地方自治体(その1)(4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”、「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ) [経済政策]
今日は、地方自治体(その1)(4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”、「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ)を取上げよう。
先ずは、本年5月25日付けデイリー新潮「4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”」を紹介しよう。
・『山口県阿武町で起きた誤送金事件は、劇的な結末を迎えた。回収が不可能と思われていた絶望的な状況から一転、町は誤送金した金額の9割に及ぶ約4300万円の回収に成功したのだ。町を救った“ヒーロー”は、昭和30年生まれの地元・山口県の弁護士。同業者の間でも、思いがけない奇策に注目が集まっているという』、新聞報道では込み入った事件が理解し難いので、大いに興味深い。
・『ドラマのような大逆転劇 「ポイントは回収先として、お金を持っていない24歳男性ではなく、決済代行業者に目をつけたこと。しかも、国税徴収法に基づき、わずかしかないであろう滞納税金に基づき、男性が決済代行業者に有していたとされる債権を全額差し押さえるという奇策に驚きました。やはり、自治体の弁護士は考えることが違うなと」 こう興奮気味に語るのは、「渥美坂井法律事務所弁護士法人 麹町オフィス」代表の渥美陽子弁護士だ。渥美氏ばかりではない。いま弁護士界隈のTwitterには、奇跡の債権回収を成し遂げた阿武町の顧問弁護士に対し、「ドラマのようだ」「これぞプロ」といった賞賛の嵐が吹き荒れているのだ。 大ピンチからの逆転劇を見せたのは、山口県で弁護士事務所を営む中山修身氏。山口県の法曹界では名の知れた、御年67歳の弁護士である。誤振込み問題が発生してからは、中山氏に対する批判の声も大きかった。「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」という声もその一つだ。 だが、「債権回収業務は結果がすべて。使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だと皆が褒め称えています」(渥美氏)。まさに、9回裏に一発大逆転のホームランを放ったのである』、確かに「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」との問題はあるにしても、「使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だ」、その通りだ。
・『公序良俗に反する契約 いったい中山氏はどのような手法で、不可能と思われた回収を成し遂げたのか。 田口容疑者は、自分の口座に振り込まれた4630万円のほぼすべてを、オンラインカジノに使ったと供述している。 カジノ口座への資金移動は、デビット決済と決済代行業者への振込みだった。賭博罪がある日本では、海外にサーバーがあったとしてもオンラインカジノでのギャンブルは違法。そのため、カジノサイトへ多額の資金を直接移動させるのは難しく、決済代行業者を利用するのが一般的だ。田口容疑者は約340万円をデビット決済で動かしたが、残りの約4300万円を国内3社の決済代行業者3社の口座に移した。 結論から言えば、中山氏はこの3社に詰め腹を切らせたわけである。 「報道によると、阿武町は男性と決済代行業者との間の委任契約は、公序良俗に反する契約で無効だと主張したようです。この主張が通ると考えるならば、決済代行業者は、口座に入金されたお金を男性に返さなければなりません。阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえたのだと考えられます」(渥美氏)』、「阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえた」、誠に見事な方法だ。
・『恫喝 その際、中山氏が持ち出したのが「国税徴収法」であった。金額は不明だが、田口容疑者はなんらかの税金を滞納していたようだ。 「滞納処分では、民間の案件とは異なり、裁判所で判決を取らなくても徴収職員が滞納者の財産を差し押さえることができます。だから、町は男性の預金とみなされた決済代行業者の預金をいきなり差し押さえることが可能だったのです」(同) それだけではない。その際に、法に基づき”恫喝”したのだ。中山氏は、決済代行業者の口座がある二つの銀行に対して、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」8条1項に基づき、犯罪による収益と関係する「疑わしい取引」が行われているとして金融庁への届出と、同庁の定める「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応を求めた。 「あなたたちは怪しい取引をしていますよねと暗に圧力をかけたのです。決済代行業者にもやましいところがあったのでは。これ以上突っ込まれることは避けたいと考え、自ら町に全額を返金してしまったのでしょう」(渥美氏)』、「国税徴収法」を持ち出したり、「「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応」、を求めるなど地方の弁護士とは思えないような獅子奮迅の働きには、驚かされた。
