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日本の政治情勢(その22)(小田嶋氏:麻生さんがなんとなく見逃されるワケ、文藝春秋2018.6:特集「政と官」の劣化が止まらない) [国内政治]

昨日に続いて、日本の政治情勢(その22)(小田嶋氏:麻生さんがなんとなく見逃されるワケ、文藝春秋2018.6:特集「政と官」の劣化が止まらない)を取上げよう。

先ずは、コラムニストの小田嶋 隆氏が5月11日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「麻生さんがなんとなく見逃されるワケ」を紹介しよう。
・麻生太郎財務大臣が不可解な発言を繰り返している。 まず、連休中の5月4日に、訪問先のフィリピンで、同行した記者団に対して 「セクハラ罪という罪はない」という旨の発言をしている。 当然のことながら、このコメントはすぐさま多方面からの批判を招いた。
・で、それらの抗議や反発の動きに対応して、なんらかの釈明があるものと思いきや、連休明けの8日、財務相は、フィリピンでの発言について問われると、「セクハラ罪という罪はない」と、再び同様の発言を繰り返し、ついでのことに 「(セクハラは)親告罪であり、傷害罪などと違って訴えられない限りは罪にならない」との説明を付け加えた。 いったい何を考えているのだろうか。
・「セクハラ罪」という罪名が、六法全書に書いていないというのであれば、その点は大臣のおっしゃるとおりだ。 が、「セクハラ」と総称される行為が、結果として強制わいせつ罪のような罪名で裁かれていることも皆無ではないし、強要罪、名誉毀損罪で訴えられたり、民事で損害賠償を求められるケースもある。
・ということは、セクハラは罪として訴えられ、裁かれることがあり得ると考えるのが普通だ。 たとえばの話「鼻っ柱を思い切りぶん殴り罪」という罪名が存在していない一方で、他人の鼻を殴る行為が「傷害罪」なり「暴行罪」でごく当たり前に裁かれているのと同じことではないか。
・不思議なのは、大臣が「罪はない」と断じている一方で、「親告罪であり傷害罪などと違って云々」という付帯状況の説明を加えている点だ。 仮にセクハラが親告罪で、訴えられなければ罪にならないのだとしても、訴えられれば罪になるのであれば、その罪は「ある」ことになる。逆に、麻生さんが前言した通りに、セクハラ罪という罪がないのであれば、セクハラは親告罪であることさえできないことになる。
・いったい大臣のアタマの中では、セクハラは、どのような「罪」として認識されているのだろう。 ついでに申せば、強制わいせつの罪、および強姦罪、準強姦罪が、昨年6月の法改正で非親告罪化されている。ということは、仮に、麻生さんが、セクハラを強制わいせつ関連の犯罪として認識しているのだとしても、その罪について事実誤認をしているわけだ。
・さらに私が不思議に思うのは、これほどツッコミどころだらけの発言について、大臣を取り囲んでいる記者クラブの記者諸君が誰一人として突っ込んでいないことだ。 これは返す返すも不可思議な状況だ。 同じ8日に、麻生さんは、財務省で発生した文書改竄問題について 「どの組織だってありうる。個人の問題だ」 などと発言し、さらに 「個人の資質によるところが大きかった。組織全体でやっている感じはない」とも述べている(こちら、こちら)。
・これまた驚くべき発言だ。 形式論理上の話をするなら、どんな組織にだってあらゆることが起こり得る。この点は間違いない。真鍮の鼻輪を装着した官僚が全裸で勤務しているケースだって可能性としては皆無とはいえないだろう。 が、だからといって、すべての不祥事を個人の資質の問題に還元して良いという理屈にはならない。
・というよりも、セクハラのような事案を個人の資質に帰して放置する組織があるのだとしたら、その組織には責任の回路が存在しないことになる。 警察官による発砲事件が、どの警察署でも起こり得る問題であるからといって、警察官による発砲を個人の資質の問題として不問に付すことは許されない。
・というよりも、問題は、特定の事件が特定の組織内で起こり得るのかどうかではなくて、起こり得るかもしれないその事例について、責任ある立場の人間がどのような態度で臨むのかというところにある。
・つまり、発砲事件を起こした警察官が所属していた当該の警察の署長なり警察庁の長官なりが、「発砲事件はどこの警察署でもあり得る。そういった意味では私どもとしては組織としてどうのこうのという意識で思っているわけではない。個人の資質とか、そういったものによるところが大きかったのではないかなと思っています」みたいな寝言を言って無事で済むはずがないことを見ても分かる通り、これは、個人の資質とか組織の問題とかいった論点を持ち出すような話ではなくて、組織のメンバーがやらかした不祥事について誰が責任を取るべきであるのかという極めてシンプルな話題なのである。
・で、その話題について、大臣は 「オレは責任を取らない」と明言した、と、私は、そういうふうに受け止めている。 なるほど。 ここまでのことを明言した以上、大臣は自分の発した言葉の責任を取らなければならないはずだ。 だがしかし、ここまでのところを書いてきて、私は実のところ徒労感に似た感慨に襲われている。
・というのも、私がここで書いた理屈は、あまりにも当たり前で、あまりにも言い尽くされていて、どうにも凡庸で、それどころか、もしかすると退屈だったかもしれないと自覚しているからだ。 麻生さんの度重なる暴言がなんとなく看過されている背景には、実は、このことがある。 このこととはつまり、麻生さんの暴言を指摘する議論が「退屈」だということだ。 もう少し詳しく説明すれば、政治向きの発言や議論を「退屈」と見なす態度こそが「クール」な現代人の証であるとするマナーが、世の中で一般化しているということだ。
・麻生さんが就任以来繰り返している不遜な発言は、あまりにも馬鹿げているがゆえに、一種の「背景」になってしまっている。 麻生さんのような「キャラ」は、一定のタイミングで暴言を吐くのが当たり前な日常で、心理学で言うところの「図」と「地」で言えば、「地」になっているということだ。 であるからして、多くの人々は、麻生さんの暴言に「馴れ」ている。
・また同時に、彼らは麻生さんの暴言を問題視する人々の言いざまに「飽き」てもいる。 もちろん、麻生さんの暴言に喝采を送っている面々がいる一方で、彼の発言のいちいちに突っかかっている批判派もいる。 が、多数派は、匙を投げている。あるいは、無関心を決め込んでいる。 いずれにせよ、大真面目に怒っているのは少数派に過ぎない。
・しかも、多数派に属する人々は、大臣の発言のいちいちに反応して、それらをことあげて問題視している口うるさい人々の態度を、「みっともない」「子供っぽい」「青くさい」「原理主義的な」「お花畑の」「優等生っぽい」「理想化肌の」マナーであると見なして、バカにしている。
・これは、なかなか厄介な状況だ。 というのも、なにごとにつけて 「たいしたことじゃないさ」 と肩をすくめておくのがクールな態度だと思いこんでいる人たちの耳に届くのは、もっぱら温度の低い言葉だけで、いきり立っていたり強く主張していたり、説得しようと勢い込んでいたりする言葉は、「どうしてそんなに必死なんですか(笑)」ってなぐあいに、スルーされてしまうからだ。
・この態度には覚えがある。 というのも、私の世代の者(1956年前後の数年間に生まれた人間)は、高校生だった頃から、「シラケ世代」「三無主義世代」(無気力、無関心、無責任の意。後に、無感動が加えられて四無主義世代と呼ばれたこともある)と呼び習わされた人間たちだったからだ。 われわれがシラケた若者として振る舞うようになったのは、基本的には、ひとつ上の団塊の世代の若者たちが、やたらと活発で熱血で助平で傍若無人だったことへの反動によるものだとは思うのだが、このあたりのあれこれについて、この原稿の中で、特別に深く分析しようとは思っていない。
・ともあれ、一世代上の団塊の人たちのやかましい挑戦と失敗の様相を眺めながら育った人数の少ない統計グループであるわれわれは、万事につけて温度の低い人たちだったということで、ここでは、私が、昨今のネット上でデフォルト設定になっている冷笑とシニシズムは、そもそも自分たちの持ち前だったという自覚を抱いているということを申し述べておくにとどめる。
・麻生さんの一連の発言は、ある意味で、政治を冷笑している人たちの気分にフィットしている。 といっても、彼らが、必ずしも支持しているというのではない。 彼らとしては、バカにしつつ面白がっているくらいな力加減で、むしろ、麻生発言にいちいち腹を立てているおっさんたちを笑うことの方に重心を置いているのだと思う。
・ともあれ、彼らは麻生さんを面白がっている。 なぜなら、あのバカバカしさと底の浅さは、自分たちがそれをマトモに相手にしない理由としてまさにピッタリでもあれば、政治に必死なバカなおっさんたちをあぶり出すための絶好のトラップだからだ。
・私のツイッターアカウントにも、そういう人たちからのリプライやメンションが届けられる。 4月の下旬に私は、ツイッター上に 《信じられない不適切発言を撒き散らしている麻生さんのクビがいまだに胴体の上に乗っかっていることが信じられない。一連の暴言は、「死の町発言」や「産む機械発言」よりずっと悪質だと思うのだが。》という言葉を書きこんだ。
・このツイートは、たいして注目されることもなくなんとなくタイムラインの底に沈んでいたのだが、1週間後に、和田政宗という自民党の参議院議員が、私のツイートをリツイートしたうえで、《日本には言論の自由がありますし政治家は事実に基づく批判は甘んじて受けるべきですが、比喩だとしても小田嶋隆氏のツイート「麻生さんのクビがいまだに胴体の上に乗っかっていることが信じられない」は酷いのでは。過去煽られた人物により左右問わず政治家へのテロが起きてきた事に考えは及ばないのか》 というツイートを投稿すると、その瞬間から、私の元ツイートには400件以上の罵倒のリプライが押し寄せるに至った。
・ひとつひとつは、他愛のないツッコミなのだが、私が強い印象を受けたのは、ほとんどのアカウントが、私の元ツイートの中にある、「麻生さんのクビがいまだに胴体の上に乗っかっていることが信じられない。」という表現を、そのものズバリの殺人教唆、殺害予告ないしはテロ誘発の発言と見なしていることだった。
・もっとも、「クビが胴体の上に乗っかっているのが信じられない」というフレーズを「いまだに辞任せずにいるのが納得できない」という意味の比喩であることを理解せず、文字通りの殺害予告と読み取ってしまう読解力の持ち主が400人以上押し寄せたというふうには、さすがに私も思っていない。
・今回の事態は、むしろ読解をひとつのゲームと見なす人々が大量に現れたと見なすべきところなのだろうと考えている。 ツイッターはそういう場所だ。 たくさんの人間が、偏頗な読解や曲芸的な解釈を競っている。 おそらく、彼らの見方からすれば、麻生さんの発言が物議を醸していること自体、「マスゴミ」や「パヨク」の連中が、偏った読解をもとに火をつけただけの、ある種の「言い掛かり」ということになるのだろう。だからこそ、自分たちも、気に食わない人間の発言は、可能な限り悪意ある読み方で曲解して攻撃するという話になるわけだ。
・面白いのは、その彼らのリプの多くが、文末に「w」や「(笑)」といった記号を付加する形式で書かれていることだ。 この記号の意味するところは、対話相手への嘲笑ないしは冷笑である以上に、語り手である自分自身の「余裕」のアピールだったりする。つまり彼らは、「オレは余裕綽々だぜ」「っていうか、あんたに対してオレは半笑いの片手間の姿勢で対応してるわけなんでよろしくな」ということを強調せずにはいられない人々だったということだ。そして、彼らがそんなふうにやたらと笑いまくっている理由は、彼らが、主張や言説の内容が間違っていることよりも、「必死」だったり「顔真っ赤」だったりすることがなによりもみっともないとされる世界の住人だからなのだ。
・麻生さんのものの言い方は、その意味でも、彼らの感覚にフィットしている。 麻生さんは、どんな場合でも、自分の声高に言い分を言い募るようなことはしない。たいていの場合、相手を揶揄するような顔つきで、半疑問形の語尾で発言する。これをキメられると、大真面目に質問している政治部の記者がバカに見える。
・あるいは、冷笑派の視聴者の目には、真面目で機転のきかない政治記者が、軽妙洒脱で当意即妙な麻生さんに良いように弄ばれているみたいに見えているのかもしれない。 とすれば、記者クラブのメンバーたちは、「えーと、確認のためにおうかがいするんですが、ただいまの大臣のご発言は、この度の福田次官によるセクハラ事案に対して、大臣ご自身が、監督官庁のトップとして一切の責任を感じていないというふうに受け止めて差し支えないわけですよね」と、できればニヤニヤ笑いながら問い返すべきところなのではなかろうか。 あるいは、単に爆笑しておくテもある。「はははははは」「何がおかしい!」「いえ、なんでもありません。ふふふふ」
・結論を述べる。 私個人は、麻生さんに辞任を求める気持ちは持っていない。 むしろ、現政権が省内で大掛かりな文書改竄があったにもかかわらずその大臣に辞任を求めない政権であることを内外に告知する意味で、最後まで職にとどまってほしいと思っている。健闘を祈る。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/051000142/

次に、文藝春秋2018.6月号「特集「政と官」の劣化が止まらない」で、片山善博氏と前川善平氏の対談「官僚は安部政権の下僕と化した~改ざん、隠蔽が蔓延する霞が関の奈落」のうち、注目点のポイントを紹介しよう。なお、片山氏は自治省出身で、鳥取県知事、総務大臣などを経て、早稲田大学教授。前川善平氏は前文科省次官。
・(前川)なぜ加計学園側が官邸で首相秘書官と会うアポが取れたのか。安倍首相が、腹心の友である加計理事長に頼まれて、柳瀬氏に面会を支持したと考えるのが自然。加計側の一番の目的は、愛媛県と今治市の職員を官邸に連れて行くことで、「本気でやれ」「ちゃんとカネを出せ」と印象付けることだった筈。
・(片山)本来、政権は1つひとつの案件に細々と指示を出し、進行管理する余裕はない。だがら、まずミッションを示した上でルールを設定し、その中で政権の意に沿って闊達に働かせるのがリーダーの務め。しかし、安部政権は自分の関心事項に首を突っ込んでいる印象。これは、まで権力のないヒラ国会議員が各省に働きかける「口利き」の手法。
・(片山)官僚はルールというゴム紐をちょっと伸ばすくらいのことはやってくれる。しかし、ゴム紐がブチッと切れてしまうぐらいの無理をすると、官僚も説明できなくなる。だから、記憶がないとか、証拠が残ってないなどの姑息な隠蔽工作に走る。今回がその典型例
・(前川)森友学園に国有地を格安で売却した件は、その後の公文書改竄も含めて麻生財務相には報告せず、担当部署である理財局と近畿財務局だけで勝手に判断したのではないか)
・(前川)官僚の駆け込み先がない(首相にもモノを言える重鎮議員がいなくなったため)
・(片山)モラルとモラールも低下((注)それぞれ、moral 道徳、morale 士気))

第一の記事で、 『仮にセクハラが親告罪で、訴えられなければ罪にならないのだとしても、訴えられれば罪になるのであれば、その罪は「ある」ことになる。逆に、麻生さんが前言した通りに、セクハラ罪という罪がないのであれば、セクハラは親告罪であることさえできないことになる。 いったい大臣のアタマの中では、セクハラは、どのような「罪」として認識されているのだろう』、というのは、我々が見逃しがちな点を見事に解明してくれたようだ。 『私が不思議に思うのは、これほどツッコミどころだらけの発言について、大臣を取り囲んでいる記者クラブの記者諸君が誰一人として突っ込んでいないことだ』、たしか記者クラブには東京新聞の「空気を読まない」女性記者がいた筈だが、もう「飛ばされてしまった」のだろうか。 『多くの人々は、麻生さんの暴言に「馴れ」ている。 また同時に、彼らは麻生さんの暴言を問題視する人々の言いざまに「飽き」てもいる』、後者はとんでもないことだが、事実としては『冷笑派』が増えているのであろう。 『現政権が省内で大掛かりな文書改竄があったにもかかわらずその大臣に辞任を求めない政権であることを内外に告知する意味で、最後まで職にとどまってほしいと思っている。健闘を祈る』、は最大限の嫌味だ。
第二の記事の特集の冒頭は、『今井尚哉首相秘書官独占インタビュー』、は期待外れだった。ここで紹介した対談は、余り遠慮をする必要がなくなった立場からの発言だけに、面白かった。 なかでも、『安部政権は自分の関心事項に首を突っ込んでいる印象。これは、まで権力のないヒラ国会議員が各省に働きかける「口利き」の手法』、官僚ゴム紐論、などは傑作だ。 森友学園問題が麻生財務相に知らされてなかったとの前川発言は、確かに答弁時の不愉快そうな顔つきに表れているのかも知れない。
タグ:日本の政治情勢 (その22)(小田嶋氏:麻生さんがなんとなく見逃されるワケ、文藝春秋2018.6:特集「政と官」の劣化が止まらない) 小田嶋 隆 日経ビジネスオンライン 「麻生さんがなんとなく見逃されるワケ」 麻生太郎財務大臣が不可解な発言を繰り返している セクハラ罪という罪はない (セクハラは)親告罪であり、傷害罪などと違って訴えられない限りは罪にならない 不思議なのは、大臣が「罪はない」と断じている一方で、「親告罪であり傷害罪などと違って云々」という付帯状況の説明を加えている点だ 大臣のアタマの中では、セクハラは、どのような「罪」として認識されているのだろう これほどツッコミどころだらけの発言について、大臣を取り囲んでいる記者クラブの記者諸君が誰一人として突っ込んでいないことだ セクハラのような事案を個人の資質に帰して放置する組織があるのだとしたら、その組織には責任の回路が存在しないことになる 政治向きの発言や議論を「退屈」と見なす態度こそが「クール」な現代人の証であるとするマナーが、世の中で一般化 彼らは麻生さんの暴言を問題視する人々の言いざまに「飽き」てもいる 冷笑派の視聴者 現政権が省内で大掛かりな文書改竄があったにもかかわらずその大臣に辞任を求めない政権であることを内外に告知する意味で、最後まで職にとどまってほしいと思っている。健闘を祈る 文藝春秋 「特集「政と官」の劣化が止まらない」で、片山善博氏と前川善平氏の対談「官僚は安部政権の下僕と化した~改ざん、隠蔽が蔓延する霞が関の奈落」 安倍首相が、腹心の友である加計理事長に頼まれて、柳瀬氏に面会を支持したと考えるのが自然 加計側の一番の目的は、愛媛県と今治市の職員を官邸に連れて行くことで、「本気でやれ」「ちゃんとカネを出せ」と印象付けることだった筈 安部政権は自分の関心事項に首を突っ込んでいる印象。これは、まで権力のないヒラ国会議員が各省に働きかける「口利き」の手法 僚はルールというゴム紐をちょっと伸ばすくらいのことはやってくれる。しかし、ゴム紐がブチッと切れてしまうぐらいの無理をすると、官僚も説明できなくなる だから、記憶がないとか、証拠が残ってないなどの姑息な隠蔽工作に走る。今回がその典型例 森友学園 麻生財務相には報告せず 官僚の駆け込み先がない モラルとモラールも低下
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日本の政治情勢(その21)(真相解明先延ばし 安倍首相こそ不祥事の最大の“膿”である、安倍外交が限界露呈、支持率回復の頼みの綱も「成果ゼロ」、「安倍3選」に向け吹き始めた"追い風"の正体 永田町の風向きは急速に変わりつつある) [国内政治]

日本の政治情勢については、4月17日に取上げた。今日は、(その21)(真相解明先延ばし 安倍首相こそ不祥事の最大の“膿”である、安倍外交が限界露呈、支持率回復の頼みの綱も「成果ゼロ」、「安倍3選」に向け吹き始めた"追い風"の正体 永田町の風向きは急速に変わりつつある)である。

先ずは、元外交官で外交評論家の孫崎享氏が4月28日付け日刊ゲンダイに寄稿した「真相解明先延ばし 安倍首相こそ不祥事の最大の“膿”である」を紹介しよう。
・安倍首相が自民党の都道府県議会議員研修会で演説した際、財務省の決裁文書改ざん問題などの一連の不祥事について、全容解明に取り組む考えを示し、「膿を出し切る」と強調したという。 この発言に違和感を感じた国民は多いだろう。森友、加計問題の最大の「膿」は安倍首相自身なのではないかと思えるからだ。
・約10億円相当の国有財産が実質ほぼゼロ円で売却された森友問題は、安倍首相夫妻と森友の籠池理事長夫妻の間に強い個人的関係があると財務省側が“忖度”したのが要因とみられている。 昭恵氏と籠池氏の連絡役を担ったのは夫人付秘書だった経産省出身の谷氏だった。「膿を出し切る」という言葉が、真相の徹底解明を意味するのであれば、「扇の要」に位置していた昭恵夫人はもちろん、籠池夫妻、谷秘書の国会招致は欠かせない。しかし、果たして安倍首相にその準備や覚悟があるのだろうか。
・愛媛県今治市の加計学園の獣医学部の新設は過去、約15回も認可申請が却下されてきた。ところが、2015年4月2日、県と市の担当者らが、柳瀬首相秘書官(当時)と会談し、「首相案件」という認識が関係各省で共有されてから一気に話が進んだ。 安倍首相と加計学園の加計孝太郎理事長は昵懇の間柄であり、そのために獣医学部設置の認可が進んだのではないかとの疑いが持たれている。
・共同通信の世論調査で、加計学園の獣医学部新設をめぐる安倍首相の説明に納得できるか――との問いに対し、79.4%が「納得できない」と答え、「納得できる」はわずか13.2%である。森友と同様、加計問題でも「膿を出し切る」べき対象は安倍首相自身なのである。
・昭恵夫人や谷秘書、加計理事長らが国会招致されない限り、いつまでたってもモリカケ疑惑は晴れない。真相解明を先延ばしするほど、安倍首相を見放す国民が増えるばかりである。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/228091/1

