医薬品(製薬業)(その8)(偽薬でも効果「プラセボ効果」 脳では何が起こっている? 脳は暗示にかかりやすい 仕組みを生かせば気持ちも切り替えやすくなる、医薬品開発の大手 シミックとEPSの相次ぐ上場廃止で浮上する「2つの懸念」とは?、医薬品を不正製造した原薬メーカー「嘘なんですけど」と社内会議で笑い声…“隠蔽工作”の呆れた実態) [産業動向]
医薬品(製薬業)については、昨年5月26日に取上げた。今日は、(その8)(偽薬でも効果「プラセボ効果」 脳では何が起こっている? 脳は暗示にかかりやすい 仕組みを生かせば気持ちも切り替えやすくなる、医薬品開発の大手 シミックとEPSの相次ぐ上場廃止で浮上する「2つの懸念」とは?、医薬品を不正製造した原薬メーカー「嘘なんですけど」と社内会議で笑い声…“隠蔽工作”の呆れた実態)である。
先ずは、昨年8月14日付け日経ビジネスオンライン「偽薬でも効果「プラセボ効果」 脳では何が起こっている? 脳は暗示にかかりやすい。仕組みを生かせば気持ちも切り替えやすくなる」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00283/041400193/
・『偽物の薬を飲んでも効果が表れるという「プラセボ効果」。薬としての効果を持たないはずなのに効果が出るわけで、患者の期待効果などが影響しているといわれる。反対に、不信感があると有害な作用が出ることもある(これを「ノセボ効果」という)。これらの働きには「いい暗示」「悪い暗示」が関わっているという。さらに、この仕組みを上手に応用すれば、私たちは日常で気持ちを切り替えたり、健康になることにつなげられるかもしれない。公立諏訪東京理科大学工学部教授で脳科学者の篠原菊紀さんに、プラセボ効果と脳の関係について聞いた(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『「効く」と期待するときの“快”がドーパミンを活性化する Q:本来、薬効がないにもかかわらず、効果が表れるというのは不思議ではありますが、実際、体調が悪いときなどに薬を飲むとそれだけで安心することがあります。「病は気から」ではないですが、精神的なものは体調にも影響するのだなと改めて思います。今回は、「プラセボ効果」について、脳科学の視点で教えていただきたいです。 篠原さん:「プラセボ効果」というのは、実際には薬効のない薬剤(本物の薬と同様の外見、味、重さをしているが有効成分は入っていない偽薬)でも本当に効果が表れることを言います。ちなみにプラセボとはラテン語で、「私は喜ばせる」を意味します。 反対に、薬や、担当医師などへの不信感があると、薬剤の効果が落ちてしまったり、有害な副作用が表れることもあります。これを「ノセボ効果」と言います。プラセボ効果もノセボ効果も、医療においてはその治療効果に影響を及ぼすため、これまでに、いろいろな研究が行われています。 脳の仕組みでいうと、例えばサプリメントなどを飲んで、「朝の目覚めがいい」とか「これを飲み始めてから元気になった気がする」、というような“快”を感じているときには、脳において報酬系の活動が高まっています。痛みが和らぐ、というときにも報酬系のドーパミンが活性化することによって痛みをマスキングしていると考えられています。2020年に掲載された論文では、プラセボ効果にはドーパミンの他、愛着と関わるオキシトシンやバソプレシンといったホルモンの放出も関わっているのではないかと考察されています(*1)。 Q:偽薬なのに痛みが改善する、というのは不思議なことに思えます。 篠原さん:イスラエルで片頭痛患者66人を対象にした実験があります。治療薬の名前を表示したプラセボ(偽薬)と、プラセボと表示された治療薬、いずれにおいても頭痛は軽減しました。面白いのは、プラセボと表示されたプラセボでも、何もしないよりは痛みが緩和したのです(グラフ)。 Q:プラセボを「本当の薬」と言われて飲むときにはこちらの期待度も高くなり、それが「快」の刺激となり効果が出やすくなるのはわかるような気がしますが、「本物かプラセボかわからない」状態でも、薬を飲むという行為だけで痛みが軽減されるとは! 篠原さん:ドーパミン神経は騙されやすいところがあるのです。「薬がうんと効くと思っている人は実際に効果も出やすい。あまり効かないと思っている人はあまり効かない。その期待レベルと脳のドーパミン活動も相関する」という研究もあります。思い込みが強い、信じる度合いの大きい人のほうが、プラセボ効果は表れやすいと言えそうです。 性格傾向で言うと、協調性の高い人、俗に言う“素直”な人ほど効きやすい、という報告もあります。 *1 N Engl J Med. 2020 Feb 6;382(6):554-561.』、「「プラセボ効果」というのは、実際には薬効のない薬剤・・・でも本当に効果が表れることを言います。ちなみにプラセボとはラテン語で、「私は喜ばせる」を意味します。 反対に、薬や、担当医師などへの不信感があると、薬剤の効果が落ちてしまったり、有害な副作用が表れることもあります。これを「ノセボ効果」と言います」、「ノセボ効果」は初めて知った。「プラセボを「本当の薬」と言われて飲むときにはこちらの期待度も高くなり、それが「快」の刺激となり効果が出やすくなるのはわかるような気がしますが、「本物かプラセボかわからない」状態でも、薬を飲むという行為だけで痛みが軽減されるとは!・・・ドーパミン神経は騙されやすいところがあるのです。「薬がうんと効くと思っている人は実際に効果も出やすい。あまり効かないと思っている人はあまり効かない。その期待レベルと脳のドーパミン活動も相関する」という研究もあります。思い込みが強い、信じる度合いの大きい人のほうが、プラセボ効果は表れやすいと言えそうです。 性格傾向で言うと、協調性の高い人、俗に言う“素直”な人ほど効きやすい、という報告もあります」、私は懐疑的なので、「プラセボ効果は表れ」難いのかも知れない。
・『「良くない暗示」が寿命や健康にも影響を与えることがある Q:一方で、「ノセボ効果」も気になります。これは、むしろマイナスに引っ張られる反応ですよね。 篠原さん:ノセボ効果というのはプラセボ効果の逆で、嫌なことが起こるよ、と言うと本当に起こる、痛くなるよと言われると痛くなる、というものです。ノセボの場合、快楽系のドーパミン系ではなく、恐怖や怒り、不安などに関わる脳内神経伝達物質のノルアドレナリンが関わり、対象への注意水準が上がって嫌なことを拾いやすくなると言われています。 睡眠改善アプリを使って自分の状態の観察を熱心にし過ぎるとかえって不調を抱えやすくなる、という研究もあります。古い心理用語では「カリギュラ効果」というものがあり、見るな、と言われるほど見たくなるという心理現象もノセボの仕組みに少し似ています。 高齢者を対象にしたこんな研究があります。 年齢とともに、記憶した事柄を思い出す「記憶再生力」は低下しますが、覚えた事柄を含むリストを見せて正解を選ばせる「記憶再認テスト」のほうはあまり低下しない、と言われます。知っているという意識はあり、それを見せれば当てられる、というのは「あれ、これ、それ」が増えるけれど、候補を出せば正解がわかる、ということです。 ところが、高齢者に「加齢とともに認知機能は低下します」という講義を行い、その後に認知機能テストを行うと、「再認テスト」の成績が落ちてしまう、と報告されたのです。「高齢になると認知機能が落ちる」という、いわば良くない暗示をかけられると、実際に成績が落ちてしまうのです。 50代の健康な人を対象に、「年を取ることに否定的な考えを持つ群」「肯定的な考えを持つ群」で40年間追跡すると、否定的な群のほうが心血管障害が起きやすかった、逆に、肯定的な群は否定的な群に比べて長生きすることがわかったという報告もあります。もちろん、因果関係があるのかどうかはわかっていませんが、この手の報告は多いのです。 Q:加齢に対して悲観的であることが、病気の発症や寿命にも関わってくる可能性がある、と聞くと、ポジティブでいるほうが良いのだなと感じます。 篠原さん:ネガティブなことを考えていると脳の中にそのネットワークができる、そのネットワークがある種の影響を体にもたらしていく、という可能性は考えられます。 ノセボ効果とは直接つながりませんが、脳のネットワーク、という話では面白い研究があります。 ダーツのエキスパートが素人のダーツ操作を繰り返し見て、その動作結果(ダーツが命中する場所)を予測できるようになりました。しかし、その後、ダーツのエキスパートがダーツを行うと、的を外しやすくなり、ダーツ成績が悪くなってしまったのです(*2)。 実は、私たちは他者の動作を見るときに、脳(主に小脳)の内部モデルを使って観察しています。だから、ダーツの下手な人の動作を繰り返し見て、内部モデルを作り、下手な神経ネットワークができてしまうと、いざ自分が実践するときにもその内部モデルが使われてしまう、ということが起きる。イチロー選手が「自分のバッティングに影響するから下手な人のバッティングは見たくない」とかつて発言したといいますが、その理由をこの研究で説明できるのではないか、と研究者自身がコメントしています。 この研究とノセボ効果をつなげるとするなら、何かをする際には脳の中にそれに応じたネットワークができる。良くないことが起きる、という予測を続けると、その脳内ネットワークが行動レベルにまで影響してくる、ということが、先ほどの病気リスクや寿命という結果につながるのかもしれません。 *2 Sci Rep. 2014 Nov 11;4:6989.』、「ノセボの場合、快楽系のドーパミン系ではなく、恐怖や怒り、不安などに関わる脳内神経伝達物質のノルアドレナリンが関わり、対象への注意水準が上がって嫌なことを拾いやすくなると言われています」、人間の体は実によく出来ていると改めて感じる。「高齢者に「加齢とともに認知機能は低下します」という講義を行い、その後に認知機能テストを行うと、「再認テスト」の成績が落ちてしまう、と報告されたのです。「高齢になると認知機能が落ちる」という、いわば良くない暗示をかけられると、実際に成績が落ちてしまうのです」、免許更新時の認知症テストも影響を受けていそうだ。
・『思い浮かぶイメージに「心地よさ」を貼り付けてみよう Q:ダーツの話を伺って思い出すのは、子どもがコップに牛乳を盛って運んでいるとき「こぼすよ、こぼすよ」と言うと本当にこぼす、ということです。 篠原さん:そう言われたときの子どもの脳には、「こぼし方」の動作イメージが浮かぶはずです。こぼさないように、と教えたいときには、「こうやるとこぼしちゃうから、こうしようね」と修正した動作イメージを伝えるほうがいいでしょうね。 Q:ドーパミン神経は騙されやすい、ということですが、この仕組みを私たちが日常に生かすことはできるでしょうか。 篠原さん:結局、プラセボもノセボも「思えばそうなります」ということだと思うのです。例えばメンタルをもっと強くしたいのなら、自己イメージや未来の行動イメージに対して「心地よさ」を貼り付けておくほうが揺らぎにくくなるでしょう。例えば緊張するシーンでドキドキしてきたら「私は興奮している……」と肯定的に思ってみる。 以前「こじれた人間関係は『この質問』で突破! 原因探しはNG」でもお話しした、「ソリューションフォーカス」を思い出してください。 Q:「そんな大変な状況をどうやって乗り越えてきたの?」というサバイバル・クエスチョンや、「奇跡が起きてあなたの問題がすべて解決したとしたら、その奇跡が起こったことをどんなことから気づきますか?」というミラクル・クエスチョンですね。あれを伺ったときは、ぶっ飛んだ質問方法だなと思いました。 篠原さん:あれも、言ってみれば暗示狙いです。ミルトン・エリクソンという催眠療法の大家が、催眠をかけなくても誰でも使える形としてスキル化したのが、ソリューションフォーカスという手法で、“白昼の催眠”という言い方もされています。 すごくへこんでいるときに、「どうやってそんな状況を乗り越えてきたの?」と質問すると、「自分にはそんな力があったんだ」と、今の状況をプラスに塗り替えることができる。認知行動療法も、「あなたはこういう考え方をしてしまうから、この部分だけ動かしてみましょう」と、うまくいくことをイメージさせることが実は肝になっています。 脳は、シンプルに言えば報酬系か、注意・不安・恐怖系という2大対立で成り立っているのです。つまり、生き物が対象に近づくか、遠ざかるかの判断をするための仕組みであるとも言えます。日常生活が「二度と近づきたくない恐怖」ばかりになっているとけっこうきつい。それを報酬系と結びつくよううまく切り替えていく工夫をすると、なんとか気分を変える確率を高めることができます。脳を手なずけるために大脳新皮質、さらには言語があるとも言えるでしょう。 もちろん、「心地よさ」を貼り付けたからといって人生全てバラ色になんかなりっこないですが、何かしらうまくいくこともあります。そんなやり方もあるんだね、と気づくだけでも、気持ちはちょっと上向きになるものです』、「子どもがコップに牛乳を盛って運んでいるとき「こぼすよ、こぼすよ」と言うと本当にこぼす、ということです。 篠原さん:そう言われたときの子どもの脳には、「こぼし方」の動作イメージが浮かぶはずです。こぼさないように、と教えたいときには、「こうやるとこぼしちゃうから、こうしようね」と修正した動作イメージを伝えるほうがいいでしょうね」、確かにその通りだろう。「脳は、シンプルに言えば報酬系か、注意・不安・恐怖系という2大対立で成り立っているのです。つまり、生き物が対象に近づくか、遠ざかるかの判断をするための仕組みであるとも言えます。日常生活が「二度と近づきたくない恐怖」ばかりになっているとけっこうきつい。それを報酬系と結びつくよううまく切り替えていく工夫をすると、なんとか気分を変える確率を高めることができます。脳を手なずけるために大脳新皮質、さらには言語があるとも言えるでしょう。 もちろん、「心地よさ」を貼り付けたからといって人生全てバラ色になんかなりっこないですが、何かしらうまくいくこともあります。そんなやり方もあるんだね、と気づくだけでも、気持ちはちょっと上向きになるものです」、「そんなやり方もあるんだね、と気づくだけでも、気持ちはちょっと上向きになるものです」、なるほど。
次に、本年2月22日付けダイヤモンド・オンラインが転載した医薬経済ONLINE「医薬品開発の大手、シミックとEPSの相次ぐ上場廃止で浮上する「2つの懸念」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339234
・『経営陣による買収(MBO)の賽は投げられた──。治験の受託などを手掛ける医薬品開発支援機関(CRO)大手のシミックホールディングス(HD)は1月5日、昨年11月8日から行っていた株式公開買い付け(TOB)が終了したと発表した。これにより、シミックHD創業者の中村和男代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO、写真)がトップを務める企業が筆頭株主となるMBOが成立、上場廃止となる。 同じくCRO大手であるEPSHDも、21年にMBOによって上場を廃止している。内資系CROの草分けとして、国内市場の開拓・拡大に力を尽くしてきた両社がこれで株式市場から姿を消すこととなる。「相当ショックを受けている」(リニカル秦野和浩社長)との声に代表されるように、業界を中心に衝撃が広がっている。 市場では鎬を削っていた両社だが、興味深いことに非上場化を選択した理由は似通っている。ホームページ(HP)や報道などによると、今後、国内での治験の減少が見込まれるなど事業環境が大きく変わろうとするなか、「非上場化し、迅速に構造改革を行う」(シミックHD)、「これまで以上に機動的な経営体制とする」(EPSHD)ことが目的だとそれぞれ説明する。 依然創業者である中村会長、厳浩代表取締役がトップであることには変わりない。両社の投資家の声に左右されることなく、自らが掲げる理念、方針を貫こうとする狙いが透けて見える』、「医薬品開発支援機関(CRO)大手のシミックホールディングス」は、「創業者の中村和男代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO、写真)がトップを務める企業が筆頭株主となるMBOが成立、上場廃止となる」、「同じくCRO大手であるEPSHDも、21年にMBOによって上場を廃止」、「依然創業者である中村会長、厳浩代表取締役がトップであることには変わりない。両社の投資家の声に左右されることなく、自らが掲げる理念、方針を貫こうとする狙い」、なるほど。
・『事業変革に強い意欲 京都大学薬学部を卒業後、三共(現第一三共)で働いていた中村氏がシミックHDを創業したのは92年のことだ。ブロックバスターとなった高脂血症薬「メバロチン」の開発などに携わるなか、米国でCROが台頭してきたことなどを見て独立を決意した。インタビューなどでは「ジェネンテックのようなバイオベンチャーをつくってみたかった」とも答えているが、3人で立ち上げたシミックHDは、国内製薬会社でも治験業務の外部委託ニーズが高まってきた流れを捉え、急成長を遂げた。 中村氏が志向したのは、医薬品の開発から製造、営業活動まですべてをカバーできる企業体の創出だった。CROを起点に、製造受託(CMO)、営業支援(CSO)、さらには非臨床CROと業務を拡大。事業ごとに会社を設け、それをシミックHDが束ねる、さながら“帝国”のような体制を敷いた。大手製薬だけでなく、資本力や事業基盤に劣る国内外のバイオベンチャーからの各段階での外注ニーズに応えられるようにしたのが肝だ。さらには希少疾患薬の開発を手掛けるオーファンパシフィックをグループに立ち上げるなど、従来のCROの枠組みにとらわれない存在感を発揮している。 「製薬企業のバリューチェーンを全面的に支援する独自事業モデル『ファーマシューティカル・バリュー・クリエーター(PVC)』による総合力で勝負」(シミック幹部)してきたが、ここ数年の関心は、「ヘルスケア・レボリューション」(中村氏)に移っていた。ヘルスケア・レボリューションとは何か。中村氏の決算説明会での発言や同社のHPの記述などを総合すると、デジタル技術の利活用などによって予防から診断、治療、予後にいたるまでをカバーし、個人の健康維持・増進に貢献する取り組みをさすようだ。 創業30周年の22年を新たな創業元年に位置付け、ヘルスケア・レボリューションを担う企業になるのと軌を一にするように、PVCモデルからの転換も図った。その具体化の一歩が、CMO事業の切り出し。昨年4月、大日本印刷(DNP)との提携を発表し、CMO事業を担うシミックCMOを共同出資会社化することを発表した。DNPの出資比率は50.1%と過半を握る。実質的にシミックHD傘下から離れることになる。 しかし、ヘルスケア・レボリューションへの進化を謳う新路線は、その姿が見えにくいこともあり、市場を含めて戸惑う向きが多い。直近の決算ではCROなどで構成する「製薬ソリューション」の比率が売上高の7割近くを占めるなど、依然収益の柱だ。ヘルスケア・レボリューションなどで成り立つ「ヘルスケアソリューション」は3割強にとどまるうえ、電子お薬手帳「ハルモ」を使ったワクチン接種管理などに限られ具体的なテーマが見えにくいことも拍車をかける。 とはいえ、国内CRO市場は規模としては緩やかに拡大しているものの、値段の叩き合いに陥っている状況を踏まえると、シミックHDを次のステージに進めたいとする中村氏の危機感はわからないでもない。市場から距離を置き、したいことをしようというのが本意だろう。 他方、EPSHDについても、同様の傾向は見て取れる。MBOにいたった背景について、同社は機動的な経営体制とともに、「既存事業の枠を超え、患者・アカデミア・医療機関・製薬会社の皆さまに新しい価値を提供するため」(同社HP)としている。 中国からの国費留学生としてコンピューター科学を学ぶために来日していた厳氏だったが、東京大学大学院在学中にCROの可能性に着目、91年に今のEPSHDにいたる会社を創業した。01年にジャスダック(当時)に上場後、06年には東証一部(同)へと上場替えした。CROを祖業に事業拡大を遂げてきたが、厳氏が中国・江蘇省出身という強みを生かし、日本に進出したい中国系バイオ企業への支援、国内製薬企業やバイオベンチャーの中国への橋渡しに近年では力を入れている。主だった展示会で見かけるブースには、そうしたサービスを行っていることが前面に打ち出されている。実績も出つつあり、中国に拠点を構える健亜生物(ジェノヴァグループ)が、田辺三菱製薬が千歳市(北海道)に持っていた工場を取得した際にはEPSHDが橋渡ししたという。 シミックHD同様、CRO事業が頭打ちになるなかで、新規事業に集中するためには雑音から逃れるというのは妥当な判断だろう。もっとも、口の悪い業界関係者は「厳氏は大のメディア、アナリスト嫌い。非上場化することでそうした付き合いを減らしたかったのでは」と囁くのだが……』、「シミックHDは、国内製薬会社でも治験業務の外部委託ニーズが高まってきた流れを捉え、急成長を遂げた。 中村氏が志向したのは、医薬品の開発から製造、営業活動まですべてをカバーできる企業体の創出だった。CROを起点に、製造受託(CMO)、営業支援(CSO)、さらには非臨床CROと業務を拡大。事業ごとに会社を設け、それをシミックHDが束ねる、さながら“帝国”のような体制を敷いた。大手製薬だけでなく、資本力や事業基盤に劣る国内外のバイオベンチャーからの各段階での外注ニーズに応えられるようにしたのが肝だ・・・中国からの国費留学生としてコンピューター科学を学ぶために来日していた厳氏だったが、東京大学大学院在学中にCROの可能性に着目、91年に今のEPSHDにいたる会社を創業した。01年にジャスダック(当時)に上場後、06年には東証一部(同)へと上場替えした。CROを祖業に事業拡大を遂げてきたが、厳氏が中国・江蘇省出身という強みを生かし、日本に進出したい中国系バイオ企業への支援、国内製薬企業やバイオベンチャーの中国への橋渡しに近年では力を入れている」、なるほど。
・『次世代にどう引き継ぐ 両社ともに最適解を探ったうえでのMBOといえようが、しかし、国内CRO業界全体の観点に立てば決して良いことではないだろう。というのも、創業から30年以上が過ぎるが、ともに創業者が仕切る典型的なオーナー企業で、決算発表などを通じ、その割合はともかく外部の株主の目が入ることで働いていたけん制機能がなくなるからだ。専業の内資系CROに限ってみれば、両社の規模は大きく、日本市場に知悉し、リードしてきたことは否めない。非上場化することで、健全なガバナンスが維持できなくなれば、業界全体の先行きもおかしなことになりかねない。 もうひとつの懸念が、次のリーダーへのバトンタッチ。中村氏は70歳代後半、厳氏は60歳代半ばにそれぞれ差し掛かろうとする。後継者問題が俄然現実味を帯びてくる。シミックHDの場合、現社長は中村氏の妻である大石圭子氏だ。EPSHDも、取締役に輪番制を導入するなどするが、次の担い手は見えてこない。その規模感からCRO市場に与える影響も大きい以上、世代交代が円滑にできるのかも気になるところだ』、「創業から30年以上が過ぎるが、ともに創業者が仕切る典型的なオーナー企業で、決算発表などを通じ、その割合はともかく外部の株主の目が入ることで働いていたけん制機能がなくなるからだ。専業の内資系CROに限ってみれば、両社の規模は大きく、日本市場に知悉し、リードしてきたことは否めない。非上場化することで、健全なガバナンスが維持できなくなれば、業界全体の先行きもおかしなことになりかねない。 もうひとつの懸念が、次のリーダーへのバトンタッチ。中村氏は70歳代後半、厳氏は60歳代半ばにそれぞれ差し掛かろうとする。後継者問題が俄然現実味を帯びてくる」、なるほど。
第三に、3月28日付けダイヤモンド・オンラインが転載した医薬経済ONLINE「医薬品を不正製造した原薬メーカー「嘘なんですけど」と社内会議で笑い声…“隠蔽工作”の呆れた実態」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341201
・『まさか原薬の不正製造の査察で帳簿までひっくり返されるとは思っていなかったようだ。医療用医薬品の不正製造で2月に富山県から行政処分(業務改善命令)を受けたアクティブファーマ(東京都)が、査察後に行っていた「隠蔽工作」の実態が本誌取材で判明した。富山県は23年5月、同社の富山八尾工場(富山市)に1回目の無通告査察を実施。会社側は査察を受け、7月に製造管理・品質に関わる「GMP委員会」を開き、今後の対応策を検討した。しかし、この会議で出たのは反省の弁どころか、品質保証本部長による帳簿操作の指示だった』、「この会議で出たのは反省の弁どころか、品質保証本部長による帳簿操作の指示」、とんでもない話だ。
・『「嘘なんですけど」 アクティブファーマは医療用医薬品の原薬10品目を承認書と異なる方法で製造していたとし、業務改善命令を受けた。違反は工場を稼働した14年から続いていたというのだから、遵法意識はないに等しい。不正対象は「テルミサルタン」「オルメサルタン」など降圧剤の原薬や、睡眠薬の原薬「エスゾピクロン」で、これらは国内の製薬企業10社以上に供給していた。最近の後発品企業の品質問題は、遡ると原薬に起因していた疑いもあり、入手企業も慌てる事態となっている。 それでも行政処分が出たことで、会社側が積極的に改善に取り組む姿勢を示せば事態は収束に向かう。相次ぐ後発品の不正製造の問題では行政処分を受けた後、会社側が調査報告書を公表して改善策を示すとともに、しかるべき役職者を処分することで世間へのけじめをつけるというのが、最近の流れだ。 それでも小林化工や日医工のように、どうしようもなくなり経営が傾くこともあるが、アクティブファーマの場合、調査報告書を公表しないどころか、役員への処分もなし。しかも、不正を認識していた製造管理責任者を異動させるとしたが、実はこの役職は工場長との兼務で、工場長としての異動(2月時点)はない。これでは収まる事態も収まらない。どうも一部の身内に甘く、その体質は親会社の三谷産業と無関係ではないようだ。次期社長と囁かれる井村岳年常務は三谷出身者で、社内ではアクティブファーマ社長を差し置いて「天皇」と呼称されている。実際、工場長や品質保証本部長も彼を頼りにしているという。「不正や問題があると常務の指示で対策がなされていた」(アクティブファーマ関係者)とされ、不正製造も井村氏は知っていたとみられる。 組織ぐるみの不正であることは、富山県が査察に入った後の対応でもわかる。本誌が入手した査察後に開かれたGMP委員会の音声データによると、この査察で県の職員は製造指図書のほかに帳簿を確認。さらに帳簿と受け払い伝票まで照らし合わせ、原薬製造に使用する材料などの数量に差異がないか調べていた。 品質保証本部長が次のように語っている。 「(査察官が)製造実態のMF(マスターファイル)との齟齬を見つけようと思ったら帳簿を見る。通常の調査のときは帳簿まで見られない。だけど、いわくつきのところは帳簿を見られる。俺もうっかりしていたけど、無通告査察はまさにそれが目的で入って来る。帳簿と製造指図記録書の数量が違っているのは致命的になる」 そのうえでこのような指示を出している。 「今後やってほしいことは、やってしまったミスに関しては包み隠さず報告してもらわないと調整の仕方がない。生産管理のほうで帳簿の管理をしっかりしてほしい。実はね、俺、知っているんだけど、他の会社では二重帳簿を付けているところすらある」 「調整」「管理」という言葉こそ使っているが、つまりはミスがあれば辻褄が合うように帳簿を操作するという隠蔽工作にほかならない。さらに具体的な帳簿の操作についても、生々しいやり方をレクチャーしている。 「帳簿をちゃんと実態に合わせて。合わない場合は何か理由を付けて備考欄に今回みたいに『研究に渡しました』とか『製造途中でこぼしてしまいました』とか。そういう履歴をちゃんと実際に残してあれば、数字の違いに関しては一応認められる。何かあれば数字の違いは品証に言ってください。こちらも考えますので」 書類上の数字が合っていれば、査察官は怪しいと思っても認めやすい。しかし、逆に違っていれば査察官も突っ込まざるを得ないため、「数字の整合を確認してください」と念押しした。 実態に査察を受けたときに数字上の差異があったものの、「研究に渡しました」などの理由をでっちあげたという。「これは〇〇さんの嘘なんですけど」と、品質保証本部長が述べると会議で笑いが起こっていた。1回目の無通告査察後の会議で、まだ誤魔化せると思っていたようにしか聞こえない。「バレてしまったら会社の存続にかかわる。十分に注意してください」と話すと、再び笑い声が聞かれた。 富山八尾工場では、粉砕工程の条件設定でミスがあり規格外の粒度混入があっても、結晶をこぼしたことにして処理することがよくあったという。また、多く仕込んでしまった原料を、他の原料に按分して混ぜて製品化。虚偽の報告によって乗り切ってもきた。しかし、7月に再び無通告査察を受けると、誤魔化し切れず、社内調査を実施することになった。役員や本部長も焦りを隠せず、他の音声データには「対外的に大きな痛手を被る。できるだけ小さくしたい。誠心誠意の対応という姿勢を見せるほうが最終的に大きな痛手にならない」などと、対策を協議する会話が残されている。 誠心誠意どころか、経営陣の保身しか考えていない対応だ。不祥事が起きたときに対外的な説明を避け、内にこもる傾向は日医工に似ている。アクティブファーマは三谷産業と日医工が共同出資して09年に設立し、21年5月に三谷産業が完全子会社化した。三谷産業の三谷忠照社長は、日医工創業者の子・田村四郎氏の孫にあたる。日医工との関係が深く、原薬を供給するとともに人的交流もあり、23年も日医工の管理職がアクティブファーマに転籍しているという。日医工は再建途上だが、その裏で最も影の部分をアクティブファーマが引き継いだのではないか。 さらに改善点でよく指摘される組織風土だが、アクティブファーマの対応を見ると「責任役員と全社員とが定期的に面談を行い、法令遵守の重要性について対話する機会を設ける」とある。まずは責任役員が法令遵守を学ぶべきだ。) そんな社内体質だから、隠蔽工作以外でも問題が吹き出ている。労務問題やパワハラだ。23年8月、こんなことがあった。お盆休みを前に、製造本部を中心に飲み会が行われていた。不正調査などさまざまな対応に追われていたため、経営陣が社員とコミュニケーションを図りたい意図だった。そのなかに、帰省するためと、参加を断っていた社員がいた。しかし、参加要請を断り切れず、食事だけならと席に着いた。ここで悲劇が起こる。その社員は帰省途中の高速道路で事故に遭遇し死亡したのだ。因果関係は不明だが、決して風通しがよい職場でなかったことは疑いない。これも不正を生む遠因になっていたのかもしれない。 厚労省は後発品企業に改めて不正がないか自主点検を求める方針。だが、アクティブファーマのような腐った企業体質の企業に仮に自主点検を求めても期待などできないことは一目瞭然だろう』、「ミスがあれば辻褄が合うように帳簿を操作するという隠蔽工作にほかならない。さらに具体的な帳簿の操作についても、生々しいやり方をレクチャーしている。 「帳簿をちゃんと実態に合わせて。合わない場合は何か理由を付けて備考欄に今回みたいに『研究に渡しました』とか『製造途中でこぼしてしまいました』とか。そういう履歴をちゃんと実際に残してあれば、数字の違いに関しては一応認められる。何かあれば数字の違いは品証に言ってください。こちらも考えますので」・・・アクティブファーマの対応を見ると「責任役員と全社員とが定期的に面談を行い、法令遵守の重要性について対話する機会を設ける」とある。まずは責任役員が法令遵守を学ぶべきだ。) そんな社内体質だから、隠蔽工作以外でも問題が吹き出ている。労務問題やパワハラだ・・・帰省するためと、参加を断っていた社員がいた。しかし、参加要請を断り切れず、食事だけならと席に着いた。ここで悲劇が起こる。その社員は帰省途中の高速道路で事故に遭遇し死亡したのだ。因果関係は不明だが、決して風通しがよい職場でなかったことは疑いない。これも不正を生む遠因になっていたのかもしれない」、全く酷いものだ。命に係わる仕事をしている製薬企業の対応とはとても思えない。
先ずは、昨年8月14日付け日経ビジネスオンライン「偽薬でも効果「プラセボ効果」 脳では何が起こっている? 脳は暗示にかかりやすい。仕組みを生かせば気持ちも切り替えやすくなる」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00283/041400193/
・『偽物の薬を飲んでも効果が表れるという「プラセボ効果」。薬としての効果を持たないはずなのに効果が出るわけで、患者の期待効果などが影響しているといわれる。反対に、不信感があると有害な作用が出ることもある(これを「ノセボ効果」という)。これらの働きには「いい暗示」「悪い暗示」が関わっているという。さらに、この仕組みを上手に応用すれば、私たちは日常で気持ちを切り替えたり、健康になることにつなげられるかもしれない。公立諏訪東京理科大学工学部教授で脳科学者の篠原菊紀さんに、プラセボ効果と脳の関係について聞いた(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『「効く」と期待するときの“快”がドーパミンを活性化する Q:本来、薬効がないにもかかわらず、効果が表れるというのは不思議ではありますが、実際、体調が悪いときなどに薬を飲むとそれだけで安心することがあります。「病は気から」ではないですが、精神的なものは体調にも影響するのだなと改めて思います。今回は、「プラセボ効果」について、脳科学の視点で教えていただきたいです。 篠原さん:「プラセボ効果」というのは、実際には薬効のない薬剤(本物の薬と同様の外見、味、重さをしているが有効成分は入っていない偽薬)でも本当に効果が表れることを言います。ちなみにプラセボとはラテン語で、「私は喜ばせる」を意味します。 反対に、薬や、担当医師などへの不信感があると、薬剤の効果が落ちてしまったり、有害な副作用が表れることもあります。これを「ノセボ効果」と言います。プラセボ効果もノセボ効果も、医療においてはその治療効果に影響を及ぼすため、これまでに、いろいろな研究が行われています。 脳の仕組みでいうと、例えばサプリメントなどを飲んで、「朝の目覚めがいい」とか「これを飲み始めてから元気になった気がする」、というような“快”を感じているときには、脳において報酬系の活動が高まっています。痛みが和らぐ、というときにも報酬系のドーパミンが活性化することによって痛みをマスキングしていると考えられています。2020年に掲載された論文では、プラセボ効果にはドーパミンの他、愛着と関わるオキシトシンやバソプレシンといったホルモンの放出も関わっているのではないかと考察されています(*1)。 Q:偽薬なのに痛みが改善する、というのは不思議なことに思えます。 篠原さん:イスラエルで片頭痛患者66人を対象にした実験があります。治療薬の名前を表示したプラセボ(偽薬)と、プラセボと表示された治療薬、いずれにおいても頭痛は軽減しました。面白いのは、プラセボと表示されたプラセボでも、何もしないよりは痛みが緩和したのです(グラフ)。 Q:プラセボを「本当の薬」と言われて飲むときにはこちらの期待度も高くなり、それが「快」の刺激となり効果が出やすくなるのはわかるような気がしますが、「本物かプラセボかわからない」状態でも、薬を飲むという行為だけで痛みが軽減されるとは! 篠原さん:ドーパミン神経は騙されやすいところがあるのです。「薬がうんと効くと思っている人は実際に効果も出やすい。あまり効かないと思っている人はあまり効かない。その期待レベルと脳のドーパミン活動も相関する」という研究もあります。思い込みが強い、信じる度合いの大きい人のほうが、プラセボ効果は表れやすいと言えそうです。 性格傾向で言うと、協調性の高い人、俗に言う“素直”な人ほど効きやすい、という報告もあります。 *1 N Engl J Med. 2020 Feb 6;382(6):554-561.』、「「プラセボ効果」というのは、実際には薬効のない薬剤・・・でも本当に効果が表れることを言います。ちなみにプラセボとはラテン語で、「私は喜ばせる」を意味します。 反対に、薬や、担当医師などへの不信感があると、薬剤の効果が落ちてしまったり、有害な副作用が表れることもあります。これを「ノセボ効果」と言います」、「ノセボ効果」は初めて知った。「プラセボを「本当の薬」と言われて飲むときにはこちらの期待度も高くなり、それが「快」の刺激となり効果が出やすくなるのはわかるような気がしますが、「本物かプラセボかわからない」状態でも、薬を飲むという行為だけで痛みが軽減されるとは!・・・ドーパミン神経は騙されやすいところがあるのです。「薬がうんと効くと思っている人は実際に効果も出やすい。あまり効かないと思っている人はあまり効かない。その期待レベルと脳のドーパミン活動も相関する」という研究もあります。思い込みが強い、信じる度合いの大きい人のほうが、プラセボ効果は表れやすいと言えそうです。 性格傾向で言うと、協調性の高い人、俗に言う“素直”な人ほど効きやすい、という報告もあります」、私は懐疑的なので、「プラセボ効果は表れ」難いのかも知れない。
・『「良くない暗示」が寿命や健康にも影響を与えることがある Q:一方で、「ノセボ効果」も気になります。これは、むしろマイナスに引っ張られる反応ですよね。 篠原さん:ノセボ効果というのはプラセボ効果の逆で、嫌なことが起こるよ、と言うと本当に起こる、痛くなるよと言われると痛くなる、というものです。ノセボの場合、快楽系のドーパミン系ではなく、恐怖や怒り、不安などに関わる脳内神経伝達物質のノルアドレナリンが関わり、対象への注意水準が上がって嫌なことを拾いやすくなると言われています。 睡眠改善アプリを使って自分の状態の観察を熱心にし過ぎるとかえって不調を抱えやすくなる、という研究もあります。古い心理用語では「カリギュラ効果」というものがあり、見るな、と言われるほど見たくなるという心理現象もノセボの仕組みに少し似ています。 高齢者を対象にしたこんな研究があります。 年齢とともに、記憶した事柄を思い出す「記憶再生力」は低下しますが、覚えた事柄を含むリストを見せて正解を選ばせる「記憶再認テスト」のほうはあまり低下しない、と言われます。知っているという意識はあり、それを見せれば当てられる、というのは「あれ、これ、それ」が増えるけれど、候補を出せば正解がわかる、ということです。 ところが、高齢者に「加齢とともに認知機能は低下します」という講義を行い、その後に認知機能テストを行うと、「再認テスト」の成績が落ちてしまう、と報告されたのです。「高齢になると認知機能が落ちる」という、いわば良くない暗示をかけられると、実際に成績が落ちてしまうのです。 50代の健康な人を対象に、「年を取ることに否定的な考えを持つ群」「肯定的な考えを持つ群」で40年間追跡すると、否定的な群のほうが心血管障害が起きやすかった、逆に、肯定的な群は否定的な群に比べて長生きすることがわかったという報告もあります。もちろん、因果関係があるのかどうかはわかっていませんが、この手の報告は多いのです。 Q:加齢に対して悲観的であることが、病気の発症や寿命にも関わってくる可能性がある、と聞くと、ポジティブでいるほうが良いのだなと感じます。 篠原さん:ネガティブなことを考えていると脳の中にそのネットワークができる、そのネットワークがある種の影響を体にもたらしていく、という可能性は考えられます。 ノセボ効果とは直接つながりませんが、脳のネットワーク、という話では面白い研究があります。 ダーツのエキスパートが素人のダーツ操作を繰り返し見て、その動作結果(ダーツが命中する場所)を予測できるようになりました。しかし、その後、ダーツのエキスパートがダーツを行うと、的を外しやすくなり、ダーツ成績が悪くなってしまったのです(*2)。 実は、私たちは他者の動作を見るときに、脳(主に小脳)の内部モデルを使って観察しています。だから、ダーツの下手な人の動作を繰り返し見て、内部モデルを作り、下手な神経ネットワークができてしまうと、いざ自分が実践するときにもその内部モデルが使われてしまう、ということが起きる。イチロー選手が「自分のバッティングに影響するから下手な人のバッティングは見たくない」とかつて発言したといいますが、その理由をこの研究で説明できるのではないか、と研究者自身がコメントしています。 この研究とノセボ効果をつなげるとするなら、何かをする際には脳の中にそれに応じたネットワークができる。良くないことが起きる、という予測を続けると、その脳内ネットワークが行動レベルにまで影響してくる、ということが、先ほどの病気リスクや寿命という結果につながるのかもしれません。 *2 Sci Rep. 2014 Nov 11;4:6989.』、「ノセボの場合、快楽系のドーパミン系ではなく、恐怖や怒り、不安などに関わる脳内神経伝達物質のノルアドレナリンが関わり、対象への注意水準が上がって嫌なことを拾いやすくなると言われています」、人間の体は実によく出来ていると改めて感じる。「高齢者に「加齢とともに認知機能は低下します」という講義を行い、その後に認知機能テストを行うと、「再認テスト」の成績が落ちてしまう、と報告されたのです。「高齢になると認知機能が落ちる」という、いわば良くない暗示をかけられると、実際に成績が落ちてしまうのです」、免許更新時の認知症テストも影響を受けていそうだ。
・『思い浮かぶイメージに「心地よさ」を貼り付けてみよう Q:ダーツの話を伺って思い出すのは、子どもがコップに牛乳を盛って運んでいるとき「こぼすよ、こぼすよ」と言うと本当にこぼす、ということです。 篠原さん:そう言われたときの子どもの脳には、「こぼし方」の動作イメージが浮かぶはずです。こぼさないように、と教えたいときには、「こうやるとこぼしちゃうから、こうしようね」と修正した動作イメージを伝えるほうがいいでしょうね。 Q:ドーパミン神経は騙されやすい、ということですが、この仕組みを私たちが日常に生かすことはできるでしょうか。 篠原さん:結局、プラセボもノセボも「思えばそうなります」ということだと思うのです。例えばメンタルをもっと強くしたいのなら、自己イメージや未来の行動イメージに対して「心地よさ」を貼り付けておくほうが揺らぎにくくなるでしょう。例えば緊張するシーンでドキドキしてきたら「私は興奮している……」と肯定的に思ってみる。 以前「こじれた人間関係は『この質問』で突破! 原因探しはNG」でもお話しした、「ソリューションフォーカス」を思い出してください。 Q:「そんな大変な状況をどうやって乗り越えてきたの?」というサバイバル・クエスチョンや、「奇跡が起きてあなたの問題がすべて解決したとしたら、その奇跡が起こったことをどんなことから気づきますか?」というミラクル・クエスチョンですね。あれを伺ったときは、ぶっ飛んだ質問方法だなと思いました。 篠原さん:あれも、言ってみれば暗示狙いです。ミルトン・エリクソンという催眠療法の大家が、催眠をかけなくても誰でも使える形としてスキル化したのが、ソリューションフォーカスという手法で、“白昼の催眠”という言い方もされています。 すごくへこんでいるときに、「どうやってそんな状況を乗り越えてきたの?」と質問すると、「自分にはそんな力があったんだ」と、今の状況をプラスに塗り替えることができる。認知行動療法も、「あなたはこういう考え方をしてしまうから、この部分だけ動かしてみましょう」と、うまくいくことをイメージさせることが実は肝になっています。 脳は、シンプルに言えば報酬系か、注意・不安・恐怖系という2大対立で成り立っているのです。つまり、生き物が対象に近づくか、遠ざかるかの判断をするための仕組みであるとも言えます。日常生活が「二度と近づきたくない恐怖」ばかりになっているとけっこうきつい。それを報酬系と結びつくよううまく切り替えていく工夫をすると、なんとか気分を変える確率を高めることができます。脳を手なずけるために大脳新皮質、さらには言語があるとも言えるでしょう。 もちろん、「心地よさ」を貼り付けたからといって人生全てバラ色になんかなりっこないですが、何かしらうまくいくこともあります。そんなやり方もあるんだね、と気づくだけでも、気持ちはちょっと上向きになるものです』、「子どもがコップに牛乳を盛って運んでいるとき「こぼすよ、こぼすよ」と言うと本当にこぼす、ということです。 篠原さん:そう言われたときの子どもの脳には、「こぼし方」の動作イメージが浮かぶはずです。こぼさないように、と教えたいときには、「こうやるとこぼしちゃうから、こうしようね」と修正した動作イメージを伝えるほうがいいでしょうね」、確かにその通りだろう。「脳は、シンプルに言えば報酬系か、注意・不安・恐怖系という2大対立で成り立っているのです。つまり、生き物が対象に近づくか、遠ざかるかの判断をするための仕組みであるとも言えます。日常生活が「二度と近づきたくない恐怖」ばかりになっているとけっこうきつい。それを報酬系と結びつくよううまく切り替えていく工夫をすると、なんとか気分を変える確率を高めることができます。脳を手なずけるために大脳新皮質、さらには言語があるとも言えるでしょう。 もちろん、「心地よさ」を貼り付けたからといって人生全てバラ色になんかなりっこないですが、何かしらうまくいくこともあります。そんなやり方もあるんだね、と気づくだけでも、気持ちはちょっと上向きになるものです」、「そんなやり方もあるんだね、と気づくだけでも、気持ちはちょっと上向きになるものです」、なるほど。
次に、本年2月22日付けダイヤモンド・オンラインが転載した医薬経済ONLINE「医薬品開発の大手、シミックとEPSの相次ぐ上場廃止で浮上する「2つの懸念」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339234
・『経営陣による買収(MBO)の賽は投げられた──。治験の受託などを手掛ける医薬品開発支援機関(CRO)大手のシミックホールディングス(HD)は1月5日、昨年11月8日から行っていた株式公開買い付け(TOB)が終了したと発表した。これにより、シミックHD創業者の中村和男代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO、写真)がトップを務める企業が筆頭株主となるMBOが成立、上場廃止となる。 同じくCRO大手であるEPSHDも、21年にMBOによって上場を廃止している。内資系CROの草分けとして、国内市場の開拓・拡大に力を尽くしてきた両社がこれで株式市場から姿を消すこととなる。「相当ショックを受けている」(リニカル秦野和浩社長)との声に代表されるように、業界を中心に衝撃が広がっている。 市場では鎬を削っていた両社だが、興味深いことに非上場化を選択した理由は似通っている。ホームページ(HP)や報道などによると、今後、国内での治験の減少が見込まれるなど事業環境が大きく変わろうとするなか、「非上場化し、迅速に構造改革を行う」(シミックHD)、「これまで以上に機動的な経営体制とする」(EPSHD)ことが目的だとそれぞれ説明する。 依然創業者である中村会長、厳浩代表取締役がトップであることには変わりない。両社の投資家の声に左右されることなく、自らが掲げる理念、方針を貫こうとする狙いが透けて見える』、「医薬品開発支援機関(CRO)大手のシミックホールディングス」は、「創業者の中村和男代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO、写真)がトップを務める企業が筆頭株主となるMBOが成立、上場廃止となる」、「同じくCRO大手であるEPSHDも、21年にMBOによって上場を廃止」、「依然創業者である中村会長、厳浩代表取締役がトップであることには変わりない。両社の投資家の声に左右されることなく、自らが掲げる理念、方針を貫こうとする狙い」、なるほど。
・『事業変革に強い意欲 京都大学薬学部を卒業後、三共(現第一三共)で働いていた中村氏がシミックHDを創業したのは92年のことだ。ブロックバスターとなった高脂血症薬「メバロチン」の開発などに携わるなか、米国でCROが台頭してきたことなどを見て独立を決意した。インタビューなどでは「ジェネンテックのようなバイオベンチャーをつくってみたかった」とも答えているが、3人で立ち上げたシミックHDは、国内製薬会社でも治験業務の外部委託ニーズが高まってきた流れを捉え、急成長を遂げた。 中村氏が志向したのは、医薬品の開発から製造、営業活動まですべてをカバーできる企業体の創出だった。CROを起点に、製造受託(CMO)、営業支援(CSO)、さらには非臨床CROと業務を拡大。事業ごとに会社を設け、それをシミックHDが束ねる、さながら“帝国”のような体制を敷いた。大手製薬だけでなく、資本力や事業基盤に劣る国内外のバイオベンチャーからの各段階での外注ニーズに応えられるようにしたのが肝だ。さらには希少疾患薬の開発を手掛けるオーファンパシフィックをグループに立ち上げるなど、従来のCROの枠組みにとらわれない存在感を発揮している。 「製薬企業のバリューチェーンを全面的に支援する独自事業モデル『ファーマシューティカル・バリュー・クリエーター(PVC)』による総合力で勝負」(シミック幹部)してきたが、ここ数年の関心は、「ヘルスケア・レボリューション」(中村氏)に移っていた。ヘルスケア・レボリューションとは何か。中村氏の決算説明会での発言や同社のHPの記述などを総合すると、デジタル技術の利活用などによって予防から診断、治療、予後にいたるまでをカバーし、個人の健康維持・増進に貢献する取り組みをさすようだ。 創業30周年の22年を新たな創業元年に位置付け、ヘルスケア・レボリューションを担う企業になるのと軌を一にするように、PVCモデルからの転換も図った。その具体化の一歩が、CMO事業の切り出し。昨年4月、大日本印刷(DNP)との提携を発表し、CMO事業を担うシミックCMOを共同出資会社化することを発表した。DNPの出資比率は50.1%と過半を握る。実質的にシミックHD傘下から離れることになる。 しかし、ヘルスケア・レボリューションへの進化を謳う新路線は、その姿が見えにくいこともあり、市場を含めて戸惑う向きが多い。直近の決算ではCROなどで構成する「製薬ソリューション」の比率が売上高の7割近くを占めるなど、依然収益の柱だ。ヘルスケア・レボリューションなどで成り立つ「ヘルスケアソリューション」は3割強にとどまるうえ、電子お薬手帳「ハルモ」を使ったワクチン接種管理などに限られ具体的なテーマが見えにくいことも拍車をかける。 とはいえ、国内CRO市場は規模としては緩やかに拡大しているものの、値段の叩き合いに陥っている状況を踏まえると、シミックHDを次のステージに進めたいとする中村氏の危機感はわからないでもない。市場から距離を置き、したいことをしようというのが本意だろう。 他方、EPSHDについても、同様の傾向は見て取れる。MBOにいたった背景について、同社は機動的な経営体制とともに、「既存事業の枠を超え、患者・アカデミア・医療機関・製薬会社の皆さまに新しい価値を提供するため」(同社HP)としている。 中国からの国費留学生としてコンピューター科学を学ぶために来日していた厳氏だったが、東京大学大学院在学中にCROの可能性に着目、91年に今のEPSHDにいたる会社を創業した。01年にジャスダック(当時)に上場後、06年には東証一部(同)へと上場替えした。CROを祖業に事業拡大を遂げてきたが、厳氏が中国・江蘇省出身という強みを生かし、日本に進出したい中国系バイオ企業への支援、国内製薬企業やバイオベンチャーの中国への橋渡しに近年では力を入れている。主だった展示会で見かけるブースには、そうしたサービスを行っていることが前面に打ち出されている。実績も出つつあり、中国に拠点を構える健亜生物(ジェノヴァグループ)が、田辺三菱製薬が千歳市(北海道)に持っていた工場を取得した際にはEPSHDが橋渡ししたという。 シミックHD同様、CRO事業が頭打ちになるなかで、新規事業に集中するためには雑音から逃れるというのは妥当な判断だろう。もっとも、口の悪い業界関係者は「厳氏は大のメディア、アナリスト嫌い。非上場化することでそうした付き合いを減らしたかったのでは」と囁くのだが……』、「シミックHDは、国内製薬会社でも治験業務の外部委託ニーズが高まってきた流れを捉え、急成長を遂げた。 中村氏が志向したのは、医薬品の開発から製造、営業活動まですべてをカバーできる企業体の創出だった。CROを起点に、製造受託(CMO)、営業支援(CSO)、さらには非臨床CROと業務を拡大。事業ごとに会社を設け、それをシミックHDが束ねる、さながら“帝国”のような体制を敷いた。大手製薬だけでなく、資本力や事業基盤に劣る国内外のバイオベンチャーからの各段階での外注ニーズに応えられるようにしたのが肝だ・・・中国からの国費留学生としてコンピューター科学を学ぶために来日していた厳氏だったが、東京大学大学院在学中にCROの可能性に着目、91年に今のEPSHDにいたる会社を創業した。01年にジャスダック(当時)に上場後、06年には東証一部(同)へと上場替えした。CROを祖業に事業拡大を遂げてきたが、厳氏が中国・江蘇省出身という強みを生かし、日本に進出したい中国系バイオ企業への支援、国内製薬企業やバイオベンチャーの中国への橋渡しに近年では力を入れている」、なるほど。
・『次世代にどう引き継ぐ 両社ともに最適解を探ったうえでのMBOといえようが、しかし、国内CRO業界全体の観点に立てば決して良いことではないだろう。というのも、創業から30年以上が過ぎるが、ともに創業者が仕切る典型的なオーナー企業で、決算発表などを通じ、その割合はともかく外部の株主の目が入ることで働いていたけん制機能がなくなるからだ。専業の内資系CROに限ってみれば、両社の規模は大きく、日本市場に知悉し、リードしてきたことは否めない。非上場化することで、健全なガバナンスが維持できなくなれば、業界全体の先行きもおかしなことになりかねない。 もうひとつの懸念が、次のリーダーへのバトンタッチ。中村氏は70歳代後半、厳氏は60歳代半ばにそれぞれ差し掛かろうとする。後継者問題が俄然現実味を帯びてくる。シミックHDの場合、現社長は中村氏の妻である大石圭子氏だ。EPSHDも、取締役に輪番制を導入するなどするが、次の担い手は見えてこない。その規模感からCRO市場に与える影響も大きい以上、世代交代が円滑にできるのかも気になるところだ』、「創業から30年以上が過ぎるが、ともに創業者が仕切る典型的なオーナー企業で、決算発表などを通じ、その割合はともかく外部の株主の目が入ることで働いていたけん制機能がなくなるからだ。専業の内資系CROに限ってみれば、両社の規模は大きく、日本市場に知悉し、リードしてきたことは否めない。非上場化することで、健全なガバナンスが維持できなくなれば、業界全体の先行きもおかしなことになりかねない。 もうひとつの懸念が、次のリーダーへのバトンタッチ。中村氏は70歳代後半、厳氏は60歳代半ばにそれぞれ差し掛かろうとする。後継者問題が俄然現実味を帯びてくる」、なるほど。
第三に、3月28日付けダイヤモンド・オンラインが転載した医薬経済ONLINE「医薬品を不正製造した原薬メーカー「嘘なんですけど」と社内会議で笑い声…“隠蔽工作”の呆れた実態」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341201
・『まさか原薬の不正製造の査察で帳簿までひっくり返されるとは思っていなかったようだ。医療用医薬品の不正製造で2月に富山県から行政処分(業務改善命令)を受けたアクティブファーマ(東京都)が、査察後に行っていた「隠蔽工作」の実態が本誌取材で判明した。富山県は23年5月、同社の富山八尾工場(富山市)に1回目の無通告査察を実施。会社側は査察を受け、7月に製造管理・品質に関わる「GMP委員会」を開き、今後の対応策を検討した。しかし、この会議で出たのは反省の弁どころか、品質保証本部長による帳簿操作の指示だった』、「この会議で出たのは反省の弁どころか、品質保証本部長による帳簿操作の指示」、とんでもない話だ。
・『「嘘なんですけど」 アクティブファーマは医療用医薬品の原薬10品目を承認書と異なる方法で製造していたとし、業務改善命令を受けた。違反は工場を稼働した14年から続いていたというのだから、遵法意識はないに等しい。不正対象は「テルミサルタン」「オルメサルタン」など降圧剤の原薬や、睡眠薬の原薬「エスゾピクロン」で、これらは国内の製薬企業10社以上に供給していた。最近の後発品企業の品質問題は、遡ると原薬に起因していた疑いもあり、入手企業も慌てる事態となっている。 それでも行政処分が出たことで、会社側が積極的に改善に取り組む姿勢を示せば事態は収束に向かう。相次ぐ後発品の不正製造の問題では行政処分を受けた後、会社側が調査報告書を公表して改善策を示すとともに、しかるべき役職者を処分することで世間へのけじめをつけるというのが、最近の流れだ。 それでも小林化工や日医工のように、どうしようもなくなり経営が傾くこともあるが、アクティブファーマの場合、調査報告書を公表しないどころか、役員への処分もなし。しかも、不正を認識していた製造管理責任者を異動させるとしたが、実はこの役職は工場長との兼務で、工場長としての異動(2月時点)はない。これでは収まる事態も収まらない。どうも一部の身内に甘く、その体質は親会社の三谷産業と無関係ではないようだ。次期社長と囁かれる井村岳年常務は三谷出身者で、社内ではアクティブファーマ社長を差し置いて「天皇」と呼称されている。実際、工場長や品質保証本部長も彼を頼りにしているという。「不正や問題があると常務の指示で対策がなされていた」(アクティブファーマ関係者)とされ、不正製造も井村氏は知っていたとみられる。 組織ぐるみの不正であることは、富山県が査察に入った後の対応でもわかる。本誌が入手した査察後に開かれたGMP委員会の音声データによると、この査察で県の職員は製造指図書のほかに帳簿を確認。さらに帳簿と受け払い伝票まで照らし合わせ、原薬製造に使用する材料などの数量に差異がないか調べていた。 品質保証本部長が次のように語っている。 「(査察官が)製造実態のMF(マスターファイル)との齟齬を見つけようと思ったら帳簿を見る。通常の調査のときは帳簿まで見られない。だけど、いわくつきのところは帳簿を見られる。俺もうっかりしていたけど、無通告査察はまさにそれが目的で入って来る。帳簿と製造指図記録書の数量が違っているのは致命的になる」 そのうえでこのような指示を出している。 「今後やってほしいことは、やってしまったミスに関しては包み隠さず報告してもらわないと調整の仕方がない。生産管理のほうで帳簿の管理をしっかりしてほしい。実はね、俺、知っているんだけど、他の会社では二重帳簿を付けているところすらある」 「調整」「管理」という言葉こそ使っているが、つまりはミスがあれば辻褄が合うように帳簿を操作するという隠蔽工作にほかならない。さらに具体的な帳簿の操作についても、生々しいやり方をレクチャーしている。 「帳簿をちゃんと実態に合わせて。合わない場合は何か理由を付けて備考欄に今回みたいに『研究に渡しました』とか『製造途中でこぼしてしまいました』とか。そういう履歴をちゃんと実際に残してあれば、数字の違いに関しては一応認められる。何かあれば数字の違いは品証に言ってください。こちらも考えますので」 書類上の数字が合っていれば、査察官は怪しいと思っても認めやすい。しかし、逆に違っていれば査察官も突っ込まざるを得ないため、「数字の整合を確認してください」と念押しした。 実態に査察を受けたときに数字上の差異があったものの、「研究に渡しました」などの理由をでっちあげたという。「これは〇〇さんの嘘なんですけど」と、品質保証本部長が述べると会議で笑いが起こっていた。1回目の無通告査察後の会議で、まだ誤魔化せると思っていたようにしか聞こえない。「バレてしまったら会社の存続にかかわる。十分に注意してください」と話すと、再び笑い声が聞かれた。 富山八尾工場では、粉砕工程の条件設定でミスがあり規格外の粒度混入があっても、結晶をこぼしたことにして処理することがよくあったという。また、多く仕込んでしまった原料を、他の原料に按分して混ぜて製品化。虚偽の報告によって乗り切ってもきた。しかし、7月に再び無通告査察を受けると、誤魔化し切れず、社内調査を実施することになった。役員や本部長も焦りを隠せず、他の音声データには「対外的に大きな痛手を被る。できるだけ小さくしたい。誠心誠意の対応という姿勢を見せるほうが最終的に大きな痛手にならない」などと、対策を協議する会話が残されている。 誠心誠意どころか、経営陣の保身しか考えていない対応だ。不祥事が起きたときに対外的な説明を避け、内にこもる傾向は日医工に似ている。アクティブファーマは三谷産業と日医工が共同出資して09年に設立し、21年5月に三谷産業が完全子会社化した。三谷産業の三谷忠照社長は、日医工創業者の子・田村四郎氏の孫にあたる。日医工との関係が深く、原薬を供給するとともに人的交流もあり、23年も日医工の管理職がアクティブファーマに転籍しているという。日医工は再建途上だが、その裏で最も影の部分をアクティブファーマが引き継いだのではないか。 さらに改善点でよく指摘される組織風土だが、アクティブファーマの対応を見ると「責任役員と全社員とが定期的に面談を行い、法令遵守の重要性について対話する機会を設ける」とある。まずは責任役員が法令遵守を学ぶべきだ。) そんな社内体質だから、隠蔽工作以外でも問題が吹き出ている。労務問題やパワハラだ。23年8月、こんなことがあった。お盆休みを前に、製造本部を中心に飲み会が行われていた。不正調査などさまざまな対応に追われていたため、経営陣が社員とコミュニケーションを図りたい意図だった。そのなかに、帰省するためと、参加を断っていた社員がいた。しかし、参加要請を断り切れず、食事だけならと席に着いた。ここで悲劇が起こる。その社員は帰省途中の高速道路で事故に遭遇し死亡したのだ。因果関係は不明だが、決して風通しがよい職場でなかったことは疑いない。これも不正を生む遠因になっていたのかもしれない。 厚労省は後発品企業に改めて不正がないか自主点検を求める方針。だが、アクティブファーマのような腐った企業体質の企業に仮に自主点検を求めても期待などできないことは一目瞭然だろう』、「ミスがあれば辻褄が合うように帳簿を操作するという隠蔽工作にほかならない。さらに具体的な帳簿の操作についても、生々しいやり方をレクチャーしている。 「帳簿をちゃんと実態に合わせて。合わない場合は何か理由を付けて備考欄に今回みたいに『研究に渡しました』とか『製造途中でこぼしてしまいました』とか。そういう履歴をちゃんと実際に残してあれば、数字の違いに関しては一応認められる。何かあれば数字の違いは品証に言ってください。こちらも考えますので」・・・アクティブファーマの対応を見ると「責任役員と全社員とが定期的に面談を行い、法令遵守の重要性について対話する機会を設ける」とある。まずは責任役員が法令遵守を学ぶべきだ。) そんな社内体質だから、隠蔽工作以外でも問題が吹き出ている。労務問題やパワハラだ・・・帰省するためと、参加を断っていた社員がいた。しかし、参加要請を断り切れず、食事だけならと席に着いた。ここで悲劇が起こる。その社員は帰省途中の高速道路で事故に遭遇し死亡したのだ。因果関係は不明だが、決して風通しがよい職場でなかったことは疑いない。これも不正を生む遠因になっていたのかもしれない」、全く酷いものだ。命に係わる仕事をしている製薬企業の対応とはとても思えない。
タグ:医薬品(製薬業) (その8)(偽薬でも効果「プラセボ効果」 脳では何が起こっている? 脳は暗示にかかりやすい 仕組みを生かせば気持ちも切り替えやすくなる、医薬品開発の大手 シミックとEPSの相次ぐ上場廃止で浮上する「2つの懸念」とは?、医薬品を不正製造した原薬メーカー「嘘なんですけど」と社内会議で笑い声…“隠蔽工作”の呆れた実態) 日経ビジネスオンライン「偽薬でも効果「プラセボ効果」 脳では何が起こっている? 脳は暗示にかかりやすい。仕組みを生かせば気持ちも切り替えやすくなる」 「「プラセボ効果」というのは、実際には薬効のない薬剤・・・でも本当に効果が表れることを言います。ちなみにプラセボとはラテン語で、「私は喜ばせる」を意味します。 反対に、薬や、担当医師などへの不信感があると、薬剤の効果が落ちてしまったり、有害な副作用が表れることもあります。これを「ノセボ効果」と言います」、 「ノセボ効果」は初めて知った。「プラセボを「本当の薬」と言われて飲むときにはこちらの期待度も高くなり、それが「快」の刺激となり効果が出やすくなるのはわかるような気がしますが、「本物かプラセボかわからない」状態でも、薬を飲むという行為だけで痛みが軽減されるとは!・・・ドーパミン神経は騙されやすいところがあるのです。 「薬がうんと効くと思っている人は実際に効果も出やすい。あまり効かないと思っている人はあまり効かない。その期待レベルと脳のドーパミン活動も相関する」という研究もあります。思い込みが強い、信じる度合いの大きい人のほうが、プラセボ効果は表れやすいと言えそうです。 性格傾向で言うと、協調性の高い人、俗に言う“素直”な人ほど効きやすい、という報告もあります」、私は懐疑的なので、「プラセボ効果は表れ」難いのかも知れない。 「ノセボの場合、快楽系のドーパミン系ではなく、恐怖や怒り、不安などに関わる脳内神経伝達物質のノルアドレナリンが関わり、対象への注意水準が上がって嫌なことを拾いやすくなると言われています」、人間の体は実によく出来ていると改めて感じる。「高齢者に「加齢とともに認知機能は低下します」という講義を行い、その後に認知機能テストを行うと、「再認テスト」の成績が落ちてしまう、と報告されたのです。 「高齢になると認知機能が落ちる」という、いわば良くない暗示をかけられると、実際に成績が落ちてしまうのです」、免許更新時の認知症テストも影響を受けていそうだ。 「子どもがコップに牛乳を盛って運んでいるとき「こぼすよ、こぼすよ」と言うと本当にこぼす、ということです。 篠原さん:そう言われたときの子どもの脳には、「こぼし方」の動作イメージが浮かぶはずです。こぼさないように、と教えたいときには、「こうやるとこぼしちゃうから、こうしようね」と修正した動作イメージを伝えるほうがいいでしょうね」、確かにその通りだろう。 「脳は、シンプルに言えば報酬系か、注意・不安・恐怖系という2大対立で成り立っているのです。つまり、生き物が対象に近づくか、遠ざかるかの判断をするための仕組みであるとも言えます。日常生活が「二度と近づきたくない恐怖」ばかりになっているとけっこうきつい。それを報酬系と結びつくよううまく切り替えていく工夫をすると、なんとか気分を変える確率を高めることができます。脳を手なずけるために大脳新皮質、さらには言語があるとも言えるでしょう。 もちろん、「心地よさ」を貼り付けたからといって人生全てバラ色になんかなりっこない ですが、何かしらうまくいくこともあります。そんなやり方もあるんだね、と気づくだけでも、気持ちはちょっと上向きになるものです」、「そんなやり方もあるんだね、と気づくだけでも、気持ちはちょっと上向きになるものです」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン 医薬経済ONLINE「医薬品開発の大手、シミックとEPSの相次ぐ上場廃止で浮上する「2つの懸念」とは?」 「医薬品開発支援機関(CRO)大手のシミックホールディングス」は、「創業者の中村和男代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO、写真)がトップを務める企業が筆頭株主となるMBOが成立、上場廃止となる」、「同じくCRO大手であるEPSHDも、21年にMBOによって上場を廃止」、「依然創業者である中村会長、厳浩代表取締役がトップであることには変わりない。両社の投資家の声に左右されることなく、自らが掲げる理念、方針を貫こうとする狙い」、なるほど。 「シミックHDは、国内製薬会社でも治験業務の外部委託ニーズが高まってきた流れを捉え、急成長を遂げた。 中村氏が志向したのは、医薬品の開発から製造、営業活動まですべてをカバーできる企業体の創出だった。CROを起点に、製造受託(CMO)、営業支援(CSO)、さらには非臨床CROと業務を拡大。事業ごとに会社を設け、それをシミックHDが束ねる、さながら“帝国”のような体制を敷いた。大手製薬だけでなく、資本力や事業基盤に劣る国内外のバイオベンチャーからの各段階での外注ニーズに応えられるようにしたのが肝だ・・・ 中国からの国費留学生としてコンピューター科学を学ぶために来日していた厳氏だったが、東京大学大学院在学中にCROの可能性に着目、91年に今のEPSHDにいたる会社を創業した。01年にジャスダック(当時)に上場後、06年には東証一部(同)へと上場替えした。CROを祖業に事業拡大を遂げてきたが、厳氏が中国・江蘇省出身という強みを生かし、日本に進出したい中国系バイオ企業への支援、国内製薬企業やバイオベンチャーの中国への橋渡しに近年では力を入れている」、なるほど。 「創業から30年以上が過ぎるが、ともに創業者が仕切る典型的なオーナー企業で、決算発表などを通じ、その割合はともかく外部の株主の目が入ることで働いていたけん制機能がなくなるからだ。専業の内資系CROに限ってみれば、両社の規模は大きく、日本市場に知悉し、リードしてきたことは否めない。非上場化することで、健全なガバナンスが維持できなくなれば、業界全体の先行きもおかしなことになりかねない。 もうひとつの懸念が、次のリーダーへのバトンタッチ。中村氏は70歳代後半、厳氏は60歳代半ばにそれぞれ差し掛かろうとする。後継者問題が俄然現実味を帯びてくる」、なるほど。 医薬経済ONLINE「医薬品を不正製造した原薬メーカー「嘘なんですけど」と社内会議で笑い声…“隠蔽工作”の呆れた実態」 「この会議で出たのは反省の弁どころか、品質保証本部長による帳簿操作の指示」、とんでもない話だ。 「ミスがあれば辻褄が合うように帳簿を操作するという隠蔽工作にほかならない。さらに具体的な帳簿の操作についても、生々しいやり方をレクチャーしている。 「帳簿をちゃんと実態に合わせて。合わない場合は何か理由を付けて備考欄に今回みたいに『研究に渡しました』とか『製造途中でこぼしてしまいました』とか。そういう履歴をちゃんと実際に残してあれば、数字の違いに関しては一応認められる。何かあれば数字の違いは品証に言ってください。こちらも考えますので」・・・ アクティブファーマの対応を見ると「責任役員と全社員とが定期的に面談を行い、法令遵守の重要性について対話する機会を設ける」とある。まずは責任役員が法令遵守を学ぶべきだ。) そんな社内体質だから、隠蔽工作以外でも問題が吹き出ている。労務問題やパワハラだ・・・帰省するためと、参加を断っていた社員がいた。しかし、参加要請を断り切れず、食事だけならと席に着いた。ここで悲劇が起こる。その社員は帰省途中の高速道路で事故に遭遇し死亡したのだ。因果関係は不明だが、決して風通しがよい職場でなかったことは疑いない。これも不正を 生む遠因になっていたのかもしれない」、全く酷いものだ。命に係わる仕事をしている製薬企業の対応とはとても思えない。
コンビニ(その12)(三菱商事がKDDIと「ローソンを共同経営」する理由 ファミマを完全子会社化した伊藤忠とは真逆の選択、道民が愛する「セイコーマート」凄い物流の仕組み 脅威の積載効率9割はなぜ達成できるのか、「イトーヨーカ堂が「33店閉鎖・祖業撤退」決めた理由、新戦略の勝算と死角とは《Editors' Picks》」) [産業動向]
コンビニについては、本年1月19日に取上げた。今日は、(その12)(三菱商事がKDDIと「ローソンを共同経営」する理由 ファミマを完全子会社化した伊藤忠とは真逆の選択、道民が愛する「セイコーマート」凄い物流の仕組み 脅威の積載効率9割はなぜ達成できるのか、「イトーヨーカ堂が「33店閉鎖・祖業撤退」決めた理由、新戦略の勝算と死角とは《Editors' Picks》」)である。
先ずは、本年2月9日付けダイヤモンド・オンライン「三菱商事がKDDIと「ローソンを共同経営」する理由、ファミマを完全子会社化した伊藤忠とは真逆の選択」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338743
・『三菱商事と通信大手のKDDIは2月6日、ローソンを非上場化し、折半出資による共同経営を行うと発表した。ローソンは三菱商事の連結子会社から、持分法適用会社になる。これは、ファミリーマートを完全子会社化した伊藤忠商事とは真逆の“選択”をしたことを意味する。三菱商事がローソンを遠ざけた真意とは』、興味深そうだ。
・『「未来のコンビニ」目指すも KDDIとシナジーを生めるかは不透明 KDDIがローソンに対する株式公開買い付け(TOB)を電撃的に発表した2月6日、100人以上の記者が三菱商事ビル3階の会見場に集まった。そこで、KDDIの高橋誠社長は高らかに宣言した。 「通信、DXの力をフル活用して、未来のコンビニエンスストアを実現していきたい」 KDDIは、約4971億円を投じるTOBでローソン株式の半分を取得する。これによりローソンは、三菱商事とKDDIによる共同経営体制(両社の持ち分比率は50%ずつ)に移行する。 高橋社長は会見で「三菱商事と主導権争いをするということではない」と明言。ローソンの社長は引き続き三菱商事の出身者が務め、KDDIは伴走するパートナー役を果たすという。KDDIは新たな親会社として、技術を生かしてローソンをアップデートすることを目指す。 他方、従来の親会社である三菱商事には手詰まり感があった。2017年にローソンを子会社化し、売り場改革を行ってきたが、日販(店舗当たりの1日の売上高)などで王者セブン-イレブンの背中は遠いままだった。 結果的に、三菱商事は、ファミリーマートを完全子会社化した伊藤忠商事とは全く異なる道を選ぶことになった。 次ページでは、三菱商事と伊藤忠のコンビニ事業を比較するとともに、三菱商事が、ローソンを共同経営するパートナーとしてKDDIを招き入れたことの真の狙いを解明する』、 「ローソンの社長は引き続き三菱商事の出身者が務め、KDDIは伴走するパートナー役を果たすという。KDDIは新たな親会社として、技術を生かしてローソンをアップデートすることを目指す。 他方、従来の親会社である三菱商事には手詰まり感があった。2017年にローソンを子会社化し、売り場改革を行ってきたが、日販(店舗当たりの1日の売上高)などで王者セブン-イレブンの背中は遠いままだった。 結果的に、三菱商事は、ファミリーマートを完全子会社化した伊藤忠商事とは全く異なる道を選ぶことになった」、なるほど。
・『コンビニ事業の利益貢献度は三菱商事と伊藤忠で3倍の格差 コンビニ事業の利益貢献度を考えた時、伊藤忠と三菱商事では圧倒的な差がある。 22年度のローソンの純利益は246億円であり、三菱商事がローソンから最終的に得る利益は124億円だ(当時の三菱商事のローソン株式の持ち分比率は50.1%)。三菱商事の純利益1兆1807億円に占める比率はわずか1%である。資源ビジネスを稼ぎ頭にしている三菱商事にとって、ローソンは“お荷物事業”といっても過言ではない状況だったのだ。 一方で、伊藤忠にとってファミマの存在感は大きい。 伊藤忠におけるファミマの取り込み利益は22年度で237億円と、ローソンの倍だ(伊藤忠はファミマを完全子会社化したのち、農林中央金庫などからファミマへの出資を受け入れた。伊藤忠のファミマ株式の持ち分比率は94.7%)。純利益に占める構成比は3%と、三菱商事にとってのローソンの同構成比の3倍である。 これは三菱商事と伊藤忠に共通するが、コンビニ事業はそれ単体の利益の他に、店頭に並べる商品を供給する食料や繊維のセグメントなどでも収益が得られる。 三菱商事ほど資源ビジネスが強くない伊藤忠にとって、複数のセグメントに波及効果をもたらすファミマへの期待は大きい。伊藤忠の岡藤正広会長は、「ファミマの消費者接点を活かした新しいビジネスの可能性は非常に大きい」と決算説明会で述べている』、「伊藤忠におけるファミマの取り込み利益は22年度で237億円と、ローソンの倍だ(伊藤忠はファミマを完全子会社化したのち、農林中央金庫などからファミマへの出資を受け入れた。伊藤忠のファミマ株式の持ち分比率は94.7%)。純利益に占める構成比は3%と、三菱商事にとってのローソンの同構成比の3倍である。 これは三菱商事と伊藤忠に共通するが、コンビニ事業はそれ単体の利益の他に、店頭に並べる商品を供給する食料や繊維のセグメントなどでも収益が得られる。 三菱商事ほど資源ビジネスが強くない伊藤忠にとって、複数のセグメントに波及効果をもたらすファミマへの期待は大きい」、なるほど。
・『異業種とのタッグでコンビニ事業テコ入れ 上場コストを成長投資に回すメリットも ローソンも、低収益なまま手をこまねいていたわけではない。AI(人工知能)による流通業務の効率化や、アフターコロナの人流回復のニーズの取り込みによって、23年度の純利益は過去最高の500億円を見込む。だが、この先の競争を勝ち抜くための策が、三菱商事とローソンだけでは見いだせなかった。 三菱商事の中西勝也社長は会見で「当社だけでローソンの企業価値を上げていくのは限界があった」と頭打ち感があったことを認めた。 三菱商事は「もっと成長するためのブースターを得るため」(同社関係者)に、デジタル分野に強みがあるKDDIに対し協業を持ち掛けたのだ。 KDDIが経営に参画することにより、ローソンは三菱商事の連結子会社から持分法適用会社に変わる。これは、財務的にもうまみがある。 非上場化によって、配当金などの上場コストの一部を成長投資に充てることが可能になるのだ。 ローソンの株主還元は大盤振る舞いだった。直近5年(18~22年度)の配当性向の平均は96.3%にもなる。上場廃止前のファミリーマートの配当性向が40%前後だったのと比べれば、雲泥の差だ。 上場廃止になれば、少数株主からの株主還元圧力はなくなるとみられる。それによって浮いた資金を、購買データを活用するための投資などに活用できれば、ローソンの価値を高められるかもしれない。 では、今後ローソンはどう変わるのか。残念ながら、会見での説明は不明瞭だった。 会見で、KDDIの高橋社長が繰り返し言及したのは「リモートの力を使って価値あるものを届ける」ということだった。 服薬や保険の加入、スマートフォンの操作などのサポートをローソン店舗においてリモートで受けられるようにするという。ただし、いずれも構想段階であり、サービスの供給時期は明らかにしなかった。 高橋社長によれば「われわれは店頭でau(のスマートフォン)を販売することに着目しているのではなくて、通信の力を使ってローソンを発展させることを考えている」のだという。そうであれば、海外でも展開できるような「未来のコンビニ」の在り方を、他社に先駆けて実現できるかどうかが勝負になる。それができなければ、4971億円もの投資を回収することは難しいだろう。 つまるところ、今回の三菱商事とローソン、KDDIの協業の成否は、3社が掛け合わさって顧客にどんな価値を提供できるか、で決まる。従来3社が提携して推進してきたPontaポイントの発展は望めるかもしれないが、それだけではインパクトに欠ける。 3社による未来のコンビニ像は、TOBが終了する9月以降に示されるとみられる。頭打ち感があったお荷物事業を、世界で稼げる事業に変えることができるかどうかが、三菱商事の消費者向け事業(4月に中西社長肝いりで新設されるS.L.C.<Smart Life Creation>グループ)の命運を左右するといえる。 【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。 2ページ7段落目 23年度の純利益は過去最高の470億円を見込む→23年度の純利益は過去最高の500億円を見込む (2024年2月13日19:15 ダイヤモンド編集部)』、「今回の三菱商事とローソン、KDDIの協業の成否は、3社が掛け合わさって顧客にどんな価値を提供できるか、で決まる・・・3社による未来のコンビニ像は、TOBが終了する9月以降に示されるとみられる。頭打ち感があったお荷物事業を、世界で稼げる事業に変えることができるかどうかが、三菱商事の消費者向け事業・・・の命運を左右するといえる」、「3社による未来のコンビニ像」はどんなものになるのだろう。「三菱商事」のお手並み拝見だ。
次に、3月27日付け東洋経済オンラインが掲載したイー・ロジット代表取締役兼チーフコンサルタントの角井 亮一氏による「道民が愛する「セイコーマート」凄い物流の仕組み 脅威の積載効率9割はなぜ達成できるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/743994
・『【2024年3月27日15時40分追記】初出時、店舗数や積載効率などに誤りがあり、一部訂正いたしました。 4月1日にトラックドライバーの労働時間に上限規制が設けられることで、「物流2024年問題」への関心が急速に高まっている。企業においても自社製品を販売先に届ける、あるいは、商品をきちんとタイムリーに仕入れるために物流の維持は重要なミッションとなっている。 そうした中で、筆者が2000年から注目しているのが、北海道基盤のセコマが運営する、コンビニエンスチェーン、セイコーマートである。北海道で「セコマ」と言えば、誰にでも通じるほど地域に密着しているコンビニだが、同社の注目すべき点は、川上から川下まで、サプライチェーンをすべて自社で「飲み込んでいる」ことである。同社は小売企業でありながら、物流企業でもあるのだ』、「北海道で「セコマ」と言えば、誰にでも通じるほど地域に密着しているコンビニだが、同社の注目すべき点は、川上から川下まで、サプライチェーンをすべて自社で「飲み込んでいる」ことである。同社は小売企業でありながら、物流企業でもあるのだ」、なるほど。
・『北海道では圧倒的な存在感 セイコーマートがいかにして物流企業になったかを説明するには、同社の特徴を知っておく必要がある。 同社はもともと地元の酒屋を支援するという目的で、1971年に創立された日本に現存する最も古いコンビニである。2023年7月末時点の店舗数は1186店と、2022年12月の1180店から増やしている。対して、セブンイレブンは昨年7月末時点で996店舗と、前年5月の1000店舗超から減らしている。ちなみに、ファミリーマートは239店、ローソンは店679を展開している。 北海道は10万人あたりのコンビニの数が全国トップですでに競争は厳しい状況にある。この中で、セイコーマートはどのようにして店舗数を伸ばしているのだろうか。 特徴の1つとして挙げられるのは、北海道基盤ならではの地域密着経営である。顧客満足度調査では、直近13回中、12回セイコーマートが1位に輝いている。それは、全国チェーンではできない臨機応変な対応からもうかがえる。) 以前、北海道で地震があり、大停電があった時、「店内調理はできるが、おにぎりの具材がない」ということがあった。その時は、塩おにぎりを提供した。災害発生時、具材がない場合は塩おにぎりを提供するルールとなっているが、災害時でもそれぞれが状況に応じて考えられる従業員が揃っているのだ。 「雑談ができるコンビニ」という特徴もある。他のコンビニでも人によってはフランクに話してくれる店員もいるが、セイコーマートの場合は、常連が入ってきた瞬間に、「今日はマルマルないよ」とか「何はあるよ」という会話になる。「ここはスナックか」というほどの密着度があるのだ』、「1971年に創立された日本に現存する最も古いコンビニである。2023年7月末時点の店舗数は1186店と、2022年12月の1180店から増やしている。対して、セブンイレブンは昨年7月末時点で996店舗と、前年5月の1000店舗超から減らしている。ちなみに、ファミリーマートは239店、ローソンは店679を展開している。 北海道は10万人あたりのコンビニの数が全国トップですでに競争は厳しい状況にある」、「1971年に創立された日本に現存する最も古いコンビニ」とは初めて知った。「災害発生時、具材がない場合は塩おにぎりを提供するルールとなっているが、災害時でもそれぞれが状況に応じて考えられる従業員が揃っているのだ」、大したものだ。
・『目指すのは「デイリーユースストア」 実際、同社が目指しているのは「デイリーユースストア」で、現社長がこれをコンセプトに掲げている。毎日必要な商品をリーズナブルな価格で買える店、というわけだ。小売業界に詳しい人は「Everyday Low Price(EDLP)」という言葉を聞いたことがあるだろうが、セイコーマートが掲げているのは、「Everyday Reasonable Price(EDRP)」。その目安として、弁当は500円を超えないように、おにぎりは120円〜130円に価格設定している。「200円のおにぎりは作りません」とはっきりと言っている。 北海道内のカバー率は非常に高く、179市町村中、175市町村で展開している(セブンは122市町村)。セイコーマートの場合、北海道の企業だということもあって、さまざまな自治体から「うちに作ってほしい」という要望が多いことも背景にある。 例えば、コンビニが一軒もない自治体から出店要請があったときは、コミュニティバスの待合所を作って、そこのメンテナンスコストを村からもらうことで採算を合わせる、ということをやった。そういうところも「庶民の味方」「地域密着」の典型だろう。) もう1つ特徴的なのは、PB(プライベートブランド)の展開である(同社はPBではなく、リテールブランド=RBと呼んでいる)。同社では1995年に最初のPBとなるバニラのアイスクリームを作っており、これはセブンよりかなり早く(セブンがPBを始めたのは2011年)、現在ではPB商品は1000種類に上る。 酒屋の支援から始まっていることもあって、酒類のPBに強く、ワインは60SKUあり、年間400万本販売。ビールをオランダから直輸入しているほか、サワーは作っている。PBは自社で販売するだけでなく、他社にも販売している。 例えば、年間4500万本の牛乳を製造しているが、セコマグループで販売しているのは2000万本。残りはライフやコストコといったところに販売している。アイスクリームも外販が3分の1を占めている』、「さまざまな自治体から「うちに作ってほしい」という要望が多いことも背景にある。 例えば、コンビニが一軒もない自治体から出店要請があったときは、コミュニティバスの待合所を作って、そこのメンテナンスコストを村からもらうことで採算を合わせる、ということをやった」、しっかりしている。
・『手を抜かない「店内調理」 セイコーマートは、店内調理の取り組みも早かった。同社では「ホットシェフ」と呼んでおり、現在930店舗で展開をしている。やはり店内調理に力を入れているデイリーヤマザキによると、店内調理機能があることの利点は、3店舗集まったら、1店舗分の食材を調理でき、力を合わせれば工場の代わりになる、ということだ。つまり、サプライチェーンが途切れることがあっても、何かできるという利点がある。 売上数ナンバーワンはかつ丼で、他にフライドチキン、カレーライス、おにぎり、クロワッサンなどつねに約30種類揃えているという。食材は冷凍のものがほとんどで、カレーライスはセントラルキッチンで作ったものを温め直して提供する一方、カツ丼の場合は店で米を炊き、カツをあげて卵でとじたり、フライドキチンの場合は生肉に粉漬けするところから調理するなど可能な限りその場で調理しているという。 以上の特徴を踏まえたうえで、セイコーマートの物流面での取り組みを紹介したい。まず、同社は物流センターの投資として、1990年代後半から2000年代にかけて100億円を投資した。全国ではなく、道内だけでこの規模の投資をしている。それ以前から物流網はできていたが、物量拡大への対応に加えて、効率化を目的に再整備を行なった。) また同社は積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い。近年の平均が35%程度で、「4〜5割あれば上出来」と言われているのでいかに高いかわかるだろう。モノを運ぶ際、仮に行きの積載率が100%だったとしても、帰りに何も積まない場合、積載率は半分になる。8割ということは、下ろしては積んで下ろしては積んで、を繰り返さないと達成できない。 他社の場合、共同物流で往復それぞれの荷物を乗せたり、同業で同じトラックを使ったりして積載効率を上げようとしているが、セイコーマートも他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している。 積載効率8割を維持するためには、配送の無駄がないようにしなければならない。そこで、同社では1日数回配送する店舗と、1回しか配送しない店舗を地域によって分けている。また、店舗側もストックを多めに持てるように店舗面積を200平米、60坪規模を標準として、各店舗で広めのバックヤードを構えている。 配送の仕方にも工夫がある。例えば、札幌物流センターから稚内物流センターにモノを運んでそのまま戻ってきたら積載効率は5割になってしまうが、セイコーマートの場合、そのまま牛乳工場に行って牛乳を積み、別の物流センターへ運ぶ。さらに次に北見の野菜加工工場でカット野菜や漬物を積んで帰ってくる。この流れだと、ずっと積載効率8割を維持できるわけだ』、「積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い。近年の平均が35%程度で、「4〜5割あれば上出来」と言われているのでいかに高いかわかるだろう。モノを運ぶ際、仮に行きの積載率が100%だったとしても、帰りに何も積まない場合、積載率は半分になる。8割ということは、下ろしては積んで下ろしては積んで、を繰り返さないと達成できない。 他社の場合、共同物流で往復それぞれの荷物を乗せたり、同業で同じトラックを使ったりして積載効率を上げようとしているが、セイコーマートも他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している」、大したものだ。
・『地域密着だからこそ築けたサプライチェーン 牛乳工場や野菜工場は経営上の理由から買い取ったものだ。このほかに海産物の加工工場など、自社で食品工場を23工場持っている。ここで弁当や総菜や具材を加工しているほか、他社に卸すものも製造しているわけだ。各工場を原料産地のそばに置くことによって新鮮な原料を使った商品の製造をし、スーパーに勝てる価格・鮮度で勝負したいと挑んでいる。 このように、セイコーマートは原料の調達から販売まで、サプライチェーンをすべて飲み込んでやっている。例えば経営難の工場を買収したり、過疎地域に出店したりだけでなく、価格や商品展開などトータルで地域密着を徹底しているからこそ築き上げられたものだ。同社自身、物流企業であるという自覚を持っている。小売業にとってはいかに物流を抱え込むかが今後の事業展開の肝になってくるだろう』、「物流センターの投資として、1990年代後半から2000年代にかけて100億円を投資した。全国ではなく、道内だけでこの規模の投資をしている。それ以前から物流網はできていたが、物量拡大への対応に加えて、効率化を目的に再整備を行なった。) また同社は積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い。近年の平均が35%程度で、「4〜5割あれば上出来」と言われているのでいかに高いかわかるだろう。モノを運ぶ際、仮に行きの積載率が100%だったとしても、帰りに何も積まない場合、積載率は半分になる。8割ということは、下ろしては積んで下ろしては積んで、を繰り返さないと達成できない。 他社の場合、共同物流で往復それぞれの荷物を乗せたり、同業で同じトラックを使ったりして積載効率を上げようとしているが、セイコーマートも他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している。 積載効率8割を維持するためには、配送の無駄がないようにしなければならない。そこで、同社では1日数回配送する店舗と、1回しか配送しない店舗を地域によって分けている」、「積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い・・・他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している」、素晴らしい実績だ、
次に、4月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したグロービス・マネジメント・スクール 講師の 太田昂志氏による「イトーヨーカ堂が「33店閉鎖・祖業撤退」決めた理由、新戦略の勝算と死角とは《Editors' Picks》」を紹介しよう。
・『ダイヤモンド・オンラインで読者の反響が大きかった記事の中から、「今こそ読みたい1記事」をお届けします。今回は、2023年5月29日に公開した、イトーヨーカ堂に関する記事をもう一度、紹介します。全ての内容は初出時のままです。 セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂が、構造改革を推進しています。2026年2月末までに全国125店舗(2023年3月末時点)のうち33店舗の閉鎖を決定し、祖業であるアパレル事業からも撤退するとの意向も明らかにしています。こうした改革を断行した先に、同社は何を目指しているのでしょうか』、興味深そうだ。
・『総合スーパー業界をけん引してきた「イトーヨーカ堂」の成長と停滞 総合スーパーで知られるイトーヨーカ堂の母体は、1920年に浅草で創業した洋服店「羊華堂」です。1960年代に「衣・食・住」の商品を束ねた“ワンストップショッピング”、かつ、安価で販売する事業モデルに転換すると、イオンやダイエーなどの他の総合スーパーと同様、消費者の支持を得ることに成功。バブル崩壊後の1990年代も、 売り上げが低迷する百貨店に代わって成長し続けます。 ただ、好調はいつまでも続くわけではありません。 停滞のきっかけの一つが、1990年代初期に始まった大規模小売店舗法の規制緩和です。従来、この法律によって大規模小売店の開店日、店舗面積、閉店時間、年間休業日数が調整されていました。しかし、規制が大幅緩和されたことで、大規模小売店の出店ラッシュが始まります。店舗数が過剰になったことで1店当たりの販売効率が低下し、多くの店舗で収益が悪化し始めました。 苦戦を強いた要因はそれだけではありません。2000年代以降、ユニクロやニトリなど、安価で質の高い商品を扱う専門店が台頭してきました。これにより、イトーヨーカ堂の収益の柱だったアパレル事業は、集客力や価格競争力で劣後し始め、売り上げが停滞し始めます。 イトーヨーカ堂はこういった環境変化に対して、衣料品ブランドのSPA(製造小売業)化に取り組むなど事業改革を試みました。しかしアパレル事業の売り上げは、2005年の3073億円から2018年の1535億円へと、13年間でほぼ半減する結果となったのです。 成長の肝であったアパレル事業の停滞も影響し、イトーヨーカ堂全体の営業収益(会社が継続して営む本業からの収益)も2000年代初期に1兆5000億円台だったのが、2020年以降は1兆円台と低迷。かつて小売業界の中でもトップを争っていたイトーヨーカ堂が、窮地に立たされる事態になりました。 なぜこのような状況になったのか、ビジネスモデルから考えてみましょう』、「ユニクロやニトリなど、安価で質の高い商品を扱う専門店が台頭してきました。これにより、イトーヨーカ堂の収益の柱だったアパレル事業は、集客力や価格競争力で劣後し始め、売り上げが停滞し始めます。 イトーヨーカ堂はこういった環境変化に対して、衣料品ブランドのSPA(製造小売業)化に取り組むなど事業改革を試みました。しかしアパレル事業の売り上げは、2005年の3073億円から2018年の1535億円へと、13年間でほぼ半減する結果となったのです。 成長の肝であったアパレル事業の停滞も影響し、イトーヨーカ堂全体の営業収益・・・も2000年代初期に1兆5000億円台だったのが、2020年以降は1兆円台と低迷。かつて小売業界の中でもトップを争っていたイトーヨーカ堂が、窮地に立たされる事態になりました」、なるほど。
