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ビジット・ジャパン(インバウンド)戦略(その9)(もう日本人の出る幕なし?外国人だらけのニセコに見る日本の未来 このままでは「観光大国」は遠い夢…、「ニセコ」が国際リゾートに変貌した真相 立役者のロス・フィンドレー氏に観光戦略を直撃、外国人観光客が日本を「面倒」だと感じる瞬間 観光立国フランスに比べて足りないものは?) [経済政策]

ビジット・ジャパン(インバウンド)戦略については、2月28日に取上げた。今日は、(その9)(もう日本人の出る幕なし?外国人だらけのニセコに見る日本の未来 このままでは「観光大国」は遠い夢…、「ニセコ」が国際リゾートに変貌した真相 立役者のロス・フィンドレー氏に観光戦略を直撃、外国人観光客が日本を「面倒」だと感じる瞬間 観光立国フランスに比べて足りないものは?)である。

先ずは、金融アナリストの高橋 克英氏が4月21日付け現代ビジネスに寄稿した「もう日本人の出る幕なし?外国人だらけのニセコに見る日本の未来 このままでは「観光大国」は遠い夢…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・いまや「日本で最も国際的なリゾート」といわれる北海道ニセコ。街は外国人で溢れ、看板や物価も完全に富裕層向けにシフトしている。高級ホテルの建設ラッシュに沸く同地区は、地価の上昇でも3年連続国内トップを記録した。ところが、当然ウハウハだと思われた地元経済の実態は……? 毎年同地をスキーで訪れている金融コンサルタント、マリブジャパン代表の高橋克英さんが、最新事情から「インバウンド」という言葉にすがる日本の未来を読み解く。
▽日本人客にも「まずは英語で話しかける」ニセコ事情
・パウダースノーで世界的に有名な北海道のニセコリゾート。オーストラリア人やフランス人に華僑を中心に、今年も世界中から多くのスキーヤー、スノーボーダ―が同地を訪れ、温泉とともにスノーシーズンを満喫した。 地元の倶知安町が、スイスのサンモリッツと姉妹都市の提携を結んでから54年、いまやニセコは「東洋のサンモリッツ」から「世界のニセコ」として、その名を世界のスキーヤーや富裕層に知られる存在となっている。
・私事ながらスキーが趣味で、ここ数年、毎年ニセコを訪れているが、その変貌には目を見張るばかりだ。例えば、ニセコ地区にある4つのスキー場の一つ、東山エリアの中核ホテルである「ヒルトンニセコビレッジ」の館内表記は、日本語よりも英語が先にあり、ホテル従業員も基本、外国人。当然「公用語」は英語である。
・館内の寿司屋では板前が、私のように、どこから見ても日本人にしか見えない相手に対してでも、まずは英語で話かけてくる。宿泊客や利用客の大半が外国人なのだから、見かけは日本人でも、ひょっとしたら外国人かもしれないと考えて接するのは合理的だろう。 こうしたサービスは、なにも外資系のホテルだから行われているというわけではない。
・ニセコで最も栄えている「ひらふ」エリアは、まるでスイスやイタリアの高級スキーリゾートのようだ。ショップの看板や広告も英語表記オンリーで、日本語が一切ない店も珍しくない。ショップの客も従業員も外国人。ひらふ十字路を中心に、スキー場のリフトに乗る地点までのひらふ坂の両側には、欧風デザインのホテルや近代的なコンドミニアムが並んでおり、そのほとんどが外国資本による外国人相手のものだ。
・現在も、ひらふ地区では、あちこちでクレーン車と英語表記の建設看板が立ち並び、さらなる開発が進められている。たとえば今年、私が訪れた際もシンガポールの大手デベロッパーであるSCグローバルが、外国人富裕層向け高級ホテルを建設中だった。
▽日本であって、日本ではない
・冬のニセコは、日本でもっとも外国人率が高い街であり、もはやここは日本であって日本ではない。 京都や金沢など、近年日本の多くの観光地には外国人観光客が訪れている。だが、それらとニセコには決定的な違いがある。それは、ビジネスの対象を外国人、それも富裕層に特化していることだ。しかも、その戦略は大成功を収めている。
・欧米などのスキーリゾートを対象とした「ワールド・スキー・アワード」における、50室未満のブティックホテル部門で、ひらふ地区にある高級デザイナーズ・ホテル「ザ・ヴェール・ニセコ」が世界一に輝いている。カテゴリーが限定されているとはいえ、日本にあるホテルが世界的にこれだけ高く評価された例は過去にもほとんどないはずだ。
・「ザ・ヴェール・ニセコ」の最上階に位置するペントハウスは、ニセコでも最高級とされる部屋の一つで、187㎡の広々とした室内には最高のプレミアム暖炉、バスルーム3つを備え、天井まで届く大きな窓からは北海道の名峰・羊蹄山の壮大な眺めを一望できる。スキーのあとは開放感あふれる57㎡を誇るバルコニーの露天風呂でゆっくりと星空を眺めながらリラックス。まさに至福のひとときに違いない。 このペントハウスは、トップシーズンでは1泊50万円を超えるのだが、なんと、すでに来年2019年のシーズンまで予約で満室状態だという。
・ちなみに、ホテル予約検索サイト「エクスペディア」などで、今年12月から来年3月のスキーシーズンにて宿泊予約しようとしても、「ザ・ヴェール・ニセコ」はじめ、ニセコ地区の高級ブティックホテルは、軒並み既に満室や売り切れとなっている。繰り返すが、今年ではなく、まだ1年近く先の来シーズンの話だ。まるで、バブル期の東京湾岸エリアや都心のクリスマス時期のホテル予約のような狂乱ぶりではないか。
・ニセコが世界的に注目されはじめたのは2000年頃からだ。最初はオーストラリア人から人気に火がつき、その後、SNSなどを通じて評判が広がると、フランスを中心に、イギリス、ドイツ、北欧など、ヨーロッパ各国からもスキーヤーが訪れるようになった。
・理由はズバリ、雪質にある。ご存知の方も多いと思うが、ヨーロッパのアルプスなどの雪質は固く締まっており、初心者には荷が重いところが少なくない。それに対し、ニセコはサラサラのパウダースノーで、しかも毎日のように雪が降るから常に新雪。一度これを体験すると、その違いに病みつきになる人が続出するのも頷ける。しかも、ナイター施設なども充実しているのに加えて、温泉や北海道の食と魅力に溢れている。
▽物価も「世界の高級リゾート水準」
・さらに、ここ数年は、香港やシンガポール、マレーシア、台湾などの華僑を中心とした富裕層や、フィリピン、ベトナム、タイなど、雪が降らない国からの観光客も急増した。大げさではなくニセコでは日本人を探すのが困難になるほど、外国人で賑わっている。
・リッチな外国人客を相手にしているため、物価も世界の高級リゾート相場になっている。ゲレンデ周辺では、ランチの海鮮丼でさえ5000円というのが、ごく標準的な料金だ。すし盛り合わせになると松竹梅で、それぞれ1万円、2万円、3万円も珍しくない。価格に、5000円、1万円といったキリのいい数字がやたらと多いのは、両替や換算を意識してのことだという。
・これだけお金持ちが集まれば当然、地元経済にも恩恵が大きいだろうと思われそうだが、残念ながらそうでもないようだ。 まずショップやレストランだが、いまでは客はもちろん、従業員までも外国人が目立つようになり、日本人の姿がめっきり減っている。私が毎年訪れているレストランでも、昨年までは地元の日本人女性2人が「May I help you?」と慣れない英語で接客のアルバイトをしていたが、今回は、夏場はロンドンで働き、冬はニセコでスキーを楽しみながらアルバイトしているというフランス人青年と、職を求めて中国本土からやってきた20代女性の2名にとって代わられていた。これだけ多くの国から観光客がやってくると、接客にも英語だけでなく、フランス語や広東語までが求められる。これでは、普通の日本人が出る幕はないかもしれない。
・「99.9%お客さんは外国人。今日もフランス人の団体と、香港やマレーシアからのグループの予約で満席です。彼らが満足する接客は、日本人では難しいですね」と英語でアルバイトに指示を出しながら、日本人の料理長は話していた。
・ニセコ地区では、外国資本による別荘やコンドミニアムの開発も進んでおり、外国人スキーヤーや観光客だけでなく、外国人居住者も年々増加している。こうした外国人のために働く外国人従業員の増加もまた、続いている。地元の学校には外国人の子供が増え、新たにインターナショナルスクールも作られているという。
▽なぜか地元も国内資本も儲けられていない
・流入人口が増えれば、当然地価は上昇する。3月末、国土交通省から発表された公示地価では、地元の倶知安町の住宅地の公示地価は前年比33.3%と3年連続全国トップ。しかもトップ3をニセコ地区が独占した。さらに、商業地でも35.6%と全国トップとなり、まさにニセコが日本全国を圧倒している。
・そうなれば、少なくとも不動産開発の分野では、日本のデベロッパーや金融機関が荒稼ぎしているのだろうと思ったのだが、どうやら、それもないようだとわかって驚いた。 私が調べた限り、ニセコでの海外富裕層向けを中心としたコンドミニアムや別荘への不動産投資ニーズに、国内の不動産業者・銀行は、ほとんど応えられていない。海外不動産業者やプライベートバンクと海外富裕層との間には、独自のネットワークが形成され、日系企業が入り込む余地がほとんどない状態であるという。
・ニセコは、まさに「外国人の、外国人による、外国人のためのリゾート」と化していると言っていいだろう。地元ニセコ町の分析でも、民間消費や観光業の生産額のほとんどが、町外に流出超過だとされている。観光客や投資の増加は、もはや地域の収入には十分つながっていないというわけだ。
・もちろん、ニセコ興隆は悪いことではない。ただ、観光客やスキーヤーたちがこれほどお金を落としてくれているのに、地元や日本経済に恩恵がないというのは、もったいなさすぎる。「おもてなしの心」などという美学を奉じて、細やかな気配りを観光産業の中心にすえるのもよいが、奥ゆかしいばかりでハングリー精神に欠けては、世界を相手に、いただけるものもいただけないことになってしまう。
・折しも、来年のG20大阪開催にあわせ、G20観光相会議がニセコで開催されることが決まっている。それに合わせてパークハイアットやリッツ・カールトンといった外資系超高級ホテルやコンドミニアムの開業も予定されており、北海道新幹線の札幌までの延伸にあわせ、ニセコ地区にも新駅ができる予定だ。共存共栄の世界を目指して、出遅れている国内資本による投資の増加に期待したい。
・そこでの成否が、「観光大国」を目指す日本の未来をうらなう試金石になる、と言っても、あながち大げさにすぎるということはないだろう。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55346

