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日韓関係(その10)(「韓国が大嫌いな日本人」を 世界はどのように見ているのか 一貫して敗北し続ける「歴史戦」、「韓国が大嫌いな日本人」を 世界はどのように見ているのか 一貫して敗北し続ける「歴史戦」、ボルトン回顧録で韓国民の怒りが日本に向かう理由 「南北統一を邪魔して回る日本」 韓国高官が次々と批判の声、韓国・文在寅いよいよ日本と本気で喧嘩へ…8月4日 "全面戦争"に乗り出す構え 「準同盟国」から「準敵国」になるのか) [外交]

日韓関係については、昨年11月30日に取上げた。今日は、(その10)(「韓国が大嫌いな日本人」を 世界はどのように見ているのか 一貫して敗北し続ける「歴史戦」、「韓国が大嫌いな日本人」を 世界はどのように見ているのか 一貫して敗北し続ける「歴史戦」、ボルトン回顧録で韓国民の怒りが日本に向かう理由 「南北統一を邪魔して回る日本」 韓国高官が次々と批判の声、韓国・文在寅いよいよ日本と本気で喧嘩へ…8月4日 "全面戦争"に乗り出す構え 「準同盟国」から「準敵国」になるのか)である。

先ずは、本年4月13日付けPRESIDENT Onlineが掲載した文筆家の古谷 経衡氏による「「韓国が大嫌いな日本人」を、世界はどのように見ているのか 一貫して敗北し続ける「歴史戦」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/34383
・『欧米人に日韓関係の精通者は少ない  欧米人の中で日韓関係に精通している者は残念ながら少ない。 先の大戦で日本が中国大陸を侵略し、その延長線上でパールハーバーをやったことは知っていても、その間、日韓がどのような関係性であったのかを知る者はやはり少ない。ただし戦前・戦後の日韓関係を「フランスとアルジェリアの関係に似ている」と説明すると得心が行く場合がある。 フランスは北アフリカのアルジェリアを伝統的に植民地支配していたが、フランス本国と同じく併合して県を設置し、その扱いを内国と同等とした。日本の朝鮮支配もこれと似ている。朝鮮総督府を最後まで解散することはなかったが、半島全土を1910年に併合したので本国と同じ内国扱いにした。アルジェリアは戦後、独立戦争を経てフランスから独立。 一方朝鮮半島は日本の敗戦によって強制的に独立(実際は連合国軍統治を経る)した。アルジェリアはいくらその扱いが書類上本国と同様だと言っても、植民地支配をされたという被害者の立場から現在でもフランスと精神的しこりがある。朝鮮・韓国もこれと同様である。「戦前・戦後の日韓関係はフランスとアルジェリアの関係と相似的」というのは、欧米人に現下の日韓関係を伝えるのには乱暴ではあるが手っ取り早い』、「戦前・戦後の日韓関係を「フランスとアルジェリアの関係に似ている」」、確かに上手い比喩だ。
・『いわゆる”保守派”のとんだ勘違い  しかし、いわゆる日本の「保守派」は、国際的な認識として、欧米人の中に「韓国嫌い」が存在すると誤解している。とりわけ世界各地で韓国系市民団体が慰安婦像を設置する動きは2010年代から活発になったが、この問題に関して欧米人は日本の主張の味方をしてくれるものだ、と勝手に勘違いしている。日本の「保守派」の中に強固に存在する朝鮮半島の植民地統治への考え方は、「そもそも朝鮮統治は植民地支配ではない」「朝鮮統治は朝鮮人が自ら望んだもの」という1990年代末から出現した歴史修正主義の亜種で、実際には日本の「保守派」以外、この主張を信じている者は誰もいない。 さらに韓国側や韓国系団体が主張する「従軍慰安婦」については、「彼女たちは単なる売春婦で、(日本)軍に勝手についてきただけの追軍売春婦(*注:日本の保守派による造語)なのだから、謝罪や賠償などをする必要はない」というトンデモで、これが国際的に通用すると信じ込んでいる。 一例を挙げよう。2015年、アメリカの韓国系市民団体がサンフランシスコ市で慰安婦像設置を求めた際、同市でこの問題に関する公聴会が開かれた』、「日本の「保守派」」は国際感覚が欠如した「歴史修正主義」者たちのようだ。
・『日本人のヘイトスピーチに「恥を知れ」  日韓双方から発言者が出たが、日本側からはいわゆる草の根「保守」団体の構成員や自称市民が答弁した。曰く「(韓国側の元従軍慰安婦は)単なる売春婦で、嘘うそつきで、証言は捏造ねつぞうである」。まさしく日本の「保守派」が「従軍慰安婦は単なる売春婦で追軍売春婦」というトンデモ主張をそのままトレースして絶叫したのである。 これに対して同市のデビッド・カンポス市議(同委員)は、日本側出席者のヘイトスピーチを「恥を知りなさい」として一喝。日本側出席者はトンデモ論を繰り返すばかりで、かえって欧米人の心証を著しく悪くした。結局、サンフランシスコ市における慰安婦像設置案はそのまま韓国系市民団体の希望のまま通ってしまった。「従軍慰安婦は捏造で実態は売春婦」などという嘘の発言が、欧米人にも通用するものとして勇んで現地入りした日本の「保守派」が、一顧だにされずに逆に説教をされて完全敗北する。これが欧米人にとっての日韓問題に関する常識的な回答なのである』、「日本側出席者はトンデモ論を繰り返すばかりで、かえって欧米人の心証を著しく悪くした」、「日本側出席者のヘイトスピーチを「恥を知りなさい」として一喝」、せっかくの機会を台無しにした「日本側出席者」を選んだ日本側の一方的な手落ちだ。もっと慎重に適任者を選ぶべきだった。
・『朝日の誤報の有無はそんなに関係ない  それでも日本の「保守派」は、従軍慰安婦報道は朝日新聞による捏造で、欧米人はこれに騙だまされているだけ、という手前勝手な主張を展開している。現在も、である。確かに、著述家・吉田清治による済州島における慰安婦強制連行証言は、早い段階から実証史学者の秦郁彦らによって矛盾や捏造が指摘されていた。結局吉田の証言は完全な作話であると朝日新聞も認めるに至るのであるが、欧米人はこの朝日新聞による誤報があろうとあるまいと、日本軍による従軍慰安婦への戦時性暴力を「認定」して、日本が加害者であるという「常識」を崩していない。 国連の戦時性暴力を扱った「クマラスワミ報告書」では、日本軍の従軍慰安婦問題について多くの元慰安婦から膨大な証言を引用しているが、その中で吉田証言の引用はわずかに2カ所だけである。これを以て日本の「保守派」は、「国連が韓国に騙されている」と主張しているが、吉田証言がなくとも同報告書は十分に成立するので、残念ながら欧米人の有識者は日本の「保守派」の主張を「火星の人面岩」と同等にトンデモ扱いしているか、あるいは考慮するに値しないとして無視している』、こんな大失敗をしたのも拘らず、「日本の「保守派」」が主張を変えてないとは驚くばきことだ。
・『日本の保守派の嫌韓に唖然とする台湾の学生  日本の「保守派」が如何に「従軍慰安婦は売春婦で、日本は韓国統治(朝鮮統治)で良いことをしてやった」と叫んでも、欧米人の認識はまったく動かない。そしてこんな理屈が通用するのは、自閉した日本の「保守サロン」だけで、大学の学部レベルですら同じことを論文にしたら「君は馬鹿か」と言われて即時F(不可)をもらうだろう。実際に同じような趣旨をツイッターで叫んで東京大学特任准教授を解雇された例もあるくらいである。 一方アジアに目を向けると、事情は少し違ってくる。落ちぶれたとはいえ日本はアジア第2位の経済大国であり、地域に与える影響はきわめて大きい。当然周辺諸国は日韓の歴史認識の違いや対立については、欧米人よりもはるかに興味をもってその推移を見守っている。しかしここでも日本の「保守派」による「嫌韓」はまったく支持を得ていない。 筆者が台湾の学生(院生含む)と話したとき、彼らは日本による戦前の台湾統治についておおむね肯定的評価で一致していた。ただしそれは「日本による台湾の植民地統治」という前提を是認していることを踏まえている。「日本の一部右翼は、朝鮮半島の統治がそもそも植民地支配ではない、という言説がまかり通っている」というと、皆一様に「信じられない」という反応で、「日本による朝鮮統治が植民地支配ではないのだとしたら何だというのか」と返す』、「台湾の学生」にも理解されない「日本の「保守派」」の主張は、同じ日本人としても恥ずかしい。
・『なぜフィリピンの慰安婦像は撤去されたのか  台湾の青年知識層に対して、日本の「保守派」による身勝手な嫌韓は全くお話にもならないほど低次元のトンデモと受け入れられている。 同じく隣国のフィリピンではどうか。自治領(比コモンウェルス)やマルコス政権時代を含めると約1世紀にわたるアメリカ従属体制を経験した同国では、民族主義的傾向の強い歴史学者が先の大戦での日本軍の戦いを評価する動きもある。しかし、「大日本帝国は朝鮮と台湾を植民地統治していた」という歴史事実は揺るぎがないほど普遍的認識として共有されており、「日本軍による戦時性暴力」についても日本の「保守派」の味方をする気配はない。ただし在比華人団体の支援により2017年にマニラ市に設置した慰安婦像は翌年撤去されている。これは比政府が「従軍慰安婦は単なる売春婦」という日本の「保守派」の身勝手な主張を認めたものではなく、経済的に影響力が強い日本政府の遺憾の意を考慮したものと推察される』、「フィリピンの慰安婦像は撤去された」のは、「日本の「保守派」の身勝手な主張を認めたものではなく、経済的に影響力が強い日本政府の遺憾の意を考慮したもの」、ありそうな話だ。
・『一貫して敗北し続ける「歴史戦」  日本の「保守派」は、2010年代前半から、こういった特に日韓関係における日本側(保守派)の主張を国際社会に受け入れさせることを「歴史戦」という呼称を用いて正当化させようとしている。例えば自民党の杉田水脈代議士は、下野時代この運動の最前線にいたが、ことごとく敗退した。なぜなら日本の「保守派」が唱える「歴史戦」が、あらゆる意味で基礎的歴史事実に基づいていないからである。現在、対日感情が比較的良い隣国である台比両国でも、「朝鮮統治はそもそも植民地支配では無かった」とか「従軍慰安婦は売春婦だった」などのトンデモは論外として全く受け入れられていない。 しかし日本の「保守派」は、日本国内の学部レベルですら論外とみなされる異様な主張を、サンフランシスコやヨーロッパでも壊れた機械のように繰り返し絶叫し、そのたびにファクトを述べる韓国側の主張が皮肉にもあぶり出される格好となり、敗北を続けている。「歴史戦」と自称しているのに、一貫して敗北し続ける戦線も珍しい。欧米人を含めた国際社会に日本の「保守派」による「嫌韓」が共感を持って迎えられる日は恐らく永遠に来ないであろう』、「日本の「保守派」は・・・異様な主張を、サンフランシスコやヨーロッパでも壊れた機械のように繰り返し絶叫し、そのたびにファクトを述べる韓国側の主張が皮肉にもあぶり出される格好となり、敗北を続けている」、反省や自省をせずに「繰り返し絶叫」するとは、とうてい正気とは思えない。自己満足のためとしても、海外で恥を晒すのはいいかげんにしてほしいものだ。

次に、6月15日付け日経ビジネスオンラインが掲載した中部大学特任教授(元・経済産業省貿易管理部長)の細川昌彦氏による「対韓国の輸出管理問題が再燃? 「米中の代理戦争」という誤解」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00036/?P=1
・『韓国に対する輸出管理問題が再燃か?! 韓国は6月2日、日本の韓国に対する輸出管理の厳格化措置について世界貿易機関(WTO)に提訴する手続きを再開すると発表した。この問題になると、なぜか臆測、邪推が飛び交って事実がゆがむ・・・。激化する米中の半導体戦争に影響されて、「米中の代理戦争」だとのコメントもメディアで喧伝(けんでん)される。ストーリーとしては面白いが、事実は異なる』、最適任者の「細川氏」の見解とは興味深そうだ。。
・『真逆の臆測や見立てが飛び交う  簡単に経緯を振り返ってみよう。 2019年7月、日本は韓国に対して半導体関連の3品目の輸出管理を厳格化するとともに韓国を優遇する「ホワイト国」から除外した。韓国はいわゆる元徴用工問題に対する報復だとして同年9月にWTOに提訴。軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄もちらつかせて撤回を求めた。しかし同年11月、米国が韓国に強い圧力をかけてGSOMIA失効を停止させた。韓国はWTO提訴の手続きも中断し、輸出管理の問題は日韓当局間が局長級の政策対話をすることとなった。 当時、ある大御所評論家はテレビでこうコメントした。「米国が日韓双方に圧力をかけて7月以前に戻せということ。すなわち韓国のGSOMIA破棄と日本の輸出管理措置の双方をチャラにさせた」 韓国は国内向けのメンツから、GSOMIAと輸出管理をリンクさせ、米国が日韓双方に調停したように見せようと必死だった。そんな韓国をぬか喜びさせかねないコメントに、私は率直に「邪推だ」と指摘した。その後の日本の輸出管理の動きを見れば、これが邪推であったことは明らかだ。 当時、米国の外交当局が「米中対立のさなかに、日韓があまりいがみ合ってほしくない」との姿勢であったのは間違いない。しかしそこから「日韓双方に圧力をかけた」とするのは飛躍した臆測だ。 そして今度は韓国問題に詳しい論者などから真逆の臆測が飛び出している。 「半導体を巡る米中の激しい争いの中で、米国は韓国から中国への半導体材料の横流しの事実をつかんで、これを抑えるべく、日本に韓国への輸出を止めさせた」というものだ。日韓の輸出管理問題を「米中代理戦争」と断じている。 最近、米国において中国の半導体生産への警戒感が高まっている中で、もっともらしいストーリーとして面白いが、これも事実ではない。当時の輸出管理問題に対する米国の姿勢とは明らかに矛盾する。 「米中央情報局(CIA)などから中国への横流しの事実を伝えられて輸出管理の厳格化に至った」と、まことしやかに語られるが、事実はそうではない。経産省は輸出者への立ち入り検査で輸出者のずさんな管理の実態を把握できる。何でも米国の諜報(ちょうほう)情報に依存していると決めつけるのは間違いだ。 さらに最近の米国による中国ファーウェイ制裁強化の結果、台湾の半導体メーカー・台湾積体電路製造(TSMC)に代わって、韓国のサムスン電子がファーウェイに半導体を供給するとのコメントもある。これも事はそう単純ではない。そもそも米国の規制の網はサムスン電子にもかかり、サムスン電子は米中の板挟み状態だ。しかもファーウェイはスマホ、携帯でサムスン電子にとってライバル企業でもある。単純に「中国の代理」というわけにはいかないのだ。 さまざま論者たちによってこうした真逆の臆測や見立てが飛び交うのは、輸出管理への理解不足から来ているようだ』、世間の「誤解」を解いてほしいものだ。
・『「半導体3品目」と「ホワイト国」を巡る誤解の数々  これまでも、しばしば誤解を解いてきたが、簡単におさらいしよう。 まず日本の措置は半導体関連の3品目を個別許可にした措置と韓国をホワイト国から外した措置の2つあり、分けて考えなければいけない。これらを混同している論者がいかに多いことか。 結論を言えば、前者は輸出者に着目したもので、元に戻るのは輸出者の改善次第で時間の問題だ。他方、後者は相手国に着目したもので、韓国の輸出管理が信頼できると判断するまで当分の間続くだろう。相手国が信頼できなければその輸出管理が信頼できないのは当然だ。 前者に関して、当時「不適切な事案」が発生していたことを覚えているだろうか。日本から韓国に輸出したものがずさんな管理で、そのうち相当量が行方不明になっていた事案が頻繁に発生していたのだ。これらは輸出者に対して立ち入り検査することによって発覚する。中国であれどこであれ、相当量が行方不明になっていることだけで、国際的に輸出管理上「不適切」となる。 逆に輸出者が改善して管理をきっちりした取引が積み上がってくると、元に戻して簡便な手続きの包括許可を認めるのが筋だ。現に着実にそうなりつつあるので、解決は時間の問題だ・・・。 これに対して後者の「ホワイト国」については、相手国の輸出管理が信頼できるかどうかの問題だ。当局者間の意思疎通といった信頼関係があることが不可欠だ。韓国は輸出管理体制の脆弱や法制度の不備といった日本がこれまで指摘していた点について対策を講じてきたのは事実だ。ただしそれだけでは足りない。形だけでなく、運用が実効的かきちっと見極めて、日本が信頼できると評価するかどうかだ。 そして根本的な点は、いずれも日本が輸出国の責任で判断するもので、相手国と交渉する性格のものではないということだ。「韓国に譲る、譲らない」という性格のものではない』、さすがクリアーな説明だ。。
・『韓国はなぜ勝ち目がないWTO提訴に突き進むのか?   茂木敏充外相は6月2日、「当局間で対話が継続してきたにもかかわらず韓国が一方的に発表したことは遺憾だ」と述べた。確かに日韓の当局者間の対話を通じての理解は進んでいた。 しかしいくら日本のカウンターパートと対話して理解が進んでも、文政権はそんなことお構いなしの決定をするのが今の韓国だ。その背景については諸説ある。 4月の総選挙に大勝して、対日政策もより“無謀”になるとの見立てもある。北朝鮮が南北関係の緊張を高め、国内経済の深刻度が増している状況で、国内政治的に「日本に負けない姿」が欲しいのかもしれない。 あるいは、いわゆる元徴用工訴訟でこの夏以降、差し押さえた資産を現金化する手続きが進む可能性が出てきたこととの関連だ。個別許可のままだと、日本から恣意的運用で報復されかねないので、その前に決着しておきたかったというものだ。 またあるテレビ番組では「世界保健機関(WHO)のように、WTOも中国の影響力が強まっているので、それを韓国は期待しての対応だ」と驚きのコメントをする人もいる。WTOの審査の実態も知らずに、このような稚拙な発言まで垂れ流されている。 いずれにしても明らかに“無理筋の決定”だ。(WTO違反にはならないことは「補足解説3:誤解だらけの『韓国に対する輸出規制発動』」を参照)。 「日本に譲歩を迫る戦術」との報道もあるが、脅しにもならず的外れだ。逆に譲歩と見られかねないので、かえって日本は動きづらくなる。せっかく再開した対話も続けにくい。こうした冷静な判断をできないのが今の韓国だ。いずれにしても日本は国際世論対策には抜かりがあってはならない』、「日本は国際世論対策には抜かりがあってはならない」、その通りだが、頼りない気も残る。
・『「半導体産業に大打撃」だったのか?  昨年7月に日本が輸出管理の厳格化を打ち出したとき、“有識者”やメディアは「韓国の半導体産業に大打撃」「個別許可で恣意的運用も」と騒いでいた。こうした日本の報道を受けて韓国が猛反発した面も否めない。こうした報道は厳しく検証されるべきだろう。 これは輸出管理への無理解からくるもので、私は当時から「空騒ぎだ」と指摘してきた・・・。 現に韓国とのまともな取引に支障は出ていない。その結果、韓国の半導体輸出量を見ても、ほとんど影響を与えていない(以下の図を参照)。「韓国に制裁をすべきだ」との思いの人々にとって不満かもしれないが、それが「輸出管理」であり、「輸出規制」ではないゆえんだ。わざわざ「輸出規制」と呼んでいる報道は意図的に事実をゆがめるものだ。 日本による輸出管理の厳格化を受けて、韓国は脱日本依存を掲げて、半導体生産に不可欠な3品目について国産化を急いだ。例えば、これまで日本企業からは高品質のフッ化水素を安定的に供給されていた。こうした高純度品の国産化は難しいので、多少の歩留まりの低下を覚悟して、低純度品でも何とかしのげる生産工程では一部を国産品に切り替えた。さらに日本企業に対しては可能ならば日本以外の工場から供給するよう要請もしている。その結果、日本企業による韓国向けフッ化水素の輸出は減少している。 これらはサムスン電子など韓国企業が経済合理性を犠牲にしてでも、リスク分散を図った結果だ。ただこれをもって「日本の措置は日本企業にしわ寄せがいっただけだ」と評するのは当たらない。問題の一端は、日本企業自らのずさんな管理にもある。引き金になったのは事実だが、韓国はこれまでも脱日本依存を掲げて政策的に国産化を進めようとしてきた。それを加速したかもしれないが、時間の問題ともいえる。大事なことは技術流出を阻止して、高品質なものは日本企業に依存せざるを得ない状況をいかに維持するかだ。 米中対立を背景に、日本も脱中国依存を掲げてサプライチェーンの国内化を進めている。これまで一体化の方向で進展してきた東アジアのサプライチェーンも既に大きく逆方向に回り始めている。日本企業もこれまで通りのビジネスを前提にできない経営環境なのだ』、確かにグルーバル化への見直し、「技術流出を阻止」、「これまで一体化の方向で進展してきた東アジアのサプライチェーンも既に大きく逆方向に回り始めている」、今後の展開を見守りたい。

第三に、6月25日付けJBPressが掲載したジャーナリストの李 正宣氏による「ボルトン回顧録で韓国民の怒りが日本に向かう理由 「南北統一を邪魔して回る日本」、韓国高官が次々と批判の声」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61063
・『米国・国家安全保障問題担当補佐官として至近距離から見守ったトランプ大統領の首脳外交秘話を思いっきり暴露したジョン・ボルトン氏の回顧録『それが起きた部屋』(The Room Where It Happens)に対する韓国社会からの糾弾が絶えない。トランプ大統領とホワイトハウスの政策失敗を批判したのが回顧録の主な内容だが、その中に米朝首脳会談と米韓首脳会談など、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権にとって敏感な内容も多数含まれているためだ。 中央日報によると、本書には文在寅大統領を意味する「MOON」という単語が153回も登場しており、朝鮮半島関連の技術部分ではトランプ大統領に劣らず、韓国の文在寅大統領と鄭義溶(チョン・ウィヨン)大統領府安保室長を辛らつに批判しているという』、「ボルトン氏の回顧録」が「韓国」にも波紋を起こしたとは興味深い。
・『ボルトン回顧録で韓国で高まる反日機運  だが韓国で同書が起こした波紋はそれだけではない。回顧録の中身として、米朝首脳会談をめぐる日本の否定的な態度や、米朝間の終戦宣言を安倍晋三首相が引き止めたという内容があると報じられたことで、韓国の与党やメディアは連日、ボルトン氏はもちろん、日本に対する激しい糾弾が続いているのだ。 「ネオコン・ボルトンの手管や日本の妨害によって、70年間の分断を終え、韓半島統一への歴史的転換となる千載一遇の機会が消えたという、実に嘆かわしい真実が残念だ」 「米国のネオコンと日本の主張は一致する。ネオコンや日本と手を組む(韓国内の)土着分断勢力が、韓半島の平和と繁栄を妨害する『三大分断勢力』であることが明らかになった」 朝鮮戦争70周年を翌日に控えた24日、韓国与党の共に民主党の最高委員会議で、金泰年(キム・テニョン)院内代表はボルトン氏と日本をこのように非難した』、ありそうな話だ。
・『「文大統領の半島平和外交を執拗に妨害してきた日本」  さらに国会の外交統一委員長を務める宋永吉(ソン・ヨンギル)議員も21日、自身のフェイスブックで、こう怒りを爆発させた。 「日本は、韓半島の平和よりは政治的・軍事的対立と緊張が、韓国と北朝鮮の統一よりは分断が自分たちの利益と合致し、それのために初志一貫行動していることを、ボルトン元国家安全保障担当補佐官が書いた回顧録で改めて確認した」 「第2次世界大戦の敗戦国である日本が、韓国戦争(朝鮮戦争)で国家再建の基礎を築いたことからも、韓半島の平和が日本の利益と衝突することがわかる」 「ハノイでの北朝鮮と米国の会談の決裂を聞いて欣喜雀躍した日本、やはり韓半島の平和が不満なボルトンらの米国強硬派の画策が、ハノイ会談を破局に導いた」 日本批判の声はまだある。韓国外交通商部(外交部)付属の国策研究機関である「国立外交院」の金俊亨(キム・ジュンヒョン)院長は23日、あるラジオに出演し、「ボルトンもボルトンだが、(回顧録で)日本の実態がそのまま露呈された」と語った。 彼は「これだけではない。私は過去2年間ずっと話を聞いてきた。文在寅大統領が欧州を訪問したらすぐに日本がついてきては『親北朝鮮左派の話に気をつけよ』と言いまわるなど、(韓国に)付きまといながら仲違いしたほどだった」と、日本が文大統領の朝鮮半島平和外交に対して執拗な妨害活動をしてきたと指摘した』、「ハノイでの北朝鮮と米国の会談の決裂を聞いて欣喜雀躍した日本、やはり韓半島の平和が不満なボルトンらの米国強硬派の画策が、ハノイ会談を破局に導いた」、これもありそうな話だ。ただ、「文在寅大統領が欧州を訪問したらすぐに日本がついてきては『親北朝鮮左派の話に気をつけよ』と言いまわるなど、(韓国に)付きまといながら仲違いしたほどだった」、本当だろうか。
・『「日本は南北統一を恐れている」の思いに確信を与えたボルトン回顧録  ニュースエージェンシーの連合ニュース系列のケーブルテレビ局「YTNニュース」は23日、「ソウルの幸福感を破りたかった?・・・日本の組織的妨害」というリポートで、ボルトン氏の回顧録の内容を次のように分析している。 <今日は、ジョン・ボルトン氏の回顧録の中で、日本が韓半島和平体制の構築をどのように妨害したのかという部分を見てみたいと思います> <南北首脳会談、米朝首脳会談の推進で疎外されていた日本としては、北朝鮮と米国の交渉妥結内容に日本の要求をなんとか取り入れたり、交渉が決裂したりするように踏み込もうとしたのです> <ジョン・ボルトンは、韓半島の非核化を大韓民国の仲裁と外交で解きたくありませんでした。北朝鮮のすべての力を奪って、悩みの種を事前に除去し、米国の影響圏に置くのが目標でした> <南北が平和体制に入り、北東アジアで巨大な力を育てることを阻止したかった日本と米国の覇権主義者のボルトンは、そのように意気投合したのです> 多くの韓国人、特に文在寅政権支持勢力は、朝鮮半島の平和に最も邪魔になる存在が日本と考えている。南北が統一を果たし、経済力や国際的地位の面で日本を超えることを日本が恐れ、南北の和解を妨害しているというのが彼らの主張だ。 今回のボルトンの回顧録の内容は、彼らに「自分たちの見解が決して間違っていない」という確信を与えただろう。韓国の保守系マスコミからは、ボルトンの回顧録によって米韓同盟が揺さぶられることを憂慮する見解が多いが、悪化の一途をたどっている日韓関係も、ボルトンの回顧録に少なからぬ影響を受けるものと見られる』、「南北が平和体制に入り、北東アジアで巨大な力を育てることを阻止したかった日本と米国の覇権主義者のボルトンは、そのように意気投合したのです」、地政学的にも納得できる話だが、「日韓関係」をさらに「悪化させる」とすれば、困ったことだ。

第四に、7月10日付けプレジデント Digitalが掲載した政経ジャーナリストの麹町 文子氏による「韓国・文在寅いよいよ日本と本気で喧嘩へ…8月4日、"全面戦争"に乗り出す構え 「準同盟国」から「準敵国」になるのか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/36921
・『文在寅「日韓8月開戦」へ動き出す  いまや「KY(空気が読めない)大統領」との呼び声高い韓国の文在寅大統領が、いよいよ本気で日本とケンカするつもりのようだ。国内批判が高まった時は歴史問題を巧みに利用した外交に活路を見いだすのがパターンとなっているが、握りしめている今回のカードもそれにはまる。 2018年10月に韓国の最高裁にあたる大法院が新日鉄住金(現日本製鉄)に元徴用工への賠償を命じ、同社に資産差し押さえの通知が届いたとみなす公示送達の効力が8月4日に発生するのを皮切りに「全面戦争」に乗り出す構えだという。韓国の裁判所は差し押さえた資産を強制的に売却し、賠償する命令を下すことができるため、期限まで残り1カ月を切る中で日韓間の緊張は高まっている。 文大統領は「司法の判断」とうそぶいているようだが、そもそも1965年の日韓請求権協定で解決済みの話であるのは言うまでもない。さて、日韓「8月開戦」の行方はどうなるのだろうか。 「関連する司法手続きは明確な国際法違反だ。差し押さえ資産の現金化は深刻な状況を招くため避けなければならず、韓国側に繰り返し指摘している」 日頃は温厚な菅義偉官房長官は6月4日、文大統領による執拗な挑発行為に対し、さすがに強い口調でこう警告した。日本政府内では、仮に韓国が現金化を実行した場合の報復措置として、輸出規制や韓国製品の関税引き上げ、送金制限などに踏み切ることを検討している』、「公示送達の効力が8月4日に発生するのを皮切りに「全面戦争」に乗り出す構え」、やれやれだ。ただ、日本側の「報復措置」は頼りなさそうだ。
・『文政権で日本にとって「準同盟国」だった韓国は「準敵国」に  これまでの言動に対しては「無視」してきた日本政府だが、文大統領の最近の横暴ぶりを見れば報復を検討するのも無理もない。日本が安全保障上の理由から昨年7月に踏み切った韓国への輸出管理強化をめぐり、韓国は世界貿易機関(WTO)に紛争処理小委員会の設置を求めて提訴。 今月6日からスイスで始まったWTOの会合で、韓国側は「日本の措置には正当な理由がなく、すべて無効だ」と主張し、小委員会での審理を求めている。竹島に慰安婦、元徴用工……。隣国にいさかいは尽きないものかもしれないが、モグラたたきのように解決しては出てきて、また解決しては出てくるというのではキリがない。 残念ながら文大統領を見る日本の外交・防衛当局者の視線は甘くないようで、2010年から約2年間、駐韓大使を務めた武藤正敏氏は著書「日韓両国民を不幸にする文在寅という災厄」で、文政権をこう評している。『日本にとって事実上「準同盟国」だった韓国を、残念ながら「準敵国」と捉えてもおかしくない存在にした』。 外務省きっての韓国通として知られる武藤氏は、文政権の特徴として①現実無視②二枚舌③無謬性と言い訳④国益無視⑤無為無策の5つをあげ、「見たいことしか見ず、見たくないことは無視してしまう」「時と場合において言うことが違う」などと厳しく批判している。 日本による輸出管理の厳格化に伴い韓国の主要産業である半導体の原材料に影響が出て、不振に陥っていると素直にいえば話し合う場も見つかるというものだが、そこで逆ギレしてしまうのは武藤氏が指摘する「見たいことしか見ず、見たくないことは無視してしまう」という性質のあらわれなのだろう』、「駐韓大使を務めた武藤正敏氏」が「文政権で日本にとって「準同盟国」だった韓国は「準敵国」に」と指摘しているとは深刻だ。
・『韓国の大統領はとにかく前政権を否定する  誤解を恐れずに言えば、これが国際社会の抱いている現実ではないか。かつて日本にも米紙から「ルーピー(愚か者)」と評された民主党政権の鳩山由紀夫総理が誕生し、米軍普天間飛行場の移設問題で日米関係を迷走させたことに国内外の批判が高まったことがある。 日米両国間で積み上げてきた沖縄県名護市辺野古への移設ではなく、県外移設にこだわり、総理退任後にはソウルで朝鮮半島統治をめぐり土下座して謝罪するなど、そのパーソナリティには注目が集まった。ただ、その鳩山氏も最終的には「学べば学ぶにつけ、沖縄の米軍が連携して抑止力を維持している」と軌道修正を図り、県外移設を断念している。 「古今東西、政権交代とはそういうもの」と語るのは簡単だが、5年間の任期という「ワンチャン」に縛られる韓国の大統領はとにかく前政権を否定するところから始まるのだから手に負えない。 文大統領は、前任者である朴槿恵氏が憲法裁判所に罷免され、逮捕されたことに伴い誕生したが、その朴政権時代に日本政府と「最終的かつ不可逆的解決」であると確認し、慰安婦問題の決着を図った国家と国家との合意事項もひっくり返す。竹島についても、いつの間にか領土の話から歴史問題へとすり替えてしまう。そうした言動を繰り返していては、国の「信頼度」が毀損し、あらゆる国から「キワモノ国家」として扱われるのは必然である』、「あらゆる国から・・・」は、「麹町氏」の希望的観測的色彩が濃厚だ。
・『北朝鮮にとって文政権は信頼できない相手  「確実に南朝鮮(韓国)と決別する時が来た」 北朝鮮の朝鮮中央通信が金与正朝鮮労働党第1副部長の「断絶談話」を発表した6月13日以降、文大統領の動揺ぶりはまるで恋人にフラれたかのように痛すぎるものだった。韓国・平昌五輪の開会式で握手を交わして笑顔を見せ、ソウルで北朝鮮芸術団の公演を楽しそうに与正氏と観覧したのはわずか2年半前のこと。互いに国の代表とはいえ、その立場も年齢の差も感じさせないほどのムードに包まれたはずだった。 文大統領は「過去の対決時代に戻そうとしてはいけない」「平和と統一の道を一歩ずつ進まなければならない」と再接近を求めているが、与正氏は「嫌悪感を禁じ得ない」と一蹴。特使派遣も拒絶されるなど、大統領就任後3年あまり費やしてきた融和の道はアッという間に閉ざされてしまった。 諦めきれない様子の文大統領は統一相や国家安保室長、国家情報院長などのポストを刷新して北朝鮮との関係をより重視する姿勢を見せ、7月7日から韓国に「ドラえもん」役である米国のスティーブン・ビーガン国務副長官を招くカードを切ったが、それも北朝鮮側から「未熟」と断じられる始末。北朝鮮からすれば、ジョン・ボルトン前米大統領補佐官が著書で暴露したように対北軍事オプションを米国と協議している文大統領は信頼できる相手とはいえないということだろう』、「北朝鮮側」にとっては、トランプとの首脳会談で、事前に「文大統領」から聞いていたトランプの姿勢が実際には、大きく違っていたため、会談が合意に至らなかったという恨みもあるようだ。
・『同盟国・アメリカの評価も辛辣  過激漫画もびっくりの罵詈雑言を韓国に浴びせる与正氏の語彙力にも注目が集まっているが、同盟国である米国も韓国への評価は辛辣だ。それを端的に示している例としては、ボルトン氏による文大統領批判に加え、バラク・オバマ政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏の証言があげられる。ゲーツ氏は著書「イラク・アフガン戦争の真実」で、文大統領が流れを汲む廬武鉉元大統領について「少し頭がおかしいと思った。彼には、アジアにおける安全保障の最大の脅威は米国と日本だと言われた」と明かしている。2019年4月の訪米時、トランプ大統領は文大統領との首脳会談をたったの「2分間」で終わらせたのは記憶に新しい。 文大統領はその一方で、アジアの「ジャイアン」役である中国にはペコペコし、米国への牽制にも一役買ってしまう始末だ。新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、さすがに中国人の入国禁止措置を「実効的ではない」と回避した際には「中国の大統領のようだ」などと批判され、大統領弾劾を求める請願に賛同が集まったが、もはやどこを向いて職務を果たしているのか分からなくなる』、「文大統領」が「トランプ大統領」から軽視され、「中国にはペコペコし」、「中国人の入国禁止措置を「実効的ではない」と回避した際には「中国の大統領のようだ」などと批判」、最後の点は初めて知った。
・『文大統領、そろそろ正直者になってみませんか  さて、その文大統領の支持率は下げ止まる気配を見せていないようだ。同国の世論調査会社「リアルメーター」が7月6日発表した調査結果によると、支持率は6週連続で下落し、40%台に落ち込んだ。いまだ4割超の支持があるとはいえ、2017年5月の大統領就任当初は8割を超える高支持率でスタートしており、韓国国民が抱いていた淡い期待は半減した形だ。 南北関係の悪化に伴い開城にある南北共同連絡事務所の爆破や統一相の辞任などが続き、南北融和を進めてきた文大統領への不満が高まっていると見られている。日本からは正論で反撃され、頼みの綱である米国もつれない。だが、その時々で物事をひっくり返す「シーソーゲーム」好きの大統領はなぜ嫌われているのかさえも理解できていないように映る。 文大統領の任期満了まで、あと2年。日本との「開戦」をご希望のようだが、本当にそれを貫く胆力と能力はあるのか。コロナ禍で苦しむ日韓両国の国民のみならず世界中を振り回すパフォーマンスだけは控えた方が良い。大統領の無茶ぶりが韓国に甚大なダメージをもたらすのは自明だろう。「出木杉君」になってほしいとは思わない。せめて、「のび太君」に。文大統領、まずは正直者になるところから出直してみませんか』、同感だが、期待できそうもなさそうだ。
タグ:日韓関係 日本政府内では、仮に韓国が現金化を実行した場合の報復措置として、輸出規制や韓国製品の関税引き上げ、送金制限などに踏み切ることを検討 日本の「保守派」の身勝手な主張を認めたものではなく、経済的に影響力が強い日本政府の遺憾の意を考慮したもの 「半導体産業に大打撃」だったのか? (その10)(「韓国が大嫌いな日本人」を 世界はどのように見ているのか 一貫して敗北し続ける「歴史戦」、「韓国が大嫌いな日本人」を 世界はどのように見ているのか 一貫して敗北し続ける「歴史戦」、ボルトン回顧録で韓国民の怒りが日本に向かう理由 「南北統一を邪魔して回る日本」 韓国高官が次々と批判の声、韓国・文在寅いよいよ日本と本気で喧嘩へ…8月4日 "全面戦争"に乗り出す構え 「準同盟国」から「準敵国」になるのか) なぜフィリピンの慰安婦像は撤去されたのか 「「韓国が大嫌いな日本人」を、世界はどのように見ているのか 一貫して敗北し続ける「歴史戦」」 韓国はなぜ勝ち目がないWTO提訴に突き進むのか? ハノイでの北朝鮮と米国の会談の決裂を聞いて欣喜雀躍した日本、やはり韓半島の平和が不満なボルトンらの米国強硬派の画策が、ハノイ会談を破局に導いた 新日鉄住金(現日本製鉄)に元徴用工への賠償を命じ、同社に資産差し押さえの通知が届いたとみなす公示送達の効力が8月4日に発生 日本の保守派の嫌韓に唖然とする台湾の学生 「半導体3品目」と「ホワイト国」を巡る誤解の数々 朝日の誤報の有無はそんなに関係ない 真逆の臆測や見立てが飛び交う ボルトン回顧録で韓国で高まる反日機運 北朝鮮にとって文政権は信頼できない相手 韓国の大統領はとにかく前政権を否定する 「対韓国の輸出管理問題が再燃? 「米中の代理戦争」という誤解」 駐韓大使を務めた武藤正敏氏 文在寅「日韓8月開戦」へ動き出す せっかくの機会を台無しにした「日本側出席者」を選んだ日本側の一方的な手落ちだ 細川昌彦 慰安婦像設置案はそのまま韓国系市民団体の希望のまま通ってしまった 「韓国・文在寅いよいよ日本と本気で喧嘩へ…8月4日、"全面戦争"に乗り出す構え 「準同盟国」から「準敵国」になるのか」 麹町 文子 文大統領の半島平和外交を執拗に妨害してきた日本 ネオコン・ボルトンの手管や日本の妨害によって、70年間の分断を終え、韓半島統一への歴史的転換となる千載一遇の機会が消えた ジョン・ボルトン氏の回顧録『それが起きた部屋』 「ボルトン回顧録で韓国民の怒りが日本に向かう理由 「南北統一を邪魔して回る日本」、韓国高官が次々と批判の声」 李 正宣 JBPRESS プレジデント Digital 日本人のヘイトスピーチに「恥を知れ」 歴史修正主義 文政権で日本にとって「準同盟国」だった韓国は「準敵国」に 文大統領、そろそろ正直者になってみませんか 同盟国・アメリカの評価も辛辣 日本側出席者はトンデモ論を繰り返すばかりで、かえって欧米人の心証を著しく悪くした 日経ビジネスオンライン 異様な主張を、サンフランシスコやヨーロッパでも壊れた機械のように繰り返し絶叫し、そのたびにファクトを述べる韓国側の主張が皮肉にもあぶり出される格好となり、敗北を続けている 同市のデビッド・カンポス市議(同委員)は、日本側出席者のヘイトスピーチを「恥を知りなさい」として一喝 一貫して敗北し続ける「歴史戦」 日本側からはいわゆる草の根「保守」団体の構成員や自称市民が答弁した。曰く「(韓国側の元従軍慰安婦は)単なる売春婦で、嘘うそつきで、証言は捏造ねつぞうである」。まさしく日本の「保守派」が「従軍慰安婦は単なる売春婦で追軍売春婦」というトンデモ主張をそのままトレースして絶叫 古谷 経衡 「日本は南北統一を恐れている」の思いに確信を与えたボルトン回顧録 文在寅大統領が欧州を訪問したらすぐに日本がついてきては『親北朝鮮左派の話に気をつけよ』と言いまわるなど、(韓国に)付きまといながら仲違いしたほどだった いわゆる”保守派”のとんだ勘違い 戦前・戦後の日韓関係を「フランスとアルジェリアの関係に似ている」と説明すると得心が行く場合がある 欧米人に日韓関係の精通者は少ない これまで一体化の方向で進展してきた東アジアのサプライチェーンも既に大きく逆方向に回り始めている PRESIDENT ONLINE
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パンデミック(経済社会的視点)(その3)(パソナ「竹中平蔵」会長の「利益相反」を許していいのか 経産省・電通・パソナの“3密”、「コロナで死なない」は人生の目的ではない 和田秀樹さんが語る「新しい生活様式」への違和感、43人死亡 永寿総合病院の奮闘が教えてくれた働く意義) [国内政治]

パンデミック(経済社会的視点)については、6月26日に取上げた。今日は、(その3)(パソナ「竹中平蔵」会長の「利益相反」を許していいのか 経産省・電通・パソナの“3密”、「コロナで死なない」は人生の目的ではない 和田秀樹さんが語る「新しい生活様式」への違和感、43人死亡 永寿総合病院の奮闘が教えてくれた働く意義)である。

