鉄道(その10)(非常停止ボタンで山手線止める 「賠償請求すべきだ」の声に弁護士の見解は?〈dot.〉、六角精児 ギャンブルをやめようと「意識して」鉄道ファンに 好きなのは「車窓」、スペイン「フリーゲージ列車」どんな仕組みなのか 日本仕様は?聞くと「相談してくれれば喜んで」、作家・黒木亮「部分廃線直前」故郷の留萌線をゆく 英国在住「経済小説」の名手、高校時代に列車通学) [産業動向]
鉄道については、6月18日に取上げた。今日は、(その10)(非常停止ボタンで山手線止める 「賠償請求すべきだ」の声に弁護士の見解は?〈dot.〉、六角精児 ギャンブルをやめようと「意識して」鉄道ファンに 好きなのは「車窓」、スペイン「フリーゲージ列車」どんな仕組みなのか 日本仕様は?聞くと「相談してくれれば喜んで」、作家・黒木亮「部分廃線直前」故郷の留萌線をゆく 英国在住「経済小説」の名手、高校時代に列車通学)である。
先ずは、7月8日付けAERAdot「非常停止ボタンで山手線止める 「賠償請求すべきだ」の声に弁護士の見解は?〈dot.〉」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2022070800024.html?page=1
・『東京のJR山手線・渋谷駅で、「線路に財布を落とした」という理由で列車の非常停止ボタンを押した若い男性に対し、駅員が激高する様子を撮った動画が拡散された。これに対して、双方の対応とも議論を呼んでいるが、そもそも、財布を落としたなどの理由で非常停止ボタンを押し、列車を遅延させる行為に法的問題はないのか。専門家に聞いた。 「なんだその態度は、山手線止めてんだぞ!」(駅員) 「しょうがないじゃないですか、お金落ちちゃったんですから」「4万円も財布から出てたんですよ」(若い男性) 動画に映っているのは、非常停止ボタンを押したことに激高する駅員と、「財布が落ちたから」とごねる男性。 JR東日本によると、この動画の事案が発生したのは4日午後8時ごろ。渋谷駅のホームで、線路をのぞきこんだり、線路に降りるしぐさをしている男性を駅員が発見。数人の駅員が駆けつけて制止し、男性とともにホーム上の安全な場所に移動した。男性が、線路に財布を落としたと説明したため、駅員は「これから拾います。準備をするのでお待ちください」との趣旨を男性に説明したという。 しかし、男性は納得しない様子で、駅員の準備を待たずにホーム上の非情停止ボタンを押した。この際、駅員と男性がもみ合いとなり、駅員は警察に通報したという。 結果、山手線外回りの列車に約2分の遅れが生じた。 JR東によると、非常停止ボタンを押して良いのは人命にかかわるケースや、線路上に重い荷物が落ちたり、小さなものでもレールの上に乗ってしまったなど、運行に支障をきたしかねない場合だという。今回については、「駅員がそばにいて財布を拾う準備をすると伝えているため、緊急事態には当たらない」(JR東)という。 JR東は駅員の対応について、「安全を守らなければならないという使命感から、強い口調になってしまった」と説明。線路上の財布は拾って男性に渡したという。 双方の対応に賛否両論の声が出ているが、そもそも、こうした理由で非常停止ボタンを押し、列車を遅らせる行為に法的問題はないのか。) 数々の鉄道事故で遺族代理人を務めるなど、鉄道事故に詳しい佐藤健宗弁護士は、「落とした財布は急がなくても確実に回収できるはずですから、男性が無理な行為をしたと言わざるを得ません」と前置きしたうえでこう話す。 「このように、緊急性がないのに非常停止ボタンを押して混乱を生じさせ、鉄道会社の収入などに影響を与えた場合は、ボタンを押した人に民事上の賠償責任が生じる可能性があります」 ただ、佐藤弁護士は、同様のケースで鉄道会社が損害賠償を請求した例は聞いたことがないと言う。また、運行への影響が今回の「上り列車に2分の遅れ」程度では難しい面があるようだ。 「鉄道会社に損害が発生したと解釈する一つの目安として、『振り替え輸送』の有無があります。列車に飛び込むなどして自死された方の遺族に対し、鉄道会社が損害賠償を請求するかどうかも、振り替え輸送の有無が分かれ目になることがあります。今回のように数分の遅れですと、この事案に対応する代替要員の用意や、職員の残業なども発生しないと思われますので、鉄道会社に損害が生じたとは言いにくいかもしれません」(佐藤弁護士) 駅員が財布を拾うと伝えたにもかかわらず、なぜ男性は待たずにボタンを押してしまったのか。わずか2分の遅れとはいえ、帰宅ラッシュ時でもあり乗客は迷惑しただろう。動画は男性が撮影したとみられており、駅員は撮影をやめるようにお願いしていたという。 「どのような状況だったかによりますが、非常停止ボタンを押すという実力行使によって駅員らの業務を妨害しているので、威力業務妨害罪にあたる可能性は否定できないと思います」(佐藤弁護士) JR東は、「個別の事案について、賠償請求などの対応を取るかについては回答いたしません」としている』、「緊急性がないのに非常停止ボタンを押して混乱を生じさせ、鉄道会社の収入などに影響を与えた場合は、ボタンを押した人に民事上の賠償責任が生じる可能性」があるが、「同様のケースで鉄道会社が損害賠償を請求した例は聞いたことがないと言う。また、運行への影響が今回の「上り列車に2分の遅れ」程度では難しい面があるようだ」、ただ、「非常停止ボタンを押すという実力行使によって駅員らの業務を妨害しているので、威力業務妨害罪にあたる可能性は否定できない」、しかし、「非常停止ボタンを押し」た「会社員」は、全く自己中心主義のイヤな奴だ。
次に、8月6日付けAERAdot「六角精児、ギャンブルをやめようと「意識して」鉄道ファンに 好きなのは「車窓」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2022080400066.html?page=1
