民主主義(その9)(『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』翻訳者・岩本正明インタビュー ①【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的に民主主義が劣勢に陥った根本理由、②日本人が当たり前に行う「多数決」その重大な欠点 子どもの対話力と決める力を奪っている、③ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選 蔓延する少数派の横暴、④「普通選挙が民主主義のゴール」と思う人、思わない人の決定的な差) [政治]
民主主義については、昨年8月13日に取上げた。今日は、(その9)(『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』翻訳者・岩本正明インタビュー ①【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的にwお民主主義が劣勢に陥った根本理由、②日本人が当たり前に行う「多数決」その重大な欠点 子どもの対話力と決める力を奪っている、③ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選 蔓延する少数派の横暴、④「普通選挙が民主主義のゴール」と思う人、思わない人の決定的な差)である。
先ずは、10月6日付けダイヤモンド・オンライン「【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的に民主主義が劣勢に陥った根本理由 『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』翻訳者・岩本正明インタビュー」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310801
・『日本で「民主主義」という言葉を知らない人はいないだろう。しかし、民主主義が歴史とともに変っていった背景を知る人はそう多くはない。加えて、現在もたくさんの国で変化が起き続けている。民主主義は政治に強い関心のある人が知っておけばよい知識ではない。すべての人の生活に深く関わる社会制度である。そこで、今回は、「いま、なぜ民主主義の通史を学ぶのか」という問いを、『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』の翻訳者・岩本正明さんとともに掘り下げていく(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『民主主義への不満が世界中で高まっている Q:最近、『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』も含め、世界中で民主主義に関する書籍の出版が目立ちます。これにはどういった社会背景が影響しているのでしょうか? 岩本正明(以下、岩本) 本書の冒頭でも指摘されていますが、世界中で民主主義に対する不安や不満が高まっていることが最も大きな原因だといえるでしょう。「民主主義の敗北」ともいえるような事態が各国で起きています。 30年ほど前までは、民主主義の前途は明るく見えました。軍事独裁政権の崩壊やアパルトヘイトの撤廃など、市民の力を軸にした民主主義の力強さを感じることができたのです。しかし、現在は、ベラルーシ、ミャンマー、香港で起きている出来事など、世界中で民主主義への不安を感じずにはいられない状況になっているといえます。 Q:いわゆる「民主主義の揺らぎ」はデータでも裏付けられているのでしょうか? 岩本 はい。本書でも触れられていますが、2019年に27ヵ国を対象に実施したある調査によると、半数以上の回答者がいまの民主主義のあり方に「満足していない」と答えています。加えて、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの研究者は、2007~2017年にかけて民主主義に対する自信が失われており、さらに政府の透明性や説明責任、不正に対する懸念が大きくなっていることを明らかにしています。 しかも、どの国においても民主主義の満足度は特に若者の間で低くなっていることがわかっています。 将来を担う若者の間で、民主主義への満足度が低いというのは気がかりですね。 岩本 日本でも同じような傾向が見られます。例えば、総務省のデータで見ても、20代、30代の若者の投票率が平成に入ってから特に顕著に下がり、その後、波はあれど減少傾向が続いています。 これには、政治への関心の低さという問題もあるかもしれませんが、いわゆる日本の高齢化の進行による「シルバー民主主義」を肌で感じ、無力感にさいなまれているという要因もあるのではないかと思います。若者たちは、「自分たちが投票したところで、結局、数で圧倒する高齢者向けの施策が優先されるに違いない」と感じているのかもしれません』、「30年ほど前までは、民主主義の前途は明るく見えました。軍事独裁政権の崩壊やアパルトヘイトの撤廃など、市民の力を軸にした民主主義の力強さを感じることができたのです。しかし、現在は、ベラルーシ、ミャンマー、香港で起きている出来事など、世界中で民主主義への不安を感じずにはいられない状況になっているといえます」、由々しい事態だ。
・『自由民主主義の国は大幅に減少 Q:「30年ほど前まで、民主主義の前途は明るく見えた」とおっしゃいましたが、世界的にどのような変化が起きているのか教えてください。 岩本 30年前といえば、ちょうど米国の政治学者であるフランシス・フクヤマがベストセラー『歴史の終わり』を出版した頃です。ここでは、民主主義が人類の政治制度における最終形態であると述べています。当時は世界中にソ連の崩壊がセンセーショナルに伝えられ、フクヤマの考えに違和感を持つ人は少なかったのです。 ところが、現在、民主主義の力は大きく失墜しています。民主主義について専門的に調査・研究をしているVーDem研究所の2022年のレポートによると、自由民主主義と区分される国の数は2012年がピークで、現在では1995年の水準にまで下がっていると公表しているのです。つまり、この10年間は民主主義が世界的に後退しているようなのです。 Q:自由民主主義が衰退したのであれば、どのような考え方が台頭しているのでしょうか。 岩本 VーDem研究所は、専制主義に区分される国の数が増加傾向にあると指摘しています。驚くべきことですが、現在では世界の人口の7割が広義の専制主義国家の市民であると分析しています。また、2021年は過去50年間の中で最も多くの国が専制主義に向かったと評しています。EU内ですら、ハンガリーやポーランドなど2割の国が専制主義に傾いているようです』、「自由民主主義と区分される国の数は2012年がピークで、現在では1995年の水準にまで下がっている」、「専制主義に区分される国の数が増加傾向にある」、「現在では世界の人口の7割が広義の専制主義国家の市民である」、「世界の人口の7割が広義の専制主義国家の市民」とは衝撃的だ。
・『いま、なぜ民主主義の歴史を学ぶのか? Q:民主主義から専制主義に傾いていく世界の中で、改めて民主主義の歴史を学ぶ意義とはどういったことでしょう。 岩本 現在、民主主義に対する懐疑的な見方が広がっているからこそ、民主主義の歴史を改めて学ぶ意義があると思っています。民主主義の基本的な仕組みは学校で学びますが、その歴史をご存じの方は多くはないでしょう。実のところ、民主主義の形態は時代とともに大きく変わっています。本書ではまさにそれを知ることができます。 つまり、今の時代の人々もこれまでの民主主義の形を厳守する必要はないのです。本書は一貫して民主主義を擁護する立場を取り、民主主義こそが人類が発明した最も強力な武器だと伝えています。しかし、それは普遍で強固なものではなく、国の状況によって変容する、しなやかさを持ったものだということも本書が主張するところなのです。 Q:民主主義に対する不満が高まっているのは、単に既存の民主主義の形式が時代、あるいは国とマッチしていないからということでしょうか。 岩本 はい、時代に合わないのであれば、時代に合うように変えていけばいい。また、その国ならではの発展を遂げてもいいということが著者の主張だと思います。本書を読んで、民主主義の変遷を知れば、そうした意識が高まり、専制主義に目移りし、極端な方向へ暴走するのではなく、「民主主義の形式を変えていけばよい」という柔軟な考え方ができると思います。 ただ、「まやかしの民主主義」に対しては、注意をしてほしいです。例えば、トルコのエルドアンやロシアのプーチンなどの独裁者は、人民の同意に基づいて独自の民主主義を実践していると主張しています。しかし、実態は国民生活にまで入り込み、監視し、権力に抗う者を屈服させようとしています。民主主義のお題目の下、専制主義が生まれうることを私たちは常に理解しておかなければいけないでしょう。 Q:確かに、「民主主義」と一言で言っても多様な形態がありますよね。国によって、多様な形がありうることを理解するのに本書は役立ちそうです。 岩本 おっしゃる通りです。例えば、紀元前のアテネの民主主義はいわゆる直接民主主義でした。プニュクスという丘に全ての市民が集まって、みんなが顔をそろえて政治や政策について語り合い、方針を決めていったのです。 一方、国家の規模が大きくなるにつれて、市民全員が集まって議論するのは現実的に難しくなりました。そこで生まれたのが、いわゆる代議制民主主義という近代多くの国々が採用している形式です。これは、有権者が選挙で代表者を選んで、その代表者が国民に変わって政治や政策について話し合う民主主義の形態です。 Q:最初から代議制民主主義ではなかったのですね。民主主義の歴史の初期の段階から、大きな変容が起きていることがわかります。では、現在の民主主義の傾向とはいかなるものなのでしょう。 岩本 本書でも述べられていますが、現在は議会や政党だけではなく、NGOなどの草の根の団体が権力の監視役としての力を強めており、民主主義の裾野はますます広がっています。 例えば、環境保護団体のグリーンピース。環境問題を政府に頼るのではなく、直接意見を発表したり世論をリードしたりして、具体的な活動の力を持つようになっています。本書では、こうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みを「牽制民主主義」と名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょう。 今回お伝えしただけでも、民主主義が多様であることはご理解いただけたはずです。この状況を理解できれば、民主主義に対してただ不満をためこむのではなく、時代に合った民主主義の形式に変えるように主体的に関わっていこうと、前向きな機運が高まるのではないかと期待しています』、「本書を読んで、民主主義の変遷を知れば、そうした意識が高まり、専制主義に目移りし、極端な方向へ暴走するのではなく、「民主主義の形式を変えていけばよい」という柔軟な考え方ができると思います。 ただ、「まやかしの民主主義」に対しては、注意をしてほしいです。例えば、トルコのエルドアンやロシアのプーチンなどの独裁者は、人民の同意に基づいて独自の民主主義を実践していると主張しています。しかし、実態は国民生活にまで入り込み、監視し、権力に抗う者を屈服させようとしています。民主主義のお題目の下、専制主義が生まれうることを私たちは常に理解しておかなければいけないでしょう」、「NGOなどの草の根の団体が権力の監視役としての力を強めており、民主主義の裾野はますます広がっています」、「こうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みをこうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みを「牽制民主主義」と名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょうこうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みを「牽制民主主義」と名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょうと名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょう」、「牽制民主主義」とは興味深い動きだ。
