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トランプ大統領(その26)(小田嶋氏:トランプ大統領は犬の夢を見るか?) [世界情勢]

昨日に続いて、トランプ大統領(その26)(小田嶋氏:トランプ大統領は犬の夢を見るか?) を取上げよう。

コラムニストの小田嶋 隆氏が12月8日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプ大統領は犬の夢を見るか?」を紹介しよう。
・マイケル・フリン前大統領補佐官が、自身のFBIへの偽証を認めたのだそうだ。 あわせて、氏は、司法取引に応じて当局の捜査に協力する意向を示しているという(こちら)。 この種のニュースは、専門家の解説を仰がないと意味がわからない。
・もう少し詳しく述べると、私のような国内限定仕様の人間は、海外発のニュースを、背景にある政治状況や国際関係や歴史的経緯にあてはめて、全体的な文脈として把握する能力を持っていないということだ。 これは、サッカー初心者が中盤でのパス交換の意味を理解せず、野球のルールを知らない観戦者が牽制球の無意味さに苛立つのとよく似たなりゆきで、要は、文脈としてのゲームの流れを理解していない人間は、単独のプレーの意味を知ることができないということでもある。
・トランプ政権のかつての主要メンバーであったフリン氏への捜査が、新しい局面を迎えたというこのニュースが、政権の基盤を脅かす深刻な変化なのか、それとも一過性の危機に過ぎないのか、また、ロシア疑惑の捜査の進展を意味しているだけなのか、でなければ、トランプ米大統領の今後の行動を変える緊急事態であるのかを、正しく、適切に弁別するためには、幅広い知識とそれなりに深い洞察力が必要だ。
・私はそれらを持っていない。残念なことだが、事実なのだからしかたがない。 ただ、「専門家」の解説にも、色々とバラつきがある。 というよりも、ことトランプに限って言えば、単独の専門家の発言はあまり参考にならない。 国際政治の研究者はこの大統領の言動や手法に面食らうばかりだし、ホワイトハウスの事情に詳しいジャーナリストやアメリカ政治の専門家の多くは、単純にトランプを嫌っている。一方、トランプ氏の出身母体である不動産取り引きやプロレスの世界の人間は政治や外交の基礎知識を持っていない。そんなわけなので、トランプ関連のニュースには、相容れない解説コメントが両論併記のカタチで並べられるケースが多い。
・一貫してトランプ大統領の資質に疑問を投げかける立場から分析する人たちもいれば、そうでない人たちもいる。いずれを採るのかは、なかなか難しい問題で、どの専門家に従うべきであるのかについても、もしかしたら専門家の助言が必要なのかもしれない。
・私は、なるべく公平に事態を観察したいと思っているので、かねてからツイッターのリストに何人かの立場の異なるトランプウォッチャーを並べて入れている。で、適宜、彼らの分析に耳を傾けてつつ、遠いアメリカの空の下に思いを馳せている次第だ。
・その、彼らの反応が、ここへ来て、足並みを揃えている。 具体的には、トランプ支持派の声も、トランプ批判派の声も、要約すれば 「あーあ」という感じの間投詞に終始しているのだ。 トランプ批判派のものの言い方は、もともと辛辣だったのが、さらにぞんざいな口調に傾いている。 「アタマおかしい(笑)」「っていうか、何も考えてないんだろうか」「おやおや」「自分が言っていることの矛盾に気づかないんだろうか」「医者に連れて行けば診断がつくと思う。マジで」
・対して、擁護派はというと、彼らは沈黙している。あるいは、意味のある論評を避けている。 大統領選挙直後や、就任半年ぐらいまでは、トランプ大統領の型破りな政治手法を「ビジネスマンならではのリアリズム」などと評してしきりに称揚していた彼らも、夏以降は、ほとんどまったくトランプ関連の話題に言及しなくなっている。
・結果、ここしばらく、トランプ大統領にまつわるニュースへの解説ツイートは、茶化したりまぜっ返したりが中心のネタツイートが席巻している状況だ。 私自身も、真面目にトランプ氏関連のニュース記事を読むことがむずかしくなってきている。 特に、金正恩総書記とトランプ大統領の間で繰り広げられる罵倒合戦は、自分ながら困ったことに、毎度毎度ネタとして楽しんでしまっている。反省せねばならない。そう思っている。でも、反省できない。なにもかもがあまりにもくだらないから。
・北朝鮮がICBMとみられるミサイル「火星15号」を発射した11月29日、トランプ米大統領は、中西部ミズーリ州セントルイスで、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を「ちびのロケットマンは病気の子犬」呼ばわりにする、まあ、なんというのか相当にとんでもない内容の演説をしている(こちらとか、こちら)。
・英語でいう「sick puppy」というこの言葉が、どの程度の侮蔑をこめた表現であるのかは、私にはよくわからない。が、北朝鮮では、人間を「犬」にたとえることは、最上級の侮辱だ。このことは、9月のニュースで知った。 9月のニュースというのは、トランプ大統領が9月19日、国連の演説で 「米国は強大な力と忍耐力を持ち合わせているが、米国自身、もしくは米国の同盟国を守る必要に迫られた場合、北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はなくなる」 と言明した時の、その演説を受けて、22日にニューヨークを訪れた北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相が、記者団に語ったコメントに関するものだ。
・その時、李外相は、「彼が犬の吠え声で我々を威嚇出来るだろうと考えるなら、それは犬の夢だ」 と述べたとされている(こちら)。 このコメントについてのテレビのニュースの中で、人間を犬に例えることが北朝鮮では 最も強い侮辱の表現とされていたのだ。 まあ、どこの国のどんな文化であれ、人を犬にたとえることが無礼でない道理はないわけなのだが、北朝鮮ではとりわけ致命的なニュアンスを帯びているということのようだ。
・トランプ大統領は、果たして、北朝鮮における「犬」の事情を知悉した上で、「sick puppy」という言葉を発音したのだろうか。 それとも、特定の言葉が持つ固有のニュアンスを知らずに発言したのだろうか。
・知っていて言ったのなら、彼は、極めて愚かで危険な挑発をしたことになる。 というのも、もし仮に、トランプ氏が常々揶揄している通りに、金正恩総書記が、小児的な独裁者であるのだとしたら、そのミサイルのボタンに人差し指をのせた状態の小児的な人間を侮辱して挑発することは、アメリカならびにその同盟国にとって、軍事衝突勃発の可能性をいたずらに高める行為にほかならないからだ。
・一方、トランプ大統領が北朝鮮における「犬」のニュアンスを知らずにその言葉を発したのであれば、彼は、愚かな失言を漏らした愚かな年寄りだったということになる。
・どっちにしても、愚かな態度であった事情は変わらない。 ここへ来て、トランプ大統領の言動は、ますます奇矯さの度を加えている。 私は、専門家ではないが、彼のツイートには必ず目を通すウォッチャーの一人ではある。 その私の目から見て、この夏以降、トランプは、やはり錯乱しているようにしか見えない。
・BBCニュースが伝えているところによれば、ドナルド・トランプ米大統領は29日、英極右団体「ブリテン・ファースト」の副代表がツイートしたムスリム(イスラム教徒)排斥の扇動的ビデオ3本をリツイートした。テリーザ・メイ英首相が報道官を通じてこれを非難すると、大統領は首相を名指しで反論している(こちら)。 話題の動画を見て唖然とした。 どこからどう見てもイスラム教徒に対する偏見を助長するようにしか見えないこんなあからさまに扇情的な映像を、4000万人のフォロワーを擁する自由世界のリーダーが拡散することが、どんな意味を持つのか、トランプさんは、想像することさえできなくなっているのだろうか。
・あるいは、自分が為していることの結果を、ある程度予測した上で、それでもあえてRTのボタンをクリックしたということなのだろうか。 どっちにしても最悪の選択であることに大きな違いはないが、後者の場合、トランプ氏は、本気でイスラム世界との対立を煽っているのか、あるいはもっと良くない可能性として、心底からイスラム教徒を憎んでいる、てなことになる。
・こういうことをやらかす大統領については、もはや「専門家」の専門的な分析はあてにならない。  われらド素人も含めた世界中の人民が、自分たちが直面している近未来に対して感覚を研ぎ澄ますほかに、対応の方法がないと思う。 凶悪な動画ツイートに付いているRTボタンをクリックすることのできる愚かな指は、もっと凶悪な未来を招くボタンをクリックすることができる指であるのかもしれない。その可能性を、私は排除しない。すべての選択肢がテーブルの上にあるということは、われわれがあらゆる人類の未来を根こそぎに破滅させるボタンによって葬り去られる可能性がテーブルの上に並べられているということでもある。
・ついさきほど(12月6日午後、日本時間7日未明)、トランプ大統領が、ホワイトハウスで演説し、エルサレムをイスラエルの首都として「公式に承認する時だと決断した」と述べ、宣言文書に署名した。現在は商都テルアビブにある米大使館をエルサレムに「可能な限り速やかに」移転させる手続きを始めるよう、国務省に指示したというニュースが流れてきた(こちら)。
・この唐突な宣言も、正気の沙汰とは思えない。 異論はあるだろうが、いまこの時に、半世紀以上にわたって中東における利害対立と宗教対立の核心であり続けているエルサレムにいきなり手を突っ込むことが、彼の地の平和に貢献すると考えているのだとしたら、トランプ氏の頭脳は正常に機能していないと思う。いったいトランプ氏は何を狙ってこんな決断を下したのだろうか。
・さきほど来、「奇矯さを増している」「錯乱している」「正気の沙汰とは思えない」「正常に機能していない」と、強めの表現を連発してしまっている。 本来なら、批評対象の精神の健康を疑わしめるようなこの種のものの言い方は、相手が権力者であっても慎まねばならない。 ポリティカル・コレクトネスを云々する以前に、その種の形容を連発することは、文章の書き方として下品だし、効果的でもないからだ。
・それでもなお私が、ややもすると下品な表現でトランプさんについて語っているのは、結局のところ、彼自身の言動が、上品なボキャブラリーで形容しきれる範囲を超えているからだ。 ジャパンタイムズという日本の英字新聞が、 "The madness of King Donald" というタイトルの論説記事を書いている(こちら)。 この見出しは、たぶん、"The madness of King George"(1991年にロンドンで初演された舞台、および、1994年制作のイギリス映画。邦題は『英国万歳!』)を踏まえたものだ。
・ストーリーは、ウィキペディアによればだが、「18世紀の終わり、時の国王ジョージ3世が突然乱心してしまう。この機会に政権を手に入れたい皇太子、阻止したい側近たちなどが入り乱れ、英国王室は大混乱に陥る」というものらしい。私は未見だが、とにかく、狂った王の物語ではあるようだ。
・相手が権力者であるとはいえ、先方の正気を疑ってかかるような、この種の論評は、本来ならルール違反だ。記事の中にも、「アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)が個別に診断していない人間について診断を下さないルールを定めている」旨の記述がある。 が、記事は、何人かの精神科医が、「国難」(言語では”national emergency”)に際して、あえてルールを破ることを決断したことを知らせた上で、トランプ大統領の言動が「自己愛性パーソナリティー障害」の症状にぴたりと当てはまる点を指摘する精神科医の声や、大統領が初期の認知症を患っているという見方を紹介している。
・こういうある意味でルール破りの論評記事が出てくるということは、書き手がそれだけ深刻な危機感を抱いていることを意味している。 敏感な人々は、精神のバランスを崩したリーダーが、世界に災厄をもたらす近未来を、具体的なイメージとして共有しはじめている。
・その、彼らが共有しているイメージは、もしかしたら被害妄想なのかもしれないし、だとすれば、そのイメージを恐れている私のような人間は、いくぶん狂気の領域に足を踏み入れている人間であるのかもしれない。 ともあれ、私は、トランプ大統領の「乱心」を、昨年の今頃よりは5倍ほど真剣な気持ちで憂慮している。
・独裁者というのは、無抵抗な民衆を不本意な決断に向かって駆り立てる強引な人物なのであろうと、つい10年ほど前までは、私自身、そんなふうに思っていた。 しかし、世界で起こっているさまざまな出来事を観察するうちに、現在では、結果として独裁者になるのは、むしろ同調的な人物なのではなかろうかと考えるようになっている。
・でなくても、形式上は民主主義が機能している国家において真におそろしいのは、いやがる民衆を戦争に導く強権的な独裁者ではなくて、どちらかといえば、民衆の中にある狂気を掬い取り、それを自らに憑依させ、行動として体現してしまうような、ポピュリストのリーダーであるはずだ。 同調的なポピュリストが、私たちの内心にわだかまっている嫉妬心や攻撃欲求や縄張り根性を糾合する近未来の到来を、私はかなり高い確度で予感している。
・しばらく前にある人に聞いた話では、昨今は、「狂気」「精神異常」「狂う」といったあたりのボキャブラリーは、小説や評論の中で軒並み、使用を控える流れになってきつつあるのだそうだ。 侮辱や差別を含む「○ちがい」が使えないは当然なのだとして、テレビドラマやCMの世界では、それ以前に、精神のバランスを崩した人間の様態に言及することそのものが敬遠されつつある。
・当たり前の話だが、特定の状態を表現する言葉を使用不能に追い込むことで、その表現されているところの実態が消えなくなるわけではない。 むしろ、その言葉を使わなくなることは、その言葉が指し示している事実から目をそらす結果を生むはずだ。
・私は、人間の精神がその正常さを失うことを描写するボキャブラリーを、安易に排除すべきではないと考えている。 なぜなら、狂気という言葉を排除するのは自分以外の誰かを狂人であると断ずることと同じく、ある種の狂気を孕んだ態度であり、わたしたちが全体としての自分たちのマトモさを維持し続けるためには、狂気という言葉を排除しないことと同時に、常に狂気に対して感覚を研ぎ澄ます心構えが大切だと考えるからだ。
・私が抱いているタイプの恐怖を、犬の夢だと断ずる人々がそんなに少なくないことは承知している。 私自身、自分の恐怖が犬の夢であってくれたらありがたいと思っている。 が、それでも夢見る犬にとって、夢が現実よりもリアルである事情は変わらない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/120700122/?P=1

いつになく小田嶋氏の危機感が伝わってくるコラムだ。 『私のような国内限定仕様の人間』、と謙遜しながら、 『私は、なるべく公平に事態を観察したいと思っているので、かねてからツイッターのリストに何人かの立場の異なるトランプウォッチャーを並べて入れている』、と情報収集だけは怠りないようだ。 『トランプ米大統領は29日、英極右団体「ブリテン・ファースト」の副代表がツイートしたムスリム(イスラム教徒)排斥の扇動的ビデオ3本をリツイートした。テリーザ・メイ英首相が報道官を通じてこれを非難すると、大統領は首相を名指しで反論している(こちら)』、『凶悪な動画ツイートに付いているRTボタンをクリックすることのできる愚かな指は、もっと凶悪な未来を招くボタンをクリックすることができる指であるのかもしれない』、 『私は、人間の精神がその正常さを失うことを描写するボキャブラリーを、安易に排除すべきではないと考えている・・・わたしたちが全体としての自分たちのマトモさを維持し続けるためには、狂気という言葉を排除しないことと同時に、常に狂気に対して感覚を研ぎ澄ます心構えが大切だと考えるからだ』、などは危機感がビビッドに伝わってくるようだ。 『私自身、自分の恐怖が犬の夢であってくれたらありがたいと思っている。 が、それでも夢見る犬にとって、夢が現実よりもリアルである事情は変わらない』、あー、コワイコワイ。
タグ:私自身、自分の恐怖が犬の夢であってくれたらありがたいと思っている。 が、それでも夢見る犬にとって、夢が現実よりもリアルである事情は変わらない 狂気という言葉を排除するのは自分以外の誰かを狂人であると断ずることと同じく、ある種の狂気を孕んだ態度であり、わたしたちが全体としての自分たちのマトモさを維持し続けるためには、狂気という言葉を排除しないことと同時に、常に狂気に対して感覚を研ぎ澄ます心構えが大切だと考えるからだ 同調的なポピュリストが、私たちの内心にわだかまっている嫉妬心や攻撃欲求や縄張り根性を糾合する近未来の到来を、私はかなり高い確度で予感してい 形式上は民主主義が機能している国家において真におそろしいのは、いやがる民衆を戦争に導く強権的な独裁者ではなくて、どちらかといえば、民衆の中にある狂気を掬い取り、それを自らに憑依させ、行動として体現してしまうような、ポピュリストのリーダーであるはずだ 私は、トランプ大統領の「乱心」を、昨年の今頃よりは5倍ほど真剣な気持ちで憂慮 ルール破りの論評記事が出てくるということは、書き手がそれだけ深刻な危機感を抱いていることを意味 何人かの精神科医が、「国難」(言語では”national emergency”)に際して、あえてルールを破ることを決断したことを知らせた上で、トランプ大統領の言動が「自己愛性パーソナリティー障害」の症状にぴたりと当てはまる点を指摘する精神科医の声や、大統領が初期の認知症を患っているという見方を紹介 "The madness of King Donald" ジャパンタイムズ 半世紀以上にわたって中東における利害対立と宗教対立の核心であり続けているエルサレムにいきなり手を突っ込むことが、彼の地の平和に貢献すると考えているのだとしたら、トランプ氏の頭脳は正常に機能していないと思う トランプ大統領が、ホワイトハウスで演説し、エルサレムをイスラエルの首都として「公式に承認する時だと決断した」と述べ、宣言文書に署名した 凶悪な動画ツイートに付いているRTボタンをクリックすることのできる愚かな指は、もっと凶悪な未来を招くボタンをクリックすることができる指であるのかもしれない テリーザ・メイ英首相が報道官を通じてこれを非難すると、大統領は首相を名指しで反論している(こちら) ドナルド・トランプ米大統領は29日、英極右団体「ブリテン・ファースト」の副代表がツイートしたムスリム(イスラム教徒)排斥の扇動的ビデオ3本をリツイートした ミサイルのボタンに人差し指をのせた状態の小児的な人間を侮辱して挑発することは、アメリカならびにその同盟国にとって、軍事衝突勃発の可能性をいたずらに高める行為にほかならないからだ 知っていて言ったのなら、彼は、極めて愚かで危険な挑発をしたことになる 人間を犬に例えることが北朝鮮では 最も強い侮辱の表現 「ちびのロケットマンは病気の子犬 「あーあ」という感じの間投詞に終始 彼らの反応が、ここへ来て、足並みを揃えている 私は、なるべく公平に事態を観察したいと思っているので、かねてからツイッターのリストに何人かの立場の異なるトランプウォッチャーを並べて入れている 「専門家」の解説にも、色々とバラつきがある 全体的な文脈として把握する能力を持っていない 私のような国内限定仕様の人間は 「トランプ大統領は犬の夢を見るか?」 日経ビジネスオンライン 小田嶋 隆 (その26)(小田嶋氏:トランプ大統領は犬の夢を見るか?) トランプ大統領
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トランプ大統領(その25)(中国の策にはまった日米韓 トランプ氏は大統領ではなくやっぱり経営者だ、トランプ大統領の支持率が上昇しているワケ、トランプの権力を支える対立構図) [世界情勢]

トランプ大統領については、10月29日に取上げたが、今日は、(その25)(中国の策にはまった日米韓 トランプ氏は大統領ではなくやっぱり経営者だ、トランプ大統領の支持率が上昇しているワケ、トランプの権力を支える対立構図) である。

先ずは、政治評論家の田原 総一朗氏が11月16日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「東アジアの緊張続く、中国の策にはまった日米韓 トランプ氏は大統領ではなくやっぱり経営者だ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・トランプ大統領は11月14日、初のアジア歴訪を終えて帰途についた。とりわけ9日の米中首脳会談の内容は、日本のマスメディアの予想が大きく外れた展開となった。僕の予想も大外れだった。そのせいで、翌日の新聞各紙には批判的な見出しが並んでいた。
・朝日新聞は「巨額商談、かすむ『北朝鮮』」。東京新聞は「米中首脳会談 利害優先、違い封印」。毎日新聞は「理念失うトランプ外交」。読売新聞は「米中首脳会談『北』への危機感にズレがある」と報じている。
・トランプ氏は、日本、韓国を訪れた時は、「北朝鮮に対する圧力を最高限度まで強める」と強調していた。安倍晋三首相も、韓国の文在寅大統領も、それに対し「完全に一致した」と表明した。 当然ながらトランプ氏は、最高限度まで圧力をかけるその先には、武力行使も視野に入れている。安倍首相は、それにも同意した。
・その中で、韓国で一つ理解し難いことがあった。文在寅氏とトランプ氏の7日の晩餐会で、元慰安婦の女性が招待されて、「独島エビ」を使った料理が出されたことだ。 トランプ氏が、日韓米で完全に同一歩調で北朝鮮に対峙すべきだと言っているところで、韓国はわざわざ日韓の間に溝を作ったのだった。これらの行動は謎だったが、中国との関係改善に向けた動きだと言われている。後で触れるが、これは日米韓の3国合同演習を韓国が拒否したことにも繋がっている。
・トランプ氏は、日本と韓国を訪問した時に「北朝鮮の圧力を最大限に高める」と主張していたが、日韓は圧力をかける具体的な手段を持っていない。 一方、中国は立場が全く異なる。中国は、北朝鮮に圧力をかける具体的な手段を持っているのだ。例えば、北朝鮮の貿易は、約9割が中国との取引である。もし、中国がこれを完全にシャットアウトすれば、北朝鮮経済は破綻する。 あるいは、中国が北朝鮮に原油を送り込むためのパイプを閉めてしまえば、北朝鮮の国民の生活は成り立たなくなる。中国が本気になれば、北朝鮮は核廃棄も認めざるを得なくなるだろう。
・その点から、米中首脳会談の行方は全世界に注目されていた。トランプ氏は北朝鮮に対する圧力について、どこまで習近平に迫るのか。習近平は、どのように対応するのか。
▽想定外の展開になったアジア歴訪
・結果は、意外なものだった。中国はトランプ氏に対し、「国賓プラス」というレベルの異例の厚遇で迎えた。世界遺産の故宮を丸一日貸し切りにする大歓迎ぶりだ。 しかも、トランプ氏が強調する米中の貿易不均衡問題に対し、習近平氏は「両国は2500億ドル以上の貿易契約・投資協定に署名した」と発表した。エネルギーや製造業などの分野で、総額2535億ドル(約28兆7800億円)の米国製品を買うという大盤振る舞いで応えたのだった。
・ところが、肝心の北朝鮮問題について、習近平氏は「安保理決議の全面的かつ厳格な履行を継続する」としか言わない。つまり、「圧力を強める」とは言っていないのだ。 9月の国連安保理決議は相当抜け穴が多く、原油と石油製品の輸出は過去1年間の実績を上限に設定、つまり現状維持である。北朝鮮労働者の国外での雇用についても、現状維持だ。
・しかも、トランプ氏は習近平氏の発言に対して何の抗議もせず、理解を示したうえ、「中国は米国にとって非常に大事な国だ」とまで言った。 もっと驚くべきことがある。習近平氏は、「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と発言した。太平洋を米中二大国で仕切るということである。 これは、トランプ氏が進めようとしている「自由で開かれたインド太平洋戦略」とは全く矛盾する。インド太平洋戦略は、中国への対抗策だ。 ところが、習近平氏の「米中二大国で太平洋を仕切る」という発言を、トランプ氏は飲んでしまったようだ。
・想定外の展開は、まだまだ続く。11日の中韓首脳会談では、習近平氏と文在寅大統領との間で、北朝鮮問題について「対話による解決」を目指すことで一致した。米韓首脳会談とは全く異なる内容だ。  10日にベトナムで行われた中露首脳会談では、習近平氏とプーチン大統領が北朝鮮問題に対し、中露が連携して対話による解決を目指すと表明した。
・さらにその後、日韓米の3 カ国合同演習の構想について、韓国側が拒否したことが明らかになった。 どうも、背後には習近平氏の圧力があったのではないかと思われる。その前には、韓国の高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD」の配備について、中国が大反対していた。ところが、習近平氏と文在寅氏は、トランプ氏が訪韓する前に和睦している。
・韓国は、それだけ中国を恐れているのか、あるいは中国から圧力をかけられているのか。事実は定かではないが、少なくとも中国と和解する方がメリットが大きいと考えているのだろう。米国は、相当不愉快だろうが。 以上のことを考えると、韓国、日本、そして米国までもが、習近平戦略にはまったのではないかと思われる。
▽トランプ氏は大統領ではなく経営者だ
・僕は、12日放送の「激論!クロスファイア」(BS朝日)で、河野太郎外務大臣と国際政治学者の三浦瑠麗氏を招き、米朝問題について議論をした。その時、僕は河野氏に「安倍首相は、米中首脳会談の展開を見て、不愉快に感じているのではないかな」と聞いたら、言葉を濁していた。 繰り返すが、米中首脳会談の内容は、日米首脳会談とは相当異なっている。さらには、トランプ氏はベトナムで「私は頑張って、金正恩氏の友人になろうとしてみよう。それはいつかは実現するかもしれない」とツイッターで発言したことが話題になった。
・これは一体、どう考えれば良いのか。 トランプ氏は、本当は大統領ではなくて、生粋の経営者ではないのだろうか。最近、米国内では改めて、皮肉としてこのように言われている。 確かに、結果から見ればその通りだ。日本、韓国、中国では、ディールはうまくいった。日本には米国製の武器を買うことを了承させ、韓国には米国製の原子力潜水艦を買わせた。中国にも、28兆円もの米国製品を輸入するよう約束させた。
・特に、韓国は原子力潜水艦などを買ってどうするのか。原子力潜水艦とは、海上に上がる必要がなく広い範囲を動くためのものである。しかし、脅威の相手は隣国の北朝鮮だ。原子力潜水艦では、全く圧力をかけられない。 これらはまさに、経営者として、米国の国益を最大限に優先した内容ではないか。一体、日米首脳会談とは何だったのかと思わざるを得ない。
・僕は、11日の「激論!クロスファイア」で、河野氏からこんな話をきいた。「米国の武力行使は、おそらく起きないだろう。おそらく、米朝の緊張関係は来年秋に控える米中間選挙まで続くのではないか」ということだ。 緊張関係が続いた方が、トランプ政権としては有利だ。米国は今、ロシアゲート問題や雇用問題などが山積みである。米朝関係がクローズアップされれば、それらの問題は影が薄くなる。
・安倍首相にとっても実はプラスだ。北朝鮮という脅威が目の前にあると、外交で日本の存在感が大きくなる。トランプ氏、習近平氏、プーチン氏と友好的で自由に話せるのは、安倍首相くらいしかいないからだ。国内では、安倍政権の支持率が下がりにくい。これは自民党にとっても損ではない話だ。
・中国にとっても、大きなメリットがある。北朝鮮は、中国にとっての大事な外交カードだ。北朝鮮の崩壊は絶対に避けたいと考えている。28兆円の取引で北朝鮮への武力行使が避けられるのであれば、中国にとっては安いものである。
・つまり、北朝鮮問題は、トランプ氏のアジア歴訪によって少なくとも各国の政権にとって、ほぼウィン・ウィンの形で終わったと言える。 問題は、北朝鮮がこれからどう動くかだ。中間選挙の前に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射するといった挑発をしかねない。やれば、米国も対応せざるを得ないだろう。 ただ、核実験はしない可能性が高い。最近も核実験を実施していないが、これは中国が圧力をかけて抑えているからだと思われる。この後、北朝鮮がどのような行動に出るのかに注目したい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122000032/111500046/?P=1

