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自動車(一般)(その1)(EV大手テスラ、ささやかれる「拙速な製造」のツケ、ダイムラー筆頭株主に躍り出た中国吉利の「秘密工作」) [産業動向]

今日は、自動車(一般)(その1)(EV大手テスラ、ささやかれる「拙速な製造」のツケ、ダイムラー筆頭株主に躍り出た中国吉利の「秘密工作」)を取上げよう。

先ずは、Alexandria Sage氏が昨年12月6日付けロイターに掲載した「焦点:EV大手テスラ、ささやかれる「拙速な製造」のツケ」を紹介しよう。
・米電気自動車(EV)大手テスラの新型セダン「モデルS」やスポーツ用多目的車(SUV)「モデルX」は、カリフォルニア州フレモント工場の組立ラインを離れた後、もう1度足止めを食らうのが当たり前だという。  製造における欠陥を修正するためだ。 このような欠陥修正を抜きにしては高級車種が出荷できない状況が常態化していることが、同社の現旧従業員9人に対するロイターの取材によって明らかになった。
・同社の内部追跡システムによる10月最新データなどによると、組立後の品質検査で「モデルS」と「モデルX」の9割以上に欠陥が見つかることが当たり前となっているという。取材した現旧従業員の一部は、2012年には、すでにこの問題に気が付いていたと語る。 テスラ側は、同社の品質管理プロセスが異例なほど厳格であり、ほんのわずかな欠陥でも発見し、修正することを意図したものだと説明している。組み立て後の欠陥率についてはコメントしなかった。
・トヨタ自動車など、世界でも高い効率性で知られる自動車メーカーにおいては、組み立て完了後に欠陥修正が必要となる比率は、製造車両の1割以下にとどまっている、と業界の専門家は語る。修正によって時間と費用の両方が無駄になることから、組立段階において適切な品質を確保することが非常に重要だ、と彼らは口を揃える。
・「(テスラでは)組立完了後のやり直しが非常に多く、そこで多大なコストが生じている」と、かつてテスラのスーパーバイザーを務めたことのある人物は語った。 シリコンバレー生まれの自動車メーカーであるテスラは、組立完了後で発見される欠陥の大部分は些細なものであり、ほんの数分で解消できていると話す。
・テスラが製造する車は高額ではあるものの、瀟洒(しょうしゃ)なデザインと環境を意識したクリーンテクノロジー、そして画期的な加速性能で消費者を魅了してきた。コンシューマー・リポート誌の調査では、テスラのオーナーの91%が「また買いたい」と答えている。 とはいえ、同誌と市場調査会社JDパワーは、ドアハンドルの欠陥やボディパネルの段差などを理由に、テスラ製自動車の品質について批判を繰り広げてきた。
・バーンスタインでアナリストを務めるトニ・サッコナギ氏は今月、テスラの新型セダン「モデル3」の試乗を行い、その適合性や仕上がりについて「比較的悪い」と評価。  テスラ車のオーナーたちも、ウェブ上のフォーラムで、不快な異音やバグの多いソフトウェア、密閉性が低いために内装やトランクに雨水が染みこむといった問題点について、不満を漏らしている。
・最低3万5000ドル(約395万円)からの価格帯にある同社初の大衆車「モデル3」製造にあたり、高品質な車を大量生産する能力を有するかどうかが、テスラの今後を左右すると専門家は指摘する。 テスラはこれまで通年で黒字化したことがなく、四半期で10億ドルの損失を計上している。新たな投資を獲得するか、欠陥に対して厳しい反応が予想される主力市場において販売台数を大幅に拡大しない限り、存続が難しい状況だ。
・「最上級の仕様を備えた、胸躍る製品を生み出すという点で、テスラの能力を疑ったことはない。しかし、新しい何かを生み出すことと、それを実際に完璧に大量製造することは別問題だ。後者について、テスラは、まだその実現に至っていない」モーニングスターのアナリスト、デビッド・ウィストン氏はそう記している。
・テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、高度に自動化された新組立ラインを導入し、「モデル3」においてよりシンプルな設計を採用することで、同社が「地上で最も優れた製造企業」になると胸を張る。だが、製造上の問題により、大きな期待を集めている新型セダンの提供は予定よりも遅れている。
・新車発売に予想外のトラブルはつきものだ。とはいえ、既存車種の「モデルS」や「モデルX」につきまとう欠陥は、テスラがいまだ基本的な製造技術の獲得に苦労していることを示している、と現旧従業員は話す。   同社内では「キックバック」と呼ばれているが、こうした欠陥車両は、へこみや傷といった些細な不具合や、シートの機能不全などの複雑なトラブルを抱えていたりする場合がある。簡単なものであれば工場内ですぐに解決してしまうという。
・面倒なトラブルの場合、テスラの屋外駐車場に運ばれ、修理を待つことになる。こうした「中庭」と呼ばれる駐車場の1つでは、修理待ち車両が2000台を超えることもあるという。テスラはロイターに対し、こうした「修理待ちスペース」の存在を否定している。
・ロイターが取材した現旧従業員9人には「モデルS」「モデルX」の組立てや品質管理、修理の経験を持つ元シニアマネジャーも含まれる。会社側から秘密保持契約書への署名を求められているため、全員が匿名で語った。 このうち4人は解雇されており、そのうち2人は、先月テスラが「勤務成績の不振」を理由に解雇した数百人に含まれる。ロイターの取材に応じた解雇従業員は、自らの業績が劣っていたことを否定する。
・明かされたテスラ社内の品質データについて、ロイターは独自の裏付けを得ていない。 欠陥の内容について、「ドアの閉まりの悪さ、バリ残り、部品欠落など、何でもありだ。ぐらついていたり、水漏れしたり、何もかもだ」と語るのは、また別の元スーパーバイザーだ。「『モデルS』は2012年から作っている。それなのに、なぜまだ水漏れが起きるのか」
・テスラは、同社が欠陥のない自動車生産に苦労しているという現旧従業員の指摘に異議を唱えている。同社広報担当者は、全車両が500以上の検査や試験をパスしなければならない同社の厳格なプロセスを説明した上で、組立後に製品の手直しをすることがあるとしても、それは品質重視の姿勢を反映したものだ、と語る。
・「私たちの目標は、顧客1人ひとりに完璧な車を製造することだ」とテスラは声明で主張する。「したがって、ほんのわずかでも改善の余地がないか、すべての車両をチェックしている。大半の顧客は、製造後に行われた作業に気付くことすらないだろうが、私たちは、車体に数分の1ミリのズレや、塗装のわずかなムラであっても気にかけている。完璧を期すため、こうした改善点を製造現場にフィードバックしている」
・「モデルS」や「モデルX」に関わっていた従業員によれば、たとえ問題が生じた場合も、組立ラインを止めるなとの圧力が存在したという。あるときはフロントガラス、あるときはバンパーといった具合に、在庫がないという理由で、部品が欠けたままの車が一斉に流れてくることもあった、と彼らの一部は語る。そのような欠陥は後で修正されるという理解だったという。
・車が組立ラインを離れた時点で、内部追跡システムで報告された以上の欠陥を、品質検査員が発見することもあった。「問題を2つ見つけたなら、これはかなり良い方だ。しかしもっと突っ込んで調べると、15も20も見つかることがあった」と彼らの1人は語った。 たえず面倒を引き起こしていたのが「アライメント」の部分だという。シニアマネジャーの言葉を借りれば、車体部品をかなりの勢いで「むりやり押し込まなければ」ならなかった。従業員らによれば、すべてのチームが同じ手順書に従っているわけではなかったため、サイズの違いが生じていたのである。
・テスラは、同社の品質管理に一貫性が欠けていることを否定する。エラーを発見・修正する「徹底的な」プロセスが「大きな成功」を収めていると述べている。 こうした問題の一端は、同社のマスクCEOが、設計プロセスの短縮や一部の製造前試験の省略、現場レベルでの改善といった手法によって、業界標準よりも迅速に新車種を発売する方針を決定したことにある、と一部の従業員は考えている。こうした場当たり的なやり方が、修正発生率の高さにつながっている、と言うのだ。
・JDパワーは「熱狂の裏側」と題する3月のレポートで、新型の「モデルS」と「モデルX」について、異音や擦り傷、ドアのアライメント不整といった問題を取り上げ、テスラの製造経験の浅さが原因であると指摘した。このレポートの結論として、テスラ車の全般的な品質は高級車セグメントにおいて「競争力に欠け」、「精度と細部に対する注意」が不足していると述べている。
・JDパワーでグローバル自動車コンサルタント部門のディレクターを務めるキャスリーン・リツク氏は、こうしたお粗末さは、メルセデスベンツ(DAIGn.DE)やBMW(BMWG.DE)といった高級車ブランドではめったに見られないものだ、と語る。  「こうした企業は、はるか以前から製造業に携わっている」と彼女は言う。「彼らは即座に対処する術を心得ている」  テスラは顧客満足度の高さが、「今日入手可能な、最も安全で性能の優れた車」を作っていることを証明していると述べている。 (翻訳:エァクレーレン)
https://jp.reuters.com/article/tesla-quality-idJPKBN1E006N

次に、3月10日付けロイター「焦点:ダイムラー筆頭株主に躍り出た中国吉利の「秘密工作」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・独自動車大手ダイムラーは2月23日、中国の自動車メーカー浙江吉利控股集団が、同社の株式約10%を取得したことを発表し、金融市場とドイツ監督当局を仰天させた。 突然の動きに見えたが、吉利集団の董事長(会長)を務める李書福氏は、数カ月かけて、これだけの株式を取得するための下準備をひそかに整えていたことが、ロイターが取材・検証した複数の情報提供者・資料から明らかとなった。
・吉利社内の情報提供者2人、また同社に近い人物1人によれば、吉利幹部の李軼梵氏が、1年以上前から、ダイムラー株取得を任務とする少人数のチームを率いていたという。 香港の複数のペーパーカンパニー、デリバティブ、銀行融資、慎重に構築された株式オプションを駆使することにより、李書福氏はその計画の秘密を守り続け、突如として、ダイムラーの筆頭株主に踊り出ることが可能になったのである。
・結果として投資額は90億ドル(約9500億円)に達したが、ある企業における議決権付き株式の比率が3%・5%を超過した場合にドイツ当局に通知することを投資家に義務付ける情報開示ルールは回避された。上述のような方法で保有株式を積み上げたため、吉利がそうしたルールに違反した兆候はまったく見当たらない。 ダイムラーの上級幹部の1人は「李氏が投資すること自体は意外ではなかった。だが、そのやり方には本当に驚いた」と話した。
▽数合わせのゲーム
・株式を集めるために用いられたペーパーカンパニー「Tenaciou3 Prospect Investment」は、昨年10月27日に香港で設立された。香港の会社登記所に提出された書類によれば、同社の発行済み株式は1香港ドル(約14円)の普通株1株である。取締役は李軼梵氏1人だけだ。  ロイターが11月に報じた通り、ダイムラーは株式取得あるいは技術提携の締結に向けた吉利からの提案を拒否していた。その翌月、Tenaciou3はモルガン・スタンレーおよびバンクオブアメリカ・メリルリンチとの間で、間接的な方法によるダイムラー株取得に向けて支援を得る旨の契約を結び、香港会社登記所への登記書類を提出していた。
・ダイムラーは先週、法令に基づく届け出の中で、李書福氏が保有する9.69%の株式を管理する実体としてTenaciou3の名を挙げた。 事情に詳しい人物によれば、今回の投資構造を案出して李氏が流通市場においてダイムラー株を集積することを支援したのはモルガン・スタンレーであり、さらに資金も融資していたという。
・また事情に詳しい複数の情報提供者によれば、吉利は元モルガン・スタンレーの幹部、ドイツのダーク・ノテイス氏と中国のバオ・イー氏の2人と契約し、ドイツにおける情報開示義務がすぐに生じないようにする戦術をモルガン・スタンレー、バンクオブアメリカ・メリルリンチ両行が案出するのを支援したという。
・Tenaciou3は独自に若干のダイムラー株を購入したが、情報開示は義務付けられない水準だった。 情報提供者2人によれば、両行はその後、別に2つのルートで株式を買い増したが、吉利には所有権が生じる形ではなく、したがって情報開示の義務は発生しなかったという。
・一部の株式は直接購入されたが、投資を損失から保護する「エクイティ・カラー」構造によってリスクは相殺されていた。これは、その時価以上の価格で当該の株式を購入するオプションを売る一方で、時価以下の価格で株式を売却する権利を得るオプションを買う仕組みである。
・情報提供者によれば、両行はさらに、デリバティブを購入することで若干の株式を購入する権利を取得した。 これらの株式がTenaciou3に売却された場合に、初めて情報開示の必要が生じることになる。 ドイツのメルケル首相は27日、今回の株式取得に関して明らかな法令違反は見られないと述べたが、同国で金融市場の規制を担当するドイツ連邦金融サービス監督庁(BaFin)は、情報開示ルール違反があったかどうか調査している。
・ロイターが閲覧したドイツ連邦議会への報告書の中で、同国経済省は、中国企業によるダイムラー株取得という観点から、情報開示規制の強化を検討するとしている。
▽何重にも入り組んだペーパーカンパニー
・今回の株取得においては、取引の構造が非常に複雑であるために、舞台裏で誰が資金を供給したかが判断しにくくなっている。  書類上、Tenaciou3は別の香港企業「Fujikiro Ltd」に所有されており、Fujikiroでは第3の企業である「Miroku Ltd」を取締役として登録している。公的な記録によれば、この両社の他の取締役はすべて国際的な法律事務所である金杜法律事務所のシニアパートナーである。
・ロイターが閲覧した書類のいずれにも、李書福氏の名前は見当たらないが、彼はTenaciou3が保有するダイムラー株の所有者は自分であると公言している。 ペーパーカンパニーを投資ビークルとして用い、富裕な投資家の代わりに弁護士が取締役を務める手法はかなり一般化している。
・金杜法律事務所はコメントを拒否している。 今回の株取引に詳しい吉利関係者によれば、ペーパーカンパニーが設立された理由の1つは「オフショア買収」取引のためであり、資金が中国本土から外国に移転するような取引に関して最近厳しさを増している中央政府の監視を免れるためだという。  吉利は、今回の株取引のための資金はすべて中国国外で調達されたものだと話しているが、業界コンサルタントらは、香港企業を使っているせいで、資金の調達先を検証することは困難になっているという。
・吉利が直接傘下に置いている別のペーパーカンパニー「Tenaciou3 Investment Holdings Ltd」は、香港当局に提出された12月5日付の契約によれば、中国の興業銀行(601166.SS)香港支店から16億7000万ユーロ(約2200億円)の融資を受けている。
・ダイムラーの提出書類によれば、Tenaciou3 Prospectをコントロールしているのは、李軼梵氏を取締役とするTenaciou3 Investment Holdingsであるとされている。 Tenaciou3 Investment Holdingsは、保有するTenaciou3 Prospect Investmentの株式を上記融資の抵当としている。  興業銀行との融資契約では、融資された資金の使途は明らかにされていない。 中国南東部の福州市に本社を置く興業銀行にコメントを求めたが、回答は直ちに得られなかった。
・欧州外交評議会(ECFR)でアジア担当上級政策研究員を務めるアンゲラ・スタンツェル氏は、ドイツでもっぱら懸念されているのは、透明性の欠如だという。 スタンツェル氏はロイターの取材に対し、「問題は、どこから資金が出て、今回の株式取得が実際にどのように行われたのか、という点だ」と語った。 (翻訳:エァクレーレン)
https://jp.reuters.com/article/daimler-geely-shell-idJPKCN1GL18C

第一の記事で、 『組立後の品質検査で「モデルS」と「モデルX」の9割以上に欠陥が見つかることが当たり前となっているという・・・トヨタ自動車など、世界でも高い効率性で知られる自動車メーカーにおいては、組み立て完了後に欠陥修正が必要となる比率は、製造車両の1割以下にとどまっている』、というのは、確かに異常な事態だ。テスラの生産トラブルについては、電気自動車(EV)(その4)で3月1日にも取上げた。 『コンシューマー・リポート誌の調査では、テスラのオーナーの91%が「また買いたい」と答えている・・・テスラ車のオーナーたちも、ウェブ上のフォーラムで、不快な異音やバグの多いソフトウェア、密閉性が低いために内装やトランクに雨水が染みこむといった問題点について、不満を漏らしている』、というのは、多少の不満はあっても、クルまの魅力から「また買いたい」ということなのだろうか。 『こうした問題の一端は、同社のマスクCEOが、設計プロセスの短縮や一部の製造前試験の省略、現場レベルでの改善といった手法によって、業界標準よりも迅速に新車種を発売する方針を決定したことにある、と一部の従業員は考えている』、マスク流のやり方が大量生産で通用するのかが問われているようだ。
第二の記事で、 中国の自動車メーカー吉利集団が独自動車大手ダイムラーの株式約10%を取得したことを突然発表し、『金融市場とドイツ監督当局を仰天させた』、 『香港の複数のペーパーカンパニー、デリバティブ、銀行融資、慎重に構築された株式オプションを駆使することにより・・・その計画の秘密を守り続け、突如として、ダイムラーの筆頭株主に踊り出ることが可能になった』、こうした抜け道を指導したモルガン・スタンレー、バンクオブアメリカ・メリルリンチといった米国系投資銀行の手口は鮮やかではある。しかし、これは法規制の精神をないがしろにするもので、ドイツ当局などがどのように手綱をさばくか、注目したい。
タグ:自動車(一般) (その1)(EV大手テスラ、ささやかれる「拙速な製造」のツケ、ダイムラー筆頭株主に躍り出た中国吉利の「秘密工作」) ロイター 「焦点:EV大手テスラ、ささやかれる「拙速な製造」のツケ」 テスラ モデルS モデルX 組立後の品質検査で「モデルS」と「モデルX」の9割以上に欠陥が見つかることが当たり前となっているという 組立完了後のやり直しが非常に多く、そこで多大なコストが生じている テスラのオーナーの91%が「また買いたい」と答えている テスラ車のオーナーたちも、ウェブ上のフォーラムで、不快な異音やバグの多いソフトウェア、密閉性が低いために内装やトランクに雨水が染みこむといった問題点について、不満を漏らしている 既存車種の「モデルS」や「モデルX」につきまとう欠陥は、テスラがいまだ基本的な製造技術の獲得に苦労していることを示している JDパワーは「熱狂の裏側」と題する3月のレポートで、新型の「モデルS」と「モデルX」について、異音や擦り傷、ドアのアライメント不整といった問題を取り上げ、テスラの製造経験の浅さが原因であると指摘した。このレポートの結論として、テスラ車の全般的な品質は高級車セグメントにおいて「競争力に欠け」、「精度と細部に対する注意」が不足していると述べている 「焦点:ダイムラー筆頭株主に躍り出た中国吉利の「秘密工作」」 ダイムラーは2月23日、中国の自動車メーカー浙江吉利控股集団が、同社の株式約10%を取得したことを発表し、金融市場とドイツ監督当局を仰天させた 香港の複数のペーパーカンパニー、デリバティブ、銀行融資、慎重に構築された株式オプションを駆使することにより、李書福氏はその計画の秘密を守り続け、突如として、ダイムラーの筆頭株主に踊り出ることが可能になったのである 投資額は90億ドル(約9500億円) モルガン・スタンレーおよびバンクオブアメリカ・メリルリンチ
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森友学園問題(その15)(小田嶋氏:霞が関文学としての森友文書) [国内政治]

森友学園問題については、昨年8月3日に取上げたままだった。これは、事態が余りに流動的だったためでもある。今日もこの問題で国会審議が行われるようだが、取り敢えず、(その15)(小田嶋氏:霞が関文学としての森友文書)を取上げよう。

コラムニストの小田嶋 隆氏が3月16日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「霞が関文学としての森友文書」を紹介しよう(+は段落)。
・今週のはじめに財務省が森友関連文書の書き換えを認める方針(←方針かよ)を発表して以来、世間の空気は微妙に険しくなっている。 論点は多岐にわたるが、ざっと考えて以下のような疑問点が浮かぶ。
 +改ざんに関与した官僚は何を隠蔽したかったのか。
 +彼らは、何におびえているのか。
 +「佐川(宣寿・前国税庁長官)の(国会での)答弁と決裁文書の間に齟齬があった、誤解を招くということで佐川の答弁に合わせて書き換えられたのが事実だと思います」という麻生太郎財務相の説明が示唆している「誤解」とは、具体的に誰のどのような認識を指しているのか。
 +佐川氏の答弁が虚偽でなかったのだとすると、その真実の答弁と齟齬していたとされる決裁済みの文書の方に虚偽が含まれていたことになるわけだが、その「虚偽」とは具体的に何を指すのか。そして、その「虚偽」と、文書の改ざん部分は整合しているのか。
 +通常、国会答弁では、質問側が事前に内容を通告する。とすると、当日、佐川氏とともに答弁した首相は、事前に情報を共有をしたはずなのだが、その共有していた情報とはつまるところ改ざん済みの文書ではなかったのか。
 +改ざんのタイミングは、佐川氏が国会で答弁をした後ではなくて、安倍総理が森友学園の認可や国有地の払い下げについて「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と答弁した2月17日の後なのではなかったのか。
・どれもこれも、簡単に答えの出る問いではない。 これらの謎は、今後、国会の審議やメディアの取材を通じて少しずつ明らかになることだろう。 いずれにせよ、私のような者が取り組むべき仕事ではない。私の力でどうにかなる課題でもない。 なので、当稿では、「言葉」の問題に焦点を絞って、森友文書改ざんの背景を考えてみることにする。
・今週は、しばらくぶりに熱心にテレビを見たのだが、なかでも印象に残ったのは、さる民放の情報番組にゲストとして出演していた元官僚の女性のコメントだった。彼女は、改ざん前の決裁文書を読んだ感想として、 「通常、この種の文書の中に個人名を書くことはない」 「ところが、この文書には政治家の個人名とその個人の関わり方が具体的に詳述されている」 「交渉過程をこれほど執拗に記述した文書は見たことがない」 「異様さを感じる」 といった感じの言葉を漏らしていた。
・なるほど。 私は、官僚の書くこの種の文書に詳しい者ではないのだが、それでも、件の決裁文書の異様さはなんとなくだが、感知し得ている。たしかに、あの文書は「異様」だった。 誤解を恐れずに言えば、このたびの文書改ざんは、最初に書かれた文書が異様だったことと無縁ではない。つまり、原本の文書がひと目見て「異様」であったからこそ、財務省の人間はそれを書き換えずにおれなかった、ということだ。
・誤解してもらっては困るのだが、私は「異様」な文章を「正常」な文書に書き換えた財務官僚の行為が正しかったことを立証したくてこんな話をしているのではない。 改ざんは、言語道断の暴挙だ。 ただ、それはそれとして、私がぜひお伝えしたいのは、最初の段階で決裁文書を作成した現場の役人が、その「異様」な文書を通じて訴えようとしたことを正しく読み取らないと、この話の背景にある謎の解明は先に進まないのではなかろうかということだ。
・もっとも、現段階で、私がその問いに対する答えを持っているわけではない。 だから、ここでは、文体と読解力についての思わせぶりな話を書く。 どっちにしても、答えは書かない。 私は、「みんなで考えてみよう」というずるい提案を残して、この場を立ち去るつもりでいる。
・官僚の作文は評判がよくない。 いわゆる「霞が関文学」は、学校でもカルチャーセンターでも常に悪文の典型として非難の的になっている。 というのも、現代において模範とされるテキストは、表現のブレの少ない簡潔な文章だからで、その視点から評価すると、官僚がやりとりしている文章は瑣末な装飾ばかりが過剰で、骨子の伝わるところの少ない、極めて非生産的な言語運用法であるからだ。
・彼らの文章は、 +断定しない語尾 +言質を取らせない語法 +含みを持たせた主語 +焦点をボカす接尾辞 +多義的な接頭辞 といったいずれ劣らぬ曖昧模糊とした要素から構成される、修辞上のレゴブロック作品のごときもので、読み取る側の読み方次第でどうにでも読めてしまえる半面、ほとんどまったく具体的な事実を伝えていない点で、われら一般世界の人間の生活には寄与しない。
・しかしながら、役人が役人として働いている場所では、カドを立てることなく陳情者の要求をかわしたり、確約せずに許認可の利権をチラつかせたり、責任をとらない形式でやんわりと指示を出すような場面で、大いに使い勝手の良いツールだったりもしている。
・それだけではない。 霞が関文体で書かれたメッセージは、木で鼻をくくったような行政文書としての機能とは別に、高い読解力を備えたメンバーの間でだけ通用する符丁としてもっぱら行間を読み合う形式で流通している。 ラテン語を解するエリートだけが共有するアカデミアの結界と似ていなくもない世界が、霞が関文壇の周辺には広がっているわけで、あの練りに練られた悪文を自在に使いこなしている人々は、結局のところ自分たちにしかわからない日本語で何かを伝え合うことのできる、テレパシーにも似た一種の超能力の使い手でもあるのだ。
・私の知っているある自動車オタクは、視界の隅を0.5秒で過ぎ去って行く対向車線のクルマの車種と年式をあやまたずに言い当てる識別能力を持っているのだが、その彼の師匠筋に当たるご老人は背後から追い越しにきているクルマの排気量と気筒数とエンジン型式を排気音のみで聴き分けることができるのだそうだ。  どこまでがホラ話なのかはわからない。が、ことほどさように、時間をかけた没頭と献身は人を神に似た存在に作り変えてしまう。
・であるからして、練達の霞が関文学読解者は、決裁文書の行間に畳み込まれた一見無意味無味無臭の情報から、書き手の失意や無念やあるいは遺言のような言葉すらも読み取ることができるはずなのだ。 たとえば、同じマニア雑誌を長年購読している読者は、その雑誌内だけで通じるジャーゴンやしきたりについての、著しく偏った、かつ高度な読解力を身につけることになる。
・私自身、洋楽にカブれて内外の音楽雑誌を濫読していた時期には、自分で言うのもナンだが、異様な読解力を持っていた。 ひいきの評論家が、一見、ごく普通の言葉で賞賛しているレコード評が、実は明らかな酷評であることなどは、最初の10行を読めば感知できた。 「○○さんが《小粋な》という言葉を使うのは録音が大っ嫌いな時だからなあ」 「××先生がいきなりコード進行の話をしてるってことは、音楽的に退屈だという意味だよ」 と、もののわかった読者は、ささいな言葉の違和感や常套句の運用法を手がかりに、書き手の真意を読み取ることができる。
・もっとも、私は、読解力こそ身につけてはいたものの、音楽雑誌で4年近く連載コラムを執筆していながら、ついに業界標準の褒め殺しの技巧を身につけるには至らなかった。腕の立つレビュアーは、固定読者に向けて「こんなイモ盤買うなよ」というメッセージを伝えつつ、業界向けには無難な賞賛記事として通用するレコード評を自在に書くことができる。まったくうらやましい限りだ。
・読解力は、特別な能力ではない。 一定量以上の文章を読みこなせば、誰にでも身につく能力だ。 逆に言えば、文章を読まない人間が、読解力を磨くことは不可能に近い。 私が残念に思っているのは、現政権が、リーダーである首相をはじめとして、もっぱら、読解力の乏しいメンバーで構成されているように見える点だ(なお、断っておくが、これで「オダジマは野党の政治家の方がマシだと言いたいんだな」と思う方は読解力が足りない)。
・彼らは「言葉」を大切にしない。 なにより、国会答弁をないがしろにしている。 国会での質問に簡潔な言葉で答えないばかりか、官僚の用意した原稿をマトモに読むことさえしない。 記者の問いかけにも真摯な言葉で応じようとない。 くわえて、文書の扱いもおよそぞんざいだと申し上げねばならない。 「無い」と説明した文書が、後になって出てくる例が続いているかと思えば、面会記録を1日ごとに廃棄していると言い張る。さらに、国会審議の基礎データには恣意的な数字を並べたデタラメの統計を持ち出して恥じない。
・いったいどういう神経なのだろうか。 政治家にとっての言葉が、寿司職人にとっての寿司ネタに等しい生命線であることを、彼らは理解していないのだろうか。
・今年の秋に62歳になる私は、昭和の時代から数えて何十という内閣の治乱興亡を見てきわけだが、その老人の目から見て、これほどまでに言葉を軽視している政権は見たことがない。 昭和の時代の自民党の政治家は、強欲だったり無神経だったり高圧的だったり下品だったりで私はほとんどまったく尊敬していなかったものだが、それでも、彼らは現政権の政治家よりはずっと言葉を大切にしていた。その点に限ってのみ言えば、彼らは見事だった。 
・自ら「言語明瞭意味不明」と韜晦していた竹下登氏の一歩引いた位置からの論評(さる世襲の政治家を評して「あれは、竹馬に乗った人間だわな」と言った)はいつも秀逸だったし、大平正芳氏のもたもたしているようでいながら滋味横溢する言語運用と、田中角栄氏の卓抜な比喩は、そのまま見出しになるキャッチフレーズの宝庫として好一対だった。
・引き比べて、現職の閣僚の言葉の貧しさはどうだろう。 私は、語っている政策や答弁の内容以前に、とにかく彼らの文体(というか口調)に耐えることができない。 こんな日本語をこれ以上聞かされるのはごめんだ、と思ってテレビのスイッチを切ったことが何度もある。 なんとも悲しい話ではないか。
・1年ちょっと前に、ツイッター上の知り合いの間で 《AI研究者が問う ロボットは文章を読めない では子どもたちは「読めて」いるのか?》 という記事が、話題になったことがある。 詳しくはリンク先を読んでほしいのだが、要するに、AIの読解力を高めるために研究をしている学者さんが、そのための基礎データを集めるべく人間の子供たちの読解力を調査してみたところ、衝撃的に低い結果が出たというお話だ。
・たとえば、 《仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジアにおもに広がっている。》 という課題文を読ませた後に 《オセアニアに広がっているのは(   )である。》 という文の( )内を埋めさせる問題を出題してみたところ、正解(もちろん「キリスト教」です)した生徒の割合は、公立中学校の生徒で53%、中高一貫高(中学)で64%、公立高校生で81%にとどまっている。
・つまり、この程度の問題文さえ、中学生の半分近くが読み取れていないのだ。 この研究をしている国立情報学研究所社会共有研究センターのセンター長、新井紀子さんによると、文章を読めない子供たちの中には、「キーワードとパターン」で問題文を読み、問題を解こうとしている生徒が意外にいるのだそうで、つまり、文章をきちんと最後まで読んで意味を把握するのではなくて、目についたワードの中からそれらしいものを選んで答えを選びに行っている生徒が少なくない、ということらしいのだ。
・この感じは、私にもある程度わかる 実際、文章を読み慣れていない子供は、論理が錯綜しているタイプの文に出くわすと、その時点で読むことを投げ出してしまう。 たとえば、 「うそをつかずに生きることの苦手なタイプとは正反対の生徒が集まるクラスの中にあって私は例外的な存在だったというのはうそだよ」 のような、4重にも5重にも理屈がひっくり返っているタイプの文章を読むと、たいていの人はアタマが混乱する。  これは無理もない。相当に手の込んだ悪文だからだ。
・が、文章を読み慣れていない子供たちは、「うれしくないこともない」「食べすぎないように気をつけないといけない」といった程度の二重否定にでくわしただけで、完全に文意を見失ってしまう。 そういう子供たちは、やがて文章を読解する作業そのものを憎むようになり、最終的には論理を操る人間に敵意を抱くタイプの大人に成長する。
・思うに 「野党は重箱の隅ばっかりつついてないできちんと議論しろよ」 「マスゴミの印象操作にはうんざりだ」 みたいなことを言っている政権支持層の中には、そもそもの傾向として、議論や読解を受け付けない人々がかなりのパーセンテージで含まれているのではないか。 私のツイッターに毎度意味不明のリプライを寄せてくるアカウントの多くは、140文字以下の文章すら正確に読解できていなかったりする。 なんともやっかいなことだ。
・「明日雨が降らないと言い切るのが極めて困難であることを信じるのは不可能だ」 と言っている男は、実際のところ、明日雨が降ると思っているのだろうか? それとも雨が降らないことを予想しているのだろうか。  霞が関文体は、間違いなく悪文だし、それを自在に駆使している官僚という人々は、ある意味知的能力を無駄遣いしている不毛な存在でもある。
・でも、彼らが一見不必要に思える人名を列挙しながら行間に書き込もうとしていた叫びに、誰かが真摯に耳を傾けないといけない。 そういう意味では、まさしく森友文書は「文学」だったのかもしれない。 なぜなのかは、行間を読むまでもなく分かるはずだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/031500135/?P=1