次に、この続きを、10月7日付けダイヤモンド・オンライン「日本人が知らない民主主義トリビア公開!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310838
・『民主主義については教科書で学んだものの、やや記憶がおぼろげ……。そんな人も多いかもしれない。大人になって、民主主義にまつわる知識をアップデートする機会はそう多くはないだろう。現在、世界中で民主主義にまつわる書籍が多数刊行されており、改めて注目が集まっている。そんな中で、今回は「え? そうなの」と意外性あふれる民主主義の知識をお届けしたい。『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』の翻訳者・岩本正明さんに話を聞いた(Qは聞き手の質問)』、「意外性あふれる民主主義の知識」とは興味深そうだ。
・『「民主主義=選挙」ではない Q:『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』では民主主義に関して、私たちの常識を覆すような話が続々と出てきますね。 岩本正明(以下、岩本) 私は本書の翻訳を担当したのですが、その過程は驚きの連続でした。いかに自分が民主主義について無知であったのかを痛感したんです。私はアメリカのビジネスメディアであるブルームバーグで記者をしていました。その中で、政治についても人並み以上に勉強していたはずなのです。でも、知らないことがたくさんありました。 Q:おそらく多くの社会人も、民主主義について十分な知識を持ち合わせていないと思います。 岩本 高校の公民科の授業で基本的なことを習うだけで、それ以降は大学で専攻しない限り、民主主義について深く学ぶ機会はありません。現在は18歳で投票できますから、気がつけば選挙権が与えられて、選挙で投票しているような状態かもしれませんね。 さらにいうと、「民主主義=選挙」という、型にはまった考え方の人も多いでしょう。本書では、必ずしも「民主主義=選挙」ではないということを取り上げています。もちろん選挙や法の統治は民主主義において欠かせない要素ですが、そうしたステレオタイプにはまる社会制度ではないということを本書では気付けるはずです。民主主義に対する理解や関心を深める機会として本書を開いてほしいです』、我々は「民主主義」を「ステレオタイプにはまる社会制度」誤解していたようだ。
・『民主主義発祥の地はどこか? Q:本書を読んで、岩本さんが一番驚いたことはどんなことでしょうか。 岩本 何よりも、民主主義の起源が古代ギリシャではないという点ですね。著者はこの通説を、19世紀に語られ始めたロマンチックな物語だと一蹴しています。確かに紀元前5世紀ぐらいにギリシャで唐突に生まれたというお話は、ストーリーとしてはおもしろいんですよね。 著者は、民主主義の原型は現在の中東のシリアやイラク、イランあたりの地域で生まれたと伝えています。民主主義が西洋オリジナルの政治体制だという言説は、単なるでまかせだという主張です。現在では、紀元前2500年ごろの中東で民主主義の原型が生まれたというのが専門家の間で定説になっているようです。 Q:おぼろげな記憶ですが……、私たちが学校で習った内容とは違いますね。 岩本 そうですよね。私もこの史実を知った時は驚きました。ただ、確かに冷静に考えると、紀元前のとある時期に、ヨーロッパの特定の地域で、突如民主主義という政治制度が花開いたと考える方が不自然といえば不自然です。なぜならば、経済や政治、文化というのは、それぞれの地域が互いに影響を与え合って発展するのが自然だからです。 そう考えると、世界最古の文明が栄えた中東の地域にすでに民主主義の原型があり、古代ギリシャに影響を与えたと考えた方が腑に落ちます』、「紀元前2500年ごろの中東で民主主義の原型が生まれたというのが専門家の間で定説になっている」、我々が学んだ「西洋」中心の考え方は間違っていたようだ。
・『民衆の煽動者に対して厳しい目を向けたギリシャ人 Q:民主主義に関してほんとうに知らないことが多いのだな、と痛感しました。他に、岩本さんが印象的だった内容はありますか。 岩本 古代アテネの民主主義がデマゴーグと呼ばれる目立って民衆を煽動するような存在の危険性を強く意識していたという点も、非常に興味深かったです。賛同者の人数が一定数に達することを条件に、民衆を煽動するような人気取りの政治指導者をアテネから10年間、追放することができたといいます。 つまり、当時のギリシャ人は民主主義の負の側面ともいえるデマゴーグの危険性を十分に理解し、警戒しており、そういった事態から国を守る制度をあらかじめ作っていたということです。民主主義をよく理解し、濫用の危険性に対して、現在よりもずっと厳しい目が向けられていたことを意味するように思います。 Q:現代でいうと、トランプ前大統領を思い浮かべました。 岩本 そうですね、もし古代アテネの制度があれば、賛同者の人数が一定数に達すれば、トランプをアメリカから追放できたということです。 民主主義の文化が濃ければ濃いほどポピュリズム(大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢)が生れる危険性も高くなります。ポピュリズムは、既存の政府や政党に対する怒り、不満の裏返しだと思います。アメリカではいわゆる中西部の白人労働者の怒りや不満が露骨に表出した結果、「トランプ現象」が起きたと考えることができるでしょう』、「古代アテネの民主主義がデマゴーグと呼ばれる目立って民衆を煽動するような存在の危険性を強く意識」、「賛同者の人数が一定数に達することを条件に、民衆を煽動するような人気取りの政治指導者をアテネから10年間、追放することができた」、トランプ、イタリアのメローニ新首相あたりは、「デマゴーグ」の典型だ。
・『代議制民主主義の誕生はスペインの地 Q:史実から学べることはたくさんありますね。 岩本 その通りです。他にも、代議制民主主義という政治制度の根幹といえる議会の誕生が、イギリスやフランスではなく、スペイン北部だったということもおもしろい学びでした。 イスラム教徒の侵略に危機感を抱いた当時の国王が、キリスト教徒を団結させるために教会と貴族、一般市民からそれぞれ代表者を集めて、世界初の議会を開いたというのが歴史に残っているんです。 Q:たしかに、近代民主主義の発祥の地といえば、イギリス、アメリカ、フランスというイメージがどうしても強いですよね。 岩本 そうですね。私自身、イギリスやアメリカに住んでいた時期があるのですが、その際に年齢や立場に関係なく議論することが文化として根付いていると感じたんです。互いに意見を出し合って決めていくスタイルが日本よりも全然強かった。ですから、本書に出会うまではスペインが発祥だとは考えてもみませんでした。 見方を変えれば、影響力のある国によって、歴史が都合良く書き換えられることがわかりやすく表れた例だともいえるかもしれませんね』、「代議制民主主義」の発祥は、「イギリスやフランスではなく、スペイン北部だった・・・イスラム教徒の侵略に危機感を抱いた当時の国王が、キリスト教徒を団結させるために教会と貴族、一般市民からそれぞれ代表者を集めて、世界初の議会を開いた」、初めて知った。
・『民主主義は多様であり、土地に合わせて変容する Q:前回は、民主主義がその国や状況に合わせて変容するとおっしゃっていました。民主主義というと、どうしてもアメリカの民主主義やイギリスの民主主義をイメージしてしまう。しかし、その思考自体がやや実態からズレているのかもしれませんね。 岩本 はい。本書では、民主主義には非常に多様な形態があることが指摘されています。例えば、アフリカのセネガルやインドの民主主義は、現地の文化や宗教と密接に絡み合っており、いわゆる欧米型の自由民主主義とは、その内容がずいぶんと異なっています。 こうした傾向を、民主主義が西洋的、白人的なものから、それぞれの土地に根差したものに変わっていると著者は前向きに捉えています。私はこの思いを読んで、オーストラリア出身の著者ならではの、過度に欧米寄りではない、バランスの取れた民主主義の解釈の仕方だと感じました。 Q:そうですね。インドも民主主義に含められるのだと驚きました。平等で法の統治が機能していることが民主主義の要件だと思い込んでいたので。 岩本 インドではたしかに選挙は行なわれているのですが、「国民主権がどこまで果たされているか」といった民主主義の中身に目を向けると、疑問が湧くのは当然でしょう。実際に、民主主義の調査・研究を行なっているV-Dem研究所では、インドは専制主義の国だと分類されているんです。つまり、専門家の中でも意見が割れている。世界一の人口を誇る国ですから、今後より注目が集まっていくことは間違いないでしょう。 Q:なるほど、広義の民主主義で捉えるか、狭義の民主主義で捉えるかでも、その位置付けが変わってきそうですね。ただ、「多様な民主主義が世界に存在している」という考え方はきちんと踏まえておきたいです。 岩本 はい。本書で引用されているフランスの哲学者のジャン・リュック・ナンシーは「民主主義は形の決まったものではない」と伝えています。水と同じように絶えずその形を変えるのが民主主義なのです。 これまで当然とされていた生き方に抵抗することが、民主主義の真の魅力だと著者は考えているのではないかと私は思っています』、「アフリカのセネガルやインドの民主主義は、現地の文化や宗教と密接に絡み合っており、いわゆる欧米型の自由民主主義とは、その内容がずいぶんと異なっています。 こうした傾向を、民主主義が西洋的、白人的なものから、それぞれの土地に根差したものに変わっている」、「多様な民主主義が世界に存在している」というのは、西欧型がモデルとする従来の考え方への挑戦で興味深い。
第三に、この続きを、10月8日付けダイヤモンド・オンライン「「民主主義の理解」がビジネスパーソンの必須能力になってきた特殊事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310857
