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格差問題(その3)(「階級社会」に突入した日本 格差を拡大させた3つの仮説 【対談】、企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ) [経済政策]

格差問題については、昨年6月4日に取上げた。今日は、(その3)(「階級社会」に突入した日本 格差を拡大させた3つの仮説 【対談】、企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ)である。

先ずは、4月4日付けダイヤモンド・オンラインで橋本健二(早稲田大学人間科学学術院教授)×河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミストが対談した「「階級社会」に突入した日本、格差を拡大させた3つの仮説 【対談】橋本健二(早稲田大学人間科学学術院教授)×河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト)」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「週刊ダイヤモンド」2018年4月7日号の第1特集は「1億総転落 新・階級社会」。7万部のベストセラーとなっている『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)の著者である橋本健二・早稲田大学教授と気鋭のエコノミスト、河野龍太郎氏に、日本に階級社会が生まれた背景と階級社会がもたらす「不都合な未来」について徹底議論してもらった。「超人手不足」「就職氷河期世代」「日本人の横並び意識」が格差拡大をどう助長しているのか、社会学と経済学のアプローチで解説する。
▽【前提】格差拡大の背景は? 「新・階級社会」の誕生
・河野 現在は完全雇用なのに、格差問題がテーマの『新・日本の階級社会』がビジネスマンの多い東京・丸の内界隈で売れているのは象徴的なことだと思いますね。 完全雇用で人手不足になった後も安倍政権が1億総活躍とか人づくり革命とか言い続けているのも、このまま働いても豊かになれないと思っている人が増えているのが背景にあるのではないかと。 橋本先生は、格差拡大のスタートラインは、どこだという認識ですか。
・橋本 起点は高度経済成長の終焉です。賃金の規模間格差、学歴間格差の拡大から始まり、1980年代からあらゆる格差が拡大してゆく。バブル後半になると、初めは正社員も非正規労働者も求人倍率が上がっていたのですが、正社員が上がらなくなって、非正規ばかりが上がるようになりました。 87年にフリーターという言葉がはやり、新卒の若者たちが大量に流れ込みました。フリーター第1世代は50歳を超え、氷河期世代も40歳を超えてきたのが今です。
・河野 80年代以降の日本で格差拡大が始まった時期には、グローバルでも格差が拡大していました。 高度成長が終わった段階で、世界各国はその高い成長が続くという幻想の下で、財政政策や金融政策を積極化しました。その結果、70年代は高インフレとなりました。
・財政・金融政策では成長を高めることはできないといって、規制緩和を進めたのが、米国のレーガン大統領、英国のサッチャー首相、そして日本の中曽根康弘首相らです。私自身は経済の実力である潜在成長率を高めるためには、規制を取り除いて、ある程度、経済を自由にするのはいいことだと思っています。ただし、彼らは同時に所得分配を弱体化させました。
・規制緩和をすることで潜在成長率(景気循環の影響を除いた経済成長率)を高めることはできますが、経済活動を自由にすれば格差は広がるので、自由化を進めた上で、所得分配で対応すべきだったところを逆にその機能を弱めてしまった。実際、どこの国も80年代以降、潜在成長率は上がらず経済格差だけが拡大しました。
・橋本 今から考えると最悪のタイミングだったと思います。ちょうど格差が広がったころに、新卒も含めて非正規雇用が拡大。そこで所得分配機能を弱めてしまった。その後、格差の拡大に拍車を掛けることになる。  非正規は雇用の調整弁といわれてきましたが、近年の動きを見ると、景気変動と非正規労働者の増減に相関はないですね。雇用の調整弁ではなくて、企業が収益を上げるために、構造的に組み込まれた要素になっていると思います。
▽【仮説(1)】 超人手不足なのに賃金が上がらない
・河野 実は、17年はもう少し賃金が上がると思っていたのです。非正規の時間当たり賃金は2%台までは上がりましたが、その後、伸び悩んでいます。 完全雇用なのに賃金が上がらない理由の一つは、高齢者や主婦の労働参加が高まり弾力的な労働供給が増えているからです。そうはいっても団塊世代が70歳になり始め、健康寿命を考えると労働市場から退出する人が増えると思っていたのですが、なかなか賃金が加速しない。
・昨秋に気が付いたのですが、外国人労働が凄まじく増えていて、この5年間で倍増しているんですね。過去5年で60万人増えて120万人になっている。あらゆるセクターで増えていますし、一番増えている在留資格が留学ビザと技能実習生ですから、低スキル低賃金の労働ですよね。彼らの弾力的な労働供給が増えているから賃金が思ったほどには上がらなかったということです。
・橋本 最近、新しいタイプの非正規、低賃金労働者が増えています。 全体的に所得が低迷しているから、今までだったら子どもが小学校に上がってからパートに出るはずだったお母さんが、幼稚園に入る前からパートに出るとか。65歳を過ぎた人がさらに非正規で働き続けるとかですね。今まであまり労働市場に出てこなかった人たちが参入することで、賃金が上がらなくなっている。 正社員の賃金が上がらないのはどのように説明できますか。
・河野 正規労働と非正規労働の賃金決定のメカニズムはまったく別ものだと思ってます。 非正規労働は労働需給がかなり影響しますが、正規労働は労働需給の影響をあまり受けず、基本的に生産性の上昇率とインフレで規定されています。生産性が上がらない原因には、資本市場からのプレッシャーによる短期主義が影響しているとみています。
・私は、基本的に生産性を規定しているのは人的資本だと思っています。かつての内部労働市場では、時間をかけて人的資本が蓄積されていくから生産性の高い仕事ができた。人的資本の蓄積の機会が少ない非正規雇用が増えただけではなく、正規雇用についても能力主義から成果主義にシフトしている企業も少なくない。
・そして、正規雇用に対しOJT(職場内訓練)やOff-JT(職場外研修)の機会が減ってきている。人的資本が蓄積されないから生産性が高まらず、長期的に賃金が上がらないという悪循環にある。 経営者も従業員もベアは固定費が上がり、終身雇用が持続できなくなるので、経営者が渋いだけでなく、組合も従業員もベアを望んでいない。
・米国で所得格差が拡大した理由として、よくいわれる要因が三つあります。イノベーションとグローバリゼーションと社会規範の変化。どれもつながっていて、ICT(情報通信技術)革命の結果、労働集約的な生産工程だけを新興国に移管することが可能になった。先進国の企業は自分たちが持っていたノウハウと新興国の安い労働力を組み合わせることで、業績を改善させることができるようになったのです。
・イノベーションによってグローバリゼーションが加速したということです。さらに、労働組合がどこの国でも弱体化し同時に、資本市場から企業経営者へ強いプレッシャーが働くようになる。もうかっていても簡単には賃金を上げられない。この結果、国内では経営者を含め生産性の高い高スキルの賃金は上がり、労働集約的な生産工程は海外に出るので、低スキルの賃金が低下する。
・人によっては、これは悪いことではない、という人もいるわけです。労働集約的な組立製造工程を海外へ出して、国内には研究開発とかアフターサービスとか、収益性の高い工程が残っているからと。 でも、先進国では学校を出たばかりの低スキル労働が製造業の工場に吸収され、そこで人的資本を蓄積して賃金が徐々に上がっていくという話だった。
・それが分厚い中間層を生み出していたわけですが、そうした中間的な賃金の仕事がなくなり、結果的に、比較的高い賃金の仕事と比較的安い賃金の仕事が増えている。これは欧米でも日本でも起こっていて、各国の政治が不安定化する原因になっています。
・橋本 非正規の巨大な群れができたときに、最低賃金の保証と所得再分配がないと。人々は将来が不安だからわずかな余剰が出ても貯金するので消費に回らない。今の景気が良いとは思いませんが、消費は低迷したままです。格差拡大が景気の改善を阻む「格差拡大不況」の状況がずっと続いているんじゃないでしょうか。
▽【仮説(2)】 就職氷河期世代が社会のコストになる
・河野 少子高齢化は70年代半ば以降の婚姻率・出生率の低下が原因とばかり考えられていますが、理由はそれだけではない。就職氷河期に当たった団塊ジュニアは、就職が非常に厳しく、非正規になった人が多かった。正社員になれても不況期に就業すると、望んだ職種や企業に勤められないから、すぐに転職して就業期間も短くなり、人的資本の蓄積も進まない。だから所得が増えません。
・その結果、結婚が遅れたり、できなかったりする。ある程度年を取って、所得が増え、経済的に出産が可能になっても、今度は、生物学的な限界もあるので第2子を持つことが難しくなる。結婚した夫婦でも2人の子どもを持てなくなっています。われわれが期待した「第3次ベビーブーム」が起きなかった原因はそこにあるんでしょうね。
▽氷河期世代に正当な賃金が払われるべき
・橋本 そうですね。実は、アンダークラスの主力部隊がこの氷河期世代です。近現代の日本で、初めて貧困であるが故に結婚して家族を構成して子どもを産み育てることができないという、構造的な位置に置かれた人が数百万単位で出現した事実は非常に重いです。
・しかも、上の世代がまだ50歳ですから、あと20年くらい働き続けるかもしれない。その下の世代まで含めると、最終的にはアンダークラスが1000万人を超えると思っています。そのとき、ようやく一番上の人が70歳になり生活保護を受けるようになって、定常状態に達するというのが私が予想する近未来の日本なんです。
・河野 一方で、氷河期世代は今や働き盛り。就業者全体の3割に上るボリュームゾーンです。労働経済学者がフォーカスしているのは、氷河期世代は人的資本の蓄積が十分ではなく、前の世代に比べると賃金が低いことです。 
・橋本 ただ、私はあまり人的資本の話を強調したくはないんです。大学を出たときから人的資本は増えていないかもしれない。だけど、基本的な労働力は持っているわけで、それに対する正当な賃金が払われていない。生活ができる賃金は与えられてしかるべきだし、これらの人々が退職したときに基本的な生活ができるだけの社会保障は与えられるべきですよね。そういう制度が整っていないことが一番大きな問題なのです。
▽【仮説(3)】 日本人の横並び意識が不毛な争いを生む
・河野 ちなみに、先進国では格差は拡大していますが、グローバルではむしろ格差は縮小しています。  結局、生産拠点の新興国への移転でいえば、この30年で一番メリットを受けた国は中国です。30年間で14億人の人口が中国が世界経済に組み込まれた。その過程で、農村にいた人々が豊かな都市に吸収され、中国では所得の格差が縮小してきている。
・今の先進国と新興国の違いって19世紀以降の話なんですね。19世紀に先進国が工業化で発展し始めることで、アジアとの所得格差が生まれた。これが「大いなる分岐」です。90年代くらいから新興国への生産拠点の移転で新興国が豊かになり始めてきたので、「大いなる収斂」が始まりました。
・19世紀以前には国の間の所得格差がないので、ある人が豊かであるかどうかは、「自国におけるどこの階層に属するか」で規定されていた。しかし、この200年くらいは「先進国の出身であるか、途上国の出身であるか」で規定された。
・そして、この調子で新興国が豊かになってくると19世紀以前と同様に、ある人が豊かであるかどうかは「先進国出身であるか、新興国出身であるか」ではなくて、「自国のどの階層に属しているか」によって決まる時代になる可能性があります。つまり、日本人は日本のどの階層に属しているかが決定的になるということです。
・橋本 日本では、同じ階層の中で横並び意識が働き、不毛な競争が起きることになります。 強調したいのが、アンダークラスの上の労働者階級が二つに分裂してきていること。労働者階級の中に比較的高賃金の層と低賃金の層がいる。互いに利害の異なる別々の集団になってきたという認識です。そして、アンダークラスは、人生の一時期だけではなく、恒常的にそこにとどまり続ける存在になっている。アンダークラスには子どもを生めない人も多いので、アンダークラスの子どもがアンダークラスになる構造が確立するのか……。上の階級にいる労働者階級や新中間階級の子どもがアンダークラスに転落し続けてこの規模が維持される可能性が高いと思います。
・河野 働いている人が税金を払い、社会保険料を払うから社会保障制度が成り立ちます。しかし、経済の大きな変化に社会保障制度を始め国のシステムが対応できていません。そのことで、晩婚化や非婚が進み、少子高齢化が助長され、社会保険料や税金を払う人自体が減って、益々、社会制度の持続可能性が低下している。極めて危機的な状況です。
・橋本 今の世代が低賃金で長時間働いて燃え尽きる。次の世代の労働力が出てこない。社会学のアプローチでいうと、「社会の再生産、労働力の再生産の危機」だと思いますね。
http://diamond.jp/articles/-/165884

次に、立命館大教授の高橋伸彰氏が4月17日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「金利ゼロ」は資本主義の危機なのか。 確かに、利子を支払えるほど企業が利潤を上げられない状況を金利ゼロが表しているなら、資本主義は危機かもしれない。しかし、少なくとも日本の企業は1990年代後半以降の金利ゼロが続く中でも利益を上げ、内部留保を積み増してきた。 また、富裕層と呼ばれる資産家の金融資産も膨らみ続け、「持てる者」ほどより多くの所得を稼いでいる。
・それでは、なぜ金利ゼロが生じているのか。 簡単に言えば利子を支払えるだけの利潤を上げられる企業が借金をせず、収益は人件費削減などで上げ、利潤は内部留保や株主などへの配当に回してきたからだ。一方で働き手は所得が伸びないうえ、低金利で預貯金の利子所得が激減した。 「金利ゼロ」のもとでも資本主義が“繁栄”しているのは、普通の人々の代償によるものなのだ。
▽投資減らし無借金経営 「アニマルスピリット」失った経営者
・なぜ、このような事態に陥ったのだろうか。 バブル崩壊までの日本企業は、家計の預金を銀行経由で借り入れ、自己資金(キャッシュフロー)を上回る投資を行うことで得た収入を、賃金や利子の形で家計に還元し経済の好循環をリードしてきた。
・しかし、バブルが崩壊して以降は非正規雇用を拡大し、正社員の賃金を抑制して人件費を削ると共に、キャッシュフロー以下に投資を減らして借金返済に奔走するようになった。 一方で利潤を目的としない公的サービスの供給を担う政府が借金をして、事業を拡大し同時に財政赤字を累増させている。
・その結果、日本の企業部門は1998年以降フローベースで資金不足から貯蓄超過に転じ、日本政策投資銀行の中村純一氏(『無借金企業の謎』)によれば実質無借金(有利子負債を上回る現預金を保有)を含めると、日本の上場企業主要5業種(製造業、建設業、不動産業、商業、サービス業)の40%強がいまや「無借金経営」だという。
・経済学史家のハイルブローナーは無借金を誇るような経営者を「現代の地主」にすぎないと喝破する。 ケインズの言う「血気(アニマルスピリット)」をもって不確実な投資に挑むわけでも、またシュンペーターの言う「企業家精神(アントレプレナーシップ)」を発揮して技術革新にチャレンジするわけでもなく、ひたすら人件費を削減して利益を上げ、内部留保の蓄積に血道を上げるような経営者など、経営者としては失格なのだ。  企業が借金を減らしたことで銀行は預金の運用に苦しみ、やむを得ず低い利回りしか期待できない公債を購入するようになった。
・実際、銀行の総資金利回りは全国銀行ベースで2016年度決算では0.91%にまで低下し、人件費などの経費率0.84%を差し引くと、利鞘はわずか0.07%にすぎず、預金に利子を付けるのはほとんど難しい状況に陥っている。 借入金利を上回る利益率を期待して設備投資を行っていたかつての企業と異なり、最初から利益を目的としない政府に家計の預金が回れば金利ゼロになるのは当然である。
・その一方で、企業は積み上げた内部留保を海外への投融資に回して高い利益を上げており、その利益は株式の配当や株価の上昇あるいは高額な経営者報酬という形で富裕層に還元されている。
▽苦しんでいるのは「普通の人びと」  家計の利子所得は激減
・一方で「普通の人びと」はどうか。 ほとんどの個人や家計は、雇用や生活の不安がある中では、長期的には収益が期待できても、価格が変動する株式や投資信託などのリスク資産を避け、元本が保証された金利ゼロの預貯金で資産を運用している。 実際、リスク資産を保有する家計の割合は、日本銀行の調査(『日米家計のリスク資産保有に関する論点整理』)によれば日本で1割程度、アメリカでも15%程度にすぎない。 
・それでも、デフレが続く間は、金利ゼロでも預貯金の価値は減価せず、零細な資産保有者の利益も守られるから、人々は預貯金から離れようとはしなかったのだ。 この結果、家計が得る利子所得は、『国民経済計算』によれば1991年度の37.5兆円をピークに2016年度では6.1兆円に減少している。
・同期間に家計が保有する現預金が511兆円から938兆円に増加していることを考えれば、家計の預金利回りはバブル崩壊後の長期停滞の中で7.3%から0.65%へと10分の1以下に減った計算になる。 企業が生みだす付加価値、つまり売り上げから原材料などの中間投入費を差し引いた価値の中には、人件費や営業利益と並んで借入に対する支払い利息も含まれている。 お金を借りて投資を行い、利益を挙げて利息を払うことは付加価値の創造でもあるからだ。
・この支払い利息の推移を『法人企業統計』で見ると、91年度の34.6兆円から2016年度には6.2兆円に減少している。これが普通の家計が得る利子所得減少の主因である。 借金を減らして無借金を目指す企業経営によって失われた家計の利子所得は、ピーク時との差額として試算すると92年度から2016年度までの累計で650兆円近くに及ぶ。
・このように見てくると、企業の収益機会が枯渇し、資本の増殖が限界に達しているから金利ゼロが生じているわけではない。 企業が借金をせずに利潤を上げ、その利潤を内部留保として積み上げ、再投資に回していないから金利ゼロが生じていることがわかる。
・それだけではない。企業や富裕層は稼いだ利潤や所得から税金を支払うことも巧みに逃れている。 日本の財政が歳出に見合う税収を確保できずに赤字を累増させているのは、高齢化による社会保障費の増加よりも、むしろ持てる企業や富裕層から支払い能力に応じた税金を徴収しない(できない?)からである。
・このようにゼロ金利で苦しんでいるのは「普通の人びと」であり、企業と富裕層を主役とする資本主義は健在である。 しかも日本の企業はゼロ金利の下で、一貫して労働分配率を引き下げてきた。
・かつての日本的な経営者であれば、経営が苦しいときには損失を、また経営が改善したときには収益を従業員と分け合ったものだが、バブル崩壊以降は損失を押しつけるだけで、収益を(公平に!)分け合うという発想はほとんど見られない。 いまや経営者にとって賃金は「上げる余裕がないから上げない」のではなく、余裕はあっても「上げなくて済むのなら上げない」という発想が支配的だ。
・働き手も消費者の立場になったなら、一杯300円払ってもいいと思う牛丼が一杯200円で食べられるなら、あえて300円は払わず200円で済ますのは合理的だと思うかもしれない。 しかし、経営者が働き手に対して月30万円払ってもいいと思う賃金を、月20万円で雇えるなら20万円しか払おうとしなければ、賃金はぎりぎりの水準まで引き下げられてしまう。
▽“繁栄”を支えているのは不平等の拡大
・「ゼロ金利」で自然に消滅するほど資本主義は脆弱な経済体制ではない。 実際、資本主義の中心に位置する企業や富裕層はゼロ金利の下でも繁栄を謳歌している。 ただ、その内情は、かつてのようには市場が伸びなくなり、マクロ的な成長率が停滞する中で、その“繁栄”を支えているのは、1%が裕福になり99%が貧しくなる不平等の拡大であることを見落としてはならない。
・それでも資本主義の増殖が止まらない一因は、人々の欲望を刺激するように工夫された商品が不断に創出され、それをを人びとが競うようにして求めるからだ。 しかも、人びとは際限のない購買欲を満たすために少しでも多くの所得を稼ごうとして「勤労意欲をますます高め、たとえ給料が変わらず、むしろ下がることになっても、現在の労働市場と労働環境の厳しい要求に従うようになる」(W・シュトレーク『資本主義はどう終わるのか』)。
・この結果、生き延び繁栄するのは資本主義であり、失われるのは人びとの生活と精神の豊かさである。  アルジェリアのフランスからの独立を目指し植民地主義と激しく闘った思想家、フランツ・ファノンは「ひとつの橋の建設がもしそこに働く人びとの意識を豊かにしないものならば、橋は建設されぬがよい。市民は従前どおり、泳ぐか渡し船に乗るかして、川を渡っていればよい」(『地に呪われたる者』)と述べた。
・橋の建設が支配者にもたらす利益や橋の通行者が得られる便宜よりも、その建設のために駆り出され働く人びとの精神的な豊かさを優先しなければ、宗主国に支配された植民地の人びとは永遠に解放されないというわけだ。
・ファノンが言う「橋」を、現代の資本主義の下で次々と創出される新製品や新サービスと、その生産と販売のために劣悪な条件と環境の下で労働を強いられる人びとの精神に置き換えてみれば、同じことが言えるのではないか。
▽「打倒」しなければ生きる基盤が破壊される
・拡大する不平等や際限ない欲望と人びとが闘わずに、耐えて待つだけでは資本主義はいつまでも終わらない。 そのための第一歩は、月並みだが「適度な必需品による豊かな生活や安定した『善き生』」(D・ハーヴェイ『資本主義の終焉』)に真の幸福を見いだすことだろう。 そうでなければ、どんな手段を使っても増殖を続け生き延びようとする資本主義の猛威によって、人びとが生きる社会的、自然的な基盤までが破壊されてしまうのである。
http://diamond.jp/articles/-/166945

第一の記事で、 『経済活動を自由にすれば格差は広がるので、自由化を進めた上で、所得分配で対応すべきだったところを逆にその機能を弱めてしまった。実際、どこの国も80年代以降、潜在成長率は上がらず経済格差だけが拡大しました』、 『非正規は雇用の調整弁といわれてきましたが・・・雇用の調整弁ではなくて、企業が収益を上げるために、構造的に組み込まれた要素になっていると思います』、 『正規雇用に対しOJT(職場内訓練)やOff-JT(職場外研修)の機会が減ってきている。人的資本が蓄積されないから生産性が高まらず、長期的に賃金が上がらないという悪循環にある。 経営者も従業員もベアは固定費が上がり、終身雇用が持続できなくなるので、経営者が渋いだけでなく、組合も従業員もベアを望んでいない』、などは的確に現在の問題をえぐり出している。  『就職氷河期に当たった団塊ジュニアは、就職が非常に厳しく、非正規になった人が多かった。正社員になれても不況期に就業すると、望んだ職種や企業に勤められないから、すぐに転職して就業期間も短くなり、人的資本の蓄積も進まない。だから所得が増えません。 その結果、結婚が遅れたり、できなかったりする・・・その下の世代まで含めると、最終的にはアンダークラスが1000万人を超えると思っています。そのとき、ようやく一番上の人が70歳になり生活保護を受けるようになって、定常状態に達するというのが私が予想する近未来の日本なんです』、 『労働者階級の中に比較的高賃金の層と低賃金の層がいる・・・アンダークラスは、人生の一時期だけではなく、恒常的にそこにとどまり続ける存在になっている。アンダークラスには子どもを生めない人も多いので、アンダークラスの子どもがアンダークラスになる構造が確立するのか……。上の階級にいる労働者階級や新中間階級の子どもがアンダークラスに転落し続けてこの規模が維持される可能性が高いと思います』、という悲惨な現実を、安部政権も正面から捉えるべきだ。  『晩婚化や非婚が進み、少子高齢化が助長され、社会保険料や税金を払う人自体が減って、益々、社会制度の持続可能性が低下している。極めて危機的な状況です』、いまや時間的余裕もなくなってきているようだ。
第二の記事で、 『企業の収益機会が枯渇し、資本の増殖が限界に達しているから金利ゼロが生じているわけではない。 企業が借金をせずに利潤を上げ、その利潤を内部留保として積み上げ、再投資に回していないから金利ゼロが生じていることがわかる』、 『ゼロ金利で苦しんでいるのは「普通の人びと」であり、企業と富裕層を主役とする資本主義は健在である。 しかも日本の企業はゼロ金利の下で、一貫して労働分配率を引き下げてきた』、 『それでも資本主義の増殖が止まらない一因は、人々の欲望を刺激するように工夫された商品が不断に創出され、それをを人びとが競うようにして求めるからだ。 しかも、人びとは際限のない購買欲を満たすために少しでも多くの所得を稼ごうとして「勤労意欲をますます高め、たとえ給料が変わらず、むしろ下がることになっても、現在の労働市場と労働環境の厳しい要求に従うようになる」』、などの指摘は説得力がある。ただ、 『拡大する不平等や際限ない欲望と人びとが闘わずに、耐えて待つだけでは資本主義はいつまでも終わらない。 そのための第一歩は、月並みだが「適度な必需品による豊かな生活や安定した『善き生』」・・・に真の幸福を見いだすことだろう』、という結論は、いささか飛躍気味でついていけなかった。
タグ:“繁栄”を支えているのは不平等の拡大 超人手不足なのに賃金が上がらない 外国人労働が凄まじく増えていて、この5年間で倍増 企業の収益機会が枯渇し、資本の増殖が限界に達しているから金利ゼロが生じているわけではない。 企業が借金をせずに利潤を上げ、その利潤を内部留保として積み上げ、再投資に回していないから金利ゼロが生じていることがわかる 苦しんでいるのは「普通の人びと」  家計の利子所得は激減 ハイルブローナーは無借金を誇るような経営者を「現代の地主」にすぎないと喝破 ダイヤモンド・オンライン 「「階級社会」に突入した日本、格差を拡大させた3つの仮説 【対談】橋本健二(早稲田大学人間科学学術院教授)×河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト)」 中間的な賃金の仕事がなくなり、結果的に、比較的高い賃金の仕事と比較的安い賃金の仕事が増えている 一方で働き手は所得が伸びないうえ、低金利で預貯金の利子所得が激減した。 「金利ゼロ」のもとでも資本主義が“繁栄”しているのは、普通の人々の代償によるものなのだ 経済活動を自由にすれば格差は広がるので、自由化を進めた上で、所得分配で対応すべきだったところを逆にその機能を弱めてしまった。実際、どこの国も80年代以降、潜在成長率は上がらず経済格差だけが拡大 「新・階級社会」の誕生 氷河期世代に正当な賃金が払われるべき なぜ金利ゼロが生じているのか。 簡単に言えば利子を支払えるだけの利潤を上げられる企業が借金をせず、収益は人件費削減などで上げ、利潤は内部留保や株主などへの配当に回してきたからだ 「企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ」 高橋伸彰 格差問題 (その3)(「階級社会」に突入した日本 格差を拡大させた3つの仮説 【対談】、企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ) 就職氷河期世代が社会のコストになる 日本人の横並び意識が不毛な争いを生む 正規雇用に対しOJT(職場内訓練)やOff-JT(職場外研修)の機会が減ってきている。人的資本が蓄積されないから生産性が高まらず、長期的に賃金が上がらないという悪循環にある
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司法の歪み(その7)(美濃加茂市長事件の真相解明に向け 民事訴訟提訴、「触らない痴漢」の恐怖とロンドンの監視社会 働き方改革なら まずここから) [社会]

司法の歪みについては、3月12日に取上げた。今日は、(その7)(美濃加茂市長事件の真相解明に向け 民事訴訟提訴、「触らない痴漢」の恐怖とロンドンの監視社会 働き方改革なら まずここから)である。

先ずは、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が3月23日付けで同氏のブログに掲載した「美濃加茂市長事件の真相解明に向け、民事訴訟提訴」を紹介しよう。
・受託収賄等の事件で有罪判決を受け、市長辞任に至った前美濃加茂市長藤井浩人氏が、虚偽の贈賄供述を行った人物と、控訴審での証人尋問を妨害する行為を行った弁護士に対して損害賠償を求める民事訴訟を提起したことについて、昨日(3月22日)、原告の藤井氏と弁護団による記者会見が、東京司法クラブで行われた。
・記者会見の冒頭、藤井氏は、提訴に至った理由、その思いについて、以下のようにコメントした。 2013年6月から、昨年12月まで、岐阜県美濃加茂市長を務めておりました藤井浩人です。 全く身に覚えのない収賄の罪で逮捕起訴され、名古屋地裁では、贈賄証言が虚偽だと判断され、無罪を言い渡して頂きました。ところが、二審名古屋高裁では、私には一言も発言の機会が与えられないまま、全く理由もなく逆転有罪が言い渡されました。そして、昨年12月、上告理由に当たらないとして上告は棄却され、それを受けて、私は市長を辞任しました。
・こうして刑事裁判では、私は賄賂の現金を受け取ったとされましたが、真実は一つです。裁判でずっと訴えてきたとおり、私は、現金を受け取った事実は全くありません。私に現金を渡したという証言は、全くの嘘です。 その真実を、民事裁判の場で明らかにするため、嘘の贈賄証言をした人物と、刑事裁判で真実が明らかになることを妨害した弁護士の二人に対する損害賠償請求訴訟を提訴しました。
・一審判決では、多くの証人尋問や私の被告人質問が行われ、贈賄供述者が、自分の刑事処分を軽くするために虚偽の贈賄供述をしたと指摘して頂きました。 控訴審でも、贈賄供述をした動機について一審と同様の判断が示され、新たに明らかになった事実は何一つなかったのに、なぜか結論は逆転有罪でした。  上告審では、贈賄供述の信用性について全く判断をしてもらえませんでした。
・刑事裁判の経過の中で絶対に許せないのは、証人尋問の前に私の事件の一審判決書が受刑中の贈賄供述者に差し入れられたことで、控訴審の証人尋問が台無しにされてしまったことです。控訴審判決でも、「証人尋問の目的が達せられなかった」と認めています。この贈賄供述者の証人尋問は、資料の提示もせず、検察官との打合せもさせないで、記憶していることを確かめるために証人尋問が行われたものでした。私は、その証人尋問で、現金を渡したという話が全くの嘘だという真実が明らかになるものと期待していました。
・そのような証人尋問の妨害を、贈賄供述者の弁護人だった弁護士が行ったことは絶対に許せません。今回、その弁護士に対しても訴訟を提起したのは、なぜそのような証人尋問の妨害を行ったのか、真相を明らかにするためです。
・原告訴訟代理人には、郷原先生を中心とする一審からの弁護団のコアメンバーと、上告審で弁護に加わって頂いた喜田村先生、それに、新たに、元裁判官の森炎先生にも加わって頂き、大変心強い弁護団にお願いすることができました。 この度の訴訟の目的は、真実は一つであり、「現金の授受が全くないこと」「贈賄供述が嘘であること」を明らかにするためです。そのためにも、二人の被告に、事の重大さをしっかり認識し、民事裁判を真剣に受け止めてもらうため、私が被った損害の全額を請求額としました。
・民事裁判は、東京地裁民事44部の3人の裁判官に担当して頂くことになりました。刑事裁判の中で明らかになったことを、改めて公正に判断して頂ければ、現金授受の事実は全くなく、贈賄証言が嘘だという真実が明らかになるものと確信しています。
・【藤井浩人美濃加茂市長 冤罪 日本の刑事司法は‟真っ暗闇”だった!】で述べたように、最高裁から、昨年12月11日付けの「三行半の例文」の上告棄却決定が届き、藤井氏は、市長辞任の意向を表明したが、我々弁護団に対して、 「市長は辞任しますが、私が現金を受け取った事実はないという真実を明らかにするため、今後も戦い続けます。とれる手段があるのならば、あらゆることをやっていきたい。」 と述べて、自らの潔白、無実を明らかにするために戦い続けていくことを明確に宣言していた。今回の提訴は、このような藤井氏の意向を受けて行ったものだった。
・一般の刑事事件であれば、「有罪判決が確定したのだから、裁判所の判断は、『贈賄供述は信用できる』『現金授受の事実があった』ということだ。それを民事訴訟で蒸し返しても仕方がないではないか」と思われるだろう。 しかし、そのような一般論は、藤井氏の刑事裁判には通用しない。
・この事件では、贈賄証言の信用性について、贈賄供述者の証人尋問や被告人質問を自ら直接行ったうえで、「贈賄証言は信用できない」として無罪を言い渡した一審裁判所と、書面だけで「贈賄供述は信用できる」と判断した控訴審裁判所との間で判断が分かれた。そして、上告審は、「上告理由に当たらない」として上告を棄却し、収賄の事実の有無についても、贈賄証言の信用性についても判断は示さなかった。
・このような裁判の経過や、各裁判所が示した判断を踏まえて、民事裁判で、主張立証が尽くされ、公正な審理が行われれば、贈賄証言が虚偽だという真実が明らかになる可能性は十分にある。
・刑事裁判での真相解明の最大のポイントは、控訴審裁判所が、職権で、贈賄供述者の証人尋問を直接行って信用性を確かめようとした場面だったが、「裁判所も予測しなかった事態」によって尋問の目的が達成できず、一審での贈賄証言を書面だけで判断するしかなくなった。その判断が、信じ難いことに、一審判決の判断を覆し、贈賄証言の信用性を肯定するというものだったのである。
・その「裁判所も予測しなかった事態」というのが、証人尋問の前に、藤井氏の事件の一審判決書が受刑中の贈賄供述者に差し入れられたことだった。それが、いかなる経緯で、いかなる目的で行われたのか、その点の真相解明も、今回の民事訴訟の重要な目的だ。
・贈賄供述者は、一審証人尋問の前に、検察官と1か月以上にわたって朝から晩まで打合せを行っていたことを証言している。控訴審裁判所は、そのような検察官との打合せを行わせず、事前に資料も見せず、記憶していることをそのまま証言させたいとして控訴審での職権証人尋問を行う方針を示した。検察官は「記憶が減退している」と言って、証人尋問に強く反対したが、その反対を押し切って尋問が決定された。そのままの状態で証人尋問が行われたら、贈賄供述が記憶とは無関係の「作り話」だったことが明白になってしまう。検察は確実に追い詰められていた(【検察にとって「泥沼」と化した美濃加茂市長事件控訴審】)
・そこに、検察にとって、まさに「神風」のような出来事が起きた。一審での贈賄供述者の証言が詳細に書かれている藤井氏の一審判決のほぼ全文に近い「判決要旨」が、贈賄供述者の弁護人だった弁護士によって、受刑中の贈賄供述者に差し入れられたのだ。この弁護士と、贈収賄事件の主任検察官との関係について、贈賄供述者は「私の弁護士と検事は知り合いです。いろいろと交渉してくれてる様です。」と自筆の手紙に書いていた。
・その判決要旨差入れから約1か月後に行われた証人尋問で、贈賄供述者は、一審とほとんど同じ証言を行った。判決要旨を熟読して証言内容を用意してきたことは明らかだった。 この控訴審での証人尋問について、控訴審判決は、受刑中の贈賄供述者が、当審証言に先立ち、原判決の判決要旨に目を通したという裁判所としても予測しなかった事態が生じたために目論見を達成できなかった面がある。 と判示して、証人尋問の目的が阻害されたことを認めている。
・上告棄却決定の直前に公刊した【青年市長は“司法の闇”と闘った  美濃加茂市長事件における驚愕の展開】を読んでくれた方々が、不当極まりない警察の捜査、検察の起訴・公判立証、逆転有罪を言い渡した控訴審判決に憤り、藤井氏に対して励ましの声をかけてくれた。その思いを受け止め、民事訴訟を通して事件の真相を明らかにできるよう、全力を尽くしていきたい。
https://nobuogohara.com/2018/03/23/%E7%BE%8E%E6%BF%83%E5%8A%A0%E8%8C%82%E5%B8%82%E9%95%B7%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%81%AE%E7%9C%9F%E7%9B%B8%E8%A7%A3%E6%98%8E%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%91%E3%80%81%E6%B0%91%E4%BA%8B%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E6%8F%90/

