電機産業(その6)(富士通「幹部3000人の希望退職」に映る覚悟と焦り ジョブ型雇用や要職立候補制も急ピッチで拡充、パナソニックがひそかに「業界を揺るがす新制度」を導入していた…その「意外な背景」、パナソニックの持株会社制移行に見る ステークホルダーが気付かない「本気度」、ソニーやパナソニックが再び世界で戦うために必要な「21世紀の水道哲学」) [産業動向]
電機産業については、1月27日に取上げた。今日は、(その6)(富士通「幹部3000人の希望退職」に映る覚悟と焦り ジョブ型雇用や要職立候補制も急ピッチで拡充、パナソニックがひそかに「業界を揺るがす新制度」を導入していた…その「意外な背景」、パナソニックの持株会社制移行に見る ステークホルダーが気付かない「本気度」、ソニーやパナソニックが再び世界で戦うために必要な「21世紀の水道哲学」)である。
先ずは、3月18日付け東洋経済オンライン「富士通「幹部3000人の希望退職」に映る覚悟と焦り ジョブ型雇用や要職立候補制も急ピッチで拡充」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/577375
・『「DX(デジタルトランスフォーメーション)企業へのシフト」というゴールに近づけるか。ITサービス国内首位の富士通が、幹部社員の”入れ替え”を急ピッチで進めている。 同社は3月8日、本体と国内グループ会社で募集していた早期退職に、主に50歳以上の幹部社員3031人の応募があったと発表した。退職金の積み増し分や再就職支援にかかる費用650億円を計上するため、2022年3月期の営業利益予想を下方修正。過去最高益の計画が一転、営業減益となる。 富士通のグループ従業員数は、グローバルで約13万人、国内で約8万人だ。今回の希望退職で会社を去る人数は、国内従業員の4%弱に当たる。 2019年3月期にも大規模な早期退職を実施し、45歳以上で総務や人事などの間接部門、支援部門の一般社員と幹部社員2850人が退職したが、今回はそれを上回る規模だ』、「国内従業員の4%弱」を「早期退職」とは思い切ったリストラだ。
・『過去の人員整理と根本的に違う 同社には従前から「セルフ・プロデュース支援制度」という、早期退職支援にあたる仕組みが存在する。それでも今回、同制度を一時的に広げる形で大規模な早期退職を実施したのには、成長事業を牽引できる人材の登用という狙いがある。 1月の決算説明会で磯部武司CFO(最高財務責任者)は、「富士通が自らのDX、事業モデルやプロセスの変革を進める中で、人材配置をタイムリーに実施していく必要がある」と説明。今回の早期退職は「過去にやってきた事業撤退に伴う人員整理的なものと、根本的に趣旨が異なる」と強調した。 2019年に就任した時田隆仁社長のもと、「IT企業からDX企業へ」を旗印に変革を進める富士通。従来の”御用聞き”的なシステム構築や機器販売から脱却し、コンサルティングを起点に顧客企業のDXや事業構想のパートナーを担う収益性の高いサービスへと軸足を移そうとしている。) 体制を整えるため、全社的な人事制度改革や人材配置の最適化を急いでいる。制度面ではまず、ジョブ型雇用への移行を推進。以前から導入する海外に続き、国内でも2020年4月から課長以上の幹部社員1万5000人に導入した。 ジョブ型は年功序列を廃し、職務(ジョブ)の範囲を明確化しつつ最適な能力の人材を起用する、いわば「適所適材」を目指す雇用方式だ。幹部社員に続き、今後は国内の一般社員6万5000人にもジョブ型の対象を広げる予定だ。 加えて、公募の役職(ポスト)に社員自ら立候補できるポスティング制度も大幅に拡大した。新任の課長についてはすべてポスティングで決めているという。 大和証券の上野真アナリストは「さまざまな部署で中堅幹部のポストが空くので、DXやクラウド、セキュリティーといった成長分野に精通する人材や、若手で能力の高い人材の登用が進むだろう」と指摘する。さらに「幹部の顔ぶれが変われば現場の雰囲気も一新され、収益性や成長性の面で有望なビジネスの加速につながるだろう」と評価する』、「今回の早期退職は「過去にやってきた事業撤退に伴う人員整理的なものと、根本的に趣旨が異なる」と強調」、「成長事業を牽引できる人材の登用という狙いがある」、「幹部社員に続き、今後は国内の一般社員6万5000人にもジョブ型の対象を広げる予定だ。 加えて、公募の役職(ポスト)に社員自ら立候補できるポスティング制度も大幅に拡大」、「IT企業からDX企業へ」を旗印」にする以上、当然だろう。
・『連続最高益を断念して目指すもの 富士通が手がけるシステム構築や、クラウド化などのDX関連事業に対して、足元の需要はおおむね良好だ。コロナ禍に対応するため、大手を中心に顧客企業はテレワーク環境の導入やシステムのクラウド移行などを急いでおり、それをサポートする富士通のビジネスには追い風が吹いている。 前期の2021年3月期は営業利益が2663億円に達し、過去最高を記録。今期も早期退職に伴う費用計上で下方修正をするまでは連続最高益の見通しだった。 その目先の最高益を断念してまで早期退職に踏み込んだのには、2023年3月期が中期経営計画(3カ年)の最終年度にあたるという事情もありそうだ。「IT企業からDX企業へ」の変革達成を占ううえでも、この計画の達成は1つの重要な布石になる。 同計画では2023年3月期、売上収益全体の8割超を占める事業柱で、システム構築やDX関連を担う「テクノロジーソリューション」事業において、売上収益3兆5000億円、営業利益率10%の達成を目標に掲げている。 ただこの目標のうち、売上収益については達成が厳しくなっている状況だ。時田社長は2021年12月の東洋経済の取材に対して「半導体不足も影響し、トップライン(売上収益)は思っていた道筋からやや鈍化している」と語った。 磯部CFOも直近の決算説明会で「(営業利益率10%は)ハードルは高いが必ず達成できる」と決意表明した一方、売り上げ目標については「よりハードルが高い」と、慎重な言い回しにとどめた。 時田社長の話すとおり、世界的に広がった半導体不足の影響は甚大だ。 半導体部品を扱う「デバイスソリューション」事業の業績は期初想定を大きく上振れて推移しているものの、それとは対照的に、テクノロジーソリューション事業では一部のサーバーやネットワーク機器の調達に遅れが生じるなど、悪影響が次第に深刻になった』、確かに「半導体不足の影響は甚大だ」。
・『一時的費用は減るものの 2023年3月期はどうか。半導体不足については「上期(2022年4~9月)は今の水準で影響が続くと想定し、2022年12月あたりから緩やかに改善するとみている」(磯部CFO)。売り上げへのマイナス影響がしばらく続くとの見立てだ。 一方、今回の早期退職には費用の圧縮につながるプラス効果がある。同社の平均年収などから概算して、来期の同事業において約300億円の費用減につながる見通しだ。目下かさんでいる、オフィスの改築・移転費用や社内DXなどの成長投資負担も減る見通しではある。 とはいえ、仮に来期の同事業の売り上げ規模を今期見通しと同水準と想定すると、中期経営計画で示す「10%の営業利益率」の達成には3100億円超の営業利益が必要になる。翻って、今期の同事業の営業利益は、早期退職の影響を除く実力ベースで考えると約2050億円。つまり来期は今期比で1000億円超、50%以上の増益が求められるのだ。 目標達成は一筋縄ではいかなそうだが、全社の営業利益率が15%超の野村総合研究所をはじめ「同業他社ではすでに達成している企業も多い」(大和証券・上野氏)。富士通には、次世代を担う人材の幹部登用を足場に、収益性改善のスピードをもう一段引き上げることが求められている』、「次世代を担う人材の幹部登用を足場に、収益性改善のスピードをもう一段引き上げることが求められている」、今後はかなりの困難も予想される。
次に、6月29日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「パナソニックがひそかに「業界を揺るがす新制度」を導入していた…その「意外な背景」」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/96838?imp=0
・『パナソニックが、在庫リスクを負担する代わりに価格決定権を持ち、店頭での値引きができない制度の導入を進めている。かつてメーカーの力は絶大で、戦後経済は小売店がメーカーから価格決定権を奪うという流れで消費経済が発展してきた。だが、ここに来て、その流れが逆転する可能性が見えてきた』、「メーカーから価格決定権を」取り戻そうというのは確かに画期的だ。