次に、米国弁護士の湯浅 卓氏が12月2日付け東洋経済オンラインに寄稿した「トランプ大統領の支持率が上昇しているワケ 不人気だった大統領に2つの追い風が吹いた」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・11月29日未明、北朝鮮はついにICBMミサイル実験を敢行した。その2時間弱後、ドナルド・トランプ米大統領はホワイトハウスで記者会見を行い、この問題に対して、従来どおり確固たる姿勢で臨むと表明した。
・その会見をつぶさに見た筆者には、トランプ氏がアジア歴訪で得た大統領としての堂々たる自信と風格のある気合いとが見て取れた。米調査会社ギャラップが10月27日から29日にかけて実施した世論調査の結果によると、トランプ米大統領の支持率は過去最低の33%を記録。しかし、その後の支持率は上昇傾向にある。保守系世論調査会社ラスムッセンによる調査では、アジア歴訪を終える直前に、トランプ支持率は46%に跳ね上がり、帰国後も40%台に安定している。
▽なぜ支持率が急上昇したのか
・この支持率急上昇は、アジア歴訪の成功だけではない。アジア歴訪中に米国内で、トランプ氏に追い風が吹いたことが影響していると筆者は見ている。それについては、前回の本欄「日本のメディアが見逃した『トランプの幸運』」で詳述したが、そこで述べた「オバマ政権時代のロシア疑惑」が、ここへきて米メディアはもちろん、とくに米議会の上院、下院において、猛烈な勢いで急浮上しているのだ。
・「オバマ政権時代のロシア疑惑」とは、オバマ政権が米国ウラン資源の20%の権益を持つ、カナダ企業の「ウラニウム・ワン」を、ロシアに売却する計画を承認する際、当時、担当責任者の1人である国務長官のヒラリー・クリントン氏や、陰の実力者であるビル・クリントン元大統領、そしてクリントン財団がどう関わったのかという疑惑だ。これこそが「本物のロシア疑惑」というわけである。
・一説によると、この「ウラニウム・ワン」買収とほぼ同時期に、ロシア関係者から何と1億4500万ドル(約165億円)という巨額の献金がクリントン財団になされたという。 この「ウラニウム・ワン」売買について、ヒラリー国務長官を含む担当責任者らが承認したのは、2010年のことだ。当時、この疑惑発生当初から捜査に全責任をもつFBI(連邦捜査局)長官はロバート・ミュラー現特別検察官だった。
・この事案をめぐっては、「ロシア側からの国際的な贈収賄、リベート、強要、資金洗浄」に関して、FBIに情報提供者を通じて、証拠が蓄積されていたと報じられていた。その報道内容にバラツキはあるものの、クリントン夫妻やクリントン財団が疑惑の渦中にあることに変わりはない。
・そのFBIへの情報提供者は議会証言をしたい意向だったにもかかわらず、オバマ政権の司法長官はそれを阻止したとされる。議会証言すれば刑事訴追するとまで脅されたというのだ。これは明らかにFBI情報提供者に対するオバマ政権による「言論弾圧」であり、「議会からの情報隠し」のそしりを免れない。
・この「言論弾圧=議会からの情報隠し」の疑いは、FBI情報提供者が雇った弁護士によって、米メディアに明らかにされた。それを知った議会は烈火のごとく怒り、司法省に対して、その解除を強く要求した。オバマ政権からの残留組が多い司法省のキャリア官僚たちは、議会の剣幕に脅え、「言論弾圧=議会からの情報隠し」はすぐさま解除された。
・この「すぐさま解除」したことは、逆に言えば、オバマ政権による「議会からの情報隠し」が、ズルズルと長年にわたって実在したことを意味する。たしかに、この事案は刑事問題のほかに、ウランに関わる国防問題の側面もあり、非公開にする必要があったかもしれない。だとすれば、秘密会で議会証言させるという手もあったはずだ。
▽ミュラー氏のほかにもう1人の特別検察官を要求
・このオバマ政権による「引き延ばし戦略」、すなわち、議会に情報開示せずに問題を引き延ばす戦略には、似たパターンがつきものだ。2009年の段階でFBI情報提供者が、ロシア側による違法行為の多くの証拠をもたらしたと伝えられる。 ところが、当時、そのロシア疑惑の捜査は、ミュラーFBI長官の下で、延々と引き延ばされたと、米メディアは報じている。ロシア側の担当者が逮捕されたのは、何とミュラーFBI長官が退職した翌年の2014年だった。
・オバマ政権時代、オバマ大統領とミュラーFBI長官とは切っても切れない関係にあった。FBI長官の任期は10年というのが慣習になっているが、オバマ氏の要請でミュラー氏は2年延長してFBI長官を務めている。 この2人の関係には、カリフォルニアの絆があると筆者は見ている。ミュラー氏は若き日に故郷を離れ、サンフランシスコで法律家生活を長年送ったことがあり、他方、オバマ氏はロサンゼルスで学生時代を過ごしている。法律論は別にして、この2人がクリントン夫妻やクリントン財団に、甘く対応していたことは衆目の一致するところだ。
・そのミュラー氏は、ブッシュ元大統領には強く反発した。こんなエピソードがある。ミュラー氏がブッシュ氏と意見対立したとき、当時、彼の部下だったジェームズ・コミー氏を連れて一緒にFBIを同時辞職すると、ブッシュ氏に政治的脅しをかけたという。
・その後、オバマ氏とウマが合ったミュラー氏は、オバマ再選戦略の中軸であるクリントン夫妻や、クリントン派閥支配下のクリントン財団に不利な情報を、議会にはまったく情報開示しなかった。もし情報開示を急いだら、クリントン夫妻の政治的命運はそこで尽きてしまうかもしれず、いわんや、オバマ再選のチャンスは、ほぼ確実に水泡に帰してしまうという「大人の判断」が働いたからではないか。
・そうした論点は、今後の議会上院・下院における調査の重大関心事となろう。というのは、共和党の有力議員が、「本物のロシア疑惑」に関して、ミュラー氏は「足元が危うい」状況にあると明言しているからだ。
・その共和党の有力議員は、この「本物のロシア疑惑」を、ミュラー氏は「米議会だけでなく、米国民にも明らかにしなかった」と厳しい言葉で糾弾している。そこで、国民のための捜査をするには、ミュラー氏以外に、もう1人の「特別検察官」が必要だという意見が議会で強まっている。
・この「本物のロシア疑惑」には、日本企業もとばっちりを食っている。東京電力と東芝は、国際協力銀行とともに「ウラニウム・ワン」に出資し、20%近くの株式を保有していた。しかし、同社のロシアへの売却に伴い、同社株を手放すことになった。
▽トランプ大統領にとっては「2つの追い風」
・この「本物のロシア疑惑」の捜査が急浮上していることが、トランプ大統領にとって追い風になっていることは間違いない。支持率の急上昇はそれを物語っている。 もう1つ追い風になっているのは、ハリウッドの大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン氏のセクハラスキャンダルが明るみに出たことだ。ハリウッドメディアを牛耳ってきたワインスタイン氏の落ち目は、ハリウッドメディアの落ち目であり、さらに米メディアに対する国民の目が厳しくなることを意味する。
・トランプ大統領にとっては「2つの追い風」であり、1つ目の「本物のロシア疑惑」も、2つ目のハリウッドスキャンダルも、法的にはRICO法の角度から論じられている。 RICO法とは、もともとギャングなど組織犯罪を取り締まる法律として成立されたものだが、現在では、組織犯罪に限らず、何らかの仲間たちや企業、さらに政治家たちの民事および刑事訴訟など適用範囲が拡大している。
・現在、「本物のロシア疑惑」では、RICO法が大きな争点の1つとして報じられ、FBI情報提供者が証人として喚問される可能性がある。また、ハリウッドスキャンダルでも同様に、思わぬ人物が証人喚問されることもあり得る。
・ハリウッドスキャンダルのワインスタイン氏の全盛期は、オバマ政権時代とぴったり重なる。ワインスタイン氏は民主党の有力スポンサーであり、同時にオバマ氏の強力プロモーターだった。そうした長年の縁からなのであろう、オバマ氏の長女マリアさんが、ワインスタイン氏のオフィスでインターンとして働いたこともよく知られている。
・そのマリアさんが、ワインスタイン氏に対する民事の集団訴訟の、将来的な証人として呼び出される可能性もゼロではない、という見方がある。たしかに、これからの訴訟の展開次第では、その可能性は論理的に残る。
▽トランプ氏のメディアとの相性は悪くない?
・今回、ワインスタイン氏のセクハラ報道が全米を揺るがしているあいだ、オバマ氏は沈黙したままだった。メディアは「5日間の沈黙」と報じた。その後にオバマ氏がやっと出したコメントは、かなり浮世離れしたものだった。 オバマ氏の「(ワインスタイン氏の)高い地位や富にもかかわらず」という条件付きでの用心深い批判の言葉からは、手厳しさはまったく感じられない。オバマ氏はワインスタイン氏に対して、この期に及んで、なおゴマをすっている感じがする。
・これは、いくらメディアがオバマ氏の肩を持とうとしても、オバマ氏には、内心、メディアとの相性がよくないという不安感があり、それがオバマ氏のメディアに対する臆病なほどの神経過敏につながっているのではないか。 これに対して、トランプ氏はメディア嫌い丸出しで、メディアとはまるで「水と油」のような相性の悪さ、どうしようもない敵対関係を思わせる。しかし、情報論理学的な意味では、トランプ氏とメディアとの相性は悪くないのではないか。
・オバマ氏とビル・クリントン氏の2人には共通点がある。1つは、メディアに対する緊張感が強いこと、2つは、雄弁と沈黙を戦略的に使い分けることだ。これに対して、トランプ氏は、毎日どころか毎時間、平気でメディアにすぐ反発し、反論する。 実は、トランプ氏本人も周りもまったく気づかないでいるが、トランプ氏とメディアの相性のほうが、むしろ、いいし、より健全かもしれない、と筆者は分析している。
http://toyokeizai.net/articles/-/199458

第三に、在米作家の冷泉彰彦氏が、12月9日付けメールマガジンJMMに寄稿した「トランプの権力を支える対立構図」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・本稿の時点では、アメリカの税制改正については、上院案と下院案を一本化する協議が進行中です。ですから、法案が可決成立したわけではありません。そうではあるのですが、上院案と下院案はそれぞれは可決されており、トランプ政権が鳴り物入りで提案していた、この「税制改正」は、クリスマスまでに成立しそうな雲行きです。
・今年の1月に発足して以来、この政権は様々な政治的なメッセージや政策の提案を続けてきましたが、例えば健保改革の廃止がそうであるように、大統領が力み返って政策を指示しても、議会の、特に議会共和党が言うことを聞かないために物事が進まなかったわけです。従って大統領としては政治的成果として誇れるものは、まだ何もないという状態が続いていました。 ですが、この「法人税率を35%から20%へ」「個人所得税の税率段階や控除を総見直し」という大きな税制の改正が成立すれば、トランプ政権の実績になるのは間違いありません。
・そんな状況ではあるのですが、依然として一つの大きな疑問が残ります。 2016年11月の劇的な大統領選の結果を受けた「勝利宣言スピーチ」で述べた「和解」とか「団結」ということを実現するという約束を、この大統領は全く守っていません。それどころか、2017年8月に発生したヴァージニア州での極右暴力事件を受けて「反対派にも非がある」という表現で、白人至上主義者を認めるような発言を行い、これを撤回していないばかりか、この12月には英国の極右団体の差別的なビデオをツイートするなど、「分断を煽る」ような言動を改める気配はありません。
・また、北朝鮮の金正恩委員長に対しては、激しい罵倒の言葉を浴びせ続けていますし、今週は「イスラエルの首都はエルサレムであり、米国大使館もエルサレムに移設したい」という発言を行って、中東世界に動揺を与えています。和解ではなく、分断と紛争のエスカレーションを煽る政治が続いているのです。
・疑問というのは、そのような大統領の言動にもかかわらず、どうして議会共和党との間では協調が取れるのかという問題、いや場合によっては12月7日の「政府閉鎖回避」などでは民主党とも協調ができているわけですが、とにかく、どうして議会はこの大統領を認めたのかということです。
・つまり、分裂を煽るスタイルはそのままに、どうしてトランプ政権は回り始めているのか、政策が動いているのかということです。勿論、その一方でムラー特別検察官を中心とした「ロシア・ゲート」捜査は進んでいます。また、民主党は何かにつけてトランプ批判の「ジャブ」を加えています。面白いのは世論調査で、例えば「リアル・クリア・ポリティクス」が発表している各種調査の平均値では、12月7日現在で 「支持が38.4%、不支持が57.4%」という非常に低い状況が続いているのですが、では、政権は崩壊一歩手前なのかというと、決してそうでもないのです。
・世論調査からは見放されているし、分裂を煽るスタイルを改める気配もない、にも関わらず、政治が回り始めている、こんなことは、ここ半世紀のアメリカ政治の中で前代未聞の状況でしょう。一体、その背景には何があるのでしょうか、トランプ政権の政治権力は、いったいどこから生まれているのでしょう?
・そのメカニズムを考える上で、何といっても興味深いのが12月12日(火)に投開票の迫っている、連邦上院のアラバマ州補選です。この選挙については、共和党のロイ・ムーア候補が30年以上前の話ではあるものの、大勢の未成年女性に対して性的な行為を行なっていたという告発があり、議会共和党の幹部も不快感を表明する中で、選挙情勢としては不利な展開になっていました。そして、この深南部の保守州における貴重な上院議席が民主党に行くかもしれないという感触が広まっていたのです。
・トランプ大統領は、このムーア候補のスキャンダルを11月上旬にアジア出張中に知ったわけですが、その時から「セクハラ告発はフェイクニュースだ」として、ムーア候補擁護の姿勢を取ってきています。その後、告発がどんどん増えてムーアの支持率が下がっても、トランプはムーアを突き放すことはしませんでした。余りにも批判が多かった時期は、さすがに正面切った支持は口にしなかったのですが、少し事態が好転したところで「民主党に議席を渡すわけには行かない」として正式に支持を表明しています。
・そのトランプ大統領は、本稿の締め切り直前の12月8日(金)夕刻に、フロリダ州のペンサコーラで「ラリー(選挙運動)形式の演説会」を行っています。内容は、すぐ隣のアラバマの有権者に向かって「ムーア候補に投票するように」呼びかけるというもので、「この議席にアメリカの未来がかかっている」などと強い調子で投票を促していました。 このペンサコーラは、アラバマとの州境まで25マイル(40キロ)と至近の地です。だったらアラバマ州に乗り込んで、それこそムーア候補と一緒の運動をすればと思うのですが、トランプは、それはやらないのです。「ムーア候補と並んだ写真」を撮られるのを避けるということ、万が一ムーア落選の場合に責任論にしないため、など色々な理由が考えられます。
・ですが、それだけではありません。つまり「ムーアはリベラルのフェイクニュースの被害に遭っている」とした上で、その「ムーアと大統領が一緒に運動ができないぐらい、自陣営は追い詰められた被害者だ」と強調、その「被害状況」を訴えるには、「大統領は行きたくてもアラバマに行けない」というポーズを取る方が効果的、そんな計算があるようなのです。
・ムーアの方はどうかというと、10人以上という「告発女性」については、「全部が政治的陰謀で、会ったこともない」と全面否定の構えであり、女性たちが持っていた「若き日のムーアの自筆サイン」なども「全てニセモノ」としています。そんな中で、ムーア候補への支持は回復基調にあります。一時は劣勢が伝えられたのですが、ここへ来て2~4%リードしているというデータも出て来ました。
・では、このムーア候補、「セクハラ疑惑に対する全面否定戦術」で復活して来ているのかというと、そうではありません。アラバマ州の最高裁判事として、その前は検事として散々有名になった「宗教保守派的言動」を思い切り繰り広げているのです。
・「オバマはアメリカ生まれではない」「イスラム教徒は議会から追放すべき」「同性愛は法律で取り締まれ」「911は信仰を失った米国への天罰」・・・もう無茶苦茶であり、ブッシュ時代の「草の根保守」どころではありません。
・一時期はやめていたトレードマークの「白いカウボーイハット」を再び被って、この種のアジ演説を徹底しているのです。そんな中で、少し以前の9月の発言ではありますが、ムーア候補が「アメリカが本当に偉大であった時代とは、家族が大切にされた時代のことだ、たとえ、その頃は奴隷制があったにしても」と述べていたということが、改めて問題になっています。ですが、そうした「過激な右派的言動+疑惑の全否定」という作戦がジワジワと支持を拡大しているのです。
・では、アラバマの共和党支持者は、本当に「奴隷制の時代が偉大だった」とか「同性愛者を逮捕せよ」などと思っているのかというと、それは少し違うと思います。また、ムーア候補の「未成年の少女たちに対するわいせつ行為疑惑」の全てが嘘だとは思っていないと思います。では、どうして「右派的言動+疑惑の否定」を歓迎しているのかというと、そこには「敵味方の論理」があるのです。
・とにかく、「オバマとヒラリー」そして議会の「ペロシ(下院院内総務)とシューマー(上院院内総務)」という民主党の「悪しきリベラルども」は自分たちの敵であり、そう考えたときに、問題はあるかもしれないが、ムーア候補は明らかに味方であり、トランプも味方である、そんな感覚です。そして、ムーア候補にしても、トランプ大統領にしても、「過激な発言」を行うのは、その内容を「額面通り正義」だとか「そのまま実行せよ」というために言っているのではなく、「偽善者から偽善的な批判を引き出して敵味方を峻別するためにやっている」という理解があるのだと思います。
・この「敵味方の論理」ですが、トランプ政治の面白いところは、そこに「柔軟性」があるのです。通常は、政治にしても外交にしても、あるいは世界の極左や極右の過激集団にしても、「敵味方の論理」を突き詰めて行くと、「信じられるのは自分たちに近い少数」ということになり、「少数だからこそ思想が過激化する」というスパイラルに入って行くわけです。
・ところが、トランプ政治のユニークなのは、敵味方の論理で、社会の、あるいは国家間の分断を煽りに煽ってはいるのですが合従連衡が極めてフレキシブルなのです。 例えば、スチーブン・バノンを重用する、でもスタッフとの軋轢があれば解雇する、ではバノンを追放したかというと、クビになったバノンは相変わらず場外からトランプ応援団を続けるという具合です。
・議会もそうで、あれほど罵倒合戦になっていた共和党上院議員の重鎮たちとも、今回の予算や税制の件では、是々非々で協調もしているわけです。ですから、ある種のリスクを取って、ムーアを応援しながら、アラバマには入らないし、仮にムーア落選の場合は知らん顔をするということになるのだと思います。
・この敵味方の論理で分断を煽るというのは、外交という姿でも出て来ています。今回世界中を呆れさせた「エルサレムをイスラエルの首都として認知」という方針も、そこに冷静な軍事外交上の戦略戦術があるのではなく、ただひたすらに「この種の問題における敵味方を峻別したい」という行動パターンから来ているのだと思います。
・もっと言えば、トランプの「エルサレムがイスラエルの首都だ、文句あるか」と言う姿勢は、ムーアの言う「同性愛を非合法化せよ」と一種のシンクロ効果を現出させている、そう考えることもできるのです。 とにかく異常な政治が進行しているわけですが、こうした事態に立ち至ったもう一つの理由としては「民主党の体たらく」、つまり「敵失」を指摘しなくてはなりません。
・今回の一連の「セクハラ告発」と言うトレンドですが、当初は保守系のFOXニュースにおける経営者(ロジャー・アイレス、本年5月に物故)、キャスター(ビル・オライリー)から始まったわけです。また政治家としては、今回のロイ・ムーア(共和党)の問題があります。ですが、それ以上に民主党系の芸能人や政治家がゾロゾロ失脚しているわけで、これこそ正に「敵失」以外の何物でもありません。
・今週は、コメディアン時代の不適切な行為への責任を問われて、アル・フランケン上院議員が辞職に追い込まれました。選挙区はミネソタで、当面は民主党の下院議員から上院議員に指名がされるので、民主党の議席は安泰です。ですが、2018年には補選になるわけで、その際には共和党はポウレンティ(元知事=中道右派)あるいはバックマン(元下院議員=茶会系)をぶつけて来るらしく、貴重な上院の議席を失う可能性もあります。
・また、ムーア支持にしても、エルサレム問題にしても、トランプの「好き勝手な言動」に対して、民主党は有効な手が打てていません。一本調子で批判することは「敵の思う壺」だということにも、恐らくは気づいていないぐらいの稚拙な対応が目立ちます。
・そんな中で、民主党はムラー特別検察官の指揮する「ロシア疑惑の捜査」に大きな期待を寄せているわけです。この捜査においては、鍵を握るマイケル・フリン前ホワイトハウス安全保障補佐官が「有罪を認めて捜査協力する」という進展がありました。 ですが、このロシア疑惑については、そもそもトランプのコア支持層や共和党支持者に取っては、「国益を毀損するような行為はない」という理解があり、まさに「敵味方の論理」に収束してしまうわけです。
・例えば、現在の政権の周辺から、あるいはトランプ一族の周辺から「ウィキリークス」への不法な情報提供があったという疑惑があるわけですが、そもそも「ウィキリークス」というのは、若い世代に取っては「政府の暴走を監視する告発サイト」という評価があるわけですから、それをいくら批判しても限界があるわけです。
・そんな中で、株価は史上空前の水準をつけていますし、それでも、11月の労働統計は更に改善しており、失業率は4.1%という夢のような数字になっています。大統領は、自分の成果だとしていますが、就任10ヶ月を超えた現在は、そう言われても否定できない状況になって来ました。そして、法人減税と個人所得税の減税を進めるというのは、この株価と景気を更に引っ張ろうということに他なりません。
・民主党は、そこに注目して「超先進国型の格差社会」をどう克服するのか、雇用拡大の方策を自由貿易と国際分業の中でどうやって実現するのか、あるいは再分配によって経済社会の安定を図る道はあるのか、もう一度頭を冷やして考え抜く時期に来ているのだと思います。その地道な取り組みをしないで、イデオロギー上の「敵味方の論理」を持ち出されると、そこにホイホイと乗せられて「トランプ批判」ですませてしまう、その結果として対立の片棒を担いでしまう、このパターンから抜け出さなくてはなりません。
・いずれにしても、景気と株価が堅調である限り、そしてトランプの繰り出してくる「敵味方の峻別」という罠に、メディアや民主党が載せられている限り、この異常な政権は、不思議な政治的権力を維持し続ける可能性があります。その点で、2018年11月の中間選挙は、大きな試金石になるわけですが、その前に、何よりも直前に迫ったアラバマ補選の行方に注目したいと思います。

第一の記事で、 『韓国はわざわざ日韓の間に溝を作ったのだった。これらの行動は謎だったが、中国との関係改善に向けた動きだと言われている』、というのはなるほどである。『トランプ氏は習近平氏の発言に対して何の抗議もせず、理解を示したうえ、「中国は米国にとって非常に大事な国だ」とまで言った。 もっと驚くべきことがある。習近平氏は、「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と発言した。太平洋を米中二大国で仕切るということである。 これは、トランプ氏が進めようとしている「自由で開かれたインド太平洋戦略」とは全く矛盾する。インド太平洋戦略は、中国への対抗策だ。 ところが、習近平氏の「米中二大国で太平洋を仕切る」という発言を、トランプ氏は飲んでしまったようだ』、というのは、『「国賓プラス」というレベルの異例の厚遇・・・総額2535億ドル(約28兆7800億円)の米国製品を買うという大盤振る舞い』の前には、肝心の安全保障問題などはけし飛んでしまったようだ。ただ、 『(米朝の)緊張関係が続いた方が、トランプ政権としては有利だ・・・安倍首相にとっても実はプラスだ・・・中国にとっても、大きなメリットがある・・・つまり、北朝鮮問題は、トランプ氏のアジア歴訪によって少なくとも各国の政権にとって、ほぼウィン・ウィンの形で終わったと言える』、ということであれば、「けし飛んでしまった」のではなく、トランプの計算ずくの行動だったのかも知れない。
第二の記事で、 トランプ米大統領の支持率が急上昇しているというのは、初めて知り、トランプ氏を再評価した。 『ヒラリー・クリントン氏や、陰の実力者であるビル・クリントン元大統領、そしてクリントン財団がどう関わったのかという疑惑だ。これこそが「本物のロシア疑惑」』というのは、事実であれば、これまでの「ロシア疑惑」よりはるかに悪質だ。 『トランプ氏とメディアの相性のほうが、むしろ、いいし、より健全かもしれない、と筆者は分析している』、というのは面白い見方だ。
第三の冷泉氏の 『「敵味方の論理」ですが、トランプ政治の面白いところは、そこに「柔軟性」があるのです。・・・敵味方の論理で、社会の、あるいは国家間の分断を煽りに煽ってはいるのですが合従連衡が極めてフレキシブルなのです』、『トランプの繰り出してくる「敵味方の峻別」という罠に、メディアや民主党が載せられている限り、この異常な政権は、不思議な政治的権力を維持し続ける可能性があります』、などの深い分析は言われてみれば、その通りという気もする。単純なステレオタイプで見ない方がいいのかも知れない。 目先的には、『12日(火)に投開票の迫っている、連邦上院のアラバマ州補選』の結果はどうなるのだろうか。
タグ:景気と株価が堅調である限り、そしてトランプの繰り出してくる「敵味方の峻別」という罠に、メディアや民主党が載せられている限り、この異常な政権は、不思議な政治的権力を維持し続ける可能性があります トランプの「好き勝手な言動」に対して、民主党は有効な手が打てていません。一本調子で批判することは「敵の思う壺」だということにも、恐らくは気づいていないぐらいの稚拙な対応が目立ちます トランプ政治のユニークなのは、敵味方の論理で、社会の、あるいは国家間の分断を煽りに煽ってはいるのですが合従連衡が極めてフレキシブルなのです 通常は、政治にしても外交にしても、あるいは世界の極左や極右の過激集団にしても、「敵味方の論理」を突き詰めて行くと、「信じられるのは自分たちに近い少数」ということになり、「少数だからこそ思想が過激化する」というスパイラルに入って行くわけです この「敵味方の論理」ですが、トランプ政治の面白いところは、そこに「柔軟性」があるのです 「オバマとヒラリー」そして議会の「ペロシ(下院院内総務)とシューマー(上院院内総務)」という民主党の「悪しきリベラルども」は自分たちの敵であり、そう考えたときに、問題はあるかもしれないが、ムーア候補は明らかに味方であり、トランプも味方である、そんな感覚です 「敵味方の論理」 30年以上前の話ではあるものの、大勢の未成年女性に対して性的な行為を行なっていたという告発 共和党のロイ・ムーア候補 連邦上院のアラバマ州補選 どうして議会はこの大統領を認めたのかということです 議会共和党との間では協調が取れるのか 和解ではなく、分断と紛争のエスカレーションを煽る政治が続いている 中東世界に動揺を与えています イスラエルの首都はエルサレムであり、米国大使館もエルサレムに移設したい 「分断を煽る」ような言動を改める気配はありません 「勝利宣言スピーチ」で述べた「和解」とか「団結」ということを実現するという約束を、この大統領は全く守っていません 大きな税制の改正が成立すれば、トランプ政権の実績になるのは間違いありません 税制改正については、上院案と下院案を一本化する協議が進行中 「トランプの権力を支える対立構図」 JMM 冷泉彰彦 トランプ氏とメディアの相性のほうが、むしろ、いいし、より健全かもしれない、と筆者は分析 RICO法 ワインスタイン氏の落ち目は、ハリウッドメディアの落ち目であり、さらに米メディアに対する国民の目が厳しくなることを意味 う1つ追い風になっているのは、ハリウッドの大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン氏のセクハラスキャンダルが明るみに出たことだ トランプ大統領にとっては「2つの追い風」 京電力と東芝は、国際協力銀行とともに「ウラニウム・ワン」に出資し、20%近くの株式を保有していた。しかし、同社のロシアへの売却に伴い、同社株を手放すことになった 日本企業もとばっちり 「本物のロシア疑惑」に関して、ミュラー氏は「足元が危うい」状況にあると明言 オバマ政権時代、オバマ大統領とミュラーFBI長官とは切っても切れない関係にあった ミュラー氏のほかにもう1人の特別検察官を要求 「言論弾圧=議会からの情報隠し」 FBIへの情報提供者は議会証言をしたい意向だったにもかかわらず、オバマ政権の司法長官はそれを阻止したとされる 捜査に全責任をもつFBI(連邦捜査局)長官はロバート・ミュラー現特別検察官 「ウラニウム・ワン」を、ロシアに売却する計画を承認する際 ロシア関係者から何と1億4500万ドル(約165億円)という巨額の献金がクリントン財団になされた 「本物のロシア疑惑」 国務長官のヒラリー・クリントン氏や、陰の実力者であるビル・クリントン元大統領、そしてクリントン財団がどう関わったのかという疑惑 「オバマ政権時代のロシア疑惑」 トランプ米大統領の支持率は過去最低の33%を記録。しかし、その後の支持率は上昇傾向にある 「トランプ大統領の支持率が上昇しているワケ 不人気だった大統領に2つの追い風が吹いた」 東洋経済オンライン 湯浅 卓 北朝鮮問題は、トランプ氏のアジア歴訪によって少なくとも各国の政権にとって、ほぼウィン・ウィンの形で終わったと言える 中国にとっても、大きなメリットがある 安倍首相にとっても実はプラスだ 緊張関係が続いた方が、トランプ政権としては有利だ トランプ氏は、本当は大統領ではなくて、生粋の経営者ではないのだろうか 日韓米の3 カ国合同演習の構想について、韓国側が拒否 習近平氏は、「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と発言した。太平洋を米中二大国で仕切るということである。 これは、トランプ氏が進めようとしている「自由で開かれたインド太平洋戦略」とは全く矛盾する。インド太平洋戦略は、中国への対抗策だ。 ところが、習近平氏の「米中二大国で太平洋を仕切る」という発言を、トランプ氏は飲んでしまったようだ ランプ氏は習近平氏の発言に対して何の抗議もせず、理解を示したうえ、「中国は米国にとって非常に大事な国だ」とまで言った 現状維持だ 肝心の北朝鮮問題について、 総額2535億ドル(約28兆7800億円)の米国製品を買うという大盤振る舞い 中国はトランプ氏に対し、「国賓プラス」というレベルの異例の厚遇 中国との関係改善に向けた動き 韓国はわざわざ日韓の間に溝を作った 米中首脳会談の内容は、日本のマスメディアの予想が大きく外れた展開 アジア歴訪 「東アジアの緊張続く、中国の策にはまった日米韓 トランプ氏は大統領ではなくやっぱり経営者だ」 日経ビジネスオンライン 田原 総一朗 (その25)(中国の策にはまった日米韓 トランプ氏は大統領ではなくやっぱり経営者だ、トランプ大統領の支持率が上昇しているワケ、トランプの権力を支える対立構図) トランプ大統領
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日本の政治情勢(その15)(本当は弱い安倍政権、“極右”の安倍政権が左派的政策をとり 共産党が「保守」と呼ばれる訳、「党首討論なし」「首相は逃げ恥」では酷すぎる 傲慢自民に混乱野党で 国会は機能不全に、質問時間見直しの裏で 自民が国会から“安倍首相隠し”画策) [国内政治]

日本の政治情勢については、11月2日に取上げた。今日は、(その15)(本当は弱い安倍政権、“極右”の安倍政権が左派的政策をとり 共産党が「保守」と呼ばれる訳、「党首討論なし」「首相は逃げ恥」では酷すぎる 傲慢自民に混乱野党で 国会は機能不全に、質問時間見直しの裏で 自民が国会から“安倍首相隠し”画策) である。

先ずは、エコノミストの浜矩子氏が11月12日付け週刊金曜日に寄稿した「本当は弱い安倍政権(浜矩子)」を紹介しよう。
・総選挙明けの10月23日、月曜日に本稿を執筆している。今の心境はどうか。 やれやれまたか。もとより、この思いはある。自公で解散前勢力をほぼ維持した。なんとうんざりすることか。だが、その一方で、それなりのワクワク感が、実をいえばある。「立憲民主」を掲げる政党が誕生した。そして、野党第一党のポジションにつけた。 そしてさらに、一時は妖怪アホノミクスを凌ぐ毒の鼻息を吹き散らすかにみえた緑の妖怪、グリーンモンスターが色あせた。と同時に、緑の衣の下に潜む鎧の性格がかなりよくみえて来た。「改憲踏み絵」が鎧の色合いをよく示していた。
・かくして、対峙の構図がかなりすっきりみえてきた。民主主義と国粋主義が正面切ってにらみ合う。この関係が鮮明に浮かび上がった。わけの解らない与野党対決の時代は終わった。これでいい。あるのは、市民側対権力側の攻防だ。政治家たちは、このいずれの側につくのか。そのことで、彼らの知性と品格が試される。
・ところで、今回も盛んに「安倍一強」ということが言われた。「一強の驕り」が出ないよう、身を慎め。選挙後の自公政権に対して、多くのメディアがこのメッセージを投げかけた。重要な戒めだ。 ただ、彼らは本当に強い政権なのか。実はそうではないように思う。彼らは、本当は弱い政権なのだと思えてならない。弱虫政権である。
・弱虫の特徴は何か。それは、空威張りをすることだ。彼らには自信がない。だから必死で突っ張る。すぐに被害妄想に陥る。そして、過激な言動をもって逆襲に出ようとする。弱虫にはゆとりがない。だから、批判を封じ込めようとする。逆らう者たちを黙らせようとする。言論の自由を制限しようとする。何とも肝っ玉が小さい。
・弱虫には、怖いものがたくさんある。だから、それらの怖いものを全部押しつぶそうとする。弱虫は、決して謙虚になれない。なぜなら、彼らは臆病だからだ。臆病者は、常に虚勢を張っていなければ生きていけない。そのような者たちの中に、謙虚であるおおらかさは芽生えない。
・その意味で、彼らが披露してみせているのは、「一強の驕り」ではない。あれは「一弱の怯え」だ。人間は、怯えれば怯えるほど、行動が無茶なものになる。過激になる。容赦なくなる。形振り構わなくなってしまう。
・市民とともに闘い続けるまともな野党組の皆さんには、弱虫の怯えと上手に対峙し、それを上手に退治してほしい。その点で、一つやや気掛かりなことがある。選挙戦中、立憲民主党の枝野代表は「右でもない、左でもない」という言い方をしていた。多くの市民とともに前に進む。それはいい。だが、右はやはり少々まずいと思う。なぜなら、その道には、どうしても国粋につながる面があるからだ。国家主義に踏み込んでいく扉がそこに開いているからだ。
・振り返ってみた時、今この場面が、日本における市民主義の本格的夜明けの場だったと思える。そのような時として、今を輝かせる。それがまともな野党組の使命だ。立ち去れ、弱虫政権と偽野党たち。
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2017/11/12/keizai-23/