・『強いビジネスモデルほど変革が難しい ビジネスモデルとは「誰に何を」「どのように提供し」「どのように儲けるか」を描いた「ビジネスの設計図」のことです。 ハーバード・ビジネス・スクール教授の故クレイトン・クリステンセン氏らは、ビジネスモデルを「顧客価値の提供」「利益方程式」「プロセス」「経営資源」という4つの要素で定義しました。 (ビジネスモデルの4つの「箱」の図はリンク先参照) この考え方のポイントは、4つの要素が相互補完的にうまく作用し合うことで強固なビジネスモデルが出来上がるということです。その半面、仮に1つの要素が環境変化によって成立しなくなれば、ビジネスモデル全体にも影響を及ぼすことになります。 イトーヨーカ堂はまさに、ビジネスモデルが強固であったがゆえに、その一角で起きた問題によってビジネス全体が苦しむ結果になったのです。 では、イトーヨーカ堂のビジネスモデルはどんな要素で実現されているのでしょうか。「ビジネスモデルの4つの箱」を使って簡単に整理してみましょう』、「ビジネスモデルの4つの箱」を「使って簡単に整理してみましょう」、とは面白そうだ。
・『イトーヨーカ堂のビジネスモデルとは イトーヨーカ堂がターゲットにしているのは、単身者向けからファミリー層まで、老若男女問わず幅広い顧客です。こうした顧客層に対して低価格で多様な商品を提供しています(顧客価値の提供)。 儲けの構造は、広い顧客層に対して購買頻度の高い食料品で来店してもらい、利益率の高い日用品や衣料品などの非食品も“ついでに買ってもらう”ことで、収益性を高めるものです(利益方程式)。 こうしたビジネスを実現するには、廉価・大量販売に基づく多品種・大量仕入れが必要です。そのために、迅速かつ正確な商品補充や在庫管理などのオペレーションが肝になってきます(プロセス)。 また、こうした複雑かつ高度なプロセスを回すためには、販売員やバックヤード等の豊富な人材がいなければ成立しません。さらに店舗を構える建物や土地、多品種・大量の仕入れから販売、キャッシュ回収のことを考えると、それなりの運転資本も必要になってきます(経営資源)。 (「誰に何を」、「どのように提供し」、「どのように儲けるか」の図はリンク先参照) このように、イトーヨーカ堂のビジネスモデルは4つの要素が相互にうまく作用し合っていることがわかるでしょう。 しかし「利益方程式」の前提であった“ついで買い”が、ユニクロやニトリなどの専門店の台頭により、減少していったのです。するとそれまでのビジネスモデルは成立しづらく、結果、売り上げの低迷・収益性悪化に至ったのです。 イトーヨーカ堂も再起を図ろうと、これまで何度も変革に挑戦してきましたが、一度築いた強固なビジネスモデルの再構築は一筋縄ではいきません。やはり、食品で集客し、非食品で稼ぐモデルである以上、非食品が活性化しなければ、収益性は高まりません。 店舗削減とアパレル事業撤退は、こうした苦境を打破し再起を図るための大胆な一手といえます』、「食品で集客し、非食品で稼ぐモデルである以上、非食品が活性化しなければ、収益性は高まりません。 店舗削減とアパレル事業撤退は、こうした苦境を打破し再起を図るための大胆な一手といえます」、「店舗削減とアパレル事業撤退」が奏功するだろうか。
・『復活の鍵は「首都圏」「食」への集中戦略にある イトーヨーカ堂の親会社であるセブン&アイ・ホールディングスは、2025年までの中期経営計画を修正し、グループ戦略を「食」にフォーカスする形へ転換すると発表しました。これに合わせて、イトーヨーカ堂も「首都圏」「食」に集中することで再起を目指す方針です。 イトーヨーカ堂にとって、この方針にどんな勝算があるのでしょうか。 まず市場を見れば、グループの店舗密度が高い首都圏での「食」のマーケットは大きく、その伸びも期待できるでしょう。2023年2月に東京都が公表した予想を見ても、首都圏人口は2030年まで増加傾向であり、しばらく大幅な減少はないことも明らかです。 競合はどうでしょうか。新たに参入しようにも、首都圏は地方に比べて広い空き地もなく、出店余地も決して多くありません。駅前や駅近の一等地をすでに押さえているイトーヨーカ堂にとって、言葉の通り「地の利」があるのです。 また、今回、同じグループの食品スーパー・ヨークと統合することを発表しています。これによって商品開発や事業管理などを一元化することによるコスト削減が期待できます。 今回の「首都圏」「食」へのフォーカスは、ポーター教授が提唱した3つの基本戦略のうち、「集中戦略」に当たるものです。 集中戦略とは、特定の顧客や地域などにターゲットを絞り、経営資源を投入する戦略のことです。イトーヨーカ堂は、ターゲットを絞り込むことで、競合他社に対して効果的かつ効率的に戦おうとしているのです。 (基本戦略を使って戦略立案や競合の戦略把握に役立てよう! はリンク先参照) イトーヨーカ堂は、食に集中する集中戦略を取って売り上げを上げつつコストカットすることで、収益性を高めることができるでしょう。 また、以前から推進している「総合スーパーからショッピングセンター化への改革」にも好影響をもたらすものと思います。というのも、今後「食」に集中することで店舗の魅力が高まれば、顧客を一層集めることができ、有力テナントのさらなる誘致につながるためです。 ただし油断は禁物です。集中戦略は、経営資源を効率的に活用できる利点がありますが、同時にリスクも存在します。 例えば、集中戦略が成立するのは、市場の中でまだ満たされていないニーズが存在するからです。しかし、そのニーズが他で満たされてしまうと、集中戦略の効果は半減してしまいます。例えば、オンラインショッピングやデリバリーサービスなどが進化し、人々の「食」に関するニーズをイトーヨーカ堂に先んじて満たしてしまうようなケースです。 顧客を他社に奪われないようにするためには、どうすればよいのでしょうか。 イトーヨーカ堂にとっては「セブン&アイ経済圏」の一員である強みを生かすことが鍵になるかもしれません。例えば両社がPOSデータを共有するなどして、イトーヨーカ堂ならではの顧客体験をつくることが、他の追随を許さない競争力を生むでしょう。デジタル技術やデータの活用、グループ間の連携などを推し進めながら、再び環境変化が起こっても柔軟に対応できるビジネスモデルの構築を期待したいところです』、「イトーヨーカ堂にとっては「セブン&アイ経済圏」の一員である強みを生かすことが鍵になるかもしれません。例えば両社がPOSデータを共有するなどして、イトーヨーカ堂ならではの顧客体験をつくることが、他の追随を許さない競争力を生むでしょう。デジタル技術やデータの活用、グループ間の連携などを推し進めながら、再び環境変化が起こっても柔軟に対応できるビジネスモデルの構築を期待したいところです」、今後の「ビジネスモデルの構築」を注目したい。
先ずは、本年2月9日付けダイヤモンド・オンライン「三菱商事がKDDIと「ローソンを共同経営」する理由、ファミマを完全子会社化した伊藤忠とは真逆の選択」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338743
・『三菱商事と通信大手のKDDIは2月6日、ローソンを非上場化し、折半出資による共同経営を行うと発表した。ローソンは三菱商事の連結子会社から、持分法適用会社になる。これは、ファミリーマートを完全子会社化した伊藤忠商事とは真逆の“選択”をしたことを意味する。三菱商事がローソンを遠ざけた真意とは』、興味深そうだ。
・『「未来のコンビニ」目指すも KDDIとシナジーを生めるかは不透明 KDDIがローソンに対する株式公開買い付け(TOB)を電撃的に発表した2月6日、100人以上の記者が三菱商事ビル3階の会見場に集まった。そこで、KDDIの高橋誠社長は高らかに宣言した。 「通信、DXの力をフル活用して、未来のコンビニエンスストアを実現していきたい」 KDDIは、約4971億円を投じるTOBでローソン株式の半分を取得する。これによりローソンは、三菱商事とKDDIによる共同経営体制(両社の持ち分比率は50%ずつ)に移行する。 高橋社長は会見で「三菱商事と主導権争いをするということではない」と明言。ローソンの社長は引き続き三菱商事の出身者が務め、KDDIは伴走するパートナー役を果たすという。KDDIは新たな親会社として、技術を生かしてローソンをアップデートすることを目指す。 他方、従来の親会社である三菱商事には手詰まり感があった。2017年にローソンを子会社化し、売り場改革を行ってきたが、日販(店舗当たりの1日の売上高)などで王者セブン-イレブンの背中は遠いままだった。 結果的に、三菱商事は、ファミリーマートを完全子会社化した伊藤忠商事とは全く異なる道を選ぶことになった。 次ページでは、三菱商事と伊藤忠のコンビニ事業を比較するとともに、三菱商事が、ローソンを共同経営するパートナーとしてKDDIを招き入れたことの真の狙いを解明する』、 「ローソンの社長は引き続き三菱商事の出身者が務め、KDDIは伴走するパートナー役を果たすという。KDDIは新たな親会社として、技術を生かしてローソンをアップデートすることを目指す。 他方、従来の親会社である三菱商事には手詰まり感があった。2017年にローソンを子会社化し、売り場改革を行ってきたが、日販(店舗当たりの1日の売上高)などで王者セブン-イレブンの背中は遠いままだった。 結果的に、三菱商事は、ファミリーマートを完全子会社化した伊藤忠商事とは全く異なる道を選ぶことになった」、なるほど。
・『コンビニ事業の利益貢献度は三菱商事と伊藤忠で3倍の格差 コンビニ事業の利益貢献度を考えた時、伊藤忠と三菱商事では圧倒的な差がある。 22年度のローソンの純利益は246億円であり、三菱商事がローソンから最終的に得る利益は124億円だ(当時の三菱商事のローソン株式の持ち分比率は50.1%)。三菱商事の純利益1兆1807億円に占める比率はわずか1%である。資源ビジネスを稼ぎ頭にしている三菱商事にとって、ローソンは“お荷物事業”といっても過言ではない状況だったのだ。 一方で、伊藤忠にとってファミマの存在感は大きい。 伊藤忠におけるファミマの取り込み利益は22年度で237億円と、ローソンの倍だ(伊藤忠はファミマを完全子会社化したのち、農林中央金庫などからファミマへの出資を受け入れた。伊藤忠のファミマ株式の持ち分比率は94.7%)。純利益に占める構成比は3%と、三菱商事にとってのローソンの同構成比の3倍である。 これは三菱商事と伊藤忠に共通するが、コンビニ事業はそれ単体の利益の他に、店頭に並べる商品を供給する食料や繊維のセグメントなどでも収益が得られる。 三菱商事ほど資源ビジネスが強くない伊藤忠にとって、複数のセグメントに波及効果をもたらすファミマへの期待は大きい。伊藤忠の岡藤正広会長は、「ファミマの消費者接点を活かした新しいビジネスの可能性は非常に大きい」と決算説明会で述べている』、「伊藤忠におけるファミマの取り込み利益は22年度で237億円と、ローソンの倍だ(伊藤忠はファミマを完全子会社化したのち、農林中央金庫などからファミマへの出資を受け入れた。伊藤忠のファミマ株式の持ち分比率は94.7%)。純利益に占める構成比は3%と、三菱商事にとってのローソンの同構成比の3倍である。 これは三菱商事と伊藤忠に共通するが、コンビニ事業はそれ単体の利益の他に、店頭に並べる商品を供給する食料や繊維のセグメントなどでも収益が得られる。 三菱商事ほど資源ビジネスが強くない伊藤忠にとって、複数のセグメントに波及効果をもたらすファミマへの期待は大きい」、なるほど。
・『異業種とのタッグでコンビニ事業テコ入れ 上場コストを成長投資に回すメリットも ローソンも、低収益なまま手をこまねいていたわけではない。AI(人工知能)による流通業務の効率化や、アフターコロナの人流回復のニーズの取り込みによって、23年度の純利益は過去最高の500億円を見込む。だが、この先の競争を勝ち抜くための策が、三菱商事とローソンだけでは見いだせなかった。 三菱商事の中西勝也社長は会見で「当社だけでローソンの企業価値を上げていくのは限界があった」と頭打ち感があったことを認めた。 三菱商事は「もっと成長するためのブースターを得るため」(同社関係者)に、デジタル分野に強みがあるKDDIに対し協業を持ち掛けたのだ。 KDDIが経営に参画することにより、ローソンは三菱商事の連結子会社から持分法適用会社に変わる。これは、財務的にもうまみがある。 非上場化によって、配当金などの上場コストの一部を成長投資に充てることが可能になるのだ。 ローソンの株主還元は大盤振る舞いだった。直近5年(18~22年度)の配当性向の平均は96.3%にもなる。上場廃止前のファミリーマートの配当性向が40%前後だったのと比べれば、雲泥の差だ。 上場廃止になれば、少数株主からの株主還元圧力はなくなるとみられる。それによって浮いた資金を、購買データを活用するための投資などに活用できれば、ローソンの価値を高められるかもしれない。 では、今後ローソンはどう変わるのか。残念ながら、会見での説明は不明瞭だった。 会見で、KDDIの高橋社長が繰り返し言及したのは「リモートの力を使って価値あるものを届ける」ということだった。 服薬や保険の加入、スマートフォンの操作などのサポートをローソン店舗においてリモートで受けられるようにするという。ただし、いずれも構想段階であり、サービスの供給時期は明らかにしなかった。 高橋社長によれば「われわれは店頭でau(のスマートフォン)を販売することに着目しているのではなくて、通信の力を使ってローソンを発展させることを考えている」のだという。そうであれば、海外でも展開できるような「未来のコンビニ」の在り方を、他社に先駆けて実現できるかどうかが勝負になる。それができなければ、4971億円もの投資を回収することは難しいだろう。 つまるところ、今回の三菱商事とローソン、KDDIの協業の成否は、3社が掛け合わさって顧客にどんな価値を提供できるか、で決まる。従来3社が提携して推進してきたPontaポイントの発展は望めるかもしれないが、それだけではインパクトに欠ける。 3社による未来のコンビニ像は、TOBが終了する9月以降に示されるとみられる。頭打ち感があったお荷物事業を、世界で稼げる事業に変えることができるかどうかが、三菱商事の消費者向け事業(4月に中西社長肝いりで新設されるS.L.C.<Smart Life Creation>グループ)の命運を左右するといえる。 【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。 2ページ7段落目 23年度の純利益は過去最高の470億円を見込む→23年度の純利益は過去最高の500億円を見込む (2024年2月13日19:15 ダイヤモンド編集部)』、「今回の三菱商事とローソン、KDDIの協業の成否は、3社が掛け合わさって顧客にどんな価値を提供できるか、で決まる・・・3社による未来のコンビニ像は、TOBが終了する9月以降に示されるとみられる。頭打ち感があったお荷物事業を、世界で稼げる事業に変えることができるかどうかが、三菱商事の消費者向け事業・・・の命運を左右するといえる」、「3社による未来のコンビニ像」はどんなものになるのだろう。「三菱商事」のお手並み拝見だ。
次に、3月27日付け東洋経済オンラインが掲載したイー・ロジット代表取締役兼チーフコンサルタントの角井 亮一氏による「道民が愛する「セイコーマート」凄い物流の仕組み 脅威の積載効率9割はなぜ達成できるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/743994
・『【2024年3月27日15時40分追記】初出時、店舗数や積載効率などに誤りがあり、一部訂正いたしました。 4月1日にトラックドライバーの労働時間に上限規制が設けられることで、「物流2024年問題」への関心が急速に高まっている。企業においても自社製品を販売先に届ける、あるいは、商品をきちんとタイムリーに仕入れるために物流の維持は重要なミッションとなっている。 そうした中で、筆者が2000年から注目しているのが、北海道基盤のセコマが運営する、コンビニエンスチェーン、セイコーマートである。北海道で「セコマ」と言えば、誰にでも通じるほど地域に密着しているコンビニだが、同社の注目すべき点は、川上から川下まで、サプライチェーンをすべて自社で「飲み込んでいる」ことである。同社は小売企業でありながら、物流企業でもあるのだ』、「北海道で「セコマ」と言えば、誰にでも通じるほど地域に密着しているコンビニだが、同社の注目すべき点は、川上から川下まで、サプライチェーンをすべて自社で「飲み込んでいる」ことである。同社は小売企業でありながら、物流企業でもあるのだ」、なるほど。
・『北海道では圧倒的な存在感 セイコーマートがいかにして物流企業になったかを説明するには、同社の特徴を知っておく必要がある。 同社はもともと地元の酒屋を支援するという目的で、1971年に創立された日本に現存する最も古いコンビニである。2023年7月末時点の店舗数は1186店と、2022年12月の1180店から増やしている。対して、セブンイレブンは昨年7月末時点で996店舗と、前年5月の1000店舗超から減らしている。ちなみに、ファミリーマートは239店、ローソンは店679を展開している。 北海道は10万人あたりのコンビニの数が全国トップですでに競争は厳しい状況にある。この中で、セイコーマートはどのようにして店舗数を伸ばしているのだろうか。 特徴の1つとして挙げられるのは、北海道基盤ならではの地域密着経営である。顧客満足度調査では、直近13回中、12回セイコーマートが1位に輝いている。それは、全国チェーンではできない臨機応変な対応からもうかがえる。) 以前、北海道で地震があり、大停電があった時、「店内調理はできるが、おにぎりの具材がない」ということがあった。その時は、塩おにぎりを提供した。災害発生時、具材がない場合は塩おにぎりを提供するルールとなっているが、災害時でもそれぞれが状況に応じて考えられる従業員が揃っているのだ。 「雑談ができるコンビニ」という特徴もある。他のコンビニでも人によってはフランクに話してくれる店員もいるが、セイコーマートの場合は、常連が入ってきた瞬間に、「今日はマルマルないよ」とか「何はあるよ」という会話になる。「ここはスナックか」というほどの密着度があるのだ』、「1971年に創立された日本に現存する最も古いコンビニである。2023年7月末時点の店舗数は1186店と、2022年12月の1180店から増やしている。対して、セブンイレブンは昨年7月末時点で996店舗と、前年5月の1000店舗超から減らしている。ちなみに、ファミリーマートは239店、ローソンは店679を展開している。 北海道は10万人あたりのコンビニの数が全国トップですでに競争は厳しい状況にある」、「1971年に創立された日本に現存する最も古いコンビニ」とは初めて知った。「災害発生時、具材がない場合は塩おにぎりを提供するルールとなっているが、災害時でもそれぞれが状況に応じて考えられる従業員が揃っているのだ」、大したものだ。
・『目指すのは「デイリーユースストア」 実際、同社が目指しているのは「デイリーユースストア」で、現社長がこれをコンセプトに掲げている。毎日必要な商品をリーズナブルな価格で買える店、というわけだ。小売業界に詳しい人は「Everyday Low Price(EDLP)」という言葉を聞いたことがあるだろうが、セイコーマートが掲げているのは、「Everyday Reasonable Price(EDRP)」。その目安として、弁当は500円を超えないように、おにぎりは120円〜130円に価格設定している。「200円のおにぎりは作りません」とはっきりと言っている。 北海道内のカバー率は非常に高く、179市町村中、175市町村で展開している(セブンは122市町村)。セイコーマートの場合、北海道の企業だということもあって、さまざまな自治体から「うちに作ってほしい」という要望が多いことも背景にある。 例えば、コンビニが一軒もない自治体から出店要請があったときは、コミュニティバスの待合所を作って、そこのメンテナンスコストを村からもらうことで採算を合わせる、ということをやった。そういうところも「庶民の味方」「地域密着」の典型だろう。) もう1つ特徴的なのは、PB(プライベートブランド)の展開である(同社はPBではなく、リテールブランド=RBと呼んでいる)。同社では1995年に最初のPBとなるバニラのアイスクリームを作っており、これはセブンよりかなり早く(セブンがPBを始めたのは2011年)、現在ではPB商品は1000種類に上る。 酒屋の支援から始まっていることもあって、酒類のPBに強く、ワインは60SKUあり、年間400万本販売。ビールをオランダから直輸入しているほか、サワーは作っている。PBは自社で販売するだけでなく、他社にも販売している。 例えば、年間4500万本の牛乳を製造しているが、セコマグループで販売しているのは2000万本。残りはライフやコストコといったところに販売している。アイスクリームも外販が3分の1を占めている』、「さまざまな自治体から「うちに作ってほしい」という要望が多いことも背景にある。 例えば、コンビニが一軒もない自治体から出店要請があったときは、コミュニティバスの待合所を作って、そこのメンテナンスコストを村からもらうことで採算を合わせる、ということをやった」、しっかりしている。
・『手を抜かない「店内調理」 セイコーマートは、店内調理の取り組みも早かった。同社では「ホットシェフ」と呼んでおり、現在930店舗で展開をしている。やはり店内調理に力を入れているデイリーヤマザキによると、店内調理機能があることの利点は、3店舗集まったら、1店舗分の食材を調理でき、力を合わせれば工場の代わりになる、ということだ。つまり、サプライチェーンが途切れることがあっても、何かできるという利点がある。 売上数ナンバーワンはかつ丼で、他にフライドチキン、カレーライス、おにぎり、クロワッサンなどつねに約30種類揃えているという。食材は冷凍のものがほとんどで、カレーライスはセントラルキッチンで作ったものを温め直して提供する一方、カツ丼の場合は店で米を炊き、カツをあげて卵でとじたり、フライドキチンの場合は生肉に粉漬けするところから調理するなど可能な限りその場で調理しているという。 以上の特徴を踏まえたうえで、セイコーマートの物流面での取り組みを紹介したい。まず、同社は物流センターの投資として、1990年代後半から2000年代にかけて100億円を投資した。全国ではなく、道内だけでこの規模の投資をしている。それ以前から物流網はできていたが、物量拡大への対応に加えて、効率化を目的に再整備を行なった。) また同社は積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い。近年の平均が35%程度で、「4〜5割あれば上出来」と言われているのでいかに高いかわかるだろう。モノを運ぶ際、仮に行きの積載率が100%だったとしても、帰りに何も積まない場合、積載率は半分になる。8割ということは、下ろしては積んで下ろしては積んで、を繰り返さないと達成できない。 他社の場合、共同物流で往復それぞれの荷物を乗せたり、同業で同じトラックを使ったりして積載効率を上げようとしているが、セイコーマートも他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している。 積載効率8割を維持するためには、配送の無駄がないようにしなければならない。そこで、同社では1日数回配送する店舗と、1回しか配送しない店舗を地域によって分けている。また、店舗側もストックを多めに持てるように店舗面積を200平米、60坪規模を標準として、各店舗で広めのバックヤードを構えている。 配送の仕方にも工夫がある。例えば、札幌物流センターから稚内物流センターにモノを運んでそのまま戻ってきたら積載効率は5割になってしまうが、セイコーマートの場合、そのまま牛乳工場に行って牛乳を積み、別の物流センターへ運ぶ。さらに次に北見の野菜加工工場でカット野菜や漬物を積んで帰ってくる。この流れだと、ずっと積載効率8割を維持できるわけだ』、「積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い。近年の平均が35%程度で、「4〜5割あれば上出来」と言われているのでいかに高いかわかるだろう。モノを運ぶ際、仮に行きの積載率が100%だったとしても、帰りに何も積まない場合、積載率は半分になる。8割ということは、下ろしては積んで下ろしては積んで、を繰り返さないと達成できない。 他社の場合、共同物流で往復それぞれの荷物を乗せたり、同業で同じトラックを使ったりして積載効率を上げようとしているが、セイコーマートも他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している」、大したものだ。
・『地域密着だからこそ築けたサプライチェーン 牛乳工場や野菜工場は経営上の理由から買い取ったものだ。このほかに海産物の加工工場など、自社で食品工場を23工場持っている。ここで弁当や総菜や具材を加工しているほか、他社に卸すものも製造しているわけだ。各工場を原料産地のそばに置くことによって新鮮な原料を使った商品の製造をし、スーパーに勝てる価格・鮮度で勝負したいと挑んでいる。 このように、セイコーマートは原料の調達から販売まで、サプライチェーンをすべて飲み込んでやっている。例えば経営難の工場を買収したり、過疎地域に出店したりだけでなく、価格や商品展開などトータルで地域密着を徹底しているからこそ築き上げられたものだ。同社自身、物流企業であるという自覚を持っている。小売業にとってはいかに物流を抱え込むかが今後の事業展開の肝になってくるだろう』、「物流センターの投資として、1990年代後半から2000年代にかけて100億円を投資した。全国ではなく、道内だけでこの規模の投資をしている。それ以前から物流網はできていたが、物量拡大への対応に加えて、効率化を目的に再整備を行なった。) また同社は積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い。近年の平均が35%程度で、「4〜5割あれば上出来」と言われているのでいかに高いかわかるだろう。モノを運ぶ際、仮に行きの積載率が100%だったとしても、帰りに何も積まない場合、積載率は半分になる。8割ということは、下ろしては積んで下ろしては積んで、を繰り返さないと達成できない。 他社の場合、共同物流で往復それぞれの荷物を乗せたり、同業で同じトラックを使ったりして積載効率を上げようとしているが、セイコーマートも他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している。 積載効率8割を維持するためには、配送の無駄がないようにしなければならない。そこで、同社では1日数回配送する店舗と、1回しか配送しない店舗を地域によって分けている」、「積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い・・・他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している」、素晴らしい実績だ、
次に、4月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したグロービス・マネジメント・スクール 講師の 太田昂志氏による「イトーヨーカ堂が「33店閉鎖・祖業撤退」決めた理由、新戦略の勝算と死角とは《Editors' Picks》」を紹介しよう。
・『ダイヤモンド・オンラインで読者の反響が大きかった記事の中から、「今こそ読みたい1記事」をお届けします。今回は、2023年5月29日に公開した、イトーヨーカ堂に関する記事をもう一度、紹介します。全ての内容は初出時のままです。 セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂が、構造改革を推進しています。2026年2月末までに全国125店舗(2023年3月末時点)のうち33店舗の閉鎖を決定し、祖業であるアパレル事業からも撤退するとの意向も明らかにしています。こうした改革を断行した先に、同社は何を目指しているのでしょうか』、興味深そうだ。
・『総合スーパー業界をけん引してきた「イトーヨーカ堂」の成長と停滞 総合スーパーで知られるイトーヨーカ堂の母体は、1920年に浅草で創業した洋服店「羊華堂」です。1960年代に「衣・食・住」の商品を束ねた“ワンストップショッピング”、かつ、安価で販売する事業モデルに転換すると、イオンやダイエーなどの他の総合スーパーと同様、消費者の支持を得ることに成功。バブル崩壊後の1990年代も、 売り上げが低迷する百貨店に代わって成長し続けます。 ただ、好調はいつまでも続くわけではありません。 停滞のきっかけの一つが、1990年代初期に始まった大規模小売店舗法の規制緩和です。従来、この法律によって大規模小売店の開店日、店舗面積、閉店時間、年間休業日数が調整されていました。しかし、規制が大幅緩和されたことで、大規模小売店の出店ラッシュが始まります。店舗数が過剰になったことで1店当たりの販売効率が低下し、多くの店舗で収益が悪化し始めました。 苦戦を強いた要因はそれだけではありません。2000年代以降、ユニクロやニトリなど、安価で質の高い商品を扱う専門店が台頭してきました。これにより、イトーヨーカ堂の収益の柱だったアパレル事業は、集客力や価格競争力で劣後し始め、売り上げが停滞し始めます。 イトーヨーカ堂はこういった環境変化に対して、衣料品ブランドのSPA(製造小売業)化に取り組むなど事業改革を試みました。しかしアパレル事業の売り上げは、2005年の3073億円から2018年の1535億円へと、13年間でほぼ半減する結果となったのです。 成長の肝であったアパレル事業の停滞も影響し、イトーヨーカ堂全体の営業収益(会社が継続して営む本業からの収益)も2000年代初期に1兆5000億円台だったのが、2020年以降は1兆円台と低迷。かつて小売業界の中でもトップを争っていたイトーヨーカ堂が、窮地に立たされる事態になりました。 なぜこのような状況になったのか、ビジネスモデルから考えてみましょう』、「ユニクロやニトリなど、安価で質の高い商品を扱う専門店が台頭してきました。これにより、イトーヨーカ堂の収益の柱だったアパレル事業は、集客力や価格競争力で劣後し始め、売り上げが停滞し始めます。 イトーヨーカ堂はこういった環境変化に対して、衣料品ブランドのSPA(製造小売業)化に取り組むなど事業改革を試みました。しかしアパレル事業の売り上げは、2005年の3073億円から2018年の1535億円へと、13年間でほぼ半減する結果となったのです。 成長の肝であったアパレル事業の停滞も影響し、イトーヨーカ堂全体の営業収益・・・も2000年代初期に1兆5000億円台だったのが、2020年以降は1兆円台と低迷。かつて小売業界の中でもトップを争っていたイトーヨーカ堂が、窮地に立たされる事態になりました」、なるほど。
・『強いビジネスモデルほど変革が難しい ビジネスモデルとは「誰に何を」「どのように提供し」「どのように儲けるか」を描いた「ビジネスの設計図」のことです。 ハーバード・ビジネス・スクール教授の故クレイトン・クリステンセン氏らは、ビジネスモデルを「顧客価値の提供」「利益方程式」「プロセス」「経営資源」という4つの要素で定義しました。 (ビジネスモデルの4つの「箱」の図はリンク先参照) この考え方のポイントは、4つの要素が相互補完的にうまく作用し合うことで強固なビジネスモデルが出来上がるということです。その半面、仮に1つの要素が環境変化によって成立しなくなれば、ビジネスモデル全体にも影響を及ぼすことになります。 イトーヨーカ堂はまさに、ビジネスモデルが強固であったがゆえに、その一角で起きた問題によってビジネス全体が苦しむ結果になったのです。 では、イトーヨーカ堂のビジネスモデルはどんな要素で実現されているのでしょうか。「ビジネスモデルの4つの箱」を使って簡単に整理してみましょう』、「ビジネスモデルの4つの箱」を「使って簡単に整理してみましょう」、とは面白そうだ。
・『イトーヨーカ堂のビジネスモデルとは イトーヨーカ堂がターゲットにしているのは、単身者向けからファミリー層まで、老若男女問わず幅広い顧客です。こうした顧客層に対して低価格で多様な商品を提供しています(顧客価値の提供)。 儲けの構造は、広い顧客層に対して購買頻度の高い食料品で来店してもらい、利益率の高い日用品や衣料品などの非食品も“ついでに買ってもらう”ことで、収益性を高めるものです(利益方程式)。 こうしたビジネスを実現するには、廉価・大量販売に基づく多品種・大量仕入れが必要です。そのために、迅速かつ正確な商品補充や在庫管理などのオペレーションが肝になってきます(プロセス)。 また、こうした複雑かつ高度なプロセスを回すためには、販売員やバックヤード等の豊富な人材がいなければ成立しません。さらに店舗を構える建物や土地、多品種・大量の仕入れから販売、キャッシュ回収のことを考えると、それなりの運転資本も必要になってきます(経営資源)。 (「誰に何を」、「どのように提供し」、「どのように儲けるか」の図はリンク先参照) このように、イトーヨーカ堂のビジネスモデルは4つの要素が相互にうまく作用し合っていることがわかるでしょう。 しかし「利益方程式」の前提であった“ついで買い”が、ユニクロやニトリなどの専門店の台頭により、減少していったのです。するとそれまでのビジネスモデルは成立しづらく、結果、売り上げの低迷・収益性悪化に至ったのです。 イトーヨーカ堂も再起を図ろうと、これまで何度も変革に挑戦してきましたが、一度築いた強固なビジネスモデルの再構築は一筋縄ではいきません。やはり、食品で集客し、非食品で稼ぐモデルである以上、非食品が活性化しなければ、収益性は高まりません。 店舗削減とアパレル事業撤退は、こうした苦境を打破し再起を図るための大胆な一手といえます』、「食品で集客し、非食品で稼ぐモデルである以上、非食品が活性化しなければ、収益性は高まりません。 店舗削減とアパレル事業撤退は、こうした苦境を打破し再起を図るための大胆な一手といえます」、「店舗削減とアパレル事業撤退」が奏功するだろうか。
・『復活の鍵は「首都圏」「食」への集中戦略にある イトーヨーカ堂の親会社であるセブン&アイ・ホールディングスは、2025年までの中期経営計画を修正し、グループ戦略を「食」にフォーカスする形へ転換すると発表しました。これに合わせて、イトーヨーカ堂も「首都圏」「食」に集中することで再起を目指す方針です。 イトーヨーカ堂にとって、この方針にどんな勝算があるのでしょうか。 まず市場を見れば、グループの店舗密度が高い首都圏での「食」のマーケットは大きく、その伸びも期待できるでしょう。2023年2月に東京都が公表した予想を見ても、首都圏人口は2030年まで増加傾向であり、しばらく大幅な減少はないことも明らかです。 競合はどうでしょうか。新たに参入しようにも、首都圏は地方に比べて広い空き地もなく、出店余地も決して多くありません。駅前や駅近の一等地をすでに押さえているイトーヨーカ堂にとって、言葉の通り「地の利」があるのです。 また、今回、同じグループの食品スーパー・ヨークと統合することを発表しています。これによって商品開発や事業管理などを一元化することによるコスト削減が期待できます。 今回の「首都圏」「食」へのフォーカスは、ポーター教授が提唱した3つの基本戦略のうち、「集中戦略」に当たるものです。 集中戦略とは、特定の顧客や地域などにターゲットを絞り、経営資源を投入する戦略のことです。イトーヨーカ堂は、ターゲットを絞り込むことで、競合他社に対して効果的かつ効率的に戦おうとしているのです。 (基本戦略を使って戦略立案や競合の戦略把握に役立てよう! はリンク先参照) イトーヨーカ堂は、食に集中する集中戦略を取って売り上げを上げつつコストカットすることで、収益性を高めることができるでしょう。 また、以前から推進している「総合スーパーからショッピングセンター化への改革」にも好影響をもたらすものと思います。というのも、今後「食」に集中することで店舗の魅力が高まれば、顧客を一層集めることができ、有力テナントのさらなる誘致につながるためです。 ただし油断は禁物です。集中戦略は、経営資源を効率的に活用できる利点がありますが、同時にリスクも存在します。 例えば、集中戦略が成立するのは、市場の中でまだ満たされていないニーズが存在するからです。しかし、そのニーズが他で満たされてしまうと、集中戦略の効果は半減してしまいます。例えば、オンラインショッピングやデリバリーサービスなどが進化し、人々の「食」に関するニーズをイトーヨーカ堂に先んじて満たしてしまうようなケースです。 顧客を他社に奪われないようにするためには、どうすればよいのでしょうか。 イトーヨーカ堂にとっては「セブン&アイ経済圏」の一員である強みを生かすことが鍵になるかもしれません。例えば両社がPOSデータを共有するなどして、イトーヨーカ堂ならではの顧客体験をつくることが、他の追随を許さない競争力を生むでしょう。デジタル技術やデータの活用、グループ間の連携などを推し進めながら、再び環境変化が起こっても柔軟に対応できるビジネスモデルの構築を期待したいところです』、「イトーヨーカ堂にとっては「セブン&アイ経済圏」の一員である強みを生かすことが鍵になるかもしれません。例えば両社がPOSデータを共有するなどして、イトーヨーカ堂ならではの顧客体験をつくることが、他の追随を許さない競争力を生むでしょう。デジタル技術やデータの活用、グループ間の連携などを推し進めながら、再び環境変化が起こっても柔軟に対応できるビジネスモデルの構築を期待したいところです」、今後の「ビジネスモデルの構築」を注目したい。
タグ:コンビニ (その12)(三菱商事がKDDIと「ローソンを共同経営」する理由 ファミマを完全子会社化した伊藤忠とは真逆の選択、道民が愛する「セイコーマート」凄い物流の仕組み 脅威の積載効率9割はなぜ達成できるのか、「イトーヨーカ堂が「33店閉鎖・祖業撤退」決めた理由、新戦略の勝算と死角とは《Editors' Picks》」) ダイヤモンド・オンライン「三菱商事がKDDIと「ローソンを共同経営」する理由、ファミマを完全子会社化した伊藤忠とは真逆の選択」 「ローソンの社長は引き続き三菱商事の出身者が務め、KDDIは伴走するパートナー役を果たすという。KDDIは新たな親会社として、技術を生かしてローソンをアップデートすることを目指す。 他方、従来の親会社である三菱商事には手詰まり感があった。2017年にローソンを子会社化し、売り場改革を行ってきたが、日販(店舗当たりの1日の売上高)などで王者セブン-イレブンの背中は遠いままだった。 結果的に、三菱商事は、ファミリーマートを完全子会社化した伊藤忠商事とは全く異なる道を選ぶことになった」、なるほど。 「伊藤忠におけるファミマの取り込み利益は22年度で237億円と、ローソンの倍だ(伊藤忠はファミマを完全子会社化したのち、農林中央金庫などからファミマへの出資を受け入れた。伊藤忠のファミマ株式の持ち分比率は94.7%)。純利益に占める構成比は3%と、三菱商事にとってのローソンの同構成比の3倍である。 これは三菱商事と伊藤忠に共通するが、コンビニ事業はそれ単体の利益の他に、店頭に並べる商品を供給する食料や繊維のセグメントなどでも収益が得られる。 三菱商事ほど資源ビジネスが強くない伊藤忠にとって、複数のセグメン 「今回の三菱商事とローソン、KDDIの協業の成否は、3社が掛け合わさって顧客にどんな価値を提供できるか、で決まる・・・3社による未来のコンビニ像は、TOBが終了する9月以降に示されるとみられる。頭打ち感があったお荷物事業を、世界で稼げる事業に変えることができるかどうかが、三菱商事の消費者向け事業・・・の命運を左右するといえる」、「3社による未来のコンビニ像」はどんなものになるのだろう。「三菱商事」のお手並み拝見だ。 東洋経済オンライン 角井 亮一氏による「道民が愛する「セイコーマート」凄い物流の仕組み 脅威の積載効率9割はなぜ達成できるのか」 「北海道で「セコマ」と言えば、誰にでも通じるほど地域に密着しているコンビニだが、同社の注目すべき点は、川上から川下まで、サプライチェーンをすべて自社で「飲み込んでいる」ことである。同社は小売企業でありながら、物流企業でもあるのだ」、なるほど。 「1971年に創立された日本に現存する最も古いコンビニである。2023年7月末時点の店舗数は1186店と、2022年12月の1180店から増やしている。対して、セブンイレブンは昨年7月末時点で996店舗と、前年5月の1000店舗超から減らしている。ちなみに、ファミリーマートは239店、ローソンは店679を展開している。 北海道は10万人あたりのコンビニの数が全国トップですでに競争は厳しい状況にある」、「1971年に創立された日本に現存する最も古いコンビニ」とは初めて知った。「災害発生時、具材がない場合は塩 おにぎりを提供するルールとなっているが、災害時でもそれぞれが状況に応じて考えられる従業員が揃っているのだ」、大したものだ。 「さまざまな自治体から「うちに作ってほしい」という要望が多いことも背景にある。 例えば、コンビニが一軒もない自治体から出店要請があったときは、コミュニティバスの待合所を作って、そこのメンテナンスコストを村からもらうことで採算を合わせる、ということをやった」、しっかりしている。 「積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い。近年の平均が35%程度で、「4〜5割あれば上出来」と言われているのでいかに高いかわかるだろう。モノを運ぶ際、仮に行きの積載率が100%だったとしても、帰りに何も積まない場合、積載率は半分になる。8割ということは、下ろしては積んで下ろしては積んで、を繰り返さないと達成できない。 他社の場合、共同物流で往復それぞれの荷物を乗せたり、同業で同じトラックを使ったりして積載効率を上げようとしているが、セイコーマートも他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送 「物流センターの投資として、1990年代後半から2000年代にかけて100億円を投資した。全国ではなく、道内だけでこの規模の投資をしている。それ以前から物流網はできていたが、物量拡大への対応に加えて、効率化を目的に再整備を行なった。) また同社は積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い。近年の平均が35%程度で、「4〜5割あれば上出来」と言われているのでいかに高いかわかるだろう。モノを運ぶ際、仮に行きの積載率が100%だったとしても、帰りに何も積まない場合、積載率は半分になる。8割ということは、下ろし は積んで下ろしては積んで、を繰り返さないと達成できない。 他社の場合、共同物流で往復それぞれの荷物を乗せたり、同業で同じトラックを使ったりして積載効率を上げようとしているが、セイコーマートも他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している。 積載効率8割を維持するためには、配送の無駄がないようにしなければならない。そこで、同社では1日数回配送する店舗と、1回しか配送しない店舗を地域によって分けている 「積載効率が約8割と、ほかに類を見ないほど高い・・・他業態への商品供給や大手メーカーの北海道と本州の輸送を担うなどしてこれを達成している」、素晴らしい実績だ、 ダイヤモンド・オンライン 太田昂志氏による「イトーヨーカ堂が「33店閉鎖・祖業撤退」決めた理由、新戦略の勝算と死角とは《Editors' Picks》」 「ユニクロやニトリなど、安価で質の高い商品を扱う専門店が台頭してきました。これにより、イトーヨーカ堂の収益の柱だったアパレル事業は、集客力や価格競争力で劣後し始め、売り上げが停滞し始めます。 イトーヨーカ堂はこういった環境変化に対して、衣料品ブランドのSPA(製造小売業)化に取り組むなど事業改革を試みました。しかしアパレル事業の売り上げは、2005年の3073億円から2018年の1535億円へと、13年間でほぼ半減する結果となったのです。 成長の肝であったアパレル事業の停滞も影響し、イトーヨーカ堂全体の営業収益・・・も2000年代初期に1兆5000億円台だったのが、2020年以降は1兆円台と低迷。かつて小売業界の中でもトップを争っていたイトーヨーカ堂が、窮地に立たされる事態になりました」、なるほど。 「ビジネスモデルの4つの箱」を「使って簡単に整理してみましょう」、とは面白そうだ。 「食品で集客し、非食品で稼ぐモデルである以上、非食品が活性化しなければ、収益性は高まりません。 店舗削減とアパレル事業撤退は、こうした苦境を打破し再起を図るための大胆な一手といえます」、「店舗削減とアパレル事業撤退」が奏功するだろうか。 「イトーヨーカ堂にとっては「セブン&アイ経済圏」の一員である強みを生かすことが鍵になるかもしれません。例えば両社がPOSデータを共有するなどして、イトーヨーカ堂ならではの顧客体験をつくることが、他の追随を許さない競争力を生むでしょう。デジタル技術やデータの活用、グループ間の連携などを推し進めながら、再び環境変化が起こっても柔軟に対応できるビジネスモデルの構築を期待したいところです」、今後の「ビジネスモデルの構築」を注目したい。
自動車(一般)(その7)(トヨタ自動車にディーラーの不満が爆発寸前!販売店軽視 利益搾取に溜まる怒りのマグマ、トヨタ自動車が豊田章男会長“喜び組記者”を社外監査役に抜擢 古巣の中日新聞社長は直撃に「トヨタ寄りだったかもしれないが」《トヨタも公式回答で…》、トヨタのガバナンスを 前ネスレ日本社長の高岡氏が辛口批評!グローバル企業に必要な社外取・監査の選任基準とは?) [産業動向]
自動車(一般)については、本年3月13日に取上げた。今日は、(その7)(トヨタ自動車にディーラーの不満が爆発寸前!販売店軽視 利益搾取に溜まる怒りのマグマ、トヨタ自動車が豊田章男会長“喜び組記者”を社外監査役に抜擢 古巣の中日新聞社長は直撃に「トヨタ寄りだったかもしれないが」《トヨタも公式回答で…》、トヨタのガバナンスを 前ネスレ日本社長の高岡氏が辛口批評!グローバル企業に必要な社外取・監査の選任基準とは?)である。
先ずは、本年3月18日付けダイヤモンド・オンライン「トヨタ自動車にディーラーの不満が爆発寸前!販売店軽視、利益搾取に溜まる怒りのマグマ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338048
・『トヨタ自動車系ディーラーの「全店全車種併売」が始まってから4年が経過しようとしている。国内の人口減少で、新車の販売台数が伸び悩む中、販売店同士の競争を促すためにメーカー主導で「トヨタ店」「トヨペット店」などといった販売チャネルの垣根を取り払ったのだ。しかし、ディーラーからは怨念にも近い声が上がっている。特集『崩壊 ディーラービジネス』(全7回)の#6では、トヨタが販売店から利益を搾り取っている実態を明らかにするとともに、ディーラーの本音に迫る』、興味深そうだ。
・『2020年からの全車種併売開始後 トヨタの販売店軽視が鮮明に 「今年はメーカーも販売店も共に斧を磨く年にしよう」。今年1月末に東京都内で開催された全国トヨタ販売店代表者会議で、トヨタ自動車の国内販売を担当する友山茂樹本部長は、ディーラー首脳らにこう呼び掛けた。 友山氏は、かつて北米のディーラーミーティーグで、「レクサス」の新車販売が低迷していた時代に、北米ディーラーの代表が、「今こそメーカーは斧を研ぐ時だ」として豊田章男会長に斧を贈ったエピソードを紹介。トヨタグループで不正が相次ぎ、一部車種が販売停止に追い込まれている窮地ではあるが、臥薪嘗胆の思いで正常化に向けて準備をすることの重要性を訴えたのだ。 会場は拍手で沸いたものの、一部のトヨタディーラー首脳は、友山氏のプレゼンテーションを冷ややかな目で見ざるを得なかった。全車種併売開始以降、ディーラーを締め付けるトヨタの姿勢に不信感が広がっているからだ。 そもそも全車種併売とは、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の各チャンネルにあった専売車種をなくし、全店舗でほぼ全てのトヨタのクルマを販売できるようにする“規制緩和”だ。 その目的は、販売店同士の競争だ。人口減少で新車販売が伸び悩む中、販売店同士を競わせて、ディーラー網の再編を促す狙いがあった。日本自動車販売協会連合会の関係者によると、「約250法人あるトヨタ系ディーラーを110法人程度までに絞るという見方もある」という。 全車種併売化により、大衆向けのクルマを扱っていたカローラ店やネッツ店で高級車の「クラウン」を扱えたり、トヨタ店で商用向けの「ハイエース」を販売できるようになったりして、恩恵を受けているディーラーが少なくないのは事実だ。 半導体不足で生産が滞っていた反動で、イベント費用やDM費などの販促費を投じなくても、ほぼ定価でクルマが売れる状況が続いていることもあり、ディーラーの足元の業績は好調だ。 ただし、ディーラー側には不満もたまっている。メーカー側が 販売店同士の競争を促そうと、上から目線で流通網にメスを入れていることが、元来、独立心が旺盛なディーラーの反発を招いている のだ。 次ページでは、トヨタが販売店から利益を搾り取っている実態を明らかにするとともに、ディーラーの本音に迫る』、「ディーラー側には不満もたまっている。メーカー側が 販売店同士の競争を促そうと、上から目線で流通網にメスを入れていることが、元来、独立心が旺盛なディーラーの反発を招いている のだ」、なるほど。
・『仕入れ価格の値上げで締め付け クルマのサブスクも負担に トヨタの締め付け策で最も象徴的なものは、仕入れ価格の値上げだ。 ある有力ディーラーによると、全車種併売以前、クルマの利益率は10%程度だったが、値上げにより利益率は7%程度にまで低下した。 新車種の生産量を初期受注量が上回る場合は、販促費をかけなくても売れる。ただ、クルマが行き渡って販売が伸び悩めば、ディーラーの業績は苦しくなる。販売が伸び悩んでからディーラーがトヨタに仕入れ価格の引き下げを求めても、強気の姿勢のまま一向に仕入れ価格を変更することはなかったという。 手元資金がなくてもクルマを手にすることができる「残価設定クレジット(残クレ)」など、ディーラーは幅広い金融商品を用意しているが、金融についてもトヨタが関与を強めている。 ディーラーは独立資本のため、地場の金融機関の金融商品を扱うこともできるが、併売以降は、トヨタ系のクレジット会社である トヨタファイナンスに切り替えるよう強く求められるケースがあったという。 2020年以降、トヨタファイナンスのクレジットカードのキャッシングなども含めた取扱高は右肩上がりで増加している。20年3月期は7兆9849億円だったが、23年3月期には8兆9736億円と約12%も増加しているのだ。 「KINTO(キント)」に対する不満もたまっている。キントは「まだクルマ買ってるんですか?」をキャッチコピーに、19年から始めたクルマのサブスクリプションサービスだ。顧客にとっては煩わしい保険や車検の手続きをすることなく、月額3万円から乗れる便利なサービスだが、ディーラー側にしてみれば、収益のほとんどをメーカー側に奪われているのが実態だ。 キントはクルマを持ちたがらない若年層に向けた新たな販売戦略ともいえるが、ディーラーにしてみれば利益貢献もせず、現場に負担を強いるだけのサービスのため、「われわれを無視しているとしか思えない」(ディーラー幹部)と憤る。 ディーラーが望むのは、トヨタとの対等な関係だ。前出のディーラー幹部は「持っている資本は懸け離れているが、顧客に対する責任や、クルマを通じて顧客の生活を豊かにしたいという部分は同じだと認識している。お互いが信頼関係を持って意見をぶつけ合える関係に戻らなければ、電気自動車(EV)の普及の阻害要因にもなりかねない」と指摘する。 トヨタグループのダイハツ工業で起きた不祥事は、“現場”の声に耳を傾けなかったために起きたと第三者委員会の調査報告書で指摘されている。製造現場だけでなく、販売の“最前線”に立つディーラーを軽視する姿勢が続けば、築き上げてきた強固な販売網は内部から崩壊しかねない。 ディーラーの声を拾い、寄り添う姿勢を見せなければ、斧はさびついて、中国BYDや米テスラといった黒船にも太刀打ちできなくなってしまうだろう』、「キントは「まだクルマ買ってるんですか?」をキャッチコピーに、19年から始めたクルマのサブスクリプションサービスだ。顧客にとっては煩わしい保険や車検の手続きをすることなく、月額3万円から乗れる便利なサービスだが、ディーラー側にしてみれば、収益のほとんどをメーカー側に奪われているのが実態だ。 キントはクルマを持ちたがらない若年層に向けた新たな販売戦略ともいえるが、ディーラーにしてみれば利益貢献もせず、現場に負担を強いるだけのサービスのため、「われわれを無視しているとしか思えない」(ディーラー幹部)と憤る・・・ディーラーが望むのは、トヨタとの対等な関係だ。前出のディーラー幹部は「持っている資本は懸け離れているが、顧客に対する責任や、クルマを通じて顧客の生活を豊かにしたいという部分は同じだと認識している。お互いが信頼関係を持って意見をぶつけ合える関係に戻らなければ、電気自動車(EV)の普及の阻害要因にもなりかねない」と指摘・・・製造現場だけでなく、販売の“最前線”に立つディーラーを軽視する姿勢が続けば、築き上げてきた強固な販売網は内部から崩壊しかねない。 ディーラーの声を拾い、寄り添う姿勢を見せなければ、斧はさびついて、中国BYDや米テスラといった黒船にも太刀打ちできなくなってしまうだろう」、現場の危機感は強いようだ。
次に、3月27日付け文春オンライン「トヨタ自動車が豊田章男会長“喜び組記者”を社外監査役に抜擢 古巣の中日新聞社長は直撃に「トヨタ寄りだったかもしれないが」《トヨタも公式回答で…》」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/69841#goog_rewarded
・『トヨタ自動車は3月21日、社外監査役に元中日新聞編集委員・長田弘己氏(50)を起用する人事を発表した。同社初のマスコミ出身の役員となる見通し。ただ、長田氏がトヨタの豊田章男会長(67)と極めて近い記者とされることから、関係者の間でこの人事が大きな波紋を呼んでいる。そんな中、中日新聞の大島宇一郎社長(59)が「週刊文春」の直撃取材に対し、長田氏の取材姿勢やトヨタとの関係などについて語った。また、トヨタも取材に対し、「『外の目』と『中の目』を兼ね備えたジャーナリスト」などと回答した』、「中日新聞」にとっても「トヨタ」は最も大切な取材先だろう。
・『「トヨタウォーズ」と題する大型連載を手掛けた 「週刊文春」は2月22日発売号で、「豊田章男トヨタ会長はなぜ不正を招いたのか」と題した8ページに及ぶレポートを掲載。グループ会社で相次いで発覚した不正の背景や、豊田会長が重用してきた元レースクイーンや元コンパニオンとの「本当の関係」などについて詳報した。 そんなトヨタが今回、社外監査役に起用すると発表したのが、中日新聞の女性編集委員として有名な存在だった長田氏だ。どんな人物なのか。 「1999年に入社し、ニューヨーク特派員などを経て2019年からトヨタグループ取材班のキャップを務めた。在任中に『トヨタウォーズ』と題する大型連載を1年半にわたって手がけ、章男氏にベッタリと密着していました」(中日新聞社員) 2020年7月には、中日新聞は章男氏の「単独インタビュー」を実施。するとその記事は後日、トヨタの自社メディア「トヨタイムズ」で全編公開された。 「つまり、トヨタとコラボしたPR企画を『単独インタビュー』と銘打っていただけでした。中身も、コロナ禍での章男氏の戦いや経営哲学などをカッコよく描いたもの。こうした経緯から、彼女は一部で“喜び組記者”とも言われていました」(自動車業界に詳しい経済部記者)』、「2020年7月には、中日新聞は章男氏の「単独インタビュー」を実施。するとその記事は後日、トヨタの自社メディア「トヨタイムズ」で全編公開された。 「つまり、トヨタとコラボしたPR企画を『単独インタビュー』と銘打っていただけでした。中身も、コロナ禍での章男氏の戦いや経営哲学などをカッコよく描いたもの。こうした経緯から、彼女は一部で“喜び組記者”とも言われていました」、「“喜び組記者”」とは言い得て妙だ。
・『中日新聞社長は「妬みの対象なのは間違いない」 この異例の人事について、中日新聞サイドはどう受け止めているのか。同社の大島宇一郎社長を直撃した。 Q:長田氏がトヨタの監査役に就任するが。 A:「トヨタ自動車さんの人事の判断ですから。まぁジャーナリストが監査役かって。そこに需要があるんだから。そこに中日新聞社の意思なんてないですよ」 Q:トヨタ担当時代から、長田氏の記事はトヨタや章男氏を無批判に持ち上げ過ぎだという指摘が出ている。 A:「それは読んだ人の気持ち次第だよね。読者の中にはトヨタに勤めている人もいれば、トヨタで辛い目にあった人たちもいるかもしれない。どっちにも寄り添っていかなきゃいけないっていう事情はある。長田は長田なりに取材したことを書いてきた。……それはトヨタ寄りの話だったのかもしれないけど、普通だったら世に出ないような話を書いていた。それは長田だって、事実を積み上げて書いてきた」 Q:結果として、章男氏の単独インタビューがトヨタイムズに転載されるなど、「提灯持ち」として利用されていたのでは? A:「まぁ……そこまでアクセスできたのは一つの能力だから。(同業他社の記者からは)長田が妬みの対象であることは間違いないと思うよ。トヨタは地元の世界的大企業だし、いつも喧嘩していなきゃいけないっていうことではない。でもおかしいことがあったら書くっていうスタンスには変わりはない。うちは、それはずっと一貫している」』、「Q:結果として、章男氏の単独インタビューがトヨタイムズに転載されるなど、「提灯持ち」として利用されていたのでは? A:「まぁ……そこまでアクセスできたのは一つの能力だから。(同業他社の記者からは)長田が妬みの対象であることは間違いないと思うよ。トヨタは地元の世界的大企業だし、いつも喧嘩していなきゃいけないっていうことではない。でもおかしいことがあったら書くっていうスタンスには変わりはない。うちは、それはずっと一貫している」、やや苦しい言い訳だ。
・『ガバナンス専門家は「社外監査役の責任はより重いはず」 改めて中日新聞社に監査役就任などについて見解を求めたところ、以下のような回答があった。 「長田弘己氏がかつて、弊社に在籍していたことは事実ですが、退職した方について、会社として、お答えできることはありません」 一方、トヨタ自動車に監査役就任などについて見解を求めたところ、「個別の質問につきましては、回答を差し控えさせていただきます」としたうえで、主に以下のように回答した。 「新任社外監査役候補の長田弘己氏は、国内外で多くの企業を取材して培った健全な批判精神という『外の目』と、長年弊社を取材し、冷静に分析できる『中の目』を兼ね備えたジャーナリストであり、社外監査役として適任であると判断しました」 だが、トヨタでは昨年から今年にかけて、日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機のグループ3社で相次いで不正が発覚する不祥事が起きたばかり。元検事で、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事長の牛島信弁護士が指摘する。 「あれだけの不祥事が発覚した直後だけに、社外監査役の責任はより重いはず。長田氏の報道姿勢がご指摘の通りであれば、監査役として相応しいのかどうかについて、批判の声は上がるでしょう。いずれにしても、より厳しい視線で職務を遂行することが求められます」 「週刊文春電子版」ではオリジナル記事として、大島氏とのより詳しい一問一答のほか、長田氏が担当した署名記事の中身、長田氏が番記者として表彰された過去、トヨタが発表した社外役員基準見直しの背景、長田氏の起用に反対した取締役の存在などについても詳しく報じている』、「元検事で、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事長の牛島信弁護士が指摘する。 「あれだけの不祥事が発覚した直後だけに、社外監査役の責任はより重いはず。長田氏の報道姿勢がご指摘の通りであれば、監査役として相応しいのかどうかについて、批判の声は上がるでしょう。いずれにしても、より厳しい視線で職務を遂行することが求められます」、その通りだろう。
第三に、4月15日付けダイヤモンド・オンライン「トヨタのガバナンスを、前ネスレ日本社長の高岡氏が辛口批評!グローバル企業に必要な社外取・監査の選任基準とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342020
・『トヨタ自動車は3月、社外取締役と社外監査役の役割の明確化と、独立性判断に関する基準を見直した。だが、その内容はガバナンスの改善効果を疑わざるを得ないものだった。果たして、トヨタのガバナンスは健全なのか。ネスレ日本で10年間社長を務めた高岡浩三氏にトヨタの抱える課題を挙げてもらった』、興味深そうだ。
・『「トヨタフィロソフィー」の理解を社外取に求めるのはお門違い 「トヨタフィロソフィー」――。3月下旬にトヨタ自動車が社外取締役に求める役割や期待を明確化したというリリースの中に、ひと際目立つワードがある。 トヨタフィロソフィーとは、トヨタグループの創始者、豊田佐吉の考え方をまとめた「豊田綱領」をベースに、クルマづくりを通じて、顧客や社会に幸せをもたらすことなどをまとめた経営理念だ。 豊田章男会長は、トヨタフィロソフィーの必要性をたびたび強調してきた。トヨタは新たに見直した社外取締役と社外監査役の基準の冒頭にある、「社外役員の役割・期待」の第一の項目として、「トヨタフィロソフィーに共感すること」を掲げている。 しかし、前ネスレ日本社長の高岡浩三氏は、社外取らの第一条件としてトヨタフィロソフィーへの理解を求める姿勢に首をかしげる。「現執行役がやっていることが正しく、それに追従しなさいと言っているように見える」からだ。 高岡氏はネスレの取締役の構成と比較すると、トヨタが発表した役割と期待、そして人選に疑問が残ると指摘する。 次ページでは、高岡氏にネスレと比較しながらトヨタが抱える問題点について指摘してもらった』、確かに「「社外役員の役割・期待」の第一の項目として、「トヨタフィロソフィーに共感すること」を掲げている」、のは、確かに「「現執行役がやっていることが正しく、それに追従しなさいと言っているように見える」ので、明らかに認識が誤っている。
・『委員会が存在しないトヨタの取締役会 社外取・監査役の人選も不透明さが残る ネスレは、スイスに本社を構え、コーヒーブランド「ネスカフェ」やココア味の麦芽飲料「ミロ」などを世界188拠点で販売する食品メーカーだ。従業員数は全世界で27万人にも及ぶ。高岡氏はその日本法人で、退任する20年まで10年間、社長兼最高経営責任者(CEO)を務めた。 ネスレでは、「会社は創業家や社員のものではなく株主のもの」という考え方が浸透しており、取締役15人のうち、ネスレ出身者は会長、社長のわずか2人だ。 メンバーを見ると、ZARAブランドで知られている、スペインのアパレル大手インディテックスの前会長や米アップルの最高財務責任者(CFO)など国籍や経歴は多種多様だ。 トヨタの取締役のメンバーに目を移すと、章男氏や早川茂副会長などトヨタグループ出身者が10人中6人で、社外取締役は過半数以下の4人となっている。 日本取引所グループ(JPX)が21年6月に改訂したコーポレートガバナンス・コードにおいて、プライム市場の企業は少なくとも3分の1以上社外取締役を選任すべきだと記載されているが、必ずしも過半数である必要はない。 ただ、高岡氏は「(会長や社長を)絶対的にクビにできないような仕組みになっている」と分析する。 本来取締役とは、株主に代わって執行役を取り締まるために存在しているが、社外取が過半数でなければ、管理・監督する役割が弱まり、機能不全に陥ってしまうとの見方を示す。 ネスレと比較して、トヨタに監査委員会や指名委員会などの委員会が存在しないことについても問題視する。 現在ネスレでCEOを務めるのは、マーク・シュナイダーという人物だ。人工透析装置の製造を手掛けるドイツのヘルスケア企業「フレゼニウス」で13年間CEOを務めた後、17年に就任している。 当初ネスレも日本企業のように、内部から社長に昇格することが慣例だったが、指名委員会が90年ぶりに外部からシュナイダー氏を登用したのだ。背景にあるのは、ネスレを取り巻く経営環境が劇的に変化していることにあった。 自前で革新的な商品やサービスを開発するのが難しくなる中で、ネスレはスタートアップを買収して、企業として成長していく経営に方針を転換。M&A(企業の合併・買収)でフレゼニウスを成長させたシュナイダー氏に、白羽の矢が立ったのだ。 シュナイダー氏には食品やマーケティングの知見はなかったが、「既存の食品ブランドラインだけでは今後生き残れず、付加価値の高い栄養食品などM&Aによるポートフォリオの組み替えが必須だというネスレの危機感が優った」(高岡氏)と振り返る。 トヨタは指名委員会等設置会社に移行しない代わりに、報酬案策定会議や役員人事案策定会議など委員会に類似する場を設けているが、機能しているとは言い難い。23年1月に佐藤恒治社長の就任を発表したオンライン会見でもその一端が垣間見える。 章男氏が後継者として佐藤氏を選んだ理由について「若く、クルマが大好きな人だからだ」と説明。佐藤氏は「タイで開催されたレース会場で突然社長就任を打診された」と語った。役員人事案策定会議のメンバー、社外取締役のフィリップ・クレイヴァン氏は佐藤氏を選んだ経緯について「豊田氏と内山田氏が役員人事案策定会議に出席し、(われわれが)佐藤氏の社長昇格の提案を受けた」と振り返った。まず社外取の推薦者や意見を聞くなど、社外取の意見を十分に踏まえて社長が選ばれたといえるのか疑わしいのだ。 社長以外の人選にも不透明さが残る。昨年にダイハツ工業や豊田自動織機で検査不正が相次いで発覚したにもかかわらず、24年度の取締役は誰も責任を取らず留任する見通しで、新任監査役候補も「トヨタのたいこ持ち記者」と関係者からやゆされている中日新聞社出身の記者の名前が挙がるなど、形式的に整っているだけで実態は空洞化していると評価せざるを得ない状況だからだ。 高岡氏は「どういう人を取締役会のメンバーとして欲しいかという意思が、リリースからは読み取れない。グローバル企業とはかけ離れている」と述べた』、「昨年にダイハツ工業や豊田自動織機で検査不正が相次いで発覚したにもかかわらず、24年度の取締役は誰も責任を取らず留任する見通しで、新任監査役候補も「トヨタのたいこ持ち記者」と関係者からやゆされている中日新聞社出身の記者の名前が挙がるなど、形式的に整っているだけで実態は空洞化していると評価せざるを得ない状況・・・どういう人を取締役会のメンバーとして欲しいかという意思が、リリースからは読み取れない。グローバル企業とはかけ離れている」、なるほど。
・『自動車業界はSDVが主流も ガバナンス不全が開発競争の足かせに 次世代モビリティの競争軸が、ハードウエアからソフトウエアに移っていることに伴い、業界では車の性能や価値が決まる「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」が主流となりつつある。 トヨタも子会社のウーブン・バイ・トヨタで車載OS(基本ソフト)の開発を急いだり、熊本県内に建設された台湾の半導体メーカーTSMCの工場に出資したりして、次世代モビリティ開発の主導権を握ろうとしている。 トヨタは、時代の変化にキャッチアップしようと躍起になっているように見えるが、そのスピード感は、必ずしも速いとはいえない。株主の利益を守るためにも、トヨタの経営に率直な意見を言う社外取締役らが欠かせない。 トヨタの取締役や監査役の人選の正当性や、独立性に疑問符が付く状況が続けば、ガバナンス不全で社内は硬直する。このままでは、自動車産業を襲っている「100年に一度の変革期」の波にのみ込まれ、浮上できない事態になりかねない』、「株主の利益を守るためにも、トヨタの経営に率直な意見を言う社外取締役らが欠かせない。 トヨタの取締役や監査役の人選の正当性や、独立性に疑問符が付く状況が続けば、ガバナンス不全で社内は硬直する。このままでは、自動車産業を襲っている「100年に一度の変革期」の波にのみ込まれ、浮上できない事態になりかねない」、同感である。
先ずは、本年3月18日付けダイヤモンド・オンライン「トヨタ自動車にディーラーの不満が爆発寸前!販売店軽視、利益搾取に溜まる怒りのマグマ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338048
・『トヨタ自動車系ディーラーの「全店全車種併売」が始まってから4年が経過しようとしている。国内の人口減少で、新車の販売台数が伸び悩む中、販売店同士の競争を促すためにメーカー主導で「トヨタ店」「トヨペット店」などといった販売チャネルの垣根を取り払ったのだ。しかし、ディーラーからは怨念にも近い声が上がっている。特集『崩壊 ディーラービジネス』(全7回)の#6では、トヨタが販売店から利益を搾り取っている実態を明らかにするとともに、ディーラーの本音に迫る』、興味深そうだ。
・『2020年からの全車種併売開始後 トヨタの販売店軽視が鮮明に 「今年はメーカーも販売店も共に斧を磨く年にしよう」。今年1月末に東京都内で開催された全国トヨタ販売店代表者会議で、トヨタ自動車の国内販売を担当する友山茂樹本部長は、ディーラー首脳らにこう呼び掛けた。 友山氏は、かつて北米のディーラーミーティーグで、「レクサス」の新車販売が低迷していた時代に、北米ディーラーの代表が、「今こそメーカーは斧を研ぐ時だ」として豊田章男会長に斧を贈ったエピソードを紹介。トヨタグループで不正が相次ぎ、一部車種が販売停止に追い込まれている窮地ではあるが、臥薪嘗胆の思いで正常化に向けて準備をすることの重要性を訴えたのだ。 会場は拍手で沸いたものの、一部のトヨタディーラー首脳は、友山氏のプレゼンテーションを冷ややかな目で見ざるを得なかった。全車種併売開始以降、ディーラーを締め付けるトヨタの姿勢に不信感が広がっているからだ。 そもそも全車種併売とは、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の各チャンネルにあった専売車種をなくし、全店舗でほぼ全てのトヨタのクルマを販売できるようにする“規制緩和”だ。 その目的は、販売店同士の競争だ。人口減少で新車販売が伸び悩む中、販売店同士を競わせて、ディーラー網の再編を促す狙いがあった。日本自動車販売協会連合会の関係者によると、「約250法人あるトヨタ系ディーラーを110法人程度までに絞るという見方もある」という。 全車種併売化により、大衆向けのクルマを扱っていたカローラ店やネッツ店で高級車の「クラウン」を扱えたり、トヨタ店で商用向けの「ハイエース」を販売できるようになったりして、恩恵を受けているディーラーが少なくないのは事実だ。 半導体不足で生産が滞っていた反動で、イベント費用やDM費などの販促費を投じなくても、ほぼ定価でクルマが売れる状況が続いていることもあり、ディーラーの足元の業績は好調だ。 ただし、ディーラー側には不満もたまっている。メーカー側が 販売店同士の競争を促そうと、上から目線で流通網にメスを入れていることが、元来、独立心が旺盛なディーラーの反発を招いている のだ。 次ページでは、トヨタが販売店から利益を搾り取っている実態を明らかにするとともに、ディーラーの本音に迫る』、「ディーラー側には不満もたまっている。メーカー側が 販売店同士の競争を促そうと、上から目線で流通網にメスを入れていることが、元来、独立心が旺盛なディーラーの反発を招いている のだ」、なるほど。
・『仕入れ価格の値上げで締め付け クルマのサブスクも負担に トヨタの締め付け策で最も象徴的なものは、仕入れ価格の値上げだ。 ある有力ディーラーによると、全車種併売以前、クルマの利益率は10%程度だったが、値上げにより利益率は7%程度にまで低下した。 新車種の生産量を初期受注量が上回る場合は、販促費をかけなくても売れる。ただ、クルマが行き渡って販売が伸び悩めば、ディーラーの業績は苦しくなる。販売が伸び悩んでからディーラーがトヨタに仕入れ価格の引き下げを求めても、強気の姿勢のまま一向に仕入れ価格を変更することはなかったという。 手元資金がなくてもクルマを手にすることができる「残価設定クレジット(残クレ)」など、ディーラーは幅広い金融商品を用意しているが、金融についてもトヨタが関与を強めている。 ディーラーは独立資本のため、地場の金融機関の金融商品を扱うこともできるが、併売以降は、トヨタ系のクレジット会社である トヨタファイナンスに切り替えるよう強く求められるケースがあったという。 2020年以降、トヨタファイナンスのクレジットカードのキャッシングなども含めた取扱高は右肩上がりで増加している。20年3月期は7兆9849億円だったが、23年3月期には8兆9736億円と約12%も増加しているのだ。 「KINTO(キント)」に対する不満もたまっている。キントは「まだクルマ買ってるんですか?」をキャッチコピーに、19年から始めたクルマのサブスクリプションサービスだ。顧客にとっては煩わしい保険や車検の手続きをすることなく、月額3万円から乗れる便利なサービスだが、ディーラー側にしてみれば、収益のほとんどをメーカー側に奪われているのが実態だ。 キントはクルマを持ちたがらない若年層に向けた新たな販売戦略ともいえるが、ディーラーにしてみれば利益貢献もせず、現場に負担を強いるだけのサービスのため、「われわれを無視しているとしか思えない」(ディーラー幹部)と憤る。 ディーラーが望むのは、トヨタとの対等な関係だ。前出のディーラー幹部は「持っている資本は懸け離れているが、顧客に対する責任や、クルマを通じて顧客の生活を豊かにしたいという部分は同じだと認識している。お互いが信頼関係を持って意見をぶつけ合える関係に戻らなければ、電気自動車(EV)の普及の阻害要因にもなりかねない」と指摘する。 トヨタグループのダイハツ工業で起きた不祥事は、“現場”の声に耳を傾けなかったために起きたと第三者委員会の調査報告書で指摘されている。製造現場だけでなく、販売の“最前線”に立つディーラーを軽視する姿勢が続けば、築き上げてきた強固な販売網は内部から崩壊しかねない。 ディーラーの声を拾い、寄り添う姿勢を見せなければ、斧はさびついて、中国BYDや米テスラといった黒船にも太刀打ちできなくなってしまうだろう』、「キントは「まだクルマ買ってるんですか?」をキャッチコピーに、19年から始めたクルマのサブスクリプションサービスだ。顧客にとっては煩わしい保険や車検の手続きをすることなく、月額3万円から乗れる便利なサービスだが、ディーラー側にしてみれば、収益のほとんどをメーカー側に奪われているのが実態だ。 キントはクルマを持ちたがらない若年層に向けた新たな販売戦略ともいえるが、ディーラーにしてみれば利益貢献もせず、現場に負担を強いるだけのサービスのため、「われわれを無視しているとしか思えない」(ディーラー幹部)と憤る・・・ディーラーが望むのは、トヨタとの対等な関係だ。前出のディーラー幹部は「持っている資本は懸け離れているが、顧客に対する責任や、クルマを通じて顧客の生活を豊かにしたいという部分は同じだと認識している。お互いが信頼関係を持って意見をぶつけ合える関係に戻らなければ、電気自動車(EV)の普及の阻害要因にもなりかねない」と指摘・・・製造現場だけでなく、販売の“最前線”に立つディーラーを軽視する姿勢が続けば、築き上げてきた強固な販売網は内部から崩壊しかねない。 ディーラーの声を拾い、寄り添う姿勢を見せなければ、斧はさびついて、中国BYDや米テスラといった黒船にも太刀打ちできなくなってしまうだろう」、現場の危機感は強いようだ。
次に、3月27日付け文春オンライン「トヨタ自動車が豊田章男会長“喜び組記者”を社外監査役に抜擢 古巣の中日新聞社長は直撃に「トヨタ寄りだったかもしれないが」《トヨタも公式回答で…》」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/69841#goog_rewarded
・『トヨタ自動車は3月21日、社外監査役に元中日新聞編集委員・長田弘己氏(50)を起用する人事を発表した。同社初のマスコミ出身の役員となる見通し。ただ、長田氏がトヨタの豊田章男会長(67)と極めて近い記者とされることから、関係者の間でこの人事が大きな波紋を呼んでいる。そんな中、中日新聞の大島宇一郎社長(59)が「週刊文春」の直撃取材に対し、長田氏の取材姿勢やトヨタとの関係などについて語った。また、トヨタも取材に対し、「『外の目』と『中の目』を兼ね備えたジャーナリスト」などと回答した』、「中日新聞」にとっても「トヨタ」は最も大切な取材先だろう。
・『「トヨタウォーズ」と題する大型連載を手掛けた 「週刊文春」は2月22日発売号で、「豊田章男トヨタ会長はなぜ不正を招いたのか」と題した8ページに及ぶレポートを掲載。グループ会社で相次いで発覚した不正の背景や、豊田会長が重用してきた元レースクイーンや元コンパニオンとの「本当の関係」などについて詳報した。 そんなトヨタが今回、社外監査役に起用すると発表したのが、中日新聞の女性編集委員として有名な存在だった長田氏だ。どんな人物なのか。 「1999年に入社し、ニューヨーク特派員などを経て2019年からトヨタグループ取材班のキャップを務めた。在任中に『トヨタウォーズ』と題する大型連載を1年半にわたって手がけ、章男氏にベッタリと密着していました」(中日新聞社員) 2020年7月には、中日新聞は章男氏の「単独インタビュー」を実施。するとその記事は後日、トヨタの自社メディア「トヨタイムズ」で全編公開された。 「つまり、トヨタとコラボしたPR企画を『単独インタビュー』と銘打っていただけでした。中身も、コロナ禍での章男氏の戦いや経営哲学などをカッコよく描いたもの。こうした経緯から、彼女は一部で“喜び組記者”とも言われていました」(自動車業界に詳しい経済部記者)』、「2020年7月には、中日新聞は章男氏の「単独インタビュー」を実施。するとその記事は後日、トヨタの自社メディア「トヨタイムズ」で全編公開された。 「つまり、トヨタとコラボしたPR企画を『単独インタビュー』と銘打っていただけでした。中身も、コロナ禍での章男氏の戦いや経営哲学などをカッコよく描いたもの。こうした経緯から、彼女は一部で“喜び組記者”とも言われていました」、「“喜び組記者”」とは言い得て妙だ。
・『中日新聞社長は「妬みの対象なのは間違いない」 この異例の人事について、中日新聞サイドはどう受け止めているのか。同社の大島宇一郎社長を直撃した。 Q:長田氏がトヨタの監査役に就任するが。 A:「トヨタ自動車さんの人事の判断ですから。まぁジャーナリストが監査役かって。そこに需要があるんだから。そこに中日新聞社の意思なんてないですよ」 Q:トヨタ担当時代から、長田氏の記事はトヨタや章男氏を無批判に持ち上げ過ぎだという指摘が出ている。 A:「それは読んだ人の気持ち次第だよね。読者の中にはトヨタに勤めている人もいれば、トヨタで辛い目にあった人たちもいるかもしれない。どっちにも寄り添っていかなきゃいけないっていう事情はある。長田は長田なりに取材したことを書いてきた。……それはトヨタ寄りの話だったのかもしれないけど、普通だったら世に出ないような話を書いていた。それは長田だって、事実を積み上げて書いてきた」 Q:結果として、章男氏の単独インタビューがトヨタイムズに転載されるなど、「提灯持ち」として利用されていたのでは? A:「まぁ……そこまでアクセスできたのは一つの能力だから。(同業他社の記者からは)長田が妬みの対象であることは間違いないと思うよ。トヨタは地元の世界的大企業だし、いつも喧嘩していなきゃいけないっていうことではない。でもおかしいことがあったら書くっていうスタンスには変わりはない。うちは、それはずっと一貫している」』、「Q:結果として、章男氏の単独インタビューがトヨタイムズに転載されるなど、「提灯持ち」として利用されていたのでは? A:「まぁ……そこまでアクセスできたのは一つの能力だから。(同業他社の記者からは)長田が妬みの対象であることは間違いないと思うよ。トヨタは地元の世界的大企業だし、いつも喧嘩していなきゃいけないっていうことではない。でもおかしいことがあったら書くっていうスタンスには変わりはない。うちは、それはずっと一貫している」、やや苦しい言い訳だ。
・『ガバナンス専門家は「社外監査役の責任はより重いはず」 改めて中日新聞社に監査役就任などについて見解を求めたところ、以下のような回答があった。 「長田弘己氏がかつて、弊社に在籍していたことは事実ですが、退職した方について、会社として、お答えできることはありません」 一方、トヨタ自動車に監査役就任などについて見解を求めたところ、「個別の質問につきましては、回答を差し控えさせていただきます」としたうえで、主に以下のように回答した。 「新任社外監査役候補の長田弘己氏は、国内外で多くの企業を取材して培った健全な批判精神という『外の目』と、長年弊社を取材し、冷静に分析できる『中の目』を兼ね備えたジャーナリストであり、社外監査役として適任であると判断しました」 だが、トヨタでは昨年から今年にかけて、日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機のグループ3社で相次いで不正が発覚する不祥事が起きたばかり。元検事で、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事長の牛島信弁護士が指摘する。 「あれだけの不祥事が発覚した直後だけに、社外監査役の責任はより重いはず。長田氏の報道姿勢がご指摘の通りであれば、監査役として相応しいのかどうかについて、批判の声は上がるでしょう。いずれにしても、より厳しい視線で職務を遂行することが求められます」 「週刊文春電子版」ではオリジナル記事として、大島氏とのより詳しい一問一答のほか、長田氏が担当した署名記事の中身、長田氏が番記者として表彰された過去、トヨタが発表した社外役員基準見直しの背景、長田氏の起用に反対した取締役の存在などについても詳しく報じている』、「元検事で、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事長の牛島信弁護士が指摘する。 「あれだけの不祥事が発覚した直後だけに、社外監査役の責任はより重いはず。長田氏の報道姿勢がご指摘の通りであれば、監査役として相応しいのかどうかについて、批判の声は上がるでしょう。いずれにしても、より厳しい視線で職務を遂行することが求められます」、その通りだろう。
第三に、4月15日付けダイヤモンド・オンライン「トヨタのガバナンスを、前ネスレ日本社長の高岡氏が辛口批評!グローバル企業に必要な社外取・監査の選任基準とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342020
・『トヨタ自動車は3月、社外取締役と社外監査役の役割の明確化と、独立性判断に関する基準を見直した。だが、その内容はガバナンスの改善効果を疑わざるを得ないものだった。果たして、トヨタのガバナンスは健全なのか。ネスレ日本で10年間社長を務めた高岡浩三氏にトヨタの抱える課題を挙げてもらった』、興味深そうだ。
・『「トヨタフィロソフィー」の理解を社外取に求めるのはお門違い 「トヨタフィロソフィー」――。3月下旬にトヨタ自動車が社外取締役に求める役割や期待を明確化したというリリースの中に、ひと際目立つワードがある。 トヨタフィロソフィーとは、トヨタグループの創始者、豊田佐吉の考え方をまとめた「豊田綱領」をベースに、クルマづくりを通じて、顧客や社会に幸せをもたらすことなどをまとめた経営理念だ。 豊田章男会長は、トヨタフィロソフィーの必要性をたびたび強調してきた。トヨタは新たに見直した社外取締役と社外監査役の基準の冒頭にある、「社外役員の役割・期待」の第一の項目として、「トヨタフィロソフィーに共感すること」を掲げている。 しかし、前ネスレ日本社長の高岡浩三氏は、社外取らの第一条件としてトヨタフィロソフィーへの理解を求める姿勢に首をかしげる。「現執行役がやっていることが正しく、それに追従しなさいと言っているように見える」からだ。 高岡氏はネスレの取締役の構成と比較すると、トヨタが発表した役割と期待、そして人選に疑問が残ると指摘する。 次ページでは、高岡氏にネスレと比較しながらトヨタが抱える問題点について指摘してもらった』、確かに「「社外役員の役割・期待」の第一の項目として、「トヨタフィロソフィーに共感すること」を掲げている」、のは、確かに「「現執行役がやっていることが正しく、それに追従しなさいと言っているように見える」ので、明らかに認識が誤っている。
・『委員会が存在しないトヨタの取締役会 社外取・監査役の人選も不透明さが残る ネスレは、スイスに本社を構え、コーヒーブランド「ネスカフェ」やココア味の麦芽飲料「ミロ」などを世界188拠点で販売する食品メーカーだ。従業員数は全世界で27万人にも及ぶ。高岡氏はその日本法人で、退任する20年まで10年間、社長兼最高経営責任者(CEO)を務めた。 ネスレでは、「会社は創業家や社員のものではなく株主のもの」という考え方が浸透しており、取締役15人のうち、ネスレ出身者は会長、社長のわずか2人だ。 メンバーを見ると、ZARAブランドで知られている、スペインのアパレル大手インディテックスの前会長や米アップルの最高財務責任者(CFO)など国籍や経歴は多種多様だ。 トヨタの取締役のメンバーに目を移すと、章男氏や早川茂副会長などトヨタグループ出身者が10人中6人で、社外取締役は過半数以下の4人となっている。 日本取引所グループ(JPX)が21年6月に改訂したコーポレートガバナンス・コードにおいて、プライム市場の企業は少なくとも3分の1以上社外取締役を選任すべきだと記載されているが、必ずしも過半数である必要はない。 ただ、高岡氏は「(会長や社長を)絶対的にクビにできないような仕組みになっている」と分析する。 本来取締役とは、株主に代わって執行役を取り締まるために存在しているが、社外取が過半数でなければ、管理・監督する役割が弱まり、機能不全に陥ってしまうとの見方を示す。 ネスレと比較して、トヨタに監査委員会や指名委員会などの委員会が存在しないことについても問題視する。 現在ネスレでCEOを務めるのは、マーク・シュナイダーという人物だ。人工透析装置の製造を手掛けるドイツのヘルスケア企業「フレゼニウス」で13年間CEOを務めた後、17年に就任している。 当初ネスレも日本企業のように、内部から社長に昇格することが慣例だったが、指名委員会が90年ぶりに外部からシュナイダー氏を登用したのだ。背景にあるのは、ネスレを取り巻く経営環境が劇的に変化していることにあった。 自前で革新的な商品やサービスを開発するのが難しくなる中で、ネスレはスタートアップを買収して、企業として成長していく経営に方針を転換。M&A(企業の合併・買収)でフレゼニウスを成長させたシュナイダー氏に、白羽の矢が立ったのだ。 シュナイダー氏には食品やマーケティングの知見はなかったが、「既存の食品ブランドラインだけでは今後生き残れず、付加価値の高い栄養食品などM&Aによるポートフォリオの組み替えが必須だというネスレの危機感が優った」(高岡氏)と振り返る。 トヨタは指名委員会等設置会社に移行しない代わりに、報酬案策定会議や役員人事案策定会議など委員会に類似する場を設けているが、機能しているとは言い難い。23年1月に佐藤恒治社長の就任を発表したオンライン会見でもその一端が垣間見える。 章男氏が後継者として佐藤氏を選んだ理由について「若く、クルマが大好きな人だからだ」と説明。佐藤氏は「タイで開催されたレース会場で突然社長就任を打診された」と語った。役員人事案策定会議のメンバー、社外取締役のフィリップ・クレイヴァン氏は佐藤氏を選んだ経緯について「豊田氏と内山田氏が役員人事案策定会議に出席し、(われわれが)佐藤氏の社長昇格の提案を受けた」と振り返った。まず社外取の推薦者や意見を聞くなど、社外取の意見を十分に踏まえて社長が選ばれたといえるのか疑わしいのだ。 社長以外の人選にも不透明さが残る。昨年にダイハツ工業や豊田自動織機で検査不正が相次いで発覚したにもかかわらず、24年度の取締役は誰も責任を取らず留任する見通しで、新任監査役候補も「トヨタのたいこ持ち記者」と関係者からやゆされている中日新聞社出身の記者の名前が挙がるなど、形式的に整っているだけで実態は空洞化していると評価せざるを得ない状況だからだ。 高岡氏は「どういう人を取締役会のメンバーとして欲しいかという意思が、リリースからは読み取れない。グローバル企業とはかけ離れている」と述べた』、「昨年にダイハツ工業や豊田自動織機で検査不正が相次いで発覚したにもかかわらず、24年度の取締役は誰も責任を取らず留任する見通しで、新任監査役候補も「トヨタのたいこ持ち記者」と関係者からやゆされている中日新聞社出身の記者の名前が挙がるなど、形式的に整っているだけで実態は空洞化していると評価せざるを得ない状況・・・どういう人を取締役会のメンバーとして欲しいかという意思が、リリースからは読み取れない。グローバル企業とはかけ離れている」、なるほど。
・『自動車業界はSDVが主流も ガバナンス不全が開発競争の足かせに 次世代モビリティの競争軸が、ハードウエアからソフトウエアに移っていることに伴い、業界では車の性能や価値が決まる「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」が主流となりつつある。 トヨタも子会社のウーブン・バイ・トヨタで車載OS(基本ソフト)の開発を急いだり、熊本県内に建設された台湾の半導体メーカーTSMCの工場に出資したりして、次世代モビリティ開発の主導権を握ろうとしている。 トヨタは、時代の変化にキャッチアップしようと躍起になっているように見えるが、そのスピード感は、必ずしも速いとはいえない。株主の利益を守るためにも、トヨタの経営に率直な意見を言う社外取締役らが欠かせない。 トヨタの取締役や監査役の人選の正当性や、独立性に疑問符が付く状況が続けば、ガバナンス不全で社内は硬直する。このままでは、自動車産業を襲っている「100年に一度の変革期」の波にのみ込まれ、浮上できない事態になりかねない』、「株主の利益を守るためにも、トヨタの経営に率直な意見を言う社外取締役らが欠かせない。 トヨタの取締役や監査役の人選の正当性や、独立性に疑問符が付く状況が続けば、ガバナンス不全で社内は硬直する。このままでは、自動車産業を襲っている「100年に一度の変革期」の波にのみ込まれ、浮上できない事態になりかねない」、同感である。
タグ:「株主の利益を守るためにも、トヨタの経営に率直な意見を言う社外取締役らが欠かせない。 トヨタの取締役や監査役の人選の正当性や、独立性に疑問符が付く状況が続けば、ガバナンス不全で社内は硬直する。このままでは、自動車産業を襲っている「100年に一度の変革期」の波にのみ込まれ、浮上できない事態になりかねない」、同感である。 「昨年にダイハツ工業や豊田自動織機で検査不正が相次いで発覚したにもかかわらず、24年度の取締役は誰も責任を取らず留任する見通しで、新任監査役候補も「トヨタのたいこ持ち記者」と関係者からやゆされている中日新聞社出身の記者の名前が挙がるなど、形式的に整っているだけで実態は空洞化していると評価せざるを得ない状況・・・どういう人を取締役会のメンバーとして欲しいかという意思が、リリースからは読み取れない。グローバル企業とはかけ離れている」、なるほど。 確かに「「社外役員の役割・期待」の第一の項目として、「トヨタフィロソフィーに共感すること」を掲げている」、のは、確かに「「現執行役がやっていることが正しく、それに追従しなさいと言っているように見える」ので、明らかに認識が誤っている。 ダイヤモンド・オンライン「トヨタのガバナンスを、前ネスレ日本社長の高岡氏が辛口批評!グローバル企業に必要な社外取・監査の選任基準とは?」 「元検事で、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク理事長の牛島信弁護士が指摘する。 「あれだけの不祥事が発覚した直後だけに、社外監査役の責任はより重いはず。長田氏の報道姿勢がご指摘の通りであれば、監査役として相応しいのかどうかについて、批判の声は上がるでしょう。いずれにしても、より厳しい視線で職務を遂行することが求められます」、その通りだろう。 「Q:結果として、章男氏の単独インタビューがトヨタイムズに転載されるなど、「提灯持ち」として利用されていたのでは? A:「まぁ……そこまでアクセスできたのは一つの能力だから。(同業他社の記者からは)長田が妬みの対象であることは間違いないと思うよ。トヨタは地元の世界的大企業だし、いつも喧嘩していなきゃいけないっていうことではない。でもおかしいことがあったら書くっていうスタンスには変わりはない。うちは、それはずっと一貫している」、やや苦しい言い訳だ。 「2020年7月には、中日新聞は章男氏の「単独インタビュー」を実施。するとその記事は後日、トヨタの自社メディア「トヨタイムズ」で全編公開された。 「つまり、トヨタとコラボしたPR企画を『単独インタビュー』と銘打っていただけでした。中身も、コロナ禍での章男氏の戦いや経営哲学などをカッコよく描いたもの。こうした経緯から、彼女は一部で“喜び組記者”とも言われていました」、「“喜び組記者”」とは言い得て妙だ。 「中日新聞」にとっても「トヨタ」は最も大切な取材先だろう。 文春オンライン「トヨタ自動車が豊田章男会長“喜び組記者”を社外監査役に抜擢 古巣の中日新聞社長は直撃に「トヨタ寄りだったかもしれないが」《トヨタも公式回答で…》」 ディーラーの声を拾い、寄り添う姿勢を見せなければ、斧はさびついて、中国BYDや米テスラといった黒船にも太刀打ちできなくなってしまうだろう」、現場の危機感は強いようだ。 ・ディーラーが望むのは、トヨタとの対等な関係だ。前出のディーラー幹部は「持っている資本は懸け離れているが、顧客に対する責任や、クルマを通じて顧客の生活を豊かにしたいという部分は同じだと認識している。お互いが信頼関係を持って意見をぶつけ合える関係に戻らなければ、電気自動車(EV)の普及の阻害要因にもなりかねない」と指摘・・・製造現場だけでなく、販売の“最前線”に立つディーラーを軽視する姿勢が続けば、築き上げてきた強固な販売網は内部から崩壊しかねない。 「キントは「まだクルマ買ってるんですか?」をキャッチコピーに、19年から始めたクルマのサブスクリプションサービスだ。顧客にとっては煩わしい保険や車検の手続きをすることなく、月額3万円から乗れる便利なサービスだが、ディーラー側にしてみれば、収益のほとんどをメーカー側に奪われているのが実態だ。 キントはクルマを持ちたがらない若年層に向けた新たな販売戦略ともいえるが、ディーラーにしてみれば利益貢献もせず、現場に負担を強いるだけのサービスのため、「われわれを無視しているとしか思えない」(ディーラー幹部)と憤る・・ 「ディーラー側には不満もたまっている。メーカー側が 販売店同士の競争を促そうと、上から目線で流通網にメスを入れていることが、元来、独立心が旺盛なディーラーの反発を招いている のだ」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン「トヨタ自動車にディーラーの不満が爆発寸前!販売店軽視、利益搾取に溜まる怒りのマグマ」 自動車(一般) (その7)(トヨタ自動車にディーラーの不満が爆発寸前!販売店軽視 利益搾取に溜まる怒りのマグマ、トヨタ自動車が豊田章男会長“喜び組記者”を社外監査役に抜擢 古巣の中日新聞社長は直撃に「トヨタ寄りだったかもしれないが」《トヨタも公式回答で…》、トヨタのガバナンスを 前ネスレ日本社長の高岡氏が辛口批評!グローバル企業に必要な社外取・監査の選任基準とは?)