・『民主主義と資本主義はセットで語られることが多い。しかし、それらがどのような関係性になっているのか、またどう結びついているのかについて語れる人はそう多くはないのではないだろうか。政治に関心がない方の中には、「自分には関係ない!」「今さら学んでも意味があるの?」と思う方もいるだろう。そこで、今回はビジネスパーソンが知っておきたい、民主主義と資本主義についてお届けしたい。『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史 ビジネスパーソンとして知っておきたい教養』の翻訳者・岩本正明さんにお話を聞いた(Qは聞き手の質問)』、「ビジネスパーソンが知っておきたい、民主主義と資本主義」、とは興味深そうだ。
・『ビジネスパーソンには民主主義の理解が不可欠になってきた Q:『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史 ビジネスパーソンとして知っておきたい教養』というタイトルにあるとおり、ビジネスパーソンも教養として民主主義の通史を理解する必要はあるのでしょうか。 岩本正明(以下、岩本) はい。知っておくことで、経済の仕組みへの理解がより深まるはずです。ビジネスパーソンの方の主たる関心である目の前の営業成績の向上やサービスの改善に、民主主義の通史の理解が直接役立つことは少ないでしょう。ただ、より俯瞰した視点でビジネスや経済を見る立場となった際には、政治や国際情勢に対する理解が不可欠になってきます。そうした知見をベースに、意思決定が求められることもあるでしょう。 Q:たしかに、つい現場の業務に追われてしまいがちですが、ビジネスは世界の政治と切り離せないものですよね。 岩本 おっしゃる通りです。政治と経済は切り離せません。マルクスは経済を下部構造、政治や社会を上部構造として、上部構造は下部構造に依存しているという唯物史観を示していました。 現実社会を見ても、資本主義は民主主義に、民主主義は資本主義に影響を与え合っていますよね。 Q:イメージではわかるのですが、具体的にどう影響し合っているのでしょうか。 岩本 本書では、現在の民主主義に対する不満の多くは、貧富の格差の拡大に行き着くということが指摘されています。言うまでもなく、貧富の格差拡大は現在の資本主義システムの構造によって生み出されています。つまり、資本主義は大きく民主主義に影響を与えているのです。 Q:日本に目を向けると、岸田文雄首相も格差拡大を意識しているのか、「新しい資本主義」というスローガンを掲げていますね。 岩本 岸田首相の掲げる「新しい資本主義」は、競争や成長よりも、分配や格差の是正を強く意識しているように感じます。つまり、日本の政府も現状の資本主義のあり方に対しては課題意識を抱いているのだと思います。日本らしい資本主義を作り上げていってほしいですね。 Q:「【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的に民主主義が危機に陥っている理由」 では、多様な民主主義の形態があることを伺いました。例えばアメリカなどの民主主義を正解として追うのではなく、日本ならではの民主主義を作り上げていくことが重要なのでしょうか。 岩本 そうです。いわゆる、イギリスやアメリカが標榜するような「デモクラシー」が正解だというわけではありません。 比喩として正しいかわかりませんが、日本の「柔道」は世界中に「JUDO」として広がっていますよね。フランスでは、日本よりも柔道人口が多いと聞きます。日本人が目指す武道としての「柔道」と、世界に広がるスポーツとしての「JUDO」ではやはり目指すところが違うように思うんです。しかし、そのどちらが正解でどちらが間違っているということはありませんよね。ある種、文化の違いといえると思います。こうした差異が民主主義の理解にもあるように思うんです』、「現在の民主主義に対する不満の多くは、貧富の格差の拡大に行き着くということが指摘・・・貧富の格差拡大は現在の資本主義システムの構造によって生み出されています。つまり、資本主義は大きく民主主義に影響を与えているのです」、「日本人が目指す武道としての「柔道」と、世界に広がるスポーツとしての「JUDO」ではやはり目指すところが違うように思うんです。しかし、そのどちらが正解でどちらが間違っているということはありませんよね。ある種、文化の違いといえると思います。こうした差異が民主主義の理解にもあるように思うんです」、ずいぶん深い考え方だ。
・『資本主義が民主主義に与えた影響とは? Q:歴史を振り返ると民主主義と資本主義が相互に関係し合ってきたことを、本書では度々指摘していますね。 岩本 そうですね。過去には、資本主義が民主主義の発展を助長した時期もありました。資本主義が物質的豊かさを生み出したことで分厚い中産階級が生まれ、民主主義の素地を築いたという考え方です。さらに、労働組合や社会保障の充実などによって守られた労働者による大衆運動は、市民社会の発展に寄与したとも言えるでしょう。 Q:ただ、冒頭でおっしゃっていた内容を踏まえると、現在は、貧富の格差の拡大などを招く資本主義は民主主義にあまりよい影響を与えていないようにも感じました。 岩本 おっしゃる通りです。最近では資本主義は格差の拡大という形で、民主主義に対してマイナスの作用が目立つようになりました。また、資本主義が生み出す金融危機が社会や経済の混乱につながり、民主主義を足元から揺るがしていることも事実です。日本におけるバブルの崩壊や世界的なリーマンショックなど、資本主義がもたらしたショックが、政治の舵取りに大きな影を落としたことはいうまでもありません。 Q:資本主義が民主主義に与えた影響で、象徴的な出来事はありますか。 岩本 アメリカのトランプ前大統領の誕生は、象徴的な出来事だったといえるのではないでしょうか。資本主義の競争社会に取り残された人々の心情を巧みに掬い取り、選挙で歴史的な勝利を収めました。 トランプ前大統領だけではありません。南米やヨーロッパでも国民の不満や怒りを利用したポピュリズム(大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢)的指導者の台頭が見られます。資本主義の暴走をコントロールできない、いまの政治に対する国民の不満により、専制主義的な指導者が各国で生まれているという側面はあると思います』、「トランプ前大統領だけではありません。南米やヨーロッパでも国民の不満や怒りを利用したポピュリズム(大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢)的指導者の台頭が見られます。資本主義の暴走をコントロールできない、いまの政治に対する国民の不満により、専制主義的な指導者が各国で生まれているという側面はある」、その通りだ。
・『民主主義は経済成長を後押ししない? Q:資本主義が民主主義に影響を与えている状況は理解しました。逆に、民主主義は資本主義にどのような影響を与えているのでしょうか。 岩本 ここ20年間のデータからは、民主主義が経済成長にマイナスの影響を与えている可能性が示唆されています。例えば、中国は言うまでもなく、中 東やアフリカの専制主義の国々の成長率も、最近では各民主主義国家のそれを上回っているのです。 30年前まで、「経済成長のためには民主化が不可欠だ」といわれてきました。しかし、現在ではもはや経済成長のために民主化が必要だというロジックは通用しなくなっているのです。厳しい表現ですが、経済成長という飴を餌にして、新興国に民主化を求めることはできなくなっています。 Q:民主主義が経済成長に寄与しないとすると、ある種、資本主義と民主主義はお互いに負の影響しか与え合っていないということになるのでしょうか。 岩本 お伝えした通り、資本主義は勝者総取りで、格差拡大を後押しする機能を持っています。一方で民主主義は平等と分配を後押しする機能だと思うんです。そういう意味で、資本主義と民主主義は性格的に真逆の作用を持つ制度として、補完し合う関係性であるという見方もできるでしょう。 実際に、民主主義と資本主義を共存させ、共に発展させている国もあります。例えば、北欧はうまく資本主義の暴走を抑えるような制度設計をしているように思います。一方で、イギリスやアメリカは資本主義のマイナスの側面よりもプラスの側面を軸に制度設計をしている。つまり、資本主義の持つ活力をどの程度発揮させるのかを調整するのが民主主義だという見方はできると思います。 Q:グローバルにビジネスが広がっている今、各国の民主主義と資本主義がどういった関係性になっているのかを知ることは非常に重要なことだと感じました。 岩本 その通りです。政治と経済、民主主義と資本主義が相互に影響し合っている現状を考えると、資本主義の中で戦うビジネスパーソンにとって民主主義の理解は大切だと思います。 民主主義の歴史というのは、現在に通ずる政治の歴史と考えても間違いではありません。過去を知ることで、政治が今後、どのように変わっていくのかを理解しやすくなります。そうすれば、経済や社会がどのように変化していくのか、その見通しも立てやすくなるのではないでしょうか』、「民主主義の歴史というのは、現在に通ずる政治の歴史と考えても間違いではありません。過去を知ることで、政治が今後、どのように変わっていくのかを理解しやすくなります。そうすれば、経済や社会がどのように変化していくのか、その見通しも立てやすくなるのではないでしょうか」、その通りなのかも知れない。
第四に、この続きを、10月9日付けダイヤモンド・オンライン「「普通選挙が民主主義のゴール」と思う人、思わない人の決定的な差」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310874
・『現在、世界中で民主主義を問い直す書籍が話題となっている。その一つが、『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』だ。翻訳者・岩本正明さんは、本書の著者ジョン・キーンがこれからの民主主義を占う上で重要な提言をしていると指摘する。世界各国で専制主義の指導者が台頭する昨今において、私たちは民主主義のアップデートをどう考えていけばよいのか。岩本さんに話を聞いた』、「民主主義のアップデート」とは興味深そうだ。