・『メーカーと小売店、「価格主導権」をめぐる争い 卸や小売店など流通部門における製品の販売価格をメーカー側が拘束することは独占禁止法違反となる。メーカーは、自社の製品について、何円で売って欲しいという希望を表明することはできるが(希望小売価格)、これを小売店などに要請することはできない。製品のカタログに「オープン価格」などと表示してあるケースをよく見かけるが、これはメーカー側がいくらで売って欲しいのかについて具体的な数字を示していないことを意味している。 製品の価格を決めるのはメーカーではなく、あくまで小売店や消費者であり、売れない製品は安く、売れる製品は高いという感覚は今では当たり前のものかもしれない。だが、こうした商習慣は最近になって確立したものであり、昭和の時代はそうではなかった。 当時も独占禁止法という法律は存在しており、メーカーが小売価格を拘束することはできなかったが、実質的にメーカーが拘束力を持ち、小売店側が自由に販売価格を決めることはできなかった。仮に安値販売する小売店があった場合には、メーカー側が嫌がらせで商品を卸さないといったこともあったといわれる。 戦後間もなくのモノが不足している時代は、こうしたメーカー主導の価格形成もうまく機能したが、社会が豊かになるにつれて、定価販売に対する不満が高まってきた。メーカー主導の価格決定に強く反発し、消費者目線の価格で製品を提供する方針を掲げて急成長したのがスーパーや量販店などの業態である。) スーパーは1960年代に急拡大し、一部の企業は店舗の大規模化に成功。その絶大な販売力を生かして、メーカーに対して強気の価格交渉を行い、店頭では大胆な値引き販売を実施するようになった。メーカーから価格決定権を奪うという意味で、一連の取り組みは「流通革命」と言われた。 特にダイエーは、価格決定権をめぐってメーカーと真っ向から対峙したことで知られており、一部のメーカーはダイエーに対して出荷を停止するなど、相当な嫌がらせを実施。ダイエー側は、裏ルートで製品を仕入れるなど、まさに戦争とも呼べる状況にまで事態はエスカレートした。 商品を安く買いたいという消費者の声は大きく、一連の流通革命はスーパーや量販店の勝利という形で終了。1991年には公正取引委員会が「流通・取引慣行ガイドライン」を制定し、メーカーによる価格拘束の是非がさらに明確に定められた。前述のように希望小売価格も示さないメーカーも出てくるなど、価格は市場が決めるという商慣行が当たり前になったと考えてよいだろう』、「一連の流通革命はスーパーや量販店の勝利という形で終了。1991年には公正取引委員会が「流通・取引慣行ガイドライン」を制定し、メーカーによる価格拘束の是非がさらに明確に定められた」、なるほど。
・『消費経済の大きな転換点に? これによって量販店など小売店の力はさらに高まり、メーカーに対して、店頭販売員の派遣を要請できるまでになった。量販店に行くと、その量販店の名前が入った制服ではなく、メーカー名の入った制服を着た店員を見かけることがあるが、これはメーカーが量販店に派遣した販売員である。 販売員の派遣については様々な形式があるが、販売員の人件費はメーカー側が負担することが多いと言われる。量販店にしてみれば、販売員が多い方が、商品が売れるのは間違いなく、メーカーからすれば、できるだけ量販店に協力し、自社製品を多く売って欲しい。) 最近では、一部の販売員が過重労働を強いられているとして問題になり、量販店の要請による販売員の派遣を取りやめるところも出てきた。いずれにせよ、昭和後期から平成にかけては、メーカーと小売店の力関係が完全に逆転し、販売員の派遣を要請できるほどに、小売店の力は高まった。 こうした戦後の大きな流れを考えると、今回の動きは要注目といってよい。 パナソニックが導入したのは、同社が在庫リスクを負う代わりに、販売価格の決定権を持つという仕組みである。価格決定権がメーカーにあるものの、すべてのリスクをメーカーが負っているので、この場合には独占禁止法違反にはならない。 メーカーにとっては、奪い取られた価格決定権を取り戻す動きということになるが、この制度を導入した場合、価格の決定権はメーカーに戻る一方で、在庫リスクのすべてメーカーが負うため、必ずしもメーカーに有利とは限らない。それにもかかわらずパナソニックがこうした仕組みの導入を決めた背景には、2つの要因があると考えられる。 ひとつはネット販売の拡大によるさらなる廉価販売の進展、もうひとつは、このところ進んでいるインフレである』、「パナソニックが導入したのは、同社が在庫リスクを負う代わりに、販売価格の決定権を持つという仕組みである」、「メーカーにとっては、奪い取られた価格決定権を取り戻す動きということになるが、この制度を導入した場合、価格の決定権はメーカーに戻る一方で、在庫リスクのすべてメーカーが負うため、必ずしもメーカーに有利とは限らない」、「パナソニックがこうした仕組みの導入を決めた背景には、2つの要因があると考えられる。 ひとつはネット販売の拡大によるさらなる廉価販売の進展、もうひとつは、このところ進んでいるインフレである」、「インフレ」下では「販売価格の決定権」を取り戻す意味はありそうだ。
・『本格的なインフレ時代が到来する前兆 近年、ネット販売の比率が上昇したことで、製品の販売価格がさらに不安定になってきた。量販店とメーカーは互いに価格の主導権をめぐって争い続けてきたものの、メーカーにとって量販店は主要な販路であり、量販店にとっては重要な仕入れ先なので、最終的にはどこかで妥協できる。メーカーと量販店の交渉がまとまれば、価格は最適な水準で落ち着くはずだ。 ところがネット通販の場合、小規模を含めた多数の事業者が様々なルートで商品を販売するため、製品によっては激しく値崩れするケースが出てくる。こうした事態を受けてメーカーと量販店は、一定以上の利益を確保するため、最新モデルを比較的高い価格で販売することに力を入れるようになってきたが、これがさらに値崩れを激しくする結果を招いている(春に出た新製品の価格が、次のモデルが出る秋になると半値以下になっていることもザラである)。 大幅に値崩れした製品があると、メーカーにとってはブランド力の低下につながるため、そうした事態はできるだけ避けたい。在庫のリスクを負うことで、値崩れを防げるのであれば、当該リスクを負った方がよいとの判断はあり得るだろう。 加えて、世界的な物価高騰の影響を受けて、とうとう日本国内でもインフレが進みつつあり、これも新制度の導入を後押ししている。日本の場合、物価高騰に円安が加わっていることから、メーカーにとっては部品など仕入れコストの上昇が激しくなっている。国内では長く不景気が続き、賃金も上がっていないことから、消費者の購買力が低下しているため、小売店側の論理からすると、簡単に商品の値上げは決断できない。 メーカーがコスト上昇分を価格に転嫁するためには、ある程度、メーカーが価格をコントロールする必要が出てくる。インフレは長期化するとの見通しが高まっており、今後、他のメーカーの中からも同じような仕組みの導入を決断するところが出てくるだろう。もしこの動きが市場全体に波及した場合、数十年ぶりに価格の主導権がメーカーに移ることになるかもしれない。 まだ大きなニュースにはなっていないが、この動きは日本でも本格的なインフレ時代が到来することの前兆かもしれない。場合によっては時代の大きな転換点となる可能性も十分にある』、「メーカーがコスト上昇分を価格に転嫁するためには、ある程度、メーカーが価格をコントロールする必要が出てくる。インフレは長期化するとの見通しが高まっており、今後、他のメーカーの中からも同じような仕組みの導入を決断するところが出てくるだろ」、「場合によっては時代の大きな転換点となる可能性も十分にある」、同感である。
第三に、7月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「パナソニックの持株会社制移行に見る、ステークホルダーが気付かない「本気度」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305917
・『パナソニックが持株会社制へ移行した本当の意義 2021年、パナソニックでは12年からトップを務めてきた津賀一宏氏から楠見雄規氏に社長が交代し、同時に持株会社制への移行を発表。今年4月にはパナソニックホールディングスへ商号変更した。社名変更といえば、ソニーも昨年4月、本社をソニーグループに変更し、各事業会社がその下にぶら下がる格好になった。両社のこのタイミングでの組織変更やパナソニックの社長交代は何を意味するのだろうか。 結論から言えば、両社とも歴史を紐解けば両社らしい意思決定だということだ。パナソニックは、日本でいち早く事業部制を実施し、事業部ごとに商売の責任を持たせることで、ミドルマネジメントや現場社員の士気を上げてきた。戦後の財閥解体の流れの中で、当時の松下は松下電器産業と松下電工に分かれたが、これも戦前に松下幸之助がつくった事業部が独立会社になった格好だ。 松下正治社長時代に始めた事業本部制も、松下が他社に先駆けて実施した組織形態であったし、現在までにビジネスユニットごとのカンパニー制を実施してきた。かつては持株会社制が禁止されていたので、言わばバーチャルに持株会社制を実施してきたのがパナソニックの歴史である。 今回の持株会社制への移行は、パナソニックの業務範囲の広がりと、コロナ禍をはじめとしたそれぞれの事業が直面している不確実性の高さから、全社戦略と個々の事業戦略を1つの会社の1人のトップが見ることが難しい状況になったということであろう。津賀社長への評価は、在任中の10年近くの前半と後半で大きく異なるといえる。前半は、特定の問題を抱える事業を切り離して、注力すべき事業に集中して経営資源を投入し、グループ全体のトップが個別事業へのてこ入れを行うことで、経営の改善をしてきた。 その後、全体のポートフォリオを考えた全社戦略と、個別の事業戦略の陣頭指揮を1人のトップが担う限界が見えてきたわけだが、これは津賀社長個人の資質や能力の問題ではないにもかかわらず、任期後半の氏の評価の低下に影響しているのではないだろうか。 これまでも各カンパニー長が独立して事業責任を負ってきたため、「持株会社制に移行しても結局カンパニー制と変わらないのではないか」という反論もあるかもしれない。しかし、商法上独立した事業会社の社長と、バーチャルな企業内組織のトップでは、その責任や重圧はやはり異なるのではないか。 松下幸之助氏が事業部制を持株会社制として実施しなかったのは当時の法規制によるもので、もしかすると現代において松下幸之助がパナソニックのリーダーであったら、やはり持株会社制に移行していたのではないだろうか。今日のパナソニックが置かれた状況は、松下幸之助の時代とは大きく異なるが、幸之助イズムを現代的に解釈すれば、パナソニックの持株会社制移行はわりと素直に受け入れられる気がする』、「松下幸之助氏が事業部制を持株会社制として実施しなかったのは当時の法規制によるもので、もしかすると現代において松下幸之助がパナソニックのリーダーであったら、やはり持株会社制に移行していたのではないだろうか」、その通りかも知れない。