次に、ジャーナリストの磯山 友幸氏が6月8日付け日経ビジネスオンラインに掲載したインタビュー記事「「ニセコ」が国際リゾートに変貌した真相 立役者のロス・フィンドレー氏に観光戦略を直撃」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは磯山氏の質問、+は回答内の段落)。
・北海道倶知安町。2018年の公示地価で、住宅地、商業地ともに上昇率全国トップに躍り出た。理由は外国人にスキーリゾートとして「ニセコ」が人気を博していること。外国人自身が別荘などとして不動産を取得しているほか、リゾートとしての発展を見込んだ投資も増えている。いわゆるインバウンド(訪日外国人)に沸いている町だ。2018年1月時点の町の人口は1万6492人だが、うち1648人が外国人。何と1割が外国人という日本の地方としては有数の“国際化”が進んだ地域でもある。そんな倶知安町に30年近くにわたって住み、ニセコの魅力を発信してきたNAC(ニセコアドベンチャーセンター)のロス・フィンドレー社長に話を聞いた。
▽世界中のスキーヤーに高い人気
(ロス・フィンドレー氏:1964年オーストラリア・メルボルン生まれ。キャンベラ大学卒業。米国やスイスでスキーのインストラクターを経験。1989年来日、札幌でスキー学校のインストラクターなどを務める。1992年倶知安町に移住。建設会社で働きながら、スキーのインストラクターを続ける。1994年ニセコアドベンチャーセンター(NAC)設立。社長に就任して今に至る。冬のスキーによる観光しかなかったニセコ地域に、ラフティングなど夏の体験観光を付加、広く国内外から観光客を集めることに成功した立役者。日本人の妻との間に4人の子どもがいる)。
・Q:日本は政府をあげて訪日外国人の受け入れ増加を目指しています。2017年は2869万人が訪れました。ニセコ地域はオーストラリアや欧米からの観光客が多く、観光地として成功していますね。
・ロス・フィンドレー氏(以下、フィンドレー):「ニセコ」ブランドが世界で通用するようになってきました。スキーヤーの間では、スイスのサンモリッツやカナダのウィスラーに引けをとらない知名度になっています。2000年頃にオーストラリアの旅行会社がニセコのスキーを商品にして200人くらい来ました。それをきっかけに、雪質が最高だということで、評判が評判を呼びました。ここは、シーズン中ずっとパウダースノーで、アイスバーンになりません。ただ、リゾート地としての整備はまだまだです。
・Q:何が問題なのでしょうか。
・フィンドレー:通年雇用が多くないので、なかなか優秀な人材が腰を落ち着けて住んでくれません。通年雇用を生む観光業やビジネスを広げなければいけません。私の会社NACでは夏にラフティングを始め、今では夏の間にラフティング目当てのお客さんが3万人近く来るようになりました。
+冬のスキー、夏のラフティングと目玉ができましたが、それでも5、6、10、11の4カ月はお客さんがほとんど来ません。ホテルも営業を休み、海外の人もいなくなります。別荘などもガラガラです。稼働率が極端に落ちる中で従業員を雇い続けることが難しいわけです。
▽観光開発の「グランドデザイン」が不可欠
・Q:1年中お客さんに来てもらう仕掛けづくりが重要だ、と。
・フィンドレー:ええ。1週間は滞在して欲しいので、1週間分の「遊び」を用意しなければいけません。尻別川での川遊びも、ラフティングだけでなく、カヤックや小型のボート「ダッキー」、立って乗る「サップ(スタンドアップパドル)」などに広げています。林道や山道、川原、草原などを走るマウンテンバイク・ツーリングも始めました。
+今年11月にオープンを目指しているのが「NACアドベンチャーパーク」です。町有林を借りて高さ4メートルから13メートルくらいの高さに様々な足場を付け、木から木へと移動していくスリリングな遊びです。難易度の異なるコースを作りますが、小学校高学年ぐらいから楽しめます。
・Q:春から秋までお客さんを引き寄せられる目玉を作っているわけですね。地域の行政や民間が一体になって取り組んでいるのですか。
・フィンドレー:そこが問題なんです。町、北海道、国がバラバラで統一したビジョンがないのです。国も観光庁や国土交通省、農林水産省、経済産業省など縦割りです。
・Q:グランドデザインが描けていない、と。
・フィンドレー:観光開発にはこの地域をどんなエリアにしてブランドを磨いていくのか、グランドデザインが不可欠です。私はアジアのアウトドアの中心地にできると思っています。気候が良く、空気も水も綺麗なニセコに、アジアの都市住民が喧騒を逃れてやってくる。「アウトドアはニセコ」というブランドを距離の近いアジアでプロモーションしていくべきだと考えています。
・Q:ところが省庁は縦割りでまとまらない。
・フィンドレー:私たち民間が何かやろうとして認可を求めても、お役所仕事ですぐに1年2年かかってしまいます。役所の職員は時間がかかってもその間給料がもらえますが、民間は収入なしで従業員を食べさせていかなければなりません。 町長はいろいろな意見をもった人の調整役で、大変だと思います。しかし、町としてのビジョンを掲げるべきだと思いますね。例えば、将来の人口を何人にするかをもっと高く掲げてもいい。
・Q:倶知安町の不動産価格が全国トップの上昇率になっています。
・フィンドレー:投資で新しいおカネが入って来ることはとても大切です。一方で、不動産価格が上がると、住宅の賃料も上がり、スキー場で働こうとする若い人たちの大きな負担になります。町営アパートを活用するなど対策が必要です。
▽英語ができないと仕事にならない
・Q:NACなどフィンドレーさんの会社では何人ぐらい雇っているのですか。
・フィンドレー:社員は20数人ですが、夏になるとアルバイトなどで90人くらいになります。ニセコも人手不足です。ここでは英語ができないと仕事になりません。英語ができないと、雪下ろしのような仕事しかできない。町民教育、グローバル教育に力を入れていく必要があります。
+今は、優秀な人材ほど町から出ていきます。高校進学や大学進学のために出て行って戻ってきません。この町で教育を受けて国際的な大学受験資格であるインターナショナル・バカロレア(IB)を取れるようにする。「グローバル教育研究会」というのが立ち上がって、IBについて研究しています。英会話を学ぶ機会を増やすなど、少しずつ前に進んでいます。
・Q:ニセコに住みたいという外国人は多いのですか。
・フィンドレー:冬だけやってくる外国人も多いのですが、今、定住していて夏もいるのは500世帯くらいでしょうか。日本で暮らしたいと考えている外国人の中には、子どもを東京ではなく自然の多いところで育てたいという人が少なくありません。そうした人たちにニセコは魅力的です。だからこそ、通年で働ける仕事が重要なのです。通年で働ける仕事でないと、スタッフの質も上がりません。
・Q:フィンドレーさんはなぜニセコに定住したのですか。
・フィンドレー:1989年に日本に来ました。札幌・手稲の三浦雄一郎さんのスキースクールでインストラクターをしていましたが、ニセコに遊びに来た時に、若い人たちがたくさん集まっていて非常に楽しかった。もちろん雪質が良いことにもひかれました。それでニセコで働くことにしたのですが、なかなか仕事がありません。ようやく建設会社に採用されて3年間働きました。
+オーストラリアの大学時代、スポーツ科学を学んでいたこともあり、自分でスポーツビジネスがやりたかったのです。それでNACを立ち上げました。1994年に設立して24年が過ぎましたが、札幌でクライミングジムを作るなど順調に拡大しています。
・Q:最近では観光庁の「観光カリスマ」に選ばれるなど、政府の会議のメンバーとして、日本の観光行政に意見を述べています。
・フィンドレー:繰り返しになりますが、明確なビジョンを示してブランドを磨くこと。そして国際的なプロモーションをきちんと行うことです。これはニセコに限ったことではありません。その町その町の特色を打ち出し、魅力を発信することが何より重要だと思います。まだまだ日本の観光はチャンスがあると思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/060700078/?P=1

第三に、『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員のレジス・アルノー氏が5月2日付け東洋経済オンラインに寄稿した「外国人観光客が日本を「面倒」だと感じる瞬間 観光立国フランスに比べて足りないものは?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・3月29日、日本政府観光局(JNTO)理事長の松山良一氏はフランスのル・フィガロ紙のインタビューに応じ、意外な発言をした。インタビューの中で、松山氏はフランスの人々がなぜもっと日本を訪れないのかについて不思議がったのである。
・同氏は日本政府による過ちや、誤解に言及しなかった。それどころか、フランス人は基本的に今でも1980年代のタイムカプセル内で生きているようなものだと説明した。日本は1980年代当時のまま「物価が高く、フランスから遠く、人々が英語を話さない国」だとフランス人は信じている、というのだ。
▽観光客増加は単なる「巻き返し」にすぎない
・同氏の発言にはいくつか勘違いがある。まず、フランス人はかつてよりずっと日本を訪れるようになっている。実際、筆者の家族や親戚、友人誰もが日本に来たがっている。また、実際に日本はほかのアジア諸国に比べて物価が高く、明らかにフランスから遠く、また、日本人の英語があまり上手ではないのは周知の事実だ。日本はすばらしい国だが、安くもなければ欧州に近くもなく、そこまで国際化されてもいない。これが事実である。
・確かに日本を訪れる観光客が爆発的に増えていることを考えると、日本の観光政策は成功しているように思える。2012年の訪日外国人数は840万人だったが、2017年には2840万人に膨らんだ。2018年はこれを超える数になるだろう。日本政府は、2020年に訪日外国人数を4000万人に増やす考えだが、これは達成可能な数字だ。
・しかし、観光産業に関するかぎり、日本の実態は、いまだ発展途上国だと言わざるをえない。近年の訪日外国人の増加は、すばらしいマーケティングの成果ではなく、単なる「巻き返し」の側面が大きい。 観光産業の発展は長年にわたって日本の厳格な入国管理政策によって阻まれてきた。が、安倍晋三首相が、中国人のビザ要件を緩和したことなどによって、それまで日本に来たがっていたアジアの人々が、容易に日本を訪れられるようになったのである。円安効果も大きかった。
・しかし、実際に訪れている外国人の声を拾うと、日本は「観光インフラ」という点で大いに改善の余地があることがわかる。そこで、ここでは観光立国であるフランスと比べながら、どういう点を改善すべきかを具体的に挙げたいと思う。
・そもそも、なぜフランスから学ぶべきか。それは、フランスが世界屈指の観光立国だからだ。2016年時点での外国人観光客数世界トップはフランスで年間8260万人と、2位の米国(7561万人)に700万人もの差をつけているほか、日本(2400万人)の約3.4倍にも上る。 今後、日本が観光立国を目指すうえで、フランスの取り組みは少なからず参考になるのではないか。
▽いつ誰が乗ろうが変わらない鉄道料金
・さて、フランスと比べた場合、日本の観光政策やインフラに足りないのは、「柔軟性」「シンプルさ」「わかりやすさ」の3つではないだろうか。 まずは、柔軟性。今日、日本には世界各国からあらゆる人が訪れるようになっており、その目的やニーズは多様化している。日本もこれにあわせて、交通、宿泊、体験においてより多面的なサービスを展開すべきである。「日本の観光業は、団体で決まったところをまわるバスツアー的なマインドに基づいてサービスを提供している」と、日本の観光政策に詳しい小西美術工藝社長のデービッド・アトキンソン氏は語る。
・たとえば、柔軟性に足りないという点で最も先に思い浮かぶのが鉄道である。日本全国に張り巡らされている鉄道は、時間に正確で便利だという反面、多くの観光客は高すぎるし、融通が利かないと感じている。たとえば、新幹線の料金は、使う人や使う時期、時間帯などにかかわらず、一定料金である。
・一方、フランス国鉄(SNCF)は、料金体系こそ複雑だが、非常に柔軟なシステムを採用しており、旅行需要の多いハイシーズンの場合、早めに予約すればかなり安く抑えられる仕組みとなっている。実際、お盆に旅行するとして、今予約した場合、JRに比べてどれくらい「お得」になるか比較してみよう。
・たとえば、8月11日に筆者と妻、3人の子どもを連れてパリからボルドーに行く場合、合計料金は170ユーロ、約2万2500円である。対して、東京から距離的に同じくらいの京都に行く場合の料金は、5人合計で11万3120円。なんと5倍である。 JR6社も外国人観光客に対しては、「ジャパン・レール・パス(JRパス)」を発効(正しくは「行」)しており、「のぞみ」などを使わなければ、日本人よりはだいぶ料金を抑えることができるが、なんせこれの予約などが面倒くさい。
・観光客は国内外の代理店などで予約をしてから、日本の引換所でチケットを受け取り、さらに実際の鉄道を予約するには「みどりの窓口」を訪ねなければならない。みどりの窓口にありえないほどの行列ができているのはこのためだ。
・なぜこのすべてをネットでできないのか。たとえば、欧州におけるJRパスである「ユーロ・レール・パス」は、ネットで予約可能だ。この点、「シンプルさ」に欠けている。
▽レンタカーを借りるのも大変
・さらに、面倒なのはロードトリップである。日本政府は地方の活性化に力を入れているが、たとえば九州や東北、四国などですばらしい場所をめぐるにはレンタカーが必要だ。にもかかわらず、外国人観光客が日本で国際免許をとるのはとんでもない労力がかかる。
・日本は、1968年に調印されたウィーン条約の加盟国でないため、たとえばフランス人の運転免許をそのまま利用することはできない(ちなみに、筆者が先日米国で行った際は、事前にネットでレンタカーを予約し、空港で免許すら提示せずに車を借りることができた)。 なので、フランス人が日本で運転したい場合は、日本自動車連盟かフランス大使館から運転免許証の証明書を得る必要がある(料金は3000円)。そして、これもネットでは手配できないし、国外から手配することもできない。「日本のお偉いさんたちは、たった数日しか日本を訪れないような外国人にとって、これがどれだけ非効率的なことかがわかっているのだろうか?」と、あるフランス人外交官は不満を漏らす。
・宿泊についても融通が利かない。日本は家族で行くとなると非常におカネがかかる場所だが、その理由の1つは、たいていのホテルや旅館が「1部屋」ではなく、「1人」に対して料金を課すからだ。このため、1人客を受け付けない宿も少なくなく、私の友人も先頃、旅館を予約しようとしたところ、「2人以上でないと受け付けない」と断わられたばかりだ。
・また、日本の宿には「3泊すればもう1泊ぶんの宿泊料金は無料といったプロモーションもない」と、日本で外国人向けの旅行代理店ジャパン・エクスペリエンスを展開するティエリー・マンサン氏は言う。
・一方、民泊については、日本政府は来年6月に規制緩和を実施する方針だが、自治体が設けている条約がえげつない。たとえば、銀座や日本橋、築地市場など観光名所がある中央区(住宅専用地域)では月曜正午~土曜正午まで営業禁止のほか、若い観光客に人気の渋谷区(住宅専用地域・文教地区)も月曜日午後~金曜日午前まで営業ができない(区立小中学校の夏休みや冬休みなどを除く)。外国人観光客のメッカ、京都市(住居専用地域)では、原則、1月15日正午~3月16日正午に限り営業可能となっている。
・最後に、日本の観光政策には「わかりやすさ」が欠けている。たとえば、「フランスはキャッチフレーズをつけるのがうまい。『花の都』とか、『身体障害者フレンドリー観光』『ワイン畑の探索』など、フランス政府やNGOは、観光客のニーズや嗜好に合わせた旅先や旅の仕方を提案するのに長けている」と、前出のマゼンク氏は言う。
▽ピンチをチャンスに変えてほしい
・日本ではまだこうした取り組みは始まっていない。どころか、日本の旅館・ホテル業界は欧州では当たり前の星による「等級システム」を採用していない「日本政府は呪文のように、『2020年までには外国人観光客を迎える体制を整える』と繰り返しているが、それまでにホテルに等級制を導入しようという考えすらない」と、あるフランス外交官は話す。仮に導入された場合、旅館側から大きな反発が起きることは容易に予想できる。
・が、これには対策がある。「フランスでホテルに星による等級制が導入されたとき、銀行はホテルが設備を刷新できるように積極的に融資を行った」と前出の外交官は語る。旅館は日本を体験できるすばらしい場所だが、一部は設備が古びていたり、最新のサービスを提供できなかったりと、絶滅危惧種になっている。そうであれば、たとえば等級制の導入を、自らのコストを見直したり、顧客のニーズを分析するなどに力を入れる契機だととらえたらどうだろうか。
・日本は本気で外国人観光客にアピールしようとしている。こうした中で必要なのは、日本がその歴史や文化に誇りを持っているというメッセージを海外に流すことよりも、より科学的な分析に基づいたマーケティングである。
・たとえば、欧州の人々は日本の文化や歴史より、自然に関心を持っているという調査もある。そうであれば、そうした人たちに向けて、日本の自然やそれを体験できる場所がどこなのかをアピールすべきだろう。JNTOはかつて、すでに日本を訪れている観光客に対してアンケートを行っていたが、本来は来たことのない人たちに、日本に何を求めているのか聞くべきではないか。
・アトキンソン氏は言う。「日本はまだ、訪日外国人向けの観光対策を始めたばかりだが、過去5年でかなり改善を図ってきた。今後、海外からの観光客がさらに増え、さらにいろいろなところを訪れるようになれば、規模の経済が起きてコストが下がり、さまざまな料金も下がるだろう。私はこの点について非常に楽観的だ」。
https://toyokeizai.net/articles/-/218589

