遠には続かないはずだ。プーチンがいなくなれば、ノバテクは厳しい立場に追い込まれるに違いない」と指摘する。 物産がアーク2に出資するのは、米政府による経済制裁、ロシアの政策変更のリスクを負うことを意味するわけだ』、三井物産はずいぶん思い切ってリスクを取ったものだ。
・『前のめりになる三井物産社長の思い  三井物産にすれば、ノバテクもティムチェンコ氏についても、大きなリスクがあるのは重々承知の上での判断だ。なぜ、そこまでしてアーク2に賭けたのか。 「サハリンで苦労した安永さんは、ロシアにはよほどの思い入れがある」と三井物産関係者は明かす。 サハリンとは、ロシアの国営ガス会社であるガスプロムが極東で手掛け、物産も参画したLNGプロジェクト「サハリン2」を指す。安永社長は、このサハリン2の事業立ち上げや最終投資決定に携わっていた。 2007年、パイプライン建設をめぐる環境問題をきっかけに、三井物産は上流権益をガスプロムに譲渡せざるを得なくなった。 だからこそ、安永社長には前のめりになってでも、ロシアのプロジェクトを成功させたい思いがあるという。 三井物産はこれまで世界のLNGビジネスを牽引してきた。アーク2に参画することはそのプレゼンスを示す絶好のチャンスでもあり、需要が縮小する日本以外でLNG市場を開拓する物産の戦略に合致する。 物産関係者によれば、アーク2で生産されたLNGの多くは欧州やアジア市場に向かうとされ、物産が二つの市場にさらに食い込むきっかけになるという。 トップ自らが賭けたプロジェクトは果たして吉と出るか、凶と出るか』、三井物産で思い出されるのは、1973にイランで始めたイラン・ジャパン石油化学(IJPC)プロジェクトである。イラン革命、イラン・イラク戦争などを経て、85%まで工事が完成しながら、1988年に合弁事業を解消。プロジェクト総額6000億円のうち、日本側損失は3000億円超とされた。
https://www.nikkei.com/article/DGKDZO57831850X20C13A7TY8000/
無論、三井物産にはその教訓が生きており、二の舞を踏むことはないだろうが、やはり気になるプロジェクトだ。日本・ロシア関係も安倍政権が考えるほど簡単には行かないのではなかろうか。
タグ:「北方領土「日本人が知らない」真実、占領の黒幕・返還交渉の矛盾…」 ロシアにとっては「南方領土」 開国時にロシアだけは友好な態度だった 日本・ロシア関係 (その8)北方領土6(北方領土「日本人が知らない」真実 占領の黒幕・返還交渉の矛盾、北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”、三井物産が出資するロシア巨大LNG その命運を握る「黒い金庫番」の正体) ダイヤモンド・オンライン 粟野仁雄 北方領土は、北から択捉島、国後島、並列する歯舞諸島と色丹島の「4島」 国境線が得撫(ウルップ)島と択捉島の間とされ、樺太は「日露混住の地」となる 「日露和親条約」 最終的に4島から日本人すべてが追われた その後、色丹島などでは2年間ほど日露混住の時代もあった 日露戦争で日本が勝利し、1905年に「ポーツマス条約」で樺太の南半分が日本領となる。これはロシア人にとって大変な屈辱 「千島樺太交換条約」で、樺太は全島がロシア領、千島列島すべてが日本領となる ソ連軍が、満州、樺太、北方領土へ侵攻 サンフランシスコ平和会議での失態 ポツダム宣言受諾後 「日ソ共同宣言」 外務省は、「サ条約にはソ連が参加していないから、ロシアのものとされたわけではない」としている 批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ 忘れられがちな史実 本当の先住民は誰だったのか 日本を自由主義陣営に引き込みたい米国のダレス国務長官が、「歯舞・色丹の返還を目指してソ連と平和条約を結ぶなら、沖縄を永久に占領する」とした有名な「恫喝」が大きな楔だった 国境という観念も希薄だったその昔、千島列島ではアリュート、樺太アイヌ、北海道アイヌら、様々な民族が狩猟生活や物々交換などをしていた 日本は何度も好機を逃してきた ソ連の北方領土占領に米国が協力 なぜか後追いされない衝撃の事実 平和条約を結べないまま、世界は冷戦時代に突入 1960年の日米安保条約延長でソ連は態度を硬化し、「領土問題は解決済み」とされる 平和条約締結後に、色丹島と歯舞諸島は日本に引き渡すとされた」 ソ連兵が攻め込んだ択捉、国後、色丹、歯舞の占領作戦には、米国に借りた艦船10隻を含む17隻が参加。ソ連軍は各島で日本兵の武装解除を行い、4島の占領は9月5日までに完了した 米国は45年5月から掃海艇55隻、上陸用舟艇30隻、護衛艦28隻など計145隻の艦船をソ連に無償貸与。ソ連兵1万2000人を米アラスカ州の基地に集め、1500人の米軍人が艦船やレーダーの習熟訓練を行った 米ソは「プロジェクト・フラ」という極秘作戦を実施 ロシア・サハリン州戦勝記念館のイーゴリ・サマリン科学部長の論文 ソ連が勝手に行ったのではなく、米国をリーダーとする連合国の作戦だったことを示す 旧ソ連軍の北方4島占領作戦に、米国が艦船10隻を貸与していたというものだ。大量の艦船の提供だけではなく、ソ連兵の訓練も行ったといい、4島占領の背景に米国の強力な軍事援助があったことを示唆する内容 日本政府は一般人の渡航を自粛するように求めている。「旅券や査証を取っての上陸はロシアの領土であることを認めてしまう」というのが言い分だ 日刊ゲンダイ 元居住者(子孫を含む)、返還要求運動関係者、報道関係者、学者などの専門家に限定 ソ連に億単位のカネを払って北方領土の海域で漁をさせてもらう 事実は北海道新聞の報道後、釧路新聞と根室新聞が報じたが、全国紙は無視した 『千島占領・一九四五年夏』(1993年) 一般人が島へ行くことはできるか?「渡航禁止」にも矛盾はらむ外務省 ロシアは北方領土の実効支配を強めている 「北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”」 ロシアの食い物にされるだけ ロシアの関心が高い共同経済活動の調整を急ぎ、海産物の養殖、温室野菜の栽培、観光ツアー開発、風力発電の導入、ごみ減らし対策――の5項目の実現促進を確認した 「三井物産が出資するロシア巨大LNG、その命運を握る「黒い金庫番」の正体」 オイシイ資源はロ中で分配 思惑絡み、安倍首相とプーチン大統領の前で署名式 プーチンが退任すれば、キーマンの地位も危うい? 出資総額は3000億円超で、その出資割合は三井物産が25%、JOGMECが75%となる “黒い金庫番”は米国の制裁対象 前のめりになる三井物産社長の思い ゲンナジー・ティムチェンコ アークティックLNG2(アーク2) 安永社長は、このサハリン2の事業立ち上げや最終投資決定に携わっていた。 2007年、パイプライン建設をめぐる環境問題をきっかけに、三井物産は上流権益をガスプロムに譲渡せざるを得なくなった イラン・ジャパン石油化学(IJPC)
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日韓関係(その5)(燃え上がる日韓対立 安倍の「圧力外交」は初心者レベル、GSOMIA破棄 日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国、韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法) [外交]

日韓関係については、7月15日に取上げた。今日は、(その5)(燃え上がる日韓対立 安倍の「圧力外交」は初心者レベル、GSOMIA破棄 日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国、韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法)である。

先ずは、東京在住ジャーナリストのウィリアム・スポサト氏が8月8日付けNewsweek日本版に寄稿した「燃え上がる日韓対立、安倍の「圧力外交」は初心者レベル」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/08/post-12729_1.php
・『<米FP特約=戦後、地政学的な「お人好し」と言われてきた経済第一の日本の外交方針を、安倍は貿易を政治の武器にするトランプ流に変えたようだ。ただし、まだまだ未熟なために問題を悪化させている> 激しさを増す日韓の経済対立は、不安定な世界経済にとって厄介な問題というだけでなく、日本が外交のやり方を変えつつあることも示唆している。日本は戦後、地政学的な「お人好し」と見られてきた。論争が起こると、経済とビジネス上の利益を最優先し、政治的には譲歩を促すことで解決を図ってきた。だが安倍晋三首相は、それを変えようとしているようにみえる。ただし、新しい方法にはまだまだ不慣れのようだ。 <参考記事>輸出規制への「期待」に垣間見る日韓関係の「現住所」 今回の日韓対立の発端は、日本政府が下した、少なくとも表向きはテクニカルな2つの判断だった。日本政府は7月4日、3種類の半導体材料について、韓国への輸出審査を厳格化する措置を取った。これらの材料は、サムスン電子やSKハイニックスなど韓国の半導体大手が主に日本から調達してきた。 韓国はこれに対して、電子製品のサプライチェーンに混乱をもたらす恐れがあると抗議。だが日本政府はさらに8月2日、韓国をいわゆる「ホワイト国」のリストから除外することを閣議決定した。ホワイト国とは、大量破壊兵器などに転用されるおそれのある戦略物資について適切な管理を行っていると見なされ、手続き上優遇されている27カ国を指す。 <参考記事>韓国・文在寅大統領は日本との関係には無関心?』、「日本は戦後、地政学的な「お人好し」と見られてきた。論争が起こると、経済とビジネス上の利益を最優先し、政治的には譲歩を促すことで解決を図ってきた。だが安倍晋三首相は、それを変えようとしているようにみえる。ただし、新しい方法にはまだまだ不慣れのようだ」、というのは手厳しい批判だ。
・『韓国はWTOに提訴も  韓国はこれらの戦略物資について、第三国への横流しを防ぐための適切な対策を取っていないと、日本政府は繰り返し主張してきた。複数のメディアが実際に北朝鮮に流れた可能性を報じているが、情報筋は中東に流れた可能性を指摘している。日本政府はまた、この問題について少なくとも数カ月前から韓国側に対話を申し入れてきたものの、そのたびに拒絶されたと怒りを込めて主張した。 韓国政府はこれを否定し、日本政府のやり方を強く非難。この問題を、対北朝鮮制裁の監督を行っている国連に持ち込む計画のほか、WTO(世界貿易機関)の規範にも背いているとして、WTOへの提訴の準備を進めると強調している。市民レベルでも、日本製品の不買運動や日本旅行のキャンセルなどの日本ボイコット運動が広がっている。 <参考記事>日本政府、韓国をホワイト国から除外 文在寅「今後の展開はすべて日本の責任」 一連の問題の背景には、第2次世界大戦中に日本企業が韓国人を強制的に動員して重労働に従事させたといういわゆる徴用工問題で、韓国に圧力をかけたい日本側の思惑がある。事の発端は2018年10月、韓国大法院(最高裁)が、日本企業に元徴用工への損害賠償支払いを命じたこと。日韓が1965年の国交正常化に際して日韓請求権協定を結び、韓国に5億ドルの経済支援を行ったことで、この問題は既に解決済み、というのが日本側の認識だった。 日本政府に近い筋によれば、安倍は徴用工問題に苛立ちを募らせており、韓国に譲歩を迫るための武器を探していた。そして、しばらく前から問題視されていた対韓輸出の問題に目をつけると、経済産業省の管轄だったこの問題を、大きな力を持つ首相官邸が引き継いだ。その結果は、芳しくない。 安倍の行動は、貿易を政治の武器に使うドナルド・トランプ米大統領のやり方と様々な意味で似ていると言われる。7月の一連の政府発表が、声明とその出し直しと戦略変更のミックスである点、まさにトランプ流だ。 こうした類の発表を行う際には、少なくとも自らの主張を裏づける証拠や、メディアや外交関係者への背景説明、それに最も重要なこととして、何が起こっているのかについての明確で一貫性のある説明が必要だ。一貫性を保つため、情報はすべて一つのオフィスを通して発表し、コメントは一人の代表者が行うべきだ。最後に、予想外の展開(その筆頭が日本製品の不買運動だろう)に備える緊急対応策も用意しておく必要がある。 だが今回の日本政府の対応はこの基本を押さえておらず、政府当局者たちは矛盾した声明や曖昧な発言を繰り返した』、その通りだ。日本のマスコミが、安倍政権に「忖度」して、批判を控えているのは残念だ。
・『徴用工判決の報復と認めた安倍  日本政府の基本的な主張は、きわめて実務的なものだ。日本側としては、どの輸出国にも認められている権利として、サプライヤに「今後は個別の出荷ごとに政府の承認が必要になる」と通告しているのだと説明ができる。既に(アメリカと並ぶ)最大の貿易相手国である中国に対しても同じシステムを導入しているが、明らかな悪影響はみられないことも説明できたはずだ。中国も、メモリーチップの生産が盛んな台湾も、日本のホワイト国リストには含まれていない。 かなりの反発を想定して、備えもしておくべきだった。サムスン電子の売上高は、韓国のGDPの約15%を占めている。主要事業に脅威が迫れば、どんな政府だって抵抗するはずだ。だが韓国政府の反応に直面して、日本政府は揺らいだ。世耕弘成経済産業相は、輸出管理は国の安全保障のためだと技術的な側面を強調しているが、政権幹部は彼が否定している徴用工訴訟への報復疑惑を裏付けるような発言をしている。 菅義偉内閣官房長官は、輸出管理は「国の安全保障上の理由」だとしながらも、韓国が「20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)までに、徴用工問題について満足する解決策を示さなかったことで、信頼関係が著しく損なわれた」という考えをちらつかせた。 政府が安全保障上の理由を前面に出し始めた直後に、安倍は再び歴史問題を持ち出した。元徴用工訴訟の最高裁判決への対応で「韓国は国と国との約束を守らないことが明確になった。貿易管理において、守れないと思うのは当然ではないか」と報道番組で語ったのだ。 安倍と菅が、経済に及ぼすダメージの規模を予想していたかどうかは分からない。韓国で180以上の店舗を展開する日本のアパレル大手ユニクロは、韓国市民の不買運動の直撃を受け、デパートなどの売り場で売り上げが30%近く減少した。韓国では外国産ビールのなかで日本産ビールがダントツの人気を誇っていたが、スーパーやコンビニの棚から日本の銘柄が姿を消し、アサヒなど日本のビール大手は痛手を受けている。韓国の旅行会社によると、ここ数週間に日本を訪れる韓国人旅行者は半減したという。昨年日本を訪れた韓国人旅行者は750万人。今やインバウンド客は日本の景気底上げに大きく貢献しているが、なかでも韓国人客は最大のお得意さまだった』、確かに、安倍政権内の説明の不整合さは目に余る。これでは、国際的にも「モノ笑いの種」を提供してしまったようだ。
・『「韓国は大げさに騒ぎすぎ」  日本は昨年、対韓輸出で200億ドル前後の黒字を計上した。これは対米輸出に次いで2番目に大きい貿易黒字だ。だが文大統領は8月2日にテレビで生中継された緊急国務会議で、「2度と日本に負けない」と宣言。日本と経済戦争に突入したとの認識を明確に示した。 一方で、日韓双方とも経済的な打撃は最小限で済むとの見方もある。韓国企業に引き続き購買意欲があればだが、日本政府の措置で輸入できなくなる物品はほとんどないと、米金融大手ゴールドマン・サックスは指摘する。また、貿易が活発なわりに、日本企業の韓国への直接投資は少なく、日本企業の中長期的なリスクは限定的だ。日本銀行の2018会計年度の統計によると、日本企業の韓国向け投資は、グローバルな対外投資の2.3%を占めるにすぎず、対米投資のおよそ10分の1にすぎない。 日本の財界は日韓の摩擦について沈黙しており、潜在的なコストにもかかわらず、安倍政権の取った措置を概ね支持しているようだ。経済同友会の桜田謙悟代表幹事は、経済界は日韓関係の早期の「正常化」を望んでいると、述べている。ある財界人は個人的な見解として、日本が先に強硬姿勢を取ったわけではないと語った。「韓国は大げさに騒ぎ立て、世界経済に与える影響について不正確な発言をしている」 中長期的には、日本企業にとっての懸念材料は、サムスンはじめ韓国企業が調達先を日本からより「信頼できる」ソースに切り替えるかどうか、だ。韓国政府は8月5日、日本への輸入依存を減らすため、研究開発に640億ドルを投じると発表した。だが研究開発には膨大な時間と資金がかかるため、韓国企業は日本の措置により実際にどれだけ輸出が制限されるかを冷静に見極めて、「脱日本」を進めるかどうかを決めるだろうと、専門家はみる。 不買運動や日本離れなど数々のリスクがあるにもかかわらず、安倍は譲歩する構えを見せていない。韓国の南官杓(ナム・グァンピョ)駐日大使を外務省に呼びつけた日本の河野太郎外相は、元徴用工問題で日韓が共同で財団を設立するという解決案を説明する南をさえぎり、日本政府は既にこの案を拒否したのに、「知らないフリをして、改めて提案するのは、極めて無礼だ」と、テレビカメラの前で叱りつけた。 河野の叱責のせいで、強硬に出たのは日本政府だという印象が強まった。南大使は文大統領の側近で、新たに就任した韓国大使として6月に朝日新聞の取材を受け、関係冷え込みを避けるために最善を尽くすのは外交官の務めであり、日韓関係の改善に尽力したいと穏やかに語った人物だ』、穏健な「南大使」にまで「テレビカメラの前で叱りつけた」河野外相も、外相失格だ。今日の朝日新聞によれば、立憲民主党・枝野幸男代表は、「河野外相の対応は韓国を追い込んだ。責任は大きい。これ、外務大臣、代えるしかないですね。この日韓関係を何とかするには。外交ですから、相手の顔も一定程度、立てないとできないのに、あまりにも顔に泥を塗るようなことばかりを河野さんはやり過ぎですね。筋が通っていることの主張は厳しくやるべきですよ。ですが、何も相手のプライドを傷つけるようなやり方でやるのは、明らかに外務大臣の外交の失敗でもあります」と手厳しく批判したようだ。
・『アメリカの仲裁は形だけ  皮肉にも、こじれた関係を立て直す仲介役として期待を託されたのがトランプ政権だ。だが、日韓両国を相次いで訪問したジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は持ち前の強硬姿勢を引っ込め、この問題には口出しを渋った。マイク・ポンペオ米国務長官も、ASEAN地域フォーラム出席のために訪問したタイの首都バンコクで日米韓外相会談を行なったものの、形ばかりの仲介にとどまり、河野と韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相の歩み寄りはかなわなかった。 次の展開として、韓国が日本と2016年に締結した「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」を破棄すれば、日本は北朝鮮がミサイルを発射しても韓国の情報は直接受け取れなくなるだけでなく、日韓の連携を前提としたアメリカのアジア太平洋戦略も深刻な痛手を被るだろう。それでも今のところアメリカは、日韓双方に「反省」を促すにとどまり、踏み込んだ仲裁を避けている。 参院選で控えめな目標ラインを大幅に上回る議席を確保し、ホッとしたばかりの安倍だが、外交では厄介な状況に直面している。北朝鮮の核問題をめぐる交渉では事実上「蚊帳の外」に置かれ、北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)とは、拉致問題の解決など面会の条件をすべて白紙にして会談を目指すも相手にされず、米政府からは、ホルムズ海峡などの航行の安全確保のための「有志連合」参加と、日米貿易交渉の早期妥結に向け、やいのやいのと圧力をかけられている。 おまけに、中国とロシアが狙い澄ましたように手を組み、日米韓同盟に揺さぶりをかけている。中ロは日本海と東シナ海で合同演習を実施。韓国が実効支配し、日本が領有権を主張する竹島の領空をロシア軍機が侵犯した。次は、日本が支配し、中国が領有権を主張している東シナ海の尖閣諸島でも挑発行動を取りかねないと警戒する声もある。強気の外交には危うさがつきものだ。お人好し外交は実は得策であり、ビジネスに政治を持ち込むのは邪道だったと、安倍は後悔することになるかもしれない』、やはりトランプの真似には無理があったようだ。GSOMIAはその後、破棄されたが、これについては、次の記事を参考にされたい。

次に、元自衛艦隊司令官(海将)香田洋二氏が8月26日付け日経ビジネスオンラインのインタビュー応じた「GSOMIA破棄、日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/082300090/?P=1
・『GSOMIAは日韓の軍事関係における唯一の協定だ。海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏は、韓国がこれを破棄したことで「日米韓の『疑似』3国同盟が大打撃を受ける」と指摘する。朝鮮半島有事における米国の行動を非効率にしかねない。韓国は、8月14日に防衛戦略を改定し、F-35Bを搭載する軽空母を国内建造する意向などを明らかにした。香田氏は「これにも警戒を要す」という。 Q:韓国が8月22日、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めました。この重要性と今後の影響についてうかがいます。まず、GSOMIAとはどのような協定なのか教えてください。 香田:お互いから得た情報を第三国・第三者に流さない、という取り決めです。細かい部分では、手渡し方法とか保管方法も定めています。例えば二重封筒に入れて保管するとか。これによって日韓両国が安心して情報を共有することができます。締結前よりも機密度の高い軍事情報をやりとりできるようになりました。 Q:日韓が情報を「直接」やりとりできるようになるという説明もありますね。 香田:そういう面もあります。従来は、米国がハブになってサニタイズをして情報を伝達していました。サニタイズとは、米国が韓国から得た情報を、韓国発と分からないようにして、もしくは一般情報として日本に伝えることをいいます。もしくは、サニタイズを経て、日本発の情報を韓国に伝える。 しかし、日本が得たい情報と米国が得たい情報は異なります。GSOMIAがあると、日本が必要とする情報を韓国から直接得られるようになります。 以前に北朝鮮が“人工衛星”を真南に打ち上げたことがありました。日本は当時、発射後しばらく追尾することができませんでした。一方、韓国は発射後しばらくの情報は捕捉していたものの、それ以降の情報は得られなかった。両国間では、それぞれの情報を交換するのかどうかすら決まっていませんでした。GSOMIAの下で、北朝鮮が発射する弾道ミサイルの軌道情報を交換することを決めておけば、両国がこの飛翔体の軌道の全体像を把握することができます。 2016年11月にGSOMIAを締結して以降、日韓で29回の情報交換がなされ、その多くが北朝鮮の弾道ミサイルに関するものでした。ただし、交換する情報の対象は弾道ミサイルに限るものではありません。北朝鮮が弾道ミサイルを発射する頻度を上げたため、これに関する情報交換が多くなりましたが、その時々の環境に応じて、交換・共有する情報の対象は異なります』、確かに、「米国がハブになってサニタイズをして情報を伝達」よりは、直接の情報交換の方が早いし、ニーズに合った情報交換が可能だろう。
・『日本の情報収集能力は自由主義諸国では米国に次ぐ  Q:韓国紙の報道によると、韓国内には「日本が提供する情報の有用性は低い」との見方があるようです。一方で、香田さんは破棄によって韓国が被るダメージの方が大きいとおっしゃっています。 香田:私は韓国が被るダメージの方が大きいと考えています。再び、ミサイル防衛システムを例に話をしましょう。韓国は自前のミサイル防衛システムを持っていません。イージス艦を運用していますが、これは弾道ミサイルを探知するための高性能レーダーは装備しているものの、迎撃用の対空ミサイルは装備していません。 注目されているTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)は在韓米軍が自らを守るためのもので、韓国軍が運用するものではない。 これに対して日本は、海上にはイージス艦を展開、地上にはパトリオットミサイルを配備して自前のシステムを構築しています。これは、米国を除けば、考え得る限りで最高の装備です。 Q:海上自衛隊はイージス艦を2020年度には8隻体制に拡充します。地上配備型のイージスシステムであるイージス・アショアについても、配備することを2017年12月に決定しました 香田:そうですね。つまり、ミサイル防衛システムを自前で行っていない韓国が、自前で運用している日本から、すぐにも使える形の情報を得られるわけです。これは大きいのではないでしょうか。 韓国が日本から得られる情報はミサイル防衛関連にとどまりません。情報収集のための体制は日本がずっと優れています。西側では、米国に次ぐものと言えるでしょう。日本は衛星を7つ運用しているの対し韓国はゼロ。P-1やP-3Cといった洋上哨戒機は日本が73機、韓国が18機。早期警戒管制機(AWACS)は日本が18機、韓国は4機です。日本の方が、「一日の長」ならぬ5日くらいの長があると言うことができる。 一方、北朝鮮に関する情報については、韓国が優れています。両国は地理的に近いですし、同じ民族で同じ言語を話すわけですから。 Q:日韓がGSOMIAを締結した2016年11月以前の状態に戻るだけ、という評価が一部にあります。 香田:私はそうは思いません。北朝鮮の状況が大きく変わっているからです。北朝鮮が弾道ミサイル発射の頻度を上げ、本気で暴れ出したのは2017年からです。 2015年までの弾道ミサイルの発射が15回で約32発なのに対して、2016年は1年間だけで15回で23発。さらに2017年は14回で17発でした。しかもICBM(大陸間弾道ミサイル)級のミサイルが増えています。米軍が北朝鮮を軍事攻撃する可能性が非常に強く懸念されました』、「日本の方が、「一日の長」ならぬ5日くらいの長があると言うことができる。 一方、北朝鮮に関する情報については、韓国が優れています」、というのでは、韓国軍にとっては、ダメージが大きいのではなかろうか。
・『韓国は同盟国として失格  Q:以上のお話しを踏まえて、韓国によるGSOMIA破棄の決定を香田さんはどう評価しますか。 香田:韓国はついにルビコン川を渡った、と理解しています。これは日本との情報の交換・共有を超えた意味を持つからです。 GSOMIAには3つの側面があります。第1は、これまでお話しした機密情報を交換・共有する実利的な側面。第2は、日米韓3国による疑似同盟の象徴としての側面。第3は、同盟関係にない日韓の軍と軍が交流するためのお墨付きとしての側面です。 第1の側面についてはこれまでにお話ししました。第2の側面について、朝鮮半島有事を考えてみましょう。韓国が単独で自国を防衛することはできません。米軍が重要な役割を果たすことになります。そして、米軍が力を発揮するためには、在日米軍基地およびそれを支えるインフラが欠かせません。水道水がそのまま飲める。基地の周囲で購入した糧食をそのまま兵士に提供できる。そんな環境は世界を見渡しても多くはありません。 このようなことは、威勢の良い安保論議では見過ごされがちですが、実際に兵士が命をかけて戦う戦闘を勝ち抜くための死活的要素としてのロジスティクスの意義なのです。つまり、米韓同盟は、日米同盟があってこそ機能する同盟なのです。 日米同盟と米韓同盟には本質的な違いがあります。日米同盟は米軍が世界展開するための基盤を成しており、単独でも存在し得ます。米国から見れば“黒字”の同盟と言えるでしょう。これに対して米韓同盟は北朝鮮に備えるという単目的の同盟で、米国から見れば軍事アセットの持ち出し、即ち“赤字”です。そして、日米同盟がないと機能しない。ここはドナルド・トランプ米大統領にも正確に理解してほしいところですが…… よって、日米韓は疑似的な3国同盟の関係にあるのです。このようなフレームワークの中で日韓関係が悪化し、日本が背を向けたらどうなるでしょうか。米国は米韓同盟によって韓国防衛の責任を負っているので、軍事作戦を展開しなければなりません。しかし、基地やインフラの使用に支障が生じれば、それが非常に非効率でやりづらいものになります。日本の協力が欠かせないのですが、日韓の間に軍事協力をする条約は存在しません。軍事面で唯一存在する協定がGSOMIA。したがって、これは日米韓の疑似同盟を保証する象徴的な存在なのです。 米国を苦境に追いやるような措置を文在寅(ムン・ジェイン)大統領は認めてしまいました。韓国の国益を考えたら、全閣僚が反対しても、GSOMIAを維持すべきでした。それなのに、文大統領は、米韓同盟よりも日韓問題の方に重きを置いたのです。 さらに言えば、米国よりも北朝鮮を選びました。 Q:北朝鮮の宣伝ウェブサイトが、GSOMIAを破棄するよう韓国に求める論評を掲載していました。その一方で、米国は「関係の正常化に向けて日韓が動き出してくれることを期待している」とさんざん求めていました。 香田:そうした中で韓国は、米国ではなく北朝鮮を選択したわけです。米国から見たら、同盟国として「失格」です。これが今後、どのような影響をもたらすのか注視する必要があります。 Q:マイク・ポンペオ米国務長官が「失望した」と述べました。同盟国に対するこうした批判は異例のこと、とされています。 香田:東アジア有事の際に、米国は意に反して非効率な対応を迫られるかもしれないわけです。なので、米国は日韓関係の正常化を日韓のために求めているのではありません。彼らの国益がかかっているのです。 「日本は米国の従属国である」とか「自衛隊は米軍のためにある」とか言われることがあります。なぜ、そのように見えることをしているのか。これは国益を考え、米軍の機能を100%発揮できる状態をつくり、日本の安全を守るためにしていることです。これこそが安全保障上の最大の国益と我が国は考えています。韓国も同じ発想で考えるべきです』、GSOMIAの破棄は、単に軍事情報の交換が出来なくなるだけでなく、「日米韓3国による疑似同盟の象徴としての側面」、「同盟関係にない日韓の軍と軍が交流するためのお墨付きとしての側面」にも大きな影響を与える広がりを持ったもののようだ。
・『日本なしに韓国は守れない  Q:韓国の防衛において、日本が非常に大きな役割を果たしているわけですね。 香田:その通りです。これまでお話ししたように日米韓は疑似的な軍事同盟の下で動いています。しかし、米国を中心とするアジアの安全保障体制は自転車の車輪におけるハブ&スポークに例えられます。米国がハブ。そこから伸びるスポークの先に日本がある。他のスポークの先に韓国やオーストラリア、フィリピンがいるわけです。このスポークに対して、GSOMIAは竹ひごくらいの存在でしかない。それでも存在するのとしないのとでは大違いです。 Q:先ほど、朝鮮半島有事の例をお話しいただきました。朝鮮戦争が勃発した時、ハリー・トルーマン米大統領(当時)は軍事介入を決め、在日米軍の出動を命じました。日本はまだ占領下にあったため、日本にある基地およびインフラを米軍や国連軍は日本人の意向に大きな意を払うことなく利用することができました。 しかし、今、朝鮮半島有事が起きても、同じようにはできません。在日米軍基地を使用するには日米間で事前協議が必要になるなど、日本の協力が不可欠となります。その日韓の軍事協力を保証する唯一の協定が破棄されたことになるわけですね。加えて、日本人の対韓感情が悪化している状況では日本の民間からの協力も得られません。 香田:そういうことです。我が国では、朝鮮戦争といえば戦後の荒廃した経済へのカンフル剤となった特需のことばかりが話題になりますが、朝鮮戦争を休戦にもっていけたのは、日本の基地とインフラ、そして工業力があったからです。 Q:第3の側面、自衛隊と韓国軍の交流についてはいかがですか。 香田:これまで両者の間でさまざまな交流が行われてきましたが、これが細っていくでしょうね。 Q:さっそく、その動きが始まりました。陸軍と自衛隊の幹部候補生が互いの国を訪問する交流の中止を韓国が申し入れたことが8月24日に報道されました。今年は韓国側が日本を訪問する番でした。 香田:そうですね。GSOMIAの破棄は、日韓関係においてUターンできない状況を作ることになったかもしれません。GSOMIAを維持し時間を稼いでいれば、いずれ貿易管理の問題を解決したり、歴史問題で合意をみたりする可能性があります。しかし、韓国はこの“土台”を蹴飛ばしてしまった。交渉の“ドア”を閉めてしまったのです』、「韓国はこの“土台”を蹴飛ばしてしまった。交渉の“ドア”を閉めてしまった」、というのは残念だ。
・『韓国は“冷戦クラブ”の準会員  香田:韓国によるGSOMIAの破棄が与える影響は、日米韓の関係にとどまらず、さらに広く影響を及ぼします。1つには、“冷戦クラブ”における韓国のプレゼンスが下がることでしょう。 Q:冷戦クラブですか。 香田:ええ。日本と米国、西欧諸国は共に冷戦を戦い、目に見えない冷戦クラブのメンバーとして強い仲間意識を持っています。しかし、韓国はこのメンバーに入れていません。軍関係の国際会議に出席すると実感できます。韓国は、国際社会において「冷戦を戦った」とはみなされていないのです。 米韓同盟と日韓GSOMIAがあるので、かろうじて準会員として遇されるようになりました。GSOMIAを破棄したことで、再び元の立場に戻ることになると思います。 Q:日本の自衛隊は冷戦時代、国外で活動することが難しい状況にありました。一方の韓国軍は冷戦下で行われた米ソの代理戦争であるベトナム戦争に参加しています。それなのに、世界は日本の担った役割を重視しているのですね。 香田:冷戦時代、旧ソ連という"大きな熊"の利き腕である右手と右足はNATO(北大西洋条約機構)を押さえていました。そして、左手と左足は日米同盟が押さえていた。この間、韓国はソ連に対峙していたわけではありません。北朝鮮は強い牙を持った猛獣ですが、これとの戦いは戦史において冷戦には入らないのです。韓国はこの点に気づいてないかもしれません』、“冷戦クラブ”とは初耳だが、「韓国はソ連に対峙していたわけではありません」ので、正式のメンバーではないというのも納得した。
・『米ロの核戦略にも影響が及ぶ  Q:日米韓疑似同盟の劣化は、対中国、対ロシア、対北朝鮮でどのような影響が出てくるでしょう。 香田:ロシアは今、極東で戦略核の増強を進めています。超大国
として唯一、米国と張り合えるこの分野で、米国と対等の存在になろうとしている。そのため、カムチャツカ半島東岸のペトロパブロフスク基地に第2撃*用の戦略原子力潜水艦の配備を進めています。これを防護するため、北方領土と千島列島にミサイルの配備を進めているのです。ロシアとしては、“聖域”であるオホーツク海に米国の潜水艦や対潜部隊を入れるわけにはいきません。 *:核兵器を使った戦争において、相手国からの先制攻撃によって第1撃用の核戦力を失った場合、第2撃用の核戦力で報復を図る Q:ロシアは2016年、国後島に地対艦ミサイル「バル」を配備すると決定しています。 香田:そうですね。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が日本との北方領土交渉において強硬な態度を取る理由の1つはここにあります。日本がイネイブラー*になっては困るのです。つまり、日本が北方領土を取り戻すために“善意”でとる行動が、米国を利することになっては困る。 *:「イネイブリング」とは、良かれと思ってやったことが、かえって問題を悪化させること こうした環境において、日本と韓国との関係が悪化し、それによって米国が難渋することになれば、ロシアにとっては願ってもないことです。将棋でいえば、桂馬もしくは銀を取るくらいの価値があるでしょう。飛車や角とまでは言いませんが。 カムチャツカ半島と千島列島を挟んで米ロがにらみ合いになった場合、米国は当然、中国の動向を気に掛けます。本来なら韓国が第1列島線*の中で、黄海における情報を収集し、米国や日本に提供・共有することになります。韓国が背を向けたら、米軍は自らの部隊の一部を割いて情報収集に当たらなければなりません。日韓関係がうまく機能しないと、疑似3国同盟の総合的な監視能力が低下してしまうのです。そうなれば、米軍はその力を100%発揮することができなくなります。 *:中国が考える防衛ラインの1つ。東シナ海から台湾を経て南シナ海にかかる Q:対北朝鮮ではどうでしょう。 香田:北朝鮮にとっては棚からぼた餅といったところでしょう。 北朝鮮は2017年11月以降、弾道ミサイルの発射を控えて“ニュークリアー・ホリデー”(核の休日)の状態にありました。しかし、その間に、朝鮮半島での地上戦を想定した中短距離の通常兵器の開発を着々と進めてきています。 7月以降に発射を続けている兵器は3つのタイプがあると分析しています。いずれも韓国をターゲットにした機動攻撃能力です。第1は、米陸軍が配備する「ATACMS(エイタクムス)」に似たもの。これは韓国の北半分を射程に収めます。第2はロシア製短距離ミサイル「イスカンデル」をコピーしたとみられるもの。これは韓国全土に加えて済州島までカバーできる。第3の多連装ロケットはソウルや、在韓米軍の司令部や駐屯地を面で撃砕する機能を持ちます。いずれも、韓国軍キラー、在韓米軍キラーの役割を担うものです。 北朝鮮がこのように韓国を攻撃する能力を高めているにもかかわらず、米国は韓国に対して不信感を抱かざるを得ない。日韓の絆は弱くなる。韓国の文大統領は北朝鮮に秋波を送り続けている。北朝鮮にとっては願ったりかなったりの状況です。 中国にとっても同様のことが言えます』、日韓の離反で、漁夫の利を得るのが、ロシア、中国、北朝鮮とはやれやれ・・・。
・『日米韓によるミサイル防衛の一体化は期待薄  Q:日本としては、GSOMIAを情報共有の基盤として、韓国と日本のミサイル防衛システムを将来的に連動させる考えがあったのでしょうか。 海上自衛隊は現在建造中の新しいイージス艦に「CEC」を搭載する決定をしました。イージス仕様のレーダーや対空ミサイルをネットワーク化し、相互に情報をやり取りできるようにするソフトです。北朝鮮が発射した弾道ミサイルをイージス艦が自らのレーダーで捉えていなくても、同じくCECを装備する別のレーダーが追尾していれば、その情報を基に迎撃ミサイルを発射できるようになります。 CECの装備と相互接続を進めれば、理屈上は、韓国のイージス艦が搭載するレーダーが得たブースト段階*の情報を基に、日本のイージス艦が迎撃ミサイルを発射できるようになる。迎撃の精度を高められる可能性があります。 *:発射した直後で、速度が遅い段階 香田:それは実行するのは容易ではありません。集団的自衛権の行使に当たる可能性があるからです。米国との間であれば、法的な理由付けがなんとか可能かもしれませんが、韓国は同盟国ではありません。大きな政治判断が必要になります。それに、米国が韓国にCECを提供するかどうかも分かりません』、「日米韓によるミサイル防衛の一体化は期待薄」、当然予想される問題だ。
・『韓国が構想する「空母」を敵に回してはならない  Q:韓国が8月14日に「2020~24年国防中期計画」を発表しました。日本の防衛大綱や中期防衛力整備計画に相当するものです。この中で、F-35B*を搭載する「軽空母」を建造すべく、研究に入る方針を明示しました(関連記事「中国の空母『遼寧』に対抗する意図の艦船は論外」)。3000トン級潜水艦の建造・配備も記述されています。 香田さんが指摘されたように文大統領は北朝鮮に秋波を送り、8月15日に行われた光復節の演説では「2045年までに統一を果たす」考えを示しました。北朝鮮が敵でなくなるのであれば、こうした装備の拡充は何のためなのでしょう。 *:短い滑走で離陸し垂直着陸できる特徴(STOVL)を持つ 香田:空母は、使い道がないのではないでしょうか。韓国軍は地理的に沿岸を主たる活動地域にする内海海軍です。日本のように、海上交通路を確保するための航空優勢を維持する機能はあまり必要ありません。 韓国は防衛戦略がないまま兵力の整備を進める傾向があります。現在運用している迎撃ミサイルを搭載しないイージス艦は何のためにあるのでしょう。潜水艦も20隻程度を整備する計画です。しかし、黄海は浅すぎて潜水艦は使えません。太平洋への口は日本列島にふさがれています。軽空母も潜水艦も、意地悪く見れば、日本以外に使い道がありません。 経済的にある程度の余裕があるので、入手できる装備の中で最も豪華なものを導入しようとしているように見えます。また、海上自衛隊を目標にしている、後れを取りたくない、という心情も見え隠れします。例えば、日本が輸送艦「おおすみ」を建造すると、韓国は「独島(ドクト)」を開発して後追いしました。 韓国がいま本当に取り組むべきは、自前のミサイル防衛システムの構築や、北朝鮮の小型潜水艦の侵入防止策、対機雷掃海部隊の育成などではないでしょうか。 Q:韓国が整備を進める空母や潜水艦が日本の脅威になる可能性はあるでしょうか。GSOMIAの破棄、北朝鮮への秋波などを考えると…… 香田:すべての可能性を考えておく必要があります。日本は外交の力で、韓国を“中間線”よりこちら側に引き留めておかなければなりません。これは政治と外交が果たすべき最大の責任です。貿易管理の問題で正論を振りかざし、強く出るだけではうまくいかないかもしれません。韓国軍はけっこう強いですから、敵に回したら怖いのです』、「軽空母も潜水艦も、意地悪く見れば、日本以外に使い道がありません」、「韓国軍はけっこう強いですから、敵に回したら怖いのです」、などというのは不気味だ。
・『米国が疑う、韓国の情報管理  Q:米国が韓国にF-35Bを売却しない、と判断する可能性があるでしょうか。先ほど話題にしたように、米国は強い不満をあらわにしています。 香田:あり得るかもしれません。米国は時期を見て、韓国の情報保全状況を精査すると思います。北朝鮮が発射した「ATACMS(エイタクムス)」が、漏洩した情報を基に開発されたとしたら、その出どころは韓国である公算が最も高いですから。 日本が韓国に対する輸出管理の厳格化を図ったのも、米国がもたらした基礎情報が元にあったと思われます。米国による精査の“前哨戦”と見ることができるかもしれません。韓国が7月10日に150件を超える不正輸出を公表したのは、米国に察知されたのを知り、先手を打った可能性があります。 Q:米国における対韓感情が悪化し、米韓同盟の劣化につながる可能性を指摘する専門家がいます。 香田:米国が韓国と同盟国の縁を切るというのは考えづらいでしょう。ここでは、米国とトルコの関係が参考になります。ロシアから地対空ミサイル「S400」を導入したトルコに対して米国は怒りをあらわにしました。一時は、米国がトルコをNATOから追い出すのでは、と思えるほどでした。しかし実現には至っていません。ただし、トランプ大統領が7月、「F-35の売却を棚上げする」と発言して対抗措置(制裁)を取っています。 トランプ大統領は、NATOとも同調してアメとムチ両方を使いトルコのS400導入を阻止しようとしましたが、失敗しました。しかし、既にロシアとの関係緊密化を進めるトルコをこれ以上追い詰めてNATOからの離脱、またはNATOからの除名という事態に陥れば、プーチン大統領の最大の狙いであるNATO分断への道を開くことになります。それゆえ、トランプ大統領もNATOも、時間をかけてでもトルコをNATOに残留させる道を探っているのです。 もちろん、トルコと韓国で一対一の比較はできません。しかし、米韓同盟の劣化あるいは解消は、プーチン大統領のみならず、中国の習近平主席や北朝鮮の金正恩委員長が狙うところを、こちらのオウンゴールで実現してあげることになります。彼らは弄することなく目的を達成できる。この観点から、米国、そしてトランプ大統領は自らの思いに蓋をしてでも、韓国をつなぎとめようとする公算が高いと考えます』、トランプにとって、トルコや韓国など、悩みの種は尽きないようだ。