次は、息抜きを兼ねてややソフトな話題である。健康社会学者の河合 薫氏が4月10日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「触らない痴漢」の恐怖とロンドンの監視社会 働き方改革なら、まずここから」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今回は、「“痛勤”と働き方改革」について、アレコレ考えてみようと思う。 通勤じゃなく、痛勤。あるいは“通緊”と言ってもいいかもしれない。
・先週「触らない痴漢」という、一瞬耳を疑うキーワードがネットで話題になった。 きっかけは3月23日に放送されたテレビ番組での、元埼玉鉄道警察隊隊長の発言である。 数々の痴漢行為を検挙してきた元警察隊の方は、痴漢が減らない理由や最新の痴漢の手口などを紹介。その中で「触らない痴漢」について解説したのだ。 「直接女性の体に触るとすぐに捕まるため、好みの女性に近づいて電車に乗り込み、電車の揺れを利用して接触し、匂いをかぐ『触らない痴漢』が問題になっている」(by 元警察隊長) そして、「匂いをかいだりなどの“触らない痴漢”も検挙する」と断言した。
・番組直後からTwitterで「#触らない痴漢」というスレッドがたち、番組内容がテキスト化されさらに拡散(こちら)。 週刊誌でも偶然(?)「触らない痴漢 決め手は女性側が不快と思うかどうか」という記事が掲載され、瞬く間にテレビやラジオの情報番組でトピックになったというわけ。 週刊誌では、都道府県警察が、痴漢に対して警戒や対策を強化した結果、痴漢の取り締まりの強化検挙件数が2006年の4181件から、3217件(2016年)減少したものの、強化策が皮肉にも「触らない痴漢」という“新たな犯罪”を生み出していると指摘。
・大阪府警も、公式ホームページで〈盗撮、のぞき見、いやらしい言葉や行動などで、恥ずかしい思いや不安を感じさせることも、ちかん行為の一種です〉と呼び掛けており(こちら)、「女性が訴えれば痴漢の容疑がかけられることになる」と警告している。
▽触らない痴漢にこわい思いをしてきた
・触らない痴漢は、昔からいた。 私は学生時代、変態行為を見せる“触らない痴漢”に何回か遭遇している。座席に座っているときに目の前に立った男が“触らない痴漢”行為に及んだこともあるし、通学ラッシュ時に、卑猥な言葉をずっと耳元でつぶやき続ける男もいた。 その恐怖は半端なく、「こわいものなし!」の私でさえ、恐怖感に襲われ、声を出すことも、身体を動かすこともできなかった。「嘘だろ? いつもバンバン好き勝手言ってるクセに」と疑われるかもしれないけど……。
・せいぜい近くにいる人に目配せして必死に訴えたくらいで、それでも気付いてもらえず、涙は出るわ、男は止めないわ、車両を変えても着いてくるわで、本当にこわい思いを何度もした。 ですからして、個人的には「触らない痴漢」の検挙も、考えて欲しいとの思いはある。
・だが、今回は「匂いを嗅ぐ」という行為も“痴漢”とされたため、当然のごとくネットでも、街頭インタビューでも否定的な意見の嵐となった。 「触らない痴漢のえん罪をどうやって防げばいいんだ?」 「手は上に上げときゃなんとかなるけど、鼻に詰め物しないと電車乗れない」 「もう電車で息できない」 「通勤ラッシュとかどうすりゃいい?」 「会社に無事につけるか、毎日ドキドキじゃないか」 「もう全席指定するしかないよ」……etc etc.
・「触らない痴漢」は「受け手が恥ずかしい思いや不安」を感じれば痴漢なので、深呼吸しただけで「いやらしい息を吹きかけられた!」と言われたらアウト! だし、鼻がむずむずして息を吸い込んだだけでも「いやらしく匂いを嗅いだ!」と言われたらアウト! でもって、「この人痴漢です!」と疑いをかけられ、駅長室に連れて行かれたら、自分の人生もアウト!……になる可能性が高い。 
・どんなに「やってません!」と反論しようとも、会社や家族に連絡がいき、警察に通報され、仕事も家族も人生も奪われかねない。圧倒的に被害者の立場が優先される。 今だって、手を上げるなどの“えん罪防止姿勢”で、通勤ラッシュに耐えている男性は少なくない。これに「匂いを嗅ぐ行為も痴漢」となれば、男性陣にとって実に由々しき事態である。
・そもそも首都圏の通勤ラッシュは、異常だ。国土交通省では「乗車率200%未満」としているが、こちらの図(国交省HPより)で見る限り、250%を超えていることは間違いない。 私は滅多にラッシュ時に乗ることはないが(すみません)、たまに乗ると自分の足の行方すらわからなくなり「私、ひょっとして宙に浮いてる?」って感じだし、前のお姉さんの髪の毛が鼻に入りそうになり、お酒臭い吐息や、キツい香水の匂いで気を失いそうになる。
・「会社勤めの方たちは、毎日、こ、こんな思いをして会社に行っているのか?……すみません」 などと、なぜかみなさまに申し訳なくなる。
▽ロンドンにもいる触らない痴漢
・とはいえ通勤ラッシュは世界共通で、ロンドンでも、パリでも、ニューヨークでも、香港でも、マニラでも、北京でも、結構な混雑ぶりだ。 ただ、ロンドンの知人によれば、 「電車内で他人と接触する事を避けているというか、風習がないので、東京の様に人と人とがサンドイッチ状態になる様な事はない」 とのこと。
・また、日本の研究者の中には日本独特の文化的考察を交え「痴漢論」を研究している人たちもいるが、ロンドンでは日本同様、痴漢が問題になっていて、こんな動画を公開している。 これはTfL(ロンドン交通局)によるもので、ご覧の通り「いやらしい視線で相手を見つめる行為、性的な発言」などの「触らない痴漢」も、れっきとした痴漢と定義。紳士の国「イギリス」にも痴漢はいるが、恐怖から通報できない女性が多いため、 「がまんしないで! 痴漢ホットラインに通報してね!」(by TfL)――と呼びかけているのである。
・「でもさ~、動画の男は確かにいやらしい目でみてたけど、普通にボ~っとしてるだけでも、女性にいやらしい視線で見られた!って勘違いされたら痴漢なのか?」 こんな不安を抱いた人もいるかもしれない。 その可能性はある。ボ~としてただけでも、コンタクト入れ忘れて中吊りを見るのに目を細めていただけでも、受け手が「いやらしい」と感じれば通報される。
・ただし、日本と大きく違うのが、 痴漢の疑いをかけられる(被害者の通報)=痴漢行為(加害者) ではないってこと。 TfLでは、特別に訓練された痴漢対策チームが存在し、徹底的に「痴漢か否か」の検証をするのだ。 被害者だけでなく、近くにいた乗客や目撃者から聞き取りをしたり、さらには、駅構内や電車内の監視カメラから徹底的に検証する。
・ここで威力を発揮するのが、「人口1人当たりの監視カメラの台数で世界トップ」とされる、膨大な数の監視カメラだ。 偶然にも5日のナショナルジオグラフィックNEWSで「いつも誰かに見られている、超監視社会ロンドン」という記事が掲載され、テロ対策で設置された監視カメラで、人々は「怪しい」と思われたら最後まで延々と追跡されるリアルが伝えられている。 本人は全く気付かない状況で、一挙手一投足が“他人”に見つめられてしまうのである。
▽長時間通勤のストレスは年収40%アップしないと割に合わない
・これはこれでこわい話ではあるが、それが痴漢のえん罪防止に役立っているというのだから考えさせられる。 いずれにせよ、たかが通勤。されど通勤。 言い古されているように、通勤は「痛勤」であり、最近はいくつか痛勤の影響に関する研究も蓄積されている。
・例えば、イギリスの西イングランド大学が5年以上にわたって、通勤がイギリスの会社員2万6000人以上に与えた影響を分析した調査(2014年に発表)では(Commuting and wellbeing)、
 +通勤時間が1分増えるごとに、仕事とプライベート両方の満足度が低下し、ストレスが増え、メンタルヘルス(心の健康)が悪化する
 +仕事の満足度については、1日の通勤時間が20分増えると、給料が19%減ったのと同程度のネガティブな影響が及ぶ
 +同じ通勤時間でも、徒歩もしくは自転車で通勤する人は、バスや電車通勤の人に比べ、プライベートに対する不満が少ない などの結論を得た。
・ドイツの経済学者のブルーノ・フライ博士が発表した論文では(“Stress That Doesn’t Pay: The Commuting Paradox” 2004)、 「長時間の通勤がもたらすストレスの高さは、年収が40%アップしないと割に合わない」 としている。
・また、スウェーデンで暮らす18万人の夫婦を対象に行なわれた調査では(“On the road: Social aspects of commuting long distances to work” 2011)、 「1人のパートナーが毎日就労するのに少なくとも45分通勤するときに、カップルが離婚する可能性が40%高い」ことが判明している。
・上記の調査はあくまでも、通勤時間との相関関係を調べているので、会社から遠くにしか住めないなどの経済的理由などが影響している可能性もある。 日本では最近になってやっと「通勤時の混雑具合とストレスの関係性」を客観的データに基づき調査する研究が出てきたが、対象者も少なく、「これだ!」というエビデンスは得られていない状況である。
・それでも誰が考えたって、「混雑」はストレスになる(=痛勤)。そこに「痴漢のえん罪不安(=通緊)」なるものが加われば、心身の健康にマイナスの影響を及ぼし、仕事満足感や人生満足感が低下する可能性はかなり高い。
▽通勤ラッシュこそ「働き方改革」で
・要するに、この通勤ラッシュこそ「働き方改革」で、積極的に取り組めばいいと思うのだ。 フレックスタイムやテレワークを駆使すれば、仕事の生産性にもプラスになる。  混雑時の8時~8時半を避け出社する。自宅勤務をもっと利用する。出先から直帰をオッケーにする。 それを徹底するだけで、“痛緊地獄”から解放される。
・ところが、「平成29年就労条件総合調査(厚労省)」によれば、
 +変形労働時間制を採用している企業は 57.5%で、前年 60.5%より減少。
 +企業規模別では、1,000 人以上が 74.3%(前年70.7%)、300~999 人が 67.9%(同 67.2%)、100~299 人が63.3%(同 64.0%)、30~99 人が 54.3%(同 58.5%)。
 +変形労働時間制の種類別(複数回答)にみると、「1年単位の変形労働時間制」33.8%(同 34.7%)、「1か月単位の変形労働時間制」20.9%(同 23.9%)、「フレックスタイム制」5.4%(同 4.6%)。
・たったの5.4%!!! そう。たったの5.4%だ。 これだけ「そこにいなくても仕事できる通信インフラ」が充実しているのに、実施できないワケが私には全く理解できない。 まさか、全員が一緒に「はい、スタート!」と仕事をスタートしないと効率が下がる? あるいは、全員が同じ時間に出社しないと、不平不満が蔓延する?  いったい何が妨げとなっているのだろうか?(是非、教えてくださいませ!) 
・これだけ「無駄を削減しろ! 効率化だ! 生産性をあげろ!」と言ってるのだから、会社に行く時間を快適にすればいい。 社長さんもたまには黒塗りの車を降りて、痛緊ラッシュをご体験いただければ……よろしいかと。国会の審議など待たずして、明日からでも始められる「働き方改革」を是非!
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/040900154/?P=1

第一の記事での美濃加茂市長事件については、最高裁の決定前の1月26日のブログで取上げた。 『刑事裁判での真相解明の最大のポイントは、控訴審裁判所が、職権で、贈賄供述者の証人尋問を直接行って信用性を確かめようとした場面だったが、「裁判所も予測しなかった事態」によって尋問の目的が達成できず、一審での贈賄証言を書面だけで判断するしかなくなった。その判断が、信じ難いことに、一審判決の判断を覆し、贈賄証言の信用性を肯定するというものだったのである』、というのは、信じられないような不公正な裁判だ。 『真実を、民事裁判の場で明らかにするため、嘘の贈賄証言をした人物と、刑事裁判で真実が明らかになることを妨害した弁護士の二人に対する損害賠償請求訴訟を提訴しました』、せめてこの民事裁判が公正に行われることを期待したい。
第二の記事で、『「触らない痴漢」』、まで取り締まり対象になるというのでは、現在の通勤者には同情するほかない。TfL(ロンドン交通局)には、『特別に訓練された痴漢対策チームが存在し、徹底的に「痴漢か否か」の検証をするのだ。 被害者だけでなく、近くにいた乗客や目撃者から聞き取りをしたり、さらには、駅構内や電車内の監視カメラから徹底的に検証する。 ここで威力を発揮するのが、「人口1人当たりの監視カメラの台数で世界トップ」とされる、膨大な数の監視カメラだ』、というのは冤罪防止のためのいい仕組みだ。ただ、「近くにいた乗客や目撃者から聞き取りをしたり」、というのは、その場で現行犯として捕まえる場合に限られるだろう。車内にまで監視カメラを設置することに、抵抗感を抱く人もいるだろうが、冤罪防止のためと割り切るべきだろう。なお、日本にもかつては、国鉄に鉄道公安官がいたが、民営化で廃止され、通常の警察官になったようだ。 『通勤ラッシュこそ「働き方改革」で』、との提案には大賛成だ。
タグ:(その7)(美濃加茂市長事件の真相解明に向け 民事訴訟提訴、「触らない痴漢」の恐怖とロンドンの監視社会 働き方改革なら まずここから) 司法の歪み 通勤ラッシュこそ「働き方改革」で 威力を発揮するのが、「人口1人当たりの監視カメラの台数で世界トップ」とされる、膨大な数の監視カメラだ TfLでは、特別に訓練された痴漢対策チームが存在し、徹底的に「痴漢か否か」の検証をするのだ。 被害者だけでなく、近くにいた乗客や目撃者から聞き取りをしたり、さらには、駅構内や電車内の監視カメラから徹底的に検証する ロンドンにもいる触らない痴漢 「匂いをかいだりなどの“触らない痴漢”も検挙する」と断言 触らない痴漢 「「触らない痴漢」の恐怖とロンドンの監視社会 働き方改革なら、まずここから」 日経ビジネスオンライン 河合 薫 贈賄供述者は、一審証人尋問の前に、検察官と1か月以上にわたって朝から晩まで打合せを行っていたことを証言 証人尋問の妨害を、贈賄供述者の弁護人だった弁護士が行ったことは絶対に許せません 証人尋問の前に私の事件の一審判決書が受刑中の贈賄供述者に差し入れられたことで、控訴審の証人尋問が台無しにされてしまったことです 虚偽の贈賄供述を行った人物と、控訴審での証人尋問を妨害する行為を行った弁護士に対して損害賠償を求める民事訴訟を提起 藤井浩人氏 「美濃加茂市長事件の真相解明に向け、民事訴訟提訴」 ブログ 郷原信郎
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教育(その14)(虐待・貧困・発達障害…全てを抱えた子が「みんなの学校」で得たもの、結局「小学校でアルマーニ」のどこに問題があったのか、驚きの“ブラック校則” マフラー禁止 下着の色まで指定、職員会で吊るし上げ 羞恥刑…教職のブラック化が学校を荒ませる) [社会]

教育については、1月28日に取上げた。今日は、(その14)(虐待・貧困・発達障害…全てを抱えた子が「みんなの学校」で得たもの、結局「小学校でアルマーニ」のどこに問題があったのか、驚きの“ブラック校則” マフラー禁止 下着の色まで指定、職員会で吊るし上げ 羞恥刑…教職のブラック化が学校を荒ませる)である。

先ずは、大空小学校初代校長の木村 泰子氏が2月10日付け現代ビジネスに寄稿した「虐待・貧困・発達障害…全てを抱えた子が「みんなの学校」で得たもの 「アルマーニ」とは真逆の公立学校で」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「みんなの学校」と呼ばれている公立小学校がある。大阪府住吉区に2006年開校された大空小学校だ。「すべての子どもが安心して学んでいる奇跡の学校」として注目を集めた。2013年にはドキュメンタリー番組として放送され、文化庁芸術祭大賞をはじめとした多くの賞を受賞。そして、2015年に劇場版『みんなの学校』として全国の映画館で公開となった。
・この映画では、いわゆる「特別支援学級」や「特別支援校」に通っていた子どもたちが、普通にほかの子どもたちと同じ教室で学び、ともに成長していく様子がとらえられており、今でも日本全国で上映会が行われている。映画をベースにした書籍『「みんなの学校」が教えてくれたこと』も刊行されている。
・ちなみに大空小学校は、全国学力調査の平均点が、日本で必ず成績上位3位に入る秋田県を上回ったこともある。それだけ幸せに学べる学校を卒業したら、その子たちはどうなるのだろうか? 開校から9年間校長をつとめた木村泰子さんが、レイ(仮名)という男の子の「その後」を語ってくれた。
▽校則のない学校
・大空小学校は、2006年の開校から、校則はつくっていません。 例えば、学校によくある決まりごとに「学習に必要な物以外のものは持ってきてはいけません」というものがあります。 実はそういうことは、子どもたちは言われなくてもわかっています。
・それなのに、この決まりごとがあると、例えばカードゲームを学校に持ってきた子に対して、なんでこんなもの持ってきたの? 授業が面白くないの? 学校楽しくないの? 友達と何かあったの? といった「その子の心を探る問いかけ」は出てきません。 決まりがあるがゆえに「学校で決まってるやろ。持ってきたらあかんやろ!」と、その「決まりを破ったという現象」のみを教師は言及しがちです。そうなると、見なくてはいけないのものが、見えなくなる。 ですから、大空では「校則」をつくらなかったのです。
・その代わりとして、「たった一つの約束」をつくりました。それは「自分がされていやなことは、人にしない、言わない」です。大空では、子どもも大人も、この約束を徹底して守ります。どんな大事な授業をしていても、この約束が守れなかったときは、やり直しの部屋(校長室)に「やり直し」に来ます。 「この約束があるのなら、自分もこの学校なら行けるかもしれない」と思って入学・転校してきた子もいるのです。
▽「しんどい」をすべて抱えた男の子
・私は開校から9年間、大空小学校の校長をしてきました。 その9年間でこの子くらいしんどい子はいないなといえるのが、レイです。虐待、貧困、障害、「こういうことがあったら子どもは大変だな」と思われるようなことを、ひとりで全部受けていた子です。 彼が開校2年目で入学してきたとき、「あの子がいるなら大空はやめとこう」と保護者が大空に入れるのを躊躇している――そんなこと噂が立てられるような存在でした。
・レイには両親がいましたが、彼ら自身、苦労して育った人たちでした。1週間姿を見ないこともありました。食べ物がきちんと用意されているわけではありません。洗濯をしてくれているわけでもありません。家庭訪問に行った教職員によると、家の中は決して衛生的に保たれていませんでした。
・夏になると、彼の体からはえも言われぬにおいが漂います。登校したレイが靴箱の前で上履きに履き替える時も、臭くてみながその場から逃げ出すほどでした。 しかし「それぞれの事情があるので我慢しましょう」といったきれいごとで、子どもたちの関係は決して成り立ちません。
・私は子どもに言いました。 「臭いのは事実。なぜ臭いのかを知ろうや。だいたい、なんで臭いの我慢するの? 臭かったら、臭いってレイに直接言いや。言うのを我慢してレイのそばから離れるのは、おかしいやろ?」 レイとその周りの子どもたち、教職員は、何度もこのことについて考え、話し合いました。
・4年生のときに子どもたちと話し合っていたとき、ひとりの子がレイに向かって言いました。 「おまえな、水でいいから、学校来てから頭洗えや」 翌日から、登校するとシャンプーと石けんを抱えて手洗い場に行き、頭を洗い、足の裏を洗い、顔も洗って教室に行くようになりました。暖かい季節だけでしたが、それ以来、子どもたちの訴えはなくなりました。そうやってレイは大空に、自分の居場所を見つけたのでした。
・どんな家庭に育った子でも、パブリックでは平等に学べるようにしなければなりません。何一つ肩身の狭い思いをしないで学び、社会で役に立つことができるように導く。それが学校の役割でもあり、レイはそんな可能性を持っている子でした。また、そういう子と一緒に学ぶことで、確実に周囲の子も大変多くのことを学んでいくのです。
▽『みんなの学校』は地域で作られている
・大空には、子どもと教職員、サポーターと呼んでいる保護者とともに、学校をつくっていく大人がほかにもいます。学校の外からやってきて、学校を力強く支えてくれる地域の人です。地域の人は毎日のように学校へきて、さまざまな形で子どもたちとふれあいます。また、「大空パトレンジャー」といって、子どもたちの登校する様子を見守ってくれます。
・学校の中を支えているのは、管理作業員です。彼らは子どもたちを毎朝校門で出迎えているためか、子どもたちが何気なく発した言葉で家庭状況などの異変を敏感に感じ取ります。また、遅刻なのか、欠席なのか、朝連絡の取れない子の家に自転車を飛ばして様子を見に行くこともあります。
・レイは、この管理作業員とパトレンジャーの人々に温かく育んでもらいました。朝学校に行けないでいると、管理作業員が自転車で様子を見に行きます。集団登校に間に合わず遅刻してしまえば、自宅近くでパトレンジャーの方が待っていて学校まで付き添ってくれます。
・私たちは、レイの在学中から、大空を卒業した後のことが気になっていました。6年間一緒にすごした大空の仲間がいるとはいえ、レイの事情を中学の先生方にもわかっていただく必要があります。地域の中学校と密に連絡をとり、中学進学の準備もしていました。
・ところが、家庭の事情で本当に突然引っ越すこととなり、彼は地域外の中学に行くことになったのです。レイは、地域の愛に支えられて小学校に6年間通っていたので、まったく知らない中学だと行かなくなってしまうのではと不安に思っていました。 それでも「当たり」だったのです。中学進学後、レイはこう報告してくれました。 「担任の先生、めっちゃいい人やねん。若くてサッカーの顧問してるんやけど、『お前のことは俺が何があっても守ったる、安心して来い』って言ってくれたん」 よかった、少なくとも1年レイは学校に行ける、と思った6月のある日のことでした。 レイが学校に行かなくなったのです。
▽「見えないところを見る」教育
・行かなくなった理由は、生活指導の教師に体罰を受けたことでした。中学には校則があります。体育館に全員集められて集団行動を学びます。そこに生活指導の先生が入ってきて、レイに「お前は校則違反の靴下を履いている」と言いました。校則は白なので、レイが白くない靴下を履いていると注意したのです。 それでもレイは「白です」と答えました。先生は「なんでこれが白やねん、嘘つくな!」と怒ったそうです。しかし白なのです。白だけど、親が洗濯をしない。洗濯機がないのです。大空でも、ひとつかふたつしかない靴下を、「明日は洗いや」と言われながら水で洗い、生乾きで履いてきていました。だからグレーだったりまだら模様だったりするのです。
・でも元は「白」です。地毛なのに「なんで染めてくるんや!」というのと同じです。生活指導の先生は「嘘つくな!」と怒り、体操服の首根っこを引きずり出そうとしました。レイは靴を脱いだらすごい臭いもするであろうこともわかっている。思春期ですし、みなの前で靴を脱ぎたくない。先生は引きずり出そうとする。そうしているうちに首が締まり、息がつまって倒れてしまいました。 こうしてレイは中学に行けなくなりました。 その後、レイは別の中学に転校して、施設にもお世話になりながら中学3年生まで学びました。私はその間一度も会っていませんでした。
▽中学に行けなくなった本当の理由
・レイが中学3年生になったとき、私は大空を退職しました。レイが私に会いたがっていると聞き、久しぶりにレイに会いに行きました。 ものすごく大きくなっていました。「あんた大きくなったなあ!」と言いましたら、彼はこう答えました。 「そら、1日3回ご飯食べれてる」
・そのあとレイは私に足の裏を見せました。「あれ、臭ないな」と言いましたら、 「毎晩お風呂入っとる」 と答えました。 お風呂に入れているから臭くない。入れないから臭い。それが分かっていれば、子どもは排除しません。先にお伝えしたように、「学校で足洗え」と子どもたちも言えるのです。むしろ、「臭いから洗いや」と平気で言える環境であることが大切なのです。
・しかしレイが足の裏を見せた理由は、臭いをかいでもらうためではありませんでした。「ちゃう、かかと見て」というので見てみると、足のかかとにひどいケロイドができていたのです。中学で体罰を受けたときのものでした。かかとにケロイドができるほどの力で、引きずられていたのです。
・レイは生活指導の先生に首を絞められたいきさつも改めて話してくれました。そしてこう言いました。「おれは次の日から学校に行ったらアカンと思って、学校には行かないことにした、そうやって出した答えが正しかったのか間違っているのか、ずっと考えているけどわからん。先生どう思う? 先生の考えを聞きたかった」
・行かなくなった理由を聞かないと私の考えも言えません。 レイは生活指導の先生にひっぱられた時に担任の先生がいたことも教えてくれました。担任の先生はレイの味方で、靴下が本当は白いことも知っています。だから先生が「校則違反ではありません」と言って守ってくれるのかと思ったのだそうです。しかしそのまま気を失ってしまい、起きたら保健の先生しかいなかったと。その翌日から「学校に行ったらあかん」と思ったのだというのです。
・「レイ、あんたそんなヘタレか? 担任の先生に守ってもらえなかったくらいで!」 思わず私はそう言いました。ところが戻ってきた返事は、とても意外なものでした。 「ちゃうねん。担任な、生活指導の先生から俺を守りたかったに違いない。ただな、担任、若いねん。生活指導の先生、年いったえら~い先生やねん。若い先生が年いった先生に『やめたって』って言えなかったんや。でも次の日俺が行ったら、担任は守りたかった俺を守れなかったって、苦しいやろ? だから俺は行ったらあかん、と思って行かんかった」
▽「信じられる人はいますか?」
・レイから学んだのはかけがえのないことです。 親がいつも側にいなくても、勉強ができなくても、貧しくても、発達障害というレッテルを貼られても、一人の子が安心して学べる居場所がある、ただこれだけで、この子は安心して自分が育つという事実を作ったのです。ですから中学で体罰を受けても、「担任の先生が苦しくなるから行くのを止めよう」と考えられるのです。
・大阪には、基礎的な学習を学び直すことのできる高校があります。レイはその公立高校に合格しました。今では、自転車で高校に通い、毎日高校から大空に戻って来て、大空小学校でボランティアをしています。 もちろん私はいません。今の大空は校長が変わり、教頭が変わり、職員の3分の2が変わっています。それでも理念はひとつですから、たとえぶれることがあっても戻るのです。レイはその職員室にひとりのボランティアとして加わっているのです。
・虐待を受けるような問題にさらされたことのある子どもたちにとっては「酷」ともいえる、あるアンケートがあります。大人に裏切られたことのある子どもたちに、「あなたはこれまで生きてきた中で信じられる人がいましたか」と問うのです。そのアンケートではほとんどの子が「いない」と書くそうです。
・しかし、レイは「います」と答えていました。 「それは誰ですか?」とアンケートはさらに問います。レイは何と書いたでしょうか。「大空の先生」?「校長先生」? いえ、違います。 レイは、「大空の人たち」と書いたのです。「人たち」というのは、レイの周りにいつもいた、「大空をつくっている大人たち」なのです。先生はたった一握りです。
・レイは、ぶれそうになった私の心を何度も揺り戻してくれます。 教育の原点は、ここを外して未来はないということの、確信をもたせてくれるのです。 今、レイには夢が二つあるそうです。一つは困った子どもを支える施設で働く人になりたいというもの、もう一つは大空の地域で暮らしたいというものです。
・大空小学校は、「当たり前の教育」をしています。そんな「当たり前の教育」の中で、すべての子どもたちが地域の学校に居場所を作り、自分から自分らしく「未来の自分」を誇らしく感じられるような学びができることを、私は心から願っています。
▽▽映画『みんなの学校』
・「不登校も特別支援学級もない、同じ教室で一緒に学ぶふつうの公立小学校のみんなが笑顔になる挑戦」。テレビドキュメンタリーを作成したチームが、2012年からの一年を追い続け、作成した映画。通常ならば撮影カメラが入ると子どもたちはそこに近づいてくることが多いが、大空で撮影カメラを回しても、生徒たちはまったく動じることはなく、勉強に集中して普段の生活をしていたという。上映会を個別に依頼することも可能だ。(詳しくは映画公式HPをご覧ください)
▽▽木村 泰子著『「みんなの学校」が教えてくれたこと』
・映画『みんなの学校』のドキュメンタリー内容をベースに、木村さんがどうやって「当たり前の教育」をするようになったのかも綴られている。教育実習生のときの一人の先生との出会いをきっかけとして自身が子どもたちと触れ合いながら探り、身につけていった、大空小学校の前から実践してきた教育の姿勢は必読。「学び」とはこういうことなのかという本質を教えてくれる一冊だ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54397

次に、能力開発コンサルティングのモチベーションファクター株式会社代表取締役の山口 博氏が2月20日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「結局「小学校でアルマーニ」のどこに問題があったのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・銀座の泰明小学校が、こともあろうに高級ブランド「アルマーニ」を標準服にするという。銀座の街のブランドと泰明ブランドを一体化する目的のようだが、私には「アルマーニ」がブランディングに役立つとは全く思えない。
▽「イヤなら他校へ行け」ということか 公立小学校らしからぬ決定
・銀座1丁目から8丁目を通学区とする東京都中央区立泰明小学校が、4月新入学児童から高級ブランド「アルマーニ」製の標準服を採用することが物議をかもしている。 サイズや組み合わせにもよるが、価格は一式8万円にのぼり、現行の倍額になるという。子ども服なので、1回購入して終わりではない。成長に合わせて買い替える必要が出てくるので、家計の負担は甚大だろう。
・「標準服」という分かりにくい名称が付いているが、現在は全児童が着用しているようなので、実質的な強制力のある制服と考えていい。今春入学する児童を持つ学区内の保護者が、予期せぬ高額な出費を強いられることに直面して、戸惑う気持ちが痛いほどわかる。
・決定の経緯も奇妙だ。同校の和田利次校長が独断で決定し、保護者への当初の説明会では価格の案内はなかったと報道されている。保護者からすれば青天の霹靂のような決定だっただろうが、和田校長は「見直すつもりはない」と言っている。和田校長にそうした意図はないのかもしれないが、「従えないなら、他校へ行ってください」と言い放っているようなものだ。
・これが私学で起きたことで、「嫌なら他の学校へご入学ください」「ご不満であれば公立学校へご入学ください」と言われたとすれば、そうするしかない。学区内の公立小学校へ入学する選択肢は保護者側にある。しかし、泰明小学校は、れっきとした公立小学校だ。公立小学校としてあるまじきトンデモな事態だと言わざるを得ない。
▽高級ブランドを着用したからといって言動が変わるわけではない
・「アルマーニ」を採用した理由として、和田校長名の保護者宛ての文書から私が読み取れることは、次のとおりだ。 +帰属意識や誇り、美しさを保つ +言動や公共の場でのマナーの自覚を高める +「ビジュアルアイデンティティー」を「スクールアイデンティティー」に昇華していく +銀座の街のブランドと泰明ブランドを合わせ、銀座にある学校らしくなる
・中身を変えるには、まず外側からということだろうか。しかし、20年来、現在では年間100社、3000人のビジネスパーソンや学生を相手に能力開発プログラムを実施している私には、「アルマーニ」を採用したからといって、これらの目的が果たされるとは到底思えない。
・「アルマーニ」の標準服は、ある層には美しさを訴求するかもしれないが、それで帰属意識が高まるのか。保護者に多額の出費を強いて買わせた標準服が、自己の誇りにつながるのか。ノーブランドだろうが、なけなしの出費に支えられた着古した洋服だろうが、自己の誇りは、そのような外面に左右されない、内面にこそあるのではないか。
・ビジネスパーソンであれば、高級スーツを着た上司や客先が、見るに堪えない言動やマナーを見せる現場に直面したことが何度もあるだろう。私自身もその1人で、だからこそ行動変革プログラムを実施してきた。人間の変革にはやはり、中身を変えることが必須なのだ。
・「アルマーニ」だろうが「エルメス」だろうが、どんな高価なブランドものを持ったところで、言動やマナーの自覚が高まるとは思えない。言動やマナーを変えていくためには、行動をパーツ化し、それぞれを反復演習していくことに尽きるということが、私が経験的に導き出した鉄則だ。 制服が結束を高める効果は確かにあるが、銀座の街のブランドと泰明ブランドの融合になぜ「アルマーニ」の標準服が不可欠なのか、私には理解できない。
▽「アルマーニ」の標準服で泥にまみれて掃除できるか?
・「アルマーニ」の標準服を児童に着させて泰明ブランドを築くということは、保護者に多額のコストを負担させて学校がブランディングをしているようなものだ。多額の広告宣伝費をかけてブランディングをしている企業は確かに多々あるが、最近ではそうした広告よりも、一般消費者の口コミの方がよほど信用できると考える人が増えた。
・経済誌の記事の中に巧妙に紛れ込んで小さく表示されている「広告」「PR」「企画」と書かれた企業の広告記事は、たいてい読み飛ばされる。カネをかけて広告宣伝をしたからといって、成果が出るとは限らないのだ。何も多額の投資をしなくても、保護者に多額の負担をさせなくても、ブランディングできることは山ほどある。
・そもそも小学校なのだから、本業である学業レベルの高さや、学芸やスポーツのコンクール参加などでブランディングするということもできる。同じ中央区にオフィスを持つ私から見れば、泰明小学校周辺を掃除したり、ボランティア活動をしたりすることも立派なブランディングだ。機会は身近なところにたくさん転がっていると思えてならない。
・「アルマーニ」の標準服を着た児童とすれ違っても、私はそこにブランディングを感じないだろう。保護者に負担を強いているだろうことを思い複雑な心境になりこそすれ、街と一体化しているとは思えない。むしろ、着衣はさまざまだろうが、児童らしく学業や学芸に励んだり、汗水を流して学校周辺の掃除をしている姿に、街と一体化した思いが湧き上がるに違いない。
・どうしても銀座の街との一体化を目指した標準服を、銀座に店舗を構えているブランドから選びたいというのであれば、「ユニクロ」がぴったりではないだろうか。「アルマーニ」を着たことがないひがみでもなく、休日はユニクロで過ごしているから言うわけではないが、「アルマーニ」の標準服で、泥にまみれて本気で掃除している児童の姿がどうしても思い浮かばないのだ。
http://diamond.jp/articles/-/160511

第三に、3月8日付けTBSNEWS「驚きの“ブラック校則”、マフラー禁止 下着の色まで指定」を紹介しよう。
・どんなに寒くてもマフラーの使用を禁止するなど、理不尽ともいえる、いわゆる「ブラック校則」がいろいろあるそうです。校則に関するアンケート調査で次々と明らかになりました。 「体育の時だけなんですけど、 リップが赤すぎるとダメ」(女性) 「眉毛そりです」  Q.一切、眉毛をさわってはいけない?  「そうです、そうです。私、眉毛めっちゃ濃かったんですけど、ちょっと切っただけでばれて」(女性) 
・生徒に対し理不尽なルールを押しつける、いわゆる「ブラック校則」。これまでも、SNSなどで疑問の声が上がっていましたが、数多くの事例があることが、8日、明らかになりました。 「眉毛をそってはいけない。寒さに備えるマフラーとかタイツとか、独自の対策をしてはいけないという項目が、むしろ近年になって増えているということが分かった。恋愛禁止はどの時代においても 一定数あるという状況。スカートの長さに関しては中学も高校も同様に厳しいという状況も分かる」(評論家 荻上チキさん) 
・会見したのは、評論家の荻上チキさんらが去年立ち上げた「“ブラック校則”をなくそう!プロジェクト」。全国の中高生の保護者など4000人を調査した結果、下着の色の指定や、コートやマフラーの使用禁止、恋愛禁止といった校則も確認されたということです。
・このプロジェクトのきっかけとなったのは、髪の色に関する校則を巡る裁判でした。 「黒く染め続けるか、学校を辞めるか選べ」 大阪の府立高校3年の女子生徒は、地毛が茶色なのに、学校側から黒く染めるよう繰り返し指導され、「精神的苦痛を受けた」として大阪府を相手取り、訴えを起こしました。これに対し大阪府は「女子生徒の地毛は黒だと複数の教師が髪の根元を見て確認している」などと反論しています。
・髪の色については、いわゆる“地毛証明書”の提出を求めている学校もあります。 「本生徒の頭髪の色に関しては、生まれつきのものであり、染髪したものではない」。これは、ある高校で使われていた“地毛申請書”。保護者が学校側に届け出をし、生徒指導の担当が承認する形になっています。  大阪の府立高校では、およそ2割が、こうした“地毛証明書”などの提出を求めていることが明らかになっています。
・「茶髪だからといって、勉強に支障が出ることはないと思うのに、わざわざ自分の個性とか生まれつきの髪を、ねじ曲げて変えないといけないのはおかしい」(女性) 「先生に文句を言われるから、 聞かれるのとか面倒くさいから地毛証明書はありかな」(男性) 
・こうした髪の色に関する校則について、8日に会見したプロジェクトは・・・  「生まれつきの髪の毛の色が茶色の人に絞ると、中学時代で1割、高校時代で2割の人が黒染めの指導を経験しています」(評論家 荻上チキさん) 
・プロジェクトは、こうした校則が増える背景について、「教員の多忙化によって、一括管理が進んでいることが考えられる」などと指摘しています。現在、“ブラック校則”の改善を求める署名を集めていて、今後、林文部科学大臣に提出する方針です。
(リンク先は現在は残ってない)

第四に、4月12日付けダイヤモンド・オンライン「職員会で吊るし上げ、羞恥刑…教職のブラック化が学校を荒ませる」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・学校教育のブラックぶりがクローズアップされている。しかし、これを「質の悪い教員が増えている」と考えるのは、少し短絡的だ。カウンセリングサービス所属の心理カウンセラー・近藤あきとし氏に、教育現場に蔓延するブラックの真相を聞いた。(清談社 岡田光雄)
▽経済の長期低迷により日本全体がブラック化
・東京都中央区立泰明小学校がアルマーニの高級服を標準服に導入した問題や、大阪府立高校が、茶色い地毛の女子生徒に対して黒染めを強要した問題など、「ブラック校則」が話題となっている。 近年はいたるところで、このように頭に“ブラック”が付く言葉を聞くようになった。「ブラック」+「企業、社員、バイト、校則、教師、部活」など枚挙にいとまがない。
・これらのブラックシリーズには、“理不尽の強要”という共通性がある。 「今や日本そのものが“ブラック化”しており、人々は何らかの理不尽を強いられて不安を抱いているようです。ほとんどの人は心に余裕がなく、自分が攻撃されないために責任を押し付けたり、犯人探しに注力している状況にも見えます。ブラック企業でよくある“吊るし上げ会議”や、芸能人の不倫叩き、度重なるCM炎上なども、その一連の現象かもしれませんね」(近藤氏、以下同)
・近藤氏は、「これらの連鎖が始まった主な発端は、日本経済の低迷にあるのではないか」と考えている。1991年のバブル崩壊以降、日本はデフレ不況に陥り企業業績が悪化。派遣切りなども相次ぎ、人々の心に余裕がなくなっていった。経済不安はやがて、人々の生活や教育の場にも浸食していったのだ。
▽多層ブラック構造の教育現場 うつ病にかかる教師が急増
・特に最近、ブラックが問題になるのが教育現場だ。昔から厳しい校則は存在したが、ここ最近になって生徒や保護者、メディアの追求も激しさを増してきた印象だ。 「学校は、保護者やマスコミからの抗議に敏感で、新しいものを取り入れることに臆病になっている傾向にあります。多くの学校は、変化することをリスクと考えており、何十年も前の価値観のまま、茶髪や恋愛禁止などの校則が残っている状況です」
・変化を恐れるがあまりに古臭い校則にしがみつき、逆に「ブラックだ」と抗議されるという悪循環に陥っているのだ。それほどに、今の時代の学校や教師は、常に保護者をはじめ世間から監視カメラを向けられ、怯えているとも言える。少しでも異端な行動をとれば、先のアルマーニ標準服問題のように大炎上する危険性を孕んでいる。
・しかし、世間や保護者の厳しい監視は、学校を良い方向には向かわせていない。学校内にそういった恐怖心が芽生えると、企業と同じように職員会議でも、吊るし上げ会議が開催されるからだ。 「やる気のある若手教師は学年主任に叱責され、学年主任は教頭に、教頭は校長に、校長は親や教育委員会に責められ…と、圧力が多層構造で連鎖しています。その結果、教師は追いつめられていき、心身を病んでしまってカウンセリングに来るケースも珍しくありません」
・文科省によれば、公立学校教員の精神疾患休職者は、1990年度は1017人だったが、2014年度は5045人と、5倍近くに膨れ上がっている。 そして教師だけではなく、やがてそのしわ寄せは生徒にも行ってしまうのだ。
▽無意識のうちに生贄を探すブラックマインドを養成
・「よく特定の生徒に対して、みんなが見ている前で叱責する“羞恥刑”を行う教師がいます。そんな教師も、普段から職員会議や保護者会で吊るし上げられていたり、そうされている同僚を見ている立場なのかもしれません。そうなると、心理的に攻撃する側に回らなければ、自分も同じ目に遭うのではないかと強迫観念に駆られ、無意識的に生徒をスケープゴートにしてしまっているという現実もあるのでしょう」 
・こういった心理状態の教師と接すれば当然、生徒にも悪影響が出てくる。 「教師が特定の生徒に羞恥刑を行った場合、それと同じことを生徒同士もしてしまい、イジメに繋がる危険性もあると思います。そうなると生徒は、いつ羞恥刑をされるかも分からない教師に対して、従順になり“忖度”ばかり覚えてしまう。その結果、上司の理不尽に対して “NO”と言えず、自分が助かるために弱者を貶めるような大人に成長してしまうことも考えられるのです」
・近藤氏によれば、同様のことは過干渉な家庭に育った子どもにも言えるという。 親が何でも先回りして正解を用意してしまう家庭で育った子どもは、すべてにおいて受け身になってしまう。また、頻繁に親からダメ出しをされて育つため、“いい子にしていないと誰からも愛されない”と自己肯定感がどんどん低くなっていくのだ。
▽保護者はクレームではなく教師の待遇改善を訴える
・この悪しき連鎖を断ち切るにはどうしたらいいのだろうか。 近藤氏は現実的な解決策として、まずは保護者が教師の苦しい立場を理解することが大切だという。もちろん言葉の暴力を含め、教師の横暴は許されるものではなく、処分されて然るべしだが、それを糾弾するだけでは根本的な解決にはならない。
・教師という職業自体が非常にブラック化しているという現実に目を向けずに、単に教師を責めるだけでは、さらに重圧がかかるだけ。この悪循環からは、良い教育現場は生まれるべくもない。
・「保護者は、教育委員会に対してクレームを入れるよりも、学校の人材不足の解消や教師の待遇改善を求める声を上げることで、事態を改善する方向へ進めてみてはどうでしょうか。教師が生徒を一律管理する今の教育方針を変え、生徒一人ひとりに注力するには、どうしても人員が必要です。それが解決されれば、教師はストレスから解放されて今以上にパフォーマンスを発揮でき、生徒も健やかに育っていくと、私は思います。そして、学校と保護者が、どうしたら手を取り合い協力することができるのか、を考えてみることが必要かもしれません。その道を模索していくことが、本当の意味で“子どもたちを守る場を創ること”に繋がるのではないでしょうか」
・メディアを通してよく目にする、“学校vs保護者”の対立構造だが、一番被害を被るのは板挟みに遭う生徒だ。そして子どもは着々とブラック社員の素養を身につけていく。このブラック化した社会を息苦しいと感じるなら、まずは未来を担う子どもたちを、理不尽極まりない環境から救い出さなくてはならない。そのためには、教職のブラック化を見直すことが、一番の近道なのだ。
http://diamond.jp/articles/-/166885