第一の記事で、『日本人客にも「まずは英語で話しかける」ニセコ事情・・・東山エリアの中核ホテルである「ヒルトンニセコビレッジ」の館内表記は、日本語よりも英語が先にあり、ホテル従業員も基本、外国人。当然「公用語」は英語である・・・宿泊客や利用客の大半が外国人なのだから、見かけは日本人でも、ひょっとしたら外国人かもしれないと考えて接するのは合理的だろう』、『このペントハウスは、トップシーズンでは1泊50万円を超えるのだが、なんと、すでに来年2019年のシーズンまで予約で満室状態』、などはここまで進んだのかといささか驚かされた。 『なぜか地元も国内資本も儲けられていない・・・奥ゆかしいばかりでハングリー精神に欠けては、世界を相手に、いただけるものもいただけないことになってしまう』、ただ外国資本とはいっても、ホテルの地方税や外国人従業員の所得税などは地元や日本に入る筈だから、それを無視したいささかオーバーな表現という気もする。
第二の記事で、『「ニセコ」が国際リゾートに変貌・・・立役者のロス・フィンドレー氏』、へのインタビューだけあって、なかなか興味深い。『冬のスキー、夏のラフティングと目玉ができましたが、それでも5、6、10、11の4カ月はお客さんがほとんど来ません。ホテルも営業を休み、海外の人もいなくなります。別荘などもガラガラです。稼働率が極端に落ちる中で従業員を雇い続けることが難しいわけです』、『1週間は滞在して欲しいので、1週間分の「遊び」を用意しなければいけません。尻別川での川遊びも、ラフティングだけでなく、カヤックや小型のボート「ダッキー」、立って乗る「サップ(スタンドアップパドル)」などに広げています。林道や山道、川原、草原などを走るマウンテンバイク・ツーリングも始めました』、来客の平準化に向けての努力は大したものだ。ただ、『観光開発の「グランドデザイン」が不可欠』、というのは現実には難しい課題だろう。
第三の記事で、『日本政府観光局(JNTO)理事長の松山良一氏は・・・意外な発言』、どうみても、「思いあがっている」としか考えられない発言だ。インバウンド客が増えたのでいい気になっているのかも知れないが、『観光客増加は単なる「巻き返し」にすぎない』、ことを考慮すれば、もっと謙虚になるべきだろう。『「ジャパン・レール・パス(JRパス)」を発行・・・観光客は国内外の代理店などで予約をしてから、日本の引換所でチケットを受け取り、さらに実際の鉄道を予約するには「みどりの窓口」を訪ねなければならない・・・なぜこのすべてをネットでできないのか』、というのはその通りだ。ただ、『旅館は日本を体験できるすばらしい場所だが、一部は設備が古びていたり、最新のサービスを提供できなかったりと、絶滅危惧種になっている。そうであれば、たとえば等級制の導入を、自らのコストを見直したり、顧客のニーズを分析するなどに力を入れる契機だととらえたらどうだろう』、というのは現実には難しそうだ。 『アトキンソン氏は言う。「日本はまだ、訪日外国人向けの観光対策を始めたばかりだが、過去5年でかなり改善を図ってきた。今後、海外からの観光客がさらに増え、さらにいろいろなところを訪れるようになれば、規模の経済が起きてコストが下がり、さまざまな料金も下がるだろう。私はこの点について非常に楽観的だ」』、との見立てに期待したい。
タグ:尻別川での川遊びも、ラフティングだけでなく、カヤックや小型のボート「ダッキー」、立って乗る「サップ(スタンドアップパドル)」などに広げています。林道や山道、川原、草原などを走るマウンテンバイク・ツーリングも始めました 高橋 克英 地価の上昇でも3年連続国内トップを記録 (その9)(もう日本人の出る幕なし?外国人だらけのニセコに見る日本の未来 このままでは「観光大国」は遠い夢…、「ニセコ」が国際リゾートに変貌した真相 立役者のロス・フィンドレー氏に観光戦略を直撃、外国人観光客が日本を「面倒」だと感じる瞬間 観光立国フランスに比べて足りないものは?) ニセコ。街は外国人で溢れ、看板や物価も完全に富裕層向けにシフトしている 日本人客にも「まずは英語で話しかける」ニセコ事情 1週間は滞在して欲しいので、1週間分の「遊び」を用意しなければいけません 「もう日本人の出る幕なし?外国人だらけのニセコに見る日本の未来 このままでは「観光大国」は遠い夢…」 ニセコは、まさに「外国人の、外国人による、外国人のためのリゾート」 レジス・アルノー 現代ビジネス ゲレンデ周辺では、ランチの海鮮丼でさえ5000円というのが、ごく標準的な料金だ 海外不動産業者やプライベートバンクと海外富裕層との間には、独自のネットワークが形成され、日系企業が入り込む余地がほとんどない状態 日本が観光立国を目指すうえで、フランスの取り組みは少なからず参考になるのではないか 5、6、10、11の4カ月はお客さんがほとんど来ません。ホテルも営業を休み、海外の人もいなくなります。別荘などもガラガラです。稼働率が極端に落ちる中で従業員を雇い続けることが難しいわけです 東洋経済オンライン (インバウンド)戦略 ジャパン・レール・パス(JRパス) 光客は国内外の代理店などで予約をしてから、日本の引換所でチケットを受け取り、さらに実際の鉄道を予約するには「みどりの窓口」を訪ねなければならない 理由はズバリ、雪質にある 意外な発言 「外国人観光客が日本を「面倒」だと感じる瞬間 観光立国フランスに比べて足りないものは?」 外国人の声を拾うと、日本は「観光インフラ」という点で大いに改善の余地があることがわかる なぜこのすべてをネットでできないのか 磯山 友幸 ペントハウスは、トップシーズンでは1泊50万円を超えるのだが、なんと、すでに来年2019年のシーズンまで予約で満室状態 なぜか地元も国内資本も儲けられていない 町、北海道、国がバラバラで統一したビジョンがないのです 99.9%お客さんは外国人 夏にラフティングを始め、今では夏の間にラフティング目当てのお客さんが3万人近く来るようになりました ビジット・ジャパン 通年雇用が多くないので、なかなか優秀な人材が腰を落ち着けて住んでくれません 日本政府観光局(JNTO)理事長の松山良一氏 NAC(ニセコアドベンチャーセンター)のロス・フィンドレー社長 日本で国際免許をとるのはとんでもない労力がかかる 近年の訪日外国人の増加は、すばらしいマーケティングの成果ではなく、単なる「巻き返し」の側面が大きい 「「ニセコ」が国際リゾートに変貌した真相 立役者のロス・フィンドレー氏に観光戦略を直撃」 日経ビジネスオンライン 旅館は日本を体験できるすばらしい場所だが、一部は設備が古びていたり、最新のサービスを提供できなかったりと、絶滅危惧種になっている。そうであれば、たとえば等級制の導入を、自らのコストを見直したり、顧客のニーズを分析するなどに力を入れる契機だととらえたらどうだろうか 日本の旅館・ホテル業界は欧州では当たり前の星による「等級システム」を採用していない
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ミャンマー(ロヒンギャ問題:彼らはどう焼かれ 強奪され 殺害されたか、5問でわかる「ロヒンギャ問題とは何か?」スーチー氏が直面する壁 なぜ差別を受けるのか。どう解決できるのか。) [世界情勢]

今日は、ミャンマー(ロヒンギャ問題:彼らはどう焼かれ 強奪され 殺害されたか、5問でわかる「ロヒンギャ問題とは何か?」スーチー氏が直面する壁 なぜ差別を受けるのか。どう解決できるのか。)を取上げよう。