次に、立教大学大学院特任教授・慶應義塾大学名誉教授の金子 勝氏が5月15日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「安倍外交が限界露呈、支持率回復の頼みの綱も「成果ゼロ」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・これまで、安倍晋三首相ほど目まぐるしくスローガンを打ち出す首相はいなかった。2013年にアベノミクスと「3本の矢」を掲げて以降、14年の「女性活躍」→15年の「新3本の矢」と「1億総活躍」→16年の「働き方改革」→17年の「人づくり革命」といった具合だ。
・しかもアベノミクスは「2年で2%」という「デフレ脱却」の物価目標を6度延期したあげくに、18年4月には達成時期を「撤廃」してしまった。プライマリーバランスを黒字化する財政健全化目標の達成時期も2020年から2025年へと先送りの方向。他にも「待機児童ゼロ」も逆に待機児童が増え続けているなど、掲げた政策目標のほとんどが達成されていない。 そして最近では、外交も成果ゼロだ。
▽「外遊」は5年で63回 内政の失敗を挽回する手法は限界に
・安倍晋三首相ほど「外遊」の多い首相はいない。先の大型連休中の中東訪問は、首相になった2012年から実に63回目になる。ほぼ月に1度は「外遊」している勘定だ。 それで「安倍外交」は、どういう成果を上げているのだろうか。 結論を先に言えば、この「外遊」もほとんど成果を上げていない。(外務省の「総理大臣の外国訪問一覧 」) http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page24_000037.html
・内政も外交も掲げた目標をほとんど達成していないのに、なぜ高い支持率が維持されてきたのだろうか。実は、そこにこそ安倍政権の政権維持の手法が隠されている。 まず何よりも、次々とスローガンを打ち出すことで、何かに「挑戦」している印象を与えることだ。と同時に、前の政策の失敗が検証されないうちに、次の政策目標を出していき、「空手形」を打ち続けることで、政策の失敗を検証させる暇を与えないことだ。
・そして政策の失敗や森友・加計問題などの「疑惑」が表面化して支持率が落ちるたびに、北朝鮮の脅威などをあおったり、「外交」で各国首脳らとの関係強化を演出したりして政権への求心力を維持するやり方だ。 実際、「外遊」によって国内での野党などの追及をかわすこともできるし、国外での記者会見は、一方的な「説明」を垂れ流す場に利用しやすいからだ。 けれども、こうした手法にも限界が見えてきた。外交もほとんど成果らしい成果がないことが露呈し始めているからだ。
▽「北朝鮮カード」は使えず 対話モードへの転換で「蚊帳の外」に
・そのことが浮き彫りになったのは、4月の訪米だった。 4月17日から20日、国内では森友問題や防衛省の「日報」問題などの「五大疑惑」を抱えて国会で厳しい追及を受けている最中に訪米し、トランプ大統領と会談した。
・この時も、トランプ大統領とのゴルフなどで仲良しぶりが演出されたが、外交の成果はほとんどなかった。 肝心の北朝鮮問題では、トランプ大統領に米朝首脳会談で拉致問題を取り上げるように頼んだだけで終わった。一方で経済問題では、目指していた米国の「TPP(環太平洋連携協定)への復帰」はトランプ大統領からあっさり「拒否」され、日米でも二国間交渉をのまされた。
・選挙公約を覆してTPPに参加したにもかかわらず、米国が抜けて失敗し、その復帰を「説得」しに行ったはずが、逆に米国に二国間貿易交渉に引きずり込まれてしまった。 「北朝鮮カード」は、米国自体が「和平モード」に転換してしまって使えなくなってきており、実際、日米首脳会談の後も、内閣支持率が低迷したままだ。
・もはや世界は「ジャパンパッシング」で動く状況に陥っている。 実際、北朝鮮の非核化問題と緊張緩和については、安倍首相はほとんど「蚊帳の外」に置かれている。 このことはある意味、当然だろう。 北朝鮮問題では、政権維持のために北朝鮮リスクをあおることしかしてこなかったからだ。
・北朝鮮のミサイル実験のたびに、「Jアラート」を繰り返し鳴らして人々を田んぼにしゃがませ、昨年10月には、北朝鮮の脅威をあげ「危機突破解散」と銘打って解散権を乱用した衆議院選挙で多数の議席を獲得した。
・実際、北朝鮮外交でも、安倍首相は「話し合いのための話し合いは無意味」と繰り返し、少しでも対話の機運が出てくると、「北朝鮮は何度も約束を反故にした」と言い続け、防衛費の増強を行った。  韓国の文在寅大統領が北朝鮮にピョンチャン・オリンピック参加を促し、実現させた際も、安倍首相は当初、開会式への出席を渋った。
・首相の強硬姿勢に呼吸を合わせるように、河野太郎 外相も、南北の首脳や中国の習近平国家主席らが、朝鮮半島の安定や南北の平和的共存に踏み出した中朝会談、南北会談の前後にも「圧力」一辺倒の外交を崩そうとしなかった。「北朝鮮と国交断絶をせよ」とか「北朝鮮は核実験を準備している」といった発言を繰り返した。
・だがこうした発言に対して、米ジョンズ・ホプキンス大の北朝鮮研究グループ「38ノース」は、衛星画像では裏付けできないとし、中国外務省の耿爽副報道局長が4月3日の記者会見で「足を引っ張らないでほしい」と批判する一幕もあった。 実際、4月27日の南北首脳会談が成果を収めたのは、むしろ「アベ外し」が成功に導いたと言ってよいだろう。
・南北は対話の積み重ねによって、首脳会談で、朝鮮半島の「完全非核化」を共通目標とし、朝鮮戦争の終戦と平和協定を目指すことで合意し、共同宣言では南北と米国の3者あるいは中国を加えた4者会談で実現していくことが明記された。
・米国と歩調をあわせたつもりで強硬姿勢をとっても、米国自身、さらに中国もすでに発想を切り替えたドライな外交戦略を取り始めているのだ。「外交」というのは、国民のニーズに応じて相手国に主張し、相互の主張とすり合わせつつ、粘り強く交渉していくのが基本である。
・そうした基本姿勢がないまま、かたくなに強硬路線をとったり、逆にただ媚び、「仲良し」を演出するだけでは、相手も日本の主張をまともに受け止めないだろう。 このことは、最近の日米関係で見ればオスプレイ(CV22)の横田基地配備が典型的だ。 4月3日に在日米軍は、事故多発を懸念する地元住民に知らせることなくオスプレイ5機の横田基地配備を通告し、2日後には配備を終えてしまった。日本政府が抗議をした様子もない。そもそも交渉になっていないのだ。
・トランプ大統領の交渉術の特徴は、ビジネスマン的なディール(取引)にある。まず相手にふっかけ、相手が譲歩したら落着させるというパターンであり単純明快だ。 北朝鮮問題でも中国との貿易摩擦でも、こうしたディールを仕掛けている。ある意味で、北朝鮮も中国も同じように、トランプ大統領相手にふっかけて交渉している。
・ところが、安倍首相には、ディールの成功体験がなく、方法論すら持っていないように見える。これでは交渉にならず、相手の言うがままにされていく。
▽「仲良し」演出しても「取引外交」には通用せず
・貿易交渉は、相手が言うがままの典型だ。「アメリカファースト(米国第一主義)」を掲げるトランプ大統領は、今年3月8日に「国家安全保障」を理由にあげて鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を課す文書に署名した。 この関税強化措置については、EU加盟国、韓国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチンが適用除外になった。 ところが、安倍首相が大統領と「蜜月関係」にあるはずの日本の除外対象にしてくれとの要望は聞き入れられなかった。
・トランプ大統領は、さきの日米首脳会談でも、日本からの貿易赤字を問題にして譲らず、日米間の2国間貿易協定を主張し、結局、ライトハイザー通商代表部代表と茂木敏充経済再生相の間で「協議」することで合意させられた。これは事実上の二国間貿易「交渉」だ。
・安倍首相は2012年12月の衆議院選挙での公約を裏切って、TPP交渉に参加した。ところが、トランプ大統領がTPP離脱を表明。それ以降は、米国をTPPに復帰させると主張してきたが、今回の会談の結果は、そうした主張から大きく後退することになっている。
・交渉能力に乏しい安倍政権では、二国間「協議」では自動車でも農産物でも大幅譲歩を迫られるだろう。 何よりトランプ大統領は11月に中間選挙を控えている。 だがロシアゲート事件を抱え、次々と閣僚を交代させて挽回を図ろうとしているが、支持率は低迷している。 今年の3月13日に行われた米東部ペンシルベニア州の下院第18選挙区の補欠選挙で、共和党は民主党に敗北した。ここはトランプ氏が大統領選で勝利する要因となったラストベルト地域である。
・トランプ大統領は中間選挙で勝つためには、5月8日の「イラン核合意離脱」表明でユダヤ人ロビーや石油資本を満足させる一方で、米朝首脳会談で朝鮮半島の「非核化」を実現させることだと、そして日本から貿易交渉で大幅な譲歩を勝ち取ることだと、考えているのではないか。 しかし、それは安倍政権にとっては外交の「失敗」を意味する。
▽中東外交も米国に「追随」するだけ 政策を検証すべき時期だ
・大型連休のさなかも、安倍首相はイスラエル、パレスチナ、UAE、ヨルダンを訪問した。 米国が「イラン核合意」を離脱し、またエルサレムをイスラエルの首都として一方的に承認し、米国大使館をエルサレムに移転することで、中東では不安定化のリスクが強まっている。だが中東訪問でも、外交感覚のズレが浮き彫りになっただけだった。
・中東訪問を総括する記者会見の場をヨルダンにしたこと自体がズレていて、ジョークなのかと疑った。 ヨルダンは日本の呼びかけに応じて1月に北朝鮮と断交している。中国をはじめ関係国の多くが、北朝鮮に対して「対話」路線で動き出しているなかで、強硬路線をとる数少ない国と言える。  その国で記者会見をすれば、北朝鮮問題で対話を拒んで「蚊帳の外」になったことを追及されることはないと、首相や外務省は考えたのだろうか。
・会見で安倍首相は、関係国と連携して「対話」と「圧力」の両面を進めていく対北朝鮮政策は2002年の平壌宣言以来「一貫している」と言い、北朝鮮問題に関して米中韓朝4ヵ国の対話の「蚊帳の外」に置かれたことを否定しようとした。
・南北会談後に文在寅韓国大統領と電話会談をして慌てて情報を収集し、その後も習近平国家主席との電話会談や、日中韓首脳会談で関係国との連携を演出しているが、実態は「蚊帳の外」の状況を取り繕うのに精いっぱいの状況だ。
・「イラン核合意離脱」でも、独仏英の3首脳が反対し、連携してトランプ大統領に働きかけてきたが、日本はこうした欧州諸国の和平の動きでも「蚊帳の外」だった。 たしかに、安倍首相は中東訪問最終日(5月2日)にイスラエルとパレスチナ双方を訪問したが、中東和平のための「中立」的な外交をしてきたとは思えない。
・トランプ大統領は米国大使館のエルサレム移転に抗議するパレスチナに対して、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への拠出金6500万ドル分(約72億円)の支払いを凍結し、パレスチナに自分の「和平提案」に応じろと要求している。 その状況で安倍首相がパレスチナのアッバス議長との会談で述べたのは、日本がUNRWAに1000万ドルを拠出するので、「アメリカから交渉の提案があれば、応じるべきだ」ということだった。
・そもそもイスラエルのガザへの攻撃や米国のUNRWAへの拠出拒否には口を閉ざしておきながら、日本がちょっとカネ出すからアメリカの言うことを聞けというのは、中東和平を目指した独自の外交だと言えるのだろうか。
・いまや安倍外交は成果がないことが次々に露呈している。もし安倍首相が「外遊」を、求心力維持のための国内向けの「印象操作」として大事だと考えているのなら、もはや賞味期限が切れていると言ってよいだろう。 問題は、内政も外交も取り返しのつかないような「失敗の山」が累々と築かれ続けていることだ。
・「成長戦略」で掲げた原発輸出「セールス外交」にしても、東芝の経営破綻危機後も、ベトナム、台湾での原発建設中止、リトアニアでの計画凍結など、次々、行き詰まりを見せている。 日立が進める英国原発事業も事業費は3兆円に膨れ上がり、日本側は1兆5000億円を負担するが、そのうち大手銀行の融資に「政府保証」をつけてまで原発輸出をしようとしている。 損失が出た場合、税金で補填するのである。それでも、英国側は3分の1しか出さず、残りの資金繰りのめどがついていない。トルコでの原発建設の事業費も4兆円以上に倍増し、伊藤忠が撤退を決めた。
・失敗の山が一つまた一つと増えないうちに安倍政権が掲げてきた政策をきちんと検証すべき時期に来ている。
http://diamond.jp/articles/-/169898

第三に、ジャーナリストの安積 明子氏が5月13日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「安倍3選」に向け吹き始めた"追い風"の正体 永田町の風向きは急速に変わりつつある」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ゴールデンウイーク前には永田町にあれほど吹いていた「安倍おろし」の風。ところが、連休が明けると、この逆風はぴたりと止んだようだ。 そもそも「安倍おろし」の風を吹かせていたのは野党ではなく自民党。9月に予定されている総裁選をにらんでざわついていたのだが、党内のムードが様子見に変わったのだ。
▽参議院で何が起こっているのか
・そればかりではない。安倍政権に順風さえ吹き始めたと思われるところもある。5月7日に国民民主党が結成された後の参議院をみると、それがとくにわかる。いったい参議院で何が起こっているのか。
・現在の参議院(定数242)での勢力は、最大会派の「自由民主党・こころ」が125議席と圧倒的多数で、それに続くのが自民党と連立する「公明党」の25議席。「国民民主党・新緑風会」(以下民主)は24議席とかろうじて野党第1会派となり、「立憲民主党・民友会」(以下立憲)は1議席差の23議席でこれを追っている。
・要するに民進党が分裂したことで、公明党が第2会派に躍り出て、昨年の衆議院選時にはわずか1議席だった立憲民主党は23議席まで勢力を伸ばしたことになる。 これによって参議院内では激震が起きている。民進党は4つの常任委員会委員長のポストを保有していたが、これをどのように分けるかについて5月9日の議院運営委員会で争いがあったのだ。この日の参議院本会議の開始が遅れたのは、それが原因でもある。
・何が問題になったのか。 立憲は内閣委員長を含む4委員長のポストを民主と分け合うつもりでいた。会期が変わると委員長ポストも変更になるが、今回は会期の最中の変更であり、最小限にすませるべきだと考えていた。 内閣委員会はIR実施法案や国家戦略特区制度など、安倍政権が推し進める成長戦略の重要案件を管轄する。委員長には決裁権があり、ここを野党側が押さえておこうともくろんでいた。
▽国民民主は自民党になびいている?
・ところが自民党は“原則”に従って「大会派順の選択」を主張。これが与野党の筆頭間(すなわち自民党・こころと民主)ですんなり合意されたため、立憲が議院運営委員会に参加しようとした時は、もはや決定事項になっていたという。
・内閣委員会の理事の構成も、自民党から2名、公明党から1名、そして民主から1名という構成だ。「これでは法案を止めようがない」と、立憲関係者は嘆く。「参議院は衆議院から送られてきた法案をより客観的に冷静に審議すべきところだが、このような状態では会期末までに法案をただ採決するだけの場所になりかねない。民主(国民民主党・新緑風会)は自民党になびいているようにみえる」(立憲関係者)。
・確かに5月7日に開いた国民民主党結党大会で、玉木雄一郎共同代表が「審議拒否しない」と宣言したことも、立憲の会派内部で不信感が深まる原因になっている。「会期末になれば、野党は法案を人質にとって審議拒否するのが通例。これまで与党は強行に採決するのではなく、野党の主張を尊重してくれた。しかし民主がこれに同調してくれないのであれば、審議拒否も効力を果たさない。そもそも今の議員数で審議拒否以外に与党の強行を止める武器はない」(立憲関係者)。
・さらに安倍政権が「70年ぶりの大改革」と位置付ける「働き方改革関連法案」も、5月下旬に衆議院から参議院に送られるが、厚生労働委員会の委員長ポストは自民党。理事ポストに至っては、公明党と民主が1つずつ保持するほか、自民党は4つも持っている。
・このまま6月20日の会期末まで、とんでもないスピードで法案がどんどん可決されていく可能性があるのだ。 その一例が参議院経済産業委員会にかけられている『生産性向上特別措置法』や『産業競争力強化法等の一部を改正する法律案』だ。この法案については参考人を呼ぶことになっていたが、すでに5月15日の採決が決まっており、付帯決議の文面までも完成済みというから驚きだ。「付帯決議まで決まっていながら、なぜ参考人を呼ぶのか。つまり単なる儀式ということだ」。この件を民主の理事から伝えらえた立憲の議員は訝しげにこう言った。
▽安倍首相の表情には余裕
・かくして、会期末に向け、重要法案がかなりスムーズに成立する見通しだ。そのためもあるのだろう、最近の安倍首相の表情には余裕が見える。5月11日には民放番組に出演し、森友学園問題や加計学園問題についての質問にも冷静に答えている。
・その安倍首相が強い意欲を見せているといわれているのが、予算委員会の集中審議の代わりに5月30日に党首討論を開くという案だ。その理由は拘束時間。予算委員会だと委員会室に長時間座っていなければならないが、党首討論だとわずか45分しかかからない。
・そのうえ民進党が分裂したことにより、安倍首相にさらに“有利な面”が出てきた。 それは各政党の持ち時間が短くなったことだ。最大の立憲民主党でも17分程度で、国民民主党は14〜15分。しかも国民民主の場合、2人の共同代表がそれぞれ質問に立とうとすれば、1人あたりの時間がさらに短くなる。持ち時間が短くなればなるほど、質問する側が深く追及できなくなり、きわめて不利になる。
・野党側がきちんと連携を組んで役割分担すれば、追い詰めることも不可能ではないが、これまでの実績を見る限り、それは期待できそうにない。公文書改ざん問題について佐川宣寿前国税庁長官を証人喚問した時も、柳瀬唯夫元首相秘書官を参考人招致した時も、野党の追及は十分ではなかった。質問者それぞれが自己アピールに走ったため、質問が上滑りになる面が多々あった。
▽外交面でも追い風が吹き始めている
・このような悲惨ともいえる野党の様子をみる限り、野党の支持率は上がりようがない。安倍政権としては、野党の支持率が高まらない限りは内閣支持率が多少低迷しようとも恐れる必要はない。自民党内での「安倍おろし」の声が小さくなったのも、そのためだろう。
・「追い風」はこれからも吹く。6月12日に決まった米朝首脳会談では、盟友のドナルド・トランプ米大統領が拉致問題についても言及し、安倍首相に花を持たせてくれることが見込まれる。 安倍首相はゴールデンウイーク中の4月29日から5月3日、中東諸国を訪問し、米政府によるエルサレム首都宣言の影響を回避すべく外交努力をしており、これはトランプ大統領にとって嬉しい援護射撃だった。その恩返しくらいはしてくれるだろう。
・自民党のある若手議員がこう言った。「安倍さんというのはとても不思議な人で、なぜか協力してあげたいと思わせる魅力がある。これは石破茂さんにはないし、ましてや小泉進次郎さんにはないものだ」。再度上昇運に乗り出した安倍首相。このままいけば総裁選3選は確実の様相だ。
https://toyokeizai.net/articles/-/220549

第一の記事で、 『安倍首相が・・・「膿を出し切る」と強調したという。 この発言に違和感を感じた国民は多いだろう。森友、加計問題の最大の「膿」は安倍首相自身なのではないかと思えるからだ』、というのは我々が感じていた違和感を見事に解き明かしてくれた。 『昭恵夫人や谷秘書、加計理事長らが国会招致されない限り、いつまでたってもモリカケ疑惑は晴れない。真相解明を先延ばしするほど、安倍首相を見放す国民が増えるばかりである』、というのはその通りだ。
第二の記事で、 『安倍晋三首相ほど「外遊」の多い首相はいない。先の大型連休中の中東訪問は、首相になった2012年から実に63回目になる。ほぼ月に1度は「外遊」している勘定だ。 それで「安倍外交」は、どういう成果を上げているのだろうか。 結論を先に言えば、この「外遊」もほとんど成果を上げていない』、との手厳しい批判は説得力がある。 『南北の首脳や中国の習近平国家主席らが、朝鮮半島の安定や南北の平和的共存に踏み出した中朝会談、南北会談の前後にも「圧力」一辺倒の外交を崩そうとしなかった。「北朝鮮と国交断絶をせよ」とか「北朝鮮は核実験を準備している」といった発言を繰り返した。 だがこうした発言に対して、米ジョンズ・ホプキンス大の北朝鮮研究グループ「38ノース」は、衛星画像では裏付けできないとし、中国外務省の耿爽副報道局長が4月3日の記者会見で「足を引っ張らないでほしい」と批判する一幕もあった』、というのはもはや滑稽としか言いようがない。挙句が、 『共同宣言では南北と米国の3者あるいは中国を加えた4者会談で実現していくことが明記された』、と日本とロシアはかつての6者協議のメンバーから外されたようだ。 『トランプ大統領は米国大使館のエルサレム移転に抗議するパレスチナに対して、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への拠出金6500万ドル分(約72億円)の支払いを凍結し、パレスチナに自分の「和平提案」に応じろと要求している。 その状況で安倍首相がパレスチナのアッバス議長との会談で述べたのは、日本がUNRWAに1000万ドルを拠出するので、「アメリカから交渉の提案があれば、応じるべきだ」ということだった』、というのはパレスチナを敵に回して、トランプにゴマを擂っただけである。 『「成長戦略」で掲げた原発輸出「セールス外交」にしても、東芝の経営破綻危機後も、ベトナム、台湾での原発建設中止、リトアニアでの計画凍結など、次々、行き詰まりを見せている・・・失敗の山が一つまた一つと増えないうちに安倍政権が掲げてきた政策をきちんと検証すべき時期に来ている』、というのは正論だ。
ところが、第三の記事は私をいたく失望させた。国民民主党の結成が、これほどまでに安倍政権への追い風になっているのには驚かされると同時に、敵に塩を送った国民民主党への怒りを新たにした。共同代表の玉木、大塚両氏のナイーブそうな顔を見る限り、院内力学への影響にまで考えが及んでいたとは思えない。『公文書改ざん問題について佐川宣寿前国税庁長官を証人喚問した時も、柳瀬唯夫元首相秘書官を参考人招致した時も、野党の追及は十分ではなかった。質問者それぞれが自己アピールに走ったため、質問が上滑りになる面が多々あった』、というのはいつものことではあるにせよ、残念極まりない。 『米朝首脳会談では、盟友のドナルド・トランプ米大統領が拉致問題についても言及し、安倍首相に花を持たせてくれることが見込まれる』、というのは官邸の希望的観測に過ぎないのではなかろうか。
タグ:「膿を出し切る」と強調 (その21)(真相解明先延ばし 安倍首相こそ不祥事の最大の“膿”である、安倍外交が限界露呈、支持率回復の頼みの綱も「成果ゼロ」、「安倍3選」に向け吹き始めた"追い風"の正体 永田町の風向きは急速に変わりつつある) 一連の不祥事について 安倍首相 違和感 「真相解明先延ばし 安倍首相こそ不祥事の最大の“膿”である」 日刊ゲンダイ 孫崎享 日本の政治情勢 森友、加計問題の最大の「膿」は安倍首相自身なのではないかと思えるからだ 昭恵夫人や谷秘書、加計理事長らが国会招致されない限り、いつまでたってもモリカケ疑惑は晴れない 真相解明を先延ばしするほど、安倍首相を見放す国民が増えるばかりである 金子 勝 ダイヤモンド・オンライン 「安倍外交が限界露呈、支持率回復の頼みの綱も「成果ゼロ」」 安倍晋三首相ほど目まぐるしくスローガンを打ち出す首相はいなかった 掲げた政策目標のほとんどが達成されていない 「外遊」は5年で63回 内政の失敗を挽回する手法は限界に 次々とスローガンを打ち出すことで、何かに「挑戦」している印象を与えることだ。と同時に、前の政策の失敗が検証されないうちに、次の政策目標を出していき、「空手形」を打ち続けることで、政策の失敗を検証させる暇を与えないことだ 「北朝鮮カード」は使えず 対話モードへの転換で「蚊帳の外」に 世界は「ジャパンパッシング」で動く状況に こうした発言に対して、米ジョンズ・ホプキンス大の北朝鮮研究グループ「38ノース」は、衛星画像では裏付けできないとし、中国外務省の耿爽副報道局長が4月3日の記者会見で「足を引っ張らないでほしい」と批判する一幕もあった 共同宣言では南北と米国の3者あるいは中国を加えた4者会談で実現していくことが明記 「仲良し」演出しても「取引外交」には通用せず トランプ大統領は米国大使館のエルサレム移転に抗議するパレスチナに対して、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への拠出金6500万ドル分(約72億円)の支払いを凍結し、パレスチナに自分の「和平提案」に応じろと要求している その状況で安倍首相がパレスチナのアッバス議長との会談で述べたのは、日本がUNRWAに1000万ドルを拠出するので、「アメリカから交渉の提案があれば、応じるべきだ」ということだった 問題は、内政も外交も取り返しのつかないような「失敗の山」が累々と築かれ続けていることだ 失敗の山が一つまた一つと増えないうちに安倍政権が掲げてきた政策をきちんと検証すべき時期に来ている 安積 明子 東洋経済オンライン 「「安倍3選」に向け吹き始めた"追い風"の正体 永田町の風向きは急速に変わりつつある」 「安倍おろし」の風 連休が明けると、この逆風はぴたりと止んだようだ 順風さえ吹き始めた 国民民主党が結成 民進党が分裂したことで、公明党が第2会派に躍り出て、昨年の衆議院選時にはわずか1議席だった立憲民主党は23議席まで勢力を伸ばしたことになる 参議院内では激震 国民民主は自民党になびいている? 安倍首相の表情には余裕
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福祉問題(生活保護)(その3)(「生活保護バッシング」がやまない本質的理由 「陽のあたる家」さいきまこさんに聞く、「稼げない=無価値」と考える恐ろしい発想 何か人を追いつめているのか?) [社会]

福祉問題(生活保護)については、昨年2月11日に取上げた。1年経った今日は、(その3)(「生活保護バッシング」がやまない本質的理由 「陽のあたる家」さいきまこさんに聞く、「稼げない=無価値」と考える恐ろしい発想 何か人を追いつめているのか?)である。