テスラ(その5)(テスラ 営業利益「半減」の衝撃!中国EVの値下げ攻勢だけじゃない“不安材料”の数々、テスラ「利益激減」よりも投資家が懸念すること 決算発表後の電話会議で注目されたポイント、成長の終焉か「5つの数字」で見るテスラの栄枯盛衰 値下げは実らず、超高収益体質も過去のものに) [産業動向]
テスラについては、2022年5月5日に取上げた。今日は、(その5)(テスラ 営業利益「半減」の衝撃!中国EVの値下げ攻勢だけじゃない“不安材料”の数々、テスラ「利益激減」よりも投資家が懸念すること 決算発表後の電話会議で注目されたポイント、成長の終焉か「5つの数字」で見るテスラの栄枯盛衰 値下げは実らず、超高収益体質も過去のものに)である。
先ずは、本年2月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「テスラ、営業利益「半減」の衝撃」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338413
・『中国EVの値下げ攻勢だけじゃない“不安材料”の数々 「イーロン・マスクCEOに8兆円の報酬は巨額すぎる」と、米テスラの株主が訴えている。係争の行方は横に置くとして、電気自動車(EV)市場は厳しい価格競争によりレッドオーシャンと化した。中国勢が低い生産コストを武器とする一方で、テスラはどんな壁にぶつかっているのか』、「厳しい価格競争」に直面していても、堂々と「8兆円の報酬」を求めるとは、さすが「マスク」氏らしい。
・『利益の大幅減でテスラ株が下落 世界の電気自動車(EV)市場は今、厳しい価格競争により新しいステージに突入している。その証左として、米テスラの業績が伸び悩んでいることがある。 1月25日、ニューヨーク株式市場でテスラの株価は前日比12.1%下落した。前日に発表があった、同社の2023年10~12月期決算の内容が嫌気されたからだ。営業利益は、前年同期比47%減の20億6400万ドル(1ドル=148円換算で約3050億円)だった。テスラの先行きに懸念を抱く投資家は増えたようだ。 背景には、比亜迪(BYD)など中国のEVメーカーの台頭がある。BYDはEVの販売価格を積極的に引き下げ、急速に世界シェアを高めている。値下げ競争の激化により、テスラの収益性は悪化している。 今後、テスラを取り巻く事業環境の厳しさは増すことが予想される。中国政府の産業補助政策の追い風もあり、BYDや車載用バッテリー世界大手の寧徳時代新能源科技(CATL)の価格競争力が脅威となる。 一方、テスラはコストの高い米欧で生産能力を強化する必要性に迫られている。車載用バッテリーの製造技術の確立も急務だ。今後さらに業績が悪化すると、テスラは、世界が注目する“マグニフィセント・セブン”(アマゾン・ドットコム、アップル、メタ・プラットフォームズ、アルファベット、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの米7社)から脱落する懸念さえある』、もはや「“マグニフィセント・セブン”」からは離脱したとみるべきだろう。
・『過酷な価格競争に巻き込まれるテスラ 23年10~12月期、テスラの「モデル3」や「モデルY」などの生産台数は前年同期比13%増の49万4989台、販売台数は同20%増の48万4507台だった。一方、売上高は前年同期比3%増の251億6700万ドル(約3兆7000億円)で、23年7~9月期の売上高が同9%増だったのに比べると鈍化した。 世界的なEVシフトを背景に、生産と販売台数は伸びたものの、価格下落の影響により売り上げの増加ペースはそれを下回った。 価格下落の背景には、BYDや上海蔚来汽車(NIO)など中国のEVメーカーの値下げ攻勢がある。中国では、不動産バブル崩壊による個人消費の低迷、EV販売補助金の終了(※)などに対応するため、多くの自動車メーカーがEV販売価格を引き下げている。※23年以降、一部の地方政府は独自の販売奨励策を実施 EVは、製造コスト全体の3割程度を車載用バッテリーが占める。BYDやCATLのコスト構造が低いのは、中国政府が工場用地を供与し、産業補助金などで生産能力の増強を支えてきたからだ。中国内では販売補助が終わってEVスタートアップ企業の多くが倒産したこともあり、BYDなど主要メーカーの値下げ余地は大きい。 BYDが値下げ攻勢を強める一方で、テスラは一部機能をアップグレードして値上げ(競合モデルとの差別化)を行い、対抗した時期もあった。しかし、消費者の支持を増やすことは難しく、結局テスラは値下げを余儀なくされた。 こうして、世界的にEVの値下げ競争は激化するばかりだ。最近、BYDはドイツのEV販売補助金の終了に対応するため、値下げを発表した。これに伴いテスラも、ドイツなどで販売するスポーツタイプ多目的車(SUV)の「モデルY」の価格を最大9%引き下げている(1月下旬時点)』、「世界的にEVの値下げ競争は激化するばかり」、環境は極めて厳しいようだ。
・『シェアの低下と新型バッテリー製造の難航 23年10~12月期、値下げ攻勢を強めたBYDは、テスラを抜いて世界シェアトップのEVメーカーに躍り出た。専門家が、「カット・スロート・コンペティション(過酷すぎる競争)が起きている」と危惧するほど、EVの値下げ競争が止まらない。 一方、原価の引き下げは一朝一夕にはいかない。値下げに拍車がかかると、どうしても企業の収益性は低下する。 また、米国ではGMやフォード、韓国の現代自動車などもEV投入を強化している。このことからも23年10~12月期、米国のEV市場でテスラのシェアは前年同期の58%から51%に低下した。EV市場はもはやブルーオーシャンではなく、レッドオーシャンに変化したのだ。 23年11月、テスラは新モデル「サイバートラック」の出荷を開始した。当初、テスラは車載用バッテリーについて、新しい製造技術を用いる方針だった。製造コストを従来の50%未満に抑え、より小型で、脱炭素などにも対応した新型バッテリーを自社で生産する。それをサイバートラックに搭載し、年25万台の供給を目指した。 しかし、テスラはこの新型バッテリーの基幹部品である電極を、中国企業から調達すると報じられている。新型バッテリーの製造技術の実用が、同社の想定通りに進まなかったようだ。中東情勢の緊迫化によってタンカーの運賃が急速に上昇しているため、多くの追加コストが発生している。 売上高の減少、人件費の上昇も含む米国での生産コストの上昇、さらには想定外のバッテリー調達コストの発生により、テスラの収益性は低下した。23年10~12月期、売上高から売上原価を控除した粗利益は、前年同期比23%減の44億3800万ドル(約6600億円)に落ち込んだ。粗利率は6.12ポイント低下し17.6%となった』、「「カット・スロート・コンペティション」により「EV市場はもはやブルーオーシャンではなく、レッドオーシャンに変化」、「テスラの収益性は」「売上高の減少、人件費の上昇も含む米国での生産コストの上昇、さらには想定外のバッテリー調達コストの発生により、低下した」、これだけ悪材料が揃えば、「マグニフィセント・セブンから脱落」も当然だ。
・『マグニフィセント・セブンから脱落の恐れ 期待の新モデルだったはずのサイバートラックの生産台数は、年間2万数千台レベルにとどまりそうだ。中国事業の難しさも増す。米中対立の先鋭化、安全保障への懸念から、中国でテスラの乗り入れが制限される場所が増えている。 一方、米国や欧州諸国の政府は、中国製EVによる過度な価格競争を懸念している。中国からの輸送距離が長いため、脱炭素に逆行するとの批判も出ている。そのためテスラは地産地消体制を強化して、主要先進国のEV需要を確保することが急務となっている。 米欧では労使対立が激化している。また、レアメタル調達を巡る鉱山の権益獲得競争も熱を帯びた。テスラにとって、中国や欧米市場での販売増加ペースが鈍化する一方、コスト増加圧力は高まるばかりだ。 そうした状況下でも、テスラの先行きに強気な主要投資家はいる。創業者であるイーロン・マスク氏が生産能力強化のために大胆な行動に出る、と期待しているからだ。 とはいえ全体としては、テスラの今後の業績を慎重に考える投資家が多い。それは、年初来のマグニフィセント・セブンの株価から確認できる(いずれも1月26日まで)。 ・テスラ 26.3%下落 ・グーグル親会社のアルファベット 8.9%上昇 ・アップル 0.1%下落 ・メタ 11.4%上昇 ・アマゾン 4.7%上昇 ・マイクロソフト 7.4%上昇 ・エヌビディア 23.2%上昇 やはり、他社に比べてテスラの下げ幅が目立つ。 投資家が懸念するのは、生産体制の確立や製造技術の向上に、想定以上のコストがかかることだろう。同社はテキサス州で次世代モデルの生産を準備しているが、バッテリー製造の問題を考えると、計画通りに進むか不透明だ。 今後、テスラの株価はますます不安定になる可能性が高い。新モデルの生産が想定通りに進まなければ、マグニフィセント・セブンからの脱落も現実味を帯びる。それは同時に、米国の株式市場全体に変調をきたす可能性もあるはずだ』、一部には「イーロン・マスク氏が生産能力強化のために大胆な行動に出る、と期待している」ようだが、これだけの逆境を跳ね返すのは、いかに「マスク氏」といえども無理だろう。
次に、4月25日付け東洋経済オンラインが転載したThe New York Times「テスラ「利益激減」よりも投資家が懸念すること 決算発表後の電話会議で注目されたポイント」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/750268
・『イーロン・マスク氏率いるテスラは、電気自動車(EV)市場で劣勢に立たされているという投資家の懸念をさらに強めている。 同社が発表した2024年1〜3月期(第1四半期)の最終利益は、前年同期比55%減の11億ドルとなった。売上高は同9%減の213億ドルだった』、なるほど。
・『「業績不振は避けられない」と見られていた テスラは今月、第1四半期の売上高が前年同期比8.5%減少したと発表し、また全世界の従業員の10%以上、約1万4000人をレイオフする計画を発表したため、業績不振は避けられないと見られていた。 カリフォルニア州フリーモントにある工場で2000人以上、テキサス州オースティンにある工場で2700人近くの従業員を含む人員削減は、テスラが売り上げの落ち込みに見合ったコストを圧縮するのに苦労していることの表れだと解釈された。 2023年1〜3月期、テスラは25億ドルを稼ぎ出し、業界屈指の利益率を記録したと発表した。しかし、先週新たに実施した値下げを含め、テスラは販売する車1台あたりの利益額を下げることを余儀なくされている。この戦略は、しばらくの間同社の販売を強化するのに役立っていたようだが、テスラは現在、価格を下げても買い手を引き付けるのに苦労しているようだ。 前四半期(2023年10〜12月期)のテスラの営業利益率は5.5%と、前年同期の半分であり、他の自動車メーカーの営業利益率と同水準になっている。)テスラの投資家たちは、売り上げと利益の減少がより大きな問題の兆候であることを懸念するようになっている。おそらく、既存の自動車メーカーや中国の新しい自動車メーカーとの競争激化に効果的に対応できないことを指摘しているのだろう。 マスク氏は最近、テスラは自律走行技術と「ロボタクシー」と呼ばれる車両に注力すると示唆しており、EVをより幅広い顧客層や多くの国の人々が購入できるようにする低価格の新モデルを開発するという同社の計画に疑問を投げかけている。 自動運転車はマスク氏にとって長年の夢だった。2019年に同氏は、翌年にはテスラが100万台の自律走行タクシーを走らせると言った』、「全世界の従業員の10%以上、約1万4000人をレイオフする計画を発表したため、業績不振は避けられないと見られていた。 カリフォルニア州フリーモントにある工場で2000人以上、テキサス州オースティンにある工場で2700人近くの従業員を含む人員削減は、テスラが売り上げの落ち込みに見合ったコストを圧縮するのに苦労していることの表れだと解釈された・・・テスラは現在、価格を下げても買い手を引き付けるのに苦労しているようだ。 前四半期(2023年10〜12月期)のテスラの営業利益率は5.5%と、前年同期の半分であり、他の自動車メーカーの営業利益率と同水準になっている。)テスラの投資家たちは、売り上げと利益の減少がより大きな問題の兆候であることを懸念するようになっている。おそらく、既存の自動車メーカーや中国の新しい自動車メーカーとの競争激化に効果的に対応できないことを指摘しているのだろう。 マスク氏は最近、テスラは自律走行技術と「ロボタクシー」と呼ばれる車両に注力すると示唆しており、EVをより幅広い顧客層や多くの国の人々が購入できるようにする低価格の新モデルを開発するという同社の計画に疑問を投げかけている」、なるほど。
・『既存車の部品を使って新車を作る 「テスラは、車のかっこよさ、自律走行車を発売するというアイデア、そして不可能に近いことをやってのけるマスク氏の能力に対する投資家の信頼感で生きてきた」と、ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスのエリック・ゴードン助教授は指摘する。「そしてマスク氏への信頼は、失望と謎めいた行動によって打ちのめされている」。 テスラは23日、来年には低価格車の生産を開始する予定だと述べた。しかし、先行投資を減らすための変更として、新たな車は新しい部品と既存車の部品が一部使われる。この戦略により、テスラは新たな工場を建設することなく新モデルを製造することが可能になるという。 「このアップデートにより、コスト削減効果は以前の予想よりも低くなる可能性がある」と同社は投資家向けのプレゼンテーションで述べた。 今年に入り約40%下落していたテスラの株価は、第1四半期発表後、火曜日の後場に急上昇した。投資家たちは、同社がより手頃な価格のモデルの投入計画を維持していることを歓迎したようだ。) マスク氏はテスラの値下げを擁護し、すべての自動車メーカーが価格を調整しているが、通常はディーラー優遇措置など、購入者にはあまり見えない手段を使っていると述べた。テスラはフランチャイズ・ディーラーを通さず、オンラインで直接顧客に車を販売している。 テスラの価格は、生産台数と需要を一致させるために頻繁に変更されなければならない」とマスク氏は述べた。 テスラは販売台数の減少について、世界的なサプライチェーンを混乱させた紅海での紛争、ベルリン近郊の工場で発生した火災による生産停止、フリーモントでモデル3セダンのアップグレード版を増産したことなどが原因だとしている。 テスラはまた、他の自動車メーカーがガソリンエンジンとバッテリーや電気モーターを搭載したハイブリッド車の販売を増やしたことが、完全電気自動車の販売を圧迫していると非難した』、「来年には低価格車の生産を開始する予定だと述べた。しかし、先行投資を減らすための変更として、新たな車は新しい部品と既存車の部品が一部使われる。この戦略により、テスラは新たな工場を建設することなく新モデルを製造することが可能になるという。 「このアップデートにより、コスト削減効果は以前の予想よりも低くなる可能性がある」と同社は投資家向けのプレゼンテーションで述べた。 今年に入り約40%下落していたテスラの株価は、第1四半期発表後、火曜日の後場に急上昇した。投資家たちは、同社がより手頃な価格のモデルの投入計画を維持していることを歓迎したようだ」、なるほど。
・『インドへの訪問を「延期」 2024年4〜6月期は「もっとよくなる」と、マスク氏は決算発表後の電話会議で語った。 マスク氏は22日に予定されていたインド訪問を延期した。インドではナレンドラ・モディ首相と会談し、工場建設計画を発表する予定だったが、「テスラの義務が非常に重い」ことを理由に見送った。 今回の延期は、インドが新たな成長源になると期待していた投資家たちを失望させるかもしれないが、マスク氏がテスラの問題に緊急に取り組んでいるという安心感を与える可能性もある。自動車購入者の多くが小型で手頃な価格の車を好むインドでは、同社の車種が大量に売れる可能性は低い。) テスラの最新車両は、昨年生産を開始したピックアップのサイバートラックだ。しかし、先週のリコールで明らかになった情報によると、同社の販売台数はわずか4000台程度にとどまっており、大きな成長源にはならないことが示唆されている』、「インドへの訪問を「延期」・・・マスク氏がテスラの問題に緊急に取り組んでいるという安心感を与える可能性もある・・・ピックアップのサイバートラックだ。しかし、先週のリコールで明らかになった情報によると、同社の販売台数はわずか4000台程度にとどまっており、大きな成長源にはならないことが示唆」、なるほど。
・『自動運転タクシーは望み薄? 自動運転タクシーは望み薄と見られているが、その理由の1つは、現在利用可能な最先端の自律走行システムでさえ、時に目に余るミスを犯すことがあるからだ。 さらに、テスラがこのようなタクシーを走らせるには、連邦政府、および州の規制当局のサインが必要だ。テスラは、ロボタクシーのソフトウェアを開発することが期待されるカリフォルニア州で、運転者のいない車をテストするライセンスをまだ持っていない。 「イーロン・マスクは2016年からロボタクシーをやると言っていた」と、自律走行システムに使われるソフトウェアを提供するApex.AIのヤン・ベッカーCEOは言う。が、「少なくとも短期的には、テスラがロボタクシーを提供するという十分な証拠は見当たらない」。 マスク氏は23日、AIの進歩により技術は急速に向上していると語った。アナリストからの質問に答えた同氏は、テスラを主に自動車会社として見ている人たちに焦りを示した。 「われわれはAIとロボティクスの会社だと考えられるべきだった」とマスク氏は言った。自律走行を完成させるテスラの能力を信じない人は、「この会社の投資家になるべきではない」と同氏は付け加えた。) 最近まで、テスラは電気自動車で利益を上げている数少ない自動車メーカーの1つだったが、既存の自動車メーカーが追い上げてきている。ゼネラル・モーターズ(GM)も23日に決算を発表したが、同社のCFOであるポール・ジェイコブソン氏は、記者団との電話会議で、バッテリーパックの製造における問題を解決し、生産量を増やしていると述べた。 GMは依然としてガソリン車事業に依存しており、そのことが今年1~3月期の利益が24%増の30億ドルに跳ね上がった主な要因となっている。しかし同社は、今年後半にはEVの販売で利益を上げることを期待している、とジェイコブソン氏は語った』、「GMは依然としてガソリン車事業に依存・・・しかし同社は、今年後半にはEVの販売で利益を上げることを期待」、なるほど。
・『決算で注目されていた「ポイント」 23日のテスラの決算発表への注目は、同社の方向性とマスク氏のリーダーシップに疑問を投げかける最近の一連の出来事の後ということもあり、異例なほど高まってい た。 先週、テスラの取締役会は、マスク氏を自動車事業に集中させ、彼の偏向的な発言や右翼的陰謀論との親和性が多くの潜在顧客を遠ざけているXに時間を割かせないよう、もっと努力することを期待していた投資家を失望させた。 取締役会は、デラウェア州の裁判所が無効としたマスク氏の470億ドルの給与パッケージを復活させる措置をとったからだ。取締役会はまた、テスラの本社所在地をテキサスに移すことを承認するよう株主に求めるとした。 この変更は、デラウェア州の裁判所が、2018年に承認された際の給与が過大であり、株主に適切な情報が提供されていなかったという理由で、1月に彼の給与パッケージを無効とした日にマスク氏が要求したものである。 (執筆:Jack Ewing記者)』、「テスラの取締役会は、マスク氏を自動車事業に集中させ、彼の偏向的な発言や右翼的陰謀論との親和性が多くの潜在顧客を遠ざけているXに時間を割かせないよう、もっと努力することを期待していた投資家を失望させた」、「マスク氏」は「テスラ」だけでは満足できず、あちこちに手を広げてしまうクセがあるようだ。
第三に、5月1日付け東洋経済オンライン「成長の終焉か「5つの数字」で見るテスラの栄枯盛衰 値下げは実らず、超高収益体質も過去のものに」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/750905
・『ここから輝きを取り戻せるのか。テスラが4月23日に発表した2024年度第1四半期(1~3月)の売上高は、前年同期比8.7%減の213億ドルとなった。前年同期比で減収となるのは約4年ぶりのことだ。営業利益は同44%減となる11.7億ドルで、営業利益率は11.4%から5.5%へと大幅に落ち込んだ。(利益率の落ち込みが目立つーテスラの売上高と営業利益率の推移のグラフはリンク先参照)』、興味深そうだ。
・『販売台数が落ち込んだ 業績悪化の最大の要因は、EVの売れ行きが鈍っていること。この3カ月のEV販売台数38万6810台は、前年同期比8.5%減、前四半期比では20.2%減となる。 ベルリンにあるギガファクトリーが、火災によって生産中断に追いこまれたといった一時的な要因はあるものの、世界的なEVシフトの変調によってEV市場の競争が激化する中、テスラの競争力が落ちているといってよさそうだ。(一時的な減少か、右肩上がりの終焉かーテスラの四半期ごとの販売台数のグラフはリンク先参照)) テスラはアメリカや中国でたびたび値下げを実施してきた。四半期の自動車事業の売上高(クレジットやリースは含まない)を販売台数で割った車両単価は、約4万2500ドル。直近でピークだった2022年4~6月から約1万1000ドル低下しており、数字からも値下げが裏付けられる。 (2022年の第2四半期から1万ドル以上下落ーテスラ車の平均単価の推移ー はリンク先参照)』、「車両単価は、約4万2500ドル。直近でピークだった2022年4~6月から約1万1000ドル低下しており、数字からも値下げが裏付けられる」、なるほど。
・『営業利益率でトヨタが逆転、差は広がる しかし、こうした値下げが販売台数の増加につながらなかったのは見ての通りだ。結果、売上高が減少する一方、研究開発費や販売管理費などは増加傾向が続いている。 一時期、自動車業界で驚異的ともいえる20%近い営業利益率を叩き出していた“超高収益体質”も過去のものとなりつつある。ハイブリッド車(HV)が絶好調で、円安の追い風も受けるトヨタ自動車に営業利益率で逆転されているが、その差は広がりつつある。 (再逆転したトヨタとの差が広がるーテスラとトヨタの営業利益率の推移ー はリンク先参照)) 株式市場からの評価にも表れている。テスラの時価総額は2021年11月に1兆2000億ドルを超えていたが、決算発表直前には5000億ドルを割り込んだ。2024年に入ってからだけでも約3割増加したトヨタが急速に差を詰めてきている。 もっとも、決算発表後にテスラの株価は急騰。トヨタの時価総額の差は、足元で2000億ドル超、日本円にして30兆円以上ある。自己株を除外した、より厳密な時価総額で比べれば、40兆円近くある。なお、テスラに対する株式市場の期待は高い。 (2社の差は急速に縮まっているーテスラとトヨタの時価総額の推移ー はリンク先参照)』、「決算発表後にテスラの株価は急騰。トヨタの時価総額の差は、足元で2000億ドル超、日本円にして30兆円以上ある。自己株を除外した、より厳密な時価総額で比べれば、40兆円近くある。なお、テスラに対する株式市場の期待は高い」、なるほど。
・『テスラの革新性は疑いないが期待先行も事実 一般的にEVは電池の生産コストが重く、利益が出しづらいとされる。ガソリン車を作ってきた従来の大手自動車メーカーだけでなく、雨後の筍のように出てきた新興EVメーカーもほとんどがEV事業の赤字に悩まされている。 落ちたとはいえ、5%台の営業利益率を出すテスラ。大型車体部品を一体成型する「ギガプレス(ギガキャスト)」と呼ぶ鋳造技術を用い、生産工程や部品数を少なくすることなどで合理化を追求する革新性はやはり侮れない。 とはいえ、第1四半期の純利益を4倍にしてベースでPER(株価収益率)を計算すると軽く100倍を超える。依然としてテスラの株価は期待先行といえる。テスラの失速とトヨタの躍進が続けば、時価総額逆転も近いかもしれない。) EVでのライバルも台頭している。中国BYDだ。中国では、政府のEV普及策によって新エネルギー車(NEV、EVとプラグインHV=PHV)シフトが進んでいる。それを追い風に急成長してきたBYDは、2023年10~12月にはBYDがEV販売でテスラを逆転した。 そのBYDも2024年1~3月は前四半期から大きく台数を減らした。中国市場は春節の影響で、1~3月は自動車販売台数が落ちるのが普通だ。が、世界的なEVシフトの変調の影響はBYDも受けている。逆風のEV市場でテスラとBYDの首位争いが激化することは間違いないだろう。 (テスラを一時追い抜いたBYDも失速ーテスラとBYDのEV販売台数の推移 はリンク先参照)』、「世界的なEVシフトの変調の影響はBYDも受けている。逆風のEV市場でテスラとBYDの首位争いが激化することは間違いないだろう」、なるほど。
・『BYDが有利な点と不利な点 EV専業のテスラとは違ってBYDはPHVも生産・販売している。総販売台数ではBYDがテスラを大きく上回る。EV市場が厳しくてもPHVを売ることができるBYDが有利な面がある。反面、中国企業であるBYDには、欧米市場へのアクセスの難しさもある。 EVのパイオニアとして先頭をひた走ってきたテスラだが、競争環境の激化やEVシフトの減速によって、今後も“覇者”として君臨し続けられるかは不透明。そんな中で注目されるのが新型車の導入だ。 決算説明会ではイーロン・マスクCEOが、2025年の早い時期に新モデルを投入すると表明したことで、株価の急反発につながった。テスラが本当に輝きを取り戻せるかは、新モデルを予定通り投入し、期待通りにヒットさせられるかにかかっている。 (PHVを含めるとBYDはテスラを大きく上回るーテスラとBYDの販売台数の推移ー はリンク先参照)【グラフ】売上高、利益率、時価総額の変化など、トヨタやBYDとも比較したグラフを見る)』、「イーロン・マスクCEOが、2025年の早い時期に新モデルを投入すると表明したことで、株価の急反発につながった。テスラが本当に輝きを取り戻せるかは、新モデルを予定通り投入し、期待通りにヒットさせられるかにかかっている」、果たして「新モデル」を「予定通り投入し、期待通りにヒットさせられるか」、大いに注目される。
先ずは、本年2月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「テスラ、営業利益「半減」の衝撃」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338413
・『中国EVの値下げ攻勢だけじゃない“不安材料”の数々 「イーロン・マスクCEOに8兆円の報酬は巨額すぎる」と、米テスラの株主が訴えている。係争の行方は横に置くとして、電気自動車(EV)市場は厳しい価格競争によりレッドオーシャンと化した。中国勢が低い生産コストを武器とする一方で、テスラはどんな壁にぶつかっているのか』、「厳しい価格競争」に直面していても、堂々と「8兆円の報酬」を求めるとは、さすが「マスク」氏らしい。
・『利益の大幅減でテスラ株が下落 世界の電気自動車(EV)市場は今、厳しい価格競争により新しいステージに突入している。その証左として、米テスラの業績が伸び悩んでいることがある。 1月25日、ニューヨーク株式市場でテスラの株価は前日比12.1%下落した。前日に発表があった、同社の2023年10~12月期決算の内容が嫌気されたからだ。営業利益は、前年同期比47%減の20億6400万ドル(1ドル=148円換算で約3050億円)だった。テスラの先行きに懸念を抱く投資家は増えたようだ。 背景には、比亜迪(BYD)など中国のEVメーカーの台頭がある。BYDはEVの販売価格を積極的に引き下げ、急速に世界シェアを高めている。値下げ競争の激化により、テスラの収益性は悪化している。 今後、テスラを取り巻く事業環境の厳しさは増すことが予想される。中国政府の産業補助政策の追い風もあり、BYDや車載用バッテリー世界大手の寧徳時代新能源科技(CATL)の価格競争力が脅威となる。 一方、テスラはコストの高い米欧で生産能力を強化する必要性に迫られている。車載用バッテリーの製造技術の確立も急務だ。今後さらに業績が悪化すると、テスラは、世界が注目する“マグニフィセント・セブン”(アマゾン・ドットコム、アップル、メタ・プラットフォームズ、アルファベット、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの米7社)から脱落する懸念さえある』、もはや「“マグニフィセント・セブン”」からは離脱したとみるべきだろう。
・『過酷な価格競争に巻き込まれるテスラ 23年10~12月期、テスラの「モデル3」や「モデルY」などの生産台数は前年同期比13%増の49万4989台、販売台数は同20%増の48万4507台だった。一方、売上高は前年同期比3%増の251億6700万ドル(約3兆7000億円)で、23年7~9月期の売上高が同9%増だったのに比べると鈍化した。 世界的なEVシフトを背景に、生産と販売台数は伸びたものの、価格下落の影響により売り上げの増加ペースはそれを下回った。 価格下落の背景には、BYDや上海蔚来汽車(NIO)など中国のEVメーカーの値下げ攻勢がある。中国では、不動産バブル崩壊による個人消費の低迷、EV販売補助金の終了(※)などに対応するため、多くの自動車メーカーがEV販売価格を引き下げている。※23年以降、一部の地方政府は独自の販売奨励策を実施 EVは、製造コスト全体の3割程度を車載用バッテリーが占める。BYDやCATLのコスト構造が低いのは、中国政府が工場用地を供与し、産業補助金などで生産能力の増強を支えてきたからだ。中国内では販売補助が終わってEVスタートアップ企業の多くが倒産したこともあり、BYDなど主要メーカーの値下げ余地は大きい。 BYDが値下げ攻勢を強める一方で、テスラは一部機能をアップグレードして値上げ(競合モデルとの差別化)を行い、対抗した時期もあった。しかし、消費者の支持を増やすことは難しく、結局テスラは値下げを余儀なくされた。 こうして、世界的にEVの値下げ競争は激化するばかりだ。最近、BYDはドイツのEV販売補助金の終了に対応するため、値下げを発表した。これに伴いテスラも、ドイツなどで販売するスポーツタイプ多目的車(SUV)の「モデルY」の価格を最大9%引き下げている(1月下旬時点)』、「世界的にEVの値下げ競争は激化するばかり」、環境は極めて厳しいようだ。
・『シェアの低下と新型バッテリー製造の難航 23年10~12月期、値下げ攻勢を強めたBYDは、テスラを抜いて世界シェアトップのEVメーカーに躍り出た。専門家が、「カット・スロート・コンペティション(過酷すぎる競争)が起きている」と危惧するほど、EVの値下げ競争が止まらない。 一方、原価の引き下げは一朝一夕にはいかない。値下げに拍車がかかると、どうしても企業の収益性は低下する。 また、米国ではGMやフォード、韓国の現代自動車などもEV投入を強化している。このことからも23年10~12月期、米国のEV市場でテスラのシェアは前年同期の58%から51%に低下した。EV市場はもはやブルーオーシャンではなく、レッドオーシャンに変化したのだ。 23年11月、テスラは新モデル「サイバートラック」の出荷を開始した。当初、テスラは車載用バッテリーについて、新しい製造技術を用いる方針だった。製造コストを従来の50%未満に抑え、より小型で、脱炭素などにも対応した新型バッテリーを自社で生産する。それをサイバートラックに搭載し、年25万台の供給を目指した。 しかし、テスラはこの新型バッテリーの基幹部品である電極を、中国企業から調達すると報じられている。新型バッテリーの製造技術の実用が、同社の想定通りに進まなかったようだ。中東情勢の緊迫化によってタンカーの運賃が急速に上昇しているため、多くの追加コストが発生している。 売上高の減少、人件費の上昇も含む米国での生産コストの上昇、さらには想定外のバッテリー調達コストの発生により、テスラの収益性は低下した。23年10~12月期、売上高から売上原価を控除した粗利益は、前年同期比23%減の44億3800万ドル(約6600億円)に落ち込んだ。粗利率は6.12ポイント低下し17.6%となった』、「「カット・スロート・コンペティション」により「EV市場はもはやブルーオーシャンではなく、レッドオーシャンに変化」、「テスラの収益性は」「売上高の減少、人件費の上昇も含む米国での生産コストの上昇、さらには想定外のバッテリー調達コストの発生により、低下した」、これだけ悪材料が揃えば、「マグニフィセント・セブンから脱落」も当然だ。
・『マグニフィセント・セブンから脱落の恐れ 期待の新モデルだったはずのサイバートラックの生産台数は、年間2万数千台レベルにとどまりそうだ。中国事業の難しさも増す。米中対立の先鋭化、安全保障への懸念から、中国でテスラの乗り入れが制限される場所が増えている。 一方、米国や欧州諸国の政府は、中国製EVによる過度な価格競争を懸念している。中国からの輸送距離が長いため、脱炭素に逆行するとの批判も出ている。そのためテスラは地産地消体制を強化して、主要先進国のEV需要を確保することが急務となっている。 米欧では労使対立が激化している。また、レアメタル調達を巡る鉱山の権益獲得競争も熱を帯びた。テスラにとって、中国や欧米市場での販売増加ペースが鈍化する一方、コスト増加圧力は高まるばかりだ。 そうした状況下でも、テスラの先行きに強気な主要投資家はいる。創業者であるイーロン・マスク氏が生産能力強化のために大胆な行動に出る、と期待しているからだ。 とはいえ全体としては、テスラの今後の業績を慎重に考える投資家が多い。それは、年初来のマグニフィセント・セブンの株価から確認できる(いずれも1月26日まで)。 ・テスラ 26.3%下落 ・グーグル親会社のアルファベット 8.9%上昇 ・アップル 0.1%下落 ・メタ 11.4%上昇 ・アマゾン 4.7%上昇 ・マイクロソフト 7.4%上昇 ・エヌビディア 23.2%上昇 やはり、他社に比べてテスラの下げ幅が目立つ。 投資家が懸念するのは、生産体制の確立や製造技術の向上に、想定以上のコストがかかることだろう。同社はテキサス州で次世代モデルの生産を準備しているが、バッテリー製造の問題を考えると、計画通りに進むか不透明だ。 今後、テスラの株価はますます不安定になる可能性が高い。新モデルの生産が想定通りに進まなければ、マグニフィセント・セブンからの脱落も現実味を帯びる。それは同時に、米国の株式市場全体に変調をきたす可能性もあるはずだ』、一部には「イーロン・マスク氏が生産能力強化のために大胆な行動に出る、と期待している」ようだが、これだけの逆境を跳ね返すのは、いかに「マスク氏」といえども無理だろう。
次に、4月25日付け東洋経済オンラインが転載したThe New York Times「テスラ「利益激減」よりも投資家が懸念すること 決算発表後の電話会議で注目されたポイント」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/750268
・『イーロン・マスク氏率いるテスラは、電気自動車(EV)市場で劣勢に立たされているという投資家の懸念をさらに強めている。 同社が発表した2024年1〜3月期(第1四半期)の最終利益は、前年同期比55%減の11億ドルとなった。売上高は同9%減の213億ドルだった』、なるほど。
・『「業績不振は避けられない」と見られていた テスラは今月、第1四半期の売上高が前年同期比8.5%減少したと発表し、また全世界の従業員の10%以上、約1万4000人をレイオフする計画を発表したため、業績不振は避けられないと見られていた。 カリフォルニア州フリーモントにある工場で2000人以上、テキサス州オースティンにある工場で2700人近くの従業員を含む人員削減は、テスラが売り上げの落ち込みに見合ったコストを圧縮するのに苦労していることの表れだと解釈された。 2023年1〜3月期、テスラは25億ドルを稼ぎ出し、業界屈指の利益率を記録したと発表した。しかし、先週新たに実施した値下げを含め、テスラは販売する車1台あたりの利益額を下げることを余儀なくされている。この戦略は、しばらくの間同社の販売を強化するのに役立っていたようだが、テスラは現在、価格を下げても買い手を引き付けるのに苦労しているようだ。 前四半期(2023年10〜12月期)のテスラの営業利益率は5.5%と、前年同期の半分であり、他の自動車メーカーの営業利益率と同水準になっている。)テスラの投資家たちは、売り上げと利益の減少がより大きな問題の兆候であることを懸念するようになっている。おそらく、既存の自動車メーカーや中国の新しい自動車メーカーとの競争激化に効果的に対応できないことを指摘しているのだろう。 マスク氏は最近、テスラは自律走行技術と「ロボタクシー」と呼ばれる車両に注力すると示唆しており、EVをより幅広い顧客層や多くの国の人々が購入できるようにする低価格の新モデルを開発するという同社の計画に疑問を投げかけている。 自動運転車はマスク氏にとって長年の夢だった。2019年に同氏は、翌年にはテスラが100万台の自律走行タクシーを走らせると言った』、「全世界の従業員の10%以上、約1万4000人をレイオフする計画を発表したため、業績不振は避けられないと見られていた。 カリフォルニア州フリーモントにある工場で2000人以上、テキサス州オースティンにある工場で2700人近くの従業員を含む人員削減は、テスラが売り上げの落ち込みに見合ったコストを圧縮するのに苦労していることの表れだと解釈された・・・テスラは現在、価格を下げても買い手を引き付けるのに苦労しているようだ。 前四半期(2023年10〜12月期)のテスラの営業利益率は5.5%と、前年同期の半分であり、他の自動車メーカーの営業利益率と同水準になっている。)テスラの投資家たちは、売り上げと利益の減少がより大きな問題の兆候であることを懸念するようになっている。おそらく、既存の自動車メーカーや中国の新しい自動車メーカーとの競争激化に効果的に対応できないことを指摘しているのだろう。 マスク氏は最近、テスラは自律走行技術と「ロボタクシー」と呼ばれる車両に注力すると示唆しており、EVをより幅広い顧客層や多くの国の人々が購入できるようにする低価格の新モデルを開発するという同社の計画に疑問を投げかけている」、なるほど。
・『既存車の部品を使って新車を作る 「テスラは、車のかっこよさ、自律走行車を発売するというアイデア、そして不可能に近いことをやってのけるマスク氏の能力に対する投資家の信頼感で生きてきた」と、ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスのエリック・ゴードン助教授は指摘する。「そしてマスク氏への信頼は、失望と謎めいた行動によって打ちのめされている」。 テスラは23日、来年には低価格車の生産を開始する予定だと述べた。しかし、先行投資を減らすための変更として、新たな車は新しい部品と既存車の部品が一部使われる。この戦略により、テスラは新たな工場を建設することなく新モデルを製造することが可能になるという。 「このアップデートにより、コスト削減効果は以前の予想よりも低くなる可能性がある」と同社は投資家向けのプレゼンテーションで述べた。 今年に入り約40%下落していたテスラの株価は、第1四半期発表後、火曜日の後場に急上昇した。投資家たちは、同社がより手頃な価格のモデルの投入計画を維持していることを歓迎したようだ。) マスク氏はテスラの値下げを擁護し、すべての自動車メーカーが価格を調整しているが、通常はディーラー優遇措置など、購入者にはあまり見えない手段を使っていると述べた。テスラはフランチャイズ・ディーラーを通さず、オンラインで直接顧客に車を販売している。 テスラの価格は、生産台数と需要を一致させるために頻繁に変更されなければならない」とマスク氏は述べた。 テスラは販売台数の減少について、世界的なサプライチェーンを混乱させた紅海での紛争、ベルリン近郊の工場で発生した火災による生産停止、フリーモントでモデル3セダンのアップグレード版を増産したことなどが原因だとしている。 テスラはまた、他の自動車メーカーがガソリンエンジンとバッテリーや電気モーターを搭載したハイブリッド車の販売を増やしたことが、完全電気自動車の販売を圧迫していると非難した』、「来年には低価格車の生産を開始する予定だと述べた。しかし、先行投資を減らすための変更として、新たな車は新しい部品と既存車の部品が一部使われる。この戦略により、テスラは新たな工場を建設することなく新モデルを製造することが可能になるという。 「このアップデートにより、コスト削減効果は以前の予想よりも低くなる可能性がある」と同社は投資家向けのプレゼンテーションで述べた。 今年に入り約40%下落していたテスラの株価は、第1四半期発表後、火曜日の後場に急上昇した。投資家たちは、同社がより手頃な価格のモデルの投入計画を維持していることを歓迎したようだ」、なるほど。
・『インドへの訪問を「延期」 2024年4〜6月期は「もっとよくなる」と、マスク氏は決算発表後の電話会議で語った。 マスク氏は22日に予定されていたインド訪問を延期した。インドではナレンドラ・モディ首相と会談し、工場建設計画を発表する予定だったが、「テスラの義務が非常に重い」ことを理由に見送った。 今回の延期は、インドが新たな成長源になると期待していた投資家たちを失望させるかもしれないが、マスク氏がテスラの問題に緊急に取り組んでいるという安心感を与える可能性もある。自動車購入者の多くが小型で手頃な価格の車を好むインドでは、同社の車種が大量に売れる可能性は低い。) テスラの最新車両は、昨年生産を開始したピックアップのサイバートラックだ。しかし、先週のリコールで明らかになった情報によると、同社の販売台数はわずか4000台程度にとどまっており、大きな成長源にはならないことが示唆されている』、「インドへの訪問を「延期」・・・マスク氏がテスラの問題に緊急に取り組んでいるという安心感を与える可能性もある・・・ピックアップのサイバートラックだ。しかし、先週のリコールで明らかになった情報によると、同社の販売台数はわずか4000台程度にとどまっており、大きな成長源にはならないことが示唆」、なるほど。
・『自動運転タクシーは望み薄? 自動運転タクシーは望み薄と見られているが、その理由の1つは、現在利用可能な最先端の自律走行システムでさえ、時に目に余るミスを犯すことがあるからだ。 さらに、テスラがこのようなタクシーを走らせるには、連邦政府、および州の規制当局のサインが必要だ。テスラは、ロボタクシーのソフトウェアを開発することが期待されるカリフォルニア州で、運転者のいない車をテストするライセンスをまだ持っていない。 「イーロン・マスクは2016年からロボタクシーをやると言っていた」と、自律走行システムに使われるソフトウェアを提供するApex.AIのヤン・ベッカーCEOは言う。が、「少なくとも短期的には、テスラがロボタクシーを提供するという十分な証拠は見当たらない」。 マスク氏は23日、AIの進歩により技術は急速に向上していると語った。アナリストからの質問に答えた同氏は、テスラを主に自動車会社として見ている人たちに焦りを示した。 「われわれはAIとロボティクスの会社だと考えられるべきだった」とマスク氏は言った。自律走行を完成させるテスラの能力を信じない人は、「この会社の投資家になるべきではない」と同氏は付け加えた。) 最近まで、テスラは電気自動車で利益を上げている数少ない自動車メーカーの1つだったが、既存の自動車メーカーが追い上げてきている。ゼネラル・モーターズ(GM)も23日に決算を発表したが、同社のCFOであるポール・ジェイコブソン氏は、記者団との電話会議で、バッテリーパックの製造における問題を解決し、生産量を増やしていると述べた。 GMは依然としてガソリン車事業に依存しており、そのことが今年1~3月期の利益が24%増の30億ドルに跳ね上がった主な要因となっている。しかし同社は、今年後半にはEVの販売で利益を上げることを期待している、とジェイコブソン氏は語った』、「GMは依然としてガソリン車事業に依存・・・しかし同社は、今年後半にはEVの販売で利益を上げることを期待」、なるほど。
・『決算で注目されていた「ポイント」 23日のテスラの決算発表への注目は、同社の方向性とマスク氏のリーダーシップに疑問を投げかける最近の一連の出来事の後ということもあり、異例なほど高まってい た。 先週、テスラの取締役会は、マスク氏を自動車事業に集中させ、彼の偏向的な発言や右翼的陰謀論との親和性が多くの潜在顧客を遠ざけているXに時間を割かせないよう、もっと努力することを期待していた投資家を失望させた。 取締役会は、デラウェア州の裁判所が無効としたマスク氏の470億ドルの給与パッケージを復活させる措置をとったからだ。取締役会はまた、テスラの本社所在地をテキサスに移すことを承認するよう株主に求めるとした。 この変更は、デラウェア州の裁判所が、2018年に承認された際の給与が過大であり、株主に適切な情報が提供されていなかったという理由で、1月に彼の給与パッケージを無効とした日にマスク氏が要求したものである。 (執筆:Jack Ewing記者)』、「テスラの取締役会は、マスク氏を自動車事業に集中させ、彼の偏向的な発言や右翼的陰謀論との親和性が多くの潜在顧客を遠ざけているXに時間を割かせないよう、もっと努力することを期待していた投資家を失望させた」、「マスク氏」は「テスラ」だけでは満足できず、あちこちに手を広げてしまうクセがあるようだ。
第三に、5月1日付け東洋経済オンライン「成長の終焉か「5つの数字」で見るテスラの栄枯盛衰 値下げは実らず、超高収益体質も過去のものに」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/750905
・『ここから輝きを取り戻せるのか。テスラが4月23日に発表した2024年度第1四半期(1~3月)の売上高は、前年同期比8.7%減の213億ドルとなった。前年同期比で減収となるのは約4年ぶりのことだ。営業利益は同44%減となる11.7億ドルで、営業利益率は11.4%から5.5%へと大幅に落ち込んだ。(利益率の落ち込みが目立つーテスラの売上高と営業利益率の推移のグラフはリンク先参照)』、興味深そうだ。
・『販売台数が落ち込んだ 業績悪化の最大の要因は、EVの売れ行きが鈍っていること。この3カ月のEV販売台数38万6810台は、前年同期比8.5%減、前四半期比では20.2%減となる。 ベルリンにあるギガファクトリーが、火災によって生産中断に追いこまれたといった一時的な要因はあるものの、世界的なEVシフトの変調によってEV市場の競争が激化する中、テスラの競争力が落ちているといってよさそうだ。(一時的な減少か、右肩上がりの終焉かーテスラの四半期ごとの販売台数のグラフはリンク先参照)) テスラはアメリカや中国でたびたび値下げを実施してきた。四半期の自動車事業の売上高(クレジットやリースは含まない)を販売台数で割った車両単価は、約4万2500ドル。直近でピークだった2022年4~6月から約1万1000ドル低下しており、数字からも値下げが裏付けられる。 (2022年の第2四半期から1万ドル以上下落ーテスラ車の平均単価の推移ー はリンク先参照)』、「車両単価は、約4万2500ドル。直近でピークだった2022年4~6月から約1万1000ドル低下しており、数字からも値下げが裏付けられる」、なるほど。
・『営業利益率でトヨタが逆転、差は広がる しかし、こうした値下げが販売台数の増加につながらなかったのは見ての通りだ。結果、売上高が減少する一方、研究開発費や販売管理費などは増加傾向が続いている。 一時期、自動車業界で驚異的ともいえる20%近い営業利益率を叩き出していた“超高収益体質”も過去のものとなりつつある。ハイブリッド車(HV)が絶好調で、円安の追い風も受けるトヨタ自動車に営業利益率で逆転されているが、その差は広がりつつある。 (再逆転したトヨタとの差が広がるーテスラとトヨタの営業利益率の推移ー はリンク先参照)) 株式市場からの評価にも表れている。テスラの時価総額は2021年11月に1兆2000億ドルを超えていたが、決算発表直前には5000億ドルを割り込んだ。2024年に入ってからだけでも約3割増加したトヨタが急速に差を詰めてきている。 もっとも、決算発表後にテスラの株価は急騰。トヨタの時価総額の差は、足元で2000億ドル超、日本円にして30兆円以上ある。自己株を除外した、より厳密な時価総額で比べれば、40兆円近くある。なお、テスラに対する株式市場の期待は高い。 (2社の差は急速に縮まっているーテスラとトヨタの時価総額の推移ー はリンク先参照)』、「決算発表後にテスラの株価は急騰。トヨタの時価総額の差は、足元で2000億ドル超、日本円にして30兆円以上ある。自己株を除外した、より厳密な時価総額で比べれば、40兆円近くある。なお、テスラに対する株式市場の期待は高い」、なるほど。
・『テスラの革新性は疑いないが期待先行も事実 一般的にEVは電池の生産コストが重く、利益が出しづらいとされる。ガソリン車を作ってきた従来の大手自動車メーカーだけでなく、雨後の筍のように出てきた新興EVメーカーもほとんどがEV事業の赤字に悩まされている。 落ちたとはいえ、5%台の営業利益率を出すテスラ。大型車体部品を一体成型する「ギガプレス(ギガキャスト)」と呼ぶ鋳造技術を用い、生産工程や部品数を少なくすることなどで合理化を追求する革新性はやはり侮れない。 とはいえ、第1四半期の純利益を4倍にしてベースでPER(株価収益率)を計算すると軽く100倍を超える。依然としてテスラの株価は期待先行といえる。テスラの失速とトヨタの躍進が続けば、時価総額逆転も近いかもしれない。) EVでのライバルも台頭している。中国BYDだ。中国では、政府のEV普及策によって新エネルギー車(NEV、EVとプラグインHV=PHV)シフトが進んでいる。それを追い風に急成長してきたBYDは、2023年10~12月にはBYDがEV販売でテスラを逆転した。 そのBYDも2024年1~3月は前四半期から大きく台数を減らした。中国市場は春節の影響で、1~3月は自動車販売台数が落ちるのが普通だ。が、世界的なEVシフトの変調の影響はBYDも受けている。逆風のEV市場でテスラとBYDの首位争いが激化することは間違いないだろう。 (テスラを一時追い抜いたBYDも失速ーテスラとBYDのEV販売台数の推移 はリンク先参照)』、「世界的なEVシフトの変調の影響はBYDも受けている。逆風のEV市場でテスラとBYDの首位争いが激化することは間違いないだろう」、なるほど。
・『BYDが有利な点と不利な点 EV専業のテスラとは違ってBYDはPHVも生産・販売している。総販売台数ではBYDがテスラを大きく上回る。EV市場が厳しくてもPHVを売ることができるBYDが有利な面がある。反面、中国企業であるBYDには、欧米市場へのアクセスの難しさもある。 EVのパイオニアとして先頭をひた走ってきたテスラだが、競争環境の激化やEVシフトの減速によって、今後も“覇者”として君臨し続けられるかは不透明。そんな中で注目されるのが新型車の導入だ。 決算説明会ではイーロン・マスクCEOが、2025年の早い時期に新モデルを投入すると表明したことで、株価の急反発につながった。テスラが本当に輝きを取り戻せるかは、新モデルを予定通り投入し、期待通りにヒットさせられるかにかかっている。 (PHVを含めるとBYDはテスラを大きく上回るーテスラとBYDの販売台数の推移ー はリンク先参照)【グラフ】売上高、利益率、時価総額の変化など、トヨタやBYDとも比較したグラフを見る)』、「イーロン・マスクCEOが、2025年の早い時期に新モデルを投入すると表明したことで、株価の急反発につながった。テスラが本当に輝きを取り戻せるかは、新モデルを予定通り投入し、期待通りにヒットさせられるかにかかっている」、果たして「新モデル」を「予定通り投入し、期待通りにヒットさせられるか」、大いに注目される。
タグ:テスラ (その5)(テスラ 営業利益「半減」の衝撃!中国EVの値下げ攻勢だけじゃない“不安材料”の数々、テスラ「利益激減」よりも投資家が懸念すること 決算発表後の電話会議で注目されたポイント、成長の終焉か「5つの数字」で見るテスラの栄枯盛衰 値下げは実らず、超高収益体質も過去のものに) ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫氏による「テスラ、営業利益「半減」の衝撃」 「厳しい価格競争」に直面していても、堂々と「8兆円の報酬」を求めるとは、さすが「マスク」氏らしい。 もはや「“マグニフィセント・セブン”」からは離脱したとみるべきだろう。 「世界的にEVの値下げ競争は激化するばかり」、環境は極めて厳しいようだ。 「「カット・スロート・コンペティション」により「EV市場はもはやブルーオーシャンではなく、レッドオーシャンに変化」、「テスラの収益性は」「売上高の減少、人件費の上昇も含む米国での生産コストの上昇、さらには想定外のバッテリー調達コストの発生により、低下した」、これだけ悪材料が揃えば、「マグニフィセント・セブンから脱落」も当然だ。 一部には「イーロン・マスク氏が生産能力強化のために大胆な行動に出る、と期待している」ようだが、これだけの逆境を跳ね返すのは、いかに「マスク氏」といえども無理だろう。 東洋経済オンライン The New York Times「テスラ「利益激減」よりも投資家が懸念すること 決算発表後の電話会議で注目されたポイント」 「全世界の従業員の10%以上、約1万4000人をレイオフする計画を発表したため、業績不振は避けられないと見られていた。 カリフォルニア州フリーモントにある工場で2000人以上、テキサス州オースティンにある工場で2700人近くの従業員を含む人員削減は、テスラが売り上げの落ち込みに見合ったコストを圧縮するのに苦労していることの表れだと解釈された・・・テスラは現在、価格を下げても買い手を引き付けるのに苦労しているようだ。 前四半期(2023年10〜12月期)のテスラの営業利益率は5.5%と、前年同期の半分であり、他の自動車メーカーの営業利益率と同水準になっている。)テスラの投資家たちは、売り上げと利益の減少がより大きな問題の兆候であることを懸念するようになっている。おそらく、既存の自動車メーカーや中国の新しい自動車メーカーとの競争激化に効果的に対応できないことを指摘しているのだろう。 マスク氏は最近、テスラは自律走行技術と「ロボタクシー」と呼ばれる車両に注力すると示唆しており、EVをより幅広い顧客層や多くの国の人々が購入で きるようにする低価格の新モデルを開発するという同社の計画に疑問を投げかけている」、なるほど。 「来年には低価格車の生産を開始する予定だと述べた。しかし、先行投資を減らすための変更として、新たな車は新しい部品と既存車の部品が一部使われる。この戦略により、テスラは新たな工場を建設することなく新モデルを製造することが可能になるという。 「このアップデートにより、コスト削減効果は以前の予想よりも低くなる可能性がある」と同社は投資家向けのプレゼンテーションで述べた。 今年に入り約40%下落していたテスラの株価は、第1四半期発表後、火曜日の後場に急上昇した。投資家たちは、同社がより手頃な価格のモデルの投入計画 を維持していることを歓迎したようだ」、なるほど。 「インドへの訪問を「延期」・・・マスク氏がテスラの問題に緊急に取り組んでいるという安心感を与える可能性もある・・・ピックアップのサイバートラックだ。しかし、先週のリコールで明らかになった情報によると、同社の販売台数はわずか4000台程度にとどまっており、大きな成長源にはならないことが示唆」、なるほど。 「GMは依然としてガソリン車事業に依存・・・しかし同社は、今年後半にはEVの販売で利益を上げることを期待」、なるほど。 「テスラの取締役会は、マスク氏を自動車事業に集中させ、彼の偏向的な発言や右翼的陰謀論との親和性が多くの潜在顧客を遠ざけているXに時間を割かせないよう、もっと努力することを期待していた投資家を失望させた」、「マスク氏」は「テスラ」だけでは満足できず、あちこちに手を広げてしまうクセがあるようだ。 東洋経済オンライン「成長の終焉か「5つの数字」で見るテスラの栄枯盛衰 値下げは実らず、超高収益体質も過去のものに」 「車両単価は、約4万2500ドル。直近でピークだった2022年4~6月から約1万1000ドル低下しており、数字からも値下げが裏付けられる」、なるほど。 「決算発表後にテスラの株価は急騰。トヨタの時価総額の差は、足元で2000億ドル超、日本円にして30兆円以上ある。自己株を除外した、より厳密な時価総額で比べれば、40兆円近くある。なお、テスラに対する株式市場の期待は高い」、なるほど。 「世界的なEVシフトの変調の影響はBYDも受けている。逆風のEV市場でテスラとBYDの首位争いが激化することは間違いないだろう」、なるほど。 「イーロン・マスクCEOが、2025年の早い時期に新モデルを投入すると表明したことで、株価の急反発につながった。テスラが本当に輝きを取り戻せるかは、新モデルを予定通り投入し、期待通りにヒットさせられるかにかかっている」、果たして「新モデル」を「予定通り投入し、期待通りにヒットさせられるか」、大いに注目される。
外食産業(その5)(スシローが「外食テロ」に打ち勝てた決定的な理由 続発する「外食テロ」に勝つ企業、沈む企業の差、ゼンショー「最大500億円増資」で破竹の勢い続くか 日本初の外食ジャイアントの海外戦略とは?、ぞくぞくと閉店…「いきなりステーキ」はなぜこれほど凋落してしまったのか、サイゼリヤの「値上げしない」宣言には裏がある?消費者が手放しで喜べないワケ ニュースで学ぶ「やさしい経営学」) [産業動向]
外食産業については、昨年2月12日に取上げた。今日は、(その5)(スシローが「外食テロ」に打ち勝てた決定的な理由 続発する「外食テロ」に勝つ企業、沈む企業の差、ゼンショー「最大500億円増資」で破竹の勢い続くか 日本初の外食ジャイアントの海外戦略とは?、ぞくぞくと閉店…「いきなりステーキ」はなぜこれほど凋落してしまったのか、サイゼリヤの「値上げしない」宣言には裏がある?消費者が手放しで喜べないワケ ニュースで学ぶ「やさしい経営学」)である。
先ずは、昨年2月18日付け東洋経済オンラインが掲載したマーケティングコンサルタント・桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授の西山 守氏による「スシローが「外食テロ」に打ち勝てた決定的な理由 続発する「外食テロ」に勝つ企業、沈む企業の差」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/653391
・『回転寿司チェーン「スシロー」の店内で、客による迷惑行為の動画がSNSで拡散した問題。スシローに限らず、外食産業全体に大きな波紋を呼んでいる。 直近でも、「餃子の王将」が客の迷惑行為を踏まえて、店内のテーブルに置くギョーザのたれなどの調味料を撤去すると発表。マクドナルドにおいても、店舗で客がアクリル板をなめる動画やハンバーガーにゴキブリの死骸が混入したとするツイッターへの投稿が拡散して問題になっている。 「迷惑行為」の連鎖は、依然として止まらない状況だ。一方で、外食系企業に対する顧客、消費者の意識は変わってきており、企業側を擁護する意見が強くなってきている。さらに、企業側も過去のトラブルから学び、過去に比べればリスク対応が巧みになりつつあるようにも見える。 特に、今回の一件でスシローが取った一連の対応は、非常に適切なものであったといえる。本稿では、スシロー事件を中心に、外食・食品に関するトラブルの変化と、外食産業のリスクマネジメントについて考えてみたい』、興味深そうだ。
・『つねにリスクにさらされてきた外食・食品業界 外食・食品業界は、消費者の日常に深く関わるものであり、特に衛生や安全面に関心を強く持たれやすい。それだけに、過去には何度も、ときに企業の存続が脅かされるほどの重大リスクに直面してきた。 重大リスクには、今回の「迷惑行為」など食品そのものに問題が発生して消費者に直接害が及びかねないものから、従業員が関係する事件や事故まで、内容はさまざまある。 かつて大手外食チェーンのハンバーガーに「ミミズの肉が使われている」という荒唐無稽な「都市伝説」がアメリカ起点で流布したが、これは1978年から始まったといわれる。 2000年以降の日本に限定して見ていくと、雪印乳業を破綻に追い込むきっかけとなった中毒事件が起きたのが2000年。船場吉兆、不二家、赤福、「白い恋人」などの食品偽装が相次いで発覚したのが2007年。 翌年の2008年にはJTフーズの冷凍食品への農薬混入問題が起きている。さらに。2013年には、アクリフーズ冷凍食品農薬混入事件が起きたが、それと並行して飲食店や小売店「バイトテロ」が相次いで発生した。コンビニの従業員がアイスクリームケースの中に入っている姿を撮影して投稿するなど、社会問題化したので記憶にある人も多いだろう。) 2014年には、まるか食品のカップ焼きそば「ペヤング」の異物混入、2014年~2015年にかけてはマクドナルドにおける異物混入が大きな問題となるなど、SNS上でさまざまな「異物混入」に関する話題が拡散した。 2018年~2019年にかけては「バイトテロ」が再び活発化。 昨年2022年には、スシローがおとり広告で消費者庁から措置命令を受けたり、「大阪王将」の元従業員が衛生管理に関する告発投稿をツイッターで行うなどの問題が起きており、やはり飲食店がらみの不祥事や炎上事件が多く見られている。 実は、飲食業界の不祥事、炎上事件は、一見すると同じようなものに見えても、時代による特徴が見られる。 トレンドの転換点となっていると筆者が考えるのが、2013年、2018年である。 2013年以前は、問題が顕在化するきっかけとなるのは、内部告発、メディア報道、お客様相談窓口が中心だった。ところが、同年には、「バカッター」というネットスラングが生まれたことに象徴されるように、多くの飲食店をめぐるトラブルは、ツイッターが着火点となっている。 東日本大震災が発生した2011年には、SNSが「情報インフラ」として普及し、自治体が情報提供のために活用したり、人々が被災者支援を行ったりしていたが、時間が経つに伴い、誹謗中傷や過激な言動を行って注目を浴びようとする動きも見られるようになったのである。 一方で、2018年から再活発化したバイトテロの多くは、動画共有サイトに迷惑動画がアップされ、SNSで拡散していることが多い。進研ゼミが小学生に対して行った「将来つきたい職業」調査で、2019年には「YouTuber」が男子で1位となったことに象徴されるように、多くの一般人がYouTubeで動画配信を行うようになったのがちょうどこの時期である。 動画共有サイトとSNSとのセットで炎上する傾向は2023年にも引き継がれているが、「迷惑系YouTuber」と新型コロナウイルス収束の影響が加わっていると見られる』、「2013年以前は、問題が顕在化するきっかけとなるのは、内部告発、メディア報道、お客様相談窓口が中心だった。ところが、同年には、「バカッター」というネットスラングが生まれたことに象徴されるように、多くの飲食店をめぐるトラブルは、ツイッターが着火点となっている。 東日本大震災が発生した2011年には、SNSが「情報インフラ」として普及し、自治体が情報提供のために活用したり、人々が被災者支援を行ったりしていたが、時間が経つに伴い、誹謗中傷や過激な言動を行って注目を浴びようとする動きも見られるようになったのである。 一方で、2018年から再活発化したバイトテロの多くは、動画共有サイトに迷惑動画がアップされ、SNSで拡散していることが多い。進研ゼミが小学生に対して行った「将来つきたい職業」調査で、2019年には「YouTuber」が男子で1位となったことに象徴されるように、多くの一般人がYouTubeで動画配信を行うようになったのがちょうどこの時期である」、なるほど。
・『過去のトラブルから“リスクマネジメント”を学んだ外食業界 企業や店舗によって差はあるが、大手の飲食チェーンは、一般に従業員教育、業務のマニュアル化が進んでおり、個人経営の飲食店や家庭での料理と比べても、衛生管理は厳しい傾向がある。 異物混入などの衛生問題は、100%防止することは難しく、発生確率は低くとも、店舗数が多いと一定数は出てきてしまう。そして、大手や有名店であればあるほど、それが動画共有サイトやSNSに投稿されやすく、拡散も起きやすい。 スシローで迷惑動画が投稿されたからといって、「スシローが不衛生」ということはまったくないのだが、拡散した情報によって、消費者はバイアスがかかってしまうのだ。) 外食・食品企業をめぐる昨今の炎上事件の多くは、企業側の問題よりも、消費者、あるいは消費者を取り巻く情報環境の変化によって起きているといえる。 最近は、YouTuberの競争激化によって、問題行為で注目を集めようとする「迷惑系YouTuber」も存在する中、迷惑行為で注目を集めようとする「一般人」も出てきたというところだろう。 新型コロナウイルスの蔓延によって、人々の衛生意識は急速に高まったが、感染の収束で人々が外出するようになり、飲食店が目立ちたがり屋の顧客の標的にされるという事態になっている。 一方で、外食・食品業界側は、過去のトラブルの経験から学び、適切なリスク対応が行えるようになっているように見える。実際、直近の10年間を見る限り、消費者の生命や健康を害するような大きな不祥事はほとんどない。 「トラブルを起こさないように最大限の注意を払う」ということが、リスクマネジメントの大前提になるが、企業側がいくら気を付けていても、トラブルが発生するリスクはあるし、発生する可能性も高まっている』、「飲食店が目立ちたがり屋の顧客の標的にされるという事態になっている・・・企業側がいくら気を付けていても、トラブルが発生するリスクはあるし、発生する可能性も高まっている」、困ったことだ。
・『トラブル発生時に取るべき対応策の「3原則」 トラブルが発生した時の対応策として、重要なポイントは下記の3点だと筆者は考えている。 1. (過剰ともいえるほどの)徹底した対策を講じる 2. 迷惑行為に対しては、厳然たる態度を取る 3. (自社ではなく)「顧客を守る」というスタンスを表明する まさに、今回のスシローはこのような対応を取り、リスクを最小限にとどめたといえる。 1については、2014年の「ペヤング」の異物混入事件のケースが参考になるだろう。製造元であるまるか食品は、全商品の生産と販売を停止、販売停止中には、社長自身が小売店をお詫び行脚するという対応を行っている。 また2019年の大戸屋のバイトテロ時の対応も印象深い。このとき大戸屋は、従業員の再教育と店舗の清掃を行うとして、全店一斉休業を行っている。 トラブル自体が帳消しにされるわけではないが、企業側が「やりすぎ」と思われるほどの徹底した対応を打ち出し、本気度を示すことによって、顧客に対して「変わった」「これまでと違う」という印象付けをすることが可能になる。 2の「顧客による迷惑行為」については、従来、「企業側にも非はあった(「管理が不適切だった」等)」として、穏便に済まされることも多かった。しかし今、トレンドは変わりつつある。 スシローで迷惑行為を行ったのは高校生だったが、スシロー側は当事者とその保護者の謝罪を受け入れず、民事・刑事で法的措置をとる考えを示した。これまでであれば、「未成年に対して厳しすぎる」という批判も少なからず出たであろうが、今回はそうした意見は主流とはならなかった。) コロナ禍や物価高による苦境の中で、安価で質の高いサービスを行っている飲食チェーンに対して、消費者は同情的になっているし、「支援をしたい」という意識も生まれている。そこを敏感に読み取って対処したスシローの感性は見事だったというほかない。 3については、バイトや顧客などの第三者に非がある場合、企業側があまりに強く被害者だという態度を示しすぎると、「保身では」「企業側の対応も感じが悪い」と思われてしまい、批判を浴びてしまうことがある。 そこは、先述の2の話とも絡むのだが、企業側が「顧客を守る」ために最大限に対応を行っていることも示すことで、批判を回避しやすくなる。 たとえば餃子の王将の調味料の撤去は、顧客にとっては不便なことに違いない。しかし、撤去するのは、「(お店ではなく)迷惑行為を行う客から、ほかの客を守るため」と感じられれば、印象はまったく変わってくる。そうなれば目先の不便について、顧客は「自分のため」と受容しやすくなるだろう』、「トラブル発生時に取るべき対応策の「3原則」はなかなかよく出来ている。
・『今後取るべきは、多方面に配慮した「アメとムチ」戦略 上記の「3原則」に加えて、著者がスシローの対応に関して、秀逸だと思ったことがある。それが、2月10日に、迷惑行為に対して「厳正に対処する」とする一方で、当事者に関して「直接的な危害となるような言動はお控えていただくよう伏してお願い申し上げます」という文書を発表している点である。つまり、加害者をひたすらに糾弾するのではなく、一定の配慮も示しているのだ。 実際、迷惑行為を行った高校生、および保護者に対して明らかに過剰なバッシングが行われており、高校生は高校を自主退学するまでに至っている。 スシロー側の要請は、公正で配慮が行き届いたものであるが、スシロー側が「高校生を追い込んだ」と批判されるのを回避するという効果ももたらしている。 SNSでは「#スシローを救いたい」のハッシュタグが拡散、著名人も擁護意見を表明したり、スシローの店舗を訪問して動画共有サイトやSNSにその様子をアップしたりする動きが巻き起こっている。 さらに。スシロー側はそれを受けて、2月13日~17日までの期間限定で「全品10%OFF」のキャンペーンを実施するという対応を行っている。 スシローの一連の対応は、「正しいことを、適切な方法で主張する」という正統的なやり方を踏襲しつつ、変化していく「世論」を捉え、各所に配慮しながら迅速に対応していくという点で、高度なリスクマネジメントを行ったといえるだろう。 スシローを始めとする、昨今の外食企業に対する一連の迷惑行為を、単なる「世間を騒がせたスキャンダル」としてではなく、「企業のリスク対応」という視点から見直すことで、改めて学ぶべき点は多々あることに気づかされる』、「迷惑行為を行った高校生、および保護者に対して明らかに過剰なバッシングが行われており、高校生は高校を自主退学するまでに至っている。 スシロー側の要請は、公正で配慮が行き届いたものであるが、スシロー側が「高校生を追い込んだ」と批判されるのを回避するという効果ももたらしている・・・スシローの一連の対応は、「正しいことを、適切な方法で主張する」という正統的なやり方を踏襲しつつ、変化していく「世論」を捉え、各所に配慮しながら迅速に対応していくという点で、高度なリスクマネジメントを行ったといえるだろう。 スシローを始めとする、昨今の外食企業に対する一連の迷惑行為を、単なる「世間を騒がせたスキャンダル」としてではなく、「企業のリスク対応」という視点から見直すことで、改めて学ぶべき点は多々あることに気づかされる」、「スシロー」の対応は理想的なものとなったようだ。
次に、昨年11月30日付け東洋経済オンラインが掲載した調達・購買業務コンサルタント・講演家の坂口 孝則氏による「ゼンショー「最大500億円増資」で破竹の勢い続くか 日本初の外食ジャイアントの海外戦略とは?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/718143
・『「すき家」「なか卯」「ココス」などを運営する外食最大手・ゼンショーホールディングスが、公募増資などで最大500億円を調達すると発表しました。日本初の外食ジャイアントの現状は、どのようなものになっているのでしょうか。 新著『買い負ける日本』が話題を呼ぶ、調達のスペシャリスト・坂口孝則氏による不定期連載「世界の(ショーバイ)商売見聞録」。著者フォローをすると、坂口さんの新しい記事が公開されたときにお知らせメールが届きます(著者フォローは記事最後のボタンからできます)』、興味深そうだ。
・『ゼンショーホールディングスの続伸 ゼンショーといえば、以前のイメージは「すき家」「なか卯」「ココス」だった。しかし、現在では「はま寿司」「ロッテリア」をも有する外食ジャイアントとなっている。多くのチェーンを飲み込み、外食の多様化を図ってきた。 その、ゼンショーホールディングス株。先月、10月25日に高騰して話題になった。終値は前日比+336円の7524円。理由は、同社が海外店舗を1万店に拡大する意図を受けたものだった(執筆時点では同社株は8364円にまでさらに上昇している)。 日本の飲食勢ではじめての海外1万店舗のインパクトは大きかった。日本市場は中長期的に伸びないことを見越して海外に積極展開するなかで、海外のチェーンをM&Aで買収を重ねてきた。 ゼンショーホールディングスは、コロナ禍で2021年にはさすがに前年比割れしたとはいえ、そこから順調に売上高も利益も伸ばしてきた。日本もインフレ下で価格が上昇しているものの、海外市場に拡大することで、より多くの収益を得られる。 海外旅行にいった日本人が、海外の外食価格の高さを嘆いてみせるのは、もはや食傷気味になっているほどだ。ならば、その外食価格の高さを逆利用してやればいい、と考えてもおかしくはない。 アジア、アメリカ、南米など、世界各地に進出を緩めないさまは、外食チェーンならびに、日本企業のお手本ともいえるだろう。以前に店舗人材の面で世間を騒がせたことがあったため、人材育成にも力を入れている。 そこで、最新の決算状況から、さらにM&Aを加速するさままでを見ていこう』、「ゼンショーといえば、以前のイメージは「すき家」「なか卯」「ココス」だった。しかし、現在では「はま寿司」「ロッテリア」をも有する外食ジャイアントとなっている。多くのチェーンを飲み込み、外食の多様化を図ってきた・・・日本の飲食勢ではじめての海外1万店舗のインパクトは大きかった。日本市場は中長期的に伸びないことを見越して海外に積極展開するなかで、海外のチェーンをM&Aで買収を重ねてきた・・・アジア、アメリカ、南米など、世界各地に進出を緩めないさまは、外食チェーンならびに、日本企業のお手本ともいえるだろう」、なるほど。
・『中間決算の状況 コロナが明け、大きく業績が回復している(出所:ゼンショーホールディングスの決算資料) そこで先日、発表されたばかりの中間決算発表(2024年3月期 第2四半期)を見てみよう。 ・売上高:4526億円(前年同期比+20.5%) ・経常利益:244億円(前年同期比+78%) 上記のとおり好調だった。通期の決算報告も対前年比で順調に伸びている。 ・売上高:9600億円(前年同期比+23.1%) ・経常利益:480億円(前年同期比+70.9%) なお、まだとくに日本ではコロナ禍が完全に収束していないなか、ロシア・ウクライナ戦争の長期化、イスラエル・ハマス戦争の不透明さ……等による原材料価格の高止まりなど、外食産業全体としては、明るいニュースばかりではない。 しかし、そのなかで世界に展開するゼンショーホールディングスは善戦している。) 各セグメントを前年比売上高で見てみると下記となる。 ・グローバルすき家:118.1%、 ・グローバルはま寿司:110.2%、 ・グローバルファストフード:114.1% ・レストラン:126.4%、 ほぼ一様に上昇している。また、店舗数はフランチャイズを含むが、1万4740店(!)となっている。 ちなみに、これは意外に知られていないが、同グループは「すき家」のイメージが強い。なるほど、「すき家」は国内外を含めて2623店舗と多い。 ただ、もっと大半を占めるのが「グローバルファストフード」であり、このカテゴリには、Advanced Fresh Concepts Corp(寿司のテイクアウト店)、Sushi Circle Gastronomie GmbH(寿司チェーン)、SnowFox Topco Limited(寿司のテイクアウト店)が含まれており、国内外で1万0130店舗を誇る。寿司店のM&Aでシナジーを発揮する戦略がよくわかる。 日本人のイメージは「すき家」の牛丼かもしれないが、外形的には寿司チェーンといったほうが近いほど、多数のグローバル寿司チェーンを展開している。 同社は、MMD(マス・マーチャンダイジング・システム)と呼ぶ方式を採用している。これはサプライチェーンの上流から下流までを一貫して担い、さらに、その物量の多さで価格メリットも出そうというものだ。 商品の企画とテスト、原材料の調達・物流、加工から販売からカスタマー管理までを手掛ける。このMMDは、なるほど、拡大とともにその力を増していく。そのため、昨今は大型のM&Aを続けているのだろう』、「「すき家」は国内外を含めて2623店舗と多い。 ただ、もっと大半を占めるのが「グローバルファストフード」であり、このカテゴリには、Advanced Fresh Concepts Corp(寿司のテイクアウト店)、Sushi Circle Gastronomie GmbH(寿司チェーン)、SnowFox Topco Limited(寿司のテイクアウト店)が含まれており、国内外で1万0130店舗を誇る。寿司店のM&Aでシナジーを発揮する戦略がよくわかる。 日本人のイメージは「すき家」の牛丼かもしれないが、外形的には寿司チェーンといったほうが近いほど、多数のグローバル寿司チェーンを展開している」、なるほど。
・『新株式発行による資金のプール そして、この流れのなかで発表されたのが、ゼンショーホールディングスの「新株式発行及び株式売出しに関するお知らせ」だ。実に、これからも積極的なM&Aを仕掛けていく姿勢が見れてすがすがしい。 ポイントでいうと、次のとおりだ。 ・約522万株の公募による新株式発行を行う(なお同時に株式売出しも実施)・一般募集および第三者割当増資により集まる予定金額は499億970万円 ・全額をM&A待機資金とする すき家で培ったオペレーションの卓越さを他ブランドでも展開。それを、さらに海外を含むM&Aにも拡張することで、さらに業態を拡大させる。この戦略は2030年までの7年間ほど継続され、たしかに、その姿勢はぶれているところはない。 とくに冒頭で紹介した通りに、決算が好調で、将来の見通しを示す株価も高いタイミングだ。海外を含むM&Aの待機資金という目的も明確な新株発行だ。市場も、そこに違和感がないだろう。 なお個人的な話だが、私は先日、地方の飲食店経営者から、コロナ禍におけるゼロゼロ融資(実質無利子・無担保)の返済期間が到来して困っている、という話を聞いたばかりだった。 もちろん地方でも元気なローカル店舗は多いと思う。しかも、たった数例からマクロを語るわけにはいかない。ただし私には、地方飲食店=日本ローカル、と、ゼンショー=グローバルの不調と好調の状況が、明暗のような、あざやかな対比に感じられた。 逆にいえば、日本で培ったオペレーションや食材・メニュー開発、さらには日本特有のこまやかさを最大限に生かそうと思えば、グローバルへの道に進むしかないと思われる。 ゼンショーホールディングスには、さまざまな批判もあるかもしれないが、私は日本初の外食ジャイアントの先人として応援したい』、「・約522万株の公募による新株式発行を行う(なお同時に株式売出しも実施)・一般募集および第三者割当増資により集まる予定金額は499億970万円 ・全額をM&A待機資金とする すき家で培ったオペレーションの卓越さを他ブランドでも展開。それを、さらに海外を含むM&Aにも拡張することで、さらに業態を拡大させる。この戦略は2030年までの7年間ほど継続・・・日本で培ったオペレーションや食材・メニュー開発、さらには日本特有のこまやかさを最大限に生かそうと思えば、グローバルへの道に進むしかないと思われる。 ゼンショーホールディングスには、さまざまな批判もあるかもしれないが、私は日本初の外食ジャイアントの先人として応援したい」、今後の発展を期待したい。
第三に、昨年12月26日付け現代ビジネスが掲載したA4studio編集プロダクションによる「ぞくぞくと閉店…「いきなりステーキ」はなぜこれほど凋落してしまったのか」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/121093?imp=0
・『「いきなりステーキ」の失速 今年12月で開店10周年を迎えたステーキ店「いきなりステーキ」の失速が止まらない。 ペッパーフードサービスが運営するいきなりステーキは、前菜を挟まずにそのままステーキを提供し立ち食いする、というコンセプトが売りのステーキチェーン。食べたい肉の種類やグラム数、焼き加減を選択できる「オーダーカット」も特徴で、目の前でシェフが焼き上げてくれるスタイルだ。グラム数あたりの金額がリーズナブルなことから、コストパフォーマンスに優れたステーキ店として一躍脚光を浴びた。 2013年12月に銀座でオープンした1号店を皮切りに、急速なチェーン展開を進め、2018年11月には47都道府県すべてに出店を果たす。最盛期には約500店舗も構えており、栄華を極めたいきなりステーキだったが、次第に増えすぎた店舗が飽和状態へと陥り、業績悪化が目立つように』、「最盛期には約500店舗も構えており、栄華を極めたいきなりステーキだったが、次第に増えすぎた店舗が飽和状態へと陥り、業績悪化が目立つように」、「最盛期」の頃の経営者がTVのインタビューに応じていた時には、お驕り高ぶっていた。
・『なぜ凋落したのか 2020年12月期のペッパーフードサービスの決算では、売上高が前年比でマイナス53.5%という苦しい結果に終わっており、現在に至るまで減収、減益を重ねている。不採算店の整理のため閉店が相次ぎ、2023年10月現在では188店舗と大きく数を減らすという憂き目に遭っているのだ。 2022年8月には、業績悪化の責任をとって、店舗外観ポスターの顔でもあった一瀬邦夫社長が辞任。後任には息子の一瀬健作氏が就任し、再建に向けて奮闘するものの、2023年12月期も赤字予想で黒字の見通しは立っていない。 一度は世間を席巻したいきなりステーキはどこで道を間違えたのか。今回はフードアナリストの重盛高雄氏にいきなりステーキ凋落の原因について解説してもらった(以下、「」内は重盛氏のコメント)』、「最盛期には約500店舗」が「2023年10月現在では188店舗と大きく数を減らすという憂き目に遭っている」、「フードアナリスト」による「解説」とは興味深そうだ。
・『お得感が感じられない はじめに重盛氏は「今のいきなりステーキにはお得感がまったく感じられない」と語る。 「前提として、今のメニューは“安い”とは言いがたい価格帯となっています。たとえば看板メニュー『ワイルドステーキ』は200gで1590円(税込、以下同)となっており、平日ランチ時にはライス、サラダ、スープ付で1740円と、一般的なステーキ店と比べても遜色ない価格です。厚切ステーキを食べようとして、1500円を軽く超えてしまう。普通のステーキ店なら以前からあり得る話の金額ですが、いきなりステーキのコンセプトを踏まえると、どうしても割高感が否めません」 いきなりステーキは、2023年10月6日より原材料費の高騰に伴って、一部商品の価格改定を行い、ワイルドステーキ200gは1390円から1590円に値上げされている。 また、競合するチェーン店のサーロインステーキ200gの価格と比較してみると、いきなりステーキの2200円に対し、「ステーキガスト」は2419円、「ビッグボーイ」は2090円となっており、いきなりステーキの価格は決して安くないことがわかる。 もちろんほかの部位によって価格は異なるだろうし、チェーンによって提供する、しない部位は異なってくるので一概には比較できないが、全体的な価格感としては、重盛氏の言うようにいきなりステーキがお得とは言いがたいのである』、「競合するチェーン店のサーロインステーキ200gの価格と比較してみると、いきなりステーキの2200円に対し、「ステーキガスト」は2419円、「ビッグボーイ」は2090円となっており、いきなりステーキの価格は決して安くないことがわかる」、これでは「割高感が否めません」、その通りだ。
・『「肉マイレージ」の改悪 いきなりステーキでは、来店回数ではなく、食べた肉の量でゴールド、プラチナ、ダイヤモンドと会員ランクが上がる「肉マイレージ」というシステムを実施している。ゴールド会員以上は誕生日月になるとステーキをプレゼントされたり、プラチナ会員以上は1回の会計でアルコールなどの飲料が1杯無料になったりするなど特典が付いていた。 会員数1500万人を抱える人気サービスだったが、2021年1月からは来店回数に応じてランクアップするシステムへと変更。そのうえ、来店頻度が少ないとランクダウンする仕組みとなった。 「この変更はかなりのユーザーから不評を買いました。ランクアップのために何十万円という金額を投資したユーザーもいましたし、常連客離れが懸念されるように。さらにはコロナ禍も拍車をかけ、客数が急減してしまったため、2023年1月からはほぼ初期の肉マイレージのシステムに戻しました。しかし、一度離れてしまった顧客を再び呼び戻すことは難しく、魅力は下がり続けている一方だと私は考えています」 いきなりステーキの熱烈ファンほど、肉マイレージのシステム変更は“改悪”だったと感じていた可能性は高そうだ。 記事後編は「閉店止まらぬ「いきなりステーキ」、“逆効果”だった前社長の直筆メッセージ」から』、「会員数1500万人を抱える人気サービスだったが、2021年1月からは来店回数に応じてランクアップするシステムへと変更。そのうえ、来店頻度が少ないとランクダウンする仕組みとなった。 「この変更はかなりのユーザーから不評を買いました。ランクアップのために何十万円という金額を投資したユーザーもいましたし、常連客離れが懸念されるように。さらにはコロナ禍も拍車をかけ、客数が急減してしまったため、2023年1月からはほぼ初期の肉マイレージのシステムに戻しました。しかし、一度離れてしまった顧客を再び呼び戻すことは難しく、魅力は下がり続けている一方だと私は考えています」、なるほど。
