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宗教(その7)(意外に知らない「キリスト教」世界最大になった訳 広がっていった経緯は複雑で、かなり政治的、統一教会以外の宗教団体名を伏せる大手メディア オウム事件以降続く「空白の30年」の罪深さ、宗教「勧誘に注意」の報道で団体名を伏せられる謎 統一教会のブームが過ぎたら元通り では困る) [社会]

宗教については、昨年3月3日に取上げた。今日は、(その7)(意外に知らない「キリスト教」世界最大になった訳 広がっていった経緯は複雑で、かなり政治的、統一教会以外の宗教団体名を伏せる大手メディア オウム事件以降続く「空白の30年」の罪深さ、宗教「勧誘に注意」の報道で団体名を伏せられる謎 統一教会のブームが過ぎたら元通りでは困る)である。

先ずは、昨年5月27日付け東洋経済オンラインが掲載した宗教学者・昭和女子大学非常勤講師の中村 圭志氏による「意外に知らない「キリスト教」世界最大になった訳 広がっていった経緯は複雑で、かなり政治的」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/591437
・『社会、とくに欧米社会を理解するという意味で、宗教についての理解は欠かせません。世界最大の信者数であるキリスト教の教義をまとめた聖書は世界で最も読まれた書物だといわれていますが、その中身はどんなものなのでしょうか。新著『教養として学んでおきたい聖書』を上梓した宗教学者の中村圭志氏が解説します』、興味深そうだ。
・『旧約聖書は「古代イスラエル宗教文学全集」  聖書とはどんな本であるのか、簡潔にまとめてみましょう。 旧約聖書は「古代イスラエル宗教文学全集」と理解するのがたぶんよろしいでしょう。ユダヤ人のご先祖であるイスラエル人たちがどんな民族的・宗教的アイデンティティをもっていたかを明らかにしてくれる一代叢書(そうしょ)です。 旧約の冒頭をなす律法(モーセ五書)は、民族に団結を促す神話と戒律の書です。律法の後ろに並べられたさまざまな書の中では、預言者たちが神懸かりになって民衆を叱ったり激励したりします。 古代のどんな民族も存亡を繰り返していましたし、イスラエル人ばかりがことさらに苦難にさいなまれていたわけではありません。しかし、イスラエル人たちは自分たちの苦難を人類史上の一大事のように思い描いたのでした。この強烈な自意識があるからこそ、旧約聖書は古典の地位を獲得できたといえるでしょう。 ともあれ、イスラエル人たちの見取り図によれば、この世とは神と人間との対話の空間です。神が理想を示す。人間はそれが守れない。人間は苦難に陥り、神が救いの道を示す。気宇壮大なドラマです。 神という概念には矛盾があるし、御伽噺めいたところもあったりして、合理的な現代人には信じがたいような話なのですが、イスラエル人の設定した「人間に倫理的な反省を迫る」という神の基本的な性格は、古代的あるいは民族的な伝統の枠を超えて、後世の多くの人々の倫理的思索にインスピレーションを与えることになりました。 キリスト教徒は旧約聖書をキリストの到来を予見する書だと位置づけました。キリスト到来それ自体を書き記した教典が新約聖書です。 この視点からは、旧約は人類史の前半における神と人間の関係を記した書、新約は人類史の後半における神と人間の関係を記した書だということになります。 つまり神はまずイスラエル人をサンプルに選んで律法という戒律を与えてみたのだが、彼ら選民にしてからが神の道を外れがちであった(人類史の前半)。そこで神は自ら目に見える神キリストとして現われて人類の罪を清算し、律法遵守という課題の代わりに「キリストに忠節を尽くし、キリストにならう」という新たな課題を人類に与えた(人類史の後半)。 おおよそこのような流れで、旧約聖書から新約聖書までの諸々の文書が読み解かれることになりました。 というわけで、少なくとも信者の立場からすれば、聖書というのは――ユダヤ教徒にとってもキリスト教徒にとっても――宇宙を支配する絶対神と自分自身との倫理的な対話の書であるということになります。 どちらの宗教でも、天地創造の絶対神は、聖書に書かれた「歴史」的な出来事を通じて、人間に啓示を与えています(「歴史」とカギカッコをつけたのは、実際には半分神話が混じっているからです)』、「旧約聖書は「古代イスラエル宗教文学全集」と理解するのがたぶんよろしいでしょう」、「古代イスラエル宗教文学全集」とは言い得て妙だ。「イスラエル人たちは自分たちの苦難を人類史上の一大事のように思い描いたのでした。この強烈な自意識があるからこそ、旧約聖書は古典の地位を獲得できた」、「イスラエル人たちの見取り図によれば、この世とは神と人間との対話の空間です。神が理想を示す。人間はそれが守れない。人間は苦難に陥り、神が救いの道を示す。気宇壮大なドラマです」、「イスラエル人の設定した「人間に倫理的な反省を迫る」という神の基本的な性格は、古代的あるいは民族的な伝統の枠を超えて、後世の多くの人々の倫理的思索にインスピレーションを与えることになりました」、「旧約は人類史の前半における神と人間の関係を記した書、新約は人類史の後半における神と人間の関係を記した書だ」、「神はまずイスラエル人をサンプルに選んで律法という戒律を与えてみたのだが、彼ら選民にしてからが神の道を外れがちであった(人類史の前半)。そこで神は自ら目に見える神キリストとして現われて人類の罪を清算し、律法遵守という課題の代わりに「キリストに忠節を尽くし、キリストにならう」という新たな課題を人類に与えた(人類史の後半)」、「聖書というのは――ユダヤ教徒にとってもキリスト教徒にとっても――宇宙を支配する絶対神と自分自身との倫理的な対話の書である」、なるほど。
・『聖書は全体が1つの壮大な大河ドラマ  アダムとエバの失楽園、ノアの洪水、族長アブラハム、モーセと出エジプト、ダビデ王、バビロニア捕囚、預言者の預言、キリストの十字架、キリストの使徒たちの活躍、やがて来る世界の終末の予告……こういう歴史的順序に沿って、神は自らを啓示してきたのであると。 聖書の面白みは、全体が1つの壮大な大河ドラマを構成している点にもあります。紆余曲折に満ちた長い長い物語の中で、人類はさまざまな課題に取り組んできたし、倫理的な成長もあれば、相も変わらぬ失敗もある。神様自身が時代とともに異なる相貌を見せるようになっていった……。 そういう意味では、神の成長の物語とでも言えるような側面もあると言えます。) この地図をご覧ください。 (地図はリンク先参照)(外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) これは現在の大宗教(キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、仏教)の広がりを大雑把に描いたものです。 Aがキリスト教、Bがイスラム教、Cがヒンドゥー教、Dが仏教です。もちろんキリスト教に塗られている地域にも仏教徒がいたりしますし、仏教圏とされている所にもイスラム教徒がいたりします。 アフリカ南部はキリスト教に塗られていますが、もともとの土着の宗教も祖先祭祀なども広く行なわれています。しかしキリスト教の宣教師がどんどん入り込んでいるので、キリスト教の影響力が強くなっているのです』、「地図」はあくまでイメージを掴むためのもののようだ。
・『支配者の宗教として広まった側面もある  地図をざっと見て分かるように、キリスト教圏が世界を包囲しています。キリスト教がすばらしい教えだから自然に広がった――と信者さんはお思いでしょうが、実際の経緯はもっと複雑であり、はるかに政治的です。というのは、近代になって、西洋人が世界の植民地支配に手を染め、支配者の宗教としてキリスト教が広まっていったという側面があることは否めないからです。 西洋が優位にたった背景として軍事力の働きが大きかったわけですが、西洋の優位には偶然的な要因もあります。 例えば新大陸では、西洋人が持ち込んだ病原菌のせいで、先住民の人口が激減しました。先住民文化が根こそぎ壊れてしまったところに、新たに(植民者とともに)キリスト教が広がっていったわけです。こんなふうにして西洋文化圏は新大陸をほとんど偶発的に併呑してしまいました。 まあ、歴史というのは残酷なものです。愛の教えの勝利の物語の背後には、多くの血の歴史が隠されている。いや、もちろん、古代や中世においては、どこの民族も今からは考えられないほど残虐でしたから、クリスチャンばかりが軍事的にひどいことをやったわけではありません。どっちもどっちというところが大きいのですが、いずれにせよ、フットワークと軍事力や政治力において西洋人は世界を圧倒しました。) 西洋の優位には、ルネサンス以降の科学の発展によるところもあります。 この合理的思考の発達には、ある程度、聖書の「神」の概念がプラスに作用しました。と言いますのは、聖書の神は非常に排他的なところをもっており、地上のあらゆる神々や霊や魑魅魍魎の類を追い払ってしまうパワーをもっておりました。一般民衆はいつでも迷信的な世界に生きており、異教的な信仰も残存しましたが、理論的には、この世界はすべて絶対神の設計によって成り立っているはずです。 ですから、哲学者や科学者は、その神が自然界に仕組んだからくりの総体を統一的な理論をもって明らかにできるはずです。ニュートンなどが物理法則を探求した背景には、こうした宗教的な情熱がありました。 この点、インドや中国や日本などの多神教徒は、たとえ科学的な思弁や調査に手を染めたときでも、理論的には今一つ中途半端にしか進めなかったように見えます。世界中には無数の神秘的な力が働いているという呪術的世界観がずるずると存続したのです。また、西洋と同じく一神教を奉戴していても、イスラム世界では神の絶対性が科学法則を凌駕すると思われたためか、西洋ほどには科学を発展させることができませんでした』、「西洋が優位にたった背景として軍事力の働きが大きかったわけですが、西洋の優位には偶然的な要因もあります。 例えば新大陸では、西洋人が持ち込んだ病原菌のせいで、先住民の人口が激減しました。先住民文化が根こそぎ壊れてしまったところに、新たに(植民者とともに)キリスト教が広がっていったわけです。こんなふうにして西洋文化圏は新大陸をほとんど偶発的に併呑してしまいました」、「哲学者や科学者は、その神が自然界に仕組んだからくりの総体を統一的な理論をもって明らかにできるはずです。ニュートンなどが物理法則を探求した背景には、こうした宗教的な情熱がありました。 この点、インドや中国や日本などの多神教徒は、たとえ科学的な思弁や調査に手を染めたときでも、理論的には今一つ中途半端にしか進めなかったように見えます」、「西洋と同じく一神教を奉戴していても、イスラム世界では神の絶対性が科学法則を凌駕すると思われたためか、西洋ほどには科学を発展させることができませんでした」、なるほど。
・科学の発展は単純に一神教の神概念のおかげではない  というわけで、科学史においてキリスト教的西洋が圧倒的な成果を上げたわけですが、ただし、ここでもう1つ考慮に入れておかなければならないことがあります。 西洋人が科学を大々的に推し進めることになった近代というのは、もはやキリスト教会が絶対的権威をもっていた中世ではありません。近代ではルネサンス以降称揚されるようになった古代ギリシャ・ローマ時代の文化的遺産がものを言っています。 古代ギリシャの多神教徒は競争するのが大好きでしたが、そうした競争の中には議論で相手を打ち負かすというのも含まれていました。 彼らは哲学と科学を発達させ、すでに紀元前の段階で地球が丸いということを理論的に推理し、天文学と幾何学を応用して地球の大きさまで計測しています。 このことを考えると、科学の発展を単純に一神教の神概念のおかげと呼ぶわけにはいかないということになります。知性の歴史はもっと複雑なんですね』、「科学の発展は単純に一神教の神概念のおかげではない」、「近代ではルネサンス以降称揚されるようになった古代ギリシャ・ローマ時代の文化的遺産がものを言っています。 古代ギリシャの多神教徒は競争するのが大好きでしたが、そうした競争の中には議論で相手を打ち負かすというのも含まれていました。 彼らは哲学と科学を発達させ、すでに紀元前の段階で地球が丸いということを理論的に推理し、天文学と幾何学を応用して地球の大きさまで計測しています」、「古代ギリシャ・ローマ時代の文化的遺産がものを言っています」、というのは初めて知った。

次に、本年2月4日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの藤倉 善郎氏による「統一教会以外の宗教団体名を伏せる大手メディア オウム事件以降続く「空白の30年」の罪深さ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/649860
・『安倍晋三元首相への銃撃事件を受け、盛んに報道されるようになった世界平和統一家庭連合(以下、統一教会)の2世問題。しかし、大手メディアは統一教会以外の宗教団体に関する報道には消極的だ。宗教2世問題を追い続けてきた筆者が、オウム事件以降の宗教報道を振り返る。(後編「宗教『勧誘注意』の報道で団体名を伏せる謎」は2月4日配信)』、興味深そうだ。
・『「カルト問題」をめぐるメディアの空白  2022年7月、安倍晋三元首相への銃撃事件が起きるまで、大手メディアや政治が統一教会の問題を見過ごしてきたことを指す、「空白の30年」という言葉がある。その「空白」を埋めるかのように、大手メディアが統一教会問題を報道し、政治が動き、「宗教2世」も含め、被害当事者や支援者たちの声も頻繁に取り上げられるようになった。 統一教会に関して、1980~90年代から声を上げ続けてきた人々からすれば、隔世の感だろう。しかし一方で、身近な宗教2世の間で「なぜメディアは統一教会問題しか報じないのか」という声が上がる。統一教会以外でも宗教2世について、社会的に放置すべきでない深刻な被害が起きている。しかし大手メディアでは、正面切ってそれを報じることがない。 つまり「カルト問題」をめぐるメディアの空白は、まだ終わっていないのだ。このままでは今の「統一教会を論ずる(報じる)ブーム」が過ぎた後に、再び、空白が訪れるのではないか。 その空白を生じさせないためにも、フリーランス記者としてカルト問題や悪質な宗教を追及してきた立場から、メディアの報道姿勢を論じたい。もちろん、「何を報じるか」「何を報じないか」「どう報じるかは」は、それぞれのメディアが自律的な立場で、外部からの影響を排して決める事柄である。 しかし安倍氏の事件を機に宗教2世の問題がクローズアップされたように、メディアが積極的に報じることで、社会的に認知・発見される問題がある。それだけ大手メディアの役割と責任は大きいといえるのではないか。宗教2世、あるいはカルト問題をめぐるメディアの報道姿勢について、振り返りたい。 私自身の周辺で、メディアに対する2世たちの不満がかなりはっきりと目立つようになったのは、2022年10月27日に2世たちが厚生労働省で開いた記者会見の後からだ。会見では、統一教会2世とエホバの証人(ものみの塔聖書冊子協会の信者)2世が出席し、岸田文雄首相や各政党、厚生労働省などに要望書を提出すると表明した。 統一教会とものみの塔による組織的な宗教虐待の実情を訴え、2世問題が統一教会に限った問題ではないことを説明した』、「統一教会2世とエホバの証人・・・2世が出席」、「統一教会とものみの塔による組織的な宗教虐待の実情を訴え、2世問題が統一教会に限った問題ではないことを説明」、なるほど。
・『統一教会以外の団体名を伏せるメディア  とくにものみの塔はむちなどを使って子供をたたく行為や、輸血拒否、学校行事への参加や大学進学の禁止、交友関係の制限などを、組織的に行ってきた。新たな法律をつくるまでもなく、あからさまな虐待である。しかし一般メディアの多くはこの会見について、エホバの証人、ものみの塔という名称を報じず、会見で語られた、ものみの塔の信者2世(エホバ2世とも呼ばれる)のエピソードにも触れなかった。この点については、統一教会2世からも不満が聞かれる。 統一教会2世たちもまた、統一教会問題に限定しない問題意識を持っていた。厚労省での会見は、宗派、宗教団体を限定せず、広く2世問題を提起する趣旨だった。 例外はある。例えば、10月27日に東京新聞がウェブ配信した「『今国会で被害者救済の法整備を』旧統一教会など宗教2世たちが訴え首相らに要望書を提出へ」のように、エホバの証人を明記した報道もある。 しかし会見後の3日間について、紙面で報じられた記事をニフティの「新聞・雑誌横断検索」で調べると、会見について報じた30件の記事のうち、「エホバ」の語が登場するのは1件、「ものみの塔」は0件だ(記事以下、検索期間の記載がないものは2022年12月19日分までの記事が対象)。 11月1日、「社会調査支援機構チキラボ」が、宗教2世の実態調査の結果を公表した。1131件の回答が寄せられたとした。内訳は、創価学会428、エホバの証人168、統一教会47、そのほか335。しかし上記と同じ要領で新聞・雑誌を検索したところ、39件の記事中「エホバ」は1件、「創価学会」も1件しか出てこなかった。 このように大手メディアは、統一教会以外の宗教団体について、極端に抑制的だ。 メディア側にも理由があることは想像できる。団体側からの抗議を恐れているとか、「被害を語る側の言い分だけに立脚して団体を名指しすることに抵抗がある」といった「公正さ」への意識もありそうだ。 統一教会とほかの宗教団体との扱いの違いについて、ある大手メディアの関係者は統一教会が安倍氏銃撃事件との関連で取り沙汰されるようになったのに対して、ほかの宗教団体は「事件がらみ」ではない点を挙げた。 顔出しで個別の対面取材にも応じる統一教会2世の小川さゆりさん(仮名)のような、メディアにとって記事にしやすい象徴的存在が、エホバ2世にはいない、という事情も考えられる。しかし11月7日に立憲民主党のヒアリングに出席したエホバ3世である夏野なな(仮名)さんは、マスク着用とは言え顔出しだった。これについても、ウェブ配信記事は別として、紙面ベースでは共同通信の配信記事と「しんぶん赤旗」以外は、エホバの固有名詞はなかった。 証言者の顔出しとは関係なく、ものみの塔ではメディアが慎重になっていることがわかる』、「大手メディアは、統一教会以外の宗教団体について、極端に抑制的だ。 メディア側にも理由があることは想像できる。団体側からの抗議を恐れているとか、「被害を語る側の言い分だけに立脚して団体を名指しすることに抵抗がある」といった「公正さ」への意識もありそうだ。 統一教会とほかの宗教団体との扱いの違いについて、ある大手メディアの関係者は統一教会が安倍氏銃撃事件との関連で取り沙汰されるようになったのに対して、ほかの宗教団体は「事件がらみ」ではない点を挙げた」、なるほど。
・『団体側の抗議と訴訟の歴史  ここ30年間、メディアは統一教会に限らず、カルト全般を記事にせず、空白の期間が続いていた。おそらくは「宗教団体に批判的な報道をすると面倒くさいことになる」という忌避感だ。順を追って、その歴史を見てみよう。 1989年、『サンデー毎日』が「オウム真理教の狂気」と題する特集記事を掲載した。この年だけで、7回にわたる記事を掲載し、教団初期での批判報道をリードした。これに対して、オウム側は毎日新聞社を相手取って訴訟を起こした。 同じ1989年、TBSがオウムを取り上げる番組を制作した。オウムを批判していた坂本堤弁護士のインタビューを収録したが、教団幹部がTBSに押しかけ、インタビュー映像を見せろと要求。TBS側は映像を見せてしまったうえに、放映しなかった。 1995年の地下鉄サリン事件後、この件が発覚し、オウムが坂本弁護士一家殺害事件に踏み切ったきっかけの1つになったと指摘された。「TBSビデオ問題」だ。この件でTBSは社会から強く批判され、社長が辞任した。 1990年、オウム真理教が熊本県波野村(現・阿蘇市)に教団施設を建設するため土地を取得したが、地元住民の反対にあい、現地では混乱が起きた。熊本県警が国土利用計画法違反容疑で施設を強制捜査し、幹部らを逮捕した』、「ここ30年間、メディアは統一教会に限らず、カルト全般を記事にせず、空白の期間が続いていた。おそらくは「宗教団体に批判的な報道をすると面倒くさいことになる」という忌避感だ」、確かに「サンデー毎日』・・・教団初期での批判報道をリード・・・これに対して、オウム側は毎日新聞社を相手取って訴訟」、「TBSビデオ問題」では「社会から強く批判され、社長が辞任」、などがあるので、「忌避」されるのも頷ける。
・『度重なる訴訟に大手メディアによる批判は散発的に  波野村をめぐってオウム側は、信者の転入届を受理しなかった村を提訴。森林法違反で教団に波野村での開発中止命令を出した当時の細川護熙県知事も提訴した。 教団関連の議会決議をした波野村の村議らや、それを報じた毎日新聞社を相手に、名誉毀損などを理由とした訴訟も起こした。「オウム真理教、波野村内の農地に違法にプレハブ建設の疑い」などと報じた西日本新聞社を相手取った訴訟も起こした。 結局、オウムでは、地下鉄サリン事件が起こるまで、大手メディアによるオウム批判や問題提起の報道は散発的なものにとどまった。当初から坂本堤弁護士とともにオウム問題に取り組んできた「オウム真理教被害者の会」(現・オウム真理教家族の会)の永岡弘行会長は、当時のメディアの反応の鈍さを悔しそうに振り返る。 地下鉄サリン事件が起こった後、私はいろんな人に言ったんだ。『だからあれほど言ったじゃないか』と」(永岡氏) 地下鉄サリン事件の約4年前の1991年には、幸福の科学による「フライデー事件」が起こる。講談社が発行する写真週刊誌『フライデー』の記事に抗議して、幸福の科学が信者を動員して講談社への抗議デモや、抗議の電話やFAXによって業務をマヒさせるといった行動に出た。 さらに幸福の科学は、名誉毀損などを理由に講談社を提訴したほか、全国の地裁で信者個人を原告とした訴訟も乱発した。記事の内容について教団が原告となった訴訟では教団が勝訴したが、個々の信者名義で乱発された訴訟では大半が教団側の敗訴だった。 1990年代後半から2000年代にかけては、高額な布施を強いていたワールドメイトを批判的に報じたメディアやジャーナリストを、ワールドメイトが次々と提訴している。 1980~90年代、統一教会がメディア相手に訴訟を乱発した形跡はない。しかし批判的な報道後にメディアに無言電話などの嫌がらせがあったという話は伝え聞く。今となっては、それが統一教会によるものと断定はできないが、仮にそうだとしても、オウムや幸福の科学に比べればまだマイルドだった。 近年、私自身がメディア関係者の口から「幸福の科学を批判するとFAX攻撃をされるのではないか」という具体的な危惧を聞かされることが何度かあった。メディア側の「宗教を敵に回すと面倒くさいことになる」という意識は、複数の宗教団体による激しい反論や行動によって植え付けられたものだろう。 空白の30年が生じた大きな理由は、この辺りにある。メディアの側に、面倒なこと、トラブルを避ける雰囲気が醸成されていった』、「空白の30年が生じた大きな理由は、この辺りにある。メディアの側に、面倒なこと、トラブルを避ける雰囲気が醸成されていった」、確かに「複数の宗教団体による激しい反論や行動」、によりこれを回避しようとしたのだろう。
・『事件、芸能、スキャンダルは報じる  その一方で、宗教やカルトの問題についての報道がいっさいなくなったわけではない。刑事事件になったものや奇異な騒動、政治家や芸能人のスキャンダルは、時事的な出来事として、それなりに報道されてきた。 例えば、1995年以降では、以下のようなものがある。 1990年代後半から2000年代は、ほぼ毎年のように何かしらの事件が起こったり問題が発覚したりして、その都度、報道がされてきた。しかし被害救済・防止のための機運につながる問題提起というよりは、瞬発的な時事報道だった。 そしてそれさえも「空白の30年」の後半、すなわち2010年代に入ると、さらに弱体化していったのだ。 (後編「宗教『勧誘注意』の報道で団体名を伏せる謎」は2月4日配信)』、「刑事事件になったものや奇異な騒動、政治家や芸能人のスキャンダルは、時事的な出来事として、それなりに報道されてきた」、それは当然だろう。

第三に、この続きを、2月5日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの藤倉 善郎氏による「宗教「勧誘に注意」の報道で団体名を伏せられる謎 統一教会のブームが過ぎたら元通り、では困る」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/649863
・『安倍晋三元首相への銃撃事件を受け、盛んに報道されるようになった世界平和統一家庭連合(以下、統一教会)の2世問題。しかし、大手メディアは統一教会以外の宗教団体に関する報道には消極的だ。宗教2世問題を追い続けてきた筆者が、オウム事件以降の宗教報道を振り返る。(前編「統一教会以外の宗教団体名を伏せる大手メディア」)「空白の30年」と呼ばれる期間も、「カルト問題」のうち目を引く事件や騒動、スキャンダルはそれなりに報道されてきた。しかし調査報道や問題提起報道は活発ではなかった。 私自身、2004年にライターとして開業したものの、カルト問題について書ける媒体がほとんどなかった。そこで2009年に、ジャーナリストの鈴木エイト氏などの仲間たちと「やや日刊カルト新聞」というニュースサイトを開設した。それ以降、一般メディアがいかにカルト問題を避けているかを一層痛感することになる』、「カルト問題について書ける媒体がほとんどなかった。そこで2009年に、ジャーナリストの鈴木エイト氏などの仲間たちと「やや日刊カルト新聞」というニュースサイトを開設した。それ以降、一般メディアがいかにカルト問題を避けているかを一層痛感」、なるほど。
・『スキャンダルにも反応しなくなった10数年  統一教会と国会議員の関わりについては、2004年に朝日新聞が、自民党の衆議院議員(2021年に落選)が関連団体から献金を受けたことを報じている。しかし献金に関する報道はこれが最後。献金以外については、前編で触れた2006年の安倍晋三官房長官(当時)らによる教会への祝電問題が最後だ。 昨年、安倍氏銃撃事件が起こるまで、国会議員に関するこの手の新聞報道はなかった。2021年に安倍氏が関連団体の大会にビデオ出演した時ですら、新聞・テレビは反応しなかった。) この空白期間に、統一教会と政治家の関係を記事にしてきたのは、鈴木エイト氏と、鈴木氏の記事を連載してきた扶桑社の「ハーバー・ビジネス・オンライン」(2021年にサイト全体の記事配信を停止)。そして単発だと、鈴木氏や私のルポを掲載した雑誌や「日刊ゲンダイ」くらいだった。安倍氏のビデオ出演も、「やや日刊カルト新聞」で第1報を出したのは鈴木氏だ』、「昨年、安倍氏銃撃事件が起こるまで、国会議員に関するこの手の新聞報道はなかった。2021年に安倍氏が関連団体の大会にビデオ出演した時ですら、新聞・テレビは反応しなかった」、「この空白期間に、統一教会と政治家の関係を記事にしてきたのは、鈴木エイト氏と、鈴木氏の記事を連載してきた扶桑社の「ハーバー・ビジネス・オンライン」(2021年にサイト全体の記事配信を停止)。そして単発だと、鈴木氏や私のルポを掲載した雑誌や「日刊ゲンダイ」くらいだった」、情けない限りだ。
・『統一教会以外についても同様だ  「やや日刊カルト新聞」創刊直前の2009年夏、幸福の科学が「幸福実現党」を結成し衆院選に337人もの大量の候補者を立てた。このこと自体は全国ニュースになったが、この教団の過去の問題を報じた新聞は当時ゼロだ。 2014年に、詐欺罪で服役していた法の華三法行教祖・福永法源氏が出所し、翌2015年に信者たちを集めて「復活祭」を開催。福永氏は詐欺罪とは認めないと言い放ち、信者たちと相変わらずの「最高ですか~!」「最高で~す!」の掛け声を披露した。まったく反省はなかった。 これを時事ニュースとして報じた一般紙やテレビはない。私は潜入取材の映像を「やや日刊カルト新聞」で公表した。複数のテレビ局から映像を貸してほしいと依頼が来たが、「潜入取材の映像は使えない」「すでに罪を償った人の顔や名前は出せない」という理由で、結局、放映されることはなかった。 2015年に山梨県河口湖町で高校生が祖父母を殺害する事件が起こった。幸福の科学の2世信者で、教団が運営する学校への進学費用目当ての犯行だった。『週刊新潮』がこれをスクープし、「やや日刊カルト新聞」が公判の傍聴レポートを掲載したが、新聞は幸福の科学にいっさい言及しなかった。 2016年の参院選では、浄土真宗親鸞会の現役信者・柴田未来氏が、石川選挙区の野党統一候補となった。民進党(当時)が擁立し、機関紙「しんぶん赤旗」で親鸞会を名指しでカルトと報じていた日本共産党までもが推薦した。「日刊ゲンダイ」がスクープしたものの、ほかの一般メディアは完全に沈黙。もちろん「しんぶん赤旗」もだ。) 第2次安倍政権下の2017年。宗教団体「不二阿祖山太神宮(ふじあそやまだいじんぐう)」の関連イベントで、安倍昭恵氏が名誉顧問を務め、70人近い与野党の現役国会議員、首長、地方議員が顧問についている問題を「日刊ゲンダイ」がスクープ。偽歴史書に基づくオカルト的歴史観で「富士古代王朝」の存在をアピールする内容もあるイベントなのに、教育委員会や文科省まで後援についていた。 イベント紹介記事を掲載した一般紙はいくつもあったが、昭恵氏や政治家や行政機関の関係を報じたものはない。それどころか、地方メディアのほか、全国紙では朝日新聞社や読売新聞西部本社まで後援についていた。 2019年に、医療否定の教義を持ちワクチン接種も控えるよう指導していた「救世神教(きゅうせいしんきょう)」で、2世信者たちの、はしかの集団感染が発覚。東海地方では信者以外の人々にも感染が広がった。 当初、教団自身も行政も団体名を公表せず、一般メディアはこれに従った。団体名を特定して報じた「やや日刊カルト新聞」の記事は、鈴木エイト氏の単独スクープだった。 事件やスキャンダル含みの出来事すら大手の報道がなかったケースは、枚挙にいとまがない。おかげで「やや日刊カルト新聞」の独自記事や、その記者たちが一般メディアで書く記事は、たいてい単独スクープだった。あまり注目されなかったが。 「空白の30年」が深刻化していった後半は、第1次安倍政権のスタートと重なる。しかし安倍氏や自民党が懇意にしていた統一教会に限った空白ではない。つまり「政治の力」だけの問題ではなく、メディア側の姿勢や体質の問題も大きい』、「2017年。宗教団体「不二阿祖山太神宮・・・」の関連イベントで、安倍昭恵氏が名誉顧問を務め、70人近い与野党の現役国会議員、首長、地方議員が顧問についている問題を「日刊ゲンダイ」がスクープ。偽歴史書に基づくオカルト的歴史観で「富士古代王朝」の存在をアピールする内容もあるイベントなのに、教育委員会や文科省まで後援についていた。 イベント紹介記事を掲載した一般紙はいくつもあったが、昭恵氏や政治家や行政機関の関係を報じたものはない。それどころか、地方メディアのほか、全国紙では朝日新聞社や読売新聞西部本社まで後援についていた」、「偽歴史書に基づくオカルト的歴史観で「富士古代王朝」の存在をアピールする内容もあるイベントなのに」、「安倍昭恵氏が名誉顧問」ということもあって、「教育委員会や文科省まで後援」、「全国紙では朝日新聞社や読売新聞西部本社まで後援」、「安倍昭恵氏」のご霊験はあらたかなようだ。
・『「勧誘に注意」、でも団体名は伏せる  前編で登場した「摂理」(キリスト教福音宣教会)の問題が大きく報じられた2006年以降、全国の大学にカルト対策が広まった。一般紙が春先に「カルト勧誘に注意」と呼びかけたり、大学関係者などによる取り組みを紹介したりするケースも散見されるようになった。 ここで奇っ怪な現象が生まれる。注意喚起の記事なのに、具体的な問題団体を名指ししない新聞記事が多数発生したのだ。これでは、何に注意すればいいのかわからない。 大学関係者の間で話題に上る団体は、おおむね決まっている。オウム真理教、統一教会、摂理、浄土真宗親鸞会、顕正会などだ。niftyの「新聞・雑誌記事横断検索」で「カルト AND 勧誘 AND 注意」を検索すると、2007年以降、2022年12月19日までに154件の記事がヒットする。うち「オウム」というワードが登場する記事は3分の1程度しかない。 「統一教会」もほぼ同じで、「摂理」は21件。「親鸞会」は2件、「顕正会」1件あるが、いずれも一般紙での記事はゼロだ。) 「摂理」は現在も日本で偽装勧誘を展開しており、2018年以降、全国の支部に当たる複数の教会が各府県でそれぞれに宗教法人格を取得している。信者数は2006年当時の2倍近い約4000人と見られる。宗教法人化については私自身が2019年に『デイリー新潮』でレポートしたが、それ以外の一般メディアでは話題になっていない。 2022年10月には、教祖が出所後に再び性的暴行を行ったとされる容疑で、韓国で逮捕された』、「一般紙」はすっかり「宗教団体」名を上げるのに慎重になったようだ。
・『安倍氏の事件後も残る「不合理な慎重さ」  そんな中、状況が変わりつつあったのが2世問題だ。 安倍氏銃撃事件よりはるか前の2013年から、2世自身による手記の書籍出版が相次いでいた。2021年までに少なくともエホバ2世の手記が6冊、ヤマギシ会2世の手記が2冊。キンドルでの自主刊行ながら統一教会2世の手記もあった(『カルトの花嫁』として2022年11月に書籍化)。2世自身によるネット発信も活発化しており、2020年にはウェブサイト「宗教2世ホットライン」が開設される。 「静かなブーム」に目をつけたのか、2020年にAbemaTV(現ABEMA)が、2021年にはNHKが別々の番組で3本、2世問題を特集した。しかしいずれも団体名を伏せた。 クローズアップされたのは統一教会やエホバの2世。つまり組織的に深刻な問題を生み出してきた団体だ。しかしNHK「かんさい熱視線」の1本を除いて、組織側の問題にほとんど触れていなかった。中には、露骨に「親子の関係」に矮小化してみせる番組もあった。2世問題をネタにはするが、団体への批判に当たりそうなネガティブ要素は極力そぎ落とすという「不合理な慎重さ」だ。 そして前編で触れたように安倍氏銃撃事件後も、多くのメディアがエホバ2世による記者会見などがあっても団体名を報じない。不合理な慎重さが解除されたのは統一教会についてだけだ。 2022年2月には、「集英社マンガ削除問題」が起こる。さまざまな教団出身の2世たちの体験談を取り上げた菊池真理子氏のマンガ『「神様」のいる家で育ちました』が集英社のウェブサイトで連載されていたが、幸福の科学からの抗議をきっかけに集英社が全話を削除。3月に連載終了を発表する。 この時、「幸福の科学」を名指しした報道は、週刊誌『FLASH』のみ。文藝春秋からの単行本化がたまたま安倍氏銃撃事件後になったこともあって、この作品はあらためて注目される。ここで10月28日に毎日新聞が不可思議な記事をウェブ配信した。マンガの削除問題に触れているのに幸福の科学の名がないのだ。それでいて、記事にはこんな一節が。 〈今、菊池さんが危惧するのは、旧統一教会だけが追及されて終わること。「どんな宗教でも、家庭で子どもの信教の自由が侵害されていれば、それは人権問題です。決して旧統一教会だけの話じゃない」〉 これこそ、統一教会だけを追及して終わらせる記事ではないか。こんな自己矛盾をきたしてもなお不合理な慎重さを捨てきれずにいる』、「安倍氏の事件後も残る「不合理な慎重さ」」、全く腹立たしい限りだ。
・『ブームが過ぎたら元通り、では困る  「新聞・雑誌記事横断検索」では、安倍氏銃撃事件が起こった7月8日以降の約5カ月間で、「統一教会」「統一協会」が登場する記事は3万4143件(12月31日時点)。地下鉄サリン事件があった1995年の1年間のオウム真理教に関する報道3万2389件を、すでに上回った。一見、空白の30年が大きく崩れたかのように見える。 しかも今回は内容面でも、カルト的な集団について過去に繰り返されてきた瞬発的な時事報道とはまったく様相が異なる。政治家の問題、金銭被害、2世問題など多岐にわたるテーマで、独自の取材によって事実を掘り起こすものや、被害の救済や予防につながる問題提起的な報道が目立つ。それが事件から半年近く経っても収束しない。十分とはいえないものの政界も大きく動いた。 いま大手メディアは、優秀な人材を集めた組織ジャーナリズムの本領を遺憾なく発揮している。中央の大手に比べて体力的に余裕があるわけでもないはずの地方メディアも、同様だ。 しかしこれだけでは、ほかの宗教団体の報道ではいまだ残る不合理な慎重さを断ち切ることはできない。これができなければ、「統一教会ブーム」が落ち着いた後、再び暗黒の空白がやってくる。 事件の前も後も、現場の記者たちの熱意をそぐのは、各社の「上の人たち」だ。安倍氏銃撃事件が起こる1年ほど前、私は統一教会以外のカルト的な集団の報道をめぐって、大手新聞の記者からこんな言葉を聞かされた。 「訴訟にならなくても抗議文が来るだけで、社内で上司の責任問題になる」 各社の上の人たちには、こうした自社のあり方を再考し、現場の記者たちが存分に問題意識をはっきできるよう、しっかり守って後押ししてほしい。すでに発揮されている大手メディアの本領を、統一教会問題だけにとどめてしまうのはもったいない』、「訴訟にならなくても抗議文が来るだけで、社内で上司の責任問題になる」、「大手新聞」がこんな保守的な姿勢では、マスコミの責任放棄だ。仮に「訴訟」になっても勝てばいいと割り切るぐtらいの気持ちで臨むことも必要だろう。
タグ:宗教 (その7)(意外に知らない「キリスト教」世界最大になった訳 広がっていった経緯は複雑で、かなり政治的、統一教会以外の宗教団体名を伏せる大手メディア オウム事件以降続く「空白の30年」の罪深さ、宗教「勧誘に注意」の報道で団体名を伏せられる謎 統一教会のブームが過ぎたら元通り では困る) 東洋経済オンライン 中村 圭志氏による「意外に知らない「キリスト教」世界最大になった訳 広がっていった経緯は複雑で、かなり政治的」 新著『教養として学んでおきたい聖書』 「旧約聖書は「古代イスラエル宗教文学全集」と理解するのがたぶんよろしいでしょう」、「古代イスラエル宗教文学全集」とは言い得て妙だ。「イスラエル人たちは自分たちの苦難を人類史上の一大事のように思い描いたのでした。この強烈な自意識があるからこそ、旧約聖書は古典の地位を獲得できた」、 「イスラエル人たちの見取り図によれば、この世とは神と人間との対話の空間です。神が理想を示す。人間はそれが守れない。人間は苦難に陥り、神が救いの道を示す。気宇壮大なドラマです」、「イスラエル人の設定した「人間に倫理的な反省を迫る」という神の基本的な性格は、古代的あるいは民族的な伝統の枠を超えて、後世の多くの人々の倫理的思索にインスピレーションを与えることになりました」、「旧約は人類史の前半における神と人間の関係を記した書、新約は人類史の後半における神と人間の関係を記した書だ」、 「神はまずイスラエル人をサンプルに選んで律法という戒律を与えてみたのだが、彼ら選民にしてからが神の道を外れがちであった(人類史の前半)。そこで神は自ら目に見える神キリストとして現われて人類の罪を清算し、律法遵守という課題の代わりに「キリストに忠節を尽くし、キリストにならう」という新たな課題を人類に与えた(人類史の後半)」、「聖書というのは――ユダヤ教徒にとってもキリスト教徒にとっても――宇宙を支配する絶対神と自分自身との倫理的な対話の書である」、なるほど。 「地図」はあくまでイメージを掴むためのもののようだ。 「西洋が優位にたった背景として軍事力の働きが大きかったわけですが、西洋の優位には偶然的な要因もあります。 例えば新大陸では、西洋人が持ち込んだ病原菌のせいで、先住民の人口が激減しました。先住民文化が根こそぎ壊れてしまったところに、新たに(植民者とともに)キリスト教が広がっていったわけです。こんなふうにして西洋文化圏は新大陸をほとんど偶発的に併呑してしまいました」、 「哲学者や科学者は、その神が自然界に仕組んだからくりの総体を統一的な理論をもって明らかにできるはずです。ニュートンなどが物理法則を探求した背景には、こうした宗教的な情熱がありました。 この点、インドや中国や日本などの多神教徒は、たとえ科学的な思弁や調査に手を染めたときでも、理論的には今一つ中途半端にしか進めなかったように見えます」、「西洋と同じく一神教を奉戴していても、イスラム世界では神の絶対性が科学法則を凌駕すると思われたためか、西洋ほどには科学を発展させることができませんでした」、なるほど。 「科学の発展は単純に一神教の神概念のおかげではない」、「近代ではルネサンス以降称揚されるようになった古代ギリシャ・ローマ時代の文化的遺産がものを言っています。 古代ギリシャの多神教徒は競争するのが大好きでしたが、そうした競争の中には議論で相手を打ち負かすというのも含まれていました。 彼らは哲学と科学を発達させ、すでに紀元前の段階で地球が丸いということを理論的に推理し、天文学と幾何学を応用して地球の大きさまで計測しています」、「古代ギリシャ・ローマ時代の文化的遺産がものを言っています」、というのは初めて知っ た。 藤倉 善郎氏による「統一教会以外の宗教団体名を伏せる大手メディア オウム事件以降続く「空白の30年」の罪深さ」 「統一教会2世とエホバの証人・・・2世が出席」、「統一教会とものみの塔による組織的な宗教虐待の実情を訴え、2世問題が統一教会に限った問題ではないことを説明」、なるほど。 「大手メディアは、統一教会以外の宗教団体について、極端に抑制的だ。 メディア側にも理由があることは想像できる。団体側からの抗議を恐れているとか、「被害を語る側の言い分だけに立脚して団体を名指しすることに抵抗がある」といった「公正さ」への意識もありそうだ。 統一教会とほかの宗教団体との扱いの違いについて、ある大手メディアの関係者は統一教会が安倍氏銃撃事件との関連で取り沙汰されるようになったのに対して、ほかの宗教団体は「事件がらみ」ではない点を挙げた」、なるほど。 「ここ30年間、メディアは統一教会に限らず、カルト全般を記事にせず、空白の期間が続いていた。おそらくは「宗教団体に批判的な報道をすると面倒くさいことになる」という忌避感だ」、確かに「サンデー毎日』・・・教団初期での批判報道をリード・・・これに対して、オウム側は毎日新聞社を相手取って訴訟」、「TBSビデオ問題」では「社会から強く批判され、社長が辞任」、などがあるので、「忌避」されるのも頷ける。 「空白の30年が生じた大きな理由は、この辺りにある。メディアの側に、面倒なこと、トラブルを避ける雰囲気が醸成されていった」、確かに「複数の宗教団体による激しい反論や行動」、によりこれを回避しようとしたのだろう。 「刑事事件になったものや奇異な騒動、政治家や芸能人のスキャンダルは、時事的な出来事として、それなりに報道されてきた」、それは当然だろう。 藤倉 善郎氏による「宗教「勧誘に注意」の報道で団体名を伏せられる謎 統一教会のブームが過ぎたら元通り、では困る」 「カルト問題について書ける媒体がほとんどなかった。そこで2009年に、ジャーナリストの鈴木エイト氏などの仲間たちと「やや日刊カルト新聞」というニュースサイトを開設した。それ以降、一般メディアがいかにカルト問題を避けているかを一層痛感」、なるほど。 「昨年、安倍氏銃撃事件が起こるまで、国会議員に関するこの手の新聞報道はなかった。2021年に安倍氏が関連団体の大会にビデオ出演した時ですら、新聞・テレビは反応しなかった」、「この空白期間に、統一教会と政治家の関係を記事にしてきたのは、鈴木エイト氏と、鈴木氏の記事を連載してきた扶桑社の「ハーバー・ビジネス・オンライン」(2021年にサイト全体の記事配信を停止)。そして単発だと、鈴木氏や私のルポを掲載した雑誌や「日刊ゲンダイ」くらいだった」、情けない限りだ。 「2017年。宗教団体「不二阿祖山太神宮・・・」の関連イベントで、安倍昭恵氏が名誉顧問を務め、70人近い与野党の現役国会議員、首長、地方議員が顧問についている問題を「日刊ゲンダイ」がスクープ。偽歴史書に基づくオカルト的歴史観で「富士古代王朝」の存在をアピールする内容もあるイベントなのに、教育委員会や文科省まで後援についていた。 イベント紹介記事を掲載した一般紙はいくつもあったが、昭恵氏や政治家や行政機関の関係を報じたものはない。それどころか、地方メディアのほか、全国紙では朝日新聞社や読売新聞西部本社まで後援についていた」、「偽歴史書に基づくオカルト的歴史観で「富士古代王朝」の存在をアピールする内容もあるイベントなのに」、「安倍昭恵氏が名誉顧問」ということもあって、「教育委員会や文科省まで後援」、「全国紙では朝日新聞社や読売新聞西部本社まで後援」、「安倍昭恵氏」のご霊験はあらたかなようだ。 「一般紙」はすっかり「宗教団体」名を上げるのに慎重になったようだ。 「安倍氏の事件後も残る「不合理な慎重さ」」、全く腹立たしい限りだ。 「訴訟にならなくても抗議文が来るだけで、社内で上司の責任問題になる」、「大手新聞」がこんな保守的な姿勢では、マスコミの責任放棄だ。仮に「訴訟」になっても勝てばいいと割り切るぐtらいの気持ちで臨むことも必要だろう。
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半導体産業(その8)(ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石、半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは、[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」 ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】) [産業動向]