先ずは、6月25日付けデイリー新潮「パソナ「竹中平蔵」会長の「利益相反」を許していいのか 経産省・電通・パソナの“3密”」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/06270559/?all=1
・『持続化給付金事業の委託問題でその名が取り沙汰されているパソナグループは、接待攻勢で政治家や官僚を取り込み、勢力を拡大してきた歴史を持っている。会長である竹中平蔵氏について政治アナリストの伊藤惇夫氏に言わせると、 「まず一般論として、政府の政策決定に関わる人物が“利益相反”になりかねない民間企業の会長の椅子に座っていること自体に疑問を抱きます。持続化給付金の問題にしても、経産省・電通・パソナの三位一体で回している。政府が“三密を避けろ”と言うのなら、こっちの“三密”も避けるべきだと思います」 事実、竹中氏は2009年からパソナグループ会長でありながら、政府の未来投資会議や、国家戦略特区諮問会議で民間議員を務めている。 彼の影響力が一気に増したのは、小泉政権下で“聖域なき構造改革”の旗振り役となってからだ。 「端的に言えば、竹中さんは“政商”以外の何者でもありません」 経済アナリスト・森永卓郎氏はそう断じる。 「竹中さんが金融担当大臣として推し進めた不良債権処理にしても、対象となった企業の3分の2はハゲタカに食われ、残りの3分の1は当時の経済財政諮問会議に協力していた企業に二束三文で買われてしまった。また、竹中さんは経済財政担当大臣時代に“製造業”の派遣労働を解禁した。戦後の口入れ稼業で労働者の賃金ピンハネが横行したことから、製造業は“聖域”として守られていたのですが、それが解禁されたことで業界大手のパソナが大儲けした。それからまもなく竹中さんはパソナに迎え入れられ、いまでは会長職に就いている。自分が利権を拡大したところに天下るなど公務員ならば決して許されない。竹中さんに何のお咎めもないことが不思議でなりません」』、「竹中氏は2009年からパソナグループ会長でありながら、政府の未来投資会議や、国家戦略特区諮問会議で民間議員を務めている」、「利益相反」など全く気にしてないようだ。「“政商”以外の何者でもありません」、とは言い得て妙だ。
・『そうした批判を尻目に、20年以上にわたって日本の構造改革に関与してきた竹中氏は、いまもグローバル化を説き続ける。 ヒト・モノ・カネが軽々と国境線を越えるグローバリズムが、人々に恩恵をもたらしたことは否定できない。だが、それが超格差社会を招き、古き良き日本文化を破壊したのも事実。しかも、かつてないほど各国の結びつきが強化されたことで、今般のコロナ禍は瞬く間に全世界を覆い尽くし、経済に未曾有の打撃を与えたのは大いなる皮肉だ。そんな疫病禍でパソナは巨額の公共事業を受託しているのである。 著書『市場と権力』で「竹中平蔵」という人物を掘り下げたジャーナリストの佐々木実氏は言う。 「官から民へと民営化の旗を振り続けてきたのが竹中氏です。しかし、持続化給付金問題を見れば、巨額の民間委託で問題が起きても“民間同士の取引”を盾に企業は情報を開示しない。市場原理を働かせて効率化するはずが、実際は、特定の企業グループが社名を隠して利益を山分けするスキームだった。そこに竹中氏が会長を務めるパソナもきっちり入っている。政府ブレーンとして制度を改革し、関与する企業でその恩恵を受ければ、利益相反行為です。非正規雇用を増やし、水道など社会インフラの民営化を進める竹中氏は、社会を安定させる社会的共通資本を儲けの対象としか考えていない。コロナ後の社会を見据えた制度設計にまで口を出すようなら、百害あって一利なしです」 こうした点を質すため、竹中氏を直撃すると、 「いや、そういったことは会社を通してください」と仰り、逃げるのみ。 コロナ禍を拡大させた張本人。その人物を会長に据え、政界実力者への饗応を繰り返す南部靖之パソナグループ代表。そして、この2人の“政商”の掌中には、日本再生を託された西村康稔経済再生担当大臣がいる。「李下に冠を正さず」の戒めはその耳に届くまい』、「持続化給付金問題を見れば、巨額の民間委託で問題が起きても“民間同士の取引”を盾に企業は情報を開示しない」、純粋な「民間同士」ではなく、親会社と関連会社間の取引なのだから、開示すべきだ。「経産省・電通・パソナの“3密”」、腹立たしい利益共同体だ。

次に、7月5日付けAERAdot「「コロナで死なない」は人生の目的ではない 和田秀樹さんが語る「新しい生活様式」への違和感〈AERA〉」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2020070200039.html?page=1
・『新型コロナウイルス感染拡大以降、私たちの生活は大きく変わった。感染防止に努めるあまり、自由や幸福の追求など人として大切のものを失いつつある恐れもある。AERA 2020年7月6日号から。 どんな場面でどう振る舞うのが、感染リスクを抑える上で合理的なのか。緊急事態宣言解除後、「新しい生活様式」についてAERAがアンケートを行ったところ、知りたいことだけではなく、怒りや疑念の声も多く集まった。 「自分や友だちがウイルスにしか思えなくなる変な感覚、人間嫌いになりそう!」(沖縄、41歳女性、専業主婦) 「この生活様式は永遠に続くのか、何かのきっかけで負担が減るのか。ゴールが見えない」(東京、42歳女性、会社員) 大切な人を守るため、感染拡大を防ぐためといわれれば致し方ない気もするが、実は私たちは失っているものも大きいのではないか。 精神科医の和田秀樹さんは問題を提起する。 「人間の心がまったく無視されています」 その象徴こそ、新しい生活様式の基本にある、人との距離を2メートル保つ「ソーシャルディスタンス」だという。 「大切な人と心の距離を近づけたいとき、互いに触れ合える距離で身振りや表情を見ながらコミュニケーションすることは大切です。ソーシャルディスタンスは、人と心を通わせる喜びを失わせます」 映画、音楽など芸術分野は、自粛要請が続き縮小傾向にある。不安から映画館や劇場に足を運ぶ人は減り、入場人員にも制限がかかる。新しい生活様式が1年、2年と続けば、それが普通になる恐れもある。 「撮影中止で食べていけなくなり、優秀なスタッフが辞める例もある。映画や演劇を観ない生活が当たり前になれば、文化が細ることにもつながりかねません」 和田さんが何より違和感を覚えるのは、「自由」よりも「コロナで死なないこと」が最優先される社会の風潮だ。 「人間はある恐怖を味わうと、『どんな手段を使っても逃れたい』という気持ちが働きやすい。ただ、人が生きるのは『幸福に生きる』ため。『新しい生活様式』という『コロナで死なない』ための手段がそれにすり替わり、本来の目的である幸福の追求がないがしろにされています」』、「ソーシャルディスタンスは、人と心を通わせる喜びを失わせます」、「人が生きるのは『幸福に生きる』ため。『新しい生活様式』という『コロナで死なない』ための手段がそれにすり替わり、本来の目的である幸福の追求がないがしろにされています」、全く同感である。
・『医療人類学者の磯野真穂さんも、違和感をこう語る。 「人間は本来、他者と交流して生きる存在です。新しい生活様式はその真逆。確かに、感染はしなくなるかもしれない。でも、交流することを手放し、それで『生きている』と言えるのでしょうか」 緊急事態宣言が明けて約1カ月。多くの人は、どこへ行くにもマスクを着用して手指消毒を励行し、新しい生活様式を戸惑いながらも受け入れているように見える。 磯野さんは背景に、インパクトのある情報だけが強調される問題があると指摘する。 『対策を講じない場合は42万人が死亡』など、専門家が提示するショッキングな数字が音声と映像で演出されることで、心に恐怖が植え付けられた。それにより、私たちの社会は大きく変わりました。これまで長い時間をかけて培ってきた生活の在り方を、あっさりと諦めつつあります」 本来、一人ひとりの生活には多様性があり、一律に論じることはできないはずだ。しかし、感染の恐怖がクローズアップされ続ける中で、私たちはいつの間にかゼロリスクを目指すことが至上命題になってしまった。 「人間は老いやがて死んでいく存在であることを、多くの人が直視できなくなっているように思います」 磯野さんは、いま必要なのは、リスク管理と私たちが手放しつつある「ふだんの生活」との間の「中間の議論」を可能にすることだという。 「一律に専門家の言う通りにするだけでは、決して中間の議論にはなりません。たとえば、居酒屋がどう続けていくかは、現場で働く人が持つ知恵も生かして考えていく。それが中間の議論です」 その物差しとなるものを、ゼロか100かという過剰な尺度とは異なる、「やわらかい」気づかいと表現する。 「『どんなときでもマスクをつけろ』ではなく、感染リスクの高い高齢者と話すときや、相手との距離が近いときにはつけ、そうではないときは外してみる。そうした『やわらかい』リスクヘッジが求められていると思います」』、「和田さん」や「磯野さん」の主張は、説得力に溢れ、全面的に同意したい。

第三に、7月7日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「43人死亡、永寿総合病院の奮闘が教えてくれた働く意義」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00081/?P=1
・『新型コロナウイルスに214人が感染し、43人が死亡。国内最大規模の院内感染を招いた永寿総合病院・湯浅祐二院長の記者会見が1日に行われた。 会見の資料として、看護師や医師などの手記を公開したことについて、「自分たちの失敗を美談にすり替えるな!」といった批判が一部あったようだが、個人的には、質疑応答も含めた1時間20分超にわたる記者会見は、1ミリの無駄もない、実に誠実な会見だったと受け止めている。 特に、批判の的となった“戦場”を経験したスタッフの生きた言葉=手記は、未知のウイルスの脅威を知る上で極めて重要な資料だったし、湯浅院長が時折声をつまらせ、明かした事実も、実に考えさせられる内容だった。 感染症に襲われた医療現場のリアルは、働くということ、役割が人に与える影響力、ミッション、存在意義、チームなど、根本的な問いを投げかけていた』、私は当初、「永寿総合病院」は何とだらしがないのだろうと、呆れていたが、認識を改める必要がありそうだ。「質疑応答も含めた1時間20分超にわたる記者会見」、とは通常はみっともない恥として、公開しないケースが多いのに、堂々と開示するとは大したものだ。
・『集団感染の現場の記録を次に生かすには  たくさんの患者さんの命が奪われ、大切な人の手を握ることもできなかったご家族の心情を思うと複雑な心境になる。 だが、「亡くなられた患者さんのお荷物から、これまでの生活や大切になさっていたもの、ご家族の思いなどが感じ取られ、私たち職員だけが見送る中での旅立ちになってしまったことを、ご本人はもちろん、ご家族の皆様にもおわびしながら手を合わせる日々でした」という湯浅院長が会見冒頭で紡いだ言葉は実に重く、外野にいる人間があれこれ言うべきことではないと思った。 医療現場に立ち続けた人たちは、悲しむ患者さんとご家族への自責の念から今なお逃れられないからこそ、あそこまで丁寧な記者会見になったのではあるまいか。 いずれにせよ、記者会見の内容はとても貴重なものだったので、今回は会見の内容と手記の一部を取り上げながら、あれこれ考えてみる。 今回の集団感染の起点となったのは、2月26日に脳梗塞の診断で入院した患者さんだったそうだ。26日といえば、安倍首相が全国すべての小中高などに臨時休校を要請した前日で、当時、国内の感染者数はわずか20人(※厚生労働省報道発表資料より。なお累計は2月26日時点で167人)、東京都に至っては3人で、“クラスター”だの“院内感染”だのという言葉も一般的じゃなかった頃に当たる。 院長の説明によると、その患者さんは3月5日から発熱を繰り返していたものの、その他の症状から誤嚥(ごえん)性肺炎と診断された。ところが、3月21日に1つの病棟で複数の患者さんが発熱したため、保健所に相談し2人の患者さんのPCR検査を実施したところ、新型コロナウイルスに感染していることが分かった。 その後は次々と発熱患者が相次ぎ、発熱者以外にも感染していることが判明した。しかし、PCR検査をすぐに受けられない患者さんもいて、結果が出る頃にはすでにウイルスが蔓延(まんえん)していたという。 記者会見では、その他の入院している患者さんに感染が広がる様子が、病床のイラストで示された。そこからは感染拡大の速さと、感染しても発熱しないという新型コロナウイルスの特性が状況をさらに複雑にさせていたプロセスがよく分かった。 4月上旬になると、看護師やスタッフにも感染が広がり、陽性患者さんの隔離やスタッフの自宅待機などで人員が足りなくなり、新たなスタッフの補充などに追われることになる。並行して、急激に状態が悪化し、深刻な事態になる患者さんも出てくるようになったという』、厚労省による「PCR検査」体制の遅れも一因となったようだ。
・『スタッフ全員の働きを地域も支えた  会見で示された「PCR陽性入院患者数の死亡・転院・治癒」を時系列で示したグラフを見ると、亡くなった患者さんが4月上旬に集中していたのは一目瞭然だった。おそらく、その間の現場は戦場以外の何ものでもなかったはずだ。 そもそも永寿総合病院は、大学病院など高度医療機関から転院となった治療歴の長い、免疫機能が大幅に低下した高齢者が多い。院長によると亡くなった43人の患者さんの約半数に血液疾患やがんなど様々な疾患があり、アビガンやフサンなどの治療薬を早くから使用したが、効果が乏しかったそうだ。 また、記者会見では、コロナ感染拡大の実態、原因などに加え、“戦場”を支えてくれた人たちのことも語られた。 +地域の人たちが寄付をたくさんしてくださったことで、感染防止対策のマスクなど必要なものをそろえることができたこと、食事を提供してくれたり、「がんばれ!」とエールを送ってくれたりしたことで乗り切れたこと。 +そういった地域の支えがあってこそ「地域医療」が成立することに気づかされたこと。 +毎朝、完全感染防護服に身を包んで、明るく「がんばってきます!」と病棟に向かう看護師たちに、かける言葉が見つからず「彼らにこのような任務を背負わせたことに、院長として非常に申し訳なく思った」こと。 +ガウン型の防護服が足りず、職員たちが自ら作ったこと。 +職員たちがリネンの運搬や院内の清掃などをやっていたこと。 +永寿総合病院に勤めていることで、アパートを退去させられたり、子どもを預けるのを断られたりするスタッフがいたこと。……etc.etc.  病院のスタッフと地域の人たちの全員で、危機を乗り越えていたのだ。これは“美談”でもなんでもない。実際に、戦場で起きていた“事実”だ。病院という医療の現場を超えて、「人」として多くの人たちが関わり、それぞれが目の前のできることを必死にやっていたのである。 記者会見で公表された、院内のメンタルサポートチームが5月に職員に対して行った「気持ちの変化チェックリスト」の結果は、実に興味深く、人間の複雑な心境も垣間見えた。 チェックリストの「この仕事に就いたことを後悔している」という問いに、「はい」と答えた職員は6%(14人)で、11個の質問中で最も少なかった。院長はこの「6%」という回答に「医療者としての職員の気持ちを感じることができた」と、声を詰まらせた。 その一方で、多かったのは「上司や同僚あるいは組織に対して怒り・不信感を抱いている」が47%(101人)、「精神的に疲れている」44%(96人)だとしていた。院長はこの結果に関する私見を述べることはなかった。 恐らくこの「医療者としての誇り」と「病院組織への怒り」という矛盾こそが、「かける言葉がなかった」という会見の言葉の真意だったのではないか。感染を専門とするスタッフがいながら、初期の対応が遅れて感染を拡大させてしまい、職員に多大なる負担をかけ、その上大切な多くの患者さんの命を奪ってしまった。大きな責任を感じながらも、できることをやるしかなかった怒濤(どとう)の日々を思わせる。 そんな責任者としての自責の念と、それと同じに医療現場に携わるひとりの医師として、後輩でもある病院のスタッフの仕事への誇りに感動し、院長は深く感謝したのだと思う』、「永寿総合病院は、大学病院など高度医療機関から転院となった治療歴の長い、免疫機能が大幅に低下した高齢者が多い。院長によると亡くなった43人の患者さんの約半数に血液疾患やがんなど様々な疾患があり」、もともとリスクが高い患者が多かったようだ。「永寿総合病院に勤めていることで、アパートを退去させられたり、子どもを預けるのを断られたりするスタッフがいた」、感謝するどころか、排除するとは、自分勝手な心の狭さ丸出しだ。
・『医療者たちの手記も公開されている  そして、これはあくまでも私の妄想だが、「悪いのは責任者である自分」という気持ちと、過酷な状況でも最善を尽くした“名もなき戦士たち”=職員たちの存在を、どうにかして世間に伝えたくて、手記を公開したのではないか。  美化するわけでも、問題をすり替えるわけでもない。ただ、ひとりの医療者として、医療に関わる人の思いを伝えたかったのだと思う。 永寿総合病院のHPに、看護師、医師の方3人の手記は公開されているので、ご興味ある方はぜひ、ご覧いただきたいが、以下に、一部を抜粋・要約で紹介する。 +「正体がつかめない未知のウイルスへの恐怖に、泣きなか゛ら防護服を着るスタッフもいた。防護服の背中に名前を書いてあげながら、仲間を戦地に送り出しているような気持ちになった」(看護師) +「頑張れ、永寿病院 地元有志一同」の横断幕が目に入り、「まだ私たちはここにいてもいいんだ」と思えた(看護師) +「当初は5階病棟のみの集団感染と考えていたが、4月上旬には8階の無菌室にまで広がっていたことが判明。事態の重大さにその場に座り込んでしまった」(血液内科医師) +「未感染の方を含め50人を超える診療科の患者様の命を守るべく、 研修医ともども、少ない人数で日々防護服に身を包み、回診に当たる日々が1カ月以上続いた」(血液内科医師) +「勤務中にコロナウイルス感染症に罹患(りかん)した。感染対策には細心の注意を払っていたが、入院された方がいつの間にかコロナウイルス感染症を合併されるという状況が出現、私もいつどこで感染したかが分からないことに慄然とした」(医師) +「症状の強さと酸素数値の悪さから死を覚悟した。妻に携帯電話で『死ぬかもしれない、子どもたちをよろしく頼む』と伝えた。意識が回復した際には、生きていることが不思議だった」(医師) 当たり前のことだが、誰もが労働者である以前に人間である。しかしながら、人間である前に「労働者」であることを強いたのが、目に見えないウイルスの存在だった。 永寿総合病院は、炭鉱のカナリアだったのではないだろうか。くしくも、院長は会見の冒頭で、「私どもの経験をお聞きいただくことで、新型コロナウイルス感染症に対する皆様のご理解やこれからの備えにお役に立てればと」と会見した理由を語っていたけれど、カナリアは涙を流しながら、前に進むしかなかった。 そして、院長の会見の言葉と手記でつづられた思いからにじみ出ていたのは、厳しい状況でも立派な仕事をしようとする強い意志だ。  以前、対談でご一緒した産業医で筑波大学教授の松崎一葉氏から、御巣鷹山のJAL墜落事故で救護活動に加わった防衛庁(現・防衛省)幹部の方の話を教えていただいたことがある。 墜落現場での作業は自衛隊の最前線のタフな人にとっても厳しいもので、ある幹部の男性は「俺には耐えられない。俺には自衛官としての資質がない。このミッションをやり遂げたら、 自衛官を辞そう」と初日に決意。そして、2日目からは何も考えず、無心で厳しい作業に取り組んだそうだ。 すると、2日、3日と取り組むうちに「この厳しい作業ができるのは俺しかいない。これをできるのは俺たちの部隊しかない」と思うようになった。その自信と誇りを持って最後までやり遂げ、ミッション後もその思いを胸に、定年まで勤め上げたという』、「永寿総合病院は、炭鉱のカナリアだった」、その通りなのだろう。「院長は会見の冒頭で、「私どもの経験をお聞きいただくことで、新型コロナウイルス感染症に対する皆様のご理解やこれからの備えにお役に立てればと」と会見した理由を語っていた」、頭が下がる。
・『危機が教えた働くことの原点  当たり前の日常では忘れてしまいがちだが、私たちが働く意味がここにある。 不思議なもので、どんなに自分には無理だと思える大変な仕事でも、愚直に向き合い没頭し続けると、有意味感は高まっていく。ここでの有意味感とは、「これは私がやらなければならない仕事だ」という信念である。 永寿病院の職員の方たちは、自分ではどうにもできない未知のウイルスに襲われ恐怖を感じながらも、目の前の患者さんにがむしゃらに向き合うことで、自分がその仕事を選んだ原点に戻ることができたのではないか。 そして、組織のリーダーである院長も、本来、「働く」という作業は自分がここに存在する意義をもたらし、組織のリーダーは、そこで働くすべての人たちが有意味感を高める組織をつくる責務を課せられている、という原点に気づいた。 日常に流されがちな「原点」に戻ったことと、多くの命が奪われてしまった事実が、同じ線上に存在したことはあまりに悲しい。けれども、数名の医療関係者に聞いたところ、「永寿総合病院のスタッフががんばってくれたおかげで、他の病院もがんばれた」「身の危険も顧みずに最前線で闘ってくれたことで、いろんなことが分かり他の病院の参考になった」「助けられなかった命があったことは悲しいけれど、永寿だからこそ助けられた命もたくさんある」という意見やコメントが返ってきた。 記者会見では、病院経営への影響に関する質問が出ていた。……カナリアはまだ泣き続けている』、今後、「病院経営」が上向くことを祈っている。
タグ:(経済社会的視点) 危機が教えた働くことの原点 院長は会見の冒頭で、「私どもの経験をお聞きいただくことで、新型コロナウイルス感染症に対する皆様のご理解やこれからの備えにお役に立てればと」と会見した理由を語っていた 経産省・電通・パソナの“3密” 永寿総合病院は、炭鉱のカナリアだった 市場原理を働かせて効率化するはずが、実際は、特定の企業グループが社名を隠して利益を山分けするスキームだった 医療者たちの手記も公開されている 国内最大規模の院内感染 日経ビジネスオンライン 巨額の民間委託で問題が起きても“民間同士の取引”を盾に企業は情報を開示しない。 パンデミック 竹中さんは“政商”以外の何者でもありません 竹中氏は2009年からパソナグループ会長でありながら、政府の未来投資会議や、国家戦略特区諮問会議で民間議員を務めている 会長である竹中平蔵 永寿総合病院に勤めていることで、アパートを退去させられたり、子どもを預けるのを断られたりするスタッフがいた 永寿総合病院は、大学病院など高度医療機関から転院となった治療歴の長い、免疫機能が大幅に低下した高齢者が多い。院長によると亡くなった43人の患者さんの約半数に血液疾患やがんなど様々な疾患があり スタッフ全員の働きを地域も支えた 厚労省による「PCR検査」体制の遅れも一因となったようだ パソナグループは、接待攻勢で政治家や官僚を取り込み、勢力を拡大してきた歴史 続化給付金事業の委託問題 「パソナ「竹中平蔵」会長の「利益相反」を許していいのか 経産省・電通・パソナの“3密”」 「43人死亡、永寿総合病院の奮闘が教えてくれた働く意義」 河合 薫 集団感染の現場の記録を次に生かすには 質疑応答も含めた1時間20分超にわたる記者会見 いま必要なのは、リスク管理と私たちが手放しつつある「ふだんの生活」との間の「中間の議論」を可能にすること 人が生きるのは『幸福に生きる』ため。『新しい生活様式』という『コロナで死なない』ための手段がそれにすり替わり、本来の目的である幸福の追求がないがしろにされています ソーシャルディスタンスは、人と心を通わせる喜びを失わせます 「「コロナで死なない」は人生の目的ではない 和田秀樹さんが語る「新しい生活様式」への違和感〈AERA〉」 永寿総合病院 AERAdot デイリー新潮 (その3)(パソナ「竹中平蔵」会長の「利益相反」を許していいのか 経産省・電通・パソナの“3密”、「コロナで死なない」は人生の目的ではない 和田秀樹さんが語る「新しい生活様式」への違和感、43人死亡 永寿総合病院の奮闘が教えてくれた働く意義)
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中国経済(その5)(コロナだけでない中国「成長率目標なし」の内幕 7年越しの大改革は米国へのシグナルなのか、中国は本当に特殊なのか? 揺らぐ「民主主義と市場経済」の優位性 ビッグデータが突きつける先進社会の姿、中国「露店経済」の光と影 雇用問題解決の切り札になり得るか、中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか) [世界情勢]

中国経済については、1月20日に取上げた。今日は、(その5)(コロナだけでない中国「成長率目標なし」の内幕 7年越しの大改革は米国へのシグナルなのか、中国は本当に特殊なのか? 揺らぐ「民主主義と市場経済」の優位性 ビッグデータが突きつける先進社会の姿、中国「露店経済」の光と影 雇用問題解決の切り札になり得るか、中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか)である。

先ずは、5月23日付け東洋経済オンライン「コロナだけでない中国「成長率目標なし」の内幕 7年越しの大改革は米国へのシグナルなのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/352207
・『「通年の経済成長の具体的な目標は出さない。世界での新型コロナウイルスの流行と経済・貿易情勢の不確定性が大きいからだ」 5月22日、中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が北京の人民大会堂で開幕した。もともと3月5日に予定されていたが、新型コロナ対策のため2カ月以上ずれ込んだ。会議冒頭に「政府活動報告」を行った李克強首相が、全世界が注目するポイントに言及したのは演説の開始から20分ほどたったころだった。 李首相は「状況を総合的に分析して、新型コロナ流行の前に考えた目標を調整した。今年は雇用の安定を優先し、貧困からの脱却など『小康社会』の全面的な建設を実現するよう努力する」とも述べた。「小康社会」とは2020年までに建設すると中国共産党が公約する「ややゆとりある社会」のことだ』、定性的な目標に留めたようだ。
・『コロナ前は「6%弱」が相場観  昨年は「前年同期比6.0~6.5%増」という目標に対して、同6.1%の着地だった。昨年暮れには、2020年の経済運営をめぐって財政出動を拡大してでも6%成長は保つべきだという「保六」派エコノミストと、構造改革優先派が激しく論争した。その結果、今年の目標は6%をやや下回る水準になるのではないかと見る向きが多かった。 「社会主義市場経済」をうたう中国では、省レベルの地方政府も地区ごとのGDP(国内総生産)の実質成長率の目標を定めるのがならわしだ。かつては、その達成度が地方政府指導者の評価に直結していた。無駄なインフラ投資や不動産開発によって目先の成長率を上げようとする傾向を助長するきらいがあり、かねてから成長率目標の廃止論が唱えられてきたが実現しなかった。 むしろ地方政府にとっては、これがなくては仕事が始まらない。たとえば湖北省は、すでに省都の武漢市で新型コロナの感染が広がっていた1月15日に人民代表大会を終えた。無事にこの会議を終えることを優先して新型コロナへの対応が遅れたとの批判が集中し、後に省トップは更迭されている。このときに決められた今年の目標は7.5%で、昨年より0.3ポイント低い。ほかの省でも、今年は昨年よりやや低い数字を出すのが相場だった。 しかし、新型コロナの感染爆発は前提を大きく変えた。春節(旧正月)直前の1月23日に始まった武漢の封鎖など、一時期は新型コロナ対策のために多くの分野で経済活動がストップしたためだ。 ここで問題になったのは「5.6%」という数字だった。中国共産党は小康社会実現のため、2020年のGDPを2010年の2倍にするという公約を掲げてきた。計算上、その達成には今年の成長率を5.6%以上にする必要があった。 3月16日には1~2月の経済データが発表されたが、工業生産が前年同月比13.5%減、消費動向を示す「社会消費品小売総額」が同20.5%減、固定資産投資が24.5%減といった具合で、どれも統計開始以来最悪の数字だった。 このときの発表会見で国家統計局のスポークスマンは「今年の目標を達成する自信は変わらない」と述べた。これは「今年の成長率目標は5.6%を超える水準で考えている」と示唆するものと受け取られた。だが、この時点ではかなり無理のある数字だった』、「1~2月の経済データ」が大幅な落ち込みを示したのでは、「今年の成長率目標は5.6%を超える水準」、というのは、確かに「無理のある数字だった」。
・『中央銀行内部から「待った」  3月末になって批判に火をつけたのは、中央銀行である中国人民銀行で貨幣政策委員を務めるエコノミストの馬駿氏だった。馬氏は今年の経済成長率は1%台まで下がるかもしれないとしたうえで、「非現実的なGDP成長率目標を確定すれば、地方政府はインフラ投資に走る。しかし、こうした投資は雇用問題や失業者への手当てには何の助けにもならない」と警告した。 リーマンショック後に行われた総額4兆元(現在のレートで57兆円)の景気刺激策が地方政府に負債の山を残したことを考えれば、大規模な財政出動はあまりにリスクの多い政策だ。 おそらく、それまでに判明した経済データがあまりに悪かったからだろうか、馬氏などの市場原理重視派が論争に勝利したようだ。4月17日に発表された1~3月の経済成長率は前年同期比6.8%のマイナス。このときの記者会見では、国家統計局のスポークスマンは「今年の目標」には触れなかった。海外の記者から「足元の経済悪化は、GDP倍増目標に影響しないのか」と聞かれても、答えは貧困撲滅など「小康社会」に関する抽象論に終始した。 また、同じ日に開かれた党中央政治局会議の発表文からも、それまで使われていた「年間経済社会発展目標任務の達成に努める」という言葉が消えた。代わりに増えたのは貧困撲滅に関するアピールだ。李首相も全人代での演説で「農村貧困人口はすべて貧困から脱却させ、すべての貧困県からそのレッテルを外す」と述べている。「小康社会」の目標をGDPの数値から国民生活の改善へとシフトさせたのだ。 直前の4月14日に発表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでは、中国の2020年の成長率予想は1.2%とされた。さすがに、この状況で5%台の目標を出すリスクは取れなかっただろう。 新型コロナの流行後に人民代表大会が開かれた省では明確な成長目標ではなく、相対的な表現を採用した。5月9日に会議が始まった四川省では今年の成長率目標を「全国平均を2ポイント上回る」とし、同10日開幕の雲南省では「全国平均より高く」としている。まだ「成長率目標の廃止」という段階には至っていない様子がうかがえる』、「1~3月の経済成長率は前年同期比6.8%のマイナス」、「中央銀行」が「「非現実的なGDP成長率目標を確定すれば、地方政府はインフラ投資に走る。しかし、こうした投資は雇用問題や失業者への手当てには何の助けにもならない」と警告した」、のは当然だ。「市場原理重視派が論争に勝利したようだ」、健全な姿だ。
・『コロナ対策に大規模な財政出動  政府活動報告で李首相は「現在、新型コロナの流行はまだ終わっておらず、発展の任務は非常に困難である」と述べた。全人代の会場でも、3000人に迫る代表団は全国で200人ほどしかいない共産党中央委員を含め、マスクをつけて出席。25人いる中央政治局員と、彼らと同格の指導層だけがマスクなしでひな壇の前列に並んだ。 政府活動報告ではコロナ対策に充てるための財政措置も発表された。 国内総生産(GDP)に対する財政赤字の比率は「3.6%以上」で、2019年の2.8%より大きく引き上げられた。財政赤字の増加額は1兆元(現在の1元は約15円)を見込む。さらに財政赤字に算入されない「特別国債」も13年ぶりに1兆元発行する。「これら2兆元は市や県、企業の現場に行き渡るようにする」(李首相)。また地方政府のインフラ債券(専項債)の発行額も3兆7500億元と、昨年より1兆6000億元増やした。 これらの政策は大規模ではあるが、おおむね事前のアナウンスに沿ったもので市場の想定内だ。リーマン当時に比べ、中国経済の規模は3倍近くになっている。4兆元政策の再演は現実には難しい。中国政府は実情を踏まえた政策を選んだということだろう。 実際、成長率目標の発表を見送ったことを含めて経済政策の面でサプライズは少ない。一方で、あまり目を引かないがチェックしておくべきテーマがある。経済改革への取り組みだ。 政府活動報告は8つのパートに分けられたが、その4つめが「改革によって市場主体の活力を引き出し、発展の新たなエネルギーを増強する」というものだった。 李首相は、その説明のなかで「生産要素の市場化配置改革を推進する」「省レベルの政府に建設用地についてもっと大きな自主権を与える。人材の流動を促進し、技術とデータの市場を育成し、各種の生産要素の潜在エネルギーを活性化させる」とコメントした。これは、7年ぶりに動き出した大改革の予兆かもしれない』、「生産要素の市場化配置改革を推進」、とはかなり思い切った「改革」だ。
・『土地や労働力に市場原理を導入  前触れはあった。4月9日、中国共産党中央・国務院(内閣)は①土地、②労働力、③資本、④技術、⑤データの5分野について、これらの配分にさらに市場原理を導入する方針を発表した。社会主義市場経済を導入して久しい中国だが、市場原理が働かない分野も多い。たとえば土地は現在も公有が原則であり、農民戸籍と都市戸籍が分かれている現状では労働力の移動にも制約がある。 中国は豊富で低廉な労働力を原動力に高度成長を続けてきたが、すでに生産年齢人口は減少に転じた。コロナ禍の有無にかかわらず、成長率の低下は避けられない。そして国連の推計では2030年には総人口もピークアウトすると見られている。その先の中国はどういう道を歩むのか。 その指針を示すリポートが昨年9月に発表されていた。中国政府のシンクタンクである国務院発展研究中心(DRC)が世界銀行と共同でまとめた「イノベーティブ・チャイナ」だ。この報告書は、これまでの経済成長を支えてきた人口ボーナスなどの条件が失われるなかで、中国が成長を続けるには生産性の向上が決定的に重要だと指摘した。) ここでカギになるのは、実質成長率から資本および労働の投入量の増加による伸び率を差し引いた「全要素生産性(TFP)」だ。技術の進歩や生産の効率化など、資本や労働の量的変化では説明できない部分の寄与度を示す概念である。 報告書の分析では、08年のリーマンショックまでの10年間は平均3.51%あったTFPが、リーマン後の10年間は1.55%に低下した。 TFPを高めるための処方箋としてリポートで示されたのが、以下の改革案だ。①土地や労働力や資金などの資源を効率的に配分するための規制改革、②先進技術やイノベーションの普及を加速させること、③新技術や新発明によって中国の生産力を引き上げること、の3つである。 4月に発表された新方針は、①について大きく踏み込むものだ。土地に関しては都市と農村をまたがり統一的な土地市場を設立する。これにより、農地の活用が加速される。 労働力については、すでに緩和が進んでいる農村戸籍者の都市への転入規制の緩和が一層進む見通しだ。 これまでは農村の土地が売買できなかった結果、出稼ぎに行った後は農地が荒廃したままになる、大規模な農業経営ができない、といった弊害があった。また地方政府による収用の際も市場価格が存在しないために不当な安値で召し上げられるといった実態があった。一方で農村に土地があれば失業しても生活ができるという意味で、出稼ぎ農民にとって最後のセーフティネットになっている面もあり、農地を市場メカニズムに組み込むことには慎重な見方もあった』、「全要素生産性(TFP)」を高めようというのは、意欲的な試みだ。
・『非常時だから改革に踏み出せた?  習近平政権は発足間もない2013年に「資源配分には、市場に決定的な役割を果たさせる」という方針を打ち出していたが、ほどなくして国有企業を重視して政府主導で産業を育成する路線に転換した。そうした経緯があるだけに、コロナ禍という「非常時」に乗じる形で市場原理重視派の主導で抜本改革を進める機運が高まっているのかもしれない。かねてからの懸案だった「成長率目標廃止」が実現したのは象徴的な出来事だ。 世銀との共同報告書の存在が示すように、このグループには米国との対話チャネルがある。国有企業優遇の見直しといった点で、米国からの批判と通底する問題意識を持つ人々だ。米国との貿易交渉で外圧がかかっているときに改革に踏み出せば「売国的」といった批判を反対勢力から浴びやすいが、対決姿勢が明確な現状ではかえって動きやすいのかもしれない。 にっちもさっちも行かなくなった米中関係を打開するためにも、中国が市場経済のパートナーになりうる可能性を示すことには大きな意味がある。しかし今回の全人代では香港での反政府デモを抑え込むための法律の制定など、さらに共産党による統制を強める動きも目立つ。政治面で統制を強化しつつ、経済面で市場原理による改革を志向することが現実に可能なのか。5月28日まで続く全人代での議論に目を凝らす必要がある』、「成長率目標廃止」しても、これまで慣れ親しんだ方式からの脱却には多くの困難も予想される。

次に、1月12日付け現代ビジネスが掲載した早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問・一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「中国は本当に特殊なのか? 揺らぐ「民主主義と市場経済」の優位性 ビッグデータが突きつける先進社会の姿」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69601
・『いかなる技術も、プラスとマイナスの側面を持っている。 中国との関係でとくに問題となるのは、「AIやビックデータという情報関連の新しい技術に関して、中国の社会構造が有利に働くのではないか」ということだ。これは、未来世界の基本原理に関わる根源的な問題を提起する』、興味深い問題提起だ。
・『中国では市場経済のインフラが未発達だった  伝統的な地域社会においては、その構成員は、お互いのことをよく知っていた。しかし、それは自由が束縛される社会でもあった。 人々が都市に住むようになって、自由な社会が作られた。 それは、半面において匿名社会でもある。そこでは、取引相手についての情報を十分には得られないという問題が生じた。 これは、経済学で「情報の不完全性」とか、「情報の非対称性」として問題にされてきたことだ。 市場取引を行うためには、相手のことを知り、信頼できるかどうかを評価することが必要だ。情報が不完全な社会で、これをどのようにして行なうかが、近代社会の大きな問題だった。 中国では、とりわけこれが大きな問題であった。社会主義経済が長く続いたことから、市場経済のインフラストラクチャーが未発達だったからだ。 アリババが作ったeコマースのサイトタオバオで、最初はオンラインだけでは取引が完結しなかったというエピソード・・・が示すように、信頼に基づく取引ができないような社会だったのだ。 また、多くの人が金融サービスにアクセスできなかった』、確かに国有企業間の取引では、お互い知った者同士なので問題はなくても、「eコマース」では、問題になるが、どうやってこの壁を乗り越えたのだろう。
・『ITによる市場の透明化が持つ重要な意味  そこにインターネットが登場した。 もちろん、インターネットの世界においては、対面取引の場合よりも、取引相手の信用が難しい。なりすましなどが簡単にできるからだ。 これは、2つ方法で解決された。 1つは、アマゾンやアリババのように巨大化した主体であれば、信頼を獲得できることだ。中国でこれまでeコマースが発展したのは、アリババが巨大化したからだと考えられる。 いま1つは、AIによるプロファイリングだ。これによって取引相手がどんな人かが分かるので、安心して取引できるようになった。 信用スコアによって個人や零細企業に融資ができるようになったのは、その一例だ。また、テレマティックス保険で保険料を細かく設定できるようになったのも、その例である。これらは、情報の不完全性の問題を克服し、市場を透明にする機能を果たしている。 これは、明らかに望ましい変化であった。ITのプラスの側面は、中国において重要な意味を持った。中国は、それによって成長を加速したのである』、「アリババが巨大化」、「AIによるプロファイリング」、により壁を乗り越えたというのは、なるほどである。
・『しかし管理社会の危険も  しかし半面で、これはプライバシーの侵害という問題を引き起こした。これが、信用スコアリングや顔認証について、現実の問題となりつつあることだ。 それは、管理社会や独裁政治を可能とするものだ。とくに中国の場合には、少数民族対策や反政府的な考えの人々を取り締まるために使われる危険が大きい。 これは、中国がこれから直面していく問題である。あるいは、すでに直面している問題である。 ただし、ITやAIがもたらす問題は、中国だけが抱えているものではない。自由主義経済と民主主義政治を基本にする国家においても、問題が生じつつある。 ビッグデータを用いたプロファイリングが行われ、これまではターゲティング広告に使われてきた。その利益は、GAFAを代表とする一部の巨大プラットフォーム企業に集中した。これがいま問題とされ、ビッグデータ利用の規制やデジタル課税の論議を引き起こしている。 さらに、より明確なマイナス面も顕在化している。 それは、スコアリングやプロファイリングが悪用され始めているからだ。ケンブリッジアナリティカという調査機関によって、フェイスブックの情報が悪用され、アメリカ大統領選において利用されたという問題が生じた。 日本でも、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の内定辞退率を予測したデータを企業に提供していたという問題が起きた』、欧米や「日本」では問題化しているが、「中国」では問題になっていないのではなかろうか。
・『ビッグデータという新しい問題  なぜこのようなことになったのだろうか? それは、ビックデータの性質に起因する面が強い。 IT革命が始まった頃、これによって社会がフラット化すると考えられた。 それまでの大型コンピューターからPCになったので、個人でもコンピュータを使えるようになった。また、インターネットは、世界規模での通信をほとんどゼロのコストで可能にするものであった。このため、大企業の相対的な地位が低下し、個人や小企業の地位が向上すると考えられたのだ。 しかし、実際には、利益がGAFAなどの一部の企業に集中している。これは、ビックデータを扱えるのが大企業だけだからだ。 ビックデータとは、SNSの利用経歴などを蓄積して、そこからAI(人工知能)の機械学習のために蓄積された膨大なデータだ。これによって、プロファイリングなどを行なう。 個々のデータを取ってみればほとんど価値がないが、それが膨大な量集まれば、そこから経済的な価値を引出すことができる。 このようなことは、個人ではできない。GAFAのような巨大なプラットフォーム企業において初めて可能なことである。このために、GAFAが利益を独占したのだ』、「中国」ではこれも問題になってないような気がする。
・『ビッグデータをどう扱ったらよいのか?  ビッグデータは、比較的最近登場したものなので、その取り扱いについての社会的なルールが確立されていない。 それをプラットフォーム企業が勝手に使って良いのか? あるいは、個人データの所有権は個人にあるのか? こうした問題をめぐってさまざまな議論がなされている。 GAFAの規制や、プロファイリング禁止等の考えが出されている。しかし、いずれも実効性のあるものになるとは考えられない。 新しい情報技術の望ましい面や経済活動を効率化する面を利用しつつ、しかもそれによる弊害をどのようにしてコントロールできるか。これは簡単な問題ではない。 これまでとは違うルールが必要になる。それは社会の基本的な仕組みの変更を要求する問題なのかもしれない』、西側ではその通りだ。
・『中国はAIに適している社会なのか?  自由主義諸国に住む多くの人々は、つぎの2つが望ましいと考えている。すなわち、政治的には投票と多数政党による民主主義。そして、経済的には自由な取引が行える市場経済である。 先にみたように、改革開放以降の中国の経済成長は、政府が主導したというよりは、新しく誕生した企業によって実現された。とくに、最近では、IT関係のユニコーン企業の躍進が目覚ましい。それは、市場経済の優位性を証明するようも思える。 しかし、ビッグデータは、大企業や政府でないと収集・活用できないとなれば、従来の自由主義経済の基本概念である分権的な決定メカニズムに対して、基本的な疑問が生じる。 ビックデータについては、中国が他の社会より集めやすいのだ。それは、まず、市場経済の基本的インフラが整備されていなかったために、メリットが大きいことから、人々が受け入れているということによる。自由主義諸国ではプライバシー侵害の弊害が強く意識されるが、中国ではプロファイリングのプラス側面が強く意識されるのだ。 それだけではなく、政府の力が強いこと、人々がプライバシーの保護をあまり重要と考えていないなどの理由にもよるのかもしれない。 もしそうだとすると、AIの進歩のために有利なのは、自由主義的な経済ではなく、中国のような社会なのかもしれない。 少なくともこれまでの経緯を見る限り、ビックデータに関する中国とその他の国の違いは明白だ。アメリカが中国に対して大きな懸念を持つ理由は、この点にある。AIは軍事技術にも直結するので、アメリカは強い危機感を抱いている』、「プライバシーの保護をあまり重要と考えていない」「中国」は確かに有利な立場にあるというのは、面白い指摘だ。
・『民主主義と市場経済の優位性は揺らぐのか?  これまで多くの人は、中国も豊かになれば政治的にも自由化するだろうと考えていた。独裁政治と市場経済が結びつけば、腐敗が生じる。そして経済が停滞する。だから、自由化は不可避だと考えていたのだ。 しかし、中国においては一向に自由化の動きが生じない。天安門事件以来、自由化は封鎖されたように見える。 SNSが普及すれば、政府への批判もできるようになるから、民主化ができると期待していたが、そうにもなっていない。 これまでの中国国民がプライバシーに関心を持たなかったとしても、それは中国の特殊性なのではなく、豊かになってくれば自由主義諸国と同じようになっていくという考えもある。しかし、そうした動きが生じているようにも見えない。 民主主義社会、市場経済の方が望ましいという基本信念が、いま揺らいでいるのかもしれない。 これは、未来社会の基本的な姿を決める、極めて重要な問題だ』、確かに「民主主義と市場経済の優位性は揺らぐのか?」という視点で、今後の展開を見てゆきたい。