・『鉄道に魅せられるきっかけは、人それぞれだ。中にはギャンブルをやめるために鉄道ファンになった人もいる。俳優・六角精児さんだ。AERA 2022年8月8日号で、思いを語ってくれた。 鉄道にはまったのは30代になってからです。子どものころから電車は好きだったし、旅公演の際の列車移動も楽しかったけれど、いわゆる「テツ」ではなかったんです。若いころの僕はギャンブルにはまっていて、負けが込んで身を滅ぼしつつありました。これじゃまずい、ギャンブルはやめようと考えたとき、鉄道に乗っている時間が自分にとっては心地よいなと改めて気が付いた。それで「意識して」鉄道ファンになりました。 テツにもいろいろいるけれど、僕が好きなのは「車窓」。鉄道の車窓は特別です。車とは違って勝手にどこかへ連れていってくれる。それに、切り開かれた鉄路は鉄道でしか通れない、つまり鉄道でしか見られない景色がたくさんあります。レールの上を揺られながら見る車窓の臨場感が自分にとてもマッチしているんだと思います。 鉄道で旅をする時は、一緒にお酒も飲みたい。もちろん混み具合や人の目でそうできないこともあるけれど、あまりお客さんの多くないローカル線のボックス席に座って、ちびちびと飲みながら景色を楽しむ旅が至福の時間です。心が色づいて、景色もより色づいて見えてくる。 僕は乗ったことのない路線にどんどん乗ってみたいタイプですが、繰り返し何度も乗っている路線もあります。北海道の路線は何度も乗ってますね。釧路と網走を結ぶ釧網線なんて、何度乗ったかなあ。日本には季節があって四季折々違った車窓を楽しめるから、同じ路線に何度乗っても楽しいですね。) 普段の旅は行き当たりばったりです。「とりあえず西へ行ってみようか、ひとまず新幹線で名古屋まで」と決めて家を出て、新幹線の中で時刻表をめくりながら「関西線で大阪まで入るのはどうだろう」「いや、名古屋から北に抜けて高山線に乗ってみよう」というふうに考えます。行き先を考える時間も楽しいですね。それと最近では、仕事で出張した時に2日休みがあるからこっちの路線を通って帰ってこようとか、どこどこに寄って名物を食べてこようとか、そんな旅が多くなりました。これまで何度も鉄道の旅をしたけれど、それぞれに思い出があって、1番は決められないなあ。 「鉄道旅に興味はあるけれど、いきなりブラッと遠出は難しい」という人にお勧めしたいのは、普段乗っている列車でちょっと先まで行ってみること。同じ路線でも普段の生活圏から1駅離れるだけで、自分が思っているのとは違った景色が広がっているかもしれません。日常が日常ではなくなるというか、それも小さな旅です』、「若いころの僕はギャンブルにはまっていて、負けが込んで身を滅ぼしつつありました。これじゃまずい、ギャンブルはやめようと考えたとき、鉄道に乗っている時間が自分にとっては心地よいなと改めて気が付いた。それで「意識して」鉄道ファンになりました。 テツにもいろいろいるけれど、僕が好きなのは「車窓」。鉄道の車窓は特別です。車とは違って勝手にどこかへ連れていってくれる。それに、切り開かれた鉄路は鉄道でしか通れない、つまり鉄道でしか見られない景色がたくさんあります。レールの上を揺られながら見る車窓の臨場感が自分にとてもマッチしているんだと思います」、「鉄道で旅をする時は、一緒にお酒も飲みたい。もちろん混み具合や人の目でそうできないこともあるけれど、あまりお客さんの多くないローカル線のボックス席に座って、ちびちびと飲みながら景色を楽しむ旅が至福の時間です」、TV番組でも、おいしそうに「ちびちびと飲みながら景色を楽しむ旅」には羨ましくなる。
第三に、10月8日付け東洋経済オンラインが掲載した 在英ジャーナリストのさかい もとみ氏による「スペイン「フリーゲージ列車」どんな仕組みなのか 日本仕様は?聞くと「相談してくれれば喜んで」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/624341
・『西九州新幹線が開業した9月23日、9000kmあまり離れたドイツの首都・ベルリンでは世界最大の鉄道業界の見本市「イノトランス2022」が開催されていた。西九州新幹線といえば、当初は新幹線と在来線を直通できる「フリーゲージトレイン」を走らせる計画だったものの実現せず、結局「対面乗り換え方式」により運行が始まったわけだが、世界には「高速で走るフリーゲージ車両」を世に出しているメーカーもある。 筆者はイノトランスの会場で「高速フリーゲージ車両の造り手」に直接話を聞くことができた。彼らは日本の実態をどうみているのだろうか』、興味深そうだ。
・『「フリーゲージ車両の雄」タルゴ 本来なら2018年、2020年、2022年……と偶数年に開かれるこの見本市、2020年はコロナ禍のあおりで中止。4年ぶりの開催となった今回は、世界中からの出展者や参観者で大いににぎわった。 イノトランスの特徴は、車両メーカーが実車を持ち込んで陳列することだ。今年は環境問題への意識の高まりの中、とくに燃料電池を使った車両の展示が目立った。 そんな中、各メーカーの車両がずらりと並ぶ「メインステージ」からやや離れた一角にちょっと変わった展示があった。古くからいわば「フリーゲージ車両メーカーの雄」として知られるスペインのタルゴ(Talgo)が、車輪部分をむき出しにした試作車両を公開していた。) タルゴの車両は、連結部に配置した車輪が左右で独立しており、車軸でつながっていない。一般的に鉄道車両は台車の上に車体を載せているが、タルゴ車両は車体全体を台車の“厚さ”の分低くして低重心化でき、安定したカーブの走行などに効果がある』、「タルゴの車両は、連結部に配置した車輪が左右で独立しており、車軸でつながっていない」、「タルゴ車両は車体全体を台車の“厚さ”の分低くして低重心化でき、安定したカーブの走行などに効果がある」、さすが「フリーゲージ車両メーカーの雄」だけある。
・『タルゴの連結面 その「左右の車輪が車軸でつながっていない」という仕組みを応用して、異なる2つの軌間で走れる「フリーゲージ車両」を実用化したわけだ。 そもそもタルゴが「軌間可変車両」、いわゆるフリーゲージ車両を造ってきたのは、スペインとポルトガルの線路幅(軌間)の問題がある。両国は「イベリアゲージ」と呼ばれる1668mm軌間を採用しており、ほかの欧州諸国の標準軌(1435mm)には直接乗り入れができない。それではスペインと欧州各国との行き来が不便だとして、古くから軌間可変車両の開発が進められた。その後、スペインも高速鉄道は標準軌で整備されることになり、両軌間の直通ができないとより不便となる背景も生まれた』、なるほど。