小田嶋氏が、 『霞が関文体で書かれたメッセージは、木で鼻をくくったような行政文書としての機能とは別に、高い読解力を備えたメンバーの間でだけ通用する符丁としてもっぱら行間を読み合う形式で流通している・・・練達の霞が関文学読解者は、決裁文書の行間に畳み込まれた一見無意味無味無臭の情報から、書き手の失意や無念やあるいは遺言のような言葉すらも読み取ることができるはずなのだ』、との「霞が関文学」への批判的解説はその通りだ。 『(現政権の)彼らは「言葉」を大切にしない。 なにより、国会答弁をないがしろにしている。 国会での質問に簡潔な言葉で答えないばかりか、官僚の用意した原稿をマトモに読むことさえしない。 記者の問いかけにも真摯な言葉で応じようとない。 くわえて、文書の扱いもおよそぞんざいだと申し上げねばならない。 「無い」と説明した文書が、後になって出てくる例が続いているかと思えば、面会記録を1日ごとに廃棄していると言い張る。さらに、国会審議の基礎データには恣意的な数字を並べたデタラメの統計を持ち出して恥じない。 いったいどういう神経なのだろうか。 政治家にとっての言葉が、寿司職人にとっての寿司ネタに等しい生命線であることを、彼らは理解していないのだろうか』、 『昭和の時代の自民党の政治家は、強欲だったり無神経だったり高圧的だったり下品だったりで私はほとんどまったく尊敬していなかったものだが、それでも、彼らは現政権の政治家よりはずっと言葉を大切にしていた。その点に限ってのみ言えば、彼らは見事だった』、との現政権批判は痛烈で、全面的に同意できる。 最後の 『彼らが一見不必要に思える人名を列挙しながら行間に書き込もうとしていた叫びに、誰かが真摯に耳を傾けないといけない。 そういう意味では、まさしく森友文書は「文学」だったのかもしれない』、との皮肉っぽい結びは見事だ。
なお、森友学園問題についての通常の分析記事は、後日、改めて取上げるつもりである。
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原発問題(その10)(原発を造る側の責任と 消えた議事録 失敗のプロセスこそ周知徹底すべき、消えた避難者3万人」はどこへ行ってしまったのか 3・11後の「言ってはいけない真実」) [国内政治]

昨日に続いて、原発問題(その10)(原発を造る側の責任と 消えた議事録 失敗のプロセスこそ周知徹底すべき、消えた避難者3万人」はどこへ行ってしまったのか 3・11後の「言ってはいけない真実」)を取上げよう。

先ずは、ノンフィクション作家の松浦 晋也氏が3月15日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「原発を造る側の責任と、消えた議事録 失敗のプロセスこそ周知徹底すべき」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・一体なぜあのような事故が起きたのか。事故後、様々な意見が世間に溢れたが、実のところ責任は明確だ。「東京電力」の責任だ。一義にこれである。その上で、東電に安全性を高めるように指導できなかった経済産業省や文部科学省、さらには歴代政権の責任ということになる。
・なぜか。福島と同レベルの地震振動と津波に直面した、東北電力・女川原子力発電所は事故を起こさなかったからである。つまり、施設としての原子力発電所はあれだけの地震と津波に耐えるように設計することが十分に可能だった。前回のタイトルを引いて言えば「ちゃんと設計・運用されていれば、原子力発電は大地震に対しても危険とは言えない」のである。 東京電力はしていなかった地震・津波対策を、東北電力はなぜ行うことができたのだろうか。
▽女川原発を設計した技術者、平井弥之助
・原子力が日本に入ってきた1960年代、東北電力には平井弥之助(1902~1986)という技術系の副社長がいた。女川原発が建設された1970年代、すでに退任していた彼は東北電力の社内委員会委員として女川の安全設計に携わった。
・当初女川原発は海抜12mのところに建設されることになっていた。それを平井は14.8mまで上げさせた。原発は海水をポンプで汲み上げて冷却を行う。より海抜の高いところに建設すれば、それだけ強力なポンプが必要になり、建設にも運用にもコストがかさむ。しかし平井は頑として引かず、海抜14.8mを実現した。
・東日本大震災時、女川は高さ13mの津波に襲われた。しかも地震による地盤沈下で、女川原発は1mも地盤が低下していた。しかし14.8mで建設していたので13mの津波にも1mの地盤沈下にも80cmの余裕を残して耐え、事故を起こすことなく安全に停止した。
・平井弥之助は、 宮城県の沿岸に位置する柴田町の出身だ。東北の海沿いで、津波の怖さを実感しつつ育ったのである。東京帝国大学工学部土木工学科を卒業して東邦電力という電力会社に技術者として就職。その結果、彼の使命感は発電所の地震・津波対策へと向かった。新潟火力発電所の建設にあたっては地震時の地盤液状化対策に力を注ぎ、1964年の新潟地震では、地下10mにまで及ぶ液状化にも同発電所の施設は持ちこたえた。
・地震・津波対策のために、平井は古文書の記録を詳細に研究し、869年に起きた貞観地震に注目した。女川原発の標高14.8mは貞観地震の津波の記録から平井が独自に算出したものらしい。「技術者には法令に定める基準や指針を超えて、結果責任が問われる」というのが平井の信条だったという。
▽1958年の東電と、2007年との差
・今、私の手元に、「原子力発電ABC」という180ページほどの小冊子のコピーがある。1958年に東京電力社内報に連載された記事を一冊の本にまとめたものだ。おそらくは社員に配布されたのだろう。 社内報連載のまとめなので、一般向けパンフレットに毛が生えた程度の内容かと思えば然にあらず。核分裂を巡る核物理学の原理解説から始めて、各種原子炉の構造と動作原理、国内外のウラン資源の分布、さらには当時の国内外の原子力開発体制に至るまで、 現在の一般書でもあり得ないほど高度な内容を平易に解説している。
・これが社内報に連載されたということは大きな意味がある。つまり1958年時点の東電経営陣は、原子力発電のなんたるかを、事務職技術職を問わず、すべての社員が熟知しているべきと考えていたということだ。これは、「責任を持つ会社」の有り様である。
・が、21世紀の東京電力にそのような責任感はあったのか? 平井弥之助が貞観地震の古記録に注目して女川原発の安全性確保に役立てた後も、貞観地震の研究は進歩し続けた。地質学者達は太平洋側沿岸各所に残る津波の堆積物を実際に調査することで、記録が残っていない福島県や茨城県の沿岸でも、貞観地震の時に非常に高い津波が襲来していたことを突き止めた。
・そこには3つもの原子力発電所、福島第一と第二、そして日本原電の東海発電所――が稼働している。なかでも危ないのは、比較的緩い安全基準で初期に建設された福島第一の1号機から4号機だ。これら4基は海抜標高10mという低い位置に建設されているのである。このままでは貞観地震と同等の津波が来たら原発設備が浸水してしまう。
・2007年、原子力発電所の耐震性基準の見直しが原子力・安全保安院で始まった。2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震で、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所が事前想定以上に揺れて、火災が発生したことがきっかけだった。 見直しの中で、既存原発がどの程度の耐震性をもっているかの再検討が行われ、東電は福島第一と第二原発についても報告書を提出した。
・報告書において東電は、貞観地震(869年7月9日、推定マグニチュードM8.3~8.6)よりもはるかに規模が小さい塩屋崎沖地震(1938年11月5日、最大マグニチュードがM7.5)を前提として発電所施設の評価を行い、問題なしとしていたのである。
▽「貞観地震を前提にすべき」という指摘があった
・総合資源エネルギー調査会・原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会の地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループの第32回会合(2009年6月24日開催)で、経済産業省・産業技術総合研究所の地質学者・岡村行信氏がこの問題を指摘していた。貞観地震という巨大な地震が実際に過去に起きており、しかも大津波すら到達していたことがはっきり分かっているのだから、こちらを前提にして検討すべきだ、と、岡村氏は主張した。
・これに対して、東電は「貞観地震は歴史的な被害があまり見当たらない。地震の評価としては塩屋崎沖地震で問題ない」と逃げた。岡村氏は納得せず追求したが、東電はぬるぬるとあいまいな答弁でごまかした。そこで原子力・安全保安院の審議官が東電に助け船を出し、今後きちんと検討するということで、まとめてしまった。
・これが、東日本大震災前、福島第一原発の耐震性を強化する最後のチャンスだった。 ここで、貞観地震を前提にして耐震性を検討すべきとなっていれば、福島第一の抱える低い海抜という問題点が露呈し、なんらかの対策を打つことができたろう。しかしそのチャンスは、東電の小さな地震を前提とした報告書と、原子力・安全保安院の指摘の検証を先送りする態度により、潰れてしまった。
▽自らが「官」になっていった東電
・なぜこのような違いが生まれてしまったのか。 東京電力の出自を遡ると、そこには、意外かもしれないが「官への不信」に基づく経営の系譜がある。 戦争のためにすべての電力会社を統合して設立された「日本発送電」という国策会社があった。戦後もこれを温存しようとする動きに対し、「そんなバカな話があるか」と徹底抗戦し、最終的にGHQまで巻き込んで現在に続く東京電力をはじめとする「九電力体制」(その後沖縄復帰に伴い沖縄電力が加わる)を確立した男、「電力の鬼」こと松永安左エ門 (1875~1971)。そんな彼の信条は「官は信用ならん」だった。
・平井が最初に就職した東邦電力は、松永が興した会社である。資料にあたった限り、その思いは、少なくとも松永の経営面での弟子であった木川田一隆(1899~1977、1961~71まで東京電力社長)には引き継がれていたように見える。
・東京電力は、高度経済成長による電力需要の伸びと共に巨大化し、あたかも「小さな国、小さな官」のようになって、松永が蛇蝎の如くに嫌った「官の無責任」を抱え込むようになってしまった、ということなのだろう。
・東京電力と原子力発電を巡る歴史的な経緯は非常に興味深い。官の支配に抵抗する民、なんとか民を権限下に置きたい官、その間で、原発は互いの新しい領地として、技術的に最善を追求するのとは別のやり方で支配されてきた。――なんでこんなことを言っているかといえば、私は3.11のあと、今は「日経 xTECH(クロステック)」に吸収された「日経PCオンライン」で、原子力発電関連の技術や歴史を調べ、書きまくっていたのである。物好きな方は、探してみていただきたい(※編注:探しました。初回はこちら→松浦晋也「人と技術と情報の界面を探る」原子力発電を考える (第1回) 初歩の初歩から説明する原子力と原子炉)。
・さてここで、今後の原子力発電を司る組織とそのための改革案を展開すべきところだが、残念ながら今の私にはその力はない。 編集者からは「何か、ほら話でも理想論でもいいので、『かくあるべき』を書いていただけませんか。そうでないと、読んだ方が『原発は必要だけど運営する組織は信用できない』という迷路の中に、置いていかれてしまいます」と泣きつかれた。
・それは自分でも思ったし、すこしは明るい話でコラムを終えたい。だが、そんな気持ちを吹き飛ばすようなことを見つけてしまったのだ。
▽議事録がホームページから消えている
・今回の記事を書くにあたって、以前閲覧した原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会の地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループの第32回会合の議事録を探した。ところが、これが見つからない。  議事録は以前、原子力・安全保安院のホームページで公開されていた。
・しかし、原子力・安全保安院は東日本大震災後の2012年9月に原子力行政の改革と共に廃止され、その機能は環境省の下に設置された原子力規制委員会へ移行した。では、と原子力規制委員会にデータが継承されていないか、と探す。こちらにもない。 では、と、国会図書館が行っている行政ホームページのアーカイブサービスで検索する。第32回会合に提出された資料は見つかった。だが、なぜか議事録は残っていなかった。
・それでは誰かが非公式にファイルを公開していないだろうか、と、検索キーワードを変え、検索エンジンもとっかえひっかえして、ファイルを探す。どこにもない。 わりと知られた事実だけに、言及しているページはいくつも見つかる。それどころか、福島第一事故の事故調査の過程で、なぜ貞観地震に基づいて検討しなかったかを東電が弁明した文書(要するに、2011年の時点で貞観地震の津波に関する知見はそんなに確定したものではなかった……と主張している。彼らに平井弥之助の「技術者には法令に定める基準や指針を超えて、結果責任が問われる」という信条を教えてあげたい)まで見つかる。
・しかしオリジナルは見つからない。   幸い私は、元の文書の「http://www.nisa.meti.go.jp/shingikai/107/3/032/gijiroku32.pdf」というURLをメモしてあった。これを使い、世界にいくつかあるインターネットアーカイブを探した。 そこに、この文書はあった。
▽隠蔽とは言わない。だが公表して当然の資料だ
・これは一体どういうことか。日本の運命を決めたと言っても過言ではない意志決定のプロセスを記録した文書が、所管の官庁で公式に保管されておらず、海外のインターネット・アーカイブで見つけるハメになるとは。 今、霞が関は文書の改ざん(彼ら曰く改ざんではなく「書き直し」だそうだが)で揺れている。が、それ以前にこの公文書保管と公開に対する意識の低さはどうしたことだろう。 公文書は国の記憶である。保管と公開を徹底しなければ、国は記憶喪失症となり、一貫性と継続性を失う。それは国の死を意味するのだが……。
・前編で書いたとおり、私は、日本にとって少なくともしばらくの間は原子力発電が必要だし、研究開発への投資も行うべきだと考えている。だが、それを管理・運営する組織について、前向きな提言をする気力が失せてしまった。いずれ、この話を続けさせていただく機会があることを祈って、今回はこれで〆させていただく。
▽追記:国会図書館のアーカイブにはありました
・Twitterで、「国会図書館アーカイブの中にもないと言っていたが、これではないか」とのご連絡を頂いた。その通り、これである。  ということで、お詫びしたい。私は国会図書館アーカイブの中の原子力安全・保安院の起点ページ(こちら)から当該文書を探していて、経済産業省のアーカイブにあることに気が付かなかった。
・ちなみにこの議事録、正式名称は「総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会 地震・津波、地質・地盤 合同WG (第32回)議事録 」である。  ではもしかすると、経済産業省のサイト(http://www.meti.go.jp/)で公表されているのだろうか。こちらで検索すると、「総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会」にたどりつく。そこで「耐震・構造設計小委員会地震・津波、地質・地盤」で検索を行うと、アーカイブがあった。ただし、「Aサブグループ」は第37回(平成22年11月26日)から。「Bサブグループ」は第20回(平成23年1月21日)からで、該当の議事録はやはり見当たらない。
・……と思って長い長いページの最後までいくと、「各審議会・研究会等の審議記録(配布資料、議事録、議事要旨)は概ね過去5年度分を掲載しています。上記以前のものは国立国会図書館の「インターネット資料収集保存事業(Web Archiving Project)」ホームページ外部リンクでご覧になることができます。」という注意書きが用意されている。結局のところ、この議事録はやはり、官庁では(庁内のルールに則って)公開されていないようだ。
・ページの最後から国会図書館の詳細検索ページに飛べるが、使いやすい民間の検索システムに慣れていると絶句すると思う。ちなみに「検索技術の稚拙なお前が、何を偉そうに言い訳するか」なのだが、国会図書館アーカイブの検索性もよくはない。トップから「総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会 地震・津波、地質・地盤 合同WG (第32回)議事録 」と文書の正式名称で検索をかけた場合、同議事録が表示されるのは10件表示で、4ページ目からである。「データを消しはしない。だが、探しやすくする気はない」という雰囲気を感じるのは、被害妄想なのだろうか。
・3月11日で東日本大震災から7年を迎えました。被災地の復興が進む一方、関心や支援の熱が冷めたという話もあちこちから聞こえてきます。記憶の風化が進みつつある今だからこそ、大震災の発生したあの時、そして被災地の今について、考えてみる必要があるのではないでしょうか。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150302/278140/031300005/?P=1

次に、新聞協会賞三度受賞の若手女性ジャーナリストの青木 美希氏が3月11日付け現代ビジネスに寄稿した「福島原発事故「消えた避難者3万人」はどこへ行ってしまったのか 3・11後の「言ってはいけない真実」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・3.11から丸7年。避難指示解除が進んだ福島第一原子力発電所近隣地域で進む恐るべき事態とは?  見せかけの「復興」が叫ばれる一方、実際の街からは、人が消えている。 メディアが報じない「不都合な真実」を、新聞協会賞三度受賞の若手女性ジャーナリストで、『地図から消される街』の著者・青木美希氏が描いた。
▽「帰らない」ではなく「帰れない」
・福島第一原子力発電所事故のため、原発隣接地区では大小数百の集落が時を止めた。 2017年春には6年にわたった避難指示が4町村で解除された。3月31日に福島県双葉郡浪江町、伊達郡川俣町、相馬郡飯舘村、4月1日に双葉郡富岡町で、対象は帰還困難区域外で計3万1501人。 だが帰還した人は、解除後10ヵ月経った18年1月31日、2月1日時点で1364人(転入者を除く)と4.3%にとどまる。
・いま現地で何が起きているのか、人々はどうしているのか。 2017年11月中旬、筆者は浪江町の中心街を訪れた。風が強くて寒い。海側の建物が津波で根こそぎ失われたため、風がより強くなったといわれている。 福島の地方経済を支える東邦銀行浪江支店の旧店舗が静かにたたずんでいる。本屋や酒屋だった店舗の軒先には雨をしのぐ青いテントが破れて垂れ下がり、何の店だかわからなくなっている。「撤去作業中」という青いのぼり旗も立つ。更地になっている場所も目立った。
・この中心街の一角に、以前、救助活動の取材でお世話になった消防団の高野仁久さん(56)の看板店がある。 高野さんには、4月に自宅兼店舗を見せてもらっていた。静まりかえった街で、店も息をひそめているかのようだった。店舗奥の玄関の戸を横にガラガラと開ける。土とほこりのにおいがする。床に散らばる箱や食器……。床が見えないほどだ。ところどころが黒い。土も見える。居間の日めくりカレンダーは、2011年3月11日のままだ。
・「……ここ、津波には遭っていないところですよね?」 頭ではわかっていても、思わず口に出た。それぐらい、ぐちゃぐちゃだったのだ。 「みんな動物のせいだ。ほれ」 高野さんが指をさす。居間の床や床に落ちたノートの上に、黒々とした固まりが載っている。土かと思ったのは、動物の糞が山積みになっているものだった。
・「あそこから出入りしてると思うんだけど。ハクビシンだと思う」 居間の奥の壁が破られており、穴が空いている。ここから動物が出入りしているため、居間が土だらけなのだ。「もう帰れない。壊すしかないよ」と言いながら、高野さんの太い眉毛の下の目は、じっと家の中を見つめていた。
・帰還できない人たちに対し、「ふるさとを捨てる」「勝手に避難している」と非難する声を、霞が関をはじめ東京都内でも福島県内でも聞く。一方で、帰れない人が大勢いるという現実はすっかり報道されなくなった。高野さんは言う。 「子どもたちは放射線量が高いからと帰ってこない。自分一人でも帰ってこようかとも思ったけれども、誰も帰ってこないのに、どうやって看板屋をやればいい?この街で誰か商売をするか?誰が看板を必要とする?お客がいないと誰も商売が成り立たない。子どもたちを食べさせていけない。
・2017年に入って同級生が自殺していく。2人目だ。どうしていいかわからないからだ。看板の仕事も来るけれども、できる作業が限られているので外注せざるを得ない。おれもどうしたらいいのかわからない」 浪江町中心街の商店会で元の場所で再開しているのは、2018年1月時点で47事業者中、2業者だけだ。看板店の仕事は、以前は月30~40件だったが、いまは月1~2件しかない。町内の工場を閉鎖しているため、木製看板の彫刻しかできないからだ。東京電力の賠償が切れたら、貯金を食いつぶしていくしかない。
・「これからどうしたらいいのか、寝るときに布団で考えて、答えが出なくて、考えているうちに朝になっている……」 高野さんはせつせつと語る。悲痛な叫びは世間に伝わらない。
▽時間が経てば忘れていいのか
・高野仁久さんは、3月11日が近づくたび、落ち着かなくなるという。彼は浪江町の消防団幹部。あのとき、助けを求める人たちがおり、救助活動に行こうとしていた。 翌朝から捜索すると決まったが、中止になった。原発が危ないという情報が入り、避難することが決定されたのだ。ショックだった。
・救助活動に当たっていた消防団員の後輩の渡辺潤也さん(36)も行方不明になっていた。渡辺さんは、「ジュンヤ」と下の名前で呼ばれ、慕われていた。理容師で、野球で活躍していた。家族は母と妻、中学生の長女と小学生の長男がいた。 以来、消防団は毎年3月11日に捜索を行っていた。だが、5年経った2016年3月11日で打ち切られることになった。団員は避難で全国に散らばっている。もう集まるのが難しい、という判断だった。
・最後の捜索のニュースがテレビで流れた。ジュンヤさんの母親の昭子さんが「いままで5年間捜索してくれた気持ちに感謝したい」とテレビで語った。 それでいいのか。5年経てば解決するのか──。 2017年3月11日の捜索は、高野さんは自主的に参加した。ジュンヤさんのものを何か見つけて、親御さんに返してやりたいと思った、と言う。ジュンヤさんとは、年も離れているし分団も違う。1、2度、宴席で一緒になったぐらいだ。
・しかし、一人の消防団員として、打ち切っていいのかという後ろめたさがあった。捜索に参加すれば、気持ちの中で自分を許せるのかな、と高野さんは思った。捜索に参加したのは50人ほどで役場職員が多い。高野さんは「これまででいちばん少ないな」と感じた。
・請戸川や、津波が押し寄せた大平山の間を重点的に捜索した。 鍬や熊手で土を掘る。骨や身元確認につながるものがないか探す。6年の歳月が流れるうちに土をかぶってしまい、10センチ以上掘らないと何も出てこない。掘った土の間からプラスチックのかけらが出てくる。おもちゃのネックレスの一部だった。免許証、アルバムの写真。屋根のトタン。 作業することが高野さんなりの“誠意”だった。
・海沿いでは護岸強化やがれき処理、焼却などの復興工事が行われており、重機が入っていて捜索ができない。人間の手でやるのはもう限界がある。本当はトラクターで土を掘り出し、ふるいにかけないと出てこないだろう。そんな思いとは裏腹に、復興工事が進む。
・その影響もあって、不明者が見つからないのではないかと思う。 2018年3月、あの日がまたやってくる。参加するかどうか高野さんはまだ決めていない。 「毎年、3月11日が近づくと、じっとしていていいのかという思いが出てくる」
▽みんなバラバラになってしまった
・ゼンリンの住宅地図を手に、再び浪江町の中心街を歩く。 この地図は2010年に発行されて以降はつくられていない。18年1月時点ではつくる予定もないとのことだった。見ると、東邦銀行など金融機関が並び、美容院や喫茶店、商店など約60店舗がひしめいている。 ところがいまは、建物が傾いたり、壁が倒れた廃屋が並ぶ。看板がもう読み取れないものもある。
・地図をチェックしながら周囲の450メートルを歩く。約60店舗のうち、7割が廃屋状態、2割は更地になっていた。「建物解体中」の旗も立っていた。歩道にもあちこち草が生えている。通常営業しているのは、工事車両が出入りするガソリンスタンド2軒と美容室のあわせて3店舗だった。美容室は「OPEN」ののぼりが立っていたが、出入りする客を見かけることはなかった。
・「いちばん賑やかだった通りです」と避難している人に紹介されて歩いたのだが、ここは名前を何というのだろう。聞こうにも誰も歩いていない。相変わらず遮さえぎるものがないために風が冷たい。 通りから200メートル離れた警察署に行き、パトカーの横にいる警察官たちに地図を示して聞いた。 「わからないなあ」 一人が、地図を持って周りの警察官に聞いてくれた。 「駅前通りじゃないの?あそこ、十日市とかやってたから」 十日市という行事があったのを知っているということは、地元を知る警察官のようだ。しかし、「駅前」というと、一般的には駅前から延びている通りを指すと思うが、地図で示した通りは駅前を通らず、線路と平行に走っている。違うかもしれない。
・通り沿いにある「ホテルなみえ」のフロントに行った。このホテルは、もともとは中心街のホテルとして屋上ビアガーデンや宴会でも使われ、賑わっていたが、いまは町民が一泊2000円で宿泊できるようになっている。男性がいた。 「この前の通りって、なんていう名前ですかね」 「さあ、わからないね……。もともとここに勤めていないから」 
・仕方なく、翌日、福島県二本松市に移転している浪江町商工会に電話をして、「この通りの名前と商店会の名前を教えてください」とお願いし、地図をメールした。5時間後に回答があった。 「シンマチ商店会通りです。新しい町、と書きます。新町商店会通りです」  しんまち。新町商店会。通りのバス停に「新町」と書いてあったのを思い起こした。駅前通りではなかったのだ。急に、あの商店会が色彩を持ったように感じた。美容室は白地に緑色の看板、ガソリンスタンドは黄色い屋根だった。ホテルは薄い緑色の壁。
・インターネットで「新町商店会」を調べると、いくつかホームページが出てきた。浪江の中心街として、夏は盆踊り、秋には十日市という屋台が並ぶイベントを開催していたと載っていた。 中心街の名前すら、現地ではもうわからない。近所の人の消息が4年もわからない。街が名前をなくす現実を目の当たりにした。
・前出の高野仁久さんに聞いたところ、「新町ね。権現堂地区の者じゃないとわからないだろうねえ。みんな全国に散らばってるからね」と話した。
・新町商店会の仲間とともに二本松市で活動しているまちづくりNPO新町なみえの神長倉豊隆理事長に話を聞いた。 「私が商店会で経営していた花屋も取り壊す予定です。戻る人がほとんどいない。町内の自宅のある地区に戻って、そこで花の生産をやろうと思っています」 神長倉さんは、「廃炉作業には30年以上かかる。ゆっくりと町民が安全を確認しながら帰還してもいいのでは」と町外コミュニティ(仮のまち)をつくろうと呼びかけてきた一人だ。
・「結局、浪江町長の協力が得られずだめだった。外に街をつくると浪江に帰る人が少なくなるということかと思う。国がもともと帰す方針だったので、帰るのが望ましく、外に街をつくるのは認めたくなかったというのがあるのかと。チェルノブイリではできたのに、福島ではできなかった」と落胆する。
・ともに町外コミュニティを目指していた浪江町商工会の原田雄一会長は、「福島市長に要請に行ったときは、市長が『福島市浪江区にしてもいい』とまで言ってくれたのに」と悔やむ。 なぜ馬場町長は消極的で、結果的に頓挫したのか。雑誌の取材に対し興味深い発言をしている。 「(町外コミュニティのために復興特区にする)計画を国にどうしても認めてもらえなかった」と漏らし、強引に突破をはかれば、「復興予算のしめつけがあるかもしれない」と述べているのだ。 
・経緯を確かめようと、2018年2月、町秘書係に馬場町長への取材を申し込んだが、3ヵ月前から福島市の病院に入院しているため取材を受けられないとのことだった。役場内に発言の背景を知る職員は見つからなかった。 原田さんは嘆く。 「復興政策はうまくいっていない。みんなバラバラになってしまった。帰る人に手厚く、帰らない人の支援を打ち切るということでは心も離れ、浪江がなくなってしまう……」
▽「明るいコト」しか報道されない
・「報道は、復興が進んでいるという面ばかり積極的に伝える」と、県内に住む人に言われることがある。たとえば「復興の象徴」として、避難指示解除から1週間ほど経った2017年4月8日、安倍晋三首相が浪江町の仮設店舗を訪れた。スーツ姿や法被姿の人たちが出迎え、このときの模様は明るいニュースとして大きく報じられた。 東京では、いまや事故のことが口に出されることが少なくなり、いつも通りの生活が営まれている。
・現実はどうか。浪江町で避難指示解除された人は1万5191人。帰還した人は解除の10ヵ月後でも311人と2%にすぎない。その3分の1が町職員だ。 人は辛いことを忘れようとする。誰かが苦しんでいる姿は、見たくないかもしれない。 けれど福島第一原発から約30キロの南相馬市に行くと、僧侶や市議、会社員たちから口々に、「現状を伝えてほしい」と求められる。 「政府はすべて収束したとしている。とんでもない」 「解除されても70歳以下は誰も戻ってない」 その訴えは切実なものばかりだ。
▽打ち切られていく「避難者支援」
・2017年の住宅支援打ち切りで起こったのは、避難者の名目の数の大幅減少だった。 復興庁は、避難者数を各都道府県から聞いて取りまとめているが、避難者の定義を定めなかった。このため、避難者の数え方が各自治体で異なる。福島県では、復興公営住宅に入った人や住宅提供が打ち切られた人は避難者から除かれた。 そのため、自主避難者の住宅提供打ち切りを機に、避難者数は全国で2017年3月から7月の4ヵ月間で約3万人減り、8万9751人とされた。こうして「避難者」という存在は数字上、消えていく。
・「自分たちは避難しているのに、勝手に数から除外されるのはおかしい」 「数をきちんと把握せずして、国はどのように避難者支援政策をするというのか」 当事者や大学教授らからは疑問の声が上がっている。福島県庁に聞くと、県職員は「避難者として数えられていないからといって支援が届かないということはない」と言う。一方で県は、総合計画「ふくしま新生プラン」で、避難地域の再生として「2020年度に県内外の避難者ゼロ」の目標を掲げている。
・東京・多摩地域のあきる野市では、住宅支援打ち切り後、自ら避難者登録を取り下げた避難者の母子家庭の母親がいた。理由は明かさなかったという。地元市議は「もう避難者であることのメリットもないし、知られたくないということではないでしょうか」と語った。
・「打ち切られると経済的に暮らしていけないので、戻ります」と福島県に帰り、避難をあきらめた母子からも話を聞いた。 ある40代の母親は、福島市に戻っても不安で、子どもは県外で保育を行う保育園に通わせている。民間の「保養事業」にも積極的に参加し、東京都町田市などで夏休みを過ごすが、「保養の申し込みの倍率がすごく高くてたいへんです。戻ってきた母親が同じように不安を抱えているのでは」と話す。
・この保養も寄付金減のため縮小傾向にある。子ども・被災者支援法は「国は自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策を講ずる」と定めており、国が保養を実施してほしいという要望書や署名が出されている。
・旧知の官僚幹部に見解を尋ねた。 「いつまでも甘えていると、人間がダメになる。パチンコや酒浸けになって何もいいことがない」 健康影響が心配な人たちがいるんだと言うと、断言した。 「将来、集団訴訟が起きて、国が負けたら、何か法制度をつくって救済するということになるでしょう。水俣病と一緒ですよ」
・原発事故はまだ、終わっていない。 急速に忘れ去る世間の無関心をいいことに、支援は打ち切られていく。とくに、避難指示区域外から避難してきた人たちは「自主避難者」と呼ばれ、本人たちは支援を必要としているのに、福島県や神奈川県などは避難者数から除外してきた。避難者がいるのに、いなかったことになっていく。それが帰還政策の現実だ。
・2017年3月末には双葉郡の高校5校が休校した。避難指示区域になった福島県立双葉翔陽高校(大熊町)のほか、双葉高校、富岡高校、浪江高校と浪江高校津島校だ。それぞれ避難先で授業を続けていた。再開の見通しは立っていない。 浪江町内では、浪江東中学校を改修した小中学校の整備工事が行われ、2018年4月に開校する予定だが、17年6月の子育て世帯への意向調査では、町内で小中学校を再開しても、96%が子どもを通学させる考えがないと答えている。 同年11月現在でも、通う意向がある子どもは小学生5人、中学生2人に留まる。3階建てのぴかぴかの学校。ここに実際にどれぐらいの子どもたちが通うようになるかはわからない。
・2014年4月1日に、事故後最初に大規模な政府の避難指示が解除された田村市では、原発から30キロ圏外にある廃校に一時移転し、授業を行っていた岩井沢小学校が元の校舎に戻った。しかし多くの児童たちが戻らず、児童数は3分の1に。17年3月に統廃合で閉校となり、140年の歴史に幕を閉じた。浪江町でも同様の結果にならない保証はない。
・原発事故はまだ、終わっていない。 それどころか、支援が打ち切られる中で、変わり果てた故郷に戻るかどうか、「自己責任」でそれぞれが判断することになり、さらに混迷を深めている。
・椎名誠さんの妻で、作家の渡辺一枝さんは、いまも現地に通い続けている。 「元気なように報道されているけれども、実際は違うと思います。避難者の方々はどうしたらいいか、悩んでいる。いまでもよく電話が来ます。必要なのは『私たちが忘れないこと』だと思います。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54774