第三に、7月3日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーライターの吉田陽介氏による「中国「露店経済」の光と影、雇用問題解決の切り札になり得るか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/242083
・『「過去の遺物」から状況が一転、屋台経済がもてはやされる背景  中国に行ったことのある読者なら、街中に屋台が並んでいる光景を一度は目にしたことがあるだろう。筆者が中国での生活を始めた2001年頃も、道に食べ物や雑貨を扱う屋台や物売りが多かった。 中国の都市化が進むにつれ、こうした屋台は街の景観を損ねるなどの理由で取り締まりの対象になり、当局に撤去させられたり、警官と店主が口論したりする光景をよく見かけた。政府の取り締まりが効を奏したのか、今は街の中心部では少なくなった。 だが、状況が一変し、「過去の遺物」と化した屋台が復活しつつある。ネット上では「露天経済」という言葉がよく見られるようになり、最近、中国を悩ませている雇用問題を解決する「切り札」のように見られている。 その一方で、三十数年前の雑然とした街に逆戻りしたという批判的な意見もある。「露店経済」は中国の雇用問題、中国経済を活性化する上で重要な要素なるのだろうか。 「露店経済」が雇用問題の解決の「切り札」的な存在としてクローズアップされた背景には、米中貿易摩擦やコロナ禍によって雇用問題が中国政府の解決すべき重要問題となっていることにある。 中国政府は「就業は民生の本」と位置付けており、一貫して雇用問題を重視している。経済減速の影響を緩和するために、昨年から特に雇用の確保を一層重視するようになった。コロナ禍の影響で開催が2カ月遅れた今年の全人代での「政府活動報告」も、雇用という言葉が38カ所見られた。 報告は「さまざまな措置を講じて雇用を安定させ拡大する」とし、「流動性の高い屋台の経営場所を合理的に設ける」と述べ、「露店経済」についても言及した。 全人代閉幕直後の記者会見でも、李克強国務院総理は「露店経済」に言及し、「西部のある都市では、現地の規範に基づいて、3万6000もの流動性の高い露店を置けるようにし、一夜にして10万の雇用機会を創出した」と胸を張って述べた。さらに6月1日、山東省を視察した李は、「露店経済」「小店経済」は雇用創出の重要な供給源であると指摘した。 この2年、中国政府は市場経済の発展を強調しており、昨年の「政府活動報告」も、「市場」という言葉を多用していた。「露店経済」は「個人経済」のカテゴリーに属し、民営企業を発展させるという中国共産党の政策に適うものだ』、「「露店経済」「小店経済」は雇用創出の重要な供給源」であることは確かだ。
・『雇用創出の切り札 露店経済の4つのメリット  こうして、「露店経済」は政府の“お墨付き”を得た形となり、上海、済南、鄭州、長春、杭州、長沙など27の都市で「露店経済」発展支援策が打ち出され、屋台を設置する場所を指定したり、交通の妨げにならないという前提で道での屋台経営を認めたり、審査期間を短縮したりしている。 6月7日に中国共産党北京市委員会の機関紙である『北京日報』に掲載された「露店経済は北京には適さない」という記事は、「北京は首都であり、北京のイメージは首都のイメージ、国のイメージを代表する」「首都の基準で精緻化した管理を行うということは、北京はあるべき都市の秩序を保たなければならないことを意味する」と述べ、首都北京での露店拡大に「待った」をかけた。その影響か、露店の拡大ムードにややブレーキがかかったが、いつ完全に終息するともわからないコロナ禍の中で、ひとたび盛り上がった露店ブームは、当面続くものと考えられる。 政府の方針だけでなく、近年「ナイトタイムエコノミー」が発展していることも、「露店経済」の発展に追い風となっている。各地の政府は「露店経済」と「ナイトタイムエコノミー」の発展をにらんだ政策を打ち出している。 「ナイトタイムエコノミー」は、主に若い世代向けの消費が主体となる。そのため、若い世代が何を望んでいるかを熟知している「90後(1990年以降に生まれた人)」らの若者にも、「露店経済」参入の道が開かれている。 雇用創出の「切り札」的存在として期待されている「露店経済」だが、いくつかのメリットがある。 1つ目のメリットは、参入が容易ということだ。「露店経済」は参入・退出が比較的容易な「完全競争」のモデルに似ている。ビルやショッピングセンターの一角に店を構えて店を開くには、初期投資が少なくない。それに対し、屋台は初期投資がそれほど大きくなく、短期間で開業できる。今は政府の後押しもあり、参入が比較的容易になっている。商売がうまくいかなくても、撤退のコストも高くない。 2つ目のメリットは、高収入も夢ではないということだ。数年前に、中国のネット上で中国式お好み焼き「煎餅(ジエンビン)」の店主が「月に3万元(約45万4800円)稼いでいる」という話が話題になったことがある。「私は1日中働いて月に5000元(約7万5800円)しか稼げないのに」というサラリーマンのネットユーザーから羨望の声が上がった。 もちろん、すべての屋台が月3万元稼いでいるわけではなく、「腕のいいところ」が前提になる。季節や自身の体調によって商売が左右されるが、うまくいけば、一日数千元稼ぐこともできるので、サラリーマンとして働くより稼げる。 3つ目のメリットは、競争が活性化することでより良いものを消費者に提供できるということだ。改革開放前の商店やレストランは国営で、消費者は提供される商品やサービスに文句を言っても、彼らの声が反映されることがなかった。 だが現在は、消費者優位となっており、彼らのニーズは多様化している。それに対応できない生産者、販売者は淘汰される。企業側も「お前が買わなくても、買う人はいくらでもいる」というこれまでの姿勢を改め、消費者の声に耳を傾けている。その結果、今は、パン1つをとってみても、多様化している。以前は高いわりに味はイマイチだったが、今は味もよくなり、高いのにまずいというものは少なくなっている。このように、人々の身近な食品なども多様化が進んでいる。小さい店は小回りが利くので、消費者の多様化したニーズにいち早く対応でき、ニッチな市場で活躍することができる』、「露店経済は北京には適さない」、さすが北京市は逃げたようだが、上海市はどうするのだろう。
・『競争が激しい新卒者や失業者に「チャレンジの場」を与える役割  4つ目のメリットは、求職者が仕事の経験を積むことができるということだ。よく言われることだが、人口が多い中国は優秀な人材も多く、競争が激しい。求人情報を見ると、2~3年以上の経験を応募条件としている企業が少なくない。 新卒者にとって、経験を積む場を探すのも容易なことではない。失業者が増えている現在、求職者、特に新卒者は経験者との競争に晒されるので、就職活動はさらに厳しさを増す。このことから、「露店経済」は仕事が見つからない新卒者の経験を積む場、経験のある失業者の「再チャレンジ」の準備の場となり得る。 このように、失業問題を解消したい政策当局、仕事を確保したい求職者にとってプラスとなる「露店経済」は、商品・サービスの多様化をさらに促進し、中国経済の成長の「エンジン」である消費を活性化することができるのだ』、「仕事が見つからない新卒者の経験を積む場」、とはいっても、「露店」での「経験」が、通常の事務職での「経験」とは見做されない筈で、この「4つ目のメリット」には違和感がある。
・『過去への逆行を防ぐ管理も必要 露店経済の3つのデメリット  中国経済の浮上にプラスとなると見られる「露店経済」だが、一方で次のような問題点もある。 1つ目の問題点は、街の景観を損ね、雑然とした街に逆戻りしてしまうことだ。冒頭でも述べたように、ネット上では「昔に逆戻りした」「屋台が多くなったから、歩きづらくなった」という声がある。 人民日報系国際紙『環球時報』の胡錫進編集長も、自身が執筆した記事で、「露店経済」自体はいいものだと認めた上で、「私の家の周辺が、若いときのような汚く雑然とした屋台で埋め尽くされるのは望まない」と述べ、「露店経済」を現在の実情に合わせて変化させ、各地の実情に合わせた発展が重要だと主張した。 「露店経済」が地元の実情に合わないという議論は、大都市に多い。「北京は露店経済が合わないのか」と題した評論も、「露店経済」自体を否定してはいないが、街の景観と交通の面でデメリットがあり、各地の実情に応じて行うべきだと指摘している。 2つ目の問題点は、食品の安全の基準が厳守されにくくなることだ。筆者が1997年に旅行で北京を訪れたときは、案内してくれた人から「屋台のものは食べないでください。食当たりしやすいので」と注意された。当時は食の安全について、人々の意識が低く、食の安全に関する法律なども未整備だった。そのため、留学したばかりの頃、屋台のものを食べて、食当たりしたこともあった。 だが、今は人々の「安全意識」が高まっており、食の安全を保証できない店を敬遠しがちだ。今は食の安全を守るルールも存在しているため、普通の店で食べれば、食中毒になるということは少ない。だが屋台の場合、増えすぎると管理の目が行き届かなくなるため、食の安全を保証しにくくなる。 3つ目の問題点は、信用・誠実に反する者がいるということだ。屋台というと、儲けるために、消費者を言葉巧みに騙してモノを売りつけるという悪いイメージもある。もちろん真っ当な商売をしている人もたくさんいるが、羊肉を使っていない羊肉の串焼きを売ったり、ニセモノのかばんを本物だと言い張って売ったりする店主がいた。 今の中国は「信用・誠実」を重視しており、それに反する行為をする者はブラックリスト入りするため、そうした人間は少なくなってきたが、いなくなったとは言い切れない。ただ今後、人々のモラル意識の向上と競争の高度化によって、こういう傾向は少なくなっていくだろう。 こうした問題を克服するには、管理が重要となってくる。中国の政策は詳細を詰め、「問題なし」と判断されてから実施するのではなく、「まずやってみて、問題が出てきたら軌道修正を考える」というものだ。「露店経済」についても、そのようなことが言える。 今後は管理を強化する方向に動くだろう。市場経済の発展を支持する北京大学の暦以寧教授は、「屋台も雇用にとって必要だ。もし彼らへの管理が厳しすぎると、矛盾がより先鋭化し、安定にプラスとならない」と述べ、「露店経済」の優位性が損なわれないよう、実情に基づいた合理的な管理を行うことを主張している。問題点を見つけ、どのように軌道修正しいていくかは、関係部門が実態を調査した上で現地の実情に応じた管理をすることが重要だ』、私が観たテレビ番組では、道路沿いの商店主が、店の前に「露店」が出たので商売の邪魔になると苦情を述べていた。「中国の政策は詳細を詰め、「問題なし」と判断されてから実施するのではなく、「まずやってみて、問題が出てきたら軌道修正を考える」というものだ」、これは腰が重い日本の行政にも爪の垢でも煎じて飲ませたいところだ。
・『一時的なブームで終わるか 起業の一形態になるのか  「露店経済」は一時的なブームで終わるか、それが進化して「大衆による起業・革新」の一形態になるのだろうか。現在はインターネットを駆使した「実況経済」も発展しており、若い世代の店主はそれを活用して客を呼び込んでいる。 ある「90後」の若い店主は中国式の揚げドーナツ「油条」を売っていたが、はじめは売り上げが伸びなかった。その後、「油条」を冷めてもサクサク感のあるものに改良し、それをネット上で広めたところ、売り上げが伸びたという。 商品をつくるところをネット上で実況して客を呼び込むやり方が今後主流になれば、「露店経済」は「大衆による起業・革新」の一形態となり、雇用拡大に寄与する一要因になるのではないかと思う』、今後の展開をみていきたい。

第四に、7月6日付けNewsweek日本版が掲載した在米作家の譚璐美(タン・ロミ)氏による「中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/post-93874_1.php
・『<豪雨により被災者1400万人の洪水被害が出ている中国で、世界最大の水力発電ダムの危機がささやかれている。決壊すれば上海が「水没」しかねないが、三峡ダムの耐久性はほぼ臨界点に達しているかもしれない> 6月半ばの梅雨入り以来、中国の南部と西南部では連日の大雨と集中豪雨により、同月下旬には少なくとも198本の河川が氾濫し、26 の省・市・自治区で洪水が起きている。倒壊家屋は1万棟以上、被災者は1400万人近くに上り、74万人超が緊急避難した。直接的な経済損失は278億元(約4230億円)に上るという。 洪水だけでも大変なことだが、さらに心配なのが、長江中流にある水力発電ダム「三峡ダム」だ。今、大量の雨水の圧力で決壊するのではと危ぶまれている。 三峡ダムは1993年、当時の李鵬(リー・ポン)首相が旗振り役になり、水利専門家たちの「砂礫が堆積し、洪水を助長する」といった反対意見を無視して建設された世界最大の落水式ダムだ。70万キロワットの発電機32基を備え、総発電量は2250万キロワット。長江の中流域の中でも特に水流が激しい「三峡」と呼ばれる峡谷地区に2009年に竣工した。 だが、建設中から李鵬派官僚による「汚職の温床」と化し、手抜き工事も起こった。 2008年に試験貯水が開始されると、がけ崩れ、地滑り、地盤の変形が生じ、ダムの堤体に約1万カ所の亀裂が見つかった。貯水池にためた膨大な水が蒸発して、濃霧、長雨、豪雨が頻発した。そして水利専門家たちの指摘どおり、上流から押し寄せる大量の砂礫が貯水池にたまり、ダムの水門を詰まらせ、アオコが発生し、ヘドロや雑草、ごみと交じって5万平方メートルに広がった。 もはや中国政府も技術者も根本的な解決策を見いだせず、お手上げ状態だったのだ。 そこへもってきて、今年の豪雨と洪水だ。 6月22日、長江上流の重慶市では豪雨により、がけ崩れ、鉄砲水、道路の冠水、家屋の浸水、高速道路の崩壊などが発生。市水利局は1940年以来初めて最高レベルの洪水警報を発令し、4万人の市民が避難した。29日には三峡ダムの貯水池の水位が最高警戒水位を2メートル超え、147メートルに上昇。そのため、三峡ダムを含む4つのダムで一斉に放水が開始された。 気象当局によると、今夏は大雨や豪雨が予測され、洪水被害はさらに増大すると見込まれている。 中国水利省の葉建春(イエ・チエンチュン)次官は6月11日、記者会見で「水害防止対策により今は建国以来の最大の洪水を防御できているが、想定以上の洪水が発生すれば、防御能力を超えた『ブラックスワン』の可能性もあり得る」と口にした。 ブラックスワンとは、「あり得ないことが起こり、非常に強い衝撃を与える」という意味で、予測できない金融危機や自然災害を表すときによく使われる。そのブラックスワンが三峡ダムにも潜んでいるというのだ。 実際、三峡ダムの耐久性はほぼ臨界点に達していると言えるのではないか。 環境保護を無視し、フィージビリティースタディー(事業の実現可能性を事前に調査すること)も行われず、汚職による手抜き工事で構造上にも問題があった。 万が一決壊すれば、約30億立方メートルの濁流が下流域を襲い、4億人の被災者が出ると試算されている。安徽省、江西省、浙江省などの穀倉地帯は水浸しになり、上海市は都市機能が壊滅して、市民の飲み水すら枯渇してしまう。上海には外資系企業が2万2000社あり、経済的なダメージ次第では世界中が損害を被る。 上海が「水没」したら、経済が回復するまで10~20年かかるかもしれない。もし三峡ダムが臨界点を超えたらと思うと、気が気ではない』、日本でも梅雨の大雨が、各地に甚大な被害をもたらしているが、中国が誇る「三峡ダム」が「決壊」の危機にあるとは衝撃的なニュースだ。「万が一決壊すれば・・・4億人の被災者が出ると試算されている。安徽省、江西省、浙江省などの穀倉地帯は水浸しになり、上海市は都市機能が壊滅して、市民の飲み水すら枯渇」、無論、「決壊」を防ぐため、放流量を増やすなどの手段により浸水被害が出る可能性がある。日本の主要メディアが沈黙しているは、中国政府への忖度なのだろうか。
タグ:安徽省、江西省、浙江省などの穀倉地帯は水浸しになり、上海市は都市機能が壊滅 万が一決壊すれば、約30億立方メートルの濁流が下流域を襲い、4億人の被災者が出ると試算 「水害防止対策により今は建国以来の最大の洪水を防御できているが、想定以上の洪水が発生すれば、防御能力を超えた『ブラックスワン』の可能性もあり得る」 豪雨により被災者1400万人の洪水被害が出ている中国で、世界最大の水力発電ダムの危機がささやかれている。決壊すれば上海が「水没」しかねないが、三峡ダムの耐久性はほぼ臨界点に達しているかもしれない 「中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか」 譚璐美 Newsweek日本版 一時的なブームで終わるか 起業の一形態になるのか 過去への逆行を防ぐ管理も必要 露店経済の3つのデメリット 競争が激しい新卒者や失業者に「チャレンジの場」を与える役割 雇用創出の切り札 露店経済の4つのメリット 「過去の遺物」から状況が一転、屋台経済がもてはやされる背景 「中国「露店経済」の光と影、雇用問題解決の切り札になり得るか」 吉田陽介 ダイヤモンド・オンライン 民主主義と市場経済の優位性は揺らぐのか? 中国はAIに適している社会なのか? ビッグデータをどう扱ったらよいのか? ビッグデータという新しい問題 しかし管理社会の危険も ITによる市場の透明化が持つ重要な意味 取引相手についての情報を十分には得られないという問題 中国では市場経済のインフラが未発達だった 「中国は本当に特殊なのか? 揺らぐ「民主主義と市場経済」の優位性 ビッグデータが突きつける先進社会の姿」 野口 悠紀雄 現代ビジネス 非常時だから改革に踏み出せた? 土地や労働力に市場原理を導入 コロナ対策に大規模な財政出動 「小康社会」 1~3月の経済成長率は前年同期比6.8%のマイナス 中央銀行内部から「待った」 コロナ前は「6%弱」が相場観 「コロナだけでない中国「成長率目標なし」の内幕 7年越しの大改革は米国へのシグナルなのか」 東洋経済オンライン (その5)(コロナだけでない中国「成長率目標なし」の内幕 7年越しの大改革は米国へのシグナルなのか、中国は本当に特殊なのか? 揺らぐ「民主主義と市場経済」の優位性 ビッグデータが突きつける先進社会の姿、中国「露店経済」の光と影 雇用問題解決の切り札になり得るか、中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか) 中国経済
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香港(その5)(香港でなお続く騒乱が訴えるアジアに迫る危機 日本にはいったいどんな行動が求められるか、香港でなお続く騒乱が訴えるアジアに迫る危機 日本にはいったいどんな行動が求められるか、習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?) [世界情勢]

香港については、6月2日に取上げた。国家安全維持法の施行を踏まえた今日は、(その5)(香港でなお続く騒乱が訴えるアジアに迫る危機 日本にはいったいどんな行動が求められるか、香港でなお続く騒乱が訴えるアジアに迫る危機 日本にはいったいどんな行動が求められるか、習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?)である。

先ずは、7月6日付け東洋経済オンラインが掲載した独立したグローバルなシンクタンクのメンバー、API地経学ブリーフィングによる「香港でなお続く騒乱が訴えるアジアに迫る危機 日本にはいったいどんな行動が求められるか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/360278
・『米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。 コロナウイルス危機で先が見えない霧の中にいる今、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく』、興味深そうだ。
・『香港が世界の中で果たす特別な役割  香港は、中国大陸南端の喫水深い天然港を擁し、ロンドン、ニューヨーク、東京に並ぶ人口700万の世界的大商業都市である。低税率で自由な貿易と金融資本経済を持つ世界第3位の国際金融センターで、香港ドルは世界第8位の取引高を誇る。ヘリテージ財団とウォールストリート・ジャーナル紙は毎年、経済自由度指数を発表しているが、24年間連続世界一に君臨する。その香港が今、国際戦略政治の発火点になっている。 香港には、世界の中で特別の役割がある。中国の発展途上の金融制度を世界の資本市場とつないでいるのだ。中国本土の企業や銀行が米ドルで取引できる。昨年、香港の銀行間決済額は約10兆ドルに上った。その機能は、中国にとっても世界市場にとっても有用だ。金融拠点として上海や深?も大規模だが、公正な裁判所、独立した中央銀行、自由な資本移動、中国企業と西側企業が共存するという利便はない。 西側諸国は、香港が中国の成長を助ければ、次第に中国政府はその経済制度を世界標準にし、政治制度においても世界標準への変革を進めるだろうと期待してきた。一方、北京政府のほうは、50年間に及ぶイギリス植民地時代の制度を残す恨みはあるが、先進諸国の金融、運輸、流通等のノウハウを習得できるのは中国全土の発展の貴重な窓だと知っており、政治改革を牛歩的に蛇行させる間に経済の「うま味」を味わい尽くそうとの心算が見え隠れしてきた。 香港が今、直面している混迷は昨年3月に始まった。中国政府への犯罪人引き渡しを合法化する条例改正に香港市民は反対の声を上げ、普通選挙などの民主化要求を掲げて市民200万人が立ち上がった。その波は、1997年の一国二制度発足以来最大規模となった。 4人に1人の香港市民が街に出て、重大な危険に警告を発した。その警告は広くアジアの未来についての懸念をも訴えていた。しかし、中国の巨大市場が誘う経済利益はあらがいがたい魅惑の芳香を放ち、香港経済界や諸外国からの批判の矛先は鋭さを欠いた。 中国では、権威主義的体制の下で人々の自由や人権の保障は二の次で、個々人の情報は共産主義支配体制永続化に利用され、体制批判者は、自分の身柄がいつ何の理由で当局に拘束されるか予想できない。人々は非情な危険の中で生きている。 危険は、国内の知識人や文化人に襲いかかるだけでなく、周辺諸国にも及ぶ。直近の例は、コロナウイルス発生源に独立調査を求めた豪州政府に向けられた。豪州から食肉の輸入を止める、その大麦に高関税を課すと言い、中国国民には豪州渡航をやめろと「指導」する。 北京政府の問題は、経済規模の自信から出る横柄さにある。数年前、ASEAN諸国と中国の外相会議で南シナ海問題が議論された際、大国に小諸国が文句をつけるべきでないと言い放ち、ASEAN諸国外相らが激しく抗議した1件は、なお記憶に新しい。 アメリカのトランプ政権は、中国の利己的貿易慣行を批判し、対中関税を引き上げた。これに対し中国は、競争に負けて相手を非難するのは筋違いであり、トランプは自由貿易体制を破壊する悪の権化だと切り捨てる。 問題の本質は、中国が自国企業にだけ有利で特異な経済制度を固持しているところにある。多くの国で広く認められている企業株式の買収は、世界第2位のこの経済大国では外国企業にだけは認められていない。さらに中国当局は、自国へ投資する外国企業に技術の開示を義務づけ、知財を奪う。一方で自国の戦略企業には補助金を流し込む』、「中国の巨大市場が誘う経済利益はあらがいがたい魅惑の芳香を放ち、香港経済界や諸外国からの批判の矛先は鋭さを欠いた」、これでは「中国」の思いのままだ。
・『巨大市場への参入手形が交渉材料に  1人の競技者が、巨大市場への参入手形を交渉材料に、自国有利の特別ルールを押しつけて、ほかの競技者との競争に勝ち続けている。米中貿易戦争は、その不公平が解消されるまで終わらない。6年がかりで中国と投資協定を交渉するEUの交渉団も、最近その不公平を指弾し始めた。 今回のコロナ危機で世界は、中国政府の言動に虚偽の臭いを感じ、その行動に不誠実を見た。武漢での発症情報を迅速・正確に公表せず、感染源と疑問視される研究所への調査を拒否し、世界保健機構を政治利用して台湾を排除し、ウイルス拡散はアメリカ軍の仕業ではないかとまで公言し責任転嫁を図った。 昨年の市民運動は条例案撤回で事なきをえた。しかしコロナウイルス蔓延で世界中がその対応に追われている間隙を狙って、中国政府は機敏に巻き返しに出た。4月18日、民主化団体が集会を自粛していた矢先、香港政府は突如現職立法会議員や「民主の父」と呼ばれたマーティン・リー元議員ら15人の民主化幹部を一斉捕縛した。言論界の重鎮ジミー・ライ氏も連れ去られた。 香港「基本法」は、北京の香港への干渉を禁じ、その第22条は、中国政府所属の各部門は「香港特別行政区が本基本法に基づいて管理する事務に干渉してはならない」と規定する。中国政府は基本法の解釈を突然変更し、その香港出先機関「駐香港特別行政区連絡弁公室」は、香港問題への介入権があると主張した。さらに5月28日、全人代は香港に適用する国家安全法を新たに制定するとし、2047年まで香港に「一国二制度」を保障する英中間の国際約束に正面から挑戦した。ウイルス感染で全世界がその対応を迫られている隙に、アジアの民主主義、法の支配、基本的人権が空き巣にさらわれた感がある。 急成長する中国経済の規模から見れば香港の経済的比重は小さくなったかもしれないが、それよりはるかに政治が重くなったからだろう。北京の利益判断は、政治を取りに出た。最後の香港総督クリス・パッテン氏は、「ついに北京が香港の息の根を止める決意をした」と嘆じた』、「ウイルス感染で全世界がその対応を迫られている隙に、アジアの民主主義、法の支配、基本的人権が空き巣にさらわれた感がある」、言い得て妙だ。
・『矛先はアジアの広大な海にも  その矛先は香港内にとどまらずアジアの広大な海に向かおうとしている。コロナ蔓延で混乱の中、東アジアの平和に危機が迫っている。中国海軍艦船は高頻度で東シナ海、南シナ海および西太平洋に出没し始め、沖縄近海の通航回数を増やしている。北京は地中海の1.4倍の広さの南シナ海のほぼ全域を破線で囲み、自国の主権下だと主張し、コロナ蔓延の真っただ中にその水域に行政区設置を発表し、既成事実をつくる挑発行動を繰り返している。「次は台湾に照準を向けるだろう」と、台北に住む筆者の友人はその覚悟を語ってくれた。 アメリカは中国への経済制裁を本格化した。香港に認めてきた特別の地位を廃止しようとしている。香港への軍民両用品の輸出管理特例措置の撤廃、香港への渡航注意水準の引き上げ、特別関税圏・渡航圏としての香港の地位の取消し、香港の自治権剥奪に関与した中国と香港の政府要人への制裁措置など検討中だ。 さらに、アメリカ連邦職員や軍人の年金基金の運用対象から中国株式の排除も検討されている。アメリカの上下両院は、アメリカの証券取引所に上場できる外国企業の条件を厳しくする。外国政府が所有したり、支配したりしていないこと、アメリカのPublic Company Accounting Oversight Boardに認可された財務関係書類を提出しなければならないことなど、諸条件は中国企業だけを対象とするものではないが、200社近い中国企業はこれらの条件を満たせない。 上場禁止となれば、アリババ、テンセントなど巨額の中国企業株式がアメリカ市場で取引停止になる。株式が雲散霧消するわけではなく、株主は保有し続けてよいが、株式市場での取引が禁止されれば、投資家は安全売買できない株式から一斉に撤退し、株価は暴落の危機に瀕する。よってこの手段は「核オプション」と呼ばれる。香港ドルに米ドルとの交換を遮断する手法は、伝統的「経済制裁」の一手段であるが、この時点では伝家の宝刀としての効用が大きいように思う。 長い間、イギリスの対中政策はビジネスと金融を政治と安全保障より優先させ、批判のある中で2015年には、習近平を文字どおり赤絨毯で迎えた。そのイギリスも今や、中国の抑圧的政治、西側に対する攻撃、とくに香港に関する英中合意を反故にする態度に鑑み、急速に踵を返しつつある。オーストラリア首相も、北京による貿易や人の移動への制限措置に激しく反発し、突然の豪州人への死刑判決を加えた「政経司」三位一体の攻撃にも、正対してひるむ姿勢は微塵も見せていない』、「アメリカの証券取引所に上場できる外国企業の条件を厳しくする・・・200社近い中国企業はこれらの条件を満たせない。 上場禁止となれば、アリババ、テンセントなど巨額の中国企業株式がアメリカ市場で取引停止になる」、施行されると、香港市場でも上場しているとはいえ、株価には大きな下押し要因になり、影響は大きいだろう。
・『大手企業は歓迎のステートメントを発表  中国政府は、香港国家安全法は香港の混乱を鎮め、経済活動継続に有益だと説明する。大陸全土に商いの手の伸びる大手企業は「長いものには巻かれろ」と観念したのか、香港上海銀行やスタンダードチャータード銀行などは歓迎のステートメント(声明)を発表した。 しかしアジアでの活動を香港に集中させる多くの金融ファンド(運用資産は910億ドルに達し、日本、シンガポールおよび豪州の総和より大きい)は、香港国家安全法が施行されれば、当局の介入で情報も報道も取引も自由を失い、世界とつながるネット回線にはつねに当局の手が伸びる危険があるため、アジアの別の場所に移るしかないとファンドマネジャーたちは異口同音に言う。 6月4日の天安門の日、世界中のZoomは幾度も断線し、中国の通信網や技術に依存する危険が身近になった。個人情報や重要データの管理を規制する「中国サイバーセキュリティ法」の適用地域は中華人民共和国内と規定されているが、適用地域は香港を含むという解釈変更など、北京政府には造作もないことであろう。 さて日本にはどんな行動が求められているか。ある経済人は言う。「中国を非難すれば、中国の市場を失う危険がある。原則に固執すれば利益を失う」と。ある言論人は言う。「原則を忘れて利益を追求すれば、強者の横暴を許すことになる」と。ある文化人は言う。「意地を通せば窮屈だ、程々がよいのではないか」と。 外交は原則と利益の狭間で揺れる。日本の外交当局が口を閉ざしているわけではない。その外交姿勢が曖昧だとも思わない。長期的国益の所在は明らかだ。しかしその主張と行動は国際場裏にあまり明確には表現されていない。決意は言語でも伝えられるが、具体的施策の実行があれば、より雄弁に表現できる。 日本に実行が求められる経済制裁の要諦は以下3点に集約される。課す側にコストではなく機会を提供する手段であるべきだ。 第1に、制裁の標的は香港ではなく、香港経済人の救出は日本経済にも機会を提供する。 第2に、通信網、先端技術、戦略物資などの対中依存過多は本来抜本的修正が必要であり、それを進める措置は日本経済安定の機会となる。 第3に、高度技術の遺漏防止を目指し対外対内投資のスクリーニングを強化する措置は、日本の安全保障を強化する』、「大手企業は歓迎のステートメントを発表」、「中国」側からの圧力があったのだろう。「日本に実行が求められる経済制裁の要諦」は、同感である。
・『コロナ禍で国際金融取引の慣習は変容へ  紙面の制約から上記第1のみ敷衍(ふえん)を試みる。コロナ危機の後、デジタル経済が加速する中、既存の国際金融取引の慣習は変容し、国境を越えるデジタル決済システムが世界に拡大するであろう。金融技術の急成長とともに、デジタル通貨が世界市場を席巻する可能性もある。 わが国は香港危機でアジアの金融市場が縮小するのを防止し、その発展を支える責務がある。例えば、オフショアの金融特区を日本の何処かに設置し、国際的制度を許容したうえで、最先端のノウハウを有する香港をはじめとするアジアの金融専門家に開放すべきではないか。無論、随伴する広東料理店も歓迎されよう。 コロナ危機の後、アジアは愈々(いよいよ)成長し、世界の政治経済の中核的地位を不動のものとするだろう。1000平方キロメートルの小さな香港の市民が声をからして発する警告は、アジア全域の将来に迫る危機を訴える。日本は小国ではなく、アジアの成長を牽引してきた世界第3位の経済大国だ。とりわけ、アジアの将来に責任を持つ国の1つだ。世界中がその一挙手一投足に固唾を飲んで注目している。(宮川 眞喜雄/アジア・パシフィック・イニシアティブ・フォーラム<APIF>プレジデント兼APIシニアフェロー、内閣官房国家安全保障局国家安全保障参与)』、「オフショアの金融特区を日本の何処かに設置し、国際的制度を許容したうえで、最先端のノウハウを有する香港をはじめとするアジアの金融専門家に開放すべきではないか」、そんなに簡単ではない筈で、慎重な検討が必要だ。

次に、7月7日付けPRESIDENT Onlineが掲載した在英ジャーナリストのさかい もとみ氏による「「デモと言論の自由」を奪われた香港は、この先どうなるのか ついに活動家らも解散してしまったら」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/36841
・『成立早々に逮捕者が続出  中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は6月30日、「香港国家安全維持法案」を全会一致で可決した。各国の間で上がっていた批判も無視し、新法の即時施行を同日夜、発表した。 新法成立の翌日、7月1日は香港が中国に返還されてから23年目の節目の日だった。今年の返還記念日は、2014年に起きた「雨傘革命」以来、内外に広く知られたジョシュア・ウォン(黄之鋒)氏やアグネス・チョウ(周庭)氏など民主化運動の主要な活動家たちが団体「香港衆志(デモシスト)」からの脱退を表明。さらには組織そのものの解散を決めていたこともあり、中国の政府要人らは「これで今年の記念日は安泰」と考えていたかもしれない。 ところが民衆の怒りは少しも収まっていなかった。 デモ活動参加が新法により違法とみなされる可能性が高い中、数千人が香港島の繁華街、コーズウェイベイ(銅鑼湾)などに集結。香港の自由を求めるスローガンなどを訴えた。現地の英字紙、サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)によると、一部は暴徒化し、道路に面した商店の破壊や、路上での焼き討ちなども発生した、という。これに対し、警察は催涙スプレーやコショウ弾、放水銃でデモ隊の排除に乗り出し、成立早々に10人が逮捕、370人もの市民が拘束される事態となった。逮捕者の中には、香港独立と書かれた旗を振っていた15歳の少女もいた』、「中国」「香港」当局の手回しの良さは、周到に準備していたためだろう。
・『抵抗手段がことごとく失われている  返還記念日は中国の人々にとって、「植民地主義により、列強に取られた領土を取り返した日」という位置付けから、毎年盛大な祝賀行事が行われる。一方では、民主化を訴える活動家らが大きなデモ行進を行う日でもある。 1年前のこの日は、過激なデモ隊が香港特別行政区の立法会(議会)議場へと乱入。建物内のガラス扉や鉄柵を次々と破壊し、ついには議場に掲げられた「行政区章」にもペンキをかけるという暴挙を犯した。 さすがに、中国政府としてはこうした破壊行為が「記念日」に繰り返される歴史だけは避けたかったのだろう。例年ならデモ行進が認められていたが、今年は新型コロナウイルス対策のひとつ「50人以上の集会禁止」という規定を用い、返還後初のデモ禁止が発表されていた。 脱退した活動家たちは、9月に予定されている立法会選挙に立候補する動きを見せていた。しかし、同法の条文には「過去の活動の合法性」を問う内容も含まれており、同法に反対する彼らの立候補は受理されない可能性が高く、中国への抵抗手段はことごとく失われつつある』、「抵抗手段がことごとく失われている」、冷徹な現実だ。
・『イギリスは「香港移民」を受け入れへ  ボリス・ジョンソン英首相は1日、毎週定例の首相代表質問(PMQ)で、中国による香港国家安全維持法の施行は1984年の中英共同声明の「明白で深刻な」違反と非難した上で、香港市民に対し英国の市民権取得にも道を開くと改めて表明した。 ラーブ外相もこれを受け、「英国海外市民(BNO)旅券を持つ香港人とその家族への市民権付与」に関する法令化に向けた概要を説明した。これまでは1997年の返還以前に生まれた者にのみBNOを発給するという格好で声明を出していたが、この日の説明では「BNO保持者の配偶者とその扶養家族」と範囲が広がった。これで、香港生まれの親を持つ多くの若者にも英国移住の可能性が広がることになる。 従来の決まりでは、BNOを使った英国入国は「6カ月間の観光目的での滞在」となっていたのが、これを「就労、留学を含む限定的な居住権の付与、滞在期限は5年」と条件を大幅に拡大。さらに滞在5年を超えさらにもう1年滞在した場合は市民権取得への資格が得られる。 下院でのこの日の討論で、与野党議員らの反応は「今後の中国との関係性を見直すべき」、あるいは「香港の自由を訴える若者たちに十分な施策を検討するのが望ましい」といった意見に集約されており、今後、英国が移民政策の制度改正に向けた障害はほぼないと考えても良いだろう。 ドミニク・ラーブ外相は、香港人の英国市民権取得の人数枠について「特に制限は設けない」と明言しており、香港市民を全面的に後押しする構えを見せている』、「中国」側はどんな対抗手段を打つのだろう。
・『多くの市民が台湾へ避難している  「中国の動きを良しとしない」ながら、外国の国籍を持っていない香港市民らは生まれ育った街を見限ったらどこへ向かうだろうか。前述のように、英国は旧宗主国という立場もあり、真っ先に手を差し伸べたが、香港と文化的つながりが大きい台湾が一つの選択肢として浮上している。 常に中国からの激しい圧力を受けている台湾は、香港での同法施行を受け、台湾の蔡英文総統は「一国二制度が実行不可能であることが証明された」と指摘(6月30 日付台湾・中央通訊社)。 さらに台湾は、香港市民に対して緊急庇護の方針を固めた。台湾は現在、新型コロナウイルスの囲い込みが成功し、台湾市民を除く海外からの渡航者受け入れを制限している。ただ、同法成立により香港から「避難したい市民」がいると予想されることから、就学や就業、投資、移住などを支援するための「台港服務交流弁公室(台湾・香港交流サービスオフィス)」を7月1日から運用している。 英高級紙ガーディアンは、「すでに台湾に逃げている香港の民主活動家は200人」という推算を掲げている。昨年初め以降の香港におけるデモ激化を受け、当局による監視の目を逃れるためにいったん、居を移した人々などだという。 「意見したらそれだけで逮捕の対象になりそう」「国家安全維持法」成立の影に隠れているものの、香港政府は頭の痛い別の問題を抱えている。新型コロナ対策で入国制限がかかったことにより、香港国際空港の乗り継ぎ(トランジット)エリアに、何人ものどこへも飛べない旅行客が滞留しているというのだ。 香港の英字紙SCMPによると、現在、空港の乗り継ぎエリアにいる旅行者のうち、もっとも長くとどまっている人はすでに滞留期間が3カ月を超えている。かつて、トム・ハンクス主演の映画『ザ・ターミナル』では、自国の政変によりパスポートが無効となり、米国に入れないという設定で描かれていたが、いま香港では、映画さながらのトラブルが現実に起こっているようだ。 そのほかにも、欧州から香港経由で中国を目指したものの入国許可が得られず足止めといったケースがある。中国政府に反発する市民に加え、こうした人々の動きを香港政府がどう解決するかはなお未知数だ。 新法成立前後の様子を、香港居住歴の長い日本人らに聞いてみた。彼らはいずれも1997年の返還前から現地で暮らしている。 ひとりは「ここ数年、中国化が著しく進んでいて、今回の法制化はもはや止められなかった流れ」と答えてくれたが、もうひとりは「もはや何か意見したら、そのこと自体が逮捕の対象になりそうだ」と全ての自由を失われたかのような窮屈さを訴える答えも返ってきた』、「新法」は「香港居住」の「日本人」にも及ぶので、「もはや何か意見したら、そのこと自体が逮捕の対象になりそうだ」、その通りで要注意だ。
・『日本は香港難民の受け皿になるべきか  今回の同法成立を経て、民主派の活動家らが急遽、どこかの国に逃げようとしても新型コロナによる渡航制限がかかっており、行ける国がほぼ存在しない。香港市民の家族関係を考えた時、シンガポールやマレーシア、タイなど東南アジアのどこかに親戚なりが住んでいるケースがとても多いが、そこへ身を寄せるのも現実的なチョイスにはならない。 「逃げ場」となる受け皿国の候補として「日本が立ち上がるべきだ」という意見もネット上では多く目にする。しかし、期待に反して日本はそもそも移民の受け入れスキームが(海外の人の目からして)整っている国とは言えず、さらに政治難民として日本での居住を狙ったにしても、年間申請者は1万人を超えているにもかかわらず許可されたのは81人という実態がありハードルは高そうだ。 前述のように、すでに一部の民主活動家は台湾に脱出している動きもある。一方で日本での「活動家保護」の裾野を広げるために、在日香港人のグループが1日、衆議院議員会館で「国際的連帯の必要性」と銘打った会見を開き、日本政府による香港市民庇護を訴えた』、日本政府は「周近平」の国賓招致にまだこだわっているので、殆ど期待できないだろう。
・『中国は「市民を捕まえる訓練」を公開  一方、中国政府による締め付けはさっそく始まっている。香港駐留の中国人民解放軍は、高速艇などで香港領から逃げ出す市民を捕まえるという設定で行った訓練の状況を動画で公開した。香港には歴史的に見て、中国の圧政から逃れて命からがらたどり着き、安住できた人も多い。香港で人民解放軍による「逃げ出す市民を追いかける訓練」を見せつけられ、非常に不愉快な思いをする市民もいることだろう。 国家安全維持法では、香港市民はもちろん、香港の方向性に異論を唱える外国籍の市民さえも法令違反の対象とされる。果たしてこうした状況で「世界に開かれた街・香港」がこれからも維持できるのだろうか』、こんな恫喝「動画で公開」、とは「中国」は確かに恐ろしい国だ。