先ずは、昨年11月2日付け東洋経済オンラインで編集者、ライター、ジャーナリストの大塚 玲子氏が「陽のあたる家」さいきまこさんにインタビューした「「生活保護バッシング」がやまない本質的理由」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aはさいきまこさんの回答、+は回答内の段落)。
・貧困の状況に置かれた子どもたちや家族の現実を描き続ける、漫画家・さいきまこさん。 どこにでもいそうな幸せな家族が、夫の病を機に貧困に陥り、周囲の偏見にさらされつつも生活保護を受給して前に進みだす過程を描いた『陽のあたる家』(2014年貧困ジャーナリズム大賞特別賞受賞)。目に見えづらい貧困の状況で将来への希望を失う子どもたちを描いた『神様の背中』など、次々と話題作を発表しています。
・苦しい状況の人々が互いをたたき合う光景がしばしば繰り広げられる、いまの日本社会。なぜ人々は不寛容になるのでしょうか?さいきさんに、お話を聞かせてもらいました。
▽なぜ間違った情報が広まるのか
Q:さいきさんはこれまでの作品で、思いがけず突然貧困に陥って苦しむ家族の姿、またその人たちの命が生活保護によって救われる様子を、丹念に描いていらっしゃいます。また最新刊『助け合いたい』では、「家族で助け合わねば」という“良心的”な気持ちと行動によって、老夫婦と息子や娘が、どんどん悪い状況に追い詰められていってしまう様子を伝えています。最初はなぜ、貧困や生活保護のことを描こうと思われたんでしょうか?
A:離婚してシングルマザーになってしばらく後に、老後はどうなるだろう?と思って老齢基礎年金を調べたら、驚くほど少ない額でした。「これでは生きていけない、どうしよう」と不安でノイローゼになりかけたとき、生活保護のことを知って、「どうしようもなくなれば、これがある」と思い、救われたことがありました。
+ところが2012年、人気お笑い芸人の親御さんが生活保護を受けていることが連日報道され、バッシングが起きました。でも調べてみたら、親御さんは正規の手続きを踏んで受給していたし、ご本人も一定額の仕送りをしていて、不正受給でもなんでもなかった。なのにマスコミも一部の政治家も「生活保護は不正だらけ」「受給は恥ずかしいこと」というメッセージを発し、生活保護制度そのものや受給者のことをたたき続けました。
+「このままでは世間はずっと生活保護を誤解したままだ」と思い、将来の自分の備えのためにも、生活保護制度の仕組みや、受給者の姿を漫画で描こうと思ったんです。
Q:作品を発表されて、世間の反応はいかがでしたか?作品を読まずに「生活保護を肯定するなんて」とたたいてくる人もいるのでは。
A:読んでくださった人は「自分もいつ受給するかもしれないと、身につまされた」「制度を誤解していた」という感想を寄せてくださっています。でも、読まずにたたく人も残念ながら多いですね。それから、「私が知っている生活保護受給者は、こんなに心がまっすぐじゃない」という反応もありました。
+でもよく聞いてみると、誤解や勘違いがすごく多いんです。たとえば「近所にブランドもので着飾った受給者がいる」という。でも、それが本物のブランド品だという確証があるわけではないんです。その人が本当に生活保護を受給しているのか、それすらあいまいだったりもします。
+「ベンツに乗っている受給者がいる」という話も耳にしますが、これはもう都市伝説といっていい。そもそも生活保護では、車の保有を原則として認めていません。このことは、困窮している人の生活保護受給や自立生活を妨げるとして、問題視されているほどです。本来は、公共交通機関の利用が著しく困難な地域で、通勤や通院に必要な場合など、保有が認められるケースがあるのですが、実際にはなかなか認められない。生活の足となっている古い軽自動車を、受給のために泣く泣く手放すのが現実です。この現状で「ベンツうんぬん」という話は、笑止というほかありません。
+それから3年前、朝の情報番組で「裕福な実家で生活保護を受給しているシングルマザーがいる」という投書が読み上げられていましたが、それもありえないことです。受給の決定には、徹底した資産調査が行われます。そもそも、その家庭が本当に裕福かどうか、外から見ただけではわからないものです。受給しているのが児童扶養手当(ひとり親家庭に支給されるおカネ)なのに、それと混同されているケースもあります。
Q:そうした間違った情報に接した人が、「こんなズルい不正受給者がいるんだって」と話を拡散して、誤解を広めてしまうんですね。
A:そうですね。世間では、生活保護受給者の大半が不正受給をしているかのようにいわれますが、実際の不正受給の額は、全体の0.45%にすぎません。 それから、「不正」のイメージ。裕福なのに偽装工作して受給する、などをイメージする人が多いようです。ですが、さきほども説明したように、受給に至るには厳しい資産調査がありますので、そういうケースはほとんどありません。
+不正受給の多くは、年金や、働いて得た収入などを申告しなかった、というものです。生活保護は、収入があれば、その金額の分が保護費から減額される仕組みです。けれど申告しないと、その金額分も支給されてしまいます。これが「不正受給」となるのです。
+こうした不正は、役所が給与や年金の情報を照合することで、簡単に発覚します。不正受給といえば、入念に仕組まれたイメージがありますが、悪意のない「うっかり」レベルのものも相当数あるのです。もちろん、どのようなケースであっても、不正が許されないことは言うまでもありません。
▽表層だけ見れば「けしからん!」と思うけれど
+それから、「私が知っている生活保護受給者は、こんなに心がまっすぐじゃない」という意見。確かに、中には「だらしがない」と思われるような生活をしている人もいます。よくたたかれるのは、支給されたおカネを飲酒やギャンブルに使ってしまうケースです。子どもの養育をきちんとせずに、パチンコをしていたり。
+でも、それは「だらしがない」とたたいて済ませられることではありません。ギャンブルがやめられないなら、まず依存症が疑われます。そうであれば、医療につなげるべきです。それに、生活保護でパチンコやギャンブルをするのは、あくまでも一部の人にすぎません。しかも限られた保護費では、つぎ込める金額も知れています。そもそも、支給された保護費の使い道は基本的に本人の自由ですし。
+そうはいっても目に余る、と思うかもしれません。でも、「だらしがない」ように見える人には、それなりの背景があります。子どもの頃にネグレクト(養育すべき者が食事や衣服等の世話を怠り、放置すること。育児放棄)や虐待されて育っていたり、文化基盤のない家庭環境で、家計を切り回す知恵を育めないまま大人になってしまったり。
+表層だけ見て「けしからん!」と思ってしまう気持ちはわかります。でも、感情で切って捨てられるほど、人の背景は単純ではない。取材していると、そう感じます。
Q:確かに、たたいてしまう人もいるかもしれないですね。わたしも、そういった背景を、想像しきれないことがあります。
A:自分が経験していないことを想像するのは、難しいと思います。私も、全部想像できているわけではありません。取材して、初めて知ったことや、見えてきたことがあって、やっと少し想像が及ぶようになりました。
+どんなに想像できなくても、「自分の想像が及ばない背景を抱えた人がいる」というのは事実です。その事実を、知っていただけたらと思います。 わたしが漫画を描くのは、そのためでもあります。「貧困は自己責任だ」という人があまりにも多いので、「一見、自己責任に見えるような人にも、こんなしんどい背景があるんだ」ということを、作品で伝えられればと。
+わたしの作品を読んで、「こんな状況って特殊でしょ?だって日本は豊かだし、私のまわりには貧困の人なんかいないよ」と言う人もいます。そういう人が住んでいる地域は、「子どもはみんな小学校から私立」だったりします。 貧困は偏在するものです。居住地域や環境によっては、「まわりはみんな、余裕のある人ばかり」になる。だから、そういう人にこそ、お読みいただけたらうれしいです。
Q:学校の先生たちも、子どもたちの背景にもう少し想像力をもってくれたら、と思います。前作『神様の背中』の主人公も、自分が貧困に陥るまで、苦しい状況にある子どもに気づかなかったことを後悔していましたね。
A:学校の先生は、ある程度文化的な基盤のある家庭に育った人が多いことが、原因の1つにあると思います。 昔は、苦学して教員になる道がありました。大学生が少なかったので、家庭教師はいいアルバイトになった。教員になれば奨学金の返済が免除される制度もありました。でも今は、そんな制度もなく、アルバイトも低賃金です。教育実習も今は1カ月間ですが、苦学生はアルバイトを1カ月も休んだら、生活していけない。だから、教職課程はとれない。社会福祉士養成課程も、1カ月の実習があるので同様です。
+教育や福祉に携わる人には、貧困問題の知識と理解が必要です。でも、それを肌身で感じている人が、なれない職業になりつつある。 だからせめて、さまざまな背景をもつ人がいるということを、できるだけ多く発信していけたらと思っています。
▽自分が貧しいとは誰だって思いたくない
Q:特に裕福でもなく、いつか生活保護を使うかもしれないのに、「自分は関係ない」と思って、生活保護をたたいている人もいるかもしれません。どうしてそうなるのでしょうか?
A:いま、日本の相対的貧困率は15.6%なんですけれど(厚労省「平成28年国民生活基礎調査」)、自分の生活の程度を「下」と答える人は、5%しかいません(内閣府「平成29年世論調査」/選択肢は「上/中の上/中の中/中の下・下」の5段階)。
+つまり、「実際はしんどいけれど意識は中流」という人が多いんです。自分が貧しいとは、誰だって思いたくない。 以前、ある新聞記者さんが「貧困状態の人を取材しても、みんな『自分の貧困なんて大したことない』『もっと大変な人がいる、私なんか、まだ貧困じゃない』と言う」とおっしゃっていました。
+理由は2つあると思います。1つは、本当にそう思っている、ということ。「しんどくても意識は中流」ということです。 もう1つは、プライド。年収1千万を超える新聞記者に「わたし、貧乏で困っているんです」なんて、言いたくないでしょう。新聞記者に限らず、誰かに「自分は貧しい」なんて話をしたがる人は、まずいないと思います。
Q:言いませんね。
A:その裏返しが、本音を言う人をたたく傾向だと思います。 昨年、NHKのニュースで報道された貧困家庭の女子高生が、「その程度は貧困じゃない!」などと、ネット上で凄まじくたたかれました。  それは多分、こういうことです。実際の自分の生活は5段階の「1」なんだけれど、せめて「2」だと思いたい。でも、「わたしは『1』です」と言う人が現れて、その人の生活が自分とあまり差がなかったら、「いやいや、それは『1』じゃない!」と言いたくなる。住む家も着るものもない、餓死寸前のレベルでなければ「1」だとは認めない、ということではないでしょうか。
Q:なるほど、それはすごく納得します……。(自分を「2」と思えなくなったら)辛いですからね。(後編に続く)
https://toyokeizai.net/articles/-/194543

次に、上記の続き 11月5日付け東洋経済オンライン「「稼げない=無価値」と考える恐ろしい発想 何か人を追いつめているのか?」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aはさいきまこさんの回答、+は回答内の段落)。
▽稼げないことを「無価値」と感じてしまう
Q:生活保護が、人に言えないことのようになっているのは、なぜでしょうか?昔は、母子家庭を隠す人も多かったですね。
A:それは、スティグマ(汚名の烙印)があるからでしょうね。 どうしてスティグマがあるのか。貧困とか、母子家庭というのは、「何か、人として欠落しているものがあるから、そういう状況になったんでしょ」というまなざしが、世間にあるからではないでしょうか。それでは当然「わたしは、そうじゃない」と言ったり、隠したくなったりすると思います。
+それと「経済的に自立していなければ、人としての価値がない」という価値観のせいでもありますね。 今度の新刊(『助け合いたい』)では、過労で鬱病になって働けない男性が、障害者認定を受けるという状況を描きました。けれど彼は、自分が障害をもったということを、なかなか受け入れられない。
+それは「社会に対して経済的に貢献できない人間には、価値がない」という価値観に縛られているからです。 これは昨年、相模原の障害者施設で起きた殺傷事件にも通じることです。 あのとき、加害者の行為は非難されても、「加害者の考え自体は否定しない」という声が、ネット上でとても多かった。生産合理性だけを追求する社会の中、「経済的に社会貢献できる人だけが、人として認められる」という空気になっている。とても恐ろしいことだと感じています。
+そうした中では、どんなに雇用環境が悪化しても、パワハラにあっても、我慢して黙々と働く、ということになります。「このレールから降りたら、自分の価値はなくなってしまう」という強迫観念にかられるためです。
+過労死や過労自殺された方に対して、「会社を辞めればよかったのに」という声もあります。でも、ご本人がそう簡単に思いきれない状況を、社会がつくっているように思います。
▽親が求めるファンタジーが子どもを苦しめる
Q:いまは、子育てする親たちも追い詰められがちです。
A:「親なんだから、とにかくあなたが頑張らないと」という圧力を感じます。すべてが親の責任にされてしまう。子どもが泣き出すと、親が非難のまなざしで見られる。最近「(赤ちゃん)泣いてもいいよステッカー」というのが話題になりましたけれど、そんなものをつくらなければならないほど、子どもと親は抑圧されているのか、と驚きます。
+それから、もう1つ。「子どもが親を選んで生まれてくる」という話や絵本が人気になっています。それは、子育てが孤独でしんどいものになっている、その裏返しではないかと思うのです。
+ファンタジーを信じたくなるのは、現状がつらいからだと思います。孤立した環境で子育てを強いられていることの表れではないか。でも、親はそれで癒やされるかもしれませんが、子どもにとっては、きつい話だと思います。家庭の状況がどんなに過酷でも、子ども自身がそれを「自分で選んだ」ということになってしまいますから。
+ここ2~3年、「子どもの貧困」の問題が注目されていますが、それは「貧困=自己責任」とされがちなのに対し、少なくとも子どもの貧困は自己責任ではないよね、と「免責」されているからです。ここを突破口に、貧困問題の解決につなげていこうと。
+けれども「子どもが親を選んで生まれる」という説は、子どもすら免責しない。「そんな親を選んだのも、子どもの自己責任」ということになってしまう。そういう面からも、この説が流布することに、わたしは不安を感じています。
Q:いまは「家族」というものも息苦しくなっているようです。
A:日本の福祉は「日本型福祉」といわれていますが、それは「リスクは基本的に個人(家族や親類を含む)が負担する」というものです。そのためには福利厚生がしっかりした会社に勤め、家を継いでくれる子どもをもち、病気や障害を負えば家族で介護をし、いざというときの経済的な備えは貯蓄や保険で賄う。
+それが当然だと思われているから、困難な事態が起こっても「家族で責任をもって助け合いなさい」と、社会から突き放される。新刊(『助け合いたい』)で描いた事例だと、老いた親の介護や経済的な支援は、子どもが負担しなければならない。子どもが失業したり、病気や障害を負えば、老いた親が身を削って面倒をみることになる。でもそれでは、子どもも親も潰れてしまいます。
+こうしたマインドは、子どもが幼い頃に、すでに形成されています。前作(『神様の背中』)に描いた話なのですが、取材で話を聞いた、生活保護世帯のお子さんの就職が決まったときのことです。「独り立ち、おめでとう」と言ったら、その子は「わたしはずっとお母さんと暮らします」と言う。「自分の稼ぎで、親を生活保護から抜け出させてあげたい」と、親に自分の人生を捧げるつもりでいるんです。
+驚いて「それは本当に、あなたの意思?」と聞くと、「だって、いままで出会った人は100人中100人が、『あなたがお母さんの面倒をみてあげるんだよ』って言った」と言うんです。親戚も近所の人も学校の先生も、「あなたは、あなたの人生を生きていいよ」とは、誰一人として言わなかったと。
+そうした周囲からの刷り込みで、子どもたちは自然と「自分が親の面倒をみなくては」と思い込んでしまうのです。 子どもが老いた親の面倒をみるのは当然のこと、と思う人も多いかもしれません。でも実は、非常に不公平な話です。裕福な家庭に生まれたら、親は自分の資産で老後を賄えます。子どもは親の面倒をみなくて済む。でも、親が貧乏な家に生まれた子どもは、成人したら、親が亡くなるまで養っていかなければならない。その結果、貧困が連鎖してしまう。
▽安心して生きていける社会
Q:これから、どんな社会に変わっていったらいいと思われますか?
A:家族同士が支え合う日本型福祉は、経済成長の中で、個人の生活を企業が支えるという前提のもとに成り立ってきました。さらに、女性には経済的な「活躍」は求められず、男性に養われながら育児や介護などのケア労働を無償で担うという役割でした。でも、もうその前提は崩れています。
+そんな状況で、家族という閉じられた関係だけで頼り合うと、さまざまな悲劇が生まれます。「家族のことは家族で何とかしなければならない」という縛りから、自由になる必要があります。今度の新刊は、まさにそれがテーマです。
+誰も好きこのんで病気になったり、障害をもったりはしません。不測の事態が起きたとき、家族内だけで何とかしようとすれば、行き詰まってしまいます。社会保障制度など、さまざまな社会資源を活用することを、もっと考えたほうがいい。そうすれば、社会に何が足りないか見えてきますし、どんな施策を提言すればいいのか、考える機会にもなります。
+誰もが、既定のレールから落ちる恐怖や先の見えない老後におびえず、安心して生きていける社会であってほしい。そのための制度が整った社会を、切に望んでいます。
https://toyokeizai.net/articles/-/194544

第一の記事で、 『「貧困は自己責任だ」という人があまりにも多いので、「一見、自己責任に見えるような人にも、こんなしんどい背景があるんだ」ということを、作品で伝えられればと』、私はまだ作品を読んだことはないので、読んでみたくなった。『日本の相対的貧困率は15.6%なんですけれど・・・、自分の生活の程度を「下」と答える人は、5%しかいません・・・つまり、「実際はしんどいけれど意識は中流」という人が多いんです。自分が貧しいとは、誰だって思いたくない』、確かにかつてのように「1憶総中流」意識が蔓延していると、下層といえども見栄を張らざるを得ないのかも知れない。
第二の記事で、 『生産合理性だけを追求する社会の中、「経済的に社会貢献できる人だけが、人として認められる」という空気になっている。とても恐ろしいことだと感じています。 そうした中では、どんなに雇用環境が悪化しても、パワハラにあっても、我慢して黙々と働く、ということになります。「このレールから降りたら、自分の価値はなくなってしまう」という強迫観念にかられるためです』、 『日本の福祉は「日本型福祉」といわれていますが、それは「リスクは基本的に個人(家族や親類を含む)が負担する」というものです・・・困難な事態が起こっても「家族で責任をもって助け合いなさい」と、社会から突き放される』、『誰もが、既定のレールから落ちる恐怖や先の見えない老後におびえず、安心して生きていける社会であってほしい。そのための制度が整った社会を、切に望んでいます』、などの指摘には、説得力がある。日本の社会ももっと寛容になって欲しいものだ。
タグ:福祉問題 (生活保護) (その3)(「生活保護バッシング」がやまない本質的理由 「陽のあたる家」さいきまこさんに聞く、「稼げない=無価値」と考える恐ろしい発想 何か人を追いつめているのか?) 東洋経済オンライン 大塚 玲子 「陽のあたる家」さいきまこさんにインタビューした「「生活保護バッシング」がやまない本質的理由」 『陽のあたる家』 漫画家・さいきまこ 『神様の背中』 日本の相対的貧困率は15.6%なんですけれど 自分の生活の程度を「下」と答える人は、5%しかいません 「実際はしんどいけれど意識は中流」という人が多いんです 「「稼げない=無価値」と考える恐ろしい発想 何か人を追いつめているのか?」 稼げないことを「無価値」と感じてしまう 「社会に対して経済的に貢献できない人間には、価値がない」という価値観 生産合理性だけを追求する社会の中、「経済的に社会貢献できる人だけが、人として認められる」という空気になっている。とても恐ろしいことだと感じています 家族同士が支え合う日本型福祉は、経済成長の中で、個人の生活を企業が支えるという前提のもとに成り立ってきました 家族という閉じられた関係だけで頼り合うと、さまざまな悲劇が生まれます
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携帯・スマホ(その1)(窮地の格安スマホ 生き残れるか 「フリーテル」端末会社が経営破綻、「第4の携帯会社」楽天が直面する大きな課題 アマゾンを利する?両刃の剣となる可能性も、日本の携帯が中国で負けた 誰も言わない本当の理由 中国のアジアNo.1スマホメーカー、oppo日本法人社長インタビュー) [産業動向]

今日は、携帯・スマホ(その1)(窮地の格安スマホ 生き残れるか 「フリーテル」端末会社が経営破綻、「第4の携帯会社」楽天が直面する大きな課題 アマゾンを利する?両刃の剣となる可能性も、日本の携帯が中国で負けた 誰も言わない本当の理由 中国のアジアNo.1スマホメーカー、oppo日本法人社長インタビュー)を取上げよう。

先ずは、3月20日付け日経ビジネスオンライン「窮地の格安スマホ、生き残れるか 「フリーテル」端末会社が経営破綻」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・携帯電話料金の高止まりに乗じて急成長してきた格安スマホ事業者が曲がり角に来ている。12月4日には「フリーテル」ブランドを生み出した端末会社の経営破綻が明らかになった。体力に勝る通信大手のなりふり構わぬ販売攻勢を格安スマホ事業者はかわすことはできるだろうか。
・「2025年までにスマホ(スマートフォン)出荷で世界一になる」。こう公言してはばからなかったプラスワン・マーケティング(東京・港)が12月4日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。同社は端末の設計・製造を自ら手掛ける一方で、通信大手からインフラを借りる「MVNO(仮想移動体通信事業者)」として格安の通信サービスを提供する「二刀流」で市場を開拓。格安スマホサービスで業界6位につけていた。
・だが、そんな成長モデルも今春、行き詰まる。「過大広告」をしていたとして消費者庁が行政処分。契約数が伸び悩み、膨張する広告投資を賄いきれなくなった。11月には楽天に通信サービス事業を売却したが、資金繰りは改善せず、自力再建を断念した。
▽通信大手が「包囲網」
・もっとも、身の丈に合わない拡大路線を突っ走ったことだけがプラスワン破綻の原因とは言い切れない。もともと格安スマホ事業は、自前の設備を持たない代わりに通信料の安さで顧客を引き付ける薄利多売のビジネスだ。そうした格安スマホ事業者に、顧客流出に危機感を持つKDDIなど大手携帯電話会社は安い通信料を売り物にしたサブブランドで対抗。自らも最低料金を格安スマホに近づけ、「包囲網」を築いている。
・もはや「格安」の看板だけには頼れない──。格安スマホ事業者は独自の生き残り策を模索する。 一つは規模拡大。プラスワンの通信サービス事業を買収した楽天がその道を行く。約35万人の顧客基盤を引き継いだことで、顧客件数は140万件と、同200万件とされる業界1位のソフトバンクのサブブランド「ワイモバイル」の背中も見えてきた。楽天の大尾嘉宏人執行役員は今後もM&A(合併・買収)を「前向きに検討する」と話す。
・自ら顧客管理に乗り出すのはインターネットイニシアティブ(IIJ)だ。資金力を生かして同社は約50億円を投じ、これまで通信大手が担ってきた「加入者管理機能」など一部の機能を自前で運営する体制に18年3月までに切り替える。独自の料金プランやサービスを打ち出し、大手に対抗する狙い。
・日本通信はIoT(モノのインターネット)市場に活路を見いだす。中国の通信機器メーカーと協業して構内用アンテナ設備を開発中だ。「LTE」と呼ぶ通信技術を活用し、工場内や物流現場など電波が飛びにくい場所でも広範囲で安定したデータ通信を可能にする。  異業種参入も多く、数十社がひしめくとされる格安スマホ市場。淘汰か、延命か。いばらの道が続く。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/120400843/?ST=pc