半導体産業については、昨年2月8日に取上げた。今日は、(その8)(ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石、半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは、[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」 ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】)である。

先ずは、昨年2月20日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石」
を紹介しよう。
・『1990年代中頃まで、半導体露光装置で、キヤノンとニコンは世界を制覇した。しかし、その後、オランダのASMLがシェアを伸ばし、現在では、EUVと呼ばれる半導体製造装置の生産をほぼ独占している。日本のメーカーは、なぜASMLに負けたのか?』、興味深そうだ。
・『ASMLとは何者?  オランダにASMLという会社がある。時価総額2642.2億ドル。これは、オランダの企業中でトップだ。オランダのトップ企業はフィリップスだと思っていた人にとっては驚きだ。「そんな会社、聞いたこともない」という人が多いだろう。 実際、ASMLは、歴史の長い企業ではない。生まれたのは1984年。フィリップスの1部門とASM Internationalが出資する合弁会社として設立された。フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタートした。 しかし、いまの時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い。世界の時価総額ランキングで32位。29位のトヨタとほぼ並ぶ。 ASMLの2020年の売上は160億ドル(約1兆8000億円)、利益(EBIT)は46.3億ドルだ。トヨタの場合には、売上が2313.2 億ドル。利益(EBIT)は169.9億ドルだ。売上に対する利益の比率は、ASLMが遙かに高い。 しかも従業員数は28000人しかいない(2020年)。トヨタ自動車(37万人)の7.6%でしかない。 ASMLは、最先端の半導体製造装置を作っている。極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれる装置だ。この技術は、 ASMLがほぼ独占している。 年間の製造台数は50台ほどだ(2020年度は31台。2021年は約40台、2022年は約55台の見通し)。1台あたりの平均価格が3億4000万ドル(約390億円)にもなる。大型旅客機が1機180億円程度と言われるので、その2機分ということになる。 主なクライアントは、インテル、サムスン、TSMCなどだ』、「創業1984年」「フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタート」、「いまの時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い。世界の時価総額ランキングで32位。29位のトヨタとほぼ並ぶ」、「極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれる装置だ。この技術は、 ASMLがほぼ独占」、実に凄い企業だ。
・『かつてのニコン、キヤノンの優位をASMLが崩した  半導体露光装置は、もともとは、日本の得意分野だった。ニコンが1980年にはじめて国産化し、1990年にはシェアが世界一になった。 キヤノンも参入し、1995年ごろまで、ニコンとキヤノンで世界の70~75%のシェアを占めた。 ASMLの最初の製品は、やはり半導体露光装置だった。しかし、この時代、キヤノンやニコンは、ゴミ捨て場に誕生した会社のことなど、歯牙にも掛けなかっただろう。 しかし、ニコン・キヤノンのシェアは、90年代後半に低下していった。その半面で、1990年には10%にも満たなかったASMLのシェアは、1995年には14%にまで上昇、2000年には30%になった。 2010年頃には、ASMLのシェアが約8割、ニコンは約2割と逆転した。そして、キヤノンはEUV露光装置分野から撤退した。ニコンも、2010年代初頭に、EUV露光装置の開発から撤退した』、「半導体露光装置は、もともとは、日本の得意分野だった。ニコンが1980年にはじめて国産化し、1990年にはシェアが世界一になった。 キヤノンも参入し、1995年ごろまで、ニコンとキヤノンで世界の70~75%のシェアを占めた」、「キヤノンはEUV露光装置分野から撤退した。ニコンも、2010年代初頭に、EUV露光装置の開発から撤退」、日本勢の退潮ぶりは惨めだ。
・『日本メーカーの自社主義がASMLの分業主義に負けた  ASMLとニコン、キヤノンの違いは何だったのか? それは、中核部品を外注するか、内製するかだ。 ASMLは中核部品を外注した。投影レンズと照明系はカールツァイスに、制御ステージはフィリップスに外注した。自社で担当しているのは、ソフトウェアだけだ。 製造機械なのに、なぜソフトウエアが必要なのか? 半導体露光装置は「史上最も精密な装置」と呼ばれるほど複雑な機械であり、安定したレンズ収差と高精度なレンズ制御が重要だ。装置として完成させるには、高度にシステム化されたソフトウエアが不可欠なのだ。 自動車の組み立てのように人間が手作業で作るのではなく、ロボットが作業するようなものだから、そのロボットを動かすためのソフトウェアが必要なのだと考えれば良いだろう。 それに対して、ニコンは、レンズはもちろんのこと、制御ステージ、ボディー、さらに、ソフトウェアまで自社で生産した。外部から調達したのは、光源だけだ。 このように、ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じたと言われる。 また、レンズをどう活用して全体の性能を上げるかというよりは、どうやってレンズの性能を引き出すかが優先されるというような問題が発生したといわれる。 結局、日本型縦割り組織を反映して全てを自社で内製化しようとする考えが、負けたということだ』、「日本メーカー」は「ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じた・・・レンズをどう活用して全体の性能を上げるかというよりは、どうやってレンズの性能を引き出すかが優先されるというような問題」、結局、「日本メーカーの自社主義がASMLの分業主義に負けた」、情けない限りだ。
・『核になる技術を持っていたことで躓いた  キヤノンもニコンも核になる技術、つまり「レンズ」を持っていた。それに対してASMLは、部品については、核になる技術を持っていない。レンズすらも外注しているのだ。他社が作っているものを、ただ寄せ集めているだけのようにさえ見える。 しかし、それにもかかわらず、売上の3割という利益を稼ぎ出すことができるのだ。このことは、ビジネスモデルに関する従来の考えに反するものだろう。 いままでは、企業は核になる技術を持っていなければならず、その価値を発揮できるようなビジネスモデルを開発することが重要だと言われてきた。しかし、ASMLは、このルールには当てはまらない。 部品について、ASMLは製造者ではなく購入者であったため、品質評価が客観的であったと言われる。 また、多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながったと言われる。 それに対して、技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いたというのだ』、「ASMLは、部品については、核になる技術を持っていない。レンズすらも外注しているのだ。他社が作っているものを、ただ寄せ集めているだけのようにさえ見える。 しかし、それにもかかわらず、売上の3割という利益を稼ぎ出すことができるのだ。このことは、ビジネスモデルに関する従来の考えに反するものだろう」、「多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながったと言われる」、「技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いたというのだ」、「日本メーカー」の独自性へのこだわりが敗因になったようだ。
・『ASMLの時価総額は、キヤノンの10倍、ニコンの60倍  現在のキヤノン、ニコンはどのような状態か? キヤノンは、時価総額が255.9億ドル、世界第759位だ。2007年には784 億ドルだったのだが、このように減少した。 ニコンは、時価総額が41.8億ドルで、 世界第 2593位だ。 2007年には126億ドルだった。 2007年には、ASMLの時価総額は126億ドル程度で、ニコンとほぼ同じ、キヤノンの6分の1だった。しかし、いまでは、キヤノンの10倍程度、ニコンの60倍程度になってしまったのだ。 こうした状態では、日本の賃金が上がらないのも、当然のことと言える』、これは、日本の経営者の判断の間違いが原因だ。
・『もしデジタルカメラを生産しなかったら  日本企業敗退の原因は、自社主義だけではない。 もう一つは、ビジネスモデル選択の誤りだ。つまり、カメラという消費財に注力したことだ。 もし、2000年代の初めに、キヤノンやニコンがデジタルカメラに注力するのでなく、半導体製造装置に注力していたら、世界は大きく変っていただろう。 2010年頃、日本では、円高などが6重苦になっているといわれた。そして、「ボリュームゾーン」を目指した戦略を展開すべきだと言われた。これは、勃興してくる新興国の中間層をターゲットに、安価な製品を大量に供給しようというものだ。ASMLとは正反対のビジネスモデルだ。 そして、日本ではこの方向が受入れられ、企業の経営者もそれを目指した。その結果が、いまの日本の惨状なのだ。 もちろん、将来がどうなるかは分からない。半導体の微細化をさらに進めるために、3次元の回路を作るということも考えられている。そうした技術が実用化された時に、はたしてASMLが生き残れるかどうかは、誰にも分からない。 日本企業が再逆転してほしいが、果たしてできるだろうか? 奇跡が起こることを祈る他はない』、「ビジネスモデル選択の誤りだ。つまり、カメラという消費財に注力したこと」、その通りである。「日本企業が再逆転」という「奇跡が起こることを祈る他はない」というのも、寂しい限りだ。

次に、本年2月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317265
・『半導体製造装置の対中輸出規制は、日本にどんな影響を及ぼすのか。今後、わが国の半導体製造装置メーカーに求められるのは、他国の企業に先駆けて、新しい製造技術を創出することだ。その成否は、わが国経済の展開に大きな影響を及ぼすだろう』、興味深そうだ。
・『半導体サプライチェーンの地殻変動が激化  ここへ来て、米国は中国の半導体製造能力向上を食い止めるため、輸出規制を一段と強化している。その一つとして、1月下旬、わが国とオランダは半導体製造装置の輸出規制に関して米国と合意したと報じられた。半導体などの先端分野において、米国は対中制裁をさらに強化する可能性が高い。 今後、台湾から米国、わが国、その他の国と地域へ、半導体サプライチェーンの地殻変動が一段と激化するだろう。米国だけでなく主要先進国が半導体などにおける対中規制を追加的に引き締める公算も大きい。それは短期的というよりも、中長期的な世界経済の構造変化と考えたほうがよさそうだ。 それに伴い、わが国の半導体関連企業にとって、中国ビジネスに関する不確定要素が増える。一方、これまで以上に世界の半導体産業は、わが国の製造技術を必要とするだろう。世界の半導体産業の劇的な変化に対応するために、わが国企業はこれまで以上に最先端の製造技術の実現に取り組むべきだ』、第一の記事に比べ、なにやら甘い認識だ。
・『中国に対する半導体輸出を厳格化する米国  トランプ前政権の発足以降、米国は半導体の対中輸出規制を強化してきた。その背景には、戦略物資として半導体の重要性が急速に高まっていることがある。安全保障、経済、宇宙、脱炭素など、半導体を抜きに新しい考えを実現することは困難な時代だ。脱炭素に伴うパワー半導体の需要増加など、これまで半導体との関係性が薄かった分野でも、より多くのチップが必要とされている。 そうした状況下、中国では習近平政権が半導体産業の強化策を推進した。中国のファウンドリである中芯国際集成電路製造(SMIC)は、先端分野に分類される回路線幅7ナノメートル(ナノは10億分の1)のチップ生産を開始したようだ。チップの設計、製造技術やライン構築のノウハウを、中国は日米欧および台湾の企業から吸収してきた。 2016年頃、米国ではインテルが14から10ナノメートルへの微細化につまずいた。アップルはチップの設計・開発体制を強化し、製造を台湾積体電路製造(TSMC)により多く委託した。インテルも先端、および最先端チップの製造技術をTSMCに依存するようになった。 1990年代半ばに日米半導体摩擦が終わって以降、半導体産業の盟主の地位を確立したインテルなど、米半導体企業の製造能力の向上は鈍化した。対照的に世界経済への半導体供給地として台湾の存在感が高まった。その後、習政権は台湾に対する圧力を強めている。米国にとって台湾にチップ供給を依存するリスクは一段と高まっている。 経済安全保障体制の強化のため、バイデン政権は中国向けの半導体輸出規制を一段と強化している。2022年10月に米商務省産業安全保障局は、16または14ナノメートル以下のロジック半導体などの製造装置の対中輸出を事実上禁止した。 そしてこの度、米国は日蘭にも製造装置の対中輸出管理で足並みをそろえるよう求めた。バイデン政権はTSMCなどに補助金を支給し、米国内での生産能力増強も要求している』、「バイデン政権はTSMCなどに補助金を支給し、米国内での生産能力増強も要求」、その通りだ。
・『激化する世界の半導体産業の地殻変動  台湾に集積した世界の半導体製造能力は、他の国と地域に急速に分散し始めている。米国の要請に応じて、TSMCは24年から米国で回路線幅3ナノメートルのロジック半導体の量産を開始する予定だ。このことで、米国は世界経済の盟主としての立場を守ろうとしているように思える。 また、インテルは米国内外で、必ずしも先端分野の製造技術を必要としない車載用のチップなどの生産体制を強化し始めている。 一方、米国の規制強化などによって、中国の半導体自給率向上は遅れ始めた。要因の一つに、先端分野の半導体製造に不可欠な「深紫外線」(DUV)」と、回路線幅5ナノメートルよりも先の微細化に必要な「極端紫外線」(EUV)を用いた製造技術が十分ではないことがある。 中国の露光装置メーカーである上海微電子装備においては、28ナノメートルの回路形成の歩留まり向上の余地が大きいようだ。また、他の半導体製造装置や検査装置に関しても、中国の製造技術は旧世代のものが多い。 特に、EUVを用いた露光装置に関しては、今のところ、オランダのASMLの独壇場である。その他、感光剤であるレジストの塗布と現像を行う装置(コータ・デベロッパ)は、東京エレクトロンのシェアが高い。ガスを用いてウエハー表面から不要な部分を除去する「ドライ・エッチング」の装置は、米ラムリサーチなどのシェアが高い。 今回、日蘭が米国と半導体製造装置の対中輸出管理の厳格化に合意したことによって、中国の半導体の自給率向上は一段と遅れるだろう。それは、急速に需要拡大してきた中国の半導体製造装置市場において、わが国やオランダの半導体製造装置メーカーが、収益を獲得しづらくなることを意味する。 そうしたことから短期的に、日米欧の半導体製造装置メーカーによる、中国以外の市場におけるシェア争いが激化する公算は大きい。なお、日米蘭政府の合意に関する報道の後、ASMLは「業績の見通しに重大な影響はない」とした。背景には、中国以外の市場におけるEUV露光装置の需要拡大があるとみられる』、「今回、日蘭が米国と半導体製造装置の対中輸出管理の厳格化に合意したことによって、中国の半導体の自給率向上は一段と遅れるだろう。それは、急速に需要拡大してきた中国の半導体製造装置市場において、わが国やオランダの半導体製造装置メーカーが、収益を獲得しづらくなることを意味」、なるほど。
・『本邦企業に必要な新しい製造技術創出  今後、わが国の半導体製造装置メーカーに求められるのは、他国の企業に先駆けて、新しい製造技術を創出することだ。その成否は、わが国経済の展開に大きな影響を及ぼすだろう。 中長期的に考えると、中国は産業補助金政策をさらに強化し、半導体製造装置の国産化を急ぐだろう。製造装置は分解すれば、その仕組みを模倣できる。 共産党政権が海外企業に国有・国営企業との合弁設立を呼びかけ、これまで以上に生産技術の移転を急ぐ可能性もあるだろう。とりわけ近年、共産党政権は「専精特新」の考えを重視している。この考えは、先端分野で独創的な製造技術の実現に取り組む中小企業の支援を強化する産業政策である。 中長期的に、中国の半導体製造装置などの創出力が高まる可能性は軽視できない。そうした展開を防ぐために、米国政府は対中禁輸措置などを強化し、先端分野での米中対立は先鋭化するだろう。 将来的に、世界の半導体産業における製造装置などハードウエア創出力の重要性はさらに増すはずだ。1990年代以降の米国経済では、ハードよりもソフトウエアの開発を強化し、IT先端分野を中心に経済運営の効率性を向上してきた。それを受けて、台湾TSMCはファウンドリ専業のビジネスモデルを確立し、最新チップの製造需要を取り込んだ。 こうした流れをつくるのに必要不可欠な、超高純度の半導体部材、製造装置の供給において、わが国企業は大きな役割を果たしてきた。 ただ、次世代の回路線幅2ナノメートルのロジック半導体の製造に関しては、これまでとは異なる製造技術が求められるとの見方は多い。 また、半導体産業育成によって産業構造の転換を目指すインドは、より多くの部材や製造装置を求めるはずだ。新しい製造技術実現のためにも、本邦の半導体製造装置、関連部材メーカーはこれまで以上に研究開発を強化すべき局面を迎えている』、「新しい製造技術実現のためにも、本邦の半導体製造装置、関連部材メーカーはこれまで以上に研究開発を強化すべき局面を迎えている」、ややキレイゴトめいた感はあるが、その通りだ。

第三に、2月8日付け日経ビジネスオンライン「[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00478/020600042/
・『ウクライナ情勢などの地政学リスクや、それを機に進んだ円安、米中対立による経済のデカップリング(分断)への対応などで、日本の製造業が「国内回帰」の姿勢を強めている。かつて、バブル経済崩壊やリーマン・ショックが誘発した円高を背景に、安い人件費などを求めて生産拠点は海外に移った。今起きているのは、国内生産のメリットを再認識し、拠点を強化する動きだ。人手不足やエネルギーの確保など課題も多いが、敗れざる工場によって「メード・イン・ジャパン」はかつての輝きを取り戻せるのか』、興味深そうだ。
・『連載予定  タイトルや回数は変わる可能性があります ・2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆(今回) ・「明治維新のようにもう一度やり直す」。ラピダス東会長 ・設備投資2割増、盛り上がる国内投資、経済安保が背中押す ・九州シリコンアイランド、TSMC特需に沸く熊本、経済効果は4兆円 ・有名ラーメン店も誘引、特需連鎖の突破力、地価上昇率全国トップに ・海外生産に勝つ「拠点集約」、クボタ、日機装の開発力強化 ・SUBARU、平田機工、DX進めて改善や提案が異次元のスピードに ・同じ屋根の下「究極の連携生産」など、SMC、東京エレクトロン ・ファナックに学ぶ国産哲学、「完全無人化」真の狙い ・「大事なのはTCO。国内一極集中生産を続ける」。ファナック山口社長 ・「製造業はかつての『日の丸半導体』に学べ」 混沌とする世界情勢を受けて経済安全保障の意識が急速に高まり、国内で工場新設や生産能力増強のニュースが相次いでいる。こうした国内製造回帰は、長らく空洞化に苦しんできたニッポン製造業の復権への序章だ。その象徴の1つが、国内では製造できなくなっていた最先端半導体の国産化を再び目指そうとするラピダス(東京・千代田)の挑戦だ。 2019年、東京エレクトロン元社長の東哲郎氏は、半導体メーカーからの断りの返事に落胆した。「ご提案の半導体は、我々が製造できる技術世代のはるか先。現状でも精いっぱいで、そこにジャンプするのは難しい」。実は、東氏は世界最先端の半導体を国内で量産しようと、半導体メーカー数社に打診をしていた。「これでは脈はない。深追いしてもしょうがない」。東氏はすぐに気持ちを切り替え、最先端半導体の国産化を目指す新会社の立ち上げに動き出した』、「2019年、東京エレクトロン元社長の東哲郎氏は、半導体メーカーからの断りの返事に落胆した。「ご提案の半導体は、我々が製造できる技術世代のはるか先。現状でも精いっぱいで、そこにジャンプするのは難しい」。実は、東氏は世界最先端の半導体を国内で量産しようと、半導体メーカー数社に打診をしていた。「これでは脈はない。深追いしてもしょうがない」。東氏はすぐに気持ちを切り替え、最先端半導体の国産化を目指す新会社の立ち上げに動き出した」、「半導体メーカー」は投資に極めて慎重なようだ。
・『米IBMとの連携に商機  きっかけはビジネス関係が深い米IBM幹部から持ち掛けられた提携構想だ。「回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端半導体の開発にめどがついた。日本で製造できないか」。東氏は思わず身を乗り出した。「最先端半導体を国産化する、またとないチャンスだ」 1980年代、記憶用半導体DRAMで世界シェア5割を誇った国内半導体産業。だが米国の強烈な巻き返しに遭い、水平分業の流れについていけず国際競争から脱落した。2000年代、電機大手は半導体部門の赤字に苦しみ再編を繰り返す。そして研究開発や量産に巨額費用がかかる最先端分野から一斉に手を引いた。 その結果、日本は最先端半導体の空白地帯となった。国内工場では40ナノの成熟品までしか生産できない。モバイル端末やパソコン、データセンター、自動車向け最先端半導体は、半導体受託生産(ファウンドリー)を担う台湾積体電路製造(TSMC)などに生産委託している。 TSMCはファウンドリー市場の過半を握る巨大企業だが、他に最先端半導体の受託生産をできる企業がほとんどない。世界中の半導体メーカーからTSMCに注文が押し寄せ、半導体メーカーは何年も先の分を発注して行列を作って出来上がるのを待つ。 限られたパイを世界中の有力顧客が奪い合うなか、例えば日本の通信事業者が新規事業のため最先端半導体の量産を依頼しようとしても、小規模の発注量では対応してもらいにくい。今後、人工知能(AI)や高速通信、ビッグデータ活用など、最先端半導体のニーズは高まり、デジタル社会の「頭脳」として欠かせなくなる。日本企業が最先端半導体を試作段階から入手できなければ、製品開発や事業の速度が遅くなる』、「今後、人工知能(AI)や高速通信、ビッグデータ活用など、最先端半導体のニーズは高まり、デジタル社会の「頭脳」として欠かせなくなる。日本企業が最先端半導体を試作段階から入手できなければ、製品開発や事業の速度が遅くなる」、その通りだ。
・『「国の産業競争力が落ちる」。東氏の懸念  「あらゆる産業のデジタル化が進むなか、最先端半導体を生産できる能力がなければ日本全体の産業競争力が現状よりさらに落ちてしまう」。東氏はこう危惧した。国内に最先端半導体の量産拠点がなければ、それらを使う新規事業も育たず、日本の地盤沈下に波及してしまうという懸念があった。 さらに米国と中国の技術覇権争いを背景に、欧州、韓国、台湾、インドなど各国・地域が半導体産業強化やサプライチェーン(供給網)の自立化を急いでいる。半導体の国内製造回帰という世界の潮流を逃せば、しばらく浮上のきっかけはないかもしれない。 だが、焦燥感を抱く東氏に呼応して挑戦する経営者はついぞ現れなかった。「だったら、自分でやるしかない」。国内の装置、材料メーカーの技術と、IBMから供与される技術を組み合わせれば、実現可能だ。東氏はそう判断し、日立製作所出身で半導体製造技術に詳しい旧知の小池淳義氏らに技術の検証を頼んだ。 「本当にものになる技術か、日本で製造できるか、そしてファウンドリーの事業化が可能か、検討に検討を重ねた」(東氏)。経済産業省に相談し、トヨタ自動車やNTTなど8社の経営陣を説得して出資を依頼。22年8月に設立されたのがラピダスである。IBMと技術を共同開発し、20年代後半に2ナノ品の生産工場を国内に設けて、ファウンドリー事業を展開する。小池氏を社長に据え、東氏は自ら会長を務める。 ラピダスは「国からの支援のほか、新規株式公開も検討」(東氏)しつつ、今後10年で開発と量産ラインの建設などに約5兆円の資金を投下し「日の丸半導体」の復権を期す。 東氏は半導体製造装置の経営トップとして、米インテルやTSMC、韓国のサムスン電子など世界の半導体メーカーと豊富な人脈を培ってきた。「世界の最先端の技術に接してきたなかで、日本の半導体メーカーは『諦めすぎ』ではないかと感じていた」。日本企業は決して技術力で負けていない。にもかかわらず、自信がない。そこに歯がゆさを感じていた。 終戦ムードが漂っていたのは、周辺もそうだ。半導体を使う側の産業界、政界、省庁の間にも、「半導体は輸入品でいい、という意識がずっとあった。でも自由貿易で何でも手に入る状態ではなくなってきている」(東氏)。 また新型コロナウイルス禍やウクライナ危機によって世界のサプライチェーンは混乱し、半導体不足が製造業の足元を揺さぶった。 東氏は「出資企業とは、最先端半導体が手に入らなくなることへの危機感を共有できている」と話す。幅広い産業の技術革新を左右する最先端半導体の開発や量産を国家が競い合う今、その国内生産は日本企業の競争力を担保するには欠かせない』、「「国内に最先端半導体の量産拠点がなければ、それらを使う新規事業も育たず、日本の地盤沈下に波及してしまうという懸念があった。 さらに米国と中国の技術覇権争いを背景に、欧州、韓国、台湾、インドなど各国・地域が半導体産業強化やサプライチェーン(供給網)の自立化を急いでいる。半導体の国内製造回帰という世界の潮流を逃せば、しばらく浮上のきっかけはないかもしれない。 だが、焦燥感を抱く東氏に呼応して挑戦する経営者はついぞ現れなかった」、「「だったら、自分でやるしかない」。国内の装置、材料メーカーの技術と、IBMから供与される技術を組み合わせれば、実現可能だ。東氏はそう判断し、日立製作所出身で半導体製造技術に詳しい旧知の小池淳義氏らに技術の検証を頼んだ。 「本当にものになる技術か、日本で製造できるか、そしてファウンドリーの事業化が可能か、検討に検討を重ねた」(東氏)。経済産業省に相談し、トヨタ自動車やNTTなど8社の経営陣を説得して出資を依頼。22年8月に設立されたのがラピダスである。IBMと技術を共同開発し、20年代後半に2ナノ品の生産工場を国内に設けて、ファウンドリー事業を展開する。小池氏を社長に据え、東氏は自ら会長を務める。 ラピダスは「国からの支援のほか、新規株式公開も検討」(東氏)しつつ、今後10年で開発と量産ラインの建設などに約5兆円の資金を投下し「日の丸半導体」の復権を期す」、「ラピダス」の今後の発展を大いに期待したい。
タグ:半導体産業 (その8)(ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石、半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは、[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」 ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】) 現代ビジネス 野口 悠紀雄 「ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石」 「創業1984年」「フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタート」、「いまの時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い。世界の時価総額ランキングで32位。29位のトヨタとほぼ並ぶ」、「極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれる装置だ。この技術は、 ASMLがほぼ独占」、実に凄い企業だ。 「半導体露光装置は、もともとは、日本の得意分野だった。ニコンが1980年にはじめて国産化し、1990年にはシェアが世界一になった。 キヤノンも参入し、1995年ごろまで、ニコンとキヤノンで世界の70~75%のシェアを占めた」、「キヤノンはEUV露光装置分野から撤退した。ニコンも、2010年代初頭に、EUV露光装置の開発から撤退」、日本勢の退潮ぶりは惨めだ。 「日本メーカー」は「ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じた・・・レンズをどう活用して全体の性能を上げるかというよりは、どうやってレンズの性能を引き出すかが優先されるというような問題」、結局、「日本メーカーの自社主義がASMLの分業主義に負けた」、情けない限りだ。 「ASMLは、部品については、核になる技術を持っていない。レンズすらも外注しているのだ。他社が作っているものを、ただ寄せ集めているだけのようにさえ見える。 しかし、それにもかかわらず、売上の3割という利益を稼ぎ出すことができるのだ。このことは、ビジネスモデルに関する従来の考えに反するものだろう」、 「多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながったと言われる」、「技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いたというのだ」、「日本メーカー」の独自性へのこだわりが敗因になったようだ。 これは、日本の経営者の判断の間違いが原因だ。 「ビジネスモデル選択の誤りだ。つまり、カメラという消費財に注力したこと」、その通りである。「日本企業が再逆転」という「奇跡が起こることを祈る他はない」というのも、寂しい限りだ。 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫氏による「半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは」 第一の記事に比べ、なにやら甘い認識だ。 「バイデン政権はTSMCなどに補助金を支給し、米国内での生産能力増強も要求」、その通りだ。 「今回、日蘭が米国と半導体製造装置の対中輸出管理の厳格化に合意したことによって、中国の半導体の自給率向上は一段と遅れるだろう。それは、急速に需要拡大してきた中国の半導体製造装置市場において、わが国やオランダの半導体製造装置メーカーが、収益を獲得しづらくなることを意味」、なるほど。 「新しい製造技術実現のためにも、本邦の半導体製造装置、関連部材メーカーはこれまで以上に研究開発を強化すべき局面を迎えている」、ややキレイゴトめいた感はあるが、その通りだ。 日経ビジネスオンライン「[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】」 「2019年、東京エレクトロン元社長の東哲郎氏は、半導体メーカーからの断りの返事に落胆した。「ご提案の半導体は、我々が製造できる技術世代のはるか先。現状でも精いっぱいで、そこにジャンプするのは難しい」。実は、東氏は世界最先端の半導体を国内で量産しようと、半導体メーカー数社に打診をしていた。「これでは脈はない。深追いしてもしょうがない」。東氏はすぐに気持ちを切り替え、最先端半導体の国産化を目指す新会社の立ち上げに動き出した」、「半導体メーカー」は投資に極めて慎重なようだ。 「今後、人工知能(AI)や高速通信、ビッグデータ活用など、最先端半導体のニーズは高まり、デジタル社会の「頭脳」として欠かせなくなる。日本企業が最先端半導体を試作段階から入手できなければ、製品開発や事業の速度が遅くなる」、その通りだ。 「「国内に最先端半導体の量産拠点がなければ、それらを使う新規事業も育たず、日本の地盤沈下に波及してしまうという懸念があった。 さらに米国と中国の技術覇権争いを背景に、欧州、韓国、台湾、インドなど各国・地域が半導体産業強化やサプライチェーン(供給網)の自立化を急いでいる。半導体の国内製造回帰という世界の潮流を逃せば、しばらく浮上のきっかけはないかもしれない。 だが、焦燥感を抱く東氏に呼応して挑戦する経営者はついぞ現れなかった」、「「だったら、自分でやるしかない」。国内の装置、材料メーカーの技術と、IBMから 供与される技術を組み合わせれば、実現可能だ。東氏はそう判断し、日立製作所出身で半導体製造技術に詳しい旧知の小池淳義氏らに技術の検証を頼んだ。 「本当にものになる技術か、日本で製造できるか、そしてファウンドリーの事業化が可能か、検討に検討を重ねた」(東氏)。経済産業省に相談し、トヨタ自動車やNTTなど8社の経営陣を説得して出資を依頼。22年8月に設立されたのがラピダスである。 IBMと技術を共同開発し、20年代後半に2ナノ品の生産工場を国内に設けて、ファウンドリー事業を展開する。小池氏を社長に据え、東氏は自ら会長を務める。 ラピダスは「国からの支援のほか、新規株式公開も検討」(東氏)しつつ、今後10年で開発と量産ラインの建設などに約5兆円の資金を投下し「日の丸半導体」の復権を期す」、「ラピダス」の今後の発展を大いに期待したい。
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就活(就職活動)(その10)(コンサルの就職人気バブル崩壊はいつ?「最悪シナリオ」を現役コンサルが予測、就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛・・・「学生時代に力を入れたこと」、「入社が難しい有名企業ランキング」トップ200社 外資コンサルや商社が上位、右肩上がりの業種は) [社会]

就活(就職活動)については、昨年3月12日に取上げた。今日は、(その10)(コンサルの就職人気バブル崩壊はいつ?「最悪シナリオ」を現役コンサルが予測、就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛・・・「学生時代に力を入れたこと」、「入社が難しい有名企業ランキング」トップ200社 外資コンサルや商社が上位、右肩上がりの業種は)である。

先ずは、昨年6月3日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「コンサルの就職人気バブル崩壊はいつ?「最悪シナリオ」を現役コンサルが予測」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304127
・『コンサル就職、人気絶好調! 本当に大丈夫?  大学1年生の冬にコロナ禍が始まって、2年生、3年生と、リモート授業で学生生活を過ごした大学四年生の就職面接が6月1日から解禁されました。これは例年のことですが、現時点で65%の学生は内定をもらっているという報道があります。 「このコロナ禍で、学生はどのようなキャリアを志向したのか?」と思い調べてみると、3月時点での「23年卒東大・京大就活人気ランキング」では、これも例年のことでもあるのですが人気企業トップ10のうち5社をコンサルティング会社が占めていました。 コンサルに関心が高い読者のために、今回は現役コンサルタントとしての立場から、以下の3つの疑問に答えてみたいと思います。 (1)コロナ禍の今、コンサル業界は大丈夫なのか?(2)コンサル業界に就職することでどのようなスキルが身に付くのか? (3)コンサルバブルがこの先、はじけることはないのか? それでは、順に見ていきましょう』、興味深そうだ。
・『リーマンショックは「コンサル切り」で大波乱 コロナショックでは…?  (1)コロナ禍の今、コンサル業界は大丈夫なのか? 就活学生がどこまで理解しているかはわかりませんが、一般的にコンサルティング業界では、大不況の当初ではものすごい「冬の時代」が一気にやってきます。リーマンショックを例に挙げた上で、コロナショックとの違いをその後で語ってみます。 リーマンショック当時、コンサルにとってのクライアントである大企業の各社で、売り上げが急激にしぼみました。どの大手企業でも緊急避難的に「削れる経費をできるだけ削る」という動きが出てきて、派遣切りだけでなく「コンサル切り」が起きました。新卒の内定切りにまで踏み込んだ大企業も出てきたぐらいですから、これは仕方がないでしょう。 結果として、コンサルティングファーム内でも稼働率が下がり、コンサルの社内失業が広がります。クライアントに日頃提言しているリストラ策は、当然のようにコンサルの社内にも適用されます。 不況に強い業界や、諸事情で継続されるプロジェクトにコンサルのリソースを集中する一方で、余剰コンサルタントにはやんわりと退出が促されるわけです。 そして、コンサル業界は過去に経験しなかった求職難に直面します。コンサルタントの転職は難関を極めました。私もこの時期に友人の転職相談に乗ったのですが、とにかくまともな大企業の求人がなく、かといって有望ベンチャーも幹部人材を雇う余力がないわけで、転職相談にはかなり難儀した記憶を持っています。 では、今回のコロナ禍はどうでしょうか。実は、リーマンショックの際に大企業が急速にコンサル案件を切り過ぎて失敗した記憶から、今回はやや状況が違ったようです。 リーマンショック勃発時、多くの企業はIT案件をストップさせました。しかし、その間に世の中の事情も変わり、コンサル側のメンバーも入れ替わり、結局再開できないという大失敗を経験した企業も少なからずありました。 一方で、コロナ禍では生き残り策としてデジタルトランスフォーメーションが絶対的に必要だったこともあり、ITコンサル業界に関してはリーマンショックと比較すればコロナ禍は生き残りやすかったという話を聞いています。 今は、アフターコロナに向けていろいろと企業も新たに取り組みたいことが出始めている状況です。なので、来年の春にコンサル会社に入社するというのはタイミング的には悪くないと私は思います』、「コロナ禍では生き残り策としてデジタルトランスフォーメーションが絶対的に必要だったこともあり、ITコンサル業界に関してはリーマンショックと比較すればコロナ禍は生き残りやすかったという話を聞いています。 今は、アフターコロナに向けていろいろと企業も新たに取り組みたいことが出始めている状況です。なので、来年の春にコンサル会社に入社するというのはタイミング的には悪くないと私は思います」、なるほど。
・『令和のキャリア形成は「転職が当たり前」コンサル経験者との相性抜群  (2)コンサル業界に就職することでどのようなスキルが身に付くのか? 学生のコンサル人気の理由の一番目にくるのは、「転職スキルが身に付くこと」です。 ランキング上位のコンサル以外の5社である三井物産、三菱商事、三菱地所、ソニーグループ、富士フイルムは、たとえ今のような時代であっても本人が望めば生涯勤務することが可能な大企業です。一方でコンサル業界の場合、10年後に自分がそのままコンサルとして在籍しているかどうかはわからない。非常に流動性が高い業界です。 今でもよく覚えているのですが、1985年に当時学生だった私が最初に入社したコンサルティングファームでは、エントリーシートに「将来の希望職種」という記入欄がありました。 別に、コンサル会社は応募する学生の将来の希望職種を知りたいわけではありません。要するに、暗に「長居する会社じゃないんだよ」と応募時点でくぎを刺していたわけです。 20代、30代で少しずつ転職を経験しながらキャリア形成をしていくのが当たり前の令和の時代では、就職することでスキルが身に付くことは重要な魅力です。コンサル以外でいえば、総合商社もソニーグループも、同様の魅力があります。 企業としては正念場を迎えている楽天グループが人気ランキング上位に来るのも、学生にとってはスキルが身に付く職場という理由でしょう。 この前提に立つと、コンサル会社に入社して身に付く最大のスキルは「ビジネスの世界の構造が理解できる」ことでしょう。  私が30代になった頃、コンサル会社に、同世代で大企業に就職した仲間が次々と中途入社してきました。彼らと話をしてみると、コンサル会社に転職したきっかけは、社会人最初の10年で得られる知識に差を感じたことが大きかったようです 。 「企業が成長するためには投資することが必要」「勝つためには製品サービスに優位性が必要」「コスト競争では規模と生産性が重要」「高収益のためには、川上川下の取引先との力関係が重要」 コンサルから見れば、上記はすべてのビジネスに共通する構造です。 この構造に基づいて企業は商品開発をしたり、ITを導入したり、営業活動をしたり、新ビジネスに取り組んだりします。しかし、大学を出て大企業に入社して最初にこういった具体的な活動から社会人を始めると「なぜ、なんのためにやっているのか?」を俯瞰して理解するまでに時間がかかるものです。 一方で、コンサルから社会人を始める弱点は、ビジネスの細部やリアリティーの部分がおろそかになりがちなことです。このあたりは、どちらを先に学ぶかということでしょう。 多くの場合、先にコンサルから始めると転職する際にまったくの異業種であってもその業界の構造を理解するのが早く、結果として転職後にその業界の細部を学んでいく中で活躍の場を見つけていきやすいようです』、「大学を出て大企業に入社して最初にこういった具体的な活動から社会人を始めると「なぜ、なんのためにやっているのか?」を俯瞰して理解するまでに時間がかかるものです。 一方で、コンサルから社会人を始める弱点は、ビジネスの細部やリアリティーの部分がおろそかになりがち」、「多くの場合、先にコンサルから始めると転職する際にまったくの異業種であってもその業界の構造を理解するのが早く、結果として転職後にその業界の細部を学んでいく中で活躍の場を見つけていきやすいようです」、やはり「先にコンサルから始める」方を推しているようだ。
・『(3)コンサルバブルがこの先、はじけることはないのか?  この質問は、コンサル業界にとっては永遠のテーマです。今のところコンサル業界は、「自分たちが積み上げてきたノウハウが時代遅れになって無用の存在になる」という事態を経験したことがありません。 もちろん、コンサル個々人の持つスキルは時代とともに時代遅れになるものです。それでも、会社としてみれば強いのです。新しい前提が出てきて、新しい競争原理の中で新しいビジネス競争が始まった場合も、多くのクライアントを抱えるコンサルティングファームのほうが一企業よりも早くノウハウをためることができます。 言い換えると、今まではコンサル業界がノウハウ面でクライアントに後れを取ることは少なかったといえます。 そしてコンサルにはもうひとつ、「外部の人間だから言いやすい、外圧として企業を変えやすい」という強みもあります。この点は今後、時代が変わったとしても強みは変わらないでしょう』、「新しい前提が出てきて、新しい競争原理の中で新しいビジネス競争が始まった場合も、多くのクライアントを抱えるコンサルティングファームのほうが一企業よりも早くノウハウをためることができます」、「コンサルにはもうひとつ、「外部の人間だから言いやすい、外圧として企業を変えやすい」という強みもあります」、「コンサル」らしい売り込みだ。
・『20年後に本格化するかもしれないコンサル「最悪シナリオ」とは  しかし、実はノウハウという点でいえば、これから先の20年間で前提条件が変わる日が来るかもしれません。) 「そんなに儲かるやり方を知っているんだったら、なぜ自分でやらないの?」という笑い話がコンサル業界にもあります。 この質問に対する伝統的でストレートな答えは、「だって、それをやる設備は持っていないから」というものです。 もし、コンサルが新しいノウハウで石油化学業界で大儲けする方法を知っていたとしても、自分でそのノウハウを使うことはできません。それよりも石油化学業界の大企業にそのやり方をささやいたほうが、よほどお金を稼ぐことができます。 ところが、まったく新規の世界で新たに少額資本で早い者勝ちで勝てる時代が来たら、そのときはコンサルをやるよりも自分でやったほうが儲かるようになります。今、それに相当する業界がYouTuberですし、近未来でいえばメタバースがそうなるかもしれません。 コンサルの就職人気バブル崩壊はいつ?「最悪シナリオ」を現役コンサルが予測 さらに言えば、そういった新しい世界を作るプラットフォーム企業としてのGAFAM(グーグル、アマゾン、メタ=旧フェイスブック、アップル、マイクロソフト)がコンサルを経営参謀として雇うかどうかは疑問です。 もちろん、彼らが人手不足から手足としてコンサル会社をプロジェクト内で雇うことはあるでしょう。 しかし、戦略を彼らが作り、ノウハウも彼らが最もため込んでいて、コンサルがアドバイスできるルールすらプラットフォーマーのルール変更ですぐに陳腐化するような時代にはコンサルの活躍余地は小さくなります。 これが今、世界で徐々に起きつつあることで、世界は巨大なプラットフォーマーがビジネスのルールを作り、その下で、無数の小資本の個人が知恵とスピードで巨額の利益を得られるようになる時代が本格的に来るかもしれません。 そのような時代がもし世の中の大半を占めるという時代が到来するとしたら、そのときはコンサルではない何か別の企業に就職したほうが、その後のキャリア形成にプラスになるかもしれません。 幸いにしてまだその時代にはなっていない。しばらくはコンサル業界は安泰だというのが私の見通しです。内定をもらっている学生の皆さん、安心してください。 さて、世の中の未来が読みづらい時代です。これからの経済復活の道筋を書いた『日本経済復活の書』が6月16日に発売されます。こちらもぜひお読みください』、「世界は巨大なプラットフォーマーがビジネスのルールを作り、その下で、無数の小資本の個人が知恵とスピードで巨額の利益を得られるようになる時代が本格的に来るかもしれません。 そのような時代がもし世の中の大半を占めるという時代が到来するとしたら、そのときはコンサルではない何か別の企業に就職したほうが、その後のキャリア形成にプラスになるかもしれません」、そんな「時代」が本当に来るのだろうか。