・『カンパニーと独立事業会社に 見える「本気度」の差とは 各ビジネスユニットにおけるトップの本気度という話に戻れば、筆者も前職でカンパニー制が敷かれていた頃のソニーに在職していたが、「どうせ数年すればカンパニーの枠組みは変わる」「今は自分のカンパニーの業績が悪くても、ソニー自体が潰れるということはないだろう」といった、実際の企業の社長のような本気度が見られないカンパニーのトップもいたように思える。 事業ユニットの経営に対する本気度は、バーチャルなカンパニーと実際の独立した事業会社では異なるのではないだろうか。現在、ソニーの社長を務める吉田憲一郎氏も副社長でCSOの十時裕樹氏も、現在のSo-net運営会社やソニー銀行など、ソニーグループの中で本社の一部門ではなく、独立した事業会社の経営を担って、平井一夫前社長時代のソニーの経営を支えてきた。平井氏自身も、ミュージックからゲームまで多様な独立事業のトップを務めた経歴を持つ。 So-netもソニー銀行も、ステークホルダーから「本業ではない」と言われ続けてきた事業会社であり、それらをいかに持続させ発展させるかは、経営者としての本気度が問われただろう。ある意味、本社のコア事業と言われるビジネスは、本社という大きな組織に守られたぬるま湯的な事業でもある。そこで育ったリーダーと比べて平井、吉田、十時体制以降のソニーが好調なのは、ぬるま湯的な本社ではなく、周縁の子会社の経営者として、本当に厳しい経営を経験してきたことによるのかもしれない。) もちろん、事業ユニットごとに別会社をつくれば、いざというときに切り売りして選択と集中がしやすくなるということもあるだろう。しかしそれ以上に、パナソニックやソニーが期せずして事業会社を独立させたのは、各事業がそれぞれ真剣に不確実な世の中をサーバイブするための経営を、ミドルマネジメントに期待しているということの表れではないだろうか。切り売りしやすい組織形態であるということは、各事業会社のトップにとっては、切り売りされない経営とその結果が求められるからである』、「本社のコア事業と言われるビジネスは、本社という大きな組織に守られたぬるま湯的な事業でもある。そこで育ったリーダーと比べて平井、吉田、十時体制以降のソニーが好調なのは、ぬるま湯的な本社ではなく、周縁の子会社の経営者として、本当に厳しい経営を経験してきたことによるのかもしれない」、言われてみれば、その通りなのだろう。
・『ソニーはもともと何をするかわからない会社だった ソニーも本社をソニーグループに社名変更して、その下に各事業会社がぶら下がる形態となった。これまで本業と言われてきたエレクトロニクスもその1つになり、音楽、映画、ゲーム、金融と様々な事業と横並びになる。それを「僕らのソニーは終わった」と嘆く人もいる。センチメンタルにいえば、自分もエレキのソニーに憧れて入社した1人なので、その気持ちはわからなくもない。 しかし、そもそもソニーが東京通信工業株式会社という電子技術の会社から、ソニー株式会社という何の事業を行っているのかさえわからない名称の会社に変わった歴史を紐解くと、ソニーとは「本業のない会社」であることがわかる。 ソニーの社史によると、東通工からソニーへ社名変更をする際にステークホルダーから「ソニー株式会社では何の会社なのかわからない。せめてソニー電子などにしたらどうか」と言われたのに対し、当時の経営者は「ソニーがいつまでエレクトロニクス関連の事業をしているかはわからない。社名で事業を縛ることで将来のソニーの可能性を狭めたくない」と説明し、あえてソニー株式会社にしたという。「今のソニーは何の会社かわからない」という皮肉を言う人もいるが、まさにその通りで、ソニーとは時代によって何をするかわからない会社であり、そもそもそれが正解なのだろう。 だからこそ、エレキもあり、エンタテインメントもあり、金融もあるという現在のソニーは、創業時にやっていたことを形式上トレースするのではなく、新しい分野にどんどんトライしていこうという創業世代のフィロソフィーを、受け継いでいるのだと思える。 こうして見ると、パナソニックもソニーも、健全に創業の理念を受け継いでいると言えるのではないだろうか。その意味で、パナソニックに受け継いでほしい創業の理念は「水道哲学」である。これについては次回に議論したい』、「ソニーへ社名変更をする際にステークホルダーから「ソニー株式会社では何の会社なのかわからない。せめてソニー電子などにしたらどうか」と言われたのに対し、当時の経営者は「ソニーがいつまでエレクトロニクス関連の事業をしているかはわからない。社名で事業を縛ることで将来のソニーの可能性を狭めたくない」と説明し、あえてソニー株式会社にしたという」、社名をめぐってそんなエピソードがあったのは初めて知った。
第四に、この続きを、7月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「ソニーやパナソニックが再び世界で戦うために必要な「21世紀の水道哲学」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305968
・『イノベーションを阻害する本業ではないから切り捨てるという発想 前回の記事では、パナソニックもソニーも案外創業の理念を正しく受け継いでいるという話をした。その最後に、パナソニックにはぜひ今こそ「水道哲学」を受け継いでほしいとも語った。 そもそも、イノベーションとはインベンション(発明)とイコールではない。常に新しい技術をゼロから開発すれば、イノベーションが生まれるものではない。むしろイノベーションとは、日本語訳で「新結合」とされるように、新しい組み合わせであって、組み合わせるもの同士は新しくなくてもよい。 ソニーのビジネスの柱の1つとなっているプレイステーションのゲーム事業も、ソニーミュージック(当時のCBSソニー)の丸山茂雄氏がサプライチェーン改革によって生み出したレコード会社の付加価値創造と、ソニーの久夛良木健氏がもともとは放送局用機器で活用していたポリゴン技術を、新たに組み合わせたイノベーションであった。 久夛良木氏のポリゴン技術は、ゲーム業界に全く新しいリアリティのある映像を持ち込んだ。しかし、ゲームソフトを開発するのはサードパーティのソフトウェアハウスであり、彼らがソフトを供給してくれなければ、ゲーム機はタダの箱である。 プレイステーションのもう1つの成功は、それまで旧態依然としていたゲームメーカー、ソフトウェアハウス、おもちゃ問屋、小売店の関係性を改め、かつてファミコン時代に見られた抱き合わせ販売のような、サプライチェーンの一部にしわ寄せが行くビジネスの慣行を改善したことが大きかった。ゲーム機メーカー以外のソフトウェアハウス、流通も含めて、全ての事業者に利益をもたらすサプライチェーン改革をしたことによって、サードパーティがソニーの味方についてくれたのだ。 ソニーミュージックには丸山学校というソニーミュージック流の経営を学ぶ勉強会があったそうだが、同社のこうしたビジネスの能力もまたソニーグループの大切な資産であり、ソニーグループが全社の資産を上手く使いこなすことが今後も求められる。 「本業ではないから切り捨てる」という発想は、イノベーションを阻害する。ソニーグループの強みは一見シナジーがないように見える、様々な業種の集まりであるところだと、イノベーション研究を本業とする筆者は見ている』、「「本業ではないから切り捨てる」という発想は、イノベーションを阻害する」、その通りだ。「久夛良木氏のポリゴン技術は、ゲーム業界に全く新しいリアリティのある映像を持ち込んだ。しかし、ゲームソフトを開発するのはサードパーティのソフトウェアハウスであり、彼らがソフトを供給してくれなければ、ゲーム機はタダの箱である。 プレイステーションのもう1つの成功は、それまで旧態依然としていたゲームメーカー、ソフトウェアハウス、おもちゃ問屋、小売店の関係性を改め、かつてファミコン時代に見られた抱き合わせ販売のような、サプライチェーンの一部にしわ寄せが行くビジネスの慣行を改善したことが大きかった」、やはり「プレイステーション」は典型的な「イノベーション」の成功例のようだ。