・『新しい民主主義のかたち、「牽制民主主義」とは? Q:現在、世界中で民主主義への不満が高まっていると、以前の記事 でお話を伺いました。『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』では、一貫して民主主義の重要性を伝えていますよね。 岩本正明(以下、岩本) そうですね、民主主義を否定するのではなく、民主主義のアップデートが必要なタイミングに入っていると本書で著者は伝えています。専制主義が台頭するこの激動の時代において、権力の集中をいかに抑制していくかは重要な課題です。 こうした時代背景の中で生まれたのが、牽制民主主義(monitory democracy)です。これは本書の著者の造語で、戦後に発展した新たな民主主義の概念といえます。本書では、牽制民主主義を近代に発展した選挙や政党、議会を中心とする選挙民主主義とは、はっきりと区別しています。集会民主主義と選挙民主主義の違いと同じくらいに、選挙民主主義と牽制民主主義にも違いがあると伝えているのです。 Q:牽制民主主義は具体的にどのような機能を持っているのでしょうか。 岩本 牽制民主主義は、権力を監視、抑制するための新たな仕組みや機能を特徴としており、著者によると、あらゆる地域や分野で、権力に対抗するためのそうした機関が雨後の筍のように立ち上がっているといいます。 国民が民主主義に対して不満を持っているのは、「自分たちの民意が政治や政策に反映されていない」という思いに由来します。必要なことは、それがうまく反映される仕組みを作ること。近代では「選挙」がその発明でしたが、選挙とは違う形で民意をくみ取るための仕組みとして、牽制民主主義が期待されているのです。 Q:世界的な環境保護団体であるグリーンピースのような組織をイメージするといいのでしょうか? 岩本 おっしゃる通りです。グレタ・トゥンベリさんの登場なども象徴的ですね。こうした新しい力は、市民の草の根の運動を端緒とするという共通点があります。こういった組織の台頭と歩調を合わせて、政党や議会が市民の利害を代表する力は弱まっていると著者は指摘しています。 市民が選挙や議会に頼ることなく、自らの利害を守ったり、意見を訴えるチャンネルが増えている。この牽制民主主義こそが、「最もバイタリティに満ちた民主主義の形態」だと著者は評しています。 Q:牽制民主主義と選挙民主主義の違いを教えてください。 岩本 選挙民主主義には大きな欠点があります。選挙制度は多数派が勝利する仕組み。そのため、「多数派の意思に無制限に従わなければならない」という弊害が引き起こされるのです。牽制民主主義では、議会に頼ることなく、市民一人ひとりがそれぞれの利害を守る手段を持っているため、選挙民主主義の欠点を補うことができると考えられます。 それまでの民主主義は、あくまで政府の権力を抑制するための手段でした。牽制民主主義では、恣意的な権力の拒絶が、社会生活全般において可能となりました。そのため、政治がこれまで介入することのなかった職場でのいじめやセクハラ、人種差別、動物虐待などに対しても監視・抑制機能が生まれるようになったのです』、「選挙民主主義には大きな欠点があります。選挙制度は多数派が勝利する仕組み。そのため、「多数派の意思に無制限に従わなければならない」という弊害が引き起こされるのです。牽制民主主義では、議会に頼ることなく、市民一人ひとりがそれぞれの利害を守る手段を持っているため、選挙民主主義の欠点を補うことができると考えられます。 それまでの民主主義は、あくまで政府の権力を抑制するための手段でした。牽制民主主義では、恣意的な権力の拒絶が、社会生活全般において可能となりました。そのため、政治がこれまで介入することのなかった職場でのいじめやセクハラ、人種差別、動物虐待などに対しても監視・抑制機能が生まれるようになったのです」、「牽制民主主義では、」「政治がこれまで介入することのなかった職場でのいじめやセクハラ、人種差別、動物虐待などに対しても監視・抑制機能が生まれるようになった」、本当に機能するようなら素晴らしい。
・『世界に広がる専制主義に対抗する力が牽制民主主義 Q:牽制民主主義が登場する一方で、専制主義も力を増しているように感じます。 岩本 確かに牽制民主主義が発展する一方で、中国を筆頭とした新しい専制主義国家の台頭も今の時代の特徴といえます。著者は、ロシアやトルコ、ハンガリーなどはトップダウンの政治構造を持ち、これまでになかった手法で国民の忠誠心を操っていると指摘しています。毎日ニュースで流れるロシアの振る舞いを見ていれば、それは明らかなことでしょう。 Q:近年登場している専制主義的指導者たちは、どうやって民衆の心を掴んでいるのでしょう。 岩本 現在の専制主義国家は暴力や力による支配というよりも、巧妙に国民の心理を操作して、自発的に服従させる術に長けているといいます。そういう意味では、より厄介な存在といえるかもしれません。 例えば、アメリカのトランプ前大統領のことを「SNSによって生まれた大統領」と評価する専門家もいるほど、トランプ現象とSNSは密接に関連しています。SNSは確かに民衆を扇動しやすいツールでしょう。しかし、だからといってSNSに問題があるわけではない。テクノロジーには、プラスの面もあればマイナスの面もあるものです。トランプ前大統領の例は、その前提を理解した上で付き合う必要がある、と警鐘を鳴らしたといえます。 Q:こうした専制主義台頭の背景にはいったい何があるのでしょうか。 岩本 変化の激しい時代だからこそ、決断までに時間のかかる民主主義よりも、トップが即断即決できる専制主義の方が有利だと主張されているのです。例えば、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大した当初、合議的に方針を決定する欧米と、トップダウンで方針を打ち出す中国との対応には大きな差が出ました。混沌とした時代には、スピード感を持った強力なリーダーシップが求められやすいのです。 先が見えない社会において、頼りになるリーダーを迎えたくなる民衆の思いもあるでしょう。しかし、現在のロシアを見ればわかる通り、新しい専制主義国家も本質的には昔の専制主義国家と変わりません。つまり、真に求めているものは権力の集中であり、その権力を他者に恣意的に行使することです。力と暴力を使って、自分たちの都合のいいように世の中を変えていくというのが今も昔も専制主義の共通項なのです』、「先が見えない社会において、頼りになるリーダーを迎えたくなる民衆の思いもあるでしょう。しかし、現在のロシアを見ればわかる通り、新しい専制主義国家も本質的には昔の専制主義国家と変わりません。つまり、真に求めているものは権力の集中であり、その権力を他者に恣意的に行使することです。力と暴力を使って、自分たちの都合のいいように世の中を変えていくというのが今も昔も専制主義の共通項なのです」、同感である。
・『民主主義の意義は多元主義の擁護 Q:民主主義は一気に専制主義に転じることがありうるということでしょうか。 岩本 そうですね、歴史的に見ても民主主義の中から専制主義が生まれることはありました。ヒトラーの誕生前はドイツは民主主義であり、民主的な手続きを経てヒトラーが首相に選ばれたわけです。国民をうまく先導できれば、民主主義の手続きを経て選ばれたトップがその国を専制主義国家に変えることができるといえるでしょう。 また、独裁的な振る舞いの目立ったトランプ前大統領を見ればわかる通り、民主主義国家の内部にも専制主義的な要素が息づいています。 Q:民主主義の歴史を学ぶことで、民衆がどう専制主義に転じていくのかを知ることができますね。現在のような混沌とした時代だからこそ、改めて民主主義を学び、支持する理由があるように感じました。 岩本 本書では、民主主義の目的は多元主義を擁護することにあると結論づけています。つまり、人々の多様な生き方を最も尊重するのが民主主義であるという考えです。また、民主主義は権力を抑制するための終わりなき過程であるとも著者は語っています。 民主主義は時代や場所によってその形を変化させていきます。生き方の多様性を受け入れながら形態を変えていくその柔軟性こそが、民主主義が今後も生き残っていく強みなのかもしれません。 イギリスの思想家であるジョン・アクトンが「絶対的権力は絶対的に腐敗する」と述べたことは有名ですが、もしそれが真理なのであれば、やはり今後も民主主義は必要とされていくでしょう。権力を監視、抑制する機能を考えると、牽制民主主義こそが理想的な政治制度だといえるのではないでしょうか』、「本書では、民主主義の目的は多元主義を擁護することにあると結論づけています。つまり、人々の多様な生き方を最も尊重するのが民主主義であるという考えです。また、民主主義は権力を抑制するための終わりなき過程であるとも著者は語っています。 民主主義は時代や場所によってその形を変化させていきます。生き方の多様性を受け入れながら形態を変えていくその柔軟性こそが、民主主義が今後も生き残っていく強みなのかもしれません」、「権力を監視、抑制する機能を考えると、牽制民主主義こそが理想的な政治制度だといえるのではないでしょうか」、同感である。
先ずは、10月6日付けダイヤモンド・オンライン「【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的に民主主義が劣勢に陥った根本理由 『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』翻訳者・岩本正明インタビュー」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310801
・『日本で「民主主義」という言葉を知らない人はいないだろう。しかし、民主主義が歴史とともに変っていった背景を知る人はそう多くはない。加えて、現在もたくさんの国で変化が起き続けている。民主主義は政治に強い関心のある人が知っておけばよい知識ではない。すべての人の生活に深く関わる社会制度である。そこで、今回は、「いま、なぜ民主主義の通史を学ぶのか」という問いを、『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』の翻訳者・岩本正明さんとともに掘り下げていく(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『民主主義への不満が世界中で高まっている Q:最近、『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』も含め、世界中で民主主義に関する書籍の出版が目立ちます。これにはどういった社会背景が影響しているのでしょうか? 岩本正明(以下、岩本) 本書の冒頭でも指摘されていますが、世界中で民主主義に対する不安や不満が高まっていることが最も大きな原因だといえるでしょう。「民主主義の敗北」ともいえるような事態が各国で起きています。 30年ほど前までは、民主主義の前途は明るく見えました。軍事独裁政権の崩壊やアパルトヘイトの撤廃など、市民の力を軸にした民主主義の力強さを感じることができたのです。しかし、現在は、ベラルーシ、ミャンマー、香港で起きている出来事など、世界中で民主主義への不安を感じずにはいられない状況になっているといえます。 Q:いわゆる「民主主義の揺らぎ」はデータでも裏付けられているのでしょうか? 岩本 はい。本書でも触れられていますが、2019年に27ヵ国を対象に実施したある調査によると、半数以上の回答者がいまの民主主義のあり方に「満足していない」と答えています。加えて、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの研究者は、2007~2017年にかけて民主主義に対する自信が失われており、さらに政府の透明性や説明責任、不正に対する懸念が大きくなっていることを明らかにしています。 しかも、どの国においても民主主義の満足度は特に若者の間で低くなっていることがわかっています。 将来を担う若者の間で、民主主義への満足度が低いというのは気がかりですね。 岩本 日本でも同じような傾向が見られます。例えば、総務省のデータで見ても、20代、30代の若者の投票率が平成に入ってから特に顕著に下がり、その後、波はあれど減少傾向が続いています。 これには、政治への関心の低さという問題もあるかもしれませんが、いわゆる日本の高齢化の進行による「シルバー民主主義」を肌で感じ、無力感にさいなまれているという要因もあるのではないかと思います。若者たちは、「自分たちが投票したところで、結局、数で圧倒する高齢者向けの施策が優先されるに違いない」と感じているのかもしれません』、「30年ほど前までは、民主主義の前途は明るく見えました。軍事独裁政権の崩壊やアパルトヘイトの撤廃など、市民の力を軸にした民主主義の力強さを感じることができたのです。しかし、現在は、ベラルーシ、ミャンマー、香港で起きている出来事など、世界中で民主主義への不安を感じずにはいられない状況になっているといえます」、由々しい事態だ。