先ずは、2月12日付けロイター「特別リポート:ロヒンギャの惨劇 彼らはどう焼かれ、強奪され、殺害されたか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・縛られ、拘束された10人のロヒンギャの男たちは、すぐそばで浅い墓穴を掘る隣人の仏教徒たちを見つめていた。それからまもなく、昨年9月2日朝、彼ら10人の遺体がその穴に横たわった。そのうちの2人を切り殺したのは仏教徒たち。残る8人はミャンマー軍によって射殺されたと、穴を掘ったグループの2人がロイターに証言した。
・ミャンマーで起きたイスラム系少数民族ロヒンギャの惨劇。「ひとつの墓穴に10人を入れた」。同国ラカイン州インディン村にある仏教徒集落の退役兵士、Soe Chayはそう語り、同日の事件で自ら墓穴掘りに加わり、殺害を目撃したことを認めた。  彼によれば、兵士たちは、拘束したロヒンギャ1人に2、3発の銃弾を打ち込んだ。「埋められるとき、数人からはまだうめき声が聞こえていた。他はすでに死んでいた」と彼は話した。
▽終りの見えない「浄化作戦」
・ミャンマーの西の端にあるラカイン州の北部では、ロヒンギャたちに対する暴力行為が広範囲に行われている、と隣国バングラデシュに逃げ込んだロヒンギャ難民や人権擁護団体は訴える。海岸沿いの村インディンで起きた虐殺事件は、暴力的な民族対立の悲惨さを雄弁に物語っている。
・昨年8月以降、自分たちの村を脱出、国境を越えてバングラデシュに避難したミャンマーのロヒンギャ住民は69万人近くに達する。インディン村にはかつて6000人のロヒンギャたちが住んでいたが、10月以降、残っているものは誰もいない。
・およそ5300万人の人口を持つミャンマーは、国民の圧倒的多数が仏教徒だ。イスラム系住民であるロヒンギャたちは、同政府軍が自分たちを抹殺するため、放火、暴行、殺戮(さつりく)を続けていると訴えている。
・国連はこれまでもミャンマー軍が虐殺を行っていると非難し、米国政府は同国での民族浄化を制止する行動を呼びかけている。一方、ミャンマー側はこうした「浄化作戦」はロヒンギャ反政府勢力による攻撃に対する合法的な対抗策だと繰り返している。
・ロヒンギャたちにとって、ラカイン地域はこれまで何世紀にもわたり自分たちが住み続けてきた場所だった。しかし、ミャンマー人の多くは、彼らをバングラデシュからやってきたイスラム系の招かれざる移民とみなし、軍はロヒンギャたちを「ベンガル人」と呼ぶ。 こうした対立はここ何年かの間に激しさを増し、ミャンマー政府は10万人以上のロヒンギャたちを食糧も医薬品も教育も十分に提供されないキャンプに閉じ込めてきた。
▽食い違う現場と政府の証言
・インディン村の惨劇はどのように起きたのか。ロイターは事件への関与を告白した仏教徒の村民たちに接触し、ロヒンギャたちの家屋への放火、殺害、死体の遺棄についての初めての証言を得た。証言からは軍の兵士や武装警察官が関係していたことも明らかになった。 村に住む長老の仏教徒からは3枚の写真を渡された。そこには9月1日の夕刻、ロヒンギャたちが兵士に拘束され、翌2日の午前10時過ぎに処刑されるまでの決定的な瞬間が写し出されていた。
・ロイターが事件の調査を続ける中、警察当局は12月12日、同社記者であるWa LoneとKyaw Soe Ooの2人を逮捕した。ラカインに関する機密情報を入手したという容疑だった。そして、年が明けた1月10日、軍はロイターによる報道内容をある部分で確認する声明を出した。インディン村において、10人のロヒンギャ住民が虐殺されたことを認める発表だった。
・しかし、軍が示した説明は、いくつかの重要な点で、事件を目撃したラカインの仏教徒やロヒンギャたちがロイターに提供した証言と食い違ってる。 軍側は殺された10人を治安当局に攻撃を仕掛けた「200人のテロリスト」の一味であると決めつけた。しかし、村の仏教徒住民はロイターに対し、インディン村において、大勢の反乱分子よる治安部隊への攻撃は全くなかったと明言している。そして、ロヒンギャの目撃者によると、その10人は近くの浜辺に避難していたロヒンギャたちから引き抜かれるように連行されていった人たちだった。
・さらに、ロイターの取材に応じた多くの仏教徒、兵士、武装警官、ロヒンギャたち、そして地元の行政当局者の証言から、より詳しい状況が明らかになった。
ー 仏教徒村民によると、軍の兵士や武装した警察官がインディン村の仏教徒住民を集め、そのうちの少なくとも2人がロヒンギャ住民の家に放火した。
ー 3人の武装警察官およびラカイン州の州都シットウェの警察官によると、インディン村のロヒンギャ集落を「浄化」する命令は、軍の指揮系統を通じて下された。
ー インディン村の仏教徒行政官と武装警官によると、武装警察隊の数人がロヒンギャ住民から牛やオートバイを売却目的で略奪した。
▽政府側は軍の作戦を擁護
・ロイターが入手したこれらの証言や情報について、ミャンマー政府はどう反応しているのか。 スポークスマンであるZaw Htayはロイターに対し、「人権侵害の申し立てがあることは否定しない。そして、全てを否定してもいない」とし、もし不法行為について「十分かつ信頼できる一次証拠があれば、政府は調査を行う」と語った。「そして、証拠に間違いがなく、暴力があったことが分かれば、我々は現行法に従って必要な行動を取る」と述べた。
・インディン村のロヒンギャ集落を「浄化」するよう命令を受けたという武装警官たちの証言については、「証明が必要だ。内務省と警察当局に聞かなければならない」と返答。武装警官たちによる略奪に関しては、警察が捜査するだろうと語った。
・スポークスマンは、仏教徒村民たちがロヒンギャたちの住宅を焼き討ちしたとの情報には驚いた表情で、「いくつも様々な異なった申し立てがあるが、誰がそうしたのかを証明することが必要だ。今の状況下では、それは非常に難しい」と付け加えた。
・一方、同氏はラカイン地域における軍の作戦を擁護した。「国際社会は誰が最初にテロ攻撃を仕掛けたのか理解すべきだ。もし、そうしたテロ攻撃が欧州各国や米国で、例えばロンドン、ニューヨーク、ワシントンで起きたら、メディアは何と言うだろうか」。
▽隣人に牙をむく隣人
・一連の出来事は昨年8月25日、ロヒンギャの反政府集団がラカイン州北部にある警察署と軍の基地に対して行った襲撃から始まった。身の危険を感じたインディン村の数百人の仏教徒村民たちは修道院に逃げ込んだ。8月27日、ミャンマーの第33軽歩兵部隊およそ80人が同村に到着した。
・村の5人の仏教徒によると、部隊を統率する兵士の1人は到着後、彼らに対し、治安作戦に参加することもできると持ちかけた。実際に仏教徒の「治安グループ」から名乗りを上げる者が出たと言う。 その後の数日間で、兵士、警官、仏教徒村民たちは同村のロヒンギャたちが住む家のほとんどに放火した、と10人以上の仏教徒住民がロイターに証言した。
・警官の1人は、ロヒンギャが住む地区へ「出かけて浄化する」よう司令官から口頭で命令を受け、放火しろと言う意味で受け止めたと話した。インディンの北にあるいくつかの村に何度か襲撃を仕掛けたという別の警官もいた。その警官とインディンの仏教徒行政官であるMaung Thein Chayによると、こうした治安部隊は村人たちに紛れ込めるよう民間人のシャツを着ていたという。
・ロヒンギャたちがインディン村から逃れた後に起きた略奪について、仏教徒たちがニワトリやヤギなど奪う一方、オートバイや畜牛といった価値の高い物品は第8治安警察隊の隊長が集め、売り払ったとの証言もあった。この隊長であるThant Zin Ooは、ロイターの電話取材に対し、コメントしなかったが、警察の広報を務めるMyo Thu Soe大佐は、略奪があったかどうか捜査すると話している。
・昨年9月1日までには、数百人のロヒンギャ住民がインディンから近くの海岸に避難していたと、複数の目撃者は話す。彼らの中に、殺害された男性10人がいた。彼らのうち5人は漁師または魚売りだった。その他の2人は店の経営者、2人は学生、1人はイスラム教指導者だった。 ロヒンギャたちの証言によると、このイスラム教指導者Abdul Malikは食べ物や竹を取りに村に戻っていた。避難場所に戻る時、少なくとも7人の兵士と武装した仏教徒の村人が後をつけてきた。その後、兵士はロヒンギャたちから男性10人を選んだという。
・その夜に撮影された1枚の写真には、村の小道にひざまづく10人の姿が写っている。仏教徒村民の話では、9月2日、彼らは墓地近くの低木地に連行され、そこで再び写真を撮られたという。  兵士らは彼らに、行方不明となっている仏教徒の農民、Maung Niの消息を問いただした。ロイターの取材に対し、複数の同州仏教徒とロヒンギャ住民は、10人のうちの誰かと行方不明の農民を結びつける証拠については何も知らないと答えた。
・仏教徒3人は、兵士がこの10人を処刑場所に連行するのを目撃したと話した。墓穴を掘った1人である元軍人のSoe Chayによると、現場を仕切る将校が、行方不明になっているMaung Niの息子たちを呼び、最初の一撃を加えるよう促した。そして、長男がイスラム教指導者のAbdul Malikを斬首にし、次男も他の男性の首を切り落としたという。
・殺害後の様子をとらえた写真をロイター記者に提供したラカイン州の長老は、その理由をこう語った。「この事件で起きたことをはっきりさせておきたい。この先、二度とこのようなことは繰り返して欲しくない。」
https://jp.reuters.com/article/rohinghya-idJPKBN1FW040