次に、4月7日付け東洋経済オンライン「「第4の携帯会社」楽天が直面する大きな課題 アマゾンを利する?両刃の剣となる可能性も」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本に第4の通信キャリア(MNO:移動体通信事業者)が誕生することになる。総務大臣の諮問機関、電波監理審議会は4月6日、楽天が申請していた携帯電話の電波割り当てについて、条件付きで「適当」とする結論を出した。
・MNOはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクによる3社の寡占が続いてきたが、これで事実上、楽天の新規参入が決まった。2005年のイー・モバイル(現ソフトバンク)以来、実に13年ぶり。早ければ2019年10月にもサービスを始める予定だ。楽天はMNOになっても、現在手掛ける格安のMVNO(仮想移動体通信事業者)「楽天モバイル」と同じ料金でサービスを提供する計画を提出している。
・ただ、この料金プランの安さとの関連は不明だが、楽天の設備投資の計画額は他キャリアと比べ圧倒的に少ない。多くの利用者を満足させられるだけの質のサービスを提供することは、本当に可能なのだろうか。
▽通信キャリア参入には4つの条件も
・総務省が今回通信キャリア向けに募集した周波数の新規割り当てには、既存の3社も応募した。「いずれの申請者も絶対審査基準に適合している」。審議会後に会見を開いた吉田進会長(京都大学名誉教授)はそう述べたが、一方で楽天の開設計画認定にだけ、ほか3社にはない条件が4つも付いた。その内容は、「他の既存事業者のネットワークを利用する場合も、自らネットワークを構築して事業展開する原則に留意すること」「設備投資及び安定的なサービス提供の資金確保に留意すること」といったものだ。
・自前の通信網をまだ持たない楽天について、吉田会長は「最初は頑張っても電波が届かないところがあるだろう。ローミング(他キャリアの回線を借りること)をやるにしても、将来的には独自でやってほしい」と注文を付けた。
・会見では、楽天が計画する人口カバー率96.0%についても、達成を懸念する質問が飛んだ。よそに頼る「甘え」が許されるのは初めのうちだけだ。楽天は今後、事業を軌道に乗せて収入のあてを確保し、自力で資金をつぎ込んで設備を広げていく必要がある。吉田会長は「ハードルは高い」とも述べ、楽観はしていない姿勢をにじませた。
・仮に楽天がこうした課題をクリアできたとしても、それでほかの3社と同等の通信品質になる、と言えるわけでは決してない。審査の対象はあくまでも「最低限満たすべき基準」であって、それ以上やそれ以外のところで、大きな差がつくかもしれないからだ。
・携帯電話事業にはばく大な初期投資がかかるはずだが、楽天は2025年までに設備投資に充てるため、金融機関の借り入れなどで最大約6000億円の資金調達を計画する。これはドコモが1年間にかける設備投資の額とほぼ同じだ。外部からは「少なすぎる」という指摘が相次ぐが、楽天の三木谷浩史社長は「十分足りる。4Gは後発者メリットで安くなっており、お釣りがくるくらいだ」と強気だ。
・これについて、通信事業に詳しい野村総合研究所の北俊一氏は「確かに、すごく安いインフラを調達すれば運営はできるだろう」と認めつつも、「有事の対応に問題がないかが気にかかる」と指摘する。
▽災害やサイバーテロに十分に備えられるか
・MNOに移行して自前の通信網を持てば、平常時には利用者が問題なく使えるサービスレベルは確保できるだろう。だが、北氏が懸念するのは、例えば震災などに備えた設備投資をどこまでやっているかの差だ。最大手のドコモは、万が一の場合に備えて山の上にも頑丈なサブの基地局を用意する。東日本大震災のように津波で海外線の基地局がやられても、山の上から電波を送受信することで通信を保つためだ。
・また、北氏は「ドコモの基地局は鉄柱を地中の奥深くに打ち込んでおり、大地震でも簡単には倒れない」と評価する。ドコモほどいかなくても、KDDIやソフトバンクもそれぞれ、有事のために莫大なコストをかけている。近年増加するサイバーテロに対しても、3社はコストや人手をかけて対策を打つ。
・楽天の設備投資計画の細かい内容は不明だが、こうした部分にかけるコストを低くしていれば、災害時に基地局が軒並み倒れたり、復旧までに時間がかかったりすることにもなりかねない。災害時は家族や知人の安否確認や情報収集で、通信の重要性が最も高まるタイミングだ。北氏は、「新規参入の楽天にそこまで求めるのは無理がある」と理解を示しつつ、「既存3社がそこにどれくらいお金をかけているかに比べれば、楽天のキャリアはどう考えても差が出てしまうのではないか」とみる。
・他方で、事業面でも通信キャリア参入は楽天にとって「諸刃の剣」のリスクをはらむという見方もある。「楽天経済圏」の拡大を狙う楽天では、楽天モバイルの利用者向けに、グループ内の各サービスでの還元をアピールしている。例えば楽天市場では、楽天モバイル利用者のポイント還元率は1%プラスされ、楽天モバイルでは利用料金100円につき1ポイントが付与されるといった具合だ。
・楽天モバイルの利用者は現在約150万人だが、MNOに移行後に多くの利用者(将来的な目標は1500万人)を取り込むため、楽天関係者は「より大きなポイント還元をする可能性はあるだろう」と話す。考えられるのは、新規の加入者に数千ポイントを付与したり、楽天モバイルの時以上にポイント還元率を高めたりするようなやり方だ。
・三木谷氏は常々、楽天モバイルを「通販や金融とシナジーが高い」と強調しているが、MNOでモバイル事業を拡大すれば、シナジーをより高める方向に動く可能性は高い。
▽ライバルのアマゾンを利する可能性も
・だが、通販事業も手掛けるある大手企業の幹部は、「かえって(楽天のライバルでネット通販最大手の)米アマゾンを利することになるのではないか」と首をひねる。自社キャリアユーザーへの還元は、裏を返せば自社キャリアを使わないユーザーが相対的に損をすることになるからだ。
・この幹部は、「アマゾンが絶対にアマゾンモバイルを作らないのは、全キャリアのユーザーが利用者の対象になるから。キャリアを本格的にやると、対象の客は狭まる」と見る。仮に、楽天がMNOで4分の1のシェアを取れても、楽天経済圏の中での循環を強めれば、他の3キャリアのユーザーにそっぽを向かれるかもしれない。楽天の通販事業にとっては、MNOの成長は必ずしも良い結果になるとは限らない。
・ただ、懸念点を示した吉田会長や北氏も、楽天の参入によって業界の競争が活性化し、新しいサービスができたり、料金面が下がったりすることへの期待から「頑張ってほしい」とエールを送る。楽天が進む道は決して平坦ではないが、多くの期待を背負っていることも事実だ。楽天1社の命運を左右する以上に、通信キャリア参入の成否への注目度は高い。
https://toyokeizai.net/articles/-/215726

第三に、中国在住17年目の作家 谷崎 光が5月17日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日本の携帯が中国で負けた、誰も言わない本当の理由 中国のアジアNo.1スマホメーカー、oppo日本法人社長インタビュー」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・アジアNo.1ブランドの中国のスマホメーカー、オッポが日本市場に参入し話題となっている。日本市場をどう見ているのか、どのように開拓するのか。中国在住17年目の筆者がオッポジャパンの鄧宇辰社長を直撃した。合わせて、日本の携帯メーカーが中国で失敗した事情についても解説する。
▽日本参入で話題のオッポジャパン社長に直撃取材
・「実際進出してみて、日本の携帯市場は予想外のことがあった。世界でも日本は、キャリア(通信事業者)のシェアが非常に高い市場。日本のキャリアが長年積み重ねてきた壁をどう崩せばいいのか。これは私個人の感想だけど、日本では信頼関係を構築するのに、思ったよりも時間がかかる。私たち中国のビジネススピードと日本のスピードは違う。さらに人材採用が非常に難しい」(oppo japan 鄧宇辰氏)
・ニーハオ!北京在住の作家の谷崎光です。 4月21日、中国・北京で開かれた“2018年日中未来ラボ”(北京和橋会主催)というイベントで、今、日本参入で話題のオッポジャパン(oppo japan)、鄧宇辰社長に直撃取材をした。 オッポは日本ではまだあまり知名度はないが、携帯(スマートフォン)の販売額ではアジア1位、世界で4位の中国のメーカーである。残念ながら日本のスマホは、世界ランキングの10位以内にも入っていない(シクシク)。
・実はオッポのルーツは、90年代に中国で任天堂のファミコンに似たゲーム機を作って一世を風靡した小覇王というブランドである。 このブランドを作ったのは段永平氏という中国人で、現在はアメリカ在住の有名な富豪投資家である。
・段永平氏は広東のつぶれかけていた工場を、ゲーム機の製造やジャッキー・チェンの大胆な広告で救った。そして、社内の数人を引き連れ退職した。95年に同業種の教育機器メーカー“歩歩高”を設立した。 歩歩高の語学学習機は、2000年代はどこの大学の購買部でも売っていた。自分の発音と先生の発音を対比させ、リピートできる。当初はカセットで、後にはデジタルになった。
・私も留学時は2回、買い換えるほど使ったし、今の英語うまい中国人は全員使ってたんじゃないかと思うほど、大ヒットした。 その後、段永平氏がその連れてきた部下たちを社長として独立させたのが、oppoとvivoといわれている。 ルーツとして、若者マーケティングに強く、vivoも現在シェアは世界5位である。 いわば、かつては日本のマネをしていた中国の企業に、日本は現在、大きく水をあけられている。
▽誰も言わない日本の携帯が中国で負けた本当の理由
・私が中国に渡った2001年は、ちょうど中国が“携帯大戦争”に突入した時代である。 まさに雨後のタケノコのように携帯ショップができ、当時、日本もSONY,京セラ、東芝、NEC……、20社ほどが中国市場に参入していた。 しかし売り場で見る、日本の携帯はどれもガラステーブルの端に追いやられ、ホコリをかぶっていた。当時、日本と中国では圧倒的な技術差があったにもかかわらず、である。
・当時、その理由を販売員に聞いてみると、「売れないから。英語だけで中国語が打てないのよ」「使いにくい」「電池の持ちが悪い……」 私は<えー、それ本当に日本のメーカー製?偽物じゃないか>と思ったが、まさに正規品だった。
・中国は、世界市場である。 日本だと官と企業が一体となり外資参入の壁を高くするが、中国では昔は技術が低かったせいもあり、少なくとも未発達分野の初期は外資を歓迎する(もちろんいろんな技術移転の仕組みはつくる)。 その中で、他国の各社も最初は実はけっこう“外したもの”を出していた。しかし、彼らはそのうち市場を読みとり、どんどん軌道修正をしていった。
・モトローラもノキアもサムスンもアップルも、中国製のスマホが今のように勃興する前に、少なくとも一度は天下を取っている。アルカテルなどの欧州メーカー(当時)もそれなりにファンをつかんでいた。
・しかし日本だけが、「わが日本のすばらしさを知れ」とばかりに、一般の中国人が好まぬ折り畳み式携帯電話をドヤ顔で押し付けてみたり、いらぬ機能ばかりだったりと、かなりトンチンカンだった。かろうじてソニー・エリクソンの音楽携帯が一部で認知されたが、基本、最初から最後まで外しまくって、ほぼ全社が撤退した。
・中国を撤退する日系企業は多いが、どう見ても負けっぷりが異様である。 当時、この状態を日本に伝えたいと思い、日本のメディア各社に声をかけたがOKするところはなかった。本で書いたが、読む人は知れている。 現地の日本の新聞記者に「書いたら?」と言っても、「駐在員がかわいそうですよぉ。通信規格が違うからですよぉ」 その後、“通信規格が違う”サムスンが、中国の携帯市場で大勝利した。
・現地では日本の官と日本企業と日本メディアが、それぞれ利益誘導で、押したり引いたりコネコネしてたりで “村社会”をつくり、いろんなことがクローズされる。自分の中国駐在に伴って、現地の日本の海外天下り団体に嫁さんを入れてもらっていた新聞記者もいたぐらいである。
・なぜ日本のメーカーだけが、中国の、いや世界の携帯市場をまったく読みとれず、大きな市場を逃がしたのだろうか。 答えは日本のメーカーが消費者のマーケットを読む能力をなくしたからである。  日本の携帯市場は世界でも珍しいキャリア主導である。
・日本のメーカーは自分でマーケットを調査し、リスクを取って携帯を開発販売してきたのではない。 キャリアの仕様通りに製品を作り、納品する。“割り当て”があり、その分は全部買い取ってもらえる。
・今回、この記事を書くのに17年ぶりに日本の携帯(スマホ)市場を見た。すると、あの時中国で惨敗を喫したメーカーのスマホが大手を振っていまだ何社も存在しており、仰天した。 この“村社会”の仲間だけでパイを分け合う環境に長くいて、世界で勝てるわけがない。日本の大手メーカーが“政府筋の仕事”で、半ば利権団体的存在になっていったのが、敗因である。 日本が世界で有数のiPhone市場なのも、日本携帯の実力がなかったからかもしれない。
▽すさまじい競争の中国携帯市場
・一方、中国では携帯は最初からほぼ全部SIMフリーである。 中国のキャリアは中国移動通信、中国聯通、中国電信の三つである。消費者はこのどれかのSIMカードを買う。 今はSIMカードも実名認証制になり入手にも登録が必要だが、以前はそのへんのたばこ屋さんでも売っていた。 そして、それをお店やネットショップで好きに買ったスマホにセットすれば、OKである。
・値引きや特典をつけたキャリアの専用機も一応存在はするが、主流ではない。中国自体が急成長で、新しい機種や通信方式が次々に出てきたので、一度契約しても、結局SIMフリーに乗り換える。  それどころか中国ではキャリアの違う番号を複数持っている人も多く、例えば一つのスマホに、中国移動、中国聯通の2枚のSIMカードをセットして両方とも“生きた”状態で使える。
・こういう状態だとスマホのハードの乗り換えは非常に簡単である。 特に若者だと、新しい機種が出た途端に、今までのスマホを売っちゃって(あるいは、誰かにあげるか、捨てて)、「試してみよう!」となる。もちろん番号も変えなくて済む。
・消費者の気持ちをつかむ商品で戦略が正しければ、あっという間に市場を塗り替えることができる。 結果として、市場の変化が非常に速い。 ゆえに、中国では大手メーカー以外に無数の無名や弱小メーカーが絶えずスマホ市場に参入し、かつ消えていく。
・この17年間、市場の勝ち組は初期がモトローラ、そのうちノキアになり、やがてサムスンに変わった。このころからiPhoneが出てきたが、中国製スマホが台頭し始め、今、筆頭はやはり華為技術(ファーウェイ)だろう。そして小米(シャオミー)のシェアを奪ったのが、オッポである。
・北京在住の私から見たオッポは、正直、最初は知名度もなくいわゆる「雑牌子」(十把一絡げのブランド)の一つ、という印象だった。 小米が最初からわりとカッコ良かったのにくらべ、初期は、今一つあか抜けない。どこかで見たことのあるデザインが多い。
・それがあるとき、ボーンと大きな広告を見たかと思ったら、売り場面積が広がり、知人友人からも名前を聞くようになる。 大規模な広告で一気にシェアを取るのは、中国のIT系でよくある戦略で、小米(シャオミー)もそうだった。 が、小米が都市部インテリのネット購入ユーザーを狙ったのに対して、オッポは地方のリアル店舗とリアル広告で、売上を着実に伸ばしていた。中国は流通に商品をのせるのが非常に大変だが、オッポには販路もあった。
▽アジアで若者に人気の オッポ製品
・商品もずいぶん洗練されてきたが、「若者向けに絞る」いうコンセプトは変わらない。 オッポの製品は、国を越えてアジアなど“都市化されていないエリア”の10~20代のある種の若者にウケる気がする。 勉強がすごーく好きってわけじゃないが、「友達が多くて仲間が大事」「楽しいことが大好き!」みたいな子が見ると、「カッケー」「欲しー」、とズキューン! と、心に刺さるものがあるんじゃないだろうか。そして中国はこういう子が多い。
▽オッポの訴求力は高い
・オッポの初期のヒット商品は自撮りが優秀な機種である。 実店舗で試せば、その機能も、そして若者好みにエッジをきかせた色も質感も体験できる。「私たちの特徴は強いユーザー志向です。お客さんが求めるものを基準に製品開発をしてきた」と、鄧宇辰氏。
・1年以上使ったオッポユーザーに話を聞いてみると、写真以外にも、「電池の充電が速くて、使える時間が長い。iPhoneほど画面はハイスペックではないけど、その分、iPhoneより長持ちかも。アプリをあけるのにちょっと時間がかかるけど、フリーズすることはめったにない。アップデートやセキュリティーも良くて、値段からすると非常にいい性能」という。
・値段が高ければ、それはすべてに最高のオペレーションができる。 しかし、普通の若者はそこまでお金を出せない。機能の何を優先し、何を落とすか、が消費者目線なのである。そして顧客をつかんだ上で上位モデルを投入してきた。 話を聞いて、「ふむふむ、私も次はオッポを試してみようかな」と思ったから、こういう口コミでの伸びも大きいのだろう。
▽中国のスマホメーカーは日本市場でどう勝つか
・さて、こういう“実力派のメーカー”が、日本に来たらどうなるか。 イベントのパネリストを終え、食事の席に戻った鄧宇辰氏を直撃してみた。 すぐに席を立ち、応対してくれた鄧宇辰氏は中国南京生まれ。 シンガポールの南洋理工大学を卒業し、メリルリンチ証券などを経て、2011年からオッポのインドネシア事業に参加。インドネシアでのオッポのシェアを2位までに育てあげた。 さらにキャリア主導のシンガポールでも、たったの3年でシェア3位までにしたやり手である。
・日本ではどんな感じだろうか。 オッポは先に日本での高額の求人をかけて話題になった。キャリアへの売り込みなら年収3000万円、量販店向きなら1000万円から2000万円である。 しかし先の席上での話では、求人には苦労している様子。 「いくらぐらいまで出しますか?」と聞いたら、「上限は決めてません。能力が高ければ、それに合わせて、出す」
・現在の日本での社員は五十数名。 今後拡大していくが、どのぐらい増やしていくかもまだ決めていない。「例えば、docomo(NTTドコモ)みたいなキャリアに参入できたらたくさん雇えるけど、これは我々が決めることができない。そうでなければ増やしても仕方がない」 話を“激盛り”するのが標準の中国人経営者が多い中で、かなり誠実な人である。もっとも若い世代はこういう中国人が増えてきた。海外で教育を受け、何でも合理的に判断する。
・日本のキャリアはすでに3社とも接触しており、共同で技術開発をしている。が、まだ明確な、いつからという採用の回答はない。 「難しいのはやはり関係構築です。日本は何でも用意周到にいろいろ考える。その分、返答は遅い」
・これは中国在住中だと、中国企業、日本企業問わず本当によく聞く問題点で、最近では「もう日本企業と仕事はしない」という声も多い。 時間を区切って成果を出すことを求められている外資のプロと、成果を上げても個人にリターンはない、失敗したら左遷という日本の会社員の“自分が絶対損をしないように”ファーストとは相性が悪いのである。
・みんなで決めるは、「誰も絶対責任をとりません」の合言葉。 とくに携帯の2大キャリアのルーツは半官半民で、“天下りの役人”がたくさんいる組織だし…。 インタビューは中国語でやった。思えば彼が今まで活躍してきたインドネシアもシンガポールも実は華僑・華人文化圏である。英語はもちろんのこと、中国語もたいてい通じる。 彼にはもちろん優秀な通訳はついているが、初めて直接の意思疎通も、文化の違いも難しい日本で苦労しているだろうな、という気はした。
・ちなみに当日、同じ席上に立ったもう2人の中国人経営者は留学経験があったりで日本語が堪能。私から見ると、かなり“日本人化した中国人”である。
▽日本ではお金を積んでも人材が来ない
・日本ではお金を積んでも、人材が来ない。 中国企業の先が読めないのもあるが、日本ではビジネスの資産が個人でなく、企業に集約される。 日本の大手メーカーのキャリアの担当者が、オッポに行って成果を出せるとは限らない。 またメーカーが、いいスマホを低価格で安定的に提供したとしても、キャリアに参入できるとは限らない。
・参入基準は明らかにされない。 返答は遅い。 鄧宇辰氏は優秀な経営者だが、“個人”は誰がやっても一緒というファンタジーを前提として動いているのが日本社会である。 個性を認めないのなら、違いを決めるのは会社でも個人でも、その場にいる時間の“長さ”。新参者はそれだけで不利になる。
・実力や商品力より“会社”の名前が重要な、それも新しいものに対しては「はあ、オッポさんですか」というような、官庁に名刺を置くだけに何年も通わせるような、意味のない努力が大事な世界。 鄧宇辰氏は日本での数年の仕事の成果は問われるが、日本のキャリアの、サラリーマンお殿様たちは契約者が減ろうが、自分は痛くもかゆくもない。 メーカーもそもそも中国に進出して大コケした携帯の責任をとっている人なんて、一人もいないのである。まさに“文化の衝突”。
・しかし、オッポはたぶんキャリアに参入できるだろう。 ただし、営業戦略や商品力にかかわらず、その席は多くはないと私は予想する。“村社会”で長老たちが決める「まあ、5Gに備えて数に入れておいてやろう」の世界だからである。
・現在、オッポは日本でSIMフリー市場にはすでに商品を投入している。 価格はビックカメラで5万円台である。私はこれはかなり高いと思う。手続きの煩雑なSIMフリーに乗り換えた顧客は、基本的に若く、コスト意識の高い人々である。SIMフリーのシェアは2万円台のASUSが独占している。「日本人だからいいものを買うはず」というのは過去の話(泣)。 あと中国の若者だと収入が低くてもスマホにお金をつぎ込むが、日本人の場合、そこはがんばらない。
・日本の主要市場を押さえているキャリアをまず攻略というのは、グローバル社会では合理的な判断だが、村社会で最短距離が、最短距離にならない日本。現在、日本のSIMフリー契約者は全体の14%である。予想より早いスピードで伸び、30%ぐらいはいくのではないか。
・キャリアにいるのは、基本“のんびりじいさん”たちである。 のんびりじいさんの会社に時間を費やすより、SIMフリー市場に低価格のスマホをもっと投入するほうが勝てる気がする。そしてできるだけメディアに露出し、“名前を覚えてもらい”、実績をつくり、そのうちにキャリアの席をもらう……、あ、これ華為技術がやったことだっけ。華為技術日本(株)、さりげなく経団連にも入ってます。
・鄧宇辰氏いわく、日本のキャリアへの戦略はまだ秘密だそうだが、きっと着々と手を打っているだろう。「私たちは日本を、商品を売るためだけの場所とは考えていない。SONYのある国でずっと憧れていた場所でもある。日本でいろいろ学んで、ここからヨーロッパなどにもシェアを広げたい。」と鄧宇辰氏。 日本のいいところは、「食べ物がおいしいところ」という、鄧宇辰氏。ソバがお好きだそう。 日本での挑戦期限は決まってない。 まだ戦いは始まったところである。
http://diamond.jp/articles/-/170198

第一の記事で、 『成長モデルも今春、行き詰まる。「過大広告」をしていたとして消費者庁が行政処分。契約数が伸び悩み、膨張する広告投資を賄いきれなくなった』、 『異業種参入も多く、数十社がひしめくとされる格安スマホ市場』、というのでは、破綻は時間の問題だったのだろう。
第二の記事で、 『楽天は2025年までに設備投資に充てるため、金融機関の借り入れなどで最大約6000億円の資金調達を計画する。これはドコモが1年間にかける設備投資の額とほぼ同じだ』、という設備投資の少なさは、『災害やサイバーテロに十分に備えられるか』、という懸念材料に影響する。さらに、 『自社キャリアユーザーへの還元は、裏を返せば自社キャリアを使わないユーザーが相対的に損をすることになる・・・「アマゾンが絶対にアマゾンモバイルを作らないのは、全キャリアのユーザーが利用者の対象になるから。キャリアを本格的にやると、対象の客は狭まる」と見る』、というのでは、シナジー効果どころではなく、本業でのマイナス効果といった懸念材料を抱える可能性もあるようだ。三木谷社長の「お手並み拝見」である。
第三の記事で、 『日本だけが、「わが日本のすばらしさを知れ」とばかりに、一般の中国人が好まぬ折り畳み式携帯電話をドヤ顔で押し付けてみたり、いらぬ機能ばかりだったりと、かなりトンチンカンだった。・・・最初から最後まで外しまくって、ほぼ全社が撤退した』、という日本企業の「思い上がり体質」は、困ったものだ。 『現地の日本の新聞記者に「書いたら?」と言っても、「駐在員がかわいそうですよぉ。通信規格が違うからですよぉ」その後、“通信規格が違う”サムスンが、中国の携帯市場で大勝利した』、日本の新聞の駐在記者の進出企業への遠慮と不勉強ぶりには、やはりそうかと感じた。 『時間を区切って成果を出すことを求められている外資のプロと、成果を上げても個人にリターンはない、失敗したら左遷という日本の会社員の“自分が絶対損をしないように”ファーストとは相性が悪いのである』、というのは、その通りなのかも知れない。オッポの日本での展開を注視したい。
タグ:携帯・スマホ (その1)(窮地の格安スマホ 生き残れるか 「フリーテル」端末会社が経営破綻、「第4の携帯会社」楽天が直面する大きな課題 アマゾンを利する?両刃の剣となる可能性も、日本の携帯が中国で負けた 誰も言わない本当の理由 中国のアジアNo.1スマホメーカー、oppo日本法人社長インタビュー) 日経ビジネスオンライン 「窮地の格安スマホ、生き残れるか 「フリーテル」端末会社が経営破綻」 格安スマホ事業者 プラスワン・マーケティング 民事再生法の適用を申請 格安スマホサービスで業界6位 成長モデルも今春、行き詰まる。「過大広告」をしていたとして消費者庁が行政処分。契約数が伸び悩み、膨張する広告投資を賄いきれなくなった 通信大手が「包囲網」 東洋経済オンライン 「「第4の携帯会社」楽天が直面する大きな課題 アマゾンを利する?両刃の剣となる可能性も」 MNO:移動体通信事業者 格安のMVNO(仮想移動体通信事業者)「楽天モバイル」と同じ料金でサービスを提供する計画を提出 今後、事業を軌道に乗せて収入のあてを確保し、自力で資金をつぎ込んで設備を広げていく必要 楽天は2025年までに設備投資に充てるため、金融機関の借り入れなどで最大約6000億円の資金調達を計画する これはドコモが1年間にかける設備投資の額とほぼ同じだ。外部からは「少なすぎる」という指摘が相次ぐ 災害やサイバーテロに十分に備えられるか 通販や金融とシナジーが高い 自社キャリアユーザーへの還元は、裏を返せば自社キャリアを使わないユーザーが相対的に損をすることになる アマゾンが絶対にアマゾンモバイルを作らないのは、全キャリアのユーザーが利用者の対象になるから。キャリアを本格的にやると、対象の客は狭まる 谷崎 光 ダイヤモンド・オンライン 「日本の携帯が中国で負けた、誰も言わない本当の理由 中国のアジアNo.1スマホメーカー、oppo日本法人社長インタビュー」 アジアNo.1ブランドの中国のスマホメーカー、オッポが日本市場に参入 日本の携帯が中国で負けた本当の理由 日本だけが、「わが日本のすばらしさを知れ」とばかりに、一般の中国人が好まぬ折り畳み式携帯電話をドヤ顔で押し付けてみたり、いらぬ機能ばかりだったりと、かなりトンチンカンだった 基本、最初から最後まで外しまくって、ほぼ全社が撤退した 時間を区切って成果を出すことを求められている外資のプロと、成果を上げても個人にリターンはない、失敗したら左遷という日本の会社員の“自分が絶対損をしないように”ファーストとは相性が悪いのである
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金融業界(その2)(メガバンク3行の「人員削減計画」は甘すぎる AIで最も厳しい影響を受けるのは金融業界、メガバンクの採用抑制は 銀行・行員・日本経済の「三方一両得」だ) [金融]

金融業界については、昨年10月18日に取上げた。今日は、(その2)(メガバンク3行の「人員削減計画」は甘すぎる AIで最も厳しい影響を受けるのは金融業界、メガバンクの採用抑制は 銀行・行員・日本経済の「三方一両得」だ、)である。

