政府財政問題(その8)(インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環、ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔) [経済政策]
政府財政問題については、3月19日に取上げた。今日は、(その8)(インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環、ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔)である。
先ずは、4月22日付け東洋経済オンライン「インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/583890
・『日本は長年、デフレ傾向の経済下で財政赤字を続けてきたが、インフレ下ではどのように変化するのか。 インフレは、見かけ上の名目GDP(国内総生産)を膨らますため、公的債務残高の対名目GDP比を低下させる効果があったり、実質的な債務負担を減らしたりすることがたびたび強調されてきた。そのような楽観的な見方でこれからの状況に臨んでいいのか』、興味深そうだ。
・『石油高と経済の過熱が招いた「狂乱物価」 日本人がもう一度、インフレ時代の経済や財政を思い起こすためには歴史に学ぶことが大切だ。ここでは、3つのポイントに分けて、第1次石油ショックの下で典型的なインフレ対応の緊縮型予算が組まれた1974年~1975年度の状況を振り返り、今後の行方を読み解いていこう。 第1次石油ショックは、1973年10月に第4次中東戦争が勃発し、ペルシャ湾岸6カ国が石油価格を21%引き上げ、米欧日などに向けた石油生産を毎年5%ずつ引き下げると打ち出したことで火がついた。 日本ではそれ以前から、田中角栄政権の「日本列島改造論」ブームで経済が過熱しインフレとなっており、石油高や買い占め・売り惜しみが加わったことで「狂乱物価」へ突入した。 CPIの伸び率は1974年に入ると、実に20%を超え、以後同年内は10%台に戻ることはなかった。1975年初頭からは、CPIは明確に下がり始め、同年中にインフレは沈静化していった。CPI上昇率は、1974年度平均で20.9%、1975年度平均では10.4%を記録した。 インフレ傾向にある現在だが、物価上昇の激しさは第1次石油ショック時が圧倒的だ。 またもう1つ、現在との違いで強調しておくべき点は、賃金も物価と同様に大幅に上がったということだ。 当時の現金給与総額の伸び率は、1973年度が21.9%、1974年度が29.1%、1975年度が12.4%を記録しており、第1次石油ショックは石油高騰だけを原因とするのではなく、大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴だった。) これに対し、現在の現金給与総額は1~2月で前年同月比1%強であり、春闘も定期昇給込みの平均賃上げ率が2%強と振るわなかった。目下の日本銀行は「悪い円安」に見舞われても、かたくなに超低金利政策を維持しようとしているが、その主たる理由は賃上げの鈍さに代表される経済停滞にある。 第1次石油ショック時の日本銀行は景気が過熱する中、インフレ退治の姿勢を鮮明に打ち出し、1973年12月には政策金利である公定歩合を9%まで引き上げた。現在とは異なって、インフレ沈静化を優先し、急速な金融引き締めで景気を冷やす「オーバーキル」を厭わなかったわけだ。 こうした急速な金融引き締めにより、1974年度には、インフレ影響を除いた実質経済成長率で前年度比0.5%減と戦後初のマイナス成長を記録した。翌1975年度も景気は低迷し、それとともにインフレは沈静化していった』、確かに「第1次石油ショック」時は、「大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴」、その通りだ。
・『今日的な意味として引き出せる「3つの教訓」 このように第1次石油ショック時の状況は、現在とは大きく異なるが、今後の経済・財政を展望するため、引き出せる3つの教訓やポイントがある。 1つ目が「税収」の行方だ。 第1次石油ショック時に景気後退とともに顕在化したのが、税収不足だった。 上表では、1974年度の租税及び印紙収入は前年度比12.4%増となっているが、これは本来なら1975年度の税収となるべきものを1974年度補正予算に繰り入れた当時の奇策のためだ。 その反動を含めて1975年度は同8.5%減もの税収減に見舞われ、これを埋めるために国債発行による収入が約2.4倍に跳ね上がった。日本の財政が大規模な赤字国債依存を始めたのが、この1975年度である。 では、こうした状況を現在に当てはめるとどうなるか。 先述のように現在の日本銀行は超低金利政策の継続方針を掲げ、大幅な引き締めに転じる可能性は極めて小さい。そのため、第1次石油ショック時ほどのドラスティックな景気後退はないだろう。 しかし、原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない。鈴木俊一財務相が「悪い円安」と警戒するゆえんだ。) 