次に、6月21日付け東洋経済オンラインが掲載した千葉商科大学 准教授・働き方評論家の常見 陽平氏による「就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛・・・「学生時代に力を入れたこと」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/596673
・『「ガクチカに悩む就活生たち」  新型コロナウイルスショック以降、このような報道をよく目にする。「ガクチカ」とは就活の選考でよく質問される「学生時代に力を入れたこと」の略だ。感染症対策のために、大学生活の自由度が制限される中、就活で自分をアピールするガクチカがなく、就活生が困っているという問題である。 ガクチカ問題は、全国紙各紙でも報じられた。関連した記事は一通りチェックしたが、パターンはほぼ一緒で、戸惑う学生の声を中心にし、企業の人事や、大学のキャリアセンターの試行錯誤が伝えられる。このような報道が就活生の不安をさらに高める』、「ガクチカ」とは初めて知った。しかも筆者の「常見」氏が広めたようだ。
・『「ガクチカの父」として猛反省していること  このガクチカについて、私は複雑な想いを抱いている。実は、この言葉を日本で初めて書籍に掲載したのはどうやら、私なのだ。2010年のことだった。私は「意識高い系」をタイトルにした本を初めて世に出した者でもある。ゆえに、若者を苦しめる言葉を広げた者として悪者扱いされることもある。ともに、私が生み出した言葉ではなく、広めた言葉なのだが。 正直なところ、とばっちり、流れ弾だなとも思いつつも、とはいえ反省すべき点もある。それは、このガクチカという言葉が就活生、企業、大学関係者などに誤解を与えつつ広まってしまったことにより、混乱を招いている。これは、問題だ。 あたかも、ガクチカとして自信をもって語れることがなければ内定が取れないのではないかと就活生を焦らせたのではないか。ガクチカ=「わたしがなしとげたさいこうのせいこうたいけん」なのだと、誤解させてしまったのではないか(つまり、“すごい体験”でなければアピールできないと思わせてしまったのではないか)。 企業の面接官も、わかっていない人に限って、派手なガクチカを過大に評価してしまう。しかも、その流れにより、大学もエントリーシートの添削などで学生の体験を誇張してしまう。さらには、大学側が就活でアピールできるような機会まで用意してしまう……。) もともと、ガクチカは本人の価値観、行動特性、思考回路、学ぶ姿勢、勝ちパターンなどを読み解くための「手段」だった。「世界一周」「サークル立ち上げ」「学園祭の模擬店で大成功」などという話を期待しているわけではない。目立たなくても地道な取り組みが評価されることもある。しかし、ガクチカが学生、企業双方で過度に「目的化」してしまったのが、現代の就活なのである』、「もともと、ガクチカは本人の価値観、行動特性、思考回路、学ぶ姿勢、勝ちパターンなどを読み解くための「手段」だった」、「目立たなくても地道な取り組みが評価されることもある」、「しかし、ガクチカが学生、企業双方で過度に「目的化」してしまったのが、現代の就活なのである」、当初の「定義」とは大きく外れた使い方を放置してきた責任は重い。
・『学生にガクチカを問うのは、コロナ前から酷だった  もっとも、学生がガクチカに困りだしたのは、新型コロナウイルスショックのせいなのだろうか?よくある「新型コロナウイルスショックの影響で、大学生活が2019年までよりも制限され、ガクチカで学生が困っている」という言説は、本当だろうか?疑ってかからなくてはならない。 私の主張を先に書こう。ガクチカに困ると言われたこの世代は、過去最高に内定率が高い。また、ガクチカはコロナ前から悩みの種だったのだ。 就職情報会社各社が発表した、2022年6月時点での内定率は過去最高だ。たとえば、リクルート就職みらい研究所が発表している就職プロセス調査によると、6月1日時点の内定率は73.1%となっており、前年同時期比4.6ポイントアップ、6月選考解禁となった2017年卒以降最も高くなった。 これはモニター調査であり、実態よりも高くなりがちではある。就職情報会社各社の渉外担当者が大学に対して「実際はこんなに高くありません」と言うほどだ。また、最終的な数字を見なければ結果の先食いにもなる。ガクチカに自信がある学生が先に内定しているともみることもできるだろう。とはいえ、ガクチカに困っているはずの学生たちに、これだけ内定が出ている点に注目するべきだろう。 学生は新型コロナウイルスショック前からガクチカに悩んでいた。無理もない。今の学生はお金も時間もない。奨学金やアルバイトに依存しなければ、大学生活が回らない。自宅から通わざるを得ず、遠距離通学する学生もいる。筆者は千葉県市川市の大学に勤務しているが、茨城県や、千葉県の房総半島から通う学生もおり、通学時間が片道2時間以上かかる学生もいる。よく若者の○○ばなれというが、その原因はお金と時間の若者離れだ。) ゆえに、就活で跋扈するのが普段のアルバイト体験を劇的に語ろうとする学生たちだ。面接では「居酒屋でのアルバイトで、コミュニケーション能力を磨きました。笑顔を心がけ、お客様にもいつも、笑顔で帰ってもらいました。この力を営業の仕事で活かしたいと思います」という学生がよく出現する。面接官からすると「またか」とウンザリするような、お決まりの自己PRだ。お客さんが笑顔で帰ったのは生ビールが美味しかったからではないかと言いたくなる。就活ノウハウでは「だから、アルバイトネタは、差別化できないから話すな」というものが伝授される。 この問題はこじれている。アドバイスするとしたら、元面接官視点では、「もっと工夫してアピールしろ」と言いたくなる。同じ居酒屋バイトでも、チームワークや売り上げアップなどアピールできるポイントはあるだろう。大学教員視点では、勉強の話をしてほしいと悲しんだりする。 ただ、学生の状況を考えると、激しく同情する。学生生活において、時間もお金も余裕がない。アルバイトをしなければ学生生活が回らない。居酒屋でのアルバイトは人手不足で彼ら彼女たちを求めている。モチベーションアップ施策にも手厚く取り組んでいる。飲食店でのアルバイトは、彼ら彼女なりに、精一杯努力した、「学生時代に力を入れたこと」なのだ。 「コミュニケーション能力」を「アピールさせている」のは誰なのか?経団連が毎年、発表している新卒採用で重視する点として、「コミュニケーション能力」が十数年にわたり、1位となっている。 「居酒屋でアルバイトし、コミュニケーション能力を身につけた」という「量産型就活生」が、納得のいく内定に至ることができるのかどうかという問題はさておき、彼ら彼女たちはそう言わざるを得ないし、大人たちにそう言わされているのだと解釈したい。これも彼ら彼女たちなりの精一杯の「ガクチカ」なのだ』、「学生生活において、時間もお金も余裕がない。アルバイトをしなければ学生生活が回らない。居酒屋でのアルバイトは人手不足で彼ら彼女たちを求めている。モチベーションアップ施策にも手厚く取り組んでいる。飲食店でのアルバイトは、彼ら彼女なりに、精一杯努力した、「学生時代に力を入れたこと」なのだ」、その通りだ。
・『供給されるガクチカ、誇張、装飾されるガクチカ  学生たちがエントリーシートに書いてきた「ガクチカ」をそのまま信用していいのか。ここでも立ち止まって考えたい。「ガクチカ」は本当に学生が書いたものなのか。この「ガクチカ」は、学生が自ら頑張ったものだろうか?大学が用意した機会に乗っただけではないか。) そのガクチカが問われる場といえば、エントリーシートだ。すでに想像がついた人もいることだろう。そう、このエントリーシートもまた必ずしも、学生が自ら一人で書ききったものとは限らない。キャリアセンターなどで、教職員が添削をしている。話題の棚卸し、意味づけ、表現の工夫などは、大学教職員のアドバイスのもと、学生はエントリーシートを書き上げる。もちろん本人がみずからは気づかない良さを引き出している面はあると思う。ただ、「盛り」「盛られ」のエントリーシート、ガクチカが製造されるのも現実である。 大学が用意したプログラムが、ガクチカのネタに使われることもある。大学は企業や地域と連携した取り組みなどを行っている。よく、新聞の教育面を読むと、各大学のユニークな取り組みが紹介される。これらは学生が自ら発案したものではない。もちろん、学生に何から何までゼロから立ち上げることを期待するのは酷だと言えよう。ただ、いかにも「私はこんなユニークな取り組みをした」という「ガクチカ」は実は、大学や教員がお膳立てした可能性があることを指摘しておきたい。 一方で私自身は大学教員だ。だからといって保身に走るわけではないが、これらの取り組みにも意味がある。別に大学は「ガクチカ」のためだけに、これらの企業や地域と連携したプログラム、ユニークなプロジェクトを立ち上げているわけではない。あくまで学びの機会である』、「「盛り」「盛られ」のエントリーシート、ガクチカが製造されるのも現実である。 大学が用意したプログラムが、ガクチカのネタに使われることもある。大学は企業や地域と連携した取り組みなどを行っている。よく、新聞の教育面を読むと、各大学のユニークな取り組みが紹介される。これらは学生が自ら発案したものではない。」、やむを得ないだろう。
・『学生たちは機会があれば、よく学び、成長する  文部科学省もアクティブ・ラーニングやPBL(Project Based Learning ※PはProblemとすることもある〕を推奨している。これらのユニークプログラムは、文科省の意向や産業界や地域の要請を受けたものでもある。お金も時間もない大学生に、何か貴重な体験をしてもらいたいという想いもある。 私自身、このような企業や地域とコラボしたプログラムを担当しているが、学生たちはよく学び、成長する。所詮、単位取得のためにやらされたことだとしても、それが学生にとっての成長、変化の機会になればよいと私は考えている。そもそも、お金も時間もない中、このような機会でも作らなければ、大学生活はますます単位取得と、アルバイトと就活で終わってしまう。 私も学生から相談を受けエントリーシートを添削することがある。あくまで言葉づかいの間違いを直したり、学生の考えを整理したり、彼ら彼女たちが体験したことについて、解釈する視点を提供するためのものだ。最終的には、学生に仕上げてもらう。このやり取りは、添削というよりも、面談に近い。エントリーシートというものを媒介に、何を大切にして大学生活をおくってきたのか、棚卸しと意味づけを行うやり取りだ。) ここからは私自身の意見を交えて展開したい。「ガクチカ」というものに事実上、大学も侵食されていることについて警鐘を乱打したい。大学は何のためのものなのか』、「私自身、このような企業や地域とコラボしたプログラムを担当しているが、学生たちはよく学び、成長する。所詮、単位取得のためにやらされたことだとしても、それが学生にとっての成長、変化の機会になればよいと私は考えている。そもそも、お金も時間もない中、このような機会でも作らなければ、大学生活はますます単位取得と、アルバイトと就活で終わってしまう」、その通りだ。
・『若者に旧来の若者らしさを求めるな  この手の話をするたびに「いや、大学は自分でやりたいことを探す場所だろう」「ガクチカとして誇れるものがないのは自己責任」などという話が飛び出したりする。中には「俺は、苦学生だったが、アルバイトで学費をすべて払い、サークルの立ち上げまでして、充実した大学生活をおくったぞ」などという、マウンティング、ドヤリングが始まったりする。さらには「どうせ学生は、遊んでばかり」というような学生批判まで始まったりする。 いい加減にしてほしい。どれも現実離れしている意見である。構造的に、時間もお金もないことが課題となる中、それを強いることは脅迫でしかない。自分の体験の一般化は、持論であって、理論ではない。さらに、自分の時代の、しかもドラマや漫画などで妄想が拡大され美化された大学生活を前提に語られても意味はない。 これは言わば、妄想ともいえる「若者らしさ」の押し付けでしかない。自分たちが思い描く若者像を、過剰なまでに期待していないか。 そもそも、ガクチカなるものを今の大学生に期待することがいかにエゴであるか、確認しておきたい。大人たちには学生が、自分たちが理想とする学生生活を送れるように応援する気持ちを持ってもらいたいものだ。学生像を押し付けてはいけない。 企業の面接官には、学生1人ひとりをしっかり見てもらいたい。コロナ時代の彼ら彼女たちは不安な生活を乗り切った。よく勉強した。これこそが、ガクチカではないか。「学生時代に力を入れたこと」としてのガクチカを期待するよりも、「学生生活に力を入れられる」ような環境をつくらねばならない。これはガクチカなる言葉を広めた者としての懺悔と自己批判と提言である』、「企業の面接官には、学生1人ひとりをしっかり見てもらいたい。コロナ時代の彼ら彼女たちは不安な生活を乗り切った。よく勉強した。これこそが、ガクチカではないか。「学生時代に力を入れたこと」としてのガクチカを期待するよりも、「学生生活に力を入れられる」ような環境をつくらねばならない。これはガクチカなる言葉を広めた者としての懺悔と自己批判と提言である」、その通りなのだろう。

第三に、本年2月4日付け東洋経済オンラインが掲載した学通信 情報調査部部長の井沢 秀 氏による「「入社が難しい有名企業ランキング」トップ200社 外資コンサルや商社が上位、右肩上がりの業種は」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/650168
・『大学選びに際して、就職状況に対する関心は相変わらず高い。実就職率(就職者数÷《卒業者数-大学院進学者数》×100で算出)に注目すると、コロナ禍におけるオンラインを活用した就職スタイルの変化や、観光、航空など採用が止まった業種があったことなどから、2020年以降、各大学の就職率は下降気味だったが、2022年卒の大学の平均実就職率は、前年を0.8ポイント上回る86.0%となった。 景気は不透明でも人手不足の企業は多く、大学生の売り手市場が続く中、受験生やその保護者の関心は、「どのような企業に就職できるのか」。 多くの受験生や保護者が望む就職先は将来が見通せる有名企業だが、そのハードルは高い。リクルートワークス研究所によると、2022年卒の学生に対する全体の求人倍率1.5倍に対し、従業員規模5000人以上の大企業に限定すると0.41倍に急減する。 こうした狭き門の有名企業への就職は、「どのくらいの難易度の大学に行けば叶うのか」知りたいところ。そこで、有名企業はどのようなレベルの大学から入社しているのかを知るための指標として入社難易度を算出した』、「2022年卒の学生に対する全体の求人倍率1.5倍に対し、従業員規模5000人以上の大企業に限定すると0.41倍に急減する。 こうした狭き門の有名企業への就職は、「どのくらいの難易度の大学に行けば叶うのか」知りたいところ」、その通りだ。
・『「入社難易度」の算出方法  入社難易度は、駿台予備学校の協力を得て模試の難易度を用い、大学通信が各大学に有名企業427社への就職者数をアンケート調査している結果とあわせて算出した。427社は、日経平均株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定している。 算出にあたって、まず2022年の各大学・学部の難易度を、医学部と歯学部を除いて平均した値を大学個別の難易度として定めた。最高は東京大学の70.0で、以下、国際教養大学67.7、京都大学66.5、国際基督教大学65.0、早稲田大学64.8、慶應義塾大学64.7などが並ぶ。 この大学の難易度を基に、各企業の入社難易度を算出した。例えば、東京大から5人、国際基督教大から3人、早稲田大から10人の採用があったA社の入社難易度は、次のような式で求められる。(東京大×5人+国際基督教大×3人+早稲田大×10人)÷(5人+3人+10人)=66.7となる。この入社難易度を就職判明者10人以上の企業に絞ってランキングしたのが「入社が難しい有名企業ランキング」となる。同率で順位が異なるのは、小数点第2位以下の差による。 企業別の表を見ていこう。1位は外資系コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド・ジャパン。採用判明者51人中、東大卒が40人と圧倒的に多い。かつては官僚やメガバンクなどに向いていた東大生の視線が外資コンサルに移っている。東京大以外の採用大学は、慶應義塾大(5人)、京都大(3人)など5大学。マッキンゼーの就職偏差値は東京大とほぼ同じ68.9。最難関大に合格できる地頭がないと、入社が叶わない企業ということだ。 2位も外資系コンサルのボストンコンサルティンググループ。マッキンゼーほど採用大学に偏りはなく、東京大(6人)、京都大(5人)、慶應義塾大(3人)、東京工業大学と早稲田大(各2人)など7大学から採用している』、「かつては官僚やメガバンクなどに向いていた東大生の視線が外資コンサルに移っている」、なるほど。
・『外資コンサルが難関大生から人気のワケ  外資コンサルが難関大生から人気が高いのは、高い給与水準とともに、自らの成長とやりがいを重視する学生が満足できる環境が整っていることにある。外資コンサルをステップとしてさらに高みを目指そうともくろむ学生も多い。 上位2社以外にも、デロイト トーマツ コンサルティングが14位、PwCコンサルティングが19位、にランクイン。国内コンサルでは、アビームコンサルティングが24位に入っている。 外資コンサル最大手のアクセンチュアは、採用数が多いこともあり53位と順位が抑えられている。それでも、東京大からの就職者数は同大から最多の53人で、京都大からの26人は同大で3番目に就職者が多い企業になる。私立大では、慶應義塾大が同大最多の88人で早稲田大もNTTデータと並んで最多タイとなる87人が就職している。 コンサルは、近年、大学生の人気が上がってきたことから、調査対象に加えたのは2021年。そのため、2020年度の順位は「‐」となっている。ちなみに、42位のアマゾンジャパン、45位の日本取引所グループは2022年から調査対象となっているため、2020年と2021年が「‐」となっている。) 商社も難関大生の人気が高い企業だが、コンサルを調査対象に加えたことから相対的にランクダウン。三菱商事が3位、住友商事が4位にランクインしている。三菱商事はコンサル調査前の2020年は1位だった。それでも5大商社の入社難易度が高いことに変わりはなく、三井物産が7位、伊藤忠商事が12位、丸紅が26位にランクイン。2022年に5大商社に1人でも就職者がいた大学は、アンケート回答557大学中、40大学にすぎない。特に東京大、一橋大学、京都大、慶應義塾大、早稲田大といった国立と私立の最難関大からの採用が多く、これらの大学からの採用者数は5大商社全体の6割以上を占めている。 ランキング5位には、前年の20位から大きく順位を上げた富士フイルムが入った。写真分野の技術を生かして、医療機器、製薬などのメディカル系や、化粧品などのヘルスケアに大きく業務転換したことから、難関大の理系学生や大学院生を中心に人気が上がっている。 仕事に対するやりがいを求める難関大の学生からは、大都市圏で再開発事業を進める不動産の人気も高く、6位に三菱地所がランクイン。三井不動産(9位)や東京建物(18位)なども上位に入っている。 銀行では、日本政策投資銀行が8位。政府系金融機関の安定性と、日本経済の成長を支援する仕事のやりがいから、難関大生の人気が高い。ちなみにメガバンクで最上位は三菱UFJ銀行で52位。 10位は世界最大の消費材メーカーのP&Gジャパン。難関大生が就職先に求める条件である、入社後の成長とワークライフバランスの良さを高いレベルで実現している外資系企業として人気が高い』、「外資コンサルが難関大生から人気が高いのは、高い給与水準とともに、自らの成長とやりがいを重視する学生が満足できる環境が整っていることにある。外資コンサルをステップとしてさらに高みを目指そうともくろむ学生も多い」、「2022年に5大商社に1人でも就職者がいた大学は、アンケート回答557大学中、40大学にすぎない。特に東京大、一橋大学、京都大、慶應義塾大、早稲田大といった国立と私立の最難関大からの採用が多く、これらの大学からの採用者数は5大商社全体の6割以上を占めている」、「銀行では、日本政策投資銀行が8位。政府系金融機関の安定性と、日本経済の成長を支援する仕事のやりがいから、難関大生の人気が高い。ちなみにメガバンクで最上位は三菱UFJ銀行で52位」、昔は「日本政策投資銀行」は、官僚うの天下り先なので、大学卒業生の地位は低かった。「メガバンクで最上位は三菱UFJ銀行で52位」、ここまで落ちたかと、驚かされた。
・『業種別で入社難易度が右肩上がりの「出版」  「業種別・入社難易度ランキング」を見ると、1位が広告で2位が放送、3位が不動産。難関大生の人気が高い業種のうえ、採用数が少ないことから難易度が高く、順位は異なるが2021年と同じ顔ぶれとなっている。 ランキングが右肩上がりなのは4位の出版。紙媒体が苦戦し出版不況と言われる中で入社難易度が上がっているのは、電子書籍や映像、Webメディアなど多彩なコンテンツを展開することで、難関大生の注目を集めていることにある。出版では、講談社(13位)、KADOKAWA(17位)、集英社(33位)などがランクインしている。 このあとは入社が難しい有名企業のランキング(1~50位) 同(51~100位) 同(101~150位) 同(151~200位)』、「ランキングが右肩上がりなのは4位の出版。紙媒体が苦戦し出版不況と言われる中で入社難易度が上がっているのは、電子書籍や映像、Webメディアなど多彩なコンテンツを展開することで、難関大生の注目を集めていることにある」、なるほど昔とはずいぶん変わったようだ。
タグ:「世界は巨大なプラットフォーマーがビジネスのルールを作り、その下で、無数の小資本の個人が知恵とスピードで巨額の利益を得られるようになる時代が本格的に来るかもしれません。 そのような時代がもし世の中の大半を占めるという時代が到来するとしたら、そのときはコンサルではない何か別の企業に就職したほうが、その後のキャリア形成にプラスになるかもしれません」、そんな「時代」が本当に来るのだろうか。 「新しい前提が出てきて、新しい競争原理の中で新しいビジネス競争が始まった場合も、多くのクライアントを抱えるコンサルティングファームのほうが一企業よりも早くノウハウをためることができます」、「コンサルにはもうひとつ、「外部の人間だから言いやすい、外圧として企業を変えやすい」という強みもあります」、「コンサル」らしい売り込みだ。 「大学を出て大企業に入社して最初にこういった具体的な活動から社会人を始めると「なぜ、なんのためにやっているのか?」を俯瞰して理解するまでに時間がかかるものです。 一方で、コンサルから社会人を始める弱点は、ビジネスの細部やリアリティーの部分がおろそかになりがち」、「多くの場合、先にコンサルから始めると転職する際にまったくの異業種であってもその業界の構造を理解するのが早く、結果として転職後にその業界の細部を学んでいく中で活躍の場を見つけていきやすいようです」、やはり「先にコンサルから始める」方を推しているよう 「コロナ禍では生き残り策としてデジタルトランスフォーメーションが絶対的に必要だったこともあり、ITコンサル業界に関してはリーマンショックと比較すればコロナ禍は生き残りやすかったという話を聞いています。 今は、アフターコロナに向けていろいろと企業も新たに取り組みたいことが出始めている状況です。なので、来年の春にコンサル会社に入社するというのはタイミング的には悪くないと私は思います」、なるほど。 (その10)(コンサルの就職人気バブル崩壊はいつ?「最悪シナリオ」を現役コンサルが予測、就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛・・・「学生時代に力を入れたこと」、「入社が難しい有名企業ランキング」トップ200社 外資コンサルや商社が上位、右肩上がりの業種は) 就活(就職活動) 東洋経済オンライン 常見 陽平氏による「就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛・・・「学生時代に力を入れたこと」」 「ガクチカ」とは初めて知った。しかも筆者の「常見」氏が広めたようだ。 「もともと、ガクチカは本人の価値観、行動特性、思考回路、学ぶ姿勢、勝ちパターンなどを読み解くための「手段」だった」、「目立たなくても地道な取り組みが評価されることもある」、「しかし、ガクチカが学生、企業双方で過度に「目的化」してしまったのが、現代の就活なのである」、当初の「定義」とは大きく外れた使い方を放置してきた責任は重い。 「学生生活において、時間もお金も余裕がない。アルバイトをしなければ学生生活が回らない。居酒屋でのアルバイトは人手不足で彼ら彼女たちを求めている。モチベーションアップ施策にも手厚く取り組んでいる。飲食店でのアルバイトは、彼ら彼女なりに、精一杯努力した、「学生時代に力を入れたこと」なのだ」、その通りだ。 「「盛り」「盛られ」のエントリーシート、ガクチカが製造されるのも現実である。 大学が用意したプログラムが、ガクチカのネタに使われることもある。大学は企業や地域と連携した取り組みなどを行っている。よく、新聞の教育面を読むと、各大学のユニークな取り組みが紹介される。これらは学生が自ら発案したものではない。」、やむを得ないだろう。 「私自身、このような企業や地域とコラボしたプログラムを担当しているが、学生たちはよく学び、成長する。所詮、単位取得のためにやらされたことだとしても、それが学生にとっての成長、変化の機会になればよいと私は考えている。そもそも、お金も時間もない中、このような機会でも作らなければ、大学生活はますます単位取得と、アルバイトと就活で終わってしまう」、その通りだ。 「企業の面接官には、学生1人ひとりをしっかり見てもらいたい。コロナ時代の彼ら彼女たちは不安な生活を乗り切った。よく勉強した。これこそが、ガクチカではないか。「学生時代に力を入れたこと」としてのガクチカを期待するよりも、「学生生活に力を入れられる」ような環境をつくらねばならない。これはガクチカなる言葉を広めた者としての懺悔と自己批判と提言である」、その通りなのだろう。 井沢 秀 氏による「「入社が難しい有名企業ランキング」トップ200社 外資コンサルや商社が上位、右肩上がりの業種は」 「2022年卒の学生に対する全体の求人倍率1.5倍に対し、従業員規模5000人以上の大企業に限定すると0.41倍に急減する。 こうした狭き門の有名企業への就職は、「どのくらいの難易度の大学に行けば叶うのか」知りたいところ」、その通りだ。 「かつては官僚やメガバンクなどに向いていた東大生の視線が外資コンサルに移っている」、なるほど。 「外資コンサルが難関大生から人気が高いのは、高い給与水準とともに、自らの成長とやりがいを重視する学生が満足できる環境が整っていることにある。外資コンサルをステップとしてさらに高みを目指そうともくろむ学生も多い」、「2022年に5大商社に1人でも就職者がいた大学は、アンケート回答557大学中、40大学にすぎない。特に東京大、一橋大学、京都大、慶應義塾大、早稲田大といった国立と私立の最難関大からの採用が多く、これらの大学からの採用者数は5大商社全体の6割以上を占めている」、 「銀行では、日本政策投資銀行が8位。政府系金融機関の安定性と、日本経済の成長を支援する仕事のやりがいから、難関大生の人気が高い。ちなみにメガバンクで最上位は三菱UFJ銀行で52位」、昔は「日本政策投資銀行」は、官僚うの天下り先なので、大学卒業生の地位は低かった。「メガバンクで最上位は三菱UFJ銀行で52位」、ここまで落ちたかと、驚かされた。 「ランキングが右肩上がりなのは4位の出版。紙媒体が苦戦し出版不況と言われる中で入社難易度が上がっているのは、電子書籍や映像、Webメディアなど多彩なコンテンツを展開することで、難関大生の注目を集めていることにある」、なるほど昔とはずいぶん変わったようだ。
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政府の賃上げ要請(その5)(日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと、大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り 日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では まじめに働いても給料が上がらない、日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由) [経済政策]

政府の賃上げ要請については、2019年2月9日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その5)(日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと、大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り 日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では まじめに働いても給料が上がらない、日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由)である。

先ずは、昨年6月15日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ氏による「日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/596702
・『まさに「大山鳴動して鼠一匹」である。岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった。 具体的には、岸田首相が掲げる「健全な成長と平等な所得分配は互いに必要である」という基本理念に対する自民党内や金融市場からの「社会主義を推進している」という非難に簡単に屈する形になった。「成長の果実を再分配しなければ、消費と需要は増えない」という主張は社会主義ではない。これは、標準的なマクロ経済学における、長年の評決なのである』、私も「岸田政権は「新しい資本主義」」には、当初は「お手並み拝見」と期待したが、裏切られた。
・『実質的な方策に欠けた中身  岸田首相の"譲歩"のせいで、政策文書は「成長と分配の好循環」の必要性を訴えるレトリックに終始しているが、それを実現するための実質的な方策は極めて乏しい。 岸田首相の妥協は、就任直後に年収1億円以上の人にキャピタルゲインと配当課税の強化を求めたことで株価が下落し、いわゆる「岸田ショック」を招いたことに端を発する。動揺した岸田氏は、この提案を撤回した。7月の参議院選挙を前にして、経団連を怒らせるわけにはいかないと判断したのだ、とある関係者は語る。 参院選での勝利を確実にするには、安倍晋三氏などの前任者が打ち出した失敗策の焼き直し案しか残されていない。 例えば、賃金について、岸田首相は企業に対して年3%の賃上げを求めるという過去の意味のない要求を繰り返した。また、最低賃金を時給1000円にするという長年の目標も繰り返したが、その達成期限は示さなかった。) 一定の賃上げを行った企業に与えられる一時的な減税の水準を引き上げることを提案したが、企業が一時的な税制優遇の見返りのために永続的な賃上げを行うことはないのは歴史が証明している。また、看護師など特定の職業に就く公務員の賃上げも約束した。 成長戦略の重要な要素――新興企業の数を今後5年間で10倍に増やす――に言及が及ぶと、改革者たちの不満はさらに高まった。科学技術・イノベーション会議が主導する官民合同チームは、日本の起業率を低く抑えている主要な問題点(銀行のような重要な問題は除外されているが)について、第一級の分析を行った。 例えば、初期段階の資金を提供する「エンジェル投資家」に対する税制優遇措置、新興企業が必要とする収入と信用を与える政府調達、資金難の新企業が優秀な人材を引き寄せるためのストックオプションの利用などだ。だが、最終文書では、これらの課題に関する具体的な提案は極力避けられている』、もともと結果が見え見えだった「岸田ショック」はお粗末の極みだった。「企業に対して年3%の賃上げを求める」、「最低賃金を時給1000円にするという長年の目標も繰り返したが、その達成期限は示さなかった」、「新興企業の数を今後5年間で10倍に増やす」ための「「エンジェル投資家」に対する税制優遇措置などは最終的提案には盛り込まれなかった。
・『参院選を見据えた内容になってしまった  「参議院選挙が終わるまで待ってほしい」 不満の声を挙げた参加者の一部は、こう言われたという。官邸としては、具体的な救済策、特に税制や労働問題などに言及して、各省庁や利権団体の対立が表面化し、選挙で自民党が不利になることをおそれたのだろう。 例えば財務省は、新興企業の育成に必要な減税措置に繰り返し反対している。官邸は、年末までに「5カ年計画」を発表し、具体的な内容を盛り込むと約束した。しかし、複数の参加者と話をしたところ、そのプランが本当に充実したものになるのか、期待こそすれ、自信はあまりないといった様子であった。 ある関係者は、岸田首相が限られた政治資金を防衛費の増額に費やし、議論を呼ぶ経済対策のための資金を十分に残せないことを懸念した。また、自民党内の岸田派は比較的小さく、安倍氏や麻生太郎氏が率いる強力で保守的な派閥を疎外するわけにはいかないと強調する者もいた。 岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている。複数の情報筋による指摘によると、1つには岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案したと言われている。 さらに岸田首相は、安倍氏が集団安全保障で、菅義偉氏が脱炭素化で行ったように、自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者である』、「岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている」、「「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかった・・・このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案」、「自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者」、これでは成果は期待できない。
・『真の成長と分配による好循環を引き起こすには  さまざまな権力者の意見が異なる場合、岸田首相自身が解決策を押しつけるのではなく、権力者が妥協点を見いだせるように仕向ける。このスタイルは、ある状況下では生産的かもしれないが、岸田首相が主張するような大きな経済的「軌道修正」を生み出すことはできない。 では、参院選での勝利によって、岸田首相が年末に予定されている「5カ年計画」において、より積極的な主張をできるとなったらどう変わるか。その場合、真の「成長と分配の好循環」を引き起こすために、どのような手を打つことができるだろうか。 当初、岸田首相は前述のように、富裕層の株式所得に対する税率を引き上げることを提案していた。現在は一律20%である。その結果、主に投資によって年間1億円以上の所得を得ている人は、アッパーミドルクラスよりも全体の税率が低くなっている。 とはいえ、1億円以上の所得を持つ納税者は全体の0.01%程度に過ぎない。そのため、通常の所得税と同様、投資所得にもいくつかの区分を設けない限り、所得の平準化にはあまり効果がない。 いずれにせよ、多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ。 さらに悪いことに、過去数十年間、東京都(注)は企業減税のために消費税増税を行い、家計から企業へ繰り返し所得を移転してきた。政府は1998年以降大企業に対する法人税率を大幅に引き下げ、現在は30%になっている。 経団連と経済産業省は、企業は余分な現金を使って賃金や投資を増やし、それによって1人当たりのGDPを押し上げるので、法人税減税によって誰もが恩恵を受けると主張した。事実上、政府は企業と取引をしていたのだ。もし、われわれが法人税を下げれば、企業は賃金を上げてくれるだろうと。しかし、企業がその約束を果たすことはなかった』、「多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ」、「事実上、政府は企業と取引をしていたのだ。もし、われわれが法人税を下げれば、企業は賃金を上げてくれるだろうと。しかし、企業がその約束を果たすことはなかった」、その通りだ。
(注)東京都ではなく、政府の間違い。
・『企業の内部留保だけが膨れ上がっている  11月26日の「新しい資本主義実現会議」では、この取引がいかに失敗したかを示す資料が配布された。2000年から2020年にかけて、国内数千の大企業の年間利益はほぼ倍増(18兆円増)したが、労働者への報酬は0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 その結果、内部留保は20年間で154兆円も膨れ上がった。これは1年間のGDPの3分の1にも相当する。もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう。中小企業でも同じパターンがみられており、ため込んだ現金が増える一方で、労働者の報酬は減少した。 このパターンは、岸田首相が「健全な成長も健全な分配も、他方なくしては存在しえない」と正しく指摘した通りである。労働者が作ったものを買うだけの収入がなければ、経済が成長するわけがない。国内で製品を売ることができず、円安にならないと海外で売ることができないのであれば、企業はなぜ拡大投資をするのだろうか。) 経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の中で、日本は労働時間当たりのGDPの増加と時間当たり賃金の増加の間に最大のギャップがある。そしてもちろん、消費税増税は消費者需要をさらに抑制する。 それにもかかわらず、閣議の議事録によれば、このデータは議論の場にも上げられなかった。同資料は元大蔵省官僚で、現在は東京政策研究財団にいる森信茂樹氏により作成された。われわれが、閣議メンバーがこの情報を見たと認識している根拠はこれのみである』、「大企業の年間利益はほぼ倍増(18兆円増)したが、労働者への報酬は0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 その結果、内部留保は20年間で154兆円も膨れ上がった。これは1年間のGDPの3分の1にも相当」、「もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう」、「(OECD)加盟国全体の中で、日本は労働時間当たりのGDPの増加と時間当たり賃金の増加の間に最大のギャップがある」、「閣議の議事録によれば、このデータは議論の場にも上げられなかった」、「議論の場」に上げるか否かは官僚のサジ加減如何だ。
・『3%の賃上げを「期待」するのみ  岸田首相もほかの議員も、賃上げを行った企業に対する非効率な税額控除を引き上げる以上の具体的な改善策を提案することはなかった。岸田氏は、新型コロナウイルスによるパンデミック以前の水準まで売上を回復させた企業は3%の賃上げを行うことを「期待する」と述べただけである。「期待」は「行動」ではない。 もし法人税減税が日本の成長と財政赤字を悪化させているなら、なぜ減税を撤回しないのだろうか。その結果得られる収入で消費税を下げたらどうだろうか。そうすれば、企業と家計の間でより公正な所得分配が行われるのではないか。閣議では、誰もこの選択肢について言及しなかった。 企業が賃金を上げるような措置をとったらどうだろうか。例えば、日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。 一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している。今回も、日本の労働監督官を同じように活用しようという議論は起こらなかった。) 最低賃金の引き上げは、驚くほど強力な波及効果をもたらす。最低賃金以下の人たちだけでなく、最低賃金を15〜20%上回る人たちの所得も上昇させるからだだ。 パートタイム労働者の平均賃金はわずか1100円であり、彼らは全従業員のほぼ3分の1を占めているため、生活水準や消費需要への影響は劇的なものとなるであろう。残念ながら、岸田氏は十数年前に打ち出された最低賃金目標、時給1000円を繰り返しただけで、この目標をいつ達成するかは明言していない。現在、最低賃金は930円だ』、「日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。 一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している」、「日本」も「フランス」と同様にするべきだ。
・『最低賃金は1145円程度にする必要がある  岸田首相はまた、1000円を超える引き上げの可能性についても言及しなかった。2020年の最低賃金は全国平均賃金のわずか45%であり、OECD21カ国中、日本は18位となる。典型的な富裕国では52%である(貧困レベルを超えるには、全国平均賃金の半分の所得が必要である)。日本は富裕国の水準を目標にすべきだ。そのためには現状を踏まえて、最低賃金を1145円程度にする必要がある。 起業の数を10倍にするという目標については、先鋭のエキスパートによる専門チームが6カ月の期間中、さまざまな想像力を駆使してアイデアを出した。ところが、岸田内閣では、成長と分配の悪循環を解消するための同様の委員会は設置されなかった。 したがって、6月に承認された案は、11月に議論された案とほとんど変わりはない。こうしたやり方は、岸田首相の屈服が長引かないかどうかという心配を増幅させる。 日本と改革派と同様、私は岸田首相による次の5カ年計画(注)では、この骨組みにもっと肉付けしてくれるのではないかと期待している。しかし期待だけで、確信は今のところない』、「期待」しても裏切られるだけで、無駄だ。
(注)5カ年計画:スタートアップ育成5か年計画は、スタートアップ育成分科会で審議、新しい資本主義実現会議で決定(首相官邸HP、2022/11/24)

次に、6月20日付けPRESIDENT Onlineが掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り、日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では、まじめに働いても給料が上がらない」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/58608
・『なぜ日本人の給料は上がらないのか。ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一さんは「岸田文雄首相は賃上げした企業に税制を優遇するというが、まったく的外れな政策だ。このままでは韓国や台湾に1人当たり名目GDPでも抜かれてしまう」という――。 ※本稿は、大前研一『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『安倍元首相が残した「アベノミクス」という負の遺産  安倍晋三元首相が残した最大の「負の遺産」は、アベノミクスの失敗だ。 「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢を放ち、名目成長率3%と2年で2%の物価安定目標を掲げ、異次元の金融緩和を続けたものの、7年8カ月という任期をかけても達成することができなかった。 今や日本銀行(日銀)の総資産はGDP(国内総生産)の約1.3倍と、米欧をはるかに上回っている。 高騰する物価を落ち着かせるために、FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)は量的緩和の縮小に向けて舵を切り始めているなか、日銀は身動きがとれないでいる。 本来なら、日本も量的緩和縮小に向けた「出口戦略」の準備に入らなければならないはずだ。だが、日銀は国債を民間金融機関から買い取り、自ら貯め込むことで、事実上の財政ファイナンス(国の発行した国債などを中央銀行が直接引き受けること)を続けている。もし日本が量的金融緩和の縮小を始めれば、国債が大暴落して大変なことになる可能性が高いからだ』、「国債が大暴落」すれば、国債を保有している民間金融機関での膨大な評価損の発生、国債費の急増など金融機関経営や財政運営には甚大な影響を及ぼす。
・『政権は「3つの構造的問題」を理解していない  その結果、日本の国債残高は1000兆円を突破し、債務残高の対GDP比は256.9%(2021年)と先進国の中で突出している。少子高齢化で労働人口が減っているというのに、いったい誰がどうやってこの膨大な借金を返していくというのだ。 そうかといって、このまま金融緩和を続けても、経済のシュリンクに歯止めはかからない。国の借金は増え続け、行き着く先はデフォルト(債務不履行)だ。 自民党政権が日銀の金融緩和には効果がないことを理解していないことが、最大の問題かもしれない。 私がこれまでずっと言い続けているとおり、日本経済が低迷している3つの構造的問題は、少子高齢化と人口減少、そして日本が「低欲望社会」だからだ。若者は持ち家にも自家用車にも興味を示さず、将来が不安だと言って、20代のうちから貯金に励んでいる。一方で、高齢者は貯金があっても「いざというときのために」というよくわからない理由で使おうとせず、貯めた3000万円を使わないまま死んでいく。21世紀の日本はそういう国なのだ。 だから、みなが欲望をみなぎらせていた20世紀型の経済政策(低金利とジャブジャブのマネタリーベース)を実行しても、効果がないのは当たり前なのである』、その通りだが、次期日銀総裁候補の植田氏は自分がかって賛成したためか、効果があるとの立場だ。
・『インフレ下でMMT理論はまるで通用しない  日米欧の消費者物価指数を見ると、2021年10月の段階で、アメリカ6.2%、ユーロ圏4.1%と明らかにインフレ基調だ。 しかもアメリカで進行しているのは、コストプッシュではなく、構造的なインフレであり、この先日本にも波及する恐れがある。 黒田東彦・日銀総裁やアベクロ推進のアドバイザーだった浜田宏一教授、そして元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏のようなMMT理論の信奉者は「インフレは恐れるに足らず」というスタンスのようだが、私はMMT理論そのものがまやかしだと思っている。 MMTとは、Modern Monetary Theoryの略で、日本語でいう現代貨幣理論のことだ。政府が自国通貨建ての借金(国債)をいくら増やしても財政は破綻せず、インフレもコントロールできるのだから、借金を増やしてでも積極的に財政出動をすべきというのだが、これはどう考えてもおかしい。 MMTの論文を読むと、「インフレさえ起こらなければ」という但し書きがついているのである。 また、日本の国債の大半は日銀と日本の金融機関が保有しており、外国人の保有比率が低いので、今のところ金利は安定しているものの、借金であることに変わりはなく、いずれは誰かが返さなければならないのだ。 もし、アメリカのインフレが日本にも波及すれば、現在の国の過剰債務がどうなるかはわからない。もしかすると、これまで低欲望とデフレで表面化していなかった危機が顕在化するかもしれないのだ。 だから、これから先は長期金利の動きをはじめとした経済指標に注意し、同時に最悪の事態も想定して対策を立てておく必要がある。間違ってもMMT論者の楽観論を信じてはいけない』、「日本の国債」は海外のヘッジファンドが保有する割合も高くなっており、彼らによる空売りも目立つようになったので、安心が禁物だ。
・『「新しい資本主義」とは何かがよくわからない  2021年11月、総選挙で勝利した自民党総裁の岸田文雄氏が、第二次岸田内閣を発足させた。 岸田首相が所信表明演説でとくに強調したのが「新しい資本主義」と「成長と分配」という言葉である。 ただ、所信表明演説を何度読んでも、新しい資本主義とは何かがよくわからない。そもそも「新しい資本主義」という言葉を打ち出すならば、それまでの古い資本主義は何なのかを定義しなければならないはずだが、それもない。それどころか、どうやら岸田首相は資本主義も経済もきちんと理解していないようなのだ。 たとえば、成長だけでなく分配も大事なのだと言うが、日本は分配ができていないのかというと、そんなことはないのである。 主要国の上位1%の富の保有者の割合をみると、一番大きいのはロシアで58.2%、次がブラジルの49.6%で、インド40.5%、アメリカ35.3%と続く。日本は18.2%で、主要国では最も小さい。つまり、日本は富の集中度が低い、分配の行き届いた国なのである。) 向上させて賃上げをしたとしよう。これは難しいことではない。DXツールやロボットなどを活用して、それまで100人で行っていた仕事を10人で行うようにすればいいだけの話だ。 この場合、問題は余った90人をどうするかだ。ドイツなら会社は躊躇なく外に出す。そして、出された人には国が責任を持って再教育を施し、戦力化するのである。 ところが、日本では正規労働者は解雇規制で守られているため、簡単にリストラすることができないのだ。無理やりやればできないことはないが、そうすると今度は「悪徳経営者」「血も涙もないのか」と叩かれるので、手をつけにくいのである。 だからといってリストラしなければ、DXで生産性を向上させても、効果は大して出ないということになってしまうのだ』、「どうやら岸田首相は資本主義も経済もきちんと理解していないようなのだ」、「日本では正規労働者は解雇規制で守られているため、簡単にリストラすることができないのだ。無理やりやればできないことはないが、そうすると今度は「悪徳経営者」「血も涙もないのか」と叩かれるので、手をつけにくいのである」、「だからといってリストラしなければ、DXで生産性を向上させても、効果は大して出ないということになってしまうのだ」、その通りだ。
・『首相は経済の勉強を一からやり直すべきだ  一方で、生産性はそのままで給料を上げると、人件費が上がって企業は収益が圧迫されて利益が減る。いくら法人税を下げてもらっても、利益が出なければ企業にとってメリットはないのだ。 だから、岸田首相は、企業に賃上げを求めるのであれば、「生産性向上で余った人員をどうするのか」という議論を一緒にしなければならないはずなのである。 岸田首相が今実施すべきことは、20年前にドイツのシュレーダー政権が行った構造改革「アジェンダ2010」型の取り組みだ。解雇規制を緩和すると同時に、職業訓練や職業紹介を充実させ、労働市場を活性化させるのである。「賃上げ税制」というわけのわからないことを行っている場合ではないのである。 それなのに、「給料を上げたら法人税を減らしてやるぞ」と上から目線で言ってはばからないのは、岸田首相が経済の原則をわかっていないからだ。 彼に必要なのはリカレント教育である。経済の勉強を一からやり直すべきだ』、「今実施すべきことは、20年前にドイツのシュレーダー政権が行った構造改革「アジェンダ2010」型の取り組みだ。解雇規制を緩和すると同時に、職業訓練や職業紹介を充実させ、労働市場を活性化させるのである」、その通りだ。
・『韓国、台湾に比べて労働生産性が著しく低い  日本の1人当たりGDPは、2020年時点では3万9890ドル(約452万円)と、韓国を25%、台湾を42%上回っていた。しかし、その後の数値を試算すると、2025年までに韓国は年6%増、台湾は年8.4%増であるのに対し、日本は年2%と伸びが鈍化している。 このままいけば、日本の1人当たりGDPは、2027年に韓国、2028年には台湾に抜かれるのは間違いない。 なぜ日本の1人当たりGDPは韓国や台湾ほど伸びないのか。1人当たり名目GDPは、国民全体の1年間の付加価値を総人口で割った数値のことで、労働生産性、平均労働時間、就業率で説明できる。つまり、日本は先の2国に比べ、労働生産性が著しく低いのだ。 たとえば、行政面では、韓国や台湾が行政手続きの電子化を進めているのに対し、日本はいまだに押印やサインを必要とするなどアナログ中心だ。 新型コロナウイルス対策でも、台湾ではデジタル担当大臣のオードリー・タン氏が「マスクマップ」や「ワクチン接種の予約システム」を開発するなどして迅速に対応しているのに、日本はマスクや給付金を配るのにも手間取っている。 では企業はどうかというと、韓国も台湾も新型コロナウイルスのパンデミックが起こる以前から多くの企業がテレワークを取り入れ、仕事の効率化を図っていた。一方、日本はコロナ禍でテレワークが普及したものの、緊急事態宣言が解除されると、また元に戻りつつある』、「このままいけば、日本の1人当たりGDPは、2027年に韓国、2028年には台湾に抜かれるのは間違いない。 なぜ日本の1人当たりGDPは韓国や台湾ほど伸びないのか」、「日本は先の2国に比べ、労働生産性が著しく低いのだ。 たとえば、行政面では、韓国や台湾が行政手続きの電子化を進めているのに対し、日本はいまだに押印やサインを必要とするなどアナログ中心だ」、「企業はどうかというと、韓国も台湾も新型コロナウイルスのパンデミックが起こる以前から多くの企業がテレワークを取り入れ、仕事の効率化を図っていた。一方、日本はコロナ禍でテレワークが普及したものの、緊急事態宣言が解除されると、また元に戻りつつある」、これでは、「日本」の「労働生産性」の低さは当然だ。
・『日本人の給料が上がらない理由①「労働生産性が低い」  日本の1人当たり労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)37カ国中26位(2019年)と、G7のなかで50年以上も最下位を続けている。 日本人の給料が上がらない理由は、大きく2つある。 1つは「労働生産性の低さ」だ。とくに間接業務でDXの導入が遅れているのが、致命的だと言っていい。 しかし、すでに述べたように、仮にDXを導入して必要な人員を10分の1に減らして間接業務の生産性を高めたとしても、現行の制度ではそれによって仕事を失った10分の9の社員をリストラすることができない。ここをなんとかしないとこの先も、DXは遅々として進まないことになる。 日本の労働市場が未成熟というのも、労働生産性が上がらない要因のひとつになっている。社員を解雇する際のハードルが高い解雇規制が諸悪の根源であることはもちろんだが、それに加え、日本にはリストラされた人たちが学び直すためのリカレントやリスキリングといった学び直しの機会や場所が用意されていないのも問題だ』、「リストラされた人たちが学び直すためのリカレントやリスキリングといった学び直しの機会や場所」を確保すべきだ。
・『公共職業訓練がアップデートされていない  職業安定所(ハローワーク)は、雇用保険に入っている人を対象としているため、失業保険を受給していないアルバイトやパートの人は、公共職業訓練を受けることができない。 また、職業訓練校のプログラムを見ると、左官工や溶接工といった19~20世紀の工業化社会を想定した科目がいまだに主流で、デジタル主導の21世紀型の教育がなされていない。これではスキルを身につけても、再就職に苦労するのは目に見えている。 それから、DXを進めようにも、日本企業にはそれを進められるIT人材が足りない。一般企業では年功序列でしか給料が上がらないため、優秀なIT人材はどうしてもIT業界に集中してしまうのだ。 日本人の給料が上がらない理由②「終身雇用の弊害」(日本人の給料が上がらないもうひとつの理由として「転職をせず、最初に入った会社で定年まで勤めあげる」というスタイルが長らく働き方のスタンダードになっていたことが挙げられる。 アメリカでは、高い給料を求めて労働者が移動するのは当たり前のことである。別の業種のほうがいい給料を払ってくれるとわかれば、学び直して必要なスキルを獲得し、これまでとは違う仕事に就くのも珍しくはない。高給を求めて海外に移住するケースもある。 そうすると企業も、優秀な人材が欲しければそれに見合う給料を支払わなければならなくなる。高い給料を払うには生産性を上げなければならないから、DXもどんどん導入するわけだ』、「職業訓練校のプログラムを見ると、左官工や溶接工といった19~20世紀の工業化社会を想定した科目がいまだに主流で、デジタル主導の21世紀型の教育がなされていない」、これは由々しい問題だ。公共職業訓練を産業構造に見合った形でアップデートしてゆくべきだ。
・『転職が少ない日本でユニコーン企業が生まれるはずもない  ところが、日本の労働者は給料が低くても転職をしようとしない。日本にも、32歳の平均年収が2000万円というキーエンスのような会社も存在するのだ。海外であれば入社希望者が殺到するだろう。だが、日本ではそんな話は寡聞にして存じ上げない。それでいて、同じ会社の中なら同期よりボーナスが10万円低いだけで、夜も寝られないほど悔しがるというのだから、日本人というのは実に不思議なメンタリティの持ち主と言うほかない。 大学を出たばかりのIT技術者でも、優秀なら1年目から1000万円以上の年収が支払われるというのが、世界の常識なのである。日本では新卒IT技術者の初任給は一律24万円で、それでも人が採用できるというのは、こちらのほうが異常だと言わざるを得ない。 転職をしないというのは、自らリスクをとって起業もしないということだ。これでは、ユニコーン企業が日本に生まれないのも仕方がない』、比較の対象は、「キーエンス」ではなく、仕事内容が分かる「同じ会社の中なら同期」となるのだろう。日本型の雇用では、評価の軸は長期的であるのに対し、英米型では短期的であるといった違いもあるのだろう。