第四に、本年4月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したやさしいビジネススクール学長の中川功一氏による「サイゼリヤの「値上げしない」宣言には裏がある?消費者が手放しで喜べないワケ ニュースで学ぶ「やさしい経営学」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342459
・『サイゼリヤは24年2月期第2四半期の決算発表を行った。増収増益で、大きく利益を伸ばし、絶好調だ。また、物価高が続く中、同社が「値上げしない方針」を貫いていることも注目を集めている。ただ、私たちは、「価格据え置き」を手放しで喜んでいられない。どういうことか』、興味深そうだ。
・『「値上げしない」方針を貫くサイゼリヤ 決算を見れば、サイゼリヤは外食産業の最優等生企業の一つと言っていいだろう。 2024年4月10日、同社は2023年9月〜24年2月期の連結決算を発表したが、売上高は前年同期比25%増の1046億円、営業利益は約6.6倍の59億円、純利益は約4.3倍の26億円となった。 サイゼリヤと言えば、何と言ってもコストパフォーマンスの良さが有名だ。 安定した味、優れた品質の料理をたっぷりいただいて、ドリンクバーを使いながらゆったり過ごしても、客単価1000円もいかない。 同社の松谷秀治社長は決算発表会見で力強く、「値上げしない方針は変わっていない」と宣言した。まことに、有難い限りである。 だが、ここで一つの疑問が持ち上がってくる。 これだけの物価高・原料高の中で、なぜサイゼリヤは「価格据え置き」のまま、利益を上げることができているのだろうか』、秘密はどこにあるのだろう。
・『サイゼリヤが「価格据え置き」できるワケ サイゼリヤが、なぜ国内の販売価格を据え置くことができているのか。その理由は、同社の決算を見れば一目瞭然である。 (サイゼリヤ2024年8月期第2四半期決算説明資料 はリンク先参照) 24年2月期第2四半期までの業績をセグメント別に見ると、国内「サイゼリヤ」事業は売上高673億円と、3事業の中で売り上げが最も大きい。しかし、営業利益はわずか3400万円だ。売上高利益率は0.1%にも満たず、ほぼゼロ利益だと言っていい。 これに対して、アジア事業は売上高373億円に対し、営業利益は56億円。利益率は実に14.9%に達する(なお、豪州には生産工場だけがある。豪州の売り上げ額は日本事業とアジア事業に対しての出荷の分であり、「連結消去」としてその分は相殺処理されている)。 つまり、サイゼリヤは、企業としての利益をほぼ海外事業で稼いでいる。 支払いのため、従業員のため、顧客のため、設備更新のため、会社の経営には必要最低限の利益を担保する必要がある。サイゼリヤが国内で利益度外視のような事業体制が維持できているのは、海外事業で抜群に稼げているからこそ、なのだ』、「サイゼリヤが国内で利益度外視のような事業体制が維持できているのは、海外事業で抜群に稼げているからこそ、なのだ」、なるほど。
・『「単価アップ」が利益改善に最も効果的 ここから私たちが学ぶべきことは二つある。 第一は、価格アップができなければ、利益を十分に稼いでいくことは不可能なのだということ。 管理会計(企業を経営する上での社内向けの会計)の枠組みを用いるならば、会社の利益を改善する方法は、「売り上げアップ」か「費用ダウン」、もしくは「単品の利益を改善する」「組織の利益構造を改善する」のいずれか4つしかない。) 詳細をまとめるとこうだ。 (1)単品の売り上げアップ:単価の改善 (2)単品の費用ダウン:変動費(売上原価など)の改善 (3)組織の売り上げ構造改善:販売数量を伸ばす(来客数を増やすなど) (4)組織の費用構造改善:固定費(人件費など)の改善』、なるほど。
・『利益を上げる方法 例えば、サイゼリヤの定番、ミラノ風ドリアは税込300円で、1店舗当たり月間2500食程度売れるとされる。 この数値に基づいて、店舗利益を毎月1万円改善する場合の4つの手段の難易度を考えてみたい。 まず、(1)単価アップについて。 1カ月当たり利益を1万円上げようと思えば、300円のところを、304円にすればよい。物価高に応じた自然な範囲の値段アップだ。これだけで月1万円の利益が確保される。 次に、(2)売上原価などの変動費のダウンについては同様に、1品当たり4円のコストダウンができればよいことになる。 ただ、物価高、原料高の中、これまでも血のにじむような努力をしてコストダウンをしてきたところに、さらに4円のコストの絞り込み……相当に大変な努力と工夫が要求されることは間違いない。 (3)販売数量のアップについては、一般的な外食の水準に合わせて、仮に1品当たりの粗利が100円くらいは出ているのだと仮定すれば、100食ほど販売数量を上乗せできればよいということになる。 日々、安定的に運営されている店舗の中で、数量ベースで4%を上乗せしようと思うと、かなりのマーケティング努力が必要となってくる。 (4)固定費の削減は、人件費を月1万円削れればよい。時給を下げるか、勤務時間を減らしてもらうか。 これまでよりも少ない人数でフロアやキッチンを回すことになるかもしれない。たしかにコストダウンはできるが、はっきりと働き手にしわ寄せがくることになる。 もう、お分かりだろう。 会社の財務状況が苦しいとき、最も端的に効果を上げ得るのが単価アップなのだ』、「会社の財務状況が苦しいとき、最も端的に効果を上げ得るのが単価アップなのだ」、なるほど。
・『価格を上げられない日本 もちろん、サイゼリヤも例外ではない。サイゼリヤが海外事業で利益を上げることができているのは、価格が高めに設定されているからだ。一方で、価格が硬直化してしまっている日本では、当然ながら利益が上がらない。 ここから学ぶべきもう1つの点は、「価格を上げられなければ、経済としてジリ貧だ」ということだ。 日本国内では、物価高を素直に価格転嫁しにくい風土がある。 サイゼリヤはまだいい。海外で、稼げているのだから。だが、海外事業を持たず、国内事業だけで成立させなければならない他の外食チェーンはそうはいかない。 価格転嫁できないならば、乾いたぞうきんを絞るようなコストダウンや、労働環境へのしわ寄せを甘受せねばならなくなる。1品当たりのわずかな売り上げを、会社と、働き手と、取引先で分け合い、その少ない取り分の中で経営をせざるを得なくなる。 お値段据え置きは、確かにうれしい。私もサイゼリヤは大好きで、訪れたときは前菜・メイン・パスタ・デザート・ドリンクの「サイゼリヤフルコース」でいつも楽しませてもらう。 それでも総額2000円もいかないのはうれしくもあるが、本来それでは経営も経済も回らないのだとすれば、そろそろ日本社会全体として、利益の大切さと、価格転嫁の必要性を理解しなければならないのではないか』、私も「サイゼリヤ」ファンだ。ただ、「本来それでは経営も経済も回らないのだとすれば、そろそろ日本社会全体として、利益の大切さと、価格転嫁の必要性を理解しなければならないのではないか」、同感である。
先ずは、昨年2月18日付け東洋経済オンラインが掲載したマーケティングコンサルタント・桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授の西山 守氏による「スシローが「外食テロ」に打ち勝てた決定的な理由 続発する「外食テロ」に勝つ企業、沈む企業の差」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/653391
・『回転寿司チェーン「スシロー」の店内で、客による迷惑行為の動画がSNSで拡散した問題。スシローに限らず、外食産業全体に大きな波紋を呼んでいる。 直近でも、「餃子の王将」が客の迷惑行為を踏まえて、店内のテーブルに置くギョーザのたれなどの調味料を撤去すると発表。マクドナルドにおいても、店舗で客がアクリル板をなめる動画やハンバーガーにゴキブリの死骸が混入したとするツイッターへの投稿が拡散して問題になっている。 「迷惑行為」の連鎖は、依然として止まらない状況だ。一方で、外食系企業に対する顧客、消費者の意識は変わってきており、企業側を擁護する意見が強くなってきている。さらに、企業側も過去のトラブルから学び、過去に比べればリスク対応が巧みになりつつあるようにも見える。 特に、今回の一件でスシローが取った一連の対応は、非常に適切なものであったといえる。本稿では、スシロー事件を中心に、外食・食品に関するトラブルの変化と、外食産業のリスクマネジメントについて考えてみたい』、興味深そうだ。
・『つねにリスクにさらされてきた外食・食品業界 外食・食品業界は、消費者の日常に深く関わるものであり、特に衛生や安全面に関心を強く持たれやすい。それだけに、過去には何度も、ときに企業の存続が脅かされるほどの重大リスクに直面してきた。 重大リスクには、今回の「迷惑行為」など食品そのものに問題が発生して消費者に直接害が及びかねないものから、従業員が関係する事件や事故まで、内容はさまざまある。 かつて大手外食チェーンのハンバーガーに「ミミズの肉が使われている」という荒唐無稽な「都市伝説」がアメリカ起点で流布したが、これは1978年から始まったといわれる。 2000年以降の日本に限定して見ていくと、雪印乳業を破綻に追い込むきっかけとなった中毒事件が起きたのが2000年。船場吉兆、不二家、赤福、「白い恋人」などの食品偽装が相次いで発覚したのが2007年。 翌年の2008年にはJTフーズの冷凍食品への農薬混入問題が起きている。さらに。2013年には、アクリフーズ冷凍食品農薬混入事件が起きたが、それと並行して飲食店や小売店「バイトテロ」が相次いで発生した。コンビニの従業員がアイスクリームケースの中に入っている姿を撮影して投稿するなど、社会問題化したので記憶にある人も多いだろう。) 2014年には、まるか食品のカップ焼きそば「ペヤング」の異物混入、2014年~2015年にかけてはマクドナルドにおける異物混入が大きな問題となるなど、SNS上でさまざまな「異物混入」に関する話題が拡散した。 2018年~2019年にかけては「バイトテロ」が再び活発化。 昨年2022年には、スシローがおとり広告で消費者庁から措置命令を受けたり、「大阪王将」の元従業員が衛生管理に関する告発投稿をツイッターで行うなどの問題が起きており、やはり飲食店がらみの不祥事や炎上事件が多く見られている。 実は、飲食業界の不祥事、炎上事件は、一見すると同じようなものに見えても、時代による特徴が見られる。 トレンドの転換点となっていると筆者が考えるのが、2013年、2018年である。 2013年以前は、問題が顕在化するきっかけとなるのは、内部告発、メディア報道、お客様相談窓口が中心だった。ところが、同年には、「バカッター」というネットスラングが生まれたことに象徴されるように、多くの飲食店をめぐるトラブルは、ツイッターが着火点となっている。 東日本大震災が発生した2011年には、SNSが「情報インフラ」として普及し、自治体が情報提供のために活用したり、人々が被災者支援を行ったりしていたが、時間が経つに伴い、誹謗中傷や過激な言動を行って注目を浴びようとする動きも見られるようになったのである。 一方で、2018年から再活発化したバイトテロの多くは、動画共有サイトに迷惑動画がアップされ、SNSで拡散していることが多い。進研ゼミが小学生に対して行った「将来つきたい職業」調査で、2019年には「YouTuber」が男子で1位となったことに象徴されるように、多くの一般人がYouTubeで動画配信を行うようになったのがちょうどこの時期である。 動画共有サイトとSNSとのセットで炎上する傾向は2023年にも引き継がれているが、「迷惑系YouTuber」と新型コロナウイルス収束の影響が加わっていると見られる』、「2013年以前は、問題が顕在化するきっかけとなるのは、内部告発、メディア報道、お客様相談窓口が中心だった。ところが、同年には、「バカッター」というネットスラングが生まれたことに象徴されるように、多くの飲食店をめぐるトラブルは、ツイッターが着火点となっている。 東日本大震災が発生した2011年には、SNSが「情報インフラ」として普及し、自治体が情報提供のために活用したり、人々が被災者支援を行ったりしていたが、時間が経つに伴い、誹謗中傷や過激な言動を行って注目を浴びようとする動きも見られるようになったのである。 一方で、2018年から再活発化したバイトテロの多くは、動画共有サイトに迷惑動画がアップされ、SNSで拡散していることが多い。進研ゼミが小学生に対して行った「将来つきたい職業」調査で、2019年には「YouTuber」が男子で1位となったことに象徴されるように、多くの一般人がYouTubeで動画配信を行うようになったのがちょうどこの時期である」、なるほど。
・『過去のトラブルから“リスクマネジメント”を学んだ外食業界 企業や店舗によって差はあるが、大手の飲食チェーンは、一般に従業員教育、業務のマニュアル化が進んでおり、個人経営の飲食店や家庭での料理と比べても、衛生管理は厳しい傾向がある。 異物混入などの衛生問題は、100%防止することは難しく、発生確率は低くとも、店舗数が多いと一定数は出てきてしまう。そして、大手や有名店であればあるほど、それが動画共有サイトやSNSに投稿されやすく、拡散も起きやすい。 スシローで迷惑動画が投稿されたからといって、「スシローが不衛生」ということはまったくないのだが、拡散した情報によって、消費者はバイアスがかかってしまうのだ。) 外食・食品企業をめぐる昨今の炎上事件の多くは、企業側の問題よりも、消費者、あるいは消費者を取り巻く情報環境の変化によって起きているといえる。 最近は、YouTuberの競争激化によって、問題行為で注目を集めようとする「迷惑系YouTuber」も存在する中、迷惑行為で注目を集めようとする「一般人」も出てきたというところだろう。 新型コロナウイルスの蔓延によって、人々の衛生意識は急速に高まったが、感染の収束で人々が外出するようになり、飲食店が目立ちたがり屋の顧客の標的にされるという事態になっている。 一方で、外食・食品業界側は、過去のトラブルの経験から学び、適切なリスク対応が行えるようになっているように見える。実際、直近の10年間を見る限り、消費者の生命や健康を害するような大きな不祥事はほとんどない。 「トラブルを起こさないように最大限の注意を払う」ということが、リスクマネジメントの大前提になるが、企業側がいくら気を付けていても、トラブルが発生するリスクはあるし、発生する可能性も高まっている』、「飲食店が目立ちたがり屋の顧客の標的にされるという事態になっている・・・企業側がいくら気を付けていても、トラブルが発生するリスクはあるし、発生する可能性も高まっている」、困ったことだ。
・『トラブル発生時に取るべき対応策の「3原則」 トラブルが発生した時の対応策として、重要なポイントは下記の3点だと筆者は考えている。 1. (過剰ともいえるほどの)徹底した対策を講じる 2. 迷惑行為に対しては、厳然たる態度を取る 3. (自社ではなく)「顧客を守る」というスタンスを表明する まさに、今回のスシローはこのような対応を取り、リスクを最小限にとどめたといえる。 1については、2014年の「ペヤング」の異物混入事件のケースが参考になるだろう。製造元であるまるか食品は、全商品の生産と販売を停止、販売停止中には、社長自身が小売店をお詫び行脚するという対応を行っている。 また2019年の大戸屋のバイトテロ時の対応も印象深い。このとき大戸屋は、従業員の再教育と店舗の清掃を行うとして、全店一斉休業を行っている。 トラブル自体が帳消しにされるわけではないが、企業側が「やりすぎ」と思われるほどの徹底した対応を打ち出し、本気度を示すことによって、顧客に対して「変わった」「これまでと違う」という印象付けをすることが可能になる。 2の「顧客による迷惑行為」については、従来、「企業側にも非はあった(「管理が不適切だった」等)」として、穏便に済まされることも多かった。しかし今、トレンドは変わりつつある。 スシローで迷惑行為を行ったのは高校生だったが、スシロー側は当事者とその保護者の謝罪を受け入れず、民事・刑事で法的措置をとる考えを示した。これまでであれば、「未成年に対して厳しすぎる」という批判も少なからず出たであろうが、今回はそうした意見は主流とはならなかった。) コロナ禍や物価高による苦境の中で、安価で質の高いサービスを行っている飲食チェーンに対して、消費者は同情的になっているし、「支援をしたい」という意識も生まれている。そこを敏感に読み取って対処したスシローの感性は見事だったというほかない。 3については、バイトや顧客などの第三者に非がある場合、企業側があまりに強く被害者だという態度を示しすぎると、「保身では」「企業側の対応も感じが悪い」と思われてしまい、批判を浴びてしまうことがある。 そこは、先述の2の話とも絡むのだが、企業側が「顧客を守る」ために最大限に対応を行っていることも示すことで、批判を回避しやすくなる。 たとえば餃子の王将の調味料の撤去は、顧客にとっては不便なことに違いない。しかし、撤去するのは、「(お店ではなく)迷惑行為を行う客から、ほかの客を守るため」と感じられれば、印象はまったく変わってくる。そうなれば目先の不便について、顧客は「自分のため」と受容しやすくなるだろう』、「トラブル発生時に取るべき対応策の「3原則」はなかなかよく出来ている。
・『今後取るべきは、多方面に配慮した「アメとムチ」戦略 上記の「3原則」に加えて、著者がスシローの対応に関して、秀逸だと思ったことがある。それが、2月10日に、迷惑行為に対して「厳正に対処する」とする一方で、当事者に関して「直接的な危害となるような言動はお控えていただくよう伏してお願い申し上げます」という文書を発表している点である。つまり、加害者をひたすらに糾弾するのではなく、一定の配慮も示しているのだ。 実際、迷惑行為を行った高校生、および保護者に対して明らかに過剰なバッシングが行われており、高校生は高校を自主退学するまでに至っている。 スシロー側の要請は、公正で配慮が行き届いたものであるが、スシロー側が「高校生を追い込んだ」と批判されるのを回避するという効果ももたらしている。 SNSでは「#スシローを救いたい」のハッシュタグが拡散、著名人も擁護意見を表明したり、スシローの店舗を訪問して動画共有サイトやSNSにその様子をアップしたりする動きが巻き起こっている。 さらに。スシロー側はそれを受けて、2月13日~17日までの期間限定で「全品10%OFF」のキャンペーンを実施するという対応を行っている。 スシローの一連の対応は、「正しいことを、適切な方法で主張する」という正統的なやり方を踏襲しつつ、変化していく「世論」を捉え、各所に配慮しながら迅速に対応していくという点で、高度なリスクマネジメントを行ったといえるだろう。 スシローを始めとする、昨今の外食企業に対する一連の迷惑行為を、単なる「世間を騒がせたスキャンダル」としてではなく、「企業のリスク対応」という視点から見直すことで、改めて学ぶべき点は多々あることに気づかされる』、「迷惑行為を行った高校生、および保護者に対して明らかに過剰なバッシングが行われており、高校生は高校を自主退学するまでに至っている。 スシロー側の要請は、公正で配慮が行き届いたものであるが、スシロー側が「高校生を追い込んだ」と批判されるのを回避するという効果ももたらしている・・・スシローの一連の対応は、「正しいことを、適切な方法で主張する」という正統的なやり方を踏襲しつつ、変化していく「世論」を捉え、各所に配慮しながら迅速に対応していくという点で、高度なリスクマネジメントを行ったといえるだろう。 スシローを始めとする、昨今の外食企業に対する一連の迷惑行為を、単なる「世間を騒がせたスキャンダル」としてではなく、「企業のリスク対応」という視点から見直すことで、改めて学ぶべき点は多々あることに気づかされる」、「スシロー」の対応は理想的なものとなったようだ。
次に、昨年11月30日付け東洋経済オンラインが掲載した調達・購買業務コンサルタント・講演家の坂口 孝則氏による「ゼンショー「最大500億円増資」で破竹の勢い続くか 日本初の外食ジャイアントの海外戦略とは?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/718143
・『「すき家」「なか卯」「ココス」などを運営する外食最大手・ゼンショーホールディングスが、公募増資などで最大500億円を調達すると発表しました。日本初の外食ジャイアントの現状は、どのようなものになっているのでしょうか。 新著『買い負ける日本』が話題を呼ぶ、調達のスペシャリスト・坂口孝則氏による不定期連載「世界の(ショーバイ)商売見聞録」。著者フォローをすると、坂口さんの新しい記事が公開されたときにお知らせメールが届きます(著者フォローは記事最後のボタンからできます)』、興味深そうだ。
・『ゼンショーホールディングスの続伸 ゼンショーといえば、以前のイメージは「すき家」「なか卯」「ココス」だった。しかし、現在では「はま寿司」「ロッテリア」をも有する外食ジャイアントとなっている。多くのチェーンを飲み込み、外食の多様化を図ってきた。 その、ゼンショーホールディングス株。先月、10月25日に高騰して話題になった。終値は前日比+336円の7524円。理由は、同社が海外店舗を1万店に拡大する意図を受けたものだった(執筆時点では同社株は8364円にまでさらに上昇している)。 日本の飲食勢ではじめての海外1万店舗のインパクトは大きかった。日本市場は中長期的に伸びないことを見越して海外に積極展開するなかで、海外のチェーンをM&Aで買収を重ねてきた。 ゼンショーホールディングスは、コロナ禍で2021年にはさすがに前年比割れしたとはいえ、そこから順調に売上高も利益も伸ばしてきた。日本もインフレ下で価格が上昇しているものの、海外市場に拡大することで、より多くの収益を得られる。 海外旅行にいった日本人が、海外の外食価格の高さを嘆いてみせるのは、もはや食傷気味になっているほどだ。ならば、その外食価格の高さを逆利用してやればいい、と考えてもおかしくはない。 アジア、アメリカ、南米など、世界各地に進出を緩めないさまは、外食チェーンならびに、日本企業のお手本ともいえるだろう。以前に店舗人材の面で世間を騒がせたことがあったため、人材育成にも力を入れている。 そこで、最新の決算状況から、さらにM&Aを加速するさままでを見ていこう』、「ゼンショーといえば、以前のイメージは「すき家」「なか卯」「ココス」だった。しかし、現在では「はま寿司」「ロッテリア」をも有する外食ジャイアントとなっている。多くのチェーンを飲み込み、外食の多様化を図ってきた・・・日本の飲食勢ではじめての海外1万店舗のインパクトは大きかった。日本市場は中長期的に伸びないことを見越して海外に積極展開するなかで、海外のチェーンをM&Aで買収を重ねてきた・・・アジア、アメリカ、南米など、世界各地に進出を緩めないさまは、外食チェーンならびに、日本企業のお手本ともいえるだろう」、なるほど。
・『中間決算の状況 コロナが明け、大きく業績が回復している(出所:ゼンショーホールディングスの決算資料) そこで先日、発表されたばかりの中間決算発表(2024年3月期 第2四半期)を見てみよう。 ・売上高:4526億円(前年同期比+20.5%) ・経常利益:244億円(前年同期比+78%) 上記のとおり好調だった。通期の決算報告も対前年比で順調に伸びている。 ・売上高:9600億円(前年同期比+23.1%) ・経常利益:480億円(前年同期比+70.9%) なお、まだとくに日本ではコロナ禍が完全に収束していないなか、ロシア・ウクライナ戦争の長期化、イスラエル・ハマス戦争の不透明さ……等による原材料価格の高止まりなど、外食産業全体としては、明るいニュースばかりではない。 しかし、そのなかで世界に展開するゼンショーホールディングスは善戦している。) 各セグメントを前年比売上高で見てみると下記となる。 ・グローバルすき家:118.1%、 ・グローバルはま寿司:110.2%、 ・グローバルファストフード:114.1% ・レストラン:126.4%、 ほぼ一様に上昇している。また、店舗数はフランチャイズを含むが、1万4740店(!)となっている。 ちなみに、これは意外に知られていないが、同グループは「すき家」のイメージが強い。なるほど、「すき家」は国内外を含めて2623店舗と多い。 ただ、もっと大半を占めるのが「グローバルファストフード」であり、このカテゴリには、Advanced Fresh Concepts Corp(寿司のテイクアウト店)、Sushi Circle Gastronomie GmbH(寿司チェーン)、SnowFox Topco Limited(寿司のテイクアウト店)が含まれており、国内外で1万0130店舗を誇る。寿司店のM&Aでシナジーを発揮する戦略がよくわかる。 日本人のイメージは「すき家」の牛丼かもしれないが、外形的には寿司チェーンといったほうが近いほど、多数のグローバル寿司チェーンを展開している。 同社は、MMD(マス・マーチャンダイジング・システム)と呼ぶ方式を採用している。これはサプライチェーンの上流から下流までを一貫して担い、さらに、その物量の多さで価格メリットも出そうというものだ。 商品の企画とテスト、原材料の調達・物流、加工から販売からカスタマー管理までを手掛ける。このMMDは、なるほど、拡大とともにその力を増していく。そのため、昨今は大型のM&Aを続けているのだろう』、「「すき家」は国内外を含めて2623店舗と多い。 ただ、もっと大半を占めるのが「グローバルファストフード」であり、このカテゴリには、Advanced Fresh Concepts Corp(寿司のテイクアウト店)、Sushi Circle Gastronomie GmbH(寿司チェーン)、SnowFox Topco Limited(寿司のテイクアウト店)が含まれており、国内外で1万0130店舗を誇る。寿司店のM&Aでシナジーを発揮する戦略がよくわかる。 日本人のイメージは「すき家」の牛丼かもしれないが、外形的には寿司チェーンといったほうが近いほど、多数のグローバル寿司チェーンを展開している」、なるほど。
・『新株式発行による資金のプール そして、この流れのなかで発表されたのが、ゼンショーホールディングスの「新株式発行及び株式売出しに関するお知らせ」だ。実に、これからも積極的なM&Aを仕掛けていく姿勢が見れてすがすがしい。 ポイントでいうと、次のとおりだ。 ・約522万株の公募による新株式発行を行う(なお同時に株式売出しも実施)・一般募集および第三者割当増資により集まる予定金額は499億970万円 ・全額をM&A待機資金とする すき家で培ったオペレーションの卓越さを他ブランドでも展開。それを、さらに海外を含むM&Aにも拡張することで、さらに業態を拡大させる。この戦略は2030年までの7年間ほど継続され、たしかに、その姿勢はぶれているところはない。 とくに冒頭で紹介した通りに、決算が好調で、将来の見通しを示す株価も高いタイミングだ。海外を含むM&Aの待機資金という目的も明確な新株発行だ。市場も、そこに違和感がないだろう。 なお個人的な話だが、私は先日、地方の飲食店経営者から、コロナ禍におけるゼロゼロ融資(実質無利子・無担保)の返済期間が到来して困っている、という話を聞いたばかりだった。 もちろん地方でも元気なローカル店舗は多いと思う。しかも、たった数例からマクロを語るわけにはいかない。ただし私には、地方飲食店=日本ローカル、と、ゼンショー=グローバルの不調と好調の状況が、明暗のような、あざやかな対比に感じられた。 逆にいえば、日本で培ったオペレーションや食材・メニュー開発、さらには日本特有のこまやかさを最大限に生かそうと思えば、グローバルへの道に進むしかないと思われる。 ゼンショーホールディングスには、さまざまな批判もあるかもしれないが、私は日本初の外食ジャイアントの先人として応援したい』、「・約522万株の公募による新株式発行を行う(なお同時に株式売出しも実施)・一般募集および第三者割当増資により集まる予定金額は499億970万円 ・全額をM&A待機資金とする すき家で培ったオペレーションの卓越さを他ブランドでも展開。それを、さらに海外を含むM&Aにも拡張することで、さらに業態を拡大させる。この戦略は2030年までの7年間ほど継続・・・日本で培ったオペレーションや食材・メニュー開発、さらには日本特有のこまやかさを最大限に生かそうと思えば、グローバルへの道に進むしかないと思われる。 ゼンショーホールディングスには、さまざまな批判もあるかもしれないが、私は日本初の外食ジャイアントの先人として応援したい」、今後の発展を期待したい。
第三に、昨年12月26日付け現代ビジネスが掲載したA4studio編集プロダクションによる「ぞくぞくと閉店…「いきなりステーキ」はなぜこれほど凋落してしまったのか」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/121093?imp=0
・『「いきなりステーキ」の失速 今年12月で開店10周年を迎えたステーキ店「いきなりステーキ」の失速が止まらない。 ペッパーフードサービスが運営するいきなりステーキは、前菜を挟まずにそのままステーキを提供し立ち食いする、というコンセプトが売りのステーキチェーン。食べたい肉の種類やグラム数、焼き加減を選択できる「オーダーカット」も特徴で、目の前でシェフが焼き上げてくれるスタイルだ。グラム数あたりの金額がリーズナブルなことから、コストパフォーマンスに優れたステーキ店として一躍脚光を浴びた。 2013年12月に銀座でオープンした1号店を皮切りに、急速なチェーン展開を進め、2018年11月には47都道府県すべてに出店を果たす。最盛期には約500店舗も構えており、栄華を極めたいきなりステーキだったが、次第に増えすぎた店舗が飽和状態へと陥り、業績悪化が目立つように』、「最盛期には約500店舗も構えており、栄華を極めたいきなりステーキだったが、次第に増えすぎた店舗が飽和状態へと陥り、業績悪化が目立つように」、「最盛期」の頃の経営者がTVのインタビューに応じていた時には、お驕り高ぶっていた。
・『なぜ凋落したのか 2020年12月期のペッパーフードサービスの決算では、売上高が前年比でマイナス53.5%という苦しい結果に終わっており、現在に至るまで減収、減益を重ねている。不採算店の整理のため閉店が相次ぎ、2023年10月現在では188店舗と大きく数を減らすという憂き目に遭っているのだ。 2022年8月には、業績悪化の責任をとって、店舗外観ポスターの顔でもあった一瀬邦夫社長が辞任。後任には息子の一瀬健作氏が就任し、再建に向けて奮闘するものの、2023年12月期も赤字予想で黒字の見通しは立っていない。 一度は世間を席巻したいきなりステーキはどこで道を間違えたのか。今回はフードアナリストの重盛高雄氏にいきなりステーキ凋落の原因について解説してもらった(以下、「」内は重盛氏のコメント)』、「最盛期には約500店舗」が「2023年10月現在では188店舗と大きく数を減らすという憂き目に遭っている」、「フードアナリスト」による「解説」とは興味深そうだ。
・『お得感が感じられない はじめに重盛氏は「今のいきなりステーキにはお得感がまったく感じられない」と語る。 「前提として、今のメニューは“安い”とは言いがたい価格帯となっています。たとえば看板メニュー『ワイルドステーキ』は200gで1590円(税込、以下同)となっており、平日ランチ時にはライス、サラダ、スープ付で1740円と、一般的なステーキ店と比べても遜色ない価格です。厚切ステーキを食べようとして、1500円を軽く超えてしまう。普通のステーキ店なら以前からあり得る話の金額ですが、いきなりステーキのコンセプトを踏まえると、どうしても割高感が否めません」 いきなりステーキは、2023年10月6日より原材料費の高騰に伴って、一部商品の価格改定を行い、ワイルドステーキ200gは1390円から1590円に値上げされている。 また、競合するチェーン店のサーロインステーキ200gの価格と比較してみると、いきなりステーキの2200円に対し、「ステーキガスト」は2419円、「ビッグボーイ」は2090円となっており、いきなりステーキの価格は決して安くないことがわかる。 もちろんほかの部位によって価格は異なるだろうし、チェーンによって提供する、しない部位は異なってくるので一概には比較できないが、全体的な価格感としては、重盛氏の言うようにいきなりステーキがお得とは言いがたいのである』、「競合するチェーン店のサーロインステーキ200gの価格と比較してみると、いきなりステーキの2200円に対し、「ステーキガスト」は2419円、「ビッグボーイ」は2090円となっており、いきなりステーキの価格は決して安くないことがわかる」、これでは「割高感が否めません」、その通りだ。
・『「肉マイレージ」の改悪 いきなりステーキでは、来店回数ではなく、食べた肉の量でゴールド、プラチナ、ダイヤモンドと会員ランクが上がる「肉マイレージ」というシステムを実施している。ゴールド会員以上は誕生日月になるとステーキをプレゼントされたり、プラチナ会員以上は1回の会計でアルコールなどの飲料が1杯無料になったりするなど特典が付いていた。 会員数1500万人を抱える人気サービスだったが、2021年1月からは来店回数に応じてランクアップするシステムへと変更。そのうえ、来店頻度が少ないとランクダウンする仕組みとなった。 「この変更はかなりのユーザーから不評を買いました。ランクアップのために何十万円という金額を投資したユーザーもいましたし、常連客離れが懸念されるように。さらにはコロナ禍も拍車をかけ、客数が急減してしまったため、2023年1月からはほぼ初期の肉マイレージのシステムに戻しました。しかし、一度離れてしまった顧客を再び呼び戻すことは難しく、魅力は下がり続けている一方だと私は考えています」 いきなりステーキの熱烈ファンほど、肉マイレージのシステム変更は“改悪”だったと感じていた可能性は高そうだ。 記事後編は「閉店止まらぬ「いきなりステーキ」、“逆効果”だった前社長の直筆メッセージ」から』、「会員数1500万人を抱える人気サービスだったが、2021年1月からは来店回数に応じてランクアップするシステムへと変更。そのうえ、来店頻度が少ないとランクダウンする仕組みとなった。 「この変更はかなりのユーザーから不評を買いました。ランクアップのために何十万円という金額を投資したユーザーもいましたし、常連客離れが懸念されるように。さらにはコロナ禍も拍車をかけ、客数が急減してしまったため、2023年1月からはほぼ初期の肉マイレージのシステムに戻しました。しかし、一度離れてしまった顧客を再び呼び戻すことは難しく、魅力は下がり続けている一方だと私は考えています」、なるほど。
第四に、本年4月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したやさしいビジネススクール学長の中川功一氏による「サイゼリヤの「値上げしない」宣言には裏がある?消費者が手放しで喜べないワケ ニュースで学ぶ「やさしい経営学」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342459
・『サイゼリヤは24年2月期第2四半期の決算発表を行った。増収増益で、大きく利益を伸ばし、絶好調だ。また、物価高が続く中、同社が「値上げしない方針」を貫いていることも注目を集めている。ただ、私たちは、「価格据え置き」を手放しで喜んでいられない。どういうことか』、興味深そうだ。
・『「値上げしない」方針を貫くサイゼリヤ 決算を見れば、サイゼリヤは外食産業の最優等生企業の一つと言っていいだろう。 2024年4月10日、同社は2023年9月〜24年2月期の連結決算を発表したが、売上高は前年同期比25%増の1046億円、営業利益は約6.6倍の59億円、純利益は約4.3倍の26億円となった。 サイゼリヤと言えば、何と言ってもコストパフォーマンスの良さが有名だ。 安定した味、優れた品質の料理をたっぷりいただいて、ドリンクバーを使いながらゆったり過ごしても、客単価1000円もいかない。 同社の松谷秀治社長は決算発表会見で力強く、「値上げしない方針は変わっていない」と宣言した。まことに、有難い限りである。 だが、ここで一つの疑問が持ち上がってくる。 これだけの物価高・原料高の中で、なぜサイゼリヤは「価格据え置き」のまま、利益を上げることができているのだろうか』、秘密はどこにあるのだろう。
・『サイゼリヤが「価格据え置き」できるワケ サイゼリヤが、なぜ国内の販売価格を据え置くことができているのか。その理由は、同社の決算を見れば一目瞭然である。 (サイゼリヤ2024年8月期第2四半期決算説明資料 はリンク先参照) 24年2月期第2四半期までの業績をセグメント別に見ると、国内「サイゼリヤ」事業は売上高673億円と、3事業の中で売り上げが最も大きい。しかし、営業利益はわずか3400万円だ。売上高利益率は0.1%にも満たず、ほぼゼロ利益だと言っていい。 これに対して、アジア事業は売上高373億円に対し、営業利益は56億円。利益率は実に14.9%に達する(なお、豪州には生産工場だけがある。豪州の売り上げ額は日本事業とアジア事業に対しての出荷の分であり、「連結消去」としてその分は相殺処理されている)。 つまり、サイゼリヤは、企業としての利益をほぼ海外事業で稼いでいる。 支払いのため、従業員のため、顧客のため、設備更新のため、会社の経営には必要最低限の利益を担保する必要がある。サイゼリヤが国内で利益度外視のような事業体制が維持できているのは、海外事業で抜群に稼げているからこそ、なのだ』、「サイゼリヤが国内で利益度外視のような事業体制が維持できているのは、海外事業で抜群に稼げているからこそ、なのだ」、なるほど。
・『「単価アップ」が利益改善に最も効果的 ここから私たちが学ぶべきことは二つある。 第一は、価格アップができなければ、利益を十分に稼いでいくことは不可能なのだということ。 管理会計(企業を経営する上での社内向けの会計)の枠組みを用いるならば、会社の利益を改善する方法は、「売り上げアップ」か「費用ダウン」、もしくは「単品の利益を改善する」「組織の利益構造を改善する」のいずれか4つしかない。) 詳細をまとめるとこうだ。 (1)単品の売り上げアップ:単価の改善 (2)単品の費用ダウン:変動費(売上原価など)の改善 (3)組織の売り上げ構造改善:販売数量を伸ばす(来客数を増やすなど) (4)組織の費用構造改善:固定費(人件費など)の改善』、なるほど。
・『利益を上げる方法 例えば、サイゼリヤの定番、ミラノ風ドリアは税込300円で、1店舗当たり月間2500食程度売れるとされる。 この数値に基づいて、店舗利益を毎月1万円改善する場合の4つの手段の難易度を考えてみたい。 まず、(1)単価アップについて。 1カ月当たり利益を1万円上げようと思えば、300円のところを、304円にすればよい。物価高に応じた自然な範囲の値段アップだ。これだけで月1万円の利益が確保される。 次に、(2)売上原価などの変動費のダウンについては同様に、1品当たり4円のコストダウンができればよいことになる。 ただ、物価高、原料高の中、これまでも血のにじむような努力をしてコストダウンをしてきたところに、さらに4円のコストの絞り込み……相当に大変な努力と工夫が要求されることは間違いない。 (3)販売数量のアップについては、一般的な外食の水準に合わせて、仮に1品当たりの粗利が100円くらいは出ているのだと仮定すれば、100食ほど販売数量を上乗せできればよいということになる。 日々、安定的に運営されている店舗の中で、数量ベースで4%を上乗せしようと思うと、かなりのマーケティング努力が必要となってくる。 (4)固定費の削減は、人件費を月1万円削れればよい。時給を下げるか、勤務時間を減らしてもらうか。 これまでよりも少ない人数でフロアやキッチンを回すことになるかもしれない。たしかにコストダウンはできるが、はっきりと働き手にしわ寄せがくることになる。 もう、お分かりだろう。 会社の財務状況が苦しいとき、最も端的に効果を上げ得るのが単価アップなのだ』、「会社の財務状況が苦しいとき、最も端的に効果を上げ得るのが単価アップなのだ」、なるほど。
・『価格を上げられない日本 もちろん、サイゼリヤも例外ではない。サイゼリヤが海外事業で利益を上げることができているのは、価格が高めに設定されているからだ。一方で、価格が硬直化してしまっている日本では、当然ながら利益が上がらない。 ここから学ぶべきもう1つの点は、「価格を上げられなければ、経済としてジリ貧だ」ということだ。 日本国内では、物価高を素直に価格転嫁しにくい風土がある。 サイゼリヤはまだいい。海外で、稼げているのだから。だが、海外事業を持たず、国内事業だけで成立させなければならない他の外食チェーンはそうはいかない。 価格転嫁できないならば、乾いたぞうきんを絞るようなコストダウンや、労働環境へのしわ寄せを甘受せねばならなくなる。1品当たりのわずかな売り上げを、会社と、働き手と、取引先で分け合い、その少ない取り分の中で経営をせざるを得なくなる。 お値段据え置きは、確かにうれしい。私もサイゼリヤは大好きで、訪れたときは前菜・メイン・パスタ・デザート・ドリンクの「サイゼリヤフルコース」でいつも楽しませてもらう。 それでも総額2000円もいかないのはうれしくもあるが、本来それでは経営も経済も回らないのだとすれば、そろそろ日本社会全体として、利益の大切さと、価格転嫁の必要性を理解しなければならないのではないか』、私も「サイゼリヤ」ファンだ。ただ、「本来それでは経営も経済も回らないのだとすれば、そろそろ日本社会全体として、利益の大切さと、価格転嫁の必要性を理解しなければならないのではないか」、同感である。
タグ:外食産業 (その5)(スシローが「外食テロ」に打ち勝てた決定的な理由 続発する「外食テロ」に勝つ企業、沈む企業の差、ゼンショー「最大500億円増資」で破竹の勢い続くか 日本初の外食ジャイアントの海外戦略とは?、ぞくぞくと閉店…「いきなりステーキ」はなぜこれほど凋落してしまったのか、サイゼリヤの「値上げしない」宣言には裏がある?消費者が手放しで喜べないワケ ニュースで学ぶ「やさしい経営学」) 東洋経済オンライン 西山 守氏による「スシローが「外食テロ」に打ち勝てた決定的な理由 続発する「外食テロ」に勝つ企業、沈む企業の差」 「2013年以前は、問題が顕在化するきっかけとなるのは、内部告発、メディア報道、お客様相談窓口が中心だった。ところが、同年には、「バカッター」というネットスラングが生まれたことに象徴されるように、多くの飲食店をめぐるトラブルは、ツイッターが着火点となっている。 東日本大震災が発生した2011年には、SNSが「情報インフラ」として普及し、自治体が情報提供のために活用したり、人々が被災者支援を行ったりしていたが、時間が経つに伴い、誹謗中傷や過激な言動を行って注目を浴びようとする動きも見られるようになったのであ る。 一方で、2018年から再活発化したバイトテロの多くは、動画共有サイトに迷惑動画がアップされ、SNSで拡散していることが多い。進研ゼミが小学生に対して行った「将来つきたい職業」調査で、2019年には「YouTuber」が男子で1位となったことに象徴されるように、多くの一般人がYouTubeで動画配信を行うようになったのがちょうどこの時期である」、なるほど。 「飲食店が目立ちたがり屋の顧客の標的にされるという事態になっている・・・企業側がいくら気を付けていても、トラブルが発生するリスクはあるし、発生する可能性も高まっている」、困ったことだ。 「トラブル発生時に取るべき対応策の「3原則」はなかなかよく出来ている。 「迷惑行為を行った高校生、および保護者に対して明らかに過剰なバッシングが行われており、高校生は高校を自主退学するまでに至っている。 スシロー側の要請は、公正で配慮が行き届いたものであるが、スシロー側が「高校生を追い込んだ」と批判されるのを回避するという効果ももたらしている・・・ スシローの一連の対応は、「正しいことを、適切な方法で主張する」という正統的なやり方を踏襲しつつ、変化していく「世論」を捉え、各所に配慮しながら迅速に対応していくという点で、高度なリスクマネジメントを行ったといえるだろう。 スシローを始めとする、昨今の外食企業に対する一連の迷惑行為を、単なる「世間を騒がせたスキャンダル」としてではなく、「企業のリスク対応」という視点から見直すことで、改めて学ぶべき点は多々あることに気づかされる」、「スシロー」の対応は理想的なものとなったようだ。 坂口 孝則氏による「ゼンショー「最大500億円増資」で破竹の勢い続くか 日本初の外食ジャイアントの海外戦略とは?」 「ゼンショーといえば、以前のイメージは「すき家」「なか卯」「ココス」だった。しかし、現在では「はま寿司」「ロッテリア」をも有する外食ジャイアントとなっている。多くのチェーンを飲み込み、外食の多様化を図ってきた・・・日本の飲食勢ではじめての海外1万店舗のインパクトは大きかった。日本市場は中長期的に伸びないことを見越して海外に積極展開するなかで、海外のチェーンをM&Aで買収を重ねてきた・・・アジア、アメリカ、南米など、世界各地に進出を緩めないさまは、外食チェーンならびに、日本企業のお手本ともいえるだろう」、な るほど。 「「すき家」は国内外を含めて2623店舗と多い。 ただ、もっと大半を占めるのが「グローバルファストフード」であり、このカテゴリには、Advanced Fresh Concepts Corp(寿司のテイクアウト店)、Sushi Circle Gastronomie GmbH(寿司チェーン)、SnowFox Topco Limited(寿司のテイクアウト店)が含まれており、国内外で1万0130店舗を誇る。寿司店のM&Aでシナジーを発揮する戦略がよくわかる。 日本人のイメージは「すき家」の牛丼かもしれないが、外 形的には寿司チェーンといったほうが近いほど、多数のグローバル寿司チェーンを展開している」、なるほど。 「・約522万株の公募による新株式発行を行う(なお同時に株式売出しも実施)・一般募集および第三者割当増資により集まる予定金額は499億970万円 ・全額をM&A待機資金とする すき家で培ったオペレーションの卓越さを他ブランドでも展開。それを、さらに海外を含むM&Aにも拡張することで、さらに業態を拡大させる。この戦略は2030年までの7年間ほど継続・・・日本で培ったオペレーションや食材・メニュー開発、さらには日本特有のこまやかさを最大限に生かそうと思えば、グローバルへの道に進むしかないと思われる。 ゼンショーホールディングスには、さまざまな批判もあるかもしれないが、私は日本初の外食ジャイアントの先人として応援したい」、今後の発展を期待したい。 現代ビジネス A4studio編集プロダクションによる「ぞくぞくと閉店…「いきなりステーキ」はなぜこれほど凋落してしまったのか」 「最盛期には約500店舗も構えており、栄華を極めたいきなりステーキだったが、次第に増えすぎた店舗が飽和状態へと陥り、業績悪化が目立つように」、「最盛期」の頃の経営者がTVのインタビューに応じていた時には、お驕り高ぶっていた。 「最盛期には約500店舗」が「2023年10月現在では188店舗と大きく数を減らすという憂き目に遭っている」、「フードアナリスト」による「解説」とは興味深そうだ。 「競合するチェーン店のサーロインステーキ200gの価格と比較してみると、いきなりステーキの2200円に対し、「ステーキガスト」は2419円、「ビッグボーイ」は2090円となっており、いきなりステーキの価格は決して安くないことがわかる」、これでは「割高感が否めません」、その通りだ。 「会員数1500万人を抱える人気サービスだったが、2021年1月からは来店回数に応じてランクアップするシステムへと変更。そのうえ、来店頻度が少ないとランクダウンする仕組みとなった。 「この変更はかなりのユーザーから不評を買いました。ランクアップのために何十万円という金額を投資したユーザーもいましたし、常連客離れが懸念されるように。さらにはコロナ禍も拍車をかけ、客数が急減してしまったため、2023年1月からはほぼ初期の肉マイレージのシステムに戻しました。 しかし、一度離れてしまった顧客を再び呼び戻すことは難しく、魅力は下がり続けている一方だと私は考えています」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン 中川功一氏による「サイゼリヤの「値上げしない」宣言には裏がある?消費者が手放しで喜べないワケ ニュースで学ぶ「やさしい経営学」」 秘密はどこにあるのだろう。 「サイゼリヤが国内で利益度外視のような事業体制が維持できているのは、海外事業で抜群に稼げているからこそ、なのだ」、なるほど。 「会社の財務状況が苦しいとき、最も端的に効果を上げ得るのが単価アップなのだ」、なるほど。 私も「サイゼリヤ」ファンだ。ただ、「本来それでは経営も経済も回らないのだとすれば、そろそろ日本社会全体として、利益の大切さと、価格転嫁の必要性を理解しなければならないのではないか」、同感である。
小売業(一般)(その9)(「大量閉店」イトーヨーカ堂の運命を握る店の正体 時代の流れには勝てなかった総合スーパーの転機、ウエルシア「不倫問題」で社長辞任、2つの懸念 松本氏は経営統合のキーパーソンだったが…、ドンキが「ヤンキーが集まる」店づくりに回帰したワケ 新型店舗“不発”の裏で…) [産業動向]
小売業(一般)については、本年2月25日に取上げた。今日は、(その9)(「大量閉店」イトーヨーカ堂の運命を握る店の正体 時代の流れには勝てなかった総合スーパーの転機、ウエルシア「不倫問題」で社長辞任、2つの懸念 松本氏は経営統合のキーパーソンだったが…、ドンキが「ヤンキーが集まる」店づくりに回帰したワケ 新型店舗“不発”の裏で…)である。
先ずは、3月17日付け東洋経済オンラインが掲載した 流通アナリストの中井 彰人氏による「「大量閉店」イトーヨーカ堂の運命を握る店の正体 時代の流れには勝てなかった総合スーパーの転機」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/741432
・『イトーヨーカ堂が北海道、東北、信越の17店舗を閉店すると2月に明らかになったことが、地域のマスコミなどを中心に、大きな話題となった。親会社であるセブン&アイ・ホールディングスの中期経営計画で公表されていた既定路線だったが、実際に具体的な店名が明らかになったことで、ネットニュースなどでも「イトーヨーカ堂の衰退」といったキャッチーなネタとして散発的に記事が出た。 営業終了するうちの7店舗はロピアを擁するOICグループが一気に譲り受けるという。イトーヨーカ堂から今売り出し中のディスカウントスーパー、ロピアへの店舗譲渡という新旧交代は、小売業界の栄枯盛衰として象徴的な出来事だ。 セブン&アイが公表しているヨーカ堂再建策の骨子は、①首都圏特化、②食品特化、③アパレル撤退、④センター投資とその活用、の4つが柱になっている。これは、裏を返せば、①地方が不採算、②非食品売り場が不振、③特にアパレルがよくない、④生産性が低い、といった問題点があることを示している。 これまでの経緯を振り返りながら、なぜイトーヨーカ堂が苦戦しているのかみていくことにしよう』、興味深そうだ。
・『右肩下がりが続いているヨーカ堂 イトーヨーカ堂の業績停滞は今に始まったことではない。次の図で明らかなとおり、かなり前から売り上げ、収益ともに右肩下がりが続いており、少しずつ店舗閉鎖を行いながら戦線縮小してきていた。 1998年度には1兆5000億円以上だった売上高は、2022年度で1兆円(総額売上高ベース)ちょっとと3分の2に減っているし、営業利益率は4%以上からおおむね右肩下がりで低下して、直近ではほとんど利益が出ない状態にまで落ち込んでいる。) その主要因は、粗利率が高い非食品(衣料品、日用雑貨等)が売れなくなって、いわゆる「2階以上の売り場」が儲からなくなった、ということになるだろう。次の表はヨーカ堂の2008年度と2022年度の粗利構成を比べたものだが、非食品の粗利額の減り方が大きいことは一目瞭然だろう』、「非食品の粗利額の減り方が大きい」のがここまで顕著だとは、改めて驚かされた。
・『イトーヨーカ堂が失った収益源 次ページの売り上げ構成の推移をみるとわかるが、非食品の売り上げが大きく減っていて、テナントに移行している。総合スーパーが流行っていたころは、購買頻度の高い食品で来店してもらい、粗利の高い衣料品を併せて買ってもらうことで利益を稼いでいた。イトーヨーカ堂もこの収益源を失ったことで業績が低迷するようになっていった。) このデータは、食品に関しては、そこまで売り上げが減っていないということも示している。イトーヨーカ堂のみならず、総合スーパーに行くと、1階の食品売り場には大勢の来店客がいる一方で、2階から上は閑散としている、という光景を目にする機会は少なくない。 ご自分の買い物する店選びを思い出してもらえばわかると思うが、衣料品や日用雑貨類に関しては、ユニクロ、GU、しまむら、無印良品、ニトリ、100円ショップ、ホームセンター、ドラッグストア、等々、といった専門店チェーンやその集積する商業施設があるので、総合スーパーなど不要という人も多いのではないか』、「衣料品や日用雑貨類に関しては、ユニクロ、GU、しまむら、無印良品、ニトリ、100円ショップ、ホームセンター、ドラッグストア、等々、といった専門店チェーンやその集積する商業施設があるので、総合スーパーなど不要という人も多いのではないか」、その通りだ。
・『徐々にその役割を終えていった非食品売り場 専門店チェーンが本格的に全国区になったのは、2000年代以降であり、その成長に代替された総合スーパーの非食品売り場は、徐々にその役割を終えていった。結果、全盛期の1990年代、小売業ランキングの上位を占めていた総合スーパー企業は、イオンとセブン&アイを除いて、すべて再編された(屋号は残っているがM&Aされた側にまわった)。 イトーヨーカ堂が、食品特化、アパレル撤退を今、実施しているというのは、総合スーパーとして最後まで頑張って健闘したが、時代の流れには勝てなかった、と解釈すべきなのである。) なぜ、食品の売り上げが、あまり減らなかったのかと言えば、それは食品購入が生活ルーティーンの一部であり、店を選ぶときの選択基準は、近いこと、または、1カ所で揃う品揃えがあることで、「タイパ重視」となっていることによる。地域の動線の中心にある場所、つまり食品購入においては、立地が良くて十分な品揃えがあれば、それなりにお客さんに来てもらえる、ということである』、「食品購入においては、立地が良くて十分な品揃えがあれば、それなりにお客さんに来てもらえる、ということである」、その通りだろう。
・『首都圏でアドバンテージを持つヨーカ堂 この点で、東京発祥の老舗スーパーであるイトーヨーカ堂は大きなアドバンテージを持っていた。世界有数の公共交通網を誇る首都圏中心部において先行者利益を持ち、乗降客数が多い駅前をはじめとする動線の要所を押さえている。そんな優良立地に広い売り場を展開しているイトーヨーカ堂の食品売り場は、首都圏の顧客にとっても十分便利な存在であり続けたのである。 クルマ社会化した地方や郊外においては、こうはいかない。クルマが主要な移動手段となっている地域では、機動力を持っている消費者の行動範囲は首都圏の何十倍も広く、その中にあるスーパーはすべて競合になるという厳しい競争環境だ。 しかし、首都圏の勤労者世帯にとって、平日は駅(もしくは最寄りのバス停)から家への動線上に立地していることが、圧倒的に有利に働く。イオンの「まいばすけっと」という最低限の品揃えしかないミニスーパーが、東京区部から京浜間のみに展開して、2000億円企業にまで成長できたのも、こうした事情が背景にある。) イトーヨーカ堂が首都圏特化を戦略としたのも、自社の立地の強みを最大限生かそう、ということだ。さらに言えば、首都圏中心部には空き地などほとんどなく、競合が出店するにしても何らかの再開発がなければ、場所の確保は難しい。また、あたり前だが、首都圏は人口密集度も高いうえに、人口減少度も低い。ホームともいえる首都圏で再起を図る、という選択肢には議論の余地がないのである』、「イトーヨーカ堂が首都圏特化を戦略としたのも、自社の立地の強みを最大限生かそう、ということだ。さらに言えば、首都圏中心部には空き地などほとんどなく、競合が出店するにしても何らかの再開発がなければ、場所の確保は難しい。また、あたり前だが、首都圏は人口密集度も高いうえに、人口減少度も低い。ホームともいえる首都圏で再起を図る、という選択肢には議論の余地がないのである」、その通りだ。
・『今後の成長戦略のカギとなる新型店 こうした背景を鑑みると、首都圏特化、食品強化、アパレル撤退を、計画通りに実行できるならば、ほぼ確実にヨーカ堂の収益はV字回復するだろう。天下のセブン&アイが、勝算なしに中期経営計画を公表するはずがないのである。 ただ、ここまでは、実行すれば成果が見込めるものの、縮小均衡策であり、その後の成長戦略については、前述した④センター投資による生産性向上、の成否によって結果が大きく変わってくる。生鮮、惣菜の加工工程を、プロセスセンターやセントラルキッチンにスムーズに移行し、その品質が消費者に受け入れられる必要があるからだ。 このインフラが成果を出せなければ、セブン‐イレブンがイトーヨーカ堂との連携で作った新型店「SIPストア」という取り組みも成功しない。 この新しい店は、コンビニをベースとしながらも食品スーパーの機能を果たすために開発された新業態であり、店舗における生鮮や惣菜の加工機能を持たない。最新鋭のセンターから品質の高い生鮮、惣菜を供給することになるのだが、店内バックヤードで生鮮、惣菜の最終加工を行うのが一般的なこの国においては、これまでにあまり成功例がない。数少ない成功例といえば、前述の「まばすけっと」だ。 しかし、セブン&アイはこの挑戦に十分な成算があるのだろう。その背景は、全国屈指の有力食品スーパー、ヨークベニマルがグループに存在している、ということだ。ベニマルはかつてイトーヨーカ堂が三顧の礼をもってグループに迎えた、東北の優良スーパーで、品質の良さ、売場作りのすばらしさについては、業界の誰もが認めるレベルの高い企業として知られる。) また、この会社の大高善興会長は、セブン&アイのプライベートブランド「セブンプレミアム」の生みの親としても知られており、ベニマルの食品に関する知見はグループの宝なのである。 惣菜工場、プロセスセンターについても、かなり昔から戦力化に成功しているため、イトーヨーカ堂のプロセスセンター、セントラルキッチンに関しても、ベニマルからのノウハウ移転が実施されている。ヨーカ堂が食品で生きていく、と明言できるのは、この優秀なグループ企業がいるからなのだろう』、「全国屈指の有力食品スーパー、ヨークベニマルがグループに存在・・・ベニマルはかつてイトーヨーカ堂が三顧の礼をもってグループに迎えた、東北の優良スーパーで、品質の良さ、売場作りのすばらしさについては、業界の誰もが認めるレベルの高い企業として知られる。) また、この会社の大高善興会長は、セブン&アイのプライベートブランド「セブンプレミアム」の生みの親としても知られており、ベニマルの食品に関する知見はグループの宝なのである・・・惣菜工場、プロセスセンターについても、かなり昔から戦力化に成功しているため、イトーヨーカ堂のプロセスセンター、セントラルキッチンに関しても、ベニマルからのノウハウ移転が実施されている。ヨーカ堂が食品で生きていく、と明言できるのは、この優秀なグループ企業がいるからなのだろう」、「ヨークベニマル」が「品質の良さ、売場作りのすばらしさについては、業界の誰もが認めるレベルの高い企業として知られる」、とは初めて知った。
・『イトーヨーカ堂の運命を決める「SIPストア」 2月終わりに新型ミニスーパー「SIPストア」が千葉県松戸市内にオープンし、ニュースなどでも取り上げられていた。セブン‐イレブンが開発、運営しているため、生鮮の充実した大きいコンビニという紹介をされていたがが、これは機能としては明らかに小型食品スーパーだ。 セブン‐イレブンの永松文彦社長は、「SIPストアで店舗数を拡大していくつもりはなく、得られた知見やノウハウを平準店舗に共有していく」という趣旨の発言をしていた。 つまり、難易度の高い生鮮管理を伴うこの店を、フランチャイズ制を根幹とするコンビニの店舗として拡大していくのは、加盟店の意向を無視して進めることはできない、ということだと解釈する。セブン‐イレブンでもなく、ヨーカ堂でもない、セブン&アイの新たな食品スーパー業態が、始動しつつあると考えたほうがいいのかもしれない。 食品スーパーは小売業の中でも最も人件費がかかる業態であり、人手不足、人件費高騰という昨今の環境変化に大きな影響を受けている。生鮮パック詰めや惣菜製造などを店舗ごとのバックヤードで行っていることが要因だ。こうした店舗オペレーションを標準としてきたやり方はこれから維持できなくなる。 そんな時代の要請に対して、セブン&アイはヨーカ堂の危機を契機として、プロセスセンター、セントラルキッチンを活用した生産性の高い業態開発に舵を切った。いわば、なんとか時代の要請に間に合った、という段階なのだろう。 リストラによって収益を改善したヨーカ堂に、新たな時代にあわせた新型スーパーが加わるのなら、セブン&アイのスーパーストア事業としての成長戦略を描くことはできる。ヨーカ堂、という名前が残っていくかどうかは別にしても、グループを総動員すればスーパーストア事業を再成長させる経営資源がこのグループにはある、ということだ。この世にまだ1店舗しか存在してないSIPストア業態の成否が、今後のイトーヨーカ堂の運命を決めるといっても過言ではない』、「新型ミニスーパー「SIPストア」が千葉県松戸市内にオープンし、ニュースなどでも取り上げられていた。セブン‐イレブンが開発、運営しているため、生鮮の充実した大きいコンビニという紹介をされていたがが、これは機能としては明らかに小型食品スーパーだ・・・プロセスセンター、セントラルキッチンを活用した生産性の高い業態開発に舵を切った。いわば、なんとか時代の要請に間に合った、という段階なのだろう。 リストラによって収益を改善したヨーカ堂に、新たな時代にあわせた新型スーパーが加わるのなら、セブン&アイのスーパーストア事業としての成長戦略を描くことはできる・・・グループを総動員すればスーパーストア事業を再成長させる経営資源がこのグループにはある」、「新型ミニスーパー「SIPストア」・・・これは機能としては明らかに小型食品スーパーだ」、これを核に「グループを総動員すればスーパーストア事業を再成長させる経営資源がこのグループにはある」、さすが「セブン&アイ」グループだ。今後の展開を注視したい。
次に、4月22日付け東洋経済オンライン「ウエルシア「不倫問題」で社長辞任、2つの懸念 松本氏は経営統合のキーパーソンだったが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/749246
・『「私生活において不適正な行為があり弊社の信用を傷つけるものであると判断した」――。 4月17日、ドラッグストア首位のウエルシアホールディングス(HD)は、松本忠久氏が同日付で社長を辞任すると発表した。「週刊新潮」が報道した松本氏の不倫騒動を理由として、会社側が辞任を勧告した。 「家庭のある身でありながら不倫関係を持つことは不適正であり、何もしないわけにはいかないと判断した」(ウエルシアHD広報)。会社の金銭を不当に使った可能性も調査中だが、4月17日時点では確認できていない。 松本氏はウエルシアHDの親会社であるイオンでも執行役ヘルス&ウエルネス担当を兼任していたが、同17日に解任。4月18日以降、当面は池野隆光会長が社長を兼務するが、後任を検討し、決定次第発表するという』、「家庭のある身でありながら不倫関係を持つ」、とは上場企業経営者にあるまじき行為で、「辞任」は当然だ。
・『M&Aで業界初の1兆円企業に ウエルシアHDはドラッグ業界首位。調剤併設型の店舗を多く展開するのが特徴だ。1990年以降は、他社と合併を進めながら規模を拡大してきた。 2002年に池野会長が創業した池野ドラッグを合併。松本氏が社長を務めていた「いいの」も2006年に合併している。 松本氏は介護事業を展開する寺島薬局の社長、ウエルシア薬局副社長などを経て、2019年にウエルシアHD社長に就任。2019年2月に1284店だった調剤店舗数を、5年後の2024年2月には2155店まで急拡大させた。 2021年には調剤薬局を展開する愛媛地盤のネオファルマーを買収するなど店舗網を広げ、2022年にはドラッグストア業界で初めて売上高1兆円を達成。 松本氏はウエルシアHDを業界トップに成長させた人物だが、今回の不倫騒動を機に、舵取り役を離れることとなった。) 自社で展開する介護事業は採算性の低さに悩まされてきたが、同業のM&Aや、イオングループ内での統合も視野に挽回すると打ち出した。ドラッグストアを軸に介護や医療のサービスも提供することで、競合と差別化するというわけだ。 さらに、2023年3月にはたばこの販売中止を発表。前期は400店舗で取り扱いを中止し、残りの店舗でも順次販売を取りやめるという。 昨年12月に実施した東洋経済のインタビューで、松本氏は「ドラッグストアはどこでも同じで、欲しいものが安ければよいというのでは不十分。健康に対するサポート、アドバイスをあらゆる面から行える存在になりたい」と語っていた』、「2022年にはドラッグストア業界で初めて売上高1兆円を達成。 松本氏はウエルシアHDを業界トップに成長させた人物だが、今回の不倫騒動を機に、舵取り役を離れることとなった」、功績は大きかったとしても、やはり「不倫騒動」はいただけない。
・『キーパーソンが退場、店作りは道半ば オーバーストア状態が指摘される中でも、業界の出店競争は激化している。業界4位のコスモス薬品は2023年5月期に114店純増となったが、ウエルシアHDは2024年2月期に62店純増と見劣りする。 出店数に加えて、既存店の売上高伸長率も、食品の安売りを軸に客数を伸ばすコスモス薬品に軍配が上がる。競合に対抗できる店舗づくりはウエルシアHDが直面する重要課題だ。 多様な店舗戦略を進め、クリーンな企業イメージの形成にも努めてきた中、今回の不倫騒動が明るみになってしまった。競合幹部からは「1兆円企業の社長として脇が甘かったのではないか」と冷ややかな声が上がる。 理想の店づくりは道半ばだ。松本氏の辞任で会社の経営方針は揺らぎかねない。ウエルシアHDは早急に後任を決定し、経営統合や店舗改革に臨む必要がある』、「ウエルシアHDは2024年2月期に62店純増と見劣りする。 出店数に加えて、既存店の売上高伸長率も、食品の安売りを軸に客数を伸ばすコスモス薬品に軍配が上がる。競合に対抗できる店舗づくりはウエルシアHDが直面する重要課題だ。 多様な店舗戦略を進め、クリーンな企業イメージの形成にも努めてきた中、今回の不倫騒動が明るみになってしまった。競合幹部からは「1兆円企業の社長として脇が甘かったのではないか」と冷ややかな声が上がる。 理想の店づくりは道半ばだ。松本氏の辞任で会社の経営方針は揺らぎかねない。ウエルシアHDは早急に後任を決定し、経営統合や店舗改革に臨む必要がある』、「理想の店づくりは道半ばだ。松本氏の辞任で会社の経営方針は揺らぎかねない。ウエルシアHDは早急に後任を決定し、経営統合や店舗改革に臨む必要がある」、その通りだ。
第三に、4月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した流通ジャーナリストの森山真二氏による「ドンキが「ヤンキーが集まる」店づくりに回帰したワケ、新型店舗“不発”の裏で…」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342456
・『ドン・キホーテが今春、昔ながらの「混沌とした店づくり」を再現した店舗を大阪にオープンした。光るカー用品やカラコンなどの「ヤンキー向け商品」を取り扱っているほか、今では珍しい深夜営業を実施している。その裏側で、東京・渋谷では、プライベートブランドを重点的に取り扱う新型店舗「ドミセ」がひっそりと閉店した。開店から1年未満での撤退である。ドンキの新型店舗が不発に終わり、原点回帰が進んでいる要因はどこにあるのか。小売・流通業界に詳しいジャーナリストが考察する』、「昔ながらの「混沌とした店づくり」を再現した店舗を大阪にオープンした。光るカー用品やカラコンなどの「ヤンキー向け商品」を取り扱っているほか、今では珍しい深夜営業を実施している。その裏側で、東京・渋谷では、プライベートブランドを重点的に取り扱う新型店舗「ドミセ」がひっそりと閉店した。開店から1年未満での撤退である」、「新型店舗が不発に終わり、原点回帰が進んでいる要因はどこにあるのか」、なるほど。
・『「大人の店」になったはずが… 「ヤンキーを呼び戻す」新店舗がオープン!? ドン・キホーテ(以下ドンキ)が大阪にオープンした新店舗は、時代に逆行したような作りだった――。 ドンキは4月2日、大阪府貝塚市に「貝塚店」を開業した。貝塚は「だんじり祭り」で有名な岸和田市に近い街だ。この店舗のコンセプトは「ギラギラドンキ」。一昔前のドンキでおなじみだった、商品が所狭しと並ぶ「圧縮陳列」を採用している。 さらに、ドンキの成長を支えてきた「松竹梅作戦」(※)をMD(商品政策)に取り入れ、さまざまな価格帯の商品をそろえている。一般的な食品・日用品だけでなく、光るカー用品、香水、カラーコンタクトレンズ、ピアッサー、アクセサリー、キャラクターソックスなどの、いわゆる「ヤンキー」に愛されるグッズを扱っているのだ。 (※)「3つの価格帯がある場合、人間は真ん中を選びがちになる」という消費者心理を応用した戦略。松(高価)・竹(普通)・梅(安価)の商品をそろえ、売りたいモノを真ん中に集めると効果があるとされる。 そのほとんどが創業時通りに作られている貝塚店は、近年のドンキが失ったものを取り戻そうとしているかのようだ。 というのも、かつてのドンキはヤンキー客が多く、「改造車」(ヤン車)が爆音を轟かせて駐車場に出入りすることもあった。だが、今のドンキは「ヤンキーが溜まる店」ではなくなりつつある。「圧縮陳列」も少々控え目になり、「POPの洪水」というドンキのお家芸もマイルドになった。「ドンキは大人の店となり、若者から離れた」と指摘されることもある。 ドンキはそうした指摘を踏まえ、ヤンキー客を呼び戻そうとしているのか――。今回は、意外な「原点回帰」の狙いを読み解いていきたい』、「今のドンキは「ヤンキーが溜まる店」ではなくなりつつある。「圧縮陳列」も少々控え目になり、「POPの洪水」というドンキのお家芸もマイルドになった。「ドンキは大人の店となり、若者から離れた」と指摘されることもある・・・そのほとんどが創業時通りに作られている貝塚店は、近年のドンキが失ったものを取り戻そうとしているかのようだ」、なるほど。
・『“不発”に終わった東京・渋谷の新型店舗とは? ドンキを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の決算説明資料によると、ドンキや姉妹ブランドを含めた「ディスカウント事業」の国内店舗数は488店舗に上る(2024年6月期第2四半期の終了時点)。 かつてのドンキはディープな若者向けの店だったが、これだけ店舗数が増えると新鮮味が薄れるのも無理はない。 PPIHもそれを承知していて、ドンキの小型版「ピカソ」や、PB(プライベートブランド)に特化した新型店舗「ドミセ」をオープンするなど、あの手この手で業態の多様化を進めてきた。 その過程では、弁当を店内で調理して提供する「パワーコンビニ情熱空間」を立ち上げ、うまくいかずに閉店したこともあった(06~08年頃)。 つい最近も、「オープン前に想定していた売上に届かない期間が続いた」として、ドミセの「渋谷道玄坂通ドードー店」(東京都渋谷区)が閉店を余儀なくされた(4月7日に閉店)。オープンから1年未満での撤退である。同店舗は今後、Z世代向けの専門店「キラキラドンキ」にリニューアルするようだ。 (ドミセの閉店を告げるニュースリリース(出典:ドン・キホーテ) はリンク先参照) もちろん失敗は悪いことではなく、PPIHの業績自体は増収増益が続いている。だが、パワーコンビニやドミセの例が示すように、ドンキの要素を取り入れた新ブランド(新業態店)を出せば、必ず成功するというわけではない。 さらに言えば、ピカソ・ドミセ・MEGAドンキなどの各ブランドは、看板やコンセプトに多少の差はあれど、根底にある戦略は同じ。元祖ドンキの成功パターンを踏襲しているにすぎないのだ』、「ピカソ・ドミセ・MEGAドンキなどの各ブランドは、看板やコンセプトに多少の差はあれど、根底にある戦略は同じ。元祖ドンキの成功パターンを踏襲しているにすぎないのだ」、なるほど。
・『同一エリアへの過剰出店は顧客に飽きられる!? いずれの業態も、店内にはうず高く商品が積み上げられており、一般消費者は「宝探し」のような感覚でお得な商品を探せる。ジャングルのような店内をブラブラ歩きながら、時間をかけて商品を買う。この「時間消費型」の店づくりは各ブランドに共通している。 ただし、こうした業態は、同一商圏に2~3店舗が密集していると特別感が損なわれてしまう。先ほどのドミセの失敗例に照らせば、東京・渋谷エリアには、大規模店舗「MEGAドンキ渋谷本店」がすでに存在する。渋谷という大商圏であれば、姉妹ブランド(ドミセ)を出しても飽きられないとPPIH側は踏んでいたのかもしれないが、そのもくろみは外れてしまった。 コンビニのように生活必需品を販売する業態ならば、同一商圏に2~3店を密集させる弊害は少ない。コンビニの来店客は、必要な商品を買えば、即座に店を後にする。店内で「宝探し」をする必要もなく、回転率が高い。店舗を増やすほど、顧客との接点が増えるメリットもある。 一方で、上記のコンビニの特性は、回転率が低い「時間消費型」のドンキには当てはまらない。渋谷のドミセの跡地にオープンする「キラキラドンキ」も成功するかどうかは不透明だ。筆者の見立てでは、「看板を変えて姉妹ブランドをドンドン出す」という戦略が、ここに来て踊り場を迎えているように思える。 ここで、冒頭の話題に立ち返る。大阪にオープンした「貝塚店」の正式名称は「ドン・キホーテ貝塚店」。姉妹ブランドではなく、元祖ドンキとしてオープンしている。しかも同店舗は「隣接する都市のドンキは閉店時間が早い」ことを理由に深夜3時まで営業している。昔の良さを取り戻しつつ、近隣店舗にはない魅力を演出しているのだ。 広い店内で長い時間を過ごしてもらい、さまざまな商品を買い上げてもらう。それによって収益を得る――。貝塚店は、そんな元祖ドンキの強みが凝縮された店舗だと言える』、「「時間消費型」の店づくりは各ブランドに共通している。 ただし、こうした業態は、同一商圏に2~3店舗が密集していると特別感が損なわれてしまう。先ほどのドミセの失敗例に照らせば、東京・渋谷エリアには、大規模店舗「MEGAドンキ渋谷本店」がすでに存在する。渋谷という大商圏であれば、姉妹ブランド(ドミセ)を出しても飽きられないとPPIH側は踏んでいたのかもしれないが、そのもくろみは外れてしまった・・・渋谷のドミセの跡地にオープンする「キラキラドンキ」も成功するかどうかは不透明だ。筆者の見立てでは、「看板を変えて姉妹ブランドをドンドン出す」という戦略が、ここに来て踊り場を迎えているように思える・・・「ドン・キホーテ貝塚店」、姉妹ブランドではなく、元祖ドンキとしてオープンしている。しかも同店舗は「隣接する都市のドンキは閉店時間が早い」ことを理由に深夜3時まで営業している。昔の良さを取り戻しつつ、近隣店舗にはない魅力を演出しているのだ。 広い店内で長い時間を過ごしてもらい、さまざまな商品を買い上げてもらう。それによって収益を得る――。貝塚店は、そんな元祖ドンキの強みが凝縮された店舗だと言える」、なるほど。
・『「ヤンキーを呼び戻す」新店舗は単なる話題作りではない! なお、筆者は冒頭で、貝塚店は「ほとんどが創業時通りに作られている」と述べたが、厳密に言えば異なる点がある。 貝塚店に足を踏み入れると、近年の売り上げを支えている、訪日外国人を狙った菓子売り場がある。最新のPB商品も置かれている。その中に、「つけまつげコーナー」などの懐かしい売り場が配置されている。いわば、新旧の商品戦略の融合(=いいとこ取り)がなされているのだ。 ちなみに、ドンキのPB商品のパッケージには、「不漁でサバが手に入らない・・・そこで!日本近海で獲れた美味しいイワシをドバドバっと限界まで詰めました!」などと、長ったらしい宣伝文句が書かれている。これも、客に長く滞在してもらい、購買行動を楽しんでもらうための工夫の一つだ。 ドンキのPBは粗利率が50%台のものも含まれているとされ、収益性が高いのが特徴だ。だが、PBばかり並べても通用しないのは、道玄坂のドミセが証明してしまった。要は他社製品(ナショナルブランド)とのバランスや売り方が大切なのだ。 そのため運営元も、単なる遊び心や話題作りではなく、綿密な戦略に基づいて「ヤンキーを呼び戻す」店づくりを行ったのだろう。結果、貝塚店には一般客だけでなくヤンキーらしき層も来店し、若者が戻ってきているように見受けられた。 ヤンキーだけでなく、訪日外国人、若いママと子ども、中高年男女など、多様な客層で混沌としているのが本来のドンキの魅力である。それを演出できるのは、やはり元祖ドンキならではだ。 ドンキで育った世代が子どもを連れて来店し、子ども世代が孫を連れて来店する――。そんな「無限ループ」を回すことができれば、向かうところ敵なしである。 だからこそ、姉妹ブランドの横展開ではなく、既存のドンキにテコ入れして「長く楽しめる店づくり」を地道に強化することが、ドンキのさらなる飛躍のカギになるかもしれない』、「ヤンキーだけでなく、訪日外国人、若いママと子ども、中高年男女など、多様な客層で混沌としているのが本来のドンキの魅力である。それを演出できるのは、やはり元祖ドンキならではだ。 ドンキで育った世代が子どもを連れて来店し、子ども世代が孫を連れて来店する――。そんな「無限ループ」を回すことができれば、向かうところ敵なしである。 だからこそ、姉妹ブランドの横展開ではなく、既存のドンキにテコ入れして「長く楽しめる店づくり」を地道に強化することが、ドンキのさらなる飛躍のカギになるかもしれない」、さて「ドンキ」の原点回帰「元祖ドンキ」が上手くいくか、「「無限ループ」を回すことができ」るか、などを注視したい。
先ずは、3月17日付け東洋経済オンラインが掲載した 流通アナリストの中井 彰人氏による「「大量閉店」イトーヨーカ堂の運命を握る店の正体 時代の流れには勝てなかった総合スーパーの転機」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/741432
・『イトーヨーカ堂が北海道、東北、信越の17店舗を閉店すると2月に明らかになったことが、地域のマスコミなどを中心に、大きな話題となった。親会社であるセブン&アイ・ホールディングスの中期経営計画で公表されていた既定路線だったが、実際に具体的な店名が明らかになったことで、ネットニュースなどでも「イトーヨーカ堂の衰退」といったキャッチーなネタとして散発的に記事が出た。 営業終了するうちの7店舗はロピアを擁するOICグループが一気に譲り受けるという。イトーヨーカ堂から今売り出し中のディスカウントスーパー、ロピアへの店舗譲渡という新旧交代は、小売業界の栄枯盛衰として象徴的な出来事だ。 セブン&アイが公表しているヨーカ堂再建策の骨子は、①首都圏特化、②食品特化、③アパレル撤退、④センター投資とその活用、の4つが柱になっている。これは、裏を返せば、①地方が不採算、②非食品売り場が不振、③特にアパレルがよくない、④生産性が低い、といった問題点があることを示している。 これまでの経緯を振り返りながら、なぜイトーヨーカ堂が苦戦しているのかみていくことにしよう』、興味深そうだ。
・『右肩下がりが続いているヨーカ堂 イトーヨーカ堂の業績停滞は今に始まったことではない。次の図で明らかなとおり、かなり前から売り上げ、収益ともに右肩下がりが続いており、少しずつ店舗閉鎖を行いながら戦線縮小してきていた。 1998年度には1兆5000億円以上だった売上高は、2022年度で1兆円(総額売上高ベース)ちょっとと3分の2に減っているし、営業利益率は4%以上からおおむね右肩下がりで低下して、直近ではほとんど利益が出ない状態にまで落ち込んでいる。) その主要因は、粗利率が高い非食品(衣料品、日用雑貨等)が売れなくなって、いわゆる「2階以上の売り場」が儲からなくなった、ということになるだろう。次の表はヨーカ堂の2008年度と2022年度の粗利構成を比べたものだが、非食品の粗利額の減り方が大きいことは一目瞭然だろう』、「非食品の粗利額の減り方が大きい」のがここまで顕著だとは、改めて驚かされた。
・『イトーヨーカ堂が失った収益源 次ページの売り上げ構成の推移をみるとわかるが、非食品の売り上げが大きく減っていて、テナントに移行している。総合スーパーが流行っていたころは、購買頻度の高い食品で来店してもらい、粗利の高い衣料品を併せて買ってもらうことで利益を稼いでいた。イトーヨーカ堂もこの収益源を失ったことで業績が低迷するようになっていった。) このデータは、食品に関しては、そこまで売り上げが減っていないということも示している。イトーヨーカ堂のみならず、総合スーパーに行くと、1階の食品売り場には大勢の来店客がいる一方で、2階から上は閑散としている、という光景を目にする機会は少なくない。 ご自分の買い物する店選びを思い出してもらえばわかると思うが、衣料品や日用雑貨類に関しては、ユニクロ、GU、しまむら、無印良品、ニトリ、100円ショップ、ホームセンター、ドラッグストア、等々、といった専門店チェーンやその集積する商業施設があるので、総合スーパーなど不要という人も多いのではないか』、「衣料品や日用雑貨類に関しては、ユニクロ、GU、しまむら、無印良品、ニトリ、100円ショップ、ホームセンター、ドラッグストア、等々、といった専門店チェーンやその集積する商業施設があるので、総合スーパーなど不要という人も多いのではないか」、その通りだ。
・『徐々にその役割を終えていった非食品売り場 専門店チェーンが本格的に全国区になったのは、2000年代以降であり、その成長に代替された総合スーパーの非食品売り場は、徐々にその役割を終えていった。結果、全盛期の1990年代、小売業ランキングの上位を占めていた総合スーパー企業は、イオンとセブン&アイを除いて、すべて再編された(屋号は残っているがM&Aされた側にまわった)。 イトーヨーカ堂が、食品特化、アパレル撤退を今、実施しているというのは、総合スーパーとして最後まで頑張って健闘したが、時代の流れには勝てなかった、と解釈すべきなのである。) なぜ、食品の売り上げが、あまり減らなかったのかと言えば、それは食品購入が生活ルーティーンの一部であり、店を選ぶときの選択基準は、近いこと、または、1カ所で揃う品揃えがあることで、「タイパ重視」となっていることによる。地域の動線の中心にある場所、つまり食品購入においては、立地が良くて十分な品揃えがあれば、それなりにお客さんに来てもらえる、ということである』、「食品購入においては、立地が良くて十分な品揃えがあれば、それなりにお客さんに来てもらえる、ということである」、その通りだろう。
・『首都圏でアドバンテージを持つヨーカ堂 この点で、東京発祥の老舗スーパーであるイトーヨーカ堂は大きなアドバンテージを持っていた。世界有数の公共交通網を誇る首都圏中心部において先行者利益を持ち、乗降客数が多い駅前をはじめとする動線の要所を押さえている。そんな優良立地に広い売り場を展開しているイトーヨーカ堂の食品売り場は、首都圏の顧客にとっても十分便利な存在であり続けたのである。 クルマ社会化した地方や郊外においては、こうはいかない。クルマが主要な移動手段となっている地域では、機動力を持っている消費者の行動範囲は首都圏の何十倍も広く、その中にあるスーパーはすべて競合になるという厳しい競争環境だ。 しかし、首都圏の勤労者世帯にとって、平日は駅(もしくは最寄りのバス停)から家への動線上に立地していることが、圧倒的に有利に働く。イオンの「まいばすけっと」という最低限の品揃えしかないミニスーパーが、東京区部から京浜間のみに展開して、2000億円企業にまで成長できたのも、こうした事情が背景にある。) イトーヨーカ堂が首都圏特化を戦略としたのも、自社の立地の強みを最大限生かそう、ということだ。さらに言えば、首都圏中心部には空き地などほとんどなく、競合が出店するにしても何らかの再開発がなければ、場所の確保は難しい。また、あたり前だが、首都圏は人口密集度も高いうえに、人口減少度も低い。ホームともいえる首都圏で再起を図る、という選択肢には議論の余地がないのである』、「イトーヨーカ堂が首都圏特化を戦略としたのも、自社の立地の強みを最大限生かそう、ということだ。さらに言えば、首都圏中心部には空き地などほとんどなく、競合が出店するにしても何らかの再開発がなければ、場所の確保は難しい。また、あたり前だが、首都圏は人口密集度も高いうえに、人口減少度も低い。ホームともいえる首都圏で再起を図る、という選択肢には議論の余地がないのである」、その通りだ。