・『決済代行業者は泣き寝入りか? 町は、決済代行業者の預金を差し押さえたが、そこから最終的に受け取ることができるのは、あくまで、滞納されていた税金の額に限られる。しかも、決済代行業者は約4300万円を町に振り込んだため、滞納税金との差額は田口容疑者が自分のものとして、返還を求めることができた。他方、町も田口容疑者に対し、誤送金した4630万円の返還を求めることができる状況にあった。町は、これらの返還請求権を事実上相殺する“ウルトラC的手法”で、田口容疑者に対する債権の回収に成功したわけである。 割を食ったのは決済代行業者である。現在、山口県警が捜査にあたっているが、海外で運営されているオンラインカジノの金の動きを追うのは困難で、田口容疑者が実際にギャンブルで使いきったかどうかはわかっていない。だが、もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる。 「それが彼らのリスク判断なのでしょう。決済代行業者が男性に対して、損害賠償請求を検討するかもしれませんが、男性は無資力でしょうからそこから回収は難しいのでは」(同)』、「もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる」、「決済代行業者」も「自腹で穴埋め」せざるを得ないところに追い込まれたのだろう。
・『反マスク主義者? しかも、影響は今回のケースにとどまらない可能性があるという。 「決済代行業者が阿武町からの請求を認めて男性からの入金を全額返金したということは、自ら公序良俗に反する取引をしていたと認めてしまったに等しい。今後、オンラインカジノで負けた利用者が、決済代行業者に対し公序良俗に反する取引だったため無効であり、入金額相当の債権があると主張し始めるかもしれません」(渥美弁護士) 決済代行業者にとっては思わぬ波及効果が起きかねないというのである。見事、阿武町を救ったヒーローになった中山氏であるが、24日の記者会見では、突飛なことを言い出して、「変な弁護士」とのレッテルも貼られたという。 「マスクをつけないで会見に臨んでいたのですが、いきなり話の途中で、『申し訳ありませんけれども、私はそういう義務に従うつもりがない。遵法精神がない、同調しないタイプの人間ですので』と断り出したので、ざわつきました」(地元記者) これだけのことを成し遂げたのだから、多少の変人ぶりは目をつぶってもいいのかもしれない』、信念でマスクをしないほど同調圧力に屈しない「変人」だからこそ、「阿武町を救ったヒーローにな」れたのかも知れない。
次に、5月29日付け文春オンライン「「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/54706
・『山口県阿武町役場が新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円を誤って24歳の男性に振り込み、「オンラインカジノで使い果たしたから返せない」と突っぱねられた事件。 「小さな自治体では、まともな行政ができるわけがない」などと批判する著名人もいるが、誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」と指摘する市役所職員もいる。 コロナが流行した当初は「間違ってもいいから、とにかく早くカネをばらまけ」と主張する識者もいた。確かに困窮した人には一刻も早く届ける必要がある。が、誤支給を経験した自治体では役所だけでなく、住民にも深い傷が残った。それが一気に顕在化したのが阿武町だった。 阿武町ではオンラインカジノの決済代行業者から約4300万円が役場に“返金”されるなどしたが、誤支給の判明から2年半が過ぎても、まだ返金されていない自治体がある。大阪府摂津市だ。ただしこの場合、コロナ関連ではなく、住民税還付の事例である』、「誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」、実務をやらされる地方自治体は大変なようだ。
・『1502万円も過大に還付 間違いが起きたのは2018年春。市役所の課税部門で納税申告書類をコンピュータ入力していた時、本来は166万とすべきところを職員が1ケタ多く打ち込んだ。このため住民の男性に1502万円も過大な住民税を還付してしまった。 だが、市役所で気づく職員はなく、翌19年の課税作業も終えた。「おかしい」と指摘したのは大阪府だった。 摂津市の担当者が説明する。 「国や府は毎年、自治体の課税データの比較を行っています。その過程で摂津市の数値は年度間の乖離(かいり)が大きいと分かり、府の担当者から『一度確認して下さい』と連絡が入りました。『ええっ』ということで、2019年春の課税データを調べ直したのですが、これは合っていました。 『前年の数字がちょっと大きいな』とさかのぼって調べると、2018年に過大な還付をしていたと分かりました。税関連では特に慎重にチェックをしてきたはずなのですが、膨大な事務量となる時期だけに漏れてしまったようでした』、「2018年に過大な還付をしていた」のが、すぐに判明しないような会計システムにも問題がありそうだ。
・『謝罪・説明を重ねるも裁判に 摂津市は慌てて男性に連絡し、お詫びの文章も届けた。事情説明にも訪ねた。2019年10月のことだ。 「事情は分かっていただけたようでした。すぐに返金してほしいとお願いしたのですが、これには明確な意思表示がありませんでした。その後も何度もお願いしたのですけれど……」と、市の担当者は表情を曇らせる。 翌年の2020年2月、男性は弁護士を立て、その後は代理人同士の話し合いになった。) 「3月ぐらいになって、『返還義務を負うにしても、気づかずに使ってしまったものについては返せない』と通告されました。市としては『気づかずに使ってしまうような額ではないのに、悪意があったのではないですか。返してください』と申し上げました。双方の主張は交わらず、裁判で決めてもらうしかないと大阪地裁に提訴しました」』、「摂津市」の「提訴」は当然だ。
・『市が勝訴したものの…… 判決は昨年10月、市が勝訴した。地裁は「株の売買で生計を立てており、過去に多額の税金を納めていたため、不思議に思わなかった」という男性の主張を退け、「株取引の利益がどの程度残るかはまさに死活問題で、税額などを把握していなかったとは考えられない」などと認定。男性は控訴しなかったので、判決が確定した。だが、その後返金はなされていない。 このまま無視を決めていたら、事態は悪化するばかりだ。判決では男性に年利5%を付けて市に返金するよう言い渡されており、約1500万円だと1年間で75万円にもなる。返すのが遅れれば遅れるほど積み重なっていく。 「そうしたことも含めて、早く返金していただきたいとお伝えしています。今後も粘り強く交渉していきたい」と市の担当者は話していた』、「市が勝訴したものの……」「返金はなされていない」、悪質だ。「今後も粘り強く」請求していくほかないだろう。