・『狭い軌間は難しい? 最初の軌間可変車両は1968年に登場。その後さまざまな改良が加えられ、同社エンジニアの説明によると「現在では営業運転で時速330km走行可能な技術レベルに到達している」という。 タルゴは標準軌(1435mm)、イベリアゲージ(1668mm)、ロシアゲージ(1520mm)の3つの軌間のうち、2つに対応できる組み合わせのものを生産している。軌間変換の際は、自動変換装置が取り付けられた建物に時速15kmで進入。ストッパーが外れて、車輪の変換装置(異なる軌間のレールがつながっている)に列車が入ると車輪が横に移動し軌間を変換。終了するとストッパーが再びかかって作業終了となる。この間、人の手はまったく不要だ。 もともとはスペインーフランス国境を越える直通列車用に登場した軌間可変式のタルゴは、今ではスペイン国内でも高速列車専用線と在来線の直通用に使われている。 ただ、今回タルゴがイノトランスで展示していたのは軌間可変式の車両ではなく、ドイツの標準軌向けの車両だった。) ドイツ鉄道(DB)は、同社が誇る高速列車ICE(インターシティ・エクスプレス)の新規車両として、ホームとのステップがないことを売りにしたタルゴ製車両を「ICE L」の名で導入を決定。ベルリン―アムステルダム間を皮切りに、いずれリゾート向けの臨時列車に使う予定だという。 機関車1両+17両の客車で1組の編成とし、全部で23編成を導入する。ICEはかねてドイツの車両メーカー・シーメンスの牙城だっただけに、他国製車両の採用も興味深いポイントだ。 タルゴ社は軌間可変式ではない車両を持ち込んだわけだが、イノトランス展示に当たり行き先表示板に「マドリード―ベルリン間のICE」とこっそり表示。いずれ、軌間可変式高速車両で本国スペインからドイツに入ろうとする意欲を感じずにはいられなかった。 ただ、タルゴといえばやはり軌間可変車両が有名だ。そこで、「日本では、狭軌と標準軌との変換が可能な車両の開発で頭を悩ませている」とタルゴの展示ブースで説明に当たっていたスペイン人エンジニアに話すと、「我が社では、狭軌から標準軌への変換車両は造ったことがない。しかし、相談してくれたら喜んで我が社のエンジニアが解決に当たるに違いない」と“お誘い”の言葉をかけてくれた。 ただ、メーターゲージ(1000mm)や、日本の狭軌(1067mm)といった狭い軌間では、変換機構やトラクションモーター、ブレーキのための車輪間のスペースに制限もあり、実用化が難しいとされる。今のところ、標準軌よりもさらに広い軌間に変換する車両しか造ったことがないタルゴにとって「標準軌―狭軌直通」の車両を造るのはかなり挑戦的と言える』、「軌間変換の際は、自動変換装置が取り付けられた建物に時速15kmで進入。ストッパーが外れて、車輪の変換装置・・・に列車が入ると車輪が横に移動し軌間を変換。終了するとストッパーが再びかかって作業終了となる。この間、人の手はまったく不要だ」、「自動変換装置」で切り替えるとは安全なようだ。「今のところ、標準軌よりもさらに広い軌間に変換する車両しか造ったことがないタルゴにとって「標準軌―狭軌直通」の車両を造るのはかなり挑戦的」、ということは事実上、無理に近いようだ。
・『日本向けもできる? しかし、長年の軌間可変車両生産の歴史を誇る同社の経験を考えると、時速300km超のソリューションをなんらかの形で提示するというのも夢物語ではない。海外への輸出経験も豊富なタルゴは、やはり軌間が異なるロシア向けに西欧乗り入れ用の長距離列車車両を納入していたりもする。 今回の西九州新幹線の開通では、博多―長崎間をつなぐに当たり「リレーかもめ」から「かもめ」へ、武雄温泉駅で対面乗り換え(注)という方式が採用されたが、新幹線ができたことで「同じ車両に乗ったまま目的地まで移動したいという要望」はさらに高まることだろう』、「要望」はあるだろうが、コストが問題だ。
(注)対面乗り換え:ホームの両側に止まった列車相互で乗り換えるもの(Wikipedia)
第四に、11月22日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの黒崎 亜弓氏による「作家・黒木亮「部分廃線直前」故郷の留萌線をゆく 英国在住「経済小説」の名手、高校時代に列車通学」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/631948
・『平日にもかかわらず、改札には20人あまりが列を作っていた。北海道の北西に位置する留萌駅。深川行きの1両編成は、鉄道ファンとおぼしきカメラを手にした面々で埋まった。このような混雑ぶりは8月末、沿線市町が留萌線の廃線に同意し、カウントダウンが始まってからのこと。それまで留萌駅の乗降客は時間帯によっては1〜2人だった。 ニシン漁で栄えた港町の駅からはかつて、北の幌延へ、南の増毛へと沿岸にも線路が延びていた。今は内陸の深川まで50.1kmを結ぶ留萌線の終着駅として、1日14本が発着する』、興味深そうだ。
・『留萌線沿線で育った黒木亮さん JR北海道が2016年に「鉄道より他の交通手段が適している」と示した輸送密度200人未満の5路線のうち、留萌線は最後に廃線が決まった。留萌―石狩沼田間は2023年3月末、石狩沼田―深川間は2026年3月末に運行を終える。100年を超える歴史に幕が降りる。 いざ廃線となると乗客が増えるのは、鉄道の常。「葬式鉄」などと呼ばれる。東京からやってきた筆者もその類といえるが、隣の御仁は趣が異なる。 「子どもの頃、留萌線に乗って海に遊びに出かけました。留萌の黄金岬で釣ったカニの入ったバケツを手に、乗って帰ったものです。父がそのカニをつまみに酒を飲んだりしてね」 ロンドン在住の経済小説作家、黒木亮さん。1957年に生まれ、沿線の秩父別で育った。高校時代は、隣町の深川まで留萌線で通学していた。10月、深川市から講演に招かれて帰郷する折に「一度、乗っておこうと」、深川と留萌の間を往復する道のりに同行した。 黒木さんは早稲田大学に進んで競走部で箱根駅伝を走り、国際金融の世界で活躍したのち、2000年に国際協調融資の舞台裏を活写する『トップ・レフト』で作家デビュー。『巨大投資銀行』『鉄のあけぼの』をはじめ、リアリティある骨太の経済小説を生み出してきた。) 裁判官の実像を描いた異色の作品『法服の王国』に、留萌線が登場する。旭川地方裁判所に赴任した主人公が、留萌支部での裁判のため被告人とともに向かう場面である。 列車の窓の外に見えるのは、もっぱら雪原と林で、ときおり、雪煙の向こうに、屋根に1メートルくらいの雪が降り積もり、軒につららを下げた農家が姿を現す。強い風に追いたてられた雪が、雪原の表面を、白い砂流のように流れていた。――『法服の王国』(下)、岩波現代文庫 黒木さんが、取材のため2012年冬に留萌線に乗った日は大吹雪だった。「途中の駅で、雪のなかから突然、灯りのともった列車が現れたのは迫力がありましたね」。単線である留萌線で唯一、列車交換(行き違い)を行う峠下駅である。かつては、付近の炭鉱から石炭が積み出されていた。 留萌を発つと、線路の両側に低い山が続く。留萌線は1910年、沿線の石炭や木材を留萌港まで運ぶために敷かれた。人の往来も増し、急行列車が札幌や旭川まで通じていた。留萌の周辺に点在していた炭鉱は、1970 年代にかけて閉山していった。 峠下からトンネルを2つ抜けると、趣のある駅舎が見えてきた。恵比島駅のはずだが、駅名標には「あしもい(明日萌)」とある。1999年に放映されたNHK連続テレビ小説「すずらん」のロケ地となった。炭鉱で栄えた町と駅を舞台に繰り広げられる物語である。昭和の木造駅舎を再現したセットが残る』、「いざ廃線となると乗客が増えるのは、鉄道の常。「葬式鉄」などと呼ばれる」、「葬式鉄」とは初めて知った。「留萌の周辺に点在していた炭鉱は、1970 年代にかけて閉山していった」、なるほど。