第三に、立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏が8月27日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/212900
・『百家争鳴の日韓問題について「国際世論戦」に焦点を当てる  日韓関係の悪化が止まらない。従軍慰安婦問題(本連載第123回)、韓国海軍レーザー照射問題、元徴用工問題、日本にほる対韓半導体部品の輸出管理の「包括管理」から「個別管理」への変更と韓国を「ホワイト国」から除外する決定(第215回)、そしてそれに対する韓国の報復と続き、遂に韓国・文在寅政権は、日韓で防衛秘密を共有する日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めた。 今後、安倍政権はどう行動すべきか、韓国はさらにどう対抗してくるのか、百家争鳴となっている。その中で本稿は、いわゆる「国際世論戦」と呼ばれるものに焦点を当てたい。 日本は歴史的に「国際世論戦」に弱いとされている。古くは満州国建国を巡って日本は中国に敗れて孤立し、最終的に国際連盟を脱退する事態に至った。今年4月にも、世界貿易機関(WTO)を舞台に韓国と「東日本産水産物の禁輸措置の解除」を巡って争い、日本は敗れている(第215回・P.4)。 今回も、韓国はすでに「国際世論戦」を仕掛けているといわれている。米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が「トランプ化する日本外交」と論評するなど、「日本の輸出規制は元徴用工問題に対する経済制裁である」という韓国の主張が国際的に広がりつつある。ただし、筆者は今回に関しては、韓国の国際世論戦の巧みさを、あまり警戒する必要はないと考えている』、日本の「国際世論戦」の弱さは、実に腹立たしい。安倍政権も自分の言いなりになる日本のマスコミ相手には威張っていても、海外メディア相手では形なしのようだ。
・『韓国のロビイングには定評ありだが「日本はWTO違反」の反応は?  今回の日韓の「国際世論戦」の争点は大きく2つに整理される。1つは、「日本の韓国に対する半導体部品の輸出管理の見直しは、WTO違反か否か」である。もう1つは、「従軍慰安婦問題」「元徴用工問題」の、いわゆる「歴史認識」を巡るものである。 1つ目については、韓国は非常に熱心に、「日本はWTO違反」であるという主張の正当性を世界各国に訴えているという。韓国のロビイングのうまさは定評があるところだ。だが、今回に関しては、韓国の動きが成功しているという状況証拠はない。韓国の主張は感情的で、実態に即していないからだ(細川昌彦「誤解だらけの韓国に対する輸出規制発動」日経ビジネスオンライン)。また、韓国のロビーを受けた各国は、「日韓の争いに巻き込まれたくない」「二国間で解決してほしい」というのが本音である。 実際、WTOに提訴しても、決着までに数年間かかるという。一方、日本は既に、国内の素材メーカーから申請が出ていた半導体の基板に塗る感光材の「レジスト」を、厳格な審査の上に「軍事転用のおそれがない」として、輸出を許可し始めている。今後、このような輸出の実績が積み重なっていけば、感情的になっている韓国の世論も沈静化するだろう。「WTO違反ではない」という日本の主張も、次第に各国や世界のメディアに理解されていくようになる』、「韓国のロビイングのうまさは定評がある」とはいっても、これはさして問題なさそうだ。
・『より深刻な2つ目の論点「歴史認識をめぐる国際世論戦」  それより深刻にみえるのは、2つ目の「歴史認識をめぐる国際世論戦」だ。しかし、この連載では、ある英国人の学者のコメントを紹介したことがある。 「日本、中国、韓国はなぜ1回戦争したくらいで、これほど険悪な関係なのか。英国や他の国で催されるレセプションやパーティーで、日中韓の大使が非難合戦を繰り広げているらしいじゃないか。会を主催する国に対して失礼極まりないことだ。英国とフランスは、百年戦争も経験したし、何度も戦った。ドイツ、スペインとも戦った。勝った時もあれば、負けたこともある。欧州の大国も小国もいろんな国同士が戦争をした。それぞれの国が、さまざまな感情を持っているが、それを乗り越えるために努力している。日中韓の振る舞いは、未熟な子どもの喧嘩のようにしか見えない」(第94回) 要するに、どんな国でも歴史をたどれば「スネに傷がある」ものだ。それにこだわっていても仕方がないではないか。ましてや、関係のない他国を舞台に喧嘩をするなど愚の骨頂だというのだ。 英国で7年間生活したことがあり、しかも「人権意識」が高い学者・学生が世界中から集まっていた大学に身を置いた筆者の実感だが、個人的には日本の過去の振る舞いを理由に、現在の日本を批判する人に会ったことがない。 確かに従軍慰安婦問題は、今でも世界のメディアで「性奴隷」と表現されている(例えば、"Shinzo Abe to attend Winter Olympics despite ‘comfort women’ row", The Financial Times, 2018年1月24日付)。ただし、それは、あくまで「過去の戦争における負の歴史」という扱いでもある。戦争が繰り返された欧州であれば、どこの国にでもある「過去」だということだ。「現在の日本」まで特別に責められているわけではない。 言い換えれば、世界が関心を持っているのは「現代の女性の人権」である。従軍慰安婦問題に様々な反論を試みることで現在の日本が疑われているのは、いまだに女性の人権に対する意識が低いのではないかということだ。 例えば、安倍晋三首相がかつてよく言っていた「強制はなかった」「狭義の強制、広義の強制」という主張などは、海外からはよく理解できない。そういう細かな主張をすればするほど、「日本は、いまだに女性の人権に対する意識が低いんだな」という誤解を広げてしまうだけなのだ(第123回)』、確かに、(欧州の)「それぞれの国が、さまざまな感情を持っているが、それを乗り越えるために努力している。日中韓の振る舞いは、未熟な子どもの喧嘩のようにしか見えない」、との「ある英国人の学者のコメント」は大いに考えさせられる。
・『韓国による慰安婦像の設置は過剰に反応しても日本に得るものなし  また、韓国が熱心に行っている世界中での慰安婦像の設置についても、過剰に反応しても日本が得るものはない。なぜなら、慰安婦像を受け入れる国の人は「過去の日本」の振る舞いを責めようとしているのではない。「女性の人権を守るための像」だと理解するから、設置を認めているのだ。 例えば、米サンフランシスコ市が慰安婦像の寄贈受け入れを決めた時、大阪市の吉村洋文市長(当時)は、これに抗議するために、サンフランシスコと大阪市の姉妹都市関係の解消を通知する書簡を送った。これに対して、ロンドン・ブリード・サンフランシスコ市長は、解消決定を「残念」とし、大阪市との人的交流を維持する考えを示した。 その上で、ブリード市長は慰安婦像について「奴隷化や性目的の人身売買に耐えることを強いられてきた、そして現在も強いられている全ての女性が直面する苦闘の象徴」「彼女たち犠牲者は尊敬に値するし、この記念碑はわれわれが絶対に忘れてはいけない出来事と教訓の全てを再認識させる」と声明を出している。 ブリード市長は明らかに、慰安婦像の意義を日本の過去の振る舞いよりも、より一般的な問題である、現在も存在する性奴隷・人身売買など女性の人権侵害を根絶するためのものと理解している。そして、仮に過去に不幸な出来事があったとしても、現在の日本を批判してはいない。今後も日本との交流を続けたいとしているのだ。 おそらく、吉村市長の怒りはブリード市長にはまったく伝わっていなかっただろう。女性の人権を守るのは政治家として当然のことなのに、いったい何を一方的に怒っているのか、さっぱり分からないと思っていたのではないか。ましてや、突然の姉妹都市解消の通知には「60年という姉妹都市の歴史を断ち切るほどの問題なのか?」と、ただあぜんとしていたと思う。 結局、吉村市長は、世界中から「人権意識の低いポピュリスト」だという「誤解」を受けるだけとなってしまった。吉村市長は大阪の待機児童問題を解決するなど高い実行力を示しており、将来的に「東の(小泉)進次郎、西の吉村」と並び称される政治家になると筆者は期待している。それだけに、非常に心配だ(第208回)。 日本は確かにかつて戦争を起こした「ならず者国家」としての負の歴史を背負っている。(第166回・P.4)。一方で、日本は戦後70年間、平和国家として行動し、負の歴史を償おうとしてきた。そのことは世界中に認められている。英公共放送「BBC」の調査で示されたように、「世界にいい影響を与える国」と高評価してくれる人々が、世界中に増えてきているのだ(“Sharp Drop in World Views of US, UK: Global Poll,” BBC World, 2017年7月4日付)。 その意味で、たとえ「ならず者」と呼ぶ人がいても目くじら立てることなく謙虚に受け止め、「いい影響を与える国」と言ってくれる国が1つでも増えるよう、誠意のある行動を続けていけばいいのではないだろうか』、これまでサンフランシスコ市などが慰安婦像を受け入れているのは、韓国系のロビーイングのためと思っていたが、「ブリード市長は明らかに、慰安婦像の意義を日本の過去の振る舞いよりも、より一般的な問題である、現在も存在する性奴隷・人身売買など女性の人権侵害を根絶するためのものと理解している。そして、仮に過去に不幸な出来事があったとしても、現在の日本を批判してはいない」、というので理由がより深く理解できた。「大阪市の吉村洋文市長(当時)は、これに抗議するために、サンフランシスコと大阪市の姉妹都市関係の解消を通知する書簡を送った」、「抗議する」理由を明確に述べずに、結論だけの書簡だったので、理解が得られなかったのは当然で、国際的常識を持ち合わせずに、国内パフォーマンスだけを狙う田舎政治家のやることだ。
・『「安倍平和宣言・人権マニフェスト」を世界に発信してはどうか  それでは具体的に、日本がこれからどう行動すべきかを考える。この連載では、従軍慰安婦問題や元徴用工問題について安倍首相が直接、韓国民に会って話をすることを提言してきた(第215回・P.6)。 安倍首相は、元慰安婦・元徴用工の方々に謝罪する必要はない。日本政府の立場の「細かな説明」も必要ない。しかし、両国の間に「不幸な歴史」があったこと、少なくとも「侵略された」韓国側が、より民族・国家としての誇りを深く傷つけられていることを率直に認めるほうがいいと考える。そして、その不幸な歴史に「心が痛みます」というメッセージを発し、世界中のメディアに発信する。その時に、従軍慰安婦問題・元徴用工問題は確かに終わる。 今回は、これをもっと発展させた提案をしたい。安倍首相は、「安倍平和宣言」とでも呼ぶべきメッセージを全世界に向けて発信するのだ。そして、「日本は戦争をしない。戦時における女性の人権侵害という不幸な歴史を二度と繰り返さない」と宣言する。)続いて、現代の日本は「人権を世界で最も守る国になる」とアピールし、「安倍人権マニフェスト」を発表する。現在、日本は人権問題について世界から批判を受けている状況にある。それらを、安倍首相が「自らの任期中に一挙に解決する」という決意を示すのだ。それは例えば、以下のさまざまな問題の解決である。 (1)数々の企業の上級・中級幹部における女性の割合が、わずか12.5%であること(ちなみに、マレーシア 22.2%、ドイツ 29.0%、フランス 31.7%、シンガポール 33.9%、英国 35.4%、スウェーデン 39.7%、米国 43.4%である。https://data.worldbank.org/indicator/SL.EMP.SMGT.FE.ZS) (2)「下院議員または一院制議会における女性議員の比率、193カ国のランキング」で、日本が165位であることの改善(Women in Politics: 2019) (3)国際連合女子差別撤廃委員会から「差別的な規定」と3度にわたって勧告を受けている夫婦同姓をあらためて、「選択的夫婦別姓」の導入 (4)「女性差別撤廃条約」の徹底的な順守を宣言 (5)国連の自由権規約委員会や子どもの権利委員会から法改正の勧告を繰り返し受けている婚外子の相続分差別の撤廃(第144回) (6)外国人技能実習生の人権侵害問題の解決などによる、多様性のある日本社会の実現(第197回) (7)同性結婚などLGBTの権利を保障する) そして、「安倍平和基金」を設立する。「安倍平和基金」は、アフリカや中東、アジアなど世界中の全ての人権侵害問題を援助の対象とし、元従軍慰安婦や元徴用工への援助は当然これに含まれることになる。金額は、従軍慰安婦問題解決の基金10億円の10倍の規模である「100億円」とする。日本政府および趣旨に賛同する企業が資金を拠出する』、「「安倍平和宣言」とでも呼ぶべきメッセージを全世界に向けて発信」、とは検討に値するアイデアだ。「日本政府の立場の「細かな説明」も必要ない」、日本側はすぐ強制性の有無などテクニカルな説明に走りがちだが、国際的にみれば、それは二義的問題に過ぎず、確かに不要である。
・『慰安婦像に代わる「平和の人間像」を世界中に設置  さらに、「平和の人間像」を日本がつくり、世界中に設置する。 「平和の人間像」のイメージ。顔は「ムクゲ」で花言葉は「信念」「新しい美」。右脚に引きちぎられた「赤に白斑の薔薇」の鎖。花言葉は「戦争」「戦い」。筆者の友人が作成。無断転載禁止 現在の慰安婦像は「女性の人権を守るための像」ではある。しかし、その対象は「過去、戦時に人権侵害を受けた韓国人女性」を事例として限定したものだ。それでは、対象が狭いのではないだろうか。 「平和の人間像」は、世界中の男女・LGBTを問わず全ての人に対する人権侵害問題を完全解決することを宣言する像とする。そして、全ての人々を対象とするのにふさわしい、抽象的な造形とする。 「平和の人間像」の第一体目は、ぜひソウル市の「青瓦台」の前に設置させてもらおう。像の除幕式では、文大統領と安倍首相ががっちりと握手をして、両国が世界の人権侵害の歴史の終焉と、現在の人権問題の完全解決を高らかに宣言する。 文大統領と、それを支持する韓国の左派は嫌がるだろう。だが、嫌がれば韓国は「人権意識の低い国」となり、慰安婦像の設置は「単なる反日のための行動」であったと、世界中から批判を浴びることになる。 要するに、「国際世論戦」において、従軍慰安婦問題や元徴用工問題の細かな事実関係を争っても、あまり意味がない。韓国など一部の国を除けば、海外の人たちは、日本の過去についての事実関係などどうでもよく、関心があるのは、現在の「人権問題」なのだ。 日本が「大日本帝国」の誇りを守ろうとすればするほど、いまだに人権意識の低いと「現在の日本」の評価が下がることになる。本当に守るべきことは、「現代の日本」の誇りだと考えるべきである』、「平和の人間像」では慰安婦像に代り得るとも思えない。慰安婦像を駆逐するためとして、韓国からは猛反発を受けるだろう。筆者は通常は参考になる分析をするが、この粗削り過ぎるアイデアを提案するとは、筆者らしからぬ思い込みで、賛成できない。
タグ:日韓関係 (その5)(燃え上がる日韓対立 安倍の「圧力外交」は初心者レベル、GSOMIA破棄 日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国、韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法) ウィリアム・スポサト Newsweek日本版 「燃え上がる日韓対立、安倍の「圧力外交」は初心者レベル」 日本は戦後、地政学的な「お人好し」と見られてきた。論争が起こると、経済とビジネス上の利益を最優先し、政治的には譲歩を促すことで解決を図ってきた。だが安倍晋三首相は、それを変えようとしているようにみえる。ただし、新しい方法にはまだまだ不慣れのようだ 最も重要なこととして、何が起こっているのかについての明確で一貫性のある説明が必要だ。一貫性を保つため、情報はすべて一つのオフィスを通して発表し、コメントは一人の代表者が行うべきだ 徴用工判決の報復と認めた安倍 アメリカの仲裁は形だけ 香田洋二 日経ビジネスオンライン 「GSOMIA破棄、日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国」 日本の情報収集能力は自由主義諸国では米国に次ぐ 一日の長」ならぬ5日くらいの長があると言うことができる。 一方、北朝鮮に関する情報については、韓国が優れています 韓国は同盟国として失格 日本なしに韓国は守れない 韓国は“冷戦クラブ”の準会員 米ロの核戦略にも影響が及ぶ 日米韓によるミサイル防衛の一体化は期待薄 韓国が構想する「空母」を敵に回してはならない 米国が疑う、韓国の情報管理 上久保誠人 ダイヤモンド・オンライン 「韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法」 1つは、「日本の韓国に対する半導体部品の輸出管理の見直しは、WTO違反か否か」 もう1つは、「従軍慰安婦問題」「元徴用工問題」の、いわゆる「歴史認識」を巡るもの より深刻な2つ目の論点「歴史認識をめぐる国際世論戦」 韓国による慰安婦像の設置は過剰に反応しても日本に得るものなし 「安倍平和宣言・人権マニフェスト」を世界に発信してはどうか 慰安婦像に代わる「平和の人間像」を世界中に設置
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「あいちトリエンナーレ2019」問題(その2)(伊東 乾氏の3題:「慰安婦」トリエンナーレが踏みにじった人道と文化 「ヴェネチア・ビエンナーレ」以来の芸術監督鉄則3か条、トリエンナーレ「計画変更」は財務会計チェックから 税金原資、「慰安婦」炎上狙いでテロ誘引 膨大なコスト増 あいちトリエンナーレ大失態と欧州が払っている膨大な経費) [外交]

「あいちトリエンナーレ2019」問題については、8月7日に取上げたばかりだが、今日は、(その2)(伊東 乾氏の3題:「慰安婦」トリエンナーレが踏みにじった人道と文化 「ヴェネチア・ビエンナーレ」以来の芸術監督鉄則3か条、トリエンナーレ「計画変更」は財務会計チェックから 税金原資、「慰安婦」炎上狙いでテロ誘引 膨大なコスト増 あいちトリエンナーレ大失態と欧州が払っている膨大な経費)である。なお、タイトルから「日韓慰安婦問題(その5)」は削除した。

先ずは、作曲家=指揮者 ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督で東大准教授の伊東 乾氏が8月7日付けJBPressに寄稿した「「慰安婦」トリエンナーレが踏みにじった人道と文化 「ヴェネチア・ビエンナーレ」以来の芸術監督鉄則3か条」を紹介しよう。同氏の寄稿は8月7日のこのブログに続くものである。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57247
・『あいちトリエンナーレ「表現の不自由展 その後」の中止を巡って「何が起きていたか」式の解説を複数目にし、ただただ、ため息をついています。 というのも、この展示やその中止も「政治的」でしたが、その収拾や解説も徹頭徹尾「政治的」な文脈からなされており、およそ「国際芸術展」としての本道から外れたものしか見当たらないからです。 (芸術の立場に立つ希少な例外があればご教示いただきたいです。またアート系メディアが誤った「表現の自由」程度の話で道に迷わないように、とも思っています) ジャーナリストを芸術監督に据え、「男女平等」など芸術そのものの内容とは別の切り口でのPRが奏功し、事前チケットも2倍の売れ行きであったことが報じられています。 つまりこれは「動員ありき」であって、タレント性のある有名人を「芸術監督」に選び、一日駅長相当で営業成績を稼いだことが分かります。 一芸術人としてこうした動きに早い時点から疑義を呈してきました。 大学などでも、全く門外の人が突然「芸術」を言い出し、素人万歳といった風潮が存在します。しかし、リスクを評価できないのでヒヤヒヤさせられるものが少なくない。今回は実際に、最悪の展開になってしまった。 かつ、その「何が」最悪であるかのポイントが、「政治的な説明」ではスルーされている。それを補いたいと思います。 ちなみに「情をもって情を征する」といったことは、単に脳認知に照らしておかしな空想と前稿に記しました。 京都アニメーション事件を巡って週刊文春に中村カズノリさんというカウンセラーの方の「怒りを因数分解する」テクニックが紹介されていました。 参考までにリンクします(https://bunshun.jp/articles/-/13240)。 興奮している人には何らかの意味で水をぶっかけて正気に戻す。感情の火に別の油を注いでまともな話になるわけがありません。 アートとは、形にならない人間の情動ではなく、素材や音という客観的な実在によって表現する人智の方法、ars(https://en.wiktionary.org/wiki/ars)を謂うものです』、「「情をもって情を征する」といったことは、単に脳認知に照らしておかしな空想と前稿に記しました・・・興奮している人には何らかの意味で水をぶっかけて正気に戻す。感情の火に別の油を注いでまともな話になるわけがありません」、津田芸術監督や主催者のお粗末さには、改めて驚きを禁じ得ない。
・『芸術監督の仕事は「危機管理」 今回すっぽりと抜け落ちたもの  報道やネットのリアクションには「政治家や公権力の<表現の自由>への介入」といった切り口があふれ、また、展示を中止された人々からも、何の説明もなくいきなり中止を通告されたと怒りを露わにする抗議文が公表されています。 しかし、こんな事態にしてしまったのは、芸術監督の判断と行動に原因があることで、明確にそれを指摘しておく必要があるでしょう。 というより、こうしたことを収拾するために、プロフェッショナルのキュレーターや職業人としての芸術監督という職掌が存在しているのにほかなりません。 アマチュアが間違った椅子に座り、面白半分で打つべき対策を打たずに徒手していれば、人災を招いて当然です。 では、本来プロフェッショナルの芸術監督であれば何をしておくべきだったのでしょうか? もし私がその任にあったとしたら、 1 展示コンテンツ事前告知の徹底 2 国際情勢の緊迫を念頭に、公聴会の開催、ないしパブリック・コメントの募集と検討 3 8月1日以降の事態急変に際しては、あらゆる関係者と対面での綿密な打ち合わせ(足を運んでの調整)。 調整不能の場合は引責辞任と、残余期間案分相当の報酬返納、それによる危機管理プロフェッショナルの雇用の申し出など これらを必ず行っていたと思います。またこの3点とも、いまのところ十全に行った報道を目にしません。 本稿はドイツのミュンヘンで記しており、情報の不足でもし瑕疵がありましたら、どうか編集部までご指摘を寄せていただければ幸いです。 「表現の不自由展」という元来の展覧会は、東京都練馬区の小さな古美術ギャラリーで開かれたものです。 このギャラリーは、私が中学高校時代を送った江古田という町にあり、私が在学していた頃は存在しませんでした。 手作りで心ある展覧会を継続していると聞き、母校に足を運ぶ折、立ち寄ったことがあります。全くのプライベート・ギャラリーで、官費がどうした、税金で開催といった話が出るところではありません。 ここは芸術の自由が確保された場所といって構わないと思います。内容のいかんを問いません。 翻って「あいちトリエンナーレ」は、神田真秋弁護士が愛知県知事選の公約として掲げて当選、発足した、最初から官費ありきの、極めて公的性質の高い国際展です。 そのコンテンツの選定は(あくまで一義的には芸術監督以下の判断が重視されますが)そこでの分別ある選定が当然ながら求められることになります。 主催は「あいちトリエンナーレ実行委員会」実行委員長は大村秀章・愛知県知事ですが、大村知事は農水官僚出身の元自民党代議士で、芸術に関するいかなる判断も下すことはありません。 ここまで押さえたうえで、具体的に今回の失態を検討してみましょう』、「アマチュアが間違った椅子に座り、面白半分で打つべき対策を打たずに徒手していれば、人災を招いて当然です」、というのは手厳しい批判だ。「今回の失態を検討してみましょう」、というのは興味深い。
・『展示の告知は十分だったか?  今回の経緯、こんな事態に炎上・発展してしまった段階で「セキュリティの観点から」大村知事が「中止」と判断を下されても、職掌に照らして妥当なことです。 さらに大村知事は、名古屋市長からのコンテンツ内容に関する指摘に「憲法違反の疑い」という、極めてピシッとした折り目で対処しており、プロフェッショナルの措置として、まずもって完璧です。 大きなリスクがある。だから留保する。以上。 芸術サイドに返す言葉は本来ないというのが、一芸術人として常識的に考えるところです。むしろ、そこまで徒手していた監督サイドの瑕疵を指摘し、今後は決してこうしたことの再発がないよう、努めるべきと思います。 まず、あいちトリエンナーレは、目玉のコンテンツとして「少女像」が展示されることを広くポスターなどで告知していたでしょうか? 地下鉄の中づりなどに、カラーのオリジナル「少女像」のグラビアが出たりしていたのか?  在外で、実情は現地の方に確認したいと思いますが、実のところ「蓋を開けてみたら<慰安婦像>があるではないか!」という「市民の抗議電話」などが殺到したという報道からして、十分なコンテンツの告知がなされていたとは言えないように思われます。 本稿は8月4日に書きましたが、校正時点の5日になって、「事前トーク?」と思われる津田「芸術監督」の音声動画を目にしました。 「みんな気がついてないんですけど、これがおそらく一番<やばい>企画」といった風情の、芸術監督業に責任を負ってきた観点から見れば率直に言って不謹慎、興味本位で面白半分な、キュレーションをおもちゃにする様子と見えたのは大変残念でした。 「2代前の天皇なら、歴史上の人物で燃やしても問題ない・・・」云々と報道されている動画などを確認しましたが、内容以前に、こうした「隠し玉」を準備して「炎上」させる意図があった時点で、官費執行に責任を持つ芸術監督としての大前提に瑕疵があったと指摘せねばなりません。 実際、社会ルールに照らして必要な措置は何であったか、を考えてみましょう』、「大村知事が「中止」と判断を下されても、職掌に照らして妥当なことです。 さらに大村知事は、名古屋市長からのコンテンツ内容に関する指摘に「憲法違反の疑い」という、極めてピシッとした折り目で対処しており、プロフェッショナルの措置として、まずもって完璧です」、と大村知事の判断を評価しているのは同意できる。「内容以前に、こうした「隠し玉」を準備して「炎上」させる意図があった時点で、官費執行に責任を持つ芸術監督としての大前提に瑕疵があった」、というのもその通りだ。
・『官費執行行事としての責任ある対処  日韓関係がかつてないほど冷却、悪化しているいまの状況下、もし芸術の場に「本籍」のある人が、日韓双方のアーティストや芸術文化、友好発展に責任と自覚をもっているならば、このタイミング、つまり「ホワイト国外し」といった議論に発展している渦中に、このようなコンテンツを展示すること、その波及効果について、思いを巡らさないわけがありません。 まして「隠し玉」として炎上を狙うなど、芸術の母屋に両足の着かない、無責任な野次馬の発想で、クリエーターの一人としてはただただ言葉を失うのみです。 ちなみに私はアムステルダムやミュンヘン、ベルリンで日常的にホロコースト・サバイバーと音楽の仕事をしていますが、関連の政治状況と演奏会本番との関係を常時意識しています。 下手なタイミングでめったなことをすれば、仲間に実害の影響が出かねません。 また大学では韓国や中国からの留学生に責任をもっており、アポリティカル=非政治的であることを徹底しています。 最近は、大学に職位を持つことを明示して公職選挙に立候補するなど、かつての国立大学では考えられないセキュリティ・ホールもあるようですが、大学は原則、完全にアポリティカルな場でなければなりません。 例えば、学内で教員が留学生を対象にヘイトなど絶対にあってはならないことで、発見次第、学窓を去るべきものと判断されます。 学生たちには「政治状況の変化によって、芸術や学術、文化には一切の影響はない」こと、あなたたちの安全や研究・創作の自由は指導教官の私が責任をもって守ること、学内は一切心配しなくていいが、新宿などでは暴漢が出たなどという話もあり、くれぐれも気をつけるように、といった注意を、私は日常的に送っています。 あるいは、京都アニメーション第1スタジオの焼け跡には、国と国との間には緊張があるけれど、私にとっては京アニの作品が大切と、花をもって訪れる韓国や中国などのファンが多数存在することも報じられていました。 それが芸術や学問という独立した地平の本来の在り方で、政治の具に堕してしまうなら、それは一過性のプロパガンダにすぎません。 たとえ両国間が戦火を交えていても、それと一切無関係に、信頼と友好を土壌に、常に落ち着いた円卓を準備できるのが、学問や芸術のネットワークというものです。 端的にいって台湾と中国はどのように対立していても、ITや半導体、AIやセンサーを巡る国際会議には普通にメンバーが同席します。 あるいは原爆開発を準備していた米国側に亡命したアインシュタインやニールス・ボーアと、欧州なかんづくナチスドイツにとどまったマックス・プランクやハイゼンベルクは、戦時中も常に落ち着いた和平に向けての建設的な議論に道を閉ざすことはありませんでした。 これとアドルフ・ヒトラーやヨーゼフ・ゲッペルスらが指導する政治や戦争とは、完全に分離され、ケジメされている。是は是、非は非です。 「学術外交」=学問・芸術は常に人と人の間に回路を開き続けます』、最後の部分はなかなか味わい深い表現だ。
・『ビエンナーレ/トリエンナーレ 人道と文化の「芸術オリンピック」  人道と信頼、友好、平和のためのチャンネルの確保し続けることに重要な意味があります。 1895年、最初に「ヴェネチア・ビエンナーレ」が創設されました。近代オリンピック同様、芸術が人道および文化の面で全人類に貢献することが謳われて発足した背景があります。 これを追う形で第2次世界大戦後、全世界で開かれるようになったトリエンナーレのような国際同時代芸術展には、単に税金を使っているという以上に、オリンピックと同様の品位をもって、同時代を生きる芸術作家が友好と信頼に照らして、コスモポリタンとしての道義的責任をもって固有の仕事を全世界に発信する場として設けられたという強い特徴があります。 こういう当たり前の基本、今回の関係者は役所含め1の1から分かっているのでしょうか? 日本では主催自治体のお役人からして地域振興以上のことを考えていないことがあるのは、かつて「横浜トリエンナーレ」の準備に短期間コミットした際、私自身も痛感させられました。そういう了見で開催するような行事では本来ありません。 さて、こうしたオーソドックスな観点から、現下の文在寅政権との間の政治的緊張を念頭に、百年のスパンで日本と韓国、朝鮮半島の人々との、真に深い相互理解と芸術文化への相互尊重に資する形で出品作品とコンテンツの妥当性が事前に十分吟味されたといえるでしょうか? 全く、言えるわけがありません。 国内のごく一部で内輪受けする程度の「芸術」判断基準と、地域振興動員数向上あたりに照準を当てたお役所との利害が変に一致して、グローバルな人道と文化を感じ考える芸術のオリンピックが、弄ばれていたのではないか? 「あいちトリエンナーレ」の展示作品が「決定」して以降も、国際関係は悪化の一途をたどり、「ホワイト国指定解除」など事態は急変しました。 先月にはソウルで日本製品を燃やす報道などもあった。この間、芸術監督の職掌にある者が、オリンピック同様の芸術の配慮をもって、コンテンツの妥当性に細心の注意を払っていたか?』、津田芸術監督からはこうした反省の弁を聞くことはなかった。
・『パブリック・ミーティング パブリック・コメント  公聴会を開くことも可能だったと思います。もし真剣に展示したいと思うなら 「これは「慰安婦」ではない・・・平和の少女像を巡る<あいちトリエンナーレ>プレイベント・パブリックミーティング」 といった行事を開くこともできたでしょう。むしろその方が、賛否双方、議論百出し、展示するにせよ、実物展示を控え映像などに代替するといった方法を取るにせよ、開かれた公衆の注意を呼び、結果的に「動員数」も稼げた可能性があるでしょう。 そうした決断を唯一下せたはずであったのが、芸術監督職でした。 「そんな会を開いたら、危険があるかもしれない」と言われる向きには、ネット上のスカイプ討論会でも有効でしょう。 実名匿名で多くのコメントが寄せられるようにしておき、さらには展示作品や作家とも音声動画でつなげて、開かれた場できちんとした議論を共有する。ほとんどコストなどかかりません。真剣に考えていさえすれば、120%実行できます。 仮にこうした「開幕前事前報道」が8月1日以前に事前になされていたなら、ここまで酷い、というか、明らかにビエンナーレ/トリエンナーレの同時代芸術史に汚点を残す前例には成らずに済んだと思います。 そのことを、いまだ関係者を含め多くの人が自覚していない様子ですが、今回の仕儀は芸術やアートのオリンピックを棄損している、そのことを明記したいと思います。 それに比べればドメスティックな話ですが「税金を使った」に対しても芸術監督はきちんと打つべき手がありました。 官費執行という観点ではパブリック・コメントを取ることができたはずです。仮にパブリック・コメントを通じて「この展示案は妥当ではない」という意見が多数を占めたなら、芸術監督としてそれを踏まえて「展示しない」という決断を下すことも可能だったでしょう。 そのうえで責任を問うことは、常識的に考えて困難です。 また「パブリック・コメントで支持された作品」ということになれば、いまのような事態に対して、根拠をもって反論できたはずです。そういうものが一切なかった。 「隠し玉」という悪ふざけみたいな発想で止まっていた可能性があります。「芸術監督」の続投は無理でしょう。実際にここ数日起きたことは、何だったのでしょうか?』、「今回の仕儀は芸術やアートのオリンピックを棄損している」、というのはその通りで、国際的にも恥ずかしい限りだ。
・『実行委員会「中止」決定時点で芸術監督は辞任すべきだった  十分な事前告知を行わず、パブリック・コメントなど官費執行に関する手続きも踏まぬまま、「隠し玉」炎上狙いの素人了見で8月1日に蓋を開け、現下の国際緊張状態のなか、アルコールランプと思っていたら、ガソリンにマッチを投じてしまった。アマチュアの浅い考えです。 実際に「大炎上」してから、つまり保守系の政治家がクレームをつけたり、襲撃予告と解釈できる(といっても多くは愉快犯で、本当のリスクは別のところにあると思いますが)匿名連絡があったりすれば、国家公務員出身の政治家・知事の「実行委員会」委員長としては、憲法にも照らして状況を精査のうえ、純然と安全性の観点から中止という判断を下さないわけにはいかない。 当たり前のことです。この段に至って「表現の自由」などというのは、トリエンナーレが人道と文化、平和の芸術五輪である原点を考えるとき、議論にならないことがお分かりいただけるかと思います。 さて、その渦中で芸術監督は何をしたか? 一緒になって「中止」する側に回ってしまった。これが最低最悪と思います。察するに、公務員としても政治家としてもプロの大村知事の盤石の説明の前で「納得」させられ、うなづいて帰ってきたのではないかと思います。 それでは、ただの坊やにすぎません。芸術監督が守るべき一線は別に厳然と存在したわけですが・・・。 さらに、その「決定」に際して、芸術監督であるはずの津田大介氏は、作品「平和の少女像」の作者、彫刻家のキム・ソギョン、キム・ウンソン夫妻と、直接対話して納得を得るプロセスを経ていない、と報道されています。事実なら、あり得ません。 彫刻家本人はもとより「表現の不自由展その後」の当事者とも、十分な話し合いがなされていないように報じられています。 一方で、愛知県の大村知事と津田大介さんは直接対面して確認をとったとの報道も目にしました。 もし、これらがすべて事実であるとするならば、さらに加えて津田さんは芸術監督の任ではないと言わねばなりません。 芸術監督にとっては、コンテンツの総体そのものが「作品」として彼・彼女の見識と品位を問われます。出たとこ勝負で出したりひっこめたりする、じゃんけんの掌のようなものではありません。 一つひとつの作品には作家があり、五輪同様に、海外からの参加には最大の尊重と敬意を払う必要があります。 前回稿の冒頭にも記しましたが、もし展示作品を、自分自身がそれを依頼し、決定した作家や関係者に確認を取らず、「展示中止」つまり「撤去」などということをしてしまったら、それは芸術監督でもなんでもない。子供がおもちゃを弄っているのと変わりません。 本来なら、足を運び、土下座でもなんでもしてやることは山のようにあるわけで、ただ徒手していただけなら、意味のない素人ということになる。 テレビ番組名ではないですが「ガキのつかい」にもなっていません』、「「ガキのつかい」にもなっていません」、とは言い得て妙だ。
・『芸術監督として取るべき所作は  「実行委員長から、展示中止との意向を受けた。この展覧会は、あらゆる出品作家に<わたし>という芸術監督が依頼して成立したものであり、一点の瑕疵も認められないので、芸術監督として私は、これを受けることができない。その職を辞するとともに、残りの実施期間で案分して自分の俸給相当分を返納するので、これをもとに危機管理スペシャリストを充て、事態の迅速な収拾にあたっていただきたい」といった身の処し方になるはずです。 ところが実際には、作家や当事者と最低限のコンセンサスも取らぬまま「監督としての責任をもって、最後まで運営に邁進したい」と記者会見で述べているのを読み、その後、「昭和天皇は2代前だから」という動画を見、本稿を校正しています。 アマチュアが現場で責任など取れるわけもないことは、この事態が起きた時点で明らかで、私が第一に想起したのは吉本興業の社長の保身記者会見であったことは、前稿にもすでに記した通りです。 「表現を不自由」に禁止する側に、芸術監督自身が回ってしまった。 もうこれは、通用する話ではありません。権限だけの認識だったのだと思いますが、トリエンナーレは子供もおもちゃではありません。 さて、ここに至るまで、まだ一切、私が「平和の少女像」という作品への是非に、一切触れていないことにご注意いただきたいのです。 「ある作品に反対だ!」と言ったとして、それに火をつけたり壊したりしたら、普通に器物破損で刑事司法の適応対象になる。これは芸術以前、当たり前のビジネス・ルールを記すものにすぎません。 そういうレベルで云々するのが素人というより、冷徹な仕事の土俵に上がることができていない証拠になっている。 官費も出動して公が主催する国際美術展、大規模なトリエンナーレに海外から作家を招き、作品を展示するということの意味、芸術監督として最低限持たねばならない責任を理解していない。 「ジャーナリスト」などというより、なぜか権限をもってしまった傍観者として、予想を超えた騒ぎの前で右往左往しているだけ、というのが現状と思います』、手厳しい批判で、正論だ。
・『個人攻撃は問題の所在をあいまいにする  重ねて、私は津田大介さんという個人を責めようと全く思いません。逆で、津田さんへの個人攻撃のように誤解されることを、一番恐れます。 現実には<撤去>後に“発見”された「2代前の天皇を燃やす」云々の音声動画が拡散したことで、彼が任期を全うする可能性は激減したかもしれません。 しかし、彼がそういう経緯で辞任したとしても、また別の素人が来てかき回せば、やはり混乱をきちんと収拾することなどできないでしょう。 私が全面否定するのは「プロの職責に素人が紛れ込んで引き起こされる、必然の失敗」セキュリティー・ホールそのもので、個人には興味がありません。 アート側の人間は訥弁の人が多い。いまだ多くの意見が出て来ていないと思いますが、「平和の少女像」という個別作品への意見の是非とは別に、本質的に作家と作品を愚弄する行為であるという点では、意見は一致すると思います。 これ以上、出たところ勝負の民間療法で、傷口を広げないようにというのが、落ち着いた分別から投げてあげられる「タオル」と思います。 あまりに作家や作品、いや「芸術」というもの、ビエンナーレ・トリエンナーレの理想そのものに対して、失礼です。 加筆校正で紙幅を超過したため、参考として記した私自身のかつての経験、「横浜トリエンナーレ」関連以降は稿を分けることにします。(つづく)』、この後、続きを2本紹介しよう。