・『苦境期におけるソニーとパナソニック・シャープの決定的な違い これまで、パナソニックとソニーを同列に論じてきたが、今ソニーの経営は絶好調なのに対しパナソニックは不調であり、比較にならないのではないかとの批判があるかもしれない。しかし、パナソニックの津賀一宏社長やソニーの平井一夫社長がそれぞれ就任した2010年代の始めは、両社の立場を入れ替えて同じことが言われていたのを忘れてはいけない。 パナソニックの現在の問題の1つを遡るとすれば、2010年代始めにV字回復をして、メディアにもてはやされたことにあるのではないかと筆者は考える。同様に、当時V字回復した企業にシャープがある。パナソニックやシャープがV字回復する中で、ソニーだけが経営の回復が遅れ、「さよならソニー」「ソニーだけが凋落」とメディアに書き立てられ、当時の平井社長を「レコード屋の兄ちゃんにソニーの経営は無理」とまで罵る記事も多く見受けられた。 一方で、V字回復したパナソニックやシャープの経営は素晴らしいともてはやされたのである。しかし、考えて欲しい。利益とは売上から支出を引いたものである。支出には将来の事業への投資分も含まれる。 具体的にいえば、当時のパナソニックやシャープは研究開発投資を削減する方向に動いた。一方ソニーの平井社長は、エレクトロニクス事業の選択は行ったものの、残した事業への研究開発投資は赤字の中でも続けてきたのである。 研究開発は未来の収益源である。今期の経営数値には表れないが、確実に将来の経営を左右するものである。そうした未来の収益源を減らせば、見かけ上経営はV字回復する。大抵の場合、企業のV字回復は将来の利益の先取りでしかない。現在の楠見パナソニックに求められるのは、短期的な見かけ上のV字回復ではなく、長期的な組織能力の向上であり、将来への投資を疎かにしない経営であろう。 最後に、パナソニックとソニーの両社に苦言を呈するとすれば、経営を建て直した後、パナソニックはおそらく数年後の、ソニーは足もとの課題として、「今後何をして、どのようにグローバルな競争の中で戦っていくのか」というビジョンを明確に示していくことが、まだ不十分かもしれない。 パナソニックもソニーも、日本を代表する大企業である。しかし、グローバルで見れば、時価総額は決して上位に食い込んではいない。とはいえ、両社には優れた技術の蓄積がある。パナソニックといえば、松下幸之助の商売のイメージが強いかもしれないが、高い技術開発力を持ち、他社にない技術的優位性をいくつも持っている会社である。) これらの技術や経営資源を使って、パナソニックやソニーは世界でどうありたいのか、トップがもっと明確に示して欲しい。両社とも新規事業創出の組織をつくり、ユニークな事業をいくつも生み出し始めているが、どれもグローバルに両社を牽引していく事業に育つ道筋は見えていない。 ソニーの場合、「動くもの」というところにヒントがあるのかもしれない。aiboの復活やEVの開発、最近ではドローン事業への参入など、エレクトロニクスから古き良きメカトロニクスの分野で、新しいものを見せ始めている。 世間ではGAFAがもてはやされているが、プラットフォーマーの彼らにもハードウェアは必要だ。Amazon AlexaもAmazon Echoという端末がなければ使えないし、Facebookも大量にデータを処理するデータセンターにはハードウェアが必要である。こうしたハードウェアの開発は、日本やアジア地域の企業のハードの力をなくしては実現しない。 東芝の島田太郎社長が指摘するように、GAFAの弱点はハードにあるといってもよい。現在は、IoTのサプライチェーンの中で、ソフトウェア領域を担っているところがうまみを持っているが、ハードウェア領域の会社がプラットフォームリーダーになることも、理論的には不可能ではないはずだ。 パナソニックもソニーも、ハードがつくれるという強みがある。ただし、ハードウェアの機能性能だけで勝てるほど今の市場は甘くない。たとえばパナソニックの車載電池事業も、規模を追う一方で、「世界でなにがなんでもナンバーワンの電池サプライヤーになる」という本気度は、生産設備の投資からはうかがえない。そこは、「いたずらに規模を追わずに技術で差別化を」となってしまう』、「当時のパナソニックやシャープは研究開発投資を削減する方向に動いた。一方ソニーの平井社長は、エレクトロニクス事業の選択は行ったものの、残した事業への研究開発投資は赤字の中でも続けてきたのである」、当時、「パナソニックやシャープ」は「V字回復」、経営がもてはやされていたが、「研究開発投資を削減する方向に動いた」、「ソニー」は「残した事業への研究開発投資は赤字の中でも続けてきた」とは大したものだ。
・『ハードだけが競争力ではない 「21世紀の水道哲学」が必要だ むしろここで、「世界で最も安価に、大量にリチウムイオン電池を供給できるのはパナソニックだ」と、「21世紀の水道哲学」を主張してもらいたい。グローバルに部品や技術を組み合わせ、分業によって製品をつくり出す今日、とりわけ電池のような部品ビジネスで自社しかつくれないユニークな製品というのは、むしろ製品価値を下げるかもしれない。 EVのバッテリー供給を受ける自動車メーカーにしてみれば、様々な企業から複数購買をしたいはずである。1社の技術に縛られれば、サプライヤーに肝を握られてしまうからだ。そうすると、BtoBの部品事業は標準化を指向するようになる。日本が得意な自社しかつくれない部品は、もはや非標準の使いにくい部品に過ぎない。シャープが液晶の外販も視野に入れて建設した堺コンビナートで失敗したケースも、同じであろう。) 今のところソニーのセンサービジネスは、グローバルナンバーワンを目指すため、しっかりとした生産設備への投資を行っているように見える。しかし油断をすれば、すぐに韓サムスンに追いつかれてしまうかもしれないし、そのためにもセンサーの次の事業を育てていく必要がある。 この先10年のパナソニックとソニーは、何をする会社なのか。また、その事業でグローバル展開できるのか。これは両社が現在課せられた宿題だろう。 国内でしか売れない商品をつくっても、パナソニックやソニーほどの規模を持つ企業は経営を維持することはできない。グローバルに何の会社になるのか、持株会社制への移行によって事業形態が複雑になった今こそ、ステークホルダーを納得させる方向性をしっかり示すことが両社に求められる』、「21世紀の水道哲学」については、私には安値イメージが強過ぎ、これまでの日本的経営の弱点と考えているので、これが「必要」との筆者の主張には同意できない。
・『ソニーとパナソニックが肝に銘じるべき逆転の発想 やはり、求められるのは「水道哲学」である。「安かろう、悪かろう」を売るのではない。安くつくって大量に売ることで、少量の高いものをつくるための原資をつくる。それが今日の「水道哲学」の意義であろう。 パナソニックもソニーも、今よりさらに規模を縮小したいのであれば、販売数量を減らし、規模に見合った中堅メーカーになればよい。しかし、多くの社員とその家族、両社を支え日本に数多く存在するサプライヤーのことを考えれば、規模を負うことも重要であるし、規模を追えば規模の経済性のメリットが享受できる。 米中貿易摩擦や、ロシアのウクライナ侵攻とそれを容認する中国に対して、世界は厳しい目を向けている。IoTとはあらゆる家電製品に通信機能が入り込むということだ。基地局設備は米国でも英国でも、ファーウェイを排除する方向にある。しかし、クライアント機器が中国製であれば、そこが抜け道になるのは当然のことである。日本の防衛省でもレノボのPCを使っているという話を聞いたが、それこそ日本のパナソニックの「レッツノート」が全官庁の標準PCになってもいいはずだ。経済安全保障は日本のエレクトロニクス企業にとって、大きなチャンスとなる。 今こそ反転攻勢に出て、世界で規模を追い求めるときではないだろうか』、「経済安全保障は日本のエレクトロニクス企業にとって、大きなチャンスとなる」、確かに事実だが、それだけでは限界がある。「反転攻勢に出て、世界で規模を追い求める」には、何らかの強味を付け加える必要があるのではなかろうか。
先ずは、3月18日付け東洋経済オンライン「富士通「幹部3000人の希望退職」に映る覚悟と焦り ジョブ型雇用や要職立候補制も急ピッチで拡充」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/577375
・『「DX(デジタルトランスフォーメーション)企業へのシフト」というゴールに近づけるか。ITサービス国内首位の富士通が、幹部社員の”入れ替え”を急ピッチで進めている。 同社は3月8日、本体と国内グループ会社で募集していた早期退職に、主に50歳以上の幹部社員3031人の応募があったと発表した。退職金の積み増し分や再就職支援にかかる費用650億円を計上するため、2022年3月期の営業利益予想を下方修正。過去最高益の計画が一転、営業減益となる。 富士通のグループ従業員数は、グローバルで約13万人、国内で約8万人だ。今回の希望退職で会社を去る人数は、国内従業員の4%弱に当たる。 2019年3月期にも大規模な早期退職を実施し、45歳以上で総務や人事などの間接部門、支援部門の一般社員と幹部社員2850人が退職したが、今回はそれを上回る規模だ』、「国内従業員の4%弱」を「早期退職」とは思い切ったリストラだ。
