台湾(その6)(元自衛隊陸将が解説 台湾有事で日本に起こりうる「シナリオ」と「課題」、中台の緊張激化の中、中国抑止をどう考えるのか 中国の台湾政策変遷の背景にある3つの変化、巨大中国が「台湾侵攻」に踏み出す決定的理由 「ロシア暴走」の教訓は覇権国争いに生きるのか) [世界情勢]
台湾については、昨年8月12日に取上げた。今日は、(その6)(元自衛隊陸将が解説 台湾有事で日本に起こりうる「シナリオ」と「課題」、中台の緊張激化の中、中国抑止をどう考えるのか 中国の台湾政策変遷の背景にある3つの変化、巨大中国が「台湾侵攻」に踏み出す決定的理由 「ロシア暴走」の教訓は覇権国争いに生きるのか)である。
先ずは、昨年9月4日付けAERAdot「元自衛隊陸将が解説 台湾有事で日本に起こりうる「シナリオ」と「課題」」を紹介しよう。
・『米海兵隊トップのバーガー総司令官は昨年4月、「遠征前進基地作戦(EABO)」を含む新しい作戦構想を発表した。元陸上自衛隊幹部は「イラクやアフガニスタンでの戦闘が終わり、米海兵隊は新しい戦略環境に対応できる能力を求められている」と語る。急いでいるのは現在保有していない地対艦ミサイルの開発だ。台湾有事の際、中国軍艦艇の展開を封じ込める狙いがある。 自衛隊関係者によれば、在沖縄海兵隊は昨年後半から、沖縄本島周辺での航空機やヘリによる降下訓練、輸送機の着陸訓練などを増やしている。米海兵隊は自衛隊に対し、宮古島や石垣島などでも共同訓練や防災・住民保護での協力をしたい考えを非公式に伝えているという。別の元陸自幹部は「米軍は自衛隊が駐屯している場所に展開したい。言葉の問題を解決できるし、現地住民との衝突を避け、米軍の責任も緩和できる」と話す。 陸上自衛隊は15年ほど前、「南西の壁」と名づけた構想をまとめた。対馬から九州、沖縄本島などを経て日本最西端の与那国島までに対空・対艦ミサイルと地上部隊を組み合わせた部隊を配置して防衛ラインを作り上げる構想だった。 陸自は現在、奄美大島と宮古島に12式地対艦誘導弾(12SSM)部隊を配備し、今年度末までに石垣島にも同部隊を配備する。台湾から約110キロしか離れていない与那国島には、沿岸監視部隊と電子戦部隊が配備されている。 中国軍のミサイルは今回、与那国島から80キロの沖合に着弾した。中国軍が設定した訓練区域の一部は、与那国島をはさむように設定された。 陸自中部方面総監などを務めた山下裕貴元陸将は「中国軍が台湾東部に上陸するためには、台湾と与那国島の間を通る可能性が高い。地対艦ミサイルの射程などを考えれば、中国は石垣島より西側の島々から妨害行動を受けることを想定し、戦域として考えているだろう」と語る。同時に「中国の立場では、日本が尖閣諸島を不法占拠していることになる。当然、尖閣も戦域に含まれる」と語る。 中国が与那国島や尖閣諸島などの日本領土を攻撃した場合は「武力攻撃事態」になり、自衛隊は防衛出動する。中国軍が、日本に退避してきた台湾軍の航空機や艦船を攻撃すれば、やはり武力攻撃事態になる。 一方、台湾有事になれば、米軍の海空軍が台湾の上空や近海で活動するだろう。米軍は自衛隊に補給支援を求めるほか、航空機や艦船が攻撃を受ければ、救助活動も要請する可能性が高い。その場合、日本が2015年に制定された安全保障法制に基づき、「重要影響事態」を宣言すれば、給油や弾薬提供、救難活動などの後方支援を行う』、「「中国軍が台湾東部に上陸するためには、台湾と与那国島の間を通る可能性が高い。地対艦ミサイルの射程などを考えれば、中国は石垣島より西側の島々から妨害行動を受けることを想定し、戦域として考えているだろう」と語る。同時に「中国の立場では、日本が尖閣諸島を不法占拠していることになる。当然、尖閣も戦域に含まれる」」、なるほど。
・『与那国島や石垣島での住民避難が課題になる さらに、事態が進み、自衛隊が一緒に活動している米軍が攻撃されれば、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅(おびや)かされる」という「存立危機事態」の宣言が視野に入ってくる。集団的自衛権の行使が可能になり、防衛出動という状況になっていく。 山下氏は「米軍の行動とは切り離して、日本が単独で攻撃を受けた場合は武力攻撃事態になり、日本は一刻も早く米軍の来援を求めるだろう。逆に米軍の行動に関連して事態が推移し存立危機事態になる場合、日本は否応なく自動的に巻き込まれる」と語る。場合によっては、二つのシナリオが同時に別の場所で発生することもありうる。 日本は今、年末に向けて国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の戦略3文書の改定を目指している。山下氏によれば、護衛艦や航空機などの保有数、地対艦ミサイル部隊を配備する石垣島と配備済みの宮古島の両部隊の増強、沿岸監視部隊と電子戦部隊しかいない与那国島に地対艦ミサイルなどの戦闘部隊を配備するのか──といった課題がある。 同時に、尖閣諸島を巡っても、自衛隊による平時からの領域警備を認めるかどうかという問題もある。中国軍による尖閣諸島攻撃の事態に備え、日米安保条約の発動を円滑に進める働きかけも重要になる。) 有事に備えた人員や弾薬、物資の補充も必要になる。自衛隊は現在、増額の必要性が唱えられている予算の範囲内で、弾薬や物資を備蓄している。有事では爆発的に使用量が増えるため、現在の弾薬や物資などの確保が課題になる。自衛隊が南西諸島への配備を進めている12式地対艦ミサイルなどの誘導弾も高価なため、数が絶対的に不足しているとみられる。 さらに、国民保護法制に基づき、与那国島や石垣島などでの住民避難が課題になる。山下氏は「どの時点で、どのくらいの規模で、どこに、どのように避難するのか、早急に訓練を始めるべきだ」と語る。 そして、こうした複雑な事態を指揮する政治家の判断も重要になる。「重要影響事態」と「存立危機事態」「武力攻撃事態」が同時に混在し、変化していく事態も起こりうる。山下氏は「中国軍の演習は、日本と台湾の危機意識を高め、日本や米国、台湾の軍にとって貴重な情報収集の機会にもなった。今回の事態を前向きに捉え、努力していくことも重要だ」と語った。(朝日新聞記者、広島大学客員教授・牧野愛博)※AERA 2022年9月5日号より抜粋』、「与那国島や石垣島などでの住民避難が課題になる。山下氏は「どの時点で、どのくらいの規模で、どこに、どのように避難するのか、早急に訓練を始めるべきだ」」、「こうした複雑な事態を指揮する政治家の判断も重要になる」、単に自衛隊に任せておくば済む話ではない。訓練の準備だけでも早急に始めるべきだ。
次に、9月21日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋大学教授の薬師寺 克行氏による「中台の緊張激化の中、中国抑止をどう考えるのか 中国の台湾政策変遷の背景にある3つの変化」を紹介しよう。
・『アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問(8月2日)以後、台湾海峡をはさんだ中台の緊張の高まりが恒常化している。 中国は「重要軍事演習」と称して台湾封鎖の予行演習を実施、実際にミサイルまで飛ばした。これに対しアメリカは議員団の訪台を繰り返す。中国は連日、台湾海峡の中間線を越えて台湾側に戦闘機を侵入させるだけでなく、離島にはドローンを飛ばし威嚇を続ける。するとアメリカ政府が新たに11億ドル(約1500億円)相当の武器売却方針を打ち出し、議会でも台湾への軍事支援を大幅に強化する法案が審議されている。 緊張のエスカレーションはとどまるところを知らないように見える。これが「新常態(ニューノーマル)」を作り状況を変えようとする中国流のやり方なのだろう。 尖閣諸島でも2012年の日本の国有化をきっかけに、今日に至るも連日のように中国海警局の船が日本の接続水域内に入り、時には領海内にまで侵入を続けている。人海戦術で同じ行為を長期間にわたって継続し、相手を疲弊させ諦めさせようとでもいうのだろう。だからと言って軍事力を使って一線を越えようとはしない。台湾海峡でも同じ手法だとすれば、戦闘機の中間線越えはこれから先も長く続くかもしれない』、「連日のように中国海警局の船が日本の接続水域内に入り、時には領海内にまで侵入を続けている。人海戦術で同じ行為を長期間にわたって継続し、相手を疲弊させ諦めさせようとでもいうのだろう」、「台湾海峡でも同じ手法だとすれば、戦闘機の中間線越えはこれから先も長く続くかもしれない」、覚悟する必要がありそうだ。