次に、この続きを、8月9日付けJBPress「トリエンナーレ「計画変更」は財務会計チェックから 税金原資」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57265
・『「表現の自由」水かけ論より問われる財政規律:開幕3日目で中止となった「表現の不自由展 その後」で揺れる「あいちトリエンナーレ2019」。 8月7日には「うちらネットワーク民がガソリン携行缶もって館へおじゃますんで」とファクスを送った犯人が検挙されました。他方で企画展示の中止に抗議する署名も2万人を超えるとも報じられています。 日頃、「アート」に興味のない人も発言している様子で、メディアに乗る批評家のコメントなどが混乱を極める観があります。 さて、こういうとき、芸術ガバナンスのプロが守るべき鉄則が一つあります。それは「価値中立的」であるということです。 特定の表現を取り上げて良いとか悪いとかいう感想や主張を、ガバナーがしてはなりません。今回が3本目になりますが、私の記述も徹底して「価値中立的」であることにお気づきいただけると有難く思います。 明らかに正面から対立する意見が国民、市民、納税者の間いだに見られる、これが客観的な事実であって、そこで確認されねばならないのはプロセス、本稿に即して要点を先に記すなら「帳簿と執行の決定経緯」を洗い直す必要があります。 政府発表も「補助事業採択の経緯確認」とありました。補助金が関わるということは、つまり、帳簿が問われるということです。 もし仮に、という話ですが、官費を原資とする芸術展の選考を、例えば飲酒しながら、何となく気分で決めていた、などという経緯があれば、当然是正される必要がある。当たり前のことを言っているのにすぎません。 もしも、仮に、展示期間途中から、明らかに警備費用増額の恐れがあったり、防弾チョッキなどの必要があるとあらかじめ分かるコンテンツを意図的に含むようなことがあれば、当然ながら遡及的にその責任が追及されることになると思います。 これは「芸術上の責任」でも「表現の自由」でもない、税を原資とする財務管理と安全な行事に責任を持つ職掌に問われる、全くドライでシビアな追求です。 ツイッターなどで質問を受けたりもするなかで、前稿まで私が当然の前提にしていた事柄が、必ずしも読者と共有できていない可能性に気づきました。 例えば「芸術監督」という職種は「芸術家」のそれではありません。 その人(監督さん)の「作品」が展示されるとは限りません。もちろんアーチストが芸術監督を兼務して、自分の作品を含めたキュレーションを行うということはあり得ます。 しかし、基本的にアーチストと芸術監督=アーティスティック・ディレクターは全く別の仕事です。でも、こんな入口で混乱している人も少なくないようです。まずそこから話を始めましょう』、そもそも論から説明してくれるとは有り難い。
・『芸術監督は「管理職」  「芸術監督」というのは「管理職」です。これに対して、アーチストはものづくりをする「職人」です。 いろいろな現場には職人出身の管理職もいるでしょうし、現場を知らないキャリアがやって来ることもある。 今回に関しては、現場経験のないホワイトカラーが、メイン・スポンサー・サイドから要請を受け、派遣されて着任という構図と思います。 ちなみに私自身は畑違いですが、オペラの伴奏助手を振り出しに副指揮者などスタッフとして数年働いたのち、30歳前から芸術監督として公演全体の責任を持つようになった、ノンキャリの「職人」積み上げからスタートして、30代から「管理職」仕事にも、ここ四半世紀ほど携わっています。 今回の「あいちトリエンナーレ」個別の契約詳細は分からないこともあり、ずれがありましたら謹んで修正しますが、以下極めて一般的に「芸術監督」とはどういう職掌であるか、基本から確認してみましょう』、筆者が「「管理職」仕事にも、ここ四半世紀ほど携わっています」、道理で詳しい訳だ。プロとして仕事をしてきた立場から見ると、今回のお粗末さに我慢がならないのだろう。
・『「ひと・もの・かね」を掌握 「芸術監督」の絶大な権限  「芸術監督」は一般に、以下の3つに責任を持つ管理職です。あるアーティスティックなプロジェクトについて、芸術面から 1 予算の管理 2 進行の管理 3 リスクの管理 これらに全責任を負い、管理する「マネジメント」の仕事、それが芸術監督の職掌です。 個別の作品を作る「アーチスト」とは、明らかに別の仕事であることがお分かりいただけますか? 今回の騒ぎは「企画展中止」という「計画変更」が、開会3日目で発生したというものです。「変更」があった場合、プロジェクト・マネジメントの観点から立ち戻るべき基本はどこにあるでしょう? とりわけ官費が関わる場合は「財務会計」が絶対的な答えになります。理由は明快、税金が原資だから使途が変更になったら改めてチェックされねばなりません。あらゆる役所がやっていることです。 計画変更時点でいったん締めた「あいちトリエンナーレ」の財務会計・中間報告こそ、一番に共有されるべきと思います』、さすがプロらしい指摘だ。
・『「表現の自由」は水かけ論にしかならない  メディアでは「政治家がコンテンツの内容にクレームした」といった話題を目にしますが、そういうことでお茶が濁されてはいけない「あいちトリエンナーレ」の財務会計こそ、未来に禍根など残さないためにも、現場的には最大の問題だと私は思います。 政治家の発言は、そもそもトリエンナーレの外の人たちの言うことであるのに加え、「税金を使って<慰安婦像>を展示していいか?」とか「公金で天皇を燃やす動画を映写するなどけしからん」といった批判はそもそも無理筋。 つまり、愛知県知事も言う通り「違憲の可能性が非常に高い」話で、何ら決着など着くことはないでしょう。 また「税金」と言いながら、スローガン以上定量的な議論に踏み込むものを目にしません。これでは意味がない。 いったい、いくら税金から出しているのかを厳密に問うことから始めねばなりません。 「公的補助金はどれだけ?」「企業協賛金や広告収入等は??」「事前販売のチケット収入は???」 そうした収入の部の具体と、逆に企画展示の「制作経費」から「広告費」などに至る支出の部、ここで確認される中には「芸術監督報酬」も含まれるでしょう。 それらの金額をすべて隠れなく並べたうえで、変更後の計画を根拠をもって吟味し、公開情報として説明責任を果たすこと。 すべて隠れなくガラス張りの明るみに示すのが、こうした事業を運営する1の1です。財務会計を透明にしなければなりません』、「「表現の自由」は水かけ論にしかならない」、というのもその通りだろう。
・『「計画変更」は、財務会計のチェックから  先に「芸術監督」は「予算」「進行」と「リスク」を<管理>する、と書きましたが、別の表現を採るなら Ⅰ 芸術的な観点から「予算の配分の権限を持つ」立場であり Ⅱ 芸術的な観点から「制作進行決定の権限を持つ」立場であり、かつ Ⅲ 芸術的な観点から「リスクに対処する権限を持つ」立場である ことにほかなりません。 このうちⅢ、つまり危機管理に関しては、今回全くその職能を全うせず、そのため今回の事態を出来している。 関係自治体、議会や地域納税者は、いったい何が起きていたのか、正体不明の水かけ論ではなく、数字とともに厳密なチェックを行うのが筋道です。 これは企業でもどこでも同じ、当たり前のことで「芸術」だからと言っておかしな雲や霧で覆うことは許されません。 職業芸術人はそういう現実をよく知っています。「アート」に曖昧な印象を持つ部外の人が、本来いちばん重要であるべき決定プロセスをいいかげんにスキップしている恐れがあれば、一点の曇りなく確認するのが1の1と思います。 何らかの事業の「計画変更」があった場合、最初にチェックすべきものは「財務会計」。ない袖は振れないし、仮に収支見通しが変わってくれば、それこそさらなる「計画変更」が必要になるかもしれません。 さて、報道に目を向けると、「企画展中止」に対していろいろ主観的な意見は出てくるのですが、官費で運営されるトリエンナーレの計画変更に当たって、マネジメントを帳簿からチェックし直すという一番シリアスな指摘はほとんど目にしない。 数字がないまま「税金」がどうした、と文字だけ躍っても意味ありません。さらに「税金で<こんな作品を展示して>」などと言っても、それが<良い>とも<悪い>とも、白黒は決してつきません。 互いに180度異なる意見で対立する人たちがいるとしても、いずれも納税者です、ガバナーは特定の納税者の肩を持ったりすることは決して許されない。 価値中立的に判断するのが、芸術ガバナンスの公共性、その1の1であること。大事なポイントですから何度も繰り返して記します。本稿読了の暁には、何がプロフェショナルの仕事であるか、ご理解いただければと思います。 大村愛知県知事が正確に指摘した通り「憲法違反の疑いが濃厚」になるだけで、まともな結論など永遠に出て来るわけがない。意味がないことはここでは捨象します。 逆に、ただちにはっきり出るのが数字、財務です。今回、計画を変更したわけで、関連して明らかに(「電話」だけでも事務がパンクしてしまった様子などは報じられましたし、もし追加の警備などがあれば当然出費が伴うわけで)お金の動きがあるはずです。一般にこうしたコストは(余剰人件費であることが多く)決してバカになりません。 さらに「襲撃予告」などが風評被害を生んでしまい、ファックスを送った犯人は逮捕されても、ことはこれでは終わらない。 いや、逆で、京都アニメーション放火殺人事件で「方法」が周知されてしまった「ガソリン携行缶テロ」という手口の模倣犯が、仮に言葉だけの脅迫であっても出て来る可能性が現実になってしまった。 パンドラの箱はすでに開いており、愛知県内の小中高等学校にガソリン放火との脅迫メールの事実も報道されています。すでに、全く洒落では済まない状況になっている。 言うまでもなくトリエンナーレ全体の来場者数にも変化が出かねず、その場合は露骨に収支に直結するでしょう。 夏休みだ、展覧会に行ってみようか・・・と思っていた家族連れが今回の騒ぎやコンテンツの悪評さらには、おかしな襲撃のうわさに続いて、「ガソリンだ」と称して警官によく分からない液体をかけた男が逮捕されたりすれば、 「やめとこっか」と二の足を踏んで全く不思議でない。 こうしたイベントを役所サイドは「動員数」で測りたがります。税が原資ですから、より多くの納税者に楽しんで頂けた、という説明が一番分かりやすく疑念も挟まれない。 これはまた入場料収入などにも直接跳ね返ってくる数字になります。 そうしたデータに照らして、今明らかに座礁していているわけですから、どのように舵を取り直すか、データに即して合理的に検討し直さなければ、つまり無手勝流を繰り返すなら、同じ隘路に迷い込みかねないのが普通でしょう』、「「計画変更」は、財務会計のチェックから」というのは正論ではあるが、日本ではカネのことを卑しいとする雰囲気があり、軽視されがちだ。
・『問われる財政規律  非常に厳しいことを書いていると思われるかもしれません。しかし、実はこれ、日本全国の学術研究者が科学研究費などを受給する場合、例外なく問われるのと同じルールを記しています。 官費の執行というのは、やや大げさに言えば「財政出動」ですから、その規律は会計検査院の水準で、ガチっと問われるのが普通のことです。 (そこに「アート」が紛れ込んでくると、おかしなことを言う人が元お役人などにも20年ほど前には実はいました。非常に由々しいことだと思っています) 官費のプロジェクトで計画変更があった場合、最初に問われるのは「会計検査院ルール」でチェックに通る徹底した財政規律コントロールです。 私もこの20年数来、莫大と言っても大げさではない時間を1円の狂いも許されないアカウンタビリティ・チェックに費やし、相当に神経をすり減らしてきました。 一般にクリエーター、美術家や音楽家はこうした観点つまりマネジメント、経営収支といったものの見方が苦手です。私も国立大学教官などになる前は、官費執行がここまでうるさいとは知りませんでした。 しかし大学に呼ばれる前から、オーケストラやオペラの指揮者=芸術監督の現場仕事では、常に数字を念頭に置く必要がありました。 以下、イベントの「途中変更」がお金の観点で何を意味するか、分かりやすいと思うので、具体的に書いてみます。 あるリハーサルでアンサンブルが<下手っぴー>なところが出てきたとしましょう。普通にあることです。 そこで「追加練習を組む」という芸術上の決定を指揮台の上で下すとします。これが「計画の変更」。 仕事の現場では「変更」は同時に、必要なリハーサル室の室料からアーチスト謝金の追加、場合により伴奏ピアニストの手配やその謝金、事務局の管理経費などすべて「出費の追加」を意味します。 当然ながら財務会計チェックに相当するソロバンを頭の中で弾かねばなりません。「芸術監督」の<お金の管理>という仕事の分かりやすい一例を記してみました。 あらゆる「変更」は「財政破綻につながるリスク」日々用心、備えよ常に、が芸術監督業の要諦です。 これが仮に「客演指揮者」であれば、ギャラを貰って1回の本番があっておしまい、という仕事で、練習の追加発注の権限などは持っていません。 あらゆる「変更」の折は、直ちに事務局とのシリアスな話し合いが始まります。プロフェッショナル同士の、値引きのない駆け引きの場です』、海外の「芸術監督」は、確かにプロらしい仕事をしているようだ。日本では次に説明があるようだ。
・『アニメのケースで:高畑勲+宮崎駿ペアの分業  もう一つ別の例で考えてみましょう。 亡くなった高畑勲さんがアニメについて奇しくも言っておられましたが、作り手は良いものを惜しみなく追及した方がよい。お金の心配をしながら手心を加えるようなことは本来望ましいことではない。 宮崎駿さんが監督でモノづくりに集中しているときには高畑勲さんが制作統括してお金の面倒を見る。逆に高畑さんがモノづくりするときは・・・という二人三脚は、よく知られていると思います。 「お金の心配」をするのが制作統括つまりプロデューサーの仕事ですが、美術展ではやや言葉遣いが混乱を招きやすい形になっています。 すなわち「芸術監督」がアーチストサイドのプロデューサーで、スポンサー側では主催委員会のトップがプロデューサー、今回なら大村知事ということになります。 大村知事はアートの中身には口も手も出しません。お金と進行、そしてリスクをきちんと管理します。 これに対して芸術監督は、官費を含む予算を正しく執行して、芸術のオリンピックとして世界に問うべき独自のコンテンツ・ラインナップを作る<ひと・もの・かね>の「権限」を委譲されると同時に、適切な「進行管理」にも本来責任を負う立場になる。 そこで、今回の事態はその心臓部の一つ「進行管理」に明らかな失態があった。 さらにリスク管理にも「想定外の事態」を呼び込んでしまい、当然ながら想定外の出費がかさむ可能性がある。 「後になって計算してみたらこれくらい赤字が出ていた、それは地元住民の税で負担・・・」というようなことが許される話ではない。 その都度、財務のチェックが基本で、「表現の自由」も「襲撃予告」対処も、それらを支える「後ろ盾」の予算がなければ話が始まりません。 「脅迫に表現の自由を圧殺させてよいのか?」という議論があります。 「脅しに屈することなく展示を続けてこそ表現の自由ではないか?」 真に美しいマニフェストと思います。 さて、この連載では「ベルリンの中心街、動物園前のヨーロッパ広場のクリスマス市無差別テロ殺人現場」で、脅しに屈することなくフェスティバルを開催し続けている事実を2016年の発生直後から幾度も取り上げています。 それに一体、いくらかかっているか、ご認識でしょうか。本稿はベルリンで書いており、今日の現場の写真を後で取って続稿を記そうと思いますが、莫大な経費がかかっています。 いま、はっきり言って素人が選んだ今回のトリエンナーレで、もっぱら安全性の観点から、「その継続のために、いったいいくらの警備費を上乗せすることが妥当か?」は、作品への好悪などと無関係に冷静に検討すべき財務のイシューです。 赤字が出たらどうします? というかアクションすれば出費は100%増えます。名古屋市民や愛知県民の税金で追加補填するのですか? 私は慎重であるべきと思います。芸術家の立場から、良心をもって断言します。警備の強化などを含む、あらゆる対策経費を念頭におく財務チェックを直ちに行う必要があるでしょう。 それが芸術監督、芸術ガバナンスに携わる立場から第一になすべきこと、異論の余地などあり得ません。 「無い袖」は振れない。これはシビアな職業的経営判断です。お金の見通しの立たないこうした計画変更は、税金を原資とする官費投入の現場で許されることではありません。 JBPressは元来イノベーション経済メディアで、私は「京アニ」や「トリエンナーレ」のコラムと前後して日英語で暗号資産の数理モデルなども議論しています(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57206)が、両者に透徹するのが「財政規律」など公共性という経済倫理の大原則にほかなりません。 すべて財務とともに明確な説明が求められます』、「「脅しに屈することなく展示を続けてこそ表現の自由ではないか?」 真に美しいマニフェストと思います」、膨大な警備費用をかけてまで、「表現の自由」を守るというのは、確かに倒錯した理想論だ。
・『磯崎新の「横浜トリエンナーレ」批判  私が生まれて初めて芸術監督を務めたのは1993~95年、28~30歳のとき、福井県武生市主催の松平頼則作曲のオペラ「源氏物語」世界初演公演で、この職責を追いました。 演出=渡邊守章(1933-)バレエ振付=厚木凡人(1936-)という還暦年配の先輩芸術家諸氏を前に、20代の駆け出し指揮者であった私は芸術監督として 1 予算の管理 2 進行の管理 3 リスクの管理 という3つに責任を持ちました。 仮に演出家が「歌手や役者を宙乗りさせたい」と主張したとき保険のかけ金など含め、必要経費がどれだけか、できるだけ早く正確に見積もってゴーサインなのか中止サインなのかを出さねばなりません。 (この時はそういう提案はありませんでした。しかし、後に「題名のない音楽会」の監督時代には、オーケストラの上をロックコンサートみたいにカメラをクレーンで舐めたい、というバラエティのプロダクションディレクターに、必要な「楽器保険」の金額を見せたところ、青くなって黙るといったやり取りはありました) 武生の「源氏物語」では、還暦年配で親子ほども年の違う「偉い」演出家や振付家に、20代の駆け出しである私が「ノー」を言わせていただくこともありました。 財務会計の権限を持っていたから、ない袖は振れないということです。 それらは福井県武生市の議会を通過して承認、終了後も細かな会計検査があり、経理面のプロデューサー、生前の武満徹さんを支えたていた秋山晃男さんが胃を悪くしたのを思い出します。 また20世紀から21世紀への変わり目の時期、「第一回横浜トリエンナーレ」の立ち上げ時にほんの少しだけコミットしかけました。 当時、私は、横浜・井土ヶ谷に本拠を置く美術学校「Bゼミ」で音楽以外のアーチストを含む学生を教えており、また横浜在住の舞踏家・大野一雄さんと建築の磯崎新さん、作曲の先輩である一柳慧さんとのセッションも行っていたため、パブリック・オピニオンを集める会合などに数か月付き合ったのです。 「横浜トリエンナーレ」は桜木町から赤レンガ倉庫あたりのエリアを「アートで再開発」という自治体の文脈が背景にありました。 都市再開発が関わりましたから、話はリアル・エステートが絡み、状況は錯雑を極めていました。 ちょうど音楽実技教官として大学に着任直後でしたので、横浜市の担当課長Iさんに紹介されて、私は学内の工学部都市工学科で助教授を務めておられた北沢猛さん(1953-2009)に「町おこし」の観点から「横浜トリエンナーレ」計画の横顔を教えていただきました。 北沢さんは10年前、50代半ばで惜しくも急逝されましたが、横浜育ちで、東京大学工学部都市工学科卒業後、横浜市に入庁、企画調整局都市デザインチームメンバーから都市計画局都市デザイン室長まで歴任ののち、母校出身学科に助教授で着任、後進の指導に当たりながら全国各地自治体の都市デザインアドバイザーとして活躍された方です。 北沢さんから伺う計画は、当たり前ですが、値引きなしの公共事業であるとともに、あらゆる種類のリスク対策が話の9割がたを占めていました。 この時期、建築の磯崎新さんは、本家本元のヴェネチア・ビエンナーレで建築の「金獅子賞」(1996)などを得ており、日本館のコミッショナーなども務めていました。 その際、磯崎さんは横浜でのトリエンナーレに極めて冷ややかでした。以下、詳細は記しませんが、「音楽の助教授」として何ほどか期待されたかもしれない、この取り組みと、私は距離を置きました。 前稿まで「あいちトリエンナーレ」の現状に示した私なりの見解は、主として「横浜トリエンナーレ」にまつわる北沢猛さんと磯崎新さんの観点を前提に、自分の文責で記したものです。 磯崎さんがヴェネチア・ビエンナーレで最初に責任を持った1996年、私はアーティスト・レジデンシ―で磯崎夫妻(当時のパートナーは彫刻の故・宮脇愛子さん)や作曲の高橋悠治さんと米国フロリダ州のアトランティック・センター・オヴ・アートで50日ほど一緒に生活しました。 このとき、磯崎さんのオリンピック批判やビエンナーレ批判を連日聞かされ、こうした問題をそれ以後考える原点を移譲してもらったと思っています。 つまるところ、今回の「あいち」は、磯崎さんなどが「ビエンナーレ」「トリエンナーレ」で問うてきた水準の入り口に達していない。 「批判」の射程が短すぎる。 芸術が困難な社会の現状を逆照射し、厳しい現実を突きつける、というようなとき、いま俎上に上がっている程度の議論(「やばい」「炎上」などの表現が端的に示してしまったもの)は、はっきり言って浅すぎる。 皮相な「政治」(未満)のレベルにとどまり、芸術の出発点に立てていない。もしそうでないというなら、どうして「表現の不自由展 その後」の<全体>を十把ひとからげに中止、などという乱暴を「芸術監督の立場」でできるだろうか? 会場の安全管理責任者、という立場では可能なことです。愛知県知事はそれを判断する責任がある。 芸術監督であれば、担当キュレータ―と緊密に打ち合わせながら、脅迫の対象になっていない他の作品の一つひとつ、その作家のひとりひとりに配慮した対案を、仮に形だけであったとしても、一度は卓上に提案するのが、当たり前の義務になります。 もちろん担当キュレータは抵抗するでしょう。一人の作家も欠けてはならない・・・それが芸術をキュレートする1の1というものです。激しいせめぎ合いに、当然なのですが・・・そうしたことが、今回の経緯で、どの程度あったのか? いま目にしている、こういう措置を「連座制」といいます。一族郎党、全員問答無用で撫で切りという最悪の権力者の振る舞い、江戸町奉行並みな「成文法以前」の「お裁き」で、一つの企画展に含まれるアーティストも作品も、全部一蹴してしまった。 私は、一芸術人の観点から、こういうことは許されるべきではないと思います。今日の社会で普通に芸術に責任を追う人は、こういう無法な判断を決して下さないし、下せません。 くれぐれも、安全管理のため、企画展全体を留保するのは、行政として当然の判断です。それはセキュリティという別の物差しでみているから。 しかし、いやしくもアートの立場であるならば、作品も作家も十把ひとからげ、頭ごなしに「中止」と通告する芸術のガバナンスはあり得ません。これは芸術監督業では、ない。 たかだか「この企画が一番政治的にやばい」程度であれば、素人の手なぐさみにしかなっていない。 多分、多くの美術家はこうしたことをまだ発言しにくいと思います。美術にしがらみの少ない楽隊として「王様は裸」と記し、建設的な観点からまともな展開を期待したいと思います。 現状は「まとも」とは言い難い。 まだ70日ほどの会期を残す「あいちトリエンナーレ」が「まとも」な軌跡を描くかどうかは、財政規律のチェックに始まる普通に厳密な「まとも」へのギア・チェンジに始まり、「芸術に襟を正す姿勢」を取れるか、あるいは取れず仕舞いで終わるかに懸かっているでしょう』、伊東氏には芸術祭や芸術監督についての長年の蓄積があったからこそ、今回の問題を短期間で分析できたことがよく理解できた。「一族郎党、全員問答無用で撫で切りという最悪の権力者の振る舞い、江戸町奉行並みな「成文法以前」の「お裁き」で、一つの企画展に含まれるアーティストも作品も、全部一蹴してしまった」、というのは誠に残念なことだ。