・『自由民主主義の国は大幅に減少 Q:「30年ほど前まで、民主主義の前途は明るく見えた」とおっしゃいましたが、世界的にどのような変化が起きているのか教えてください。 岩本 30年前といえば、ちょうど米国の政治学者であるフランシス・フクヤマがベストセラー『歴史の終わり』を出版した頃です。ここでは、民主主義が人類の政治制度における最終形態であると述べています。当時は世界中にソ連の崩壊がセンセーショナルに伝えられ、フクヤマの考えに違和感を持つ人は少なかったのです。 ところが、現在、民主主義の力は大きく失墜しています。民主主義について専門的に調査・研究をしているVーDem研究所の2022年のレポートによると、自由民主主義と区分される国の数は2012年がピークで、現在では1995年の水準にまで下がっていると公表しているのです。つまり、この10年間は民主主義が世界的に後退しているようなのです。 Q:自由民主主義が衰退したのであれば、どのような考え方が台頭しているのでしょうか。 岩本 VーDem研究所は、専制主義に区分される国の数が増加傾向にあると指摘しています。驚くべきことですが、現在では世界の人口の7割が広義の専制主義国家の市民であると分析しています。また、2021年は過去50年間の中で最も多くの国が専制主義に向かったと評しています。EU内ですら、ハンガリーやポーランドなど2割の国が専制主義に傾いているようです』、「自由民主主義と区分される国の数は2012年がピークで、現在では1995年の水準にまで下がっている」、「専制主義に区分される国の数が増加傾向にある」、「現在では世界の人口の7割が広義の専制主義国家の市民である」、「世界の人口の7割が広義の専制主義国家の市民」とは衝撃的だ。
・『いま、なぜ民主主義の歴史を学ぶのか? Q:民主主義から専制主義に傾いていく世界の中で、改めて民主主義の歴史を学ぶ意義とはどういったことでしょう。 岩本 現在、民主主義に対する懐疑的な見方が広がっているからこそ、民主主義の歴史を改めて学ぶ意義があると思っています。民主主義の基本的な仕組みは学校で学びますが、その歴史をご存じの方は多くはないでしょう。実のところ、民主主義の形態は時代とともに大きく変わっています。本書ではまさにそれを知ることができます。 つまり、今の時代の人々もこれまでの民主主義の形を厳守する必要はないのです。本書は一貫して民主主義を擁護する立場を取り、民主主義こそが人類が発明した最も強力な武器だと伝えています。しかし、それは普遍で強固なものではなく、国の状況によって変容する、しなやかさを持ったものだということも本書が主張するところなのです。 Q:民主主義に対する不満が高まっているのは、単に既存の民主主義の形式が時代、あるいは国とマッチしていないからということでしょうか。 岩本 はい、時代に合わないのであれば、時代に合うように変えていけばいい。また、その国ならではの発展を遂げてもいいということが著者の主張だと思います。本書を読んで、民主主義の変遷を知れば、そうした意識が高まり、専制主義に目移りし、極端な方向へ暴走するのではなく、「民主主義の形式を変えていけばよい」という柔軟な考え方ができると思います。 ただ、「まやかしの民主主義」に対しては、注意をしてほしいです。例えば、トルコのエルドアンやロシアのプーチンなどの独裁者は、人民の同意に基づいて独自の民主主義を実践していると主張しています。しかし、実態は国民生活にまで入り込み、監視し、権力に抗う者を屈服させようとしています。民主主義のお題目の下、専制主義が生まれうることを私たちは常に理解しておかなければいけないでしょう。 Q:確かに、「民主主義」と一言で言っても多様な形態がありますよね。国によって、多様な形がありうることを理解するのに本書は役立ちそうです。 岩本 おっしゃる通りです。例えば、紀元前のアテネの民主主義はいわゆる直接民主主義でした。プニュクスという丘に全ての市民が集まって、みんなが顔をそろえて政治や政策について語り合い、方針を決めていったのです。 一方、国家の規模が大きくなるにつれて、市民全員が集まって議論するのは現実的に難しくなりました。そこで生まれたのが、いわゆる代議制民主主義という近代多くの国々が採用している形式です。これは、有権者が選挙で代表者を選んで、その代表者が国民に変わって政治や政策について話し合う民主主義の形態です。 Q:最初から代議制民主主義ではなかったのですね。民主主義の歴史の初期の段階から、大きな変容が起きていることがわかります。では、現在の民主主義の傾向とはいかなるものなのでしょう。 岩本 本書でも述べられていますが、現在は議会や政党だけではなく、NGOなどの草の根の団体が権力の監視役としての力を強めており、民主主義の裾野はますます広がっています。 例えば、環境保護団体のグリーンピース。環境問題を政府に頼るのではなく、直接意見を発表したり世論をリードしたりして、具体的な活動の力を持つようになっています。本書では、こうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みを「牽制民主主義」と名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょう。 今回お伝えしただけでも、民主主義が多様であることはご理解いただけたはずです。この状況を理解できれば、民主主義に対してただ不満をためこむのではなく、時代に合った民主主義の形式に変えるように主体的に関わっていこうと、前向きな機運が高まるのではないかと期待しています』、「本書を読んで、民主主義の変遷を知れば、そうした意識が高まり、専制主義に目移りし、極端な方向へ暴走するのではなく、「民主主義の形式を変えていけばよい」という柔軟な考え方ができると思います。 ただ、「まやかしの民主主義」に対しては、注意をしてほしいです。例えば、トルコのエルドアンやロシアのプーチンなどの独裁者は、人民の同意に基づいて独自の民主主義を実践していると主張しています。しかし、実態は国民生活にまで入り込み、監視し、権力に抗う者を屈服させようとしています。民主主義のお題目の下、専制主義が生まれうることを私たちは常に理解しておかなければいけないでしょう」、「NGOなどの草の根の団体が権力の監視役としての力を強めており、民主主義の裾野はますます広がっています」、「こうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みをこうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みを「牽制民主主義」と名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょうこうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みを「牽制民主主義」と名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょうと名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょう」、「牽制民主主義」とは興味深い動きだ。
次に、この続きを、10月7日付けダイヤモンド・オンライン「日本人が知らない民主主義トリビア公開!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310838
・『民主主義については教科書で学んだものの、やや記憶がおぼろげ……。そんな人も多いかもしれない。大人になって、民主主義にまつわる知識をアップデートする機会はそう多くはないだろう。現在、世界中で民主主義にまつわる書籍が多数刊行されており、改めて注目が集まっている。そんな中で、今回は「え? そうなの」と意外性あふれる民主主義の知識をお届けしたい。『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』の翻訳者・岩本正明さんに話を聞いた(Qは聞き手の質問)』、「意外性あふれる民主主義の知識」とは興味深そうだ。
・『「民主主義=選挙」ではない Q:『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』では民主主義に関して、私たちの常識を覆すような話が続々と出てきますね。 岩本正明(以下、岩本) 私は本書の翻訳を担当したのですが、その過程は驚きの連続でした。いかに自分が民主主義について無知であったのかを痛感したんです。私はアメリカのビジネスメディアであるブルームバーグで記者をしていました。その中で、政治についても人並み以上に勉強していたはずなのです。でも、知らないことがたくさんありました。 Q:おそらく多くの社会人も、民主主義について十分な知識を持ち合わせていないと思います。 岩本 高校の公民科の授業で基本的なことを習うだけで、それ以降は大学で専攻しない限り、民主主義について深く学ぶ機会はありません。現在は18歳で投票できますから、気がつけば選挙権が与えられて、選挙で投票しているような状態かもしれませんね。 さらにいうと、「民主主義=選挙」という、型にはまった考え方の人も多いでしょう。本書では、必ずしも「民主主義=選挙」ではないということを取り上げています。もちろん選挙や法の統治は民主主義において欠かせない要素ですが、そうしたステレオタイプにはまる社会制度ではないということを本書では気付けるはずです。民主主義に対する理解や関心を深める機会として本書を開いてほしいです』、我々は「民主主義」を「ステレオタイプにはまる社会制度」誤解していたようだ。
・『民主主義発祥の地はどこか? Q:本書を読んで、岩本さんが一番驚いたことはどんなことでしょうか。 岩本 何よりも、民主主義の起源が古代ギリシャではないという点ですね。著者はこの通説を、19世紀に語られ始めたロマンチックな物語だと一蹴しています。確かに紀元前5世紀ぐらいにギリシャで唐突に生まれたというお話は、ストーリーとしてはおもしろいんですよね。 著者は、民主主義の原型は現在の中東のシリアやイラク、イランあたりの地域で生まれたと伝えています。民主主義が西洋オリジナルの政治体制だという言説は、単なるでまかせだという主張です。現在では、紀元前2500年ごろの中東で民主主義の原型が生まれたというのが専門家の間で定説になっているようです。 Q:おぼろげな記憶ですが……、私たちが学校で習った内容とは違いますね。 岩本 そうですよね。私もこの史実を知った時は驚きました。ただ、確かに冷静に考えると、紀元前のとある時期に、ヨーロッパの特定の地域で、突如民主主義という政治制度が花開いたと考える方が不自然といえば不自然です。なぜならば、経済や政治、文化というのは、それぞれの地域が互いに影響を与え合って発展するのが自然だからです。 そう考えると、世界最古の文明が栄えた中東の地域にすでに民主主義の原型があり、古代ギリシャに影響を与えたと考えた方が腑に落ちます』、「紀元前2500年ごろの中東で民主主義の原型が生まれたというのが専門家の間で定説になっている」、我々が学んだ「西洋」中心の考え方は間違っていたようだ。