・『定額給付金の二重振り込み ところで、コロナ関連の給付では、多くの自治体でミスが起きている。 最も混乱したのは2020年5月から全国民に1人当たり10万円が配付された「特別定額給付金」だろう。コロナ禍で初の緊急事態宣言発出(2020年4月7日から)という事態が進行する中で議論がなされ、一度は所得が低下した世帯に30万円を給付するとされた。だが、安倍晋三首相(当時)が4月17日に「一律1人10万円」に転換。4月30日に補正予算が可決されて、バタバタと配付が決まった。 政府がマイナンバーカードを使ったオンライン申請を導入したため、暗証番号を忘れてロックがかかる人が続出し、市区町村の窓口はパニック状態に陥った。 こうした給付を決めるのは政治家で、制度を具体化させるのは省庁だ。しかし、実際に支給の作業をするのは市区町村である。自治体の現場では支給決定前から国の動きをにらみながら準備を進めたが、そもそも余裕のない状態だった。 「そうでなくても行革で職員数はギリギリにまで削っています。コロナ対応の様々な業務が発生し、多忙を極めていました。パンク寸前になった保健所への応援は住民の命にかかわりかねない問題でした。そうした時に給付金の配付が始まったのです。きちんと配付するだけでも大変なのに、マイナンバーカードなどの混乱に足を取られました。二重申請をした人がいないかどうかなどの確認や照合作業にも膨大な人数が割かれました」と、東京23区の区役所幹部が語る。 このように、誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた。 2020年5月18日、福島県天栄村で二重振り込みのミスが発覚した。 「村の指定金融機関のJAで朝から振り込み作業を始めたところ、システムにエラーが表示されたのです」と、総務課職員が話す。) それと同時に「二重に振り込まれている」と住民から役場に通報があった。当時の人口は約5500人。「住民の顔が見える村」ならではのことだろう。 JAはすぐに振り込み作業を停止したが、この日に予定していたのは375世帯1162人分(1億1620万円)だった』、「誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた」、ここまでくると、政府の責任も重大だ。
・『ミスの原因は何だったのか? 総務課ではすぐさま職員が手分けして、申請書に記された番号に電話を掛け、「そのまま口座に残しておいて下さい」とお願いした。「ほぼその日のうちに全員と連絡がつきました。何が起きたのか説明してほしいという人には、職員が訪問しました」と前出の総務課員が語る。 誤って振り込まれたうち、35人分を除いては、翌日までに金融機関で戻す手立てができた。「現金で返したいという村民もいて、職員が受け取りに行きました。こうして3週間後の6月8日には全額が戻りました」。 原因は二重のデータ作成だった。同じデータを2日間にわたってJAに渡していたのである。 「村には事務職員が60人弱しかいません。出納担当は2人。結果としてはチェックが不十分でした。その後は出納室だけでなく、他の課でも改めて確認するようにしました」と総務課では説明する。個人情報が絡むデータは少数で取り扱うのが原則だが、誤りをなくす確認作業は課をまたいで行うことにしたのだった』、「同じデータを2日間にわたってJAに渡していた」、のが「出納担当は2人」なのに、何故発生するのだろうか不可解だ。
・『寝屋川市では1000世帯近くに「二重振り込み」 一方、金融機関で食い止められなかった自治体もある。大阪府寝屋川市だ。市のチェックで翌日振り込まれる1000世帯分近くが「二重振り込み」と分かったが、銀行では既に処理が終わっていた。 寝屋川市で支給ミスが表面化したのは2020年5月21日の振り込みだ。金額が「足りない」と市民から連絡が入った。給付金は世帯ごとに代表者に一括して振り込まれる仕組みになっているのに、額が世帯人数分に足りなかったのだ。そこで、翌日にチェックすると、5月21日分の振り込みでは195世帯が「過少振り込み」になっていた。 その後、全データを検証すると、5月26日に振り込む予定にしていた993世帯2196人分(2億1960万円)が二重になっていると前日に分かった。市は急いで止めようとしたが、前述したように無理だった。 原因は市が独自に構築したコンピュータのシステムだ。 当時の寝屋川市には23万人を超える人口があり、手作業による配付作業などできるはずがなかった。このためシステムを使って配付データを作成したのだが、コロナ禍で企業活動が抑制され、外部に委託すると時間が掛かると分かった。そこで、エクセルを活用し、職員がシステムを作った。「少しでも早く配付したい」という思いからだ。 システムには二重給付を避けるため、振り込みを終えたデータと突き合わせて、重複があれば弾く仕組みを採り入れていた。ところが、993世帯分については振り込みデータが登録されていないという不具合が生じていて、突き合わせができなかった。 その後、さらに56世帯97人分(970万円)でも二重振り込みなどが起きていたと分かる。市は電話や訪問で謝罪し、理解が得られた世帯から納付書を送り、返金分を振り込んでもらった。 これまでに全体の98.9%が戻ってきたとしている』、「993世帯分については振り込みデータが登録」されたのを確認してから、処理すれば、「二重振り込み」などのトラブルは避けられた筈だ。
・『13世帯が最後まで返金に応じなかった 使ってしまったのか、一括では返金できない人もいて、少額に分けて返す人もいた。現在も9世帯が分納をしている。 最後まで返金に応じなかった13世帯については、裁判に訴えた。市が債務名義を取得し、強制執行で預金口座を差し押さえようというのである。執行額は誤支給の1人当たり10万円に加え、1割程度の訴訟費用が上乗せされる。既に5世帯で裁判が終わり、うち3世帯が強制執行などで完納、2世帯は分納するなどしている。 残る8世帯は係争中だが、「裁判所から通知が行っているはずなのに、法廷に姿さえ見せてくれず、市が証拠となる資料を提出するだけの裁判が続いています。家を訪問しても誰も出てきません。住民票はあり、交付申請では本人確認の書類も添えて手続きをしたのに、どうしたことか。預金口座にもほとんど残額がないようです」と、市の担当者はいぶかしがる。 こうして誤支給から2年以上が経過した今も処理が続き、市の負担は大きい。他業務との兼務ではあるが、担当の係(3人)を置いているほどだ。間違いは一瞬でも、後遺症は重く、長く残る』、ゴネ得を許さないためにも訴訟に訴えるのは当然だ。