第三に、7月7日付けNewsweek日本版が掲載した中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏による「習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/post-93891_1.php
・『習近平が国際社会からの非難を承知の上で突き進むのは父・習忠勲のトラウマがあるからであり、来年の建党百周年までに香港問題を解決したいからだ。民主運動が大陸に及ぶのを避けるためなどという現実は存在しない』、「父・習忠勲のトラウマ」とは何だろう。
・『香港国家安全維持法の目的は外国籍裁判官の無力化  2020年6月30日に全人代常務委員会で可決された「香港維護国家安全法」は、その日の夜11時から発効し、香港で実施されることとなった。日本語的には「香港国家安全維持法」と訳すのが通例になっているので、ここでもその名称を使うこととする。 同法は大きく分けると、「国家分裂罪、国家転覆罪、テロ活動罪、外国勢力と結託し国家安全を害する罪」の4つから成り立っているが、中でも注目しなければならないのは第四十四条である。第四十四条には以下のような趣旨のことが書いてある(概要) ●香港特別行政区行政長官は、全てのレベルの裁判所の裁判官の中から、若干名の裁判官を選び、国家安全に危害を及ぼす犯罪の処理に当たらせる。 ●行政長官が指名した裁判官の任期は1年とする。 ●裁判官の任期内に、万一にも裁判官が国家安全を侵害するような言動をしたならば、直ちに国家安全担当裁判官の資格を剥奪する(筆者注:もし任命した裁判官が不適切だった場合は他の裁判官を指名することができるようにして、北京の意向通りに判決を出す裁判を常に執行させる。だから任期も短い)。 ●国家安全犯罪に関する裁判は国家安全犯罪担当裁判官が審議する(筆者注:外国籍裁判官に民主活動家の裁判を担当させない)。 これは何を意味しているかというと、これまで何度も(これまでのコラムで)書いてきたように、香港は中国に返還されるに当たって、イギリス統治時代に使ってきたコモンロー(英米法)を採用することになったため、司法もコモンローに従い裁判官もトップ以外は全て外国籍だ。最高裁判所も高等裁判所も、かつてのコモンウェルス(イギリス連邦)の国々(イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)の国籍の裁判官によって構成されている。 だから民主活動などによって逮捕されても、裁判ではせいぜい1ヵ月ほどの懲役刑が科せられるだけで、まるで小旅行にでも出かけたような爽やかな顔をして出所してくる。 そのため昨年は逃亡犯条例改正案を香港政府に出させて中国本土で裁判にかけようとしたが、激しい抗議に遭い廃案になってしまった。 そこで今年は、全人代常務委員会が香港の司法を実際上は直接管轄するような形にしてしまった。司法におけるコモンローの弊害(西側諸国にとってはメリット)から逃れようとしたのが、今般の香港国家安全維持法の目的なのである。 懲役刑として最高刑で無期懲役まで許されるように定めていることからも、その目的は明らかだ』、「司法もコモンローに従い裁判官もトップ以外は全て外国籍だ。最高裁判所も高等裁判所も、かつてのコモンウェルス(イギリス連邦)の国々・・・の裁判官によって構成」、「司法におけるコモンローの弊害・・・から逃れようとしたのが、今般の香港国家安全維持法の目的」、などは初めて知った。
・『習近平の父・習忠勲のトラウマから逃れるために  これらは全て、習近平の父・習忠勲が残した負の遺産からの脱却であることも見えてくる。6月18日付のダイヤモンド・オンライン「中国コロナ批判の逆風下、習近平が香港統治をゴリ押しする隠された理由」でも詳述したが、香港返還に当たり、コモンローを受け入れると最初に言ったのは習近平の父・習忠勲だ。1983年のことである。 習近平にはその負い目があり、自分が国家主席である間にコモンローであるが故の司法の問題を何としても解決したいと思っている。次期指導者の政権まで未解決のまま残すと、今は亡き父親が又もや批判の対象となるかもしれないと恐れている。何と言っても父親は毛沢東によって反党分子のレッテルを貼られ、16年間も牢獄生活を送った歴史(冤罪ではあっても「前科」)を持っている。 だから習近平は一歩も譲らない』、「香港返還に当たり、コモンローを受け入れると最初に言ったのは習近平の父・習忠勲だ」、というのも初めて知った。彼が「16年間も牢獄生活を送った」、そこから名誉回復して、「習近平」も順調に出世したようだ。
・『来年は建党百周年記念  香港が中国に返還されたのは1997年7月1日だが、この日は中国共産党建党記念日でもある。だから最初から中国共産党の枠組みの中に置かれることが前提となっている。 その証拠に香港基本法には「基本法は全人代常務委員会が最終的に管轄する」ということが明記されており、全人代常務委員会が決定した事項は基本法付属文書三に書き込んでいいことが条文で規定されているのだ。 したがって、今般の香港国家安全維持法は「合法的」であると言えるように、最初から仕組んである。まるで忍者のからくり細工だ。 今般の動きを「コロナのドサクサに紛れて」という人がいるが、この法改正は昨年10月末に開催された四中全会(中共中央委員会第四回全体会議)で決議されている。コロナがなければ今年3月5日に開幕したであろう全人代の最終日に議決したはずだ。 来年は建党百周年記念となる。 この大きな節目までに習近平としては何としても香港問題(コモンローによる外国籍裁判官問題)を解決したいと思っていた。特に今年の9月には香港立法会の選挙があるので、それまでに間に合わせたいという目論見もあった』、「香港基本法には「基本法は全人代常務委員会が最終的に管轄する」ということが明記」、「今般の香港国家安全維持法は「合法的」であると言えるように、最初から仕組んである」、というのも初めて知った。「中国」の「周到」なやり方は驚くほど巧みだ。
・『一国二制度は「社会主義体制」と「資本主義制度」  少なからぬ人が「一国二制度」の中に「民主主義」とか「高度の自治」とかが含まれていると勘違いし、「一国二制度は終わった」とよく言うが、これは正確ではない。 「二制度」とは「社会主義制度(大陸)」と「資本主義制度(香港)」のことを指す。 トウ小平とサッチャーが初めて香港返還に関して話し合ったのは1982年。 資本主義に走る人民を「走資派」と批判して投獄した文化大革命(1966年~76年)が終わってから、まだあまり時間が経っていなかった。だから資本主義制度の下に、いくら金儲けに走っても逮捕しませんよという証拠に、香港に資本主義制度を認めた。 今も香港には資本主義制度が厳然と存在しており、もし「一国一制度」になったと言うのなら、大陸の方が「国家資本主義」になったので「一制度になってしまった」ということなら納得できる。 「二制度」にある「香港の資本主義制度」は全く変わっていない。 香港の高度の自治を守るという原則は基本法に書いてある。 そしてこの基本法は全人代常務委員会の管轄下にあると規定されているのである。 西側諸国はむしろ、中国のこの周到さを警戒した方がいい』、「一国二制度は「社会主義体制」と「資本主義制度」」、も初めて知った。「西側諸国はむしろ、中国のこの周到さを警戒した方がいい」、不勉強なまま「中国」を批判しても痛くもかゆくもないだろう。
・『香港の民主運動は中国の若者に影響を与えるか  日本の評論家の中には、習近平が香港国家安全維持法制定を急いだのは「香港の民主運動の機運が広東や上海に浸透して中国大陸の民主運動を刺激するのを防ぐためだ」「習近平はそれを恐れている」と言っているのを知って大変驚いている。 あまりにも中国の現実を反映していないからだ。 7月に入ってから中国の若者数名を取材した。 「香港の民主運動が大陸の若者の民主運動を刺激しますか?」と聞いたところ、みな異口同音に否定した。 ●民主主義の何がいいんですか? ●民主主義国家の砦としてのアメリカは、今どんな風になっていますか?人種差別への抗議運動に対して、トランプは「いざとなったら軍隊を出動させる」と脅しているし、コロナの感染といったら、1日の新規感染者数が5万人を超え、全体の感染者数は300万人に達しようとしている。死者だって12万人を超えているでしょ?大統領選挙のために国民の健康を犠牲にしている。それでも民主主義がいいんですか? ●日本だってそうでしょ?安倍晋三は選挙のために多くの不正をやっている感じで、国民の税金を特定の個人のために使ってるんじゃないんですか?それも選挙のためでしょ?民主主義って、何かいいことありますか?) ●現に中国の庶民が自分の財産を蓄えたのは、民主主義のお陰じゃないですよ!今の指導体制の中で自由に商売やっていいからリッチになっただけで、僕たちは民主主義の国家に爆買いに行って民主主義国家を潤している。民主主義の国家は僕らがいないと困るんじゃないんですか? 「じゃあ、言論の自由とかは求めないの?」と聞くと、以下のような回答が戻ってきた。 ●そうですね、それは多少ありますね。ネットでうまく情報が取れないという不便さは確かにあります。でもそれも娯楽に関する情報を求める若者とかが多くて、そのためのソフトとか手段は色々ありますから、そんなことのために政権を倒そうとかって思う人はいないでしょう。そんなことに人生の貴重な時間を使うのはもったいないです。 ●大陸にも少数の人権派弁護士っていますが、民主化運動って多くの若者がついていかないと成立しません。 ●香港だって、2047年には必ず中国本土に完全に返還されるんだから、それまでの民主とか自由とかって、どういうメリットがあるのか正直よく分かりません。 たしかに香港の貧富の格差は激しく、貧乏な者は一生涯努力してもリッチにはなれず、富裕層と貧困層の収入には44倍もの差がある。失うものがないということが「せめて尊厳を求めて」という気持ちに拍車をかけているのは否めない。 それに比べて同じ「一国二制度」を実施しているマカオで民主運動が起きないのは、マカオでは貧富の格差がほとんどないだけでなく、一人当たりのGDPは2019年統計で872万円、世界第3位だ。マカオ政府全体がカジノで儲かっているので、毎年一人につき日本円で10万円ほどの現金を配布しており、医療・教育・老後保障などの福祉も非常に手厚い。これでは「民主化しろ!」と叫ぶ若者はいないだろう。国家安全法の導入など、マカオの方から北京に望んだくらいだ。中国に返還された後、カジノにまつわる暴力団の抗争が無くなってカジノを中心とした観光業で繁栄している。 筆者は言論弾圧をする中国と生涯にわたり闘ってきた。食糧封鎖され数十万に及ぶ餓死者を生んだ事実(1948年)を中国が認めないからだ。認めないだけでなく、中国共産党にとって不利な事実を書いた者は罪人となる。 この中国と闘うには、民主主義の良さを発揮していくしかないだろう。民主主義国家が連帯を強めることだ。日本人にとっての「希望的危惧」などは役に立たない。 まず日本に出来ることは「絶対に習近平を国賓として来日させない」ことを死守することだ。 言葉で「遺憾」など言っても、相手は痛くもかゆくもない。そのことを肝に銘じるべきだろう。 ※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です』、「取材した」「中国の若者数名」の「民主主義」に対する疑問はなかなか手強そうだ。豊かさを享受してきた「マカオ」も現在はコロナ騒動で大変な筈だ。「日本に出来ることは「絶対に習近平を国賓として来日させない」ことを死守すること」、大賛成である。
タグ:日本に出来ることは「絶対に習近平を国賓として来日させない」ことを死守すること 中国の若者数名」の「民主主義」に対する疑問はなかなか手強そうだ 香港の民主運動は中国の若者に影響を与えるか 西側諸国はむしろ、中国のこの周到さを警戒した方がいい 一国二制度は「社会主義体制」と「資本主義制度」 今般の香港国家安全維持法は「合法的」であると言えるように、最初から仕組んである 香港基本法には「基本法は全人代常務委員会が最終的に管轄する」ということが明記 来年は建党百周年記念 香港返還に当たり、コモンローを受け入れると最初に言ったのは習近平の父・習忠勲だ 習近平の父・習忠勲のトラウマから逃れるために から逃れようとしたのが、今般の香港国家安全維持法の目的 司法におけるコモンローの弊害 司法もコモンローに従い裁判官もトップ以外は全て外国籍だ。最高裁判所も高等裁判所も、かつてのコモンウェルス(イギリス連邦)の国々(イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)の国籍の裁判官によって構成 香港国家安全維持法の目的は外国籍裁判官の無力化 「習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?」 遠藤誉 Newsweek日本版 中国は「市民を捕まえる訓練」を公開 日本は香港難民の受け皿になるべきか もはや何か意見したら、そのこと自体が逮捕の対象になりそうだ 多くの市民が台湾へ避難している イギリスは「香港移民」を受け入れへ 抵抗手段がことごとく失われている 成立早々に逮捕者が続出 「「デモと言論の自由」を奪われた香港は、この先どうなるのか ついに活動家らも解散してしまったら」 さかい もとみ PRESIDENT ONLINE コロナ禍で国際金融取引の慣習は変容へ 日本に実行が求められる経済制裁の要諦 大手企業は歓迎のステートメントを発表 200社近い中国企業はこれらの条件を満たせない。 上場禁止となれば、アリババ、テンセントなど巨額の中国企業株式がアメリカ市場で取引停止になる アメリカの証券取引所に上場できる外国企業の条件を厳しくする 矛先はアジアの広大な海にも ウイルス感染で全世界がその対応を迫られている隙に、アジアの民主主義、法の支配、基本的人権が空き巣にさらわれた感がある 巨大市場への参入手形が交渉材料に 中国の巨大市場が誘う経済利益はあらがいがたい魅惑の芳香を放ち、香港経済界や諸外国からの批判の矛先は鋭さを欠いた 香港が世界の中で果たす特別な役割 「香港でなお続く騒乱が訴えるアジアに迫る危機 日本にはいったいどんな行動が求められるか」 API地経学ブリーフィング 東洋経済オンライン (その5)(香港でなお続く騒乱が訴えるアジアに迫る危機 日本にはいったいどんな行動が求められるか、香港でなお続く騒乱が訴えるアジアに迫る危機 日本にはいったいどんな行動が求められるか、習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?) 香港
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高齢化社会(その15)(暴力検挙率20倍 祭りの衰退が怒声を上げる老人を増やした、「高齢者の高き志」と権力に腐る組織の微妙な関係、55歳新人CAの「スチュワーデス物語」 コロナに負けず今日もフライトへ) [社会]

高齢化社会については、2月6日に取上げた。今日は、(その15)(暴力検挙率20倍 祭りの衰退が怒声を上げる老人を増やした、「高齢者の高き志」と権力に腐る組織の微妙な関係、55歳新人CAの「スチュワーデス物語」 コロナに負けず今日もフライトへ)である。

先ずは、6月17日付け日刊ゲンダイが掲載した心理技術アドバイザー・メンタルトレーナー・トランスフォー ムマネジメント代表取締役の梯谷幸司氏による「暴力検挙率20倍 祭りの衰退が怒声を上げる老人を増やした」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/274690
・『市役所の窓口で怒鳴る老人が問題になっている。駅員、スマホ店員などに逆ギレする老人も少なくない。2007年に「暴走老人!」(藤原智美著)が話題になったが、高齢者の暴力による検挙率は、90年代と2015年を比べると、20倍以上に増えた。キレる高齢者にどのように対処すべきか、社会は頭を悩ませている状態だ』、「暴力検挙率20倍」とは確かに深刻な問題だ。
・『なぜ高齢者はキレるのか、心理技術アドバイザーの梯谷幸司さんはこう分析する。 「ぶつけどころのない怒りがたまっている状態ですね。そこにはいくつかの要因があります。まず、『弱い犬ほどよく吠える』というもので、強がっているのです。『先に言った者勝ち』とばかりにキレて目の前の人を押さえつけ、自分のルールを押し通そうとします。このパターンを深層意識のメタ無意識では“自分型”と言います。背景には、『人生思い通りにならない』『自分は見えない何かに縛られている』という思い込みがあるのです」 世の中が進化し、社会のルールもどんどん変化していく中で、高齢者の深層意識には、「現代に対応できない」という劣等感に似た感覚がある。 「オキシトシンというホルモン物質が不足しているのです。脳の動きには苦痛系と報酬系があります。ストレスや嫌なことがあると苦痛系が働き、副腎という臓器にコルチゾールとアドレナリンを分泌しろという命令が出ます。その結果、複雑なプロセスを経て、精神的にキレやすくなるのです。しかし、オキシトシンが分泌されると、苦痛系の動きに待ったをかけます。嫌なことが起きても『そんなこともあるよね』と許せるようになるのです」』、「脳の動きには苦痛系と報酬系があります。ストレスや嫌なことがあると苦痛系が働き、副腎という臓器にコルチゾールとアドレナリンを分泌しろという命令が出ます。その結果・・・精神的にキレやすくなるのです。しかし、オキシトシンが分泌されると、苦痛系の動きに待ったをかけます」、なるほど脳内ホルモンが影響しているようだ。
・『ではなぜオキシトシンが不足するのだろうか。 「数多くの人に接して感じるのは、『人生に甘さが少ない』と信じ込んでいるからではないかということです。人生に甘さが足りないと思っていると、人生が義務になってしまうのです。次にスキンシップ不足もあります。オキシトシンは身体接触でも分泌されますが、ハグやキスの習慣のない日本人は、加齢とともに身体接触は相当減ってしまうのでしょう」 このオキシトシンは、身体の振動によって分泌が促進されるという研究もある。 「実は、祭りの衰退もオキシトシン不足の原因ではないか。昔はみこしを担いだり、太鼓の音とともにみんなで踊ったり、祭りは参加するものでした。このときの振動がオキシトシンの分泌に一役買っていたはずです」 その代わり、現代であれば社交ダンスやスポーツがあるだろう。できるだけ人と接する機会を持つことも大切になる』、「オキシトシンは身体接触でも分泌されますが、ハグやキスの習慣のない日本人は、加齢とともに身体接触は相当減ってしまう」、「できるだけ人と接する機会を持つことも大切になる」、新型コロナウィルス危機での「社会的距離」の強要は、「オキシトシン」を減らしてしまう思わぬ副作用がありそうだ。
・『「チャールズ・ダーウィンは『進化論』の中でこう言っています。〈強いものが生き残ったわけではない。賢いものが生き残ったわけでもない。唯一生き残ったのは、変化できるものであった〉と。これからの時代は、柔軟に変化していくことが重要になります」 若い頃に比べカッとしやすくなったと自覚できる人は、積極的にスキンシップを図りたい』、「積極的にスキンシップを図」るのは、新型コロナウィルス危機が一段落してからとなりそうだ。

次に、6月30日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「「高齢者の高き志」と権力に腐る組織の微妙な関係」を紹介しよう。
・『「73歳定年制」をめぐり、自民党の国会議員の中でベテランと若手のバトルがまたもや勃発している。 2017年の秋に行われた解散総選挙のときは、当時の安倍内閣の合言葉だった「一億総活躍」に乗じて、「老人差別を撤廃せよ! 一億総活躍社会を掲げているのに矛盾しているではないか!」とベテラン議員たちが吠(ほ)えた。当時78歳だった二階俊博幹事長にいたっては、「年齢の若い人が新しい意見を持っているかと言えば、そうでない場合もある。年齢なんか関係ない」と、自らの健在ぶりをアピールしていた。 で、今回。「人生100年時代」を合言葉に、79歳の衛藤征士郎氏と74歳の平沢勝栄氏が、81歳の二階幹事長と面会し、「政府が人生100年時代を唱える中で年齢により“差別”を行うのはおかしい」と、定年制廃止を直訴したという。 しかも、「あえて若手の候補者に一言申し上げたい。高齢者の高き志に対し、果敢に挑戦し、圧倒する意気込みと迫力を示してほしい」(by 衛藤氏) などと、若者を挑発するようなコメントをし、若手議員らは猛反発している。 37歳の小林史明氏は「コロナにおいて大変国民が厳しい状況にある中で、国会議員の立場を守るための議論が行われていることに正直、優先順位が全く違うと驚きを隠せない。高き志を持っている先輩方にはぜひ堂々と小選挙区で戦っていただきたい」と切り捨て、自民党の下村博文選挙対策委員長に73歳定年制の維持を申し入れたそうだ。 ふむ。仁義なき“志”対決である』、どうも比例区での「定年」をめぐる争いのようだ。
・『若手は実力で戦うべきではないか  確かに「年齢による差別」はよろしくないし、「若い=良い、高齢=ダメ」とは微塵(みじん)も思わない。だが、このバトル、どこからどう考えても若手の勝ちと言わざるを得ない。 そりゃあ誰だって、制限を付けられるのは嫌だし、年齢という自分ではどうにもならない属性ではじかれるのは悔しい。しかしながら、衆議院の73歳定年制はあくまでも比例区のお話であって、小選挙区に定年は存在しないのだ。 「高き志」があるなら、「制度を撤廃せよ!」などと組織に頼るではなく、小林氏の言うように“右手ポンポン(腕をたたく)”と実力勝負で堂々と戦えばよろしい。 だいたい国民には「70歳定年制」を法制化し、明確に「70歳」という年齢で線引きしているのに、なぜ、自分たちのこと=国会議員になると反発するのか? 私の理解が間違っていなければ、国会議員の給与は私たちの血税である。ならば「どうせ、我が身かわいさでしょ?」と揶揄(やゆ)されないよう、国民が納得できる“材料”に基づき、制度撤回を求めてほしい。 デリケートな問題なので念のため繰り返すと、私は年齢で区切ることには基本的には「反対」である。 本コラムで何度も、定年やらシニア雇用の重要性を訴えているのも、「若い=良い、高齢=ダメ」という風潮への違和感と、ベテランが持つ暗黙知の大切さが評価されないのはおかしいと心底感じているためだ。 ただし「組織」を主語にした場合、話は別だ。組織は多様な人材で構成され、常に新しい“風”が流れている方が美しい。いかなる組織も、何年も同じ顔ぶれが陣頭指揮をとっていると、やがて腐る。 組織とはある意味生き物であり、血流がよどまない工夫が必要である。その最良の手段が多様性を持つことで、それは個人の「志」とはまた別の問題だ。 しかも、人間は実に勝手な存在で、どんなに高い志があろうとも自分を俯瞰(ふかん)できなくなることが往々にしてある。いわゆる「老害」である。とりわけ「老い」に「権力」という係数が加わると、ややこしいことになる。 ゆえに、組織においては去り際を決められない人の背中を押す制度は、ある程度必要だと考えている。 もっとも、「後進にゆずる」とか「若手を育てよう」という価値観が浸透している組織なら、そんな制度は無用だが、「肩書文化」の日本では、つい、老害を及ぼしてしまいがちだ』、「比例区」は「組織」が中心だ。もともと、「衛藤征士郎氏」と「平沢勝栄氏」は「小選挙区」の地盤を後進に譲って、「73歳定年制」がある「比例区」に移ったのだから、今になって、「定年」を伸ばせというのは見苦しい。
・『過去の栄光を失う恐怖が老害の源  「老害」は、なぜ、起きてきてしまうのか? この素朴な問いは古くからあり、老害は心理学者や人類学者、社会学者、さらには脳科学者たちの手によってアレやコレやと研究され、心理と脳の2つの側面から、いくつかの知見が得られている。 まず、人は年齢を重ねると、本人の意思や志とは関係なく、精神的にも、肉体的にも、衰えていくわけだが、この現実と向き合うのはとてつもなくしんどい。 私たちは自分が考えている以上に、「今あるもの」を手放すのを恐れる性質を持ち、特に、自分の人生の成果でもある「社会的な地位」や「社会的な役割」が失われる恐れがあると、「オレはここにいるんだぞ!」と叫びたくなる。自分の存在価値の不確かさに耐えきれなくなってしまうのだ。 その恐怖から逃れるために、人は過去の栄光にすがる。自己評価の高い人ほど、無意識に弱みを悟られたくないと心が動き、「オレって、こんなにすごいんだぜ!」と強がることで心の均衡を保とうとするのだ。 脳の老化は得意分野以外の部分から進むため、過去の栄光が最後まで残ることに加え、人は自分自身について話すと、いわゆる報酬のメカニズムがはたらき、セックス、コカイン、おいしい食事のような快楽の刺激に関係する脳の領域が活発になるという、困った特性を持ち合わせている。 そのため「オレって、こんなにすごかったんだぜ!」という過去の栄光話が、いったん始まると永遠に何度でも繰り返されることになる。 オレ様の自慢を聞かされる方は耐え難いけど、そんな話を聞かされていた人でさえ自分が年をとると、相手が聞いていようがいまいが関係なく快楽を求める脳が稼働し、「オレってすごいだろ?」的トークを繰り返してしまうリスクを抱えているのだ。) 老いは自然現象だし、それは生き物として美しいことだと個人的には思っているけど、社会的に上手に老いるのは実に難しい。ホント、社会的地位ってやっかいな代物だなあと、つくづく思う。 とはいえ、老害は年をとった権力者の問題でありながら、権力者の問題だけとも言い切れないのも、また事実だ。人は権力を嫌うくせに、権力を好むという歴然たる事実があり、これが老害を加速させてしまう側面を多分に持ち合わせているのだ。 例えば、「権力がある」とみなされているリーダーほど、部下たちから話しかけられる頻度が高かったり、権力あるリーダーの言葉にしか耳を貸さない部下がいたりするのは、どこの組織でも見受けられる。権力あるリーダーに声をかけられる方が部下たちの満足感は高まるし、チームのモチベーションを高めるには、権力への野心があるリーダーの存在が不可欠との調査研究も少なくない』、私も若い頃、自分を採用した尊敬する大先輩に連れられて、銀座のクラブなどに行ったが、そこで聞かされる自慢話にはつくずく辟易し、自分はこうはなるまいと心に誓ったものだ。
・『部下の態度が権力者を増長させる面も  また、身もふたもない言い方になってしまうが、どんなに人格的に優れていても、権力がないと部下から無能扱いされるケースがある。 「あの人、いい人なんですけどね~」「うちの上司、人間的には尊敬してるんですけど……」「人格だけじゃ仕事はできないからね~」なんて具合に、バカにされてしまうのだ。 とりわけ「ウチ」と「タテ」という、権力の独占が起こりやすい組織構造を持つ日本では、長い時間権力の座に就いた人ほど、「権力者」とみなされ、その影響力はクモの巣のごとく組織全体に広がり、「この人に好かれていればいいことがある。うん、きっとある」という、よこしまな感情を抱くメンバーを量産する。 上昇志向の強い輩ほど、“ヨイショ”を武器に「いい匂いがする」リーダーに取り入り、それがさらに権力者に権力を集中させ、権力者の絶対感を助長し、権力を盾に新しい動きを阻む鉄壁の「ジジイの壁」をつくり上げていくのだ。 それは権力者が「老い」を自覚する機会を逸することであり、やがて組織の上層部には教条主義と前例至上主義がはびこるようになり、「高い志」を持っている人ほど「何をやっても無駄」と組織を離れ、緊迫感が全くない“ウミ”だらけの組織に落ちていく。 おそらく若手議員が定年制導入にこだわるのも、そんな危機感を察知しているからではなかろうか。「壁」の中にいる人には決して感じられない組織のひずみが、権力とは遠いところ、すなわち壁の外のメンバーにはよく見えてしまうのだろう。 だいたい、ベテラン議員たちは、「年齢差別されている!」と被害妄想ばかり募らせるが、年齢差別されているのは“上”ばかりではない。ご承知のとおり衆議院議員の被選挙権は満25歳以上で、18歳で投票ができるのに、政治家となることが許されないという不合理がある。 「世界を見よ! 定年制を導入してる国は少ない!」とのたまうけど、先進国はほとんどの国が18歳以上(下院)で立候補でき、25歳以上に制限されているのは米国とイタリアなどに限られていることを、ベテラン議員たちはどう考えているのか(「諸外国の選挙権年齢及び被選挙権年齢」国立国会図書館調査及び立法考査局)。 興味深いことに、被選挙権年齢が相対的に低い国ほど、若い政治家の割合が高い傾向が認められている。ある研究によれば、21歳以下に被選挙権を付与している国においては、平均で33.4%が45歳以下の政治家で占めるのに対し、被選挙権年齢が21歳以上である国においては、この割合が27.3%に下がるという(「Raising Their Voices」IFES)。 実際、被選挙年齢の下限が18歳の英国の政治家の平均年齢は50.5歳(2017年下院)、ドイツ49.4歳(同)、フランス48歳(同)なのに対し、下限が25歳の米国は57.8歳(17-18年下院)だ。日本も54.7歳(17年衆議院議員)と高い』、「被選挙権年齢が相対的に低い国ほど、若い政治家の割合が高い傾向が認められている」、確かに面白い傾向だ。
・『若者だけでなく女性登用も多様性のカギ  女性議員についても、英国、ドイツ、フランスの女性議員比率は32%、30.7%、38.8%と軒並み3割を超えているのに、米国では19.1%と2割弱で、日本にいたっては、たったの10.1%だ。 おまけに、2000年以降、米国も含めた各国の女性議員比率が軒並み上昇しているのに対し、日本だけが全く増えていないどころか、逆に減っている。2009年、10年は11.3%だったが、12年には7.9%まで低下し、17年でやっとこ1割台に復帰した(「データで見る議会」国立国会図書館調査及び立法考査局)。 くしくも、73歳定年制の維持を申し入れた若手議員たちの要望書には、「女性をはじめとした多様な人材が、これまで以上に党公認として登用されるよう強く求める」と記されていたそうだが、被選挙年齢を下げることも早急に議論し、実現に向けて同時並行で進めないことには、大きな変化にはつながらないだろう。 ちなみに日本は2017年時点で、30歳未満の国会議員は存在していない。 2019年9月にNPO法人 Rights が行った調査では、10.1%の若者が「立候補の意思がある」、もしくは「立候補するかもしれない」と回答した。これを同法人は、日本国内全体で45万3000千人に相当する若者(8~24歳)が潜在的立候補者となる可能性が示されたと指摘している。 つまり、もし本気で「年齢による差別」を訴えるなら、被選挙権の年齢についても同時並行で進めるべきだ。で、そのときはぜひとも、国政選挙なら選挙区で300万円、比例区で600万円を選挙管理委員会に供託しないと立候補ができないという、世界一高い供託金を下げる、あるいはこの制度をなくす議論もしてほしいものだ。 供託金の代わりに、北欧で導入されているような、一定数の支持者の署名提出を立候補の条件とする方法を取り入れれば、若い人、シングルマザー、派遣や非正規労働者、中小企業の経営者など多様な人たちが立候補できる。候補者の裾野が広がり、それによって選挙への関心も高まり、投票率アップも期待できる。 今のように地盤・看板・鞄(かばん)の三バン(組織、知名度、資金)のある人が立候補し、既得権を持っている人や、利権の恩恵を受ける人ばかりが必ず投票に行くような暗黙のシステムは健康的じゃないと思いますけど、ベテラン議員のみなさん、いかがですかね?』、「供託金の代わりに、北欧で導入されているような、一定数の支持者の署名提出を立候補の条件とする方法を取り入れ」るとのアイデアには大賛成だ。

第三に、6月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの草薙厚子氏による「55歳新人CAの「スチュワーデス物語」、コロナに負けず今日もフライトへ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/240263
・『航空業界は新型コロナウイルス感染症の拡大で甚大な影響を受けた。人の移動が制限されたことで欠航が相次ぎ、開店休業状態を余儀なくされた。しかし、そんな未曾有の危機に見舞われた航空業界で、客室乗務員として働く夢を諦めず、挑戦した日本人女性がいた。子育てを終え、55歳にして新たなチャレンジを続け、見事夢をつかんだ一人の女性の物語をお届けする』、そんな夢のような話があったとは、喜ばしいことだ。
・『3人の子育てを終えて挑戦した学生時代からの夢  WHO発表(6/15時点)によると、全世界の新型コロナウイルス感染症による死者数は42万人を超えた。最も被害が大きい米国では、これまでに10万人以上が死亡、約180万人以上が感染しており、終息への道のりはまだまだ遠い。 「今、ニューヨーク州のロチェスターのホテルにいます。その後、ワシントンDCに行って、またここのホテルに戻って、家に帰るのは3日後になります」 東京アラートが発動されている中、新型コロナの感染を心配する日本にいる友人に送られてきたメールだ。 このメールを送った女性の名前は奈々美さん(仮)。年齢は56歳で、米国人と結婚して、現在はニュージャージー州に住んでいる。彼女は昨年秋、長年の夢だった米国の大手航空会社の客室乗務員(CA)試験に合格。55歳で客室乗務員としてのデビューを果たしたのだ。 奈々美さんは大学卒業時、健康上の問題でCAの夢を諦めなければならなかった。しかし、世界を飛び回る仕事に就くことをどうしても諦め切れず、卒業後はオーストラリアと米国を放浪した。そして1992年、28歳のときに現地で知り合った男性と結婚。その後3人の子どもに恵まれて、無事に成人を迎えた子どもたちは家から巣立っていった。 そこで彼女はこれまでの人生を振り返り、残されているこれからの長い人生の時間をどう使ったらいいかを考えたという』、「残されているこれからの長い人生の時間をどう使ったらいいかを考えた」、大したものだ。
・『50歳で老後の準備をする日本人 新たな生き方を模索する米国人  子育てが終わった後、08年からは障害者学校の教師として働いた。その背景には、大学時代は社会福祉学科に在籍していて、人のために役立ちたいという強い思いがあった。障害者教育はもちろん、介護士の資格も取り、やり甲斐がある仕事だったが、心の奥底から求めていたものとは少し違っていることに気づく。 「自閉症や発達障害の子どもの職業訓練の仕事がメインでした。障害がある生徒たちが、社会に出て行くには、訓練が必要です。職場体験などに連れて行ったりしました。障害があっても自立できるように、寄り添ってきました。そんなとき、さらに興味があった医療に携わりたい、社会のために役立ちたいと思ったのです」 そこで選んだのは救急救命士だった。実際の仕事は12時間拘束されるハードなものだ(午前6時から午後6時までと午後6時から午前6時まで)。そこで彼女は障害者学校の教師として働きながら、救急救命士の資格を取ってボランティアとして続けた。 「救急救命士の仕事を選んだのは、医療現場に興味があったことと障害者の学校の仕事に役立たせたかったこと、週末に自分の仕事をしながらできると思い学校に通いました。そこには非日常の世界がありました。救急車を運転したこともあります。いつ呼ばれるか分からないので、ストレスはたまっていきましたが、人のために役立っていると思うとそれも吹っ飛んでしまいました」 日本の社会では50歳を過ぎると、「老後の貯蓄はいくら必要か」や「終活に向けての断捨離をすべきだ」などとマスコミにあおられ、残りの人生はできるだけ快適に、のんびりと過ごすことを考える人が多い。 しかし、米国では全く違う。奈々美さんはたまに日本の友人と話をすると、文化の違いを感じることが多々あったという。そこで彼女は一念発起して、30年以上前に諦めた夢に再びチャレンジすることを決心したのだ。 それは並大抵な努力ではかなわないのは分かっていた。しかし、彼女が住んでいる米国ではその夢を笑う者は誰もいなかった』、「障害者学校の教師」、「救急救命士」までやったとは、本当に意欲的で、老いを感じさせない。
・『リアル「スチュワーデス物語」 壮絶な競争を生き残り首席で卒業  19年5月、キャビンアテンダントの求人に申し込み、数多くの志願者の中で大手航空会社系列の面接に合格したのだ。ただしそれで終わりではなかった。その後、3週間にわたって合宿によるトレーニングスクールがある。ここでついていけないものは振り落とされ、脱落してしまう。毎日何らかのテストが行われ、基準点以下は落とされる。80年代に日本ではやった「スチュワーデス物語」を超える、壮絶な世界だった。 「日本の単語帳を使ってエアポートコードなんかを全て覚えました。でも一番大変だったのは避難訓練です。一字一句間違えず、一挙手一投足、全部正しく実行しないとパスできないんです。急病人が出たときの対処法、緊急時の行動などは救急救命士のときに全部やってきましたから経験があったのです。心臓マッサージなんかは、ほとんどの人がやったことがない。私はインストラクターの人よりうまかったです(笑)」 24人いた志願者はふるいにかけられ、途中で同室だった仲間もいなくなってしまった。まるでオーディション番組のアメリカン・アイドルのような厳しさだ。最終合格者は半数以下の11人だった。 合宿トレーニングの最後に、筆記と実習のテストの成績を合わせたGPA (Grade Point Average) が発表された。彼女のポイントは一番高く、首席での合格となり、卒業式では総代として全員の前で代表スピーチを行ったのだ。 「レッスンの最終日に21歳の子が私に向かって『人間って、いくつになっても道を切り開くことができるんですね』って言ってきたから、『うるさいわ!』って言ってやりました。自分の子どもより年下の同僚です(笑)」』、米国での「キャビンアテンダント」は、日本より地位は低いのかも知れないが、「首席で卒業」とは大したものだ。
・『マスクを着けない文化に苦労 夢は国際線長距離フライトでの勤務  そして19年秋、晴れて客室乗務員として勤務し、55歳の新人スチュワーデスとして新たなスタートを切った。まさにそれはアメリカンドリームの世界だ。 しかし20年に入り、突然暗雲が立ち込める。誰もが予想しなかった新型コロナウイルスの影響で、航空会社はどこも大幅な運休や減便となってしまったのだ。利用客が激減した現在、客室業務員にとっては何より働く場がない。 そこで米国財務省は、米系大手航空会社に対して、労働者を保護する給与支援プログラム(PSP)に基づく資金援助を開始し、約1兆3100億円の資金援助を実施した。そのため、このプログラムを利用する会社に対しては今年9月末までの間は、従業員の解雇などは禁止される措置が取られた。 米国の航空会社ではCAとパイロットに対しては「Seniority Rule(先任権制度)」というものがあり、先に就職して勤続年数が長く、古い従業員は後から就職した者よりも有利な扱いを受けられる権利がある。入社番号の桁が小さい人は優遇され、番号が大きく、最近入社したスタッフから解雇されることになる。 「利用客については、少しずつ回復の兆しが見えてきましたが、感染前の水準にはまだまだです。4月はガラガラで、1回のフライトは政府関係者や航空関係者がほとんどで、乗客が1人だけというときもありました。5月の前半は忙しかったのですが、後半は1度も飛んでいません。給与支援プログラム(PSP)のおかげで基本給だけはもらえますが、感染前の水準に戻らなければ10月以降はどうなるのか不安です」 奈々美さんはこの時期のフライトで何よりも困ったことがあるという。マスク着用の習慣がない米国では、地域によってはいまだにマスク着用に抵抗があるというのだ。 「ニューヨークで感染が広がってきた頃はまだまだ米国ではマスクを着けないで勤務する人がほとんどでした。そのためフライトでも着けることができず、ポケットに除菌ジェルを忍ばせて使っていました。ようやく5月から対策として、乗客や乗務員にマスク着用が義務付けられました。乗務員は検温、マスク、手袋はマストです」 米国では南部や中西部の州では、日常生活でもマスクを着けていない人が多く、フライトの際にお願いしてもマスクをしてくれなかったり、何かと大変だったという。 「バンダナを巻いてゴムで留めているだけだったり、ガスマスクやゴーグルをしてくる人もいるし、いろんな人がこの新型コロナの環境下で搭乗してくれます。パイロットにも面白い人がたくさんいて、副業としてウーバーのドライバーをしている人や、整備士だったのが空を飛びたくなってパイロットになったり、ヨットで世界一周していて空を見ていたら飛行機が見えてきれいだと思ったから帰ったらパイロットになったとか。今の最低賃金と比べたら、給料は前職の方がもらえていました(笑)。だけど全然後悔はないです。乗客も含めて魅力のある人、面白い人と出会えることが、今は一番の支えですね」 現在、彼女は近距離線の担当で、国内線やカナダなどへのフライトが中心だが、搭乗する人が戻ってきて、便数が回復して雇用環境が整えば国際線、特に長距離線に移行したいと思っている。 夫や3人の子どもたちはきっと誇りに思っているに違いない。米国でつかんだ55歳のスチュワーデス物語は、今始まったばかりである』、「Seniority Rule」でレイオフされずに、勤務が続き、「国際線、特に長距離線」に「移行」できることを祈りたい。
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格差問題(その6)(日本の劣化が止まらない 「所得格差」が人の心と社会を破壊する、新型コロナが浮き彫りにした格差社会の危険な先行き、コロナ後の共同体意識の高まりは「富の偏り」を是正できるか 「コロナ後の世界」特集(5)) [社会]

格差問題については、昨年9月12日に取上げた。今日は、(その6)(日本の劣化が止まらない 「所得格差」が人の心と社会を破壊する、新型コロナが浮き彫りにした格差社会の危険な先行き、コロナ後の共同体意識の高まりは「富の偏り」を是正できるか 「コロナ後の世界」特集(5))である。

先ずは、昨年12月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したNagata Global Partners代表パートナー、パリ第9大学非常勤講師の永田公彦氏による「日本の劣化が止まらない、「所得格差」が人の心と社会を破壊する」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/221985
・『昨今日本でも、非人道的な暴力事件が目立つこともあり、人の心や社会の状態が悪くなっていると感じる人が多いといいます。確かにこうした劣化を示すデータは多くあります。その背景にあるのが格差の拡大です。格差は、人と社会の健康を蝕みます。そして今世界各地で見られているように社会の分断、暴動、革命、戦争に発展します。既に劣化の段階に入っている日本…このファクトを認識し、格差是正に向けた国民的議論が期待されます』、興味深そうだ。
・『所得格差の大きさと社会問題の発生は正比例する  「所得格差」と「人と社会の健康状態」の相関関係を示した調査研究は多くあります。その中で本稿では、体系的かつ国際的なものとして、英国の経済学者で公衆衛生学者でもあるリチャード・ウィルキンソンの研究を示します。 すでにご存じの方もいると思いますが、図1は、2009年に彼のチームが発表したデータです。横軸は、所得格差で、右に行くほど格差が大きい国です。縦軸は人と社会の健康状態で、上に行くほど悪く、社会問題が深刻な国です(枠線内のさまざまな指標を用い総合的に算出)。 これを見ると、「所得格差」と「社会問題」が見事に正比例していることがわかります。調査対象国中、最も格差が少なく人の健康も社会の状態も良いのが日本、その正反対にあるのがアメリカです。 ◆図1 所得格差が大きくなるほど、人の健康も社会問題も悪化する(リンク先参照)』、「「所得格差」と「社会問題」が見事に正比例している」のは確かなようだ。
・『小格差国から中格差国へ、そして超格差国の仲間入り?  図2は、図1の所得格差(横軸)を対象国別にならべたものです。上位20%の富裕層の平均所得を下位20%の貧困層の平均所得で割った所得倍率です。情報源は、国連開発計画・人間開発報告書で示された2003~06年のデータです(ウィルキンソン氏に確認済み)。 そこで、筆者が同じ情報源にある最新データ(2010~17年)を用いて、所得格差を国際比較したのが図3です。日本は3.4倍から5.6倍と、10年たらずで格差が広がり、右側の高格差国に仲間入りしていることがわかります。 ◆図2 所得上位20%の人は、下位20%の人より、どれほど金持ちなのか?(2003~06年データ)(リンク先参照) ◆図3 所得上位20%の人は、下位20%の人より、どれほど金持ちなのか?(2010~17年データ)(リンク先参照)』、「日本は3.4倍から5.6倍と、10年たらずで格差が広がり、右側の高格差国に仲間入りしている」、急速に高格差国になったことがここまでキレイに図示されるとは驚かされた。
・『日本は3.4倍から5.6倍と、10年たらずで格差が広がり、右側の高格差国に仲間入りしている  ウィルキンソン氏の研究結果に従うと、日本では格差が拡大した分、人の健康も社会問題も悪化しているはずです。これを同氏が当時使った統計データの最新版で確かめたいところです。しかし残念ながら継続的にとられていないデータも多く、変化を正しく捉えられないため、別のデータに目を向けてみることにしましょう。 すると、確かに昨今の日本の劣化を示すものは多くあります。例えば、精神疾患による患者数は、2002年の約258万人から2017年には419万人に(厚生労働省・患者調査)、肥満率も、1997年の男性23.3%・女性20.9%から2017年には男性30.7%・女性21.9%と増えています(厚生労働省・国民健康栄養調査)。 ここ20年間(1996年~2016年)の刑法犯の認知件数を見ると、戦後最多を記録した2002年以降は全般的に減少傾向にあるものの、犯罪別では悪化しているものが多くあります。傷害は約1万8000件から約2万4000件に、暴行は約6500件から約3万2000件に、脅迫は約1000件から約4000件に、強制わいせつが約4000件から約6000件に、公務執行妨害が約1400件から約2500件に、住居侵入が約1万2000件から約1万6000件に、器物損壊が約4万件から約10万件に、それぞれ増加しています。 また2013年あたりから振り込め詐欺の増加に伴い、詐欺事件が約3万8000件から約4万3000件に増えています(法務省・犯罪白書)。こうした犯罪の増加も影響してか、他人を信用する割合も、2000年の40%から2010年には36%に低下しています(World Values Survey)。さらに、日本人の国語力や数学力の低下を指摘する調査や文献も多くでてきています』、確かに「人の健康も社会問題も悪化している」ようだ。
・『格差はやがて社会の分断、暴動、革命に発展  格差の拡大は、人々の倫理観の低下を招き、犯罪、暴力やハラスメント事件を増やし、ストレスと心の病を持つ人を増やします。それに伴い、社会全体が他人を信用しない、冷たくギスギスしたものになることは前述したとおりです。また、格差が人の幸福感を低くするという研究もあります(Alesina et al 2004, Tachibanaki & Sakoda 2016等) 。 さらに格差が、社会の分断、暴動や革命を引き起こすことを示す歴史上の事実は多くあります。例えばフランス革命です。国民のわずか2%の権力者(王室家系、高僧、貴族)が国の富と権力を握り続けたあげくに起きた、社会のあり方を大きく転換させた歴史的な出来事です。 また所得格差が異なる宗教、民族、地域アイデンティティ、政治的イデオロギーと重なるとさらに厄介です。紛争が起きる可能性、そのパワーや社会へのインパクトが、一気に高まるからです(オスロ国際平和研究所調査2017)。 例えば、今の香港はその典型例です。一昨年には過去45年間で格差が最大に広がっています(所得格差を表す指標の1つジニ係数が、アメリカの0.411を超え0.539まで拡大)。これに、地域アイデンティティ(香港人と中国人)、政治的イデオロギー(自由民主主義と一党独裁社会主義)という2つの要素が重なるため、問題が根深いのです。 この点では、日本も他人事ではいられません。個人間の格差は前述の通り短期間で拡がっています。また、「大都市圏と地方」、「正規と非正規雇用者」などグループ間格差も顕著になっています。もしこれが日本以外の国ならば、暴動や革命が起きてもおかしくない状態です。今こそ、こうした格差と社会の劣化を客観的かつ真剣に捉え、国民的議論を起こすべきではないでしょうか。なぜならば、民主主義社会における変革は、国民的議論と意思表示が出発点になるからです』、説得力溢れた主張で、全面的に同意したい。