・『民衆の煽動者に対して厳しい目を向けたギリシャ人 Q:民主主義に関してほんとうに知らないことが多いのだな、と痛感しました。他に、岩本さんが印象的だった内容はありますか。 岩本 古代アテネの民主主義がデマゴーグと呼ばれる目立って民衆を煽動するような存在の危険性を強く意識していたという点も、非常に興味深かったです。賛同者の人数が一定数に達することを条件に、民衆を煽動するような人気取りの政治指導者をアテネから10年間、追放することができたといいます。 つまり、当時のギリシャ人は民主主義の負の側面ともいえるデマゴーグの危険性を十分に理解し、警戒しており、そういった事態から国を守る制度をあらかじめ作っていたということです。民主主義をよく理解し、濫用の危険性に対して、現在よりもずっと厳しい目が向けられていたことを意味するように思います。 Q:現代でいうと、トランプ前大統領を思い浮かべました。 岩本 そうですね、もし古代アテネの制度があれば、賛同者の人数が一定数に達すれば、トランプをアメリカから追放できたということです。 民主主義の文化が濃ければ濃いほどポピュリズム(大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢)が生れる危険性も高くなります。ポピュリズムは、既存の政府や政党に対する怒り、不満の裏返しだと思います。アメリカではいわゆる中西部の白人労働者の怒りや不満が露骨に表出した結果、「トランプ現象」が起きたと考えることができるでしょう』、「古代アテネの民主主義がデマゴーグと呼ばれる目立って民衆を煽動するような存在の危険性を強く意識」、「賛同者の人数が一定数に達することを条件に、民衆を煽動するような人気取りの政治指導者をアテネから10年間、追放することができた」、トランプ、イタリアのメローニ新首相あたりは、「デマゴーグ」の典型だ。
・『代議制民主主義の誕生はスペインの地 Q:史実から学べることはたくさんありますね。 岩本 その通りです。他にも、代議制民主主義という政治制度の根幹といえる議会の誕生が、イギリスやフランスではなく、スペイン北部だったということもおもしろい学びでした。 イスラム教徒の侵略に危機感を抱いた当時の国王が、キリスト教徒を団結させるために教会と貴族、一般市民からそれぞれ代表者を集めて、世界初の議会を開いたというのが歴史に残っているんです。 Q:たしかに、近代民主主義の発祥の地といえば、イギリス、アメリカ、フランスというイメージがどうしても強いですよね。 岩本 そうですね。私自身、イギリスやアメリカに住んでいた時期があるのですが、その際に年齢や立場に関係なく議論することが文化として根付いていると感じたんです。互いに意見を出し合って決めていくスタイルが日本よりも全然強かった。ですから、本書に出会うまではスペインが発祥だとは考えてもみませんでした。 見方を変えれば、影響力のある国によって、歴史が都合良く書き換えられることがわかりやすく表れた例だともいえるかもしれませんね』、「代議制民主主義」の発祥は、「イギリスやフランスではなく、スペイン北部だった・・・イスラム教徒の侵略に危機感を抱いた当時の国王が、キリスト教徒を団結させるために教会と貴族、一般市民からそれぞれ代表者を集めて、世界初の議会を開いた」、初めて知った。
・『民主主義は多様であり、土地に合わせて変容する Q:前回は、民主主義がその国や状況に合わせて変容するとおっしゃっていました。民主主義というと、どうしてもアメリカの民主主義やイギリスの民主主義をイメージしてしまう。しかし、その思考自体がやや実態からズレているのかもしれませんね。 岩本 はい。本書では、民主主義には非常に多様な形態があることが指摘されています。例えば、アフリカのセネガルやインドの民主主義は、現地の文化や宗教と密接に絡み合っており、いわゆる欧米型の自由民主主義とは、その内容がずいぶんと異なっています。 こうした傾向を、民主主義が西洋的、白人的なものから、それぞれの土地に根差したものに変わっていると著者は前向きに捉えています。私はこの思いを読んで、オーストラリア出身の著者ならではの、過度に欧米寄りではない、バランスの取れた民主主義の解釈の仕方だと感じました。 Q:そうですね。インドも民主主義に含められるのだと驚きました。平等で法の統治が機能していることが民主主義の要件だと思い込んでいたので。 岩本 インドではたしかに選挙は行なわれているのですが、「国民主権がどこまで果たされているか」といった民主主義の中身に目を向けると、疑問が湧くのは当然でしょう。実際に、民主主義の調査・研究を行なっているV-Dem研究所では、インドは専制主義の国だと分類されているんです。つまり、専門家の中でも意見が割れている。世界一の人口を誇る国ですから、今後より注目が集まっていくことは間違いないでしょう。 Q:なるほど、広義の民主主義で捉えるか、狭義の民主主義で捉えるかでも、その位置付けが変わってきそうですね。ただ、「多様な民主主義が世界に存在している」という考え方はきちんと踏まえておきたいです。 岩本 はい。本書で引用されているフランスの哲学者のジャン・リュック・ナンシーは「民主主義は形の決まったものではない」と伝えています。水と同じように絶えずその形を変えるのが民主主義なのです。 これまで当然とされていた生き方に抵抗することが、民主主義の真の魅力だと著者は考えているのではないかと私は思っています』、「アフリカのセネガルやインドの民主主義は、現地の文化や宗教と密接に絡み合っており、いわゆる欧米型の自由民主主義とは、その内容がずいぶんと異なっています。 こうした傾向を、民主主義が西洋的、白人的なものから、それぞれの土地に根差したものに変わっている」、「多様な民主主義が世界に存在している」というのは、西欧型がモデルとする従来の考え方への挑戦で興味深い。
第三に、この続きを、10月8日付けダイヤモンド・オンライン「「民主主義の理解」がビジネスパーソンの必須能力になってきた特殊事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310857
・『民主主義と資本主義はセットで語られることが多い。しかし、それらがどのような関係性になっているのか、またどう結びついているのかについて語れる人はそう多くはないのではないだろうか。政治に関心がない方の中には、「自分には関係ない!」「今さら学んでも意味があるの?」と思う方もいるだろう。そこで、今回はビジネスパーソンが知っておきたい、民主主義と資本主義についてお届けしたい。『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史 ビジネスパーソンとして知っておきたい教養』の翻訳者・岩本正明さんにお話を聞いた(Qは聞き手の質問)』、「ビジネスパーソンが知っておきたい、民主主義と資本主義」、とは興味深そうだ。
・『ビジネスパーソンには民主主義の理解が不可欠になってきた Q:『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史 ビジネスパーソンとして知っておきたい教養』というタイトルにあるとおり、ビジネスパーソンも教養として民主主義の通史を理解する必要はあるのでしょうか。 岩本正明(以下、岩本) はい。知っておくことで、経済の仕組みへの理解がより深まるはずです。ビジネスパーソンの方の主たる関心である目の前の営業成績の向上やサービスの改善に、民主主義の通史の理解が直接役立つことは少ないでしょう。ただ、より俯瞰した視点でビジネスや経済を見る立場となった際には、政治や国際情勢に対する理解が不可欠になってきます。そうした知見をベースに、意思決定が求められることもあるでしょう。 Q:たしかに、つい現場の業務に追われてしまいがちですが、ビジネスは世界の政治と切り離せないものですよね。 岩本 おっしゃる通りです。政治と経済は切り離せません。マルクスは経済を下部構造、政治や社会を上部構造として、上部構造は下部構造に依存しているという唯物史観を示していました。 現実社会を見ても、資本主義は民主主義に、民主主義は資本主義に影響を与え合っていますよね。 Q:イメージではわかるのですが、具体的にどう影響し合っているのでしょうか。 岩本 本書では、現在の民主主義に対する不満の多くは、貧富の格差の拡大に行き着くということが指摘されています。言うまでもなく、貧富の格差拡大は現在の資本主義システムの構造によって生み出されています。つまり、資本主義は大きく民主主義に影響を与えているのです。 Q:日本に目を向けると、岸田文雄首相も格差拡大を意識しているのか、「新しい資本主義」というスローガンを掲げていますね。 岩本 岸田首相の掲げる「新しい資本主義」は、競争や成長よりも、分配や格差の是正を強く意識しているように感じます。つまり、日本の政府も現状の資本主義のあり方に対しては課題意識を抱いているのだと思います。日本らしい資本主義を作り上げていってほしいですね。 Q:「【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的に民主主義が危機に陥っている理由」 では、多様な民主主義の形態があることを伺いました。例えばアメリカなどの民主主義を正解として追うのではなく、日本ならではの民主主義を作り上げていくことが重要なのでしょうか。 岩本 そうです。いわゆる、イギリスやアメリカが標榜するような「デモクラシー」が正解だというわけではありません。 比喩として正しいかわかりませんが、日本の「柔道」は世界中に「JUDO」として広がっていますよね。フランスでは、日本よりも柔道人口が多いと聞きます。日本人が目指す武道としての「柔道」と、世界に広がるスポーツとしての「JUDO」ではやはり目指すところが違うように思うんです。しかし、そのどちらが正解でどちらが間違っているということはありませんよね。ある種、文化の違いといえると思います。こうした差異が民主主義の理解にもあるように思うんです』、「現在の民主主義に対する不満の多くは、貧富の格差の拡大に行き着くということが指摘・・・貧富の格差拡大は現在の資本主義システムの構造によって生み出されています。つまり、資本主義は大きく民主主義に影響を与えているのです」、「日本人が目指す武道としての「柔道」と、世界に広がるスポーツとしての「JUDO」ではやはり目指すところが違うように思うんです。しかし、そのどちらが正解でどちらが間違っているということはありませんよね。ある種、文化の違いといえると思います。こうした差異が民主主義の理解にもあるように思うんです」、ずいぶん深い考え方だ。