第一の記事で、 『大空小学校・・・いわゆる「特別支援学級」や「特別支援校」に通っていた子どもたちが、普通にほかの子どもたちと同じ教室で学び、ともに成長していく・・・全国学力調査の平均点が、日本で必ず成績上位3位に入る秋田県を上回ったこともある』、 『大空小学校は、2006年の開校から、校則はつくっていません・・・その代わりとして、「たった一つの約束」をつくりました。それは「自分がされていやなことは、人にしない、言わない」です。大空では、子どもも大人も、この約束を徹底して守ります。どんな大事な授業をしていても、この約束が守れなかったときは、やり直しの部屋(校長室)に「やり直し」に来ます』、などは信じられないほど素晴らしいことだ。 『「しんどい」をすべて抱えた男の子』レイがよくぞ不良になったりせず、立派に成長したものだと驚かされた。 『『みんなの学校』は地域で作られている』、こうした仕組みを作り上げた初代校長の木村 泰子氏の苦労については、書かれてないが、さぞや大変だったのではと思われる。映画、本になっているので、大空小学校のような取組みが広がって欲しいものだ。
第二の記事で、 『決定の経緯も奇妙だ。同校の和田利次校長が独断で決定し、保護者への当初の説明会では価格の案内はなかったと報道されている・・・和田校長は「見直すつもりはない」と言っている』、ことの是非は別として、雑音に耳を貸さず、自分の考えを押し通した和田校長の頑固さは、ある意味で大したものだ。ただ、その効果や是非については、筆者の山口氏が主張する通りだ。
第三の記事で、 『生徒に対し理不尽なルールを押しつける、いわゆる「ブラック校則」』、には、改めて驚かされた。 『“地毛証明書”』、を求めるなど笑い話でしかない。「ブラック校則」をいまだに掲げる学校の先生たちも、恥ずかしくないのかと、頭を傾げざるを得ない。
第四の記事で、 『経済の長期低迷により日本全体がブラック化』、というのは言われてみれば、確かにその通りだ。 『多層ブラック構造の教育現場 うつ病にかかる教師が急増』、 『無意識のうちに生贄を探すブラックマインドを養成』、などは本当に深刻だ。ただ、 『教師が生徒を一律管理する今の教育方針を変え、生徒一人ひとりに注力するには、どうしても人員が必要です。それが解決されれば、教師はストレスから解放されて今以上にパフォーマンスを発揮でき、生徒も健やかに育っていくと、私は思います』、というのは、教師にいささか甘過ぎるように思う。現在の教師の仕事をきちんと棚卸して、真に必要なもの以外は止めたり、効率化したりするという業務の抜本的見直しが、まず必要だ。民間企業では、いやでも不況期には必ず、こうした見直しが行われるが、こうした見直しが行われず、次々に新たな仕事が加わっているとすれば、効率化の余地は大きい筈だ。多分、「濡れた雑巾」状態なのではなかろうか?
タグ:「驚きの“ブラック校則”、マフラー禁止 下着の色まで指定」 大空小学校は、全国学力調査の平均点が、日本で必ず成績上位3位に入る秋田県を上回ったこともある ドキュメンタリー番組 大空小学校 「虐待・貧困・発達障害…全てを抱えた子が「みんなの学校」で得たもの 「アルマーニ」とは真逆の公立学校で」 現代ビジネス (その14)(虐待・貧困・発達障害…全てを抱えた子が「みんなの学校」で得たもの、結局「小学校でアルマーニ」のどこに問題があったのか、驚きの“ブラック校則” マフラー禁止 下着の色まで指定、職員会で吊るし上げ 羞恥刑…教職のブラック化が学校を荒ませる) 木村 泰子 教育 「職員会で吊るし上げ、羞恥刑…教職のブラック化が学校を荒ませる」 高級ブランドを着用したからといって言動が変わるわけではない 「アルマーニ」を標準服にするという TBSNEWS 泰明小学校 多層ブラック構造の教育現場 うつ病にかかる教師が急増 校則のない学校 「アルマーニ」の標準服で泥にまみれて掃除できるか? 近藤あきとし みんなの学校 大阪府住吉区 木村 泰子著『「みんなの学校」が教えてくれたこと』 経済の長期低迷により日本全体がブラック化 髪の色に関する校則を巡る裁判 生徒に対し理不尽なルールを押しつける、いわゆる「ブラック校則」。 決定の経緯も奇妙だ。同校の和田利次校長が独断で決定し、保護者への当初の説明会では価格の案内はなかったと報道されている 校則に関するアンケート調査 映画『みんなの学校』 無意識のうちに生贄を探すブラックマインドを養成 「しんどい」をすべて抱えた男の子 ダイヤモンド・オンライン その代わりとして、「たった一つの約束」をつくりました。それは「自分がされていやなことは、人にしない、言わない」です。大空では、子どもも大人も、この約束を徹底して守ります。どんな大事な授業をしていても、この約束が守れなかったときは、やり直しの部屋(校長室)に「やり直し」に来ます イヤなら他校へ行け」ということか 公立小学校らしからぬ決定 「結局「小学校でアルマーニ」のどこに問題があったのか」 山口 博 『みんなの学校』は地域で作られている 地毛証明書
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北朝鮮問題(その18)(南北首脳会談と 内向きなアメリカ、韓国と北朝鮮が国連制裁無視も厭わず経済協力を急ぐ理由、米朝首脳会談 「情報機関が調整役」の危うさ) [世界情勢]

北朝鮮問題については、3月23日に取上げた。今日は、(その18)(南北首脳会談と 内向きなアメリカ、韓国と北朝鮮が国連制裁無視も厭わず経済協力を急ぐ理由、米朝首脳会談 「情報機関が調整役」の危うさ)である。

先ずは、在米作家の冷泉彰彦氏が4月28日付けメールマガジンJMMに掲載した「[JMM999Sa]「南北首脳会談と、内向きなアメリカ」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・日本では大きく報じられていた2018年4月27日の板門店における南北首脳会談ですが、アメリカのメディアの扱いは限定的でした。例えば、その瞬間におけるCNNの扱いについて言えば、韓国タイムの午前9時半というのは、アメリカ東部時間では木曜日の午後8時半で、人気キャスター「アンダーソン・クーパー」がMCをするニュース番組の真っ最中でした。
・ですから、番組としてはぶち抜きで韓国からの中継なり、会談への事前予想や論評など特番的な扱いになると思っていたのです。ですが、この日のメインは「朝のFOXニュースへの電話出演」の際に、トランプ大統領がロシア疑惑や顧問弁護士の不適切な行動に関して「狼狽気味のトークが暴走」していたという話題でした。 例えば、大統領が「(疑惑の中心である)コーエン弁護士は、バカバカしいストーミー・ダニエルズ事件(大統領の不倫相手とされるポルノ女優)では確かに俺の代理人だ」と放言している部分や、普段は大統領支持の立場でのトークを行なっているFOXニュースのキャスター達が「大統領、あなたは何百万もやることがあるんですから、ここはこの辺で」と一方的にインタビューを打ち切ったシーンを、鬼の首でも取ったように何度も繰り返していたのです。
・どう考えても、南北会談の意義を多角的に検証する方が大切と思うのですが、あくまでも「トランプのトーク暴走」というのがこの日のメインテーマで、軍事境界線での握手というのは、その番組の中では「飛び込みのブレーキング・ニュース」として挿入されるに留まったのです。
・翌朝、例えば3大ネットワークの一つであるNBCの『トゥデイ』では、さすがにトップニュースの扱いでしたが、内容は通り一遍のものでした。というのも、すぐに2番目に「伝説のニュースキャスター、トム・ブロコウへのセクハラ摘発」というNBCとしてはビッグなニュースが控えていたからです。また、同じセクハラ問題である俳優のビル・コスビーが禁錮30年相当(正確な量刑は未定)の罪で有罪になったニュースも大きく取り上げられていました。
・新聞はどうかといえば、NYタイムスはトップ扱いで、「軍事境界線をまたぐ金正恩の後ろ姿」という意味深長な写真が大きく掲げられていましたが、記事の内容はいたって常識的なもので、「文大統領は米朝のネゴシエーター」であるとか「ポンペオ極秘訪朝での密約に焦点」というようなトーンで全体を整理したものでした。
・ちなみに、この会談記事の本文と同じ面には、北朝鮮を観光で訪問中に拘束され、脳にダメージを与えられて釈放後すぐに死亡した当時大学生のオットー・ワームビア氏の両親が、北朝鮮を相手に訴訟を提起したというニュースが添えられていました。 訴訟といっても、米連邦地裁への提訴ですから外交課題にするにしても相手が応じる可能性は少ないわけで、南北首脳会談を評価する記事との「バランス」を取るために掲載したのだと思います。わざわざ「両親の弁護人は、ペンス副大統領の代理人」だと説明して、「これはリベラル側の人権イシューではなく、保守サイドでの強硬派アプローチの文脈」だという断りを入れているような処理がされていました。
・一方で、同じNYの地方紙でもタブロイド判の『NYポスト』では、一面トップは「ビル・コスビー有罪」で、「有罪(ギルティ)」という文字が3つも大きくレイアウトされたセンセーショナルなもの。また、電子版のトップは、NBCテレビのセクハラ問題でした。 アメリカの報道でも「歴史的」という表現はされているのですが、それにしても、この扱いの小ささはどう考えたらいいのでしょうか? その背景にあるのは、一言で言えばアメリカにおける「内向き志向」ということだと思います。
・1つ、これは朝鮮半島情勢一般に関して言えることですが、「遠くて実感が湧かない」という問題があるわけです。アメリカには韓国系アメリカ人は多いですし、社会の中での存在感はあります。また自動車やスマホなど韓国製品が溢れていますし、K-POPはかなり流行しています。ですが、それでも韓国というのは遠い国であり、南北朝鮮の問題というのは更に遠いという実感があるのです。内向きな時代という中で、その距離感は余計に遠く感じられるとも言えます。
・2つ目は、朝鮮戦争の当事国という記憶が相当に薄れているということがあります。 勿論マッカーサーの無謀な北伐については、歴史の教科書に出てきますし、その際に起きた海兵隊の悲惨な撤退戦の物語は海兵隊のアイデンティティの中に埋め込まれているのも事実です。例えば、「朝鮮戦争帰還兵記念」と銘打った高速道や学校などは全米にあります。そうなのですが、65年という歴史はあまりに長く、従って「朝鮮半島の南北対立」に関して米国が当事者という意識はせいぜいが「歴史上の知識」になっています。
・3つ目に、トランプ大統領のアプローチが極めて孤立主義的であり、正に「アメリカ・ファースト」そのものだということがあります。つまり、相手がどうなろうと、そこには関与しない、とにかく米本土に届く核ミサイルだけは許さないという考え方です。そこから導き出されるのは、今回の南北会談は「メインイベント」である「米朝首脳会談への過程」に過ぎないという見方になるわけです。
・4つ目に、国内政治に絡む話ではないということがあります。例えば、シリアへの対応などを巡っては、それこそ民主党にしても、共和党の本流(穏健派にせよ、軍事タカ派にせよ)にしても、トランプ政権の対応に対しては、様々な観点から批判が飛び交うわけです。そこには、彼らが過去に取ってきたシリア並びに中東政策の流れもありますが、トランプが「アサド政権+プーチン」とフレンドリーだと言う姿勢を隠さず、またこのグループとの「癒着」が証明される可能性への期待感もある中で、トランプ政権との論争が国内的な政局における力くらべになるわけです。
・ですが、北朝鮮問題はそうではありません。クリントンも、ブッシュも、オバマも上手くいかなかった中で、トランプに対しては「お手並み拝見」と言う突き放した態度が、世論の中にも政界の中にもあるわけです。また、この問題でのポジションは国内政局の文脈とはなかなか重なりません。
・5つ目に、トランプに政治的に対立している民主党の陣営が、こちらもまた「内向き志向」に陥っていると言う問題があります。例えば、民主党の牙城とも言うべきニューヨーク市の政局ということでは、まず左派のデブラシオ市政はトランプ政権と厳しく対立してきただけでなく、2016年の大統領選ではサンダース派に近かったわけです。 その一方で、ニューヨーク州全体の行政責任のあるアンドリュー・クオモ知事は、同じ民主党でもヒラリー支持派であり、中道寄りでした。ですが、ここへ来て、今年、2018年11月に予定されている知事選にTVドラマシリーズ「セックス・アンド・シティ」のミランダ役で著名な女優のシンシア・ニクソン氏が立候補を表明。つまり民主党の左派として現職知事に反旗を翻した格好です。
・シンシア氏(往年のニクソン大統領と同姓なのを嫌って、もっぱらシンシアというファーストネームを売り込んでいるようです)は、今のところ世論調査で逆転するところまでは行っていないようですが、猛追しているばかりか政治資金も集めており、現職のクオモ氏は動揺するかのように、どんどん政策が左シフト中です。
・例えば、トランプの意を受けて不法移民「狩り」を続けているICE(税関移民局)に対して、人権の見地から訴訟を提起するとか、シンシア陣営の追及をかわすように、急にNY地下鉄のインフラ整備に動いたり、かなり狼狽しているようです。クオモ氏は、大統領選への出馬も取り沙汰されていましたが、そっちへ転身を図るタイミングはそろそろ逸しており、ここで現職の意地を見せないと政治生命が怪しいという状況となりました。
・一方で、私の住むニュージャージーでは、トランプの盟友だった共和党のクリスティ知事が退任した後釜には、民主党のフィル・マーフィー知事が州政を奪還しており、早速、男女賃金の公平を実現する法制や、より厳しい銃規制などリベラルな政策を実行に移しています。
・いずれにしても、民主党としてはトランプの排外政策、保守政策について特に国内の問題に関して、対抗するので精一杯であり、また、そのように対抗することに極めて情熱を傾けていることもあって、軍事外交面での全体パッケージを提案するような状況にはないのです。 そんなわけで、要するに朝鮮半島情勢に関する「ビジョン」を描けるような状況にはありません。そこには、極端なまでの世論の関心の薄さがあり、その背景にあるのは、アメリカは右も左も極めて「内向き志向」、ということがあるように思われます。
・では、今後の展開ですが、このアメリカの「内向き志向」ということを前提に考える必要があると思います。具体的には2点考えられます。 まず1番目として、トランプ政権としては「何とかして非核化を実現し、自分たちの功績としたい」と考えていると思います。その「非核化」ということですが、それは即時核廃棄とか、即時NPT(核不拡散条約)復帰でIAEA(国際原子力機関)の査察受け入れということでは「ない」と考えられます。「内向き」のアメリカとしては、「自分のところにミサイルが飛んでこなければいい」のですから、何もそんなに本質的な解決を焦ることはないのです。
・具体的には、巷間囁かれているように、1年から2年をかけて核放棄の方法を模索しつつ、その間は核実験やICBM飛翔実験は「やらない」という程度の「甘い」結論になる可能性が濃厚だと思います。それでも「内向きのアメリカ」からは評価され、トランプ政権の功績になるからです。
・そこには時間軸の問題があります。アメリカの政治日程からすれば、中間選挙が2018年11月で、大統領選が2020年11月です。非核化への「猶予」が1年から2年という形で切られる場合、今秋の中間選挙の時点では、その猶予の期限は「ずっと先」ですから、大統領としては交渉にさえ合意できれば、胸を張って「合意に導いた自分の功績」を訴えることができるというわけです。
・2つ目に、北朝鮮が開かれた社会になって行くとか、断続的に報じられて来た人権侵害が改善するといった方向性は「ほとんど出てこない」可能性が強いと思われます。 内向きのアメリカとしては、こうした問題への関心は薄くなっているのです。前述のワームビア氏の事件などは、本来であればアメリカのリベラルが反応すべき問題ですが、それが弱いというのは、共和党政権下のポリティクスの影響とは言え、なんとも頼りない話です。
・今回の南北共同宣言の中で、注目すべきは2000年代までの「雪解け」では試みられていた、経済交流、とりわけ人的交流を伴う経済特区などの話題がゼロだったことです。そうではなくて、板門店の扱いとか、定期的な会談といった「管理できる範囲のセレモニー的」な内容が主であったというのは、北側に体制変更への警戒心があり、南にはその警戒心へのやや過剰な理解があり、という力関係で出て来たと思われますが、それを後押ししたのは、アメリカの内向き志向ということになります。
・いずれにしても、今回の南北会談はセレモニー的には成功でしたが、合意内容を見てみれば、「米朝会談へのつなぎ」としては、最小限のものに留まりました。そこには、中長期的な朝鮮半島のビジョンもなければ、北朝鮮における人道危機への問題意識も外されているわけです。そうした流れの背景にあるのは、勿論、体制維持にこだわる北朝鮮、それをアッサリと認めてしまう韓国の左派政権があるわけですが、それに「内向きなアメリカ世論」と「アメリカ第一」のトランプ政権が組み合わさって、現状のような流れを構成していると見ることができます。
・一番怖いのは、この「当面は現状維持」という均衡策が「大きなビジョンによって描かれた」ものではなく、期間限定の刹那的な政治力学の危うい均衡によって成立しているという点だと思います。

次に、龍谷大学社会学部教授の李 相哲氏が5月2日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「韓国と北朝鮮が国連制裁無視も厭わず経済協力を急ぐ理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米朝首脳会談を前に行われた4月27日の南北首脳会談で浮き彫りになったのは、経済協力拡大を重視する南北の姿勢だ。「朝鮮半島の完全非核化」の目標が打ち出されたものの、具体策は示されなかった。文在寅大統領と金正恩・北朝鮮労働党委員長が優先したのは「11年前の約束」の履行だ。
▽南北「板門店宣言」の真意は経済協力の“約束”履行
・首脳会談後に発表された板門店宣言は、「関係改善と自主統一の取り組み」「軍事的緊張の緩和」「恒久的な平和体制構築のための協力」と、大きく3つの柱に分け、計13項目で合意をうたっている。世界が注目したのは、核問題に関する表現だった。金委員長が本気で北朝鮮の核を放棄する意志はあるのかを確認したかったからだ。
・だが宣言文では、「非核化」に関する内容は、13項目の最後の項目で「目標」として掲げられただけ。「関係改善」の内容で具体策が列挙されたのとは好対照だった。 もともと会談自体が南北の首脳による話し合いであり、「非核化」の交渉は米朝会談がメインだから、当然のことかもしれないが、それでも宣言文を丹念に読むと、「韓半島の非核化」はさておいて、とにかく「わが民族同士」でできることを優先するという姿勢がはっきり出たものだった。
・なかでも、「関係改善」では驚くべき内容も含まれている。「『10・4宣言』で合意された事業を積極的に推進していき、一時的に東海線と京義線鉄道と道路を連結して現代化して活用するための実践的対策をとっていくことにした」という部分だ。 「10・4宣言」とは、2007年10月、退任を数ヵ月後に控えた盧武鉉大統領が平壌を訪問、金正日総書記と会った11年前の前回の南北首脳会談で発表された合意文書だ。
・「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」と呼ばれる合意文書の趣旨は、「民族経済の均衡ある発展と共同繁栄のために経済協力事業を拡大、発展させる」と、さまざまな分野での協力事業が列挙されたが、ほとんどが実行されずにきた。 当時、文大統領は、廬大統領の秘書官として平壌訪問に同行していた。金正恩委員長が27日の首脳会談の冒頭のあいさつで、「いくら良い約束や宣言があってもそれを守らなければ意味がない」と言ったのは、文大統領に過去の約束履行を促したものとも受け止められる。
・つまり今回の首脳会談は、北朝鮮側は金正日氏ではなく息子の金正恩氏が、韓国は盧武鉉氏ではなく、廬氏の意思を受け継いだ文在寅氏が臨んだが、双方にとっては「11年前の約束」を確認、履行を誓うことが第一だったようだ。
▽反故にされた「10・4宣言」 保守政権が「圧力重視」に転換
・その「約束」というのは、韓国が北朝鮮経済を底上げするため莫大な投資をすることだ。 10・4宣言では(1)韓国は北朝鮮の基盤施設拡充と資源開発に投資をおこなう代わりに、北朝鮮は「民族内部協力事業」という特殊性を考慮して、韓国企業に特恵と優先権を付与すること、(2)北朝鮮海州地域と周辺海域の西海に「平和協力特別地帯」を設置し、共同漁業区域、平和水域を設定、港湾施設の使用、ソウルにつながる漢江の下流地域の共同利用、(3)開城工業団地第2段階事業に着手、(4)開城から中朝国境地域に位置する新義州を結ぶ鉄道、高速道路の改補修事業などの事業を共同で推し進めることに合意。他にも農業、保険医療、環境保護など様々な分野で協力事業を拡大していくことがうたわれた。
・これら事業を進めていくには数十兆ウォンの資金を必要とする。だが実現しなかったのは、資金の問題ではなく政治的な理由からだった。 盧武鉉政権にとって代わった保守政権の李明博政権は、対北朝鮮政策として「非核・開放・3000構想」を打ち出した。北朝鮮が非核化に応じ、開放に踏み切れば北朝鮮の住民の所得を3000ドルに引き上げるという構想だ。 金大中・元大統領の「太陽政策」を引き継ぎ、対北融和政策を進めた盧政権と違い、対北政策の基調を「圧迫に重きを置いた説得プログラム」に舵を切った。
・これに対して、金正日委員長は対南への挑発で対応した。 李政権が発足して半年も経っていない2008年7月、北朝鮮はリゾート観光地、金剛山を観光に訪れた韓国国籍の女性を銃撃して死亡させた。女性は朝、海岸を散策している最中に被弾したが、北朝鮮は軍事境界地域を侵犯したと主張した。 この事件が解決されていなかった2009年4月にはミサイル発射実験をおこない、5月には2度目の核実験を実施。さらに2010年3月には、韓国海軍の哨戒艦、「天安艦」を撃沈し、乗組員の若い兵士四十数人が犠牲になった。
・一連の挑発に対し、李大統領は2010年5月、独自の対北朝鮮制裁措置を発表した。 北朝鮮籍船舶の韓国海域での運行を禁止したのをはじめ、南北交易の全面中断と対北朝鮮新規投資の禁止、対北朝鮮支援事業、人的交流も停止した(「5・24措置」)。
・この措置が実施されてから8年が経つが、これまで南北の間ではこれら事件をどう処理するかについては話し合いすらされてこなかった。だが、「板門店宣言」の内容を見る限り、この制裁措置は有名無実化したようだ。)
▽経済制裁が「尻抜け」になる恐れ 金正恩氏の本気度は米朝会談でわかる
・宣言が発表された後、韓国では早くも経済協力事業についての議論が始まっている。 宣言文に記された釜山と北朝鮮最北端の羅津先方港を経てロシアにつなぐ東海線と、韓国全羅南道木浦市から中朝国境の都市、新義州につらなる京義線鉄道建設にいくら必要かという試算がすでに出ている。京義線鉄道と高速道路だけでも日本円でおおよそ1兆円は必要になるという計算もある。そして、北朝鮮の度重なる挑発を受けて閉鎖された開城工業団地を再開する話も出ている。
・開城工業団地が閉鎖される前には、工業団地の韓国企業の工場で働く北朝鮮の労働者への賃金などで、韓国側から1億米ドルの現金が北朝鮮に渡っていた。 工業団地が再開されれば、再び巨額の現金が北朝鮮に渡ることになる。このことは、北朝鮮に対する国連による制裁決議を破ることになる
・それを避けるために韓国では、開城工業団地での共同事業は再開するが、北朝鮮が得る現金は韓国内の銀行口座に置いておき、北朝鮮はその預金をもとに必要な民生用品などを韓国で調達し、北に運ぶというやり方で、制裁をくぐり抜けることが検討されているという情報もある。
・もともと北朝鮮が従来の強硬路線から一転して平和攻勢をかけてきたのも、米国との非核化交渉で決裂した場合に予想される米国の軍事攻撃を回避するのと、経済制裁の打撃を少なくし、経済を立て直したいという思惑からだ。 ブルームバーグの報道によれば、北朝鮮の外貨は今年の秋で底をつく可能性もある。外貨の枯渇や制裁による影響が本格化しないうちに手だてを講じておく必要があった。
・そこで経済立て直しの突破口を開くために韓国に近づいたと思われる。こうした金委員長の戦略に文大統領が乗ったように見えるのだ。 文大統領が金委員長の狙いや思惑を知りつつも、それに応じていたとすれば、今回の南北首脳会談は、朝鮮半島の非核化で、東アジアの安定を実現することを期待した世界を欺くための会談として、歴史に残ってしまうだろう。逆に、文大統領が、その「真意」をつかめないまま金委員長に手を差し伸べたとすれば、危険だ。
・いずれにせよ、首脳会談の「真相」が明らかになるのは、そう遠くなさそうだ。米朝首脳会談で、北朝鮮の「非核化」の意思が本気なのか、そうでないのか、金委員長の微笑が作られたものなのか、真の姿なのかがわかるだろう。
http://diamond.jp/articles/-/169003

第三に、元朝日新聞論説委員で東洋大学教授の薬師寺 克行氏が5月3日付け東洋経済オンラインに寄稿した「米朝首脳会談、「情報機関が調整役」の危うさ 国務省とCIAの立場が逆転する異例の事態に」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米国のドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首脳会談実現に向けた関係国の動きが活発になっているが、登場するプレーヤーを見ると通常の外交とはまったく異なっていることに注意が必要だ。
・米朝首脳会談をめぐる中心的役割を米国はCIA(中央情報局)、北朝鮮は朝鮮労働党統一戦線部、韓国も国家情報院と、いずれも普段は敵対国の軍事情報などの収集や分析を任務とする情報機関が担っている。一般的に首脳会談は事前に国務省や外交部といった外交部門の幹部が繰り返し協議し、首脳会談で話し合うテーマを絞り込み、一致点を見出す作業を行う。ところが今回、外交部門の幹部はほとんど姿を見せておらず、「外交官抜きの外交交渉」が繰り広げられているのである。
・中心となるテーマが核兵器やミサイルの廃棄問題という機密性や専門性の高い軍事・安全保障問題であるため、まだ外交官の出る幕ではないのかもしれない。しかし、スパイ組織が外交をするとなると、どうしても危なっかしさがつきまとう。
・今年に入ってからの北朝鮮をめぐる動きを振り返ると、平昌五輪以降、韓国と北朝鮮の接近で中心となって動いたのは、韓国は国家情報院の徐薫(ソ・フン)院長、相手方の北朝鮮が朝鮮労働党副委員長で統一戦線部の金英哲(キム・ヨンチョル)部長だ。二人は板門店での南北首脳会談にも同席していた。
▽かかわるべき外交の専門組織がはずされた
・国家情報院はかつて朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代に国内の反政府勢力の弾圧なども担ったKCIA(韓国中央情報部)の流れをくむ組織だ。大統領直属の組織で、安全保障に関係する内外の情報収集や犯罪捜査とともに、北朝鮮問題も担当している韓国の情報機関である。
・院長の徐薫氏はこの組織に長く勤める北朝鮮問題の専門家で、2000年と2007年の南北首脳会談にもかかわった経験がある。昨年の大統領選では文在寅(ムン・ジェイン)候補の陣営に属して外交や安全保障政策を担当し、政権発足とともに院長に就任した。
・今回、徐氏は南北首脳会談実現に向けて韓国の特使団の一人として北朝鮮を訪問し、金正恩委員長と会ってトランプ大統領との会談に応じるという発言を引き出した。その後、米国と日本を訪問しトランプ大統領や安倍晋三首相に金正恩氏の発言を伝えたのも徐氏である。南北首脳会談終了後にも訪日して会談内容を安倍首相に伝えるなど活発に動いている。
・一方、北朝鮮で徐氏のカウンターパートとなっているのが金英哲・統一戦線部長だ。統一戦線部も北朝鮮の代表的な情報機関で、公然と宣伝活動を行うことでも知られている。また南北関係も担当している。そのトップの金英哲氏は軍の情報組織である偵察総局長というポストも経験している人物だ。
・もともと韓国と北朝鮮にとって南北関係は一般的な外交関係ではない。そのため韓国では統一部が、北朝鮮は祖国平和統一委員会という外交セクションとは別の組織が主に担当している。したがって一連の過程で南北共に外交部が表に出てくることはほとんどなかった。しかし、そこに米国や日本がかかわってくることになると話は別で、本来は情報機関ではなく外交部が動くのが筋であろう。しかし、今回、そうした気配はまったくない。
・そればかりか、米国も中心となって動いているのがやはり情報機関のCIA(中央情報局)のトップであるマイク・ポンペオ長官(4月26日、国務長官に就任)である。中央情報局は言うまでもなく世界でもっとも有名な情報機関であり、その活動は世界中で展開され、しばしば反米的政権の転覆にもかかわっている組織だ。  そのトップのポンペオ長官がトランプ大統領の信任を得て、米朝首脳会談に向けた調整を任されているのだ。ポンペオ氏は3月末に極秘に北朝鮮を訪問し、金正恩委員長と会談した。その後、北朝鮮側と接触をしているのはCIA幹部らが中心だという。相手はもちろん金英哲氏を中心とする統一戦線部であろう。
・活発に動くCIAとは対照的に国務省はティラーソン長官が3月14日に突然、解任されてしまった。ティラーソン氏が長官に就任して1年余りたつが、北朝鮮問題担当者をはじめ国務省幹部の多くが空席のままで、機能不全状態が続いていた。トランプ大統領はティラーソン氏や国務省に北朝鮮問題で何も期待していなかったのである。
・結局、米国、韓国、北朝鮮いずれの国も、水面下の接触や協議などは外交部門ではなく、情報機関が担っていることになる。これだけ大きな外交問題を当事国がいずれも外交の専門組織抜きで進めるというのは極めて珍しいことだ。
▽情報機関は政策を主張しないという不文律がある
・情報機関というのは一般的な政府機関とは性格を異にしており、敵対国を中心に安全保障や軍事情報など相手が秘匿する情報をスパイや盗聴などさまざまな手段を使って集めて分析し、大統領ら政策決定者に報告することが任務の組織だ。組織の実態も活動内容などもベールに包まれた部分が多い不透明感の強い組織で、政策決定過程の透明性などが重視される民主主義国家においては異端児のような組織だが、米国だけでなく主要国はいずれもこの種の組織を持っている。
・そして、情報機関の上げてくる情報と時の政権が決定する政策との間には明確な境界線が敷かれている。情報機関は客観的な情報を提供するが、それに基づき政策を主張してはならないことが不文律となっているのだ。もしも情報機関が政策内容に積極的に関与するなど政治的な目的や意図を持つと、情報の客観性が疑われることになり、為政者が判断を誤りかねないというのがその理由だ。
・韓国で徐薫・国家情報院長が南北首脳会談に向けて積極的姿勢を見せた時、韓国の主要新聞の一つである中央日報は「徐氏が南北首脳会談のための水面下での接触を始めるのであれば、国家情報院の北朝鮮情報がわい曲されうる点を懸念せざるをえない。北朝鮮の核の脅威が深刻になっている時に、情報組織のトップが北朝鮮との交渉に集中すれば、国家情報院は院長の好みに合った北朝鮮情報に偏った報告をしかねない」と批判している。これは極めて妥当な分析と言える。
・米国ではこれまでCIAなどの情報機関は国務省よりは格が下で、外交政策決定過程に関係する単なる一部門とみなされてきた。しかし、海外での活動を展開するCIAは、各国に派遣されている大使の支配下に入ることを嫌い独自の活動を進めてきた。その結果、国務省とCIAは仲が悪いことでも知られていた。
・それが今回は立場が完全に逆転してしまったのである。1990年代初めに北朝鮮が核開発を公言して以来、北朝鮮の核・ミサイル問題は国務省が中心となって対応してきた。そして、北朝鮮に核施設の廃棄などを受け入れさせるとともに、見返りとして米国などがエネルギー支援などしてきた。結果的に国務省は北朝鮮の瀬戸際政策に繰り返しだまされてしまうという失敗の連続となった。
・こうした経緯もあって、今回はトランプ大統領のお気に入りでもあるCIAのポンペオ氏が前面に出てきているのだろう。また、会談の中心テーマが北朝鮮の核兵器やミサイルの廃棄であることから、軍事技術的な専門的知識と詳細な情報が不可欠である。その点からも現段階ではさまざまな情報を集積しているCIAの方が北朝鮮にとっては手ごわい交渉相手となっている面もある。
▽外交には交渉技術や国際法の熟知が必要
・しかし、問題がないわけではない。外交交渉には全面的勝利はない。相手から妥協や譲歩を引き出すためには、こちら側も譲るものがなければならない。そうした駆け引きの末に合意にたどり着くためには交渉技術が不可欠である。また、北朝鮮の核開発は核拡散防止条約(NPT)違反であり、国連安保理、あるいは国際原子力機関(IAEA)の査察なども絡んでくる。交渉ではこうした国際法の世界を熟知している必要もある。さらに何らかの合意文書を作るということになると、国際法にのっとった文言作成をしなければならない。
・そもそも、相手が隠している情報を入手し、相手を徹底的に不利な立場に陥れることを目的とする情報組織と、利害が対立する国との緊張関係を緩和し戦争を回避するための合意を形成することが目的である外交組織は、その手法も目指す方向もかなり異なっている。
・二人の首脳がそろって情報組織に頼って首脳会談の準備を進めている現段階は、まだ外交の出る幕ではないのかもしれない。しかし、会談の結果、核兵器やミサイルの全面的な廃棄という大きな方向性が打ち出されるようなことにでもなれば、それから先は情報組織での対応には限界が出てくるだろう。
https://toyokeizai.net/articles/-/219278

第一の記事で、 『アメリカの報道でも「歴史的」という表現はされているのですが、それにしても、この扱いの小ささはどう考えたらいいのでしょうか? その背景にあるのは、一言で言えばアメリカにおける「内向き志向」ということだと思います。 トランプに政治的に対立している民主党の陣営が、こちらもまた「内向き志向」に陥っていると言う問題があります』、「内向き志向」が北朝鮮問題にまで強い影響を及ぼしているのは要注意だ。 『「非核化」ということですが、それは即時核廃棄とか、即時NPT(核不拡散条約)復帰でIAEA(国際原子力機関)の査察受け入れということでは「ない」と考えられます。「内向き」のアメリカとしては、「自分のところにミサイルが飛んでこなければいい」のですから、何もそんなに本質的な解決を焦ることはないのです・・・1年から2年をかけて核放棄の方法を模索しつつ、その間は核実験やICBM飛翔実験は「やらない」という程度の「甘い」結論になる可能性が濃厚だと思います。それでも「内向きのアメリカ」からは評価され、トランプ政権の功績になるからです』、というのでは、日本にとってはさほどの安心材料にはなりそうもなさそうだ。  『今回の南北会談はセレモニー的には成功でしたが、合意内容を見てみれば、「米朝会談へのつなぎ」としては、最小限のものに留まりました。そこには、中長期的な朝鮮半島のビジョンもなければ、北朝鮮における人道危機への問題意識も外されているわけです。そうした流れの背景にあるのは、勿論、体制維持にこだわる北朝鮮、それをアッサリと認めてしまう韓国の左派政権があるわけですが、それに「内向きなアメリカ世論」と「アメリカ第一」のトランプ政権が組み合わさって、現状のような流れを構成していると見ることができます』、との指摘もさすがに的確だ。
第二の記事で、 『今回の首脳会談は・・・双方にとっては「11年前の約束」(「10・4宣言」)を確認、履行を誓うことが第一だったようだ』、 『北朝鮮の外貨は今年の秋で底をつく可能性もある。外貨の枯渇や制裁による影響が本格化しないうちに手だてを講じておく必要があった北朝鮮の外貨は今年の秋で底をつく可能性もある。外貨の枯渇や制裁による影響が本格化しないうちに手だてを講じておく必要があった』、などの指摘はなるほどと納得した。それにしても、会談でそんな弱味をおきびにも出さない金正恩は、さすが役者だ。
第三の記事で、 『もともと韓国と北朝鮮にとって南北関係は一般的な外交関係ではない。そのため韓国では統一部が、北朝鮮は祖国平和統一委員会という外交セクションとは別の組織が主に担当している。したがって一連の過程で南北共に外交部が表に出てくることはほとんどなかった。しかし、そこに米国や日本がかかわってくることになると話は別で、本来は情報機関ではなく外交部が動くのが筋であろう。しかし、今回、そうした気配はまったくない』、 『情報機関は客観的な情報を提供するが、それに基づき政策を主張してはならないことが不文律となっているのだ。もしも情報機関が政策内容に積極的に関与するなど政治的な目的や意図を持つと、情報の客観性が疑われることになり、為政者が判断を誤りかねないというのがその理由だ』、 『そもそも、相手が隠している情報を入手し、相手を徹底的に不利な立場に陥れることを目的とする情報組織と、利害が対立する国との緊張関係を緩和し戦争を回避するための合意を形成することが目的である外交組織は、その手法も目指す方向もかなり異なっている。 二人の首脳がそろって情報組織に頼って首脳会談の準備を進めている現段階は、まだ外交の出る幕ではないのかもしれない。しかし、会談の結果、核兵器やミサイルの全面的な廃棄という大きな方向性が打ち出されるようなことにでもなれば、それから先は情報組織での対応には限界が出てくるだろう』、などの指摘は的確である。これから双方の情報機関の「お手並み拝見」である。
タグ:アメリカにおける「内向き志向」 「[JMM999Sa]「南北首脳会談と、内向きなアメリカ」from911/USAレポート」 冷泉彰彦 (その18)(南北首脳会談と 内向きなアメリカ、韓国と北朝鮮が国連制裁無視も厭わず経済協力を急ぐ理由、米朝首脳会談 「情報機関が調整役」の危うさ) 北朝鮮問題 10・4宣言 外交には交渉技術や国際法の熟知が必要 李 相哲 南北「板門店宣言」の真意は経済協力の“約束”履行 東洋経済オンライン 薬師寺 克行 「韓国と北朝鮮が国連制裁無視も厭わず経済協力を急ぐ理由」 情報機関は客観的な情報を提供するが、それに基づき政策を主張してはならないことが不文律となっているのだ。もしも情報機関が政策内容に積極的に関与するなど政治的な目的や意図を持つと、情報の客観性が疑われることになり、為政者が判断を誤りかねないというのがその理由だ ダイヤモンド・オンライン 米国、韓国、北朝鮮いずれの国も、水面下の接触や協議などは外交部門ではなく、情報機関が担っていることになる。これだけ大きな外交問題を当事国がいずれも外交の専門組織抜きで進めるというのは極めて珍しいことだ かかわるべき外交の専門組織がはずされた 「米朝首脳会談、「情報機関が調整役」の危うさ 国務省とCIAの立場が逆転する異例の事態に」
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日本型経営・組織の問題点(その4)(日本は「無能な経営者」から改革するべきだ、忖度やパワハラがなぜ頻発するのか 「ムラ」の構成員であることを今も求められる私たち、日本の企業を蝕んでいる病の正体が分かった 「ゾンビ企業」が増えるワケ) [経済政策]