・『中国の台湾政策はどのように変遷してきたか 中台関係が一貫して緊張状態にあったわけではない。むしろ、今ほど関係が悪化しているのは例外的だ。その背景には3つの大きな変化を指摘できる。 まず、最もはっきりしているのは中国の変化だ。国民党と戦った毛沢東主席にとって台湾を武力解放し統一することは最大の目標だったが、アメリカに阻まれ実現できなかった。そこで毛沢東は「外交戦」に転じ、国連で多数派形成に力を入れ国連加盟と米中共同声明で国交樹立の実現へ向かうとともに、国際社会における台湾の孤立化に成功した。 続く〓小平(最高指導者1978~1989年)はさらに巧みだった。改革開放政策を進めるために日本やアメリカなど西側諸国に接近するとともに、台湾問題については「平和的統一」や「一国二制度」という柔軟な方針を打ち出して経済成長の基礎作りに成功した。 ところが江沢民(同1989~2002年)は〓小平が残した経済成長の成果に自信を持ったのか、台湾問題については「祖国の完全統一の早期実現」「武力不行使の約束はできない」などと柔軟性を欠く原則論にこだわった。 このころ台湾では民主化が進み総統選が導入された。中国と距離を置く勢力の台頭を抑えるため江沢民はミサイル発射など稚拙な手段で2度の総統選に介入したが見事に失敗した。その結果、「二国論」を唱えた李登輝や、独立指向の強い民進党の陳水扁の政権が誕生した。 江沢民のあとを継いだ胡錦涛(同2002~2012年)は力のない指導者だったと評されているが、台湾問題への対応は理にかなっていた。強引な手法は逆に台湾の人々の心を遠ざけてしまうことを知る胡錦涛は、統一という言葉を避けて「平和的発展」を打ち出した。さらに独立に走ろうとする陳水扁とそれをよしとしないアメリカとの隙間をつく巧みな外交でアメリカを味方につけた。その結果、陳水扁は自滅し中国寄りの馬英九・国民党政権が誕生し中台関係は一気に改善した。中台の良好な関係はこの時代がピークだった。 習近平(同2012年~)が主席になると状況は大きく変わった。国際社会で評価を得た胡錦涛だが、中国共産党内では「中台関係が改善しても、統一の話は一歩も進まず何の成果もない」などと批判が強かった。 〓小平や胡錦涛に批判的と言われる習近平は台湾政策をガラッと変えてしまい、「この問題を一代一代先送りはできない」と統一を急ぐ姿勢を前面に出した。一方の台湾でも総統が独立志向の強い民進党の蔡英文に交代した。習近平のかたくなな姿勢は今年8月に公表された「台湾統一白書」にも表れた。過去の白書にあった「統一後に駐留軍や行政官を派遣しない」という文言が消えたのだ。香港の現状が示すように習近平にとって「一国二制度」はもはや意味のない構想なのだ』、「香港の現状が示すように習近平にとって「一国二制度」はもはや意味のない構想なのだ」、もう恰好つけずに本音でいくようだ。
・『習近平とアメリカの不安、台湾の自尊心 習近平が統一を急ぐ理由は何か。 よく指摘されるのは政治的レガシーの欠如だ。毛沢東は国を作り、〓小平は経済大国を作った。これに対し習近平は権力を握って10年たつが大きな成果がない。異例の3期目に入ればさらに焦るだろうというのだ。 それ以上に自らの権力維持や共産党の一党支配の維持への不安もあるだろう。〓小平に始まる改革開放路線によって中国経済は成長を続け国民を豊かにしてきた。そのことが権力者に正統性を与えてきた。ところが成長のスピードが落ち、所得格差などさまざまな社会問題が顕在化してきた今、習近平や共産党の権力維持の正統性が揺らぎかねない状況となりつつある。そうした不安が習近平を焦らせているのかもしれない。 2つ目の変化はアメリカだ。1970年代のニクソン政権、続くカーター政権による国交正常化以後、アメリカは経済が発展すれば中国は民主化すると考え、中国に対する関与政策を続けてきた。しかし、現実は逆方向に進んだ。トランプ政権はそれまでの政策が誤りだったと判断し対中政策を180度転換した。その対中強硬政策はバイデン政権になっても継承されている。あらゆる政策で激しく対立する民主党と共和党が、中国問題については強硬論で一致しているのだ。 だからと言って全面的に対立するつもりはなく、経済関係などは活発に行われている。しかし、胡錦涛時代のように米中が手を取って台湾の独立派を抑えるというようなことはありえないだろう。 そして3つ目の変化が台湾の人々の意識だ。かつて台湾では、中国との統一について賛否が割れていた。ところが経済が発展し政治制度の民主化が進むと、共産主義中国との統一を支持する声が減っていき、現状維持を望む声が強まった。1990年代以降、台湾には台湾独自の文化や制度があるという「台湾アイデンティティー」という言葉が広がった。 さらに習近平がウイグルや香港で強引な政策を実行し、中国政府がこれまで掲げてきた「一国二制度」が空中分解すると、台湾の各種世論調査では過半数が台湾の独立を支持するようになってきた。一度、民主主義の自由を知れば、個人の言動が厳しく監視され規制される中国本土との統一など望む人はいないだろう。もちろん中国にとってこの変化を黙って見逃すことはできない。さまざまな手段で圧力をかけているしかないのだ』、「習近平や共産党の権力維持の正統性が揺らぎかねない状況となりつつある。そうした不安が習近平を焦らせているのかもしれない」、「対中強硬政策はバイデン政権になっても継承・・・民主党と共和党が、中国問題については強硬論で一致」、「「一国二制度」が空中分解すると、台湾の各種世論調査では過半数が台湾の独立を支持するようになってきた」、これでは「個人の言動が厳しく監視され規制される中国本土との統一など望む人はいないだろう」、「統一」には難しい局面だ。
・『中国の軍事行動を抑制するにはどうすべきか 3つの変化は、中国が掲げる台湾の統一をますます困難にしている。だからと言ってただちに軍事侵攻というわけにはいかない。ロシアのウクライナ侵攻が示すように、力による現状変更は軍事的にも経済的にも中国をいっそうの困難に陥れる可能性が高い。 前アメリカインド太平洋軍司令官のフィリップ・デービッドソンが「今後6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と発言したことなどをきっかけに、軍事専門家の間では、中国の軍事侵攻と米中戦争の可能性が盛んに議論されている。その多くが軍事面での戦力や作戦の分析だ。こうした議論を受けて日本国内では、いざというときに備えた防衛力強化とそのために必要な防衛予算の大幅な増額が既定路線となっている。 確かに中国が台湾問題で何らかの軍事行動に出る可能性は高まっている。したがって日本を含む関係国が中国の誤った行動を抑えるために一定の抑止力を持つことは必要なことだ。しかし、抑止力の本来の目的は、相手国の軍事行動を押しとどめ、外交による問題解決を可能にすることにある。 また中国の台湾政策の変遷や習近平の対応を分析すれば、盤石といわれる習近平体制の強硬姿勢の背景にある政治的脆弱性が浮かんでくる。軍事的衝突を回避するためにも、多角的分析や思考を踏まえた解決の道を探っていかなければならない』、「抑止力の本来の目的は、相手国の軍事行動を押しとどめ、外交による問題解決を可能にすることにある」、「軍事的衝突を回避するためにも、多角的分析や思考を踏まえた解決の道を探っていかなければならない」、同感である。
第三に、12月21日付け東洋経済オンラインが掲載した社会学者・東京工業大学名誉教授の橋爪 大三郎氏と社会学者の大澤 真幸氏による「巨大中国が「台湾侵攻」に踏み出す決定的理由 「ロシア暴走」の教訓は覇権国争いに生きるのか」を紹介しよう。
・『市民動員の発令で国内の反発が広がり、苦戦続きのロシアだが、その様子をつかず離れずの位置でうかがう中国。2022年10月に開かれた中国党大会では習近平総書記の3期目入りが決まり、習一強体制がスタートした。台湾の強行統一を目論む中国は、ロシアの苦戦をどう見ているのだろうか。 アメリカ衰亡の中で目立ってきた中国とロシアという2つの専制主義陣営のパワーにどう対抗すべきか。橋爪大三郎氏、大澤真幸氏、2人の社会学者による『おどろきのウクライナ』(集英社新書)では、文明論、宗教学、歴史、社会学と、あらゆる視座から検証し、白熱した討論が展開される。本稿では、プーチン退場を視野に入れつつ、習近平一強体制をさらに固めた中国の今後を両氏が予測する』、興味深そうだ。