次に、昨年10月2日付けとやや古いが、全体像を捉えたものとして、上智大学教授(ビルマ近現代史)の根本 敬氏が現代ビジネスに寄稿した「5問でわかる「ロヒンギャ問題とは何か?」スーチー氏が直面する壁 なぜ差別を受けるのか。どう解決できるのか。」を紹介しよう’▽は小見出し)。
・50万人を超えるロヒンギャの人々が、ミャンマーから隣国バングラデシュへ難民となってあふれ出ている。雨期のなか、故郷のラカイン州西北部から国境のナフ河を越え、着の身着のままで脱出し、受け入れ態勢不十分な土地でなんとか生きようともがいている。
・1991年のノーベル平和賞受賞アウンサンスーチーが国家顧問を務める国で生じた大規模難民流出だけに、国連をはじめ国際社会の注目度は高い。日本でもそれなりに報道されているが、「ロヒンギャ問題はよくわからない」という方々はまだたくさんいるのではないだろうか。 ここではよくなされる5つの質問に答える形で、この問題についてわかりやすく説明してみたい。
▽問1 ロヒンギャとはどういう民族か?
・ロヒンギャの人々は独立国家を求めているわけではなく、自分たちの民族名称を認めてもらったうえで、ミャンマー連邦の国籍が与えられるよう求めている。 在外のロヒンギャの知識人によれば、自分たちはミャンマーのラカイン地方に8世紀から住む「由緒ある民族」だと主張している。
・しかし、ミャンマーでは政府も国民も彼らを「民族」として全く認めていない。外国からの不法移民集団だと決めつけている。 ロヒンギャに関する人権問題の立場からの調査は数多くあるが、歴史や人類学・社会学などの実証的研究はほとんど存在しない。そもそも史料が十分ではない。したがって、ロヒンギャの特徴について明確に説明できる事柄は、次の5つに限られる。
 1. 彼らはインドのベンガル地方(現在のバングラデシュ)に起源を有し、保守的なイスラームを信仰している。言語はロヒンギャ語(ベンガル語チッタゴン方言のひとつ)を母語として使用する。 人口は統計がないので不明だが、ミャンマーのラカイン州に推定100万人強が住んでいるとされる。世界中に散った同胞を含めれば200万人に達すると主張するロヒンギャ知識人もいる。
 2. ロヒンギャ知識人が唱える歴史では、彼らは8世紀からラカインの地に住み続けていることになっている。しかし、現存する文書史料では「ロヒンギャ」という呼称の使用は第二次世界大戦後の1950年までしか遡れず、その意味では戦後に登場した新しい民族だといえる。 ただ、ロヒンギャを名乗るようになった集団そのものの起源は15世紀まで遡ることができる。当時のラカイン地方に存在したアラカン王国(1430-1784)の中に、ベンガル出身のムスリムが一定数居住し、王宮内で役職に就く者もいた。 その後、19世紀に入ってラカイン地方がイギリスの植民地となると、ベンガル地方から連続的に移民が流入し、数世代にわたってラカイン西北部に住み着き土着化する。このときから多数派のラカイン人仏教徒とのあいだで軋轢が本格化する。 20世紀になると、第二次世界大戦中の日本軍のビルマ占領期に、日本側が武装化した仏教徒ラカイン人と、英側が武装化したムスリムとのあいだで戦闘が生じ、日英の代理戦争を超えた「宗教戦争」と化し、両者の対立は頂点に達する。
 3. 戦後も東パキスタン(現バングラデシュ)からの移民が食料を求めてラカイン西北部に流入し、独立したばかりのビルマ政府の統治が及ばないなか、その一部はムジャヒディンを名乗って武装闘争を展開した。その後も1971年のインド―パキスタン戦争(バングラデシュ独立戦争)の混乱期にラカインへ移民流入が見られた。
 4. 以上をまとめると、ロヒンギャを名乗る民族集団は、15世紀からのアラカン王国時代のムスリムを起源に、19世紀以降の英領期の移民、第二次世界大戦直後の混乱期の移民、そして1971年の印パ戦争期の移民の「四重の層」から構成されると推定される。 しかし、彼らが1950年ころに、なぜ「ロヒンギャ」を名乗るようになったのか、その経緯はいまだにわかっていない。
 5. 1948年に独立したビルマは、しばらくの間、ロヒンギャを差別的には扱わなかった。1950年代後半から60年代初頭までロヒンギャ語によるラジオ放送(短波)を公認していたほどである。 しかし、1962年に軍事クーデターが起き、政府軍(国軍)が主導するビルマ民族中心主義に基づく中央集権的な社会主義体制(ビルマ式社会主義)が成立すると、扱いが急速に差別的となり、1978年と1991-92年の計2回にわたり、20万人から25万人規模の難民流出をひきおこしている。 この間、1982年に改正国籍法(現行国籍法)が施行されると、それに基づき、ロヒンギャはミャンマー土着の民族ではないことが「合法化」され、ロヒンギャを主張する限り、外国人とみなされるようになった。 状況によっては臨時の国籍証明書が与えられ、自ら「ベンガル系」であることを認めた者には正規の国籍が与えられることもあった。
▽問2 ロヒンギャはなぜ・どんな差別を受けるのか?
・ロヒンギャが受けてきた差別は、おもに1960年代後半からの不法移民調査を理由にした政府軍や警察による執拗な嫌がらせに始まる。 ロヒンギャという名乗り自体を政府によって公式に否定され、地元のラカイン州では多数派の仏教徒ラカイン人による中傷や人的攻撃にさらされ、両者の間で大小の民族暴動が何度か発生した。
・ロヒンギャが多数派を構成するラカイン州西北部のマウンドーとブーディータウン両郡では、1990年代以降、その地域から外への移動が許可制となり、多数派ラカイン人と少数派のロヒンギャが共存する州都のシットウェーでは、2012年に発生した両者間の民族暴動を機に、中央政府がロヒンギャ住民を収容所のような一区画に押し込め、そこから出られなくした。
・また、2014年に31年ぶりに実施された人口調査では、ロヒンギャはベンガル人だと認めない限りカウント対象からはずされ、さらに臨時国籍証をはく奪して「審査対象中」というカードをかわりに与え、事実上の無国籍者とした。
・翌2015年には総選挙を前に、それまで認めていた選挙権と被選挙権もとりあげた。同年5月には人身売買業者が仲介したロヒンギャ難民のボート・ピープル事件も発生し、南タイ沖で木造船に乗ったロヒンギャ集団が漂流したり、陸上で人身売買業者によるロヒンギャの集団殺害が発覚したりして、国際社会を騒がせている。
・ミャンマー国民がロヒンギャを差別する理由には3つある。 ひとつは彼らが保守的なイスラームを信仰する集団だからである。国民の9割近くを占める上座仏教徒は、少数派のキリスト教徒やヒンドゥー教徒にはさほどの差別意識を持たないが、ムスリムには強い嫌悪感を有している。 人口統計では証明できないにもかかわらず、彼らはムスリムが高い出生率を維持して人口を増やし、「仏教徒の聖地」ミャンマーを乗っ取るのではないかという漠然とした恐怖心を抱いている。 また、ムスリムが仏教徒女性を騙して結婚し、イスラームに改宗させ、子供をたくさん産ませているという「理解」も広くいきわたっている。
・もうひとつはロヒンギャに対する人種差別意識の存在である。肌の色が一般的なミャンマー土着民族より黒く、顔の彫りが深く、ミャンマーの国家語であるビルマ語を上手にしゃべれない(ロヒンギャ語を母語にしている)ことへの嫌悪感が、彼らに対する差別を助長させている。
・3つ目は、これが最大の理由であるが、ロヒンギャがベンガル地方(バングラデシュ)から入ってきた「不法移民」であり、勝手に「ロヒンギャ」なる民族名称を「でっちあげ」、「ミャンマー連邦の土着民族を騙っている」ことへの強い反発を有しているからである。
・彼らにとって、ロヒンギャは「民族」ではなく、「ベンガルからの(不法)移民集団」でしかない。リベラル派(民主化支援派、人権派)のミャンマー人であっても、そうした理解に大きな違いはない。 ただリベラル派の場合、ロヒンギャがその名前を捨てて「ベンガル人」であることを「素直に」認めれば、温情で国籍を与えてもよいと考えている人が多い。
▽問3 スーチー国家顧問はどう対応しているのか?
・「大統領より上の立場に立つ」ことを公言して2016年4月に国家顧問に就任したアウンサンスーチーは、現在、国際社会から非難の矢面に立たされている。 1991年に非暴力に基づく民衆化運動の指導が評価されてノーベル平和賞を受賞した彼女であるが、苦節25年を経て国家顧問となって以降、ロヒンギャ問題に関しては発言を控え、今回の大規模難民流出についても9月19日に国内外に向けた英語演説を行うまで自らの姿勢を明示せず、その結果、嵐のような非難を浴びせられた。
・しかし、アウンサンスーチーがロヒンギャ問題に関し何もしてこなかったというのは言い過ぎである。 彼女は国家顧問に就任する前の下院議員時代から、積極的ではなかったにせよ、ロヒンギャ問題についてメディアから問われると、「ロヒンギャ」という名前の使用を避けつつも、問題の存在とその深刻さを認めていた。
・そして、2013年4月の来日時に、人権系NGOとの交流会で、ラカイン西北部に住むムスリムについては精査の上、三世代以上にわたって住んでいる人には国籍を与えるべきであり、関連して現行国籍法の差別的な内容ついても再検討する必要があると語っていた。
・国家顧問就任後は、2016年8月に彼女の主導で、コフィ・アナン元国連事務総長に委員長になってもらい、第三者によるラカイン問題調査委員会を発足させている。 ここでもロヒンギャという名称は一切使わせなかったが、実質的にロヒンギャ問題に関する調査と解決案の提示を主務とする調査に取り組ませた。同委員会は9人のメンバーで構成され、うち3人はコフィ・アナン氏を含む外国人で、かつメンバーのうち2人はムスリムだった。
・ロヒンギャが一人も加わらなかったことが悔やまれるが、国際社会に開かれた形でロヒンギャ問題の解決に向けた提案をおこなうための調査が一年間にわたって実施されたことは大きい前進だったといえる。委員らはラカイン州とバングラデシュの双方を調査し、本年8月24日に次の2つを骨子とする提言を公表した。
(1)ラカイン西北部に住むムスリム(=ロヒンギャ)の移動の自由を認めるべきである。  (2)彼らのなかで世代を超えてこの地に住む者には国籍を付与すべきである。関連してミャンマー国籍法(1982年施行)で国籍を「正規国民」「準国民」「帰化国民」に3分類しているが、一本化に向けた再検討が求められる。
・ここでもロヒンギャという名称の使用は避けているが(「その名称を使用しないよう国家顧問からの強い依頼があった」とコフィ・アナン委員長自らが断っている)、この答申はアウンサンスーチーがもともと考えていた解決への道と同じであり、彼女にとって追い風になるはずだった。
・しかし、答申が公表された翌日未明、「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)による政府軍襲撃が発生し、軍による住民に対する過剰な封じ込めと難民の流出がはじまって国際社会の注目を浴びると、委員会の答申のニュースは吹っ飛んでしまった。
・アウンサンスーチー国家顧問はそれでも、9月19日の演説で難民の早期帰還への積極的取り組むと、この答申の尊重を明言した。 したがって、彼女のロヒンギャ問題への対応は、短期的には難民の安全な帰還実現、中長期的にはコフィ・アナン委員長の提言に沿ってなされることが明らかになった。
・ただ、彼女の前には二つの大きな壁が立ちはだかっている。 ひとつは憲法上の壁であり、もうひとつは国内世論の壁である。憲法上の壁とは、彼女に軍と警察と国境問題に対する法律上の指揮権が与えられておらず、その3分野は軍がコントロールしているという事実である。 軍政期の2008年につくられた現行憲法では、軍の権限が様々に認められており、シヴィリアン・コントロールが徹底されていない。ロヒンギャ問題はこの3つの分野に直結するだけに、彼女は非常に動きにくい立場にある。
・もうひとつの国内世論の壁は、国民の強い「反ロヒンギャ」感情である。前述のようにリベラル派でさえ、「ベンガル人」と認めない限り国籍は付与してはならないと主張している。 ミャンマーでは国際社会からのアウンサンスーチー非難が強まれば強まるほど、彼女を守ろうとする意識が作用して国民のアウンサンスーチー支持がますます強まる傾向を見せている。 しかし、それは支持のねじれ現象といえ、アウンサンスーチー国家顧問がロヒンギャ問題を前向きに扱おうとするときにいっそうやっかいな障害となる。
・彼女はこのように、「反ロヒンギャ」に立つ軍部と世論によって手足を縛られた格好でこの問題の解決に立ち向かわざるを得ない状況に置かれているのである。
▽問4 「アラカン・ロヒンギャ救世軍」による政府軍襲撃の実態と、その背後関係はどのようなものか?
・襲撃事件の全体像が明らかになるには、あと数ヵ月はかかると思われる。昨年(2016年)10月にもミャンマーの国境警備隊に対する似たような襲撃事件が生じ、そのときと今回の武装集団は名前こそ異なるものの、同じグループだとみなされている。 しかし、襲撃方法は大きく異なる。昨年10月の襲撃は事前に銃を揃え、用意周到に襲撃対象の隙を衝いた攻撃をおこなっているが、今回の襲撃は槍とナイフを武器に、アジア・太平洋戦争末期の日本軍の「万歳突撃」のような正面突破攻撃をおこなったため、襲撃した側に400人以上の大量の死者が出ている(政府軍側は10数名の死者)。この違いが何を意味するのかはまだはっきりしない。
・背後関係についても、昨年10月の襲撃事件については、パキスタン育ちのロヒンギャがバングラデシュで武器調達をおこない、ラカインに入り込んで百人規模のロヒンギャ青年を訓練したことまではほぼ判明しているが、それがISまでつながるような背後関係を持っているのかはわかっていない。今回の襲撃事件については、より不明な点が多い。
・明言できることは、彼らは一般のロヒンギャ住民とは無縁の集団だということである。 第二次大戦時のヨーロッパにおける対ナチ・レジスタンス活動のような武装闘争であれば、住民らの支持と協力なくしては活動が維持できないが、ロヒンギャ武装集団の行動にはそうした地元の協力が伴っていない。大半のロヒンギャ住民にとって、この武装集団は支持対象ではなく、支持や協力が伴っていない。
▽問5 ロヒンギャ問題解決へ向けて何をすべきか?
・第一に取り組むべきことは、50万人を超えるロヒンギャ難民の保護と、帰還に向けた準備への着手である。 難民保護に関しては食料と医薬品、衣料品、その他生活必需品全般の早期供与と、何よりも環境の整った難民キャンプ設置への国際的協力が求められる。日本政府も財政支援については早々に実施を表明しているが、人的支援もおこなって貢献すべきである。
・難民の帰還準備への着手に関しては、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を軸に、ミャンマー政府とバングラデシュ政府の間で話し合いを進め、帰還後のロヒンギャ住民の安全の保証をミャンマー政府に約束させ、かつUNHCRないしは第三者機関による厳格なモニタリングがなされるようにすべきである。また、ミャンマー政府に帰還難民へのメディアの自由取材も認めさせる必要がある。
・第二に取り組むべきは、中長期的課題として、前述のコフィ・アナン元国連事務総長が委員長となった諮問委員会が出した提言をミャンマー政府に尊重させ、その中身に具体的に取り組ませることである。
・ここで問題になるのは、ロヒンギャに対する国籍付与と、その際の民族名称である。ロヒンギャの人々はあくまでも「ロヒンギャ」という名称にこだわる。それは彼ら自身の名乗りであり、それを認めることは普遍的人権の面から見ても大切なことである。 しかし、諮問委員会はそこまで明言しておらず、このままだと「ベンガル系ミャンマー人」のような新しい民族的括りを政府側が用意し、それを受け入れるのであれば国籍を付与すると言い出す可能性が高い。
・また、三世代にわたってラカインに住み続けていることを条件にした場合、そのことの「精査」が、逆に短期の流入者を合法的に追い出す措置を正当化することにつながり、ロヒンギャ側が容易に納得するとは思われない。 さらに軍は、治安対策と称して「精査」にあたってテロリストのあぶりだしを最重視することが確実であるため、これによって国籍付与対象が極端に絞りこまれることも予想される。
・反ロヒンギャ感情を強く持つ国内世論の壁を考えた場合、このへんの調整はアウンサンスーチー国家顧問が最も苦労するところとなろう。 しかし、現状では彼女を除いてこの任にあたれる人物はミャンマーに存在しない。彼女のこの努力を国際社会がバックアップすることこそ重要だといえる。
・第三に取り組むべき課題は、第二の課題と深く連関するが、ミャンマー国内で政府と国内外のNGOが協力して、諸宗教間の相互理解と和解活動を広め、特に排他的なナショナリズム感情と反イスラーム感情が融合してしまっている現状を、少しでも和らげる努力をおこなうことである。 アウンサンスーチー国家顧問はこのことの必要性については理解しているはずである。ここでも内政干渉にならないような形で国際社会の関与が求められよう。
▽スーチー氏が「重し」となっている
・私たちはロヒンギャの人々が置かれている状況の着実な改善を常に優先して考えるべきである。 そのためには、難民流出の直接の原因をつくった軍と警察による弾圧の責任追究が「正義の実現」として求められるにしても、それだけを声高に叫び続けることは、けっして政治的に得策とはいえない。
・軍はいっそう頑なになって国際社会への反発を強め、国内世論もそれを支持し、アウンサンスーチー国家顧問がこの問題でますます動きにくくなってしまうからである。 外側から見ていかに消極的に映ろうと、現状のミャンマーにおいてはアウンサンスーチー国家顧問だけがロヒンギャ問題の解決に取り組む前向きの姿勢を見せており、皮肉なことではあるが、彼女が反ロヒンギャに懲りたまった軍と国内世論が今以上に爆発することを抑える「重し」となっているのである。
・私たちはそのことを認識したうえで、ロヒンギャの人々の状況改善や、これ以上の状況悪化を防ぐための対応をミャンマー政府に取らせていく必要がある。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53042