次に、11月17日付けダイヤモンド・オンライン「“極右”の安倍政権が左派的政策をとり、共産党が「保守」と呼ばれる訳」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・週刊ダイヤモンド11月18日号の特集は「右派×左派 ねじれで読み解く企業・経済・政治・大学」。保守とリベラルの対決が鮮明となった衆院選が終わってもなお、「右派・左派」「保守・リベラル」などイデオロギーにかかわる議論が続いている。左派政党の代表格であるはずの日本共産党に対し、若い有権者は「保守」のイメージを抱いているという。しかも、その誤解は一部で現実化している。
・若い有権者は、最も左派色の濃い日本共産党を“保守”と呼び、保守を代表する自民党や日本維新の会を“リベラル”と認識している──。本来の立ち位置とは正反対の政党認識が話題になっている。
・今年7月から8月にかけ、「読売新聞」と早稲田大学が実施した共同調査で明らかになった。この調査結果をまとめたのが、下図である。 これによると、70歳以上の認識は、最も保守的な方から順番に自民党、次いで維新の会、公明党、民進党、共産党と続き、伝統的なイデオロギー軸と整合性の取れた並び順になっている。
・ところが、これが18~29歳の認識になると、見事に逆転しているのが分かるだろう。さらに30代の共産党に対する認識に至っては、20代より右寄りとなる一方、維新の会はもう一段左に寄っており、認識のねじれはさらにひどくなっている。 共産党と維新の会のグラフは40代と50代の間で交差しており、50歳前後を挟んで、政党間の対立軸の認識に世代間の断絶があるといえそうだ。
・40代以下の有権者から、共産党が保守的と認識されているというのは驚きだが、確かに、「変わらない」という点に限れば、共産党は“保守”かもしれない。 もともと日本における政治的イデオロギー対立は、安全保障をめぐる保守陣営と革新陣営の対立を基本軸に展開されてきた。
・しかし、冷戦終結によって対立構造が見えにくくなる中、冷戦を知らない若い有権者ほど、変えようとしない政治勢力を文字通り、単純に保守と認識するようになった可能性が高い。 つまり、共産党はぶれずに愚直に時の政権と対峙し続けてきたという点で、変わらないが故に“保守”なのだ。
▽憲法問題では若い有権者の誤解が現実化
・実のところ、若い世代のこうした「誤解」は現実化している。 例えば憲法問題。共産党をはじめとする左派政党は一貫して憲法護持を訴えてきており、何が何でも憲法改正を阻止したい考えだ。 逆に、自民党の安倍晋三首相は改憲が悲願である。
・10月の衆院選で圧勝し、与党の自公や、維新の会など「改憲勢力」が憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を衆参両院で確保したことを受け、11月には来年の通常国会での改憲案提出を目指す方針を明らかにした。 変えたくない共産党と変えたい自民党。激しい攻防が予想される改憲論議では、保守とリベラルが実際に入れ替わっているのだ。
・経済政策もまた、若者たちの誤解を先取りしている。1970年代、『列島改造論』を掲げて首相となった自民党の田中角栄は保守政党の総裁でありながら、都市と農村の格差是正や福祉の充実を図り、左派層の取り込みを狙った。安倍首相も働き方改革で非正規雇用の処遇改善を進めるなど、リベラル寄りの政策を取ってきた。
・下図を見てもらいたい。これは日本の政党の立ち位置を示したものだ。自民党は一般的に政治・文化的には保守、経済的にも右派で小さな政府を志向する右上に配置されることが多い。ただ、時に“極右”とやゆされる現安倍政権は経済政策の面では左派であり、右下の「保守左派」のカテゴリーに分類される。
・逆に、リベラル派の旧民主党などは緊縮的な財政政策を取りがちで、「事業仕分け」はその典型だろう。こうした政策はむしろ経済右派の考え方となる。 安倍首相は自らの野心のため、この「保守左派」という立ち位置を非常に都合よく使い分けてきたといえる。 どういうことかというと、安倍政権は先の衆院選で国政選挙5連勝を達成したが、実は選挙のたびに有権者に受けのいい左派的な経済政策を掲げ、選挙を乗り切ると保守色の強い右派的な政策を進めるというサイクルを繰り返しているのだ。
▽「保守左派」を都合よく利用する狡猾な安倍政権
・具体的に見ていこう。2012年の衆院選で政権を奪い返すと、安倍政権は13年にアベノミクスを本格始動させる。その年の7月に行われた参院選は株高の後押しを受けて圧勝。参議院で野党が多数を占める衆参のねじれの解消に成功する。 この辺りから抑えていた保守色が強まっていく。同12月に特定秘密保護法を成立させた安倍首相は、靖国神社にも参拝した。
・その後、支持率が低下しだすと、左派モードに切り替えて「地方創生」を提唱。さらに消費税の増税先送りを決定し、14年の衆院選と15年の統一地方選にも勝利した。その後に出てきたのが、国民的な議論を呼んだ安全保障関連法案だ。これも同9月に強行採決で成立に持ち込んだ。
・強引な政権運営への不満が高まってくると、今度は「1億総活躍社会」を打ち出し、参院選に完勝する。すると再度保守モードに切り替わり、いわゆる共謀罪法を実現するといった具合だ。 聞こえのいい左派的な経済政策を隠れみのに、本丸である保守色の強い政策を通す。その手腕は見事だが狡猾さも透ける。
・共産党の愚直な“保守”と、自民党の狡猾な保守。この二つの保守の根っこにあるのも右派と左派のねじれといえる。
http://diamond.jp/articles/-/149808

第三に、政治ジャーナリストの泉 宏氏が11月28日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「党首討論なし」「首相は逃げ恥」では酷すぎる 傲慢自民に混乱野党で、国会は機能不全に」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・師走の寒風に通行人が首をすくめる永田町では週末の9日、特別国会が閉幕する。衆院選を受けて安倍晋三首相が発足させた第4次政権の初舞台で、39日間という異例に長い会期設定となったが、与野党論戦はまったく盛り上がらないまま終戦となり、国内政局は年末年始の休戦に入る。
・今春の疑惑発覚時から野党の攻撃材料となった「森友・加計学園問題」は、新たな材料も浮上して疑惑が深まったのに、首相や関係省庁の固いガードと開き直り答弁による"逃げ恥作戦"が奏功して、追及は尻切れトンボに終わった。しかも、与野党党首が1対1で切り結ぶ党首討論も、制度導入以来初の「年間開催ゼロ」に。衆院選圧勝で傲慢さを増す自民党の国会運営に、民進党分裂による"バラバラ野党"が押しまくられた結果だが、国権の最高機関としての国会の劣化も際立つ年の暮れとなった。
・特別国会冒頭で自民党がいきなり仕掛けたのが、与野党の質問時間配分の見直し。1強首相の「最大のウイークポイント」(自民幹部)とされる「森友・加計学園疑惑」での野党追及に歯止めをかける狙いからで、「各党議席数に応じた質問時間」を前面に押し出し、前国会までの与野党「2対8」を「7対3」に逆転させようとする「とんでもない暴論」(立憲民主党)を野党側に突きつけた。
▽「質問時間見直し」で押し切られた野党の無力
・もちろん野党側は「民主主義の根幹にかかわる」(共産党)などと猛反発し、自民党内からも「やりすぎ」(参院国対)との批判が出たが、党執行部は「与野党1対1が大原則」として各委員会で野党側に圧力をかけ続けた。その結果、論戦の主舞台となる衆院予算委で野党側が渋々応じた「5対9」が新たな慣例となり、年明けに召集される通常国会でも与党の質問時間は倍増し、野党は大幅削減を余儀なくされそうだ。
・質問時間については今回衆院選で3回目の当選を果たした"安倍チルドレン"と呼ばれる自民若手議員達が「国会での質問の機会を与えて欲しい」と党執行部に陳情し、首相もこれを後押しする姿勢を示したことで、自民執行部が強硬姿勢に転じた。同党内でも委員会の自主性に任せている参院側が苦言を呈し、「いまこそ1強政権の懐の深さをアピールすべきだ」(自民長老)との批判も出た。だが、衆参で野党第1党が異なるという過去に例のない事態で、野党側が無力化し、自民のゴリ押しを許した格好だ。
・首相や政府与党幹部が選挙後も合言葉にしていたはずの「謙虚」とはかけ離れた高圧的な国会運営はその後も続いた。8月3日の前内閣発足以来初めてとなった11月17日の首相所信表明演説は、約3500字(15分)という安倍政権下での最短記録を更新した。「長ければいいというわけではない」(自民幹部)が、選挙戦で首相が「真摯で丁寧な説明」を約束したはずの森友・加計問題に一言も触れなかったことは「国会軽視」(共産党)のそしりを免れない。
・今年2月に発覚した森友問題の国会での疑惑解明がまったく進展しない中、特別国会後半の11月22日には、会計検査院が、疑惑の核心とされる約8億円値引きでの同学園への国有地売却について、「値引き額の根拠がなく不適切」などとする厳しい検査結果を報告・公表した。
・「絶好の攻撃材料」と勇み立った野党側は、11月27日からの衆参予算委員会やその後の関係委員会での追及を強め、通常国会の段階から取り上げられていた財務省近畿財務局と籠池泰典前森友学園理事長との価格交渉をうかがわせる音声データについて、財務省に「本物」と認めさせた。しかし、会計検査院が「不適切」と指摘した大幅値引きについては、国会答弁で「価格算定は適正」と繰り返してきた首相や麻生太郎財務相が、「所管官庁の適正との報告を信用してそう申し上げた」などと開き直り、野党の謝罪要求も無視したが、野党側は二の矢を放てなかった。
・会計検査院が、森友問題での首相や昭恵夫人への忖度の有無などについては「検査の対象外」としていっさい触れなかったこともあり、首相らは人気テレビ番組によって流行語ともなった「逃げるは恥だが役に立つ」という"逃げ恥"作戦を決め込んだ格好だ。これに対し、野党側も独自調査による追及材料発掘への努力不足が際立っており、「年明けの通常国会での徹底追及」(立憲民主幹部)も掛け声倒れに終わるとの見方が広がる。
▽野党側も党首討論を想定せず?!
・そうした中、通常国会に続いて特別国会でも党首討論の開催が見送られた。首相と野党党首の差しの勝負となる党首討論は、2012年11月に、当時の野田佳彦首相(民主党)が安倍自民党総裁との対決で突然、衆院解散を宣言するなど、「政局大転換の舞台」となった実績もある。しかし、第2次安倍政権発足後は年1~2回の開催となり、とうとう今年は制度発足以来初の「開催ゼロ」となった。
・現在のような衆参両院の国家基本政策委員会合同審査会での党首討論がスタートしたのは2000年通常国会。国会での政策論議を官僚主導から政治家主導にするのが狙いで、英国下院議会の「クエスチョンタイム」がモデルだ。小沢一郎氏(自由党共同代表)が自民党幹事長時代に提案したもので、導入当初は「国会改革の切り札」として国民からも期待された。しかし討論時間が合計45分間と短いこともあって、首相と野党党首の「言いっ放しのすれ違い」(野党幹部)に終わるケースが多く、野党側も首相追及の時間が十分確保できる予算委での質疑を優先するようになった。
・野党党首としての討論参加資格は、(1)衆参両院のいずれかで10人以上の議員を有して院内交渉団体の資格を持つ政党(会派)の党首、(2)国会議員で国家基本政策委員会に所属、と規定されている。(1)の条件を満たす党首は枝野幸男・立憲民主党代表、玉木雄一郎・希望の党代表、大塚耕平・民進党代表、志位和夫・共産党委員長、片山虎之助・日本維新の会共同代表の5氏だが、衆院会派無所属の会(13人)の岡田克也代表も理論上は有資格者となる。
・岡田氏は民進党籍があるため、参院野党第1党の同党に所属する衆院側議員と見ることもできるが、その場合は民進党籍を持つ議員で構成される衆院無所属の会(13人)を加えると衆参の総議員数では民進党が「野党第1党」となってしまう。こうした過去に例のない異常事態について、自民党の森山裕国対委員長は「野党でしっかり決めて欲しい」と野党間の調整を求めたが野党側の対応が混乱、これが特別国会での党首討論見送りにつながった原因だ。
・そもそも、特別国会での衆参国家基本政策委員会の登録議員をみると、大塚、岡田両氏の名前はなく、ルール上では初めから両氏は今国会での党首討論への参加資格はなかった。このことからも、野党側は党首討論開催を想定していなかったと見られても仕方がないのが実情だ。
・さらに、質問時間配分は原則的に所属議員数との見合いで決まる。仮に来年の通常国会で岡田氏を除く5人の党首が討論に参加する場合、これまでの経緯から枝野、玉木、大塚3氏が各10分強、志位、片山両氏が各5分という"細切れ討論"となり、各党首が緻密に連携しない限り、野党側の追及不足となるのは避けられない。
▽世論調査では、首相3選に「反対」が上回る
・国会論戦の主舞台となる予算委員会は各委員の質問に首相ら政府側が答える「一方通行方式」だが、党首討論では首相の「逆質問」も認められており、本来は丁々発止の緊迫したやり取りになるはずだ。ところが、首相からの逆質問はまれで、むしろ長広舌による時間稼ぎが常態化していた。このため、野党が小党乱立となった現状では党首討論自体が形骸化し、来年も開催できなければ存続の是非すら問われかねない事態だ。まさに「言論の府の機能不全の象徴」(首相経験者)ともみえる。
・国政選挙5連勝で"1強"を維持する首相にとって、野党陣営が民進党分裂の後遺症で「戦闘能力」を喪失していることは、10カ月後の自民総裁選での「3選」への追い風ともなっている。自民党内でも「首相の強運はまだまだ続く」(執行部)との見方が広がる。しかし、衆院選後に実施された各種世論調査では、首相の「3選」について「反対」が「賛成」を上回る状況が続く。「国民の"安倍疲れ"の表れ」(自民長老)とすれば、年明け以降も強引な政局運営を続けると、「ちょっとしたミスが政権危機につながる」(同)可能性は否定できない。
http://toyokeizai.net/articles/-/200414

第四に、11月29日付け日刊ゲンダイ「質問時間見直しの裏で 自民が国会から“安倍首相隠し”画策」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・野党の質問時間を減らすために、安倍自民党がゴリ押しした「質問時間の配分見直し」。案の定、質問時間が増えた自民党議員は、安倍首相をヨイショする愚にもつかない質問を連発している。 さらにフザケているのは、自民が画策している安倍首相のための“国会改革”だ。なんと、首相の国会出席日数を減らそうとしているのだ。
・「今月21日の自民党正副幹事長会議で、日本の国会がイギリス議会をモデルにしていることに触れ、“イギリスにならうべし”と首相の議会出席日数の削減が持ち出されました。ご丁寧にも、会議では『議院内閣制をとる国における議会への首脳出席状況等』と題された資料が配布され、日本の首相が欧州各国の首脳と比べて議会出席が多いと指摘された。国会が嫌いな安倍首相のために、自民党は本気で首相の出席日数を減らすつもりです」(永田町関係者)
・たしかに、欧州各国と比べて首相の出席日数は多い。有識者による民間団体「日本アカデメイア」の国会改革に関する提言(2012年)によると、各国首脳の年間の議会出席日数は<日本127日><フランス12日><イギリス36日><ドイツ11日>である。
▽仕事量を増やしているのは安倍首相自身
・しかし、議会の制度も政治風土も違うのに、出席日数だけを比べるのは、ナンセンスもいいところだ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)がこう言う。 「イギリスの議会制度をモデルとするなら、首相の解散権についても見直さないと比較になりません。イギリスでは、解散に下院の3分の2以上の賛成多数が必要で、解散権に制限があります。そもそも、仕事量を増やしているのは、安倍首相自身です。モリカケ問題など、国会に呼ばれるような原因をつくらなければいい話です。出席日数が多いと悲鳴を上げるのは、裏を返せば『激務に耐えられない』ということ。そんな人は辞めたらいいと思います。戦後70年間、日本の首相が普通にやってきたことをできないということでしょう」
・なにより、イギリスでは毎週水曜日に「クエスチョンタイム」という党首討論が行われ、野党議員から事前通告ナシの質問を受ける。それに比べ日本は今年、1回も党首討論が行われていない。 これまで与党は、首相が国会に長時間拘束され、外国訪問や国際会議への出席ができないと、出席日数削減を声高に叫んできたが、安倍政権の誕生後、野党が首相の外遊にストップをかけたことはほとんどない。今月1日召集の特別国会も、安倍首相の“外交日程を考慮して”所信表明演説は2週間遅れの17日に行われた。
・野党の追及から逃れようとするより、国会で国民が納得する答弁をしたらどうだ。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/218518/1 

第一の記事で、 『彼らが披露してみせているのは、「一強の驕り」ではない。あれは「一弱の怯え」だ。人間は、怯えれば怯えるほど、行動が無茶なものになる。過激になる。容赦なくなる。形振り構わなくなってしまう』、というのは逆説的だが、説得力がある。さすが浜氏だ。
第二の記事で、 『40代以下の有権者から、共産党が保守的と認識されているというのは驚きだが、確かに、「変わらない」という点に限れば、共産党は“保守”かもしれない・・・冷戦終結によって対立構造が見えにくくなる中、冷戦を知らない若い有権者ほど、変えようとしない政治勢力を文字通り、単純に保守と認識するようになった可能性が高い。つまり、共産党はぶれずに愚直に時の政権と対峙し続けてきたという点で、変わらないが故に“保守”なのだ』、との調査結果には私も驚いた。 『時に“極右”とやゆされる現安倍政権は経済政策の面では左派であり、右下の「保守左派」のカテゴリーに分類される。 逆に、リベラル派の旧民主党などは緊縮的な財政政策を取りがちで、「事業仕分け」はその典型だろう。こうした政策はむしろ経済右派の考え方となる。 安倍首相は自らの野心のため、この「保守左派」という立ち位置を非常に都合よく使い分けてきたといえる』、『聞こえのいい左派的な経済政策を隠れみのに、本丸である保守色の強い政策を通す。その手腕は見事だが狡猾さも透ける』、などの指摘は、残念ながらその通りだ。
第三の記事で、『「質問時間見直し」で押し切られた野党の無力』、『野党側も党首討論を想定せず?!』、などは細分化した野党の弱さを物語っている。民進党前代表前原の罪は極めて重い。 『世論調査では、首相3選に「反対」が上回る』、ということであれば、自民党内で反安倍の動きが強まるのを期待するほかないのかも知れない。
第四の記事で、 『国会が嫌いな安倍首相のために、自民党は本気で首相の出席日数を減らすつもりです』というのは、由々しいことだ。 『そもそも、仕事量を増やしているのは、安倍首相自身です。モリカケ問題など、国会に呼ばれるような原因をつくらなければいい話です』との五野井教授の指摘はその通りだ。国会審議をこれ以上形骸化させるようなことを許してはならない。
タグ:イギリスでは毎週水曜日に「クエスチョンタイム」という党首討論が行われ、野党議員から事前通告ナシの質問を受ける 仕事量を増やしているのは安倍首相自身 国会が嫌いな安倍首相のために、自民党は本気で首相の出席日数を減らすつもりです 自民党正副幹事長会議 「質問時間見直しの裏で 自民が国会から“安倍首相隠し”画策」 日刊ゲンダイ 世論調査では、首相3選に「反対」が上回る 野党側も党首討論を想定せず?! 国会答弁で「価格算定は適正」と繰り返してきた首相や麻生太郎財務相が、「所管官庁の適正との報告を信用してそう申し上げた」などと開き直り、野党の謝罪要求も無視したが、野党側は二の矢を放てなかった 厳しい検査結果を報告・公表 会計検査院 安倍政権下での最短記録を更新 首相所信表明演説 首相や政府与党幹部が選挙後も合言葉にしていたはずの「謙虚」とはかけ離れた高圧的な国会運営 衆参で野党第1党が異なるという過去に例のない事態で、野党側が無力化し、自民のゴリ押しを許した格好 与野党の質問時間配分の見直し 党首討論も、制度導入以来初の「年間開催ゼロ」に 新たな材料も浮上して疑惑が深まったのに、首相や関係省庁の固いガードと開き直り答弁による"逃げ恥作戦"が奏功して、追及は尻切れトンボに終わった 森友・加計学園問題 「「党首討論なし」「首相は逃げ恥」では酷すぎる 傲慢自民に混乱野党で、国会は機能不全に」 東洋経済オンライン 泉 宏 聞こえのいい左派的な経済政策を隠れみのに、本丸である保守色の強い政策を通す。その手腕は見事だが狡猾さも透ける 「保守左派」を都合よく利用する狡猾な安倍政権 実は選挙のたびに有権者に受けのいい左派的な経済政策を掲げ、選挙を乗り切ると保守色の強い右派的な政策を進めるというサイクルを繰り返しているのだ リベラル派の旧民主党などは緊縮的な財政政策を取りがちで、「事業仕分け」はその典型だろう。こうした政策はむしろ経済右派の考え方となる 時に“極右”とやゆされる現安倍政権は経済政策の面では左派であり、右下の「保守左派」のカテゴリーに分類される 安倍首相も働き方改革で非正規雇用の処遇改善を進めるなど、リベラル寄りの政策を取ってきた 冷戦終結によって対立構造が見えにくくなる中、冷戦を知らない若い有権者ほど、変えようとしない政治勢力を文字通り、単純に保守と認識するようになった可能性が高い 40代以下の有権者から、共産党が保守的と認識されているというのは驚きだが、確かに、「変わらない」という点に限れば、共産党は“保守”かもしれない れが18~29歳の認識になると、見事に逆転しているのが分かるだろう。さらに30代の共産党に対する認識に至っては、20代より右寄りとなる一方、維新の会はもう一段左に寄っており、認識のねじれはさらにひどくなっている 70歳以上の認識は、最も保守的な方から順番に自民党、次いで維新の会、公明党、民進党、共産党と続き、伝統的なイデオロギー軸と整合性の取れた並び順 「読売新聞」と早稲田大学が実施した共同調査 「“極右”の安倍政権が左派的政策をとり、共産党が「保守」と呼ばれる訳」 ダイヤモンド・オンライン 彼らが披露してみせているのは、「一強の驕り」ではない。あれは「一弱の怯え」だ。人間は、怯えれば怯えるほど、行動が無茶なものになる。過激になる。容赦なくなる。形振り構わなくなってしまう。 弱虫には、怖いものがたくさんある。だから、それらの怖いものを全部押しつぶそうとする。弱虫は、決して謙虚になれない。なぜなら、彼らは臆病だからだ。臆病者は、常に虚勢を張っていなければ生きていけない。そのような者たちの中に、謙虚であるおおらかさは芽生えない 弱虫の特徴は何か。それは、空威張りをすることだ。彼らには自信がない。だから必死で突っ張る。すぐに被害妄想に陥る。そして、過激な言動をもって逆襲に出ようとする。弱虫にはゆとりがない。だから、批判を封じ込めようとする。逆らう者たちを黙らせようとする。言論の自由を制限しようとする。何とも肝っ玉が小さい 彼らは本当に強い政権なのか。実はそうではないように思う。彼らは、本当は弱い政権なのだと思えてならない。弱虫政権である 「本当は弱い安倍政権(浜矩子)」 週刊金曜日 浜矩子 (その15)(本当は弱い安倍政権、“極右”の安倍政権が左派的政策をとり 共産党が「保守」と呼ばれる訳、「党首討論なし」「首相は逃げ恥」では酷すぎる 傲慢自民に混乱野党で 国会は機能不全に、質問時間見直しの裏で 自民が国会から“安倍首相隠し”画策) 日本の政治情勢
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フィリピン(その2)(フィリピン「深刻すぎる薬物戦争」は日本が蒔いた種が原因だった、薬物依存症患者と接するなかで学んだ二つの大事なこと、マラウィ 避難民35万人の厳しすぎる未来 イスラム武力衝突は現地に深い傷跡を残した) [世界情勢]

フィリピンについては、昨年11月6日に取上げた。1年以上経った今日は、(その2)(フィリピン「深刻すぎる薬物戦争」は日本が蒔いた種が原因だった、薬物依存症患者と接するなかで学んだ二つの大事なこと、マラウィ 避難民35万人の厳しすぎる未来 イスラム武力衝突は現地に深い傷跡を残した) である。

先ずは、筑波大学教授の原田 隆之氏が8月9日付け現代ビジネスに寄稿した「フィリピン「深刻すぎる薬物戦争」は、日本が蒔いた種が原因だった 日本人が直視しなかった現実」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「薬物戦争」の1年
・私は今、マニラの巨大なショッピングモールにあるカフェでこの原稿を書いている。 週末とあって、モールは家族連れやカップルなど買い物客でごった返しており、街は一見平和そのものだ。幸い、心配されていた台風は、ルソン島をかすめただけで済んだ。日本とは違って、すぐ隣で台風が生まれ、あっという間に去って行った。
・マニラに来る前日、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、就任2年目を迎えた機会に、就任以来2度目となる施政方針演説を行った。 直前にミンダナオ島の戒厳令が延長されたこともあって、イスラム国やテロ対策などに話の大半が割かれるだろうとの予想を見事に裏切って、冒頭から長時間、薬物対策に話が及んだ。彼の姿勢は、本当に一貫している。
・ドゥテルテ大統領が就任したのが昨年6月。彼は、就任するや否や、薬物対策を政権の最優先課題として打ち出し、「薬物戦争」を宣言した。薬物撲滅のため、薬物に関わった者の殺害も辞さないとの強行的な姿勢を示し、世界中から大きな非難を浴びた。 実際、正体のよくわからない「自警団」などに殺害された者は、数千人に上ると報道されている。しかし、支持率70%とも80%とも言われる絶大な人気を背景に、彼のその姿勢にはまったく揺るぎがない。
▽アジアで1、2を争う治安の悪さ
・なぜ薬物政策がそれほど重要で、それほど国民の支持を集めるのか。 それを理解するには、この国の深刻な薬物汚染について知らなければならない。 途上国では、公式な統計があっても、それがそのまま信頼できるわけではないが、この国の統計では薬物使用人口はおよそ180万人と推定されている(一説には、300万人を超えているとも言われている
・180万人という数字を信じれば、国民の50人に1人が薬物を使っているという現状であるから、近所や職場、友人の中に、1人や2人の薬物使用者がいてもおかしくないわけであり、誰もが身近にその脅威を感じている問題だということがわかるだろう。 今、私のすぐ横でコーヒーを飲んでいるカフェの客の中にも薬物使用者がいるかもしれないし、ショッピングモールを歩いている買い物客の中にも何十人、何百人という薬物使用者がいるかもしれない。 そう考えると、一見平和そのもののこの景色が、違った色を帯びてくる。
・また薬物使用は、ほかの犯罪を招く元凶ともなる。薬物の影響で暴力的になったり、幻覚妄想状態になって粗暴行為に及ぶこともあるし、薬物を入手するために新たな犯罪に手を染めるということもある。 さらに、身近なコミュニティが薬物密売の巣窟になると、治安が一気に悪化する。フィリピンの治安の悪さは、アジアでは1、2を争うくらいの深刻な状況であり、それが社会の健全な発展を阻害している。
▽世界的な批判、国民の大きな支持
・現在公開中のフィリピン映画『ローサは密告された』は、昨年のカンヌ映画祭で主演女優賞を受けた秀作であるが、庶民の生活の中にどれだけ薬物が入り込み、それが犯罪や警察の腐敗に結びついているかが、まるでドキュメンタリーのようなリアリティをもって描かれている。 映画では、マニラのスラム街にある小さな商店主が、タバコの包みに覚せい剤を隠して売りさばき、密告によって逮捕される。彼らはどこにでもいる庶民であるが、さしたる罪悪感もなく、日常的に覚せい剤が売り買いされている状況は異常である。
・そして、逮捕者に賄賂をせびり、さらなる賄賂のために密告を唆す警察も汚れ切っていて、正義や希望はどこにもない。 この映画を絶賛したというドゥテルテ大統領は、元検察官であり、大統領になる前はミンダナオ島最大の都市、ダバオの市長を長年務めた。
・彼は市長在任中も徹底した犯罪対策、薬物対策を断行し、その結果ダバオの治安は劇的な改善を見せ、現在はフィリピンで一番治安が良い都市と言われるまでになった。その実績を引っ提げて見事大統領まで上り詰めたというわけである。 ドゥテルテ大統領は、命を賭けて薬物戦争を断行すると述べている。
・おそらく、その決意に嘘はないだろう。フィリピン社会を蝕むどす黒い影であり、誰もが身近に感じて怯えている薬物と犯罪を一掃するという彼の政策に、フィリピンの人々にとっては、明るい希望の光を見たのだろう。 このような背景があって、世界的な批判にもかかわらず、彼の政策は国民の大きな支持を集めている。
・日本の場合、逆に平和すぎて国の公的な薬物統計がないため(これは先進国では日本くらいのものである)、犯罪統計に頼るしかないのだが、犯罪白書によると毎年約1万人強が覚せい剤取締法違反で検挙されている。 フィリピンの人口は約1億人であるので、薬物使用者の割合は日本の約180倍という計算になる。この数字を見るだけで、いかにこの国の薬物問題が深刻で、日本とは比べものにならないことがわかるだろう。 おそらく、フィリピンの薬物汚染は、世界最悪と言ってよい。そして、日本と同じく、使用薬物の大半は覚せい剤である。
▽薬物問題の起源
・ところで、覚せい剤が最も中心的な違法薬物となっている国は、世界中を見ても日本とフィリピンくらいしかない。これは世界的に見て、非常に特殊な状況である。 フィリピンでは覚せい剤を指して「シャブ」という言葉が日常的に使われているが、このことから、覚せい剤を持ち込んだのは日本の暴力団であることがわかる。
・そもそも、覚せい剤は日本で生まれた薬物である。戦前、ある著名な化学者が世界で初めて合成に成功し、しばらくはヒロポンという名称で薬局でも売られていた薬物が、覚せい剤にほかならない。 その後、依存性や毒性が明らかになり、戦後になってから「覚せい剤取締法」が制定され違法薬物となったわけだが、その後暴力団が資金源として目をつけ、密輸や密売を始めてから、違法な使用が拡大していった。
・最初は日本だけの乱用に限定されていたが、90年代以降になって、東南アジア、アメリカ、オーストラリアなどに乱用が拡大していった。 つまり、フィリピンの国中を蝕む国家的な「害毒」は、恥ずかしいことに、その生まれも日本であるし、持ち込んだのも日本であるという、二重の意味で日本が蒔いた種なのだ。(「薬物依存患者と接するなかで学んだ、二つの大事なこと」につづく)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52506