2つ目の教訓は、「インフレになったら歳出を削減すればいい」と言われてきたが、それは机上の空論であるということだ。 すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想される。 1974~1975年度予算では、総需要抑制(緊縮)の方針が打ち出された。実際、当初予算ベースの公共事業関係費では、当時としては異例の横ばい(1974年度伸び率ゼロ%、1975年度2.4%増)が打ち出された。予算執行の面でもあの手この手の繰り延べが行われた。 ただ、前出の表にあるように補正予算を含めた最終的な決算では、公共事業費も一定の増加(1974年度20.0%増、1975年度13.5%増)を示している。世論や関連業界、政治家などの要望が強い中で、「緊縮財政」を実行することの難しさがわかる』、①原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない、②すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想、なるほど。
・『物価の上昇が進めば、歳出も増える 一方で、意識的に大幅増の予算が組まれたのが、社会保障関係費だった。 財務総合政策研究所編『昭和財政史 昭和49~63年度』によれば、当時の橋本収主計局長は次のように述べている。 「一番心配したのは、福祉の後退だと言われることなんです。公共事業というのは、産業基盤の整備とか道路ばかりと思っているけど、そうじゃなくて住宅・下水とか公園とか漁港だとか、いっぱいあるわけですね。必ず福祉の後退と言われる。(中略)当時の新聞を見てみると、やっぱり福祉の後退だということを言っていますよね、公共事業を減らしたことは。したがって、そこで年金だとか、生活保護基準とか、そういうものは思い切って増やすということをした」 インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化した。 また、物価上昇により、当時の名目経済成長率は大幅なプラス(1974年度18.6%増、1975年度10.0%増)となったが、国債発行拡大はそれ以上の伸び率となったため、公債残高(対名目GDP比)も悪化した。 当時の加藤隆司主計局総務課長は「予算の伸びは大きいようですが、中はがらんどうなんですよね。物価、賃金もみな3割上がっちゃったんですよ」(『昭和財政史 昭和49~63年度』)と話している。 「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではないことは歴史が示している。 当時と現在では社会保障の制度や給付水準も違い、一概に比較はできないことも事実だろう。ただ、インフレとなれば、政府としては物価変動の影響を受けやすい階層に対する支援に傾くのは、いつの時代でも自然と考えてよい。物価上昇が進めば、低所得者層や中小企業などへの支援策を求める声は勢いを増すだろう。) インフレに脆弱な所得層に対する支援は必要だとしても、どこまでインフレ対策を広げるかは、3つ目の重要なポイントだ。 財政支出で物価上昇の大きい財の消費の支援を行うことは、総需要の落ち込みを防ぎ、景気や税収を下支えするという効果はある。しかし、一方で需要減少による価格低下という市場原理を弱めることも意味する。とりわけ現在の日本では資源などの輸入数量が減らず、経常収支の悪化が止まらないという負の側面があることに注意すべきだ。 超低金利政策の継続(アメリカとの金利差が拡大)によって円安をサポートしながら、ガソリン補助金や購入支援など経常収支の悪化を促進する財政政策を同時に進めれば、構造的に①円安が一段と進展→②輸入物価が上昇→③さらにインフレ対策の財政支出が必要→④経常収支が悪化→⑤円安が進行という悪性のスパイラルが発生しかねない。 さらに財政赤字拡大そのものも、「通貨の信認」という面からは円安を促進するものであり、こうした悪性のスパイラルを放置しておけば、円安を通じて財政危機のリスクまでも高めてしまうだろう』、③インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化」、「「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではない」、やはり歴史的事実で検証してみるべきだ。
・『インフレ対策をむやみに拡大するのは危うい このように考えれば、財政赤字の拡大を厭わずにむやみにインフレ対策を拡大するというやり方は回避すべきだ。野党の一部には「消費減税」など極端な主張が見られ、政策案を精査していくことは不可欠だ。物価上昇で真に脆弱な層に絞り込んだ対策こそが求められる。 加えて、金融政策においても過度な引き締めは論外であるものの、世界情勢の変化に柔軟に対応し、超低金利政策から多少の引き締めへ修正することが求められるだろう。コロナ禍やウクライナ危機を背景とした供給制約やアメリカのドル金利上昇は非常に大きな構造変化だ。リーマンショック以降、世界的な低インフレが続いた中で継続できた超低金利政策や財政赤字の垂れ流しが、いつまでも持続可能だと錯覚してはならない。 日本銀行が引き締め方向に金融政策を微修正すれば、日本銀行や政府の利払いでコストが発生するが、現状ではまだ対応可能な範囲だろう。 アメリカ国債の長期金利上昇が一服し債券購入の含み損リスクが低減すれば、国内の銀行や機関投資家は円との金利差から、日本銀行当座預金に置いた資金をアメリカ債券にシフトし、さらなる円安が起きる可能性もある。 現在の政府や日本銀行のように資源高や世界的なインフレが沈静化することを待つだけでは心許ない。対応が遅れれば遅れるほど、将来、大幅な政策修正(金利上昇)リスクに直面し、そのときの危機のマグマは計り知れない』、現在は国債利回りの上昇を抑えるため、国債オペを指値で行うという極めて異例の方式でやっている。もう異次元緩和も完全に限界に達したようだ。