先ずは、経営コンサルタント、経済アナリストの中原 圭介氏が1月31日付けで東洋経済オンラインに寄稿した「メガバンク3行の「人員削減計画」は甘すぎる AIで最も厳しい影響を受けるのは金融業界」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・人工知能(AI)が大きな注目を集めている背景には、コンピュータの性能が急速に発達したこと、インターネットの普及で膨大なビッグデータが取得しやすくなったこと、深層学習(ディープラーニング)などコンピュータの学習方法が飛躍的に進化したこと、などがあります。
▽メガバンクの窓口ではすでにロボット導入も
・AIは膨大な資料やデータを読み込み、分析や学習を繰り返しながら、日々進化を遂げています。非常に複雑な計算もあっという間にこなすことができます。それゆえにAIは、企業の活動はもちろん、私たちの雇用のあり方そのものを大きく変えてしまう可能性を秘めているのです。
・製造業の現場で自動化された工場のほかにも、AIはすでにさまざまな分野で活用され始めています。AIがとりわけ効率化を促すのは、事務などの単純作業の分野においてです。工場での作業を効率化するために、ロボットの導入が加速化しているのと同じように、日本企業のオフィスでも、作業を自動化するソフトの利用が広がり始めています。
・パソコンを使ったデータ入力などの繰り返し作業を担うのが、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)と呼ばれるソフトで、通称ロボットと呼ばれています。たとえば、さまざまなデータをインターネットなどから拾って集計・グラフ化するという反復作業がありますが、あらかじめロボットに作業の手順を覚えさせておけば、人が犯しがちなミスを防ぐことができ、作業速度は10倍、20倍といった具合に格段に速くなるのです。
・金融業や保険業では特に、AIが活躍できる余地が大きいといえます。メガバンクのなかには、すでに窓口の業務において、AIが来店客との会話の内容を分析し、適切な受け答えをするロボットを導入しているところもあります。
・銀行や保険会社のコールセンター業務においても、AIが顧客との会話を分析しながら、最適な回答を探し出すオペレーター支援システムが導入され始めているのです。顧客からの問い合わせ内容に応じて、AIは過去に学習した数万件の回答事例から最適な答えを瞬時に導き出すため、オペレーターは分厚いマニュアルを調べる必要がなくなり、従来よりも短時間で対応できるうえに、顧客の満足度も上げられるというわけです。
・金融業におけるAIの積極的な活用は、窓口やコールセンターといった業務だけでなく、与信や融資に関する業務、振り込み確認、クレジットカードの不正検知など、多岐にわたって進んでいくことが確実な情勢にあります。
▽アリババグループはすでに既存の銀行を凌駕している
・たとえば、金融業の中核業務である与信や融資においては、これまでは専門知識を持った金融マンがその金額によって数時間から数日以上かけて審査していましたが、AIがビッグデータを分析すれば1秒以内で判断することができるので、審査時間を極端というべきレベルまで短縮することが可能となります。金融業ではAIの導入が加速することによって、生産性(収益力)を大いに高めると同時に、大幅なコスト(人員)削減を進めることができるというわけです。
・AIによる与信や融資で先行する、中国のIT大手アリババのグループ銀行では、個人商店の運転資金の融資はすべてスマートフォンで完結する仕組みとなっています。スマートフォンから融資の申請をするのに必要な時間は数分程度、AIが融資の審査や融資可能額を1秒もかけずに判断し、審査が通った場合は希望融資額が、アリババグループが持つ世界最大の電子決済サービス「アリペイ」の口座に数分で振り込まれるというのです。
・アリペイは、中国の人々の90%超があらゆる消費に使っているスマートフォン経由の電子決済サービスの中で、最大シェアを誇ります。ここでAIが融資判断に用いているのはアリペイから得られる膨大な決済データです。膨大なビッグデータから100以上の予測モデルを解析し、資金回収の確率を民間銀行よりも大幅に引き上げることに成功しているのです。
・日本の金融機関でも、AIが積極的に使われ、人員削減が進んでいくことになるでしょう。現に、みずほフィナンシャルグループは2024年度末までに500店舗のうち100店舗を削減し、2026年度末までに1万9000人の人員を削減すると発表しています。三菱UFJフィナンシャル・グループも2023年度末までに516店舗のうち最大100店舗を自動化し、6000人の人員を削減するといいます。三井住友フィナンシャルグループも、2019年度末までに全店舗の自動化を推進し、4000人分の業務量を削減するといいます。
・しかし、これらメガバンク3行はAIの普及がもたらす雇用への悪影響を過小評価している節があり、現行の人員削減計画は甘いといわざるをえません。日本の金融機関は欧米の金融機関に比べて人件費などのコストが高く、生産性の改善が課題となっているといわれて久しいですが、これからはAIを搭載したコンピュータやロボットが生産性を大幅に引き上げるのと裏腹に、賃金が高い金融機関の雇用を破壊していくことが避けられないでしょう。
・銀行などの金融機関と同じく、保険会社も人員削減の余地が大きいといえます。最近のアメリカでは、AIを活用して人手を必要としない保険会社の起業が増えています。生命保険にしても自動車保険にしても、加入手続きから保険金の支払いまで、スマートフォンのアプリを通したやり取りだけで完結するというサービスが広がり始めているのです。
・AIやビッグデータを駆使することで、保険料の見積もりや保険の支払いを迅速にするというのが最大のメリットであり、ことのほかスマートフォンで簡単な質問に答えるだけの数分で保険に加入できるという手軽さが受けています。賃金が伸びていない若い世代を中心に、人件費などのコストを徹底的に抑えた割安な保険商品への人気度は高まっているということです。
・そればかりか、顔を見れば寿命がわかるという技術を開発したベンチャー企業までが現れています。機械学習を重ねたAIがたった1枚の顔写真から、性別や年齢、かかりやすい病名、寿命までを割り出すことができるというのです。アメリカではすでにこのベンチャー企業のサービスを使い、顔写真から生命保険料の大まかな見積もりをする生命保険会社があるといいます。
・また別のベンチャー企業では、AIが初期診断と健康管理を行い、病気を防ぐというサービスを開発し、そのサービスの導入を考えている生命保険会社もあるといいます。これらの事例が示すように、AIの技術力でコストを抑えることによって、保険料を大幅に下げることができれば、より多くの人が保険に加入できるようになるでしょう。
▽アメリカでの流れが、いずれ日本にも波及する
・そのうえ、AIは手間がかかる自動車保険の保険金の支払い手続きでも活躍しています。スマートフォンのアプリで事故現場の写真を送信すると、保険金の支払額の見積もりが数分でできてしまうというのです。従来は1カ月程度かかっていた保険金の支払いが、1週間以内で完了できるまでになったといいます。
・アメリカの大手の保険会社でも、新しく起業した保険会社の手法やベンチャー企業の技術を貪欲に取り入れて、できるかぎりすべての業務を簡素化して、コスト削減につなげる取り組みを進め始めています。これからの保険会社の経営目標は、店頭の窓口や保険の勧誘、対面の手続きなどをできるだけ省き、業務にかかる人件費を抑えることになってくるでしょう。
・日本の保険会社では今のところ、AIの利用は単純な事務作業やコールセンター業務の一部にとどまっていますが、遅かれ早かれアメリカでの流れが日本にも波及し、AIやビッグデータ分析を駆使して業務を効率化し、保険料を下げていくという方向性が固まっていきそうです。保険料が下がる消費者にとっては好ましいことかもしれませんが、賃金が高い部類の雇用があまり必要なくなるという副作用は決して無視してはいけないでしょう。
https://toyokeizai.net/articles/-/206598

次に、メガバンク出身で久留米大学商学部教授の塚崎公義氏が4月13日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「メガバンクの採用抑制は、銀行・行員・日本経済の「三方一両得」だ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・メガバンクが採用を抑制すると報道されている。メガバンク3行合計の来春の新卒採用数2300人程度と、今春を3割下回り、リーマンショック前の3分の1となる模様だ。 新卒市場の“ガリバー”だったメガバンクの変化は、多方面に影響を与えると注目されているが、筆者はこの動きを「メガバンク、従業員、日本企業の三方それぞれにとって一両の得である」として歓迎したい。
▽メガバンクの採用抑制は収益改善に資する
・昨今、メガバンクを取り巻く情勢は、厳しいものがある。 まず、ゼロ金利の長期化により、預金部門のコストの持ち出しが長引いている。ゼロ金利なのだから、必要な資金はいつでも他行から借りることができ、預金部門は不要といえる。にもかかわらず、各行が預金部門を持ち続けているのは、ゼロ金利が解除されて高金利時代が到来したときに備えているわけで、長期化すればするほど銀行の収益にとっては大きな重荷となっている。
・加えて、ゼロ成長も重荷だ。ゼロ成長だと、普通の会社は売り上げも利益も前年並みだが、銀行はそうではない。企業が設備投資をしない(更新投資はするが、その資金は減価償却で賄える)ので、利益のうちで配当されなかった部分は借り入れの返済に回されてしまう。つまり、ゼロ成長だと融資残高は減り、銀行の収益も減少していくのだ。
・こうした状況を補うために、貸出金利の引き下げ競争が繰り広げらているわけだが、これもまた銀行の収益を悪化させている。
・このような短期的な収益圧迫に対して、新卒採用の絞り込みの効果は限定的との見方もあるが、そうとは言い切れない。新入社員の給料は安いが、採用コストや教育コスト、それからミスをして銀行に迷惑をかけるリスクなどを考えれば、新人を雇うコストは決して小さくないからだ。
・加えて、今のような売り手市場の就職戦線においては、従来のような大量の優秀な人材を集めるのは容易ではないから、人数をしぼって優秀な学生だけを採用するということも大いに意味がある。 加えて銀行は、長期的にはフィンテックなどにより、必要な労働力が減っていくと言われている。そうであれば、早めに手を打って新卒採用をしぼっていくことが、長期的な銀行経営にも重要だ。新卒を採用してしまうと、長期にわたって余剰人員を抱え込むことにもなりかねないからだ。
▽機械化や合理化対応の実現で現在の行員もリストラされず助かる
・短期的には銀行の収益悪化が予想され、長期的には必要労働力の減少が予想されるならば、現在、銀行で働いている現役行員が懸念するのは、「リストラ」だろう。その点、早めに新卒採用をしぼってもらえば、「余剰人員」が発生する可能性が減り、リストラが行われる可能性も減る。
・一方で、新卒採用をしぼることで、短期的に現場の労働力不足が深刻化すれば、現役行員が長時間の残業を強いられるといった事態も懸念される。フィンテックなどにより、銀行員が余るようになるのは将来の話で、短期的には銀行ビジネスの仕事量は減らないからだ。 もっとも、報道によれば、幸いなことに機械化や合理化対応することで人員減が実現できそうだ。それなら、現役行員は過重労働もしいられず、リストラもされないということになろう。
▽他産業も優秀な学生を獲得でき日本経済にとって素晴らしいこと
・不況期、特に就職氷河期には、採用を減らすというのは悪いニュースだった。しかし、採用難の今、就活市場の“ガリバー”が採用を減らすのは、他産業の企業にとっても、日本経済にとっても大きな“グッドニュース”だろう。 人数だけではない。質の面でも銀行は優秀な学生を大量に採用してきたので、それが減ることは、他企業にとって喜ばしいだろう。
・ちなみに、「銀行は難関大学の学生ばかり採用したがるが、難関大学の学生が就職したからといって優秀なサラリーマンになるとは限らない」といった批判を耳にする。 だが、本稿における「優秀な学生」の定義は、「各社の採用担当者が採用したいと考える学生」という意味であり、そうした学生を銀行が獲得することで、「内定を出した学生が、銀行に行ってしまって残念だ」と嘆いている非銀行企業の人事担当者が多い、という意味だ。そうしたことがなくなるということは、いいことだろう。
・金融は経済の“血液”であり、銀行が日本経済にとって重要な仕事をしていることは疑いないが、それにしてもあれだけ大量に優秀な人材を囲い込むのは日本経済にとって好ましいことではない。それが「適切な人数の囲い込み」になるのだから歓迎すべきことだ。
▽銀行が衰退産業だとの印象には一抹の不安も
・ただ、銀行が採用人数をしぼったことで、「銀行は衰退産業だ」との印象を学生に与えてしまうことについては、一抹の不安もある。 既存の銀行ビジネスは、少しずつフィンテックなどに代替されていくだろうが、銀行自身がフィンテックの担い手になる可能性も十分あるし、そうでなくとも既存の銀行業務が完全に衰退してしまうわけではない。
・そうした中で、銀行志望者が急減すれば、銀行として「採用人数をしぼった以上に銀行志望の優秀な学生が減ってしまう」といったことにもなりかねない。実際には、20年後に栄えている産業や企業など誰にも分からないのだから、銀行の人気が高すぎるのも、低すぎるのも望ましいことではない。適度な人気となることを期待したいと思う。
・余談になるが、バブル崩壊前で銀行の給料が高かった頃、「銀行は、右の金を左に動かしているだけの虚業であるから、銀行員が高い給料をもらうべきではない」という批判を耳にした。今は、銀行員の給料も昔ほど高くなさそうだが、「銀行は虚業であるから、優秀な人材を囲い込むべきでない」といった批判はあるだろう。
・ただ、こうした批判は的外れだ。「物を作っている製造業は偉いが、物を作っていない金融業は偉くない」という価値観から出ている発言だとすると、日本中の労働者の76%を敵に回すことになりかねない。労働力調査によると、製造業と建設業で働く人は全体の24%に過ぎないからだ。
▽優秀な人材が各産業に分散されることが望ましい
・金を預けたい人と、金を借りたい人が世の中に大勢いるときに、金融業がなければ金を借りたい人は借りることができず、預けたい人も預けることができない。そんなときに「借りたい人と、預けたい人は銀行へきてください」と言えば、両方をつなぐことができて皆が助かるのだ。つまり、銀行は必要なのだ。
・例えば、金融危機で銀行が貸し渋りをすると、資金繰りに困って倒産する中小企業が多発する。こうしたことからも分かるように、「心臓は普段は特に感謝されないが、止まってみるとありがたみが分かる」といったイメージだろう。
・もっとも、銀行の方が他の産業より優秀な人材を必要としているか、というと、そこは疑問だ。優秀な人材が適度に各産業に分散されるならば、それは望ましいことだ。
http://diamond.jp/articles/-/167043

第一の記事で、 『メガバンク3行はAIの普及がもたらす雇用への悪影響を過小評価している節があり、現行の人員削減計画は甘いといわざるをえません』、というのは、現行の人員削減計画が採用抑制による人員の「自然減」を前提にしていることもあるのかも知れない。 『中国のIT大手アリババのグループ銀行では、個人商店の運転資金の融資はすべてスマートフォンで完結する仕組みとなっています。スマートフォンから融資の申請をするのに必要な時間は数分程度、AIが融資の審査や融資可能額を1秒もかけずに判断し、審査が通った場合は希望融資額が、アリババグループが持つ世界最大の電子決済サービス「アリペイ」の口座に数分で振り込まれる』、というのはフィンテックの代表例としてよく挙げられるものだ。

第二の記事は、 『メガバンクの採用抑制は、銀行・行員・日本経済の「三方一両得」だ』、というのは、悲観的見方が多数を占めるなかで、珍しい楽観的見方で、確かにその通りだ。銀行実務から経済全般に精通している塚崎氏らしい記事だ。 『銀行が衰退産業だとの印象には一抹の不安も・・・銀行の人気が高すぎるのも、低すぎるのも望ましいことではない。適度な人気となることを期待したいと思う』、というのは同感だ。銀行の必要性を、 『「心臓は普段は特に感謝されないが、止まってみるとありがたみが分かる」といったイメージだろう』、というのは巧みな比喩だ。さすがである。
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フェイスブックのデータ流出問題(FB情報流出、渦中の学者が手がけたロシア邪悪性格研究、フェイスブックはデータ流出で「ビジネスモデルの危機」に直面している、SNS帝国フェイスブック 規制論が高まる必然 「国家を超えたコミュニティ」をどう扱うか) [産業動向]

今日は、フェイスブックのデータ流出問題(FB情報流出、渦中の学者が手がけたロシア邪悪性格研究、フェイスブックはデータ流出で「ビジネスモデルの危機」に直面している、SNS帝国フェイスブック 規制論が高まる必然 「国家を超えたコミュニティ」をどう扱うか)を取上げよう。

先ずは、Denis Pinchuk and Douglas Busvine両氏が3月25日付けロイターに寄稿した「焦点:FB情報流出、渦中の学者が手がけたロシア邪悪性格研究」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・フェイスブック利用者約5000万人の個人情報が不正流出したスキャンダルの中心人物とされる英ケンブリッジ大の心理学者は、ロシアの研究者と、病的な人格の特徴に関する共同研究を行っていた。 この心理学者アレクサンドル・コーガン氏は、心理学分野で「邪悪な人格特性(ダークトライアド)」と呼ばれる精神病質やナルシシズム(自己愛)、マキャベリズム(権謀術数主義)といった性質が、インターネット上での他者に対する虐待的行動と関連があるかを調べているロシアにあるサンクトペテルブルク大の研究チームに助言していた。
・「われわれは、ネット上の怪物を特定したかった。こうした怪物に悩まされている人々の助けになりたいと考えた」と、サンクトペテルブルク大のヤニナ・ルドバヤ上級講師はロイターに語った。 ケンブリッジ大講師のコーガン氏は、フェイスブック上の心理テストを使って集めた利用者の個人情報を、英データ会社ケンブリッジ・アナリティカ(CA)に売り渡したとして批判を浴びている。コーガン氏は、配偶者の姓であるスペクターを名乗ることもある。
・フェイスブックによれば、約27万人がこの心理テストを提供するアプリをダウンロード。このアプリは、利用者に通知したり同意を得ることなく、全てのフェイスブック上の「友人」についてのデータも収集していた。コーガン氏は、こうして集めたデータをCAに提供していた。
・CAは16日、コーガン氏がフェイスブックの利用規約に違反していたことを当初は知らず、その事実を把握した2015年にデータを消去したと説明。だが米紙ニューヨーク・タイムズと英誌オブザーバーはデータは消去されていなかったと同日報じている。
・2016年の米大統領選でトランプ陣営を支援するターゲティング広告に、このデータを活用したと語る、CAのアレクサンダー・ニックス最高経営責任者(CEO)の隠し撮り映像が、英チャンネル4ニュースで20日放映された。  このスキャンダルの拡大によって、ニックスCEOは20日、停職処分となった。その一方で、フェイスブック株価の急落により、500億ドル(5兆2500億円)近くの時価総額が吹き飛んだ。
・食料安全保障から麻薬対策、選挙戦まで幅広く手掛ける政府コントラクターであるSCLグループ傘下のCAは、2013年ごろ創立。 当初は米国の選挙戦を専門としており、トランプ氏の大口献金者だった富豪ロバート・マーサー氏や、側近だったスティーブ・バノン氏が推薦した人物から、約1500万ドル(約16億円)の資金援助を受けたと、ニューヨークタイムズ紙が報じている。
・サンクトペテルブルク大との共同研究についてコメントを求めたが、コーガン氏は応じなかった。同氏は21日、英国放送協会(BBC)に対して、自分はフェイスブックとCAから責任を押し付けられていると訴えた。CAは、同大とは関連がない。
▽データ漏えいなし
・ルドバヤ上級講師によると、コーガン氏は2015─17年にかけて、サンクトペテルブルク大が研究費を出した研究プロジェクトに対して助言を行った。ほとんど大学を訪れることはなく、主に海外にいて連絡を取り合ったという。 研究チームは、フェイスブックのロシア語ユーザー向けに、61の質問からなる調査を行うアプリを開発。どの程度「邪悪な人格特性」があるかを診断した。
・このアプリは、ユーザーの同意を得た上で、回答だけでなく公開データも取集。これとは別に、研究者はこれらのユーザーによるフェイスブック上の書き込みを分析した。 ルドバヤ氏は、収集したデータは5人の研究チームメンバー以外には渡しておらず、コーガン氏にも提供していないと話す。
・「(アプリを使った)1万人ほどの人のデータを誰かとシェアする権利はわれわれにはない。これは倫理の問題であり、われわれはそれを守る」と、ルドバヤ氏は話した。 悪意ある性格の特性研究は、少なくともオーストリアの精神医学者ジークムント・フロイトまで遡る。フロイトは、過剰な自己愛であるナルシシズムを定義した。
・ルネサンス期イタリアの外交官の名からつけられたマキャベリズムは他人を操る行動を指し、精神病質(サイコパシー)は、他人との共感欠如が特徴だ。 ルドバヤ氏は、研究プロジェクトの目的の1つは、回答者の精神面での健康を守り、必要に応じて無料カウンセリングを勧めることだったと話す。
▽ロシア・コネクション
・コーガン氏とサンクトぺテルブルクとの繋がりは、ロシアと西側諸国との関係が悪化する中で明るみに出た。コーガン氏は米国民だが、旧ソ連のモルドバ生まれ。子どもの頃に米国に移住したと、英ガーディアン紙は報じている。 ロシアによる米大統領選への介入疑惑を捜査しているモラー米特別検察官は、これまでにロシア人13人とロシア企業3社を起訴した。
・捜査の焦点の1つは、起訴されたサンクトペテルブルクの「インターネット・リサーチ・エージェンシー(RIA)」などのロシアのグループが、フェイスブック上でターゲットを絞りメッセージを発信していたとの疑惑だ。
・サンクトペテルブルク大の研究チームは、IRBとは全く無関係だと、同大の元心理学講師ウラジミール・ボルコンスキー氏は言う。  ケンブリッジ大によると、コーガン氏はサンクトペテルブルク大との共同研究について、心理学部長に必要な許可を求めていた。 ケンブリッジ大は「この共同研究やそのための資金は、大学とは関係ない(コーガン氏の)個人として行うものとの理解だった」とコメントした。(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)
https://jp.reuters.com/article/facebook-cambridge-analytica-kogan-idJPKBN1GY0OP