第一の記事で、 『昨年8月以降、自分たちの村を脱出、国境を越えてバングラデシュに避難したミャンマーのロヒンギャ住民は69万人近くに達する』、『国連はこれまでもミャンマー軍が虐殺を行っていると非難し、米国政府は同国での民族浄化を制止する行動を呼びかけている。一方、ミャンマー側はこうした「浄化作戦」はロヒンギャ反政府勢力による攻撃に対する合法的な対抗策だと繰り返している』、『隣人に牙をむく隣人』、という悲惨さには、心が痛む。
第二の記事で、 『第二次世界大戦中の日本軍のビルマ占領期に、日本側が武装化した仏教徒ラカイン人と、英側が武装化したムスリムとのあいだで戦闘が生じ、日英の代理戦争を超えた「宗教戦争」と化し、両者の対立は頂点に達する』、というのは初耳で、日本にも責任の一端がありそうだ。 『1948年に独立したビルマは、しばらくの間、ロヒンギャを差別的には扱わなかった。1950年代後半から60年代初頭までロヒンギャ語によるラジオ放送(短波)を公認していたほどである。 しかし、1962年に軍事クーデターが起き、政府軍(国軍)が主導するビルマ民族中心主義に基づく中央集権的な社会主義体制(ビルマ式社会主義)が成立すると、扱いが急速に差別的となり、1978年と1991-92年の計2回にわたり、20万人から25万人規模の難民流出をひきおこしている』、クーデターの中心人物は、アウンサンススーチー国家顧問の父親だが、さすがに彼女は心中では差別の見直しに前向きなようだ。これまで、スーチー氏は何をやっているのかと思っていたが、難しい立場が理解できた。『第三者によるラカイン問題調査委員会・・・答申が公表された翌日未明、「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)による政府軍襲撃が発生し、軍による住民に対する過剰な封じ込めと難民の流出がはじまって国際社会の注目を浴びると、委員会の答申のニュースは吹っ飛んでしまった』、真相はまだ不明のようだが、ARSAによる襲撃の背後には軍による働きかけがあった疑いがあるのではなかろうか。 『ロヒンギャ問題解決へ向けて何をすべきか?』、というのは説得力がある。
前述の通り、『日本にも責任の一端がありそうだ』、ということから、この問題を人ごとではなく、注視していきたい。
タグ:答申が公表された翌日未明、「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)による政府軍襲撃が発生し、軍による住民に対する過剰な封じ込めと難民の流出がはじまって国際社会の注目を浴びると、委員会の答申のニュースは吹っ飛んでしまった ロヒンギャ問題解決へ向けて何をすべきか? ミャンマー 「特別リポート:ロヒンギャの惨劇 彼らはどう焼かれ、強奪され、殺害されたか」 現代ビジネス ロイター 根本 敬 昨年8月以降、自分たちの村を脱出、国境を越えてバングラデシュに避難したミャンマーのロヒンギャ住民は69万人近くに達する 政府側は軍の作戦を擁護 (ロヒンギャ問題:彼らはどう焼かれ 強奪され 殺害されたか、5問でわかる「ロヒンギャ問題とは何か?」スーチー氏が直面する壁 なぜ差別を受けるのか。どう解決できるのか。) 彼女の主導で、コフィ・アナン元国連事務総長に委員長になってもらい、第三者によるラカイン問題調査委員会を発足 ロヒンギャに対する人種差別意識の存在 第二次世界大戦中の日本軍のビルマ占領期に、日本側が武装化した仏教徒ラカイン人と、英側が武装化したムスリムとのあいだで戦闘が生じ、日英の代理戦争を超えた「宗教戦争」と化し、両者の対立は頂点に達する 「5問でわかる「ロヒンギャ問題とは何か?」スーチー氏が直面する壁 なぜ差別を受けるのか。どう解決できるのか。」 1948年に独立したビルマは、しばらくの間、ロヒンギャを差別的には扱わなかった。1950年代後半から60年代初頭までロヒンギャ語によるラジオ放送(短波)を公認していたほどである しかし、1962年に軍事クーデターが起き、政府軍(国軍)が主導するビルマ民族中心主義に基づく中央集権的な社会主義体制(ビルマ式社会主義)が成立すると、扱いが急速に差別的となり、1978年と1991-92年の計2回にわたり、20万人から25万人規模の難民流出をひきおこしている ロヒンギャを名乗る民族集団は、15世紀からのアラカン王国時代のムスリムを起源に、19世紀以降の英領期の移民、第二次世界大戦直後の混乱期の移民、そして1971年の印パ戦争期の移民の「四重の層」から構成されると推定 彼らが保守的なイスラームを信仰する集団 ロヒンギャがベンガル地方(バングラデシュ)から入ってきた「不法移民」であり、勝手に「ロヒンギャ」なる民族名称を「でっちあげ」、「ミャンマー連邦の土着民族を騙っている」ことへの強い反発を有しているからである ロヒンギャを差別する理由
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日本の構造問題(その7)(日本人はなぜ「挑戦」しなくなったか~失敗を恐れる脳はこう作られる 日本人の脳にせまる③ 、厚切りジェイソンと東大卒脳外科医社長が語る「減点方式ニッポン」の歩き方、東芝、日大、財務省…トップが「腹を切らない」日本組織の病 無責任体質は信頼崩壊を生む) [社会]

日本の構造問題については、これまで「日本経済の構造問題」として、3月24日に取上げたが、今日は「経済」を外して、(その7)(日本人はなぜ「挑戦」しなくなったか~失敗を恐れる脳はこう作られる 日本人の脳にせまる③ 、厚切りジェイソンと東大卒脳外科医社長が語る「減点方式ニッポン」の歩き方、東芝、日大、財務省…トップが「腹を切らない」日本組織の病 無責任体質は信頼崩壊を生む)である。

先ずは、脳科学者の中野 信子氏が5月25日付け現代ビジネスに寄稿した「日本人はなぜ「挑戦」しなくなったか~失敗を恐れる脳はこう作られる 日本人の脳にせまる③ 」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「褒めて育てる」は正しいのか
・日本人について、慎重で思慮深く、真面目で、無謀な挑戦をしない、という類型が語られることがあります。私もそのように語ってきたという自覚があります。 ただ、こうした性質は生まれつきのものであると同時に、ある程度は後天的に影響を与える要素があることが知られてもいます。
・たとえば、子育てについて書かれた本などには、「褒めて育てる」「子どもに自信をつけさせるにはとにかく褒める」「それがその子どもの成功を約束する」というような内容が必ずと言っていいほど載っているでしょう。 もしかしたら、すこし年齢が上の世代になると「厳しく躾けることが重要」という考え方をもとに教育された方もいらっしゃるかもしれませんが、最近の教育の基本方針は、そうした厳しい教育とはまったく逆の方向を行っているようです。
・近年刊行されたものを見渡せば、数点、逆張りのような論調のものが見られるほかは、ほとんどが褒めることをベースにした主張の書籍でしょう。 特にここ数年はテレビでもインターネットでも、子どもにネガティブなことを言ってはいけない、何も言わないことで無意識的にネガティブなメッセージを送るのもいけない、叱ったり無視したりせずにポジティブなメッセージを送ろう、子どもを叱ることよりも褒めることのほうがずっと大事だ……、という主旨のコメントがあたかもポリティカリーコレクトであるような扱いをされます。
▽褒め続けた結果…
・年々「子どもには罰よりも報酬を与えることが基本かつ重要」という考え方が正しいとみなされる空気が醸成されてきていると感じる人がほとんどだろうと思います。 例えば、子どもがテストで良い点を取って帰ってきたら「本当に頭がいいね」と褒める、絵画で賞を取ったら「芸術の才能があるね」と褒める、スポーツで結果を出したら「運動能力が抜群ね」と褒める……。
・このやり方は、一見正しいように見えます。 たしかに、いつも「いい子だね」と伝えて育てることで、自信に満ちあふれた幸せな子どもに育ちそうな気がするでしょう。実際、そういう教育を実践している人も多いでしょうし、意識的にそうしようと考えてはいなくとも、なんとなくそういう方向が正しいと感じて無意識的にそうしてしまっている、という人は少なくないだろうと思います。
・でも、このやり方に「一度も違和感を持ったことがない」という方は、意外と少数派なのではないでしょうか? たまにはお小言を言ったほうがいいんじゃないの……? 本当にいつも手放しで褒めてばかりでいいの……? あとになって「本当は褒めるだけの教育はダメでした」っていうことがわかったらどうしたらいいの……?
・実はすでに1990年代の終わりに、次のような実験が行われています。コロンビア大学のミューラーとデュエックによる研究です。 人種や社会経済的地位(Socio-EconomicStatus:SES)の異なる、10歳から12歳までの子どもたち約400人に、知能テストを受けてもらいます。テストの内容は、並べられたいくつかの図形を見て、その続きにはどんな図形がくるのかを答えるというもの。
・おそらくみなさんの多くが子どものころに学校で受けたことがあるテストと近いものです。 完全に同じものではありませんが、このような感じのテストです。(「?」に当てはまる図形を1から6までの中から選びなさい)(図形はリンク先参照)
・すぐわかってしまったと思いますが、答えは2です。 テストのあと、実験者たちは解答を集め、採点を行います。が、子どもたちには実際の成績は秘匿しておきます。その代わり個別に「あなたの成績は100点満点中80点だ」と全員に伝えるのです。
・ちなみに、いつも優秀な成績を取っている子どもの中には「80点で優秀」とはなかなか感じにくい子どももいると思います。そういった例外的な子どもについての記事もいずれ書きたいとは思いますが、まずは平均的な子どもについての分析をご紹介していきます。
・テストを受けた子どもたちは、3つのグループに分けられます。そして、成績以外に子どもたちに伝えるコメントを、次のように変えていきます。
 グループ1:「本当に頭がいいんだね」と褒める
 グループ2:「努力の甲斐があったね」と褒める
 グループ3:何のコメントもしない
・子どもを褒めることが本当に子どもの自信を育て、自己肯定感を高めるのなら、子どもは褒められれば褒められるほど、より難しい課題に挑戦したり、より困難な状況を好んで選んだりしそうなものです。 実験では、子どもたちに知能テストの成績とコメントを伝えたあと、さらに課題を与えます。この場面では、ふたつの課題のうちからひとつを選んでもらいます。
・ひとつは難しく、平均的な子どもたちには問題が解けないかもしれないという水準の難易度です。しかし、やりがいがあり、正解に至らなかったとしても何かしらを学び取ることができるような課題です。 もうひとつはずっとやさしいもので、さくさくと解けてしまいます。ただ、そこから学べるものはあまりない、という課題です。 3つのグループに分けられた子どもたちは、ふたつの課題のうち、一体どちらを選んだでしょうか?
▽褒め過ぎはよくないのかも
・難しい課題を選ばなかった子どもたちの割合を表にして比べてみます。(表はリンク先参照) いかがでしょうか。
・「頭がいいんだね」と褒められたグループ1の子どもたちは、何も言われなかったグループ3の子どもたちよりも、難しい課題を回避した子の割合が高くなりました。褒めることが自尊心を高めると信じてきた人々にとっては、衝撃的な結果であると思います。
・「頭がいいね」と褒めたことによって過半数の65%がやさしいほうの課題を選び、難しい課題を避けたのです。「頭がいいね」と褒めることが、子どもたちから難しい課題をやろうとする気力を奪い、より良い成績を大人たちに確実に見せられる、やさしい課題を選択させるという圧力として働いていたと考えることができます。
・このあと、子どもたちにはもうひとつ課題が与えられました。今回の課題は非常に難しく、大半の子どもができないように作られています。子どもたちにこの非常に難しい課題の感想を聞き、家に持ち帰ってやる気があるかどうかを実験者たちは尋ねました。
・ここでも、グループ間には大きな違いが現れました。「頭がいいね」と褒められたグループでは、他のグループよりも課題が楽しくないと答える子が多く、家で続きをやろうとする子の割合も少なかったのです。
・しかも、さらに衝撃的なことに、この難しい課題での自分の成績をみんなの前で発表させたところ、「頭がいい」と褒められたグループ1の子どもの約40%が、本当の自分の成績より良い点数をみんなの前で報告したのです。つまり、グループ1の4割の子が自分をよく見せようとしてウソをついたということです。 ちなみに、何も言われなかったグループ3では、ウソをついた子の割合は約10%でした。
・さてこの一連の実験の最後として、1回目と同程度の課題が子どもたちに与えられました。1回目の知能テストでは、どのグループも実際の成績にはほとんど差がなかったのですが、最後に行われたこのテストでは、成績に大きな差がついてしまいました。
・「頭がいいね」と褒められたグループ1の子どもたちのほうが、何も言われなかったグループ3の子どもたちより、はるかに成績が悪かったのです。 これは一体どういうことなのでしょうか。
・実験者のミューラーとデュエックは、グループ1の操作を行った子どもたちについて以下のような見解を示しています。
 +「頭がいい」と褒められた子どもは、自分は頑張らなくてもよくできるはずだと思うようになり、必要な努力をしようとしなくなる
 +「本当の自分は『頭がいい』わけではないが、周囲には『頭がいい』と思わせなければならない」と思い込む
 +「頭がいい」という評価から得られるメリットを維持するため、ウソをつくことに抵抗がなくなる
・この研究のことを思うとき、ふと「頭がいい」という褒め言葉に直接的にも間接的にもさらされ続ける環境で教育を受けてきた「優秀」な子どもたちは、日本でいま、どのようなポジションについているのだろうかと考え込んでしまいます。 捏造、改竄、“記録の紛失”、“記憶違い”が頻発するように見える昨今ですが、これらはしばしば安直に指摘されるような、劣化、などという現象ではないのかもしれません。
・例えばもしかしたら、捏造をしたとして多くの人の口の端に上った科学者も、ただ周囲から、「すごいね」「頭がいいね」と褒められ続け、そんなふうに育ってしまっただけなのかもしれないのです。
▽やっぱり注意が必要
・実験者はグループ1の子どもたちについて、さらに次のような見方を示しています。
 +「頭がいい」と褒められた子どもは、実際に悪い成績を取ると、無力感にとらわれやすくなる  +難しい問題に取り組む際、歯が立たないと「頭がいい」という外部からの評価と矛盾する。このとき、やる気をなくしやすい
 +「頭がいい」という評価を失いたくないために、確実に成功できるタスクばかりを選択し、失敗を恐れる気持ちが強くなる
・たしかに褒める教育で育てられたはずの若い世代は、もっと自信をもって積極的に困難に挑戦する人が出てきてもよさそうなものなのに、かえって慎重になり、上のどの世代よりも保守的になっているように見えることすらあります。 海外に出ることを好まず、リスクが高いので恋人もつくらない、経済的な不確実性を抱えることになるので結婚にも消極的である、といった傾向が強まっていることを指摘する声もしばしば耳にします。
・一方で、「努力の成果だね」と褒められたグループ2の子どもたちでは、ふたつの課題を選択させる場面でやさしい課題を選択した子の割合が10%でした。またそれに続く課題でも難しい問題を面白がり、家に持ち帰ってやりたがり、最後の課題では、どのグループの子たちよりも多くの問題を解いたのです。
・褒め方には注意が必要で、その子の元々の性質ではなく、その努力や時間の使い方、工夫に着目して評価することが、挑戦することを厭わない心を育て、望ましい結果を引き出す、と研究チームは結論づけています。
・ただし、元々の能力があまりに高くて、平均的な子にとっては難しい問題でも、努力をする必要もなく解けてしまう子もわずかながら存在します。「いつも優秀な成績を取っているために、この実験で言えば80点で『頭がいいね』と褒められても、『80点で優秀』とはなかなか感じにくい」という子どもたちのことです。
・こういった例外的な子を、どう伸ばし、どう育てたらよいのか。安易に褒めて、ウソをつき続けるような人生を送らせてしまうのではなく、どうしたら高い能力を生かすことができるのか。引き続き論じていきたいと思います。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55756