第一の記事で、 『当初女川原発は海抜12mのところに建設されることになっていた。それを平井は14.8mまで上げさせた。原発は海水をポンプで汲み上げて冷却を行う。より海抜の高いところに建設すれば、それだけ強力なポンプが必要になり、建設にも運用にもコストがかさむ。しかし平井は頑として引かず、海抜14.8mを実現した』、という平井氏の姿勢は大したものだ。 『総合資源エネルギー調査会・原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会の地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループの第32回会合(2009年6月24日開催)で、経済産業省・産業技術総合研究所の地質学者・岡村行信氏がこの問題を指摘していた。貞観地震という巨大な地震が実際に過去に起きており、しかも大津波すら到達していたことがはっきり分かっているのだから、こちらを前提にして検討すべきだ、と、岡村氏は主張した。 これに対して、東電は「貞観地震は歴史的な被害があまり見当たらない。地震の評価としては塩屋崎沖地震で問題ない」と逃げた。岡村氏は納得せず追求したが、東電はぬるぬるとあいまいな答弁でごまかした。そこで原子力・安全保安院の審議官が東電に助け船を出し、今後きちんと検討するということで、まとめてしまった』、というのは、事故は明らかに東京電力や保安院による人災であることを物語っている。
第二の記事は、筆者が新聞協会賞三度受賞だけあって、なかなか読ませる内容だ。 『避難指示が4町村で解除された・・・対象は帰還困難区域外で計3万1501人。 だが帰還した人は、解除後10ヵ月経った18年1月31日、2月1日時点で1364人(転入者を除く)と4.3%にとどまる』、 『帰還できない人たちに対し、「ふるさとを捨てる」「勝手に避難している」と非難する声を、霞が関をはじめ東京都内でも福島県内でも聞く。一方で、帰れない人が大勢いるという現実はすっかり報道されなくなった』、 
『「報道は、復興が進んでいるという面ばかり積極的に伝える」』、 『自主避難者の住宅提供打ち切りを機に、避難者数は全国で2017年3月から7月の4ヵ月間で約3万人減り、8万9751人とされた。こうして「避難者」という存在は数字上、消えていく』、など国は復興イメージを捏造するために予想羽状に冷酷なことをしているようだ。  『浪江町内では、浪江東中学校を改修した小中学校の整備工事が行われ、2018年4月に開校する予定だが・・・同年11月現在でも、通う意向がある子どもは小学生5人、中学生2人に留まる。3階建てのぴかぴかの学校。ここに実際にどれぐらいの子どもたちが通うようになるかはわからない』、いくら除染をして線量は下がったとはいっても、放射能の影響を受けやすい子どもたちは、なるべく戻したくないというのが親心だろう。 『原発事故はまだ、終わっていない』、というのは残念ながら確かなようだ。
タグ:原発問題 (その10)(原発を造る側の責任と 消えた議事録 失敗のプロセスこそ周知徹底すべき、消えた避難者3万人」はどこへ行ってしまったのか 3・11後の「言ってはいけない真実」) 松浦 晋也 日経ビジネスオンライン 「原発を造る側の責任と、消えた議事録 失敗のプロセスこそ周知徹底すべき」 責任は明確だ。「東京電力」の責任だ 当初女川原発は海抜12mのところに建設されることになっていた。それを平井は14.8mまで上げさせた しかも地震による地盤沈下で、女川原発は1mも地盤が低下していた。しかし14.8mで建設していたので13mの津波にも1mの地盤沈下にも80cmの余裕を残して耐え、事故を起こすことなく安全に停止 「貞観地震を前提にすべき」という指摘があった 東電は「貞観地震は歴史的な被害があまり見当たらない。地震の評価としては塩屋崎沖地震で問題ない」と逃げた。岡村氏は納得せず追求したが、東電はぬるぬるとあいまいな答弁でごまかした。そこで原子力・安全保安院の審議官が東電に助け船を出し、今後きちんと検討するということで、まとめてしまった。 青木 美希 現代ビジネス 「福島原発事故「消えた避難者3万人」はどこへ行ってしまったのか 3・11後の「言ってはいけない真実」」 帰還した人は、解除後10ヵ月経った18年1月31日、2月1日時点で1364人(転入者を除く)と4.3%にとどまる 明るいコト」しか報道されない 打ち切られていく「避難者支援」 原発事故はまだ、終わっていない
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原発問題(その9)(福島原発事故から7年 復興政策に「異様な変化」が起きている、この国はもう復興を諦めた? 政府文書から見えてくる「福島の未来」) [国内政治]

原発問題については、昨年8月30日に取上げたままだった。今日は、首都大学東京准教授(社会学)の山下 祐介氏が政府文書を読み解いて現代ビジネスに寄稿した (その9)(福島原発事故から7年 復興政策に「異様な変化」が起きている、この国はもう復興を諦めた? 政府文書から見えてくる「福島の未来」)である。記事2つの割には長めだが、大変参考になる力作なので、最後までお付き合い頂きたい。

先ずは、3月10日付け「福島原発事故から7年、復興政策に「異様な変化」が起きている 政府文書を読み解く」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽復興政策の異様な変化
・平成30年3月11日で、東日本大震災から丸7年となる。  この復興からの道のりについての私の評価はすでに本誌(誰も語ろうとしない東日本大震災「復興政策」の大失敗 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49113)や拙著『復興が奪う地域の未来』(岩波書店)で述べてきた。いまもその見解は変わらないので多くはふれない。
・ここではこの節目にあたって今一度、現在進行中の復興施策――ここでは原発事故災害についてのみ取り扱うこととする――の中身を点検したい。 とくに6年目からの「復興・創生期間」に入って生じてきた変化を、復興庁のホームページにあがっている文書を検討することから明らかにしてみたい。
・おそらくここで示すことは、今現実に動いていること――森友問題における財務省の動き――をはじめ、この2年ほどの間にこの国の中枢で次々と起きてきたおかしな現象を解読するための糸口を提供するように思われる。
・というのも、東日本大震災からの復興をめぐる政策文書をあらためてみてみると、平成28年に「復興・創生期間」へと入る前あたりから――第3次安倍内閣(平成26年12月24日)がスタートする前後から――その内容に大きな変化が起きていることがわかるからだ。 読者に理解しやすいようあえて強い言葉で表現すればこういうことだ。
・その前まではまともだった。むろん私の立場からすれば批判せざるをえない内容のものもあったが、それでもいまから見ればそんなにおかしなものではなかった。 そこにはある種の政府としての首尾一貫性があったし、なぜそうなるのかも、それなりに理解できるものが多かったのである。
・しかし「復興・創生期間」以降は、何か悪意があるのではないかと感じざるをえないものが多くなっている。  それはとくに、昨年末に出された「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」(平成29年12月12日)に象徴的だということができる。 この戦略については後ほど取り上げることとして、ここではその前提となっている平成28年末の閣議決定「原子力災害からの福島復興の加速化の基本指針」(平成28年12月20日)の内容あたりから紹介していきたい。
▽帰還にともなう被ばくは自己責任?
・「原子力災害からの福島復興の加速化の基本方針」は、震災から6年目の「復興・創生期間」にはいっていくなかで、進行する原発事故被害地域の復興についての国の取り組むべき方向性を示したものである。  その1年半前に原子力災害対策本部が示した平成27年「原子力災害からの福島復興の加速に向けて(改訂)」(平成27年6月12日)に変えたものだ。
・この平成27年6月から平成28年12月への変化については、例えば平成27年にはあった文章――「帰還に向けて、住民の方々の間では、福島第一原発の状況に対する関心が大きいことを踏まえ、廃炉・汚染水対策の進捗状況や放射線データ等について、迅速かつ分かりやすい情報公開を図る」――が、平成28年には削られているなど注目すべき点が多いが、ここでは次の点のみ分析しておきたい。
・それは、これからの「帰還に向けた安全・安心対策」についてという箇所である。 ここはまた、原子力規制委員会が以前示した「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方」(平成25年11月20日)をふまえて国が責任を持ってきめ細かく進めていくといっている。
・まずは原子力規制委員会が、この平成25年の「考え方」の中で原発被害地域への帰還についてどのような考えを示していたかをおさえておきたい。 この「考え方」の前に提示されている「東京電力第一発電所の事故に関連する健康管理のあり方について(提言)」(平成25年3月6日)とあわせてみれば、原子力規制委員会が示した考え方とはこういうものである。
・原子力防災の目的は、公衆の過剰な放射線被曝を防止することである。避難から帰還の選択をする住民の意思は尊重しなければならないが、帰還は一定の放射線被曝を前提とする。 それゆえ帰還者は、今回の事故直後にどんな被ばくを受けたのか行動調査等による推定を行うとともに、今後の被ばくについても継続的に実測し記録を残さなくてはいけない。 でなければ健康被害を防止できないし、被害が生じた場合にもその原因を特定できない。帰還者を守れない。
・そうした被ばくの管理をおこなうこと、継続的な健康調査の実施、そして疫学研究を進めてどのような影響が起きたのか(起こらなかったのか)を検証して、住民たちの健康管理体制を維持していくことが国の責務になる――。 要するに、一定の被ばくを覚悟しなければならない場所に帰還させるのであれば、その被ばくの管理を行うのは国の責務になるからその体制をしっかりつくれ、ということである。 ここで問うているのは国の責任である。
・ところがこれを受けて作成したという、現在の政府の指針はどうなっているか。ここにはこう書いてある。  「具体的には、女性や子どもを含む住民の方々の放射線不安に対するきめ細かな対応については、御要望等に応じた生活圏の線量モニタリング、個人線量の把握・管理体制の整備や放射線相談員による相談体制の整備を引き続き進める。放射線相談の活動については、それぞれの市町村の状況に応じた多様なニーズに対応できるよう、「放射線リスクコミュニケーション相談員支援センター」等により、自治体による相談体制の改善を支援していく。加えて、放射線相談員のみならず、生活支援相談員や学校教員などの住民の方々との接点が多い方々に対しても、放射線知識の研修や専門家によるバックアップ体制の構築などのサポートを強化し、様々な場面で住民の方々から寄せられる放射線不安に対して、適切な現場対応が行える体制を整える」(下線は筆者)
・私にはこの文章は、原子力規制委員会がいうような、"被ばく管理をし、国の責任で健康被害が出ないようつとめる"という意味には読めない。 むしろ逆にこう解釈できると思う。 「被災者からの要望があれば被ばく線量を個人で測る体制はつくる。だから自分で管理するように。基本的には放射線の知識をきちんとつければ不安に思うことはないのだから、その知識が得られるようサポート体制を整える。それでも不安があるなら、その相談には乗れるようにしましょう。それは自治体の仕事だから支援してあげます」
・政府は早期帰還を推進しているのに、これでは帰還して受ける被ばくは自己責任であり、政府の責任ではありませんよといっているようなものだ。これでは人々は帰るに帰れまい。 だが筆者がここで問いたいのは次の点だ。 原子力規制委員会が示した大事な提言や指針にたいして、今、政府はまともに向き合わなくなってしまっているのではないか。
・「指針をふまえて」といいながら、全く違う内容を都合良く平気でつないでいくという姿勢。こうしたことは平成27年までの文書には見られなかった。そこまではまだきちんと原子力規制委員会の考え方が反映されていた。 一体この変化は何を意味するのだろうか。
▽国民をリスクコミュニケーションで洗脳?
・しかも、昨年末に発表された「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」(平成29年12月12日、原子力災害に対する風評被害を含む影響への対策タスクフォース)では、政府の言い方はもっと踏み込んだものになっていくのだ。
・冒頭にふれたこの戦略の最初の部分を紹介してみたい。 ここにはこんな文章が登場する。 「学校における避難児童生徒へのいじめなど、原子力災害に起因するいわれのない偏見や差別が発生している」(1頁) これはちょっと政府が出す文書としてはあってはいけないものだと私は思う。 まず日本語として間違っている。「いわれ」は、例えば『広辞苑』ではこう示されている。 「いわれ【謂れ】(由来として)言われていること。来歴。理由。」 原子力災害が理由で偏見や差別が発生していると言っておきながら、その偏見や差別には「いわれ(理由)」がないと、そういう変な文章になっている。
・だが、重要なのはこの文章が導こうとする結論だ。つづく文章はこうなっているのである。 「このような科学的根拠に基づかない風評や偏見・差別は、福島県の現状についての認識が不足してきていることに加え、放射線に関する正しい知識や福島県における食品中の放射性物質に関する検査結果等が十分に周知されていないことに主たる原因があると考えられる。このことを国は真摯に反省し、関係府省庁が連携して統一的に周知する必要がある」 要するに偏見や差別、そしていじめの原因は、原発事故ではなく、国民の無知なのだ。国民を無知のままにしてきた国はそれを反省し、国民を無知から解放しなければならない。
・それがおそらく来年度から実施されていく「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」による、「知ってもらう」「食べてもらう」「来てもらう」のキャンペーンなのである(ちなみに福島県の食品検査の取り組み――とくに米の全袋検査など――については私は高く評価している。この点は『聞く力、つなぐ力』(農文協)を参照していただきたい)。
▽国が示す文書がおかしくなっている
・だが――ここは冷静に考えていきたい。 霞が関で働くこの国の行政官僚たちは、本来こういう文章を書く人たちではない。 だいたい、いじめの原因を"放射線に関する正しい知識が欠けているからだ"というあたりからして変だ。被ばくが人にうつらないことくらい誰でも知っている。
・いじめの原因はむしろ社会的な無知だ。「賠償もらってるんだろう」「原子力の恩恵を受けてきたくせに」――とくに後者が問題なのだが、これがどんな偏見と差別をはらんだ認識なのかは紙幅の関係上ここでは説明できないので、拙著『人間なき復興』(ちくま学芸文庫)を参照してもらうしかない(そしてこれは、正確には無知というよりも国民の多くがとらわれてしまっているある種の認識の罠である)。
・ともかくこの無知の原因は、起こしてしまった原発事故に対して、国がその責任を(実質上)認めていないことにどうもありそうだ。人々が不安に思い、偏見や差別がはびこるのは、すべてはあってはいけない原発事故を起こしたからである。 国はその責任をつねに自覚していなければならない。以前はたしかにその(社会的)責任のなかで施策は進められてきた。いまや開き直って、まるで「被災者にこそ責任がある」という感じになっている。
・だが、「被災者」というが「被害者」なのだ。加害者が被害者に対して、「何でいつまでも自立できないんだ。だから差別されるんだよ」と言い始めている。そして国民についても、馬鹿だから差別するのだという認識になるのだろう。 すべては国が起こした原発事故が原因なのに。この責任転嫁をこそ「国は真摯に反省」しなければならない。
・こうした論理で構築されている「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」だから、その内容はきわめて傲慢なものだ。 風評対策についても、この戦略の前身になる「風評対策強化指針」(平成26年6月23日、平成29年7月追補改訂)と比較しておこう。
・平成26年の段階では、三つある強化指針の第1は「風評の源を取り除く」だった。「風評」という語は使っているが、この風評には原因がある。それは原発事故だ。それを認めるところから進められていた対策だったのである。 だが、昨年末にそのタガが外され、「風評払拭」と堂々と言い始めた。 「源を取り除く」努力を最大限にしているからこそ「風評だ」といえたのに、政府はもはや「原因はないのだから不安に思う方がおかしい」と、そういう方針に転換しようとしている。
・政府はこの風評払拭を世界に向けて発信し、そして全国民に向けても不安解消のリスコミを強化していくという。 だが、政府は被ばくした人々の線量推定さえまともにやっていないのだ。私たちはその声をどこまで信じることができるだろうか。
・いったいなにが起因となってこんなことになっているのだろうか。 こうした原発避難者の早期帰還政策の、過剰なまでのゴリ押しが、民主党政権から自民党政権にかわったところで起きていると分析できるなら、ある意味でわかりやすい。反自民勢力のシンパからすれば、そう考えたいところかもしれない。 だが現実には、原発避難者早期帰還のスキームは、平成23年9月に菅政権にかわってスタートした野田政権からはじまっている。その大きな転換点となったのがいわゆる「事故収束」宣言(平成23年12月16日)だった。
・だがそこが全てかといえば、当時の状況と現在はずいぶん違う。 これまで私は避難者たちの立場から政府の復興政策を強く批判してきたが、現在の政府文書の内容は、当時とは比べものにならないほど劣化していると感じる。 またとはいえ、安倍政権がその劣化のスタートかといえばそんなことでもなさそうなのだ。
・最初に述べたとおり、復興庁の文書を見ていても、第2次安倍政権まではそれほど大きな変化を感じない。変化が現れるのはやはり平成26年12月の第3次政権発足の前あたりからだ。 そしてその変化は平成28年3月からの「復興・創生」で明確に現れてくることになる。 次に、この変化の兆しと思われる「復興・創生」前の2つの事象を取り上げて、それが政府のいう「復興・創生期間」とどうつながっていったのか、迫っていこう。
▽子どもたちへの興味を失った?
・まず第一に取り上げたいのは、平成26年4月18日に提出された復興推進委員会の「「新しい東北」の創造に向けて(提言)」である。これをその後に続く奇態な変化の直前状態を示す資料として見ていきたい。 復興推進委員会は復興庁におかれた関係自治体の長及び有識者等による審議機関で、民主党政権下、復興庁設置の際に、復興推進会議とともにおかれた。
・その復興推進委員会のメンバーを、安倍政権への移行を機に平成25年3月に入れ替え、会議を重ねて作り上げたのがこの提言である。 民主党の時に策定された復興構想会議による提言「「復興への提言~悲惨の中の希望」」(平成23年6月25日)の自民党政権バージョンと思えばよいだろうか。 内容について私には批判的に思う部分もあるが、基本的には目配りよく、復興を真摯に考えて取り組もうという意欲が伝わる文書である。
・「「新しい東北」の創造」にむけて、提言がとくに掲げるのは次の5つである。 1. 元気で健やかな子どもの成長を見守る安心な社会  2. 「高齢者標準」による活力ある超高齢社会  3. 持続可能なエネルギー社会(自律・分散型エネルギー社会)  4. 頑健で高い回復力を持った社会基盤(システム)の導入で先進する社会  5. 高い発信力を持った地域資源を活用する社会
・会議録を眺めて非常に印象的なのが、「1. 元気で健やかな子どもの成長を見守る安心な社会」である。  「子ども」を上記5つの項目の中で一番はじめにおいたところに、この提言の特色・意気込みが現れていると言ってもよいだろう。 とくにこの項目に関しては、本提言を仕上げるために重ねた委員たちの苦労がよくわかる資料も会議録の中には収録されている。 
・ところがその内容が、2年後の平成28年にはどこかにいってしまうのである。 きっかけは「復興・創生期間」への移行だった。 震災6年目以降の「復興・創生期間」をどのようなものにしていくのかを書き込む、「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針」の内容について、当然ながら復興推進委員会は諮問をうけることになるが、基本方針の原案を見てある委員が次のように発言しているのに注目したい。
・「骨子案を見ますと、子供という言葉が1か所しか出てこないということで、だんだんこ の会議の中でも子供というキーワードが減ってきている印象を感じております。これは仕 方ない部分なのかなということも感じるのですけれども、今回の福島県を初めとした地域 では、子供たちに健康被害が起きるかもしれない、または起きたという思いが、子育てを している方々にとっての大きな不安であり、また風評被害を呼んでいる部分だと思います。 子供たちの心と体の健康に重要点を置くということをぜひ入れていただきたいと思います」(復興推進委員会(第20回)平成28年1月19日、議事録より)
・2ヵ月後の3月11日に発表された「基本方針」は、この発言を受けてであろう、多少の文言は追加された。が、「子ども」にとくに深く言及しないままの内容で閣議決定されている。 私にはどうも「子ども」では票にならないというかたちで、政権が興味を失ったのではないかとそんな気がしてならない。 教育再生実行会議まで組織し、子どもに熱心な安倍政権がなぜこんなふうになっていくのか。 ともかくここからは、中心に位置づけられていた政策でさえ、何かのきっかけがあれば平気で切り捨てられる、そんな政治・行政の極端な力学が生じていることが読み取れよう。
▽被災者のためではないイノベーション・コースト?
・さらに別の角度からも分析を続けよう。 こうして、せっかく作成した「『新しい東北』の創造に向けて(提言)」への関心が薄れていくのに対し、それに入れ替わるようにして福島復興の中心の座についたのが、「福島イノベーション・コースト構想」である。 福島イノベーション・コースト構想は、第3次安倍内閣に移る前から動きがはじまり、第3次政権で一気に加速した。
・イノベーション・コースト構想とは、要するに今後廃炉を進めていくにあたって、廃炉産業の集積とともに、そこで進めなければならない新技術の確立(とくにロボット技術やエネルギー関連産業)をもって、福島県浜通りの新たな産業の基軸とし、そこで生まれた雇用によって帰還する人々が働ける場を作ろうというものである。
・私はこうした夢のような巨大事業には慎重であるべきと考えるが、ともかく事故プラントの管理や廃炉は進めなければならないのだから、最高の技術で絶対に放射能漏れのおきない安全な廃炉技術の確立をここで進めることに異論はない。 そしてそれがこの事故で悲惨な目にあった被災者たちの暮らしの再建に資するのならば。
・しかし、そのもととなっている「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会 報告書」(平成26年6月23日、経済産業省)には、次のような気になる文章が織り込まれているのである。 報告書は冒頭でこういう。 「一番ご苦労された地域が、一番幸せになる権利がある」(1頁) 私もそう思う。だが、その次の頁では、いとも簡単にその文言を覆すのである。
・「住民の意向調査の結果によれば、震災から3年以上が経過する中で、戻らないとの意向を示している方も多い」 「他方、国際研究産業都市の形成過程では、多くの研究者や関連産業従事者がこの地域において生活することとなる。今後は、新たに移り住んでくる住民を積極的に受け入れ、帰還する住民と一体で、地域の活性化を図っていくことが必要」(2頁) 
・帰ってこない人(被災者)はもうよい。復興は、帰ってくる人(被災者の一部)と、新しくこの町にやってくる人(被災者ではない人)で、やればよい。ここで言っているのはそういうことだ。 だが復興事業の受益者が、この地域に戻ってくる人・新たに入ってくる人でよいというのなら、それは「一番ご苦労された地域が、一番幸せになる権利がある」とは全く違う話ではないか。
・しかも驚いたのは、この構想から約1年後に出された、「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会提言」(平成27年7月30日)で、こうした事業の結果として「震災前の人口見通しを上回る回復の可能性」があると言い始めていることである(提言のポイント)。 廃炉・除染作業員による人口増とともに、「夢の持てる地域づくり」によってそれを実現するというのだが、私にはそんなことが起きるとは夢にも思えない。
・そして文書を丹念に読めば、震災時の人口よりは減少はするのだが、今後の事業によって流入人口が増えるので、震災前になされていた人口予測よりも減り幅は小さいだろうと、そういう話なのである(「参考資料6 福島12市町村の将来像の検討に資する将来人口見通し(参考試算)」の42頁)。
・むろんそれとても私には信じられないのだが、本提言のこの文言は政府にとって大変ありがたいものであったらしく、後の「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針」にもしっかりと引用されることになる。 だがイノベーション・コースト構想はまだこれからのものであって、多くの課題をはらみ、決して成功を約束されているものではない。
・ここには当然失敗のリスクもあるわけで、人口増どころか、こうした事業が結局は収益をあげられず地域のお荷物になる可能性の方が高いのではなかろうか。 政府もそうした危険性をわかっているはずなのに、なぜそれをこうも無視した文章が書けるのか。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54779