・『ほのぼのとした秩父別駅 恵比島の先で、景色がひらけた。開拓地が石狩川沿いまで広がる。稲刈りの終わった田んぼ。この北空知一帯は北海道でも有数の米どころである。大豆の収穫を終え、茶色の土がむき出しになった畑。まだ植えられたばかりで緑の小麦。北海道の大地、という月並みな言葉しか思い浮かばないが、線路の両側を見晴らす景色を味わい尽くそうと車窓から目が離せない。 黒木さんは、ランナーとしての自伝的作品『冬の喝采』で、高校入学を前に故郷の町を一望した様を描写している。 前方の彼方に、国道と交差するように線路が延び、ベージュと赤のツートンカラーで二両編成のキハ58系ディーゼルカーが、雪原の中を孤独の走者のように走っていた。――『冬の喝采』(上)、幻冬舎文庫 故郷の秩父別駅は、ほのぼのとした雰囲気に包まれていた。顔を描いたカボチャが飾りつけられ、マリーゴールドの黄色とオレンジがホームの一角を彩る。 駅の〝守り人〟は、信平俊行さん。駅に毎日通い、丹念に手入れする。秩父別で暮らすこと72年。中学時代に長距離走に目覚めた黒木さんにとって、同じグラウンドを走っていた先輩ランナーである。 冬季の雪下ろしの仕事を2013年にJR北海道から請け負った頃から、ボランティアで花を育て始めた。マリーゴールドは種をとり、来春また植える。カボチャは自身の畑で育てたものという。「楽しみでやっています。駅を人が通るのは朝夕だけだから、明るくしたくて」。 今の留萌線の利用は、秩父別と石狩沼田からの通学がメイン。深川市内の高校へ、さらに乗り継いで旭川、札幌の高校へと通う。そんな事情もあり、石狩沼田―深川間の廃線は3年先延ばしとなった。 黒木さんは1973年から1976年にかけて、秩父別から深川西高校に通っていた。「当時は2、3両連なっていました。アルミの箱を背負った行商の女の人たちが乗っていたのを覚えています。留萌から干物を売りにきていたんですね。魚の匂いはしなかったかな」。 鉄道好きとしては、単線・ディーゼルに1両編成と三拍子そろうとグッとくるが、考えてみれば、低コスト大量輸送が鉄道の持ち味なのだから、もともと1両で走るわけではない』、「秩父別駅は、ほのぼのとした雰囲気に包まれていた。顔を描いたカボチャが飾りつけられ、マリーゴールドの黄色とオレンジがホームの一角を彩る。 駅の〝守り人〟は、信平俊行さん。駅に毎日通い、丹念に手入れする。秩父別で暮らすこと72年。中学時代に長距離走に目覚めた黒木さんにとって、同じグラウンドを走っていた先輩ランナーである。 冬季の雪下ろしの仕事を2013年にJR北海道から請け負った頃から、ボランティアで花を育て始めた。マリーゴールドは種をとり、来春また植える。カボチャは自身の畑で育てたものという。「楽しみでやっています。駅を人が通るのは朝夕だけだから、明るくしたくて」、ほのぼのした雰囲気だ。
・『「懐かしい対象ではなかった」 留萌から1時間で深川に着く。黒木さんに感想を聞いてみた。なごりを惜しむ言葉をどこか期待していたが、淡々とした答えが返ってきた。 「僕にとって、懐かしい対象ではなかった。車両も別物で。向かい合わせの木の座席で友人と話したのが、僕の留萌線の思い出です。時代から取り残されていたから、廃線は既定路線でしょう」 高校時代の後半はバス通学が増えていたという。陸上競技部に入り、高校1年の頃は夜8時台の終電まで石狩川沿いを走った。ケガで練習ができなくなると受験勉強に打ち込み、列車に間に合う時間に起きられなかった。「鉄道は定期で乗れるけれど、バス代はそのつど親にもらわなければなりませんでした。時にくすねたりしてね」。 JR北海道は留萌線などについて、「鉄道より適した手段」としてバスを挙げた。しかし、沿線人口は1970年代から減少の一途。バスも赤字に陥り、公的補助で成り立っている。本数も減っている。 沿線市町は、留萌線の維持費を負担するよりも、JR北海道から代替バスの運営費を得る道をとった。深川市、留萌市の担当者は「鉄道とバスが共倒れになりかねなかった」と語る。 もはや、「鉄路を残せるか」ではなく、「公共交通を残せるか」という局面にある。 翌朝、筆者はひとり深川から留萌線に乗り、峠下まで往復した。7時台の深川行きは既に混みあっていた。石狩沼田と秩父別で10数人ずつ高校生が乗り込んでくると、デッキにはみ出した。カメラを手に、車窓に目をやる筆者たちとは対照的に、彼らはスマートフォンに目を落としている。日常としての鉄道がそこにあった』、「もはや、「鉄路を残せるか」ではなく、「公共交通を残せるか」という局面にある」、やはり衰退する地方の1つのようだ。
先ずは、7月8日付けAERAdot「非常停止ボタンで山手線止める 「賠償請求すべきだ」の声に弁護士の見解は?〈dot.〉」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2022070800024.html?page=1
・『東京のJR山手線・渋谷駅で、「線路に財布を落とした」という理由で列車の非常停止ボタンを押した若い男性に対し、駅員が激高する様子を撮った動画が拡散された。これに対して、双方の対応とも議論を呼んでいるが、そもそも、財布を落としたなどの理由で非常停止ボタンを押し、列車を遅延させる行為に法的問題はないのか。専門家に聞いた。 「なんだその態度は、山手線止めてんだぞ!」(駅員) 「しょうがないじゃないですか、お金落ちちゃったんですから」「4万円も財布から出てたんですよ」(若い男性) 動画に映っているのは、非常停止ボタンを押したことに激高する駅員と、「財布が落ちたから」とごねる男性。 JR東日本によると、この動画の事案が発生したのは4日午後8時ごろ。渋谷駅のホームで、線路をのぞきこんだり、線路に降りるしぐさをしている男性を駅員が発見。数人の駅員が駆けつけて制止し、男性とともにホーム上の安全な場所に移動した。男性が、線路に財布を落としたと説明したため、駅員は「これから拾います。準備をするのでお待ちください」との趣旨を男性に説明したという。 しかし、男性は納得しない様子で、駅員の準備を待たずにホーム上の非情停止ボタンを押した。この際、駅員と男性がもみ合いとなり、駅員は警察に通報したという。 結果、山手線外回りの列車に約2分の遅れが生じた。 JR東によると、非常停止ボタンを押して良いのは人命にかかわるケースや、線路上に重い荷物が落ちたり、小さなものでもレールの上に乗ってしまったなど、運行に支障をきたしかねない場合だという。今回については、「駅員がそばにいて財布を拾う準備をすると伝えているため、緊急事態には当たらない」(JR東)という。 