昨日に続いて、日本型経営・組織の問題点(その4)(日本は「無能な経営者」から改革するべきだ、忖度やパワハラがなぜ頻発するのか 「ムラ」の構成員であることを今も求められる私たち、日本の企業を蝕んでいる病の正体が分かった 「ゾンビ企業」が増えるワケ)を取上げよう。

先ずは、元外資系証券会社のアナリストで小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏が3月22日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本は、「無能な経営者」から改革するべきだ アトキンソン氏「働き方改革よりも急務」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本でもようやく、「生産性」の大切さが認識され始めてきた。 「生産性向上」についてさまざまな議論が展開されているが、『新・観光立国論』(山本七平賞)で日本の観光政策に多大な影響を与えたデービッド・アトキンソン氏は、その多くが根本的に間違っているという。 34年間の集大成として「日本経済改革の本丸=生産性」に切り込んだ新刊『新・生産性立国論』を上梓したアトキンソン氏に、真の生産性革命に必要な改革を解説してもらう。
▽生産性向上に必要なのは「道具」ではなく「動機」
・この連載も、今回で4回目になります。 第1回では、デフレ脱却のためにも、人口増加に合わせて増えた企業数を人口減少に合わせて減らすこと、第2回では先進国にふさわしい水準まで日本の最低賃金を引き上げること、そして第3回では諸悪の根源となっている高品質・低価格という考え方を一掃することを提言してきました。
・つまり、過去3回では「何を変えるべきか」という点をテーマに、議論を進めてきました。今回は、これらやるべきことを「どう推し進めていくか」を考えていきたいと思います。 私は近著『新・生産性立国論』の中で、日本が明るい将来を迎えるには生産性を向上させることが不可欠であることを、強く訴えています。
・安倍政権は「働き方改革」の実現を目指しています。では、「働き方改革」で生産性は上がるのでしょうか。 働き方改革は「ルールを変えて働く時間を短くすることにより、イノベーションを起こしやすくし、結果として生産性が上がる」という考え方が発想の根底にあるように思います。これはある意味、「日本的な形式論」に映ります。形を変えたら、本質も変わるという考え方でしょうか。
・働き方改革は、その目的を実現するための「道具」の整備にほかなりません。つまり、政府は経営者にさまざまな道具を提供しようとしているのです。 もちろん、働き方改革という道具の整備も大切です。しかし私は、経営者がその道具を「生産性向上」という目的どおりに使うように、彼らをどう動機づけるかのほうが、よほど重要だと考えています。「道具」より「動機」のほうが重要なのです。
・要するに、生産性を上げるための道具を用意しますよ、と政府が言っても、それを使うべき経営者に生産性を上げるつもりがなければ、無駄に終わるということです。まず生産性を上げる動機を与えることが重要であり、それができてはじめてその道具が使われ、結果が出るのです。
・女性活躍の促進についても同様です。たしかに、旦那さんが家事に協力してくれなかったり、子どもの面倒を見てくれる保育所がなかったりと、女性が活躍しやすい環境が整わなければ、女性の活躍をすすめるのが難しいのは事実です。 しかし、それらの環境が整備されたとしても、企業が女性にも男性と同じ仕事を任せようとしなければ、女性の活躍を真に実現することはできません(もちろん、女性自身に男性と同じ仕事をする意欲がなくても同様です)。
・となると、これまでいくら言っても頑として動こうとしてこなかった日本の経営者をどう動かすかという方法論が重要なのですが、日本では経営者をどう動かすかという動機づけの議論が、すっぽりと抜け落ちてしまう傾向があるのです。 動機づけの議論が抜け落ちているのは、安倍政権の経済政策・アベノミクスも同様です。制度だけをつくり、それをどう機能させるかまで考えられていない政策が多いのです。アベノミクスの効果が実感できない、うまく機能しないと言われるのは、政策の善しあしの問題ではなく、その政策を生かす動機づけの欠如に問題があるのです。
▽日本の経営者は「奇跡的な無能」
・私は、日本がこの二十数年間、経済成長で他国に置いてきぼりをくらい、ついには生産性が先進国最低になるまで落ち込んでしまった責任のすべてが、奇跡的とも言えるほど無能な日本の経営者にあると考えています。 人口が横ばいに変わった1990年代から、GDPを成長させるために生産性の向上が不可欠だったのにもかかわらず、日本の無能な経営者たちは付加価値の向上には目もくれず、「高品質・低価格」という妄言の下で価格破壊に走りました。
・そして、価格を引き下げるために社員の所得を減らすという暴挙に手を染める一方、企業としての利益を着々と貯め込んだのです。利益は増えているのにGDPが増えていないということは、経営者は社員の給料を削って利益を増やしたということです。その一部は外資系投資家に渡っていることを考えると、文字どおりの「売国行為」と言えるでしょう。
・経営戦略としてこれ以上悪質なものはなく、その結果、日本経済をデフレという底なし沼に引きずり込んでしまったのです。
・1990年以前、高度経済成長期を含めて、戦後の日本の急激な経済成長を支えていたのは、他の先進国では例を見ないスピードで起こった人口の激増です。このことを忘れた(あるいは気づいてもいなかった)日本の経営者は、「日本型資本主義」なる言葉まで作って、それまでの成功が日本という国、および日本企業の特異性にあると言い張り、人口激増が大前提だった経営戦略を普遍的な文化だと勘違いしてしまいました。
・私は、あの時代であれば誰でも天才的な経営者になれたと思います。あれほど消費が増えていたので、いいものを少しでも安くという戦略さえ実行していれば、ほとんど誰でも大成功できたはずです。 その高度成長を可能にした人口激増は1990年代に終わりを迎え、人口は横ばいになりました。GDPを維持・成長させるためには、生産性の向上が不可欠なのは自明ですが、このことを見通すべきだったのは、他の誰でもなく経営者です。人口増加が可能にした日本型資本主義に固執し、基礎条件が変わったことを理解できず、改革に取り組まなかった日本の経営者たちの責任は甚大です。
・労働者にも責任があるのではという人がいますが、生産性の向上のための資源の配分を決め、実際にそれを投入するのは経営者です。そこに疑問の余地はありません。それができなかった結果が、生産性が先進国最低の今の日本です。すべては経営者の失敗のせいなのです。
・また、解雇規制や終身雇用が生産性向上を妨げた主因だと言う経営者もいます。たしかに影響がゼロとは言えませんが、ここまでの生産性の低迷を説明するには十分ではありません。日本の解雇規制は欧州とほぼ同等と評価されているのに、生産性は欧州先進国の8割程度しかないのです。これも、エビデンスに乏しい感情論だと思います。
・日本経済は、1964年あたりからおかしな方向に歪み始めたのです。経営戦略が抱える問題は人口激増に隠れて表面化しなかっただけで、人口激増が止まった途端に問題が露呈したのです。
▽データでもわかる経営者の無能さ
・反感を持たれる経営者の方も少なくないことでしょう。では、日本の経営者が何をなしてきたのか、客観的なデータでご紹介しましょう。 前々回(「低すぎる最低賃金」が日本の諸悪の根源だ)でも紹介したように、日本人の労働者の質は世界的に大変高く評価されており、ランキングは世界第4位です。このランキングは、発表されるたびに上昇しています。
・しかし、この優秀な人材を使うための「最低賃金」が、国際的に見ると極めて低いのです。普通は、優秀な人材を使うには高い給料を払わなければなりませんし、低い給料の人材は質が低いのが当たり前です。しかし日本の経営者は、人材ランキング第32位の韓国よりも低い最低賃金で世界第4位の労働者をこき使えるというおまけまで得ているのです。
・それだけではありません。日本では長くゼロ金利の状態が続いているので、極めて安いコストで資金調達ができます。さらに諸外国のようなインフレとは無縁です。そのうえ、株主からのプレッシャーも他国に比べるとないに等しい状態です。 もっと言うと、特に中小企業の経営者は税金を払わないことが賢いと勘違いして、税金を納めていない企業も多いのです。
・ここまで恵まれた状況で、世界第4位の優秀な人材を使って生み出しているのが、世界第28位(先進国最低)の生産性です。これだけの好条件に恵まれているにもかかわらず、十分な成果をまるで残せていないのが日本の経営者たちなのです。これでは、日本の経営者は奇跡的に無能だと言われても、しかたがないでしょう。
・これは、データでも裏付けられます。スイスにある世界最高のビジネススクールのひとつ、IMDが発表した「World Digital Competitiveness Ranking 2017」で日本の経営者がどう評価されているかをご紹介しましょう。 日本の経営者は63カ国中、機敏性が57位、分析能力や戦略を決めるときにデータを使う能力は59位と、ビリから数えたほうが早い下位に沈んでいます。他の先進国ではとうの昔に時代遅れになった、感覚と経験による経営にいまだにしがみついている実態が見透かされているのです。
・逆に考えると、インフレもなく、金利もほぼゼロ、国が優秀な人材を極めて安い価格で供給して、株主も何も言わないという、この超ぬるま湯環境が、無能で怠慢な経営者を生み出したともいえるでしょう。 世界で最も優遇された経営環境の中、何のプレッシャーも受けず、のほほんと社長の座を謳歌している。一方、今のぬるま湯を手放したくないので、自分たちに不利になる改革には何でも反対する無能な経営者が多数育成されたと考えるのが妥当でしょう。これでは生産性を上げるためのイノベーションなど、起きるはずがないのです。
▽「常識をすべて捨て去る覚悟」が必要だ
・今後数十年間にわたり、日本では生産年齢人口が急激に減少します。一方、 高齢者はそれほど減りません。 高齢者自身が負担する医療費の水準が今と同じだとすると、数が減らないので、GDPが減ればGDPに占める医療費の割合が高くなります。今後、高齢者一人にかかる医療費はさらに増えることが予想されますので、若い人の負担はより一層重くなるのです。
・単純計算では、今の生産年齢人口1人あたりの社会保障負担は、平均給与の36.8%に相当します。今の給料のまま2060年を迎えると仮定すると、これが64.1%まで高騰するのです。 しかし、生産年齢人口の負担には限界があるので、高齢者が減らない以上、日本ではGDPの規模を維持する必要があります。GDPを横ばいで維持するには、1人当たりの付加価値を高めるしかありません。簡単に言えば、1万円の商品をやめて、1万7000円で売れる商品を開発する必要があるのです。
・これは、単純にいまある商品を値上げすればいいというレベルではありません。イノベーションが不可欠となります。 そのためにはマーケティングを徹底してデザインを良くしたり、企業組織を抜本的に再編したりといった、これまで取り組んだことのないイノベーションにチャレンジする必要があります。場合によっては、今まで常識だと思っていたことを、すべて捨て去る覚悟が必要になります。
・今までの25年間は、歴代政府がなるべく企業数を減らさないように、徹底的に中小企業を保護してきました。その真意は、厳しい状況にある企業に時間的余裕を与え、自力で苦境を脱してもらいたいという親心だったように思います。しかし残念ながら、日本ではその気持ちに応えることなく、「のほほん状態」に甘んじてしまった経営者が多かったのです。
・これからはそんな甘えはいっさい許されません。経営者には攻めるしか道は残されていないのです。 安倍晋三首相が経済界に3%の賃上げを要請し、経団連も前向きな姿勢を見せているのはいい兆しです。しかし、経団連に所属しているような大企業は、日本の企業の中のほんの一握りです。 企業の大部分をしめる中小企業の経営者の尻をたたき、攻めに向かわせる動機づけ、それが今、真剣に求められています。最低賃金が他の先進国並みに上がれば、いやが上にも生産性を高めなくてはいけなくなるので、いいきっかけになるはずです。
・生産性が低い中小企業はどんどん統合させて、規模の経済を追求することで生産性を上げさせるべきですし、それができないのであれば市場から退場させるべきです。もちろん、新しいビジネスモデルの発明にもどんどんトライさせるべきです。 大事なことなので、繰り返します。日本に求められているのは、働き方改革ではなく、経営者改革なのです。
https://toyokeizai.net/articles/-/213152

次に、精神科医、作曲家の泉谷 閑示氏が3月29日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「忖度やパワハラがなぜ頻発するのか 「ムラ」の構成員であることを今も求められる私たち」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・このところ、政治に関するニュースで「忖度(そんたく)」という言葉が飛び交っていますが、これはどうにも外国語には翻訳しようのない、わが国独自の言葉だろうと思います。 元々は、古い中国の言葉で「相手の心情を推し量る」といった程度の意味合いだったようですが、今日では「相手の意向を推し量り、それにおもねった行動をとる」というところまで、すっかり含意が拡大しています。
・ところで、この「忖度」という言葉は、以前は今日ほどポピュラーなものではありませんでした。しかし、それはこれに相当するような言動やその傾向が私たちになかったからではなく、むしろそういうことが、空気のようにあまりに当たり前のことだったので、あえてそれを問題視する必要すらなかったからだと思われます。
・しかし、この「忖度」に通ずる日本的な心性は、「空気を読む」「気遣い」「気配り」「おもてなし」といったおなじみの言葉の中にも脈々と流れているものであることは間違いありません。 その一方で、スポーツ界や大企業などにおいて長らく因習であったようなことが、実はパワーハラスメントに相当することだったのではないかと、最近、次々に顕在化してきています。
・忖度は相手の意向におもねる方向性のものであるのに対し、ハラスメントはその真逆のものであり、相手の気持を無視して何かを強要することです。さて、この一見正反対とも言えるような現象が、なぜ同時期に社会問題化してきたのでしょうか。
▽ハラスメントの意味がわかっていない
・パワーハラスメントの問題の成り行きを見ていますと、正直なところ、まだまだ因習側の保守性が払拭されず、爽やかな解決に至らないまま時間だけが過ぎて、問題が曖昧なまま風化していってしまうことが多いように見受けられます。 その一因としては、ハラスメントという言葉の真の意味合いが正しく理解されていないという問題があるように思われます。
・ハラスメントは通常、「嫌がらせ」と翻訳されますが、この日本語が誤解を生みやすい一つの原因になっているのではないかと考えられるのです。 つまり、この訳語では行為者側に「嫌がらせ」の意図や自覚があった場合にのみハラスメントが成立するかのような誤解が生じてしまいます。しかし、本来ハラスメントというものは、それを受けた人間が苦痛を感じたかどうかによって決定される性質のものであって、行為者側の意図とはそもそも関係がないものです。
・ですから、行為者側がいくら「そういうつもりはなかった」と釈明したとしても、それが決してハラスメントでなかったことの理由にはなりません。しかし、この基本精神がわかっていないと思しき釈明会見が、いまだに各方面で行われ続けているようです。
▽「他者」のいない「ムラ」
・私たち日本人は、そもそも「自他の区別」が苦手なところがあります。 たとえ同じ言葉を使って同じ地域に生まれ育ったとしても、それぞれが違う資質を持って生まれ、異なった感受性を持ち、同じ言葉にも微妙に違う意味合いを込めていて、それぞれ独自の価値観や世界を持っている。この人間の真実にきちんと目を向けたとき、他人というものは、決して自分と似たり寄ったりの存在なのではなく、未知なる存在であること、つまり「他者」であることがわかってきます。このような認識をもって「自分」と「他者」を捉えることを、「自他の区別」と言っているのです。
・しかし、わが国は似たり寄ったりの同質な仲間たちで構成される「ムラ」的集団で過ごしてきた時代があまりに長かったために、私たちには、価値観も感受性も違う「他者」がいるのだという想像力が育ちにくかった。そういう特殊な事情があるために、人を「他者」として見ることができずに、仲間なのかよそ者なのか、つまり「ウチ」の人間なのか「ソト」の人間なのかという分け方をして、もっぱら付き合うのは「ウチ」の者に限定するような傾向がある。そのため相手と自分の同じところばかりを探し、その微妙な違いはなかなか視野に入ってこないのです。
・ですから、自分の行為が「他者」である相手にどのように受け取られるか、その不確かさと予測不能性について、思いが至らない。そのために、「ムラ」においてはハラスメントの問題が生じやすくなっているのです。
▽「ムラ」の構成原理
・「ムラ」とは、構成員が同質であることと、タテ社会の秩序を基本にして成立しているものです。タテ社会の秩序とは、無条件に年長者や親、先輩、上司などを敬うべきであるといった上下関係を重視するものであり、そのバックボーンには儒教的精神が潜んでいるのではないかと思われます。
・本来人間というものは、一人一人が生来違った性質を持ち、平等に独立した尊厳を持っているもののはずです。しかし、このような人間観は、「ムラ」にとっては甚だ都合が悪い。一人一人が自由意志を持つ「個」であってもらっては、タテの秩序が崩されるおそれもあるし、「同質性」を拠り所にする結束も難しい。
・そこで、新入りや若年者に対して、教育指導的な建て前のもと、つまり「しごき」や「かわいがり」という名の理不尽な制裁を加え、精神的な去勢を施すのです。つまり、自分で感じ、考えるような独立的精神が育たないように、恐怖心を使ってタテの秩序を叩き込むわけです。このような通過儀礼によって、「ムラ」は人を「個人」ではなく、従順で勤勉な「構成員」に仕立てていくのです。
・このようなやり方は、人員の統制を取る必要性の高い軍隊などでよく行われてきたものですが、わが国では運動部系の部活などでも広く行われてきていることはよく知られた事実です。よって、その延長線上にあるスポーツ界や体育会系的メンタリティを重んじる会社組織などで、その傾向が色濃く残ってしまうのは、至極当然の結果なのです。
・しかし、そんな風潮の中にあっても「個人」の意識に目覚めた人は、この通過儀礼の正体がパワーハラスメントであることに気がつき始めます。これに対し、「ムラ」のメンタリティに疑いを持っていない人間は、そもそも正当な通過儀礼を施したに過ぎないと思い込んでいるので、それがハラスメントであることに気づかないのです。
▽「ムラ」の洗脳
・「ムラ」はこの不自然な秩序を維持していくために、各人に「構成員」であることを美化するような価値観を植え付けようとします。例えば、「郷に入っては郷に従え」「長いものには巻かれろ」「苦労は買ってでもしろ」「人は皆、わが師と思え」「石の上にも三年」といった格言の数々を用いて、忍耐や従順さを称揚する価値観を植え付けるわけです。
・また、「ムラ」の結束を固めるためには、常に共通の仮想敵が必要です。 本来、同じであるはずのない者たちを結束させるためには、共通の敵があれば手っ取り早い。これは、国家が内情不安定な時に仮想敵国の脅威をプロパガンダして、国内の結束を図る手口と同じものです。群れている人たちが、たいてい誰かの悪口の話題で忙しいのは、やはり同じ原理だと考えられます。いわゆる「いじめ」の問題も、この原理によるところが大きいのです。
・さらに、「ムラ」の理不尽さに耐えかねてそこを立ち去ろうとする者に対して、「お前、逃げるのか? ここで続かないような弱い奴は、どこに行っても続かないぞ」という脅しがよく用いられます。これは、ブラックバイトなどでも横行している、おなじみの手口です。
▽「社会」という名の「ムラ」
・このように「ムラ」という集団の特質を理解してくると、忖度ということがそこに必然的に生じてくる現象であることがわかると思います。「ムラ」はタテ社会なので、当然上の者への無条件的服従と配慮が求められる。言われる前に、自主的に上の意向に沿った行動をとることは、「気がきく奴だ」として高く評価されるからです。しかも「ムラ」では基本的に価値観がみな同質なので、下の者が上の者の意向を推量することが比較的容易であるという事情もあります。
・私たち日本人は、明治の文明開化のタイミングで、individualやsocietyという言葉に触れ、急ごしらえで「個人」や「社会」という翻訳語を造り出しました。 それぞれが異質な存在であるような人間のあり方を「個人」と言い、そういう「個人」が集まったものを「社会」と呼ぶのですが、それまでそのような言葉がなかったということは、それまでは「個人」もいなかったし「社会」と呼べるような集団もなかったことを示しているのです。そこにあったのは世間であり、世間の構成員だったのです。ここで言う世間とは、先ほど論じた「ムラ」のことにほかなりません。
・厳しい見方をすれば、「個人」や「社会」という言葉が誕生して150年ほど経過したにもかかわらず、私たちは未だに「個人」として在ることに困難を抱え、あらゆる集団の内実は依然として「ムラ」のままなのです。ですから、いくら学校教育等で「個人」としての在り方の大切さを説かれたとしても、現実的には「個人」としての言動は歓迎されないどころか、「空気の読めない奴」と陰口を叩かれ、「いじめ」に遭い、「ムラ八分」の憂き目をみることになってしまうことになってしまうのです。
・「個人」として独自の思想を形成し、それを主張できるような真の優秀さは、「ムラ」においてはむしろ、秩序を乱す有害なものとして扱われてしまいます。「ムラ」における優秀さとは、そのような優秀さとは対極にある、あの忖度の能力のことだったのです。
▽神経症性としての忖度
・「ムラ」の最小単位は、家族です。 親が、子どもを自分とは別個の尊厳と感覚を備えた「他者」とみなし尊重してくれた場合には、子どもは「個人」として成長することができます。しかし親が、わが子を自分の分身であるかのように見なしてしまった場合には、子どもにはうまく「自他の区別」の認識が育たずに、神経症性が生じてしまいます。
・自分の意見や感情を引っ込めて、相手の顔色をうかがうことを神経症性と呼ぶのですが、これはそもそも親との関係の中で形成されるのです。神経症性を植え付けられた子どもは、親にとっての「良い子」を演じるようになります。そしてその生は「誰かのため」のものになってしまって、「自分を生きる」ことができなくなってしまうのです。
・このように親の顔色をうかがうようになってしまった人は、次に教師の顔色をうかがうようになり、友人や先輩の顔色もうかがい、そして上司の顔色をうかがうようになるのです。 忖度のメンタリティは、このようにして形成されたものなのです。
▽「ムラ」をやめなければ、忖度もパワハラもなくならない
・つまり、一見正反対のように思えた忖度もパワーハラスメントも、その発生源がいずれも「ムラ」によるものであったことが、お分かりいただけたのではないかと思います。 先ほども述べたように、民主的な先進国の「社会」に暮らしているはずの私たちですが、実質的には、未だに大小さまざまな「ムラ」に取り囲まれ、その暗黙の空気によって「ムラ」の構成員であることを求められてしまうという、かなり窮屈な状況下に生きているのです。
・しかし、ここにきて忖度やパワハラの問題が次々と社会問題化してきているのは、一部の勇気ある人たちが、大変なリスクを承知の上で「個人」としての告発を始めたことによるものです。今私たちは、明治の文明開化で成し遂げられなかった「ムラ」的メンタリティからの脱却に、ようやく踏み出しているところなのかも知れません。
・世界的にも、セクハラを告発する#me too運動の機運が高まりを見せていますが、私たちもそろそろ、各人が「個人」として生きる決意を固め、因習に凝り固まった「ムラ」をやめ、本当に「社会」と呼べるようなものを作っていく必要があるのではないでしょうか。
・誰かの顔色をうかがっているような神経症的な在り方では、「心」のフタを開けることなど、とても恐ろしくてできるはずもありません。そのためにも、安心して「個人」でいられるような「社会」が、私たちには是非とも必要なのです。 (次回へ続く)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/022300058/032500003/?P=1

第三に、アレックス株式会社代表兼CEO グーグル日本法人元代表 辻野 晃一郎氏が4月22日付け現代ビジネスに寄稿した「日本の企業を蝕んでいる病の正体が分かった 「ゾンビ企業」が増えるワケ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・東芝、シャープ、三菱自動車や神戸製鋼、そして、森友学園の国有地取得をめぐる公文書改竄事件――相次ぐ大企業の不祥事・経営危機や、国家を揺るがす事態の裏側には、ある病巣があった。 ソニーのカンパニープレジデントや、グーグル日本法人元社長を経て独立起業した実業家・辻野晃一郎氏と佐高信氏の新刊『日本再興のカギを握る「ソニーのDNA」』では、組織に従順で挑戦しないものが出世し、「個」を大事にしない日本型大企業や現政権の問題について鋭く斬り込んでいく。
▽「戦争で儲ける国にしないために」
・佐高さんと知り合うきっかけになったのは、『週刊文春』の連載だ。2014年10月から2016年12月までの2年ほど、私は週刊文春にビジネス連載を持っていた。 安保法制はじめ、安倍政権が次々と強引に進める施策と、それにただ迎合するだけの経済界に強い失望と危機感を覚え、警鐘を鳴らす意味で、同誌の2015年10月1日号の連載に「戦争で儲ける国にしないために」というタイトルの寄稿を行った。
・その中で、佐高さんがテレビ番組で言及されていた中山素平など、平和主義を貫いた戦後の経済人の話を引用させていただいたのだが、それが縁となって佐高さんと知り合うことになり、以来、親しくさせていただいている。 佐高さんと私のバックグラウンドはまるで違うが、「反戦」「平和主義」ということにおいては完全に一致している。
・私は、1984年4月に新卒でソニーに入社した。以来、20年余にわたって、同社で働くことは自分の生き甲斐であり人生そのものであった。 しかし、2006年3月に同社を退社し、翌年4月から米グーグルに転じた後、2010年10月には自分で独立起業した。 すなわち、私自身は、ソニー、グーグル、自分が創業したベンチャーという3つのまったく異なるステージを通じて世の中に関わり、グローバルビジネスの世界に身を置いてきた立場だ。
・私が全力疾走で駆け抜けたかつてのソニーという会社は、今の時代でいえばグーグルやアップルを凌ぐほどの勢いを持つ、まさに日本の珠玉ともいうべき誇らしくて偉大な会社だった。 井深大と盛田昭夫という傑出した二人の創業者に率いられた個性豊かなエンジニアたちが、チャレンジを厭わず、困難から逃げず、数々の革新的な家電を生み出し続けて世界を席巻した。
・そして何より、井深大は、中山素平などと並んで平和主義を貫いた戦後経済人の代表格でもあった。佐高さんは、かつて井深にインタビューしたときに、「アメリカのエレクトロニクスは軍需によってスポイルされる」と井深が言い切ったことが忘れられない、という。
・そんなソニーを辞めた時、私は深い失意の中にあって、同社の将来に対する悲観的な見通しを禁じ得なかった。 創業者が二人とも亡くなり、ソニーがソニーでなくなっていく過程に翻弄されながら、なんとかソニーをソニーであらしめようと奮闘したが、結局自分の無力さを思い知らされただけだった。 当時の挫折感は今でもまだ時おり古傷のように痛む。 しかしながら、ソニーを辞めたことによってはっきりと見えた光景がある。
▽大企業と日本国が罹った「病」
・それは、当時ソニーが抱えていたある種の病は、なにもソニー固有のものではなく、日本の電機業界や製造業全体、あるいはあらゆる産業セクター、さらには日本国全体に蔓延している「日本病」とでもいうべき病であったということだ。 原子力災害であらわになった東京電力の実態、東芝の粉飾決算と巨額損失、シャープの経営危機と台湾資本による買収、三菱自動車や神戸製鋼の不祥事など、表に出る症状こそさまざまに違っていても、裏には共通の病巣がある。
・そしてついには、森友学園の国有地取得をめぐる公文書改竄事件を始めとした数々の政治スキャンダルによって、今や国家全体や日本の民主主義そのものが大きく揺らぐ事態に至ったが、これも基本的には同じ病巣に起因している。
・今回、佐高さんと対談することによってその病巣を立体的に捉え直してみたいと思った。 戦後、数多くの経済人や文化人、政治家の行状をつぶさに観察し続けてこられた佐高さんのお話を伺うと、時系列でさまざまなことが繋がっていくようで実に学ぶことが多い。 佐高さんと語り合う中で、私が多くの日本企業や日本国の病巣として感じてきたことがかなり鮮明に検証できたような気がする。
・その病巣とは、①個人が組織や主君に滅私奉公する関係性の中で萎縮し思考停止した自己犠牲的受け身型障害、そして②過去の成功体験から抜け出せないまま時代の変化に適応できなくなった重度の適応障害、とでも表現すべきものだ。 そしてこの①と②の病が、まるで合併症のように今の多くの日本企業、経済界、政界、日本国全体を蝕んでいるのだ。
・佐高さんから、日本会議とも関連のある「修養団」という明治期から存在する国家主義的な公益財団法人の存在と、そこが行っている「禊研修」の話を伺った。 日本企業が自社の新入社員に対して愛社心を養生することを目的に、寒い時期に伊勢神宮の五十鈴川に浸かって明治天皇が詠んだ歌を全員で唱和するような内容の研修だという。
・そのようなある種露骨な洗脳研修をありがたがる組織は、上層部に逆らわず、個人の主義主張や倫理観よりも、組織の都合や組織防衛を優先する従順な集団を常に求めているのだろう。 確かにそのようなまじめで従順な集団がこの国の成長と繁栄を支えてきた面があるのは事実だ。 しかし同時に、それが社長三代にわたって続いた東芝の粉飾決算や原子力ビジネスの巨額損失を生み出した体質そのものと深く関連している。佐高さんによると、実際、東芝は禊研修に参加する常連企業のひとつだという。
・さらには、森友・加計問題などで暴走する政権を守るためだけに虚偽答弁を行い、情報を隠蔽し改竄する官僚たちの所作にも繋がっている。痛ましくも森友の公文書改竄事件では、近畿財務局の現場職員が自ら命を絶っていることも報道された。
・東芝は、過去に華々しい成功体験を積み上げて繁栄した日本企業の代表格であり、官僚主導政治も、日本の目覚ましい経済成長を牽引した成功体験の大きな要因であった。
・安倍政権は、官邸主導の名のもとに、内閣人事局を発足させてその官僚たちを取り込んだ。 しかし、東芝や森友の事例は、過去の成功体験の延長線上には、もはや破綻か自滅しかないことを何よりも雄弁に物語っているのではないか。
▽「群衆の叡智」の時代に
・先日、日本にも投資先を多く持つ著名な米国人アクティビストと懇談する機会があった。 彼は、「日本企業で経営者になる人材というのは、社内政治を勝ち上がってきたというだけで、本来の経営能力があるわけではない。だから日本には『ゾンビ企業』が多い」と辛辣な言い方で彼なりに日本病を見抜いていた。
・米アマゾンが第二本社を作るということで、米国の多くの地方都市はその誘致合戦にしのぎを削っている。自治体の中には、同社にその地域の行政判断の権限を与える提案をする動きまで出ている。 また、グーグルの親会社アルファベットは、グーグルのカナダ本社移転に伴い、トロント市の行政と一緒になってIT化された未来都市構築の計画を推進している。
・すなわち、米国やカナダでは、力のある民間企業が行政から請われて政治にも大きな影響力を発揮する新たなステージに入っているのに対し、日本では、相変わらず民間が行政の権力者に擦り寄って利益誘導に躍起になっている旧態依然としたありさまなのだ。
・経団連をはじめとした日本の経済界も、次世代に向けて毅然としたイニシアチブを執るどころか、アベノミクスに浮かれて安倍政権べったりだった。それが、働き方改革の不調や森友問題で政局が風雲急を告げる状況になったとたんに現政権の批判を始めている。
・現代は、インターネットを始めとした技術革新によって、個人がエンパワーされ解放された時代だ。いわゆる、Wisdom of Crowds(群衆の叡智)の時代なのだ。 個人が組織や主君の犠牲になるのではなく、個人を最大限に尊重して活かすことが組織や主君の繁栄に繋がらなければならない。
・グーグルには、don’t be evil(邪悪になるな)という言葉があったが、実際、正義感の強い人が多かった。組織内で発生する不祥事を見逃さずに、芽が小さい段階から問題の真相を究明し再発防止につなげていく健全な自浄能力がはたらいていた。 まさにWisdom of Crowdsが機能する企業風土に、これからの組織のあるべき姿を見るような思いがしたものだ。
・最近も、ドローンの軍事利用に関する開発行為(Project Maven)を進めていることに対し、数千名のグーグル社員が反発の声をあげている。 ニューヨーク・タイムズの報道によると、社員らはサンダー・ピチャイCEOを非難する共同声明をまとめ、4月11日現在で既に3100名以上が署名したという。 抗議声明には「グーグルが戦争ビジネスに関わることはあってはならないことだ。我々はProject Mavenの中止を求め、グーグルやその関連企業が今後、戦争関連のテクノロジー開発を一切行わないことを宣言するよう要請する」とある。
▽日本再興に向けた勇気を喚起するもの
・政局の変化によって改憲の発議は微妙になってきたが、何より憲法とは国民が国家を律するためのものであることが前提なのを忘れてはならない。 時の権力者やその権力を利用しようとする一部の人々の意向で改憲が進むようなことは決してあってはならない。 そもそも、「主権在民」や「国民主権」を謳う現在の日本国憲法は、まさにWisdom of Crowdsの時代を先取りした優れた憲法であることを再認識しておきたい。
・日本病を食い止めるのは、良識ある個人一人ひとりの叡智や行動でしかない。 その時に我々に勇気を与えてくれるのが、世間の常識に捉われず、異端であることを厭わず、自由闊達を標榜し、個を尊重して世界から尊敬され繁栄したかつてのソニーだ。 
・日本病払拭と日本再興には、現代のグーグルにも通底する、かつてのソニーが育んだDNAが参考になるのではないか。その思いを佐高さんとの対談に込めてみた。 日本でも、いわゆるデジタルネイティブ、ネットネイティブなどと呼ばれる世代から、若く優秀な技術者や起業家、元気な新興企業がたくさん生まれている。
・また昨年、経済産業省の若手官僚達がまとめた『不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~』という提言が話題にもなった。 新しい時代を作るのは常に若者たちだ。日本の古い体質とは無縁な新たな世代から、次世代の日本を担う前向きなエネルギーが沸き上がることに期待したい。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55192

第一の記事で、 『生産性向上に必要なのは「道具」ではなく「動機」』、 『労働者にも責任があるのではという人がいますが、生産性の向上のための資源の配分を決め、実際にそれを投入するのは経営者です。そこに疑問の余地はありません。それができなかった結果が、生産性が先進国最低の今の日本です。すべては経営者の失敗のせいなのです』、 『「常識をすべて捨て去る覚悟」が必要だ』、などの指摘は、的確で説得力がある。
第二の記事で、 『本来ハラスメントというものは、それを受けた人間が苦痛を感じたかどうかによって決定される性質のものであって、行為者側の意図とはそもそも関係がないものです』、 『わが国は似たり寄ったりの同質な仲間たちで構成される「ムラ」的集団で過ごしてきた時代があまりに長かったために、私たちには、価値観も感受性も違う「他者」がいるのだという想像力が育ちにくかった・・・自分の行為が「他者」である相手にどのように受け取られるか、その不確かさと予測不能性について、思いが至らない。そのために、「ムラ」においてはハラスメントの問題が生じやすくなっているのです』、 『一見正反対のように思えた忖度もパワーハラスメントも、その発生源がいずれも「ムラ」によるものであったことが、お分かりいただけたのではないかと思います。 先ほども述べたように、民主的な先進国の「社会」に暮らしているはずの私たちですが、実質的には、未だに大小さまざまな「ムラ」に取り囲まれ、その暗黙の空気によって「ムラ」の構成員であることを求められてしまうという、かなり窮屈な状況下に生きているのです』、 『「個人」や「社会」という言葉が誕生して150年ほど経過したにもかかわらず、私たちは未だに「個人」として在ることに困難を抱え、あらゆる集団の内実は依然として「ムラ」のままなのです』、 『「ムラ」をやめなければ、忖度もパワハラもなくならない』、 などの指摘は新鮮で説得力がある。
第三の記事で、 『佐高さんと語り合う中で、私が多くの日本企業や日本国の病巣として感じてきたことがかなり鮮明に検証できたような気がする。 その病巣とは、①個人が組織や主君に滅私奉公する関係性の中で萎縮し思考停止した自己犠牲的受け身型障害、そして②過去の成功体験から抜け出せないまま時代の変化に適応できなくなった重度の適応障害、とでも表現すべきものだ。 そしてこの①と②の病が、まるで合併症のように今の多くの日本企業、経済界、政界、日本国全体を蝕んでいるのだ』、というのはその通りだ。 『日本会議とも関連のある「修養団」という明治期から存在する国家主義的な公益財団法人の存在と、そこが行っている「禊研修」・・・東芝は禊研修に参加する常連企業のひとつだという』、禊研修がいまだに行われ、東芝も参加していたとは初めて知った。 『日本病払拭と日本再興には、現代のグーグルにも通底する、かつてのソニーが育んだDNAが参考になるのではないか』、とあるが、かつてのソニーが育んだDNAがいくばくかでも生き残っていることを祈ろう。
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共通テーマ:日記・雑感