次に、元銀行員で法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が4月17日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「フェイスブックはデータ流出で「ビジネスモデルの危機」に直面している」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽盲点をついて成長してきた フェイスブック
・4月11、12日、米国の議会公聴会で、フェイスブックのザッカ―バーグCEOがデータ流出事件関連の質問を受けた。出席者からはかなり厳しい追及を受けたようだが、同CEOはとりあえず無難に公聴会を切り抜けたとの見方が有力だ。
・ただ、これでフェイスブックに関するリスクがすべて払拭されたわけではない。むしろ、個人情報の管理の甘さが顕在化したと見るべきだ。今回の事件によって、フェイスブックのビジネスモデル自体が大きく制約を受ける可能性も否定できない。その場合には、同社の業績にも重大な影響が出るはずだ。
・これまでの同社のビジネスモデルの中心の一つは、ユーザー間のコミュニケーションなど人々の行動に関する“ビッグデータ”を集めそれを販売することだ。ザッカーバーグCEOは、このデータを十分に管理していなかった責任を認めた。それは、CEO自ら、望ましくない影響を社会に与えるリスクを認識していたにもかかわらず、放置していたと解釈できる。
・今のところ米国では、ネットワーク上にあふれる個人などのデータをどう管理するか、統一されたルールをまとめられていない。ある意味、その盲点をついて、フェイスブックはSNSユーザーを集め、そのデータをビッグデータとして売り、成長を遂げていたといえる。
・今回、そのリスクが顕在化し、フェイスブックの経営そのものに大きな影響が出ることも考えられる。これを契機に、ハイテク銘柄の代名詞として扱われてきたFAANG企業(注)の競争力は、大きく変化していくかもしれない。
(注)フェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル(現在はアルファベットに社名変更)の総称
▽顕在化する プラットフォーマーのリスク
・フェイスブック問題の本質は、同社のビジネスモデルのリスクが顕在化したことだ。 まず、フェイスブックの重要な収益源は広告収入だ。その収益源は、かつてのヤフーと変わらない。ヤフーは、ユーザーが検索をして初めて機能を発揮する。そのため、検索機能の向上を通した利用者の増加が重視された。
・一方、フェイスブックは、われわれの日常生活のワンシーンをネットワーク空間に取り込んだものだ。すでに、1日14億人がフェイスブックにアクセスしている。日常のワンシーンを共有するだけでなく、フェイスブックをホームページ代わりに利用するなど、コミュニケーション、ビジネスのプラットフォーム=基盤としての機能が形成され、人々の思考に関するデータが蓄積されている。
・このプラットフォームには、データを収集し、販売するという機能もある。それを強化することでマーケティング需要などを取り込み、同社は成長した。同社の利用規約には、「データは機能向上以外には使われない」、「ユーザーは個人の情報を管理できる」と記されている。
・しかし、実際にそれは守られていなかった。事実上、同社は満足度を高めて利用者数を増やし、そこから得られるビッグデータを販売し高収益を獲得してきた。同社の売り上げの98.5%が広告関連だが、この収入とデータ販売の関係は、早急に明らかにされるべきだ。
・2017年のフランス大統領選挙でもフェイクニュースが問題となった。それは、ある意味では、フェイスブックのリスクは世界に拡散していることを意味する。それを同社は放置してきた。最大のリスクとは、データがネットに筒抜けになることよりも、人々の行動が無意識のうちにコントロールされる恐れがあることの方がより大きなリスクだ。
・しかも、それが選挙の結果にかかわる影響を及ぼした可能性がある。それは、身の毛がよだつような恐ろしいことだ。SNSを通して人々の行動がコントロールされる状況は、ジェームズ・ボンドが登場する「007シリーズ」のようなスパイ映画のワンシーンに思えてしまう。今回の事件で、われわれはフェイスブックのデータ流出によって、恐ろしい事態が現実に起きていたことが分かった。後から見ると、歴史的にも重要な出来事になるかもしれない。
▽孤立するフェイスブック 業界を主導するアマゾン
・ある意味、フェイスブックはセキュリティー面に関する、社会や人々の“一種の無関心”を上手く利用してきた。人々が自分の情報の扱いに無関心であったため、ユーザーを保護することは軽視され、セキュリティー面への投資が控えられてきたともいえる。その結果、データ管理コストの支出を抑えて、高収益・高成長を遂げたとも解釈できる。
・その経営に対して、アップルのクックCEOらIT関連企業トップから批判が相次いでいる。それは、ザッカーバーグCEOが、社会的な責任を全うしていないという指摘だ。フェイスブックは社会から孤立する恐れがある。つまり、データや広告宣伝から収入を得るビジネスモデルの限界が露呈している。
・今回の問題を契機に、ハイテク企業の将来の展開は分かれていくだろう。ポイントは、ビジネスモデルだ。今後の競争を優位に進めていく可能性があるのは、何と言ってもアマゾンだろう。基本的に、アマゾンとフェイスブックが直面する問題は大きく異なる。
・アマゾンに関して、トランプ大統領からの批判を問題視する市場参加者が多い。批判の背景には、アマゾンがトランプ批判を行っている新聞メディア、“ワシントン・ポスト”を抱えていることがあるとの見方が有力だ。だからこそアマゾンをやり玉に挙げているとの見方だ。
・それに加えて、アマゾンが重視するのは実際のビジネスや、われわれの生活を向上させるプラットフォームである。自社で物流ネットワークを整備するなど、IT空間と実社会(オフライン)のコネクトが重視されている。その社会的な責任は大きいが、今のところ、アマゾンは人々の需要をうまく生み出し、ダイナミックにビジネスを創造している。
・それに対して、フェイスブックのビジネスは、プラットフォームであるSNS(ネット空間)に人々を誘い、そこから得られるデータの販売、広告宣伝収入に依存している。これは、グーグルにも当てはまる。ダイナミズムという点では、アマゾンの方が優位だろう。
▽長い目で見た事業の展開予想
・フェイスブックのユーザーデータが不正に流出したことは、私たちがネットワークテクノロジーの持つ潜在的な影響力に無関心だったことを確認する機会になった。 SNSなどを通してデータが意図せざる形で使われることへの無関心さ、無警戒さが修正されるにつれ、IT企業の経営コストは増えていくだろう。少なくとも、これまでのような高成長を維持することが難しくなることは避けられない。
・テクノロジーが変化し、それとともに社会が変化しても、人々の関心を引き付け、需要を生み出すことができないビジネスモデルは持続性を失うだろう。フェイスブックは、社会的な責任を果たすことができなかった結果、この状況に直面していると考えるべきだ。人々のネットワークテクノロジーに対する認識が変化するにつれ、競争力を低下させる、あるいは失う企業が出てくるだろう。
・それを打開するためには、これまでになかった新しい、高収入のビジネスモデルを作り出すことが求められる。一つのヒントは、“業界”を超えることだろう。IT、物流、小売り、金融、不動産など、業界の垣根にとらわれず、ネットワーク技術を活用したり、従来にはない新しい製品を生み出す取り組みが求められる。
・例えば、アマゾンが本格的に銀行ビジネスに参入すれば、かなりのインパクトがあるはずだ。アマゾンで買い物からデータの管理、資金決済などができれば、スマートフォン一つで日々の生活やビジネスの運営のかなりの部分がカバーできるようになるだろう。生活がより便利になれば、その対価として従来よりも高い利用料を支払ってもいいと思う人が増えるはずだ。そうした状況を作り出すことが欠かせない。
・常識にとらわれず連続的に新しい取り組みを進めていくことが、非連続的、かつ、加速度化する環境の変化に対応するためには欠かせない。それができないと、長期的には、IT分野で成長を遂げてきたプラットフォーマーが、普通の企業に成り下がるだろう。変革を続けるか、低成長企業に成り下がるか、ITハイテク企業は大きな変化に直面したと考えるべきだ。
http://diamond.jp/articles/-/167123

第三に、5月16日付け東洋経済オンライン「SNS帝国フェイスブック、規制論が高まる必然 「国家を超えたコミュニティ」をどう扱うか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今年3月、2016年の米大統領選挙や英国の欧州連合離脱をめぐり、フェイスブックの顧客情報が悪用された問題が発覚した。米大統領選ではドナルド・トランプ陣営が有利になるように投票者向けの政治広告で利用され、英国の国民投票でも離脱派に投票を促すようなデータが利用された可能性が指摘されている。情報流出の規模は最大で8700万人にも上った。
・問題のほとぼりは冷めたに見えるが、フェイスブックが乗り越えなければならないハードルはまだある。規制当局との戦いである。5月14日発売の『週刊東洋経済』(5月19日号)では、「フェイスブック解体論」を特集している。
▽米ニューヨーク大教授が叫ぶグループ解体論
・2004年に誕生し、いまやSNSの代名詞となったフェイスブックがここまで大きくなったのは、サービスの利便性が評価された面が大きい。だが、規模の面で国家を超える存在までになったこの会社は、もうビジネスの側面だけで語ることはできない。これはグーグル、アップル、アマゾンについても同様だ。
・「今まさに(GAFAと呼ばれる)4社を解体(ブレイクアップ)するべきときが来ている」と指摘するのは、米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授のスコット・ギャロウェイ氏だ。同氏はフェイスブック、グーグル、アマゾン、アップルのIT系大手4社を論じた書籍『The Four: The Hidden DNA of Amazon, Apple, Facebook, and Google』を昨年10月に刊行。同書は22カ国で翻訳が予定されており、世界で注目を集めている。
・「ビッグ4の市場独占は企業同士の健全な競争を阻んでいる。そのためビッグ4を解体すれば、代わりに登場する新しい企業がこれまで以上に雇用や株主価値を生み、M&A(企業の合併・買収)や投資が促進される」とギャロウェイ氏は主張する。 同氏は「中でもフェイスブックは解体をしやすい」と強調。具体的には「フェイスブック本体と子会社であるインスタグラム、ワッツアップなどをそれぞれ独立会社として運営させればグループ全体として持っている支配的地位を弱めることができる。フェイスブックが主体的に解体に動くことが望ましいが、場合によっては政府による介入も必要となるだろう」という。
・私企業の経営について社会的に影響力のある学者が、ここまで言及するのは異例でもあるが、実際にグループとしてのフェイスブックは巨大だ。 月間利用者は祖業のフェイスブックが22億人(2018年3月末時点)、2014年に買収したワッツアップが15億人(2018年1月末時点)、2011年にフェイスブックから機能が分離したフェイスブックメッセンジャーが13億人(17年9月末時点)、2012年に買収したインスタグラムが8億人(2017年9月末時点)いる。全体の月間利用者は58億人に上り、あらゆる国家や宗教をも超越したコミュニティを形成しているといっても過言ではない。
・この巨大なグループは、サービス同士でユーザーのデータを共有し、広告配信に活用している可能性がある。フェイスブックは詳細を明らかにしていないが、たとえばインスタグラムのプライバシーポリシーには「インスタグラムが属する企業グループ内の他社や、このグループに加わる予定の他社と、ユーザーコンテンツや利用者の情報(Cookie、ログファイル、デバイスID、位置情報、および利用データを含みますが、これらに限定されません)を共有する場合があります」と記されている。
・一定の重複ユーザーを含むとはいえ、グループで58億人分のデータを収集かつ共有し広告配信の手段に使うとなれば、グーグルなどを除けば立ち向かえる企業はほぼいないと言っていいだろう。▽欧州では独禁法違反で罰金を課された
・この点でフェイスブックを牽制しているのが、欧州連合の行政執行機関に当たる欧州委員会だ。欧州委は昨年5月、フェイスブックがEU競争法(独占禁止法)に違反したとして、1億1000万ユーロ(約140億円)の罰金を課した。
・罰金を課されたのは買収時に欧州委に対して不正確な説明をしていたため。フェイスブックは2014年にワッツアップを買収した際、フェイスブックとワッツアップのユーザーアカウントは連携できないと説明していた。にもかかわわらず、2016年にワッツアップはフェイスブックユーザーのアカウントとワッツアップユーザーの電話番号を連携させる可能性を含むサービス規約とプライバシーポリシーの更新を発表していた。
・現状で各国の規制当局が、フェイスブックの解体を見据えた動きに発展しているケースはない。ただ、最大8700万人分のデータ流出を受けて、今年3月には米連邦取引委員会(FTC)や英国のデータ保護当局が調査に乗り出している。
・日本でもデータ流出の動きとは別だが、昨年6月に公正取引委員会が「データと競争政策に関する検討会」の報告書を発表し、その中で「価値のあるデータが第三者から不当に収集されたり、またはデータが不当に囲い込まれたりすることによって、競争が妨げられるような事態を避けなければならない」と記述している。
・4月上旬の米議会証言でフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは「規制を歓迎するか?」との質問に「正当で適切なものならイエス」と語っている。規制一辺倒の議論はイノベーションを阻むことにもなるが、この先フェイスブックが何らかの規制を受け入れざるを得なくなる局面があっても不思議ではない。
・フェイスブックにスポットライトが当たっているデータ独占の問題は、同社に限ったものでもない。ギャロウェイ氏は冒頭のIT系4社について「ある種のペテンや知的財産の窃盗を犯してここまで大きくなった」と手厳しく批判し、「私たちはこれらの企業が善良ではないと知っていても、自らの生活に招き入れてしまっていることを自覚する必要がある」と言い切る。
・国による規制を含め、ITの巨人たちにわれわれがどう向き合うべきかは、真剣に考えるべきテーマとなっている。
https://toyokeizai.net/articles/-/220875

第一の記事で、『フェイスブック利用者約5000万人の個人情報が不正流出したスキャンダルの中心人物とされる英ケンブリッジ大の心理学者・・・アレクサンドル・コーガン氏』の 『ロシア・コネクション』、についてはまだ不明な点も多く、今後の進展を待つ他ないようだ。
第二の記事で、 『人々の行動が無意識のうちにコントロールされる恐れがあることの方がより大きなリスクだ。 しかも、それが選挙の結果にかかわる影響を及ぼした可能性がある。それは、身の毛がよだつような恐ろしいことだ』、 『テクノロジーが変化し、それとともに社会が変化しても、人々の関心を引き付け、需要を生み出すことができないビジネスモデルは持続性を失うだろう。フェイスブックは、社会的な責任を果たすことができなかった結果、この状況に直面していると考えるべきだ』、などの指摘は的確だ。
第三の記事で、『月間利用者は・・・フェイスブック・・・一定の重複ユーザーを含むとはいえ、グループで58億人分のデータを収集かつ共有し広告配信の手段に使う』、利用者数を1日当たりでみても1.7億人と膨大だ。 『欧州では独禁法違反で罰金を課された』、というのも買収時の説明を勝手に覆していたのであれば、当然だ。
なお、フェイスブックの株価は、3月15日には152.2ドルまで下落したが、昨日には184.3ドルまで戻しており、市場はそれほど深刻にはみてないようだ。
https://finance.yahoo.com/quote/FB?p=FB
タグ:欧州では独禁法違反で罰金を課された フェイスブックが乗り越えなければならないハードルはまだある。規制当局との戦いである 「SNS帝国フェイスブック、規制論が高まる必然 「国家を超えたコミュニティ」をどう扱うか」 東洋経済オンライン 人々のネットワークテクノロジーに対する認識が変化するにつれ、競争力を低下させる、あるいは失う企業が出てくるだろう 孤立するフェイスブック 業界を主導するアマゾン 選挙の結果にかかわる影響を及ぼした可能性がある。それは、身の毛がよだつような恐ろしいことだ 同社の売り上げの98.5%が広告関連 顕在化する プラットフォーマーのリスク 盲点をついて成長してきた フェイスブック 「フェイスブックはデータ流出で「ビジネスモデルの危機」に直面している」 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 ロシア・コネクション サンクトペテルブルク大との共同研究 米大統領選でトランプ陣営を支援するターゲティング広告に、このデータを活用 個人情報を、英データ会社ケンブリッジ・アナリティカ(CA)に売り渡したとして批判 アレクサンドル・コーガン氏 英ケンブリッジ大の心理学者 5000万人の個人情報が不正流出 「焦点:FB情報流出、渦中の学者が手がけたロシア邪悪性格研究」 ロイター Denis Pinchuk and Douglas Busvine フェイスブック (FB情報流出、渦中の学者が手がけたロシア邪悪性格研究、フェイスブックはデータ流出で「ビジネスモデルの危機」に直面している、SNS帝国フェイスブック 規制論が高まる必然 「国家を超えたコミュニティ」をどう扱うか) データ流出問題
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日本企業の海外M&Aブーム(その5)武田薬品7兆円巨額買収1(武田薬品の巨額買収について考える、武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由) [企業経営]

日本企業の海外M&Aブームについては、2月10日に取り上げたが、今日は、(その5)武田薬品7兆円巨額買収1(武田薬品の巨額買収について考える、武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由)である。

先ずは、闇株新聞が4月27日付けで掲載した「武田薬品の巨額買収について考える」を紹介しよう。
・武田薬品工業は4月25日、アイルランドの製薬大手であるシャイアーを総額460億ポンド(7兆円)で買収交渉していると発表しました。武田薬品が引き継ぐシャイアーの負債を含めると、総額8.5兆円の買収となります。 武田薬品とシャイアーは買収交渉をロンドン時間5月8日の午後まで延長して資産査定を行うようで、シャイアーも自社株主に武田薬品の提案を推奨しており、このまま買収決定となるような気がします。
・日本企業による過去最大の海外企業買収は、ソフトバンクが2016年9月に買収したARMの240億ポンド(当時の為替で3.7兆円)でしたが、買収金額だけの7兆円としてもその2倍近くの大型買収となります。
・世界の薬品業界の大手企業を単純に2017年(速報ベースです)の売り上げだけで比較してみると、第1位がロシュ(スイス)の543億ドル、第2位がファイザー(米国)の525億ドル、第3位がノバルティス(スイス)の491億ドル、第4位がメルク(米国)の401億ドル、第5位がサノフィ(仏)の396億ドルが上位5社となります。 武田薬品工業は国内最大ですが、2017年の売り上げ高は世界第18位の155億ドル、買収相手のシャイアーは第19位の151億ドルで、買収が完了すれば単純計算で売り上げが世界第8位あたりとなります。
・もちろん武田薬品も規模だけを追及しているわけではなく、シャイアーの持つバイオ薬や希少薬を手に入れることが目的ですが、シャイアーも主力薬品の特許が2020年代初めに切れると言われており、武田薬品にとってはまさに時間を巨額資金で買う大勝負」にでたことになります。
・ちなみに本日(4月26日)現在、武田薬品の時価総額は3兆6200億円で、噂が本格的に広がる前である4月16日の3兆9800億円から9%下落していますが、一方のシャイアーは同じ4月16日の356億ポンドが本日ロンドン時間昼頃の364億ポンド(5兆5500億円)まで2%強上昇しています。 もともと時価総額はシャイアーの方が大きかったわけですが、これはシャイアーの2017年通年の純利益が約43億ドル(4600億円)、武田薬品の2017年3月期は1149億円と、4倍もの開きがあるからです。
・さて武田薬品はシャイアーの株主に対し、買収金額の7兆円のうち3億9000億円は武田薬品株を新規発行して交付し、残る3兆1000億円は現金で支払うと申し入れているようです。 つまりシャイアー買収のために武田薬品は現在発行済み株数をこえる新株を発行することになりますが、その分は(少なくとも)純利益が4倍あるシャイアー株式と交換したことになるため、全体の1株当たり利益も約2倍になるので「全く問題ない」と説明しているようです。
・しかし日本の武田薬品の既存株主に対する説明はこれでよくても、逆にシャイアーの株主はその価値が4分の1(全体的には2分の1)の武田薬品株と交換されるため、確かに現金で支払われる分があるとしても「これでいいのかなあ?」と考えるような気がします。 また実際に日本の株式を使った海外企業の買収は確かに解禁となっていますが、実際問題として受け取った「よくわからない」日本の武田薬品株などすぐに売却されてしまうような気もするため、大丈夫かなあ?と思ってしまいます。
・武田薬品については、長谷川前社長時代の2008年に米バイオ医薬のミレニアムに約9000億円、2011年にナイコメッド(スイス)に1兆1000億円を投じて買収したものの、それほど利益に貢献していないはずです。 また2014年にウェバー社長(CEO)となってからも、2017年1月にアリアドを54億ドル(6200億円)で買収していますが、今度はけた違いの大物を買収することになります。
・もともとは無借金経営で知られた武田薬品ですが、長谷川社長時代のナイコメッド買収などで1兆円をこえる有利子負債をかかえており、それに今度も3兆円が加わるため4兆円をこえる有利子負債となってしまいます。
・以前に書いたこともありますが、日本企業による大型買収が行われると、その直後に株式市場全体が下落することがよくあります。これは本来なら買収されるつもりがなかった海外企業の経営陣や主要株主が、「こんな高い価格で日本企業が買ってくれるならもう売却してしまおう」と考えるからで、結果的に日本企業が大型買収をするとその後で大いに苦労することがあります。 まあそうならないように願うしかないようです。
http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-2212.html

次に、元銀行員で法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が5月15日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽武田薬品はリスクが高いのに なぜ巨額な海外企業買収にこだわったのか
・約7兆円の海外企業買収はリスクが大きすぎる。なぜ買収にこだわるのか」――。 約460億ポンド(1ポンド=148円として約6.8兆円)で武田薬品工業(武田)がアイルランド製薬大手シャイアーを買収することについて、首をかしげたくなる人は多いだろう。 今回の買収については買収資金だけではなく、シャイアーの負債も引き継ぐことになる。昨年末の時点で、シャイアーの長期債務残高は約1.8兆円だ。株式と負債を合わせ総額約8.6兆円の買収規模は、わが国企業による海外企業の買収劇の中で突出している。買収のため武田は約3.3兆円の借り入れを行う予定と言われている。財務悪化への懸念が高まるのも無理はない。
・ただ、グローバル市場で成長を目指す大手製薬企業にとって、企業買収は常に頭に入れておかなければならない成長戦略の一つであることも間違いない。世界市場ではロシュやファイザーなど大手製薬会社が買収によって体力を拡充し、積極的な新薬開発や市場開拓を通じて着実にシェアを拡大している。
・そうした大手製薬会社がマーケットシェアの多くを占有する、いわゆる“市場の寡占化”が進んでいる。そうした変化に対応できないと、武田であっても世界市場の中で競争力を失いかねない。買収などを通じて自ら組織内に変革を起こし、環境に適応していかなければならない一種の“宿命”を持つ。
・製薬産業の特徴として、新薬開発のためには多額の研究開発費がかかると同時に、新薬開発の努力が実るとは限らない大きなリスクも抱える。 実際、新薬を開発し販売に漕ぎ着けるには、かなりの時間とコストがかかる。そのリスクを考えると、すでに実績がある、あるいは、収益の見通しを立てやすい企業を買収し、成長=新薬開発にかかる時間とコストを節約する意義は大きい。
▽グローバル企業を目指す武田
・世界の製薬業界を俯瞰すると、その経営スタイルは二つに分けると分かりやすい。 一つは、世界市場を狙うのではなく、ニッチな市場で独自の製品を開発して消費者のニーズをつかむスタイルだ。 もう一つは、世界市場を狙ってグローバル化を進め、企業の体力を拡大することで、世界の主要製薬会社に伍して競争を展開するスタイルだ。
・もともと、武田は「アリナミン」などの栄養剤や感染予防を軸に、国内でのシェアを高めてきた。しかし、わが国で人口減少・少子高齢化が進む中、縮小が見込まれる国内市場を中心に、従来の事業で成長を追求することは難しい。今後、さらなる成長を目指すためには、より高い付加価値が見込まれる分野に進出したり、期待収益率の高い海外市場を開拓することが求められる。
・それに加えて、わが国では国民皆保険制度の下、政府が医療サービスや薬価の価格を決定している。高齢化に伴い、医療を中心に社会保障関係費は増加している。それを抑えるために、政府は薬価の引き下げを重視している。それも、製薬企業が海外を目指す一因だ。
・そうした企業戦略を実行に移したのが、創業家出身の武田国男氏だった。同氏は、人員削減などの“リストラ”を進めた。それは、武田を国内の大手製薬企業から、“世界の武田”に飛躍させるための経営資源を確保するための取り組みだった。それと同時に、武田氏は糖尿病や高血圧治療の分野に進出し、高付加価値商品の事業育成にも取り組んだ。
・2003年、社長のバトンは長谷川閑史氏に引き継がれた。長谷川氏はリストラを進めつつ、グローバル企業としての成長に向けた戦略を実行した。それが海外企業の買収だった。 2008年、武田は米バイオ医薬品のミレニアム・ファーマシューティカルズを88億ドル(当時の為替レートで約9000億円)で、2011年にはスイス製薬企業ナイコメッドを96億ユーロ(約1.1兆円)で買収した。
・2013年にはグラクソ・スミスクライン出身のクリストフ・ウェバー氏がCEOに招かれ、グローバル化を推進するための経営体制が整備された。加えて昨年1月に武田は米アリアド・ファーマシューティカルズの買収に6000億円超を投じた。
▽古典的M&Aによる事業展開とリスクの分散
・グローバル市場で競争に勝ち残るには、治療効果の高い新薬を開発することが欠かせない。世界最大の医薬品市場である米国では、民間企業が薬価を設定している。効果が高まれば、薬価も上昇する。収益を得るために、製薬企業は単一の医薬品を開発するのではなく、複数の治療分野で新薬候補(パイプライン)を拡充しようとしている。
・そのための主な取り組み策として、(1)自前での新薬開発を進める、(2)他企業の一部の事業を買い取る(カーブアウト)、(3)部分的な事業提携(アライアンス)や他社製品のライセンスを手に入れる、(4)M&A(合併と買収)の四つがある。
・実際に新薬を開発し、販売を行うには、最大市場である米国でFDA(食品医薬品局)などの認可を受けることが必要になる。そのためにはさまざまな臨床試験なども経なければならず、多くの労力と時間が必要だ。開発できたとしても、販売できるとは限らない。その環境の中、自前での新薬開発だけで競争に対応することは難しい。
・実際、一部事業の買い取りやライセンス取得を行うにしても、潜在的な治癒効果が見込まれる創薬技術を持つ企業は、ベンチャーの段階から買収されていることが多い。適当な出物は極端に少ない。そうした事情を考えると、今日の主流となりつつある対象企業の必要な事業だけを買収するのではなく、実績ある企業全体を丸ごと買う“古典的買収”によって事業規模の拡大と成長を目指す発想にはそれなりの合理性がある。
・買収のメリットは、新薬開発の時間を節約するだけでなく、被買収企業の強みを丸ごと吸収できることもある。シェアの拡大、ブランドの取得もある。この発想に基づいて、欧米の製薬企業は買収を繰り返し市場の寡占化が進んできた。そうした動きに対応するためには、自前での新薬開発だけに固執してはいられない。
・一方、買収には大きなデメリットもある。何と言っても、企業買収には多額の資金が必要になる。それに伴って、借り入れにより財務内容が悪化するケースが多い。それは、多くのアナリストらが懸念するポイントだ。また、買収した企業の主力薬が特許切れなどによって競争力が低下し、想定されたシナジー(相乗)効果が発現しないこともある。そうしたリスクがあるにせよ、グローバル企業として世界の医薬品市場で成長を目指すために、買収は現実的かつ効果的な戦略の一つと考えられる。
▽シャイアー買収は武田にとってのスタートライン
・武田がグローバル企業を志向した時点で、買収を通じた成長の追求は、戦略上の最重要分野の一つに位置づけられた。 それぞれの買収を振り返ると、目的は明確だ。生活習慣病分野を事業の柱としてきた武田にとって、ミレニアムとアリアドの買収はがん治療分野の強化に必要だった。それは事業ポートフォリオの拡充だ。ナイコメッドの買収には、新興国市場の開拓という目的があった。
・米国で売上高の65%を稼ぐシャイアーの買収により、武田は米国での事業基盤を手に入れることができる。臨床試験を行うための医療機関や患者との関係性、規制当局との交渉力などは一朝一夕に確立できるものではない。買収によって同社の海外売上比率は約80%に上昇する。それは、事業領域と地域展開の両面で、欧米の大手製薬企業と競争するスタートラインに立つことといえる。
・シャイアー買収から、同社の世界戦略を読み取ることができる。武田とすると、欧米大手と異なった分野で勝負する意図が見られる。例えば、新薬開発というと、まずがん治療薬が思い浮かぶ。確かに、がん治療新薬の価格は高騰している。当たれば大きい市場であることは間違いない。 しかし、この分野では欧米企業の存在感が圧倒的だ。世界最大手ロシュの売上高(約6兆円)の60%ががん治療薬である。がん治療薬の分野で欧米勢に真っ向勝負を挑むのは現実的ではないだろう。
・一方、シャイアーは消化器、中枢神経の疾患や免疫分野に強みを持つ。武田は、中枢神経分野の売り上げを伸ばしたい。今回の買収には、強みを伸ばしつつ、手薄な分野を補完する意味がある。 そう考えると、少し長い目で見ると、今回の買収がフリーキャッシュフローの増加につながり、株主価値の増大につながるという考えには相応の説得力がある。問題は、今後それをいかに実現するかだ。
・具体的には、米国を中心に免疫や神経関連事業の収益を増やす必要がある。同時に、買収した企業組織との融合を進め、研究開発体制も強化しなければならない。それが、財務内容の安定と、今後の買収戦略の実施に不可欠だ。
・同社の経営陣が思い描くような成果が実現できれば、恐らく、武田は世界市場の主要プレーヤーの一人として生き残ることができるだろう。今回のケースが成功例の一つとなることを期待したい。
http://diamond.jp/articles/-/169899