第三に、本年2月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した同志社大学大学院ビジネス研究科教授・エコノミストの浜 矩子氏による「日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317477
・『グローバル化の進展とともに、「21世紀の資本」は凄まじい規模と速度で国境を越え、暴利をむさぼっています。一部富裕層への「富の偏在」が著しくなる一方で、先進国でも貧困が問題となるなど、格差は拡大し続けています。我々労働者は、このような時代に「働くこと」とどう向き合うべきなのでしょう――。エコノミスト浜矩子さんの著書『人が働くのはお金のためか』(青春出版社)より抜粋して紹介します』、ズバリと本質を突く「浜矩子」氏の見方とは興味深そうだ。
・『ブームを引き起こした『21世紀の資本』  皆さんはフランスの経済学者トマ・ピケティの著作、『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)をご記憶だろうか。 ピケティは、富裕層の不労所得の増大と集中が経済格差の拡大をもたらすメカニズムを解明した。そして、グローバル化の進展とともに、富の偏在が一段と進んでいると指摘した。この分配上の歪(ゆが)みを是正するための方策として、ピケティは国際的な資本課税の導入を提唱した。今日このテーマは、国々の国際課税論議の中で大きな位置を占めている。 『21世紀の資本』は決して読みやすい本ではない。にもかかわらず、世界で、日本で、人々がこの著作に群がった。 その有様(ありさま)は、さながらアダム・スミスの『国富論』刊行時のごとしだった。アダム・スミス大先生が1776年に『国富論』を刊行したことによって、経済学という学問ジャンルが確立した。) 『国富論』もまた超大作だった。世の中、何かがおかしい。どうも納得がいかない。そう人々が感じていたところに、「労働価値説」と「見えざる手」という画期的な論理を引っ下げて、経済社会の斬新な分析フレームが躍り出てきた。だから人々は、待ってましたとばかりに『国富論』に飛びついたのだろう。 『21世紀の資本』についても、同様だったと思う。格差と貧困。富の偏在。巨大資本のあまりにも圧倒的な巨大さ。これらのことに人々が不可思議さを覚え、恐れを感じ、憤懣(ふんまん)を募らせている。この時代状況に、『21世紀の資本』の主張と提言が大いに響いた。そうそう。我々はこういうことを言ってくれる本を待っていたのだと』、それにしても『21世紀の資本』とは大きく出たものだ。
・『“主義なき資本”の時代に突入している  ところで、ピケティ本について筆者が最も評価しているのが、『21世紀の資本』というタイトルである。なぜなら筆者は、今は“主義なき資本”の時代だと考えているからだ。 20世紀最後の10年から始まったグローバル化の中で、ヒトもモノもカネも従来にはなかったスケールで国境を越えるようになった。中でも、凄(すさ)まじい規模と速度で国境を越えるようになったのが「カネ」、すなわち「資本」である。 資本主義経済というもののカラクリをカール・マルクスが『資本論』で見抜いた頃、資本はまだ、今日のような動き方はしてはいなかった。資本主義的生産体制というものは、国民国家、あるいは国民経済の仕組みが基本的に堅固な中で成り立っていた。 新型コロナウイルスによるパンデミックやロシアのウクライナ侵攻によって、グローバル化の流れが逆流し始めたかのように見られる面はある。とはいえ、『資本論』が書かれた時代の枠組みがそのまま戻ってくるとは考え難い。 だからこそ、資本主義の危機が叫ばれたり、従来とは異なる資本主義の有り方を模索したりする論議が、あちこちで盛行するようになっている。 グローバル化がいまだかつてなく活発化する中で、今日の資本は、資本主義の枠組みと袂を分かってしまった。つまり、資本の“主義なき資本化”である』、「グローバル化がいまだかつてなく活発化する中で、今日の資本は、資本主義の枠組みと袂を分かってしまった。つまり、資本の“主義なき資本化”である」、「資本の“主義なき資本化”」とは言い得て妙だ。
・『マルクス『資本論』の枠組みは通用するか  こうなると、何が起こるか。それは資本の「野生化」だ。筆者はそう考えている。 自由奔放に、勝手気ままに国境を越えて動く資本に対して、資本主義の枠組みは制御力を失った。野生化した資本の狂暴性を抑え込めるものがなくなっているのである。 今日の資本は、『資本論』が執筆された時のようには動いていない。ただし、労働に対する搾取(さくしゅ)の基本原理が崩れたわけではない。『資本論』の中でマルクス先生が、当時の工場現場の実態を描出し、そこで行われている「剰余価値創出」のカラクリを解明してくれる時、そこで語られていることは、まるで今日の労働現場に関するルポルタージュのようである。 だが、野生化した今日の資本は、当時の工場現場とは比べるべくもなく多様で広範な職場で、当時とは比べるべくもないあの手この手で、人々から余剰価値を吸い取っている。 こうなってくると、資本と対峙する関係にある労働についても、その21世紀的有り方を追求する研究や分析が展開される必要があるのではないか。つまり、「21世紀の資本」、その生態に焦点を当てた画期的著作が書かれている以上、それと対をなす姉妹編として、「21世紀の労働」が書かれるべきだと考えられるのである』、「「21世紀の資本」、その生態に焦点を当てた画期的著作が書かれている以上、それと対をなす姉妹編として、「21世紀の労働」が書かれるべきだと考えられる」、確かにアナロジーとしては理解できる。
・『アダム・スミスは労働をどうとらえていたか  ここで経済学の生みの親、アダム・スミス先生の労働観を見てみよう。この人の労働観はなかなか厄介だ。なぜなら、そこには大いなる二面性があるからだ。スミス先生における労働観の二面性は、一方で「労働犠牲説」の観点を打ち出しながら、その一方で、「労働こそ、全ての商品の真の価値の尺度だ」と言っているところにある。 『国富論』の中でスミス先生が労働を語るに当たって、“toil and trouble”(労苦と手間)という表現を使っていることは、よく知られている。この言い方からすれば、労働を願わくは避けるべき苦役だと見なしていたように思われる。しかも先生は、労働者が一定量の労働に携わることは、それに見合って、自分の自由と安楽と幸福を犠牲にすることを意味しているとも言っている。これが労働犠牲説の労働犠牲説と言われるゆえんだ。 ところが、一方で先生は、「労働価値説」の創始者だ。この論理の下に、当時の重商主義者たちの金銀財宝至上主義を厳しく糾弾したのである。 先生は、労働は苦役だと主張して労働を毛嫌いしているようでありながら、それに携わる者たちには高い賃金が払われるべきだと主張した。 それが、スミス先生の「高賃金論」である』、「先生は、労働は苦役だと主張して労働を毛嫌いしているようでありながら、それに携わる者たちには高い賃金が払われるべきだと主張」、「労働犠牲」をしている以上、「携わる者たちには高い賃金が払われるべき」というのは当然だ。
・『我々は「労苦」にふさわしい報酬を得ているか?  働く人々がその「労苦と手間」にふさわしい報酬、すなわち高賃金を得ることは、大いに正当性があると思われる。ところが、『国富論』刊行当時においてはそうではなかったのである。 高賃金論にことのほか強く異を唱えたのが、重商主義者たちだった。 彼らは、本質的に怠け者である労働者たちをしっかり働かせるためには、賃金は低くなければダメだと考えていた。また、労働者の所得が増えれば、彼らは贅沢品にカネを無駄使いする。すると贅沢品の輸入が増えて、貿易収支が悪化する。高賃金は生産コストを高めて、輸出品の国際競争力を低下させる。これまた貿易収支悪化原因だ。貿易による金銀財宝の確保を至上命題とした重商主義者たちにとって、高賃金は、あらゆる意味で天敵だったのである。 こんな状況だったからこそ、スミス先生は高賃金論を主張したのである。高賃金にすれば労働者は高賃金を喜び、一段の高賃金化を目指してさらに懸命に働く。すると労働生産性は上がり、国際競争力は低下するどころか、強化されますよ。スミス先生はそう主張した。労働観を前近代から近代へと導くことが、スミス流高賃金論に込められた先生の思いだったと言えるだろう。 少なくとも日本に関する限り、現状は、スミス先生の高賃金論に適っていない。かれこれ30年間にわたって賃金低迷状態が続いている。この状態は、スミス先生が敵対した重商主義者たちをさぞや喜ばせることだろう。日本の賃金低迷は、21世紀の資本による、21世紀の重商主義の表れだと言えるかもしれない』、「少なくとも日本に関する限り、現状は、スミス先生の高賃金論に適っていない。かれこれ30年間にわたって賃金低迷状態が続いている」、「日本の賃金低迷は、21世紀の資本による、21世紀の重商主義の表れだと言えるかもしれない」、何故、「日本」でだけそうした状況に陥ったのかは、依然として謎だ。
タグ:(その5)(日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと、大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り 日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では まじめに働いても給料が上がらない、日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由) 政府の賃上げ要請 東洋経済オンライン リチャード・カッツ氏による「日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと」 私も「岸田政権は「新しい資本主義」」には、当初は「お手並み拝見」と期待したが、裏切られた。 もともと結果が見え見えだった「岸田ショック」はお粗末の極みだった。「企業に対して年3%の賃上げを求める」、「最低賃金を時給1000円にするという長年の目標も繰り返したが、その達成期限は示さなかった」、「新興企業の数を今後5年間で10倍に増やす」ための「「エンジェル投資家」に対する税制優遇措置などは最終的提案には盛り込まれなかった。 「岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている」、「「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかった・・・このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案」、「自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者」、これでは成果は期待できない。 「多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ」、「事実上、政府は企業と取引をしていたのだ。もし、われわれが法人税を下げれば、企業は賃金を上げてくれるだろうと。しかし、企業がその約束を果たすことはなかった」、その通りだ。 (注)東京都ではなく、政府の間違い。 「大企業の年間利益はほぼ倍増(18兆円増)したが、労働者への報酬は0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 その結果、内部留保は20年間で154兆円も膨れ上がった。これは1年間のGDPの3分の1にも相当」、「もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう」、「(OECD)加盟国全体の中で、日本は労働時間当たりのGDPの増加と時間当たり賃金の増加の間に最大のギャップがある」、「閣議の議事録によれば、このデータは議論の場にも上げられなかった」、「 「議論の場」に上げるか否かは官僚のサジ加減如何だ。 「日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。 一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している」、「日本」も「フランス」と同様にするべきだ。 「期待」しても裏切られるだけで、無駄だ。 (注)5カ年計画:スタートアップ育成5か年計画は、スタートアップ育成分科会で審議、新しい資本主義実現会議で決定(首相官邸HP、2022/11/24) PRESIDENT ONLINE 「大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り、日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では、まじめに働いても給料が上がらない」 『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社) 「国債が大暴落」すれば、国債を保有している民間金融機関での膨大な評価損の発生、国債費の急増など金融機関経営や財政運営には甚大な影響を及ぼす。 その通りだが、次期日銀総裁候補の植田氏は効果があるとの立場だ。 その通りだが、次期日銀総裁候補の植田氏は自分がかって賛成したためか、効果があるとの立場だ。 「日本の国債」は海外のヘッジファンドが保有する割合も高くなっており、彼らによる空売りも目立つようになったので、安心が禁物だ。 「どうやら岸田首相は資本主義も経済もきちんと理解していないようなのだ」、「日本では正規労働者は解雇規制で守られているため、簡単にリストラすることができないのだ。無理やりやればできないことはないが、そうすると今度は「悪徳経営者」「血も涙もないのか」と叩かれるので、手をつけにくいのである」、「だからといってリストラしなければ、DXで生産性を向上させても、効果は大して出ないということになってしまうのだ」、その通りだ。 「今実施すべきことは、20年前にドイツのシュレーダー政権が行った構造改革「アジェンダ2010」型の取り組みだ。解雇規制を緩和すると同時に、職業訓練や職業紹介を充実させ、労働市場を活性化させるのである」、その通りだ。 「このままいけば、日本の1人当たりGDPは、2027年に韓国、2028年には台湾に抜かれるのは間違いない。 なぜ日本の1人当たりGDPは韓国や台湾ほど伸びないのか」、「日本は先の2国に比べ、労働生産性が著しく低いのだ。 たとえば、行政面では、韓国や台湾が行政手続きの電子化を進めているのに対し、日本はいまだに押印やサインを必要とするなどアナログ中心だ」、「企業はどうかというと、韓国も台湾も新型コロナウイルスのパンデミックが起こる以前から多くの企業がテレワークを取り入れ、仕事の効率化を図っていた。一方、日本は 「リストラされた人たちが学び直すためのリカレントやリスキリングといった学び直しの機会や場所」を確保すべきだ。 「職業訓練校のプログラムを見ると、左官工や溶接工といった19~20世紀の工業化社会を想定した科目がいまだに主流で、デジタル主導の21世紀型の教育がなされていない」、これは由々しい問題だ。公共職業訓練を産業構造に見合った形でアップデートしてゆくべきだ。 比較の対象は、「キーエンス」ではなく、仕事内容が分かる「同じ会社の中なら同期」となるのだろう。日本型の雇用では、評価の軸は長期的であるのに対し、英米型では短期的であるといった違いもあるのだろう。 ダイヤモンド・オンライン 浜 矩子氏による「日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由」 ズバリと本質を突く「浜矩子」氏の見方とは興味深そうだ。 それにしても『21世紀の資本』とは大きく出たものだ。 「グローバル化がいまだかつてなく活発化する中で、今日の資本は、資本主義の枠組みと袂を分かってしまった。つまり、資本の“主義なき資本化”である」、「資本の“主義なき資本化”」とは言い得て妙だ。 「「21世紀の資本」、その生態に焦点を当てた画期的著作が書かれている以上、それと対をなす姉妹編として、「21世紀の労働」が書かれるべきだと考えられる」、確かにアナロジーとしては理解できる。 「先生は、労働は苦役だと主張して労働を毛嫌いしているようでありながら、それに携わる者たちには高い賃金が払われるべきだと主張」、「労働犠牲」をしている以上、「携わる者たちには高い賃金が払われるべき」というのは当然だ。 「少なくとも日本に関する限り、現状は、スミス先生の高賃金論に適っていない。かれこれ30年間にわたって賃金低迷状態が続いている」、「日本の賃金低迷は、21世紀の資本による、21世紀の重商主義の表れだと言えるかもしれない」、何故、「日本」でだけそうした状況に陥ったのかは、依然として謎だ。
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外国人労働者問題(その19)(外国人傷つける日本の「技能実習制度」決定的欠陥 ベトナム人実習生の暴行事件はなぜ起きたのか、「カネが50万貯まれば逃げる」プライバシー“全部筒抜け”漁村を離れた技能実習生が罪を犯すまで、水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇3題:(1)ベトナム人を食い物に…「コロナ禍での鎖国反対」の大合唱に透ける“本音”、(44)「技能実習制度」の廃止を訴えながら「留学制度」を批判しない大手紙のなぜ) [社会]

外国人労働者問題については、昨年1月19日に取上げた。今日は、(その19)(外国人傷つける日本の「技能実習制度」決定的欠陥 ベトナム人実習生の暴行事件はなぜ起きたのか、「カネが50万貯まれば逃げる」プライバシー“全部筒抜け”漁村を離れた技能実習生が罪を犯すまで、水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇3題:(1)ベトナム人を食い物に…「コロナ禍での鎖国反対」の大合唱に透ける“本音”、(44)「技能実習制度」の廃止を訴えながら「留学制度」を批判しない大手紙のなぜ)である。

先ずは、昨年2月17日付け東洋経済オンラインが掲載した『フランス・ジャポン・エコー』編集長・仏フィガロ東京特派員のレジス・アルノー氏による「外国人傷つける日本の「技能実習制度」決定的欠陥 ベトナム人実習生の暴行事件はなぜ起きたのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/512030
・『ベトナム人の技能実習生で、建設会社で働いていたランさん(仮名)が2年間にわたって精神的・肉体的暴力を受けていたことを証明する生々しい動画を見たとき、岡山県警の担当者は犯罪の捜査を担当する部署に事件を回すのでなく、「外事課」に調査を依頼した。岡山県警のウェブサイトによれば、外事課とは、国際テロ対策や出入国管理および難民認定法違反の取り締まりなどの業務を推進する部署だ。 「まるでランさんに問題があるかのような扱いだった」とランさんの支援者の1人は言う。この衝撃的な動画が主要メディアで広く公開されてから1カ月以上が経過したが、岡山県警は複数人のベトナム人技能実習生に暴行などのハラスメントを行った人物らを検察に送致していない。彼らが動画にはっきりと映っているにもかかわらずだ』、この手続きについて、「岡山県警」はどう申し開きをするのだろう。
・『日本の就労ビザの取得に100万円必要  ランさんは、毎年、技能実習生として日本に働きに来る20万人の外国人労働者と同じ夢を抱いていた。「高い給料がもらえるいい国だと思っていた」とランさんは話す。日本に来れば、妻と5歳の娘に、よりよい未来を与えられると思っていたのだ。 しかし、ジャパニーズドリームはけっして“安く”はない。「日本の就労ビザを取得するには100万円が必要だ」と、ランさんはベトナムの送り出し機関から伝えられた。そこで、貯金と、友人や銀行に借りたお金を合わせて、100万円を渡したという。 そしてランさんはベトナムで6カ月、日本で1カ月、日本語の習得と、その後の仕事に向けた訓練に励んだ。来日から1カ月後の2019年11月、彼は岡山の小規模な建設会社に派遣された。 過酷ないじめはすぐに始まり、病院に行かなければならないほどの激しい蹴りを受けたとランさんは言う。暴行の結果、肋骨を骨折し、歯が折れたこともあると主張する。ランさんはまた、「日本人の従業員が私に一度も仕事を教えてくれることもなかった」と言う。 ランさんは足場組みで時給844円を支払われていた。月収は約11万円で、そのうち1万5000円が家賃や光熱費として差し引かれたが、月に7万円を家族に仕送りしていた。それでも、解雇され、強制送還されるかもしれないという不安から、しばらくひどい待遇に甘んじていた』、「暴行の結果、肋骨を骨折し、歯が折れたこともある」、全く酷い扱いだ。監督すべき「監理会社」は何をしていたのだろう。
・『見過ごした監理会社の大きな責任  だが、ついにいじめは耐えがたいものとなり、昨年10月、ランさんは脱走し、最終的に地元の労働組合「福山ユニオンたんぽぽ」に保護された。 「建設業界にいじめの問題があるとはいえ、あそこまでひどいケースは見たことがなかった」と執行委員長の武藤貢氏は話す。「監理団体は配属先を移すべきだったし、少なくとも彼の体調や睡眠状態などを聞くべきだった。いずれの手も打たなかった監理団体の責任は大きい」 ランさんの場合、事の結末は比較的幸運なものとなった。日本での技能実習生を監督する外国人技能実習機構(OTIT)が彼を別の管理会社に移管することになり、来年10月にビザの有効期限を迎えるまで別の会社に勤務することが決まったのだ。 武藤氏によると、ランさんは問題の建設会社に謝罪を求めており、建設会社と個別にやり取りをしている。建設会社はおおむね事実を認め、謝罪する方向のほか、補償についても謝罪の内容に応じて検討する予定という。謝罪と補償があれば、警察への告訴はしないという。一方、監理団体については事実を確認しているという。 もっともたとえ補償があったとしても、「ベトナムにはまだたくさんの借金が残っている」とランさん。彼は10月に日本を離れる予定で、おそらく二度と戻ってこないだろう。 「外国人技能実習生に対する虐待などの人権侵害は断じて許されないものだ」と古川禎久法相は、ランさんに対する暴力の動画を見た後に述べている。古川法相は入国管理局に事件の調査を命じた。また、外国人技能実習制度などのあり方に関する勉強会も始めるとしている。) しかし、実習制度はそれ自体が人権侵害だ。それは、外国人労働者を日本に「迎え入れる」ことで発展途上国にノウハウを惜しみなく提供するという前提に基づいているが、実際には安い労働力を利己的に入手するための制度になっているということは、この制度に詳しい者に限らず、もはや多くの人が指摘しているところだ。 このような不公平な制度の乱用をなくすために2018年に改革が行われ、OTITによる監理団体の認定取り消しも増加してはいる。だが、「実習制度の理念は1993年に設立されたときから改善されていない」と、特定非営利活動法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)代表理事であり、外国人労働者を支援してきた鳥井一平氏は主張する。「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」事務局長を務める弁護士の高井信也氏も、「政府が実習制度の廃止を本気で検討しているかは疑問がある」と話す。 技能実習制度は、雲が雨を運ぶように人権侵害を広げている。ランさんのような外国人労働者は、母国と日本の間に挟まれ、押しつぶされている。労働者を送る側の国は、労働者に対して送り出し機関が日本では道義的にも法的にも受け入れられない内容の契約を課すことが多い。 これらの契約は日本の法制度外で結ばれるが、その条件は日本語に翻訳されており、現在日本で活動している5000の民間の監理団体に周知されている。鳥井氏は、「人権を尊重する監理団体はほとんどない」と言う』、「監理団体」の所轄は法務省の筈なのに、「人権を尊重する監理団体はほとんどない」とは「法務省」は何をしているのだろう。
・『実習生が働き先を選べない「不条理」  ベトナムの送り出し機関とベトナム人労働者との間で交わされた契約書のうち、筆者が閲覧したものでは、ベトナム人労働者が妊娠したり、エイズに感染したり、不法就労者に話しかけたりした場合、国外退去になるとされていた。 ベトナムの送り出し機関と、ベトナム人労働者間で交わされた契約書(移住連提供) ランさんのような実習生は、「実習」先の会社を選ぶことができず、自分の意思で退職することもできないため、会社と実習生との間で虐待が起きやすい関係ができる。 「日本での現行の実習制度は、奴隷制度や人身売買に近いものがある。会社は労働者を選べるが、労働者側は会社を選べない。このような不平等な関係は、善人を悪人にしてしまう。外国人労働者に対する権力から、経営者は必ず増長してしまう」と、鳥井氏は語る。) 同氏のようなわずかな人々を除いて、虐待を受けた外国人労働者は誰にも頼ることができない。弁護士や支援団体によれば、警察は実習生の窮状を真剣に調査しない。日本の司法制度がまれに対応することはあっても真剣ではないことがほとんどだ。 「あるクライアントの中国人労働者は、日本人従業員にガソリンをかけられ火をつけられた。その従業員は暴行の罪にしか問われず、刑務所には入らなかった。被害者が日本人だったら、もっと厳しい判決が下されていただろう」と外国人労働者問題に詳しい弁護士の高井信也氏は言う』、「実習生は、「実習」先の会社を選ぶことができず、自分の意思で退職することもできないため、会社と実習生との間で虐待が起きやすい関係ができる。 「日本での現行の実習制度は、奴隷制度や人身売買に近いものがある。会社は労働者を選べるが、労働者側は会社を選べない。このような不平等な関係は、善人を悪人にしてしまう。外国人労働者に対する権力から、経営者は必ず増長してしまう」、これは制度上の致命的な欠陥であり、それを放置している政府の責任は重大だ。
・『「外国人労働者は、母国に頼ることもできない。「フィリピンとインドネシアを除いて、大使館は動かない」と鳥井氏は言う。ベトナムでは、海外で契約した職場への出勤を怠ったり、逃亡したりした労働者を処罰する国内法があるほどだ。ランさんの場合もそうだが、被害者は日本や母国での報復を恐れて、メディアに顔を出すことができないのが一般的だ。 日本が人道的観点から実習制度を廃止しないのであれば、せめてシニカルな、または、実利主義的な観点から廃止すべきだろう。先般、国際協力機構(JICA)などが発表した研究によると、日本が経済の成長目標を達成するためには、外国人労働者の数を2040年までに170万人から640万人へと4倍にする必要があるという。 そのためには、外国人労働者の人権問題に目をつぶることはできない。外国人労働者から見た世界各国の魅力を比較した参考サイト「MIPEX」によれば、「日本の取り組みは、同じように移民人口の少ない貧しい中欧諸国よりもわずかに進んでいるが、韓国をはじめとするほかの先進国には大きく遅れをとっている。隣国の韓国に比べて、日本では、労働市場、教育、政治参加、差別撤廃などに関して外国人に対する統合政策が弱い」。 日本の実習制度が、世界中の外国人労働者から日本が嫌われることを目的としているのであれば、それは非常に効果的だと言えるだろう。そうでなければ、日本はランさんの加害者を罰し、そして、この人種差別的で残酷で偽善的な制度を一刻も早く廃止するべきではないだろうか』、「国際協力機構(JICA)などが発表した研究によると、日本が経済の成長目標を達成するためには、外国人労働者の数を2040年までに170万人から640万人へと4倍にする必要」、これはためにする試算に過ぎないようだ。「外国人労働者から見た世界各国の魅力を比較した参考サイト「MIPEX」によれば、「日本の取り組みは、同じように移民人口の少ない貧しい中欧諸国よりもわずかに進んでいるが、韓国をはじめとするほかの先進国には大きく遅れをとっている。隣国の韓国に比べて、日本では、労働市場、教育、政治参加、差別撤廃などに関して外国人に対する統合政策が弱い」、このままでは「実習先としての日本は魅力をますます失っていくだろう。

次に、本年2月6日付け文春オンライン「「カネが50万貯まれば逃げる」プライバシー“全部筒抜け”漁村を離れた技能実習生が罪を犯すまで」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/60344
・日本には制度上、移民はいない。しかし、悪名高い、技能実習生制度のもと、ベトナム人だけでも実習生は20万人近く。その一部は低賃金や劣悪な環境に嫌気がさして逃亡、不法滞在者の「移民」として日本のアンダーグラウンドを形成している。かつて中国人が主役だったアンダーグラウンドを、今、占拠しているのは、無軌道なベトナム人の若者たちなのだ。 ここでは、大宅賞作家・安田峰俊氏が「移民」による事件現場を訪ね歩き、北関東に地下茎のごとく張り巡らされた「移民」たちのネットワークを描いた渾身のルポ『北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの春と犯罪』(文藝春秋)より一部を抜粋してお届けする。(全4回の2回目/1回目から続く) 無免許運転による死亡ひき逃げ事件を起こしたジエウ。2016年4月に岡山県の技能実習先を逃亡後、北関東の各県などを転々とした末、事故当時は茨城県つくばみらい市内に居住していた』、興味深そうだ。
・『ここ5年くらいでベトナム人が増えた  「ジエウなあ。あいつはうちで働いて5~6ヶ月で逃げたね。平成28年(2016年)4月8日の夕方におらんようになって、10日に警察署に失踪届を出した。資料が残ってるんよ」 初夏の陽光が波面によく映える日だった。2021年5月19日、中国地方の漁村で、瀬戸水産の経営者の川上雄司(社名・氏名ともに仮名)はそう話しはじめた。 北関東の茨城県古河市で無免許運転による死亡ひき逃げ事件を起こしたベトナム人女性のチャン・ティ・ホン・ジエウは、その4年8ヶ月前、技能実習生としてこの瀬戸水産で働いていたのだ。 漁村の規模は250世帯ほどだろうか。奥行き700メートルほどの小さな湾を囲んで広がる集落だ。地形は典型的なリアス海岸で、海沿いの家々を囲むように山が迫り、その中腹に由緒ありげな神社が数社ある。 集落の中心部に食堂や雑貨店は存在せず、村外れの自動車道のインター近くにコンビニが1軒あるだけだ。最寄りのローカル線駅までは約17キロ。村外に出る方法は1日の本数が10本にも満たない路線バスか、誰かの自家用車やタクシーに乗るしかない。 集落の主産業は、瀬戸内海の名産であるカキの養殖である。取材時点で45歳だった瀬戸水産の川上も、数年前に先代である父親から事業を引き継いだ。近所には似たような小規模経営の水産会社が何軒も並んでいる。空き地にはカキの成熟幼生を固着させるための、ホタテ貝を連ねた苗床が多数置かれ、白い貝殻が陽光に映えて眩しい。 「技能実習生は昔から働いてるけど、ベトナム人が増えたのはここ5年くらいかなあ。それまでは中国人。いまは、たぶん集落全体でベトナム人30~40人、中国人5~6人ぐらいの割合じゃろね」 社屋の2階にある小さな応接室に私を迎え入れた川上は、話好きで裏表のなさそうなタイプだった。部屋の片隅には、この家の子どもが数年前まで遊んでいたという足漕ぎ式のキッズカーや、室内用のジャングルジムがそのまま置かれている』、かなり辺鄙なところのようだ。
・『給与明細の文字を書き換えた写真をフェイスブックにアップ  隣の部屋はカキのむき身加工、通称「カキ打ち」をおこなう作業室である。取材時はすでにシーズンの末期だったが、それでも年季が入った作業台には身を取り除かれたカキ殻が山をなしている。バケツのなかにはアルバイトに来るという日本人名のほか、カタカナのベトナム人名の木の名札がいくつも入っていた。 室内のベニヤ板の裏には、子どもがマジックペンで描いたらしい、崩れたアンパンマンの顔の落書きがある。 「ベトナム人の実習生は真面目な子もいるけれど、全体的に見栄を張りがちじゃわ。自分の給与明細、本当は月9万円なのに、文字を29万円に書き換えた写真をフェイスブックにアップして『こんだけもらってます』と言ってみせたりね」 川上が続ける。  湾内に係留された漁船で、ノンラー(ベトナム式の編み笠)をかぶった男女が立ち働いているのが見えた。私が話を聞いている間、カメラマンの郡山総一郎は、通訳のチー君を引き連れて屋外で盛んにシャッターを切っているようだ。昭和以前からそれほど景色が変わっていなさそうな日本の漁村で、円錐形の異国の帽子をかぶった技能実習生の姿は被写体として魅力的だろう。 「ベトナム人実習生の仕事ぶりは、会社によっても違うが、ある程度は厳しくやらないといかん。やさしいお婆ちゃんが、自分の孫みたいにして『これを食べな』『服を着な』と大事に扱うようなところでは、付け上がって真面目じゃなくなる。あと、最初の2~3年は真面目でも(技能評価試験に合格して技能実習3号になる)4~5年目からいきなり適当になるやつもおるね」 「じゃあ、事故を起こしたジエウさんはどういう人でしたか?」「あれは……。際立ってひどかったわ。日本に仕事をしに来たとは思えんほど、特に不真面目な印象じゃった。万事がものすごくいい加減で、こいつ何しに日本に来とるんじゃ、と僕らも思ってたよ」』、「事故を起こしたジエウさんはどういう人でしたか?」「あれは……。際立ってひどかったわ。日本に仕事をしに来たとは思えんほど、特に不真面目な印象じゃった」、初めから酷い印象だったようだ。
・『アポなし突撃取材  私たちが瀬戸水産にたどりつくヒントをくれたのは、ジエウの妹のフエンだ。 彼女は被告人の妹にもかかわらず、国選弁護人から面会を断られた。目の前で見ていて気の毒だったので、私たちはひとまず彼女がセカンドオピニオンを聞けるようにと、つくばみらい市内の別の弁護士事務所を調べて、法律相談に付き添ったのである。さいわい、こちらは良心的な事務所で、仮釈放直後のボドイ(編注:技能実習先を逃亡するなどして不法滞在・不法就労状態にあるベトナム人の総称)であるフエンの経済状況をみて、相場の半額の費用で1時間の相談を受け付けてくれた(もっとも、ここでの見解も「ジエウの量刑はほぼ変わらない」というもので、フエンを失望させることになった)。 フエンは昭和の女子学生のような可憐な外見だが、ボドイ歴が長いためか非常に実利的な性格だ。日本人に対しては、相手の利用価値を考えて付き合ったり、交換条件がないと動かなかったりする傾向がある。私は彼女に弁護士を紹介したことで、姉のジエウの情報を教えてもらうことができた。  「おおやまけん せとうちし ◯◯◯◯ちょう せのすいさん」  これが、フエンが送ってきたフェイスブックメッセージである。  「せとうちし」はどう見ても瀬戸内市だろう。なので、「おおやまけん」は岡山県の誤記だと見当がつくが、「◯◯◯◯ちょう」はまったくわからない。ひとまずGoogle Maps で社名を検索すると、岡山県瀬戸内市牛窓の海岸に「瀬乃水産」(仮名)という会社が見つかった。牛窓は小豆島の対岸にある町で、「日本のエーゲ海」のキャッチフレーズとオリーブの生産で有名だが、カキ養殖も盛んである。 この手の取材はアポ無しが基本である。事前に電話で問い合わせて確認を取ると、仮に会社側が問題を抱えていた場合に、前もって対策されてしまう可能性があるからだ』、「この手の取材はアポ無しが基本である。事前に電話で問い合わせて確認を取ると、仮に会社側が問題を抱えていた場合に、前もって対策されてしまう可能性があるからだ」、取材の難しさは想像以上だ。
・『集落に向かい、漁協を訪ねてみる  そこで5月18日、私は郡山とチー君といっしょに岡山県に向かった。長距離運転を苦にしない郡山にドライバーになってもらい、都内から自家用車で9時間。満タンのガソリンタンクが空になったところで岡山市に到着し、3人で1泊7500円のAirbnb に泊まってから、翌日午前に牛窓に向かった。だが、私たちが目指した瀬乃水産は、どうやらジエウの働き先ではなさそうだった。 再びフエンのフェイスブックメッセージとGoogle Maps を交互に確認して「◯◯◯◯ちょう」らしき近隣の地名を探すと、同じ市内の別の海沿いに似た名前の集落があった。さらに調べると、「瀬戸水産」という会社もあるようだ。さては、こちらのほうではないか。 「なんじゃ、あんたは」 集落に向かい、漁協を訪ねてみると、いかにも海の男という感じのがっしりした中年男性が、強い備前言葉でそう答えた。 「去年、北関東で死亡ひき逃げ事件を起こしたベトナム人女性の過去を調べているんです。彼女が以前に、このへんで働いていたらしくて」 「そうか。確かに瀬戸水産という会社はここにあるけども……」 漁協の男性は口数がすくないが、表情を見ると当方を拒絶している感じはない。私が自分の名刺を出し、ジエウについて記事を書いていることを伝えると、彼は「1時間ほど時間をくれんか」と答えた。集落のなかに同名の会社が複数あるので、確認するという。 「ネットの記事読んだよ。面白いことをやりょおるが」 1時間後に漁協を再訪すると、さきほどの男性が笑顔でそんなことを言いながら瀬戸水産まで案内してくれた。どうやら「確認」の1時間には、瀬戸水産の川上の意向を尋ねるほかに、私が『文春オンライン』に書いた過去の記事のチェックも含まれていたらしい。 このようにして顔を合わせた川上が、気軽に口を開いてくれたのはすでに書いた通りだ』、「漁協の男性」のチェックに合格したとは幸運だ。
・『身の上話はウソばかり  「ジエウさんは茨城県内で知り合った恋人に、岡山の会社では中国人の実習生からいじめられ、それを苦にして逃げたと話していたようです」 「そりゃあたぶん違うな。だって、ジエウがうちで働いとった年は、ベトナムの子しかおらんかったから。これは書類もあるから、間違いないよ。1年先輩のベトナム人に性格のきつい子がおったが、ジエウにつらく当たったりはしてなかったし……」 そう言う川上から、当時の技能実習生の受け入れ書類と、ジエウのパスポートやビザのコピーを見せてもらった。確かに2015年当時の瀬戸水産では、ベトナム人しか働いていなかったようだ。  ジエウがボーイフレンドのカンに適当なことを話したと考えるしかないが、こんな小さなことまでウソをついていたのはなぜだろうか。ベトナムは中国と領土問題を抱えており、元海軍の国境警備兵だったカンは中国への警戒感情が強い。もしかしたら彼女はそれを利用したのかもしれない』、「身の上話はウソばかり」、こんな嘘をつく理由は何なのだろう。
・『同期の他の子たちとはタイプが違ったジエウ  「ジエウが来た年は、ベトナム側の送り出し機関に問題があって、他の年より実習生の質がだいぶ悪かった。まだ覚えてるよ。ベトナム人の女社長の会社で、うちの先代(川上の父)がゴリ押しされて受け入れたんじゃ。でも、うちにジエウともうひとり、隣の会社にも2人が来よったけど、みんな女の子で合計4人、全員が逃げた」 ジエウは出国前に送り出し機関に、相場の倍近い150万円近くを払い込んでいたとされる。彼女には技能実習制度の被害者という側面もあるのだ。とはいえ、ジエウはあまりにも無気力で勤務態度が悪かった。 「同期の他の子たちと比べても、1人だけタイプが違ったね。ベトナム側の送り出し機関の研修を受けた期間が長かったいうて、実習生にしては日本語が上手かった。漢字もいくつかわかるようで、日本の地名もよく知っとった。でも、あらゆることにいい加減で、わしらの言うことをなんも聞かんのよ。他人に無関心で、他のベトナム人とも打ち解けてなかった」 話を聞きつつ、机の上に置かれたジエウのパスポートのコピーに目を落とした。  発行は2015年12月15日。写真に写っている約5年半前のジエウは黒髪で、顔もふっくらしており、牛久署の接見室で見せた痩せて黒ずんだ顔と同一人物とは思えない。ただ、名前と生年月日は間違いなく本人だ。当時の瀬戸水産ではベトナム名の読みがわからなかったらしく、余白の部分にボールペンで「テラン・ティ・ホン・ジョー」と書き込みがある』、「ジエウは出国前に送り出し機関に、相場の倍近い150万円近くを払い込んでいたとされる。彼女には技能実習制度の被害者という側面もあるのだ。とはいえ、ジエウはあまりにも無気力で勤務態度が悪かった」、なるほど。
・『村のなかでは「貯金が50万貯まると逃げる」と噂が  「こういうのもある。あいつ『妹が埼玉にいます』言うて、妹の通帳にカネを振り込んだことがあった」 当時のジエウが送った45万円の電信振替請求書のコピーだ。  この取材の前にフエン本人から聞いた話では、ジエウが瀬戸水産の実習生寮にWi-Fi の接続環境がないと伝えたので、フエンがポケットWi-Fi を郵送し、ジエウはそれを使って在日ベトナム人の脱走ブローカーと連絡を取って逃げたという。この45万円の電信振替は、逃亡前に妹に預けた逃亡資金か、それとも妹を経由して脱走ブローカーに払い込んだ手数料だったのかもしれない。) ジエウに限らず、この集落ではほぼ毎年、一定数の技能実習生が逃亡している。近年はコロナ禍の影響と、各業者が、逃亡率が低いとされる男性実習生を多く雇うようになったことで数が減ったが、ジエウが逃げた2016年ごろは集落全体で1年間に約10人が逃げていた。 村のなかでは「貯金が50万貯まると逃げる」と噂が流れていた。かつて多かった中国人たちは、逃げる前でも様子を変えなかったが、ベトナム人は逃亡を決めると明らかにテンションが上がるのでわかりやすいという。 「あいつもなあ。逃げる3日くらい前から、いきなり明るくなって、ニコニコしながら手際よう仕事するようになったんよ。『さすがにこれまでの自分を反省したんか』と家族と話し合うとったら、本人がおらんなった」』、「ジエウが逃げた2016年ごろは集落全体で1年間に約10人が逃げていた」、「村のなかでは「貯金が50万貯まると逃げる」と噂が」、なるほど。
・『「男とデートに行く」と偽の予定を告げ、村から脱出  村から技能実習生が逃げるときは、バス停の近くに個人の荷物をこっそり隠しておくか、あらかじめ決めておいた逃亡先に荷物を発送する。とはいえ集落付近の郵便局やコンビニからは情報が筒抜けであるため、発送については別の会社で働く技能実習生の同胞にかわりにやってもらい、本人は職場に出勤してアリバイを作ることが多い。 集落外に出るバスは日没前にほぼなくなるうえ、顔見知りに姿を見られるリスクもある。なので、フェイスブックの不法滞在者コミュニティなどで知り合ったブローカーに車を出してもらって、夜中にそっと消える実習生が多いという。ジエウの場合は、他の実習生たちに「男とデートに行く」と偽の予定を告げ、夕方から夜にかけてブローカー経由で村から脱出したようだ。 「あいつは逃げる前に、他の会社のベトナム人の技能実習生たちからあれこれ理由をつけてカネを借りとって、5万円ぐらい持ち逃げしたと聞いとる。ただ、当時いちばん仲が良かった実習生の1人は『仲が良くても信用できない相手だから』いうて、500円しか貸さんかったらしい」 友人からもそう見られている人物だったのだ。  「人を殺してもへっちゃらで逃げそうなタイプだった」 お茶を出してくれた川上の妻も言う。  「確かに変わった感じの子でしたよ。うちに来たときは25歳だったんだけど、年齢相応のキャピキャピした女の子らしいところが、全然なかったんですよね。スレた感じっていうのかな。そういう子だったと思います」 技能実習生としては日本語能力が比較的高く、いちおう日本語で文章も書ける。ただ、性格は愛嬌がなく気怠(けだる)げで無責任、なんとなくスレた雰囲気を感じさせる──。外見こそ違うものの、川上夫妻が覚えている約5年前のジエウの人となりは、私が牛久警察署で会ったときの印象とほとんど違わない。彼女はもともとそういう人物で、場当たり的な行動を重ねた末に事故を起こして、人を死なせてしまったのだ。 来日の当初は真面目で純粋だった若い女性が、技能実習制度の矛盾や日本社会の労働問題に耐えかねて逃亡した末に道を踏み外した──。という記事にしやすいストーリーを、取材する立場として期待していなかったと言えば嘘になる。しかし、現実はもっと残酷で救いようがないものだったのだ。 川上が言葉を継ぐ。  「あいつは最近、茨城県で人をはねたというじゃろ。たしかに、人を殺してもへっちゃらで逃げそうなタイプじゃった思うよ」』、「技能実習生としては日本語能力が比較的高く、いちおう日本語で文章も書ける。ただ、性格は愛嬌がなく気怠(けだる)げで無責任、なんとなくスレた雰囲気を感じさせる」、「人を殺してもへっちゃらで逃げそうなタイプじゃった思うよ」、もともと「技能実習生」には向いていなかったようだ。それにしても、ドロップ・アウトする「技能実習生」を救い上げるような指導の体制も必要なのかも知れない。