第三に、この続きを、8月13日付けJBPress「「慰安婦」炎上狙いでテロ誘引、膨大なコスト増 あいちトリエンナーレ大失態と欧州が払っている膨大な経費」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57293
・『あいちトリエンナーレ「表現の不自由展その後」展示の中止に関連して、「反日」あるいは「表現の自由の侵害」といった指摘がピント外れであることを指摘しています。 愛知県の大村知事は「多くの皆さんに不安を与え」「展覧会の円滑な運営が行えなくなった」ことに関して、早期に「検証委員会」を設置のうえ、証拠に基づいて法的に対処を検討する旨を発表、全く妥当なことだと思います。 同時に「表現の不自由展その後」に作品を出品していた彫刻家で、文化女子大学教授の中垣克久さんさんがインタビューに応じ、事前の作家名や作品名の公開を伏せられたこと、作家として当然抗議したところ「情報が洩れると企画がつぶされるから」といった説明があったことなどに言及していました。 もし、これらが事実であるとすれば、今回の事態は明らかに意図的な「炎上」を狙って発生したもので、運営側の責任が厳しく問われなくてはなりません。 「一番悪いのは、暴力で脅迫した人だ」という意見がありますが、そんなのは当たり前です。 一番も何も脅迫なり放火なりというのは通常法規で禁じられる刑事事件であって、当然取り締まりを受けるべきであり、ただの犯罪です。 今回の「あいちトリエンナーレ」の失敗に固有の本質的問題では全くありません。 今回の「あいちトリエンナーレ」事件が問題になった直後、つまり会期2日目である8月2日の時点で私は 「事前に十分な告知はなされていたか?」「官費を使うので、必要があればパブリック・コメントを」といったポイントを本連載の緊急稿で指摘しました。 果たして翌8月3日、企画展は中止となりました』、「今回の事態は明らかに意図的な「炎上」を狙って発生したもので、運営側の責任が厳しく問われなくてはなりません」、というのはその通りだ。
・『その後ぼろぼろと出てきた事実から、この展示は、公的な国際トリエンナーレであるにもかかわらず本来必要な事前告知を意図的に怠り、「炎上」効果を狙った可能性が高い。 炎上効果が予想以上の規模に広がってしまい、実際に逮捕者も複数出る事態となってしまった。 夏休み中に開催される平和と人道の国際芸術祭であるはずが、危険を避けて来場を手控える人が出るような事態となったことは、ガバナンスそのものの問題です。 表現の自由でもコンテンツの中身の問題でもなく、税金を使って公的な催しを行う最低限の規則が守られていなかった可能性が明るみに出てきてしまった。 これは本質的にインターナショナルなトリエンナーレの開催であったはずなのに、日本国内の「ネット民の反響」程度しか、見ていなかったのではないかと察せられます。 また、ここで「表現の自由」を言う人の中に「暴力に屈することなく、展示を続けるべきだ」といった意味合いの意見を目にしました。 仮にそうだとして、「テロの脅しや暴力に屈しない」ために、どの程度のコストがかかるのでしょうか。お金の見積もりが全く抜け落ちた意見に見えました。 それは素人の妄言であって、財務の後ろ盾のないアイデアは、夢まぼろしにすぎません。少なくとも職業的な責任で芸術事業を監督するなら、安定確実な予算のあてがなくてはできません。 すべて元は税金なんですから、冗談にもならない。 まして主催者側が事前から意図的に「炎上狙い」つまり暴力的な襲撃を誘引するなど、言語道断と言わざるをえません。 意図的に炎上させるつもりなら、今回「わしらネットワーク民」を名乗った容疑者が実際に逮捕されたような事態をあらかじめ想定していなければなりません。 テロを誘発させるなど許されることではないうえに、その際に「テロに屈しない」ために、どれほどのコストがかかるのか、2019年8月8日時点でのベルリンの実例で、お話したいと思います』、「主催者側が事前から意図的に「炎上狙い」つまり暴力的な襲撃を誘引するなど、言語道断と言わざるをえません」、全面的に同意できる。
・『100トン単位のコンクリート塊  まず、以下の写真を見てください。 ものものしい「障害物」 金網に囲まれた何かが、車道と歩道の間に長々と設置されている様子を映してみました。 右の写真(上から2番目)で横に停められている自転車から、断面の一辺が1メートル以上の、かなり大きなものであることが分かるかと思います。 中身は確認し切れていませんが、上部には雨水が溜まっており、その下はコンクリートであるらしいことが見て取れます。 これらは、2016年12月にポーランドで強奪されたトレーラーが「クリスマス市」に突っ込み、11人が犠牲になったテロ現場、ベルリン市内中心部の「ヨーロッパ広場」に、昨年あたりから常設されるようになった「障害物防御壁」にほかなりません。 左は、まさにテロで犠牲者がでた現場そのもの、右は広場の180度反対にあたる「クーダム」繁華街側ですが、エリア全体をぐるりと取り囲んでいます。 テロ直後の2016年暮れも、明けて2017年の年初も、このヨーロッパ広場では一貫して季節ごとの市が立ち、まさに襲撃があったその場所に子供向けの遊具などが置かれて、人の賑わいが絶えることはありませんでした。 「テロに屈せず」を、地で行ったわけですが、ベルリン当局は当初、50センチ×50センチ×1メートルほどの鉄筋コンクリート塊を会場周辺にその都度配置し、終わると撤収し、武装した多数の要員が警戒する中で、それらの作業を行っていました。 正確な分量は知りませんが、5トンとか10トンといった量でないことは一目見ただけで分かります。 数百トン規模の障害物が毎回投入され、万が一10トン級のトレーラーが突入してきても、必ず食い止められるよう、セキュリティを施したうえで「テロに屈せず」の旗をたかだかと掲げている』、さすがドイツ、「テロに屈せず」のために膨大なカネかけているようだ。
・『広く報道されている通り、欧州は各地でテロの被害が出ており、莫大な警備コストを支払いながら、「日常」の秩序を維持し続けています。 以前は毎回、莫大な量のコンクリート塊が搬入、搬出されて2018年の後半頃からだったと思いますが、常設の防御壁が建設されるようになりました。 しかし、現地で友人たちと話して、特に「京都アニメーション放火殺人事件」の詳細を説明すると、そうした「安価」なテロへの的確な防御策がいまだ立てられていないことに言及して、皆一様に恐ろしいことだと答えます。 ちなみに「ドローンを使ったテロ」に対しては、一定の対策が立てられているそうです。しかし「ドローンにガソリン」など積み込まれたら、現状では防ぎようがないのではないか、ガソリン相手に火気(正しくは:火器)は使えないし・・・といったところで議論は止まります。 私の友人は音楽の仲間や映画監督、大学教授などでセキュリティの専門家ではないので、このあたりで止まってしまう。やはりプロの力が必要というところで意見は一致しました』、「京都アニメーション放火殺人事件」もお涙頂戴的記事が多く、如何なる対策を取るべきかといった議論はまだ出てないのは残念なことだ。
・『展示の再開コストはいくら?  報道によれば、企画展が「中止」になった後も、あいちトリエンナーレ「表現の不自由展 その後」の展示会場は封鎖されたままで、作品が撤去などはされていない、とのことでした。 また、「この展示を再開すべき」という署名も、多数集まっているとも伝えられます。 こういうとき、芸術監督や主催者サイドは、何をするべきか? 企画の内容で判断される、あらかじめ「結論ありき」は、検閲と呼ばれるもので、公的機関がこれを行うことは、憲法が禁止しています。 「税金を使って政治的な主張をしてはならない」というお寒い<意見>が開陳されていますが、選挙を考えてみてください。 毎回何十億円という官費、つまり税金が投入されて、およそあらゆる政治的な主張が、あらゆる媒体を使って拡散していますね。これ、違法なことですか? そんなことがあるわけはない。 もちろん「政治的主張」といっても法に触れるような<主義主張>であれば、それは単に犯罪であって、許容されるわけがないことは、すでに記した通りです。 問題は、税金を使って行われる公的行事として、「きちんとペイするものかどうか?」「またそれを納税者は是とするか?」という手続きであって、<表現の自由>は第一には関係してきません。 「表現の不自由展」をもう1回見たいという人が、地元納税者の過半を占めるとすれば、再検討される価値があるでしょう。 ただし、その場合には、すでに「ガソリン携行缶を持ってお邪魔」などと予告する者や、警官に「ガソリンだ」と称して液体をぶちまけた者など、逮捕者が出ているわけで、プロフェッショナルによるセキュリティの計画が立てられ、その見積もりが提出され、議会レベル相当で検討され、承認が得られなければならないでしょう。 仮に多くの納税者が展示再開を望んだとしても、警備など「展示再開コスト」が、全くペイしない金額に上ってしまうなら、再開は現実問題として不可能と判断されるでしょう。 こうした仕儀は、いったいどうして発生してしまったのか? 「県が悪い」という議論を目にしましたが、仮にそうだとすると、県に責任がかかり、最終的に納税者にツケが回ってくる可能性があります。 2004年ギリシャ・オリンピックの赤字を想起してください。濫費は全欧州の経済を危機的状況に追い込みました。そういう判断を下すべきか否か? すべては本質的には納税者が判断すべきで、現実には公職選挙で選ばれたその代表、つまり議会に諮られねばなりません。 「あいちトリエンナーレ2019」は、危機管理が全くできないアマチュアを芸術監督に据えるという明確な失敗を犯しました。 あえて国立大学法人の芸術教員として居住まいを正したうえで明記しますが、こういうことは二度と繰り返すべきではなく、失敗の原因を明らかにするとともに、厳密に再発を防止することを、関係各方面に注意喚起したいと思います。 私は、ビエンナーレ、トリエンナーレや五輪文化行事のような公的イベントのアーティスティック・ダイレクションを、新たな切り口の人材が行うことを決して否定しません。 また一芸術人として、表現の自由は厳密に守られるべきと思います。長年の連載読者はよくご存じのとおり、私は徹底してハト派で、リベラルなスタンスを崩しません。 そのうえで、ですが、公金の扱いがいい加減であるとか、物理的な暴力被害を呼び込むとか、危機管理の予算見積もりができないとかいった表現以前、芸術以前の、当たり前の公務が完遂できないチームの編成は、二度と繰り返すべきではないと思います。 本当の意味での「悪しき前例」の意味を、日本社会はきちんと理解し、学習すべきと思います』、本件ではどうでもいいような論評が殆どで、伊東氏のようなプロの意見は大いに参考になるが、同氏の意見が支配的になる可能性が少なそうなのは、残念でならない。
タグ:「あいちトリエンナーレ2019」問題 (その2)(伊東 乾氏の3題:「慰安婦」トリエンナーレが踏みにじった人道と文化 「ヴェネチア・ビエンナーレ」以来の芸術監督鉄則3か条、トリエンナーレ「計画変更」は財務会計チェックから 税金原資、「慰安婦」炎上狙いでテロ誘引 膨大なコスト増 あいちトリエンナーレ大失態と欧州が払っている膨大な経費) 伊東 乾 JBPRESS 「「慰安婦」トリエンナーレが踏みにじった人道と文化 「ヴェネチア・ビエンナーレ」以来の芸術監督鉄則3か条」 「表現の不自由展 その後」 「動員ありき」であって、タレント性のある有名人を「芸術監督」に選び、一日駅長相当で営業成績を稼いだことが分かります 「情をもって情を征する」 興奮している人には何らかの意味で水をぶっかけて正気に戻す。感情の火に別の油を注いでまともな話になるわけがありません 芸術監督の仕事は「危機管理」 展示の告知は十分だったか? 官費執行行事としての責任ある対処 「学術外交」=学問・芸術は常に人と人の間に回路を開き続けます ビエンナーレ/トリエンナーレ 人道と文化の「芸術オリンピック」 パブリック・ミーティング パブリック・コメント 実行委員会「中止」決定時点で芸術監督は辞任すべきだった 芸術監督として取るべき所作は 個人攻撃は問題の所在をあいまいにする 「トリエンナーレ「計画変更」は財務会計チェックから 税金原資」 芸術監督は「管理職」 「ひと・もの・かね」を掌握 「芸術監督」の絶大な権限 「表現の自由」は水かけ論にしかならない 「計画変更」は、財務会計のチェックから 問われる財政規律 アニメのケースで:高畑勲+宮崎駿ペアの分業 磯崎新の「横浜トリエンナーレ」批判 一族郎党、全員問答無用で撫で切りという最悪の権力者の振る舞い、江戸町奉行並みな「成文法以前」の「お裁き」で、一つの企画展に含まれるアーティストも作品も、全部一蹴してしまった 「「慰安婦」炎上狙いでテロ誘引、膨大なコスト増 あいちトリエンナーレ大失態と欧州が払っている膨大な経費」 今回の事態は明らかに意図的な「炎上」を狙って発生したもので、運営側の責任が厳しく問われなくてはなりません まして主催者側が事前から意図的に「炎上狙い」つまり暴力的な襲撃を誘引するなど、言語道断と言わざるをえません 「テロに屈しない」ために、どれほどのコストがかかるのか、2019年8月8日時点でのベルリンの実例で 100トン単位のコンクリート塊 「ヨーロッパ広場」に、昨年あたりから常設されるようになった「障害物防御壁」 万が一10トン級のトレーラーが突入してきても、必ず食い止められるよう、セキュリティを施したうえで「テロに屈せず」の旗をたかだかと掲げている 常設の防御壁が建設されるようになりました 展示の再開コストはいくら? 税金を使って行われる公的行事として、「きちんとペイするものかどうか?」「またそれを納税者は是とするか?」という手続きであって、<表現の自由>は第一には関係してきません こういうことは二度と繰り返すべきではなく、失敗の原因を明らかにするとともに、厳密に再発を防止することを、関係各方面に注意喚起したい 、公金の扱いがいい加減であるとか、物理的な暴力被害を呼び込むとか、危機管理の予算見積もりができないとかいった表現以前、芸術以前の、当たり前の公務が完遂できないチームの編成は、二度と繰り返すべきではないと思います
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日韓慰安婦問題(その4)(「あいちトリエンナーレ2019」問題:津田大介氏一問一答「希望になると考えたが劇薬だった」、炎上すべくして大炎上「あいちトリエンナーレ」 京アニ「誤解」につながる少女像展示はポストトゥルース政治、「表現の不自由展」中止で謝るのは津田大介じゃない! 圧力をかけ攻撃を煽った菅官房長官と河村たかし市長だ、八代弁護士 河村たかし 松井一郎が“慰安婦問題はデマ”とネトウヨ並みフェイク! あらためて中曽根証言など日本軍関与の証拠を見ろ) [外交]

日韓慰安婦問題については、昨年10月6日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その4)(「あいちトリエンナーレ2019」問題:津田大介氏一問一答「希望になると考えたが劇薬だった」、炎上すべくして大炎上「あいちトリエンナーレ」 京アニ「誤解」につながる少女像展示はポストトゥルース政治、「表現の不自由展」中止で謝るのは津田大介じゃない! 圧力をかけ攻撃を煽った菅官房長官と河村たかし市長だ、八代弁護士 河村たかし 松井一郎が“慰安婦問題はデマ”とネトウヨ並みフェイク! あらためて中曽根証言など日本軍関与の証拠を見ろ)である。

先ずは、8月3日付け朝日新聞「津田大介氏一問一答「希望になると考えたが劇薬だった」」を紹介しよう(Qは聞き手の質問、Aは津田氏の回答)。
https://www.asahi.com/articles/ASM8362Q8M83OIPE024.html
・『「あいちトリエンナーレ2019」の芸術監督を務める津田大介氏の記者会見の主な内容は次の通り。 「このような形で展示を断念するのは断腸の思い。楽しみにしていただいた方に申し訳なく思う」 Q:中止は想定内だったのか。 A:「大過なく(会期の)75日間を終えることが目標だったのは変わらない。抗議が殺到する、脅迫がくるのもすべて想定していて、現実のリスクが大きいものが出てきたら中止せざるをえないと思っていた」 Q:河村たかし名古屋市長や菅義偉官房長官の発言は影響したのか。 A:「一切関係ない。そういう状況がある中でこそ生きてくる企画だと思っていた。安全管理上の問題が大きくなったのがほぼ唯一の理由。想定以上のことが、とりわけ電話で行われた。回線がパンクし、受付の人も抗議に対応することになった。対策はあったかもしれないが、抗議の過熱がそれを超えていった。想定が甘かったという批判は甘んじて受けなければならない」 Q:「表現の自由の現在地を確認する」と言ったが、今回の件を受けてどう考えるか。 A:「公立の美術館や行政の文化事業でも、細かく内容を確認することはすべきでない。一方、何かのタブーに触れるものがあった場合、SNSを使った圧力やスクラムが出てきている。民間企業や個人なら着信拒否などもできるが、公的機関では対応しなくてはいけない。その対応と表現の自由がぶつかっているのが、現状だと考えている」 Q:公立の機関での企画が萎縮する可能性がある。 A:「物議を醸す企画を公立の部門でやることに意味があると考えた。成功すれば企画に悩む人の希望になれると考えたが、劇薬だった。トリエンナーレに入れることが適切だったかは考えなければいけないと思っている」』、「河村たかし名古屋市長や菅義偉官房長官の発言」が影響したわけではなく、「安全管理上の問題が大きくなったのがほぼ唯一の理由。想定以上のことが、とりわけ電話で行われた。回線がパンクし、受付の人も抗議に対応することになった」、としているが、芸術監督としてはいささか頼りない発言だ。

次に、作曲家=指揮者 ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督で東大准教授の伊東 乾氏が8月5日付けJBPressに寄稿した「炎上すべくして大炎上「あいちトリエンナーレ」 京アニ「誤解」につながる少女像展示はポストトゥルース政治」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57221
・『8月2日、政府は、輸出手続き簡略化の優遇措置を受けられる、いわゆる「ホワイト国」から、大韓民国を外す閣議決定を下しました。 これを受け大韓民国側も、日本をホワイト国から外すという対抗措置を取る旨の声明が洪楠基 経済副首相兼企画財政部長官から出されました。その同じタイミングで、名古屋市の河村たかし市長が「あいちトリエンナーレ」会場を視察。 その一部である「企画展:表現の不自由展 その後」に展示されている「平和の少女像」を即刻、撤去するよう、大村秀章・愛知県知事に申し入れるとの報道がありました。 そして、入稿後の8月3日、早々に「企画展の中止」が発表されました。校正に補足を記していますが、ただただ呆れ返っています。 信念をもってキュレートしているのなら、いささかなりとも変更を強いられた時点で、芸術監督は潔く辞任するのが筋と思います。 8月1日からスタートしたばかりのトリエンナーレですが、開催期間はずっと前から決まっていたこと。 それとこの国際的な政治状況とは偶然の一致という側面もあったにせよ、あまりにタイミングが悪いというより、大変な「下手」を打っているとしか職業芸術人の観点からは言いようがありません。これは「ダメ」です。 関連の事柄に、様々な論考が出されると思いますが、芸術屋の一人の見方として、この事態の何がダメなのか、平易にまた明解に記してみたいと思います』、伊東氏から芸術屋の一人の見方を知れるとは、興味深そうだ。
・『アマチュアのガバナンス「あいちトリエンナーレ2019」  本稿は、騒ぎが起き始めた直後にベルリンで執筆しているものです。8月2日、「あいちトリエンナーレ」の芸術監督を務めているジャーナリストの芸術監督が記者会見し、「展示の変更も検討している」と述べていると報じられ、あっけにとられました。 開幕2日目、本来なら10月までのロングラン展示であるべきところ、「テロ予告」とも取れる脅迫や抗議が来ているとのことですが、「展示の変更も検討」とは、よくまあ芸術監督を称する者が言ったものだと呆れました。 どこかの芸能事務所の「芸人ファースト」ではないわけです。少なくとも職業芸術人のアーティストなのですから・・・。 芸術監督として本当にプロフェッショナルの責任感をもって仕事をする立場のものであれば自分が責任をもって展示した、しかも海外アーティストの作品について、いきなり「変更も検討」なんて腰抜けなことは、絶対に言えませんし言いません。素人が、間違った椅子に座っていると思いました。 私は、緊迫する日韓関係のさなかにあって、この展示を今のまま継続するのが得策だとは考えません。 しかし、芸術監督として責任をもってくみ上げたラインナップであるのなら、「撤回は認められない。きちんと作品を見てほしい」といった腰だめが、少なくとも1回はあってしかるべきと思います。 脅されたらすぐにしっぽを巻く程度の覚悟で、こういう作品や作家を招聘していたのでしょうか。 もし、展示の中止や撤去などがあるなら「その折は、自分が責任を取る」と、最初に、後始末をつけた暁には、辞任の方向を明示したうえで、「芸人ファースト」ならぬ「芸術家ファースト」「作品ファースト」に、懸命の努力を尽くすのが、いやしくも芸術監督という存在でしょう。 地味なたたき上げの職人芸術人として、ジャーナリストや批評家が予算に権限を持つことに対して30年来、常に警鐘を鳴らし続けていますが、その最たることになっているように思います。 最低限の基本的な覚悟もなしに、作品やそのラインナップをもって世界に価値を問うというキュレーションの王道が全うできるわけがありません。 やるなら腹を切る覚悟、すでに脇差を一本突き立てたうえで、社会の理解を一度は求めるのが、その責にあうるものの基本的な所作にほかなりません。ガバナンスのアマチュアを見るように思います。 このように記した直後に、8月3日の「中止」の記者会見がありました。驚いたのは、その会見の中で「監督としての責任を持って、最後まで運営に邁進」と、芸術監督の立場を保全する内容に言及していることでした。 会見では「リスクの想定、必要な対応は識者にも話を聞いてきたが、想定を超える事態が起こったことを謝罪する。僕の責任であります」と述べており、この規模の国際展で充分なリスク想定ができない、つまりその任でないことを認めている。 自分の責任だと言っているのだから、辞して当然と思います。実際、このような形で「芸術監督」がいてもいなくても、リスク対策はプロが粛々と進めるでしょう。 本件が外交問題などに発展した場合、躊躇なく責任を取る必要が想定されることも付記しておきたいと思います』、(芸術監督を)「やるなら腹を切る覚悟、すでに脇差を一本突き立てたうえで、社会の理解を一度は求めるのが、その責にあうるものの基本的な所作にほかなりません。ガバナンスのアマチュアを見るように思います」、との手厳しい津田氏批判はその通りだ。
・『なっていないコンセプト「情の時代」  以上のような疑義を呈したうえで、いったいどういう「コンセプト」が、こういう朝令暮改を生むのか、資料を確認してみました。 2017年10月20日に発表されたリリース(https://aichitriennale.jp/news/2017/002033.html)には情の時代 Taming Y/Our Passionという「テーマ」と、それにまつわる「コンセプト」が記されていました。 「じょうの時代」と読むのか「なさけの時代」(ではないのでしょうが)なのか、何にしろ、その日本語の横には Taming Your/Our Passionという横文字がある。 Your(あなたの)と、Our(私たちの)という2つをスラッシュで重ねるあたり、目から鼻に抜ける評論秀才的な感覚を感じますが、Tamingは率直に感心しません。 Tameという動詞は「調教する」「飼いならす」といった意味合いとともに「従順にする」「無気力化する」「ふがいなくする」「精彩を欠かせる」「単調にする」といった家畜調教、奴隷化の語感が、少なくとも私には感じられます。 「コンセプト」はカナダの科学哲学者イアン・ハッキングの著書「The Taming of Chance『偶然を飼いならす――統計学と第2次科学革命』」からこの言葉を取ったとしていますが、chance(偶然)あるいは未知のリスクは統計学によって「従順にする」「単調にする」対象として自然に理解できますが、「私」や「あなた」の「感情」を目的語に取ることには違和感があります。 まあでも、どうせ日本社会は何かヨコモジになってればいいレベルだから、こんな程度かと思いますが、問題はそうしたコンセプト上の留保が一切感ぜられない「情の時代」というキャッチコピーの方でしょう。 「情の時代」の国際美術展は、その本番開始直後、露骨に嫌韓感「情」の直撃を受けて、皮肉にもトリエンナーレの大炎上そのものが「感情に支配され、理非の別がつかなくなっている時代」を、露骨に見せつけているように思います。 これは芸術のトリエンナーレ=3年周期で開かれる国際展で、過去があり、現在があり、未来につながるものとして、見識をもってグローバルに展開すべきものと思います。しかし、コンセプトは冒頭から 「『政治は可能性の芸術である』・・・ドイツを代表する政治家、ビスマルクの言葉だ。」と書き出されて、芸術=アートはメタファーにしかなっていません。あくまで力点は「政治」にあるようです。 というのも、すぐ続けて「・・・ゴルバチョフや丸山眞男など、後世の政治家や政治学者が積極的に引用し、政治というものの本質を一言で表現したものとして定着している。ビスマルクはその生涯において同様の発言を繰り返しており、『政治は科学(science)ではなく、術(art)である』という国会でのスピーチも記録に残っている」と、延々「政治」や「民意」に関する考察が記され、芸術は常に後回しになっている感が否めません。 また、あえてここで芸術教授屋的にアカデミックな注文をつけさせてもらうなら、ビスマルクを「ドイツを代表する政治家」と記すのはいただけません。 ビスマルクはプロイセン王国の宰相としてドイツ帝国という枠組みを作った張本人であると同時に、全欧州にドイツが安全な実行を約束したはずの「ベルリン労働者保護国際会議」への妨害工作など、主情的な根回しに終始したため、即位したての新皇帝ヴィルヘルムⅡ世の信頼を完全に失って失脚した、典型的な古いタイプのタヌキおやじとして知られます。 この原稿はベルリンで書いていますが、こちらの友人たちに尋ねてみると、ドイツ「政治家」の名としてビスマルクやヒトラーが挙がることは普通にはないそうです。 現代のコンセプト文案で「ドイツを代表する政治家というなら、ヴィリー・ブラントかヘルムート・コールの名が挙がるだろう、せめてかつてドイツ帝国を統治した政治家くらいにしておいたら」と返ってきました。 このコンセプト文案には、人々が「権力により、あるいはメディアにより、動物のように管理されている」との表現がありました。 直ちに想起したのは、京都アニメーション放火殺人事件後に発表された、同社OBのアニメーション監督、山本寛さんの見解です。 前回の原稿(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57195)にも記しましたが、山本さんは「狂気との共犯関係」といった独自の切り口で、出身母体である京都アニメーションへのあり得ない襲撃を解釈されていました。 さてしかし、放火犯が示したような激しい憎悪や敵意の感「情」に対して、「犯人が許せない」などといくら情で応じても、何一つ建設的な対案など出てこないことは明らかです。 ここで第一に必要なのは情ではなく、冷静な理非の別、あえて言えば「知」の領域であり、さらに言えば、再発防止といった確固たる目的に向かう強靭な「意志」が最も重要となります。 カント以来の古臭い超越論的認識の区分ではありますが、「情」に対して「情」で対抗しても、情動に溺れることにしかならず、血で血を洗ったバルカン半島的な泥沼に陥ることを歴史は雄弁に示していると思います。 翻って、あいちトリエンナーレの「コンセプト」は次のように記しています。 「2015年、内戦が続くシリアから大量に押し寄せる難民申請者を『感情』で拒否する動きが大きくなっていた欧州各国の世論を変えたのは、3歳のシリア難民の少年が溺死した姿を捉えた1枚の写真だった」「この写真をきっかけに、ドイツとフランスは連名で難民受け入れの新たな仕組みをEUに提案し、続いてイギリスもそれまでのの政策を転換して難民の受け入れを表明した」 しかし、それは表層に過ぎません。 例えばドイツに関して言えば、「Industry4.0」政策の推進と、OECD(経済協力開発機構)加盟国が軒並み直面する少子高齢化=労働人口不足の現実に対するしたたかな計算が背景にあり、将来不足する労働力人口を念頭に、計画的に移民を受け入れた「知」と「意」の背景がはっきり存在する。欧州事情を知るジャーナリストなら誰でも押さえている基本です。 また、大衆合意を取りつける一段階として浮上した、ギリシャのコス島を目指してトルコ沿岸を出発したゴムボートの転覆と、幼児を含む父親以外家族全員の溺死が「写真」というアイコンを通じて拡散、風向きが変わった経緯とは、一定の区別をもって冷静にとらえる必要があると思います。 さらに「コンセプト」は記します。 「いま人類が直面している問題の原因は『情』にあるが、それを打ち破ることができるのもまた『情』なのだ。われわれは、情によって情を飼いならす(tameする)技(art)を身につけなければならない。それこそが本来の『アート』ではなかったか」 これは全く間違った、アマチュアの見解と言わねばなりません。 情によって情を「飼いならす」のがartなどであった試しは、(どこかにマイナーな例外があれば、それは知りませんが)、洋の東西を問わず、圧倒的に多くの芸術の現場に存在しない概念、空想の産物と断じて構わないと思います。 ここで、遠近法などを中心とする古色蒼然たる泰西美術史、あるいは写真発明~印象派以降の芸術史から、戦後のモダンアートに至るまで、芸術をめぐる思想の歴史をひっくり返す必要はないでしょう。 こと音楽に関しては、さらに厳密かつ明確で、そこには方法に対するプロの冷徹があるばかりです。私など古い教育を受けた者は、主情的な感想など「素人のたわごと」としてローティーンの段階で全否定された経験があります。 抽象的な話は水かけ論になりかねません。ここでは「京都アニメーション放火殺人事件」という現実を眼前に問うことにします。あのような無根拠な憎悪の爆発に対して 「われわれは、情によって情を飼いならす(tameする)技(art)を身につけなければならない」といったスローガンが、いささかでも効力を発揮するでしょうか? 「それこそが本来の「アート」ではなかったか」 そんなものはどこにも存在しません。第2次世界大戦後、西欧の芸術思潮は、ホロコーストのような感情の爆発と取り返しのつかない現実を前に、全く異なるアプローチを取り、私もそこで30数年来仕事をしてきました。 この紙幅では踏み込みませんが、要するに「鑑賞者側に立った」アートへの誤解、ないし一面的なとらえ方に過ぎず、「情をもって情を征する」というのは、脳や認知の科学の観点からみても、やや分の悪い主張になってしまっています』、「「われわれは、情によって情を飼いならす(tameする)技(art)を身につけなければならない」といったスローガンが、いささかでも効力を発揮するでしょうか?」、どうも津田氏の考えは思いのほか浅いようだ。
・『「図式ありき」の下手な政治?  トルコ領のアナトリア半島から、すぐ沖に浮かぶギリシャ領のコス島に向けて、無茶なゴムボート渡航で難民が決死の亡命を計り、結果的に幼い命を含む多くの人命が失われた「出来事」がありました。 しかし、それがいったん「写真」として切り取られ、報道やSNSで拡散してしまうと、それは事実を離れた「アイコン」として政治化してしまう。 私たち芸術人が最も警戒する、内容の空疎化がここに見られる可能性があると思います。 「あいちトリエンナーレ2019」コンセプトは、まさにこの「ポストトゥルース」のアイコンを「アート」あるいは「作品」と勘違いする、ジャーナリスティックな誤解が、今回の問題を生み出した、真の原因と私は思います。 実際に展示された作品「平和の少女像」に関して、私はここで何一つ発言しません。それは芸術人として、見ていない作品を云々する愚を犯さないだけのことに過ぎません。 間違いなく言えることは、ここでの「キュレーション」は「平和の少女像」という作品ではなく「慰安婦」という政治的なアイコンを会場にちりばめることで「タブーに挑戦する」という、かなり動機の浅いジャーナリスティックな「政治」の「図式ありき」でしょう。 それが、こんなに大きな騒ぎになるとは事前に「想定」していなかった・・・器ではなかったと言うことだと思います。 これを2年ほど前から仕かけ、また周囲の状況変化などに細心の注意を払わず、結果的にアーティストとトリエンナーレそのものの品格を大いに落とす結果となった キュレータまがいの政治ジャーナリズム(pseudo - curating political journalism)の浅慮。 「浅い」というのは、公開2日目にしてすでに「対策を検討」といった発表があった時点で浅はかであるのは明らかで、なぜ2~3日前に、「もう少しきちんと分別のある対策が取れなかったのか」と、あらゆる常識人の大人に問われて当然と思います。 「胆力」がないのです。 8月3日に「中止」、まさに三日坊主で引っ込めたわけですが、これは国内の反響以上に、いま緊張関係を高めている日韓間の外交で、極めて良くないカードを一枚提供してしまっていることを、明記しておきましょう。 韓国政府から正規の抗議などが来た場合「芸術監督」には取るべき責任があります。 また、国内向けで考えるなら「表現の不自由展」というコンセプトからして、まさにその方向で「表現を自粛」したわけですから、全体主義体制下での美術展禁圧と同じことを結果的にしていることになる。 作品の是非といったことを問う以前、問題外の対応で、どこかの興業会社の社長会見を想起せざるを得ませんでした。 国際展というのは、そもそも、キュレーティング・アーティストというべき、器の大きな、ビジョンの遠大な人(々)の見識があって成立する性質のものです。 ジャーナリストを「芸術監督」に据えた時点で、この間違い、つまりポリティカルでジャーナリスティックなミスは決まっていたようなものです。 その背景には「話題を呼ぶ人選」で「動員数」を主な指標と考える、内容不在、芸術無関係なイベント・ガバナンスの空洞化を指摘するべきと思います。 津田さんに罪があるとは、あまり思っていません。芸術人としての経験を持っていないのだから、胆力など養う機会があるわけもないでしょう。 ただ、いやしくも「芸術監督」を名乗るのであったなら、外部からの批判に対して、いきなり「ひっこめる」と読めるような身の翻し方はすべきではなかったのではないかと思います。 芸術を生きている人間は、多くがそこで人生を懸け、命を懸けて、営々と頑張っています。 現状の展開は作品や作家に対してあまりに失礼であるし、無責任とみる人もいるでしょう。 もし芸術監督として「平和の少女像」を選んだのなら、それと運命を共にする覚悟があって、初めて芸術監督業の1の1であって、新聞記事のように簡単に差し替えが利くアイコンではないことを、畑は違いますが一人の作り手の立場から記したいと思います』、「ジャーナリストを「芸術監督」に据えた時点で、この間違い、つまりポリティカルでジャーナリスティックなミスは決まっていたようなものです」など、説得力溢れた批判は、大いに参考になった。