・『今後の成長戦略のカギとなる新型店 こうした背景を鑑みると、首都圏特化、食品強化、アパレル撤退を、計画通りに実行できるならば、ほぼ確実にヨーカ堂の収益はV字回復するだろう。天下のセブン&アイが、勝算なしに中期経営計画を公表するはずがないのである。 ただ、ここまでは、実行すれば成果が見込めるものの、縮小均衡策であり、その後の成長戦略については、前述した④センター投資による生産性向上、の成否によって結果が大きく変わってくる。生鮮、惣菜の加工工程を、プロセスセンターやセントラルキッチンにスムーズに移行し、その品質が消費者に受け入れられる必要があるからだ。 このインフラが成果を出せなければ、セブン‐イレブンがイトーヨーカ堂との連携で作った新型店「SIPストア」という取り組みも成功しない。 この新しい店は、コンビニをベースとしながらも食品スーパーの機能を果たすために開発された新業態であり、店舗における生鮮や惣菜の加工機能を持たない。最新鋭のセンターから品質の高い生鮮、惣菜を供給することになるのだが、店内バックヤードで生鮮、惣菜の最終加工を行うのが一般的なこの国においては、これまでにあまり成功例がない。数少ない成功例といえば、前述の「まばすけっと」だ。 しかし、セブン&アイはこの挑戦に十分な成算があるのだろう。その背景は、全国屈指の有力食品スーパー、ヨークベニマルがグループに存在している、ということだ。ベニマルはかつてイトーヨーカ堂が三顧の礼をもってグループに迎えた、東北の優良スーパーで、品質の良さ、売場作りのすばらしさについては、業界の誰もが認めるレベルの高い企業として知られる。) また、この会社の大高善興会長は、セブン&アイのプライベートブランド「セブンプレミアム」の生みの親としても知られており、ベニマルの食品に関する知見はグループの宝なのである。 惣菜工場、プロセスセンターについても、かなり昔から戦力化に成功しているため、イトーヨーカ堂のプロセスセンター、セントラルキッチンに関しても、ベニマルからのノウハウ移転が実施されている。ヨーカ堂が食品で生きていく、と明言できるのは、この優秀なグループ企業がいるからなのだろう』、「全国屈指の有力食品スーパー、ヨークベニマルがグループに存在・・・ベニマルはかつてイトーヨーカ堂が三顧の礼をもってグループに迎えた、東北の優良スーパーで、品質の良さ、売場作りのすばらしさについては、業界の誰もが認めるレベルの高い企業として知られる。) また、この会社の大高善興会長は、セブン&アイのプライベートブランド「セブンプレミアム」の生みの親としても知られており、ベニマルの食品に関する知見はグループの宝なのである・・・惣菜工場、プロセスセンターについても、かなり昔から戦力化に成功しているため、イトーヨーカ堂のプロセスセンター、セントラルキッチンに関しても、ベニマルからのノウハウ移転が実施されている。ヨーカ堂が食品で生きていく、と明言できるのは、この優秀なグループ企業がいるからなのだろう」、「ヨークベニマル」が「品質の良さ、売場作りのすばらしさについては、業界の誰もが認めるレベルの高い企業として知られる」、とは初めて知った。
・『イトーヨーカ堂の運命を決める「SIPストア」 2月終わりに新型ミニスーパー「SIPストア」が千葉県松戸市内にオープンし、ニュースなどでも取り上げられていた。セブン‐イレブンが開発、運営しているため、生鮮の充実した大きいコンビニという紹介をされていたがが、これは機能としては明らかに小型食品スーパーだ。 セブン‐イレブンの永松文彦社長は、「SIPストアで店舗数を拡大していくつもりはなく、得られた知見やノウハウを平準店舗に共有していく」という趣旨の発言をしていた。 つまり、難易度の高い生鮮管理を伴うこの店を、フランチャイズ制を根幹とするコンビニの店舗として拡大していくのは、加盟店の意向を無視して進めることはできない、ということだと解釈する。セブン‐イレブンでもなく、ヨーカ堂でもない、セブン&アイの新たな食品スーパー業態が、始動しつつあると考えたほうがいいのかもしれない。 食品スーパーは小売業の中でも最も人件費がかかる業態であり、人手不足、人件費高騰という昨今の環境変化に大きな影響を受けている。生鮮パック詰めや惣菜製造などを店舗ごとのバックヤードで行っていることが要因だ。こうした店舗オペレーションを標準としてきたやり方はこれから維持できなくなる。 そんな時代の要請に対して、セブン&アイはヨーカ堂の危機を契機として、プロセスセンター、セントラルキッチンを活用した生産性の高い業態開発に舵を切った。いわば、なんとか時代の要請に間に合った、という段階なのだろう。 リストラによって収益を改善したヨーカ堂に、新たな時代にあわせた新型スーパーが加わるのなら、セブン&アイのスーパーストア事業としての成長戦略を描くことはできる。ヨーカ堂、という名前が残っていくかどうかは別にしても、グループを総動員すればスーパーストア事業を再成長させる経営資源がこのグループにはある、ということだ。この世にまだ1店舗しか存在してないSIPストア業態の成否が、今後のイトーヨーカ堂の運命を決めるといっても過言ではない』、「新型ミニスーパー「SIPストア」が千葉県松戸市内にオープンし、ニュースなどでも取り上げられていた。セブン‐イレブンが開発、運営しているため、生鮮の充実した大きいコンビニという紹介をされていたがが、これは機能としては明らかに小型食品スーパーだ・・・プロセスセンター、セントラルキッチンを活用した生産性の高い業態開発に舵を切った。いわば、なんとか時代の要請に間に合った、という段階なのだろう。 リストラによって収益を改善したヨーカ堂に、新たな時代にあわせた新型スーパーが加わるのなら、セブン&アイのスーパーストア事業としての成長戦略を描くことはできる・・・グループを総動員すればスーパーストア事業を再成長させる経営資源がこのグループにはある」、「新型ミニスーパー「SIPストア」・・・これは機能としては明らかに小型食品スーパーだ」、これを核に「グループを総動員すればスーパーストア事業を再成長させる経営資源がこのグループにはある」、さすが「セブン&アイ」グループだ。今後の展開を注視したい。
次に、4月22日付け東洋経済オンライン「ウエルシア「不倫問題」で社長辞任、2つの懸念 松本氏は経営統合のキーパーソンだったが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/749246
・『「私生活において不適正な行為があり弊社の信用を傷つけるものであると判断した」――。 4月17日、ドラッグストア首位のウエルシアホールディングス(HD)は、松本忠久氏が同日付で社長を辞任すると発表した。「週刊新潮」が報道した松本氏の不倫騒動を理由として、会社側が辞任を勧告した。 「家庭のある身でありながら不倫関係を持つことは不適正であり、何もしないわけにはいかないと判断した」(ウエルシアHD広報)。会社の金銭を不当に使った可能性も調査中だが、4月17日時点では確認できていない。 松本氏はウエルシアHDの親会社であるイオンでも執行役ヘルス&ウエルネス担当を兼任していたが、同17日に解任。4月18日以降、当面は池野隆光会長が社長を兼務するが、後任を検討し、決定次第発表するという』、「家庭のある身でありながら不倫関係を持つ」、とは上場企業経営者にあるまじき行為で、「辞任」は当然だ。
・『M&Aで業界初の1兆円企業に ウエルシアHDはドラッグ業界首位。調剤併設型の店舗を多く展開するのが特徴だ。1990年以降は、他社と合併を進めながら規模を拡大してきた。 2002年に池野会長が創業した池野ドラッグを合併。松本氏が社長を務めていた「いいの」も2006年に合併している。 松本氏は介護事業を展開する寺島薬局の社長、ウエルシア薬局副社長などを経て、2019年にウエルシアHD社長に就任。2019年2月に1284店だった調剤店舗数を、5年後の2024年2月には2155店まで急拡大させた。 2021年には調剤薬局を展開する愛媛地盤のネオファルマーを買収するなど店舗網を広げ、2022年にはドラッグストア業界で初めて売上高1兆円を達成。 松本氏はウエルシアHDを業界トップに成長させた人物だが、今回の不倫騒動を機に、舵取り役を離れることとなった。) 自社で展開する介護事業は採算性の低さに悩まされてきたが、同業のM&Aや、イオングループ内での統合も視野に挽回すると打ち出した。ドラッグストアを軸に介護や医療のサービスも提供することで、競合と差別化するというわけだ。 さらに、2023年3月にはたばこの販売中止を発表。前期は400店舗で取り扱いを中止し、残りの店舗でも順次販売を取りやめるという。 昨年12月に実施した東洋経済のインタビューで、松本氏は「ドラッグストアはどこでも同じで、欲しいものが安ければよいというのでは不十分。健康に対するサポート、アドバイスをあらゆる面から行える存在になりたい」と語っていた』、「2022年にはドラッグストア業界で初めて売上高1兆円を達成。 松本氏はウエルシアHDを業界トップに成長させた人物だが、今回の不倫騒動を機に、舵取り役を離れることとなった」、功績は大きかったとしても、やはり「不倫騒動」はいただけない。
・『キーパーソンが退場、店作りは道半ば オーバーストア状態が指摘される中でも、業界の出店競争は激化している。業界4位のコスモス薬品は2023年5月期に114店純増となったが、ウエルシアHDは2024年2月期に62店純増と見劣りする。 出店数に加えて、既存店の売上高伸長率も、食品の安売りを軸に客数を伸ばすコスモス薬品に軍配が上がる。競合に対抗できる店舗づくりはウエルシアHDが直面する重要課題だ。 多様な店舗戦略を進め、クリーンな企業イメージの形成にも努めてきた中、今回の不倫騒動が明るみになってしまった。競合幹部からは「1兆円企業の社長として脇が甘かったのではないか」と冷ややかな声が上がる。 理想の店づくりは道半ばだ。松本氏の辞任で会社の経営方針は揺らぎかねない。ウエルシアHDは早急に後任を決定し、経営統合や店舗改革に臨む必要がある』、「ウエルシアHDは2024年2月期に62店純増と見劣りする。 出店数に加えて、既存店の売上高伸長率も、食品の安売りを軸に客数を伸ばすコスモス薬品に軍配が上がる。競合に対抗できる店舗づくりはウエルシアHDが直面する重要課題だ。 多様な店舗戦略を進め、クリーンな企業イメージの形成にも努めてきた中、今回の不倫騒動が明るみになってしまった。競合幹部からは「1兆円企業の社長として脇が甘かったのではないか」と冷ややかな声が上がる。 理想の店づくりは道半ばだ。松本氏の辞任で会社の経営方針は揺らぎかねない。ウエルシアHDは早急に後任を決定し、経営統合や店舗改革に臨む必要がある』、「理想の店づくりは道半ばだ。松本氏の辞任で会社の経営方針は揺らぎかねない。ウエルシアHDは早急に後任を決定し、経営統合や店舗改革に臨む必要がある」、その通りだ。
第三に、4月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した流通ジャーナリストの森山真二氏による「ドンキが「ヤンキーが集まる」店づくりに回帰したワケ、新型店舗“不発”の裏で…」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342456
・『ドン・キホーテが今春、昔ながらの「混沌とした店づくり」を再現した店舗を大阪にオープンした。光るカー用品やカラコンなどの「ヤンキー向け商品」を取り扱っているほか、今では珍しい深夜営業を実施している。その裏側で、東京・渋谷では、プライベートブランドを重点的に取り扱う新型店舗「ドミセ」がひっそりと閉店した。開店から1年未満での撤退である。ドンキの新型店舗が不発に終わり、原点回帰が進んでいる要因はどこにあるのか。小売・流通業界に詳しいジャーナリストが考察する』、「昔ながらの「混沌とした店づくり」を再現した店舗を大阪にオープンした。光るカー用品やカラコンなどの「ヤンキー向け商品」を取り扱っているほか、今では珍しい深夜営業を実施している。その裏側で、東京・渋谷では、プライベートブランドを重点的に取り扱う新型店舗「ドミセ」がひっそりと閉店した。開店から1年未満での撤退である」、「新型店舗が不発に終わり、原点回帰が進んでいる要因はどこにあるのか」、なるほど。
・『「大人の店」になったはずが… 「ヤンキーを呼び戻す」新店舗がオープン!? ドン・キホーテ(以下ドンキ)が大阪にオープンした新店舗は、時代に逆行したような作りだった――。 ドンキは4月2日、大阪府貝塚市に「貝塚店」を開業した。貝塚は「だんじり祭り」で有名な岸和田市に近い街だ。この店舗のコンセプトは「ギラギラドンキ」。一昔前のドンキでおなじみだった、商品が所狭しと並ぶ「圧縮陳列」を採用している。 さらに、ドンキの成長を支えてきた「松竹梅作戦」(※)をMD(商品政策)に取り入れ、さまざまな価格帯の商品をそろえている。一般的な食品・日用品だけでなく、光るカー用品、香水、カラーコンタクトレンズ、ピアッサー、アクセサリー、キャラクターソックスなどの、いわゆる「ヤンキー」に愛されるグッズを扱っているのだ。 (※)「3つの価格帯がある場合、人間は真ん中を選びがちになる」という消費者心理を応用した戦略。松(高価)・竹(普通)・梅(安価)の商品をそろえ、売りたいモノを真ん中に集めると効果があるとされる。 そのほとんどが創業時通りに作られている貝塚店は、近年のドンキが失ったものを取り戻そうとしているかのようだ。 というのも、かつてのドンキはヤンキー客が多く、「改造車」(ヤン車)が爆音を轟かせて駐車場に出入りすることもあった。だが、今のドンキは「ヤンキーが溜まる店」ではなくなりつつある。「圧縮陳列」も少々控え目になり、「POPの洪水」というドンキのお家芸もマイルドになった。「ドンキは大人の店となり、若者から離れた」と指摘されることもある。 ドンキはそうした指摘を踏まえ、ヤンキー客を呼び戻そうとしているのか――。今回は、意外な「原点回帰」の狙いを読み解いていきたい』、「今のドンキは「ヤンキーが溜まる店」ではなくなりつつある。「圧縮陳列」も少々控え目になり、「POPの洪水」というドンキのお家芸もマイルドになった。「ドンキは大人の店となり、若者から離れた」と指摘されることもある・・・そのほとんどが創業時通りに作られている貝塚店は、近年のドンキが失ったものを取り戻そうとしているかのようだ」、なるほど。
・『“不発”に終わった東京・渋谷の新型店舗とは? ドンキを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の決算説明資料によると、ドンキや姉妹ブランドを含めた「ディスカウント事業」の国内店舗数は488店舗に上る(2024年6月期第2四半期の終了時点)。 かつてのドンキはディープな若者向けの店だったが、これだけ店舗数が増えると新鮮味が薄れるのも無理はない。 PPIHもそれを承知していて、ドンキの小型版「ピカソ」や、PB(プライベートブランド)に特化した新型店舗「ドミセ」をオープンするなど、あの手この手で業態の多様化を進めてきた。 その過程では、弁当を店内で調理して提供する「パワーコンビニ情熱空間」を立ち上げ、うまくいかずに閉店したこともあった(06~08年頃)。 つい最近も、「オープン前に想定していた売上に届かない期間が続いた」として、ドミセの「渋谷道玄坂通ドードー店」(東京都渋谷区)が閉店を余儀なくされた(4月7日に閉店)。オープンから1年未満での撤退である。同店舗は今後、Z世代向けの専門店「キラキラドンキ」にリニューアルするようだ。 (ドミセの閉店を告げるニュースリリース(出典:ドン・キホーテ) はリンク先参照) もちろん失敗は悪いことではなく、PPIHの業績自体は増収増益が続いている。だが、パワーコンビニやドミセの例が示すように、ドンキの要素を取り入れた新ブランド(新業態店)を出せば、必ず成功するというわけではない。 さらに言えば、ピカソ・ドミセ・MEGAドンキなどの各ブランドは、看板やコンセプトに多少の差はあれど、根底にある戦略は同じ。元祖ドンキの成功パターンを踏襲しているにすぎないのだ』、「ピカソ・ドミセ・MEGAドンキなどの各ブランドは、看板やコンセプトに多少の差はあれど、根底にある戦略は同じ。元祖ドンキの成功パターンを踏襲しているにすぎないのだ」、なるほど。
・『同一エリアへの過剰出店は顧客に飽きられる!? いずれの業態も、店内にはうず高く商品が積み上げられており、一般消費者は「宝探し」のような感覚でお得な商品を探せる。ジャングルのような店内をブラブラ歩きながら、時間をかけて商品を買う。この「時間消費型」の店づくりは各ブランドに共通している。 ただし、こうした業態は、同一商圏に2~3店舗が密集していると特別感が損なわれてしまう。先ほどのドミセの失敗例に照らせば、東京・渋谷エリアには、大規模店舗「MEGAドンキ渋谷本店」がすでに存在する。渋谷という大商圏であれば、姉妹ブランド(ドミセ)を出しても飽きられないとPPIH側は踏んでいたのかもしれないが、そのもくろみは外れてしまった。 コンビニのように生活必需品を販売する業態ならば、同一商圏に2~3店を密集させる弊害は少ない。コンビニの来店客は、必要な商品を買えば、即座に店を後にする。店内で「宝探し」をする必要もなく、回転率が高い。店舗を増やすほど、顧客との接点が増えるメリットもある。 一方で、上記のコンビニの特性は、回転率が低い「時間消費型」のドンキには当てはまらない。渋谷のドミセの跡地にオープンする「キラキラドンキ」も成功するかどうかは不透明だ。筆者の見立てでは、「看板を変えて姉妹ブランドをドンドン出す」という戦略が、ここに来て踊り場を迎えているように思える。 ここで、冒頭の話題に立ち返る。大阪にオープンした「貝塚店」の正式名称は「ドン・キホーテ貝塚店」。姉妹ブランドではなく、元祖ドンキとしてオープンしている。しかも同店舗は「隣接する都市のドンキは閉店時間が早い」ことを理由に深夜3時まで営業している。昔の良さを取り戻しつつ、近隣店舗にはない魅力を演出しているのだ。 広い店内で長い時間を過ごしてもらい、さまざまな商品を買い上げてもらう。それによって収益を得る――。貝塚店は、そんな元祖ドンキの強みが凝縮された店舗だと言える』、「「時間消費型」の店づくりは各ブランドに共通している。 ただし、こうした業態は、同一商圏に2~3店舗が密集していると特別感が損なわれてしまう。先ほどのドミセの失敗例に照らせば、東京・渋谷エリアには、大規模店舗「MEGAドンキ渋谷本店」がすでに存在する。渋谷という大商圏であれば、姉妹ブランド(ドミセ)を出しても飽きられないとPPIH側は踏んでいたのかもしれないが、そのもくろみは外れてしまった・・・渋谷のドミセの跡地にオープンする「キラキラドンキ」も成功するかどうかは不透明だ。筆者の見立てでは、「看板を変えて姉妹ブランドをドンドン出す」という戦略が、ここに来て踊り場を迎えているように思える・・・「ドン・キホーテ貝塚店」、姉妹ブランドではなく、元祖ドンキとしてオープンしている。しかも同店舗は「隣接する都市のドンキは閉店時間が早い」ことを理由に深夜3時まで営業している。昔の良さを取り戻しつつ、近隣店舗にはない魅力を演出しているのだ。 広い店内で長い時間を過ごしてもらい、さまざまな商品を買い上げてもらう。それによって収益を得る――。貝塚店は、そんな元祖ドンキの強みが凝縮された店舗だと言える」、なるほど。
・『「ヤンキーを呼び戻す」新店舗は単なる話題作りではない! なお、筆者は冒頭で、貝塚店は「ほとんどが創業時通りに作られている」と述べたが、厳密に言えば異なる点がある。 貝塚店に足を踏み入れると、近年の売り上げを支えている、訪日外国人を狙った菓子売り場がある。最新のPB商品も置かれている。その中に、「つけまつげコーナー」などの懐かしい売り場が配置されている。いわば、新旧の商品戦略の融合(=いいとこ取り)がなされているのだ。 ちなみに、ドンキのPB商品のパッケージには、「不漁でサバが手に入らない・・・そこで!日本近海で獲れた美味しいイワシをドバドバっと限界まで詰めました!」などと、長ったらしい宣伝文句が書かれている。これも、客に長く滞在してもらい、購買行動を楽しんでもらうための工夫の一つだ。 ドンキのPBは粗利率が50%台のものも含まれているとされ、収益性が高いのが特徴だ。だが、PBばかり並べても通用しないのは、道玄坂のドミセが証明してしまった。要は他社製品(ナショナルブランド)とのバランスや売り方が大切なのだ。 そのため運営元も、単なる遊び心や話題作りではなく、綿密な戦略に基づいて「ヤンキーを呼び戻す」店づくりを行ったのだろう。結果、貝塚店には一般客だけでなくヤンキーらしき層も来店し、若者が戻ってきているように見受けられた。 ヤンキーだけでなく、訪日外国人、若いママと子ども、中高年男女など、多様な客層で混沌としているのが本来のドンキの魅力である。それを演出できるのは、やはり元祖ドンキならではだ。 ドンキで育った世代が子どもを連れて来店し、子ども世代が孫を連れて来店する――。そんな「無限ループ」を回すことができれば、向かうところ敵なしである。 だからこそ、姉妹ブランドの横展開ではなく、既存のドンキにテコ入れして「長く楽しめる店づくり」を地道に強化することが、ドンキのさらなる飛躍のカギになるかもしれない』、「ヤンキーだけでなく、訪日外国人、若いママと子ども、中高年男女など、多様な客層で混沌としているのが本来のドンキの魅力である。それを演出できるのは、やはり元祖ドンキならではだ。 ドンキで育った世代が子どもを連れて来店し、子ども世代が孫を連れて来店する――。そんな「無限ループ」を回すことができれば、向かうところ敵なしである。 だからこそ、姉妹ブランドの横展開ではなく、既存のドンキにテコ入れして「長く楽しめる店づくり」を地道に強化することが、ドンキのさらなる飛躍のカギになるかもしれない」、さて「ドンキ」の原点回帰「元祖ドンキ」が上手くいくか、「「無限ループ」を回すことができ」るか、などを注視したい。
タグ:「「時間消費型」の店づくりは各ブランドに共通している。 ただし、こうした業態は、同一商圏に2~3店舗が密集していると特別感が損なわれてしまう。先ほどのドミセの失敗例に照らせば、東京・渋谷エリアには、大規模店舗「MEGAドンキ渋谷本店」がすでに存在する。渋谷という大商圏であれば、姉妹ブランド(ドミセ)を出しても飽きられないとPPIH側は踏んでいたのかもしれないが、そのもくろみは外れてしまった・・・ 「2022年にはドラッグストア業界で初めて売上高1兆円を達成。 松本氏はウエルシアHDを業界トップに成長させた人物だが、今回の不倫騒動を機に、舵取り役を離れることとなった」、功績は大きかったとしても、やはり「不倫騒動」はいただけない。 東洋経済オンライン「ウエルシア「不倫問題」で社長辞任、2つの懸念 松本氏は経営統合のキーパーソンだったが…」 「新型ミニスーパー「SIPストア」が千葉県松戸市内にオープンし、ニュースなどでも取り上げられていた。セブン‐イレブンが開発、運営しているため、生鮮の充実した大きいコンビニという紹介をされていたがが、これは機能としては明らかに小型食品スーパーだ・・・プロセスセンター、セントラルキッチンを活用した生産性の高い業態開発に舵を切った。いわば、なんとか時代の要請に間に合った、という段階なのだろう。 リストラによって収益を改善したヨーカ堂に、新たな時代にあわせた新型スーパーが加わるのなら、セブン&アイのスーパーストア 渋谷のドミセの跡地にオープンする「キラキラドンキ」も成功するかどうかは不透明だ。筆者の見立てでは、「看板を変えて姉妹ブランドをドンドン出す」という戦略が、ここに来て踊り場を迎えているように思える・・・「ドン・キホーテ貝塚店」、姉妹ブランドではなく、元祖ドンキとしてオープンしている。しかも同店舗は「隣接する都市のドンキは閉店時間が早い」ことを理由に深夜3時まで営業している。昔の良さを取り戻しつつ、近隣店舗にはない魅力を演出しているのだ。 小売業(一般) 「非食品の粗利額の減り方が大きい」のがここまで顕著だとは、改めて驚かされた。 だからこそ、姉妹ブランドの横展開ではなく、既存のドンキにテコ入れして「長く楽しめる店づくり」を地道に強化することが、ドンキのさらなる飛躍のカギになるかもしれない」、さて「ドンキ」の原点回帰「元祖ドンキ」が上手くいくか、「「無限ループ」を回すことができ」るか、などを注視したい。 「ヤンキーだけでなく、訪日外国人、若いママと子ども、中高年男女など、多様な客層で混沌としているのが本来のドンキの魅力である。それを演出できるのは、やはり元祖ドンキならではだ。 ドンキで育った世代が子どもを連れて来店し、子ども世代が孫を連れて来店する――。そんな「無限ループ」を回すことができれば、向かうところ敵なしである。 広い店内で長い時間を過ごしてもらい、さまざまな商品を買い上げてもらう。それによって収益を得る――。貝塚店は、そんな元祖ドンキの強みが凝縮された店舗だと言える」、なるほど。 「ピカソ・ドミセ・MEGAドンキなどの各ブランドは、看板やコンセプトに多少の差はあれど、根底にある戦略は同じ。元祖ドンキの成功パターンを踏襲しているにすぎないのだ」、なるほど。 「今のドンキは「ヤンキーが溜まる店」ではなくなりつつある。「圧縮陳列」も少々控え目になり、「POPの洪水」というドンキのお家芸もマイルドになった。「ドンキは大人の店となり、若者から離れた」と指摘されることもある・・・そのほとんどが創業時通りに作られている貝塚店は、近年のドンキが失ったものを取り戻そうとしているかのようだ」、なるほど。 「昔ながらの「混沌とした店づくり」を再現した店舗を大阪にオープンした。光るカー用品やカラコンなどの「ヤンキー向け商品」を取り扱っているほか、今では珍しい深夜営業を実施している。その裏側で、東京・渋谷では、プライベートブランドを重点的に取り扱う新型店舗「ドミセ」がひっそりと閉店した。開店から1年未満での撤退である」、「新型店舗が不発に終わり、原点回帰が進んでいる要因はどこにあるのか」、なるほど。 森山真二氏による「ドンキが「ヤンキーが集まる」店づくりに回帰したワケ、新型店舗“不発”の裏で…」 ダイヤモンド・オンライン 「理想の店づくりは道半ばだ。松本氏の辞任で会社の経営方針は揺らぎかねない。ウエルシアHDは早急に後任を決定し、経営統合や店舗改革に臨む必要がある」、その通りだ。 「家庭のある身でありながら不倫関係を持つ」、とは上場企業経営者にあるまじき行為で、「辞任」は当然だ。 事業としての成長戦略を描くことはできる・・・グループを総動員すればスーパーストア事業を再成長させる経営資源がこのグループにはある」、「新型ミニスーパー「SIPストア」・・・これは機能としては明らかに小型食品スーパーだ」、これを核に「グループを総動員すればスーパーストア事業を再成長させる経営資源がこのグループにはある」、さすが「セブン&アイ」グループだ。今後の展開を注視したい。 惣菜工場、プロセスセンターについても、かなり昔から戦力化に成功しているため、イトーヨーカ堂のプロセスセンター、セントラルキッチンに関しても、ベニマルからのノウハウ移転が実施されている。ヨーカ堂が食品で生きていく、と明言できるのは、この優秀なグループ企業がいるからなのだろう」、「ヨークベニマル」が「品質の良さ、売場作りのすばらしさについては、業界の誰もが認めるレベルの高い企業として知られる」、とは初めて知った。 「全国屈指の有力食品スーパー、ヨークベニマルがグループに存在・・・ベニマルはかつてイトーヨーカ堂が三顧の礼をもってグループに迎えた、東北の優良スーパーで、品質の良さ、売場作りのすばらしさについては、業界の誰もが認めるレベルの高い企業として知られる。) また、この会社の大高善興会長は、セブン&アイのプライベートブランド「セブンプレミアム」の生みの親としても知られており、ベニマルの食品に関する知見はグループの宝なのである・・・ 「食品購入においては、立地が良くて十分な品揃えがあれば、それなりにお客さんに来てもらえる、ということである」、その通りだろう。 「イトーヨーカ堂が首都圏特化を戦略としたのも、自社の立地の強みを最大限生かそう、ということだ。さらに言えば、首都圏中心部には空き地などほとんどなく、競合が出店するにしても何らかの再開発がなければ、場所の確保は難しい。また、あたり前だが、首都圏は人口密集度も高いうえに、人口減少度も低い。ホームともいえる首都圏で再起を図る、という選択肢には議論の余地がないのである」、その通りだ。 「衣料品や日用雑貨類に関しては、ユニクロ、GU、しまむら、無印良品、ニトリ、100円ショップ、ホームセンター、ドラッグストア、等々、といった専門店チェーンやその集積する商業施設があるので、総合スーパーなど不要という人も多いのではないか」、その通りだ。 中井 彰人氏による「「大量閉店」イトーヨーカ堂の運命を握る店の正体 時代の流れには勝てなかった総合スーパーの転機」 東洋経済オンライン (その9)(「大量閉店」イトーヨーカ堂の運命を握る店の正体 時代の流れには勝てなかった総合スーパーの転機、ウエルシア「不倫問題」で社長辞任、2つの懸念 松本氏は経営統合のキーパーソンだったが…、ドンキが「ヤンキーが集まる」店づくりに回帰したワケ 新型店舗“不発”の裏で…)
リニア新幹線(その10)(川勝知事知事6題:川勝知事がリニア問題の解決策などすべて放り投げて辞職…そのヤバすぎる「正体」、川勝知事が残した“最悪の置き土産”…意味のなかった「リニア騒動」の全貌、川勝平太知事が「リニア中央新幹線」反対姿勢を強めた2013年に何があったのか、静岡リニア「開業10年遅れ」JR東海の経営大丈夫? 突然辞任、川勝知事の「置き土産」が及ぼす影響、自民党がさらなる窮地へ…? 川勝知事の後任選挙の「驚きの実態」) [産業動向]
昨日に続いて、リニア新幹線である。今日は、(その10)(川勝知事知事6題:川勝知事がリニア問題の解決策などすべて放り投げて辞職…そのヤバすぎる「正体」、川勝知事が残した“最悪の置き土産”…意味のなかった「リニア騒動」の全貌、川勝平太知事が「リニア中央新幹線」反対姿勢を強めた2013年に何があったのか、静岡リニア「開業10年遅れ」JR東海の経営大丈夫? 突然辞任、川勝知事の「置き土産」が及ぼす影響、自民党がさらなる窮地へ…? 川勝知事の後任選挙の「驚きの実態」)である。
先ずは、本年4月12日付け現代ビジネスが掲載した小林 一哉氏による「静岡・川勝知事がリニア問題の解決策などすべて放り投げて辞職…そのヤバすぎる「正体」」を紹介しよう。
・『無責任すぎる川勝知事 静岡県の静岡県の川勝平太知事は、リニア問題の解決策など示さず、一切合切をすべて放り投げた。 もともと大井川流域の首長たちは、川勝知事にリニア問題を一任することで、リニア問題の決着とともに、東海道新幹線静岡空港新駅の設置など何らかの地域振興をもたらすことを期待していた。 それなのに、リニア南アルプストンネル静岡工区着工への手立ても示さず、また流域の期待にも何らこたえず、混乱だけを巻き起こしたまま、静岡県庁から去ることになった。 あまりに無責任な姿勢だが、これが川勝知事の「正体」である。 「あたかも、水は一部戻してやるから、ともかく工事をさせろという態度に、わたしの堪忍袋の緒が切れました」 2017年10月10日の定例会見が、川勝知事による静岡県の「リニア騒動」の始まりだった。 当時、JR東海と大井川流域の利水者11団体と静岡工区着工に向けた基本協定を結ぶ詰めの交渉が行われている最中だった。 ところが、川勝知事は「堪忍袋の緒が切れた」と怒りを露わにしたあと、「水問題に具体的な対応を示すことなく、静岡県民に誠意を示すといった姿勢がないことを心から憤っている」などとさらにヒートアップした。 そして、「勝手にトンネルを掘りなさんな」と基本協定の交渉にストップを掛ける「ちゃぶ台返し」をしてしまう。 この日の知事会見を皮切りに、川勝知事による無理難題の言いたい放題、やりたい放題が始まり、まさに「リニア騒動」と呼ばれるさまざまな混乱が続くことになった。 2018年夏から、静岡県とJR東海との『対話』が始まったが、現在まで何らの進展も見られない』、「2018年夏から、静岡県とJR東海との『対話』が始まったが、現在まで何らの進展も見られない」、そんなに長く続いているとは、改めて問題の深刻さを再認識した。
・『自分の非を自覚せず 「リニア騒動」の混乱に収拾はつかず、ことし7年目を迎えた矢先だった。 4月1日の新規採用職員の訓示で、「職業差別発言」を行ったと糾弾されると、川勝知事は突然、2日夕方に辞意を表明、3日、辞職にいたる理由などを説明する会見を行った。 当初、6月19日の県議会開会に合わせて、辞職する方向だったが、急きょ10日午前に、静岡県議会議長に辞表を提出した。 このままいけば、川勝知事は5月10日に自動的に退職することになる。 これで、川勝知事本人の引き起こした「リニア騒動」の幕がいったん、引かれるが、静岡県のリニア問題が解決したわけではない。 県議会議長への辞表提出後、川勝知事は10日午後、今後のリニア問題への対応などをテーマとした定例会見にのぞんだ。 辞意表明の翌日、3日の会見で辞職するいちばんの理由を「リニア問題の区切りがついたから」などと述べた。 このため、記者から「リニア沿線の都府県でつくる建設促進期成同盟会会長の愛知県の大村(秀章)知事から、ひと区切りというのは違うのではないかと批判の声があった」と投げ掛けられた。 川勝知事は 「リニア問題に関してこれを放り出すことはできない。どのような道筋が描けるか、これが本県にとって重要課題だ。国のリニア静岡工区モニタリング会議座長の矢野(弘典)さんを信じている。まかせられる。モニタリングは、工事の日程、事業計画と不可分であるというのが矢野さんの意見だ。ここでやっていければいい。矢野さんにバトンタッチできる」 などと何度も矢野座長の名前を挙げた。) 実際には、リニア問題の区切りがついたわけでも、道筋が描かれたのでもなく、昔から懇意の矢野座長に「リニア騒動」の混乱すべてを放り投げたに過ぎない。 誰が考えても、川勝知事が反リニアを貫き、リニア妨害を繰り返していたことを見透かされていた。 これに対して、川勝知事は「わたしどもは早期開業に対して、足を引っ張っているようなことをしたことは一度もない」と大見得を切った。 このような嘘を平気で口にするのが、川勝知事の「正体」である。 川勝知事の「正体」は、2022年夏のリニア南アルプス工事現場の視察と建設促進期成同盟会での発言を振り返れば、いちばんわかりやすい。 後編『川勝知事が残した“最悪の置き土産”…意味のなかった「リニア騒動」の全貌』で詳しく解説する』、「リニア問題に関してこれを放り出すことはできない。どのような道筋が描けるか、これが本県にとって重要課題だ。国のリニア静岡工区モニタリング会議座長の矢野(弘典)さんを信じている。まかせられる。モニタリングは、工事の日程、事業計画と不可分であるというのが矢野さんの意見だ。ここでやっていければいい。矢野さんにバトンタッチできる」 などと何度も矢野座長の名前を挙げた」、「矢野座長」の考え方はどうなのだろう。
次に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した小林 一哉氏による「川勝知事が残した“最悪の置き土産”…意味のなかった「リニア騒動」の全貌 『知事失格』のらく印が押されたまま」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127644
・『静岡県の川勝平太知事は、リニア問題の解決策など示さず、一切合切をすべて放り投げた。あまりに無責任な姿勢を見せた川勝知事だが、彼のこの「正体」は、2022年夏のリニア南アルプス工事現場の視察と建設促進期成同盟会での発言を振り返れば、いちばんわかりやすい。 前編『静岡・川勝知事がリニア問題の解決策などすべて放り投げて辞職…そのヤバすぎる「正体」』、興味深そうだ。
・『川勝知事に寄せる期待は「虚しい」ばかり 静岡県は2022年7月14日、リニアの早期開業を目指す沿線都府県の「建設促進期成同盟会」への加盟を許可された。 同年8月9日に初めて開かれたオンラインの総会で、川勝知事は「2027年品川―名古屋間の開業、2037年大阪までの延伸開業を目指す同盟会の立場を共有する」、「リニア整備の促進を目指してスピード感を持って課題の解決に取り組む」と同盟会加盟に際しての誓約を表明した。 沿線知事らは川勝知事の「正体」を何ら知らずに、「早期全線開業を目指す態勢が整った」と期待を寄せたのだ。 その前日の8日、川勝知事はリニア南アルプストンネル静岡工区で最大規模の残土置き場が計画される燕沢(つばくろさわ)と東京電力RPの田代ダムを視察した。 その際の発言を承知していれば、川勝知事への期待がいかに虚しいかわかったはずだった。 JR東海は同年4月、東電RPの内諾を得た上で、田代ダムの取水抑制案という、川勝知事の求める県境付近での工事中の「全量戻し」に対する解決策を発表した。 このため、大勢のメディアを引き連れての田代ダム視察を行った。 視察には、県地質構造・水資源専門部会の森下祐一部会長(静岡大学客員教授)、塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)が同行した。 まず、大井川流域の大規模崩壊地である赤崩(あかくずれ)を車中から視察した。 塩坂委員が「畑薙山断層帯は非常に弱い地層であり、大量の突発湧水が出る恐れがある」などと警告した。 塩坂委員は、トンネル建設予定地の断層は「背斜構造となっていて力の掛かり具合が複雑であり、地下水枯渇の恐れがある」などの持論を披露して、地下トンネル建設に強い疑問を投げ掛けた。これが県専門部会委員の役割である』、「塩坂委員が「畑薙山断層帯は非常に弱い地層であり、大量の突発湧水が出る恐れがある」などと警告した。 塩坂委員は、トンネル建設予定地の断層は「背斜構造となっていて力の掛かり具合が複雑であり、地下水枯渇の恐れがある」などの持論を披露して、地下トンネル建設に強い疑問を投げ掛けた。これが県専門部会委員の役割」、なるほど。
・『川勝知事の‟置き土産‟が今後もテーマに 燕沢の視察では、森下部会長とともに川勝知事が新たな課題を突きつけた。 JR東海担当者は高さ65メートル、長さ290メートル、奥行き600メートルで、トンネル工事で発生する残土の大半、約360万㎥を盛り土するツバクロ残土置き場の計画を説明した。 この説明に対して、川勝知事は、過去に土石流が起きていることを指摘した上で、「深層崩壊について検討されておらず、残土置き場にふさわしくない。極めて不適切」と強く否定したのだ。 JR東海は、残土置き場として標高約2千メートルに予定した扇沢を山体崩壊の危険性から取りやめた経緯から、燕沢での崩壊対策などを県専門部会で詳しく説明してきた。 過去の論文等を基に燕沢周辺での深層崩壊の可能性は非常に低いことにも触れた。 ところが、川勝知事は燕沢に強い否定意見を述べたのだ。 視察時の知事の否定意見そのままに、県はことし2月5日の会見で、JR東海との新たな「対話項目」に、ツバクロ残土置き場計画について、斜面崩壊のリスク、土石流の緩衝地帯の機能低下など広域的な複合リスクを挙げている。 川勝知事の言うように、本当に「残土置き場にふさわしくない。極めて不適切」だとすれば、いまから代替地を探すのは極めて困難であり、トンネル工事そのものができなくなる。 川勝知事の‟置き土産‟が今後も県専門部会の「対話」のテーマとなるのだ。 また、川勝知事は田代ダム取水抑制案も否定した。 視察に同行した、山梨県早川町の辻一幸町長が「大井川、早川は間ノ岳が源流であり、いうなれば同じ流域だ。南アルプスのリニアトンネル建設を成功させることで地元を活性化させていくことがわたしの使命」などと述べ、田代ダム取水抑制案を強く支持する意向を述べた。 ところが、川勝知事は「濁水ではなく清流の水が戻ってくるのだから、田代ダム取水抑制案の実現に向けて県専門部会でJR東海は説明してほしい。取水抑制による大井川への放流は地域貢献であり、リニア工事中の全量戻しにはならない」と、「全量戻しの解決策ではない」と否定してしまう。) 翌日9日の定例会見で、知事の意向をあらためて確認すると、川勝知事は「全量戻しとはトンネル掘削中に出る水をちゃんと循環させて戻すということで、中間報告の中身とは違う」などあらためて田代ダム取水抑制案は全量戻しにならないと否定した。 静岡県は、いまだに「全量戻し」とは、県外流出した湧水をそのまま戻すことであり、田代ダム取水抑制案は単なる代替策であるという立場を崩していない。 川勝知事は、南アルプスの工事現場視察で、リニア問題の解決へはほど遠い発言を繰り返し、翌日の期成同盟会総会での「スピード感を持った課題解決」とは真逆の発言をしている』、「川勝知事は、南アルプスの工事現場視察で、リニア問題の解決へはほど遠い発言を繰り返し、翌日の期成同盟会総会での「スピード感を持った課題解決」とは真逆の発言をしている」、どちらが本音なのだろう。
・『「リニア騒動」は無駄な時間だった この2日間だけを見ても、川勝知事がリニアの早期開業の足を引っ張ってきたことは明らかである。 同じ会見で、テレビ静岡の記者が「知事就任以来、13年の間に、中部横断自動車道とか新東名など、鉄道以外でもさまざまな公共工事が行われている。今後、行われる工事に対しても、(県外流出する湧水の)全量戻しを求めていくという理解でよろしいか」とただした。 これに対して、川勝知事は「リニアに関連して、あれが62万人の命の水になっている。しかも、(大井川の水の状況は)カツカツの状態になっているということだから、全量戻しというのは、掘削中に出るすべての水を戻すことだと有識者会議で言っているわけで、全量戻しは(JR東海のリニア工事という)個別具体的な話だ」と答えた。 この発言に対して、記者は「静岡経済新聞の小林氏(筆者)が本(『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太静岡県知事「命の水」の嘘』飛鳥新社)を上梓されて、62万人というのは事実ではなくて、実際は26万人ではないかという記載があった。この本の中には、知事が嘘を述べているという記述もある。(同書を)読んだあと、事実でないということであれば知事は法的措置等を取るのか?」と尋ねた。 川勝知事は「いちいち、いちいちですね、すべてのジャーナリストが書かれたことに対処するという、いまのところはそういうスタンスを持っていない」などと否定した。 その後も、筆者はウェブ記事を中心に川勝知事のさまざまな「嘘」を紹介してきたが、川勝知事から何らかの対応を受けたことはない。 川勝知事による「リニア騒動」はいったい、何だったのか、5年余という、あまりにもムダな時間が流れた。 結局、拙著の題名通り『知事失格』のらく印が押されたまま退場することになった』、「その後も、筆者はウェブ記事を中心に川勝知事のさまざまな「嘘」を紹介してきたが、川勝知事から何らかの対応を受けたことはない。 川勝知事による「リニア騒動」はいったい、何だったのか、5年余という、あまりにもムダな時間が流れた。 結局、拙著の題名通り『知事失格』のらく印が押されたまま退場することになった」、その通りだ。
第三に、4月14日付け文春オンライン「川勝平太知事が「リニア中央新幹線」反対姿勢を強めた2013年に何があったのか「JR東海は本当にやってくれるのか」という不信の始まりは…」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/70207
・『リニア中央新幹線の構想は、全国新幹線鉄道整備法に基づき、1973年に「基本計画路線」としてリストアップされたことに始まる。起点は東京都、終点は大阪市で、主な経由地は甲府市、名古屋市、奈良市だ。 JR東海が発足する1987年よりも前のことだから、日本鉄道建設公団が建設し、国鉄が営業主体になる計画だった。しかし国鉄の赤字問題の影響で整備計画が作られないまま、構想は塩漬け状態にあった』、「JR東海が発足する1987年よりも前のことだから、日本鉄道建設公団が建設し、国鉄が営業主体になる計画だった。しかし国鉄の赤字問題の影響で整備計画が作られないまま、構想は塩漬け状態にあった」、なるほど。
・『JR東海が「自己資金でやります」と手を挙げて動き出した 国鉄が分割民営化され、JRグループが発足したあと、東北新幹線の盛岡~新青森間、北陸新幹線、九州新幹線などの計画は再開されたが、国の財源が足りないため開通まで時間がかかった。 これらの新幹線が開通しないと、次の新幹線に着手できない。だから中央新幹線はずっと待たされていた。それにしびれを切らしたJR東海が「自分でやります。自己資金でやります」と手を挙げたことで計画は動き出した。 JR東海が中央新幹線を急ぐのには2つ切実な理由があった。 1つは東海道新幹線の輸送量がパンクしかけていたこと。東名阪の移動需要が旺盛で、「のぞみ」を増発しても追いつかない。なんとか1時間にのぞみ12本を運行する「のぞみ12本ダイヤ」までたどり着いたけれど、これが増発の限界だ。「ひかり」や「こだま」も増やしたいところだが、「のぞみ」が優先されていた。 もう1つは、東海道新幹線の老朽化だ。開業から半世紀が過ぎて、トンネルや鉄橋などの構造物は抜本的な点検、改修が必要になってきた。国鉄時代にも水曜日などに半日運休を実施して若返り工事を実施していたが、昨年の災害運休の後に起きた大混雑を見れば判るように、もはや半日運休にすることすら許されない輸送量なのだ。 南海トラフ地震を視野に入れた耐震工事も含め、必要によっては鉄橋の架け替えも必要になる。そうなれば半日ではすまない。日本で最も速い鉄道を振替輸送する鉄道は存在しない。だから、新たに作らなくてはいけない』、「これらの新幹線が開通しないと、次の新幹線に着手できない。だから中央新幹線はずっと待たされていた。それにしびれを切らしたJR東海が「自分でやります。自己資金でやります」と手を挙げたことで計画は動き出した・・・2つ切実な理由があった。 1つは東海道新幹線の輸送量がパンクしかけていたこと。東名阪の移動需要が旺盛で、「のぞみ」を増発しても追いつかない。なんとか1時間にのぞみ12本を運行する「のぞみ12本ダイヤ」までたどり着いたけれど、これが増発の限界だ。「ひかり」や「こだま」も増やしたいところだが、「のぞみ」が優先されていた。 もう1つは、東海道新幹線の老朽化だ。開業から半世紀が過ぎて、トンネルや鉄橋などの構造物は抜本的な点検、改修が必要になってきた。国鉄時代にも水曜日などに半日運休を実施して若返り工事を実施していたが、昨年の災害運休の後に起きた大混雑を見れば判るように、もはや半日運休にすることすら許されない輸送量なのだ」、なるほど。
・『最初の不幸は、JR東海が建設まで引き受けたこと リニア中央新幹線の静岡工区がここまでこじれた原因の1つは、「建設主体がJRTT鉄道・運輸機構(独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構)ではなかったから」だと思う。 中央新幹線は国の基本計画路線であり、国策である。だからJR東海が建設したとしても民間事業ではない。国が、建設主体としてJR東海を指名したという形をとる。 過去の新幹線は建設主体が鉄建公団(現・JRTT鉄道・運輸機構)で、JR各社が営業主体を担っていた。しかし中央新幹線は建設主体もJR東海が担った。じつはこれがボタンの掛け違いの始まりだ。 整備新幹線の建設は、自治体の強い要請を受けて政府が決定し、地方自治体の財源確保や並行在来線分離などの条件を満たし、環境アセスメント手続きを経てRJTT鉄道・運輸機構が着工する。 しかしリニア中央新幹線は、環境アセスメント手続きが終わったらすぐに着工だ。実際には設計を発注し、建設会社が工事に携わる。 JRTT鉄道・運輸機構の役割がJR東海に替わっただけのように見えるが、JRTT鉄道・運輸機構が持っていた新幹線建設のノウハウの中で最も大きな要素は沿線自治体とのコミュニケーションだ。 鉄道建設業界関係者からこんな話を聞いた。 トンネル建設現場から残土が出る。トラックがバンバン通る。それは困るという自治体があるわけです。そんなとき、鉄建公団(当時)は地元とよく話し合って、ダンプのすれ違い場所や警備員の配置など決めた。なるべく予算を抑え、地元も納得する形をとってきた。しかしJR東海は、では道路を拡幅しましょうと言ってすぐ実行する。スピード感があるし、地元としても広い道路が残る。結果としては良いのだけれども、お金で解決して地元を納得させるというやりかたになっている」 地元とのコミュニケーションが希薄なまま工事を進めようとする反動がもっとも大きく出た場所が静岡工区といえる。環境アセスメントが終わってから着工までには、河川や道路などについて地域の自治体から許可をもらう必要がある。鉄建公団には「地域を説得する」という地道な努力とノウハウがあったが、残念ながら新幹線建設が初めてのJR東海にはその知見がなかった。 いままでの整備新幹線が、環境アセスメントが終わればスムーズに着工できたのは、鉄建公団~JRTT鉄道・運輸機構の実績と信頼による。 残土問題や、川や地下水の水涸れ問題は今までもあったが、地元と話し合って、自治体と共同して補償もしてきた。西九州新幹線の時も渇水が起きたが、トンネルからの導水管や新たな井戸を掘って水田に放水している。その実績と信頼があった。 しかしJR東海は地元との対話が少なく、新幹線を作った実績がないので信用度も低い。静岡県の心配は「本当にやってくれるのか」という点だった』、「JR東海は、では道路を拡幅しましょうと言ってすぐ実行する。スピード感があるし、地元としても広い道路が残る。結果としては良いのだけれども、お金で解決して地元を納得させるというやりかたになっている」 地元とのコミュニケーションが希薄なまま工事を進めようとする反動がもっとも大きく出た場所が静岡工区といえる。環境アセスメントが終わってから着工までには、河川や道路などについて地域の自治体から許可をもらう必要がある。鉄建公団には「地域を説得する」という地道な努力とノウハウがあったが、残念ながら新幹線建設が初めてのJR東海にはその知見がなかった。 いままでの整備新幹線が、環境アセスメントが終わればスムーズに着工できたのは、鉄建公団~JRTT鉄道・運輸機構の実績と信頼による。 残土問題や、川や地下水の水涸れ問題は今までもあったが、地元と話し合って、自治体と共同して補償もしてきた。西九州新幹線の時も渇水が起きたが、トンネルからの導水管や新たな井戸を掘って水田に放水している。その実績と信頼があった。 しかしJR東海は地元との対話が少なく、新幹線を作った実績がないので信用度も低い。静岡県の心配は「本当にやってくれるのか」という点だった」、「JR東海」には、「鉄建公団」のような「ノウハウ」がなく、「地元との対話が少なく」、「新幹線を作った実績がないので信用度も低い。静岡県の心配は「本当にやってくれるのか」という点」、なるほど。
・『静岡県の態度が頑なになった決定的なタイミング 静岡県が頑なになったのは、JR東海が2013年の環境影響評価準備書で「トンネルの湧水により、大井川上流域の水は毎秒2立方メートル減少する」と公表してからだ。トンネルによって湧水が発生し、大井川の水が減る。民間企業のJR東海が本当に補償してくれるのか、と不安になったのだ。川勝知事は知事意見として、「静岡県内で発生した水はすべて大井川に戻すこと」と附した。 約2年後、JR東海は解決策として毎秒1.3立方メートルを導水路トンネルで戻し、残りは必要に応じてポンプアップで戻すとした。 JR東海は「水利用に影響が生じた場合にその影響の程度に応じて代替水源の確保などの環境保全措置を実施する予定です」「トンネル内湧水を汲み上げて、非常口から大井川に戻すのも一つの選択肢と考えています」と、減った水量に応じて対応する姿勢だった。 しかし川勝知事は「県民の命の水だ。全量を戻せ」と再度主張した。 しかも「一滴たりとも」と、まるで戯曲「ヴェニスの商人」のようなことを言う。それにJR東海も、売り言葉に買い言葉のように「全量戻す」と約束した。もともと環境影響評価はそうなっている。 しかし静岡県側はこれで収まらない。ポンプの数と位置を説明しろ、本当にそこに置けるのか、など根掘り葉掘り問いただした。その中には「将来、リニア中央新幹線が廃線になったらどのように埋め戻すのか」など、行きすぎた項目もあった。完全に「JR東海の言うことは信用できない」という態度だ。 ただJR東海の回答書も、お世辞にもわかりやすいものとは言えなかった。表計算ソフトのセルにびっしりと文字を並べた書類を非専門家が読み解けるかは不明だ。 もし建設主体がJRTT鉄道・運輸機構ならば、事前に手厚く説明をして、ここまでこじれてはいなかっただろう。 国が東海道新幹線の限界を把握し、もっと早く中央新幹線に着手していれば、JR東海が直接建設することはなかったし、静岡県とこじれることもなかっただろう。その意味では国にも責任がある』、「国が東海道新幹線の限界を把握し、もっと早く中央新幹線に着手していれば、JR東海が直接建設することはなかったし、静岡県とこじれることもなかっただろう。その意味では国にも責任がある」、「国にも責任がある」とは初めて知ったが、正論だ。
第四に、4月14日付け文春オンラインが掲載した杉山 淳一氏による「川勝平太知事の辞任で「静岡県vs.JR東海」の対決構図は終わるのか 反リニア新幹線で固めた「専門家会議問題」も…」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/70207
・『リニア新幹線問題を考えるうえで重要なのは、川勝平太知事のJRとの対決姿勢が一定程度静岡県民に支持されていたという事実だろう。 筆者の友人の静岡県出身者によると、静岡県民のJR東海に対する好感度は他県よりも低いようだ。「のぞみを静岡に停めてほしい」「東海道新幹線に静岡空港駅を作ってほしい」という要望をJR東海は却下していたことが理由だという』、「静岡県民のJR東海に対する好感度は他県よりも低いようだ。「のぞみを静岡に停めてほしい」「東海道新幹線に静岡空港駅を作ってほしい」という要望をJR東海は却下していたことが理由」、「川勝知事」の反対の背後には県民の支持があったとは初めて知った。
・『「静岡県vs JR東海」という構図での煽りあいが勃発 のぞみの静岡停車については、「のぞみ通行税」としても話題になった。2002年の静岡県議会で「通過するだけののぞみとひかりの乗車人数に応じて地方税を課したらどうか」という議論があり、当時の石川嘉延静岡県知事が「検討に値する」と答弁したのだ。 静岡空港駅の地下を通る東海道新幹線に駅を設置する運動も県をあげて実施し、調査予算も計上していた。 静岡県内には熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松と6つの新幹線停車駅があり、沿線都府県でもっとも多い。すでに東海道新幹線に優遇された県ともいえる。しかし需要バランスも均衡しており、どれか1つを主要駅としてまとめられないという事情があり、JR東海はリニア中央新幹線の開通後は東海道新幹線の静岡県駅停車を増やすと説明している。 しかし静岡空港駅はJR東海にとって需要がない。そもそも、運営がうまくいっていない静岡空港駅を活性化するために生まれた案であり、JR東海の責任はない。 川勝知事は、静岡空港を首都圏の第三空港にしたいと発言したことがある。成田、羽田につぐ首都圏の第三空港となれば、国の支援も受けやすくなることを見越してのことだろう。そしてそのためには、東海道新幹線の駅を作って東京へのアクセスを良くしたい、ということだ。 とはいえJR東海から見れば、静岡県が首都圏第三空港になってから新幹線の駅を作るかを検討したいところだろう。そこで話は止まっていた。 静岡県民の中にうっすらとあった「JR東海が言うことを聞いてくれない」という感情を知っているからこそ、地元紙の静岡新聞は“県民の側”に立ち、専用のSNSアカウントまで作ってJR東海批判を繰り広げた。 大井川の水量問題は、静岡県の「命の水」の危機として対立を煽る報道は全国紙やテレビなどに伝播し「静岡県vs JR東海」の構図は鮮明になっていった』、「川勝知事は、静岡空港を首都圏の第三空港にしたいと発言したことがある。成田、羽田につぐ首都圏の第三空港となれば、国の支援も受けやすくなることを見越してのことだろう。そしてそのためには、東海道新幹線の駅を作って東京へのアクセスを良くしたい、ということだ。 とはいえJR東海から見れば、静岡県が首都圏第三空港になってから新幹線の駅を作るかを検討したいところだろう。そこで話は止まっていた・・・大井川の水量問題は、静岡県の「命の水」の危機として対立を煽る報道は全国紙やテレビなどに伝播し「静岡県vs JR東海」の構図は鮮明になっていった」、なるほど。
・『知事の真のゴールはリニア新幹線が「静岡県内を通らないこと」 いま思えば、川勝知事にとっての真のゴールは「静岡県内を通らないこと」だったのだろう。だからこそ「リニア中央新幹線には賛成の立場」なのだ。しかしJR東海から良い返事がなければ国土交通省へ要請し、国土交通省が要求を蹴れば環境省へ赴く。そうやって実際の工事はどんどん遅れていった。 静岡県の働きかけに応じて、国土交通省はリニア中央新幹線の「水問題」「生物環境問題」について「有識者会議」を立ち上げた。当初は国もJR東海に対して「きちんと説明するように」と指示していたが、それでは収まらないという判断だ。 2020年から13回にわたる長い議論の末、水問題に関しては「JR東海の考え方、対処によって中流下流域に影響なし」という「中間報告」を出した。ちなみに中間報告は行政用語で「議論終了」を意味する。 「生物環境問題」も有識者会議によって、22年6月8日から14回にわたり検討された。該当地域の生物環境は地下水ではなく地表から浅いところの表層水で維持されていることがわかった。 ただし、自然環境は「なにがおきるかわからない」不確実性があるため、35の沢のうちトンネルと交差する11の沢を選び、トンネル側に水が流出しないように凝固剤で固めることとした。その上で、定期的に現地調査を行う「順応的管理」を実施する。これは遠隔モニターではなく、実際に登山して調査するという。これも決着である。 最後の「トンネル掘土」の置場について、JR東海は山中の3カ所を選定した。土地所有者とも合意済みで、山奥のためダンプカーが人里を走ることもない。重金属など毒性のある成分を含む「要対策土」は遮水シールドで密封する。また、降雨時は排水をまとめて水質を検査し、基準を満たす水を川へ流す。 この対策について静岡市の難波喬司市長も「JR東海の設置方法で概ね問題ない」と表明した。難波氏は、国土交通省で港湾局災害対策室長を務めた技術官僚出身である。 川勝知事は「その場所は深層崩壊の懸念がある」と反発したが、難波市長は「盛り土はむしろ下流域への崩壊を防ぐ。大規模な土砂崩れの予測と対策は河川管理者の県の責任」でありJR東海は責任を負わないという見解を示した。そもそも鉄道の盛り土は「ただの土砂捨て場」ではない。東海道新幹線だって盛土の部分はたくさんある。盛り土は鉄道技術による「建築物」なのだ。 これで静岡県が懸念する「水問題」「環境問題」「盛り土問題」は解決したことになる』、「国土交通省はリニア中央新幹線の「水問題」「生物環境問題」について「有識者会議」を立ち上げた。当初は国もJR東海に対して「きちんと説明するように」と指示していたが、それでは収まらないという判断だ。 2020年から13回にわたる長い議論の末、水問題に関しては「JR東海の考え方、対処によって中流下流域に影響なし」という「中間報告」を出した。ちなみに中間報告は行政用語で「議論終了」を意味する・・・静岡市の難波喬司市長も「JR東海の設置方法で概ね問題ない」と表明した。難波氏は、国土交通省で港湾局災害対策室長を務めた技術官僚出身である。 川勝知事は「その場所は深層崩壊の懸念がある」と反発したが、難波市長は「盛り土はむしろ下流域への崩壊を防ぐ。大規模な土砂崩れの予測と対策は河川管理者の県の責任」でありJR東海は責任を負わないという見解を示した。そもそも鉄道の盛り土は「ただの土砂捨て場」ではない。東海道新幹線だって盛土の部分はたくさんある。盛り土は鉄道技術による「建築物」なのだ。 これで静岡県が懸念する「水問題」「環境問題」「盛り土問題」は解決したことになる」、なるほど。
・『反リニア中央新幹線で固めた専門家会議の行方は… しかし静岡県は国の有識者会議の結論を受けて「2019年に提出したJR東海との対話を要する事項47項目のうち、30項目が終わっていない」とし、引き続き県が独自に結成した専門家会議で議論すると主張した。これでは甲子園で優勝校が決まったのに、もう一度地方予選をやらないと結果を認めないというようなものだ。あるいは、最高裁で判決が出たのに、もういちど地方裁判所に訴えるというべきか。 しかし、川勝知事の突然の辞任によって静岡県庁はハシゴを外された形になった。こんどは静岡県庁の引っ込みが付かない。反リニア中央新幹線で固めた専門家会議をどうクリアしていくかは今後の課題になる。 国の有識者会議の検討と同時期に、JR東海は大井川流域の人々に説明会を開いて事業への理解を求めていた。もっと早くやっておくべきだったとも言えるが、川勝知事が2018年に「JR東海との交渉を知事戦略室に集約する」として、JR東海と流域の直接対話を禁じていた経緯もある。説明会の後、流域の自治体は少しずつJR東海に理解を示し、「県は情報を伝えてくれなかった」「県の話とは違う」という声が出始めていた。 この頃から、川勝知事の不規則な発言が増えている。「静岡工区だけが遅れているわけではない。他の工区も遅れている」と神奈川県を批判して神奈川県知事に反論されたこともある。確かに他の工区も遅れているが、静岡工区は「着工できていない」状態だ。この差は大きい。 リニア中央新幹線の部分開業について、JR東海などは東京~名古屋間を指しているけれども、川勝氏は東京~甲府間を指し「JR東海も部分開業と言っている」と発言した。国のモニタリング会議は有識者会議の状況を確認する会議であるところ、川勝氏は「JR東海の素行をモニタリングする」ような勘違いと思われる発言もした。もはや報道する側も川勝知事の本意がつかめない様子だった。 長く鉄道取材を続けてきた人間として、静岡県はリニア中央新幹線の着工の可否という段階を終わらせて、補償の形を詰める段階に入るべきだと思う。川勝知事の後を決める選挙で、候補者にはぜひ国の有識者会議の結果を受け入れるか、反発を続けていくかを明確にして県民の意見を問うてほしいものだ。 選挙で静岡県民がどのような判断をするかはともかく、次の静岡県知事は、川勝氏より話が通じる人であってほしいと願わずにはいられない』、「JR東海は大井川流域の人々に説明会を開いて事業への理解を求めていた。もっと早くやっておくべきだったとも言えるが、川勝知事が2018年に「JR東海との交渉を知事戦略室に集約する」として、JR東海と流域の直接対話を禁じていた経緯もある。説明会の後、流域の自治体は少しずつJR東海に理解を示し、「県は情報を伝えてくれなかった」「県の話とは違う」という声が出始めていた・・・川勝知事の後を決める選挙で、候補者にはぜひ国の有識者会議の結果を受け入れるか、反発を続けていくかを明確にして県民の意見を問うてほしいものだ。 選挙で静岡県民がどのような判断をするかはともかく、次の静岡県知事は、川勝氏より話が通じる人であってほしいと願わずにはいられない」、その通りだ。
第五に、4月15日付け東洋経済オンライン「静岡リニア「開業10年遅れ」JR東海の経営大丈夫? 突然辞任、川勝知事の「置き土産」が及ぼす影響」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/747607
・『静岡県の川勝平太知事が4月10日、県議会の中沢公彦議長に辞表を提出した。1日、県庁の新入職員への訓示で職業差別と取られかねない発言をしたことが辞任の引き金となったが、3日の辞任会見や10日の定例記者会見では、「リニア中央新幹線の問題に一区切りついた」ことも辞任の理由の1つに挙げた』、興味深そうだ。
・『リニア問題「一区切り」とは? 「一区切り」とは何を指すのか。川勝知事が静岡工区の着工を認めない根拠の1つとしてきた南アルプスの生物多様性への影響などについて、県は「47項目のうち30項目で対話が終わっていない」としているので、この問題ではない。「一区切り」とは、3月29日に国土交通省で開催されたモニタリング会議でJR東海の澤田尚夫常務執行役員が「静岡工区の着工から開業まで10年程度かかる」と説明したことだ。今すぐ着工しても品川―名古屋間の開業は2034年となる。さらに、矢野弘典座長から静岡工区の工事の進め方について問われると、高速長尺先進ボーリングに3~6カ月、工事ヤードの整備に6カ月、トンネル掘削工事に10年程度、ガイドウェイ設置工事などについて2年程度かかるという見方を示した。 この発言を受け、川勝知事は3日の会見で「2027年というくびきが外れた。JR東海の事業計画は根本的に崩れた。今から工事を始めても13年弱かかり、静岡工区の完了は2037年になる」と話した。どうやら、JR東海が2027年開業という旗印を下ろしたことをもって、一区切りついたと考えているようなのだ。) ただ、本当にそれが目的であれば、JR東海は2020年6月に2027年の開業が間に合わないことを実質的に認めている。そもそもJR東海は2017年11月に静岡工区の工事契約を締結し、この時点で着工から開業まで10年という見方を示していた。その後、2020年6月に「今月中の着工が2027年開業のギリギリのタイミング」として、川勝知事にトンネル工事の前段階としてヤード整備の許可を願い出た。本来なら全体の工事は10年かかるところ、人材や機材をやりくりしてすべての工程が順調に進めば2027年に間に合う可能性があると判断したためだ。しかし、この提案は拒否され、2020年6月の時点で2027年開業は事実上不可能となった。 2023年12月、JR東海は「2027年」とされていた品川―名古屋間の開業時期を「2027年以降」に変更することを国土交通省に申請し認可を得た。開業が遅れることが「事実上」ではなく、正式に決まった。 川勝知事はこの時点で「JR東海は旗印を下ろした」と宣言してもよかった。しかし、JR東海は具体的な開業時期について明示しなかった。静岡工区がいつ着工できるかわからない以上、明示しないのは当たり前なのだが、なぜか川勝知事は「以降」と書いてあるのだから、「2027年開業の旗印を下ろしていない」と受け止めた。今回、「今から始めても10年かかる」という発言で、川勝知事はようやく「一区切りついた」と納得した』、「今回、「今から始めても10年かかる」という発言で、川勝知事はようやく「一区切りついた」と納得した」、なるほど。
・『工事「13年弱」JR東海は否定 以上のことからわかるとおり、3月29日のJR東海の発言は川勝知事が「一区切り」というほど重要なものでもない。JR東海は「今から工事を始めても10年」の根拠について、2017年時点の計画をそのまま適用しているにすぎない。2020年6月の段階では7年に短縮できる可能性があると考えていたが、長野県内や山梨県内の工事の状況から判断すると現在では短縮は難しいとしている。さらに、川勝知事がそれぞれの手順を単純に足して13年弱としていることについては「並行して進めることができる作業もあるため実際には10年程度」としており、川勝知事の13年という発言を否定している。 静岡のせいでリニア開業が遅れるという批判をかわすため、川勝知事は神奈川県駅(仮称)と山梨県駅(仮称)の間を先行開業させる構想を唱えてきた。リニア問題は一区切りついたと主張する川勝知事に対し、「部分開業させることが目的ではなかったのか」という質問が10日の会見で報道陣から出た。 川勝知事は「私が勝手に言っているわけではない」として、2010年5月に開催された国のリニア中央新幹線小委員会でJR東海が「(神奈川県駅と山梨県駅の間にある山梨リニア)実験線の延伸完成から間断なく(品川―名古屋間の工事に)着手することが重要」と説明していることを踏まえ、「延伸完成とは駅と駅がつながって営業できるようになることを指す」と述べ、部分開業はJR東海のアイデアだとした。しかし、実験線の延伸完成とは2008年に工事が始まり2013年に完成した42.8kmへの延伸工事のことである。この点でも川勝知事の発言は正しくない。 それはさておき、南アルプスの生物多様性の議論を道半ばで放り出し、矢野座長に後を任せるという。では、矢野座長が川勝知事の意に沿う形でモニタリング会議を進めるのだろうか。さすがにそれは考えにくい。NEXCO中日本の元会長として実務経験を持つ矢野座長は3月29日のモニタリング会議でも「小異を捨てて大同につくという精神で進めてほしい」と発言している。小異というのが県が協議が必要と主張する30項目であるのは明らかだ。 川勝知事の辞任に合わせるかのように、県の専門部会が12日、昨年10月以来半年ぶりに開催された。後任知事の意向次第では今後の議論の方向が着工容認に傾く可能性もある。 では、南アルプスの環境などの問題ではなく、JR東海が事業計画を変更したことをなぜ「一区切りついた」というのだろう。その理由として1つ思い当たるのが、富士山静岡空港をめぐる川勝知事とJR東海の確執だ。リニア計画決定前の2010年7月、ルートや経済効果などを検討する国の会議に川勝知事が参加し、東海道新幹線が富士山静岡空港の真下を通っていることを踏まえ、空港に隣接した新駅を設置する提案を行った。2011年5月に同会議がまとめた報告書には東海道新幹線の「新駅設置の可能性」について触れられていた。場所についての記載はないが、川勝知事はリニアが開業すれば空港の真下に新駅ができると信じた』、「南アルプスの生物多様性の議論を道半ばで放り出し、矢野座長に後を任せるという。では、矢野座長が川勝知事の意に沿う形でモニタリング会議を進めるのだろうか。さすがにそれは考えにくい。NEXCO中日本の元会長として実務経験を持つ矢野座長は3月29日のモニタリング会議でも「小異を捨てて大同につくという精神で進めてほしい」と発言している。小異というのが県が協議が必要と主張する30項目であるのは明らかだ・・・リニア計画決定前の2010年7月、ルートや経済効果などを検討する国の会議に川勝知事が参加し、東海道新幹線が富士山静岡空港の真下を通っていることを踏まえ、空港に隣接した新駅を設置する提案を行った。2011年5月に同会議がまとめた報告書には東海道新幹線の「新駅設置の可能性」について触れられていた。場所についての記載はないが、川勝知事はリニアが開業すれば空港の真下に新駅ができると信じた」、なるほど。
・『知事が示した「リニア工事の代償」 川勝知事は空港新駅設置に向け、2015年6月から有識者からなる技術検討委員会をスタートさせた。新駅完成後は県庁の一部機能を空港近くに移転する案まで飛び出した。しかし、JR東海は空港新駅構想には一貫して否定的であり、川勝知事のリニアに対する姿勢も次第に硬化。業を煮やした川勝知事は2016年9月の県議会答弁で、「リニアと既存の新幹線との関係にも念頭を置きながら、JR東海が静岡県のために何ができるか」と発言し、新駅とリニア問題をセットにしてJR東海に働きかけを行っていく意向を示した。それもうまくいかず、その結果が、2017年10月の突然の反対表明である。 2019年6月の定例会見では川勝知事は「リニア工事は静岡県にまったくメリットがなく、工事を受け入れるための“代償”が必要」と発言、具体的な代償の内容について「各県の駅建設費の平均くらいの費用が目安になる」と言い切った。2019年の時点でもまだ新駅にこだわっていたのだ。空港新駅計画をつぶされた腹いせがリニアの事業計画変更という筋書き。このように両者を結びつけるのは、やや強引だろうか。 4月4日、JR東海はリニアに関する今後の発注見通しを発表した。そこには山梨県駅の新設工事の工期が約80カ月、飯田市内に建設される高架橋の工期が約70カ月となっている記載があった。今すぐ契約を締結して工事に着手したとしても工事完了の時期は2030〜2031年ということになる。川勝知事にしてみれば「ほかの工区でも工事が遅れていることが証明された」ということになるが、これも正しい見方とはいえない。静岡工区の完成が遅れることがはっきりした以上、ほかの工区を無理して2027年に完成させる必要はないのだ。) むしろ気になるのは、リニアの開業遅れがJR東海の経営に与える影響だ。 短期的・中期的にはまったく影響ないどころか、財務面ではプラスとなる。東海道新幹線の収益力は高い。コロナ禍前の2018年度におけるJR東海の運輸セグメントの業績は売上高1兆4613億円に対して営業利益は6648億円だった。売上高営業利益率は45.4%である。ここから在来線の収支を差し引いた東海道新幹線の利益率がさらに高いことは、容易に想像できる。 コロナ禍の影響が残る2023年度の業績予想においても運輸セグメントの売上高1兆3670億円、営業利益4980億円。リニア計画を作成した時点の運輸セグメントの収支見通し(2006〜2010年度業績予想の5年平均)は売上高1兆2049円、営業利益3485億円なので、リニア開業前の収支想定を大きく上回っている。今後コロナ禍の影響が減れば収支は2018度の実績に近づいていく。収支が想定を上回っているだけでなく、リニア開業が10年遅れれば、JR東海は東海道新幹線で得た利益を内部留保する期間が10年延びる。2008年度から2018年度の10年間でJR東海の利益剰余金は2兆円以上増えた。今後もそのペースで蓄積できれば、財務面での安定性は増す』、「リニアの開業遅れがJR東海の経営に与える影響だ。 短期的・中期的にはまったく影響ないどころか、財務面ではプラスとなる。東海道新幹線の収益力は高い・・・リニア計画を作成した時点の運輸セグメントの収支見通し・・・は売上高1兆2049円、営業利益3485億円なので、リニア開業前の収支想定を大きく上回っている。今後コロナ禍の影響が減れば収支は2018度の実績に近づいていく。収支が想定を上回っているだけでなく、リニア開業が10年遅れれば、JR東海は東海道新幹線で得た利益を内部留保する期間が10年延びる。2008年度から2018年度の10年間でJR東海の利益剰余金は2兆円以上増えた。今後もそのペースで蓄積できれば、財務面での安定性は増す」、開業の遅れれば、「東海道新幹線で得た利益を内部留保する期間が10年延びる」、「JR東海」にとっては好ましい結果だ。
・『「開業10年遅れ」が生む懸念 しかし、長期的には話が違ってくる。リニアが開業すれば工事費用の減価償却が始まる。品川―名古屋間だけで約7兆円の工事費がかかる。車両や橋梁など固定資産の種類によって償却期間はさまざまだが、仮に全額をトンネルの税務上の耐用年数である60年で定額償却すれば毎年1166億円の減価償却費が発生する。そのため、リニア開業前の利益水準を下回る可能性がある。その後は名古屋開業後に連続して行われる名古屋―新大阪間の工事費用の減価償却が控えている。これらの点はリニアの事業計画に織り込み済みだが、想定外の事態としては開業が10年遅れると、総額3兆円の財政投融資の返済時期と重なってしまう。 返済期限は2055年から2056年にかけて。JR東海は「10年程度かけて返済する」としており、2046年頃から返済を始める計画だ。本来のスケジュールであれば2046年とは大阪開業から9年経ち、経営が安定している時期である。しかし、開業が10年以上遅れた場合、開業直前の資金需要が増える時期と財政投融資の返済時期が重なる可能性がある。この点についてJR東海に問い合わせると、「返済額は金融機関からの借り換えなどで対応し、健全経営と安定配当を堅持する」と回答した。 さらに怖いのは、東京―名古屋―大阪という日本の大動脈輸送の二重系化の完成が遅れることだ。リニアが完成しないことには東海道新幹線は長期間にわたる部分運休を伴う大規模な改修工事は難しいし、リニアの完成前に大規模な大災害が発生して東海道新幹線が寸断されれば、JR東海の収入は激減する。最悪の場合、それが借り換え計画に影響を及ぼす可能性するある。JR東海としては、川勝知事の「手柄」であるリニア開業10年遅れの間に巨大災害が起きないことを祈るばかりであろう』、「さらに怖いのは、東京―名古屋―大阪という日本の大動脈輸送の二重系化の完成が遅れることだ。リニアが完成しないことには東海道新幹線は長期間にわたる部分運休を伴う大規模な改修工事は難しいし、リニアの完成前に大規模な大災害が発生して東海道新幹線が寸断されれば、JR東海の収入は激減する。最悪の場合、それが借り換え計画に影響を及ぼす可能性するある。JR東海としては、川勝知事の「手柄」であるリニア開業10年遅れの間に巨大災害が起きないことを祈るばかりであろう」、その通りだ。
第六に、4月21日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの宮原 健太氏による「自民党がさらなる窮地へ…? 川勝知事の後任選挙の「驚きの実態」 明らかになってきた調査結果」を紹介しよう。
・『与野党対決の選挙 「野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとは違って、皆様方は頭脳、知性の高い方たちです」 新年度早々、静岡県庁の新入職員に対する訓示で、とんでもない職業差別的な発言をして電撃辞職することとなった川勝平太知事。 5月9日告示、26日投開票と短期決戦で行われる知事選を巡っては、4月18日に自民党が元副知事の大村慎一氏を、立憲民主党と国民民主党が元浜松市長の鈴木康友氏を推薦する方針を固め、与野党対決の構図が決まった。 永田町では自民と立憲が知事選に向けて実施した情勢調査の内容が出回っている。 自民党が実施した調査によると鈴木氏が39.9ポイントを獲得し、大村氏の29.3ポイントから10ポイント以上リード。 立憲が実施した調査でも鈴木氏が28.2ポイントを獲得し、大村氏の20.9ポイントに対して差をつけている。 調査結果を見て永田町関係者は「もともと衆議院議員や浜松市長を歴任してきた鈴木氏が知名度で優っている分、数字が良く出ているのだろう」と分析した。 一般的に短期決戦で行われる選挙では、すでに地域に浸透している知名度の高い候補が有利となる。 今回の発言があった当初、川勝氏は6月議会冒頭で辞職する意向を示していたが、「県政の空白を短くする」として辞表提出を4月10日に前倒し。 その背景には、知事選の投開票までの期間を短くすることで、鈴木氏が有利になるよう取り計らったという事情もあったという。) こうした舞台作りのために働きかけたとされているのが、浜松市に本社を置くスズキの相談役、鈴木修氏だ。 「鈴木修氏は川勝氏や鈴木康友氏を支援してきており、自身の意中の人物が次の知事となるように調整したのだろう」と永田町関係者は語る。 それに対して自民は大村氏側に付き、非自民として活動してきた川勝氏なきあとの知事の座奪還を目指す。 自民県連の増田享大幹事長は4月18日、大村氏を支援する理由について「全県的な視点で課題を捉えている」と話したが、浜松市の地域色がついている鈴木氏よりも、大村氏のほうが県内全域からの支持が得やすいと踏み、形勢逆転を目指していく戦略のようだ。 もし自民が「全敗」したら… 急転直下の辞任劇から、5月投開票という短期決戦となった静岡県知事選。 与野党対決となったことを受けて、4月28日投開票の衆院3補選に続いて、岸田政権の求心力や、与野党の力関係を測るバロメーターとしても機能することになりそうだ。 もし、自民党が3補選で全敗を喫し、静岡県知事選でも敗れることとなれば、岸田政権にとっては大きな痛手となり、国政運営や解散戦略、今年9月の自民党総裁選にも影響が生じ得るだろう。 奇しくも静岡県は、自民党を揺るがす裏金問題において、安倍派座長として離党勧告を受けた塩谷立衆院議員のお膝元でもある。 地域の課題に加えて、国政の問題も様々問われる中で、静岡県民はどちらの候補を選ぶか判断を迫られることとなる。 さらに【つづき】「自民党がいよいよ窮地へ…ナンバー2・茂木幹事長がついに口にした「驚愕のひと言」」の記事では、自民党がいま迎えている大きな危機について報じている』、「自民党が元副知事の大村慎一氏を、立憲民主党と国民民主党が元浜松市長の鈴木康友氏を推薦する方針を固め、与野党対決の構図が決まった・・・自民党が実施した調査によると鈴木氏が39.9ポイントを獲得し、大村氏の29.3ポイントから10ポイント以上リード。 立憲が実施した調査でも鈴木氏が28.2ポイントを獲得し、大村氏の20.9ポイントに対して差をつけている」、「鈴木康友氏」のリニア問題への姿勢はまだ不明だが、「スズキの相談役、鈴木修氏」がバックにいるようなので、少なくとも中立だろう。「JR東海」としては一安心だろう。
先ずは、本年4月12日付け現代ビジネスが掲載した小林 一哉氏による「静岡・川勝知事がリニア問題の解決策などすべて放り投げて辞職…そのヤバすぎる「正体」」を紹介しよう。
・『無責任すぎる川勝知事 静岡県の静岡県の川勝平太知事は、リニア問題の解決策など示さず、一切合切をすべて放り投げた。 もともと大井川流域の首長たちは、川勝知事にリニア問題を一任することで、リニア問題の決着とともに、東海道新幹線静岡空港新駅の設置など何らかの地域振興をもたらすことを期待していた。 それなのに、リニア南アルプストンネル静岡工区着工への手立ても示さず、また流域の期待にも何らこたえず、混乱だけを巻き起こしたまま、静岡県庁から去ることになった。 あまりに無責任な姿勢だが、これが川勝知事の「正体」である。 「あたかも、水は一部戻してやるから、ともかく工事をさせろという態度に、わたしの堪忍袋の緒が切れました」 2017年10月10日の定例会見が、川勝知事による静岡県の「リニア騒動」の始まりだった。 当時、JR東海と大井川流域の利水者11団体と静岡工区着工に向けた基本協定を結ぶ詰めの交渉が行われている最中だった。 ところが、川勝知事は「堪忍袋の緒が切れた」と怒りを露わにしたあと、「水問題に具体的な対応を示すことなく、静岡県民に誠意を示すといった姿勢がないことを心から憤っている」などとさらにヒートアップした。 そして、「勝手にトンネルを掘りなさんな」と基本協定の交渉にストップを掛ける「ちゃぶ台返し」をしてしまう。 この日の知事会見を皮切りに、川勝知事による無理難題の言いたい放題、やりたい放題が始まり、まさに「リニア騒動」と呼ばれるさまざまな混乱が続くことになった。 2018年夏から、静岡県とJR東海との『対話』が始まったが、現在まで何らの進展も見られない』、「2018年夏から、静岡県とJR東海との『対話』が始まったが、現在まで何らの進展も見られない」、そんなに長く続いているとは、改めて問題の深刻さを再認識した。
・『自分の非を自覚せず 「リニア騒動」の混乱に収拾はつかず、ことし7年目を迎えた矢先だった。 4月1日の新規採用職員の訓示で、「職業差別発言」を行ったと糾弾されると、川勝知事は突然、2日夕方に辞意を表明、3日、辞職にいたる理由などを説明する会見を行った。 当初、6月19日の県議会開会に合わせて、辞職する方向だったが、急きょ10日午前に、静岡県議会議長に辞表を提出した。 このままいけば、川勝知事は5月10日に自動的に退職することになる。 これで、川勝知事本人の引き起こした「リニア騒動」の幕がいったん、引かれるが、静岡県のリニア問題が解決したわけではない。 県議会議長への辞表提出後、川勝知事は10日午後、今後のリニア問題への対応などをテーマとした定例会見にのぞんだ。 辞意表明の翌日、3日の会見で辞職するいちばんの理由を「リニア問題の区切りがついたから」などと述べた。 このため、記者から「リニア沿線の都府県でつくる建設促進期成同盟会会長の愛知県の大村(秀章)知事から、ひと区切りというのは違うのではないかと批判の声があった」と投げ掛けられた。 川勝知事は 「リニア問題に関してこれを放り出すことはできない。どのような道筋が描けるか、これが本県にとって重要課題だ。国のリニア静岡工区モニタリング会議座長の矢野(弘典)さんを信じている。まかせられる。モニタリングは、工事の日程、事業計画と不可分であるというのが矢野さんの意見だ。ここでやっていければいい。矢野さんにバトンタッチできる」 などと何度も矢野座長の名前を挙げた。) 実際には、リニア問題の区切りがついたわけでも、道筋が描かれたのでもなく、昔から懇意の矢野座長に「リニア騒動」の混乱すべてを放り投げたに過ぎない。 誰が考えても、川勝知事が反リニアを貫き、リニア妨害を繰り返していたことを見透かされていた。 これに対して、川勝知事は「わたしどもは早期開業に対して、足を引っ張っているようなことをしたことは一度もない」と大見得を切った。 このような嘘を平気で口にするのが、川勝知事の「正体」である。 川勝知事の「正体」は、2022年夏のリニア南アルプス工事現場の視察と建設促進期成同盟会での発言を振り返れば、いちばんわかりやすい。 後編『川勝知事が残した“最悪の置き土産”…意味のなかった「リニア騒動」の全貌』で詳しく解説する』、「リニア問題に関してこれを放り出すことはできない。どのような道筋が描けるか、これが本県にとって重要課題だ。国のリニア静岡工区モニタリング会議座長の矢野(弘典)さんを信じている。まかせられる。モニタリングは、工事の日程、事業計画と不可分であるというのが矢野さんの意見だ。ここでやっていければいい。矢野さんにバトンタッチできる」 などと何度も矢野座長の名前を挙げた」、「矢野座長」の考え方はどうなのだろう。
次に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した小林 一哉氏による「川勝知事が残した“最悪の置き土産”…意味のなかった「リニア騒動」の全貌 『知事失格』のらく印が押されたまま」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127644
・『静岡県の川勝平太知事は、リニア問題の解決策など示さず、一切合切をすべて放り投げた。あまりに無責任な姿勢を見せた川勝知事だが、彼のこの「正体」は、2022年夏のリニア南アルプス工事現場の視察と建設促進期成同盟会での発言を振り返れば、いちばんわかりやすい。 前編『静岡・川勝知事がリニア問題の解決策などすべて放り投げて辞職…そのヤバすぎる「正体」』、興味深そうだ。