・『ロシア敗北でも中国は目的を果たす 大澤:今、実際に戦争をしているのはロシアとウクライナですが、その後ろにはもっと重要な中国という脅威があります。 もし、ロシアが破れかぶれで戦術核に手を出して戦争に敗北したとして、中国が台湾に侵攻する、あるいはその他の国に及ぼす中国の脅威には、それが必ずしも教訓にならない可能性がある。その点も踏まえ、中国とどう付き合うかは、またロシアとは別途に考えなければいけないと思うのですが、その辺はどうですか。 橋爪:ロシアは、ヨーロッパの盲腸のようなもので、サイズは大きいけど、いわばおまけですね。だけど、中国はどこかのおまけや付録じゃない。中国は中国なんですよ。それに中国は昔から気がついていて、イギリスが来て戦争に負けたときも「あれ?俺たちは本当はもっと中心的な存在ではないか」と思っていた。 さらに、日本があっという間に近代化して日清戦争に勝って、支那事変で中国の半分ぐらいを占領したときも「これはまずい、革命が必要だぞ」と国民党、共産党が出てきた。だから、中国が新しく本当の中国になるためには革命が必要だというのは中国の合意だったんですね。) そこで、ソ連と協力するかしないかで路線が分かれて、ソ連と協力するという人たちが中国共産党になった。本当はソ連と協力なんかしたくないんですよ。中国は中国なんだから。だけど、やむを得ず、共産党という選択をしたと思うわけ。共産党って、モスクワの手下になることですからね。でも、手下になってもいいことが一つもなかったので、中ソ論争の結果、早々とけんか別れしたということです。 その中ソ論争の結果、中国は共産主義だけど、中国というものになった。ここで今日の中国の基本ができたわけです。その後、アメリカや西側世界との関係をどうするかについては、一応協力するという選択をして改革開放になり、ソ連が解体したあとも前進を続け、今日の社会主義市場経済の巨大な中国になった。 大澤:その転換はうまくいきましたね。 橋爪:大成功です。アメリカをうまくだましたんです。いかにも民主主義になりそうなリップサービスをしておきながら、そのつもりは全然なかった。科学技術も資本も全部欲しいものは手に入れた。いよいよ中国を中心に世界を動かしますからねという話になってきた。それで今、アメリカも世界もびっくりしているという状態なのであって、負け惜しみでけんかを売っているロシアとは話が違うんですよ。 大澤:なるほど。いまや中国はアメリカと競る軍事大国ですからね。 橋爪:中国の場合は、通常戦力で勝てますから、核兵器を使う必要がない。核兵器は念のため奥の手にとってあればいいので、通常戦力でやるつもりでしょう。戦争の勝ち負けとはフェアな問題なのであって、戦争で勝って台湾が取られてしまえば、国際社会はこれを認めるしかない。これは主権が侵されたというウクライナとはちょっと違うと思います』、「アメリカをうまくだましたんです。いかにも民主主義になりそうなリップサービスをしておきながら、そのつもりは全然なかった。科学技術も資本も全部欲しいものは手に入れた。いよいよ中国を中心に世界を動かしますからねという話になってきた。それで今、アメリカも世界もびっくりしているという状態」、「中国の場合は、通常戦力で勝てますから、核兵器を使う必要がない。核兵器は念のため奥の手にとってあればいいので、通常戦力でやるつもりでしょう」、なるほど。
・『中国が覇権国となるカギは「台湾」 大澤:今は、ロシアのウクライナ侵略に対して、直接軍事行動はしなくても、西側諸国やアメリカの圧倒的なウクライナ応援がありますね。もし中国が台湾に侵略したとき、実際にアメリカ軍が動くのかどうかが常に話題になっているわけですが、どうなんでしょうか。 というのは、今回のロシアとウクライナの戦争が長引いていて、いろいろ応援はしているものの、やっぱりどこかで妥協しようよという感じが、ヨーロッパやアメリカで出てきています。あまりにもコストが大きいし、ロシアからの石油・天然ガスの禁輸も非常に負担が大きい。この理不尽な戦争を仕掛けられたウクライナに関してでさえ、そうなるんです。 まして、中国の台湾侵略に関してはどうなるか。ヨーロッパの人はどっちでもいいやみたいなところもあるでしょう。ウクライナは公式に独立の主権国家でしたけれど、一応中国に関しては「台湾は一つの中国」という建前もあります。そういう中で台湾が侵略されたとき、果たして大きなコストをかけて台湾を応援しようと西側諸国が思うのかどうか。それはかなり微妙な感じがします。その辺の実際上の見通しを橋爪さんにお聞きしたいんですが。) 橋爪:台湾が存在しているのであれば、西側世界は台湾を支持し続けると思うし、中国としては失敗だと思う。その意味で、台湾が存在しなくなるというのが、中国の戦略目標、戦争目的ですから、台湾が存在しなくなってしまえば、どうしようもない。 それを具体的に言うなら、中国が通常戦力で台湾に上陸して、台湾に新しい政府をつくるということです。それで、形も整うでしょう。そうなると、中国は一つだという中国に、外部から軍事介入する理由がなくなる。だから、これで終わりということになる。 その後どうなるかというと、「台湾を守ります」とかバイデンが言っていたのにそうならなかったわけだから、アメリカは約束を守る能力がなかったということになり、覇権国ではなくなる。そして、文字どおり、中国がアメリカに代わって世界の覇権国になり、まったく新しい時代が始まるということです。 大澤:なるほど、嫌な展開ですね。中国が覇権を持つと、周辺国はどうなりますか。 橋爪:ロシアとインドが中国に寄ってきて、東南アジアは中国圏になります。アフリカも中国になびき、ヨーロッパの貧しい国は中国にがんじがらめになる。さらに中央アジアが中国となって、ラテンアメリカも中国圏になり、残ったのはアメリカとヨーロッパ、そして日本だけという世界が待っているかもしれないという話です』、「中国が通常戦力で台湾に上陸して、台湾に新しい政府をつくるということです。それで、形も整うでしょう。そうなると、中国は一つだという中国に、外部から軍事介入する理由がなくなる。だから、これで終わりということになる」、「「台湾を守ります」とかバイデンが言っていたのにそうならなかったわけだから、アメリカは約束を守る能力がなかったということになり、覇権国ではなくなる。そして、文字どおり、中国がアメリカに代わって世界の覇権国になり、まったく新しい時代が始まる」、「ロシアとインドが中国に寄ってきて、東南アジアは中国圏になります。アフリカも中国になびき、ヨーロッパの貧しい国は中国にがんじがらめになる。さらに中央アジアが中国となって、ラテンアメリカも中国圏になり、残ったのはアメリカとヨーロッパ、そして日本だけという世界が待っているかもしれない」、嫌だが、ありそうなシナリオだ。
・『今まさに文明の衝突が起きている 大澤:それはまさに文明の衝突ということですかね、ビジョンとしては。 橋爪:うん、そう思う。イスラムも、ヨーロッパよりは中国のほうがいいと思うかもしれないな。新疆ウイグルでいじめられているけど、それなりに世話にもなっているし、イスラム教徒の扱いについては中国は慣れているからね。 大澤:『おどろきのウクライナ』でも話しましたが、いま起きているロシアとウクライナの戦争も、ある意味で文明の衝突なんですよね。 サミュエル・P・ハンチントンの『文明の衝突』(1996年)の話をするときに、もう一つ浮かぶのがフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(1992年)のビジョンです。歴史の終わりというのは、リベラルデモクラシーが勝利して、平和な世界が来るというイメージ。 一方、文明の衝突は、ある種のコンフリクトが地球に残っている状態を指しているわけだから、この2つは一見対立するビジョンに見えますけれど、実際には同じものの2つの側面を語っているともいえる。 つまり、文明の衝突があったとしても、プラクティカルに解決できる程度の文明の衝突であれば、ゆるやかでリベラルデモクラティックな多文化主義のようなものが地球レベルでできるということで、それなりに見通しは明るいという感じです。 ただ、その2つのビジョンが世に提示されて30年ぐらいの時間が経ってみると、文明の衝突ってそんなに生易しいものじゃないということがわかった。文明の衝突的なビジョンというのは、一番危険な場合はこうなるよというのを今回僕らは見せつけられているんだと思う。) 橋爪:うん、場合によってはもっと最悪なことも起こりかねない。 大澤:はい、そうですね。今後もしロシアが戦争に負けたとしても、広い意味での文明の衝突状態が続くとすれば、中国、インドが出てくると、もっと深刻な問題になります。 重要なことは、いま僕らに起きていることは、すべてつながっているということ。そのつながりをポジティブに利用する形で解決するしかないんですね。 コロナ危機でもそれがはっきりしたわけですが、コロナだけじゃない。気候変動の問題にしても、世界がいかに連帯に向かうかということが試されている。その場合に文明の衝突的な因子があると、いろんなことがうまくいかないわけです。 ほかの文明の場合は、ほっといても、経済的な意味でうまくいかないので弱体化していくんですよね。だけど、中国の場合は、改革開放以降、大変な成功を手中にしている。そういう状況の中でどうすればいいのか、誰にも見えないというか、少なくとも僕には見えないというのが今の現状なんですが、どうでしょうね』、なるほど。