・『誤支給の処理にも人件費がかかる 処理に当たる人件費もばかにならない。 寝屋川市ではないが、どれくらいかかるか、うかがい知る資料がある。 コロナ禍からさかのぼること約5年前のことだ。消費税が5%から8%に上がった2014年、政府は住民税が非課税となる低所得者を対象に臨時福祉給付金制度を設け、2014年は1人当たり1万円、2015年は6000円、2016年は3000円を支給した。作業を行ったのはもちろん市区町村だ。 香川県高松市では、この給付のためにコンピュータのシステムを構築して、対象者選びなどを行った。しかし、税関係のデータを一部組み込まなかったため、除外されるはずの人にも給付された。 誤りが判明したのは2015年の受け付け期間中だ。制度が始まった2014年からだと、451人に計501万1000円が誤支給されたと分かった。 対象者に連絡を取り、事情を説明して、返還作業をお願いしたのだが、発覚直後の2015年11月10日から12月6日までの間に職員の時間外手当などで40万円あまりが掛かっていた。この数字は当時、市に出された住民監査請求で分かっている。 500万円の返金に対して、わずか1カ月弱で40万円の経費。その後も返還がらみの業務は続いたので、額はこれ以上にかさんだと見られる』、「誤支給の処理にも人件費がかかる」のは当然だが、公正な処理のためであれば、人件費がかかってもやむを得ないと思う。
・『神戸市でも“誤支給”が起きていた コロナ禍に話を戻そう。1人10万円の特別定額給付金に関しては、大都市でも誤支給が発生した。 兵庫県神戸市は、18世帯33人に対して二重に振り込むなどした。 同市は「人口の多い政令指定都市であっても早く支給できるように」と、コンピュータのシステムができあがる前から、手作業でエクセルに入力を開始した。 だが、「入力データの行ずれが起きるなどして人の目で行うチェックは大変でした」と、当時の担当者が語る。誤支給はそうした影響で発生したようだ。 さらにこの担当者は「制度上、やむを得ない“誤支給”もありました」と振り返る。 例えば、DV(家庭内暴力)。 「給付金は世帯ごとの支給ですが、妻が避難している場合は別世帯で配らなければなりません。しかし、避難中と認められる前に、夫から給付申請があれば妻の分も含めて支給されてしまいます。国の通知では、加害側の夫に返還請求しなければならないのに、『妻が本当に10万円もらったかどうか、俺は分からない』『確認するため妻の連絡先を教えてくれ』などと言われ、返金のお願いには大変苦労しました」 このような誤支給はどうしたら避けられるか。「内部の議論では、『全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなるだろう。全員に個別の番号があったら、アメリカのように申請すら要らない』という話になりました」と話す』、「全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなる」、その通りだが、実現するのはまだ先だ。
・『「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」 一連の作業を通しては、ミスが起きかねない要素も多々あった。申請書類に添付された預金口座の番号が書き間違えられていたり、通帳に記載された金融機関の支店が統廃合でなくなっていたりしたのだ。「各戸へ書類を郵送するにも、何十万世帯分の封書を急に印刷してくれる事業所は限られていて、調整が難しかった」と語る。 誤支給が見つかった時の対応に、回り道はなかったようだ。 「すぐに連絡をして説明し、誠意を込めて謝罪しました。その人には何ら瑕疵(かし)がないのです。むしろ返金作業で迷惑を掛けてしまいます。たいていの場合は誤支給を知らず、驚いていました。怒るよりもびっくりされていて、真摯に謝ると、気は心というか、通じる部分がありました」 村社会のような人間関係がない都市部では特にそうだろう。 「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び。これは突発業務であろうが、通常業務であろうが変わりません。仕事の基本ではないかと思います」。そう淡々と話していた』、「「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」は自治体の大小を問わず、徹底すべきだ。
先ずは、本年5月25日付けデイリー新潮「4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”」を紹介しよう。
・『山口県阿武町で起きた誤送金事件は、劇的な結末を迎えた。回収が不可能と思われていた絶望的な状況から一転、町は誤送金した金額の9割に及ぶ約4300万円の回収に成功したのだ。町を救った“ヒーロー”は、昭和30年生まれの地元・山口県の弁護士。同業者の間でも、思いがけない奇策に注目が集まっているという』、新聞報道では込み入った事件が理解し難いので、大いに興味深い。