次に、6月13日付けエコノミストOnline「ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220621/se1/00m/020/058000c
・『足元で高値が続いている原油価格。その対策として導入された補助金政策は実効性に疑問がある』、私もかねてから「実効性に疑問」を感じていただけに、興味深そうだ。
・『政府の原油高騰対策は“石油業界の支援”策=小嶌正稔 2022年4月26日、政府は「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を発表した。これにより、時限的・緊急避難措置とされていた「原油価格高騰の激変緩和措置」は拡充され、「原油価格高騰対策」として、7月10日の参議院選挙後の9月末まで延長されることになった。原油価格高騰対策に投入される国費は、総合緊急対策全体の4分の1を占める1.5兆円にもなる。 原油価格高騰対策が動き出したのは21年11月。開始時は時限的・緊急避難的な激変緩和措置と位置付けられ、とにかく迅速な対策実施に重点が置かれた。このため民間企業(石油元売り会社)に国費(補助金)を支給するという、通常は考えられない政策が動き出した。 具体的には、レギュラーガソリンの全国平均小売価格1リットル当たり170円を基準価格とし、価格が上昇した分は、1リットル当たり5円を上限として、石油元売り会社に補助金を支給する。基準価格は4週間ごとに1円ずつ切り上げるとした。この段階的な切り上げは、対策終了時を意識した激変緩和の措置だ』、こんな直接的な補助金制度は異例中の異例だ。発展途上国がよくやるが、先進国ではあまり例がない。
・『不可解な算定基準 対策は22年1月27日から実施されたが、原油価格の高騰は止まらず、2月21日には上限の5円を超えた。2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、政府は3月10日から補助金支給の上限を25円に引き上げたほか、基準価格の算定方式を変えた。 3月7日までは原油価格の変動分を補助金の算定基準としてきたが、これに小売価格の変動分を追加した。このため、仮にガソリンスタンドが自社の経営状況によって小売価格を変更すれば、それが補助金の金額に反映される仕組みとなった。 表1に4月19日までの補助金支給額と価格抑制効果をまとめた。抑制効果の差額がマイナスになっているのは、補助金相当分まで価格が下がっていないことを意味している。 原油価格の変動のみを基準としていた1月31日~3月7日の補助金支給額の累計は1リットル当たり27.1円で、価格上昇抑制効果は同25.3円。差の1.8円は徐々に解消される程度の水準だった。 しかし、新たな算定基準後は、支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は9.2円に拡大した。それを油種別に見ると、レギュラーガソリンが11円、軽油が10.8円、灯油は12.6円に拡大している。これらの合計34.4円が、支給額と抑制効果の差となる。これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がないのではないか。 石油元売り各社への補助金は、4月から支給上限額が1リットル=25円から35円に引き上げられた。さらに補助金の基準価格は、172円程度から168円程度に引き下げられ、基準価格を超えた分は2分の1を支援する仕組みとなった。 この変更は話題となっている「トリガー条項」と微妙に関係している。この場合の「トリガー条項」とは、揮発油税(ガソリン税)の暫定税率を一時的に停止する税制の条項で、総務省が毎月発表しているガソリンの全国平均小売価格が、3カ月連続で160円を超えた場合、暫定税率分=25.1円を停止し、原油高騰が一段落し、3カ月連続で130円を下回れば税率を元に戻すという施策だ。今までトリガー条項が発動されたことはない。 トリガー条項の160円は、10年当時の消費税5%を差し引くと本体152.38円で、これに現在の消費税10%を掛ければ167.6円となる。前述の基準価格を172円から168円に引き下げたのは、実はトリガー条項を発動することなく、これを適用した結果だ。補助金の35円への増額も同じで、4月4日の全国平均小売価格は、補助金がないと仮定すると、203円程度になる。これと168円との差は35円で、トリガー条項の基準がそのまま適用されているといえよう。 トリガー条項解除の要件の130円は、現在の税率に直すと136円で、原油をめぐる情勢を考えれば、当面の間は136円に戻るとは考えにくい。政府はトリガー条項を実質的に発動して、後のことは別途考えるという姿勢なのだろう』、「支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は」「1.8円」から「9.2円に拡大」、「これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がない」、その通りだ。