第三に、8月5日付けLITERA「「表現の不自由展」中止で謝るのは津田大介じゃない! 圧力をかけ攻撃を煽った菅官房長官と河村たかし市長だ」を紹介しよう。
https://lite-ra.com/2019/08/post-4884.html
・『最悪の事態だ。津田大介が芸術監督を務める「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」が開幕からわずか3日で中止に追い込まれてしまったのだ。 あいちトリエンナーレ実行委員会会長である大村秀章・愛知県知事の会見によれば、テロ予告や脅迫電話もあり「撤去をしなければガソリン携行缶を持ってお邪魔する」というファックスも送信されてきた。安全上の問題を理由に中止の判断をしたという。 これを受けて、芸術監督を務める津田大介も会見を開き、こう謝罪した。 「まずおわびしたいのは、参加した各作家の皆様。(開幕から)たった3日で展示断念となり、断腸の思い」「これは、この企画を75日間やり遂げることが最大の目的。断腸の思いだ。こういう形で中止、迷惑をかけたことも含めて申し訳なく、実行委員会や作家には、誠意をもっておわびをしたい」「参加作家の方に了承を得られているわけではない。このことも申し訳ない。円滑な運営が非常に困難な状況で、脅迫のメールなども含めて、やむを得ず決断した。そのことも、作家に連絡をしておわびをしたい」「電凸で文化事業を潰すことができてしまうという成功体験、悪しき事例を今回、作ってしまった。表現の自由が後退する事例を作ってしまったという責任は重く受け止めている」 一方、この突然の中止決定を受け、「表現の不自由展・その後」実行委員会(アライ=ヒロユキ、岩崎貞明、岡本有佳、小倉利丸、永田浩三)が3日夜に会見。中止決定が「一方的に通告されたもの」と明かしたうえで、こう強く抗議した。 「圧力によって人々の目の前から消された表現を集めて現代日本の表現の不自由状況を考えるという企画を、その主催者が自ら弾圧するということは、歴史的暴挙と言わざるを得ません。戦後日本最大の検閲事件となるでしょう。 私たちは、あくまで本展を会期末まで継続することを強く希望します。」(声明文より) 同展実行委員会の言う通りだろう。暴力によって表現の自由を踏みにじる言論テロは断じて許されないが、そのテロ行為から美術展を守るべき行政が簡単に中止要求を受け入れてしまったことは大きな問題だ。 津田氏の会見もああいう形で会見をする前に、やるべきことがあったはずだ。津田氏は会見で謝罪の言葉を何度も口にしていたが、そんな必要はまったくなく、むしろ、こうした圧力や攻撃、テロ予告に毅然と抗議し、「こうしたことが起きるからこそ、この表現の不自由展が必要なのだ」と、展示の続行を主張するべきだった。 それがいったいなぜ、こんなことになってしまったのか。全国紙の愛知県庁担当記者がこう解説する。 「津田氏の抜擢は大村知事の肝いりで、大村知事も企画の概要だけでなく、少女像の展示についても6月には認識していた。ところが、この事態で大村知事が一気に弱腰になり、中止を決断してしまった。後ろ盾である大村知事の決断で、津田氏も中止に応じるしかなかったのでしょう」 しかし、だとしても、一番の問題は大村知事や津田氏ではない。ネットでは、津田氏に対して「覚悟が足りない」などとしたり顔で批判する声が溢れているが、そもそも「ガソリンで火をつけられる覚悟や対策をしないと自由にものが言えない国」なんて、まともな民主主義国家ではないだろう。 今回の問題でもっとも批判されなければならないのは、卑劣なテロ予告者であり、検閲をちらつかせてそうした動きを煽った、政治家連中ではないのか。 「あいちトリエンナーレ」は、8月1日の開幕早々から、「慰安婦像」を展示しているなどとして、猛烈なバッシングと圧力にさらされていた。 2日にはネトウヨのみならず、菅義偉官房長官、柴山文科相、河村たかし名古屋市長、松井一郎大阪市長、和田政宗参院議員といった政治家たちが、展示を問題視するような発言を連発した』、「表現の不自由展」がこのような形で幕を閉じたというのは、世界的にみても日本の不自由さをPRしたことになる。
・『河村市長、菅官房長官の扇動、そしてテロ予告を放置した警察  とくに大きかったのが、河村市長が「展示を即刻中止するよう大村秀章・愛知県知事に申し入れる」と宣言したこと、そして菅官房長官が補助金をタテに「表現の不自由展」に介入することがさも当然であるかのような発言を行ったことだ。 詳しくは、前回の記事を参照してもらいたいが(https://lite-ra.com/2019/08/post-4880.html)、河村市長の申し入れは明らかに憲法違反の検閲行為であり、菅官房長官らがちらつかせた「国から補助金をもらっているのだから、こんな作品の展示は許されない」という論理は、まさに全体主義国家の考え方だ。芸術への助成は国からの施しでなく、表現の自由を保障するための権利であり、民主主義国家では、それが政府批判の表現であっても、助成金を交付すべきなのである。 カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督が同様の批判を受け、「補助金をもらって政府を批判するのは真っ当な態度なんだ、という欧州的な価値観を日本にも定着させたい」「公金を入れると公権力に従わねばならない、ということになったら文化は死にますよ」と真っ向反論していたが、その通りだろう。 いずれにしても、こうした権力者の介入により、表現の不自由展へのバッシングはさらに過熱。ネットでは職員の名前が晒され、テロ予告のファックスまでが送られてきた。 しかし、不可解なのがこのテロ予告への警察の対応だった。もし、テロ予告があったなら、警察が脅迫犯を逮捕するなり、警備で安全を確保するのが普通ではないか。 「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」との脅迫はFAXで送られてきたというが、警察の捜査能力をもってすれば、発信元を見つけ出すことは不可能ではないだろう。また、犯人を逮捕できなくとも、会場を厳重警備し安全を確保した上で、展示を再開することはできるはずだ。 しかし、今のところ、警察が動いた形跡はない。大村知事が会見で語ったところによると、「警察には被害届を出しましたが、(脅迫)FAXの送り先を確認できないかと尋ねましたら『それはできない』」と一蹴されたという。そして、逆に、夕方17時には「表現の不自由展・その後」企画そのものの中止が発表されてしまった。 警察がまともに捜査していないはおそらく、テロ予告の対象が、安倍政権のスタンスに反するものだったからだろう。日本の警察は、穏健な市民のデモを鎮圧し、コーヒの値段でカフェラテを飲んだコンビニの客を逮捕するが、安倍政権と思想を一にするテロ予告については、まともに捜査することさえしないのだ』、「日本の警察」の安倍政権の手先的役割が、露呈した形だ。
・『テロを非難しなかった安倍、菅、逆に主催者に謝罪を要求した河村  ここまでくれば、誰をもっとも責めるべきかがわかってもらえたはずだ。今回の「表現の不自由展」中止は、紛れもなく公権力の検閲行為の結果なのだ。テロ予告を誘発もしくは放置したという意味では、「官製テロ」と呼んでもいいだろう。 しかも、展示中止が発表された後も、政治家の対応はひどかった。民主主義の根幹である表現の自由を揺るがすテロ予告があったことが明らかになったわけだから、政府首脳が「断じてテロは許さない」「犯人逮捕に全力を尽くす」と宣言するのが普通の民主主義国家のはず。ところが、安倍首相からも菅官房長官からもそんな言葉は一切聞かれなかった。 さらに、河村名古屋市長にいたっては、「(平和の少女像設置は)『数十万人も強制的に収容した』という韓国側の主張を認めたことになる」「「事前に『出してはならん』とは言っておらず(検閲には)全く当たらない」などと無茶苦茶な論理を主張したあげく、「やめれば済む問題ではない」と、テロ予告者でなく「あいちトリエンナーレ」側に謝罪を要求する。 「河村市長はもともと、『南京事件はなかった』と発言するなど、露骨な歴史修正主義者であることに加え、大村知事とは非常に関係が悪化している。ここぞとばかりに、この問題を利用して攻撃しているんでしょう」(前出・愛知県庁担当記者) いずれにしても、この国の政治家連中は本音のところでは、反政府、反体制の表現、自分たちの気にくわない表現を「検閲で禁止すべき」「テロされても当然」と考えているのである。 しかも、恐ろしいのは、その政治家のグロテスクな本音が今回、おおっぴらにまかり通り、平和の少女像撤去、さらには「表現の不自由」展が中止に追い込まれたことだ。 「この事態こそが“表現の不自由”を象徴している」などとしたり顔で語る向きもあるが、そんなメタなポーズで済ませられる話ではない。これは日本の表現空間の自殺とも言えるもので、今後、日本の公共空間で政治的な主張を含む芸術作品、表現を展示・公開することはほとんど不可能になった、ということを意味している。 「表現の自由」が後退し、どんどん全体主義国家に近づいているいまの状況に、私たちはもっと危機感を共有すべきではないのか』、私は慰安婦像の展示そのものには賛成ではないが、このような形で展示が中止されることには絶対反対だ。「「表現の自由」が後退し、どんどん全体主義国家に近づいているいまの状況に、私たちはもっと危機感を共有すべきではないのか」、というのは諸手を上げて賛成だ。

第四に、8月6日付けLITERA「八代弁護士、河村たかし、松井一郎が“慰安婦問題はデマ”とネトウヨ並みフェイク! あらためて中曽根証言など日本軍関与の証拠を見ろ」を紹介しよう。
https://lite-ra.com/2019/08/post-4885.html
・『安倍政権による韓国への輸出規制と「ホワイト国」除外、あいちトリエンナーレでの「平和の少女像」などの展示中止……。国交正常化以来最悪と言われる日韓関係のなか、日本中がグロテスクな嫌韓ムードと歴史修正主義に染まっている。 それは安倍政権周りの政治家やネット、右派メディアだけではない。地上波のワイドショーでもネトウヨとなんら変わらないヘイトや歴史修正主義が堂々と語られるようになった。 5日放送の『ひるおび!』(TBS)でも、慰安婦問題など含む作品を展示した「表現の不自由展・その後」が中止に追い込まれた件をとりあげるなか、八代英輝弁護士がこんな発言をしていた。 「当然、この社会的風潮のなか、この慰安婦像。この慰安婦問題っていうものが史実に基づかないものであること。あるいはこの慰安婦像に対して嫌悪感、反感をもつ方っていうのは多くいるってことは、当然認識した上での展示ですから。ある程度の反感というのは想定されたんでしょうけど、それが、私は『想定を超えてしまった』って認識は甘いんでないかというふうに思うんですよね」 八代弁護士は「表現自体をさせないという風潮は危険だなと思う」などとエクスキューズをいれつつも、「私自身はこれ(少女像)を置いて、こんなものあってはならないと議論するということはアリだと思いますけどね」と続けるなど、嫌韓煽りを剥き出しにしていた。 さらには、落語家の立川志らくも、いつもの物知り顔でこうコメントした。 「結局、こういうことをやると、日本人の多くは不愉快に思って許さないという結果が出た。これを『平和の少女像』って言う人がいることが、私は不思議でしょうがない。平和の少女像って言うなら、日本人の誰もが見て、これは平和だなって思えるならいいんだけれども。そりゃ韓国の人はそうかもしれないけど、日本人にとっては多くの人が反日の像だと思ってるわけでしょ? 本来、芸術ならば、これを反日像だと思っている人が見ても、思わず感動して涙を流す、そういうものを私は展示してほしい」 本サイトでも解説した(https://lite-ra.com/2019/08/post-4880.html)ように、「平和の少女像」が「反日」だというのは完全にネトウヨの論理であり、歪曲した解釈だ。それを「みんなが思ってるんだから反日に決まってる」と言い張り、表現の自由を踏みにじる卑劣なテロ予告者ではなく、議論を換気しようとした展示や作品のほうを問題視する。その倒錯ぶりと付和雷同には、呆れ果てるしかない。 とくに聞き逃せないのは、八代弁護士が発した「慰安婦問題っていうものが史実に基づかないものである」とのセリフだろう。八代弁護士は、つい先日も朝日新聞を韓国の中央日報、ハンギョレ新聞と並べて「反日三羽ガラス」と揶揄するなど、テレビの全国放送ネトウヨぶりを全開していたが、今度は慰安婦それ自体がなかったかのような発言をしたのだ。 はっきり言っておくが、慰安婦の存在は捏造でもなんでもなく、歴史的な事実だ。弁護士の資格を持つ人間が、地上波の昼間の番組で、保守派の学者でさえ言わないような歴史修正主義丸出しのデマを口にしていいのか。 いや、八代弁護士だけではない。「平和の少女像」展示に圧力をかけ、「表現の不自由展」への攻撃を煽った河村たかし名古屋市長も、昨日の会見で「やっぱり慰安婦ってあったのかと、そういうふうに見られる」などと発言していた。つまり、河村市長も慰安婦は存在しないと信じ込んでいるのだ。 さらに、日本維新の会代表の松井一郎・大阪市長からはもっととんでもないデマ暴言が飛び出した。松井市長は5日会見で「事実ではない慰安婦の像」「日本人を蔑み貶める、誹謗中傷」「慰安婦問題というのは完全なデマ」「朝日新聞自体が誤報だと謝罪しているわけですから」「事実ではないデマの象徴の慰安婦像は行政が主催する展示会で展示するべきものではない」などと語り、慰安婦は完全なデマと言い放ったのである』、「朝日新聞」の報道がどうであれ、「慰安婦問題というのは完全なデマ」とまで言い切った松井一郎氏にはあきれてしまう。問題の根幹は、歴史問題がきちんと総括されずに、各陣営が都合良く解釈していることにありそうだ。
・『中曽根康弘元首相が海軍主計長時代に「土人女を集め慰安所を開設」の記録  こうした連中の妄言の根拠は、2014年、朝日新聞が慰安婦関連記事の虚偽を認め、訂正・謝罪したことだ。朝日が訂正したのは、とっくのとうに虚偽であることが分かっていた吉田清治証言に関するものだけだったが、当時、ネトウヨや極右メディアがこの謝罪を意図的に拡大解釈し、あたかも戦中に「慰安婦」自体の存在がなかったのようなデマを喧伝しまくった。意図的かどうかは知らないが、八代弁護士や河村市長らはこのネトウヨ歴史修正の詐術に丸乗っかりしているということだろう。 だとしたら、本サイトとしては何度でも、その欺瞞と詐術を明らかにしておく必要がある。戦中の日本軍が各地に慰安所をつくり、現地の女性たちや朝鮮半島の女性たちを慰安婦にして、兵士の性暴力の相手にさせられたのは客観的事実だからだ。 日本軍が侵略したアジアの各地に慰安所をつくったことは残された軍の記録や通達からも明らかであり、歴史学的にも議論の余地はない。軍が斡旋業者を使って騙して女性を連れ出した証拠や、現地の支配者や村長に命じて女性を差し出させた証拠もいくらでもある。そして、慰安所で現地の女性や朝鮮半島から連行した女性を軍が性的搾取したことは、多くの被害女性だけでなく、当時の現地関係者や元日本兵、元将校なども証言していることだ。 たとえば、海軍出身の中曽根康弘元首相は、回想記『終りなき海軍』のなかで、当時、設営部隊の主計長として赴任したインドネシアで〈原住民の女を襲う〉部下のために〈苦心して、慰安所をつくってやった〉ことを自慢話として書いている。この中曽根証言は、防衛省のシンクタンク・防衛研究所の戦史研究センターが所蔵している当時の文書「海軍航空基地第2設営班資料」において、〈気荒くなり日本人同志けんか等起る〉ようになったところで〈主計長の取計で土人女を集め慰安所を開設 気持の緩和に非常に効果ありたり〉と記されているように、歴史事実として裏付けされたものだ』、「朝日新聞が慰安婦関連記事の虚偽を認め、訂正・謝罪したことだ。朝日が訂正したのは、とっくのとうに虚偽であることが分かっていた吉田清治証言に関するものだけだったが、当時、ネトウヨや極右メディアがこの謝罪を意図的に拡大解釈し、あたかも戦中に「慰安婦」自体の存在がなかったのようなデマを喧伝しまくった」、というのは「拡大解釈」を通り越して、事実の歪曲といえよう。
・『産経の総帥も自著で軍時代の慰安所設立を自慢「女の耐久度とか消耗度も決めていた」  また、陸軍出身の鹿内信隆・元産経新聞社長は、桜田武・元日経連会長との対談集『いま明かす戦後秘史』(サンケイ出版)のなかで、慰安所と慰安婦が軍主導であった事実をあけすけに語っていた。 「(前略)軍隊でなけりゃありえないことだろうけど、戦地に行きますとピー屋(引用者註:慰安所のこと)が……」 「調弁する女の耐久度とか消耗度、それにどこの女がいいとか悪いとか、それからムシロをくぐってから出て来るまでの“持ち時間”が将校は何分、下士官は何分、兵は何分……といったことまで決めなければならない(笑)。料金にも等級をつける。こんなことを規定しているのが『ピー屋設置要綱』というんで、これも経理学校で教わった」 実際、靖国偕行文庫所蔵の『初級作戦給養百題』(1941年)という陸軍主計団記事発行部が発行した、いわば経理将校のための教科書の記述にも〈慰安所ノ設置〉が業務のひとつとされており、この鹿内証言も軍の資料と完全に一致する。 朝鮮半島の女性たちを慰安婦にした証拠も枚挙にいとまがない。 日本はアジア・太平洋戦争で東南アジア各国を侵略、傀儡政権を樹立したり、軍の統治下に置くなどの支配を進めていったが、たとえばシンガポールでは現地の華僑を粛清した後に、日本軍の宣伝班の下で刊行された新聞に“慰安婦募集の広告”が出ている。そうした慰安所に大勢の朝鮮人女性も動員されたことは「16歳の時にシンガポールの慰安所に連れて行かれた」という朝鮮人元慰安婦の証言だけでなく、近年発見されたビルマ(現・ミャンマー)とシンガポールの慰安所で帳場の仕事をしていた朝鮮人男性の日記からも明らかになっている。また、独立自動車第四二大隊にいた元日本軍兵士も「トタン塀」と呼んでいた慰安所には「娼妓は朝鮮人が多かったが、マライ人もいた」と証言している』、このような慰安婦の存在を認める証拠に対し、否定論者は何と答えるのだろう。
・『米朝会談の舞台となったセントーサ島では朝鮮人女性が騙されて慰安婦に  昨年、米朝会談の舞台となったシンガポール南端のセントーサ島(旧称・ブラカンマティ島)でもまた、朝鮮人女性たちが慰安婦として働かされていた。しかも、彼女たちは別の仕事だと騙されて連れてこられたのだ。 当時、東南アジアで通訳として従軍していた永瀬隆氏が証言している。永瀬氏は、日本が戦中につくらせたタイとビルマを結ぶ泰緬鉄道で陸軍の通訳をしていたことで知られる日本人男性だ。日本軍による泰緬鉄道建設にあたっては、数万人のアジア人労働者や連合国軍の捕虜が非人道的な扱いを受け犠牲となっている。永瀬氏は戦後、反戦平和の立場から個人でその慰霊と償いの社会活動を続け、2011年に亡くなった。 その永瀬氏が生前、月刊誌「MOKU」(黙出版)1998年12月号での高嶋伸欣・琉球大学教授(現・名誉教授)との対談のなかで、セントーサ島での体験を語っていた。シンガポールでも数か月の間、陸軍の通訳として勤務しており、その時、慰安所の女性たちや軍の部隊長と話をしたことをこのように振り返っている。 「(セントーサ島には1942年の)十二月中旬までいました。十一月になって隊長が僕を呼んで、『実は朝鮮の慰安婦がこの部隊に配属になってくるんだが、彼女たちは日本語がたどたどしいから、日本語教育をしてくれ』というんです。僕は『嫌なことをいうな。通訳はそこまでしなきゃいけんのか』と思ったけど、その隊長はもう島の王様気取りでおるんです。仕方がないから、慰安婦の人たちに日本語を三、四回教えました」 永瀬氏は「そのうちに、僕は兵隊じゃないから、慰安婦の人も話がしやすいんだな」と思ったという。そして、朝鮮人女性たちに慰安所にきた理由を聞くと、騙されて連れて来られたというのだ。 「それで僕も『あんたたちはどうしてここへ来たんだ』と聞いたら、『実は私たちは、昭南島(シンガポール)の陸軍の食堂でウエイトレスとして働く約束で、支度金を百円もらって軍用船でここへ来たんだけど、着いた途端に、お前たちは慰安婦だといわれた』というんです」 「それを聞いて、ひどいことをするなと思った。いま考えてみても、強制的に連行して慰安婦にするよりも、そうやって騙して連れてきて慰安婦にするほうが、僕は罪は深いと思います。 とにかく、それから島の中に慰安所ができたんですが、隊長が慰安所の兵隊にくだしおかれる前に、慰安婦を毎晩代わりばんこに次から次へ味見しているという話を聞きました」』、「強制的に連行して慰安婦にするよりも、そうやって騙して連れてきて慰安婦にするほうが、僕は罪は深いと思います」、というのはその通りだろう。
・『「慰安婦は存在しなかった」の嘘が堂々とまかり通る恐ろしさ  つまり、日本軍は、彼女たち朝鮮人女性に性的労働をさせることを告げず、まして嘘の説明で騙して慰安所に連れて行ったケースが明らかに存在した。そして、前述した中曽根元首相らの証言や当時の軍資料のように、日本軍が従軍慰安婦に積極的に関与していたことも歴史的な事実なのである。 八代弁護士が言うような「慰安婦問題は史実に基づかない」というのが、いかにフェイクであるかが分かるだろう。歴史修正主義者たちは、こうして慰安婦問題を矮小化しているのだ。 恐ろしいのは、こうした歴史的な事実を否認する発言が、当たり前のようにワイドショーで飛び出し、他のマスコミが検証を放棄した結果、少なからぬ視聴者が何ら疑念をもたないでいることだ。実際、八代弁護士の発言の嘘を検証したり、批判的に取り上げるマスコミは、いまのところ皆無。それどころか、Twitterでは「よくぞ言ってくれた!」というような賞賛まで受けている。 繰り返すが、安倍政権が煽動する“嫌韓”を、応援団やマスコミが増幅し、それがごく当たり前のように社会に蔓延しているのが、いまの日本社会だ。その結果起きたのが、平和の少女像などの展示に対する異常なバッシングであり、放火テロまでほのめかす脅迫だった。歴史的事実や、それに向き合うための表現まで「反日」と糾弾され、封殺されてしまう状況は、もはや“嫌韓ファシズム”と呼ぶべきかもしれない。 しかも、こうしたメディアの扇動によって、国民の世論じたいもどんどん冷静さを失っている。 政府が先月実施した「ホワイト国除外」に関するパブリックコメントには、寄せられた4万666件の意見のうち、「除外」に賛成が実に約95%で、反対はわずか約1%だったという。これは、安倍応援団やネトウヨの組織票の可能性が濃厚だが、他方、FNNと産経新聞が3、4日に実施した世論調査でも、「ホワイト国除外」を「支持する」が67.6%に登り、「支持しない」は19.4%にすぎなった。 ワイドショーをはじめとするマスコミには、自分たちが取り返しのつかない状況を作り出しているという自覚はないのだろうか』、「安倍政権が煽動する“嫌韓”を、応援団やマスコミが増幅し、それがごく当たり前のように社会に蔓延しているのが、いまの日本社会だ。その結果起きたのが、平和の少女像などの展示に対する異常なバッシングであり、放火テロまでほのめかす脅迫だった。歴史的事実や、それに向き合うための表現まで「反日」と糾弾され、封殺されてしまう状況は、もはや“嫌韓ファシズム”と呼ぶべきかもしれない」、というのは恐ろしいことだ。少なくともマスコミは冷静さを保ってほしい。 
タグ:日韓慰安婦問題 (その4)(「あいちトリエンナーレ2019」問題:津田大介氏一問一答「希望になると考えたが劇薬だった」、炎上すべくして大炎上「あいちトリエンナーレ」 京アニ「誤解」につながる少女像展示はポストトゥルース政治、「表現の不自由展」中止で謝るのは津田大介じゃない! 圧力をかけ攻撃を煽った菅官房長官と河村たかし市長だ、八代弁護士 河村たかし 松井一郎が“慰安婦問題はデマ”とネトウヨ並みフェイク! あらためて中曽根証言など日本軍関与の証拠を見ろ) 朝日新聞 「津田大介氏一問一答「希望になると考えたが劇薬だった」」 あいちトリエンナーレ2019 芸術監督を務める津田大介 安全管理上の問題が大きくなったのがほぼ唯一の理由。想定以上のことが、とりわけ電話で行われた。回線がパンクし、受付の人も抗議に対応することになった 物議を醸す企画を公立の部門でやることに意味があると考えた。成功すれば企画に悩む人の希望になれると考えたが、劇薬だった 伊東 乾 JBPRESS 「炎上すべくして大炎上「あいちトリエンナーレ」 京アニ「誤解」につながる少女像展示はポストトゥルース政治」 「平和の少女像」 8月3日、早々に「企画展の中止」が発表 大変な「下手」を打っている アマチュアのガバナンス「あいちトリエンナーレ2019」 素人が、間違った椅子に座っている もし、展示の中止や撤去などがあるなら「その折は、自分が責任を取る」と、最初に、後始末をつけた暁には、辞任の方向を明示したうえで、「芸人ファースト」ならぬ「芸術家ファースト」「作品ファースト」に、懸命の努力を尽くすのが、いやしくも芸術監督という存在でしょう やるなら腹を切る覚悟、すでに脇差を一本突き立てたうえで、社会の理解を一度は求めるのが、その責にあうるものの基本的な所作にほかなりません。ガバナンスのアマチュアを見るように思います 本件が外交問題などに発展した場合、躊躇なく責任を取る必要が想定 なっていないコンセプト「情の時代」 ビスマルクを「ドイツを代表する政治家」と記すのはいただけません 放火犯が示したような激しい憎悪や敵意の感「情」に対して、「犯人が許せない」などといくら情で応じても、何一つ建設的な対案など出てこないことは明らかです ここで第一に必要なのは情ではなく、冷静な理非の別、あえて言えば「知」の領域であり、さらに言えば、再発防止といった確固たる目的に向かう強靭な「意志」が最も重要となります 「情」に対して「情」で対抗しても、情動に溺れることにしかならず、血で血を洗ったバルカン半島的な泥沼に陥ることを歴史は雄弁に示していると思います 情によって情を「飼いならす」のがartなどであった試しは、(どこかにマイナーな例外があれば、それは知りませんが)、洋の東西を問わず、圧倒的に多くの芸術の現場に存在しない概念、空想の産物と断じて構わないと思います 「図式ありき」の下手な政治? あいちトリエンナーレ2019」コンセプトは、まさにこの「ポストトゥルース」のアイコンを「アート」あるいは「作品」と勘違いする、ジャーナリスティックな誤解が、今回の問題を生み出した、真の原因 ここでの「キュレーション」は「平和の少女像」という作品ではなく「慰安婦」という政治的なアイコンを会場にちりばめることで「タブーに挑戦する」という、かなり動機の浅いジャーナリスティックな「政治」の「図式ありき」でしょう 「表現の不自由展」というコンセプトからして、まさにその方向で「表現を自粛」したわけですから、全体主義体制下での美術展禁圧と同じことを結果的にしていることになる 「話題を呼ぶ人選」で「動員数」を主な指標と考える、内容不在、芸術無関係なイベント・ガバナンスの空洞化を指摘するべき litera 「「表現の不自由展」中止で謝るのは津田大介じゃない! 圧力をかけ攻撃を煽った菅官房長官と河村たかし市長だ」 今回の問題でもっとも批判されなければならないのは、卑劣なテロ予告者であり、検閲をちらつかせてそうした動きを煽った、政治家連中 菅義偉官房長官、柴山文科相、河村たかし名古屋市長、松井一郎大阪市長、和田政宗参院議員といった政治家たちが、展示を問題視するような発言を連発 河村市長、菅官房長官の扇動、そしてテロ予告を放置した警察 テロ予告があったなら、警察が脅迫犯を逮捕するなり、警備で安全を確保するのが普通ではないか 「警察には被害届を出しましたが、(脅迫)FAXの送り先を確認できないかと尋ねましたら『それはできない』」と一蹴された 警察がまともに捜査していないはおそらく、テロ予告の対象が、安倍政権のスタンスに反するものだったからだろう テロを非難しなかった安倍、菅、逆に主催者に謝罪を要求した河村 「八代弁護士、河村たかし、松井一郎が“慰安婦問題はデマ”とネトウヨ並みフェイク! あらためて中曽根証言など日本軍関与の証拠を見ろ」 『ひるおび!』(TBS) 八代英輝弁護士 「平和の少女像」が「反日」だというのは完全にネトウヨの論理であり、歪曲した解釈だ 今度は慰安婦それ自体がなかったかのような発言をした 歴史修正主義丸出しのデマ 松井一郎・大阪市長 「慰安婦問題というのは完全なデマ」「朝日新聞自体が誤報だと謝罪しているわけですから」 中曽根康弘元首相が海軍主計長時代に「土人女を集め慰安所を開設」の記録 産経の総帥も自著で軍時代の慰安所設立を自慢「女の耐久度とか消耗度も決めていた」 米朝会談の舞台となったセントーサ島では朝鮮人女性が騙されて慰安婦に 「慰安婦は存在しなかった」の嘘が堂々とまかり通る恐ろしさ 歴史的事実や、それに向き合うための表現まで「反日」と糾弾され、封殺されてしまう状況は、もはや“嫌韓ファシズム”と呼ぶべきかもしれない
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安全保障(その7)(【大前研一のニュース時評】「横田空域」基本合意も 米軍の“占領状態”変わらず…、「反論や批判を待っています」 三浦瑠麗が日本に徴兵制を提案する理由 著者は語る 『21世紀の戦争と平和』(三浦瑠麗 著)、伝わりにくい平和」をどうする――コミュニケーションから考える戦争と平和) [外交]

安全保障については、昨年4月2日に取上げた。久しぶりの今日は、(その7)(【大前研一のニュース時評】「横田空域」基本合意も 米軍の“占領状態”変わらず…、「反論や批判を待っています」 三浦瑠麗が日本に徴兵制を提案する理由 著者は語る 『21世紀の戦争と平和』(三浦瑠麗 著)、伝わりにくい平和」をどうする――コミュニケーションから考える戦争と平和)である。たお、タイトルは「新安保法制成立後の情勢」から変更した。

先ずは、2月11日付けZAKZAK「【大前研一のニュース時評】「横田空域」基本合意も、米軍の“占領状態”変わらず…」を紹介しよう。
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/190211/soc1902110001-n1.html
・『野上浩太郎官房副長官は先月30日、羽田空港の国際線の発着枠を増やす新たな飛行ルートについて、日米の交渉が基本合意に達したと発表した。これにより、羽田への飛来便は在日米軍の横田基地が航空管制を担う「横田空域」を一時的に通過できるようになり、その通過する時間帯は日本側が管制を行う。2020年の東京五輪・パラリンピックを前に運用が始まる。 この問題は、日本にとって長年の懸案だった。横田基地は東京・多摩地域の福生市など5市1町にまたがり、その管制空域は新潟から静岡まで1都8県に及ぶ。米国空軍にとって重要な空域で、日本の民間航空機は入れなかった。 羽田空港から飛び立って北に向かうロシア経由、欧州経由の旅客機、あるいはロシアのほうから戻ってくる旅客機にとって、まさに高い壁になっている。また、羽田や成田空港から西日本に向かう発着便も、1回太平洋上まで出てから大きく急旋回しなければならない。 日本の空の管制権は、敗戦で連合軍が掌握した後、日米地位協定に基づき、米軍の管理下に置かれている。今日に至るまで70年にわたって“占領状態”のままだ。 何とかしなければいけないということで、石原慎太郎氏は1999年に都知事選に立候補した際、横田基地の「管制空域返還」と「軍民共用化」を唱えた。しかし、航空自衛隊の一部司令部が移転するなど「軍軍共用化」は進んだものの、ほかは弾き飛ばされ、その後は言わなくなった。 今回、その一部が通ることができるようになった。どのくらい影響があるかというと、6万回の発着が9万9000回になるという。少なくとも50%以上増えた。横田空域を通るということで、時間も短くなった』、一部の地域で騒音が酷くなるが、発着回数が増え、時間も短くなるのであれば、やむを得ないだろう。
・『ただ、“占領状態”が若干緩んだとはいえ、向こうがコントロールしているという状態は変わらない。日本には在日米軍駐留経費の一部を負担する「思いやり予算」というものがあり、米軍も日本に重要基地を置いたほうが安上がりと考えている。 米空軍が横田なら、海軍は横須賀港だ。ハワイのホノルルに司令部を置く太平洋艦隊の指揮下にあり、西太平洋・インド洋を担当海域とする第7艦隊が前線から帰還する基地になっている。揚陸指揮艦ブルー・リッジも、第7艦隊旗艦として横須賀港を母港にしている。 一方、米国の陸軍は横浜港の瑞穂埠頭(ふとう)にある港湾施設「ノースピア」を持っている。陸軍がいなくなって、ヘッドクオーター(司令部)もなくなってしまったのだが、瑞穂埠頭はまだ返還されていない。 ここは横浜のど真ん中にある。だから、IR(カジノを含む統合型リゾート)を横浜がやりたいのであれば、瑞穂埠頭を使うのが一番いいはずだ。しっかりとした考えの政治家が出てきて、国民の意見を背景に外交力と説得力を駆使して取り返さなくてはならない重要案件だと思う』、「ノースピア」は55ヘクタールもの広大な面積があり、返還後の利用案はまだ構想段階(Wikipedia)。

次に、3月15日付け文春オンラインが掲載した国際政治学者の三浦瑠麗氏へのインタビュー「「反論や批判を待っています」 三浦瑠麗が日本に徴兵制を提案する理由 著者は語る 『21世紀の戦争と平和』(三浦瑠麗 著)」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/10987
・『国内外の政治について発言を続ける三浦瑠麗さんの、6年の歳月をかけた新著が話題だ。戦争と平和、国家のあり方を主題にした本格的な研究書だが、副題に踊る「徴兵制」の一語が刺激的だ。 「以前から、シビリアン・コントロールが強い民主国家ではかえって戦争が容易になってしまうと主張してきました。戦争のコストをリアルに計算する軍部に対して、政治家や国民は正義感やメリットだけを勘定してしまうから、安直に戦争へと突き進む危険性があるということです。先日、韓国海軍から自衛隊の哨戒機が火器レーダー照射を受けた、というニュースがありましたが、世論を見るにつけ、結構危ない局面だったと思うんです。もっとも冷静だったのは、国民でも政治家でもメディアでもなく、自衛隊でした。本当は私たち国民こそが、軍隊を適切にハンドリングしなければいけないのに、いまの日本国民だと容易にその関係が逆転する可能性があります。シビリアン・コントロールというシステムについて、もっと私たちは責任を持たなきゃいけないはずです」 三浦さんの家族には自衛隊関係者がいる。子供の頃から自衛隊が身近な存在だったことは、本書執筆の理由のひとつになった。 「自衛隊の待遇を改善しなければいけないという問題意識はずっとありました。戦後にあっては、一方に軍人への忌避感があり、それが自衛隊の尊厳を損なってきました。他方で自分とは関係ない存在だという無関心、同胞感覚の欠如がある。こういった自衛隊を部外者のように扱う態度はやめて、国民の自衛隊への理解を深めるべきでしょう。自衛隊もがんばってPRに努めていますが、正直、稚拙なのも頭が痛いところです。そもそも、官僚を養成する大学に、政軍関係を教える体制が整っていないことに日本の問題の本質が表れています。軍を知らない政治エリートなんて危なっかしくて仕方ないですよね」』、「戦争のコストをリアルに計算する軍部に対して、政治家や国民は正義感やメリットだけを勘定してしまうから、安直に戦争へと突き進む危険性がある」、というのは一面の真実ではある。ただ、「韓国海軍の火器レーダー照射」問題で「もっとも冷静だったのは・・・自衛隊でした」、といのは確かだが、戦前の日本の軍部は冷静さを失って突っ走ったことをどう評価しているのだろうか。シビリアン・コントロールについても、徴兵制を採ってない欧米主要国ではどうなのか、といった点も知りたいところだ(著書には説明があるのかも知れないが)。
・『市民が当事者意識を持つためにも徴兵制は必要  本書では軍と市民の関係が、歴史をさかのぼって詳述される。市民が軍に対する関心を失ったことで大帝国が潰えてしまう――たとえばローマ帝国の事例はまことに示唆に富む。 「市民が軍は自分たちと同じ国民だという意識を持つには、残念ながらこのままではだめです。いざ戦争を選べば自分も動員されるかもしれないという感覚がないと。そのための徴兵制というアイデアは暴論や極論に聞こえるかも知れませんが、私としては自然な解なんです。市民の当事者意識こそが、なにより平和のために大切だからです。単なる思考実験ではなく、現実的な政策提言のつもりです」 グローバル時代にあって、国家という単位にいかほどの意味があるのか。本書の後半では、様々な国が、国家のありかたを模索する様がレポートされる。 「国民国家というと、なんだか古臭く聞こえますが、リアリズムとしてはいまだ無視できません。たとえば、公共サービスの担い手として世界の富豪、ビル・ゲイツやジェフ・ベゾスに期待できるでしょうか。富の再配分や国土の安定の責任主体として、国家にはまだ実際的な意義があります。安定はタダではありません。そのコストをなるべく多くの国民で負担しようというわけです。でも、誰もが国家に参画せよと全体主義的なことを言いたいわけではありません。良心的兵役拒否のような仕組みは必要です。国家と郷土に対して、保守とリベラルの双方にいろんな意見があるはず。だから、この本にもどんどん反論や批判を寄せてほしい。期待して待っています」』、「市民が当事者意識を持つためにも徴兵制は必要」との主張は、やはり「暴論や極論」としか思えない。「ローマ帝国」滅亡の要因は数あると思うが、「市民が軍に対する関心を失ったこと」だけに焦点を当てたのは我田引水的だ。アメリカでも戦争を鼓舞するのは軍産複合体である。軍隊というのは、一旦、出来ると軍需業界を巻き込んで、凄い政治的なパワーを発揮するものである。ただ、シビリアン・コントロール下で戦争の痛みをどのように周知していくかは、なかなか難しい問題だと思う。