JR東は駅員の対応について、「安全を守らなければならないという使命感から、強い口調になってしまった」と説明。線路上の財布は拾って男性に渡したという。 双方の対応に賛否両論の声が出ているが、そもそも、こうした理由で非常停止ボタンを押し、列車を遅らせる行為に法的問題はないのか。) 数々の鉄道事故で遺族代理人を務めるなど、鉄道事故に詳しい佐藤健宗弁護士は、「落とした財布は急がなくても確実に回収できるはずですから、男性が無理な行為をしたと言わざるを得ません」と前置きしたうえでこう話す。 「このように、緊急性がないのに非常停止ボタンを押して混乱を生じさせ、鉄道会社の収入などに影響を与えた場合は、ボタンを押した人に民事上の賠償責任が生じる可能性があります」 ただ、佐藤弁護士は、同様のケースで鉄道会社が損害賠償を請求した例は聞いたことがないと言う。また、運行への影響が今回の「上り列車に2分の遅れ」程度では難しい面があるようだ。 「鉄道会社に損害が発生したと解釈する一つの目安として、『振り替え輸送』の有無があります。列車に飛び込むなどして自死された方の遺族に対し、鉄道会社が損害賠償を請求するかどうかも、振り替え輸送の有無が分かれ目になることがあります。今回のように数分の遅れですと、この事案に対応する代替要員の用意や、職員の残業なども発生しないと思われますので、鉄道会社に損害が生じたとは言いにくいかもしれません」(佐藤弁護士) 駅員が財布を拾うと伝えたにもかかわらず、なぜ男性は待たずにボタンを押してしまったのか。わずか2分の遅れとはいえ、帰宅ラッシュ時でもあり乗客は迷惑しただろう。動画は男性が撮影したとみられており、駅員は撮影をやめるようにお願いしていたという。 「どのような状況だったかによりますが、非常停止ボタンを押すという実力行使によって駅員らの業務を妨害しているので、威力業務妨害罪にあたる可能性は否定できないと思います」(佐藤弁護士) JR東は、「個別の事案について、賠償請求などの対応を取るかについては回答いたしません」としている』、「緊急性がないのに非常停止ボタンを押して混乱を生じさせ、鉄道会社の収入などに影響を与えた場合は、ボタンを押した人に民事上の賠償責任が生じる可能性」があるが、「同様のケースで鉄道会社が損害賠償を請求した例は聞いたことがないと言う。また、運行への影響が今回の「上り列車に2分の遅れ」程度では難しい面があるようだ」、ただ、「非常停止ボタンを押すという実力行使によって駅員らの業務を妨害しているので、威力業務妨害罪にあたる可能性は否定できない」、しかし、「非常停止ボタンを押し」た「会社員」は、全く自己中心主義のイヤな奴だ。
次に、8月6日付けAERAdot「六角精児、ギャンブルをやめようと「意識して」鉄道ファンに 好きなのは「車窓」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2022080400066.html?page=1
・『鉄道に魅せられるきっかけは、人それぞれだ。中にはギャンブルをやめるために鉄道ファンになった人もいる。俳優・六角精児さんだ。AERA 2022年8月8日号で、思いを語ってくれた。 鉄道にはまったのは30代になってからです。子どものころから電車は好きだったし、旅公演の際の列車移動も楽しかったけれど、いわゆる「テツ」ではなかったんです。若いころの僕はギャンブルにはまっていて、負けが込んで身を滅ぼしつつありました。これじゃまずい、ギャンブルはやめようと考えたとき、鉄道に乗っている時間が自分にとっては心地よいなと改めて気が付いた。それで「意識して」鉄道ファンになりました。 テツにもいろいろいるけれど、僕が好きなのは「車窓」。鉄道の車窓は特別です。車とは違って勝手にどこかへ連れていってくれる。それに、切り開かれた鉄路は鉄道でしか通れない、つまり鉄道でしか見られない景色がたくさんあります。レールの上を揺られながら見る車窓の臨場感が自分にとてもマッチしているんだと思います。 鉄道で旅をする時は、一緒にお酒も飲みたい。もちろん混み具合や人の目でそうできないこともあるけれど、あまりお客さんの多くないローカル線のボックス席に座って、ちびちびと飲みながら景色を楽しむ旅が至福の時間です。心が色づいて、景色もより色づいて見えてくる。 僕は乗ったことのない路線にどんどん乗ってみたいタイプですが、繰り返し何度も乗っている路線もあります。北海道の路線は何度も乗ってますね。釧路と網走を結ぶ釧網線なんて、何度乗ったかなあ。日本には季節があって四季折々違った車窓を楽しめるから、同じ路線に何度乗っても楽しいですね。) 普段の旅は行き当たりばったりです。「とりあえず西へ行ってみようか、ひとまず新幹線で名古屋まで」と決めて家を出て、新幹線の中で時刻表をめくりながら「関西線で大阪まで入るのはどうだろう」「いや、名古屋から北に抜けて高山線に乗ってみよう」というふうに考えます。行き先を考える時間も楽しいですね。それと最近では、仕事で出張した時に2日休みがあるからこっちの路線を通って帰ってこようとか、どこどこに寄って名物を食べてこようとか、そんな旅が多くなりました。これまで何度も鉄道の旅をしたけれど、それぞれに思い出があって、1番は決められないなあ。 「鉄道旅に興味はあるけれど、いきなりブラッと遠出は難しい」という人にお勧めしたいのは、普段乗っている列車でちょっと先まで行ってみること。同じ路線でも普段の生活圏から1駅離れるだけで、自分が思っているのとは違った景色が広がっているかもしれません。日常が日常ではなくなるというか、それも小さな旅です』、「若いころの僕はギャンブルにはまっていて、負けが込んで身を滅ぼしつつありました。これじゃまずい、ギャンブルはやめようと考えたとき、鉄道に乗っている時間が自分にとっては心地よいなと改めて気が付いた。それで「意識して」鉄道ファンになりました。 テツにもいろいろいるけれど、僕が好きなのは「車窓」。鉄道の車窓は特別です。車とは違って勝手にどこかへ連れていってくれる。それに、切り開かれた鉄路は鉄道でしか通れない、つまり鉄道でしか見られない景色がたくさんあります。レールの上を揺られながら見る車窓の臨場感が自分にとてもマッチしているんだと思います」、「鉄道で旅をする時は、一緒にお酒も飲みたい。もちろん混み具合や人の目でそうできないこともあるけれど、あまりお客さんの多くないローカル線のボックス席に座って、ちびちびと飲みながら景色を楽しむ旅が至福の時間です」、TV番組でも、おいしそうに「ちびちびと飲みながら景色を楽しむ旅」には羨ましくなる。