・『基準価格にも疑問 ただし、ここで注意が必要だ。トリガー条項と今回の緊急対策とでは、算定基準となる全国平均小売価格に根本的な違いがある。 トリガー条項の小売平均価格は、総務省の「小売物価統計調査」の価格であり、その価格は消費者が購入したフルサービスの現金ガソリン価格だ。現在は70%以上のガソリンがセルフサービスのガソリンスタンドで購入されていることを考えれば、時代遅れの規定ともいえる。この価格には、掛け売りや会員価格、価格割引の給油カードなどは含まれないため、消費者が購入する最も高い価格が基準となっている。ただし、この価格は消費者が実際に購入した価格の統計データだ。 一方、今回の緊急対策の全国平均小売価格は、あくまでガソリンスタンドの販売価格だ。ガソリンスタンドの価格は、現金価格、会員価格、カード会員価格など9種類の価格が存在し、看板にも複数の価格が掲示されている。緊急対策の全国平均小売価格は、小売業者が報告する報告価格であり、業者の価格意識が反映された価格のため、透明性は希薄だ。ドイツの価格表示は、基本的にそのガソリンスタンドで販売される最低価格が報告対象だ。政府は補助金を投入するならば最低限の価格を基準とするべきだろう。 ガソリンスタンドでの販売価格は、各ガソリンスタンドが決める。各店で小売価格に差があるのは、製油所や油槽所からの距離など、コスト面で違いがあるからといわれている。しかし、実際はこれでは説明できない。全国ベースで石油元売り会社からの卸売価格(22年3月時点)の差を見ると、最高で3.4円の開きがあるが、小売価格の差は12.9円もある(表3)。 表2は、製油所のある県の22年3月の小売価格、卸売価格、小売りマージンをまとめたものだ。製油所のある県同士の卸売価格の差は1.8円にとどまるが、小売価格差は10.7円もある。卸売価格が最低の大分県の小売価格は最も高く、大分県の平均マージンは25.8円で、マージン格差は43%もある。 さらに、消費者の購買データを集めた5月12日の民間調査会社のデータを見ると、最安値の愛知県が159.6円、最も高い高知県は178.2円で、18.6円も差がある。同じ愛知県内でも最安値は148円で、最高値は192円。差は44円もある。 すなわち、小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できるということだ』、「小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できる」、その通りだ。
・『整合性がない 政府の総合緊急対策では、物価高などに直面する生活困窮者への支援を打ち出しているが、ここでも原油価格高騰対策との整合性に疑問符がつく。 表4は、電気、ガス、灯油、ガソリンの支出に占める割合を所得分位別に見たものだが、地域別に大きな格差のある灯油を除けば、電気代は所得が低い第1分位の支出の割合が多く、ガソリン代は所得間格差が最も小さい。灯油は、最も支出の大きい青森市と最低の大阪市では約40倍も支出額が異なる。 灯油は地域間格差が大きいので、地域別に対策を実施すべき油種であり、全国一律に行う対策には適していない。 筆者は原油の価格高騰対策自体は否定していない。しかし、価格を通して製品の需給を調整する市場メカニズムをゆがめてはならない。ガソリン価格が高ければ節約することで需要が減少し、価格を引き下げる。また、消費者が少しでも安いガソリンスタンドで購入することで、価格は調整されていく。 だが、今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した。施策を再検証の上で必要な見直しをする必要があろう』、「今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した」、経済政策としては不必要で邪道だ。
先ずは、4月22日付け東洋経済オンライン「インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/583890
・『日本は長年、デフレ傾向の経済下で財政赤字を続けてきたが、インフレ下ではどのように変化するのか。 インフレは、見かけ上の名目GDP(国内総生産)を膨らますため、公的債務残高の対名目GDP比を低下させる効果があったり、実質的な債務負担を減らしたりすることがたびたび強調されてきた。そのような楽観的な見方でこれからの状況に臨んでいいのか』、興味深そうだ。
