SSブログ

日本の構造問題(その16)(「サル化する日本人」が見抜けない危機の本質 「今」を考察する力はなぜ失われたのか、コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因 「危機への対応」でも中小企業の弱さが目立つ、コロナ危機の日本に見る「前例主義」の病理 旧日本軍の失敗を繰り返すか) [経済政治動向]

日本の構造問題については、3月20日に取上げた。今日は、(その16)(「サル化する日本人」が見抜けない危機の本質 「今」を考察する力はなぜ失われたのか、コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因 「危機への対応」でも中小企業の弱さが目立つ、コロナ危機の日本に見る「前例主義」の病理 旧日本軍の失敗を繰り返すか)である。

先ずは、3月29日付け東洋経済オンラインが掲載した思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授 の内田 樹氏による「「サル化する日本人」が見抜けない危機の本質 「今」を考察する力はなぜ失われたのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/337483
・『日本社会が“サル化”している――。新著『サル化する世界』でそう鋭く指摘するのは思想家の内田樹氏だ。内田氏が言う「サル化」とは何か。コロナ危機に際して考えるべきこととは。編集部からの質問に回答してもらった。(Qは聞き手の質問、Aは内田氏の回答) Q:「サル化する世界」という挑発的なタイトル:に込めた思いを教えてください。 A:「サル」というのは「朝三暮四」(注)のサルのことです。サルが今の自分さえよければそれでよくて、未来の自分にツケを回しても気にならないのは、ある程度以上の時間の長さにわたっては、自己同一性を保持できないからです。 過去・現在・未来にわたる広々とした時間流の中に自分を位置づけることができない人間には確率、蓋然性、矛盾律、因果といった概念がありません』、「日本社会が“サル化”している」とはショッキングな小見出しだが、大いに興味をそそられた。「サルが今の自分さえよければそれでよくて、未来の自分にツケを回しても気にならないのは、ある程度以上の時間の長さにわたっては、自己同一性を保持できないから」、なるほど、ダイエットやウォーキングなどをするヒトはやはり高度な存在のようだ。
(注)朝三暮四:「列士」に収録。「目先の利益に目がいってしまい、結果的には利益が同じであることに気づかない」、または「言葉の上でうまく人をだますこと」などを意味(manapedia)
・『「文明史的危機」に際会している  「矛盾」も「守株待兎」も「刻舟求剣」も「鼓腹撃壌」も、いずれも時間意識が痩せ細った愚者についての物語ですが、おそらく、春秋戦国時代には「そういう人」が身の回りに実際にいたのでしょう。だから、荘子や韓非ら賢者たちは「長いタイムスパンの中でものごとの適否を判断できること」を未開からのテイクオフの条件として人々に教えようとした。 それから2000年ほど経って、気がついたら、現代人は再びサルに退化し始めていた。この「文明史的危機」に際会して、警鐘を乱打しようと思って、このような挑発的なタイトルを選びました。 Q:過去と未来をふくんだ視点で「今」を考察する力は、なぜ急激に失われてしまったのでしょうか。 A:最大の原因は基幹産業が農業から製造業、さらにはより高次の産業に遷移したことだと思います。農業の場合でしたら、人間は植物的な時間に準拠して暮らしていました。農夫は種子をまいている自分と、風水害や病虫害を防いで働いている自分と、収穫している自分が同一の自己であるという確信がないと日々の苦役には耐えられません。 でも、いま、最下層の賃労働者は今月の給与をもらっている自分より先の自分には、同一性を持つことができません。だって、1カ月後に自分がどうなっているかさえ予測がつかないから。 それは富裕層も同じです。株の取引はマイクロセコンド単位で行われている。それ以上タイムスパンを広げても意味がない。企業だってそうです。今から10年前にGoogleやAmazonが「こんなふう」になると予測した人はほとんどいなかった。10年後にどうなるかもわからない。長い時間の流れの中に自分を置いて、何が最善の選択なのかを熟慮するという習慣を現代人は失って久しい。 Q:近年、日本社会のどんな面に特にサル化の兆候は表れていると思いますか。 A:一番わかりやすいのは「うそをつくことについて罪の意識がなくなった」ということです。「Honesty pays in the long run」ということわざがありますけれど、「正直は長い目で見れば引き合う」というのは、「うそをつく方が短期的には引き合う」ということです。短期的な損得だけを考えれば、多くの場合、うそをつくほうが利益が大きい』、「荘子や韓非ら賢者たちは「長いタイムスパンの中でものごとの適否を判断できること」を未開からのテイクオフの条件とし」た。「それから2000年ほど経って、気がついたら、現代人は再びサルに退化し始めていた。この「文明史的危機」に際会して、警鐘を乱打しようと思って、このような挑発的なタイトルを選びました」、なるほど。「長い時間の流れの中に自分を置いて、何が最善の選択なのかを熟慮するという習慣を現代人は失って久しい」、その通りなのだろう。「うそをつくことについて罪の意識がなくなった」、首相が自らその先頭にいるようだ。
・『その場その場の自己利益を優先  政治家や官僚たちがすぐばれるうそをつき、前後矛盾することを平気で言い、その矛盾を指摘されても別に困惑する様子もないのは、彼らが「矛盾」の武器商人と同じレベルにまで退化しているからです。 その場その場において自己利益が最大化することを優先させて、おのれの言明をできるだけ長く維持することには特段の意味を感じない。「約束を守る、一言を重んじる」を英語では「keep one’s word」といいますが、keepする時間の幅がこれほど短縮されるとは、このことわざを考えた人も想像していなかったことでしょう。 Q:いま一連のコロナ騒動を見ていると、後手後手に場当たり的な対応をする政府から、不足物資を買い占めに走る人々の狂騒まで、まさに“サル化”する日本です。そこにはなにか日本特有の構造的要因もあるのでしょうか。 A:日本固有の現象ではないと思います。無能な政府であれば、どこでも対策は後手に回るでしょうし、トイレットペーパーの買い占めも世界のどこでも起きていますから。サル化しているのは日本人だけではないよと言われて安心されても困りますが。 Q:危機管理に真に必要な知性とは何でしょうか。 A:長いタイムスパンの中で、ものごとの理非や適否を判断する習慣のことだと思います。歴史的にものを見る習慣があれば、「危機だ」と騒がれる出来事の多くが「過去に何度も繰り返されていることの新版」であることがわかるはずです。それなら浮足立つ必要はない。どういう文脈で起きて、どう展開するか、だいたいわかるから。 そうやって「よくある危機」をスクリーニングしておかないと、本当の前代未聞の危機に遭遇したときに、適切に驚くことができません。 Q:失われた20年のあと、アベノミクスで株価こそ浮上したもの、一向に景況はよくなりません。日本人の労働生産性は、「1人当たり」「時間当たり」ともに先進7カ国中の最下位という状態が続いていますが、日本の組織を活性化するには何が必要だと思われますか。 A:管理部門に過大な資源を配分しないことです。今の日本の組織は「価値あるものを創り出すセクター」よりも「人がちゃんと働いているかどうか監視するセクター」のほうに権限も情報も資源も集積しています。労働者よりも監督のほうが多い現場とか、兵士よりも督戦隊(前線から逃げて来た兵士を射殺する後方部隊)が多い戦場のようなものです。それでは生産性が上がるはずがない。 「管理を最低限にする」「現場に自己裁量権を与える」「成果の短期的な査定をやめる」くらいで日本の組織は一気に活性化します。でも、管理部門の人たちはそう言われても「管理部門の肥大化を適正規模に抑制するための管理部門の増設」くらいしか思いつかないでしょうけど。 Q:”サル化した人間”にとって代わってAIが社会の中枢を担う日はくると思いますか?AI時代に人が学ぶ意味とは何でしょうか。 A:AI時代は「前代未聞」の事態ですから、「こうすれば何とかなる」という正解を知っている人はいません。「こうすれば救われる」と言い立てる人がいても、あまり信用しないほうがいいです。生き延び方は、各自で考えてください』、「今の日本の組織は「価値あるものを創り出すセクター」よりも「人がちゃんと働いているかどうか監視するセクター」のほうに権限も情報も資源も集積しています・・・それでは生産性が上がるはずがない」、面白い比喩だが、よくよく考えると、産業の高度化に伴い不可避的に「監視するセクター」が大きくなったと考えるべきではなかろうか。
・『イエスマンだけで固められた組織  Q:消費増税の影響もあり、新年度の「国民負担率」は44.6%と過去最高になる見通しです。国民は高い税負担を強いられながらも、人口減少、貧困問題をはじめ、医療・介護・年金といった分野が危機的状況にあるのはなぜだと思われますか。 A:平たく言えば、政策を起案し、実施する人たちが「あまり頭がよくない」からです。 この四半世紀ほど、日本のキャリアパスは「上位者に対する忠誠心」を「業務能力」よりも高く評価することで、円滑な組織マネジメントを実現してきました。お金が潤沢にあるときは、それでよかったのです。組織が「円滑に回る」ことをイノベーションやブレークスルーよりも優先させても、何とかなった。 でも、こういうイエスマンだけで固められた組織には前例主義と事大主義と事なかれ主義が瀰漫(びまん)しますから、お金がなくなったり、前代未聞の事態に直面すると、「フリーズ」してしまう。 医療、介護、年金さまざまな制度については「頭のいい人」が画期的な制度改革の提言をこれまでも繰り返ししてきていますけれど、日本の役所はまったく相手にしませんでした。上位者におもねらない人の意見は日本では採用されないんです。 Q:人口減少社会において、国民的資源を守り、日本人が共同体として生き残るためには何が必要でしょうか。 A:とにかく大人の頭数を増やすことですね。最低でも国民の15人に1人くらいが「他の人はどれほど利己的でも、自分1人くらいは公共に配慮しないと……」と思って暮らせば、ずいぶん世の中住みやすくなります。とりあえず道ばたに落ちてる空き缶を拾うとか、妊婦に席を譲ってあげるとかから始めたらいかがでしょうか』、「イエスマンだけで固められた組織には前例主義と事大主義と事なかれ主義が瀰漫(びまん)しますから、お金がなくなったり、前代未聞の事態に直面すると、「フリーズ」してしまう」、その通りだろう。 「画期的な制度改革の提言」を「日本の役所」が聞くようにするには、メディアにももっと頑張ってもらう必要がある。

次に、4月16日付け東洋経済オンラインが掲載した元外資系アナリストで 小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏による「コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因 「危機への対応」でも中小企業の弱さが目立つ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/344358
・『オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、新刊『日本企業の勝算』で、日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析している。 日本企業の「生産性が低い」問題の根源は「規模が小さい企業が多すぎる」産業構造にあることを明らかにしてきたこれまでの連載に続き、今回はコロナ問題で露呈した日本の産業構造の脆弱性を解説してもらった』、「アトキンソン氏」は忖度することなく、辛口の主張をするだけに、私も注目している。
・『小さい企業ほど「テレワーク導入」ができない  コロナウイルスの蔓延により、多くの日本企業が窮地に陥っています。特に中小企業の経営は厳しく、今後多くの中小企業が経営破綻することが危惧されています。 当然ですが、このような危機への対応力は一般に企業規模が大きいほど強く、小さいほど弱くなります。国全体で見ても同様に、企業の平均規模が大きいほど危機に強く、小さいほど危機に弱くなります。 また、このような有事の際には、「企業さえ潰れなければいい」というわけではありません。そこで働く従業員の命や健康を守ることも大切です。実はこの面で見ても、規模が小さい企業ほど従業員を危険に晒しやすい可能性があります。 東京商工会議所が2020年3月に実施した調査によると、テレワーク導入率は従業員数300人以上の企業が57.1%だったのに対して、50人以上300人未満の企業では28.2%、50人未満の企業では14.4%にとどまっていました。 50人未満の企業の経営者も、悪意をもって導入を先送りしているわけではないでしょう。規模が小さすぎて、時間的にも金銭的にも人員的にも余裕がなく、導入できないのだと推察できます。こういった企業が多い国ほど、当然、テレワークの導入率は構造的に低下しますので、「Stay at home」に悪影響を及ぼします。 さらに、小規模事業者が増えれば増えるほど、その国の生産性が低くなるので、財政が圧迫されます。すると、小規模事業者が多い分だけダメージが大きいのに、それに対応するための予算が限られてしまうのです。 このように見ていくと、「中小企業は国の宝だ」という日本の「常識」が本当に正しいのか、疑問に思えてきます。私は、今回のコロナ危機で日本の産業構造の弱さが露呈したと考えており、その原因は中小企業にあると見ています。 今回は、かつて「日本の宝」だった中小企業が、なぜ産業構造の弱さの原因といえるのかを解説していきます』、「中小企業は国の宝だ」というのは、政治家の単なるリップサービスだが、「産業構造の弱さの原因」とはどういうことだろう。
・『中小企業の価値は「人をムダに使う」ことにある  日本では、中小企業がやたらと大事にされています。「中小企業は国の宝だ」「日本の技術を守っているのは中小企業だ」という声を聞くことも少なくありません。 確かに、そういう一面もないことはないでしょう。一般的に、中小企業は大企業より顧客との距離感が近く、また、意思決定が早く、身動きがとりやすいのは確かです。 一方、中小企業は規模が小さくなるほど、人力に頼る傾向が強くなります。従業員が少なく、分業ができないので、専門性が高まらず、機械化もなかなか進みません。その結果、効率化が進まないので、その分、余計に労働力が必要になるのです。だからこそ、生産性が低いのです。 人口が増加し、労働力があふれている時代には、中小企業の存在は貴重です。なぜならば、中小企業は人間により多く依存する「労働集約型」で、ある意味、人をムダにたくさん使ってくれるからです。 中小企業自体の労働生産性が低くても、これらの企業が雇用を増やし、就業率が高まれば、国の全体の生産性も高まります。その意味では、中小企業の存在も生産性の向上に貢献していたと言えるのです。 生産性とは、GDPを総人口で割ったものです(生産性=GDP/総人口)。また、労働生産性とはGDPを就労人数で割ったものです(労働生産性=GDP/就労人数)。ここから、生産性は労働生産性に労働参加率をかけた値であることがわかります。 生産性=GDP/総人口=(GDP/就労人数)×(就労人数/総人口)​=労働生産性×労働参加率  この式からは、生産性を高めるためには「労働生産性」を高めるか、「労働参加率」を高めればいいことがわかります。 例えばある国の労働生産性が1000万円で、労働参加率が50%であれば、国全体の生産性は500万円です。この国で中小企業がたくさん生まれ、それらの企業が雇用を増やした結果、労働参加率が60%まで高まったとしましょう。すると、労働生産性がまったく伸びなかったとしても、生産性は500万円から600万円に上がるのです。) 人口が増加していた時代においては、中小企業は「労働参加率」を高める役割を果たしていました。その意味で、「国の宝」と言えないこともありませんでした。 しかし、日本はすでに人口減少の時代に突入し、この傾向は今後数十年にわたって続きます。人をムダに多く雇う中小企業の存在は、強みではなくなり、逆に弱みに変わります。 なぜならば、企。業というものは規模が小さければ小さいほど、労働生産性が低いからです。日本企業の99.7%は中小企業ですから、日本の生産性が低いという事実は、日本の中小企業の労働生産性が低いことをそのまま反映しているのです』、「日本はすでに人口減少の時代に突入・・・人をムダに多く雇う中小企業の存在は、強みではなくなり、逆に弱みに変わります」、その通りだ。
・『日本の中小企業の真の姿  中小企業庁によると、2016年時点で日本には357万社の中小企業があります。さきほども述べたとおり、全企業の99.7%を中小企業が占めています。 このように数多ある中小企業を一括りにして「中小企業は日本の宝だ」と考えるのは、そもそも乱暴すぎます。 もちろん357万社もあれば、玉石混淆なのは当たり前です。中には「玉=宝」もあるでしょうが、そうではない「石」もたくさん混じっているはずです。 確かに、日本の中小企業の中にも、宝といっていい企業も含まれているかもしれません。しかし、平均値で見ると日本の中小企業はあまりにも生産性が低く、払っている給料も極端に低いのです。仮に宝が含まれているとしても、全体としては、中小企業はとても宝だと評価するには当たらないのです。 「いやいや、私の知っている町工場は凄い技術を持っているんだよ。まさに宝だよ」 こういう、自分の知っている特殊事例を取り上げ、一般化して、それがあたかも日本の中小企業全体に当てはまるような物言いをする声も耳にしますが、まずは日本の中小企業全体の実態、エビデンスを直視すべきです。 先ほども紹介したように、日本には357万社の中小企業があります。 日本の中小企業のうち、中堅企業は53万社で、小規模事業者は305万社でした。平均従業員数は中堅企業が41.1人だったのに対し、小規模事業者はたったの3.4人です。驚くべきことに、1000万人もの労働者がこの豆粒のような小規模事業者で働いているのです。 実は、50%強の日本企業の売上は、1億円にも達していません。こういった企業は当然、経営に余裕がありませんから、有事のときにはすぐ経営が困難になります。 中小企業を「日本の宝」と言う人が想像しているのは、今紹介したような企業群とは異なる会社ではないかと推察します。おそらくは中堅企業を想定しているのではないでしょうか』、「小規模事業者はたったの3.4人・・・1000万人もの労働者が・・・働いている」、「3.4人」には経営者も含むが、このクラスでは労働者でもある。
・『小さい企業が多いとさまざまな弊害が起こる  従業員が3.4人しかいない小規模事業者では、到底輸出などできません。ドイツの学者の調査によると、継続的に海外に輸出をするには、従業員数158人の規模が必要であるとされています。 従業員数が3.4人の会社には、最先端技術も、キャッシュレス化も、ビッグデータも、イノベーションも、ほとんど無縁です。小さい企業ほど緊急時のテレワーク導入率が低いのは、この記事の冒頭で見たとおりです。日本だけではなく、世界的に見ても、企業の規模が小さくなるほど、最先端技術の普及率が低下することが報告されています。 また、企業の平均従業員数が少なくなるほど、有給休暇取得率が低下します。企業の規模が小さいほど、1人ひとりの社員にかかる負荷が重く、休みを取る余裕がなくなるからです。 同じ理由で、中小企業の占める割合が大きく、企業の平均規模が小さい国ほど、女性の活躍も進んでいません。これは世界中で確認できる傾向です。 人口減少と高齢化によって増加する現役世代の負担を緩和するためには、女性活躍の推進が極めて大切です。しかし、日本では女性活躍を進めたくても、小さい企業ばかりの産業構造になってしまっているため、なかなか進めることができないのです。 企業の規模が小さくなると、労働者の専門性が低下します。企業数が増えれば増えるほど、国全体の設備投資の重複が増えて、生産性が低下します。結果として、支払える給料も減ってしまうのです。 小規模事業者が多い国ほど財政が悪化して、少子化が進んでしまうこともわかっています(この点については、この連載のなかで改めてご説明します)。 このように、「中小企業は国の宝」というには、中小企業が多いことの弊害が多すぎます。失業者が増えないように統合・合併を促進し、企業規模を拡大させる政策に舵を切ることが求められます』、「企業の規模が小さくなると、労働者の専門性が低下します」、「企業数が増えれば増えるほど、国全体の設備投資の重複が増えて、生産性が低下します」、その通りだ。現在は、後継者難で事業承継のM&Aも増えているようだが、こうした形で「企業規模を拡大」が進んで欲しいものだ。

第三に、4月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したエッセンシャル・マネジメント・スクール代表の西條剛央氏による「コロナ危機の日本に見る「前例主義」の病理、旧日本軍の失敗を繰り返すか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/235369
・『コロナ危機で見えた「プラン」変更の課題  危機に際しては、機能しない方法に固執することは即致命傷になり得ます。 感染防止対策の専門家である岩田健太郎氏は、4月初旬の段階で、感染経路がわからない人がこれだけ増えて市中感染が増えていると考えられる状況を踏まえれば、クラスター対策では追いつかず、検査数を増やして、優先順位をつけながらも疑いのある人は検査できるようにしたほうが良いと述べています(ただし、これは誰でも彼でも不安のある人をすべて検査すべきということではありません)。 その後、少しずつ検査数は増えているようですが、いまだに検査体制は整わず十分な検査は行われていません。岩田氏が指摘するように、日本の組織は「プランA」が機能しなくなったときの、「プランB」への移行が極めて苦手であり、次の戦略的フェーズへの移行は進んでいないのです。 これは組織行動の観点で見ると、日本の組織が「前例踏襲主義」に陥りがちなこととも関係していると考えられます。 もともと、真面目な国民性ゆえに方法が自己目的化(その方法を実行すること自体が目的にすり替わってしまうこと)しやすいこと、各省庁や暗黙裏に無謬主義(間違いをなかったことにするマネジメント)に立脚していること、そして責任回避バイアスが強いことなどがその傾向を強めていると思われます』、「日本の組織は「プランA」が機能しなくなったときの、「プランB」への移行が極めて苦手」、その背景に「前例踏襲主義」や「無謬主義」、「責任回避バイアスが強いこと」、などがあるとの指摘は、一考に値しよう。
・『埋没コストにとらわれ被害を拡大させた太平洋戦争下の日本軍  方針変更ができない今の日本は、かつての日本軍が陥った“失敗の本質”そのものであり、第二次世界大戦末期の戦局の悪化に伴って戦略プランを変更できずに、被害を拡大させた姿とも重なっています。 たとえば、日本軍は水際で敵を撃滅する「水際作戦」を採用していました。もちろん上陸させないに越したことはありませんし、また戦力的に勝っているならば可能でした。 しかし、太平洋戦争では、圧倒的な戦力を擁するアメリカ軍と戦うなかで、水際に配置した兵力は圧倒的な火力による爆撃、艦砲射撃によって作戦初期段階で失われていきました。しかし、大本営は「断固として上陸を阻止せよ」と水際作戦を継続させ、さらに被害を拡大させ、貴重な兵力をいたずらに損耗させていきました。 なぜそうした不条理が起きたのでしょうか。埋没コスト(プランの変更、中止をしたときに取り返せないとされる費用)の観点からいえば、ここで方針を切り替えたら、今までの戦略が間違っていたと非を認めることになり、その作戦により死んでいった兵を無駄死にさせたことになってしまう、つまり埋没コストにしてしまうと考えたためと、考えられます。そのための責任を取ることは避けたいという、という「責任回避バイアス」も働いていた可能性があります。 それに対して異論を持つ人もいましたが、上司を説得するための「取引コスト」は膨大になり、しかも聞き入れてもらえる可能性はほぼゼロです。相手の機嫌を損ねればこれまで軍で積み上げてきた信頼も実績も失われる(埋没コスト化する)状況で、進言できる人はほとんどいませんでした。まれにいたとしても、そうした人は部下ごと激戦の最前線に送られることで、まっとうに進言できる人から組織にいなくなるという“逆淘汰”が起こり、膨大な数の命が無駄に失われていくという不条理が継続されてしまったのです。 しかし、例外もあります。太平洋戦争の戦況が悪化するばかりの1944年、本土防衛の最後ともいうべき硫黄島の戦いが始まります。小笠原方面最高指揮官、栗林忠道陸軍中将は、大本営の指令に従わず、水際作戦を内地持久戦による徹底抗戦に変更し、アメリカ軍を迎え撃つべくトンネルを掘り巡らせ、ゲリラ戦を展開しました。これによって絶望的な兵力差から5日間で終わるとみられていた硫黄島の戦いは、圧倒的な戦力を持つアメリカ兵のほうが日本兵の死傷者数を上回るという戦果をあげたのです。 この連載の第2回で紹介した「方法の原理」――方法の有効性は目的と状況によって変わる――に沿っていえば、栗林中将は、圧倒的な戦力差があるという「状況」を踏まえたときに、本土防衛という「目的」を達成するために、前例や大本営の指令に従うのではなく、状況と目的にかなった新たな方法を考案、実施したのです』、「埋没コストにとらわれ被害を拡大させた太平洋戦争下の日本軍」、例外的な「栗林忠道陸軍中将」が「硫黄島の戦いは、圧倒的な戦力を持つアメリカ兵のほうが日本兵の死傷者数を上回るという戦果をあげた」、確かに「埋没コスト」に着目した筆者の見方は面白い。
・『「前例主義」が84人死亡の惨事につながった  9年前の東日本大震災でも、前例主義によりもたらされた悲劇は各所でみられました。 児童や教員の計84人が津波で亡くなった宮城県石巻市立大川小学校では、3月11日、校長が不在のなか、教頭が意思決定をする立場にありました。 震災の2日前、宮城県では震度5弱の地震があり、津波注意報が出ました。そのときには、校庭への一時避難はしたものの高台への二次避難はしませんでした(生存児童へのインタビューでは、そのまま「休み時間」のようになったと表現していました)。 つまり、津波注意報が出たときの校長の判断は校庭待機だったのです。そして、これが津波警報発令時の「前例」となりました。 さらに大川小には、津波警報が発令されたときにどうするか指針となるマニュアルも存在していませんでした。あったのは通常の地震のマニュアルをコピペしたもので、津波のときの二次避難先は「近所の空き地や公園」となっており、高台に避難するという方針は共有されていなかったのです。 教頭のほか、教務主任、安全担任といったトップ3の先生は「山に逃げたほうが良いのでは」と言っていたという証言があり、山はダメだといった教員は1人だけでした。スクールバスの運転手は、バスで逃げたほうが良いと主張していました。児童も保護者も山に逃げようと訴えていました。 しかし、2日前の校長が示した前例は校庭待機でした。また、避難方針はありませんでした。そうしたなかでさまざまな主張の板挟みとなり、1分で逃げられる裏山を目の前にしながら校庭待機を続け、50分の時間があったにもかかわらず、津波が目前に迫るまで動き出すことができず、結果84人が亡くなる惨事となってしまったのです。 前例に沿っていれば失敗しても「前例に沿っただけです」といえますが、前例にないことをやるときや、プラン(方針)変更をする際には責任が生じます。教頭にとってみれば、校長不在のなか、校庭待機の前例を覆し、裏山へ登らせて誰かが転んでけがをしたら自分の責任になってしまう。そういった「責任回避バイアス」が意思決定の停滞を招いた1つの要因にあったと考えられています。 即座の決断が求められる危機のマネジメントにおいては、前例に囚われることで、文字通り致命的な結果を招くことにもなるのです』、「2日前の校長が示した前例は校庭待機」に囚われたとは、「教頭」らの致命的な判断ミスは本来、刑事事件化して責任を問うべきだった。
・『新型コロナウイルスに日本の「前例主義」は通用しない  新型コロナウイルスの感染防止対策は、清潔好きで衛生環境が良く、高い協調性を備えた日本人には有利と考えられています。実際、法的な強制力がないにもかかわらず、ここまでなんとか感染爆発を抑えられているのは、この日本人の特性が大きいといえるでしょう。 ところが、日本の組織は、先に述べたように、官僚組織を筆頭に、前例主義、無謬主義、そして責任回避バイアスが強いことから、状況の変化に合わせて機能する方法に迅速に切り替えることが苦手なのです。 たとえば、西村康稔経済再生相は、4月13日の参院決算委員会で、「諸外国の例を見ても、事業者に対する休業補償はやっている例が見当たらない」と述べました。また、「諸外国でも見当たらず、我々としてやる考えは採っていない」とも発言。このことから、前例主義を根拠として休業補償をしないという議論を展開していたことがわかります(本当は海外にいくらでも前例もあったのですが)。 ここでの論点は、「前例がない」と言われると「それなら仕方がないか」と納得してしまう、日本人の前例主義バイアスが問題だということです。だからこそ、政府は前例がないということを説得のための論拠として言い出すのです。 しかし実際は、各国とも前例のない未曽有の事態に対して、前例のない施策を繰り出しているのですから、前例がないことは、日本が抜本的な施策をやらない根拠にはなり得ません。 新型コロナウイルスからすれば、こうした日本の「前例」にとらわれることで、迅速に思いきった施策を打ち出せない姿勢は、新型コロナウイルスに対する日本の「大きな弱点」となっています。日本の組織が得意とする手続主義、前例主義、忖度主義、形式主義が最も通用しない相手が、新型コロナウイルスという事象なのです』、「西村康稔経済再生相」の発言は、「前例主義」そのものではなく、初めから「休業補償をしない」という結論があって、「前例主義」を根拠付けに使ったと考えるべきだろう。
・『プラン変更への抵抗を小さくするには  ではスムーズなプラン変更のためにはどうすれば良いのでしょうか? まず先に述べたように、絶対に正しい方法はなく、状況と目的に応じて有効な方法は変わるという「方法の原理」を共有することです。そのうえで、最初からプランAが機能しなかった、あるいは状況が変わって機能しなくなった場合のプランB、プランC、プランDもあらかじめ準備しておき、それらをセットで作戦を立案しておくのです。 そして、状況aで機能していたプランAが、状況がbになったときに機能しなくなったならば、その状況で機能するプランBに移行すればよいのです。方法の原理によれば、状況と目的に応じて方法の有効性は変わるのですから、プランAや前任者を否定する必要がなく、プランAにつぎ込んだコスト(労力、費用、時間)が埋没コスト化することがありません。「状況が変わったためプランBに移行しましょう」というだけのことです。 そうすることで、プランAがうまくいかなくなったときの各所との「調整コスト」が最小化され、状況の変化を見定めながら迅速にさらに有効な方法にシフトしやすくなります。 このようにプランAのみでなく、様々な状況や進展に応じた、プランB、プランC、プランDと、ワーストシナリオを含めた事態を想定しあらかじめ用意しておけば、状況が変わったときには、「方法を変える」だけでよいのです。前任者や前のプランの否定という形になりにくく、またプランAにかけてきたコストを無駄にしてしまうという「埋没コスト」にとらわれたプラン変更への抵抗も生じにくくなります。 ただし、現象は常に想定を超えてくる可能性があるため、BもCもDも機能しないときは、あくまでも方法の有効性は状況によって変わるという方法の原理を軸として、その状況を打開する新たな方法を生み出して、対応していく必要があります。 危機のマネジメントでは、限られた時間の中でいかに適切な意思決定を重ねていけるかが鍵になります。方法の原理に沿った、しなやかで速やかな方法の選択、創出、実施こそが、危機のマネジメントに求められるのです』、説得力溢れた主張で、全面的に同意する。
タグ:東洋経済オンライン 朝三暮四 ダイヤモンド・オンライン 内田 樹 西條剛央 宮城県石巻市立大川小学校 デービッド・アトキンソン 日本の構造問題 (その16)(「サル化する日本人」が見抜けない危機の本質 「今」を考察する力はなぜ失われたのか、コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因 「危機への対応」でも中小企業の弱さが目立つ、コロナ危機の日本に見る「前例主義」の病理 旧日本軍の失敗を繰り返すか) 「「サル化する日本人」が見抜けない危機の本質 「今」を考察する力はなぜ失われたのか」 日本社会が“サル化”している 『サル化する世界』 サルが今の自分さえよければそれでよくて、未来の自分にツケを回しても気にならないのは、ある程度以上の時間の長さにわたっては、自己同一性を保持できないから 「文明史的危機」に際会している 荘子や韓非ら賢者たちは「長いタイムスパンの中でものごとの適否を判断できること」を未開からのテイクオフの条件とし」た 気がついたら、現代人は再びサルに退化し始めていた 長い時間の流れの中に自分を置いて、何が最善の選択なのかを熟慮するという習慣を現代人は失って久しい うそをつくことについて罪の意識がなくなった その場その場の自己利益を優先 今の日本の組織は「価値あるものを創り出すセクター」よりも「人がちゃんと働いているかどうか監視するセクター」のほうに権限も情報も資源も集積しています それでは生産性が上がるはずがない イエスマンだけで固められた組織 イエスマンだけで固められた組織には前例主義と事大主義と事なかれ主義が瀰漫(びまん)しますから、お金がなくなったり、前代未聞の事態に直面すると、「フリーズ」してしまう 「コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因 「危機への対応」でも中小企業の弱さが目立つ」 小さい企業ほど「テレワーク導入」ができない 「中小企業は国の宝だ」 中小企業の価値は「人をムダに使う」ことにある 生産性を高めるためには「労働生産性」を高めるか、「労働参加率」を高めればいい 日本はすでに人口減少の時代に突入し 人をムダに多く雇う中小企業の存在は、強みではなくなり、逆に弱みに変わります 日本の中小企業の真の姿 小規模事業者はたったの3.4人 小さい企業が多いとさまざまな弊害が起こる 企業の規模が小さくなると、労働者の専門性が低下 業数が増えれば増えるほど、国全体の設備投資の重複が増えて、生産性が低下 「企業規模を拡大」 「コロナ危機の日本に見る「前例主義」の病理、旧日本軍の失敗を繰り返すか」 コロナ危機で見えた「プラン」変更の課題 クラスター対策では追いつかず、検査数を増やして、優先順位をつけながらも疑いのある人は検査できるようにしたほうが良い 日本の組織は「プランA」が機能しなくなったときの、「プランB」への移行が極めて苦手であり、次の戦略的フェーズへの移行は進んでいない 「前例踏襲主義」 「無謬主義」 「責任回避バイアスが強いこと」 埋没コストにとらわれ被害を拡大させた太平洋戦争下の日本軍 栗林忠道陸軍中将 大本営の指令に従わず、水際作戦を内地持久戦による徹底抗戦に変更 圧倒的な戦力を持つアメリカ兵のほうが日本兵の死傷者数を上回るという戦果をあげた 「前例主義」が84人死亡の惨事につながった 津波注意報が出たときの校長の判断は校庭待機だったのです。そして、これが津波警報発令時の「前例」となりました 1分で逃げられる裏山を目の前にしながら校庭待機を続け、50分の時間があったにもかかわらず、津波が目前に迫るまで動き出すことができず、結果84人が亡くなる惨事となってしまった 新型コロナウイルスに日本の「前例主義」は通用しない 西村康稔経済再生相 「諸外国の例を見ても、事業者に対する休業補償はやっている例が見当たらない」 前例主義を根拠として休業補償をしない プラン変更への抵抗を小さくするには
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

ベンチャー(その6)(トヨタが米国で手がけるベンチャー投資の実像 米国の研究所「TRI」子会社が発揮するCVCの意義、グーグルに事業売った男が挑む「水道管」大問題 AIで劣化診断 シリコンバレー流が日本進出、コロナが直撃!「ベンチャー投資バブル」の行方 リーマンショック時の「投資家淘汰」が再燃) [イノベーション]

ベンチャーについては、昨年11月12日に取上げた。今日は、(その6)(トヨタが米国で手がけるベンチャー投資の実像 米国の研究所「TRI」子会社が発揮するCVCの意義、グーグルに事業売った男が挑む「水道管」大問題 AIで劣化診断 シリコンバレー流が日本進出、コロナが直撃!「ベンチャー投資バブル」の行方 リーマンショック時の「投資家淘汰」が再燃)である。