・『ドラマのような大逆転劇 「ポイントは回収先として、お金を持っていない24歳男性ではなく、決済代行業者に目をつけたこと。しかも、国税徴収法に基づき、わずかしかないであろう滞納税金に基づき、男性が決済代行業者に有していたとされる債権を全額差し押さえるという奇策に驚きました。やはり、自治体の弁護士は考えることが違うなと」 こう興奮気味に語るのは、「渥美坂井法律事務所弁護士法人 麹町オフィス」代表の渥美陽子弁護士だ。渥美氏ばかりではない。いま弁護士界隈のTwitterには、奇跡の債権回収を成し遂げた阿武町の顧問弁護士に対し、「ドラマのようだ」「これぞプロ」といった賞賛の嵐が吹き荒れているのだ。 大ピンチからの逆転劇を見せたのは、山口県で弁護士事務所を営む中山修身氏。山口県の法曹界では名の知れた、御年67歳の弁護士である。誤振込み問題が発生してからは、中山氏に対する批判の声も大きかった。「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」という声もその一つだ。 だが、「債権回収業務は結果がすべて。使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だと皆が褒め称えています」(渥美氏)。まさに、9回裏に一発大逆転のホームランを放ったのである』、確かに「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」との問題はあるにしても、「使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だ」、その通りだ。
・『公序良俗に反する契約 いったい中山氏はどのような手法で、不可能と思われた回収を成し遂げたのか。 田口容疑者は、自分の口座に振り込まれた4630万円のほぼすべてを、オンラインカジノに使ったと供述している。 カジノ口座への資金移動は、デビット決済と決済代行業者への振込みだった。賭博罪がある日本では、海外にサーバーがあったとしてもオンラインカジノでのギャンブルは違法。そのため、カジノサイトへ多額の資金を直接移動させるのは難しく、決済代行業者を利用するのが一般的だ。田口容疑者は約340万円をデビット決済で動かしたが、残りの約4300万円を国内3社の決済代行業者3社の口座に移した。 結論から言えば、中山氏はこの3社に詰め腹を切らせたわけである。 「報道によると、阿武町は男性と決済代行業者との間の委任契約は、公序良俗に反する契約で無効だと主張したようです。この主張が通ると考えるならば、決済代行業者は、口座に入金されたお金を男性に返さなければなりません。阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえたのだと考えられます」(渥美氏)』、「阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえた」、誠に見事な方法だ。
・『恫喝 その際、中山氏が持ち出したのが「国税徴収法」であった。金額は不明だが、田口容疑者はなんらかの税金を滞納していたようだ。 「滞納処分では、民間の案件とは異なり、裁判所で判決を取らなくても徴収職員が滞納者の財産を差し押さえることができます。だから、町は男性の預金とみなされた決済代行業者の預金をいきなり差し押さえることが可能だったのです」(同) それだけではない。その際に、法に基づき”恫喝”したのだ。中山氏は、決済代行業者の口座がある二つの銀行に対して、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」8条1項に基づき、犯罪による収益と関係する「疑わしい取引」が行われているとして金融庁への届出と、同庁の定める「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応を求めた。 「あなたたちは怪しい取引をしていますよねと暗に圧力をかけたのです。決済代行業者にもやましいところがあったのでは。これ以上突っ込まれることは避けたいと考え、自ら町に全額を返金してしまったのでしょう」(渥美氏)』、「国税徴収法」を持ち出したり、「「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応」、を求めるなど地方の弁護士とは思えないような獅子奮迅の働きには、驚かされた。
・『決済代行業者は泣き寝入りか? 町は、決済代行業者の預金を差し押さえたが、そこから最終的に受け取ることができるのは、あくまで、滞納されていた税金の額に限られる。しかも、決済代行業者は約4300万円を町に振り込んだため、滞納税金との差額は田口容疑者が自分のものとして、返還を求めることができた。他方、町も田口容疑者に対し、誤送金した4630万円の返還を求めることができる状況にあった。町は、これらの返還請求権を事実上相殺する“ウルトラC的手法”で、田口容疑者に対する債権の回収に成功したわけである。 割を食ったのは決済代行業者である。現在、山口県警が捜査にあたっているが、海外で運営されているオンラインカジノの金の動きを追うのは困難で、田口容疑者が実際にギャンブルで使いきったかどうかはわかっていない。だが、もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる。 「それが彼らのリスク判断なのでしょう。決済代行業者が男性に対して、損害賠償請求を検討するかもしれませんが、男性は無資力でしょうからそこから回収は難しいのでは」(同)』、「もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる」、「決済代行業者」も「自腹で穴埋め」せざるを得ないところに追い込まれたのだろう。
・『反マスク主義者? しかも、影響は今回のケースにとどまらない可能性があるという。 「決済代行業者が阿武町からの請求を認めて男性からの入金を全額返金したということは、自ら公序良俗に反する取引をしていたと認めてしまったに等しい。今後、オンラインカジノで負けた利用者が、決済代行業者に対し公序良俗に反する取引だったため無効であり、入金額相当の債権があると主張し始めるかもしれません」(渥美弁護士) 決済代行業者にとっては思わぬ波及効果が起きかねないというのである。見事、阿武町を救ったヒーローになった中山氏であるが、24日の記者会見では、突飛なことを言い出して、「変な弁護士」とのレッテルも貼られたという。 「マスクをつけないで会見に臨んでいたのですが、いきなり話の途中で、『申し訳ありませんけれども、私はそういう義務に従うつもりがない。遵法精神がない、同調しないタイプの人間ですので』と断り出したので、ざわつきました」(地元記者) これだけのことを成し遂げたのだから、多少の変人ぶりは目をつぶってもいいのかもしれない』、信念でマスクをしないほど同調圧力に屈しない「変人」だからこそ、「阿武町を救ったヒーローにな」れたのかも知れない。