第三に、ジャーナリストの出井康博氏による「水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇3題」のうち、4月5日付け日刊ゲンダイが掲載した「(1)ベトナム人を食い物に…「コロナ禍での鎖国反対」の大合唱に透ける“本音”」を紹介しよう。
・『新型コロナウイルスの水際対策が先月1日から緩和されて、外国人の技能実習生や留学生の来日が本格化している。そこで息を吹き返すのが、外国人の受け入れで利得を得る連中だ。国籍別の技能実習生で最多のベトナム人を食い物にする利権の構造に迫る──。 「隔離先のホテルは、ベトナム人の実習生や留学生であふれ返っていました。チェックイン前、コロナ関係の書類を書かされていた時も、周りから聞こえてくるのはベトナム語ばかり。まるで、ハノイかホーチミンにいるみたいでした」 そう話すのは、3月下旬に帰省先のベトナムから日本へ戻ってきたグエンさん(女性・30代)だ。 ベトナム人の夫と一緒に東京で会社を経営しているグエンさんは、ベトナムの旧正月「テト」を挟んで約2カ月を故郷で過ごしていた。そして日本に再入国後、新型コロナ「水際対策」で、東京都内のホテルに3日間隔離されることになった。 「ハノイの空港でも日本へ行くベトナム人が長い列をつくっていた。ああ、また出稼ぎラッシュが再開するんだな、って実感しました」) 政府は3月初めから水際対策を緩和し日本人を含めた1日当たりの入国者の上限を3500人から5000人へと引き上げた。在留資格を取得している外国人の新規入国も認められるようになった。3月14日以降は7000人となり、4月10日からは1万人へとさらに増やされる。 在留資格を得ながら入国できず待機中の外国人は、今年初め時点で41万人に上っていた。資格別で最も多いのが留学生の15万人、続いて実習生の13万人で、合わせると全体の7割を占める。今後、彼らが続々と入国してくるのだ。 国籍別の数は明らかになっていないが、参考になるデータがある。新型コロナの感染が収束しかけた2020年11月から翌21年1月にかけ、今回と同様の入国制限緩和措置が取られた際のものだ。 同措置では13万人の外国人が入国したが、やはり留学生と実習生で7割に上った。そして国別で断トツだったのが、ベトナム人の5万人である。このデータを当てはめると、入国待機中の外国人41万のうち、15万~16万人はベトナム人と推定される。) 外国人の新規入国が止まっていた頃、産業界や学校業界、また新聞・テレビでも、「鎖国をやめろ!」との大合唱が起きていた。 「諸外国は外国人を入れ始めている。日本だけが鎖国を続けていれば、グローバル化から取り残されてしまう」 そんな主張がメディアにはあふれていた。 筆者も「鎖国」を続けるべきだとは思わない。ただし、“本音”を隠しての「鎖国反対論」には強い違和感を覚える』、「在留資格を得ながら入国できず待機中の外国人は、今年初め時点で41万人に上っていた。資格別で最も多いのが留学生の15万人、続いて実習生の13万人で、合わせると全体の7割を占める。今後、彼らが続々と入国してくるのだ」、ずいぶん貯まってしまったものだ。
・『出稼ぎ労働者の受け入れ再開を望む産業界  実習生は日本人の嫌がる仕事を低賃金で担う出稼ぎ労働者だ。留学生にも出稼ぎ目的の外国人が多数含まれる。つまり今回の水際対策緩和も前回と同様、目的は出稼ぎ労働者の受け入れなのだ。 その最大のターゲットが「ベトナム人」だ。彼らの受け入れ再開には、さまざまな業界の利権が絡み合う。国民に“本音”を明かしてはマズい事情が存在するのである。(つづく)』、「“本音”を隠しての「鎖国反対論」には強い違和感を覚える」、同感である。

第四に、この続きを、6月10日付け日刊ゲンダイ「(44)「技能実習制度」の廃止を訴えながら「留学制度」を批判しない大手紙のなぜ」を紹介しよう。
・『3月に水際対策が緩和されて以降、入国待機中だった留学生や実習生の来日ラッシュが起きた。ただし、実習生については受け入れ制度に批判が強い。メディアの急先鋒が「朝日新聞」である。同紙は5月30日にも<技能実習制度 政治の責任で見直せ>と題した社説を掲載したばかりだ。 同社説は、<多くの外国人が劣悪な条件で働かされているとの指摘は絶えず、(中略)なかでも厳しい状況下にあるのが、勤務先を変更する自由がない技能実習生だ>と述べる。そして岡山市の建設会社で働いていたベトナム人実習生が、日本人の同僚に暴行を受けた問題が紹介されている。 岡山のケースは、実習生が助けを求めた労働組合を通じて今年1月に発覚し、全国紙やテレビでもニュースとなった。その後、会社は実習生に示談金を払って和解したが、実習生を仲介した「監理団体」は5月31日、法務省などから今後5年間の業務停止処分が科されることになった』、「実習生について」の「朝日新聞」の指摘はもっともだ。
・『偽装留学生たちの暮らしはさらに悲惨  実習制度に問題があることは私も否定しない。だが、実習生よりも<厳しい状況下>にある外国人が他にいる。当欄でも取り上げている「留学生」だ。とりわけ、ベトナムなどから出稼ぎ目的で来日する偽装留学生たちの暮らしは悲惨である。 偽装留学生は実習生を上回る150万円前後もの借金を背負い入国する。その返済と日本語学校の学費を貯めるため、実習生もやらない夜勤の肉体労働に明け暮れる。留学生に認められる「週28時間以内」では学費を工面できないから、アルバイトを掛け持ちして違法就労するしかない。 一方、日本語学校では、留学生に対する人権侵害行為が頻発している。しかし被害に遭っても、実習生のように外部へ助けを求めようとしない。違法就労が発覚し、母国へ強制送還されることを恐れるからだ。結果、学校のやりたい放題がまかり通る。そんな実態も全く世に知られず、学校が罰を受けることもない。 朝日は実習生には<勤務先を変更する自由がない>と哀れんでいるが、日本語学校の留学生に転校の自由がないことはどう考えるのか。同社説にはこんな一節もある。 <技能を身につけて母国に帰ってもらうことを目的に掲げながら、現実は安い労働力を確保する手段になっている技能実習制度は速やかに廃止すべきだ> 前段を<日本語や日本の文化を身につけることを目的に>と変え、<技能実習制度>を<留学制度>とすれば、まさに留学生問題に当てはまる。にもかかわらず、朝日をはじめとする大手メディアは、実習制度の廃止は唱えても「留学生」には知らん顔だ。 それどころか、水際対策緩和に至る過程では、産業界や学校業界とタッグを組み、政府に早期受け入れの再開を訴え続けた。それは、なぜか。理由は簡単だ。大手メディア自体が留学生利権に巣くっている。つまり、「不都合な真実」が存在するわけだ。  =つづく』、「朝日をはじめとする大手メディアは、実習制度の廃止は唱えても「留学生」には知らん顔だ。 それどころか、水際対策緩和に至る過程では、産業界や学校業界とタッグを組み、政府に早期受け入れの再開を訴え続けた。それは、なぜか。理由は簡単だ。大手メディア自体が留学生利権に巣くっている。つまり、「不都合な真実」が存在するわけだ」、同感である。
タグ:「暴行の結果、肋骨を骨折し、歯が折れたこともある」、全く酷い扱いだ。監督すべき「監理会社」は何をしていたのだろう。 この手続きについて、「岡山県警」はどう申し開きをするのだろう。 レジス・アルノー氏による「外国人傷つける日本の「技能実習制度」決定的欠陥 ベトナム人実習生の暴行事件はなぜ起きたのか」 東洋経済オンライン 外国人労働者問題 (その19)(外国人傷つける日本の「技能実習制度」決定的欠陥 ベトナム人実習生の暴行事件はなぜ起きたのか、「カネが50万貯まれば逃げる」プライバシー“全部筒抜け”漁村を離れた技能実習生が罪を犯すまで、水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇3題:(1)ベトナム人を食い物に…「コロナ禍での鎖国反対」の大合唱に透ける“本音”、(44)「技能実習制度」の廃止を訴えながら「留学制度」を批判しない大手紙のなぜ) 「監理団体」の所轄は法務省の筈なのに、「人権を尊重する監理団体はほとんどない」とは「法務省」は何をしているのだろう。 「実習生は、「実習」先の会社を選ぶことができず、自分の意思で退職することもできないため、会社と実習生との間で虐待が起きやすい関係ができる。 「日本での現行の実習制度は、奴隷制度や人身売買に近いものがある。会社は労働者を選べるが、労働者側は会社を選べない。このような不平等な関係は、善人を悪人にしてしまう。外国人労働者に対する権力から、経営者は必ず増長してしまう」、これは制度上の致命的な欠陥だ。 これは制度上の致命的な欠陥であり、それを放置している政府の責任は重大だ。 「国際協力機構(JICA)などが発表した研究によると、日本が経済の成長目標を達成するためには、外国人労働者の数を2040年までに170万人から640万人へと4倍にする必要」、これはためにする試算に過ぎないようだ。「外国人労働者から見た世界各国の魅力を比較した参考サイト「MIPEX」によれば、「日本の取り組みは、同じように移民人口の少ない貧しい中欧諸国よりもわずかに進んでいるが、韓国をはじめとするほかの先進国には大きく遅れをとっている。隣国の韓国に比べて、日本では、労働市場、教育、政治参加、差別撤廃などに関 文春オンライン「「カネが50万貯まれば逃げる」プライバシー“全部筒抜け”漁村を離れた技能実習生が罪を犯すまで」 かなり辺鄙なところのようだ。 「事故を起こしたジエウさんはどういう人でしたか?」「あれは……。際立ってひどかったわ。日本に仕事をしに来たとは思えんほど、特に不真面目な印象じゃった」、初めから酷い印象だったようだ。 「この手の取材はアポ無しが基本である。事前に電話で問い合わせて確認を取ると、仮に会社側が問題を抱えていた場合に、前もって対策されてしまう可能性があるからだ」、取材の難しさは想像以上だ。 「漁協の男性」のチェックに合格したとは幸運だ。 「身の上話はウソばかり」、こんな嘘をつく理由は何なのだろう。 「ジエウは出国前に送り出し機関に、相場の倍近い150万円近くを払い込んでいたとされる。彼女には技能実習制度の被害者という側面もあるのだ。とはいえ、ジエウはあまりにも無気力で勤務態度が悪かった」、なるほど。 「ジエウが逃げた2016年ごろは集落全体で1年間に約10人が逃げていた」、「村のなかでは「貯金が50万貯まると逃げる」と噂が」、なるほど。 「技能実習生としては日本語能力が比較的高く、いちおう日本語で文章も書ける。ただ、性格は愛嬌がなく気怠(けだる)げで無責任、なんとなくスレた雰囲気を感じさせる」、「人を殺してもへっちゃらで逃げそうなタイプじゃった思うよ」、もともと「技能実習生」には向いていなかったようだ。それにしても、ドロップ・アウトする「技能実習生」を救い上げるような指導の体制も必要なのかも知れない。 出井康博氏による「水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇3題」 4月5日付け日刊ゲンダイが掲載した「(1)ベトナム人を食い物に…「コロナ禍での鎖国反対」の大合唱に透ける“本音”」 「在留資格を得ながら入国できず待機中の外国人は、今年初め時点で41万人に上っていた。資格別で最も多いのが留学生の15万人、続いて実習生の13万人で、合わせると全体の7割を占める。今後、彼らが続々と入国してくるのだ」、ずいぶん貯まってしまったものだ。 「“本音”を隠しての「鎖国反対論」には強い違和感を覚える」、同感である。 日刊ゲンダイ「(44)「技能実習制度」の廃止を訴えながら「留学制度」を批判しない大手紙のなぜ」 「実習生について」の「朝日新聞」の指摘はもっともだ。 「朝日をはじめとする大手メディアは、実習制度の廃止は唱えても「留学生」には知らん顔だ。 それどころか、水際対策緩和に至る過程では、産業界や学校業界とタッグを組み、政府に早期受け入れの再開を訴え続けた。それは、なぜか。理由は簡単だ。大手メディア自体が留学生利権に巣くっている。つまり、「不都合な真実」が存在するわけだ」、同感である。
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台湾(その4)(台湾が韓国をGDPで間もなく逆転!なぜ「永遠のライバル」に勝てるのか、台湾めぐる「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」 実際にリスクを高めるのは?、バイデン大統領の「台湾防衛」発言に透ける真意 日本として対応を平時から議論しておくべき) [世界情勢]

台湾については、2021年11月27日に取上げた。久しぶりの今日は、(その4)(台湾が韓国をGDPで間もなく逆転!なぜ「永遠のライバル」に勝てるのか、台湾めぐる「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」 実際にリスクを高めるのは?、バイデン大統領の「台湾防衛」発言に透ける真意 日本として対応を平時から議論しておくべき)である。

先ずは、昨年3月24日付けダイヤモンド・オンラインが財訊を転載した「台湾が韓国をGDPで間もなく逆転!なぜ「永遠のライバル」に勝てるのか」を紹介しよう。
・『台湾と韓国の間には共通点が多い。かつて「アジア四小龍」にそれぞれ数えられ、いずれも電子産業を柱とする。似ているが故にお互いライバルと意識してきた両国だ。経済という点では長く韓国が優勢だったが、ここにきて台湾が逆転しそうだという。『半導体・電池・EV 台湾が最強の理由』(全6回)の#4では、台湾人が快哉を叫ぶ「逆転レース」について伝える』、「台湾のGDP」が「韓国」を間もなく逆転しそうとは初めて知った。
・『1人当たりGDPで韓国を上回る日が近い  台湾の1人当たりGDP(国内総生産、名目)は2003年に韓国に逆転されて以来、追い付くことができない状態が長く続いてきた。その状況がここにきて、大きく変化している。国際通貨基金(IMF)の推計によると、台湾の1人当たりGDPは3年後の25年に4万2801ドルに達し、韓国の4万2719ドルを小幅で上回る見通しだ。 このIMFの推計は非常に保守的な数値である。台湾の経済部(日本の経済産業省に相当)所管のシンクタンク、中華経済研究院は、台湾が21年にすでに僅差で韓国を上回っているという試算を出している。その差は数百ドルにすぎないが、台湾人にとっては奮い立たせられる数字だ。 (台湾韓国一人当たりGDP推移のグラフはリンク先参照) 21年は株式市場においても、台湾の上場企業の時価総額が年初から23.7%伸びたのに対し、韓国は3.6%の小幅成長にとどまっている。台湾と韓国の競争におけるスター選手というべき企業の時価総額を比べると、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)が5305億ドルであるのに対し、韓国のサムスン電子は3879億ドル(3月22日の終値ベース)となっている。 長期にわたり台韓間には、国際政治における恩讐があったと同時に、産業競争においても度々角突き合わせてきた経緯があった』、「台湾韓国一人当たりGDP推移のグラフ」を見ると、2003年に「韓国」の方が大きかったが、差は急速に縮小している。
・『韓国は対中輸出が大幅減速 台湾は米中対立が追い風に  (経済の活力を奪い合う台湾vs韓国の図はリンク先参照) 両国がアジア四小龍と呼ばれた時代、台湾は経済と貿易の自由化を進め、国営事業を民営化し、電子産業を発展させることに全力を挙げた。中小企業が急速に成長した時期でもある。韓国はこの時期、鉄鋼や自動車といった重工業を重視し、財閥を支援した。しかし1997年のアジア通貨危機により、過剰債務を抱えていた財閥は大きな痛手を被り、韓国経済は失速した。 ところが2000年代になると、台湾では90年ごろから起きていた中小企業の中国への流出で産業の空洞化が進んだ一方、韓国では金融経済システムの国際化が進み、財閥企業による規模のメリットを生かした経営が成功した。 そして現在の状況は、台韓経済の3回戦目に突入したといえるわけだ。ここで台湾が逆転しようとしている背景にあるのは、韓国経済が壁に突き当たっていることだ。 中華経済研究院の王健副院長は、「韓国経済を支える財閥企業はスケールメリットという点で秀でているが、景気悪化の局面では対応に遅れる面がある」と指摘している。 また経営規模の大きさという点では、韓国の財閥よりも中国企業の方が大きい。そのため、中国企業によって韓国の財閥から市場が奪われ、技術力の面でも逆転されるという現象が起きている。韓国経済は対中輸出に依存して成長を遂げてきたが、もはや対中輸出の大きな伸びは望めなくなっている。 韓国経済が壁に突き当たっているのとは対照的に、台湾は米中対立を受けた世界的なサプライチェーンの見直しを経済成長の追い風としている。蔡英文総統が17年に産業革新を推進する政策を導入したことも相まって、台湾企業が中国から回帰しているだけでなく、米グーグルや米マイクロソフトといったグローバル企業も台湾に投資するようになっている。 新型コロナウイルスの感染拡大があっても、台湾では都市封鎖が行われず、企業活動が継続でき、輸出の伸びは韓国よりも高かった。この間、台湾ドルの上昇が進んでおり、本来なら輸出には不利な為替環境だ。しかし台湾ドル高のマイナス要素に企業の競争力が勝っており、通貨高は1人当たりGDPを膨らませる結果となっている。 台湾経済は目下繁栄の局面にあるが、王副院長は「台湾が有利なうちに、産業の転換を図り、医療や宇宙産業のような次世代の重要産業を育成しなければならない。またさまざまな金融的手段で企業が資金調達し、十分な研究開発資金を獲得することを妨げてはいけない」と指摘する。 韓国では大手100社の研究開発費がコロナ禍のさなかの20年に前年比3.3%伸びている。その投資分野は半導体やITだけでなく、次世代自動車や水素エネルギー、航空宇宙産業など幅広い。財閥企業はこの転換期に巨額の投資を断行しており、台湾に多い中小企業を圧倒する資本力を見せつけている。 韓国の次期大統領である尹錫悦(ユン・ソンヨル)氏は親米派のため、これまで米国の支援を得てきた台湾のアジアにおける立ち位置が変わる可能性もある。 台湾と韓国の競争はこれからもまだ続く。これまでの歴史を振り返り、世界経済の変化を理解することで、台湾経済の進むべき道はおのずと見えてくる』、「台湾」と「韓国」とも各々の主要マーケットの状況の違いなどに応じて、伸びたり、伸び悩んだりすることだろう。いずれにしても、「台湾」が「韓国」より有利な状況がしばらく続きそうだ。

次に、5月24日付けNewsweek日本版が掲載した在英ジャーナリストの木村正人氏による「台湾めぐる「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」、実際にリスクを高めるのは?」を紹介しよう。
・『<バイデン米大統領は日本で、「台湾を守るため軍事的に関与する気はあるのか」という質問に「そうだ」と明確に回答。この発言の意図とは?> [ロンドン発]来日中のジョー・バイデン米大統領と岸田文雄首相は23日、東京・元赤坂の迎賓館で会談した。中国の軍事力が急拡大する中、共同記者会見で「あなたはウクライナ紛争に軍事的に関与したくなかった。もし同じ状況になったら、台湾を守るために軍事的に関与する気はあるのか」と記者に問われたバイデン氏は「そうだ」と明確に答えた。 「それがわれわれの約束だ。われわれは『一つの中国』政策に合意している。しかし軍事力で(台湾を)奪うことを許すわけにはいかない。それを容認すれば(東アジア)地域を混乱させることになる。ウクライナと同じような事態を誘発しかねない。アメリカの責任はさらに重くなった」とバイデン氏は説明した。 米ホワイトハウスは即座に「われわれの政策は変わっていない」とバイデン発言のトーンを弱めた。例によってバイデン氏のアドリブ発言か否か、意図は何か、真相は藪の中だ。 ロシアとの核戦争にエスカレートするのを避けるため「米軍をウクライナに派兵するつもりは全くない」と早々と宣言したバイデン氏はロシア軍のウクライナ侵攻にお墨付きを与える格好となった。台湾問題でも直接の軍事介入を頭から否定すれば、同じ間違いを繰り返す。バイデン氏は少なくとも口先では「戦略的曖昧さ」から「戦略的明確さ」に舵を切った。 一方、岸田氏は「中国人民解放軍海軍の活動や、中露の合同軍事演習を注視している。東シナ海や南シナ海での武力行使による現状変更には断固として反対する」と表明した。しかし日米両国の台湾問題に対する基本的な立場は変わらず、「台湾海峡の平和と安定は国際社会の安全保障と繁栄に欠かせない要素だ」とこれまでの方針を繰り返すにとどめた』、「ロシアとの核戦争にエスカレートするのを避けるため「米軍をウクライナに派兵するつもりは全くない」と早々と宣言したバイデン氏はロシア軍のウクライナ侵攻にお墨付きを与える格好となった。台湾問題でも直接の軍事介入を頭から否定すれば、同じ間違いを繰り返す。バイデン氏は少なくとも口先では「戦略的曖昧さ」から「戦略的明確さ」に舵を切った」、「ウクライナ」での過ちを繰り返さなかったのはまずまずだ。
・『昨年10月にもバイデン氏は「台湾防衛」発言  バイデン氏は昨年10月、米ボルチモアでのタウンホールイベントでも、中国から攻撃された場合、アメリカは台湾を防衛するのかと問われ、「イエス。われわれはその約束をしている」と発言した。中国は台湾を祖国にとって欠かすことのできない一部とみなしており、そこにアメリカが安全保障を拡大することは不必要な挑発と訝る声もあった。 英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマイケル・クラーク前所長は当時、「台湾の将来を決めるのは台湾の人々だけだという理由でアメリカが台湾の防衛に尽力していると明確に表明することは道徳的に正しいことだが、中国に対するアメリカの抑止力の信頼性を高めることにはならない」という道徳的な正義とリアルポリティクスのジレンマに言及している。) 1979年に米中関係が正常化された際、台湾に対するアメリカの立場は台湾関係法で定められた。台湾に防衛的武器を提供するとともに、台湾の人々の安全、社会・経済システムを危うくするような力に対抗するアメリカの能力を維持することが約束された。しかし「中国が侵攻してきた場合、台湾を防衛する約束をしていないのは明らかだ」(クラーク氏)。 歴代の米大統領がこの「戦略的曖昧さ」を伝統的に維持してきたのは、台湾問題を巡りアメリカが中国との戦争に巻き込まれるリスクを回避したいからだ。2001年にジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)は台湾への50億ドル武器売却を承認し、台湾防衛のため「必要なことは何でもする」と発言したが、その後、中国との関係を強化するため、この立場を和らげている』、「台湾に対するアメリカの立場は台湾関係法で定められた。台湾に防衛的武器を提供するとともに、台湾の人々の安全、社会・経済システムを危うくするような力に対抗するアメリカの能力を維持することが約束された。しかし「中国が侵攻してきた場合、台湾を防衛する約束をしていないのは明らかだ」、「歴代の米大統領がこの「戦略的曖昧さ」を伝統的に維持してきたのは、台湾問題を巡りアメリカが中国との戦争に巻き込まれるリスクを回避したいからだ」、なるほど。
・『「戦略的曖昧さ」は中国の拡張主義を助長するだけ?  経済的な米中逆転が目前に迫る中、「戦略的曖昧さ」は中国の拡張主義を促すだけだという反省が米国内でも強まってきた。ドナルド・トランプ米大統領時代、台湾との防衛・安全保障協力を強化する国防権限法が可決されるなど、アメリカは台湾への支援を強化している。しかしアメリカの安全保障パートナー国の立場は微妙だ。 台湾問題を巡って米中が敵対し、アメリカか中国かの二者択一を迫られるのを避けるため「戦略的曖昧さ」を望む東アジアの国々も少なくない。昨年3月、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)は少なくとも27年までに台湾への脅威が顕在化すると証言している。 中国は今のところ24年の台湾総統選を注視している。アメリカが台湾防衛という「戦略的明確さ」をとれば、台湾独立派が勢いづき、中台関係の緊張が一段と増すかもしれない。 ウクライナの場合、「戦略的曖昧さ」というより、核戦争を回避するため直接軍事介入はしないという「戦略的明確さ」が侵攻を思いとどまらせるという抑止力を帳消しにしたとの見方もある。しかしロシア軍のウクライナ侵攻は、ポスト冷戦の国防・安全保障環境を一変させた。これまでの常識が通用しなくなったのだ。 道徳的な正義に重きを置くバイデン氏はウラジーミル・プーチン露大統領を「人殺しの独裁者」「悪党」「戦争犯罪人」「虐殺者」と呼んできた。バイデン氏は3月のワルシャワ演説で「責められるべきはプーチン氏だ」「この男は権力の座にとどまらせてはいけない」と体制転換を目指すとみなすことができる発言をした。 体制転換にゴールを引き上げると戦争の終わりが見えなくなる。このためホワイトハウスは火消しに追われた。しかし今、重要なのは「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」のどちらが中国の台湾侵攻というリスクを軽減できるのかを慎重に分析することだ』、「今、重要なのは「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」のどちらが中国の台湾侵攻というリスクを軽減できるのかを慎重に分析することだ」、その通りだ。
・『台湾有事は日本有事  5月5日、英首相官邸で行われた日英首脳会談で、岸田氏とボリス・ジョンソン英首相は昨年10月に交渉を始めた日英円滑化協定が大枠合意に至ったことを歓迎し、この協定が自衛隊と英軍の共同運用・演習の円滑化を通じ日英安全保障・防衛協力をさらに深化させ、日英両国が世界の平和と安定に一層寄与することを確認している。 英政府は「共同作業・演習・運用を可能にする」協定と位置付け、「イギリスは欧州で初めて日本とこのような協定を結ぶ国となる。インド太平洋地域へのコミットメントを強化し、世界の平和と安全の守りをさらに強化する。訓練、共同演習、災害救援活動を実施するためにともに派遣される」と表明した。 これについて、英首相報道官は「日英両国が原則合意した円滑化協定はこれまでわれわれが一緒にやっていて、これからも継続していきたいすべての活動を反映している。日本の自衛隊と英軍の共同訓練や共同運用を可能にすることや、来るべき数年の間に著しく重要になるインド太平洋地域で拡大していくイギリスの活動も含まれている」と説明した。 「現在、原則合意の段階だ。円滑化協定が最終的に決定された時点で、もっと多くのことが語られるだろう」。台湾有事の際にどう機能するのかという質問には「どんな仮想的な状況が含まれるかについてはコメントしたくないが、自衛隊と英軍の部隊が一緒に作戦行動することは含まれている」とだけ語った。 台湾有事になると、アメリカの反撃を止めるため、沖縄本島から西は中国の軍事影響下に入る。すなわち台湾有事は日本有事なのだ。「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」のいずれをとるにせよ、台湾有事のリスクがゼロになるわけではない。バイデン発言の真意がどこにあるのかはともかく、日本はすでに台湾有事を日本有事として備えているのだろうか』、「台湾有事になると、アメリカの反撃を止めるため、沖縄本島から西は中国の軍事影響下に入る。すなわち台湾有事は日本有事なのだ。「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」のいずれをとるにせよ、台湾有事のリスクがゼロになるわけではない。バイデン発言の真意がどこにあるのかはともかく、日本はすでに台湾有事を日本有事として備えているのだろうか」、現在、その「備え」を準備しつつある段階だ。

第三に、5月25日付け東洋経済オンライン「バイデン大統領の「台湾防衛」発言に透ける真意 日本として対応を平時から議論しておくべき」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/591896
・『台湾をめぐる政策について、アメリカはそのスタンスを変えたのか。今後、日本が適切に対応するためには、アメリカの真意を知っておくことが不可欠だ。 「あいまい戦略」を踏み越えたのか――。 来日したアメリカのバイデン大統領の発言が波紋を広げている。5月23日、日米首脳会談後の記者会見でウクライナに軍事的に関わらなかったと指摘されたうえで、台湾有事が起きた場合にアメリカが軍事的に関与するかと問われ、「する。それがわれわれの約束だ」と発言。あわせて「われわれの台湾政策はまったく変わっていない」とも述べた。 直後にホワイトハウスは「台湾政策に変更はない。バイデン氏は一つの中国政策と台湾海峡の安定と平和への関与を再確認した」と説明した。これを受けて、一部にはバイデン氏が失言したと捉える向きもあるなど、日米双方の当局者の間で混乱が生じている。 しかし今後、日本が適切な対応を行うためには、アメリカの真意を知っておくことは不可欠だ。本当にアメリカは台湾を守るために軍事的関与を行うのか。アメリカは、これまで台湾を防衛する意思があるかどうかを明らかにしない「あいまい戦略」を取ってきたが、こうした台湾をめぐる政策についてアメリカは姿勢を変えたのだろうか』、興味深そうだ。
・『本当にバイデン氏の失言なのか?  バイデン氏の発言に中国外交部の汪文斌副報道局長は「中国側に妥協や譲歩の余地は一切ない」と述べ、強烈な不満と断固とした反対の意思を表明した。 一方の台湾外交部は歓迎と謝意を述べたうえで、「台湾が自由と民主主義、安全を守る意思は不変だ。引き続き防衛能力の強化に努め、日米などと協力してアジア太平洋地域の平和と安定を守っていく」と自国の防衛力向上の姿勢を改めて示した。 バイデン氏は2021年8月にアメリカが日本や韓国の防衛義務があるとしたうえで、「台湾も同じだ」と発言。同年10月にも台湾が中国から攻撃を受けた場合に台湾を防衛するかを問われて「もちろんだ。責任がある」と言及した。 いずれも発言後に米政府高官や報道担当者が「政策に変更はない」との趣旨を表明し、これを受けて多くのメディアはバイデン氏の「発言撤回」や「訂正」だと伝えた。 今回はバイデン氏自身も「我々の台湾政策はまったく変わっていない」と言及。これを後から「釈明した」と捉える見方も存在するほか、ホワイトハウスが改めて「政策は変わっていない」と強調したことから、再びバイデン氏が「失言」したとの見方が出ている。 ただ、バイデン氏の台湾防衛関与への発言をほかの高官やホワイトハウスなどは「修正する」とも「撤回する」とも言っておらず、あくまでアメリカの台湾政策に変更はないと改めて示しただけ。一般的な受け止め方としてバイデン氏の発言の軌道修正を図っているとも捉えられる一方で、バイデン氏の発言を否定しないことを暗に示しているとみることもでき、受け手側に解釈が委ねられている』、「一般的な受け止め方としてバイデン氏の発言の軌道修正を図っているとも捉えられる一方で、バイデン氏の発言を否定しないことを暗に示しているとみることもでき、受け手側に解釈が委ねられている」、なるほど。
・『「一つの中国」政策を掲げつつも実態には変化も?  アメリカの台湾政策は「一つの中国政策」(One China Policy)と称されている。これは過去に米中間で交わされた3つのコミュニケや、1979年に制定された「台湾関係法」、1982年にレーガン大統領が表明した「6大保証(6つの保証)」で構成されている。 この「一つの中国政策」の大まかなポイントは2つある。 1つは1978年の米中コミュニケでアメリカが「中国は一つであり、台湾は中国の一部であるとの中国の立場を『認知(acknowledge)』する」という限定的な立場を表明していること。もう1つは台湾関係法と6大保証によって台湾の安全へのコミットメントを確認していることだ。 そのため、「一つの中国政策」は、「中国と台湾は不可分」という中国の立場に異を唱えない一方、「台湾の安全保障に関与する」姿勢を示すものであると説明されることが多い。 とはいえ、従来、アメリカは中国が侵攻した際に台湾を防衛する意思を明確にしない戦略的あいまいさを継続してきた。実際、1979年に制定された台湾関係法でもアメリカは台湾の防衛義務自体は負っていない。 台湾の安全への関与の範囲は、防衛兵器の提供などに限られてきた。「あいまい戦略」は台湾の独立への動きと中国の台湾侵攻の双方を牽制し、中国と台湾は不可分とする「一つの中国原則」(One China Principle)を掲げる中国にも配慮するシグナルともなっていた。) 今回、バイデン氏は「あいまい戦略」を踏み越えたかのように見える。彼自身は「政策はまったく変わっていない」と発言しており、台湾の安全に関与する範囲に台湾防衛も含まれると解釈して、これまで掲げてきた「一つの中国政策」の枠内で、台湾の安全保障への関わり方の限界がどこにあるかを模索しているとみられる。 台湾政治が専門の小笠原欣幸・東京外国語大学教授は、バイデン政権が「一つの中国政策」の看板を継承していると指摘しつつ、「バイデン大統領が『一つの中国政策』は変わらないと念押ししながら、『あいまい戦略』のぎりぎりのところをついて中国の台湾侵攻の抑止を図っているのではないか」と分析する』、「バイデン政権が「一つの中国政策」の看板を継承していると指摘しつつ、「バイデン大統領が『一つの中国政策』は変わらないと念押ししながら、『あいまい戦略』のぎりぎりのところをついて中国の台湾侵攻の抑止を図っているのではないか」と分析する」、微妙な立場だ。
・『アメリカの台湾関与強化は間違いない  アメリカ軍のアフガニスタン撤退やウクライナ戦争への未派兵によって、台湾に対する防衛意思も消極的なのではとの疑念が高まっていた。アメリカ国内では議会などを中心に「戦略的明確さ」に転換するよう求める声が出ている。 それらに応えているかは明らかでないが、過去2回の「台湾防衛」発言も含めて少なくともバイデン氏の中では台湾防衛への意思が明確なようだ。ホワイトハウスや国務省などは「アメリカの政策は変わっていない」と強調することで、中国にも対応し、連携プレーを展開している。結果として最高司令官である大統領の意思を明確に浮かびあがらせることで中国への抑止を高めているようにもみえる。 発足が宣言された新たな経済連携「IPEF(インド太平洋経済枠組み)」では創設メンバーに台湾が入らず、中国に配慮している点はなおみられる。 一方で、将来の参加余地は大いに残されたうえ、政権内で対中国・台湾政策の要とみられるサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は「ハイテク分野で台湾とのパートナーシップを深めることを検討している」と語っており、アメリカ政府が防衛だけでなくあらゆる方面で台湾への関与を強化する姿勢が鮮明となっている。 一部の記事では、4月7日にアメリカ上院の公聴会で証言したアメリカ軍制服トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長の「最善の台湾防衛は、台湾人自身が行うことだ」の発言を切り取り、台湾有事が発生してもアメリカは台湾に冷淡な対応をするだろうといった主張も展開されている。ただ、ミリー氏の発言において、アメリカの姿勢が最もよく表れ、日本などアジア太平洋の同盟・友好国が注目すべきなのは次の箇所だ。) 「中国に対する最善の方法は、接近拒否抑止力を通じて、台湾攻撃が『非常に達成困難な目標』であることを、彼ら(中国側)に思い知らせることだ」 台湾有事を起こさせないようにする抑止の考えが必要だとの訴えである。バイデン氏も5月23日の会見で「ロシアのプーチン大統領はウクライナへの非道な行為で大きな代償を払うことが重要」であるとし、「ロシアが制裁を受け続けなければ中国はどう思うか」とウクライナ戦争での対応が中国への抑止につながると示唆した。 さらに「一つの中国政策には同意しているが、武力で台湾を奪うのは適切ではない」とも牽制した。アメリカの台湾への関与強化は明らかな方向性をもって進んでいると言えるだろう』、「「中国に対する最善の方法は、接近拒否抑止力を通じて、台湾攻撃が『非常に達成困難な目標』であることを、彼ら(中国側)に思い知らせることだ」 台湾有事を起こさせないようにする抑止の考えが必要だとの訴え」、もっともな考え方だ。
・『政策再考のためにも正確な理解を  バイデン氏が明確に台湾防衛への意思を示したことなど、台湾関与への強化が鮮明であることで中国の姿勢が強硬になる恐れもある。今後、米中関係や東アジアの安全保障が新たな局面を迎える可能性があり、日本もアメリカの姿勢を理解し、これまでの台湾をめぐる国際関係の経緯を踏まえて外交・安保政策を考える必要がある。 よくある議論に「日本は台湾を国として認めていないので台湾を中国の一部と認めている。内政問題である台湾有事に巻き込まれないようにすべきだ」というものがある。 ただ、日本は中国が掲げる「一つの中国原則」のうち、「中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府である」ことのみを「承認」している。一方で「台湾は中国の不可分の一部である」ことについては、中国の立場を「十分理解し尊重する」とするにとどまっており、日本政府は「一つの中国原則」を完全に承認しているわけではない。 台湾有事が現実のものとなれば、日本も大きな影響を受ける。中国による台湾への攻撃で、東アジアのサプライチェーンは機能しなくなり、経済の混乱は避けられない。 また日本はアメリカと安全保障条約を締結し、アメリカ軍基地も受け入れている。中国が台湾侵攻作戦を発動すれば台湾だけでなく、在日アメリカ軍基地への攻撃など日本有事に発展する可能性は高い。日本が台湾有事にどう関わることになるかを議論する前提として、日本の台湾への立場を理解することも重要だ。 日本では、アメリカが「一つの中国」を認めていると誤解していることも多い。日本のメディアでは、提携先の海外英字紙の翻訳記事でacknowledgeを「認める」と誤訳して、あたかもアメリカが中国の「一つの原則」を認めているかのように表現するケースがある。加えて、中国が掲げる「一つの中国原則」とアメリカが掲げる「一つの中国政策」が同じものであるかのように混同した表記や説明もみられる。 「日本が、台湾への情緒的共感に傾斜した対中政策を続けると、アメリカにはしごを外される」と主張する言説もある。そうした主張者は、現在の日本の台湾への関わり方が中国を刺激することを強調し、台湾有事の抑止に貢献することを否定している』、「日本のメディアでは、提携先の海外英字紙の翻訳記事でacknowledgeを「認める」と誤訳して、あたかもアメリカが中国の「一つの原則」を認めているかのように表現するケースがある。加えて、中国が掲げる「一つの中国原則」とアメリカが掲げる「一つの中国政策」が同じものであるかのように混同した表記や説明もみられる」、確かに正しい理解が不可欠だ。
・『誤った解釈での言説では外交政策の議論が困難に  しかし、現状を変更しようと軍事力を増強しているのは中国側であり、アメリカの台湾関与姿勢は明確だ。誤った表記や解釈の下で繰り返される言説は、日本の外交・安保政策の議論を困難にする。 日本でも中国の武力行使を絶対に許さない世論の形成や、実際的な台湾有事での対応を平時から議論しておくことが中国への抑止力の貢献につながる。平和を維持するために日本ができることは何か、改めてこれまでの正確な経緯を振り返り、社会全体で議論することが求められる』、「現状を変更しようと軍事力を増強しているのは中国側であり、アメリカの台湾関与姿勢は明確だ。誤った表記や解釈の下で繰り返される言説は、日本の外交・安保政策の議論を困難にする」、「平和を維持するために日本ができることは何か、改めてこれまでの正確な経緯を振り返り、社会全体で議論することが求められる」、同感である。
タグ:台湾 (その4)(台湾が韓国をGDPで間もなく逆転!なぜ「永遠のライバル」に勝てるのか、台湾めぐる「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」 実際にリスクを高めるのは?、バイデン大統領の「台湾防衛」発言に透ける真意 日本として対応を平時から議論しておくべき) ダイヤモンド・オンラインが財訊を転載 「台湾が韓国をGDPで間もなく逆転!なぜ「永遠のライバル」に勝てるのか」 「台湾のGDP」が「韓国」を間もなく逆転しそうとは初めて知った。 「台湾韓国一人当たりGDP推移のグラフ」を見ると、2003年に「韓国」の方が大きかったが、差は急速に縮小している。 「台湾」と「韓国」とも各々の主要マーケットの状況の違いなどに応じて、伸びたり、伸び悩んだりすることだろう。いずれにしても、「台湾」が「韓国」より有利な状況がしばらく続きそうだ。 Newsweek日本版 木村正人氏による「台湾めぐる「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」、実際にリスクを高めるのは?」 「ロシアとの核戦争にエスカレートするのを避けるため「米軍をウクライナに派兵するつもりは全くない」と早々と宣言したバイデン氏はロシア軍のウクライナ侵攻にお墨付きを与える格好となった。台湾問題でも直接の軍事介入を頭から否定すれば、同じ間違いを繰り返す。バイデン氏は少なくとも口先では「戦略的曖昧さ」から「戦略的明確さ」に舵を切った」、「ウクライナ」での過ちを繰り返さなかったのはまずまずだ。 「台湾に対するアメリカの立場は台湾関係法で定められた。台湾に防衛的武器を提供するとともに、台湾の人々の安全、社会・経済システムを危うくするような力に対抗するアメリカの能力を維持することが約束された。しかし「中国が侵攻してきた場合、台湾を防衛する約束をしていないのは明らかだ」、「歴代の米大統領がこの「戦略的曖昧さ」を伝統的に維持してきたのは、台湾問題を巡りアメリカが中国との戦争に巻き込まれるリスクを回避したいからだ」、なるほど。 「今、重要なのは「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」のどちらが中国の台湾侵攻というリスクを軽減できるのかを慎重に分析することだ」、その通りだ。 「台湾有事になると、アメリカの反撃を止めるため、沖縄本島から西は中国の軍事影響下に入る。すなわち台湾有事は日本有事なのだ。「戦略的曖昧さ」と「戦略的明確さ」のいずれをとるにせよ、台湾有事のリスクがゼロになるわけではない。バイデン発言の真意がどこにあるのかはともかく、日本はすでに台湾有事を日本有事として備えているのだろうか」、現在、その「備え」を準備しつつある段階だ 東洋経済オンライン「バイデン大統領の「台湾防衛」発言に透ける真意 日本として対応を平時から議論しておくべき」 「一般的な受け止め方としてバイデン氏の発言の軌道修正を図っているとも捉えられる一方で、バイデン氏の発言を否定しないことを暗に示しているとみることもでき、受け手側に解釈が委ねられている」、なるほど。 「バイデン政権が「一つの中国政策」の看板を継承していると指摘しつつ、「バイデン大統領が『一つの中国政策』は変わらないと念押ししながら、『あいまい戦略』のぎりぎりのところをついて中国の台湾侵攻の抑止を図っているのではないか」と分析する」、微妙な立場だ。 「「中国に対する最善の方法は、接近拒否抑止力を通じて、台湾攻撃が『非常に達成困難な目標』であることを、彼ら(中国側)に思い知らせることだ」 台湾有事を起こさせないようにする抑止の考えが必要だとの訴え」、もっともな考え方だ。 「日本のメディアでは、提携先の海外英字紙の翻訳記事でacknowledgeを「認める」と誤訳して、あたかもアメリカが中国の「一つの原則」を認めているかのように表現するケースがある。加えて、中国が掲げる「一つの中国原則」とアメリカが掲げる「一つの中国政策」が同じものであるかのように混同した表記や説明もみられる」、確かに正しい理解が不可欠だ。 「現状を変更しようと軍事力を増強しているのは中国側であり、アメリカの台湾関与姿勢は明確だ。誤った表記や解釈の下で繰り返される言説は、日本の外交・安保政策の議論を困難にする」、「平和を維持するために日本ができることは何か、改めてこれまでの正確な経緯を振り返り、社会全体で議論することが求められる」、同感である。
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外食産業(その4)(スシローが客に「2つの裏切り」 おとり広告のひどすぎる実態とは、スシロー くら寿司 「寿司テロ」なぜ格安チェーンばかりで起こる?せっかくの努力が裏目に出ている可能性、「回転ずしテロ」の大きすぎる代償 高額の賠償金や懲役・罰金の可能性は) [産業動向]