先ずは、本年2月28日付け東洋経済オンラインが掲載した三菱総合研究所研究員、カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員の劉 瀟瀟氏による「トヨタが米国で手がけるベンチャー投資の実像 米国の研究所「TRI」子会社が発揮するCVCの意義」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/332737
・『劉瀟瀟氏は2019年7月より三菱総合研究所から派遣され、カリフォルニア大学サンディエゴ校に客員研究員として滞在している。今回は「トヨタのCVC」をテーマにアメリカ西海岸からの6度目のレポートをお届けしたい。 近年、世界の大手企業のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)がますます活躍するようになっている。グローバル化が進むビジネス環境で生き残り、企業の将来の成長を図るために欠かせない存在ともいえる。CB Insightsの報告によると、2018年のCVC投資額は約530億ドルに達し、2017年より47%も増加した。投資件数は2740件で前年度比32%増になった。 日本のCVCも成長している。2018年の投資額は2017年から倍増し、14億ドルになった。2018年においてグローバルで最も活躍したCVCのランキングTOP10で、日系のSBI InvestmentとMitsubishi UFJ Capitalが6位と9位にランクインした(他のアジア系は中国系3社、韓国系1社)。 国別にみると、日本だけでなく、世界的な企業が増加してきた中国や韓国のCVCが徐々に存在感を高めてきているが、やはりアメリカのCVCは規模(日本の13倍の265億ドル)も大きく、件数(日本の3倍の1046件)も多い。特にカリフォルニア州はアメリカの中でCVC投資を最も活発に行っているところで、投資金額も投資件数もアメリカ全体のほぼ半分を占めている。 その中で、着々とアメリカのスタートアップに投資しているトヨタ自動車(以下、トヨタ)のCVCがあるのをご存じだろうか。 シリコンバレーを拠点に展開するCVC、「Toyota AI Ventures」(以下、TAIV)だ。設立から3年弱ですでに27社に投資、投資先はすべてトラクションの増加(成長の兆しが見えている)や次ラウンドの資金調達を実現しており、すでにそのうちの1社がイグジット(EXIT、売却して利益を得ること)した。 「新しいCVCとしては『優秀な』滑り出しだ」(アメリカのベンチャー投資に詳しいTakashi Kiyoizumi(清泉貴志)氏)と評価されているのだ。 2020年1月、TAIVのシニアコーディネーターの伊藤輝之氏にインタビューした。伊藤氏は2007年UCLA卒業後トヨタに入社。2019年1月より「ToyotaResearchInstitute」(以下、TRI)に出向している。日本国内ではあまり知られていない同社を紹介するとともに、シリコンバレーで順調に事業を進めている理由を分析したい』、「トヨタが米国で手がけるベンチャー投資」、とは面白そうだ。
・『親会社からもトヨタからも「自由」  TAIVは、トヨタが出資している研究所であるTRIが2017年に設立した100%子会社だ。このCVCが順調な背景には、その親会社であるTRIの「自由」「ローカル」といった企業風土がある。 まず親会社TRIの紹介をすると、2016年1月に設立されたTRIでは人工知能(AI)・自動運転・ロボティクスなどの研究開発を行っている。「敢えて」自動車メーカーのトヨタを強調せず、比較的「自由(独立・自律の意味をする)」に研究開発を行う「ローカル」な研究所だ。その理由に、まず、一般の日本企業の現地法人と違い、CEOに自動運転業界で著名なギル・プラット博士(元国防高等研究計画局(DARPA))を起用し、14人の経営陣の中で日本本社からの常駐取締役は木田淳哉氏のみとなっている。 したがって、普段の業務において重要な意思決定はアメリカンスタイル・シリコンバレースピードで行われる。日本とのやり取りも、木田氏を中心とした日本人出向者のサポートにより、本社との意思疎通も忘れない。 また、TRIはスタンフォード大学に近いロスアルトス、ミシガン大学に近いアナーバー、そしてマサチューセッツ工科大学に近いケンブリッジの3拠点を持っている。大学発新技術との連携、また人材採用を非常に重視しているためだ。 TRIはトヨタの子会社というよりも、自動運転技術の開発競争が激化する中で、アメリカで研究を行い、世界中から人材を集めようとしている。これはTAIVにも影響を与えている。 特にシリコンバレー近辺では、超一流の学生は起業家、一流の学生はGAFAに就職、二流の学生は大企業に就職するともいわれている。 TRIは、インターン等を通して、優秀な人材のリクルートに非常に熱心だ。 したがって、TOYOTAの名前がついていることで日本企業だと思われ、日本(文化)に関心ある人しか集まらないということはなく、「たまたま日系の研究所」「研究内容が面白い」「将来自分の研究成果を実物(TOYOTAのクルマなど)を通して実現できることに大きなやりがいを感じる」と学生から評価されている。 こういった一定の自由度を持ち、かつ現地化した親会社の下にTAIVがある』、「TAIV」が「トヨタが出資している研究所で」「「自由」「ローカル」といった企業風土がある」「TRI」の子会社ということで、「親会社からもトヨタからも「自由」」、というのはこうした「CVC」には重要なことのようだ。
・『TAIVの4つの特徴  TAIVはどういう会社なのか。2017年7月に設立した同社は、「Discover what’s next for Toyota」を目的とするCVCである。規模は2億ドル(1号ファンド1億ドル+2号ファンド1億ドル)。主要な特徴について、伊藤氏へのインタビュー内容から、つぎの4点をまとめた。 ① スーパーアーリーステージへの投資(同社の主な投資対象は、エンジェル(投資家)ラウンドの次にあるシードラウンド(起業前・事業スタート直前)、シリーズA(事業開始後の初期段階)にある超アーリーステージのスタートアップ。 一般的な日系CVCは、シリーズB(ビジネスモデル確立後の成長期)ないしその以降のステージに投資することが多い。筆者が以前インタビューしたアメリカの投資家が言っていたように、「この日本の大企業が投資するならうちも投資する」という形で日本企業のCVCは後追いが多いとみられている。一方でTAIVは違う。同社はアメリカのVCらしく「種(技術シーズ)」をよく見極めて積極的に投資している。) ② 独立性が高い(他の日系CVCだと、自社のファンドを他のVCに預けて、そのVCに資金の運用、つまり投資を行ってもらう(LP、Limited Partner)ことが多いが、TAIVは2億ドルのファンドを、GP(General Partner)として自分で投資先を決める。 なお、投資決裁については本社の承諾が不要とのことだ。スカウトチームは5名で、内部のテックデューディリジェンス(技術評価)担当、トヨタ本社との調整担当、ファンドマネージャーなどで構成されるため、バランスよく投資先の評価ができる。このように独立性が高いため、2週間~3カ月で投資決定をするなど、シリコンバレースピードで進むことができるのだ。 TAIVは本社に稟議をはかったり、決裁を待ったり、細かいことまで調整するといった日本企業の現地法人にありがちなステップも不要だ。アメリカにあるCVCとして、有望なスタートアップを見つけ、効率よく投資案件を回すことができていると言える。 もちろん、トヨタ本社側にも、そこまでの覚悟があるともいえるであろう』、「一般的な日系CVCは、シリーズB(ビジネスモデル確立後の成長期)ないしその以降のステージに投資することが多い。筆者が以前インタビューしたアメリカの投資家が言っていたように、「この日本の大企業が投資するならうちも投資する」という形で日本企業のCVCは後追いが多いとみられている。一方でTAIVは違う。同社はアメリカのVCらしく「種(技術シーズ)」をよく見極めて積極的に投資している」、「投資決裁については本社の承諾が不要・・・2週間~3カ月で投資決定をするなど、シリコンバレースピードで進むことができる」、さすが大したものだ。
・『業界の変化の兆しもいち早く察知  ③ 投資目標に基づき投資先を厳選(将来トヨタのビジネスにつながることに重点を置いているため、業界に詳しい社員の推薦や同業他社評価を重視している。TAIVとTRIは、社員が多国籍で非常にアメリカ企業らしいが、その多国籍社員のネットワークでいろいろな国の注目企業の情報を入手している。デューディリジェンスの際も多様性が役に立つ。なお、CVCやAI関係の投資ファンドの世界は実は業界が狭く、同業者と親密であるため、比較的正確な情報を収集することができる。 ベンチャー企業を評価する際、破壊的テクノロジー、新ビジネスモデル、ROI(投資利益率)、スタートアップ自体の企業文化(以前のエンジェル投資家の記事『アメリカで活躍する「エンジェル投資家」の正体』にも書いているように、指導可能な会社かどうかは重要)などを重視するが、自力で経営させるため、マイノリティー投資を貫徹している。 ④ 長期シナジーを持ち、ハードウェアも育成(同社のポートフォリオは、10年スパンで他のVCとあまり変わらない期間だが、長期的に見てシナジーがある基盤を育成することも重視。道路、歩道、海上、航空などの交通・モビリティなど多岐にわたる分野で、AI、自動運転、ロボティクス、クラウド、データといった基盤技術を持つスタートアップ(例えば、シャトルバスの自動運転、スクーターのシェアサービス、船舶の自動運転、空飛ぶタクシー)への投資をしている。 数年で事業化を狙うというよりは、周辺領域への投資活動を通じて、将来、破壊的テクノロジーを持つ企業が出てきていないかなど、変化の兆しをいち早く察知しようとしているようだ。 ソフトウェアに比べ、ハードウェアの発展に時間もお金もかかるため、トヨタはそれを育てることに「責任」を感じている(伊藤氏)ようである。) こうした将来のトヨタを見据えたうえでの長期スパンの投資は、いずれ将来のトヨタに還元されるだろう。CVCの目的の1つである「企業の将来の成長のため」に合致しているといえる。 TRIやTAIVも、トヨタというブランドをもちながら、本社と「程よい距離感」を置くことにより、将来のトヨタないし社会の発展について、効果的に研究を進めていることがよくわかる。TRIが先端研究にフォーカスし、TAIVは最新技術を持つベンチャー企業への投資を通じて業界動向を見極め、そしてトヨタ本体は次世代の研究開発・量産開発をするというよい循環になっている』、「TRIやTAIVも、トヨタというブランドをもちながら、本社と「程よい距離感」を置くことにより、将来のトヨタないし社会の発展について、効果的に研究を進めている」、この「程よい距離感」がやはりカギで、下記の一般的な「日本のCVC」とは完全に異次元になっているようだ。
・『CVCは企業の長期戦略の中で重要項目  日本のCVCはさまざまな課題を抱えている。経産省の委託調査資料によると、「ファンドの形態を取っているが親会社がコントロール」する割合が高く、特に日本国内CVCの規模もパフォーマンスも高いとは言えない。 日本のCVCの多くがうまくいっていない原因は、投資目的が不明確、投資先の選定基準が難しいこと、本社決裁に時間がかかる(CVCと本社のコミュニケーションが円滑ではない)こと、ベンチャーキャピタリストのローテーション制度(CVCに出向する社員が2、3年で変わり、ノウハウ・コネなどの引継ぎが難しい)のため適材適所ができていないことと考えられている。国内でも海外でも積極的に投資してかつ成績がよい事例が少ない。 しかし、グローバルな競争環境のもとで自社ですべてのイノベーションを行うのが困難になってきた現在、CVCは企業にとって長期戦略を立てるうえで重要項目になってきている。TAIVはまだ新しいが、日本企業のCVCの好例として今後も注目していく価値を秘めているのではないだろうか』、「TRIやTAIV」といえども、本社から「ローテーション」で派遣されてくる人間もいると思われるが、その比重がプロパーの人間に比べ少ないのだろうか。

次に、3月29日付け東洋経済オンライン「グーグルに事業売った男が挑む「水道管」大問題 AIで劣化診断、シリコンバレー流が日本進出」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/340217
・『日本のベンチャーをグーグルが買収――。2013年の年末、一躍世界の脚光を浴びたヒト型ロボットのベンチャー企業「シャフト」。この売却を成功させたのが、当時最高財務責任者(CFO)を務めていた加藤崇氏だ。 東京大学大学院の博士課程でロボット研究をしていた中西雄飛CEOをはじめとするエンジニアたちは、ヒト型ロボット実用化の夢を描いていた。「彼らの情熱を支えたい」。銀行出身の加藤氏はシャフトに仲間入りした。 「世界を変えられる技術だとは思っていたが、おカネを出してくれる人がいなかった」。そう考えていた矢先に出会ったのが、スマホOS「アンドロイド」の生みの親として知られるグーグルのアンディ・ルービン氏だった。当時、グーグルでロボット開発のプロジェクトを率いていたルービン氏は、ロボット関連のスタートアップを矢継ぎ早に買収。シャフトもその1社だった』、加藤崇氏は、早稲田大学理工学部(応用物理学科)卒業。元スタンフォード大学客員研究員。東京三菱銀行等を経て・・・(Forbes JAPAN)、と理科系で米国留学経験もあったようで、納得した。
https://forbesjapan.com/author/detail/1451
・『シャフト売却後、「配管点検」に注目  シャフトの売却後、加藤氏は退社。新たな事業の立ち上げを模索するうちにたどりついたのが、「配管点検」だった。2015年にアメリカで会社を創業し、当初はロボットが配管の中を動き回って点検するビジネスの可能性を調査。いくつかの水道事業者が興味を持ったという。ただ中規模の都市でも水道管の長さは数千キロにも及ぶ。「ロボットでは限界がある」。そう考えた加藤氏は、ソフトウェアによる“寿命診断”に転換した。 こうして立ち上がったベンチャー企業「フラクタ」は、水道管の破損や漏水の可能性を、機械学習などの人工知能(AI)で解析するツールを提供する。世界初の試みだ。「水道管は土の中に埋まっているため、人間が掘り起こして状態を確認することができなかった」と、加藤氏は説明する。破損確率の高い水道管から更新することで、メンテナンスへの投資を効率化しつつ、配管の破損・漏水事故を最小限に抑えることができる。 鉄製の水道管の寿命は、実際は埋められている環境によって、60~180年の差があるという。従来は腐食の度合いにかかわらず設置年数に基づいて交換していたが、「掘り起こしてみるとまだピカピカだったということもよくある」(加藤氏)。 寿命を左右するのは、水道管と土との酸化反応で腐食によるさびがどれだけ起こるかということ。AI診断のアルゴリズムは、配管素材や使用年数、過去の漏水履歴といった水道管に関する情報と、水道管の周りの土壌や気候、人口など、独自に収集した1000以上の環境変数を含む膨大なデータベースによって構築されている。例えば配管の傾斜角度もその1つ。傾斜している水道管のいちばん下にある部分は、物理的に水圧がかかりやすい。 創業からわずか4年半で全米27州で60以上の水道事業者と契約にこぎつけた。日本でも川崎市上下水道局と2019年2月から実証実験を開始し、その後神戸市水道局、埼玉県越谷市・松伏町の水道企業団が続き、この3事業者では検証が完了。アメリカでの導入先と同様の有効性が確認された。この春から実際のツールの提供が始まる予定だ。このほか神奈川県企業庁や大阪市水道局などでの検証も進められている』、「「配管点検」に注目」、「「ロボットでは限界がある」。そう考えた加藤氏は、ソフトウェアによる“寿命診断”に転換した」、着目点と柔軟性は素晴らしい。
・『“シリコンバレー精神”で地元水道局が採用  最初にビジネスが始まったのは、フラクタが本社を置くシリコンバレーに近いサンフランシスコ市とオークランド市の水道会社だった。フラクタのツールは、水道会社が一般的に保有する5種類の水道管データ(位置情報、材質、口径、設置年月、破損履歴)をアルゴリズムに取り込めば、1つひとつの水道管の劣化状態を予測できる。導入を進めるためには、水道会社から自社のデータを提供してもらわなければならない。 「日本ではなかなかデータを出してくれない。だがシリコンバレーのカルチャーが根付いているこの2都市では、面白いから一緒にやってみようと言ってもらえた。そこから次から次へと導入が決まるドミノ現象が始まった」と加藤氏は振り返る。顧客のうち約20社はカリフォルニア州だ。「担当者がハイテク好きかどうかは重要。とくにカリフォルニアは進取の精神がある」(同)。 加藤氏が水道会社に売り込む際にアピールするのは、フラクタのソフトウェアの費用対効果だ。契約は年間の定額課金が基本。例えばフラクタの試算では、サンフランシスコ市は、従来の配管の平均寿命で考える方法とフラクタの方法を比較すると、水道管の更新費用を4割ほど減らせるとの結果が出たという。 アメリカには100万マイル(160万キロメートル)の水道管があり、フラクタはすでに全配管データの10%ほどを押さえたという。「3割くらいのデータを押さえれば、誰も追いつけなくなるのではないか」と加藤氏は考えている。 一方で加藤氏は、「僕らの半分のデータのサイズでより精緻な解析モデルを作ってくる人たちが出てくるかもしれない。それでもいい。僕らが暴れることで天才たちが競争相手として入ってくれば、技術が広まる契機となり、業界全体の配管更新が最適化される。水道料金は誰しもが払わなければならないもの。競争を促せば、今の半額になることだってありうる」と、興奮気味に語った』、「僕らが暴れることで天才たちが競争相手として入ってくれば、技術が広まる契機となり、業界全体の配管更新が最適化される」、との社会全体の視点からの割り切りは立派だ。
・『親会社の栗田工業と世界展開へ  アメリカで実績を残してきたフラクタは、世界進出ももくろむ。「自分たちだけでは限界がある」という加藤氏がタッグを組んだのは、国内水処理大手の栗田工業だ。 2018年に同社が40億円を出資し、フラクタの株式の過半数を取得。今後最大4年の間に完全子会社化される予定だ。「水道会社は地元に根付いた企業であることが多く、技術だけでは売れない。オフィスを構えて10年、20年が経つ栗田ブランドのほうが現地に入っていける」(加藤氏)。 シリコンバレーを生活の拠点とする加藤氏は、「イノベーションを起こすには、自分が世界を変えられると思っているかが大事。グーグルのアンディ・ルービンだってそうだった。シャフトはグーグルに売ったのではなく、アンディに売ったと思っている」と話す。 「ここの成功者たちは皆口をそろえて、小さく成功しても意味がない、本当に世の中がよくなるようなものを開発しなくちゃいけない、と言う。数%のテクノロジー業界のエリートたちに囲まれていると、いろいろなことを吸収できる。そういう系譜が脈々と続いている」(加藤氏) ここ日本でも事業が本格化し始めたフラクタは、2022年までに100以上の水道事業者にツールを導入する計画だ。シリコンバレー流のイノベーションは、日本の巨大インフラにも根付くか。まだ挑戦は始まったばかりだ』、「フラクタ」の今後が楽しみだ。

第三に、4月28日付け東洋経済オンライン「コロナが直撃!「ベンチャー投資バブル」の行方 リーマンショック時の「投資家淘汰」が再燃」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/347197
・『過去5年間で資金調達額が3倍近くに膨らんだ国内ベンチャー市場にも、コロナ不況の波が押し寄せようとしている。 調査会社INITIALによると、2019年の国内ベンチャー企業の資金調達額は4462億円と過去最高額を更新した。若い起業家が増えたことに加え、リスクマネーを供給するベンチャーキャピタル(VC)のファンドが大型化したことも大きい。ジャフコやグロービス・キャピタル・パートナーズなど、2019年は数百億円単位の大型ファンドの組成が相次いだ。 ところが新型コロナウイルスの感染拡大によって資本市場が混乱。日本やアメリカ、中国で3000億円以上のファンドを運営するVC大手「DCMベンチャーズ」の本多央輔日本代表は、「リーマンショックの時と同じく、ベンチャー企業に対する投資マネーは減っていくだろう」と指摘する。 これまでのベンチャー投資はVCに加え、事業会社やその傘下にあるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)も有力な資金源だった。だが、「不景気になれば事業会社が最初に(ベンチャーとVC)投資から引いてくる」。国内独立系VCであるCoral Capital(コーラル・キャピタル)のジェームズ・ライニーCEOはそう話す』、確かに「事業会社」は景気悪化への備えとして手元流動性の維持を図る筈だ。
・『投資ファンドへの逆風が吹き始めた  ここ数年、VCが大型化した背景には、年金基金や生命保険などの機関投資家が、VCを有望な投資先と考え始めたことがある。上場株式や債券よりもハイリスクだがハイリターンを見込めるオルタナティブ(代替)投資の一環だ。2018年6月に東証マザーズに上場したフリマアプリのメルカリや、同年5月に同じくマザーズに上場したネット印刷のラクスルなど、大型上場が相次ぎ、多くのVCが高倍率のリターンを出したことが大きい。 ただ現状を鑑みれば、「機関投資家はオルタナティブ投資を一定の割合に設定している。ほかの資産の価値が下落すれば、相対的にオルタナティブの比率が上がってしまい、VCなどへの新規投資を絞ろうとする」(本多氏)という可能性はある。 実際、資金調達に向けてVCなどの投資家と交渉を進めていたあるベンチャー企業の社長は、「(当社への)投資を検討していたベンチャーキャピタルから、直前になって新たなファンドが組成できなくなったので見送りたいとの連絡が入った。1社抜けると、ほかの投資家が難色を示し始める」と頭を抱える。 2019年に7号ファンド(金額未公表、数百億円規模)の資金調達を終えた国内VC大手、グローバルブレインの百合本安彦社長は、「確かに様子見のVCは多いが、まだ投資が実行されていない分の資金は潤沢にあり、そこまで悲観することもない。われわれも投資委員会を継続的に開催しているし、企業価値が妥当な会社には粛々と投資していく」と話す。) 一方で強気なVCも少なくない。GMOインターネット傘下のVC、GMOベンチャーパートナーズは4月6日、約70億の既存ファンドの半分に当たる約35億円を「新型コロナ・リセッション投資枠」とすることを決めた。同社の宮坂友大パートナーは、「コロナの影響で不況になっても投資のペースを緩めないという姿勢を表明するため、社内で予算を確保した」と背景を説明する。 「不況下でこそイノベーティブで価値のある会社に投資する。10年ほどの長期で考えると、安値圏で株式を買っていることになる」(宮坂氏)。同社はリーマンショック後の不況の中で企業情報サービス「SPEEDA」を手掛けるユーザベースや、クラウド名刺管理のSansanに投資。当時は数億円の評価額だったが、上場後の今は両社とも時価総額が1000億円を優に超える。不況下で割安に投資すると、それだけリターンが大きいことも知っているわけだ』、「逆張り」で「不況下で割安に投資」しようとするところもあるのは当然だ。
・『成熟段階のベンチャー投資の動きも  GMOベンチャーパートナーズが投資対象としているのは、創業初期で事業の基盤を組み立てようとしている段階のベンチャー企業だ。「この段階で経営判断を一歩間違うと会社が潰れてしまうリスクがある。(だからこそ)このタイミングでの支援が必要になる」(宮坂氏)。発表後、数十社のベンチャー企業から問い合わせが来ているという。 事業基盤が確立してきて収益化が見えてきた「レイターステージ」のベンチャーへの支援の動きも出ている。グロービス・キャピタル・パートナーズは4月6日、既存投資先への追加投資という目的に絞った約40億円のファンド設立を発表。コーラル・キャピタルも4月13日、同様の目的で約27億円のファンドを立ち上げた。 「成長可能性のある会社に大型調達をしてもらって、事業を伸ばすことに集中してほしい。多額の調達をしようとすると、いろいろなファンドや事業会社から小口に集める必要があり、手間がかかる。さらにコロナの影響で調達の選択肢が減っているため、今回のような箱が重要になる。」(コーラル・キャピタルのライニーCEO)。 コロナ影響が顕在化する中で新ファンドを組成することになったが、「(機関投資家からは)われわれのファンドの実績を評価してもらっていたので、投資を渋る声はなかった」とライニー氏は言う。 コーラル・キャピタルが創業初期に投資した人事労務のクラウドサービスを手掛けるSmartHR(スマートHR)は、2019年夏に60億円超の大型調達を実施し、評価額が300億円を超えるなど大きく成長した。VCの間でも実績の差がますます顕著になりそうだ。) 「ベンチャー企業はふるいにかけられる時期になった。経営者の資質が問われるようになる」 グローバルブレインの百合本社長はそう指摘する。百合本氏は2019年から不景気になることを見越し、投資先に対して不況に備えるよう警鐘を鳴らしてきたという。「リーマンショックは金融危機だったが、今回は全産業に影響が及んでいる。一層谷が深くなる可能性がある」(同)。 GMOベンチャーパートナーズと組んで、ベンチャー企業に経営面の助言を提供するマネーフォワード・シンカの金坂直哉社長は、「決まっていた資金調達がなくなり、VCだけでなく、事業会社の投資がなくなったという話も聞く。平時とは違って“Cash is king(現金こそ王様)“だ。会社を筋肉質にするいいタイミングだと思う」と話す』、「リーマンショックは金融危機だったが、今回は全産業に影響が及んでいる。一層谷が深くなる可能性がある」、「“Cash is king“」、その通りだろう。
・『できれば18カ月分の資金確保を  ベンチャー企業の資金繰りに関してDCMベンチャーズの本多氏は、「とにかくランウェイを確保することが重要だ」と指摘する。ランウェイとは、売り上げが立たなくとも、手持ちの現預金で事業を回せる期間のことだ。「ランウェイは最低12カ月分、理想は18カ月分確保する必要がある。資金調達は準備から着金まで最低半年かかる。18カ月分の資金があれば、1年はお金を気にせずに事業に専念できる」(本多氏)。 GMOの宮坂氏は今回、投資の基準を見直し、不況でも生き残れる経営者かどうか、コストを厳格に管理できるかなど、10項目を新たに設定。投資する事業内容としては、「(IT系の中でも)生産性やデジタル化率が低い領域に目を付けているかどうかが大きなテーマだ。皆の生活になくてはならないものであるべき。“なくてもいいよね”では意味がない」(宮坂氏)。 景気が安定し、多くの大企業でカネ余りが顕著となっていたこの数年、ベンチャー企業に投資マネーが流れ込んだ。その裏では「バブルになっている」との声も少なくなかった。コロナショックという大逆風の中で、ベンチャー企業も投資家も、その実力が厳しく問われることになりそうだ』、「ベンチャー」「バブル」崩壊で、「実力」による整理淘汰が進むことは長期的には必要なことのようだ。
タグ:ベンチャー 東洋経済オンライン TRI (その6)(トヨタが米国で手がけるベンチャー投資の実像 米国の研究所「TRI」子会社が発揮するCVCの意義、グーグルに事業売った男が挑む「水道管」大問題 AIで劣化診断 シリコンバレー流が日本進出、コロナが直撃!「ベンチャー投資バブル」の行方 リーマンショック時の「投資家淘汰」が再燃) 劉 瀟瀟 「トヨタが米国で手がけるベンチャー投資の実像 米国の研究所「TRI」子会社が発揮するCVCの意義」 アメリカのCVCは規模(日本の13倍の265億ドル)も大きく、件数(日本の3倍の1046件)も多い 特にカリフォルニア州はアメリカの中でCVC投資を最も活発に行っているところで、投資金額も投資件数もアメリカ全体のほぼ半分を占めている TAIV Toyota AI Ventures 設立から3年弱ですでに27社に投資 ToyotaResearchInstitute 親会社からもトヨタからも「自由」 TAIVは、トヨタが出資している研究所であるTRIが2017年に設立した100%子会社 「敢えて」自動車メーカーのトヨタを強調せず、比較的「自由(独立・自律の意味をする)」に研究開発を行う「ローカル」な研究所だ 14人の経営陣の中で日本本社からの常駐取締役は木田淳哉氏のみ TRIはトヨタの子会社というよりも、自動運転技術の開発競争が激化する中で、アメリカで研究を行い、世界中から人材を集めようとしている TAIVの4つの特徴 ① スーパーアーリーステージへの投資 ② 独立性が高い 投資決裁については本社の承諾が不要 2週間~3カ月で投資決定 業界の変化の兆しもいち早く察知 ③ 投資目標に基づき投資先を厳選 ④ 長期シナジーを持ち、ハードウェアも育成 「程よい距離感」 CVCは企業の長期戦略の中で重要項目 「グーグルに事業売った男が挑む「水道管」大問題 AIで劣化診断、シリコンバレー流が日本進出」 日本のベンチャーをグーグルが買収 「シャフト」 当時最高財務責任者(CFO)を務めていた加藤崇氏 シャフト売却後、「配管点検」に注目 「フラクタ」 「ロボットでは限界がある」。そう考えた加藤氏は、ソフトウェアによる“寿命診断”に転換した “シリコンバレー精神”で地元水道局が採用 親会社の栗田工業と世界展開へ 「コロナが直撃!「ベンチャー投資バブル」の行方 リーマンショック時の「投資家淘汰」が再燃」 リーマンショックの時と同じく、ベンチャー企業に対する投資マネーは減っていくだろう 投資ファンドへの逆風が吹き始めた 不況下で割安に投資 成熟段階のベンチャー投資の動きも リーマンショックは金融危機だったが、今回は全産業に影響が及んでいる。一層谷が深くなる可能性がある “Cash is king“
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

報道の自由度(その3)(自由なドイツ"の裏で進む言論統制の中身 異論を認めない"民主主義"はアリか、報道の自由度ランキング アメリカが3年連続下落 暴力的風潮に危機感、日本メディアの独立懸念 国連報告者「政府は勧告未履行」、植野妙実子氏「表現の自由」の抑圧で民主国家は成立しない) [メディア]

報道の自由度については、2016年5月14日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その3)(自由なドイツ"の裏で進む言論統制の中身 異論を認めない"民主主義"はアリか、報道の自由度ランキング アメリカが3年連続下落 暴力的風潮に危機感、日本メディアの独立懸念 国連報告者「政府は勧告未履行」、植野妙実子氏「表現の自由」の抑圧で民主国家は成立しない)である。

先ずは、2018年3月27日付けPRESIDENT Onlineが掲載した在独作家の川口 マーン 惠美氏による「自由なドイツ"の裏で進む言論統制の中身 異論を認めない"民主主義"はアリか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/24753
・『ドイツはこれまで大量の難民を寛大に受け入れてきた。国際的な評価は高いものの、巨額の費用負担や犯罪の増加に悩まされており、ドイツ国内ではメルケル首相の難民政策を批判する声が高まりつつある。だが、そうした声は「差別主義」「ナチ」などと呼ばれて黙殺されてしまう。異論を認めないという「民主主義」とは何なのか――。 ※本稿は川口マーン惠美『そしてドイツは理想を見失った』(角川新書)の一部を再編集したものです。 かつてのEU(欧州連合)は、希望に満ちたプロジェクトだった。「ヨーロッパは一つ」という言葉には、ヨーロッパ人の夢が凝縮されている。民主主義の実現。自由で、平等で、平和で、豊かな世界の建設。少なくともドイツ人は、そういう理想の世界を本気で夢見ていたと思われる。 しかしいま、そうした夢の賞味期限が段々と切れはじめた。EUの指導者の誤算は、EUという壁のなかに理想郷をつくろうとすれば、壁の外側の人々の目にそれがどう映るかが、わかっていなかったことだ。絶望を胸に抱えた難民が、「あの壁さえ越えれば」と命をかけて殺到してきたのは、当然だった。 その途端、EUの夢はあまりにもあっさりと崩れた。いまはどの国も「EUのため」「民主主義のため」といいながら、実は自国を「外敵」から守ることばかり考えている』、「EUの指導者の誤算は、EUという壁のなかに理想郷をつくろうとすれば、壁の外側の人々の目にそれがどう映るかが、わかっていなかったことだ」、「ヨーロッパは一つ」の「夢」はもろくも崩れてしまったようだ。
・『メルケルの終焉が見えた瞬間  戦後のドイツでは、中道保守であるCDU(キリスト教民主同盟)と、ドイツで一番長い伝統を誇る中道左派のSPD(ドイツ社民党)が、二大国民政党として交互に政権を担いつつ、ドイツを強い国に成長させてきた。 しかし、そのドイツが、2017年9月24日の総選挙以来、にわかに変調を来しはじめた。当時もいまも、ドイツ経済は絶好調だ。経済の調子がいいときに与党が選挙で敗北する確率は高くない。事実、選挙前はメルケル率いるCDUは安泰との報道が多数だったが、蓋(ふた)を開けてみれば同党は党が始まって以来、初めてともいえる大敗北を喫し、一方のSPDは、CDUよりさらにひどい落ち込みようだった。その後、ドイツ政治は大混乱に陥り、5カ月も政治が空転した挙げ句、ようやく2018年3月12日になって、CDUとSPDの大連立政権の発足が緒に就いた。 選挙前にも大連立を組んでいた両党の敗北の原因が、メルケルの難民政策だったことは明らかだ。EUの女帝といわれ、ドイツ国内でも向かうところ敵なしだったはずのメルケルの威力は、意外なほど脆(もろ)かった。なのに、彼女は選挙の翌日、「これから何を変えればよいのかわからない」と言い放った。 首相の座で12年、彼女は現実感を失ってしまっていた。国民の不安や悩みがわかっていない……。このときが、メルケルの終焉(しゅうえん)が垣間見えた最初の瞬間だったと私は思っている。 ただ、だからといって、さっさと権力の入れ替えが行われるかというと、そう簡単にもいかない。メルケルの権力維持は巧みだった。過去12年のあいだに、何人ものライバルが静かに、あるいは爆音とともに消え去り、CDUにはいま、首相後継者の候補者さえいない。 2月末に突然、アンネグレート・クランプ-カレンバウアーという55歳の女性がCDUの新書記長に抜擢(ばってき)されたが、彼女が4年後にメルケルの後任になるかといえば、みな、まだ半信半疑。CDUの人事刷新は、既存の構造が錆(さ)びついてしまったように動かず、ただギシギシいうだけだ。だから結局、しばらくはメルケルにすがりつき、これ以上の崩壊を防ぐしかないという考えが、党内に蔓延(まんえん)している』、足元では、新型コロナウィルス問題を強力なリーダシップで乗り切りつつあり、評価は再び高まっているようだ。
・『いまのドイツ社会は、とても息苦しい  メルケル政権下の12年間の後半で、ドイツ社会は変貌した。2010年10月、当時のヴルフ独大統領が「イスラムはドイツの一部だ」といったとき、それに対する賛否両論が飛び交い、国内で大きな論争となった。 しかし2015年、メルケルが独断で、議会の承認もなくドイツの国境を開き、一気に100万人近くの人々が流れ込んだときには、イスラムについての議論はすでにタブーになっていた。パリやブリュッセルで、難民としてEUに入ったアラブ人によるテロが起こり、ドイツのケルンでは、2015年の大晦日(おおみそか)に難民による大量婦女暴行事件が起こった。さらにその1年後、ベルリンのクリスマスマーケットにトラックが突っ込んで多数の死傷者が出た。しかしいまのドイツでは、テロと難民の相関性はもちろん、難民受け入れの方法を論じることさえできない。 メルケルは「われわれにはやれる!」とプロパガンダめいた掛け声で国民に発破をかけ、ガウク前大統領は、ドイツ人を「明るいドイツ人」と「暗いドイツ人」に分け、難民受け入れに対する抵抗の大きかった旧東独の人々を非難した。 現在、難民のためにドイツ政府が支出しているコストは年間200億ユーロ(約2.6兆円)を超えており、連邦財務省は2016年から2020年までに、936億ユーロを支出することを見込んでいる。さらに、難民対策費としては計上されていない、膨大な事務処理コスト、治安の悪化に伴う警官の増員費用や残業代なども加えれば、金額はもっと膨れ上がる。にもかかわらず、それが議会で討議されることはなく、既成事実を合法化する試みもなされない。 それどころか、現在の難民政策に疑問を呈したり、難民による犯罪の増加に懸念を表明したりしただけで、たちまち「反移民」「差別主義」、ひいては「ナチ」呼ばわりされる。そして、その先鋒(せんぽう)に立っているのが、本来なら自由な論争を擁護すべき大手メディアなのだ。いまのドイツ社会は、とても息苦しい』、「現在の難民政策に疑問を呈したり、難民による犯罪の増加に懸念を表明したりしただけで、たちまち「反移民」「差別主義」、ひいては「ナチ」呼ばわりされる。そして、その先鋒に立っているのが、本来なら自由な論争を擁護すべき大手メディア」、ということであれば、確かに「社会」が「息苦し」くなるのも理解できる。
・『中道保守党「左傾化」のすき間を埋める新興政党  そのドイツでいま、皮肉にも、「民主主義」という言葉が異常なほど叫ばれている。しかし、実際にはこの国は、「民主主義」の轍(わだち)から次第に外れかけているのだ。それどころか上空には、うっすらと全体主義という霧がかかりはじめているような気さえする。 いまのドイツの政治エリートや大手メディアが理想とする世界とは、国家も国境もなく、みなが平等で、政府が生産や消費を管理し、情報や思想が完全に統制されているために争いのない「平和な世界」かもしれない。それはどこか、オーウェルの『1984年』の平和に似ている。 今年、ドイツサッカーのブンデスリーガ第1部のチーム「アイントラハト・フランクフルト」の後援会が、メディアで極右扱いされている政党AfD(ドイツのための選択肢)の支持者を締め出すことを決めた。試しに入会手続きをとってみたAfD議員2名が2月、ほんとうに入会を拒否された。そして、その決定を「緑の党」や「左派党」の議員が称賛した。 ちなみにAfDとは、2013年に結成された、れっきとした公認政党だ。当時、経済学者らがメルケルのギリシャ支援という名の金融政策に異を唱えたことが、結党のきっかけだった。その後、内部抗争などで主要メンバーが入れ替わり、若い党の常として、現在の党員は玉石混交ではある。ただ、彼らをまるごと極右と呼ぶのは無理だろう。 既存政党とメディアはそのAfDを蛇蝎(だかつ)のように扱い、あらゆる手段を使って勢力伸長を妨害した。AfDはテレビのトークショーでもちゃんとした発言の機会を与えられず、タブーであった「ナチ」という言葉さえ投げつけられた。しかし、彼らの難民政策と経済政策、そしてエネルギー政策は、CDUのものよりも矛盾が少なく現実的だ。スタンスはどちらかというと反グローバリズムだが、保護主義とは違う。冷静に聞いてみれば、いわゆる保守政党として当たり前のことをいっているにすぎないことに気がつくはずである。 結局、今回の選挙で、彼らはCDU/CSU、SPDに次ぐ第3勢力に収まった。急伸の理由は、本来、保守であったはずのCDUがあまりに左に寄りすぎたためだ。いまや、メルケル首相の難民政策とエネルギー政策を、緑の党が一番称賛している。つまり、CDUの右側には自(おの)ずと大きな空白ができて、そこにAfDがぴったりとはまり込んだのである』、極右とされる「AfD」「急伸の理由は、本来、保守であったはずのCDUがあまりに左に寄りすぎたため」、なるほど。
・『「理想」以外の選択肢を認めないメルケル  いずれにしても、議席を獲得したAfDは、メルケルにとって危険きわまりない存在になることが予想された。だからこそ、第3メルケル政権の最後の国会で、与党は急遽(きゅうきょ)、AfDの支持基盤であるインターネット世論を押さえるため、違法性の高いSNS(会員制交流サイト)規制法を駆け込み制定した、と私は見ている。 AfDとはまさに、理想を錦の御旗にして選択肢を一つに絞り込もうとするメルケルの手法に対するアンチテーゼでもある。彼女は超法規的措置によって政策決定を行った際、「それ以外に選択肢がない」という言葉を使った。そうではない、他の選択肢もある、という抗議の意が、AfDの「ドイツのための選択肢」という命名に込められているのである。 しかしいま、異なった政治思想をもつ存在を締め出すことが、ドイツでは正当化されている。その事実に、私は驚きというより戦慄(せんりつ)を感じるが、現在のドイツでの「正しい意見」は、「民主主義の価値観を共有できない人間は仲間に入れない」というものだ』、「メルケル・・・は超法規的措置によって政策決定を行った際、「それ以外に選択肢がない」という言葉を使った。そうではない、他の選択肢もある、という抗議の意が、AfDの「ドイツのための選択肢」という命名に込められているのである」、AfDの党名の由来を初めて知った。
・『異論を認めない「正義」のゆくえ  ドイツには「戦う民主主義」という考え方がある。かつてヒトラーが、民主主義の手続きに基づいて民主主義を廃止していったことへの反省から、「民主主義の廃止につながる自由」だけは認めないという考え方だ。ドイツの政治家やメディアがAfDを潰(つぶ)そうとしているのは、その「戦う民主主義」の精神にのっとっているだけなのだろうか。 私が一番恐れるのは、みなが正しいことをしているつもりで、静かに言論統制が進むことだ。それこそが、実は理想を追求しているようで他の議論を認めないという、民主主義やリベラリズムに対する背信である。 ドイツの求める理想は、いったいどこへ行き着こうとしているのか。彼らの苦闘、そして、EUという共同体の実験は、私たち日本人にとってもじっくり観察する価値がある』、「「民主主義の廃止につながる自由」だけは認めない」、という「戦う民主主義」は確かに意味がありそうだ。「ドイツの政治家やメディアがAfDを潰(つぶ)そうとしているのは、その「戦う民主主義」の精神にのっとっているだけなのだろうか。 私が一番恐れるのは、みなが正しいことをしているつもりで、静かに言論統制が進むことだ。それこそが、実は理想を追求しているようで他の議論を認めないという、民主主義やリベラリズムに対する背信である」、言論の自由といってもなかなか難しいもののようだ。

次に、昨年4月19日付けNewsweek日本版「報道の自由度ランキング、アメリカが3年連続下落 暴力的風潮に危機感(国境なき記者団)」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/post-12009_1.php
・『「ジャーナリストに対する敵対的な風潮が増し、『著しい恐怖を覚える状況』も現出している」と指摘  国境なき記者団(RSF)が4月18日、2019年版「世界報道の自由度ランキング」報告書を発表した。今回の報告書では、アメリカにおける報道の自由のレベルが初めて「問題あり」に格下げとなり、ランキングでも48位に順位を落とした。 RSFでは、アメリカの評価が下がった要因について、「ドナルド・トランプ大統領の(フェイクニュースといった)コメントだけにとどまらない(ジャーナリストに対する)敵対的な風潮が増している」点を指摘した。さらにRSFは、世界のジャーナリストたちの間で広がる「著しい恐怖を覚える状況」についても、具体例を挙げて記述している。 ランキング上位は、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンだった。一方、著しく順位を落とした国としては、ニカラグア(24ランクダウン)、タンザニア(同25)、中央アフリカ共和国(同33)がワースト3に挙げられている。マレーシア、モルディブ、チュニジアは、大幅なランクアップを果たした』、「(ジャーナリストに対する)敵対的な風潮が増している」、とは恐ろしいことだ。
・『新聞社で銃乱射、5人死亡  この報告書は、180の国や地域を対象に、ジャーナリストに与えられている自由をランキングしたものだ。今回の報告書では、「アメリカとカナダにおける報道機関への組織的な攻撃」に警告を発し、特にトランプのメディアに対する批判的な言動に注意を促した。ジャーナリストへの攻撃の例としては、2018年6月の「キャピタル・ガゼット」紙銃撃事件や、同年10月のシーザー・セイアクによる脅迫事件を挙げている。 キャピタル・ガゼット紙の事件では、メリーランド州アナポリスにある同紙編集部に銃を持った男が押し入り、スタッフ5人を殺害した。また、セイアクはパイプ爆弾などの爆発物16個を、民主党の有力議員やCNNの事務所に送りつけたとして逮捕されている。さらに2019年2月、海兵隊出身の沿岸警備隊大尉がジャーナリストやリベラル派の政治家を標的にした襲撃を企て、大量の武器を蓄えていたとして逮捕された事件についても触れている。 報告書では、トランプ政権のジャーナリストに対するさまざまな妨害行為も取り上げている。これには、CNNのジム・アコスタ記者が一時、記者証を取り上げられた件や、CNNのケイトリン・コリンズ記者が記者会見から閉め出された件などが含まれる。ほかにも、アメリカとメキシコの国境で取材するジャーナリストの電子機器が検査された事例や、経営難に直面する報道界の現状にも言及した。 報道の自由度で48位となったアメリカは、3年連続でのランクダウンとなる。2016年には順位が上がったものの、その後は2017年に41位から43位に、2018年にはさらに45位へと順位を落とした。 世界的な報道の現状に対し、RSFのクリストフ・ドロワール事務局長は次のように警鐘を鳴らしている。 「政治的な論争が敵対感情を煽り、その中でジャーナリストが生け贄にされるようなことになれば、民主主義は大きな危機に陥る」「この恐怖と萎縮のサイクルを食い止めることが、自由の価値を認めるすべての人々にとって、最も緊急の課題となっている」 世界的には、「ベネズエラの警察や情報機関による恣意的な逮捕や暴力行為が、これまでで最多に達した」と述べる。エルサルバドルでは記者が嫌がらせや攻撃を受け、モロッコでは2人のメディア有力者が、「テロ行為を扇動した」「国家の安全を脅かした」などの罪状で訴追され、さらに、シンガポールとカンボジアでは広範な検閲が行われているという。 サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギが、2018年10月にイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館で殺害された事件についても言及。また、メキシコでは少なくとも10人、インドでは6人のジャーナリストが殺されたとしている』、「世界報道の自由度ランキング」の2020年版では、アメリカは48位から45位に上がった。日本は67位から66位と低迷、ドイツは11位と上位にいる。参考までにWikipediano時系列ランキングは
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%A0%B1%E9%81%93%E8%87%AA%E7%94%B1%E5%BA%A6%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0