・『川勝知事に寄せる期待は「虚しい」ばかり 静岡県は2022年7月14日、リニアの早期開業を目指す沿線都府県の「建設促進期成同盟会」への加盟を許可された。 同年8月9日に初めて開かれたオンラインの総会で、川勝知事は「2027年品川―名古屋間の開業、2037年大阪までの延伸開業を目指す同盟会の立場を共有する」、「リニア整備の促進を目指してスピード感を持って課題の解決に取り組む」と同盟会加盟に際しての誓約を表明した。 沿線知事らは川勝知事の「正体」を何ら知らずに、「早期全線開業を目指す態勢が整った」と期待を寄せたのだ。 その前日の8日、川勝知事はリニア南アルプストンネル静岡工区で最大規模の残土置き場が計画される燕沢(つばくろさわ)と東京電力RPの田代ダムを視察した。 その際の発言を承知していれば、川勝知事への期待がいかに虚しいかわかったはずだった。 JR東海は同年4月、東電RPの内諾を得た上で、田代ダムの取水抑制案という、川勝知事の求める県境付近での工事中の「全量戻し」に対する解決策を発表した。 このため、大勢のメディアを引き連れての田代ダム視察を行った。 視察には、県地質構造・水資源専門部会の森下祐一部会長(静岡大学客員教授)、塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)が同行した。 まず、大井川流域の大規模崩壊地である赤崩(あかくずれ)を車中から視察した。 塩坂委員が「畑薙山断層帯は非常に弱い地層であり、大量の突発湧水が出る恐れがある」などと警告した。 塩坂委員は、トンネル建設予定地の断層は「背斜構造となっていて力の掛かり具合が複雑であり、地下水枯渇の恐れがある」などの持論を披露して、地下トンネル建設に強い疑問を投げ掛けた。これが県専門部会委員の役割である』、「塩坂委員が「畑薙山断層帯は非常に弱い地層であり、大量の突発湧水が出る恐れがある」などと警告した。 塩坂委員は、トンネル建設予定地の断層は「背斜構造となっていて力の掛かり具合が複雑であり、地下水枯渇の恐れがある」などの持論を披露して、地下トンネル建設に強い疑問を投げ掛けた。これが県専門部会委員の役割」、なるほど。
・『川勝知事の‟置き土産‟が今後もテーマに 燕沢の視察では、森下部会長とともに川勝知事が新たな課題を突きつけた。 JR東海担当者は高さ65メートル、長さ290メートル、奥行き600メートルで、トンネル工事で発生する残土の大半、約360万㎥を盛り土するツバクロ残土置き場の計画を説明した。 この説明に対して、川勝知事は、過去に土石流が起きていることを指摘した上で、「深層崩壊について検討されておらず、残土置き場にふさわしくない。極めて不適切」と強く否定したのだ。 JR東海は、残土置き場として標高約2千メートルに予定した扇沢を山体崩壊の危険性から取りやめた経緯から、燕沢での崩壊対策などを県専門部会で詳しく説明してきた。 過去の論文等を基に燕沢周辺での深層崩壊の可能性は非常に低いことにも触れた。 ところが、川勝知事は燕沢に強い否定意見を述べたのだ。 視察時の知事の否定意見そのままに、県はことし2月5日の会見で、JR東海との新たな「対話項目」に、ツバクロ残土置き場計画について、斜面崩壊のリスク、土石流の緩衝地帯の機能低下など広域的な複合リスクを挙げている。 川勝知事の言うように、本当に「残土置き場にふさわしくない。極めて不適切」だとすれば、いまから代替地を探すのは極めて困難であり、トンネル工事そのものができなくなる。 川勝知事の‟置き土産‟が今後も県専門部会の「対話」のテーマとなるのだ。 また、川勝知事は田代ダム取水抑制案も否定した。 視察に同行した、山梨県早川町の辻一幸町長が「大井川、早川は間ノ岳が源流であり、いうなれば同じ流域だ。南アルプスのリニアトンネル建設を成功させることで地元を活性化させていくことがわたしの使命」などと述べ、田代ダム取水抑制案を強く支持する意向を述べた。 ところが、川勝知事は「濁水ではなく清流の水が戻ってくるのだから、田代ダム取水抑制案の実現に向けて県専門部会でJR東海は説明してほしい。取水抑制による大井川への放流は地域貢献であり、リニア工事中の全量戻しにはならない」と、「全量戻しの解決策ではない」と否定してしまう。) 翌日9日の定例会見で、知事の意向をあらためて確認すると、川勝知事は「全量戻しとはトンネル掘削中に出る水をちゃんと循環させて戻すということで、中間報告の中身とは違う」などあらためて田代ダム取水抑制案は全量戻しにならないと否定した。 静岡県は、いまだに「全量戻し」とは、県外流出した湧水をそのまま戻すことであり、田代ダム取水抑制案は単なる代替策であるという立場を崩していない。 川勝知事は、南アルプスの工事現場視察で、リニア問題の解決へはほど遠い発言を繰り返し、翌日の期成同盟会総会での「スピード感を持った課題解決」とは真逆の発言をしている』、「川勝知事は、南アルプスの工事現場視察で、リニア問題の解決へはほど遠い発言を繰り返し、翌日の期成同盟会総会での「スピード感を持った課題解決」とは真逆の発言をしている」、どちらが本音なのだろう。
・『「リニア騒動」は無駄な時間だった この2日間だけを見ても、川勝知事がリニアの早期開業の足を引っ張ってきたことは明らかである。 同じ会見で、テレビ静岡の記者が「知事就任以来、13年の間に、中部横断自動車道とか新東名など、鉄道以外でもさまざまな公共工事が行われている。今後、行われる工事に対しても、(県外流出する湧水の)全量戻しを求めていくという理解でよろしいか」とただした。 これに対して、川勝知事は「リニアに関連して、あれが62万人の命の水になっている。しかも、(大井川の水の状況は)カツカツの状態になっているということだから、全量戻しというのは、掘削中に出るすべての水を戻すことだと有識者会議で言っているわけで、全量戻しは(JR東海のリニア工事という)個別具体的な話だ」と答えた。 この発言に対して、記者は「静岡経済新聞の小林氏(筆者)が本(『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太静岡県知事「命の水」の嘘』飛鳥新社)を上梓されて、62万人というのは事実ではなくて、実際は26万人ではないかという記載があった。この本の中には、知事が嘘を述べているという記述もある。(同書を)読んだあと、事実でないということであれば知事は法的措置等を取るのか?」と尋ねた。 川勝知事は「いちいち、いちいちですね、すべてのジャーナリストが書かれたことに対処するという、いまのところはそういうスタンスを持っていない」などと否定した。 その後も、筆者はウェブ記事を中心に川勝知事のさまざまな「嘘」を紹介してきたが、川勝知事から何らかの対応を受けたことはない。 川勝知事による「リニア騒動」はいったい、何だったのか、5年余という、あまりにもムダな時間が流れた。 結局、拙著の題名通り『知事失格』のらく印が押されたまま退場することになった』、「その後も、筆者はウェブ記事を中心に川勝知事のさまざまな「嘘」を紹介してきたが、川勝知事から何らかの対応を受けたことはない。 川勝知事による「リニア騒動」はいったい、何だったのか、5年余という、あまりにもムダな時間が流れた。 結局、拙著の題名通り『知事失格』のらく印が押されたまま退場することになった」、その通りだ。
第三に、4月14日付け文春オンライン「川勝平太知事が「リニア中央新幹線」反対姿勢を強めた2013年に何があったのか「JR東海は本当にやってくれるのか」という不信の始まりは…」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/70207
・『リニア中央新幹線の構想は、全国新幹線鉄道整備法に基づき、1973年に「基本計画路線」としてリストアップされたことに始まる。起点は東京都、終点は大阪市で、主な経由地は甲府市、名古屋市、奈良市だ。 JR東海が発足する1987年よりも前のことだから、日本鉄道建設公団が建設し、国鉄が営業主体になる計画だった。しかし国鉄の赤字問題の影響で整備計画が作られないまま、構想は塩漬け状態にあった』、「JR東海が発足する1987年よりも前のことだから、日本鉄道建設公団が建設し、国鉄が営業主体になる計画だった。しかし国鉄の赤字問題の影響で整備計画が作られないまま、構想は塩漬け状態にあった」、なるほど。
・『JR東海が「自己資金でやります」と手を挙げて動き出した 国鉄が分割民営化され、JRグループが発足したあと、東北新幹線の盛岡~新青森間、北陸新幹線、九州新幹線などの計画は再開されたが、国の財源が足りないため開通まで時間がかかった。 これらの新幹線が開通しないと、次の新幹線に着手できない。だから中央新幹線はずっと待たされていた。それにしびれを切らしたJR東海が「自分でやります。自己資金でやります」と手を挙げたことで計画は動き出した。 JR東海が中央新幹線を急ぐのには2つ切実な理由があった。 1つは東海道新幹線の輸送量がパンクしかけていたこと。東名阪の移動需要が旺盛で、「のぞみ」を増発しても追いつかない。なんとか1時間にのぞみ12本を運行する「のぞみ12本ダイヤ」までたどり着いたけれど、これが増発の限界だ。「ひかり」や「こだま」も増やしたいところだが、「のぞみ」が優先されていた。 もう1つは、東海道新幹線の老朽化だ。開業から半世紀が過ぎて、トンネルや鉄橋などの構造物は抜本的な点検、改修が必要になってきた。国鉄時代にも水曜日などに半日運休を実施して若返り工事を実施していたが、昨年の災害運休の後に起きた大混雑を見れば判るように、もはや半日運休にすることすら許されない輸送量なのだ。 南海トラフ地震を視野に入れた耐震工事も含め、必要によっては鉄橋の架け替えも必要になる。そうなれば半日ではすまない。日本で最も速い鉄道を振替輸送する鉄道は存在しない。だから、新たに作らなくてはいけない』、「これらの新幹線が開通しないと、次の新幹線に着手できない。だから中央新幹線はずっと待たされていた。それにしびれを切らしたJR東海が「自分でやります。自己資金でやります」と手を挙げたことで計画は動き出した・・・2つ切実な理由があった。 1つは東海道新幹線の輸送量がパンクしかけていたこと。東名阪の移動需要が旺盛で、「のぞみ」を増発しても追いつかない。なんとか1時間にのぞみ12本を運行する「のぞみ12本ダイヤ」までたどり着いたけれど、これが増発の限界だ。「ひかり」や「こだま」も増やしたいところだが、「のぞみ」が優先されていた。 もう1つは、東海道新幹線の老朽化だ。開業から半世紀が過ぎて、トンネルや鉄橋などの構造物は抜本的な点検、改修が必要になってきた。国鉄時代にも水曜日などに半日運休を実施して若返り工事を実施していたが、昨年の災害運休の後に起きた大混雑を見れば判るように、もはや半日運休にすることすら許されない輸送量なのだ」、なるほど。
・『最初の不幸は、JR東海が建設まで引き受けたこと リニア中央新幹線の静岡工区がここまでこじれた原因の1つは、「建設主体がJRTT鉄道・運輸機構(独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構)ではなかったから」だと思う。 中央新幹線は国の基本計画路線であり、国策である。だからJR東海が建設したとしても民間事業ではない。国が、建設主体としてJR東海を指名したという形をとる。 過去の新幹線は建設主体が鉄建公団(現・JRTT鉄道・運輸機構)で、JR各社が営業主体を担っていた。しかし中央新幹線は建設主体もJR東海が担った。じつはこれがボタンの掛け違いの始まりだ。 整備新幹線の建設は、自治体の強い要請を受けて政府が決定し、地方自治体の財源確保や並行在来線分離などの条件を満たし、環境アセスメント手続きを経てRJTT鉄道・運輸機構が着工する。 しかしリニア中央新幹線は、環境アセスメント手続きが終わったらすぐに着工だ。実際には設計を発注し、建設会社が工事に携わる。 JRTT鉄道・運輸機構の役割がJR東海に替わっただけのように見えるが、JRTT鉄道・運輸機構が持っていた新幹線建設のノウハウの中で最も大きな要素は沿線自治体とのコミュニケーションだ。 鉄道建設業界関係者からこんな話を聞いた。 トンネル建設現場から残土が出る。トラックがバンバン通る。それは困るという自治体があるわけです。そんなとき、鉄建公団(当時)は地元とよく話し合って、ダンプのすれ違い場所や警備員の配置など決めた。なるべく予算を抑え、地元も納得する形をとってきた。しかしJR東海は、では道路を拡幅しましょうと言ってすぐ実行する。スピード感があるし、地元としても広い道路が残る。結果としては良いのだけれども、お金で解決して地元を納得させるというやりかたになっている」 地元とのコミュニケーションが希薄なまま工事を進めようとする反動がもっとも大きく出た場所が静岡工区といえる。環境アセスメントが終わってから着工までには、河川や道路などについて地域の自治体から許可をもらう必要がある。鉄建公団には「地域を説得する」という地道な努力とノウハウがあったが、残念ながら新幹線建設が初めてのJR東海にはその知見がなかった。 いままでの整備新幹線が、環境アセスメントが終わればスムーズに着工できたのは、鉄建公団~JRTT鉄道・運輸機構の実績と信頼による。 残土問題や、川や地下水の水涸れ問題は今までもあったが、地元と話し合って、自治体と共同して補償もしてきた。西九州新幹線の時も渇水が起きたが、トンネルからの導水管や新たな井戸を掘って水田に放水している。その実績と信頼があった。 しかしJR東海は地元との対話が少なく、新幹線を作った実績がないので信用度も低い。静岡県の心配は「本当にやってくれるのか」という点だった』、「JR東海は、では道路を拡幅しましょうと言ってすぐ実行する。スピード感があるし、地元としても広い道路が残る。結果としては良いのだけれども、お金で解決して地元を納得させるというやりかたになっている」 地元とのコミュニケーションが希薄なまま工事を進めようとする反動がもっとも大きく出た場所が静岡工区といえる。環境アセスメントが終わってから着工までには、河川や道路などについて地域の自治体から許可をもらう必要がある。鉄建公団には「地域を説得する」という地道な努力とノウハウがあったが、残念ながら新幹線建設が初めてのJR東海にはその知見がなかった。 いままでの整備新幹線が、環境アセスメントが終わればスムーズに着工できたのは、鉄建公団~JRTT鉄道・運輸機構の実績と信頼による。 残土問題や、川や地下水の水涸れ問題は今までもあったが、地元と話し合って、自治体と共同して補償もしてきた。西九州新幹線の時も渇水が起きたが、トンネルからの導水管や新たな井戸を掘って水田に放水している。その実績と信頼があった。 しかしJR東海は地元との対話が少なく、新幹線を作った実績がないので信用度も低い。静岡県の心配は「本当にやってくれるのか」という点だった」、「JR東海」には、「鉄建公団」のような「ノウハウ」がなく、「地元との対話が少なく」、「新幹線を作った実績がないので信用度も低い。静岡県の心配は「本当にやってくれるのか」という点」、なるほど。
・『静岡県の態度が頑なになった決定的なタイミング 静岡県が頑なになったのは、JR東海が2013年の環境影響評価準備書で「トンネルの湧水により、大井川上流域の水は毎秒2立方メートル減少する」と公表してからだ。トンネルによって湧水が発生し、大井川の水が減る。民間企業のJR東海が本当に補償してくれるのか、と不安になったのだ。川勝知事は知事意見として、「静岡県内で発生した水はすべて大井川に戻すこと」と附した。 約2年後、JR東海は解決策として毎秒1.3立方メートルを導水路トンネルで戻し、残りは必要に応じてポンプアップで戻すとした。 JR東海は「水利用に影響が生じた場合にその影響の程度に応じて代替水源の確保などの環境保全措置を実施する予定です」「トンネル内湧水を汲み上げて、非常口から大井川に戻すのも一つの選択肢と考えています」と、減った水量に応じて対応する姿勢だった。 しかし川勝知事は「県民の命の水だ。全量を戻せ」と再度主張した。 しかも「一滴たりとも」と、まるで戯曲「ヴェニスの商人」のようなことを言う。それにJR東海も、売り言葉に買い言葉のように「全量戻す」と約束した。もともと環境影響評価はそうなっている。 しかし静岡県側はこれで収まらない。ポンプの数と位置を説明しろ、本当にそこに置けるのか、など根掘り葉掘り問いただした。その中には「将来、リニア中央新幹線が廃線になったらどのように埋め戻すのか」など、行きすぎた項目もあった。完全に「JR東海の言うことは信用できない」という態度だ。 ただJR東海の回答書も、お世辞にもわかりやすいものとは言えなかった。表計算ソフトのセルにびっしりと文字を並べた書類を非専門家が読み解けるかは不明だ。 もし建設主体がJRTT鉄道・運輸機構ならば、事前に手厚く説明をして、ここまでこじれてはいなかっただろう。 国が東海道新幹線の限界を把握し、もっと早く中央新幹線に着手していれば、JR東海が直接建設することはなかったし、静岡県とこじれることもなかっただろう。その意味では国にも責任がある』、「国が東海道新幹線の限界を把握し、もっと早く中央新幹線に着手していれば、JR東海が直接建設することはなかったし、静岡県とこじれることもなかっただろう。その意味では国にも責任がある」、「国にも責任がある」とは初めて知ったが、正論だ。
第四に、4月14日付け文春オンラインが掲載した杉山 淳一氏による「川勝平太知事の辞任で「静岡県vs.JR東海」の対決構図は終わるのか 反リニア新幹線で固めた「専門家会議問題」も…」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/70207
・『リニア新幹線問題を考えるうえで重要なのは、川勝平太知事のJRとの対決姿勢が一定程度静岡県民に支持されていたという事実だろう。 筆者の友人の静岡県出身者によると、静岡県民のJR東海に対する好感度は他県よりも低いようだ。「のぞみを静岡に停めてほしい」「東海道新幹線に静岡空港駅を作ってほしい」という要望をJR東海は却下していたことが理由だという』、「静岡県民のJR東海に対する好感度は他県よりも低いようだ。「のぞみを静岡に停めてほしい」「東海道新幹線に静岡空港駅を作ってほしい」という要望をJR東海は却下していたことが理由」、「川勝知事」の反対の背後には県民の支持があったとは初めて知った。
・『「静岡県vs JR東海」という構図での煽りあいが勃発 のぞみの静岡停車については、「のぞみ通行税」としても話題になった。2002年の静岡県議会で「通過するだけののぞみとひかりの乗車人数に応じて地方税を課したらどうか」という議論があり、当時の石川嘉延静岡県知事が「検討に値する」と答弁したのだ。 静岡空港駅の地下を通る東海道新幹線に駅を設置する運動も県をあげて実施し、調査予算も計上していた。 静岡県内には熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松と6つの新幹線停車駅があり、沿線都府県でもっとも多い。すでに東海道新幹線に優遇された県ともいえる。しかし需要バランスも均衡しており、どれか1つを主要駅としてまとめられないという事情があり、JR東海はリニア中央新幹線の開通後は東海道新幹線の静岡県駅停車を増やすと説明している。 しかし静岡空港駅はJR東海にとって需要がない。そもそも、運営がうまくいっていない静岡空港駅を活性化するために生まれた案であり、JR東海の責任はない。 川勝知事は、静岡空港を首都圏の第三空港にしたいと発言したことがある。成田、羽田につぐ首都圏の第三空港となれば、国の支援も受けやすくなることを見越してのことだろう。そしてそのためには、東海道新幹線の駅を作って東京へのアクセスを良くしたい、ということだ。 とはいえJR東海から見れば、静岡県が首都圏第三空港になってから新幹線の駅を作るかを検討したいところだろう。そこで話は止まっていた。 静岡県民の中にうっすらとあった「JR東海が言うことを聞いてくれない」という感情を知っているからこそ、地元紙の静岡新聞は“県民の側”に立ち、専用のSNSアカウントまで作ってJR東海批判を繰り広げた。 大井川の水量問題は、静岡県の「命の水」の危機として対立を煽る報道は全国紙やテレビなどに伝播し「静岡県vs JR東海」の構図は鮮明になっていった』、「川勝知事は、静岡空港を首都圏の第三空港にしたいと発言したことがある。成田、羽田につぐ首都圏の第三空港となれば、国の支援も受けやすくなることを見越してのことだろう。そしてそのためには、東海道新幹線の駅を作って東京へのアクセスを良くしたい、ということだ。 とはいえJR東海から見れば、静岡県が首都圏第三空港になってから新幹線の駅を作るかを検討したいところだろう。そこで話は止まっていた・・・大井川の水量問題は、静岡県の「命の水」の危機として対立を煽る報道は全国紙やテレビなどに伝播し「静岡県vs JR東海」の構図は鮮明になっていった」、なるほど。
・『知事の真のゴールはリニア新幹線が「静岡県内を通らないこと」 いま思えば、川勝知事にとっての真のゴールは「静岡県内を通らないこと」だったのだろう。だからこそ「リニア中央新幹線には賛成の立場」なのだ。しかしJR東海から良い返事がなければ国土交通省へ要請し、国土交通省が要求を蹴れば環境省へ赴く。そうやって実際の工事はどんどん遅れていった。 静岡県の働きかけに応じて、国土交通省はリニア中央新幹線の「水問題」「生物環境問題」について「有識者会議」を立ち上げた。当初は国もJR東海に対して「きちんと説明するように」と指示していたが、それでは収まらないという判断だ。 2020年から13回にわたる長い議論の末、水問題に関しては「JR東海の考え方、対処によって中流下流域に影響なし」という「中間報告」を出した。ちなみに中間報告は行政用語で「議論終了」を意味する。 「生物環境問題」も有識者会議によって、22年6月8日から14回にわたり検討された。該当地域の生物環境は地下水ではなく地表から浅いところの表層水で維持されていることがわかった。 ただし、自然環境は「なにがおきるかわからない」不確実性があるため、35の沢のうちトンネルと交差する11の沢を選び、トンネル側に水が流出しないように凝固剤で固めることとした。その上で、定期的に現地調査を行う「順応的管理」を実施する。これは遠隔モニターではなく、実際に登山して調査するという。これも決着である。 最後の「トンネル掘土」の置場について、JR東海は山中の3カ所を選定した。土地所有者とも合意済みで、山奥のためダンプカーが人里を走ることもない。重金属など毒性のある成分を含む「要対策土」は遮水シールドで密封する。また、降雨時は排水をまとめて水質を検査し、基準を満たす水を川へ流す。 この対策について静岡市の難波喬司市長も「JR東海の設置方法で概ね問題ない」と表明した。難波氏は、国土交通省で港湾局災害対策室長を務めた技術官僚出身である。 川勝知事は「その場所は深層崩壊の懸念がある」と反発したが、難波市長は「盛り土はむしろ下流域への崩壊を防ぐ。大規模な土砂崩れの予測と対策は河川管理者の県の責任」でありJR東海は責任を負わないという見解を示した。そもそも鉄道の盛り土は「ただの土砂捨て場」ではない。東海道新幹線だって盛土の部分はたくさんある。盛り土は鉄道技術による「建築物」なのだ。 これで静岡県が懸念する「水問題」「環境問題」「盛り土問題」は解決したことになる』、「国土交通省はリニア中央新幹線の「水問題」「生物環境問題」について「有識者会議」を立ち上げた。当初は国もJR東海に対して「きちんと説明するように」と指示していたが、それでは収まらないという判断だ。 2020年から13回にわたる長い議論の末、水問題に関しては「JR東海の考え方、対処によって中流下流域に影響なし」という「中間報告」を出した。ちなみに中間報告は行政用語で「議論終了」を意味する・・・静岡市の難波喬司市長も「JR東海の設置方法で概ね問題ない」と表明した。難波氏は、国土交通省で港湾局災害対策室長を務めた技術官僚出身である。 川勝知事は「その場所は深層崩壊の懸念がある」と反発したが、難波市長は「盛り土はむしろ下流域への崩壊を防ぐ。大規模な土砂崩れの予測と対策は河川管理者の県の責任」でありJR東海は責任を負わないという見解を示した。そもそも鉄道の盛り土は「ただの土砂捨て場」ではない。東海道新幹線だって盛土の部分はたくさんある。盛り土は鉄道技術による「建築物」なのだ。 これで静岡県が懸念する「水問題」「環境問題」「盛り土問題」は解決したことになる」、なるほど。
・『反リニア中央新幹線で固めた専門家会議の行方は… しかし静岡県は国の有識者会議の結論を受けて「2019年に提出したJR東海との対話を要する事項47項目のうち、30項目が終わっていない」とし、引き続き県が独自に結成した専門家会議で議論すると主張した。これでは甲子園で優勝校が決まったのに、もう一度地方予選をやらないと結果を認めないというようなものだ。あるいは、最高裁で判決が出たのに、もういちど地方裁判所に訴えるというべきか。 しかし、川勝知事の突然の辞任によって静岡県庁はハシゴを外された形になった。こんどは静岡県庁の引っ込みが付かない。反リニア中央新幹線で固めた専門家会議をどうクリアしていくかは今後の課題になる。 国の有識者会議の検討と同時期に、JR東海は大井川流域の人々に説明会を開いて事業への理解を求めていた。もっと早くやっておくべきだったとも言えるが、川勝知事が2018年に「JR東海との交渉を知事戦略室に集約する」として、JR東海と流域の直接対話を禁じていた経緯もある。説明会の後、流域の自治体は少しずつJR東海に理解を示し、「県は情報を伝えてくれなかった」「県の話とは違う」という声が出始めていた。 この頃から、川勝知事の不規則な発言が増えている。「静岡工区だけが遅れているわけではない。他の工区も遅れている」と神奈川県を批判して神奈川県知事に反論されたこともある。確かに他の工区も遅れているが、静岡工区は「着工できていない」状態だ。この差は大きい。 リニア中央新幹線の部分開業について、JR東海などは東京~名古屋間を指しているけれども、川勝氏は東京~甲府間を指し「JR東海も部分開業と言っている」と発言した。国のモニタリング会議は有識者会議の状況を確認する会議であるところ、川勝氏は「JR東海の素行をモニタリングする」ような勘違いと思われる発言もした。もはや報道する側も川勝知事の本意がつかめない様子だった。 長く鉄道取材を続けてきた人間として、静岡県はリニア中央新幹線の着工の可否という段階を終わらせて、補償の形を詰める段階に入るべきだと思う。川勝知事の後を決める選挙で、候補者にはぜひ国の有識者会議の結果を受け入れるか、反発を続けていくかを明確にして県民の意見を問うてほしいものだ。 選挙で静岡県民がどのような判断をするかはともかく、次の静岡県知事は、川勝氏より話が通じる人であってほしいと願わずにはいられない』、「JR東海は大井川流域の人々に説明会を開いて事業への理解を求めていた。もっと早くやっておくべきだったとも言えるが、川勝知事が2018年に「JR東海との交渉を知事戦略室に集約する」として、JR東海と流域の直接対話を禁じていた経緯もある。説明会の後、流域の自治体は少しずつJR東海に理解を示し、「県は情報を伝えてくれなかった」「県の話とは違う」という声が出始めていた・・・川勝知事の後を決める選挙で、候補者にはぜひ国の有識者会議の結果を受け入れるか、反発を続けていくかを明確にして県民の意見を問うてほしいものだ。 選挙で静岡県民がどのような判断をするかはともかく、次の静岡県知事は、川勝氏より話が通じる人であってほしいと願わずにはいられない」、その通りだ。
第五に、4月15日付け東洋経済オンライン「静岡リニア「開業10年遅れ」JR東海の経営大丈夫? 突然辞任、川勝知事の「置き土産」が及ぼす影響」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/747607
・『静岡県の川勝平太知事が4月10日、県議会の中沢公彦議長に辞表を提出した。1日、県庁の新入職員への訓示で職業差別と取られかねない発言をしたことが辞任の引き金となったが、3日の辞任会見や10日の定例記者会見では、「リニア中央新幹線の問題に一区切りついた」ことも辞任の理由の1つに挙げた』、興味深そうだ。
・『リニア問題「一区切り」とは? 「一区切り」とは何を指すのか。川勝知事が静岡工区の着工を認めない根拠の1つとしてきた南アルプスの生物多様性への影響などについて、県は「47項目のうち30項目で対話が終わっていない」としているので、この問題ではない。「一区切り」とは、3月29日に国土交通省で開催されたモニタリング会議でJR東海の澤田尚夫常務執行役員が「静岡工区の着工から開業まで10年程度かかる」と説明したことだ。今すぐ着工しても品川―名古屋間の開業は2034年となる。さらに、矢野弘典座長から静岡工区の工事の進め方について問われると、高速長尺先進ボーリングに3~6カ月、工事ヤードの整備に6カ月、トンネル掘削工事に10年程度、ガイドウェイ設置工事などについて2年程度かかるという見方を示した。 この発言を受け、川勝知事は3日の会見で「2027年というくびきが外れた。JR東海の事業計画は根本的に崩れた。今から工事を始めても13年弱かかり、静岡工区の完了は2037年になる」と話した。どうやら、JR東海が2027年開業という旗印を下ろしたことをもって、一区切りついたと考えているようなのだ。) ただ、本当にそれが目的であれば、JR東海は2020年6月に2027年の開業が間に合わないことを実質的に認めている。そもそもJR東海は2017年11月に静岡工区の工事契約を締結し、この時点で着工から開業まで10年という見方を示していた。その後、2020年6月に「今月中の着工が2027年開業のギリギリのタイミング」として、川勝知事にトンネル工事の前段階としてヤード整備の許可を願い出た。本来なら全体の工事は10年かかるところ、人材や機材をやりくりしてすべての工程が順調に進めば2027年に間に合う可能性があると判断したためだ。しかし、この提案は拒否され、2020年6月の時点で2027年開業は事実上不可能となった。 2023年12月、JR東海は「2027年」とされていた品川―名古屋間の開業時期を「2027年以降」に変更することを国土交通省に申請し認可を得た。開業が遅れることが「事実上」ではなく、正式に決まった。 川勝知事はこの時点で「JR東海は旗印を下ろした」と宣言してもよかった。しかし、JR東海は具体的な開業時期について明示しなかった。静岡工区がいつ着工できるかわからない以上、明示しないのは当たり前なのだが、なぜか川勝知事は「以降」と書いてあるのだから、「2027年開業の旗印を下ろしていない」と受け止めた。今回、「今から始めても10年かかる」という発言で、川勝知事はようやく「一区切りついた」と納得した』、「今回、「今から始めても10年かかる」という発言で、川勝知事はようやく「一区切りついた」と納得した」、なるほど。
・『工事「13年弱」JR東海は否定 以上のことからわかるとおり、3月29日のJR東海の発言は川勝知事が「一区切り」というほど重要なものでもない。JR東海は「今から工事を始めても10年」の根拠について、2017年時点の計画をそのまま適用しているにすぎない。2020年6月の段階では7年に短縮できる可能性があると考えていたが、長野県内や山梨県内の工事の状況から判断すると現在では短縮は難しいとしている。さらに、川勝知事がそれぞれの手順を単純に足して13年弱としていることについては「並行して進めることができる作業もあるため実際には10年程度」としており、川勝知事の13年という発言を否定している。 静岡のせいでリニア開業が遅れるという批判をかわすため、川勝知事は神奈川県駅(仮称)と山梨県駅(仮称)の間を先行開業させる構想を唱えてきた。リニア問題は一区切りついたと主張する川勝知事に対し、「部分開業させることが目的ではなかったのか」という質問が10日の会見で報道陣から出た。 川勝知事は「私が勝手に言っているわけではない」として、2010年5月に開催された国のリニア中央新幹線小委員会でJR東海が「(神奈川県駅と山梨県駅の間にある山梨リニア)実験線の延伸完成から間断なく(品川―名古屋間の工事に)着手することが重要」と説明していることを踏まえ、「延伸完成とは駅と駅がつながって営業できるようになることを指す」と述べ、部分開業はJR東海のアイデアだとした。しかし、実験線の延伸完成とは2008年に工事が始まり2013年に完成した42.8kmへの延伸工事のことである。この点でも川勝知事の発言は正しくない。 それはさておき、南アルプスの生物多様性の議論を道半ばで放り出し、矢野座長に後を任せるという。では、矢野座長が川勝知事の意に沿う形でモニタリング会議を進めるのだろうか。さすがにそれは考えにくい。NEXCO中日本の元会長として実務経験を持つ矢野座長は3月29日のモニタリング会議でも「小異を捨てて大同につくという精神で進めてほしい」と発言している。小異というのが県が協議が必要と主張する30項目であるのは明らかだ。 川勝知事の辞任に合わせるかのように、県の専門部会が12日、昨年10月以来半年ぶりに開催された。後任知事の意向次第では今後の議論の方向が着工容認に傾く可能性もある。 では、南アルプスの環境などの問題ではなく、JR東海が事業計画を変更したことをなぜ「一区切りついた」というのだろう。その理由として1つ思い当たるのが、富士山静岡空港をめぐる川勝知事とJR東海の確執だ。リニア計画決定前の2010年7月、ルートや経済効果などを検討する国の会議に川勝知事が参加し、東海道新幹線が富士山静岡空港の真下を通っていることを踏まえ、空港に隣接した新駅を設置する提案を行った。2011年5月に同会議がまとめた報告書には東海道新幹線の「新駅設置の可能性」について触れられていた。場所についての記載はないが、川勝知事はリニアが開業すれば空港の真下に新駅ができると信じた』、「南アルプスの生物多様性の議論を道半ばで放り出し、矢野座長に後を任せるという。では、矢野座長が川勝知事の意に沿う形でモニタリング会議を進めるのだろうか。さすがにそれは考えにくい。NEXCO中日本の元会長として実務経験を持つ矢野座長は3月29日のモニタリング会議でも「小異を捨てて大同につくという精神で進めてほしい」と発言している。小異というのが県が協議が必要と主張する30項目であるのは明らかだ・・・リニア計画決定前の2010年7月、ルートや経済効果などを検討する国の会議に川勝知事が参加し、東海道新幹線が富士山静岡空港の真下を通っていることを踏まえ、空港に隣接した新駅を設置する提案を行った。2011年5月に同会議がまとめた報告書には東海道新幹線の「新駅設置の可能性」について触れられていた。場所についての記載はないが、川勝知事はリニアが開業すれば空港の真下に新駅ができると信じた」、なるほど。
・『知事が示した「リニア工事の代償」 川勝知事は空港新駅設置に向け、2015年6月から有識者からなる技術検討委員会をスタートさせた。新駅完成後は県庁の一部機能を空港近くに移転する案まで飛び出した。しかし、JR東海は空港新駅構想には一貫して否定的であり、川勝知事のリニアに対する姿勢も次第に硬化。業を煮やした川勝知事は2016年9月の県議会答弁で、「リニアと既存の新幹線との関係にも念頭を置きながら、JR東海が静岡県のために何ができるか」と発言し、新駅とリニア問題をセットにしてJR東海に働きかけを行っていく意向を示した。それもうまくいかず、その結果が、2017年10月の突然の反対表明である。 2019年6月の定例会見では川勝知事は「リニア工事は静岡県にまったくメリットがなく、工事を受け入れるための“代償”が必要」と発言、具体的な代償の内容について「各県の駅建設費の平均くらいの費用が目安になる」と言い切った。2019年の時点でもまだ新駅にこだわっていたのだ。空港新駅計画をつぶされた腹いせがリニアの事業計画変更という筋書き。このように両者を結びつけるのは、やや強引だろうか。 4月4日、JR東海はリニアに関する今後の発注見通しを発表した。そこには山梨県駅の新設工事の工期が約80カ月、飯田市内に建設される高架橋の工期が約70カ月となっている記載があった。今すぐ契約を締結して工事に着手したとしても工事完了の時期は2030〜2031年ということになる。川勝知事にしてみれば「ほかの工区でも工事が遅れていることが証明された」ということになるが、これも正しい見方とはいえない。静岡工区の完成が遅れることがはっきりした以上、ほかの工区を無理して2027年に完成させる必要はないのだ。) むしろ気になるのは、リニアの開業遅れがJR東海の経営に与える影響だ。 短期的・中期的にはまったく影響ないどころか、財務面ではプラスとなる。東海道新幹線の収益力は高い。コロナ禍前の2018年度におけるJR東海の運輸セグメントの業績は売上高1兆4613億円に対して営業利益は6648億円だった。売上高営業利益率は45.4%である。ここから在来線の収支を差し引いた東海道新幹線の利益率がさらに高いことは、容易に想像できる。 コロナ禍の影響が残る2023年度の業績予想においても運輸セグメントの売上高1兆3670億円、営業利益4980億円。リニア計画を作成した時点の運輸セグメントの収支見通し(2006〜2010年度業績予想の5年平均)は売上高1兆2049円、営業利益3485億円なので、リニア開業前の収支想定を大きく上回っている。今後コロナ禍の影響が減れば収支は2018度の実績に近づいていく。収支が想定を上回っているだけでなく、リニア開業が10年遅れれば、JR東海は東海道新幹線で得た利益を内部留保する期間が10年延びる。2008年度から2018年度の10年間でJR東海の利益剰余金は2兆円以上増えた。今後もそのペースで蓄積できれば、財務面での安定性は増す』、「リニアの開業遅れがJR東海の経営に与える影響だ。 短期的・中期的にはまったく影響ないどころか、財務面ではプラスとなる。東海道新幹線の収益力は高い・・・リニア計画を作成した時点の運輸セグメントの収支見通し・・・は売上高1兆2049円、営業利益3485億円なので、リニア開業前の収支想定を大きく上回っている。今後コロナ禍の影響が減れば収支は2018度の実績に近づいていく。収支が想定を上回っているだけでなく、リニア開業が10年遅れれば、JR東海は東海道新幹線で得た利益を内部留保する期間が10年延びる。2008年度から2018年度の10年間でJR東海の利益剰余金は2兆円以上増えた。今後もそのペースで蓄積できれば、財務面での安定性は増す」、開業の遅れれば、「東海道新幹線で得た利益を内部留保する期間が10年延びる」、「JR東海」にとっては好ましい結果だ。
・『「開業10年遅れ」が生む懸念 しかし、長期的には話が違ってくる。リニアが開業すれば工事費用の減価償却が始まる。品川―名古屋間だけで約7兆円の工事費がかかる。車両や橋梁など固定資産の種類によって償却期間はさまざまだが、仮に全額をトンネルの税務上の耐用年数である60年で定額償却すれば毎年1166億円の減価償却費が発生する。そのため、リニア開業前の利益水準を下回る可能性がある。その後は名古屋開業後に連続して行われる名古屋―新大阪間の工事費用の減価償却が控えている。これらの点はリニアの事業計画に織り込み済みだが、想定外の事態としては開業が10年遅れると、総額3兆円の財政投融資の返済時期と重なってしまう。 返済期限は2055年から2056年にかけて。JR東海は「10年程度かけて返済する」としており、2046年頃から返済を始める計画だ。本来のスケジュールであれば2046年とは大阪開業から9年経ち、経営が安定している時期である。しかし、開業が10年以上遅れた場合、開業直前の資金需要が増える時期と財政投融資の返済時期が重なる可能性がある。この点についてJR東海に問い合わせると、「返済額は金融機関からの借り換えなどで対応し、健全経営と安定配当を堅持する」と回答した。 さらに怖いのは、東京―名古屋―大阪という日本の大動脈輸送の二重系化の完成が遅れることだ。リニアが完成しないことには東海道新幹線は長期間にわたる部分運休を伴う大規模な改修工事は難しいし、リニアの完成前に大規模な大災害が発生して東海道新幹線が寸断されれば、JR東海の収入は激減する。最悪の場合、それが借り換え計画に影響を及ぼす可能性するある。JR東海としては、川勝知事の「手柄」であるリニア開業10年遅れの間に巨大災害が起きないことを祈るばかりであろう』、「さらに怖いのは、東京―名古屋―大阪という日本の大動脈輸送の二重系化の完成が遅れることだ。リニアが完成しないことには東海道新幹線は長期間にわたる部分運休を伴う大規模な改修工事は難しいし、リニアの完成前に大規模な大災害が発生して東海道新幹線が寸断されれば、JR東海の収入は激減する。最悪の場合、それが借り換え計画に影響を及ぼす可能性するある。JR東海としては、川勝知事の「手柄」であるリニア開業10年遅れの間に巨大災害が起きないことを祈るばかりであろう」、その通りだ。
第六に、4月21日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの宮原 健太氏による「自民党がさらなる窮地へ…? 川勝知事の後任選挙の「驚きの実態」 明らかになってきた調査結果」を紹介しよう。
・『与野党対決の選挙 「野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノを作ったりとは違って、皆様方は頭脳、知性の高い方たちです」 新年度早々、静岡県庁の新入職員に対する訓示で、とんでもない職業差別的な発言をして電撃辞職することとなった川勝平太知事。 5月9日告示、26日投開票と短期決戦で行われる知事選を巡っては、4月18日に自民党が元副知事の大村慎一氏を、立憲民主党と国民民主党が元浜松市長の鈴木康友氏を推薦する方針を固め、与野党対決の構図が決まった。 永田町では自民と立憲が知事選に向けて実施した情勢調査の内容が出回っている。 自民党が実施した調査によると鈴木氏が39.9ポイントを獲得し、大村氏の29.3ポイントから10ポイント以上リード。 立憲が実施した調査でも鈴木氏が28.2ポイントを獲得し、大村氏の20.9ポイントに対して差をつけている。 調査結果を見て永田町関係者は「もともと衆議院議員や浜松市長を歴任してきた鈴木氏が知名度で優っている分、数字が良く出ているのだろう」と分析した。 一般的に短期決戦で行われる選挙では、すでに地域に浸透している知名度の高い候補が有利となる。 今回の発言があった当初、川勝氏は6月議会冒頭で辞職する意向を示していたが、「県政の空白を短くする」として辞表提出を4月10日に前倒し。 その背景には、知事選の投開票までの期間を短くすることで、鈴木氏が有利になるよう取り計らったという事情もあったという。) こうした舞台作りのために働きかけたとされているのが、浜松市に本社を置くスズキの相談役、鈴木修氏だ。 「鈴木修氏は川勝氏や鈴木康友氏を支援してきており、自身の意中の人物が次の知事となるように調整したのだろう」と永田町関係者は語る。 それに対して自民は大村氏側に付き、非自民として活動してきた川勝氏なきあとの知事の座奪還を目指す。 自民県連の増田享大幹事長は4月18日、大村氏を支援する理由について「全県的な視点で課題を捉えている」と話したが、浜松市の地域色がついている鈴木氏よりも、大村氏のほうが県内全域からの支持が得やすいと踏み、形勢逆転を目指していく戦略のようだ。 もし自民が「全敗」したら… 急転直下の辞任劇から、5月投開票という短期決戦となった静岡県知事選。 与野党対決となったことを受けて、4月28日投開票の衆院3補選に続いて、岸田政権の求心力や、与野党の力関係を測るバロメーターとしても機能することになりそうだ。 もし、自民党が3補選で全敗を喫し、静岡県知事選でも敗れることとなれば、岸田政権にとっては大きな痛手となり、国政運営や解散戦略、今年9月の自民党総裁選にも影響が生じ得るだろう。 奇しくも静岡県は、自民党を揺るがす裏金問題において、安倍派座長として離党勧告を受けた塩谷立衆院議員のお膝元でもある。 地域の課題に加えて、国政の問題も様々問われる中で、静岡県民はどちらの候補を選ぶか判断を迫られることとなる。 さらに【つづき】「自民党がいよいよ窮地へ…ナンバー2・茂木幹事長がついに口にした「驚愕のひと言」」の記事では、自民党がいま迎えている大きな危機について報じている』、「自民党が元副知事の大村慎一氏を、立憲民主党と国民民主党が元浜松市長の鈴木康友氏を推薦する方針を固め、与野党対決の構図が決まった・・・自民党が実施した調査によると鈴木氏が39.9ポイントを獲得し、大村氏の29.3ポイントから10ポイント以上リード。 立憲が実施した調査でも鈴木氏が28.2ポイントを獲得し、大村氏の20.9ポイントに対して差をつけている」、「鈴木康友氏」のリニア問題への姿勢はまだ不明だが、「スズキの相談役、鈴木修氏」がバックにいるようなので、少なくとも中立だろう。「JR東海」としては一安心だろう。
タグ:(その10)(川勝知事知事6題:川勝知事がリニア問題の解決策などすべて放り投げて辞職…そのヤバすぎる「正体」、川勝知事が残した“最悪の置き土産”…意味のなかった「リニア騒動」の全貌、川勝平太知事が「リニア中央新幹線」反対姿勢を強めた2013年に何があったのか、静岡リニア「開業10年遅れ」JR東海の経営大丈夫? 突然辞任、川勝知事の「置き土産」が及ぼす影響、自民党がさらなる窮地へ…? 川勝知事の後任選挙の「驚きの実態」) 小林 一哉氏による「静岡・川勝知事がリニア問題の解決策などすべて放り投げて辞職…そのヤバすぎる「正体」」 リニア新幹線 現代ビジネス 「2018年夏から、静岡県とJR東海との『対話』が始まったが、現在まで何らの進展も見られない」、そんなに長く続いているとは、改めて問題の深刻さを再認識した。 「リニア問題に関してこれを放り出すことはできない。どのような道筋が描けるか、これが本県にとって重要課題だ。国のリニア静岡工区モニタリング会議座長の矢野(弘典)さんを信じている。まかせられる。モニタリングは、工事の日程、事業計画と不可分であるというのが矢野さんの意見だ。ここでやっていければいい。矢野さんにバトンタッチできる」 などと何度も矢野座長の名前を挙げた」、「矢野座長」の考え方はどうなのだろう。 小林 一哉氏による「川勝知事が残した“最悪の置き土産”…意味のなかった「リニア騒動」の全貌 『知事失格』のらく印が押されたまま」 「塩坂委員が「畑薙山断層帯は非常に弱い地層であり、大量の突発湧水が出る恐れがある」などと警告した。 塩坂委員は、トンネル建設予定地の断層は「背斜構造となっていて力の掛かり具合が複雑であり、地下水枯渇の恐れがある」などの持論を披露して、地下トンネル建設に強い疑問を投げ掛けた。これが県専門部会委員の役割」、なるほど。 「川勝知事は、南アルプスの工事現場視察で、リニア問題の解決へはほど遠い発言を繰り返し、翌日の期成同盟会総会での「スピード感を持った課題解決」とは真逆の発言をしている」、どちらが本音なのだろう。 「その後も、筆者はウェブ記事を中心に川勝知事のさまざまな「嘘」を紹介してきたが、川勝知事から何らかの対応を受けたことはない。 川勝知事による「リニア騒動」はいったい、何だったのか、5年余という、あまりにもムダな時間が流れた。 結局、拙著の題名通り『知事失格』のらく印が押されたまま退場することになった」、その通りだ。 文春オンライン「川勝平太知事が「リニア中央新幹線」反対姿勢を強めた2013年に何があったのか「JR東海は本当にやってくれるのか」という不信の始まりは…」 「JR東海が発足する1987年よりも前のことだから、日本鉄道建設公団が建設し、国鉄が営業主体になる計画だった。しかし国鉄の赤字問題の影響で整備計画が作られないまま、構想は塩漬け状態にあった」、なるほど。 「これらの新幹線が開通しないと、次の新幹線に着手できない。だから中央新幹線はずっと待たされていた。それにしびれを切らしたJR東海が「自分でやります。自己資金でやります」と手を挙げたことで計画は動き出した・・・2つ切実な理由があった。 1つは東海道新幹線の輸送量がパンクしかけていたこと。東名阪の移動需要が旺盛で、「のぞみ」を増発しても追いつかない。なんとか1時間にのぞみ12本を運行する「のぞみ12本ダイヤ」までたどり着いたけれど、これが増発の限界だ。「ひかり」や「こだま」も増やしたいところだが、「のぞみ」 を増発しても追いつかない。なんとか1時間にのぞみ12本を運行する「のぞみ12本ダイヤ」までたどり着いたけれど、これが増発の限界だ。「ひかり」や「こだま」も増やしたいところだが、「のぞみ」が優先されていた。 もう1つは、東海道新幹線の老朽化だ。開業から半世紀が過ぎて、トンネルや鉄橋などの構造物は抜本的な点検、改修が必要になってきた。国鉄時代にも水曜日などに半日運休を実施して若返り工事を実施していたが、昨年の災害運休の後に起きた大混雑を見れば判るように、もはや半日運休にすることすら許されない輸送量なのだ」、 なるほど。 「JR東海は、では道路を拡幅しましょうと言ってすぐ実行する。スピード感があるし、地元としても広い道路が残る。結果としては良いのだけれども、お金で解決して地元を納得させるというやりかたになっている」 地元とのコミュニケーションが希薄なまま工事を進めようとする反動がもっとも大きく出た場所が静岡工区といえる。環境アセスメントが終わってから着工までには、河川や道路などについて地域の自治体から許可をもらう必要がある。鉄建公団には「地域を説得する」という地道な努力とノウハウがあったが、残念ながら新幹線建設が初めての JR東海にはその知見がなかった。 いままでの整備新幹線が、環境アセスメントが終わればスムーズに着工できたのは、鉄建公団~JRTT鉄道・運輸機構の実績と信頼による。 残土問題や、川や地下水の水涸れ問題は今までもあったが、地元と話し合って、自治体と共同して補償もしてきた。西九州新幹線の時も渇水が起きたが、トンネルからの導水管や新たな井戸を掘って水田に放水している。その実績と信頼があった。 しかしJR東海は地元との対話が少なく、新幹線を作った実績がないので信用度も低い。静岡県の心配は「本当にやってくれるのか」という点だった」、「JR東海」には、「鉄建公団」のような「ノウハウ」がなく、「地元との対話が少なく」、「新幹線を作った実績がないので信用度も低い。静岡県の心配は「本当にやってくれるのか」という点」、なるほど。 「国が東海道新幹線の限界を把握し、もっと早く中央新幹線に着手していれば、JR東海が直接建設することはなかったし、静岡県とこじれることもなかっただろう。その意味では国にも責任がある」、「国にも責任がある」とは初めて知ったが、正論だ。 文春オンライン 杉山 淳一氏による「川勝平太知事の辞任で「静岡県vs.JR東海」の対決構図は終わるのか 反リニア新幹線で固めた「専門家会議問題」も…」 「静岡県民のJR東海に対する好感度は他県よりも低いようだ。「のぞみを静岡に停めてほしい」「東海道新幹線に静岡空港駅を作ってほしい」という要望をJR東海は却下していたことが理由」、「川勝知事」の反対の背後には県民の支持があったとは初めて知った。 「川勝知事は、静岡空港を首都圏の第三空港にしたいと発言したことがある。成田、羽田につぐ首都圏の第三空港となれば、国の支援も受けやすくなることを見越してのことだろう。そしてそのためには、東海道新幹線の駅を作って東京へのアクセスを良くしたい、ということだ。 とはいえJR東海から見れば、静岡県が首都圏第三空港になってから新幹線の駅を作るかを検討したいところだろう。そこで話は止まっていた・・・大井川の水量問題は、静岡県の「命の水」の危機として対立を煽る報道は全国紙やテレビなどに伝播し「静岡県vs JR東海」の構 図は鮮明になっていった」、なるほど。 「国土交通省はリニア中央新幹線の「水問題」「生物環境問題」について「有識者会議」を立ち上げた。当初は国もJR東海に対して「きちんと説明するように」と指示していたが、それでは収まらないという判断だ。 2020年から13回にわたる長い議論の末、水問題に関しては「JR東海の考え方、対処によって中流下流域に影響なし」という「中間報告」を出した。ちなみに中間報告は行政用語で「議論終了」を意味する・・・ 静岡市の難波喬司市長も「JR東海の設置方法で概ね問題ない」と表明した。難波氏は、国土交通省で港湾局災害対策室長を務めた技術官僚出身である。 川勝知事は「その場所は深層崩壊の懸念がある」と反発したが、難波市長は「盛り土はむしろ下流域への崩壊を防ぐ。大規模な土砂崩れの予測と対策は河川管理者の県の責任」でありJR東海は責任を負わないという見解を示した。そもそも鉄道の盛り土は「ただの土砂捨て場」ではない。東海道新幹線だって盛土の部分はたくさんある。盛り土は鉄道技術による「建築物」なのだ。 これで静岡県が懸念す る「水問題」「環境問題」「盛り土問題」は解決したことになる」、なるほど。 「JR東海は大井川流域の人々に説明会を開いて事業への理解を求めていた。もっと早くやっておくべきだったとも言えるが、川勝知事が2018年に「JR東海との交渉を知事戦略室に集約する」として、JR東海と流域の直接対話を禁じていた経緯もある。説明会の後、流域の自治体は少しずつJR東海に理解を示し、「県は情報を伝えてくれなかった」「県の話とは違う」という声が出始めていた・・・川勝知事の後を決める選挙で、候補者にはぜひ国の有識者会議の結果を受け入れるか、反発を続けていくかを明確にして県民の意見を問うてほしいものだ。 選挙で静岡県民がどのような判断をするかはともかく、次の静岡県知事は、川勝氏より話が通じる人であってほしいと願わずにはいられない」、その通りだ。 東洋経済オンライン「静岡リニア「開業10年遅れ」JR東海の経営大丈夫? 突然辞任、川勝知事の「置き土産」が及ぼす影響」 「今回、「今から始めても10年かかる」という発言で、川勝知事はようやく「一区切りついた」と納得した」、なるほど。 「南アルプスの生物多様性の議論を道半ばで放り出し、矢野座長に後を任せるという。では、矢野座長が川勝知事の意に沿う形でモニタリング会議を進めるのだろうか。さすがにそれは考えにくい。NEXCO中日本の元会長として実務経験を持つ矢野座長は3月29日のモニタリング会議でも「小異を捨てて大同につくという精神で進めてほしい」と発言している。小異というのが県が協議が必要と主張する30項目であるのは明らかだ・・・ リニア計画決定前の2010年7月、ルートや経済効果などを検討する国の会議に川勝知事が参加し、東海道新幹線が富士山静岡空港の真下を通っていることを踏まえ、空港に隣接した新駅を設置する提案を行った。2011年5月に同会議がまとめた報告書には東海道新幹線の「新駅設置の可能性」について触れられていた。場所についての記載はないが、川勝知事はリニアが開業すれば空港の真下に新駅ができると信じた」、なるほど。 「リニアの開業遅れがJR東海の経営に与える影響だ。 短期的・中期的にはまったく影響ないどころか、財務面ではプラスとなる。東海道新幹線の収益力は高い・・・リニア計画を作成した時点の運輸セグメントの収支見通し・・・は売上高1兆2049円、営業利益3485億円なので、リニア開業前の収支想定を大きく上回っている。今後コロナ禍の影響が減れば収支は2018度の実績に近づいていく。収支が想定を上回っているだけでなく、リニア開業が10年遅れれば、JR東海は東海道新幹線で得た利益を内部留保する期間が10年延びる。 2008年度から2018年度の10年間でJR東海の利益剰余金は2兆円以上増えた。今後もそのペースで蓄積できれば、財務面での安定性は増す」、開業の遅れれば、「東海道新幹線で得た利益を内部留保する期間が10年延びる」、「JR東海」にとっては好ましい結果だ。 「さらに怖いのは、東京―名古屋―大阪という日本の大動脈輸送の二重系化の完成が遅れることだ。リニアが完成しないことには東海道新幹線は長期間にわたる部分運休を伴う大規模な改修工事は難しいし、リニアの完成前に大規模な大災害が発生して東海道新幹線が寸断されれば、JR東海の収入は激減する。最悪の場合、それが借り換え計画に影響を及ぼす可能性するある。JR東海としては、川勝知事の「手柄」であるリニア開業10年遅れの間に巨大災害が起きないことを祈るばかりであろう」、その通りだ。 宮原 健太氏による「自民党がさらなる窮地へ…? 川勝知事の後任選挙の「驚きの実態」 明らかになってきた調査結果」 「自民党が元副知事の大村慎一氏を、立憲民主党と国民民主党が元浜松市長の鈴木康友氏を推薦する方針を固め、与野党対決の構図が決まった・・・自民党が実施した調査によると鈴木氏が39.9ポイントを獲得し、大村氏の29.3ポイントから10ポイント以上リード。 立憲が実施した調査でも鈴木氏が28.2ポイントを獲得し、大村氏の20.9ポイントに対して差をつけている」、「鈴木康友氏」のリニア問題への姿勢はまだ不明だが、「スズキの相談役、鈴木修氏」がバックにいるようなので、少なくとも中立だろう。「JR東海」としては一安心だ ろう。
リニア新幹線(その9)(「知性格差」5題:早稲田を出てオックスフォード大学で博士号を取得…静岡・川勝知事「職業差別」発言に隠された日本の「知性格差」という問題、「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」、日本人の「2人に1人」は自分の名前さえ書けなかった…!?明治期時代の日本の「知的格差」驚きの実態、「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年 GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証、多くの日本人は「確 [産業動向]
リニア新幹線については、本年1月4日に取上げた。今日は、(その9)(「知性格差」5題:早稲田を出てオックスフォード大学で博士号を取得…静岡・川勝知事「職業差別」発言に隠された日本の「知性格差」という問題、「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」、日本人の「2人に1人」は自分の名前さえ書けなかった…!?明治期時代の日本の「知的格差」驚きの実態、「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年 GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証、多くの日本人は「確率」という概念を正しく理解できない…日本社会にひそむ「教育水準の格差」の現実)である。明日は、川勝知事に関連したテーマを取上げる予定である。
先ずは、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「早稲田を出てオックスフォード大学で博士号を取得…静岡・川勝知事「職業差別」発言に隠された日本の「知性格差」という問題」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127652?imp=0
・『「差別発言」の内容を分解してみると… 静岡県の川勝平太知事が新規採用職員に向けて述べた訓示に、特定の職業を指して「知性が低い」などとする差別的発言が含まれていたとして広く批判された。川勝は、当初は新聞報道の「切り取り」のせいだなどと述べて頑張ったが、まもなく辞職を表明した。 訓示の全文を確認すると、「知性」のくだりで川勝が言いたかったらしいことは、大きく次の三点に要約できそうだ。 1(県庁勤務者は)勉強して知性を磨くべきである 2 知性の程度には個人差がある(「自分の知性がこの人に及ばないなと思っても……」) 3 第一・二次産業従事者は知性が低い(「野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです」) 問題になったのは3の発言で、批判されるのは当然である。だが、1と2についてはどうだろうか。 1について批判する者はいないだろう。知性に価値があることや勉強の必要性は常識とされ、すべての学校では勉強が推奨されている。2は公の場での発言としては微妙だが、内心でこう考えている人間は多そうだ。3の発言がなく、1と2だけだったら、おそらく辞任は免れたのではないか』、「3の発言がなく、1と2だけだったら、おそらく辞任は免れたのではないか」、なるほど。
・『そもそも「知性」とは何か 朝日新聞は4月5日の社説で川勝発言を批判したが、1の点はもちろん、2についても批判することを慎重に避けた印象を受ける。そして「社会の一員としてそれぞれの日々を懸命に生きる他者の知性のあり方に、敬意を持って欲しい。」と書いているが、この一文はむしろ、知性の質や量に個人差があることを匂わせている。 だが、もしそうだとしても、「他者の知性のあり方」とは具体的にどのようなものか。 川勝はもともとは経済学者で、学部と修士課程では早稲田大学で学び、その後オックスフォード大学で博士号を得ている。いかにも「知性」の高そうな経歴だが、そもそも知性とはなんだろうか。 知性に大きな価値があり、さらにもし知性に個人差があるなら、我々の中にも川勝と同じ、知性によって他者を差別する気分が潜んでいたりはしないか? あいまいであるにも関わらず、現代社会で圧倒的な価値を持ってしまった「知性」の実態に、客観的な資料から迫ってみよう。 たとえば、知的な能力の基盤ともいえる読み書き能力については、少しだけデータが残されているようだ。 『「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」』に続く』、「あいまいであるにも関わらず、現代社会で圧倒的な価値を持ってしまった「知性」の実態に、客観的な資料から迫ってみよう」、なるほど…
次に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127653?imp=0
・『江戸の庶民は文字が読めた? まるで人間のような自然な作文をするAIが話題になった2023年、いくつかの新聞が、「読み書き」を巡る目立たないニュースを報じた。それは、国立国語研究所(東京)が、1948年以来実に75年ぶりに、全国的な識字率の調査を試みているというものだ。 誰もが読み書きできるはずのこの日本で、どうしてわざわざ識字率などを調べるのか。そう感じる日本人は多いと思われる。記事のひとつで国立国語研究所准教授の野山広が言うように、日本では「読み書きができない人はほぼいないと長く信じられてきた」からだ。 だが、野山も言うように、それは「共同幻想」である。 「日本人なら誰でも読み書きができるはず」という幻想は、極めて根強い。どのくらい根強いかというと、時間を遡り、歴史上の事実をも塗り替えたほどだ。 江戸時代や明治時代の日本人の識字率は高かったとか、大半が読み書きできたとか、大胆なものでは識字率が世界一だったとかいう言説をよく目にする。たとえば「江戸文化歴史研究家」を名乗る作家の瀧島有はこう書いている。 「江戸後期、日本は『江戸の町の人口』の他に、もう一つ、世界トップクラスを誇ったものがあります。それは『庶民』の識字率。全国平均では約60%以上、江戸の町では約70%以上でした。江戸の町の『実際』は、おそらく約80%以上だろうと言われています」 こういった認識は半ば常識になっているが、結論を先に書けば、誤りである、もしくは著しく誇張されていることが研究によって明らかになっている。こういった俗論は主に1970年代以降、ロナルド・ドーアらによる寺子屋教育の過大評価などによって広まったらしいが、実はドーア本人は後にその見解を訂正している(『日本人のリテラシー』リチャード・ルビンジャー、柏書房など)』、「世界トップクラスを誇ったものがあります。それは『庶民』の識字率。全国平均では約60%以上、江戸の町では約70%以上でした。江戸の町の『実際』は、おそらく約80%以上だろうと言われています」 こういった認識は半ば常識になっているが、結論を先に書けば、誤りである、もしくは著しく誇張されていることが研究によって明らかになっている」、なるほど。
・『「新聞」を読めたのはたったの1.7% では、当時の日本人の読み書き能力はどのようなものだったのか。 江戸時代末期の日本人の8割以上は農民だったため、「普通の日本人」の識字能力を知るためには、農民についてのデータが欠かせない。だが、多くの研究者も認めるように、江戸時代はもちろん明治時代に入っても、農民の識字率に関する資料は極めて少ない。 しかし、過去の日本人の識字能力に関心がある者の間では有名な、極めて貴重な資料が一つ残されている。それは、1881年(明治14年)に長野県の北安曇郡常盤村(現・大町市)で、15歳以上の「男子」882人を対象に行われた調査である。 村民の読み書き能力を八段階に分けたこの調査によると、自分の名前や村名さえ読み書きできない者が35.4%存在したらしい。彼らには識字能力がないことになるが、では残りの65%の男子が読み書きできたかというと、まったくそうではない。 生活上の必要があっただろう出納帳を書けるものはなんとか14.5%いたが、「普通ノ書簡」および「証書類」を自分で書けるものはわずか4.4%、社会の動きを知るために必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては、882人中15名、1.7%しかいない(「近代日本のリテラシー研究序説」島村直己など)。 しかも忘れてはならないのは、この調査は女性を対象外としていた点である。明治時代の識字率には地域によりかなりのばらつきがあるが、女性の識字能力が男性よりも大幅に劣っていた点は全国に共通している。したがって、当時の常盤村の住民全体の読み書き能力は、上の数値よりもかなり落ちる可能性が高い。女性を含めると、村で新聞を読めた人間は1%程度しかいなかったのではないだろうか。 日本人の「2人に1人」は自分の名前さえ書けなかった…!?明治期時代の日本の「知的格差」驚きの実態』に続く…』、「極めて貴重な資料が一つ残されている。それは、1881年(明治14年)に長野県の北安曇郡常盤村(現・大町市)で、15歳以上の「男子」882人を対象に行われた調査である。 村民の読み書き能力を八段階に分けたこの調査によると、自分の名前や村名さえ読み書きできない者が35.4%存在したらしい。彼らには識字能力がないことになるが、では残りの65%の男子が読み書きできたかというと、まったくそうではない。 生活上の必要があっただろう出納帳を書けるものはなんとか14.5%いたが、「普通ノ書簡」および「証書類」を自分で書けるものはわずか4.4%、社会の動きを知るために必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては、882人中15名、1.7%しかいない』、「自分の名前や村名さえ読み書きできない者が35.4%存在・・・必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては・・・1.7%しかいない」、一般的に信じられている姿は全く信頼性に欠けるようだ。
第三に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「日本人の「2人に1人」は自分の名前さえ書けなかった…!?明治期時代の日本の「知的格差」驚きの実態」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127654?imp=0
・『「江戸時代の日本人の識字率は高かった」「大半が読み書きできた」さらには「日本は識字率が世界一」……こういった言説はネットだけでなく、書籍でも散見される。しかし、本当にそうだったのか。たとえば1881年(明治14年)、長野県の北安曇郡常盤村(現・大町市)にて15歳以上の男子882人を対象に行われた調査では、「証書類」を自分で書けるものはわずか4.4%、社会の動きを知るために必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては1.7%しかいなかった。引き続き、日本人の「知性格差」についてみていこう。 『「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」』より続く…』、やはり伝承とは当てにならないものだ。
・『識字率が最も低かった鹿児島県 長野県の北安曇郡常盤村の調査の結果は、決して例外的ではない。当時の他の資料と照らし合わせると、常盤村の住人の読み書き能力は全国的には高い方だった可能性さえある。 常盤村の調査が貴重なのは、読み書き能力を細かく段階に分けた点にあるが、同時期の1890年前後に、当時の文部省が全国の数県で「自署率」、すなわち自分の名前を書けるかどうかの調査を行っている。この調査によると、近江商人の本拠地であり、調査の対象となった県でもっとも識字率が高い滋賀県の男性では90%近くが自分の名前を書けたが、女性では50%前後しかない。 逆に最も識字率が低い鹿児島県では、男子でも40%前後は自分の名前が書けず、女子に至っては、自分の名前が書けた者は4~8%前後しかいない(「近代日本のリテラシー研究序説」島村直己、「識字能力・識字率の歴史的推移――日本の経験」斉藤泰雄など)。また、読み書きができるものの割合は、士族階層や農村部の指導層など社会の上層ほど高く、農村内部にもかなりの格差があった可能性が高い(『日本人のリテラシー』リチャード・ルビンジャー、柏書房など)。 このように識字率にはかなりの階層差・地域差・男女差があったが、ある研究者は、識字レベルが滋賀県と鹿児島県のおよそ中間だった岡山県の数値(男子の50~60%、女子の30%前後が自分の名前を書けた)が全国平均に近かったのではないかと推測している(「識字能力・識字率の歴史的推移――日本の経験」斉藤泰雄)。先の長野県常盤村では男子の約65%が自分の名前を書けたので、常盤村の識字レベルは平均的か、むしろやや上回っていたかもしれない』、「調査の対象となった県でもっとも識字率が高い滋賀県の男性では90%近くが自分の名前を書けたが、女性では50%前後しかない。 逆に最も識字率が低い鹿児島県では、男子でも40%前後は自分の名前が書けず、女子に至っては、自分の名前が書けた者は4~8%前後しかいない・・・先の長野県常盤村では男子の約65%が自分の名前を書けたので、常盤村の識字レベルは平均的か、むしろやや上回っていたかもしれない」、なるほど。
・『読み書き能力を持つのは、社会の上層のごく一部 忘れてはならないのは、この調査の数字はあくまで自分の名前を書ける者の割合であって、「自由に読み書きできる者」の割合はずっと低くなる点だ。「識字率」の定義は実は難しいが、少なくとも今の一般的な文脈では、かろうじて自分の名前を書けるだけで、日常的な文章も新聞も読めないようでは「識字」に含まれないだろう。 明治期の識字について多くの研究がある東北大学の八鍬友広は、自署能力に加えて文通する能力についても調べた明治初期の和歌山県の調査の例をひき、そこでは文通可能なリテラシーを持っていた男子は自署できた者の1/4以下の約10%だったと述べている(「明治期滋賀県における自署率調査」八鍬友広)。 この割合は、自署できた男子の1割強だけが普通の書簡を読めたとする先の常盤村のデータよりもかなり高いが、当時の調査の正確さに限界がある以上、詳細な議論はあまり意味がないだろう。いずれにしても、自由に読み書きができた者は、自分の名前だけが読み書きできる者よりずっと少なかったと考えるのは自然ではある。 ということは、女性を含めると(日本人のリテラシーを考えるときに女性を排除する理由はない)半数前後が自分の名前さえ書けなかったと思われる明治初期の日本では、圧倒的多数は自由な読み書きができなかったことになる。特に、常盤村の調査からも分かるように、社会の動きを知る手段である新聞等を読めた人間の割合は、人口の数%に過ぎなかったのではないか。 読み書き能力は、知的な能力の基礎であると言わざるを得ない。だが、明治時代の初期でさえ、読み書き能力を持つのは、社会の上層のごく一部の人間に限られていた。 本や新聞を読む/書くなどの知的な活動に参加する機会や能力には、前出のルビンジャーが繰り返し強調するように、社会階層・地域・性によって著しい格差があったのである。それはつまり、豊かさや身分に格差があったように、知的能力にも、本人の力ではどうしようもない格差があった可能性を示唆している。 では、その格差は、今日では解消されているのだろうか? 次回『「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年、GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証』に続く』、「明治時代の初期でさえ、読み書き能力を持つのは、社会の上層のごく一部の人間に限られていた。 本や新聞を読む/書くなどの知的な活動に参加する機会や能力には、前出のルビンジャーが繰り返し強調するように、社会階層・地域・性によって著しい格差があったのである。それはつまり、豊かさや身分に格差があったように、知的能力にも、本人の力ではどうしようもない格差があった可能性を示唆している」、なるほど。
第四に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年、GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/128138?imp=0
・『連載第1回『「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」』 日本語が読めない大学生たち 前回、日本人の大半は明治時代初期、つまりほんの数世代前までは読み書きができなかったことを資料によって確認した。読み書きの力や知的なものに触れる機会・能力はまったく平等ではなく、著しい格差があったのである。 しかし、それは明治時代の、しかも初頭の話ではある。戦後や現代ではどうだろうか? たしかに、近年は社会的な格差がよく話題になる。だが、そこで語られる「格差」の内容はほとんどが経済・金銭的なもので、文化的・知的な格差は見て見ぬふりをされている。 しかし、文化格差について研究を続けてきた社会学者が「日本社会は文化的には平等だ」という主張を「文化的平等神話」と切り捨てるように(※1)、経済以外でも重大な格差があることは、少なくとも専門家の間では知られているらしい。 知的格差がすっかり忘れ去られた2011年、全国の大学生を対象に数学能力の調査を行った数学研究者である新井紀子は、結果を見て愕然とした。数学の能力以前に、簡単な日本語で書かれた問題文を理解できなかったり、初歩的な論理展開もできない学生があまりにも多かったのである。そして、その力は大学の偏差値が低いほど低かった。 驚いた新井は全国の中高生を対象に読解力の調査を実施したが、結果は、上記の調査を後押しするものだった。「中学校を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」「学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない」などの惨憺たる実態が明らかになったのである』、「新井は全国の中高生を対象に読解力の調査を実施したが、結果は、上記の調査を後押しするものだった。「中学校を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」「学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない」などの惨憺たる実態が明らかになった」、「数学の能力以前に、簡単な日本語で書かれた問題文を理解できなかったり、初歩的な論理展開もできない学生があまりにも多かった」というのは驚くべきことだ。
・『「字が読めない日本人は1.7%だけ」のウソ この調査では、中学生のうちは歳とともに読解力が伸びる傾向があるのに、高校では伸びが止まることも確認された。それはつまり、かなりの成人も読解力に問題を抱えていることを示唆している。 また、読解力はやはり学校の偏差値と「極めて強い」正の相関があり、家庭の経済力と負の相関があった。つまり読解能力や論理的思考力には著しい社会的格差があることが判明したのだった。 新井は「(基礎的読解力調査は)これまで世界中で誰もやっていません」とも記しているが、少なくとも、前回書いたように読解力の調査は明治時代初頭にもあり、そこでも著しい格差が示されている。 明治と平成の日本社会には知的格差があるらしい。では、その間に位置する昭和ではどうか。 1948年に、GHQの指示によって15歳から64歳までの16,820名を対象にした大規模な読み書き能力の調査が全国で行われた(「日本人の読み書き能力調査」)。規模の大きさや科学的な手法を取り入れている点で、この調査の信頼性は高い。読み書き能力を広く扱う問題は全90問で、1問1点の90点満点だった。 結論を先に記すと、得点がゼロ点の者は1.7%しかいなかった。この結果はその後独り歩きし、「敗戦直後でも100%近い日本人が読み書きできた」とか「日本人の識字率の高さにGHQが驚愕した」といった神話となって今も生き残っているが、実は近年、その解釈が正しくなく、実態はむしろ逆だったことが専門家によって指摘されている。 まず、たしかに98.3%の日本人は一問以上正解できたわけだが、たとえば一問だけ正解して他はすべて不正解だった者を「識字能力がある」とすることには無理がある。さらに、全90問のうち65問は四択ないし五択の選択問題で、適当に回答しても一定の点数が得られてしまうため、ゼロ点をとることが極めて難しかったことがわかっている。この点に着目したある研究によると、この調査で得点がゼロになる確率は0.000015%しかないという。 したがってゼロ点だった1.7%は、はじめから回答しようとしなかった可能性が高い(※3)』、「GHQの指示によって15歳から64歳までの16,820名を対象にした大規模な読み書き能力の調査が全国で行われた(・・・)。規模の大きさや科学的な手法を取り入れている点で、この調査の信頼性は高い。読み書き能力を広く扱う問題は全90問で、1問1点の90点満点だった。 結論を先に記すと、得点がゼロ点の者は1.7%しかいなかった・・・98.3%の日本人は一問以上正解できたわけだが、たとえば一問だけ正解して他はすべて不正解だった者を「識字能力がある」とすることには無理がある。さらに、全90問のうち65問は四択ないし五択の選択問題で、適当に回答しても一定の点数が得られてしまうため、ゼロ点をとることが極めて難しかったことがわかっている」、なるほど。
・『日本人の半数は新聞が読めなかった! また、言語政策を研究する角知行は調査対象者に送られた案内状が難解な漢字を含む文章で書かれていたため読み書き能力が低いものはその段階で脱落した疑いがあることや、心身にハンディキャップを持つ人々を排除していたことなども指摘している(※4)。さらに付け加えるなら、若い世代より識字能力が低かっただろう65歳以上の者も調査対象から外されている。 要するに、当時の日本人の本当の読み書き能力は、この調査から受ける印象よりかなり低い可能性が高い。 では、実態はどのようなものだったのか。識字能力は「ある/ない」と白黒つけられるものではなく程度問題なので定量化は難しいが、角は先の論文で、新聞の文章についての問いの正答率から、調査対象者の半数弱は新聞の読解にも困難を抱えていただろうと推測している。加えて先ほどの対象者の偏りを考慮すると、1948年の日本人の実に半数前後は、新聞をまともに読めなかった可能性が否定できない。 新聞を読めるものは人口の一割もいなかったと推測できる明治初期に比べると、約半世紀の教育の普及によって、日本人の読み書き能力がかなり向上したことがわかる。しかし、それでもなお、読み書きに不自由しない日本人はせいぜい2人に1人程度だったのである。 ちなみに、この調査は「日本人の識字率の高さを示したことでGHQが推進しようとしていた日本語のローマ字化を防いだ」という文脈で取り上げられることも多いが、先の論文の執筆者の一人である横山詔一によると、その主張の根拠は弱いという。 横山は、実態とはかなり異なる伝説が広まった理由として、敗戦後の行き場を失ったナショナリズムを挙げている。「みんなで戦後の復興を頑張ろうとしていた当時、日本人がある意味で自信を持てる内容だったのだろうと思う。『自分たちには能力があるんだ』『頑張れば発展できるんだ』という発信は、国民の胸にストンと落ちる部分があったのではないか」(※5)。 後編『多くの日本人は「確率」という概念を正しく理解できない…日本社会にひそむ「教育水準の格差」の現実』に続く』、「1948年の日本人の実に半数前後は、新聞をまともに読めなかった可能性が否定できない。 新聞を読めるものは人口の一割もいなかったと推測できる明治初期に比べると、約半世紀の教育の普及によって、日本人の読み書き能力がかなり向上したことがわかる。しかし、それでもなお、読み書きに不自由しない日本人はせいぜい2人に1人程度だったのである・・・敗戦後の行き場を失ったナショナリズムを挙げている。「みんなで戦後の復興を頑張ろうとしていた当時、日本人がある意味で自信を持てる内容だったのだろうと思う。『自分たちには能力があるんだ』『頑張れば発展できるんだ』という発信は、国民の胸にストンと落ちる部分があったのではないか」、そんな時代背景も影響するとは奥が深いようだ。
第五に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「多くの日本人は「確率」という概念を正しく理解できない…日本社会にひそむ「教育水準の格差」の現実」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/128137?imp=0
・『「日本人の識字率は極めて高い」「経済格差はあっても、文化的には平等」といった言説は、ネットはもちろん書籍でもよく見られるものだ。こうした主張の根拠とされがちなのは1948年に16,820名を対象に実施された「日本人の読み書き能力調査」で、「完全文盲が1.7%」という結果が出ている。だが近年、この結果を再検証した研究によって、当時の日本人の識字率はもっと低い可能性があることがわかってきた。 『「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年、GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証』より続く』、興味深そうだ。…
・『知的格差から逃れられない日本社会 小熊英二は日本人の読み書き能力についてのこの調査結果を「都市と農村、上層と下層の知的階層格差」の表れだとしている(※1)が、たしかに成績には世代差以外にも、地域や学歴による差があった(※2)。 要するに、明治にも、昭和にも、そして2010年代にも日本社会には読み書き能力の格差があり、したがっておそらく、今もあるということだ。新井紀子は読解力の格差をはじめて見つけたのではなく、戦後長らく忘れられていた知的格差を、ようやく再発見したというべきかもしれない。 ここまで見てきたのは主に読み書きや言葉を扱う能力の格差だが、読み書き能力は広く知的な力の基盤だし、そもそも日本社会では教育水準にも格差があるため、日本社会での知的能力の格差が読解力だけに留まると考えることは難しい。たとえば最終学歴が高校の人間と、大学院で博士号を取った人間の知的パフォーマンスになにも差が出なかったら、むしろおかしい。 東日本大震災後の福島県を中心に、原発事故の影響について130回以上の講演をした被ばく医療の専門家である神谷研二は、住民との知的なコミュニケーションの難しさを感じたと振り返っている。 「(放射線の発がんリスクについて伝えるためには)確率の話になるわけですが、住民の側からすると理解が難しい。一般に危険か危険でないか、日常的には『あるかないか』で考えるわけですから、確率的に考えるということが今までの習慣の中にないんですよね」』、「原発事故の影響について130回以上の講演をした被ばく医療の専門家である神谷研二は、住民との知的なコミュニケーションの難しさを感じたと振り返っている。 「(放射線の発がんリスクについて伝えるためには)確率の話になるわけですが、住民の側からすると理解が難しい。一般に危険か危険でないか、日常的には『あるかないか』で考えるわけですから、確率的に考えるということが今までの習慣の中にないんですよね」、「住民の側からすると理解が難しい。一般に危険か危険でないか、日常的には『あるかないか』で考えるわけですから、確率的に考えるということが今までの習慣の中にないんですよね」、確かに「確率的に考える」のには慣れていない人は殆どだろう。
・『日本社会にひそむ教育格差 神谷はもちろん、難関大学(広島大学医学部)を出て、博士号も取得している。研究者としては標準的な学歴かも知れないが、日本社会では例外的な高学歴だと言っていい。 一方で、日本人の過半数は大学を出ていない。2023年の大学進学率こそ過去最高の57・7%を記録しているが、これは若年層の数値である。日本の大学進学率は徐々に上昇してきたので、全日本人を対象にすると大卒率ははるかに低くなる。たとえば、社会学者の吉川徹は2019年時点では「日本人の7割近くが非大卒」と推定している。 さらには地方ほど非大卒層の割合は増える傾向があるため、神谷の講演を聞きに来た住人の相当数は大学を出ていなかっただろうし、ましてや博士号持ちなどほとんどいなかっただろう。 両者の間に教育水準の大きな差があったことと、「確率」という概念が住民に伝わらなかったこと。この二つの事実の間に、何らかの関係はないだろうか。 そのヒントは、日本社会にひそむ教育格差にあるかもしれない。次回に続く… 』、「社会学者の吉川徹は2019年時点では「日本人の7割近くが非大卒」と推定している。 さらには地方ほど非大卒層の割合は増える傾向があるため、神谷の講演を聞きに来た住人の相当数は大学を出ていなかっただろうし、ましてや博士号持ちなどほとんどいなかっただろう。 両者の間に教育水準の大きな差があったことと、「確率」という概念が住民に伝わらなかったこと。この二つの事実の間に、何らかの関係はないだろうか。 そのヒントは、日本社会にひそむ教育格差にあるかもしれない」、「次回に続く」とあるので、探したがまだ出版されてないようだ。このシリーズは「教育格差」を取上げ、本題の「リニア」とは関係がないので、ここでお許し頂きたい。ただ、次回は「リニア」と密接に関係しているので、大いにご期待を!