・『石油高と経済の過熱が招いた「狂乱物価」 日本人がもう一度、インフレ時代の経済や財政を思い起こすためには歴史に学ぶことが大切だ。ここでは、3つのポイントに分けて、第1次石油ショックの下で典型的なインフレ対応の緊縮型予算が組まれた1974年~1975年度の状況を振り返り、今後の行方を読み解いていこう。 第1次石油ショックは、1973年10月に第4次中東戦争が勃発し、ペルシャ湾岸6カ国が石油価格を21%引き上げ、米欧日などに向けた石油生産を毎年5%ずつ引き下げると打ち出したことで火がついた。 日本ではそれ以前から、田中角栄政権の「日本列島改造論」ブームで経済が過熱しインフレとなっており、石油高や買い占め・売り惜しみが加わったことで「狂乱物価」へ突入した。 CPIの伸び率は1974年に入ると、実に20%を超え、以後同年内は10%台に戻ることはなかった。1975年初頭からは、CPIは明確に下がり始め、同年中にインフレは沈静化していった。CPI上昇率は、1974年度平均で20.9%、1975年度平均では10.4%を記録した。 インフレ傾向にある現在だが、物価上昇の激しさは第1次石油ショック時が圧倒的だ。 またもう1つ、現在との違いで強調しておくべき点は、賃金も物価と同様に大幅に上がったということだ。 当時の現金給与総額の伸び率は、1973年度が21.9%、1974年度が29.1%、1975年度が12.4%を記録しており、第1次石油ショックは石油高騰だけを原因とするのではなく、大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴だった。) これに対し、現在の現金給与総額は1~2月で前年同月比1%強であり、春闘も定期昇給込みの平均賃上げ率が2%強と振るわなかった。目下の日本銀行は「悪い円安」に見舞われても、かたくなに超低金利政策を維持しようとしているが、その主たる理由は賃上げの鈍さに代表される経済停滞にある。 第1次石油ショック時の日本銀行は景気が過熱する中、インフレ退治の姿勢を鮮明に打ち出し、1973年12月には政策金利である公定歩合を9%まで引き上げた。現在とは異なって、インフレ沈静化を優先し、急速な金融引き締めで景気を冷やす「オーバーキル」を厭わなかったわけだ。 こうした急速な金融引き締めにより、1974年度には、インフレ影響を除いた実質経済成長率で前年度比0.5%減と戦後初のマイナス成長を記録した。翌1975年度も景気は低迷し、それとともにインフレは沈静化していった』、確かに「第1次石油ショック」時は、「大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴」、その通りだ。
・『今日的な意味として引き出せる「3つの教訓」 このように第1次石油ショック時の状況は、現在とは大きく異なるが、今後の経済・財政を展望するため、引き出せる3つの教訓やポイントがある。 1つ目が「税収」の行方だ。 第1次石油ショック時に景気後退とともに顕在化したのが、税収不足だった。 上表では、1974年度の租税及び印紙収入は前年度比12.4%増となっているが、これは本来なら1975年度の税収となるべきものを1974年度補正予算に繰り入れた当時の奇策のためだ。 その反動を含めて1975年度は同8.5%減もの税収減に見舞われ、これを埋めるために国債発行による収入が約2.4倍に跳ね上がった。日本の財政が大規模な赤字国債依存を始めたのが、この1975年度である。 では、こうした状況を現在に当てはめるとどうなるか。 先述のように現在の日本銀行は超低金利政策の継続方針を掲げ、大幅な引き締めに転じる可能性は極めて小さい。そのため、第1次石油ショック時ほどのドラスティックな景気後退はないだろう。 しかし、原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない。鈴木俊一財務相が「悪い円安」と警戒するゆえんだ。) 2つ目の教訓は、「インフレになったら歳出を削減すればいい」と言われてきたが、それは机上の空論であるということだ。 すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想される。 1974~1975年度予算では、総需要抑制(緊縮)の方針が打ち出された。実際、当初予算ベースの公共事業関係費では、当時としては異例の横ばい(1974年度伸び率ゼロ%、1975年度2.4%増)が打ち出された。予算執行の面でもあの手この手の繰り延べが行われた。 ただ、前出の表にあるように補正予算を含めた最終的な決算では、公共事業費も一定の増加(1974年度20.0%増、1975年度13.5%増)を示している。世論や関連業界、政治家などの要望が強い中で、「緊縮財政」を実行することの難しさがわかる』、①原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない、②すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想、なるほど。