第一の記事で、負債を含めると、総額8.5兆円の買収をしても、世界18位から8位とは、彼我の格差は極めて大きかったということに、改めて驚かされた。『シャイアー買収のために武田薬品は現在発行済み株数をこえる新株を発行することになりますが・・・実際に日本の株式を使った海外企業の買収は確かに解禁となっていますが、実際問題として受け取った「よくわからない」日本の武田薬品株などすぐに売却されてしまうような気もするため、大丈夫かなあ?と思ってしまいます・・・日本企業による大型買収が行われると、その直後に株式市場全体が下落することがよくあります』、というのは株安材料として要注意だ。 『ミレニアムに約9000億円、2011年にナイコメッド(スイス)に1兆1000億円を投じて買収したものの、それほど利益に貢献していないはずです』、というのも懸念材料だ。なお、武田薬品の株価は、1月5日の6568円から、5月15日には4695円へと29%下落している。
https://www.google.com/search?source=hp&ei=7qD6WrKANYKm8AXY5YaQDA&q=%E6%AD%A6%E7%94%B0%E8%96%AC%E5%93%81%E6%A0%AA%E4%BE%A1&oq=%E6%AD%A6%E7%94%B0%E8%96%AC%E5%93%81&gs_l=psy-ab.1.1.0i131k1l3j0l5.7343686.7343686.0.7345810.1.1.0.0.0.0.403.403.4-1.1.0....0...1c..64.psy-ab..0.1.402....0.umMo_UFuoZs

第二の記事は、武田薬品の戦略を事業分野別に分析した上で、総じて前向きの結論を出しているが、闇株新聞が指摘したこれまでの買収の成果については、触れていないのが若干物足りない気がする。
タグ:古典的M&Aによる事業展開とリスクの分散 武田国男氏 成長=新薬開発にかかる時間とコストを節約する意義は大 市場の寡占化 「武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由」 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 日本企業による大型買収が行われると、その直後に株式市場全体が下落することがよくあります。これは本来なら買収されるつもりがなかった海外企業の経営陣や主要株主が、「こんな高い価格で日本企業が買ってくれるならもう売却してしまおう」と考えるからで、結果的に日本企業が大型買収をするとその後で大いに苦労することがあります アリアド ナイコメッド ミレニアム 実際問題として受け取った「よくわからない」日本の武田薬品株などすぐに売却されてしまうような気もするため、大丈夫かなあ?と思ってしまいます 全体の1株当たり利益も約2倍になるので「全く問題ない」と説明 シャイアー買収のために武田薬品は現在発行済み株数をこえる新株を発行することになりますが 時間を巨額資金で買う大勝負 買収が完了すれば単純計算で売り上げが世界第8位あたりとなります 負債を含めると、総額8.5兆円の買収 アイルランドの製薬大手であるシャイアーを総額460億ポンド(7兆円)で買収交渉 「武田薬品の巨額買収について考える」 闇株新聞 (その5)武田薬品7兆円巨額買収1(武田薬品の巨額買収について考える、武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由) 日本企業の海外M&Aブーム
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企業不祥事(その16)(残念ながら御社でも不祥事は起きます 山口利昭弁護士に聞く リスク管理の実態と課題、ポーラHD社長襲う第2の告発、ゴッホなど美術品の不正入手疑惑、雪印種苗の偽装 隠蔽体質の底が知れぬ) [企業経営]

企業不祥事については、昨年12月12日に取上げた。今日は、(その16)(残念ながら御社でも不祥事は起きます 山口利昭弁護士に聞く リスク管理の実態と課題、ポーラHD社長襲う第2の告発、ゴッホなど美術品の不正入手疑惑、雪印種苗の偽装 隠蔽体質の底が知れぬ)である。

先ずは、昨年12月26日付け日経ビジネスオンライン「残念ながら御社でも不祥事は起きます 山口利昭弁護士に聞く、リスク管理の実態と課題」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は山口氏の回答内の段落)。
――今年もまた、神戸製鋼所や日産自動車など、多くの大企業で不祥事が発生してしまいました。山口さんはこの状況について、どのように考えておられますか。
・山口利昭弁護士(以下、山口):我々国民からしてみれば、日産や神戸製鋼といった企業は、日本を代表する基幹企業ですよね。そうした大企業が、製品の根本である品質に関わる不正を犯していた。これは例えばルールを知らなかったとか整備してなかったとかいうことではなく、きちんとルールがあるにも関わらず、あえて無効化するということです。それが社会的批判を浴びたということだと思います。
+深刻なのは、いずれも不正が長年にわたって企業の中で放置されていたということ。これは組織の構造的な欠陥であり、重大な問題です。ただ、こうした不正、不祥事については、私はどこの会社で起きても不思議ではないと考えています。
+私はこれまで多くの不正調査に関わりました。実際に色々なメーカーの工場に視察に行くこともあります。その度に思うのですが、メーカーの工場で働いている方々にとって、工場長という存在は社長よりも近い位置にいて、かつ絶対的な立場なんですね。それは組織の効率的な運用を実現する一方、工場の中での「常識」が、社会やことによると企業自体の常識ともずれてしまうケースがある。神戸製鋼や日産の事例では、こうした実態が背景にあったのではないかと思います。
――ルールがあることはしっかり理解していながら、それを破ることがどこまで悪いことなのかということに対する認識が、欠如していたということでしょうか。
・山口:そうですね。品質保証書があっても、安全性については問題ないだろうから、多少操作するぐらいのことは大丈夫だろう。それよりも、きちんと納期を守って、歩留まりを良くする。会社にとって無駄なことをやらない。例えば神戸製鋼は業界でも非常に製品の品質が良く、それが信頼性の高さを支えていた。仮に取引先への納期を守ることを優先し、品質管理を後回しにしていたとすれば、結果的にはその信頼を裏切ることになってしまったわけです。その意味では、製品の品質の大前提として、まず企業の資質そのものが問われているということだと思います。
▽「部分最適化」の行き過ぎが不正を生む
――不正が生まれる構造的な欠陥とは、どのようなものがあるのでしょうか。
・山口:色々あると思いますが、例えば「部分最適化」の行き過ぎといったことは指摘できると思います。メーカーがIT(情報技術)を積極的に導入して生産効率を高めるなかで、工場の部署ごとには優秀な人たちが一生懸命いい製品を作るけれど、人間が全体の流れを自分の目でチェックして把握するという役割がなくなってきているのではないでしょうか。
+AI(人工知能)が普及して、人間が全体の工程を見ることはさらに減っていくでしょう。これは、品質管理だけでなく、経営陣と現場社員、本社と工場という関係性についても、距離感をどのように埋めていくのかという観点で課題になると考えています。コミュニケーションの不在は、企業の不正においては大きな要因です。
――コーポレート・ガバナンスの観点では、社外取締役の導入も進められています。しっかりした外部の視点を取り入れることが重要だとされていますが、この点についてはいかがですか。
・山口:基本的には、内部の人間だけで完全に不正の芽を摘み取ることは非常に難しい。社長は公表したがらなかったけど、外部の人間が直言したことで最終的に公表に至った事例はいくつも知っていますし、社外の目は間違いなく必要です。
+私が企業の経営者の方々に強く訴えたいのは、「残念ながら、御社でも不祥事は起きる」ということです。どれだけ平穏無事に事業をしてきた企業でも、いつか不祥事は起きる可能性がある。どのような不祥事が起きる可能性があるのか、また、実際に起きた時にどれだけ早くアラートが経営陣に伝わるのか。それをしっかりと考え、準備しておくことが必要です。
+組織というのは、いくら真面目な人が集まっていても、悪いと知りつつ不正が起きてしまうもの。さらにいえば、不祥事というのは1つの会社だけで完結するのではなく、取引先、最終消費者など様々なステークホルダー(利害関係者)に関わってくる。そのことを、経営者の方々は胸に刻んでほしいですね。
――山口さんは内部通報制度の専門家でもいらっしゃいますが、制度の整備による変化は起きているのでしょうか。
・山口:消費者庁から出されている民間事業者向けのガイドラインもあり、内部通報制度を活用する企業は確かに増えています。私自身も内部通報者の支援に取り組んでいますが、昔に比べて、内部通報が社員や従業員の方々にとって、身近なものになっています。また、単に制度が認知されてきたということだけでなく、内部通報そのものの性質も変わっています。
▽「共同通報」で監督官庁に告発
――それは、どういうことなのですか。
・山口:皆さん、内部通報というと、企業の大きな問題を知った責任感や精神力の強い社員が、たとえ孤立したり不利益を受けたりしても、自分の信念を曲げずに告発して戦うというイメージがないでしょうか?
――ドラマなどでは、よく見られる光景ですよね。
・山口:そうですよね(笑)。ただ実際には、今は社員がある程度の集団になって、みんなで「共同通報」に踏み切るというケースが増えています。問題自体は皆で共有しているし、悪いことだと分かっている。通報制度があることも知っている。だから、監督官庁に問題を告発する場合などにも、代表者の名前は一人でも、その後ろに社内の支援者が何人もいるという事例は多いんです。これは、制度自体の認知というだけでなく、活用の仕方が変わってきているということです。
+もう一つ特徴的なのは、現場の社員ではなく、幹部クラスの人が内部通報を行うケースです。これは自分の立場を考えて守るという意識もあるでしょうが、やはり現場が起こした問題を隠すのではなく、きちんと報告することが重要であるという認識が強いということも考えられます。全てが正義感からというわけではないにしても、内部通報がリポートラインの一つとして、機能するようになっているということだと思います。
――内部通報に関して、特に寄せられることが多い内容にはどのようなものがるあるのでしょう。
・山口:やっぱり今は、「ハラスメント」に関するものが非常に多いですね。パワハラ、マタニティーハラスメントなどが顕著です。私自身も話を聞いていて、判定には迷うことも多いですし、違和感を感じる内容がないではありません。ただ、働き方改革が大きな社会的テーマになる中で、コンプライアンスのことを考えるにあたって避けては通れない問題です。
+実際の現場においては、関連の制度を取り入れている企業も多く、当然のようにその制度を利用するべきではあります。ただ、管理職のみなさんは頭では分かっていても、腹落ちしているかというと別問題。自分がチームのリーダーで、奥さんと共働きの男性社員から、妻と半分ずつ育児休業を取りますと言われた時に、「君は将来があるんだから、考えたほうがいい」とか言ってしまうわけです。
+それは、労働法の専門の弁護士からすればアウトなわけですが、現場の人たちにとっては違和感は拭えない。それでも、その違和感をどのように受け入れて解消していくかということが、これから重要になっていくと思います。
――まさに、新しい社会的テーマに、どのように向き合うのかということですね。その意味では、LGBT(性的少数者)に対する差別など、法律的な観点だけではなく、企業が考えなければならないテーマが出てきています。大手の弁護士事務所の役割も変わってきているという話もありますが。
▽「法令遵守=コンプライアンス」ではない
・山口:おっしゃる通りです。どのような行動を起こせば、社会からどのように見られるかということを、企業はもっと真剣に考えなくてはならない。社内の常識と社外の常識には、ずれがあることをきちんと認識するべきです。メーカーであれば、安全性には問題がない、法令にも違反していない、だから大丈夫だということではないんですね。
+その意味で、「法令遵守=コンプライアンス」という時代であれば、我々弁護士の仕事はとても分かりやすかったんですね。これは法令違反じゃないという理屈をつけることで、企業を助けることはできた。もちろんこれも立派な役割ですし、法令違反かそうでないかが重要なことは今でも変わりません。
+しかし、たとえ法令に違反していなくても、社会的な見地から見て問題がある行動を企業が起こし続ければ、そのダメージがどれだけ大きくなるかという認識は、これからもさらに大切になっていくでしょう。LGBTなどはまさにその代表的なテーマだと思います。何をもって企業のコンプライアンスなのかということは、しっかり考えていく必要があります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/121300188/121300004/?P=1

次に、3月27日付けダイヤモンド・オンライン「ポーラHD社長襲う第2の告発、ゴッホなど美術品の不正入手疑惑」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・化粧品大手ポーラ・オルビスホールディングス(HD)の鈴木郷史社長が、ポーラ美術館のゴッホやピカソなどの美術品にまつわる不正行為を行ったという疑惑を、美術館を運営する財団の元関係者が本誌に初めて明かした。鈴木社長は最近、契約書捏造によってグループ株式を取得した疑惑を現役取締役から告発されたばかり。第2の告発によると、同じく書類捏造により、鈴木社長が理事長を務める財団に対し不正に美術品が寄付された疑惑があるという。(「週刊ダイヤモンド」編集部 土本匡孝)
・ポーラグループ2代目社長である鈴木常司氏が亡くなった約4ヵ月後の2001年3月1日。神奈川県・箱根にあるポーラ美術館(02年開館)を運営するポーラ美術振興財団の設立準備事務局(当時)関係者は、この日にポーラグループ幹部らに東京・五反田で会い、疑惑の書類を受け取ったと本誌に明かした。
・鈴木郷史社長の指示を受けて動いていたグループ幹部らは「常司氏の生前に預かっていたということでお願いします」と言って、常司氏の生前を装って作られた美術品の寄付確約書を渡してきたのだという。それが真実であれば、書類の捏造によって、美術品を財団のものにしたことになる。
・国内化粧品4位の東証1部上場、ポーラ・オルビスホールディングス(HD)が揺れている。鈴木社長に対する不正疑惑の告発はこれが初めてではない。 鈴木社長は17年末、かつてHDナンバー2だった取締役(3月27日で取締役退任)から「常司氏(叔父)から鈴木社長(甥)への資産継承問題に関連し、自身への株式譲渡契約書を常司氏の生前を装って捏造した」と告発されたばかり(「週刊ダイヤモンド」2018年3月24日号、「ダイヤモンド・オンライン」2018年3月15日付記事で既報)。
・鈴木社長は株式譲渡契約書の捏造疑惑については、HD広報を通じて事実関係を否定。3月27日開催の株主総会招集通知資料の中で「取締役に対して2月21日開催の取締役会において辞任勧告を決議」と説明している。
・第2の告発の舞台となるポーラ美術館に話を戻すと、コレクション総数約1万点のほとんどは常司氏が40年余りかけて収集したもの。核となる作品はモネ、ルノワール、セザンヌ、シャガール、ピカソら19、20世紀の西洋絵画約400点だ。
・運営者である公益財団法人ポーラ美術振興財団(96年5月設立、現理事長は鈴木社長)は、HDの筆頭株主であり、持株比率は35・5%にのぼる。資産総額はHD株だけで時価約3500億円あり、絵画などのコレクションを含めると、「約4000億円で、国内の財団で最大級」(HD関係者)。
・疑惑の寄付確約書の内容は、「常司氏が集めた絵画など、ポーラ化粧品本舗(当時)が管理しているプライベートコレクションすべて(計839点)を、財団法人ポーラ美術振興財団(当時、10年から公益財団法人)に美術館が竣工した段階で速やかに寄付する」というものだ。 本誌が入手したリストによると、839点の内訳は、絵画329点、工芸品等387点、版画集など123点。ゴッホの「ヴィゲラ運河にかかるグレーズ橋」、ピカソの「草上の昼食」、レオナール・フジタの「少女と果物」など、著名画家の作品が多数含まれていた。
・また寄付確約書を財団設立準備事務局(当時)の関係者に渡したとされるポーラグループ幹部の証言によると、常司氏が亡くなって約3ヵ月後の01年2月、鈴木社長の指示で常司氏の生前を装って「1996(平成8)年に作成されたように」作ったという。古い紙とワープロを使うよう指示する念の入れようだったとされる。死後のため自筆の住所、氏名表記はやりようがなく、印字して、会社にあった常司氏の実印で捺印した。株式譲渡契約書の捏造疑惑の件とほぼ同じ手口だ。
・この幹部は、当時の鈴木社長の動機を「相続財産となって分割されればコレクションが四散し、美術館計画に大きな痛手だった」と指摘する。法定相続では常司氏の妻がその多くを継承することになるからだという。
・甥と叔母の関係なのだから法定相続後、鈴木社長が常司氏の妻に財団への寄付を頼めば良さそうだが、「そのころには両者はすでに遺産相続で争い始めており、協力依頼を断念したようだ」とこの幹部は語る。  財団設立準備事務局(当時)の関係者に寄付確約書を預けたとされる日から4日後の01年3月5日、鈴木社長側代理人は「寄付確約書がありました」と常司氏の妻側に通告した。
▽唐突に現れた自筆ではない寄付確約書
・常司氏の妻側の関係者によると、鈴木社長側が寄付確約書の存在を明らかにしたのは、妻側がそれらのプライベートコレクションの現地確認に赴く直前のタイミング。唐突だったため、当然、当時も寄付確認書の捏造を疑った。だが印字された住所、氏名という点に怪しさはあるものの、常司氏の実印が押されており、深く追及はできなかったという。
・しかし最近になって妻側関係者は、財団関係の他の寄付書類では、常司氏が自筆で住所、氏名を書いていたことを知った。「なぜ839点の寄付確約書は、自筆ではなかったのかという不自然さがある」とこの関係者は指摘する。 財団設立準備事務局(当時)関係者は、「財団のためと思い、鈴木社長の不正に手を貸した形になった」と悔い、別件での取締役によるHDへの告発に続くかたちで、本誌に告発した。動機は「日本最大級の資産を持つ公益財団法人であり、ガバナンスが効いた組織にしていかなければならない」(この関係者)。最近になって、寄付確約書を預かった経緯を報告書として詳細にまとめている模様だ。
・別の関係者によると、839点の中には新婚旅行の際に購入したものなど、常司氏の妻にとって特に思い入れのある作品が含まれているという。今後2件の告発内容を基に、両事案で遺産分割のやり直しを求める裁判を起こす可能性が高い。 本誌は財団理事長の鈴木社長宛てに疑惑の事実関係を問い合わせたが、財団事務局名で「事実ではありません」とのみ、ファクスで回答があった。
・3月27日午後開催のHD株主総会を前に、雲行きはますます怪しくなってきた。
http://diamond.jp/articles/-/164878

第三に、4月29日付け北海道新聞「雪印種苗の偽装 隠蔽体質の底が知れぬ」を紹介しよう。
・底の知れぬ隠蔽(いんぺい)体質―。そんな印象を持たざるを得ない。 雪印メグミルク子会社の雪印種苗は、表記と異なる品種を混ぜた種を売る偽装行為や、種苗法違反となる誤った表示での販売を長年繰り返していたと発表した。 赤石真人社長は引責辞任した。
・2000年に雪印乳業が集団食中毒、02年には雪印食品が牛肉偽装事件を起こしている。これらグループ企業の不祥事は教訓とはならなかったようだ。 雪印種苗の第三者委員会の報告書によると、雪印食品の事件が発覚する02年以前、偽装は組織的、恒常的に行われていた。 こうした事実が当時公表されなかったこと自体が問題である。
・さらに驚くのは、事件を機に偽装をやめて再出発を誓ったはずが、その後も続いたことだ。 報告書は品種偽装の背景に利益優先体質があったと指摘し、「詐欺的行為」と断じている。 種苗・飼料販売大手の企業として、とりわけ農家の信頼を裏切ったことは罪深い。うみを出し切る覚悟で、まず徹底調査し、全容を公表すべきだ。
・報告書によると、02年以降に確認できた偽装は12年~13年の2品種4件で、道内関係では緑肥の種が含まれる。偽装はこれにとどまらない可能性があるという。 一方、表示違反は02年以降、牧草など30品種で登録品種名を表示しないなどの例が確認された。違法表示の種の販売額は40億円を超す。基本を軽んじる体質を根本から改めなければならない。
・深刻なのは、この間、外部からたびたび指摘があったにもかかわらず、社内調査で不正を見抜くどころか、証拠隠滅さえ行われたことだ。自浄能力を欠いている。 特に、14年の調査では、疑わしい事例を確認せず、経営幹部を含む証拠隠滅や聴取記録の改ざんが行われ、「過去10年偽装はない」と結論づけていた。
・これでは、組織ぐるみの隠蔽と言われても仕方ない。 結局、今年2月に第三者委員会が発足するまで、まともな調査は行われなかった。 赤石氏は、偽装があった当時に種苗課長だった。発表当日に社長を辞任したとの理由で会見を欠席したが、自ら説明するのが筋だ。
・コンプライアンス委員会設置といった程度の再発防止策で、長くしみついた企業風土を一掃できるだろうか。最低でも、外部からの役員登用などグループ外の視点を取り入れる必要があろう。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/185244

第一の記事で、 『メーカーの工場で働いている方々にとって、工場長という存在は社長よりも近い位置にいて、かつ絶対的な立場なんですね。それは組織の効率的な運用を実現する一方、工場の中での「常識」が、社会やことによると企業自体の常識ともずれてしまうケースがある。神戸製鋼や日産の事例では、こうした実態が背景にあったのではないかと思います』、 『「部分最適化」の行き過ぎが不正を生む』、などの指摘はその通りなのだろう。 『「法令遵守=コンプライアンス」ではない』、というのは、このブログでもよく紹介する東京地検特捜部出身で弁護士の郷原信郎氏も力説しているポイントだ。
第二の記事で、ポーラHD社長が、 『最近、契約書捏造によってグループ株式を取得した疑惑を現役取締役から告発されたばかり。第2の告発によると、同じく書類捏造により、鈴木社長が理事長を務める財団に対し不正に美術品が寄付された疑惑があるという』、というのは驚くべきことだ。前社長の遺産相続をめぐる争いのようだが、れっきとした有名会社でこれだけ悪質な疑惑が持ち上がっただけに、深刻だ。記事で読む限り、現社長の分は悪そうだが、業績が絶好調なだけあって、株価も極めて好調に推移している。
業績:https://www.nikkei.com/nkd/company/kessan/?scode=4927&ba=1
株価:https://www.nikkei.com/nkd/company/chart/?type=year&scode=4927&ba=1
株主総会も無事乗り切ったようだが、書類捏造という刑事事件に発展しかねない問題であるだけに、今後の展開が注目される。
第三の記事で、雪印乳業が集団食中毒、雪印食品が牛肉偽装事件を起こした雪印グループで、雪印種苗が長年偽装を隠蔽していたとは、よくぞコリもせず不祥事を繰り返すものだと、驚きを禁じ得ない。 『外部からたびたび指摘があったにもかかわらず、社内調査で不正を見抜くどころか、証拠隠滅さえ行われたことだ。自浄能力を欠いている。 特に、14年の調査では、疑わしい事例を確認せず、経営幹部を含む証拠隠滅や聴取記録の改ざんが行われ、「過去10年偽装はない」と結論づけていた』、に至っては、救い難い体質だ。グループ全体にわたって徹底的な原因究明と、再発防止の仕組みづくりが求められる。
タグ:特に、14年の調査では、疑わしい事例を確認せず、経営幹部を含む証拠隠滅や聴取記録の改ざんが行われ、「過去10年偽装はない」と結論づけていた 深刻なのは、この間、外部からたびたび指摘があったにもかかわらず、社内調査で不正を見抜くどころか、証拠隠滅さえ行われたことだ 品種偽装の背景に利益優先体質があったと指摘し、「詐欺的行為」と断じている 雪印食品が牛肉偽装事件 雪印乳業が集団食中毒 種苗法違反となる誤った表示での販売を長年繰り返していたと発表 雪印種苗 「雪印種苗の偽装 隠蔽体質の底が知れぬ」 北海道新聞 唐突に現れた自筆ではない寄付確約書 鈴木社長の指示で常司氏の生前を装って「1996(平成8)年に作成されたように」作ったという 資産継承問題に関連し、自身への株式譲渡契約書を常司氏の生前を装って捏造した」と告発されたばかり 契約書捏造によってグループ株式を取得した疑惑 美術品にまつわる不正行為を行ったという疑惑 鈴木郷史社長 ポーラ・オルビスホールディングス 「ポーラHD社長襲う第2の告発、ゴッホなど美術品の不正入手疑惑」 ダイヤモンド・オンライン 「法令遵守=コンプライアンス」ではない 「部分最適化」の行き過ぎが不正を生む 山口利昭弁護士 「残念ながら御社でも不祥事は起きます 山口利昭弁護士に聞く、リスク管理の実態と課題」 日経ビジネスオンライン 企業不祥事 (その16)(残念ながら御社でも不祥事は起きます 山口利昭弁護士に聞く リスク管理の実態と課題、ポーラHD社長襲う第2の告発、ゴッホなど美術品の不正入手疑惑、雪印種苗の偽装 隠蔽体質の底が知れぬ)
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本日は更新を休むので、明日にご期待を!