次に、5月29日付け文春オンライン「「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/54706
・『山口県阿武町役場が新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円を誤って24歳の男性に振り込み、「オンラインカジノで使い果たしたから返せない」と突っぱねられた事件。 「小さな自治体では、まともな行政ができるわけがない」などと批判する著名人もいるが、誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」と指摘する市役所職員もいる。 コロナが流行した当初は「間違ってもいいから、とにかく早くカネをばらまけ」と主張する識者もいた。確かに困窮した人には一刻も早く届ける必要がある。が、誤支給を経験した自治体では役所だけでなく、住民にも深い傷が残った。それが一気に顕在化したのが阿武町だった。 阿武町ではオンラインカジノの決済代行業者から約4300万円が役場に“返金”されるなどしたが、誤支給の判明から2年半が過ぎても、まだ返金されていない自治体がある。大阪府摂津市だ。ただしこの場合、コロナ関連ではなく、住民税還付の事例である』、「誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」、実務をやらされる地方自治体は大変なようだ。
・『1502万円も過大に還付 間違いが起きたのは2018年春。市役所の課税部門で納税申告書類をコンピュータ入力していた時、本来は166万とすべきところを職員が1ケタ多く打ち込んだ。このため住民の男性に1502万円も過大な住民税を還付してしまった。 だが、市役所で気づく職員はなく、翌19年の課税作業も終えた。「おかしい」と指摘したのは大阪府だった。 摂津市の担当者が説明する。 「国や府は毎年、自治体の課税データの比較を行っています。その過程で摂津市の数値は年度間の乖離(かいり)が大きいと分かり、府の担当者から『一度確認して下さい』と連絡が入りました。『ええっ』ということで、2019年春の課税データを調べ直したのですが、これは合っていました。 『前年の数字がちょっと大きいな』とさかのぼって調べると、2018年に過大な還付をしていたと分かりました。税関連では特に慎重にチェックをしてきたはずなのですが、膨大な事務量となる時期だけに漏れてしまったようでした』、「2018年に過大な還付をしていた」のが、すぐに判明しないような会計システムにも問題がありそうだ。
・『謝罪・説明を重ねるも裁判に 摂津市は慌てて男性に連絡し、お詫びの文章も届けた。事情説明にも訪ねた。2019年10月のことだ。 「事情は分かっていただけたようでした。すぐに返金してほしいとお願いしたのですが、これには明確な意思表示がありませんでした。その後も何度もお願いしたのですけれど……」と、市の担当者は表情を曇らせる。 翌年の2020年2月、男性は弁護士を立て、その後は代理人同士の話し合いになった。) 「3月ぐらいになって、『返還義務を負うにしても、気づかずに使ってしまったものについては返せない』と通告されました。市としては『気づかずに使ってしまうような額ではないのに、悪意があったのではないですか。返してください』と申し上げました。双方の主張は交わらず、裁判で決めてもらうしかないと大阪地裁に提訴しました」』、「摂津市」の「提訴」は当然だ。
・『市が勝訴したものの…… 判決は昨年10月、市が勝訴した。地裁は「株の売買で生計を立てており、過去に多額の税金を納めていたため、不思議に思わなかった」という男性の主張を退け、「株取引の利益がどの程度残るかはまさに死活問題で、税額などを把握していなかったとは考えられない」などと認定。男性は控訴しなかったので、判決が確定した。だが、その後返金はなされていない。 このまま無視を決めていたら、事態は悪化するばかりだ。判決では男性に年利5%を付けて市に返金するよう言い渡されており、約1500万円だと1年間で75万円にもなる。返すのが遅れれば遅れるほど積み重なっていく。 「そうしたことも含めて、早く返金していただきたいとお伝えしています。今後も粘り強く交渉していきたい」と市の担当者は話していた』、「市が勝訴したものの……」「返金はなされていない」、悪質だ。「今後も粘り強く」請求していくほかないだろう。
・『定額給付金の二重振り込み ところで、コロナ関連の給付では、多くの自治体でミスが起きている。 最も混乱したのは2020年5月から全国民に1人当たり10万円が配付された「特別定額給付金」だろう。コロナ禍で初の緊急事態宣言発出(2020年4月7日から)という事態が進行する中で議論がなされ、一度は所得が低下した世帯に30万円を給付するとされた。だが、安倍晋三首相(当時)が4月17日に「一律1人10万円」に転換。4月30日に補正予算が可決されて、バタバタと配付が決まった。 政府がマイナンバーカードを使ったオンライン申請を導入したため、暗証番号を忘れてロックがかかる人が続出し、市区町村の窓口はパニック状態に陥った。 こうした給付を決めるのは政治家で、制度を具体化させるのは省庁だ。しかし、実際に支給の作業をするのは市区町村である。自治体の現場では支給決定前から国の動きをにらみながら準備を進めたが、そもそも余裕のない状態だった。 「そうでなくても行革で職員数はギリギリにまで削っています。コロナ対応の様々な業務が発生し、多忙を極めていました。パンク寸前になった保健所への応援は住民の命にかかわりかねない問題でした。そうした時に給付金の配付が始まったのです。きちんと配付するだけでも大変なのに、マイナンバーカードなどの混乱に足を取られました。二重申請をした人がいないかどうかなどの確認や照合作業にも膨大な人数が割かれました」と、東京23区の区役所幹部が語る。 このように、誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた。 2020年5月18日、福島県天栄村で二重振り込みのミスが発覚した。 「村の指定金融機関のJAで朝から振り込み作業を始めたところ、システムにエラーが表示されたのです」と、総務課職員が話す。) それと同時に「二重に振り込まれている」と住民から役場に通報があった。当時の人口は約5500人。「住民の顔が見える村」ならではのことだろう。 JAはすぐに振り込み作業を停止したが、この日に予定していたのは375世帯1162人分(1億1620万円)だった』、「誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた」、ここまでくると、政府の責任も重大だ。