第三に、昨年6月5日付け東京新聞夕刊「日本メディアの独立懸念 国連報告者「政府は勧告未履行」」を紹介しよう。漢数字は通常の数字にした。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201906/CK2019060502000286.html
・『言論と表現の自由に関する国連のデービッド・ケイ特別報告者が、日本では現在もメディアの独立性に懸念が残るとする新たな報告書をまとめたことが4日分かった。日本の報道が特定秘密保護法などで萎縮している可能性があるとして同法の改正や放送法四条の廃止を求めた2017年の勧告を、日本政府がほとんど履行していないと批判している。 報告書は6月24日開幕の国連人権理事会に正式に提出される予定。 報告書によると、日本政府が放送局に電波停止を命じる根拠となる放送法四条は効力を持ち続けており、事実上、放送局への規制になっていると指摘。政府に批判的なジャーナリストらへの当局者による非難も「新聞や雑誌の編集上の圧力」と言えるとした。「政府はジャーナリストが批判的な記事を書いても非難は控えるべきだ」としている。 ケイ氏は17年に公表した対日調査報告書で、日本政府に11項目を勧告。勧告に法的拘束力はないが、政府は不正確な情報に基づくと反論していた。ケイ氏は調査の結果、9項目が履行されていないとしている』、極めて手厳しい報告で、「国連人権理事会に正式に提出」されたので、まさに国辱ものだ。
・『勧告11項目と履行状況  デービッド・ケイ特別報告者が日本政府に勧告した11項目の主な内容と履行状況に関する評価は次の通り。 (1)政府による介入の根拠となる放送法四条の廃止=未履行 (2)歴史的出来事に関し教材で示された解釈に対し介入しない=未履行 (3)教科課程の作成過程の完全な透明化を保証する=一部履行 (4)国連の真実・正義などに関する特別報告者の訪日の招請=未履行 (5)政治活動を不当に制限するような公選法上の規定を廃止する=未履行 (6)特に沖縄における平和的な集会と抗議の権利を保障するために、あらゆる努力をする=未履行 (7)特定秘密保護法で安全保障上問題なく公益に資する情報については、開示しても処罰されない例外規定を設ける=未履行 (8)公益に資する情報の報道を促進する社会的規範の原則づくりを進める=評価できるだけの十分な情報がない (9)特定秘密保護法の執行が適切に行われるように、専門家による監視組織を設置する=未履行 (10)広範に適用できる差別禁止法を制定=未履行 (11)将来的に通信傍受に関する法律を制定するに当たっては、独立した法機関の監視下で、極めて例外的な場合にしか、通信傍受は行わないと明記する=未履行』、「11項目」中、9項目が「未履行」とは「日本政府」が完全に無視したようだ。
・『沖縄抗議への圧力批判 山城氏有罪 表現の自由萎縮恐れ  【ジュネーブ=共同】デービッド・ケイ特別報告者の報告書は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設への抗議活動などに日本の当局が圧力を加えたり、過度に規制したりし続けていると批判した。 特に抗議活動に絡み威力業務妨害などの罪に問われた沖縄平和運動センターの山城博治(やましろひろじ)議長に対し懲役2年、執行猶予3年の刑が確定したことについて、表現の自由の権利行使を萎縮させる恐れがあるとした。 報告書は、山城氏が長期間拘束されたことに国連の特別報告者や恣意(しい)的拘束に関する作業部会が国際人権規約違反などとして日本政府に是正を求めたと指摘した。 その上で、集会と表現の自由は「密接に関連し、互いに補強し合っている」と強調した』、「抗議活動」に対し、主催者に「威力業務妨害などの罪」で弾圧するのは珍しくないが、「国連人権理事会」で報告されたようだ。

第四に、11月18日付け日刊ゲンダイ「植野妙実子氏「表現の自由」の抑圧で民主国家は成立しない」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/264751
・『列島を包む重苦しい空気に「表現の自由」が押し潰されそうだ。慰安婦問題を象徴する少女像などを展示する企画展が中止に追い込まれ、安倍首相の街頭演説にヤジを飛ばした市民は警察によって排除された。憲法とフランス公法の専門家は、「民主主義が脅かされている」と警鐘を鳴らす。(Qは聞き手の質問、Aは植野氏の回答)』、興味深そうだ。
・『Q:「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」展が、河村たかし名古屋市長の抗議やテロ予告で中止に追い込まれました。しばらくして展示は再開されましたが、安倍首相に近い萩生田さんが文科相に就任すると、補助金の交付が取りやめになります。文化と芸術の国、フランスでも同じようなことが起こる可能性はあるのでしょうか。 A:絶対に起こり得ないことだと思います。みんなで議論する文化があり、テレビでも討論番組が広く浸透しているフランスでは、学校教育においても人と違った意見を述べることが評価されます。人はみんな違います。人格はさまざまだから、表現も意見もひとつにならない。さまざまになるのが当たり前です。そうした考え方が根付いているので、政治家が違う意見に圧力をかけるような事態は考えられませんね。 Q:中止に至る過程や補助金を不交付にする経緯もクリアになっていませんね。 A:何がどういうふうに起こったのかを知るのは、表現にとっても民主主義にとっても極めて重要です。そこが分からなければ正しい判断ができないし、意見形成もできません。どんな展示がなされているのか、なぜ反対意見があるのか、政治家の介入プロセスはどんなものだったのか。そのあたりがウヤムヤになってしまうと、それぞれが自分の考えを述べることも難しくなってしまいます。いわば頭ごなしのような格好で強引に中止に追い込まれ、補助金の不交付までドタバタで決まるというのは許されないことだと思います』、「ウヤムヤに」しているのには、忖度して問い質すことを避けるマスコミの責任も大きい。
・『Q:森友学園や加計学園の問題もウヤムヤで終わりました。 A:まったく論外ですね。表現の自由は、基本となる情報や統計が提供されて初めて成立するものです。そこがキチッとしていないうえに、知らないうちにいろんな操作まで行われるのは、あり得ないこと。当事者によるしっかりとした説明もなく、根本的な解決がないまま終わりました。世論が静かになるのを待って、やり過ごした感じです。 Q:なぜフランスでは起こらないことが日本では起こるのでしょうか。 A:フランスも一足飛びに今のように成熟したわけではありません。らせん階段を上るように、自分たちで民主主義をつくっていきました。1789年にフランス革命を経験しましたが、ナポレオンの登場で帝政になり、また王政になって、というのを繰り返しています。最終的に到達した地点が共和主義であって、みんなで意見を戦わせて政治をつくっていこうとなったわけです。それに対して日本では、第2次大戦が終わった後に米国に憲法を押し付けられたという疑いを持つ人が一部に根強くいます。民主主義や表現の自由における文化の違いがあるのかなと思います』、「日本では」「民主主義」が根付いていないのは事実だが、安部政権になってからマスコミが政権に忖度する姿勢が強まったことを見逃すべきではない(このブログでは「安部政権のマスコミへのコントロール」として取り上げている。最新は本年1月12日付け)。
・『「批判は発展につながる」と膝詰めで話した  Q:どちらかといえば安倍首相の支持者の中にはそういう人たちが多いですね。首相が代われば状況も変わるのでしょうか。 A:率先して広く意見を求めるリーダーになれば、雰囲気は変わるでしょうね。第2次安倍政権以降、モノを言いづらい傾向は非常に強まっていると思います。官僚の力も弱くなって、やるべき仕事をしていません。国や行政の基礎をつくっていく、組織していくのは彼らであって、そこが国民ではなく政権を向いている格好でいいのか。忖度なんて言葉、少し前まではあまり一般的ではありませんでしたよ。表現の自由で最も大事なのは萎縮効果を生んではいけないということです。みんなが自由に話ができる、討論できる、意見を言える――そして相手の意見を聞くことで、自分の意見もこういうふうに変わってきたということだってありますよね。それができなくなるような雰囲気が出てくるのは、非常に恐ろしいことです』、「表現の自由で最も大事なのは萎縮効果を生んではいけないということです」、その通りだ。
・『Q:フランスのマクロン大統領は、庶民の負担増を招いた政府に抗議するジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)運動に参加した国民との対話を続けたことで、支持を回復しているそうですね。 A:ジレ・ジョーヌは一部で過激な行動があり問題になっていますが、マクロン大統領は、さまざまなスタンスや職種の人たちと膝詰めで話し合いました。どういう不満が社会の中にあるのか、どんなふうに政治的に解決していかなければならないのか、対話を通じてより良い政治を実現しようとしたのです。批判は発展につながるということを理解しているし、批判を受け入れる姿勢が評価されているのです。一方で運動に参加している人たちも、お互いに意見を戦わせて、どうすればより良い形にできるのかを探りました。一時期はひとつの政党として成り立つ可能性も検討されたほどです。これは結局できないね、ということになりましたが、すべての結論は討論を通じて出されています。日本のようにヤジを飛ばしただけで警察が排除したり、政治家が圧力をかけて中止に追い込んだり、ということはありません』、フランスの「ジレ・ジョーヌ運動」は、一時はどうなるかと思ったが、「マクロン大統領」の対話姿勢が奏功したようだ。
・『Q:批判されるとイライラし、ムキになってやり返そうとする安倍首相とはスタンスが違い過ぎます。 A:そもそも安倍首相は自分の意見をはっきりと言いませんよね。2017年の5月3日には改憲に賛成する団体に、こういう形で改憲をするんだというようなビデオメッセージを送っていますが、国会などではごまかしています。それに2012年の自民党の憲法改正草案とも異なる考え方を示したりして、どのように変えたいのかも分かりません。批判をすり抜けようとしているように見えます。 Q:首相が改憲に前のめりになることは許されますか。 A:首相が率先して改憲の旗を振ることは公務員の憲法尊重擁護義務に反しますし、法治国家として信用がおけないことになります。求められるのは、憲法改正反対の議論にも耳を傾け、より良い政治のあり方を考える姿勢です。それができないのであれば、表現の自由の意味を理解しているとは思えませんね』、「安倍首相は自分の意見をはっきりと言いませんよね」、「批判をすり抜けようとしているように見えます」、これでは国会で論戦の土俵すら出来ないようだ。
・『日本の成熟度は30点  Q:そんなデタラメな状況でも、国民はなぜおとなしいのでしょうか。 A:政治に対する無関心があると思います。フランスの街中を歩いていると、見知らぬ人同士でも政治的なテーマについて意見をぶつけ合う場面にしばしば遭遇します。日本では政治的な事柄を話すことを嫌いますし、政治的な考えを表に出すことで「おかしな人だ」と思われてしまうのではないかと恐れる傾向が強いように思います。 Q:自ら「表現の自由」に制約を設けているような格好ですね。 A:フランスの表現の自由も、決して百点満点ではありません。空港を管理するのは肩から機関銃をぶら下げた人たちで、行き交う人々に目を光らせています。ただ、表現をする文化、議論をする文化が定着しています。それに比べると日本の成熟度は30点ぐらいでしょうか。せっかく憲法で保障されているのに、十分に活用できていない感じがします』、「日本では政治的な事柄を話すことを嫌いますし、政治的な考えを表に出すことで「おかしな人だ」と思われてしまうのではないかと恐れる傾向が強いように思います」、「せっかく憲法で保障されているのに、十分に活用できていない感じがします」、その通りで、誠に残念なことだ。
・『参政権の充実、政治の発展に欠かせない  Q:表現の自由が軽んじられると、国のかたちはどうなりますか。 A:だれもが自由に表現し意見を戦わせることは参政権の充実に寄与します。送り手と受け手が批判したり受け入れたりするコミュニケーションによって、目の前にいる政治家がどんな意見の持ち主で、反対意見に対してどんな考えがあるのかを知る。これは、国民一人一人の投票行動の基礎になるものです。政治的な課題について、お互いに自由に意見を述べることは参政権を充実させ、政治を発展させ、民主主義を支えることにつながるのです。それが軽んじられるようであれば、民主的な国家も成立しません。※インタビューは【動画】でもご覧いただけます。(植野妙実子氏の略歴はリンク先参照)』、「日本では政治的な事柄を話すことを嫌う」背景や要因を考えていきたい。
タグ:東京新聞 日刊ゲンダイ メルケル CDU PRESIDENT ONLINE Newsweek日本版 報道の自由度 川口 マーン 惠美 マクロン大統領 あいちトリエンナーレ2019 (その3)(自由なドイツ"の裏で進む言論統制の中身 異論を認めない"民主主義"はアリか、報道の自由度ランキング アメリカが3年連続下落 暴力的風潮に危機感、日本メディアの独立懸念 国連報告者「政府は勧告未履行」、植野妙実子氏「表現の自由」の抑圧で民主国家は成立しない) 「自由なドイツ"の裏で進む言論統制の中身 異論を認めない"民主主義"はアリか」 『そしてドイツは理想を見失った』(角川新書) 「ヨーロッパは一つ」という言葉には、ヨーロッパ人の夢が凝縮されている 夢の賞味期限が段々と切れはじめた EUの指導者の誤算は、EUという壁のなかに理想郷をつくろうとすれば、壁の外側の人々の目にそれがどう映るかが、わかっていなかったことだ 絶望を胸に抱えた難民が、「あの壁さえ越えれば」と命をかけて殺到してきたのは、当然だった その途端、EUの夢はあまりにもあっさりと崩れた メルケルの終焉が見えた瞬間 党が始まって以来、初めてともいえる大敗北 SPDは、CDUよりさらにひどい落ち込みようだった 両党の敗北の原因が、メルケルの難民政策だった 首相の座で12年、彼女は現実感を失ってしまっていた メルケルの権力維持は巧み 過去12年のあいだに、何人ものライバルが静かに、あるいは爆音とともに消え去り、CDUにはいま、首相後継者の候補者さえいない いまのドイツ社会は、とても息苦しい 難民のためにドイツ政府が支出しているコストは年間200億ユーロ(約2.6兆円)を超えており、連邦財務省は2016年から2020年までに、936億ユーロを支出することを見込んでいる 現在の難民政策に疑問を呈したり、難民による犯罪の増加に懸念を表明したりしただけで、たちまち「反移民」「差別主義」、ひいては「ナチ」呼ばわりされる その先鋒(せんぽう)に立っているのが、本来なら自由な論争を擁護すべき大手メディアなのだ 中道保守党「左傾化」のすき間を埋める新興政党 AfD(ドイツのための選択肢) CDU/CSU、SPDに次ぐ第3勢力に収まった 伸の理由は、本来、保守であったはずのCDUがあまりに左に寄りすぎたためだ 「理想」以外の選択肢を認めないメルケル 超法規的措置によって政策決定を行った際、「それ以外に選択肢がない」という言葉を使った 他の選択肢もある、という抗議の意が、AfDの「ドイツのための選択肢」という命名に込められている 異論を認めない「正義」のゆくえ 「戦う民主主義」 ヒトラーが、民主主義の手続きに基づいて民主主義を廃止していったことへの反省 「民主主義の廃止につながる自由」だけは認めないという考え方だ 私が一番恐れるのは、みなが正しいことをしているつもりで、静かに言論統制が進むことだ。それこそが、実は理想を追求しているようで他の議論を認めないという、民主主義やリベラリズムに対する背信である 「報道の自由度ランキング、アメリカが3年連続下落 暴力的風潮に危機感(国境なき記者団)」 「世界報道の自由度ランキング」報告書 アメリカの評価が下がった要因について、「ドナルド・トランプ大統領の(フェイクニュースといった)コメントだけにとどまらない(ジャーナリストに対する)敵対的な風潮が増している」点を指摘 新聞社で銃乱射、5人死亡 「キャピタル・ガゼット」紙銃撃事件 ーザー・セイアクによる脅迫事件 日本は67位から66位と低迷 「日本メディアの独立懸念 国連報告者「政府は勧告未履行」」 国連のデービッド・ケイ特別報告者が、日本では現在もメディアの独立性に懸念が残るとする新たな報告書をまとめた ケイ氏は17年に公表した対日調査報告書で、日本政府に11項目を勧告 9項目が履行されていないとしている 勧告11項目と履行状況 沖縄抗議への圧力批判 山城氏有罪 表現の自由萎縮恐れ 沖縄平和運動センターの山城博治(やましろひろじ)議長に対し懲役2年、執行猶予3年の刑が確定 表現の自由の権利行使を萎縮させる恐れ 「植野妙実子氏「表現の自由」の抑圧で民主国家は成立しない」 憲法とフランス公法の専門家 何がどういうふうに起こったのかを知るのは、表現にとっても民主主義にとっても極めて重要 「ウヤムヤに」 安部政権になってからマスコミが政権に忖度する姿勢が強まったことを見逃すべきではない 「安部政権のマスコミへのコントロール」 「批判は発展につながる」と膝詰めで話した 表現の自由で最も大事なのは萎縮効果を生んではいけないということです ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)運動 対話を続けたことで、支持を回復 安倍首相は自分の意見をはっきりと言いませんよね 批判をすり抜けようとしているように見えます 日本の成熟度は30点 日本では政治的な事柄を話すことを嫌いますし、政治的な考えを表に出すことで「おかしな人だ」と思われてしまうのではないかと恐れる傾向が強いように思います せっかく憲法で保障されているのに、十分に活用できていない感じがします 参政権の充実、政治の発展に欠かせない
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

韓国(財閥問題)(その4)(サムスン電子 諸刃の「メイド・イン・チャイナ」戦略、韓国は財閥の「世襲経営」容認を続ければ、ますます国際的に孤立する、大韓航空「創業一族の経営権争い」で深まる苦悩 双方が4割超の株式確保 争い長期化が濃厚に) [世界情勢]

韓国(財閥問題)については、昨年4月9日に取上げた。今日は、(その4)(サムスン電子 諸刃の「メイド・イン・チャイナ」戦略、韓国は財閥の「世襲経営」容認を続ければ、ますます国際的に孤立する、大韓航空「創業一族の経営権争い」で深まる苦悩 双方が4割超の株式確保 争い長期化が濃厚に)である。

先ずは、昨年11月22日付けロイター「サムスン電子、諸刃の「メイド・イン・チャイナ」戦略」を紹介しよう(銘柄コードは省略)。
https://jp.reuters.com/article/samsung-elec-china-idJPKBN1XT0WE
・『韓国のサムスン電子は来年、スマートフォン製造の5分の1を中国にアウトソーシングする計画を立てている。 ファーウェイ(華為技術)やシャオミ(小米科技)といった低価格を武器とするライバルに対する競争力向上という点ではプラスになるかもしれないが、事情に通じた人々によれば、数々のリスクを伴う戦略だという。 サムスンは10月、中国でスマートフォンを製造していた最後の自社工場を閉鎖し、「ギャラクシーA」などの製造を、中国国外では知名度の低いウィングテック(聞泰科技)などの下請け企業に密かに移行しようとしている。 サムスンはアウトソーシングする生産量については明らかにしていないが、関係者によれば、来年はスマートフォンの総出荷台数約3億台のうち約6000万台は、中国のODM(他社ブランドによる設計・製造)企業に製造委託した製品になる予定だという。 ウィングテックをはじめとするODMは、ファーウェイやシャオミ、オッポ(広東欧珀移動通信)など、複数のブランドのスマートフォンを作り、相手先ブランドに規模の経済によるコスト抑制効果を提供しており、身軽な下請け企業として、低価格製品を迅速に開発・製造できる』、ODMが「複数のブランドのスマートフォンを作り、相手先ブランドに規模の経済によるコスト抑制効果を提供」、製造請負もずいぶん本格的になったものだ。 
・『「やむにやまれぬ戦略」  一方で、サムスンの戦略はアウトソーシングによって品質管理能力を失い、専門的な製造能力も損なうリスクをはらむ。さらに、下請け企業の生産量を増やせば増やすほど、そのスケールメリットで下請けの生産コストが安くなり、その企業と取引をする競合他社を利する結果になりかねない、との指摘もある。 サムスンには、新たな品質問題に対処する余裕はほとんどない。2016年には主力の高価格機種「ギャラクシーノート7」が発火事故によって製造中止に追い込まれた。それに続き、今年は画面の不具合が確認され、折りたたみタイプのスマートフォンの発売が延期の憂き目を見た。 とはいえ、サムスンにとって、コスト削減の選択肢はライバルに追随する形で中国ODM企業を使う以外にほとんどない、と同社の戦略に詳しい関係者は言う。そもそも低価格スマートフォンの利幅がきわめて薄いためだ。 サムスンはロイターの取材に対し、既存の製品ポートフォリオを拡大し「市場における効率的な管理を確保するために」、ごく一部の生産ラインを自社工場以外に移そうとしているだけだと述べた。同社の中国事業に詳しい情報提供者は、「良い戦略というより、やむにやまれぬ戦略だ」と指摘する』、「アウトソーシングによって品質管理能力を失い、専門的な製造能力も損なうリスクをはらむ」が、「低価格スマートフォン」ではやらざるを得ないようだ。
・『部品調達コスト、大きく削減  調査会社カウンターポイントによれば、ODM企業は、100ドル─250ドルのスマートフォンに必要な部品すべてを、中国国内の主要ブランド自社工場に比べて10─15%安く調達できる。 ウィングテックの場合、一部の部品については、サムスン電子がベトナムで調達している価格よりも最大30%安く入手できる、と関係者は言う。サムスンはベトナムに3カ所の工場を保有し、スマートフォン、テレビ、家電製品を製造している。 ウィングテックは2017年にサムスン向けのタブレット、スマートフォンの製造を開始した。現在はサムスン製スマートフォンの3%を製造。IHSマークイットでは、今年はその比率が8%(2300万台相当)に達すると予想している。 複数の情報提供者によれば、サムスンのアウトソーシング計画の対象になるのは低・中価格モデルの「ギャラクシーA」シリーズで、ウィングテックが設計・製造に参加するという。アウトソーシング対象機種の1つ「A6S」の価格は、中国では1299元(185ドル)からだ。 ウィングテックが製造するスマートフォンは、主として東南アジア・南米向けになるとみられる。サムスンはこの両地域で、ファーウェイのシェアを侵食しつつある。ファーウェイは米国の制裁により、新機種ではグーグルの全サービスを利用できず、苦境に立たされている』、「ファーウェイ」には「米国の制裁」の影響がでつつあるようだ。
・『低価格機種は「頭痛の種」  サムスンはグローバルなスマートフォン市場において首位を維持することに執着しているが、アナリストのなかには、どの企業にとっても低価格スマートフォン事業の利益率が低すぎることを考えれば、その戦略はリスクに見合わないのではないかとの懸念もある。 韓国のノムラでリサーチ部門を率いるCW・チャン氏は、「スマートフォンのローエンド機種は、サムスンにとって頭痛の種だ」と語る。 チャン氏によれば、低価格スマートフォンは今やコモディティ製品であり、自社工場で製造することは「ナンセンス」だという。だが、チャン氏をはじめとする専門家は、サムスンがODM企業への委託生産量を増やせば、請負企業側はコスト効率が高まり、経験・知識も蓄積されていくと言う。 さらに、カウンターポイントのアナリスト、トム・カン氏は、「ODM企業の競争力が増せば、ライバルはさらに競争力を高める」と述べ、大手企業がアウトソーシングによってローエンド機種の製造に必要な専門能力を失ってしまえば、そのノウハウを取り戻すことは容易でない、と指摘する。 サムスンは、かつてはアジアの低コスト製造企業として名を馳せた。ハイエンド家電製品の製造企業となった現在、サムスンが進めるアウトソーシング拡大は、かつてのような製造能力が今は低下している実態を示唆しているとCW・チャン氏も指摘する』、「ODM企業への委託生産量を増やせば、請負企業側はコスト効率が高まり、経験・知識も蓄積されていく」、「アウトソーシングによってローエンド機種の製造に必要な専門能力を失ってしまえば、そのノウハウを取り戻すことは容易でない」、「サムスン」にとっても両刃の剣で、頭が痛いようだ。
・『設計への関与、品質管理がカギ  ライバルである米国のアップルは、中国国内に複数の工場を持つ台湾フォックスコン・テクノロジー(鴻海科技)に製造をアウトソーシングしているが、スマートフォンの設計自体は依然としてカリフォルニアで行っている。 サムスンはロイターに対する電子メールでの回答のなかで、ODM企業が製造するスマートフォンについても、設計・開発の統括に関与すると述べている。 サムスンと中国のODM企業について詳しい人物によれば、下請けとなるODM企業は製造プロセスのいくつかのステップを省略することによりコストを削減しており、品質上の問題が増加する可能性があるという。この人物は、その詳細については触れなかった。 この人物は、サムスンではこうした問題を念頭に置いて、韓国の部品サプライヤーと中国のODM企業を組み合わせることにより、品質管理への配慮を強化していると話している。 韓国の部品サプライヤーの幹部は、「中国の下請け企業への製造委託を増やすロジックが戦略的なビジネス判断であることは理解しているが、だからといって、我々が皆それに満足しているというわけではない」と話す。 サムスンはロイターに対し、自社製デバイスのすべてに同一の品質検査・品質基準を適用してきたと述べ、高品質の製品を提供することに注力してきた、と言葉を添えた』、「設計への関与、品質管理がカギ」、その通りだろう。
・『「もはやサバイバルゲーム」  従来サムスンはほとんどすべての自社製スマートフォンについて、自社内で設計を行い、ベトナム国内の多数の自社工場、さらに最近ではインド国内の自社工場で製造してきた。一方で、人件費の高い韓国内・中国内での製造は縮小している。 サムスンの社内事情に詳しい2人の人物によれば、同社で史上最年少の社長に就任したノ・テムン氏は、モバイル事業部門のナンバー2としての任務において、新たなODM戦略を推進しているという。 あるサムスン内部関係者は匿名を希望しつつ、「ファーウェイやその他の中国のスマートフォン製造企業に対抗するには、コスト削減が至上命題だ」と述べた。 他の韓国企業もアウトソーシングに力を入れている。スマートフォン事業で数年にわたって損失を計上しているLG電子では、ODM製造を低価格モデルから中価格モデルにまで拡大する予定だとしている。 サムスンのモバイル事業部門の元幹部で、現在は韓国の成均館大学で教鞭を取るキム・ヨンサク教授は、「スマートフォン事業は、コストをめぐる戦いになっている。もはやサバイバルゲームだ」と話す』、「スマートフォン」では日本メーカーの影は薄くなる一方だが、「サムスン」が中国系にどこまで対抗できるのか見物だ。

次に、昨年4月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「韓国は財閥の「世襲経営」容認を続ければ、ますます国際的に孤立する」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/199629
・『トップ死去で先行き懸念が高まってきた韓進グループ  4月8日、韓国10大財閥の1つ、韓進グループの趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長が急逝した。トップ死去を受け、先行き懸念が高まってきた韓進グループの経営は一段と難しい局面を迎えている。 韓進グループの中では、傘下の大韓航空の経営が悪化している。最大の原因の1つは、経営トップをはじめ主要なポストが「世襲」によって選ばれてきたことにある。 元々、韓国では企業を「社会の公器」ではなく、「家業」とする考えが強い。そのため財閥企業では、創業者から子へ、子から孫へと経営権が手渡されてきた。創業家は利権を守るために政財界とも強固な関係を築いてきた。 韓国は、この経営風土をこれまで放置してきた。世襲経営が続くと、創業家一族に富と権力が集中してしまう。経営者は公正な経営ではなく、私欲を追求し、モラルハザードが起きがちになる。その弊害の1つの例が、趙会長の娘が起こした「ナッツリターン事件」だ。 韓国は、早い段階で世襲経営の改革に取り組むべきだったが、実際にはできなかった。現在、韓進以外の財閥企業でも、国内外の機関投資家が世襲経営への反対を表明している。今後、財閥企業などが世襲や縁故ではなく、「資本の論理」に基づいた改革に本気で取り組むか否かが、韓国の将来を大きく左右することになる』、「ナッツリターン事件」には驚かされたが、「韓国では企業を「社会の公器」ではなく、「家業」とする考えが強い」、との説明で理解できた。
・『難しくなる韓国財閥企業の「世襲経営」  伝統的に、韓国の経済では、「資本の論理」ではなく、「血縁」をはじめとする「縁故」が重視されてきた。新卒者の採用や経営者人材の発掘に関しては、人柄や経営の実力ではなく、創業家出身であるかといったことが優先されてきた。財閥企業だけでなく、ソウル交通公社などにおいても縁故に基づく採用が行われ、世論の反感を買っている。 エレクトロニクス大手LG電子などを傘下に収めるLGグループでは、長子相続が不文律とされている。2018年に具本茂(ク・ボンム)会長(当時)が急逝したことを受けて、LGは同氏の養子であり経営経験のない具光謨(ク・グァンモ)氏をトップに選任した。手腕が未知数の人物がいきなり経営トップに就くことに不安を覚える市場参加者は多い。 見方を変えれば、財閥企業の創業家一族は、大企業の経営を思うがままにコントロールできるだけの権力を維持し続けてきた。これは、先進国経済においては考えられない事態だ。 韓進グループでは、世襲経営の弊害がとみに顕在化している。傘下の大韓航空では、顧客離れから業績が悪化し続けている。故趙会長の長女による「ナッツリターン事件」、次女が会議で水入りのコップを従業員に投げつけた問題に加え、妻による従業員への暴行問題などは、いずれも許されるものではない。 それがわからないほど、財閥企業創業家の感覚は一般社会から遊離してしまっている。 創業家一族の傍若無人なふるまいに対して、世論や顧客が腹を立てるのは当然だ。3月下旬に開催された大韓航空の株主総会では、韓国の機関投資家の反対などを受けて、趙氏の取締役再任が否決された。財閥全体のトップとして再建を主導してきた趙会長が失意のうちに亡くなり、韓進グループはどのようにグループ企業の経営を立て直すかという大きな問題に直面している。親族は十分な議決権を確保できていない。事業継承も進んでいない。 韓進グループは漂流している。同グループが自力で経営を安定させることができるか否か、先行きはかなり不透明だ。それは、世襲経営の限界を示している』、「LGは同氏の養子であり経営経験のない具光謨(ク・グァンモ)氏をトップに選任」、というのにも驚かされた。「機関投資家」は反対しなかったのだろうか。
・『早い段階の改革が必要だった韓国の財閥  韓国は、もっと早い段階で財閥企業の解体など、改革に着手すべきだった。しかし、政府は“目先の成長”を重視するあまり、財閥改革に本腰を入れることができなかった。雇用や所得への影響を考えると、韓国政府は財閥企業に依存した経済運営を続けざるを得なかった。 1997年、タイを震源地に「アジア通貨危機」が発生した。同年11月、韓国は自力での経済運営をあきらめ、IMFに支援を要請した。IMFは支援の条件として、韓国に構造改革を求めた。 その1つが財閥(チェボル)の改革だった。 アジア通貨危機に関する報告書の中でIMFは、財閥企業が韓国経済の成長に欠かせない役割を果たしたことを認めている。同時にIMFは、財閥企業のガバナンス体制に懸念を表明してきた。 最大の問題は、財閥グループ内でビジネス、企業金融などが癒着し、そこに政治的利権も絡んできたことだ。財閥企業の創業家は、経済だけでなく政治に関する影響力をも強めることで、自分たちの利権を守ろうとしてきた。 経済状況が安定している場合、韓国は財閥企業の輸出競争力を高めることでGDP成長率を高めることができた。しかし、いったん経済環境が悪化すると、そうはいっていられなくなる。アジア通貨危機の際、財閥傘下の事業法人も金融機関も、一様に資金繰りと財務内容が悪化し、経済が危機的状況に陥った。 リーマンショック後、韓進グループ内では海運大手の韓進海運の経営が急速に悪化した。韓進海運は資産を売却し資金繰りをつなごうとしたが、最終的には破産した。その上に大韓航空の経営悪化が重なり、財閥を統率してきたトップも不在だ。アジア通貨危機後に韓国が財閥改革に取り組むことができたなら、状況はもう少し違ったように思える。 文大統領は、富が財閥企業の創業家に集中する状況にうらみを強める世論に配慮し、財閥企業への監視を強めてはいる。ただ、規制を緩和して競争を促し、業界再編を目指すまでには至っていない。世論に押され、しぶしぶ財閥への接し方を硬化させざるを得ないというのが文氏の実情だろう』、「文大統領」でも「財閥」に遠慮しているのは不思議だ。
・『韓国経済の将来を決める財閥改革  韓国経済は、財閥企業による寡占状態にある。韓国株式市場の時価総額のうち、非財閥企業の割合は20%程度だ。一方、労働市場では中小企業が90%程度の雇用を生み出している。 韓国にとって財閥企業は「大きすぎて手が付けられない存在」になってしまったといえる。 この状況が続くと、韓国では経済格差の固定化が進む。格差が固定化すると、世論の不満は増幅しかねない。世論の不満が蓄積され続けると、政治が多様な利害を調整することは難しくなる。 2018年、韓国の合計特殊出生率は0.98だった。韓国の少子化はわが国以上に深刻だ。人口が減少する中で韓国は国内外の問題にうらみを募らせる社会心理に対応しなければならない。 少子化が進み高齢化が深刻化するに伴い、韓国では、自らの利益確保に加え、怨念の解消を政治家に要求する高齢者が増えるだろう。人口動態上、政治家は彼らの声に耳を傾けざるを得ない。現状の韓国を見ていると、政治家が“韓国版シルバー民主主義”を食い止めることができるか、かなり不安だ。韓国経済の減速が鮮明となる中、世論の“怨嗟の声”は一段と強まる恐れがある。 韓国政府は可及的速やかに、公平に富が再分配される経済システムの整備に取り組むべきだ。すでに財閥企業の株主総会では創業家の主張が否決されることが増えている。IT分野を中心に、創業者が経営の専門家にマネジメントをゆだねるケースも増えている。韓国政府は“資本の論理”に基づいたアニマルスピリッツの発揮を重視すべきだ。 そうした取り組みが進むか否かで、韓国経済の将来は大きく変わってくる。政府が競争原理を発揮しつつ公平に富が再配分される経済を整備できれば、韓国は、世論が政治を振りまわす状況を改善できるかもしれない。 反対に、政治家が目先の経済状況の維持を優先し、財閥企業の「世襲経営」を容認し続けるのであれば、韓国の世論リスクはさらに高まる恐れがある。それは、極東地域だけでなく国際社会における韓国の孤立懸念を一段と高める要因と考えるべきだ』、「文大統領」が「世論の“怨嗟の声”」を対日批判で逸らそうとするのでは、との懸念が残る。

第三に、本年4月22日付け東洋経済オンラインが韓国「中央日報エコノミスト」から転載した「大韓航空「創業一族の経営権争い」で深まる苦悩 双方が4割超の株式確保、争い長期化が濃厚に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/345234
・『新型コロナウイルスが世界的に拡散し、世界の航空会社が打撃を受けている。それは韓国航空業界も例外ではない。ただ、韓国最大手の航空会社である大韓航空はコロナ影響のほかに、深刻な問題を抱えている。創業者一族による経営権争いだ。 2020年3月27日、大韓航空などを擁する韓進KALグループの株主総会が開かれ、経営権争いの第1ラウンドが終わった。敗北したのは現在「3者株主連合」と呼ばれる私募ファンドのKCGI、半島(バンド)建設、そして創業者一族の趙顕娥(チョ・ヒョンア)氏の3者だ。 趙顕娥氏は大韓航空副社長だった2014年、自社便に搭乗したものの、離陸直前に客室乗務員の対応が悪いとして搭乗口にまで引き返させた「ナッツ・リターン」事件の当事者だ』、「コロナ影響」が深刻ななかでも、「創業者一族による経営権争い」、とは恐れ入る。
・『「ナッツ姫」にのしかかる相続税負担  2019年4月、趙顕娥氏の父親で創業家2代目経営者だった趙亮鎬(チョ・リャンホ)会長が急死し、弟である趙源泰(チョ・ウォンテ)氏がグループの後を継いだ。ナッツ・リターン事件以来、経営を離れていた趙顕娥氏がそれを不満に思ったのか、経営復帰をもくろんで3者株主連合で株式を買い集め、経営権を握ろうとした。しかし、現経営陣の壁は厚かった。 それでも3者株主連合は株式を継続して買い入れ、経営権争いを長期戦に持ち込もうとしている。問題は、趙顕娥氏の影響力が徐々に弱まっていることだ。それは、父親の死去による相続税負担が重くのしかかっているためだ。 2020年4月8日、故・趙亮鎬会長の1周忌が執り行われたが、長女である趙顕娥氏はついに姿を見せなかった。株主総会ではまだ勝負がついていないと、誰もが気づかざるをえない日となった。 実際のところ、3者株主連合は捲土重来を期して準備中だ。3者株主連合は株主総会当日の3月27日、「韓進KALグループが危機から脱し、経営正常化が軌道に乗れるように、今後も株主としてのすべての努力を傾ける」と一歩も引かない姿勢を見せた。 実際に3者株主連合は株式の保有比率を今でも高めている。KCGIは4月1日、「3月27日から31日まで、韓進KAL株式36万5370株を買い入れた」と発表した。さらに株主総会当日にも14万5306株を購入している。KCGIは特に、同じ韓進KALグループである「韓進」社の株式を売って韓進KALの株式を買い入れている。これにより、KCGIが持つ韓進KALの株式保有比率は19.36%となっている。) 株主総会までに韓進KAL株を8.28%保有していた半島建設も買い入れを止めておらず、現在16.9%を保有している。財界は「3者株主連合はいつでも臨時株主総会の招集を要求できる」と見ている。ただ、臨時株主総会が開かれたとしても、3者株主連合が確実に勝つかどうかはまだ不透明だ。 現在、3者株主連合が保有する韓進KAL株は発行済み株式の42.75%。一方、趙会長側は特殊関係者の22.45%、大韓航空自社保険の3.80%、デルタ航空の14.90%を合わせると41.15%を確保している。とすると、臨時株主総会を開いても、取締役選任のためには大株主の1つである韓国国民年金と少数株主の選択を受け入れなければならない。3者株主連合は過半数以上の保有を目指す可能性が高く、資金的に余力がある半島建設が株式を買い入れると見られている』、「3者株主連合」は「発行済み株式の42.75%。一方、趙会長側は・・・41.15%」、とかなりいい線までいっているようだ。
・『ナッツ姫は長期戦に耐えられるか  KCGIと半島建設は長期戦に持ち込もうとしているが、3者株主連合の一角である趙顕娥氏にその能力があるかどうかは疑問だ。KCGIと半島建設が保有株式を増やしているものの、趙顕娥氏は追加買い入れをできずにいる。株主総会当時、議決権を持つ株式保有比率はKCGIが17.29%、趙顕娥氏6.49%、半島建設5.0%の順だった。4月1日基準ではKCGIが19.36%、半島建設16.90%、趙顕娥氏6.49%。連合内での趙顕娥氏の立ち位置が弱まっていることがわかる。 ナッツ・リターン事件以来、無職状態だった趙顕娥氏が、今以上に保有株式を増やすのは難しい。むしろ、相続税を支払うために保有株式を売らざるをえない状況にある。趙顕娥氏が韓進KALなど保有株式から受け取る配当金は2020年で総額約12億ウォン(約1億円)程度。それでも、相続税を支払うには足りない。 趙顕娥氏の母親である李明姫(イ・ミョンヒ)氏をはじめとした故・趙亮鎬会長の相続人らは、2700億ウォン(約237億円)規模の相続税を5年間にわたって分割納付することを決めた。法定相続比率通りに計算すると、趙顕娥氏が支払うべき相続税額は600億ウォン(約53億円)となり、毎年100億ウォン(約9億円)以上が必要だ。 しかし、この金額をまかなうには金融機関で株式担保貸出を利用するしかない。実際に、趙顕娥氏は2019年10月に韓進KALの株式22万2222株(0.38%)を、相続税の納付を担保するために税務署に提供したままだ。 幸か不幸か、経営権争いによって韓進KALの株価は高止まりしている。そのため、金融機関からの株式担保貸出によって確保できる資金が増えたことは、趙顕娥氏にとって希望のある話だ。趙顕娥氏は2019年12月20日に金融機関から韓進KAL株式55万0459株(0.93%)を担保にして、新規担保貸出を受け取った。当時の株価は3万8500ウォン(約3400円)で、最大150億ウォン(約13億円)規模の貸し出しを受けたようだ。2020年4月9日現在の株価は、8万5000ウォン(約7500円)にまで上昇している。 とはいえ、借金には利子がつく。そのため、株式担保貸出を増やせない。通常の金利は3~5%で、この条件で返済が数年続く計画であれば、趙顕娥氏が150億ウォン(約13億円)を借り入れたとすると、株式配当金を利子負担が上回る状況がやってくる。となれば、利子を支払うために株式を処分しなければならなくなるだろう』、「ナッツ姫」は、「利子を支払うために株式を処分しなければならなくなる」、とは苦しそうだ。
・『経営権争いは長期化の可能性  韓進KALの経営争いは長期化するという見方が多い。3者株主連合が臨時株式総会の招集を提案しても、理事会(取締役会)が拒否できる。それでも総会を招集するには、裁判所に対して総会招集許可の仮処分申請が必要だが、裁判所がこれを認めたとしても、現在の情勢をひっくり返す方法はない。 取締役解任は特別決議によるため、出席株主の3分の2以上の同意を得なければ事実上不可能だ。過半数が同意すれば可能となる新任取締役の任命を通じて取締役会を掌握する方法はあるが、韓進KALの取締役会が現在11人であることを考えると、それが可能かどうかは疑問だ。 結局、現在の社長をはじめ社内外取締役4人の任期が満了する2022年まで、経営権争いは続く可能性が高い。しかも今後2年間、趙顕娥氏が株式担保貸出を維持できるかどうか。韓進KAL以外の大韓航空や韓進などの株式も保有しているが、これらを売却しても大きな金額にはならない。 となれば、現在の3者株主連合の中で、趙顕娥氏が得ようとしているものは何なのか。結局は「経営権を得たい」というのが、財界での大方の見方だ。3者株主連合として手を組んだ時から、連合の当事者は「経営に参加しない」ことを確約したと明らかにしている。KCGIの会長も2020年2月、記者会見でこのような確約を公開している。 しかし、「未登記役員」と韓国で呼ばれる、取締役会での議決権を行使しない取締役、あるいはグループ会社の役員として在職できないのかどうかは確認されていない。中央日報エコノミストは3者株主連合に「連合内から韓進KALやグループ会社の議決権を行使しない役員が在任できないという内容の確約はあるのか」と質問したが、連合側は「確認する方法がない」と回答した。これは、趙顕娥氏が間接的な方法で経営に参加する可能性を排除できないということを意味する。 だが、趙顕娥氏が得られるものは多くないという見方もある。財界のある関係者は「3者株主連合が経営権を持ったとしても、それ以降が問題だ。趙顕娥氏が保有する株式の価値はさらに小さくなるだろう」との指摘がある。(韓国「中央日報エコノミスト」2020年4月20日号)』、「経営権争いは長期化の可能性」、高見の見物には格好のネタのようだ。
タグ:韓国 ロイター 東洋経済オンライン ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 「ナッツリターン事件」 財閥問題 (その4)(サムスン電子 諸刃の「メイド・イン・チャイナ」戦略、韓国は財閥の「世襲経営」容認を続ければ、ますます国際的に孤立する、大韓航空「創業一族の経営権争い」で深まる苦悩 双方が4割超の株式確保 争い長期化が濃厚に) 「サムスン電子、諸刃の「メイド・イン・チャイナ」戦略」 スマートフォン製造の5分の1を中国にアウトソーシングする計画 ウィングテック(聞泰科技)などの下請け企業に密かに移行 ODMは、ファーウェイやシャオミ、オッポ(広東欧珀移動通信)など、複数のブランドのスマートフォンを作り、相手先ブランドに規模の経済によるコスト抑制効果を提供 「やむにやまれぬ戦略」 低価格スマートフォンの利幅がきわめて薄い アウトソーシングによって品質管理能力を失い、専門的な製造能力も損なうリスクをはらむ 部品調達コスト、大きく削減 ファーウェイは米国の制裁により、新機種ではグーグルの全サービスを利用できず、苦境に立たされている 低価格機種は「頭痛の種」 ODM企業への委託生産量を増やせば、請負企業側はコスト効率が高まり、経験・知識も蓄積されていく アウトソーシングによってローエンド機種の製造に必要な専門能力を失ってしまえば、そのノウハウを取り戻すことは容易でない 設計への関与、品質管理がカギ 「もはやサバイバルゲーム」 「韓国は財閥の「世襲経営」容認を続ければ、ますます国際的に孤立する」 トップ死去で先行き懸念が高まってきた韓進グループ 元々、韓国では企業を「社会の公器」ではなく、「家業」とする考えが強い そのため財閥企業では、創業者から子へ、子から孫へと経営権が手渡されてきた 難しくなる韓国財閥企業の「世襲経営」 LGは同氏の養子であり経営経験のない具光謨(ク・グァンモ)氏をトップに選任した。手腕が未知数の人物がいきなり経営トップに就くことに不安を覚える市場参加者は多い 早い段階の改革が必要だった韓国の財閥 「アジア通貨危機」 IMFは支援の条件として、韓国に構造改革を求めた。 その1つが財閥(チェボル)の改革 韓国経済の将来を決める財閥改革 韓国「中央日報エコノミスト」 「大韓航空「創業一族の経営権争い」で深まる苦悩 双方が4割超の株式確保、争い長期化が濃厚に」 創業者一族による経営権争い 「ナッツ姫」にのしかかる相続税負担 ナッツ姫は長期戦に耐えられるか 経営権争いは長期化の可能性
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