外食産業については、2021年7月19日付けで取上げた。久しぶりの今日は、(その4)(スシローが客に「2つの裏切り」 おとり広告のひどすぎる実態とは、スシロー くら寿司 「寿司テロ」なぜ格安チェーンばかりで起こる?せっかくの努力が裏目に出ている可能性、「回転ずしテロ」の大きすぎる代償 高額の賠償金や懲役・罰金の可能性は)である。

先ずは、昨年6月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した消費者問題研究所代表・食品問題評論家の垣田達哉氏による「スシローが客に「2つの裏切り」、おとり広告のひどすぎる実態とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304738
・『6月9日、消費者庁は、回転ずし「スシロー」の運営会社「あきんどスシロー」(以降スシロー)に対し、景品表示法に違反する行為(おとり広告に該当)が認められたとして、再発防止を求める措置命令という行政処分を行った。スシローのあきれた集客行為の実態とは』、興味深そうだ。
・『おとり商品で集客し別商品を売りつける手口  おとり広告とは「実際には買えないのに、買えるかのような広告をして顧客を呼び寄せること」である。チラシ広告などで「超特価品100点限り」と表示しているにもかかわらず、この商品を全く用意していない場合や表示した量より少ない量しか用意していない場合、消費者(顧客)が店を訪問したとき「まだ開店したばかりなのに売り切れ!」となる。 そこで店側は「大好評のため品切れになりましたので、他の商品をご用意いたしました」「あっちは売り切れたので、こっちを買ってください」と別の商品を売りつけるのだ。 スーパーなどの小売店(物販店)やスシローのような飲食店は、顧客が店舗に来てくれなければ商売ができない。逆に顧客が店にさえ来れば、何も買わずに帰る客もいるが、多くは何かを買ってくれる(食べてくれる)のだ。ウェブサイトでも同じだが、サイトに来てくれなければ商売が始まらない。そこで販売する側は、顧客誘引のためにいろいろな手段を使う。 今回、公正取引委員会(以降公取委)(※注)は、スシローの違反行為であるおとり広告について後述する2点を指摘している。 ※景品表示法の所管は消費者庁だが、地方に出先機関がない消費者庁は、今回も公取委に調査を依頼している。スシローの違反記者会見も、関西の公取委が主催している』、「おとり商品で集客し別商品を売りつける手口 とは悪質だ。
・『全国9割以上の店舗で販売停止の違反行為  そもそもおとり広告とは、公取委の告示によれば、次の4つと規定されている。 (1)取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示 (2)取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明りょうに記載されていない場合のその商品又は役務についての表示 (3)取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明りょうに記載されていない場合のその商品又は役務についての表示 (4)取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示 上記の(4)に「実際には取引する意思がない場合(の広告)」がある。ある商品を販売する日(あるいは時間)を広告に掲載しているにもかかわらず、初めから掲載した商品を販売するつもりがなかった場合は違反となる。 公取委が指摘したスシローの違反行為の一つがこれである。 スシローが昨秋に実施したキャンペーンの中で「新物!濃厚うに包み」(期間は21年9月8日~20日)と「とやま鮨し人考案新物うに 鮨し人流3種盛」(期間は21年9月8日~10月3日)の2商品について、「新物!濃厚うに包み」は21年9月14日~17日までの4日間、「とやま鮨し人考案新物うに 鮨し人流3種盛」は21年9月18日~20日までの3日間、スシローは、どちらも販売を終日停止することを21年9月13日に決定し、各店舗の店長等に周知していた。販売停止を決めていた(販売する意思がなかった)にもかかわらず、消費者には通知していなかったのだ。 スシローは、自社のウェブサイトだけでなく地上波でのテレビコマーシャルもしている。サイトやCMで中止が告知されていないので、多くの消費者が中止されていることを知らずに、ウニを目当てに店舗を訪れていた可能性がある。まさに、ウニをおとりに集客していたことになるのだ。 販売停止の決定により、終日提供しなかった日がある店舗が「新物!濃厚うに包み」は583店舗、「とやま鮨し人考案新物うに 鮨し人流3種盛」は540店舗もあった。おとり広告は、1店舗であろうと、違反行為が1日間だけであっても違反となる。だが、スシローは全国594店舗(当時)の大半で違反行為を行っていたのである』、「スシローは全国594店舗(当時)の大半で違反行為を行っていた」とは極めて悪質だ。
・『キャンペーン期間中に1日も販売しない店舗も  公取委が指摘したスシローの違反行為の二つ目が、先述の「おとり広告」規定の(1)にある「取引を行うための準備がなされていない場合」である。広告で打ち出した商品を準備すらしていないのだから、当然ながらそれを目当てに来店した顧客に販売できるはずがない。 スシローは「冬の味覚!豪華かにづくし」(期間は21年11月26日~12月12日)について、提供するための準備をしておらず、終日提供しなかった日がある店舗は583店舗ある。 その中で、すでにキャンペーンの初日(21年11月26日)に販売していなかった(欠品していた)店が、583店舗中4店舗ある。しかも大阪府の歌島店は、期間中(21年11月26日~12月12日)の17日間、この商品が一切販売されていなかった。 さらに、キャンペーン期間である17日間のうち、開始早々の21年11月中(26日~30日)に欠品を起こしていた店は、583店舗中30%強、期間中の半分(9日間)以上提供できなかった店は70%強あった。 こうした事実から、公取委は「提供するための準備をしていなかった」と断定している』、「「提供するための準備をしていなかった」と断定」、悪質そのものだ。
・『表示内容が不明確だったスシローの「売切御免」  一般的に「売切御免」といった広告を打つ場合、普通は「○○点限り」のように販売点数を明示するとか「午前9時~午後12時まで」というように時間や販売日を限定した売り方をする。そういう表示があれば、消費者は「限定数が売り切れる前に行こう」とか「限定された時間内に行こう」とする。 ところがスシローは、今回問題となったキャンペーンで、期間を明示するとともに「売り切れ御免」という表示もしているが、そもそも売り切れが何のことを言っているのか、非常に不明確だった。 スシローは「いつの時点でも売り切れたら販売を中止する」という意味で使ったのかもしれないが、公取委は「期間中すべての日で提供するかのような表示をしていた」として、「売切御免と表示しても、期間中はすべて提供する必要がある」と、明確に否定している。だからこそ「終日販売されていなかった店舗」を問題にしている。 これは当然の判断である。期間を明示しておきながら、その一部の日だけ販売することが許されれば、例えば「6月1日から30日の期間、○○半額!売切御免!」と表示をしておいて、消費者が開始2日目に行ったときに「昨日で売り切れました」とすることが可能になってしまう。 スシローは、数量を一切表示することなく「売切御免」と表示をしていた。しかし公取委は、少なくとも「日を超えての売切御免は違反である」ことを指摘しているのだ。 ただし、今回は「一日中販売されていなかった店舗だけ」が公表されたのであって、終日ではなく「午前中に完売」「数時間だけしか販売していなかった」というように、限定販売されていた店もあるだろう。 実際の販売数量が公表されていないので、売り切れがいつ起こったのかは判断しようがないが、「朝早く行ったのになかった」「午前中に行ったのに売り切れていた」といったことも起きていたかもしれない』、「数量を一切表示することなく「売切御免」と表示」、不当だ。
・『公取委がスシローを摘発した2つの意味  公取委が、スシローのおとり広告を摘発した意味は二つある。 一つは、飲食店業界および物販業界への警鐘である。最近は、消費者の購買意欲をかき立てすぎているような「あおり広告」が多くなっている。公取委は、今回の違反事例では「広告と実態がかい離しないこと」「安易に『売切御免』という表示を使わないこと」を警告している。 また、スーパーマーケットのような小売店だけでなく「飲食店業界も監視・摘発するぞ」と忠告をしているのだ。 そしてもう一つが、消費者への注意喚起である。スシローのようなキャンペーン広告は、どの業界でも頻繁に見られる。そのとき、消費者が「これって変だよな?」「裏切られた感じがする」といった感覚を持ったときは、公取委や消費者庁にもどんどん通報してくださいとPRしているのだ。 公取委が記者会見で述べているが、実際、今回の件では、消費者からの苦情がスシローには多数届いていたようである。 景品表示法は、一般消費者の利益を守ることと同様、正直に商売をしている事業者を守ることも目的である。そういう意味では、今回のスシロー摘発は、消費者にも事業者にも大きなインパクトを与えたといえるだろう』、「公取委は、今回の違反事例では「広告と実態がかい離しないこと」「安易に『売切御免』という表示を使わないこと」を警告」、「消費者が「これって変だよな?」「裏切られた感じがする」といった感覚を持ったときは、公取委や消費者庁にもどんどん通報してくださいとPRしている」、「公取委」には大いに頑張ってもらいたい。

次に、本年2月1日付け東洋経済オンラインが掲載したフードジャーナリストの三輪 大輔氏による「「寿司テロ」格安チェーンばかりで起こる特殊事情」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/649825
・『いわゆる「回転寿司テロ」が止まらない。「もう回転寿司には行けない」という声も聞こえてきて、回転寿司業界が対策に追われている。事の発端は、「はま寿司」で撮影された、レーンを流れる寿司にワサビを勝手に乗せる動画だ。これを皮切りに、「スシロー」や「くら寿司」でも、類似のイタズラ動画がSNSで次々と拡散されている。中には4年前のものと見られるものある。 こうした問題に対して、回転寿司各社は毅然とした対応を取る姿勢を示している。はま寿司を運営する株式会社はま寿司は、客からの謝罪の申し入れを断り、警察に相談の上、被害届を提出。同様に、スシローを運営するあきんどスシローも「警察と相談し刑事民事の両面から厳正に対処する」という声明を発表するとともに、くら寿司も過去にさかのぼって警察に相談し、場合によっては相応の対応を取っていく。 ただ今回の回転寿司テロは、いわゆる100円回転寿司チェーンと呼ばれる店舗で起きている。「回転寿司 根室花まる」や「金沢まいもん寿司」「がってん寿司」に代表されるグルメ系回転寿司ではまだ同様の事件が起きていない』、「今回の回転寿司テロは、いわゆる100円回転寿司チェーンと呼ばれる店舗で起きている。・・・グルメ系回転寿司ではまだ同様の事件が起きていない」、不思議だ。
・『回転寿司チェーンが力を入れる3つの戦略  あくまで現時点では、という前提だが、回転寿司テロが100円回転寿司チェーン特有の問題とすると、その背景には「低価格の維持」と「テクノロジー化」「ファミレス化」という回転寿司チェーンならではの戦略の課題が見えてきた。 まず低価格の維持だ。原材料費の高騰などの理由により、昨年、スシローが最低価格を一皿120円、くら寿司が一皿115円に値上げを行い、大きな話題を呼んだ。しかし、スシローは中国では一皿170円の価格設定をする一方、アメリカで店舗展開をするくら寿司も現地では一皿300円と日本より高価格で提供している。 各国で給与水準が違うので、単純な物価比較はできないが、日本で値段を上げられない背景には、多くの日本人の可処分所得が減っている事情がある。実際、スシローやくら寿司が値上げをしたときも、「回転寿司にいきづらくなる」という声が聞こえていた。今後、さらなる値上げとなると、どれだけ受け入れられるかは不透明だ。 一方、原材料費だけでなく人件費の高騰も続いている。東京都と神奈川県、大阪府では、アルバイトの最低時給が1000円を超えた。一方で、外食業界は慢性的な人手不足に悩まされている。必要な人材を確保するには、平均以上に時給を上げざるを得ない。その結果、あまり人数をかけると低価格が維持できなくなってしまう事態が起きている。 また、そもそも回転寿司は原価率も高い。一般的な飲食店では原価率が20〜30%だ。その中で100円回転寿司チェーンだと40%を超えて、中には50%近い企業もある。つまり、お客にそれだけ還元しているということだ。 こうした中、低価格を守るため、各社がテクノロジーの活用に力を注いでいる。自動案内やタッチパネルでの注文、セルフレジが導入され、入店から退店までスタッフとコミュニケーションをしなくてもいい店舗もあるほどだ。テクノロジーは仕入れや物流、調理にも利用されている』、「回転寿司は原価率も高い・・・100円回転寿司チェーンだと40%を超えて、中には50%近い企業も」、「低価格を守るため、各社がテクノロジーの活用に力を注いでいる」、なるほど。
・『周りの目が届きにくい環境になっている  最後に、ファミレス化だ。近年、回転寿司は業態として進化を続け、デザートやサイドメニューなどが豊富になり、ファミレスと遜色のないメニューラインアップとなっている。コロナ禍では、「ガスト」や「ロイヤルホスト」が大量閉店してファミレスの苦戦が目立った一方、回転寿司は家族連れを中心に好調だった。 コロナ禍で息苦しさのある日常の中、寿司という贅沢感のある食べ物を、家族や気の置けない仲間とゆっくりと楽しめる点が人気を集めた要因だろう。コロナ禍の勝ち組とまで言われたのが回転寿司業界だ。 以上を踏まえて、なぜ回転寿司テロが100円回転寿司チェーンで多発しているのかを探っていきたい。 100円回転寿司チェーンの客単価は1000円〜2000円なうえ、メニューが豊富なので幅広い層が来店しやすい。加えて、店内にはファミリーでゆっくりと過ごせるボックス席が並ぶとともに、テクノロジーの活用で省人化が進んでいる。つまり、店員やほかの客の目を盗みやすい座席も少なくなく、“悪ノリ”をしやすい環境になってしまっているのではないか。) それでは、どうすれば同様の事件が防げるのだろうか。もちろん刑事民事の両面から厳正に対処する方法も効果を発揮するだろう。実際、過去にくら寿司は、飲食店を中心に相次いだ「バイトテロ」の流れに終止符を打った実績を持つ。 2019年2月5日、くら寿司のアルバイトが、ゴミ箱に捨てた魚をまな板に戻す様子が撮影された動画がSNSで拡散され、一気に炎上した。その3日後、くら寿司は法的措置を取る準備を始めたとのニュースリリースを発表。 そこに「多発する飲食店での不適切行動とその様子を撮影したSNSの投稿に対し、当社が一石を投じ、全国で起こる同様の事件の再発防止につなげ、抑止力とするため」という理由が記載されていて、当時、大きな話題を呼んだ。ただそれ以来、大きな問題となるバイトテロが起きていないので、今回の回転寿司テロでも一定の抑止力になるだろう』、「コロナ禍の勝ち組とまで言われたのが回転寿司業界」、「店員やほかの客の目を盗みやすい座席も少なくなく、“悪ノリ”をしやすい環境になってしまっている」、「刑事民事の両面から厳正に対処する方法も効果を発揮するだろう。実際、過去にくら寿司は、飲食店を中心に相次いだ「バイトテロ」の流れに終止符を打った実績を持つ」、なるほど。
・『防犯カメラの設置は現実的ではない  合わせて、現場レベルでの改善も必要だ。防犯カメラの設置という案があるが、客と店との信頼関係の構築が難しくなるため現実的ではない。また、店内でスタッフが行き交う環境をつくるために人数を増やす案もあるが、そうなると今以上に値上げをしないとビジネスが成り立たなくなる。それを客が許容してくれるかというと難しいだろう。 となると、テクノロジーで解決するしかない。突破口は、同じくくら寿司の「抗菌寿司カバー」だ。抗菌寿司カバーは、ウイルスや飛沫から寿司を守ってくれるため、コロナ禍では人気が高かった。 それを活用して、注文者しか開けない仕組みにしたりすれば、こうしたイタズラを防げる可能性が高い。さらなる設備投資が必要になるが、回転寿司テロをきっかけに起こる客離れを考えたら安いものだろう。 もともと回転寿司は、高級だった寿司を庶民でも楽しめるようにと考案された業態だ。その後、各社の熱意と独創性があって、誰もが手軽に寿司を食べられることが当たり前となった。今回も業界の創意工夫が問題を解決し、誰もが安心、安全に寿司を楽しめる環境を実現することを、いち回転寿司ファンとして期待している』、「防犯カメラの設置は現実的ではない」、「突破口は、同じくくら寿司の「抗菌寿司カバー」だ。抗菌寿司カバーは、ウイルスや飛沫から寿司を守ってくれるため、コロナ禍では人気が高かった。 それを活用して、注文者しか開けない仕組みにしたりすれば、こうしたイタズラを防げる可能性が高い。さらなる設備投資が必要になるが、回転寿司テロをきっかけに起こる客離れを考えたら安いものだろ」、「誰もが安心、安全に寿司を楽しめる環境を実現」してほしいものだ。

第三に、2月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した事件ジャーナリストの戸田一法氏による「「回転ずしテロ」の大きすぎる代償、高額の賠償金や懲役・罰金の可能性は」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317356
・『今年に入り、回転ずしチェーン店で商品や備品にいたずらする映像がSNSで相次いで出回った。炎上後、謝罪を申し出た投稿者もいたが、事態を重く見た回転ずし店側は受け入れを拒否。刑事・民事での責任追及を表明した。刑事的にはさまざまな罪が考えられ、民事的にも店側の損害が大きく、賠償金も高額になる可能性もある』、「謝罪を申し出た投稿者もいたが、事態を重く見た回転ずし店側は受け入れを拒否。刑事・民事での責任追及を表明した」、法的にハッキリさせるのは望ましい。
・『謝罪受け入れ拒否し「正な対処」表明  最初に発覚したのは1月7日頃だった。TikTokに若い男性がレーンに流れてくる2貫のすしのうち1貫を箸でつまんで食べる動画が拡散。「おいしそうだったので食べちゃいました#人の注文#はま寿司」の文字が入っていた。 同9日ごろには、インスタグラムのストーリーで同じく「はま寿司」で撮影された「他人握りわさび乗せ」の文字が入った動画が投稿された。見る限り、他人が注文したすしにわさびを混入したようだ。これは24時間で削除されたが、数日後、ツイッターで拡散され一気に炎上した。 はま寿司はわさびを入れたとみられる人物から店舗に電話で謝罪の申し入れがあったとしているが、受け入れを拒否。既に警察に被害届を提出している。 同24日ごろには「くら寿司」で、若い男性3人がお皿の回収口にヘディングするように投入したり、一度取ったお皿をレーンに戻す動画が拡散された。レーンに流れている商品から4年前に撮影されたとみられるという。くら寿司も、警察に相談する意向を示している。 同29日ごろには「スシロー」で、男性客がテーブルのしょうゆ差しの注ぎ口や積まれた湯飲み茶碗の周囲をなめ回したり、つばを付けた手でレーンを流れるすしにこすりつけたりしている動画が拡散。瞬く間に炎上した。この動画もストーリーズ(注)に投稿されたとみられる。 スシローは同30日、公式サイトで「刑事、民事の両面から厳正に対処してまいります」と表明。さらに2月1日には店舗が岐阜市内の店舗だったことを公表し、当事者と保護者から連絡があり、会って謝罪を受けたことを明らかにしたが「厳正に対処」の方針は維持する構えだ』、バイト・テロ事件の時と同じように面白がって悪ふざけをしているようだ。
(注)ストーリーズ:スライドショーのような形式で、画像や動画が投稿できるインスタグラムの機能(COLOR ME)。
・『窃盗や器物損壊 業務妨害罪の可能性も  それでは、それぞれの行為は刑事・民事でどれぐらいのペナルティーが科せられるのだろうか。 まず刑事だが、他人が注文したすしを食べたはま寿司のケースでは、その客が1貫を取られたことに気付かずお皿を取ってしまった場合は客が、おかしいと気付いた客がお皿を取らなければ店が、被害者となり窃盗罪(刑法235条)に該当する可能性が考えられ、10年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。 わさびを混入したり、一度取ったお皿を戻したりする行為、しょうゆ差しの注ぎ口をなめ回したりする行為は、器物損壊罪(刑法261条)の可能性がある。同罪は「他人の物を損壊・傷害」することが前提だが、実際に壊さなくても心理的に使用できなくしたり、その価値を低下させたりする行為も損壊とみなされ、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料となる。 そのほか、動画が拡散した結果について偽計業務妨害罪(刑法233条)か威力業務妨害罪(同234条)に問われる可能性がある。いずれも「他人の業務を妨害する」点で一致しているが、特徴としては偽計が「不可視的」、威力が「可視的」に妨害する行為と解釈され、両罪とも3年以下の懲役または50万円以下の罰金となる。 もちろん、複数の罪に問われる可能性もある。加えて当事者だけでなく、撮影や動画を拡散したり、一緒にいてけしかけたりした仲間も、共犯や幇助(ほうじょ)として刑事責任が問われる可能性も考えられる』、「客が1貫を取られたことに気付かずお皿を取ってしまった場合は客が、おかしいと気付いた客がお皿を取らなければ店が、被害者となり窃盗罪(刑法235条)に該当する可能性」、「わさびを混入したり、一度取ったお皿を戻したりする行為、しょうゆ差しの注ぎ口をなめ回したりする行為は、器物損壊罪(刑法261条)の可能性」、「撮影や動画を拡散したり、一緒にいてけしかけたりした仲間も、共犯や幇助(ほうじょ)として刑事責任が問われる可能性も」、なるほど。
・『民事での賠償額は数十万~数百万円か  民事ではどうか。SNSではスシローの株価が一日で百数十億円下落したことを受け「株価が下がった分を損害として賠償請求すべき」などのコメントが散見されるが、そもそも株価下落で損害を被ったのは株主であり、スシロー側ではない。 損害賠償請求訴訟を起こすなら株主であり、所有する株価が下がったことによる金額を請求するのが筋だろうが、動画が拡散した事実と株価が下がった因果関係を法的に立証するのはまず不可能で、現実的ではないだろう。 それではどれぐらいの請求額になるのだろうか。株価と同様、動画が拡散した事実と売り上げが減少した(場合の)因果関係を法的に立証するのは難しい。ただ、各社とも「厳正な対処」を表明しているだけに、清掃や備品の入れ替え・交換などにかかった実費だけ請求というわけにはいかないだろう。 全国紙社会部デスクによると、実はこうした行為に対する損害賠償請求訴訟というのはあまり例がなく、具体的な相場というのは不明らしい。ただ、東京都多摩市の老舗そば店で2013年、アルバイトの男子大学生4人が「洗浄機で洗われてきれいになっちゃった」のコメントを付けて洗浄機に横たわったり、顔を突っ込んだりする画像などを投稿。 ネットで炎上する事態となり、倒産に追い込まれたそば店は4人に1385万円の損害賠償を求めて訴訟を起こしたが、結局、200万円を支払うことで和解が成立したケースがあった。ただ、この訴訟はそば店が個人経営で、さまざまな出来事が重なったこともあり疲れ果てていたのだろうと推測される。 しかし、回転ずしチェーン各社は違う。全国展開する組織力と財力があり、抑止力・再発防止のためには中途半端な交渉に応じるつもりはないだろう。 前述のデスクは「この件で弁護士何人かと話しましたが『よくて実費だけ』『風評被害なども含め実費プラスアルファ』『動画拡散前と直後の売り上げを精査しきっちり請求すべき』など、回答はまちまちでした。ただ『払えない金額を請求してもペナルティーにはならない』という点では一致しており、行為によって数十万~数百万円と幅がある気はします」と説明。その上で「やはりスシローの件は高額になるでしょう」と予想した』、「行為によって数十万~数百万円と幅がある気はします」、「やはりスシローの件は高額になるでしょう」、なるほど。
・『回転ずしチェーン各社が毅然とした対応を行う理由  本稿では刑事・民事両面での展開について言及したが、実は刑事については非行歴のない未成年であれば「厳重注意」程度で、実際に罪に問われる可能性は薄いとみられる。 しかし民事では、客と店とのルールと信頼関係で成り立っている営業スタイルを根幹から揺るがすような悪質な行為のため、回転ずしチェーン各社が一斉に謝罪を拒否する姿勢で連帯しているように見える。 ぬるい対応では模倣犯が出たり、迷惑系ユーチューバーらが「この程度か」と高をくくり、アクセス数を稼ぐためやりたい放題になったりする可能性さえあるからだろう。 回転ずしチェーン各社は訴訟で請求が認められるかどうかではなく、とにかく毅然(きぜん)とした対応を示すことを最優先している。おそらく、和解などには応じるつもりはないだろう。そうなれば、刑事裁判と違い、民事訴訟は組織力・財力が勝負を決める事が多く、回転ずしチェーン各社vs一般市民では、結果がどうなるかはいわずもがなだ。 当事者や投稿者は「ちょっとしたいたずら」「目立ちたかった」レベルのつもりだったのだろうが、その代償は思いのほか高くつくことになりそうだ』、「回転ずしチェーン各社は訴訟で請求が認められるかどうかではなく、とにかく毅然(きぜん)とした対応を示すことを最優先している。おそらく、和解などには応じるつもりはないだろう。そうなれば、刑事裁判と違い、民事訴訟は組織力・財力が勝負を決める事が多く、回転ずしチェーン各社vs一般市民では、結果がどうなるかはいわずもがなだ」、「当事者や投稿者は「ちょっとしたいたずら」「目立ちたかった」レベルのつもりだったのだろうが、その代償は思いのほか高くつくことになりそうだ」、今後の「刑事裁判」「民事訴訟」の行方が注目される。
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ソニーの経営(その11)(ソニーのデジカメ 初の大ヒットはちょっと意外なあのカメラ、大ヒットと大炎上をデジカメ「P1」で味わう) [企業経営]

昨日に続いて、ソニーの経営を取上げよう。今日は、(その11)(ソニーのデジカメ 初の大ヒットはちょっと意外なあのカメラ、大ヒットと大炎上をデジカメ「P1」で味わう)である。これは、「ソニー」のモノづくりの牙城であるデジカメ部門を歴史の一端を見るため取上げた。

先ずは、1月31日付け日経ビジネスオンラインが掲載したソニーグループ代表執行役副会長の石塚 茂樹 他1名による対談「ソニーのデジカメ、初の大ヒットはちょっと意外なあのカメラ」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00533/012500001/
・『(石塚氏の略歴はリンク先参照) 糸口は故・小田嶋隆さんと“スシ”でした  2022年秋、石塚さんが故・小田嶋隆さんのコラムを惜しむメッセージを編集部にくださったのをご縁に、インタビューする機会をいただいた(小田嶋さんが書いていた「ソニーへの手紙」)。 石塚さんはソニーのデジタルカメラ部門を長年率いてきた方、という予備知識はあったので、話のネタにと思って仕込んできた自分のデジカメを、インタビューの終わりに出してみた。 「実はこんなものを持っているんですが」 「おっ、“スシ”じゃねえか!」 ソニー サイバーショットDSC-U10 画素数は130万、ちゃんとオートフォーカスで背面液晶も装備。かわいいったらありゃしません。とても処分できず、家の引き出しにしまってありました。 「スシ? スシってあの寿司ですか?」「そうそう。当時(2002年発売)、欧州に持っていったら、このホワイトのモデルがちょうどシャリに見えるっていうんで、現地の人が『スシ、スシ』って喜んでね」 「じゃあひとつ、板前風の写真を撮らせていただいてもいいでしょうか」 「こんな感じ? へい、お待ち!」 石塚さんの意外なノリの良さにびっくりしつつ、脳内ではとっくに枯れたと思っていた「ソニーファン」魂と好奇心がシンクロし始めた。小田嶋さんのコラムを面白がる余裕、節度を持ちつつも歯切れのいい物言い。この人ならきっと……。「よろしかったら、石塚さんを通して、ソニーのデジタルカメラのこれまでの歴史を振り返る企画をやらせてもらえませんでしょうか」。気が付いたら口説き始めていたのだった。 以上が本連載開始の経緯です。ソニーの「ものづくり」の牙城として今も高い利益を稼ぎ出しているデジタルカメラの来し方を、開発の最前線に立ち続けた技術者、そしてスマホ来襲の中でデジカメを生き残らせた経営者でもある石塚さんに、根掘り葉掘り伺っていく。その中から、日本のメーカー、そして日本の技術者が、再び輝く手がかりを掘り出せたらと祈っています。そしてホンネを申せば、ソニーのデジカメの戦いの歴史って、すごく面白そうではないですか!(Qは聞き手の質問) Q:ずうずうしいお願いに応えていただいて本当にありがとうございます。何か、資料までご用意いただいたそうで。 石塚:共有画面、映っていますか。ソニーのデジタルカメラの歩みを振り返ろうということですよね。じゃ、さっそく。ソニーのカメラと言えば、まず「マビカ」。 Q:ありました。この新聞広告は覚えています。「カメラなのにフィルムがいらないんだ、テレビで見るんだ、その手があったか!」と驚きました。 石塚:開発発表は1981年でした。ちょうど私がソニーに入社した年です。正確には「デジタル」カメラではなくて、2インチのフロッピーディスクにアナログで記録する電子カメラなんですよね。発売は88年でした。 Q:テレビには、カメラ本体からビデオ出力するんですか。 石塚:再生用のアダプターがあったんです。 Q:今見直すと、アップルの「QuickTake 100」に似ていなくもないですね。あれはチノン製でしたっけ。 石塚:これはキヤノンとの共同開発でした。私はマビカには関わっていないので、全部聞いた話なんですけれども、キヤノンで社長を務められた真栄田雅也さん。 Q:はい、2022年にお亡くなりになった。1981年当時、マビカの開発発表がキヤノンに与えたショックを「日経クロステック」で語られていました。 (日経クロステックの記事はこちら) 石塚:僕がデジカメを担当するようになってから、実は真栄田さんとは親交があったんですよ。カメラ業界でのお付き合いはもちろん、たまに飲んだり、ゴルフをしたり。亡くなられてから、偲ぶ会がありまして、そこに彼の遺品が置いてあったんですね。真栄田さんはもともとメカニカル系のばりばりのエンジニアで、遺品のノートには電子スチルカメラの図面が描かれていました。 Q:キヤノン側でのご担当だったということですね。几帳面な方ですね。 石塚:そうそう。僕なんかは20代のころの仕事の記録なんて何も残っていないんだけれども、真栄田さんは非常に緻密で、きちんとした方だったんです。 Q:「フィルムが要らない」というインパクトはありながら、マビカはあっさり消えちゃいましたけれど。 石塚:うん。マビカは80年代の前半にカメラ業界、フィルム業界を震撼させたソニーの発明、だったんだけれども、ビジネス的にはまったく成功せず終わったんですよ。 でも、このマビカのアイデアはその後、ソニーのデジカメの初ヒットにつながりました。この機種のヒットがあったからこそ、ソニーのデジカメは今に至っていると思います。 Q:あっ、「サイバーショットF1」ですね! あれはかっこよかったです。 DSC-F1(1996年10月)「サイバーショット」シリーズ初代。レンズ部が回転して自撮りができる 石塚:いや、サイバーショットじゃないんですけど(笑)。 Q:あれ? 石塚:97年に出した「デジタルマビカ」というのがあるんです。MVC-FD5とFD7。 MVC-FD7(1997年7月) フロッピーにデジタル画像を記録する「デジタルマビカ」。10倍ズームレンズ付きで、世界で大ヒットを飛ばす Q:あっ、これ、ありましたね。3.5インチのフロッピーディスクに記録するやつですよね? 当時自分はパソコン誌「日経クリック」の編集をやっていて、これを見て、でかいわ、ごついわで「なんてダサいんだ」と……ごめんなさい。 石塚:いえいえ(笑)。その通りだと思います』、知り合った「糸口は故・小田嶋隆さんと“スシ”でした」というのはさもありなんだ。「マビカは80年代の前半にカメラ業界、フィルム業界を震撼させたソニーの発明、だったんだけれども、ビジネス的にはまったく成功せず終わったんですよ。 でも、このマビカのアイデアはその後、ソニーのデジカメの初ヒットにつながりました。この機種のヒットがあったからこそ、ソニーのデジカメは今に至っていると思います」、「なんてダサいんだ」、でも「世界で大ヒット」になったようだ。
・『「ダサい」デジタルマビカはどうして売れた  Q:これ、売れたんですか。 石塚:めちゃめちゃ売れました。 Q:正直、すごく意外です。でかいし、重いし、ダサ……すみません。 石塚:96年の10月ぐらいだったかな、当時の上司が「3.5インチのフロッピーを使ったカメラを造ってよ」と、僕と僕の相棒に言ってきたんです。「出そうよ、とにかく早く出そうよ、なぜかって? だって誰でもできるんだから」と。 Q:誰でもできるようなものなんですか? 石塚:「その辺に売っているパソコン用のフロッピーディスクドライブを買ってきて、それにビデオカメラ用のレンズとイメージセンサーと電池をくっつけたら、カメラになっちゃうじゃないか。誰かが出す前に、さっさと造ってよ」てな感じで。とにかくよそより先に出さないと意味がないと急(せ)かされて、半年とちょっとで造って、97年の夏に売り出して、大ヒットしました。 フロッピーはパソコン用、バッテリーは、私はパーソナルビデオ事業部で、8ミリハンディカムの設計をやっていたので、そこからみんな持ってきて。FD7の10倍光学ズームもハンディカムの流用です。とにかくありものを組み合わせたので、早く出せたけれど、外観はおっしゃる通り厚ぼったくてぼてっとして、日本人にはウケない。 Q:でしたよね。 石塚:だけど、米国でバカ売れしたんですよ。特に10倍ズームのFD7が。 Q:どうしてそんなに売れたんでしょう。) 石塚:デジタルマビカが何に使われたかって、業務用だったんです、例えば、自動車の保険会社さんとか不動産屋さんとか、写真が必要な仕事ってあるじゃないですか。もちろん、当時もデジカメはたくさん出ていたんですが、ほとんどの機種は内蔵メモリーに記録して、パソコンにケーブルで接続して読み出していましたよね。 Q:そうそう、そうでした! しかも専用ソフトが必要だったりしました。 石塚:ところが、デジタルマビカはフロッピーディスク記録で、当時のパソコンはフロッピーディスクドライブがほぼ標準装備だった。だから、デジタルマビカなら、撮って、ディスクを抜いて、パソコンに差し込めばいい。画像データもJPEG形式だから、専用ソフトは不要でダブルクリックすれば開ける。徹底的にシンプルなコンセプトが、「仕事で使う」人たちに受けて、成功したんです。 Q:なるほど。画質はさておき、とにかくデータのハンドリングが楽で、仕事ならそれで十分。 石塚:そうそう。ものすごくもうかって。これに味をしめて、2号機はちゃんとまじめにデジタルマビカ専用のフロッピーディスクドライブも開発したんですよ。 Q:専用……と言いますと。 石塚:初号機はドライブが流用品だったので、書き込みが遅いし、分厚かった。そこで某メーカーと組んで、倍速化と薄型化を。 Q:ああ、そういえばシャッターを切ると、ジコジコのんびりフロッピーに書き込んでましたね。そもそもフロッピーって、書き込みも読み出しも遅くて。 石塚:FD7の画素数は41万(有効38万)で、解像度はVGA(640×480ピクセル)、ファイルサイズも、大きくてせいぜい100キロバイト前後だからこそ、フロッピーディスク記録が成り立ったわけです。フロッピー1枚にかろうじて20枚程度でしたか。「せめてフィルム1本分くらいは記録できるようにしよう」と、圧縮率もそこそこ高くしてね。 Q:もはやこの辺も解説が要りそうですが、当時、カメラ用フィルム1本で撮れる写真の枚数は24枚が主流でした』、「「誰かが出す前に、さっさと造ってよ」てな感じで。とにかくよそより先に出さないと意味がないと急(せ)かされて、半年とちょっとで造って、97年の夏に売り出して、大ヒットしました」、「自動車の保険会社さんとか不動産屋さんとか、写真が必要な仕事ってあるじゃないですか。もちろん、当時もデジカメはたくさん出ていたんですが、ほとんどの機種は内蔵メモリーに記録して、パソコンにケーブルで接続して読み出していましたよね・・・ところが、デジタルマビカはフロッピーディスク記録で、当時のパソコンはフロッピーディスクドライブがほぼ標準装備だった。だから、デジタルマビカなら、撮って、ディスクを抜いて、パソコンに差し込めばいい。画像データもJPEG形式だから、専用ソフトは不要でダブルクリックすれば開ける。徹底的にシンプルなコンセプトが、「仕事で使う」人たちに受けて、成功したんです」、思いもかけないニーズにマッチして「成功した」とは面白いこともあるものだ。
・『パソコン店でフロッピーをこっそり読ませる  石塚:とにかくやっつけで造ったので、カメラの性能としてはお世辞にもいいとは言えない。ストロボなんてもう、「光ればいいんだ」という感じだったんですね。だから、顔が白飛びする、赤目にもなる(網膜にストロボ光が反射する「赤目現象」)。クレームが来ると、今では考えられない対応ですが「そういうときは発光部にティッシュを張ってください」とか言ってね。 Q:調光機能がない。「光るンです」だったわけですか。 石塚:当時の我々は怖いもの知らずです。90年代のデジカメって、カメラの置き換えというよりは、パソコンのペリフェラル、周辺機器だったということもありますね。 Q:そうでした。カメラ雑誌じゃなくて、私がいたパソコン誌が取り上げるアイテム。 石塚:なので、特に米国で売るときは、カメラやハンディカムとかを売っている店じゃなくて、パソコン中心の「PCデポ」とか「コンプUSA」とか、そういうところで主に売ろうとしていました。一方で、とにかく簡単なのが売りでしたから、万一これで撮った画像ファイルが開けないパソコンがあったら大変。だから僕は世界中のパソコン店に行って、展示してあるパソコンに何気なく写真入りのフロッピーをぶち込んで、開くかどうか試していました。 Q:うわ(笑)。でもJPEG形式で記録しても開けない可能性ってあったんですか。 石塚:うん、簡単に造れると言いましたけれども、一応、うちのエンジニアが小さなOSを作って、MS-DOSでもWindowsでもMacでもちゃんと開けるような形式で記録していたんです。でも、例外が発生する可能性は潰せないので、地道にテストしていました。 Q:しかし、言われてみれば当時の環境だったら「フロッピーディスク記録のデジカメ」というのは“冴えたやりかた”でしたね。マネするところが出てきてもおかしくなさそうです。 石塚:1つエピソードを言うと、某カメラメーカーの方にずっと後になってから聞いたら、「実はうちも開発していた」と。ところが、ソニーが出しちゃったものだから、二番煎じになっちゃうとよろしくないというのでやめたらしいんです。Q:「あっという間に造って出した」のは結果的に正解だった、ということですね。 上司の方の考えはまさにその通り、大正解だった。 石塚:と、デジタルマビカはデジカメとしての性能はほどほどでしたが、汎用性、使い勝手に集中したことで、米国と欧州で大ヒットして。 Q:海外市場で「デジカメと言えばソニー」というイメージをつくったと。 石橋:いや、それは言い過ぎですね。一般ユーザーよりも業務用として売れましたし、売れた地域も申し上げた通りばらつきがありましたから。ただ、「ソニーのデジカメ」についての一定の存在感を市場に確立したのは確かです。 Q:なるほど。 石塚:その後、2号機ぐらいまでは売れたかな。ご存じの通りデジカメが高画素化して、データサイズが大きくなるとフロッピーディスクでは記録できなくなって、8cm CD-Rに記録するモデルを出すんですが、最大の特徴である、データのハンドリングの良さを失って、消えていくんです。 Q:さっき先走りましたけれど、私には「ソニーのデジカメ」と言えば、サイバーショット初号機、F1のイメージが強いんです。あちらはどうだったんでしょう。 石塚:こちらは私は関わっていませんでした。コンセプトは回転レンズに代表されるように、フィルムカメラでは絶対できない、「撮る、見る、飛ばす」を実現しようというものです。撮って、見てというのは液晶で見て、飛ばすというのはIrDA(赤外線通信)のことで、パソコン、そしてプリンターに送ることもできました。 Q:めっちゃ未来的、いかにもソニー。 石塚:とてもとんがった商品で、話題になったんですけれども、これはあんまり売れなかったのです。 Q:そうなんですか。どうしてでしょう。 石塚:売れなかった理由は、記録メモリーが内蔵式だったこと、そして電池が持たなくて、「サイバーちょっと」と言われていたんですよね。 Q:そういえば当時そんなあだ名も聞いたかもしれない。 石塚:さらにビジネス的なことを言うと、材料費がものすごく高くて。 販売価格が9万円くらいでしたっけ、けっこう高級機でしたよね。 石塚:それでも逆ざやだったかもしれません。あまりうまくいかなかった。 Q:すみません。実はF1って大ヒット商品だと思っていましたが』、「デジタルマビカについて、某カメラメーカーの方が、「実はうちも開発していた」が、「ソニーが出しちゃったものだから、二番煎じになっちゃうとよろしくないというのでやめたらしい」、製品開発にはタイムんぐも重要なようだ。「デジタルマビカはデジカメとしての性能はほどほどでしたが、汎用性、使い勝手に集中したことで、米国と欧州で大ヒット」、「「ソニーのデジカメ」についての一定の存在感を市場に確立した」、見事だ。「サイバーショット初号機、F1」「「撮る、見る、飛ばす」を実現しようというものです。撮って、見てというのは液晶で見て、飛ばすというのはIrDA(赤外線通信)のことで、パソコン、そしてプリンターに送ることもできました。 Q:めっちゃ未来的、いかにもソニー」しかし、「あんまり売れなかった」、「売れなかった理由は、記録メモリーが内蔵式だったこと、そして電池が持たなくて、「サイバーちょっと」と言われていたんですよね・・・さらにビジネス的なことを言うと、材料費がものすごく高くて。 販売価格が9万円くらいでしたっけ、けっこう高級機でしたよね。 石塚:それでも逆ざやだったかもしれません。あまりうまくいかなかった」、時代の先を行き過ぎていたのかも知れない。
・『日本と海外で評価ポイントが逆  石塚:いえ、日本では売れました。ですが、海外では全然売れなかった。電池の持ちもありますが、IrDAが普及していなくて、ケーブルだとRS232Cで通信速度がすごく遅いんですよね。だから内蔵メモリーのデータをパソコンへ吸い出すのに手間がかかった。 Q:見た目は最高、機能もすごい、だけど使い勝手が悪い。デジタルマビカの正反対ですね。 石塚:そう。日本で評価されるポイントと海外のそれとは逆だった、とも言えます。 Q:そういえば、サイバーショットF1のほうがデジタルマビカより先に出ていたわけですが、マビカを「サイバーショット」というシリーズの中に入れなかったのはわざとですか。 石塚:うん、実はネーミングに内部の論争がありまして。 Q:ありそうです。 石塚:販売会社は「サイバーショットにしてほしい」と言っていましたね。「マビカなんか、売れなかったから印象が悪い」とか。でも当時の僕のボスがこだわって、「いや、デジタルマビカだ」と。フロッピーディスク記録というイメージを打ち出した「マビカ」は、逆にアセットになるはずだ、と考えていたようです。 Q:なるほど。 石塚:それからもう1つ「サイバーショットプロ」というシリーズが出ます。DSC-D700。業務用っぽいカメラです。 石塚:ファインダーはプリズムが入っていて、見た目も一眼っぽいやつなんですけれども。これはこれでまた別の、業務用の機材を造っていた厚木の部隊が開発しました。これも材料費が高いわりには全然売れなくて。 Q:いろいろな背景を持つチームがそれぞれ自分の得意技でデジカメを出していたわけですか。そういえば、音楽用のMD(ミニディスク)が使えるサイバーショットもありませんでしたか。 石塚:はい、DSC-MD1ですね。F1と同じ部隊が開発しました。) Q:当時としてはMDは大容量メディアだし、面白い試みです。一方で戦線がぜんぜん整理されていない印象があるのも、デジカメ草創期ならではでしょうか。やりたい人がやりたい仕事をやる、という。こういうのもメーカーにとって1つの理想のような気もするんですけれど。特に当時のソニーは、まだまだこういう「やりたい放題」が似合う会社、でしたよね。 石塚:確かに、このあたりはソニーらしいっちゃらしいんです。けれどもだいたい一発屋で失敗して終わるという。MDも1号機が出て、あとが続きませんでした。 さすがに上層部が「お前らいいかげんにしろ、1カ所でやれ」と言って、デジタルマビカが一番成功していたので、そこに統合されたわけです。当時はやりたい人がやりたいようにやっていたんだけれども、採算をちゃんと考えなかったり、品質が悪かったり、一言で言えばバランスが非常に悪かった。 Q:そんな中で目立ったヒットがデジタルマビカだった。1つ質問いいですか』、「やりたい人がやりたい仕事をやる、という。こういうのもメーカーにとって1つの理想のような気もするんですけれど。特に当時のソニーは、まだまだこういう「やりたい放題」が似合う会社、でしたよね。 石塚:確かに、このあたりはソニーらしいっちゃらしいんです。けれどもだいたい一発屋で失敗して終わるという。MDも1号機が出て、あとが続きませんでした。 さすがに上層部が「お前らいいかげんにしろ、1カ所でやれ」と言って、デジタルマビカが一番成功していたので、そこに統合されたわけです。当時はやりたい人がやりたいようにやっていたんだけれども、採算をちゃんと考えなかったり、品質が悪かったり、一言で言えばバランスが非常に悪かった。 Q:そんな中で目立ったヒットがデジタルマビカだった」、いかにも「ソニー」らしい開発スタイルだ。
・『こだわり・わりきり・おもいきり  石塚:はい、どうぞ。 Q:出来合いのものをがっちゃんこして造ったそのデジタルマビカですが、これをやらせたボスの方は、どうしてこれを作りたかったんでしょう? 「俺が使いたいものが欲しい」みたいな感じだったんでしょうか。 石塚:「自分が使いたい」と「売れるもの」でしたね。事業部長をやって、役員、副会長をやったNさんという、ちょっと変わったおじさんなんですけれども。 Q:……石塚さんが変わったおじさんという人。 石塚:商品開発を考えるのが得意で、僕も好きで自分でもやっていましたけれども、この人に教えられたところもあって。シンプルなものが好きなんですね。どういうことかというと、要するに「セールストークは簡単なほうがいい」と。シンプル・イズ・ベストということで、だから、ケーブルなんか絶対に付けるな、専用ソフトは同梱するな、そこにこだわれ、とね。 Q:そうか、シンプルさは売る側が手間を惜しむと実現できない。 石塚:そうそう。これは余談だけれど、社内で僕がこの15年ぐらい言っているフィロソフィーがあって、「こだわり、わりきり、おもいきり」というんです。だから、こだわるところにはこだわるけれども、それ以外の余分な要素は切り捨てて、割り切れ。決めたら、思いきりやれ、という。それは最初のヒットになった、デジタルマビカの教訓なのかもしれません。 Q:おお。すごく含蓄があるんですね、このデジタルカメラに。 石塚:だから、さっきのご質問への回答を改めて言うと、上司の気持ちは「ものすごく使いやすいものを造ろう」ということになるかもしれないですね。 まずフロッピーディスクって、当時はただ同然、とは言わないまでも、コンビニに行って小銭で買えた。どこでも買えてしかも安い。当時、他のリムーバブルメディアってすごく高かったですよね。そしてカメラ本体も、大きくて無骨でとんがったことはできないけれど、どこをどうすればどうなるかがすごく分かりやすい。そして、パソコンとの親和性も最高だと。 Q:なるほど、どこをとっても使いやすい。 石塚:米国向けのセールスマニュアルには「イージー」という言葉がたくさん入っていましたよ。説明書を読まなくてもすぐ使えちゃうというね。 Q:使いやすさにこだわり、デザインや機能は割り切り、イージーを思いきり全面展開して売る、という。外にいる私たちは「他がやらないことや見た目にこだわって、でも使いにくくて壊れやすい」のがソニーらしさ、くらいに思っていましたが。 石塚:(苦笑して)それだとビジネスとしては続かない。デジタルマビカは既存技術の寄せ集めといえば寄せ集め。でも、結局、フロッピーディスク記録のデジタルカメラでビジネスができたのは、ソニーだけだったわけです』、「「セールストークは簡単なほうがいい」と。シンプル・イズ・ベストということで、だから、ケーブルなんか絶対に付けるな、専用ソフトは同梱するな、そこにこだわれ、とね」、「「こだわり、わりきり、おもいきり」・・・こだわるところにはこだわるけれども、それ以外の余分な要素は切り捨てて、割り切れ。決めたら、思いきりやれ、という。それは最初のヒットになった、デジタルマビカの教訓なのかもしれません」、凄い「フィロソフィー」だ。「米国向けのセールスマニュアルには「イージー」という言葉がたくさん入っていましたよ。説明書を読まなくてもすぐ使えちゃうというね。 Q:使いやすさにこだわり、デザインや機能は割り切り、イージーを思いきり全面展開して売る、という・・・デジタルマビカは既存技術の寄せ集めといえば寄せ集め。でも、結局、フロッピーディスク記録のデジタルカメラでビジネスができたのは、ソニーだけだったわけです」、なるほど。
・『独自性を出すのに「世界一」「新技術」は必須、ではない  Q:確かに。あ、カセットテープのウォークマンもそういえばそういう、既存品のがっちゃんこプロダクトですね。でも「誰もやらないこと」だし、投資額もきっとしたいたことはなかった、んでしょうね。 石塚:だと思います。 Q:誰もやらないこと」を実現するのがソニーらしさだとすれば、このデジタルマビカは「誰もやったことがないほど分かりやすい」、ソニーらしいデジタルカメラ、ということですか。なるほど。 石塚:違う言い方をするなら、誰もやらないことをやるためには、「新技術」「世界初」だけがその方法ではない、ということですね。無論、新技術、世界初、というのは技術者としてとてもいい手段、目標だと思います。でも、それにはお金も時間もかかる。そして、もうけることと両立しないと、やりたいこともできなくなってしまうわけです。技術者は自分の好きなことを続けるために、ちゃんともうけることも考えねばならない。 Q:比べるのも申し訳ありませんが、本もそうなんです。好きなものを作るだけなら楽ですが、売れないと次が出せないから、「好きなものをどう見せれば売れるのか」を、毎回うんうん考えるという。 石塚:それで、売れることだけをつい考えちゃったりしません? Q:しますします(笑)。 石塚:そうなると本末転倒で。だから「人のやらない、やりたいこと」と「売れること」のせめぎ合いを常に強いられるんですよね。 Q:その辺の苦しさと面白さを、これからお話しいただければと思います』、「ウォークマンもそういえばそういう、既存品のがっちゃんこプロダクトですね。でも「誰もやらないこと」だし、投資額もきっとしたいたことはなかった」、「誰もやらないことをやるためには、「新技術」「世界初」だけがその方法ではない、ということですね。無論、新技術、世界初、というのは技術者としてとてもいい手段、目標だと思います。でも、それにはお金も時間もかかる。そして、もうけることと両立しないと、やりたいこともできなくなってしまうわけです。技術者は自分の好きなことを続けるために、ちゃんともうけることも考えねばならない」、「売れることだけをつい考えちゃったりしません?・・・そうなると本末転倒で。だから「人のやらない、やりたいこと」と「売れること」のせめぎ合いを常に強いられるんですよね。 Q:その辺の苦しさと面白さを、これからお話しいただければと思います」、次回が楽しみだ。