次に、上記の続きを同じ8月9日付け「薬物依存症患者と接するなかで学んだ、二つの大事なこと フィリピン支援プロジェクトの現場から」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・昨年6月、フィリピン大統領に就任したドゥテルテ氏。大々的に「薬物戦争」を宣言し、世界最悪の薬物汚染状況をどうにかしようと取り組み始めた。しかし、薬物に関わる人物の殺害も辞さない強行的な姿勢が世界的に批判されている。支援プロジェクトの当事者として、現状と未来を見通してみたい。▽短期間で160万人が出頭
・昨年10月、ドゥテルテ大統領は日本を訪問し、安倍首相と首脳会談を行った。 その中で、日本側は、港湾や鉄道整備などのインフラ整備に加えて、薬物対策への支援を申し出た。支援の規模としては、インフラ支援のほうがはるかに大きいにもかかわらず、大統領はじめフィリピン側政府に大歓迎されたのが、薬物対策への支援であった。
・しかし、この支援が非常にセンシティブなものであることは言うまでもない。この時期はドゥテルテ大統領の「薬物戦争」と「超法規的殺害」などに対して、既に世界中からの非難が渦巻いていた最中である。 例えば、国連人権高等弁務官事務所が「国家は国民の生命を保障する法的義務がある」と批判したが、それに対しドゥテルテ大統領は「国連のクソ野郎」と罵倒し、国連からの脱退も示唆するなど、過激さをますます強めていた。
・このような中でフィリピンの薬物問題に支援するとなると、日本がドゥテルテ大統領の「薬物戦争」「超法規的殺害」に賛同し、それを後押ししているととらえられかねない。 しかし、日本側が申し出たのは、薬物使用者の治療や更生に対する支援であり、それによって蛮行をやめさせようとする意図があるのは明らかである。
・フィリピンが国際的に孤立するなかで、このまま国際社会からの非難が集中すれば、ますます頑なになったドゥテルテ大統領はさらなる強硬措置に出るかもしれない。 また、ドゥテルテ大統領の薬物政策のなかで、強硬な側面ばかりが強調されるが、実は薬物使用者の治療やリハビリにも重点を置いており、自首をすれば逮捕はせずに治療や教育を提供するという施策も併せて行っている。 その結果、「超法規的殺害」を恐れて、短期間で何と160万人に及ぶ人々が警察に出頭したと言われており、彼らへの治療やリハビリが今後、きわめて重要なテーマになってくるわけである。
▽支援プロジェクトの始動
・安倍・ドゥテルテ会談を受けて、首相官邸のリーダシップの下、外務省、国際協力機構(JICA)が支援策の具体化に動き始めた。 フィリピンへの支援は、上に述べたような人道的な面からの意味合いは大きいが、ただそれだけではない。このとき、同時に中国も薬物問題への支援を名乗り出て、急ピッチでのプロジェクトが展開され始めていた。
・例えば、中国の篤志家が日本円で数十億円という巨額を投資し、なんと1万人を収容できる巨大薬物使用者使用施設の建設を始め、昨年の11月に収容を開始した。その開所式には大統領自らが出席し、テープカットを行った。今後同様の施設をあと3ヵ所建設する予定だという。 おそらく、中国には薬物依存の治療についてのノウハウはなく、「閉じ込めておけばよい」という考え方なのだろう。
・しかし、1万人もの薬物使用者を突貫工事で建設した施設にただ閉じ込めておくというのは、人権上も大きな問題があると言わざるを得ない。 しかも、160万人もの薬物使用者を片っ端から閉じ込めておくなど、どう考えても不可能である。
・一方、日本の支援は、治療プログラムの開発や更生に向けてのヒューマン・サービスの提供を目指すものであり、そもそものフィロソフィーが根本的に違う。 ドゥテルテ大統領は、したたかに日中両国それぞれに働きかけて、両者の援助合戦を上手に利用しているところがある。 言うまでもなく、尖閣諸島などでの領土問題を抱える日中両国にとって、同様に中国と南沙諸島を巡る問題を抱えるフィリピンは地政学上重要な位置を占める。ドゥテルテ大統領はそのことは百も承知の上である。
・支援計画が動き出してから、私は薬物問題の専門家として、プロジェクトにかかわることとなった。 言うまでもなく、JICAと言えば、国際的にきわめて高い評価を得ている援助機関であるが、これまで薬物問題を取り扱ったことはなく、当初は何をすればよいのか、おそらく雲をつかむような話だったのではないかと思われる。 しかし、これは何もJICAに限ったことではない。当の官邸も外務省も同様だ。
▽子どもたちが収容され…
・そこで、私はまず「エビデンス・ベースト」をキーワードにして、つまり科学的根拠に基づいた治療プログラムの開発を目玉にすることを提案した。 具体的には、治療施設だけではなくコミュニティ内での治療サービスの提供、アセスメントのためのツールの開発、現地の専門家の研修、子どもの保護や教育、貧困対策や雇用対策、自助グループの育成などをパッケージにした支援計画の骨組みを提示した。
・そこからの動きは驚くほど速かった。JICAの担当者が初めて私の研究室に訪れてからわずか1ヵ月後、私は総理補佐官、関係省庁の担当官、そしてJICA担当者たちとともにマニラにいた。 激しいスコールとマニラ名物の渋滞に行く手を阻まれながら、最初に訪れたのはマニラ郊外にある薬物リハビリセンターである。そこには定員をはるかに超えた薬物使用者が収容されており、息も詰まるような光景であった。
・何より驚いたのは、まだ小学生くらいの子どもが収容されていたことである。本人たちに話を聞くと、彼らはストリートチルドレンで、小遣い稼ぎに薬物密売人の手先をする中で、空腹を紛らわせるために覚せい剤を使っていたという。 この国では食料よりも覚せい剤が安く手に入るのだ。そして、覚せい剤を使用すると、その薬理効果として空腹を感じなくなるのである。
・彼らはセンターの一角で算数の授業中だったが、生涯で初めて受ける教育が薬物リハビリセンターの中だという現実が、この国の薬物問題の深刻さを突きつける。 そして、「薬物は犯罪」という信念にがんじがらめになっていたわが国の警察庁からの同向者も「薬物問題の根本には貧困があるのですね」という感想を口にするのだった。 薬物乱用が犯罪であることは確かだが、この国では貧困問題であると同時に、それが疫病のように拡大している公衆衛生上や医療上の問題でもあるのだ。
▽フィリピンならではの明るさ
・その後、私はほぼ2ヵ月おきにフィリピンを訪れているが、最初の暗澹とした気持ちは、次第に薄らいでいっている。 それは1つには、JICAや日本大使館の人々の支援に対する献身的な姿勢を見て、大いに力づけられたということがある。 途上国支援の最前線では、このような地道な取り組みが、日本に対する信頼を高めていることを日々実感している。
・そしてもう1つは、この国の明るさと、薬物問題に取り組む専門家たちの熱意のお陰である。 何かにつけいい加減なところや、物事がなかなか前に進まないところには、この先も何度もイライラさせられるのかもしれないが、この国で仕事するのは悪くないという気持ちになっている。 何より、この国を訪れるたびに、私のほうが彼らから学ぶことが大きいのだ。
▽「依存症からの回復は楽しいこと」
・薬物依存の治療について、フィリピンから学んだ大事なことが2つある。 先日、フィリピン保健省との会合で、フィリピン人医師が「Recovery is fun.」(依存症からの回復は楽しいことだ)と述べたのを聞いて、私ははっとさせられた。 これこそが、治療を受けている薬物依存症者に対して、一番大切なメッセージではないだろうかと感じたからである。
・日本人は何かにつけ、物事に深刻になりすぎるところがある。確かに薬物使用は褒められたものではない。 しかし、ひとたび過ちを認め、そこから回復していく道のりは、楽しいものであってよいはずだ。薬物の呪縛や罪悪感から解き放たれ、心身の健康を取り戻し、悪い仲間やライフスタイルを捨て、新しい仲間や健康的なライフスタイルを身に付けて、生まれ変わった自分になっていく。 新しい趣味を見つけたり,新しい学びに取り組んだりすることもできる。薬をやっていたのではできない多くの楽しい体験が待っている。
・依存症の治療は、いつも反省を口にしつつ申し訳なさそうな顔をして、失ったものや暗い過去を見つめてばかりで、後悔や罪の意識に苛まれた中での修行や苦行であってはならない。 もちろん反省や償いを忘れてはならないが、明るい未来のための、希望に満ちた楽しい活動であるべきだ。これは、日本の薬物依存治療に決定的に欠けている姿勢かもしれない。
▽もう1つの「薬物戦争」と戦う
・もう1つは、家族やコミュニティからの支援の豊かさである。フィリピンは家族の絆がとても強く、地域社会のつながりもとても密接である。また、教会を通して深い信仰でも結ばれている。 フィリピンの専門家を日本に招いて、日本のある薬物治療施設を見学していたとき、その入所者のほとんど全員が、薬物が原因で離婚したという話を聞いて、一同ものすごく驚いていた。 日本では、例えば夫が覚せい剤で逮捕されたとなれば、妻が離婚を選んでも誰も不思議に思ったり驚いたりすることはないだろう。それどころか、むしろ周りは離婚を勧めるに違いない。
・しかし、フィリピンの人たちはこう言う。「離婚して一人ぼっちになってしまったら、誰が彼を支えるというのですか。われわれの国では、必ず家族や地域の人々が立ち直りを支えます」 過ちを犯した者を社会から排除し、必要以上に晒し者にして、侮辱したり非難したりする社会と、過ちを反省し悔い改めて立ち直ろうとする者を、温かく迎え入れ、回復に向けて共に進もうとする社会。
・果たしてどちらが、成熟した居心地のよい社会だろうか。 「薬物戦争」に見られるフィリピンの人権状態は,きわめて深刻な状況にあることは確かである。報道や映画で見るフィリピンは、薬物犯罪者は殺されて当然と叫ぶ大統領に多大な支持が集まり、スラムの一角では、殺害された死体が転がっているような社会である。
・しかし、その中にあっても支え合って、愛情や信仰を武器にして薬物問題と戦っている人々がいることも事実である。対策に駆け回っている役人や専門家、真面目に職務を遂行している警察官を私はたくさん知っている。 ニュースにはならないもう1つの「薬物戦争」がそこにはある。そして私は、日本とフィリピンの心強い仲間とともに、科学という武器を頼りに、この「薬物戦争」を戦っていくつもりである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52507

第三に、 ジャーナリストの中坪 央暁氏が11月8日付け東洋経済オンラインに寄稿した「マラウィ、避難民35万人の厳しすぎる未来 イスラム武力衝突は現地に深い傷跡を残した」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・フィリピン南部ミンダナオ島のマラウィで5カ月間続いたイスラム過激派による武力衝突は、約1200人の死者を出して10月23日に終結した。 しかし、人口約20万人のマラウィと周辺町村から戦闘を逃れて退避した避難民35万人の大半は、今も避難生活を余儀なくされている。
・写真をみてもわかるように、マラウィ中心部は激しい戦闘によって破壊し尽くされている。その復興と避難民の帰還には数年かかる見通しで、日本を含む国際社会の支援がカギになりそうだ。
▽5カ月余りも狭いテントで生活
・マラウィの北隣に位置するサギアラン町の小学校。大屋根に覆われた吹き抜けの集会場に、白色や青色のシートを継ぎはぎしたテントが密集して並び、65世帯500人近くの避難民が暮らしている。ほとんどが今も政府軍によって完全封鎖されている市街南東部の下町界隈の住民である。 リーダー格の農民、ルマ・アンプアンさん(58)は「5月23日に戦闘が始まって5日後、政府軍に強制退去を命じられて、わずかな着替えだけ持って逃げてきました」と話す。
・フィリピン政府や国連機関、国際赤十字、国内外のNGOが食料、衣料、毛布など救援物資を配付しているものの、「コメなどの食料配給は不足ぎみで、近くに市場はあっても現金を持っていないので何も買えません。家や畑は今頃どうなっているのか……」。
・テントをのぞくと、内部をシートで仕切って複数の家族が同居し、4.5畳見当のスペースに子供を含めて6~7人が寝るという。衣類や毛布の救援物資以外は何もない。「互いに助け合っているが、プライバシーが保たれないので、みなストレスがたまっている」(アンプアンさん)。
・避難所には乳幼児や子供が多く、赤ん坊を抱いた若い母親が目立つ。生後3カ月の男児をあやしていたノミラ・ウランカヤさん(26歳)は「夫と一緒に3人の子供を連れて歩いて逃げてきましたが、身重で山道を下るのはつらかったです。8月末に避難所近くの病院で出産しましたが、ミルクがないので困っています。いつになったら家に帰れるのでしょうか」。
・事件を引き起こしたイスラム過激派について尋ねると、避難民たちは口々に「彼らは同じイスラム教徒とはいえない。こんなことが起きるなんて誰も予期しなかったし、すぐに終わると思っていた。ごく一部の連中が私たちの暮らしも街も何もかも壊してしまった」と訴えた。 フィリピン社会福祉開発省(DSWD)によると、5月以降発生した避難民の総数は7万8466世帯・35万9680人、この半数近くがマラウィ市民である。
▽一部帰還も「将来に不安」
・サギアラン町の避難所のように“evacuation centers”と呼ばれる政府公認の避難所は78カ所あるが、実は避難所にいるのは全体の1割足らずに留まる。9割超の7万0895世帯・33万5064人は、車で1時間余りの北ラナオ州イリガンなど都市部の親類宅に身を寄せたり、経済的な余裕があれば自前で部屋を借りたりしている。
・一方で、そうした避難民への食料配給は早々に打ち切られたため、一時的に親類を頼った後、マラウィ周辺の避難所に移る例も多い。マラウィから10キロメートル余り離れた南ラナオ州バロイ町パカルンド地区には、イリガンから再移動してきた120世帯が72張りのテントに暮らしている。DSWDが砂利を敷いて整地し、電線も引かれているが、ジョワド・パカルンドさん(36歳)は「病気がちの両親と4人の子供を抱えて転々としている。地元の援助団体が親切にしてくれるが、テントの中は暑くて暑くて……」。
・ところで、ニュース映像や写真だけを見ると、マラウィ全体が壊滅したかのように思うかもしれないが、直接影響を受けたのは市内98地区のうち33地区、ちょうど3分の1に限られる。市街戦は中心部から南東方面に移っていったため、市街西寄りは比較的早く安全が確保され、北西部にあるミンダナオ国立大学は8月末には授業を再開した。
・ちょうどこの頃、避難先からマラウィに戻ってサリサリ(雑貨店)を再開したクスナ・マカランドゥンさん(47歳)は「菓子やたばこ、洗剤などを売っていますが、住民がみな帰ってきたわけではないので、商売はさっぱりです」。事件については「ただ悲しいだけ。同じイスラム教徒、同じマラナオ人なのに、どうしてこんなことをしたのか……。間違った思想や考え方に毒されてしまったら、この町はどうなるのか、若い人たちの未来はどうなってしまうのか不安でなりません」と表情を曇らせた。
・マラウィ市街では現在、陸軍工兵隊が不発弾処理や瓦礫(がれき)の一部撤去を行っている。フィリピン政府は当面の復興予算として150億ペソ(約320億円)を見込み、関係省庁や政府軍で構成する復興タスクフォースがニーズ調査と復興計画策定を担うが、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は「少なくとも500億ペソ(約1050億円)は必要だ」と発言している。
▽マラウィ復興プロジェクトの行方
・マラウィ復興はフィリピン政府単独ではなく、日本を含む先進援助国や国際機関による“国際プロジェクト”である。すでに水面下の折衝が始まっており、国連、世界銀行、アジア開発銀行を中心に米国、オーストラリア、欧州連合(EU)などの復興支援資金を一括して管理・運用するプールファンドを設立する方向で調整が進む見通しだ。
・ドゥテルテ大統領は事件終結直後の10月29~31日に来日し、安倍晋三首相と首脳会談を行った。安倍首相はマラウィおよび周辺地域の復興を最大限支援することを表明したが、日本としては資金協力に留まらず、国際協力機構(JICA)を通じて都市開発計画、インフラ整備など得意分野で独自性のある貢献を打ち出したいところだ。
・もともとマラウィは道路や給水など社会インフラ整備が立ち遅れていたこともあり、現地では「単なる復旧・復興ではなく、本格的な再開発を通じてマラウィを再生したい」という声が聞かれる。日本の技術力やノウハウが生かされる場面は少なくない。
・筆者がもうひとつ強調しておきたいのは、マラウィの武力衝突とはまったく別のストーリーとして、当地最大のイスラム勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)とフィリピン政府によるミンダナオ和平プロセスが進行中であり、わが国が“日本にいちばん近いイスラム紛争”の終結と平和構築に大きな貢献をしてきたということだ(日本が貢献した「イスラム紛争終結」の舞台裏参照)。
・マラウィの事件では「IS(イスラム国)系勢力がミンダナオ島を拠点化しようとしている」という報道ばかりが目立ち、より本質的なミンダナオ和平に向けた取り組みがかき消されてしまった感がある。確かにミンダナオ島あるいはフィリピンがイスラム過激思想の浸透の危機に直面しているのは事実だが、現地取材を重ねてきた感触から言うと、ミンダナオ本島にIS系の支配地域が確立される可能性は非常に低い。
▽戦闘は終結したが本当の戦いはこれから
・国際テロ組織は不安定で貧しい国・地域に入り込むのを常とする。1970年代から紛争が続いて開発が遅れたミンダナオ島のイスラム地域バンサモロは、確かに狙われやすく、イスラム過激派残党の取り締まりやテロ警戒が重要なのは当然である。他方で中長期的には、バンサモロを政治的・経済的・社会的に安定させることを何より考えなければならない。
・地元ミンダナオ出身のドゥテルテ大統領の任期中(~2022年)に、イスラム勢力主導のバンサモロ自治政府を樹立する現行の和平プロセスを実現するとともに、1人当たりの国内総生産(GDP)がマニラ首都圏の15分の1と極端に貧しい同地域の経済開発を進める必要がある。最終的には、それがイスラム過激派を排除する最も有効な対策になるからだ。 戦闘は終結したが、本当の戦いはこれからである。マラウィの復興はミンダナオ和平のシンボルになるだろう。
http://toyokeizai.net/articles/-/196212

第一の記事で、 『そもそも、覚せい剤は日本で生まれた薬物である。戦前、ある著名な化学者が世界で初めて合成に成功し、しばらくはヒロポンという名称で薬局でも売られていた薬物が、覚せい剤にほかならない。 その後、依存性や毒性が明らかになり、戦後になってから「覚せい剤取締法」が制定され違法薬物となったわけだが、その後暴力団が資金源として目をつけ、密輸や密売を始めてから、違法な使用が拡大していった。 最初は日本だけの乱用に限定されていたが、90年代以降になって、東南アジア、アメリカ、オーストラリアなどに乱用が拡大していった。 つまり、フィリピンの国中を蝕む国家的な「害毒」は、恥ずかしいことに、その生まれも日本であるし、持ち込んだのも日本であるという、二重の意味で日本が蒔いた種なのだ』、というのは初めて知った。日本の責任が大きい以上、支援もそれを考慮する必要があろう。
第二の記事で、 『ドゥテルテ大統領は、したたかに日中両国それぞれに働きかけて、両者の援助合戦を上手に利用しているところがある。言うまでもなく、尖閣諸島などでの領土問題を抱える日中両国にとって、同様に中国と南沙諸島を巡る問題を抱えるフィリピンは地政学上重要な位置を占める。ドゥテルテ大統領はそのことは百も承知の上である』、とういうものの、ドゥテルテ大統領は南沙諸島を巡る問題では中国寄りの政策を展開、日本政府は「ハシゴを外された」形になっているのは、残念だ。 『依存症の治療は、いつも反省を口にしつつ申し訳なさそうな顔をして、失ったものや暗い過去を見つめてばかりで、後悔や罪の意識に苛まれた中での修行や苦行であってはならない。 もちろん反省や償いを忘れてはならないが、明るい未来のための、希望に満ちた楽しい活動であるべきだ。これは、日本の薬物依存治療に決定的に欠けている姿勢かもしれない』、というのは、日本のあり方を見直すヒントになるのかも知れない。
第三の記事の写真にあるマラウィの市街の崩壊ぶりは、目を覆いたくなるような惨状だが、『直接影響を受けたのは市内98地区のうち33地区、ちょうど3分の1に限られる』というのが、せめてもの救いだ。 『戦闘は終結したが本当の戦いはこれから』、というのはその通りだろう。
ただ、上記の3つの記事とも、JICA関係者などが書いていることもあって、ドゥテルテ大統領や日本政府への遠慮がありそうなのが気になる。ドゥテルテ大統領が国際的に強い批判を浴びているからには、それなりの理由がある筈なのに、それに言及していないのは物足りない。今後、そうした角度からの記事があれば、紹介してゆきたい。
タグ:戦闘は終結したが本当の戦いはこれから イスラム勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)とフィリピン政府によるミンダナオ和平プロセスが進行中であり、わが国が“日本にいちばん近いイスラム紛争”の終結と平和構築に大きな貢献をしてきたということだ フィリピン政府単独ではなく、日本を含む先進援助国や国際機関による“国際プロジェクト”である マラウィ復興プロジェクトの行方 直接影響を受けたのは市内98地区のうち33地区、ちょうど3分の1に限られる イスラム過激派 マラウィ中心部は激しい戦闘によって破壊し尽くされている 避難民35万人の大半は、今も避難生活を余儀なくされている 5カ月間続いたイスラム過激派による武力衝突は、約1200人の死者を出して10月23日に終結した ミンダナオ島のマラウィ 「マラウィ、避難民35万人の厳しすぎる未来 イスラム武力衝突は現地に深い傷跡を残した」 東洋経済オンライン 中坪 央暁 もちろん反省や償いを忘れてはならないが、明るい未来のための、希望に満ちた楽しい活動であるべきだ。これは、日本の薬物依存治療に決定的に欠けている姿勢かもしれない 依存症の治療は、いつも反省を口にしつつ申し訳なさそうな顔をして、失ったものや暗い過去を見つめてばかりで、後悔や罪の意識に苛まれた中での修行や苦行であってはならない 言うまでもなく、尖閣諸島などでの領土問題を抱える日中両国にとって、同様に中国と南沙諸島を巡る問題を抱えるフィリピンは地政学上重要な位置を占める。ドゥテルテ大統領はそのことは百も承知の上である ドゥテルテ大統領は、したたかに日中両国それぞれに働きかけて、両者の援助合戦を上手に利用しているところがある 日本の支援は、治療プログラムの開発や更生に向けてのヒューマン・サービスの提供を目指すものであり、そもそものフィロソフィーが根本的に違う 巨大薬物使用者使用施設の建設を始め、昨年の11月に収容を開始 中国も薬物問題への支援を名乗り出て、急ピッチでのプロジェクトが展開され始めていた 安倍・ドゥテルテ会談 短期間で何と160万人に及ぶ人々が警察に出頭したと言われており、彼らへの治療やリハビリが今後、きわめて重要なテーマになってくる 強硬な側面ばかりが強調されるが、実は薬物使用者の治療やリハビリにも重点を置いており、自首をすれば逮捕はせずに治療や教育を提供するという施策も併せて行っている それに対しドゥテルテ大統領は「国連のクソ野郎」と罵倒し、国連からの脱退も示唆するなど、過激さをますます強めていた 国連人権高等弁務官事務所が「国家は国民の生命を保障する法的義務がある」と批判したが 「薬物依存症患者と接するなかで学んだ、二つの大事なこと フィリピン支援プロジェクトの現場から」 フィリピンの国中を蝕む国家的な「害毒」は、恥ずかしいことに、その生まれも日本であるし、持ち込んだのも日本であるという、二重の意味で日本が蒔いた種なのだ 最初は日本だけの乱用に限定されていたが、90年代以降になって、東南アジア、アメリカ、オーストラリアなどに乱用が拡大していった その後、依存性や毒性が明らかになり、戦後になってから「覚せい剤取締法」が制定され違法薬物となったわけだが、その後暴力団が資金源として目をつけ、密輸や密売を始めてから、違法な使用が拡大していった そもそも、覚せい剤は日本で生まれた薬物である。戦前、ある著名な化学者が世界で初めて合成に成功し、しばらくはヒロポンという名称で薬局でも売られていた薬物が、覚せい剤にほかならない 覚せい剤が最も中心的な違法薬物となっている国は、世界中を見ても日本とフィリピンくらいしかない フィリピンの薬物汚染は、世界最悪 薬物使用者の割合は日本の約180倍 毎年約1万人強が覚せい剤取締法違反で検挙 日本の場合 薬物使用人口はおよそ180万人と推定 アジアで1、2を争う治安の悪さ 正体のよくわからない「自警団」などに殺害された者は、数千人に上ると報道 薬物撲滅のため、薬物に関わった者の殺害も辞さないとの強行的な姿勢 ドゥテルテ大統領 薬物戦争 「フィリピン「深刻すぎる薬物戦争」は、日本が蒔いた種が原因だった 日本人が直視しなかった現実」 現代ビジネス 原田 隆之 (その2)(フィリピン「深刻すぎる薬物戦争」は日本が蒔いた種が原因だった、薬物依存症患者と接するなかで学んだ二つの大事なこと、マラウィ 避難民35万人の厳しすぎる未来 イスラム武力衝突は現地に深い傷跡を残した) フィリピン
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今日は更新を休むので、明日、金曜日にご期待を!

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介護施設(老人ホーム)問題(その2)(旧ワタミ・旧メッセージの老人ホームは今どうなっているか、岐阜の老健施設「ひどすぎた地元の評判」、食堂に3時間放置 朝3時に着替えの介護現場)  [社会]

介護施設(老人ホーム)問題については、5月4日に取上げた。今日は、(その2)(旧ワタミ・旧メッセージの老人ホームは今どうなっているか、岐阜の老健施設「ひどすぎた地元の評判」、食堂に3時間放置 朝3時に着替えの介護現場) である。