次に、本年3月24日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「新型コロナが浮き彫りにした格差社会の危険な先行き」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00067/?P=1
・『「感染症は不平等のリトマス試験紙」──。 これは米ミシガン大学の疫学の助教、ジョン・ゼルナー氏の言葉 である。 先週、「ナショナル・ジオグラフィック」の記事で引用されたものだ。ここでは新型コロナウイルスの今回アウトブレイクや過去の研究から、医療従事者や介護職など特定の職業に就く人や、低所得者層の感染リスクと予防の難しさを伝えている。 例えば、米国の新型コロナによる死者が、ワシントン州最大都市シアトルで多い最大の理由を、「ホームレスの多さにある」と分析。ホームレスの大半は屋外で寝起きし、多くが高齢者や慢性的な健康問題を抱えている人々のため重症化しやすいとした。 また、低所得者は比較的混み合った環境で暮らし、未治療の基礎疾患があり、休めない仕事に就いてる人が多いと指摘。 「家の中にこもるにしても、食料品店には行かなければなりません。では、食料品店で働いているのは誰でしょうか。必要なものをネットで注文すれば、外出せずに済むでしょう。しかし、誰がその荷物を運ぶのでしょうか」 ゼルナー氏は、こう疑念を呈したという』、「感染症は不平等のリトマス試験紙」とは言い得て妙だ。
・『金のあるなしで命に格差の現実  トランプ大統領が国家非常事態宣言をし、最大500億ドル(約5兆4000億円)の連邦政府予算を検査や治療の拡充に充てると発表したのも「医療保険未加入の人への無料検査、食料支援」を行うためだ。支援策には「2週間の有給疾病休暇」や「最大3カ月の有給介護休暇」「すべての学生ローンの利息の帳消し」など、低所得者層への幅広い救済策が予定されている。 所得格差が医療格差に直結してる国ゆえの緊急支援策。そう捉えることができる。 しかしながら、これは米国の話であって、米国の話だけではない。 「何言ってるんだ!日本は国民皆保険だろ!」。そう思われる人もいるかもしれないけど日本も事情は同じ。“目に見えてない”だけだ。 経済的理由から病院に行けない人は、2008年のリーマン・ショック以降、たびたび報告されてきた。2009年に全日本民主医療機関連合会が、加盟医療機関を対象に行った調査では、経済的な理由から受診が遅れ死亡に至った事例は、2009年の1年間だけで少なくとも47件もあった。 2018年7月には、北海道民医連が、「2017年経済的事由による手遅れ死亡事例調査」の結果報告の記者会見を行い、「国民皆保険といわれながら、困窮する中で受診を控えて手遅れになるという事例が毎年発生している。金のあるなしによって、命に格差が持ち込まれることがあってはならない」と訴えた。 調査結果によれば、2017年の道内の死亡事例63件のうち、男性が8割、年齢は50~70代が8割で、雇用形態は無職や非正規雇用が約7割だった。約半数が正規の保険証を持っていたのに、受診できずに亡くなっていたという。 年代は前後するが、2014年に行われた「非正規第一世代」の氷河期世代を対象にした調査で、壮年非正規雇用者の15.9%が「お金がなくて病院に行くのを我慢したことがあった」と答えていることからも、“目に見えない格差”が身近に存在することが分かるはずだ(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「壮年非正規労働者の仕事と生活に関する研究」より)。 そして、今。この時間にも、「大丈夫かなぁ」と不安を感じながらも病院にも検査にも行けない人がいる可能性はある。 が、今回、私が最も危惧してるのは「この先」だ。 既に、非正規やフリーランスの人たちの収入が激減したり、途切れたり、雇い止めにあうなど困窮している状況は伝えられているが、彼らはもともと“リソースの欠損”という、極めてストレスフルな状況に慢性的に苦しんでいる人たちだ(リソースについては後で説明する)。そして、今は「持てる人」の集団にいる人の中にも、ギリギリの“リソース”で生きている人たちがいる』、「国民皆保険といわれながら、困窮する中で受診を控えて手遅れになるという事例が毎年発生」、確かに「格差」は「医療」面にまで及んでいるようだ。
・『1万2000円の現金バラマキに効果はあるのか?  政府は「厳しい状況の経済をV字回復させなければならない」として、国民1人当たり1万2000円以上の現金給付を検討しているようだが、こんなバラマキにいったいどんな効果があるのか。私には全く理解できない。 まずは、社会経済的に弱い立場の人たちへの支援に集中すべきだ。だいたい「今後仕事はどうなるのだろう?ちゃんと稼げるのだろうか?」と不安定な状況にある非正規やフリーランス、利用者が激減している旅館やレストラン経営をしている人たちが1万2000円もらっても、焼け石に水だ。 選挙対策ではなく本気の新型コロナ対策なら、困窮している人、先が見通せない人に集中的にお金を使わないと、“持たざる人”の心身はどんどんとむしばまれる。景気対策だのなんだのと言う前に、命を救うことが先決じゃないのか。 これはあおっているわけでも、悲観的に考えているわけでもない。日本には“見えない格差”が確実に存在しているのだ。普通に暮らしている人の影で、普通に暮らせない人たちが確実に増えているのだ。そして、それは想像以上に深刻である。 ここで集中的に支援しないと日本の土台は崩壊し、日本社会そのものが「自然死」するかもしれないのである。 そもそも私たちの「健康」を決定するのは、遺伝子などの生物学的因子だけではない。所得、職業、学歴、家族、社会的サポートなどの、社会経済的因子によるものが極めて大きい。この世に誕生してから命が絶えるまで、私たちはさまざまなストレスに遭遇する。ストレスは人生にあまねく存在し、人生とは「ストレスへの対処」の連続である。 その対処の成否を左右するのが、“リソース”だ。 今後さらに深刻になるであろう格差問題は、健康社会学的に捉えればリソースの問題である。リソースは、専門用語ではGRR(Generalized Resistance Resource=汎抵抗資源)と呼ばれ、世の中にあまねく存在するストレッサー(ストレスの原因)の回避、処理に役立つもののこと。 「Generalize=普遍的」という単語が用いられる背景には、「ある特定のストレッサーにのみ有効なリソースではない」という意味合いと、「あらゆるストレッサーにあらがうための共通のリソース」という意味合いが込められている。平たく言い換えれば、「いくつもの豊富なリソースを首尾よく獲得し、保持していくことが重要」であり、リソースは生きる力の土台となる。 お金や体力、知力や知識、学歴、住環境、社会的地位、サポートネットワークなどはすべてリソースである。リソースは対処に役立つことに加え、ウェルビーイング(個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態)を高める役目を担っている。例えば、貧困に対処するにはお金(=リソース)が必要だが、金銭的に豊かになれば人生における満足感も高まるといった具合だ』、「国民1人当たり1万2000円以上の現金給付を検討」、その後、10万円の特別定額給付金となった。「ストレスへの・・・対処の成否を左右するのが、“リソース”だ・・・いくつもの豊富なリソースを首尾よく獲得し、保持していくことが重要」であり、リソースは生きる力の土台となる。お金や体力、知力や知識、学歴、住環境、社会的地位、サポートネットワークなどはすべてリソースである。リソースは対処に役立つことに加え、ウェルビーイング・・・を高める役目を担っている」、なるほど、重要な概念のようだ。
・『ストレスに耐えるリソースの大元はカネ  一方、リソースの欠損は、慢性的なストレスになる。前回「慢性的なストレスにさいなまれている人は、突発的なストレスに襲われたときにダイレクトにダメージを受ける。これはストレス学の定説だが、今回の新型コロナウイルス騒動でも全く同じ現象が起こっている」と書いたのも、リソースの欠損の根深さを意味している。 既にお気づきの通り、「カネ」の欠損状態が、さまざまなその他のリソースを複合的に欠損させる。非正規やシングルマザーなど、所得が低い人たちはもともとリソースが欠損しているのに、新型コロナ騒動で経済的にも窮地に追いやられている。 そして、その影響は子供にも伝播する。 貧困の最大の問題は「普通だったら経験できることができない」という、機会の略奪だが、とりわけ幼少期の「機会奪略」はその後の人生の選択にも大きな影響を与え、リソースの欠損に直につながっていく。 教育を受ける機会、仲間と学ぶ機会、友達と遊ぶ機会、知識を広げる機会、スポーツや余暇に関わる機会、家族の思い出をつくる機会、親と接する機会……etc.etc。 私たちは幼少期にこういったさまざまな経験を積む中で、80年以上の人生を生き抜く「リソース」を獲得する。ところが低所得世帯の子供はそういった機会を経験できず、進学する機会、仕事に就く機会、結婚する機会など、「機会略奪のスパイラル」に入り込み、「貧困の連鎖」が拡大するのだ。 今、すぐにでも集中的にお金をつぎ込まないと、子供たちの未来にも影響を及ぼすことになりかねない。景気拡大より、経済支援。一律じゃなく集中的に。「10万円貸し出す」だの「1日4100円支給する」だの言ってないで、必要な人に衣食住に最低限困らない生活を保障するくらいしてもいいのではないか。 しかも、リソースの欠損は「孤独感」と背中合わせだ。孤独感は、家族といても、職場にいても、「『社会的つながりが十分でない』と感じる主観的感情」と定義され、「外的なリソース」への認知を意味している。 社会的動物である私たちは他者と協働することで、生き残ってきた。共に過ごし信頼をつなぐことで安心を得てきた人間にとって、共に過ごす他者の欠如は絶え間ない不安をもたらし、大きなストレスになる』、「低所得世帯の子供はそういった機会を経験できず、進学する機会、仕事に就く機会、結婚する機会など、「機会略奪のスパイラル」に入り込み、「貧困の連鎖」が拡大するのだ」、「リソースの欠損は「孤独感」と背中合わせだ・・・社会的動物である私たちは他者と協働することで、生き残ってきた。共に過ごし信頼をつなぐことで安心を得てきた人間にとって、共に過ごす他者の欠如は絶え間ない不安をもたらし、大きなストレスになる深刻な状況だ」、確かに放置することが許されないような状況だ。
・『ストレスは体の健康を壊す  ストレスを慢性的に感じていると身体の免疫システムが弱まり、心臓病や脳卒中、がんのリスクを高めるほど心身をむしばんでいく。うつ傾向になったり、認知機能が低下したりする場合もある。 孤独を感じる大人、孤独を感じる高齢者、孤独を感じる子供たちが増えないよう、経済的支援に加え社会的なサポート=つながりを充実させる仕組みも不可欠なのだ。 既にNPOやボランティアの方たちが、小中高一斉休校で孤立しがちな低所得者層の子供たちに支援をしてくださっているけれど、もっと地方自治体が積極的に関わった方がいい。 例えば、台風などの自然災害のときに、返礼品なしのふるさと納税を取り入れた地方自治体があり、私も少額ながら寄付させていただいたけれど、同じことをやってはどうだろうか。 仕事がなくて困っている人が、介護の現場など人手が足りない現場のサポートのアルバイトをしたり、家に閉じ込められている高齢者を散歩に連れ出すテンポラリーのバイトなどを自治体が実施し、その財源の一部にふるさと納税を使うというやり方だってあるのではないか。 少々ややこしい話ではあるが、「カネの欠損がリソースを複合的に欠損させる」ことに間違いないのだけど、カネさえあればいいってわけでもない。以前、「食べるのに困る家は実際はない。今晩、飯を炊くのにお米が用意できないという家は日本中にない。こんな素晴らしいというか、幸せな国はない」とのたまった政治家さんがいたけど、貧困とは金の問題であって、金だけの問題ではないのである。 「自分には信頼できる人がいる。自分にほほえんでくれる人たちがいる」という確信を、社会が、「私たち」がつくっていくことも格差問題に向き合うには大切なのだ。 そして、もう一つ。この先に懸念されることを話しておく。 格差問題では、相対所得による影響も考える必要があるってこと。 所得格差が大きい社会では、個人の所得水準や年齢、学歴、婚姻状態に関係なく、「主観的な健康感の低い人」が増え、そういった人たちの死亡率が高くなることが多くの国内外の研究で確認されている』、「所得格差が大きい社会では、個人の所得水準や年齢、学歴、婚姻状態に関係なく、「主観的な健康感の低い人」が増え、そういった人たちの死亡率が高くなる」、「相対所得」がこんな影響も与えているとは初めて知った。
・『後手に回った介護分野への対応  主観的な健康感は、「あなたの健康状態はどうですか?」という問いに、「(まあ)いい」か「(あまり)よくない」で答えるもの。病は気からとはよく言ったもので、病気を患っている人でも「いい」と答えた人は、「よくない」と答えた人より、予後がいいという報告は以前からあった。 ところが、所得格差の大きい国や地域では、肉体的に健康な人でも「よくない」と答える人が増えることが分かった。その背景にあるのが、「相対的所得格差」。平たくいうと「なんであの人はあんなにもらってるのに、自分はこれだけしかないんだ」という不満だ。 日本では、1990年代のデータではそういった関連が一切認められなかったが、非正規雇用などが増え、所得格差が広がった2000年代のデータを使った分析では関連が見いだされている。 比較するのは同じ会社の中の他者だったり(正社員vs非正規社員)、会社規模による他者だったり(大企業vs中小企業)、同級生だったり、同じ地域に住む近隣の人々だったり、時にはメディアで頻繁に見る人だったりすることがある。 どんなに格差なき社会を追求したところで、格差が完全になくなることはない。だが、格差が広がることは、人が健全に暮らすためのリソースの欠損につながる。格差社会は「持てる人」の健康をも脅かす凶器になる。 では「私」にできることは何か? まずはストレスの「冷たい雨」に降られている人を想像すること。そして、他者のリソースの一つになる「私」を考えることだと思う』、新自由主義的な自己責任論を排して、思いやりのある温かい社会に変革していく必要がありそうだが、百年河清を待つようなことかも知れない。

第三に、6月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したBNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミストの河野龍太郎氏による「コロナ後の共同体意識の高まりは「富の偏り」を是正できるか 「コロナ後の世界」特集(5)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/241360
・『コロナで強まった連帯意識 経済格差の是正が始まる  新型コロナウイルスのパンデミック危機では、あらゆる所得階層が危機に直面している。 そのため、最終的には1930年代の大恐慌時と同じように、人々が共同体的な紐帯意識に強く目覚め、フランクリン・ルーズベルト大統領が進めたニューディール政策のように、所得再分配が見直されるだろう。 グローバル化やITデジタル化などで過去30年間に広がった経済格差の是正に手が付けられる、ということだが、それは単に富裕層の税金が増え、社会保障などを通じて、低所得者に移転される、という経路だけではないと筆者は考えている。 「知識経済」における付加価値の源泉はアイデアにあるが、その帰属や富の分配についての踏み込んだ再検討がされる可能性がある』、どいうことだろう。
・『「知識経済」化は加速するが 工業社会での制度が残る  過去四半世紀、付加価値を生み出す主役である知識を基盤とした経済への移行が著しく進んだ。 この「知識経済」化が始まったのは1970年代からだが、ITデジタル技術の進展によって、1990年代後半以降、加速した。 かつて付加価値の源泉は、資本(設備)や土地、労働力などの物的資本にあったが、「知識経済」の下では、特許や商標、ノウハウといった無形資産、いわばアイデアや技術など、情報や知識が富を生み出す経済に移行した。 その変化にうまく対応できなかったことが、日本経済の過去30年余りの低迷の原因でもある。 1970年代末には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれる全盛期を迎えたが、その当時のモノの大量生産や大量消費による成長を前提にした経営思想(フォーディズム)(注)から抜け出せていないのである。 ただ、「知識経済化」は、世界的にもさまざまな不適合を生み出している。 それは、私たちの経済制度や社会制度が、物的資本が中心だった時代に作られているからだ。 持続的な経済成長の時代が始まったのは、農業社会から工業社会へ移行した19世紀初頭だったが、多くの制度の基本設計は19世紀後半に整えられた』、「「知識経済化」は、世界的にもさまざまな不適合を生み出している」、その通りだ。
(注)フォーディズム:ヘンリー・フォードが自社の自動車工場で行った生産手法や経営思想のこと(Wikipedia)
・『リモートワーク広がれば伝統的な銀行業も時代遅れに  例えば、近年、日本だけでなく、世界中の銀行業の融資が増えず、金融市場で過大なリスクテークが行われていたのは、銀行業がアイデアの時代に適合できなくなったためだ。 物的資本が付加価値を生み出す時代なら、それを担保に貸し出しを増やせばよかったが、無形資産に対する投資は莫大な資金を必要とせず、担保を取ることも難しい。 パンデミック危機はこうした伝統的な銀行業の時代遅れを一層、際立たせるだろう。 コロナ禍が長引き、リモートワークが一般化すれば、広いオフィスも不要となり、都市への企業などの集積が以前ほど進まなくなる可能性もある。 そうなると、担保としていた不動産の価格も価値が失われ、伝統的な銀行業はますます経営が厳しくなる。 あるいは今回のパンデミックをきっかけに、危機に直面した企業に融資ではなく、出資を広く行うことで、銀行業は生まれ変わるだろうか。 無形資産の研究の権威であるジョナサン・ハスケル・インペリアル・カレッジ・ビジネススクール教授らの分析する通り、無形資産への投資は融資ではなく出資がフィットするが、銀行は自らビジネスに参加しリスクを取るといった発想転換ができるだろうか。 民間の銀行だけでなく、中央銀行も時代にそぐわない存在になりつつある。 第一に、「中央銀行が利下げをすれば設備投資が増え、景気が刺激される」というのは、物的資本の時代の発想だ。 前述した通り、無形資産投資には多大な資金は不要であり、さらにその担い手であるITデジタル企業は潤沢な資金を持っている。 近年、中央銀行が利下げをしても、企業は社債を大量に発行して資金を調達はするものの、増えるのは設備投資ではなく、自社株買いやM&Aであり、株価など資産価格ばかりがかさ上げされていた。 確かに株高による資産効果で富裕層などの消費は刺激されたかもしれないが、その代償として中央銀行は経済格差を助長している』、「リモートワークが一般化すれば、広いオフィスも不要となり・・・担保としていた不動産の価格も価値が失われ、伝統的な銀行業はますます経営が厳しくなる」、既に日立製作所のように「リモートワーク」を恒常的措置とする企業も現れつつあり、不気味なシナリオだ。
・『アイデアの出し手に所得が集中 資本の出し手は不遇の時代  ただそれでも、中央銀行は経済格差を広げた「脇役」にすぎない。 格差拡大の主たる原因の一つが、イノベーションにあることは、ダイヤモンド・オンラインのコラム「経済分析の哲人」(2020月4月8日付『新型ウイルス危機は「所得分配」を変えるゲームチェンジャーか』)で筆者が紹介した仮説である。 「知識経済」の下でアイデアの出し手に所得が集中しているのである。 労働分配率が趨勢的に低下しているため、表面的には資本の取り分が増えている。しかし、金利そのものはゼロまで低下しており、資本の出し手にとってはこれほど不遇の時代もない。 一方でアイデアの出し手であるビジネスの創設者が無形資産の形で資本を提供し、その対価を配当などで受け取っているため、資本分配率が上昇しているのだ。 資本の原資そのものは、中央銀行の資金供給によって余剰となる一方、アイデアは相変わらず希少だからこそ、株価が信じられないほどの高値を付けているのである。 しかし、再検討が必要なのは、アイデアがもたらす付加価値の最終的な帰属先である。 物的資本が生み出す付加価値の帰属先は明白だ。物的資本は、所有権が法律で守られているだけでなく、厳格な占有が可能なため、他者の利用を基本的には排除できる。 しかし、アイデアについては占有は難しい。確実に占有するためには、秘密にしておくことだが、それでは法的な保護は得られない。また、特許や知的財産権が認められるといっても、どこの国でもそうだが、永遠ではない。 アイデアの法的保護は社会制度や社会慣行に大きく依存し、それが生み出す付加価値の帰属先は、物的資本のように明白とはいえないのである。 スタンフォード大学のポール・ローマー教授は「内生的成長理論」で、経済の中で、アイデアなどによって技術進歩がいかにして生まれ、経済の持続的成長にいかにつながるかを解明した。 それまでの新古典派の成長理論では、アイデアは経済とは別のところで外生的に決まるとされていた。だがローマー教授らが解明した通り、アイデアが特殊なのは、その「非競合性」にある。 アイデアは物的資本と異なり、ある人が利用しても消費されず、同時に複数の人が利用できる。簡単に複製もできる。 アイデアのそうした特性ゆえに、規模の経済が強く働き、実際にGAFAは巨万の富を築いたのである』、「アイデア」の「非競合性」が、GAFAの「巨万の富」につながったというのは、面白い見方だ。
・『企業のマークアップ率高まったが全体の潜在成長率は上がらず  しかし、あるアイデアは過去の他の人のアイデアを基に発展したものが少なくない。もちろん、新たなアイデアの創出を促し、イノベーションを可能とすべく、特許権や知財権によってアイデアは保護されてきた。 英国で最も早く産業革命が可能になったのは、所有権が早くから確立し権力者に財産を奪われなくなったこともさることながら、発明などに対し、最も早く特許権を認めたことがある。 ただ、一方であまりに強く保護し過ぎると、アイデアの利用が制限され、経済厚生が阻害される。独占の弊害が現れるのである。 「知識経済」の下で、そのアイデアによって成功したビジネスモデルの代表ともいえるプラットフォーマーについて考えてみよう。 プラットフォーマーたるGAFAらは、自らが作り上げたドミナント・デザインが新興企業の新たなビジネスモデルに脅かされるのを避けるため、潤沢なキャッシュフローに物を言わせ、それらの企業を買収して、新たなビジネスモデルを葬り去っていたことが露見している。 近年、米国企業のマークアップ率(付加利益率、原価に対する利益の割合)はGAFAなどにけん引されるように上昇傾向が続き、超過利潤も趨勢的に改善している。 企業がもうけるようになったのは悪いことではないが、一方で米国経済全体の潜在成長率が高まっているわけではない。 つまり、単に分配構造が変わっただけ、ともいえる。むしろ寡占や独占の弊害で、本来ならアイデアのおかげで可能になっていたはずの経済成長が抑えられていた可能性も排除できない。 やはり株高は経済全体の活況を示すわけではなかったということである。 さらに、プラットフォーマーが利益の源泉とするビッグデータは、利用者である我々一人一人がインプットした個人情報を基にしたものである。 グーグルやフェイスブックが提供するサービスを世界中の何十億人の人々が無料で楽しんでいる。しかし、プラットフォーマーは、ユーザーが作り出したデータの対価を一切支払わず、データが生み出す利益を独り占めにしている。 我々は娯楽のつもりだが、実はプラットフォーマーのために働いていたということだ。 筆者は、2010年代初頭に今回のデジタル革命の再加速が始まったとき、利用者が同時に生産者となる“プロシューマー”の時代が訪れるのだと無邪気に考えていた。 当時のテクノロジー文明論は理想的なデジタル民主主義社会の到来の可能性を強調し、その負の側面はほとんど語られていなかった』、「プラットフォーマーは、ユーザーが作り出したデータの対価を一切支払わず、データが生み出す利益を独り占めにしている」、法外な儲けを上げられる筈だ。
・『「テクノロジー封建主義」を超えられるか  しかし現状は、デジタル民主主義には程遠いどころか、イェール大学のマイクロソフト首席研究員で経済学・法学の研究者であるE・グレン・ワイル氏らが「テクノロジー封建主義」と呼ぶ状況に陥っている。 中世では、封建領主が農奴の安全を守る一方で、農奴は土地を耕す。封建領主は生きるために必要最低限の穀物を農奴に残す代わりに、保護の見返りとしてそれ以外の農産物を収奪する。 それを「知識経済」の今に当てはめると、我々ユーザーがせっせとデータのインプットを行い、SNSで楽しむのを許される代わりに、利益の大半は現代の封建領主たるプラットフォーマーが全部持ち去るというイメージだろうか。 グーグルのチーフエコノミストであるハル・ヴァリアン教授は、アダム・スミスが提起した「水とダイヤモンドの問題」のアナロジーを持ち出し、ビッグデータへの対価の支払いは不要だと論じていた。 スミスは役に立たないダイヤモンドの方が役に立つ水より価値が高いことを疑問視したが、アダム・スミス後に経済学が明らかにしたのは、水は大いに役立つが、希少性に欠けるため限界的な効用はゼロに近い、ということである。 ダイヤモンドは役には立たないが、希少性が大きいため限界的な効用は極めて高い。 ビッグデータは前者に当てはまり、それ故、データの供給者である利用者に対価を支払わなくてもよい、というロジックである。 しかし、その後もAI技術が進歩し、ビッグデータが巨大になり、ある臨界点を超えると、例えばかつては不可能だった画像認識などが可能となり、新たなサービスと需要が生み出される。自動翻訳も音声認識も同様の経路をたどりつつある。 つまりビッグデータがある閾値を超えると質的な転換が起こり、ビッグデータから得られるリターンの水準が大幅に切り上がる。正にアイデアが収穫逓増をもたらすというローマー教授の内生的成長論が予想した通りの展開だ。 ビッグデータは水ではなく、「水とダイヤモンドの問題」のアナロジーは当てはまらない』、「我々ユーザーがせっせとデータのインプットを行い、SNSで楽しむのを許される代わりに、利益の大半は現代の封建領主たるプラットフォーマーが全部持ち去る」、との「テクノロジー封建主義」は面白い考え方だ。「グーグルのチーフエコノミストであるハル・ヴァリアン教授」の「データの供給者である利用者に対価を支払わなくてもよい」との考え方は、手前勝手な屁理屈だ。
・『アイデアを持つ者への「富の偏在」是正が課題に  工業社会から「知識経済」に移行が進む中で、コロナ後の所得再分配の見直し、新たな制度設計は、こうしたアイデアを持つ者への富の偏在に対しても当然、行われることになるはずだ。 すでにOECDなどを舞台に、プラットフォーマーに対しては、デジタル課税の導入などが検討されているが、プラットフォーマーが我々に適切な対価を支払うことになれば、より公正な資本主義が可能となるのではないか。 パンデミック危機は多くのサービスセクターに負の生産性ショックをもたらし、多くが苦戦しているが、プラットフォーマーはリモート社会の到来によって、手にする利益がますます増えている。 現在より利益が減るとイノベーションが進まなくなる、ということもないはずだ』、「デジタル課税の導入」には米国が強く反対しているようだが、欧州中心に導入論が強いようだ。「より公正な資本主義」構築のためには避けて通れない課題のようだ。
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教育(その20)(大学閉鎖で苦しむ貧困学生を絶対に辞めさせるな、公立校とインター校「ネット教育格差」の背景 「教える」に対する取り組みがまず違った、多忙で孤立「壊れる教員たち」の過酷すぎる現実 若手が上司に相談できず1人ですべて抱え込む) [社会]

教育については、3月30日に取上げた。今日は、(その20)(大学閉鎖で苦しむ貧困学生を絶対に辞めさせるな、公立校とインター校「ネット教育格差」の背景 「教える」に対する取り組みがまず違った、多忙で孤立「壊れる教員たち」の過酷すぎる現実 若手が上司に相談できず1人ですべて抱え込む)である。

先ずは、6月2日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「大学閉鎖で苦しむ貧困学生を絶対に辞めさせるな」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00076/?P=1
・『水曜日の夜(27日)、テレビを見ながら思わず「ダメダメ、それ食べちゃダメよ!!」と、まるでお節介ババアのように叫んでしまった。 画面に映し出されていたのは、はにかんだ笑顔で、鬼のように芽が出たじゃがいもを手に取る女子大学生。彼女はその数十秒前に、「こうやってしょうゆ漬けにすると、長持ちするんで」と、生活費節約のためにそのへんに生えていた野草を採ってきて食べていると話していた。 なので、「ま、まさか、この段ボール箱の中に積み上がった芽が出まくったじゃがいもを、食べちゃったりしないよね??」と、心配になってしまったのだ。 実はこれ、某報道番組で流れた“困窮する学生”のミニ特集。学生は国立大に通う4年生だ。 女子大学生は友人3人とアパートに同居し、家賃なども含めた月の生活費5万円はクリニックの受付のバイトで稼いできた。ところが、クリニックが休業し、収入が途絶え、生活は困窮する。 「とにかく、もうお金もないし、すごく恐怖心があって、怖くて怖くて。不安を通り越して恐怖だった」という。 とまぁ、ここまでならあちこちのメディアで報じられている「生活に困る学生」となんら変わりはないのだが、この番組は「学生の本分」、すなわち「学び」の日常がコロナ禍で制限されたことまで取材していて、かなり共感した。 大学がコロナの感染拡大防止で閉鎖されたため、授業はオンラインで行われていた。論文などもある程度は、無料でネットで見ることができる。だが、専門書は無理。一冊4000?5000円するので、買いたくてもすぐ手を出せる値段ではない。 それまでは大学などの図書館で借りていたけど、大学も図書館も閉鎖しているのでどうすることもできないリアルが、彼女を追いつめる。 「学生で、アルバイトやって生活するというのが、こんなに弱いというか、低い立場なんだなとすごく痛感しました」(by 女子大学生) 生活と学びの両方が急変し、“社会の自分の位置”を思い知らされてしまったのだという。 ……そう。学生は弱い。困窮する学生は弱い。ブラックアルバイト、なんて言葉も使われたけど、世間が冷笑する「たかがバイト」が命綱で、それまで「自分の努力次第」と思っていた勉強まで制限されてしまうのだ』、確かに「アルバイト」先の「休業」で生活に困窮する「学生」は多い筈だ。
・『大学での学びにはお金がかかる  個人的な話になるが、私も大学院で痛感したのは、「お金がないと学問はできない」ということだった。まず学費が高い。特に、理系は高い。専門書も高い。特に医学書や洋書は高い。1万円を超えるなんてざらだったし、どうしても手元に置いておきたい本以外は、学内の図書館で借りて過ごした。 論文も大学からは無料でアクセスできるが、家からだとお金がかかる。特に、海外の原著論文は専用のサイトからじゃないと入手できない。教員になると大学のIDで入れるけど、学生はダメ(大学によると思うが)。 しかも、どんなにネットで見られる論文でも、プリントアウトが必要になる。テクニカルタームや分からない単語の意味を調べ、書き込んだりすることもあれば、研究の進捗次第で同じ論文でも読み返すと「お! ここだ!」というポイントも変わるので、手元に置いておきたい。 たかが、印刷。されど印刷。学内なら無料で済む印刷代が、学外だと結構な金額になってしまうのだ。 既に独立して生計を立てていた私でさえ、学問にかかるお金に悲鳴を上げていたのだから、自活する学生が耐えられるわけがない。 今回の新型コロナに関わる経済支援策の一環で学生への支援が決まったときに、「どうせ遊びに消えるだけだろ」などと辛辣なことを言う人たちがいたけど、生活に困っている学生ほど真面目に勉強しているものだ。 中には、「こういう時は、まずは親が助けるべきなんじゃないの?」という意見もあるが、それができないから困る。困窮する学生の多くは親も切り詰めた生活をしていて、仕送りもない。むしろ学生の方がアルバイトした金を、親に仕送りをしているケースもあるほどだ。 「でも、そもそも経済的な問題で大学進学を諦めた人たちだって多いんだからさ」と、厳しい見方もあるが、だからこそ彼らを救う意義がある。 件の女子大生の通っていた筑波大学の永田恭介学長は、「退学者を1人も出したら駄目。今回は経済的に困窮に陥って退学を考えている学生さんが多いので、それは絶対にあってはならない」と強調した。 そうなのだ。経済的な問題がある中で、がんばって進学した学生だからこそ「生活苦」を理由に辞めさせてはいけないのだ。 もっとも、毎度書いていているとおり、「学生の貧困問題」も、コロナ禍で突然湧いて出た問題ではない。というわけで、今回は「苦しい学生を助けなきゃいけない訳」について、あれこれ考えてみようと思う』、河合氏の掘り下げ方が楽しみだ。
・『2人に1人が奨学金を利用している  そもそも学生の貧しさが社会問題として、広く知られるようになったのは「奨学金の滞納問題」だった。 1990年代は2割程度だった奨学金利用は、親の収入低下と入学金や授業料の高額化により、2000年代に入り急増した。2010年には全学生の5割を突破。実に、学生の2人に1人が奨学金で通っていたところに、リーマン・ショックによる就職状況の悪化で、借りたお金を返せない人が急増した。 2012年度から年収300万円以下の場合、期限なく返還猶予を受けられる「出世払い奨学金」が導入されたが、返還を再開しても、まずは延滞金の支払いに充てられるため元本を減らすのが難しく、滞納が続くと個人信用情報機関に登録され、カードやローンの利用が制限されるケースが続発してしまったのだ。 日本学生支援機構が行った「平成24年度奨学金の延滞者に関する属性調査」では、奨学金を返還する義務を負っている人は約322万9000人、うち3カ月以上延滞している人は19万4153人。3カ月以上延滞している人のうち、「無職・失業中または休職中」が18.2%、「非常勤の労働者」が15.1%。また、年収「300万円未満」は83%、「200万円未満」に区切ると63%にも上ることが分かった。 つまり、行きはよいよい帰りは怖い。卒業と同時に「借金地獄」に陥る学生が量産されていたのだ。 そこで「貸与型ではなく、給付型奨学金を!」という声が高まりをみせ、給付型の奨学金を実行するには380億円の予算が必要と試算された(約6万3千人対象)。 ところが、文科省の「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」の有識者会議のメンバーから、「防衛省などに頼み、1年とか2年とかインターンシップをやってもらえば就職状況は良くなる。防衛省は考えてもいいと言っている」などという耳を疑うような意見が出るなど、給付型に反対する意見は根強かった。 あくまでも個人的な推測にすぎないけど、反対意見の多くは生活保護世帯の「世帯分離」と同じで、「稼働能力の活用」の解釈によるものだと理解している。高校までは生活保護の対象だが、大学などに進学すると生活保護から外され、世帯収入は減額になる。 つまり、生活保護世帯の大学進学は認められておらず、ものすごくざっくばらんに言うと、「高校進学は将来の自立に役立つけど、大学とか行かなくても別にいいんじゃね?」的考えを、国は持っているのだ。 いずれにせよ、財務省も「380億円の財源の確保は難しい。将来的に、創設に向けての検討は進めていく」と給付型奨学金制度は見送られることになった。ちなみに、当時、国公立大学進学率は、1050万円以上の高所得層では20.4%であるのに対し、400万円以下の低所得層はわずか7.4%だった』、「防衛省」への「インターンシップ」案を出した「有識者会議のメンバー」は、どう考えても「有識者」には値しないようだ。
・『大学進学が貧困を加速するケースも  が、そのすったもんだがあった2年後、再び、「困窮する学生」に注目が集まり、給付型の議論が再燃する。 大阪府堺市のケースワーカーたちが「生活保護世帯の大学生たちを、自分たちはケースワーカーとしてフォローできているのだろうか」との思いから大学生の実態調査に乗り出し、その結果が波紋を広げたのだ。 1年にわたる調査で明らかにされたのは、「生活保護世帯の子供が、大学などへの進学という選択をすると、新たな貧困が生み出されている」という、貧困のネガティブスパイラルだった。 生活保護世帯の大学生等は、86.6%が支援機構の奨学金を利用しており、借入額も大きかった。特に4年制大学に進学した学生の借入額が大きく、4年間で400万円以上を借り入れていたのだ。 しかも、生活保護世帯の大学生等の65.9%は、授業期間中に週3日以上のアルバイトをしていることも分かった。同居している家族の生活保護費は、大学等に進学した本人の分だけ減額されている。だから、本人が働いて自らの生活を支え、さらに自らの学業を支えなくてはならなかった。 この調査結果は国会でも取り上げられ、国も生活保護世帯の調査に乗り出すことになる。その結果、一般世帯では8割が大学等に進学しているのに対し、生活保護世帯では3割という、明確な教育格差が浮き彫りになる。 また、世帯分離による生活扶助費が減額になったことで、出身家庭では食費や衣類の購入や、遊興や趣味の費用を減らしていた一方で、世帯分離した子供は、経済的理由で病院に行けなかったり、生活費として平均2.5万円を家計に入れたりしていることも分かった。 つまり、学生が親に仕送りをしていたのだ。 さらに、奨学金の年間受給額は、一般世帯の学生が35.5万に対し、生活保護世帯の学生は、107.7万円。バイトの稼ぎも、一般世帯の自宅生が年間39.9万円なのに対し、生活保護世帯の学生では63.7万円。大学にかかる金は一般も生活保護世帯も変わらないので、いかに生活保護世帯の学生の負担が大きいかが分かる。 おそらくこういった調査結果が財務省の背中を押したのだろう。2018年にやっと国の予算で行う返済不要の奨学金「給付型奨学金」はスタートした(一部は2017年からスタート)。しかし、生活保護対象家庭に対する「世帯分離」の解消は見送られた。 以前、私が教えていた学生の1人から、こんなメールを届いたことがあった。 「僕、本当は今期で大学を辞めようと決心していました。僕の両親は必死で働いているのに貧しい。だから、辞めて、働こうと思っていました。ところが先日、実家に帰ったら、親は僕が大学に行っていることを、自慢しているのを知りました。前の僕だったら、そんな親を軽蔑したと思う。でも、今はちょっとだけ親孝行できたかなって思えます。 最後の講義で先生が、傘を貸してもらったときの話をしてくれたでしょ? あれを聞いて、辞めるのやめることにした(笑)。父は中卒で、大学を出なきゃ駄目だっていうのが口癖だったんです。 先生が『傘を差し出してもらった人に唯一できることは、途中で放り出さないこと』って言ったでしょ? だから、僕が今やるべきなのは退学じゃなく、目の前のことをちゃんとちゃんとやって(これも先生が教えてくれたこと)、大学をちゃんと出て、自立することだと考えるようになったからです。それが傘を貸してくれた親に対して、僕が唯一できることだと今は考えています」』、「奨学金の年間受給額は、一般世帯の学生が35.5万に対し、生活保護世帯の学生は、107.7万円」、「生活保護世帯の学生は」就職後の返済負担もかなり重いようだ。「私が教えていた学生の1人から」の退学を思い留まったとの感謝の「メール」、さすが河合氏は講義でもいいことを言うものだと、改めて感心した。
・『大学生の新たな支援策が始動  件の国の調査でも、経済状況を理由に大学を中退したり、進学を諦めたりするケースが多かった。しかし、高校1・2年生のときから、学校の先生や職員が、友人や先輩後輩と交流する機会を作り、進学を考える機会を提供することで、子供自身が大学等の進学を見据えて「大学で学びたい」と意欲を強めることが分かっている。 だから、「退学者を1人も出したら駄目。今回は経済的に困窮に陥って退学を考えている学生さんが多いので、それは絶対にあってはならない」(永田筑波大学長)のだ。 厳しいことを覚悟したうえで、大学に進学したのだから、彼らへの支援をさまざまなかたちで実現すべきだと思う。実際、大学も新たな奨学金を創設したり、食事を配ったり、独自にクラウドファンディングなどを利用し、困窮する学生を支えるプロジェクトも進められている。 国も頑張っている。学生に新しい「場」を提供することを決定したのだ。 休校していた学校の再開にあたり、学習の遅れを取り戻すために公立小中学校に教員3100人、夏休みや放課後の補習などにあたる学習指導員6万1200人、スクール・サポートスタッフ2万600人を6月上旬にも配置。そのサポート・スタッフに、コロナ禍でアルバイト先を失った大学生らを主に想定しているというのだ。1校に1人。時給は1000円。 「弱い立場」だと痛感させられてしまった学生も、「誰かの役に立つ仕事」に関われば自信が付くにちがいない。子供たちは大学生のお兄さんやお姉さんが大好き。私も教育実習を経験した身なので実感するが、中学生たちと1カ月過ごした経験はかけがえのない思い出になっている。 その場しのぎの政策が多い中で、今回のことをきっかけに、学生の進学格差を是正する議論が進むことを願う』、「スクール・サポートスタッフ」は、確かに珍しくいい施策だ。「「弱い立場」だと痛感させられてしまった学生も、「誰かの役に立つ仕事」に関われば自信が付く」、これを機に大いに活躍してほしいものだ。