第三に、10月8日付け東洋経済オンラインが掲載した 在英ジャーナリストのさかい もとみ氏による「スペイン「フリーゲージ列車」どんな仕組みなのか 日本仕様は?聞くと「相談してくれれば喜んで」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/624341
・『西九州新幹線が開業した9月23日、9000kmあまり離れたドイツの首都・ベルリンでは世界最大の鉄道業界の見本市「イノトランス2022」が開催されていた。西九州新幹線といえば、当初は新幹線と在来線を直通できる「フリーゲージトレイン」を走らせる計画だったものの実現せず、結局「対面乗り換え方式」により運行が始まったわけだが、世界には「高速で走るフリーゲージ車両」を世に出しているメーカーもある。 筆者はイノトランスの会場で「高速フリーゲージ車両の造り手」に直接話を聞くことができた。彼らは日本の実態をどうみているのだろうか』、興味深そうだ。
・『「フリーゲージ車両の雄」タルゴ 本来なら2018年、2020年、2022年……と偶数年に開かれるこの見本市、2020年はコロナ禍のあおりで中止。4年ぶりの開催となった今回は、世界中からの出展者や参観者で大いににぎわった。 イノトランスの特徴は、車両メーカーが実車を持ち込んで陳列することだ。今年は環境問題への意識の高まりの中、とくに燃料電池を使った車両の展示が目立った。 そんな中、各メーカーの車両がずらりと並ぶ「メインステージ」からやや離れた一角にちょっと変わった展示があった。古くからいわば「フリーゲージ車両メーカーの雄」として知られるスペインのタルゴ(Talgo)が、車輪部分をむき出しにした試作車両を公開していた。) タルゴの車両は、連結部に配置した車輪が左右で独立しており、車軸でつながっていない。一般的に鉄道車両は台車の上に車体を載せているが、タルゴ車両は車体全体を台車の“厚さ”の分低くして低重心化でき、安定したカーブの走行などに効果がある』、「タルゴの車両は、連結部に配置した車輪が左右で独立しており、車軸でつながっていない」、「タルゴ車両は車体全体を台車の“厚さ”の分低くして低重心化でき、安定したカーブの走行などに効果がある」、さすが「フリーゲージ車両メーカーの雄」だけある。
・『タルゴの連結面 その「左右の車輪が車軸でつながっていない」という仕組みを応用して、異なる2つの軌間で走れる「フリーゲージ車両」を実用化したわけだ。 そもそもタルゴが「軌間可変車両」、いわゆるフリーゲージ車両を造ってきたのは、スペインとポルトガルの線路幅(軌間)の問題がある。両国は「イベリアゲージ」と呼ばれる1668mm軌間を採用しており、ほかの欧州諸国の標準軌(1435mm)には直接乗り入れができない。それではスペインと欧州各国との行き来が不便だとして、古くから軌間可変車両の開発が進められた。その後、スペインも高速鉄道は標準軌で整備されることになり、両軌間の直通ができないとより不便となる背景も生まれた』、なるほど。
・『狭い軌間は難しい? 最初の軌間可変車両は1968年に登場。その後さまざまな改良が加えられ、同社エンジニアの説明によると「現在では営業運転で時速330km走行可能な技術レベルに到達している」という。 タルゴは標準軌(1435mm)、イベリアゲージ(1668mm)、ロシアゲージ(1520mm)の3つの軌間のうち、2つに対応できる組み合わせのものを生産している。軌間変換の際は、自動変換装置が取り付けられた建物に時速15kmで進入。ストッパーが外れて、車輪の変換装置(異なる軌間のレールがつながっている)に列車が入ると車輪が横に移動し軌間を変換。終了するとストッパーが再びかかって作業終了となる。この間、人の手はまったく不要だ。 もともとはスペインーフランス国境を越える直通列車用に登場した軌間可変式のタルゴは、今ではスペイン国内でも高速列車専用線と在来線の直通用に使われている。 ただ、今回タルゴがイノトランスで展示していたのは軌間可変式の車両ではなく、ドイツの標準軌向けの車両だった。) ドイツ鉄道(DB)は、同社が誇る高速列車ICE(インターシティ・エクスプレス)の新規車両として、ホームとのステップがないことを売りにしたタルゴ製車両を「ICE L」の名で導入を決定。ベルリン―アムステルダム間を皮切りに、いずれリゾート向けの臨時列車に使う予定だという。 機関車1両+17両の客車で1組の編成とし、全部で23編成を導入する。ICEはかねてドイツの車両メーカー・シーメンスの牙城だっただけに、他国製車両の採用も興味深いポイントだ。 タルゴ社は軌間可変式ではない車両を持ち込んだわけだが、イノトランス展示に当たり行き先表示板に「マドリード―ベルリン間のICE」とこっそり表示。いずれ、軌間可変式高速車両で本国スペインからドイツに入ろうとする意欲を感じずにはいられなかった。 ただ、タルゴといえばやはり軌間可変車両が有名だ。そこで、「日本では、狭軌と標準軌との変換が可能な車両の開発で頭を悩ませている」とタルゴの展示ブースで説明に当たっていたスペイン人エンジニアに話すと、「我が社では、狭軌から標準軌への変換車両は造ったことがない。しかし、相談してくれたら喜んで我が社のエンジニアが解決に当たるに違いない」と“お誘い”の言葉をかけてくれた。 ただ、メーターゲージ(1000mm)や、日本の狭軌(1067mm)といった狭い軌間では、変換機構やトラクションモーター、ブレーキのための車輪間のスペースに制限もあり、実用化が難しいとされる。今のところ、標準軌よりもさらに広い軌間に変換する車両しか造ったことがないタルゴにとって「標準軌―狭軌直通」の車両を造るのはかなり挑戦的と言える』、「軌間変換の際は、自動変換装置が取り付けられた建物に時速15kmで進入。ストッパーが外れて、車輪の変換装置・・・に列車が入ると車輪が横に移動し軌間を変換。終了するとストッパーが再びかかって作業終了となる。この間、人の手はまったく不要だ」、「自動変換装置」で切り替えるとは安全なようだ。「今のところ、標準軌よりもさらに広い軌間に変換する車両しか造ったことがないタルゴにとって「標準軌―狭軌直通」の車両を造るのはかなり挑戦的」、ということは事実上、無理に近いようだ。
・『日本向けもできる? しかし、長年の軌間可変車両生産の歴史を誇る同社の経験を考えると、時速300km超のソリューションをなんらかの形で提示するというのも夢物語ではない。海外への輸出経験も豊富なタルゴは、やはり軌間が異なるロシア向けに西欧乗り入れ用の長距離列車車両を納入していたりもする。 今回の西九州新幹線の開通では、博多―長崎間をつなぐに当たり「リレーかもめ」から「かもめ」へ、武雄温泉駅で対面乗り換え(注)という方式が採用されたが、新幹線ができたことで「同じ車両に乗ったまま目的地まで移動したいという要望」はさらに高まることだろう』、「要望」はあるだろうが、コストが問題だ。