第三に、ジャーナリストの鈴木洋平氏が4月29日付けYahooニュースに寄稿した「伝わりにくい平和」をどうする――コミュニケーションから考える戦争と平和」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/feature/1317
・『「戦争のない時代」として、平成が終わろうとしている。かたや世界に目を向ければ、この30年で戦争が絶えた時期は一度としてなかった。戦争と平和。それらを情報・コミュニケーションの観点から読み解くと、何が見えてくるのか。そんな発想から、これまで戦争に活用されてきたコミュニケーションの技術を平和構築に生かそうとするアプローチがある』、興味深そうだ。
・『「情報・コミュニケーション戦」という“もう一つの戦争”  2017年7月、アフガニスタンの首都カブール。その街中で銃声が鳴り響いた。 「タクシードライバーが、警察が制止するのを無視してそのまま車を飛ばし、警官によって射殺されたんです。私がいた建物の目の前で起きたことです。あとで聞いた話によれば、ドライバーは自爆テロを企てていたそうです。もし警官が彼を射殺しなければ、大惨事になっていたかもしれない」 この事件が発生した当時、アフガニスタン人のモハメド・アリさん(29)は勤務先である少数言語を研究する機関が入っている建物にいた。機関には、米国人の研究者も何人かいたという。そのためにこの建物が狙われていたのかどうかは分からない。ただ、こうしたテロによる危険は「日常茶飯事だった」とアリさんは話す。 アフガニスタンでは、これまでにテロや戦争によって大勢の一般市民の命が失われている。その被害を生んだ攻撃は誰によるものだったのか。その情報をめぐる争いも常にある。 「例えば、米軍に比べて戦力で劣るタリバンは民家に侵入し、米軍が攻撃することを躊躇させます。民家からタリバンが攻撃を仕掛けることもあり、米軍に銃撃し返されれば、『米軍の銃撃によって多くの国民が被害を受けた』とSNSで拡散して、民衆の支持を得ようとする。そうして、その後の自分たちの攻撃を正当化しつつ、米軍がアフガニスタンに介入することに正義がないと民衆に印象づけようとしていました」 攻撃の正当性を主張していけば、その攻撃を仕掛けた側が支持を得ていくことにつながる。戦争当事者の間には、物理的な戦闘行為だけではなく、情報・コミュニケーション戦が存在している。そんな“もう一つの戦争”によって喚起された国際世論が、実際の戦局を左右するケースもある』、ベトナム戦争での米軍撤退は代表例だろう。
・『「銃弾よりも大きな力を持つ」  「戦争における情報戦は、国際的には銃弾よりも大きな力を持つようになっている」――。 そう語るのは、現在NHKグローバルメディアサービスでプロデューサーを務める高木徹さん(53)だ。高木さんは著書『ドキュメント 戦争広告代理店 〜情報操作とボスニア紛争〜』で、旧ユーゴスラビア解体に伴う紛争において情報戦が与えた影響を詳(つまび)らかにした。 1992年、多民族国家ボスニア・ヘルツェゴビナの独立を機に紛争が勃発。ボシュニャク人(ムスリム)、セルビア人、クロアチア人らの民族間で3年半以上にわたって戦闘が繰り広げられ、20万人が犠牲になったとされている。凄惨な虐殺の実態などが報じられると国際社会の批判が高まり、米国の主導で95年に和平合意が締結され、内戦は終結。ボスニアはセルビア人主体の「スルプスカ共和国」と、ボシュニャク人とクロアチア人主体の「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦」の二つの体制が併存する形になった。 紛争の当初はセルビア人勢力が軍事的に圧倒していた。ところが、ボスニア政府がルーダー・フィンという情報戦略のプロフェッショナルであるPR会社を起用したことで戦況は一変する。 「(ボスニア政府の依頼を受けた)PR会社は、セルビア人がボシュニャク人を迫害していると、『民族浄化』のキャッチコピーとともに世に訴えた。そうして被害者としてのボスニアのイメージをつくりあげていったんです」 「国際社会で何をどのように問題とするか。つまり、アジェンダセッティングです。ボスニア紛争では、情報戦という“PR戦争”が国際世論の形成に大きな影響を与えた。『泣かない赤ちゃんはミルクをもらえない』ということわざがボスニアにありますが、このとき、ボスニアはまさに泣くことで国際世論を味方につけたんです」 一方的な悪役に仕立てあげられたセルビア側もPR会社との契約を画策し、情報戦による反撃を試みたという。だが、すでに国際的に定着したイメージを覆すことはできなかった。情報戦だけが戦局を決定づけたわけではないが、国際世論がボスニア側に傾いたことが、旧ユーゴスラビアへの経済制裁や国連追放、NATO(北大西洋条約機構)軍によるセルビア人勢力空爆につながっていった』、「ボスニア紛争」での『民族浄化』は、PR会社が練り上げたキャッチコピーだったとは。それを伝えたマスコミにも責任がありそうだ。
・『「情報戦の影響を抜きに、現代の戦争は語れない」と高木さんは話す。近年その動向は顕著になっているという。 IS(イスラム国)やアルカイダといった過激派のテロ組織は、自前のメディアを立ち上げ、「グローバル・ジハード」という思想を世界中に流布している。「対テロ戦争」を掲げる米国はじめ主要国も、自国が加担する戦争の正当性を主張することに余念がない。 「SNSが浸透していくにつれて、情報戦が戦争に与える影響はますます強まっています。憎悪の共感は、SNSを通じてより簡単に広がっていく。戦争におけるメッセージはこれまで以上に伝わりやすくなっているといえます」』、確かに、欧州からISに応募した多数の人間は、こうしたSNS戦略の影響を強く受けたのだろう。
・『伝わりやすい戦争と、伝わりにくい平和  そもそもなぜ、戦争において情報・コミュニケーションが活用されるのか。 数々の戦争や紛争の現場を渡り歩き、紛争処理や武装解除に当たってきた伊勢﨑賢治さん(61)は「戦争はプロパガンダによって起こるもの」と語る。 「多くの戦争が民主主義体制の下で、正当な手続きを経て選択された結果として起こっています。ヒトラーでさえ、ナチス・ドイツの素晴らしさを国民にアピールし、選挙によって民主的に選ばれた。その後の戦争も国民が支持したものです」 政権を掌握したナチス・ドイツは、大統領緊急令の連発などで反対勢力を抑え込み、言論を封鎖して権力を強化していった。その過程で人々の戦意を高揚させ、戦争への支持を得る。そうした情報・コミュニケーションは、国民を戦争へと駆り立てるプロパガンダとして活用されてきた。 「つまり、戦争はつくられるものなんです」と話す伊勢﨑さんは現在、東京外国語大学大学院 総合国際学研究科 世界言語社会専攻 Peace and Conflict Studies コース(以下 PCS)で教鞭を執る。 前出のアフガニスタン人のアリさんも、PCSに籍を置く留学生だ。アリさんのような紛争当事国出身者を主な受講対象とするPCSからは、2004年の開講以来、実務家として活躍する人材が100人以上輩出してきた。 自身も実務家である伊勢﨑さんが教えるのは、どのように紛争が起こり、国際社会はどんな関わり方をしたのか、それがどういった結果をもたらしたのかということ。平和よりも戦争や紛争に焦点を当てている。 「平和というのは、やはりアンチテーゼでしかないと思うんです。戦争を語らずして平和は語れない。たいていの戦争は平和を守るため、少なくとも、それを口実に始められることが圧倒的に多いですから」 その口実がプロパガンダであり、それによって多くの人が戦争に駆り立てられていくことを伊勢﨑さんは「戦争は“セクシー”だから」と表現する。 「大義のために戦うとか、命を懸けて戦うことは格好良いじゃないですか。暴力というのも人を惹きつけてしまう魅力がある。僕が武装解除などで関わったシエラレオネの紛争では、反政府組織が若者を動員するために、ファッション感覚で戦うことのイメージをつくりあげていました」 戦争の持つ“セクシーさ”は過去、情報・コミュニケーションのあらゆる技法を駆使して伝達され、プロパガンダの主軸を担ってきた。 では、こうしたコミュニケーションの技術を「戦争」ではなく、「平和構築」に生かすことはできないのか――。 戦争や紛争に直接携わるうち、そんな思いを抱いた伊勢﨑さんは、10年ほど前に伊藤剛さん(43)にカリキュラム開発を依頼し、コース内に「ピース・コミュニケーション」という授業を立ち上げた。伊藤さんは、平和学者や戦場ジャーナリストではない。企業や行政、NPOなどの課題をコミュニケーションデザインによって解決するクリエイターだ。 ピース・コミュニケーションのカリキュラムは、メディア構造やプロパガンダ史、そして平和教育まで、あらゆるトピックをコミュニケーションの観点からひもとく内容で構成されている。 実際の授業も担当する伊藤さんは、戦争と平和について「コミュニケーションの観点からすると、戦争は伝わりやすく、平和は伝わりにくい」と話す。 「例えば、“War(戦争)”と“Peace(平和)”を検索エンジンで画像検索してみると、戦争には絵になるものがあり、具体的なイメージが出てきます。一方の平和には絵になるものがない。つまり抽象的な概念なんです。それが何を意味するのかといえば、コミュニケーションとして伝わりにくいということです」 戦争は目に見える形として存在するからこそ、恐怖のイメージを訴求しやすい。その「伝わりやすさ」が、情報戦に活用されてきた理由でもある』、「たいていの戦争は平和を守るため、少なくとも、それを口実に始められることが圧倒的に多いですから」 その口実がプロパガンダであり、それによって多くの人が戦争に駆り立てられていくことを伊勢﨑さんは「戦争は“セクシー”だから」と表現する」、「「コミュニケーションの観点からすると、戦争は伝わりやすく、平和は伝わりにくい」、などというのはその通りなのだろう。
・『「伝わりにくい平和」をどう伝えるか  伊藤さんが続ける。 「ピース・コミュニケーションの出発点になったのは、平和構築においてコミュニケーションを生かす視点があまりに欠けていたことです。多くの人が正しいことは伝わると思っている。ただコミュニケーションの観点からいえば、正しいか否かは伝わる理由にはならないんです」 伊藤さんがつくるカリキュラムでは、実際の戦争や紛争を通じて、双方が求める「正しさ」が伝わらない理由を考え、議論することを取り入れている。 授業を受けたアフガニスタン人のアリさんは、捕鯨をめぐるNHKの番組『鯨の町に生きる』を取り上げた授業の場面を回想する。 和歌山県太地町は、伝統的な捕鯨やイルカ漁で知られる。しかし近年、捕鯨に反対する海洋環境保護団体などが激しい抗議運動を展開し、町は捕鯨をめぐる国際紛争の舞台と化している。 授業では、捕鯨反対の目線で描かれた映画『ザ・コーヴ』と、伝統としての捕鯨を行う漁師やその家族らの葛藤に迫ったNHKの番組を視聴する。真逆の立場を理解し、双方が求める平和とは何かを考えさせるのが狙いだ。 一方は、捕鯨は悪だとして何とかやめさせようとし、もう一方は、捕鯨を伝統と文化と捉えて納得してもらおうとする。授業を通じ、アリさんは自らの体験と通ずることを感じたという。 「自分たちが正義だと思っていることが、相手の視点に立ってみると違うものに映るんだと痛感したんです。でも、それがぶつかり合ってしまう。自分が体験した戦争にも当てはまるのかもしれないと思いました」 平和を伝える上では、コミュニケーションの原理を理解することが欠かせないと伊藤さんは話す。情報伝達というコミュニケーションでは、常に情報の受け手側が主導権を握っている。一方にとっての正しさは「伝わる」理由にならず、むしろ争いを助長することにもなりかねない。だから授業の根底にあるのは、「相手の前提に立つ」という視点を導入することなのだという。 「『伝えている』のに『伝わっていない』ことの代表格がまさに平和であり、その伝わらない理由を考えるためには、敵対する相手の視点から眺めてみるしかない。正しさではなく、その前提を擦り合わせることがコミュニケーションなんです」 アリさんと同じく授業を受けたファフーム・ディマさん(25)は、イスラエル国籍のアラブ人というルーツを持つ。住んでいた街が砲撃を受けるなど、「戦争」を体験しているディマさんにとって、コミュニケーションの観点から戦争を考えることは「とても実用的な考え方だと感じた」と話す。 ディマさんは、ヘブライ語とアラビア語を理解できる。二つの言語で書かれたメディアを読み比べると、同じ出来事でもトーンがかなり違うことに気付いたという。 「ユダヤ人とアラブ人は、同じ地域に住んでいてもお互いのことをほとんど知らず、メディアや周囲の人から聞いた情報しか持ち合わせていません。私が経験したイスラエル・パレスチナの紛争も、コミュニケーションが紛争を長引かせる要因になっているんです」 ディマさんはこうも言う。「授業を通じて、平和はとても主観的で、表現するのは難しいことだと学びました。クラスのみんなが思い描く平和も人によってバラバラでしたから」 「伝わりにくい平和」をどう伝えるか――。 それは、紛争当事国だけでなく、戦後74年が経ち、「戦争のない時代」として、平成が終わろうとしている日本に向けられた問いでもある、と伊藤さんは言う。 「平和を伝えるアプローチは、戦争被害者の語りに大きく依存しているのが現状です。戦争の悲惨さを伝える場所を訪れて、戦争被害者に話を聞く。そうしたコミュニケーションがこの先数十年で成立しなくなり、今後どのようにして平和を伝えていくべきかということも問われていると思います」 伊藤さんは、日本におけるピース・コミュニケーションとして、新たな平和教育のコンテンツをつくることにも取り組んでいくという。 「『戦争はダメだ』『平和は大事だ』と説く教育アプローチはあっていいし、大切なことだとも思います。戦争と平和という選択肢があれば、多くの人が平和を選ぶ。にもかかわらず、世の中から戦争はなくなっていない。だからこそ、どのように戦争が起こるのかを学ぶことも必要なんです」「これから何をどう語り継いでいくか。戦争におけるコミュニケーションからヒントを探り、どのようにして平和に活用できるかを模索していきたいと思っています」』、「戦争の悲惨さを伝える場所を訪れて、戦争被害者に話を聞く。そうしたコミュニケーションがこの先数十年で成立しなくなり、今後どのようにして平和を伝えていくべきかということも問われていると思います」、というのは重要な指摘だ。「これから何をどう語り継いでいくか。戦争におけるコミュニケーションからヒントを探り、どのようにして平和に活用できるかを模索していきたいと思っています」、などの伊藤氏や伊勢崎氏の努力に大いに期待したい。
タグ:憎悪の共感は、SNSを通じてより簡単に広がっていく IS(イスラム国)やアルカイダといった過激派のテロ組織は、自前のメディアを立ち上げ、「グローバル・ジハード」という思想を世界中に流布 ボスニア紛争では、情報戦という“PR戦争”が国際世論の形成に大きな影響を与えた 「ピース・コミュニケーション」という授業 その口実がプロパガンダであり、それによって多くの人が戦争に駆り立てられていくことを伊勢﨑さんは「戦争は“セクシー”だから」と表現する 『民族浄化』のキャッチコピーとともに世に訴えた。そうして被害者としてのボスニアのイメージをつくりあげていったんです ボスニア政府がルーダー・フィンという情報戦略のプロフェッショナルであるPR会社を起用したことで戦況は一変 『ドキュメント 戦争広告代理店 〜情報操作とボスニア紛争〜』 コミュニケーションの観点からすると、戦争は伝わりやすく、平和は伝わりにくい 高木徹 「銃弾よりも大きな力を持つ」 “もう一つの戦争”によって喚起された国際世論が、実際の戦局を左右するケースもある 伊勢﨑 「情報・コミュニケーション戦」という“もう一つの戦争” 「伝わりにくい平和」をどう伝えるか 「伝わりにくい平和」をどうする――コミュニケーションから考える戦争と平和」 yahooニュース たいていの戦争は平和を守るため、少なくとも、それを口実に始められることが圧倒的に多い 鈴木洋平 軍産複合体 市民が軍に対する関心を失ったことで大帝国が潰えてしまう――たとえばローマ帝国の事例 市民が当事者意識を持つためにも徴兵制は必要 大義のために戦うとか、命を懸けて戦うことは格好良いじゃないですか。暴力というのも人を惹きつけてしまう魅力がある 戦前の日本の軍部 シビリアン・コントロールというシステムについて、もっと私たちは責任を持たなきゃいけないはずです もっとも冷静だったのは、国民でも政治家でもメディアでもなく、自衛隊 韓国海軍から自衛隊の哨戒機が火器レーダー照射を受けた 戦争のコストをリアルに計算する軍部に対して、政治家や国民は正義感やメリットだけを勘定してしまうから、安直に戦争へと突き進む危険性がある 「「反論や批判を待っています」 三浦瑠麗が日本に徴兵制を提案する理由 著者は語る 『21世紀の戦争と平和』(三浦瑠麗 著)」 三浦瑠麗 文春オンライン 米国の陸軍は横浜港の瑞穂埠頭(ふとう)にある港湾施設「ノースピア」を持っている。陸軍がいなくなって、ヘッドクオーター(司令部)もなくなってしまったのだが、瑞穂埠頭はまだ返還されていない 向こうがコントロールしているという状態は変わらない 6万回の発着が9万9000回になるという。少なくとも50%以上増えた。横田空域を通るということで、時間も短くなった 「横田空域」 羽田空港の国際線の発着枠を増やす新たな飛行ルートについて、日米の交渉が基本合意 「【大前研一のニュース時評】「横田空域」基本合意も、米軍の“占領状態”変わらず…」 戦争の悲惨さを伝える場所を訪れて、戦争被害者に話を聞く。そうしたコミュニケーションがこの先数十年で成立しなくなり、今後どのようにして平和を伝えていくべきかということも問われていると思います 情報伝達というコミュニケーションでは、常に情報の受け手側が主導権を握っている。一方にとっての正しさは「伝わる」理由にならず、むしろ争いを助長することにもなりかねない。だから授業の根底にあるのは、「相手の前提に立つ」という視点を導入すること ZAKZAK 情報・コミュニケーションは、国民を戦争へと駆り立てるプロパガンダとして活用 (その7)(【大前研一のニュース時評】「横田空域」基本合意も 米軍の“占領状態”変わらず…、「反論や批判を待っています」 三浦瑠麗が日本に徴兵制を提案する理由 著者は語る 『21世紀の戦争と平和』(三浦瑠麗 著)、伝わりにくい平和」をどうする――コミュニケーションから考える戦争と平和) 伊藤さんがつくるカリキュラムでは、実際の戦争や紛争を通じて、双方が求める「正しさ」が伝わらない理由を考え、議論することを取り入れている 安全保障 多くの戦争が民主主義体制の下で、正当な手続きを経て選択された結果として起こっています。ヒトラーでさえ、ナチス・ドイツの素晴らしさを国民にアピールし、選挙によって民主的に選ばれた。その後の戦争も国民が支持したものです 伝わりやすい戦争と、伝わりにくい平和
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日韓関係(その4)(韓国への輸出管理強化「ホワイト国でなければ、何色?」、「日韓貿易戦争」で日本が絶対有利とは限らない 安倍首相の「ブチ切れ」は理解できるが・・・、日本政府は韓国の輸出規制を再考すべきだ WTOで争えば、より大きなリスクを招く) [外交]

日韓関係については、4月8日に取上げた。韓国への輸出管理強化策がクローズアップされる今日は、(その4)(韓国への輸出管理強化「ホワイト国でなければ、何色?」、「日韓貿易戦争」で日本が絶対有利とは限らない 安倍首相の「ブチ切れ」は理解できるが・・・、日本政府は韓国の輸出規制を再考すべきだ WTOで争えば、より大きなリスクを招く)である。なお、タイトルから(除く慰安婦)はカット

先ずは、7月11日付け日経ビジネスオンライン「韓国への輸出管理強化「ホワイト国でなければ、何色?」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00070/070900004/?P=1
・『テレビ東京アナウンサー・西野志海と日経ビジネス編集委員・山川龍雄が、世間を騒がせている時事問題をゲストに直撃する動画シリーズ。第4回目のテーマは、韓国への輸出管理の強化。細川昌彦・中部大学特任教授は「輸出管理の協議に応じない韓国への優遇をやめ、普通の国に戻しただけ。世界貿易機関(WTO)協定違反にはならない」とし、もっと国際的なアピールが必要だという。 西野志海(日経プラス10サタデー・キャスター、以下、西野):このコーナーは、BSテレ東で毎週土曜日の朝9時から放送している「日経プラス10サタデー ニュースの疑問」で、お伝えしきれなかった内容をお伝えするものです。 今回のお題は「韓国への輸出管理の強化」。 山川龍雄(日経プラス10サタデー・メーンキャスター、以下、山川):今一番、視聴者や読者の皆様の関心が高い話題と言ってよいかもしれません。今日はこのテーマを聞くのにふさわしい人をお招きしました。 西野:中部大学特任教授の細川昌彦さんです。経済産業省で日米交渉などを担当された通商の専門家です。よろしくお願いします。 細川昌彦(中部大学特任教授、以下、細川氏):よろしくお願いします。 山川:細川さんはまさに輸出管理の取り決めに携わっていらっしゃったんですね。 細川氏:課長時代に4年、部長になって責任者として1年、5年もやっていたのは経産省ではたぶん最長だと思います。韓国とも協議をずっとやってきました。 西野:その頃の経験も踏まえて、お話を伺いたいと思います。最初の疑問がこちらです』、細川氏はこの問題を解説するには最適だ。
・『ホワイトで ないとするなら 何色か  輸出管理で優遇されるホワイト国から韓国を除外するというのが大きなニュースになりました。ホワイトでなければ、グレーなのか? ブラックなのか? と思ってしまうのですが、何色なのでしょう? 細川氏:無色ですね。 西野:韓国は無色の扱いになる? 細川氏:はい、普通になるということです。例えば東南アジア諸国連合(ASEAN)やインド、メキシコなどと扱いが同じになる。 山川:改めて、ホワイト国の意味を教えていただけますか? 細川氏:通常、海外に輸出する製品は、(安全保障上、適切に管理されているかどうかを)個別に審査する必要があるわけですが、ホワイト国になると手続きが優遇されます。3年間有効になる許可をもらえば、それ以降は企業に任せられ、(リストに規制された対象品目以外は)許可が不要になります。(リンク先に「日本がホワイト国に指定している27カ国」の地図) 西野:この地図にホワイト国が示されていますが、現在は米国や英国、フランス、韓国など27カ国が対象となっています。このうち韓国については、日本政府は8月末にも除外する意向を示しました。そもそもホワイト国という呼び名は世界中で使われているのですか?』、韓国への優遇がなくなり、「普通になる」措置なのに、これだけ騒がれている理由は、あとで説明があるのだろう。
・『ホワイト国という呼び名は日本だけ  細川氏:言葉は日本だけだと思いますが、類似の制度を各国が持っています。世界的な輸出管理の枠組みというのは何十年も前からあり、日本はそのメンバーです。そこに入れば兵器に使われることのないように輸出管理をする義務が生じるし、きちんとやっていれば、優遇措置を受けるということです。 西野:企業社会では、ホワイト企業とか、ブラック企業といった使い方があります。今回は安全保障上、ホワイトかブラックか? という意味なのでしょうか? 細川氏:単に安全保障上というだけではなく、輸出管理をきちんとやっている国かどうかを見ています。そうでないと、日本からの輸出品が危ない国に行ってしまえば、日本の責任になってしまいますから。 西野:実際にそういう具体的なことが起こっているのですか? 細川氏:韓国については、残念ながら「不適切な事案」という言葉で表現されていますが・・・・・・。 山川:世耕弘成経済産業大臣などが言っていますね。 細川氏:一般的には分かりにくいと思いますが、輸出管理の世界で不適切な事案といえば、相手国がきちんと管理せずに軍事目的に使われているようなことを指します。あるいは、第三国、この場合、北朝鮮やイランなどに横流しされる恐れがあるという意味です。私が知る限り、どうやらここ数年、1件や2件ではなく、常態化していたらしいです。 西野:私、知らなかったんですが、今回、規制の対象となった、レジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミドの3品目は、半導体製造だけでなく、兵器にも使われる可能性があるんですね』、輸出管理では、やや性格は異なるが、1987年に東芝機械ココム違反事件の際には、日米間で大きな政治問題になった。
・『対象となった3品目は兵器に使用される恐れ  細川氏:化学兵器に使ったり、ミサイルやレーダーに使ったりされる恐れがあります。 実は日本は、これまで韓国を一番優遇していた国の1つなのです。例えば、欧州連合(EU)が日本のホワイト国に当たるような指定をしているのは8カ国。その中に日本は入っていますが、韓国は入っていません。EUにおいては韓国は第2グループで、トルコやアルゼンチンなどと同列に位置付けられています。 山川:つまり、今回の日本の措置はEU並みにしたというわけですね。 西野:ホワイト国が取り下げられた例というのは外国も含めてありますか。 細川氏:海外の出し入れについては分かりませんが、どの国も優遇措置を維持するかどうか、普段から協議をしています。ところが韓国はこの2~3年、そうした協議に応じていなかったのです。 山川:それも不信感につながっている? 細川氏:はい。相手がきちんとやっていることを確認せずに日本が優遇措置を講じていると、ほかのメンバー国から非難を受けることになりますから。 日本は国際的な義務を果たすためにも今回、協議に応じていない国、そして不適切な事案が常態化している国を、ホワイト国から除外する必要があったのです。むしろ、もっと早くすべきだった。 西野:今回、欧米の新聞などでは、「日本はトランプ大統領と同じやり方をしている」といった報道を目にしますが……』、「韓国はこの2~3年、そうした協議に応じていなかった」のに、何故このタイミングで持ち出したのか、については首を傾げざるを得ない。
・『もっと国際社会にアピールを  細川氏:そうした誤解があること自体が問題です。トランプ大統領による、中国のファーウェイへの輸出規制や、中国によるレアアース(希土類)の輸出規制などと同一視されるのはすごく問題があります。 国際的なルールに基づいて行動するというのが、日本の立場。日本は国際社会に正当なことをやっているというアピールをもっとすべきです。 西野:韓国ではWTOに提訴するという声も出ています。そこで2つ目の疑問です』、G20大阪サミットで自由貿易の重要性を強調する一方で、今回の措置が突如出てきたことについて、「もっと国際社会にアピールを」というのはその通りだ。
・『貿易で 違反の線引き どこにある?  今回の問題、WTOのルールに照らし合わせると、どうなりますか。 細川氏:世界が協調して自由貿易を推進しようというのがWTOの精神です。ただ、その中で安全保障に関しては例外として日本も含め参加国は輸出管理を厳格にやることが認められています。もし、今回のケースで、日本がWTO違反になるのなら、ほかの国もみんな違反になってしまいます。 山川:改めて確認させてください。韓国がWTOに提訴しても違反にはならない? 細川氏:明らかに、なりません。 西野:米国のファーウェイに対する措置や、かつて日米貿易摩擦の頃の日本への強硬姿勢などを考えると、安全保障上の理由ってどうなんだろうと思うところもあるのですが。 細川氏:米国の場合、強弁が目立ちます。安全保障にひっかけないとWTOの例外措置にならず、違反になってしまうから、そうしている面がある。 山川:米国の場合、国内で法律を作って進めているわけですが、確かに国際社会から見たら無理筋ではないかと感じるときがあります。例えば自動車の関税引き上げまで、安全保障を理由にするのはどうかと思う。 細川氏:おかしいですよね。だから、米国がやっていることと同一視してはダメなんです。先ほど申し上げた通り、軍事にも使われかねない危険な物質が危険な国に渡らないようにするために、日本は行動しているわけですから。それがどうして違反なのでしょう』、「韓国がWTOに提訴しても違反にはならない」といやに自信を持っているようだが、最近、日本政府は国際的紛争処理でボロ負けが相次いでおり、危うさを感じる。
・『中国によるレアアース規制との比較  山川:WTOとの関連を明確にするために、具体的な事例で考えていきましょう。 表の右側は、中国のWTO違反のケースです。尖閣諸島の問題が起きたとき、日本に対してレアアースの輸出量を制限しましたが、このときは、日本が提訴して、中国が負けました。 そして左側の今回は、徴用工や自衛隊機への火器管制レーダー照射問題などで「信頼関係が著しく損なわれた」ことを政府は理由の1つとして挙げています。ただ、中国のケースと違って、輸出を制限するわけではなく、あくまでも優遇措置を除外するというものです。 細川氏:徴用工の問題は背景にはあっても理由ではありません。理由は明らかに輸出管理の世界での論理です。しかも禁輸するといった運用ではない。あくまでも輸出の許可手続きを変更するだけです。国際的なルールにのっとって淡々とやろうとしている。 西野:今後、もし輸出量を制限するとか、禁輸するといったことになったときはどうなりますか? 細川氏:そういうことにはなり得ません。日本は法治国家ですから、輸出品が第三国に流出する恐れがあるといったエビデンス(証拠)がなければ、不許可にしません。 山川:確実にどこかに流れていると確証がある場合だけ? 細川氏:あるいは流れる可能性が高い、と見れば不許可にすることはあります。それ以外は禁輸はあり得ません。通常の輸出を不許可にしたら日本政府がその企業から訴えられますから。 山川:確かに中国との件では、日本がレアアースをどこかに横流ししていたわけではなかった。 細川氏:中国のケースは完全に禁輸です。しかも理由が尖閣の問題ですから意味が全く違います。 山川:そこをきちんと国際社会に伝えていくのが大事ですね。どうしても韓国の方がロビーイングも含めて国際世論を巻き込んでいくのがうまいですから。 WTOをめぐっては4月、最終審に当たる上級委員会が、福島など8県産の水産物の輸入を禁止する韓国の措置を事実上認める判断をしました。これも、日本側は勝てると思っていたら、敗訴してしまった。 細川氏:もちろん今回の措置については、背景には、徴用工問題などによって2国間の信頼関係が薄れたことがあると思います。でも、それを前面に出してしまうと、本当の理由が見えなくなる。 徴用工の問題だけを切り取られて、中国のレアアースの事例と同一視されるのが心配です。実際に海外の報道ではそういう論調が出ていますから。国際的にどうアピールしていくかが、大事だと思います。 山川:我々も正しく報道していかないといけませんね。 西野:そうですね。さて、日本の措置で物事は前に進むのかどうか。日韓関係はどうなるのかが気になります。そこで最後の疑問です』、「国際的にどうアピールしていくかが、大事だ」、その通りだが、既に遅きに失しているのではなかろうか。
・『いつまでも 近くて遠い お隣さん?  隣国同士、対立が強まる傾向にあるわけですが、今後の展開をどう見ていらっしゃいますか。 細川氏:そうですね、関係改善がなかなか期待できないからこそ今回、こういう措置に至ったわけです。もちろん今後、韓国側がきちんと輸出管理をし、不適切な事案が二度と起こらないという確証を日本が持てば次の展開はあると思います。ただ、今の韓国の状況を見ると、期待するのは難しいかもしれない』、長期戦を覚悟でやる他ないとすれば、お互いに不幸なことだ。
・『言うべきことを言う  山川:今までは日本側はじっと黙って、韓国が変わるのを待つのが基本的なスタンスでした。ただ今回は一歩踏み出したような印象を持ちます。日本政府は「言うべきことは言う」というモードに切り替えたということでしょうか。 細川氏:そうですね。輸出管理の世界でもきちんとした対応は期待できないと見切りをつけたということだと思います。 山川:文在寅(ムン・ジェイン)政権の姿勢を見ていると、メンツや支持率を意識して、報復に出てくる可能性が高いのではないでしょうか。その場合、ここに示した通り、WTOへの提訴や戦略物資の輸出制限、日本製品に対する輸入規制などが考えられます。 一方、日本側も農水産物の輸入制限、就労ビザの制限などが一部で取り沙汰されています。 (リンク先に「日韓双方の考えられる対抗策」の図表) 細川氏:韓国が報復措置だと言って出てくるならば、日本がWTOに提訴すればよい。勝てると思いますよ。 山川:むしろ白黒つけた方がいいと……。 細川氏:はい、その過程で今回の不適切事案のこともきちんと説明すればよい』、自信過剰ゆえの準備不足で負けることにならなければいいが・・・。
・『対象品目が増えることはおそらく、ない  西野:ところで、今回の措置はなぜこのタイミングだったのでしょう。主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が終わった直後であり、参院選の前ということで、いろんな臆測を呼んでいます。 細川氏:だからこそ、もっと早くやるべきだった。このタイミングだと、色々と思惑があるんじゃないかと受け止められかねません。G20が控えていたことや、徴用工問題の返答を待っていたことで、タイミングが遅れたのかもしれません。 西野:今回は半導体材料の3つを対象にしたわけですけれど、今後、品目が増えていく可能性はありますか。 細川氏:ないと思います。不適切な事案が起こっているのがこの3品目に集中しているということが一つ。それにこの3品目は、日本が世界に対する大供給国なので、輸出管理をきちんとやっていると示す義務があるわけです。 西野:国同士の対立で、負担をこうむるのはいつも企業です。今回の影響をどう見ますか。 細川氏:日韓の間では、これまで簡素化した手続きを前提に販売計画や生産計画を立てていました。個別審査になると手続きに手間や時間がかかるのは事実です。 ただ、審査には90日程度の時間がかかると言われていますが、これは事実ではありません。90日というのは標準的に定められているだけで、現実にかかっているのは、私の感覚でいえば、4~5週間程度です。 山川:そうすると韓国のサムスン電子やSKハイニックスが、半導体メモリーのDRAMの生産で極端に支障を来すことはない? 韓国だけに負担を課すわけではない  細川氏:ないと思います。最初は輸出する側も手続きに慣れていませんから、相手から誓約書をもらうなど、手続きが煩雑になります。しかし、慣れてくれば、負担は減っていきます。繰り返しになりますが、韓国だけに特別に重い負担を課すわけではなく、他国ではやっていることですから』、「手続きが煩雑になります。しかし、慣れてくれば、負担は減っていきます」、なるほど。
・『西野:米中の通商摩擦が示す通り、国同士の対立は、結局、双方の企業活動にマイナスになります。 細川氏:報復合戦になると、日本企業は次第に事業を展開するうえで韓国は危ない場所だと思い始めるでしょう。そうなると韓国にとってマイナスだと思うのですが。 山川:「雨降って地固まる」という言葉もあります。こうなってしまった以上、今回、日本が「言うべきことは言う」とスタンスを変えたことが、むしろいい結果になることを期待したいですね。 西野:本音同士のぶつかり合いが事態を変えるということですね。私たちも、しっかりと情報をお伝えする努力をしていきたいと思います。 細川さん、ありがとうございました・・・』、「報復合戦」は何としてでも避けるべきだろう。