次に、上記の続きを3月11日付け「この国はもう復興を諦めた? 政府文書から見えてくる「福島の未来」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・あの大震災から7年、復興は進んでいるのだろうか。政府はその成果を自画自賛しているが、現実は大きく異なっている。首都大学東京准教授の山下祐介氏が、政府文書を読み、復興政策の矛盾を問う。
▽多くの人が帰還する――政府の根拠は?
・いくつかの政府文書を見てもわかるように、政府が福島の復興として被災地に打ち込もうとしている政策・事業は、被害者の救済からどこかで転換し、被災地への巨大な事業投資そのものを目的とするものへと大きく変わってしまっている。 かつその事業もとくに成算があるわけではないのに、いくつかの事業に決めうちして(最終的にはイノベーション・コーストと再生可能エネルギーに集約か)、それ以外の事業を細やかに多様に進めていくということにはあまり関心はないようだ。
・そして被災者の位置づけも変わってきた。原発事故被災者は大量のふつうの人々である。政府が対象とする被災者も、これまでは今回の事故で避難しているすべての人々だったはずだ。 ところが、あるところから政府にとっての被災者は、あくまで弱者だということになってきている。
・平成27年1月の「被災者支援(健康・生活支援)総合対策(被災者支援50の対策)」を見ると、被災者はあくまで要支援者であり、政策で設定した支援の対象である限り被災者なのであって、そうした対象を外れれば、どんなに困っていてももはや被災者としては位置づけられない、そんな論理に転換しつつあるようだ。  まして被災者が復興の中身を決める主体になるなどということは許されない。
・おそらくそういうことなのだろう。そして逆に、政府が進める復興事業に参加を表明すれば、被災者でなくてもその事業の恩恵が受けられるようになっている。 要するに被災者であるかどうか、復興事業の受益者になれるかどうかを決めるのは政府の方だという状況に展開しつつあるようだ。 だが、では例えばイノベーション・コースト事業を実施すれば、本当にこの地を復興させるのに必要な人材がこの地に集まるのだろうか。それはどの程度の確実性を持っているのか。
・いま避難元に帰っているという人も、多くは「通う」人たちだ。二重生活は今後も続く。それはイノベーション・コーストで働くことになる新住民にしても同じことだ。 とくに技術者・専門家は、毎日現場にいなくてもよいのだから、この場所には遠くから通うことになる。
・「イノベ」では人口は回復しない。そもそもここで短期に着実な人口回復を計画すること自体が無茶な話なのだ。 廃炉は当分できない。無理なのかもしれない。現時点での帰還は被ばくを意味する。たとえ低線量でもそこには健康を損なうリスクがある。 そして万一発病しても被害として認められるかどうかはわからない。被害は自分で証明しなくてはならない。 そんな場所に、多くの人が帰還すると言い切る政府の考えは、一体何を根拠にしたものなのか。
▽目につく復興事業の成果の自画自賛
・私はこれまでいくつかの文章でこうした早期帰還を強要する状況を、「失敗不可避の政策」をゴリ押しする非常に危ういものと警告してきた。 そして現実に、1年前の平成29年4月に避難指示を大幅解除したにもかかわらず、人々がほとんど戻っていないことは、誰の目にも明らかな真実となっている。
・問題は、そうした無理な政策が失敗する可能性が目に見えている中で、それをあらためて修正するどころか、なぜか逆に――むしろだからこそ?――これまでの政策の成功をたたえて、その成就を奉祝するかのような文言が目立ちはじめてきたことだ。
・平成28年からの「復興・創生期間」の方向を示す「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」(平成28年3月11日)こそが、まさにそうした姿勢で書かれたものである。 この基本方針の冒頭にある文章を見るだけでも、このことはよくわかるだろう。
 (1)復興の現状( 政府は、発災直後の平成 23 年7月に策定した「東日本大震災からの復興の基本方針」において、復興期間を平成 32 年度までの 10 年間と定め、復興需要が高まる平成 27 年度までの5年間を「集中復興期間」と位置付けた上で、未曽有の大災害により被災した地域の復旧・復興に向けて、総力を挙げて取り組んできた。 地震・津波被災地域においては、これまで5度にわたって講じてきた加速化措置等の成果もあり、平成 28 年度にかけ、多くの恒久住宅が完成の時期を迎える。さらに、産業・生業の再生も着実に進展しており、10 年間の復興期間の「総仕上げ」に向け、復興は新たなステージを迎えつつある。 福島の原子力災害被災地域においては、除染等の取組によって、空間線量率は、原発事故発生時と比べ大幅に減少している。また、田村市、川内村、楢葉町で避難指示の解除等が実施されるなど、復興は着実に進展しつつある。(「復興・創生期間」の方向を示す「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」、1頁。下線は筆者)
・"政府のおかげで被災地は復興している。避難指示を解除できたので復興は着実に進展している。残りの5年は復興の「総仕上げだ」"――はたしてこの自画自賛は真実なのか。 私はここに、現実を見ず、失敗を認めず、都合のよいものばかりに目を向けて、「成果はあがっている」とうそぶき、さらなる失敗への道を歩んでいった先の大戦中の日本の状況に似たものを見て取る。
・東日本大震災の被災者であり、復興の前線で関わっている知り合いが、しばらく前にこう漏らした。 「復興集中期間が終わったので、やっと復興できるなあって。……でも『創生』とか言って、まだ続くんですよ。一体いつになったら復興できるのか」
・こうした被災者たちの声を尻目に、これまでの復興事業についての自画自賛は、この文書では頻繁に現れる。現政権の成果を過剰に強調し、「どうだ、これだけやったんだぞ」として現場に押しつけようと、まるで畏怖しているかのような文章だ。 いや、おそらく書いたのは官僚の方だろうから、政権が喜ぶよう、国民がこの政権の施策を好意を持って受け取るよう、ともかく印象づけたいと苦心して書いたものなのだろう。
・そして、こうした権力へのおもねりや、へつらいのようなものが、随所で感じられるようになったのも、第3次安倍政権の前後からということができる。 そして今回私が一番、違和感を持ったのは次の資料だった。  資料 「復興の加速化に向けて」復興推進委員会(第19回)平成27年11月11日(会議資料1) これは、いま引用した「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針」を策定するにあたって、その原案を復興推進委員会に示し、諮ったときの資料である。その1ヵ月前に行われた復興推進会議の内容を説明する部分が、私には何か腑に落ちない。
・前述の通り、閣僚で構成する「復興推進会議」に対して、「復興推進委員会」は関係自治体の長と民間有識者によって構成される会議だ。 総理がお願いして招集し、諮問する委員会である。その会議に対し、「総理御発言」という文言は奇妙ではないか。 内閣総理大臣はあくまで行政の長であり、かつそれは国会議員でもある与党第一党の党首が収まるポストである。 要職であり激務であろうから、私も尊敬し、その仕事に感謝するが、国民との間に上下の関係はない。これはいったいどういうことなのか。
・そして実は、この間の議事録などを丹念に見ていると、どうもある時期から、「総理の御指示」とか「大臣の御発言」とか、そういった妙な言葉遣いが(むろん文脈によっては、別に問題のないケースもあるのだが)繁く現れるようになっていった気がする。それもまた第3次安倍政権以降のようなのだ。
▽イノベ、再生可能エネ、オリンピック……
・指摘したいことはまだまだあるが、そろそろまとめに入ろう。 平成24年12月に第二次安倍政権が民主党政権から引き継いだ復興政策。すでにこの時点でこの復興政策には様々な矛盾が内包されていた。 そしてそうした矛盾した政策の現場にいた人々は、民主党から自民党に政権が移ったことで、「これで安定した回路に戻れる」と大いに期待したようにみえる。 そもそもそうした期待が広く国民にもあって、このときの自民の勝利につながったとさえ分析できそうだ。
・だがその路線は大きくは変わらなかった。それどころか、さらにその矛盾を拡大させ、あらぬ方向へと展開していったと、私には見える。 いやそれでも第2次安倍政権の段階までは、それほど大きな変化はなかったのだ。
・第3次安倍政権へと引き継がれていく中で、何か目に見えない変化が水面下で生じ、どこかの時点でハッキリと「急げ」「終わらせよ」「成果を上げよ」と、そういうスイッチが入ったようだ。 だがすでにこじれてしまった復興政策は、どんなに進めても、ボタンを掛け違えたまま、まともなものには戻らない。 本来はそれを頭から見直すべきだった。
・だがこの矛盾した政策をゴリ押ししているうちに、おそらく何かの閾を越えて、丁寧な復興から一点突破的な強引なものに変わり、しかも「やってきた政策は無駄ではない」「復興は進んでいる」とその成果を誇張するようになっていった。 政策や事業の結果を反省し調整するどころか、現状を批判することすらできなくなってしまったようだ。 一体どこでこんなスイッチが入ってしまったのか。
・そのきっかけの一つとして思い当たるのが、平成25年9月に決まった東京オリンピックの2020年招致である。 その後、「東京オリンピック2020」の文字がやたらと躍るようになってきたあたりから、復興政策の内容がおかしなものへと変化したような気がする。 先に引用した福島イノベーション・コースト構想研究会が提出した報告書「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会 報告書」(平成26年12月)が、私にはその始まりだったように見える。 本来イノベとは何の関係もないはずなのに、ここでやたらとオリンピックが強調されている。
・そして、福島12市町村の将来像に関する有識者検討会でも繰り返しオリンピックと福島復興との関係が強調され、この会議がとりまとめた提言(平成27年7月)では、避難指示解除が進むことでみなが避難元に帰ることができることになり、「家族そろって 2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を応援することが可能となる」(17頁)のだと強調している。この文章はどういう意図があってここに入り込んだのだろうか。
・福島イノベーション・コースト、再生可能エネルギー、東京オリンピック――これらがいったいどれだけ被災者の役に立つというのか。 いやこれらが被災地・被災者自身が望んだものであり、人々が苦心して主体的に取り組んでやり遂げるようなものなら何も異論はないのだ。 
・だがすべては国主導、中央主導で進み、復興のための事業に多くの税金が投入されるが、その成果は被災者ではない誰かに持っていかれて、被災地には不良債権化する巨大な施設だけが残る――私にはどうもそんな未来しか見えないのだ。
・そしてすでに触れたように、被災者の支援も徐々に世の中から落ちこぼれた敗者への支援にかわってきている。 この状態を作り出したのは原発事故であったにもかかわらず、被災者政策は「かわいそうな被災者のために国が支援してあげましょう」というものに変化しつつある。
・しかも政府の文書によれば、「住民の方々が復興の進展を実感できるようにするために」(原子力災害からの福島復興の加速のための基本方針、5頁)、さらなる対策を充実させて、「心の復興」(「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針、3頁など)をはたしてもらうのだという。
・原発事故によってふつうに暮らしていた人を復興弱者へと落とし込んだ上で(津波被災地に関していえば、政策さえもう少ししっかりしていれば、それなりの復興をむかえられたかもしれない人を復興弱者へと落とし込んだ上で)、「復興は進んでいるのだから、それを「心の復興」で実感せよ」と、そういう話になっている。
・しかしながらまた他方で、「福島第一原発の廃止措置に向けては、安全確保を大前提に、長期的にそれぞれのリスクが確実に下がるよう、優先順位を下げていく」(「原子力災害からの福島復興の加速のための基本方針」、20頁)のだといい、廃炉にともなう様々なリスクがあの場所には長期にわたって存在することを認めている。
・放射性廃棄物の処分に関しても「中間貯蔵施設」を現地につくりながら、その最終的な行き先が決まっていないことを認めており(同5頁)、現実には容易に帰ることのでない場所であることを十分にわかった上でこれらの文書は作成されているのだ。
・しかもこうして一方的な内容を被災者に(つまりは国民にも)突きつけながら、「双方向のコミュニケーションを強化し、信頼関係の強化につなげる」とまで言い切るふてぶてしさ(「原子力災害からの福島復興の加速のための基本方針について」平成28年12月、22頁)。 平成25年度までの文書にはこんな内容はなかった。
▽国の責任が風化している?
・おそらくこの間に欠けてしまったのは、この事故に関する国の責任なのだろう。 振りかえればちょうど1年前の平成29年3月、私はあるテレビ番組で今村雅弘復興大臣(当時)にお会いし、こんなふうに現状を説明されたのを思い出す。「時間がない。恐いのは風化だ。」(拙稿「復興相辞任のウラにある「本当の問題」」を参照) いま、この言葉の重大な意味がわかってきた気がする。このとき私は、風化は国民世論の関心のことだと思っていた。
・だがどうもそうではないのだ。原発事故・東日本大震災についての関心の風化は、もしかすると政治の中に起きているのだ。そういうことなのではないか。 たしかにもはやこの震災からの復興は、政治マターとしてうまみのないものになっている。それは紛れもない現実だろう。 「そうではない」という答えを期待しながら、あえてこう問おう。 政府はもう、原発事故を起こした国の責任というものを感じなくなっているのではないか。いやそれだけではない。もしかすると、もう一度同じような事故を起こす可能性についても。
・原発事故を起こしてはいけない。人々を被ばくさせてはいけない。危険にさらしてはいけない。そういう当たり前の感覚が、政治の中で風化し、失われつつあるのではないか。 むしろ「なんだ、原発事故といってもこの程度ではないか」「被害といったってこれくらいじゃないか」「原発のリスクなどたいしたものではない」――そんな奢った感覚が、この国の中に頭をもたげはじめているような気がしてならない。
・いや、原発事故に限ったことではない。 貧しさで苦しむ人を作ってはいけない。不当な差別が生まれる環境を作ってはいけない。人々の税金を大切に生かし、適切な政策を立案していかなければならない。この国の安定と持続を、確実にしっかりとはかっていかねばならない。
・――そういう政治を担うにあたっての当たり前の責任感覚が、だんだんと現場の中から失われはじめているのではないか。 そうした政治の変質が、矛盾だらけのおかしな復興政策を生んでいる根本にある気がしてならない。
・なお私はここでいう「国の責任の風化」を、誰か特定の政治家や、特定の政党に結びつけて考えているのではない。いずれ詳しく論を展開したいと思うが、このことだけは最後に簡単に述べておきたい。 こうした「国の責任」の変化は、もとをたどればどうも「二大政党制」と「政治主導」ではじまったものだ。 2000年代前後にこの国が制度設計しようとした「政治主導」には、何か根本的な欠陥があったようなのだ。
・そしてそれが民主党政権、自民党政権へと展開し、その間に国政選挙を何度か繰り返していく中で、次第に手もつけられないほどに拡大して、政治総体として「無責任」な状況が生まれつつあるのではないかと考えている。 さらにその中で、巨大化していく政治権力に取り入ろうとして様々な欲望が侵入しはじめ、堂々とした二枚舌や、本来やるべきことを避けながら、本来やれるはずのないこと、やるべきでないことを政治・政策の中に織り込む動きが止められないものになってしまったのだろう。
・だからなのだろう。原発復興政策がおかしくなったのと軌を一にして、各方面で(各省庁で)も、似たような感じでおかしなことが起きるようになってきた。 そして平成30年に入ってからも、働き方改革法案でその根拠となる厚労省のデータ改ざんが見つかり、そして森友問題では財務省の公文書書き換え問題までもが噴出している。
・こうしたおかしな政治・行政は、その根底にある構造が変わらない限り、止まることなくつづいていくものと私は見る。 これはいったいどのようにすれば止めることができるのだろうか。 むろん私にもその解は見えない。 が、ともかくも、事象をいくつも観察しながら、その正体を探っていくことが必要なのだろう。それゆえさらに、復興問題を離れて、全く別の角度からもこのことについて考える機会を持ちたいと思っている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54781

第一の記事で、 『東日本大震災からの復興をめぐる政策文書をあらためてみてみると、平成28年に「復興・創生期間」へと入る前あたりから――第3次安倍内閣(平成26年12月24日)がスタートする前後から――その内容に大きな変化が起きていることがわかるからだ』、 『原子力規制委員会がいうような、"被ばく管理をし、国の責任で健康被害が出ないようつとめる"という意味には読めない。 むしろ逆にこう解釈できると思う。 「被災者からの要望があれば被ばく線量を個人で測る体制はつくる。だから自分で管理するように。基本的には放射線の知識をきちんとつければ不安に思うことはないのだから、その知識が得られるようサポート体制を整える。それでも不安があるなら、その相談には乗れるようにしましょう。それは自治体の仕事だから支援してあげます」』、 『偏見や差別、そしていじめの原因は、原発事故ではなく、国民の無知なのだ。国民を無知のままにしてきた国はそれを反省し、国民を無知から解放しなければならない』、などの指摘は、言われてみれば確かにその通りと頷ける。しかし、マスコミからこうした指摘はなかっただけに、極めて新鮮だ。 『「被災者」というが「被害者」なのだ。加害者が被害者に対して、「何でいつまでも自立できないんだ。だから差別されるんだよ」と言い始めている。そして国民についても、馬鹿だから差別するのだという認識になるのだろう。 すべては国が起こした原発事故が原因なのに。この責任転嫁をこそ「国は真摯に反省」しなければならない。 こうした論理で構築されている「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」だから、その内容はきわめて傲慢なもの』、という責任転嫁のロジックはさすが「官僚」だ。痩せても枯れても、まだ責任転嫁にはスゴ腕を発揮できるようだ。 『イノベーション・コースト構想』、とは苦しまぎれにせよ、よくぞ絞り出したものだ。
第二の記事で、 『目につく復興事業の成果の自画自賛』、 『こうした権力へのおもねりや、へつらいのようなものが、随所で感じられるようになったのも、第3次安倍政権の前後からということができる』、 『2000年代前後にこの国が制度設計しようとした「政治主導」には、何か根本的な欠陥があったようなのだ  『原発復興政策がおかしくなったのと軌を一にして、各方面で(各省庁で)も、似たような感じでおかしなことが起きるようになってきた。 そして平成30年に入ってからも、働き方改革法案でその根拠となる厚労省のデータ改ざんが見つかり、そして森友問題では財務省の公文書書き換え問題までもが噴出している』、などの指摘は説得力がある。 『復興問題を離れて、全く別の角度からもこのことについて考える機会を持ちたいと思っている』、と山下氏の次作に大いに期待したい。
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マスコミ(その7)(産経新聞はやっぱり“ネットウヨまとめ”だった! デマ常習者を情報源に沖縄二紙を攻撃するも県警に否定される醜態、「ニュース女子」問題 BPOが「名誉毀損の人権侵害」と判断、記者クラブ制度が映すジャーナリズムの難題) [メディア]

マスコミについては、2月21日に取上げたが、今日は、(その7)(産経新聞はやっぱり“ネットウヨまとめ”だった! デマ常習者を情報源に沖縄二紙を攻撃するも県警に否定される醜態、「ニュース女子」問題 BPOが「名誉毀損の人権侵害」と判断、記者クラブ制度が映すジャーナリズムの難題)である。

先ずは、1月30日付けLITERA「産経新聞はやっぱり“ネットウヨまとめ”だった! デマ常習者を情報源に沖縄二紙を攻撃するも県警に否定される醜態」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「デマ製造新聞」「ネトウヨまとめ新聞」と揶揄される産経新聞が、またもインチキ記事を掲載・拡散していたことがわかった。この事実を伝えたのは、本日付の琉球新報だ。 問題となっているのは、昨年12月1日に沖縄市知花の沖縄自動車道で起こった米軍の人身事故にかんするニュース。翌2日に琉球新報は、県警交通機動隊の情報をもとに〈米海兵隊曹長の男性(44)が前方の車と接触事故後、車外に出たところ米海兵隊2等軍曹(28)の乗用車がはねた。曹長の男性は頭蓋底骨折などのけがを負い、意識不明の重体で、本島中部の病院に搬送された〉と報道。沖縄タイムスも同様に伝えている。 
・だが、同月9日になって、産経ニュースが「【沖縄2紙が報じないニュース】 危険顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員 元米軍属判決の陰で勇敢な行動スルー」という6ページにもわたる長文の記事を配信し、〈クラッシュした車から日本人を救助した在沖縄の米海兵隊曹長が不運にも後続車にはねられ、意識不明の重体となった〉と報道。日本人を救出した曹長はヘクター・トルヒーヨ氏だとして、トルヒーヨ曹長の妻・マリアさんのFacebookの投稿と、米第三海兵遠征軍の担当官のコメントをその裏付けとしていた。
・そして、産経記事では、この「事実」を伝えない琉球新報と沖縄タイムスの2紙をこのように批判したのだ。  〈「米軍=悪」なる思想に凝り固まる沖縄メディアは冷淡を決め込み、その真実に触れようとはしないようだ〉  〈沖縄県のメディアはなぜ、こうも薄情なのだろうか。それでも事故後、この「報道されない真実」がネット上でも日増しに拡散されている。「続報」として伝えることは十分可能だが、目をつぶり続けているのである〉
・さらに、新報・タイムスが12月1日に米軍属による女性強姦殺人事件の公判で無期懲役となった件を1面トップで伝えたことを取り上げ、〈被告が「元米軍属」「元海兵隊員」ではなく「日本人」だったら、どうだったろう〉などと言い出し、〈米軍の善行には知らぬ存ぜぬを決め込む〉と非難。以下のようにまくし立てた。
・〈「報道しない自由」を盾にこれからも無視を続けるようなら、メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ〉  報道機関を名乗る資格はない、日本人の恥──。この記事が配信されるや否や、ネット上では新報・タイムスを批判する投稿が相次ぎ、「偏向報道の実態」として拡散。さらに産経は12月12日に本紙でも「車事故で男性助け...自身は、はねられ重体 日本人救った米兵 沖縄2紙は黙殺」と同様の論調の記事を掲載した。
・しかし、この産経が事実として断定的に伝え、沖縄2紙の批判材料にした「トルヒーヨ曹長が日本人を救出した」という話を、当の米海兵隊ならびに沖縄県警が否定。米海兵隊は琉球新報の取材に対して「(曹長は)救助行為はしていない」と回答し、沖縄県警も「救助の事実は確認されていない」としたのだ。
▽産経はデマをもとに「報道機関を名乗る資格はない」と沖縄2紙を攻撃
・しかも、県警交通機動隊は〈産経新聞は事故後一度も同隊に取材していない〉としている。つまり、沖縄2紙に「報道機関を名乗る資格はない」とまで言い切っていたのに、産経は県警に事実確認の取材さえしていなかったというのだ。 琉球新報によると、産経が嘘の記事で2紙をバッシングして以降、〈本紙にも抗議の電話やメールが多数寄せられた〉という。それでも続報を書かなかったのは、〈県警や米海兵隊から救助の事実確認ができなかった〉〈一方で救助していないという断定もできなかった〉からだ。そして、米海兵隊がその事実を否定していたとしても〈曹長が誰かを助けようとしてひかれた可能性は現時点でも否定できない〉〈救助を否定することで(引用者注:曹長にとって)いわれのない不名誉とならないか危惧した〉という。これは報道機関として真っ当な慎重さだろう。
・だが、琉球新報は今回、〈沖縄メディア全体を批判する情報の拡散をこのまま放置すれば読者の信頼を失いかねない〉と判断。記事のなかで、産経にこう呼びかけている。 〈曹長の回復を願う家族の思いや県民の活動は尊いものだ。しかし、報道機関が報道する際は、当然ながら事実確認が求められる。最初に米軍側が説明を誤った可能性を差し引いても、少なくとも県警に取材せずに書ける内容ではなかったと考える。  産経新聞は、自らの胸に手を当てて「報道機関を名乗る資格があるか」を問うてほしい〉 
・産経が好んで用いる言葉を使うなら、まさしく「大ブーメラン」である。県警取材さえ怠り、しっかり裏付けもとっていない情報を事実として伝えたことはもとより、それを沖縄メディア批判の道具にしたことは卑劣としか言いようがないだろう。
・だが、こうした事実を突きつけられてもなお、産経は開き直っている。一連の記事を執筆した産経新聞那覇支局長である高木桂一氏は、琉球新報の取材に対し、こう述べているのだ。 「当時のしかるべき取材で得た情報に基づいて書いた」 この期に及んで、よくもこんな態度でいられるものかと思うが、気になるのは「しかるべき取材」という部分だ。県警にも取材していなかったのに、一体、何を取材したというのか。
・じつは、産経が「トルヒーヨ曹長が日本人を救出した」と伝えた昨年12月9日より以前に、これを事実としてネット上に拡散していた人物がいる。それは、これまで数々の沖縄デマの発信源となってきた「ボギーてどこん」こと手登根 安則氏という人物だ。
▽産経新聞の情報源は基地反対派のハーフ暴行デマを拡散したあの人物か
・手登根氏といえば、2015年に「基地反対派がハーフ女児を暴行した」という八重山日報が報じたデマ記事の発信源となった人物(詳しくは過去記事参照)。先日、南城市長選で落選した古謝景春氏が流した「基地反対派の言動によって海保職員2人が自殺した」というデマを拡散させたり、また、BPOが「重大な放送倫理違反があった」と判断した『ニュース女子』(DHCテレビ)の沖縄デマ回にも証言者として登場。「普天間基地の周辺で見つかった茶封筒」のカラーコピーを見せ、番組は「反対派は日当を貰ってる!?」などと煽った。
・手登根氏の番組内での証言はあきらかに日当デマを主張するものであり、過去にも日当デマを吹聴してきた事実もあるのだが、手登根氏はBPOの聞き取り調査で「茶封筒の中身は交通費だと思っており、自分は反対派が手当をもらっていると言ったことはない」などと言い訳している。
・そして、この手登根氏が、産経が記事にする6日前の12月3日、ツイッター上にこのような投稿をおこなっていた。 〈金曜日に沖縄自動車道で起きた大事故において事故に遭った方を救出中の海兵隊員が後続車にはねられ重体となっています。この勇敢なる彼とご家族のために 一刻も早い回復を願い共に祈って頂けませんか。彼の名前は、Hector Trujillo さんです。〉 
・この手登根氏の投稿には、病院で治療を受けているトルヒーヨ曹長と思われる男性の写真も付けられている。じつはこの写真は妻マリアさんがFacebookに投稿したものと同一だった。琉球新報の取材で海兵隊は「事故に関わった人から誤った情報が寄せられた結果(誤りが)起こった」と説明しているが、事故後まもないこの時点では情報が錯綜していたのだろう。 
・だからこそ、琉球新報は裏付けがとれないままでは記事にできないと判断したわけだが、産経の高木那覇支局長は県警に裏取りもせず、家族と米第三海兵遠征軍の担当官の証言だけで事実と断定したのだ。   しかも、高木支局長は、手登根氏のツイートを最初の「元ネタ」にした可能性が高い。というのも、高木支局長は、つい先日も手登根氏と同様に沖縄デマ発信源となっている人物の主張に基づいて記事を書き、配信した"前科"があるからだ。
▽沖縄を「偏向報道特区」よばわりした産経・那覇支局長のネトウヨネタ依存
・それは昨年11月9日、沖縄の現状を発信してきたヒップホップミュージシャンの大袈裟太郎氏が、米軍キャンプ・シュワブのゲート前で不当逮捕されたときのこと。翌10日に高木支局長は産経ニュースに「辺野古で逮捕された「大袈裟太郎」容疑者 基地容認派も知る"有名人"だった」という署名記事を執筆。問題は、高木支局長が記事でコメントを紹介した人物だ。高木支局長は〈容疑者の行状をよく知る〉人物として依田啓示氏のFacebook投稿から「沖縄県民は、こうした外来過激派にずっと翻弄され続けている」などと紹介している。
・しかし、この依田氏もまた沖縄デマの発信源として有名な人物で、『ニュース女子』では「(高江では反対派が)救急車を止めて、現場に急行できない事態が、しばらく、ずーっと続いていたんです」と証言。これをBPOの調査は〈救急車が、抗議活動に参加する人々によって妨害された事実は確認できない〉と結論づけている。
・ようするに、高木支局長はこうした沖縄デマ発信源をニュースソースにして沖縄の基地反対派を貶める記事を発信。その上、今回発覚したように、虚偽の情報によって沖縄2紙へのバッシングを垂れ流してきたのだ。全国紙の記者だというのに、そのやり口はネトウヨそのものではないか。
・実際、高木記者は那覇支局長に就任してから5カ月目となる昨年10月に出演したネット番組「チャンネル Ajer」で、こんなことを語っている。  「こちら(沖縄)の状況ですね、とくにメディアの状況について、いろいろ目にしてたんですが、まあ、まさにこの5カ月、(沖縄に)来てビックリした。もう、やはりこんなにすごいのかと」 「(前任の長野にも)信濃毎日新聞という手の付けようもない(笑)偏向的な新聞があるんですが、まったく信濃毎日新聞なんてかわいいもんで、ホントちょっとね、これはなんとかしないといけないと私、ひとりでも立ち上がらないといけないと」  「はっきり言ってここ(沖縄)は『偏向報道特区』だと」 「偏向報道特区」などと攻撃していた当の本人が、偏向どころか虚偽のニュースを伝えていた──。まったく呆れてものが言えないが、しかし、これは何も高木支局長ひとりではなく、産経新聞全体の体質の問題だ。
▽悪質デマ連発の産経新聞に「新聞社」を名乗る資格なし
・本サイトではこれまでも産経がいかにフェイクニュースを垂れ流してきたのかを数々取り上げてきたが、それは2ちゃんねるの書き込みをもとに北朝鮮のミサイル発射のデマを予告したり、森友問題で辻元清美衆院議員にかんするネット上の流言飛語をそのまま記事化したりと枚挙に暇がない上、ひとつひとつの悪質性も全国紙とは思えないものばかりだ。実際、産経の顔とも言うべき政治部編集委員である阿比留瑠比氏は、辻元議員の阪神大震災時のデマを記事にした件や、Facebookに小西洋之参院議員を誹謗中傷する記事を投稿した件の裁判でともに敗訴している。
・ところが、このデマ製造新聞を、よりにもよってこの国の総理は贔屓にし、先日も平昌五輪開会式出席について独占インタビューさせたばかり。安倍首相をひたすらもち上げ、安倍首相に批判的なメディアや問題はデマを使ってでも潰そうとする。──これが「社会の公器」がやることなのか。
・今回の問題発覚によって、産経がしょせん「ネトウヨまとめ」に過ぎないことがはっきりしたように、もはや産経に「報道機関を名乗る資格」はない。ところが、産経の記事は全国紙の報道としてYahoo!ニュースなどでも取り上げられ、ネット上で真実として拡散されている。この現実こそ、なんとかしなくてはならないだろう。
http://news.line.me/articles/oa-rp95854/6d53cd5650fe

次に、3月8日付けBuzzFeedNEWS「「ニュース女子」問題 BPOが「名誉毀損の人権侵害」と判断 重大な放送倫理違反があったと判断されていた」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会は3月8日、情報バラエティー番組「ニュース女子」の1月2日、9日放送回について、「申立人の名誉を毀損した」との勧告を公表した。 同日、開かれた記者会見で明らかにした。
▽なにが問題になっていたのか
・「ニュース女子」はバラエティー色のある情報番組。 同番組はスポンサーが制作費などを負担し、制作会社が番組を作って、放送局は納品された完成品(完パケ)を放送するいわゆる“持ち込み番組”だった。制作は化粧品大手「DHCグループ」傘下の「DHCテレビジョン」が担っている。
・2017年1月2日、東京MXで沖縄基地問題の特集を放送した。 「沖縄緊急調査 マスコミが報道しない真実」「沖縄・高江のヘリパット問題はどうなった?過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」などと題し、沖縄・高江の米軍ヘリパッドへの反対運動を報じた。
・その中で、米軍ヘリパッド建設に反対する人たちを「テロリスト」と表現したり、「日当をもらっている」「組織に雇用されている」などと伝えたりした。また、日当については人権団体「のりこえねっと」が払っていると指摘した。 放送後、批判の声が相次いだ。 BPOの放送倫理検証委員会は2017年12月14日、「重大な放送倫理違反があった」と極めて重い内容の意見書を公表していた。
▽委員会は「名誉毀損の人権侵害」と判断
・番組内で取り上げられた人権団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉氏は申立書を委員会に提出していた。 「本番組はヘリパッド建設に反対する人たちを誹謗中傷するものであり、その前提となる事実が、虚偽のものであることが明らか」としたうえで、申立人について「あたかも『テロリストの黒幕』などとして基地反対運動に資金を供与しているかのような情報を摘示」。 また、「申立人が外国人であることがことさらに強調されるなど人種差別を扇動するものであり、申立人の名誉を毀損する内容である」と訴えていた。
・これに対し東京MXは、「申立人の主張は本番組の内容を独自に解釈し、自己の名誉を毀損するものであると主張するものであり、理由がないことは明らか」との立場を示した。 また、虚偽・不公正であるとの申立人の主張については、「制作会社において必要な取材を尽くしたうえでの事実ないし合理的な根拠に基づく放送であって、何ら偽造ではない。申立人が主張するその他の事項についても同様であり、本番組の放送は虚偽ではなく不公正な報道にも該当しない」と反論していた。
・しかし、委員会は「名誉毀損の人権侵害が成立する」との判断を下した。 加えて、「放送対象者に取材を行わなかったことを容易に考査で指摘できたのにも関わらず怠り、『特段の問題が無かった』とした」という点。および人権や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠く放送内容なのに問題としなかった点においても、放送倫理上の問題があると判断した。
・委員会は東京MXに対し、本決定を真摯に受け止めた上で、本決定の趣旨を放送するととともに、考査を含めた放送のあり方について局内で十分に検討し、再発防止に一層の努力を重ねるよう勧告した。
▽番組、一部放送は継続
・東京MXは3月1日、「ニュース女子」の放送終了を発表していた。制作元のDHCテレビジョンは5日、番組を地方局やネット上などで継続すると発表している。
https://www.buzzfeed.com/jp/takumiharimaya/news-joshi-20180308?utm_term=.nhD12RvMQ#.nkkZWzDdR