(注)対面乗り換え:ホームの両側に止まった列車相互で乗り換えるもの(Wikipedia)
第四に、11月22日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの黒崎 亜弓氏による「作家・黒木亮「部分廃線直前」故郷の留萌線をゆく 英国在住「経済小説」の名手、高校時代に列車通学」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/631948
・『平日にもかかわらず、改札には20人あまりが列を作っていた。北海道の北西に位置する留萌駅。深川行きの1両編成は、鉄道ファンとおぼしきカメラを手にした面々で埋まった。このような混雑ぶりは8月末、沿線市町が留萌線の廃線に同意し、カウントダウンが始まってからのこと。それまで留萌駅の乗降客は時間帯によっては1〜2人だった。 ニシン漁で栄えた港町の駅からはかつて、北の幌延へ、南の増毛へと沿岸にも線路が延びていた。今は内陸の深川まで50.1kmを結ぶ留萌線の終着駅として、1日14本が発着する』、興味深そうだ。
・『留萌線沿線で育った黒木亮さん JR北海道が2016年に「鉄道より他の交通手段が適している」と示した輸送密度200人未満の5路線のうち、留萌線は最後に廃線が決まった。留萌―石狩沼田間は2023年3月末、石狩沼田―深川間は2026年3月末に運行を終える。100年を超える歴史に幕が降りる。 いざ廃線となると乗客が増えるのは、鉄道の常。「葬式鉄」などと呼ばれる。東京からやってきた筆者もその類といえるが、隣の御仁は趣が異なる。 「子どもの頃、留萌線に乗って海に遊びに出かけました。留萌の黄金岬で釣ったカニの入ったバケツを手に、乗って帰ったものです。父がそのカニをつまみに酒を飲んだりしてね」 ロンドン在住の経済小説作家、黒木亮さん。1957年に生まれ、沿線の秩父別で育った。高校時代は、隣町の深川まで留萌線で通学していた。10月、深川市から講演に招かれて帰郷する折に「一度、乗っておこうと」、深川と留萌の間を往復する道のりに同行した。 黒木さんは早稲田大学に進んで競走部で箱根駅伝を走り、国際金融の世界で活躍したのち、2000年に国際協調融資の舞台裏を活写する『トップ・レフト』で作家デビュー。『巨大投資銀行』『鉄のあけぼの』をはじめ、リアリティある骨太の経済小説を生み出してきた。) 裁判官の実像を描いた異色の作品『法服の王国』に、留萌線が登場する。旭川地方裁判所に赴任した主人公が、留萌支部での裁判のため被告人とともに向かう場面である。 列車の窓の外に見えるのは、もっぱら雪原と林で、ときおり、雪煙の向こうに、屋根に1メートルくらいの雪が降り積もり、軒につららを下げた農家が姿を現す。強い風に追いたてられた雪が、雪原の表面を、白い砂流のように流れていた。――『法服の王国』(下)、岩波現代文庫 黒木さんが、取材のため2012年冬に留萌線に乗った日は大吹雪だった。「途中の駅で、雪のなかから突然、灯りのともった列車が現れたのは迫力がありましたね」。単線である留萌線で唯一、列車交換(行き違い)を行う峠下駅である。かつては、付近の炭鉱から石炭が積み出されていた。 留萌を発つと、線路の両側に低い山が続く。留萌線は1910年、沿線の石炭や木材を留萌港まで運ぶために敷かれた。人の往来も増し、急行列車が札幌や旭川まで通じていた。留萌の周辺に点在していた炭鉱は、1970 年代にかけて閉山していった。 峠下からトンネルを2つ抜けると、趣のある駅舎が見えてきた。恵比島駅のはずだが、駅名標には「あしもい(明日萌)」とある。1999年に放映されたNHK連続テレビ小説「すずらん」のロケ地となった。炭鉱で栄えた町と駅を舞台に繰り広げられる物語である。昭和の木造駅舎を再現したセットが残る』、「いざ廃線となると乗客が増えるのは、鉄道の常。「葬式鉄」などと呼ばれる」、「葬式鉄」とは初めて知った。「留萌の周辺に点在していた炭鉱は、1970 年代にかけて閉山していった」、なるほど。
・『ほのぼのとした秩父別駅 恵比島の先で、景色がひらけた。開拓地が石狩川沿いまで広がる。稲刈りの終わった田んぼ。この北空知一帯は北海道でも有数の米どころである。大豆の収穫を終え、茶色の土がむき出しになった畑。まだ植えられたばかりで緑の小麦。北海道の大地、という月並みな言葉しか思い浮かばないが、線路の両側を見晴らす景色を味わい尽くそうと車窓から目が離せない。 黒木さんは、ランナーとしての自伝的作品『冬の喝采』で、高校入学を前に故郷の町を一望した様を描写している。 前方の彼方に、国道と交差するように線路が延び、ベージュと赤のツートンカラーで二両編成のキハ58系ディーゼルカーが、雪原の中を孤独の走者のように走っていた。――『冬の喝采』(上)、幻冬舎文庫 故郷の秩父別駅は、ほのぼのとした雰囲気に包まれていた。顔を描いたカボチャが飾りつけられ、マリーゴールドの黄色とオレンジがホームの一角を彩る。 駅の〝守り人〟は、信平俊行さん。駅に毎日通い、丹念に手入れする。秩父別で暮らすこと72年。中学時代に長距離走に目覚めた黒木さんにとって、同じグラウンドを走っていた先輩ランナーである。 冬季の雪下ろしの仕事を2013年にJR北海道から請け負った頃から、ボランティアで花を育て始めた。マリーゴールドは種をとり、来春また植える。カボチャは自身の畑で育てたものという。「楽しみでやっています。駅を人が通るのは朝夕だけだから、明るくしたくて」。 今の留萌線の利用は、秩父別と石狩沼田からの通学がメイン。深川市内の高校へ、さらに乗り継いで旭川、札幌の高校へと通う。そんな事情もあり、石狩沼田―深川間の廃線は3年先延ばしとなった。 黒木さんは1973年から1976年にかけて、秩父別から深川西高校に通っていた。「当時は2、3両連なっていました。アルミの箱を背負った行商の女の人たちが乗っていたのを覚えています。留萌から干物を売りにきていたんですね。魚の匂いはしなかったかな」。 鉄道好きとしては、単線・ディーゼルに1両編成と三拍子そろうとグッとくるが、考えてみれば、低コスト大量輸送が鉄道の持ち味なのだから、もともと1両で走るわけではない』、「秩父別駅は、ほのぼのとした雰囲気に包まれていた。顔を描いたカボチャが飾りつけられ、マリーゴールドの黄色とオレンジがホームの一角を彩る。 駅の〝守り人〟は、信平俊行さん。駅に毎日通い、丹念に手入れする。秩父別で暮らすこと72年。中学時代に長距離走に目覚めた黒木さんにとって、同じグラウンドを走っていた先輩ランナーである。 冬季の雪下ろしの仕事を2013年にJR北海道から請け負った頃から、ボランティアで花を育て始めた。マリーゴールドは種をとり、来春また植える。カボチャは自身の畑で育てたものという。「楽しみでやっています。駅を人が通るのは朝夕だけだから、明るくしたくて」、ほのぼのした雰囲気だ。