次に、双日総合研究所チーフエコノミストのかんべえ(吉崎 達彦)氏が7月13日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「日韓貿易戦争」で日本が絶対有利とは限らない 安倍首相の「ブチ切れ」は理解できるが・・・」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/292009
・『6月と7月で世の中はすっかり様変わり。大阪G20首脳会議が始まるまでは、「米中貿易戦争はどうなるのか!」と、皆が固唾をのんで見守っていたものだ。ところが6月29日に米中首脳会談が終わったら、それはもうどこかに行ってしまい、今月の焦点はズバリ日韓関係である。いやあ、どうなるんですかねえ』、かんべえ氏の見解とは興味深そうだ。
・『韓国企業が浮き足立つのも無理はない  大阪G20が終わった翌週の7月1日、経済産業省は「対韓国輸出規制」に踏み切ることを公表した。そして4日から実施。たちまち日韓関係は大揺れとなった。 今回、規制対象となったのは、「レジスト」(感光材)、「エッチングガス」(フッ化水素)、「フッ化ポリイミド」という3種類の半導体材料。韓国によるこれら材料の対日輸入額は5000億ウォン(466億円)に過ぎないが、それによって生み出される韓国製の半導体とディスプレ-は、全世界への輸出総額が170兆ウォン(15.8兆円)に達する。つまり日本側は失うものが小さく、韓国側が受ける打撃は大きい。これを称して、「レバレッジが高い効果的な経済制裁」ともてはやす向きもある。 韓国企業の反応は素早く、サムスン電子の李在鎔副会長は7月7日にはお忍びで日本へ飛んだ。日韓の政府間交渉に任せていたのでは埒が明かない、民間企業同士で解決を図ろうと考えたのだろう。その認識はまったく正しくて、韓国政府はこれを政治問題化させて、外交戦、宣伝戦に持ち込む構えである。文在寅大統領の頭の中に、「経済界の利益」や「日韓関係の安定」は存在しないとみえる。 しかし供給元の日本企業としては、たとえ韓国財界のトップから直々に陳情されたとしても、これが政府による輸出管理政策上の判断だと説明されると手の打ちようがない。この問題、政府と民間企業ではまるで受け止め方が違ってくるのだ。 世間的には、「WTO提訴になった場合、日韓のどちらが勝つか?」みたいな話になっている。しかし企業にとっては、そんな話は悠長に聞こえてしまう。WTOで争うとなれば、答えが出るまで1年やそこらはかかる。韓国企業の半導体材料の在庫は長くて3カ月分、短ければ1カ月程度しかないと言われている。彼らが浮足立つのも無理はないところだ。 それではこの喧嘩、日本が圧倒的に有利かというと、そうとも限らない。この問題に対する日本政府の説明が、7月第1週と第2週以降で微妙に変化していることにお気づきだろうか』、「レバレッジが高い効果的な経済制裁」との一部の見方は正鵠を突いている。「日本政府の説明が、7月第1週と第2週以降で微妙に変化している」、とはさすがに鋭い指摘だ。
・『安倍首相の気持ちはわかるが「世界がどう見るか」がキモ  安倍晋三首相は7月3日、日本記者クラブ主催の党首討論会において、本件は元徴用工訴訟で対応を示さない韓国政府への事実上の対抗措置だという認識を示している。「1965年の日韓請求権協定で、互いに請求権を放棄している。約束を守らないうえでは、今までの優遇措置は取らない」とも語っている。 もちろん日韓関係には、それ以前から従軍慰安婦合意の一方的破棄、レーダー照射事件、水産物規制などの問題が積み重なっている。徴用工問題については、日本政府は日韓請求権協定に基づき、日韓と第三国による仲裁委員会の設置を5月に求めた。ところが韓国側は期限の6月18日になっても仲裁委員を任命せず、翌19日になって突然、日韓企業が資金を出し合って救済することを提案した。おいおい、それって財団方式じゃないか。2015年の日韓合意でできた慰安婦の「和解・癒し財団」を、勝手に解散してしまったのはどなたでしたっけ?安倍首相がブチ切れた心情は、非常によく理解できる。 とはいうものの、韓国に対して恣意的な経済制裁を打ち出すのは拙いだろう。日本は今までそういうことをしない国だった。自由でリベラルな国際秩序の忠実なる担い手だった。特に今年はG20議長国であり、世界に率先して自由貿易の旗を振る立場。それが首脳会議終了直後に豹変したとなったら、周囲はどう見ることか。 ウォール・ストリート・ジャーナル紙では、7月2日に政治学者ウォルター・ラッセル・ミードが「トランプ化する日本外交」という記事を寄稿している。「あの日本がIWC(国際捕鯨委員会)から脱退し、対韓輸出規制を始めるのだから、世の中は変わったもんだねえ」とのご趣旨であった。つくづくこの問題、日韓関係だけを見ていちゃいけない。第三国からどんな風に見られているかが、勝負のキモなのである。 ということで、政府の説明は翌週から「本件は輸出管理の一環です」というテクニカルなものに軌道修正した。政治家としては7月21日の参議院選挙も意識して、「韓国許すまじ」と気炎を上げたいところかもしれないが、それでは聞こえが悪いのである。 実際に経済産業省のHPを見てみよう。今回の措置は以下のように説明されている (「輸出貿易管理令の運用について」等の一部を改正する通達について)。 外国為替及び外国貿易法に基づく輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。 こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととします。 つまり今回の措置は「輸出規制」であって「禁輸」ではない。半導体材料を、「お前さんには売れねえ」と啖呵を切ると、2010年の中国によるレアアース禁輸措置と同様、明々白々なWTO違反となってしまう。 経済産業省はこんな風に説明している。2004年以降に簡略化されていた韓国向けの輸出管理の手続きを、それ以前の状態に戻します。韓国はいわゆる「ホワイト国」から外れるので、今後は輸入の際に個別に許可を取らなければなりません。しかし半導体材料を入手できなくなるわけではありません……。仮に関連企業から行政訴訟を起こされたとしても、負けないように予防線を張ってあるわけだ』、WSJ紙の「トランプ化する日本外交」、と実に痛いところを突いている。「参議院選挙も意識して、「韓国許すまじ」と気炎を上げたいところかもしれないが」、「政府の説明は翌週から「本件は輸出管理の一環です」というテクニカルなものに軌道修正した」、というのは安倍政権のいい加減さを示しているようだ。
・『もし「不適切な事案」が肩透かしなものであったら?  ところで上記の文言で気になるのは、「韓国に関連する輸出管理をめぐり、不適切な事案が発生した」ことの中身である。「武士の情けで皆までは言わないでおいてやる」的な書きぶりだが、今後、「不適切な事案とは、具体的に何のことなんだ?」との疑問が寄せられることは避けられまい。 そこでぐぅの音も出ないような事実が出てくれば、日本側の勝ちである。例えば北朝鮮やイランへの材料の横流しがあったとすれば、「なるほど、日本の措置はもっともだ」ということになる。ところが韓国側はさほど意に介する様子もなく、「2015年から今年3月までに156件の違法輸出があったが、日本産の転用はない」などと答えている。仮に「不適切な事案」が肩透かしなものであったら、第三国からどう見られるか。「規制強化に政治的な意図があった」という心象を持たれれば、日本外交が失うものは小さくないだろう。 繰り返すが、建前はさておき「ビジネスを武器にして他国に圧力をかける」という発想は、少なくとも今までの日本外交にはなかった。国連安保理やG7の制裁には足並みをそろえるが、少なくとも二国間ベースでは行わない。むしろ「意地悪をされても、仕返しはしない国」であった。今回の措置は、わが国の「通商政策」の転換点となるかもしれない。 半導体産業は、そうでなくとも世界的な逆風下にある。これで韓国企業が打撃を受けた場合、アジアのサプライチェーンを混乱させて日本経済に跳ね返ってこないとも限らない。 ちなみにサムスン電子、ハイニックスなど韓国関連企業の株価は、輸出規制強化措置を受けていったんは下げたものの、「これで半導体市況がかえって回復するかもしれない」との思惑から直近では再び上げている。政治の思惑とは違って、経済はさまざまな要素とともに千変万化する。かくなるうえは、こんな想定が杞憂に終わることを祈るばかりだ』、韓国側の「156件の違法輸出があったが、日本産の転用はない」、というのが単なる強がりであればいいのだが。事実であれば大変なことだ。経産省を中心とする官邸の暴走もここに極まれりとなるのかも知れない。

第三に、上智大学教授の川瀬剛志氏が7月14日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本政府は韓国の輸出規制を再考すべきだ WTOで争えば、より大きなリスクを招く」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/291562
・『日本政府は7月4日、外為法上の輸出管理対象となっていたフッ化ポリイミドとレジスト、フッ化水素について、韓国への輸出規制を強化する手続きを開始した。 対韓国輸出を包括的許可から契約ごとの個別審査に切り替えると同時に、韓国をホワイト国から外す手続きに入るという。これに反発した韓国は、本件をWTO(世界貿易機関)の紛争解決手続に付託する方針だ』、アカデミズムの立場からの見方も興味深そうだ。
・『問われる安全保障貿易管理とWTOの整合性  今回の対応については、徴用工問題を踏まえて妥当な対抗措置と称賛する声や日韓関係の悪化を心配する声、日本の半導体産業への悪影響を懸念する声などさまざまな評価が出ている。筆者が専門とする国際経済法の視点からは、WTO協定、特にGATT(関税及び貿易に関する一般協定)違反の可能性が指摘されているが、筆者はむしろそれを超えた国際通商システム全体への影響を懸念している。 韓国がもし、今回の措置のWTO協定違反を争うとすれば、それは安全保障貿易管理体制がWTO協定に整合しているかどうかを正面から問うことに他ならず、両者に内在する緊張関係が白日のもとにさらされるおそれがある。 日本政府は今回、韓国でフッ化ポリイミドなどの輸出管理に不適切事案が発生しており、韓国が具体的対応の要請に回答せず、3年間も両国間対話がないと説明している。そうであれば、筆者は必ずしも今回の措置が安全保障貿易管理制度の合理的な運用の枠内にあることを否定するものではない。 しかし、官邸はシステム全体へのリスクを勘案して今回の措置に踏み切ったのだろうか。日韓関係の現状や実施のタイミング、対象物資の性格を考えると、今回の対応が韓国の強い反発を招き、WTO協定との整合性が問われることは容易に予想できたはずだ。もしそうでないとすれば、拙速な悪手と評さざるを得ない。 一般的に言って、安全保障貿易管理措置は正当なものであってもWTO協定違反になりうる。特に、輸出許可の申請が必要な場合、部分的にせよ審査の結果輸出が制限される制度設計である以上、輸出制限を禁じたGATT11条1項に違反する。 また、ホワイト国制度のように特定国を輸出審査で非対象国と差別することは、WTO 加盟国間の待遇平等を規定したGATT1条1項に違反する。判例では相当広い範囲の措置について違反が認定されており、また、その判断の際に差別の政策的正当性を斟酌していない。 ただ、安全保障貿易管理についてはGATT21条の例外規定による正当化の余地がある。特に「自国の安全保障上の重大な利益」の保護に必要な措置は、GATTの原則に反しても、協定違反に問われることはない。しかし、この条文は第二次世界大戦直後の1947年の冷戦期に起草されたもので、いかにも古く、例外の範囲も狭い。 冷戦構造崩壊後の安全保障概念は、狭い意味での戦争だけでなく、地域紛争やテロ、サイバーセキュリティ、災害やパンデミックまでを含む、極めて広がりのある概念になりつつある。また、軍事転用が可能なら、iPhoneなどの民生品も規制の対象になる。70年以上前にできた条文では、21世紀の安全保障には極めて限定的にしか対応できないことは明らかだ』、日本側が頼りにしている条文が「70年以上前にできた」、いやはやである。
・『安全保障貿易管理とWTO体制は共存してきた  それでは、こうした法的緊張関係がありながら、なぜこれまで両者は平和裡に並存できたのだろうか。そこには国際社会の「大人の知恵」が介在している。 安全保障貿易管理の世界では、ワッセナー・アレンジメント(通常兵器、関連汎用品・技術)、ザンガー委員会(核物質)、オーストラリア・グループ(化学・生物兵器)など、対象物資ごとに国家間レジームが形成されている。それぞれが輸出管理の対象物資リストを決定し、その規制について協調する。これらの取り決めは紳士協定で拘束力こそないが、各国はここで決まる、ある種の相場観に従って輸出管理を行い、その範囲を大きく逸脱する例外の濫用を慎んできた。 他方で、この相場観に従って行動しているかぎり、他国の安全保障貿易管理措置がWTO協定に整合しているかを問うことも自制してきた。前述のように、こうした措置は性質上、どうしてもWTO協定の原則と矛盾してしまう。とはいえ、国際社会の安定と平和のためには、安全保障貿易管理をやめることもできない。だからこそ、各国は輸出管理のWTO協定整合性を厳密に問わず、例外の濫用も慎む大人の知恵を働かせ、本来緊張関係にある双方のレジームを注意深く共存させてきた。 しかし、この棲み分けが急速に崩れつつある。その契機が、安全保障目的をうたったトランプ政権による鉄鋼・アルミ製品の関税引き上げだ。対象となる製品は安全保障貿易管理スキームの規制物資ではなく、カナダや日本など同盟国にも適用され、あからさまな安全保障措置の例外の濫用と言える。ただ、それだけにその法的評価は単純であり、GATT21条の例外に当たらないことは明らかだ。 しかし、今回日本政府が行った対韓輸出規制は問題の次元がまったく異なる。 韓国がホワイト国指定・解除の恣意性や審査制度が実質的に輸出を制限していることを争えば、ワッセナー・アレンジメント実施のための正統な輸出管理のWTO協定整合性が正面から問われることになる。これまで大人の知恵で慎重に維持してきたWTO体制と安全保障貿易管理レジームの平穏な共存がくつがえるおそれがある。今回の日本の対応が、合理的な安全保障貿易管理制度でも運用の枠内にあるとしても、必ずしもWTO協定に適合していると担保されるわけではない。それを争うリスクをいかにして避けるかが重要だ』、「韓国がホワイト国指定・解除の恣意性や審査制度が実質的に輸出を制限していることを争えば、ワッセナー・アレンジメント実施のための正統な輸出管理のWTO協定整合性が正面から問われることになる。これまで大人の知恵で慎重に維持してきたWTO体制と安全保障貿易管理レジームの平穏な共存がくつがえるおそれがある」、というのは、さすが専門的研究者らしい説得力溢れる主張だ。
・『あまりに楽観的な日本政府の主張  日本政府は、今回の措置は安全保障貿易管理上の見直しであって、WTO上まったく問題がないと繰り返し説明しているが、あまりに楽観的だ。GATT21条があるから安全保障貿易管理がWTO協定上、問題がないという神話は、これまで誰もこの問題を争わなかったからに他ならない。 今年4月のロシア・貨物通過事件パネル判断を見ればわかるように、ひとたびWTO紛争が提起されれば状況はまったく異なる。本件はクリミア危機のような明白な武力衝突を扱ったにもかかわらず、パネルは安全保障を理由に判断回避を要求したロシアの主張を一蹴し、ウクライナ発の貨物通過規制がGATT21条に適合しているかを客観的に審査した。 仮に本件がWTOパネルにかかると、韓国によるGATT1条・11条違反の主張には分があると言わざるを得ない。それは、今回の日本の対応が、ホワイト国などとの比較で韓国を差別的に扱い、フッ化ポリイミドなどが輸出禁止になる可能性があるからだ。 そうなると、日本はGATT21条の例外だと主張することになるが、先例によれば、例外的事情の存在と何が日本の「安全保障上の重大な利益」であるかを説明しなければならない。 詳細が未公表なので断定できないものの、今回の措置がGATT21条にある例外的事情に当てはまるかと言えば、問題の物資が兵器や核物質でもなく、日韓関係が「信頼関係が損なわれた」というだけでは無理がある。たとえば、韓国企業から北朝鮮や中国などの第三国への流出があり、これが軍事施設供給のための取引と説明できるかどうかだろう。 本当に韓国のワッセナー違反であるのなら、日本はその旨を明らかにした上で毅然と対応すべきであり、その場合は、自らの不適切対応を棚上げしてWTOに問題を持ち込み、安全保障貿易管理体制との棲み分けを侵した批判は、韓国が受けることになる。しかしそうであれば、世耕弘成経産相が7月2日の記者会見で述べたような、G20までの徴用工問題の未解決がその背後にあることを匂わせるような発言は、今回の対応の目的が安全保障目的以外にあることを疑わせるもので、厳に慎むべきだ。 逆に韓国に大した不適切事案がなく、日本が韓国に対して外為法上の待遇を政治的に利用しているとすれば、安全保障貿易管理の濫用の誹りは免れない。ウォールストリート・ジャーナルなどが、今回の日本政府の対応は、安全保障を口実にした通商制限であり、トランプ流への追随と評しているが、こうした見方の広がりが強く懸念される。 いずれにせよ、一つ間違うと、今回の措置は永年にわたって築かれた国際通商のガバナンスを大きく損なうおそれがある。これらを十分に認識のうえ、可能なかぎりWTO紛争化を回避すべく、7月12日の日韓会合を皮切りに、韓国とは情報交換と協議を尽くすべきだ』、「7月12日の日韓会合」は、5時間超に及んだにも拘らず、双方の会合後の記者発表は全く食い違ったものになっており、相互の不信感を高めただけに終わったようだ。経産省や官邸が内輪の論理をいかに振りかざしたところで、国際的に通用する筈もない。本来、経産省はもっと国際センスがある官庁だと思っていたが、安倍首相への「忖度」が過ぎて正常な判断が出来なくなっているのだろうか。残念なことだ。
タグ:日韓関係 (その4)(韓国への輸出管理強化「ホワイト国でなければ、何色?」、「日韓貿易戦争」で日本が絶対有利とは限らない 安倍首相の「ブチ切れ」は理解できるが・・・、日本政府は韓国の輸出規制を再考すべきだ WTOで争えば、より大きなリスクを招く) 日経ビジネスオンライン 韓国への輸出管理強化「ホワイト国でなければ、何色?」」 細川昌彦・中部大学特任教授 西野:韓国は無色の扱いになる? 細川氏:はい、普通になるということです。例えば東南アジア諸国連合(ASEAN)やインド、メキシコなどと扱いが同じになる 通常、海外に輸出する製品は、(安全保障上、適切に管理されているかどうかを)個別に審査する必要があるわけですが、ホワイト国になると手続きが優遇されます 日本がホワイト国に指定している27カ国 「不適切な事案」 輸出管理の世界で不適切な事案といえば、相手国がきちんと管理せずに軍事目的に使われているようなことを指します レジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミド 対象となった3品目は兵器に使用される恐れ 欧州連合(EU)が日本のホワイト国に当たるような指定をしているのは8カ国。その中に日本は入っていますが、韓国は入っていません 協議に応じていない国、そして不適切な事案が常態化している国を、ホワイト国から除外する必要があったのです。むしろ、もっと早くすべきだった 韓国はこの2~3年、そうした協議に応じていなかった もっと国際社会にアピールを 安全保障に関しては例外として日本も含め参加国は輸出管理を厳格にやることが認められています WTOのルール 韓国がWTOに提訴しても違反にはならない 中国によるレアアース規制との比較 いつまでも 近くて遠い お隣さん? 言うべきことを言う 対象品目が増えることはおそらく、ない かんべえ(吉崎 達彦) 東洋経済オンライン 「「日韓貿易戦争」で日本が絶対有利とは限らない 安倍首相の「ブチ切れ」は理解できるが・・・」 韓国企業が浮き足立つのも無理はない 韓国によるこれら材料の対日輸入額は5000億ウォン(466億円)に過ぎないが、それによって生み出される韓国製の半導体とディスプレ-は、全世界への輸出総額が170兆ウォン(15.8兆円) 「レバレッジが高い効果的な経済制裁」ともてはやす向きも 日本政府の説明が、7月第1週と第2週以降で微妙に変化 安倍首相の気持ちはわかるが「世界がどう見るか」がキモ 韓国に対して恣意的な経済制裁を打ち出すのは拙いだろう 自由でリベラルな国際秩序の忠実なる担い手だった 首脳会議終了直後に豹変したとなったら、周囲はどう見ることか ウォール・ストリート・ジャーナル紙 「トランプ化する日本外交」 「あの日本がIWC(国際捕鯨委員会)から脱退し、対韓輸出規制を始めるのだから、世の中は変わったもんだねえ」 政府の説明は翌週から「本件は輸出管理の一環です」というテクニカルなものに軌道修正 参議院選挙も意識して、「韓国許すまじ」と気炎を上げたいところかもしれないが、それでは聞こえが悪いのである もし「不適切な事案」が肩透かしなものであったら? 韓国側はさほど意に介する様子もなく、「2015年から今年3月までに156件の違法輸出があったが、日本産の転用はない」などと答えている 「ビジネスを武器にして他国に圧力をかける」という発想は、少なくとも今までの日本外交にはなかった 「意地悪をされても、仕返しはしない国」であった 今回の措置は、わが国の「通商政策」の転換点となるかもしれない 川瀬剛志 「日本政府は韓国の輸出規制を再考すべきだ WTOで争えば、より大きなリスクを招く」 問われる安全保障貿易管理とWTOの整合性 一般的に言って、安全保障貿易管理措置は正当なものであってもWTO協定違反になりうる ホワイト国制度のように特定国を輸出審査で非対象国と差別することは、WTO 加盟国間の待遇平等を規定したGATT1条1項に違反する 安全保障貿易管理についてはGATT21条の例外規定による正当化の余地がある この条文は第二次世界大戦直後の1947年の冷戦期に起草されたもので、いかにも古く、例外の範囲も狭い 安全保障貿易管理とWTO体制は共存してきた これらの取り決めは紳士協定で拘束力こそないが、各国はここで決まる、ある種の相場観に従って輸出管理を行い、その範囲を大きく逸脱する例外の濫用を慎んできた 各国は輸出管理のWTO協定整合性を厳密に問わず、例外の濫用も慎む大人の知恵を働かせ、本来緊張関係にある双方のレジームを注意深く共存させてきた この棲み分けが急速に崩れつつある その契機が、安全保障目的をうたったトランプ政権による鉄鋼・アルミ製品の関税引き上げ 韓国がホワイト国指定・解除の恣意性や審査制度が実質的に輸出を制限していることを争えば、ワッセナー・アレンジメント実施のための正統な輸出管理のWTO協定整合性が正面から問われることになる。これまで大人の知恵で慎重に維持してきたWTO体制と安全保障貿易管理レジームの平穏な共存がくつがえるおそれがある あまりに楽観的な日本政府の主張
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トランプと日米関係(その4)(日米貿易交渉は参院選後と言うトランプ 日本の民主主義はバカにされているのか?、安倍首相がトランプ氏に売った国益の中身 日米合意前に衆参同日選となる恐れ、極秘リハから米側の注文まで トランプ相撲観戦の全舞台裏) [外交]

トランプと日米関係については、昨年5月3日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その4)(日米貿易交渉は参院選後と言うトランプ 日本の民主主義はバカにされているのか?、安倍首相がトランプ氏に売った国益の中身 日米合意前に衆参同日選となる恐れ、極秘リハから米側の注文まで トランプ相撲観戦の全舞台裏)である。

先ずは、在米作家の冷泉彰彦氏が5月28日付けNewsweek日本版に寄稿した「日米貿易交渉は参院選後と言うトランプ、日本の民主主義はバカにされているのか?」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2019/05/post-1086_1.php
・『<与党一強の日本政治の現状を見下しているようでもあるが、英米の民主主義もまた危機に瀕している> 今回のトランプ大統領の来日は、宮内庁の所轄する皇室外交の儀礼的には国賓待遇でしたが、内閣を中心に見てみると正規の共同声明が省略されたことで、首脳外交としては簡易なスタイルに終始したと言えます。 では、どうして共同声明が省略されたのかというと、おそらくは最重要の論点である日米の通商問題について「結論を急ぐと、安倍政権にとって7月の参院選は不利になる」という計算があったと思われます。 大統領は自ら「通商問題の協議は日本の選挙後」というツイートをしていますから、その計算は日米で共有されているようです。こうした言い方には、いかにもトランプ大統領らしい「本音丸出しの実利追求」がありますが、それ以前の問題として、このツイートは、どこかで日本の民主主義を「バカにしたような」印象を与えるのも事実です。 どういうことかと言うと、仮に通商交渉の方向性に「日本の譲歩」が含まれていたとします。そうした日本側にとって不利益な流れが、選挙前に明らかとなると、これは与党に不利になります。ですから、大統領は「選挙後」と言っているわけですが、これは与党に協力しようという姿勢であるだけでなく、「都合の悪いことは争点から外す」ということを、日本の政権与党とアメリカの政府が共謀して行なっていると言えなくもありません。 そう考えると、安倍政権とトランプ大統領は、日本の民主主義を軽視していると言われても仕方がありません。 しかし「与党には選挙に不利になるかもしれないので、通商協議は選挙後に」という発言は正直と言えば正直です。もっと腹黒い政治家であれば、あえてこんな発言はしないでしょう。 そして、あえてこんな「露悪的な発言」をしているというのは、政権の受け皿になるべき野党に統治能力がないことがアメリカにも理解されてしまっているという情けない事実が浮かび上がってきます。そう考えると、政権構想も統治能力もないままに場当たり的な政府批判を続ける野党こそに問題があり、日本の民主主義はそもそもバカにされても仕方のないレベルだとも言えます』、「正規の共同声明が省略された」、「「都合の悪いことは争点から外す」ということを、日本の政権与党とアメリカの政府が共謀して行なっていると言えなくもありません」、「日本の民主主義はそもそもバカにされても仕方のないレベル」、などの指摘はその通りだ。
・『一方で、民主主義の危機ということでは、より深刻なのはイギリスです。EU離脱問題では民意も議会も分裂するなかで、国家としての合意形成能力が危機に瀕しているからです。 アメリカの場合は、政権担当能力のある二大政党が、小さな政府論か大きな政府論かという軸を中心に政策で競ってきましたが、そのアメリカの民主主義も迷走中です。 現時点では、ロシア疑惑に関する「ムラー報告書」が明らかにしたトランプ大統領の姿、つまり「自陣営の勝利のためには国益を毀損しても平気」な姿は、依然として中道から左の有権者を動揺させています。 ですが、政権の受け皿となるべき民主党では、党内の左右対立が激化しています。現時点では前副大統領のジョー・バイデン氏が先行していますが、彼とは水と油の存在である党内左派は50%以上の支持率を確保しており、このままではとてもトランプの再選を阻止するような戦闘態勢は組めそうもありません。アメリカの民主主義もまた、かなり苦しいレベルとなっています。 そう考えると、まだ日本の状況は「マシ」とも言えます。ですが今回は、共同声明が見送られたことで、「決定事項」の確認が難しいわけです。通商問題に加えて、対北朝鮮外交について、あるいは対イラン外交について、どのような協議がされているのか、また日本が取りうる選択肢は、それぞれ具体的に何があるのかは、もっと明らかにされなくてはなりません。 政府が必要に応じて情報公開し、またジャーナリズムや野党を含めて、実現可能、対応可能な選択肢を中心に意味のある議論が活発化すれば、日本の民主主義も機能している姿を見せることができるのではないでしょうか』、イギリスでは、メイ首相は退陣を表明しているにも拘らず、国賓として招待したトランプ大統領がEU離脱を薦める発言をさせるなど、招待の意味が問われるような事態に陥っている。安倍政権も都合のいい情報公開しかしないようでは、「実現可能、対応可能な選択肢を中心に意味のある議論が活発化」など望むべくもなさそうだ。

次に、5月29日付けPRESIDENT Online「安倍首相がトランプ氏に売った国益の中身 日米合意前に衆参同日選となる恐れ」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/28830
・『日本滞在中のツイッター更新で、永田町が大騒ぎに  破格の厚遇で4日間におよぶ「令和初の国賓」を満喫したトランプ米大統領。彼が日本滞在中にツイッターでつぶやいたひと言で日本が騒ぎになっている。 懸案の日米貿易交渉について「7月の選挙後まで待つ代わりに大きな進展に期待する」という内容。決着を先送りするのは盟友・安倍晋三首相の希望通りではあるが、交換条件で大幅な譲歩を強いられるのであれば、国民がつけを払わされることになる。こんなディール(取引)があってもいいのだろうか。 問題のツイートは日本時間26日の午後、つぶやかれた。安倍氏と千葉県茂原市の「茂原カントリー倶楽部」でゴルフを楽しみ、クラブハウスでダブル・チーズバーガーをほおばった後のツイートだ。「両国国技館で大相撲を観戦する前」と説明した方が分かりやすいかもしれない。 要約すると「日本との交渉では、すばらしい進展がある。農業、牛肉は特にそうだ。7月の日本の選挙まで待つが、大きな数字を期待する」という内容だ。 トランプ氏は27日、安倍氏との首脳会談冒頭、記者団に「8月に、いい内容を発表できる」と発言。前日のツイートを補強している』、トランプ氏が二度にわたって発言するとは、次にあるように「日米首脳の「密約」が本当にあったことを証明」していることは確かだろう。
・『日米首脳の「密約」が本当にあったことを証明  このツイートには伏線がある。1カ月前の4月26日、2人はホワイトハウスで会談した。その時、トランプ氏は、5月の訪日時を念頭に「日本にいる時までに(日米交渉の)合意ができるかもしれない」と記者団に語っている。少しでも交渉を先延ばししたいと思っていた日本政府にとっては、寝耳に水だった。 一部報道によると安倍氏は記者団が去った後、「日本では7月に選挙がある。それまで待ってほしい」「2020年の大統領選前には形にするから安心してほしい」とトランプ氏に頼みこんだ。そしてトランプ氏も安倍氏に理解を示したという。つまり、日本の参院選が終わってから米大統領選が本格化するまでの間に妥結することで「密約」ができたというのだ。 日本政府サイドは、安倍氏がそのような発言をしたかどうかについては明言を避けている。しかし、今回のトランプ氏のツイートは、図らずも日米首脳の「密約」が本当にあったことを証明するような内容だった』、その通りだろう。
・『選挙で有利になるために国益を売る行為との指摘  トランプ氏のツイートについて、自民党内では、おおむね歓迎の声が上がっている。牛肉や農業などで米国に譲歩すれば、自民党にとって重要な支持層である農業票が離反する懸念があった。参院選後に先送りすることは、ありがたい。もちろん、妥結の時期を8月より、もっと後にしたいというのが本音だが、「7月の選挙後」を勝ち取ったのは事実だ。 しかし、これは国民にとっては迷惑な話である。選挙で有利になるために、さらなる譲歩をするようなことになれば、党利党略のために国益を売ることになるからだ。 国民は政府、与党が行ったことに怒った時、「1票」で批判の意思を示す権利を持つ。しかし、選挙が終わった直後だと、怒りを表現するすべを失ってしまう。今、安倍氏は参院選に合わせて衆院を解散し、衆参同日選とすることを検討している。同日選が終わった後に、日本にとって不利な合意をしても、国民は批判の1票を投じるチャンスが当分ないのだ』、民主主義の根幹を揺るがすような狡猾な手法には呆れ果てる。
・『米国優位の合意になるのは見えている  国民民主党の玉木雄一郎代表は自身のツイッターで「農産物とりわけ牛肉について大幅に譲歩することになっているなら国民に説明すべきだ。7月の選挙の後(after their July elections)に明らかになるなんて国民に対するだましだ」と憤っている。 もちろん貿易交渉は米国が勝つとは限らない。日本側が有利な条件を勝ち取ることもあり得るのだから、敗北を前提として考えるのはどうか、という反論もあるだろう。 しかし、その指摘は甘い。トランプ氏と安倍氏は、妥結時期について「日本の参院選の後、米国の大統領選の前」で合意した。この1点から、安倍氏にとっては好ましくないこと(選挙のマイナス要因となること)で、トランプ氏にとっては好ましいこと(大統領選で有利になること)で合意するのを前提としているのが分かる』、安倍政権が合意発表を遅らせることで、「米国優位の合意になるのは見えている」と、国益を犠牲にして、目先の政権の利益を追求したことになる。
・『安倍氏が「選挙日程」をトランプ氏に伝えた疑い  ちなみにトランプ氏のツイートは「7月の選挙」を「July elections」と複数形で表記している。このことから、「安倍氏は衆参同日選の意思があることをトランプ氏に伝えたのではないか」との憶測も広がっている。 しかし、米国の場合、州単位で多くの投票が行われるので1種類の選挙でも複数形を使うことも珍しくないようだ。だから複数形になっているから「同日選」と勘繰るのは、深読みのしすぎかもしれない。 ただし参院選単独にせよ、同日選にせよ、日程はまだ定まっていない。7月21日説が有力だが8月にずれ込む選択肢もある。トランプ氏が「7月の選挙」と断じたのは、安倍氏が、誰にも明かしていない選挙日程をトランプ氏には語った疑いは残る』、大いにありそうなことだ。
・『交渉で敗北し、批判が高まる前に選挙をやってしまう  トランプ氏が言うように貿易交渉の妥結が8月に行われることになった場合、その後に衆院解散、総選挙を行うタイミングは見いだしにくくなる。安倍政権への批判が高まると考えられるからだ。であれば、安倍氏が合意前に衆院選を終えておこうと考えて衆参同日選を断行する可能性は、さらに高まったことになる。「日米合作」の同日選と言ってもいいかもしれない。 同日選は過去、1980年、86年の2回行われている。39年前は「ハプニング解散」、33年前は「死んだふり解散」として語り継がれている。今年、同日選が行われるとしたら「トランプ解散」と呼ばれることになるだろうか』、「「日米合作」の同日選」とは言い得て妙だ。