・『中国は「新しい規格」を提供できるのか 橋爪:世界がつながっていて、まとまって対抗しなきゃいけないということと、覇権国、仕切り屋が複数あって、しかも文明の背景が違うから対立しなきゃいけないということは同時に起こるんですよ。これはちっとも矛盾することじゃない。 例えば二昔ぐらい前に、ビデオテープの規格でVHSとベータの覇権争いがあったじゃないですか。1つのほうが使う側には便利がいいに決まっているわけですよ。でも、2つが提案されて、ベータのほうが性能がよかったらしいんだけど、VHSのほうがメジャーなメーカーを複数押さえたことで標準規格を勝ち取った。だから、覇権があっても、覇権争いは起こるんですよ。 だから、西側世界がしばらく世界を仕切ってきて、いろんな規格を世界中に押しつけて、異なった文明は居心地の悪い思いをしながら従ってはきたものの、この規格でなくてもいいんじゃないかとみんな思っているわけだ。そのときに、別の規格が提案されて、そっちのほうが安く使えますというオファーが来たら、乗り換えることは十分考えられる。 今、中国と西側は、そういう関係になりかかっているんじゃないか。中国が世界中をこれで仕切るという新しい規格を提供する力があるのかどうか、世界はそっちに乗り換えるのかどうかという、そういう話なんですよ。 大澤:ああ、世界の規格がドラスティックに置き換わるという話なんですね。これはかなり怖い話ですよ。 橋爪:そのための一番手近な問題として台湾がある。台湾を解放できなければ、中国にはそういう能力がないということになるから、中国は世界を仕切るもう一つのオプションになることができない。しかし、台湾を中国の思うように解決すれば、もはや中国はローカルな政権ではなくて、グローバルな覇権国だということが明らかになる。こういう話だと思う。 ただ、イギリスがアメリカになったように、アメリカが中国になるかというと、全然系統が違うので、そのリスクは甚だしく大きいと思う。このことは簡単に証明できる。中華人民共和国憲法を見てみると、中国共産党の条項がない。 大澤:ポイントはそこですね』、「中国が世界中をこれで仕切るという新しい規格を提供する力があるのかどうか、世界はそっちに乗り換えるのかどうかという、そういう話なんですよ。 大澤:ああ、世界の規格がドラスティックに置き換わるという話なんですね」、「中華人民共和国憲法を見てみると、中国共産党の条項がない」、初めて知ったが、中国にとっては都合がよさそうだ。
・『人類の運命を一人の人間に預けていいのか 橋爪:前文に、中国共産党が頑張ったから、中華人民共和国ができたのでよかったというようなことが書いてあるんだけど、第1条から最後のほうまで読んでも、中国共産党の規定がないんですよ。普通の立憲君主制であれば、存在すべき団体はすべて憲法に書いていなければならない。アメリカ合衆国憲法だったら、大統領が存在し、議会が存在し、最高裁判所が存在し、ときちんと規定がある。 ところが、中華人民共和国憲法に中国共産党が書かれてないということは、中国共産党は国家機関じゃないということだ。中華人民共和国憲法によってコントロールされないということだ。 中国共産党は任意団体であって、超憲法的な存在として中華人民共和国を指導して、支配しているということなんです。これはもう世界中の憲法とまるで違う。似ているのはソ連の憲法くらい。ソ連の憲法は、ソ連共産党が超法規的に、ソビエト社会主義連邦共和国を支配していたので、それを真似したものが残っているんですね。 こんなものが世界標準になって、世界中を支配していいのか。憲法が中国共産党をコントロールしないとすれば、中国共産党は自分で自分をコントロールするしかない。しかし、中国共産党はそうではなく、中央委員会、政治局常務委員会、チャイナセブンといったものがコントロールしていて、そのトップの総書記が実権をすべて握っているわけです。これはもう完全な権威主義で独裁じゃないですか。 これは伝統的に中国のやり方ではあるが、人類の運命を一人の人間に預けてしまっていいのか。これを世界のやり方として認めていいのかどうか。まずそういう問題があることを深刻に認識したうえで、台湾の問題を考えなきゃいけないと思いますよ。 大澤:なるほど。説得力ありますね。巨大中国を取り仕切っている共産党が憲法の条項にも載っていない、ただの任意団体であるということは、『おどろきのウクライナ』でも言及しましたね。しかし、いまやそのトップがただならぬ権力を握っていて、世界に影響を及ぼそうとしている。おっしゃるとおり、これはもう人類の未来の問題といっていい。我々自由主義陣営がどう押し返すか、今が正念場だと僕も思います』、「中国共産党はそうではなく、中央委員会、政治局常務委員会、チャイナセブンといったものがコントロールしていて、そのトップの総書記が実権をすべて握っているわけです。これはもう完全な権威主義で独裁じゃないですか。 これは伝統的に中国のやり方ではあるが、人類の運命を一人の人間に預けてしまっていいのか。これを世界のやり方として認めていいのかどうか。まずそういう問題があることを深刻に認識したうえで、台湾の問題を考えなきゃいけないと思いますよ」、「もう人類の未来の問題といっていい。我々自由主義陣営がどう押し返すか、今が正念場だと僕も思います」、強く同意する。
先ずは、昨年9月4日付けAERAdot「元自衛隊陸将が解説 台湾有事で日本に起こりうる「シナリオ」と「課題」」を紹介しよう。
・『米海兵隊トップのバーガー総司令官は昨年4月、「遠征前進基地作戦(EABO)」を含む新しい作戦構想を発表した。元陸上自衛隊幹部は「イラクやアフガニスタンでの戦闘が終わり、米海兵隊は新しい戦略環境に対応できる能力を求められている」と語る。急いでいるのは現在保有していない地対艦ミサイルの開発だ。台湾有事の際、中国軍艦艇の展開を封じ込める狙いがある。 自衛隊関係者によれば、在沖縄海兵隊は昨年後半から、沖縄本島周辺での航空機やヘリによる降下訓練、輸送機の着陸訓練などを増やしている。米海兵隊は自衛隊に対し、宮古島や石垣島などでも共同訓練や防災・住民保護での協力をしたい考えを非公式に伝えているという。別の元陸自幹部は「米軍は自衛隊が駐屯している場所に展開したい。言葉の問題を解決できるし、現地住民との衝突を避け、米軍の責任も緩和できる」と話す。 陸上自衛隊は15年ほど前、「南西の壁」と名づけた構想をまとめた。対馬から九州、沖縄本島などを経て日本最西端の与那国島までに対空・対艦ミサイルと地上部隊を組み合わせた部隊を配置して防衛ラインを作り上げる構想だった。 陸自は現在、奄美大島と宮古島に12式地対艦誘導弾(12SSM)部隊を配備し、今年度末までに石垣島にも同部隊を配備する。台湾から約110キロしか離れていない与那国島には、沿岸監視部隊と電子戦部隊が配備されている。 中国軍のミサイルは今回、与那国島から80キロの沖合に着弾した。中国軍が設定した訓練区域の一部は、与那国島をはさむように設定された。 陸自中部方面総監などを務めた山下裕貴元陸将は「中国軍が台湾東部に上陸するためには、台湾と与那国島の間を通る可能性が高い。地対艦ミサイルの射程などを考えれば、中国は石垣島より西側の島々から妨害行動を受けることを想定し、戦域として考えているだろう」と語る。同時に「中国の立場では、日本が尖閣諸島を不法占拠していることになる。当然、尖閣も戦域に含まれる」と語る。 中国が与那国島や尖閣諸島などの日本領土を攻撃した場合は「武力攻撃事態」になり、自衛隊は防衛出動する。中国軍が、日本に退避してきた台湾軍の航空機や艦船を攻撃すれば、やはり武力攻撃事態になる。 一方、台湾有事になれば、米軍の海空軍が台湾の上空や近海で活動するだろう。米軍は自衛隊に補給支援を求めるほか、航空機や艦船が攻撃を受ければ、救助活動も要請する可能性が高い。その場合、日本が2015年に制定された安全保障法制に基づき、「重要影響事態」を宣言すれば、給油や弾薬提供、救難活動などの後方支援を行う』、「「中国軍が台湾東部に上陸するためには、台湾と与那国島の間を通る可能性が高い。地対艦ミサイルの射程などを考えれば、中国は石垣島より西側の島々から妨害行動を受けることを想定し、戦域として考えているだろう」と語る。同時に「中国の立場では、日本が尖閣諸島を不法占拠していることになる。当然、尖閣も戦域に含まれる」」、なるほど。