第三に、経済ジャーナリストの岩崎 博充氏が3月3日付け東洋経済オンラインに寄稿した「記者クラブ制度が映すジャーナリズムの難題 検証不足、横一線を続ける先に何があるのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽記者クラブを通じて世の中に伝わる情報は多い
・記者クラブ。政府や自治体、業界団体などを継続的・網羅的に取材活動するために新聞社や通信社、テレビ局などの大手メディアに属する記者が中心となって構成される組織だ。誰もが情報を発信できるインターネット時代になっても、ニュースリリースや共同会見など、記者クラブを通じて世の中に伝わる情報はいまだ多い。
・新聞にせよ、テレビにせよ、記者クラブからの配信記事だということは、一般の読者や視聴者にはわかりにくいかもしれない。菅義偉官房長官が1日に2回やっている記者会見なども、普通の人は政府が開いていると思うかもしれないが、実は「首相官邸記者クラブ」が開催している。 かつて、財務省出身の元官僚が「官僚にとって記者クラブほど便利な存在はない。ペーパーひとつで自由に操作でき、国民の世論操作だって簡単にできる」という趣旨の発言をしていたことがある。
・たとえば、ある分野で大幅な規制緩和を推進したいと思ったら、その担当省庁は新聞記事やテレビのニュース番組で取り扱いやすい体裁に情報を集めて構成し、「文書(ペーパー)」を作成。記者クラブ主催の定例記者会見で配布する。 翌日の新聞には、似通った内容の新聞記事が掲載され、テレビはニュースとして放映する。通信社も地方新聞や地方のローカル局などに同じ内容のニュースを配信する。国民は、一夜にして規制緩和の動きを認識し、その主旨を知ることになる。
・国会が解散するときも、どこからともなく解散間近といったスクープがあって、世論の反応を探るのがいつものパターンだ。国民が認めるようなら解散に踏み切る。世論が大きく反対するようなら見送り、という具合になる。 しかも、こうした一連のニュースや記事は記者クラブから出たものなのか、それともまったく異なるところから出たものなのかがはっきりしない。
・こうした手法が日常的に行われているのが日本の報道機関だ。残念なことに、日本の記者クラブでは加盟各社が政府や自治体、業界団体などから提供された情報を報道する際にその検証が不足していると感じることが多い。とりわけ、選挙や世論の誘導に使われているのではと感じている人も少なくないはずだ。
・米国のホワイトハウスにも、日本の記者クラブと似たような仕組みはある。ただ、米国の場合は記者会見で発表されたニュースや数字などに対しては、必ず記者個人や報道機関としての「検証」が入る。 とりわけトランプ政権のように、就任式に集まった人の数を平気で大幅割り増しするような報道官に対しては、厳しい質問を浴びせかける。記者クラブとはいっても、そこは政府とプレスとの「バトル(戦闘)」の場になっている。
・実際、日本の記者クラブ制度が、日本国民の「知る権利」を阻害する存在になっているのではないか、という指摘が後を絶たない。
▽海外では通信社が情報を集める
・海外では、速報性の高いニュースなどは、ロイターやAP(ともに米国)、AFP(フランス)といった通信社が集めて来て、その情報をベースにして新聞社は誌面を作り、テレビ局はテレビ番組を作る。 米国では、通信社の記者と新聞記者とでは、その役割やスキルが大きく異なっており、日本で新聞記者が記者クラブで集めて来るような情報の大半は、海外では通信社が新聞社やテレビ局に提供していると考えていい。
・米国の新聞記者は何をするかといえば、通信社がかき集めた情報の裏を取り、異なる意見を収集し、事実を分析、検証するという役割を担っている。ニューヨーク・タイムズのように、毎日100ページを超える誌面を供給しているのも、そうしたシステムができているからだ。
・ところが、日本の場合は通信社と新聞社、テレビといった垣根がほとんどなく、ニュースの現場にはどっと押しかけていく。災害現場にヘリコプターが10機以上も飛び交って、よく批判を浴びるが、通信社が数社飛べば済むことを大手報道機関が全社でやっている。それが日本のシステムというわけだ。
・日本では、新聞にせよ、テレビにせよ、同じ内容の記事がやたらに多い。発言する関係者の顔ぶれも一緒ならコメント内容も同じ。一時期テレビ東京が、他社と違う番組構成をかたくなに守る姿勢が高い評価を受けたが、問題なのは「大手メディアはなぜ他社と同じでなければならないのか」ということだ。
・最低限ライバルと同じ横並びでなければいけない――という発想は日本特有のものなのかもしれないが、海外のメディアでは逆に恥ずべきことであり、許されないことといってよい。 かつて某省庁の記者クラブに属したことがある経済誌の記者は「取材内容を互いに共有するメモ合わせの習慣があった」と話す。これは現在も続いているとされる。記者クラブがカバーする領域のスクープ情報がわかっていても、あえて加盟他社に配慮してどのメディアも先に報じないというケースもある。記者クラブのメンバーの多くは、ジャーナリズムに携わる人間である以前に、メディアの特権を守ることを最優先しているように見える。
・記者クラブ制度を改善、もしくは廃止しようという動きは、これまでにも数多くあったことは事実だ。2001年5月には長野県の田中康夫県知事が「脱・記者クラブ宣言」を発表し、2006年には北海道が「道政記者クラブ」に対して記者クラブの水道光熱費など250万円の支払いを求めたことがニュースになった。
・記者クラブ制度は、業界団体や経団連といった経済団体でも健在だ。かつて個別企業の中にあった記者クラブは今はなくなっている。 記者クラブ内には、国民が知らない秘密が数多く存在しているとみられる。かといって、メディアは記者クラブ制度を廃止するつもりもなければ、いまの仕組みを改革しようという気もないだろう。記者クラブが今後も存続するという前提で、ニュースをどのように読んだらいいだろうか。いくつかポイントをピックアップしてみよう。
▽ニュースを読むポイント
①記者クラブ発のスクープを鵜呑みにしない(判断は難しいが、政権に近いメディアからのスクープは鵜呑みにせず、その背景を分析した記事を探してチェックすることが大切だ。)
②記者クラブに加盟していない海外メディアや雑誌の報道もチェックする(記者クラブに加盟していない外国通信社や週刊誌などがどんな伝え方をしているのかを見るといいだろう。別の視点でチェックすることが大切だ。)
③事件報道が多いときは、裏に何かがあるかも(NHKニュースにせよ、民法のニュースにせよ、日本の場合は殺人とか交通事故といった警察の記者クラブからの発表報道が多い。その背景には、警察の記者クラブに配置されている人員が多いためと指摘されているが、大きなニュースがないときにはこうした警察発表の事件報道が多くなる。しかし、その一方で大きなニュースを隠すために使われる場合もあるといわれる。)
④記者クラブのない役所・団体の情報もチェックする(国民の生活に密着した役所や団体にも直結した記者クラブがない場合がある。そうした情報などもある程度把握しないと、情報を発信されないために重要な法案の通過などが見落とされるかもしれない。)
http://toyokeizai.net/articles/-/210467

第一の記事で、産経新聞が、 デマをもとに、『インチキ記事を掲載・拡散していた』だけでなく、沖縄地元2紙をに対して、た『報道機関を名乗る資格はない、日本人の恥』、とまで悪しざまに批判していたとは、あきれ果てて開いた口が塞がらない。 『沖縄を「偏向報道特区」よばわりした産経・那覇支局長のネトウヨネタ依存』、 『悪質デマ連発の産経新聞に「新聞社」を名乗る資格なし』、私はこれまで産経新聞は確かに右翼的だが、それはあくまで論調の問題と思っていた。しかし、この記事で判断する限り、極めて悪質な右翼的デマ捏造機関と言っても過言ではなさそうだ。むろん、社会面の記事は全体としては比較的充実しており、私も参考にしているが、政治面ではここまで酷いとは想像を大きく上回り、失望した。
第二の記事で、 『東京MXで沖縄基地問題の特集』、は上記の産経新聞に輪をかけた酷さだ。それにしても、サポンサーの 『化粧品大手「DHCグループ」』のホームページを見てもお詫びなど出していないのも、どうかと思う。
第三の記事で、 『日本の場合は通信社と新聞社、テレビといった垣根がほとんどなく、ニュースの現場にはどっと押しかけていく。災害現場にヘリコプターが10機以上も飛び交って、よく批判を浴びるが、通信社が数社飛べば済むことを大手報道機関が全社でやっている』、というのは無駄の極みだ。しかも、かつて取材のヘリコプターが事故を起こしたことまであった。 『記者クラブのメンバーの多くは、ジャーナリズムに携わる人間である以前に、メディアの特権を守ることを最優先しているように見える』、というのは嘆かわしいことだ。書生論的かも知れないが、記者クラブのあり方を抜本的に見直すべきだ。
タグ:マスコミ (その7)(産経新聞はやっぱり“ネットウヨまとめ”だった! デマ常習者を情報源に沖縄二紙を攻撃するも県警に否定される醜態、「ニュース女子」問題 BPOが「名誉毀損の人権侵害」と判断、記者クラブ制度が映すジャーナリズムの難題) litera 「産経新聞はやっぱり“ネットウヨまとめ”だった! デマ常習者を情報源に沖縄二紙を攻撃するも県警に否定される醜態」 沖縄自動車道で起こった米軍の人身事故にかんするニュース 産経ニュース 「【沖縄2紙が報じないニュース】 危険顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員 元米軍属判決の陰で勇敢な行動スルー」 報道機関を名乗る資格はない、日本人の恥 「トルヒーヨ曹長が日本人を救出した 産経はデマをもとに「報道機関を名乗る資格はない」と沖縄2紙を攻撃 沖縄を「偏向報道特区」よばわりした産経・那覇支局長のネトウヨネタ依存 悪質デマ連発の産経新聞に「新聞社」を名乗る資格なし BuzzFeedNEWS 「「ニュース女子」問題 BPOが「名誉毀損の人権侵害」と判断 重大な放送倫理違反があったと判断されていた」 放送倫理・番組向上機構(BPO) 「ニュース女子 DHCテレビジョン 委員会は「名誉毀損の人権侵害」と判断 岩崎 博充 東洋経済オンライン 「記者クラブ制度が映すジャーナリズムの難題 検証不足、横一線を続ける先に何があるのか」 海外では通信社が情報を集める
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本日は更新を休むので、明日の金曜日にご期待を!

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トランプ大統領(その29)(冷泉彰彦氏:銃規制論はどうして敗北し続けるのか?、迷走続くトランプ政権、その底流は?) [世界情勢]

トランプ大統領については、2月4日に取上げた。今日は、ティラーソン国務長官解任のニュースが流れてきたが、これは後日取上げるとして、(その29)(冷泉彰彦氏:銃規制論はどうして敗北し続けるのか?、迷走続くトランプ政権、その底流は?)である。

先ずは、在米作家の冷泉彰彦氏が2月17日付けメールマガジンJMMに寄稿した「[JMM989Sa]「銃規制論はどうして敗北し続けるのか?」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・2月14日はバレンタインデーで、アメリカでは盛大に祝います。まず、未婚、既婚を問わずパートナー同士としては「愛情を確かめる日」であり、特に異性間カップルの場合は、男性が女性に贈り物をするのが普通です。加えて、「バレンタイン・ディナー」のためにレストランが予約で一杯になるとか、女性に贈る「真紅の薔薇一ダースの花束」が、この日だけプレミアム価格になったりもします。
・子供たちにはどうするのかというと、幼稚園から小学校低学年などでは、宗教タブーの「ゆるい」、従って聖者バレンタインゆかりのこの日を祝うことに抵抗のない土地柄ですと、「愛情」という概念を教える機会とされています。ですから、そうした地域では小さな子供が「親への愛」とか「友人への愛」ということをカードを交換させたりして理解させるのです。
・そのような華やかな日付が、今年、2018年の場合には凄惨な事件のために闇に包まれることとなりました。 フロリダ州の南東部、フォート・ラーディエール近郊と言ってもいいパークランドという町で、公立高校に武装した男が押し入り、殺傷力の強い「AR15タイプ」の「アサルトライフル」を連射し、17名が死亡という事件が発生したのです。
・事件の舞台となったのは、フェミニスト運動家であるマージョリー・ストーンマン・ダグラス氏の名前を冠した学校です。というのは、この学校の位置は、彼女が自然の保護を強く訴えた半島内部の湿地帯の東端に近いからです。そうした命名の経緯が示すように、リベラルな風土の土地柄にあり、学校自体のレベルもかなり高い学校のようです。
・報道によれば乱射犯は、ボストンバックに銃器を隠し車で平然と学校に乗り付けると、まず学校の火災報知器を作動させて生徒たちを戸外に誘き出したそうです。そこから乱射を始めて殺害をしながら生徒たちを今度は校舎内に追い詰めたのでした。校舎内では、施錠して教室に籠城していた生徒たちに対して、ドアの小窓から銃弾を浴びせて殺害するなど、行動は凶悪そのものであり、あくまで無差別な殺害が目的だったようです。
・その上で、自分も高校生の一人になりすまして、一緒に手をつないで避難する格好で脱出し、そのまま逃走しようとしたのです。報道によれば、誰にも気づかれずに「まんまと」逃げ果せて、一旦はサンドイッチ店で冷たい飲み物で一息つき、その後はハンバーガー店で40分休んでいました。その後は、自宅の方へ歩いているところで身元が露見すると抵抗することなく身柄を拘束されています。 
・この身柄確保の経緯に関しては、「生徒を偽装して避難の列に紛れた」以降は武装を解いていたことがあり、そして恐らくは犯人の身元を確定しつつ、犯行時の衣服などを手掛かりに、追い詰めていった捜査員の「お手柄」ということもあったようです。 身柄確保にあたっては銃撃戦や乱闘などは発生せず、「ノー・インシデント」で拘束されています。この種の大規模な乱射事件としては、これは非常に稀なケースです。
・裁判などを通じて、本人への徹底的な追及がされ、事件の詳細が解明されることが望まれますし、可能となるかもしれません。 ちなみに、犯人の素顔ですが、19歳の白人男性で、以前に父親を亡くしており、また昨年の11月に母親もインフルエンザが重症化して死去、天涯孤独になった中で友人一家の家で暮らしていたそうです。その一方で、銃への執着が強く、試射している光景を隣人に見られたり、動物を殺害しているというクレームから警察の訪問を受けたこともあったということです。事件のあった高校に通学していましたが、重大な違反行為があったことから放校処分になっていました。
・このような乱射事件としては、昨年2017年の10月1日にラスベガス市で58名が殺害された事件が記憶に新しいところです。このラスベガスでの事件では、そもそも西部という土地柄から銃保有のカルチャーが根強いこと、被害にあったのが「カントリー音楽の音楽祭会場」だったことから保守カルチャーが強く被害者や遺族などの多くが銃保有派であったことなどから、悲惨な事件であったにも関わらず、銃規制の論議は不発に終わりました。
・一方で、今度の事件は少々事情が異なります。まず、事件の起きた地域はフロリダの中でもリベラルなカルチャーを持っていました。ですから、直後から「銃規制を訴える」動きが強い形で起きています。例えば、娘を殺された母親がマイクを握って「トランプ大統領!今すぐ行動の時です」と銃規制を訴えるビデオは各局が繰り返して流しています。また、追悼行事などでも銃規制を訴える動きは非常に強いのです。 
・同級生を殺された高校生たちは、最初はSNSで、そしてTVの取材にも応じる形で次々に銃規制を訴えるメッセージを発信しています。これを受けて、CNNなどのリベラルなメディアは、かなり強い調子で「今度こそ銃規制を」という主張を繰り返しています。
・その報道に関して言えば、14日の当日は試行錯誤的な姿勢が見られました。例えば、冒頭申し上げたように、この日はバレンタインデーであったわけですが「バレンタインの惨劇」というようなセンセーショナルな表現は控えられていましたし、平昌五輪優先の報道体制を敷いていたNBCなどは、事件自体を大きく扱わなかったのです。
・ですが、一夜明けた15日から16日にかけては、そんなことは言っていられなくなりました。NBCも定時のニュースでは、五輪色を取り外して事件のことを大きく扱うようになり、そして3大ネットワークでは銃規制論がかなり展開されていたのでした。 これに対して、政権の側はかなり異なったニュアンスで臨んでいます。例えば、15日(木)にTV演説を行なったトランプ大統領は、丁重に「悔やみの言葉」は述べたものの、事件については「あくまで精神疾患の問題」だという表現に終始しており、「銃(ガン)」という言葉自体を避けているようでした。
・また同じく共和党のライアン下院議長は「悲劇の直後に政治利用する形での論議には応じない」という「いつもの」論理を、いつも以上に強硬に述べており、銃規制論議に対する警戒感を露わにしていました。「今度という今度は、銃規制論議が避けられない」という機運が、動き出すのを何としても抑えたいというニュアンスがそこにはありました。
・では、今回こそ銃規制論議は前進するのでしょうか? そう簡単ではないと思われます。2つ議論したいと思います。 1つは、根底にあるものとして、銃規制派の世界観と銃保有派の世界観が「完全に分裂している」という問題です。規制派の世界観は単純です。銃が野放しになっていて、例えば今回の19歳の男は、精神科に通院していたり、警察からの監視を受けていたりしたのに、全く自由に銃が購入できたことなどを批判して、例えばクリントン政権時代の1994年に制定された「アサルト・ウェポン規制法」などの実施を要求するという考え方です。
・また銃の普及の背景には、銃火器と弾薬の製造メーカーからできた産業の利潤追求の動きがあり、その利己的な動機を受けてNRA(全米ライフル協会)という強力な組織経由で、保守政治家の多くは政治資金の提供を受けている・・・そうしたかなり単純化された一種の陰謀説が当たり前のように信じられているわけです。
・その一方で、保有派の世界観は全く違います。彼らの根底にあるのは「恐怖」と「反権力」です。この人々はどうして銃を持ちたがるのでしょうか? それは自分たちが強い人間で、銃を持つに値すると思っているからではありません。また銃を持つことで強くなれるという誇大妄想にかられているのでもありません。
・そうではなくて、怖くてたまらないのです。大規模な入植地などで、隣家まで車で10分以上かかるように点在して住んでいると、悪漢に襲撃された場合に警察を呼んでいる時間はありません。ですから、中西部の農業地帯や山岳地帯では、警察力への期待はなく、その代わりにトラブルの仲裁と処理のプロとして保安官がいる以外は、基本的に自家武装して治安を守り、犯罪を抑止したり犯罪者を制圧するというカルチャーがあるわけです。
・これは世界的に見て、特殊な開拓の歴史と特に大規模農場が成立することで、コミュニティが拡散しているという地理的事情が生んだものです。問題は、「そのような地理的、歴史的条件がない」、つまり都市やその近郊に住んでいるにも関わらず、開拓時代のカルチャーに染まっていて、自分で武装していないと「怖い」という心理状態に置かれている人々があるということです。
・つまり「恐怖」がこの問題の全てなのです。例えば、銃の携行の権利という問題があります。要するに、買い物や通勤など「出歩く際」に銃を携行するなどというのは、規制派の住む海沿いでは狂気の沙汰であるわけですが、この「恐怖心」に染まった人びとにとっては、当たり前の感覚なのです。銃を持たないで、外出するなど怖くてできないというわけです。
・更に、銃携行の誇示権という問題もあります。自分は銃を持っていることを「見せびらかしたい」わけで、その権利を保証せよという話ですが、これこそ規制派の州の人間からしたら、トンデモない話です。護身用に持っていたいのなら、せめて隠し持っていて欲しいのであって、民間人に「携行を誇示」などされたら、今度はこっちが怖くてたまらないというわけです。
・ところが携行誇示派の論理は違います。俺は銃を持っていると「誇示していれば悪漢に襲われることはないだろう」という感覚がまずあり、その奥には「銃を誇示していないと襲われるかもしれないから怖い」という感覚になっているのです。この感覚は、規制州の人々にはまず絶対に分からないでしょう。カフェを世界展開しているスターバックスは、この「携行誇示」と戦っているわけで、そのこと自体は信念があって良いと思いますが、そのスタバに対して怒っている人は、「俺はスタバで銃を誇示して人々を怖がらせたい」から誇示したいのではなくて、「誇示していないと撃たれるかもしれない」という不安感からそう言っているだけなのです。
・精神病歴のある人への販売禁止問題も同様です。今回の狙撃犯に対して、どうして何も問題なく合法的に銃の販売がされたのか、多くの規制州の人々は疑問を持ち、怒りを抱いているわけです。ですが、保有派の論理からすると、「うつ病やアルコール問題などで引っ掛かった人に銃を買わせるな」というのは、「うつ病やアルコール問題のある人には、暴漢の襲撃を受けたら死ねというのか?」ということになる、そうした感覚を持っているわけです。
・この問題に関しては、このフロリダのように規制の緩い州がある一方で、もう一つ「ループホール(抜け道)」として、ガンショー(銃の即売見本市)などや、ネットでの個人間の直取引などは「犯歴や精神病歴のチェックを省略」できるという状況があるわけです。規制派は、すぐにでもこの「抜け道を塞げ」と主張しているわけですが、保有派からすると「せめて即売会などでは誰でも買えるようにしておかないと、一部の人たちには死ねと言っているようなものだ」という「反対の論理」を持っているのです。
・基本的に全国レベルで見ると、規制派が優勢です。特に人工密集地である太平洋岸と、大西洋岸の北東部では圧倒的に規制派が強く、大手のメディアの多くは銃規制論に賛成です。ですが、保有派の人々は、そうした「都市部に住んで偽善的な思想に染まっている」勢力が、メディアや政界を牛耳っていることには激しい反発を抱いているのです。
・つまり、彼からすると、武装というのは「生命財産の防衛」という権利であると同時に、中央政府に対する「精神的自立=反骨精神」の象徴という面もあるわけです。 「反骨」などというとカッコいい内容を考えますが、正確に言えば連邦政府を軽視する一種のアナキズムであり、政治や治安という問題に関して常識的な発想法を持つ人からしたら、虚無的な思想にも見えるかもしれません。ですが、そのような「中央政府に抗して武装する権利」が憲法で許されているということを、自分の国家観、価値観の源泉にしている人はかなりの数いるわけです。
・2点目としては、こうした「絶望的なまでの価値観の違い」の一方で、政治が極めてちぐはぐな対応しか取れていなかったという問題です。この点に関しては、オバマ政権の8年というのは事態が一気に悪化した期間であったということが言えます。オバマという人は、勿論自身としては銃規制を進めたいという発想法を持った人でした。
・ですが、2008年から09年にかけて経済が非常な落ち込みを見せる中で、オバマは「銃規制には曖昧な立場」を取り続けたのです。オバマの思考回路としては、恐らくは「銃は規制したい」と思いながらも「仮に黒人大統領である自分が強引に銃規制を進めて、反発した白人がヘイトクライム的な格好で銃を使った暴力を拡大させたら」事態は「収拾がつかなくなるばかりか、人種分断が激化してしまう」ということを恐れたのだと思います。
・私はそのような思考回路というのは理解できるのですが、問題はその態度が悪い結果を産んだということです。オバマの側からすれば「規制を我慢しているのだから、せめて普及の加速するのはやめて欲しい」そう心の底から願っていたのでしょう。ですが、銃保有派の側からすると「オバマというのは、リベラルで黒人だから必ず銃規制をするだろう」という恐怖に駆られていたわけです。
・また規制が厳しくなれば弾薬の調達、特に「多弾マガジン」の購入は難しくなります。そこで、多くの人が「銃と弾薬のまとめ買い」に走ったのでした。結果的に、2009年の就任以降、オバマ時代になったことで銃の販売は爆発的に伸びているのです。
・そんな中で、2012年の12月にはコネチカット州のサンディ・フック小学校乱射事件が発生しました。オバマは涙を流して銃に関する議論の開始を訴えました。ですが、恐怖に駆られたのは銃保有派も同じだったのです。彼らは「こんな事件が起きてしまって、しかも大統領がオバマだから」ということで「今度という今度は銃規制、特にアサルトライフル規制が始まる」と思って、駆け込み需要のようなことが発生したのです。
・結果的に、オバマが曖昧な態度を取り続ける中で、銃、特に連射能力と強い貫通力を持った「AR15」とか「AK47」と言った軍用自動小銃(と言ってもいいでしょう)が、この8年間に爆発的に普及してしまったのです。但し、普及というのはやや語弊があり、銃の保有世帯の比率は長期低下傾向にある中で、保有家庭が買い増ししているというのが実態のようです。
・ちなみに、ここ数週間、レミントン社やコルト社と言った銃製造の老舗企業が経営破綻していますが、これはオバマ時代の全くの正反対の効果、つまり「大統領がトランプだから、銃も弾薬も規制はないだろう。だったらいま買う必要はない」という買い控えによって、一気に銃不況が起きたからでした。
・それはともかく、問題は、銃は油を刺して手入れをしていれば「腐らない」ということです。ですからオバマの8年間に販売された膨大な数の自動小銃的な火器と、多弾マガジンを含む弾薬は、社会に出回ったままなのです。
・規制派は、銃が社会にあふれていると、保有派は仲間がいて心強いだろうと思うかもしれませんが、これは違います。銃保有派にとっては、社会に銃が溢れているという事実は脅威なのです。「こんなに社会に銃が溢れている」のであれば「悪漢が襲ってくる際に強力な重火器で襲ってくる可能性は大きい」、であるならば「家族を守るため」には「自分たちも高性能な火器で武装し、十分な弾薬を用意しておかないと」不安でならない、そう思っているのです。
・ということは、本当に銃社会を克服しようと思ったら、販売規制を行うだけでなく、強権での「銃器狩り」をやらなくてはならないのです。既存の膨大な数をそのまま放置しておいて、新規販売だけを止めても問題の解決にはなりません。
・この点で興味深いのは、ニュージャージー州やペンシルベニア州が実施している「バイバック」キャンペーンです。例えばニュージャージーの場合は、一年に数回、期間を決めて「銃を政府に供出するとキャッシュが貰える」というキャンペーンをやっています。短銃は一律100ドル、アサルトライフルなどの重火器は200ドルということで、「身分証明も、合法保有の許可証も不要」ということで、とにかく「その地域に出回る銃を減らす」という試みです。
・全国的に一定期間はそのような措置を行い、その後に「強制的に銃を放棄させる」という「銃期狩り」をやらなくては、銃保有派の「恐怖心」の低減は難しいということになります。そこで大事になるのは信頼関係であり、仮に「悪いヤツは保有し続ける」のであって、「正直に供出して放棄している自分はバカ正直」なので「政府に騙されるな!」的な反骨感情に火をつけてしまっては、失敗するでしょう。
・いずれにしても、「銃保有の背後にある不安感情」の問題、「禁止を匂わせると反対に普及してしまう」という政府への信頼の欠如、そして「難しくても社会に出回る銃器狩りをしないと、保有派の不安感は拭えない」一方で「保有派に銃を放棄させることが可能なのか?」という問題など、議論の内容は多岐に渡り、しかも大変に複雑なものだと思います。
・そこまで思考が届かないままで、「即時に販売規制をすれば」保有派は黙り、犯罪は減るというのは余りにも短絡過ぎると言いますか、ほとんど誤りであると言っても過言ではないでしょう。これまで銃規制論議が進まなかったのは、ここに原因があると言えます。
・こうした重苦しい現実を直視し、保有派と反対派が「仲良く議論する」のは難しいにしても、相互の中にある感情的な動機について、相互理解を進めるということがなければ、銃規制論議というのは進まないのだと思います。