先ずは、7月4日付けダイヤモンド・オンライン「旧ワタミ・旧メッセージの老人ホームは今どうなっているか」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは回答、+は回答内の段落)。
・SOMPOホールディングスは7月から子会社化していた介護事業2社(旧・ワタミの介護=現・SOMPOケアネクスト、旧・メッセージ=SOMPOケアメッセージ)の一体運営を開始した。経営や人事、総務など本社機能を一体化し、社長以下役員を含め、本社勤務社員も2社を兼務する。そこで、7月から両社の社長を兼務する遠藤健氏(前・SOMPOケアネクスト社長)に話を聞いた。
▽大手老人ホーム2社を買収したSOMPOホールディングス
・「高齢者市場」の代表格のビジネスである介護事業――。近年、その需要増を見込んで、異業種の大手企業が老人ホーム事業会社などを買収して介護業界に参入する事例が相次いでいる。SOMPOホールディングス(当時の社名は損保ジャパン日本興亜ホールディングス)は、まさにその主役となった。
・2012年9月に有料老人ホーム「ラ・ナシカ」などを展開するシダーへの資本参加をきっかけに、15年12月には有料老人ホーム「レストヴィラ」を展開するワタミの介護を完全子会社化、16年3月には有料老人ホーム「アミーユ」、サービス付き高齢者向け住宅「Sアミーユ」などのメッセージをTOBで完全子会社化し、一気に介護業界2位に躍り出たからである。
・話題性も大きかった。 旧・ワタミの介護、旧・メッセージの両社とも、カリスマ性の高い経営者(ワタミ創業者の渡辺美樹氏、メッセージの橋本俊明氏)が運営する老人ホームとして有名であり、時期的にも両社では介護職員による入居者への虐待や事故、介護職員の過酷な勤務状況などが大々的に報じられていた最中だったからだ。
・さらに、買収の規模に加え、参入・運営の手順も過去の「業界常識」と大きく異なるものだった。これまで大手保険会社など異業種が老人ホームを手がける場合、比較的リスクの少ない富裕層向けの高級老人ホームから始めるのが常だったからである。いきなり、ボリュームゾーンとなる大量の一般大衆向けの介護施設で、両社合わせて299施設の有料老人ホーム、132棟のサービス付き高齢者向け住宅の運営を始めることになったからだ。
▽入居率は徐々に改善 一体運営で強みを生かす
Q:両社を子会社化した当時、入居者への事故や事件の報道の最中にあり、両社のホームの入居率は低迷していました。特に旧・メッセージは、非常に入居率が高い人気のホームで有名でしたが、職員による入居者の殺害という致命的な事件がありました。入居率やクレームの状況はどうなのでしょうか。
A:SOMPOケアメッセージの入居率は、昨年の4月前後は85%程度まで落ちていた。今年の1月以降は有料老人ホームで87.6%、サービス付き高齢者向け住宅で84.9%まで回復している。18年度中には90%台の回復を目指している。これまでは積極的な営業よりも、人員や組織、職員教育などの体制固めを重視していたためでもあり、今後は回復していくと思う。
+SOMPOケアネクストの入居も順調に回復しており、2017年3月には単月入居数が過去最大の239人を達成した。ちなみに、過去の最大は12年2月の234人(旧・ワタミの介護時代)だった。 正直に言えば、クレームの件数自体は増えた。ただし、これはクレームや意見を吸い上げる体制がきちんと整ったためであり、むしろ、深刻なクレームや事故・事件性の高い案件は減少している。入居者・家族から寄せられるご意見のハガキも私はすべて目を通している。
Q:今回の一体運営の狙いは何ですか。両社の合併は視野には入れなかったのでしょうか。
A:両社の子会社化から1年ちょっと経過し、それぞれの強みや課題が分かってきた。ケアメッセージは個々の入居者に対してケアプランを作って、細かいケアを行うことにこだわりを持ち、介護や勤務シフトの効率性も重視している。その半面、経験の少ない施設長が運営するなど場合によっては、職員や入居者にとっても余裕のない介護になってしまう危険性もあった。
+一方、ケアネクストは入居者の幸せやおもてなしを大事にする文化があり、食事やレクリエーションなどを重視しているが、ケアプランなどへのこだわりや介護の効率性などはケアメッセージより劣る。
+とにかく、その強みは相乗的に生かす一方で、課題は少しでも早く解消するのが目的だ。社長を含め役員が両社兼務する体制となれば、スピード感のある意思決定が可能となる。経営の効率化にも役立つ。例えば、共同購買をすれば、コスト削減にもつながる。
+老人ホームなどの介護現場やブランドは従来通り維持する。ただし、今秋から現場レベルでも両社の人事交流は始めたいと思っている。 両社の合併という選択肢も考えたが、手続きのほか、システムや人事制度等のインフラ整備が大変で時間がかかると判断した。やるとしても、しばらく先になるだろう。 昇格や処遇、福利厚生などの人事制度については、今年度中から着手して、2018年度から統一したいと考えている。
▽介護職員の離職率減少が重要課題
Q:両社を子会社化し、介護事業を本格的に始める際、介護職員の処遇改善や離職率の減少などを強調していました。順調に進んでいるのでしょうか。
A:当然、一体運営に伴い、処遇面なども底上げしたい。 キーになるのが、何よりも離職率の減少だと思っている。周知の通り、介護業界は離職率が大変高い業界だ。弊社の場合も、両社の介護職員の離職率は平均で約20%である。そのうち、1年未満での離職者が6割もいる。
+これは業界の特徴とはいえ、なんとかしたい。介護職員の10~15人程度の小規模なミーティングに参加したことがあるが、そこで、入社の動機を聞いてみると「子どものときにおじいちゃんやおばちゃんに世話になったけれど、十分なお世話ができないうちに亡くなってしまったので、恩返ししたい」と夢を語る人が5割くらいいた。そういう人が入社しても、十分な教育も受けられず、ミスした際にはもの凄く怒られる…という状況では、嫌になって辞めてしまうのではないか。
+課題としては、介護職員の離職率を半分の10%にしたい。17年度中には15%程度にし、18年度中には達成したい。これは全役員の共通の目標としている。離職率を10%に減らせば、採用コストが削減できる。その減らしたコストを職員の処遇改善に回すことができる。長く勤める人が増えれば、業務も効率化が進み、介護技術も向上する。
+現在、LINEで社長以下役員と新入社員でグルーピングして、いろいろ悩みがあったら聞くなど会話を試みている。まず、新卒から大事に育てたいと思っている。幸いなことに、2017年度は両社合わせて、193人(メッセージグループ121人、ネクスト72人)の新卒者が入社している。
Q:介護の質を上げるために、ICT(情報通信技術)の積極的な導入や、職員教育の強化、介護職員の介護福祉士(介護の国家資格)の有資格者を増やすなどの目標も掲げていました。
A:人材の教育は何よりも重要だ。まず、2016年6月にケアネクストが開設した研修センターは、7月からはさらに拡大しており、従来以上に研修面には力を入れていく。 介護福祉士の常勤介護職員に占める比率は、ケアネクストが39.1%、ケアメッセージが49%と、2016年3月時点と比較してもそれぞれ、約4%、約8%と上昇している。
+ICTの導入については、超音波センサーで膀胱内の尿量の変化を検知することにより、排尿パターンを把握できる排泄予知デバイス「DFree」の導入を進めてきた。入居者をトイレに連れて行く必要がないのに、無理に連れて行ったりする「空振り」も減らすことができる。これは入居者や介護者にもメリットが大きい。今年の10月からケアネクストすべてのホームに導入する。10月以降はケアメッセージのホームにも順次、導入していく。
▽慢性的人材不足に付随するリスクを常に認識できるか
・介護業界は人件費が6~8割を占めるという典型的な労働集約型産業だ。サービス自体、良くも悪くも極めて属人的な面が強い。しかも、給与や休みの取りやすさなどの処遇面が悪く、慢性的な人手不足の状態が続いている。とはいえ、給与などの処遇面を上げれば、社会保障費や利用者の負担も増すために、改善は容易ではない構造にある。
・また、老人ホームなどの介護施設は必要最低限の人員配置が事業の条件となっているため、事業継続のためには何が何でも一定の人手を確保しなくてはならない。その結果、「面接に来た人はほぼ100%採用」(業界関係者)というのが、業界の実態となっている。
+先述した通り、これまで異業種の大手企業が介護事業に参入する場合、富裕層向け中高級ホームから始める場合が多いのも、(1)家族ではなく、入居者本人が決めることが多いのでサービスが差別化しやすい、(2)人員を多く配置するなどして、上乗せ料金を得ることができる、そして何よりも(3)比較的に職員の募集が容易、等の理由があるからだ。
+SOMPOホールディングスが着手した一般大衆向けの老人ホームは、富裕層向けに比べると、必要に迫られた家族が選ぶことが多いため、サービスの差別化やブランドの訴求が難しい。介護職員の募集も容易ではない。 「何よりも職員の離職率の低下と教育が重要と意識している」と繰り返し強調する遠藤社長は、その点の課題を理解しているのだろう。問題は今後事業が成長に転じて、緊張感がなくなった頃だ。
+これまで大きな事件・事故を起こした老人ホームや介護施設は、事業の成長や継続のためとはいえ、「苦しさのあまり、本来なら介護職には向かないような人物を採用してしまったことが根底にある」と多くの介護事業経営者らが口にする。
+具体的には、「急成長」→「施設数の増加」→「経営者や本部の目が行き届かなくなり、ますます人材不足になる」→「無理な人材募集や長時間勤務」→「ベテラン職員の離職」→「現場の破綻」→「事件・事故の発生」→「経営悪化」というパターンを辿ってきた。
+慢性的な人手不足、増える競合先、厳しくなる介護報酬など、むしろ介護業界を取り巻く環境は厳しさを増している。もし、「現場の悲鳴」を見逃し続ける事態が発生すれば、改めて大きな事故・事件が発生するというリスクは、常に意識する必要があるだろう。
http://diamond.jp/articles/-/134040

次に、9月4日付け現代ビジネス「5人死傷・岐阜の老健施設「ひどすぎた地元の評判」 遺族には十分な説明さえなく」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは回答)。
・飛騨高山では赤十字病院と並んで、知らぬ者はいない老健施設だ。ここで老人たちが次々と不審死したというので、町中が大騒ぎだ。疑惑の主の正体は――。
▽疑惑の男
・自宅前には、「防犯カメラ作動中」「これ以上の取材にお答えする事はありません」と物々しい掲示がされている。高橋寛治(仮名・敬称略)は集まった報道陣にこう答えた。
Q:話すことは?
A:「不可能です。疲れているんです。こういうことがあって精神的に疲れない人はいないと思う」 Q:ご自身は関わっていないのですね?
A:「間違いないですよ。それでもういいですね」
・岐阜県高山市の介護老人保健施設「それいゆ」で、7月末から半月で3人が死亡し、2人が負傷した。5人すべての介助に関わっていた職員は一人しかいない。30代男性の高橋だ。 岐阜県警は特別捜査本部を23日に設置、事件・事故の両面から捜査を開始した。疑惑の目は高橋に向けられているが、本人は一切の関与を否定している。
・高橋の関与の有無は現時点ではまったく不明だ。だが、この高橋は、介護職員としての適性を著しく欠いていたようだ。「それいゆ」の前に高橋が勤務していた老健施設の関係者が語る。 「高橋君は'15年10月から、認知症患者のフロアで介護助手として勤務していました。介護の仕事は初めてのはずです。 介護の現場、とりわけ重度の認知症患者さんを相手にしていると、スムーズに物事が進まないことばかりです。そのときに、彼は感情をコントロールすることができなかった。
・車椅子に乗った患者さんについているとき、突然怒り出して車椅子を蹴っ飛ばしたことが何度もありました。上司が目にして注意したこともありましたが、反省している様子もなかったですね」 高橋の突然の「激昂」は施設内でも有名だったという。そのため、3ヵ月の試用期間が経過しても、正社員採用は見送られた。関係者が続ける。「'16年の8月頃のことです。その日彼は首から下を入浴介助する担当になっていました。これは大変な業務なのですが、彼はその日6人を担当したんです。 翌週、別の職員が同じ業務をやったとき、その日の利用者さんは4人だった。日によって人数がまちまちなのは当然です。 ところが、それに気づいた高橋君は『なんで俺は6人やったのに、あいつは4人なんだ!俺ばっかり!』と大声で叫んだ。みんな呆然としましたよ」
・常にこんな調子だったので、職員たちは腫れ物に触るような扱いだった。 「問題行動が相次ぐので、夜勤のシフトからは外されていました。夜勤は基本的に1フロアを2人でまわすため、1人が休憩に入ると2時間ほどは1人で対応せねばならないからです。高橋君は何をするかわからないと言われていた」
▽監視カメラは故障していた
・やがて高橋は自己都合退職の扱いで施設を退職した。だが、同僚たちが驚いたのは、その後の高橋の行動だ。 退職からほどなく、高橋が転職したのは、同じ市内の老健施設「それいゆ」。またしても介護職員となったのだ。 そこから今回の事件は起こった。被害者はいずれも高橋が勤務していた2階の認知症患者のフロアにいた。
・門谷富雄さん(80歳)は7月31日、喉に食べ物が詰まった状態で見つかり死亡。8月6日には石本きん子さん(93歳)が頭を強打した状態で見つかり、翌日死亡。 8月13日に死亡した中江幸子さん(87歳)は、肋骨が肺に刺さった外傷性血気胸で死亡している。体調に異変をきたした前日、家族は中江さんの首や胸に赤いあざの痕があるのに気づいた。
・中江さんの長男(60代)が語る。「病院からのちゃんとした説明もありません。22日の昼頃に、理事長たちが『お参りさせてください』とお線香を上げに来ましたけど、10分くらいですぐ帰りました。お参りに来るのも遅いと思います。 母が『それいゆ』に入所するのは今回が初めてではなかったんですが、まさかこんなことになるとは……。職員の高橋?スタッフは入れ替わり立ち替わりしているから、誰かわかりませんよ」
・職員が入れ替わり立ち替わり――。実際、「それいゆ」の地元での評判はあまり芳しくない。 元従業員がこう語る。「人の出入りが激しいのは有名です。求人募集は常時といってもいい。人使いが特に荒いわけではないんですが、理事長から『君たちの代わりはいくらでもいるんだから』と言われたこともありますし、働く人の気持ちをないがしろにしている施設でしたね。給料もよくはなかった」
・中江さんの死亡後も、8月15日に女性(91歳)の肋骨が折れ、16日には女性(93歳)に肺挫傷が見つかり、いずれも入院している。 家族を入所させていた60代男性が語る。「人間扱いしてくれないんですよ。私の義父を『それいゆ』に入れていたんですが、ある日いつもの部屋に行ったらいない。  たしかに義父は少しボケがあったけれど、大部屋に移されて、GPSのタグまでつけられていた。何考えてんだ、と怒って別の病院に移しました」
・施設近くに住む60代男性も言う。「『あそこに入れると、認知症になって帰ってくる』と言われていますよ。近所のおばあちゃんも、亡くなってから体中にあざが見つかったこともあった。評判は悪いですよ」 皮肉なことに、他の施設は満床が多くなかなか入れないが、「それいゆ」は割とすんなり入れる、という意味で人気があったという。
・折茂謙一理事長の古くからの友人が語る。「'97年設立の『それいゆ』は飛騨高山地方で最初の介護老健施設だったんです。デイサービスが大当たりして、多いときは1日に100人ほど受け入れていましたから、『それいゆ』建設時の借金は数年で返せたと理事長は言っていました。 経営する医療法人同仁会は病院も含めて、十数の施設を運営しています。理事長の奥さんがやり手で、住宅型有料老人ホームを3年前に開設するときは『飛騨高山を売りにしてネットで集めれば、一時金1500万円でもすぐに集まるわよ』と強気の発言をしていました。
・けっきょく人が集まらず金額を下げたようですが、そういうお金の勘定はすごかったですね」 折茂理事長は「短期間で5例発生したことは問題で異常だ。警察に依頼して原因究明をしている」と語る。 捜査関係者は言う。「警察の捜査はやや後手に回った。理由は不明だが監視カメラが故障していたり、施設の記録もきちんとしていない。 認知症の入所者同士でも暴行はあり得るし、不明な点は山ほどある。高橋からの本格的な聴取はこれからで、先に施設関係者から始める。長期化する可能性もある」
・高橋の母親に問うと、こう答えるのみだ。「警察からは何もないし、むしろこちらが教えて欲しいくらいですよ」)
▽虐待はどの施設でもある
・介護施設での暴行事件は枚挙にいとまがない、と語るのは首都圏の老健施設に勤務する介護士(30代・女性)だ。 「介護職として初めて勤務したとき、ある先輩がこう言ったんです。『蹴るんだったら膝から下にしてね』耳を疑いましたが、彼女はこう続けました。『顔や手はダメですよ。膝下だったらベッドにぶつけたとか階段にぶつけたとか、いくらでも言い訳できるでしょう』表情も変えずに言うもので、怖くなりました」
・九州地方の老人ホームの介護士(40代・男性)も言う。「介助させるといつも利用者を転倒させてしまうという介護スタッフがいました。基本的な介護の素養がまったくなく、まるでモノを扱うように利用者に接するのです。 襟首をつかんで持ち上げて車椅子にドシンと落としたり、ベッドにも放るように落としたりする。高齢になると、骨は思いのほかもろくなります。まして言葉を出せない人であれば、骨折しているかどうかもすぐにはわからない。 このスタッフは、骨折事件を何度も起こし、解雇されました」
・こんな証言はぞろぞろあるのだ。 今から3年前、川崎市の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で80~90代の入所者3人が相次いで転落死した事件があった。 発覚から約1年後の'16年2月に殺人で逮捕されたのはホームに勤務する職員(当時23歳)だった。動機を「介護の仕事にストレスがたまっていた」と語っている。
・この事件を丹念に取材したノンフィクション作家の中村淳彦氏は言う。「虐待はどこにでもあります。だが、目の前で見ているわけではないから証拠はないし、施設側は完全な防止をしようがない。とりわけ認知症の入居者の対応に耐えられなくなって虐待に走るケースが多い。
・そもそも高齢者が終末期を過ごし、日常に死がある環境です。人手不足により、資質に欠ける人間でも、介護職員に紛れ込んでしまっている現状と、死が日常にある閉塞した環境が虐待の背景にあるのです」 「それいゆ」は氷山の一角なのだ。一刻も早い捜査の進展が望まれる。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52745

第三に、健康社会学者の河合 薫氏が11月21日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「食堂に3時間放置、朝3時に着替えの介護現場 「対策は職員のストレスケア」という厚労省のピンぼけっぷり」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・なぜ、こんなにも“温度”が下がってしまったのか。 慣れっこになった? 仕方がないとあきらめた? あるいは「自分には関係ない」と思っているのか。
・数年前には連日連夜大々的に取り上げられた“介護施設での事件”が、今回はテレビではあっさりと、紙面では三面で小さく報じられている。 はい、そうです。今年の8月に東京都中野区の有料老人ホームで、入所者の男性(83歳)を殺害したとして元職員の男(25歳)が逮捕された事件です。
・「介護に対する自信がなくなった」として9月に依願退職していた元職員の男は、8月22日の早朝、ホーム内の浴室で入所者の男性を浴槽に投げ入れてお湯を張り、沈めて殺害。男性の死因は溺死で、首を絞められた形跡もあった。 「布団を何回も汚され、いい加減にしろと思ってやった。ベッドで一度首を絞めた。その後、浴室も汚したので風呂に沈めた」――。
・男はこう容疑を認め、「大変なことをしてしまった」と泣きながら当時の状況を自供。昨年6月から現場のホームに勤務していたが日常的な暴行や他の入所者の被害は確認されていない。また、殺害された男性は校長などを勤めた方で、難病で介護が必要だったが支えがあれば歩くことができた。
・ホームを運営するニチイケアパレスは 「遅刻や欠勤はほとんどなく、まじめに勤務していた。メンタルヘルスのチェックもしていたが、ひっかかることは一切なかった。当時の勤務体制は国の基準を満たしている」と説明。
・また、厚労省は介護施設の職員による高齢者への虐待が年々増加していることから(※)、自治体に再発防止策をとるように通知。施設長を対象に研修を実施し、「職員のストレス対策」として対人関係スキルの向上や感情コントロールスキルの習得などの教育を求めている。 ※厚労省の調査で介護施設での虐待は06年の54件から9年連続増加し、15年度は408件、被害者は778人だった(こちら※PDFファイルです)。
▽これで「基準を満たしている」なら、基準が間違ってるのでは
・さて、……なんと言ったらいいのだろう。気の利いたコメントが思いつかない。 ただ、介護施設での事件を「個人の問題」にしていては悲惨な事件があとを絶たないことは明白である。 つまり、「国の基準を満たしている」とか、「職員のストレス対策を厚労省は指示している」とか、「体制に問題はありません!」とするのではなく「介護現場の問題」として改善策を講じる必要があることが、もはや確実になった、ってこと。
・これまでも介護現場の問題点を指摘してきたが、改めて「終の住処の“今”」のデータや証言をもとに、私たちの未来を考えてみようと思う。 まず最初に、今回の事件でホームの運営側が「国の基準を満たしている」としている点だが、特別養護老人ホームや有料老人ホームでは、職員1人が入所者3人を受け持つという決まりがある。 だが、実際にはこの基準で高齢者の「日常ケア」を行なうのは厳しく、夜勤の1人勤務や連続16時間勤務、月10回以上の夜勤が横行している(こちら※PDFファイルです)。
・一方、数年前に介護施設の虐待が社会問題化したため「1対2.5」「1対1.5」といった具合に国の基準を上回る割合で職員を置く施設も増えた。 厚労省が行った調査では、特養ホームの人員配置は全国の平均で「1対2」。基準の見直しを求める声はすでにあがっている。しかし、最低基準が厳しくなれば運営できない施設が急増する怖れもある。
・言わずもがな、介護施設は慢性的な人手不足だ。 介護保険制度が施行された2000年の介護職員は55万人。その後徐々に増加し、2013年には171万人と約3倍になったが、高齢化のピッチが速すぎて職員の数を増やしても増やしても追いつかない現実がある。
▽介護施設は人手不足と競争激化で倒産が増加
・実際、62.6%の事業所が「人手が不足している」と回答し、職員側の悩みも「人手が足りない」(53.2%)がトップだ。職員への「今の仕事を続けたいか?」との問いに「はい」と答えた人は53.7%で、前年に比べ11.8ポイント下がった。年間の離職率は前年より悪化し16.7%で、全産業平均の15%を上回っている。
・懸念されている賃金だが、16年9月時点の平均賃金(月給)は22万4848円で、前年の21万7753円から7095円増えた。しかしながら全産業と比較すると月給で約10万円、年収では100万円超低く、低賃金も解消されていない(これらの数字は全て厚生労働省所管の公益財団法人「介護労働安定センター」調べ)。
・重労働、急激な高齢化、さらには低賃金による離職率の高さから生じる慢性的な人手不足は、経営も圧迫している。 老人ホームなどの介護事業者の倒産件数はここ5年間で急増し、昨年は過去最多の108件。今年も8月時点ですでに62件が報告されており、昨年を上回る可能性が高い。 負債額を比較すると、昨年は108件の倒産で94億600万円だったのに対し、今年は62件で121億7,000万円の倒産ペース。つまり、大型の施設の倒産が相次いでいるのだ(東京商工リサーチ調べ)。
・もともと介護施設の経費は、7割を人件費が占めている。 2015年の介護報酬引き下げ(2.27%減)は業界には大きな打撃だったが、追い打ちをかけたのが国の「介護の受皿を増やす」政策。競争相手が増え、人員確保がさらに難しくなり、体力を増々低下させた。
・需要は増す一方なのに、報酬の減少、コスト増、競争激化による倒産という、魔のスパイラルが出来上がってしまったのだ。 それだけではない。
・倒産に伴い入所者は他の施設に転院するわけだが、高齢者にとって環境の変化は想像以上のストレスになる。元気に施設で暮らしていた高齢者が、転院後は突然口数が少なくなったり、うつ傾向が強まったり、歩けなくなったり……、つまり、施設の経営悪化が引き金で一気に老け込んでしまうのである。
・ふ~む……。ここまでで既に青息吐息というほかないのだが、数年後にはざっくり今の100倍は深刻な、暗澹たる未来が待ち受けている。 38万人――。 これは8年後の2025年に不足する介護職員の人数である。 団塊の世代が75歳以上になる2025年度には、介護職員が約253万人必要になるとされるのに対し供給の見込みは約215万人。およそ38万人の介護職員が足りなくなる(こちら※PDFファイルです)。
・これがいかに深刻な問題なのかは、いまの現場のリアルを知ればお分かりいただけるはずだ。 先日、91歳の誕生日を迎えた“友人”が見た「今の老人ホーム」の有り様を紹介しよう。
▽朝3時に起こさないと「朝食に間に合わない」
・友人は90歳のときに「老人ホーム連続転落死に見る『介護崩壊』の予兆」で、介護現場の職員の方たちの苦労を話してくれた女性と同一人物である。そちらも是非お読みいただきたいのだが、そこでも書いたとおり、ご主人が要介護となりご夫婦でホームに入所。終の住処で3年の時が過ぎた。
・「夫のような車いすの入所者は毎朝、6時過ぎになると食堂に連れて行かれます。70人近い入所者の配膳、投薬などをわずか3~4人のヘルパーが行うのですが、ヘルパーの中の2人は夜勤を終えたまま引き続き働いているので、気の毒で見ていられません。 人手が足りなすぎて物事が進まず、結局、車いすで部屋へ連れ戻されるのは9時過ぎ。つまり窮屈な車いすに3時間近くも座らせられているのです。
・週2回の入浴日はもっと大変です。朝食後、入浴時間まで食堂で車いすのままずっと待っていなくてはならない。終わるとまた食堂に連れて来られて、そのまま昼食になるので、部屋に戻ってくる時には6時間も経っているのです。入所者は増えてもヘルパーの数は変わらないので、そのしわ寄せが夫のような、車椅子で介護度4か5の人たちにもろにきています。そういう入所者のほとんどは、自らの意志表現ができない状態なので、じっと我慢しています。
・午前3時少し過ぎに隣室の夫の部屋から物音がするので、すぐ様子を見に行ったところ、ヘルパーが夫の着替えをしているところでした。3時頃はぐっすり眠っている時間なのに、無理やり起こされて おむつ替えなどさせられている夫が哀れでならなかったです。ヘルパーに文句を言ったところ、『今から始めないと朝食に間に合わない』という返事が返ってきました」 「ホームを運営する本社に『改善してほしい』という要望は出しているのですが、答えは『低賃金のためヘルパーを募集しても応募がない』の一点張りです。
・前途が真っ暗になるような回答しか返ってきません。結局、ヘルパーの数が増えない限りどうにもならない、ということを再認識させられ、途方に暮れるのです。 このホームに入所して3年近くの間、人生の末期の棲み家を求めて老人ホームに入所した高齢者を観察してきましたが、痛切に感じるのは会話の大切さです。ホームの生活は自室で話し相手もなく過ごすため、会話が非常に少ないのです。
・入所当時は杖なしでさっさと歩き、私の問いかけに即答していた人が、毎食時とレクリエーションの時間以外は、ほとんど自室で過ごすため、みるみるうちに反応が悪くなっていきます。幸い夫は私が一緒に入所したため、比較的会話の機会があるので、今でも私の問いかけには声こそ小さくなりましたが、いつも即答しています。
・昨年6月、某有名銀行支店長の奥様が入所しました。食事の席が同じだったので、私は早速、彼女に話しかけました。彼女はホームに入所した経緯や、2人の子供の話、12年前に他界されたご主人のこととか、家庭の情報をよどみなく話してくれました。
▽みるみるうちに何も出来なくなっていく
・入所後は自室では何をすることもなく一日中会話もなく、ぼんやりと過ごしているようでした。近くに住む娘さんも滅多に姿を現しません。そして、彼女が入所してから半年が経過する頃、私は彼女の脳細胞が破壊されていることを感じるようになりました。私の問いかけにとんちんかんな返事をしたり、髪は乱れたまま、服のボタンは掛け違ったままで食堂に来るようになったのです。それと並行して歩行が困難になり、杖、そして車いすを使うようになっていきました。 彼女は今では私の顔も認識できないのです。わずか1年で変わり果てた姿に驚いています。こんな例は彼女だけではなく、他にも同じような人が数多くいます」
・たったひとりの親のケアだって大変なのに、3名で70人近い人たちに、ご飯を食べさせ、お風呂に入れ、部屋まで付き添うだなんて想像しただけで恐ろしくなる。その間、トイレをもよおす人だっているし、具合が悪くなる人だっているかもしれない。ちょっとした行き違いで、怒鳴ったり、わがままを言ったり、ぶつかり合うことだってあるだろう。
・尋常でない激務と人手不足が、職員の人たちだけでなく高齢者をも極限状態に追い詰めている状況は、“友人”の話から痛いほどわかる。 本当は職員の人たちだって、おじいちゃんやおばあちゃんがちょっとでも笑顔になるようなサービスをしたいし、ふとした会話で元気になる様子をみたい。  「おしゃべりな人は認知症になりにくい」とは介護業界ではよく聞かれる話だし、「会話は生存率にも影響する」との指摘もある。が、“今の現場”では次から次へとやらなくてはならないことだらけで、会話の時間が奪われ、言葉のやりとりのない世界で、おじいちゃん、おばあちゃんたちの生きる力が奪われているのだ。
・人生最後の時間がこんな悲惨な状況でいいのか? これで納得できるのか? もっとできることがあるのではないのか? 半年ほど前出演しているテレビ番組で、介護現場にIoTを導入し人手不足に役立てている施設を特集したことがある(介護付ホーム アズハイム町田 以下、数字は当時のものです)。
・ここでは55人の入居者を50人のスタッフで介護。つまり、1対3ではなく、1対1.5以下だ。 だがこの人数でもケアスタッフはてんやわんやで、「レクリエーション」で高齢者の精神的ケアを行なうとともに、「食事の補助」「排泄介助」などの身体的ケア、さらには入所している部屋を巡回し、シーツ交換や掃除、歯磨きコップの衛生状態をチェックしたり、消毒するなどの雑務をこなすなど、常に「やること」に追われていた。
・その切迫した状況を変えたのが「1台のスマホ」だった。 スタッフが常にスマホを携帯し、それを活用することで、施設全体の1日当たりの総労働時間を17時間削減することに成功したのである。 スマホの画面には瞬時に、ベッド上に入所者がいるか、寝ているか起きているかが映し出される。これだけでケアスタッフの作業効率が格段に上がったのだ。
・仕組みは実にシンプル。入居者のベッドのマットレス下に「眠りスキャン」とよばれるセンサーがついたシートを敷くことで、睡眠時間・呼吸状態などを24時間モニタリング。離床のタイミングでナースコールを鳴らす機能もあるので、入居者に合わせた設定が可能だ(※日経デジタルヘルスの記事はこちら)。
・「スマホを見ながら優先順位を付けて離床の準備ができるようになった。それまでは部屋をノックして、起きているかどうかを確認する必要があったが、入居者の方の眠りを邪魔せず、こちらもケアできるようになった」(職員談) 「夜間に入居者の排泄介助を行っていても、他の部屋から物音が聞こえると、排泄介助を中断し状況を確かめる必要があったが、スマホを確認すればいいので目の前の入居者に集中できるようになった」(同じく職員談)
・IoTで、介護をする人の負担が減り、データに基づきケアすることで介護の質が上がり、入所者も快適になる。施設の担当者によれば「システム導入には入所者55人に対し2000万円かかるが、2年間で回収できる」そうだ。
▽個人で解決できるわけがない
・厚労省は「職員のストレス対策を指示する」くらいなら、「世界最先端IT国家創造宣言(IT宣言)」の膨大な予算のうちの一部を介護現場に使えばいい(こちら※PDFファイルです)。 なぜ、それをしない? なぜ、議論にもあがらない? 所詮、介護現場の事件は「個人の問題」と考えているからなのか?
・生きていれば誰もが老いる。昨日まで出来ていたことがひとつひとつできなくなる。 そんなときにはどうしたって他者からのケアが必要となる。 そういう老後を迎えるのが望ましいのか、自活できなくなったときの尊厳を守るにはどのような条件が必要なのか。 それを正面から議論しない限り、悲しい事件はなくならないと思う。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/112000132/?P=1