次に、この続きを、2月7日付け日経ビジネスオンラインが掲載したソニーグループ代表執行役副会長 石塚 茂樹 他1名の対談「大ヒットと大炎上をデジカメ「P1」で味わう」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00533/020300002/
・『メモリースティック登場  Q:前回は、ソニーのデジタルカメラを世界に広げたのは、フロッピーディスク記録の「デジタルマビカ」(MVC-FD5、FD7、1997年発売)だったという、意外なお話を伺いました。日本にいると、「ソニーのデジカメ」といえば初代サイバーショットの「DSC-F1」(1996年発売)の印象が強いんですが。 ソニーグループ副会長・石塚茂樹さん(以下、石塚):F1は日本では売れました。しかし海外では、電池が持たないこと、内蔵メモリーしかないので、パソコンに画像データを転送するのに時間がかかること、などが響いて全然売れませんでした。もう一つ、回転レンズで自撮りができるのが大きな特徴だったのですが、これは単焦点なので、ズームができない。 Q:F1はその後も独特のデザイン、質感で「Fシリーズ」としてサイバーショットの一角を支え続けます。現在の視点で見ても古びないですね。ガジェットの楽しさにあふれていて。 石塚:F1はマイナーチェンジを重ねつつ、記録メディア「メモリースティック」を搭載し、バッテリー容量を増やした「DSC-F55K」で、仕切り直しを図りました。 DSC-F55K(1999年) 電池の持ち、パソコンへの転送が面倒、といったDSC-F1の欠点を潰したモデル。ソニーが開発した記録メディア「メモリースティック」(写真右側)を初めて搭載したデジカメでもある。 Q:そうだ、メモリースティックがこの頃登場するんですね。当時のデジカメ用の記録メディアとしては、東芝が始めたスマートメディア、そしてコンパクトフラッシュがありましたよね。 石塚:現場はスマートメディアを使おうと言っていたんですけれど、うちの上層部はまた……。 Q:また? 石塚:「人のやらないことをやるのが、ソニーだ」みたいな感じで、軍門に下るなとか、自分たちでやれとか。それでメモリースティックの採用ということに。それ自体は正しいと思うんですけれど、ね。 全社横断組織の「メモリースティック事業センター」が設立されて、僕もメンバーになったんですが、これもまた大変でした。カメラで撮ってメモリースティックに記録しても「相手」がいないとどうしようもないわけです。そこで、パソコンにつなぐアダプターやリーダーを作ったり、フォトフレームを作ったり、プリンターに入れたりと、色々な「相手」を開発したんです。でも後々、メモリースティックはサイバーショットにとって足かせになるんですね。ソニーしかやっていないから。 Q:結局、ファミリーができなかったんでしたっけ。 石塚:大きなファミリーはできませんでした。 Q:それはつらい。規格競争はソニーにとって鬼門の印象があります』、「当時のデジカメ用の記録メディアとしては、東芝が始めたスマートメディア、そしてコンパクトフラッシュがありましたよね・・・現場はスマートメディアを使おうと言っていたんですけれど、うちの上層部はまた……・・・「人のやらないことをやるのが、ソニーだ」みたいな感じで、軍門に下るなとか、自分たちでやれとか。それでメモリースティックの採用ということに。それ自体は正しいと思うんですけれど、ね」、 Q:結局、ファミリーができなかったんでしたっけ。 石塚:大きなファミリーはできませんでした。 Q:それはつらい。規格競争はソニーにとって鬼門の印象』、「カメラで撮ってメモリースティックに記録しても「相手」がいないとどうしようもないわけです。そこで、パソコンにつなぐアダプターやリーダーを作ったり、フォトフレームを作ったり、プリンターに入れたりと、色々な「相手」を開発したんです。でも後々、メモリースティックはサイバーショットにとって足かせになるんですね。ソニーしかやっていないから」、確かに「規格競争はソニーにとって鬼門の印象」、その通りだ。
・『どうして仲間づくりがうまくないのか  石塚:うん、僕がソニーのビデオテレビ事業部(ベータマックスの事業担当)に入社した時期(1981年)って、ベータマックス対VHSの競争が盛んだった頃なんですね。 ベータのソニー対VHSの松下電器産業・日本ビクター(現パナソニック・JVCケンウッド)、家庭用ビデオデッキの規格争い。1984年ごろにベータの敗色が濃厚になってきて、最終モデル(SL-200D)の発売が93年ですから、この頃は完全に決着がついてますね。 石塚:なのに、また似たようなことをやっているという個人的な思いはありました。あくまで個人的な感想ですが……。のちに、シェアを伸ばしてきた後発の「SDカード」に対抗すべく、「メモリースティックDuo」という小さいやつを作るんですけれども、それでもやっぱりそこが足かせでデジカメのシェアが伸び悩みました。 僕は、2000年代の後半だったかな、ひそかにプロジェクトを興して、ソニーのデジカメにメディアが両方、SDカードと、メモリースティックDuoが挿さるようにしたんですよ。そこからシェアがぐっと伸びたんです。 Q:ユーザーは素直に反応するんですね。ファミリーづくりがうまくないのはなぜでしょう。 石塚:「マネをしない」「人のやらないことをやる」という企業カルチャーは、独自性によって商品を差異化するには大きなプラスでした。一方で、独自性をビジネス面や顧客価値・満足度とどうバランスを取るか、が、常にマネジメントのテーマになっていたのだと思います。前回の「こだわり、わりきり、おもいきり」に通じるものがありますね。 Q:確かに。そう考えると、現場よりマネジメントのほうが「独自性」にこだわりすぎて、わりきれなかった、ということが一因だったように思えます。 石塚:ずいぶん余談が長くなっちゃいましたが(笑)、F55Kはそこそこ売れました。そして、2000年に「DSC-P1」が出ます。これは自分にとって忘れられない思い出があるデジカメです。(ソニーのプレスリリースはこちら) DSC-P1(2000年10月20日発売) 小型ながら3倍光学ズーム、当時としては高画素・高画質、そしてメモリースティック搭載と機能に妥協がなく、大ヒットとなった。 石塚:1998年に、僕がいたデジタルマビカと他のデジカメ開発部隊が一緒になったお話は前回しましたね。そこで開発を率いる立場(パーソナルビデオカンパニー パーソナルビデオ2部 担当部長)になった僕は「とにかくヒットモデルを作ろう」と言って、このP1に取り組んだんです。 Q:一発、大きく当てることを最初から狙ったモデル。) 石塚:ええ、サイバーショットでは「ヒットモデルプロジェクト」を何年かごとに発動しています。開発のリソースを集中して、新規の専用デバイスを起こしていくんですね。その際にはモデル名に“1”というエースナンバーを付けて気合を入れるのが我々の伝統です』、「「マネをしない」「人のやらないことをやる」という企業カルチャーは、独自性によって商品を差異化するには大きなプラスでした。一方で、独自性をビジネス面や顧客価値・満足度とどうバランスを取るか、が、常にマネジメントのテーマになっていたのだと思います。前回の「こだわり、わりきり、おもいきり」に通じるものがありますね。 Q:確かに。そう考えると、現場よりマネジメントのほうが「独自性」にこだわりすぎて、わりきれなかった、ということが一因だったように思えます」、「マネジメントのほう」に責任があるようだ。「サイバーショットでは「ヒットモデルプロジェクト」を何年かごとに発動しています。開発のリソースを集中して、新規の専用デバイスを起こしていくんですね。その際にはモデル名に“1”というエースナンバーを付けて気合を入れるのが我々の伝統です」、「エースナンバーを付けて気合を入れる」、とは興味深い。
・『フラッグシップ機のナンバーを背負って  Q:おー、フラッグシップ機の称号。ベータマックスにも「F1」がありましたし、最近だとミラーレス一眼の「α1」とかですね。 石塚:そうそう。 Q:商品力をぐっと上げる専用のデバイスを新規開発して、宣伝広告にも力を入れてヒットを狙う。毎年やると大変だけど、大きく当てればそのマイナーチェンジでしばらく稼げる。その間に次を仕込む。そんな感じですか。 石塚:そうです。そして自分が手がける製品としては、P1がその1回目でした。レンズを新規で起こしたり、それから、液晶も小さな1.5インチという、すごく小さいのを作ったりしたんですね。 Q:1.5インチというと横幅約3.3センチというところでしょうか。本体がこれだけ小さければ無理もないですね。そして、デザインがガラッと変わりました。 石塚:どうしてこんなに横長かという話をすると、大前提として「よそのカメラと違うデザインにしよう」という意図がありました。そしてとにかく小さくしたい。背を低くしたい。 我々はメモリースティックをメディアとして使うわけですが、そこが一つの切り口になるわけです。コンパクトフラッシュとか、他のメディアは形状が正方形に近く、一辺が高いので、P1の背の低さに対抗できない。横にして入れたら分厚くなっちゃいますしね。そこで、とにかく押しつぶして横長にしたんです。メモリースティックは横長なので。 Q:ちなみに、ライバルとなるSDカード(SDメモリーカード)の発売は2000年第2四半期からでした。 石塚:そうすると、結果的にストロボと光学ファインダーが横に並んでしまいました。これがまた、後にカメラメーカーさんから「ソニーさん、これはご法度です」と、言われてしまうことになるんです。 Q:どうしてご法度なんですか。 石塚:カメラメーカーさんの常識から見ると許せないのは、まずファインダーというのは本来、レンズの光軸と合ってないといけないんです。だから、普通はレンズの真上かちょっとだけ斜め上にあるんですよ。横に置くと、撮れる画像と視野が変わっちゃうから。 Q:ああ、今でも本体の横に出せる「バリアングル液晶」にダメ出しする方は多いですね。あれと同じ理由ですね』、「結果的にストロボと光学ファインダーが横に並んでしまいました。これがまた、後にカメラメーカーさんから「ソニーさん、これはご法度です」と、言われてしまうことになるんです」、「カメラメーカーさんの常識から見ると許せないのは、まずファインダーというのは本来、レンズの光軸と合ってないといけないんです。だから、普通はレンズの真上かちょっとだけ斜め上にあるんですよ。横に置くと、撮れる画像と視野が変わっちゃうから」、なるほど。
・『社内の雰囲気は「やっちゃえ、ソニー!」  石塚:あと、ストロボの位置もレンズの光軸上にあるべきだと。レンズの横でストロボを使うと、横からライトが当たったことになっちゃうんですよ。 Q:だから本来はレンズの上、一眼レフならペンタプリズムがある軍艦部にストロボがないといけない。でも、場所がないから横に並べちゃったと。 石塚:そうそう。理屈はその通りなんですよ。禁じ手をやってしまったと。だけど、当時の僕、そして我々というのは「とにかく人と違うものをやる」と。「やっちゃえ、ソニー」みたいな感じで。 Q:やっちゃえ、ソニー(笑)。これは「割り切り」ってことですね。 石塚:それで、やっちゃうわけです(笑)。結果はどうかというと、P1は世界中で大ヒットしました。 Q:カメラの常識は障害にならなかったわけですね。当時すでにSシリーズが市場に投入されていましたが、その最上位機種であるS70と同等の性能(334万画素で光学式3倍ズーム搭載)を持ちながら、圧倒的にコンパクト。これは売れるわけです。 石塚:そうなんです。そして大ヒットしたが故に、僕は自分史上最大の試練に直面することになるわけですが。 Q:それはどういう……。 石塚:どういうって、「日経ビジネス」のおかげですよ(笑)。 Q:ええと?』、「場所がないから横に並べちゃったと・・・理屈はその通りなんですよ。禁じ手をやってしまったと。だけど、当時の僕、そして我々というのは「とにかく人と違うものをやる」と。「やっちゃえ、ソニー」みたいな感じで」、「これは「割り切り」ってことですね」、なるほど。
・『バッテリー関連の不具合で大クレーム発生  石塚:P1はバッテリー関連のトラブルを起こしました。それがきっかけで、日経ビジネスの「1万人アフターサービス調査」(2003年3月10日号)で、ソニーが前年の1位から最下位に転落するんです。 (編注:このトラブルについてのソニーの説明はこちらの平成15年4月15日の箇所を参照) Q:うわ、そうでしたか。どうしてそんなことが? 石塚:今だから言えるんですが、P1のバッテリーは、自分も関わった「RUVI(ルビ)」という乾電池2本で動作するビデオカメラ用に開発したものでした。RUVIは全然売れませんでしたが、乾電池2本サイズとコンパチのバッテリーは、P1にもってこいで、これ幸いと採用したんです。 Q:なるほど。ありそうなお話です。 石塚:でも、ビデオカメラとデジカメとでは用途がまったく違うんですよ。 Q:と言いますと。 石塚:ビデオカメラは、運動会とかイベントの際に引っ張り出されるけれど、デジカメは日常的に使われますよね。デイリーユースの商品に使うには、このバッテリーは耐久性が足りなかった。具体的には、冬に寒くなって電池の化学反応が鈍くなると、所期の性能が出なくなる。ところが、RUVIは売れなかったし、使われ方もデイリーユースとまでは残念ながらいかなかったのでしょう、クレームも上がってこなかった。 Q:なるほど。ところが、P1は大ヒットしたし、日常的に使われるから。 石塚:そうです。2002年冬になって大クレームが来ました。当時「2ちゃんねる」でいくつもスレッドが立つ大炎上になりました。もしかしたら初めて「ネットで炎上」した電気製品かもしれません。なので、経験知や免疫がなかった。 日経ビジネスでそれが取り上げられ、最終的には(全世界で)無償点検・サービスを実施することになりました。詳しく調査すると、バッテリーだけでなく、P1本体の消費電力やソフトウェア、充電アダプターなど複合的な原因がわかりました。自分のソニー人生最大の試練でしたし、そこから学ばせていただくことが、ものすごく多かった体験となりました。 Q:よろしかったら、別途詳しく聞かせていただけますか? 石塚:3時間くらいかかっちゃいますけれど、いいですか(笑)。 Q:望むところでございます。(つづきます)』、「2002年冬になって大クレームが来ました・・・もしかしたら初めて「ネットで炎上」した電気製品かもしれません。なので、経験知や免疫がなかった。 日経ビジネスでそれが取り上げられ、最終的には(全世界で)無償点検・サービスを実施することになりました。詳しく調査すると、バッテリーだけでなく、P1本体の消費電力やソフトウェア、充電アダプターなど複合的な原因がわかりました。自分のソニー人生最大の試練でしたし、そこから学ばせていただくことが、ものすごく多かった体験となりました」、「初めて「ネットで炎上」した電気製品かもしれません。なので、経験知や免疫がなかった」、「自分のソニー人生最大の試練でしたし、そこから学ばせていただくことが、ものすごく多かった体験となりました」、さぞかし大変な思いをしたものと、同情申し上げる。今後の対談の続きも、適宜、紹介していくつもりだ。
タグ:日経ビジネスオンライン 石塚 茂樹 他1名による対談「ソニーのデジカメ、初の大ヒットはちょっと意外なあのカメラ」 知り合った「糸口は故・小田嶋隆さんと“スシ”でした」というのはさもありなんだ。「マビカは80年代の前半にカメラ業界、フィルム業界を震撼させたソニーの発明、だったんだけれども、ビジネス的にはまったく成功せず終わったんですよ。 でも、このマビカのアイデアはその後、ソニーのデジカメの初ヒットにつながりました。この機種のヒットがあったからこそ、ソニーのデジカメは今に至っていると思います」、「なんてダサいんだ」、でも「世界で大ヒット」になったようだ。 「「誰かが出す前に、さっさと造ってよ」てな感じで。とにかくよそより先に出さないと意味がないと急(せ)かされて、半年とちょっとで造って、97年の夏に売り出して、大ヒットしました」、「自動車の保険会社さんとか不動産屋さんとか、写真が必要な仕事ってあるじゃないですか。もちろん、当時もデジカメはたくさん出ていたんですが、ほとんどの機種は内蔵メモリーに記録して、パソコンにケーブルで接続して読み出していましたよね・・・ところが、デジタルマビカはフロッピーディスク記録で、当時のパソコンはフロッピーディスクドライブがほぼ 標準装備だった。だから、デジタルマビカなら、撮って、ディスクを抜いて、パソコンに差し込めばいい。画像データもJPEG形式だから、専用ソフトは不要でダブルクリックすれば開ける。徹底的にシンプルなコンセプトが、「仕事で使う」人たちに受けて、成功したんです」、思いもかけないニーズにマッチして「成功した」とは面白いこともあるものだ。 「デジタルマビカについて、某カメラメーカーの方が、「実はうちも開発していた」が、「ソニーが出しちゃったものだから、二番煎じになっちゃうとよろしくないというのでやめたらしい」、製品開発にはタイムんぐも重要なようだ。 「デジタルマビカはデジカメとしての性能はほどほどでしたが、汎用性、使い勝手に集中したことで、米国と欧州で大ヒット」、「「ソニーのデジカメ」についての一定の存在感を市場に確立した」、見事だ。「サイバーショット初号機、F1」「「撮る、見る、飛ばす」を実現しようというものです。撮って、見てというのは液晶で見て、飛ばすというのはIrDA(赤外線通信)のことで、パソコン、そしてプリンターに送ることもできました。 Q:めっちゃ未来的、いかにもソニー」しかし、「あんまり売れなかった」、「売れなかった理由は、記録メモリーが内蔵式だったこと、そして電池が持たなくて、「サイバーちょっと」と言われていたんですよね・・・さらにビジネス的なことを言うと、材料費がものすごく高くて。 販売価格が9万円くらいでしたっけ、けっこう高級機でしたよね。 石塚:それでも逆ざやだったかもしれません。あまりうまくいかなかった」、時代の先を行き過ぎていたのかも知れない。 「やりたい人がやりたい仕事をやる、という。こういうのもメーカーにとって1つの理想のような気もするんですけれど。特に当時のソニーは、まだまだこういう「やりたい放題」が似合う会社、でしたよね。 石塚:確かに、このあたりはソニーらしいっちゃらしいんです。けれどもだいたい一発屋で失敗して終わるという。MDも1号機が出て、あとが続きませんでした。 さすがに上層部が「お前らいいかげんにしろ、1カ所でやれ」と言って、デジタルマビカが一番成功していたので、そこに統合されたわけです。当時はやりたい人がやりたいようにやっていたんだけれども、採算をちゃんと考えなかったり、品質が悪かったり、一言で言えばバランスが非常に悪かった。 Q:そんな中で目立ったヒットがデジタルマビカだった」、いかにも「ソニー」らしい開発スタイルだ。 「やりたい人がやりたい仕事をやる、という。こういうのもメーカーにとって1つの理想のような気もするんですけれど。特に当時のソニーは、まだまだこういう「やりたい放題」が似合う会社、でしたよね。 石塚:確かに、このあたりはソニーらしいっちゃらしいんです。けれどもだいたい一発屋で失敗して終わるという。MDも1号機が出て、あとが続きませんでした。 さすがに上層部が「お前らいいかげんにしろ、1カ所でやれ」と言って、デジタルマビカが一番成功していたので、そこに統合されたわけです。 当時はやりたい人がやりたいようにやっていたんだけれども、採算をちゃんと考えなかったり、品質が悪かったり、一言で言えばバランスが非常に悪かった。 Q:そんな中で目立ったヒットがデジタルマビカだった」、いかにも「ソニー」らしい開発スタイルだ。 「「セールストークは簡単なほうがいい」と。シンプル・イズ・ベストということで、だから、ケーブルなんか絶対に付けるな、専用ソフトは同梱するな、そこにこだわれ、とね」、「「こだわり、わりきり、おもいきり」・・・こだわるところにはこだわるけれども、それ以外の余分な要素は切り捨てて、割り切れ。決めたら、思いきりやれ、という。それは最初のヒットになった、デジタルマビカの教訓なのかもしれません」、凄い「フィロソフィー」だ。 「米国向けのセールスマニュアルには「イージー」という言葉がたくさん入っていましたよ。説明書を読まなくてもすぐ使えちゃうというね。 Q:使いやすさにこだわり、デザインや機能は割り切り、イージーを思いきり全面展開して売る、という・・・デジタルマビカは既存技術の寄せ集めといえば寄せ集め。でも、結局、フロッピーディスク記録のデジタルカメラでビジネスができたのは、ソニーだけだったわけです」、なるほど。 「ウォークマンもそういえばそういう、既存品のがっちゃんこプロダクトですね。でも「誰もやらないこと」だし、投資額もきっとしたいたことはなかった」、「誰もやらないことをやるためには、「新技術」「世界初」だけがその方法ではない、ということですね。無論、新技術、世界初、というのは技術者としてとてもいい手段、目標だと思います。でも、それにはお金も時間もかかる。そして、もうけることと両立しないと、やりたいこともできなくなってしまうわけです。技術者は自分の好きなことを続けるために、ちゃんともうけることも考えねばならない 」、「売れることだけをつい考えちゃったりしません?・・・そうなると本末転倒で。だから「人のやらない、やりたいこと」と「売れること」のせめぎ合いを常に強いられるんですよね。 Q:その辺の苦しさと面白さを、これからお話しいただければと思います」、次回が楽しみだ。 石塚 茂樹 他1名の対談「大ヒットと大炎上をデジカメ「P1」で味わう」 「当時のデジカメ用の記録メディアとしては、東芝が始めたスマートメディア、そしてコンパクトフラッシュがありましたよね・・・現場はスマートメディアを使おうと言っていたんですけれど、うちの上層部はまた……・・・「人のやらないことをやるのが、ソニーだ」みたいな感じで、軍門に下るなとか、自分たちでやれとか。それでメモリースティックの採用ということに。それ自体は正しいと思うんですけれど、ね」、 「カメラで撮ってメモリースティックに記録しても「相手」がいないとどうしようもないわけです。そこで、パソコンにつなぐアダプターやリーダーを作ったり、フォトフレームを作ったり、プリンターに入れたりと、色々な「相手」を開発したんです。でも後々、メモリースティックはサイバーショットにとって足かせになるんですね。ソニーしかやっていないから」、確かに「規格競争はソニーにとって鬼門の印象」、その通りだ。 「「マネをしない」「人のやらないことをやる」という企業カルチャーは、独自性によって商品を差異化するには大きなプラスでした。一方で、独自性をビジネス面や顧客価値・満足度とどうバランスを取るか、が、常にマネジメントのテーマになっていたのだと思います。前回の「こだわり、わりきり、おもいきり」に通じるものがありますね。 Q:確かに。そう考えると、現場よりマネジメントのほうが「独自性」にこだわりすぎて、わりきれなかった、ということが一因だったように思えます」、「マネジメントのほう」に責任があるようだ。 「サイバーショットでは「ヒットモデルプロジェクト」を何年かごとに発動しています。開発のリソースを集中して、新規の専用デバイスを起こしていくんですね。その際にはモデル名に“1”というエースナンバーを付けて気合を入れるのが我々の伝統です」、「エースナンバーを付けて気合を入れる」、とは興味深い。 「結果的にストロボと光学ファインダーが横に並んでしまいました。これがまた、後にカメラメーカーさんから「ソニーさん、これはご法度です」と、言われてしまうことになるんです」、「カメラメーカーさんの常識から見ると許せないのは、まずファインダーというのは本来、レンズの光軸と合ってないといけないんです。だから、普通はレンズの真上かちょっとだけ斜め上にあるんですよ。横に置くと、撮れる画像と視野が変わっちゃうから」、なるほど。 「場所がないから横に並べちゃったと・・・理屈はその通りなんですよ。禁じ手をやってしまったと。だけど、当時の僕、そして我々というのは「とにかく人と違うものをやる」と。「やっちゃえ、ソニー」みたいな感じで」、「これは「割り切り」ってことですね」、なるほど。 「2002年冬になって大クレームが来ました・・・もしかしたら初めて「ネットで炎上」した電気製品かもしれません。なので、経験知や免疫がなかった。 日経ビジネスでそれが取り上げられ、最終的には(全世界で)無償点検・サービスを実施することになりました。詳しく調査すると、バッテリーだけでなく、P1本体の消費電力やソフトウェア、充電アダプターなど複合的な原因がわかりました。自分のソニー人生最大の試練でしたし、そこから学ばせていただくことが、ものすごく多かった体験となりました」、 「初めて「ネットで炎上」した電気製品かもしれません。なので、経験知や免疫がなかった」、「自分のソニー人生最大の試練でしたし、そこから学ばせていただくことが、ものすごく多かった体験となりました」、さぞかし大変な思いをしたものと、同情申し上げる。今後の対談の続きも、適宜、紹介していくつもりだ。
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ソニーの経営(その10)(EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは ROIC導入でどのように復活したか、ソニー復活の集大成となるか?十時新社長の「本当の実力」) [企業経営]

ソニーの経営については、昨年3月27日に取上げた。今日は、(その10)(EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは ROIC導入でどのように復活したか、ソニー復活の集大成となるか?十時新社長の「本当の実力」)である。なお、タイトルから「問題」は削除した。

先ずは、昨年3月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した米国公認会計士でビジネス・ブレークスルー(BBT)大学大学院客員教授の大津広一氏による「EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは、ROIC導入でどのように復活したか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/299929
・『「資本コスト」「コーポレートガバナンス改革」「ROIC」といった言葉を新聞で見ない日は少ない。伊藤レポートやコーポレートガバナンス・コード発表以来、企業には「資本コスト」を強く意識した経営が求められている。では、具体的に何をすればいいのか。どの経営指標を採用し、どのように設定のロジックを公表すれば、株主や従業員が納得してくれるのだろうか? そこで役立つのが『企業価値向上のための経営指標大全』だ。「ニトリ驚異の『ROA15%』の源泉は『仕入原価』にあり」「M&Aを繰り返すリクルートがEBITDAを採用すると都合がいいのはなぜか?」といった生きたケーススタディを用いながら、無数の経営指標の根幹をなす主要指標10を網羅的に解説している。すでに役員向け研修教材として続々採用が決まっている。 そんな『経営指標大全』から、その一部を特別に公開する』、興味深そうだ。
・『EVAを使いこなせなかったソニーの「恨み節」  2000年代初頭、花王と並んでEVA(経済付加価値)採用企業としてもっとも著名であった日本企業は、おそらくソニー(現ソニーグループ)であろう。当時の会長兼グループCEOの出井伸之氏が肝いりで始めたソニーのEVAは、ソニーの先端的なイメージと重なり、経営指標として大きな脚光を浴びた。総合電機業界の多くの企業がEVA、またはそれに準ずる経営指標を導入する流れを作り出したといっても過言でない。 しかし、ソニーはその後の業績の急速な悪化により、2003年にはソニーショックと呼ばれるソニー株の暴落を引き起こした。道半ばで2005年6月に退任した出井氏とともに、EVAはソニーから完全に姿を消した。 出井氏は退任後に出版したソニー時代を振り返る著書『迷いと決断』の中で、EVAに対する思いを2ページにもわたって以下のように綴っている(*1)』、導入した「出井伸之氏」による「思い」とは、興味深そうだ。
・『理解されなかったEVA  ソニーのように、全く性質の異なる事業をいくつも抱えている企業にとっては、それぞれの事業を出来るだけ公平に評価するための「共通の尺度」が求められます。 そこで私は、EVA(経済的付加価値)という指標の導入を試みました。EVAはアメリカ生まれのコンセプトですが、ソニーのような複合企業には大変適した尺度です。複数の性質の異なる事業を1つの企業が統治している場合に、通常のバランスシートでは内実が見えにくいので、事業ごとに「仮想的に」バランスシートを分離して評価してみようというのが、このEVAの考え方です。 EVAで重要視されるのは「資本コスト」。平たく言えば、その事業にどれだけの資本が投入され、どれだけのスピードでその資本が回転して、どれだけの利益を生み出しているか、という点です。例えば、パソコンなどの組み立て産業には、投下資本はあまり必要ありませんが、販売・サポートなどには沢山の人手が必要になります。反対に、半導体の生産には大きな設備投資が必要で、変化のスピードも速いので、短期に資本を償却してしまいます。こうした性質の異なる事業を、「売上げ」と「利益率」という2つの尺度だけで評価するのではなく、売上げを立てるためにどれだけの「資本」が必要だったのかに注目したのがEVAなのです。 大規模な投資が必要な事業では資本回収のスピードを速くするなど、EVAは具体的施策にも直結する優れた指標なのです。またこれは、事業の性格を責任者に理解させ、事業のスピードアップを促すためのもので、毎月の売上げ数値の競争を誘発するような性質のものではありません。ところが、この基本が理解されずに、「ソニーはEVAを指標に使っているから長期的な投資が出来なくなった」などと、頓珍漢な批判が内部からも出されたりしたのは残念なことでした。 出井氏が記述している大部分は、EVAが資本コストを重視した、いかに優れた経営指標であるかという点と、特にソニーのように事業が多岐にわたる企業にもっとも適した経営指標であるという点であろう。これらはなんら否定するものではない。しかし、出井氏がこの文章の中でもっとも言いたかったのは、最後の一文ではないかと考える。「ソニーはEVAを指標に使っているから長期的な投資が出来なくなった」などと、頓珍漢な批判が内部からも出されたりしたのは残念なことでした。 EVAを短期的に上げることは非常に簡単である。儲かっている事業において、できるだけ投資を抑制すればよい。そうすることで、NOPAT(税引後営業利益)から差し引く投下資本は減少し、EVAは上昇する。それで部門の評価や部門長の賞与が決まるとあっては、事業責任者がそうした行動に偏向することは否めない。 安定した事業環境にあれば、すべてをEVAで意思決定する経営も悪くないが、大きな市場や技術の変化が起きているときには最大の注意を要する。将来の果実をつかむための先行投資を禁止する指標となってしまうからだ。 おそらくソニーは過度にEVAを重視した経営、短期的な評価もEVAに基づいて決定されるといった経営をやりすぎたのであろう。それを社員は指摘していたのだから、「頓珍漢な批判」で片づけられる代物でない。 経営指標でありながら、過度にやりすぎてはいけない。まるで矛盾するような示唆だが、ブラウン管から液晶へとテレビの市場や技術が大きな変化を遂げており、サムスン電子をはじめとしたライバル企業が虎視眈々と巨額の設備投資を液晶に向けて行っている下で、EVAを軸にして短期的に業績を評価する企業であっては、取り返しのつかない事態を引き起こす。短期の果実を得た代償として、長期的な優位性を失うトリガーとして、ソニーのEVAは寄与してしまったのではないだろうか。 これはEVAの限界ではなく、本書で紹介しているすべての経営指標の限界である。会計数値に基づいて計算する経営指標である以上、単年度ベースでの算出が基本となる。それが金科玉条だと言われれば、短期的な費用や投資の抑制によって、目標は達成できてしまうだろう。ROE、ROA、ROIC、営業利益、フリー・キャッシュフロー……、すべて同一である。 市場や技術、顧客といった環境変化によって大きな先行投資が必要とされる企業や部門にあっては、経営指標のターゲットの時期や水準の設定において、熟考しなくてはならないことの示唆を与える。イメージセンサーに代表されるソニーの世界的にシェアの高い半導体事業を捕まえて、ソニーの資産が膨らんでいるのは問題だ、などと批判する人があれば、事業内容をまったく理解していない「頓珍漢な批判」と一蹴されることだろう。 5年後のターゲットとしての設定や、3年間累計としての設定など、手法はいくらでもある。経営指標が社員の行動特性を導くのだから、社員に期待する行動特性を見据えたターゲットの設定が不可欠である』、「会計数値に基づいて計算する経営指標である以上、単年度ベースでの算出が基本となる。それが金科玉条だと言われれば、短期的な費用や投資の抑制によって、目標は達成できてしまうだろう。ROE、ROA、ROIC、営業利益、フリー・キャッシュフロー……、すべて同一である。 市場や技術、顧客といった環境変化によって大きな先行投資が必要とされる企業や部門にあっては、経営指標のターゲットの時期や水準の設定において、熟考しなくてはならないことの示唆を与える。イメージセンサーに代表されるソニーの世界的にシェアの高い半導体事業を捕まえて、ソニーの資産が膨らんでいるのは問題だ、などと批判する人があれば、事業内容をまったく理解していない「頓珍漢な批判」と一蹴されることだろう。 5年後のターゲットとしての設定や、3年間累計としての設定など、手法はいくらでもある。経営指標が社員の行動特性を導くのだから、社員に期待する行動特性を見据えたターゲットの設定が不可欠である」、その通りだ。
・『ROICの流行は「EVA経営」の再来  さて、出井氏が書籍の中で語っていた文章に今一度目をやり、「EVA」の個所を「ROIC」に置き換えて読んでみてほしい。いかがだろう。まったく違和感なく、文章としてすべて成立していることが確認できよう。 EVAが悪者だという方がもしあれば、それはROICが悪者だと言っていることに等しい。もちろん短期的にはROICやEVAを重視しない成長著しい企業であればそれでも良かろう。しかし第7章で触れたROIC導入を進める日本企業の増大は、形を変えた「EVA経営の再来」と見ることもできるのである。 かくいうソニーもまた、ROIC経営で復活を遂げた企業である。ソニーは2015年に発表した第二次中期計画(2015~17年度)において、図表1の1枚のスライドを示し、ROE重視の経営と、そのためのROICによる事業管理を明確化した。 図表1 ソニーグループのROEとROIC重視の経営 事業領域1 成長牽引領域 “成長に向けた施策と集中的な投資により、売上成長と利益を実現” デバイス、ゲーム&ネットワークサービス、映画、音楽  事業領域2 安定収益領域  “大規模な投資は行わず、着実な利益計上、キャッシュフロー創出を目指す” イメージング・プロダクツ&ソリューション、ビデオ&サウンド  事業領域3 事業変動リスクコントロール領域 “事業の変動性や競争環境を踏まえ、リスクの低減と収益性を最優先” モバイル・コミュニケーション、テレビ  EVA時代と異なるのは、事業を大きく3つの領域に切り分け、P/L(売上、利益)とB/S(投下資本)に関する方向性について、対外的に明示したことであろう。時間軸は記載されていないものの、デバイス、ゲーム、映画、音楽が含まれる成長牽引領域は、投下資本を積極的に増加するとしており、短期的にはROICは悪化することもいとわない方針とも読み取れる。 イメージング(主にカメラ)やビデオが含まれる安定収益領域は、売上は横ばい、利益は微増、投下資本は微減と、正に「安定」であることを求めており、過度な成長や投資は、もはや期待していない。 そして最大の特徴は、事業変動リスクコントロール領域と呼ばれる3つめの領域に、従来のソニーの中心事業でもあったモバイルとテレビが含まれていることである。売上と投下資本は減少させ、利益は黒字化・改善を目指すとされている。 これら市場にはアップルやサムスン電子など、世界で強力なライバルが出現し、2015年時点ではソニーはどちらも赤字が継続する事業であった。もはや規模やシェアの競争では勝ちえない。選択と集中やコストの徹底的な削減、アセットライトの推進によって、確実にROICを生み出す事業にしていきたいという意思表明である。 ソニーのモバイルやテレビに携わる社員からすれば、もはや投資はできるだけ抑制して利益を出しなさいという、ショッキングな経営方針かもしれない。しかし長年にわたって赤字を計上してきた事業であり、ソニー全社のROEへの強いコミットメントに基づいて各事業に対して求められたROIC経営である。 EVA時代はすべてまとめてEVA、かつ足元からの単年度ベースで厳しく管理、といった印象であったが、ROIC経営では、各事業においてどのようにROICを作り出していくのかが経営方針として明示された。社員は自分たちの各事業において何を実行し、どういった数値を作り出すことが求められ、そして実現した際に評価されるのか。道筋は明らかになったものと推察する。 EVAで失われた15年を作り出したソニーが、実質的には同じ経営指標であるROICで復活を果たした。経営指標そのものが良い者、悪い者では決してない。すべてはその運用の仕方だということを明示する好例であろう。 ROIC経営の浸透によって、EVAは影を潜めた印象にあるが、本質的にはROIC経営が目指すところとまったく同一である。資本コストはパーセントで示されるので、同じパーセントであるROICのほうが比較上もわかりやすいというメリットはあるだろう。また、ROICは必ずしも資本コストという言葉を使わなくても、「目標10%」のように具体的な数値で目標を設定してしまっても構わない。 これに対してEVAは計算式の中にWACC(加重平均資本コスト)が存在するため、WACCの設定に苦慮し、計算されたEVAも実額なのでこれを時系列での成長率や、将来予測EVAの現在価値で考えるなど、もう一段の手間を要する。一般の社員からすれば、EVAよりROICのほうが理解しやすい、という面は否めない。 しかし、出井氏の文章で試みたように、EVAをROICと置き換えても意味はすべて通じる。両者の目指す姿、すなわち資本コストに基づいて事業を評価し、企業価値の向上を実現するための経営指標という点において、両者は寸分たがわないのだ。 姿を消したと思われた日本のEVA経営は、ROIC経営という形で、現在進行系で隆盛を極めているのである』、「EVAで失われた15年を作り出したソニーが、実質的には同じ経営指標であるROICで復活を果たした。経営指標そのものが良い者、悪い者では決してない。すべてはその運用の仕方だということを明示する好例であろう。 ROIC経営の浸透によって、EVAは影を潜めた印象にあるが、本質的にはROIC経営が目指すところとまったく同一である」、「姿を消したと思われた日本のEVA経営は、ROIC経営という形で、現在進行系で隆盛を極めているのである」、なるほど。