・『与那国島や石垣島での住民避難が課題になる さらに、事態が進み、自衛隊が一緒に活動している米軍が攻撃されれば、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅(おびや)かされる」という「存立危機事態」の宣言が視野に入ってくる。集団的自衛権の行使が可能になり、防衛出動という状況になっていく。 山下氏は「米軍の行動とは切り離して、日本が単独で攻撃を受けた場合は武力攻撃事態になり、日本は一刻も早く米軍の来援を求めるだろう。逆に米軍の行動に関連して事態が推移し存立危機事態になる場合、日本は否応なく自動的に巻き込まれる」と語る。場合によっては、二つのシナリオが同時に別の場所で発生することもありうる。 日本は今、年末に向けて国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の戦略3文書の改定を目指している。山下氏によれば、護衛艦や航空機などの保有数、地対艦ミサイル部隊を配備する石垣島と配備済みの宮古島の両部隊の増強、沿岸監視部隊と電子戦部隊しかいない与那国島に地対艦ミサイルなどの戦闘部隊を配備するのか──といった課題がある。 同時に、尖閣諸島を巡っても、自衛隊による平時からの領域警備を認めるかどうかという問題もある。中国軍による尖閣諸島攻撃の事態に備え、日米安保条約の発動を円滑に進める働きかけも重要になる。) 有事に備えた人員や弾薬、物資の補充も必要になる。自衛隊は現在、増額の必要性が唱えられている予算の範囲内で、弾薬や物資を備蓄している。有事では爆発的に使用量が増えるため、現在の弾薬や物資などの確保が課題になる。自衛隊が南西諸島への配備を進めている12式地対艦ミサイルなどの誘導弾も高価なため、数が絶対的に不足しているとみられる。 さらに、国民保護法制に基づき、与那国島や石垣島などでの住民避難が課題になる。山下氏は「どの時点で、どのくらいの規模で、どこに、どのように避難するのか、早急に訓練を始めるべきだ」と語る。 そして、こうした複雑な事態を指揮する政治家の判断も重要になる。「重要影響事態」と「存立危機事態」「武力攻撃事態」が同時に混在し、変化していく事態も起こりうる。山下氏は「中国軍の演習は、日本と台湾の危機意識を高め、日本や米国、台湾の軍にとって貴重な情報収集の機会にもなった。今回の事態を前向きに捉え、努力していくことも重要だ」と語った。(朝日新聞記者、広島大学客員教授・牧野愛博)※AERA 2022年9月5日号より抜粋』、「与那国島や石垣島などでの住民避難が課題になる。山下氏は「どの時点で、どのくらいの規模で、どこに、どのように避難するのか、早急に訓練を始めるべきだ」」、「こうした複雑な事態を指揮する政治家の判断も重要になる」、単に自衛隊に任せておくば済む話ではない。訓練の準備だけでも早急に始めるべきだ。
次に、9月21日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋大学教授の薬師寺 克行氏による「中台の緊張激化の中、中国抑止をどう考えるのか 中国の台湾政策変遷の背景にある3つの変化」を紹介しよう。
・『アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問(8月2日)以後、台湾海峡をはさんだ中台の緊張の高まりが恒常化している。 中国は「重要軍事演習」と称して台湾封鎖の予行演習を実施、実際にミサイルまで飛ばした。これに対しアメリカは議員団の訪台を繰り返す。中国は連日、台湾海峡の中間線を越えて台湾側に戦闘機を侵入させるだけでなく、離島にはドローンを飛ばし威嚇を続ける。するとアメリカ政府が新たに11億ドル(約1500億円)相当の武器売却方針を打ち出し、議会でも台湾への軍事支援を大幅に強化する法案が審議されている。 緊張のエスカレーションはとどまるところを知らないように見える。これが「新常態(ニューノーマル)」を作り状況を変えようとする中国流のやり方なのだろう。 尖閣諸島でも2012年の日本の国有化をきっかけに、今日に至るも連日のように中国海警局の船が日本の接続水域内に入り、時には領海内にまで侵入を続けている。人海戦術で同じ行為を長期間にわたって継続し、相手を疲弊させ諦めさせようとでもいうのだろう。だからと言って軍事力を使って一線を越えようとはしない。台湾海峡でも同じ手法だとすれば、戦闘機の中間線越えはこれから先も長く続くかもしれない』、「連日のように中国海警局の船が日本の接続水域内に入り、時には領海内にまで侵入を続けている。人海戦術で同じ行為を長期間にわたって継続し、相手を疲弊させ諦めさせようとでもいうのだろう」、「台湾海峡でも同じ手法だとすれば、戦闘機の中間線越えはこれから先も長く続くかもしれない」、覚悟する必要がありそうだ。
・『中国の台湾政策はどのように変遷してきたか 中台関係が一貫して緊張状態にあったわけではない。むしろ、今ほど関係が悪化しているのは例外的だ。その背景には3つの大きな変化を指摘できる。 まず、最もはっきりしているのは中国の変化だ。国民党と戦った毛沢東主席にとって台湾を武力解放し統一することは最大の目標だったが、アメリカに阻まれ実現できなかった。そこで毛沢東は「外交戦」に転じ、国連で多数派形成に力を入れ国連加盟と米中共同声明で国交樹立の実現へ向かうとともに、国際社会における台湾の孤立化に成功した。 続く〓小平(最高指導者1978~1989年)はさらに巧みだった。改革開放政策を進めるために日本やアメリカなど西側諸国に接近するとともに、台湾問題については「平和的統一」や「一国二制度」という柔軟な方針を打ち出して経済成長の基礎作りに成功した。 ところが江沢民(同1989~2002年)は〓小平が残した経済成長の成果に自信を持ったのか、台湾問題については「祖国の完全統一の早期実現」「武力不行使の約束はできない」などと柔軟性を欠く原則論にこだわった。 このころ台湾では民主化が進み総統選が導入された。中国と距離を置く勢力の台頭を抑えるため江沢民はミサイル発射など稚拙な手段で2度の総統選に介入したが見事に失敗した。その結果、「二国論」を唱えた李登輝や、独立指向の強い民進党の陳水扁の政権が誕生した。 江沢民のあとを継いだ胡錦涛(同2002~2012年)は力のない指導者だったと評されているが、台湾問題への対応は理にかなっていた。強引な手法は逆に台湾の人々の心を遠ざけてしまうことを知る胡錦涛は、統一という言葉を避けて「平和的発展」を打ち出した。さらに独立に走ろうとする陳水扁とそれをよしとしないアメリカとの隙間をつく巧みな外交でアメリカを味方につけた。その結果、陳水扁は自滅し中国寄りの馬英九・国民党政権が誕生し中台関係は一気に改善した。中台の良好な関係はこの時代がピークだった。 習近平(同2012年~)が主席になると状況は大きく変わった。国際社会で評価を得た胡錦涛だが、中国共産党内では「中台関係が改善しても、統一の話は一歩も進まず何の成果もない」などと批判が強かった。 〓小平や胡錦涛に批判的と言われる習近平は台湾政策をガラッと変えてしまい、「この問題を一代一代先送りはできない」と統一を急ぐ姿勢を前面に出した。一方の台湾でも総統が独立志向の強い民進党の蔡英文に交代した。習近平のかたくなな姿勢は今年8月に公表された「台湾統一白書」にも表れた。過去の白書にあった「統一後に駐留軍や行政官を派遣しない」という文言が消えたのだ。香港の現状が示すように習近平にとって「一国二制度」はもはや意味のない構想なのだ』、「香港の現状が示すように習近平にとって「一国二制度」はもはや意味のない構想なのだ」、もう恰好つけずに本音でいくようだ。