第一の記事で、SOMPOケアネクスト、SOMPOケアメッセージとも入居率は改善しているようだが、その度合いは思ったほど大きくない。『介護職員の離職率減少が重要課題』、というように離職率も大きくは下がっていないのも、不思議だ。両社の一体化も、まずは人事交流からということに表れているように、SOMPOの統合に向けての方針は、非常に慎重なようだ。 『SOMPOホールディングスが着手した一般大衆向けの老人ホームは、富裕層向けに比べると、必要に迫られた家族が選ぶことが多いため、サービスの差別化やブランドの訴求が難しい。介護職員の募集も容易ではない』、『介護業界を取り巻く環境は厳しさを増している。もし、「現場の悲鳴」を見逃し続ける事態が発生すれば、改めて大きな事故・事件が発生するというリスクは、常に意識する必要があるだろう』、との指摘はその通りだろう。
第二の記事で、理事長は医療法人など幅広く事業を展開しているやり手のようだが、『理事長から『君たちの代わりはいくらでもいるんだから』と言われたこともありますし、働く人の気持ちをないがしろにしている施設でしたね』、当初の成功で自信過剰になっていたのではなかろうか。こんな事件を起きたので、今後、どうなるかを注視したい。
第三の記事で、 『数年前には連日連夜大々的に取り上げられた“介護施設での事件”が、今回はテレビではあっさりと、紙面では三面で小さく報じられている』、確かに、余りに事件が相次ぐので、一般国民には、「またか」といいかげんうんざえりしていることを反映しているのだろう。 『朝3時に起こさないと「朝食に間に合わない」』、『みるみるうちに何も出来なくなっていく』、『“今の現場”では次から次へとやらなくてはならないことだらけで、会話の時間が奪われ、言葉のやりとりのない世界で、おじいちゃん、おばあちゃんたちの生きる力が奪われているのだ』などは悲惨そのものだ。  
『厚労省は「職員のストレス対策を指示する」くらいなら、「世界最先端IT国家創造宣言(IT宣言)」の膨大な予算のうちの一部を介護現場に使えばいい』、との主張には大賛成だ。
明日は更新を休むつもりなので、明後日、金曜日にご期待を!
タグ:いきなり、ボリュームゾーンとなる大量の一般大衆向けの介護施設で、両社合わせて299施設の有料老人ホーム、132棟のサービス付き高齢者向け住宅の運営を始めることになった これまで大手保険会社など異業種が老人ホームを手がける場合、比較的リスクの少ない富裕層向けの高級老人ホームから始めるのが常だった (老人ホーム)問題 (その2)(旧ワタミ・旧メッセージの老人ホームは今どうなっているか、岐阜の老健施設「ひどすぎた地元の評判」、食堂に3時間放置 朝3時に着替えの介護現場) ダイヤモンド・オンライン 介護施設 旧・メッセージ=SOMPOケアメッセージ 両社では介護職員による入居者への虐待や事故、介護職員の過酷な勤務状況などが大々的に報じられていた最中だったからだ そういう老後を迎えるのが望ましいのか、自活できなくなったときの尊厳を守るにはどのような条件が必要なのか。 それを正面から議論しない限り、悲しい事件はなくならないと思う 生きていれば誰もが老いる。昨日まで出来ていたことがひとつひとつできなくなる。 そんなときにはどうしたって他者からのケアが必要となる IoTで、介護をする人の負担が減り、データに基づきケアすることで介護の質が上がり、入所者も快適になる “今の現場”では次から次へとやらなくてはならないことだらけで、会話の時間が奪われ、言葉のやりとりのない世界で、おじいちゃん、おばあちゃんたちの生きる力が奪われているのだ みるみるうちに何も出来なくなっていく 朝3時に起こさないと「朝食に間に合わない」 「今の老人ホーム」の有り様 倒産に伴い入所者は他の施設に転院するわけだが、高齢者にとって環境の変化は想像以上のストレスになる。元気に施設で暮らしていた高齢者が、転院後は突然口数が少なくなったり、うつ傾向が強まったり、歩けなくなったり……、つまり、施設の経営悪化が引き金で一気に老け込んでしまうのである 2015年の介護報酬引き下げ(2.27%減)は業界には大きな打撃だったが、追い打ちをかけたのが国の「介護の受皿を増やす」政策。競争相手が増え、人員確保がさらに難しくなり、体力を増々低下させた 介護施設は人手不足と競争激化で倒産が増加 厚労省が行った調査では、特養ホームの人員配置は全国の平均で「1対2」 数年前に介護施設の虐待が社会問題化したため「1対2.5」「1対1.5」といった具合に国の基準を上回る割合で職員を置く施設も増えた 職員1人が入所者3人を受け持つという決まり 「介護現場の問題」として改善策を講じる必要 介護施設での事件を「個人の問題」にしていては悲惨な事件があとを絶たないことは明白である 施設長を対象に研修を実施し、「職員のストレス対策」として対人関係スキルの向上や感情コントロールスキルの習得などの教育を求めている 厚労省 ニチイケアパレス ホーム内の浴室で入所者の男性を浴槽に投げ入れてお湯を張り、沈めて殺害。男性の死因は溺死で、首を絞められた形跡もあった 東京都中野区の有料老人ホームで、入所者の男性(83歳)を殺害したとして元職員の男(25歳)が逮捕された事件 「食堂に3時間放置、朝3時に着替えの介護現場 「対策は職員のストレスケア」という厚労省のピンぼけっぷり」 日経ビジネスオンライン 河合 薫 とりわけ認知症の入居者の対応に耐えられなくなって虐待に走るケースが多い 蹴るんだったら膝から下にしてね 虐待はどの施設でもある 経営する医療法人同仁会は病院も含めて、十数の施設を運営 『それいゆ』は飛騨高山地方で最初の介護老健施設 『あそこに入れると、認知症になって帰ってくる』 理事長から『君たちの代わりはいくらでもいるんだから』と言われたこともありますし、働く人の気持ちをないがしろにしている施設でしたね。給料もよくはなかった」 退職からほどなく、高橋が転職したのは、同じ市内の老健施設「それいゆ」 この高橋は、介護職員としての適性を著しく欠いていたようだ 岐阜県警 5人すべての介助に関わっていた職員は一人しかいない。30代男性の高橋だ 7月末から半月で3人が死亡し、2人が負傷し それいゆ 介護老人保健施設 飛騨高山 「5人死傷・岐阜の老健施設「ひどすぎた地元の評判」 遺族には十分な説明さえなく」 現代ビジネス もし、「現場の悲鳴」を見逃し続ける事態が発生すれば、改めて大きな事故・事件が発生するというリスクは、常に意識する必要があるだろう 一般大衆向けの老人ホームは、富裕層向けに比べると、必要に迫られた家族が選ぶことが多いため、サービスの差別化やブランドの訴求が難しい。介護職員の募集も容易ではない 慢性的人材不足に付随するリスクを常に認識できるか 超音波センサーで膀胱内の尿量の変化を検知 ICTの導入 両社の介護職員の離職率は平均で約20%である。そのうち、1年未満での離職者が6割もいる 介護職員の離職率減少が重要課題 現場レベルでも両社の人事交流は始めたいと思っている 介護現場やブランドは従来通り維持する 両社の子会社化から1年ちょっと経過し、それぞれの強みや課題が分かってきた 入居率は徐々に改善 一体運営で強みを生かす (旧・ワタミの介護=現・SOMPOケアネクスト SOMPOホールディングス 「旧ワタミ・旧メッセージの老人ホームは今どうなっているか」 大手老人ホーム2社を買収したSOMPOホールディングス
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日本のスポーツ界(その5)(小田嶋氏:ジョン・レノンと日馬富士の共通点) [社会]

昨日に続いて、日本のスポーツ界(その5)(小田嶋氏:ジョン・レノンと日馬富士の共通点) を取上げよう。

コラムニストの小田嶋隆氏が12月1日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「ジョン・レノンと日馬富士の共通点」を紹介しよう。
・横綱日馬富士が引退の意向を表明した。 私は、詳しい事情を知らない。 引退を表明したというニュースの見出しを読んだだけだ。 横綱を引退に追い込むことになった状況や、その背景に関しても、他人に向けて開陳するに足る情報は持っていない。 ありていに言えば、私は、この騒動を、余儀なく知らされることになる断片的なウェブ情報として知っているだけで、きちんとした分析や背景を解説した記事は、ひとつも読んでいない。テレビも見ていない。なので、何も知らないと言ったほうが実態に近いだろう。
・にもかかわらず、今回は、大相撲の話を書くつもりでいる。 まず、この半月ほどの間、世間を大いに騒がせていたこの日馬富士と貴ノ岩の間に生じた暴力事件について、当欄で取り上げなかった理由を説明しておく。 私は、これまでに当欄において、大相撲関連の話題をテーマに4篇ほど(あるいは5つか6つぐらいあったかもしれない)の原稿を書いている。 内容的には、朝青龍の引退騒動や、八百長疑惑問題や、暴力団との交際報道など、力士に関連する不祥事からわれわれの文化的な恥辱の部分を考察した記事だった。
・それらの原稿の出来に満足していないというのではない。 というよりも、当欄にアップした大相撲関連の記事は、いずれも思うところを過不足なく表現することのできたそれはそれでまずまずの文章だったと思っている。 ただ、それだけに、「大相撲と日本人」というテーマについては、ある程度書き尽くした自覚がある。だから、この先、大相撲の周辺で起こる出来事に関して何を書いたところで、重複は避けられないだろうとも思っている。
・とはいえ、書く書かない以前に、私自身が、この話題に関与すること自体を、当初の段階から明らかに忌避していたこともまた事実ではある。 つまり、私は、大相撲から逃避していたわけだ。そうでなくても、情報を遮断していたことは間違いない。 テレビはこの2週間ほど視聴していない。 理由は、この話題を扱っているテレビの画面を見ると、ほんの10秒ほどで、画面の中にいる全員を嫌いになってしまうからで、無駄な敵意を燃やして体力を消費しないためにも、私は、この話題を扱ったテレビにはチャンネルを合わせなかったということだ。 新聞の記事も、ウェブに流れてくるニュースも、見出しより先の部分は読んでいない。
・時系列に沿った主な記事は、習慣としてクリップ(エバーノートにコピペしています)しているのだが、まだ目を通していない。 録画してあるニュースも再生していない。 この記事を書くにあたって、20分ほど前から、クリップしてある記事にざっと目を通すことをはじめていたのだが、その作業も、さきほど投げ出した。 というのも、このニュースに関しては、細かい情報を知れば知るほど、気持ちが沈んでくることをどうすることもできなかったからだ。
・なんというのか、大相撲への愛情が減退し、日本人と日本文化への忌避感が募り、われわれの社会を社会たらしめているものへの苛立ちが亢進することがはじめからわかりきっていたからこそ、私は、このニュースに触れることをためらい、この騒動を扱った論考へのアクセスを拒絶し、そもそも、日本に大相撲があることを思い出すことから逃れようとしていた次第なのだ。
・話を整理すれば、私が大相撲関連のニュースを遮断していた理由のひとつは、「いやな日本人」が群がっていることを伝える情報を読みこなすことが自分にとっては過大な精神的負担であったからで、もうひとつは、その種の「いやな日本人」のニュースに触れた時に自分が示すであろういやな反応に自分ながらうんざりしていたからということでもある。
・おそらく、私は、「オレみたいな視野の広い人間から見れば、君たちみたいな直情的な日本人たちは、これこれこんなふうに見えているのだぞ」 という感じの上から見下したカタチの原稿を書くことになる。 というよりも、このテーマで原稿を書く以上、その書き方から逃れることは事実上不可能なのだ。
・なんとなれば、大相撲の周辺で起っていることは、もうずっと前から、多かれ少なかれ「日本人の悪いクセ」というタグからほとんど一歩も外に出ない話題に終始していて、その「日本人の悪いクセ」をテーマとする原稿は、「自分のことを棚に上げたエセ文化人」の立場からでないと書き起こすことができない種類の文章だからだ。 そんなわけなので、その自分が書くに違いない原稿のイヤミったらしさに、あらかじめ食傷していたからこそ、私はこの件について書くことを自らに禁じていたのであり、それ以上に、この件を考えること自体を拒絶していたのだ。
・しかも、私は、苛立つばかりで、改善策をひとつも持っていない。 自分たちが日本人であるというところから発しているこの問題を解決するためには、われわれが日本人でなくなること以外に方法がない。 とすれば、私が心がけなければならないのは、せめて自分自身だけでも「悪しき日本人の典型的な行動パターン」を踏まないように努力することであるはずで、その典型的な醜い日本人として振る舞わないための具体的な第一歩がすなわち、日馬富士暴行問題に群がって騒ぎ立てる人間たちの一員に加わらないことだった…というわけだ。
・さて、以上が、私がこの話題についてこれまで書かなかった理由なのだが、ここから先、私は、自分がこの話題について原稿を書く理由を説明しなければならない。 この説明はちょっとむずかしい。 読者に届くものなのかどうか自信がないのだが、書くだけ書いてみる。
・さきほど私は、大相撲の問題に通底している「日本人の悪いクセ」を論じるためには、「自分が日本人であることを棚に上げた腐れ文化人」の視点から物申すほかに方法がないという意味のことを書いたのだが、これは、書き方の問題だけではなくて、もしかしたら、われわれの身の処し方全般についてそう言える話なのかもしれない。 どういうことなのかというと、われわれが、「日本人の悪いクセ」から逃れるためには、自分自身が日本人であることを一旦棚上げにして、「国際人」というありもしない架空の立場に依って立って芝居を打つ以外に、スタンスの取りようがないということだ。
・そのためには、原稿を書く人間は、自分のものの言い方がイヤミったらしい出羽の守の言い草であることを重々承知した上で、それでも日本人を叱りつける言説を繰り返さねばならないということだ。  このことは、「おい、さっきから日本人に説教をカマしてるお前はいったい何人なんだ?」「オレか? オレは未来の日本人だよ」 という、この胡散臭い小芝居を図々しくやり通す覚悟がない人間は、はじめから大相撲には言及するべきでないということでもある。
・なんとなれば、このほど「大相撲」という枠組みの中で体現されてしまった「日本」なるものは、われわれにとって、等しく恥辱そのものでもあるからだ。
・今回の事件を私が見聞した範囲の情報から思い切り単純に要約すると、「モンゴル力士社会」という異様に狭っ苦しいムラ社会の中で勃発した暴力事件を、「大相撲社会」というこれまた異様に狭っ苦しいムラ社会の人間たちが処理するにあたって外部に漏れたほころびを、「平成の日本」というこれまた盛大にも広大にも狭っ苦しいムラ社会のメディアがよってたかって突き回しつつ娯楽として消費している姿だったわけで、つまり、私が立っている場所から見ると、このお話は、三重の同心円構造を持つ巻き貝の中身みたいな螺旋的ムラ社会カタツムリぬらぬら事案だったということになる。
・と、細々とした事情はともかくとして、この問題を解く鍵は、「ムラ社会の外にいる人間の目から見ると、ムラ社会の中の出来事はただただ異様に見える」 という至極当たり前な観察の周辺にある。  相撲界全体から見ると、モンゴル力士社会内部でやりとりされている関係や言葉や感情は、どれもこれもバカみたいに狭量で低劣に見えるわけなのだが、その相撲社会がモンゴル力士社会を断罪しようとした態度を日本の一般社会の人間の視点で見ると、これまたとてつもなく狭量粗雑なやりざまに見える、と、ここまでは良い。
・大切なのは、その日本の良識ある横綱審議会だのマスコミ言論人だのが、相撲界に対して物申している「相撲の美」だの「日本の伝統」だの「横綱の品格」だのといったお話にしたところで、彼らの属しているムラ社会の外側かたあらためて見直してみれば、およそ滑稽なポエム規範に過ぎないということだ。
・もうひとつ私が、この事件の発生以来ずっともやもやと考え続けているのは、日馬富士が体現してみせた「暴力」は、もしかしたら、相撲の世界の中の人たちが口を酸っぱくして繰り返している「相撲の美」や「横綱の品格」ひいては「日本の同調」の本質を純化した果てにあるものなのではないか、ということだ。
・このお話も、ちょっと説明を要する。 外国からやってきた人間は、その国の文化の本質の部分を、その国で生まれつきの人間として暮らしている者には思いもつかぬやりかたで掴み取っている場合がある。 私の知っている例では、ジョン・レノンという人が、いくつかそういう歌を書いている。 ひとつは、あの有名な「Imagine=イマジン」で、これは、現在では、オノ・ヨーコさんとの共作でクレジットされるようになった歌でもあるのだが、この歌の中には、レノン氏が、日本からやってきた女性であるヨーコさんから吹き込まれた東洋思想へのあこがれや、架空の平等社会日本のイメージが、極めてシンプルなカタチで反映されている。その点で、世界中の人々の詩的イマジネーションをかきたてる歌に仕上がっている。
・死後に発表されたアルバムの中の1曲「Borrowed Time」というのも不思議な歌だ。 ジャスラックの皆さんへの配慮で、内容を詳しく紹介することは控えるが、タイトルにある通り人生を「借り物の時間」と喝破する内容を持つこの歌の底流にも、ヨーコさんをネタ元とする東洋思想の大胆な翻案が採用されている。
・この種の外国人の立場からの異文化への言及を、安易かつ粗雑な要約に過ぎないと見る向きがあることは承知している。 が、私自身は、われわれの文化の中にある世界や人生についての洞察を「borrowd time」 というたった二つの単語で要約してしまうような荒業は、これは、むしろ外国人だからこそできたことなんではなかろうかと考えて、それを積極的に評価することにしている。
・余談だが、私もひとつこの関係のネタを持っている。 リンク先(こちら)にあるのがそれだ。これは、ビートルズの「Nowhere man」という歌のパロディーで、1998年にテポドン発射記念として、当時開設していたホームページに掲載した作品だ。
・タネを明かせば、「nowhere=どこにもない」という単語の間にスペースを1個挿入すると「now here=いま、ここ」になるということで、これを踏まえると個人的な妄想の中に生きる男である「nowhere man=空しい男」は、ひとっかけらの想像力も持たない自己啓発的な「now here man=即物野郎」に変貌する。 nowhere を now here に読み替えるみたいなこの種のあまりにも単純な地口は、案外、外国人だからこそ発見できるものだというお話でもある。 外国人は、海外の文化を単純化したうえで摂取する。 その単純化が正しいのか間違っているのかという問題ではない。 彼らの立場からすれば、あるフィルターをかけて、単純化してからでないととてもじゃないけど飲み込むことなんてできない。それだけの話なのだ。
・日馬富士に話を戻す。 モンゴルからやってきた力士は、日本語はもちろん、言葉として明示されないメッセージのやりとりを含めて、日本的な対人関係の築き方や、日本の力士としてのコミュニケーションの取り方をすべてゼロから身につけることを求められる。
・先輩力士が特定の場所で特定の所作を繰り返しているのは、いったい何を意図した意思表示なのか。 あるいは、ご祝儀として受け取った金品をどんな基準で分配するのが部屋に所属する者としての最も適切な振る舞い方であるのか。 そういった細々とした先方の意図の読み方やこちらの意思表示の方法を含めて、さしあたり自分の周囲にわだかまっている空気を読むということが、彼らにとっての死活問題であり、処世訓でもある。で、そうした日常的な適応の物語の先に「横綱の品格」があり「相撲の美」があり「ニッポンの文化」があったはずで、彼らからしてみれば、お箸は右手茶碗は左手みたいなことすらも、「勉強」だったに違いないのだ。
・引退会見の中で、日馬富士が後輩を指導するために時には厳しい説諭もすることが先輩力士としての心得であるという意味の話を強調したことを、言い訳がましいと感じた人たちもいることだろう。  実際に、「後輩を厳しく指導する」ことと「アタマに裂傷ができるほど激しく殴打打擲する」ことは、まったく別の話だし、前者が後者を免罪する筋合いの話でもない。両者は、正反対の態度だと言っても良い。
・が、日馬富士の中では、それらはひとつながりの所作の中の別の局面に過ぎなかったのかもしれない。 われわれの中でも、「過労死に至る過酷な残業」と「自分のノルマを果たすために精一杯頑張ること」は、全く別のことだという建前になっている。 が、働く者の目に、「一心に全力を尽くして働くこと」と「過労死に至るまで残業を繰り返すこと」の間の境界線が、常に明らかに見えているのかというと、必ずしもそうだとは言い切れないと思う。
・横綱として、日馬富士に求められていたモラルは、彼の目から見れば、同化しようと一励めば励むほど、結果としてその規範から逸脱してしまうタイプの、極めてわかりにくいスタンダードだったのではなかろうか。 厳しく指導しなければならないが、殴ってはいけない。 いや、素手で軽く殴る程度のことは土俵に生きる男が相手ならあってしかるべきところだが、道具を使って殴ってはいけない。
・すすめられた酒を断るのはもってのほかだが飲みすぎてはいけない。 番付がすべてだが鼻にかけてはいけない。
・いったいどこの世界の人間が、こんなダブルバインドの中で正しい道を見つけることができるだろうか。 品格も同じだ。 何が品格でないのかは、ことあるごとに列挙されている一方で、何が品格なのかは一向に明示されない。 どんな言動が品格から外れていて、何が品格を裏切ることになるのかについては、いちいち具体的に指摘されているものの、どんな振る舞い方が品格にかなっているのかということは、ついぞ説明されたためしがない。
・とすると、横審の爺さんたちの言う「品格」という言葉に「オレたちにとって都合の良い外国人横綱」以外の意味が宿っているものなのかどうか、私は疑わずにおれない。 このわかりにくい規範を学び取ることのために思春期から青年期にかけての十数年間を費やしてきた1人の格闘家が、「日本人としての正しい振る舞い方の極意は、つまるところウチのためのスタンダードと、ソトのためのスタンダードを使い分けることだ」 ぐらいな認識に至ったのだとして、いったい誰が横綱を責められるだろうか。
・私は、今回の出来事を「日本人の典型」を学び取ることに懸命でもあれば、その道で最優秀でもあった青年が、結果として「最も日本人らしい逸脱」をやらかした結果、日本人であることから排除された事件として記憶の底に沈めようと思っている。
・もし大相撲が立ち直りたいなら、オープンでフェアなレギュレーションを取り入れたうえで、アルファベットの「SUMO」として再出発を果たすぐらいしか道はないと思うのだが、そうなると、それは「相撲」ではなくなる。伝統も美もすっかり跡形もなく消え去ることだろう。
・もうひとつの方法として、スポーツ競技としての作り物の構えや建前をかなぐり捨てて、テレビ放送もやめて、戦前にそうであったような、マイナーな興業として、細々と伝統を繋いでいく道がないわけではない。 そのためには、相撲協会全体が大幅に減量しなければならない。それが彼らにできるだろうか。
・いずれにせよ、大相撲の未来はあんまり明るくないと思う。 相撲の興業を「場所」と呼ぶ習慣は、なかなか示唆的だ。 なぜなら、場所がなくなった時、われわれは存在できなくなるからだ。 でもまあ、なくなってみないと先のことはわからない。 個人的には、大相撲は一度 nowhere になってみるべきだと思っている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/113000121/

小田嶋氏の切り口は、さすがに鋭い。記事の中で、 『大相撲の周辺で起っていることは、もうずっと前から、多かれ少なかれ「日本人の悪いクセ」というタグからほとんど一歩も外に出ない話題に終始していて、その「日本人の悪いクセ」をテーマとする原稿は、「自分のことを棚に上げたエセ文化人」の立場からでないと書き起こすことができない種類の文章だからだ。 そんなわけなので、その自分が書くに違いない原稿のイヤミったらしさに、あらかじめ食傷していたからこそ、私はこの件について書くことを自らに禁じていたのであり、それ以上に、この件を考えること自体を拒絶していたのだ』、 『このほど「大相撲」という枠組みの中で体現されてしまった「日本」なるものは、われわれにとって、等しく恥辱そのものでもあるからだ』、 『「モンゴル力士社会」という異様に狭っ苦しいムラ社会の中で勃発した暴力事件を、「大相撲社会」というこれまた異様に狭っ苦しいムラ社会の人間たちが処理するにあたって外部に漏れたほころびを、「平成の日本」というこれまた盛大にも広大にも狭っ苦しいムラ社会のメディアがよってたかって突き回しつつ娯楽として消費している姿だったわけで、つまり、私が立っている場所から見ると、このお話は、三重の同心円構造を持つ巻き貝の中身みたいな螺旋的ムラ社会カタツムリぬらぬら事案だったということになる』、 『横綱として、日馬富士に求められていたモラルは、彼の目から見れば、同化しようと一励めば励むほど、結果としてその規範から逸脱してしまうタイプの、極めてわかりにくいスタンダードだったのではなかろうか』、などの指摘は、いずれも秀逸で説得力がある。 最後の、『私は、今回の出来事を「日本人の典型」を学び取ることに懸命でもあれば、その道で最優秀でもあった青年が、結果として「最も日本人らしい逸脱」をやらかした結果、日本人であることから排除された事件として記憶の底に沈めようと思っている』、も問題をよくぞここまで深く掘り下げたものだと、感服した。  なお、ダブルバインドについては、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89 を参照されたい。 
タグ:私は、今回の出来事を「日本人の典型」を学び取ることに懸命でもあれば、その道で最優秀でもあった青年が、結果として「最も日本人らしい逸脱」をやらかした結果、日本人であることから排除された事件として記憶の底に沈めようと思っている 横綱として、日馬富士に求められていたモラルは、彼の目から見れば、同化しようと一励めば励むほど、結果としてその規範から逸脱してしまうタイプの、極めてわかりにくいスタンダードだったのではなかろうか モンゴルからやってきた力士は、日本語はもちろん、言葉として明示されないメッセージのやりとりを含めて、日本的な対人関係の築き方や、日本の力士としてのコミュニケーションの取り方をすべてゼロから身につけることを求められる 日馬富士が体現してみせた「暴力」は、もしかしたら、相撲の世界の中の人たちが口を酸っぱくして繰り返している「相撲の美」や「横綱の品格」ひいては「日本の同調」の本質を純化した果てにあるものなのではないか、ということだ 今回の事件を私が見聞した範囲の情報から思い切り単純に要約すると、「モンゴル力士社会」という異様に狭っ苦しいムラ社会の中で勃発した暴力事件を、「大相撲社会」というこれまた異様に狭っ苦しいムラ社会の人間たちが処理するにあたって外部に漏れたほころびを、「平成の日本」というこれまた盛大にも広大にも狭っ苦しいムラ社会のメディアがよってたかって突き回しつつ娯楽として消費している姿だったわけで、つまり、私が立っている場所から見ると、このお話は、三重の同心円構造を持つ巻き貝の中身みたいな螺旋的ムラ社会カタツムリぬらぬら事 このほど「大相撲」という枠組みの中で体現されてしまった「日本」なるものは、われわれにとって、等しく恥辱そのものでもあるからだ 大相撲の周辺で起っていることは、もうずっと前から、多かれ少なかれ「日本人の悪いクセ」というタグからほとんど一歩も外に出ない話題に終始していて、その「日本人の悪いクセ」をテーマとする原稿は、「自分のことを棚に上げたエセ文化人」の立場からでないと書き起こすことができない種類の文章だからだ。 私が大相撲関連のニュースを遮断していた理由のひとつは、「いやな日本人」が群がっていることを伝える情報を読みこなすことが自分にとっては過大な精神的負担であったからで、もうひとつは、その種の「いやな日本人」のニュースに触れた時に自分が示すであろういやな反応に自分ながらうんざりしていたからということでもある 自身が、この話題に関与すること自体を、当初の段階から明らかに忌避していたこともまた事実 「ジョン・レノンと日馬富士の共通点」 日経ビジネスオンライン 小田嶋隆 (その5)(小田嶋氏:ジョン・レノンと日馬富士の共通点) 日本のスポーツ界
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日本のスポーツ界(その4)(マラソンを軽視する駅伝大国ニッポン、貴乃花と日馬富士 被害者が悪者になる「バカげた事件」の不快さ) [社会]

日本のスポーツ界につぃては、3月28日に取上げた。今日は、(その4)(マラソンを軽視する駅伝大国ニッポン、貴乃花と日馬富士 被害者が悪者になる「バカげた事件」の不快さ) である。

先ずは、11月13日付け日刊ゲンダイ「日本勢トップは5位…マラソンを軽視する駅伝大国ニッポン」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・外国人には理解できないシーズンがやってきた。 12日に行われたさいたま国際マラソンは、2020年東京五輪の女子マラソン代表を決めるグランドチャンピオンシップ(GC)のキップがかかっていた。日本人のトップは岩出玲亜(22)の5位。2時間31分10秒の記録は、GCキップが得られる2時間29分00秒には遠く及ばなかった。
・岩出がゴールした直後、東日本女子駅伝が福島県(福島市)でスタート。千葉県が2年ぶり9度目の優勝となった。ちなみに、8月の世界陸上マラソン代表だった清田真央(24)と安藤友香(23)は、4位の静岡代表としてこっちを走っていた。 国内の駅伝は、10月末の全日本大学女子対校選手権から本格的なシーズンに入った。来年元日の全日本実業団対抗(男子)まで、東日本女子、全日本実業団対抗女子、全国中学、全国高校、全日本大学女子選抜など大会が目白押し。
・今月26日には、全日本実業団対抗女子駅伝が控えるため、さいたま国際にはマラソンの有望選手が毎年出場しないのだが、五輪や世界選手権の種目でもない駅伝が、五輪代表につながるマラソン大会より重要視され、大いに盛り上がっていることが「理解できない」という外国人は少なくない。 日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーはさいたま国際マラソンの結果について「(岩出は)風が強く、高低差のある難しいコースで頑張ったという評価をしているが、2時間29分00秒はクリアしてほしかった。これでは世界に太刀打ちできない」とボヤいた。
・岩出の持ち時計は2時間24分38秒。さいたまのコースなら、この記録が精いっぱい。それより瀬古リーダーは、26日の全国大会のために女子選手をマラソンに出さない実業団の監督にこそ文句を言うべきだ。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/217521/1

次に、筑波大学教授の原田 隆之氏が12月3日付け現代ビジネスに寄稿した「貴乃花と日馬富士、被害者が悪者になる「バカげた事件」の不快さ 横綱に媚びる道徳なんていらない!」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽被害者の名前を言わない引退会見
・日馬富士が貴ノ岩を殴ってケガをさせたとされる事件が、発覚してから2週間。とうとう、日馬富士が引退するところまで追い込まれた。 引退会見では、冒頭「貴ノ岩関にケガを負わせたことに対し、おわびをさせていただきます」と述べたものの、その後「国民の皆様、相撲ファンの皆様に大変ご迷惑をお掛けしたことを心から深くおわび申し上げます」と謝罪し、そこに貴ノ岩の名前はなかった。  このような大事な場面で、謝罪の対象に被害者の名前をうっかり忘れるということは普通考えにくいから、これは意図的なことなのだろう。
・また、暴行に至った原因としては、「先輩の横綱として、礼儀と礼節がなっていないときにそれを教えるのが義務だと思っている」と語った。 同席した伊勢ケ浜親方は、「やった事実はあるわけなので、横綱として責任は取らなければいけない」と述べたが、会見を通して「横綱という名前を汚してはならない」という信念が貫かれていた。
・また、記者の質問に気色ばんだり、質問を遮ったりする場面も見られ、当初の反省の色がどこかに行ってしまったような様子だった。 端的に言えば、不快な会見だった。 最初のほうは、残念なことになったものだと同情しながら聞いていたが、途中からそんな気持ちは吹き飛んでしまった。 
・まだ捜査中ではあるが、自らの暴行で相手に大怪我をさせておきながら、まるで「横綱を辞めさせられた自分のほうが被害者だ」と言いたげな態度が滲み出ており、「相手のことを思う一心だったのに」「相手のほうが悪かった」との言い訳に至っては甚だ聞き苦しい。 さらに、「一件の後、貴ノ岩から謝罪があって握手して別れたから、事がこれほど大きくなるとは思っていなかった」と平気で言ってのけるあたり、まったく共感性というものが欠如しているのではないかと疑ってしまう。
・親方の態度は、弟子を庇うことは美しい姿なのかもしれないが、なぜこのような事態になったのかという肝心のところが抜け落ちている。 「横綱としての品位」に傷をつけたから引退ではなく、人に暴力を振るってケガをさせたから引退だということがわかっていない。 こんな親方だから、弟子がこんなことになってしまったのだ。親方の責任はとても大きい。
▽危機管理委員会という茶番
・それに輪をかけて酷かったのが、日本相撲協会の危機管理員会なるものが出した「中間発表」である。 そこでは、以下のようなことが発表された。
 1 一次会で、白鵬が貴ノ岩の言動に説教をしたが、日馬富士はそれを庇った。
 2 貴ノ岩は両親を亡くしており、似た境遇にある日馬富士は日ごろから彼を気にかけ可愛がっていた。
 3 二次会になって、白鵬がまた説諭を始めたとき、貴ノ岩がスマートフォンをいじっていたので、日馬富士は大横綱の白鵬に何たる態度かと腹を立て、貴ノ岩の顔面を平手で殴った。
 4 貴ノ岩がそこで謝罪していればよかったのに、それどころか睨み返してきたため、さらにカラオケのリモコンなどで殴った。
・危機管理員会なるものが、中立的な立場ではなく、明らかに「加害者寄り」であることがはっきりとわかる。 そもそも、被害者の貴ノ岩から事情を聞くことができていないのに、加害者側からの一方的な言い分だけを聞いて、「中間発表」を出したところにも、その性格が如実に現れている。 貴乃花親方が貴ノ岩の聴取を拒否しているから、貴ノ岩の事情聴取ができなかったということは事実であっても、肝心の被害者から事情を聞けていないのであれば、この時点でこれを出すことは拙速である。
・そして、その内容自体についても、論評をするのも嫌になるほどのあまりの酷さである。まるで、日馬富士が主人公の安っぽいメロドラマである。 日馬富士は確かに人望もあり、人情家だったに違いない。しかし、そんな修飾語はいらない。事実をきちんと客観的に書くべきだ。日頃から面倒を見ていたとか、庇っていたとかという誘導的なストーリーにはうんざりするほかない。
・また、それとは対照的に、貴ノ岩を一貫して「悪者」として描き、「謝罪をしていればこんなことにはならなかった」と、あたかも彼一人にすべての責任を負わせるかのような態度は、卑劣としか言いようがない。 前回の記事(「日馬富士事件」大相撲からいまだに暴力沙汰が消えないワケ)で述べたように、この世に無抵抗の人間を殴ってよい理由など1つもない。百歩譲って、日馬富士がどれだけ善人でも、貴ノ岩がどれだけ悪人でも、それは同じことだ。
・聞くところによると、危機管理員会の委員長は、元高検検事長だという。検察官が正義の味方とは思わないが、あまりのポンコツさに呆れるばかりである。 『レインメイカー』という映画で、マット・デイモン扮する青くさい正義感溢れる弁護士が、老練な悪徳弁護士に「あなたはいつから堕落したのですか」と怒りに満ちたまっすぐな問いを発する場面がある。危機管理員会の中間発表は、そんなシーンを思い出させる茶番劇だった。
▽理事会という伏魔殿
・そして、極めつけが、中間発表と同日に開催された相撲協会の理事会でのやり取りである。理事会は、貴乃花親方が久しぶりに公の場所に姿を見せ、八角理事長や伊勢ケ浜親方と顔を合わせるとあって、大きな注目を集めた。 理事会では、聴取に協力しない貴乃花親方に対して、複数の理事が詰め寄り、翻意するよう説得したという。まさに、多勢に無勢の有様である。
・マスコミ報道も、貴乃花親方の「頑固さ」ばかりをクローズアップしているが、この風景もなんとも異様である。貴乃花親方は、被害者側であって、被害者を守る立場である。 彼は、繰り返し「この一件は、もはや関取同士の内輪もめという範疇を超えているから、警察に届けを出し、その捜査を優先する」と主張しているだけなのに、そのどこがおかしいのだろうか。
・それに、これまで述べてきたように、明らかに「加害者寄り」の相撲協会を信用して事情聴取に応じろと言われて、「はいそうですか」と言えるはずがない。 理事会では、冬巡業から巡業部長である貴乃花親方を外すことが決定されたという。これは、親方への「処分」ではないことが強調されていたが、寄ってたかっていじめをしているように見えてしまう。
・また、それで恐れるのが、今後の貴ノ岩への風当たりである。これまで相撲協会が描いてきたのは、「悪者の貴ノ岩のせいで、後輩思いの熱血漢、日馬富士が引退に追いやられた」というストーリーである。 だとすると、貴ノ岩はこの後、相撲の世界に居づらくなって、居場所がなくなってしまうのではないか、まさにいじめのようなことが起こってしまうのではないかと危惧してしまう。
▽加害者と被害者が逆転する
・この国では、弱い者が声を上げたり、虐げられた者が自分の権利を主張したりすると、煙たがられ、悪者扱いされることがよく起こる。 あるスポーツ新聞では、貴乃花親方を吉良上野介になぞらえていた。だとすると日馬富士やその取り巻き連中は、日本を代表する悲劇のヒーロー、赤穂浪士だと言いたいのだろうか。そして、その記事は、赤穂浪士は切腹、吉良は無罪放免だったことを取り上げ、「『喧嘩両成敗』の知恵に学びたい」と結ぶ。
・貴乃花親方を「稀代の悪人」イメージの代表格である吉良上野介になぞらえ、喧嘩両成敗にすべきということは、つまり日馬富士は「切腹」したのだから、貴乃花親方も無罪放免にはせず、彼も罰するべきだと言いたいのだろうか。 季節はもう12月。まさに忠臣蔵の季節である。あの時代には、忠君という道徳が最高の美徳であり、主君のために仇を切りつけた赤穂浪士はヒーローになった。しかし、妙なアナクロニズムを持ち出して、話を捻じ曲げないでほしい。
・相撲協会や横綱に媚びへつらう道徳などいらないし、被害者と加害者を逆転させるような馬鹿げたことは、厳に慎むべきである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53691