トランプ大統領(その44)(トランプに無罪評決を下した弾劾裁判のトンデモ論法、新型コロナで焦るトランプ大統領の危険な賭け 民主党バイデン氏は共和党の対策を毎日攻撃、米国を悲惨なコロナ感染国にしたトランプ大統領「再選」の可能性、コロナ危機 出口戦略が語られる意味とその中身) [世界情勢]

トランプ大統領については、昨年11月13日に取上げた。今日は、(その44)(トランプに無罪評決を下した弾劾裁判のトンデモ論法、新型コロナで焦るトランプ大統領の危険な賭け 民主党バイデン氏は共和党の対策を毎日攻撃、米国を悲惨なコロナ感染国にしたトランプ大統領「再選」の可能性、コロナ危機 出口戦略が語られる意味とその中身)である。

先ずは、本年2月11日付けNewsweek日本版が掲載した風刺漫画家ロブ・ロジャース氏とコラムニストでタレントのパックンによる「トランプに無罪評決を下した弾劾裁判のトンデモ論法(パックン)」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/satire_usa/2020/02/post-28.php
・『<パックンも赤面!母校であるハーバード大学の元教授でトランプを弁護したスゴ腕弁護士が、トランプを無罪にするために持ち出した信じられない論法とは......> 時々、自分とつながりのある人の愚行で自分も恥ずかしくなることがあるよね。同じ事務所の人が不倫騒動を起こしたとき、同じ党の人がヤジを飛ばしたとき、同じ国の人があの大統領を選んだときなど。 この間、僕と同じ大学の人があの大統領の弾劾裁判で発言したが、実に恥ずかしくなった。ハーバード大学の元教授アラン・ダーショウィッツは超有名なすご腕弁護士。 殺人事件でアメフト選手のO・J・シンプソン、未成年性的暴行事件で大富豪のジェフリー・エプスタイン、レイプ事件でハリウッド・プロデューサーのハービー・ワインスティーンなどの弁護を務めてきたが、今まで気にならなかった。 でも今回は、おそらくシンプソン、エプスタイン、ワインスティーンでさえ恥ずかしくなったはず。選挙に有利な情報を求めてウクライナ政府に圧力をかけた、つまり国益より自己利益優先の権力乱用をした疑いのあるドナルド・トランプ大統領。 その弁護人のダーショウィッツは弾劾裁判で、「当選することが国益につながる」と解釈し、「大統領が国益とする当選のために行うことは、弾劾に値する『取引』にはなり得ない」と弁解した。 はなはだしい愚論だ。確かに、「大統領の自己利益=国益」と考えれば、選挙に勝つためなら何でもOKだろう。でも、この発想は民主主義ではなく独裁国家のものだ(後日、ダーショウィッツはそういう意味ではないと主張。よかった!)。 ここで思い出されるのは、風刺画でおなじみのポーズを取っているリチャード・ニクソン元大統領の発言(彼も弁護士出身だ)。大統領として2期目を狙う1972年の選挙戦中、有利な情報を求め、手下が民主党の選挙本部に空き巣に入ったウォーターゲート事件でニクソンは弾劾されそうになった。 トランプと同じ動機で、訴追条項も同じ権力乱用や司法妨害だったが、弾劾決議寸前に辞職した。しかし、その数年後のインタビューで、彼は弾劾の根拠をこう否定した。When the President does it, it's not illegal.(大統領がやるときは、違法ではない) こんな暴論が当時も今も通じるはずはない。と思いきや、上院で支配権を握る与党・共和党が「ダーショウィッツ論法」で証人を召喚せず、新しい証拠も要求せず、あっさり無罪だと片付けた。 こんないかさま裁判こそ恥ずかしくなる。でも、共和党議員はきっと国益を優先しているつもりだろう。彼らも「自己利益=国益」と考えているから』、「ダーショウィッツ」氏の論法に従えば、「大統領が国益とする当選のため」であれば、何をやってもいいことになってしまう。さすが、「超有名なすご腕弁護士」だけあって、黒を白と言いくるめるのも巧みなようだ。

次に、3月27日付け東洋経済オンラインが掲載した米州住友商事会社ワシントン事務所 シニアアナリストの渡辺 亮司氏による「新型コロナで焦るトランプ大統領の危険な賭け 民主党バイデン氏は共和党の対策を毎日攻撃」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/339802
・『首都ワシントンはゴーストタウンと化した。3月半ばから桜が咲き始め、例年、この時期は多くの花見客が訪れる。だが、3月22日、ムリエル・バウザー市長は桜の名所を一部封鎖し、今年の花見は見送るよう懇願し、25日には必要不可欠な事業も市長令で閉鎖した。子供の学校の授業や誕生日パーティーまでバーチャルに切り替わり、市民生活は激変した。 すでに全米で6万9000人を超える新型コロナウイルスの感染者が出て、死者も1000人を超えた。外出自粛あるいは一部の州では外出禁止の生活が全米でニューノーマルとなりつつある。11月のアメリカ大統領選へ向けて、数週間前までは再選がほぼ確実視されていたトランプ大統領だが、雲行きは怪しくなってきた』、興味深そうだ。
・『歴史的に不況下の再選はほぼ失敗  新型コロナによる不況は避けがたい。経済成長と公衆衛生問題の解決はトレードオフの関係にある。感染拡大を防ぐためには他人との距離を保つ「社会的距離(social distancing)」が不可欠だ。だが、社会的距離の徹底は、人々の交流が前提となっている経済が犠牲にならざるをえない。 ケビン・ハセット前大統領経済諮問委員会(CEA)委員長は、仮に今後半年間、国民が外出しない状況が続けば「大恐慌のようになりかねない」と警鐘を鳴らした。トランプ氏は幸運にも、これまで戦争勃発や経済危機など政権運営が試される大規模な危機に直面したことはなかったが、ついに政権発足以来の最大のピンチに陥った。 任期1期目後半に不景気を経験した大統領で再選を果たしたのは、南北戦争以降では1900年大統領選で再選したウィリアム・マッキンリー大統領のみだ。それ以降、不景気の中、再選を目指したウィリアム・タフト大統領、ハーバート・フーバー大統領、ジミー・カーター大統領、ジョージ・H.W.ブッシュ大統領(ブッシュ父)はいずれも落選している。 現時点では景気はV字回復を遂げるのか、より回復に時間を要するU字回復となるのか、あるいは低迷を続けるL字(ホッケースティック)回復となるのか不透明だ。いずれにしても、突然、止まった経済活動は、公衆衛生問題がある程度、解消するまでは復帰の道筋はない。もちろん、公衆衛生問題は政策金利引き下げでは解決できない。 近年の2極化社会の中で景気と再選の相関関係は低下しているとの分析もあるが、これまでの歴史が繰り返されれば、選挙直前に不景気入りに直面するトランプ氏の再選は危うい。 だが、トランプ政権が直面しているコロナ危機は前例がないものであり、危機をチャンスに替えることも不可能ではない。 建国の父アレキサンダー・ハミルトン初代財務長官は、『ザ・フェデラリスト』の論文で立法府(議会)は将来の政策の枠組みを設定し、司法府(連邦裁判所)は過去に実行した政策について評価し、行政府(大統領)は現在起きている事象に対応する役割を担っていると記述している。 国家が危機に直面した際、大統領はリーダーシップを発揮する機会に恵まれているといえる。その機会をうまく捉えて国民を団結させ有権者からの支持を伸ばす大統領がいる一方、その機会を台無しにして、支持を失う大統領もいる。前者が大恐慌から国を再生したフランクリン・ルーズベルト(FDR)大統領、後者が同大統領の前任のフーバー大統領だ。 「ワシントンの沼地をさらう」と訴え、2016年大統領選以降、反エスタブリッシュメントを掲げてきたトランプ氏はこれまでアメリカの政府機関を批判してきた。だが、危機が起きた今、日頃は政府機関に批判的な国民も政府機関が果たす役割に期待を寄せる。トランプ氏はこれまで批判してきた政府機関を巧みに操り対策を打ち出さねばならず、自らのリーダーシップを発揮する極めて重要な局面にある』、「トランプ氏」は変わり身の早さを身上としているだけに、既に「リーダーシップを発揮する」姿勢をPRしている。
・『コロナ対策で急変したトランプ政権  3月16日の記者会見でトランプ氏は新型コロナをめぐる自らの政権の対応について「10点満点をつける」と語ったが、初期の対応については落第点であったといえよう。コロナの感染がアメリカで拡大し始め、懸念が高まりつつあった年初から約2カ月間、トランプ氏は好調な市場への影響ばかり懸念して、問題を軽視する発言を繰り返し、民主党やメディアが事実に基づかずでっち上げた「フェイクニュース」だとすら話していた。共和党には大統領罷免に失敗した民主党が大統領を追いやるために新型コロナを政治問題化したとの声もあった。 だが、トランプ氏は3月半ば頃から急変した。トランプ氏は危機意識を高め、3月13日に非常事態宣言を行い、18日には国防生産法を発表した。公衆衛生問題の深刻さを把握し、問題を否定することでは切り抜けられず、この問題が再選を阻むリスクを理解したようだ。 3月16日に15日間ほど10人以上の集まりは自粛することを含む行動指針を発表した件について、コロナ対策調整官のデボラ・バークス博士は記者会見で英国の報告書がきっかけで、感染拡大を防ぐために他人との距離を保つ社会的距離を訴求する判断を下したことを説明した。英国の報告書は、ホワイトハウスにも共有されていた英インペリアル・カレッジのコロナ対策チームが発行したものと一致し、同報告書では何も対策を打たない場合は220万人のアメリカ国民が死亡すると分析しているのだ。 トランプ氏は支持率が頭打ちとなる中、コロナ問題が浮上するまでは、上昇傾向にあった株価を自らの経済政策の成果としてアピールしてきた。そして、資本主義を推進するトランプ政権と社会主義を推進する民主党といった対比の構図を描き、民主党が政権を握った場合、経済が悪化すると主張してきた。 だが、新型コロナによる株価暴落がその戦略を大転換させることとなった。大統領選がトランプ氏の新型コロナ対策の是非を問う信任投票となる可能性が高まったからだ。 今や民主党指名候補がほぼ確実視されているジョー・バイデン前副大統領は、大統領選へ向けて、新型コロナ対策についてのブリーフィングを毎日実施してトランプ氏のリーダーシップに疑問を呈している。外野からヤジを飛ばすことができるバイデン氏は優位な立場にある。ある専門家はトランプ政権が新型コロナ対策で失敗した場合、控えの投手にバイデン氏が用意されているとすら揶揄している。 ワシントン政治の破壊を公約したトランプ氏よりも、政府機関の力を借りて政策を発動できる経験豊富なバイデン氏のほうが、危機時にはふさわしいという見方が広まり、バイデン氏を当選させる機運が高まることも考えられる』、「トランプ氏は3月半ば頃から急変した」のは、見事だ。小池知事がオリンピック延期決定後に、急速に「新型コロナ対応」に舵を切ったのに似ている。
・『愛国心に訴え、今のところは支持率を維持  感染者が拡大する中、新型コロナ対応で出遅れたトランプ氏は、責任転嫁と愛国心の高揚に努めている。トランプ氏は新型コロナを「中国ウイルス」と称して中国の対応を批判したり、オバマ前政権に検査システムを複雑にした問題があったと主張したりしている。また、大統領が「アメリカが戦時下にある」と言い始めたのは、国民の愛国心を高め、大統領の下に団結することを狙っていると思われる。 その成果か、ABCニュース/IPSOSの最新世論調査では、大統領のコロナ対策について評価するとの回答が過半数を超える。ギャラップの最新世論調査では、トランプ氏本人の支持率は政権発足以来の最高値49%に達している。国が危機に直面し愛国心が高まる最中、今のところトランプ氏は多くの国民の支持を確保することに成功している。 9.11アメリカ同時多発テロの後に、メジャーリーグベースボールは全試合中止を発表したが、わずか6日後の9月17日には再開し、国民生活も元どおりとすることが推奨された。だが、新型コロナによる外出自粛はいつまで続くか不透明だ。1年から1年半後にワクチンが開発されるまで不安は完全に解消されないともいえる』、「「中国ウイルス」と称して中国の対応を批判」、「アメリカが戦時下にある」、などの戦術で自らの対応の遅れから国民の目を逸らすとは巧みだ。
・『だが、一部有識者そして政権内では新たな動きも見られる。22日にトランプ氏は、「解決策が問題自体よりも劣ってはならない」とツイート。さらに、24日、フォックスニュースの番組でトランプ氏は、新型コロナの影響で経済活動が事実上停止状態の中、「(4月12日の)イースター(復活祭)までに再開したい」と述べた。大統領は月末まで国民に呼びかけた外出自粛の対策について緩和策を示唆し、再び経済重視の姿勢に転換する可能性がある。 新型コロナの指針が期限を迎える月末までに、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は今後の対策について大統領に助言する予定だが、感染者や死者が増加傾向の中、外出自粛などの継続を提言することが想定される。そこで、トランプ氏が専門家の意に反し、国民に職場復帰を呼びかけた場合、何が起こるか。 連邦制のアメリカは、トランプ氏の支持に従わない州がでてきて、大統領はそれらの州に強引に従わせることはできない。憲法修正第10条では州民の公共福祉の規制、安全確保は州政府が権限を保有するとしている。州政府あるいは市政府など地方自治体の外出自粛や外出禁止の政令を、大統領が撤回することは、憲法違反となりできない。また下院を民主党が握る中、そのような権限を州政府などから大統領に委譲するような新たな法律を、議会が可決することは考えられない。 現在、21州で外出禁止令が出ていて、これらの州民は合計するとアメリカの人口の半数を超える約1億9000万人にものぼる。ニューヨーク、カリフォルニア(ロサンゼルス市、サンフランシスコ市)、イリノイ(シカゴ市)など主要経済都市を抱える州も含まれる。いずれの州も民主党出身の州知事でもあり、大統領の早期緩和策に従わないことが想定され、トランプ氏の願う経済活動の再開の効果は限定的となるであろう』、「トランプ氏」も、「経済活動の再開」は、さすがに「州知事」の判断に委ねたようだ。
・『早期の経済活動再開の可能性とリスク  だが、トランプ大統領が緩和策を打ち出す行為が、人々に何の影響も及ぼさないわけではない。CBSニュース/ユーガブの最新世論調査によると、「新型コロナに関する正しい情報源としてトランプ大統領を信用するか」との問いに対し、90%の共和党支持者が信用すると回答。大統領職という公的地位によって、大統領は共和党を中心に多くの国民の考えにインパクトを与えかねない。また、大統領よりも支持率が低く、大統領の意向の影響を受けやすい大半の共和党出身の政治家も、大統領に追随せざるをえない事態が想定される。 早期緩和策の実行による外出自粛の緩和はリスクを伴う。現状では、感染がさらに拡大し死者がさらに増えることは確実視され、それはアメリカ社会の自殺行為に等しいとも批判されている。 パンデミックの前例として比較される1918年のスペイン風邪では春、秋、冬の3つの波があった。一端、パンデミックが沈静化したと見られても、社会的距離を早期解除した場合、再び感染拡大のリスクがある。現在は多くの国民が大統領のコロナ対策を支持しているが、死者が急増すれば、選挙戦に向けて大統領に対する風当たりは激しさを増し、落選リスクは高まるであろう。 一方、パンデミックが沈静化すれば、民主党と協力して超党派法案を可決することで経済のV字回復あるいはU字回復を実現して、危機をチャンスに変えることができる。大統領選まではまだ7カ月あり、予断を許さない』、「トランプ氏」の舵さばきが見物だ。

第三に、4月21日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの矢部 武氏による「米国を悲惨なコロナ感染国にしたトランプ大統領「再選」の可能性」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/235229
・『世界最強の感染症対策機関を持つ米国が世界最大の感染国になった理由  世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスだが、1つ気になることがある。それは米疾病管理予防センター(CDC)という「世界最強の感染症対策機関」を持つ米国が、世界最大の感染国になっていることだ。 4月20日現在、世界の感染者数は238万人を超え、うち米国は74万人(死者4万人)以上で世界全体の3分の1近くを占めている。なぜこんなことになっているのかと言えば、その責任の大半はトランプ大統領の失策と無能さにあると言っても過言ではない。 今年1月末、中国の武漢で感染が拡大していた頃、ホワイトハウスには新型コロナについて警鐘を鳴らす報告書が情報機関などから上っていた。ところがトランプ大統領はそれを軽視し、「暖かくなる4月にはウイルスは消えてなくなる」などと、記者団に話していた。 その結果、初動対応が大幅に遅れ、感染者が十分に把握できず、感染経路の追跡や感染者の隔離などを徹底できずに、感染を拡大させてしまったのである。 感染拡大のもう1つの主要因はウイルス検査の遅れだが、これもトランプ大統領の失策と無関係ではない。トランプ政権は世界保健機関(WHO)が各国に提供した検査キットを使用せず、米疾病管理予防センター(CDC)が独自に開発した検査キットを使うことを決定した。 そしてCDCは2月初め、全米50州に検査キットを配布したが、試薬が不良品だったため、多くの州で検査できない状態が続き、感染拡大を招いてしまった。これらの州で検査態勢が整ったのは3月に入ってからだという。 CDCは感染症対応などの分野で世界最強と言われているが、実は科学を重視しないトランプ大統領によって弱体化が進められている。 オバマ政権は感染症のパンデミック(世界的大流行)を国家安全保障上の重大な脅威と捉え、2016年にホワイトハウス内にパンデミック対策オフィス(PPO)を設立。CDCの活動を海外にも拡大し、各国の感染症発生状況をいち早く把握するために職員も派遣した。ところが、オバマ政権の副大統領を務めたジョー・バイデン氏によれば、トランプ大統領はこのPPOを廃止し、CDCの予算も大幅に削減したという。 PPOは中国へも感染症の専門家を派遣していたというが、もし存続させていたら、トランプ政権は武漢で発生した新型コロナの状況をもっと早く把握し、効果的に対応できていたかもしれない。 米国内の新型コロナの感染者と死者が急増した結果、トランプ大統領が「米国史上最強」と自画自賛してきた経済はガタガタになってしまった。多くの工場が一時的に閉鎖され、労働者は解雇され、米国は前例のない経済危機に突入した。 3月半ばからの約1カ月間で、失業保険の申請件数は2200万件を超えた。長く続いた強気の株式相場にも終止符が打たれ、専門家は景気後退を口にするようになった。) それまで確実視されていた再選に赤信号が灯るなか、トランプ大統領は3月28日、緊急支援法としては米国史上最大規模となる2兆ドル(約220兆円)の景気刺激法案に署名した。苦境に喘ぐ経済に大量の資金を注入し、困難に直面する企業や労働者を救済することを目的としたものだ。 具体的には、中小企業への資金支援や経営の苦しい企業への融資、個人や家庭を対象とした小切手支給、失業給付の大幅な拡充、打撃を受けた病院や医療従事者への資金手当てなどである。 さらに医療保険未加入者の検査・診療費補償も盛り込まれたが、これは民主党の指名候補を争っていたサンダース氏が国民皆保険制度の実現を提案していたことを意識したものと思われる。米国には医療保険に加入していない人が約3000万人いると推定され、彼らは新型コロナの感染を疑ってもなかなか検査・診療を受けられず、重症化させてしまうリスクが高いからである』、せっかく「世界最強の感染症対策機関」「CDC」を抱え、「新型コロナについて警鐘を鳴らす報告書が情報機関などから上っていた」、にも拘らず、「米国が世界最大の感染国になった」のが、トランプの失策だったというのはよく理解できた。
・『「最強の経済」はガタガタに 言動が180度変わったトランプ  トランプ大統領も再選を意識してか経済回復に躍起となり、同時にホワイトハウスの新型コロナウイルス対策チームの助言に耳を傾けるようになった。 3月31日の会見ではそれまでの考えを改め、「新型コロナは季節性インフルエンザより断然リスクが高い」と述べ、「この流行で10万人から24万人もの米国人が死亡する恐れがある」と警鐘を鳴らした。 それにしても「ウイルスはすぐに消えてなくなる」と言った舌の根も乾かないうちに「最大24万人の死者」とは、驚くべき変わり様である。大統領の発言や対応がこれだけコロコロ変わっては、国民は何を信じたらよいのかわからなくなってしまうだろう。最近の世論調査で、米国人の約6割が「大統領の言うことを信頼できない」と答えていることもうなずける。 それからトランプ大統領は、3月30日に終了するとしていたソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の措置)や集会禁止などを4月30日まで延長するとし、また、「4月12日の復活祭までに、すべての経済活動を再開する」としていたのを、「6月1日を目標とする」と変更した。 しかし、大統領がいくら軌道修正しても、初動対応の失敗で多くの感染者と死者を出した責任を免れることはできない。11月の大統領選では、コロナ対策が最重要テーマになりそうだが、民主党の指名を確実にしているバイデン氏は、すでにトランプ大統領への批判を強めている。 選挙用PRビデオのなかで、「大統領の失策や無能さによって国民の命が失われている」と述べているバイデン氏は、4月5日、ABCテレビの政治討論番組『ジス・ウィーク』でこう語った。 「私が言い続けているのは、トランプ大統領の行動が遅すぎるということです。ウイルス自体は大統領の失敗ではありませんが、ウイルス対策は大統領の責任です。大統領がやれることがいくつかあります。すぐに国防生産法の内容を実行してほしい。多くの人がそれを求めていますが、まだ準備中、検討中とのことです。手袋、マスクなど医療関係者に必要なものについて実行してほしいです。 それから、銀行の国防生産法も必要です。中小企業への融資が行き渡るようにしなければなりません。我々は雇用を守り、人々のビジネスを守らなければならない。そしてウイルスの検査体制も整えるべきです。400万件の検査が可能になるという話も出ていますが、それはどこでどうなっているのでしょうか……」 オバマ政権時代に感染症対策に携わった経験を持つバイデン氏はこのような危機にどう対応すべきかをよく心得ているようで、話しぶりから自信と安定感が感じられる。一方、トランプ大統領は、「自分はタフで優れたリーダーだ」とずっと主張してきたが、コロナ対策ではそれを行動で示すことができていない』、「バイデン氏」が「オバマ政権時代に感染症対策に携わった経験を持つ」、初めて知ったが、これでは「トランプ」もやり難いだろう。
・『「戦時下の大統領」発言で支持率はわかずかに上昇したが……  トランプ氏は3月18日、「自分は戦時下の大統領である」と宣言し、パンデミックとの闘いに勝利するまで、国民に来るべき苦難に耐え、団結するように呼びかけた。しかし、国内の分断を散々煽ってきたトランプ大統領が団結を訴えてもまったく説得力はないが、これも選挙を意識してのことだろう。 つまり、米国民は国が戦争のような非常事態に直面したとき、大統領を強く支持する傾向があるので、それを利用しようとしたのではないかということだ。 その思惑通り、トランプ大統領の支持率は3月22日のギャラップ調査で49%となり、その1週間前(3月15日)より5ポイントほど上昇した。しかし、同じように戦時下の大統領となったブッシュ大統領(ジュニア)の支持率が2001年9月11日の同時多発テロの後、35ポイントも上昇したのに比べると、はるかに少ない。 結局、トランプ大統領の上昇幅はもともとの支持層のなかに留まっていて、新たな支持者はほとんど増えていないように思える。トランプ氏の支持率は就任以来ずっと49%以下という低水準にとどまり、50%以上になったことは一度もない(ギャラップ調査では)。それは国家が危機に直面しても変わっていないということだ。 トランプ大統領はこれまで多くの専門家から、「大統領として不適格だ」と批判されてきたが、今回の危機ではそれが決定的となったようだ。 ワシントンDCにあるシンクタンク「ブルッキングス研究所」の上級研究員、エレイン・カマーク氏は大統領を痛烈に批判している。 「彼はイディオット(バカ)です。この重大な危機にひどい対応をしました。非常に困難な状況に陥ったとき、人々は自信と能力を感じさせる指導者を望みますが、トランプにはそのような資質はありません。この3年間、私たちは信じられないくらい幸運でした。普通の人々の生活に重大な影響を与えるようなことは、起こりませんでしたから。でも、今は違います」(ガーディアン紙、2020年3月19日)』、「ブルッキングス研究所」は民主党系なので、「トランプ」への批判も手厳しい。
・『感染症対策をないがしろに 危機に対応できない大統領  トランプ氏はツイッターで政敵やメディア関係者など人間の敵を攻撃するのは得意だが、目に見えないウイルスとの闘いでは完全に無能さを露呈している。情報機関は昨年、「米国は次のパンデミックに対して脆弱な状態にある」と警告したが、トランプ大統領はそれに耳を貸さず、何の対策も取らなかった。 11月の大統領選に向けて、野党民主党は攻勢を強めている。民主党の選挙支援団体はトランプ大統領の失策を批判するテレビ広告を作成し、3月末から中西部の激戦州などを中心に流し始めた。 その内容の一部を紹介しよう。 「すべての大統領に危機は訪れます。それは彼らの責任ではありません。重要なのは、それにどう対応するかです。ドナルド・トランプは新型コロナウイルスを生み出したわけではありませんが。彼はそれを“新しいデマ”と呼び、パンデミック対策チームを廃止し、米国中に感染拡大を招きました。すべての大統領に危機は訪れますが、この大統領はその対応に失敗しました……」 トランプ大統領は、「これは民主党による新たなでっち上げだ」と主張し、訴訟をちらつかせながら、テレビ局に対して放送しないように求めた。しかし、「トランプ大統領の応援団」と言われているFOXテレビ以外の主要テレビ局は、この広告を流しているという』、「民主党」系の「トランプ大統領の失策を批判するテレビ広告」は効果抜群だろう。
・『じわじわと支持率上げるバイデン トランプは再選どころか惨敗も  コロナ危機をきっかけに、米国人の多くが大統領の危機対応能力の重要性について改めて考えさせられるようになった。そして、危機のときに国民に安心感と安全を与えてくれる大統領(候補)として、バイデン氏が存在感を増しているように思える。それは共和党員のなかにも広がっているようだ。 共和党全国委員会のマイケル・スティール元委員長はこう述べている。 「過去24時間に聞いた最も落ち着きがあり、安心できる大統領らしい声は、ジョー・バイデンでした。共和党員としてこういうことを言うのは難しいが、それは本当です」(ガーディアン紙、2020年3月19日) また、バイデン氏の元上級顧問のモエ・ヴェラ氏は言う。 「彼(トランプ氏)は思いやりと共感性を示すことができません。この2つの価値観を持ち合わせていないのでしょう。コロナ危機は彼がずっと言い続けてきた“タフな指導者である”ことを示すチャンスでしたが、結局、何をしましたか? 見事に失敗しました」(同上) トランプ氏の失策に加え、大統領選で重要な鍵となるのは経済の動向だが、専門家からは景気後退の可能性が指摘されている。もしそうなれば、コロナ危機で大打撃を受けた米国経済が11月までに回復基調に向かうのは難しいだろう。 米国政治と選挙予測を専門とするエモリー大学政治学部のアラン・アブラモウィッツ教授は、次のように予測する。 「トランプ大統領の支持率の低さと相まって景気後退となれば、再選は非常に難しくなるでしょう。特に大不況ともなれば、大統領の支持率はさらに低下し、民主党候補が地滑り的な勝利を収める可能性もあります」(アルジャジーラ、2020年3月20日)』、3月の失業率は4.4%と前月から0.9ポイントも大幅に悪化するなど、「景気後退」は「可能性」というよりも既に始まっていると見るべきだろう。