次に、6月7日付けダイヤモンド・オンライン「厚切りジェイソンと東大卒脳外科医社長が語る「減点方式ニッポン」の歩き方」を紹介しよう(▽は小見出し、──は聞き手の質問、両氏の略歴は記事の終わりに)。
・日本の医療とメディア業界。二つの業界は“ガラパゴス化”が進み、その成長や躍進は停滞しているとも言われる。だが、その業界に属しながら、イノベーティブな取り組みをしているのが、お笑い芸人であり企業の役員も務める厚切りジェイソンさん。そして、東京大学医学部出身で、医療ベンチャーの取締役医師を務める豊田剛一郎さんだ。新たな領域にチャレンジしてきた2人に、日本の医療界に対して疑問に思うことから、常識に囚われないキャリアの歩み方について伺った。
▽「一つがダメなら全部ダメ」で革新が起きない医療業界
──昨今、医療界の労働環境・皆保険制度などの改善を求める声が高まっていますが、日本の医療界に対して疑問に思うことはありますか。
・豊田 日本の医療業界は、目の前の大きな課題や、長期的な問題について先送りされているように感じます。医療の現場に立つ人間はみんな、10年、20年後の医療の世界に危機感を抱いている。でも「じゃあどうしたらいいか」と解決策を練って行動するには至っていません。
・ジェイソン なんで変わらないかというと、おそらく、権力を握っている人たちは定年退職まで長くないから、リスクを冒したくないんだと思う。次の世代に引き継いでも、たいてい彼らも数年したら引退だから冒険しない。永遠にその繰り返しだと思います。
・豊田 冒頭から辛口ですね(笑)。医療業界にイノベーションを起こせないかと、メドレーではスマホを利用した遠隔診療システムを構築して、病院に行かなくても治療できる仕組みを広げています。応援してくれる先生はたくさんいますが、「患者に会わないで治療を施すなんて何事だ」という意見もあります。 よく誤解されてしまうのですが、私は対面診療が不要だと言っているわけではないですし、もちろん思ってもいません。患者さんの状況に応じてオンラインでの診療を組み合わせた方が、治療継続のためにいい場合もあると提案しているんです。
・ジェイソン 海外ではリフィル処方箋(一定の期間内であれば複数回使用できる処方箋)も導入されています。
・豊田 そうですね。そういったさまざまな選択肢から、適切かつ患者に寄り添ったものを選べるような土台を作ろうとしていますが、これまで当たり前だったことが変わることにとても慎重な業界ゆえに、いろいろな議論があるのだと思います。
・ジェイソン 否定的な人はやらなきゃいいだけの話なのに。「私は反対だから、あなたにもやらせません」という理屈がわからない。
・豊田 難しいですね。ひとつがダメなら全部やっちゃダメだという方向になってしまうこともありますから。
・ジェイソン その動きからもわかるように、日本の医療は保守的だなと感じます。米国と違って、最新機器や最新医療も使いたがらない。現場での利用までに、安全性の確認に長い時間がかけられる。
・豊田 現状の制度の問題もありますが、そもそも医療はトライアンドエラーができない領域という点も関係していますね。
・ジェイソン リスクは大きいけど、成功すれば急速に進化させられる。けれども、現代は失敗が許されない状況になっていますね。
・豊田 世の中全体として、そういう流れはありますよね。中でも医療は、新しい治療を施して患者に何かあったら、「どうして今までやってきたことと同じことをやらなかったのか」という批判が大きい業界。他の業界に比べて、変化にためらいが生まれやすい状況です。
・ジェイソン そう考えると、医療が一番イノベーションの起こりにくい業界かもしれないね。人体での医療実験ができないと、この状況を打開することはできないかもしれないけど、倫理的な問題があるからね。
・豊田 確かに、医療は戦争で急速に進化してきたとも言われます。もちろん、それを是とするわけではないですが、どう変化を加速させていくかは難しい問題です。ただ、増え続ける医療費の問題などを考えると、医療界は変革を求められていることは間違いありません。
▽「失敗しないことが正解」という風潮がおかしい
──特殊なキャリアを歩まれる中で、周囲からネガティブな意見をもらうことはありましたか。
・豊田 医者を辞めたとき、近しい人からは応援されましたが、一方で批判の声もありましたね。医者を1人育てるのに1億円かかるとも言われます。私は国立大学の出身なので「税金を使って医者になったのに、患者のために現場で働かないとはどういうことか」と言われたことがあって。
・ジェイソン そう言う人は、頭があまりよろしくない(笑)。だって豊田さんは今も、日本の医療をよくするための活動をしている。医師の経験や知識はまったく無駄になっていない。それを理解していない人がどう思うかは、どうでもいいと思いますね。
・豊田 医師免許をとったら、必ず病院で働かなくてはいけない理由はないと思っていて。病院の外で医者が活躍することがあってもいいと思います。
・ジェイソン 僕もそう思います。現場を経験してから他の分野に行って、そこで身につけた知識やスキルを現場に還元することは有益なこと。
── 一方で、キャリアチェンジに抵抗感を持つ人は多いかもしれません。
・豊田 仕事の愚痴を言っている人を見ると、嫌なら転職すればいいのにと思います。現職よりもマッチする仕事があるかもしれないのに、もったいないなと。
──転職して失敗するのが怖いと言う声も聞きます。
・豊田 そもそも何をもって失敗とするか、もっと柔軟に考えてもいいのではないでしょうか。「うまくいかなかった=失敗」ではありません。一生懸命やってうまくいかなくても、その原因がわかれば次はうまくいく確率が高くなります。ただ大企業にいると、失敗しないのが正解だというマインドが根づきやすいのかもしれませんね。
・ジェイソン この前、日本人の友だちに「日本の大手企業での確実な出世の仕方、教えてやろうか」と言われました。「若い時に会社に入って、1回だけ挑戦的なプロジェクトに手を挙げて、それを成功させる。その後は何もしないでOK。年数が経つと周りはどんどん落ちこぼれるけど、自分は昔成功した奴という印象が残っている。消去法で優秀なやつだと思われて出世できるんだよ」と(笑)。
・豊田 それはすごい(笑)。日本は減点方式で出世を決めることが多いのかもしれません。
・ジェイソン 米国では、最近どんな結果を残したのかをすぐ説明できなければ、出世できないどころかクビです。「20年前にあのプロジェクトを成功させましたよ!」と言ってもまったく通じない。それでも出世できてしまう日本社会には疑問を感じます。
▽人生は言ったもん勝ち 所属ではなく個で勝負する時代
・ジェイソン これは日本の社会に限らずですが、僕は、人は大勢集まるとバカになると思っていて。集団になると、意識がネガティブな方向や、ズレた方向にいくことが多いんです。例えばYouTubeのコメントを見ると、感情的に批判しているコメントに他の人も便乗して、投稿者への批判がエスカレートすることがよくある。
・豊田 以前、何の記事か忘れましたけど、とある記事が複数のメディアに掲載されているのをたまたま見つけたときに、Aのメディアでは好意的なコメントが多いのに、Bのメディアではネガティブなコメントばかりがつくことがありました。内容自体はまったく同じ記事なのに。最初のコメントの内容に、後から見た人が左右されていくんです。マイナスな意見が口火を切ると、それが助長される。
・ジェイソン 周りと違う意見を言うより、「僕もそう思う」と言ってしまう。
──日本人はついつい同意しがちですね。
・ジェイソン そうでしょ。僕は空気を読んだり、“忖度”したりしないので、自分の思っていることをどんどん言っていきます。すると半分以上は、僕の望む方向に物事が進んでいきます。
・豊田 逆に言ってしまえば、言ったもん勝ちというか。
・ジェイソン まさにそうです。人生は言ったもん勝ちですよ。僕はそうして歩んできました。
・豊田 大切な考え方ですね。企業が力を持った時代から、個が力を持つ時代に移りつつあります。「医者の豊田」と職業名で自分を語るのではなく、「豊田は医者でもあり、経営者でもある」というように主体を自分に持って行くことが重要な時代です。インターネットやSNSは普及し続けているので、個人の名前を打ちだせる人が活躍する社会に、一層なっていくのではと感じています。
・ジェイソン 日本に来ていろんな人に「何をしているんですか?」と聞くと、「会社員です」と多くの人は答える。結局、何をしているのか分からない。「電通の○○さん」「三菱商事の○○さん」なら代わりはいくらでもいますからね。
・豊田 20~30年後に「ああしておけばよかった」と後悔することは絶対したくありません。そのためにも、自分の名前で意見を発信し続けて、機会や選択肢を得られる努力をし続けたいと思っています。
▽厚切りジェイソン(あつぎりじぇいそん)芸人、米TerraSky Inc.役員/1986年生まれ、米国出身。ワタナベエンターテインメント所属。2015年2月、デビュー4ヵ月にして「R-1ぐらんぷり2015」で決勝進出を果たし注目度が急上昇。芸人とともにテラスカイの米国法人であるTerraSky Inc.の役員としてパラレルに活躍。 2018年4月11日には自身初となる翻訳本「猫CEO(飛鳥新社)」を発売。
▽豊田剛一郎(とよだ・ごういちろう)メドレー代表取締役医師/1984年、東京都出身。東京大学医学部卒業後、脳神経外科医として総合病院に勤務した後、米国へ留学し、日米での脳神経外科医としてのキャリアを歩む。その後、医療を救う医師になろうと、2013年にマッキンゼーアンドカンパニーに転職し、2015年2月よりメドレーの共同代表に就任。オンライン医療事典「MEDLEY」やオンライン通院アプリ「CLINICS」など、患者向けサービスの立ち上げを行う。著書に「ぼくらの未来をつくる仕事」(かんき出版)」。
https://diamond.jp/articles/-/171651