・『資本主義が民主主義に与えた影響とは? Q:歴史を振り返ると民主主義と資本主義が相互に関係し合ってきたことを、本書では度々指摘していますね。 岩本 そうですね。過去には、資本主義が民主主義の発展を助長した時期もありました。資本主義が物質的豊かさを生み出したことで分厚い中産階級が生まれ、民主主義の素地を築いたという考え方です。さらに、労働組合や社会保障の充実などによって守られた労働者による大衆運動は、市民社会の発展に寄与したとも言えるでしょう。 Q:ただ、冒頭でおっしゃっていた内容を踏まえると、現在は、貧富の格差の拡大などを招く資本主義は民主主義にあまりよい影響を与えていないようにも感じました。 岩本 おっしゃる通りです。最近では資本主義は格差の拡大という形で、民主主義に対してマイナスの作用が目立つようになりました。また、資本主義が生み出す金融危機が社会や経済の混乱につながり、民主主義を足元から揺るがしていることも事実です。日本におけるバブルの崩壊や世界的なリーマンショックなど、資本主義がもたらしたショックが、政治の舵取りに大きな影を落としたことはいうまでもありません。 Q:資本主義が民主主義に与えた影響で、象徴的な出来事はありますか。 岩本 アメリカのトランプ前大統領の誕生は、象徴的な出来事だったといえるのではないでしょうか。資本主義の競争社会に取り残された人々の心情を巧みに掬い取り、選挙で歴史的な勝利を収めました。 トランプ前大統領だけではありません。南米やヨーロッパでも国民の不満や怒りを利用したポピュリズム(大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢)的指導者の台頭が見られます。資本主義の暴走をコントロールできない、いまの政治に対する国民の不満により、専制主義的な指導者が各国で生まれているという側面はあると思います』、「トランプ前大統領だけではありません。南米やヨーロッパでも国民の不満や怒りを利用したポピュリズム(大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢)的指導者の台頭が見られます。資本主義の暴走をコントロールできない、いまの政治に対する国民の不満により、専制主義的な指導者が各国で生まれているという側面はある」、その通りだ。
・『民主主義は経済成長を後押ししない? Q:資本主義が民主主義に影響を与えている状況は理解しました。逆に、民主主義は資本主義にどのような影響を与えているのでしょうか。 岩本 ここ20年間のデータからは、民主主義が経済成長にマイナスの影響を与えている可能性が示唆されています。例えば、中国は言うまでもなく、中 東やアフリカの専制主義の国々の成長率も、最近では各民主主義国家のそれを上回っているのです。 30年前まで、「経済成長のためには民主化が不可欠だ」といわれてきました。しかし、現在ではもはや経済成長のために民主化が必要だというロジックは通用しなくなっているのです。厳しい表現ですが、経済成長という飴を餌にして、新興国に民主化を求めることはできなくなっています。 Q:民主主義が経済成長に寄与しないとすると、ある種、資本主義と民主主義はお互いに負の影響しか与え合っていないということになるのでしょうか。 岩本 お伝えした通り、資本主義は勝者総取りで、格差拡大を後押しする機能を持っています。一方で民主主義は平等と分配を後押しする機能だと思うんです。そういう意味で、資本主義と民主主義は性格的に真逆の作用を持つ制度として、補完し合う関係性であるという見方もできるでしょう。 実際に、民主主義と資本主義を共存させ、共に発展させている国もあります。例えば、北欧はうまく資本主義の暴走を抑えるような制度設計をしているように思います。一方で、イギリスやアメリカは資本主義のマイナスの側面よりもプラスの側面を軸に制度設計をしている。つまり、資本主義の持つ活力をどの程度発揮させるのかを調整するのが民主主義だという見方はできると思います。 Q:グローバルにビジネスが広がっている今、各国の民主主義と資本主義がどういった関係性になっているのかを知ることは非常に重要なことだと感じました。 岩本 その通りです。政治と経済、民主主義と資本主義が相互に影響し合っている現状を考えると、資本主義の中で戦うビジネスパーソンにとって民主主義の理解は大切だと思います。 民主主義の歴史というのは、現在に通ずる政治の歴史と考えても間違いではありません。過去を知ることで、政治が今後、どのように変わっていくのかを理解しやすくなります。そうすれば、経済や社会がどのように変化していくのか、その見通しも立てやすくなるのではないでしょうか』、「民主主義の歴史というのは、現在に通ずる政治の歴史と考えても間違いではありません。過去を知ることで、政治が今後、どのように変わっていくのかを理解しやすくなります。そうすれば、経済や社会がどのように変化していくのか、その見通しも立てやすくなるのではないでしょうか」、その通りなのかも知れない。
第四に、この続きを、10月9日付けダイヤモンド・オンライン「「普通選挙が民主主義のゴール」と思う人、思わない人の決定的な差」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310874
・『現在、世界中で民主主義を問い直す書籍が話題となっている。その一つが、『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』だ。翻訳者・岩本正明さんは、本書の著者ジョン・キーンがこれからの民主主義を占う上で重要な提言をしていると指摘する。世界各国で専制主義の指導者が台頭する昨今において、私たちは民主主義のアップデートをどう考えていけばよいのか。岩本さんに話を聞いた』、「民主主義のアップデート」とは興味深そうだ。
・『新しい民主主義のかたち、「牽制民主主義」とは? Q:現在、世界中で民主主義への不満が高まっていると、以前の記事 でお話を伺いました。『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』では、一貫して民主主義の重要性を伝えていますよね。 岩本正明(以下、岩本) そうですね、民主主義を否定するのではなく、民主主義のアップデートが必要なタイミングに入っていると本書で著者は伝えています。専制主義が台頭するこの激動の時代において、権力の集中をいかに抑制していくかは重要な課題です。 こうした時代背景の中で生まれたのが、牽制民主主義(monitory democracy)です。これは本書の著者の造語で、戦後に発展した新たな民主主義の概念といえます。本書では、牽制民主主義を近代に発展した選挙や政党、議会を中心とする選挙民主主義とは、はっきりと区別しています。集会民主主義と選挙民主主義の違いと同じくらいに、選挙民主主義と牽制民主主義にも違いがあると伝えているのです。 Q:牽制民主主義は具体的にどのような機能を持っているのでしょうか。 岩本 牽制民主主義は、権力を監視、抑制するための新たな仕組みや機能を特徴としており、著者によると、あらゆる地域や分野で、権力に対抗するためのそうした機関が雨後の筍のように立ち上がっているといいます。 国民が民主主義に対して不満を持っているのは、「自分たちの民意が政治や政策に反映されていない」という思いに由来します。必要なことは、それがうまく反映される仕組みを作ること。近代では「選挙」がその発明でしたが、選挙とは違う形で民意をくみ取るための仕組みとして、牽制民主主義が期待されているのです。 Q:世界的な環境保護団体であるグリーンピースのような組織をイメージするといいのでしょうか? 岩本 おっしゃる通りです。グレタ・トゥンベリさんの登場なども象徴的ですね。こうした新しい力は、市民の草の根の運動を端緒とするという共通点があります。こういった組織の台頭と歩調を合わせて、政党や議会が市民の利害を代表する力は弱まっていると著者は指摘しています。 市民が選挙や議会に頼ることなく、自らの利害を守ったり、意見を訴えるチャンネルが増えている。この牽制民主主義こそが、「最もバイタリティに満ちた民主主義の形態」だと著者は評しています。 Q:牽制民主主義と選挙民主主義の違いを教えてください。 岩本 選挙民主主義には大きな欠点があります。選挙制度は多数派が勝利する仕組み。そのため、「多数派の意思に無制限に従わなければならない」という弊害が引き起こされるのです。牽制民主主義では、議会に頼ることなく、市民一人ひとりがそれぞれの利害を守る手段を持っているため、選挙民主主義の欠点を補うことができると考えられます。 それまでの民主主義は、あくまで政府の権力を抑制するための手段でした。牽制民主主義では、恣意的な権力の拒絶が、社会生活全般において可能となりました。そのため、政治がこれまで介入することのなかった職場でのいじめやセクハラ、人種差別、動物虐待などに対しても監視・抑制機能が生まれるようになったのです』、「選挙民主主義には大きな欠点があります。選挙制度は多数派が勝利する仕組み。そのため、「多数派の意思に無制限に従わなければならない」という弊害が引き起こされるのです。牽制民主主義では、議会に頼ることなく、市民一人ひとりがそれぞれの利害を守る手段を持っているため、選挙民主主義の欠点を補うことができると考えられます。 それまでの民主主義は、あくまで政府の権力を抑制するための手段でした。牽制民主主義では、恣意的な権力の拒絶が、社会生活全般において可能となりました。そのため、政治がこれまで介入することのなかった職場でのいじめやセクハラ、人種差別、動物虐待などに対しても監視・抑制機能が生まれるようになったのです」、「牽制民主主義では、」「政治がこれまで介入することのなかった職場でのいじめやセクハラ、人種差別、動物虐待などに対しても監視・抑制機能が生まれるようになった」、本当に機能するようなら素晴らしい。
・『世界に広がる専制主義に対抗する力が牽制民主主義 Q:牽制民主主義が登場する一方で、専制主義も力を増しているように感じます。 岩本 確かに牽制民主主義が発展する一方で、中国を筆頭とした新しい専制主義国家の台頭も今の時代の特徴といえます。著者は、ロシアやトルコ、ハンガリーなどはトップダウンの政治構造を持ち、これまでになかった手法で国民の忠誠心を操っていると指摘しています。毎日ニュースで流れるロシアの振る舞いを見ていれば、それは明らかなことでしょう。 Q:近年登場している専制主義的指導者たちは、どうやって民衆の心を掴んでいるのでしょう。 岩本 現在の専制主義国家は暴力や力による支配というよりも、巧妙に国民の心理を操作して、自発的に服従させる術に長けているといいます。そういう意味では、より厄介な存在といえるかもしれません。 例えば、アメリカのトランプ前大統領のことを「SNSによって生まれた大統領」と評価する専門家もいるほど、トランプ現象とSNSは密接に関連しています。SNSは確かに民衆を扇動しやすいツールでしょう。しかし、だからといってSNSに問題があるわけではない。テクノロジーには、プラスの面もあればマイナスの面もあるものです。トランプ前大統領の例は、その前提を理解した上で付き合う必要がある、と警鐘を鳴らしたといえます。 Q:こうした専制主義台頭の背景にはいったい何があるのでしょうか。 岩本 変化の激しい時代だからこそ、決断までに時間のかかる民主主義よりも、トップが即断即決できる専制主義の方が有利だと主張されているのです。例えば、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大した当初、合議的に方針を決定する欧米と、トップダウンで方針を打ち出す中国との対応には大きな差が出ました。混沌とした時代には、スピード感を持った強力なリーダーシップが求められやすいのです。 先が見えない社会において、頼りになるリーダーを迎えたくなる民衆の思いもあるでしょう。しかし、現在のロシアを見ればわかる通り、新しい専制主義国家も本質的には昔の専制主義国家と変わりません。つまり、真に求めているものは権力の集中であり、その権力を他者に恣意的に行使することです。力と暴力を使って、自分たちの都合のいいように世の中を変えていくというのが今も昔も専制主義の共通項なのです』、「先が見えない社会において、頼りになるリーダーを迎えたくなる民衆の思いもあるでしょう。しかし、現在のロシアを見ればわかる通り、新しい専制主義国家も本質的には昔の専制主義国家と変わりません。つまり、真に求めているものは権力の集中であり、その権力を他者に恣意的に行使することです。力と暴力を使って、自分たちの都合のいいように世の中を変えていくというのが今も昔も専制主義の共通項なのです」、同感である。