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加計学園問題(その13)(「首相案件」文書認めた 愛媛県知事が政権に矢を射る思惑、「首相案件」だけ優遇、加計問題の深すぎる闇 なぜ京都産業大への対応と大差があったのか、モリカケ問題の根底は「安倍夫妻ビジネス」、今井秘書官は把握 柳瀬氏「面談隠し」やっぱり官邸ぐるみ)  [国内政治]

加計学園問題については、昨年11月21日に取上げたままだった。その後、決定的な材料も出てきたことも踏まえた今日は、(その13)(「首相案件」文書認めた 愛媛県知事が政権に矢を射る思惑、「首相案件」だけ優遇、加計問題の深すぎる闇 なぜ京都産業大への対応と大差があったのか、モリカケ問題の根底は「安倍夫妻ビジネス」、今井秘書官は把握 柳瀬氏「面談隠し」やっぱり官邸ぐるみ)である。

先ずは、4月14日付け日刊ゲンダイ「「首相案件」文書認めた 愛媛県知事が政権に矢を射る思惑」を紹介しよう。
・一躍、時の人だ。加計問題をめぐり「首相案件」と記された「愛媛文書」の存在を認めた愛媛県の中村時広知事(58)。13日は、国会から招致要求があれば応じると記者団に明かし、「職員から話を聞いて(自分が)全て矢面に立つ」と意気揚々だ。 メディアも安倍政権に矢を射る「ホワイトナイト」のような扱いだが、彼こそ県から加計学園に3年間で総額31億円もの補助金をポンと渡すことを決めた張本人だ。
・「加計学園の獣医学部誘致は加戸守行前知事からの引き継ぎ案件で、中村知事は仕方なくやっているムード。一時は誘致を断念し、今治市にサッカー場建設を提案したほど。問題浮上後は、よほど関わりたくないのか、発言を控えてきました」(愛媛県政関係者)
・急にイケイケになった思惑は、中村知事の生き方を知れば理解できる。父は元松山市長の時雄氏。幼稚舎からの慶応ボーイで慶大法学部を卒業後、1982年に三菱商事に入社。93年の衆院選で新党ブームに乗り、日本新党公認で初当選を果たした。96年に落選するも、99年には“親の七光”で松山市長選に勝利。2010年の知事選で3期12年務めた加戸前知事の後継候補の座に収まり、当選した。
・今治市在住で「モリカケ共同追及プロジェクト」の黒川敦彦共同代表が言う。 「一言でいえば“勝ち馬に乗る”のが上手な人。市長時代から人気絶頂だった橋下徹前大阪市長に接近し、県知事就任後は地域政党『愛媛維新の会』の立ち上げに関わりました。機を見るに敏で、今年11月に県知事選を控え、『この政権は持たない』と踏み、加計問題で“道連れ心中”はごめんと突き放し、火の粉を振り払っているのでしょう。前回知事選は自民県連の推薦のほか、共産以外の全政党の支援を受け圧勝した。地元選出で自民の塩崎恭久前厚労相とは犬猿を超えた仲ですが、常に対立候補擁立を模索する塩崎氏自身に人望がなく、見込みは薄い。そんな自民県連の足元も見ているはずです」
・決して正義感だけで、政権に弓を引いているわけではなさそうだ。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/227229

次に、ジャーナリストの安積 明子氏が4月16日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「首相案件」だけ優遇、加計問題の深すぎる闇 なぜ京都産業大への対応と大差があったのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・加計学園の獣医師学部新設は、果たして公正に行われたものなのか――。この問題で国会が大揺れに揺れている。 それまで愛媛県が「ない」としていた獣医学部新設を巡る政府関係者とのやりとりを記した「愛媛県文書」の存在が、4月9日に明らかになった。翌10日には中村時広愛媛県知事が当時の関係者にヒアリングを行い、「職員が作成したメモ」と確認した。
・その内容は、13日に齋藤健農水相が会見で「農水省内で見つかった」と発表した文書の内容とほぼ同じだ。いずれも2015年4月2日に愛媛県地域政策課長と今治市企画課長、そして加計学園事務局長らが藤原豊地方創生推進室次長(当時)と柳瀬唯夫首相秘書官(当時)と面談し、獣医学部設置について積極的なアドバイスを受けていたことが記されている。
▽加計学園と京都産業大学への対応に大差
・また朝日新聞は4月13日、獣医学部新設について加計学園と競合していた京都産業大学元教授の大槻公一氏のインタビューを掲載。大槻氏は2016年1月に内閣府で藤原氏に会ったものの、積極的なアドバイスを受けられず、官邸にも呼ばれなかったことを明らかにした。 「愛媛県文書」によると藤原氏が加計学園の構想に対して以下のようなアドバイスを与えている。これと比較すれば、京都産業大学に対する対応との間に顕著な差があることがよくわかるだろう。
・<藤原地方創生推進室次長の主な発言(内閣府)11:30>(※愛媛県文書の要約) +要請の内容は総理官邸から聞いている。 +政府としてきちんと対応していかねればならないと考えており、互いに知恵を出し合いたい。 +国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい。風穴を開けた自治体が有利。仮に指定を受けられなくても、別の規制緩和により要望を実現可能。
・このように藤原氏は加計学園獣医学部新設には積極的かつ好意的な意向を示すほか、「遅くとも5月連休明けには1回目の募集を開始する」といった加計学園にとって有利な事前情報を提供し、「提案内容は既存の獣医学部とは異なる特徴や卒後の見通しなどをしっかり書き込んでほしい」と具体的なアドバイスも行っている。 さらには加計学園側が喜びそうな「かなりチャンスがあると思っていただいてよい」というリップサービスまで述べているのだ。
・その一方で、京都産業大学への対応は冷淡だったといっていい。 藤原氏は加計学園には「2、3枚程度の提案書を作成いただき、早い段階で相談されたい」と簡素な提案でいいからと急がせたが、1989年から獣医学部新設に向けて計画し、20ページ以上の資料を準備して2016年10月17日に国家戦略特区ワーキンググループによるヒアリングに挑んだ京都産業大学は政府に斬り捨てられる結果となっている。 もっとも京都産業大学も決して無策だったわけではない。
▽京都産業大学は消極的な省庁に前途を阻まれた
・文科省には何度か事前協議を申し入れていたが、「門戸は開かれていないので、具体的協議はできない」と断られ、農水省などからも「獣医師の数は充足しているので、これ以上獣医学部を作る必要はない」と拒否されていた。要するに京都産業大学は農水省や文科省といった獣医学部新設に消極的な省庁にその前途を阻まれ、加計学園は内閣府や官邸といった“助っ人”に恵まれた。
・そして2016年11月9日に開かれた安倍晋三首相が議長を務める国家戦略特区諮問会議は、獣医学部新設は獣医学部空白区に限ること、そして2018年度開学することという条件を付すことを決定。これにより、同じ近畿地方に獣医学類をもつ大阪府立大学が存在すること、および時間的なスケジュールが間に合わないことで、京都産業大学は獣医学部新設を諦めざるを得なくなった。
・なお獣医学部新設に消極的だった文科省からは、後に「総理のご意向」や「官邸の最高レベルが言っている」などという「官邸サイドの指示」を示すメールが暴露され、内閣府が主導して意図的に加計学園に有利な状況を作ろうとしていたことが明らかにされている。
・その中に11月9日の国家戦略特区諮問会議が決定した獣医学部設置基準に影響を与えた「広域的に獣医師系要請大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする」という文書が見つかり、萩生田光一官房副長官(当時)の指示によるものとされたが、萩生田氏はこれを否定した。ではいったい誰が指示したのか。加計学園獣医学部新設を巡って、いまだ多くが明らかにされていない。 このたび公にされた「愛媛県文書」と農水省で見つかったメモにも謎はある。
▽なぜ違いがあるのか
・まずは文書の作成日だが、「愛媛県文書」は4月13日とされているのに対し、農水省のメモは4月3日になっている。また内容については「1」に記載された藤原氏と柳瀬氏との面会メモは共通しているが、「2」が以下のように異なっているからだ。
・<愛媛県文書> ついては、県としては、今治市や加計学園と十分協議を行い、内閣府とも相談しながら、国家戦略特区の申請に向けた準備を進めることとしたい。また、これと併行して、加計学園が想定する事業費や地元自治体への支援要請額を見極めるとともに、今治新都市への中核施設整備の経緯も踏まえながら、経費負担のあり方について十分に検討を行うこととしたい。
・<農水省のメモ> ついては、県としては、国家戦略特区申請のための提言書(案)について、今治市の意向を踏まえて、加計学園とも協議しながら、連携して策定を進め、内閣府と相談させていただきたい。
・もっとも中村知事によれば、これは公文書ではなく「備忘録」。よって何度か書き換えられたのだろう。その仕事ぶりの丁寧さから、担当者の熱意も感じられる。 だが、岩盤規制を突破するための国家戦略特区が不公正なプロセスを経て行われていいはずがない。身贔屓(みびいき)特権という名のより強固な岩盤を作ったのだとしたら、まさしく本末転倒といえるだろう。
https://toyokeizai.net/articles/-/216854

第三に、4月23日付け日刊ゲンダイが掲載したノンフィクション作家 森功氏へのインタビュー記事「森功氏が看破 モリカケ問題の根底は「安倍夫妻ビジネス」」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは森氏の回答、+は回答内の段落)
・あらゆる疑惑が今もくすぶったままだ。愛媛県今治市に4月、開学した加計学園の岡山理大獣医学部。安倍首相が「腹心の友」と公言する加計孝太郎理事長に「便宜」が図られ、獣医学部設置が決まったのではないか――。
・昨年3月から1年以上にわたって国会で追及され続けてきた「加計問題」は今月、当時の柳瀬唯夫首相秘書官が愛媛県や今治市職員と面会した際に「本件は首相案件」と発言していたという文書の存在が発覚。疑惑が再燃した。「悪だくみ『加計学園』の悲願を叶えた総理の欺瞞」(文藝春秋)の著者で、この問題を追い続けるノンフィクション作家の森功氏に改めて問題の本質を聞いた。
▽国家戦略特区で規制緩和の弊害が拡大
Q:まず、加計問題を取材するきっかけを教えてください。
A:もともと、構造改革特区や小泉内閣の規制緩和に疑問を持っていました。例えば、特区構想のひとつである株式会社立高校では、国から学校に支払われる就学支援金を当て込んで、幽霊生徒でぼろ儲けしている実態がありました。国家戦略特区は、それがバージョンアップされて形を変えただけ。加計問題の本質も構造改革特区の問題の延長にすぎないのです。
Q:国家戦略特区制度のどういう点を不審に思い、調べたのでしょうか。
A:国家戦略特区とは規制緩和です。教育特区を活用した株式会社立高校ではろくに勉強せずに卒業できる仕組みになっているなど、規制緩和による弊害があり、それを検証しようと思いました。そこで特区制度で2017年4月に新設された千葉県成田市の国際医療福祉大医学部を取材すると、土地の無償貸与と補助金をめぐり、地元から「おかしいよね」という声が多数あることが分かりました。
+その後、森友学園の国有地払い下げや、特区制度を使った加計学園・獣医学部新設の問題に注目が集まったため、国際医療福祉大よりも根が深そうな加計学園に取材の軸足を移しました。
Q:今月、2015年4月2日に愛媛県と今治市の職員、加計学園関係者が官邸を訪問し、当時の柳瀬首相秘書官と面会した際の文書の存在が明らかになりました。どう思いましたか。
A:率直に言って、ようやく(文書が)出てきたな、という感じです。愛媛県や今治市、加計学園の幹部がわざわざ官邸を訪ね、1時間半も会議をしているわけですから、やりとりを記した文書が存在するのはある意味、当然のことだからです。愛媛県の中村時広知事は「備忘録」と言葉を濁していますが、行政文書に近いと思いますね。ただ、なぜか、その文書が「ない」とされてきたのです。
Q:いつ出てきても不思議ではない文書だったのですね。 
A:いわゆる「愛媛文書」の存在は、NHKのスクープ報道がきっかけです。これによって、県は文書が本物かどうか、中身を含めて正直に答え、そこに柳瀬さんの名前が記されていた、ということでしょう。これは当然の対応ですが、一方で今治市はいまだ柳瀬さんとの面会を認めていない。その問題もあります。
Q:それでも安倍首相は加計学園が獣医学部をつくることを知ったのは「2017年1月20日」と強弁しています。
A:加計理事長は第1次安倍政権の前から千葉科学大で獣医学部をつくろうとしていました。おそらく加計理事長は安倍首相と獣医学部新設についてずっと密に連絡を取り合っていたと思います。加計問題がこれほど大騒ぎになっていなければ、もしかしたら愛媛と千葉に2つの獣医学部ができていたかもしれません。 
Q:安倍政権は誰でもわかるウソをなぜ、つき続けるのでしょう。
A:誰がどう考えても柳瀬さんは愛媛県や今治市の職員と会っているとしか思えないのだけれど、首相秘書官というのは首相の代理ですから、仮に認めてしまうと、面会自体が首相案件になってしまう。だから、会ったことは絶対に言えないし、野党に追及されても「会ってない」と言わざるを得ないのでしょう。
▽強固に首相を守る経産省に財務省が対抗
Q:そんな柳瀬氏をめぐり来週の国会招致が浮上しています。
A:正直言って証人喚問をしてもあまり期待できません。「記憶の限りにおいては」などと枕ことばをつけて否定することが容易に想像つくからです。おそらく、柳瀬さんはこれを繰り返さざるを得ないし、それだけの覚悟もできていると思います。野党がここを切り崩すのは難しいでしょう。<刑事訴追の恐れがないから追及しやすい>といった観測もありますが、甘いでしょうね。
Q:森友問題の佐川前国税庁長官と同様、国会招致でも疑惑は晴れず、何も変わらないということですか。
A:「記憶の限り」という枕ことばをつければ偽証罪には問われない。ならば、柳瀬さんがいかにオカシな証言をしているかということを浮き彫りにするためには、野党が努力するしかありません。例えば、官邸の入館記録が残っていないことを問題にするべきでしょうし、官邸の会議録が存在していないという不自然さをもっと追及するべきでしょう。
Q:霞が関官庁はなぜ、そうまでして安倍政権を守ろうとしているのでしょうか。
A:霞が関官庁というよりも、安倍首相に近い取り巻きの人たちでしょう。例えば柳瀬さんだけでなく、首相秘書官の中で経産省グループは財務省よりも突出して首相に対する忠誠心が高い。衆院予算委でやはり経産省出身の佐伯耕三首相秘書官が野党議員にヤジを飛ばしていましたが、首相を守るという強固なスタンスが一貫していますね。
▽特区の議論はトップダウンの出来レース
Q:森友問題の国有地売却で決裁文書改ざんが明らかになった財務省も同じということでしょうか。
A:おそらく財務省の中で、安倍首相に覚えめでたい経産省よりも「後れをとっている」という強い危機意識があるのではないでしょうか。推測ですが、森友問題は、財務省が経産省に対抗し、首相に対してアピールしたために問題が起きたのではないかと思っています。
Q:著書「悪だくみ」の中で森友問題は「第2の加計」と言っていますね。
A:兵庫県神戸市にある加計グループの「御影インターナショナルこども園」で安倍昭恵さんが名誉園長をやっていることに、森友の籠池さんが着目し、<うちも昭恵さんを名誉校長にすれば発展できるだろう>と考えたのは容易に推測できる。実際、その後、籠池夫妻は昭恵さんと一緒にこども園や広島県福山市の英数学館に足を運んでいますからね。
+その意味では一連の問題の原型は加計であり、森友が第2なのです。教育の名のもとに首相や首相夫人をうまく介したビジネスモデルと言っていいでしょう。
Q:安倍首相や昭恵氏はその教育ビジネスのために利用されたということですか。
A:安倍首相などの興味は、ビジネスというよりも教育勅語に象徴されるような愛国心を植えつける教育です。どう実現していくかを考えた時に利用したのが規制緩和。つまり教育の自由化です。小泉政権からの流れですが、特区制度を活用した株式会社立の学校も含め、新規参入を容易にする仕組みづくりに力を入れてきた。その過程で公私混同というのか、さまざまな思惑が絡み、問題が起きたのだと思っています。
Q:まさに行政の私物化が起きたと。
A:特区という規制緩和によってある意味、行政の「利権化」のパターンが出来上がってしまった。その結果、加計学園のように首相との関係を背景にしたエコヒイキが生まれ、その利権をうまく利用した業者が甘い汁を吸う。それがまさしく「行政の歪み」の構造というわけです。
Q:国家戦略特区の制度そのものに問題があると。
A:国家戦略特区のワーキンググループ(WG)について安倍さんは「一点の曇りもない」とか言っていますが、都合の良いことしか議事録に載せていないから「一点の曇りもない」に決まっています。一番の問題は首相がトップの議長として決めてしまうことでしょう。かつての労働政策審議会(労政審)のように、徹底的に議論し合う審議会もありましたが、大半は官僚が主導して「こうしましょう」ということに追随しているのが実態です。
+国家戦略特区の場合、内閣府の藤原豊元次長が音頭をとって、その上に和泉洋人首相補佐官がいて、方向を決めて導いていった。こういう仕組みを変えない限り、加計問題のような事態はまた起きるでしょう。(聞き手=本紙・高月太樹)
▽もり・いさお 1961年福岡県生まれ。岡山大学卒業後、出版社勤務を経て、03年フリーランスのノンフィクション作家に転身。「悪だくみ」(文芸春秋)の他に、「総理の影 菅義偉の正体」(小学館)、「高倉健 七つの顔を隠し続けた男」(講談社)など著書多数。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/227522

第四に、5月11日付け日刊ゲンダイ「今井秘書官は把握 柳瀬氏「面談隠し」やっぱり官邸ぐるみ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・やっと行われた柳瀬唯夫元首相秘書官の参考人招致。相変わらず、記憶の曖昧さが際立つも、安倍首相の関与だけはキッパリと全否定。周到に練ったシナリオに従い、うまくしのいだかに見える柳瀬氏だが「オヤッ」という場面があった。 官邸の実力者、今井尚哉首相首席秘書官の名前を出したシーンだ。柳瀬氏の「加計面談隠し」は、官邸ぐるみで行われた疑いがある。
・柳瀬氏は2015年3~6月の短期間に3回も加計関係者と面談していたことを認めた。安倍首相への報告を問われた柳瀬氏は「全く総理にお話ししたことはございません」と答弁したが、今井秘書官についてはこう答えた。 「昨年7月、閉会中審査があった。今井秘書官から、事実関係の問い合わせがあり、加計学園の事務局の方や元東大教授と官邸で会ったという事実を伝えた」 
・昨年7月の閉会中審査も、柳瀬氏が出席し、加計問題について何を語るか注目されていた。恐らく、気が気でない今井秘書官が「おい柳瀬、大丈夫か」と問い合わせたのだろう。 「加計面談」を隠し続けた柳瀬氏に批判が集中しているが、昨年7月の時点で、安倍首相と一心同体である今井秘書官も「加計面談」を把握していたということだ。どうにも怪しいのは、翌8月、朝日新聞の取材に対し、柳瀬氏が加計幹部の同席を「記憶にない」と、かたくなに否定していることだ。
▽認可直前の最悪のタイミング
・いったい、柳瀬氏は今井秘書官とどんなやりとりをしたのか。実は、安倍官邸はその頃、加計面談が表に出ることを極度に嫌がっていたという。 「7月の閉会中審査で柳瀬氏が何を語るのかは、安倍首相も大きな関心を持っていたはずです。というのも、加計学園の獣医学部設置を認めるかどうか、文科省・大学設置審の認可の判断が8月末に迫っていたからです。もし、認可判断直前に柳瀬秘書官が3回も官邸で加計関係者と面談していたことがバレると“大炎上”は避けられない。認可どころでなかったはずです。安倍官邸は、加計面談を隠したかったはずです」(官邸関係者)
・結局、獣医学部設置は11月に認可答申され、今春、開学にこぎつけている。今井秘書官への報告を明かした柳瀬氏の本意は不明だが、加計面談は柳瀬氏ひとりで抱えていたわけではない。野党は今井秘書官を追及すべきだ。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/228856

第一の記事で、中村知事は、 『「一言でいえば“勝ち馬に乗る”のが上手な人』、 『今年11月に県知事選を控え、『この政権は持たない』と踏み、加計問題で“道連れ心中”はごめんと突き放し、火の粉を振り払っているのでしょう』、というので納得した。それにしても、安部首相も県知事にまで見放されるとは、落ちたものだ。
第二の記事で、 『加計学園と京都産業大学への対応に大差』、というのはミエミエだ。 『岩盤規制を突破するための国家戦略特区が不公正なプロセスを経て行われていいはずがない。身贔屓(みびいき)特権という名のより強固な岩盤を作ったのだとしたら、まさしく本末転倒といえるだろう』、というのは正論だ。
第三の記事で、 『神戸市にある加計グループの「御影インターナショナルこども園」で安倍昭恵さんが名誉園長をやっていることに、森友の籠池さんが着目し、<うちも昭恵さんを名誉校長にすれば発展できるだろう>と考えたのは容易に推測できる。実際、その後、籠池夫妻は昭恵さんと一緒にこども園や広島県福山市の英数学館に足を運んでいますからね・・・一連の問題の原型は加計であり、森友が第2なのです』、というのは初めて知った。 『国家戦略特区のワーキンググループ(WG)について安倍さんは「一点の曇りもない」とか言っていますが、都合の良いことしか議事録に載せていないから「一点の曇りもない」に決まっています。一番の問題は首相がトップの議長として決めてしまうことでしょう』、というのはその通りだ。
第四の記事で、 『昨年7月の時点で、安倍首相と一心同体である今井秘書官も「加計面談」を把握していたということだ』、 『野党は今井秘書官を追及すべきだ』、というのは当然だ。
それにしても、いまだに安倍首相が辞任しないのは、自民党内反主流派や野党がだらしないとはいえ、解せない。
明日は、更新を休むので、月曜日にご期待を!
タグ:「今井秘書官は把握 柳瀬氏「面談隠し」やっぱり官邸ぐるみ」 加計グループの「御影インターナショナルこども園」で安倍昭恵さんが名誉園長をやっていることに、森友の籠池さんが着目し、<うちも昭恵さんを名誉校長にすれば発展できるだろう>と考えたのは容易に推測できる 東洋経済オンライン 安積 明子 今年11月に県知事選を控え、『この政権は持たない』と踏み、加計問題で“道連れ心中”はごめんと突き放し、火の粉を振り払っているのでしょう 実際、その後、籠池夫妻は昭恵さんと一緒にこども園や広島県福山市の英数学館に足を運んでいますからね 「「首相案件」だけ優遇、加計問題の深すぎる闇 なぜ京都産業大への対応と大差があったのか」 一連の問題の原型は加計であり、森友が第2なのです (その13)(「首相案件」文書認めた 愛媛県知事が政権に矢を射る思惑、「首相案件」だけ優遇、加計問題の深すぎる闇 なぜ京都産業大への対応と大差があったのか、モリカケ問題の根底は「安倍夫妻ビジネス」、今井秘書官は把握 柳瀬氏「面談隠し」やっぱり官邸ぐるみ) 一番の問題は首相がトップの議長として決めてしまうことでしょう 一言でいえば“勝ち馬に乗る”のが上手な人 参考人招致 国家戦略特区で規制緩和の弊害が拡大 「森功氏が看破 モリカケ問題の根底は「安倍夫妻ビジネス」」 柳瀬唯夫元首相秘書官 中村時広知事 加計学園問題 加計学園と京都産業大学への対応に大差 柳瀬氏は2015年3~6月の短期間に3回も加計関係者と面談 彼こそ県から加計学園に3年間で総額31億円もの補助金をポンと渡すことを決めた張本人だ 身贔屓(みびいき)特権という名のより強固な岩盤を作ったのだとしたら、まさしく本末転倒といえるだろう 「「首相案件」文書認めた 愛媛県知事が政権に矢を射る思惑」 認可判断直前に柳瀬秘書官が3回も官邸で加計関係者と面談していたことがバレると“大炎上”は避けられない。認可どころでなかったはずです 今井秘書官から、事実関係の問い合わせがあり、加計学園の事務局の方や元東大教授と官邸で会ったという事実を伝えた 日刊ゲンダイ 岩盤規制を突破するための国家戦略特区が不公正なプロセスを経て行われていいはずがない
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