次に、6月14日付け東洋経済オンラインが掲載したレノボ・ジャパン社長 のデビット・ベネット氏による「公立校とインター校「ネット教育格差」の背景 「教える」に対する取り組みがまず違った」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/356424
・『皆さんこんにちは。新型コロナウイルスの影響、ようやく東京都でも緊急事態宣言が解除されましたが、まだまだ予断を許さない状況が続いていますね。少しずつ日常が取り戻されつつありますが、今回のパンデミックはわれわれにいろいろな教訓を与えてくれています。学校の長期休校に伴うリモート学習の難しさもその1つでしょう。 2月末に学校の一斉休校が要請され、以来全国的に学校はほぼ閉鎖された状況になりました。以来、学校単位、あるいは先生個人の努力によって、少しでも子どもたちに学びの機会を提供しようという努力が続いていますが、4月21日の文科省の発表によるとオンライン授業を行っている公立校は全国でわずか5%と、少々驚きの数字でした』、「オンライン授業を行っている公立校は全国でわずか5%」、想像以上に少ないことに私も驚かされた。
・『休校3日目からリモート授業開始  私は現在3人の子どもがいて、私の仕事の関係で2018年までシンガポールなど海外に住んでいた関係で、3人とも現在都内のインターナショナルスクールに通っています。そこで今回は、現在の状況下で、インターナショナルスクールではリモート学習がどうなっているのかお話してみたいと思います。 私の子どもが通うインターナショナルスクールも、ほかの公立校などと同じように2月末から休校になりました。ただし、休校になったのは最初の2日間だけです。その2日も、リモート学習の準備をするための休校であり、3日目にはすでにリモートで授業を再開していました。 と、言っても実は最初のころはおよそ「授業」と言えるものではなく、単に課題がPDFで送られてきただけでした。 驚くべきはそこからの柔軟性で、翌日には先生からのビデオとPDFが提供され、ビデオを見てPDFの課題をこなす、というスタイルになっていました。さらに翌週になると、PowerSchoolやseesaw classroomといった汎用的なオンライン教材を使って「授業」が再開されました。 私の会社レノボでは、自身がIT企業ということもあり、テレワークの実施率は連日90%以上になっていました。つまり3月以降は、家族全員が毎日家にいながら親は仕事、子どもは勉強という環境が実現していたのです。こうした環境にあったので、4月21日段階で日本全国のオンライン授業が5%という数字に驚いたわけです。 なぜインターナショナルスクールではこのような素早い取り組みができたのでしょうか。フェアな見方をすると、まず組織が小さいので意思決定が単純ということはあります。次に海外の学校ではコロナ以前からオンライン授業がかなり広まっていて、PowerSchoolやseesaw classroomのような教材をつかった授業や評価方法など確立したものがあるので、先生たちの参考になる事例が豊富だったこともあると思います。 日ごろからの授業のスタイルの違いも理由の1つになっているのではないかと思います。私は香川県の琴平町で文部科学省の国際交流員(CIR)として教育委員会に勤めていた経験があり、この経験とインターナショナルスクールに子どもを通わせる親として、海外流と日本流両方の学校のスタイルを見ています』、この問題を語るにふさわしいようだ。
・『teachingはせいぜい小学校まで  日本語で言う「教える」を英語で言うと何でしょうか。teachingでしょうか。teachingというと教科書を読んでその内容を覚えさせる、というまさに「教える」です。 しかしteachingというスタイルが主流なのはせいぜい小学校までで、中学からは「guidance」と言ったほうがいいでしょう。グループワークが多く、その中で互いにクリティカルシンキング(批判的思考)などを身につけさせます。 この中学生以降の「教える」の概念が日本とかなり違うところで、生徒は先生に反論することを奨励されます。先生の説明に対し懐疑的な目を持ち、反論を試みる。当然そのためには問題の本質について考える必要があり、先生が困るような質問はいい質問というわけです。以前このコラムで説明した「Good Question」の原点はここにあるといってもよいでしょう。 高校になると、生徒はしっかり自分で考える習慣ができていますので、先生の役割はteacherというよりはtutor(個人教師)というイメージで、生徒の個別の質問に回答する形になり、自発的にどこまで勉強するかは生徒の責任と考えます。 このように、「教える」というニュアンスはいくつもの英語をカバーしています。英語と日本語の意味がカバーする範囲の違いはそのまま考え方の違いが反映されている場合が多くあります(このコラムが実は「日本語と英語のギャップ」をテーマにした連載であることを忘れてはいけません)。 このようにインターナショナルスクールは、「教える」スタイルがまったく違う学校なので、PDFのテキストをメールで送って「自習」してください、だけだとまったく何も教育できていない、ということになります。そもそもインターネットでなんでも情報が手に入る時代、学校とは対話的に生徒同士、あるいは先生と話す場所という意識が強いので、オンラインはなにがなんでもやらなければならないものだったのだと思います。 一方、日本の文科省は5月12日に行ったYouTube配信で、新型コロナ休校でオンライン授業が進まない現状に対し、各自治体に向けたメッセージとして「既存のルールにとらわれず、臨機応変に。ルールを守ることが目的ではない」や「現場の教職員の取り組みをつぶさない」という危機感を露わにしたメッセージを発信しました。こういってはなんですがお役所の方の発言とは思えない柔軟なトーンです。オンライン授業推進のメッセージの先には、新しい学校の形への意欲があると期待したいです』、「中学生以降の「教える」の概念が日本とかなり違うところで、生徒は先生に反論することを奨励されます。先生の説明に対し懐疑的な目を持ち、反論を試みる。当然そのためには問題の本質について考える必要があり、先生が困るような質問はいい質問というわけです」、私も強く同意するが、そのためには日本の教育システムの抜本的見直しが必要だ。「日本の文科省は5月12日に行ったYouTube配信で・・・危機感を露わにしたメッセージを発信」、一歩前進ではあるが、担当者どまりなのだろう。「オンライン授業」だけでなく、授業全般の見直しも期待したい。
・『授業のオンライン化どう生かす?  「ポストコロナ時代のニューノーマル」。最近よく耳にする言葉ですが、コロナ以前から日本においても、丸暗記のような学習スタイルを見直す動きは活発になっているので、せっかく動き始めた新しい学び方、新しい教え方は継続して議論すべきと思います。 授業のオンライン化をどう生かすのか。例えば生徒はいつでもパソコンという「計算機」を手にしているわけで、おそらくこの先も計算機(電卓)機能を持ったデバイスを普通に使っていくことになるでしょう。 そうなると、暗算は1つの特技にはなると思いますが、難しい方程式の解き方を知っているのに単純な計算ミスで点数が取れない、面白い定理に興味があるのに計算練習がイヤで数学を嫌いになる――こんな子どもたちを減らすことができるかもしれません。 英語についても、単語は今や右クリック1つで訳がでてきます。スペルチェッカーがあればつづりの単純ミスも補正してくれます(もともとの正しいスペルは知っておく必要がありますが)。 そして負担が減った分だけ自分で考える、興味のあるものを掘り下げてみることができるようになると思います。 偶然にも、今年はGIGAスクール構想といって生徒1人が教室でPCを1台使う環境の整備に入った最初の年でもあります。コロナパンデミックによってテクノロジーが教育に与えるポジティブなインパクトがあらためて証明された今、特に私のいるIT業界の果たすべき責任は大きいと考えています』、「IT業界」の意欲的な提案を大いに期待したい。

第三に、6月28日付け東洋経済オンラインが掲載した取材記者や研究者らのグループのFrontline Pressによる「多忙で孤立「壊れる教員たち」の過酷すぎる現実 若手が上司に相談できず1人ですべて抱え込む」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/358745
・『教育現場で「教員の孤立」が進んでいるという。授業準備や書類作成、生徒・保護者との対応、休日をつぶしての部活顧問。業務量がただでさえ多いうえ、相談できる上司や同僚が職場内におらず、メンタルをやられてしまうケースが少なくない。 実際、文部科学省の調査によると、上司に仕事の相談ができる教員は35%にとどまっていた。「みんな忙しくて相談なんてできない。これ以上続けたら、自分が潰れてしまう」。そんな声があふれる現場を追った』、「みんな忙しくて相談なんてできない」、教育委員会などからの報告に追われるという話も聞くが、実態調査すべきだろう。
・『つねに孤独ウソをついて教員を辞めた  北関東にある小さな飲食店で田中まさるさん(仮名)に会った。20代。5月の水曜日、夜7時。昼間は真夏のように暑かったのに、外は激しい夕立になっている。 「つらくて、教員を1年で辞めました。僕、この町にいないことになっているんです。『東北の実家に戻らなければならなくなった』とウソついて、職を辞めたんです。だから実名や写真は勘弁してください」 田中さんはなぜ辞めたのか。 「生徒指導で悩みがあっても誰にも相談ができないんです。担当している部活動では、言うことをきかない子もいて。昔みたく、ヤンキーってほどではないんですけど、周りと違う行動をし、かき乱す子が何人かいるんです。 『いい加減にしなさい』と生徒を自分のもとに引き寄せたことがあるんですが、『死ね死ね。わー、胸ぐらをつかまれた最悪』と言われ……。そうした子のために何ができるのか、悩んでいました。でも、同僚教員には、『誰しも直面していることだから。キツかったけど、俺らも乗り越えてきたから、君も乗り越えて』という雰囲気が根付いていました」 関東の大学を卒業し、出身地での教員を目指した。正規採用の試験は落ちてしまい、臨時採用の形で公立中学校の教員になった。 「40人ほどの教員がいました。自分は3年生のクラスで副担任。運動部の副顧問。先生になって2日後です。あれっ、と思った。研修もなく、すぐ現場に出されました。新人ですよ?『わからなかったら聞いて』と言われたのですが、聞けないんですよ。 職員室ではみんな黙々と仕事をしていて、雑談のような会話はいっさい聞こえない。生徒は自分の言うことをなかなか聞いてくれないし、授業の内容はきちんと理解できているのか、と。保護者との対応も、これで大丈夫なのかと不安でした」 教員の仕事は「つねに1人で孤独だった」と田中さんは振り返る。当然、日々の仕事も忙しかった。 「部活の朝練があるので、朝6時には学校にいました。授業の準備などで夜は10時くらいまで。あと、先輩より先に帰れなかったんですよ。それが暗黙のルールとして根付いていました」 土曜と日曜はいつも部活に費やした。 「大会や練習試合で隣県へ行くときは大変でした。朝5時に顧問を車で迎えに行き、練習試合が終わると先生同士の懇親会。深夜2時に顧問を家まで送り、また朝5時に迎えに行く。週末はずっとそんな感じでした。先輩方は『これは当たり前。誰しもが通ること』と言っていて、相談なんてできなかったです」』、典型的なブラック職場のようだ。
・『「50連勤」も。残業代はでない  1971年に制定された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」により、教員には時間外勤務の手当は出ない。月額給与の4%加算が、それに代わるものとして支給されている。 田中さんの月額給与は手取りで約23万円だった。それに対し、1カ月の労働時間はほとんど400時間を超えていたという。「飲食店でバイトしていたほうがもっとお金をもらえたと思う」と田中さんは話す。食べることでストレスを発散しようとしたせいか、1年で体重が18キロも増加した。 「実際はそんなこと、ほとんどなかったんですが、仕事の悩みを相談できたとしても、毎日が忙しいから、仕事が終わった後。そんな時間から何かを相談するなら、家で寝たかった。 6月と11月がとくにつらかった。6月は中学3年の引退試合で忙しかった。中3の副担だったので、11月は卒業後の進路指導で忙しくて。50連勤くらいしたかな。自分が何を考えているのかわからないくらい、精神的に追い込まれていました。毎日仕事だから友だちとも会えない。食べることしか、楽しみがなかったです」 メンタルに関する面談はなかったのだろうか。 「新年度に1年間の教育達成目標を書いて、それに沿って学期始めと学期末に『目標をどれくらい達成しているのか』の確認をする面談があっただけでした。精神状況に関する面談はなかったです」 12月に入ると、校長から翌年も臨時教員を続けるかどうかの意向確認があった。限界だった田中さんは「東北の実家に戻らなければならなくなった」とウソをつき、継続しないと申し出たという。 「教員をこれ以上続けると、自分が壊れてしまう、と。校長は『あ、そうなの』と淡白でした。やりがいは感じていたのに、一方では、いつも『もう辞めなきゃ』と思うほど追い込まれていました。 3月に辞める前、生徒や保護者から『先生、ありがとう』と言われたときは『もう1年、頑張ればよかったかな』とも思ったんですが……。遅くまで仕事が続いていたとき、校長や教頭が『早く帰れ』などと職員室全体に強く言ってくれれば、変わっていたかもしれない。でも、この業界は上のことは絶対だから」 田中さんのような事例は特殊ではない。「若手が上司に相談できない教育現場」という実態は、文科省の調査でも浮き彫りになる。 2013年に公表された「教職員のメンタルヘルスに関する調査結果」(全国の小中高200校を無作為抽出、回答数約5000人)によると、管理職以外の「教諭」が、不安や悩みを含む「ストレス」の相談を上司に「よくしている」割合は4.7%。「ときどき」を含めても35%しかいない。 上司に相談できるか否かは、問題を具体的に解決できるかどうかが重要なポイントでもある。それなのに、これらの年代は自ら抱え込むか、同僚に相談するかなどの対応しかできなかった。その同僚相手に自らの相談をするかどうかについても、「よくしている」は16.2%しかない。上司にも同僚にも相談しない、できないという荒涼とした風景が見えるようだ。 精神疾患で休職する教員の数も高止まりしている。 文科省の「公立学校教職員の人事行政状況調査」(2018年度)によると、精神疾患を原因とする教員の休職者は、2007年度以降5000人前後で推移しており、2018年度は5212人を数えた。平成元年だった1989年度の1037人に比べると、今の水準はおよそ5倍。教員の採用抑制が続く中、高止まり傾向は顕著だ。 教員の自殺も同じ状況にある。厚生労働省が集計・公表をしている調査によると、自殺した教員数は2018年では93人に上った。「勤務問題」が最大の原因であり、次に「健康問題」と続く。「健康問題」でもうつ病が主な要因を占めた。自殺者全体の傾向で言えば、2013年から100人前後を行き来している』、「文科省」はこれらの「調査」に基づいて、どう対応しようとしているのだろう。
・『子どもをめぐる状況は複雑化しているのに…  こうした実態や各調査を踏まえ、東京都教職員互助会・三楽病院の真金薫子医師(精神神経科部長)は次のように訴える。 「教員の数を早急に増やすべきです。1990年代後半に『学級崩壊』が注目され、教育現場の実態が問われましたが、今のほうが現場は複雑で大変だと考えています。ここに訪ねてくるのは、40代が最も多い。その次に20代と50代。ベテランもストレスを抱えている一方、20代がここ最近、増えてきています。2000年代から教員の大量採用を行っており、母数が増えてきているからか、と。内容を順番付けすると、生徒指導について、職場での人間関係、授業での教え方と保護者対応でしょうか。 子どもをめぐる状況は複雑化しているのに、ほかの先生と問題を共有できていないと感じます。本来は『チーム学校』として問題解決に取り組まないといけないのに、個人プレーになっている。背景にあるのは、先生一人ひとり、仕事量が多いという現実です」 「ベテラン教員の意識改革が必要」と訴える専門家もいる。関西外国語大学外国語学部の新井肇教授もその1人。教員のメンタルヘルスについて研究を続けている。 「教員の仕事は『個業』と呼ばれています。1人ですべてやるという意識が、教育界に根付いているからです。もともと仕事量が多いうえ、ICT教育やプログラミング学習など、新しくやるべきことが次々と出てくる。保護者は教員を学習サービスの提供者としてどころか、子どもの面倒をみる何でも屋、あたかも学校を託児所のように、捉えている。 そうした事柄に対応ができなければ、『力不足だった』という自己責任論で片付けられてしまう。チームプレーで一つひとつ乗り越えていこうといった意識をまずベテランが持たなければならない」 およそ30年間、新井教授は埼玉県の公立高校で教壇に立っていた。その間に、長期派遣教員として、大学院で生徒指導の研究にも取り組んだ。今も、危機介入や研究協力で学校現場に入ることが多いが、そうした経験から言っても、教職の世界では、教員はつねに孤独な状況に立たされており、困ったときに「助けて」と言える職場環境もない。 新井教授には、教員になった教え子を自死で亡くした経験もある』、「「教員の仕事は『個業』と呼ばれています。1人ですべてやるという意識が、教育界に根付いている・・・教員はつねに孤独な状況に立たされており、困ったときに「助けて」と言える職場環境もない」、これは打破すべき悪弊だ。文科省は一体、何をしているのだろう。
・『どれだけ残業しても給料が変わらない現実がある  「うつ病から職場復帰して間もなくの出来事でした。そのことが私の研究の出発点になっています。教員のストレスには、人を相手にすることの難しさ、多忙や賃金のあり方、職場の人間関係などが複合的に絡んでいます。職場での孤立には、給特法の影響も大きい。どれだけ残業しても給料が変わらない現実があると、自分の仕事だけに集中し、他人のことには構わないという風潮が生まれてしまう」 「人手不足については、教員を増やすことが先決です。そのうえで、学校が何もかも背負い込むのではなく、部活動など、可能なところは外部へ委託することも必要でしょう。教員を孤立させず、チームで動けるようにするには、『仕事量を減らすことこそが仕事の質を高める』という教員の意識改革と、それを保障するための人材確保という構造的な改革が不可欠です」』、「人手不足については、教員を増やすことが先決です」、には違和感を感じる。生徒数は減っているなかで、「教員」数は高止まりしているのではないか検証すべきだ。さらに、無駄な報告や作業がないか、見直すことが先決なのではなかろうか。
タグ:河合 薫 無駄な報告や作業がないか、見直すことが先決 「人手不足については、教員を増やすことが先決です」、には違和感を感じる どれだけ残業しても給料が変わらない現実がある 教員はつねに孤独な状況に立たされており、困ったときに「助けて」と言える職場環境もない 「教員の仕事は『個業』と呼ばれています。1人ですべてやるという意識が、教育界に根付いている 子どもをめぐる状況は複雑化しているのに… 2007年度以降5000人前後で推移しており、2018年度は5212人を数えた。平成元年だった1989年度の1037人に比べると、今の水準はおよそ5倍 精神疾患を原因とする教員の休職者 「50連勤」も。残業代はでない 先輩方は『これは当たり前。誰しもが通ること』と言っていて、相談なんてできなかったです」 つねに孤独ウソをついて教員を辞めた みんな忙しくて相談なんてできない 「教員の孤立」 「多忙で孤立「壊れる教員たち」の過酷すぎる現実 若手が上司に相談できず1人ですべて抱え込む」 Frontline Press IT業界の果たすべき責任は大きい 授業のオンライン化どう生かす? 日本の文科省は5月12日に行ったYouTube配信で・・・危機感を露わにしたメッセージを発信 中学生以降の「教える」の概念が日本とかなり違うところで、生徒は先生に反論することを奨励されます。先生の説明に対し懐疑的な目を持ち、反論を試みる。当然そのためには問題の本質について考える必要があり、先生が困るような質問はいい質問というわけです 中学からは「guidance」と言ったほうがいいでしょう。グループワークが多く、その中で互いにクリティカルシンキング(批判的思考)などを身につけさせます teachingはせいぜい小学校まで 香川県の琴平町で文部科学省の国際交流員(CIR)として教育委員会に勤めていた経験 海外の学校ではコロナ以前からオンライン授業がかなり広まっていて、PowerSchoolやseesaw classroomのような教材をつかった授業や評価方法など確立したものがあるので、先生たちの参考になる事例が豊富だった 都内のインターナショナルスクール 休校3日目からリモート授業開始 オンライン授業を行っている公立校は全国でわずか5% 「公立校とインター校「ネット教育格差」の背景 「教える」に対する取り組みがまず違った」 デビット・ベネット 東洋経済オンライン 「弱い立場」だと痛感させられてしまった学生も、「誰かの役に立つ仕事」に関われば自信が付くにちがいない。子供たちは大学生のお兄さんやお姉さんが大好き スクール・サポートスタッフ 大学生の新たな支援策が始動 最後の講義で先生が、傘を貸してもらったときの話をしてくれたでしょ? あれを聞いて、辞めるのやめることにした 今期で大学を辞めようと決心 私が教えていた学生の1人から、こんなメールを届いた 奨学金の年間受給額は、一般世帯の学生が35.5万に対し、生活保護世帯の学生は、107.7万円 大学進学が貧困を加速するケースも 防衛省などに頼み、1年とか2年とかインターンシップをやってもらえば就職状況は良くなる 学生への経済的支援の在り方に関する検討会」の有識者会議のメンバー 3カ月以上延滞している人のうち、「無職・失業中または休職中」が18.2%、「非常勤の労働者」が15.1%。また、年収「300万円未満」は83%、「200万円未満」に区切ると63%にも上る 奨学金を返還する義務を負っている人は約322万9000人、うち3カ月以上延滞している人は19万4153人 「出世払い奨学金」 1990年代は2割程度だった奨学金利用は、親の収入低下と入学金や授業料の高額化により、2000年代に入り急増した。2010年には全学生の5割を突破 奨学金の滞納問題 2人に1人が奨学金を利用している 今回は「苦しい学生を助けなきゃいけない訳」について、あれこれ考えてみようと思う 大学での学びにはお金がかかる 家賃なども含めた月の生活費5万円はクリニックの受付のバイトで稼いできた。ところが、クリニックが休業し、収入が途絶え、生活は困窮 “困窮する学生”のミニ特集 日経ビジネスオンライン 「大学閉鎖で苦しむ貧困学生を絶対に辞めさせるな」 教育 (その20)(大学閉鎖で苦しむ貧困学生を絶対に辞めさせるな、公立校とインター校「ネット教育格差」の背景 「教える」に対する取り組みがまず違った、多忙で孤立「壊れる教員たち」の過酷すぎる現実 若手が上司に相談できず1人ですべて抱え込む)
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電子政府(その1)(安倍首相「世界最先端IT国家宣言」嗤う「行政デジタル化」のお粗末、ハンコから脱却しても「電子署名」という遺物が日本のIT化を妨げる マイナンバーが何の役にも立たない現実、政府の“デジタル音痴”が止まらない 中西宏明・経団連会長が嘆く「接触確認アプリの問題点」 「政府が一番遅れている」というDXとは?) [国内政治]

本日は、電子政府(その1)(安倍首相「世界最先端IT国家宣言」嗤う「行政デジタル化」のお粗末、ハンコから脱却しても「電子署名」という遺物が日本のIT化を妨げる マイナンバーが何の役にも立たない現実、政府の“デジタル音痴”が止まらない 中西宏明・経団連会長が嘆く「接触確認アプリの問題点」 「政府が一番遅れている」というDXとは?)を取上げよう。

先ずは、6月1日付けデイリー新潮「安倍首相「世界最先端IT国家宣言」嗤う「行政デジタル化」のお粗末」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/06011130/?all=1
・『今次の新型コロナウイルスの感染拡大。日本にとっては、第1次世界大戦末のスペイン風邪以来、100年ぶりに見舞われたパンデミック(世界的大流行)である。 が、各国政府が自国民の救済に知恵を絞り、次々と施策を打ち出す中、日本政府のスピード感の欠如が国民を苛立たせている。 感染防止の自衛グッズとして需要が急増したマスクは3カ月以上も店頭から姿を消し、装備が必須の医療従事者の下にさえ、十分に行き渡らなかった。個人や中小事業者を救済する給付金も窓口の自治体や担当官庁の段階で目詰まりを起こし、必要とするキャッシュが届かないことに悲鳴や怨嗟の声が上がっている。 原因の大半は行政のデジタル化の遅れにあるといっても過言ではない。 海外メディアでは、厚生労働省が全国の自治体から集まる日々のPCR検査の件数と結果の一部をファックスで集計していることなどを指し、「“IT(情報技術)後進国”としての日本の弱点がそのまま露出している」(韓国『中央日報』)などと報じている。 首相の安倍晋三(65)が政権復帰の半年後に「ITは成長戦略のコアである」として閣議決定した「世界最先端IT国家創造宣言」とは何だったのか』、「日々のPCR検査の件数と結果の一部をファックスで集計」、確かにIT「後進国」を如実に示している。
・『悲惨な行列  GW連休明けの5月7日以降、都内の区役所には、全国民に一律10万円が支給される「特別定額給付金」のオンライン申請のために窓口を訪れる人々が殺到した。 「オンライン申請のために窓口を訪れる」ということ自体、すでにブラックユーモアのように聞こえるが、なぜこんな現象が生じたかといえば、政府がオンライン申請の対象者を「マイナンバー(社会保障・税番号制度)カード」所持者に限定する一方、システムの不備で暗証番号やパスワードを忘れた際の再設定がオンライン上でできないため、申請者は役所の窓口で手続きをしなければならなかったからだ。 品川区役所で7日に8〜10時間待ちとなったのをはじめ、8日には江戸川区葛西事務所で5時間待ち、練馬区役所で3〜4時間待ちとなった。 入力時に暗証番号を間違えて画面にロックがかかったため、7、8日と連続して品川区役所を訪れた30代の男性など、8日だけで5時間半待ち。 あるいは、マイナンバーカードの電子証明書の有効期限が切れて失効したため、更新に訪れた別の30代の男性は、 「大行列ができたが、列の間隔も空いていなくて密集状態(いわゆる“3密”)だった」と区役所の対応を問題視していた。 マイナンバーカードの交付が始まったのは2016年1月。そもそもは国民(外国人住民も含む)1人1人に番号を割り当て、行政が保有する住民情報を照合しやすくすることで、住民へのサービス向上や行政事務の効率化を目指す「マイナンバー制度」(2013年5月に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法」が国会で成立)に基づいている。 同法が施行された2015年10月から対象者全員に各自の番号を知らせる通知カードの発送が始まり、受け取った住民は各自市区町村役場へ出向いて、この通知カードと引き換えに個人番号カード(マイナンバーカード)を受け取る仕組みだった。マイナンバーカードはICチップを搭載したプラスチック製のカードで、表面には本人の氏名・住所・生年月日などのほか、顔写真も掲載。身分証明書として利用できる。 ただ、政府がカード作成を希望する住民に限ったため、普及は進まず、今年5月1日時点でマイナンバーカードの発行枚数は約2085万枚強、人口に対する普及率はわずか16.4%にとどまっている。スタートから4年が経過してもさっぱり数字が上がらないのは、言うまでもなく行政の怠慢が原因だ。 給付金のオンライン申請での混乱が象徴するように、手続きにはいまだにデジタルとアナログが混在し、暗証番号やパスワードを失念した利用者がその変更(再発行)をしようとするだけで数時間も役所に並ばなければならない。旧ソ連・東欧諸国の崩壊過程で店頭に行列を成す住民の姿がしばしば映し出されていたが、連休明けの都内各区役所の光景は、その悲惨な行列を彷彿とさせるものがあった』、私は「マイナンバーカード」を毎年、税務申告で利用しているので、「特別定額給付金」も当然ネット申請しようとしたが、この手続きが何度やってもエラーになるので困っていたが、区役所から申請書類を送ってきたので、それを郵送したところ、なんと10日ほどで入金された。ただ、税務申告では「マイナンバーカード」のパスワードで、カード自体のものと、電子証明書用のものをよく間違えてロックされてしまい、区役所でパスワードを再設定したことが何度もある。「マイナンバーカードの・・・人口に対する普及率はわずか16.4%」、とは低いまま放置していた政府の怠慢にも改めて驚かされる。
・『病的な“有言不実行”  システムの目詰まりは個人向け給付金だけではない。 5月1日からオンライン申請が始まった中小事業者向けの「持続化給付金」でも、支給の遅れが問題化している。 年初以降に1カ月の売上高が前年同月より50%以上減った事業者(資本金10億円未満の企業や個人事業主)を対象に、法人は200万円、個人は100万円を上限に政府が支援する制度で、休業を強いられた飲食業や観光業、イベント事業者ら申請者が殺到し、所管の中小企業庁によると、初日のオンライン申請は約5万6000件にものぼった。抽選販売の受付初日(4月28日)に約470万件の応募が殺到した「シャープ」のマスクに比べれば僅かな数に思えるが、それでも「中小企業庁のシステムがパンクした」とのウワサが広がった。 5月11日時点で、持続化給付金の申請約70万件に対し、振り込み済みは約2万7000件と率にして4%弱。政府が全国の緊急事態宣言の延長を発表した5月4日の記者会見で、安倍はこの給付金について、 「政府の総力を挙げ、スピード感を持って支援をお届けする」と強調したが、オンライン申請の開始から10日が過ぎて4%弱という処理の実態とは乖離が余りに甚だしい。この首相の“有言不実行”はもはや病的と言える。 その後も連日クビを長くして口座への入金を待つ事業者の鬱積は増す一方で、「自分の申請が審査されているのかどうか、問い合わせても答えてくれない」といった悲痛な声が洩れてくる。とりわけ、当座の資金を最も必要としていた事業者が殺到した5月1日の申請の処理が遅れているとの指摘が多く、「システムのパンク」説の根拠にもなっている。 中小企業庁が全都道府県にオンライン申請の支援窓口を設けるなど、連休後に広がった対策で処理件数が増えたことから、首相の安倍は5月21日の記者会見で、 「入金開始から10日余りで40万件を超える中小・小規模事業者に5000億円を届けた」と胸を張ったが、実はこの会見の時点で申請件数はすでに90万件を超えており、まだ半数の処理も終わっていないことには触れなかった』、「持続化給付金」では電通との関係が問題視されているが、実務的にも遅れが酷いようで、確かに「病的な“有言不実行だ」。
・『「はんこ議連」会長がIT担当相  周知のように、欧米アジアの先進国では行政のデジタル化のテンポが早い。 米国では社会保険番号(ソーシャル・セキュリティ・ナンバー=SSN)が住民に割り振られ、公的年金や納税管理に加え、運転免許証の本人確認、金融機関の口座との紐付けによる信用管理などへと活用が広がっている。 新型コロナ危機に際し、米国でも1人当たり最大1200ドル(約13万円)の給付金支給が決まり、3月27日に大統領ドナルド・トランプ(73)が関連法に署名。半月余り後の4月15日までに対象者約8000万人の銀行口座へ振り込まれた。 ドイツでは3月25日、総額約7500億ユーロ(約90兆円)の経済対策を決定。従業員10人以下の零細企業や個人事業主に対し、最大1万5000ユーロ(約180万円)の助成金を支給する制度も盛り込まれたが、独政府は従業員解雇や経営破綻を防ぐために極力簡素化したオンライン申請方法を導入。大半の対象者が申請から2日後に助成金を受け取ったと、現地メディアが報じている。 読者の中には、「日本は行政のデジタル化の先進国ではなかったのか」と疑問を持たれる向きもあるかもしれない。 確かに、国連が加盟国を対象に隔年で実施している「電子政府ランキング」で、日本は2012年の18位から2018年には10位に浮上。また、早稲田大学が世界11大学と共同で実施している「世界電子政府進捗度ランキング」(2018年度)では、7位につけている。 だが、この手の調査は眉唾ものが少なくない。 たとえば、早大が手掛ける後者のランキングでは、通信網の整備やオンラインサービスの使いやすさやなど10分野の評価対象のうち、「政府CIO(最高情報責任者)」の項目で日本を1位としている。日本には組織の枠を超えた責任者、つまりCIOが政府全体にも各府省にもいることが高評価に繋がっているようなのだが、現実にその代表格として日本国民が思い浮かべるのは、おそらく「IT政策担当相」ではないか。現任は、竹本直一(79)である。 大阪15区(堺市の一部や富田林市、河内長野市など)選出の衆院議員である竹本は、元建設省(現国土交通省)のキャリア官僚。昨年9月の内閣改造で初入閣したが、IT分野への造詣が深いわけでもなく、メディアで話題になったのは、自民党の「はんこ議連」(正式名称は「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」)の会長を務めていたことくらいだ。 新型コロナの感染防止が急務になって以降、政府は企業に従業員のテレワーク(在宅勤務)を推進するよう要請。これに対し、書面に押印を求める日本の「はんこ文化」が障害になっているとの指摘が相次いだが、この件について4月14日の記者会見でIT担当相として質問を受けた竹本は、 「押印は民間同士の取引で支障になっている例が多い。話し合っていただく以外にない」 と他人事のようなコメントを発して批判を浴びた。 IT担当相以外でも、2018年10月にサイバーセキュリティー戦略本部担当相(五輪担当相と兼務)に就任した桜田義孝(70)が、「パソコンを使ったことがない」「(USBメモリについて)細かいことは分からない」などと国会で珍答弁を繰り返したことは、多くの国民の記憶に残っているに違いない。 比較政治経済学が専門の米シラキュース大学准教授、マルガリータ・エステベス・アベは、〈「桜田現象」は日本の現状の象徴。教育機関や職場のIT化が非常に遅れており、せっかくの良質な労働力に真価が発揮されていない〉と解説している(『ニューズウィーク日本版』2020年5月5・12日号)』、「早稲田大学が世界11大学と共同で実施している「世界電子政府進捗度ランキング」で「「政府CIO(最高情報責任者)」の項目で日本を1位」、「早稲田大学」にも幻滅した。「IT政策担当相」が「自民党の「はんこ議連」」の「会長」とは安部政権のいいかげんさの極致だ。
・『国力衰退の象徴  誰が大臣でも変わらない――。 日本の多くの国民がそう考え、国家戦略上の重要ポストであっても、年輩の初入閣者にその座を与える愚作を繰り返してきた安倍内閣を甘受してきた。 だが、人材の配置によって、国難を克服する道が拓けることを今回のコロナ禍は明示した。 格好の例は台湾だろう。 いまや有名なエピソードになりつつあるが、いち早く中国本土での新型コロナ感染を察知した台湾政府は、今年1月末にマスクの輸出を全面禁止とし、全土のマスク工場を管理すると共に、中央健康保険庁がマスクを販売する薬局の30秒ごとの在庫データをネットに公開。ICチップを内蔵した健康保険証にマスクの購入履歴を記録し、買い占めや転売の防止に結びつけた。マスクの在庫データはスマートフォンのアプリで確認できるため、住民はどの店に行けばマスクを入手できるかが一目で分かるようになり、マスク不足は瞬く間に解消した。 こうした一連の「マスク配布システム」構築の中心人物は、デジタル担当政務委員(閣僚級)のオードリー・タン(唐鳳、39)。独学でプログラミングを学んだ後、米シリコンバレーで起業した経験もあり、2016年から蔡英文(63)政権の一員として行政サービスのデジタル化を担当している。 台湾とほぼ同時期にマスク不足が叫ばれるようになった日本では、官房長官の菅義偉(71)が2月初めから「マスク増産」を繰り返し表明した。しかし店頭には一向に商品は届かず、苦肉の策として、官邸主導で布マスク(いわゆる“アベノマスク”)を全国民に配布すると発表したが、感染防止効果に疑問があるうえ、早期に届いたマスクに虫や髪の毛が混じっていたことで評判は散々であることは記憶に新しい。それどころか、そんなアベノマスクでさえ、いまだに配布が完了していない。 市販のマスクは5月の連休明けにようやく都心の店頭に並ぶようになったが、アベノマスクは、今では日本の国力衰退の象徴として語られるようになった。 台湾だけではない。韓国では人工知能(AI)などを活用した技術開発をPCR検査の大幅な拡大に繋げ、いち早く感染抑止を成就した。 新型コロナ対策での「敗北」を認め、IT戦略はもとより、永田町・霞が関の政治家、官僚たちの抜本的な発想の転換を図らない限り、アナログ社会から抜け切れない日本の退潮は止められない。(敬称略)』、「アベノマスクは、今では日本の国力衰退の象徴として語られるようになった」、ここまで劣化させた安部政権の罪は重い。

次に、6月31日付け現代ビジネスが掲載した早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「ハンコから脱却しても「電子署名」という遺物が日本のIT化を妨げる マイナンバーが何の役にも立たない現実」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73105
・『新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が進み、「ハンコ文化」見直しの機運が高まっている。しかし、現実には、事態は進展していない。 基本的な問題は、20年前に施行された電子署名法が、その後の技術進歩を反映しておらず、古い技術を前提にしていることだ』、初耳だが、どういうことだろう。
・『法で想定されている電子署名は使いにくい  2001年に施行された電子署名法において有効とされている電子署名は、ICカードを用いるか、あるいは、利用者が認証サービス事業者に自らを証明する書類などを提出し、事業者が電子証明書の入った電子ファイルを発行する。それを使って当事者同士が署名をすることになっている。 しかし、認証サービス者からいちいち認証を受けるのは面倒なので、この方式は実際にはあまり使われていない。実際に使われているのは、以下に述べる「クラウド型」と呼ばれるものだ。 署名と署名に必要な鍵をサーバーに保管し、全ての手続きがクラウド上で済む。本人確認も、メールアドレスや2段階認証を活用すれば短時間で済む。 電子契約利用企業の約80%がクラウド型を利用している。 国内で8割のシェアを握る弁護士ドットコムの「クラウドサイン」などは、当事者同士が電子署名をしない「立会人型」と呼ばれる形式だ。 ネットに上げたPDFの契約書などの書類を双方が確認し、合意すれば、立ち会った弁護士ドットコムが自らの名義で「契約書が甲と乙によるものであることを確認した」と電子署名する。 契約の当事者が電子署名の印鑑証明に相当する電子証明書などを取得しなくてもすむため、手続きが簡単だ』、「電子契約利用企業の約80%がクラウド型を利用」、にも拘らず、「電子署名法」は古い不便な方式のままというのも、行政の怠慢だ。
・『立会人型の電子署名は有効か? 法務省の見解は揺れる  しかし、法務省は、立会人型の電子契約書について、「電子署名法に基づく推定効(文書が有効だと推定されること)は働き得ないと認識している」との見解を5月12日の政府の規制改革推進会議の会合で示した。現在日本で使われている電子署名の有効性を否定したわけだ。 ところが、一方で、取締役会の議事録承認について、クラウドでの電子署名を法務省が容認したとのニュースもあった。「当事者がネット上の書類を確認し、認証サービス事業者が代わりに電子署名するのも可能となる」と報道されている。 新型コロナウイルスの感染防止策として、手続きを簡素化したいとする経済界の要望を反映したのだという。 このように、クラウド立会人型の電子署名については、それが有効なのかどうかの判断がはっきりしない。 推進会議での見解が12日で、取締役会についてのニュースが5月30日だから、半月ほどの間で、方針が変わっているように見える』、行政は一体何をやっているのだろう。
・『電子署名そのものが古い技術  英米では、立会人型のクラウド上の電子契約が広く普及しており、判例で有効性が認められている。 だから、日本でもこれを普及させればよいという意見が多いのだが、問題なしとしない。 この方式では、立会人である弁護士などに、真正性の証明を行なう権限を与えている。これは、公証人制度と似たものだ。 しかし、個人が行なう真正性の証明に全幅の信頼を寄せてよいかどうかは、疑問だ。 また、この場合の本人確認はメールアドレスなどで行なわれているが、それで十分かどうかという疑問が残る』、確かに「立会人型のクラウド上の電子契約」にも問題はあるようだが、それを克服する方法を示すのも行政の大事な役割だ。
・『エストニア方式を導入すべきだ  公開鍵暗号による電子署名の仕組み自体は、すでに確立された技術であり、仮想通貨を初めとして、インターネット上のさまざまな取引で広く用いられている。 問題は、「ある公開鍵を持っている個人(あるいは法人)と、実在する個人(あるいは法人)とが1対1に対応している」ということの証明なのだ(「公開鍵」とは、公開鍵暗号のシステムで用いられる数字と記号の組み合わせ)。 この問題は、国が国民背番号制度を実現し、それと関連付けることで行なうべきものだ。 エストニアでは、この方式が採られている。その概要を前回述べたが、より詳しく説明すれば、つぎのとおりだ。 国民一人一人が「国民ID」(正確には、personal identification code。個人識別コード)という番号を待つ。 電子認証(本人確認)とサインをデジタルに行うために必要なのは、ICチップを埋め込んだeID カードだ。 専用のカードリーダーに差し込み、暗証番号を入力すると、完全に無料で、電子署名を行うことができる。 ブロックチェーン上に契約締結日などのタイムスタンプを記録することによって、改ざん防止を実現できる。また、電子署名を半永久的に記録することが可能となり、有効期限問題も解消している。 このため、インターネット接続環境とパソコン、カードリーダーさえあれば、あらゆる行政手続きを自宅やオフィスから行える。ほぼ100%の国民に普及している。 確定申告の95%、法人設立手続きの98%、薬の処方の99%がオンラインで行われている。 住民登録、年金や各種手当の申請、自動車の登録手続き、国民健康保険の手続き、運転免許の申請と更新、出生届提出や保育園・学校への入学申請、学校の成績表へのアクセス、銀行口座、病院の診療履歴へのアクセスもできる。 さらに、オンライン会社登記や電子投票などもできる。 中国では、18桁の身分証番号を用いる身分証のシステムが、すでに1995年に導入されている。 記載項目は、氏名・性別・民族・生年月日・住所などだ。身分証番号は、生まれた日に決定され、終生不変の個人番号となる。満16歳になると、有形の身分証が交付される。 中国は、2019年10月に「暗号法」を制定した。これは、さまざまな目的に用いられる秘密鍵を国家が管理するための基礎を作るのが目的ではないかと想像される。 アメリカでは、SSN(Social Security Number:社会保障番号)が用いられている。アパートの賃貸契約や就労、免許証の取得など、アメリカで生活するにはさまざまな場面で必要とされる。これがなければ、満足に生活をすることができない』、「エストニア方式」は確かに効率的だ。
・『マイナンバーを活用すべきだ  日本のマイナンバー制度も、本来は上記のようなことの実現を目指して導入されたものだ。 実際、内閣府の説明サイトをみると、つぎのように書いてある。 「それぞれの機関内では、住民票コード、基礎年金番号、医療保険被保険者番号など、それぞれの番号で個人の情報を管理しているため、機関をまたいだ情報のやりとりでは、氏名、住所などでの個人の特定に時間と労力を費やしていました。社会保障、税、災害対策の3分野について、分野横断的な共通の番号を導入することで、個人の特定を確実かつ迅速に行うことが可能になります」 要するに、実在する個人を、マイナンバーという単一の番号だけで把握することを可能にしようというのである。 これは、エストニアや中国の場合とまったく同じ目的だ。 ただし、マイナンバーの場合には、いまだにそれが孤立して存在しているだけで、他のシステムとの関連付けがなされていない。 このために、実際には何の役にも立たないものになっているのである。 今回の現金給付で、各地方公共団体が、オンラインで送られてきた申請データをプリントアウトし、住民基本台帳のデータとの突き合わせなどを手作業で行なわざるをえず、大変な苦労をしていると伝えられている。信じられないようなことだ。 マイナンバー制度は、何も役に立たないどころか、地方公共団体に余計な労力負担を掛けるだけの制度になってしまっている。 ちなみに、コロナ対策の一環としての現金給付において、アメリカはSSNを用いて迅速に行うことができた。 いま必要なことは、マイナンバー制度を基礎として、これを他の仕組みと有機的に連結させ、エストニアのような制度を確立することだ。 それにもかかわらず有識者会議は、新しい制度を作って屋上屋を重ねるようとしている。 現在の電子署名のシステムには、すでに既得権益者が発生してしまっている。それらの人々の職を守るために、古いシステムから脱却できないというようなことはないだろうか? このまま進むと、「ハンコ文化からは脱却できたものの、今度は別の迷宮入り」といった事態になりかねない』、確かに「マイナンバーを活用すべきだ」、にも拘らず、「有識者会議は、新しい制度を作って屋上屋を重ねるようとしている」、とは初めて知ったが、驚くべきことだ。業者を潤わせるだけで、全く無駄な投資だ。