・『ミスの原因は何だったのか? 総務課ではすぐさま職員が手分けして、申請書に記された番号に電話を掛け、「そのまま口座に残しておいて下さい」とお願いした。「ほぼその日のうちに全員と連絡がつきました。何が起きたのか説明してほしいという人には、職員が訪問しました」と前出の総務課員が語る。 誤って振り込まれたうち、35人分を除いては、翌日までに金融機関で戻す手立てができた。「現金で返したいという村民もいて、職員が受け取りに行きました。こうして3週間後の6月8日には全額が戻りました」。 原因は二重のデータ作成だった。同じデータを2日間にわたってJAに渡していたのである。 「村には事務職員が60人弱しかいません。出納担当は2人。結果としてはチェックが不十分でした。その後は出納室だけでなく、他の課でも改めて確認するようにしました」と総務課では説明する。個人情報が絡むデータは少数で取り扱うのが原則だが、誤りをなくす確認作業は課をまたいで行うことにしたのだった』、「同じデータを2日間にわたってJAに渡していた」、のが「出納担当は2人」なのに、何故発生するのだろうか不可解だ。
・『寝屋川市では1000世帯近くに「二重振り込み」 一方、金融機関で食い止められなかった自治体もある。大阪府寝屋川市だ。市のチェックで翌日振り込まれる1000世帯分近くが「二重振り込み」と分かったが、銀行では既に処理が終わっていた。 寝屋川市で支給ミスが表面化したのは2020年5月21日の振り込みだ。金額が「足りない」と市民から連絡が入った。給付金は世帯ごとに代表者に一括して振り込まれる仕組みになっているのに、額が世帯人数分に足りなかったのだ。そこで、翌日にチェックすると、5月21日分の振り込みでは195世帯が「過少振り込み」になっていた。 その後、全データを検証すると、5月26日に振り込む予定にしていた993世帯2196人分(2億1960万円)が二重になっていると前日に分かった。市は急いで止めようとしたが、前述したように無理だった。 原因は市が独自に構築したコンピュータのシステムだ。 当時の寝屋川市には23万人を超える人口があり、手作業による配付作業などできるはずがなかった。このためシステムを使って配付データを作成したのだが、コロナ禍で企業活動が抑制され、外部に委託すると時間が掛かると分かった。そこで、エクセルを活用し、職員がシステムを作った。「少しでも早く配付したい」という思いからだ。 システムには二重給付を避けるため、振り込みを終えたデータと突き合わせて、重複があれば弾く仕組みを採り入れていた。ところが、993世帯分については振り込みデータが登録されていないという不具合が生じていて、突き合わせができなかった。 その後、さらに56世帯97人分(970万円)でも二重振り込みなどが起きていたと分かる。市は電話や訪問で謝罪し、理解が得られた世帯から納付書を送り、返金分を振り込んでもらった。 これまでに全体の98.9%が戻ってきたとしている』、「993世帯分については振り込みデータが登録」されたのを確認してから、処理すれば、「二重振り込み」などのトラブルは避けられた筈だ。
・『13世帯が最後まで返金に応じなかった 使ってしまったのか、一括では返金できない人もいて、少額に分けて返す人もいた。現在も9世帯が分納をしている。 最後まで返金に応じなかった13世帯については、裁判に訴えた。市が債務名義を取得し、強制執行で預金口座を差し押さえようというのである。執行額は誤支給の1人当たり10万円に加え、1割程度の訴訟費用が上乗せされる。既に5世帯で裁判が終わり、うち3世帯が強制執行などで完納、2世帯は分納するなどしている。 残る8世帯は係争中だが、「裁判所から通知が行っているはずなのに、法廷に姿さえ見せてくれず、市が証拠となる資料を提出するだけの裁判が続いています。家を訪問しても誰も出てきません。住民票はあり、交付申請では本人確認の書類も添えて手続きをしたのに、どうしたことか。預金口座にもほとんど残額がないようです」と、市の担当者はいぶかしがる。 こうして誤支給から2年以上が経過した今も処理が続き、市の負担は大きい。他業務との兼務ではあるが、担当の係(3人)を置いているほどだ。間違いは一瞬でも、後遺症は重く、長く残る』、ゴネ得を許さないためにも訴訟に訴えるのは当然だ。
・『誤支給の処理にも人件費がかかる 処理に当たる人件費もばかにならない。 寝屋川市ではないが、どれくらいかかるか、うかがい知る資料がある。 コロナ禍からさかのぼること約5年前のことだ。消費税が5%から8%に上がった2014年、政府は住民税が非課税となる低所得者を対象に臨時福祉給付金制度を設け、2014年は1人当たり1万円、2015年は6000円、2016年は3000円を支給した。作業を行ったのはもちろん市区町村だ。 香川県高松市では、この給付のためにコンピュータのシステムを構築して、対象者選びなどを行った。しかし、税関係のデータを一部組み込まなかったため、除外されるはずの人にも給付された。 誤りが判明したのは2015年の受け付け期間中だ。制度が始まった2014年からだと、451人に計501万1000円が誤支給されたと分かった。 対象者に連絡を取り、事情を説明して、返還作業をお願いしたのだが、発覚直後の2015年11月10日から12月6日までの間に職員の時間外手当などで40万円あまりが掛かっていた。この数字は当時、市に出された住民監査請求で分かっている。 500万円の返金に対して、わずか1カ月弱で40万円の経費。その後も返還がらみの業務は続いたので、額はこれ以上にかさんだと見られる』、「誤支給の処理にも人件費がかかる」のは当然だが、公正な処理のためであれば、人件費がかかってもやむを得ないと思う。