第四に、在米作家の冷泉彰彦氏が4月18日付けメールマガジンJMMに掲載した「コロナ危機、出口戦略が語られる意味とその中身」from911/USAレポートを紹介しよう。
・『このメルマガでは、隔週でアメリカの状況をお話していますが、現在の危機というのはとにかく進行が早く、14日で世界の様相が全く変わっている、しかもその変化が加速しているのを感じます。前回、ここでお話したのが4月4日。その時は、現地時間で3月20日(金)と、4月3日(金)時点での数字を比較してお伝えしました。 同じようにそれから2週間が経過した現時点、現地時間の4月17日(金)の数字をこれに加えてみることにします。
全米レベル・・・・・・・・3月20日時点での死者     210
             4月 3日時点での死者    6586
             4月17日時点での死者   33325
ニューヨーク州・・・・・・3月20日時点での死者      31
             4月 3日時点での死者    2985
             4月17日時点での死者   14832
うちニューヨーク市内・・・3月20日時点での死者      26
             4月 3日時点での死者    1562
             4月17日時点での死者   11477
ニュージャージー州・・・・3月20日時点での死者      11
             4月 3日時点での死者     646
             4月17日時点での死者    3840
2週間前の時点でも、「この間、膨大な数の死者が続いています」と述べていますが、その後の死者の増加ペースは猛烈であり、ニューヨーク州では連日700名から800名、私の住むニュージャージー州でも200名から300名というペースで亡くなる方が出ています。 仮の遺体安置所として、冷蔵トレーラーが登場したことでショックが走ったのは4月初旬で、クイーンズ区の病院にトレーラーが横付けされている映像が衝撃を与えました。数日後には同じような冷蔵トレーラーが5台並んでいる映像となり、更に2週間が経過した現時点では、無縁墓地に集団埋葬という事態にもなっています。 また、私の住むニュージャージーでは、高齢者向けの福祉施設における感染拡大が問題になっています。例えば、州内の最大規模の施設では17名の遺体が対応不能となって積み上げられていたなどという話が出ています。これに対しては、マーフィー知事は激怒して、捜査を指示していました。ですが、施設としては入居している高齢者がどんどん亡くなって行くのに対して、手の施しようがないばかりか、遺体安置の設備を最大で2名分しか用意していなかった中で、何もできなくなっていたようです。 州政府が急いで調査したところ、高齢者向け福祉施設全体で感染の発生している施設数は384箇所、感染者数は9094、死者は530という厳しい数字が発表されています。3月にワシントン州で同様の施設におけるクラスター発生がありましたが、これを教訓とすることは出来なかったのです』、「高齢者向けの福祉施設における感染拡大」は確かに深刻だろう。
・『その「死」についてですが、少し以前には新型コロナ肺炎で家族が逝去するのには立ち会えないという問題が大きく取り上げられていました。ですが、今週のニュージャージーでは、コロナ患者の臨終にあたって家族と「ビデオ通話」を繋いでくれた医師が称賛されていたりします。 こうした死者についてですが、トランプ大統領は会見ではほとんど言及しません。 一方で、深刻な状況を抱えているニューヨーク、ニュージャージーの両州では、毎日昼に行われる、それぞれの知事の定例会見において、常にこの「その日の死者数」に向き合わなくてはならない状況が続いています。 NYのクオモ知事の場合は、例えば今週ですと、まず毎日の新規入院患者数、新規ICU収容数などを紹介しつつ、感染拡大が「ピークからフラットに」なってきたとか、ある種の指標としては落ち着いてきたという説明をします。特に数字が下降傾向を見せてきた指標に関しては「グッドニュース」という言い方をします。 ですが、その後に必ず24時間での死者数に触れて「高止まりしています。悲惨であり、痛恨の極みです」と述べる、これが残念ながら毎日のように続いているのです。 NYの場合は、従来はカウントされていなかった感染確認をせずに亡くなった「在宅死」が上乗せされるということもありました。 ニュージャージー州のマーフィー知事の場合は、死者数を紹介するのと一緒に、2名から3名、犠牲者の紹介をするのが定例化しています。16日には91歳で亡くなった「ホロコーストの生存者」の女性が紹介されていました。この人は、親族の多くがアウシュビッツで亡くなっている一方で、自分は16歳の時にアウシュビッツに連行されたものの、体格が頑健なので強制労働に「使える」と判断されて収容所から生還し、終戦とともに連合軍に救助されたのだそうです。 また17日に紹介されたのは、1980年代末に冷戦末期のポーランドの混乱を避けてアメリカに移民してきた女性でした。英語が喋れないので、ドーナツ屋の夜勤で生計を立てながら、ポーランド系移民社会の中で世話係をしてゆき、やがて会計学を学んで州の税務官吏になり、地方自治体の出納長なども歴任したのだそうです。4人目のお孫さんがもうすぐ生まれるその直前に、コロナ肺炎で死去したのだそうです。 そんなわけで、ニューヨークとニュージャージーでは、まだまだ闇の中を歩いているような雰囲気が続いています。ニューヨーク州に関しては、少し落ち着きが見られるものの、ニュージャージーについては、ピークが4月25日前後と言われており、これから一週間にわたって、更に厳しさが増していくことを覚悟しなくてはなりません』、「ニュージャージー州のマーフィー知事の場合は、死者数を紹介するのと一緒に、2名から3名、犠牲者の紹介をするのが定例化しています」、死者を悼むにはなかなかいい試みのようだ。
・『そんな中、今週のアメリカでは徐々に「社会を再オープン」する方向での動きが起きて来ました。顕著な例としては、4月15日にミシガン州のデトロイトで行われた「トランプ派」を自称する人々のデモです。「アメリカを再び偉大に」という例のスローガンを大きく掲げ、「権力には我々の社会活動を規制する権利はない」として、星条旗を振りかざして行進する姿は、全米で大きく伝えられました。 ミシガン州といえば、自動車産業の衰退から来る社会問題の深刻化を受けて、労働者の居住区でトランプ支持が拡大していたことが、2016年の大統領選に大きな影響を与えたとされています。同時に、今回のコロナ危機ではタイミング的にはNYには遅れていますが、深刻な感染拡大が続いている地域でもあります。 また、中西部のいわゆる「レッドステート」では、人口密度の低さ、地域の独立性の問題などから、共和党系の知事たちが「外出禁止令」の発動を拒否しているという問題もあります。そんな中で、サウスダコタ州では全米でも最大規模の精肉加工工場でクラスターが発生してしまい、操業停止に追い込まれるという事件も起きています。 一方で、現時点で最も感染の深刻な地域は、東のニューヨーク、ニュージャージー、西のカリフォルニアやワシントン、中部のシカゴなど、いわゆる「ブルーステート」つまり民主党の地盤でもあります。 そうなると、ミシガン州での保守系の「ロックダウン反対」デモを契機として、社会の再オープンに慎重な民主党の地盤と、共和党系の「反権力=活動の自由要求」という対立が顕著になる、そんな雰囲気も感じられました。例えばですが、ミシガンでのデモの背後には、ドナルド・トランプの姿勢、つまり「経済を殺しては元も子もないので、5月1日までに社会をオープン」という言動があることは明白です。 この動きに関連して、テキサス州でも「再オープン」への動きが出てきました。とは言え、テキサスの場合は大都市ヒューストンでは感染拡大が進行中ですので、州内にも様々な意見があるようです。 そんな中で、「社会のオープンに積極的」なのが共和党、これに対して「慎重」なのが民主党という対立構図は確かに言われています。ですが、今回の危機は、通常の左右対立とは違います。というのは、コロナ危機というのは政治的危機でもなければ金融危機でもないわけで、危機としては「リアルな危機」だからです。 ビジネスより人命優先だとして、いつまでも社会をオープンできなければ、州の経済は瀕死の状態になります。そうなれば州財政も破綻して、コロナ肺炎による直接の犠牲も、間接的な犠牲も増える最悪の事態になってしまうでしょう。 だからと言って、性急に社会をオープンにして感染の第2波、第3波を呼び込んでしまえば、同じように破滅的な結果が待っています。その意味で、例えば、ニューヨーク、ニュージャージー、カリフォルニアの各州の知事は、政治的にトランプ政権と対決するのは回避しています』、「コロナ危機というのは政治的危機でもなければ金融危機でもないわけで、危機としては「リアルな危機」だからです・・・いつまでも社会をオープンできなければ、州の経済は瀕死の状態になります。そうなれば州財政も破綻して、コロナ肺炎による直接の犠牲も、間接的な犠牲も増える最悪の事態になってしまうでしょう」、確かに難しいところだ。
・『また、実際にトランプ大統領は「5月以降、社会を再オープンする」と息巻いていますが、16日(木)に専門家の助言を得て発表された「再オープン計画」の内容は、極めて常識的なものでした。 参考までにご紹介しますと、全体は "GUIDELINE: OPENING UP AERICA AGAIN"  (アメリカ再オープンのガイドライン)ということで、「AGAIN」という文字があるので、何となくトランプ的なスローガンに見えますが、内容は空疎なガイドラインではありません。 全体は3つに分けられています。(実際はもっと詳細なガイドラインになっていますが、ここでは簡略化してご紹介しています) フェーズ1~3に共通:手指消毒など衛生管理、体調不良時は通勤通学を禁止し医師の診察を受ける、詳細は各州の規則に従う  フェーズ1:高齢者・基礎疾患のある人は在宅、社会的距離の確保、高齢者ホーム等への訪問禁止、10名以上の集会禁止、テレワーク原則、一部通勤禁止を緩和、大規模イベント禁止、不要不急の外出禁止、学校は休校、バーは営業禁止  フェーズ2:高齢者・基礎疾患のある人は在宅、高齢者ホーム等への訪問禁止、社会的距離の確保、不要不急の外出も許可、継続してテレワークを強く推奨、大規模イベント・バー・ジムは対策の上で営業許可  フェーズ3:高齢者・基礎疾患のある人も対策して外出許可、高齢者ホーム等への訪問も対策の上許可、大規模イベントも対策の上許可 となっています。紹介されたときには、「時期、対象地域は一切決まっていない、あくまで空理空論」として批判もありましたが、要するにこの3つのフェーズというのは、「R(再生産率の係数)」つまり、1人が何人に感染するかの総平均値によって決定されるようです。例えば、NY市として、0.9になればフェーズ2に行けるとか、フェーズ3になったら、改めて日本で言う「クラスター追跡」は厳しくやるというような運用です。 とにかく、大統領は一刻も早く経済活動を再開ということで、ここ一週間、毎日のようにその話ばかりですが、その理論的なベースについては、ファウチ博士などの専門家チームが数理計算をやって、フェーズを決めていると考えられます』、「フェーズ1~3」は、「1人が何人に感染するかの総平均値によって決定される」、公衆衛生学上の考えに基づいてきちんと判断されるようだ。
・『もっと踏み込んで言えば、本来は治癒による免疫獲得者に加えて「予防ワクチン」の実用化によって、人口の中に巨大な免疫の壁を作り、その上で社会を正常化するのが理想であるわけです。また、それができないまでも、社会的に全数検査に近い規模の「陽性検査」と「抗体検査」を行って流行の把握と抑え込みを正確に行う必要があります。 ですが、現時点では予防ワクチンも、また大量の検査体制もメドが立ってはいません。抗体検査に至っては、商品化の動きはあるものの、果たして抗体がどこまで有効なのか、どのような条件で獲得されるのかも確定していません。 ですから、予防ワクチンも、抗体検査もない中で、「ロックダウンによって感染を抑え込み、収束に向かわせる」「季節的に、紫外線や湿度によるウィルスの減少に期待する」という2つの要素でとりあえず、フェーズ1からフェーズ2を実現するようにする、その後、状態が悪化したら1に戻すこともありうる、それが今回の「再オープン」ということなのだと思います。 こうした動きの背景にあるのは、「再選を狙うトランプの思惑」だけではありません。現在のアメリカで大きな問題になっているのは、何と言っても失業問題です。過去4週間で「総計2千2百万」という史上空前の失業者が発生しています。この人達には、通常の失業給付に加えて「1週間600ドル」という給付があるので、当座の生活を回すことはできるでしょうが、とにかく経済を回していかねば、という思いは左右対立などとは全く別の次元で、強くあるわけです。 経済指標で言えば、失業数に加えて、例えば「小売業の売上総額」では、20年3月期の数字が「前月比マイナス8.7%」となっており、4月の数字はこれを大きく上回る落ち込みになっていくことが考えられます。 株式市場は、ここ数週間は比較的落ち着いています。悪材料が出尽くした感じがあるのと、短期的な落ち込みは、連邦政府の2兆ドルの対策が相殺してくれるという思いがあるからですが、仮に、今回の危機が不況を長期化させて、金融にも大きな影響があるようですと、景気も株価も大きく悪化することは免れません』、「現時点では予防ワクチンも、また大量の検査体制もメドが立ってはいません。抗体検査に至っては、商品化の動きはあるものの、果たして抗体がどこまで有効なのか、どのような条件で獲得されるのかも確定していません。 ですから、予防ワクチンも、抗体検査もない中で、「ロックダウンによって感染を抑え込み、収束に向かわせる」「季節的に、紫外線や湿度によるウィルスの減少に期待する」という2つの要素でとりあえず、フェーズ1からフェーズ2を実現するようにする」、やはり「ロックダウン」などに頼らざるを得ないようだ。
・『そんな中で、16日には米製薬会社「ギリアド」が開発中の薬剤「レムデシビル」が、新型コロナウイルスの治療に有効だという話題が出て、17日の株価は上昇しました。この「レムデシビル」はそもそもエボラ出血熱の治療薬として開発された化合物ですが、承認まで至っていなかったものです。 本格的な治験が始まっており、これまでに試験的に投与された症例では良好な結果が出ているという論文もあるようです。問題は、肝機能への副作用で、ここが承認の大きな関門になるという意見もありますが、とにかく期待が集まっているのは事実です。 繰り返しになりますが、私の住むニュージャージーは死者数の増加が進んでおり、全く光のない闇のような状態ですが、全米というレベルでは経済の落ち込み、雇用と人々の生活が失われる痛みの中で、一刻も早く社会の「再オープン」をという雰囲気があるのは重たい事実です。その思いは、一見するとトランプという人や中西部が代表しているように見えますが、決してそんなことはなく、全米の思いは一緒なのだと思います。 そんな中で、ホワイトハウスの専門家グループが「決して大統領の喧嘩を買わない」という大人の集団であることもあり、今回の「再オープン案」は各フェーズへ進むのには(恐らくは)データの裏付けを要求し、また州ごとの運用とする現実的な案として出てきたわけです。 例えば東部各州、中西部各州、西海岸各州はこの「フェーズ」の適用と、その具体的な運用については統一行動をするようですが、とりあえず連邦と各州に対立があるわけではありません。いずれにしても、感染拡大を必死に抑制しながら、フェーズ1から2を目指すというのが、早いところで月末以降、感染の深刻な州の場合は5月中旬以降の動きになってくると思われます』、「ホワイトハウスの専門家グループが「決して大統領の喧嘩を買わない」という大人の集団である」、確かに「トランプ」と「喧嘩」したところで、失うものの方が大きいので「大人」の対応をしているのはさすがだ。今後の「再オープン」の動向は、日本にも参考になるだけに、大いに注目される。
タグ:東洋経済オンライン オバマ政権 冷泉彰彦 ダイヤモンド・オンライン パックン 矢部 武 Newsweek日本版 トランプ大統領 JMM 渡辺 亮司 (その44)(トランプに無罪評決を下した弾劾裁判のトンデモ論法、新型コロナで焦るトランプ大統領の危険な賭け 民主党バイデン氏は共和党の対策を毎日攻撃、米国を悲惨なコロナ感染国にしたトランプ大統領「再選」の可能性、コロナ危機 出口戦略が語られる意味とその中身) 「トランプに無罪評決を下した弾劾裁判のトンデモ論法(パックン)」 パックンも赤面!母校であるハーバード大学の元教授でトランプを弁護したスゴ腕弁護士が、トランプを無罪にするために持ち出した信じられない論法とは..... ハーバード大学の元教授アラン・ダーショウィッツは超有名なすご腕弁護士 弾劾裁判で、「当選することが国益につながる」と解釈し、「大統領が国益とする当選のために行うことは、弾劾に値する『取引』にはなり得ない」と弁解 「新型コロナで焦るトランプ大統領の危険な賭け 民主党バイデン氏は共和党の対策を毎日攻撃」 歴史的に不況下の再選はほぼ失敗 リーダーシップを発揮する コロナ対策で急変したトランプ政権 愛国心に訴え、今のところは支持率を維持 「中国ウイルス」と称して中国の対応を批判 「アメリカが戦時下にある」 外出自粛の対策について緩和策を示唆し、再び経済重視の姿勢に転換する可能性 州政府あるいは市政府など地方自治体の外出自粛や外出禁止の政令を、大統領が撤回することは、憲法違反となりできない 早期の経済活動再開の可能性とリスク 「米国を悲惨なコロナ感染国にしたトランプ大統領「再選」の可能性」 世界最強の感染症対策機関を持つ米国が世界最大の感染国になった理由 米疾病管理予防センター(CDC) ホワイトハウスには新型コロナについて警鐘を鳴らす報告書が情報機関などから上っていた トランプ大統領はそれを軽視 初動対応が大幅に遅れ、感染者が十分に把握できず、感染経路の追跡や感染者の隔離などを徹底できずに、感染を拡大させてしまった トランプ政権は世界保健機関(WHO)が各国に提供した検査キットを使用せず、米疾病管理予防センター(CDC)が独自に開発した検査キットを使うことを決定 ホワイトハウス内にパンデミック対策オフィス(PPO)を設立。CDCの活動を海外にも拡大 トランプ大統領はこのPPOを廃止し、CDCの予算も大幅に削減 「最強の経済」はガタガタに 言動が180度変わったトランプ バイデン氏 オバマ政権時代に感染症対策に携わった経験を持つ 「戦時下の大統領」発言で支持率はわかずかに上昇したが…… 感染症対策をないがしろに 危機に対応できない大統領 じわじわと支持率上げるバイデン トランプは再選どころか惨敗も 「コロナ危機、出口戦略が語られる意味とその中身」from911/USAレポート 高齢者向けの福祉施設における感染拡大 今週のアメリカでは徐々に「社会を再オープン」する方向での動きが起きて来ました ミシガン州での保守系の「ロックダウン反対」デモを契機として、社会の再オープンに慎重な民主党の地盤と、共和党系の「反権力=活動の自由要求」という対立が顕著になる 今回の危機は、通常の左右対立とは違います。というのは、コロナ危機というのは政治的危機でもなければ金融危機でもないわけで、危機としては「リアルな危機」だからです いつまでも社会をオープンできなければ、州の経済は瀕死の状態になります。そうなれば州財政も破綻して、コロナ肺炎による直接の犠牲も、間接的な犠牲も増える最悪の事態になってしまうでしょう 「再オープン計画」の内容は、極めて常識的 フェーズ1~3に共通:手指消毒など衛生管理、体調不良時は通勤通学を禁止し医師の診察を受ける、詳細は各州の規則に従う フェーズ1:高齢者・基礎疾患のある人は在宅、社会的距離の確保、高齢者ホーム等への訪問禁止、10名以上の集会禁止、テレワーク原則、一部通勤禁止を緩和、大規模イベント禁止、不要不急の外出禁止、学校は休校、バーは営業禁止 フェーズ2:高齢者・基礎疾患のある人は在宅、高齢者ホーム等への訪問禁止、社会的距離の確保、不要不急の外出も許可、継続してテレワークを強く推奨、大規模イベント・バー・ジムは対策の上で営業許可 フェーズ3:高齢者・基礎疾患のある人も対策して外出許可、高齢者ホーム等への訪問も対策の上許可、大規模イベントも対策の上許可 1人が何人に感染するかの総平均値によって決定される 予防ワクチンも、抗体検査もない中で、「ロックダウンによって感染を抑え込み、収束に向かわせる」「季節的に、紫外線や湿度によるウィルスの減少に期待する」という2つの要素でとりあえず、フェーズ1からフェーズ2を実現するようにする 全米というレベルでは経済の落ち込み、雇用と人々の生活が失われる痛みの中で、一刻も早く社会の「再オープン」をという雰囲気があるのは重たい事実です ホワイトハウスの専門家グループが「決して大統領の喧嘩を買わない」という大人の集団である
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

グローバル化(その1)(コロナ危機が促す反グローバル化と国内回帰 内需重視や労働分配率向上へITの活用を、コロナ禍が炙り出すグローバル社会の深刻な「無理・課題・リスク」) [経済政治動向]

今日は、グローバル化(その1)(コロナ危機が促す反グローバル化と国内回帰 内需重視や労働分配率向上へITの活用を、コロナ禍が炙り出すグローバル社会の深刻な「無理・課題・リスク」)を取上げよう。

先ずは、4月14日付け東洋経済オンライン「コロナ危機が促す反グローバル化と国内回帰 内需重視や労働分配率向上へITの活用を」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/344088
・『昨年末に中国でその存在が問題となってから、新型コロナウイルスは3カ月程度で世界中に拡散してしまった。感染拡大の背景にはグローバリゼーションがある。イタリアに続き域内各国が感染爆発に見舞われたEU(欧州連合)は、まさにグローバリゼーションの実験場だった。モノ・サービス、資本ばかりでなく、シェンゲン協定によって国境での出入国審査なしに人が移動できる。これが感染拡大の一因ともなっただろう。 言論人や有識者の多くがコロナ危機に対抗するうえで、国際協力の重要性を説いている。人がグローバルに活動する現代社会では、ウイルスを国境で阻むことはできないため、ウイルスとの闘いには世界が連帯して協力すべきだという主張だ。 『サピエンス全史』などの著書で知られるユヴァル・ノア・ハラリ氏は『TIME』誌への緊急寄稿で「もしこの感染症の大流行が人間の間の不和と不信を募らせるなら、それはこのウイルスにとって最大の勝利となるだろう。人間どうしが争えば、ウイルスは倍増する。対照的に、もしこの大流行からより緊密な国際協力が生じれば、それは新型コロナウイルスに対する勝利だけではなく、将来現れるあらゆる病原体に対しての勝利ともなることだろう」と書いた(河出書房新社の「Web河出」で全文を読むことができる)』、「ハラリ氏」の「寄稿」は重要な指摘のようだ。
・『グローバリゼーションの反動が起きる  だが、現実に起きていることは国際協力ではなく国家間の対立だ。4月9日には新型コロナウイルスへの対応をめぐって国連安全保障理事会が開催されたものの、「中国発のウイルス」であると主張するアメリカに中国が反発し、何らの合意文書も出されなかった。 こうした状況だからこそ、国際協力の必要性が危機感をもって叫ばれているのだろう。世界中で国境の封鎖が広がり、感染爆発に見舞われた地域では都市間の往来を制限するロックダウンが展開され、外交活動も著しく縮小した。 ダニ・ロドリック教授はかねて『グローバリゼーション・パラドクス』などの著書で、「政治的トリレンマ」として、「グローバリゼーション」と「国家主権」「民主主義」を同時に追求することはできず、「グローバリゼーション」をある程度制限して「国家主権」と「民主主義」を守ったほうがよい、と主張してきた。 現実に即して世界の人々はこちらの方向に動き始めているようにみえる。グローバリゼーションはもっぱら経済活動で進んだものであり、政治的・法的には国家との社会契約の下で生活しているからだ。 ロドリック教授は、今回のコロナ危機について、ハーバード大学の自身のホームページで、「エピデミック(感染症の流行)対策として、WHO(世界保健機関)がSARSに対応して修正した国際保健規制は、アメリカを含む196カ国が法的拘束力を受けるはずのものであるのに、無視されている。国際的な協力関係の構築に失敗した」と指摘している。 実際にWHOのテドロス事務局長の発言は、各国の統計や医学的研究の成果を後追いして迷走を続けており、これは世界の人々の目に明らかとなってしまった。) 振り返ると、リーマンショック後も「反グローバリゼーション」の雰囲気が広がった。 グローバルな経済活動のツケとして、世界がバブル崩壊による金融危機に見舞われたが、その後始末である不良債権処理は、それぞれの国家の財政負担、つまりは各国民の税負担によって行われたからだ。それがグローバリゼーションへの批判につながり、同時に、グローバリゼーションで利益を得た資本家や高額報酬を得た金融機関の経営トップも糾弾された。 グローバリゼーションの実験場である、EUと通貨ユーロは再び解体の危機を迎えそうだ。EUの出発点は不戦の誓いであり、原点は政治同盟ともされていた。しかし実際には経済の効率性ばかりが求められ、その矛盾点はリーマンショック後に、財政が大きく悪化した南欧の国々の債務危機という形で噴出した。 とくに統合通貨ユーロは大きな欠陥を持っていた。ドイツの強い競争力に比して、ユーロはつねに割安で、輸出に有利に働く。だが、その利益を調整する財政統合は実現できていない。 今回も同じことの繰り返しだ。4月9日のユーロ圏財務相会合は、ESM(欧州安定メカニズム)の信用枠活用や、第2次世界大戦後のマーシャルプランのような復興のための資金援助枠の準備作業を行うことで合意した。だが、復興基金の財源をめぐる加盟国間の溝は埋まらず、共通で発行する通称「コロナ債」には、これまでどおりドイツやオランダなどが反対した。 第一生命経済研究所の田中理・主席エコノミストは「結局、丸2日議論しても新たな重要な決定はできず、『一部の国が共同債の発行を主張している』といった曖昧な表現に終わった」と話す。EU首脳や域内各国首脳の口にする「連帯」はかけ声倒れだ』、「ダニ・ロドリック教授はかねて『グローバリゼーション・パラドクス』などの著書で、「政治的トリレンマ」として、「グローバリゼーション」と「国家主権」「民主主義」を同時に追求することはできず、「グローバリゼーション」をある程度制限して「国家主権」と「民主主義」を守ったほうがよい、と主張」、「政治的トリレンマ」とは言い得て妙だ。「EU首脳や域内各国首脳の口にする「連帯」はかけ声倒れだ」、今からこれでは思いやられる。
・『金融・財政拡張は万能ではないとわかる  一方、今回の危機とリーマンショックには大きな違いがある。リーマンショックは金融危機に伴う景気後退だったので、日米欧の金融緩和と中国の4兆元に代表される各国の財政出動が効果を発揮した。需要喚起策が落ち込んだ景気を回復させ、雇用を大きく改善させた。このことは、再び企業がグローバル化を進める原動力になったし、人々の格差拡大への不満も多少は和らげてきた。 ところが、今回はまったく別種の危機で、経済活動を人為的に止めているため、金融・財政政策は効果が限定的だ。本来であれば、コロナ終息後にこうした政策の効果が望まれる。だが、リーマンショック後の10年間、日米欧がそろって金融緩和をだらだらと長期にわたって続けてきた結果、手段や効果が尽きてきていること、日本など一部の国は財政にも余裕がないことに、人々は不安を持っている。 BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「新型コロナウイルスをきっかけに、国境の内側では人々が連帯に目覚め、強い求心力が働くが、国境の外側に対しては強い遠心力が働き、国際的な分断が広がるのではないか」と指摘する。 実際、日本でも世界各国でも現在、グローバルな政策協調に人々はほとんど期待していない。注目されているのは自国の政府が発信するウイルス封じ込めのための対策と経済活動の停止による失業、倒産、所得の減少に対する経済政策だ。しかし、発展途上の独裁国家は別にして、かつてのような権威主義的なナショナリズム(国家主義)に回帰するわけではないだろう。 民主主義陣営においてはネット上で日々、政府の政策に対する意見が交換されている。例えば日本では、安倍首相の「全国民にマスク2枚を配布」する政策に批判が高まり、雇用調整助成金や現金給付の手続きの煩雑さが問題視されている。アメリカのトランプ大統領も2兆ドルをぶち上げた経済対策がさまざまな批判にさらされている。共産党一党独裁の中国といえども、政府批判を封じ込めておくことはできないようだ。 また国によって医療制度の違いや、感染症の専門家の見解の違いもあって、新型コロナウイルスとの闘い方は大きく異なる。その是非をめぐっては、専門家も一般の人も膨大なコメントをネット上に送り出している。その批判には政権の担い手も敏感だ。 金融危機や自然災害と違って、すべての人が身近に切実に感じている危機であり、インフォデミック(情報の感染拡大)ともいえる状況が出現している。根拠のないデマや誹謗中傷が広がっていることにも注意が必要だが、よい面を見ればインターネット民主主義が出現しており、悪い面を見れば、政治のポピュリズムがますます強まっていくのではないか』、「新型コロナウイルスをきっかけに、国境の内側では人々が連帯に目覚め、強い求心力が働くが、国境の外側に対しては強い遠心力が働き、国際的な分断が広がるのではないか」、との河野氏の指摘はその通りだろう。
・『自治体が注目されローカルシフトも始まる  さらに、今回のコロナ禍では、私たちがもっと自らの生活に近い知事たちの決断や行動に一喜一憂する毎日になったことが顕著な変化だ。小池百合子・東京都知事や吉村洋文・大阪府知事が政府と渡り合う姿にネット上では支持が集まっている。 これは世界的に起きており、アメリカでも大統領選の最中ながら、存在感を放つのはトランプ大統領でも対抗馬の民主党大統領候補のバイデン氏でもなく、奮闘するアンドリュー・クオモ・ニューヨーク州知事の姿だ。 今、日本で問題となっているのは、市区町村が生活者にとって行政の直接の窓口であるにもかかわらず、必要な決定権限や財源が地方自治体には付与されていないことだ。 最も重要な問題である緊急事態宣言後の7都府県の措置は決定に時間がかかり、人々の不安が募った。休業要請の方針がまとまらなかったからだが、休業を要請する事業者への補償をめぐって国との調整が難航したためだ。今後、自治体への権限委譲が再び大きなテーマとなってくるだろう。 コロナ危機はどうやら短期間では終息しそうにない。感染症専門家会議の医師の見解を聞いていると、経済活動の停止期間は限定的で済む(あるいは経済的な理由から、そうせざるをえない)かもしれないが、感染の第2波、再流行などのおそれもあり、従来とまったく同じ活動に戻れるとは思えない。 ポストコロナの中長期を見通してみる。人々は世界のモノやサービスを享受することに慣れているため、貿易量はある程度回復すると考えられるが、企業が安い労賃を求めて海外に拠点を置くオフショアの動きは縮小し、海外拠点を減らす方向になることは間違いない。 国際分業による効率性を享受できなくなって、コストがかさむことが懸念されるものの、一方で、テレワークの重要性や効率性が認識されることで、5G投資などが促進されるだろう。自治体行政や企業のITインフラの整備が飛躍的に進めば、ある程度の生産性向上を実現できるのではないか。 そうなれば、企業の拠点や外注先が海外から国内に戻ってくるリショアリングの動きが広がる。野村総合研究所の森健上席研究員は、さらに「国内の地方部に拠点を設ける“ニアショア”あるいはサテライトオフィスを検討する企業が増えるのではないか。IT企業ではすでに徳島県などでそれが進んでいる」と指摘する。 そうなれば、今度は企業側やそこで働く従業員などから、自治体への権限委譲を後押しする動きも強まるかもしれない。住民自治の意識が高まるとまでいったら、期待しすぎだろうか』、「今後、自治体への権限委譲が再び大きなテーマとなってくるだろう」、その通りだが、一方で、東京都のように知事の人気とりに利用される面もあることは留意すべきだ。
・『内需重視で労働分配率の向上を実現できるか  リーマンショック後には、先進国の潜在成長率が低下する中で所得格差の拡大が問題とされるようになった。その中でやり玉に挙がったのは、IT革命とグローバリゼーションである。人が機械に代替されることによる労働分配率の低下や、GAFAに代表される企業やその経営者が勝者総取りとなるような所得の歪みが、グローバリゼーションとともに、世界的に拡大し増幅されたという見方だ。 グローバリゼーションへの批判は、移民や難民を排撃する運動につながり、トランプ大統領の誕生やイギリスのEU離脱、EU域内での極右政党の台頭などの現象を生んだ。一方、リベラルな人々は大企業が安い労賃を求めて新興国に工場を作り、現地の人々を搾取していることや、地球規模での環境破壊が進んだことを批判している。 日本は欧米に比べれば、所得格差が大きくないほうだが、非正規雇用の拡大が問題視されてきた。しかし、テレワークなどで時間に縛られない働き方が広がれば、同一労働同一賃金の実現はしやすくなっていくだろう。 欧米と比べた日本の問題は、1990年代末のバブル崩壊以来、春闘における賃上げ交渉が機能しなくなってしまい、労働分配率が下がったことだ。日本では人口が減っていくので経済成長しない、という思い込みが流布している。そのため企業は内需に期待せず、賃上げにも及び腰で、成長期待の持てる海外に投資を続けてきた。しかし、日本の生産年齢人口(15歳~64歳)の減少率は年率2%以下であり、就業率の向上と生産性上昇によってカバーすることは可能だ。 日本総合研究所の山田久副理事長は「グローバル化の減速で外需に依存する度合いが低下するなら、内需拡大に注力する必要がある。付加価値生産性の向上、平均販売価格の上昇、賃金の引き上げの好循環を形成することによって、質的成長は可能になる」としている。今は感染拡大をくい止めることが優先する厳しい局面だが、中長期の潮流も展望しておくべきだろう』、「山田久副理事長」の主張はバランスがあり説得力に富むようだ。

次に、4月21日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「コロナ禍が炙り出すグローバル社会の深刻な「無理・課題・リスク」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/235155
・『新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な混乱を招いている  新型コロナウイルスの感染拡大によって世界的に大混乱が発生している。その混乱が、これまで国際社会が抱えてきた多くの問題や無理の一部を顕在化している。コロナショックがトリガー(引き金)となり、グローバル化の「負の側面」を浮き彫りにしていることだ。 その一つに、通商を中心とする米中の覇権争いがある。本年1月に両国は第1段階の通商合意に至ったが、感染をめぐり互いの批判が激化している。トランプ大統領が中国の影響力が強まっているWHOへの資金拠出停止を表明したのは、その象徴的な出来事といえる。 今後、米中の対立はより激化する恐れがある。それによって、これまでの国際社会のグローバル化に対する反動はさらに勢いがつくことになるだろう。 世界の経済・金融市場は大きく混乱せざるを得ないとみられる。 また、コロナショックが引き金となって、欧米や新興国では医療体制の不備や、低所得層が医療サービスにアクセスできないことが浮き彫りとなった。それは人々の不安心理をかき立て社会心理は悪化している。グローバル化を前提にした経済・社会の運営にはかなりの支障が出始めたと考えるべきだ。 今後、世界経済が未曽有の景気後退に陥る可能性は軽視できない。4月中旬の時点で米国を中心に株価は反発しているが、そうした動きを本当の意味で信用できない。世界経済が大きな変化の局面を迎えていることは冷静に考える必要がある』、「グローバル化を前提にした経済・社会の運営にはかなりの支障が出始めたと考えるべき」、その通りだろう。
・『世界経済の成長を支えたグローバル化とその反動  第2次世界大戦後の世界経済の安定を支えた大きな要因の一つがグローバル化だ。米国は政治、安全保障の覇権を強め、冷戦後の世界経済の基盤を整備した。それが、旧社会主義国や新興国の経済成長を支えた。米国独り勝ちの期間がかなり長く続いたといえる。過去数年間の世界経済を振り返っても、戦後最長の景気回復を達成した米国経済に支えられた側面は大きい。 米国を基軸とするグローバル化の進行によって、先進国の中間層は、遠心分離機にかけられたかのように、一握りの富裕層と、その他多数の低所得層に振り分けられた。これが、経済格差の拡大、環境問題、米国の医療問題など、さまざまな問題を深刻化させた。しかし、リーマンショックまでは、そうしたグローバル化の負の側面への関心が高まることはあっても、それが世界全体を揺さぶるまでには至らなかった。 リーマンショック後、徐々に、米国主導によるグローバル化への反発が表面化し始めた。言い換えれば、米国の覇権は弱まり始め、中国の存在感が高まり始めた。さらに、2016年11月の米大統領選挙では、独断専行型の考えを持つトランプ大統領が誕生した。それは米国でさえ、グローバル化の無理に耐えられなくなりつつあることを示す象徴的な出来事だった。 2018年3月以降、トランプ大統領は対中貿易赤字の削減やIT分野での覇権を目指し、中国に制裁関税をかけ始めた。世界の工場としての地位を高めてきた中国からベトナムやインドなどに生産拠点が移管され、世界各国が整備してきた供給網が寸断された。それは、グローバル化の反動というべき動きの一つだったといえる。 一方、中国は米国を批判すると同時に、東南アジアを中心とする新興国、さらには中国の需要に依存してきた欧州各国との連携を目指した。2019年3月にはイタリアがG7で初めて中国の「一帯一路」に参加すると表明した。 これは、主要先進国の利害の多極化を示す出来事の一つだ。視点を変えれば、中国は米国が主導してきたグローバル化とは異なる価値観を各国に提示したり、トランプ大統領の言動を批判したりすることで発言力を高めようとしている』、「G7で初めて中国の「一帯一路」に参加すると表明した」「イタリア」が、欧州で最も深刻な「コロナショック」に見舞われているのは、今後、同国「一帯一路」への姿勢に影響を与えるかは注目点の1つだ。
・『グローバル化反動のきっかけとなったコロナショック  1月、中国の湖北省武漢市で新型コロナウイルスが発生し、感染は日米欧をはじめとする世界全体に拡大している。米国では外出制限の緩和が模索され始めた。金融市場参加者の多くが日々の各国の感染者の増減や為政者の見解に注目している。そうした見方は、コロナウイルスの感染の影響に焦点を当てたものだ。 同時に、コロナショックによって、これまで以上の勢いでグローバル化の無理、課題、リスクなどが表面化している。各国の資本主義のあり方が大きく変容しつつある。その意味で、日々の感染動向や対策に関する議論だけでなく、コロナショックがグローバル化の反動を勢いづかせ、現在、世界経済は大きな変化の局面を迎えているといえる。 その一つの要素に、世界全体での人の移動(動線)の遮断がある。 中国は武漢を封鎖するなどして、ひとまずは感染を抑えることができた。足元、中国の感染には一服感が出ており、経済の活動水準は急速に回復している。中国でのiPhone出荷台数は2月の50万台から3月には250万台に回復した。今後、中国は補助金支給などによって雇用を守るとともに、何とか国民の不満を押しとどめる政策をとることになるだろう。 一方、日米欧はウイルスの影響が一段と深刻化するとみられる。欧米では、都市封鎖などにより経済活動が止まってしまった。一時的に経済活動を犠牲にしてウイルスの拡散を止めなければならない。世界のモノ・サービスの取引が大幅に停滞する中、今のところ、中国の供給力を賄うだけの需要は見当たらない。原油についても、OPECプラスの減産合意に関して不十分との見方が出始めている。 さらに感染拡大が世界各国の課題や問題も浮き彫りにした。 米国ではトランプ政権がオバマケアの廃止を目指したこともあり、医療保険に加入していない(所得事情などからできない)人が増え、感染拡大に拍車がかかってしまった。イタリアや韓国では中国との関係を重視するために感染対策が遅れたとの見方もある。南米、アジア、アフリカなど防疫体制が十分ではない地域でも感染が拡大している』、「コロナショックによって、これまで以上の勢いでグローバル化の無理、課題、リスクなどが表面化している。各国の資本主義のあり方が大きく変容しつつある。その意味で、日々の感染動向や対策に関する議論だけでなく、コロナショックがグローバル化の反動を勢いづかせ、現在、世界経済は大きな変化の局面を迎えているといえる」、鋭い指摘だ。
・『“大恐慌”に匹敵する世界経済の落ち込みリスク  グローバル化の反動によって、今後、世界経済は1930年代に米国を中心に発生した“大恐慌”に匹敵する落ち込みを迎える恐れがある。前述したように、トランプ政権は中国がウイルスを世界に拡散させたと非難している。コロナ禍による中国経済の減速から、第1弾合意にまとめられた米国の農畜産物などの輸入目標も達成が難しい。状況によっては、大統領再選を狙うトランプ氏が中国にさらなる圧力をかけ、サプライチェーンの混乱などグローバル経済の寸断が深刻化するリスクは軽視できない。 一方、米国を中心に企業経営は非常事態に突入しつつある。米金融大手のJPモルガンは深刻な景気後退に備え引当金を積み増し始めた。この対応は、4〜6月期の米実質GDP成長率が前期比年率で25%落ち込み、失業率は10%に達するシナリオに基づいている。 問題は、感染終息にどのくらいの時間がかかるかが読めないことだ。現在、米労働市場は過去に例を見ない勢いで悪化しており、企業業績が想定以上に悪化するリスクは高まっている。仮に経済活動が再開されたとしても正常に戻るにはかなりの時間がかかる。早期の経済活動再開が、感染を再拡大させるリスクもある。 そうした中で株価が反発していることは冷静に見るべきだ。先が読めないため、多くの投資家のリスクに対する忌避感はかなり強い。日米の国債価格の不安定さはそれを示す材料の一つだ。米国では一部の投機筋が急速に株式のショート(空売り)ポジションを巻き戻し、それにつられた投資家が株を買い、株価上昇が支えられている面もありそうだ。 一方、多くの市場参加者は、グローバル化の反動や大恐慌以来の景気後退に落ち込むリスクに目をつぶりたいと考えているようにみえる。そのため、市場参加者は先行きの明るさを求めて、目先の経済活動再開に向かっているとも考えられる。 しかし、現実には、今後、世界経済の落ち込みはより深刻化する可能性が高い。グローバル化の反動の先に、世界経済に大きな変化が出始めていることを虚心坦懐に感じ取る必要がある。今は、そうした視点で世界経済を謙虚に考えるべき時だ』、トランプ大統領は米国では最悪期は過ぎたとして、「経済活動再開」に舵を切りだしたようだが、大統領選挙を意識して早や過ぎるとの批判もあるようだ。ここはより慎重な「真壁昭夫氏」の見解を重視したい。
タグ:イタリア グローバル化 東洋経済オンライン 河野龍太郎 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 ユヴァル・ノア・ハラリ (その1)(コロナ危機が促す反グローバル化と国内回帰 内需重視や労働分配率向上へITの活用を、コロナ禍が炙り出すグローバル社会の深刻な「無理・課題・リスク」) 「コロナ危機が促す反グローバル化と国内回帰 内需重視や労働分配率向上へITの活用を」 EU(欧州連合)は、まさにグローバリゼーションの実験場 『TIME』誌 「もしこの感染症の大流行が人間の間の不和と不信を募らせるなら、それはこのウイルスにとって最大の勝利となるだろう。人間どうしが争えば、ウイルスは倍増する。対照的に、もしこの大流行からより緊密な国際協力が生じれば、それは新型コロナウイルスに対する勝利だけではなく、将来現れるあらゆる病原体に対しての勝利ともなることだろう グローバリゼーションの反動が起きる ダニ・ロドリック教授はかねて『グローバリゼーション・パラドクス』などの著書で、「政治的トリレンマ」として、「グローバリゼーション」と「国家主権」「民主主義」を同時に追求することはできず、「グローバリゼーション」をある程度制限して「国家主権」と「民主主義」を守ったほうがよい、と主張 グローバリゼーションの実験場である、EUと通貨ユーロは再び解体の危機を迎えそうだ EU首脳や域内各国首脳の口にする「連帯」はかけ声倒れだ 金融・財政拡張は万能ではないとわかる 経済活動を人為的に止めているため、金融・財政政策は効果が限定的だ 「新型コロナウイルスをきっかけに、国境の内側では人々が連帯に目覚め、強い求心力が働くが、国境の外側に対しては強い遠心力が働き、国際的な分断が広がるのではないか」 インフォデミック(情報の感染拡大)ともいえる状況が出現している。根拠のないデマや誹謗中傷が広がっていることにも注意が必要だが、よい面を見ればインターネット民主主義が出現しており、悪い面を見れば、政治のポピュリズムがますます強まっていくのではないか 自治体が注目されローカルシフトも始まる 内需重視で労働分配率の向上を実現できるか 山田久副理事長 「グローバル化の減速で外需に依存する度合いが低下するなら、内需拡大に注力する必要がある。付加価値生産性の向上、平均販売価格の上昇、賃金の引き上げの好循環を形成することによって、質的成長は可能になる」 「コロナ禍が炙り出すグローバル社会の深刻な「無理・課題・リスク」」 新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な混乱を招いている グローバル化を前提にした経済・社会の運営にはかなりの支障が出始めたと考えるべき 世界経済の成長を支えたグローバル化とその反動 G7で初めて中国の「一帯一路」に参加すると表明した グローバル化反動のきっかけとなったコロナショック “大恐慌”に匹敵する世界経済の落ち込みリスク グローバル化の反動の先に、世界経済に大きな変化が出始めていることを虚心坦懐に感じ取る必要がある。今は、そうした視点で世界経済を謙虚に考えるべき時だ
nice!(0)  コメント(0) 

第三者委員会(その1)(名ばかりの「第三者委員会」…日産 神鋼など不祥事5社名指し批判 弁護士ら『第三者委格付け団体』、仕事にあぶれた弁護士がむらがる「第三者委員会」という欺瞞) [企業経営]

今日は、第三者委員会(その1)(名ばかりの「第三者委員会」…日産 神鋼など不祥事5社名指し批判 弁護士ら『第三者委格付け団体』、仕事にあぶれた弁護士がむらがる「第三者委員会」という欺瞞)を取上げよう。

先ずは、2018年2月9日付けZAKZAK「名ばかりの「第三者委員会」…日産、神鋼など不祥事5社名指し批判 弁護士ら『第三者委格付け団体』」を紹介しよう。
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180209/soc1802090002-n1.html
・『不祥事を起こした企業の外部調査に不十分な点があるとして、弁護士らで構成する「第三者委員会報告書格付け委員会」(委員長・久保利英明弁護士)が問題企業を名指し批判する声明を出した。なかには委員会すら設置していない企業もあり、「名ばかり第三者委員会」以下との指摘も上がっている。 格付け委員会が問題視したのは、新車の無資格検査が発覚した日産自動車、アルミ・銅などの性能データ改竄(かいざん)が分かった神戸製鋼所、燃費データの書き換え疑惑が持たれているSUBARU(スバル)、子会社で製品データ改竄が発覚した三菱マテリアル、子会社による製品検査データ改竄が判明した東レ-の5社。 久保利委員長は6日、「日本を代表する企業が不祥事を出すことも情けないが、外部調査といっても、評価に値するような報告を出していない」と声明を出した理由を話した。 日本取引所自主規制法人が2016年に出した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」では、調査の客観性・中立性・専門性確保のため第三者委員会設置が有力な選択肢とされている。 だが、声明では「少なくとも、日産自動車とスバルは委員会を設置せず、東レの有識者委員会は調査を自ら実施せず、プリンシプルに即した対応を避けている」と批判した。さらに、経営者が不十分な調査に逃げないよう社外役員のリーダーシップを求め、名ばかりの第三者委員会にならないよう注意喚起した』、お目付け役として、「第三者委員会報告書格付け委員会」が登場したとはいいことだ。
・『不祥事を受けての外部調査はどうあるべきか。久保利氏は「『第三者委員会に、会社がよくなるためにどうしたらいいのか言ってもらわないと困る』という覚悟でやるCEO(最高経営責任者)がいれば、第三者委員会は劇的に変わる。ヘボな第三者委員会報告書や第三者の名前もかぶせられないような報告書を出すことはCEOがみっともないことの証左だと思う」と話した。 不祥事をめぐる調査では、大企業だけでなく、公益財団法人の日本相撲協会に対しても世間の厳しい目が向けられた。格付け委員会の目に相撲協会の姿はどう映るのか。 久保利氏は「もともとガバナンスがない。そんなところに第三者委員会のように立派なものを期待するほうがかわいそうだ。そういう意味では公益財団法人の名に値しない」と批判した』、本年に入ってからの22件の格付け結果は、以下の通りである。
http://www.rating-tpcr.net/result/