先ずは、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「早稲田を出てオックスフォード大学で博士号を取得…静岡・川勝知事「職業差別」発言に隠された日本の「知性格差」という問題」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127652?imp=0
・『「差別発言」の内容を分解してみると… 静岡県の川勝平太知事が新規採用職員に向けて述べた訓示に、特定の職業を指して「知性が低い」などとする差別的発言が含まれていたとして広く批判された。川勝は、当初は新聞報道の「切り取り」のせいだなどと述べて頑張ったが、まもなく辞職を表明した。 訓示の全文を確認すると、「知性」のくだりで川勝が言いたかったらしいことは、大きく次の三点に要約できそうだ。 1(県庁勤務者は)勉強して知性を磨くべきである 2 知性の程度には個人差がある(「自分の知性がこの人に及ばないなと思っても……」) 3 第一・二次産業従事者は知性が低い(「野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです」) 問題になったのは3の発言で、批判されるのは当然である。だが、1と2についてはどうだろうか。 1について批判する者はいないだろう。知性に価値があることや勉強の必要性は常識とされ、すべての学校では勉強が推奨されている。2は公の場での発言としては微妙だが、内心でこう考えている人間は多そうだ。3の発言がなく、1と2だけだったら、おそらく辞任は免れたのではないか』、「3の発言がなく、1と2だけだったら、おそらく辞任は免れたのではないか」、なるほど。
・『そもそも「知性」とは何か 朝日新聞は4月5日の社説で川勝発言を批判したが、1の点はもちろん、2についても批判することを慎重に避けた印象を受ける。そして「社会の一員としてそれぞれの日々を懸命に生きる他者の知性のあり方に、敬意を持って欲しい。」と書いているが、この一文はむしろ、知性の質や量に個人差があることを匂わせている。 だが、もしそうだとしても、「他者の知性のあり方」とは具体的にどのようなものか。 川勝はもともとは経済学者で、学部と修士課程では早稲田大学で学び、その後オックスフォード大学で博士号を得ている。いかにも「知性」の高そうな経歴だが、そもそも知性とはなんだろうか。 知性に大きな価値があり、さらにもし知性に個人差があるなら、我々の中にも川勝と同じ、知性によって他者を差別する気分が潜んでいたりはしないか? あいまいであるにも関わらず、現代社会で圧倒的な価値を持ってしまった「知性」の実態に、客観的な資料から迫ってみよう。 たとえば、知的な能力の基盤ともいえる読み書き能力については、少しだけデータが残されているようだ。 『「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」』に続く』、「あいまいであるにも関わらず、現代社会で圧倒的な価値を持ってしまった「知性」の実態に、客観的な資料から迫ってみよう」、なるほど…
次に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127653?imp=0
・『江戸の庶民は文字が読めた? まるで人間のような自然な作文をするAIが話題になった2023年、いくつかの新聞が、「読み書き」を巡る目立たないニュースを報じた。それは、国立国語研究所(東京)が、1948年以来実に75年ぶりに、全国的な識字率の調査を試みているというものだ。 誰もが読み書きできるはずのこの日本で、どうしてわざわざ識字率などを調べるのか。そう感じる日本人は多いと思われる。記事のひとつで国立国語研究所准教授の野山広が言うように、日本では「読み書きができない人はほぼいないと長く信じられてきた」からだ。 だが、野山も言うように、それは「共同幻想」である。 「日本人なら誰でも読み書きができるはず」という幻想は、極めて根強い。どのくらい根強いかというと、時間を遡り、歴史上の事実をも塗り替えたほどだ。 江戸時代や明治時代の日本人の識字率は高かったとか、大半が読み書きできたとか、大胆なものでは識字率が世界一だったとかいう言説をよく目にする。たとえば「江戸文化歴史研究家」を名乗る作家の瀧島有はこう書いている。 「江戸後期、日本は『江戸の町の人口』の他に、もう一つ、世界トップクラスを誇ったものがあります。それは『庶民』の識字率。全国平均では約60%以上、江戸の町では約70%以上でした。江戸の町の『実際』は、おそらく約80%以上だろうと言われています」 こういった認識は半ば常識になっているが、結論を先に書けば、誤りである、もしくは著しく誇張されていることが研究によって明らかになっている。こういった俗論は主に1970年代以降、ロナルド・ドーアらによる寺子屋教育の過大評価などによって広まったらしいが、実はドーア本人は後にその見解を訂正している(『日本人のリテラシー』リチャード・ルビンジャー、柏書房など)』、「世界トップクラスを誇ったものがあります。それは『庶民』の識字率。全国平均では約60%以上、江戸の町では約70%以上でした。江戸の町の『実際』は、おそらく約80%以上だろうと言われています」 こういった認識は半ば常識になっているが、結論を先に書けば、誤りである、もしくは著しく誇張されていることが研究によって明らかになっている」、なるほど。
・『「新聞」を読めたのはたったの1.7% では、当時の日本人の読み書き能力はどのようなものだったのか。 江戸時代末期の日本人の8割以上は農民だったため、「普通の日本人」の識字能力を知るためには、農民についてのデータが欠かせない。だが、多くの研究者も認めるように、江戸時代はもちろん明治時代に入っても、農民の識字率に関する資料は極めて少ない。 しかし、過去の日本人の識字能力に関心がある者の間では有名な、極めて貴重な資料が一つ残されている。それは、1881年(明治14年)に長野県の北安曇郡常盤村(現・大町市)で、15歳以上の「男子」882人を対象に行われた調査である。 村民の読み書き能力を八段階に分けたこの調査によると、自分の名前や村名さえ読み書きできない者が35.4%存在したらしい。彼らには識字能力がないことになるが、では残りの65%の男子が読み書きできたかというと、まったくそうではない。 生活上の必要があっただろう出納帳を書けるものはなんとか14.5%いたが、「普通ノ書簡」および「証書類」を自分で書けるものはわずか4.4%、社会の動きを知るために必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては、882人中15名、1.7%しかいない(「近代日本のリテラシー研究序説」島村直己など)。 しかも忘れてはならないのは、この調査は女性を対象外としていた点である。明治時代の識字率には地域によりかなりのばらつきがあるが、女性の識字能力が男性よりも大幅に劣っていた点は全国に共通している。したがって、当時の常盤村の住民全体の読み書き能力は、上の数値よりもかなり落ちる可能性が高い。女性を含めると、村で新聞を読めた人間は1%程度しかいなかったのではないだろうか。 日本人の「2人に1人」は自分の名前さえ書けなかった…!?明治期時代の日本の「知的格差」驚きの実態』に続く…』、「極めて貴重な資料が一つ残されている。それは、1881年(明治14年)に長野県の北安曇郡常盤村(現・大町市)で、15歳以上の「男子」882人を対象に行われた調査である。 村民の読み書き能力を八段階に分けたこの調査によると、自分の名前や村名さえ読み書きできない者が35.4%存在したらしい。彼らには識字能力がないことになるが、では残りの65%の男子が読み書きできたかというと、まったくそうではない。 生活上の必要があっただろう出納帳を書けるものはなんとか14.5%いたが、「普通ノ書簡」および「証書類」を自分で書けるものはわずか4.4%、社会の動きを知るために必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては、882人中15名、1.7%しかいない』、「自分の名前や村名さえ読み書きできない者が35.4%存在・・・必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては・・・1.7%しかいない」、一般的に信じられている姿は全く信頼性に欠けるようだ。
第三に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「日本人の「2人に1人」は自分の名前さえ書けなかった…!?明治期時代の日本の「知的格差」驚きの実態」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127654?imp=0
・『「江戸時代の日本人の識字率は高かった」「大半が読み書きできた」さらには「日本は識字率が世界一」……こういった言説はネットだけでなく、書籍でも散見される。しかし、本当にそうだったのか。たとえば1881年(明治14年)、長野県の北安曇郡常盤村(現・大町市)にて15歳以上の男子882人を対象に行われた調査では、「証書類」を自分で書けるものはわずか4.4%、社会の動きを知るために必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては1.7%しかいなかった。引き続き、日本人の「知性格差」についてみていこう。 『「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」』より続く…』、やはり伝承とは当てにならないものだ。
・『識字率が最も低かった鹿児島県 長野県の北安曇郡常盤村の調査の結果は、決して例外的ではない。当時の他の資料と照らし合わせると、常盤村の住人の読み書き能力は全国的には高い方だった可能性さえある。 常盤村の調査が貴重なのは、読み書き能力を細かく段階に分けた点にあるが、同時期の1890年前後に、当時の文部省が全国の数県で「自署率」、すなわち自分の名前を書けるかどうかの調査を行っている。この調査によると、近江商人の本拠地であり、調査の対象となった県でもっとも識字率が高い滋賀県の男性では90%近くが自分の名前を書けたが、女性では50%前後しかない。 逆に最も識字率が低い鹿児島県では、男子でも40%前後は自分の名前が書けず、女子に至っては、自分の名前が書けた者は4~8%前後しかいない(「近代日本のリテラシー研究序説」島村直己、「識字能力・識字率の歴史的推移――日本の経験」斉藤泰雄など)。また、読み書きができるものの割合は、士族階層や農村部の指導層など社会の上層ほど高く、農村内部にもかなりの格差があった可能性が高い(『日本人のリテラシー』リチャード・ルビンジャー、柏書房など)。 このように識字率にはかなりの階層差・地域差・男女差があったが、ある研究者は、識字レベルが滋賀県と鹿児島県のおよそ中間だった岡山県の数値(男子の50~60%、女子の30%前後が自分の名前を書けた)が全国平均に近かったのではないかと推測している(「識字能力・識字率の歴史的推移――日本の経験」斉藤泰雄)。先の長野県常盤村では男子の約65%が自分の名前を書けたので、常盤村の識字レベルは平均的か、むしろやや上回っていたかもしれない』、「調査の対象となった県でもっとも識字率が高い滋賀県の男性では90%近くが自分の名前を書けたが、女性では50%前後しかない。 逆に最も識字率が低い鹿児島県では、男子でも40%前後は自分の名前が書けず、女子に至っては、自分の名前が書けた者は4~8%前後しかいない・・・先の長野県常盤村では男子の約65%が自分の名前を書けたので、常盤村の識字レベルは平均的か、むしろやや上回っていたかもしれない」、なるほど。
・『読み書き能力を持つのは、社会の上層のごく一部 忘れてはならないのは、この調査の数字はあくまで自分の名前を書ける者の割合であって、「自由に読み書きできる者」の割合はずっと低くなる点だ。「識字率」の定義は実は難しいが、少なくとも今の一般的な文脈では、かろうじて自分の名前を書けるだけで、日常的な文章も新聞も読めないようでは「識字」に含まれないだろう。 明治期の識字について多くの研究がある東北大学の八鍬友広は、自署能力に加えて文通する能力についても調べた明治初期の和歌山県の調査の例をひき、そこでは文通可能なリテラシーを持っていた男子は自署できた者の1/4以下の約10%だったと述べている(「明治期滋賀県における自署率調査」八鍬友広)。 この割合は、自署できた男子の1割強だけが普通の書簡を読めたとする先の常盤村のデータよりもかなり高いが、当時の調査の正確さに限界がある以上、詳細な議論はあまり意味がないだろう。いずれにしても、自由に読み書きができた者は、自分の名前だけが読み書きできる者よりずっと少なかったと考えるのは自然ではある。 ということは、女性を含めると(日本人のリテラシーを考えるときに女性を排除する理由はない)半数前後が自分の名前さえ書けなかったと思われる明治初期の日本では、圧倒的多数は自由な読み書きができなかったことになる。特に、常盤村の調査からも分かるように、社会の動きを知る手段である新聞等を読めた人間の割合は、人口の数%に過ぎなかったのではないか。 読み書き能力は、知的な能力の基礎であると言わざるを得ない。だが、明治時代の初期でさえ、読み書き能力を持つのは、社会の上層のごく一部の人間に限られていた。 本や新聞を読む/書くなどの知的な活動に参加する機会や能力には、前出のルビンジャーが繰り返し強調するように、社会階層・地域・性によって著しい格差があったのである。それはつまり、豊かさや身分に格差があったように、知的能力にも、本人の力ではどうしようもない格差があった可能性を示唆している。 では、その格差は、今日では解消されているのだろうか? 次回『「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年、GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証』に続く』、「明治時代の初期でさえ、読み書き能力を持つのは、社会の上層のごく一部の人間に限られていた。 本や新聞を読む/書くなどの知的な活動に参加する機会や能力には、前出のルビンジャーが繰り返し強調するように、社会階層・地域・性によって著しい格差があったのである。それはつまり、豊かさや身分に格差があったように、知的能力にも、本人の力ではどうしようもない格差があった可能性を示唆している」、なるほど。
第四に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年、GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/128138?imp=0
・『連載第1回『「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」』 日本語が読めない大学生たち 前回、日本人の大半は明治時代初期、つまりほんの数世代前までは読み書きができなかったことを資料によって確認した。読み書きの力や知的なものに触れる機会・能力はまったく平等ではなく、著しい格差があったのである。 しかし、それは明治時代の、しかも初頭の話ではある。戦後や現代ではどうだろうか? たしかに、近年は社会的な格差がよく話題になる。だが、そこで語られる「格差」の内容はほとんどが経済・金銭的なもので、文化的・知的な格差は見て見ぬふりをされている。 しかし、文化格差について研究を続けてきた社会学者が「日本社会は文化的には平等だ」という主張を「文化的平等神話」と切り捨てるように(※1)、経済以外でも重大な格差があることは、少なくとも専門家の間では知られているらしい。 知的格差がすっかり忘れ去られた2011年、全国の大学生を対象に数学能力の調査を行った数学研究者である新井紀子は、結果を見て愕然とした。数学の能力以前に、簡単な日本語で書かれた問題文を理解できなかったり、初歩的な論理展開もできない学生があまりにも多かったのである。そして、その力は大学の偏差値が低いほど低かった。 驚いた新井は全国の中高生を対象に読解力の調査を実施したが、結果は、上記の調査を後押しするものだった。「中学校を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」「学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない」などの惨憺たる実態が明らかになったのである』、「新井は全国の中高生を対象に読解力の調査を実施したが、結果は、上記の調査を後押しするものだった。「中学校を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」「学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない」などの惨憺たる実態が明らかになった」、「数学の能力以前に、簡単な日本語で書かれた問題文を理解できなかったり、初歩的な論理展開もできない学生があまりにも多かった」というのは驚くべきことだ。
・『「字が読めない日本人は1.7%だけ」のウソ この調査では、中学生のうちは歳とともに読解力が伸びる傾向があるのに、高校では伸びが止まることも確認された。それはつまり、かなりの成人も読解力に問題を抱えていることを示唆している。 また、読解力はやはり学校の偏差値と「極めて強い」正の相関があり、家庭の経済力と負の相関があった。つまり読解能力や論理的思考力には著しい社会的格差があることが判明したのだった。 新井は「(基礎的読解力調査は)これまで世界中で誰もやっていません」とも記しているが、少なくとも、前回書いたように読解力の調査は明治時代初頭にもあり、そこでも著しい格差が示されている。 明治と平成の日本社会には知的格差があるらしい。では、その間に位置する昭和ではどうか。 1948年に、GHQの指示によって15歳から64歳までの16,820名を対象にした大規模な読み書き能力の調査が全国で行われた(「日本人の読み書き能力調査」)。規模の大きさや科学的な手法を取り入れている点で、この調査の信頼性は高い。読み書き能力を広く扱う問題は全90問で、1問1点の90点満点だった。 結論を先に記すと、得点がゼロ点の者は1.7%しかいなかった。この結果はその後独り歩きし、「敗戦直後でも100%近い日本人が読み書きできた」とか「日本人の識字率の高さにGHQが驚愕した」といった神話となって今も生き残っているが、実は近年、その解釈が正しくなく、実態はむしろ逆だったことが専門家によって指摘されている。 まず、たしかに98.3%の日本人は一問以上正解できたわけだが、たとえば一問だけ正解して他はすべて不正解だった者を「識字能力がある」とすることには無理がある。さらに、全90問のうち65問は四択ないし五択の選択問題で、適当に回答しても一定の点数が得られてしまうため、ゼロ点をとることが極めて難しかったことがわかっている。この点に着目したある研究によると、この調査で得点がゼロになる確率は0.000015%しかないという。 したがってゼロ点だった1.7%は、はじめから回答しようとしなかった可能性が高い(※3)』、「GHQの指示によって15歳から64歳までの16,820名を対象にした大規模な読み書き能力の調査が全国で行われた(・・・)。規模の大きさや科学的な手法を取り入れている点で、この調査の信頼性は高い。読み書き能力を広く扱う問題は全90問で、1問1点の90点満点だった。 結論を先に記すと、得点がゼロ点の者は1.7%しかいなかった・・・98.3%の日本人は一問以上正解できたわけだが、たとえば一問だけ正解して他はすべて不正解だった者を「識字能力がある」とすることには無理がある。さらに、全90問のうち65問は四択ないし五択の選択問題で、適当に回答しても一定の点数が得られてしまうため、ゼロ点をとることが極めて難しかったことがわかっている」、なるほど。
・『日本人の半数は新聞が読めなかった! また、言語政策を研究する角知行は調査対象者に送られた案内状が難解な漢字を含む文章で書かれていたため読み書き能力が低いものはその段階で脱落した疑いがあることや、心身にハンディキャップを持つ人々を排除していたことなども指摘している(※4)。さらに付け加えるなら、若い世代より識字能力が低かっただろう65歳以上の者も調査対象から外されている。 要するに、当時の日本人の本当の読み書き能力は、この調査から受ける印象よりかなり低い可能性が高い。 では、実態はどのようなものだったのか。識字能力は「ある/ない」と白黒つけられるものではなく程度問題なので定量化は難しいが、角は先の論文で、新聞の文章についての問いの正答率から、調査対象者の半数弱は新聞の読解にも困難を抱えていただろうと推測している。加えて先ほどの対象者の偏りを考慮すると、1948年の日本人の実に半数前後は、新聞をまともに読めなかった可能性が否定できない。 新聞を読めるものは人口の一割もいなかったと推測できる明治初期に比べると、約半世紀の教育の普及によって、日本人の読み書き能力がかなり向上したことがわかる。しかし、それでもなお、読み書きに不自由しない日本人はせいぜい2人に1人程度だったのである。 ちなみに、この調査は「日本人の識字率の高さを示したことでGHQが推進しようとしていた日本語のローマ字化を防いだ」という文脈で取り上げられることも多いが、先の論文の執筆者の一人である横山詔一によると、その主張の根拠は弱いという。 横山は、実態とはかなり異なる伝説が広まった理由として、敗戦後の行き場を失ったナショナリズムを挙げている。「みんなで戦後の復興を頑張ろうとしていた当時、日本人がある意味で自信を持てる内容だったのだろうと思う。『自分たちには能力があるんだ』『頑張れば発展できるんだ』という発信は、国民の胸にストンと落ちる部分があったのではないか」(※5)。 後編『多くの日本人は「確率」という概念を正しく理解できない…日本社会にひそむ「教育水準の格差」の現実』に続く』、「1948年の日本人の実に半数前後は、新聞をまともに読めなかった可能性が否定できない。 新聞を読めるものは人口の一割もいなかったと推測できる明治初期に比べると、約半世紀の教育の普及によって、日本人の読み書き能力がかなり向上したことがわかる。しかし、それでもなお、読み書きに不自由しない日本人はせいぜい2人に1人程度だったのである・・・敗戦後の行き場を失ったナショナリズムを挙げている。「みんなで戦後の復興を頑張ろうとしていた当時、日本人がある意味で自信を持てる内容だったのだろうと思う。『自分たちには能力があるんだ』『頑張れば発展できるんだ』という発信は、国民の胸にストンと落ちる部分があったのではないか」、そんな時代背景も影響するとは奥が深いようだ。
第五に、4月12日付け現代ビジネスが掲載した佐藤 喬氏による「多くの日本人は「確率」という概念を正しく理解できない…日本社会にひそむ「教育水準の格差」の現実」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/128137?imp=0
・『「日本人の識字率は極めて高い」「経済格差はあっても、文化的には平等」といった言説は、ネットはもちろん書籍でもよく見られるものだ。こうした主張の根拠とされがちなのは1948年に16,820名を対象に実施された「日本人の読み書き能力調査」で、「完全文盲が1.7%」という結果が出ている。だが近年、この結果を再検証した研究によって、当時の日本人の識字率はもっと低い可能性があることがわかってきた。 『「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年、GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証』より続く』、興味深そうだ。…
・『知的格差から逃れられない日本社会 小熊英二は日本人の読み書き能力についてのこの調査結果を「都市と農村、上層と下層の知的階層格差」の表れだとしている(※1)が、たしかに成績には世代差以外にも、地域や学歴による差があった(※2)。 要するに、明治にも、昭和にも、そして2010年代にも日本社会には読み書き能力の格差があり、したがっておそらく、今もあるということだ。新井紀子は読解力の格差をはじめて見つけたのではなく、戦後長らく忘れられていた知的格差を、ようやく再発見したというべきかもしれない。 ここまで見てきたのは主に読み書きや言葉を扱う能力の格差だが、読み書き能力は広く知的な力の基盤だし、そもそも日本社会では教育水準にも格差があるため、日本社会での知的能力の格差が読解力だけに留まると考えることは難しい。たとえば最終学歴が高校の人間と、大学院で博士号を取った人間の知的パフォーマンスになにも差が出なかったら、むしろおかしい。 東日本大震災後の福島県を中心に、原発事故の影響について130回以上の講演をした被ばく医療の専門家である神谷研二は、住民との知的なコミュニケーションの難しさを感じたと振り返っている。 「(放射線の発がんリスクについて伝えるためには)確率の話になるわけですが、住民の側からすると理解が難しい。一般に危険か危険でないか、日常的には『あるかないか』で考えるわけですから、確率的に考えるということが今までの習慣の中にないんですよね」』、「原発事故の影響について130回以上の講演をした被ばく医療の専門家である神谷研二は、住民との知的なコミュニケーションの難しさを感じたと振り返っている。 「(放射線の発がんリスクについて伝えるためには)確率の話になるわけですが、住民の側からすると理解が難しい。一般に危険か危険でないか、日常的には『あるかないか』で考えるわけですから、確率的に考えるということが今までの習慣の中にないんですよね」、「住民の側からすると理解が難しい。一般に危険か危険でないか、日常的には『あるかないか』で考えるわけですから、確率的に考えるということが今までの習慣の中にないんですよね」、確かに「確率的に考える」のには慣れていない人は殆どだろう。
・『日本社会にひそむ教育格差 神谷はもちろん、難関大学(広島大学医学部)を出て、博士号も取得している。研究者としては標準的な学歴かも知れないが、日本社会では例外的な高学歴だと言っていい。 一方で、日本人の過半数は大学を出ていない。2023年の大学進学率こそ過去最高の57・7%を記録しているが、これは若年層の数値である。日本の大学進学率は徐々に上昇してきたので、全日本人を対象にすると大卒率ははるかに低くなる。たとえば、社会学者の吉川徹は2019年時点では「日本人の7割近くが非大卒」と推定している。 さらには地方ほど非大卒層の割合は増える傾向があるため、神谷の講演を聞きに来た住人の相当数は大学を出ていなかっただろうし、ましてや博士号持ちなどほとんどいなかっただろう。 両者の間に教育水準の大きな差があったことと、「確率」という概念が住民に伝わらなかったこと。この二つの事実の間に、何らかの関係はないだろうか。 そのヒントは、日本社会にひそむ教育格差にあるかもしれない。次回に続く… 』、「社会学者の吉川徹は2019年時点では「日本人の7割近くが非大卒」と推定している。 さらには地方ほど非大卒層の割合は増える傾向があるため、神谷の講演を聞きに来た住人の相当数は大学を出ていなかっただろうし、ましてや博士号持ちなどほとんどいなかっただろう。 両者の間に教育水準の大きな差があったことと、「確率」という概念が住民に伝わらなかったこと。この二つの事実の間に、何らかの関係はないだろうか。 そのヒントは、日本社会にひそむ教育格差にあるかもしれない」、「次回に続く」とあるので、探したがまだ出版されてないようだ。このシリーズは「教育格差」を取上げ、本題の「リニア」とは関係がないので、ここでお許し頂きたい。ただ、次回は「リニア」と密接に関係しているので、大いにご期待を!
タグ:リニア新幹線 (その9)(「知性格差」5題:早稲田を出てオックスフォード大学で博士号を取得…静岡・川勝知事「職業差別」発言に隠された日本の「知性格差」という問題、「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」、日本人の「2人に1人」は自分の名前さえ書けなかった…!?明治期時代の日本の「知的格差」驚きの実態、「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年 GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証、多くの日本人は「確 現代ビジネス 佐藤 喬氏による「早稲田を出てオックスフォード大学で博士号を取得…静岡・川勝知事「職業差別」発言に隠された日本の「知性格差」という問題」 「3の発言がなく、1と2だけだったら、おそらく辞任は免れたのではないか」、なるほど。 「あいまいであるにも関わらず、現代社会で圧倒的な価値を持ってしまった「知性」の実態に、客観的な資料から迫ってみよう」、なるほど… 佐藤 喬氏による「「江戸時代の日本人の識字率は世界イチ」という説は「嘘」だった…!882人調査から読み解く、日本の「知性格差」」 「世界トップクラスを誇ったものがあります。それは『庶民』の識字率。全国平均では約60%以上、江戸の町では約70%以上でした。江戸の町の『実際』は、おそらく約80%以上だろうと言われています」 こういった認識は半ば常識になっているが、結論を先に書けば、誤りである、もしくは著しく誇張されていることが研究によって明らかになっている」、なるほど。 「極めて貴重な資料が一つ残されている。それは、1881年(明治14年)に長野県の北安曇郡常盤村(現・大町市)で、15歳以上の「男子」882人を対象に行われた調査である。 村民の読み書き能力を八段階に分けたこの調査によると、自分の名前や村名さえ読み書きできない者が35.4%存在したらしい。彼らには識字能力がないことになるが、では残りの65%の男子が読み書きできたかというと、まったくそうではない。 生活上の必要があっただろう出納帳を書けるものはなんとか14.5%いたが、「普通ノ書簡」および「証書類」を自分で書けるものはわずか4.4%、社会の動きを知るために必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては、882人中15名、1.7%しかいない』、「自分の名前や村名さえ読み書きできない者が35.4%存在・・・必要な「公布達」や「新聞論説」を読めるものに至っては・・・1.7%しかいない」、一般的に信じられている姿は全く信頼性に欠けるようだ。 佐藤 喬氏による「日本人の「2人に1人」は自分の名前さえ書けなかった…!?明治期時代の日本の「知的格差」驚きの実態」 やはり伝承とは当てにならないものだ。 「調査の対象となった県でもっとも識字率が高い滋賀県の男性では90%近くが自分の名前を書けたが、女性では50%前後しかない。 逆に最も識字率が低い鹿児島県では、男子でも40%前後は自分の名前が書けず、女子に至っては、自分の名前が書けた者は4~8%前後しかいない・・・先の長野県常盤村では男子の約65%が自分の名前を書けたので、常盤村の識字レベルは平均的か、むしろやや上回っていたかもしれない」、なるほど。 「明治時代の初期でさえ、読み書き能力を持つのは、社会の上層のごく一部の人間に限られていた。 本や新聞を読む/書くなどの知的な活動に参加する機会や能力には、前出のルビンジャーが繰り返し強調するように、社会階層・地域・性によって著しい格差があったのである。それはつまり、豊かさや身分に格差があったように、知的能力にも、本人の力ではどうしようもない格差があった可能性を示唆している」、なるほど。 佐藤 喬氏による「「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年、GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証」 「新井は全国の中高生を対象に読解力の調査を実施したが、結果は、上記の調査を後押しするものだった。「中学校を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」「学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない」などの惨憺たる実態が明らかになった」、「数学の能力以前に、簡単な日本語で書かれた問題文を理解できなかったり、初歩的な論理展開もできない学生があまりにも多かった」というのは驚くべきことだ。 「GHQの指示によって15歳から64歳までの16,820名を対象にした大規模な読み書き能力の調査が全国で行われた(・・・)。規模の大きさや科学的な手法を取り入れている点で、この調査の信頼性は高い。読み書き能力を広く扱う問題は全90問で、1問1点の90点満点だった。 結論を先に記すと、得点がゼロ点の者は1.7%しかいなかった・・・ 98.3%の日本人は一問以上正解できたわけだが、たとえば一問だけ正解して他はすべて不正解だった者を「識字能力がある」とすることには無理がある。さらに、全90問のうち65問は四択ないし五択の選択問題で、適当に回答しても一定の点数が得られてしまうため、ゼロ点をとることが極めて難しかったことがわかっている」、なるほど。 「1948年の日本人の実に半数前後は、新聞をまともに読めなかった可能性が否定できない。 新聞を読めるものは人口の一割もいなかったと推測できる明治初期に比べると、約半世紀の教育の普及によって、日本人の読み書き能力がかなり向上したことがわかる。しかし、それでもなお、読み書きに不自由しない日本人はせいぜい2人に1人程度だったのである・・・敗戦後の行き場を失ったナショナリズムを挙げている。 「みんなで戦後の復興を頑張ろうとしていた当時、日本人がある意味で自信を持てる内容だったのだろうと思う。『自分たちには能力があるんだ』『頑張れば発展できるんだ』という発信は、国民の胸にストンと落ちる部分があったのではないか」、そんな時代背景も影響するとは奥が深いようだ。 佐藤 喬氏による「多くの日本人は「確率」という概念を正しく理解できない…日本社会にひそむ「教育水準の格差」の現実」 「原発事故の影響について130回以上の講演をした被ばく医療の専門家である神谷研二は、住民との知的なコミュニケーションの難しさを感じたと振り返っている。 「(放射線の発がんリスクについて伝えるためには)確率の話になるわけですが、住民の側からすると理解が難しい。一般に危険か危険でないか、日常的には『あるかないか』で考えるわけですから、確率的に考えるということが今までの習慣の中にないんですよね」、 「住民の側からすると理解が難しい。一般に危険か危険でないか、日常的には『あるかないか』で考えるわけですから、確率的に考えるということが今までの習慣の中にないんですよね」、確かに「確率的に考える」のには慣れていない人は殆どだろう。 「社会学者の吉川徹は2019年時点では「日本人の7割近くが非大卒」と推定している。 さらには地方ほど非大卒層の割合は増える傾向があるため、神谷の講演を聞きに来た住人の相当数は大学を出ていなかっただろうし、ましてや博士号持ちなどほとんどいなかっただろう。 両者の間に教育水準の大きな差があったことと、「確率」という概念が住民に伝わらなかったこと。この二つの事実の間に、何らかの関係はないだろうか。 そのヒントは、日本社会にひそむ教育格差にあるかもしれない」、 「次回に続く」とあるので、探したがまだ出版されてないようだ。このシリーズは「教育格差」を取上げ、本題の「リニア」とは関係がないので、ここでお許し頂きたい。ただ、次回は「リニア」と密接に関係しているので、大いにご期待を!
その他公共交通(その1)(北海道「鉄道・バス」、利用者無視の公共交通政策 鈴木知事の支離滅裂な姿勢が混乱を招いた?、東京メトロが今年度いよいよ株式上場か?政治に翻弄された「民営化20年」) [産業動向]
今日は、その他公共交通(その1)(北海道「鉄道・バス」、利用者無視の公共交通政策 鈴木知事の支離滅裂な姿勢が混乱を招いた?、東京メトロが今年度いよいよ株式上場か?政治に翻弄された「民営化20年」)を取上げよう。
先ずは、本年4月2日付け東洋経済オンラインが掲載した 経済ジャーナリストの櫛田 泉氏による「北海道「鉄道・バス」、利用者無視の公共交通政策 鈴木知事の支離滅裂な姿勢が混乱を招いた?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/743468
・『鈴木直道知事の対応を巡って北海道議会では答弁が用意できないとして2024年2月28日に予定していた北海道議会が開催できず、異例の「延会」となる事態が発生した。北海道議会が「延会」となるのは記録が残る1967年以降、道政史上初の失態だ』、「北海道議会では答弁が用意できないとして2024年2月28日に予定していた北海道議会が開催できず、異例の「延会」となる事態が発生した。北海道議会が「延会」となるのは記録が残る1967年以降、道政史上初の失態」、みっともない事態だ。
・『議会軽視で自民会派と溝 問題となったのは、鈴木知事の北海道の観光振興予算に関する答弁。この答弁を巡り自民会派と事前の調整がつかなかったことが延会の原因だ。発端は、新年度の観光振興予算を巡る動きだった。当初は、「引き続きインバウンドの誘客のための海外への広報活動が必要」として26億円を要望しており道側からも前向きな回答を示されていたというが、実際に道議会の予算審議で提示された金額は14億円と半減されていた。これに対して、道の観光振興予算の大半を執行する北海道観光振興機構は新年度の予算が要求額よりも大幅に削減されたことに対して不満を抱いた。) この後、地元紙が報じたところによると、議会手続き前にもかかわらず鈴木知事は、札幌市内で同機構の小金澤健司会長と面会し、追加予算案などについて説明したという。鈴木知事のこうした行動を知事側の自民会派は問題視。「議会手続き前に特定団体に予算執行を予測させるようなことがあれば、議会軽視で看過できない」と遺憾の意を表明した。 このため、2月28日に予定していた第1回定例道議会では、鈴木知事の観光振興に関する答弁を巡り自民会派と道側の事前の調整がつかなくなったことから議会を開催できない状況となり、異例の「延会」となった。この日、自民会派の安住太伸幹事長は記者団に対し「知事は観光振興に力を入れると言ってきたが、具体的な中身が全く示されていない。知事を支えることが困難になりかねない」と述べている。 翌29日には議会は再開されたが、鈴木知事はこれを受け「外部への追加予算案の説明をしたといった事実はない」と答弁しているが、自民会派の中堅議員は「何も予算の話をしていないなんて誰も信じない」と苦笑した。また、野党側も「審議の根底が崩れることになる」と知事の行動を批判。道議会は荒れ模様となった』、「議会手続き前にもかかわらず鈴木知事は、札幌市内で同機構の小金澤健司会長と面会し、追加予算案などについて説明したという。鈴木知事のこうした行動を知事側の自民会派は問題視。「議会手続き前に特定団体に予算執行を予測させるようなことがあれば、議会軽視で看過できない」と遺憾の意を表明した。 このため、2月28日に予定していた第1回定例道議会では、鈴木知事の観光振興に関する答弁を巡り自民会派と道側の事前の調整がつかなくなったことから議会を開催できない状況となり、異例の「延会」となった」、完全に「鈴木知事」の不手際だ。
・『鈴木知事の支離滅裂な政策姿勢 鈴木知事は「観光振興に力を入れる」方針を示しているものの、2019年の知事就任前に市長を務めていた夕張市は観光振興とはかけ離れた状況に置かれている。 市長在任中だった2017年、夕張市所有の「ホテルマウントレースイ」「マウントレースイスキー場」など観光4施設を中国系企業に格安の2億4000万円で売却する。しかし、2019年にこの中国系企業は約15億円で観光4施設を香港系ファンドに転売し、その後、施設の運営会社は倒産した。このときの負債総額は8億3000万円であったが、一般債権者は全額を踏み倒され夕張市の経済が破壊されたことは2022年11月2日付記事(北の鉄路切り捨て鈴木知事「夕張市長時の問題点」)で詳しく触れている。「北海道の不動産取得を目的とした計画倒産だったのではないか」という疑念の声もいまだ絶えない。 現在は、「マウントレースイスキー場」はかろうじて営業を再開しているものの、スキー場に隣接した「ホテルマウントレースイ」は閉鎖したままだ。スキー場は、夕張市近隣から自家用車で訪れる地元客がまばらな状況で、インバウンドの波は及んでいない。こうした状況の中でも、夕張市は2024年の観光入込客数の目標を60万人としており、目標達成に向けて観光ホームページの更新、観光案内看板整備、市内観光マップの更新作業に取り組んではいる。しかし、2022年の観光入込客数は23万6000人にとどまっており、2023年12月6日に行われた夕張市の定例市議会で厚谷司市長は「目標達成は厳しい状況であることは事実」と答弁している。) なお、市長自らがJR北海道に対して石勝線夕張支線の廃線を提案した「攻めの廃線」前の2015年から2018年までは夕張市の観光入込客数は50万人台で推移していることから、「攻めの廃線」と「中国系企業への観光4施設の売却」がダブルパンチで夕張市の衰退に拍車をかけたといっても過言ではない。 こうした状況に対し、全国各地の地域が抱える問題に精通する日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏は「多くの国では鉄道に乗ること自体が観光資源として認知されていることからインバウンド来訪の波は鉄道のある地域に波及しやすい傾向がある」と指摘する。 実際に北海道のインバウンド誘致は一定の成果を見せており、この冬の観光シーズンは札幌から函館や帯広、網走方面に向かう特急列車は大混雑となっていたほか、ニセコリゾートエリアの玄関口となる函館本線の倶知安―小樽間でも日中に通常運行される2両編成のH100形では途中の余市駅で乗客の積み残しが発生する事態が生じたことなどから、急きょ3両編成のキハ201系が投入され輸送力の増強が図られた。 さらに藻谷氏は、「北海道ではせっかく存在していた鉄道が廃止されてしまったために、優れた景観を持つにもかかわらずインバウンド来訪の波が及んでいない地域もあるのは残念だ。つい最近の廃止事例である日高本線などについては、維持を北海道だけの判断に任せず、インバウンド振興という国策的な観点から対処を考えるべきだったのではないか」と続けた』、「市長自らがJR北海道に対して石勝線夕張支線の廃線を提案した「攻めの廃線」前の2015年から2018年までは夕張市の観光入込客数は50万人台で推移していることから、「攻めの廃線」と「中国系企業への観光4施設の売却」がダブルパンチで夕張市の衰退に拍車をかけたといっても過言ではない」、「攻めの廃線」など言葉遊びに過ぎない。何故、こんな馬鹿な「廃線を提案」が行われたのだろう。「中国系企業への観光4施設の売却」も不透明だ。それにしても「鈴木知事の支離滅裂な政策姿勢」は大いに問題だ。
・『東京―名古屋間に匹敵する距離が廃線に 鈴木知事就任以降、道は北海道の鉄道維持のために積極的な財政支出をしようとはせず、北海道の鉄道ネットワークの破壊を続けている。知事就任以降に廃止された鉄道路線は2020年5月の札沼線(学園都市線)北海道医療大学―新十津川間47.6km、2021年4月の日高本線鵡川―様似間116.0km、2023年4月の留萌本線石狩沼田―留萌間35.7km、2024年4月の根室本線富良野―新得間81.7kmで、その総距離は297.1kmに及ぶ。さらに、2026年3月31日限りで留萌本線深川―石狩沼田間14.4kmも廃止となる見込みで、この距離を加えると311.5kmの鉄道路線が廃止となり、この距離は東海道新幹線の東京―名古屋間に匹敵する。 鉄道だけではない。北海道新幹線の並行在来線問題では道が廃止の方針を決めた函館本線の長万部―倶知安―小樽間140.2kmについて、近年深刻化するバスドライバー不足を背景にバス転換協議が中断に追い込まれた。鈴木知事には、北海道が全体的に活気づくような筋の通った政策立案を望みたいが、その思いは届くのだろうか』、「東京―名古屋間に匹敵する距離が廃線」と、「鈴木知事」は「廃線」で何を狙っているのだろうか。
次に、4月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏による「東京メトロが今年度いよいよ株式上場か?政治に翻弄された「民営化20年」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339256
・『東京メトロは4月1日、民営化から20年の節目を迎えた。筆者が入社したのは民営化2年目のこと。当時、株式上場・完全民営化は「目前」とされたが、いまだ実現はしていない。前身である帝都高速度交通営団(営団地下鉄)から始まった、完全民営化への取り組みの歴史を振り返る』、興味深そうだ。
・『私鉄・東京地下鉄道から始まる東京の地下鉄史 東京メトロが創立20周年と聞いて、時間の流れの早さをしみじみと感じる。2017年まで同社に勤務していた筆者は、大学3年生だった2004年秋に就職活動を開始して「エントリー」すると、2005年春に試験、面談を行い、民営化2年目の2006年4月に入社した。 一つ上の代は、エントリー時点では帝都高速度交通営団(営団地下鉄)であり、二つ上の世代は、入社のタイミングで東京メトロに改組された「一期生」。そうなると、我々の世代こそが、採用のスタートから全て東京メトロだった「新世代」と言えるかもしれない。 営団地下鉄といってもピンと来ない人が増えているだろうから簡単に説明しておくと、東京の地下鉄史は1927年に開業した私鉄・東京地下鉄道に始まるが、やがて資金的な限界に直面したため、国の主導で特殊法人「帝都高速度交通営団」を設立した。 物々しい名前が示すように、戦時中に誕生した組織だったが、戦後も引き続き営団体制が存続。後に東京都も地下鉄建設に参入し、一つの都市に営団地下鉄と都営地下鉄という二つの地下鉄が存在することになった。 営団の民営化が唱えられるようになったのは1980年代初頭のことだ。オイルショック後の財政悪化を受けて、政府は1981年3月に「臨時行政調査会」を設置し、国鉄や電電公社(現NTT)など三公社五現業と特殊法人の整理、民営化方針を決定した。 その後、「臨時行政改革推進審議会(行革審)」が設置され、破綻状態に陥っていた国鉄を中心に議論を進めていったが、営団についても1986年、国鉄改革を踏まえ「国鉄の新経営形態移行時にあわせ、特殊会社に改組するとともに、できるだけ早く完全民営化すべきだ」との意見が出された。 そして最終答申に「5年以内に可及的速やかに特殊会社に改組し、地下鉄ネットワークがほぼ概成して、路線運営が主たる業務になる時点において、公的資本を含まない完全民営企業とする」との方針が盛り込まれ、営団の民営化が動き出した』、「東京の地下鉄史は1927年に開業した私鉄・東京地下鉄道に始まるが、やがて資金的な限界に直面したため、国の主導で特殊法人「帝都高速度交通営団」を設立した。 物々しい名前が示すように、戦時中に誕生した組織だったが、戦後も引き続き営団体制が存続。後に東京都も地下鉄建設に参入し、一つの都市に営団地下鉄と都営地下鉄という二つの地下鉄が存在することになった・・・「臨時行政改革推進審議会(行革審)」が設置され、破綻状態に陥っていた国鉄を中心に議論を進めていったが、営団についても1986年、国鉄改革を踏まえ「国鉄の新経営形態移行時にあわせ、特殊会社に改組するとともに、できるだけ早く完全民営化すべきだ」との意見が出された。 そして最終答申に「5年以内に可及的速やかに特殊会社に改組し、地下鉄ネットワークがほぼ概成して、路線運営が主たる業務になる時点において、公的資本を含まない完全民営企業とする」との方針が盛り込まれ、営団の民営化が動き出した」、なるほど。
・『完全民営化へのステップである特殊法人 前述のように営団は、民営企業では負担できない莫大な建設費を公的な信用を背景に調達し、新線建設を促進するために設立された。建設が終了し、「路線運営が主たる業務」になれば民営企業になっても差し支えない、というわけだ。 なおここでいう特殊会社とは、公益上の目的のため法律によって設立された株式会社を指す。特定の政策を遂行するために設置された、完全民営化を前提としない特殊会社もあるが、特殊法人民営化の過程で設置される特殊会社は、完全民営化の第一段階に位置づけられる。) 特殊会社は形式上、民営会社だが、国や自治体が保有株式をすべて売却した時点で「完全民営化」となる。内実の見えない特殊法人がそのまま株を売り出しても投資家は尻込みするだろう。そこで民営形態のもと安定的な利益を継続的に確保できる会社とした上で、株を市場に放出する。特殊会社はそのステップだ。 JR東日本・JR西日本・JR東海・JR九州も、国鉄民営化当初は国が全株式を保有する特殊会社だったが、全株式を売却した。一方、経営再建中のJR北海道・JR四国は特殊会社のままである。そして東京メトロもまた、国と都が全株式を保有する特殊会社である(都営地下鉄がありながら営団にも出資していた経緯はややこしいのでここでは省く)』、「特殊会社は形式上、民営会社だが、国や自治体が保有株式をすべて売却した時点で「完全民営化」となる。内実の見えない特殊法人がそのまま株を売り出しても投資家は尻込みするだろう。そこで民営形態のもと安定的な利益を継続的に確保できる会社とした上で、株を市場に放出する。特殊会社はそのステップだ」、なるほど。
・『新線建設の終了と表裏一体だった営団民営化 こうして動き出した営団民営化だが、すぐに足踏みとなる。当時、着工したばかりの7号線(南北線)に加え、1985年の運輸政策審議会答申第7号に盛り込まれた11号線(半蔵門線)の押上延伸、13号線(副都心線)の計画が浮上し、「地下鉄ネットワークの概成」には時間を要することが見えてきたからだ。 政府は「5年以内」の期限を目前にした1990年12月、「可及的速やかに特殊会社への改組を図るため、その具体的措置等について検討する」と目標を棚上げしたが、1995年に、「帝都高速度交通営団については完全民営化する。その第一段階として現在建設中の7号線、11号線が完成した時点をめどに特殊会社化を図る」と具体的な目標を設定した。 2000年9月に南北線が全通し、2003年春に半蔵門線押上開業のめどが立ったことで、国土交通省と営団は、押上開業からおおむね1年後の特殊会社化を要望。2001年12月の閣議決定「特殊法人等整理合理化計画」に、2004年春の特殊会社化が明記された。 上述のように、営団民営化とは新線建設の終了と表裏一体であったが、営団は1999年になって地下鉄13号線の免許を申請し、さらなる新線建設に乗り出している。13号線の計画自体は1972年から存在したが、東京の地下鉄整備は12号線(都営大江戸線)で建設は終了する予定だった。ところが小渕恵三内閣が1998年に策定した「緊急経済対策」で状況は変わった。補正予算に13号線が盛り込まれ、「最後の新線」が動き出したのである。 ただ7号線、11号線のケースとは異なり、13号線建設は民営化スケジュールとは切り離された。2004年に東京メトロが発足した後も建設工事は続き、2008年6月に副都心線として開業。営団時代からの新線建設はようやく完了した。 国鉄の事例に見られるように、民営化の象徴といえるのが関連事業の展開だ。公営鉄道は公的な資金を投入して建設、営業するため、公有資産を用いた金もうけは公営の趣旨に反するとともに、民業圧迫になるとして関連事業は制約されている。 ただ民営鉄道事業者がルーツで、設立当初は民間資本を導入していた営団は、国鉄と比べて規制は緩く、古くから子会社を通じて駅ビルなどの経営を行っていた。 民営化方針が示された1986年には、公益上支障がない限りという条件で業務範囲の大幅な拡大が認められ、東急・京王と共同で開発した「渋谷マークシティ」や、「メトロ・エム後楽園」「ベルビー赤坂」などの駅併設商業施設、高架下店舗、光ファイバー賃貸事業などを展開している。 帝都高速度交通営団法は、国鉄やJR、NTTなど各特殊会社の会社法よりも規制が緩かったが、民営化でさらに緩和され、関連事業の展開や社債の募集、事業計画の策定が認可事項ではなくなった。これがおおむね、民営化直前の流れである』、「民営鉄道事業者がルーツで、設立当初は民間資本を導入していた営団は、国鉄と比べて規制は緩く、古くから子会社を通じて駅ビルなどの経営を行っていた。 民営化方針が示された1986年には、公益上支障がない限りという条件で業務範囲の大幅な拡大が認められ、東急・京王と共同で開発した「渋谷マークシティ」や、「メトロ・エム後楽園」「ベルビー赤坂」などの駅併設商業施設、高架下店舗、光ファイバー賃貸事業などを展開している。帝都高速度交通営団法は、国鉄やJR、NTTなど各特殊会社の会社法よりも規制が緩かったが、民営化でさらに緩和され、関連事業の展開や社債の募集、事業計画の策定が認可事項ではなくなった。これがおおむね、民営化直前の流れである」、なるほど。
・『完全民営化を遠ざけた石原都政の「地下鉄一元化」論 筆者が東京メトロに入社した2006年、社内は「民営化」に高揚していた。国鉄民営化が議論から決定まで数年で駆け抜けたのに対し、営団は20年弱を要した。民営化方針が固まった1980年代後半以降に入団(営団時代は入社ではなく入団といった)した総合職は、既に課長級になっていたのである。 東京地下鉄株式会社法は付則に「できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と定めていた。関連事業の積極的な展開で経営基盤を確立し、最後の新線である副都心線が開業すれば、いよいよ株式上場し、完全民営化が達成される。それは間近であると思われた。 ところが副都心線開業の2年後、そろそろ上場というタイミングで石原都政がぶち上げたのが「地下鉄一元化」論だ。この問題はさまざまなプレーヤーが、時期ごとに異なる思惑を持って関与したので、本稿では立ち入らない。重要なのは、目前にあったはずの完全民営化が遠ざかってしまったという事実だ。 しばしば勘違いされるが、株式上場は株主が決めることである。もちろん会社側も上場に備えた準備をしなければならないのだが、最終的に株主が売らないと言えば上場はできない。東京メトロの株式は国が53.4%、都が46.6%という絶妙のバランスで保有しており、かろうじて国が主導権を握っている。国だけ売却すれば、都が東京メトロを支配しかねない。 その後、猪瀬都政、舛添都政、小池都政と変遷する中で「一元化論」は後退したが、都はメトロ株を国に対する交渉カードとして使い、落としどころとして「売却を受け入れる見返り」を模索してきた。 この辺りの経緯は過去記事で取り上げたので詳細は省くが、副都心線で打ち止めだったはずの地下鉄新線建設を東京メトロが引き受ける代わりに、都が株式売却を認め、国と都がひとまず保有株の半分ずつを売却することになった。 都は2024年度予算にメトロ株の売却に関する費用を計上し、売却に向けた準備が本格化している。株式市場は日経平均4万円を超える好況で、条件が良いうちに売却したいだろうから、くしくもメトロが創立20周年を迎える今年度に上場が実現するかもしれない』、「副都心線開業の2年後、そろそろ上場というタイミングで石原都政がぶち上げたのが「地下鉄一元化」論だ。この問題はさまざまなプレーヤーが、時期ごとに異なる思惑を持って関与したので、本稿では立ち入らない。重要なのは、目前にあったはずの完全民営化が遠ざかってしまったという事実だ。その後、猪瀬都政、舛添都政、小池都政と変遷する中で「一元化論」は後退したが、都はメトロ株を国に対する交渉カードとして使い、落としどころとして「売却を受け入れる見返り」を模索してきた・・・副都心線で打ち止めだったはずの地下鉄新線建設を東京メトロが引き受ける代わりに、都が株式売却を認め、国と都がひとまず保有株の半分ずつを売却することになった。 都は2024年度予算にメトロ株の売却に関する費用を計上し、売却に向けた準備が本格化している。株式市場は日経平均4万円を超える好況で、条件が良いうちに売却したいだろうから、くしくもメトロが創立20周年を迎える今年度に上場が実現するかもしれない」、「今年度に上場が実現するかもしれない」、というのは初めて知った。
・『上場後のビジョンが見えない東京メトロ ただ外部から見た東京メトロは、あまり変わったように思えない。3月25日発表の「2024年度事業計画」は、安全対策に309億円、旅客サービスに362億円など、計1146億円の設備投資予算を策定。うち約3割(約350億円)を新規不動産取得・開発、自動運転、技術開発などの「成長投資」に使うとしている。 個別の項目には「DX」や「ESG」などはやりのワードは並ぶが、結局はキャッシュフローの多くを鉄道の機能強化に振り向けており、関連事業(都市・生活創造事業)への投資は1割強。物件は変わってもメニュー自体は代わり映えしない。これでは上場しても何かが変わるとは思えない。 だが、それも仕方のない話なのかもしれない。メトロ(営団)にとって、上場とは国策として決まった話であり、上場自体が目的であり目標だった。もちろん社会的な信用が高まるとか、株式市場から資金調達が可能になるとか、それらしい目的を立てることはできるのだが、上場しなければ困る理由はなく、その先の明確なビジョンが見えない。 都心の地下を走る地下鉄はビジネスの可能性が無限と思われがちだ。しかし、莫大な建設費がかかる地下鉄は、なるべく自社用地を持たず、設備は必要最小限で建設するため、自由に使える資産は実は少ない。 変電所など業務用地に施設を一体化したビルの建設は、可能な範囲で終わっている。新規にビルを建てるとなると、新規の土地取得や周辺地権者との連携が不可欠なので、鉄道事業者としてのアドバンテージはほぼない。 「Echika」などの駅構内開発も、都合のいいスペースはほぼ使い切っており、また、地下を掘って新規のスペースを作るなどということは到底、採算が合わない。地上に豊富な土地を保有するJRとは条件が全く異なるのである。 これは筆者が在籍していた頃から感じていたことであり、実際に社内の一部にもそういう空気は漂っていた。上場という「ゴール」が見えてきた今、東京メトロはどのような会社になり、どのような事業を展開したいのか、投資家ならずともビジョンを問う声はますます高まることだろう』、「新規にビルを建てるとなると、新規の土地取得や周辺地権者との連携が不可欠なので、鉄道事業者としてのアドバンテージはほぼない。 「Echika」などの駅構内開発も、都合のいいスペースはほぼ使い切っており、また、地下を掘って新規のスペースを作るなどということは到底、採算が合わない。地上に豊富な土地を保有するJRとは条件が全く異なるのである・・・上場という「ゴール」が見えてきた今、東京メトロはどのような会社になり、どのような事業を展開したいのか、投資家ならずともビジョンを問う声はますます高まることだろう』、どうも、「上場」しても余り変わりばえしなさそうだ。これは、株式の評価額にも影響するだろう。
先ずは、本年4月2日付け東洋経済オンラインが掲載した 経済ジャーナリストの櫛田 泉氏による「北海道「鉄道・バス」、利用者無視の公共交通政策 鈴木知事の支離滅裂な姿勢が混乱を招いた?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/743468
・『鈴木直道知事の対応を巡って北海道議会では答弁が用意できないとして2024年2月28日に予定していた北海道議会が開催できず、異例の「延会」となる事態が発生した。北海道議会が「延会」となるのは記録が残る1967年以降、道政史上初の失態だ』、「北海道議会では答弁が用意できないとして2024年2月28日に予定していた北海道議会が開催できず、異例の「延会」となる事態が発生した。北海道議会が「延会」となるのは記録が残る1967年以降、道政史上初の失態」、みっともない事態だ。
・『議会軽視で自民会派と溝 問題となったのは、鈴木知事の北海道の観光振興予算に関する答弁。この答弁を巡り自民会派と事前の調整がつかなかったことが延会の原因だ。発端は、新年度の観光振興予算を巡る動きだった。当初は、「引き続きインバウンドの誘客のための海外への広報活動が必要」として26億円を要望しており道側からも前向きな回答を示されていたというが、実際に道議会の予算審議で提示された金額は14億円と半減されていた。これに対して、道の観光振興予算の大半を執行する北海道観光振興機構は新年度の予算が要求額よりも大幅に削減されたことに対して不満を抱いた。) この後、地元紙が報じたところによると、議会手続き前にもかかわらず鈴木知事は、札幌市内で同機構の小金澤健司会長と面会し、追加予算案などについて説明したという。鈴木知事のこうした行動を知事側の自民会派は問題視。「議会手続き前に特定団体に予算執行を予測させるようなことがあれば、議会軽視で看過できない」と遺憾の意を表明した。 このため、2月28日に予定していた第1回定例道議会では、鈴木知事の観光振興に関する答弁を巡り自民会派と道側の事前の調整がつかなくなったことから議会を開催できない状況となり、異例の「延会」となった。この日、自民会派の安住太伸幹事長は記者団に対し「知事は観光振興に力を入れると言ってきたが、具体的な中身が全く示されていない。知事を支えることが困難になりかねない」と述べている。 翌29日には議会は再開されたが、鈴木知事はこれを受け「外部への追加予算案の説明をしたといった事実はない」と答弁しているが、自民会派の中堅議員は「何も予算の話をしていないなんて誰も信じない」と苦笑した。また、野党側も「審議の根底が崩れることになる」と知事の行動を批判。道議会は荒れ模様となった』、「議会手続き前にもかかわらず鈴木知事は、札幌市内で同機構の小金澤健司会長と面会し、追加予算案などについて説明したという。鈴木知事のこうした行動を知事側の自民会派は問題視。「議会手続き前に特定団体に予算執行を予測させるようなことがあれば、議会軽視で看過できない」と遺憾の意を表明した。 このため、2月28日に予定していた第1回定例道議会では、鈴木知事の観光振興に関する答弁を巡り自民会派と道側の事前の調整がつかなくなったことから議会を開催できない状況となり、異例の「延会」となった」、完全に「鈴木知事」の不手際だ。
・『鈴木知事の支離滅裂な政策姿勢 鈴木知事は「観光振興に力を入れる」方針を示しているものの、2019年の知事就任前に市長を務めていた夕張市は観光振興とはかけ離れた状況に置かれている。 市長在任中だった2017年、夕張市所有の「ホテルマウントレースイ」「マウントレースイスキー場」など観光4施設を中国系企業に格安の2億4000万円で売却する。しかし、2019年にこの中国系企業は約15億円で観光4施設を香港系ファンドに転売し、その後、施設の運営会社は倒産した。このときの負債総額は8億3000万円であったが、一般債権者は全額を踏み倒され夕張市の経済が破壊されたことは2022年11月2日付記事(北の鉄路切り捨て鈴木知事「夕張市長時の問題点」)で詳しく触れている。「北海道の不動産取得を目的とした計画倒産だったのではないか」という疑念の声もいまだ絶えない。 現在は、「マウントレースイスキー場」はかろうじて営業を再開しているものの、スキー場に隣接した「ホテルマウントレースイ」は閉鎖したままだ。スキー場は、夕張市近隣から自家用車で訪れる地元客がまばらな状況で、インバウンドの波は及んでいない。こうした状況の中でも、夕張市は2024年の観光入込客数の目標を60万人としており、目標達成に向けて観光ホームページの更新、観光案内看板整備、市内観光マップの更新作業に取り組んではいる。しかし、2022年の観光入込客数は23万6000人にとどまっており、2023年12月6日に行われた夕張市の定例市議会で厚谷司市長は「目標達成は厳しい状況であることは事実」と答弁している。) なお、市長自らがJR北海道に対して石勝線夕張支線の廃線を提案した「攻めの廃線」前の2015年から2018年までは夕張市の観光入込客数は50万人台で推移していることから、「攻めの廃線」と「中国系企業への観光4施設の売却」がダブルパンチで夕張市の衰退に拍車をかけたといっても過言ではない。 こうした状況に対し、全国各地の地域が抱える問題に精通する日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏は「多くの国では鉄道に乗ること自体が観光資源として認知されていることからインバウンド来訪の波は鉄道のある地域に波及しやすい傾向がある」と指摘する。 実際に北海道のインバウンド誘致は一定の成果を見せており、この冬の観光シーズンは札幌から函館や帯広、網走方面に向かう特急列車は大混雑となっていたほか、ニセコリゾートエリアの玄関口となる函館本線の倶知安―小樽間でも日中に通常運行される2両編成のH100形では途中の余市駅で乗客の積み残しが発生する事態が生じたことなどから、急きょ3両編成のキハ201系が投入され輸送力の増強が図られた。 さらに藻谷氏は、「北海道ではせっかく存在していた鉄道が廃止されてしまったために、優れた景観を持つにもかかわらずインバウンド来訪の波が及んでいない地域もあるのは残念だ。つい最近の廃止事例である日高本線などについては、維持を北海道だけの判断に任せず、インバウンド振興という国策的な観点から対処を考えるべきだったのではないか」と続けた』、「市長自らがJR北海道に対して石勝線夕張支線の廃線を提案した「攻めの廃線」前の2015年から2018年までは夕張市の観光入込客数は50万人台で推移していることから、「攻めの廃線」と「中国系企業への観光4施設の売却」がダブルパンチで夕張市の衰退に拍車をかけたといっても過言ではない」、「攻めの廃線」など言葉遊びに過ぎない。何故、こんな馬鹿な「廃線を提案」が行われたのだろう。「中国系企業への観光4施設の売却」も不透明だ。それにしても「鈴木知事の支離滅裂な政策姿勢」は大いに問題だ。
・『東京―名古屋間に匹敵する距離が廃線に 鈴木知事就任以降、道は北海道の鉄道維持のために積極的な財政支出をしようとはせず、北海道の鉄道ネットワークの破壊を続けている。知事就任以降に廃止された鉄道路線は2020年5月の札沼線(学園都市線)北海道医療大学―新十津川間47.6km、2021年4月の日高本線鵡川―様似間116.0km、2023年4月の留萌本線石狩沼田―留萌間35.7km、2024年4月の根室本線富良野―新得間81.7kmで、その総距離は297.1kmに及ぶ。さらに、2026年3月31日限りで留萌本線深川―石狩沼田間14.4kmも廃止となる見込みで、この距離を加えると311.5kmの鉄道路線が廃止となり、この距離は東海道新幹線の東京―名古屋間に匹敵する。 鉄道だけではない。北海道新幹線の並行在来線問題では道が廃止の方針を決めた函館本線の長万部―倶知安―小樽間140.2kmについて、近年深刻化するバスドライバー不足を背景にバス転換協議が中断に追い込まれた。鈴木知事には、北海道が全体的に活気づくような筋の通った政策立案を望みたいが、その思いは届くのだろうか』、「東京―名古屋間に匹敵する距離が廃線」と、「鈴木知事」は「廃線」で何を狙っているのだろうか。
次に、4月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏による「東京メトロが今年度いよいよ株式上場か?政治に翻弄された「民営化20年」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339256
・『東京メトロは4月1日、民営化から20年の節目を迎えた。筆者が入社したのは民営化2年目のこと。当時、株式上場・完全民営化は「目前」とされたが、いまだ実現はしていない。前身である帝都高速度交通営団(営団地下鉄)から始まった、完全民営化への取り組みの歴史を振り返る』、興味深そうだ。
・『私鉄・東京地下鉄道から始まる東京の地下鉄史 東京メトロが創立20周年と聞いて、時間の流れの早さをしみじみと感じる。2017年まで同社に勤務していた筆者は、大学3年生だった2004年秋に就職活動を開始して「エントリー」すると、2005年春に試験、面談を行い、民営化2年目の2006年4月に入社した。 一つ上の代は、エントリー時点では帝都高速度交通営団(営団地下鉄)であり、二つ上の世代は、入社のタイミングで東京メトロに改組された「一期生」。そうなると、我々の世代こそが、採用のスタートから全て東京メトロだった「新世代」と言えるかもしれない。 営団地下鉄といってもピンと来ない人が増えているだろうから簡単に説明しておくと、東京の地下鉄史は1927年に開業した私鉄・東京地下鉄道に始まるが、やがて資金的な限界に直面したため、国の主導で特殊法人「帝都高速度交通営団」を設立した。 物々しい名前が示すように、戦時中に誕生した組織だったが、戦後も引き続き営団体制が存続。後に東京都も地下鉄建設に参入し、一つの都市に営団地下鉄と都営地下鉄という二つの地下鉄が存在することになった。 営団の民営化が唱えられるようになったのは1980年代初頭のことだ。オイルショック後の財政悪化を受けて、政府は1981年3月に「臨時行政調査会」を設置し、国鉄や電電公社(現NTT)など三公社五現業と特殊法人の整理、民営化方針を決定した。 その後、「臨時行政改革推進審議会(行革審)」が設置され、破綻状態に陥っていた国鉄を中心に議論を進めていったが、営団についても1986年、国鉄改革を踏まえ「国鉄の新経営形態移行時にあわせ、特殊会社に改組するとともに、できるだけ早く完全民営化すべきだ」との意見が出された。 そして最終答申に「5年以内に可及的速やかに特殊会社に改組し、地下鉄ネットワークがほぼ概成して、路線運営が主たる業務になる時点において、公的資本を含まない完全民営企業とする」との方針が盛り込まれ、営団の民営化が動き出した』、「東京の地下鉄史は1927年に開業した私鉄・東京地下鉄道に始まるが、やがて資金的な限界に直面したため、国の主導で特殊法人「帝都高速度交通営団」を設立した。 物々しい名前が示すように、戦時中に誕生した組織だったが、戦後も引き続き営団体制が存続。後に東京都も地下鉄建設に参入し、一つの都市に営団地下鉄と都営地下鉄という二つの地下鉄が存在することになった・・・「臨時行政改革推進審議会(行革審)」が設置され、破綻状態に陥っていた国鉄を中心に議論を進めていったが、営団についても1986年、国鉄改革を踏まえ「国鉄の新経営形態移行時にあわせ、特殊会社に改組するとともに、できるだけ早く完全民営化すべきだ」との意見が出された。 そして最終答申に「5年以内に可及的速やかに特殊会社に改組し、地下鉄ネットワークがほぼ概成して、路線運営が主たる業務になる時点において、公的資本を含まない完全民営企業とする」との方針が盛り込まれ、営団の民営化が動き出した」、なるほど。
・『完全民営化へのステップである特殊法人 前述のように営団は、民営企業では負担できない莫大な建設費を公的な信用を背景に調達し、新線建設を促進するために設立された。建設が終了し、「路線運営が主たる業務」になれば民営企業になっても差し支えない、というわけだ。 なおここでいう特殊会社とは、公益上の目的のため法律によって設立された株式会社を指す。特定の政策を遂行するために設置された、完全民営化を前提としない特殊会社もあるが、特殊法人民営化の過程で設置される特殊会社は、完全民営化の第一段階に位置づけられる。) 特殊会社は形式上、民営会社だが、国や自治体が保有株式をすべて売却した時点で「完全民営化」となる。内実の見えない特殊法人がそのまま株を売り出しても投資家は尻込みするだろう。そこで民営形態のもと安定的な利益を継続的に確保できる会社とした上で、株を市場に放出する。特殊会社はそのステップだ。 JR東日本・JR西日本・JR東海・JR九州も、国鉄民営化当初は国が全株式を保有する特殊会社だったが、全株式を売却した。一方、経営再建中のJR北海道・JR四国は特殊会社のままである。そして東京メトロもまた、国と都が全株式を保有する特殊会社である(都営地下鉄がありながら営団にも出資していた経緯はややこしいのでここでは省く)』、「特殊会社は形式上、民営会社だが、国や自治体が保有株式をすべて売却した時点で「完全民営化」となる。内実の見えない特殊法人がそのまま株を売り出しても投資家は尻込みするだろう。そこで民営形態のもと安定的な利益を継続的に確保できる会社とした上で、株を市場に放出する。特殊会社はそのステップだ」、なるほど。
・『新線建設の終了と表裏一体だった営団民営化 こうして動き出した営団民営化だが、すぐに足踏みとなる。当時、着工したばかりの7号線(南北線)に加え、1985年の運輸政策審議会答申第7号に盛り込まれた11号線(半蔵門線)の押上延伸、13号線(副都心線)の計画が浮上し、「地下鉄ネットワークの概成」には時間を要することが見えてきたからだ。 政府は「5年以内」の期限を目前にした1990年12月、「可及的速やかに特殊会社への改組を図るため、その具体的措置等について検討する」と目標を棚上げしたが、1995年に、「帝都高速度交通営団については完全民営化する。その第一段階として現在建設中の7号線、11号線が完成した時点をめどに特殊会社化を図る」と具体的な目標を設定した。 2000年9月に南北線が全通し、2003年春に半蔵門線押上開業のめどが立ったことで、国土交通省と営団は、押上開業からおおむね1年後の特殊会社化を要望。2001年12月の閣議決定「特殊法人等整理合理化計画」に、2004年春の特殊会社化が明記された。 上述のように、営団民営化とは新線建設の終了と表裏一体であったが、営団は1999年になって地下鉄13号線の免許を申請し、さらなる新線建設に乗り出している。13号線の計画自体は1972年から存在したが、東京の地下鉄整備は12号線(都営大江戸線)で建設は終了する予定だった。ところが小渕恵三内閣が1998年に策定した「緊急経済対策」で状況は変わった。補正予算に13号線が盛り込まれ、「最後の新線」が動き出したのである。 ただ7号線、11号線のケースとは異なり、13号線建設は民営化スケジュールとは切り離された。2004年に東京メトロが発足した後も建設工事は続き、2008年6月に副都心線として開業。営団時代からの新線建設はようやく完了した。 国鉄の事例に見られるように、民営化の象徴といえるのが関連事業の展開だ。公営鉄道は公的な資金を投入して建設、営業するため、公有資産を用いた金もうけは公営の趣旨に反するとともに、民業圧迫になるとして関連事業は制約されている。 ただ民営鉄道事業者がルーツで、設立当初は民間資本を導入していた営団は、国鉄と比べて規制は緩く、古くから子会社を通じて駅ビルなどの経営を行っていた。 民営化方針が示された1986年には、公益上支障がない限りという条件で業務範囲の大幅な拡大が認められ、東急・京王と共同で開発した「渋谷マークシティ」や、「メトロ・エム後楽園」「ベルビー赤坂」などの駅併設商業施設、高架下店舗、光ファイバー賃貸事業などを展開している。 帝都高速度交通営団法は、国鉄やJR、NTTなど各特殊会社の会社法よりも規制が緩かったが、民営化でさらに緩和され、関連事業の展開や社債の募集、事業計画の策定が認可事項ではなくなった。これがおおむね、民営化直前の流れである』、「民営鉄道事業者がルーツで、設立当初は民間資本を導入していた営団は、国鉄と比べて規制は緩く、古くから子会社を通じて駅ビルなどの経営を行っていた。 民営化方針が示された1986年には、公益上支障がない限りという条件で業務範囲の大幅な拡大が認められ、東急・京王と共同で開発した「渋谷マークシティ」や、「メトロ・エム後楽園」「ベルビー赤坂」などの駅併設商業施設、高架下店舗、光ファイバー賃貸事業などを展開している。帝都高速度交通営団法は、国鉄やJR、NTTなど各特殊会社の会社法よりも規制が緩かったが、民営化でさらに緩和され、関連事業の展開や社債の募集、事業計画の策定が認可事項ではなくなった。これがおおむね、民営化直前の流れである」、なるほど。
・『完全民営化を遠ざけた石原都政の「地下鉄一元化」論 筆者が東京メトロに入社した2006年、社内は「民営化」に高揚していた。国鉄民営化が議論から決定まで数年で駆け抜けたのに対し、営団は20年弱を要した。民営化方針が固まった1980年代後半以降に入団(営団時代は入社ではなく入団といった)した総合職は、既に課長級になっていたのである。 東京地下鉄株式会社法は付則に「できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と定めていた。関連事業の積極的な展開で経営基盤を確立し、最後の新線である副都心線が開業すれば、いよいよ株式上場し、完全民営化が達成される。それは間近であると思われた。 ところが副都心線開業の2年後、そろそろ上場というタイミングで石原都政がぶち上げたのが「地下鉄一元化」論だ。この問題はさまざまなプレーヤーが、時期ごとに異なる思惑を持って関与したので、本稿では立ち入らない。重要なのは、目前にあったはずの完全民営化が遠ざかってしまったという事実だ。 しばしば勘違いされるが、株式上場は株主が決めることである。もちろん会社側も上場に備えた準備をしなければならないのだが、最終的に株主が売らないと言えば上場はできない。東京メトロの株式は国が53.4%、都が46.6%という絶妙のバランスで保有しており、かろうじて国が主導権を握っている。国だけ売却すれば、都が東京メトロを支配しかねない。 その後、猪瀬都政、舛添都政、小池都政と変遷する中で「一元化論」は後退したが、都はメトロ株を国に対する交渉カードとして使い、落としどころとして「売却を受け入れる見返り」を模索してきた。 この辺りの経緯は過去記事で取り上げたので詳細は省くが、副都心線で打ち止めだったはずの地下鉄新線建設を東京メトロが引き受ける代わりに、都が株式売却を認め、国と都がひとまず保有株の半分ずつを売却することになった。 都は2024年度予算にメトロ株の売却に関する費用を計上し、売却に向けた準備が本格化している。株式市場は日経平均4万円を超える好況で、条件が良いうちに売却したいだろうから、くしくもメトロが創立20周年を迎える今年度に上場が実現するかもしれない』、「副都心線開業の2年後、そろそろ上場というタイミングで石原都政がぶち上げたのが「地下鉄一元化」論だ。この問題はさまざまなプレーヤーが、時期ごとに異なる思惑を持って関与したので、本稿では立ち入らない。重要なのは、目前にあったはずの完全民営化が遠ざかってしまったという事実だ。その後、猪瀬都政、舛添都政、小池都政と変遷する中で「一元化論」は後退したが、都はメトロ株を国に対する交渉カードとして使い、落としどころとして「売却を受け入れる見返り」を模索してきた・・・副都心線で打ち止めだったはずの地下鉄新線建設を東京メトロが引き受ける代わりに、都が株式売却を認め、国と都がひとまず保有株の半分ずつを売却することになった。 都は2024年度予算にメトロ株の売却に関する費用を計上し、売却に向けた準備が本格化している。株式市場は日経平均4万円を超える好況で、条件が良いうちに売却したいだろうから、くしくもメトロが創立20周年を迎える今年度に上場が実現するかもしれない」、「今年度に上場が実現するかもしれない」、というのは初めて知った。
・『上場後のビジョンが見えない東京メトロ ただ外部から見た東京メトロは、あまり変わったように思えない。3月25日発表の「2024年度事業計画」は、安全対策に309億円、旅客サービスに362億円など、計1146億円の設備投資予算を策定。うち約3割(約350億円)を新規不動産取得・開発、自動運転、技術開発などの「成長投資」に使うとしている。 個別の項目には「DX」や「ESG」などはやりのワードは並ぶが、結局はキャッシュフローの多くを鉄道の機能強化に振り向けており、関連事業(都市・生活創造事業)への投資は1割強。物件は変わってもメニュー自体は代わり映えしない。これでは上場しても何かが変わるとは思えない。 だが、それも仕方のない話なのかもしれない。メトロ(営団)にとって、上場とは国策として決まった話であり、上場自体が目的であり目標だった。もちろん社会的な信用が高まるとか、株式市場から資金調達が可能になるとか、それらしい目的を立てることはできるのだが、上場しなければ困る理由はなく、その先の明確なビジョンが見えない。 都心の地下を走る地下鉄はビジネスの可能性が無限と思われがちだ。しかし、莫大な建設費がかかる地下鉄は、なるべく自社用地を持たず、設備は必要最小限で建設するため、自由に使える資産は実は少ない。 変電所など業務用地に施設を一体化したビルの建設は、可能な範囲で終わっている。新規にビルを建てるとなると、新規の土地取得や周辺地権者との連携が不可欠なので、鉄道事業者としてのアドバンテージはほぼない。 「Echika」などの駅構内開発も、都合のいいスペースはほぼ使い切っており、また、地下を掘って新規のスペースを作るなどということは到底、採算が合わない。地上に豊富な土地を保有するJRとは条件が全く異なるのである。 これは筆者が在籍していた頃から感じていたことであり、実際に社内の一部にもそういう空気は漂っていた。上場という「ゴール」が見えてきた今、東京メトロはどのような会社になり、どのような事業を展開したいのか、投資家ならずともビジョンを問う声はますます高まることだろう』、「新規にビルを建てるとなると、新規の土地取得や周辺地権者との連携が不可欠なので、鉄道事業者としてのアドバンテージはほぼない。 「Echika」などの駅構内開発も、都合のいいスペースはほぼ使い切っており、また、地下を掘って新規のスペースを作るなどということは到底、採算が合わない。地上に豊富な土地を保有するJRとは条件が全く異なるのである・・・上場という「ゴール」が見えてきた今、東京メトロはどのような会社になり、どのような事業を展開したいのか、投資家ならずともビジョンを問う声はますます高まることだろう』、どうも、「上場」しても余り変わりばえしなさそうだ。これは、株式の評価額にも影響するだろう。