・『過去の人員整理と根本的に違う 同社には従前から「セルフ・プロデュース支援制度」という、早期退職支援にあたる仕組みが存在する。それでも今回、同制度を一時的に広げる形で大規模な早期退職を実施したのには、成長事業を牽引できる人材の登用という狙いがある。 1月の決算説明会で磯部武司CFO(最高財務責任者)は、「富士通が自らのDX、事業モデルやプロセスの変革を進める中で、人材配置をタイムリーに実施していく必要がある」と説明。今回の早期退職は「過去にやってきた事業撤退に伴う人員整理的なものと、根本的に趣旨が異なる」と強調した。 2019年に就任した時田隆仁社長のもと、「IT企業からDX企業へ」を旗印に変革を進める富士通。従来の”御用聞き”的なシステム構築や機器販売から脱却し、コンサルティングを起点に顧客企業のDXや事業構想のパートナーを担う収益性の高いサービスへと軸足を移そうとしている。) 体制を整えるため、全社的な人事制度改革や人材配置の最適化を急いでいる。制度面ではまず、ジョブ型雇用への移行を推進。以前から導入する海外に続き、国内でも2020年4月から課長以上の幹部社員1万5000人に導入した。 ジョブ型は年功序列を廃し、職務(ジョブ)の範囲を明確化しつつ最適な能力の人材を起用する、いわば「適所適材」を目指す雇用方式だ。幹部社員に続き、今後は国内の一般社員6万5000人にもジョブ型の対象を広げる予定だ。 加えて、公募の役職(ポスト)に社員自ら立候補できるポスティング制度も大幅に拡大した。新任の課長についてはすべてポスティングで決めているという。 大和証券の上野真アナリストは「さまざまな部署で中堅幹部のポストが空くので、DXやクラウド、セキュリティーといった成長分野に精通する人材や、若手で能力の高い人材の登用が進むだろう」と指摘する。さらに「幹部の顔ぶれが変われば現場の雰囲気も一新され、収益性や成長性の面で有望なビジネスの加速につながるだろう」と評価する』、「今回の早期退職は「過去にやってきた事業撤退に伴う人員整理的なものと、根本的に趣旨が異なる」と強調」、「成長事業を牽引できる人材の登用という狙いがある」、「幹部社員に続き、今後は国内の一般社員6万5000人にもジョブ型の対象を広げる予定だ。 加えて、公募の役職(ポスト)に社員自ら立候補できるポスティング制度も大幅に拡大」、「IT企業からDX企業へ」を旗印」にする以上、当然だろう。
・『連続最高益を断念して目指すもの 富士通が手がけるシステム構築や、クラウド化などのDX関連事業に対して、足元の需要はおおむね良好だ。コロナ禍に対応するため、大手を中心に顧客企業はテレワーク環境の導入やシステムのクラウド移行などを急いでおり、それをサポートする富士通のビジネスには追い風が吹いている。 前期の2021年3月期は営業利益が2663億円に達し、過去最高を記録。今期も早期退職に伴う費用計上で下方修正をするまでは連続最高益の見通しだった。 その目先の最高益を断念してまで早期退職に踏み込んだのには、2023年3月期が中期経営計画(3カ年)の最終年度にあたるという事情もありそうだ。「IT企業からDX企業へ」の変革達成を占ううえでも、この計画の達成は1つの重要な布石になる。 同計画では2023年3月期、売上収益全体の8割超を占める事業柱で、システム構築やDX関連を担う「テクノロジーソリューション」事業において、売上収益3兆5000億円、営業利益率10%の達成を目標に掲げている。 ただこの目標のうち、売上収益については達成が厳しくなっている状況だ。時田社長は2021年12月の東洋経済の取材に対して「半導体不足も影響し、トップライン(売上収益)は思っていた道筋からやや鈍化している」と語った。 磯部CFOも直近の決算説明会で「(営業利益率10%は)ハードルは高いが必ず達成できる」と決意表明した一方、売り上げ目標については「よりハードルが高い」と、慎重な言い回しにとどめた。 時田社長の話すとおり、世界的に広がった半導体不足の影響は甚大だ。 半導体部品を扱う「デバイスソリューション」事業の業績は期初想定を大きく上振れて推移しているものの、それとは対照的に、テクノロジーソリューション事業では一部のサーバーやネットワーク機器の調達に遅れが生じるなど、悪影響が次第に深刻になった』、確かに「半導体不足の影響は甚大だ」。
・『一時的費用は減るものの 2023年3月期はどうか。半導体不足については「上期(2022年4~9月)は今の水準で影響が続くと想定し、2022年12月あたりから緩やかに改善するとみている」(磯部CFO)。売り上げへのマイナス影響がしばらく続くとの見立てだ。 一方、今回の早期退職には費用の圧縮につながるプラス効果がある。同社の平均年収などから概算して、来期の同事業において約300億円の費用減につながる見通しだ。目下かさんでいる、オフィスの改築・移転費用や社内DXなどの成長投資負担も減る見通しではある。 とはいえ、仮に来期の同事業の売り上げ規模を今期見通しと同水準と想定すると、中期経営計画で示す「10%の営業利益率」の達成には3100億円超の営業利益が必要になる。翻って、今期の同事業の営業利益は、早期退職の影響を除く実力ベースで考えると約2050億円。つまり来期は今期比で1000億円超、50%以上の増益が求められるのだ。 目標達成は一筋縄ではいかなそうだが、全社の営業利益率が15%超の野村総合研究所をはじめ「同業他社ではすでに達成している企業も多い」(大和証券・上野氏)。富士通には、次世代を担う人材の幹部登用を足場に、収益性改善のスピードをもう一段引き上げることが求められている』、「次世代を担う人材の幹部登用を足場に、収益性改善のスピードをもう一段引き上げることが求められている」、今後はかなりの困難も予想される。
次に、6月29日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「パナソニックがひそかに「業界を揺るがす新制度」を導入していた…その「意外な背景」」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/96838?imp=0
・『パナソニックが、在庫リスクを負担する代わりに価格決定権を持ち、店頭での値引きができない制度の導入を進めている。かつてメーカーの力は絶大で、戦後経済は小売店がメーカーから価格決定権を奪うという流れで消費経済が発展してきた。だが、ここに来て、その流れが逆転する可能性が見えてきた』、「メーカーから価格決定権を」取り戻そうというのは確かに画期的だ。
・『メーカーと小売店、「価格主導権」をめぐる争い 卸や小売店など流通部門における製品の販売価格をメーカー側が拘束することは独占禁止法違反となる。メーカーは、自社の製品について、何円で売って欲しいという希望を表明することはできるが(希望小売価格)、これを小売店などに要請することはできない。製品のカタログに「オープン価格」などと表示してあるケースをよく見かけるが、これはメーカー側がいくらで売って欲しいのかについて具体的な数字を示していないことを意味している。 製品の価格を決めるのはメーカーではなく、あくまで小売店や消費者であり、売れない製品は安く、売れる製品は高いという感覚は今では当たり前のものかもしれない。だが、こうした商習慣は最近になって確立したものであり、昭和の時代はそうではなかった。 当時も独占禁止法という法律は存在しており、メーカーが小売価格を拘束することはできなかったが、実質的にメーカーが拘束力を持ち、小売店側が自由に販売価格を決めることはできなかった。仮に安値販売する小売店があった場合には、メーカー側が嫌がらせで商品を卸さないといったこともあったといわれる。 戦後間もなくのモノが不足している時代は、こうしたメーカー主導の価格形成もうまく機能したが、社会が豊かになるにつれて、定価販売に対する不満が高まってきた。メーカー主導の価格決定に強く反発し、消費者目線の価格で製品を提供する方針を掲げて急成長したのがスーパーや量販店などの業態である。) スーパーは1960年代に急拡大し、一部の企業は店舗の大規模化に成功。その絶大な販売力を生かして、メーカーに対して強気の価格交渉を行い、店頭では大胆な値引き販売を実施するようになった。メーカーから価格決定権を奪うという意味で、一連の取り組みは「流通革命」と言われた。 特にダイエーは、価格決定権をめぐってメーカーと真っ向から対峙したことで知られており、一部のメーカーはダイエーに対して出荷を停止するなど、相当な嫌がらせを実施。ダイエー側は、裏ルートで製品を仕入れるなど、まさに戦争とも呼べる状況にまで事態はエスカレートした。 商品を安く買いたいという消費者の声は大きく、一連の流通革命はスーパーや量販店の勝利という形で終了。1991年には公正取引委員会が「流通・取引慣行ガイドライン」を制定し、メーカーによる価格拘束の是非がさらに明確に定められた。前述のように希望小売価格も示さないメーカーも出てくるなど、価格は市場が決めるという商慣行が当たり前になったと考えてよいだろう』、「一連の流通革命はスーパーや量販店の勝利という形で終了。1991年には公正取引委員会が「流通・取引慣行ガイドライン」を制定し、メーカーによる価格拘束の是非がさらに明確に定められた」、なるほど。
・『消費経済の大きな転換点に? これによって量販店など小売店の力はさらに高まり、メーカーに対して、店頭販売員の派遣を要請できるまでになった。量販店に行くと、その量販店の名前が入った制服ではなく、メーカー名の入った制服を着た店員を見かけることがあるが、これはメーカーが量販店に派遣した販売員である。 販売員の派遣については様々な形式があるが、販売員の人件費はメーカー側が負担することが多いと言われる。量販店にしてみれば、販売員が多い方が、商品が売れるのは間違いなく、メーカーからすれば、できるだけ量販店に協力し、自社製品を多く売って欲しい。) 最近では、一部の販売員が過重労働を強いられているとして問題になり、量販店の要請による販売員の派遣を取りやめるところも出てきた。いずれにせよ、昭和後期から平成にかけては、メーカーと小売店の力関係が完全に逆転し、販売員の派遣を要請できるほどに、小売店の力は高まった。 こうした戦後の大きな流れを考えると、今回の動きは要注目といってよい。 パナソニックが導入したのは、同社が在庫リスクを負う代わりに、販売価格の決定権を持つという仕組みである。価格決定権がメーカーにあるものの、すべてのリスクをメーカーが負っているので、この場合には独占禁止法違反にはならない。 メーカーにとっては、奪い取られた価格決定権を取り戻す動きということになるが、この制度を導入した場合、価格の決定権はメーカーに戻る一方で、在庫リスクのすべてメーカーが負うため、必ずしもメーカーに有利とは限らない。それにもかかわらずパナソニックがこうした仕組みの導入を決めた背景には、2つの要因があると考えられる。 ひとつはネット販売の拡大によるさらなる廉価販売の進展、もうひとつは、このところ進んでいるインフレである』、「パナソニックが導入したのは、同社が在庫リスクを負う代わりに、販売価格の決定権を持つという仕組みである」、「メーカーにとっては、奪い取られた価格決定権を取り戻す動きということになるが、この制度を導入した場合、価格の決定権はメーカーに戻る一方で、在庫リスクのすべてメーカーが負うため、必ずしもメーカーに有利とは限らない」、「パナソニックがこうした仕組みの導入を決めた背景には、2つの要因があると考えられる。 ひとつはネット販売の拡大によるさらなる廉価販売の進展、もうひとつは、このところ進んでいるインフレである」、「インフレ」下では「販売価格の決定権」を取り戻す意味はありそうだ。