日本型経営・組織の問題点(その3)(宋文洲「私も日本でなんか出世は目指さない」、モノ作りの現場を蝕み産業を滅ぼす「日本病」の正体、“変わらないもの”を信じ続けるリスクとは? 権威の傲慢 エビデンス検証の怠慢を疑おう) [経済政策]

日本型経営・組織の問題点については、昨年5月4日に取上げた。今日は、(その3)(宋文洲「私も日本でなんか出世は目指さない」、モノ作りの現場を蝕み産業を滅ぼす「日本病」の正体、“変わらないもの”を信じ続けるリスクとは? 権威の傲慢 エビデンス検証の怠慢を疑おう)である。

先ずは、12月13日付け日経ビジネスオンラインに掲載されたソフトブレーンの創業者の宋文洲氏へのインタビュー「宋文洲「私も日本でなんか出世は目指さない」 斬り捨て御免! 「出世目指さなくていいの?」への異論・反論」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは宋氏の回答、+は回答内の段落)。
・宋文洲さんは、成人後に来日して創業した会社を外国人として初めて上場させた経営手腕を持つ一方、舌鋒鋭い発言でも知られる。「出世を目指す若者が減っている」といわれる傾向について宋さんは、「極めて合理的」と完全擁護する。その真意は?
▽「出世しなくていい」はビジネスパーソン失格?
Q:若者の出世意欲の低下を示す調査結果がいくつも出ています。
A:「出世しなくていい」という考えは、とても合理的だと思いますよ。私も、もし日本企業に勤めていたら出世なんて目指しませんね。 そもそも管理職は問題が起きたら原因が前任者の時代にあっても、責任を押しつけられる「リスク職」。ろくに休日も楽しめない。部下に嫌われてでもしなければいけないこともあります。役職が上がるほど、リスクも増えるのです。しかし残念ながら、日本の会社では、給料はそれほど増えません。
+例えば、中国の課長の給料は日本の課長より低いですが、部長になれば日本よりも高くなる。もっと上の役職の取締役や社長になると、平社員の5倍ほど高くなります。中国に限らず、世界でもそれが普通で、だから優秀な人材が管理職に就くのです。
+でも日本では、社長ですら給料は同世代の平社員の3~4倍も受け取れないかもしれません。管理職の責任の重さ(リスク)と給料(リターン)のバランスが合っていなくて、ハイリスク&ローリターン。こんな状況で、誰が高いリスクだけを抱える管理職をやりたがりますか。「出世しよう」と考えない日本のビジネスパーソンは、賢いんですよ。
▽管理職でないと味わえない醍醐味もあるのでは?
Q:リスクに“見合う”給料ではなくても、人やプロジェクトを動かしてやりがいを得たり、やりたかったことを実現したりする醍醐味があるのでは?
A:やりがいとか自己実現とかいった話は「趣味」であって、「仕事」ではないよ! 管理職の「仕事」は「結果を出すこと」に尽きる。一にも二にも、三にも四にも結果がすべて。「仕事の醍醐味」なんて言っている場合ではない。 趣味で人を動かしたら、うまくいかなくなった時に部下をいじめるようになる。趣味だから、リスクを負ってまで積極的にリーダーシップを取らないし、「人に嫌われてもいい」という覚悟の下での冷徹な判断もできない。
+かつてコンプライアンス(法令順守)が声高に求められない時代は、「接待費を自由に使える」「天下り先を作れる」といった給料以外の“うまみ”が出世にはつき物でした。だから、出世を目指す人が少なからずいましたよ。でも今そんな不正をやってごらんなさいよ、すぐにクビだよ(笑)。
+日本の管理職は平社員と比べて給料も責任も大差がなく、以前に比べれば出世の“役得”もなくなった代わりに、皆が「偉い人」として奉り、「名誉職」にしている。大手電機メーカーやテレビ局の経営トップを見て分かる通り、大企業の社長はたいてい、ずいぶんと偉そうにしているよね。本来は社長も平社員も同じ立場で、ビジネスシーンという“戦場”での役割分担が違うだけ。「人間として“上”になりたい」といった考えで出世を目指すのは、極めてナンセンスでしょう。
Q:管理職を狙うなら、そのうえでの覚悟について、宋さんはどう考えますか。
A:正直に言って、管理職は「いい時」よりも「悪い時」の方が多い。でも、その悪い時に「どうやって結果を出すか」をとても厳しく問われる過酷な立場です。管理職がやるべき仕事は新しいことや改革だから、仮に部下6人が賛同してくれても残り4人は反対しますよ。
+「いや、宋さん、私の部下は8~9人が理解してくれますよ」と言う人がいたら、その人は「これまでと同じことを今日もやろう」と言っているに違いない。半数近い反対派に負けずに推し進めていくことが重要で、その孤独感やつらさを我慢して乗り越えていかないといけないのです。気づいていない人が多いようですが、管理職は本質的には経営側の人間だから仕方ない。
+管理職だって自分に100%成功する自信があるわけではない。でも「失敗したら辞める」というくらいの覚悟が必要。その厳しさの対価が給料ですよ。
▽会社員人生における出世以外の目標とは?
Q:日本の会社で出世を目指さないスタンスが合理的であるというなら、ビジネスパーソンは仕事に対してどう向き合えばいいですか。
A:やるかどうかは別にして、現在の会社を出る可能性を意識した働き方をしてほしいですね。何かの統計で見たのですが、中国の若者の4割は「いつか起業したい」と思っているそうです。 実際に起業できる人はごくわずかでしょうが、とにかくそういった気概を持っている。だから、中国の若者はスキルを身につけるために転職する。そして、どこの会社に行っても「そのプロジェクトをやってみたい」「あのお客さんに会わせてほしい」などと、仕事に積極的に関与しようとします。いい意味で、人のふんどしで相撲を取ろうとするのです。失敗? 全然気にしないよ、どうせ辞めるから。
▽「“課長”ができます」と言ってごらん
+日本はどうですか。ずっと同じ会社にいると心底思っているから、先輩・同僚・後輩という固定化した人間関係の中に縛られて、思い切ったことをしようとしない。「おかしいな」「これは間違っている」と思っても我慢する。そんな状態でいたら、せっかくの才能が生かされません。皆さんには、どんどんリスクを取って、経験を積んでほしい。
+本音を言えば、転職してしがらみを全部なくして大胆に挑戦して、実績を積んでほしい。5年に1回転職すると決めれば、次の転職先との入社交渉で使う切り札を今の職場で作ろうと思うようになり、そのために積極的に行動しますよ。「こんな成果を上げた」「こんなマネジメント能力を持っている」と面接官に言えるようにね。
+面接で「あなたは何ができますか」と聞かれて、「“課長”ができます」と言ってごらん。即不採用か、仮に運よく採用されても給料を“買い叩かれる”だけですよ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/090600161/121100018/?P=1

次に、慶應義塾大学経済学部教授の金子 勝氏が1月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「モノ作りの現場を蝕み産業を滅ぼす「日本病」の正体」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・誰もが知っている大手メーカーで無資格者による品質管理やデータ改ざんが相次いで露見している。神戸製鋼、日産自動車、富士重工、三菱マテリアルの子会社2社、三菱アルミと続き、いまや経団連会長の出身企業の東レまでも「不正行為」が明らかになった。高品質を誇ってきた日本のモノ作りへの信頼に、黄色信号が灯り始めている。
▽日本企業で「不正」相次ぐ 発覚しても責任取らず
・この問題の根は深い。 事態が深刻なのは、いずれの企業もひどい経営危機にあるわけではなく、むしろ巨額の内部留保を積み上げていることだ。 2016年度末で見ると、神戸製鋼は3547億円、日産自動車は4兆997億円、富士重工は1兆1732億円、三菱マテリアルは3335億円、東レは6912億円といった具合だ。  そして無資格検査やデータ改ざんの多くは90年代以来、続いてきたことでであり、発覚しても経営者はほとんど責任をとっていない。
・つまり、これらの続発する不祥事は、実はバブル崩壊後に始まった問題先送りによる「失われた20年」が今も続いていることの証左に過ぎないのだ。
▽問題先送りと無責任体制 「失われた20年」が続いている
・無責任体制のもとで問題先送りが続けられ、産業や経済がとんでもない事態になったわかりやすい例が、1990年代の銀行の不良債権処理問題だった。 バブル崩壊で担保土地などの資産価格が急落、借り手企業は返済ができなくなり、一方で銀行は、利息や元本の返済が滞った大量の不良資産を抱え込んだ。
・本来なら、銀行はこうした不良債権を償却し、資本不足に陥った時は公的資金などの投入を受けて、財務基盤を立て直し、新たな融資先を開拓し成長産業に資金をシフトしていくことが重要だった。 借り手企業も、不採算部門などを整理し、返済負担を軽くしながら、成長部門に経営資源を移していくことによって、産業構造全体もリニューアルされていくはずだったが、銀行も企業も、地価の回復を待ち、不良債権処理(不採算部門の整理)の先送りを続けた。
・経営責任も担当官庁の監督責任も問われなかった。 その代わりに、グローバリズムに基づく「改革」なるものが行き交い、「グローバルスタンダード」とされた「国際会計基準」が導入され、短期収益を追求する米国流経営が持ち込まれた。 だが、それによって経営者に厳しい責任が問われるようになったわけではない。
・企業は内部に資金を貯め込まないと、破綻したり買収されたりするので、地道な研究開発投資や人材育成などは後ろに置かれ、短期的な利益至上主義がひたすら追求されるようになった。 経営者は四半期ごとの決算数字さえうまく出せば、となり、産業育成などの政策も、規制を緩和さえすれば新しい産業が生まれるとばかりになり、むしろ無責任体制がますますはびこったのが実態だ。
・2011年の福島第一原発事故後でも、金融危機時の不良債権処理と同じことが繰り返された。 再稼働は難しく廃炉処理などで膨大な費用がかかる原発という「不良債権」の処理を進めようとし、厳格な資産査定をすれば、多額の償却費用や、金融機関も巨額の貸倒引当金を積む必要がある。
・だが多額の公的資金を注入することへの批判を恐れて、政府は果断に処理することができず、東京電力の経営責任や役所の監督責任を曖昧にするために、ずるずると処理する方式がとられた。 財政金融政策を動員して「支援」が行われ、繰り延べ損失が拡大され、法人税減税が繰り返された。
・こうした「問題先送り」策によって、少なくとも東電幹部らの刑事責任を問われる5年間は、「不良債権問題」が隠され、責任が問われず、政策の根本的転換が図れないまま、ずるずると国民負担にツケが回されてきた。 5年が経過して、実はメルトダウン時のマニュアルが存在したことが明らかにされ、当初、1兆円から10兆円とされていた事故処理・賠償費用も21.5兆円に膨らんだ。 まるで1990年代の銀行の不良債権問題そっくりの展開だ。
▽異次元緩和が失敗を隠し新陳代謝は進まず
・いま行われている国債やETF購入などによる日銀の大規模な金融緩和(異次元緩和)も、問題先送りや失敗を隠す効果を持つ。 「金利ゼロ」で、競争力がなくなった古い産業やゾンビ企業なども生きながらえることになって、産業の新陳代謝が起こりにくくなっているほか、原発が停止して経営が苦しい電力会社の電力債や不祥事を起こした神戸製鋼などの社債も日銀が買い支えている。
・こうした直接的な救済政策以外にも、日銀が国債を買い支えることで赤字財政をファイナンスしているうちに、財政支出で非効率な産業や企業を支えるなかで、結果的に民間の不良債権が財政赤字に付け替えられてきた。 実際、国の借金は2013年度の991兆円から2016年度の1071兆円になり、80兆円も増えた。同じ4年間で、企業の内部留保は324兆円から406兆円になり、財政赤字とほぼ同額の約82兆円も積み上がっている。
▽産業構造や技術の転換に乗り遅れる日本
・問題がより深刻なのは、こうした先送り無責任体制のもとで、世界中で進む産業構造や技術転換から、日本が遅れてきていることにある。 米国流経営のもとで、足りない技術や分野は、自社の地道な技術開発より合併や買収(M&A)をすればよいとされてきた。 しかし、東芝のウエスティングハウス買収、日本郵政のオーストラリアの物流会社トール・ホールディングス買収、武田薬品のベンチャー企業アリアドの買収など、巨額の損失を出している。
・日本企業同士の合併でも、中央研究所が閉じられ、技術開発力を低下させている。製薬業が典型的である。 無責任体制に基づく短期利益追求型の企業経営は、いまや現場のモラルをも蝕み始めているのだ。
・そして日本の産業衰退が止まらなくなっている。 スーパーコンピュータ、半導体、液晶パネル、液晶テレビ、携帯音楽プレーヤー、カーナビなど、かつて世界有数のシェアを誇った日本製品は次々と世界シェアを落としている。まだ自動車だけは競争力を保っているが、それも雲行きが怪しくなってきた。
・たしかに日本の自動車メーカーは、低公害・低燃費の環境技術に強くトヨタとホンダを中心にハイブリッド車が世界的に群を抜いて強い。ところが、欧州諸国やインドなどは、日本には勝てないハイブリッド車を飛び越して、次々と電気自動車(EV)への転換目標を掲げている。 イギリスとフランスは2040年、ドイツとインドは2030年、オランダとノルウェーは2025年頃までに、ガソリン・ディーゼル車の販売の禁止を打ち出した。中国のEVへの転換も急である。
・日本の自動車メーカーの出遅れ感は否めないが、リチウム電池では技術力が高く、またトヨタもプラグイン・ハイブリッド車を作っており、EVの基本技術では必ずしも劣っているわけではない。ただし、EVは従来と比べて部品点数が大幅に減る点で自動運転に適しているが、そこではまだ遅れている。 問題は、いつ自動車がEVに切り替わり、それに日本企業が乗り遅れるリスクがないかという点だ。
▽スタンダードの変化に乗り遅れると決定的敗北に
・新しい技術や製品への大きなシフトが起きる時、重要なポイントがある。 最も重要なのは、コンピュータのOS(オペレーティングシステム)のようなプラットフォームとなる「標準(スタンダード)」が変わるのに乗り遅れると、決定的敗北を喫するという点だ。 ビデオのベータからVHSへ、ウォークマンからiPodへ、固定電話から携帯電話へといった具合に、多数のユーザーを獲得すると、一気に市場を取ってしまうのだ。
・こうした大きなスタンダードの変化(技術的特異点)が次に起きるとなれば、自動車では、電気自動車が標準になるか、燃料電池車(FCV)が標準になるか、という問題がある。 どちらが多くの利用者を獲得するか否かが決定的に重要であり、インフラの普及がひとつの鍵を握る。
・たとえば、電気自動車の充電施設が普及すると、ガソリンスタンドを見つけるのが難しくなり、電気自動車へのシフトが一気に進んでしまうだろう。 FCVは、燃料電池で発電した電力でモーターを回すのだが、燃料電池に水素を補給する必要がある。水素ガスは危険で、水素ステーションのインフラ整備コストが高くつく点が問題である。世界中で水素ステーションというインフラが整備されなければ、いくら優れた燃料電池車を作っても売れない。
・日本だけそうした方式をとっても、自動車産業でさえガラパゴス化してしまう危険性がある。 その意味で、国家戦略とプラットフォームの関係が極めて重要性を持つのだが、自動車産業だけを見ても、産業戦略は見えないままだ。 経産省・資源エネルギー庁は2015年から、燃料電池車の購入費をはじめ、燃料を充填する水素ステーションの整備費などの補助金を出してきたが、今も電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)の二本立てで中途半端な状況が続いている。
▽市場主義に「不作為の責任」 産業戦略の欠如
・新産業育成の国家戦略では、1990年代初め、米クリントン政権下の情報スーパーハイウエイ構想とともに、パソコンのOSの高機能化が進み、情報産業の基盤を作った点が参考になる。 ところが、日本政府は、イノベーションに関しては、世界の先端技術の流れに沿った国家戦略を立てるのに失敗してきた。 経産省も経済界も、規制緩和で市場に任せればベンチャー企業が次々生まれイノベーションが起こるといった、市場主義的なイデオロギー丸出しの言説を振りまき、こうした産業戦略の重要性に目をつむってきたからだ。
・実際、「構造改革特区」にせよ、「国家戦略特区」にせよ、そこから新しい画期的な産業は生まれていない。 市場原理主義は「不作為の責任」の隠れ蓑だったと言ってよい。
・しかも、こうした流れに沿って,国立大学を独立行政法人化させ、自ら稼げと運営交付金を年1%ずつ減らす政策を10年あまりも続けてきた。 先進国の中で高等教育や研究にかける公的支出が群を抜いて低い水準であり、大学を荒廃させてきた政策の失敗が次第に効いてきている。
・大学は研究費を取るために振り回されてきた。文科省の大学への天下りはひどくなり、研究者はひたすら書類書きに追われる。若手研究者は有期契約に追いやられ,短期の成果主義が横行する。こうして基盤技術や基礎研究の破壊が進んでいる。
・一連の失敗は、スーパーコンピュータのスカラー型への転換とともに、インターネット技術への転換を遅らせ、半導体の技術進歩への対応力を欠如させ、人材育成の面でも、コスト削減のための労働市場の規制緩和を推し進めるだけでソフトやコンテンツを作る能力でも遅れをもたらした。
・その結果、電機産業は新製品を生み出せなくなり、競争力を低下させていった。いま話題のスマートスピーカーでは日本メーカーの姿はどこにも見当たらない。 重電機産業と電力業でも、政府が原発再稼働・輸出路線を取ってきたために、東芝の経営危機に示されるように、遅れが見えてきている。 政府を挙げて原発依存の政策を推進している結果、一方で分散型エネルギーの送配電網の構築は遅れ、結果、新しいエネルギー産業の成長が遅れることになっている。
▽過去の成功が足かせに 既存産業の利益守る行政
・こうした産業転換の失敗の背後には、別の要因も眠っている。 それは、これまでの成功が大きいと、それが足かせになって次の技術や製品への転換を遅らせ、失敗の原因になるという点だ。 これまでトヨタを筆頭に日本の自動車産業は優れた部品工業のサプライチェーンを有し、カンバン方式やジャストインタイムで在庫コストを圧縮させ、すり合わせ技術によって高品質な製品を作ってきた。
・トヨタは移行をスムーズにできるように、ハイブリッド車→燃料電池車→電気自動車というプロセスを考えてきたが、多くの国々や企業が、トヨタの強みが十分に発揮できないように、いきなり部品点数の少ない電気自動車への転換を図れば、燃料電池車に投資した資金と技術が損失になってしまうかもしれない。 かつてのソニーのビデオ(ベータ)がそうだった。その意味で、大きな成功が失敗の原因になり得るのだ。
・経済産業省の古い組織体質も同じである。 経産省は欧米に追い付け追い越せのキャッチアップ時代には「MITIの奇跡」と呼ばれる成功を経験したが、これも成功が失敗の原因になっている。 設備投資意欲が強かった高度成長期に、経産省は業界団体と結びつき、過剰投資にならないように調整する能力を発揮して、持続的な高成長を実現してきた。
・しかし、キャッチアップが終わり、新しい技術や産業への転換を求められるようになると、むしろ既存産業の業界団体と結びつき、そこへの天下りが恒常化する中で、既存産業の救済に血道を上げるようになってしまっている。 情報通信技術の転換の遅れ、原発再稼働や原発輸出、水素ステーションと燃料電池車への固執などはその典型的だ。
・しかも最近では、出口のない金融緩和政策が、こうした「日本病」の症状を見えなくしている。 いくら麻酔薬を打っても、筋肉や臓器が弱っていく。これではますます金融緩和が泥沼化していかざるを得ない。 しかも、森友学園・加計学園問題に見られるように、国の統治機構を動かしていく立場の人間たちまでもが、公共精神を失う状態に陥ってきたために、無責任体制がよりあからさまになってきているように見える。
・政策や経営の失敗の責任を明らかにすることをためらわず、そのうえで、世界で進む技術進歩の方向性を見極め、大胆な産業戦略を立てることが求められている。
http://diamond.jp/articles/dol-creditcard/154056?skin=dol-creditcard

第三に、精神科医の和田 秀樹氏が1月5日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「“変わらないもの”を信じ続けるリスクとは? 権威の傲慢、エビデンス検証の怠慢を疑おう」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・先日、とある文化人の飲み会で、私の尊敬する文化人の方がこんな発言をした。 「私はスポーツ医学というものを信じていないのですよ。昔は『走っているときに水を飲むな』とかいい加減なことを言っていた。その後も言うことがコロコロ変わる。こんなものは科学と言えません」
・この文化人の方は自分の専門領域では恐ろしいほどの知識を持つだけでなく、独自の考察で様々な独自の説を打ち立てるような人、つまり知識だけでなく思考力も抜群の人として尊敬していたので、私にはちょっとこの発言は意外だった。
・私は、医学を含めて科学の理論というものは、新発見があったらどんどん変わっていくものだと信じている。むしろ理論が変わらないような分野のほうが、「抵抗勢力」がいるのではないかと疑ってしまう性格だからだ。 今回は、サバイバルのための思考法として、「変わらないもの」を信じることの危険性を考えてみたい。
▽変化できないことで生じた多大な犠牲
・私は留学中にトラウマ治療について相当興味を持って勉強し、その後、阪神淡路大震災の時には1年間毎週現地に通い、東日本大震災の後は、今でも月1回ボランティアで心のケアに通っている。こうした経歴から、トラウマ治療は自分の専門領域と思っている。 この分野では、1990年代半ばまでトラウマ記憶をなるべく吐き出させて、心の浄化(カタルシスという)を行うことと、心の中に抑圧されたトラウマ記憶をなるべく思い出させて、現在の自分の記憶に統合させていくことが基本的な治療だった。
・ところが、トラウマ記憶を思い出させることによって偽りの記憶で親を訴えるという事件が頻発した上に、過去の記憶を思い出させる治療を行ったほうがかえって悪い結果になることをロフタスという心理学者が明らかにして、現在では治療法が劇的に変わった。
・日本でも、阪神淡路大震災のときと比べると、2004年の新潟県中越地震以降は東日本大震災のときも含めて心のケアの方向性が変わったとされる。それまでは心理的デブリーフィングと言って、トラウマ的な体験を受けた直後にそれを吐き出す治療を行うことが早期介入の基本だったが、今ではきちんとした情報提供やストレス反応に対する対処術を教えるのが基本となっている。
・日本の精神医学界は、教育の悪さ(私のようにカウンセリング的な精神医学を専攻する者が主任教授となっている精神科の医局は、全国で82も医学部があるのに一つもない)と保険診療の限界のため(長時間のカウンセリングを行っても5分診療でも、ほとんど医師の収入が変わらない)、先進諸外国と比べると、心のケアの遅れが目立っている。それでも、海外でまずいとされたものを素直に修正する柔軟さはある。
・スポーツ医学の場合も、勝ち負けという結果がはっきり出るので、海外で良いとされたことはすぐ取り入れ、あるいは、間違いがあれば正すということなのだろう。 それに比べると、外科や内科はずいぶん権威主義的な印象を受ける。
・『患者よ、がんと闘うな』という著書があり、がんの放置療法で既存の医学批判を続けている近藤誠という医師がいる。現在の彼の主張を認めるかどうかは別として、近藤氏が医学界のマジョリティを敵に回したのは極めて妥当な発想からのものだ。以前の乳がん治療では、初期の状態で発見されてもオッパイを全摘し、大胸筋まで切り取ってしまうという治療が主流だった。ところが、がんだけを取り去って、その後に放射線をかける乳房温存療法でも、全摘と比べて5年間は生存率が変わらないというアメリカの論文を発見した近藤氏は、これを『文藝春秋』誌に紹介した。
・ところが、当時の外科の権威の医師たちが、オッパイを全部取らないと転移すると説明してきた面子があるのか、近藤氏は外科医たちに排斥され、最年少で大学の講師になったのに、そのままのポストで慶応大学病院を定年退職することになる。
・さらに、同じようにこの論文を読んで乳房温存療法に取り組もうとした医師たちも権威にばれることを恐れたため、この治療は普及しなかった。日本で乳房温存療法の治療ガイドラインができたのは、近藤氏が文藝春秋で記事を載せてから11年後、その治療が主流になったのは15年後の話である。外科の権威の医師たちが定年になったり、引退するまで、新しい治療が認められなかったからだ。 その間に、無駄にオッパイを取られた人がどのくらいいるのかと思うと、義憤にかられてくる。
▽新しい知見を認めず研究しない日本の医学界
・私は、恐らくこの手のことは氷山の一角で、治療方針を変えるべきなのに、権威の面子のために変わらないままになっていることは珍しくないと思っている。 2008年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンという臨床医学の世界で最も権威のある雑誌で、糖尿病の治療について、約5000人の厳格管理群とほぼ同数の標準管理群との長期間の比較試験が行われた。結果的に、ヘモグロビンA1cという糖尿病の指標を正常レベルまで下げようとした厳格管理群のほうが、3年目くらいから心血管死亡が多いことが分かった。
・しかしながら、日本の糖尿病学会はなかなかこれを認めようとせず、ガイドラインの変更がなされるのに5年もかかった。 糖尿病は治療の目標値が変わっただけましなほうだが、メタボリックシンドロームの対策においては、コレステロール値が高いほうが長生きしているとか、やや肥満の人のほうが長生きしているという大規模な疫学調査があるのに、まったく目標値が変わらない。むしろ、体重を減らすことやコレステロール値を減らす指導を強化しているくらいだ。
・自分たちがこれまで患者に言ってきたことを変えるのがそんなに不快なのかとつい思ってしまう。もちろん、疫学データだけを信じるべきではないという考え方もあるだろう。私が不満なのは、なぜまともな比較調査をやらないのかということである。私や別の医師たちがいくつかの疫学データを基に旧来型の治療を批判しても、権威の医師たちは無視黙殺をするだけで、なかなか持論を変えようとしない。
・コレステロール値については、薬や生活指導で下げた群と下げないで放置した群で、その後の死亡率や心血管障害の罹患率、あるいはがんの罹患率(コレステロール値が高いほうが免疫機能が上がってがんになりにくいから、高めのほうが長生きしているという仮説がある)などの比較調査をすれば、これまでの治療方針でいいかどうかの答えはすぐに出る。もし下げなくていいのなら無駄な医療費はかなり減るし、成人向けの生活指導も大幅な変更が必要となる。もちろん、下げたほうがいいという結果が出れば、安心して現在の治療を続けられる。
・がんの放置療法にしても近藤医師を批判する人たちは、放置したために早く死んだケースを紹介するだけだ。近藤医師のほうも放置して長生きできたとか、生活の質が上がったという人を100人以上紹介しているので、これでは水掛け論になってしまう。曲がりなりにも批判する側が学者なのだから、比較調査をすれば済む話なのに、それをやろうとする話を聞いたことがない。 こんな医学界の怠慢が続いているから、医学常識が変わらないだけかもしれない。
▽薬品で不足する日本人向けのエビデンス
・EBM(evidence-based medicine、根拠に基づく治療)という考え方が海外では当たり前のものとなり、日本でも徐々に普及が始まっている。 理論的に正しいことや動物実験では有効と思われることであっても、本当に5年後、10年後にその治療が有効である、つまり死亡率や心筋梗塞などの発症率を下げるという根拠を出さないときちんとした治療として認めないという考え方だ。アメリカの場合、保険会社が医療費を支払うのが通常なので、「根拠」がない治療にはお金を出さないというのが基本的な方針となっている。
・例えば、血圧を下げるとか、コレステロール値を下げるというのは、体の中で化学反応を起こせば、目標値を達成するのはそれほど難しくない。しかし、目標値に達したところで、5年後、10年後の心筋梗塞や死亡率が下がらないのなら意味がないというのがこのEBMの考え方だ。
・欧米、特にアメリカの場合、生命保険の会社に金を払ってもらうために、製薬会社が血眼になってエビデンスを得るための研究を行ってきた。ところが日本の場合、エビデンスを求める研究に対するスポンサーがほとんどいないので、この手の大規模調査がなされない。多くの学者が得意がってエビデンスがある治療と紹介しているのは、海外のデータを基にしていることがほとんどというのが実情た。
・がんの標準治療のように、どの術式が5年後の生存率が一番高いかとか、温存療法と全摘療法のどちらがいいかというような比較調査であれば、海外のデータでも比較的あてになるかもしれない。 しかし、薬やコレステロール値などの長期フォローのデータについては、海外のものがあてになるかは分からない。欧米のほとんどの国は死因のトップが心筋梗塞だが、日本はがんで死ぬ人が心筋梗塞の2倍いる国で、先進国の中で心筋梗塞が最も少ない国だからだ。
・数年前にディオバン事件というのがあった。海外で良いエビデンスのあるディオバンという血圧の薬が日本でも脳梗塞や心筋梗塞の発症率を下げるはずだというので、大規模調査を行った。しかし、それを示す結果が出なかったために、多くの医師たちがデータ改ざんを行ったという事件である。
・この事件は医師のモラルばかりが問題にされたが、それより重要なのは、海外のエビデンスが日本人には当てはまらないことが明らかになり、血圧の薬を長期投与していたら脳梗塞や心筋梗塞を予防できるかどうかに疑問が生じたことだろう。少なくとも海外では鳴り物入りの薬が、日本では旧来型の薬を飲んでいた人と薬を飲まない人も合わせた群と比べて、長期的に有効であるというデータが出なかったのだから。
・そういう研究をやってもらわないと、信頼して薬を飲めないのだが、同じようにやぶへびになることを恐れて医者も日本の製薬会社(ディオバンを出していたのは外資系の巨大製薬会社である)も、日本人向けのエビデンスを求める研究をしない。だから治療のガイドラインが変わりようがない。
・要するに、新しく研究して治療のガイドラインが変わっていくのが通常なのに、日本の医療が変わらないのは信用する「根拠」がないからである。私が言っていることが正しいのか、権威の人たちが言っていることが正しいのか、誰も知らないのが現状なのだ(私のほうが正しいと言いたいのではなく、権威の人たちのいうことに「根拠」がないと言いたいのだ)。
▽根拠があれば「変節」も悪くない
・変わらないものを信じたい気持ちは私も分からないわけではない。 私が自費診療のアンチエイジングのクリニック(和田秀樹こころと体のクリニック)を立ち上げた際に、スーパーバイザー(指導医)としてクロード・ショーシャ先生を選んだのは、ダイアナ妃を始めとする世界中のセレブの主治医だったからではない。30年以上アンチエイジング医療を行って通い続けている人が大勢いることで、長期的に効果を出していると信頼したからだ。数字の根拠はないが、経験的な根拠があるので、コロコロ変わるアンチエイジングの理論の中で信じられると思ったからだ。
・しかし、そのショーシャ先生も新しい発見があるとどんどん取り入れる貪欲な先生であることを長年指導を受ける中で知った。医学に限らず、科学の理論というものは新たな発見によって塗り替えられるものだ。ノーベル賞の多くは、旧来の説を覆したものに与えられている。
・これまでの説が間違いかもしれないと思ったときに、改めたり、研究の対象にするのが科学者の姿勢だろう。旧来の説に対する批判や異論を一笑に付していたら科学と言えない。エビデンスを求めるというのも、これまでの治療指針が本当に正しいかを検証し、間違っていたら変えるためのものだ。ずっと変わらない治療方針というのでは、なんらかの圧力や忖度さえ疑ってしまう。
・もちろん変えなくていいものは変えなくていい。ショーシャ先生の治療にしても、前回のコラムで問題にした真の保守にしても、残すべきものは守り、変えなければいけないものを変えるのが基本スタンスだ。 ただ、最初に問題にした文化人の話を聞いていても、医学者を見ても感じるのは、日本人には変節がいけないという思い込みが強い傾向があることだ。
・私もかつては「受験は要領」とか言って、手抜き型の(私としては省力型であって結果にはこだわったのだが)勉強を勧めていたため、ゆとり教育の反対運動をしていた時には随分変節扱いを受けた。しかし、子どもがみんな長時間勉強をしている時代と、少子化で入試が簡単になって勉強しなくなった時代とでは、言うことが変わるのは当たり前の話だ。
・定説を過度に信じないことと変節と言われるのを恐れず、時代に合わせて考えを変えられることが、恐らくAI(人工知能)の導入で大きなパラダイムシフトが起こる時代での最大のサバイバル術であると私は信じる。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/122600095/010300022/?P=1

第一の記事で、 『管理職の責任の重さ(リスク)と給料(リターン)のバランスが合っていなくて、ハイリスク&ローリターン。こんな状況で、誰が高いリスクだけを抱える管理職をやりたがりますか。「出世しよう」と考えない日本のビジネスパーソンは、賢いんですよ・・・かつてコンプライアンス(法令順守)が声高に求められない時代は、「接待費を自由に使える」「天下り先を作れる」といった給料以外の“うまみ”が出世にはつき物でした。だから、出世を目指す人が少なからずいましたよ。でも今そんな不正をやってごらんなさいよ、すぐにクビだよ(笑)』、というのは、言われてみれば確かにその通りだ。 『本音を言えば、転職してしがらみを全部なくして大胆に挑戦して、実績を積んでほしい。5年に1回転職すると決めれば、次の転職先との入社交渉で使う切り札を今の職場で作ろうと思うようになり、そのために積極的に行動しますよ』、というのも、そのうち増えてくるのかも知れない。
第二の記事で、 『続発する不祥事は、実はバブル崩壊後に始まった問題先送りによる「失われた20年」が今も続いていることの証左に過ぎないのだ』、 『「問題先送り」策によって、少なくとも東電幹部らの刑事責任を問われる5年間は、「不良債権問題」が隠され、責任が問われず、政策の根本的転換が図れないまま、ずるずると国民負担にツケが回されてきた。 5年が経過して・・・当初、1兆円から10兆円とされていた事故処理・賠償費用も21.5兆円に膨らんだ。 まるで1990年代の銀行の不良債権問題そっくりの展開だ』、などの指摘は、確かにその通りなのかも知れない。 『市場原理主義は「不作為の責任」の隠れ蓑だったと言ってよい』、との批判は手厳しい。ただ、キャッチアップが終わって、目指すべきモデルが見出し難くなったという面も無視できないと思われる。 『世界で進む技術進歩の方向性を見極め、大胆な産業戦略を立てることが求められている』、を官僚に求めるのも「ないものねだり」なのではなかろうか。
第三の記事で、 『がんの放置療法で既存の医学批判を続けている・・・近藤氏は外科医たちに排斥され、最年少で大学の講師になったのに、そのままのポストで慶応大学病院を定年退職することになる』、という外科学会の狭量さには、驚かされた。 『日本の場合、エビデンスを求める研究に対するスポンサーがほとんどいないので、この手の大規模調査がなされない。多くの学者が得意がってエビデンスがある治療と紹介しているのは、海外のデータを基にしていることがほとんどというのが実情』、 ディオバン事件後、 『同じようにやぶへびになることを恐れて医者も日本の製薬会社(ディオバンを出していたのは外資系の巨大製薬会社である)も、日本人向けのエビデンスを求める研究をしない。だから治療のガイドラインが変わりようがない』、 というのは困ったことだ。日本の場合は、厚労省が予算を取って、旗を振るべきなのではなかろうか。
タグ:その間に、無駄にオッパイを取られた人がどのくらいいるのかと思うと、義憤にかられてくる 管理職の責任の重さ(リスク)と給料(リターン)のバランスが合っていなくて、ハイリスク&ローリターン。こんな状況で、誰が高いリスクだけを抱える管理職をやりたがりますか。「出世しよう」と考えない日本のビジネスパーソンは、賢いんですよ 産業構造や技術の転換に乗り遅れる日本 市場主義に「不作為の責任」 産業戦略の欠如 過去の成功が足かせに 既存産業の利益守る行政 和田 秀樹 「“変わらないもの”を信じ続けるリスクとは? 権威の傲慢、エビデンス検証の怠慢を疑おう」 がんの放置療法で既存の医学批判を続けている近藤誠 金子 勝 ダイヤモンド・オンライン 当時の外科の権威の医師たちが、オッパイを全部取らないと転移すると説明してきた面子があるのか、近藤氏は外科医たちに排斥され、最年少で大学の講師になったのに、そのままのポストで慶応大学病院を定年退職することになる 「宋文洲「私も日本でなんか出世は目指さない」 斬り捨て御免! 「出世目指さなくていいの?」への異論・反論」 「問題先送り」策によって、少なくとも東電幹部らの刑事責任を問われる5年間は、「不良債権問題」が隠され、責任が問われず、政策の根本的転換が図れないまま、ずるずると国民負担にツケが回されてきた。 5年が経過して、実はメルトダウン時のマニュアルが存在したことが明らかにされ、当初、1兆円から10兆円とされていた事故処理・賠償費用も21.5兆円に膨らんだ。 まるで1990年代の銀行の不良債権問題そっくりの展開だ 日本型経営・組織の問題点 続発する不祥事は、実はバブル崩壊後に始まった問題先送りによる「失われた20年」が今も続いていることの証左に過ぎないのだ 「モノ作りの現場を蝕み産業を滅ぼす「日本病」の正体」 日本企業で「不正」相次ぐ 発覚しても責任取らず 若者の出世意欲の低下を示す調査結果 (その3)(宋文洲「私も日本でなんか出世は目指さない」、モノ作りの現場を蝕み産業を滅ぼす「日本病」の正体、“変わらないもの”を信じ続けるリスクとは? 権威の傲慢 エビデンス検証の怠慢を疑おう) 日経ビジネスオンライン 宋文洲 ディオバン事件 薬品で不足する日本人向けのエビデンス 新しい知見を認めず研究しない日本の医学界
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安倍外交(その4)(安倍政権「歴史外交」の目玉事業がこっそり投げ出された理由 ジャパン・ハウスはもう予算削減だって、安倍首相 「外交で挽回」とは考えが甘すぎる」、「主張する日本外交」が陥る“ジャパンパッシング”という罠、いくら連休外遊といっても今度の安倍中東訪問はひどい) [外交]

安倍外交については、2月17日に取上げた。今日は、(その4)(安倍政権「歴史外交」の目玉事業がこっそり投げ出された理由 ジャパン・ハウスはもう予算削減だって、安倍首相 「外交で挽回」とは考えが甘すぎる」、「主張する日本外交」が陥る“ジャパンパッシング”という罠、いくら連休外遊といっても今度の安倍中東訪問はひどい)である。