第一の記事の 『マラソンを軽視する駅伝大国ニッポン』、ついては、このブログの3月28日に取上げたが、こんなことでは日本のマラソンの復活は期待薄だ。『瀬古リーダーは、26日の全国大会のために女子選手をマラソンに出さない実業団の監督にこそ文句を言うべきだ』、との指摘はその通りだ。
第二の記事で、危機管理員会の「中間発表」について、『肝心の被害者から事情を聞けていないのであれば、この時点でこれを出すことは拙速である』、というのは同意できる。ただ、被害者と加害者を加害に至る事情を度外視して、加害者だけを悪者扱いするのは、違和感を感じる。また、『貴乃花親方は、被害者側であって、被害者を守る立場である。 彼は、繰り返し「この一件は、もはや関取同士の内輪もめという範疇を超えているから、警察に届けを出し、その捜査を優先する」と主張しているだけなのに、そのどこがおかしいのだろうか』、『明らかに「加害者寄り」の相撲協会を信用して事情聴取に応じろと言われて、「はいそうですか」と言えるはずがない』、などと貴乃花親方を庇っているが、警察の捜査優先はいいとしても、協会の事情聴取に一切応じないというのも、極めて不自然だ。本件では、2通の診断書といい、不自然で未解明のことが多過ぎる。時間はかかっても、真相を解明してほしいものだ。

タグ:明らかに「加害者寄り」の相撲協会を信用して事情聴取に応じろと言われて、「はいそうですか」と言えるはずがない 貴乃花親方は、被害者側であって、被害者を守る立場である。 彼は、繰り返し「この一件は、もはや関取同士の内輪もめという範疇を超えているから、警察に届けを出し、その捜査を優先する」と主張しているだけなのに、そのどこがおかしいのだろうか 理事会では、聴取に協力しない貴乃花親方に対して、複数の理事が詰め寄り、翻意するよう説得したという この世に無抵抗の人間を殴ってよい理由など1つもない 肝心の被害者から事情を聞けていないのであれば、この時点でこれを出すことは拙速である 「中間発表」 危機管理員会 「横綱としての品位」に傷をつけたから引退ではなく、人に暴力を振るってケガをさせたから引退だということがわかっていない 自らの暴行で相手に大怪我をさせておきながら、まるで「横綱を辞めさせられた自分のほうが被害者だ」と言いたげな態度が滲み出ており、「相手のことを思う一心だったのに」「相手のほうが悪かった」との言い訳に至っては甚だ聞き苦しい 日馬富士が引退 貴ノ岩 日馬富士 「貴乃花と日馬富士、被害者が悪者になる「バカげた事件」の不快さ 横綱に媚びる道徳なんていらない!」 現代ビジネス 原田 隆之 瀬古リーダーは、26日の全国大会のために女子選手をマラソンに出さない実業団の監督にこそ文句を言うべきだ 五輪や世界選手権の種目でもない駅伝が、五輪代表につながるマラソン大会より重要視され、大いに盛り上がっていることが「理解できない」という外国人は少なくない 大会が目白押し 国内の駅伝は 8月の世界陸上マラソン代表だった清田真央(24)と安藤友香(23)は、4位の静岡代表としてこっちを走っていた 東日本女子駅伝が福島県(福島市) 日本人のトップは岩出玲亜(22)の5位。2時間31分10秒の記録は、GCキップが得られる2時間29分00秒には遠く及ばなかった さいたま国際マラソン 「日本勢トップは5位…マラソンを軽視する駅伝大国ニッポン」 日刊ゲンダイ (その4)(マラソンを軽視する駅伝大国ニッポン、貴乃花と日馬富士 被害者が悪者になる「バカげた事件」の不快さ) 日本のスポーツ界
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企業不祥事(神戸製鋼などの部材不正)(その3)(内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか、神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた、「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇、世耕経産大臣は 日本の製造業の”破壊者”か) [企業経営]

企業不祥事(神戸製鋼などの部材不正)については、10月22日に取上げた。発生企業が広がりを見せる今日は、タイトルを微修正して、(その3)(内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか、神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた、「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇、世耕経産大臣は 日本の製造業の”破壊者”か) である。

先ずは、NHKクローズアップ現代+が、11月9日に放送した「内部証言で迫る“不正の深層”~神戸製鋼・日産で何が~」を元に11月21日付けで制作した「内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか」を紹介:日本のモノづくりの信頼を揺るがしかねない事態である。神戸製鋼所では検査データの改ざんが発覚。航空機、自動車メーカーや鉄道会社など500社以上の取引先の中には、他社に切り替える動きも出始めている。日産自動車では完成した車の検査を、資格のない従業員が行っていたことが発覚した。日本を代表するメーカーで相次ぐ不祥事。いったい現場で何か起きているのか。当事者たちが重い口を開いた。
▽「何が問題なのか」 蔓延していた甘い意識
・およそ10年前に実際にデータ改ざんを行ったという神戸製鋼の元社員が取材に応じた。顧客と事前に契約した品質基準を満たしていないにも関わらず、基準をクリアしているかのように見せかける過程で、ある隠語が使われていたと明かした。 「検査をして不合格だと、機械から赤い紙が出てくる。その場合、品質保証室長に相談し、あらたに改ざんした数値を入力する。これをメイキングという」(元社員) この社員によれば、“メイキング”、すなわち改ざんは40年以上前から行われてきた。神戸製鋼では、出荷の直前に「品質保証室」で品質検査を行い、検査証明書を発行している。その証明書に記載する数値を“メイキング”するのだ。製品の仕上がりにはわずかなばらつきがあり、一定の割合で顧客の契約を満たさないものが出る。しかし、作り直すには時間とコストがかかる。そこでデータを改ざんする。その根底には、少しぐらい契約の基準を満たしていなくても安全性は問題ない”という考えがあるという。
・「例えば規格は8%だが、それに対して7.9%だったとする。これを合格として出しても問題ないという判断に当然なっていく。わずか0.1の差。担当者は、安全性は間違いないという判断をして、出荷している」(元社員) なぜ「少しぐらいなら」という意識が蔓延してしまったのか。背景には、製造業の現場にもともとある「トクサイ(特別採用)」という商慣行がある。製品が契約基準に満たない場合、顧客の了承を得たうえで販売する、いわば、アウトレットのようなものだ。顧客との合意があれば問題はなく、他の企業でも広く行われている。ところが神戸製鋼では、「このくらいの差なら顧客も受け入れてくれる」という経験が積み重なるうちに、基準にたいする意識が甘くなり、改ざんが行われるようになってしまったとみられる。取材の中では、不正が明るみになってなお、「何が問題か分からない」と言う元役員までいた。会社側は、経営陣による指示はなかったとしているが、品質保証室や工場長を経験した複数の元役員が不正を認識していたことが取材で明らかになっている。
▽「間に合わないとは言えない」強まっていたプレッシャー
・不正が広がった背景には、苦しい経営状況があることも見えてきた。神戸製鋼は、この10年で5度の最終赤字に陥っている。「生産効率を上げろ」という現場への圧力が強まっていったという。 「コストダウンの一環でいろいろやって、できれば製品にしたい。出荷しないといけない。費用の面、それから納期管理の面。どうするかというは、すごいプレッシャーがあった」(数年前まで働いていた元社員)
・中でも期待されたのが、車の軽量化などで需要が高まっているアルミ部門だ。取材班が入手した、最近のアルミ工場内の写真には、至るところに金属の削りかすが散乱している様子が写っていた。 この写真を撮影した関係者によると、現場はメンテナンスに手が回らなくなるほどの忙しさだという。現在も神戸製鋼の工場で働く社員はこう話す。 「(「間に合いません」とは)言えない、それは。お客さんが離れるから『もうできません』といったら終わり」 データ改ざんに気づいている社員もいたが、「指摘する立場じゃない。組織が全然違うし。いい悪いという問題意識もなかった」と話す。
・製造業に詳しい経営コンサルタントの遠藤功さんは、神戸製鋼が陥った状況をこう分析する。「軽いのに強度が強い製品など、神戸製鋼にしか作れない製品が数多くあります。しかし、一方で付加価値が高いということは、製造の難易度も高い。決して簡単には作れない。さらに、アルミや鉄鋼の業界は今、とても競争が厳しい状況です。設備投資などに巨額の資金が必要で、その負担が大きいため再編が進んでいます。その中で神戸製鋼が独立経営の維持を貫いている。それはそれで1つの経営判断ですが、結果的には現場は相当無理をせざるを得ないような状況になってしまったとも考えられます」
▽「一生懸命やってしまった」人手不足の中で
・現場へのプレッシャーは、日産自動車で発覚した不正の背景にも伺える。日産では、本来、資格をもつ検査員が行うことになっている完成車の出荷前検査を、資格のない従業員が行うことが常態化していた。20年以上検査業務を担当していた社員は、人手不足の中で生産の向上を要求され、不正に歯止めが効かなくなってしまったと話す。この社員によると、2000年代以降、検査員の数はおよそ6割に減少。一方で、毎年5%の生産性向上を要求されていた。そこで資格をもつ検査員のはんこを使いまわし、検査が適正に行われたように見せかけていた。会社は、資格のない新入社員や非正規の従業員にも検査をさせ、誰がどの検査員のはんこを使用したか一覧表にまでしていた。
・「“現場なりの創意工夫”をしてしまった。それが、本来であれば、完成検査という、国の委託された業務であるにもかかわらず、その辺を置き去りにした。会社経営側の要請に応えるために一生懸命やってしまった」
▽「利益なき繁忙」の落とし穴
・今、多くの日本の企業は、ガバナンス強化に取り組んでいる。しかし、そのありかたに経営コンサルタントの遠藤さんは警鐘を鳴らす。 「本来は、法令順守やコンプライアンスという意味だが、最近では“攻めのガバナンス”という言葉で、利益追求、稼ぐ力を高める色あいが濃くなっている。品質の要求水準は高まり、利益を上げることへのプレッシャーも大きくなっている。ところが、品質を担保する製造現場はぎりぎりの人数で回しているうえに、世代交代などもあって、現場の力が弱くなっている。「利益なき繁忙」という状況です。神戸製鋼と日産自動車に限らず、すべての製造業に品質問題が起きやすい状況だと言えます」
・日本の製造業が信頼を取り戻すために、何が必要なのか。遠藤さんが重視するのは、中長期的な成長を目指す経営陣の視点だ。 「「品質を作り込む」という言葉があるが、品質は現場でしか担保できません。短期的な利益追求ではなくて、中長期的なサステナブルな成長を目指してほしい。その一方で、もう一度、品質とは何かを問いかけて、必要な投資を現場に対して行う。例えば、改ざんができないようなシステムに投資するとか、新たな仕組みが求められていると思います」
・遠藤さんがもうひとつ指摘するのが「人作り」への回帰だ。かつてどの現場にもいた品質の番人、“品質の鬼”をもう一度育てていけるか。高い信頼があってこその日本のモノ作りが、いま、正念場を迎えている。
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/058/

次に、11月11日付け東洋経済オンライン「神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本の製造業の信頼性をも揺るがす事態となった神戸製鋼所の品質データ改ざん・捏造問題。実は今から9年前の2008年、鉄鋼業界で「業界ぐるみ」といっても過言ではない不祥事があったことはあまり知られていない。 時計の針を9年前に戻そう。発端は、2008年5月22日の一部報道を機に明らかになったJFEスチール(JFEホールディングス傘下の中核企業)による強度試験データの捏造だった。米国石油協会の規格に基づいて製造した石油パイプライン用などの鋼管2400本強について、同規格に基づいて実施すべき水圧試験を行っていなかった。
▽次々と発覚したJIS規格違反
・その1週間後には、新日本製鉄(現在の新日鉄住金)の子会社であるニッタイ(現・日鉄住金ステンレス鋼管)の野田工場が、それまで5年間にわたって製造した配管用のステンレス鋼管12万本あまりについて、日本工業規格(JIS)で定められた水圧試験を行わず、試験データを捏造し、「新日鉄ブランド」で出荷していたことが発覚。工場長が試験の省略を指示していたことも明らかになり、JIS認証を取り消された。 こうした事態を受け、経済産業省は業界団体である日本鉄鋼連盟を通じ、加盟企業に品質に関する法令・規格の順守状況について総点検を行い、その結果を早急に報告するよう要請した。
・すると規格違反が次々と発覚する。日新製鋼がステンレス鋼管55万本強についてJISが義務づける耐圧検査などを実施せずに出荷していたと公表、当該製品の出荷停止に追い込まれた。やはり同社でも、製造所長自身が検査データ捏造を認識していた。 さらには神鋼子会社の日本高周波鋼業でJISなどが定める鋼材の強度試験を実施していないことが発覚。また、日本冶金工業の子会社であるナストーアの茅ヶ崎製造所でも、ステンレス鋼管約97万本についてJISが規定する水圧試験または非破壊検査を実施していないことが社内調査で判明。いずれもJIS認証を取り消されている。
・そのほかにもおよそ1カ月の間に、日本金属工業(現・日新製鋼)、不二越、大同特殊鋼、淀川製鋼所、三菱製鋼の子会社で検査データの改ざん・捏造やJIS規格違反が発覚した。 これら企業の多くはデータ捏造を行った原因について、「時間のかかる試験や検査を行うことによって生産性が落ちることを懸念した」「現場が生産性を優先した」などと説明していた。
▽行き過ぎた「生産性重視」
・一連の事態が発覚したのはリーマンショック直前のタイミング。それまでの数年間は中国など新興国の台頭で世界的に鋼材需要が急増していた時期だった。そうした環境下で、日本の鉄鋼メーカーは「生産性重視」で販売拡大を競い合った。その結果、歪みとして表面化したのが一連の不正事案だった。
・鉄鋼連盟は当時の会長である宗岡正二・新日鉄社長(現・新日鉄住金会長)が中心となり、2008年7月28日に再発防止に向け「品質保証体制強化に向けたガイドライン」を策定した。 ガイドラインではまず、教育冊子などを活用した法令順守(コンプライアンス)・品質保証に関する意識改革を求めた。また、品質保証部門や検査証明書発行部門を製造部門から独立させることや、ISO9001やJISなど第三者認証の取得、社内第三者による品質監査の強化などを盛り込んだ。
・その後、同ガイドラインは2010年2月に意識「改革」から「徹底」に表現を変え、業界内の発生事案の情報共有化を盛り込むなど一部改訂して現在に至っている。 それにもかかわらず昨年6月に発覚したのが、神鋼の関連会社におけるステンレス製品の強度データ改ざんとJIS規格違反だった。そして、今年10月8日には神鋼本体のアルミ・銅事業部門で検査データ改ざん(顧客との仕様契約違反)の事実が公表された。その後、現在までに同社の鉄鋼や機械部門などの一部製品でも改ざんが発覚し、銅管子会社ではJIS認証の取り消しに発展している。改ざんが発覚した事業所の中には、2008年に不正が起きた日本高周波鋼業も含まれている。
・神鋼の改ざん問題を受けて、鉄鋼業界の中では自主的に社内の総点検を行う動きも出ている。 建機や自動車向けに特殊鋼やばねを生産する三菱製鋼は昨年、社長の指示で監査室の聞き取りによる国内の法令順守状況を調査。今年10月以降は、顧客との契約順守状況も含めて社内監査を実施している。今のところ問題事例は発見されていないという。
・一方、新日鉄住金やその子会社の日新製鋼は従来から鉄鋼連盟のガイドラインに則った品質管理体制を敷いており、今回特別に一斉点検する予定はないとしている。また、JFEスチールはガイドラインに則って対応しているが、神鋼の問題を受けて本社・品質保証部による年1回の定期的点検をやや前倒しで実施している最中という。 鉄鋼連盟の進藤孝生会長(新日鉄住金社長)は10月30日の会見で、神鋼の原因究明作業の結果を待って「ガイドライン強化を検討していく」方針を表明している。
▽経産省「総点検を要請する予定はない」
・2008年に鉄鋼業界に総点検を要請した経産省は今回、鉄鋼業界やアルミ・銅などの非鉄業界に対して総点検を要請しないのか。東洋経済の取材に対して同省製造産業局金属課の小見山康二課長は、「検討しているかどうかは別として、今のところ要請を行う予定はない」と答える。 その理由については、神鋼が11月10日に発表した原因分析の社内調査報告書を見る限り、品質責任を各事業部へ丸投げするような経営管理体制や閉鎖的な組織風土など「神鋼特有の問題という色彩が強いため」と言う。鉄鋼大手の関係者は「今回の神鋼の改ざんは、その多くが鉄連のガイドラインの対象外であるアルミ・銅部門で起きている」と指摘する。
・確かに神鋼固有の問題があることは間違いない。しかし、今回の神鋼の報告書には、「収益評価に偏った経営」や「生産性や納期を優先する風土」など、2008年の改ざん事案で指摘されたものと似た構造的要因が含まれている。アルミ・銅部門だけでなく、鉄鋼部門を含めて組織横断的に発生していることも事実だ。企業の法令順守問題に詳しい郷原信郎弁護士は、「神鋼の問題には同社だけに限らない構造的背景がある。この際、潜在化した同様の問題を一斉に調査して表に出すべきだ」と指摘する。
・ガイドライン制定から10年近く経った今、その実効性を確認する意味においても、経産省の要請いかんにかかわらず、各社が自らの組織に同種の問題が潜在していないか改めて総点検することが重要ではないだろうか。
http://toyokeizai.net/articles/-/197883

第三に、11月29日付けダイヤモンド・オンライン「「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ほんの一瞬だった。 11月28日、子会社における製品検査データの改ざんに関する緊急記者会見に臨んだ東レの日覺昭廣社長のマイクを持つ右手の動きがぶれ、左右の目をしばたたかせた。 記者団から「いつ、日本経団連の榊原定征会長に具体的な報告をしたのか」と問われた時だった。榊原会長は、東レの社長・会長・最高顧問を歴任した“かつての顔”であり、2014年からは財界総理である経団連の会長を務めている(現在は東レの相談役でもある)。
・「昨日(27日)です」 常日頃から、歯に衣着せぬストレートな発言で知られる日覺社長が、さもばつが悪そうに答えたのには理由がある。 実は、前日の27日の日本経団連の記者会見で、神戸製鋼所や三菱マテリアルなどで不祥事が相次いでいることについて問われた榊原会長は、「日本の製造業全体の信頼が揺らぎかねない」という趣旨の強い懸念を示したばかりだったのだ。榊原会長は、記者会見の終了後に初めて東レの幹部から具体的な内容を聞かされたのだという。 だが、データ改ざんは榊原氏の社長在任中に始まっており、全く無関係とは言い切れない。
▽「文春砲」が公表を後押し
・今回の不祥事では、タイヤの補強材などを製造している子会社の東レハイブリッドコード(愛知県)で08年4月から16年7月までの約8年間にわたり、計149件の不正行為が行われていた。その内容は、最終的に顧客に渡す「納入製品の検査成績書」に記載する元データの数値を都合よく書き換えていたというもので、国内外の13社に出荷していたという。
・発覚したきっかけは、11月3日にインターネット上の掲示板に「東レの子会社でデータの書き換えがあったようだ」という趣旨の書き込みがなされたことだった。 しかしながら、この子会社では、16年7月の段階で不正を把握しておきながら、1年以上問題を公表しなかった。この点について、東レの日覺社長は「噂のような形で広まってしまう前に、正確な情報を把握してから世間に公表すべきだと考えた」という釈明した。
・さらに日覺社長は、世間を騒がせている神戸製鋼所や三菱マテリアルのデータ改ざんの問題がなければ、「公表することは考えなかった」との認識を明かしたが、これには首を傾げざるを得ない。 それが本音だったのだとすれば、やはり、一連の不祥事のどさくさに紛れて公表を決めたのではないかという疑念は拭えない。
・公表を急がなければならない別の事情もあった。近々発売される「週刊文春」誌上で、大々的にスキャンダルとして取り上げられているのである。発売前に自ら世間に公表して火種をもみ消そうとの魂胆が見え見えだ。 「東レよ、お前もか」。財界総理を輩出した超優良企業ですら落ちた不正の闇は、いったいどこまで広がっているのか。今後、産業界を巻き込んだ大騒動に発展する可能性がある。
http://diamond.jp/articles/-/151216

第四に、東京地検特捜部検事出身で弁護士の郷原信郎氏が12月1日付け同氏のブログに掲載した「世耕経産大臣は、日本の製造業の”破壊者”か」を紹介しよう。
・10月8日の、神戸製鋼所の記者会見での公表以降、日本を代表するメーカーで次々と明らかになっている「データ改ざん問題」は、殆どが、安全性や実質的な品質には影響のない「形式上の不正」であり、納入先の顧客に説明し、安全性等が確認されれば、本来、公表する必要がない事柄である。
・それらの多くは、顧客との契約で、製品の品質・安全上必要な水準を上回って設定されている規格・仕様について、メーカーの製造過程で、その余裕を持たせた規格・仕様から若干下回る「不適合品」が発生した場合に、データを書き替えて「適合品」であるように表示して出荷納品したという問題だと考えられる。
・このような「データ改ざん」は、日本の素材メーカー、部品メーカーの多くに潜在化している「カビ型不正」の問題であり、それらの殆どは、実質的な品質の問題や安全性とは無関係の「形式上の不正」に過ぎず、顧客に対して「データ書き替え」の事実と、真実のデータについて十分な情報を提供し、書き替えに至った理由や経過を正しく説明して品質への影響や安全性の確認を行うことができれば、もともと大きな問題にはなり得ない。
・そのことを、私は【日産、神戸製鋼…大企業の不祥事を読み解く(前編)】【日産、神戸製鋼…大企業の不祥事を読み解く(後編)】などで指摘したほか、メディアの取材等でも繰り返し強調してきた。
・ところが、神戸製鋼所がこの問題を3連休の中日に記者会見で公表し、「品質不正で信頼失墜」などと大きく報道されて以降、三菱マテリアル、東レなど日本を代表するメーカーが社長記者会見を開いて子会社の「データ改ざん」の問題を公表し、その都度大々的に報道され、「日本の製造業の品質が危ない」などと騒がれる事態になっている。
・もちろん、製品の納入先の顧客の了解を得ることなく、真実のデータが書き替えられた事実があったことは間違いないのであり、その中に、真実のデータを前提にすると品質上・安全上問題があるという事例が全く存在しないと断言することはできない。しかし、問題の大部分は、上記のような背景・原因で発生した「形式上の不正」に過ぎないと考えられることからすると、現在起きている騒ぎは明らかに異常である。
・なぜ、このような馬鹿げた状況に至ってしまったのか。その原因が、世耕弘成大臣をトップとする経済産業省側の対応にあったことが次第に明らかになりつつある。 日経新聞の「迫真」に連載されている「神鋼 地に堕ちた信頼 1」(11月28日朝刊)では、神戸製鋼所が改ざん問題の公表に至った経過について以下のように書かれている。 現場からの不正問題の報告を受けて、神鋼は9月中旬から顧客への説明を始めた。「これから気をつけてください」梅原に集まってくる顧客の反応は悪くなかった。アルミ・銅事業の売上高のうち不正の対象は約4%(年約120億円)。業績への影響もほとんどないように思えた。
・だが、顧客を通じて監督官庁の経済産業省など霞が関に情報があがり始めると状況は一変する。あくまでも民間同士の契約であり、この時点で法令違反は未確認。「国に関与されることはない」と高をくくっていた。 ところが「味方」と思っていた経産省はつれなかった。日産の不正検査問題もあり、問題を早期に解決しないと「日本の製造業の信頼が揺らぐ」との思いがあった。「できるだけ早い段階で会見で公表すべきだ」。9月28日に問題を把握すると神鋼に終始圧力をかけ続けた。10月に入ると顧客を通じて不正の事実が取引先に広がった。追い込まれた神鋼はついに発表を決断する。
・つまり、神戸製鋼側が、8月末にアルミ・銅製品についてデータ改ざんがあったことを把握し、顧客への説明を行っている最中に、顧客側からその情報を得た経産省が、「できるだけ早く会見で公表すべき」と神戸製鋼に圧力をかけ続けた結果、同社が記者会見で公表するに至ったという経過だったようだ。この公表の時点で、神戸製鋼は、まだ顧客への説明の途中だった。3連休の中日である日曜日の午後に、突如記者会見を開いたことは、マスコミ側に、“ただちに対応が必要な緊急事態”との認識を与えるもので、公表のタイミングとしては最悪だった。しかも、その場で自動車や新幹線、旅客機など、日常生活になじみのある製品の多くに使用されていることを明らかにし、その安全性については明言できなかったために、社会的関心が一気に高まり、マスコミの取り上げ方も大きくなった。それによって、神戸製鋼という企業の信頼は大きく傷つき、製品の安全性が確認されても、事態を収束させることが困難な状況になっていった。
・その後、データ改ざん問題が、三菱マテリアル、東レと、他のメーカーに波及するに至った後、世耕氏は、大臣会見で、以下のような発言を行っている。 産業界においては、自らの会社でこういった類似の事案がないかどうかを確認する動きがあると承知していますが、これはもう当然のことだと思います。そして、そういう中で、万一類似の事案が確認をされた場合には、顧客対応などとは別に速やかに社会に対して公表をして、社会からの信頼回復に全力を注ぐことを期待したいと思います。
・「顧客対応などとは別に速やかに社会に対して公表」を求めるという発言からは、「データ改ざん」の基本的構図も、問題の性格も、全く理解していないとしか思えない。経産大臣がこのような発言を行うことで、この問題をめぐる混乱を助長し、日本の製造業に対する国際的信頼を失墜させかねないことには気づいていないようだ。
・重要なことは、今回の「データ改ざん」問題は、「BtoB」(企業対企業の取引)の製造事業の中で発生した問題であり、「BtoC」(企業対消費者)の事業の問題ではないということだ。「BtoC」の事業であれば、消費者に販売した製品の表示や説明に誤りがあった場合には、ただちにその事実を公表し、必要に応じて製品の回収等を行うこともあり得る。それは、製造・販売者側の情報に基づいて商品を選択する消費者に対して、商品に関する正しい情報の提供が求められるからだ。
・しかし、「BtoB」の事業の場合は、それとは異なる。納入した製品の第一次的な利害関係者は顧客企業だ。納入された製品が自社内だけで消費・使用されている場合には、「データの改ざん」が自社の消費や使用上特に影響がなく、当該顧客企業が特に問題にしないのであれば、当該企業の「私的領域」の問題であり、データ改ざんの事実を公表する必要はない。
・当該製品を、「BtoC」の顧客企業が、消費者向けの製品の素材・部品として使用する場合には、当該消費者向け商品の品質・安全性を消費者に対して保証するのは当該顧客企業であり、素材・部品のメーカーではない。素材・部品のデータが改ざんされていたのであれば、該当素材・部品を使用し、加工して製造した自社製品の品質・安全性に影響があるか否かを顧客企業が検討し、その結果、問題が生じる可能性がある場合には、データ改ざんを行った企業に公表を求め、当該顧客企業としても消費者に対して十分な説明を行う必要が生じる。データ改ざんが品質・安全性に全く影響しないと判断した場合には、その公表を求めるか否かは、当該顧客企業が判断することである。BtoC企業が「自社製品の品質・安全性に誤解を生じる可能性があるので公表しないでほしい」と希望するのであれば、BtoB企業の側で、勝手に公表すべきではないし、もし、一方的に公表すれば、顧客企業から契約上の守秘義務違反による損害賠償責任を問われることもあり得る。
・つまり、BtoBの事業において顧客企業に納入した製品の品質・安全性に関する問題を把握した場合の対応は、兎にも角にも当該顧客企業に情報提供・説明したうえで対応について判断してもらい、その判断を最優先することに尽きるのであり、世耕氏が発言しているように、「顧客対応などとは別に速やかに公表する」などということはあり得ないのである。
・このことは、東レが社長記者会見で公表した、子会社のタイヤ補強材「タイヤコード」についてのデータ改ざんの例で考えてみれば明らかであろう。同社がデータ改ざんを把握した時点で、顧客のタイヤメーカーに情報提供・説明することとは「別に」、顧客に了解を得ることなく、一方的に「当社がタイヤメーカーに納入した素材についてデータ改ざんがあった。」と公表したとしたら、どういう事態が発生していたであろうか。当然、公表された「データ改ざん」の内容や影響について、マスコミから説明を求められることになる。当該素材の納入先が国内外のタイヤメーカー十数社と答えざるを得ない。しかし、「安全性に問題がないのか」と聞かれても、「顧客の側で判断されること。当社からは、何もお答えできない」とコメントせざるを得ない。このような公表は、タイヤを使用した製品である自動車のユーザーを無用の不安と混乱に陥れることになる。後日、タイヤメーカーに説明した結果、「ごく僅かな数値の違いなので安全性に影響はない」との判断だったということが公表されても、それまでの間に社会に与えた甚大な影響は、取返しのつかないことになっているであろう。
・このように考えれば、アルミ・銅事業でのデータ改ざんを把握した後、顧客への説明と情報提供を行っていた期間、公表を考えていなかった神戸製鋼、タイヤコードでの同様の問題を把握した後、顧客への説明を優先させ公表を行わなかった東レ子会社の対応も、特に問題があったとは思えない。
・ところが、世耕経産大臣は、データ改ざんなどの「不正」は、「顧客対応などとは別に速やかに公表すべき」と言うのである。社会に不安と混乱を生じさせ、日本の製造業に対する信頼を「破壊」する言動以外の何物でもない。
・経団連の榊原定征会長は、11月29日、日本企業の国際的信用を毀損することを防ぐため、会員企業約1350社に対して、品質問題の実態調査を要請する考えを表明した。調査の結果、不正が発覚した場合は、必要に応じて顧客や政府へ連絡するとともに、再発防止を徹底するよう求めるという。しかし、その際、世耕大臣が言うように「顧客対応とは別に速やかに公表すべき」だとされ、それに従わざるを得ないとすると、上記のように社会に無用の不安と混乱を招くことになる。そうなると、企業は、不正を把握したこと自体を「隠ぺい」することを選択せざるを得なくなる可能性がある。理由は若干異なるが、山口利昭氏も、【品質検査データ偽装に気づいた企業は素直に公表できるだろうか】という記事の中で、調査の結果不正を把握した企業が隠ぺいする可能性を指摘している。
・今回、素材・部品メーカーのデータ改ざん問題が、ここまで重大な問題に発展したことには、経産省の対応、とりわけ、世耕大臣の対応が大きく影響しているように思える。経産省が行うべきことは、「速やかな公表」ばかり迫って、世の中の不安を煽ることではない。むしろ、既に問題を公表している各社から、「データ改ざん」の内容について詳細な報告を受けて事実関係を把握し、品質・安全性に影響を与え得るものなのかどうかを検討し、他のメーカーでも潜在化していると思える同種のデータ改ざんを、どのようにして把握するのか、データ改ざん問題に対して今後どのように対応すべきなのか、コンプライアンス、ガバナンスの専門家、製品の品質問題やメーカーの品質管理の専門家を集めた会議を開いて検討することであろう。「顧客対応などとは別に速やかに公表すべき」などという的外れの発言を速やかに撤回すべきであることは言うまでもない。
・このような問題については、専門家などの知見を十分に活用することが重要である。大臣が、素人考えの思い付きで対応してしまうと、すでに混乱の極致に達してしまった一連のデータ改ざん問題を一層深刻化させることになりかねない。
https://nobuogohara.com/2017/12/01/%E4%B8%96%E8%80%95%E7%B5%8C%E7%94%A3%E5%A4%A7%E8%87%A3%E3%81%AF%E3%80%81%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%A3%BD%E9%80%A0%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%A0%B4%E5%A3%8A%E8%80%85%E3%81%8B/