・『物価の上昇が進めば、歳出も増える 一方で、意識的に大幅増の予算が組まれたのが、社会保障関係費だった。 財務総合政策研究所編『昭和財政史 昭和49~63年度』によれば、当時の橋本収主計局長は次のように述べている。 「一番心配したのは、福祉の後退だと言われることなんです。公共事業というのは、産業基盤の整備とか道路ばかりと思っているけど、そうじゃなくて住宅・下水とか公園とか漁港だとか、いっぱいあるわけですね。必ず福祉の後退と言われる。(中略)当時の新聞を見てみると、やっぱり福祉の後退だということを言っていますよね、公共事業を減らしたことは。したがって、そこで年金だとか、生活保護基準とか、そういうものは思い切って増やすということをした」 インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化した。 また、物価上昇により、当時の名目経済成長率は大幅なプラス(1974年度18.6%増、1975年度10.0%増)となったが、国債発行拡大はそれ以上の伸び率となったため、公債残高(対名目GDP比)も悪化した。 当時の加藤隆司主計局総務課長は「予算の伸びは大きいようですが、中はがらんどうなんですよね。物価、賃金もみな3割上がっちゃったんですよ」(『昭和財政史 昭和49~63年度』)と話している。 「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではないことは歴史が示している。 当時と現在では社会保障の制度や給付水準も違い、一概に比較はできないことも事実だろう。ただ、インフレとなれば、政府としては物価変動の影響を受けやすい階層に対する支援に傾くのは、いつの時代でも自然と考えてよい。物価上昇が進めば、低所得者層や中小企業などへの支援策を求める声は勢いを増すだろう。) インフレに脆弱な所得層に対する支援は必要だとしても、どこまでインフレ対策を広げるかは、3つ目の重要なポイントだ。 財政支出で物価上昇の大きい財の消費の支援を行うことは、総需要の落ち込みを防ぎ、景気や税収を下支えするという効果はある。しかし、一方で需要減少による価格低下という市場原理を弱めることも意味する。とりわけ現在の日本では資源などの輸入数量が減らず、経常収支の悪化が止まらないという負の側面があることに注意すべきだ。 超低金利政策の継続(アメリカとの金利差が拡大)によって円安をサポートしながら、ガソリン補助金や購入支援など経常収支の悪化を促進する財政政策を同時に進めれば、構造的に①円安が一段と進展→②輸入物価が上昇→③さらにインフレ対策の財政支出が必要→④経常収支が悪化→⑤円安が進行という悪性のスパイラルが発生しかねない。 さらに財政赤字拡大そのものも、「通貨の信認」という面からは円安を促進するものであり、こうした悪性のスパイラルを放置しておけば、円安を通じて財政危機のリスクまでも高めてしまうだろう』、③インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化」、「「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではない」、やはり歴史的事実で検証してみるべきだ。
・『インフレ対策をむやみに拡大するのは危うい このように考えれば、財政赤字の拡大を厭わずにむやみにインフレ対策を拡大するというやり方は回避すべきだ。野党の一部には「消費減税」など極端な主張が見られ、政策案を精査していくことは不可欠だ。物価上昇で真に脆弱な層に絞り込んだ対策こそが求められる。 加えて、金融政策においても過度な引き締めは論外であるものの、世界情勢の変化に柔軟に対応し、超低金利政策から多少の引き締めへ修正することが求められるだろう。コロナ禍やウクライナ危機を背景とした供給制約やアメリカのドル金利上昇は非常に大きな構造変化だ。リーマンショック以降、世界的な低インフレが続いた中で継続できた超低金利政策や財政赤字の垂れ流しが、いつまでも持続可能だと錯覚してはならない。 日本銀行が引き締め方向に金融政策を微修正すれば、日本銀行や政府の利払いでコストが発生するが、現状ではまだ対応可能な範囲だろう。 アメリカ国債の長期金利上昇が一服し債券購入の含み損リスクが低減すれば、国内の銀行や機関投資家は円との金利差から、日本銀行当座預金に置いた資金をアメリカ債券にシフトし、さらなる円安が起きる可能性もある。 現在の政府や日本銀行のように資源高や世界的なインフレが沈静化することを待つだけでは心許ない。対応が遅れれば遅れるほど、将来、大幅な政策修正(金利上昇)リスクに直面し、そのときの危機のマグマは計り知れない』、現在は国債利回りの上昇を抑えるため、国債オペを指値で行うという極めて異例の方式でやっている。もう異次元緩和も完全に限界に達したようだ。
次に、6月13日付けエコノミストOnline「ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220621/se1/00m/020/058000c
・『足元で高値が続いている原油価格。その対策として導入された補助金政策は実効性に疑問がある』、私もかねてから「実効性に疑問」を感じていただけに、興味深そうだ。