・『習近平とアメリカの不安、台湾の自尊心 習近平が統一を急ぐ理由は何か。 よく指摘されるのは政治的レガシーの欠如だ。毛沢東は国を作り、〓小平は経済大国を作った。これに対し習近平は権力を握って10年たつが大きな成果がない。異例の3期目に入ればさらに焦るだろうというのだ。 それ以上に自らの権力維持や共産党の一党支配の維持への不安もあるだろう。〓小平に始まる改革開放路線によって中国経済は成長を続け国民を豊かにしてきた。そのことが権力者に正統性を与えてきた。ところが成長のスピードが落ち、所得格差などさまざまな社会問題が顕在化してきた今、習近平や共産党の権力維持の正統性が揺らぎかねない状況となりつつある。そうした不安が習近平を焦らせているのかもしれない。 2つ目の変化はアメリカだ。1970年代のニクソン政権、続くカーター政権による国交正常化以後、アメリカは経済が発展すれば中国は民主化すると考え、中国に対する関与政策を続けてきた。しかし、現実は逆方向に進んだ。トランプ政権はそれまでの政策が誤りだったと判断し対中政策を180度転換した。その対中強硬政策はバイデン政権になっても継承されている。あらゆる政策で激しく対立する民主党と共和党が、中国問題については強硬論で一致しているのだ。 だからと言って全面的に対立するつもりはなく、経済関係などは活発に行われている。しかし、胡錦涛時代のように米中が手を取って台湾の独立派を抑えるというようなことはありえないだろう。 そして3つ目の変化が台湾の人々の意識だ。かつて台湾では、中国との統一について賛否が割れていた。ところが経済が発展し政治制度の民主化が進むと、共産主義中国との統一を支持する声が減っていき、現状維持を望む声が強まった。1990年代以降、台湾には台湾独自の文化や制度があるという「台湾アイデンティティー」という言葉が広がった。 さらに習近平がウイグルや香港で強引な政策を実行し、中国政府がこれまで掲げてきた「一国二制度」が空中分解すると、台湾の各種世論調査では過半数が台湾の独立を支持するようになってきた。一度、民主主義の自由を知れば、個人の言動が厳しく監視され規制される中国本土との統一など望む人はいないだろう。もちろん中国にとってこの変化を黙って見逃すことはできない。さまざまな手段で圧力をかけているしかないのだ』、「習近平や共産党の権力維持の正統性が揺らぎかねない状況となりつつある。そうした不安が習近平を焦らせているのかもしれない」、「対中強硬政策はバイデン政権になっても継承・・・民主党と共和党が、中国問題については強硬論で一致」、「「一国二制度」が空中分解すると、台湾の各種世論調査では過半数が台湾の独立を支持するようになってきた」、これでは「個人の言動が厳しく監視され規制される中国本土との統一など望む人はいないだろう」、「統一」には難しい局面だ。
・『中国の軍事行動を抑制するにはどうすべきか 3つの変化は、中国が掲げる台湾の統一をますます困難にしている。だからと言ってただちに軍事侵攻というわけにはいかない。ロシアのウクライナ侵攻が示すように、力による現状変更は軍事的にも経済的にも中国をいっそうの困難に陥れる可能性が高い。 前アメリカインド太平洋軍司令官のフィリップ・デービッドソンが「今後6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と発言したことなどをきっかけに、軍事専門家の間では、中国の軍事侵攻と米中戦争の可能性が盛んに議論されている。その多くが軍事面での戦力や作戦の分析だ。こうした議論を受けて日本国内では、いざというときに備えた防衛力強化とそのために必要な防衛予算の大幅な増額が既定路線となっている。 確かに中国が台湾問題で何らかの軍事行動に出る可能性は高まっている。したがって日本を含む関係国が中国の誤った行動を抑えるために一定の抑止力を持つことは必要なことだ。しかし、抑止力の本来の目的は、相手国の軍事行動を押しとどめ、外交による問題解決を可能にすることにある。 また中国の台湾政策の変遷や習近平の対応を分析すれば、盤石といわれる習近平体制の強硬姿勢の背景にある政治的脆弱性が浮かんでくる。軍事的衝突を回避するためにも、多角的分析や思考を踏まえた解決の道を探っていかなければならない』、「抑止力の本来の目的は、相手国の軍事行動を押しとどめ、外交による問題解決を可能にすることにある」、「軍事的衝突を回避するためにも、多角的分析や思考を踏まえた解決の道を探っていかなければならない」、同感である。
第三に、12月21日付け東洋経済オンラインが掲載した社会学者・東京工業大学名誉教授の橋爪 大三郎氏と社会学者の大澤 真幸氏による「巨大中国が「台湾侵攻」に踏み出す決定的理由 「ロシア暴走」の教訓は覇権国争いに生きるのか」を紹介しよう。
・『市民動員の発令で国内の反発が広がり、苦戦続きのロシアだが、その様子をつかず離れずの位置でうかがう中国。2022年10月に開かれた中国党大会では習近平総書記の3期目入りが決まり、習一強体制がスタートした。台湾の強行統一を目論む中国は、ロシアの苦戦をどう見ているのだろうか。 アメリカ衰亡の中で目立ってきた中国とロシアという2つの専制主義陣営のパワーにどう対抗すべきか。橋爪大三郎氏、大澤真幸氏、2人の社会学者による『おどろきのウクライナ』(集英社新書)では、文明論、宗教学、歴史、社会学と、あらゆる視座から検証し、白熱した討論が展開される。本稿では、プーチン退場を視野に入れつつ、習近平一強体制をさらに固めた中国の今後を両氏が予測する』、興味深そうだ。
・『ロシア敗北でも中国は目的を果たす 大澤:今、実際に戦争をしているのはロシアとウクライナですが、その後ろにはもっと重要な中国という脅威があります。 もし、ロシアが破れかぶれで戦術核に手を出して戦争に敗北したとして、中国が台湾に侵攻する、あるいはその他の国に及ぼす中国の脅威には、それが必ずしも教訓にならない可能性がある。その点も踏まえ、中国とどう付き合うかは、またロシアとは別途に考えなければいけないと思うのですが、その辺はどうですか。 橋爪:ロシアは、ヨーロッパの盲腸のようなもので、サイズは大きいけど、いわばおまけですね。だけど、中国はどこかのおまけや付録じゃない。中国は中国なんですよ。それに中国は昔から気がついていて、イギリスが来て戦争に負けたときも「あれ?俺たちは本当はもっと中心的な存在ではないか」と思っていた。 さらに、日本があっという間に近代化して日清戦争に勝って、支那事変で中国の半分ぐらいを占領したときも「これはまずい、革命が必要だぞ」と国民党、共産党が出てきた。だから、中国が新しく本当の中国になるためには革命が必要だというのは中国の合意だったんですね。) そこで、ソ連と協力するかしないかで路線が分かれて、ソ連と協力するという人たちが中国共産党になった。本当はソ連と協力なんかしたくないんですよ。中国は中国なんだから。だけど、やむを得ず、共産党という選択をしたと思うわけ。共産党って、モスクワの手下になることですからね。でも、手下になってもいいことが一つもなかったので、中ソ論争の結果、早々とけんか別れしたということです。 その中ソ論争の結果、中国は共産主義だけど、中国というものになった。ここで今日の中国の基本ができたわけです。その後、アメリカや西側世界との関係をどうするかについては、一応協力するという選択をして改革開放になり、ソ連が解体したあとも前進を続け、今日の社会主義市場経済の巨大な中国になった。 大澤:その転換はうまくいきましたね。 橋爪:大成功です。アメリカをうまくだましたんです。いかにも民主主義になりそうなリップサービスをしておきながら、そのつもりは全然なかった。科学技術も資本も全部欲しいものは手に入れた。いよいよ中国を中心に世界を動かしますからねという話になってきた。それで今、アメリカも世界もびっくりしているという状態なのであって、負け惜しみでけんかを売っているロシアとは話が違うんですよ。 大澤:なるほど。いまや中国はアメリカと競る軍事大国ですからね。 橋爪:中国の場合は、通常戦力で勝てますから、核兵器を使う必要がない。核兵器は念のため奥の手にとってあればいいので、通常戦力でやるつもりでしょう。戦争の勝ち負けとはフェアな問題なのであって、戦争で勝って台湾が取られてしまえば、国際社会はこれを認めるしかない。これは主権が侵されたというウクライナとはちょっと違うと思います』、「アメリカをうまくだましたんです。いかにも民主主義になりそうなリップサービスをしておきながら、そのつもりは全然なかった。科学技術も資本も全部欲しいものは手に入れた。いよいよ中国を中心に世界を動かしますからねという話になってきた。それで今、アメリカも世界もびっくりしているという状態」、「中国の場合は、通常戦力で勝てますから、核兵器を使う必要がない。核兵器は念のため奥の手にとってあればいいので、通常戦力でやるつもりでしょう」、なるほど。