次に、 同氏による3月3日付け「[JMM991Sa]「迷走続くトランプ政権、その底流は?」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・発足から13ヶ月強、迷走ということでは最初からずっと迷走が続いていたように思われるトランプ政権ですが、少し安定した感じが出ていたこともあります。一つは、昨年、2017年の晩秋の時期で、11月にアジア歴訪を行なった際には曲りなりにも「米日韓中」の4カ国について、北朝鮮情勢への姿勢に「大きな齟齬はない」ことを確認する外交に成功しています。
・その勢いを駆ってというわけではありませんが、更に12月には大幅な法人減税と個人所得税の簡素化を含む「トランプ税制」について、議会との駆け引きを通じて最終的に可決成立させるという「政治的実績」を実現しているわけです。
・その後、年初には「ハイチやアフリカからの移民はイヤだ」というような暴言ツイートを流して再び迷走状態になったものの、1月下旬の「年頭一般教書演説」では、まるで2016年11月の「選挙勝利宣言演説」で見せたのと同じような「和解と協調」を訴える「失言なし」の「クリーン演説」で支持率を上昇させています。  この調子でずっと春から夏を乗り切れば、11月の中間選挙での勝利も見えてくると思われたのですが、2月に入ると迷走は再び激しくなっており、遂には頼みの綱であった株価まで激しく動揺を始める中で、現在は、政権発足以来最大の迷走状態にあると言っても過言ではないでしょう。
・一つ象徴的なエピソードとしては、ホワイトハウスの広報部長(コミュニケーション・ディレクター)であるホープ・ヒックスの辞任表明という事件を挙げることができます。この広報部長というのは、一種「呪われたポジション」のようで、この13ヶ月間の間に色々なドラマがあったことも想起されます。
・まず政権の発足時には、ジェイソン・ミラーという共和党系の広報のプロが広報部長に就任するはずでした。ですが、ミラーは、「選対の同僚女性と交際して女性が妊娠」という問題と「それとは別に選挙運動中に男性の同僚たちとストリップクラブに出入りしていた」というスッパ抜きを受けて就任辞退に追い込まれています。
・そこで報道官に内定していたショーン・スパイサーが広報部長も兼任することになりました。ですが、3月にはスパイサーが報道官に降格になる形でマイク・ダブキという共和党系のPR専門家が広報部長に就任します。しかしながら、そのダブキは5月末に辞任し、スパイサーが広報部長兼務に復帰しました。ダブキに関しては、ホワイトハウス内の政争に嫌気が差しての辞任と言われています。
・そのスパイサーは、7月21日に自分の上司としてアンソニー・スカルムッチという金融マンが広報部長になるという話を受けて、ホワイトハウスを去りました。そのスカルムッチは、就任して10日後にトランプ大統領から解雇されています。その時点で、もう「なり手がいない」という状況の中、当初は代行という形で(後には正式に)広報部長に就任したのがヒックスでした。
・ヒックスと言う人は、まだ29歳。10代の時からモデルとしての活動を初めて、一時はラルフ・ローレンのモデルもしていたそうです。やがてPR会社の社員として活動する中で、大統領の長女であるイヴァンカ・クシュナーとの取引があったことからトランプ家にコネクションを得て、トランプ・オーガニゼーションの広報担当秘書から、選対の広報担当へと横滑りしてきたのでした。ですから、歳は若いのですがトランプ政権にとっては「創業以来の忠臣」と言われていたのです。
・そのヒックスの辞任ですが、表面的には異性関係の問題があると言われています。直接的には、ロブ・ポーターという男性との問題です。前述したように、1月の「年頭一般教書演説」は好評だったわけですが、その演説原稿を起草したメンバーの一人がポーターでした。演説は好評で、直後には大統領の支持率も上昇したので、政権周辺でのポーターの評価は高まりました。ポーターは40歳と比較的若いことから、次世代のホープという言われ方もしたのです。
・ところが、演説から一週間後の2月7日に、ポーターのスキャンダルが暴露されました。彼は、前妻とその前の妻の2人からDV問題を告発されて辞任したのです。ポーターの辞任の4日後には、ホワイトハウス内でスピーチライター補佐を務めていた男性も、同様にDV問題で辞任しました。
・このDV問題というのが、まず今回の政権動揺の発端でした。ポーターに関しては、比較的早い時期からDV加害者という容疑があることをFBIは把握しており、そのために「国家機密へのアプローチ」について「クリアランスを出さない」という問題が出ていたのです。ということは、ホワイトハウス中枢も、ポーターのDV問題を知っていたはずで、その時点とDV発覚による辞任との間にタイムラグがあったということが問題視されました。
・そこで各メディアは、ホワイトハウスのキーパーソンであるジョン・ケリー首席補佐官をターゲットにして批判を始めたのでした。ケリー補佐官は一時は「自分は軍(海兵隊)のカルチャーで育ってきたので、この種の(DVなど)問題には認識が甘かった」という言い訳にもならないコメントをしたり、かなり追い詰められたことがある、辞任説が出回る騒ぎにもなっています。
・この「ケリー首席補佐官がポーターを『かばった』」という問題については、別の報道もあり、そこではポーターがヒックスと「ロマンチックな関係」があったので、ケリー補佐官は大統領の側近中の側近であるヒックスに遠慮してポーターのDV問題を隠していたという「説」も流されました。この「ロマンチックな関係」という話題ですが、ヒックスに関しては、この問題だけでなく2016年8月までトランプ選対の委員長であったコーリー・ルワンダスキーとも「男女の関係」があったこと(ルワンダスキーは既婚)という暴露まで出る始末でした。
・こうした問題に加えて、ヒックスは「ロシアゲート」に関わる下院の諜報委員会に証人として招致された際に、トランプ大統領に関する広報活動を通じて「自分は『ホワイト・ライ(罪のない嘘)』をついたことがある」と「告白」してしまい、その責任を取ったというストーリーもあります。
・まあ、ニュース・メディアの表現では、そんなところなのですが、今回のヒックス辞任というのは、もしかすると一つの流れ、つまり「ケリー首席補佐官への更なる権限集中」となって行く、そんなターニングポイントになるのかもしれない、そうした仮説を立てることができるようにも思うのです。
・今回の騒動に続いて、一部にはジャレッド・クシュナーとイヴァンカの夫妻を、ホワイトハウスの公職から外す動きがあるとも報じられているのですが、これもこうした仮説に重なってきます。
・というのは、今回の騒動の順番から想起すると、(1)ケリー首席補佐官がホワイトハウス内での「機密事項へのクリアランス」の見直しをFBIと進めた、(2)そこでポーターなどのDV事案が判明したがケリー補佐官は当面握りつぶした、(3)大統領は一般教書演説で支持率回復、(4)だが今度はFBIルートと思われるリークがあって、ポーターは失脚、ポーターをかばったことでケリーも追い詰められる、(5)ケリーが反撃して改めてホワイトハウスを掌握、(6)ヒックス更迭、(7)前後してクシュナーへの「機密クリアランスがクリアーにならない」という報道、という流れになっているからです。
・仮にそうした流れができているのであれば、ケリー首席補佐官は今度こそホワイトハウスを全面的に掌握して行こうという覚悟なのかもしれません。では、仮にそうだとして、政策面での「路線」はどうなるのでしょうか? この間、トランプ大統領は「鉄鋼とアルミへの輸入関税」などをブチ上げたり、「学校の先生に銃を持たせよ」などという過激な論を言ったかと思うと、銃規制に傾斜したり表面的には迷走が激しくなっているのですが、これはどう見たらいいのでしょうか。
・ケリー中心の体制が強くなっているとして、それは大統領の迷走に「より親密に付き合う」方向性なのか、あるいは「大統領の異常な個性を抑えて、普通の共和党政権へ向かわせようとしている」のか、一体どちらなのかが仲々見えないわけです。その一方で、2016年の11月に選挙結果を受けて、いや「意外とまとも」な勝利宣言演説を受けて始まった「トランプ株高」はそのエネルギーが尽きつつあるような気配もあるわけです。今週も、「鉄鋼アルミ関税」を嫌って株は下げましたし、市場は不安定になっています。
・政権としては正念場に来ているわけで、この時点での方向性がどうなって行くのかは非常にクリティカルな局面とも言えるでしょう。以下、その「政権の方向性」についての一つの仮説として述べてみたいと思います。 一つは軍事的に強硬になるのか、穏健になるのかという点です。この点に関して見ておきたいのは、現在囁かれている、ホワイトハウスのマクマスター安全保障補佐官が辞任するという噂です。理由としては、北朝鮮に対する硬軟取り混ぜた圧力行使を緻密にやっているホワイトハウスと軍から見ると、「万が一の時には強硬論」ということを言いすぎるマクマスターが浮き上がってしまう、つまり彼だけ強硬に過ぎるという解説があります。仮にそうであるのなら、ケリー路線(マティス国防長官も含めて)は穏健という見方ができます。
・二つ目は、ここへ来てのロシアとの軍事外交の関係という問題です。ロシアは中東における、特にシリア情勢に関する攻勢に出ています。ロシアの支援を受けたアサド政権は、国土の相当部分を制圧しているばかりか、トルコとの確執を続けるクルド勢力の取り込みに成功しています。これはアメリカがクルド支援を放棄したという言い方もできる動きです。では、米ロは連携しているのかというと、米国の「核弾頭更新」に反発してロシアは「ミサイル防衛システムをすり抜ける多弾頭ミサイル」という新世代兵器を導入するなど、まるで冷戦期のような確執も見られます。
・こうした動きだけを見ていると、長年支援して来たクルド勢力をロシアに渡す一方で、核兵器は相互に更新をエスカレートさせるということで、支離滅裂な感じを与えます。ですが、これが「ロシアとの新しい距離感を創造する」という新しい動きだと考えると、一つのシナリオが見えてくるのです。それは「コンディ・ライス路線」の復活です。
・ライスという人は、ジョージ・W・ブッシュ政権の外交におけるキーパーソンであったわけですが、専門分野はロシア外交です。では、彼女は当時何をやったのかというと、アフガン戦争とイラク戦争の遂行にあたって、ロシアの支持を取り付けるということと、アメリカのエネルギー産業とロシアの共通の利益としての原油価格の「高止まり」を演出したということです。では、米ロは蜜月であったのかというと、必ずしもそうではなく、イランの問題や、日本との国境問題などでは毅然とした立場を取っていました。
・では、この「ライス路線」に対抗するものは何かというと、それは「ブレジンスキー路線」とでも言うものです。ズビグネフ・ブレジンスキーといえば、カーター政権当時の外交を主導したことで有名ですが、言うまでもなくその当時は、アフガンでの激しい対決がありました。その後も、コーカサス地方の「解放」を主張して一時はチェチェン独立を支援したこともあり、ジョージア(グルジア)やウクライナの親西側勢力を強く支援する立場でもあります。オバマ、マケイン、ヒラリーといった顔ぶれは、ある意味でこの「ブレジンスキー路線」の影響を受けていたと言う指摘ができます。
・そのブレジンスキーは、昨年2017年の5月に死去しています。これに対して、コンディ・ライスの方は、ここへ来てメディアへの露出も増えて来ており、もしかするとジョン・ケリー主席補佐官は、この「ライス路線」を軸に対ロシア外交、あるいはユーラシアの安全保障構想を描いているのかもしれません。つまり「ロシアとの程よい協調」と「原油高の演出」というシナリオです。あくまで仮説ですが、そうした見方をすると辻褄の合う部分があるということです。
・三点目として、ここへ来て「銃規制に賛成」してみたり、一方で「鉄鋼アルミ関税」などという前世紀の遺物のような政策を口にしたりという「迷走」はどう説明したら良いのでしょうか。これは、もしかしたらトランプ政権の「コア支持層」というのが「ガチガチの保守」ではなくて、20世紀には「民主党系の組合員」だったようなつまり「クラシックな左派センチメント」を抱えた層だという認識から行動しているのかもしれません。
・四点目として、どうして「忠臣」も「身内」も切って行くのかというと、これは昨年2017年の7月から8月にかけてのホワイトハウス内の人事混乱第一幕でも出て来た問題ですが、政権の抱えている「公私混同」「情報漏れ」「大統領自身のランダムなツイート」という3つの問題点を何とか克服しようという努力と見ることができます。特に、今回辞任に追い込まれたヒックス広報部長は「長年にわたってトランプのツイートを添削して来た」と言われているわけで、本当に彼女を大統領から遠ざけることができて大統領の「ランダムなツイート」が減れば、ケリー首席補佐官の仕事は随分と楽になるでしょう。
・以上は、あくまで推測ですが、仮にケリー首席補佐官への権力集中が起きているとして、その方向性としては、政権の浮沈をかけた11月の中間選挙には「何としても勝利したい」という執念がある、そう見ることができます。それが、今回のホワイトハウスの人事混乱劇の底流にあるのではないか、そうした観点を持って当面の事態を見て行きたいと思います。
・では仮にそうだとして、この路線はうまく行くのかという点で、どうしても不安が残る分野があるのも事実です。それは経済です。トランプ株高のエネルギーが消えたのは、景気のサイクルに一服感が出て来たということがあると思います。景気はまだ良いですし、雇用も消費も良いのですが、更に高みを目指す勢いには欠けるのです。
・そんな中で、市場は利上げを警戒し、それゆえに「良すぎる統計」に敏感になっています。 そうした状況下で、景気をソフトランディングさせて行くのは、大変な能力を必要とします。そして、大統領自身はもとより、ケリー首席補佐官もこうしたテーマに関しては全くの素人であるわけです。そう考えると、今から11月というのは気の遠くなるような先の話であり、そこまで景気や株価を持たせるのには、まだ一段と深い深謀遠慮が必要になると思います。残る手段としては「インフラ投資」がありますが、市場は既に「これ以上の財政規律の緩み」を強く嫌う動きをしている中では、手段は限られると思います。
・では、政権としては先行き不安が満載かというと、その不安感を打ち消す要素として、「新世代のリーダーシップ」を見せることのできない民主党の「敵失」があり、マイナスとマイナスで拮抗しているという状況も一方にはあります。いずれにしても、現在のトランプ政権の方向性については、そのような文脈で見て行こうと思っています。

第一の記事で、 『保有派の世界観は全く違います。彼らの根底にあるのは「恐怖」と「反権力」です。この人々はどうして銃を持ちたがるのでしょうか? それは自分たちが強い人間で、銃を持つに値すると思っているからではありません。また銃を持つことで強くなれるという誇大妄想にかられているのでもありません。
・そうではなくて、怖くてたまらないのです。大規模な入植地などで、隣家まで車で10分以上かかるように点在して住んでいると、悪漢に襲撃された場合に警察を呼んでいる時間はありません。ですから、中西部の農業地帯や山岳地帯では、警察力への期待はなく、その代わりにトラブルの仲裁と処理のプロとして保安官がいる以外は、基本的に自家武装して治安を守り、犯罪を抑止したり犯罪者を制圧するというカルチャーがあるわけです・・・つまり都市やその近郊に住んでいるにも関わらず、開拓時代のカルチャーに染まっていて、自分で武装していないと「怖い」という心理状態に置かれている人々があるということです。 つまり「恐怖」がこの問題の全てなのです・・・武装というのは「生命財産の防衛」という権利であると同時に、中央政府に対する「精神的自立=反骨精神」の象徴という面もあるわけです』、 『こうした「絶望的なまでの価値観の違い」の一方で、政治が極めてちぐはぐな対応しか取れていなかったという問題です』、 『恐怖に駆られたのは銃保有派も同じだったのです。彼らは「こんな事件が起きてしまって、しかも大統領がオバマだから」ということで「今度という今度は銃規制、特にアサルトライフル規制が始まる」と思って、駆け込み需要のようなことが発生したのです・・・ここ数週間、レミントン社やコルト社と言った銃製造の老舗企業が経営破綻していますが、これはオバマ時代の全くの正反対の効果、つまり「大統領がトランプだから、銃も弾薬も規制はないだろう。だったらいま買う必要はない」という買い控えによって、一気に銃不況が起きたからでした』、などの指摘は新鮮で、これだけ国内が二分されているなかでは、解決は容易ではなさそうだ。
第二の記事で、 『この広報部長というのは、一種「呪われたポジション」のようで、この13ヶ月間の間に色々なドラマがあったことも想起されます』、の後に示された交代劇は、本当に驚くべきドタバタだ。 『今回辞任に追い込まれたヒックス広報部長は「長年にわたってトランプのツイートを添削して来た」と言われているわけで、本当に彼女を大統領から遠ざけることができて大統領の「ランダムなツイート」が減れば、ケリー首席補佐官の仕事は随分と楽になるでしょう』、とトランプは勝手にやっていると思っていたが、ツイートが添削されていたというのも意外だった。ヒックスがいなくなることで、今度こそトランプが勝手にやり出せば、ケリー首席補佐官は楽になるどころか、尻拭いで忙しくなる可能性もあるのではなかろうか。  『不安が残る分野があるのも事実です。それは経済です。トランプ株高のエネルギーが消えたのは、景気のサイクルに一服感が出て来たということがあると思います。景気はまだ良いですし、雇用も消費も良いのですが、更に高みを目指す勢いには欠けるのです』、さらに、鉄鋼・アルミへの輸入制限が実施されれば、中国との関係悪化もあって、アメリカ経済へは悪影響が出てくるのは不可避となろう。これを懸念して株価が下落している面もある。このままでは、 『民主党の「敵失」』、があるとはいえ、中間選挙どころではなくなるのではなかろうか。
タグ:トランプ大統領 (その29)(冷泉彰彦氏:銃規制論はどうして敗北し続けるのか?、迷走続くトランプ政権、その底流は?) 冷泉彰彦 「[JMM989Sa]「銃規制論はどうして敗北し続けるのか?」from911/USAレポート」 パークランドという町で、公立高校に武装した男が押し入り、殺傷力の強い「AR15タイプ」の「アサルトライフル」を連射し、17名が死亡 根底にあるものとして、銃規制派の世界観と銃保有派の世界観が「完全に分裂している」という問題です 保有派の世界観は全く違います。彼らの根底にあるのは「恐怖」と「反権力」です。この人々はどうして銃を持ちたがるのでしょうか? それは自分たちが強い人間で、銃を持つに値すると思っているからではありません。また銃を持つことで強くなれるという誇大妄想にかられているのでもありません。 彼からすると、武装というのは「生命財産の防衛」という権利であると同時に、中央政府に対する「精神的自立=反骨精神」の象徴という面もあるわけです こうした「絶望的なまでの価値観の違い」の一方で、政治が極めてちぐはぐな対応しか取れていなかったという問題です 「[JMM991Sa]「迷走続くトランプ政権、その底流は?」from911/USAレポート」 この広報部長というのは、一種「呪われたポジション」のようで、この13ヶ月間の間に色々なドラマがあったことも想起されます ケリー首席補佐官は今度こそホワイトハウスを全面的に掌握して行こうという覚悟なのかもしれません 民主党の「敵失」
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リニア入札不正・談合(その3)(”逆らう者は逮捕する”「権力ヤクザ」の特捜部、:リニア工事談合事件の摘発はやはり日本版司法取引の試金石か?、ゼネコンのリニア談合で逮捕者 地検特捜部の次の狙いは?) [産業動向]

リニア入札不正・談合については、2月22日に取上げたが、今日は、(その3)(”逆らう者は逮捕する”「権力ヤクザ」の特捜部、:リニア工事談合事件の摘発はやはり日本版司法取引の試金石か?、ゼネコンのリニア談合で逮捕者 地検特捜部の次の狙いは?)である。

先ずは、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が3月2日付けの同氏のブログに掲載した「”逆らう者は逮捕する”「権力ヤクザ」の特捜部」を紹介しよう。
・東京地検特捜部は、リニア新幹線建設工事をめぐる「談合事件」で、大成建設の元常務と鹿島の担当部長を独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで逮捕した。 昨年末に出したブログ記事【リニア談合、独禁法での起訴には重大な問題 ~全論点徹底解説~】で詳細に述べたように、この事件は、「独禁法違反の犯罪」で刑事責任を問うような事件ではない。
・捜査の対象となったスーパーゼネコン4社のうち、課徴金減免申請を行って「談合を認めた」とされた大林組、清水建設に対して、大成建設、鹿島が徹底抗戦の姿勢を貫いたのは当然だった。 【リニア談合捜査「特捜・関東軍の暴走」が止まらない】で述べたように、特捜部は、その徹底抗戦の2社のみを対象に、再度の捜索を行い、その際、大成建設では、法務部に対する捜索で、弁護士が捜査への対応・防禦のために作成していた書類や、弁護士のパソコンまで押収し、さらに検事が社長室に押しかけ「社長の前で嘘をつくのか」「ふざけるな」などと恫喝したとして、大成建設側が「抗議書」を提出したところ、その日の夜、同社だけに「3度目の捜索」を行うなど、抵抗する社を捜査権限で踏みつぶそうとしてきた特捜部。その暴走は止まらず、とうとう、この「特捜部に逆らう2社の担当者を逮捕する」という暴挙に出た。
・大成、鹿島も、4社間の協議や情報交換等の「外形的事実」は認めた上で「独禁法違反には当たらない」と主張しているとのことだ。そのような法的主張をしている大成、鹿島の担当者について、なぜ「罪証隠滅の恐れがある」ということになるのか。単に、「検察の主張に反対して抗戦している奴らは、検察の捜査権限を使って徹底排除する」という、身勝手極まりない検察の論理による逮捕のように思える。
・昔、赤塚不二夫氏の漫画「天才バカボン」にしばしば登場する警察官の「本官さん」が、「タイホだ!タイホだー!」とわめきながら、空に向けてピストルをぶっ放す絵が印象的だった。今、特捜部がやっていることは、そのレベルだ。
・取材してきた記者によると、特捜部は、逮捕についての副部長の記者レクを開いたが、「品川駅舎建設工事、名古屋駅舎建設工事が対象」と説明しただけで、質問には全く答えないとのことだ。 そもそも、独禁法違反の「不当な取引制限」は、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する『相互拘束性』のある競争事業者間の合意があったこと」が必要だ。東京名古屋間のリニア工事“全体”というのであれば「一定の取引分野」と言えるだろうが、品川と名古屋の駅舎建設工事だけでは「一定の取引分野」の競争制限ではない。個別の物件の談合“的”行為に過ぎない。
・仮に「品川と名古屋の駅舎建設工事」を「一定の取引分野」ととらえるとしても、受注しているのは大林と清水だけであり、大成、鹿島は、「協力しただけ」の立場だ。この場合に、「相互に(持ちつ持たれつの)関係を持って合意を実行する」という「相互拘束の関係」があったとは考えられない。 被疑者の逮捕にまで至った以上、起訴しないことは考えにくい。しかし、この事件の公判で、検察がまともに「独禁法違反の犯罪」を立証できるとは到底思えない。
・それでも、敢えて、逮捕・起訴を行う特捜部や検察の幹部には、「無謀な起訴も、やってしまえば責任を問われることはない」という「打算」がある。起訴さえしてしまえば、公判は一審だけでも数年がかかり、最終的に結果が出るのは現在の検察幹部がすべて現場を離れてから、退職してからのことなので、現時点の特捜幹部・検察幹部にとって、責任を問われることはないという「責任回避のシステム」がある。だから、無謀極まりない特捜の起訴も、決して思いとどまろうとしないのだ。
・独禁法は、経済社会における「公正かつ自由な競争」を法目的とする法律だ。その罰則の適用は、法目的実現の手段の一つだ。しかし、特捜部にとっては、独禁法という法律も、自らの都合で捜査権限を行使するための手段の一つに過ぎないと考えているのであろう。
・大阪地検不祥事による批判を受け信頼を失墜しても、全くめげることも、反省することもなく、組織の体面維持と責任回避のために、捜査権限を私物化する「権力ヤクザ」そのものの特捜部の「独善」の実態が、今回の逮捕で改めて露わになったと言えよう。
https://nobuogohara.com/2018/03/02/%E9%80%86%E3%82%89%E3%81%86%E8%80%85%E3%81%AF%E9%80%AE%E6%8D%95%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%8C%E6%A8%A9%E5%8A%9B%E3%83%A4%E3%82%AF%E3%82%B6%E3%80%8D%E3%81%AE%E7%89%B9%E6%8D%9C%E9%83%A8/

次に、弁護士の山口利昭氏が3月5日付けビジネス法務の部屋に掲載した「リニア工事談合事件の摘発はやはり日本版司法取引の試金石か?」を紹介しよう。
・すでに多くのマスコミで報じられているとおり、リニア工事談合事件において逮捕者が出る事態となりました。課徴金減免申請(自主申告)をしている2社からは逮捕者が出ていないことから、リニエンシー制度の活用の有無によって検察の対応も分かれたとの推測(あくまでも推測です)も出ています。
・ただ、3月4日の毎日新聞ニュースによりますと、リニエンシーを活用した大林組、清水建設の役職員の方々も立件の予定、とされています。つまり公取委の調査開始前にリニエンシーを活用した(様式第2号による報告書を提出した)ものではないとして、課徴金の免除まではもらえず、減額にとどまる(つまり刑事告発を見送る、というわけではない)ものと推測されますね。検察による偽計業務妨害罪容疑の捜索・差押えが先行していたから、ということでしょうか。
・さて、今回のリニア工事談合への検察の捜査手法を眺めますと、昨年12月のこちらのエントリーでも予想したように、今年6月から施行される日本版司法取引(刑事訴訟法上の協議・合議制度)を先取りしたものではないか、といった観測がますます現実味を帯びているように思えます。元検事の著名な弁護士の方も、3月4日の産経新聞ニュースの記事で解説をされています。もちろん独禁法事件については公取委の告発権限もありますので、検察独自で判断できるわけではありませんが、捜査や公判に協力的な姿勢を示す役職員には、身柄拘束に関しては慎重な対応を心掛ける・・・といった実務を定着させるための試金石になっているように思います。
・先の毎日新聞ニュースでは、談合の事実を否認して逮捕された方の後任の方が「談合はあった」と供述している、と報じています。談合を認める供述を開示した時期と逮捕の時期との前後関係は明らかではありませんが、いずれにしても身柄拘束の可能性を仄めかして捜査協力を求めた可能性はあると思いますし、今後の経済財政関係犯罪への司法取引の威力を垣間見るような出来事です。
・逮捕者が出た2社については東京都が指名停止とするそうですから(こちらのニュース参照)、リニエンシー制度の活用に関する経営判断は、企業業績に大きなものとなります。企業の取締役、監査役にとって、今後リニエンシーを活用するかどうか、司法取引に応じるかどうかの判断には、大きなリーガルリスクが伴うことになりそうですね。
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2018/03/post-9432.html

第三に、3月12日付けダイヤモンド・オンライン「ゼネコンのリニア談合で逮捕者、地検特捜部の次の狙いは?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今月2日、リニア中央新幹線の工事をめぐる談合事件が、とうとう大手ゼネコン幹部らの逮捕に発展。ゼネコン業界に衝撃が走った。 「まさか逮捕に踏み切るとは思わなかった。見せしめとしか思えない」と大手ゼネコン幹部は言う。
・見せしめと断じるわけは、東京地検特捜部により独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で逮捕されたのが、談合に関わったとされる4社のうち、容疑を否認する2社、すなわち大成建設と鹿島のリニア担当者だけだったからだ。
・「到底承服致しかねる。嫌疑をかけられている内容は独禁法違反に該当しない」 逮捕という事態に、そう地検との対決姿勢をあらわにした大成に限らず、ゼネコン側には談合という意識は希薄だ。談合を認めた清水建設も社内弁護士が独禁法の課徴金減免(リーニエンシー)制度の活用を勧め、不承不承ながらだったという。4社以外のゼネコン幹部は心情をこう代弁する。「例えるなら、時速100キロ制限の高速道路を105~110キロで走っていたら捕まったという感じだろう」。
・逮捕に至った以上、起訴は避けられそうもなく、そうなれば対決の場は法廷へ移る。だが、立証のハードルは低いとは言い難い。 「独禁法違反の犯罪とはいえない」と地検を批判するのは、元検事の郷原伸郎弁護士だ。 「独禁法の『不当な取引制限』は、一定の取引分野で競争の制限があった場合を処罰の対象とする。リニア工事全体ではなく、(容疑となった)2駅の工事だけでは難しい。仮に、2駅を一定の取引分野と仮定しても、大成と鹿島は、受注した大林組と清水に協力しただけの立場。互いに持ちつ持たれつで合意を実行する『相互拘束の関係』とはいえない」
・片や、元公正取引委員会首席審判官の鈴木満弁護士は、「事案の重大性に加え、『談合決別宣言』を出した大手ゼネコンが、受注調整をしていたことを考えると悪質。ゼネコンの認識が甘過ぎる」と切って捨てる。その一方で「証拠がまだ不十分のため、逮捕に踏み切ったと考えられる。失敗すれば面目丸つぶれ。地検の威信に懸けて徹底的にやるということ」と言う。
▽次は南アルプストンネル?
・実際、地検による大成と鹿島への攻勢は「これからが本番だろう」と別の業界関係者は言う。前述のように今回の逮捕容疑は「品川駅」と「名古屋駅」の二つの新駅建設工事で、受注したのは大林と清水という白旗組。だが、両社はリーニエンシー制度を使ったが、調査開始後だったため30%の減免になり、有罪になれば数十億円規模の課徴金が科せられかねない。
・「否認する2社に課徴金を科せられる事案が立件されなければ不公平」と前出の関係者。特捜部の次の狙いは、大成と鹿島が受注した南アルプストンネル工事の立件と目されている。リニア談合事件は、ゼネコンと地検いずれの汚点と刻まれるのか。
http://diamond.jp/articles/-/162955

第一の記事で、郷原氏は、 『この事件は、「独禁法違反の犯罪」で刑事責任を問うような事件ではない』、と断言している。 『大成建設では、法務部に対する捜索で、弁護士が捜査への対応・防禦のために作成していた書類や、弁護士のパソコンまで押収し、さらに検事が社長室に押しかけ「社長の前で嘘をつくのか」「ふざけるな」などと恫喝したとして、大成建設側が「抗議書」を提出したところ、その日の夜、同社だけに「3度目の捜索」を行うなど、抵抗する社を捜査権限で踏みつぶそうとしてきた特捜部』、という特捜部の横暴ぶりは目に余る。 『単に、「検察の主張に反対して抗戦している奴らは、検察の捜査権限を使って徹底排除する」という、身勝手極まりない検察の論理による逮捕のように思える』、 『特捜部や検察の幹部には、「無謀な起訴も、やってしまえば責任を問われることはない」という「打算」がある。起訴さえしてしまえば、公判は一審だけでも数年がかかり、最終的に結果が出るのは現在の検察幹部がすべて現場を離れてから、退職してからのことなので、現時点の特捜幹部・検察幹部にとって、責任を問われることはないという「責任回避のシステム」がある。だから、無謀極まりない特捜の起訴も、決して思いとどまろうとしないのだ』、という無責任さが仕組み上にあるのであれば、「冤罪」なども無くなる筈がないことになる。司法に公正さを期待できる筈もないことになる。やれやれ・・・。
第二の記事で、 『毎日新聞ニュースでは、談合の事実を否認して逮捕された方の後任の方が「談合はあった」と供述している、と報じています』、というのはどういうことなのだろう。これだけでは、よく分からない。 『リニエンシー制度の活用に関する経営判断は、企業業績に大きなものとなります。企業の取締役、監査役にとって、今後リニエンシーを活用するかどうか、司法取引に応じるかどうかの判断には、大きなリーガルリスクが伴うことになりそうですね』、というのはその通りだろう。
第三の記事の最後で、 『「否認する2社に課徴金を科せられる事案が立件されなければ不公平」と前出の関係者。特捜部の次の狙いは、大成と鹿島が受注した南アルプストンネル工事の立件と目されている。リニア談合事件は、ゼネコンと地検いずれの汚点と刻まれるのか』、今後の展開が大いに注目される。
タグ:「リニア工事談合事件の摘発はやはり日本版司法取引の試金石か?」 リニエンシー制度 ビジネス法務の部屋 、課徴金減免申請を行って「談合を認めた」とされた大林組、清水建設に対して、大成建設、鹿島が徹底抗戦の姿勢を貫いたのは当然 大成建設では、法務部に対する捜索で、弁護士が捜査への対応・防禦のために作成していた書類や、弁護士のパソコンまで押収し、さらに検事が社長室に押しかけ「社長の前で嘘をつくのか」「ふざけるな」などと恫喝したとして、大成建設側が「抗議書」を提出したところ、その日の夜、同社だけに「3度目の捜索」を行うなど、抵抗する社を捜査権限で踏みつぶそうとしてきた特捜部。その暴走は止まらず、とうとう、この「特捜部に逆らう2社の担当者を逮捕する」という暴挙に出た 山口利昭 (その3)(”逆らう者は逮捕する”「権力ヤクザ」の特捜部、:リニア工事談合事件の摘発はやはり日本版司法取引の試金石か?、ゼネコンのリニア談合で逮捕者 地検特捜部の次の狙いは?) 郷原信郎 「”逆らう者は逮捕する”「権力ヤクザ」の特捜部」 東京地検特捜部 リニア入札不正・談合 日本版司法取引 ダイヤモンド・オンライン 「ゼネコンのリニア談合で逮捕者、地検特捜部の次の狙いは?」 次は南アルプストンネル
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司法の歪み(その6)(大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」を巡る警察・検察の不可解な動き(4回シリーズ)) [社会]

昨日、積水ハウス事件(その2)で地面師に触れたので、今日は、彼らが暗躍した別の事件を、司法の歪み(その6)(大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」を巡る警察・検察の不可解な動き(4回シリーズ))として取上げよう。なお、2回目以降の冒頭にある第1回へのリンクは省略)