・『政府の原油高騰対策は“石油業界の支援”策=小嶌正稔 2022年4月26日、政府は「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を発表した。これにより、時限的・緊急避難措置とされていた「原油価格高騰の激変緩和措置」は拡充され、「原油価格高騰対策」として、7月10日の参議院選挙後の9月末まで延長されることになった。原油価格高騰対策に投入される国費は、総合緊急対策全体の4分の1を占める1.5兆円にもなる。 原油価格高騰対策が動き出したのは21年11月。開始時は時限的・緊急避難的な激変緩和措置と位置付けられ、とにかく迅速な対策実施に重点が置かれた。このため民間企業(石油元売り会社)に国費(補助金)を支給するという、通常は考えられない政策が動き出した。 具体的には、レギュラーガソリンの全国平均小売価格1リットル当たり170円を基準価格とし、価格が上昇した分は、1リットル当たり5円を上限として、石油元売り会社に補助金を支給する。基準価格は4週間ごとに1円ずつ切り上げるとした。この段階的な切り上げは、対策終了時を意識した激変緩和の措置だ』、こんな直接的な補助金制度は異例中の異例だ。発展途上国がよくやるが、先進国ではあまり例がない。
・『不可解な算定基準 対策は22年1月27日から実施されたが、原油価格の高騰は止まらず、2月21日には上限の5円を超えた。2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、政府は3月10日から補助金支給の上限を25円に引き上げたほか、基準価格の算定方式を変えた。 3月7日までは原油価格の変動分を補助金の算定基準としてきたが、これに小売価格の変動分を追加した。このため、仮にガソリンスタンドが自社の経営状況によって小売価格を変更すれば、それが補助金の金額に反映される仕組みとなった。 表1に4月19日までの補助金支給額と価格抑制効果をまとめた。抑制効果の差額がマイナスになっているのは、補助金相当分まで価格が下がっていないことを意味している。 原油価格の変動のみを基準としていた1月31日~3月7日の補助金支給額の累計は1リットル当たり27.1円で、価格上昇抑制効果は同25.3円。差の1.8円は徐々に解消される程度の水準だった。 しかし、新たな算定基準後は、支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は9.2円に拡大した。それを油種別に見ると、レギュラーガソリンが11円、軽油が10.8円、灯油は12.6円に拡大している。これらの合計34.4円が、支給額と抑制効果の差となる。これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がないのではないか。 石油元売り各社への補助金は、4月から支給上限額が1リットル=25円から35円に引き上げられた。さらに補助金の基準価格は、172円程度から168円程度に引き下げられ、基準価格を超えた分は2分の1を支援する仕組みとなった。 この変更は話題となっている「トリガー条項」と微妙に関係している。この場合の「トリガー条項」とは、揮発油税(ガソリン税)の暫定税率を一時的に停止する税制の条項で、総務省が毎月発表しているガソリンの全国平均小売価格が、3カ月連続で160円を超えた場合、暫定税率分=25.1円を停止し、原油高騰が一段落し、3カ月連続で130円を下回れば税率を元に戻すという施策だ。今までトリガー条項が発動されたことはない。 トリガー条項の160円は、10年当時の消費税5%を差し引くと本体152.38円で、これに現在の消費税10%を掛ければ167.6円となる。前述の基準価格を172円から168円に引き下げたのは、実はトリガー条項を発動することなく、これを適用した結果だ。補助金の35円への増額も同じで、4月4日の全国平均小売価格は、補助金がないと仮定すると、203円程度になる。これと168円との差は35円で、トリガー条項の基準がそのまま適用されているといえよう。 トリガー条項解除の要件の130円は、現在の税率に直すと136円で、原油をめぐる情勢を考えれば、当面の間は136円に戻るとは考えにくい。政府はトリガー条項を実質的に発動して、後のことは別途考えるという姿勢なのだろう』、「支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は」「1.8円」から「9.2円に拡大」、「これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がない」、その通りだ。
・『基準価格にも疑問 ただし、ここで注意が必要だ。トリガー条項と今回の緊急対策とでは、算定基準となる全国平均小売価格に根本的な違いがある。 トリガー条項の小売平均価格は、総務省の「小売物価統計調査」の価格であり、その価格は消費者が購入したフルサービスの現金ガソリン価格だ。現在は70%以上のガソリンがセルフサービスのガソリンスタンドで購入されていることを考えれば、時代遅れの規定ともいえる。この価格には、掛け売りや会員価格、価格割引の給油カードなどは含まれないため、消費者が購入する最も高い価格が基準となっている。ただし、この価格は消費者が実際に購入した価格の統計データだ。 一方、今回の緊急対策の全国平均小売価格は、あくまでガソリンスタンドの販売価格だ。ガソリンスタンドの価格は、現金価格、会員価格、カード会員価格など9種類の価格が存在し、看板にも複数の価格が掲示されている。緊急対策の全国平均小売価格は、小売業者が報告する報告価格であり、業者の価格意識が反映された価格のため、透明性は希薄だ。