・『中国が覇権国となるカギは「台湾」 大澤:今は、ロシアのウクライナ侵略に対して、直接軍事行動はしなくても、西側諸国やアメリカの圧倒的なウクライナ応援がありますね。もし中国が台湾に侵略したとき、実際にアメリカ軍が動くのかどうかが常に話題になっているわけですが、どうなんでしょうか。 というのは、今回のロシアとウクライナの戦争が長引いていて、いろいろ応援はしているものの、やっぱりどこかで妥協しようよという感じが、ヨーロッパやアメリカで出てきています。あまりにもコストが大きいし、ロシアからの石油・天然ガスの禁輸も非常に負担が大きい。この理不尽な戦争を仕掛けられたウクライナに関してでさえ、そうなるんです。 まして、中国の台湾侵略に関してはどうなるか。ヨーロッパの人はどっちでもいいやみたいなところもあるでしょう。ウクライナは公式に独立の主権国家でしたけれど、一応中国に関しては「台湾は一つの中国」という建前もあります。そういう中で台湾が侵略されたとき、果たして大きなコストをかけて台湾を応援しようと西側諸国が思うのかどうか。それはかなり微妙な感じがします。その辺の実際上の見通しを橋爪さんにお聞きしたいんですが。) 橋爪:台湾が存在しているのであれば、西側世界は台湾を支持し続けると思うし、中国としては失敗だと思う。その意味で、台湾が存在しなくなるというのが、中国の戦略目標、戦争目的ですから、台湾が存在しなくなってしまえば、どうしようもない。 それを具体的に言うなら、中国が通常戦力で台湾に上陸して、台湾に新しい政府をつくるということです。それで、形も整うでしょう。そうなると、中国は一つだという中国に、外部から軍事介入する理由がなくなる。だから、これで終わりということになる。 その後どうなるかというと、「台湾を守ります」とかバイデンが言っていたのにそうならなかったわけだから、アメリカは約束を守る能力がなかったということになり、覇権国ではなくなる。そして、文字どおり、中国がアメリカに代わって世界の覇権国になり、まったく新しい時代が始まるということです。 大澤:なるほど、嫌な展開ですね。中国が覇権を持つと、周辺国はどうなりますか。 橋爪:ロシアとインドが中国に寄ってきて、東南アジアは中国圏になります。アフリカも中国になびき、ヨーロッパの貧しい国は中国にがんじがらめになる。さらに中央アジアが中国となって、ラテンアメリカも中国圏になり、残ったのはアメリカとヨーロッパ、そして日本だけという世界が待っているかもしれないという話です』、「中国が通常戦力で台湾に上陸して、台湾に新しい政府をつくるということです。それで、形も整うでしょう。そうなると、中国は一つだという中国に、外部から軍事介入する理由がなくなる。だから、これで終わりということになる」、「「台湾を守ります」とかバイデンが言っていたのにそうならなかったわけだから、アメリカは約束を守る能力がなかったということになり、覇権国ではなくなる。そして、文字どおり、中国がアメリカに代わって世界の覇権国になり、まったく新しい時代が始まる」、「ロシアとインドが中国に寄ってきて、東南アジアは中国圏になります。アフリカも中国になびき、ヨーロッパの貧しい国は中国にがんじがらめになる。さらに中央アジアが中国となって、ラテンアメリカも中国圏になり、残ったのはアメリカとヨーロッパ、そして日本だけという世界が待っているかもしれない」、嫌だが、ありそうなシナリオだ。
・『今まさに文明の衝突が起きている 大澤:それはまさに文明の衝突ということですかね、ビジョンとしては。 橋爪:うん、そう思う。イスラムも、ヨーロッパよりは中国のほうがいいと思うかもしれないな。新疆ウイグルでいじめられているけど、それなりに世話にもなっているし、イスラム教徒の扱いについては中国は慣れているからね。 大澤:『おどろきのウクライナ』でも話しましたが、いま起きているロシアとウクライナの戦争も、ある意味で文明の衝突なんですよね。 サミュエル・P・ハンチントンの『文明の衝突』(1996年)の話をするときに、もう一つ浮かぶのがフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(1992年)のビジョンです。歴史の終わりというのは、リベラルデモクラシーが勝利して、平和な世界が来るというイメージ。 一方、文明の衝突は、ある種のコンフリクトが地球に残っている状態を指しているわけだから、この2つは一見対立するビジョンに見えますけれど、実際には同じものの2つの側面を語っているともいえる。 つまり、文明の衝突があったとしても、プラクティカルに解決できる程度の文明の衝突であれば、ゆるやかでリベラルデモクラティックな多文化主義のようなものが地球レベルでできるということで、それなりに見通しは明るいという感じです。 ただ、その2つのビジョンが世に提示されて30年ぐらいの時間が経ってみると、文明の衝突ってそんなに生易しいものじゃないということがわかった。文明の衝突的なビジョンというのは、一番危険な場合はこうなるよというのを今回僕らは見せつけられているんだと思う。) 橋爪:うん、場合によってはもっと最悪なことも起こりかねない。 大澤:はい、そうですね。今後もしロシアが戦争に負けたとしても、広い意味での文明の衝突状態が続くとすれば、中国、インドが出てくると、もっと深刻な問題になります。 重要なことは、いま僕らに起きていることは、すべてつながっているということ。そのつながりをポジティブに利用する形で解決するしかないんですね。 コロナ危機でもそれがはっきりしたわけですが、コロナだけじゃない。気候変動の問題にしても、世界がいかに連帯に向かうかということが試されている。その場合に文明の衝突的な因子があると、いろんなことがうまくいかないわけです。 ほかの文明の場合は、ほっといても、経済的な意味でうまくいかないので弱体化していくんですよね。だけど、中国の場合は、改革開放以降、大変な成功を手中にしている。そういう状況の中でどうすればいいのか、誰にも見えないというか、少なくとも僕には見えないというのが今の現状なんですが、どうでしょうね』、なるほど。
・『中国は「新しい規格」を提供できるのか 橋爪:世界がつながっていて、まとまって対抗しなきゃいけないということと、覇権国、仕切り屋が複数あって、しかも文明の背景が違うから対立しなきゃいけないということは同時に起こるんですよ。これはちっとも矛盾することじゃない。 例えば二昔ぐらい前に、ビデオテープの規格でVHSとベータの覇権争いがあったじゃないですか。1つのほうが使う側には便利がいいに決まっているわけですよ。でも、2つが提案されて、ベータのほうが性能がよかったらしいんだけど、VHSのほうがメジャーなメーカーを複数押さえたことで標準規格を勝ち取った。だから、覇権があっても、覇権争いは起こるんですよ。 だから、西側世界がしばらく世界を仕切ってきて、いろんな規格を世界中に押しつけて、異なった文明は居心地の悪い思いをしながら従ってはきたものの、この規格でなくてもいいんじゃないかとみんな思っているわけだ。そのときに、別の規格が提案されて、そっちのほうが安く使えますというオファーが来たら、乗り換えることは十分考えられる。 今、中国と西側は、そういう関係になりかかっているんじゃないか。中国が世界中をこれで仕切るという新しい規格を提供する力があるのかどうか、世界はそっちに乗り換えるのかどうかという、そういう話なんですよ。 大澤:ああ、世界の規格がドラスティックに置き換わるという話なんですね。これはかなり怖い話ですよ。 橋爪:そのための一番手近な問題として台湾がある。台湾を解放できなければ、中国にはそういう能力がないということになるから、中国は世界を仕切るもう一つのオプションになることができない。しかし、台湾を中国の思うように解決すれば、もはや中国はローカルな政権ではなくて、グローバルな覇権国だということが明らかになる。こういう話だと思う。 ただ、イギリスがアメリカになったように、アメリカが中国になるかというと、全然系統が違うので、そのリスクは甚だしく大きいと思う。このことは簡単に証明できる。中華人民共和国憲法を見てみると、中国共産党の条項がない。 大澤:ポイントはそこですね』、「中国が世界中をこれで仕切るという新しい規格を提供する力があるのかどうか、世界はそっちに乗り換えるのかどうかという、そういう話なんですよ。 大澤:ああ、世界の規格がドラスティックに置き換わるという話なんですね」、「中華人民共和国憲法を見てみると、中国共産党の条項がない」、初めて知ったが、中国にとっては都合がよさそうだ。