・『本格的なインフレ時代が到来する前兆 近年、ネット販売の比率が上昇したことで、製品の販売価格がさらに不安定になってきた。量販店とメーカーは互いに価格の主導権をめぐって争い続けてきたものの、メーカーにとって量販店は主要な販路であり、量販店にとっては重要な仕入れ先なので、最終的にはどこかで妥協できる。メーカーと量販店の交渉がまとまれば、価格は最適な水準で落ち着くはずだ。 ところがネット通販の場合、小規模を含めた多数の事業者が様々なルートで商品を販売するため、製品によっては激しく値崩れするケースが出てくる。こうした事態を受けてメーカーと量販店は、一定以上の利益を確保するため、最新モデルを比較的高い価格で販売することに力を入れるようになってきたが、これがさらに値崩れを激しくする結果を招いている(春に出た新製品の価格が、次のモデルが出る秋になると半値以下になっていることもザラである)。 大幅に値崩れした製品があると、メーカーにとってはブランド力の低下につながるため、そうした事態はできるだけ避けたい。在庫のリスクを負うことで、値崩れを防げるのであれば、当該リスクを負った方がよいとの判断はあり得るだろう。 加えて、世界的な物価高騰の影響を受けて、とうとう日本国内でもインフレが進みつつあり、これも新制度の導入を後押ししている。日本の場合、物価高騰に円安が加わっていることから、メーカーにとっては部品など仕入れコストの上昇が激しくなっている。国内では長く不景気が続き、賃金も上がっていないことから、消費者の購買力が低下しているため、小売店側の論理からすると、簡単に商品の値上げは決断できない。 メーカーがコスト上昇分を価格に転嫁するためには、ある程度、メーカーが価格をコントロールする必要が出てくる。インフレは長期化するとの見通しが高まっており、今後、他のメーカーの中からも同じような仕組みの導入を決断するところが出てくるだろう。もしこの動きが市場全体に波及した場合、数十年ぶりに価格の主導権がメーカーに移ることになるかもしれない。 まだ大きなニュースにはなっていないが、この動きは日本でも本格的なインフレ時代が到来することの前兆かもしれない。場合によっては時代の大きな転換点となる可能性も十分にある』、「メーカーがコスト上昇分を価格に転嫁するためには、ある程度、メーカーが価格をコントロールする必要が出てくる。インフレは長期化するとの見通しが高まっており、今後、他のメーカーの中からも同じような仕組みの導入を決断するところが出てくるだろ」、「場合によっては時代の大きな転換点となる可能性も十分にある」、同感である。
第三に、7月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「パナソニックの持株会社制移行に見る、ステークホルダーが気付かない「本気度」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305917
・『パナソニックが持株会社制へ移行した本当の意義 2021年、パナソニックでは12年からトップを務めてきた津賀一宏氏から楠見雄規氏に社長が交代し、同時に持株会社制への移行を発表。今年4月にはパナソニックホールディングスへ商号変更した。社名変更といえば、ソニーも昨年4月、本社をソニーグループに変更し、各事業会社がその下にぶら下がる格好になった。両社のこのタイミングでの組織変更やパナソニックの社長交代は何を意味するのだろうか。 結論から言えば、両社とも歴史を紐解けば両社らしい意思決定だということだ。パナソニックは、日本でいち早く事業部制を実施し、事業部ごとに商売の責任を持たせることで、ミドルマネジメントや現場社員の士気を上げてきた。戦後の財閥解体の流れの中で、当時の松下は松下電器産業と松下電工に分かれたが、これも戦前に松下幸之助がつくった事業部が独立会社になった格好だ。 松下正治社長時代に始めた事業本部制も、松下が他社に先駆けて実施した組織形態であったし、現在までにビジネスユニットごとのカンパニー制を実施してきた。かつては持株会社制が禁止されていたので、言わばバーチャルに持株会社制を実施してきたのがパナソニックの歴史である。 今回の持株会社制への移行は、パナソニックの業務範囲の広がりと、コロナ禍をはじめとしたそれぞれの事業が直面している不確実性の高さから、全社戦略と個々の事業戦略を1つの会社の1人のトップが見ることが難しい状況になったということであろう。津賀社長への評価は、在任中の10年近くの前半と後半で大きく異なるといえる。前半は、特定の問題を抱える事業を切り離して、注力すべき事業に集中して経営資源を投入し、グループ全体のトップが個別事業へのてこ入れを行うことで、経営の改善をしてきた。 その後、全体のポートフォリオを考えた全社戦略と、個別の事業戦略の陣頭指揮を1人のトップが担う限界が見えてきたわけだが、これは津賀社長個人の資質や能力の問題ではないにもかかわらず、任期後半の氏の評価の低下に影響しているのではないだろうか。 これまでも各カンパニー長が独立して事業責任を負ってきたため、「持株会社制に移行しても結局カンパニー制と変わらないのではないか」という反論もあるかもしれない。しかし、商法上独立した事業会社の社長と、バーチャルな企業内組織のトップでは、その責任や重圧はやはり異なるのではないか。 松下幸之助氏が事業部制を持株会社制として実施しなかったのは当時の法規制によるもので、もしかすると現代において松下幸之助がパナソニックのリーダーであったら、やはり持株会社制に移行していたのではないだろうか。今日のパナソニックが置かれた状況は、松下幸之助の時代とは大きく異なるが、幸之助イズムを現代的に解釈すれば、パナソニックの持株会社制移行はわりと素直に受け入れられる気がする』、「松下幸之助氏が事業部制を持株会社制として実施しなかったのは当時の法規制によるもので、もしかすると現代において松下幸之助がパナソニックのリーダーであったら、やはり持株会社制に移行していたのではないだろうか」、その通りかも知れない。
・『カンパニーと独立事業会社に 見える「本気度」の差とは 各ビジネスユニットにおけるトップの本気度という話に戻れば、筆者も前職でカンパニー制が敷かれていた頃のソニーに在職していたが、「どうせ数年すればカンパニーの枠組みは変わる」「今は自分のカンパニーの業績が悪くても、ソニー自体が潰れるということはないだろう」といった、実際の企業の社長のような本気度が見られないカンパニーのトップもいたように思える。 事業ユニットの経営に対する本気度は、バーチャルなカンパニーと実際の独立した事業会社では異なるのではないだろうか。現在、ソニーの社長を務める吉田憲一郎氏も副社長でCSOの十時裕樹氏も、現在のSo-net運営会社やソニー銀行など、ソニーグループの中で本社の一部門ではなく、独立した事業会社の経営を担って、平井一夫前社長時代のソニーの経営を支えてきた。平井氏自身も、ミュージックからゲームまで多様な独立事業のトップを務めた経歴を持つ。 So-netもソニー銀行も、ステークホルダーから「本業ではない」と言われ続けてきた事業会社であり、それらをいかに持続させ発展させるかは、経営者としての本気度が問われただろう。ある意味、本社のコア事業と言われるビジネスは、本社という大きな組織に守られたぬるま湯的な事業でもある。そこで育ったリーダーと比べて平井、吉田、十時体制以降のソニーが好調なのは、ぬるま湯的な本社ではなく、周縁の子会社の経営者として、本当に厳しい経営を経験してきたことによるのかもしれない。) もちろん、事業ユニットごとに別会社をつくれば、いざというときに切り売りして選択と集中がしやすくなるということもあるだろう。しかしそれ以上に、パナソニックやソニーが期せずして事業会社を独立させたのは、各事業がそれぞれ真剣に不確実な世の中をサーバイブするための経営を、ミドルマネジメントに期待しているということの表れではないだろうか。切り売りしやすい組織形態であるということは、各事業会社のトップにとっては、切り売りされない経営とその結果が求められるからである』、「本社のコア事業と言われるビジネスは、本社という大きな組織に守られたぬるま湯的な事業でもある。そこで育ったリーダーと比べて平井、吉田、十時体制以降のソニーが好調なのは、ぬるま湯的な本社ではなく、周縁の子会社の経営者として、本当に厳しい経営を経験してきたことによるのかもしれない」、言われてみれば、その通りなのだろう。