先ずは、ジャーナリストの森 功氏が昨年12月8日付け現代ビジネスに寄稿した「大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」の真相 【スクープリポート】地面師を追う➀」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・土地を買うために大金を振り込んだのに、そのカネは闇に消えた……。東京で頻発する、にわかには信じられないほど奇怪な事件、それが「地面師事件」だ。APAホテルや積水ハウスも騙しとられ、今年、大きな注目を集めることになった。 今回、東京・世田谷を舞台にまた新たな地面師事件が発覚した。ジャーナリストの森功氏が、その真相を追うルポ・第一弾――。
▽大物地面師も登場
・ギリギリのタイミングだった。12月2日土曜日の午後7時過ぎのことだ。町田警察署刑事課の捜査員が、東京都内の関係先を一斉捜索した。そのなかに意外な対象者がいたという。内田マイクの関係先だ。 「北田と連絡がとれない。どこにいるのか」 夫人から自らの家宅捜索を知らされた内田は焦り、心当たりのあるところへ片っ端から電話をかけたという。それが瞬く間に広がり、町田署が手掛ける事件にも内田がかかわっているのか、という噂が広まった。
・地面師のあいだでは「町田の事件」と呼ばれるこの件。町田署は警視庁捜査2課と合同で、いよいよ本格捜査に踏み切った。すでに4人が逮捕されているという。おまけに家宅捜索の対象とされた内田マイクは、都内で暗躍する詐欺集団の中でも、頂点に立つ大物地面師であり、斯界の有名人である。
・2年前の2015年11月、杉並区内の駐車場オーナーになりすまして土地を売却、2億5000万円を詐取した事件で逮捕・起訴された。17年1月には1審の東京地裁で懲役7年の実刑判決が下ったが、当人は控訴して現在は、保釈中の身だ。 そんな大物地面師が焦ったという町田の事件。この数年、立て続けに起きている不動産詐欺の中でも、目下、警視庁が本腰を入れている事件として、関係者の注目を集めてきた。
・港区赤坂の地主になりすまし、ホテルチェーン「アパグループ」から12億6000万円を騙しとった11月29日の地面師詐欺摘発から間髪を入れず、当局が切り込んだといえる。年内に起訴まで持ち込める時間切れ間際に、その詐欺グループの主要メンバーを逮捕し、町田署に勾留している。
・本来、被疑者を逮捕すれば記者発表するのが常道だが、警視庁は事件をすぐに公表しなかった。そこには慎重にならざるをえない理由もあった。
▽「焼身自殺しようかと思った」
・「騙されてから2年半、ようやくここまでたどり着いた。この間、警察も信じられなくなり、いっそのこと、町田署の前でガソリンをかぶって焼身自殺をしようかと思ったくらいでした。本当に長かった」 被害者である不動産業者、津波幸次郎(仮名)に聞くと、そう本音を漏らした。 事件が解明へと動き出したのは今春だ。それまで捜査はかなり迷走し、紆余曲折があったが、警視庁はようやくこの事件の詐欺グループの主犯を名うての地面師、北田文明(別名・明)と睨んで捜査を進めるようになる。
・その捜査上の問題については稿を改めるが、この事件には、アパ事件で逮捕された元司法書士の亀野裕之も登場する。また前述したように内田マイクの影もちらつき、他にも陰で糸を引いている地面師が大勢見え隠れする。目下の被害額は5億円。奥行きの広い事件である。
・ことの始まりは15年4月半ばだった。都内で不動産会社を経営する津波が、かつてNTT寮だった土地・建物の売却話を知り合いの不動産ブローカーに持ちかけられたことに端を発している。その物件は東急上野毛駅に近い世田谷の好立地にあり、津波は建物をリフォームすればマンションとして使えると考えた。ブローカーは津波に対し、5億5000万円の買い取り価格を提示してきたが、津波は5億円なら買うといい、その値段で折り合ったという。
・物件の持ち主であるAから犯行グループのBがいったん物件を買い取り、津波のような不動産業者のCに転売する。 いわば「なりすましの存在しない不動産詐欺」であり、犯行グループは持ち主と不動産業者の仲介者として登場し、最終的に不動産業者から振り込まれた購入代金をせしめる。
・地面師事件では、概して詐欺集団が地主のなりすましを用意し、不動産会社に売りつけるというパターンが多いが、このケースは少し違う。ごく簡単にいえば、地主は本物だが、仲介者が、最終の買い取り業者から売買代金を騙し取るという手口だ。 そこで仲介業者として登場するのが、「東亜エージェンシー」なるペーパー会社だ。
▽取引を急がせた容疑者たち
・津波が説明してくれた。 「持ち主、東亜エージェンシー、うちの会社というAからB、BからCという取引のつもりでした。本来、二社で取引をすればいいのだけれど、20回に一度くらいはB社に利益を落とすため、そういうケースもあります」
・警視庁に、「地面師集団のボス」として本件の犯行を画策したと目されてきたのが北田だが、斯界ではその名が知られているせいもあり、津波に対しては本名の北田文明ではなく、明と名乗った。北田は「伍陵総建」や「東亜エージェンシー」といったペーパーカンパニーを取引の表に立て、なるべく津波との交渉現場には立ち会わないようにしていたが、それでも要所要所では交渉に出てきたという。
・詐欺は、最初から巧妙に仕組まれていた。元NTT寮の持ち主は、ほかにも宮城県仙台市内の山林を所有する資産家であり、当人は「山林とセットで20億円以上の値段で売りたい」と北田たちに持ちかけていた。ふたつの取引を巧みに使う、いわゆる「二重売買」だ。
・それを承知しながら、東亜エージェンシーは津波に元NTT寮の買い取りだけを持ちかけたというから、持ち主が納得して取引が成立するはずはない。はじめから騙すつもりだったといえる。が、それを津波は知る由もない。 「二重売買」で出てくる山林と元NTT寮をセットで買い取るという会社は「プリエ」といった。これも北田が用意したと目されるぺーパーカンパニーだ。
・プリエは物件の持ち主Aに対し、希望通り元NTT寮と仙台の山林を合わせ、20億円で二つの不動産を買い取ると約束した。その実、裏では津波に対し、東亜エージェンシーが元NTT寮だけを持ち主から買い、5億円で転売すると提示した。まったく異なる二つの取引なのだが、津波はそうとも知らず、5億円を用意する羽目になる。
・地面師集団に限らず、詐欺師が相手を騙すとき、取引を急がせる傾向がある。彼らにとってはどさくさに紛れて取引を進めるスピードが大事だといえる。実際、このケースでも、津波は話が持ち込まれた4月半ばから2週間後の月末取引を要求された。
▽「他にも競争相手がいるので、取引をさらわれてしまう」
・そう言って津波に危機感を植え付け、買い取りを急がせた。津波はさすがに4月中の契約は無理だと断ったが、そうそう先延ばしにすることもできない。そして5月に入り、実際に取引の交渉が始まった。 不動産取引のプロである津波は、むろん持ち主の存在を確認するため、仲介者である東亜エージェンシーに、持ち主本人との面会や直接交渉を要請した。通常の地面師事件では、犯行グループがここでなりすましを用意するのだが、このケースでは本物が立ち会ったので、余計に信じ込んだともいえる。
▽地面師に加担する司法書士
・そうして12日、津波たちは実際の持ち主とともに元NTT寮の中に入って確認し、ひと安心した。リフォームする工事業者の手配までし、5億円の代金振り込みをする契約日を27日と決めたのである。津波が打ち明ける。 「5月20日になって、もともと話を持ってきた不動産ブローカーたちが、うちの会社に北田を連れてきました。そこで1週間後の27日に決済したい、という。ずっと取引を急かされてうんざりしていたのですが、それでも一週間後なので了解しました。あとでわかったんですけど、なぜ1週間の猶予があったかといえば、その間、亀野という重要な役割をする詐欺師が海外に行っていて、日本にいなかったからでした。彼が戻って来てから決済しようとなったのでしょう」
・まさに地面師の広く深いネットワークが垣間見える。亀野裕之は千葉県内で司法書士事務所を運営している司法書士であり、アパ事件では地面師の宮田康徳らとともに、中心的な役割を担った人物でもある。東向島の料亭を経営していた地主になりすました地面師事件でも、宮田とともに今年2月に逮捕されている。
・そして亀野の帰りを待って、問題の取引が、北田の要請により、Y銀行の町田支店の部屋を借りておこなわれることになった。繰り返すまでもなく、表向き物件の持ち主から東亜エージェンシーが元NTT寮を買い取り、東亜社が津波に転売するという体裁をとる。それを同時に行う同日取引とし、東亜社には斡旋料が落ちるだけのはずだった。
▽なぜ立件までに2年半もかかったのか
・こうした取引には、物件の所有者や仲介者の取引銀行に応接・会議室を用意してもらい、そこで作業をする。 「A社からB社、B社からC社という二つの取引なので、同じ銀行の支店内で二つの部屋を借り、それぞれの司法書士が立ち会って契約を交わし、代金を支払う手はずになっていて、指定されたところがY銀行の町田支店でした。ところが取引当日になって、東亜・北田側は、『町田支店に持ち主の方が来ない』という。東急線沿線の学芸大駅前の支店に呼んでいるから、うちの社員とこちらの司法書士をそちらに向かわせてほしいというのです。で、町田と学芸大駅前の二手に分かれて作業をしなければならなくなりました」
・これもトリックの一つだ。 犯行グループの申し出を整理すると、27日の同日売買で、津波がY銀行町田支店で5億円を支払い、斡旋料を差し引いた分が東亜エージェンシーを通じてプリエに渡り、山林分の代金を合算した20億円が持ち主のところへ支払われるという。
・本来、町田支店で下ろした津波の5億円がM銀行の学芸大駅前支店に届き、その場で津波側と東亜エージェンシーを通じて持ち主に売買代金を渡せば取引が完了するはずだ。が、犯行グループはそんなつもりなど毛頭ない。単なる時間稼ぎのため、当日になって持ち主を別の遠くの支店に呼び出して取引を分断させ、目くらまししたに過ぎない。
・そして事実、津波の支払った5億円は、まんまと犯行グループの手で、その日のうちに4分割されて北田たちのもとへ振り込まれてしまっていた。4分割された5億円は、東亜エージェンシーを介した1億円を含めて北田に1億3000万円が渡り、犯行グループが仕立てた大阪のペーパーカンパニーに、その日のうちに3億3000万円ほどが振り込まれていた。いわば籠脱け詐欺のようなものだ。
・その間、M銀行の学芸大駅支店で待機していた津波側の司法書士や社員たちは呆然として、どうすることもできない。むろん所有権の移転登記などできなかった。 知らせを受けた津波は、すぐさま動いた。午後7時半、東亜エージェンシーの社長を都内で捕まえ、問い詰めた。すると妙な言い訳をした。それが前述した「二重取引」だ。
・犯行グループの言い分を整理すると、27日の同日売買で、津波がY銀行町田支店で5億円を支払い、そのうち斡旋料を差し引いた分が東亜エージェンシーを通じてプリエに渡り、山林分の代金を合算した20億円を持ち主のところへ支払う手はずだったという。 しかしもとより彼らが20億円用意するつもりなどハナからなく、津波も騙されたことを確信し、町田警察署に突き出した。北田も一時は観念したのか、間もなく出頭した。
・が、すぐに釈放され、事件の本格的な立件までには2年半という月日を費やしている。そこには、捜査にも大きな問題があった。 (敬称略 つづく)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53739

次に、上記の続き、12月20日付け「世田谷5億円詐取事件・追い詰められた地面師たちの「卑劣な言い分」 世田谷地面師事件の真相②」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・名うての地面師、北田明こと北田文明をはじめ、配下の「東亜エージェンシー」社長松田隆文や同社の大塚洋、「プリエ」社長の茅島ヒデトこと熊谷秀人ら4人が、町田警察署の捜査員に逮捕・勾留されたのは、今年12月4日から5日にかけてのことだ。 かつてNTT寮だった世田谷区の土地建物の売買を装い、買い手の東京都内の不動産業者、津波幸次郎(仮名)から5億円を詐取したという不動産詐欺である。
・犯行日は、2年半前の2015年5月27日にさかのぼる。その手口のあらましは前回も簡単に紹介したが、今回は被害者の証言を中心に、事件をより詳細に再現し、地面師グループの手口をレポートする。
▽犯行グループ最初の仕掛け
・被害者の津波は北田らの口車に乗せられ、27日になって売買取引の場所に指定されたY銀行の町田支店とM銀行の学芸大駅前支店の二カ所に、会社の社員と司法書士を派遣した。 なぜ銀行も支店も異なる別々の場所で取引をおこなうのか、という津波の疑問に対し、北田は土地の持ち主の取引口座がM銀行しかないこと、さらに持ち主の自宅から町田が遠いという理由で学芸大駅前の支店にしたのだ、と言い繕う。これに対し、むろん津波側も妙だとは思ったが、取引の直前になってそう伝えられたため、了承せざるを得なかった。
・これが、犯行グループの最初の仕掛けだ。津波はY銀行の町田支店にベテラン司法書士と担当課長を配し、M銀行の学芸大駅前支店には司法書士事務所の若手職員を向かわせた。 当初、津波が持ちかけられた取引は、持ち主から東亜社が元NTT寮を買い、改めて東亜社が津波に転売するという形だった。津波の社員がY銀行町田支店で売買代金の5億円を引き出し、仲介者である東亜社がそれを受け取ってM銀行学芸大駅前支店に送金して持ち主の口座に入金するという段取りだ。 そこに、地面師グループの北田たちはもう一つトリックを用意した。それが「プリエ」の熊谷の介入である。
▽見せ金29億円
・取引当日の朝になると、北田たちは「プリエの熊谷が持ち主から物件を買う窓口となる」と言い出し、送金について「津波→東亜→プリエ→持ち主」という取引になったと話した。これは登場人物を増やすことによって、犯行の発覚を遅らせるという詐欺師の常套手段でもあるのだが、津波側はここでも突然の条件変更を呑まざるを得なかった。
・前回書いたように、さらにその際、津波たちは持ち主が元NTT寮のほかに仙台の山林を売りたがっているという話も、取引当日になって聞かされた。北田や松田からは、「仙台の土地取引は本件とは関係ないので、5億円さえ払えば元NTT寮の物件を買える」との説明を受けたので、それも応じた。
・これは、犯行グループが元NTT寮と仙台の山林をセットで売りたいという持ち主の要望に応えるためでもあるが、その裏で、窓口になるプリエに、それだけの資金力があるかのように見せかける工作もしていた。  津波がその手口を明かした。
・「あとでわかったのですけど、持ち主に対しては、プリエは『すぐにでも仙台の山林と世田谷の建物(元NTT寮)を一括で買える資金がある』と説明していたのです。プリエの銀行口座にある29億円の残高を見せ、『だから安心してください』と。ところが実は、その29億円は北田が小切手を使って入金したもの。使えない見せ金だったんです」
・小切手や手形を駆使したこうした見せ金もまた、詐欺師の得意の手口だ。経営難に陥っている会社を見つけてきて、そこに手形を振り出させる。巷間、その手形は〝ポン手〟〝クズ小切手〟と呼ばれ、手形交換所に回すと不渡り確実なので、現金として引き出すことができないのだが、形の上ではその分の預金が積み上がったことになる。
・ところが津波側の司法書士でさえ、そのプリエの預金残高を見せられて信用したようだ。 会社の資産状況を示す証拠としては、銀行に現預金の残高証明書を発行してもらうのがふつうだ。が、それだとクズ小切手による入金工作がばれてしまう。そこで北田は、通帳や残高証明ではなく、ATMの伝票を持ち主や津波側の司法書士に見せ、信用させたのである。
▽タバコを吸いながら足を組んで…
・実際は、よく見るとATMの伝票にも小切手による入金が小さく記されているのだが、見落としてしまったようだ。取引の現場には、相手側の司法書士である亀野裕之の部下が立ち会っていて、同じ司法書士同士でまさかそこまでするとは思っていなかったのかもしれない(前回も書いた通り、亀野はアパホテルを巻き込んだ地面師事件で逮捕されたいわくつきの男だ)。津波はこう悔しがる。 「亀野はあちこちで悪事を働いてちょうど懲戒処分を受けている最中でしたので、正式に取引に立ち会うことができない、ということで代わりに部下に座らせていただけでしょう。その部下は自分の意思も何も無い操り人形みたいな感じで、司法書士事務所の職員も、たしかに残高はあるんだなって思ったそうです」
・津波側の担当社員や司法書士は、Y銀行町田支店で5億円を引き出し、東亜社の松田がその引き出し伝票をもとに、M銀行学芸大駅前支店にいるプリエ側に送金するものと信じ込んでいた。 取引の第一段階である町田支店での津波たちの5億円引き出しが行われたのは、27日午前10時から12時までの間のことだった。言ってみれば、津波側の作業は町田支店で終了したことになる。あとは学芸大駅前に派遣している津波側の司法書士事務所の職員が、プリエから持ち主への5億円の入金を見届けるだけだ。事実、それができれば、持ち主から登記書類を預かり、世田谷の法務局で所有権の移転登記をおこなえる。
・ところが、待てど暮らせど学芸大駅前支店には5億円の送金がない。津波は、そのあたりの出来事も社員や司法書士からのちに詳しく聞きとり、確認していた。 「少なくとも銀行の閉まる午後3時までには、学芸大駅前支店でプリエから持ち主の口座に入金しなければならないのですが、その時間を過ぎ、向こうにいるこちら側の司法書士事務所の職員からも、『どうなってるんだ』という電話が僕の携帯に入ってきました。町田支店で作業を完了しているのだから、うちの司法書士の先生たちは世田谷の法務局で落ち合う手はずになっていて、向かっていました」
・津波が苦渋の表情を浮かべながら、記憶の扉をあけた。 「それで、3時40分頃に司法書士の先生に電話で確かめると、『松田が間違えて売買代金を別のところへ振り込んじゃったらしい。明日には金を戻させると言っているので、登記は明日でいいですか』という。 思わず『ちょっと待って、それが嘘だったらどうなるんですか』と言い、そこから学芸大駅前支店の司法書士事務所の職員たちに『プリエの茅島(熊谷)はどうしているんだ』と聞いたんです。茅島は『うちは20億円くらい払おうと思えば払えるけど、商売だから、そっちからお金が来ないことにはそれまでは払えません』ととぼけていたらしい。
・そのうち、『近くで(別の)取引があるので、それを確認してきます』と言い残したっきり、銀行の支店に戻って来なかった。彼らは4時になっても、ずっと銀行の外で待っていたそうです。普通じゃないし、もう放っておけませんでした」
・津波側の司法書士は、この間、東亜社の松田と電話でやり取りをしていたようだが、もはや埒が明かない。不安を覚えた津波は迅速に動いた。その日の夕方になって、御茶ノ水にいるという松田を捕まえた。それが午後7時ごろだ。津波はこう話した。 「司法書士といっしょに松田と向き合うと、彼はタバコを吸いながら、足を組んで余裕を見せていました。本当に振込先を間違えちゃったとしたら慌てふためいているはず。なのに、普通にしてるのです」
▽「結婚被害に遭っているので…」謎の言い訳
・ここまで来ると、もはや相手を信用できるわけがない。津波は松田を問い詰めた。 「一体どうなっているんだ、と……。このとき振込伝票の控えをもらって、それですべてがわかったのです。こちらの5億円は、北田や松田によって4分割され、まったく関係のないところに渡っていました。 一つは北田が現金で3000万円を引き出して持ち帰り、残り4億7000万円のうち、セキュファンドという会社の口座に3億2500万円、東亜に1億円、あとセブンシーという会社にも4000万円が振り込まれていました」
・東亜社の松田が4分割したうち、最も大口なのが、大阪府岸和田市に登記されているペーパー会社のセキュファンドだった。津波が言葉を絞り出すように、こう説明した。 「松田に『セキュファンドという会社を知ってるのか』って聞いたら、『そこには電話で話して戻すことを確認したから大丈夫です』って言うんです。けど、実はそれも嘘だった。ネットでその会社を調べても、ファックス番号すら出てこない」
・業を煮やした津波は松田を連れ、その足でセキュファンドのある大阪へ向かった。最終新幹線の車中、松田はスマホをいじりながら、誰かとメールでやり取りをしていたという。津波が続ける。 「そこで、『松田さん、疑わしいことがないんだったら、あなたのその携帯の着信履歴を見せてください』と迫ったのです。彼は最初拒んでいたんだけど、しぶしぶ見せてくれました。松田の電話には、北田の電話番号が北川という偽名で入っていました。
・LINEもやっていて『もう少し耐えろ』とか、『ギリギリまで頑張れ』みたいなことがメッセージとして残っていて、松田のほうからは『弁護士を紹介してくれ』ともありました。 『なぜ弁護士に相談する必要があるのですか? これはどういう意味ですか』と聞いたら、最初はもごもご誤魔化していましたけど、『自分は結婚詐欺被害に遭ってるので相談しようとしてる』なんて、とってつけたような辻褄が合わない言い訳をしてました」
・大阪着は深夜になった。翌朝、振込先のM銀行に向かい、さらにセキュファンドを訪ねた。3億あまりが振り込まれたはずの銀行の口座は、すでに空っぽになっているうえ、セキュファンドがあるはずの場所に行っても、会社の看板すらない。 そこは、誰もいないマンションの一室だった。 (文中敬称略 次回へ続く)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53871

第三に、上記の続き、2月2日付け「「焼身自殺で抗議しようと思った」地面師被害者を苦しめた警察の怠慢 騙し取られた総額、5億円」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽これでは被害者が救われない
・どうにも不可解な「仕事納め」としか言いようがない。世田谷の元NTT寮の土地建物取引を巡る5億円詐取における、東京地検の事件処理のことだ。 これまで書いてきたように、昨年12月4日から5日にかけ、地面師の北田文明や配下の松田隆文ら4人が、警視庁捜査2課と町田警察署に逮捕された。そこからいよいよ年の瀬の押し迫った22日後の昨年暮れ、東京地裁立川支部は2017年最後の仕事として、北田と松田の2人を起訴した。が、4人のうち残る2人は不起訴処分となり、釈放されてしまったのである。
・世田谷の5億円事件は、内田マイクをはじめとした大物地面師たちの関与も取り沙汰されていた。ホテルチェーン「アパグループ」や住宅建設「積水ハウス」が被害に遭った他の事件との関連も囁かれていた。だが、そうした事件との関わり合いが解明されるどころか、このままでは事件はこぢんまりと矮小化されてしまう公算が大だ。これでは被害者も救われない。
・都心で横行する地面師事件は、その規模や悪質性の割に表沙汰にならないケースが多い。文字どおり摘発されるのは氷山の一角なのだが、それすら全貌解明に届かない。なぜこうなってしまうのか。改めて世田谷事件を検証しながら、その原因を探る。
▽「間違えて振り込んだ」と言い訳
・地面師グループに騙されて、5億円を支払った東京都内の不動産業者、津波幸次郎(仮名)が、くだんの取引をおこなったのが、2015年5月27日のことだ。これが詐欺の犯行日である。 地面師の北田から指示を受け、仲介業者として登場した「東亜エージェンシー」社長の松田が、津波の5億円を分配して詐取する。その5億円の中で、振込先となっていた大阪・岸和田のペーパーカンパニー「セキュファンド」への金の流れを、津波たちは独自に追及した。
・銀行伝票の控えからその流れを時系列で整理すると、まず松田は、取引当日の27日午後1時頃、騙し取った5億円のうち、3億2500万円をM銀行六本木支店のセキュファンド社名義の口座に振り込んだ。そこが本来、売り主の待っていたM銀行学芸大駅前支店とは別の口座なのは、言うまでもない。そして、その振り込みの11分後、全額近い3億円あまりが口座から引き出され、残金がほぼゼロになる。
・正確な資金の流れはのちに気づいた事実だが、不審を抱いた津波たちは極めて迅速に動いた。27日中に松田を都内で捕まえ、松田とともにセキュファンドの事務所のある大阪に向かった。翌28日、大阪のM銀行で口座が空になっているのを確認すると、セキュファンドの事務所を訪ねた。津波本人が思い起こす。
・「驚いたことに、そこはただのワンルームマンションで、会社の看板も出ていませんでした。『もぬけの殻』とはこのことです。それで東京に取って返し、僕の会社で善後策を練ることにしたのです。 会社には取り引きした銀行の方がお見えになっていました。松田らは間違えて振り込んだと言い張っていました。銀行の方によれば、もし本当に間違いなら〝組み戻し〟という作業をして、いったん元に戻すこともできるという話でしたので、念のためその作業をしたのですが……」
▽「松田を釈放する」
・もとより振り込みは間違いなどではなく、意図した詐欺である。もはや銀行手続きで取り戻せるはずもなく、あとは警察に委ねるしかない。津波は松田を町田署に突き出した。 「そうして松田を町田警察署に引き渡したのです。そこで松田が具体的に警察へどう説明したのかはわかりません。ただ、そのあと町田警察の係長が言った言葉が、妙に引っかかりました。『あんたたち、みなで松田を責め立てたのはまずかったな』と。その意味があとになってようやく理解できました」
・津波にしてみたら、死にもの狂いの訴えだ。こう言葉を絞り出し、当時を振り返った。 「町田警察に行ったのが夕方の18時頃だったと思います。その場で、『しっかり捜査をしてください』と伝えました。ところが係長は、その日のうちに、松田を釈放すると電話で伝えてきたのです。 松田を捕まえて5億円の行く先を追及すれば、多少なりとも騙し取られたカネが返って来ると思ったので、『そんなバカな、帰さないで捜査してください』と必死でお願いしました。でも『分かった、分かった』と取り合ってくれない。『もう切るぞ』と係長は言ったきり、一方的に電話を切ってしまい、本当に釈放してしまったのです」
・津波は犯行の翌28日18時頃に松田を町田署に連れて行き、20時に松田は釈放されたという。その間、町田署による松田の取り調べはわずか2時間程度でしかない。あまりに杜撰な捜査と言わざるを得ない。
・津波はそのあと、長野県にある松田の両親の住む実家まで突き止め、5月中に、担当社員とともにそこを訪ねたという。 「実家は安曇野のあたりで、東京から6時間くらいかかりました。そこで『息子さんが騙し取ったカネを返してくれとは言わないから、せめて警察で正直に話すように説得してもらえませんか』とお願いしたのです。しかし、向こう(松田の両親)は慣れたもんでした。また来たか、って感じで、体よく追い返されました。
・それどころか、松田の弁護士を名乗る人物から、えらい剣幕で抗議の電話がありました。それで、その弁護士に『先生は当人が詐欺を働いていることを知っているんですか』と尋ねると、『それなら訴えればいいだろ』と開き直る始末でした」
▽「焼身自殺をしてやろうとも思った」
・その弁護士がどう動いたのか、については定かではない。一方、松田の身柄を押さえられる状況だった町田警察署の捜査は、そこから迷走を極める。その原因は捜査のやる気のなさというより、まったく見当違いな筋立てをしたせいだといえる。あろうことか、町田署では被害者の津波を共犯に見立ててしまうのである。  津波は世田谷の元NTT寮の購入のため、取引先のY銀行からその分の融資を受けた。それについて、津波が地面師たちと共謀し、銀行から融資を騙し取ろうとしたのではないか、と疑ったというのである。
・「私は融資に関して個人の連帯保証をしているんですよ。つまり会社が返済できなければ代わって私個人が銀行に払わなければならないのに、なぜそんなことをする必要性があるのか。その間違いがひどいのです。 当初、私は町田署に取引の資料や私の仕事のノートを提出し、担当の係長がコピーしていました。そこには、この件だけでなく、海外の仕事の計画やそれにまつわる資金需要のことも書いていました。それを見た係長が、銀行から融資金を騙し取り、海外に持ち出そうとしたのではないか、と疑ったのです。『ベトナムにカネを運ぶつもりだったんじゃないか』と。そんな明後日の方向の話をしていたのです」
・まるっきりの妄想というほかない。が、町田署の係長は現に津波にそう告げたのだという。その上で、前述したように「みなで松田を責め立てたのはマズかったな」という係長の発言になるらしい。 つまり町田署は、「津波が人身御供に松田を警察に差し出したが、当人を苛めすぎたので津波も共犯だと漏らした」と見立てていたのだという。
・あまりに荒唐無稽な話だが、事実、いっとき地面師仲間のあいだでは「津波共犯説」が流れた。むろんそれは彼らがよく行う捜査のかく乱のための情報操作であり、当局がそこにまんまと乗せられたともいえる。
・この間、主犯格の北田は自ら町田署に出頭。似たような話をしてきたとも伝えられる。津波は今もこう憤る。 「あのときは本当に悔しくて、警察署の玄関先で焼身自殺をしてやろうと思いました。そのくらい絶望的になりました。実際、それを会社の弁護士の先生にも相談したほどです」 津波にとっての救世主が、その顧問弁護士だったかもしれない。 (文中敬称略。次回へ続く)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54287