・『神戸市でも“誤支給”が起きていた コロナ禍に話を戻そう。1人10万円の特別定額給付金に関しては、大都市でも誤支給が発生した。 兵庫県神戸市は、18世帯33人に対して二重に振り込むなどした。 同市は「人口の多い政令指定都市であっても早く支給できるように」と、コンピュータのシステムができあがる前から、手作業でエクセルに入力を開始した。 だが、「入力データの行ずれが起きるなどして人の目で行うチェックは大変でした」と、当時の担当者が語る。誤支給はそうした影響で発生したようだ。 さらにこの担当者は「制度上、やむを得ない“誤支給”もありました」と振り返る。 例えば、DV(家庭内暴力)。 「給付金は世帯ごとの支給ですが、妻が避難している場合は別世帯で配らなければなりません。しかし、避難中と認められる前に、夫から給付申請があれば妻の分も含めて支給されてしまいます。国の通知では、加害側の夫に返還請求しなければならないのに、『妻が本当に10万円もらったかどうか、俺は分からない』『確認するため妻の連絡先を教えてくれ』などと言われ、返金のお願いには大変苦労しました」 このような誤支給はどうしたら避けられるか。「内部の議論では、『全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなるだろう。全員に個別の番号があったら、アメリカのように申請すら要らない』という話になりました」と話す』、「全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなる」、その通りだが、実現するのはまだ先だ。
・『「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」 一連の作業を通しては、ミスが起きかねない要素も多々あった。申請書類に添付された預金口座の番号が書き間違えられていたり、通帳に記載された金融機関の支店が統廃合でなくなっていたりしたのだ。「各戸へ書類を郵送するにも、何十万世帯分の封書を急に印刷してくれる事業所は限られていて、調整が難しかった」と語る。 誤支給が見つかった時の対応に、回り道はなかったようだ。 「すぐに連絡をして説明し、誠意を込めて謝罪しました。その人には何ら瑕疵(かし)がないのです。むしろ返金作業で迷惑を掛けてしまいます。たいていの場合は誤支給を知らず、驚いていました。怒るよりもびっくりされていて、真摯に謝ると、気は心というか、通じる部分がありました」 村社会のような人間関係がない都市部では特にそうだろう。 「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び。これは突発業務であろうが、通常業務であろうが変わりません。仕事の基本ではないかと思います」。そう淡々と話していた』、「「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」は自治体の大小を問わず、徹底すべきだ。
タグ:地方自治体 「国税徴収法」を持ち出したり、「「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応」、を求めるなど地方の弁護士とは思えないような獅子奮迅の働きには、驚かされた。 「阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえた」、誠に見事な方法だ。 確かに「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」との問題はあるにしても、「使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だ」、その通りだ。 デイリー新潮「4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”」 新聞報道では込み入った事件が理解し難いので、大いに興味深い。 (その1)(4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”、「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ) 「もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる」、「決済代行業者」も「自腹で穴埋め」せざるを得ないところに追い込まれたのだろう。 信念でマスクをしないほど同調圧力に屈しない「変人」だからこそ、「阿武町を救ったヒーローにな」れたのかも知れない。 文春オンライン「「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ」 「誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」、実務をやらされる地方自治体は大変なようだ。 「2018年に過大な還付をしていた」のが、すぐに判明しないような会計システムにも問題がありそうだ。 「摂津市」の「提訴」は当然だ。 「市が勝訴したものの……」「返金はなされていない」、悪質だ。「今後も粘り強く」請求していくほかないだろう。 「誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた」、ここまでくると、政府の責任も重大だ。 「同じデータを2日間にわたってJAに渡していた」、のが「出納担当は2人」なのに、何故発生するのだろうか不可解だ。 「993世帯分については振り込みデータが登録」されたのを確認してから、処理すれば、「二重振り込み」などのトラブルは避けられた筈だ。 ゴネ得を許さないためにも訴訟に訴えるのは当然だ。 「誤支給の処理にも人件費がかかる」のは当然だが、公正な処理のためであれば、人件費がかかってもやむを得ないと思う。 「全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなる」、その通りだが、実現するのはまだ先だ。 「「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」は自治体の大小を問わず、徹底すべきだ。