タグ:その他公共交通 (その1)(北海道「鉄道・バス」、利用者無視の公共交通政策 鈴木知事の支離滅裂な姿勢が混乱を招いた?、東京メトロが今年度いよいよ株式上場か?政治に翻弄された「民営化20年」) 東洋経済オンライン 櫛田 泉氏による「北海道「鉄道・バス」、利用者無視の公共交通政策 鈴木知事の支離滅裂な姿勢が混乱を招いた?」 「北海道議会では答弁が用意できないとして2024年2月28日に予定していた北海道議会が開催できず、異例の「延会」となる事態が発生した。北海道議会が「延会」となるのは記録が残る1967年以降、道政史上初の失態」、みっともない事態だ。 「議会手続き前にもかかわらず鈴木知事は、札幌市内で同機構の小金澤健司会長と面会し、追加予算案などについて説明したという。鈴木知事のこうした行動を知事側の自民会派は問題視。「議会手続き前に特定団体に予算執行を予測させるようなことがあれば、議会軽視で看過できない」と遺憾の意を表明した。 このため、2月28日に予定していた第1回定例道議会では、鈴木知事の観光振興に関する答弁を巡り自民会派と道側の事前の調整がつかなくなったことから議会を開催できない状況となり、異例の「延会」となった」、完全に「鈴木知事」の不手際だ 「市長自らがJR北海道に対して石勝線夕張支線の廃線を提案した「攻めの廃線」前の2015年から2018年までは夕張市の観光入込客数は50万人台で推移していることから、「攻めの廃線」と「中国系企業への観光4施設の売却」がダブルパンチで夕張市の衰退に拍車をかけたといっても過言ではない」、「攻めの廃線」など言葉遊びに過ぎない。何故、こんな馬鹿な「廃線を提案」が行われたのだろう。「中国系企業への観光4施設の売却」も不透明だ。それにしても「鈴木知事の支離滅裂な政策姿勢」は大いに問題だ。 「東京―名古屋間に匹敵する距離が廃線」と、「鈴木知事」は「廃線」で何を狙っているのだろうか。 ダイヤモンド・オンライン 枝久保達也氏による「東京メトロが今年度いよいよ株式上場か?政治に翻弄された「民営化20年」」 「東京の地下鉄史は1927年に開業した私鉄・東京地下鉄道に始まるが、やがて資金的な限界に直面したため、国の主導で特殊法人「帝都高速度交通営団」を設立した。 物々しい名前が示すように、戦時中に誕生した組織だったが、戦後も引き続き営団体制が存続。後に東京都も地下鉄建設に参入し、一つの都市に営団地下鉄と都営地下鉄という二つの地下鉄が存在することになった・・・ 「臨時行政改革推進審議会(行革審)」が設置され、破綻状態に陥っていた国鉄を中心に議論を進めていったが、営団についても1986年、国鉄改革を踏まえ「国鉄の新経営形態移行時にあわせ、特殊会社に改組するとともに、できるだけ早く完全民営化すべきだ」との意見が出された。 そして最終答申に「5年以内に可及的速やかに特殊会社に改組し、地下鉄ネットワークがほぼ概成して、路線運営が主たる業務になる時点において、公的資本を含まない完全民営企業とする」との方針が盛り込まれ、営団の民営化が動き出した」、なるほど。 「特殊会社は形式上、民営会社だが、国や自治体が保有株式をすべて売却した時点で「完全民営化」となる。内実の見えない特殊法人がそのまま株を売り出しても投資家は尻込みするだろう。そこで民営形態のもと安定的な利益を継続的に確保できる会社とした上で、株を市場に放出する。特殊会社はそのステップだ」、なるほど。 「民営鉄道事業者がルーツで、設立当初は民間資本を導入していた営団は、国鉄と比べて規制は緩く、古くから子会社を通じて駅ビルなどの経営を行っていた。 民営化方針が示された1986年には、公益上支障がない限りという条件で業務範囲の大幅な拡大が認められ、東急・京王と共同で開発した「渋谷マークシティ」や、「メトロ・エム後楽園」「ベルビー赤坂」などの駅併設商業施設、高架下店舗、光ファイバー賃貸事業などを展開している。 帝都高速度交通営団法は、国鉄やJR、NTTなど各特殊会社の会社法よりも規制が緩かったが、民営化でさらに緩和され、関連事業の展開や社債の募集、事業計画の策定が認可事項ではなくなった。これがおおむね、民営化直前の流れである」、なるほど。 「副都心線開業の2年後、そろそろ上場というタイミングで石原都政がぶち上げたのが「地下鉄一元化」論だ。この問題はさまざまなプレーヤーが、時期ごとに異なる思惑を持って関与したので、本稿では立ち入らない。重要なのは、目前にあったはずの完全民営化が遠ざかってしまったという事実だ。その後、猪瀬都政、舛添都政、小池都政と変遷する中で「一元化論」は後退したが、都はメトロ株を国に対する交渉カードとして使い、落としどころとして「売却を受け入れる見返り」を模索してきた・・・ 副都心線で打ち止めだったはずの地下鉄新線建設を東京メトロが引き受ける代わりに、都が株式売却を認め、国と都がひとまず保有株の半分ずつを売却することになった。 都は2024年度予算にメトロ株の売却に関する費用を計上し、売却に向けた準備が本格化している。株式市場は日経平均4万円を超える好況で、条件が良いうちに売却したいだろうから、くしくもメトロが創立20周年を迎える今年度に上場が実現するかもしれない」、「今年度に上場が実現するかもしれない」、というのは初めて知った。 「新規にビルを建てるとなると、新規の土地取得や周辺地権者との連携が不可欠なので、鉄道事業者としてのアドバンテージはほぼない。 「Echika」などの駅構内開発も、都合のいいスペースはほぼ使い切っており、また、地下を掘って新規のスペースを作るなどということは到底、採算が合わない。地上に豊富な土地を保有するJRとは条件が全く異なるのである・・・ 上場という「ゴール」が見えてきた今、東京メトロはどのような会社になり、どのような事業を展開したいのか、投資家ならずともビジョンを問う声はますます高まることだろう』、どうも、「上場」しても余り変わりばえしなさそうだ。これは、株式の評価額にも影響するだろう。
半導体産業(その12)(東エレク レーザーテックは快進撃も…日本の半導体製造装置メーカーは実は「地滑り的敗戦」をしていた!、日本政府が「1兆円」を注ぎ込む「あとに退けない一大事業」の勝算は? 事業軌道に乗せるためにも「不可欠な条件」、TSMCが日本の補助金よりも欲した"2つの取引先" 台湾企業の失敗からラピダスが学ぶべきこと) [産業動向]
半導体産業については、2月24日に取上げた。今日は、(その12)(東エレク レーザーテックは快進撃も…日本の半導体製造装置メーカーは実は「地滑り的敗戦」をしていた!、日本政府が「1兆円」を注ぎ込む「あとに退けない一大事業」の勝算は? 事業軌道に乗せるためにも「不可欠な条件」、TSMCが日本の補助金よりも欲した"2つの取引先" 台湾企業の失敗からラピダスが学ぶべきこと)である。
先ずは、本年4月5日付けダイヤモンド・オンライン「東エレク、レーザーテックは快進撃も…日本の半導体製造装置メーカーは実は「地滑り的敗戦」をしていた!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341305
・『半導体株高をけん引する日本の製造装置メーカー。東京エレクトロンやレーザーテックなど、高い世界シェアで業界をリードしている企業が多い一方で、業界全体を見渡してみると深刻な状況に陥っている。市場規模が大きく、成長性が高い製品と分野で負けが続き、日本全体ではシェアが急落、米国に突き放され欧州に抜かれる状況になっているのだ。強い日本の製造装置業界に何が起こっているのか。特集『高成長&高年収! 半導体160社図鑑』の#5では、有望銘柄とその強みと共に、一見好調な製造業界の構造的問題について取り上げた』、興味深そうだ。
・『株価が130倍、20倍に暴騰した製造装置銘柄 その強さの秘密と本当の実力は 今の半導体関連株の高値をけん引する最大の立役者が半導体製造装置株だ。2014年には2000円台で推移していた東京エレクトロン(TEL)株は、現在なんと20倍の4万円台を付けている。 同じ製造装置のディスコ株は14年には3000円台で同じく16倍、14年に300円台だったレーザーテックは130倍の4万円台にまで伸びた。同期間でデバイスのルネサスエレクトロニクスは約2倍、素材の信越化学工業は約4倍の伸びだ。これに比較してもいかに装置株の伸び方が異常か分かるだろう。 「世界シェアトップ」「世界で他のどこにもできない技術を持つ」というきらびやかな修飾語が製造装置業界には付いて回る。そもそも、なぜ日本の製造装置は強いのか。歴史をひもといてみよう。 1980年代日本のデバイス企業が世界トップだった時代に、一蓮托生で製造技術を磨き併走することで成長してきたのが製造装置メーカーだ。 その後90年代以降、日本のデバイスメーカーは次々と凋落、事業撤退や縮小をしていく。だが、装置メーカーはその後台頭してきた韓国、台湾、それに米国のデバイス企業に広く製造装置を販売することで、事業を拡大してきた。 「経営のスピードが速く、経営者が事業に愛情を持ち、顧客との信頼関係を大事にするという経営スタイルが、アジア・米国の顧客企業にも受け入れられた。最初は欧米のものを優先するスタンスだった顧客も徐々に日本メーカーの製品に切り替えてくれるようになり、シェアを伸ばしていった」と、20年来製造装置企業の分析を行っているモルガン・スタンレーMUFG証券の和田木哲哉シニアアナリストは解説する。 中でも最近特異的に伸びているのが、生成AIのビジネスに絡む装置を販売できている企業だ。 例えば生成AI半導体に使われる米エヌビディアのGPU(グラフィックプロセッサユニット)を生産するのに必要なのが、最先端の微細加工が可能なEUV露光装置(極端紫外線を使い、シリコンウエハーに回路を焼き付けるための装置)だが、EUV向けのマスク(回路を焼き付ける元となる原板)検査技術を世界で唯一持っているのがレーザーテックだ。 EUVの登場と普及で、以前は100億円企業だった同社は売上高が10倍の1000億円規模に伸びた。同様に、GPUを動かすにはHBM(広帯域高速メモリー)という次世代DRAM(一時記憶用のメモリー)が必要だが、このHBM関連ビジネスに深く絡める研磨装置メーカーのディスコや検査装置メーカーのアドバンテストなどが大きく伸びている、といった具合だ。 今後半導体製造装置株に投資する場合は、どのような視点が必要なのか。さらに、一見絶好調の製造装置業界にアキレス腱はないのか。 実は、絶好調に見える製造装置業界だが、意外にも国内企業全体として見た場合、非常に危機的な状況にあるという。なにしろ、かつて5割を占めていたシェアは、23%に下がり欧州に抜かれて3番手になってしまっているからだ。これほど株価も高く市場に評価されている企業が多数あるだけに、意外な事実だ。その理由と企業ごとの注目ポイントや、中長期的な展望について和田木シニアアナリストに分析してもらった』、「絶好調に見える製造装置業界だが、意外にも国内企業全体として見た場合、非常に危機的な状況にあるという。なにしろ、かつて5割を占めていたシェアは、23%に下がり欧州に抜かれて3番手になってしまっているからだ」。なるほど。
・『既存・新規事業とも強い東京エレクトロンと業界トップの収益性のディスコに要注目 企業別に見ていこう。まずは代表格のTELだ。 多数の装置を抱える製造装置のデパートであるTELだが、特にコータ・デベロッパー(シリコンウエハー上に回路を焼き付けるための感光剤を塗り、現像する装置)、熱処理装置(シリコンウエハーを高温で熱して酸化、薄膜を形成する装置)、エッチング(回路を現像した後余分な部分を剥ぎ取るための装置)といった装置でシェアが昔から高い。「人材レベル、営業力、マーケティング力が向上し、既存ビジネスのシェアが上がっているのみならず、これまでの2倍以上の価格で売れる優れもののオンリーワン新製品を投入しており、収益性が向上している。高シェアを取れているコータ・デベロッパーでも大手の顧客との関係性が極めて良好で、ライバルを寄せ付けない」と和田木シニアアナリストは評価する。 さらに、グラインダ(ウエハーの裏側を研磨して薄くする装置)、ダイサー(ウエハーをチップごとに切り分ける装置)などで高シェアを持つのがディスコだ。売上高営業利益率では業界トップで「独自の経営スタンスを持ち、新興企業が価格競争を仕掛けてくるカテゴリに対しても高い競争力を維持している」(和田木シニアアナリスト)。 また、アドバンテストは、前ページで取り上げたようにGPUとHBM向けのテスタ(製品状態になった半導体を最終検査する装置)で他社を大きく突き放すシェアを握る。米テラダインというライバルはいるものの、その追撃を許さない状態になっている。また、米中摩擦で米国産の半導体製造装置が買えない中国メーカーからの受注を一手に引き受けることができたのも、好業績に貢献した。 装置各社の業績推移予測と将来の給与の伸びを見てみよう。下記にまとめた。 (図表:製造装置企業の業績予測 はリンク先参照) 市場データ企業IFISによる市場コンセンサス予想でも、これらの企業の売上高成長率は著しい。そしてIFISデータを基にダイヤモンド編集部で試算(試算方法は上記図注参照)した将来の給与水準は若干減少傾向にある企業が多い。そもそもこれらはエレクトロニクス業界最強の給与水準にある企業で、さすがにこれらがこのまま右肩上がりで伸び続けるのは厳しそうだという。それでもアドバンテストやローツェなどまだ伸びしろがありそうな企業もある。 このように、日本の製造装置業界は最強に見える。だが、実は全体を見渡してみると由々しき事態が進行している。前述した通り、90年は米国を上回り、世界のシェアの約5割を押さえていた日本は、この30年間で地滑り的にシェアを落としているのだ。 23年の日本のシェアはモルガン・スタンレーMUFG証券の推定によると23%。つまり、これまで3番手だった欧州にも抜かれてしまったということになる。 (図:国籍別半導体製造装置のシェアの推移 はリンク先参照) どうしてこうしたことが起こったのか。その理由の一つには「日本の装置メーカーが、成長市場や規模の大きい市場を多数取りこぼしている」ことがあると和田木シニアアナリストは指摘する。 以下は、モルガン・スタンレーMUFG証券作成の半導体の製造装置の市場規模と成長率の分布図だ。さらに、日本企業が50%以上のシェアを押さえている装置を編集部でマーキングしてみた。これで見ると、市場規模が大きいのはエッチング装置、露光装置、枚葉式CVD装置(シリコンウエハーに膜を付ける装置)などだ。そして成長率が高いのはマスク検査装置、ALD(新方式の成膜装置)などとなる。 ところが、このどちらも、日本企業はシェアが取れていない。 (図:装置別に見た成長率と市場規模の関係 はリンク先参照) 例えば、現在最先端品を作るのに欠かせなくなったEUV露光装置は、オランダASMLが独占的に供給している。露光装置は、ニコンとキヤノンの2社がシェアを牛耳る状態が2000年代まで続いていた。そこをASMLが新たな露光方式であるEUVで一気にひっくり返してしまったのだ。 日本の2社は現状ではEUVに対しては打ち手がなく、最先端の微細化には対応できない旧来方式の装置での事業に依存するしかなくなり、シェアを大きく落としてしまった。 これまで取り上げてきた日本が強い市場は、全体の規模からするとそこまで大きいわけではない。エッチング装置で2位に付けているTELや、EUVのレーザーテックなど一部を除くと、小さなしかも今後の成長率がいまひとつの池での高シェアを取っているにすぎない、ということになる。 この事態には、この30年間最先端の半導体技術を磨くための場が、国内には不在だった影響もありそうだ。前述のASMLは、ベルギーに拠点を置く世界最大級の独立系半導体研究開発機関、アイメックと密接な連携を行っている。 「近隣にこうした研究所があることは、新規で伸びる技術の見極めや、それを持ち帰り自社で行う開発・検証のスピード、それに顧客へのマーケティング面でも明らかに有利に働く」(和田木アナリスト)。欧州には先端技術をいち早く見いだし製品化するためのエコシステムがあるのだ。 各デバイスメーカーが国内での量産や先端技術の開発から次々と撤退してきた日本とは、環境面でかなりの差が生まれてしまった。 経済産業省が追加出資を発表した国策半導体会社ラピダスの設立に、各製造装置メーカーが期待を寄せるのはこのためだ。同社の東哲郎会長はTELで会長・社長職を長く務めた中興の祖でもある。国内でもう一度最先端半導体を作る、という一見無謀なチャレンジには、TELの経営を通して日本の半導体産業の失われた20年間を目撃しており、なんらかの打開策が国として必要という思いがあるからなのかもしれない。 失われた20年間を独自の経営努力で切り抜け、成長してきた輝かしい実績を持つ装置メーカー。だがさらなる成長のためには、国内の半導体産業全体の底上げが欠かせない。それには装置メーカーのみならず、国全体としての強化策と、その成否が鍵を握るのだ』、「日本の製造装置業界は最強に見える。だが、実は全体を見渡してみると由々しき事態が進行している。前述した通り、90年は米国を上回り、世界のシェアの約5割を押さえていた日本は、この30年間で地滑り的にシェアを落としているのだ。 23年の日本のシェアはモルガン・スタンレーMUFG証券の推定によると23%。つまり、これまで3番手だった欧州にも抜かれてしまったということになる・・・どうしてこうしたことが起こったのか。その理由の一つには「日本の装置メーカーが、成長市場や規模の大きい市場を多数取りこぼしている」ことがある・・・現在最先端品を作るのに欠かせなくなったEUV露光装置は、オランダASMLが独占的に供給している。露光装置は、ニコンとキヤノンの2社がシェアを牛耳る状態が2000年代まで続いていた。そこをASMLが新たな露光方式であるEUVで一気にひっくり返してしまったのだ。 日本の2社は現状ではEUVに対しては打ち手がなく、最先端の微細化には対応できない旧来方式の装置での事業に依存するしかなくなり、シェアを大きく落としてしまった」、「これまで3番手だった欧州にも抜かれてしまった」、など誠に残念な結果だ。
次に、4月9日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの町田 徹氏による「日本政府が「1兆円」を注ぎ込む「あとに退けない一大事業」の勝算は? 事業軌道に乗せるためにも「不可欠な条件」を紹介しよう』、興味深そうだ。
・『追加支援を行うと発表 齋藤健・経済産業大臣は先週火曜日(4月2日)の記者会見で、政府・経済産業省が最先端半導体の受託生産を目指すRapidus(ラピダス)に対し、今2024年度中に最大で5900億円の追加支援を行うと発表した。既存の支援額(3300億円)と併せて、政府の同社に対する直接的な支援の規模は1兆円に迫ることになる。 手厚い支援の背景には、経済安全保障の観点から半導体のサプライチェーン確立が必要不可欠な状況や、ラピダスが2027年頃の量産を目指している2ナノメートルサイズの半導体が「生成AIや自動運転など日本産業全体の競争力の鍵を握るキーテクノロジーである」(斎藤経産大臣)との問題意識がある。 今回、支援が決定した資金の使途は、従来から取り組んでいる米IBM社やベルギーの研究機関imecとの共同研究、量産化へ向けた製造プロセスのふかぼり、製造装置の購入などに充てる計画だ。また、半導体業界で「後工程」と呼ばれている技術(複数の半導体を1つの基盤に収納するチップレット技術など)の開発など、新たな分野にも充てると説明している。 ただ、今回で政府による支援が終わりということはないはずである。というのは、ラピダス自身も量産開始までに総額で5兆円程度の資金が必要だと認めているからだ。 客観的に見れば、ラピダスは、政府支援の積み増しのほか、民間金融機関からの借り入れ、上場を通じた公募増資や売り出しなど、様々な資金調達を実現できないと、量産の開始前に経営が行き詰まるリスクを抱えているのが実情だ。 そこで、今週は、ラピダスがそうしたハードルを超えるために。何が必要になっているのかを考えてみたい。 かつて日本の半導体産業は世界の市場を席捲したものの、長続きしたとは言い難い。というのは、日本メーカーの半導体部門は、家電メーカー内で従属的な立場にあり、あくまでも自社の家電製品などに組み込む部品としての半導体製造がビジネスの中心で、外販は限定的な副産物という位置づけに過ぎなかったからである。 そして、政治的な激しい日米半導体摩擦の勃発に加えて、半導体の主力市場がPC用のCPUなどに移り代わるという環境の激変もあり、日本企業は揃って、半導体部門の維持に必要な巨額の先行投資に二の足を踏むようになり、衰退の道を辿った経緯があるのだ』、「かつて日本の半導体産業は世界の市場を席捲したものの、長続きしたとは言い難い。というのは、日本メーカーの半導体部門は、家電メーカー内で従属的な立場にあり、あくまでも自社の家電製品などに組み込む部品としての半導体製造がビジネスの中心で、外販は限定的な副産物という位置づけに過ぎなかったからである。 そして、政治的な激しい日米半導体摩擦の勃発に加えて、半導体の主力市場がPC用のCPUなどに移り代わるという環境の激変もあり、日本企業は揃って、半導体部門の維持に必要な巨額の先行投資に二の足を踏むようになり、衰退の道を辿った経緯があるのだ」、なるほど。
・『またとない再興のチャンス そうした中で、千載一遇の半導体産業再興のチャンスが巡ってきた。米国が中国とのデカップリング(経済の分断)を進める中で、世界の半導体業界のトップ3の中に自国企業がインテル1社しか含まれていないうえ、そのインテルが3位とはいえ、1位の台湾TSMCや2位の韓国サムスン電子に大きく後れを取っている状況に危機感を持ったからだ。そして、米政府は密かに、日本政府・経済産業省に対し、半導体製造部門を売却し、設計などに特化するファブレス企業への変身を目指しているIBMとのエクスクルーシブな(唯一の)提携先になるファウンドリを育成する考えがないか打診してきた。そして、この打診を「渡りに船だ」とみなした、日本政府・経済産業省が受け皿会社として設立・立ち上げを促したのが、現在のラピダスだった。 かねて政府に対して、半導体産業の再興の支援を働きかけていた、半導体製造装置会社・東京エレクトロンの社長・会長経験者である東哲郎氏(現ラピダス会長)と元日立製作所半導体グループ・生産技術本部本部長の小池淳義氏(現ラピダス社長)の2人に「白羽の矢を立てた」経緯がある。 ちなみに、日、米両政府はそれぞれ、巨額の支援をして半導体業界世界一の台湾のTSMCの工場の誘致も進めている。 話を戻すと、実際のラピダスの設立は、2022年8月のことだった。同年10月の総額73億円の増資にトヨタ自動車、NTTなど8社が応じたほか、設立時に出資した個人株主もいるとはいえ、同社の資本金は依然として73億4600万円(2022年11月時点)にとどまっている。 この現状は、あまりにも過小資本だ。ラピダス自身も5兆円規模の資金が必要だと認めているように、2ナノの先端半導体の量産化を実現するためには、巨額の資金を必要とするからだ。 この巨額の資金を賄うためには、さらなる政府支援の追加や、金融機関からの借り入れだけでなく、早期の上場を通じた大型資金調達が不可欠となっている。 そして、細かい市場ごとの上場基準などはさておき、新興企業が上場するために最も必要なことは、その企業のポテンシャルを示す成長シナリオをしっかりと描き出してみせることである。 この条件を、半導体のファブレス企業から発注を受けて量産するファウンドリを目指しているラピダスにあてはめると、最も重要なことは、実績のある、実在のファブレス企業から具体的な受注契約を獲得することになる。 では、ラピダスが量産の開始を目指す3年後、つまり2027年を想定して、2ナノ半導体の供給を必要としている企業は、いったいどこになるのだろうか』、「米政府は密かに、日本政府・経済産業省に対し、半導体製造部門を売却し、設計などに特化するファブレス企業への変身を目指しているIBMとのエクスクルーシブな(唯一の)提携先になるファウンドリを育成する考えがないか打診してきた。そして、この打診を「渡りに船だ」とみなした、日本政府・経済産業省が受け皿会社として設立・立ち上げを促したのが、現在のラピダスだった・・・ラピダスの設立は、2022年8月のことだった。同年10月の総額73億円の増資にトヨタ自動車、NTTなど8社が応じたほか、設立時に出資した個人株主もいるとはいえ、同社の資本金は依然として73億4600万円・・・この現状は、あまりにも過小資本だ。ラピダス自身も5兆円規模の資金が必要だと認めているように、2ナノの先端半導体の量産化を実現するためには、巨額の資金を必要とするからだ。 この巨額の資金を賄うためには、さらなる政府支援の追加や、金融機関からの借り入れだけでなく、早期の上場を通じた大型資金調達が不可欠となっている」、なるほど。
・『ラピダスに熱視線 誰もが容易に想定できるのは、生成AIの開発でしのぎを削っているグーグルやマイクロソフトといった米国の巨大IT企業群GAFAMだ。また、トヨタやテスラといった全自動運転の実用化を急ぐ自動車メーカーも大いに2ナノサイズの先端半導体を必要としているはずである。医療機器メーカーにもニーズがありそうだ。 言い換えれば、ラピダスは、そうしたIT大手や自動車メーカー大手、医療機器メーカーから、実際に、2ナノ半導体の製造を受注してみせる必要があるのである。 つまり、政府・経済産業省だけでなく、ラピダス自身も、今回の政府支援で獲得する資金を、これまで取り組んできた前工程に加えて、後工程の開発力の獲得に充てると製造面の体制作りの重要性を強調しているが、それだけでは不十分というワケだ。 むしろ、それらの製造技術の開発・強化と並行して、2ナノ半導体の顧客の獲得が待ったなしなのである。これらの企業とは、必要なスペックを詳細に詰めたうえで、委託(受注)契約に漕ぎ着けなければならない。そして、その契約を開示することで、持続的な成長力があることを実証して見せる必要があるのである。 そして、筆者の取材によれば、こうしたIT企業や自動車メーカー、医療機器メーカーは概して、ラピダスが2ナノ半導体を量産するファウンドリとして名乗りを上げたことをかなり好意的に受け止めているとみてよさそうなのだ。 というのは、現在、ファウンドリとしてこうしたAIや全自動運転用、医療機器用の最先端の半導体の量産に対応できる企業と言えば、米半導体大手のエヌビディア1社しかなく、独り勝ち状態になりかねないと見られていたからだ。GAFAMにしろ、自動車メーカーにしろ、医療危機メーカーにしろ、そろって自社のサプライチェーンの強靭性を維持するためには、半導体の供給元を複数以上にしたいとの思いも強く持っている。それゆえ、ラピダスに対しても相応に熱い視線を送っているというワケだ。 まとめると、ラピダスは今後3年以内に、ファウンドリとして構造が複雑な2ナノサイズの最先端半導体の製造技術を確立するだけでなく、最先端の半導体を組み込んで、最先端の生成AIや全自動運転、医療機器などの製品やサービスを市場に投入する計画を持っている最先端企業からパートナーとしての信頼を獲得し、生産の委託を受けなければならない。それが上場などへの道を開いて、必要な資金を獲得して、量産を軌道に乗せるためにも不可欠な条件になっているのである』、「ラピダスは今後3年以内に、ファウンドリとして構造が複雑な2ナノサイズの最先端半導体の製造技術を確立するだけでなく、最先端の半導体を組み込んで、最先端の生成AIや全自動運転、医療機器などの製品やサービスを市場に投入する計画を持っている最先端企業からパートナーとしての信頼を獲得し、生産の委託を受けなければならない。それが上場などへの道を開いて、必要な資金を獲得して、量産を軌道に乗せるためにも不可欠な条件になっているのである」、「ラピダス」にはこうした期待に応えてもらいたいものだ。
第三に、4月11日付け東洋経済オンラインが掲載したフリージャーナリストの杉本 りうこ氏による「TSMCが日本の補助金よりも欲した"2つの取引先" 台湾企業の失敗からラピダスが学ぶべきこと」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/746571
・『今、日本は半導体特需で沸きに沸いている。この熱狂の中心にいるのが半導体受託製造(ファウンドリー)の世界最大手、TSMCだ。2月に完工したTSMCの熊本工場は、日本の半導体産業と株式市場にとって大きな活性剤となっている。 この巨大企業を創業期から取材してきた台湾のハイテクジャーナリスト、林宏文氏が『TSMC 世界を動かすヒミツ」(CCCメディアハウス)』を日本で上梓。世界の半導体企業の興亡史をつぶさに見てきた林氏が、日本の半導体戦略に直言する(Qは聞き手の質問、Aは林宏文氏の回答)』、興味深そうだ。
・『TSMC熊本工場は「トヨタとアップルのため」 Q:2月にTSMCの熊本工場が完成しましたが、TSMCにとって日本で工場を建設する意義や目的はどこにあったのでしょうか。 A:日本に投資する理由については、TSMCのシーシー・ウェイCEOが過去に明確に述べています。すなわち「重要な顧客企業のため」なのだと。日本政府に請われたから、補助金が得られたからではないのだと、そうはっきり語っています。 重要な顧客の1つは、トヨタ自動車です。ウェイCEOは熊本工場の開所式にトヨタの豊田章男会長と面談した際、「(熊本工場は)TSMCが日本で半導体製造に乗り出す第一歩。ぜひトヨタの支援をいただきたい」「(自動車向け半導体が)今はTSMCにおいて小さな割合であっても、将来は伸びる。トヨタと一緒に成長したい」と語っています。 もう1つの重要な顧客は、アップルです。iPhoneはカメラ用の撮像素子(CMOSセンサー)を大量に消費しますが、それを供給しているのはソニーグループです。熊本工場が稼働すればソニーのCMOSセンサーの生産能力も上がり、結果としてアップルに貢献できます。) Q:アップルを筆頭に、TSMCの重要な顧客の多くはアメリカのハイテク企業です。重要市場であるアメリカに工場を作るのは理にかないますが、日本には作らないだろうと半導体関係者の多くは思っていました。TSMCは日本を重視するようになっているのでしょうか。 A:(リン・ホンウェン氏の略歴はリンク先参照)TSMCがアメリカをより重視してきたのは当然のことです。しかしその姿勢に、変化が生じているのではないかと私は感じています。 TSMCの経営陣は当初、アメリカのアリゾナ新工場のプロジェクトを「千載一遇の成長機会」と感じたはず。中国との半導体戦争という環境の中で、アメリカ政府はTSMCの新工場建設に巨額の公的支援を約束しましたからね。 しかし今となっては、アメリカ政府はTSMCの有力なライバルであるインテルのほうに、より大規模な支援を行うことが明らかになっています。そしてTSMCの新工場建設は、補助金がキャッシュインしないとか、技術人材が不足しているとかいった要因で遅れています。 TSMCのマーク・リュウ会長が6月に退任しますが、これははっきり言って、アメリカでの投資プロジェクトがうまくいかなかったことを受けた結果です。 一方、アメリカに比べて当初はあまり重要でないように見えた日本での工場建設は、予想以上に順調に進みました。その理由は、サプライヤーやゼネコンなど日本のパートナー企業が真剣に協力してくれたからでしょう。こういった日米の状況の変化が、TSMCの経営陣の姿勢に影響しつつあるようです。 実はTSMC創業者のモリス・チャン氏はずっと「アメリカへの投資は成功しない、アメリカの半導体製造の夢も実現しない」と言ってきました』、「今となっては、アメリカ政府はTSMCの有力なライバルであるインテルのほうに、より大規模な支援を行うことが明らかになっています。そしてTSMCの新工場建設は、補助金がキャッシュインしないとか、技術人材が不足しているとかいった要因で遅れています。 TSMCのマーク・リュウ会長が6月に退任しますが、これははっきり言って、アメリカでの投資プロジェクトがうまくいかなかったことを受けた結果です。 一方、アメリカに比べて当初はあまり重要でないように見えた日本での工場建設は、予想以上に順調に進みました。その理由は、サプライヤーやゼネコンなど日本のパートナー企業が真剣に協力してくれたからでしょう。こういった日米の状況の変化が、TSMCの経営陣の姿勢に影響しつつあるようです。実はTSMC創業者のモリス・チャン氏はずっと「アメリカへの投資は成功しない、アメリカの半導体製造の夢も実現しない」と言ってきました」、なるほど。
・『補助金で半導体産業は取り戻せるか? Q:いつからそう指摘していたのですか。 A:アメリカのCHIPS法案(2022年に成立)が議論され始めた頃からです。チャン氏はアメリカの対中制裁には賛同しているものの、半導体製造復興政策に対しては一貫して反対してきました。) たとえば2022年8月にナンシー・ペロシ、アメリカ下院議長が台湾を訪れた際、訪台したアメリカ議員団にチャン氏はこう直言しています。 「TSMCのアリゾナ新工場が補助金の恩恵を受けられるのは喜ばしいことだ。しかし問題は、補助金を出せば半導体製造を掌握できるとアメリカが考えていることだ。事はそんなに簡単ではない。政府がお金を投じてから、実際に自国内に半導体製造業が創出されるまでには、長い道のりがある」 チャン氏がこのように断言するのは、1990年代にアメリカ・ワシントン州に現地企業と合弁で受託製造会社を作った経験からです。アメリカでの生産は、まったくうまくいきませんでした。生産コストやエンジニア、働き方をめぐる文化などの問題に直面したのです。これらの問題は、巨額を投じたからといって一朝一夕に解決できるものではありません。 TSMCの現在の経営陣はアメリカに工場を作ることについて楽観的だったのでしょうが、今となってはチャン氏の予言が正しかったと痛感しているでしょう。さらに日本での順調さが、経営陣の認識を変えつつあります。さらには、アメリカ政府に対しても大きなプレッシャーとなるのではないでしょうか』、「問題は、補助金を出せば半導体製造を掌握できるとアメリカが考えていることだ。事はそんなに簡単ではない。政府がお金を投じてから、実際に自国内に半導体製造業が創出されるまでには、長い道のりがある」 チャン氏がこのように断言するのは、1990年代にアメリカ・ワシントン州に現地企業と合弁で受託製造会社を作った経験からです。アメリカでの生産は、まったくうまくいきませんでした。生産コストやエンジニア、働き方をめぐる文化などの問題に直面したのです。これらの問題は、巨額を投じたからといって一朝一夕に解決できるものではありません」、その通りだ。
・『TSMCのライバルはIBMの技術で「失敗」 Q:日本政府は国策企業であるラピダスにも巨額の支援を行っています。ラピダスの使命は最先端のロジック半導体を国産化することですから、言い換えればTSMCのライバルも育成しているわけです。ラピダス自身は「TSMCとは競わない」と説明していますが、あなたはこの状況をどう見ていますか。 日本が半導体産業を振興すること自体は、私は非常にチャンスがあると思います。 半導体製造装置において、日本はアメリカ、オランダと並ぶ最重要国です。多くの半導体材料でも、日本企業がトップシェアを掌握しています。これは日本企業が長期的なR&D(研究開発)を重視してきた成果です。息の長いR&Dを重視する姿勢は、台湾よりも日本のほうが顕著。製造装置や材料の強みがさらに増す政策であれば、日本にとって大きな価値があると思います。) ただ、ことラピダスについては、日本の皆さんにシビアに伝えたいことがあります。 日本では先端半導体を作るプロセス技術が途絶えているため、ラピダスはIBMからの技術移転を選びましたよね。実はIBMからの技術移転は、台湾を代表する半導体メーカーも選んだことがあります。しかし失敗に終わっています。しかも企業成長を決定的に遅らせるほどの大きなつまずきとなりました。 その企業はUMC(聯華電子)です。UMCはTSMCと同様、台湾政府の支援で生まれました。当初のビジネスモデルは少し違っていたのですが、今はTSMCと同じ半導体受託製造の世界的大手です。しかもUMCの創業は1980年とTSMCより7年早い。 ところがUMCは2000年ごろを境に、TSMCに技術や業績の面で大きく引き離されてしまいました。これはUMCがIBMからの技術移転を選んだ影響が大きいと私は考えています。 2000年ごろ、当時の最先端プロセス技術である0.13マイクロメートル(130ナノメートル)をどうするかという局面で、UMCはIBMと共同開発しようと決めました。実はIBMの技術は、TSMCも検討しました。しかし当時の研究開発幹部が「IBMの工場にTSMCの技術者が行くのではなく、台湾の自社工場で研究開発をしなければ、開発成果を量産段階に反映できない」と考え、自主開発の道を選んだのです。 結果として、TSMCは2000年の研究着手から1年半で開発に成功。UMCはそこから2年遅れました。そしてこの後、TSMCとUMCの差はどんどん開いていったのです』、「UMCは2000年ごろを境に、TSMCに技術や業績の面で大きく引き離されてしまいました。これはUMCがIBMからの技術移転を選んだ影響が大きいと私は考えています。 2000年ごろ、当時の最先端プロセス技術である0.13マイクロメートル(130ナノメートル)をどうするかという局面で、UMCはIBMと共同開発しようと決めました。実はIBMの技術は、TSMCも検討しました。しかし当時の研究開発幹部が「IBMの工場にTSMCの技術者が行くのではなく、台湾の自社工場で研究開発をしなければ、開発成果を量産段階に反映できない」と考え、自主開発の道を選んだのです。 結果として、TSMCは2000年の研究着手から1年半で開発に成功。UMCはそこから2年遅れました。そしてこの後、TSMCとUMCの差はどんどん開いていったのです」、「UMC」が安易に「IBM」との「共同開発」を選択したことが、敗因になったようだ。
・『IBMからは学べないことがある Q:ハイテクの世界で、2年分の技術差は致命的です。UMC同様、ラピダスもIBMからの技術移転でつまずくリスクも出てくるかもしれない。 A:過去に台湾企業が失敗したからと言って、ラピダスも「絶対にうまくいかない」とは断言しません。ただ台湾企業の経験を踏まえて、日本政府とラピダスにはIBMの強みと弱みを冷静に分析してもらいたいのです。 IBMが半導体技術の研究に強みがあることは事実です。しかしラピダスがやろうとしている半導体の受託製造とは、「顧客へのサービスとして半導体を製造する」というビジネスなのです。) ところがIBMは、今の最先端技術を使って半導体を量産したこともないし、ましてや受託製造のサービス業であったことはもちろんありません。 顧客のために、高度な半導体を製造することがどれだけ「辛苦」(つらい、大変)なことか想像できますか?量産ラインにおいて、どうすれば歩留まりを低減でき、半導体の品質とコストを下げられるのか。顧客からの突然の追加オーダーや、逆に思ってもみないキャンセルといった不測の事態に耐えるためには、工場の柔軟性や学習曲線をどう上げればよいのか? こういった要素は、ラボでの技術開発では得られません。IBMがこれらをどうやってラピダスに教えられるでしょうか。教えられないなら、ラピダスはどうやって学ぶのでしょうか』、「IBMが半導体技術の研究に強みがあることは事実です。しかしラピダスがやろうとしている半導体の受託製造とは、「顧客へのサービスとして半導体を製造する」というビジネスなのです。) ところがIBMは、今の最先端技術を使って半導体を量産したこともないし、ましてや受託製造のサービス業であったことはもちろんありません。 顧客のために、高度な半導体を製造することがどれだけ「辛苦」(つらい、大変)なことか想像できますか?量産ラインにおいて、どうすれば歩留まりを低減でき、半導体の品質とコストを下げられるのか。顧客からの突然の追加オーダーや、逆に思ってもみないキャンセルといった不測の事態に耐えるためには、工場の柔軟性や学習曲線をどう上げればよいのか? こういった要素は、ラボでの技術開発では得られません。IBMがこれらをどうやってラピダスに教えられるでしょうか。教えられないなら、ラピダスはどうやって学ぶのでしょうか」、その通りだ。
・『日本はかつての地位を追いかけるな そもそも半導体というのは、何らかの夢を実現するための1つの部品に過ぎません。アップルのスティーブ・ジョブズはiPhoneの夢を実現するために独自半導体を追究しました。エヌビディアのジェンスン・ファンはAI(人工知能)の夢を実現しようとしています。こういった夢を追いかける顧客がいるからこそ、TSMCの成功があるのです。 Q:かつて日本でも、電機メーカーが家電やコンピューターなど最終製品の競争力を高めるために、半導体を自社で開発・生産していました。まず需要ありきということですね。 A:今ならたとえば、トヨタがハイブリッドカーや水素カーを世界に普及させる夢を抱いているじゃないですか。そのために半導体ができることは、かなりあります。日本はかつて半導体市場で圧倒的なシェアを持っていたため、当時の地位を取り戻したいと思うのかもしれません。 でも実のところ、自動車産業のような日本が今持っている強みをどう伸ばすかが重要。そこで必要な半導体を日本が設計さえすれば、TSMCがパートナーとなって製造することができるのです』、「でも実のところ、自動車産業のような日本が今持っている強みをどう伸ばすかが重要。そこで必要な半導体を日本が設計さえすれば、TSMCがパートナーとなって製造することができるのです」、その通りだ。
先ずは、本年4月5日付けダイヤモンド・オンライン「東エレク、レーザーテックは快進撃も…日本の半導体製造装置メーカーは実は「地滑り的敗戦」をしていた!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341305
・『半導体株高をけん引する日本の製造装置メーカー。東京エレクトロンやレーザーテックなど、高い世界シェアで業界をリードしている企業が多い一方で、業界全体を見渡してみると深刻な状況に陥っている。市場規模が大きく、成長性が高い製品と分野で負けが続き、日本全体ではシェアが急落、米国に突き放され欧州に抜かれる状況になっているのだ。強い日本の製造装置業界に何が起こっているのか。特集『高成長&高年収! 半導体160社図鑑』の#5では、有望銘柄とその強みと共に、一見好調な製造業界の構造的問題について取り上げた』、興味深そうだ。
・『株価が130倍、20倍に暴騰した製造装置銘柄 その強さの秘密と本当の実力は 今の半導体関連株の高値をけん引する最大の立役者が半導体製造装置株だ。2014年には2000円台で推移していた東京エレクトロン(TEL)株は、現在なんと20倍の4万円台を付けている。 同じ製造装置のディスコ株は14年には3000円台で同じく16倍、14年に300円台だったレーザーテックは130倍の4万円台にまで伸びた。同期間でデバイスのルネサスエレクトロニクスは約2倍、素材の信越化学工業は約4倍の伸びだ。これに比較してもいかに装置株の伸び方が異常か分かるだろう。 「世界シェアトップ」「世界で他のどこにもできない技術を持つ」というきらびやかな修飾語が製造装置業界には付いて回る。そもそも、なぜ日本の製造装置は強いのか。歴史をひもといてみよう。 1980年代日本のデバイス企業が世界トップだった時代に、一蓮托生で製造技術を磨き併走することで成長してきたのが製造装置メーカーだ。 その後90年代以降、日本のデバイスメーカーは次々と凋落、事業撤退や縮小をしていく。だが、装置メーカーはその後台頭してきた韓国、台湾、それに米国のデバイス企業に広く製造装置を販売することで、事業を拡大してきた。 「経営のスピードが速く、経営者が事業に愛情を持ち、顧客との信頼関係を大事にするという経営スタイルが、アジア・米国の顧客企業にも受け入れられた。最初は欧米のものを優先するスタンスだった顧客も徐々に日本メーカーの製品に切り替えてくれるようになり、シェアを伸ばしていった」と、20年来製造装置企業の分析を行っているモルガン・スタンレーMUFG証券の和田木哲哉シニアアナリストは解説する。 中でも最近特異的に伸びているのが、生成AIのビジネスに絡む装置を販売できている企業だ。 例えば生成AI半導体に使われる米エヌビディアのGPU(グラフィックプロセッサユニット)を生産するのに必要なのが、最先端の微細加工が可能なEUV露光装置(極端紫外線を使い、シリコンウエハーに回路を焼き付けるための装置)だが、EUV向けのマスク(回路を焼き付ける元となる原板)検査技術を世界で唯一持っているのがレーザーテックだ。 EUVの登場と普及で、以前は100億円企業だった同社は売上高が10倍の1000億円規模に伸びた。同様に、GPUを動かすにはHBM(広帯域高速メモリー)という次世代DRAM(一時記憶用のメモリー)が必要だが、このHBM関連ビジネスに深く絡める研磨装置メーカーのディスコや検査装置メーカーのアドバンテストなどが大きく伸びている、といった具合だ。 今後半導体製造装置株に投資する場合は、どのような視点が必要なのか。さらに、一見絶好調の製造装置業界にアキレス腱はないのか。 実は、絶好調に見える製造装置業界だが、意外にも国内企業全体として見た場合、非常に危機的な状況にあるという。なにしろ、かつて5割を占めていたシェアは、23%に下がり欧州に抜かれて3番手になってしまっているからだ。これほど株価も高く市場に評価されている企業が多数あるだけに、意外な事実だ。その理由と企業ごとの注目ポイントや、中長期的な展望について和田木シニアアナリストに分析してもらった』、「絶好調に見える製造装置業界だが、意外にも国内企業全体として見た場合、非常に危機的な状況にあるという。なにしろ、かつて5割を占めていたシェアは、23%に下がり欧州に抜かれて3番手になってしまっているからだ」。なるほど。
・『既存・新規事業とも強い東京エレクトロンと業界トップの収益性のディスコに要注目 企業別に見ていこう。まずは代表格のTELだ。 多数の装置を抱える製造装置のデパートであるTELだが、特にコータ・デベロッパー(シリコンウエハー上に回路を焼き付けるための感光剤を塗り、現像する装置)、熱処理装置(シリコンウエハーを高温で熱して酸化、薄膜を形成する装置)、エッチング(回路を現像した後余分な部分を剥ぎ取るための装置)といった装置でシェアが昔から高い。「人材レベル、営業力、マーケティング力が向上し、既存ビジネスのシェアが上がっているのみならず、これまでの2倍以上の価格で売れる優れもののオンリーワン新製品を投入しており、収益性が向上している。高シェアを取れているコータ・デベロッパーでも大手の顧客との関係性が極めて良好で、ライバルを寄せ付けない」と和田木シニアアナリストは評価する。 さらに、グラインダ(ウエハーの裏側を研磨して薄くする装置)、ダイサー(ウエハーをチップごとに切り分ける装置)などで高シェアを持つのがディスコだ。売上高営業利益率では業界トップで「独自の経営スタンスを持ち、新興企業が価格競争を仕掛けてくるカテゴリに対しても高い競争力を維持している」(和田木シニアアナリスト)。 また、アドバンテストは、前ページで取り上げたようにGPUとHBM向けのテスタ(製品状態になった半導体を最終検査する装置)で他社を大きく突き放すシェアを握る。米テラダインというライバルはいるものの、その追撃を許さない状態になっている。また、米中摩擦で米国産の半導体製造装置が買えない中国メーカーからの受注を一手に引き受けることができたのも、好業績に貢献した。 装置各社の業績推移予測と将来の給与の伸びを見てみよう。下記にまとめた。 (図表:製造装置企業の業績予測 はリンク先参照) 市場データ企業IFISによる市場コンセンサス予想でも、これらの企業の売上高成長率は著しい。そしてIFISデータを基にダイヤモンド編集部で試算(試算方法は上記図注参照)した将来の給与水準は若干減少傾向にある企業が多い。そもそもこれらはエレクトロニクス業界最強の給与水準にある企業で、さすがにこれらがこのまま右肩上がりで伸び続けるのは厳しそうだという。それでもアドバンテストやローツェなどまだ伸びしろがありそうな企業もある。 このように、日本の製造装置業界は最強に見える。だが、実は全体を見渡してみると由々しき事態が進行している。前述した通り、90年は米国を上回り、世界のシェアの約5割を押さえていた日本は、この30年間で地滑り的にシェアを落としているのだ。 23年の日本のシェアはモルガン・スタンレーMUFG証券の推定によると23%。つまり、これまで3番手だった欧州にも抜かれてしまったということになる。 (図:国籍別半導体製造装置のシェアの推移 はリンク先参照) どうしてこうしたことが起こったのか。その理由の一つには「日本の装置メーカーが、成長市場や規模の大きい市場を多数取りこぼしている」ことがあると和田木シニアアナリストは指摘する。 以下は、モルガン・スタンレーMUFG証券作成の半導体の製造装置の市場規模と成長率の分布図だ。さらに、日本企業が50%以上のシェアを押さえている装置を編集部でマーキングしてみた。これで見ると、市場規模が大きいのはエッチング装置、露光装置、枚葉式CVD装置(シリコンウエハーに膜を付ける装置)などだ。そして成長率が高いのはマスク検査装置、ALD(新方式の成膜装置)などとなる。 ところが、このどちらも、日本企業はシェアが取れていない。 (図:装置別に見た成長率と市場規模の関係 はリンク先参照) 例えば、現在最先端品を作るのに欠かせなくなったEUV露光装置は、オランダASMLが独占的に供給している。露光装置は、ニコンとキヤノンの2社がシェアを牛耳る状態が2000年代まで続いていた。そこをASMLが新たな露光方式であるEUVで一気にひっくり返してしまったのだ。 日本の2社は現状ではEUVに対しては打ち手がなく、最先端の微細化には対応できない旧来方式の装置での事業に依存するしかなくなり、シェアを大きく落としてしまった。 これまで取り上げてきた日本が強い市場は、全体の規模からするとそこまで大きいわけではない。エッチング装置で2位に付けているTELや、EUVのレーザーテックなど一部を除くと、小さなしかも今後の成長率がいまひとつの池での高シェアを取っているにすぎない、ということになる。 この事態には、この30年間最先端の半導体技術を磨くための場が、国内には不在だった影響もありそうだ。前述のASMLは、ベルギーに拠点を置く世界最大級の独立系半導体研究開発機関、アイメックと密接な連携を行っている。 「近隣にこうした研究所があることは、新規で伸びる技術の見極めや、それを持ち帰り自社で行う開発・検証のスピード、それに顧客へのマーケティング面でも明らかに有利に働く」(和田木アナリスト)。欧州には先端技術をいち早く見いだし製品化するためのエコシステムがあるのだ。 各デバイスメーカーが国内での量産や先端技術の開発から次々と撤退してきた日本とは、環境面でかなりの差が生まれてしまった。 経済産業省が追加出資を発表した国策半導体会社ラピダスの設立に、各製造装置メーカーが期待を寄せるのはこのためだ。同社の東哲郎会長はTELで会長・社長職を長く務めた中興の祖でもある。国内でもう一度最先端半導体を作る、という一見無謀なチャレンジには、TELの経営を通して日本の半導体産業の失われた20年間を目撃しており、なんらかの打開策が国として必要という思いがあるからなのかもしれない。 失われた20年間を独自の経営努力で切り抜け、成長してきた輝かしい実績を持つ装置メーカー。だがさらなる成長のためには、国内の半導体産業全体の底上げが欠かせない。それには装置メーカーのみならず、国全体としての強化策と、その成否が鍵を握るのだ』、「日本の製造装置業界は最強に見える。だが、実は全体を見渡してみると由々しき事態が進行している。前述した通り、90年は米国を上回り、世界のシェアの約5割を押さえていた日本は、この30年間で地滑り的にシェアを落としているのだ。 23年の日本のシェアはモルガン・スタンレーMUFG証券の推定によると23%。つまり、これまで3番手だった欧州にも抜かれてしまったということになる・・・どうしてこうしたことが起こったのか。その理由の一つには「日本の装置メーカーが、成長市場や規模の大きい市場を多数取りこぼしている」ことがある・・・現在最先端品を作るのに欠かせなくなったEUV露光装置は、オランダASMLが独占的に供給している。露光装置は、ニコンとキヤノンの2社がシェアを牛耳る状態が2000年代まで続いていた。そこをASMLが新たな露光方式であるEUVで一気にひっくり返してしまったのだ。 日本の2社は現状ではEUVに対しては打ち手がなく、最先端の微細化には対応できない旧来方式の装置での事業に依存するしかなくなり、シェアを大きく落としてしまった」、「これまで3番手だった欧州にも抜かれてしまった」、など誠に残念な結果だ。
次に、4月9日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの町田 徹氏による「日本政府が「1兆円」を注ぎ込む「あとに退けない一大事業」の勝算は? 事業軌道に乗せるためにも「不可欠な条件」を紹介しよう』、興味深そうだ。
・『追加支援を行うと発表 齋藤健・経済産業大臣は先週火曜日(4月2日)の記者会見で、政府・経済産業省が最先端半導体の受託生産を目指すRapidus(ラピダス)に対し、今2024年度中に最大で5900億円の追加支援を行うと発表した。既存の支援額(3300億円)と併せて、政府の同社に対する直接的な支援の規模は1兆円に迫ることになる。 手厚い支援の背景には、経済安全保障の観点から半導体のサプライチェーン確立が必要不可欠な状況や、ラピダスが2027年頃の量産を目指している2ナノメートルサイズの半導体が「生成AIや自動運転など日本産業全体の競争力の鍵を握るキーテクノロジーである」(斎藤経産大臣)との問題意識がある。 今回、支援が決定した資金の使途は、従来から取り組んでいる米IBM社やベルギーの研究機関imecとの共同研究、量産化へ向けた製造プロセスのふかぼり、製造装置の購入などに充てる計画だ。また、半導体業界で「後工程」と呼ばれている技術(複数の半導体を1つの基盤に収納するチップレット技術など)の開発など、新たな分野にも充てると説明している。 ただ、今回で政府による支援が終わりということはないはずである。というのは、ラピダス自身も量産開始までに総額で5兆円程度の資金が必要だと認めているからだ。 客観的に見れば、ラピダスは、政府支援の積み増しのほか、民間金融機関からの借り入れ、上場を通じた公募増資や売り出しなど、様々な資金調達を実現できないと、量産の開始前に経営が行き詰まるリスクを抱えているのが実情だ。 そこで、今週は、ラピダスがそうしたハードルを超えるために。何が必要になっているのかを考えてみたい。 かつて日本の半導体産業は世界の市場を席捲したものの、長続きしたとは言い難い。というのは、日本メーカーの半導体部門は、家電メーカー内で従属的な立場にあり、あくまでも自社の家電製品などに組み込む部品としての半導体製造がビジネスの中心で、外販は限定的な副産物という位置づけに過ぎなかったからである。 そして、政治的な激しい日米半導体摩擦の勃発に加えて、半導体の主力市場がPC用のCPUなどに移り代わるという環境の激変もあり、日本企業は揃って、半導体部門の維持に必要な巨額の先行投資に二の足を踏むようになり、衰退の道を辿った経緯があるのだ』、「かつて日本の半導体産業は世界の市場を席捲したものの、長続きしたとは言い難い。というのは、日本メーカーの半導体部門は、家電メーカー内で従属的な立場にあり、あくまでも自社の家電製品などに組み込む部品としての半導体製造がビジネスの中心で、外販は限定的な副産物という位置づけに過ぎなかったからである。 そして、政治的な激しい日米半導体摩擦の勃発に加えて、半導体の主力市場がPC用のCPUなどに移り代わるという環境の激変もあり、日本企業は揃って、半導体部門の維持に必要な巨額の先行投資に二の足を踏むようになり、衰退の道を辿った経緯があるのだ」、なるほど。
・『またとない再興のチャンス そうした中で、千載一遇の半導体産業再興のチャンスが巡ってきた。米国が中国とのデカップリング(経済の分断)を進める中で、世界の半導体業界のトップ3の中に自国企業がインテル1社しか含まれていないうえ、そのインテルが3位とはいえ、1位の台湾TSMCや2位の韓国サムスン電子に大きく後れを取っている状況に危機感を持ったからだ。そして、米政府は密かに、日本政府・経済産業省に対し、半導体製造部門を売却し、設計などに特化するファブレス企業への変身を目指しているIBMとのエクスクルーシブな(唯一の)提携先になるファウンドリを育成する考えがないか打診してきた。そして、この打診を「渡りに船だ」とみなした、日本政府・経済産業省が受け皿会社として設立・立ち上げを促したのが、現在のラピダスだった。 かねて政府に対して、半導体産業の再興の支援を働きかけていた、半導体製造装置会社・東京エレクトロンの社長・会長経験者である東哲郎氏(現ラピダス会長)と元日立製作所半導体グループ・生産技術本部本部長の小池淳義氏(現ラピダス社長)の2人に「白羽の矢を立てた」経緯がある。 ちなみに、日、米両政府はそれぞれ、巨額の支援をして半導体業界世界一の台湾のTSMCの工場の誘致も進めている。 話を戻すと、実際のラピダスの設立は、2022年8月のことだった。同年10月の総額73億円の増資にトヨタ自動車、NTTなど8社が応じたほか、設立時に出資した個人株主もいるとはいえ、同社の資本金は依然として73億4600万円(2022年11月時点)にとどまっている。 この現状は、あまりにも過小資本だ。ラピダス自身も5兆円規模の資金が必要だと認めているように、2ナノの先端半導体の量産化を実現するためには、巨額の資金を必要とするからだ。 この巨額の資金を賄うためには、さらなる政府支援の追加や、金融機関からの借り入れだけでなく、早期の上場を通じた大型資金調達が不可欠となっている。 そして、細かい市場ごとの上場基準などはさておき、新興企業が上場するために最も必要なことは、その企業のポテンシャルを示す成長シナリオをしっかりと描き出してみせることである。 この条件を、半導体のファブレス企業から発注を受けて量産するファウンドリを目指しているラピダスにあてはめると、最も重要なことは、実績のある、実在のファブレス企業から具体的な受注契約を獲得することになる。 では、ラピダスが量産の開始を目指す3年後、つまり2027年を想定して、2ナノ半導体の供給を必要としている企業は、いったいどこになるのだろうか』、「米政府は密かに、日本政府・経済産業省に対し、半導体製造部門を売却し、設計などに特化するファブレス企業への変身を目指しているIBMとのエクスクルーシブな(唯一の)提携先になるファウンドリを育成する考えがないか打診してきた。そして、この打診を「渡りに船だ」とみなした、日本政府・経済産業省が受け皿会社として設立・立ち上げを促したのが、現在のラピダスだった・・・ラピダスの設立は、2022年8月のことだった。同年10月の総額73億円の増資にトヨタ自動車、NTTなど8社が応じたほか、設立時に出資した個人株主もいるとはいえ、同社の資本金は依然として73億4600万円・・・この現状は、あまりにも過小資本だ。ラピダス自身も5兆円規模の資金が必要だと認めているように、2ナノの先端半導体の量産化を実現するためには、巨額の資金を必要とするからだ。 この巨額の資金を賄うためには、さらなる政府支援の追加や、金融機関からの借り入れだけでなく、早期の上場を通じた大型資金調達が不可欠となっている」、なるほど。
・『ラピダスに熱視線 誰もが容易に想定できるのは、生成AIの開発でしのぎを削っているグーグルやマイクロソフトといった米国の巨大IT企業群GAFAMだ。また、トヨタやテスラといった全自動運転の実用化を急ぐ自動車メーカーも大いに2ナノサイズの先端半導体を必要としているはずである。医療機器メーカーにもニーズがありそうだ。 言い換えれば、ラピダスは、そうしたIT大手や自動車メーカー大手、医療機器メーカーから、実際に、2ナノ半導体の製造を受注してみせる必要があるのである。 つまり、政府・経済産業省だけでなく、ラピダス自身も、今回の政府支援で獲得する資金を、これまで取り組んできた前工程に加えて、後工程の開発力の獲得に充てると製造面の体制作りの重要性を強調しているが、それだけでは不十分というワケだ。 むしろ、それらの製造技術の開発・強化と並行して、2ナノ半導体の顧客の獲得が待ったなしなのである。これらの企業とは、必要なスペックを詳細に詰めたうえで、委託(受注)契約に漕ぎ着けなければならない。そして、その契約を開示することで、持続的な成長力があることを実証して見せる必要があるのである。 そして、筆者の取材によれば、こうしたIT企業や自動車メーカー、医療機器メーカーは概して、ラピダスが2ナノ半導体を量産するファウンドリとして名乗りを上げたことをかなり好意的に受け止めているとみてよさそうなのだ。 というのは、現在、ファウンドリとしてこうしたAIや全自動運転用、医療機器用の最先端の半導体の量産に対応できる企業と言えば、米半導体大手のエヌビディア1社しかなく、独り勝ち状態になりかねないと見られていたからだ。GAFAMにしろ、自動車メーカーにしろ、医療危機メーカーにしろ、そろって自社のサプライチェーンの強靭性を維持するためには、半導体の供給元を複数以上にしたいとの思いも強く持っている。それゆえ、ラピダスに対しても相応に熱い視線を送っているというワケだ。 まとめると、ラピダスは今後3年以内に、ファウンドリとして構造が複雑な2ナノサイズの最先端半導体の製造技術を確立するだけでなく、最先端の半導体を組み込んで、最先端の生成AIや全自動運転、医療機器などの製品やサービスを市場に投入する計画を持っている最先端企業からパートナーとしての信頼を獲得し、生産の委託を受けなければならない。それが上場などへの道を開いて、必要な資金を獲得して、量産を軌道に乗せるためにも不可欠な条件になっているのである』、「ラピダスは今後3年以内に、ファウンドリとして構造が複雑な2ナノサイズの最先端半導体の製造技術を確立するだけでなく、最先端の半導体を組み込んで、最先端の生成AIや全自動運転、医療機器などの製品やサービスを市場に投入する計画を持っている最先端企業からパートナーとしての信頼を獲得し、生産の委託を受けなければならない。それが上場などへの道を開いて、必要な資金を獲得して、量産を軌道に乗せるためにも不可欠な条件になっているのである」、「ラピダス」にはこうした期待に応えてもらいたいものだ。
第三に、4月11日付け東洋経済オンラインが掲載したフリージャーナリストの杉本 りうこ氏による「TSMCが日本の補助金よりも欲した"2つの取引先" 台湾企業の失敗からラピダスが学ぶべきこと」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/746571
・『今、日本は半導体特需で沸きに沸いている。この熱狂の中心にいるのが半導体受託製造(ファウンドリー)の世界最大手、TSMCだ。2月に完工したTSMCの熊本工場は、日本の半導体産業と株式市場にとって大きな活性剤となっている。 この巨大企業を創業期から取材してきた台湾のハイテクジャーナリスト、林宏文氏が『TSMC 世界を動かすヒミツ」(CCCメディアハウス)』を日本で上梓。世界の半導体企業の興亡史をつぶさに見てきた林氏が、日本の半導体戦略に直言する(Qは聞き手の質問、Aは林宏文氏の回答)』、興味深そうだ。
・『TSMC熊本工場は「トヨタとアップルのため」 Q:2月にTSMCの熊本工場が完成しましたが、TSMCにとって日本で工場を建設する意義や目的はどこにあったのでしょうか。 A:日本に投資する理由については、TSMCのシーシー・ウェイCEOが過去に明確に述べています。すなわち「重要な顧客企業のため」なのだと。日本政府に請われたから、補助金が得られたからではないのだと、そうはっきり語っています。 重要な顧客の1つは、トヨタ自動車です。ウェイCEOは熊本工場の開所式にトヨタの豊田章男会長と面談した際、「(熊本工場は)TSMCが日本で半導体製造に乗り出す第一歩。ぜひトヨタの支援をいただきたい」「(自動車向け半導体が)今はTSMCにおいて小さな割合であっても、将来は伸びる。トヨタと一緒に成長したい」と語っています。 もう1つの重要な顧客は、アップルです。iPhoneはカメラ用の撮像素子(CMOSセンサー)を大量に消費しますが、それを供給しているのはソニーグループです。熊本工場が稼働すればソニーのCMOSセンサーの生産能力も上がり、結果としてアップルに貢献できます。) Q:アップルを筆頭に、TSMCの重要な顧客の多くはアメリカのハイテク企業です。重要市場であるアメリカに工場を作るのは理にかないますが、日本には作らないだろうと半導体関係者の多くは思っていました。TSMCは日本を重視するようになっているのでしょうか。 A:(リン・ホンウェン氏の略歴はリンク先参照)TSMCがアメリカをより重視してきたのは当然のことです。しかしその姿勢に、変化が生じているのではないかと私は感じています。 TSMCの経営陣は当初、アメリカのアリゾナ新工場のプロジェクトを「千載一遇の成長機会」と感じたはず。中国との半導体戦争という環境の中で、アメリカ政府はTSMCの新工場建設に巨額の公的支援を約束しましたからね。 しかし今となっては、アメリカ政府はTSMCの有力なライバルであるインテルのほうに、より大規模な支援を行うことが明らかになっています。そしてTSMCの新工場建設は、補助金がキャッシュインしないとか、技術人材が不足しているとかいった要因で遅れています。 TSMCのマーク・リュウ会長が6月に退任しますが、これははっきり言って、アメリカでの投資プロジェクトがうまくいかなかったことを受けた結果です。 一方、アメリカに比べて当初はあまり重要でないように見えた日本での工場建設は、予想以上に順調に進みました。その理由は、サプライヤーやゼネコンなど日本のパートナー企業が真剣に協力してくれたからでしょう。こういった日米の状況の変化が、TSMCの経営陣の姿勢に影響しつつあるようです。 実はTSMC創業者のモリス・チャン氏はずっと「アメリカへの投資は成功しない、アメリカの半導体製造の夢も実現しない」と言ってきました』、「今となっては、アメリカ政府はTSMCの有力なライバルであるインテルのほうに、より大規模な支援を行うことが明らかになっています。そしてTSMCの新工場建設は、補助金がキャッシュインしないとか、技術人材が不足しているとかいった要因で遅れています。 TSMCのマーク・リュウ会長が6月に退任しますが、これははっきり言って、アメリカでの投資プロジェクトがうまくいかなかったことを受けた結果です。 一方、アメリカに比べて当初はあまり重要でないように見えた日本での工場建設は、予想以上に順調に進みました。その理由は、サプライヤーやゼネコンなど日本のパートナー企業が真剣に協力してくれたからでしょう。こういった日米の状況の変化が、TSMCの経営陣の姿勢に影響しつつあるようです。実はTSMC創業者のモリス・チャン氏はずっと「アメリカへの投資は成功しない、アメリカの半導体製造の夢も実現しない」と言ってきました」、なるほど。
・『補助金で半導体産業は取り戻せるか? Q:いつからそう指摘していたのですか。 A:アメリカのCHIPS法案(2022年に成立)が議論され始めた頃からです。チャン氏はアメリカの対中制裁には賛同しているものの、半導体製造復興政策に対しては一貫して反対してきました。) たとえば2022年8月にナンシー・ペロシ、アメリカ下院議長が台湾を訪れた際、訪台したアメリカ議員団にチャン氏はこう直言しています。 「TSMCのアリゾナ新工場が補助金の恩恵を受けられるのは喜ばしいことだ。しかし問題は、補助金を出せば半導体製造を掌握できるとアメリカが考えていることだ。事はそんなに簡単ではない。政府がお金を投じてから、実際に自国内に半導体製造業が創出されるまでには、長い道のりがある」 チャン氏がこのように断言するのは、1990年代にアメリカ・ワシントン州に現地企業と合弁で受託製造会社を作った経験からです。アメリカでの生産は、まったくうまくいきませんでした。生産コストやエンジニア、働き方をめぐる文化などの問題に直面したのです。これらの問題は、巨額を投じたからといって一朝一夕に解決できるものではありません。 TSMCの現在の経営陣はアメリカに工場を作ることについて楽観的だったのでしょうが、今となってはチャン氏の予言が正しかったと痛感しているでしょう。さらに日本での順調さが、経営陣の認識を変えつつあります。さらには、アメリカ政府に対しても大きなプレッシャーとなるのではないでしょうか』、「問題は、補助金を出せば半導体製造を掌握できるとアメリカが考えていることだ。事はそんなに簡単ではない。政府がお金を投じてから、実際に自国内に半導体製造業が創出されるまでには、長い道のりがある」 チャン氏がこのように断言するのは、1990年代にアメリカ・ワシントン州に現地企業と合弁で受託製造会社を作った経験からです。アメリカでの生産は、まったくうまくいきませんでした。生産コストやエンジニア、働き方をめぐる文化などの問題に直面したのです。これらの問題は、巨額を投じたからといって一朝一夕に解決できるものではありません」、その通りだ。
・『TSMCのライバルはIBMの技術で「失敗」 Q:日本政府は国策企業であるラピダスにも巨額の支援を行っています。ラピダスの使命は最先端のロジック半導体を国産化することですから、言い換えればTSMCのライバルも育成しているわけです。ラピダス自身は「TSMCとは競わない」と説明していますが、あなたはこの状況をどう見ていますか。 日本が半導体産業を振興すること自体は、私は非常にチャンスがあると思います。 半導体製造装置において、日本はアメリカ、オランダと並ぶ最重要国です。多くの半導体材料でも、日本企業がトップシェアを掌握しています。これは日本企業が長期的なR&D(研究開発)を重視してきた成果です。息の長いR&Dを重視する姿勢は、台湾よりも日本のほうが顕著。製造装置や材料の強みがさらに増す政策であれば、日本にとって大きな価値があると思います。) ただ、ことラピダスについては、日本の皆さんにシビアに伝えたいことがあります。 日本では先端半導体を作るプロセス技術が途絶えているため、ラピダスはIBMからの技術移転を選びましたよね。実はIBMからの技術移転は、台湾を代表する半導体メーカーも選んだことがあります。しかし失敗に終わっています。しかも企業成長を決定的に遅らせるほどの大きなつまずきとなりました。 その企業はUMC(聯華電子)です。UMCはTSMCと同様、台湾政府の支援で生まれました。当初のビジネスモデルは少し違っていたのですが、今はTSMCと同じ半導体受託製造の世界的大手です。しかもUMCの創業は1980年とTSMCより7年早い。 ところがUMCは2000年ごろを境に、TSMCに技術や業績の面で大きく引き離されてしまいました。これはUMCがIBMからの技術移転を選んだ影響が大きいと私は考えています。 2000年ごろ、当時の最先端プロセス技術である0.13マイクロメートル(130ナノメートル)をどうするかという局面で、UMCはIBMと共同開発しようと決めました。実はIBMの技術は、TSMCも検討しました。しかし当時の研究開発幹部が「IBMの工場にTSMCの技術者が行くのではなく、台湾の自社工場で研究開発をしなければ、開発成果を量産段階に反映できない」と考え、自主開発の道を選んだのです。 結果として、TSMCは2000年の研究着手から1年半で開発に成功。UMCはそこから2年遅れました。そしてこの後、TSMCとUMCの差はどんどん開いていったのです』、「UMCは2000年ごろを境に、TSMCに技術や業績の面で大きく引き離されてしまいました。これはUMCがIBMからの技術移転を選んだ影響が大きいと私は考えています。 2000年ごろ、当時の最先端プロセス技術である0.13マイクロメートル(130ナノメートル)をどうするかという局面で、UMCはIBMと共同開発しようと決めました。実はIBMの技術は、TSMCも検討しました。しかし当時の研究開発幹部が「IBMの工場にTSMCの技術者が行くのではなく、台湾の自社工場で研究開発をしなければ、開発成果を量産段階に反映できない」と考え、自主開発の道を選んだのです。 結果として、TSMCは2000年の研究着手から1年半で開発に成功。UMCはそこから2年遅れました。そしてこの後、TSMCとUMCの差はどんどん開いていったのです」、「UMC」が安易に「IBM」との「共同開発」を選択したことが、敗因になったようだ。
・『IBMからは学べないことがある Q:ハイテクの世界で、2年分の技術差は致命的です。UMC同様、ラピダスもIBMからの技術移転でつまずくリスクも出てくるかもしれない。 A:過去に台湾企業が失敗したからと言って、ラピダスも「絶対にうまくいかない」とは断言しません。ただ台湾企業の経験を踏まえて、日本政府とラピダスにはIBMの強みと弱みを冷静に分析してもらいたいのです。 IBMが半導体技術の研究に強みがあることは事実です。しかしラピダスがやろうとしている半導体の受託製造とは、「顧客へのサービスとして半導体を製造する」というビジネスなのです。) ところがIBMは、今の最先端技術を使って半導体を量産したこともないし、ましてや受託製造のサービス業であったことはもちろんありません。 顧客のために、高度な半導体を製造することがどれだけ「辛苦」(つらい、大変)なことか想像できますか?量産ラインにおいて、どうすれば歩留まりを低減でき、半導体の品質とコストを下げられるのか。顧客からの突然の追加オーダーや、逆に思ってもみないキャンセルといった不測の事態に耐えるためには、工場の柔軟性や学習曲線をどう上げればよいのか? こういった要素は、ラボでの技術開発では得られません。IBMがこれらをどうやってラピダスに教えられるでしょうか。教えられないなら、ラピダスはどうやって学ぶのでしょうか』、「IBMが半導体技術の研究に強みがあることは事実です。しかしラピダスがやろうとしている半導体の受託製造とは、「顧客へのサービスとして半導体を製造する」というビジネスなのです。) ところがIBMは、今の最先端技術を使って半導体を量産したこともないし、ましてや受託製造のサービス業であったことはもちろんありません。 顧客のために、高度な半導体を製造することがどれだけ「辛苦」(つらい、大変)なことか想像できますか?量産ラインにおいて、どうすれば歩留まりを低減でき、半導体の品質とコストを下げられるのか。顧客からの突然の追加オーダーや、逆に思ってもみないキャンセルといった不測の事態に耐えるためには、工場の柔軟性や学習曲線をどう上げればよいのか? こういった要素は、ラボでの技術開発では得られません。IBMがこれらをどうやってラピダスに教えられるでしょうか。教えられないなら、ラピダスはどうやって学ぶのでしょうか」、その通りだ。
・『日本はかつての地位を追いかけるな そもそも半導体というのは、何らかの夢を実現するための1つの部品に過ぎません。アップルのスティーブ・ジョブズはiPhoneの夢を実現するために独自半導体を追究しました。エヌビディアのジェンスン・ファンはAI(人工知能)の夢を実現しようとしています。こういった夢を追いかける顧客がいるからこそ、TSMCの成功があるのです。 Q:かつて日本でも、電機メーカーが家電やコンピューターなど最終製品の競争力を高めるために、半導体を自社で開発・生産していました。まず需要ありきということですね。 A:今ならたとえば、トヨタがハイブリッドカーや水素カーを世界に普及させる夢を抱いているじゃないですか。そのために半導体ができることは、かなりあります。日本はかつて半導体市場で圧倒的なシェアを持っていたため、当時の地位を取り戻したいと思うのかもしれません。 でも実のところ、自動車産業のような日本が今持っている強みをどう伸ばすかが重要。そこで必要な半導体を日本が設計さえすれば、TSMCがパートナーとなって製造することができるのです』、「でも実のところ、自動車産業のような日本が今持っている強みをどう伸ばすかが重要。そこで必要な半導体を日本が設計さえすれば、TSMCがパートナーとなって製造することができるのです」、その通りだ。
タグ:同年10月の総額73億円の増資にトヨタ自動車、NTTなど8社が応じたほか、設立時に出資した個人株主もいるとはいえ、同社の資本金は依然として73億4600万円・・・この現状は、あまりにも過小資本だ。ラピダス自身も5兆円規模の資金が必要だと認めているように、2ナノの先端半導体の量産化を実現するためには、巨額の資金を必要とするからだ。 この巨額の資金を賄うためには、さらなる政府支援の追加や、金融機関からの借り入れだけでなく、早期の上場を通じた大型資金調達が不可欠となっている」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン「東エレク、レーザーテックは快進撃も…日本の半導体製造装置メーカーは実は「地滑り的敗戦」をしていた!」 (その12)(東エレク レーザーテックは快進撃も…日本の半導体製造装置メーカーは実は「地滑り的敗戦」をしていた!、日本政府が「1兆円」を注ぎ込む「あとに退けない一大事業」の勝算は? 事業軌道に乗せるためにも「不可欠な条件」、TSMCが日本の補助金よりも欲した"2つの取引先" 台湾企業の失敗からラピダスが学ぶべきこと) 「絶好調に見える製造装置業界だが、意外にも国内企業全体として見た場合、非常に危機的な状況にあるという。なにしろ、かつて5割を占めていたシェアは、23%に下がり欧州に抜かれて3番手になってしまっているからだ」。なるほど。 半導体産業 ません」、その通りだ。 「米政府は密かに、日本政府・経済産業省に対し、半導体製造部門を売却し、設計などに特化するファブレス企業への変身を目指しているIBMとのエクスクルーシブな(唯一の)提携先になるファウンドリを育成する考えがないか打診してきた。そして、この打診を「渡りに船だ」とみなした、日本政府・経済産業省が受け皿会社として設立・立ち上げを促したのが、現在のラピダスだった・・・ラピダスの設立は、2022年8月のことだった。 日本の製造装置業界は最強に見える。だが、実は全体を見渡してみると由々しき事態が進行している。前述した通り、90年は米国を上回り、世界のシェアの約5割を押さえていた日本は、この30年間で地滑り的にシェアを落としているのだ。 23年の日本のシェアはモルガン・スタンレーMUFG証券の推定によると23%。つまり、これまで3番手だった欧州にも抜かれてしまったということになる・・・どうしてこうしたことが起こったのか。 「今となっては、アメリカ政府はTSMCの有力なライバルであるインテルのほうに、より大規模な支援を行うことが明らかになっています。そしてTSMCの新工場建設は、補助金がキャッシュインしないとか、技術人材が不足しているとかいった要因で遅れています。 TSMCのマーク・リュウ会長が6月に退任しますが、これははっきり言って、アメリカでの投資プロジェクトがうまくいかなかったことを受けた結果です。 杉本 りうこ氏による「TSMCが日本の補助金よりも欲した"2つの取引先" 台湾企業の失敗からラピダスが学ぶべきこと」 その理由の一つには「日本の装置メーカーが、成長市場や規模の大きい市場を多数取りこぼしている」ことがある・・・現在最先端品を作るのに欠かせなくなったEUV露光装置は、オランダASMLが独占的に供給している。露光装置は、ニコンとキヤノンの2社がシェアを牛耳る状態が2000年代まで続いていた。そこをASMLが新たな露光方式であるEUVで一気にひっくり返してしまったのだ。 日本の2社は現状ではEUVに対しては打ち手がなく、最先端の微細化には対応できない旧来方式の装置での事業に依存するしかなくなり、シェアを大きく落 「問題は、補助金を出せば半導体製造を掌握できるとアメリカが考えていることだ。事はそんなに簡単ではない。政府がお金を投じてから、実際に自国内に半導体製造業が創出されるまでには、長い道のりがある」 チャン氏がこのように断言するのは、1990年代にアメリカ・ワシントン州に現地企業と合弁で受託製造会社を作った経験からです。アメリカでの生産は、まったくうまくいきませんでした。生産コストやエンジニア、働き方をめぐる文化などの問題に直面したのです。これらの問題は、巨額を投じたからといって一朝一夕に解決できるものではあり 一方、アメリカに比べて当初はあまり重要でないように見えた日本での工場建設は、予想以上に順調に進みました。その理由は、サプライヤーやゼネコンなど日本のパートナー企業が真剣に協力してくれたからでしょう。こういった日米の状況の変化が、TSMCの経営陣の姿勢に影響しつつあるようです。実はTSMC創業者のモリス・チャン氏はずっと「アメリカへの投資は成功しない、アメリカの半導体製造の夢も実現しない」と言ってきました」、なるほど。 東洋経済オンライン 「ラピダスは今後3年以内に、ファウンドリとして構造が複雑な2ナノサイズの最先端半導体の製造技術を確立するだけでなく、最先端の半導体を組み込んで、最先端の生成AIや全自動運転、医療機器などの製品やサービスを市場に投入する計画を持っている最先端企業からパートナーとしての信頼を獲得し、生産の委託を受けなければならない。それが上場などへの道を開いて、必要な資金を獲得して、量産を軌道に乗せるためにも不可欠な条件になっているのである」、「ラピダス」にはこうした期待に応えてもらいたいものだ。 そして、政治的な激しい日米半導体摩擦の勃発に加えて、半導体の主力市場がPC用のCPUなどに移り代わるという環境の激変もあり、日本企業は揃って、半導体部門の維持に必要な巨額の先行投資に二の足を踏むようになり、衰退の道を辿った経緯があるのだ」、なるほど。 「かつて日本の半導体産業は世界の市場を席捲したものの、長続きしたとは言い難い。というのは、日本メーカーの半導体部門は、家電メーカー内で従属的な立場にあり、あくまでも自社の家電製品などに組み込む部品としての半導体製造がビジネスの中心で、外販は限定的な副産物という位置づけに過ぎなかったからである。 量産ラインにおいて、どうすれば歩留まりを低減でき、半導体の品質とコストを下げられるのか。顧客からの突然の追加オーダーや、逆に思ってもみないキャンセルといった不測の事態に耐えるためには、工場の柔軟性や学習曲線をどう上げればよいのか? こういった要素は、ラボでの技術開発では得られません。IBMがこれらをどうやってラピダスに教えられるでしょうか。教えられないなら、ラピダスはどうやって学ぶのでしょうか」、その通りだ。 町田 徹氏による「日本政府が「1兆円」を注ぎ込む「あとに退けない一大事業」の勝算は? 事業軌道に乗せるためにも「不可欠な条件」 「IBMが半導体技術の研究に強みがあることは事実です。しかしラピダスがやろうとしている半導体の受託製造とは、「顧客へのサービスとして半導体を製造する」というビジネスなのです。) ところがIBMは、今の最先端技術を使って半導体を量産したこともないし、ましてや受託製造のサービス業であったことはもちろんありません。 顧客のために、高度な半導体を製造することがどれだけ「辛苦」(つらい、大変)なことか想像できますか? 現代ビジネス できない」と考え、自主開発の道を選んだのです。 結果として、TSMCは2000年の研究着手から1年半で開発に成功。UMCはそこから2年遅れました。そしてこの後、TSMCとUMCの差はどんどん開いていったのです」、「UMC」が安易に「IBM」との「共同開発」を選択したことが、敗因になったようだ。 「でも実のところ、自動車産業のような日本が今持っている強みをどう伸ばすかが重要。そこで必要な半導体を日本が設計さえすれば、TSMCがパートナーとなって製造することができるのです」、その通りだ。 「UMCは2000年ごろを境に、TSMCに技術や業績の面で大きく引き離されてしまいました。これはUMCがIBMからの技術移転を選んだ影響が大きいと私は考えています。 2000年ごろ、当時の最先端プロセス技術である0.13マイクロメートル(130ナノメートル)をどうするかという局面で、UMCはIBMと共同開発しようと決めました。実はIBMの技術は、TSMCも検討しました。しかし当時の研究開発幹部が「IBMの工場にTSMCの技術者が行くのではなく、台湾の自社工場で研究開発をしなければ、開発成果を量産段階に反映 としてしまった」、「これまで3番手だった欧州にも抜かれてしまった」、など誠に残念な結果だ。