次に、本年4月13日付けPRESIDENT Onlineが掲載した会計学者の八田 進二氏による「仕事にあぶれた弁護士がむらがる「第三者委員会」という欺瞞」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/34278
・『組織の不祥事が発覚したときに作られる「第三者委員会」。その役割は、真因を究明し、再発防止策を提起することだ。しかし会計学者の八田進二氏は「信頼性に疑いを持たざるを得ない調査報告書が目立つようになった。背景にはビッグビジネス化があるのではないか」と指摘する――。 ※本稿は、八田進二『「第三者委員会」の欺瞞 報告書が示す不祥事の呆れた後始末』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです』、会計の大家の八田 進二氏による手厳しい批判とは興味深い。
・『輸入ではなく、「国産」の仕組み  組織の不祥事が発覚するたびに発足される「第三者員会」。これはもはや慣行といってもいいのではないか。 なぜそうした組織がこれほど幅を利かすことになったのだろうか? 第三者委員会の問題点とその原因をあらためて整理するとともに、この疑問に答えていきたいと思う。 まずは、その出自から話を始めることにしよう。この仕組みは、いつどこで生まれたのだろう? 「問題を起こした組織や団体を、それと無関係の外部の人間が厳しく調査し、再発防止策も含めたレポートを提出する」というと、いかにも「欧米的」に感じられるのではないだろうか。第三者委員会の報告書には、「組織のコンプライアンス欠如」を指摘するものが少なくない。そうした概念を普及、徹底させる仕組みとして、それらと同時に「輸入」されたように感じても無理はないのだが、実際は、そうではないのである。第三者委員会は、純然たる“メイド・イン・ジャパン”のスキームなのである』、「純然たる“メイド・イン・ジャパン”のスキーム」とは初めて知った。
・『山一證券に置かれた「社内調査委員会」が第一号  その原点ともいえる「組織」が産声を上げたのは、1997年12月のことだ。97年というのは、一定以上の年齢の日本人にとって、忘れられない(あまり思い出したくない)1年かもしれない。90年代初頭にバブル経済が弾け、くすぶり始めていた企業の不良債権問題は、この年の11月、三洋証券に始まり、北海道拓殖銀行、そして山一證券と続いた大手金融機関の破綻ドミノという想定外の事態で、一気に「見える化」された。まさか大企業や金融機関が倒れるようなことはないだろうと思っていた人々は、日本経済がいかに深刻なところに追い込まれているのかを、初めて思い知らされたのである。国際的にも「暗黒の11月」と称された変事の中でも最も衝撃的だったのが、旧4大証券の一角を成す山一證券の自主廃業の発表だったと言えるだろう(結果的には自己破産)。 のちに「隆盛」を誇るようになる第三者委員会のルーツは、ほかならぬこのとき山一證券に設置された「社内調査委員会」だったのである。設置の主目的は、新聞報道などで2000億円とも言われた、「簿外債務」すなわち損失隠しの実態究明だ。これが山一を倒した最大の病巣だった』、「山一證券に置かれた「社内調査委員会」が第一号」というのも初めて知った。
・『当時の第三者委員会は、その役割を果たしていた  この社内調査委員会が、例によってお手盛りの報告でお茶を濁すだけの組織だったかといえば、そうではなかった。同委員会は、翌98年4月に「社内調査報告書―いわゆる簿外債務を中心として―」を公表する。この調査に携わった弁護士の一人國廣正氏は、著書『修羅場の経営責任』(文春新書)で、 「一つは、山一の破綻に至る事実関係を、第三者的観点から、詳細かつ徹底的に調査、検証し、これを『社内調査報告書』という形で対外的に公表したということである。これは当時としては前例のない試みだった。 社内調査報告書の公表は、リスク管理不在、先送り、隠蔽、責任回避、官との癒着という巨大証券会社の経営実態を白日の下に明らかにした。加えて、本業そっちのけで財テクに走り、損失が発生すれば自分が『被害者』だとして損失補填を求める自己責任意識の欠如した顧客企業、『見て見ぬふり』をしながら最後には梯子をはずして引導を渡す『官』の実態も明らかにした。社内調査報告書は、うわさや評論としてではなく『事実』として、これらのことを明らかにした点に意味がある」と自ら評価した。これには私も同感だ。 危機に瀕したというよりも、すでに死を宣告された組織を調べる現場に、「第三者の目を入れる」という知恵が生まれたのは、皮肉なことだった。ともあれ、この画期的な仕事が、その後第三者委員会という実務に発展していったのは、紛れもない事実なのである。 「とにかく真実を明らかにしたい」という思いから立ち上がった当時の第三者委員会は、十分社会的な意義を持っていた。それを認めるのに、やぶさかではない』、「山一」の場合は既に「破綻」した原因を探るということで、忖度なしに調べられたのだろう。
・『「第三者委員会」の看板が独り歩きを始めた  21世紀に入り、「暗黒の11月」が「序章」に過ぎなかったことを、我々は痛感した。バブル崩壊の後遺症もあって、数多くの企業不祥事も明るみに出た。そして、前世紀末に産み落とされた「問題の原因追及などを外部の第三者の手に委ねる」という手法も、多用されるようになっていく。 だが、数が増えるにつれ、「第三者委員会」という看板が独り歩きを始めるようになる。第三者委員会とは名ばかりの、信頼性に疑いを持たざるを得ない「調査報告書」が目立ち始めたのである(詳細は、拙著『「第三者委員会」の欺瞞』(中公新書ラクレ、2020年4月刊))』、なるほど。
・『経営者の罪を隠す「有害な報告書」  2009年、彼らがいかにデタラメな仕事をしているのかを白日の下にさらす、ある「事件」が起こる。08年10月、自動車部品メーカー、フタバ産業に過年度決算の不正会計処理が発覚し、事実の解明などを目的とする「第三者委員会」が設置される。ここまでは普通なのだが、この事案では、委員会が報告書を出すものの、次から次に新たな疑惑が浮上して、結局短期間に3つの委員会が設置され、それぞれ異なる結論を語るというドタバタぶりを露呈してしまったのだ。 当初、発足した「社外調査委員会」はおおむね会社を擁護するような内容の報告書を出している。 この事件では、その後、元社長らが刑事責任を問われ逮捕されたものの、元社長は嫌疑不十分で不起訴処分となった。しかし、一部の元執行役員には業務上横領と有印私文書偽造・同行使の罪で実刑判決が言い渡されている。 委員会の結論が徐々に先鋭化したのは、処分の見極めに関わる証券取引等監視委員会が一連の報告書の信頼性の無さに懸念を抱くこととなったからだとも言われている。いずれにしても、少なくとも最初の社外調査委員会(報告書)は、無用の長物であるばかりでなく、逮捕までされた経営者たちの罪を、結果的に覆い隠す役割を担ったという点で、有害でさえあった』、「経営者の罪を隠す「有害な報告書」」は、この他にも大いにあり得ることだ。
・『不祥事を起こした企業の株主が「二重のダメージ」を受ける  ところで、第三者委員会は、“手弁当”で仕事をするわけではない。公的機関として、公から報酬が支払われるのでもない。それを負担するのは、依頼した企業、団体である。では、いったいいくらのコストをかけて調査を行ったのだろうか? 依頼した企業などがそれを明らかにしたことも、報告書にその金額が明示されたことも、私の知る限りこれまではない。 これは、実は重大な問題で、不祥事を起こした企業の株主は、その発覚による株価下落で損害を受けたうえに、第三者委員会への支出による会社の損失=企業価値の棄損という形で、二重のダメージを受けていることになるのだ。そんな支出など大したことはないのだろう、と言うなかれ。ある重大事案で設立された第三者委員会に対して、数十億円の対価が支払われたという話を、耳にしたことがある。 「日弁連ガイドライン」にあるように、弁護士報酬は「時間制」でカウントされるのが普通だ。その報酬は、例えば同じ「士業」の公認会計士や税理士よりも、割高な水準にある。加えて、仕事をするのは、通常、報告書に名前の出ている人たちだけではない。資料の読み込みや分析、さらには関係者へのヒアリングといった実務に、所属する法律事務所の弁護士やスタッフが多数関わる。その体制で3カ月、4カ月と任務を遂行するのだから、人件費だけで金額が相当嵩むのは、想像に難くない。 そうしたコストをかけて、当該企業が再生を果たすことのできる中身のある報告書が出るのなら、まだいい。そうでなければ、単なる無駄遣いだ。その意味でも、第三者委員会の報告書の作成・公表に関する一連のコストに無関心でいるわけにはいかないのである』、「株主が「二重のダメージ」を受ける」、というのは事実だが、上場企業である以上、当然の負担だろう。
・『「過払い金請求」と並ぶビッグビジネス  このコストに関しては、別の視点からも重要な問題を指摘しておかなくてはならない。誤解を恐れずに言えば、第三者委員会の委員を引き受けることが、「弁護士業界」にとって格好のビジネスになっている、という現実があるのだ。 税理士法人ファーサイトが運営する「第三者委員会ドットコム」という情報サイトによれば、19年度に設置された上場企業の第三者委員会(内部調査委員会なども含む)は、73件に上る。ちょうど5日に1件のペースでつくられている計算で、請け負う側にとっては、十分魅力ある市場だと言えるだろう。事実、第三者委員会専門の事務所も生まれている。 第三者委員会が揺籃期から成長期に入った2000年代初めは、奇しくもわが国で司法制度改革が推進された時期と合致する。04年には法科大学院ができ、司法試験合格者が大幅に増加した。ところが、改革の意図に反して、それにより生じたのは、「弁護士余り」の現実だった。まったくの偶然ながら、そんな業界にとって、第三者委員会ビジネスは、「過払い金請求」と並ぶビッグビジネス・チャンスをもたらす救世主ともなったのである』、「弁護士業界」にとって、「第三者委員会ビジネスは、「過払い金請求」と並ぶビッグビジネス・チャンスをもたらす救世主ともなった」、ありそうな話だ。
・『ビジネス化が進むと、本来の役割を果たせなくなる  もちろん、法律事務所が第三者委員会で稼ぐのはけしからん、などとは言わない。ただ、「事業」という切り口からそこにアプローチすると、次のような問題が生じることになるだろう。 例えば、ここに、温かく迎え入れてくれて、抱えた問題は私たちがきれいさっぱり処理してあげましょう、というお寺と、まずあなた自身が心から反省しなさい、と性根を叩き直されるお寺があったとして、「法務部同士が連絡を取り合う」ユーザーは、どちらに駆け込むだろうか? 第三者委員会をビジネスと考えるのだったら、そのニーズに応えるサービスを提供するのが、「成功」の道だ。逆に言えば、「真因の追究」や「厳格な再発防止策の提起」は、ビジネスの拡大にとってマイナス要因になる危険性がある。その結果、当たり障りのない調査報告書が乱発されるという事態も、あり得ないことではない。 ここでも、第三者委員会を請け負う事務所が軒並みそれを単なるビジネスにしている、などとは言うまい。しかし、客観的には、不正の追及をかわして幕引きを図りたい依頼主と、そこでの仕事を拡大したい法律事務所があったら、その利害が見事に一致するのである。その構図を疑う、私のような人間もいる』、その通りだろう。第一の記事にある「第三者委員会報告書格付け委員会」は、残念ながら必ずしも十分には機能していないようだ。
タグ:第三者委員会 ZAKZAK PRESIDENT ONLINE 日本取引所自主規制法人 「名ばかりの「第三者委員会」…日産、神鋼など不祥事5社名指し批判 弁護士ら『第三者委格付け団体』」 「第三者委員会報告書格付け委員会」 (その1)(名ばかりの「第三者委員会」…日産 神鋼など不祥事5社名指し批判 弁護士ら『第三者委格付け団体』、仕事にあぶれた弁護士がむらがる「第三者委員会」という欺瞞) (委員長・久保利英明弁護士) 問題視したのは、新車の無資格検査が発覚した日産自動車、アルミ・銅などの性能データ改竄(かいざん)が分かった神戸製鋼所、燃費データの書き換え疑惑が持たれているSUBARU(スバル)、子会社で製品データ改竄が発覚した三菱マテリアル、子会社による製品検査データ改竄が判明した東レ-の5社 場会社における不祥事対応のプリンシプル」 調査の客観性・中立性・専門性確保のため第三者委員会設置が有力な選択肢 八田 進二 「仕事にあぶれた弁護士がむらがる「第三者委員会」という欺瞞」 『「第三者委員会」の欺瞞 報告書が示す不祥事の呆れた後始末』(中公新書ラクレ) 輸入ではなく、「国産」の仕組み 純然たる“メイド・イン・ジャパン”のスキーム 山一證券に置かれた「社内調査委員会」が第一号 当時の第三者委員会は、その役割を果たしていた 「第三者委員会」の看板が独り歩きを始めた 経営者の罪を隠す「有害な報告書」 フタバ産業に過年度決算の不正会計処理が発覚 短期間に3つの委員会が設置され、それぞれ異なる結論を語るというドタバタぶりを露呈 当初、発足した「社外調査委員会」はおおむね会社を擁護するような内容の報告書 一部の元執行役員には業務上横領と有印私文書偽造・同行使の罪で実刑判決 委員会の結論が徐々に先鋭化したのは、処分の見極めに関わる証券取引等監視委員会が一連の報告書の信頼性の無さに懸念を抱くこととなったから 不祥事を起こした企業の株主が「二重のダメージ」を受ける 「過払い金請求」と並ぶビッグビジネス ビジネス化が進むと、本来の役割を果たせなくなる 不正の追及をかわして幕引きを図りたい依頼主と、そこでの仕事を拡大したい法律事務所があったら、その利害が見事に一致
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

経済学(その2)(グローバル化の弊害を見落とし トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔グローバル化の弊害を見落とし トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔、自己責任という言葉に踊らされる現代人の哀れ 自分さえよければいいという人を作り出した、岩井克人が挑む「貨幣とは何か?」 シンプルで難解な問い) [経済政治動向]

経済学については、昨年7月23日に取上げた。今日は、(その2)(グローバル化の弊害を見落とし トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔グローバル化の弊害を見落とし トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔、自己責任という言葉に踊らされる現代人の哀れ 自分さえよければいいという人を作り出した、岩井克人が挑む「貨幣とは何か?」 シンプルで難解な問い)である。

先ずは、昨年11月29日付けNewsweek日本版が掲載したフォーリン・ポリシー誌上級特派員のマイケル・ハーシュ氏による「グローバル化の弊害を見落とし、トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/11/post-13509_1.php
・『<グローバル化の行き過ぎと米製造業の空洞化を見抜けず、結果的にトランプ政権誕生を助けたポール・クルーグマンがついに自己批判した> ノーベル賞の受賞者でコラムニストとしても知られる経済学者のポール・クルーグマンは、論敵をコテンパンにこき下ろす激辛の論調で名をはせてきた。 1990年代初めから精力的に著書や論説を発表。急速に進むグローバル化に疑義を唱える論客には片っ端から「経済音痴」のレッテルを貼ってきた。特に中国との競争を危惧する議論を聞くと、「バカらしい」のひとことで切って捨てる。心配ない、自由貿易が自国経済に及ぼす負の影響など取るに足らない。それがお決まりのセリフだった。 そのクルーグマンが突如、宗旨変えした。今年10月、「経済学者(私も含む)はグローバル化の何を見誤ったか」と題した論説を発表。自分をはじめ主流派の経済学者は「一連の流れの非常に重要な部分を見落としていた」と自己批判したのだ。 クルーグマンによれば、経済学者たちはグローバル化が「超グローバル化」にエスカレートし、アメリカの製造業を支えてきた中間層が経済・社会的な大変動に見舞われることに気付かなかった。中国との競争でアメリカの労働者が被る深刻な痛手を過小評価していた、というのだ。 ラストベルト(さびついた工業地帯)の衰退ぶりを見ると、ようやく認めてくれたか、と言いたくもなる。謙虚になったクルーグマンは、さらに重大な問いに答えねばならない。彼をはじめ主流派の経済学者が歴代の政権に自由貿易をせっせと推奨したために、保護主義のポピュリスト、すなわちドナルド・トランプが大統領になれたのではないか、という問いだ。 公平を期すなら、クルーグマンはここ数年、過去の見解の誤りを率直に認めるようになっていた。彼は経済学者でありながら経済学者に手厳しいことでも知られる。2008年の金融危機後には、過去30年のマクロ経済学の多くの予測を「良くても驚くほど役に立たず、最悪の場合、明らかに有害」だったと総括した。 クリントン政権で労働長官を務めた経済学者のロバート・ライシュは、国際競争の激化を懸念し、良質の保護主義的な政策と製造業の労働者の再訓練を推進しようとした。このライシュについて、クルーグマンは1990年代当時、私に「気の利いた言い回しが得意なだけで、物事を深く考えない嫌な奴」と評したものだ。 クルーグマンの宗旨変えについてライシュにコメントを求めると、「彼が貿易の何たるかをやっと理解してくれてよかった」とメールで答えてくれた。クルーグマンもメールで「ライシュについて言ったことは後悔している」と述べたが、「もっとも彼が超グローバル化を予測し、チャイナショックの影響を最小限にとどめようとしたと言うのなら、それは初耳だが」と嫌みも付け加えた。 経済学者たちはようやく自分たちの傲慢ぶりを認め、2009年にクルーグマン自身が書いたように「数学という素敵な衣装をまとった美しい理論を真実と思い込んでいた」ことに気付いたが、時すでに遅しの感もある。 経済学者たちは1960年代末から連邦政府の政策立案に大きな影響を与えるようになり、アメリカを間違った方向に導き、社会の分断を助長したと、ジャーナリストのビンヤミン・アッペルボームは指摘している。多くの経済学者が福祉を犠牲にし、効率性を最優先して「高賃金の雇用を切り捨て、低コストの技術産業に未来を託した」というのだ』、「ポール・クルーグマン」の「論敵をコテンパンにこき下ろす激辛の論調」を私は好んでいたので、「突如、宗旨変えした」ことで楽しみが1つなくなったとすれば、寂しい気がする。
・『「修正を試みても手遅れだ」  マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者、デービッド・オートーは、中国の急成長がアメリカの労働市場に及ぼした影響をデータで示してきた。オートーによればより大きな問題は、多くの経済学者が自由貿易は善だと無条件で信じていたことだ。「貿易は万人にとって有益だと政策立案者に助言するのが自分たちの務めだと思い込んでいた」 ハーバード大学の経済学者、ダニ・ロドリックは1997年に『グローバル化は行き過ぎか』という著書を発表した。当時は異端と見なされたこの本を書いたのは「経済学者がグローバル化に全く危機感を持っていなかったから」だと、彼は言う。今ではロドリックの見方が主流になっている。 さしもの経済学者たちも、自分たちが引き起こした事態に対処すべく重い腰を上げ始めた。ロドリックも元IMFチーフエコノミストのオリビエ・ブランシャールと共に格差をテーマにした会議を主宰したばかりだが、もう手遅れかもしれないと言う。トランプ政権下では、まともな議論すらできないからだ。 トランプは、アダム・スミスの時代の重商主義者もかくやの短絡的な保護主義を信奉している。貿易をゼロサムゲームと見なし、貿易黒字は利益で、貿易赤字は損失だと思い込んでいるようだ。経済学のイロハも知らない無知ぶりは「現代アメリカの大統領の中でも際立ってお粗末だ」と、アッペルボームは嘆く。 それでもトランプは、中国の台頭に対するアメリカ人の不安を背景に、史上最大の貿易戦争に打って出た。不安が広がったのは、経済学者の読み違いのせいでもある。中国の急成長でアメリカの製造業の雇用がこれほど迅速かつ大量に失われるとは、彼らは夢にも思っていなかった。 クルーグマンも指摘しているように、「2000年以降、製造業の雇用は恐ろしいほど急減」し、その急カーブはアメリカの貿易赤字、特に対中赤字拡大の急カーブと一致していた。こうしたデータが、ただのデタラメにすぎないトランプの主張に信憑性を与えたのだ。 貿易問題や所得格差、労働者のための適切な保護策に関する「まともな議論を完全に消し去ったことが、最も理不尽なトランプ効果の1つだ」と、ロドリックは言う。 クルーグマンに、彼自身も含めて経済学者がトランプ政権の誕生を助けたのではないか、と聞いてみた。「それについては、まだ議論している最中だ」と、彼は答えた。「これは私の考えだが、トランプの(保護主義的な)貿易政策はさほど支持されておらず、トランプ人気に貢献したとは思えない。その意味でトランプ現象を経済学者たちのせいにするのはいささか酷ではないか」』、「トランプは・・・貿易をゼロサムゲームと見なし、貿易黒字は利益で、貿易赤字は損失だと思い込んでいるようだ」、超一流経済学者が多いアメリカでよりにもよってこんな大統領が出現したとは、経済学の無力さを露呈したのかも知れない。
・『レッテル貼りと締め出しと  そうは思わない人もいるだろう。問題の一端は、グローバル化は善だというコンセンサスが姿を現しつつあった1990年代、経済学者たちは貿易問題を「自由貿易主義」か「保護主義」かの2つに1つという単純な図式で捉える傾向があったことだ。 クルーグマンもおおむね自由貿易論者の立場を取った。ノーベル経済学賞の受賞理由となった(グローバル化の悪影響も指摘した)論文が、(自由貿易を推進する)彼の著書やコラムに比べると微妙に矛盾するニュアンスを帯びていたことを思うと皮肉な話だ。 一方で政策論争に関わった人々の中には、急速なグローバル化にクルーグマンよりずっと強い懸念を抱いた人々もいた。その代表格が、ロドリックやライシュ、クリントン政権で国家経済会議議長を務めたローラ・タイソンといった人々だ。彼らは自由貿易こそ善という考え方に異議を唱えたり、タイソンのようにアメリカの競争力を高めるための産業政策を推進したりした。クルーグマンはこうした考え方も忌み嫌った。 クルーグマンは、自身の読み違えは貿易が労働者や経済格差に与えた影響に関するものであり、あくまでも「限定的なものだった」と言う。確かにその言い分は間違っていない。 だが冷戦終結後、貿易をめぐる議論は、自由市場vs政府による介入という、より幅広い議論の「代理戦争」となっていた。クルーグマンは「戦略的貿易論者の、経済学に対する無知の表れ」と彼の目に映ったものを大々的に攻撃した。戦略的貿易論者とは、人件費の安い途上国との競争で、アメリカの雇用と賃金は深刻な影響を受けると主張する人々だ。 ジャーナリストのウィリアム・グレイダーは著書の中で、途上国の攻勢により「アメリカが勝つ分野と負ける分野」が出てくるだろうと警告したが、クルーグマンからは「全くバカげた本」と評された。シンクタンク、ニューアメリカ財団のマイケル・リンド共同創立者が、アメリカの生産性が伸びても「世界の搾取工場である国々」にはかなわないかもしれないと指摘した際も、クルーグマンは経済の「事実」を知らない門外漢のくせに、と一蹴した。 クルーグマンに言わせれば、この手の議論はいわゆる「悪い経済学」だった。他の国の動向など気にし過ぎてはならない。あらゆる国が開かれた貿易から利益を得ることができるという新古典派経済学の概念が安定をもたらすはずだ──。自由貿易よりも市場への政府の介入に類するものや公正貿易(関税や失業保険、労働者保護の拡充と同義だ)を支持する人は、「保護主義者」の烙印を押され議論から締め出された。 確かにクルーグマンは、医療保険制度や教育の改革といった中間層に対する保護政策は大切だと常に考えてきた。また、貿易問題での見誤りを認めたからといって、いわゆるワシントン・コンセンサスを正しいと言っていたことにはならないとも述べている。ワシントン・コンセンサスとは、財政規律と急速な民営化、規制緩和を支持するネオリベラル(つまり自由貿易主義)的な考えだ。 「私たちを批判していた人全てが正しかったわけではない。肝心なのは彼らが何を言ったかだ。私の知る限り、これほど(中国などが)貿易で台頭することを予見した人も、それが一部地域に与える悪影響について注目していた人もほとんどいなかった」と、クルーグマンは言う。 だがグローバル化を善とする考え方はさらに深い問題もはらんでいた。やはりノーベル賞を受賞した経済学者のジョセフ・スティグリッツは90年代、ロドリックと同様に貿易や投資の障壁を急激に取り払えば破壊的な影響をもたらすと警告していた。彼は「標準的な新古典派的分析」の問題点は「調整に全く無頓着だったところだ」と述べた。「労働市場の調整コストは驚異的なほど少ない」』、「クルーグマン」自身も「ノーベル経済学賞の受賞理由となった(グローバル化の悪影響も指摘した)論文が、(自由貿易を推進する)彼の著書やコラムに比べると微妙に矛盾するニュアンスを帯びていた」、のに単純化して自由貿易推進派になったのは、確かに矛盾している。「ジョセフ・スティグリッツ」や「ロドリック」のように、「貿易や投資の障壁を急激に取り払えば破壊的な影響をもたらすと警告」していた人々もいたことを知って、少しは安心した。
・『大統領選では左派候補を支持  スティグリッツはクリントン政権で大統領経済諮問委員会委員長を務め、国際的な資本の流れにブレーキをかけることを訴えるなどした(が実現しなかった)。つまり彼はタイソンやライシュと同じ非主流派だったのだ。また彼は「通常、雇用の破壊は新たな雇用の創出よりもずっと速く進む」と主張していた。 スティグリッツはフォーリン・ポリシー誌でこう論じている。「(グローバル化の)コストを背負うのは明らかに、特定のコミュニティー、特定の場所になるだろう。製造業が立地していたのは賃金の安い地域だった。つまりこうした地域では調整コストが大きくなりがちだった」 また、グローバル化の負の影響は一過性のものでは終わらない可能性も明らかになってきている。アメリカ政府が途上国との貿易を急速に自由化し、投資に関する合意を交わしたために「(労働組合の弱体化や労働規制の変化の影響も相まって)労働者の交渉力は劇的に変わってしまった」とスティグリッツは指摘した。 最大の負け組はやはり、アメリカの労働者だ。経済学者はかつて、好況下では労働者は自分たちの賃金を引き上げる力を持つと考えていた。だが最近の見方はちょっと違う。多国籍企業が全世界を自らの縄張りに収めて四半世紀がたち、グローバル化した資本は国内に縛られたままの労働者よりも優位に立った。 主流派の経済学者たちがこれほど急に左寄りになったことに驚いているのは当の経済学者たちだ。多くは前述の格差問題に関する会議でこのことに気付かされた。来年の米大統領選挙では、経済学者たちの支持は中道のジョー・バイデン前副大統領よりもエリザベス・ウォーレン上院議員やバーニー・サンダース上院議員などの革新派候補に流れているとの声も参加者からは聞かれた。 「私はフランスでは社会主義者なのに、ここに来たら中道だった」と、ブランシャールは冗談を飛ばした。これぞ1990年代の読み違えが残した「置き土産」かもしれない。 タイソンは言う。「みんな、いかに状況が急激に変わり得るかに気付いていなかった」 From Foreign Policy Magazine)』、「自由貿易」や「グローバル化」論議は、EUの市場統合、英国のEU離脱にも影響を与える幅広い問題で、今後の展開が1つの注目点だ。

次に、本年3月20日付け東洋経済オンラインが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏による「自己責任という言葉に踊らされる現代人の哀れ 自分さえよければいいという人を作り出した」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/337633
・『今から20年前の2000年を超えたあたりから、アメリカ流の新自由主義的な考え方が日本に流れ込んできました。そのとき、セットで取り上げられたのが「自己責任論」です。 実はこの「自己責任論」が大手を振るう中で、それに振り回される形でさまざまなものを抱え込み、心を病んでしまう人が少なくありません。「自己責任論」が持つ矛盾と、それを振りかざす論者たちの本当の思惑を知ることで、心の病に陥るスパイラルから脱することが大切です。拙著『メンタルの強化書』をもとに解説します』、興味深そうだ。
・『一見、まともに見える自己責任論  まず「自己責任」が声高に言われ始めたのが金融業界でした。金融自由化で銀行をはじめ金融機関はさまざまな商品を扱えるようになります。そしてリテール部門、つまり個人顧客の開拓に力点が置かれるようになりました。 ここで「自己責任論」が出てくるのです。要は、顧客が購入した金融商品が元本割れをした際、その責任を誰が取るのかという問題です。当時、金融機関はバブル処理がまだ完全に終わっていないところもあり、決して安定している状況ではありませんでした。 まして護送船団方式が解除され、諸外国の金融機関も含めた競争の激化が予想されました。リテール部門での責任をいちいち追及されたらたまったものではありません。先手を打って自己責任という言葉を出してきたと思われます。 商品にリスクがあることを自分たちはしっかりと説明する責任を果たす。購入する方はその説明を聞いたうえで、自分で判断する。だから結果に対しては「自己責任」を取らなければいけないという論理でした。 一見、至極当然のようにも聞こえるところがミソなのです。しかし、言葉の意味をしっかりと吟味したら、この「自己責任論」がおかしいことがわかります。 まず、彼らの言う「自己責任」とは、英語で言うところの「own risk」です。すなわち「危険の負担」であって、責任の概念とは違うものです。own riskとは「自分で利益を求めようとして自分で決定した場合には、予期せぬ不利益(リスク)も併せて背負わなければいけない」という考え方です。 これは、株式投資などで資本を調達する資本主義の大前提であり、改めて自己責任などという、いかめしい言葉を出す必要などありません。「商品購入の際はリスクも併せて負担しましょう」ということでいいのです』、「貯蓄から投資へ」の流れも「自己責任論」が強まった背景だ。
・『「自己責任」は不自然な言葉だ  そもそも「自己責任」という言葉自体がおかしな言葉です。まず、「責任」という言葉は英語でresponsibilityと訳されますが、そのもとはラテン語のrespondereだとされます。その本来の意味は、古代ローマにおいては法廷で訴えられた人物が、自分の行為について説明したり弁明したりすることを指しているとされます。 また、近代の市民革命によって市民が自由を獲得した際、「自由」の行使には「責任」が伴うとされました。「自由なきところに責任なし。責任なきところに自由なし」と言われ、「自由」と「責任」は表裏、セットの概念となりました。 先ほどのラテン語の意味と合わせると、「責任とは自由意思に基づいて行動した結果に対して、その本人が他者に対して説明し、しかるべき対応をすること」というのが、近代以降の「責任」の考え方です。 ですから欧米で責任(responsibility)と言った場合、他者とのコミュニケーションが前提とされます。なぜなら説明義務が生じるのは本人であることは自明ですから、改めて「自己」をつける必要がないからです。 さらに言えば、「own responsibility」という言葉もありますが、日本語の責任とはニュアンスを異にする独断という意味です。このような言葉をあえて掲げなければならない状況自体がすでに不自然であり、おかしいのです。 この不自然な言葉である「自己責任」が、やたらと使われた場面がもう1つありました。それが非正規雇用の拡大の場面です。小泉内閣のときに行われた労働法の改正で、非正規雇用の枠組みが広げられました。それによって非正規雇用が一気に増え、ワーキングプアなどの問題が噴出しました。 当時、年末の日比谷公園などに、ネットカフェで寝泊まりする非正規雇用者や路上生活者などが集まり、ボランティアの人たちから炊き出しを受けている光景がニュースになったのを覚えているでしょうか? そのときにしきりに論じられたのが「自己責任」という言葉です。彼らは職業選択の自由の中であえて非正規雇用を選んだのであり、その結果に対する責任は当然彼ら本人にあるとされました。あるいは正社員になれなかったのは自由な競争の中で彼らが努力することを怠り、しかるべき能力を身に付けてこなかったからで、それも自己責任だというものでした。 当時は、職場でもプライベートでも「自己責任でやってくれ」とか、「自己責任をきちんと果たしてください」などと、猫も杓子も「自己責任」という言葉を使っていました。 その言葉とともに使われるようになったのが「努力」という言葉でした。先ほどのワーキングプアも、結局彼らの「努力」が足りないために非正規雇用で働かざるをえなかったのだから、それは「自己責任」だという論理です。 「自己責任」はいつしか「自助努力」とパラレルで語られるようになりました。いかにも新自由主義的な発想だと考えますが、ここにこの問題のすり替えがあります』、「彼らは職業選択の自由の中であえて非正規雇用を選んだのであり、その結果に対する責任は当然彼ら本人にあるとされました。あるいは正社員になれなかったのは自由な競争の中で彼らが努力することを怠り、しかるべき能力を身に付けてこなかったからで、それも自己責任だというものでした」、日本国民としての仲間意識などは微塵も感じられない非常に冷たい見方だ。
・『労働者に責任を転嫁する人たち  そもそも「責任」という概念は「自由」という概念とはつながっていますが、「努力の有無」とはまったく関係のない概念です。「努力しなかったことの責任が問われる」としたら、それはいったいどういう社会なのでしょう?もちろん「努力しなかった結果はしっかりと受け入れなければならない」という道義的な理屈は成り立っても、そこに「責任」が生じるという理屈は、あまりにも飛躍があります。 新自由主義的な競争社会においては、まさにそのような考え方がフィットするのだと思いますが、本質をはき違えた論理だと思います。努力は本人が自主的、主体的にするものであって、第三者が努力しろと強制する権利は本来どこにもありませんし、努力しなければいけないという義務など存在しないのです。当然そこに責任など生じるものではありません。 「責任」は「自由」と表裏だとしたら、雇用者と被雇用者ではどちらの自由度が高いでしょうか?マルクスは、資本家は生産手段を持っていて、だからこそ労働者よりもはるかに有利で自由な立場に立っていると言います。自由と責任は表裏一体だとするならば、自由度の高い雇用者のほうがより責任が大きくなるということは当然の帰結です。 そう考えるならば、正規雇用と非正規雇用の二極化によって起きるさまざまな出来事に対して、本来責任を持つべきは雇用者であり、資本家の側だという結論になるはずです。 私は、非正規雇用者に向けられた「自己責任論」は、雇用者側が本来取るべき責任を、自由度の少ない弱者に転嫁する「責任転嫁論」にほかならないと考えます。むしろ「自己責任」を追及されるべきは雇用者側ではないでしょうか? 流動性が高く、いつでも辞めさせることができる安い労働力を必要としていたのは、雇用者のほうです。自分たちの都合で仕組みを変えておきながら、その責任を被雇用者に押し付けるというのは、二重の意味で厚かましい。それこそ「下品」なやり方です。 ことほどさように、世の中は下品力あふれる人たちの厚かましい論理が、あたかも正論のようにマスメディアに乗って流布されるのです。この転倒した世の中で、下品になりきれない多くの人たちが、心を折り、心を病んでしまっています。 ですが、世の中の構造やカラクリを解きほぐし、その欺瞞や嘘を知ることで、少しは心が軽くなるのではないでしょうか?少なくとも自己責任論のようなめちゃくちゃなロジックに振り回される必要などないということが、わかっていただけると思います』、「「自己責任論」は、雇用者側が本来取るべき責任を、自由度の少ない弱者に転嫁する「責任転嫁論」にほかならないと考えます」、同感だ。
・『神の前で反省し、悔い改めればいい  ちなみに、先ほどの「責任」という考えは、キリスト教ではまったく違った捉え方をします。キリスト教では人間は堕落した存在であり、到底自由を与えられるべき存在ではありません。 「自由」がもともと与えられていないのですから、「責任」など人間には最初からないということになります。逆に、自分のしたことに対して「責任」を取ろう、あるいは取れると考えること自体が、愚かで不完全な人間の傲慢なのです。 人間は不完全で愚かであるから、必ずどこかで失敗し、罪を犯します。その時に神に向かってrespons、すなわち弁明することは許されています。そして神の前で反省し、悔い改めることだけが求められているのです。 では、人間の罪の責任はだれが負うのでしょう?それは人間を作り出した神が自ら負うのです。神の子イエスがゴルゴタの丘で自らの命を捧げたのは、まさに愚かな人間の罪を贖うためでした。 そんな視点から改めて世の中を見ると、巷間言われている「自己責任論」など、なんともちっぽけでつまらないものに思えてこないでしょうか?詳しくは拙著『メンタルの強化書』に書きましたが、愚かな人間は互いに手を取り合うことなく、取ることもできない責任を勝手に作り出し、それによって同胞をおとしめ、自分だけが這い上がろうと足掻いているのです。なんとも哀れで滑稽な姿に見えてきます。 現代社会の価値観にどっぷりつかっていると、えてしてその価値だけが唯一のように錯覚してしまいます。しかし、視野を広げ、時間と空間を広げてみれば、考え方や価値観、生き方の解は決して1つではないことに気がつくでしょう』、『メンタルの強化書』が、「新自由主義」的な「自己責任論」に苦しめられている人々に救いになることは確かなようだ。