・『ソニーはもともと何をするかわからない会社だった ソニーも本社をソニーグループに社名変更して、その下に各事業会社がぶら下がる形態となった。これまで本業と言われてきたエレクトロニクスもその1つになり、音楽、映画、ゲーム、金融と様々な事業と横並びになる。それを「僕らのソニーは終わった」と嘆く人もいる。センチメンタルにいえば、自分もエレキのソニーに憧れて入社した1人なので、その気持ちはわからなくもない。 しかし、そもそもソニーが東京通信工業株式会社という電子技術の会社から、ソニー株式会社という何の事業を行っているのかさえわからない名称の会社に変わった歴史を紐解くと、ソニーとは「本業のない会社」であることがわかる。 ソニーの社史によると、東通工からソニーへ社名変更をする際にステークホルダーから「ソニー株式会社では何の会社なのかわからない。せめてソニー電子などにしたらどうか」と言われたのに対し、当時の経営者は「ソニーがいつまでエレクトロニクス関連の事業をしているかはわからない。社名で事業を縛ることで将来のソニーの可能性を狭めたくない」と説明し、あえてソニー株式会社にしたという。「今のソニーは何の会社かわからない」という皮肉を言う人もいるが、まさにその通りで、ソニーとは時代によって何をするかわからない会社であり、そもそもそれが正解なのだろう。 だからこそ、エレキもあり、エンタテインメントもあり、金融もあるという現在のソニーは、創業時にやっていたことを形式上トレースするのではなく、新しい分野にどんどんトライしていこうという創業世代のフィロソフィーを、受け継いでいるのだと思える。 こうして見ると、パナソニックもソニーも、健全に創業の理念を受け継いでいると言えるのではないだろうか。その意味で、パナソニックに受け継いでほしい創業の理念は「水道哲学」である。これについては次回に議論したい』、「ソニーへ社名変更をする際にステークホルダーから「ソニー株式会社では何の会社なのかわからない。せめてソニー電子などにしたらどうか」と言われたのに対し、当時の経営者は「ソニーがいつまでエレクトロニクス関連の事業をしているかはわからない。社名で事業を縛ることで将来のソニーの可能性を狭めたくない」と説明し、あえてソニー株式会社にしたという」、社名をめぐってそんなエピソードがあったのは初めて知った。
第四に、この続きを、7月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「ソニーやパナソニックが再び世界で戦うために必要な「21世紀の水道哲学」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305968
・『イノベーションを阻害する本業ではないから切り捨てるという発想 前回の記事では、パナソニックもソニーも案外創業の理念を正しく受け継いでいるという話をした。その最後に、パナソニックにはぜひ今こそ「水道哲学」を受け継いでほしいとも語った。 そもそも、イノベーションとはインベンション(発明)とイコールではない。常に新しい技術をゼロから開発すれば、イノベーションが生まれるものではない。むしろイノベーションとは、日本語訳で「新結合」とされるように、新しい組み合わせであって、組み合わせるもの同士は新しくなくてもよい。 ソニーのビジネスの柱の1つとなっているプレイステーションのゲーム事業も、ソニーミュージック(当時のCBSソニー)の丸山茂雄氏がサプライチェーン改革によって生み出したレコード会社の付加価値創造と、ソニーの久夛良木健氏がもともとは放送局用機器で活用していたポリゴン技術を、新たに組み合わせたイノベーションであった。 久夛良木氏のポリゴン技術は、ゲーム業界に全く新しいリアリティのある映像を持ち込んだ。しかし、ゲームソフトを開発するのはサードパーティのソフトウェアハウスであり、彼らがソフトを供給してくれなければ、ゲーム機はタダの箱である。 プレイステーションのもう1つの成功は、それまで旧態依然としていたゲームメーカー、ソフトウェアハウス、おもちゃ問屋、小売店の関係性を改め、かつてファミコン時代に見られた抱き合わせ販売のような、サプライチェーンの一部にしわ寄せが行くビジネスの慣行を改善したことが大きかった。ゲーム機メーカー以外のソフトウェアハウス、流通も含めて、全ての事業者に利益をもたらすサプライチェーン改革をしたことによって、サードパーティがソニーの味方についてくれたのだ。 ソニーミュージックには丸山学校というソニーミュージック流の経営を学ぶ勉強会があったそうだが、同社のこうしたビジネスの能力もまたソニーグループの大切な資産であり、ソニーグループが全社の資産を上手く使いこなすことが今後も求められる。 「本業ではないから切り捨てる」という発想は、イノベーションを阻害する。ソニーグループの強みは一見シナジーがないように見える、様々な業種の集まりであるところだと、イノベーション研究を本業とする筆者は見ている』、「「本業ではないから切り捨てる」という発想は、イノベーションを阻害する」、その通りだ。「久夛良木氏のポリゴン技術は、ゲーム業界に全く新しいリアリティのある映像を持ち込んだ。しかし、ゲームソフトを開発するのはサードパーティのソフトウェアハウスであり、彼らがソフトを供給してくれなければ、ゲーム機はタダの箱である。 プレイステーションのもう1つの成功は、それまで旧態依然としていたゲームメーカー、ソフトウェアハウス、おもちゃ問屋、小売店の関係性を改め、かつてファミコン時代に見られた抱き合わせ販売のような、サプライチェーンの一部にしわ寄せが行くビジネスの慣行を改善したことが大きかった」、やはり「プレイステーション」は典型的な「イノベーション」の成功例のようだ。
・『苦境期におけるソニーとパナソニック・シャープの決定的な違い これまで、パナソニックとソニーを同列に論じてきたが、今ソニーの経営は絶好調なのに対しパナソニックは不調であり、比較にならないのではないかとの批判があるかもしれない。しかし、パナソニックの津賀一宏社長やソニーの平井一夫社長がそれぞれ就任した2010年代の始めは、両社の立場を入れ替えて同じことが言われていたのを忘れてはいけない。 パナソニックの現在の問題の1つを遡るとすれば、2010年代始めにV字回復をして、メディアにもてはやされたことにあるのではないかと筆者は考える。同様に、当時V字回復した企業にシャープがある。パナソニックやシャープがV字回復する中で、ソニーだけが経営の回復が遅れ、「さよならソニー」「ソニーだけが凋落」とメディアに書き立てられ、当時の平井社長を「レコード屋の兄ちゃんにソニーの経営は無理」とまで罵る記事も多く見受けられた。 一方で、V字回復したパナソニックやシャープの経営は素晴らしいともてはやされたのである。しかし、考えて欲しい。利益とは売上から支出を引いたものである。支出には将来の事業への投資分も含まれる。 具体的にいえば、当時のパナソニックやシャープは研究開発投資を削減する方向に動いた。一方ソニーの平井社長は、エレクトロニクス事業の選択は行ったものの、残した事業への研究開発投資は赤字の中でも続けてきたのである。 研究開発は未来の収益源である。今期の経営数値には表れないが、確実に将来の経営を左右するものである。そうした未来の収益源を減らせば、見かけ上経営はV字回復する。大抵の場合、企業のV字回復は将来の利益の先取りでしかない。現在の楠見パナソニックに求められるのは、短期的な見かけ上のV字回復ではなく、長期的な組織能力の向上であり、将来への投資を疎かにしない経営であろう。 最後に、パナソニックとソニーの両社に苦言を呈するとすれば、経営を建て直した後、パナソニックはおそらく数年後の、ソニーは足もとの課題として、「今後何をして、どのようにグローバルな競争の中で戦っていくのか」というビジョンを明確に示していくことが、まだ不十分かもしれない。 パナソニックもソニーも、日本を代表する大企業である。しかし、グローバルで見れば、時価総額は決して上位に食い込んではいない。とはいえ、両社には優れた技術の蓄積がある。パナソニックといえば、松下幸之助の商売のイメージが強いかもしれないが、高い技術開発力を持ち、他社にない技術的優位性をいくつも持っている会社である。) これらの技術や経営資源を使って、パナソニックやソニーは世界でどうありたいのか、トップがもっと明確に示して欲しい。両社とも新規事業創出の組織をつくり、ユニークな事業をいくつも生み出し始めているが、どれもグローバルに両社を牽引していく事業に育つ道筋は見えていない。 ソニーの場合、「動くもの」というところにヒントがあるのかもしれない。aiboの復活やEVの開発、最近ではドローン事業への参入など、エレクトロニクスから古き良きメカトロニクスの分野で、新しいものを見せ始めている。 世間ではGAFAがもてはやされているが、プラットフォーマーの彼らにもハードウェアは必要だ。Amazon AlexaもAmazon Echoという端末がなければ使えないし、Facebookも大量にデータを処理するデータセンターにはハードウェアが必要である。こうしたハードウェアの開発は、日本やアジア地域の企業のハードの力をなくしては実現しない。 東芝の島田太郎社長が指摘するように、GAFAの弱点はハードにあるといってもよい。現在は、IoTのサプライチェーンの中で、ソフトウェア領域を担っているところがうまみを持っているが、ハードウェア領域の会社がプラットフォームリーダーになることも、理論的には不可能ではないはずだ。 パナソニックもソニーも、ハードがつくれるという強みがある。ただし、ハードウェアの機能性能だけで勝てるほど今の市場は甘くない。たとえばパナソニックの車載電池事業も、規模を追う一方で、「世界でなにがなんでもナンバーワンの電池サプライヤーになる」という本気度は、生産設備の投資からはうかがえない。そこは、「いたずらに規模を追わずに技術で差別化を」となってしまう』、「当時のパナソニックやシャープは研究開発投資を削減する方向に動いた。一方ソニーの平井社長は、エレクトロニクス事業の選択は行ったものの、残した事業への研究開発投資は赤字の中でも続けてきたのである」、当時、「パナソニックやシャープ」は「V字回復」、経営がもてはやされていたが、「研究開発投資を削減する方向に動いた」、「ソニー」は「残した事業への研究開発投資は赤字の中でも続けてきた」とは大したものだ。