・『人類の運命を一人の人間に預けていいのか 橋爪:前文に、中国共産党が頑張ったから、中華人民共和国ができたのでよかったというようなことが書いてあるんだけど、第1条から最後のほうまで読んでも、中国共産党の規定がないんですよ。普通の立憲君主制であれば、存在すべき団体はすべて憲法に書いていなければならない。アメリカ合衆国憲法だったら、大統領が存在し、議会が存在し、最高裁判所が存在し、ときちんと規定がある。 ところが、中華人民共和国憲法に中国共産党が書かれてないということは、中国共産党は国家機関じゃないということだ。中華人民共和国憲法によってコントロールされないということだ。 中国共産党は任意団体であって、超憲法的な存在として中華人民共和国を指導して、支配しているということなんです。これはもう世界中の憲法とまるで違う。似ているのはソ連の憲法くらい。ソ連の憲法は、ソ連共産党が超法規的に、ソビエト社会主義連邦共和国を支配していたので、それを真似したものが残っているんですね。 こんなものが世界標準になって、世界中を支配していいのか。憲法が中国共産党をコントロールしないとすれば、中国共産党は自分で自分をコントロールするしかない。しかし、中国共産党はそうではなく、中央委員会、政治局常務委員会、チャイナセブンといったものがコントロールしていて、そのトップの総書記が実権をすべて握っているわけです。これはもう完全な権威主義で独裁じゃないですか。 これは伝統的に中国のやり方ではあるが、人類の運命を一人の人間に預けてしまっていいのか。これを世界のやり方として認めていいのかどうか。まずそういう問題があることを深刻に認識したうえで、台湾の問題を考えなきゃいけないと思いますよ。 大澤:なるほど。説得力ありますね。巨大中国を取り仕切っている共産党が憲法の条項にも載っていない、ただの任意団体であるということは、『おどろきのウクライナ』でも言及しましたね。しかし、いまやそのトップがただならぬ権力を握っていて、世界に影響を及ぼそうとしている。おっしゃるとおり、これはもう人類の未来の問題といっていい。我々自由主義陣営がどう押し返すか、今が正念場だと僕も思います』、「中国共産党はそうではなく、中央委員会、政治局常務委員会、チャイナセブンといったものがコントロールしていて、そのトップの総書記が実権をすべて握っているわけです。これはもう完全な権威主義で独裁じゃないですか。 これは伝統的に中国のやり方ではあるが、人類の運命を一人の人間に預けてしまっていいのか。これを世界のやり方として認めていいのかどうか。まずそういう問題があることを深刻に認識したうえで、台湾の問題を考えなきゃいけないと思いますよ」、「もう人類の未来の問題といっていい。我々自由主義陣営がどう押し返すか、今が正念場だと僕も思います」、強く同意する。
タグ:AERAdot「元自衛隊陸将が解説 台湾有事で日本に起こりうる「シナリオ」と「課題」」 台湾 (その6)(元自衛隊陸将が解説 台湾有事で日本に起こりうる「シナリオ」と「課題」、中台の緊張激化の中、中国抑止をどう考えるのか 中国の台湾政策変遷の背景にある3つの変化、巨大中国が「台湾侵攻」に踏み出す決定的理由 「ロシア暴走」の教訓は覇権国争いに生きるのか) 薬師寺 克行氏による「中台の緊張激化の中、中国抑止をどう考えるのか 中国の台湾政策変遷の背景にある3つの変化」 東洋経済オンライン 「「中国軍が台湾東部に上陸するためには、台湾と与那国島の間を通る可能性が高い。地対艦ミサイルの射程などを考えれば、中国は石垣島より西側の島々から妨害行動を受けることを想定し、戦域として考えているだろう」と語る。同時に「中国の立場では、日本が尖閣諸島を不法占拠していることになる。当然、尖閣も戦域に含まれる」」、なるほど。 「与那国島や石垣島などでの住民避難が課題になる。山下氏は「どの時点で、どのくらいの規模で、どこに、どのように避難するのか、早急に訓練を始めるべきだ」」、「こうした複雑な事態を指揮する政治家の判断も重要になる」、単に自衛隊に任せておくば済む話ではない。訓練の準備だけでも早急に始めるべきだ。 「連日のように中国海警局の船が日本の接続水域内に入り、時には領海内にまで侵入を続けている。人海戦術で同じ行為を長期間にわたって継続し、相手を疲弊させ諦めさせようとでもいうのだろう」、「台湾海峡でも同じ手法だとすれば、戦闘機の中間線越えはこれから先も長く続くかもしれない」、覚悟する必要がありそうだ。 「香港の現状が示すように習近平にとって「一国二制度」はもはや意味のない構想なのだ」、もう恰好つけずに本音でいくようだ。 「習近平や共産党の権力維持の正統性が揺らぎかねない状況となりつつある。そうした不安が習近平を焦らせているのかもしれない」、「対中強硬政策はバイデン政権になっても継承・・・民主党と共和党が、中国問題については強硬論で一致」、「「一国二制度」が空中分解すると、台湾の各種世論調査では過半数が台湾の独立を支持するようになってきた」、 これでは「個人の言動が厳しく監視され規制される中国本土との統一など望む人はいないだろう」、「統一」には難しい局面だ。 「抑止力の本来の目的は、相手国の軍事行動を押しとどめ、外交による問題解決を可能にすることにある」、「軍事的衝突を回避するためにも、多角的分析や思考を踏まえた解決の道を探っていかなければならない」、同感である。 橋爪 大三郎 大澤 真幸 「巨大中国が「台湾侵攻」に踏み出す決定的理由 「ロシア暴走」の教訓は覇権国争いに生きるのか」 おどろきのウクライナ』(集英社新書 「アメリカをうまくだましたんです。いかにも民主主義になりそうなリップサービスをしておきながら、そのつもりは全然なかった。科学技術も資本も全部欲しいものは手に入れた。いよいよ中国を中心に世界を動かしますからねという話になってきた。それで今、アメリカも世界もびっくりしているという状態」、「中国の場合は、通常戦力で勝てますから、核兵器を使う必要がない。核兵器は念のため奥の手にとってあればいいので、通常戦力でやるつもりでしょう」、なるほど。 「中国が通常戦力で台湾に上陸して、台湾に新しい政府をつくるということです。それで、形も整うでしょう。そうなると、中国は一つだという中国に、外部から軍事介入する理由がなくなる。だから、これで終わりということになる」、「「台湾を守ります」とかバイデンが言っていたのにそうならなかったわけだから、アメリカは約束を守る能力がなかったということになり、覇権国ではなくなる。 そして、文字どおり、中国がアメリカに代わって世界の覇権国になり、まったく新しい時代が始まる」、「ロシアとインドが中国に寄ってきて、東南アジアは中国圏になります。アフリカも中国になびき、ヨーロッパの貧しい国は中国にがんじがらめになる。さらに中央アジアが中国となって、ラテンアメリカも中国圏になり、残ったのはアメリカとヨーロッパ、そして日本だけという世界が待っているかもしれない」、嫌だが、ありそうなシナリオだ。 「中国が世界中をこれで仕切るという新しい規格を提供する力があるのかどうか、世界はそっちに乗り換えるのかどうかという、そういう話なんですよ。 大澤:ああ、世界の規格がドラスティックに置き換わるという話なんですね」、「中華人民共和国憲法を見てみると、中国共産党の条項がない」、初めて知ったが、中国にとっては都合がよさそうだ。 「中国共産党はそうではなく、中央委員会、政治局常務委員会、チャイナセブンといったものがコントロールしていて、そのトップの総書記が実権をすべて握っているわけです。これはもう完全な権威主義で独裁じゃないですか。 これは伝統的に中国のやり方ではあるが、人類の運命を一人の人間に預けてしまっていいのか。これを世界のやり方として認めていいのかどうか。まずそういう問題があることを深刻に認識したうえで、台湾の問題を考えなきゃいけないと思いますよ」、 「もう人類の未来の問題といっていい。我々自由主義陣営がどう押し返すか、今が正念場だと僕も思います」、強く同意する。