第三に、6月27日付け文春オンライン「政府の“デジタル音痴”が止まらない 中西宏明・経団連会長が嘆く「接触確認アプリの問題点」 「政府が一番遅れている」というDXとは?」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/38666
・『「政府が一番遅れていますよ。国民の生活や働き方をよりよいものにしようという意識が感じられないのです」 「文藝春秋」7月号のインタビューでそう語るのは、6月2日に就任2期目を迎えたばかりの中西宏明経団連会長(74=日立製作所会長)。 経団連と政府の関係は、「車の両輪」のようなものと言われるが、そのイメージに反して、“財界総理”の口から飛び出したのは、政府への厳しい言葉だった。 中西氏が危惧する「政府の遅れ」とはいったい何なのか――』、どういうことなのだろう。
・『政府の腰が引けている「コロナアプリ」  政府が、新型コロナウイルスの感染拡大の防止策として6月20日に公開した「接触確認アプリ」。これはスマートフォンの近接通信機能(ブルートゥース)を利用し、陽性診断の確定者と濃厚接触した可能性が高い場合に自動通知を行うというものだ。 安倍首相も会見などで「多くの皆さんにご活用いただきたい」と訴えていたが、中西氏はこう指摘する。 「このアプリも誰もが使うものですから、何より使いやすく、使う人の心理的なハードルの低いものにしないといけません。日本人はプライバシーについて敏感なので、その部分の不安を残したままでは利用者はなかなか増えないことは目に見えています。この不安を解消し、アプリを役立つものにしていくためには、政府が国民に向かってきちんとプライバシー保護に関して説明しないといけません。『個人情報は絶対に目的以外で使用しないので、どうぞアプリを使ってください』と強くお願いするべきなのに、マスコミからの追及を気にしているのか、政府の腰が引けている気がしてなりません。アプリをみんなに使ってもらおうという積極的な姿勢が感じられないのです」』、きちんとしたものであれば、「マスコミ」も「追及」しない筈だ。「アプリをみんなに使ってもらおうという積極的な姿勢が感じられない」、責任回避をしているのだろうか。
・『日本の役所の問題点は「想像力の欠如」  国民一律10万円の特別定額給付金のオンライン申請についても、中西氏は「使う側に立って作られていない」と手厳しい。実際、スマホ用アプリの使い勝手の悪さ、手続きの煩雑さなどに不満の声が上がり、システムのトラブルも各地で頻出した。 「要するに、日本の役所の問題は、新しいシステムを導入さえすればいいと思っている点です。そのデジタル技術を導入した後に、国民が安心して、手軽に簡単にそのシステムを利用できるか――というところにまでは想像力が及んでいない。政府のデジタル面での遅れを感じました」 そこで中西氏が主張するのが、単なる「新しいデジタル技術の導入」ではなく、デジタルを活用し、社会・産業・生活のあり方を根本から変える「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の必要性だ。では、その具体的な中身とは何か。 「文藝春秋」7月号ならびに「文藝春秋digital」に掲載した中西氏のインタビュー「経団連会長『デジタル革命』で日本は甦る」では、政府のデジタル化の具体的な問題点のほか、官邸や霞が関とのテレビ会議の舞台裏、「デジタル・トランスフォーメーション」の好例、リモートワークへの補助など日立の先進的な働き方改革、意外な一面が垣間見える中西氏自身の「ステイホーム生活」などについて8ページにわたって語っている』、「中西氏」も「“財界総理”」である以上、マスコミの油を売ってばかりいないで、安部政権にもっと強く働き掛けるべきだろう。働き掛けても糠に釘なのかも知れないが、その場合は働き掛け方に問題があるのだろう。
タグ:(その1)(安倍首相「世界最先端IT国家宣言」嗤う「行政デジタル化」のお粗末、ハンコから脱却しても「電子署名」という遺物が日本のIT化を妨げる マイナンバーが何の役にも立たない現実、政府の“デジタル音痴”が止まらない 中西宏明・経団連会長が嘆く「接触確認アプリの問題点」 「政府が一番遅れている」というDXとは?) 電子政府 マイナンバーを活用すべきだ マイナンバーカード 人口に対する普及率はわずか16.4% 悲惨な行列 日々のPCR検査の件数と結果の一部をファックスで集計 日本の役所の問題点は「想像力の欠如」 エストニア方式を導入すべきだ 政府が一番遅れていますよ。国民の生活や働き方をよりよいものにしようという意識が感じられない 行政のデジタル化の遅れ 「政府の“デジタル音痴”が止まらない 中西宏明・経団連会長が嘆く「接触確認アプリの問題点」 「政府が一番遅れている」というDXとは?」 ここまで劣化させた安部政権の罪は重い 「安倍首相「世界最先端IT国家宣言」嗤う「行政デジタル化」のお粗末」 問題はあるようだが、それを克服する方法を示すのも行政の大事な役割 文春オンライン 立会人型のクラウド上の電子契約 電子署名そのものが古い技術 立会人型の電子署名は有効か? 法務省の見解は揺れる デイリー新潮 アプリをみんなに使ってもらおうという積極的な姿勢が感じられない 電子契約利用企業の約80%がクラウド型を利用 電子署名法 アベノマスクは、今では日本の国力衰退の象徴として語られるようになった 国力衰退の象徴 早稲田大学が世界11大学と共同で実施している「世界電子政府進捗度ランキング」(2018年度)では、7位 「はんこ議連」会長がIT担当相 「持続化給付金」でも、支給の遅れが問題化 システムの目詰まり 「中西氏」も「“財界総理”」である以上、マスコミの油を売ってばかりいないで、安部政権にもっと強く働き掛けるべきだろう 単なる「新しいデジタル技術の導入」ではなく、デジタルを活用し、社会・産業・生活のあり方を根本から変える「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」の必要性 病的な“有言不実行” 低いまま放置していた政府の怠慢 「政府CIO(最高情報責任者)」の項目で日本を1位 法で想定されている電子署名は使いにくい 「ハンコから脱却しても「電子署名」という遺物が日本のIT化を妨げる マイナンバーが何の役にも立たない現実」 有識者会議は、新しい制度を作って屋上屋を重ねるようとしている 不安を解消し、アプリを役立つものにしていくためには、政府が国民に向かってきちんとプライバシー保護に関して説明しないといけません。『個人情報は絶対に目的以外で使用しないので、どうぞアプリを使ってください』と強くお願いするべきなのに、マスコミからの追及を気にしているのか、政府の腰が引けている気がしてなりません 政府の腰が引けている「コロナアプリ」 “財界総理” 野口 悠紀雄 現代ビジネス
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小池都知事問題(その3)(連日の50人超 「東京アラート」とは何だったのか インパクト重視で借り物ばかり 独創性薄い東京都のコロナ対策、「築地市場の豊洲移転問題」小池都政最大の汚点を都庁官僚が告発=田代秀敏、小池氏有利の都知事選に見える 「無風」とはほど遠い動乱の兆し) [国内政治]

小池都知事問題については、6月29日に取上げたばかりだが、今日も(その3)(連日の50人超 「東京アラート」とは何だったのか インパクト重視で借り物ばかり 独創性薄い東京都のコロナ対策、「築地市場の豊洲移転問題」小池都政最大の汚点を都庁官僚が告発=田代秀敏、小池氏有利の都知事選に見える 「無風」とはほど遠い動乱の兆し)である。

先ずは、7月2日付けJBPressが掲載したルポライターの青沼 陽一郎氏による「連日の50人超、「東京アラート」とは何だったのか インパクト重視で借り物ばかり、独創性薄い東京都のコロナ対策」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61135
・『「東京アラート」なるものが解除されてから、東京都内の感染者数が増えている。6月26日から30日までの5日間は連続して50人以上が確認されている。東京アラート発令期間中よりも、明らかに増加傾向にある。だが、小池百合子東京都知事に、再度の東京アラートを発令する構えはない。 東京アラートの発令には、いくつかの基準があった。1日あたりの感染者数(1週間平均)が20人以上、感染経路が不明な人の割合が1週間平均で50%以上、週単位の感染者数の増加率が1倍以上、などというものだ。 すでに東京都の状況はこの基準をいくつか上回っている。だが、それでも「東京アラート」を発令しないのは、そもそも東京アラートになんの効果もないことを、小池都知事自ら告白したに等しい。 なぜなら、30日の会見で、新しいモニタリング指標の変更を打ち出して、「東京アラート」の今後の発令はない、としたからだ。代わって、医療体制のと状況把握を重視して、週1回の専門家会議を開催するとしながらも、休業要請や警戒を発する具体的な指数の基準を明確にしなかった。実に、曖昧な対策に後退している』、「「東京アラート」を発令しないのは、そもそも東京アラートになんの効果もないことを、小池都知事自ら告白したに等しい」、手厳しい批判だ。
・『感染者増でもなぜか積極的対策はなし  新型インフルエンザ等特別措置法に基づく政府の「緊急事態宣言」が、最終的に解除されたのは5月25日のことだった。これを受けて東京都では、休業要請の解除行程を3段階で示すロードマップの「ステップ1」に移行。6月1日からは、さらに緩和した「ステップ2」に移行した。 ところが都内では感染者が増加。そのため2日に東京アラートが発令され、11日に解除されるまで続いた。しかも、解除と同時に「ステップ3」に移行し、翌12日には小池都知事が「コロナ対策が一段落した」からと、東京都知事選挙への再出馬を表明している。 さらに19日には、休業要請を全面的に解除。それでアラート発令中より、ここへきて日々の感染者が増加して高止まりしている。感染状況と都の対策の、このチグハグぶりは何なのだろうか。 そもそも東京アラートには、なにかを制限したり、自粛を要請したりする機能はない。ただ、感染者増加による警戒を呼びかけるだけのものだ。そのシンボルとして、東京都庁とレインボーブリッジがライトで赤く染まった。それだけだ。 小池都知事は、ただ、それをやりたかっただけのことではないのか。 それは、大阪府がもっと以前からやっていたことだ。 大阪府では「大阪モデル」という、自粛要請の解除や再要請を判断する際の独自の指標基準を設定して、7日連続で一定水準が下回れば、要請を段階解除する方針を打ち出した。これに合わせて、警戒レベルを赤色(警戒レベル)、黄色(注意喚起レベル)、緑色(基準内)の3色で表し、5月11日から、大阪城、太陽の塔、それに通天閣をその色でライトアップした。 そのあとのことだ。小池都知事が「ロードマップ」「東京アラート」と言いだしたのは。 ただ、大阪のライトアップを真似ただけ、やってみたかっただけのことではないのか。その有効性も見えてこない。 そう考えると、小池都知事にはあるひとつの傾向が見えてくる。 小池百合子には、オリジナリティがない――。』、「東京都の」「感染者数」は、昨日107人、本日124人とさらに増勢を強め、第2波の到来すら予感させるが、小池都知事は休業要請には慎重なようだ。「コロナ対策が一段落した」との再出馬表明により、都知事選挙が終わるまでは、ダンマリを決め込んでいるのだろうか。「大阪のライトアップを真似ただけ、やってみたかっただけのことではないのか」、その通りだろう。ただ、「オリジナリティ」は政治家には余り求められていないのではなかろうか。
・『振り返ってみれば対策の大半は「借り物」  みんなどこかから引っ張ってきたり、真似事をしたりする。だから、横文字の命名や発言が目立つ。 東京アラートという言葉も、米国ニューヨーク州に「ニューヨーク・アラート」というものがある。個人が電話やメールなどで、災害や犯罪などの緊急警報を受け取れる登録システムだ。 欧米で新型コロナウイルスの感染が拡大していく中で、3月9日にはイタリアで、3月17日からはフランスで、住民の外出や移動を制限する都市封鎖、いわゆる「ロックダウン」の措置をとった。 すると、都内の感染者が累計で136人だった3月23日の記者会見で、小池都知事は突如、こう発言している。 「今後の推移によりましては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります」 だが、日本では都市封鎖なんてできるはずもない。そこに法的根拠はないからだ。なのに、他国に感化されたのか、真似るようなことを言いのけている。 (参考記事)なぜ都知事はできない「ロックダウン」を口にしたか https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60090 ) 結局、彼女にできたことは、外出自粛要請くらいのものだが、4月の終わりから5月の大型連休にかけてを、「ステイホーム週間」と位置づけていた。「Stay Home」はニューヨーク州のクオモ知事が連日の会見で呼びかけていた言葉だし、「Stay at Home」なら英国のジョンソン首相が繰り返していた。ただ、英国では5月11日から外出制限が緩和され、その後は「ステイ・アラート」がスローガンになっている。 そもそも、小池都知事が立ち上げた地域政党「都民ファーストの会」。このネーミングからして、トランプ大統領が前回の選挙戦で「アメリカ・ファースト」と叫んでいたことからとったものであることは、誰の脳裏にも浮かぶ。 しかも、再選を目指す7月の東京都知事選挙で、小池都知事は公約の最初に「東京版CDC(疾病対策予防センター)の創設」を掲げている。これは言うまでもなく、オリジナルの米国CDCから拝借してきたものだ。その米国は、新型コロナウイルスによる世界で最も多くの感染者と死者を出している。 感染者数が再び増加傾向にある埼玉県の大野元裕知事は、29日に東京との往来を避けるように県民に呼びかけた。感染由来は東京都にあるとする見解に基づく。単純だが、もっともわかりやすい対策だ。ウイルスを持ち込まなければいいだけのことだからだ』、出来る筈のない「ロックダウン」発言に質問しなかった都庁記者クラブの記者の責任も重大だ。海外の「借り物」は、ネーミングや対策については、必ずしも悪いとはいえない。
・模倣ばかりで理念なし  その東京では、夜の街、接待を伴う飲食業、それも新宿のホストに感染者が多いとしている。北海道小樽市では「昼カラ」によって感染クラスターが発生している。いずれも娯楽によるものだ。だったら、分かりやすく東京ならば“新宿のホストクラブ”を対象に、その地域や業種限定で休業要請を出し、応じた店にはあらためて休業補償をするなど、積極的な措置をとればいいのに、やらない。 むしろ、小池都知事が30日の会見で表明したことと言えば、夜の街への外出の自粛という、もう数カ月前の発言を繰り返していることくらいだ。 いまは医療体制が整っているからいい、感染源が特定されているからいい、小池知事は日々の感染者が50人を超えても、テレビカメラの前で記者にそんなことを語っていた。だが、感染拡大の第2波も懸念される中で、もっとも求められることはウイルスとの共存ではなく、封じ込めのはずだ。彼女の言う「ウィズ・コロナ」ではない。「排除」だ。 日本国内の感染者が再び増加傾向にある。しかも東京が感染拡大の先陣を切りながら、新たな具体策も打ち出せないでいる。お手本となるものもない。 カイロ大学卒が本物か学歴疑惑も囁かれるなか、それよりも横文字を多用して、あたかもインテリ風に見せかけながら、実は借り物ばかりでオリジナリティに欠ける。もちろんそこには一貫した理念も哲学もない。エピゴーネン(先行者を追随し真似しているだけの人、模倣者)としての正体が透けて見えてきた。そんな気がしてならない』、「もっとも求められることはウイルスとの共存ではなく、封じ込めのはずだ。彼女の言う「ウィズ・コロナ」ではない。「排除」だ」、全く同感である。

次に、7月3日付けサンデー毎日・エコノミスト「「築地市場の豊洲移転問題」小池都政最大の汚点を都庁官僚が告発=田代秀敏(シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)【週刊エコノミストOnline】」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200701/se1/00m/020/001000d
・『小池百合子都政の最大のブラックボックスは、迷走に迷走を重ねた「築地市場の豊洲への移転問題」である。 「もう済んだことだし、この話はこれで終わりにしよう。そんな声が聞こえてくる。 「しかし、関係者全員が過去を思い出話にすり替えて忘却の彼方にやり過ごそうとしているとすれば、それは違うと言わざるを得ない」と述べる本書の著者に共感する。 豊洲市場の建物下に拡がる巨大な地下空間の映像が全国を震撼させていた最中に、危機対応の為の急造ポストである東京都中央卸売市場次長(局長級)へ異動した都庁官僚が、市場移転問題を忘却させない為に定年退職後に著したのが本書である。 「市場移転問題とは、平成の30年間の長きにわたってロングラン公演された滑稽な群像劇、しかも出演者はエキストラを含めて全員が自己チューで身勝手で、そのくせ自分では何も決めない人物ばかりという前代未聞の『非決定の物語』だった」 その「問題を政争の具に利用し尽くした知事」も、ブレまくる。 「ゆりこのゆりもどし」と市場当局が呼び習わした「一度決まったことを平気で揺り戻そうとする」言動パターンは、「何かにつけてのあやふやな態度(決して本心を見せず、取り巻きの意見に左右され、その場その場の有利不利だけで判断する態度)」と相まって、迷走の度合いを更に深めていく』、「ゆりこのゆりもどし」とは言い得て妙なようだ。「市場移転問題」を「東京都中央卸売市場次長(局長級)」として苦労してきただけに、説得力がある。
・『「勝負勘が鋭い」だけに「発言は必ず何か意図を持って発せられている」。 しかし「小池知事の最大のスキルは、ずば抜けたはぐらかし力である」。 「凡人には知事の考えは理解不能であった」と嘆きながらも、著者はインサイダーしか知り得ない「発せられなかった言葉、記載されなかった言葉」を振り返り、「真実の輪郭」を浮き上らせようとする。 「地方官僚は権力が暴走・迷走・逆走を始めた時、静かに(だが意を決して)抵抗を試みなければならない」と自負する著書であるが、「こと都庁官僚組織に限れば、これほど有事に弱い組織も珍しい」、「都庁の基本は現在・過去・未来にわたって、他力本願的、殿様商売的、状況受動的構えである」と嘆く。 実際、都庁は「豊洲市場に5800億円もの巨額を投じ」ながら、「50年後、60年後を見据えた収支計画をろくに持っていなかった」。 そうした「巨大で愚鈍」な組織を、「目立つことを最優先する知事」は、「自分ファーストの合目的的な変わり身の早さ」で翻弄し、「パンダさえも己の政争に利用する」。 その「苦い苦い経験」からの教訓をこう述べて、著者は締め括る。 「決めるべき時に決めずに先延ばしすることこそが、最も愚かな行為であり、最も危険な(自らを滅ぼしかねない)行為である。人はそのことをすべてが終わった後に初めて思い知らされる」』、「都庁は「豊洲市場に5800億円もの巨額を投じ」ながら、「50年後、60年後を見据えた収支計画をろくに持っていなかった」、どうも大きな負の遺産となりそうだ。「「目立つことを最優先する知事」は、「自分ファーストの合目的的な変わり身の早さ」で翻弄」したツケは大きいようだ。

第三に、7月3日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「小池氏有利の都知事選に見える、「無風」とはほど遠い動乱の兆し」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/242086
・『7月5日投開票予定の都知事選は「奇妙な選挙」に?  奇妙な選挙になりそうです。7月5日に投開票予定の東京都知事選の話です。 今回の記事は、先日発売の拙著『日本経済予言の書』の中で、私が「6番目の予言」として述べたことと関連する話です。その予言とは、これから10年以内の間に、日本に「ポピュリズム政権交代」が起きる可能性があるというものです。 実は、国政とは関係ないはずの東京都知事選に、そのポピュリズム台頭の兆しが見えます。順を追ってお話ししましょう。 過去5年間、世界の政治情勢を振り返ると、ポピュリズムの台頭が顕著になっていることに気づかされます。アメリカではリーマンショック以降、一部の富裕層に富が集中する一方で、まじめに働いてきた中流層のアメリカ人が失業し、貧困層に転落し始めました。特にラストベルトと呼ばれる中西部の工業地帯で働く人々が、グローバル経済の中で職を失い、みじめな生活へと追いやられていきます。 そこに出現したのがトランプ氏で、「職を奪うメキシコ国境に壁をつくる」「中国に高額の関税を求める」といった聞こえがいい政策を掲げて、アメリカ大統領に上り詰めました。イギリスではボリス・ジョンソン氏が、「EUから離脱すれば、イギリス人は経済的にもっと豊かになる」と説き、国民の支持を得てブレグジットを実現しました。 いずれも、経済学的にはクエスチョン・マークのつく主張でありながら、国民の支持を得てダークホース的に政権を射止めたのです。 ポピュリズムが台頭するメカニズムは、シンプルです。最初の原因をつくったのは資本主義経済の行き過ぎで、一部の富裕層や大企業に極端に富が集中する状態ができ上がったことです。資本主義の結果として、99%の国民が1%の富裕層に搾取される社会ができ上がったのですが、その結果、民主主義においては不満を持つ国民が多数派になりました。 世界の大半の国々では、与党の政治家は1%の側の上級国民です。99%の国民の側の怒りがふつふつと湧き上がり、やがて沸点に達すると、民主主義国家では政権交代が起きます。そして、日本以外の国を見ると、新たに政権に就く政治家や政党は、国民が望む「平等」や「もっといい生活」を公約に掲げる、聞こえがいい人たちです』、安部政権もコロナ危機対応で、何でもありのバラマキ対策をしているので、既に「ポピュリズム」政策を取り込んでいるともいえるのではなかろうか。
・『国民の「怒り」のバロメーター ポピュリズム政権交代の予兆  ここで、2020年代の日本の論点として考えなければいけないのは、「では、日本でも同じことが起きるのか」という問題提起です。それは、国民の怒りのレベル次第なのですが、新型コロナ感染拡大、麻雀検事長の定年ゴリ押し問題、桜を見る会問題などで、溜まりに溜まった国民の怒りを測定するバロメーターとして、今回の都知事選が役立つと思います。 2020年の東京都知事選は、過去最多の22名が立候補する中で、世論調査を見る限りは奇妙な対立構図の中で、現職の小池百合子都知事が圧倒的に有利に選挙戦を進めている様子です。 私が「奇妙な」と表現する理由は、ご存じの通り、第一に国政与党である自民党が独自候補を立てなかったこと。第二に立憲民主党、国民民主党、社民党、日本維新の会、共産党の主要野党が公認候補を立てられなかったこと。そのため、現職の小池百合子知事の再選が確実ともいえる状況ができ上がりましたが、なぜかそこで他の候補に票が割れている点が奇妙なのです。 とはいえ、立憲民主党、社民党、共産党の支援を受ける元日弁連会長の宇都宮健児候補と、日本維新の会が推薦する元熊本県副知事の小野泰輔候補は、ともに無所属とはいえ、小池候補に対抗する従来野党の候補と位置付けることができます。この2候補の得票は、従来型の選挙分析としては、小池都政に対する反対票ないしは批判票だといえるはずです。 そして従来の選挙戦でいえば、それ以外の候補は十分な得票を得られない、マスコミが言う泡沫候補の位置付けで終わる、というのが手堅い流れのはずでした。実際、22名の候補者の政見放送やポスターを見ると、とんでもない意見をお持ちの候補も少なくありません。 しかし予測ですが、この選挙は当選結果とは別に、票の流れは荒れるはずです。今回の選挙は現職、主要野党2候補以外に注目すべき第三極があり、その第三極への票の流れ次第で、日本でも海外と同じような政権交代が起き得るのかという、国民の「怒りの度合い」が測定できるのです。 その注目すべき候補者が、山本太郎候補と立花孝志候補です。今回の都知事選の一番の注目点は、この2人に合計して有効投票の何%が投じられるかです。その結果次第で、今後行われる2020年代の日本の国政選挙の未来が、変わるかもしれないのです』、「山本太郎候補と立花孝志候補」が「第三極」として、「国民の「怒りの度合い」が測定できる」、というのは面白い見方だ。ただ、「第三極」ではないにしても、「宇都宮健児候補」の得票も「国民の「怒りの度合い」を示しているので、合わせてみるべきだと思う。
・『山本太郎氏と立花孝志氏がもたらす想定外のインパクト  その未来予測の話をする前に、まず2人の候補について簡単に解説してみます。 山本太郎候補は、政党要件を満たした国政政党である「れいわ新選組(以下、れいわ)」党首です。元俳優の経歴を持ち、2012年に政治家に転身し、2013年に無所属から参議院議員に当選。2019年の参議院議員選挙ではれいわを設立し、比例区最多の99万票の個人票を獲得することで、れいわが政党要件を満たす原動力となる一方で、自身は名簿順位の関係で現職でありながら落選しました。その政治演説は、常に大きな盛り上がりを見せることに特徴があります。 立花孝志候補は元NHK局員で、2013年に「NHKから国民を守る党(以下、N国党)」を設立し、やはり2019年の参議院議員選挙で自身が比例区で当選するとともに、N国党も政党要件を満たしました。その後、参議院の埼玉県の補欠選挙に出馬したことで失職します。そして今回はN国党ではなく、新たにホリエモン新党を設立して代表となり、都知事選に立候補します。 細部で興味深い点は、ホリエモン新党は堀江貴文氏と公式には関係ないとされる点です。堀江氏はツイッターで「ええと、俺は特にメリットないですね笑。俺何も知らんので絡まれても困る」と投稿している一方で、なぜか堀江氏のマネジャーの斉藤健一郎候補が立花孝志候補とともに都知事選に出馬して、ポスターには堀江貴文氏の写真を使っている。公式には関係ないけれど、においがプンプンするという過去にないタイプの政党です。 さて、この2人の候補の結果になぜ注目すべきなのか、解説を始めたいと思います。 実は、2012年に自民党が民主党からの政権交代を実現し、連立与党に返り咲いて以降、日本では既存野党に対する批判が強すぎるのです。「与党は嫌いだが野党は頼りにできない」と考える国民が多いのが、アメリカなどと比較した日本の世論の特徴です。そのせいで、第三極の政党に対する期待が徐々に高まり始めています。 その旗色がはっきりし始めたのが、2019年7月の参議院議員選挙で、れいわとN国党というそれまで諸派扱いだった2つの政党が、政党要件である2%の得票率を満たし、もはや泡沫候補ではない第三極として、注目を集める存在となったのです。 この2つの勢力の昨年7月の参院選比例区における得票数を単純に足すと6.5%となり、全国民の中でまずまずの支持を得たことがわかります。さらに私が驚いたのは、2019年10月に行われた埼玉県の参議院議員補欠選挙です。前埼玉県知事の新人候補・上田清司氏が圧勝すると思われたこの補欠選挙に、対立候補として出馬した立花孝志候補は、想定通りの落選となった一方で、なんと13.6%の得票率を実現したのです。 そして、この流れを汲んで行われるのが2020年7月の東京都知事選ということです。埼玉県の補欠選挙は、投票率が低かったことで第三極の獲得票が多かったと分析すれば、投票率の高い都知事選で第三極にどれくらいのレベルの票が投じられるかを見ることで、昨年以来の第三極の台頭が本物かどうかが判明するという理屈です。 与党、現職ないしは大物候補に批判的意見を持つ有権者の票が、既存野党ではなく第三極に流れるのが新しい政治の潮流だと仮定すれば、今年7月の都知事選挙においては、その第三極への支持が全得票の何%に及ぶところまできているのかが、最大の注目点なのです』、「自民党が民主党からの政権交代を実現し、連立与党に返り咲いて以降、日本では既存野党に対する批判が強すぎる」、残念ながらその通りだ。「与党、現職ないしは大物候補に批判的意見を持つ有権者の票が、既存野党ではなく第三極に流れるのが新しい政治の潮流だと仮定すれば・・・」、「その第三極への支持が全得票の何%に及ぶところまできているのかが、最大の注目点」、そういう見方も可能だろう。
・『「第三極」が台頭すれば野党よりも怖いポピュリズム勢力に  私なりの尺度を申し上げると、結果的にこの2人の得票率の合計が10%を超えたら、第三極へ投票する流れは本格化してきたと言えるでしょう。昨年の補欠選挙とは違い、投票率の高い選挙で1割を超える有権者が第三極に投票するならば、国民が新しい流れを望んでいることがはっきりする。言い換えると、今後の国政選挙で第三極は野党よりも怖い与党の対立候補となる可能性が出てきます。 安倍政権の支持率が下がる中、次の総選挙では自民党への批判が高まる一方で、それ以上に弱体化している野党のお陰で議席を多少減らしたとしても、自民党の与党の座はゆるぎないと予想されます。しかし、自民党にとって本当に怖いのは、自民党の議席数ではなく、対立候補である野党の顔触れががらりと代わることです。 そして問題となるのは、遅くとも2025年までに実施されるその次の総選挙です。そこで仮に自民党と公明党の議席が過半数を割った場合には、不安定な連立野党政権が誕生する悪夢が起こり得る。私は新刊の中で、そのような流れができる可能性が高いと予言していますが、実際はどうなるのか。 有権者の心の中でふつふつと煮えたぎる思いの熱量が、7月5日夜には判明するのです』、「「第三極」が台頭すれば野党よりも怖いポピュリズム勢力に」、その通りだが、与党が前述のように「ポピュリズム」的政策を展開しているので、与党への対抗軸になるかは不明だ。ただ、いずれにしろ、都知事選挙での「第三極」の得票を注目しておきたい。
タグ:「第三極」が台頭すれば野党よりも怖いポピュリズム勢力に 第三極への支持が全得票の何%に及ぶところまできているのかが、最大の注目点 与党、現職ないしは大物候補に批判的意見を持つ有権者の票が、既存野党ではなく第三極に流れるのが新しい政治の潮流だと仮定すれば 自民党が民主党からの政権交代を実現し、連立与党に返り咲いて以降、日本では既存野党に対する批判が強すぎる 英国のジョンソン首相 出来る筈のない「ロックダウン」発言に質問しなかった都庁記者クラブの記者の責任も重大 山本太郎氏と立花孝志氏がもたらす想定外のインパクト 「山本太郎候補と立花孝志候補」が「第三極」として、「国民の「怒りの度合い」が測定できる」 国民の「怒り」のバロメーター ポピュリズム政権交代の予兆 安部政権もコロナ危機対応で、何でもありのバラマキ対策をしているので、既に「ポピュリズム」政策を取り込んでいるともいえる 10年以内の間に、日本に「ポピュリズム政権交代」が起きる可能性がある 7月5日投開票予定の都知事選は「奇妙な選挙」に? 「Stay at Home」 「小池氏有利の都知事選に見える、「無風」とはほど遠い動乱の兆し」 鈴木貴博 ステイホーム週間 ダイヤモンド・オンライン 「目立つことを最優先する知事」は、「自分ファーストの合目的的な変わり身の早さ」で翻弄し、「パンダさえも己の政争に利用する」 都庁は「豊洲市場に5800億円もの巨額を投じ」ながら、「50年後、60年後を見据えた収支計画をろくに持っていなかった 「勝負勘が鋭い」だけに「発言は必ず何か意図を持って発せられている」 ゆりこのゆりもどし 東京都中央卸売市場次長(局長級) 「「築地市場の豊洲移転問題」小池都政最大の汚点を都庁官僚が告発=田代秀敏(シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)【週刊エコノミストOnline】」 サンデー毎日・エコノミスト ニューヨーク・アラート 東京アラート 振り返ってみれば対策の大半は「借り物」 大阪のライトアップを真似ただけ、やってみたかっただけのことではないのか 東京都の」「感染者数」は、昨日107人、本日124人とさらに増勢を強め、第2波の到来すら予感させるが、小池都知事からは何ら規制強化の発言はないようだ 感染者増でもなぜか積極的対策はなし 「東京アラート」を発令しないのは、そもそも東京アラートになんの効果もないことを、小池都知事自ら告白したに等しい 新しいモニタリング指標の変更を打ち出して、「東京アラート」の今後の発令はない、とした 「連日の50人超、「東京アラート」とは何だったのか インパクト重視で借り物ばかり、独創性薄い東京都のコロナ対策」 青沼 陽一郎 JBPRESS 東京版CDC(疾病対策予防センター)の創設 クオモ知事 もっとも求められることはウイルスとの共存ではなく、封じ込めのはずだ。彼女の言う「ウィズ・コロナ」ではない。「排除」だ 「Stay Home」 小池都知事問題 (その3)(連日の50人超 「東京アラート」とは何だったのか インパクト重視で借り物ばかり 独創性薄い東京都のコロナ対策、「築地市場の豊洲移転問題」小池都政最大の汚点を都庁官僚が告発=田代秀敏、小池氏有利の都知事選に見える 「無風」とはほど遠い動乱の兆し)
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日本の政治情勢(その47)(検察の本命は「自民党の交付罪」立件だ 河井夫妻事件で専門家が指摘、河井前法相夫妻は“アベノシッポ” 切って終わりなら「検察の独立」が泣く、解散総選挙を今やれば 支持率低迷でも安倍自民党が圧勝する理由、「そして誰も忖度しなくなった」政権崩壊がはじまった安倍首相の落日 河野大臣「私はやりたくありません」) [国内政治]

日本の政治情勢については、6月1日に取上げた。今日は、(その47)(検察の本命は「自民党の交付罪」立件だ 河井夫妻事件で専門家が指摘、河井前法相夫妻は“アベノシッポ” 切って終わりなら「検察の独立」が泣く、解散総選挙を今やれば 支持率低迷でも安倍自民党が圧勝する理由、「そして誰も忖度しなくなった」政権崩壊がはじまった安倍首相の落日 河野大臣「私はやりたくありません」)である。

先ずは、6月26日付けAERAdot「検察の本命は「自民党の交付罪」立件だ 河井夫妻事件で専門家が指摘」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2020062600062.html?page=1
・『前法相と妻の買収疑惑に切り込んだ検察が狙う「本丸」は、権力の中枢・自民党本部を公職選挙法の「交付罪」で立件すること--。元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士がそう指摘する。問われるのは、検察の覚悟だ。 「ひとつ、よろしく」と現金入りの封筒を差し出す。日本中で行われてきた政治家の「風習」に、検察が切り込んだ。しかも相手は、つい先日まで自分たちの上司だった前法務大臣。政権への忖度を捨てた検察が次に見据えるのは、安倍晋三首相率いる巨大与党、自由民主党側の立件だ。 通常国会が閉会した翌日の6月18日、東京地検特捜部が前法相で衆院議員の河井克行容疑者(57)と、妻で参院議員の案里容疑者(46)を逮捕した。広島県議だった案里議員を国政に転じさせたのは、克行議員が補佐官を務めた安倍首相や、菅義偉官房長官だった。 動画配信サイトでは、今も選挙戦の様子が確認できる。安倍首相が「心を一つにすれば、乗り越えられない壁はない!」と声を張り上げれば、二階俊博幹事長も「どうぞ安心して河井案里さんをよろしくお願いします」と、今となってはシャレにもならないことを言う。党が案里議員側に支出した選挙資金は溝手氏の10倍の1億5千万円。安倍首相は、自らの指示で自身の秘書を広島入りさせててこ入れをしたことも認めている。 その裏側で行われていたとされる河井夫妻の容疑はこうだ。 克行議員は昨年3月下旬~8月上旬、案里議員の選挙で票の取りまとめを依頼する趣旨で計約2400万円の現金を地元の地方議員ら91人に渡した疑いがある。案里議員は昨年3月下旬~6月中旬、克行議員と共謀して計170万円を5人に渡した疑いがある。夫妻から重複して受け取っていた人物も2人いる。河井夫妻は容疑を認めていないという。朝日新聞などの報道によれば、多くの地元議員らが、現金を受け取ったことを認めている』、「現金を受け取った」市長が相次ぎ辞任する騒ぎになっているようだ。
・『元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は、逮捕容疑となる行為が選挙の3カ月以上前から始まっていたことに注目する。 「従来は、選挙期間やその直前での投票や具体的な選挙運動の対価の供与を買収罪の適用対象にしてきましたが、今回はかなり様子が違っています。時期を考えれば、これまで地盤培養のために行う支持拡大の依頼と受け止められてきた行為を含めているからです。こうしたものを選挙違反の摘発の対象にしているのが異例と言えます」 そこに今回、手を突っ込んだ意味合いはどこにあるのか。 「選挙や選挙違反の摘発のあり方に今後、非常に大きな影響を与えるでしょう。公職選挙法の趣旨から、買収罪を適用するべきです」 今後最大の焦点となるのが、買収に使われた金の原資だ。克行議員が一部の町議に「安倍(晋三)さんからです」と現金を渡したこともわかった。前出の郷原氏は一連の金の流れから、自民党側が罪に問われる可能性を指摘する。公職選挙法の「交付罪」の適用があり得るというのだ。 「交付罪とは、供与などの行為が行われるとの認識を持って、資金を交付することです。私自身はかつて検事時代にこの罪で起訴した経験がありますが、今までに事件化された例は大変少ないです。不透明な選挙資金の提供も含めて犯罪になるということを示す意味は非常に大きい。捜査の中で、党本部への家宅捜索も当然、検討の対象に上ってくるでしょう」 今回の事件は交付罪の構成要件を満たすのか。郷原氏は、具体的な買収先や金額を認識していなくても、案里議員を当選させる目的で「自由に使って良い金」として各方面に配られることを知って資金提供していれば、成立すると考える。 郷原氏は「ここまで摘発のハードルを下げてやってきた以上、徹底的にいくところまでいかざるを得ないでしょう。もし腰砕けになって終わったら、検察はおしまいです。このタイミングでの官邸との手打ちはあり得ない」と話す』、面白くなってきたようだ。

次に、6月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したデモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員の山田厚史氏による「河井前法相夫妻は“アベノシッポ”、切って終わりなら「検察の独立」が泣く」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/241576
・『自民党の分裂選挙を勝ち抜いた妻。当選させた手柄で法相の座をつかんだ夫。絶頂に立った政治家夫婦が買収容疑で逮捕され奈落に突き落とされる物語がメディアを賑わせている。 だが、「華麗なる政治家カップル」を悪者に仕立て、一件落着とするなら、あまりにも陳腐な「検察活劇」である。解明されるべきは1億5000万円を注ぎ込んだ自民党本部の関与だ。 「本部への家宅捜索」に踏み切り、資金の流れと責任の所在を明らかにできるか。問われているのは検察上層部の胆力だ』、興味深そうだ。
・『解明されるべきは党本部からの1.5億円  カネを配って票の取りまとめを頼む。よくある選挙違反だが、捜査を進める検察にとって、河井案件は通常の選挙違反と全く別物だ。背後に党本部と広島県連の亀裂があり、政権中枢の関与が疑われる。 もう一つ重要なことは、検察のトップ人事をめぐる官邸と検察の暗闘が、捜査と表裏一体になっていたことだ。 「次の検事総長は誰か」が、官邸vs検察の第一幕とすれば、河井事件で、「政党交付金がどう使われたか」の解明は、暗闘の第二幕といっていい。 昨年夏の参院選(広島選挙区)を舞台にした河井事件が単なる買収事件と違うことを象徴するニュースが「自民党本部から1億5000万円」だった。1月下旬、新聞やテレビが一斉に報じた。 河井夫妻が管理する自民党支部の銀行口座に記録が残っていたという。 「想像できない金額だ。党本部からということであれば、幹事長あるいは総裁の判断ということになる」。下村博文選挙対策委員長はテレビ番組で語った。 案里議員が争ったもう一人の自民党候補・溝手正顕氏に払われた金額の10倍の額だ。通常の選挙では考えられないことが起きていた。 あろうことか、案里氏はニュースが流れると取材に、自民党からのカネであることを認めた。大規模な買収は、自分たちだけの意思ではない、と言いたかったのかもしれない。図らずも「政権中枢の関与」の疑惑が浮上したのである。 河井夫妻が管理する自民党支部の口座記録は、他人がのぞけるものではない。家宅捜索で検察が押収した資料から見つかったものだろう。 それがメディアに流れたということは、「捜査の視野には党本部も入っているぞ」という警告めいた情報漏洩と思われる』、「党本部からということであれば、幹事長あるいは総裁の判断」、やはり「党本部」への捜査も必要な筈だ。
・『次の検事総長をめぐる官邸と検察の“暗闘”  検察はなぜ、この時点で捜査方針をうかがわせるような情報を流したのか。 1月といえば、「次の検事総長を誰にするか」で官邸と検察は大詰めの攻防を演じていた。 官邸は焦っていた。意中の人物、黒川弘務東京高検検事長は2月7日に63歳の定年を迎える。それまでに稲田伸夫検事総長が勇退しなければ、黒川氏は定年退職になってしまう。 稲田氏はこれまでの検事総長がそうだったように約2年の在任を終える夏までは職にとどまる意向だったようだ。森雅子法相らが稲田氏に「勇退圧力」を掛けていたといわれていたそんな状況下で、党本部の関与をうかがわせる1億5000万円の問題が突如、表面化した。 「強引な人事を進めるなら、政権中枢に踏み込む用意がある」と言わんばかりの反撃とも読める。いわば政権の横腹に突きつけた短刀である。 安倍政権は狼狽(ろうばい)したのか、1月31日の閣議で、黒川検事長の定年を半年延期することを決めた。検察庁法で決められた検事の定年規定を、黒川氏のために法解釈を変えて、次の検事総長に据えようとした奇策は、水面下で進んでいた官邸と検察の暗闘を世間にさらしてしまった。 「官邸は法を曲げて検察を支配下に置こうとしている」と国会やネットで議論が沸騰した。その後の展開は、ご承知の通りだ。賭けマージャン問題が発覚、黒川氏は辞任に追い込まれた。 人事をめぐる抗争は4年前から始まっていた。2016年9月、法務省事務次官だった稲田氏は、後任の次官に、黒川氏と同期入省で刑事局長をしていた林真琴氏を推挙し官邸に打診した。 官邸はこの人事案を突き返し、「次官は黒川官房長」と逆指名、検察を慌てさせた。 人事権は内閣にある。「黒川次官は1年だけ。後任は林」で内々の合意が交わされたというが、「密約」は守られず、翌年、林氏は名古屋高検検事長に出される。 官邸は黒川氏に次官を2年務めさせたあと、検察ナンバー2の東京高検検事長に据えた。「黒川検事総長」のお膳立ては整ったはずだった』、「検察」からすれば、「安部政権」からさんざん煮え湯を飲まされてきたようだ。
・『政権の誤算、克行法相辞任 買収リスト入手で捜査に弾み  今から思えば、法相に抜擢されたことが河井夫妻にとって不運の始まりだった。 首相補佐官を務めるなど安倍首相・菅官房長官に近い克行議員は、法相になるにあたって密命を受けていた。「稲田検事総長を勇退させること」。稲田氏を早々に辞めさせ、その後任に黒川氏を押し込むのが河井法相の役目だったとされる。 だが、官邸にさんざん煮え湯を飲まされてきた稲田氏は、文字通り体を張って抵抗した。2月になれば黒川氏は定年、それまで辞めない――。 官邸の安倍・菅コンビは、霞が関の幹部人事を差配することで安定政権を維持してきた。検察も例外ではないようだ。 法務省の中枢を歩むなかで政治とも呼吸を合わせてきた、いわば使いやすい黒川氏を検察トップに据えれば、首相を悩ます「桜を見る会」やその前夜祭での支持者買収や政治資金規正法違反の疑惑もすり抜けることができるだろう――。 そんな思惑で子飼いの克行代議士を法相に送り込んだのに、稲田検事総長を辞めさせる前に、克行氏自身が選挙違反で辞任へと追い込まれた。 案里議員が、安倍・菅コンビの後押しで、地元県連が擁立した溝手議員に対抗する形で出馬した広島選挙区は、分裂選挙の後遺症で、違反情報が吹き荒れ、検察は千載一遇のチャンスとばかり捜査に乗り出した。 東京・大阪の特捜部から腕利き検事を集め、1月には河井夫妻の国会議員事務所にまで踏み込んだ。買収リストや入金記録などが手に入り、捜査に弾みがついた。 興味深いのは、河井夫妻の買収捜査の序章になった案里議員の選挙でのウグイス嬢への違法な支払いも、黒川検事長の賭けマージャンも、週刊文春の“スクープ”だったことだ。 どちらも絶妙のタイミングで報じられ、検察の望む方向に局面を変えるきっかけとなった。 法務省には諜報活動を行う公安調査庁があり、人事を含め検察と密接な関係だ。官邸の情報機関で警察庁の影響下にある内閣情報室とは、微妙な間柄にある』、「そんな思惑で子飼いの克行代議士を法相に送り込んだのに、稲田検事総長を辞めさせる前に、克行氏自身が選挙違反で辞任へと追い込まれた」、安部政権にとっての最大の誤算だろう。「案里議員の選挙でのウグイス嬢への違法な支払い」は、「検察」がリークしたのが、「週刊文春の“スクープ”」につながったのだろう。
・『巨額資金を決裁できるのは安倍首相か二階幹事長しかいない  4年がかりの人事抗争は、「黒川失脚」であっけなく終わった。7月には稲田検事総長が勇退し、黒川氏の後に就任した林東京高検検事長が昇格する予定である。当初、検察が思い描いていた通りの人事が実現する。 抗争と並行して進めてきた河井夫妻の選挙違反(買収)捜査をどう着地させるか、稲田検事総長に最後に残された大仕事である。 ささくれだった官邸との関係の修復も必要という見方もある。検察は政権に近過ぎてはいけないが、禍根を残す関係は避けたい、という空気も上層部にはあるという。 政治との「手打ち」があるのか、ないのか。外部からは、わからない。こういう時こそ、懐に飛び込んで「密着取材」をしている司法記者の出番だと思うが、その話は後日にしよう。 焦点は「自民党本部の家宅捜索」だろう。 1億5000万円が党本部から振り込まれたことは、案里議員も認めている。誰が、どんな理由で決裁したのか。これほどの巨額資金を特定の候補者に注ぐことができるのは総裁つまり安倍晋三首相か、二階俊博幹事長ぐらいだ、というが、そのような了解はいつなされたのか。 なぜ案里候補だけと特別扱いされたのか。誰もが不思議に思うことだ。本来なら自民党総裁の首相が語るべきことだが、明快な説明はない。 自民党の言い分はともかくとして、資金の意図と流れを解明することは検察の使命だろう。そこがはっきりしなければ、分かっているだけで河井夫妻から計約2570万円が94人に渡されたという買収事件の全貌は分からない。 克行議員が逮捕後の取り調べで、買収資金は1億5000万円とは別の資金を使ったと供述しているとも一部で報じられているが、真相は不明だ』、「買収資金は1億5000万円とは別の資金を使ったと供述」、苦し紛れの嘘だろう。どういう「資金」かを説明できるとも思えない。
・『全容の解明には自民党本部の家宅捜査が必要  解明するには自民党本部を家宅捜索し、関係書類や記録を押収するのが捜査の手順だろう。国会議事堂向かいの議員会館にある河井夫妻の事務所に家宅捜索をかけたのと同様、段ボール箱を抱えて乗り込めばいい。 捜査手法とすれば家宅捜索は当然だが、政権党の牙城に踏み込めるか、となると検察上層部も逡巡しているようだ。 逮捕と同様、家宅捜索は捜査の手段にすぎないが、世間に与える衝撃は半端ではない。捜索を受けただけで甚だしいイメージダウンにつながり、政権に大きな打撃になる。与党は黙っていないだろう。 稲田検事総長は腹をくくれるだろうか。 仮に「家宅捜索はしない」という選択をしたらどうなるか。検察は党本部を立件しない方針だと、受け止められるだろう。 党の経理担当者などから任意で事情聴取しても聴けることは限られている。「広島選挙区で2人当選を目指すため、新たな票田を掘り起こすためにしかるべき費用が必要と考えた」、「河井夫妻が現金を配るなど考えもしなかった」などと、河井夫妻の選挙違反とは関係ないとする調書だけを作って、捜査を手仕舞いすることにならないか。 本気でこの問題を解明しようするなら、捜索令状をとり、曖昧な供述なら逮捕も辞さないという姿勢で臨まなければ真相はつかめない。党本部に強制捜査をかけないということは、事件を「広島」で終わらせる、ということだ。 だがそれで、主権者たる国民が納得するだろうか。 政権に気に入られようとして失敗して切り捨てられ、水に落ちた犬を、検察は棒でたたき、「法務大臣経験者と当選議員をそろって逮捕したのだから金星」というのであれば、検察の捜査とは何なのか、と不信を拡大させるだろう』、「稲田検事総長」は誠に微妙な立場に立たされたようだ。
・『シッポを立件して落着では「検察の独立」が泣く  「黒川問題」のキーワードは「検察の政治的独立」だった。検察幹部の任免権は内閣にあるが、政権に都合のいい人物を出世させトップに据えることがまかり通れば、捜査機関としての検察は弱体化し、政治の露払いになってしまう。 検察上層部やOBが黒川氏に懸念を抱いたのは「政治との近さ」であり、こういう人物が検察のトップになったなら、組織の士気に影響すると考えたからだろう。 「検察の政治的独立」は、捜査・立件という「結果」で示す事柄だ。安倍政権のもとで検察はどんな結果を出してきたのか。 小渕優子元経産相関連の政治資金規正法違反は不起訴にし、甘利明元経済財政相が業者から現金を受け取った都市再生機構への口利き疑惑も不起訴、首相夫人の名前が出た森友問題での近畿財務局の国有地格安払い下げも、佐川宣寿元財務省理財局長が中心になった公文書改ざんも、すべて不問に付した。 安倍政権の足元を脅かす疑惑の解明に対して、国民の少なからずが検察のやる気を疑っている。 検察は黒川問題で、官邸の圧力に耐え、念願の「林検事総長」は実現するが、所詮、人事抗争で勝ったにすぎない。官邸―黒川ラインを断ち切ったのが今回の人事抗争だとしたら、新体制は「結果を出す」ことが求められている。 検察に期待しながら裏切られてきた有権者は、「官邸vs検察第二幕」を見守っている。 「巨悪を眠らせない」のが検察の仕事なら、河井夫妻は巨悪ではない。せいぜい安倍政権の“シッポ”だ。 シッポを血祭りに上げて一件落着なら「検察の独立」が泣く』、説得力溢れる主張だ。「検察」の対応が注目点だ。