・『ハードだけが競争力ではない 「21世紀の水道哲学」が必要だ むしろここで、「世界で最も安価に、大量にリチウムイオン電池を供給できるのはパナソニックだ」と、「21世紀の水道哲学」を主張してもらいたい。グローバルに部品や技術を組み合わせ、分業によって製品をつくり出す今日、とりわけ電池のような部品ビジネスで自社しかつくれないユニークな製品というのは、むしろ製品価値を下げるかもしれない。 EVのバッテリー供給を受ける自動車メーカーにしてみれば、様々な企業から複数購買をしたいはずである。1社の技術に縛られれば、サプライヤーに肝を握られてしまうからだ。そうすると、BtoBの部品事業は標準化を指向するようになる。日本が得意な自社しかつくれない部品は、もはや非標準の使いにくい部品に過ぎない。シャープが液晶の外販も視野に入れて建設した堺コンビナートで失敗したケースも、同じであろう。) 今のところソニーのセンサービジネスは、グローバルナンバーワンを目指すため、しっかりとした生産設備への投資を行っているように見える。しかし油断をすれば、すぐに韓サムスンに追いつかれてしまうかもしれないし、そのためにもセンサーの次の事業を育てていく必要がある。 この先10年のパナソニックとソニーは、何をする会社なのか。また、その事業でグローバル展開できるのか。これは両社が現在課せられた宿題だろう。 国内でしか売れない商品をつくっても、パナソニックやソニーほどの規模を持つ企業は経営を維持することはできない。グローバルに何の会社になるのか、持株会社制への移行によって事業形態が複雑になった今こそ、ステークホルダーを納得させる方向性をしっかり示すことが両社に求められる』、「21世紀の水道哲学」については、私には安値イメージが強過ぎ、これまでの日本的経営の弱点と考えているので、これが「必要」との筆者の主張には同意できない。
・『ソニーとパナソニックが肝に銘じるべき逆転の発想 やはり、求められるのは「水道哲学」である。「安かろう、悪かろう」を売るのではない。安くつくって大量に売ることで、少量の高いものをつくるための原資をつくる。それが今日の「水道哲学」の意義であろう。 パナソニックもソニーも、今よりさらに規模を縮小したいのであれば、販売数量を減らし、規模に見合った中堅メーカーになればよい。しかし、多くの社員とその家族、両社を支え日本に数多く存在するサプライヤーのことを考えれば、規模を負うことも重要であるし、規模を追えば規模の経済性のメリットが享受できる。 米中貿易摩擦や、ロシアのウクライナ侵攻とそれを容認する中国に対して、世界は厳しい目を向けている。IoTとはあらゆる家電製品に通信機能が入り込むということだ。基地局設備は米国でも英国でも、ファーウェイを排除する方向にある。しかし、クライアント機器が中国製であれば、そこが抜け道になるのは当然のことである。日本の防衛省でもレノボのPCを使っているという話を聞いたが、それこそ日本のパナソニックの「レッツノート」が全官庁の標準PCになってもいいはずだ。経済安全保障は日本のエレクトロニクス企業にとって、大きなチャンスとなる。 今こそ反転攻勢に出て、世界で規模を追い求めるときではないだろうか』、「経済安全保障は日本のエレクトロニクス企業にとって、大きなチャンスとなる」、確かに事実だが、それだけでは限界がある。「反転攻勢に出て、世界で規模を追い求める」には、何らかの強味を付け加える必要があるのではなかろうか。
タグ:「一連の流通革命はスーパーや量販店の勝利という形で終了。1991年には公正取引委員会が「流通・取引慣行ガイドライン」を制定し、メーカーによる価格拘束の是非がさらに明確に定められた」、なるほど。 「メーカーから価格決定権を」取り戻そうというのは画期的だ。 「メーカーがコスト上昇分を価格に転嫁するためには、ある程度、メーカーが価格をコントロールする必要が出てくる。インフレは長期化するとの見通しが高まっており、今後、他のメーカーの中からも同じような仕組みの導入を決断するところが出てくるだろ」、「場合によっては時代の大きな転換点となる可能性も十分にある」、同感である。 加谷 珪一氏による「パナソニックがひそかに「業界を揺るがす新制度」を導入していた…その「意外な背景」」 現代ビジネス 「次世代を担う人材の幹部登用を足場に、収益性改善のスピードをもう一段引き上げることが求められている」、今後はかなりの困難も予想される。 確かに「半導体不足の影響は甚大だ」 「今回の早期退職は「過去にやってきた事業撤退に伴う人員整理的なものと、根本的に趣旨が異なる」と強調」、「成長事業を牽引できる人材の登用という狙いがある」、「幹部社員に続き、今後は国内の一般社員6万5000人にもジョブ型の対象を広げる予定だ。 加えて、公募の役職(ポスト)に社員自ら立候補できるポスティング制度も大幅に拡大」、「IT企業からDX企業へ」を旗印」にする以上、当然だろう。 「国内従業員の4%弱」を「早期退職」とは思い切ったリストラだ。 「パナソニックが導入したのは、同社が在庫リスクを負う代わりに、販売価格の決定権を持つという仕組みである」、「メーカーにとっては、奪い取られた価格決定権を取り戻す動きということになるが、この制度を導入した場合、価格の決定権はメーカーに戻る一方で、在庫リスクのすべてメーカーが負うため、必ずしもメーカーに有利とは限らない」、「パナソニックがこうした仕組みの導入を決めた背景には、2つの要因があると考えられる。 ひとつはネット販売の拡大によるさらなる廉価販売の進展、もうひとつは、このところ進んでいるインフレである」 東洋経済オンライン「富士通「幹部3000人の希望退職」に映る覚悟と焦り ジョブ型雇用や要職立候補制も急ピッチで拡充」 「ソニーへ社名変更をする際にステークホルダーから「ソニー株式会社では何の会社なのかわからない。せめてソニー電子などにしたらどうか」と言われたのに対し、当時の経営者は「ソニーがいつまでエレクトロニクス関連の事業をしているかはわからない。社名で事業を縛ることで将来のソニーの可能性を狭めたくない」と説明し、あえてソニー株式会社にしたという」、社名をめぐってそんなエピソードがあったのは初めて知った。 「本社のコア事業と言われるビジネスは、本社という大きな組織に守られたぬるま湯的な事業でもある。そこで育ったリーダーと比べて平井、吉田、十時体制以降のソニーが好調なのは、ぬるま湯的な本社ではなく、周縁の子会社の経営者として、本当に厳しい経営を経験してきたことによるのかもしれない」、言われてみれば、その通りなのだろう。 「松下幸之助氏が事業部制を持株会社制として実施しなかったのは当時の法規制によるもので、もしかすると現代において松下幸之助がパナソニックのリーダーであったら、やはり持株会社制に移行していたのではないだろうか」、その通りかも知れない。 「「本業ではないから切り捨てる」という発想は、イノベーションを阻害する」、その通りだ。「久夛良木氏のポリゴン技術は、ゲーム業界に全く新しいリアリティのある映像を持ち込んだ。しかし、ゲームソフトを開発するのはサードパーティのソフトウェアハウスであり、彼らがソフトを供給してくれなければ、ゲーム機はタダの箱である。 プレイステーションのもう1つの成功は、それまで旧態依然としていたゲームメーカー、ソフトウェアハウス、おもちゃ問屋、小売店の関係性を改め、かつてファミコン時代に見られた抱き合わせ販売のような、サプライ 長内 厚氏による「パナソニックの持株会社制移行に見る、ステークホルダーが気付かない「本気度」」 ダイヤモンド・オンライン 「当時のパナソニックやシャープは研究開発投資を削減する方向に動いた。一方ソニーの平井社長は、エレクトロニクス事業の選択は行ったものの、残した事業への研究開発投資は赤字の中でも続けてきたのである」、当時、「パナソニックやシャープ」は「V字回復」、経営がもてはやされていたが、「研究開発投資を削減する方向に動いた」、「ソニー」は「残した事業への研究開発投資は赤字の中でも続けてきた」とは大したものだ。 長内 厚氏による「ソニーやパナソニックが再び世界で戦うために必要な「21世紀の水道哲学」」 「経済安全保障は日本のエレクトロニクス企業にとって、大きなチャンスとなる」、確かに事実だが、それだけでは限界がある。「反転攻勢に出て、世界で規模を追い求める」には、何らかの強味を付け加える必要があるのではなかろうか。 「21世紀の水道哲学」については、私には安値イメージが強過ぎ、これまでの日本的経営の弱点と考えているので、これが「必要」との筆者の主張には同意できない。 (その6)(富士通「幹部3000人の希望退職」に映る覚悟と焦り ジョブ型雇用や要職立候補制も急ピッチで拡充、パナソニックがひそかに「業界を揺るがす新制度」を導入していた…その「意外な背景」、パナソニックの持株会社制移行に見る ステークホルダーが気付かない「本気度」、ソニーやパナソニックが再び世界で戦うために必要な「21世紀の水道哲学」) 電機産業