・『民主主義の意義は多元主義の擁護 Q:民主主義は一気に専制主義に転じることがありうるということでしょうか。 岩本 そうですね、歴史的に見ても民主主義の中から専制主義が生まれることはありました。ヒトラーの誕生前はドイツは民主主義であり、民主的な手続きを経てヒトラーが首相に選ばれたわけです。国民をうまく先導できれば、民主主義の手続きを経て選ばれたトップがその国を専制主義国家に変えることができるといえるでしょう。 また、独裁的な振る舞いの目立ったトランプ前大統領を見ればわかる通り、民主主義国家の内部にも専制主義的な要素が息づいています。 Q:民主主義の歴史を学ぶことで、民衆がどう専制主義に転じていくのかを知ることができますね。現在のような混沌とした時代だからこそ、改めて民主主義を学び、支持する理由があるように感じました。 岩本 本書では、民主主義の目的は多元主義を擁護することにあると結論づけています。つまり、人々の多様な生き方を最も尊重するのが民主主義であるという考えです。また、民主主義は権力を抑制するための終わりなき過程であるとも著者は語っています。 民主主義は時代や場所によってその形を変化させていきます。生き方の多様性を受け入れながら形態を変えていくその柔軟性こそが、民主主義が今後も生き残っていく強みなのかもしれません。 イギリスの思想家であるジョン・アクトンが「絶対的権力は絶対的に腐敗する」と述べたことは有名ですが、もしそれが真理なのであれば、やはり今後も民主主義は必要とされていくでしょう。権力を監視、抑制する機能を考えると、牽制民主主義こそが理想的な政治制度だといえるのではないでしょうか』、「本書では、民主主義の目的は多元主義を擁護することにあると結論づけています。つまり、人々の多様な生き方を最も尊重するのが民主主義であるという考えです。また、民主主義は権力を抑制するための終わりなき過程であるとも著者は語っています。 民主主義は時代や場所によってその形を変化させていきます。生き方の多様性を受け入れながら形態を変えていくその柔軟性こそが、民主主義が今後も生き残っていく強みなのかもしれません」、「権力を監視、抑制する機能を考えると、牽制民主主義こそが理想的な政治制度だといえるのではないでしょうか」、同感である。
タグ:民主主義 (その9)(『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』翻訳者・岩本正明インタビュー ①【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的に民主主義が劣勢に陥った根本理由、②日本人が当たり前に行う「多数決」その重大な欠点 子どもの対話力と決める力を奪っている、③ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選 蔓延する少数派の横暴、④「普通選挙が民主主義のゴール」と思う人、思わない人の決定的な差) ダイヤモンド・オンライン「【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的に民主主義が劣勢に陥った根本理由 『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』翻訳者・岩本正明インタビュー」 「30年ほど前までは、民主主義の前途は明るく見えました。軍事独裁政権の崩壊やアパルトヘイトの撤廃など、市民の力を軸にした民主主義の力強さを感じることができたのです。しかし、現在は、ベラルーシ、ミャンマー、香港で起きている出来事など、世界中で民主主義への不安を感じずにはいられない状況になっているといえます」、由々しい事態だ。 「自由民主主義と区分される国の数は2012年がピークで、現在では1995年の水準にまで下がっている」、「専制主義に区分される国の数が増加傾向にある」、「現在では世界の人口の7割が広義の専制主義国家の市民である」、「世界の人口の7割が広義の専制主義国家の市民」とは衝撃的だ。 「本書を読んで、民主主義の変遷を知れば、そうした意識が高まり、専制主義に目移りし、極端な方向へ暴走するのではなく、「民主主義の形式を変えていけばよい」という柔軟な考え方ができると思います。 ただ、「まやかしの民主主義」に対しては、注意をしてほしいです。 例えば、トルコのエルドアンやロシアのプーチンなどの独裁者は、人民の同意に基づいて独自の民主主義を実践していると主張しています。しかし、実態は国民生活にまで入り込み、監視し、権力に抗う者を屈服させようとしています。民主主義のお題目の下、専制主義が生まれうることを私たちは常に理解しておかなければいけないでしょう」、「NGOなどの草の根の団体が権力の監視役としての力を強めており、民主主義の裾野はますます広がっています」、 「こうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みをこうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みを「牽制民主主義」と名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょうこうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みを「牽制民主主義」と名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょうと名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでし ょう」、「牽制民主主義」とは興味深い動きだ。 ダイヤモンド・オンライン「日本人が知らない民主主義トリビア公開!」 「意外性あふれる民主主義の知識」とは興味深そうだ。 我々は「民主主義」を「ステレオタイプにはまる社会制度」誤解していたようだ。 「紀元前2500年ごろの中東で民主主義の原型が生まれたというのが専門家の間で定説になっている」、我々が学んだ「西洋」中心の考え方は間違っていたようだ。 「古代アテネの民主主義がデマゴーグと呼ばれる目立って民衆を煽動するような存在の危険性を強く意識」、「賛同者の人数が一定数に達することを条件に、民衆を煽動するような人気取りの政治指導者をアテネから10年間、追放することができた」、トランプ、イタリアのメローニ新首相あたりは、「デマゴーグ」の典型だ。 「代議制民主主義」の発祥は、「イギリスやフランスではなく、スペイン北部だった・・・イスラム教徒の侵略に危機感を抱いた当時の国王が、キリスト教徒を団結させるために教会と貴族、一般市民からそれぞれ代表者を集めて、世界初の議会を開いた」、初めて知った。 「アフリカのセネガルやインドの民主主義は、現地の文化や宗教と密接に絡み合っており、いわゆる欧米型の自由民主主義とは、その内容がずいぶんと異なっています。 こうした傾向を、民主主義が西洋的、白人的なものから、それぞれの土地に根差したものに変わっている」、「多様な民主主義が世界に存在している」というのは、西欧型がモデルとする従来の考え方への挑戦で興味深い。 ダイヤモンド・オンライン「「民主主義の理解」がビジネスパーソンの必須能力になってきた特殊事情」 「ビジネスパーソンが知っておきたい、民主主義と資本主義」、とは興味深そうだ。 「現在の民主主義に対する不満の多くは、貧富の格差の拡大に行き着くということが指摘・・・貧富の格差拡大は現在の資本主義システムの構造によって生み出されています。つまり、資本主義は大きく民主主義に影響を与えているのです」、「日本人が目指す武道としての「柔道」と、世界に広がるスポーツとしての「JUDO」ではやはり目指すところが違うように思うんです。しかし、そのどちらが正解でどちらが間違っているということはありませんよね。ある種、文化の違いといえると思います。こうした差異が民主主義の理解にもあるように思うんです」 、ずいぶん深い考え方だ。 「トランプ前大統領だけではありません。南米やヨーロッパでも国民の不満や怒りを利用したポピュリズム(大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢)的指導者の台頭が見られます。資本主義の暴走をコントロールできない、いまの政治に対する国民の不満により、専制主義的な指導者が各国で生まれているという側面はある」、その通りだ。 「民主主義の歴史というのは、現在に通ずる政治の歴史と考えても間違いではありません。過去を知ることで、政治が今後、どのように変わっていくのかを理解しやすくなります。そうすれば、経済や社会がどのように変化していくのか、その見通しも立てやすくなるのではないでしょうか」、その通りなのかも知れない。 ダイヤモンド・オンライン「「普通選挙が民主主義のゴール」と思う人、思わない人の決定的な差」 「民主主義のアップデート」とは興味深そうだ。 「選挙民主主義には大きな欠点があります。選挙制度は多数派が勝利する仕組み。そのため、「多数派の意思に無制限に従わなければならない」という弊害が引き起こされるのです。牽制民主主義では、議会に頼ることなく、市民一人ひとりがそれぞれの利害を守る手段を持っているため、選挙民主主義の欠点を補うことができると考えられます。 それまでの民主主義は、あくまで政府の権力を抑制するための手段でした。牽制民主主義では、恣意的な権力の拒絶が、社会生活全般において可能となりました。そのため、政治がこれまで介入することのなかった職場でのいじめやセクハラ、人種差別、動物虐待などに対しても監視・抑制機能が生まれるようになったのです」、「牽制民主主義では、」「政治がこれまで介入することのなかった職場でのいじめやセクハラ、人種差別、動物虐待などに対しても監視・抑制機能が生まれるようになった」、本当に機能するようなら素晴らしい。 「先が見えない社会において、頼りになるリーダーを迎えたくなる民衆の思いもあるでしょう。しかし、現在のロシアを見ればわかる通り、新しい専制主義国家も本質的には昔の専制主義国家と変わりません。つまり、真に求めているものは権力の集中であり、その権力を他者に恣意的に行使することです。力と暴力を使って、自分たちの都合のいいように世の中を変えていくというのが今も昔も専制主義の共通項なのです」、同感である。 「本書では、民主主義の目的は多元主義を擁護することにあると結論づけています。つまり、人々の多様な生き方を最も尊重するのが民主主義であるという考えです。また、民主主義は権力を抑制するための終わりなき過程であるとも著者は語っています。 民主主義は時代や場所によってその形を変化させていきます。生き方の多様性を受け入れながら形態を変えていくその柔軟性こそが、民主主義が今後も生き残っていく強みなのかもしれません」、 「権力を監視、抑制する機能を考えると、牽制民主主義こそが理想的な政治制度だといえるのではないでしょうか」、同感である。