第三に、4月17日付けダイヤモンド・オンライン「岩井克人が挑む「貨幣とは何か?」、シンプルで難解な問い」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/234917
・『日本を代表する経済学者が30年以上にわたって挑み続けてきた全記録  「貨幣とは何か?」「その価値の根拠はどこにあるのか?」 これは誰でも一度は考えてみたことがあり、古代ギリシアの哲人アリストテレス以来、多くの哲学者や経済学者によって考察がなされてきた、シンプルでありながら実は極めて難解な問いである。マルクスの言葉を借りれば、貨幣とは「形而上学的な不思議さに満ち満ちた存在」なのである。 本書『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』は、日本を代表する経済学者で、稀代の教養人である岩井克人が、アリストテレスからアダム・スミス、カント、モンテスキュー、ゲーテ、シュンペーター、ケインズ、ハイエク、フリードマンに至るまで検証し、30年以上にわたってこの問題に挑み続けてきた全記録である。 岩井は、正統派の近代経済学からスタートして、東京大学、イエール大学、プリンストン大学などの超一流大学で教鞭をとる傍ら、『ヴェニスの商人の資本論』『貨幣論』『二十一世紀の資本主義論』『会社はこれからどうなるのか』『経済学の宇宙』といった著書を通じて、貨幣や会社など様々な社会問題について思想的考察を行なってきた。 岩井が貨幣の本質に迫った『貨幣論』を書いたのは1993年だが、貨幣の研究を本格的に始めたのは1980年代の初め頃である。それ以来、岩井の貨幣論の基本は全く変わっていない。それどころか、グローバル化の進展によって地球全体がひとつの資本主義社会になり、より純化したことで、現実の方が『貨幣論』で描いていた理論的な世界にどんどん近づいてきている。 貨幣がおカネとしての価値を持つ根拠として、「貨幣商品説」と呼ばれるものがある。金銀がおカネとして使われるのは、それが多くの人が手に入れたがる価値の高い商品だからという説明である。しかしながら、これは、「あるモノがおカネとして流通しているときには、おカネとしての価値はモノとしての価値を必ず上回っている」という事実に反している。 これに対して、国家や君主や共同体などにその根拠を見いだそうとするのが、「貨幣法制説」である。法律や命令などで貨幣として定めたからおカネは流通するのだという説明であり、今日では、この貨幣法制説が経済学者の間での通説になっている。今話題の「現代貨幣理論(MMT)」は、正にこの貨幣法制説に依拠しているのだが、岩井に言わせれば、この説もやはり不十分である。 1741年にオーストリアで発行されたマリア・テレジア銀貨はヨーロッパ全土で流通し、更には時代を超えて、中東や東アフリカで使われ続けた。ハプスブルク家が支配した帝国は1918年に滅んだにも関わらず、エチオピアのカファ地方では、1970年代までコーヒー取引のための貨幣として流通していた。これは、貨幣が貨幣として流通するためには、法律や命令は必ずしも必要がないということを示している』、確かに「マリア・テレジア銀貨」が、今に至るまで「中東や東アフリカで使われ続けた」、というのは、「貨幣法制説」の「不十分」さを示している。
・『貨幣と商品とはどこが違うのか  岩井に言わせれば、我々がおカネを受け取るのは、「ほかの人」がその価値があるおカネとして次に受け取ってくれると信じているからである。つまり、貨幣の価値というのは、商品と同様に社会が与えているのである。 それでは、貨幣と商品とはどこが違うのか。おカネには、人間のモノに対する欲望のような実体的な根拠は存在しない。誰もが貨幣として受け取るから貨幣なのであり、「貨幣とは貨幣であるから貨幣である」という自己循環論法になっているのである。 貨幣商品説だけでなく貨幣法制説をも明確に否定して、人類がこの自己循環論法にまでたどり着くには、 17世紀末にスコットランドで生まれ、フランスの中央銀行総裁と財務大臣にまで登り詰め、世界三大バブルのひとつ「ミシシッピバブル」を招いた、ジョン・ローというトリックスターの登場を待たなければならなかった。 ジョン・ローは、『貨幣と商業』という著作の中で、のちに「ローのシステム」と呼ばれることになる、中央銀行による「銀行貨幣制度」を提案し、そこで貨幣の自己循環論法を提示している。現代の金融システムは、この「ローのシステム」そのものであり、経済の効率性を大いに高めると同時に、経済の不安定性をも大いに高めるという、「効率性と安定性の二律背反」を背負ったものなのである。 「自分がモノとして使うためではなく、将来、ほかの人に売るために何かを買うこと」というのが投機の定義である。その意味で、おカネを使うこと、即ち、それ自体何の使い道もないおカネをおカネとして流通させるという行為こそが、実は最も純粋な投機だと言える。 我々が生きているのはおカネに全面的に依拠した社会であり、そのおカネを使うことが純粋な投機なのだとすれば、資本主義社会は本質的に不安定性を抱え込んでいることになる。なぜなら、投機は必ずバブルを生み出し、膨れ上がったバブルは必ず崩壊し、それは必ず混乱とパニックを招くからである。 ▽法だけではなく、おカネの下でも人間は平等(マルクスは『資本論』の中で、「貨幣はレヴェラーズだ」と言っている。「レヴェラーズ」とは「平等派」という意味で、17世紀半ばのピューリタン革命の時に、法の下での平等を唱えた急進的な政治グループのことを指す。マルクスが言おうとしたのは、人間は貨幣を持つことにより匿名性を獲得する、つまり、法だけではなく、おカネの下でも人間は平等だということである。 貨幣は、互酬的交換によってお互いが緊密に結びつけられた共同体的な束縛から個人を自由にし、一人一人が独立した市民として投票する民主制の発展を促した。つまり、おカネの下の平等が、法の下の平等を生み出したのである。 このように、貨幣は人間に自由を与えたが、人間は言語によって今ここに存在しない事物についても思考できるから、人間に想像力がある限り、可能性に対する欲望は満たされることはない。人間は「あらゆるモノを手に入れられる可能性」を与えてくれるものとして、貨幣それ自体を欲望するようになる。 従って、こうした無限の欲望に拠って立つ貨幣社会は本質的に不安定であり、人間の自由そのものが社会の危機をもたらすことになる。そして、その行き着く先は、ポピュリズムや全体主義という悪夢である。このように、貨幣をめぐる個人の自由と社会の安定は二律背反的であり、自由を守るためには自由放任主義と決別しなければならないのである。 アリストテレスは、今から2300年以上も前にこの貨幣の不思議に気づき、『政治学』の中で次のような言葉を残している。 「貨幣による財獲得術から生まれる富は際限がない。なぜならば、その目的を可能な限り最大化しようと欲するからだ。生きる欲望に果てはないのだから、彼らは満たしうる際限のない財を欲することになる。貨幣は元々交換のための手段。しかし、次第にそれを貯めること自体が目的化する。」 あらゆるモノを手に入れる「手段」である貨幣が、具体的なモノと切り離されて、それ自体がひとつの「目的」に転化した。終極点が新たな出発点になり、新たな終極点が更に新たな出発点となっていくこのプロセスに終わりはない。ここで、より多くの貨幣を絶えず求め続ける「貨幣の無限の増殖活動」としての資本主義が始まることになる。アリストテレスが嘆いたように、人々は「善く生きることではなく、ただ生きることに熱中する」ようになるのである』、「貨幣は人間に自由を与えたが、人間は言語によって今ここに存在しない事物についても思考できるから、人間に想像力がある限り、可能性に対する欲望は満たされることはない。人間は「あらゆるモノを手に入れられる可能性」を与えてくれるものとして、貨幣それ自体を欲望するようになる。 従って、こうした無限の欲望に拠って立つ貨幣社会は本質的に不安定であり、人間の自由そのものが社会の危機をもたらすことになる」、「貨幣をめぐる個人の自由と社会の安定は二律背反的」、その通りなのだろう。。
・『「自由放任主義的な資本主義」の形が地球規模で完成  『欲望の資本主義』シリーズに登場する哲学者マルクス・ガブリエルは、今日の資本主義を、「商品生産に伴う活動全体」と再定義している。そして、資本主義は「商品の生産」そのものになり、これ自体が見せるためのショーになっているという。ただ差異を生み続けるためだけの果てしない資本の運動、つまり、絶対的な価値を見出すことよりも相対的な価格競争が勝ってしまい、差異を生むこと自体が自己目的化していく世界である。 そして今や、「自由放任主義的な資本主義」の形が地球規模で完成つつある。繰り返される金融危機、拡大する所得格差、そして急速に進む地球温暖化といった形で、資本主義に本来的に内在している不安定性や不平等性や不可逆性が一気に顕在化してきている。 こうした際限のない貨幣への欲望に対抗し、社会の不安定性を抑えるために、岩井は、アメリカ独立やフランス革命などの動乱期のヨーロッパにあって、大陸合理論とイギリス経験論を調停したと言われる哲学者カントの倫理学に着目する。即ち、「他のすべての人間が同時に採用することを自分も願う行動原理によって行動せよ」と命ずる、カントの道徳律である。 ここでもう一度繰り返すと、貨幣は人間を自由にする。自由とは、自分自身の領域を持っていて、自分で自分の目的を決定できることである。そして、これが「人間の尊厳」なのである。しかし、自由と安定は両立せず、常に二律背反的である。 岩井に言わせれば、資本主義というのは人類の歴史の中から生み出された普遍的な存在である。その中で人間の尊厳を守り続けるためには、同情、共感、連帯、愛情といった個々の感性に依拠するのではない、より普遍的な原理を持ってくる必要がある。それが、他者を邪魔しない最低限の義務としての「規範」なのである。そして、人はその規範を守る限りにおいて、誰からも侵されることのない領域である「人間としての尊厳」を保てるのである』、「哲学者カントの倫理学」は「大陸合理論とイギリス経験論を調停した」、初めて知った。なかなか巧みな「調停」のようだ。
・『世界が静止している今、自分自身を振り返ることができる  岩井は『貨幣論』の中で、資本主義における最悪の状況である「恐慌」(おカネのバブル)と「ハイパーインフレーション」(おカネのパニック)に関して、次のように語っている。 「人間社会において自己が自己であることの困難と、資本主義社会において貨幣が貨幣であることの困難とのあいだには、すくなくとも形式的には厳密な対応関係が存在しているのである。」 こうした不安定さの中においても、岩井は資本主義そのものを否定することはしない。岩井が思い描く「規範」に基づく資本主義の新しい姿というのは、「倫理」という言葉で表されるものである。それは、2018年の京都大学経済研究所でのシンポジウムをベースにした近著『資本主義と倫理:分断をこえて』の中で垣間見ることができるが、その全貌を一刻も早く我々に見せてもらいたい。 新型コロナウィルスがグローバル経済を一気に破壊していく様を見ながら、皆、改めて世界が一体となったグローバル資本主義社会に生きていることを実感していると思う。世界が静止している今、自分自身を振り返ることができる正にこの瞬間にこそお勧めしたい一冊である』、「資本主義における最悪の状況である「恐慌」(おカネのバブル)と「ハイパーインフレーション」(おカネのパニック)に関して、次のように語っている。 「人間社会において自己が自己であることの困難と、資本主義社会において貨幣が貨幣であることの困難とのあいだには、すくなくとも形式的には厳密な対応関係が存在しているのである」、この「対応関係」を詳しく知るには、『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』を読むしかなさそうだ。
タグ:東洋経済オンライン 経済学 タイソン ダイヤモンド・オンライン 佐藤 優 Newsweek日本版 (その2)(グローバル化の弊害を見落とし トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔グローバル化の弊害を見落とし トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔、自己責任という言葉に踊らされる現代人の哀れ 自分さえよければいいという人を作り出した、岩井克人が挑む「貨幣とは何か?」 シンプルで難解な問い) マイケル・ハーシュ 「グローバル化の弊害を見落とし、トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔」 グローバル化の行き過ぎと米製造業の空洞化を見抜けず、結果的にトランプ政権誕生を助けたポール・クルーグマンがついに自己批判した 論敵をコテンパンにこき下ろす激辛の論調 クルーグマンはここ数年、過去の見解の誤りを率直に認めるようになっていた 「修正を試みても手遅れだ」 ダニ・ロドリック 『グローバル化は行き過ぎか』 トランプは、アダム・スミスの時代の重商主義者もかくやの短絡的な保護主義を信奉している。貿易をゼロサムゲームと見なし、貿易黒字は利益で、貿易赤字は損失だと思い込んでいるようだ。経済学のイロハも知らない無知ぶりは「現代アメリカの大統領の中でも際立ってお粗末だ」 レッテル貼りと締め出しと 「自由貿易主義」か「保護主義」か ノーベル経済学賞の受賞理由となった(グローバル化の悪影響も指摘した)論文が、(自由貿易を推進する)彼の著書やコラムに比べると微妙に矛盾するニュアンスを帯びていた ロドリック ライシュ ジョセフ・スティグリッツは90年代、ロドリックと同様に貿易や投資の障壁を急激に取り払えば破壊的な影響をもたらすと警告 大統領選では左派候補を支持 「自己責任という言葉に踊らされる現代人の哀れ 自分さえよければいいという人を作り出した」 新自由主義的な考え方 セットで取り上げられたのが「自己責任論」 一見、まともに見える自己責任論 金融自由化で銀行をはじめ金融機関はさまざまな商品を扱えるようになります 顧客が購入した金融商品が元本割れをした際、その責任を誰が取るのかという問題 商品にリスクがあることを自分たちはしっかりと説明する責任を果たす。購入する方はその説明を聞いたうえで、自分で判断する。だから結果に対しては「自己責任」を取らなければいけないという論理 「自己責任」とは、英語で言うところの「own risk」です。すなわち「危険の負担」であって、責任の概念とは違う 株式投資などで資本を調達する資本主義の大前提であり、改めて自己責任などという、いかめしい言葉を出す必要などありません。「商品購入の際はリスクも併せて負担しましょう」ということでいいのです 「自己責任」は不自然な言葉だ 「自由なきところに責任なし。責任なきところに自由なし」と言われ、「自由」と「責任」は表裏、セットの概念となりました 責任とは自由意思に基づいて行動した結果に対して、その本人が他者に対して説明し、しかるべき対応をすること」というのが、近代以降の「責任」の考え方 欧米で責任(responsibility)と言った場合、他者とのコミュニケーションが前提 「own responsibility」という言葉もありますが、日本語の責任とはニュアンスを異にする独断という意味 非正規雇用の枠組みが広げられました 彼らは職業選択の自由の中であえて非正規雇用を選んだのであり、その結果に対する責任は当然彼ら本人にあるとされました。あるいは正社員になれなかったのは自由な競争の中で彼らが努力することを怠り、しかるべき能力を身に付けてこなかったからで、それも自己責任だというものでした 労働者に責任を転嫁する人たち 「自己責任論」は、雇用者側が本来取るべき責任を、自由度の少ない弱者に転嫁する「責任転嫁論」にほかならないと考えます 神の前で反省し、悔い改めればいい 「岩井克人が挑む「貨幣とは何か?」、シンプルで難解な問い」 日本を代表する経済学者が30年以上にわたって挑み続けてきた全記録 岩井克人「欲望の貨幣論」を語る マリア・テレジア銀貨 中東や東アフリカで使われ続けた 「貨幣法制説」の「不十分」 貨幣と商品とはどこが違うのか ジョン・ロー 中央銀行による「銀行貨幣制度」を提案し、そこで貨幣の自己循環論法を提示している 貨幣は人間に自由を与えたが、人間は言語によって今ここに存在しない事物についても思考できるから、人間に想像力がある限り、可能性に対する欲望は満たされることはない。人間は「あらゆるモノを手に入れられる可能性」を与えてくれるものとして、貨幣それ自体を欲望するようになる。 従って、こうした無限の欲望に拠って立つ貨幣社会は本質的に不安定であり、人間の自由そのものが社会の危機をもたらすことになる 貨幣をめぐる個人の自由と社会の安定は二律背反的 「自由放任主義的な資本主義」の形が地球規模で完成 哲学者カントの倫理学 大陸合理論とイギリス経験論を調停した 世界が静止している今、自分自身を振り返ることができる 人間社会において自己が自己であることの困難と、資本主義社会において貨幣が貨幣であることの困難とのあいだには、すくなくとも形式的には厳密な対応関係が存在しているのである
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

英国EU離脱問題(その16)(英 EU市場アクセス縮小なら格下げも S&Pとムーディーズが警告、EU離脱の英国が描く「経済的繁栄」の現実性 成長力低下の見方が大半、EU離脱の原点ーー「イギリス版ファシズム」という黒い歴史 労働者階級「反乱」の系譜) [世界情勢]

英国EU離脱問題については、昨年12月18日に取上げた。今日は、(その16)(英 EU市場アクセス縮小なら格下げも S&Pとムーディーズが警告、EU離脱の英国が描く「経済的繁栄」の現実性 成長力低下の見方が大半、EU離脱の原点ーー「イギリス版ファシズム」という黒い歴史 労働者階級「反乱」の系譜)である。

先ずは、本年1月31日付けロイター「英、EU市場アクセス縮小なら格下げも S&Pとムーディーズが警告」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/brexit-sp-moodys-idJPKBN1ZT2EM
・『格付会社のS&Pグローバル・レーティングとムーディーズは30日、英国のソブリン格付けについて、欧州連合(EU)離脱後の貿易協定で英国のEU市場へのアクセスが大幅に縮小された場合、現在の格付けは脅威にさらされると警告した。 S&Pの英格付けは現在「AA」。格付け見通しは「安定的」としている。以前は最高級の「AAA」だったが、EU離脱支持派が多数を占めた2016年の国民投票直後に2段階引き下げた。 S&Pは「現在の英格付けにはEU市場アクセスの急速な悪化は反映されていない。この仮定通りにならなかった場合、英国のソブリン格付けに対する下向き圧力が増大する可能性がある」とした。 その上で、包括的、恒常的な通商合意が得られなければ、企業が英国で大規模な投資を実施することに消極的になる状況は続くと警告。「投資減退は英国の経済成長率が1.8%を下回るトレンドが継続することを意味する」とした。 ムーディーズの英格付けは「Aa2」と、S&Pと同水準。ただ格付け見通しは「ネガティブ」としている。 ムーディーズは「経済関係が緩くなれば、英国の経済ファンダメンタルズは構造的に弱くなる。度合いは低いがEUも同様の状況になる。 こうした構造的な弱さは英国のソブリン格付け、および英国に関連する発行体の格付けに対する明らかなマイナス要因となる」と指摘。「英経済の中期的な成長見通しはEUとの将来的な関係がどのようなものになるかに大きく左右される」とした。 欧州議会は29日、英国のEU離脱協定案を正式に承認。これを受け、英国は31日2300GMT(日本時間2月1日午前8時)にEUを離脱する。離脱後は年末までの「移行期間」に入り、EUと貿易や安全保障などに関する新たな関係について交渉を行う』、「2016年の国民投票直後に2段階引き下げた。 S&Pは「現在の英格付けにはEU市場アクセスの急速な悪化は反映されていない。この仮定通りにならなかった場合、英国のソブリン格付けに対する下向き圧力が増大する可能性」、今後の「包括的、恒常的な通商」交渉も、英国政府が目指している完全離脱では、格下げ必至のようだ。

次に、2月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したみずほ総合研究所欧米調査部 上席主任エコノミストの吉田健一郎氏による「EU離脱の英国が描く「経済的繁栄」の現実性、成長力低下の見方が大半」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/229058
・『EUとの新経済貿易協定締結に向けた交渉が始まる 2020年1月31日、英国は欧州連合(EU)から離脱した。 2016年6月の国民投票から3年半がたち、この間、英国では2度の首相交代と2度の総選挙が行われた。国民は「ブレグジット疲れ(Brexit fatigue)」に陥り、英議会は機能不全に陥った。 ボリス・ジョンソン首相のもとで、まずは英・EUの新しい関係性を定めた包括的な経済貿易協定締結に向けた交渉が始まるが、関税撤廃のほかにも、政府の補助金や法人向け課税、環境基準、漁業権などの問題で隔たりがある。 2020年12月末の移行期間までに協定締結にこぎつけるのは難しそうだ。 また将来、EUとのFTAが結ばれたとしても、EU残留の場合より英国経済の潜在GDPは低下するとの見方が大半だ。 英国はどこへ向かうのか、新たな“実験”になる』、今後の交渉のポイントを把握する上で、参考になりそうだ。
・『短過ぎる「11カ月」の移行期間 期間延長の可能性が強い  今後のEUとの協議の主な予定は図表1(リンク先参照)に示されるとおりだ。 欧州委員会は、2月に新協定交渉の権限を欧州委員会に与えるための交渉指令草案を発表した。 交渉指令草案は2月25日に開催されるEU一般閣僚理事会で採択される予定で、これにより交渉が正式に始まる。 新協定は、「自由貿易協定(FTA)を核とした、刑事司法、外交や治安、国防などを含む貿易と経済協力に関する野心的、広範、柔軟なパートナシップ」とされる。 モデルになるのが、カナダ・EU間で2017年9月に暫定発効した包括的経済貿易協定(CETA)と言われるが、実際はCETAよりも幅広く深い協定が目指されており、「カナダ・プラス」などと呼ばれている。 離脱後は、2020年12月末までの移行期間に入る。 移行期間は新協定を協議するために設けられたものであり、これまで同様、人や財、資本やサービスなどの自由な移動が可能である。 移行期間中、英国はEUの意思決定には参加できないが、日本や米国など第三国との経済協定締結に向けた交渉を開始することが可能だが、移行期間が過ぎると、これらの自由移動は制限される。 問題となるのは、移行期間が約11カ月と短すぎることだ。 上述のCETAでは、交渉開始から暫定発効まで8年かかった。日本との経済連携協定(EPA)でも、2013年4月の交渉開始から、2017年2月の大筋合意まで約4年、2019年2月の発効まで6年かかった。 英国、EUが新協定で大筋合意した後も、EU加盟の27カ国語に合意文書を翻訳するなどの手間があり、新協定を2020年末までに合意・発効させることはかなり難しい。 移行期間は1年または2年の延長を行うことが可能だが、延長の意思決定は2020年6月末までに行わねばならない。 ジョンソン首相は、移行期間中は、英国はEUの意思決定には参加できないがルールには従わねばならないことに対して、「EUに隷属するもの」と、不満を示し移行期間の延長を強く否定している。 EU側は、交渉の難しさを踏まえて、移行期間延長の可能性を排除していない。筆者はどこかの時点で、英国は移行期間の延長に合意せざるを得ないと考えている』、もともと「移行期間」を「11カ月」と短く設定したのは、その方が交渉に有利と考えた「ジョンソン首相」だ。「延長」も現段階で否定するのは当然だろう。
・『規制の調整で交渉は難航? EU側はEU規制順守求める  とはいえ、ジョンソン首相の強硬姿勢を踏まえると、英国はまずは2020年末までの新協定発効を目指して交渉を進めていくだろうし、交渉は重要度の高い分野に的を絞って行われるとみられる。 具体的には、英、EU間で方向性としては合意されている関税撤廃の実現に向けて各種の規制を調整することやEUが重視する漁業協定が対象になる公算が大きい(図表2:リンク先参照)。 英国とEUは関税を撤廃するという方向では同意しているが、その実現は簡単ではない。 英国と新協定交渉を行う欧州委員会は、関税撤廃の条件として公平な競争環境(Level Playing Field:LPF)の維持とそのために必要なEU規制の順守を英国に求めている。 一方で英国はEU規制からの離脱による自由競争の推進を目指しており、両者の考え方には距離がある。 欧州委員会が2月に発表した交渉指令草案では、補助金や法人課税、労働者の権利保護、環境基準、気候変動などの分野がLPF交渉上のポイントとして掲げられている。 2月11日に欧州議会本会議で英国の離脱後初の演説を行ったウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は、かつてない独自の英国との通商関係を目指すとしつつも、LPFの維持がEU市場へのアクセスの条件であることを改めて強調した』、EUにとっては、「LPFの維持」は譲れないところだろうが、英国側には受け入れ難いところだろう。
・『産業補助金や漁業権、環境基準まで 幅広い分野で調整が必要  英国とEUの交渉の焦点になるのは、例えば、国家補助金の分野では、補助の許認可プロセスだ。 EU内では特定産業への補助金支給については、国家補助ルールに基づいて事前に欧州委員会の承認を得ることが必要だが、鉄鋼産業など欧州域内の供給が多い産業は、欧州委員会の許可が下りにくい。 2019年に英大手鉄鋼企業が破綻の危機に瀕した際、EUの国家補助ルールのために、英国では、雇用やサプライチェーンの面で波及が大きかったにもかかわらず、英政府が十分な対応が取れなかったのではという批判が起きた。 こうしたこともあって、英国は産業補助の規制を緩め、効果的に重点産業を育成・保護したいと考えている。 法人課税の分野については、EUは、英国が過度な法人減税に動かないよう、EUの行動規範や、経済協力開発機構(OECD)で議論されている国際協調ルールを順守することを英国に要求すると考えられる。 かつて2018年11月にテリーザ・メイ前政権とEUが合意した離脱協定の中では、1997年にEUが閣僚理事会で合意した「法人課税にかかる行動規範」の順守の再確認が明記されていたが、2019年10月にジョンソン首相がEUと合意した新たな離脱協定の中では、この条項は削除された。 欧州委員会は、交渉指令草案の中で、この「法人課税にかかる行動規範」について英国と「再確認を行うべきだ」としている。EUは課税ベースを奪い合うような「有害な租税競争」を避けたいと考えており、共通の法人課税ベース構築を目指している。 しかし、例えば企業誘致のための法人税率引き下げがどこまで「有害」かについては、EU内でも意見の相違がある。英国は予定していた法人税率の引き下げを凍結しているが、EUの行動規範に従う必要はないと考えている。 水や大気、廃棄物、野生動物などの環境基準についても、英国が一部の基準を緩和するのではないかという懸念がEU側にはあるようだ。 現時点で、英国、EUともに高い環境基準を維持している。ただし、法人課税のケースと同様、メイ前政権と欧州委が合意した離脱協定の中では合意されていた「環境基準の非後退原則」に関する条文が、ジョンソン首相が締結した離脱協定の中では削除された。) 環境基準維持を監視する規制当局の独立性にも疑問が生じている。 英国は、現在審議されている環境法案の中で、新たに自前の環境規制当局である環境保護局(The Office for Environmental Protection: OEP)を新設する予定だ。 しかし、英国内では、独立機関であるはずのOEPが英政府の影響下から逃れられないのではないかとの見方が一部にある。 欧州委員会としても、OEPが適切な監督機能を発揮できるかや、OEPとの紛争調停をどのように行うのかといった点を問題視しているとみられる。 将来にわたって英、EUの規制との調和を担保する仕組みを導入するかということも争点になっている。 FTAで何らかの規制が決められた際に、将来、EU側の規制が厳しくなった場合でもその変化に自動的に英国側の規制を連動させるような「動的な調和(Dynamic Alignment)」を導入するかという問題だ。 欧州議会などEUの中でも強硬なグループは、動的な調和の導入に前向きとされるが、当然ながら英国は導入に反対することが予想される。 さらに、LPF上の紛争調停をどこが最終的に行うのかという問題もある。 EUとしてはLPFをEU規制に合わせようとしている以上、欧州司法裁判所(ECJ)が紛争処理にあたるべきだと考えているが、英国はECJの支配下に入ることには強く反対している。 この他、EUは、これまでEU共通漁業政策(CFP)の下で維持されてきた英国の排他的経済水域でのEU漁業従事者の漁業継続も関税撤廃の条件として要求している。 特にフランスの漁業従事者にとって英国南岸での漁業継続は死活問題と言われる。 しかし、英国の漁業従事者は、EUに漁場を奪われたと考えており、こうした問題は、移民に仕事を奪われるなど、EU離脱を支持する国民の不満の典型例であり、英政府はその主張を無視できないだろう』、これだけ両者の主張の食い違いがあると、合意はやはり容易ではなさそうだ。
・『英経済の「将来」、大半は潜在GDPの低下を予想  そもそもブレグジットが英国経済にとってプラスになるのかどうか。 この点について、政府や研究機関、エコノミストの多くは、仮に英国とEUがFTAを締結したとしても、英国の潜在GDP(国民総生産)は、EU残留の場合と比べて、中央値で3.5%程度、押し下げられると考えている(図表3:リンク先参照)。 EU市場へのアクセスが制限され、通関手続きなど非関税障壁が発生したり、人材の行き来が細ったりすることが、成長力低下を予想する理由だ。 他方で数は少ないが、全く逆の推計結果を出すグループもある。 離脱を支持するエコノミストからなるEconomists for Free Trade(以下EFT)は、英国がEU単一市場を離脱してEUとFTAを結んだ場合、中期的に英国のGDPはEUの一員であった場合と比較して4.0%押し上げられると推計している。 筆者は昨年11月に渡英し、離脱派のエコノミストと意見交換を行った。 想定やモデルが同一ではないため、すべての推計結果を同列に比較することはできないが、同じモデルでの比較が可能な英政府の推計と、離脱派のEFTの推計結果に大きな差をもたらしている要因は、2つある。 (1)英・EU間に非関税障壁が生まれることのGDPへのマイナスの影響をどう見るかと、(2)英国の第三国とのFTAによるプラスの影響をどのように見るのかという点だ』、「離脱派のEFTの推計結果」は、「離脱」を正当化する政治的なもののようだ。
・『EUとの非関税障壁は生まれるか 第三国とのFTAの効果は?  非関税障壁の影響について、EFTはマイナスの影響はゼロと推計している。 EUと英国の製品規制に現状は違いがなく、将来、EU規制に変更があったとしても、英国の事業者はEU規制に対応し、規制に即した製品を生産・輸出するため、中期的な英国の生産力には影響しないと考えていることが理由だ。 他方で、メイ前政権の時の英政府の推計は、非関税障壁が英国のGDPを中期的に5.1%程度押し下げるとしている。 第三国とのFTAについて、EFTは第三国とのFTAの効果だけで英GDPを4.0%押し上げると推計している。 英国内市場の開放による競争促進や価格低下がGDPの中期的な増加をもたらすと考えているためだ。 一般的にFTAのメリットとしては、自由化による輸出先市場の開放が挙げられることが多いが、ここではそのメリットを大きく見ている訳ではない。むしろ他国との広範なFTA締結により、競争推進を通じて国内経済が活性化され、潜在的な成長力が高まると考えている。 中期的にみて、離脱派のエコノミストが考えるように「自由で開放的なビジネスの場」として英経済が拡大していくという保証はない。 しかし、少なくとも保守党の政治家たちは、市場開放による新自由主義的な政策と、財政拡張政策をセットにしながら経済成長を実現しようとしており、保守党政権が続く限り、今後の政策もそうした方向性に沿ったものになるだろう。 FTA締結相手の優先順位ではEUが筆頭に来るが、ジョンソン首相は「(EU以外の)FTAでは米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国に注力」と述べている』、「メイ前政権の時の英政府の推計は、非関税障壁が英国のGDPを中期的に5.1%程度押し下げるとしている」、これは中立的な推計だが、「EFTはマイナスの影響はゼロと推計」、やはり「EFT」の推計は政治的なようだ。
・『シティーの地位は揺るがず 人材や金融機関の集積が強み  中期的なブレグジットの成功を占ううえでは、国際金融センターとしてのロンドンの地位がどうなるのかも重要なポイントになる。 現在、ロンドンはニューヨークと並ぶ国際金融センターとしての地位を得ているが、ブレグジットによりEUとの経済関係が薄れユーロ取引の流出などにより、その地位が揺らぐのではと懸念する声もある。 しかし、国際金融センターとしてのロンドンの強みは、ユーロ取引だけではない。 人材が集まっていると同時に解雇もしやすい雇用環境や、法律事務所や会計事務所といった周辺産業の充実、ケンブリッジやオックスフォード大学といった研究機関、英語という言語環境、金融機関の集積、多数の空港やホテルといった200年を超える歴史の中で積み上げてきた強みはすぐには崩れないだろう。 筆者は、フィンテックなどイノベーションの中心であり続け、新興国も含めたグローバルな資金フローの結節点であり続けられるかどうかが、最終的にはロンドンの国際金融センターとしての地位を決めるのではないかと考えている』、「シティーの地位は揺るがず」、同感だ。