先ずは、時事通信出身の政治・外交ジャーナリストの原野 城治氏が3月22日付け現代ビジネスに寄稿した「安倍政権「歴史外交」の目玉事業がこっそり投げ出された理由 ジャパン・ハウスはもう予算削減だって」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽結局、打ち上げ花火だけだった
・安倍晋三内閣は「森友学園」土地取引の決裁文書改ざん問題で窮地に立たされているが、世論調査で最も高い政策評価を得ているはずの安倍外交の足元でも、実は、ほころびが露呈し始めている。 その一つが、鳴り物入りで2015年度予算から総額約500億円の巨額増額が行われた対外発信事業だ。「戦略的広報」と称し、その目玉が、初年度で約52億円の施設関連経費(施行は複数年)が計上された「ジャパン・ハウス」。
・当時、他省庁からは随分とうらやましがられた新規事業だったが、企画段階から何をやるのか判然としなかった。 このジャパン・ハウスとは、戦略的対外発信の強化のため「オールジャパン」の対外発信拠点としてサンパウロ、ロンドン、ロサンゼルスの3カ所に設置される展示館のこと。 日本に関する情報をまとめて入手できるワンストップ・サービスを提供するとともに,カフェ・レストランやアンテナショップなどを設け,現地の人々が「知りたい日本」を発信するというものだ。
・と、いうお題目の通り、一時代前の"ハコモノ行政"の典型のようなもので、案の定、具体的なものはハコモノだけで、しかもそれができた直後から迷走を始めている。 すでに2017年5月にサンパウロが開館し、外務省広報によれば半年間で現地の約30万人が来館したという。特に、民間の活力や地方の魅力などを積極的に活用するというのが売り物だ。
・しかし、外務省筋によれば、2019年度予算編成段階で「ジャパン・ハウスのハコを作ったのだから、あとは民間の力を借りて運営するように」と言い渡されたという。対外発信事業を行う上で、一番重要な運営費は、首相官邸、財務省から、来年度予算以降、民間から調達するようにというきつい"お達し"が発せられたということだ。
・民間の協力を仰げと言われても、内部留保を積み上げるばかりの世知辛い企業が、メセナ資金を増やすことはまれだ。 公益社団法人「企業メセナ協議会」によると、2014年度企業メセナの活動費総額は約956億円で、その後も毎年同程度の総額ベースで推移している。
・しかし、企業や財団のメセナ活動は総件数3000件以上と細分化され、外務省が期待するようなまとまった資金提供は極めて困難だ。確かに、企業メセナ活動費は文化庁の年間予算約1000億円に匹敵するが、2020年東京オリンピック・パラリンピックを控えてその争奪戦は過熱化している。
・そんな状況下で、「民間主体」を言い渡された外務省は、まるで2階に上がってはしごを外されたような話になっているといえるだろう。 この対外発信事業の強化は、1990年代以降、長期低落の外務省予算にとっては破格の出来事であった。背景に、中国、韓国両国による領土問題や慰安婦問題などをめぐる対外発信攻勢があったことは言うまでもない。
・しかし、問題はスタート段階から発生した。筆者も、当時の担当者から「中身をどうするか」という相談を受けたが、数字だけが先行していて省内での事業内容の積み上げはほとんどできていなかったのが実情だった。 コンセプトが生煮え状態だったため、いざ「ジャパン・ハウス」の入札となったら、政府基準を満たす応札業者が現れず、2度目の入札で最大手広告代理店・電通に委託企業が決定した。契約は、競争入札によって委託者が決まらない場合に適当と思われる相手方を任意に選んで結ぶ随意契約だった。
・電通は海外の展示施設での継続的な事業展開の大変さ、さらには歴史や政治といった機微に触れる問題を民間ベースで扱うことの難しさを知り尽くしたうえでの契約だった。
▽日本の永遠の課題、対米発信
・ジャパン・ハウスの目的について、外務省は「幅広い層に対し、日本の『正しい姿』や多様な魅力を発信しながら、親日派・知日派の裾野を拡大していく」(同省ホームページ)としている。 狙いは、マンガ・アニメや「食」などに関心を持つ外国人に対して、日本の歴史や政治社会への理解を深めるとともに、尖閣諸島や北方領土問題をアピールしていくこととだといえる。
・しかし、マンガやアニメを楽しみに集まる現地の人々に領土問題などをアピールしようという心根こそ愚の骨頂ではないだろうか。 現実に、日本の政治的、歴史的展示に対しては、どこの国にも反発する勢力がいる。露骨にやれば、嫌がらせやデモを誘発することもあり得る。もっと心配なのは、世界的なテロが拡散し続けている中で、ジャパン・ハウスが格好の標的にされないかということだ。
・米国についていえば、既に、ワシントンには広報文化センター、ニューヨーク、ロサンゼルスには、それぞれ日本文化センターがある。中でも、ワシントンの広報文化センターは在米日本大使館内にあり、明らかに日本の対米広報機関の最大拠点となっている。
・ニューヨークとロサンゼルスの日本文化センターは独立行政法人・国際交流基金が運営する対米発信拠点であり、対外的な文化芸術交流や日本語教育の普及を任務とする。 これらの文化センターの任務は、日本政府からの対米及び対北米大陸向けの発信に他ならない。日本の広範な情報を提供し対日理解を促進することだが、肝心の尖閣諸島問題や慰安婦問題がヒートアップしたときに、一般の米国人に対する地道な周知活動がいかに希薄だったかが浮き彫りになった。
・対外広報戦略から言えば、肝心なことが抜けていたというわけだ。にもかかわらず、日本文化センターがあるロサンゼルスにまた「ジャパン・ハウス」を開設する。屋上屋を重ねるだけでしかないだろう。 米国の3か所の文化センターの活動も、ホームページを見れば映画やアニメ、日本語研修ばかり。「弁当の作り方」や「折り鶴の見本」といったありきたりな事業の反復は、あまりにも能天気ではないか。
・そもそも、海外で持て囃されている日本の「ポップカルチャー」、「食文化」、「ファッション」は一種の流行の域を出ず、それが行政情報的にアレンジされているうちはとても本物のファンづくりには直結しない。 つい最近まで、海外では日本の「3F」、つまり「食」(Food)、「ファッション」(Fashion)、「フェスティバル」(Festival)を通じた国際交流事業は、「表層的な日本の文化紹介」とか、「うわべだけの交流」と揶揄されてきた。
▽何をしたいのか、さっぱり
・外務省主導で「ジャパン・ハウス有識者諮問会議」(学者、芸術家から17人で構成)が2015年夏から年4回のペースで開催され、専門的知見に基づく助言を行なっている。 その議事録を見ると、唖然とさせられる。諮問委員から「物販の運営は核となるスタッフが責任をもって運営していくことが重要である」と指摘しているが、これではまるで業者の打ち合わせではないか。
・さらに、諮問委員が「ジャパン・ハウスの活動を近隣諸国とどう結びつけていくのか」と質問すると、関係者が「ジャパン・ハウスは日本が拠点国に対して指示を行ったり、援助する事業ではない」、「追求すべきはどのように世界の人々と連携していけるか、一緒に何ができるかであり、一緒に何かを生み出していく、価値のある見せ方をしていくことが重要である」と返答。
・歴史問題や領土問題での日本の立場を世界に発信する拠点とする、という事業目的で、巨額予算を確保したのではなかったのだろうか。 関係者のこうした発言は、そもそも何を発信していくかという戦略的コンセプトの無さを浮き彫りにしている。諮問委員からの「日本独自の美学や思想など,目に見えない深いところが伝わるようなテーマを扱うことも一案」という発言からは、もう何がしたいのか全く見えてこない。
・そもそも、安倍官邸が「ジャパン・ハウス」に期待していたことは、尖閣諸島問題や慰安婦問題、さらには北方領土問題などについて海外の日本理解者を増やすことだった。 2015年4月に、安倍首相は、日本の首相としては、58年ぶりに米国連邦議会上下両院合同会議で演説を行い、第二次世界大戦の和解と今後の同盟関係の強化を呼びかけた。この議会演説は、拍手喝采を浴び、米国内でも好意的に受け入れられ、広報外交としては成功だった。
・その年の夏、筆者はジャパン・ハウスの計画立案を行った外務省関係者に会ったが、安倍演説の余韻もあってか、「領土問題、歴史問題など日本の主張すべきことを主張し、日本の魅力も発信していく」と強調していた。このあたりまでは、当初の路線だったのだろう。
・しかし、それから3年が経過し、実際にジャパン・ハウスの運用が始まると、その性格は変貌していた。現地の関係者は「日本の魅力の宣伝が主眼だ」と説明し、歴史や領土問題を正面から提起することはなくなったというのだ。 これから立ち上がるロサンゼルスの施設は、ハリウッド中心部にある、アカデミー賞授賞式が開催される西海岸最大級の総合エンターテイメント施設のハリウッド・ハイランドモール内に設置される。  そんな環境下で歴史や領土問題のアピールが、なじまないのは当然だ。娯楽性に傾斜したジャパン・ハウスの事業から、「歴史、領土問題」が売り物の安倍官邸の気持ちが離れたとしてもおかしくない。
▽気持ちはほかに移った
・「ジャパン・ハウス」は、外務省事業のいつもの事なかれ主義の典型となりつつある。運営費が削減されれば、芸術家や民間企業も動かなくなるのは目に見えている。 対外広報はいまや外交の先兵となっている。中国、韓国の米国におけるロビー活動を見れば分かるように、対抗国の主張と「ゼロサム・ゲーム」となることが往々にしてあり、外交活動の展開を大きく左右する。
・いまだに、韓国のロビー活動に押されっぱなしの日本の対米発信のお粗末な実態は、これまでもたびたび指摘されてきたことだ。ジャパン・ハウスに期待されたのは、そうした過去のお粗末の払拭だったはずなのだが。
・だからではないが、安倍官邸の気持ちは、もう別な方向に向かっている。 たとえば、公益法人「日本国際問題研究所」が2017年度の事業として進める「領土・主権・歴史センター調査研究支援事業」だ。5か年事業で総額25億円(毎年度5億円)という日本のシンクタンク事業としては破格の予算を投じ、同研究所内に「領土・歴史センター」を開設。
・特に、これまで放置されてきた日本の主権、領土、歴史に関する著作・文献類の本格的で体系的な翻訳(英訳)を行うとともに、海外から有力な研究者による招聘フェロー事業を開始した。ハコモノに比べれば、はるかに具体的な事業ではある。 ただ、冷戦崩壊後、急浮上した歴史問題などへの対応ということであれば、日本としては、本来、1990年代に着手すべき事業であった。約30年経って、ようやく着手したというわけだ。
・ジャパン・ハウスのような海外へのバラマキ事業、ハコモノ行政の前にやるべき事業があることにようやく気付いたのなら、それはそれで画期的なのだが。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54865

次に、 政治ジャーナリストの泉 宏氏が4月3日付け東洋経済オンラインに寄稿した「安倍首相、「外交で挽回」とは考えが甘すぎる 「日米」、「日ロ」首脳会談に「日朝」も狙うが」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・満開だった桜も散り、新年度がスタートし、混迷が続く政局も新たな段階を迎えた。安倍晋三政権を揺さぶる「森友問題」は、佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問が終わっても真相究明には程遠く、内閣支持率が下落する中で内政面での危機打開策は見当たらない。そこで首相が狙うのが、連続的な首脳外交による政権浮揚だ。5年3カ月余の第2次政権では、何度か政権危機があったが、その都度、危機脱出のツールとなったのが「安倍外交」だからだ。
・首相は4月中旬以降、「国会対応は他人事」といわんばかりの過密な首脳外交日程を設定しつつある。しかし、「外交での成果で急落した支持率を回復させようとの思惑はミエミエ」(共産党)との批判が多い。北朝鮮情勢を含めて日本を取り巻く外交環境は極めて危機的なだけに「日本が下手に手出しをすると大火傷する」(外交専門家)との指摘もある。今回の首相の外交攻勢は結果的に「とらぬ狸の皮算用」になりかねないリスクもはらんでいる。
・今後3カ月の首相の外交日程は、未定のものも含めて、通常国会会期末(当初)の6月20日まで目白押しだ。まず、4月17日から20日に設定されたのが、ドナルド・トランプ米国大統領との日米首脳会談のための訪米。続いて4月末からの大型連休にはサウジアラビアなど中東各国を歴訪し、場合によってはイランにまで足を延ばす計画とされる。
・また連休明けの5月上中旬には長年の懸案である日中韓首脳会談の東京開催を調整中で、続く下旬には首相がロシアを訪問してのウラジーミル・プーチン大統領との日ロ首脳会談が予定されている。さらに6月上旬には毎年開催の主要国首脳会議(G7サミット)でカナダを訪れるが、ここにきて、その前後に北朝鮮・平壌に乗り込んでの金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との日朝首脳会談実現も模索しているとされる。
▽対北朝鮮問題では「蚊帳の外」に置かれた日本
・いずれも、今後の日本外交の進路にも直結する極めて重要な首脳外交だが、永田町・霞が関でも「あまりに過密で、首相の体力と精神力の限界を超えるのでは」(外交専門家)との不安が広がる。特に、北朝鮮核開発への対応が中心となる東アジアの安全保障問題は、金委員長の3月末の電撃訪中による中朝首脳会談以来、北朝鮮の外交攻勢が急進展する中、「日本が蚊帳の外に置かれていた」(同)ことで、首相の一枚看板だった「地球儀を俯瞰する外交」も色あせ始めている。
・首相が「過去に例のないほど親密」と自賛する日米首脳の友好関係も、ここにきて「予測不能」のトランプ大統領が仕掛けた貿易戦争などで軋轢(あつれき)が強まっている。このため首相は今後、「過去5年余の安倍外交の成功体験」が通用しそうもない、極めて厳しい首脳外交の試練に直面することになる。
・首相にとって、今回の外交攻勢の第一歩となるのが日米首脳会談だ。昨年2月の訪米時と同様に、トランプ大統領の別荘であるフロリダ州の「マールアラーゴ」での会談となり、3日間で2回の首脳会談と3度目のゴルフ対決が予定されているという。 
・北朝鮮危機打開のための歴史的米朝首脳会談が「5月中に開催」とされるだけに、日本側は「北の非核化」に加えて「拉致問題解決」を大統領に働きかける考えだ。対する米側は、このほど大統領が決定した鉄鋼・アルミ輸入制限措置に伴う日本への追加関税適用などの日米貿易交渉を絡めて、首相と政治的取引をする姿勢をにじませている。
・日米両首脳はこれまで、「ドナルド・シンゾー」と呼び合う親密な関係を維持してきたが、大統領は今後の日米貿易交渉については「(安倍首相らの)笑顔を見ることは少ないだろう」とツイートするなどトランプ流ディール(取引)でけん制しており、表向きは仲のよさをアピールできても、現実的には両首脳の蜜月関係にひびが入る可能性も少なくない。このため、今回ばかりは重要課題での「完全な一致」などは期待できないのが実情だ。
・そもそも、平昌五輪への選手団派遣表明から始まった"金正恩劇場"とも呼ばれる北朝鮮の外交攻勢は、各国関係者の度肝を抜く金委員長の電撃訪中による中朝首脳会談開催で、国際社会に衝撃を与えた。4月27日の開催が決まった金委員長と文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領との南北首脳会談と、その先のトランプ大統領との米朝首脳会談への地ならしであることは明らかだが、問題は、金委員長の訪中が米韓両国には事前に伝わっていたのに、日本にとっては「寝耳に水」(自民幹部)だったことだ。
▽置き去りの首相、「中国から説明受けたい」
・3月27日の佐川氏証人喚問の翌日の28日に、中国が26日の首脳会談開催を録画も含めて公表したが、首相は国会答弁で、事前連絡もなかったという「外交的失態」を、事実上認めざるを得なかった。金委員長訪中を匂わす"お召列車"の中国入りの動画や写真が、インターネットに次々投稿されている中での失態は、「日本が北朝鮮問題で置き去りにされている」(自民幹部)との厳しい現実を国民の前に露わにした。
・画像で見る限り、夫人同伴の歓迎行事で満面の笑みを浮かべて握手を繰り返すなど、中朝首脳は「中朝同盟関係」を世界にアピールした。トランプ大統領も会談直後の29日、「金正恩が私と会うのを楽しみに待っているとのメッセージを受け取った」とツイッターに書き込んだ。にもかかわらず首相が「中国からしっかりと説明を受けたい」などと国会で答弁している姿は、国民から「日本外交は大丈夫なのか」との声が出るのも当然だ。
・だからこそ首相は、「トランプ大統領の最も信頼する相談相手」(外務省幹部)として、日米首脳会談で直談判する機会を求めたわけだ。ただ、「いったんは決まった」(首相周辺)とされる4月2日の首脳会談開催が、「米側の都合」で半月も先延ばしとなった経緯からも、「日米会談が首相の思惑通りの展開となるかは疑問」(自民幹部)との声が広がる。
・また、首相にとって21回目となるプーチン大統領との日ロ首脳会談も一筋縄ではいきそうもない。金委員長が中朝首脳会談に続いて、ロ朝首脳会談のための電撃訪ロを模索しているとの情報も飛び交っており、首相が長年積み重ねてきたプーチン大統領との友好関係にも、北朝鮮への対応で亀裂の生じる可能性が指摘されている。その一方で、同大統領が日本の悲願の北方領土返還で譲歩する見通しもないとされるだけに、関係者の間でも日ロ会談での外交的成果に期待する向きは極めて少ないのが実情だ。
・そこで、首相サイドが画策するのが、小泉純一郎元首相以来14年ぶりの日朝首脳会談だ。一部報道では「北朝鮮が6月初めを検討」と具体的日時まで取り沙汰され、政府も「検討中」(菅義偉官房長官)であることを認めている。もちろん、5月末までに米朝首脳会談が実現し、「北の非核化」などで一定の前進があることが大前提とされるが、自民党内からは「もし、首相が平壌に乗り込んで、金委員長から拉致被害者帰国の約束でも引き出せば、支持率も一気に回復する」(執行部)と期待する声も出る。まさに「起死回生の一打」(同)というわけだ。
・ただ、北朝鮮側は日本政府が圧力強化を唱えていることに対し、3月中旬に「永遠に平壌行きのチケットが買えなくなる」と警告している。このため、同委員長が米中両国首脳に対して行ったような掌(てのひら)返しの「外交的変身」をしない限り、「日朝首脳会談が実現しても、北朝鮮が日本側の足元を見透かした強硬姿勢に出る」(日朝関係専門家)との見方が支配的だ。
・2012年暮れの第2次政権発足以来、首相が進めてきた「地球儀を俯瞰する外交」は、国際社会でも一定の評価を獲得し、国民に対する「世界の安倍」のアピールで、高い内閣支持率を維持できる要因ともなってきた。国会での激しい与野党対立を招いた「新安保法制」や「共謀罪」を強行成立させる際に、首相が野党側の激しい政権攻撃をしのげたのも、「安倍外交」への国民レベルでの高評価が背景にあったことは間違いない。
▽あがけばあがくほど政権危機は強まる?
・しかし、財務省による組織ぐるみの公文書改ざんという「平成政治史に残る大事件」(小泉進次郎自民党筆頭副幹事長)がもたらした「森友政局」での国民不信は、これまでの安倍政権を襲った政治スキャンダルとは「深刻さの次元が違う」(同)のは否定できない。政府与党首脳の間には「佐川氏喚問で疑惑追及は一段落」(自民執行部)との楽観論も広がるが、後半国会では、働き方改革関連法案など重要法案処理の見通しはまったく立っていない。
・首相は今国会を何とか乗り切ることで9月の自民党総裁選での3選につなげたい考えとされるが、自民党額賀派の次期会長となる竹下亘総務会長は3月末の講演で「(総裁選は)1カ月前までは(首相の)3選が確実だった。(情勢は)ちょっとしたことでくるっと変わる。本当に分からない」と指摘した。その一方で、「内閣の大黒柱」とされる麻生太郎副総理兼財務相が「森友のほうがTPP11(11カ国による環太平洋経済連携協定)より重大と考えている」と新聞の報道ぶりを批判して、「森友問題の責任者の言葉とは思えない」などと野党や国民の猛反発を受けて謝罪に追い込まれたことも、政権危機を増幅している。
・こうしてみると、4月中旬以降の連続首脳外交で、「あがけばあがくほど奈落の底に引きずりこまれる『森友政局』という蟻地獄」(自民長老)からの脱出を狙う安倍戦略が奏功するかどうかが、「夏以降の安倍政権の命運を決める」(自民幹部)ことになるのは間違いない。
https://toyokeizai.net/articles/-/215012

第三に、外務省出身で日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中 均氏が4月18日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「主張する日本外交」が陥る“ジャパンパッシング”という罠」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「ジャパンパッシング」が起こりつつあると報じられている。 北朝鮮問題では、日本は「圧力、圧力」と喧伝してきたが、中朝首脳会談、南北首脳会談、米朝首脳会談と、世界はあっという間に「対話モード」に展開し、日本の姿は見えなくなった。 中国は米韓には事前に金正恩委員長の北京訪問を伝え、事後にもブリーフを行っているが、日本には中国からの連絡はなかったようだ。
・米国が「国家安全保障の見地」から打ち出した鉄鋼・アルミの高率関税実施でも、同盟国の多くは時を経ず対象から外れる結果となったが、日本は対象とされたままだ。 その一方で、ロシアとの関係では、英国での元スパイ暗殺未遂事件への関与で欧米諸国が情報関係の外交官の追放措置をとっているのに、日本は措置をとっていない。
・「価値外交」や「法の支配」を主張してきた日本が、欧米に同調することもなく、ひたすら日露関係改善のため、頻繁に首脳・外相会談に走っているように見える。日本外交はダブルスタンダードと見られてもやむを得まい。
・シリア問題でも、米欧とロシアの関係が極めて悪化している中で、日本はG7の対ロ政策協調の輪から離れることになるのだろうか。 日本外交の存在感が見えず“無視”されているかのような状況だが、一方で、日本自身が外交の方向感を見失っているかのようでもある。
▽「主張する外交」で陥る罠  「結果」を作ってこそ外交だ
・こうした「ジャパンパッシング」を生んでいる一つの背景には、日本国内のナショナリズム的傾向と安倍一強体制が外交姿勢にも顕著に現れ出ていることがあるように思う。 それを象徴するかのように与党の外交部会でも激しい主張が官僚にぶつけられる。 「これまで日本は(特に外務省が)主張すべきことを主張しないでひたすら低姿勢で外交に臨んできた、これからは主張する外交を展開する」という意識は、政府与党に強い。
・本来なら、政府は党の強硬な声も参考にしつつ、国際的な流れや相手国の事情など、多元的な情報に基づき、どういう外交をしていけば結果が作れるかという戦略を策定し、外交の総責任者である首相のリーダーシップの下で与党を説得するものだ。 しかし昨今は、包括的な戦略の下で「結果を出す外交」というより、強い主張をすることが外交であるかのようだ。最早、国際協調主義は影を潜める。
・しかし外交には相手がある訳で、日本だけが主張しても、主張が通らないと意味がない。主張を通すためには綿密な戦略と地道な外交努力が必要なのだ。 例えば韓国との慰安婦問題で日本は「韓国が合意を守らないのはおかしい」という主張をする。これは当然だと思うが、その一方で主張を実現する戦略はあるのか。 ソウルに駐在する日本大使や釜山に駐在する総領事を帰国させたのは日本の主張を行動で表す措置と見られたが、その結果、慰安婦像が撤去されることにはならなかった。 なぜ大使を長期に帰国させたのか、という説明も十分になく、また、その後、帰任させた際も同じだった。
・相手が悪いという主張をすることは楽ではあるが、結果を作ることを期待されているのだから、ほどほどにしないと外交は成り立たない。 ましてや、慰安婦問題は戦前の日本の行動が女性の尊厳を損なったという面は否めない。大使帰任という方法で韓国側の日韓合意に対する「約束違反」を訴えようとしても、そういったやり方だけでは国際世論を味方にするのは難しい。
・むしろ静かな外交こそが必要だ。 これまでは日本の外交は、目に見える部分での日本としての主張は行っても、水面下では、結果を作るための作業が進められてきた。 今日でもそういう作業が行われていると信じたいが、どうなのだろうか。
▽対北朝鮮外交は「P3C」で戦略的な行動を
・対北朝鮮外交でもそのことが最も問われている。 北朝鮮に対する外交を考えるにあたっては、内外で主張する前に、まずは達成すべき目標を明確にすることが必要だ。 北朝鮮外交の目的は、核・ミサイル・拉致といった問題を包括的かつ平和的解決に持ち込むことだ。核だけ、拉致だけ、ではない。軍事衝突は避けなければならない。
・そのための戦略はこのコラムでも一貫して論じてきた。 つまり中国を巻き込んだ圧力を加え続けることは真に正しい政策だが、同時にやらなければならないことがある。 P3C、即ち圧力(Pressure)は米韓中日の四ヵ国の連携(Coordination)、万が一の事態に備えた危機管理計画(Contingency Planning)、北朝鮮との連絡チャネル(Communication Channel)と共に進めなければならない。
・北朝鮮の非核化はいずれにせよ長いプロセスであり、その間はP3Cが引き続き重要だ。 南北や米朝が動きだした途端、日朝首脳会談もやるべし、という議論もあるようだが、それは「結果を作る外交」ではない。  十分な準備をせずに首脳会談を行うというのは、取り残された見かけを変えようという議論に過ぎない。
・拉致問題の重要性を叫ぶだけでは問題解決に至らないし、もう少し戦略的な行動が必要だ。まず、早急に米国、韓国、中国、日本の連携体制を作る努力をするべきではないのか。 その上で、米朝首脳会談が外交的解決の展望を開くことができたなら、具体的細目については、韓国、北朝鮮、米国、中国、ロシアに日本が加わった「6者協議」で行うという方向を固めるべきだ。ここでも蚊帳の外に置かれるわけにはいかない。
・2002年の小泉訪朝に至る日朝交渉の中では、北朝鮮に根回しをして6者協議を実現させた。 1994年の北朝鮮核危機の際に米朝二国間の交渉で「枠組み合意」が結ばれ、その結果、日本にも負担を求められた経緯や、その後も南北に中国、米国の4者協議で進められた苦い経験があったからだ。 このことが忘れられてはならない。
▽中国には「牽制」と「関与」のバランスを 政治指導者がビジョンを語れ
・日中関係はようやく改善の方向性が見えてきているが、日中関係が一気に改善に向かわないのは、両国がお互いに根深い猜疑心を抱いているからだ。 対中関係は、ある意味で、日本が北朝鮮に対して圧力が必要だというキャンペーンを張ってきたのと似通っている。日本政府は中国の台頭、脅威に備えたヘッジング(牽制)の重要性を訴え、論を張ってきた。
・だがこのことは、諸外国には、日本が掲げるインド太平洋戦略が中国に対する対立軸を作ろうとしていると見られている。 対中外交の目的は、中国が覇権を求めるような乱暴な行動に出ないよう安全保障面で米国や豪州、インドとともに抑止力を強化するだけではない。日本の未来を考えれば、大きな成長を続ける中国との「ウィン・ウィン関係」が必要だ。
・ヘッジング政策とエンゲージメント(関与)政策のバランスが重要ということだ。 そして両国の猜疑心を払拭していくために、日中関係の抜本的改善は日中双方の利益に資するというビジョンが両国の政治指導者の口から語られなければならない。
▽対露外交は再考すべき 欧米との政策協調が重要
・ロシアとの関係は再考されるべきではないか。 日本がインド太平洋でルールを尊重すべきことを前面に据えた外交を展開しているとすれば、ロシアの暴挙(英における元スパイの暗殺未遂)に対しても、欧米諸国と軌を一にした制裁措置を取るべきだろう。 シリアの化学兵器使用を巡って米国は英仏とともに軍事行動に出たが、ロシアはアサド支援の方針を崩さず、今後、ロシアと米欧の対立は一層、尖鋭化していくだろう。この関係は冷戦時に比較されるほど悪い。
・こういう時期に日本は何事もなかったように、ロシアとの関係緊密化のため首脳会談を続けていくのだろうか。 北方領土問題で大きなブレークスルーがあるのなら、そういう考え方はあるかもしれないが、どうもそういうことではなさそうだ。
・いまの国際関係のもとで、日本の対露外交の目的は何なのだろうか。 欧米と異なる路線をとることも必要な場合もあるが、少なくとも政府は、どういう目的で対ロ外交を進めて行こうとしているのか、国民に説得力のある説明をしていく必要がある。
▽国家間の信頼関係を作らないと「結果を作る外交」は難しい
・外交というのは、結果を作るためには目的を設定し、よく練られた戦略に基づく交渉が必要だ。そして同時に相手国との信頼関係がなければ、結果を作ることは容易ではなくなることも事実だ。 この信頼関係は一朝一夕にできるはずもない。そういう意味で安倍首相とトランプ大統領の間で築かれた個人的関係が他の諸国の首脳の関係とは異なり極めて良いとされるのは好ましいことだ。
・しかしこの個人的信頼関係の故に、米国が日本に対して特別な便宜を与えるといった甘い期待を持つべきではない。 日本がいずれ、鉄鋼・アルミ製品への高率関税賦課の例外となる可能性は高いとは思うが、それはそうすることが米国の利益に適うというトランプ大統領の取引的判断に基づくのだろう。
・国と国との信頼関係は相手国が価値や原則に従った行動をとるという前提が基本にあり、そういう意味で「取引」を重視するトランプ政権の米国に信頼を寄せる国は極めて少ない。 日本が米国との関係で重視するべきは安倍・トランプの信頼関係を活用し、原理原則に従った行動の重要性を米国に説くことではないか。
・日本が自己の主張は声高にするが、相手国と信頼がなく、結果を作る算段のない外交を続けていくとすれば、孤立の道をたどることになるのだろう。 孤立自体を恐れる必要はないが、孤立は日本の国益を損なう状況に繋がっていきやすい。
・特に北朝鮮問題については日本の国益を見据えて現実的な外交を展開しないと、蚊帳の外に置かれ、主張も空しく響く事態になってしまう。
http://diamond.jp/articles/-/167603

第四に、元レバノン大使の天木直人氏が4月29日付けで同氏のブログに掲載した「いくら連休外遊といっても今度の安倍中東訪問はひどい」を紹介しよう。
・連休は政治家たちの物見遊山外遊と相場が決まっている。 しかし今度の安倍首相の中東訪問はあまりにもひどい。 今朝5時のNHKニュースが流した。 安倍首相はきょうから5月3日まで中東を訪問すると。  その訪問先はアラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダン、パレスチナ、イスラエルだという。
・支離滅裂な訪問先だ。 UAEやヨルダンならまだわかる。 日本の首相が今訪問する緊急必要性のない友好国だ。 息抜きにはもってこいだ。 野党の追及からしばし逃げますと言っているようなものだ。
・ところがイスラエルとパレスチナが入っている。 その訪問目的をNHKはこう報じていた。 トランプ大統領がイスラエルの首都をエルサレムに移転すると宣言した後に、主要国の首脳で初めて安倍首相がイスラエルを訪れることになると。 これではアラブに喧嘩を売るためにイスラエルを訪問すると言っているようなものだ。
・イスラエルとパレスチナの和平のために日本が橋渡しを行うと。 ここまでくればもう冗談だ。 いまガザで何が行われているというのか。 3月末から5週連続で、パレスチナの若者の抵抗とそれを弾圧するイスラエルとの暴力の連鎖が続き、死傷者が絶えない状況下にある。
・そんな時に、安倍首相に何が出来るというのか。 今度の安倍首相の中東訪問は、これまでの安倍首相の地球儀俯瞰外交の中でも、最も無意味なものだ。 無意味だけならまだ税金の無駄遣いで済むが、今度のイスラエル・パレスチナ訪問は、これまで築き上げた日本の中東外交を貶める有害な訪問である。 そんな外遊を早朝のトップニュースに持ってきたNHKはメディア失格である(了)
http://kenpo9.com/archives/3645

第一の記事で、 『2019年度予算編成段階で「ジャパン・ハウスのハコを作ったのだから、あとは民間の力を借りて運営するように」と言い渡されたという』、とあるが、運営の原則も初めから決まっていて、それを明確化しただけなのではなかろうか。ただ、官邸主導の行き過ぎの典型例であることは明らかだ。 『ワシントンには広報文化センター、ニューヨーク、ロサンゼルスには、それぞれ日本文化センター』、との役割分担もはっきりしないまま、「ハコモノ」を取り敢えず作ったとは、何たる無駄遣いか。 『韓国のロビー活動に押されっぱなしの日本の対米発信のお粗末な実態は、これまでもたびたび指摘されてきたことだ。ジャパン・ハウスに期待されたのは、そうした過去のお粗末の払拭だったはずなのだが』、というのも、日本の対米発信のお粗末な実態の原因究明をせずに、「ハコモノ」を作ればなんとかなるとの発想の貧しさには、空いた口が塞がらない。
第二の記事で、 『4月中旬以降の連続首脳外交で、「あがけばあがくほど奈落の底に引きずりこまれる『森友政局』という蟻地獄」(自民長老)からの脱出を狙う安倍戦略が奏功するかどうかが、「夏以降の安倍政権の命運を決める」(自民幹部)ことになるのは間違いない』、がこれまでの訪米、中東訪問では成果は出てないようだ、
第三の記事で、 『昨今は、包括的な戦略の下で「結果を出す外交」というより、強い主張をすることが外交であるかのようだ。最早、国際協調主義は影を潜める。 しかし外交には相手がある訳で、日本だけが主張しても、主張が通らないと意味がない。主張を通すためには綿密な戦略と地道な外交努力が必要なのだ』、というのは、困った風潮だ。 『日本が自己の主張は声高にするが、相手国と信頼がなく、結果を作る算段のない外交を続けていくとすれば、孤立の道をたどることになるのだろう。 孤立自体を恐れる必要はないが、孤立は日本の国益を損なう状況に繋がっていきやすい』、というのはその通りだ。
第四の記事で、中東訪問について、 『アラブに喧嘩を売るためにイスラエルを訪問すると言っているようなものだ・・・イスラエルとパレスチナの和平のために日本が橋渡しを行うと。 ここまでくればもう冗談だ』、というのは的確な批判だ。
タグ:電通に委託企業が決定 現代ビジネス 泉 宏 の"ハコモノ行政"の典型 金委員長の訪中が米韓両国には事前に伝わっていたのに、日本にとっては「寝耳に水」 いまだに、韓国のロビー活動に押されっぱなしの日本の対米発信のお粗末な実態は、これまでもたびたび指摘されてきたことだ。ジャパン・ハウスに期待されたのは、そうした過去のお粗末の払拭だったはずなのだが 原野 城治 サンパウロ、ロンドン、ロサンゼルスの3カ所に設置される展示館 戦略的対外発信の強化のため「オールジャパン」の対外発信拠点 あがけばあがくほど政権危機は強まる ジャパン・ハウス 初年度で約52億円の施設関連経費(施行は複数年)が計上 田中 均 中国には「牽制」と「関与」のバランスを 主張する外交」で陥る罠  「結果」を作ってこそ外交だ 「価値外交」や「法の支配」を主張してきた日本が、欧米に同調することもなく、ひたすら日露関係改善のため、頻繁に首脳・外相会談に走っているように見える。日本外交はダブルスタンダードと見られてもやむを得まい 国家間の信頼関係を作らないと「結果を作る外交」は難しい 「「主張する日本外交」が陥る“ジャパンパッシング”という罠」 「いくら連休外遊といっても今度の安倍中東訪問はひどい」 (その4)(安倍政権「歴史外交」の目玉事業がこっそり投げ出された理由 ジャパン・ハウスはもう予算削減だって、安倍首相 「外交で挽回」とは考えが甘すぎる」、「主張する日本外交」が陥る“ジャパンパッシング”という罠、いくら連休外遊といっても今度の安倍中東訪問はひどい) プーチン大統領との日ロ首脳会談も一筋縄ではいきそうもない 天木直人 今度のイスラエル・パレスチナ訪問は、これまで築き上げた日本の中東外交を貶める有害な訪問 安倍外交 4月中旬以降、「国会対応は他人事」といわんばかりの過密な首脳外交日程を設定しつつある 外交での成果で急落した支持率を回復させようとの思惑はミエミエ 東洋経済オンライン 訪問先はアラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダン、パレスチナ、イスラエル これではアラブに喧嘩を売るためにイスラエルを訪問すると言っているようなものだ 「安倍政権「歴史外交」の目玉事業がこっそり投げ出された理由 ジャパン・ハウスはもう予算削減だって」 ・イスラエルとパレスチナの和平のために日本が橋渡しを行うと。 ここまでくればもう冗談だ 「安倍首相、「外交で挽回」とは考えが甘すぎる 「日米」、「日ロ」首脳会談に「日朝」も狙うが」 ダイヤモンド・オンライン ワシントンには広報文化センター、ニューヨーク、ロサンゼルスには、それぞれ日本文化センターがある
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三菱重工はどうしたのか?(その6)(三菱重工との合弁会社に日立が「改革派急先鋒」を送り込む真意、三菱重工の宮永改革 火力発電と造船の2事業で生じた大誤算、MRJは“安定飛行”に進めるか) [企業経営]

三菱重工はどうしたのか?については、昨年3月4日に取上げたままになっていた。今日は、(その6)(三菱重工との合弁会社に日立が「改革派急先鋒」を送り込む真意、三菱重工の宮永改革 火力発電と造船の2事業で生じた大誤算、MRJは“安定飛行”に進めるか)である。

先ずは、3月19日付けダイヤモンド・オンライン「三菱重工との合弁会社に日立が「改革派急先鋒」を送り込む真意」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日立製作所の4月1日付役員人事が波紋を呼んでいる。その人事とは副社長の西野壽一氏を三菱重工業との火力発電機器合弁会社、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)会長として送り込むというものだ。 
・火力発電機器業界は世界的な再生可能エネルギーへのシフトで逆風下にあり、最大手の米GEは1万2000人、2位の独シーメンスは6900人を削減する。 MHPSの業績も振るわない。2014年の設立時は世界一の火力発電機器メーカーになることと、20年の売上高2兆円を目指したが、現状の売上高は約1兆円だ。
・そんな中、MHPSは国内4カ所の工場の役割を見直し、効率化を図るが、日立には、「元三菱重工の長崎工場はなくせる」(日立中堅幹部)との声が根強くある。 MHPS株式の35%を出資する日立は「MHPSをどう立て直すか三菱重工に問い続けているが満足のいく回答はない」(日立幹部)。 日立の不満は拠点集約にとどまらない。GEは、顧客である発電事業者にガスタービンの保守や発電を効率化するサービスを提供して囲い込むが、MHPSはこの分野で出遅れている。
・その上、日立には電力需要を予測して発電を効率化する技術で実績があるのに、三菱重工はあくまで自社主導にこだわり、日立とは別のサービスをMHPSで始めた。 IoT(モノのインターネット)を成長の柱にする日立にとって、データ解析による合理化で成果を出しやすい発電分野で実績を作る機会を失うのは大きな損失だ。
・このように課題が山積する中で日立が白羽の矢を立てたのが、ソフトな外見とは裏腹に「仕事には厳しく、怖い」と評判の西野氏だ。 半導体の技術者である西野氏は、三菱電機と半導体事業を統合してできたルネサステクノロジ(現ルネサスエレクトロニクス)の役員として人員削減や生産拠点のスリム化を断行。NECの半導体子会社との統合でも各社の技術を整理する難交渉をまとめた。
▽重工・宮永社長と朋友関係
・4月からはMHPS会長に加え、電力事業出身者で占められてきた日立の電力部門トップ(=電力担当副社長)に初めて部門外から就任する。「20年の発送電分離で激変する業界に対応しろという東原敏昭社長のメッセージが込められた人事だ」(日立幹部)という。
・三菱重工関係者は改革派の西野氏に戦々恐々としているが、恐怖をさらに増幅するのが三菱重工の改革派、宮永俊一社長と西野氏が気脈を通じていることだ。 日立と三菱重工の統合が11年に破談になった後、「やれる分野で進めよう」と当時の社長室長の宮永氏と戦略企画本部長だった西野氏が交渉を重ね、誕生したのがMHPSだ。もとよりMHPSの安藤健司社長は剛腕で知られる。西野氏が会長になれば抜本改革の役者がそろう。
http://diamond.jp/articles/-/163857