次に、本年2月3日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「ソニー復活の集大成となるか?十時新社長の「本当の実力」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317118
・『十時新社長に期待する「戦略家」としての手腕  ソニーグループは同社の十時裕樹副社長兼CFOを、4月1日付で社長に昇格させる人事を発表した。この人事は2000年代以降のソニーの経営不振とその後のリカバリーという、一連のイベントの集大成といえるかもしれない。 イノベーションとは、新たな組み合わせやアイデアで新製品や新事業を起こすことであるが、イノベーションの定義には「経済的な収益が得られるもの」ということがある。それが単なる発明(インベンション)とイノベーションとの違いだ。 20世紀はエレクトロニクスの技術の変化が大きく、新たな発明が新たな機能や性能を生み出し、インベンションを起こすだけでも企業に収益がもたらされてきた。そのため、日本企業の多くのイノベーション施策の焦点が技術開発だけに絞られてきた。しかし2000年代以降、技術がデジタル化すると機能・性能は一気に上昇し、機能・性能だけでは製品の差別化が難しくなった。 またデジタル化は、ソフトウエア、半導体中心の開発となり、莫大な固定費をカバーするために、よりオープンな環境で競合企業とも協業しながら、自社の収益の最大化を考えなければならない状況を生み出した。この状況をいち早く予見したのが、ソニー創業者の井深大氏である。 ソニーは1982年にCDを発売し、デジタル技術に率先して取り組んだイメージがあるが、井深氏はデジタルが嫌いであったという。嫌いというより、デジタルのリスクを理解していたというべきかもしれない。デジタルになると高品質なものが大量に複製される。そうした厳しい環境の中でどのようにビジネスをすべきか、覚悟をもってデジタルには取り組まなければならないというのが井深氏の考えであった。 つまり2000年代以降のエレクトロニクス産業は、素朴に技術開発を行うだけではなく、きちんとした戦略的な取り組みが重要になったのだが、技術一辺倒できた日本企業はそうした状況になかなか適合できなかったといえる。) その点でいえば、十時氏は一貫して戦略家であった。十時氏といえば、ソニー銀行を作ったことで知られるが、生命保険会社をグループに持つとはいえ、まったく知見のないところから新銀行を作り、他社と差別化し、ソニー銀行をソニーの金融グループの中核企業に育て上げた手腕は十時氏の戦略家としての実力と言える』、「十時氏は「吉田氏」と同様に財務部門出身である。個別の技術部門出身とは異なり広い視野で考える訓練を積んできたのが、実った可能性がある。
・『イノベーションを語る上で重要な価値創造と価値獲得のフェーズ  先にイノベーションには経済的収益が必要と述べたが、MITスローンマネジメントスクールでは、イノベーションを価値創造と価値獲得のフェーズに分けて説明している。価値創造とは、どのような製品や事業を新たに生み出すか、何を作るかの話である。一方価値獲得は、想像した価値からどのように収益化を生み出すかという議論である。 たとえば、最近のソニーの好調な事業のひとつにCMOSイメージセンサーがある。なにかと昨今話題の半導体産業で、日本がほぼ唯一グローバルにトップをとることができている半導体製品である。これも、単に優れた半導体製品を作れば自動的にトップになれるというものではない。 日本の多くの新規半導体企業が「いたずらに数を追わず製品力で差をつける」としながら競争に敗れたのも、まさに数を追わないその姿勢に問題があった。ソニーは近年のリカバリーの中で、多くの事業を整理し、ただ単に数を追うだけのビジネスからは撤退している。しかし半導体については、いまだにしっかりとした設備投資を続け、数を追っている。これは、半導体が装置産業であり「1位企業総どり」の事業であるからだ。 そうした中で、しっかりと設備投資を続けていること、またそうした事業の展開について適切なタイミングで的確な情報をステークホルダーに提供していることも、最近のソニーの特徴であり、それはCFOとしての十時氏の力量によるところが大きい。歴史的に直接金融の比率が高いソニーにおいて、こうした的確な情報開示によって、ステークホルダーからの信認を得ることは非常に重要だ』、「歴史的に直接金融の比率が高いソニーにおいて、こうした的確な情報開示によって、ステークホルダーからの信認を得ることは非常に重要だ」、その通りだ。
・『堅実で地味に見える十時氏だからこそ求められる理由  ただ、派手なプレゼンテーションと「感動」というキーワードで新たなソニーの方向性を打ち出した平井一夫前会長や、昨今のCESにおけるEVのプレゼンなどで注目を集めた吉田憲一郎会長に比べると、十時氏は堅実で地味に見えるかもしれない。しかし、それこそが今のソニーのマネジメントに求められるものであろう。 一言で戦略といっても環境に応じてやらなければならないことや、そこで必要な組織や人材は異なる。ハーバード大学の故ウィリアム・J・アバナシー教授は、不確実性の高低によってイノベーションの性質が異なることを発見した。簡単に言えば、不確実性が高い局面では効率よりも効果を重視して、新たな価値創造が求められるのに対し、不確実性が低い局面では、効率性を重視して確実な価値獲得が必要だということだ。 この議論に組織論における「探索と活用」という議論を組み合わせて、異なるイノベーションの局面ごとに必要な組織形態があることを示したのが、マイケル・L・タッシュマン氏とチャールズ・A・オライリー氏の示した「両利きの組織」の議論である。 2000年代以降、ソニーがタービュラントな環境に巻き込まれ、新たな方向性を打ち出すためには平井氏のような探索型、効果重視のマネジメントが重要であったといえる。吉田氏が打ち出した人に近づく、あるいは動くものを作るという方向性で、aiboやドローン、EVに進出したのも探索型の戦略である。 しかし、これらは価値創造、価値獲得のフレームワークでいえば、価値創造の話である。ソニーは歴史的に価値創造が得意な会社だ。テープレコーダー、トランジスタラジオ、トリニトロンカラーテレビなど、20世紀は技術に裏付けられた価値創造だけで持続的に収益を得ることができていた。しかし、先に述べたように今日の経営環境では、それだけではメーカーの経営は成り立たない。 今求められるのは、平井氏以降に打ち出された新たな事業や製品を着実に成長させ、しっかりと価値獲得に結び付けることだ。言い方は悪いが、ソニーにはこれまで「作りっぱなし」にしてきた失敗の過去がある。出井伸之会長時代の多くの新事業もその多くは先見性があり、しっかりと育てていれば今日のソニーの中核ビジネスに育っていたはずのものも多くあった。しかし、価値創造中心のソニーの経営の中では、しっかりと育て、収益を獲得するプロセスが不十分であった』、「今求められるのは、平井氏以降に打ち出された新たな事業や製品を着実に成長させ、しっかりと価値獲得に結び付けることだ。言い方は悪いが、ソニーにはこれまで「作りっぱなし」にしてきた失敗の過去がある」、「価値創造中心のソニーの経営の中では、しっかりと育て、収益を獲得するプロセスが不十分であった」、なるほど。
・『ソニーの弱点だった「価値獲得」を実現できるか  十時氏は、ソニー銀行を育てた後、ISPのSo-netでコーポレートベンチャーキャピタルを担当、その後、不振の携帯電話事業の立て直しを指揮するなど、事業を育てることに長けた人材だ。ソニーの中では珍しく、価値獲得のプロセスを堅実に担える人材であるともいえる。 現在のソニーを立て直した経営者が、平井氏、吉田氏、十時氏の三銃士であることに、多くの人は異論がないと思われるが、3人の共通点は、ソニーの周縁の事業で社長として経営を行ってきたことである。単に技術を知っている、特定の事業で成果を上げたというだけでなく、企業の経営者として組織を運営してきた、戦略の力を持った人材がトップに就いたというのが、ソニーのリカバリーの大きな要因と言えよう。 今後のソニーに対する期待は、着実に事業を成長させることができる十時氏によって、EVなどの新事業を成長させ、しっかりと価値獲得に結び付けることであり、このプロセスこそが今までのソニーの弱点であり、今後期待すべきところといえる。その意味で、十時氏の社長就任はソニーのリカバリーの集大成といえる。 一方で課題はある。現在は、ドローンやEVなどの新事業を効率よく成長させるという、両利きの探索と活用でいえば活用が重要な局面であり、十時氏の本領が発揮されるタイミングである。しかし、どの事業も成長の後には成熟化が待っている。効率と活用がメインの時であっても、次の探索のフェーズに備えて、新たな種まきは必要となる。そうした探索型の次世代のリーダーを育て、経営チームに加えていくことが、十時体制のもう一つの役割といえよう』、「平井」氏は国際基督教大学出身で英語が流暢、ストリンガー氏により引き上げられた人物。「今後のソニーに対する期待は、着実に事業を成長させることができる十時氏によって、EVなどの新事業を成長させ、しっかりと価値獲得に結び付けることであり、このプロセスこそが今までのソニーの弱点であり、今後期待すべきところといえる。その意味で、十時氏の社長就任はソニーのリカバリーの集大成といえる。 一方で課題はある。現在は、ドローンやEVなどの新事業を効率よく成長させるという、両利きの探索と活用でいえば活用が重要な局面であり、十時氏の本領が発揮されるタイミングである。しかし、どの事業も成長の後には成熟化が待っている・・・次の探索のフェーズに備えて、新たな種まきは必要となる。そうした探索型の次世代のリーダーを育て、経営チームに加えていくことが、十時体制のもう一つの役割といえよう」、同感である。
タグ:ソニーの経営 (その10)(EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは ROIC導入でどのように復活したか、ソニー復活の集大成となるか?十時新社長の「本当の実力」) ダイヤモンド・オンライン 大津広一氏による「EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは、ROIC導入でどのように復活したか」 経営指標大全 導入した「出井伸之氏」による「思い」とは、興味深そうだ。 「会計数値に基づいて計算する経営指標である以上、単年度ベースでの算出が基本となる。それが金科玉条だと言われれば、短期的な費用や投資の抑制によって、目標は達成できてしまうだろう。ROE、ROA、ROIC、営業利益、フリー・キャッシュフロー……、すべて同一である。 市場や技術、顧客といった環境変化によって大きな先行投資が必要とされる企業や部門にあっては、経営指標のターゲットの時期や水準の設定において、熟考しなくてはならないことの示唆を与える。 イメージセンサーに代表されるソニーの世界的にシェアの高い半導体事業を捕まえて、ソニーの資産が膨らんでいるのは問題だ、などと批判する人があれば、事業内容をまったく理解していない「頓珍漢な批判」と一蹴されることだろう。 5年後のターゲットとしての設定や、3年間累計としての設定など、手法はいくらでもある。経営指標が社員の行動特性を導くのだから、社員に期待する行動特性を見据えたターゲットの設定が不可欠である」、その通りだ。 「EVAで失われた15年を作り出したソニーが、実質的には同じ経営指標であるROICで復活を果たした。経営指標そのものが良い者、悪い者では決してない。すべてはその運用の仕方だということを明示する好例であろう。 ROIC経営の浸透によって、EVAは影を潜めた印象にあるが、本質的にはROIC経営が目指すところとまったく同一である」、「姿を消したと思われた日本のEVA経営は、ROIC経営という形で、現在進行系で隆盛を極めているのである」、なるほど。 長内 厚氏による「ソニー復活の集大成となるか?十時新社長の「本当の実力」」 「十時氏は「吉田氏」と同様に財務部門出身である。個別の技術部門出身とは異なり広い視野で考える訓練を積んできたのが、実った可能性がある。 「歴史的に直接金融の比率が高いソニーにおいて、こうした的確な情報開示によって、ステークホルダーからの信認を得ることは非常に重要だ」、その通りだ。 「今求められるのは、平井氏以降に打ち出された新たな事業や製品を着実に成長させ、しっかりと価値獲得に結び付けることだ。言い方は悪いが、ソニーにはこれまで「作りっぱなし」にしてきた失敗の過去がある」、「価値創造中心のソニーの経営の中では、しっかりと育て、収益を獲得するプロセスが不十分であった」、なるほど。 「平井」氏は国際基督教大学出身で英語が流暢、ストリンガー氏により引き上げられた人物。「今後のソニーに対する期待は、着実に事業を成長させることができる十時氏によって、EVなどの新事業を成長させ、しっかりと価値獲得に結び付けることであり、このプロセスこそが今までのソニーの弱点であり、今後期待すべきところといえる。その意味で、十時氏の社長就任はソニーのリカバリーの集大成といえる。 一方で課題はある。現在は、ドローンやEVなどの新事業を効率よく成長させるという、両利きの探索と活用でいえば活用が重要な局面であり、十時氏の本領が発揮されるタイミングである。しかし、どの事業も成長の後には成熟化が待っている・・・次の探索のフェーズに備えて、新たな種まきは必要となる。そうした探索型の次世代のリーダーを育て、経営チームに加えていくことが、十時体制のもう一つの役割といえよう」、同感である。
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”右傾化”(その14)(神社本庁トップが失脚か 2人が新総長を自認で「南北朝時代」突入を危惧する声、神社本庁の代表役員について(東京地裁判決)、老父のネトウヨ化に心乱された息子が「ネトウヨの専門的研究」を読んで驚いたこと…ネトウヨの数は意外に少なかった、老いて差別発言をしていた父…それは本当に「ネット右翼化」だったか? ネトウヨの「定義」を学んで見えたこと、DHCと虎ノ門ニュースが残した厄介な「右派市場」) [社会]

”右傾化”については、2021年6月19日に取上げた。久しぶりの今日は、(その14)(神社本庁トップが失脚か 2人が新総長を自認で「南北朝時代」突入を危惧する声、神社本庁の代表役員について(東京地裁判決)、老父のネトウヨ化に心乱された息子が「ネトウヨの専門的研究」を読んで驚いたこと…ネトウヨの数は意外に少なかった、老いて差別発言をしていた父…それは本当に「ネット右翼化」だったか? ネトウヨの「定義」を学んで見えたこと、DHCと虎ノ門ニュースが残した厄介な「右派市場」)である。

先ずは、昨年6月3日付けダイヤモンド・オンライン「神社本庁トップが失脚か、2人が新総長を自認で「南北朝時代」突入を危惧する声」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304305
・『全国約8万社の神社を傘下に置く宗教法人、神社本庁。6月3日に満期を迎える、その巨大宗教法人のトップ人事が目下、前代未聞の大混乱。新総長を自認する2人が併存しかねない事態に陥っている』、「神社本庁」で「新総長」を巡って「前代未聞の大混乱」とは興味深そうだ。
・『象徴的な存在である統理が「指名権」を使って田中氏を“失脚”か  「もう好きにやってくれよ、という感じですね」――。 全国約8万社の神社を傘下に置く宗教法人、神社本庁。その幹部の一人は取材にそう投げやりに答えた。 日本最大の信者数を誇る巨大宗教法人のトップ人事が、過去に類を見ない大混乱に陥っている。 神社本庁(ひいては神社界)の象徴で「聖」の部分を担う「統理」に対し、「俗」の部分を担う事務方のトップで事実上の権力を持つのが、神社本庁「総長」だ。 現在の統理は鷹司尚武氏。公家の家格の頂点である「五摂家」の一つ、鷹司家の現当主であり、昭和天皇の第3皇女の養子で、上皇陛下の義理の甥に当たる人物だ。家柄だけでなく、慶應義塾大学大学院修了後、日本電気(NEC)に入社、最後はNEC通信システム社長を務め、神社界の“外”でも功績を残している。 一方、6月3日に任期満了を迎える現在の総長は、田中恆清氏。歴代最長の4期目にあり、4日以降も前人未到の5期目突入を狙っていたとされる。神道政治連盟会長、打田文博氏と共に神社界を牛耳る2トップと言われてきた人物だ。 そして、5月28日に開かれた神社本庁役員会で、6月4日付け以降の新総長の人選が図られたが、「多くの役員から田中氏の再任に異議を唱える声が続出した一方、吉川通泰副総長ら田中派も納得せず、激しく紛糾した」(神社本庁関係者)という。 その理由は、本編集部が報じた神社本庁の不動産売却(関連記事:『神社本庁で不可解な不動産取引、刑事告訴も飛び出す大騒動勃発』)を巡り、田中氏を含む神社界の上層部と業者の癒着があったと内部告発した結果、懲戒処分を受けた元幹部職員2人が地位確認を求めた訴訟で、最高裁が4月、神社本庁の上告を退けて、2人への処分無効と未払い賃金の支払いを命じた1、2審判決が確定したことにある。 全面敗訴となったこの上告を、半ば強引に組織決定した田中氏の責任が追及されたわけだ。 そして、役員会の終盤、鷹司統理が、田中氏失脚を意味する、鶴の一声を発する――。 なんと鷹司統理自身が、“新総長”として、北海道神社庁長で神社本庁理事を務める芦原高穂氏を指名したのだ。芦原氏もこれを承諾したという。 この意味について、馴染みのない人にも分かりやすく例えれば、天皇は内閣総理大臣の「任命権」を持つが、これとほぼ同じく、統理は神社本庁総長の「指名権」を持つ。 異なっているのは、総理大臣の方は「国会の指名によって」という但し書きがつく一方、神社本庁総長の方は庁規によって「役員会の議を経て、(中略)統理が指名」と定められている点だ。 だが、もちろん統理自らの判断による指名は前代未聞の出来事。従来の総長人事は、役員会で「統理一任」となるものの、その実、内々に決まっていた人物の名が書かれた紙が事前に事務方から統理に渡され、統理はそれを読み上げるのが慣例となっていた。「鷹司統理は、(役員会に先立って開かれた)評議員会で噴出した田中総長の再任に反対する声を勘案したのではないか」と、神社関係者はその心中を推測する。 4日以降の新総長は一体、誰になるのか?神社本庁は3日13時現在、「まだ総長人事は決まっていない」とした。一方、前出の神社本庁幹部は「田中派の幹部や役員たちは、『役員会で結論が出ていない以上、4日以降も田中氏が総長だ』という立場を崩していない。このままでは最悪、総長を自認する人間が2人並存するという、“南北朝時代”さながらのめちゃくちゃな事態になりかねません」と話す。 前述の裁判の全面敗訴だけに止まらず、近年の田中総長体制下の神社本庁では、田中・打田両氏の右腕と言われ、裁判担当も務めた神社本庁兼神政連幹部職員の不倫疑惑(関連記事:『安倍応援団の神社幹部が不倫か、神社界揺るがす裁判に影響も』)など醜聞続き。さらには、「先の大嘗祭では、本来あるはずの宮内庁から神社本庁への相談さえなく、鷹司氏は神社本庁統理としてではなく、鷹司家のご当主として呼ばれている。宮内庁も現在の神社本庁と距離を置き始めている」(別の神社関係者)とされる。 土壇場で新総長は1人に絞られるのか、4日以降の展開が注目されるが、少なくても「神は八百万いるから総長も…」とはいかないだろう』、「神社本庁の不動産売却・・・を巡り、田中氏を含む神社界の上層部と業者の癒着があったと内部告発した結果、懲戒処分を受けた元幹部職員2人が地位確認を求めた訴訟で、最高裁が4月、神社本庁の上告を退けて、2人への処分無効と未払い賃金の支払いを命じた1、2審判決が確定したことにある。 全面敗訴となったこの上告を、半ば強引に組織決定した田中氏の責任が追及」、「鷹司統理自身が、“新総長”として、北海道神社庁長で神社本庁理事を務める芦原高穂氏を指名したのだ。芦原氏もこれを承諾した」、「神社本庁総長の方は庁規によって「役員会の議を経て、(中略)統理が指名」と定められている」、「このままでは最悪、総長を自認する人間が2人並存するという、“南北朝時代”さながらのめちゃくちゃな事態になりかねません」、大変だ。

次に、昨年12月27日付け神社本庁「神社本庁の代表役員について(東京地裁判決)」を紹介しよう。
https://www.jinjahoncho.or.jp/10024
・『本庁理事の芦原髙穂氏により、自らが代表役員総長の地位にあることの確認を求める訴訟が提起されていましたが、東京地方裁判所は12月22日付で請求を棄却し、芦原氏は神社本庁の代表役員の地位にないとの判決を言い渡しました。 本判決では、代表役員総長選任の根拠となる庁規12条2項「総長は、役員会の議を経て、理事のうちから統理が指名する」の趣旨について、神社本庁の主張を認め、「総長の選任に関し、役員会が議決により次期総長を決定し、それに基づいて統理が当該次期総長を指名することが必要である旨を定めている」と判示しています。 代表役員総長の選任に際して、役員会の判断(議決)と統理の指名のいずれが実質的な決定権を有するかという点が争点となっていましたが、本判決では、・役員会が総長を実質的に決定することを予定、・統理の指名という行為も、実質的には役員会の判断で行われる、 と明確に判断されました。 本判決の判断によれば、本年6月23日開催の役員会において、田中理事を総長に選任すると判断(議決)されている以上、実質的に総長は田中理事に決定されており、その役員会の判断に基づいて統理による指名がなされるべきであるにもかかわらず、指名が為されていない状態にあることとなります。 本判決により、芦原理事によって本庁内部の正式な手続を経ずに行われた代表役員変更登記申請に端を発した、総長選任をめぐる一連の混乱状況も、収束に向かい大きく前進するものと考えられます。 神社における新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」を令和4年12月8日付で改定しました。 神社本庁の代表役員について(東京地裁判決)に判決文を追加しました』、「総長の選任に関し、役員会が議決により次期総長を決定し、それに基づいて統理が当該次期総長を指名することが必要である旨を定めている」と「統理」の「指名権」を「役員会」の「議決」に基づくものとして、本庁側の言い分を全面的に認めた形だ。しかし、現執行部の問題には触れなかったため、今後も場合によって再燃する可能性もあるだろう。

第三に、本年1月29日付け現代ビジネスが掲載した文筆業の鈴木 大介氏による「老父のネトウヨ化に心乱された息子が「ネトウヨの専門的研究」を読んで驚いたこと…ネトウヨの数は意外に少なかった」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/104477?imp=0
・『「老いた親が突然、韓国や中国を罵倒するような言葉を吐くようになって戸惑っている」 昨今、そんな声をしばしば耳にするようになりました。 ルポライターの鈴木大介さんも、父親が老いとともに「ネット右翼」的な言動をとるようになったことに戸惑った一人です。 父親の「右傾化」について探るなかで鈴木さんは、専門書や一般書を読みながら、「そもそもネット右翼とはなんなのか」という疑問に、自分のなかで答えを出していきます。 鈴木さんの新著『ネット右翼になった父』より、そのプロセスをお届けします』、興味深そうだ。
・『ネット右翼を知るための6冊  そもそもネット右翼とは何か、保守とは何か。この検証は、それを僕自身の中にあるイメージではなく、先行調査や研究に求めるところから始めた。 参考資料とさせていただいたのは、ある程度左右両面からの視点を求めて、下記の6冊とした。 A『日本人は右傾化したのか―データ分析で実像を読み解く』田辺俊介編著(勁草書房) B『ネット右翼とは何か』樋口直人他著(青弓社ライブラリー) C『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』三浦瑠麗著(文春新書) D『保守とネトウヨの近現代史』倉山満著(扶桑社新書) E『右派はなぜ家族に介入したがるのか―憲法24条と9条』中里見博他著(大月書店) F『朝日ぎらい―よりよい世界のためのリベラル進化論』橘玲著(朝日新書)) たぶん、右派からも左派からも「その選書はなんだ!?」と猛烈なツッコミを受けそうだが、僕自身は論壇の人間でも右翼の中の人でも左翼のど真ん中な人でもないので、資料そのものの是非や研究の精度はさておく。 とはいえこの6冊、少なくとも「僕の父は何者だったのか」について思考と検証を進めるガイドとしては、十二分なセレクトだったように思う』、「この検証は、それを僕自身の中にあるイメージではなく、先行調査や研究に求めるところから始めた」、ずいぶん本格的だ。
・『ネット右翼は人口の2%に満たないマイノリティ  まず、これらの資料で複数の研究調査が言及しているのは、ネット右翼が社会の中では極めてマイノリティであること。ネット上のアノニマス(無名・匿名)による言論は、同じ人物が重複して発言することで発言主の実数を誤認しがちではあるが、実際は調査対象(=人口)の2%に満たないマイノリティだということだ。 加えて保守、保守本流を自認する人々の多くは、ネット右翼と呼ばれる人々を決して好感を持って受け入れているわけではなく、どちらかと言えば嫌悪や侮蔑、「ネット右翼をもって保守を語られたくない」「まして一緒になんて絶対にされたくない」という感覚を持っているということも知った(最もわかりやすかったのは、保守サイドの歴史学者である倉山満の著書〈資料D〉のネット右翼批判だ)。 あまり想像したこともなかったが、それはまあ、そうなのだろう』、「ネット右翼は人口の2%に満たないマイノリティ」、意外な少なさに驚いた。「同じ人物が重複して発言することで発言主の実数を誤認しがち」なためだろう。「加えて保守、保守本流を自認する人々の多くは、ネット右翼と呼ばれる人々を決して好感を持って受け入れているわけではなく、どちらかと言えば嫌悪や侮蔑、「ネット右翼をもって保守を語られたくない」「まして一緒になんて絶対にされたくない」という感覚を持っている」、なるほど。
・『リベラルの中の多様性  僕自身はどちらかと言えばリベラル寄りの思想の持ち主だと思うが、反戦思想を持っているからと言って「原理主義的な護憲主義者」とは一緒にされたくないし、原発再稼働慎重派ではあっても「関東圏は汚染して住めないみたいな非科学的なラジオフォビア(注)の方々」とは、やっぱり一緒にしてほしくない気持ちはある。 気持ちだけではなく、これまで貧困問題にかかわる文筆活動をするうえで、国会前のデモなどで反原発や慰安婦問題にかかわるものと反貧困のプラカードがごちゃまぜにして出されることに対しては、具体的な不利益を感じていた。 マイノリティだからこそ、集まって声を上げる必要性があるのはわかる。けれど、掲げるのはシングルイシュー(問題点や論点が一つ)でなければ、本来味方になってくれる人たちを取りこぼしてしまう可能性があるからだ。 さらなる「ネット右翼」についての検証を【つづき】「老いて差別発言をしていた父…それは本当に「ネット右翼化」だったか? ネトウヨの「定義」を学んで見えたこと」(1月29日公開)でお伝えします』、「僕自身はどちらかと言えばリベラル寄りの思想の持ち主だと思うが、反戦思想を持っているからと言って「原理主義的な護憲主義者」とは一緒にされたくないし、原発再稼働慎重派ではあっても「関東圏は汚染して住めないみたいな非科学的なラジオフォビア(注)の方々」とは、やっぱり一緒にしてほしくない気持ちはある」、「リベラル」の弱味なのかも知れない。
(注)ラジオフォビア:放射線恐怖症(Wikipedia)

第三に、1月29日付け現代ビジネスが掲載した文筆業の鈴木 大介氏による「老いて差別発言をしていた父…それは本当に「ネット右翼化」だったか? ネトウヨの「定義」を学んで見えたこと」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/104480?imp=0
・『「老いた親が突然、韓国や中国を罵倒するような言葉を吐くようになって戸惑っている」  昨今、そんな声をしばしば耳にするようになりました。 ルポライターの鈴木大介さんも、父親が老いとともに「ネット右翼」的な言動をとるようになったことに戸惑った一人です。 父親の「右傾化」について探るなかで鈴木さんは、専門書や一般書を読みながら、「そもそもネット右翼とはなんなのか」という疑問に、自分のなかで答えを出していきます。 鈴木さんの新著『ネット右翼になった父』より、そのプロセスをお届けします』、興味深そうだ。
・『ネット右翼の三大標的は「朝日」「民主党」「韓国」  ネット右翼の定義については資料によって様々な基準があるが、最もシンプルに感じたのは、『ネット右翼とは何か』樋口直人他著(青弓社ライブラリー)の中で紹介されていた大阪大学大学院人間科学研究科准教授による「計量調査から見る『ネット右翼』のプロファイル」だった。 この調査では、ネット右翼の基準として、 1.中国と韓国への排外的態度 2.保守的・愛国的政治志向の強さ 3.政治や社会問題に関するネット上での意見発信・議論への参加経験 の三つの条件を満たす者と定義した。) そのうえで、2014年段階の調査で、これら条件を満たす者=ネット右翼の割合を全標本中の1・8%(ネット利用者全般における1%未満)と結論。さらに2.の保守や愛国的志向はないが、嫌韓嫌中でネット上での意見発信活動がある者を「オンライン排外主義者」、またSNS等での情報発信がない者を「非ネット排外層」と分類した。 では、この基準に僕の父を照らし合わせたらどうだろう。振り返って考えれば、父は「非ネット排外層」に位置することとなる。 なぜなら父は、TwitterやFacebook等にアカウントを持ちはしていたが、そこで何か言説を発信した形跡がないからだ。 父はインターネットを自身の情報発信や意見表明を含めた「双方向の情報交流メディア」ではなく、単に「情報収集のためのメディア」、そして知人との手紙や電話代わりの「連絡ツール」としてしか活用していない層だった。 まあ、そもそもが戦中生まれである。父の世代の大多数にとってのインターネットとは、このようなものではないか』、「ネット右翼の三大標的は「朝日」「民主党」「韓国」」、そんなところだろう。「父はインターネットを自身の情報発信や意見表明を含めた「双方向の情報交流メディア」ではなく、単に「情報収集のためのメディア」、そして知人との手紙や電話代わりの「連絡ツール」としてしか活用していない層だった」、高齢者の殆どが当てはまりそうだ。
・『家族にとってのネット右翼の基準  だが、この基準をもって「父はネット右翼でなかった」とするのは早計だろう。 なぜなら、少なくとも事実、父はネット上の右傾コンテンツを視聴し、情報源とし、そこでしか使われないヘイトスラングを僕の目の前で口にしていた。恐らく一般的に「父親がネット右翼化している」と感じるには、基準の1.と2.を満たし、さらに「家族に対して政治や社会問題に対する意見発信」をしていれば(ましてヘイトスラングまで交えていたら)、もう十分だろう。) 調査ではネット右翼の持つ社会的影響力(主にフェイク情報の拡散力)が問題であると考えて、基準3.を定義に加えたのだろうが、やはり視点を社会ではなく「家族にとって」とした場合は、基準が変わってくるように思える。 次に、『保守とネトウヨの近現代史』倉山満著(扶桑社新書)では、ネット右翼に共通する価値観として、ネット右翼の三大標的は「朝日新聞と民主党と韓国である」と一刀両断している。 この基準だと、あからさまな朝日批判、民主党議員への批判、嫌韓発言をしていた父は、まさしくネット右翼的価値観を備えていたことになる。 なんだ。やっぱり父はネット右翼だったのか、と腑に落ちかけもする。が、やはりこれだけでは、前章まで行ったり来たりの思考を繰り返したように、結局僕の中で釈然としないまま残っている多くの疑問を解消できない。 もっともっと、多くの判断基準が必要だ』、「ネット右翼の三大標的は「朝日新聞と民主党と韓国である」」、私のフィーリングもそうだ。
・『9条に言及しなかった父  改めて腰を据えて資料を読み込む中で、いくつか判断に使えそうなシンプルな基準が見えてきた。例えば先ほど紹介した『ネット右翼とは何か』の調査で、2.の「保守的・愛国的政治志向の強さ」を判断するために用いられた設問だ。その設問は、 ・靖国神社公式参拝の是非 ・憲法9条の改正の是非 ・公教育の場における国旗掲揚・国歌斉唱の是非 ・愛国心や国民の責務について戦後教育を見直すべきか の四つだった。) おお。なるほど。こうして文字面で見ることで、改めて父とは何者だったかを再考するうえで、想起のとっかかりを得ることができる。 まず靖国については、父から発言を聞いたことがある。首相が公式参拝するかの「是非は別にして」、中韓から「とやかく言われることではない」。さらに「千鳥ヶ淵(戦没者墓苑)にも行けばいい」といったことを口にしていた。 一方で9条。ネット右翼言説の本丸にも思える「平和憲法の改憲」に絡む発言を、僕は父から聞いた記憶が一切ない。よくよく振り返ってみて我ながら驚いたが、本当に一切聞いた記憶がないのだ』、なるほど。
・『「ネット右翼」以前に「保守」だったのかすら怪しい  改憲支持なのか護憲なのかもそうだが、そもそも日本の武装非武装、核配備問題等々、あらゆる「平和の維持」にかかわるテーマを父は口に出さなかった。 唯一、関連テーマとも思われる田母神論文(2008年/日中戦争は侵略戦争ではない、政府は集団的自衛権を容認すべしといった内容で、「真の近現代史観」懸賞論文第一回最優秀藤誠志賞を受賞)や、田母神俊雄氏自身については、「面白い奴が出てきた」と言いながらも、「受賞基準がわからん」「論文としては体を成していない」「マスコミはなんでも文化人にしてしまう」なんてことも付け加えていた記憶がある。 残りの二つについては、論外だ。) 国旗にせよ国歌にせよ、父がそれを重視するはずがない。愛国心とか国民の義務とか、父は権力を持つ側が人に何かを強制することを徹底的に拒むパーソナリティの持ち主だったと思うし、やはり係る発言に記憶はない。もちろん旗日に我が家の軒先で日の丸がはためいていた記憶もない。「日の丸のデザインは悪くない」と言っていた記憶や、旭日旗のルーツについての発言はあったかな……。 こうして照らし合わせてみると、どうだろう。父はネット右翼だったかどうか以前に、保守だったのかすら、大いに怪しくなってきた。 なるほど、どんどん父の像が明瞭になってきた気がする。やはり、既にこの世を去って確認のしようがない人物の信条を検証するには、細かい判断指標で過去の言動を検討していくしかないのだろう』、「父はネット右翼だったかどうか以前に、保守だったのかすら、大いに怪しくなってきた」、「既にこの世を去って確認のしようがない人物の信条を検証するには、細かい判断指標で過去の言動を検討していくしかないのだろう」、その通りだ。

第四に、2月4日付けNewsweek日本版「DHCと虎ノ門ニュースが残した厄介な「右派市場」」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/ishido_s/2023/02/dhc_1.php
・『<保守系番組のスポンサーだったDHCが買収によって役割を終えても、同社が開拓した差別をもいとわない言論市場は残り続ける> 右派言論人の牙城として知られたネット番組、『虎ノ門ニュース』の終了がひっそりと発表された。この番組は、化粧品通販・健康食品大手のDHCを親会社とする「DHCテレビ」が制作していた。DHC本体は2022年11月、オリックスに約3000億円で買収されることが明らかになった。この発表と前後して、同番組を含む動画関連のサービスは終了告知がなされた。買収の影響があったことは想像に難くない。 同社はこのまま役割を終えるが、怪しげな言論を振りまいたメディアが名実共に勢いを持ったという事実は残る。この方法に学んだ人々が、新たなスポンサーと共に再現を目指すという可能性は決して低くない。 社名を冠したメディア企業の政治的スタンスは、一代でDHC本体を急成長させた吉田嘉明会長兼社長の意向が強く反映されている。DHCテレビが制作し、17年にTOKYOMXで放映された情報バラエティー番組『ニュース女子』は、BPO(放送倫理・番組向上機構)から「重大な放送倫理違反」を指摘された。在日韓国人で人権団体代表の辛淑玉(シン・スゴ)氏が組織的に参加者を動員し、沖縄で過激な米軍基地反対運動をあおっているという内容の番組は、東京高裁でも名誉毀損が認定されている。ルーツに対する差別もあり、判決内容は至極真っ当なものである。 吉田氏は当時、BPOに対し激しく反論している。「普段NHKや地上波の民放テレビを見ていて何かを感じませんか。昔とは明らかに違って、どの局も左傾化、朝鮮化しています」と、公然と手記に記す彼の思想傾向は極めて明確であり、民族差別ともかなり親和的だ。 問題はこれらの言説が右派層を中心に一定の支持を集めたことにある。彼の差別的発言に対し不買運動も起きたが、3000億円で買収されたことが示すように、彼の政治的スタンスがマーケットに与えた影響は大きくはなかったとみるべきだろう』、「情報バラエティー番組『ニュース女子』は、BPO・・・から「重大な放送倫理違反」を指摘された」、「彼の差別的発言に対し不買運動も起きたが、3000億円で買収されたことが示すように、彼の政治的スタンスがマーケットに与えた影響は大きくはなかった」、なるほど。
・『右派の「ピーク」は再来するか  私もかつて、本誌に掲載したルポで、DHCテレビを取材したことがある。虎ノ門駅から程近いビルの一角にある、ガラス張りのスタジオにはYouTubeでも配信される『虎ノ門ニュース』を生で見ようと数十人の人が足を止めていた。 同社の山田晃社長(当時)は「韓国も中国も、それって普通に考えておかしくない?ってことが多いじゃないですか。それを『普通の人』の感覚を大事にして、分かりやすく、面白く伝える」ことを大切にしているのだ、と堂々と語っていた。彼らの内容が面白いとはおよそ思えなかったが、出社途中とおぼしきスーツ姿の人々が足を止め、熱心に聞いている様子を見ると、山田氏の自信も分かる気がした。 吉田氏が無邪気に記すように、マスメディアには報じられていない真実がインターネットにはある、と考える「普通の人々」は、今でも決して少なくないということだ。 強硬な右派層を支持基盤とする故安倍晋三という政治家が政権のトップに立っていた時、彼らの勢いはピークに達したことも忘れてはいけない。ひとつの時代は終わったが、吉田氏が切り開いた言論マーケットという厄介な問題は残る』、「マスメディアには報じられていない真実がインターネットにはある、と考える「普通の人々」は、今でも決して少なくない」、「故安倍晋三という政治家が政権のトップに立っていた時、彼らの勢いはピークに達したことも忘れてはいけない。ひとつの時代は終わったが、吉田氏が切り開いた言論マーケットという厄介な問題は残る」、やれやれ。
タグ:”右傾化” (その14)(神社本庁トップが失脚か 2人が新総長を自認で「南北朝時代」突入を危惧する声、神社本庁の代表役員について(東京地裁判決)、老父のネトウヨ化に心乱された息子が「ネトウヨの専門的研究」を読んで驚いたこと…ネトウヨの数は意外に少なかった、老いて差別発言をしていた父…それは本当に「ネット右翼化」だったか? ネトウヨの「定義」を学んで見えたこと、DHCと虎ノ門ニュースが残した厄介な「右派市場」) ダイヤモンド・オンライン「神社本庁トップが失脚か、2人が新総長を自認で「南北朝時代」突入を危惧する声」 「神社本庁」で「新総長」を巡って「前代未聞の大混乱」とは興味深そうだ。 神社本庁(ひいては神社界)の象徴で「聖」の部分を担う「統理」に対し、「俗」の部分を担う事務方のトップで事実上の権力を持つのが、神社本庁「総長」 現在の統理は鷹司尚武氏。公家の家格の頂点である「五摂家」の一つ、鷹司家の現当主であり、昭和天皇の第3皇女の養子で、上皇陛下の義理の甥に当たる人物だ 6月3日に任期満了を迎える現在の総長は、田中恆清氏。歴代最長の4期目にあり、4日以降も前人未到の5期目突入を狙っていたとされる。神道政治連盟会長、打田文博氏と共に神社界を牛耳る2トップと言われてきた人物 「多くの役員から田中氏の再任に異議を唱える声が続出した一方、吉川通泰副総長ら田中派も納得せず、激しく紛糾 神社本庁の不動産売却 中氏を含む神社界の上層部と業者の癒着があったと内部告発した結果、懲戒処分を受けた元幹部職員2人が地位確認を求めた訴訟で、最高裁が4月、神社本庁の上告を退けて、2人への処分無効と未払い賃金の支払いを命じた1、2審判決が確定 鷹司統理自身が、“新総長”として、北海道神社庁長で神社本庁理事を務める芦原高穂氏を指名 神社本庁総長の方は庁規によって「役員会の議を経て、(中略)統理が指名」と定められている このままでは最悪、総長を自認する人間が2人並存するという、“南北朝時代”さながらのめちゃくちゃな事態になりかねません」 田中・打田両氏の右腕と言われ、裁判担当も務めた神社本庁兼神政連幹部職員の不倫疑惑 神社本庁「神社本庁の代表役員について(東京地裁判決)」 「総長の選任に関し、役員会が議決により次期総長を決定し、それに基づいて統理が当該次期総長を指名することが必要である旨を定めている」と「統理」の「指名権」を「役員会」の「議決」に基づくものとして、本庁側の言い分を全面的に認めた形だ。しかし、現執行部の問題には触れなかったため、今後も場合によって再燃する可能性もあるだろう。 現代ビジネス 鈴木 大介氏による「老父のネトウヨ化に心乱された息子が「ネトウヨの専門的研究」を読んで驚いたこと…ネトウヨの数は意外に少なかった」 『ネット右翼になった父』 ネット右翼とは何か、保守とは何か。この検証は、それを僕自身の中にあるイメージではなく、先行調査や研究に求めるところから始めた A『日本人は右傾化したのか―データ分析で実像を読み解く』田辺俊介編著(勁草書房) B『ネット右翼とは何か』樋口直人他著(青弓社ライブラリー) C『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』三浦瑠麗著(文春新書) D『保守とネトウヨの近現代史』倉山満著(扶桑社新書) E『右派はなぜ家族に介入したがるのか―憲法24条と9条』中里見博他著(大月書店) F『朝日ぎらい―よりよい世界のためのリベラル進化論』橘玲著(朝日新書)) 「この検証は、それを僕自身の中にあるイメージではなく、先行調査や研究に求めるところから始めた」、ずいぶん本格的だ。 「ネット右翼は人口の2%に満たないマイノリティ」、意外な少なさに驚いた。「同じ人物が重複して発言することで発言主の実数を誤認しがち」なためだろう。「加えて保守、保守本流を自認する人々の多くは、ネット右翼と呼ばれる人々を決して好感を持って受け入れているわけではなく、どちらかと言えば嫌悪や侮蔑、「ネット右翼をもって保守を語られたくない」「まして一緒になんて絶対にされたくない」という感覚を持っている」、なるほど。 「僕自身はどちらかと言えばリベラル寄りの思想の持ち主だと思うが、反戦思想を持っているからと言って「原理主義的な護憲主義者」とは一緒にされたくないし、原発再稼働慎重派ではあっても「関東圏は汚染して住めないみたいな非科学的なラジオフォビア(注)の方々」とは、やっぱり一緒にしてほしくない気持ちはある」、「リベラル」の弱味なのかも知れない。 (注)ラジオフォビア:放射線恐怖症(Wikipedia) 鈴木 大介氏による「老いて差別発言をしていた父…それは本当に「ネット右翼化」だったか? ネトウヨの「定義」を学んで見えたこと」 「父はインターネットを自身の情報発信や意見表明を含めた「双方向の情報交流メディア」ではなく、単に「情報収集のためのメディア」、そして知人との手紙や電話代わりの「連絡ツール」としてしか活用していない層だった」、高齢者の殆どが当てはまりそうだ。 「ネット右翼の三大標的は「朝日新聞と民主党と韓国である」」、私のフィーリングもそうだ。 「父はネット右翼だったかどうか以前に、保守だったのかすら、大いに怪しくなってきた」、「既にこの世を去って確認のしようがない人物の信条を検証するには、細かい判断指標で過去の言動を検討していくしかないのだろう」、その通りだ。 Newsweek日本版「DHCと虎ノ門ニュースが残した厄介な「右派市場」」 「情報バラエティー番組『ニュース女子』は、BPO・・・から「重大な放送倫理違反」を指摘された」、「彼の差別的発言に対し不買運動も起きたが、3000億円で買収されたことが示すように、彼の政治的スタンスがマーケットに与えた影響は大きくはなかった」、なるほど。 「マスメディアには報じられていない真実がインターネットにはある、と考える「普通の人々」は、今でも決して少なくない」、「故安倍晋三という政治家が政権のトップに立っていた時、彼らの勢いはピークに達したことも忘れてはいけない。ひとつの時代は終わったが、吉田氏が切り開いた言論マーケットという厄介な問題は残る」、やれやれ。
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