・『「懐かしい対象ではなかった」 留萌から1時間で深川に着く。黒木さんに感想を聞いてみた。なごりを惜しむ言葉をどこか期待していたが、淡々とした答えが返ってきた。 「僕にとって、懐かしい対象ではなかった。車両も別物で。向かい合わせの木の座席で友人と話したのが、僕の留萌線の思い出です。時代から取り残されていたから、廃線は既定路線でしょう」 高校時代の後半はバス通学が増えていたという。陸上競技部に入り、高校1年の頃は夜8時台の終電まで石狩川沿いを走った。ケガで練習ができなくなると受験勉強に打ち込み、列車に間に合う時間に起きられなかった。「鉄道は定期で乗れるけれど、バス代はそのつど親にもらわなければなりませんでした。時にくすねたりしてね」。 JR北海道は留萌線などについて、「鉄道より適した手段」としてバスを挙げた。しかし、沿線人口は1970年代から減少の一途。バスも赤字に陥り、公的補助で成り立っている。本数も減っている。 沿線市町は、留萌線の維持費を負担するよりも、JR北海道から代替バスの運営費を得る道をとった。深川市、留萌市の担当者は「鉄道とバスが共倒れになりかねなかった」と語る。 もはや、「鉄路を残せるか」ではなく、「公共交通を残せるか」という局面にある。 翌朝、筆者はひとり深川から留萌線に乗り、峠下まで往復した。7時台の深川行きは既に混みあっていた。石狩沼田と秩父別で10数人ずつ高校生が乗り込んでくると、デッキにはみ出した。カメラを手に、車窓に目をやる筆者たちとは対照的に、彼らはスマートフォンに目を落としている。日常としての鉄道がそこにあった』、「もはや、「鉄路を残せるか」ではなく、「公共交通を残せるか」という局面にある」、やはり衰退する地方の1つのようだ。
タグ:「もはや、「鉄路を残せるか」ではなく、「公共交通を残せるか」という局面にある」、やはり衰退する地方の1つのようだ。 「秩父別駅は、ほのぼのとした雰囲気に包まれていた。顔を描いたカボチャが飾りつけられ、マリーゴールドの黄色とオレンジがホームの一角を彩る。 駅の〝守り人〟は、信平俊行さん。駅に毎日通い、丹念に手入れする。秩父別で暮らすこと72年。中学時代に長距離走に目覚めた黒木さんにとって、同じグラウンドを走っていた先輩ランナーである。 冬季の雪下ろしの仕事を2013年にJR北海道から請け負った頃から、ボランティアで花を育て始めた。マリーゴールドは種をとり、来春また植える。カボチャは自身の畑で育てたものという。「楽しみでや 「いざ廃線となると乗客が増えるのは、鉄道の常。「葬式鉄」などと呼ばれる」、「葬式鉄」とは初めて知った。「留萌の周辺に点在していた炭鉱は、1970 年代にかけて閉山していった」、なるほど。 「鉄道で旅をする時は、一緒にお酒も飲みたい。もちろん混み具合や人の目でそうできないこともあるけれど、あまりお客さんの多くないローカル線のボックス席に座って、ちびちびと飲みながら景色を楽しむ旅が至福の時間です」、TV番組でも、おいしそうに「ちびちびと飲みながら景色を楽しむ旅」には羨ましくなる。 黒崎 亜弓氏による「作家・黒木亮「部分廃線直前」故郷の留萌線をゆく 英国在住「経済小説」の名手、高校時代に列車通学」 「要望」はあるだろうが、コストが問題だ。 (注)対面乗り換え:ホームの両側に止まった列車相互で乗り換えるもの(Wikipedia) 「軌間変換の際は、自動変換装置が取り付けられた建物に時速15kmで進入。ストッパーが外れて、車輪の変換装置・・・に列車が入ると車輪が横に移動し軌間を変換。終了するとストッパーが再びかかって作業終了となる。この間、人の手はまったく不要だ」、「自動変換装置」で切り替えるとは安全なようだ。「今のところ、標準軌よりもさらに広い軌間に変換する車両しか造ったことがないタルゴにとって「標準軌―狭軌直通」の車両を造るのはかなり挑戦的」、ということは事実上、無理に近いようだ。 「タルゴの車両は、連結部に配置した車輪が左右で独立しており、車軸でつながっていない」、「タルゴ車両は車体全体を台車の“厚さ”の分低くして低重心化でき、安定したカーブの走行などに効果がある」、さすが「フリーゲージ車両メーカーの雄」だけある。 は心地よいなと改めて気が付いた。それで「意識して」鉄道ファンになりました。 テツにもいろいろいるけれど、僕が好きなのは「車窓」。鉄道の車窓は特別です。車とは違って勝手にどこかへ連れていってくれる。それに、切り開かれた鉄路は鉄道でしか通れない、つまり鉄道でしか見られない景色がたくさんあります。レールの上を揺られながら見る車窓の臨場感が自分にとてもマッチしているんだと思います」、 「若いころの僕はギャンブルにはまっていて、負けが込んで身を滅ぼしつつありました。これじゃまずい、ギャンブルはやめようと考えたとき、鉄道に乗っている時間が自分にとっては心地よいなと改めて気が付いた。それで「意識して」鉄道ファンになりました。 テツにもいろいろいるけれど、僕が好きなのは「車窓」。鉄道の車窓は特別です。車とは違って勝手にどこかへ連れていってくれる。それに、切り開かれた鉄路は鉄道でしか通れない、つまり鉄道でしか見られない景色がたくさんあります。レールの上を揺られながら見る車窓の臨場感が自分にとても AERAdot「六角精児、ギャンブルをやめようと「意識して」鉄道ファンに 好きなのは「車窓」」 「緊急性がないのに非常停止ボタンを押して混乱を生じさせ、鉄道会社の収入などに影響を与えた場合は、ボタンを押した人に民事上の賠償責任が生じる可能性」があるが、「同様のケースで鉄道会社が損害賠償を請求した例は聞いたことがないと言う。また、運行への影響が今回の「上り列車に2分の遅れ」程度では難しい面があるようだ」、ただ、「非常停止ボタンを押すという実力行使によって駅員らの業務を妨害しているので、威力業務妨害罪にあたる可能性は否定できない」、しかし、「非常停止ボタンを押し」た「会社員」は、全く自己中心主義のイヤな AERAdot「非常停止ボタンで山手線止める 「賠償請求すべきだ」の声に弁護士の見解は?〈dot.〉」 鉄道 (その10)(非常停止ボタンで山手線止める 「賠償請求すべきだ」の声に弁護士の見解は?〈dot.〉、六角精児 ギャンブルをやめようと「意識して」鉄道ファンに 好きなのは「車窓」、スペイン「フリーゲージ列車」どんな仕組みなのか 日本仕様は?聞くと「相談してくれれば喜んで」、作家・黒木亮「部分廃線直前」故郷の留萌線をゆく 英国在住「経済小説」の名手、高校時代に列車通学) 「スペイン「フリーゲージ列車」どんな仕組みなのか 日本仕様は?聞くと「相談してくれれば喜んで」」 さかい もとみ 東洋経済オンライン