次に、3月27日付けダイヤモンド・オンライン「三菱重工の宮永改革、火力発電と造船の2事業で生じた大誤算」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・三菱重工業が直面する三大問題──火力発電事業の不振、商船事業の巨額損失、三菱リージョナルジェット(MRJ)の開発遅延──。連載第4回では、火力発電事業と造船事業で生じた誤算の本質に迫る。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)
・三菱重工業が、最大の盟友であるはずの日立製作所と想定外の熾烈なけんかを繰り広げている。 三菱重工と日立は2014年、火力発電事業を統合し、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)を設立した。 両社の火力発電事業は言わずと知れたライバル同士だった。が、世界を舞台に米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスという“巨人”と戦わねばならない時代である。国内で火花を散らしている場合ではないと、三菱重工と日立の経営陣が「昨日の敵」とタッグを組む大決断をした。
・そんな盟友のけんかの原因は、07~08年に日立側が総額約5700億円で受注し、MHPSが引き継いだ南アフリカ共和国の火力発電用ボイラー建設プロジェクトだ。この損失の負担割合をめぐり、どうにも折り合いがつかない。 それもそのはずだ。確定済みの損失額だけで約3800億円にも上るのだ。当初、三菱重工はこの3800億円を日立に求めたものの、「法的根拠に欠ける」と日立は拒否。しかし三菱重工は請求権の一部を資産計上しており、決算短信に状況をしれっと記載した。
・事態が明るみに出て日立幹部は慌てふためいたというが、3800億円でも譲歩したつもりの三菱重工は攻撃の手を緩めなかった。続けて「統合時の契約書にある損失の算出方式通りにはじいた」(三菱重工関係者)約7600億円をあらためて請求し、今は第三者機関に仲裁を委ねている状態だ。
・両社共に公式には、「こういうことになっても2社の関係に亀裂は入っていないし、MHPSにも何ら影響はない」と取り繕う。 とはいえ、思いの外“夫婦げんか”はこじれている。「三菱重工全体の業績が思わしくないから仕方がないけど、もうちょっと穏やかにできなかったものか」(日立役員)といった具合に、両社の不信感はくすぶり続けている。
・それだけではない。三菱重工は、主力の火力発電事業をめぐって、より重大な「想定外」に直面している。世界的な再生可能エネルギーの台頭により、火力発電市場に大逆風が吹き荒れているのだ。 事ここに至っては、仏アルストムのエネルギー事業をGEに買い負けたことは不幸中の幸いだった。半面、宮永俊一・三菱重工社長自身が「大きな誤算の一つ」と認めるように、順風満帆と踏んでいたMHPSの業績が振るわない。火力発電事業のビハインドが響き、「17年度に連結売上高5兆円」の目標は約1兆円も下回りそうだ。
・むろん、MHPSの設立にメリットはあった。国内の石炭火力発電設備では、強力な両社が統合したことで市場を席巻。東日本大震災後に原子力発電所の稼働が停止して需要が伸びたこともあり、受注が拡大した。  ガスタービンでも、大型が得意な三菱重工と、中小型が得意な日立が組んだことで製品のラインアップが拡充された。その上、三菱重工の持つ技術的ノウハウを日立の中小型のガスタービンに転用したり、技術・性能志向の強かった三菱重工の工場に、日立のコスト削減ノウハウを導入したりと、互いのノウハウが共有された。
・しかしGE、シーメンスはMHPS以上に強かった。特にGEは、売れ残りのリスクに敏感なMHPSより部品の計画生産比率が高いため、生産効率が良く、納入までのリードタイムも短い。 市況が急激に冷え込んだ最近でも、「GEは在庫処分のようにすさまじい安値攻勢を掛けて受注を取っていった」(火力発電業界幹部)。 「生き延びていくためには背に腹は代えられない。社員全員がコストダウンの重要性をひしひしと感じるようになった」(安藤健司・MHPS社長)
・実際に、市場縮小と競争激化が相まって、MHPSのガスタービンの受注台数は極端に減少。大型ガスタービンでは世界シェアまで落ち込んでいる(下図参照)。 足元はまだいい。例えば、石炭火力発電設備の過去の受注分を製造するだけで、長崎工場や呉工場は大忙しだからだ。だが、受注が取れなければ工場の稼働率はいずれ下がり、尻すぼみは必至だ。
・発電設備では、「故障する前にメンテナンスする」といった稼働率を最大化するためのアフターサービス需要が増している。発電機器メーカーは、安定的な収益をもたらすこうした需要をこぞって取り込もうとしているが、これとて受注あってこそという面が強い。
・切羽詰まったコスト削減のかいあって、「コスト構造の改革は道半ばだが、2月にタイで大規模な案件を取るなど、ようやく受注ができるようになってきた」と語る安藤社長。しかし巨人はどんどん先手を打ってくる。 例を挙げれば、GEとシーメンスは今後の火力発電市場の需給環境を鑑み、それぞれ1万2000人、6900人の人員削減を発表、“ドラスチックなコスト削減”に着手しようとしている。対するMHPSは、この3月にやっと工場ごとの製造製品の集約が完了するところだ(下図参照)。
・安藤社長は「今後も拠点の統廃合や、人員の再配置などを着々と進めていく方針だ」とさらなるてこ入れの必要性を否定しない。とはいえ、長崎工場のある長崎県長崎市は三菱重工発祥の地、日立工場のある茨城県日立市は日立発祥の地である。もし、こうしたしがらみに過度に縛られ、スピーディーに動けないとすれば、主力である火力発電事業にはさらなる「想定外」の未来が待ち受けている。
▽嵐の前の静けさか 再浮上する造船再編
・一方、やはり“三大問題”の一角を占める商船事業はどうか。一時は大型客船の工事大混乱で累計2719億円もの巨額損失を計上したが、今では落ち着きを取り戻し、新たなステージに踏み出したかのように見える。 三菱重工本体と子会社2社にまたがっていた商船機能を整理し、1月に新たに設立した三菱造船と三菱重工海洋鉄構の2社に集約。商船事業を成長させるための“骨格”がいよいよ完成したのだ。
・「優先したのは、何に将来価値を生む強みがあるのか」(大倉浩治・三菱造船社長)。自身の得手不得手を客観的に評価することで、新会社では事業内容を取捨選択した。 三菱造船ではフェリー、中小型客船などの設計・建造や液化天然ガス(LNG)船などの設計を、三菱重工海洋鉄構ではLNG船の建造や防波堤といった大型海洋鉄構構造物の建造などを行う。
・ただし、ノウハウは絞り出して使い切る。ばら積み貨物船などの汎用的な船は、もはや建造では勝てないものの設計力は生かす考え。建造効率を極める今治造船といった専業会社と提携を進めるのは、その戦略の一環だ(下図参照)。
・新会社2社の合計売上高は現在約1000億円。三菱重工は20~21年にこれを1500億円まで積み上げる方針を表明する。「商船事業は、他社との統合に動くと思いますよ」。ある三菱重工幹部がささやくように、競合との再編も拡大のための選択肢の一つだろう。
・折しも、国内では再編機運が高まりつつある。川崎重工業は、JR西日本に納めた新幹線の台車に亀裂が入るという前代未聞の大問題に直面中。損害賠償を請求されるなど問題が深刻化すれば、3期連続で営業赤字に落ち込む見込みの船舶海洋事業の“切り出し”も考えられる。
・重工系で最大規模のジャパン マリンユナイテッド(JMU)は、前身のユニバーサル造船時代から約10年間トップに就いていた再編論者の三島愼次郎社長が3月末に退任する。だからこそ、「冷静に提携話を進めやすくなるという競合もいるだろう」(JMU関係者)。 「世界で勝つという前提に立ち、目指すべきゴールを共有できる相手がいるなら、強者連合もあり得る」(大倉社長)。「世界の三菱造船」を目指すという大倉社長の考え方は、MHPSの設立を決めたときの宮永社長のそれと通じている。
http://diamond.jp/articles/-/164866

第三に、4月3日付けダイヤモンド・オンライン「MRJは“安定飛行”に進めるか、激変中の世界の競争環境を読む」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・三菱重工業が直面する、最大にして最難関の課題。それが、すでに5000億円という巨額の開発費を投じるMRJの“安定飛行”だ。連載最終回では、MRJ事業の収益化への道に横たわる難題について追う。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)
・三菱重工業グループ戦略推進室戦略企画部──。この、宮永俊一・三菱重工社長の改革を円滑に遂行させるための究極のリスクヘッジ部隊が、昨年12月を境ににわかに騒がしくなっている。 航空機メーカー界の二大巨頭の一つである米ボーイングと、リージョナルジェット大手のブラジル・エンブラエルとの提携交渉が明らかになったからだ。エンブラエルは、三菱重工傘下の三菱航空機が開発する国産初のジェット旅客機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の最大のライバル機を開発している。
・両社の提携次第では、MRJ事業の収益化への道筋が変わる。それだけに、戦略企画部は目下のところ、持てる情報と知恵をフル活用し、MRJ事業の今後の在り方について議論しているところだ。
・三菱重工の技術力を生かし、自社、ひいては日本の収益の柱になる事業を確立する──。MRJの開発は、こうした壮大な夢を乗せて2008年にスタートした。だがスケジュールは遅れに遅れ、MRJの初号機納入の時期は当初の目標から実に5度、7年も後ろにずれ込んでいる(下図参照)。
・宮永社長が「際立って難しい製品であることは間違いない」と言うように、民間機のゼロからの開発が一筋縄ではいかないことは紛れもない事実である。部品点数だけでも、MRJのそれは一般的な自動車の約30倍にも上るのだ。 しかし、理由はそればかりではない。MRJ事業には、三菱重工が直面している構造的な課題が凝縮されている。まず、過去の実績への過信と、グローバルで有利に戦うための交渉力不足があった。大損失を計上した大型客船を受注したときと同じである。 同様に、性能が高く技術的に優れているものを造ることは得意でも、安全性や製品へのニーズを追求する過程で起こる諸問題や設計変更への対処が不得手だった。
・要は、プロジェクトマネジメント能力の欠如だ。機体を市場投入する際に必須の「型式証明」と呼ばれる“安全性に関するお墨付き”の取得にてこずってきたというのが、それを如実に表している。 現場でさみだれ式に発生する課題について、何から、どう手を付けるべきかなかなか判断を下せない。しかも、その現実を打破するためのてこ入れ策が甘いから、開発はどんどん遅れていく……。
・この状況を前に宮永社長の堪忍袋の緒が切れたのが16年11月のことだった。MRJを自身の直轄事業とする荒療治に着手したのだ。 これを機に人員体制の抜本改革を断行。日本人社員に任せていてはいつまでたっても型式証明は取得できないと、外国人のエキスパートを大量採用し、要職に就けて開発を進める方向にかじを切った。 「何をすべきか分かっている外国人と直接やりとりできるようになったから、話が速く進むようになった」。型式証明の発行元となる国土交通省航空局のある関係者も、ほっと胸をなで下ろす。
・事業開始から8年半。宮永社長主導でようやく課題の抽出や、それを解決する適切なプロジェクトチームの設置が可能となり、三菱航空機の組織が回り始めたわけだ。
▽競合の提携交渉は有害か無害か
・宮永社長が気長に日本人社員のレベルアップを待っていられなかったのも無理はない。開発遅延により失った三菱重工の信用を取り戻すのは容易ではない。 開発費が5000億円に膨れ上がっている上に、MRJ最大の売りだったはずの「燃費性能の高さ」もかすんでしまった。MRJと同じ最新鋭のエンジンを搭載するエンブラエルのライバル機の投入時期が、MRJの投入時期の約1年後に迫ってしまったのだ。
・さらに深刻なのは、気付けば世界の競争環境が激変しようとしていることだ。それが前述したボーイングとエンブラエルの提携交渉である(下図参照)。 現在、両社は民間機部門のみの共同出資会社の設立などを検討しているもようだが、両社の交渉スタートにはトリガーがあった。昨年10月にボーイングの永遠のライバルである欧州エアバスと、エンブラエルに並ぶリージョナルジェット大手のカナダ・ボンバルディアの接近が決定的となったことだ。
・これが座席数100席未満のリージョナルジェットをめぐる蜜月なら、ボーイングも黙視したかもしれない。だが実際には、エアバスはボーイングの製品ラインアップと重複するボンバルディアの新型小型機「Cシリーズ」の事業会社への資本参加を決めた。 この出資により「座席数100席超の品ぞろえを拡充できるエアバスに対抗し、ボーイングはエンブラエルとの提携に動いている」(水谷久和・三菱航空機社長)。これが三菱重工側の見立てだ。つまり、機体単価も客筋も違う座席数100席未満のMRJへの影響は考えにくいのだという。
・しかし、この言葉を額面通りに受け取るわけにはいかない。三菱重工社内にも三菱航空機社内にも、「MRJの早期収益化のためには、将来的にはより大型の機体(座席数100席超)の開発を目指す必要がある」(三菱重工関係者)という共通認識が根強くあるからだ。 そして100席超への参入の最短ルートこそボーイングとの提携締結なのだ。ボーイング向けの開発・製造を請け負うOEMメーカーとして成長戦略を描けるからだ。
・ある航空業界関係者によれば、「エンブラエルの飛行機は設計が古いが、MRJの設計は最新だから、ボーイングは共同開発するなら三菱航空機と組んだ方が技術的には得なはずだ」という。 ならばMRJを引っ提げてボーイングに横恋慕すればいいはずだが、ここで立ちはだかるのが開発遅れだ。「ボーイングにアピールしようにも、型式証明も取れていない『幻の飛行機』では交渉のテーブルにすら着きようがない」(三菱重工幹部)。 この最悪の乱気流をどう乗り切るか。いまや航空機産業を所管する経済産業省をも巻き込み、せっせと対応策が練られている。
▽一縷の望みはスコープクローズ
・むろん、新興国での需要増加を見据えれば、ボーイングとエンブラエルとの提携範囲がリージョナルジェットにまで及ぶ恐れも捨て切れない。そうなれば、将来のボーイングとの提携可能性が低くなるだけではなく、MRJのビジネス自体が劣勢に立たされてしまう。
・ただ、両社の提携範囲が限定的なものにとどまれば、MRJが勝利する余地はある。MRJとそのライバル機であるエンブラエルの「E175-E2」には、どちらも一長一短があるからだ。 MRJは前述の通り、搭載エンジンの相対的なメリットが薄れてもなお、燃費性能に優位性がある。対するE175-E2は、古い設計の機体にエンジンだけ最新鋭のものを搭載しているにすぎない半面、エンブラエル自体にリージョナルジェットの量産実績があり、絶大な安心感がある。
・一縷の望みがあるとすれば「スコープクローズ」。米国における大手航空会社とパイロット組合の労使協定に盛り込まれた条項だ。 リージョナルジェットを運航する航空会社は、大手航空会社から受託運航することも多い。そのためリージョナルジェットには大手航空会社のパイロットの職を奪わぬよう座席数や重量に制限が設けられているのだが、この緩和が遅れている。このままだと、90席クラスの「MRJ90」とE175-E2は米国での運航が難しくなる。
・幸いなことに、三菱航空機は70席クラスの「MRJ70」も開発中だ。これに対抗する機体の開発予定がないエンブラエルはすでに、「重量オーバーのまま座席数だけ減らして折り合いをつける方向で、パイロット組合と交渉を始めている」(別の三菱重工幹部)というものの、交渉が決裂した場合はMRJが一気に優勢となる。
▽総合商社かトヨタか 資本増強の有力候補
・MRJがエンブラエルよりも優位に立てるかどうか。MRJの競争力の有無は、三菱航空機の資本政策にも影響する。開発費がかさむ三菱航空機は17年3月期時点で510億円の債務超過に陥っており、資金の手当てが不可欠なのだ。
・型式証明を取得できたところで、MRJにはまだまだ金が掛かる。カスタマーサポート体制を確立する必要もあれば、新型機に付きもののトラブルにも対応していかなければならない。「事によると数千億円必要。さすがに全てのリスクを三菱重工一社で負うことはできない」(前出の三菱重工幹部)。
・三菱航空機の株主の中では、三菱商事などの商社はMRJが優勢ならば一枚かんでおこうと色気を出す公算が大きい。 未来を見据えれば、トヨタ自動車による増資もあり得る。「空飛ぶタクシーじゃないですが、陸と空のモビリティーは今後大きく変わると思いますから。そのときがチャンスだと思っているんですよ」。宮永社長がこう語るように、MRJの開発ノウハウは未来のモビリティー開発に役立ち得るのだ。
・MRJは、三菱重工が今後の成長戦略を描けるかどうかの試金石となる事業だ。MRJが難局を乗り切り、安定的な収益源となるためには、三つの力の合わせ技が求められる。多段階にわたるサプライヤーをまとめ上げる統率力。大規模プロジェクトを工程ごとに管理するマネジメント能力。そして、世界のトップ企業や政府・当局と渡り合える交渉力である。
・これらは三菱重工の大問題である火力発電事業や商船事業はもちろん、その他の全事業のグローバル競争力をも決める。世界で戦い抜けるよう、組織を抜本的に改革する。宮永社長による改革の最終目標は道半ばだ。三つの力を磨き、内弁慶体質を返上できるか。宮永社長の最後の戦いが始まった。
http://diamond.jp/articles/-/165732

第一の記事で、 『三菱重工関係者は改革派の西野氏に戦々恐々としているが、恐怖をさらに増幅するのが三菱重工の改革派、宮永俊一社長と西野氏が気脈を通じていることだ。 日立と三菱重工の統合が11年に破談になった後、「やれる分野で進めよう」と当時の社長室長の宮永氏と戦略企画本部長だった西野氏が交渉を重ね、誕生したのがMHPSだ』、というのでは、三菱重工関係者が戦々恐々とするのも無理からぬところだ。
第二の記事では、MHPSを巡る両社の対立の深刻ぶりが仮説されている。 『盟友のけんかの原因は、07~08年に日立側が総額約5700億円で受注し、MHPSが引き継いだ南アフリカ共和国の火力発電用ボイラー建設プロジェクトだ。この損失の負担割合をめぐり、どうにも折り合いがつかない。 それもそのはずだ。確定済みの損失額だけで約3800億円にも上るのだ』、というのでは、宮永俊一社長と西野氏が気脈を通じているだけでは簡単に解決しかねる難問だ。 さらに、 『より重大な「想定外」に直面している。世界的な再生可能エネルギーの台頭により、火力発電市場に大逆風が吹き荒れているのだ』、しかも、リストラでは、長崎工場や日立工場といった両社の発祥の地も対象とせざるを得ないというのも難問だ。
第三の記事で、MRJ開発の遅れを、 『プロジェクトマネジメント能力の欠如だ』、というのはその通りなのだろう。それにしても、「お粗末」としか言いようがない。 ただ、宮永社長の対応策、 『MRJを自身の直轄事業とする荒療治に着手したのだ。 これを機に人員体制の抜本改革を断行。日本人社員に任せていてはいつまでたっても型式証明は取得できないと、外国人のエキスパートを大量採用し、要職に就けて開発を進める方向にかじを切った』、というのは遅きに失した面はあるにせよ、正しい対応だったのだろう。 『MRJは、三菱重工が今後の成長戦略を描けるかどうかの試金石となる事業だ。MRJが難局を乗り切り、安定的な収益源となるためには、三つの力の合わせ技が求められる。多段階にわたるサプライヤーをまとめ上げる統率力。大規模プロジェクトを工程ごとに管理するマネジメント能力。そして、世界のトップ企業や政府・当局と渡り合える交渉力である』、という三つの力はいずれも、「ないものねだり」に近い難問だ。お手並みを拝見していきたい。
タグ:長崎工場のある長崎県長崎市は三菱重工発祥の地、日立工場のある茨城県日立市は日立発祥の地である 宮永社長の堪忍袋の緒が切れたのが16年11月 プロジェクトマネジメント能力の欠如 過去の実績への過信と、グローバルで有利に戦うための交渉力不足 性能が高く技術的に優れているものを造ることは得意でも、安全性や製品へのニーズを追求する過程で起こる諸問題や設計変更への対処が不得手 一縷の望みがあるとすれば「スコープクローズ」。 MRJは、三菱重工が今後の成長戦略を描けるかどうかの試金石となる事業だ。MRJが難局を乗り切り、安定的な収益源となるためには、三つの力の合わせ技が求められる。多段階にわたるサプライヤーをまとめ上げる統率力。大規模プロジェクトを工程ごとに管理するマネジメント能力。そして、世界のトップ企業や政府・当局と渡り合える交渉力である MRJを自身の直轄事業とする荒療治に着手したのだ。 これを機に人員体制の抜本改革を断行。日本人社員に任せていてはいつまでたっても型式証明は取得できないと、外国人のエキスパートを大量採用し、要職に就けて開発を進める方向にかじを切った MRJの初号機納入の時期は当初の目標から実に5度、7年も後ろにずれ込んでいる 「MRJは“安定飛行”に進めるか、激変中の世界の競争環境を読む」 GE、シーメンスはMHPS以上に強かった 世界的な再生可能エネルギーの台頭により、火力発電市場に大逆風が吹き荒れているのだ 確定済みの損失額だけで約3800億円にも上るのだ 盟友のけんかの原因は、07~08年に日立側が総額約5700億円で受注し、MHPSが引き継いだ南アフリカ共和国の火力発電用ボイラー建設プロジェクトだ。この損失の負担割合をめぐり、どうにも折り合いがつかない 商船事業の巨額損失 MRJ)の開発遅延 火力発電事業の不振 三大問題 「三菱重工の宮永改革、火力発電と造船の2事業で生じた大誤算」 日立と三菱重工の統合が11年に破談になった後、「やれる分野で進めよう」と当時の社長室長の宮永氏と戦略企画本部長だった西野氏が交渉を重ね、誕生したのがMHPSだ 重工・宮永社長と朋友関係 三菱日立パワーシステムズ(MHPS)会長として送り込む 副社長の西野壽一氏 「三菱重工との合弁会社に日立が「改革派急先鋒」を送り込む真意」 ダイヤモンド・オンライン (その6)(三菱重工との合弁会社に日立が「改革派急先鋒」を送り込む真意、三菱重工の宮永改革 火力発電と造船の2事業で生じた大誤算、MRJは“安定飛行”に進めるか) 三菱重工はどうしたのか?
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トランプと日米関係(その3)(「魚は頭から腐る」日米のいびつな蜜月関係 世界を脅かす「トランプリスク」と「安倍リスク」、アメリカが経済面では日本を「同盟国」とは見ていない現実を直視せよ) [外交]

トランプと日米関係については、昨年11月11日に取上げた。今日は、(その3)(「魚は頭から腐る」日米のいびつな蜜月関係 世界を脅かす「トランプリスク」と「安倍リスク」、アメリカが経済面では日本を「同盟国」とは見ていない現実を直視せよ)である。なお、前回までタイトルにあった「訪日」は外した。

先ずは、元日経新聞論説主幹の岡部 直明氏が4月24日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「「魚は頭から腐る」日米のいびつな蜜月関係 世界を脅かす「トランプリスク」と「安倍リスク」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米国フロリダでの日米首脳会談で、浮き彫りになったのは、「トランプ・リスク」と「安倍リスク」によるいびつな日米関係だった。米国第一主義によるトランプ米大統領の暴走は、世界経済を保護主義に巻き込む危険がある。 ロシア疑惑のなかで米中間選挙を迎えるトランプ大統領は一層、排外主義、保護主義に傾斜するだろう。同盟国首脳として、安倍首相は大統領に反保護主義を直言すべき立場なのに、蜜月を保つことばかり優先した。それは危機を容認しているようなものだ。足元では、「安倍一強政治」とリフレ政策の弊害が鮮明になっている。「魚は頭から腐る」という。日米政治の混迷は世界リスクになっている。
▽外交をディールとみるリスク
・トランプ大統領は外交にもビジネスマンの手法を取るとよく言われる。しかし、それは正確ではない。本物のビジネスマンなら長期的視点を重視するはずだ。トランプ流の外交は目先のディール(取引)である。成果を求めてはったりを利かす手法は、外交の常道から大きく外れている。自分本位な言動は長期的な国際関係を損なうことになる。
・米朝首脳会談によって、非核化など北朝鮮危機の打開を目指すのはいいが、成果がないなら会談しないなどというのは、外交の原則から外れる。国務長官に指名しているポンぺオ中央情報局(CIA)長官を「極秘」に訪朝させたが、首脳会談の事前調整がなぜ極秘である必要があるのか。劇的なニクソン訪中を前にしたキッシンジャー秘密外交とはまるで違う。「ポンペオ国務長官」の議会承認が危ぶまれるなかで、ポンペオ氏を売り出そうとする狙いなら、筋違いである。
▽北朝鮮を巡る力学読み違え
・安倍首相は、中朝、南北朝鮮、そして米朝と続く多角的な首脳会談の大展開に、取り残されているようにみえる。予想もしなかった対話の季節が目の前で始まっているのに、ただ「圧力」を繰り返すだけでは戦略性にも柔軟性にも欠ける。核、ミサイルから拉致問題も含め何から何まで、トランプ頼みになっている。 
・安倍政権は北朝鮮を巡る国際政治力学を読み違えてきた。北朝鮮危機の打開は、結局のところ、大国である米中の出方しだいで大きく動く。北朝鮮が相手と想定しているのは米国であり、最も大きな影響を受けるのは中国である。北朝鮮の同胞としての韓国の存在も大きい。一方の米国だけをあてにするのでは著しくバランスに欠ける。安倍政権の中国とのパイプは細すぎる。「中国包囲網」の思考から抜け切らなかったからである。日韓関係もぎくしゃくし続けている。日中、日韓関係の改善に積極的に取り組んで来なかったツケが、北朝鮮問題での出遅れにも表れている。
・日本が朝鮮半島の「非核化」に主体的にかかわろうとすれば、まず自ら唯一の被爆国として、核兵器禁止条約に参加するしかない。そのうえで、米中ロをはじめ核保有国に「核兵器なき世界」に向けて核軍縮を求めるのである。それが北朝鮮の核放棄につなげる道である。
▽中間選挙狙いの保護主義
・トランプ大統領のすべての政策は11月の中間選挙に照準を合わせている。劣勢が予想されるだけに、支持基盤固めに保護主義はエスカレートするばかりだろう。深刻なのは、その排外主義思想が欧州にはびこる極右ポピュリズム(大衆迎合主義)と通じている点だ。
・環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を手始めに、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに着手し、安全保障を理由に鉄鋼、アルミニウムの輸入制限を打ち出した。さらに、知的財産権保護をたてにして、「米中貿易戦争」を仕掛けている。
・最大の経済大国が保護主義の張本人になるのだから、世界に保護主義の連鎖が起きるのは避けられなくなる。とりわけ米中貿易戦争の余波は、欧州連合(EU)やアジア全体を巻き込むのは必至である。 2国間の貿易赤字を「損失」とみるトランプ大統領の考え方は、経済学の原則から外れる誤りであり、相互依存を深めるグローバル経済の現実からかけ離れている。ロス商務長官、ライトハイザーUSTR(通商代表部)代表、ナバロ通商政策局長ら強硬な2国間主義者をそろえたトランプ政権は、時計の針を逆戻りさせようとしている。
▽「ノー」と言えなかった安倍首相
・安倍首相の使命は、そんなトランプ大統領の保護主義にはっきり「ノー」を突きつけることだった。日米経済摩擦の苦い経験を踏まえて、2国間主義の弊害を説き、多国間主義への復帰を求めるべきだった。にもかかわらず2国間協議の新たな枠組みを設けることにしたのは、トランプ政権が求める日米自由貿易協定(FTA)への流れを容認することになりかねない。自動車や牛肉が標的になるのは目にみえている。
・訪米するマクロン仏大統領とメルケル独首相はトランプ流保護主義にそれぞれ「ノン」「ナイン」を突きつける方針である。反保護主義でのEU首脳との連携こそ重要だったはずだ。
・安倍政権の通商政策は、時代の潮流を読む戦略性に欠けている。米抜きのTPP11と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を結合し、アジア太平洋に自由貿易圏を拡大することこそめざすべきだ。そのうえで、米国を呼び込むのである。TPP、RCEPともに参加する日本の出番である。RCEPには中国が加わっており、米中貿易戦争を防ぐことにも役立つはずだ。
・NAFTAの見直しでも口をはさむ必要がある。日本の進出企業への影響が大きいからだ。サプライチェーンなどグローバル経済の相互依存の現実を直視するようトランプ政権に求めることが肝心だ。
▽安倍一強政治の弊害露呈
・トランプ流に迎合する安倍政権は世界リスクの責任を負うが、それだけではない。足元では霞が関が揺れている。財務事務次官のセクハラ問題は論外の不祥事だとしても、財務省では公文書改ざんなど問題が噴出している。しかし、官僚機構にだけ責任を押し付けるべきではない。「安倍一強政治」にこそ問題の根がある。
・忖度(そんたく)は流行語にもなったが、手堅さで生きてきた官僚が公文書の改ざんといった民主主義の土台を崩すような大罪を、政治圧力なしに実行するはずはない。忖度とは責任の所在をあいまいにする言葉である。しかし物事には明白な理由がある。それを忖度の一言で片づける野党やメディアも無責任だ。民主主義の将来のために、安倍一強政治の問題点を徹底的に洗い出す必要がある。
・安倍一強政治を担ってきたのは、「経済産業省内閣」と呼ばれる霞が関の経産省シフトである。首相周辺を固めるのは、経産官僚ばかりである。おかげで霞が関の中心にいたはずの財務省の影をすっかり薄くなった。財務省をめぐる不祥事からは、追い込まれた財務官僚のあせりが見て取れる。
▽「経産省内閣」の成長無策
・問題は、その「経産省内閣」が政策の失敗を繰り返していることだ。アベノミクスはデフレ脱却のため出だしは、それなりに意味はあったが、財政、金融のリフレ政策に傾斜しすぎて、成長戦略がおろそかになった。世界の潮流であるデジタル革命は米国の新興企業が先行し、それを中国、欧州勢が追走する展開だ。日本企業の出遅れは顕著である。人口知能(AI)など先端分野での立ち遅れも深刻だ。成長戦略は起動していない。
・エネルギー戦略でも、世界の主流になりつつある再生可能エネルギー開発の遅れが目立つ。先行する欧州はもちろん、アジア各国に比べても遅れている。いまなお石炭火力に依存するようでは、「環境後進国」のレッテルを張られる。「経産省内閣」の失策は明らかだ。
・日本がいつまでもリフレ政策から出口に動けないのは深刻である。このままでは、日本経済の将来に大きな重荷になるだろう。世界がリーマンショック後の金融緩和からの出口戦略を打ち出しているときに、黒田日銀は超緩和を継続する姿勢を変えようとしない。国債の大量購入による事実上の「財政ファイナンス」を続けている。おかげで、財政規律は緩むばかりである。
・本来、短期目標である基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の黒字化はいつまでたっても達成できず、長期債務残高の国内総生産(GDP)比は2倍を超え、先進国最悪である。それだけで、財務省幹部は責任を問われる。にもかかわらず、だれ一人、リフレ政策の継続に抵抗してこなかった。 日本をおおう財政、金融の「複合リスク」こそ最も深刻な「安倍リスク」といえる。
▽「地球の敵」とは距離を
・「魚は頭から腐る」はロシアのことわざである。世界にはびこる強権政治にその傾向はあるが、最も顕著なのは、日米だろう。その日米がいびつな「蜜月」関係を続けることこそ、世界リスクである。 少なくとも安倍首相は、トランプ大統領との距離を保つことだ。日米首脳会談で貿易をめぐって、きしみが生じたのはむしろ良い機会だろう。反保護主義を改めて鮮明にするとともに、地球温暖化防止のためのパリ協定への復帰を求めることである。「地球の敵」との蜜月は恥ずべきことだ。トランプ大統領の距離をどう保つか、世界はそれを見守っている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/042300061/?P=1

次に、経済ジャーナリストの町田 徹氏が4月24日付け現代ビジネスに寄稿そや「アメリカが経済面では日本を「同盟国」とは見ていない現実を直視せよ そこから、どう生き残るかを探るべき」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・先週の火曜、水曜の両日に開催された安倍首相とトランプ大統領の日米首脳会談で、米国が仕掛ける貿易戦争においては、安全保障と違い、アメリカは日本を同盟国とはみていないということがはっきりした。 折しも米中貿易戦争が激化して世界中が巻き込まれかねないリスクが高まる中で、日本はどう生き残りを図るべきだろうか?
▽日米間の溝は隠しようがない
・親密さを演出するための3度目のゴルフを交えた会談を終えて、安倍、トランプ両首脳が臨んだ記者会見で、はからずも、両国の間に経済・通商問題で深刻なミゾが生じていることが浮き彫りになった。 先月、米国が「安全保障上の懸念がある」として通商拡大法第232条を適用、鉄鋼やアルミに輸入制限を発動して高い輸入関税を科したのを憂慮して、日本が「同盟国である」ことを理由に日本製品の適用除外を求めたにもかかわらず、アメリカが一蹴したからだ。
・しかも、安倍首相が米国のTPP(環太平洋経済連携協定)への復帰が「日米両国にとって最善と考えている」と述べると、トランプ大統領が間髪を入れず「私は2国間協議が良い」と異を唱える場面もあった。
・今秋に控える米連邦議会の中間選挙に向けて共和党の支持基盤を固めたい、そのために一昨年の大統領選時のような「アメリカ・ファースト」路線に回帰せざるを得ないトランプ大統領の立場は明らかで、通商・貿易問題に横たわる日米間のミゾの深さは、もはや覆い隠しようのないものなっている。
・客観的に見て、今回の日米首脳会談は、朝鮮半島の非核化と拉致被害者の帰国問題で日米の強固な協調路線を確認するという成果をあげた。しかし、貿易・通商問題は対立ばかりが目立つ結果となった、安全保障と違い、経済外交はまったくの失敗と言わざるを得ないだろう。
・折しも、世界では、日本時間の先月23日未明、アメリカが知的財産権の侵害を理由に、中国に対して通商法301条を適用、1300品目、金額にして600億ドル分に25%の高関税をかける措置を決めたことが引き金になって、米中が報復合戦に発展。 中国が豚肉などを対象に総額で同程度の規模の関税を上乗せする対抗措置をとったのに対し、アメリカが再びその2倍の金額を対象にした報復を発表、中国も再度応じると宣言し、両国は貿易戦争の深みにはまり込みつつある。
▽「世界大戦」に発展しかねない
・憂慮すべきは、貿易戦争が武力戦争へと発展した第二次世界大戦の反省から、自由貿易体制を守る目的で創設されたWTO(世界貿易機関)の存在とルールを、トランプ大統領が真っ向から否定し、一方的な制裁の連発を正当化していることだ。 そもそも、1980年代にアメリカが連発した通商法301条などの一方的な措置は、WTO違反である。というのは、WTOの紛争処理手続きを経なければ、対抗措置を取ってはならないことになっているからだ。トランプ政権は戦後世界各国がこれまで積み上げてきた努力や成果を破壊しようとしていると言わざるを得ない。
・日本経済に勢いがあった時代に、米国が通商法301条を盾に制裁をちらつかせたことは何度かあった。しかし、中国のようにアメリカの一方的な措置を不満として対抗措置に打って出る国が現れたのは、今回が初めてだ。 米中間の貿易戦争が長引き、両国経済が疲弊すれば、その影響を受けて、日本からの両国への輸出が減る事態は避けられない。
・さらに気掛かりなのは、両国から閉め出されたモノが世界中に溢れ出せば、巻き込まれたEUやロシア、日本などが相次いで緊急輸入制限に乗り出し、貿易の「世界大戦」に発展しかねない。 1929年の大恐慌後、悪名高き米国のスマート・ホーリー関税法制定を機に保護主義が世界に蔓延、経済摩擦が軍事的衝突に発展したのが第二次世界大戦だ。事態は酷似し始めており、もはや放置できないところに来ている。
▽ピント外れの要求
・その意味では、今回の日米首脳会談で、アメリカが中国への通商法301条の適用に先立ち、通商拡大法232条を適用し、安全保障を理由に外国産の鉄鋼やアルミニウムに幅広く高関税をかけたことに対し、「同盟国である」からと適用除外を求めた日本の経済外交はピント外れだった。
・というのは、トランプ政権が、EU、カナダ、メキシコ、韓国、オーストラリアなどの同盟国や、米国と関係の深いアルゼンチン、ブラジルを通商拡大法第232条の適用対象から除外したことの意味を取り違えたとしか言いようがないからだ。 米国がこれらの国々を適用除外にしたのは、同盟国だとか関係が親密だといったことが理由ではない。そうではなくて、これらの国々との間には2国間の自由貿易協定があって、個別に米国の貿易赤字を減らすよう交渉できるか、もしくは、そもそも米国が貿易黒字かなのである。
・例えば、カナダとメキシコは米国と北米自由貿易協定(NAFTA)を結んでおり、現在、その見直し交渉が進められている。また、EUは米国と米EU自由貿易協定の締結交渉の最中だ。韓国も米韓FTA協定の見直し交渉に応じたし、オーストラリアとの間には長い歴史を持つ米豪自由貿易協定が存在するのだ。また、アルゼンチンとブラジルは、米国が黒字を稼ぎ出している貿易相手国である。
・一方、日本はトランプ大統領が離脱を決定したTPPの米国抜き発足を主導してきたほか、同政権が求める日米自由貿易協定の交渉開始を逃げ続けてきた経緯がある。これでは、「日本は米国の同盟国だ」という理由で、通商拡大法232条の適用を免除してほしいと求める日本の要求は、早急な貿易赤字減らし策か、そのための交渉の場の設置を勝ち取りたいトランプ政権からすれば、ピント外れであり、到底受け入れられないものだった。
・日本政府に世界的な視野があれば、通商拡大法232条の適用除外を求めることの無意味さもわかったはずである。なぜなら、仮に日本製品が適用除外となったとしても、米国から締め出された他国の製品が世界の市場に溢れ出して国際的な価格下落を招き、日本製品が打撃を受ける可能性が高いからである。
・窮余の策として、安倍政権は、茂木経済財政・再生担当大臣とUSTR(通商代表部)のライトハイザー代表をヘッドとする、新たな通商協議の設置を提案して賛同を得たものの、今後の協議の難航は必至である。むしろ、協議の場の設置こそが、藪蛇になりかねない情勢となっている。 この措置は、今回の首脳会議で決定的な対立を避けるための時間稼ぎ策に過ぎないからだ。
・トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げて、FTAの締結と貿易赤字の削減という、日本とはベクトルの方向が違う要求を突き付けている。 2国間協定の交渉が避けられなくなれば、米国を満足させるために、自由貿易とは相容れない方策、例えば政府主導の米国製品の緊急輸入や輸出の自主規制といった管理貿易的な方策しか選択肢がない事態に陥るだろう。
▽中国をどう「活用」するか
・では、日本はいったい、どういう交渉戦略を採るべきなのか。 参考になるのは、適用除外が確実視されていたEUが言明し、中国やロシアが踏み切るとしている国際ルールに則った手段、つまりWTO提訴である。そもそも、米国による一方的な日本製の鉄鋼、アルミニウムに対する関税引き上げ措置は、WTOルール違反とみられており、専門家の間でも、提訴すれば日本が勝てるとの見方が多い。
・すでに中国が通商法301条の対抗策として実施したように、米国が鉄鋼等の関税引き上げを撤回しなければ、日本はWTOルール上の正当な対応として、他の品目について対抗措置を講じることもできる。 対米国では、「同盟国だ」という的外れの理由を盾に取ったお願いよりも、こうした国際ルールに則った対応策で堂々と渡り合う必要がある。米国が明確に安全保障とは別の問題だという姿勢を取っている以上、それ以外の戦略はない。
・そして、もう一つ、大きなポイントになりそうなのが、中国対策だ。 少し前ならば考えられないことが、中国は、トランプ政権の保護主義政策の標的にされたことに対抗、国際的な孤立を避けるため、従来の保護主義的スタンスをかなぐり捨てて、自由貿易を推進すると主張。国際標準と相容れなかった自らの通商慣行を積極的に見直す姿勢をみせている。
・そうした姿勢が鮮明になったのは、先週月曜日(4月16日)に都内で開かれた、実に8年ぶりという「日中ハイレベル経済対話」である。早期開催に拘ったのは中国側で、わずか3週間という短い準備期間で開催に漕ぎ着けたという。 協議は緒に付いたばかりだが、両国が「貿易戦争は国際経済への悪影響が大きく回避への協力が必要だ」「自由貿易体制、多角的貿易主義が重要だ」といった認識を共有し、滞りがちだった日中韓3ヵ国の自由貿易協定(FTA)と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉加速を申し合わせることができたのは大きな前進だ。
・もちろん、具体論はまだ伴っておらず、厳格に保護すべき知的財産権の分野では「努力している」、早急に削減すべき鉄鋼の過剰生産能力の問題は「進めている」、外国企業への様々な差別待遇も「環境整備に取り組んでいる」といった回答しか引き出せず、いつまでに、どう改善するという確約は得られなかったという。
・それでも、中国は、日本にとって今や最大の貿易相手国だ。しかも、世界第2の経済大国である。日本の中国との関係改善は、トランプ政権にプレッシャーをかける効果があるはずである。 国際ルールを無視するトランプ政権に対して、国際ルールに則って自省を促すだけでなく、貿易戦争問題に伴う中国の姿勢転換を見逃さず、中国を国際的な自由貿易体制の一員に取り込んでいく努力は、日本が困難な時代を生き抜くために欠かせないのではないだろうか。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55395