第三に、6月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「解散総選挙を今やれば、支持率低迷でも安倍自民党が圧勝する理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/241716
・『「解散風が吹き始めた」とされる昨今だが、安倍政権はコロナ対応を巡る支持率急落が連日報じられ、今選挙をやれば自民党は大敗するという予想があるようだ。しかし、早期に衆議院を解散して総選挙に打って出れば、安倍自民党は圧勝すると筆者は考えている。その理由は、世界的に台頭していたポピュリズム(大衆迎合主義)政党をコロナが吹き飛ばしたことと深い関係がある』、どういうことなのだろう。
・『安倍・麻生・菅・甘利の「3A1S」会合で永田町に解散風  安倍晋三首相が、麻生太郎副総理・財務相、菅義偉官房長官、甘利明自民党税制調査会長の3人と、約3年ぶりに会食した。このメンバーは「3A1S」と呼ばれ、かつては「真の政権中枢」と見なされてきた。新型コロナウイルスの感染拡大が一段落したことで、内閣改造や衆議院解散、憲法改正の国民投票の発議など、今後の政局を話し合ったのではないかと憶測が飛び交い始めた。 コロナ対策における「全校一斉休校」や「アベノマスク」の安倍首相独断での決定は国民から不信感を持たれた(本連載第237回)。国民を失望させた個人の現金給付や企業への休業補償、無駄なバラマキが多数含まれた「緊急経済対策」が厳しく批判された(第239回)。 検事総長や検事長らの定年を内閣の裁量で最長3年間延長できる特例を盛り込んだ「検察庁法改正案」が、ツイッターを中心とした「#検察庁法改正案に抗議します」などのハッシュタグによる反対運動で廃案に追い込まれた。そして河井克行前法相・河井案里参議院議員の逮捕と、さまざまな問題が次々と噴出して、安倍政権の不支持率は過去最高レベルに達した。 今、衆院の解散総選挙をやれば、自民党は大敗するという予想があるようだ。しかし、本稿はむしろ、早期に安倍首相が解散総選挙を断行すれば、自民党は勝利すると主張する。コロナ禍という未曽有の危機によって、安倍政権よりも野党側の方が過去にない危機的状況にある。現状を甘く考えるべきではない』、確かに内閣支持率は下がっても、野党の支持率は低迷している。
・『コロナ禍の進行と同時にポピュリズム政党が退潮している理由  新型コロナウイルスの世界的感染拡大と同時進行で起きている現象の1つは、「ポピュリズム(大衆迎合主義)政党」の退潮である。 これまで、ポピュリズムは世界を席巻してきた。2016年には、英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱が決定した。そこで大きな役割を果たしたのが、ナイジェル・ファラージ氏率いる英国独立党(United Kingdom Independence Party)だった(第217回)。米国で2017年は、移民や宗教などに対して過激な言動を繰り返したドナルド・トランプ氏が大統領選挙に勝利した(第211回)。 17年には、フランス大統領選で、極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が決選投票に勝ち残った(第162回)。ドイツ、オーストリア、スイス、イタリア、オランダ、ベルギー、スウェーデンなどさまざまな国でポピュリズム政党と呼ばれる政党がその勢力を拡大しつつあった。 一方ドイツでは19年10月、反移民政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭によって地方選で相次いで敗北を喫し、アンゲラ・メルケル首相が18年間務めたキリスト教民主同盟(CDU)の党首を辞任すると表明した。さらに、将来の首相候補として、CDU党首の座を継承したアンネグレート・クランプカレンバウアー氏は、AfDとの協力を推進すべきか否かを巡りCDUで内紛が起こり、20年2月に辞任してしまった。 ポピュリズム政党の台頭は、保守とリベラル双方の既存政党が政権獲得のために、都市部中道層の有権者の支持を得ることを優先したことで起こった。規制緩和や歳出の削減、福祉支出削減、生産性向上のための低賃金の移民受け入れなどの政策を実行し、それにそれぞれのコアな支持層が不満を募らせたのだ。類いまれなる扇動の才覚を持つポピュリストが、財政バラマキや排外主義、タカ派的な安全保障を訴え、既存政党からコアな支持層を奪っていった。 しかし、コロナ禍で状況が一変した。コロナ対策に奮闘する各国の指導者の支持率が上昇しているのだ。 CDUが混迷の極みに陥っていたドイツもそうだ。求心力を完全に失っていたメルケル首相だったが、コロナ禍への対応を通じて、支持率が3月末に79%まで劇的に急回復した。 ドイツは、コロナ対策に比較的成功した国とされている。しかし、医療崩壊といわれるほど多数の死者を出した国でも、指導者の支持率が上昇しているのは興味深い。英国のボリス・ジョンソン首相の支持率は、19年12月時点で34%、不支持率が46%だったのが、3月末になって支持率52%、不支持率26%と上昇した。 フランスも同じだ。2018年から断続的に続く「黄色いベスト運動」に苦しみ、支持率が低迷していたフランスのエマニュエル・マクロン大統領の支持率も51%に上昇した。また、イタリアでは、反移民政党「同盟」のマッテオ・サルヴィーニ氏と泥沼の抗争を繰り広げていたジュゼッペ・コンテ首相の支持率も71%に急上昇した。 コロナ禍への対応に必ずしも成功したとはいえないにもかかわらず、欧州の指導者が軒並み支持率を回復したのはなぜか。考えられる理由は、ウイルス感染拡大を食い止めるために実施したロックダウン(都市封鎖)の打撃を和らげるために打ち出した、大規模な経済支援策だ。 ドイツのメルケル政権は、経済的に困難な状況にある個人事業主や零細企業を対象とした最大500億ユーロのコロナ緊急支援策を決定した。英国のジョンソン政権は、国内総生産(GDP)の15%に当たる総額3500億ポンド(約47兆円)の経済対策を打ち出し、一時休業した労働者に対して、8割の給与を月額最大2500ポンド(約33万円)を最長3カ月補償する「雇用維持制度」を発表した。 フランスのマクロン政権は、62.5億ユーロ(約7300億円)の企業支援、3000億ユーロ(約35兆円)のローン保証を決定した。そして、イタリアのコンテ政権は、250億ユーロ(約3兆円)の医療・経済支援策を発表し、GDP比の4%に当たる4000億ユーロ(約46兆円)を企業および個人事業主の支援などに投入した。 これら欧州の各政権の大規模な経済対策の結果起こったことが、ポピュリズム政党の存在感の消滅なのだ。これまで、ポピュリズム政党が主張してきた「バラマキ政策」を、既存政党が空前絶後の規模で断行してしまった。その結果、ポピュリズム政党を支持する必要がなくなった人たちが、本来支持していた既存政党の元に戻ったのだ』、欧州では、「ポピュリズム政党が主張してきた「バラマキ政策」を、既存政党が空前絶後の規模で断行してしまった。その結果、ポピュリズム政党を支持する必要がなくなった人たちが、本来支持していた既存政党の元に戻った」、というのは確かなようだ。
・『安倍政権はコロナ対応で支持率低迷もポピュリズムの台頭は抑止してきた  一方、日本の安倍政権は、コロナ禍への対応で支持率が上昇せず、むしろ大きく下落した。しかし日本の場合は、元々ポピュリズムの台頭を自民党が抑え込んでいたという、欧州とは異なる状況がある。 この連載では、日本で左派・右派のポピュリズム政党が台頭しないのは、自民党という世界最強の「キャッチ・オール・パーティ(包括政党)」が存在しているからだと指摘してきた。いわば何でもありの自民党がポピュリズムを吸収し、毒を抜いてしまうのである(第218回)。 安倍首相率いる自民党は、「右傾化」といわれるほど保守的なスタンスを取っている。そのため、「日本会議」など保守系の団体は自民党を支持している。そこに、極右のポピュリズム政党が台頭する余地はない。 ところが、自民党が保守系団体の主張する政策を実行することはほとんどない(第144回)。自民党は保守系の支持者に対して、「日本は神の国」とか「八紘一宇」だとかリップサービスをしているが、はっきり言えば、選挙で票をもらうために、保守系団体に調子を合わせているだけにみえる。それでも、保守系団体は自民党から離れることができない。自民党の代わりに支持できる政党がないからだ。 一方、安倍首相は、第2次政権の発足直後から「アベノミクス」と呼ばれる異次元のバラマキ政策を断行した(第163回)。その後も、「働き方改革」「女性の社会進出の推進」(第177回)や事実上の移民政策である「改正出入国管理法」(第197回)など、本来は左派野党が訴えるべき社会民主主義的な傾向が強い政策ばかり打ち出してきた。 これは、自民党の伝統的な強さが発揮されたものだ。自民党は、イデオロギーなど関係なく、選挙に勝つためなら何でもあり。要は、「野党の政策を自分のものにしてしまい、それに予算をつけて実行することで、野党の支持者を奪ってしまう」のだ。 この戦略を、安倍政権は露骨なほど実行してきた。その最たるものは、消費増税によって得た財源を教育無償化や子育て支援など、現役世代へのサービスの向上に充てるとする政策だ。これは元々、前原誠司・民進党代表(当時)が主張してきた「All for All」だった。だが、安倍首相はそれをほぼそのままパクり、自らの政権公約として17年10月の解散総選挙に打って出た。政策を奪われた前原代表は混乱し、小池百合子・東京都知事率いる「希望の党」との合流騒ぎを経て、遂に民進党がバラバラに分裂することになってしまった(第169回・P3)。 一見保守的な安倍政権は、政策的にどんどん左に張り出して、左派野党の政策的な居場所を奪っていったのである。旧民進党系の国民民主党・立憲民主党や社民党は、存在感をなくしていった。新しい左派ポピュリスト政党である山本太郎氏率いる「れいわ新選組」が登場したが、「消費税ゼロパーセント」という、絶対に自民党が言えない非現実的なことをアピールするしかないところまで、追いやられてしまったのだ。 要するに、安倍政権は保守から左派まで幅広い支持層を取り込んで、ポピュリズム政党が台頭する余地を塞ぎ、安定した支持率を確保していた。だから欧州のように、元々不人気でバラマキを始めた途端に政権の支持率が急上昇する、というようなことは起きなかったのだ。 日本国民にとって、バラマキは特段珍しいことではなかったといえる。むしろ、コロナ対策の意思決定の稚拙さが目立つことになった。緊急経済対策は、欧州と比較して、一長一短というのが公平な評価だろう(第239回・P4)。だが、欠陥ばかりが厳しく批判されることになってしまい、結果として安倍政権の支持率が大きく下がることになったのだ』、「一見保守的な安倍政権は、政策的にどんどん左に張り出して、左派野党の政策的な居場所を奪っていった」、のは確かだが、「緊急経済対策は、欧州と比較して、一長一短というのが公平な評価」、には違和感がある。私は短所の方が多いと感じている。
・『欧州と日本の共通点 政権与党だけに国民の注目が集中  それでも、欧州と日本には共通点もある。それは、よくも悪くも政権与党だけに国民の注目が集中していることである。コロナ禍という未曽有の危機において、国民の関心は「どのようにわれわれを救ってくれるのか」だけだ。それができるのは、政権与党だけだからだ。 各種世論調査で安倍政権の不支持率が50%を超え、メディアやSNS上で、安倍政権への批判は、過去にないほど厳しいものになっている。安倍政権にとって、最悪な状況のように思えるが、一方で野党の支持率はまったく上がらない。野党の存在感の低下もまた、過去にないほど深刻である。 特に、「れいわ新選組」の存在感低下は深刻だ。コロナ禍が始まってから、山本太郎代表の動向はまったくといっていいほど話題にならなかった。山本代表が東京都知事選への立候補を表明した時、「そういえば、この人どこにいたの?」と率直に思った人は少なくなかったはずだ。 むしろ、コロナ禍において安倍政権の「対抗軸」のような立場になったのは、左派野党ではなく、小池都知事や吉村洋文・大阪府知事、鈴木直道・北海道知事など、地方自治体の首長だった(第240回)。コロナ対策で地方が示した実行力は、「なんでも反対」の左派野党よりも、国民に対して圧倒的な説得力を持っている』、「欧州と日本の共通点 政権与党だけに国民の注目が集中」、これは一般的に危機が「政権与党」に有利に働くということなのだろう。
・『野党つぶしの切り札となる「禁断の政策」とは?  この状況を考えれば、安倍首相は解散総選挙に打って出るべきだろう。さまざまな批判にさらされて、安倍政権は求心力を失っている。「政権末期」だという声も聞かれる。だからこそ、安倍首相がもう一度力を得て「レガシー(遺産)」を打ち立てたいならば、総選挙に勝つしかない。 勝算は十分にあると思う。繰り返すが、コロナ禍という未曽有の危機において、国民を救うためにカネを出せるのは政府だけなのだ。たとえ、1次補正・2次補正予算の評判が芳しくなかったとしても、追加でどんどんカネを出して国民の要求に応えることができるのだ。 自民党は、緊急経済対策で、「一律現金給付」という大衆迎合政策に踏み込んでしまい、経済財政運営のタガが完全に外れてしまったように見える(第244回・P6)。自民党が解散総選挙を断行し、容赦なく追加の支援策を異次元に積み上げたら、野党は手も足も出なくなる。 安倍政権による野党つぶしの切り札は、「消費税ゼロパーセント」である。絶対に自民党がパクれないはずだったものだ。それを、あえて安倍政権がパクって公約にしてしまうのだ。野党が訴えられる政策は何もなくなってしまう。 麻生財務相は、「消費減税は考えていない」と繰り返し発言している。もちろん、恒久的な消費減税は難しいだろう。だが、緊急経済対策として期限を区切って消費税を凍結することは、十分あり得る。 世界保健機関(WHO)が中国寄りと見るや、即座に拠出金増額を決めて、WHOの日本への支持を取り付けた麻生財務相だ(第236回・P3)。その政治的な勘で、野党潰しに豹変することはあり得るだろう。 コロナ禍を理由に際限のないバラマキを行うことには、将来世代に過大なる国家の借金返済の負担を負わせることになり、筆者は基本的に反対だ(第133回)。だが、安倍政権は権力を握るためにちゅうちょなくそれをやりかねない。 そして、国民は現在の危機を乗り越えることに必死で、将来のことなど考える余裕はない。自民党がバラマキをやれば、国民は歓迎するはず(第163回)。筆者が言いたいことは、野党はそうした事態を想定した危機感を持つべきだということだ』、「緊急経済対策として期限を区切って消費税を凍結」、という奇策に頼らなくても自民党が勝利する可能性が高いので、敢えてそんな奇策を打ち出す必要はないと思う。「上久保氏」の自民党への政策売り込みの臭いが濃厚だ。
・『安倍政権が信頼を取り戻すには来年の「内閣総辞職」宣言  そして、安倍政権に対するさまざまな批判を乗り越える策もある。それは、「来年9月の自民党総裁任期の満了をもって、内閣総辞職する」と首相自ら宣言することだ。国民は、安倍政権が退陣した時、その後継が野党による政権になると思っていない。 「ポスト安倍」は、石破茂元幹事長か、岸田文雄政調会長か、菅義偉官房長官が有力だろう。あるいは第4の候補が出てくるかもしれない。だが、いずれにせよ「自民党政権」が継続すると大多数の国民は淡々と受け止めている。だから、安倍首相自身が退陣する時期をはっきりと決めれば、首相に対する感情的な反発は薄れる。選挙では「ポスト安倍」候補に関心が集まり、安倍政権への批判票は減るだろう。 もちろん、退陣の時期を明らかにすると、政権は「死に体」に陥るという懸念はある。だが、小泉純一郎首相が05年の総選挙で大勝した後、「1年後の自民党総裁任期の満了をもって首相を退任する」と宣言しても強い求心力を維持した前例がある。そのときは、安倍官房長官、麻生外相、谷垣禎一財務相(いずれも肩書は当時)らに「ポスト小泉」を競わせることで、それを可能にしたのだ。 政権のレガシーとなるような政策を打ち上げて、その実現を「ポスト安倍」候補に競わせる。そうしたならば、退陣の時期を表明しても安倍首相は再び求心力を得ることができるのではないだろうか。 何よりも、数々の権力の私的乱用で失った信頼を取り戻したいならば、「自分は権力に恋々としない。あと1年で内閣総辞職する」と国民に対して宣言するしかない。これ以上権力の私的乱用は行わないということを、究極的な形で国民に示すしかないということだ』、「来年の「内閣総辞職」宣言」をしたところで、政治家の口約束を多くの国民は信じないのではなかろうか。
・『残念ながら野党は壊滅的敗北を喫する可能性が高い  この連載では、安倍政権を巡って二つのことを徹底的に批判してきた。一つは、お坊ちゃま首相が「身内」と「お友達」を徹底して守る権力の私的乱用を続け、国民の信頼を失っていること。もう一つは、そのお坊ちゃま首相を支えるために、エリート官僚が破棄、隠蔽、偽造などの不正に手を染めなければならなくなる「逆学歴社会」ともいうべき理不尽な状況だ(第233回)。 もう、国民がまじめに頑張る気力を失ってしまうようなこんな社会は、終わりにしたいものだ。故に、本当は野党に頑張ってもらって、安倍政権を倒してもらいたい。しかし、もし安倍首相が解散総選挙を断行したら、残念ながら野党は壊滅的な敗北を喫する可能性が高い。野党は、非常に厳しい状況にあるということを認識すべきと、強く警告しておきたい』、確かに「野党」は自民党とどう戦うかを真剣に考え直してもらいたい。

第四に、6月30日付けPRESIDENT Onlineが掲載したジャーナリストの元木 昌彦氏による「「そして誰も忖度しなくなった」政権崩壊がはじまった安倍首相の落日 河野大臣「私はやりたくありません」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/36671
・『安倍首相はその言葉に驚きを隠せなかった  安倍政権崩壊確実で「下剋上」が始まった。 その象徴が、河野太郎防衛相が「迎撃ミサイルシステム」の停止を、安倍に相談せず独断で決定したことだろう。 安倍首相は、河野から「私はやりたくありません」と聞いて、驚きを隠せなかったといわれる。 「陸上イージスの導入を撤回すれば、ミサイル防衛を根本から見直さなければならない。政府には導入によって、イージス艦乗組員の負担を軽減するねらいもあった。さらに米側とは契約済みだ。撤回すれば『バイ・アメリカン(米国製品を買おう)』を掲げるトランプ大統領の怒りを買う恐れもある。 『河野さんも外務大臣やったんだから、状況は分かってるよね?』。首相は河野氏が口にした問題の大きさを示すように念押し」(朝日新聞デジタル 6月25日 5時00分)したといわれる。 だが、河野は安倍のいうことに耳を貸さなかった。河野が停止する理由として、迎撃ミサイルを打ち上げた際、切り離したブースター(推進装置)を演習場内に落とすことができず、周辺に被害が及ぶことが判明したことと、それを改修するには、約10年、2000億円にも及ぶ時間とコストがかかるということだった』、「河野太郎防衛相が「迎撃ミサイルシステム」の停止を、安倍に相談せず独断で決定」、とは初めて知った。「河野」もたまにはいいことをするものだ
・『費用を追加しないと機能しない欠陥品だった  だが、週刊文春(7/2号)の中で、元海将で金沢工業大学虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授がいっているように、迎撃ミサイルを撃つのは、「核ミサイルが撃たれて、その核爆発を止められるか否かの瀬戸際の時です。モノが民家に落ちる危険と比べることには意味がない」という意見に頷けるところもある。 さらに、米国側と約1800億円で契約済みであるため、それをどぶに捨てることになりかねない。それでも河野が決断できた背景には、文春が入手したディープスロートからの「A4判2枚のペーパー」に書かれた衝撃的な“事実”があったからだというのである。 昨年3月下旬に防衛省外局の防衛整備庁職員が輸入代理店の三菱商事社員らと共に、アメリカのロッキード・マーチン社を訪れていた。彼らがその後に提出した報告書には、「LRDR(長距離識別レーダー)自体には射撃管制能力はない」と書かれていたというのである。 先の伊藤教授によれば、射撃管制能力というのは迎撃ミサイルを目標に誘導する能力で、イージス・システムはレーダーと、目標へ自らの武器を誘導する“神経”が一体化しているそうだが、その肝心かなめの神経がないというのだ。そのために、追加で莫大な費用をかけて別システムを組み合わせる必要がある重大な欠陥商品なのだ。 しかし、この報告書は、当時、防衛大臣だった岩屋毅を含めた防衛省上層部には届いていなかった。当時の深山延暁防衛装備庁長官は文春に対して、「それってもうイージス・システムじゃないじゃん! そんな報告があった記憶はない」と驚きを隠さない』、「防衛省外局の防衛整備庁職員」らが「提出した報告書」に、「射撃管制能力はない」と書かれていたとは驚かされた。さらに、それ以上に驚いたのは、「報告書」が「防衛省上層部には届いていなかった」、かねて防衛省の情報伝達には重大な問題があったが、これも超ど級の問題だ。
・『無知蒙昧とはこのことだ  ふざけた話である。そもそもこれは、防衛省から要求したものではなく、安倍首相がトランプ大統領に押し付けられ、仕方なく引き受けることになったのだ。 無用の長物に莫大な血税をつぎ込んだ責任は、間違いなく安倍首相にある。安倍や安倍の周辺が、この不都合な報告書を何らかの形で“隠蔽”したと考えても、無理筋ではないのではないか。 だが安倍首相は、トランプが再選されない可能性が高くなってきたことと、この配備停止を大義名分にして解散を目論んでいるといわれているそうだ。無知蒙昧とはこういう人間を指す言葉である。 森友学園や加計学園問題、公職選挙法違反の疑いが濃い「桜を見る会」前夜の夕食会問題から、憲法を踏みにじる集団的自衛権の容認、理想もリーダーシップもないトランプ大統領への媚びへつらいなどなど、安倍自身に関わる数多くの疑惑に、数え切れないほどの閣僚たちの失言・暴言、日銀、NHKの人事への介入や言論・表現の自由を委縮させる発言、新型コロナウイルス感染対策の数々の失敗、持続化給付金事業に代表されるように、官僚と電通の癒着構造など、安倍のやってきた“悪行”は数えきれないほどある』、「安倍や安倍の周辺が、この不都合な報告書を何らかの形で“隠蔽”したと考えても、無理筋ではないのではないか」、とすると問題は防衛省ではなく、官邸にあるようだ。「トランプが再選されない可能性が高くなってきた」、にしても、米国政府や「ロッキード・マーチン社」は契約不履行を問題視するだろう。
・『「権力闘争のおもちゃにされてしまって…」  その集大成ともいうべき究極の事例が、河井克行元法相と妻・案里が「公選法違反(買収)容疑」で逮捕されたことである。 安倍に批判的な溝手顕正を落とそうと、案里を強引に立候補させ、安倍自らが指示したとされる、自民党から1億5000万円を選挙費用として渡したのである。 河井夫妻は、その巨額なカネを地元の実力者たちに大盤振る舞いし、選挙のウグイス嬢たちにも違法に高い謝礼を払っていたのである。 逮捕前、案里は文春でノンフィクション・ライターの常井健一のインタビューに答え、「権力闘争のおもちゃにされてしまって、権力の恐ろしさを痛感します。(中略)岸田(文雄)さんと菅(義偉)さんの覇権争い、岸田派と二階派(案里氏の所属派閥)の争い、検察と官邸の対立……。そういう中で“消費される対象”として擦り減っちゃった」と告白している。 50近い女性が、安倍の掌で転がされていたと、今頃気づくとはお粗末だが、安倍の持ち駒の一つで、自分に累が及びそうになってきたので、切り捨てられたのは間違いない』、「案里」が「権力闘争のおもちゃにされてしまって、権力の恐ろしさを痛感します」、と述懐したとは、喜劇的だ。
・『今のような低次元な政権がかつてあったか  私は、政治記者でも評論家でもないが、長く生きてきた分、永田町という魔界で蠢うごめいてきた政治家たちを見てきた。 今の政権のような醜い低次元なものが、かつてあっただろうかと考えてみた。金権政治、ゼネコン政治と批判された田中角栄は、カネにモノをいわせて日本中を掘り起こして環境破壊したが、裏日本といわれていた新潟に上越新幹線を通すなど、情のある政治家でもあった。 佐藤栄作という政治家も国民から嫌われたが、実態はともかく、沖縄をアメリカから返還させた。小泉純一郎は、竹中平蔵と組んでやみくもに新自由主義を広め、派遣法を改正して非正規社員を激増させた。今日の格差社会をつくったという意味では、ろくなものではなかったから、現政権と近いかもしれない。 だがもっと似ている醜悪な政権を思い出した。第1次安倍政権である。 「美しい国づくり」というスローガンを掲げて登場したが、年金記録問題に象徴されるように、醜い国づくりに終始した。 また、佐田玄一郎国・地方行政改革担当大臣の事務所費問題、松岡利勝農林水産大臣の自殺、赤城徳彦農林水産大臣の事務所費問題、久間章生防衛大臣の「原爆投下はしょうがない」発言など、わずか1年の間に閣僚の不祥事・失言が多発した。 結局は、自身の病を理由に、政権をほっぽり出してしまったのである』、確かに「第1次安倍政権」も酷かったが、今回はこれをも上回る酷さだ。
・『反旗を翻す役人たちが続々現れている  再登場してからは、前回の“反省”を踏まえ、官僚の人事権を官邸が握り、日銀、NHKに自分の傀儡を据え、電通をこれまで以上に優遇して、マスコミをコントロールさせたのである。 野党、特に第1党の立憲民主党の枝野幸男代表のだらしなさもあって、選挙戦を勝ち続け、一強とまでいわれるほどの強力な政権をつくり上げた。 だが、かつて自民党のプリンスといわれ、斡旋収賄罪で実刑を受けたにもかかわらず、当選を続けている“無敗の男”中村喜四郎衆院議員が安倍政権を評してこういっている。 「安倍政権の一番の功績は、国民に政治を諦めさせたことだ」 だが、さすがの安倍政権にも最後の時がきたようである。それを示す動きは、先に書いた河野防衛相の叛乱はんらんのほかにいくつもある。 週刊ポスト(6/12・19号)が「霞が関クーデターの全内幕『さよなら安倍総理』」というタイトルを付けてこう書いている。 このところ、安倍に反旗を翻す役人たちが続々現れているのは、安倍の最後が近いからだというのである。 記者たちとの賭け麻雀が明るみに出て、黒川弘務東京高検検事長が処分されたが、「訓戒」というあまりにも軽い処罰に、批判が巻き起こった。 すると安倍は、これは稲田伸夫検事総長が行ったのだと逃げようとしたが、早速、共同通信が、法務省は懲戒が相当と判断していたのに、官邸が訓告にしたとすっぱ抜いた。 さらに、当の稲田検事総長がTBSの単独インタビューに出て、自身の処分への関与を否定したのだから、前代未聞の事態である』、「稲田検事総長が・・・自身の処分への関与を否定」は確かに「安倍」のいいかげんな「嘘」を余すところなく示した。
・『次に暴かれるのは「桜を見る会」の名簿か  安倍が肩入れして、早く承認しろとごり押ししていた新型コロナウイルスの治療薬「アビガン」だが、厚生労働省が、副作用などのこともあり、早期承認には反対していた。 これも共同通信が、「明確な有効性が示されていない」と報じ、5月中の承認は断念するに至った。これは厚労省側からのリークだといわれているそうだ。 やはり安倍が押し進めようとしていた「9月入学」も、文部科学省が、家計の負担が3.9兆円にのぼるという試算を発表し、見送りになった。 これまでなら「忖度」という2文字でいいなりになっていた役人たちが掌を返し、安倍を追い落とせとばかりに攻勢をかけているというのである。 次に暴かれるのが、安倍と妻の昭恵が招いた、「桜を見る会」の招待者名簿ではないかと、週刊ポストは書いている。これは、機密指定されてはいない資料だから、官邸は破棄したといっても、どの役所も名簿を持っているというのである。これをメディアに流せば、安倍はご臨終というわけだ。 長いだけが唯一の“勲章”だった安倍政権の崩壊へのカウントダウンが始まっている。それを水面下で推し進めているのが、人事権をちらつかせていうことを聞かせてきた官僚たちだというのも皮肉な話である。 ここへきて、電通と省庁との癒着構造が明るみに出てきているのも、政権が弱体化したことの証左であろう』、「これまでなら「忖度」という2文字でいいなりになっていた役人たちが掌を返し、安倍を追い落とせとばかりに攻勢をかけている」、「どの役所も名簿を持っているというのである。これをメディアに流せば、安倍はご臨終というわけだ」、楽しみが増えた。
・『「コロナまで利用して金儲けしようとしているのか」  電通と政治との腐れ縁は長い。田原総一朗は著書『電通』の中で、主権回復後の1952年10月の選挙で電通が、日米安保条約の必要性を国民に理解させ、吉田茂の自由党への共感を深めさせる戦略を担ったと書いている。 週刊文春(6/11号)は「安倍『血税乱費』コロナ2兆円給付金を貪る幽霊法人の裏に経産省」というタイトルで、経産省と電通の癒着構造を報じた。 私は以前から、電通という会社を国策会社だと考えている。国策会社というのは「主に満州事変後、第二次大戦終了までに、国策を推進するため、政府の援助・指導によって設立された半官半民の会社」である。 もっとも電通側にいわせれば、「オレたちが国を操っている」というかもしれないが。 東京五輪招致は、電通の人間がIOC(国際オリンピック委員会)理事に巨額の賄賂を渡して成功させたという疑惑が色濃くある。 自民党の選挙広報のほとんどを担っているのも、原発の安全神話を作り出したのも電通である。安倍首相の妻・昭恵が結婚前にいたのも電通の新聞雑誌局であった。 今さら、電通と安倍官邸、官僚たちとの“癒着構造”など珍しくもない。だが、今回、文春が報じたのは、新型コロナウイルス不況で困っている中小、個人事業者向けの「持続化給付金」の給付業務を769億円で国と契約した「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」(以下サ協)が幽霊法人で、749億円分の事業が電通に丸投げされていたという疑惑なのである。お前たちはコロナまで利用して金儲けしようとしているのかと非難轟々だ』、「主権回復後の1952年10月の選挙で電通が、日米安保条約の必要性を国民に理解させ、吉田茂の自由党への共感を深めさせる戦略を担った」、ずいぶん昔から密接な関係があったようだ。「お前たちはコロナまで利用して金儲けしようとしているのかと非難轟々だ」、当然である。
・『事業公募日とサ協の設立日が同じ日付  この協議会を運営するのはAという元電通社員(後に平川健司と実名で報道)。文春によれば、このサ協は経産省の「おもてなし」事業を公募で落札しているが、「不可解なことに公募の開始日と団体の設立日が全く同じ日付」(代理店関係者)で、設立時に代表理事を務めていた赤池学も「経産省の方から立ち上げの時に受けてもらえないか」と打診を受けたと証言しているのだ。 要は、経産省と電通との出来レースということだ。こんなことを、多くの国民が不自由な生活を強いられている時に、よくできたものだ。 当然ながら、こうしたことをやるためにはキーパーソンがいる。それは、前田泰宏中小企業庁長官だと、文春は名指しする。ここは持続化給付金を所管しているし、前田の人脈の中にAもいる。 Aは、「政府がコロナ収束後に向けて1兆7000億円という破格の予算を計上した需要喚起策・GoToキャンペーンの運営を取り仕切る」(電通関係者)ともいわれているそうである。 同志社大学政策学部の真山達志教授のいうように、「電通などへの委託には不透明なところがあり、さらに役所と事業者の間に個人的関係まであるならば、さらなる疑惑を持たれるのは当然」である』、「電通」が「役所」に政策提案して、「委託」しているのだろうから、「入札」しても形式に過ぎないのだろう。
・『「ズブズブ」だったのが、一体化している  博報堂出身で作家の本間龍が雑誌「月刊日本」で、経産省は過去にもIT導入支援やIT補助金事業をサ協に受注し、電通が再委託していると書いている。昨年の消費税率アップの際も、キャッシュレス決済のポイント還元事業でも「一般社団法人キャッシュレス推進協議会」に発注して、電通に再委託されたという。 政府広報費も、2014年に約65億円だったのが2015年度には約83億円に増額され、その約半分が電通に流れているそうである。電通を安倍が優遇するのはなぜか? 「マスコミをコントロールして政権を支えているからです。安倍政権は、メディアの政権批判を封じる上で、電通に頼らざるを得ません」(本間) 以前から自民党と電通はズブズブの関係だったが、安倍政権になって「一体化」しているようだ。 その関係が明るみに出てきたのは、安倍に反旗を翻す人間、官僚かまたは官邸の内情をよく知る人物が情報をリークしているからであろう。新聞やテレビは、電通に関わるスキャンダルはやらない。ゆえに文春砲へ持って行ったのではないか』、「以前から自民党と電通はズブズブの関係だったが、安倍政権になって「一体化」しているようだ」、「安倍に反旗を翻す人間、官僚かまたは官邸の内情をよく知る人物が情報をリークしているからであろう。新聞やテレビは、電通に関わるスキャンダルはやらない。ゆえに文春砲へ持って行ったのではないか」、「文春砲」がよく轟くようになった一ンが分かった気がする。
・『トランプ大統領落選がダメ押しになるか  そして、安倍政権崩壊の最後のダメ押しは、11月に予定されているアメリカ大統領選で、トランプが民主党のバイデンに敗れることである。 「米国のポチ総理」といわれ、トランプの威を借りて外遊を続けていた安倍は、トランプの度はずれたアメリカ第一主義に異を唱える欧米各国首脳から冷ややかな目で見られていた。 その後ろ盾がいなくなれば、トランプと一蓮托生と見ていた首脳たちは、安倍のいうことなど聞かなくなる。中国の習近平も同様であろう。 かくして、長くやっただけで、国民の暮らしなどに寄り添おうともしなかった安倍政権は、崩壊した途端、悪夢になって誰も振り返らなくなる。 Wikipediaには後年、こう書かれるだろう。 「第1次、第2次安倍政権は、長期政権だったことを除けば、アベノミクスは無残に失敗し、国民の年金積立金を株に投資してこれまた失敗。そのうえトランプ大統領のいうがままに無用な戦闘機などを大量に買わされたため、国の財政を破綻寸前まで追い込んだ戦後の歴代最悪の政権である」(文中敬称略)』、「長くやっただけで、国民の暮らしなどに寄り添おうともしなかった安倍政権は、崩壊した途端、悪夢になって誰も振り返らなくなる」、とは言い得て妙だ。
タグ:選挙や選挙違反の摘発のあり方に今後、非常に大きな影響を与えるでしょう。公職選挙法の趣旨から、買収罪を適用するべきです AERAdot (その47)(検察の本命は「自民党の交付罪」立件だ 河井夫妻事件で専門家が指摘、河井前法相夫妻は“アベノシッポ” 切って終わりなら「検察の独立」が泣く、解散総選挙を今やれば 支持率低迷でも安倍自民党が圧勝する理由、「そして誰も忖度しなくなった」政権崩壊がはじまった安倍首相の落日 河野大臣「私はやりたくありません」) 逮捕容疑となる行為が選挙の3カ月以上前から始まっていた 日本の政治情勢 長くやっただけで、国民の暮らしなどに寄り添おうともしなかった安倍政権は、崩壊した途端、悪夢になって誰も振り返らなくなる トランプ大統領落選がダメ押しになるか 「ズブズブ」だったのが、一体化している 事業公募日とサ協の設立日が同じ日付 1952年10月の選挙で電通が、日米安保条約の必要性を国民に理解させ、吉田茂の自由党への共感を深めさせる戦略を担った 電通と政治との腐れ縁は長い コロナまで利用して金儲けしようとしているのか 次に暴かれるのは「桜を見る会」の名簿か 反旗を翻す役人たちが続々現れている 今のような低次元な政権がかつてあったか 権力闘争のおもちゃにされてしまって… 無知蒙昧とはこのことだ 「LRDR(長距離識別レーダー)自体には射撃管制能力はない」 防衛省外局の防衛整備庁職員が輸入代理店の三菱商事社員らと共に、アメリカのロッキード・マーチン社を訪れていた。彼らがその後に提出した報告書 費用を追加しないと機能しない欠陥品だった 河野太郎防衛相が「迎撃ミサイルシステム」の停止を、安倍に相談せず独断で決定 安倍首相はその言葉に驚きを隠せなかった 「「そして誰も忖度しなくなった」政権崩壊がはじまった安倍首相の落日 河野大臣「私はやりたくありません」」 元木 昌彦 PRESIDENT ONLINE 残念ながら野党は壊滅的敗北を喫する可能性が高い 安倍政権が信頼を取り戻すには来年の「内閣総辞職」宣言 郷原信郎 ポピュリズム政党が主張してきた「バラマキ政策」を、既存政党が空前絶後の規模で断行してしまった。その結果、ポピュリズム政党を支持する必要がなくなった人たちが、本来支持していた既存政党の元に戻った 各政権の大規模な経済対策の結果起こったことが、ポピュリズム政党の存在感の消滅 ロックダウン(都市封鎖)の打撃を和らげるために打ち出した、大規模な経済支援策 コロナ禍で状況が一変した。コロナ対策に奮闘する各国の指導者の支持率が上昇 コロナ禍の進行と同時にポピュリズム政党が退潮している理由 安倍・麻生・菅・甘利の「3A1S」会合で永田町に解散風 「解散総選挙を今やれば、支持率低迷でも安倍自民党が圧勝する理由」 上久保誠人 「巨悪を眠らせない」のが検察の仕事なら、河井夫妻は巨悪ではない。せいぜい安倍政権の“シッポ”だ。 シッポを血祭りに上げて一件落着なら「検察の独立」が泣く 黒川問題 シッポを立件して落着では「検察の独立」が泣く 全容の解明には自民党本部の家宅捜査が必要 巨額資金を決裁できるのは安倍首相か二階幹事長しかいない 週刊文春の“スクープ” 「検察」がリーク 案里議員の選挙でのウグイス嬢への違法な支払い そんな思惑で子飼いの克行代議士を法相に送り込んだのに、稲田検事総長を辞めさせる前に、克行氏自身が選挙違反で辞任へと追い込まれた 政権の誤算、克行法相辞任 買収リスト入手で捜査に弾み 次の検事総長をめぐる官邸と検察の“暗闘” 「検察の本命は「自民党の交付罪」立件だ 河井夫妻事件で専門家が指摘」 党本部からということであれば、幹事長あるいは総裁の判断 解明されるべきは党本部からの1.5億円 「本部への家宅捜索」に踏み切り、資金の流れと責任の所在を明らかにできるか。問われているのは検察上層部の胆力だ 前法相と妻の買収疑惑に切り込んだ検察が狙う「本丸」は、権力の中枢・自民党本部を公職選挙法の「交付罪」で立件すること 「河井前法相夫妻は“アベノシッポ”、切って終わりなら「検察の独立」が泣く」 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン 公職選挙法の「交付罪」の適用があり得る
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