ドイツの価格表示は、基本的にそのガソリンスタンドで販売される最低価格が報告対象だ。政府は補助金を投入するならば最低限の価格を基準とするべきだろう。 ガソリンスタンドでの販売価格は、各ガソリンスタンドが決める。各店で小売価格に差があるのは、製油所や油槽所からの距離など、コスト面で違いがあるからといわれている。しかし、実際はこれでは説明できない。全国ベースで石油元売り会社からの卸売価格(22年3月時点)の差を見ると、最高で3.4円の開きがあるが、小売価格の差は12.9円もある(表3)。 表2は、製油所のある県の22年3月の小売価格、卸売価格、小売りマージンをまとめたものだ。製油所のある県同士の卸売価格の差は1.8円にとどまるが、小売価格差は10.7円もある。卸売価格が最低の大分県の小売価格は最も高く、大分県の平均マージンは25.8円で、マージン格差は43%もある。 さらに、消費者の購買データを集めた5月12日の民間調査会社のデータを見ると、最安値の愛知県が159.6円、最も高い高知県は178.2円で、18.6円も差がある。同じ愛知県内でも最安値は148円で、最高値は192円。差は44円もある。 すなわち、小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できるということだ』、「小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できる」、その通りだ。
・『整合性がない 政府の総合緊急対策では、物価高などに直面する生活困窮者への支援を打ち出しているが、ここでも原油価格高騰対策との整合性に疑問符がつく。 表4は、電気、ガス、灯油、ガソリンの支出に占める割合を所得分位別に見たものだが、地域別に大きな格差のある灯油を除けば、電気代は所得が低い第1分位の支出の割合が多く、ガソリン代は所得間格差が最も小さい。灯油は、最も支出の大きい青森市と最低の大阪市では約40倍も支出額が異なる。 灯油は地域間格差が大きいので、地域別に対策を実施すべき油種であり、全国一律に行う対策には適していない。 筆者は原油の価格高騰対策自体は否定していない。しかし、価格を通して製品の需給を調整する市場メカニズムをゆがめてはならない。ガソリン価格が高ければ節約することで需要が減少し、価格を引き下げる。また、消費者が少しでも安いガソリンスタンドで購入することで、価格は調整されていく。 だが、今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した。施策を再検証の上で必要な見直しをする必要があろう』、「今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した」、経済政策としては不必要で邪道だ。
タグ:(その8)(インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環、ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔) 政府財政問題 東洋経済オンライン「インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環」 確かに「第1次石油ショック」時は、「大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴」、その通りだ。 今日的な意味として引き出せる「3つの教訓」 ①原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない、②すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想、なるほど。 ③インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化」、「「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではない」、やはり歴史的事実で検証してみるべきだ。 現在は国債利回りの上昇を抑えるため、国債オペを指値で行うという極めて異例の方式でやっている。もう異次元緩和も完全に限界に達したようだ。 エコノミストOnline「ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔」 こんな直接的な補助金制度は異例中の異例だ。発展途上国がよくやるが、先進国ではあまり例がない。 「支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は」「1.8円」から「9.2円に拡大」、「これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がない」、その通りだ。 「小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できる」、その通りだ。 「今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した」、経済政策としては不必要で邪道だ。