第一の記事で、 『トランプ流の外交は目先のディール(取引)である。成果を求めてはったりを利かす手法は、外交の常道から大きく外れている。自分本位な言動は長期的な国際関係を損なうことになる』、 『安倍政権は北朝鮮を巡る国際政治力学を読み違えてきた・・・日中、日韓関係の改善に積極的に取り組んで来なかったツケが、北朝鮮問題での出遅れにも表れている』、などの指摘はさすが的確である。 『日本が朝鮮半島の「非核化」に主体的にかかわろうとすれば、まず自ら唯一の被爆国として、核兵器禁止条約に参加するしかない。そのうえで、米中ロをはじめ核保有国に「核兵器なき世界」に向けて核軍縮を求めるのである。それが北朝鮮の核放棄につなげる道である』、 『「経産省内閣」の成長無策』、 などはその通りだ。 『「ノー」と言えなかった安倍首相』、というのも情けない話だ。これが、「地球俯瞰外交」を唱え、外交には自信があるといわれる安倍首相の実力なのだろう。 『「地球の敵」との蜜月は恥ずべきことだ。トランプ大統領の距離をどう保つか、世界はそれを見守っている』、とまで岡部氏が言い切ったことに驚いたが、安倍政権の命運は尽きたと読んだのかも知れない。
第二の記事で、 『貿易・通商問題は対立ばかりが目立つ結果となった、安全保障と違い、経済外交はまったくの失敗と言わざるを得ないだろう』、 日本政府に世界的な視野があれば、通商拡大法232条の適用除外を求めることの無意味さもわかったはずである・・・安倍政権は、茂木経済財政・再生担当大臣とUSTR(通商代表部)のライトハイザー代表をヘッドとする、新たな通商協議の設置を提案して賛同を得たものの、今後の協議の難航は必至である。むしろ、協議の場の設置こそが、藪蛇になりかねない情勢となっている』、 通商拡大法232条を適用し・・・外国産の鉄鋼やアルミニウムに幅広く高関税をかけたことに対し、「同盟国である」からと適用除外を求めた日本の経済外交はピント外れだった』、というのは恥ずかしい限りだ。「経産省内閣」の限界が表れたのかも知れない。 『日本の中国との関係改善は、トランプ政権にプレッシャーをかける効果があるはずである。 国際ルールを無視するトランプ政権に対して、国際ルールに則って自省を促すだけでなく、貿易戦争問題に伴う中国の姿勢転換を見逃さず、中国を国際的な自由貿易体制の一員に取り込んでいく努力は、日本が困難な時代を生き抜くために欠かせないのではないだろうか』、というのは説得力がある。
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金融関連の詐欺的事件(その3)(スルガ銀「シェアハウス」のずさん審査に疑問、シェアハウス投資で露呈したサブリース商法「規制不在」の罠、「かぼちゃの馬車」被害者をさらに騙す“二重詐欺”の卑劣な実態、「かぼちゃの馬車」被害者に詐欺を仕掛けた集団の実態と手口) [金融]

金融関連の詐欺的事件については、1月29日に取上げた。今日は、(その3)(スルガ銀「シェアハウス」のずさん審査に疑問、シェアハウス投資で露呈したサブリース商法「規制不在」の罠、「かぼちゃの馬車」被害者をさらに騙す“二重詐欺”の卑劣な実態、「かぼちゃの馬車」被害者に詐欺を仕掛けた集団の実態と手口)である。

先ずは、3月12日付け東洋経済オンライン「スルガ銀「シェアハウス」のずさん審査に疑問 高収益で地銀のベンチマークだったが…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・700人もの所有者(オーナー)を破産の危機に追い込んでいるシェアハウスをめぐるトラブル。大半のオーナーに取得資金を融資したスルガ銀行(静岡県沼津市)の審査手続きが適切だったのかを問う声が上がっている。
・問題となっているのはスマートデイズ(東京都中央区)が運営する女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」。「高い家賃を30年間保証する」などと勧誘された会社員らが1棟当たり約1億円の融資を受けて、一括借り上げ(サブリース)契約を締結した。ところが昨年10月に突然家賃が減額され、今年の1月からは、家賃がまったく支払われない事態に陥っている。
▽「何とか空室を埋められないか」
・ある不動産業者は2016年11月、スマートデイズの担当者から物件リストを渡され、「何とか空室を埋められないか」と相談されたという。「実地でも調べたが、想定した賃料では埋まらないような物件ばかり。半年持たないと思った」と打ち明ける。
・スマートデイズは家賃に加えて、入居者の女性に仕事を紹介する人材斡旋料があるなどと「脱・不動産事業の新ビジネスモデル」を喧伝していた。だがその実態は、相場よりも高くオーナーに土地・建物を売って、そのカネを不足する家賃支払いに回す「自転車操業」だったようだ。
・2億円を超える借金を抱えた30代の男性は「スルガ銀行の融資判断自体を一つの信用と受け止めていたのに」と憤る。 スルガ銀行は、建物の耐久年数を超える長期の融資など、他行が躊躇するような不動産向け案件を積極的に手掛けてきた。 その特徴は「早い・長い・高い」。「独自の審査基準や商品があるため融資回答が早く、融資期間は長く、貸付金利は高い」(あるアナリスト)。地方銀行全体が低金利に苦しむ中、厚い利ザヤを背景とした収益力の高さは群を抜く存在だ。
▽72人中60人が「不正の疑いがあった」
・だが今回の融資では、提出した預金通帳の写しなどに改ざんがあったと多くのオーナーが声を上げている。「スマートデイズ被害者の会」が実施したアンケートでは、72人中60人が書類の改ざんなど不正の疑いがあったと回答した。誰の手で不正が行われたかは不明だが、もし与信の可否を左右する信用力を確認する書類に改ざんがあったのならば、誤った判断で融資が実行された可能性がある。
・融資を受ける際に使途自由のフリーローンを借りたオーナーも多い。7.5%の金利でローンを借りた50代の男性は「スキームが自動的に出来上がっていて、仲介業者からフリーローンと定期預金の契約をセットで求められた。少なくとも2年間は解約しないよう言われた」という。
・スルガ銀行は2月22日に顧客にアンケートを送付して実態把握を進めている。東洋経済の取材に対しては、調査中を理由に回答を控えた。いまだシェアハウス向けの融資がどれだけあったのかすら、わからない状況だ。 個人向け融資のニッチ分野に特化して地銀経営の「ベンチマーク」と称されてきたスルガ銀行だけに、自ら融資実態を解明して説明することが求められる。
https://toyokeizai.net/articles/-/212001

次に、4月4日付けダイヤモンド・オンライン「シェアハウス投資で露呈したサブリース商法「規制不在」の罠」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・急速に支持者を増やしたシェアハウス投資で使われた「サブリース」という商法には、投資家(オーナー)に不利な条件が存在する。不動産投資は自己責任とはいえ、将来に不安を抱える中でばら色の収支計画を見せられれば、誰しも欲望をかき立てられてしまう。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 大根田康介)
▽「精神的に追い詰められた。自己破産して早く楽になりたい」
・3月2日、「スルガ銀行スマートデイズ被害弁護団」による被害者向け説明会で、OLとみられる若い女性が悲痛な声でそう訴えた。 昨年10月ごろから、女性専用のシェアハウス「かぼちゃの馬車」を手掛けるスマートデイズが、大きな社会問題を巻き起こしている。 同社は、セミナーなどで不動産投資の経験が浅い一般人に土地購入とセットでシェアハウス建設を勧誘。建設後は、同社が物件を一括で借り上げて、30年間家賃を保証することで、安定した利回りを確保できるという夢のようなスキームを持ち掛けた(図参照)。
・そのため、それなりに収入がありつつも、老後に不安を抱くサラリーマン層を中心に投資する人が増えていた。 ところが今年1月、同社はオーナーへの賃借料の支払いを突然停止した。1億~4億円とされる物件購入のための借金を返済するめどが立たなくなった多数のオーナーが、破産状態に追い込まれたのだ。弁護団によれば、被害者は約1000人、被害総額は1000億~1500億円に上るという。
・「サブリース」と呼ばれるこの商法は、昔からある。最近では、土地所有者が相続税対策でアパートを建てる際に使われている。管理料をサブリース業者に支払う一方で、家賃収入が一定期間保証されるため、安定した利益を見込める。 しかも、経営を外部委託してオーナーの負担を減らし、投資しやすい環境をつくれる。そのため、サブリース物件は全国で360万戸以上に広がったとされる。
・サブリースは本来、ある程度の資本力がある企業が、入居者を募集して得た家賃を原資にするからこそ成り立つ事業だ。だが今回、スマートデイズは入居者をあまり確保できなかった。そこで、オーナーへの物件売却で得られた利益を家賃保証に充てる自転車操業に陥り、資金繰りが行き詰まったもようだ。
・今回、被害弁護団名にスルガ銀行の名前が入っているのは、同行の融資金額が多い上に、物件オーナーへの融資姿勢が問題視されているからだ。団長の河合弘之弁護士は、「偽造された通帳などで融資が通ってしまった」など、複数の違法行為を指摘する。 もちろん、通帳を偽造するというスマートデイズの違法行為はもっての外だが、それを通してしまった同行の審査の甘さにも問題がないとはいえない。
・同社に限らず、こうした不動産投資では、1棟売れば数十万~数百万円のインセンティブが業者の営業マンに転がり込む。一方で過剰なノルマに追われるケースがあり、強引な営業や書類偽造による不正融資につながる側面がある。
▽賃料支払い停止を突然通告し家賃減額をのませる
・現時点で、サブリースを直接規制する法律は存在しない。それ故に、もしもトラブルが起きた場合、オーナーは宅地建物取引業法や消費者契約法など既存の法律で争うしかない。一方、借り手であるサブリース業者は借地借家法という法律で守られている。本来は賃貸物件に入居する一般消費者を保護する法律だが、それが業者に適用されている。それ故、築年数が長くなると、業者は賃料増減額請求権を駆使して貸主であるオーナーに賃料減額を迫るのだ。
・最近、あるサブリース業者に賃料減額交渉を迫られたというオーナーのAさんは、「何の事前交渉もしていないのに、『サブリースの要件を満たしていない』という書面が突然来た」とため息交じりに話す。書面には、家賃減額の同意を得られず入居者募集ができないため、空室の借り上げ賃料が支払えない状況にあると記されていた。
・家賃減額の話を切り出された覚えがないAさんは、すぐに担当者と面談した。未払い分はさかのぼって支払ってもらう約束を取り付けたが、結局、家賃減額は覆らなかった。「賃料を下げて入居率を高く維持したいのでしょう。おとなしいオーナーだと丸め込まれてしまう」とAさんは憤慨する。
・業者の営業マンの中には、入居率が高い、家賃が下がらない、修繕費が少ないという三拍子そろったばら色の収支計画で勧誘する者もいる。最初の数年間は固定金額で家賃が保証されるが、その後キャッシュフローの赤字が表面化することも多い。「当初の計画と話が違う」という理由で裁判に至るケースもある。
・日本弁護士連合会は、今年2月、「サブリースを前提とするアパート等の建設勧誘の際の規制強化を求める意見書」を国土交通大臣および内閣府特命担当大臣(金融)に提出した。 この一件で、サブリース商法の闇が露呈した。だがこれは、氷山の一角にすぎない。
http://diamond.jp/articles/-/165659

第三に、4月24日付けダイヤモンド・オンライン「「かぼちゃの馬車」被害者をさらに騙す“二重詐欺”の卑劣な実態」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが経営破綻し、大問題になっている。「自前の土地や資金がなくてもシェアハウスのオーナーになれる」との触れ込みに乗り、投資したオーナーたちが1億円を超える借金を背負うという事態になっているからだ。しかし、話はそこで終わらなかった。DOL特集「地下経済の深淵」第14回は、被害者がさらなるトラブルに巻き込まれている事態を追った。(フリージャーナリスト 安藤海南男)
▽「かぼちゃの馬車」問題でついに自殺者まで
・「ついに死人が出たらしい」。関係者の間で不穏な情報が出回ったのは、4月中旬のことだった。 複数の関係者によると、亡くなったのは、経営破綻した不動産会社「スマートデイズ」からシェアハウス用物件を購入した物件所有者の1人だった。遺族から寄せられた弁護士への相談で悲劇が発覚したとされる。
・「遺族のこともあり詳細は言えないが、多額の借金に悩んだことによる自殺だ」。物件所有者側の弁護団は、記者たちの取材にこう答えたという。 “犠牲者”が出たことで、さらなる世論の反発を招きそうな今回の騒動だが、現役世代を覆う不安につけこむ詐欺的スキームの背後には、地下水脈でつながる「詐欺のカルテル」ともいうべき裏社会のネットワークの存在があった。
▽突然、1億円超の借金を背負い込んだ700人以上のオーナー
・まずは今回の騒動を振り返ってみよう。 スマートデイズは、2014年4月から、首都圏を中心に「かぼちゃの馬車」のブランド名で、女性専用シェアハウスを展開。土地と建物を借り上げて居住者から家賃を集め、所有者に保証した賃借料を毎月支払う「サブリース」と呼ばれる仕組みで、業容を急拡大させた。
・「スマートデイズが多くの顧客を獲得できた最大の要因は、『家賃保証』に加えて月に数万円程度の利益が出るというメリットがあったからです。物件を所有するだけで副収入が得られる、ということで物件購入に踏み切るサラリーマンが多かった」(不動産業界関係者) 実際、スマートデイズが営業の主要ターゲットとしたのは30代〜40代の働き盛りのサラリーマン。それも、一定以上の収入がある大手企業の社員らが狙い撃ちされた。
・しかし、昨年10月、主力行のスルガ銀行が融資を打ち切ったことで状況は一変する。 同社からの物件購入者に対する賃借料の支払いの一部が滞り始め、今年1月に入って完全にストップ。やがてこのトラブルがメディアで報じられるようになり、一連の騒動は燎原の火のように燃え広がっていった。
・「スマートデイズからの家賃収入が途絶えた“被害者”は、のべ700人以上に上る見込みです。すでに多くが複数の弁護士に相談し、原発訴訟などで知られる河合弘之弁護士を団長とする弁護団が現在、スマートデイズやスルガ銀行との交渉に当たっています」(全国紙社会部記者)
・スマートデイズが販売していた物件は、1棟当たり1億円前後。所有者の多くは、スルガ銀行からの全額借り入れによって物件を購入しており、「ほとんどの所有者が利息も含めて1億円超の債務を抱えることになった。複数の物件を購入した人の中には2億円以上の借金を背負った人もいる」(同)という。
▽疑惑の中心にいると目されるスルガ銀行
・スマートデイズをめぐる騒動では、同社と結託して物件の営業に関わっていた販売会社による物件購入者の預金通帳の改ざんや、物件の施工会社による販売会社へのキックバック、トンネル会社を使った資金環流など、さまざまな不正行為の疑いが浮上している。
・そうした一連の疑惑の中心に位置すると目されているのが、スルガ銀行である。 前出の記者は言う。 「スマートデイズのビジネスモデルを成り立たせていたのが、業界内で『スルガスキーム』と呼ばれている融資手法です。審査基準を極端に低く設定し、返済能力に乏しい人にも積極融資する。その代わりにべらぼうに高い金利と、本契約とは別に抱き合わせで組ませるローンでもうけを確保するという手法。業界内でも悪名高いこの手法に加え、スマートデイズやその関係会社の不正を黙認することで、スルガは莫大な利益を上げた。その融資姿勢が問題拡大を招いたとの批判が根強いのです」
・一方で、スマートデイズとの取引によって受けた損害を受けた物件購入者の中には、騒動に関連した別の被害に苦しむ者もいる。 “二重詐欺”とも呼べる手法で、多額の借金に苦しむ物件購入者から、さらに現金をだまし取ろうとする者がいるというのだ。
▽賃借料の収入が滞ったタイミングで自宅に届いたダイレクトメール
・「被害に遭った直後は、『投資金を少しでも回収しなくちゃ』という思いしかなかった。冷静な判断ができる状態じゃなかった」 都内の飲食店で取材に応じた30代の男性はこう切り出した。関東のある県に一軒家を構え、妻と2人の娘がいる。 勤め先は一部上場の通信系企業。理知的な物言いの節々からは、「人生の成功者」としての自負がにじみ出ている。ただ、順風満帆な人生に生じた“つまずき”に話題が及ぶと、自信に満ちた表情がにわかに曇った。
・「スマートデイズと契約したのは、老後への備えのつもりでした。今は銀行にお金を預けても資産が増えることはない。かといって、株やFXはリスクが大きい。不動産投資を検討し始めていたときに勧誘を受け、購入を決めてしまったんです」
・男性は2015年夏ごろ、都内のシェアハウスを約1億円で購入。その後、同社の経営が悪化。今年1月には、他の物件所有者同様、約束されていた賃借料の収入が途絶えた。自宅に「被害者救援」をうたうダイレクトメール(DM)が届いたのはそんな矢先だった。 「送り主は、自らも被害者だと名乗る団体でした。インターネット上にホームページも開設しているようで、そこには、『問題解決のプロ集団』『実務的アドバイスとサポートを行う』とありました。すでに、スマートデイズの問題がマスコミに取り上げられ始めていたときでしたので、このままでは大変なことになると焦りもあった。それで話を聞いてみよう、となったのです」
▽「自分たちも被害者だ」と言って対策のコンサル契約を迫る
・男性はDMが届いてから日を置かずに、団体にコンタクトを取った。 電話で応対した男性に自分が置かれた状況を説明すると、すぐに面談を提案されたという。指定されたのは東京・日本橋のオフィスビルの一室。面談当日、男性を迎えたのは、団体の関係者を名乗る2人の男だった。 「開口一番に言われたのが、『自分たちも立場が同じスマートデイズの被害者だ』ということ。団体は、スマートデイズで物件を購入したオーナーたちが中心になって組織されたものだと強調していました。正直、ホッとしました。同じ苦しみを分かっている人がいると。それで彼らに気を許してしまった」
・男らは男性が心を開いたとみるやこう畳み掛けてきた。 「対策は早い方がいい」「あなたはラッキーです。後の方になると取り戻せるものも取り戻せなくなる」 男性は、男らに促されるまま、差し出された契約書を受け取った。 「コンサルタント業務契約書」と銘打たれた契約書には、「コンサルタント契約の費用」として団体に200万円を支払う旨が記載されていた。
・男性が、指定の口座に100万円を振り込んだ後、男らは男性を伴って都内の弁護士事務所を訪れた。そこで、男性は「委任契約書」へのサインを迫られ、弁護士費用としてさらに50万円の支払いを求められたという。 「これで問題が解決できれば…」。しかし、そんな男性の期待は、もろくも崩れ去る。
▽100万円を入金した直後から連絡が途絶え始める
・当初は頻繁だった団体側からの連絡は、男性が100万円を入金した直後から途切れがちに。スマートデイズやスルガ銀行への交渉を求めても、男らはのらりくらりとかわすばかりで問題解決に動く気配は一向になかった。 「あまりの対応のひどさに契約の解除を求めても、なんだかんだと理由をつけて応じてもらえない。そこで知り合いの不動産業者に相談したら、『それは詐欺の可能性がある』と言われた。そこで初めて、だまされたかもしれないと気付いたんです」
・これまでのやりとりを振り返った男性は、団体側の対応に複数の不審点があったことに気付いた。 「面談の際、団体の担当者が出した名刺の名前と、面談が行われた不動産会社の社内で呼ばれている名前がなぜか違っていた。問いただすと、『親が離婚して、姓が変わった』と言っていたが、今考えるとおかしな話。そもそもなぜ、私がスマートデイズの被害者と分かってピンポイントでDMを送り付けてきたのか。何か裏があるとしか思えません」 実際、そこには、一度だまされた相手から金銭をさらにだまし取る巧妙なからくりが仕掛けられていた。
http://diamond.jp/articles/-/168348

第四に、上記記事の続き、5月1日付けダイヤモンド・オンライン「「かぼちゃの馬車」被害者に詐欺を仕掛けた集団の実態と手口」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが経営破綻し、シェアハウスに投資したオーナーたちが1億円を超える借金を背負い大問題となっている。DOL特集「地下経済の深淵」では、前回そんな被害者たちを狙った“二重詐欺”事件が起きていることを指摘した。今回は、詐欺を仕掛けている「詐欺のカルテル」の実態に迫った。(フリージャーナリスト 安藤海南男)
▽「こんなボロい商売はない」とうそぶくブローカー
・「確実に“お客さん”がいて、いくら取れるかもわかっている。これほどボロい商売はないよね」 東京・六本木のホテルラウンジで対峙した男は、こううそぶいた。 男は当初、「投資会社の代表」を名乗っていたが、実態は違う。不動産、ファンド、仮想通貨、そして時には犯罪すれすれの詐欺話にも手を出すいわゆる「ブローカー」が本来の生業だ。 雑多な人々が行き交う喧噪の中で、その男が明かしたのは、「不動産取引」を隠れみのにして繰り広げられるある「詐欺」の手口だった。
・「“お客さん”をどうやって見つけるかって?そんなの簡単だよ。誰にどんな物件をいくらで売ったか。それが全て載っている名簿が出回ってるんだ。その名簿に名前が出ているヤツを当たればいいだけだ」 男によると、投資用物件を販売する不動産会社の顧客リストが、詐欺師たちの手に渡っているのだという。
▽スマートデイズから流出した顧客リスト
・とはいえ、こうした顧客リストの悪用自体は珍しい話というわけではない。健康食品の通信販売利用者、クルーザーの購入者、情報商材の購入者…。世の中には、ありとあらゆる種類のリストが出回っており、それらはしばしば裏社会の住人の“飯の種”として悪用されている。
・特筆すべきは、このリストの流出源となった不動産会社の正体である。 男は声を潜めて言った。 「今、問題になっている『スマートデイズ』。シェアハウスへの投資という触れ込みで金を集めて破綻したあの会社だよ。しかも、この一件はただリストが流出したというだけで終わる話じゃない。後ろには、うまいもうけ話に引っかかったヤツからさらに金をだまし取る仕掛けが隠されているんだ」 男は目の前のグラスから水を一気に飲み干すと、その“仕掛け”の詳細を語り始めた。
・男を取材したのは4月のある日。すでにスマートデイズの賃借料不払い問題は、メディアに盛んに取り上げられて、社会問題化の様相を見せ始めていた。 「かぼちゃの馬車」というブランド名で女性専用シェアハウスを展開していた同社は、長期間にわたる家賃保証を前提とした「サブリース」と呼ばれる手法で顧客を集めて急成長を遂げた。しかし、主力行の「スルガ銀行」による融資停止をきっかけに資金繰りが急激に悪化。その結果、家賃支払いが滞ることとなり、ローン支払いが立ちいかなくなる多くの債務者を出すことになった。
・都内の不動産会社関係者は、「不動産業界では昨年春ごろから、『破綻間近』と危険視されていました。問題が一気に表面化したのは支払いが完全にストップした今年1月のことでした」と振り返る。
▽偽コイン事件とスマートデイズの意外な“接点”
・スマートデイズが大揺れに揺れていた1月下旬のこと、都内の貴金属販売会社の関係者の男ら数人が詐欺の疑いで警視庁に逮捕された。容疑は、2013年11月から14年9月にかけて、「英国ロイヤルベビー記念コイン(Bコイン)」と称する架空のコインの販売事業をめぐって、高齢者らから約10億9000万円を詐取したというものだ。
・事件を取材した大手紙の社会部記者はこう語る。 「この事件で主犯格として逮捕されたのは、50代のYという男。Yは摘発された貴金属販売会社の実質経営者で、以前から警視庁にマークされていたいわくつきの人物だった。架空コイン以外にもコンテナの所有権や仏具など、さまざまな“偽商品”を宣伝して、顧客から出資金をだまし取る犯行を重ねていた」
・詐欺的スキームによって多くの「破産予備軍」を生んだスマートデイズと、警視庁が長年にわたって追っていた詐欺集団。一見、何の関わりもなさそうに見える両者なのだが…。 冒頭のブローカーの男が、おもむろに1枚の名刺を取り出してこう言った。  「これがスマートデイズとYを結びつける“接点”だよ」
▽偽コイン事件の容疑者と「被害者支援室」の代表が同一人物
・差し出された名刺には、「支援室」なる団体の「代表」として「C」という人物の名前が記されていた。 ご記憶の向きもあるだろうが、この「支援室」は、前回の記事に登場したスマートデイズからの物件購入者にダイレクトメールを送りつけていた団体である。この団体には、「支援」「救済」をちらつかせて購入者から事実上の“解決金名目”で金銭をだまし取っていた疑惑があることは、前回指摘した。
・では、この「C」とは一体何者なのか。ブローカーの男はこう明かす。 「実は、このCという人物は、偽コインの件で警視庁に逮捕されたYと同一人物なんだ。Cというのは偽名で、逮捕された事件とは別に、スマートデイズの物件購入者らを相手にした、新たな詐欺を仕掛けようとしていた気配があるんだ」
・「支援室」が仕掛けた詐欺疑惑について、そのやり口を少し振り返っておこう。 彼らはまず、家賃支払いがストップして途方に暮れるスマートデイズの物件購入者たちにダイレクトメール(DM)を送る。 そこには、問題解決を期待させるような文言が並んでいる。何とか投資金を回収したい。そんな思いにとらわれている物件購入者の中には、この団体にコンタクトを取る者が、相当数いた模様。そのうちの1人が、前回記事で紹介した会社員の男性だ。
・スマートデイズ関連の訴訟に関与するある弁護士は、「親身に相談に乗るように装うが、彼らの真の目的は『コンサルタント契約料』の名目で金を得ることだ。50万~300万円程度の金を受け取りながらも、救済らしきことはほとんどしない。巧妙なのは、弁護士と結託して、後で『詐欺だ』と訴えられないような契約を結ばせる点だ。『コンサルタント』を偽装するのも、訴訟対策の一環であるのは間違いない」と説明する。
▽善意の第三者を装い不動産会社顧問を名乗る男
・実は「C」、もといYは、こうした本来の目的を糊塗し、善意の第三者を装って業界紙にも登場したことがある。 昨年12月に発行された業界紙でYは、「3社の不動産会社で顧問を務め、資産構築コンサルタントを生業としている」と紹介されている。だが、この経歴についても、虚偽のものであるとの疑念は消えない。では、別の詐欺事件で逮捕されたYが、偽名を使ってこの団体に関与したのにはどんな経緯があるのか。
・前出のブローカーがその舞台裏を明かした。 「スマートデイズが問題になる前、まったく同じビジネスモデルで破綻した不動産会社があった。当初、『支援室』は、その会社の物件購入者の救済を名目に立ち上げられたものだった。で、その代表に収まったのがY。その後、『支援室』はその目的を変えて、スマートデイズの破綻に伴ってターゲットを広げた格好だ」
・これまでも指摘したように、スマートデイズをはじめとするシェアハウスのサブリース事業の躍進を下支えしたのが、業界内で「スルガスキーム」の名で呼ばれる、スルガ銀行による極めてリスキーな融資手法だった。そして、その副産物として生み出されたのが、Yの隠れた“事業”だったという。
▽初めから事業の破綻を前提とした「詐欺のカルテル」が仕掛けた疑いも
・「スルガは、オーナーの多くとサブリース契約を結ぶ際、本契約とは別に自行で口座を開かせて、高金利な融資契約を結ばせている。Yたちが狙ったのが、このスルガからの融資金だった。破綻した物件のオーナーたちは多額の負債を背負ったものの、スルガで開いた口座には融資金が残っている。それもいただいてしまおう、というのがYたちの思惑だったというわけだよ」
・そして、Yらがこの「詐欺的スキーム」を仕掛ける際のよりどころとしたのが、スマートデイズをはじめとするシェアハウスのサブリース事業を手がける不動産各社から流出した顧客名簿だったとみられる。 名簿が出回った背景にも疑惑がつきまとっている。
・前出の弁護士はこう指摘する。 「一連の、シェアハウスのサブリース事業の背景にいるとされているのが、複数の経済事件にその名が登場する『S』だ。一部の週刊誌でもスマートデイズの破綻劇の『黒幕』と指摘されているいわくつきの人物。Sが関係する会社には、スマートデイズから巨額の資金が流れていたともいわれている。最初から事業の破綻を前提として、SやYが中心となった『詐欺のカルテル』ができあがっていた可能性も否定できない」
・「かぼちゃの馬車」にまつわる一連の騒動で、借金地獄に陥った物件購入者の多くが、30~40代の働き盛りのサラリーマンだった。 AIなどの新技術による産業構造の大転換、すさまじいスピードで押し寄せる人口減少の波。見えない未来への不安感を募らせる彼ら、彼女たちにとって、安定的な給与外収入が期待できる「サブリース」は魅力的な投資に映ったはずだ。
・しかし、甘美な夢はすぐに覚め、待っていたのは過酷な現実。Yたちが作り上げた「詐欺のカルテル」は、そうしたサラリーマンたちの心の隙間に入り込み、食い物にした。
http://diamond.jp/articles/-/168801

第一の記事で、 『スルガ銀行は、建物の耐久年数を超える長期の融資など、他行が躊躇するような不動産向け案件を積極的に手掛けてきた。 その特徴は「早い・長い・高い」。「独自の審査基準や商品があるため融資回答が早く、融資期間は長く、貸付金利は高い」(あるアナリスト)』、 『アンケートでは、72人中60人が書類の改ざんなど不正の疑いがあったと回答した』、 『スキームが自動的に出来上がっていて、仲介業者からフリーローンと定期預金の契約をセットで求められた』、 などから判断すると、どうもスルガ銀行も被害者というより、加害に加担していた疑いがある。既に金融庁が、立ち入り検査をしたようだ。今日の日経新聞では、「シェアハウス破綻で返済減免へ 元本は対象外」と報じられたが、利息分のみの返済減免では焼け石に水だ。今後の金融庁の判断が注目点だ。
第二の記事で、 『サブリース物件は全国で360万戸以上に広がったとされる』、 『本来、ある程度の資本力がある企業が、入居者を募集して得た家賃を原資にするからこそ成り立つ事業だ。だが今回、スマートデイズは入居者をあまり確保できなかった。そこで、オーナーへの物件売却で得られた利益を家賃保証に充てる自転車操業に陥り、資金繰りが行き詰まったもようだ』、というのでは、今回の破綻劇は起こるべくして起きたといえよう。
第三、第四の記事にある、 『被害者をさらに騙す“二重詐欺”』、の手口は確かに功名だ。 ただ、 『男らは男性を伴って都内の弁護士事務所を訪れた。そこで、男性は「委任契約書」へのサインを迫られ、弁護士費用としてさらに50万円の支払いを求められたという』、というグルになった弁護士は、たんなる委任契約とはいえ、悪質だ。何らかの処分が望まれる。 『初めから事業の破綻を前提とした「詐欺のカルテル」が仕掛けた疑いも・・・Sが関係する会社には、スマートデイズから巨額の資金が流れていたともいわれている』、というのであれば、メインバンクのスルガ銀行は資金の流れを把握していた可能性もある。闇の一刻も早い解明が望まれる。
タグ:「スルガ銀「シェアハウス」のずさん審査に疑問 高収益で地銀のベンチマークだったが…」 それを通してしまった同行の審査の甘さにも問題がないとはいえない ・サブリースは本来、ある程度の資本力がある企業が、入居者を募集して得た家賃を原資にするからこそ成り立つ事業だ 女性専用シェアハウス サブリース シェアハウスをめぐるトラブル 、「英国ロイヤルベビー記念コイン(Bコイン)」と称する架空のコインの販売事業 被害者は約1000人、被害総額は1000億~1500億円 「シェアハウス投資で露呈したサブリース商法「規制不在」の罠」 ダイヤモンド・オンライン 仲介業者からフリーローンと定期預金の契約をセットで求められた 「スマートデイズ被害者の会」が実施したアンケートでは、72人中60人が書類の改ざんなど不正の疑いがあったと回答した スルガは、オーナーの多くとサブリース契約を結ぶ際、本契約とは別に自行で口座を開かせて、高金利な融資契約を結ばせている その特徴は「早い・長い・高い」。「独自の審査基準や商品があるため融資回答が早く、融資期間は長く、貸付金利は高い」(あるアナリスト)。 「かぼちゃの馬車」問題でついに自殺者まで 、「偽造された通帳などで融資が通ってしまった」など、複数の違法行為を指摘 偽コイン事件の容疑者と「被害者支援室」の代表が同一人物 700人もの所有者(オーナー)を破産の危機に追い込んでいる スマートデイズ 「詐欺のカルテル」ともいうべき裏社会のネットワークの存在 スルガ銀行は、建物の耐久年数を超える長期の融資など、他行が躊躇するような不動産向け案件を積極的に手掛けてきた スルガで開いた口座には融資金が残っている。それもいただいてしまおう、というのがYたちの思惑だったというわけだよ 販売会社による物件購入者の預金通帳の改ざんや、物件の施工会社による販売会社へのキックバック、トンネル会社を使った資金環流など、さまざまな不正行為の疑いが浮上 多くの顧客を獲得できた最大の要因は、『家賃保証』に加えて月に数万円程度の利益が出るというメリットがあったからです 「「かぼちゃの馬車」被害者をさらに騙す“二重詐欺”の卑劣な実態」 東洋経済オンライン 対策のコンサル契約を迫る 今年の1月からは、家賃がまったく支払われない事態に (その3)(スルガ銀「シェアハウス」のずさん審査に疑問、シェアハウス投資で露呈したサブリース商法「規制不在」の罠、「かぼちゃの馬車」被害者をさらに騙す“二重詐欺”の卑劣な実態、「かぼちゃの馬車」被害者に詐欺を仕掛けた集団の実態と手口) 営業の主要ターゲットとしたのは30代〜40代の働き盛りのサラリーマン 多額の借金に苦しむ物件購入者から、さらに現金をだまし取ろうとする者がいる 高齢者らから約10億9000万円を詐取 二重詐欺 金融関連の詐欺的事件 「かぼちゃの馬車」 1棟当たり約1億円の融資を受けて、一括借り上げ(サブリース)契約を締結 スマートデイズは入居者をあまり確保できなかった。そこで、オーナーへの物件売却で得られた利益を家賃保証に充てる自転車操業に陥り、資金繰りが行き詰まったもようだ スルガは莫大な利益を上げた 昨年10月、主力行のスルガ銀行が融資を打ち切ったことで状況は一変 スマートデイズから流出した顧客リスト 「「かぼちゃの馬車」被害者に詐欺を仕掛けた集団の実態と手口」 ビジネスモデルを成り立たせていたのが、業界内で『スルガスキーム』と呼ばれている融資手法です。審査基準を極端に低く設定し、返済能力に乏しい人にも積極融資する。その代わりにべらぼうに高い金利と、本契約とは別に抱き合わせで組ませるローンでもうけを確保するという手法
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