神戸製鋼は安倍首相も若い頃、勤務し名門企業である。第一の記事で、 『製造業の現場にもともとある「トクサイ(特別採用)」という商慣行がある・・・顧客との合意があれば問題はなく、他の企業でも広く行われている。ところが神戸製鋼では、「このくらいの差なら顧客も受け入れてくれる」という経験が積み重なるうちに、基準にたいする意識が甘くなり、改ざんが行われるようになってしまったとみられる』、というのであれば、当初の契約に誤差許容範囲を入れておけばいい話だ。 『品質を担保する製造現場はぎりぎりの人数で回しているうえに、世代交代などもあって、現場の力が弱くなっている。「利益なき繁忙」という状況です。神戸製鋼と日産自動車に限らず、すべての製造業に品質問題が起きやすい状況だと言えます』、との遠藤氏の警告は重く受け止める必要がありそうだ。
第二の記事で、 『9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた』、その背景に 『行き過ぎた「生産性重視」』、があったというのは驚かされた。『「品質保証体制強化に向けたガイドライン」』はまたしても「絵の描いた餅」だったのだろうか。
第三の記事で、 『「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇』というのは、生産現場の実態と、営業や経営の建前との乖離が大きく広がっていることを意味している。第一のコメントで指摘した契約への誤差許容範囲を入れること、なども検討すべきであろう。
第四の記事で、 『「データ改ざん」は、日本の素材メーカー、部品メーカーの多くに潜在化している「カビ型不正」の問題であり、それらの殆どは、実質的な品質の問題や安全性とは無関係の「形式上の不正」に過ぎず、顧客に対して「データ書き替え」の事実と、真実のデータについて十分な情報を提供し、書き替えに至った理由や経過を正しく説明して品質への影響や安全性の確認を行うことができれば、もともと大きな問題にはなり得ない・・・現在起きている騒ぎは明らかに異常である』、『このような馬鹿げた状況に至ってしまったのか。その原因が、世耕弘成大臣をトップとする経済産業省側の対応にあったことが次第に明らかになりつつある』、『BtoBの事業において顧客企業に納入した製品の品質・安全性に関する問題を把握した場合の対応は、兎にも角にも当該顧客企業に情報提供・説明したうえで対応について判断してもらい、その判断を最優先することに尽きるのであり、世耕氏が発言しているように、「顧客対応などとは別に速やかに公表する」などということはあり得ないのである』、などの指摘は、さすが郷原氏だけあって冷静かつ的確である。マスコミもよく勉強してもらいたいものだ。
タグ:既に問題を公表している各社から、「データ改ざん」の内容について詳細な報告を受けて事実関係を把握し、品質・安全性に影響を与え得るものなのかどうかを検討し、他のメーカーでも潜在化していると思える同種のデータ改ざんを、どのようにして把握するのか、データ改ざん問題に対して今後どのように対応すべきなのか、コンプライアンス、ガバナンスの専門家、製品の品質問題やメーカーの品質管理の専門家を集めた会議を開いて検討することであろう BtoBの事業において顧客企業に納入した製品の品質・安全性に関する問題を把握した場合の対応は、兎にも角にも当該顧客企業に情報提供・説明したうえで対応について判断してもらい、その判断を最優先することに尽きるのであり、世耕氏が発言しているように、「顧客対応などとは別に速やかに公表する」などということはあり得ないのである 「BtoB」の事業の場合は、それとは異なる。納入した製品の第一次的な利害関係者は顧客企業だ。納入された製品が自社内だけで消費・使用されている場合には、「データの改ざん」が自社の消費や使用上特に影響がなく、当該顧客企業が特に問題にしないのであれば、当該企業の「私的領域」の問題であり、データ改ざんの事実を公表する必要はない この問題をめぐる混乱を助長し、日本の製造業に対する国際的信頼を失墜させかねないことには気づいていないようだ 「顧客対応などとは別に速やかに社会に対して公表」を求めるという発言 三菱マテリアル、東レと、他のメーカーに波及するに至った後 神戸製鋼という企業の信頼は大きく傷つき、製品の安全性が確認されても、事態を収束させることが困難な状況になっていった マスコミ側に、“ただちに対応が必要な緊急事態”との認識を与えるもので、公表のタイミングとしては最悪 神戸製鋼側が、8月末にアルミ・銅製品についてデータ改ざんがあったことを把握し、顧客への説明を行っている最中に、顧客側からその情報を得た経産省が、「できるだけ早く会見で公表すべき」と神戸製鋼に圧力をかけ続けた結果、同社が記者会見で公表するに至ったという経過 その原因が、世耕弘成大臣をトップとする経済産業省側の対応にあったことが次第に明らかになりつつある 問題の大部分は、上記のような背景・原因で発生した「形式上の不正」に過ぎないと考えられることからすると、現在起きている騒ぎは明らかに異常である 日本の製造業の品質が危ない」などと騒がれる事態になっている このような「データ改ざん」は、日本の素材メーカー、部品メーカーの多くに潜在化している「カビ型不正」の問題であり、それらの殆どは、実質的な品質の問題や安全性とは無関係の「形式上の不正」に過ぎず、顧客に対して「データ書き替え」の事実と、真実のデータについて十分な情報を提供し、書き替えに至った理由や経過を正しく説明して品質への影響や安全性の確認を行うことができれば、もともと大きな問題にはなり得ない 「世耕経産大臣は、日本の製造業の”破壊者”か」 郷原信郎 製品検査データの改ざん 東レ 「「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇」 ダイヤモンド・オンライン 「品質保証体制強化に向けたガイドライン」 鉄鋼連盟 行き過ぎた「生産性重視」 日新製鋼 ニッタイ 新日本製鉄 強度試験データの捏造 JFEスチール 9年前の2008年、鉄鋼業界で「業界ぐるみ」といっても過言ではない不祥事があった 神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた」 東洋経済オンライン 短期的な利益追求ではなくて、中長期的なサステナブルな成長を目指してほしい。その一方で、もう一度、品質とは何かを問いかけて、必要な投資を現場に対して行う 戸製鋼と日産自動車に限らず、すべての製造業に品質問題が起きやすい状況だと言えます 本来は、法令順守やコンプライアンスという意味だが、最近では“攻めのガバナンス”という言葉で、利益追求、稼ぐ力を高める色あいが濃くなっている。品質の要求水準は高まり、利益を上げることへのプレッシャーも大きくなっている。ところが、品質を担保する製造現場はぎりぎりの人数で回しているうえに、世代交代などもあって、現場の力が弱くなっている。「利益なき繁忙」という状況です 「間に合わないとは言えない」強まっていたプレッシャー 神戸製鋼では、「このくらいの差なら顧客も受け入れてくれる」という経験が積み重なるうちに、基準にたいする意識が甘くなり、改ざんが行われるようになってしまったとみられる トクサイ(特別採用) 出荷の直前に「品質保証室」で品質検査を行い、検査証明書を発行している。その証明書に記載する数値を“メイキング”するのだ “メイキング”、すなわち改ざんは40年以上前から行われてきた 「内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか」 NHKクローズアップ現代+ (その3)(内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか、神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた、「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇、世耕経産大臣は 日本の製造業の”破壊者”か) (神戸製鋼などの部材不正) 企業不祥事
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災害(その2)(富士山が山体崩壊危機 一触即発状態、最大40万人被災も、記録的豪雨で荒川氾濫…銀座、大手町が!首都水没地獄で死者最大3800人、警告!次の震災は国民の半数が被災者になる 名古屋の名物教授が訴える大地震への備え) [社会]

災害については、昨年10月13日に取上げた。今日は、(その2)(富士山が山体崩壊危機 一触即発状態、最大40万人被災も、記録的豪雨で荒川氾濫…銀座、大手町が!首都水没地獄で死者最大3800人、警告!次の震災は国民の半数が被災者になる 名古屋の名物教授が訴える大地震への備え) である。

先ずは、7月24日付けZAKZAK「富士山が山体崩壊危機 一触即発状態、最大40万人被災も マグマ学専門家「相模原に土石流到達する恐れ」」を紹介しよう。
・子供たちが夏休みに入り、夏山シーズンも本格化しているが、世界文化遺産に登録されている日本一の山、富士山(標高3776メートル)が「一触即発状態だ」と指摘されている。噴火の危険性については以前から注目されているが、マグマ学の専門家は、山そのものが大規模に崩れる「山体崩壊」の恐れもあるというのだ。地震も引き金にもなるこの現象が生じれば最大40万人が被災するとの試算もあり、「住民に危険を知らせることが急務だ」と警鐘を鳴らしている。
・山梨側の吉田ルートに続いて、今月10日には静岡側の富士宮、御殿場、須走の3ルートも山開きした富士山。年間20万人以上の登山者でにぎわう3776メートルの霊峰は、これまで大規模な噴火を繰り返してきた火山でもあることはよく知られている。富士山が前回噴火したのは1707年の「宝永大噴火」で、現代に残る浮世絵にも山腹に開いた噴火口の様子がみてとれる。
・神戸大学海洋底探査センター長でマグマ学が専門の巽(たつみ)好幸教授は、「過去の噴火の例を参考にすれば、次の噴火は2150年ごろの可能性がある」というが、油断は禁物だ。 「東日本大震災の影響でマグマが活発化する危険性もあり、一触即発の状態になっている」というのだ。 その一方で、「噴火については切迫感があるが、見過ごされているのが『山体崩壊だ』」と巽氏は話す。
・読んで字のごとく山が崩れる現象で、明治期には福島県の磐梯山などで起きている。 「原因となるのは噴火や水蒸気爆発だけでなく、地震に伴うものもある。富士山では約2900年前に起きており、(富山県の)黒部ダム10杯分の土砂が流れ出したとされている。このときには噴火があったという証拠はなく、活断層が動いて発生したと考えられている」(巽氏)
・崩れだした石や土砂が沢や川に流れて水を含むと土石流が発生する。巽氏は「先日、大雨に襲われた北九州での土石流と同じようなことが、とてつもない規模で起きると考えていただきたい。山体崩壊は前兆をとらえるのが極めて難しい。流出する方向にもよるが、最悪の場合は約40万人が巻き込まれるとの試算もある」と指摘する。
・コースによっては神奈川県の相模原市や厚木市にも土石流が到達する恐れがあるという。巽氏は「山体崩壊が起きる確率は向こう100年で2パーセントとされている。噴火による降灰よりも、住民が被る損害は甚大だ」と話す。 「山体崩壊による土石流は富士山近辺にはすぐに到達するが、距離のある相模原を例にとれば、少なくとも10分でやってくるといったものではない。ハザードマップなどで、発生したときのことを想定し、避難できる態勢をとっておきたい」(巽氏)
・11日に鹿児島を襲った地震を含め、列島では先月から震度5強の揺れが3度起きるなど、地震活動が活発化しているとの見方もある。富士山に影響を与える地震がいつあってもおかしくない。警戒しすぎて困ることはないはずだ。
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170724/soc1707240012-n1.html

次に、10月18日付けZAKZAK「記録的豪雨で荒川氾濫…銀座、大手町が!首都水没地獄で死者最大3800人、国交省が衝撃シミュレーション」を紹介しよう。
・「数十年に一度」の記録的な豪雨も珍しくなくなった。もちろん首都圏も例外ではない。国土交通省のシミュレーションでは、埼玉県から東京都に流れる荒川の堤防が豪雨で決壊した場合、銀座や大手町など首都中枢も広範囲に水没し、地下鉄が2週間ストップ、100万軒以上が停電し、最大3800人の死者が出る恐れがあるという。
・16日には鹿児島県十島村で、1時間に約120ミリの猛烈な雨が降り、気象庁は「記録的短時間大雨情報」を出した。 同日にはフィリピン沖で台風21号が発生。週末にかけて日本列島接近も懸念されている。
・都心部が記録的な豪雨に見舞われるケースについて、「荒川氾濫」のシミュレーションを実施した国土交通省関東地方整備局は「3日間、荒川の全流域で632ミリの降雨があり、東京の中心部にも被害が及ぶ北区赤羽付近の堤防が決壊した場合を想定している」(担当者)という。
・この雨量はあり得ない前提ではない。2年前の『関東・東北豪雨』では、半日から数日間も激しい雨が続く「線状降水帯」と呼ばれる気象現象が複数発生し、鬼怒川の上流域である栃木県日光市では72時間で639ミリを記録した。 今年7月の「九州北部豪雨」では、福岡県朝倉市で24時間の雨量は516ミリに達した。東京都内でも8月末に練馬区付近で1時間の雨量が約100ミリを記録した。
・シミュレーションによると、浸水区域は銀座や浅草、スカイツリーのある押上など観光地のほか、千代田区大手町のオフィス街、高島平の住宅地など合計98平方キロに及ぶ。 一度浸水すると、大部分の区域で2週間以上も水が引かないといい、衛生面でも重大な問題が生じる恐れがある。地下鉄は現況での止水対策を前提とすると、最大17路線、100駅が浸水する見込みで、長期間の不通も予想される。
・ライフラインでは最大で約111万軒が停電し、約48万9000軒で都市ガスの供給が停止するという。 衝撃的なのは、事前の避難が全く行われなかった場合、死者は約3800人に、孤立者は浸水1日目で約90万人にも達するという点だ。避難率が80%まで上がっても約800人が犠牲になると予想されている。
・『首都水没』(文春新書)の著者で、土木学会首都圏低平地災害防災検討会座長の土屋信行氏は「赤羽付近に限らず、橋がかけられているために堤防をかさ上げできず、増水時に決壊の恐れがある場所は荒川の下流域には無数にある。あちこちで決壊が起これば、想定以上の被害が出る恐れがある」とし、緊急時の対応についてこう話す。 「とにかく建物の4階以上に避難すること。出先では自分がいま海抜何メートルの場所にいるのかまず分からないが、海抜の低い地域でも4階まで上がれば何とかなる」
・普段から気をつけるべき点について「500ミリリットルのペットボトルを持ち歩くといい。万が一、水に飲み込まれてしまっても、空のペットボトルを首の下に置き、浮力を得て救助を待つことができる。東日本大震災で津波に巻き込まれた被災者のなかには、この方法で助かった例がいくつもあった」と土屋は話す。 大水害はいつ起きてもおかしくない。心の備えが必要だ。
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/171018/soc1710180004-n1.html

第三に、ジャーナリストの関口 威人氏が 11月2日付け東洋経済オンラインに寄稿した「警告!次の震災は国民の半数が被災者になる 名古屋の名物教授が訴える大地震への備え」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「こんなズブズブの土地に本社を建てちゃいけませんね」「家具止めもしないなんて、おバカさんです」――。こうした口調でズバズバと防災の不備を突く、名物教授をご存じだろうか。名古屋大学の福和伸夫教授である。
・偽悪的にも思えるその言動は、タテマエと人任せがはびこる「防災大国・日本」に対する憂慮の裏返しだ。人を動かすには、都合が悪くてもホンネを語り、「わがこと」として受け止めてもらわなければならない。 そんな信念を持って走り回る福和教授が、初の単著『次の震災について本当のことを話してみよう。』を出版した。本人から多く取材する機会を持ち、今回の本の編集にも携わった筆者が、その「ホンネ」のメッセージの意味を読み解く。
▽「防災しない」と容赦なくピシャリ
・名大の減災連携研究センター長、日本地震工学会会長、中央防災会議委員……。そんな肩書を頼って、安易に福和教授を講演会などに呼ぶと、主催者は痛い目に遭う。 「こんな危ないところで講演させるなんて、ひどい人たちですね」 講演会はたいてい、こんな「主催者いじり」から始まる。福和教授は講演会場へ早めに着いて、建物の定礎に彫り込んである建築年代をチェック。耐震性が低い1981年以前の旧建築基準法の設計で建てられていないかどうかを確認している。
・さらに、基礎周りの地盤沈下やひびをデジカメで撮影。講師の控え室に通され、家具固定されていないロッカーがあったらまたパチリ。ついでに事務室なども撮り、パソコンに取り込んでおく。そして講演が始まると、真っ先にその「具合の悪いところ」をプロジェクターで大写しにするのだ。何も知らなかった主催者は、赤っ恥をかくことになる。 相手が国の防災官庁であろうが、大企業であろうが、容赦ない。ただし居合わせた聴衆には、これが大受けだ。
・「人に嫌われる言いにくいことを言う。それをできるだけ茶目っ気たっぷりに。最近は、なかなかそれができにくい社会になっている。私もプレッシャーは多々感じていて、いろいろな人たちから『そんなことを言ってくれるな』としかられることも。そのうち刺されるかなと心配もするが、『言ってくれてありがとう』と感謝されることも多くある。だから私は、元気なうちはちょっと嫌われる『おせっかい役』をできるかぎりやっていこうと思う」――。
・本書には、こんな過激な「福和節」があふれている。 3年ほど前から、福和教授は「ホンネの会」なる集まりを名古屋で主宰し始めた。最初は単なる飲み会だったが、メンバーは福和教授と旧知の製造業、電力会社、ガス会社の各防災担当者。酒が進むうちに、1人が「実は……」と自社の防災対策の不安を語りだしたら、それを聞いた別の1人が「実はうちも……」と打ち明けたのがきっかけだったそうだ。
▽平時は依存し合っているのに、防災は自己完結できる?
・「電気が止まっても、ガスで発電できるから大丈夫だよね」と製造業が言えば、「いや、電気がないとガスは造れない」とガスの担当者が言う。しかし電力会社は「そもそも水がないと全部ダメだ」と白状した。つまり互いが依存し合ったり、外部に頼ったりしているにもかかわらず、防災は自分のところだけでやってきたことを明かしたのだ。
・福和教授はこのやり取りを聞いて「産業界の震災対策はダメなところがいっぱいだ」「でも正直には言いにくいんだ」と感づいたという。そこで企業のほかに自治体の担当者らも加えて、オフレコで「ホンネ」を言い合う会を設定。「自分の組織の悪いところを正直に話す」「ウソはつかない。答えにくいことは答えなくていい」などのルールを決め、福和教授の司会で出席者が赤裸々に語り始める。
・ひとしきり話し合うと、「次は部品メーカーのことを聞きたい」「石油会社の様子を聞きたい」「道路や水、通信や物流を知っている人もいないとマズイよね」などの声が上がり、どんどん人が呼び込まれるようになる。現在は70以上の企業や団体の関係者が集まる会に発展している。
・マスコミ関係者は入れないため、その実態はほとんど表には出ていないのだが、会の成果の一部は、すでに形になっているそうだ。 危機感を共有した会社同士が協定を結んだり、設備を改修したりする動きが出始めた。名古屋大学自体も、防災面の産官学連携をさらに強化する「あいち・なごや強靱化共創センター」という組織を今年6月に新設。企業のBCP(事業継続計画)作成支援や、災害対応に当たる自治体職員の研修などを大学で引き受けることになった。 「ホンネの会で議論したことを、社会に公式に発信し、実践につなげていく体制」の1つなのだという。
・福和教授は1981年に名古屋大学大学院を修了後、大手ゼネコンに入社。建物と地盤の関係を追究する耐震工学を中心に、原子力や宇宙建築などの先端研究にも携わっていた。 つねに強気で自信満々に歩んできたように思えるが、1995年の阪神・淡路大震災では建築の「安全神話の崩壊」を目の当たりに。当時は母校の建築学科に研究者として戻っていたが、神戸の強烈な教訓を胸に刻んで「防災の専門家」となることを決意する。
・以来、高層ビルの長周期地震動の対策を強く訴えれば、過去の災害と「地名」との関係なども調査。災害と関連する歴史への造詣は、文系の研究者並みに深い。 しかし、東日本大震災の大津波と原発事故は、やはり「想定外」だった。特に原発についてはゼネコン時代に新潟県の柏崎刈羽原発の耐震設計にかかわった経験がありながら、福島の事故が水素爆発にまで至ることは、まったく想像ができていなかったという。自らも“専門性のわな”にはまり、視野が狭まっていたことを認め、反省と後悔の念も隠さない。
・「3・11」当日は東京に出張中で、都心の大混乱をかいくぐって翌朝に名古屋へ。殺到するマスコミ取材に対応しつつ、正確な情報発信の場が必要だと学内の1室を整備した。これがのちに名大の防災拠点「減災館」建設の動きにつながっていく。
・当時の橋下徹・大阪府知事に招かれて参加した咲洲(さきしま)庁舎への本庁移転をめぐる専門家会議では、軟弱地盤に立つ高層建築の怖さをひたすら説いた。大学で開発した学習教材「ぶるる」を持ち込んで共振現象を説明し、最後は「檄(げき)文」のような文書を会議で配布し、橋下知事に庁舎移転を思いとどまらせた。
▽国民の2人に1人が被災者になる
・福和教授の頭には、大正時代に関東大震災の発生を警告して「地震の神様」とも呼ばれた地震学者、今村明恒(あきつね)の存在がある。今村は昭和に入ると南海トラフ地震の発生も警戒し、私財を投げ打って和歌山県に地震研究所を創設、関係自治体の長に自ら手紙を差し出して危険性を訴えた。
・しかし戦中は軍に研究所の施設を接収され、観測のできなかった1944年に東南海地震が、続く1946年には南海地震が起こってしまう。今村は災害を減らせなかったことを深く悔やみながら、その約1年後に77歳で昇天した。
・「今村は地震学という自分の専門にとどまらず、むしろ防災的視点で防災教育や耐震化、不燃化などについて精力的な活動をした。有名な『稲むらの火』を教科書に掲載することにも貢献したとされる。こうした『言いっ放し』で終わらない、行動する学者が今どれだけいるか」と福和教授は各学界にも、自身にも問い掛ける。
・2012年から2013年にかけて委員として携わった内閣府中央防災会議の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」では、来たるべき南海トラフ地震によって死者32万3000人、国民の2人に1人が被災者になるという最悪の想定を描き出した。
・もう想定外とは呼ばせない――。読者が1人でも多く防災に対する意識を変え、1つでも多くの行動をしてほしい。それが本書に込められた福和教授の最大の「ホンネ」なのだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/198296

富士山についてはかねてから噴火の危険性が指摘されていたが、第一の記事で、『山そのものが大規模に崩れる「山体崩壊」の恐れもある』、『東日本大震災の影響でマグマが活発化する危険性もあり、一触即発の状態になっている』、と改めて指摘されると、身が引き締まる思いがする。記事では触れられてないが、「山体崩壊」が起きた場合、電力や水道、さらには原発への影響も気になるところだ。
第二の記事で、 『銀座や大手町など首都中枢も広範囲に水没し、地下鉄が2週間ストップ、100万軒以上が停電し、最大3800人の死者が出る恐れがある』、というのは深刻だ。 その原因は、『赤羽付近に限らず、橋がかけられているために堤防をかさ上げできず、増水時に決壊の恐れがある場所は荒川の下流域には無数にある。あちこちで決壊が起これば、想定以上の被害が出る恐れがある』、らしいが、東京のマヒによる損害は測り知れない。カネはかかっても堤防のかさ上げに着手しておくべき、ではなかろうか。
第三の記事にある福和伸夫教授は、驚ほどユニークな先生のようだ。 『オフレコで「ホンネ」を言い合う会を設定』、とはなかなかいい試みだ。 『平時は依存し合っているのに、防災は自己完結できる?』、というのはその通りだ。 『橋下知事に庁舎移転を思いとどまらせた』、とは説得力もありそうだ。 著書の『次の震災について本当のことを話してみよう。』を、是非読んでみたい。
タグ:最大で約111万軒が停電し、約48万9000軒で都市ガスの供給が停止 初の単著『次の震災について本当のことを話してみよう。』を出版 「山体崩壊」の恐れもある 「東日本大震災の影響でマグマが活発化する危険性もあり、一触即発の状態になっている」 荒川の堤防が豪雨で決壊した場合、銀座や大手町など首都中枢も広範囲に水没し、地下鉄が2週間ストップ、100万軒以上が停電し、最大3800人の死者が出る恐れがある 橋下徹・大阪府知事 人を動かすには、都合が悪くてもホンネを語り、「わがこと」として受け止めてもらわなければならない 見過ごされているのが『山体崩壊だ』 (その2)(富士山が山体崩壊危機 一触即発状態、最大40万人被災も、記録的豪雨で荒川氾濫…銀座、大手町が!首都水没地獄で死者最大3800人、警告!次の震災は国民の半数が被災者になる 名古屋の名物教授が訴える大地震への備え) 企業のほかに自治体の担当者らも加えて、オフレコで「ホンネ」を言い合う会を設定 「警告!次の震災は国民の半数が被災者になる 名古屋の名物教授が訴える大地震への備え」 赤羽付近に限らず、橋がかけられているために堤防をかさ上げできず、増水時に決壊の恐れがある場所は荒川の下流域には無数にある。あちこちで決壊が起これば、想定以上の被害が出る恐れがある 東洋経済オンライン 「記録的豪雨で荒川氾濫…銀座、大手町が!首都水没地獄で死者最大3800人、国交省が衝撃シミュレーション」 巽好幸教授 「富士山が山体崩壊危機 一触即発状態、最大40万人被災も マグマ学専門家「相模原に土石流到達する恐れ」」 国土交通省のシミュレーション あいち・なごや強靱化共創センター 浸水区域は銀座や浅草、スカイツリーのある押上など観光地のほか、千代田区大手町のオフィス街、高島平の住宅地など合計98平方キロに及ぶ。 一度浸水すると、大部分の区域で2週間以上も水が引かないといい、衛生面でも重大な問題が生じる恐れがある 互いが依存し合ったり、外部に頼ったりしているにもかかわらず、防災は自分のところだけでやってきたことを明かしたのだ 3日間、荒川の全流域で632ミリの降雨があり、東京の中心部にも被害が及ぶ北区赤羽付近の堤防が決壊した場合を想定 「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」 災害 軟弱地盤に立つ高層建築の怖さをひたすら説いた 名古屋大学の福和伸夫教授 咲洲(さきしま)庁舎への本庁移転をめぐる専門家会議 関口 威人 橋下知事に庁舎移転を思いとどまらせた 「ホンネの会」 富士山では約2900年前に起きており 人に嫌われる言いにくいことを言う。それをできるだけ茶目っ気たっぷりに。最近は、なかなかそれができにくい社会になっている 「一触即発状態だ」と指摘 ZAKZAK 活断層が動いて発生したと考えられている
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