第三に、4月19日付け現代ビジネスが掲載した専修大学教授の河野 真太郎氏による「EU離脱の原点ーー「イギリス版ファシズム」という黒い歴史 労働者階級「反乱」の系譜」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71952
・『ブレグジットと排外主義  2020年1月31日、イギリスは正式にEUから離脱した。この離脱を問う国民投票が行われたのが2016年6月23日。実に3年半の紆余曲折を経て国民投票の結論は実行に移された。 この投票結果について、当時から現在までずっと繰り返されている説明の「型」がある。それは、EUからの移民労働力によって自分たちが職を脅かされていると考えた「排外主義的な労働者階級」が、移民排斥の意図をもって離脱を支持した、というものである。そしてそれに対し、リベラルで排外主義的ではない「多文化主義的な中流階級」は、EU残留に票を投じた、と。 この説明にはある程度の説得力があるし、数字もそれを裏付けているように見える。例えば、マーケティング・リサーチ企業イプソスによる調査結果を見てみよう。念のため、国民投票全体の結果はEUからの残留支持が約48%、離脱支持が約52%であった(投票率は72%)。イプソスによれば、社会階級別の投票割合は下図の通りであった(リンク先参照)。 (https://www.ipsos.com/ipsos-mori/en-uk/how-britain-voted-2016-eu-referendumより) イプソスによる社会階級の分類は、下記の通りである。括弧内は2009年時点での人口に占める割合である。 A: 高級管理・経営・専門職(4%) B: 中級管理・経営・専門職(23%) C1: 監督、事務、下級管理・経営・専門職(29%) C2: 熟練肉体労働者(21%) D: 半熟練または非熟練肉体労働者(15%) E: 年金受給者、臨時雇いもしくは最低級労働者、公的失業保険のみを受給する失業者(8%) (https://www.ipsos.com/sites/default/files/publication/6800-03/MediaCT_thoughtpiece_Social_Grade_July09_V3_WEB.pdfより) イプソスはAとB、DとEはひとまとめにしているが、要するに中流階級と労働者階級の分かれ目はC1とC2の間にある。そして、残留・離脱の支持率はそこできれいに逆転しているのである』、「E」で「 年金受給者:が、「臨時雇いもしくは最低級労働者、公的失業保険のみを受給する失業者」、と同じくくりになっているのには違和感もあるが、総じて結論は常識的だ。
・『離脱すなわち排外主義?  もちろんこの見方には反論がある。上記のイプソスの調査結果の全体を見ていただくだけでも、例えば年齢による差異は階級による差異よりも重要であると簡単に言うこともできるし、そもそもイプソスが採用している中流と労働者階級の区分が問題だという指摘もできる。現在のイギリスにおいては、「圧迫された中流階級」は自分たちを労働者階級とみなす傾向にあり、そう見ると、離脱の投票はその「圧迫された中流階級」の仕業だ、という見方も出されている(https://blogs.lse.ac.uk/politicsandpolicy/brexit-and-the-squeezed-middle/)。 またもちろん、この量的なデータだけから、質的な側面、つまり労働者階級の投票の動機──排外主義?──まで説明することはできない。 だが、それにもかかわらず、最初に述べた説明の「型」──つまり、排外主義的な労働者階級と多文化主義的な中流階級──は、説得力を失うことがない。おそらくこの「型」は、ブレグジットの説明として語り継がれていくだろう。 もちろんこのような説明、物語は暴力的なものだ。単純な話、例えばカテゴリーC2のうち62%が離脱に投票したとして、それをもって労働者階級が排外主義に流れた、と言ってしまったら、残る38%の経験や感情はどうなってしまうのか? 今回は、このEU離脱問題をめぐってせり出してきたように見える、「排外主義的な労働者階級に対する、リベラルで多文化主義的な中流階級」という典型を解毒し、2つのからまりあった事実を明らかにしていきたい。 ひとつには、イギリス労働者階級には確実に、排外主義に対抗する伝統が存在すること。そして現在のイギリスの多文化主義の部分的な出所は一九八〇年代の新自由主義であり、EU離脱の感情には、単なる反多文化主義だけではなく、同時に反新自由主義の感情もある、という事実である。 そのためにまずは、イギリスの階級と排外主義についての歴史をふり返って、そのような典型がいかなる歴史から生じているのかを論じていきたい』、労働党が「離脱」に明確な賛否を示さなかったのも頷ける。
・『イギリスのファシズム? モーズリーのBUF  中庸を好み、極端を嫌うように思えるイギリス国民。その歴史には、ドイツ、イタリア、日本のようなファシズム・全体主義は存在しなかったと思われるだろうか? じつはそうではない。イギリスのファシズム運動といえばまず、1932年にオズワルド・モーズリーが結成したイギリスファシズム同盟(the British Union of Fascists/BUF)がある。 サー・オズワルド・モーズリーは、第一次世界大戦後、1920年代のあいだは、最初は保守党員として、そして後に労働党員として国会議員を務めた人物である。彼は1931年にムッソリーニを訪問し、その影響のもとに総選挙で「新党(the New Party)」で打って出て敗北した後、BUFを結成した。ムッソリーニの国家ファシスト党にならって黒シャツ隊を組織。一時期は5万人の党員を獲得したという。 (ちなみに、モーズリーのBUFは、カズオ・イシグロの『日の名残り』でも非常に重要な役割を果たす。映画版よりも、原作を読んでいただくとよく分かるかもしれない。 BUFは1930年代後半に反ユダヤ主義の旗幟を鮮明にする。優生学的な思想と人種排斥が結びついた思想である。(これについては中山[参考文献]を参照。)この「イギリス版ファシズム」に人びとはどう応答しただろうか。それを表現する事件が、1936年10月4日の「ケーブル・ストリートの戦い」である。ケーブル・ストリートとはロンドンはイースト・エンドの通りの名前で、当時はユダヤ系と労働者の多く住む町であった。 そのような町でモーズリー率いるBUFの黒シャツ隊がデモ行進をするというので、7万7千筆の反対署名が内務大臣に届けられたが、それにもかかわらず、デモは認められた。警官隊に守られたBUFのデモ行進をユダヤ系、社会主義者、共産主義者の多数の抗議者たちが通りをブロックして迎え撃った。抗議者と警官隊との暴力をともなう衝突が生じ、モーズリーは2千人ほどのデモ隊を解散させざるを得なくなった。 この「戦い」は、1930年代イギリスにおける、労働者階級組織による反ファシズム・反排外主義を語るにあたって、スペイン内戦(1936〜39年)とならんで一種の神話的な出来事として語り継がれることになる。現在、ケーブル・ストリートのタウン・ホールの壁面には、画家デイヴ・ピニントンによる、ケーブル・ストリートの戦いの巨大な壁画が描かれている。 この後、1939年にはBUFの党員は2万人までに減り、1940年5月にBUFは非合法化され、モーズリーらは第二次大戦の間は逮捕拘禁されることになる。(以上のBUFについての記述はThurlowを参照。)』、「ケーブル・ストリート」の衝突で、「労働者階級組織による反ファシズム・反排外主義」運動があったとは、初めて知った。
・『ロック・アゲインスト・レイシズム─国民戦線との闘い  BUFの次に出現する排外主義的な政党・政治団体といえば国民戦線(the National Front)である。 4月3日に公開された(4月17日よりネット配信で公開中)ドキュメンタリー映画『白い暴動』の背景になっているのが、この国民戦線を中心とする、1960年代から70年代に出現した新たな排外主義だ。 『白い暴動』は、当時過激化していた排外主義、人種差別に対抗するミュージシャンたちが立ち上げた、「ロック・アゲインスト・レイシズム」というキャンペーンを当時の映像と関係者インタビューで再現するものである。その中でもまず印象的なのは、人種差別に抗議するミュージシャンたちより前に、あからさまで暴力的な差別的言辞をまきちらすスキンヘッドたちの映像だ。 この年代の排外主義を理解するためには、大戦後イギリスの「多民族国家化」を理解する必要があるだろう。画期は1948年の国籍法である。この法律は、イギリス連邦(コモンウェルス)の人びと(つまり、旧植民地も含めた世界の8億の人びと)に市民権を与え、イギリスへの移入を認めたものである。 この法制に促された移民の増加を象徴するのが、1948年6月、ジャマイカから500名弱の移民を乗せてテムズ川下流のティルベリー港に到着したエンパイア・ウィンドラッシュ号だ。 移民労働者の増加は摩擦を引き起こした。その象徴は1958年9月のノッティング・ヒル人種暴動だ。これは、カリブ系住民(当時イギリス全体で12万人いた)に対して白人暴徒が暴行を加えたことに端を発するものだった。現在も8月の終わりに開催されるノッティング・ヒル・カーニバルといえば、レゲエなどの音楽と踊りの陽気なカーニバルだが、実のところ起源はこの人種暴動なのである。 58年の暴動のあとにも繰り返された人種暴動に対して、トリニダード・トバゴ出身の活動家クラウディア・ジョーンズらは、カーニバルを組織し、文化的連帯によってそのような暴力に対抗したのである。 こうした努力にもかかわらず、60年代イギリスでは移民に対する排外的な動きが顕著になっていく。それを象徴するのが、1968年4月、保守党政治家のイーノック・パウエルが行った、通称「血の川演説」である。この演説は、コモンウェルスからの移民増加に警鐘を鳴らし、移民を制限する新たな人種関係法を提案するものだった。 「血の川」という表現は直接は出てこないが、ヴェルギリウスの『アエーネイス』から引用し、このまま移民が抑制されなければ古代ローマ人のように「ティベレ川がたくさんの血で泡立つ」のを見るだろう(そのような悪い予感がする、ということ)とパウエルが述べたところから、「血の川演説」と呼ばれる。 国民戦線は、BUF出身のA. K. チェスタトンによって1967年に結成された。イーノック・パウエルがこれに直接関わったわけではないが、「血の川演説」が表現し、それが認可を与えた排外主義的な時代の空気の産物だったと言えるだろう。 そのような空気に乗せられ、またその空気を作りだしたミュージシャンもいた。エリック・クラプトンやデイヴィッド・ボウイはパウエルを支持し、イギリスの多民族化への懸念を表明した。それに対抗して立ち上がったのが、ザ・クラッシュやトム・ロビンソンといった白人のパンク・ミュージシャンたち、有色系からはレゲエのマトゥンビやパンクのX・レイ・スペックスなどだった。 『白い暴動』は、これらのミュージシャンによる10万人コンサートを感動的に描き出す。このコンサートが可能になった背景には、ケーブル・ストリートの戦いやノッティング・ヒル・カーニバルといったイギリスの反差別の文化的伝統があっただろう』、「1948年の国籍法」は英連邦の植民地が相次いで独立するなかで、英国の手先になっていた人々を救済する(植民地支配への贖罪的な)意味もあった。
・『UKIPと「エスタブリッシュメント」批判  そこから、ブレグジットへはどのように歴史がつながるのだろうか。これは非常に難しい問題であり、ここで私が述べるのはあくまでひとつの仮説だ。 ブレグジットは、ここまで述べたような極右と排外主義の系譜だけでは理解不可能である。ブレグジットの台風の目となったUKIP(the UK Independence Party; 英国独立党)を考えてみよう。UKIPの前身である反連邦同盟(the Anti-Federalist League)が設立されたのは1991年である(1993年にUKIPに改名)。 当初、UKIPはイギリスのEU脱退のみを訴える「シングル・イシュー」政党だと考えられて、それほどの人気を得ることはなかった。 風向きが変わったのは、2006年にナイジェル・ファラージが党首となり、白人労働者階級をターゲットに移民問題を強調し始めてからである。とりわけ2014年の、イギリスでのEU議会選挙で24議席を取って躍進し、2015年のイギリス総選挙では議席は1議席にとどまったものの、得票率では12.6%を獲得し、保守党と労働党についで第三位となって衝撃を与えた。2016年に国民投票が行われたのは、人気を獲得したUKIPの圧力によるところが大きかったのである。(UKIPの歴史についてはFord & Goodwinを参照。) ナイジェル・ファラージのレトリックにおいて重要な言葉のひとつは、「エスタブリッシュメント」であった。エスタブリッシュメントとは、訳せば「支配階級」ということになるが、イギリス文化においては独特の階級的含意のある言葉だ(オーウェン・ジョーンズ『エスタブリッシュメント』を参照)。 かつての、労働者階級がより大きく、自意識的な組織であった時代においては、「われわれとやつら」つまり労働者階級と中・上流階級という対立の意識が力をもった。その際の後者、「やつら」がエスタブリッシュメントである。 ファラージとUKIPにとっての「やつら」とは、EUそのものであり、EUとの結びつきを保とうとするイギリス国内の勢力である。ファラージが人気を得たのは、この「やつら」への敵愾心への共感が集まったためだと考えられる。我々の苦しい生活はやつら(=EUと移民と、その背後にいる「エスタブリッシュメント」)のせいだ、と。 UKIPの右派ポピュリズムと言われるものの内実はこれである。そしてこのポピュリズムにおいては、かつての労働者階級的な、「やつら=エスタブリッシュメント」に対抗する感情が、時代の変化に乗って流用・盗用されたのではないかと考えられる。 では具体的にその時代の変化とは、流用・盗用とは何だっただろうか』、「ファラージとUKIPにとっての「やつら」とは、EUそのものであり、EUとの結びつきを保とうとするイギリス国内の勢力である。ファラージが人気を得たのは、この「やつら」への敵愾心への共感が集まったためだと考えられる」、「ファラージ」の立ち回り方は誠に巧みだ。
・『中流階級と多文化主義  UKIPが利用した反エスタブリッシュメント感情の重要な一部には、中流階級への反感とからまりあった、反・多文化主義の感情があると思われる。このからまりあいを現在みごとに記述してみせてくれている書き手といえば、ブレイディみかこであろう。昨年出版され、早くも(私の中では)オールタイム名著となった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で、ブレイディは「多様性格差」という巧みな表現を使っている。 昨今の英国の田舎の町には、「多様性格差」と呼ぶしかないような状況が生まれている。人種の多様性があるのは優秀でリッチな学校、という奇妙な構図ができあがってしまっていて、元底辺中学校のようなところは見渡す限り白人英国人だらけだ。 「元底辺中学校」とは、ブレイディの息子が通うことになった、基本的には労働者階級の子供が通う中学校である。イギリスではサッチャーによる教育改革以来、学校を評価してお互いに競争させるような制度が定着しており、その結果学校のあいだの「格差」が生じている。「元底辺中学校」は、この学校ランキングの底辺にいたのだが、最近の経営努力で最底辺から離脱しようとしている学校なのだ。それにしても、この学校にはいまだにあからさまな人種差別をしてしまうような「意識の低い」労働者階級の子供たちがいる。 じつは筆者もここでブレイディが述べている「多様性格差」に近い経験をした。私は2015年から2016年まで、つまり問題の国民投票があった時期に、家族を連れてイギリスで暮らしていた。私が住んでいたのは、スウォンジーというウェールズ第二の都市であった。 私は向こうの大学の同僚の勧めにも従う形で、町の西側の地域に家を見つけて住んだ。住んでみて分かったのだが、町の西の方は基本的に中流階級的な地域であり、東の方に行くと町並みひとつを取っても明らかな労働者階級地域だった。(そして実際、国民投票の際には町の西と東で残留/離脱に割れたという。) 私には小学生の双子の子供がいたが、現地には日本人学校などないので、住んだ学区の小学校に入学させた。英語もそこそこに放りこんだのでどうなることかと不安だったが(本人たちの方がもっと不安だっただろうが)、蓋を開けてみると、日本から双子のお友達がやってきたということで、先生も同級生もなにくれとなく世話をして仲良くしてくれた。目の届く範囲で、人種差別にあった形跡はない。学校だけでなく近所でもそうであった。 私は当時、これを当地の住人の善良さのおかげであると思っていたし、部分的にはその通りだったのだと思う。しかしその後様々な事例を聞いたり読んだりするにしたがって、私が住んでいた学区が中流階級学区であったことは、子供たちの幸福な学校生活と無関係ではなかったのだろうと思い始めた。 おそらく、子供の友達たちの家庭にとって、日本から来た英語もよくわからない子供たちと仲良くなることは、子供の教育にとって「良いこと」だったのだろう、と(そんな穿った見方をするのは申し訳ないと思いつつも)私は気づいたのである。ちょっと悪い言い方だが、私の子供たちは多文化主義の格好の「教材」になったのかもしれない。 さて、多文化主義や他者への寛容が、中流階級にとって「意識の高い」、良いものとなったのはいつからなのだろうか。もちろん、こういった価値観の歴史は多重のものであり、唯一の起源を言い当てることは不可能だ。ただ、21世紀イギリスの多文化主義の理論と政策の屋台骨となったのは、インド出身の政治学者・政治家のビク・パレクが委員長をつとめた「多民族イギリスの未来についての委員会」(1998〜2000年)と、その報告書『多民族イギリスの未来』(通称パレク報告、2000年)である。 この報告書の中身について詳しく述べることはできないが、これによって多文化主義は当時の労働党政権下のイギリスの公式的なイデオロギーとなったのである。そして、ブレイディも『ぼくはイエローで……』の中で触れているシティズンシップ教育がナショナル・カリキュラム(日本であれば学習指導要領)に組み込まれるのは2002年なのだが、このシティズンシップ教育の大きな柱となるのが、多文化主義だったのである。 これによって、悪意のある言い方になるが、多文化主義は「いい子」のイデオロギーとなったといっていいだろう。そこから生じていったのが、ブレイディの言う「多様性格差」である。勉強のできる中流の子は多様性を身につけ、そこから取り残される下層階級はそうではない、という形で、多文化主義・多様性と階級が相関していったのだ。 そして、そこから生じたのが、冒頭で述べたような「型」であり「典型」だ。多文化主義的で多様性に開かれた中流と、排外主義的な労働者階級という「型」である。UKIPはそのような分断につけこんだ』、「21世紀イギリスの多文化主義の理論と政策の屋台骨となったのは、インド出身の政治学者・政治家のビク・パレクが委員長をつとめた「多民族イギリスの未来についての委員会」(1998〜2000年)と、その報告書『多民族イギリスの未来』(通称パレク報告、2000年)である」、「インド出身」の学者が「委員長」とは、まさにタイトルにふさわしい。日本でもつまらぬ道徳教育をするヒマがあったら、「シティズンシップ教育」も是非やるべきだ。
・『新自由主義と多様性  だが、そのような多様性礼賛はパレク報告から、またブレア労働党政権だけから生まれた訳ではない。それにつながる系譜はさらに遡ることができる。ここで言っているのは、マーガレット・サッチャーとその新自由主義である。 普通、サッチャーといえば強硬な保守主義者であり、したがって移民に対しては不寛容だったのではないかというイメージがあるかもしれないし、ある面ではその通りだ。 例えば、『白い暴動』で描かれるロック・アゲインスト・レイシズムの意義を否定するつもりはないが、彼らがレイシズムに対抗した1970年代後半にすでに、国民戦線は勢力を失っていたとも言われる。『イギリスのファシズム』を書いたリチャード・サーロウはその原因について、重要な指摘をしている。 つまり、サッチャーの台頭である。国民戦線的な極右は、イーノック・パウエルやBUFと同様に、保守党でさえも包摂しきれないほどに「極右的」であった。しかし、サーロウの説明が正しいなら、サッチャー政権は部分的にそのような極右的傾向も政権支持層に取りこんでいったのである。 だが、それとまったく矛盾するように見える傾向もあった。彼女の打ち出す新自由主義と、後に多文化主義と名づけられるものとの親和性である。 これを見事に描き出した映画が、スティーヴン・フリアーズ監督の『マイ・ビューティフル・ランドレット』(1985年)である。 この映画では、パキスタン系の青年オマルが、かつては極右排外主義に染まっていた白人労働者階級のジョニーを雇用してコイン・ランドリーを経営する。オマルの叔父ナーセルは、チャンスをつかみ取る者には富を与えてくれるサッチャリズムを肯定する実業家だ。 ここに表現されているのは、70年代の国民戦線的な排外主義(ジョニー)が、サッチャリズムのメリトクラシーに飲みこまれる様だ。企業家精神と進取の精神にあふれる者であれば人種の差別はしない新自由主義的なメリトクラシーは、オマルにとって解放的なのだ。 駆け足になるが、このような新自由主義のイデオロギーは、矛盾することなく2000年代の多文化主義に接続することができるだろう。それが純然たる人権問題というよりは、新たなグローバル時代において勝ち組になるためのスキルとしての多文化主義である限りにおいて。 そして、新自由主義がグローバリゼーションの国内政治における表れであるとするなら、後にUKIPとファラージが訴えることになる、〈EUというエスタブリッシュメント=グローバリゼーションの手先=多文化主義と寛容=中流階級的なもの〉に対する反感が、いかなる歴史を経て醸成されていったかが分かる。 さて、そのように系譜を遡行した上で、ではそのような内実をもつ右派ポピュリズムをどうやって超えることができるだろうか。実のところ、本稿ではすでにそのひとつの道を指し示したつもりだ。 つまり、UKIPの右派ポピュリズムの核心にあるエスタブリッシュメントへの反感とは、新自由主義による「反転」を経たとはいえ、かつてBUFを通りから追い出した人びと、国民戦線のレイシズムにNOをつきつけたロック・アゲインスト・レイシズムのミュージシャンたちと観客たちの、単に労働者階級としての利益を追い求めるのではなく、弱者に対する差別は許さないという連帯の感情をその系譜にもっているのだし、そういった感情はどれだけ残滓的でも残っている。ブレイディみかこの著作が常に見すえるのはそのような、残滓的、とはいっても現在においても活発に作用する残滓としての、反エスタブリッシュメント感情なのである。 ここまで示したのは、イギリス労働者階級は、ブレグジットにおいて確かに排外主義的な身振りを示す部分はあったけれども、それはサッチャリズムからの系譜を持つ反エスタブリッシュメント的な機運が、反多文化主義という表現を得てしまった部分もあり、そこだけに目を奪われることは、排外主義や人種主義に対抗してきた伝統を見失ってしまうだろうということだった。 そのような伝統が可能だったのは、本連載で強調してきたように、イギリス労働者階級が単なる経済的カテゴリーではなく、コミュニティであったためだろう。この場合のコミュニティは、排他的にもなり得るが、必ず排他的になるわけではない。それを、イギリス労働者階級の伝統の一部は示してくれている。 ひるがえって、イギリスとはまた違った形で、2000年代以降に新たなポピュリズムと排外主義が台頭してきた日本には、イギリスのような労働者階級の伝統と残滓はない。またそもそも、多文化主義が階級的なものとからまりあう形で優勢になったこともない。とすれば、わたしたちはどのようなリソースに頼ってそれに対抗していけるのだろうか。この問いを開くことで、本稿を締めくくりたい』、「サッチャー・・・の打ち出す新自由主義と、後に多文化主義と名づけられるものとの親和性」、言われてみればその通りなのかも知れない。「2000年代以降に新たなポピュリズムと排外主義が台頭してきた日本」は「どのようなリソースに頼ってそれに対抗していけるのだろうか」、難しい問いだが、よく考えてみたい。
タグ:ロイター ムーディーズ ダイヤモンド・オンライン 吉田健一郎 S&P 現代ビジネス 英国EU離脱問題 (その16)(英 EU市場アクセス縮小なら格下げも S&Pとムーディーズが警告、EU離脱の英国が描く「経済的繁栄」の現実性 成長力低下の見方が大半、EU離脱の原点ーー「イギリス版ファシズム」という黒い歴史 労働者階級「反乱」の系譜) 「英、EU市場アクセス縮小なら格下げも S&Pとムーディーズが警告」 英国のソブリン格付け (EU)離脱後の貿易協定で英国のEU市場へのアクセスが大幅に縮小された場合、現在の格付けは脅威にさらされると警告 以前は最高級の「AAA」だったが、EU離脱支持派が多数を占めた2016年の国民投票直後に2段階引き下げた 「EU離脱の英国が描く「経済的繁栄」の現実性、成長力低下の見方が大半」 短過ぎる「11カ月」の移行期間 期間延長の可能性が強い 規制の調整で交渉は難航? EU側はEU規制順守求める LPFの維持がEU市場へのアクセスの条件であることを改めて強調 産業補助金や漁業権、環境基準まで 幅広い分野で調整が必要 英経済の「将来」、大半は潜在GDPの低下を予想 EUとの非関税障壁は生まれるか 第三国とのFTAの効果は? シティーの地位は揺るがず 人材や金融機関の集積が強み 河野 真太郎 「EU離脱の原点ーー「イギリス版ファシズム」という黒い歴史 労働者階級「反乱」の系譜」 ブレグジットと排外主義 離脱すなわち排外主義? イギリスのファシズム? モーズリーのBUF ロック・アゲインスト・レイシズム─国民戦線との闘い UKIPと「エスタブリッシュメント」批判 「われわれとやつら」 ファラージとUKIPにとっての「やつら」とは、EUそのものであり、EUとの結びつきを保とうとするイギリス国内の勢力である。ファラージが人気を得たのは、この「やつら」への敵愾心への共感が集まったためだと考えられる 中流階級と多文化主義 シティズンシップ教育 新自由主義と多様性 の打ち出す新自由主義と、後に多文化主義と名づけられるものとの親和性 2000年代以降に新たなポピュリズムと排外主義が台頭してきた日本 どのようなリソースに頼ってそれに対抗していけるのだろうか
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

東芝問題(その39)(東芝機械 村上ファンドに勝っても不安なわけ 坂元社長「われわれの中期計画は評価された」、芝浦機械<上>TOB仕掛けた旧村上系ファンド蹴散らし再出発、芝浦機械<下>ココム違反事件を「東芝」は許していなかった、再建中の東芝が「東証1部復帰」にこだわる事情 株価を引き上げ アクティビスト追い出しへ) [企業経営]

東芝問題については、1月30日に取上げた。今日は、(その39)(東芝機械 村上ファンドに勝っても不安なわけ 坂元社長「われわれの中期計画は評価された」、芝浦機械<上>TOB仕掛けた旧村上系ファンド蹴散らし再出発、芝浦機械<下>ココム違反事件を「東芝」は許していなかった、再建中の東芝が「東証1部復帰」にこだわる事情 株価を引き上げ アクティビスト追い出しへ)である。

先ずは、3月31日付け東洋経済オンライン「東芝機械、村上ファンドに勝っても不安なわけ 坂元社長「われわれの中期計画は評価された」」を紹介しよう。
・『3月27日に東芝機械が開いた臨時株主総会で、村上世彰氏の運営する投資会社(以下、村上ファンド)が実施している株式公開買い付け(TOB)に対する東芝機械の買収防衛策が、62%の賛成を得て可決された。 機関投資家は当初、買収防衛策に否定的だとみられていたが、3月中旬に議決権行使助言会社のISSが「防衛策の導入に賛成」と推奨したことを契機に情勢は大きく変わり、結果的に東芝機械が勝利した。 村上ファンド側は買収防衛策が可決された場合にはTOBを撤回することを表明しており、東芝機械の買収防衛策は発動されない見通しだ。 ただ、勝利したとはいえ、村上ファンドが突き付けたガバナンスの問題や今後の成長戦略に問題がないというわけではない。東芝機械は4月1日に「芝浦機械」に社名変更し、新たなスタートを切ると意気込む。 今後どのように会社を経営していくのか。総会前に引き続き、東芝機械の坂元繁友社長に改めて尋ねた(Qは聞き手の質問、Aは坂元社長の回答)』、TOBの提案を受けた後に導入した付け焼き刃的な買収防衛策には、通常反対する「ISS」が賛成した背景には、何があったのだろう。
・『最後まで勝てると思っていなかった  Q:臨時株主総会の結果は予想通りでしたか。 A:先日のインタビューでは強気なことを言ったが、実際には50%少し超えるくらいのぎりぎりの攻防だったという実感で、最後まで勝てるとは思っていなかった。 2月4日に中期経営計画を発表して以降、機関投資家に改革プランを説明しにいったが、当初は買収防衛策に対して厳しい意見が多く大変苦労した。特に日本の投資家の反応は堅かった。3月中旬以降になり、ISSや(村上ファンドを除くと筆頭株主となる)ブラックロックが賛同してくれたことが追い風になり、中でも海外投資家から高い賛成率が得られた。 Q:62%の賛成という結果をどのように受け止めますか。 A:まず、買収防衛策のベースとなる論点として、自己株買いを行い、短期的に株価を上げてリターンを取るというやり方と、われわれのように設備に投資をして中長期的に企業価値をあげていくやり方のどちらがいいかという論点があった。そういう意味で、(中長期的に企業価値を上げていくことを狙いとする)われわれの中期経営計画は信任されたと思っている。 それを達成するために(村上ファンド側の)TOBにどのように対処するかが今回の臨時株主総会の議題だった。スチュワードシップコードを厳格に持つ投資家もいるので(議決権行使の)読みは難しかったが、今回導入した買収防衛策は対象と期間を限定した例外的な措置であり、通常の買収防衛策とは違うということが認識され、なんとか62%の賛成を得られた。 一方で、38%の反対意見がある。買収防衛策に対する反対だけでなく、TOB価格と市場株価の乖離を看過できないという個人投資家もいただろう。きちんと分析して意見を聞き入れていかないといけない。 Q:TOBの提案を受けた後に導入する、有事導入型の買収防衛策はガバナンス改革に逆行するのではないかという声もあります。 A:このような措置は乱発されるようなものではない。対象や期間が限定的で、実質的に経営権を握るのに経営方針を示さないというまれなTOBの形態だから通った。1つでも条件が変われば通らなかった。 ISSもブラックロックも世の中への影響度はないという判断で賛同されたと思う』、「村上ファンド側」が「実質的に経営権を握るのに経営方針を示さないというまれなTOBの形態だから通った」、極めて特殊なケースのようだ。
・『村上ファンドと話はかみ合わなかった  Q:村上ファンド側との書簡のやりとりを見ると、東芝機械と話がかみ合っていないようにも見えました。 A:おっしゃる通り、話がかみ合わなかった。TOBに関していろいろ質問したが、(村上ファンド側から)明確な回答がなかった。(われわれが)本質的に求めていた回答の1つは、TOB後の経営方針だ。 われわれはTOBやM&Aが嫌だとは思っていない。事業計画が示され、シナジーが生まれるものであれば受ける可能性も当然ある。だが、TOBをした後にどうするのかというのがまったくなかった。 もう1つは、外為法に関することだ。われわれは(工作機械などの)戦略物資を扱っている会社なので、(公開買付者に関する情報を)開示してくださいというお願いをし続けた。不確かな株主がいるだけで商売ができなくなる。 Q:今回の教訓は? A:自分たちの事業をしっかりやらないとだめだということだ。買収防衛策をいくらやろうが、自分たちの事業ができていない限り何を言ってもだめということが、身に染みてわかった。 Q:村上ファンドが入ってきてそれを痛感したと? A:彼らが入ってきてからというよりは、(2017年に)東芝グループから離脱して株主構成が変わってからだ。以前は親会社の東芝がいいといえばそれでよかった。東芝のブランドがあると、銀行から安定して借り入れができる。海外でも東芝のブランドがあれば必ずドアを開けてくれる。 そういう、すごいメリットの中で暮らしてきたが、東芝から出るとそういうのが一切なくなる一方で、株主から収益率に対する要求も強くなった。 Q:2019年3月期は、売上高販管費比率が業界平均より7%も高いなど、収益性の低い状態が続いたのはなぜでしょうか。 A:構造的な問題があった。顧客と共同で生産設備を開発して顧客の(製品の)付加価値を高めるという、高度経済成長期のやり方は小回りの利く事業部制が適していた。 顧客がグローバルに(事業を)展開するようになり、日本で成功している生産ラインをそのまま海外で作ってほしいという要望が出てきて、ボリュームで商売をするようになったが、間接部門の多い事業部制では競争力を上げられなかった。 変化に早く対応しないといけなかったが、80年続けてきた仕事を変えるのはそう簡単ではなく一歩出遅れた。その中で村上グループにTOBをかけられた』、「東芝グループから離脱して株主構成が」変わったにも拘らず、「売上高販管費比率が業界平均より7%も高いなど、収益性の低い状態が続いた」理由として挙げたものは、何をいまさらといった印象を受けたが、これも長年「東芝のブランド」に甘えていたツケだろう。
・『経営陣の首をかけて中計を達成する  Q:新しい中期経営計画では、2023年度に営業利益率を8%、ROEを8.5%へ引き上げる高い目標を掲げています(2019年3月期実績は営業利益率が3.3%、ROEが5.0%)。 今度の中計の達成には、(経営陣の)首をかけている。対抗策の承認を得られたということは、裏を返すと我々の経営改革プランが信任されたということだ。やはり、そこは約束を守らなければいけないという覚悟を、(総会後の)取締役会で改めて話した。 Q:新型コロナウイルスの影響は小さくないと思いますが、それでも達成できますか。 A:すでに中国は(工場の)稼働状態が90%くらいになってきており、早い回復が期待できる。また、われわれの機械は受注から納入までの期間が1~2年と長い。顧客は新型コロナが収束し、在庫がなくなれば生産をしなければならないので、装置メーカーであるわれわれには少し早めにオーダーがくる。そこを逃さなければ、経営計画の数値はある程度キャッチアップできる』、「中計の達成には、(経営陣の)首をかけている」、とは言うものの、未達の言い訳に「新型コロナウイルスの影響」を持ち出すのではなかろうか。

次に、ジャーナリストの有森隆氏が4月15日付け日刊ゲンダイに掲載した「芝浦機械<上>TOB仕掛けた旧村上系ファンド蹴散らし再出発」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/271862
・『東芝機械は社名を変更。4月1日から芝浦機械として再出発した。 「東芝」の2文字を外し、新たなスタートを切ろうとした矢先に、村上世彰氏が関与する旧村上ファンド系の投資会社シティインデックスイレブンス(イレブンスと略、東京・渋谷区)にTOB(株式公開買い付け)を仕掛けられ、買収防衛策や株主還元を巡って攻防が続いた。工作機械需要が低迷するなか、成長ビジョンを示していないことから標的にされた。 旧村上ファンド系との対立がヒートアップするなか、東芝機械は突如、社長が交代した。 2月21日、三上高弘社長が代表権のない取締役に退いた。旧村上ファンド系との対応に当たってきた坂元繁友副社長を社長に昇格させ、なりふり構わない総会シフトを敷いた。 抗争の過程を振り返ってみよう。 1月17日、旧村上ファンド系のオフィスサポート(東京・渋谷区)から、不本意なTOBの予告を受けたとして、新株予約権をほかの株主に無償で割り当てる「ポイズンピル(毒薬条項)」の導入を取締役会で決議した。買収防衛策である。 1月21日、オフィスサポートの子会社イレブンスが最大44%の株式取得を目指すTOBを開始した。買い付け価格は1株3456円。旧村上側はオフィスサポートが6・5%、エスグラントコーポレーションが6・2%、合わせて12・7%の東芝機械株を既に保有していた。 「反対」の意見を表明したうえで、3月27日に臨時株主総会を開催。この場で買収防衛策の導入と発動の是非を問うことにした。村上氏側は3月4日としていたTOB期間を4月16日まで延長した。 当初、機関投資家は買収防衛策の導入に否定的とみられていた。だが、3月13日、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が「買収防衛策導入に賛成」を推奨したことで潮目が大きく変わった』、第一の記事にもあった通りだ。
・『買収防衛には成功したが…  イレブンスは3月19日、東芝機械が開催を予定する臨時株主総会以前に120億円以上の自社株買いをすれば、実施中のTOBを撤回すると表明した。坂元繁友・新社長は「短期的な資金流出は中長期的な企業価値向上を妨げる」とし、村上氏側の要求を拒否した。 村上氏側が「腰砕けになった」と判断した坂元社長は、マスコミに登場。票読みの結果、「3分の2以上をとって圧倒的に勝つ」と強気の発言をした。 3月27日、静岡県沼津市の沼津リバーサイドホテルで臨時株主総会を開き、119人の株主が出席した。防衛策の導入・発動の是非を問う2議案とも62%の賛成で可決された。 買収防衛策の導入は経営陣の保身につながると懸念する機関投資家が多い。金融庁が定めたスチュワードシップ・コードに沿って行動する国内の機関投資家が買収防衛策に賛成することは難しい。 海外の投資家に影響力がある議決権行使助言会社ISSが買収防衛策の導入と発動について賛成を推奨したことが勝負を決めたようだ。外国法人の持ち株比率は32%(19年9月末時点、自己株式除く)を占める。 村上氏側を除くと筆頭株主となる世界最大の資産運用会社ブラックロックグループ(約5%を保有)も東芝機械の中期経営計画を評価し、賛成の意向を表明した。ブラックロックとISSが先陣を切って賛成を表明したことで、大きな流れができた。元の親会社、東芝(約3%)も会社提案に賛同したとされる。 買収防衛に成功した。村上氏側は、臨時株主総会で防衛策が可決された場合、「TOBを撤回する」としており、4月2日、イレブンスは撤回を正式に表明した。それでも1割強を保有する大株主として、今後も影響力を及ぼす。 2017年、東芝グループから離脱し株主構成が変わり、株主利益の最大化を求める投資ファンドの攻勢にさらされた。東芝という籠の中で育った経営陣には初めての試練だった。6月末に開催する定時株主総会が最大のヤマ場とみる投資家が多い。買収防衛策の発動に賛同した株主も、経営計画の未達が続いている経営陣に納得しているわけではない』、「村上氏」も「ブラックロックとISSが先陣を切って賛成を表明」、したのでは手も足も出せなかったのだろう。「6月末に開催する定時株主総会が最大のヤマ場」、その通りで、どうなるのだろうか。

第三に、この続き、4月16日付け日刊ゲンダイ「芝浦機械<下>ココム違反事件を「東芝」は許していなかった」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/271930
・『東芝機械は2017年、岐路に立たされた。親会社の東芝が原子力発電事業の巨額損失で揺らいだ財務を立て直すため、関連企業の保有株の売却を急いだからだ。 17年3月3日、取引開始前に東京証券取引所の立会外取引で自社株買いを実施し、東芝が売却した東芝機械を1株506円、総額153億円で引き取った。この結果、東芝機械は東芝の持ち分法適用会社から外れた。 「東芝グループを出たくて出るわけではない。非常に残念だ」。飯村幸生社長(当時)は涙を浮かべ、悔しさをにじませた。 「東芝が東芝機械株を手放した背景には、東芝機械のココム違反事件が影を落としている」(エレクトロニクス担当のアナリスト) 1980年代、ソビエト連邦に工作機械などを不正に輸出し、対共産圏輸出統制委員会(ココム)に違反したとして告発された事件だ。東芝機械が輸出した機械がソ連原潜のスクリュー音を小さくして、西側の安全保障を脅かしたとして、米国が激しく非難したことで日米間の政治問題に発展。親会社である東芝の経営を揺るがす事態となった。同時9軸制御の高性能機がレニングラードの造船所で使われていることが判明した。 事件が発覚した87年7月、東芝の佐波正一会長と渡里杉一郎社長は、「西側の安全保障に重大な脅威を与えた道義的責任」を取って辞任した。渡里氏を失った東芝は、急激に輝きを失っていった。渡里社長が残っていれば、その後の社長の系譜が様変わりしており、今日の東芝の惨状はなかったといわれている。 米国の議会筋は日本企業独特の“ハラキリ”(両トップの引責辞任)をまったく評価せず、強硬派の下院議員が東芝製のラジカセをハンマーで打ち砕くパフォーマンスを演じてみせた。 親を不幸にする子供の罪は深い。東芝機械を許していなかった。東芝は東芝機械をグループから切り離した。 東芝機械は「スタンドアローン(単独)」での再出発を余儀なくされた。 「今後5年程度を目安に、新社名・新ブランドへ変更していく」との意向を示した飯村社長は、会長兼最高経営責任者(CEO)に就き、新たな社名とブランドづくりに取り組んだ。 行き着いた結論は源流といえる芝浦への原点回帰だった。芝浦製作所(現・東芝)の工作機械部門が分社して芝浦工作機械として発足したのは戦前の1938年。61年に東芝機械となり、工作機械のほか、プラスチック製品を製造する射出成形機、自動車エンジンの製造に使われるダイカストマシンを手掛ける東芝グループの機械メーカーとして事業を拡大した』、「東芝機械のココム違反事件が影を落としている・・・親を不幸にする子供の罪は深い。東芝機械を許していなかった。東芝は東芝機械をグループから切り離した。 東芝機械は「スタンドアローン(単独)」での再出発を余儀なくされた」、ずいぶん古い事件だが、それが「影を落としている」とは初めて知った。
・『ブランドはSHIBAURAへ  2020年4月1日、東芝機械から芝浦機械に社名を変更し、ブランド名をSHIBAURAに変えた。認知度の高いTOSHIBA MACHINEは使えない。顧客に芝浦の名前を浸透させるのは容易ではない。不安が漂う船出となった。 2月に策定した中期経営計画では23年度までに売上高1350億円、営業利益率8%、ROE(株主資本利益率)8・5%を達成するという高い目標を掲げる。20年3月期の連結決算は、コロナ禍を織り込む前の数字だが、売上高が1180億円、営業利益は33億円の見込み。営業利益率は2・8%で目標の8%には遠く及ばない。生半可なことでは達成はおぼつかない。 坂元繁友社長は、成長を加速させるために「M&A(合併・買収)を積極化する方針」を打ち出した。「私の在任期間中必ず1~2件はやりたい」と意欲的だ。 臨時株主総会で会社提案を支持した株主は旧村上ファンド系の行動に反対したのであって、経営陣を信任したわけではない。中期計画通りの結果を出せないと、株主の不満が高まる。 新型コロナウイルスの感染拡大で工作機械の市場環境は激変中だ。欧米や日本はこれからが正念場。中国市場の復活に懸けるが、未曽有の危機に耐えながらの再スタートとなる』、まだまだ目を離せないようだ。

第四は、東芝本体である。4月8日付け東洋経済オンライン「再建中の東芝が「東証1部復帰」にこだわる事情 株価を引き上げ、アクティビスト追い出しへ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/342670
・『経営再建中の東芝は4月3日、現在上場している東京証券取引所第2部から1部への復帰を東証に申請したと発表した。債務超過を理由に東証2部に降格してから3年。早ければ2020年秋にも東証1部復帰の道が見えてきたが、課題は残されている。 東芝をめぐっては、利益を水増しする不正会計が2015年4月に発覚し、同年に歴代3社長らが引責辞任するなど経営が混乱。さらに2016年末にはアメリカの原発子会社で巨額損失が発覚し、債務超過に陥ったため、2017年8月に東証2部へ降格していた』、あれだけの大規模な「不正会計」を踏まえれば、本来、上場廃止になっても当然であったが、不思議な政治力で「東証2部へ降格」で済んだようだ。
・『東証の昇格基準緩和の恩恵を受ける  2部から1部に復帰するためには、監査法人の適正意見がついた有価証券報告書が必要になる。これまでの東証ルールでは過去5年分が必要だったが、東証は2月、直近2年分でよいとする昇格基準の緩和に踏み込んだ。 このルール変更の恩恵を受けたのが東芝だ。東芝は2017年3月期の有価証券報告書で適正と認められていなかった。東証の基準緩和と軌を一にして、東芝は2019年末から1部復帰に向けた専門部署を立ち上げ、早期復帰の準備を進めていた。 そんな中で誤算だったのが、1月に発覚した子会社の東芝ITサービスで5年にわたって実態のない循環取引をしていたことだ。東芝は当初、2月にも1部復帰を申請する予定だったが、不正取引の対応に追われ、4月までずれ込んだ。 もっとも、東芝にしてみれば、今回の不正取引は子会社が主導したのではなく、過去の東芝不正決算とはまったく異なるとの認識だ。1部昇格審査への影響は限られるとの期待が東芝にはあるが、東証が審査に慎重になる可能性もある。東証の審査期間は3カ月程度とされているが、2017年に東証2部から1部へ復帰したシャープの場合は申請から承認まで約5カ月かかった。 東証1部上場のメリットは、「優良企業」という勲章や誇りが伴うだけではない。企業の信用力が増し、資金調達がしやすくなる。ただ、東芝は2018年に虎の子だった半導体メモリー事業を約2兆円で売却するなど、手元のキャッシュは潤沢だ。そのため、「(1部昇格の狙いは)資金調達がファーストプライオリティではない」(市場関係者)という見方が多い。 東芝が1部復帰を急ぐ本音は、「モノ言う株主(アクティビスト)の排除」にほかならない。2017年に実施した6000億円の大型増資により、アメリカの投資ファンド「キング・ストリート・キャピタル・マネージメント」など、百戦錬磨の外資系投資家が東芝の大株主に名を連ねている。 株価や業績を高めるよう、事あるごとに経営陣に短期的成果を迫り続けている。東芝が生きるか死ぬかの危機的状況下では、投資家の支援は心強かったが、成長を最優先させる今となっては東芝経営陣の悩みの種となっている』、上場廃止を逃れたと思ったら、今度は「東証の昇格基準緩和の恩恵を受ける」、とは政治力の強さは健在のようだ。「6000億円の大型増資」時には、「モノ言う株主」に助けられていながら、今度は「排除」すると「手の平返し」をするとは、ずいぶん虫がいい話だ。
・『「株価6000円」も視野に  大型増資とともに、東芝は2019年までに7000億円という巨額の自社株買いを実施したが、モノ言う株主が応じることはほとんどなかった。「東芝の株価は割安であり、もっと上がる」とみている株主が多く、アクティビストはいまだに東芝株の3割を保有しているとみられる。 東芝は再建過程でアメリカの液化天然ガス(LNG)や半導体メモリーなど、リスクが高かったり、採算の低い事業を次々と整理しており、現在はインフラやエネルギーを中心とした事業構造に転換。収益の振れがない、比較的安定したビジネスモデルとなった。 現在はさらにそれを、ハードの単体売りからIoT(モノのインターネット)を中心にしたサービス事業での成長投資を増やそうとしており、優秀な外部人材を多く採用し始めている。 東芝の株価は、新型コロナショックが本格化する前の2019年末から2020年初めまでは4000円前後で推移しており、2部に降格した当時と比べて1000円ぐらい高い水準だ。1部復帰でTOPIXなどの株価指数に採用されれば、新たな投資資金を呼び込めるため、市場関係者からは「6000円も視野に入ってくる」との声も上がる。 株価が上昇すれば、キャピタルゲインを求めるアクティビストらも東芝株を売却しやすくなり、その代わりに長期的な視野で東芝株を保有する機関投資家が安定株主となってくれるとの期待が東芝にはある。 だが、株価上昇には東証1部復帰のほか、解消すべき課題がある。アクティビストの多くもさらなるリストラを迫っている。 不採算事業として標的となっているのが、半導体事業などを含むデバイス部門だ。デバイス部門をめぐっては、2020年に入って異例の人事が発動されていた。東芝の執行役上席常務を務め、システムLSIを含むデバイス部門を率いてきた、東芝デバイス&ストレージ社長の福地浩志氏が4月1日から東芝グループの旅行代理店である東芝ツーリスト社長に異動になったのだ』、明確な左遷人事だ。
・『デバイス部門トップの「異例人事」  2020年1月に発表された人事で福地氏は、上席常務のまま、管掌が営業推進担当などへ異動する内容だった。しかし、2月になって突如、3月末で役員を退任する人事が発令された。 新たな行き先となる東芝ツーリストはグループ向けの旅行代理店であり、東芝関係者は「上席常務までやった人物が行くポジションではない。更迭だ」と語る。東芝再建のために送り込まれた三井住友銀行出身の車谷暢昭氏は、4月に会長兼CEO(最高経営責任者)から社長兼CEOへ肩書きを変え、綱川智社長を代表権のない会長に退けるなど、自身に権限を集中させる意向を見せている。福地氏の更迭も車谷氏による大ナタ人事との見方が多く、外部からの圧力もあったようだ。 福地氏の代わりに4月からデバイス部門を率いるのは、経営企画部長を務め、車谷社長からの信任が厚い佐藤裕之・執行役上席常務だ。その佐藤氏を支えるのが、4月から東芝本体の経営企画・経営戦略を担当するマッキンゼー出身の加茂正治・執行役上席常務だ。デバイス部門ではすでに400人規模の人員削減などを進めてきたが、佐藤氏と加茂氏が二人三脚で半導体部門の採算改善に取り組み、今後は事業売却も含めた抜本的な施策に踏み込むとの見方も出ている。 車谷社長にとって、2020年3月期決算は中期経営計画1年目の通信簿であり、1400億円(前期比3.9倍)の営業利益は必達目標だ。2019年4~12月期決算は、売上高が前年同期比7%減の2兆4586億円、最終利益はアメリカのLNG事業の売却損などで1456億円の赤字だった。本業の営業利益はインフラやエネルギー部門が堅調だったほか、パソコン事業など不採算案件の売却やリストラ効果で大幅増益になった。 だが、デバイス部門は四半期決算ごとに下方修正を繰り返しており、直近の2月にも通期の営業利益見通しを360億円から290億円に下方修正。多数の回路を1つのチップに集約したシステムLSIで成長を目指したが、データセンターが振るわず、車載向けもデンソーの採用等にとどまるなど誤算が続いている。新型コロナの影響も加わり、東芝グループ全体でみても営業利益目標達成への道のりは不透明だ。 もっとも、車谷社長の表情は意外と楽観的だ。経営危機当時より事業ポートフォリオをインフラ中心に再構築できているため、「新型コロナが東芝の業績に与える影響は限定的」と強気の姿勢を示している。はたして車谷氏率いる東芝は真の復活を果たすことができるか』、不振な「デバイス部門」はいよいよ切り捨てられるのだろうか、それとも特に不振な部門だけの切り離しで済むのだろうか。いずれにしても、決算の動向や1部復帰できるのかが、当面の注目点のようだ。
タグ:東洋経済オンライン 債務超過 日刊ゲンダイ 不正会計 東芝問題 有森隆 (その39)(東芝機械 村上ファンドに勝っても不安なわけ 坂元社長「われわれの中期計画は評価された」、芝浦機械<上>TOB仕掛けた旧村上系ファンド蹴散らし再出発、芝浦機械<下>ココム違反事件を「東芝」は許していなかった、再建中の東芝が「東証1部復帰」にこだわる事情 株価を引き上げ アクティビスト追い出しへ) 「東芝機械、村上ファンドに勝っても不安なわけ 坂元社長「われわれの中期計画は評価された」」 東芝機械が開いた臨時株主総会 東芝機械の買収防衛策が、62%の賛成を得て可決 最後まで勝てると思っていなかった ISSや ブラックロックが賛同してくれたことが追い風に スチュワードシップコードを厳格に持つ投資家も 有事導入型の買収防衛策はガバナンス改革に逆行 村上ファンド側 実質的に経営権を握るのに経営方針を示さないというまれなTOBの形態だから通った 極めて特殊なケース 村上ファンドと話はかみ合わなかった (2017年に)東芝グループから離脱 海外でも東芝のブランドがあれば必ずドアを開けてくれる 売上高販管費比率が業界平均より7%も高いなど、収益性の低い状態が続いた 経営陣の首をかけて中計を達成する 「芝浦機械<上>TOB仕掛けた旧村上系ファンド蹴散らし再出発」 芝浦機械として再出発 買収防衛には成功したが… ブラックロックとISSが先陣を切って賛成を表明 6月末に開催する定時株主総会が最大のヤマ場 「芝浦機械<下>ココム違反事件を「東芝」は許していなかった」 17年3月3日、取引開始前に東京証券取引所の立会外取引で自社株買いを実施し、東芝が売却した東芝機械を1株506円、総額153億円で引き取った。この結果、東芝機械は東芝の持ち分法適用会社から外れた 東芝が東芝機械株を手放した背景には、東芝機械のココム違反事件が影を落としている 親を不幸にする子供の罪は深い。東芝機械を許していなかった。東芝は東芝機械をグループから切り離した。 東芝機械は「スタンドアローン(単独)」での再出発を余儀なくされた ブランドはSHIBAURAへ 「再建中の東芝が「東証1部復帰」にこだわる事情 株価を引き上げ、アクティビスト追い出しへ」 東京証券取引所第2部から1部への復帰を東証に申請 東証2部へ降格 東証の昇格基準緩和の恩恵を受ける 東証は2月、直近2年分でよいとする昇格基準の緩和 東芝ITサービスで5年にわたって実態のない循環取引 東証が審査に慎重になる可能性も 芝が1部復帰を急ぐ本音は、「モノ言う株主(アクティビスト)の排除」 「株価6000円」も視野に アクティビストの多くもさらなるリストラを迫っている 半導体事業などを含むデバイス部門 デバイス部門トップの「異例人事」 デバイス部門は四半期決算ごとに下方修正を繰り返しており、直近の2月にも通期の営業利益見通しを360億円から290億円に下方修正
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感