第三に、息抜き記事として、5月27日付け日刊ゲンダイ「極秘リハから米側の注文まで トランプ相撲観戦の全舞台裏」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/254749
・『「トランプ大統領を通じて、相撲が単なるスポーツではなく、日本古来の伝統や文化であることを米国や世界に発信できたのは名誉なこと。本当にありがたい」 こう言ったのは相撲協会幹部。26日に米国のトランプ大統領(72)が大相撲夏場所千秋楽を観戦、表彰式で優勝した朝乃山(25=西前頭8枚目)に米大統領杯を手渡した一連の出来事に関してだ。八角理事長も「トランプ大統領と安倍首相を5月場所千秋楽にお迎えすることができ、誠に光栄の至りです」とコメントした』、相撲協会も難題山積だが、トランプ大統領の観戦は明るい話題だった。
・『3月中旬に打ち合わせ開始  トランプが相撲を観戦したニュースは日本はもちろん、米メディアも報じたから、相撲協会にとっては「名誉」で「ありがたいこと」かもしれないが、その裏でこの日のイベントに備えて行われた多くの折衝や調整の中身は意外と知られていない。 トランプの大相撲観戦を大手メディアが報じたのは4月12日前後。しかし、実際にはその1カ月前、3月中旬には外務省が相撲協会との打ち合わせを始めたという。 「もともとトランプは相撲に興味津々だった。これまで何度か行った首脳会談で安倍首相と顔を合わせた際、相撲に関する質問をしたのは一度や二度じゃない。それなら実際に相撲を見てもらおうと、外務省を通じて相撲協会との打ち合わせがスタートした。4月上旬には米国から先遣隊も来て、警備に関する話し合いをしています」(外務省担当記者)』、「3月中旬に打ち合わせ開始」とはさすが周到に準備したようだ。
・『日米首脳の観戦や警護用に押さえた升席は、正面の最前列から3列分、約40升。お茶屋が権利をもっているため、協会は代替の席を用意するなどで対処したという。 夏場所4日目の15日の取組後、トランプの警護にあたるシークレットサービスが国技館を視察、館内構造や避難経路などを入念にチェックする様子を産経新聞が写真付きで報じた。実際に升席に椅子を置き、警護のシミュレーションをやったらしいが、10日目の21日には本格的なリハーサルまで極秘で行ったという。 「取組終了後、午後7時すぎから2時間くらいでしょうか。時間を費やしたのは主に表彰式の部分です。実際にトランプが土俵に上がることを想定して、シミュレーションをやっています。30~40人ほどのシークレットサービス、日本の警察当局以外に外務省職員や協会関係者も参加してみっちりやりました」(同) 主に運営と警備に分かれて5~6回は準備のための会議を開き、協会内の部長や副部長の親方も参加。特に警備には力を入れたようで、前日は深夜まで打ち合わせを行ったそうだ。 中でも深刻だったのは座布団問題。この日の入場者には、「場内で座布団等の物を投げるなどの行為を行った場合は退場の上、処罰されることがありますので、絶対にしないでください。《刑法第208条暴行罪》二年以下の懲役もしくは三十万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と、記された注意書きが配布された。 「当初は座布団を固定したらどうかという案もあったが、結びの一番で横綱が負けた場合の座布団投げは、いわば風物詩のようなもの。仮にトランプの周辺に座布団が飛んだ場合はシークレットサービスがたたき落とす段取りだった。本当に警戒したのは座布団以外のもの、例えば卵やペットボトルが飛ぶこと。それもあってお茶屋は急須や湯飲みを使わず、自販機もたばこ以外は『休場』にして、物は一切投げるなとクギを刺す文書を配布したようだ」とは、ある親方だ』、「リハーサル」や「座布団投げ」への対応など、確かに裏方は大変だったろう。
・『「あの段差はきつい」  言うまでもなく土俵は土足厳禁に女人禁制。事前の打ち合わせ通り、トランプは黒のスリッパで土俵に上がり、夫人のメラニアを土俵に呼ぶ“ハプニング”もなかったとはいえ、「意外だったのは米国側のリクエストだったと聞いています」と、さる外務省OBがこう続ける。 「力士が土俵に上がる際に利用する段差があるでしょう。足を掛ける部分がやや下向きにできているため一般の人は上りづらいのですが、それでも大臣をはじめとする来賓はみな、あの段差を利用して土俵に上がっているそうです。ところが、米国側はトランプにあの段差はきつい、容易に上がれる手段はないかと要求してきたらしい。それで用意したのが特注の階段でした。観戦後もその場の升席で靴からスリッパに履き替えれば良さそうなものなのに、いったん控室に戻って履き替えたいとリクエストがあったそうです。それを聞いて、まさか自分で靴を脱げないわけじゃないよなとクビをひねった人もいたと聞きました。重さ30キロとも50キロともいわれる米大統領杯にしても、とてもじゃないがトランプひとりで担ぐのはムリということで、当初から親方が補助する段取りでした」 公称188センチ、107キロ。屈強な体格で、ゴルフのドライバーは派手に飛ばすし、歯に衣着せぬ発言には定評がある。古希を過ぎてまだ、パワーあふれる印象があるだけに、米国側のリクエストは「意外」と映ったようなのだ。ともあれ、米大統領の大相撲観戦はトラブルもなく終了、周囲の関係者は胸をなで下ろしているに違いない』、「特注の階段」はやはり米国側の要求だったとは納得である。米国側もトランプ大統領を最大限「忖度」して要求しているのは、微笑ましい。
タグ:「日米貿易交渉は参院選後と言うトランプ、日本の民主主義はバカにされているのか?」 座布団問題 4月上旬には米国から先遣隊も来て、警備に関する話し合い アメリカの民主主義も迷走中 もともとトランプは相撲に興味津々だった 3月中旬に打ち合わせ開始 (その4)(日米貿易交渉は参院選後と言うトランプ 日本の民主主義はバカにされているのか?、安倍首相がトランプ氏に売った国益の中身 日米合意前に衆参同日選となる恐れ、極秘リハから米側の注文まで トランプ相撲観戦の全舞台裏) 民主主義の危機ということでは、より深刻なのはイギリス 日本の民主主義はそもそもバカにされても仕方のないレベル 大相撲夏場所千秋楽を観戦 2時間くらい 場内で座布団等の物を投げるなどの行為を行った場合は退場の上、処罰されることがありますので、絶対にしないでください 大統領は自ら「通商問題の協議は日本の選挙後」というツイート 「極秘リハから米側の注文まで トランプ相撲観戦の全舞台裏」 30~40人ほどのシークレットサービス、日本の警察当局以外に外務省職員や協会関係者も参加してみっちりやりました お茶屋は急須や湯飲みを使わず、自販機もたばこ以外は『休場』にして、物は一切投げるなとクギを刺す文書を配布 日刊ゲンダイ 最重要の論点である日米の通商問題について「結論を急ぐと、安倍政権にとって7月の参院選は不利になる」という計算があった 安倍政権とトランプ大統領は、日本の民主主義を軽視 日本の民主主義を「バカにしたような」印象を与える 「日米合作」の同日選 Newsweek日本版 トランプと日米関係 「露悪的な発言」 交渉で敗北し、批判が高まる前に選挙をやってしまう 米国側はトランプにあの段差はきつい、容易に上がれる手段はないかと要求してきたらしい 安倍氏が「選挙日程」をトランプ氏に伝えた疑い 与党に協力しようという姿勢であるだけでなく、「都合の悪いことは争点から外す」ということを、日本の政権与党とアメリカの政府が共謀して行なっていると言えなくもありません 米国優位の合意になるのは見えている 選挙で有利になるために国益を売る行為との指摘 今回のトランプ氏のツイートは、図らずも日米首脳の「密約」が本当にあったことを証明するような内容 日米首脳の「密約」が本当にあったことを証明 決着を先送りするのは盟友・安倍晋三首相の希望通りではあるが、交換条件で大幅な譲歩を強いられるのであれば、国民がつけを払わされることになる 冷泉彰彦 「7月の選挙後まで待つ代わりに大きな進展に期待する」 10日目の21日には本格的なリハーサルまで極秘で行った 特注の階段 注意書き ツイッター 正規の共同声明が省略されたことで、首脳外交としては簡易なスタイルに終始 「あの段差はきつい」 「安倍首相がトランプ氏に売った国益の中身 日米合意前に衆参同日選となる恐れ」 PRESIDENT ONLINE 民主党では、党内の左右対立が激化 ロシア疑惑に関する「ムラー報告書」が明らかにしたトランプ大統領の姿、つまり「自陣営の勝利のためには国益を毀損しても平気」な姿は、依然として中道から左の有権者を動揺 シークレットサービスが国技館を視察、館内構造や避難経路などを入念にチェック 与党には選挙に不利になるかもしれないので、通商協議は選挙後に
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漁業(その4)(ウナギは推計で3分の2が密漁・密流通 暴力団が深く関与する実態、WTO判決「必死の韓国」に敗北した 日本の絶望的な外交力 外務省は「絶対勝てる」と言っていた、国際感覚から乖離した日本の官僚 大丈夫か?【橘玲の日々刻々】) [外交]

漁業については、昨年1月23日に取上げた。久しぶりの今日は、(その4)(ウナギは推計で3分の2が密漁・密流通 暴力団が深く関与する実態、WTO判決「必死の韓国」に敗北した 日本の絶望的な外交力 外務省は「絶対勝てる」と言っていた、国際感覚から乖離した日本の官僚 大丈夫か?【橘玲の日々刻々】)である。

先ずは、昨年10月19日付けダイヤモンド・オンライン「ウナギは推計で3分の2が密漁・密流通、暴力団が深く関与する実態 『サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う 』」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/182710
・『裏社会のノンフィクションはこれまで何冊も読んできたが、最も面白みを感じるのは無秩序のように思える裏社会が、表社会とシンメトリーな構造を描いていることに気付かされた時だ。 しかしここ数年は暴対法による排除が進み、ヤクザの困窮ぶりを伝える内容のものばかり。相似形どころか、このまま絶滅へ向かっていくのかとばかりに思っていた。だから彼らがこんなにも身近なところで、表社会とがっちりスクラムを組んでいるとは思いもよらなかったのである。 本書『サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う 』は、これまでに数々の裏社会ノンフィクションを描いてきた鈴木智彦氏が、サカナとヤクザの切っても切れない関係を、足掛け5年に及ぶ現場取材によって描き出した一冊だ。 これまでなぜか語られることのなかった食品業界最大のタブーを真正面から取り上げながら、一ミリの正義感も感じさせないのが、著者の真骨頂である。そして、もはやヤクザの世界に精通していなければ読み解けないほど、サカナの世界では表社会と裏社会が複雑に絡まりあっていた。 まず驚くのは、私達が普段手にする海産物のうち、密漁によって入手されたものの割合がいかに多いかということである。いずれも推計ではあるが、たとえばアワビは日本で取引されるうちの45%、ナマコは北海道の漁獲量の50%、ウナギに至っては絶滅危惧種に指定された今でも、その2/3ほどが密漁・密流通であるという。ニッポンの食卓は、まさに魑魅魍魎の世界によって支えられているのだ』、アワビ、ナマコ、ウナギの密漁・密流通の比重の大きさには、度肝を抜かれた。まさに「サカナの世界では表社会と裏社会が複雑に絡まりあっていた」姿には、恐怖すら感じる。
・『著者が最初に赴くのは、アワビの名産地として知られる三陸海岸。東日本大震災の影響によって監視船や監視カメラが破壊されてしまったこの地区では、密漁団にとって好都合としか言いようのない状況が出来上がっていたのだ。 密漁団と直に接触することで見えてきたのは、実際に密漁を行う人たちは巨悪の一部分に過ぎないという事実だ。当たり前のことだが、買い手がいるから売り手がおり、売り捌くことが出来るからこそ密漁は蔓延る。 欲に目がくらんだ漁業協同組合関係者、漁獲制限を守らない漁師、チームを組んで夜の海に潜る密漁者、元締めとなる暴力団…。まさに表と裏が入り乱れた驚愕のエコシステムが、そこにはあったのだ。 一般的に、密漁アワビは闇ルートで近隣の料理屋や寿司屋にも卸されるが、それだけでは大きな商いにならないため、表の業者の販路に乗せ、近場の市場にも流されていく。むろん移転を間近に控える築地市場だって例外ではない。 密漁品と知りながら正規品のように売りさばく、この行為こそが黒から白へとロンダリングされる決定的瞬間なのだ。ならば著者が次に取る行動は、ただ一つと言えるだろう。築地市場のインサイダーとなることで仲間意識を共有しながら、決定的な証拠を掴む――すなわち築地市場への潜入取材だ』、「三陸海岸。東日本大震災の影響によって監視船や監視カメラが破壊されてしまったこの地区では、密漁団にとって好都合としか言いようのない状況が出来上がっていたのだ」、言われてみれば、その通りだろう。
・『著者が築地で働き始めてすぐに実感したのは、魚河岸がはみ出し者の受け皿になっているという昭和的な世界観であった。意外に思えるかもしれないが、市場とヤクザは歴史的に双子のような存在であったという。いつの時代にも漁業関連業者の生活圏には、近くにヤクザという人種が蠢めいていたし、かつては港町そのものが暴力団に牛耳られていたような事例も本書で紹介されている。 ほどなくして著者は、密漁アワビが堂々と陳列されている姿を目のあたりにする。きっかけは、バッタリ遭遇した知り合いのヤクザからの紹介だ。そこでは、静岡県産のアワビが、「千葉県産」に偽装されていたという。一つの不正は、次の不正を生み出す。密漁品であることは、産地偽装の問題と隣り合わせでもあったのだ』、「市場とヤクザは歴史的に双子のような存在であった」、というのにも驚かされた。
・『そして本書の一番の見どころは、絶滅危惧種に指定されたウナギを取り上げた最終章にある。著者自身、ここまで黒いとは予想外であったと困惑しながらも、知られざる国際密輸シンジケートの正体へと迫っていく。ウナギ業界の病巣は、稚魚であるシラスの漁獲量が減少して価格が高騰したため、密漁と密流通が日常化していることなのだ。 特に悪質なのが密流通の方であるわけだが、輸入国の中で突出している香港にカラクリがある。そもそも香港は土地も狭く、シラスが遡上するような大きな河川もない。要は、シラス輸出が禁じられている台湾から香港を経由し、国内へ輸入されてくるのだ。 ウナギの国際密輸シンジケートを司る要のポジションに「立て場」と呼ばれる存在があるのだが、著者はそこへも赴き、「黒い」シラスが「白く」なる瞬間を目撃する。ウナギとヤクザ――2つの絶滅危惧種の共生関係は、どちらかが絶滅するまで終わらないのだろうか。 この他にも本書では、ナマコの密漁バブルや、東西冷戦をめぐるカニの戦後史といった興味深いテーマが次々に登場する。海を起点に考えると、地図上に別のレイヤーが浮かび上がってくることはよくあるが、海産物を取り巻く日本地図もまた、どちらが主役だか分からぬほど裏社会が大きな存在感を放っていた』、ここまで「裏社会が大きな存在感を放っていた」というのでは、警察など手も足も出ないだろう。
・『多くの人にとって、サカナとは健康的なものであるはずだ。しかしその健康的なものが入手されるまでの経緯はどこまでも不健全なのである。さらに季節のものを旬の時期に食べるという自然な行為の裏側は、どこまでも人工的なのだ。 サカナとヤクザを取り巻く、あまりにも不都合な真実。はたして需要を生み出している私達の欲望や食文化に罪はないのか? そんなモヤモヤした気持ちばかりが残る。だが本書では、この著者でしか書けないテーマが、この著者でしかできない手法で見事にまとまっていた。ある意味ノンフィクションとしての完成度の高さだけが、救いであったと言えるだろう』、「サカナとは健康的なものであるはずだ。しかしその健康的なものが入手されるまでの経緯はどこまでも不健全なのである」、壮大なアイロニーだが、警察はともかく、水産庁などは一体、何をしているのだろう。しかし、次の記事では、水産庁も全く役立たずのようだ。

次に、ジャーナリストの松岡 久蔵氏が4月26日付け現代ビジネスに寄稿した「WTO判決「必死の韓国」に敗北した、日本の絶望的な外交力 外務省は「絶対勝てる」と言っていた」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64330
・『福島第一原発事故後、韓国政府が日本の水産物に対して禁輸措置をとっていることを不当だとして日本政府が世界貿易機関(WTO)に提訴した問題で、WTOの最終審に当たる上級委員会は今月11日、一審での韓国への是正勧告を取り消した。これにより、日本は事実上敗訴した。 「通常、一審の判断が覆ることはありえない」(自民議員)だけに、日本政府にとっては青天の霹靂。事故後8年が経過しても続くアジア諸国などの禁輸措置を解除し、被災地の水産物の輸出を拡大する構想は頓挫した。 背景には日韓ワールドカップ共催や、捕鯨問題とも共通する日本外交の「押しの弱さ」がある』、ここまでくると、「押しの弱さ」というより「お粗末さ」の方が適切だろう。
・『「キツネにつままれたような…」  韓国は2011年3月の原発事故発生以降、福島など8県の水産物を一部禁輸し、さらに事故から2年半後の13年9月、禁輸対象を8県の全ての水産物に拡大して放射性物質検査を強化した。 対する日本は、科学的な安全性と、事故後に時間が経過した後で禁輸措置を強化するのは不当だとして、15年5月にWTOに提訴した。 WTOは紛争処理小委員会を設置し、18年2月、韓国の禁輸措置に対して「恣意的または不当な差別」「必要以上に貿易制限的」と判断し、韓国に是正を勧告した。しかし韓国はこの判断を不服とし、最終審の上級委員会に上訴。その結果、日本が敗訴したというのが今回の経緯となる。 上級委員会の判決文に当たる報告書によると、一審は禁輸が「不当な差別」に当たるかを判断する時、食品自体の放射線量のみを判断基準としたが、将来的に汚染に影響する可能性のある日本周辺の海洋環境などの地理的条件を考慮していなかった。この点で落ち度があるため、一審が下した「韓国の禁輸措置は不当」とする判断は誤りである、との指摘が記されている。 なお、日本食品に含まれる放射線量の水準などの分析は今回の訴訟の対象ではなく、見解を示さない旨も書かれている。 今回の結果について、自民党の水産族議員は「要するに、一審の判断基準が不十分だったので、(判断を)取り消しますということ。その根拠として、実際に韓国に輸出される食品それ自体の安全性に言及するのではなく、外部環境の話を持ち出してきた。キツネにつままれたような気分でした」と話す。 上級委員会の審理は差し戻しが不可能で、今後韓国は禁輸を是正する必要はない。日本が韓国に対して関税引き上げなどの対抗措置をとることもできなくなった』、信じられないようなブザマな失態だ。経緯をもう少し見ていこう。
・『悪しき先例ができた  今回のWTOの判断でまず困るのは、東北の被災県だ。 福島県の内堀雅雄知事は12日、「非常に残念。引き続き、科学的根拠に基づいた正確な情報発信を強化し、輸入規制解除に取り組む」とするコメントを発表した。宮城、岩手の両県知事も同日、判断結果を「残念」と発言している。 宮城県は名産のホヤの8割が韓国向けに輸出されていただけに、今年捕れた分は販路を失い大部分が焼却処分される。全国漁業協同組合連合会(全漁連)みやぎの丹野一雄会長は「ホヤがシーズンを迎える矢先のことなので、非常に落胆している。輸入再開を目指して頑張ってきたので、裏切られた思い」と失望を隠さなかった。 原発事故後、一時は世界で54もの国・地域が日本産食品に対し、禁輸や検査強化などの措置を実施したが、その後、安全性を裏付けるデータが蓄積されたことで規制撤廃の流れができた。ただ、いまだに現在でも23の国・地域が規制を設けている。 そのうち、韓国など8カ国・地域は禁輸を続けている。中国は福島など10都県の食品について輸入を認めていない。台湾は5県からの輸入を停止しており、昨年に行われた住民投票でも、禁輸の継続が支持された。 政府は韓国を「はじめの一歩」として禁輸解除に弾みをつけるはずだったが、「悪い先例を作ってしまった」(自民議員)との声もあがる』、「韓国を「はじめの一歩」として禁輸解除に弾みをつけるはず」というほど、重要な問題であったのに、日本側の取り組みは以下にみるようにおよそ能天気だったようだ。
・『「絶対勝てる」と言ってたのに  今回の上級委の判断は、前評判では日本が勝訴するとみられていたため、日韓両政府にとってサプライズ判決だった。 実際、判断前の8日には、菅義偉官房長官が記者会見で禁輸措置の撤廃について期待感を表明する一方、韓国の文成赫(ムン・ソンヒョク)海洋水産部長官は、就任前に行われた国会の人事聴聞会で「敗訴したとしても最長15カ月間の履行期間がある。この期間を最大限活用し、国民の安全と健康を最優先に、対策を講じる」と敗訴を前提に話している。 日本時間の12日未明に発表された上級委の判断は、予想を裏切る内容だっただけに、日本国内の報道機関を慌てさせた。全国紙記者は「水産庁加工流通課の担当者に取材しても、『普通に勝てるでしょ』という雰囲気でしたから、敗訴で予定稿を準備した社はどこもありませんでした。蜂の巣をつついたような騒ぎでしたよ」と振り返る。 判決に激怒したのが、自民党の水産族議員である。 WTOの判断公表後の17日、自民党は党本部で会合を開いたが、出席した議員からは外務省や水産庁に対する不満が噴出した。被災地・宮城県選出の小野寺五典前防衛相が「完全に外交の敗北だ」と吐き捨てるなど、怒号が飛び交う有様となったのだ。 外務省の山上信吾経済局長は「被災地の関係者の期待に応えられなかったことは遺憾で申し訳ない」と謝罪する一方、「日本産食品は韓国の安全基準を満たしている」との第一審の認定が維持されたことを強調した。 ただ、水産総合調査会長の浜田靖一元防衛相は「この戦いは、負けてはならない戦いであったはず。結果を出せずに言い訳を聞いても意味がない。責任をうやむやにする気はない」と政府に対し、説明と今後の対応の方針を出すよう要求した。 先の水産族の自民議員は内幕をこう明かす。 「今回は、外務省と水産庁から『絶対に勝てますから安心してください』と、山上局長、長谷成人水産庁長官ら両省幹部が直接説明に来ていたので、こちらも安心しきっていました。ですから、余計に期待を裏切られた感が高まっているのです。 しかも、今回は被災地が絡んでいる。外務省の山上局長は、捕鯨問題では二階俊博幹事長からプレッシャーをかけられていたものの、昨年末の国際捕鯨委員会(IWC)脱退を外務省サイドから仕切って首の皮をつなぎました。 しかし、今回の件で進退問題に発展する可能性がある。経済局は国民に身近な食料問題の交渉を仕切るところですから、こういうリスクは常につきまとう。ツイてなかったとしか言いようがありません」』、「IWC脱退を外務省サイドから仕切って首の皮をつなぎました」というのもおかしな話だ。脱退という最後の手段に追い込まれたこと自体が、敗北なのに、「手柄」顔をさせているとは、官邸も甘過ぎる。今回の件は責任を明確化すべきだ。
・『「ファクトがあれば大丈夫」は甘い  IWC脱退といえば、南極海での日本の調査捕鯨が2014年に国際司法裁判所(ICJ)で敗訴している。自民党捕鯨議連幹部は、今回の敗訴と捕鯨問題との類似点をこう指摘する。 「あの時も議連サイドでは『訴えて、本当に勝てるのか』という疑問があったのに対して、当時の外務省幹部が『絶対に勝てます』といって提訴した。それで負けて帰ってきたもんだから、『何やってんだ』という話になった。 外務省の連中が『こちらは科学的データはきちんとしてますから、ご安心を』と言っていたのもあの時と同じ。『お白洲の上に出れば、ファクトに基づいた公正な判断が無条件で下される』と思ってる。ナンセンスですよ。 国際社会というのは、その『公正な判断』を下す人間をいかに抱き込むかが勝負なんですから。何も進歩していない」』、「こちらは科学的データはきちんとしてますから、ご安心を」、水産庁の技官が作ったデータなど「外務省の連中」に理解できる筈はないので、「きちんとしてます」も眉ツバだろう。
・『どこで差がついてしまったのか  別の捕鯨議連幹部は、今回の上級委で判断を下す委員が本来7人いるべきところ、3人しかおらず十分が議論が行われたのか疑われることを指摘した上で、今回の敗訴についてこう分析する。 「そういう条件もあったとはいえ、韓国のロビイングに負けたということでしょう。日本は完全に勝てると油断していましたから、そりゃ負けても仕方ない。 韓国は、2002年のサッカーW杯を強引に日韓共催に持ち込んで『アジア初』の栄誉を勝ち取りました。どうもその辺りから、潘基文(パン・ギムン)国連総長の輩出、米国での慰安婦像の問題など、国際的な人脈作りやロビイングを重視するようになった。ここの違いですね」 韓国の「中央日報」日本語版は4月15日付の記事で、今回のWTOでの韓国勝訴に最も貢献したと評価される、チョン・ハヌル産業通商資源部通商紛争対応課長が「一審の敗訴を覆すために昨年末、ジュネーブのホテルにウォールーム(War Room)を設置し、3週間にわたり約20人がほとんど一日中シミュレーションをしながら対応した」と話したことを報じている。 記事によると、チョン氏は米国通商専門弁護士出身で、韓国屈指のローファームに所属していたが、昨年4月に政府に特別採用された。米ニューヨーク州立大哲学・政治学科を経てイリノイ大で法学を勉強し、法学専門修士(JD)を取得。その後、ワシントンで通商専門弁護士の資格も取得したとされる。 韓国産業部はチョン氏について「専門弁護士を外部から特別採用して今回の訴訟に専門的に対応し、我々の専門的な能力は大きく伸張した」と伝えた。 経済産業省所管の独立行政法人「経済産業研究所」は、日本の敗訴を受けて川瀬剛志・上智大学教授によるレポートを17日に公開している。 川瀬教授は「今回の敗訴が経済分野でのルール外交における日本の敗北だとすれば、中長期では広く貿易・投資の国際ルール、つまり国際経済法に関するリテラシーを底上げする必要がある」と指摘。 「概して韓国の方が通商ルールに関心が高」く、「韓国の方が(加えて言えば、中国、台湾、シンガポールも)通商分野で国際的に活躍する研究者、実務家は多く、また米国のロー・スクール(特にアメリカ人が入る正規のJDコース)に進学する学生も多いように思う」との認識を示した上で、日本の大学でこの分野の教員ポストが法学部の中で削減傾向にあり、人材を育成する体制が整っていないと言及している』、確かに韓国の外交攻勢はすさまじいが、日本側には危機感がないのも問題だ。「チョン・ハヌル通商紛争対応課長が「一審の敗訴を覆すために昨年末、ジュネーブのホテルにウォールーム(War Room)を設置し、3週間にわたり約20人がほとんど一日中シミュレーションをしながら対応」というのは、大変なことなのに、日本側は事前には掴んでいなかったのだろう。川瀬教授によるレポートは、いささか手前味噌の感も受けるが、外務省などが専門家を軽視していることも背景にあるような気もする。
・『国際社会の「野蛮さ」を認識しないと…  アジア経済を専門にする、国内証券アナリストは韓国のロビイング能力の高さについてこう分析する。 「一つの国内でマーケットを完結させるには、最低でも人口が1億人必要です。日本はその基準を超えていますが、韓国はそうではないので、海外に市場を求めざるをえません。東南アジアなどでの韓国企業の躍進も、背景にはこの事情があります。 文在寅政権になってからのナショナリズムの高まりと相まって、今回の勝利をてこに、今後韓国が国際社会での日本叩きを強めてくる可能性は否定できません」 平成のあいだ「アジアナンバーワン」の地位を享受してきた日本は、今回のWTOでの「敗訴」により、外交におけるロビイングの重要性に対する認識の甘さを露わにした。 先に引用した「中央日報」の記事にはこういう記述がある。〈チョン課長は裁判対応過程で目の中に腫瘍ができ、帰国して除去手術を受けなければいけないほど精神的ストレスが激しかったという。特に食の安全に対する韓国国民の大きな関心も負担になっていたと打ち明けた〉 この「必死さ」が、韓国の勝利につながったことに疑いの余地はないだろう。 もちろん、ここまで交渉担当者を追い込むことの是非はある。しかし、「正しいことをしている側が勝てる」「エビデンスがあれば勝てる」という甘い考えは通用しない「野蛮な世界」が国際社会の基本であることを認識して、通商ルールに通暁する専門家や国際機関の人脈・事情に通じた人材の育成を進めるなど、現実を見据えた対策を急ぐべきだ。 高齢化で日本も人口減少が進み、国力の「節目」となる1億人を切る日も遠くはない。敗北を糧として、なりふり構わぬ韓国の戦略に学ぶしたたかさが日本に求められている』、チョン課長が「目の中に腫瘍ができ、帰国して除去手術を受けなければいけないほど精神的ストレスが激しかった」、「この「必死さ」が、韓国の勝利につながったことに疑いの余地はない」というのは、危機感が欠如した日本の官僚も「爪の垢」でも煎じて飲んでほしいくらいだ。説得力の溢れた主張には、大賛成である。

第三に、作家の橘玲氏が5月7日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「国際感覚から乖離した日本の官僚、大丈夫か?【橘玲の日々刻々】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/201616
・『福島原発事故の被災地などからの水産物を韓国が全面禁輸していることについて、世界貿易機関(WTO)上級委員会が日本の逆転敗訴の判決を出しました。韓国に是正を求めた第一審は破棄され、輸入規制の継続が認められたことになります。 この報道を見て、調査捕鯨の是非をめぐってオーストラリアが国際司法裁判所(ICJ)に日本を提訴した裁判を思い出したひとも多いでしょう。「科学的根拠」を盾に日本側は強気で、首相官邸にも楽観的な予想が伝えられていたにもかかわらず、ふたを開けてみれば全面敗訴ともいうべき屈辱的な判決だったため、安倍首相が外務省の担当官を厳しく叱責したと報じられました。今回のWTO上級委員会の審査でも、日本側は第一審の勝訴で安心しきっており、予想外の結果に大きな衝撃を受けたようです。 この二つの失態で誰もが最初に考えるのは、「日本の官僚は大丈夫か?」でしょう。韓国は一審で敗訴したあと、通商の専門家を含む各省庁横断的な紛争対応チームを設置し、「こうした韓国政府の努力が反映された結果だ」とコメントしています。だとしたら日本政府は、「被災地の復興支援」のためにどんな努力をしたのでしょうか』、これは官僚だけでなく、「政治主導で頑張っているふり」をしている首相官邸の政治家も含めた問題だと思う。
・『厚労省の「統計不正」問題で暴露されたように、専門性に関係なく新卒を採用し、さまざまな部署を異動させてゼネラリストを養成するという官庁の人事システムはかんぜんに世界の潮流から取り残されています。 法学部や経済学部卒の「学士」の官僚が国際会議に出ると、そこにいるのは欧米の一流大学で博士号を取得したその分野のスペシャリストばかりです。これでは、アマチュアのスポーツチームがプロを相手に試合するようなもので、最初から勝負は決まっています。 もうひとつの懸念は、日本の政治家・官僚の感覚が国際社会の価値観から大きくずれているのではないかということです。 欧米では狩猟はかつて「紳士のスポーツ」として人気でしたが、いまでは「アフリカに象を撃ちに行く」などといおうものなら、殺人犯のような(あるいはそれ以上の)白い目で見られます。「科学的根拠」があろうがなかろうが、大型動物を殺すことはもはや許容されなくなりました。調査捕鯨を容認する判決を出したときの国際社会からの強烈なバッシングを考えれば、ICJの判断は最初から決まっていたと考えるべきでしょう。 原発被災地の水産物については、日本が生産者の立場、韓国が消費者の立場で互いの主張をたたかわせました。WTOは日本の食品の安全性を認めたとされますが、それでも韓国の禁輸を容認したのは、政府には国民=消費者の不安に対処する裁量権があるとしたためでしょう。いわば「消費者主権」の考え方で、これも世界の趨勢です。 二つの判決は、国際社会の価値観の変化を前提とすれば、じゅうぶん予想されたものでした。だとしたら問題は、そのことにまったく気づかず、唯我独尊のような態度で裁判に臨んだ側にあります。 元徴用工らの訴えに対する韓国大法院の判決に対し、与党内にはICJに訴えるべきだとの強硬論もあるといいます。裁判で決着をつけるのは自由ですが、ますますリベラル化する国際世論を考えれば、けっして楽観できないことを肝に銘じるべきでしょう・・・追記:2019年4月23日朝日新聞は、「政府説明、WTO判断と乖離」として、日本政府が根拠にしている「日本産食品の科学的安全性が認められた」との記載がWTO第一審の判決文にあたる報告書に存在しないことを報じました。国際法の専門家などからの批判を受け、外務省と農水省の担当者は「『日本産食品が国際機関より厳しい基準で出荷されている』との認定をわかりやすく言い換えた」と釈明、外務省経済局長は自民党の会合で政府の公式見解を一部修正したとのことです。ますます、「日本の官僚、大丈夫か?」という気がしてきます』、「政府説明、WTO判断と乖離」というのも驚くべき「捏造」だ。今回の問題はどこに原因があったのかを、自民党や野党は徹底追及すべきだろう。

明日12日から15日まで更新を休むので、16日にご期待を!
タグ:東日本大震災の影響によって監視船や監視カメラが破壊されてしまったこの地区では、密漁団にとって好都合としか言いようのない状況が出来上がっていた 今回の敗訴が経済分野でのルール外交における日本の敗北だとすれば、中長期では広く貿易・投資の国際ルール、つまり国際経済法に関するリテラシーを底上げする必要 三陸海岸 「政府説明、WTO判断と乖離」 経済産業研究所 日本の大学でこの分野の教員ポストが法学部の中で削減傾向にあり、人材を育成する体制が整っていない アワビは日本で取引されるうちの45%、ナマコは北海道の漁獲量の50%、ウナギに至っては絶滅危惧種に指定された今でも、その2/3ほどが密漁・密流通 サカナとヤクザの切っても切れない関係を、足掛け5年に及ぶ現場取材によって描き出した一冊だ 鈴木智彦氏 「ウナギは推計で3分の2が密漁・密流通、暴力団が深く関与する実態 『サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う 』」 (その3)(ウナギは推計で3分の2が密漁・密流通 暴力団が深く関与する実態、WTO判決「必死の韓国」に敗北した 日本の絶望的な外交力 外務省は「絶対勝てる」と言っていた、国際感覚から乖離した日本の官僚 大丈夫か?【橘玲の日々刻々】) 日本政府が世界貿易機関(WTO)に提訴した問題で、WTOの最終審に当たる上級委員会は今月11日、一審での韓国への是正勧告を取り消した 韓国政府が日本の水産物に対して禁輸措置 「WTO判決「必死の韓国」に敗北した、日本の絶望的な外交力 外務省は「絶対勝てる」と言っていた」 市場とヤクザは歴史的に双子のような存在 現代ビジネス 築地市場への潜入取材 「ファクトがあれば大丈夫」は甘い 「国際感覚から乖離した日本の官僚、大丈夫か?【橘玲の日々刻々】」 今回は、外務省と水産庁から『絶対に勝てますから安心してください』と、山上局長、長谷成人水産庁長官ら両省幹部が直接説明に来ていたので、こちらも安心しきっていました。ですから、余計に期待を裏切られた感が高まっているのです 昨年末の国際捕鯨委員会(IWC)脱退を外務省サイドから仕切って首の皮をつなぎました 橘玲 調査捕鯨が2014年に国際司法裁判所(ICJ)で敗訴 外務省の山上局長 松岡 久蔵 密漁品と知りながら正規品のように売りさばく、この行為こそが黒から白へとロンダリングされる決定的瞬間 そこにいるのは欧米の一流大学で博士号を取得したその分野のスペシャリストばかりです 専門性に関係なく新卒を採用し、さまざまな部署を異動させてゼネラリストを養成するという官庁の人事システムはかんぜんに世界の潮流から取り残されています 韓国は、2002年のサッカーW杯を強引に日韓共催に持ち込んで『アジア初』の栄誉を勝ち取りました。どうもその辺りから、潘基文(パン・ギムン)国連総長の輩出、米国での慰安婦像の問題など、国際的な人脈作りやロビイングを重視するようになった。ここの違いですね 「キツネにつままれたような…」 いまだに現在でも23の国・地域が規制を設けている。 そのうち、韓国など8カ国・地域は禁輸を続けている 漁業 「絶対勝てる」と言ってたのに チョン課長は裁判対応過程で目の中に腫瘍ができ、帰国して除去手術を受けなければいけないほど精神的ストレスが激しかった 法学部や経済学部卒の「学士」の官僚が国際会議に出ると 一審は禁輸が「不当な差別」に当たるかを判断する時、食品自体の放射線量のみを判断基準としたが、将来的に汚染に影響する可能性のある日本周辺の海洋環境などの地理的条件を考慮していなかった。この点で落ち度があるため、一審が下した「韓国の禁輸措置は不当」とする判断は誤りである、との指摘 サカナの世界では表社会と裏社会が複雑に絡まりあっていた 悪しき先例ができた ウナギ業界の病巣は、稚魚であるシラスの漁獲量が減少して価格が高騰したため、密漁と密流通が日常化している 「日本の官僚は大丈夫か?」 国際社会の「野蛮さ」を認識しないと… 日本の政治家・官僚の感覚が国際社会の価値観から大きくずれている シラス輸出が禁じられている台湾から香港を経由し、国内へ輸入されてくる 問題は、そのことにまったく気づかず、唯我独尊のような態度で裁判に臨んだ側にあります 欲に目がくらんだ漁業協同組合関係者、漁獲制限を守らない漁師、チームを組んで夜の海に潜る密漁者、元締めとなる暴力団 国際社会というのは、その『公正な判断』を下す人間をいかに抱き込むかが勝負なんですから。何も進歩していない チョン・ハヌル産業通商資源部通商紛争対応課長が「一審の敗訴を覆すために昨年末、ジュネーブのホテルにウォールーム(War Room)を設置し、3週間にわたり約20人がほとんど一日中シミュレーションをしながら対応した」 どこで差がついてしまったのか 川瀬剛志・上智大学教授によるレポート サカナとは健康的なものであるはずだ。しかしその健康的なものが入手されるまでの経緯はどこまでも不健全なのである 『サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う 』 日本政府が根拠にしている「日本産食品の科学的安全性が認められた」との記載がWTO第一審の判決文にあたる報告書に存在しない ダイヤモンド・オンライン
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