第四に、上記の続き、2月16日付け「大物ヤメ検弁護士が語る「地面師事件が続発する本当の原因」 世田谷地面師事件の真相④」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・(前回まで)2015年、大物地面師グループに騙され、5億円を支払った東京都内の不動産業者・津波幸次郎氏(仮名)。「実行犯」の一人を捕まえ、町田署に突き出したのだが、あろうことか警察は被害者である津波氏も「共犯ではないか」と疑い、聞く耳を持たない。「署の前で焼身自殺をしてやろうか」とまで思い悩んだ津波氏だが、ある弁護士に相談したことで、事件は大きく展開することに――。ジャーナリスト森功氏による「地面師ルポ」渾身の最終回
▽大物ヤメ検弁護士の回想
・焼身自殺まで考えたという地面師事件の被害者・津波の相談相手となったのが、同社の顧問弁護士を務める大鶴基成(61)だった。その大鶴に会って話を聞いた。 「当時の手帳で確認すると、津波社長が僕のところに相談に来たのは、2015年6月1日の月曜日でした。『警察がぜんぜん信用してくれない』と、まさに切羽詰まった様子。これはいかんと思い、翌日に社長といっしょに町田署に行ったんです。で、刑事課長をはじめ5~6人の刑事さんと狭い部屋で会いました。
・僕が『小さな会社で5億円も騙し取られて大変なので、早く捜査をして下さい』と願い出ると、驚いたことに課長は社長の前で、『誰が被害者か分かりませんからねっ』と笑うのです。さすがにムッとしましたね」 周知のように大鶴は、1990年代に東京地検特捜部でゼネコン汚職や第一勧銀総会屋事件を手掛けてきた。2005年に特捜部長に就任し、東京地検次席検事時代に摘発した2010年の陸山会事件の陣頭指揮を執ったとされる。11年8月に退官し弁護士に転身した、大物ヤメ検弁護士である。
・津波の会社の顧問弁護士として登場したその大鶴を前に、警察はそんな不遜な態度をとったというのだが、半面、当の大鶴自身は警察の真意を冷静に分析する。 「つまり警察は裏の裏を読んだんですね。不動産のプロが、なぜこんなふうにコロッと騙されるんですか、変じゃない? ってところでしょうか。それに加え、取引現場には司法書士もいましたから、ひょっとしたらこれは、津波社長が松田(東亜エージェンシー社長の松田隆文)たちと組んで、銀行から5億円を騙し取った共犯ではないか、と考えたみたいなんです」
・そう説明しながら、大鶴は事件発生当初の捜査当局の姿勢に対してこう憤った。 「そこで僕は言いました。『仮に僕が町田署の刑事課長としてこの事件を担当するなら、5人の捜査員を専従で当たらせて、1週間で彼らを逮捕するよ』ってね。もちろんそう簡単に完全な裏付け捜査は出来ない。
・たとえば、通信のキャリア業者からメールを押さえ、連絡網を解明するなどという捜査はすぐには間に合いません。しかし、少なくとも詐欺や業務上横領の容疑で身柄を押さえることは出来るし、そうしなければならない。僕は警察にそれを言ったんです。
・すると、彼らは『先生、そんなこと気楽に言うけど、検事が釈放するんですよ』と反論するのです。それは、わからなくはありません。(腰の引けているような)今の検察の体質からすると、逮捕しても釈放しかねないですからね」
▽それでも捜査が進まなかった理由
・世田谷の元NTT寮の不動産売買を巡る詐欺事件において、地面師の北田や松田たちは、「津波が支払った代金の5億円の振込先を間違えただけだ」と嘯いてきた。が、とどのつまりネコババした事実は動かない。したがって横領容疑で摘発すればいいだけの話である。こうした詐欺事件の場合、まず犯人の身柄を押さえ、詐取された金を取り戻すことが先決だからだ。
・そのため顧問弁護士の大鶴は、町田警察署を管轄する東京地検立川支部の検事とも掛け合った。話に熱がこもる。 「こんなものは単純な詐欺なんです。被害のあった翌日(2015年の5月28日)に津波社長が、松田の携帯電話を町田署に持って行って『ここに詐欺行為の片鱗がたくさん出てます。彼らの写真や画像も見て下さいっ』とも説明したんです。ところが担当の検事に会うと、詐欺の犯意がどうのこうのとおっしゃるばかりで、やる気が見えない。しかしそれはおかしい。
・仮に一万歩譲って、向こうに騙す犯意がないというなら、それはそれでいい。だけど、それなら業務上横領でやればいいだけのことです。だから『業務上横領容疑で捕まえればいいじゃないか。罪名が詐欺だろうが業務上横領だろうが、量刑にはほとんど変わりはないですよ』とも言いました。そう言い返したら、検事は頷いた。それでも事件は動かなかったのです。担当検事が代わるまでね」
・埒が開かないとみた大鶴は、警視庁本庁にも掛け合ったというが、大物ヤメ検が動いてなお、捜査当局は逡巡し、しばらくは捜査が進まなかった。こう言葉を継ぐ。 「そこで松田が釈放された次の週には、僕が松田から2回ヒアリングをし、物件の所有者や向こう側の司法書士からも話を聞いた。犯人グループにとっては、その司法書士のヒアリングが応えたんだろうと思うけど、そうして独自にこちらで調べていくと、(主犯格の)北田(文明)が自ら町田署に出頭したんです。ところが、そこでも警察は北田の弁解を聞いただけ。そのまま帰してしまったんです」
・ここに登場する司法書士とは、亀野裕之のことだ。アパホテルの地面師詐欺でも逮捕された地面師グループの一人である亀野のことは前に触れたので、ここでは割愛する。大鶴はこうも言う。 「この過程で、津波社長や会社の社員の人たちは、まるで警察のように犯人グループについて一生懸命調べてくれました。他の事件でも出てくる地面師の北田の人定をしたのも、警察ではなくわれわれです。たとえば連中の姓名や会社をネットで調べると、別の警察署に告訴が出ているとわかった。それを手繰り寄せていってね。その告訴人の弁護士に僕が電話で頼み込んで3件くらいの告訴状を取り寄せた。
・ただ、どの事件も告訴が不受理になっていて、警察はぜんぜん相手にしてくれない、と嘆いていました。そこに、くだんの司法書士も出てきたのです。だから、事件の根っこは、そのあたり。彼らを早く捕まえ、刑務所にぶち込んでいたら、おそらく彼らが引き起こしている事件の被害は、現在の10分の1くらいで済んだと思います。それを長い間、グズグズしているから、津波社長のような新たな被害者が出てしまうんです」
・警視庁管内で地面師詐欺が横行しているとはいえ、犯行を組み立てることのできるような頭の切れる地面師は、さほど多いわけではない。むしろ同じ犯人がいくつもの事件にかかわるケースがほとんどだ。 だからこそ、一つの事件を迅速に捜査すれば、被害は最小限に抑えられる。逆に事件を放置すれば、被害が広がるのは自明である。
▽行方をくらました地面師
・亀野が動いた事件でいえば、吉祥寺警察署に届けられた高円寺の土地取引もあり、売り主さんが亀野を信用して全部の書類を預けちゃった。売り主に渡ったのは手付金として3000万円だけ。残金がまだなのに、亀野やその仲間は、その土地を転売しちゃった。それで彼らは吉祥寺警察署に訴えられたけど、いざ訴えられると、売買代金の残りを返済する意思があると言いだし、それも事件にならなかった。僕のときも彼らは1000万円返すと言っていて、似たような構図なんです」
・5億円詐欺事件の被害者である津波幸次郎はそう悔しがる。 「事件から数カ月、僕は必死で犯人を追いかけました。振込先となった大阪のセキュファンドには3回も出向き、留守番を名乗る人物にも会った。その人間も言ってみれば一味だったはずです。留守番から免許証も見せてもらい、姓名も確認した。それでも警察は動かない。本当に絶望的でした。
・毎夜日付けが変わる頃まで、銀行から借りた5億円の穴をどうやって埋めればいいか、考えあぐねました。会社で所有していた物件を片っ端から売って、生命保険や土地などをすべて担保に入れ、別会社で借り入れて返しましたけど……」
・事件発生以来、2年半、文字どおり不眠不休で資金繰りに駆けずり回り、凌いできたのだという。 世田谷の事件では、幸いにも2017年春、東京地検立川支部に特捜部で鳴らした経験のある検事が赴任した。さすがに特捜検事だけあって、事件の筋読みができる。また元特捜部長の大鶴にとって後輩にあたるので、話を通しやすかったのかもしれない。そこから捜査が動き始めた。そうして2年半を経た末、昨年12月の逮捕にこぎ着けたのは、これまで書いてきた通りだ。だが、事件捜査は全貌解明にはほど遠い。
・事件には、大物地面師の内田マイクやその仲間、司法書士の亀野や振込先となったセキュファンドなど、10人前後の犯行グループが見え隠れしてきた。にもかかわらず、そもそも逮捕されたのは4人だけであり、そのうち起訴されたのは北田と松田だけなのである。
・その他、明らかに一味だと思われる者については、たとえば口座を貸しただけだとか、自分自身も騙されたと言い張ったりとか、あるいは他の事件で逮捕されているから必要ない、という理由でお咎めなしになっている。それ自体奇妙な理屈だが、とどのつまり捜査は終結し、それ以上は進まない。
・事件はすでに法廷の場に移り、初公判は3月26日に決まった。地面師グループのボスと目される内田は、杉並区の駐車場を巡る詐欺事件で、1審、2審ともに懲役7年の実刑判決が下り、奇しくもこの事件の本格捜査が始まった昨年12月、最高裁での上告が棄却され刑が確定。収容状が出たとたん、そこから行方をくらまし、目下、逃走している。 (敬称略 了)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54433

第一の記事で、 『地面師集団に限らず、詐欺師が相手を騙すとき、取引を急がせる傾向がある。彼らにとってはどさくさに紛れて取引を進めるスピードが大事だといえる。実際、このケースでも、津波は話が持ち込まれた4月半ばから2週間後の月末取引を要求された・・・「他にも競争相手がいるので、取引をさらわれてしまう」 そう言って津波に危機感を植え付け、買い取りを急がせた』、というのでは、不動産取引のプロである被害者の津波氏といえども、やはり騙されてしまうようだ。
第二の記事で、 『銀行も支店も異なる別々の場所で』、 『登場人物を増やすことによって、犯行の発覚を遅らせるという詐欺師の常套手段』、などはなるほど仕掛けはよく考えられている。ただ、 『銀行に現預金の残高証明書を発行してもらうのがふつうだ。が、それだとクズ小切手による入金工作がばれてしまう。そこで北田は、通帳や残高証明ではなく、ATMの伝票を持ち主や津波側の司法書士に見せ、信用させたのである』、というのは、騙される方もお粗末だ。
第三の記事で、 『津波は犯行の翌28日18時頃に松田を町田署に連れて行き、20時に松田は釈放されたという。その間、町田署による松田の取り調べはわずか2時間程度でしかない。あまりに杜撰な捜査と言わざるを得ない』、 『あろうことか、町田署では被害者の津波を共犯に見立ててしまうのである。  津波は世田谷の元NTT寮の購入のため、取引先のY銀行からその分の融資を受けた。それについて、津波が地面師たちと共謀し、銀行から融資を騙し取ろうとしたのではないか、と疑ったというのである。 「私は融資に関して個人の連帯保証をしているんですよ』、というのには驚いた。 『いっとき地面師仲間のあいだでは「津波共犯説」が流れた。むろんそれは彼らがよく行う捜査のかく乱のための情報操作であり、当局がそこにまんまと乗せられたともいえる』、捜査のかく乱のための情報操作までするとは地面師は本当に知能犯だ。それに乗せられた町田署はお粗末だ。
第四の記事で、 『大物ヤメ検弁護士・・・を前に警察はそんな不遜な態度をとった』、というのは、ある意味では権威に右顧左眄しない立派な態度とも言えるが、今回の場合は、東京地検立川支部の検事も含めて、自分たちの考えに固執して、虚心坦懐に他人の意見を聞こうとしない思い上がった態度といえよう。 『(主犯格の)北田(文明)が自ら町田署に出頭したんです。ところが、そこでも警察は北田の弁解を聞いただけ。そのまま帰してしまったんです』、 北田に対し別件で出されている 『3件くらいの告訴状を取り寄せた・・・ただ、どの事件も告訴が不受理になっていて、警察はぜんぜん相手にしてくれない』、など警察の余りに慎重な姿勢には強い疑問を感じざるを得ない。  『一つの事件を迅速に捜査すれば、被害は最小限に抑えられる。逆に事件を放置すれば、被害が広がるのは自明である』、というのはその通りだ。  『事件には、大物地面師の内田マイクやその仲間、司法書士の亀野や振込先となったセキュファンドなど、10人前後の犯行グループが見え隠れしてきた。にもかかわらず、そもそも逮捕されたのは4人だけであり、そのうち起訴されたのは北田と松田だけ』、に至っては、全く理解できない。冤罪事件も数多く起こしている検察や警察は、地面師絡みの事件では、一体、何を考えているのだろう。
タグ:積水ハウス事件(その2) (その6)(大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」を巡る警察・検察の不可解な動き(4回シリーズ)) 司法の歪み 地面師 森 功 現代ビジネス 「大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」の真相 【スクープリポート】地面師を追う➀」 町田の事件 アパグループ 12億6000万円を騙しとった NTT寮だった土地・建物の売却話 いわば「なりすましの存在しない不動産詐欺」であり、犯行グループは持ち主と不動産業者の仲介者として登場し、最終的に不動産業者から振り込まれた購入代金をせしめる なぜ立件までに2年半もかかったのか 「世田谷5億円詐取事件・追い詰められた地面師たちの「卑劣な言い分」 世田谷地面師事件の真相②」 銀行も支店も異なる別々の場所で取引をおこなう 見せ金29億円 通帳や残高証明ではなく、ATMの伝票を持ち主や津波側の司法書士に見せ、信用させたのである 「「焼身自殺で抗議しようと思った」地面師被害者を苦しめた警察の怠慢 騙し取られた総額、5億円」 町田署による松田の取り調べはわずか2時間程度でしかない。あまりに杜撰な捜査と言わざるを得ない 「大物ヤメ検弁護士が語る「地面師事件が続発する本当の原因」 世田谷地面師事件の真相④」 東京地検立川支部に特捜部で鳴らした経験のある検事が赴任 そこから捜査が動き始めた
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積水ハウス事件(その2)(「クーデター」の元凶となった地面師事件「その後の深層」、地面師被害より数百倍痛い 「お家騒動」の行方、絶好調の業績に漂う不安の正体 人事問題は幕引き 問われるガバナンスの質) [企業経営]

今日は、積水ハウス事件(その2)(「クーデター」の元凶となった地面師事件「その後の深層」、地面師被害より数百倍痛い 「お家騒動」の行方、絶好調の業績に漂う不安の正体 人事問題は幕引き 問われるガバナンスの質)を取上げよう。前回は昨年8月6日に、「企業不祥事(その13)積水ハウス事件1」のタイトルで取上げたが、今回は企業不祥事(そのX)を外した。

先ずは、ジャーナリスト 伊藤 博敏氏が3月8日付け現代ビジネスに寄稿した「積水ハウス「クーデター」の元凶となった地面師事件「その後の深層」 なんでこんなヤツらに騙されたのか…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽まさか地面師に転ばされるとは…
・住宅大手の積水ハウスが、地面師グループに騙され、東京・五反田の老舗旅館「海喜館」を70億円で買収する契約を結び、55億5000万円の実質的な被害を受けた事件は、その責任を取らされそうになった阿部俊則社長(現会長)が、「クーデター」を起こして和田勇会長(現取締役相談役)を辞任に追い込む騒動に発展した。
・積水は、この内紛も事件の概要も公表してこなかったが、3月8日に開催される決算取締役会を前に、調査対策委員会が作成した「調査報告書の概要」、クーデターが発生した1月24日の「取締役会の経過説明」などによって、株主からの阿部氏に対する善管注意義務違反等の責任を追及する「損害金(約56億円)と同額の賠償訴訟」が起きていることを、3月6日、いっせいに開示した。
・3月8日は、和田派による反撃も予想されるという観測も流れているだけに、事前に論点整理、マスコミに観測記事を書かれたくないという思いもあったようだ。 それにしても、JR五反田駅から徒歩3分という不動産業界垂涎の約600坪に、これだけの「落とし穴」が待ち受けているとは、阿部氏も思いもよらなかっただろう。  言うまでもないことだが、積水は被害者である。だが、そのあまりに杜撰な契約課程と処理の仕方は、社会的責任の発生する大企業のものではなく、報告書の全文を発表しない姿勢にも疑問がある。
・事件の責任は誰に着せられるのか、そして警視庁が捜査する地面師事件の行方はどのようなものなのか。 この事件を最初に報じたのは、昨年8月3日配信の本サイトである。私が、「成りすまし女」の偽造のパスポートや印鑑登録証書などとともにレポートした。(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52480) 
・その前日、積水は、「70億円の土地取引において被害が発生、捜査当局に刑事告訴する」と、発表していた。 地面師事件そのものは珍しくない。地面師は、土地所有者に成りすます男女を用意、本人確認の免許証、パスポート、印鑑証明などを偽造する。昔からある「詐欺の手口」で、現在、警視庁管内だけでも50件以上の被害届が出され、捜査2課は複数の案件に捜査着手している。
・不動産業界が驚愕したのは、騙されたのがこの種の詐欺に備えが万全のハズの積水であったこと、多くても数億円の地面師事件の被害金額が桁違いの70億円だったこと、そしてなにより「海喜館」が、怪しげな不動産ブローカーや地面師連中が持ち歩く著名物件であったことである。
・同社東京マンション事業部が物件売却情報を入手したのは、昨年3月末頃だった。担当部長が、永田町の小林興起元代議士事務所に入居する不動産会社IKUTAホールディングスのオーナーから情報を入手。  購入に動き、4月20日までに、所有権者の女将のEさん(当時72歳)、その財務担当を自称する大西武(仮名)などと接触、物件調査や本人確認を行い、不動産担当部長、マンション事業本部長などへ根回しを済ませ、稟議書で阿部社長の決済印をもらっていた。
・売買契約が行われたのは4月24日。当日、Eさん、大西、Eさん側司法書士、IKUTA社のオーナーと代表、積水ハウスの担当部長と課長、同社側司法書士が一堂に会し、EさんがIKUTA社に売却、IKUTA社が積水に売却するという契約が結ばれ、手付金として14億円が預金小切手で支払われ、同日付けで登記申請された。
・驚いたのは、この物件に群がっていた人間たちである。Eさんは実はカネで雇われた成りすまし女で、そう仕立てたのは銀座の不動産業者の弘岡達人(仮名)だった。弘岡は、「売買」と「担保提供」の両建てで物件を持ち歩いており、何人もの不動産業者が、「偽E」に引き会わされていた。
・「土地を担保にするから40億円を出してくれないか、という話だった。謝礼は5億円。返せなかったから600坪が手に入る悪い話じゃなかったけど、明らかに地面師による仕掛け。断ったよ」(不動産金融業者) こんな業者が少なくなく、本人印(偽造)が押された「担保提供に係わる協定書」が出回っていた。
・Eさんは、子どもの頃「海喜館」の2代目夫妻に養女として入り、独身のまま旅館を守り続けてきた。一昨年末、体調を崩して入院。その情報を聞きつけた弘岡が地面師詐欺に走り、昨年2月頃までに、「善意の第三者」を装えば、合法的に売買に参加できるこの地面師事件にぶら下がろうとするブローカーたちで賑わった。
・それだけに、積水の登場で目算が外れた業者は少なくない。儲かったのは、弘岡から案件を受け継いだ「大西とその仲間たち」で、弾かれた業者のなかには、優先交渉権は自分にある、と積水に抗議する業者もいた。
▽「阿部氏の責任は重い」
・一方で、養女となったEさんには実の弟が2人いて、Eさんの身に何かあれば、2人が相続することになっていた。彼らにとっても、Eさんが積水に売却したというのは寝耳に水。積水への反発を強めた。 積水に所有権が移るという仮登記が打たれて以降、積水には抗議の電話や訪問が相次ぎ、内容証明郵便も送られた。
・「いずれも、積水の所有権取得に正当性はないというものでした。Eさん名義で4通も郵便が送られ、『売却した事実はありません。相当な調査をなされるべき』などと、強い口調で書かれていたものもあった。しかし、それを会社側は、怪文書扱いにして無視したんです」(積水関係者) 「偽E」は、その後、姿を現すことがなく、積水は再度の本人確認もしないまま、6月1日の最終決済日を迎え、残金49億円を支払ってしまった。Eさんからの警告文を含め、「取引妨害の類と判断」(6日公表の経緯の概要)したのだという。
・積水では、和田氏の海外、阿部氏の国内という役割分担ができていた。しかも、「海喜館」は「阿部社長の直轄案件」として決裁されており、忖度した現場が、強引にでも購入を進めようとする環境にあった。 それも含めて、調査対策委員会は「阿部氏の責任は重い」とし、その責任を問おうとした和田氏は、しかし事前の多数派工作をしていた阿部氏の逆襲にあって、退任を余儀なくされたのである。
・既に警視庁は、新宿署に捜査本部を置いて全体の事件概要を掴んでおり、関係者の聴取を活発に行っている。「自分も騙された」と、善意の第三者を装おう地面師事件特有の構図のなかで難航している面もあるが、「池袋のK」と呼ばれる「成りすまし女」の動向も把握。関係者逮捕へ向けた環境は整っているという。 
・ただ、キーマンの大西の供述を確かなものにするために、別の地面師事件での「大西逮捕」を優先させる意向もある。それを察知したかのように、大西は下町のフィリピンパブに入り浸り、札びらを切って遊ぶなど、刹那的な酒池肉林に明け暮れている。
・こんな連中に手込めにされた積水――。 和田氏の遠吠えばかりが聞こえてくるなか、マンション事業本部長の辞任、執行役員2名の退任など、現場の縦ラインに責任を負わせるだけでなく、阿部氏自らの「身の処し方」が問われている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54751

次に、2月22日付け日刊ゲンダイ「地面師被害より数百倍痛い 積水ハウス「お家騒動」の行方」を紹介しよう。
・「会長と社長の“骨肉の争い”が世間に知られたわけですから。“地面師被害”の数百倍も痛い」と関係者は愚痴る。20日付の日本経済新聞が報じた、積水ハウスの“お家騒動”の件だ。 2月1日付のトップ人事で、和田勇会長(76=現相談役)の退任の実態は「解任」だったとすっぱ抜かれた。
・東京・五反田の土地購入を巡って地面師に63億円をだまし取られた責任で、和田氏は取締役会で阿部俊則社長(66=現会長)に退任を求めたが、賛成・反対同数で成立せず。逆に阿部氏から和田氏解任の緊急動議が出され、賛成多数で和田氏は辞任せざるを得なくなったという。 「和田さんの動きがダダ漏れだったから、阿部さんがすぐに反撃できたわけです。勝負は決まっていた」(関係者)
・いずれにせよ、住宅会社がお家騒動とは笑えない。 「2兆円企業の積水ハウスにとって、地面師被害で生じた55億円の特損は屋台骨を揺るがすような話じゃない。ぶっちゃけ格好悪いだけです。が、今回のお家騒動は長引く恐れがある。親子ゲンカの『大塚家具』を引き合いに出すまでもなく、騒動が長引くほど、業績や株価にボディーブローのように響いてきますからね」(経済ジャーナリストの岩波拓哉氏)
・和田氏は1998年に社長に就任し、当時の売上高1兆3000億円から2兆円企業に成長させた“中興の祖”だ。社長、会長として20年間もトップに君臨し、同社の表も裏も知り尽くしているだけに、社内にも動揺が広がっているようだ。
・「そんな和田相談役が日経の取材を受け、会社にダメージを与えることが分かっていながら“身内の恥”をさらした。よっぽど腹に据えかねているのでしょうが、こうなると今後、誰に何を話すのか想像もつかない。予想外の“爆弾”が飛び出してくるんじゃないかと、社内は戦々恐々です。そんなことになったら“風評被害”は55億円どころじゃ済まない」と、中堅社員は肩を落とす。 積水ハウスは一体、どこに「帰っていく」ことになるのだろうか。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/223709/1

第三に、3月10日付け東洋経済オンライン「積水ハウス、絶好調の業績に漂う不安の正体 人事問題は幕引き、問われるガバナンスの質」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・制震技術でも有数の戸建て住宅トップメーカー、積水ハウスが揺れている。 3月8日に発表した2018年1月期の業績は売上高2兆1593億円(前期比6.5%増)、営業利益1955億円(同6.2%増)と、8期連続の営業増益。純利益も5期連続で過去最高を更新した。 主力の戸建て住宅事業は減収減益と冴えないが、豪州や米国など海外事業が伸び、分譲住宅事業やマンション事業の収益も拡大した。数年前から推し進めてきた事業の多角化が奏功したといえそうだ。
▽業績好調でも、笑顔のない会見
・ただ翌日の3月9日、都内で開催した決算説明会に出席した阿部俊則会長や仲井嘉浩社長から伝わる雰囲気は、好調企業とは思えないほど、緊張感にあふれた会見だった。日頃は豪放磊落を気取り、笑顔を絶やさない阿部会長も終始うつむきぎみ。2月1日に発足した仲井新体制としては出ばなをくじかれた格好だ。
・発端は1月24日に同社が発表した役員人事にある。約20年間、積水ハウスを引っ張ってきた中興の祖である和田勇元会長が2月1日付で取締役相談役に退き、4月末の株主総会後には取締役を退任すると公表。その一方で阿部社長の会長昇格、仲井常務執行役員の社長昇格などが発表された。
・会社側はその理由について、「世代交代を図り、激動する市場環境に対応できる新たなガバナンス体制を構築し、事業の継続的な成長を図ってまいります」と、いわば若返りを図る交代劇の一幕と説明していた。  ところが、この一連の動きを複数のメディアが「阿部社長側のクーデター」と報道。一気に状況はきな臭くなった。当初、積水ハウス側は「(議案)可決の事実はないのだから開示する必要はない。取締役会の内容をすべて開示する義務はない」と繰り返してきた。
・だが、憶測を含む虚々実々の報道合戦に辟易する形で3月6日に「当社取締役会の議事に関する報道について」というリリースを発表した。 リリースの内容はほぼ、報道の内容に沿ったものだった、1月24日の取締役会。阿部社長(現会長)に対して、東京・西五反田の土地をめぐる詐欺事件に関する責任の明確化という名目で代表取締役および社長職の解職の動議が出されたことからすべては始まった。
・この動議は否決されたが、その後、「経営陣の若返りのため」という名目で和田元会長の代表取締役および会長職の解職という動議が提出された。 和田元会長は各取締役からの意見を受け、自ら代表取締役および会長職を辞すると申し出、全会一致で可決された。つまり、報道されているような「和田元会長を解任」という事実はなく、自ら職を辞す「辞任」だったというのが、会社側の主張だ。
・また、詐欺事件についても、2017年9月時点で取締役全員の減俸処分を行い、同11月にマンション事業本部長だった常務執行役員の辞任と、法務部長と不動産部長の解職で責任を明確化しており、事件については解決していると表明した。
▽2019年の業績も好調が続く
・こうしたゴタゴタがあったにもかかわらず、業績は冒頭のように好調が続く。2019年1月期も戸建て住宅事業の不振は変わらないが、リフォームや海外事業が伸び、9期連続の営業増益をもくろむ。仲井社長は、今後は低価格帯の住宅建設・販売にも本格参入、営業員の人材育成にも注力し、立て直しを図っていくことを示した。
・もっとも、2019年1月期の営業利益予想に関しては、2017年3月に公表した第4次中期経営計画の数字そのもの。2018年1月期の実績は中計の数字を上回っているが、2018年度以降の計画は修正されていない。 事業ごとに丹念に見ていくと、戸建て事業を除き保守的な予想となっており、2018年度は会社計画を上回ってくる可能性もありそうだ。
・3月9日に開催した決算説明会の席で、阿部会長は「取締役会の大改革を不退転の覚悟で行う」と宣言。代表取締役の70歳定年制導入、経営会議の設置、重要投資案件の審議徹底、責任明確化、取締役会の実効性評価などを骨子とする改革案を、すぐに着手する構えをみせた。 現在、66歳の阿部会長は少なくとも後4年で引退することを表明したといえる。
▽問われるのはガバナンスの質
・詐欺事件についても「世間をお騒がせして申し訳ない」と詫びつつ、ガバナンス体制の構築が責務であることを強調した。仲井社長も「土地取引事故はあってはならないもの。全力で信頼回復に向けて努める」と語った。 ただ、詐欺に荷担したのであればともかく、会社が法律違反を犯したわけではない。詐欺に遭い55億円もの損失を出したとはいえ、現在の積水ハウスにとって55億円は純利益のわずか4%程度、土台を揺るがす規模ではない。
・問題なのは、日本を代表する大企業である積水ハウスが、こうした人事抗争が表面化した後も説明を頑なに拒んだ、開示姿勢にある。和田前会長を退任に追い込んだ阿部会長には、ガバナンス改革が掛け声倒れにならないよう、やり抜くしか信頼回復の道はない。
http://toyokeizai.net/articles/-/212066

第一の記事で、 『その責任を取らされそうになった阿部俊則社長(現会長)が、「クーデター」を起こして和田勇会長(現取締役相談役)を辞任に追い込む騒動に発展した』、というのは驚くべき展開だ。 『積水は被害者である。だが、そのあまりに杜撰な契約課程と処理の仕方は、社会的責任の発生する大企業のものではなく、報告書の全文を発表しない姿勢にも疑問がある』、 『「偽E」は、その後、姿を現すことがなく、積水は再度の本人確認もしないまま、6月1日の最終決済日を迎え、残金49億円を支払ってしまった。Eさんからの警告文を含め、「取引妨害の類と判断」(6日公表の経緯の概要)したのだという』、とは大企業にあるまじきお粗末さだ。 『阿部氏自らの「身の処し方」が問われている』、というのはその通りだ。
第二の記事で、 和田氏は1998年に社長に就任し、当時の売上高1兆3000億円から2兆円企業に成長させた“中興の祖”だ。社長、会長として20年間もトップに君臨』、いくら“中興の祖”とはいえ、20年間もトップに君臨したということは、弊害も厚く積もっているのに違いない。正常化には時間がかかりそうだ。
第三の記事で、 『問題なのは、日本を代表する大企業である積水ハウスが、こうした人事抗争が表面化した後も説明を頑なに拒んだ、開示姿勢にある』、というのは正論だ。トップマネジメントでの不祥事が、営業の第一線の士気を喪失させないよう願うばかりだ。
タグ:積水ハウス事件 (その2)(「クーデター」の元凶となった地面師事件「その後の深層」、地面師被害より数百倍痛い 「お家騒動」の行方、絶好調の業績に漂う不安の正体 人事問題は幕引き 問われるガバナンスの質) 企業不祥事 伊藤 博敏 現代ビジネス 「積水ハウス「クーデター」の元凶となった地面師事件「その後の深層」 なんでこんなヤツらに騙されたのか…」 55億5000万円の実質的な被害 五反田の老舗旅館「海喜館」 その責任を取らされそうになった阿部俊則社長(現会長)が、「クーデター」を起こして和田勇会長(現取締役相談役)を辞任に追い込む騒動に発展 株主からの阿部氏に対する善管注意義務違反等の責任を追及する「損害金(約56億円)と同額の賠償訴訟」 そのあまりに杜撰な契約課程と処理の仕方は、社会的責任の発生する大企業のものではなく、報告書の全文を発表しない姿勢にも疑問がある 「海喜館」が、怪しげな不動産ブローカーや地面師連中が持ち歩く著名物件 阿部氏の責任は重い」 調査対策委員会は「阿部氏の責任は重い」とし、その責任を問おうとした和田氏は、しかし事前の多数派工作をしていた阿部氏の逆襲にあって、退任を余儀なくされたのである 日刊ゲンダイ 「地面師被害より数百倍痛い 積水ハウス「お家騒動」の行方」 地面師被害で生じた55億円の特損は屋台骨を揺るがすような話じゃない。ぶっちゃけ格好悪いだけです 和田氏は1998年に社長に就任し、当時の売上高1兆3000億円から2兆円企業に成長させた“中興の祖”だ。社長、会長として20年間もトップに君臨 東洋経済オンライン 「積水ハウス、絶好調の業績に漂う不安の正体 人事問題は幕引き、問われるガバナンスの質」 「阿部社長側のクーデター」 問題なのは、日本を代表する大企業である積水ハウスが、こうした人事抗争が表面化した後も説明を頑なに拒んだ、開示姿勢にある
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