第三に、経済ジャーナリストの磯山 友幸氏が6月7日付け現代ビジネスに寄稿した「東芝、日大、財務省…トップが「腹を切らない」日本組織の病 無責任体質は信頼崩壊を生む」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽国民が納得していない財務省処分
・森友学園問題を巡る財務省の公文書改ざん問題について、当事者である財務省が6月4日、調査結果と省内の処分を公表した。国会審議の紛糾を回避するために公文書を「改ざん」し、交渉記録を破棄したと認めた。 20人を処分したが、“主犯格”の佐川宣寿・元理財局長は「停職3カ月相当」としただけで、国民の目には「軽い処分」に映る。財務省のトップである麻生太郎財務相は、閣僚給与1年分の自主返納を決めたが、引責辞任は否定した。
・あたかも軽微な間違いを犯しただけであるかのような財務省の対応だ。 現役やOBの官僚たちが異口同音に「考えられない」と語る公文書の「改ざん」という前代未聞の重大不正に、自ら身を正す姿勢を示すことができず、当初言われた「解体的出直し」とは程遠いものになった。 公文書の改ざんは、官僚として行ってはならない原理原則だ。それを指示した佐川元局長はまさしく「万死に値する」はずだ。
・その噓に基づいた答弁を繰り返して国会を騙し続けてきたことは、民主主義を破壊する行為である。それが停職3カ月相当。約500万円が退職金から差し引かれるというが、もともと退職金は5000万円を超えるというから、痛くはない。
・麻生財務相は、その佐川氏の所業の監督責任を負うのは当然として、「適材適所だ」として国税庁長官に昇進させた「不明」を恥じなければならない。当然、組織のトップとして全責任を負う立場である。 自主返納する1年分の報酬と言っても「財務大臣」としての手当て分だけで国会議員の歳費を返納するわけではない。金額はわずか170万円。数億円の資産を持つ麻生氏からすれば屁でもないだろう。 大手新聞は、編集局長や社会部長が筆を執り、厳しく批判しているが、麻生財務相を辞任に追い込むところまで徹底追求できるかとなると心もとない。
▽東芝も、日大も同類
・トップが口では申し訳ないと言いながら、自らの責任については頰かぶりする事例が相次いでいる。 巨額の粉飾事件に揺れた東芝が典型だ。歴代3社長は引責辞任したものの、検察の調べではとことん自身の関与を否定し、結果、粉飾についての刑事責任は免れた。
・「組織ぐるみではない」という判断で東芝という組織も上場廃止を免れ、「組織的な犯罪」だったのか、「個人の犯罪」だったのかグレーなまま、組織も個人も責任を取らないという結果になった。
・財務省も20人もの処分者を出しながら、麻生財務相は「組織ぐるみ」を否定した。その一方で、「個人の犯罪」だともしない。個人の犯罪なら、懲戒解雇で退職金など払われないのが民間の常識だ。
・東芝は粉飾決算を「不適切会計」と言い続けてきたが、最後の最後になって「会計不正」という言葉を使った。財務省も「書き換え」と言い続けてきたものを今回の報告で初めて「改ざん」と書いた。 どちらも、犯した罪を世の中に「軽く」感じさせようという意図が働いていたとみていいだろう。
・日本では伝統的に、高位高官の者が地位に恋々とすることを「恥」だと考えられてきた。出処進退に潔いことが高位にふさわしい人格者だというわけだ。 また、サムライ文化では、不名誉を被ることを「恥」とし、自らの行いが「末代までの恥」にならない事を心がけた。吏道ならぬ武士道に背くような不正の疑いをかけられただけでも腹を切った。部下の行いの全責任を負って切腹する侍も少なからずいた。
・開き直って地位にとどまる麻生氏は末代までの恥を背負い込む事になるだろう。恥も外聞も厭わないとなれば、野党やメディアがいくら批判をしても無駄だろう。
・日本大学のアメリカンフットボール部の選手による危険タックル問題では、内田正人前監督が自ら指示した事を認めず、監督は辞めたものの常務理事に留まる姿勢を見せたため、世間の激しい批判を浴びた。外部の関東学生連盟に監督の指示を認定され、しかも永久追放という処分を下されて、初めて大学は常務理事の辞任を受け入れた。
・問題が運動部の問題にとどまらず、大学の経営体制やカルチャーの問題にまで広がったにもかかわらず、田中英壽理事長は記者会見などを行っていない。トップとしての意識の欠如、責任感の欠如が、どうやら企業から大学、中央官庁、政治家にまで広がっているのだ。
・トップが潔く腹を切るのは、組織を守るために他ならない。逆に言えば、潔くないトップが地位に恋々として留まったり、責任を認めずに言い訳に終始していればどうなるか。東芝の例を見れば明らかだ。
・東芝は結局、最後まで決算書の「辻褄合わせ」に奔走し、虎の子だったはずの医療機器部門や半導体部門を切り離していった。 家電部門も中国の大手電機メーカー、美的集団に東芝ブランドごと買収された。最近では、パソコン部門が、台湾の鴻海精密工業の傘下に入ったシャープに買収されることになった。つまり、東芝はバラバラに解体される運命に直面したのだ。
▽誰も官や政を信用しなくなる
・財務省はどうか。国民が今回の調査に納得していないのは明らかだ。これに対して、財務省関係者は「早晩、国民は忘れる」と期待しているに違いない。 仮に忘れたとしても、財務省への不信感は根強く残るだろう。財政再建に向けて増税など国民に負担を求めなければならない局面で、「財務省は嘘をつく」「どうせまた嘘だろう」と国民が思えば、政策実現が困難になる。間違いなく、財務省にとっては大きな負の遺産になる。
・では、財務相はどうか。麻生氏の続投で、麻生氏の首に鈴を付けられない安倍晋三首相への信任は大きく揺らぐだろう。また、麻生氏の残留を批判する声が上がらない自民党にも不信感が募るに違いない。安倍内閣だけでなく自民党という組織にも大きな痛手になるだろう。
・少しぐらい支持率が下がっても、受け皿になる野党がないから大丈夫。そんな風に自民党議員が思っているとすれば、手痛いしっぺ返しを食らうことになるだろう。 何よりも大きな問題は、国民が官僚や政治家を信用しなくなることだ。
・欧米では地位の高い者はそれに応じて果たさなければならない社会的責任と義務があるという意味の「ノーブレス・オブリージュ」という言葉がしばしば使われる。 官僚や政治家がそうした精神を忘れれば、国民は誰も官僚や政治家を尊敬せず、信頼も寄せなくなってしまう。そうなれば、優秀な人材は官僚や政治家を目指さなくなり、より社会的な地位が低下する。そんな不毛の時代にならないことを祈るばかりだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55992

第一の記事で、『「褒めて育てる」は正しいのか』、は正しくなく、『褒め方には注意が必要で、その子の元々の性質ではなく、その努力や時間の使い方、工夫に着目して評価することが、挑戦することを厭わない心を育て、望ましい結果を引き出す』、というのは、意外だが、説得力のある結論だ。『「頭がいい」という褒め言葉に直接的にも間接的にもさらされ続ける環境で教育を受けてきた「優秀」な子どもたちは、日本でいま、どのようなポジションについているのだろうかと考え込んでしまいます。 捏造、改竄、“記録の紛失”、“記憶違い”が頻発するように見える昨今ですが、これらはしばしば安直に指摘されるような、劣化、などという現象ではないのかもしれません』、というのはその通りなのかも知れない。
第二の記事で、『日本の医療業界は、目の前の大きな課題や、長期的な問題について先送りされているように感じます』、『現状の制度の問題もありますが、そもそも医療はトライアンドエラーができない領域という点も関係していますね』、『どう変化を加速させていくかは難しい問題です。ただ、増え続ける医療費の問題などを考えると、医療界は変革を求められていることは間違いありません』、などの豊田氏の指摘はさすがバランスがとれ、説得力がある。
第三の記事で、『組織ぐるみではない」という判断で東芝という組織も上場廃止を免れ、「組織的な犯罪」だったのか、「個人の犯罪」だったのかグレーなまま、組織も個人も責任を取らないという結果になった。 財務省も20人もの処分者を出しながら、麻生財務相は「組織ぐるみ」を否定した。その一方で、「個人の犯罪」だともしない』、ここまで「典型的な組織ぐるみの問題」を否定した東芝や財務省には、「組織ぐるみ」の定義を聞いてみらいものだ。取材する記者諸君にもそうした鋭いツッコミが求められる。 『欧米では地位の高い者はそれに応じて果たさなければならない社会的責任と義務があるという意味の「ノーブレス・オブリージュ」という言葉がしばしば使われる。 官僚や政治家がそうした精神を忘れれば、国民は誰も官僚や政治家を尊敬せず、信頼も寄せなくなってしまう。そうなれば、優秀な人材は官僚や政治家を目指さなくなり、より社会的な地位が低下する。そんな不毛の時代にならないことを祈るばかりだ』、という結論には全く同感である。
タグ:財務省も20人もの処分者を出しながら、麻生財務相は「組織ぐるみ」を否定した。その一方で、「個人の犯罪」だともしない 日本の構造問題 「頭がいい」という褒め言葉に直接的にも間接的にもさらされ続ける環境で教育を受けてきた「優秀」な子どもたちは、日本でいま、どのようなポジションについているのだろうかと考え込んでしまいます。 捏造、改竄、“記録の紛失”、“記憶違い”が頻発するように見える昨今ですが、これらはしばしば安直に指摘されるような、劣化、などという現象ではないのかもしれません 「東芝、日大、財務省…トップが「腹を切らない」日本組織の病 無責任体質は信頼崩壊を生む」 「日本人はなぜ「挑戦」しなくなったか~失敗を恐れる脳はこう作られる 日本人の脳にせまる③ 」 現代ビジネス 中野 信子 厚切りジェイソン 官僚や政治家がそうした精神を忘れれば、国民は誰も官僚や政治家を尊敬せず、信頼も寄せなくなってしまう。そうなれば、優秀な人材は官僚や政治家を目指さなくなり、より社会的な地位が低下する。そんな不毛の時代にならないことを祈るばかりだ 「組織ぐるみではない」という判断で東芝という組織も上場廃止を免れ、「組織的な犯罪」だったのか、「個人の犯罪」だったのかグレーなまま、組織も個人も責任を取らないという結果になった (その7)(日本人はなぜ「挑戦」しなくなったか~失敗を恐れる脳はこう作られる 日本人の脳にせまる③ 、厚切りジェイソンと東大卒脳外科医社長が語る「減点方式ニッポン」の歩き方、東芝、日大、財務省…トップが「腹を切らない」日本組織の病 無責任体質は信頼崩壊を生む) 欧米では地位の高い者はそれに応じて果たさなければならない社会的責任と義務があるという意味の「ノーブレス・オブリージュ」という言葉がしばしば使われる 「褒めて育てる」は正しいのか 現状の制度の問題もありますが、そもそも医療はトライアンドエラーができない領域という点も関係していますね 豊田剛一郎 褒め方には注意が必要で、その子の元々の性質ではなく、その努力や時間の使い方、工夫に着目して評価することが、挑戦することを厭わない心を育て、望ましい結果を引き出す、と研究チームは結論づけています 日本では伝統的に、高位高官の者が地位に恋々とすることを「恥」だと考えられてきた 東芝は粉飾決算を「不適切会計」と言い続けてきたが、最後の最後になって「会計不正」という言葉を使った。財務省も「書き換え」と言い続けてきたものを今回の報告で初めて「改ざん」と書いた 何よりも大きな問題は、国民が官僚や政治家を信用しなくなることだ コロンビア大学のミューラーとデュエックによる研究 ダイヤモンド・オンライン 潔くないトップが地位に恋々として留まったり、責任を認めずに言い訳に終始していればどうなるか。東芝の例を見れば明らかだ 磯山 友幸 「厚切りジェイソンと東大卒脳外科医社長が語る「減点方式ニッポン」の歩き方」 噓に基づいた答弁を繰り返して国会を騙し続けてきたことは、民主主義を破壊する行為
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日本のスポーツ界(その11)(日大アメフト問題2)(批判の矛先向く日大理事長の“正体” 角界が戦々恐々の理由、日大・田中理事長の「疑惑の真相」を下村元文科相に改めて質す 3年前のことは忘れたのか、日大アメフト部問題と「旧日本軍の組織と論理」の共通点が見えた 軍隊をまねた体育会系部活の不条理) [社会]

日本のスポーツ界については、5月31日に取上げた。今日は、(その11)(日大アメフト問題2)(批判の矛先向く日大理事長の“正体” 角界が戦々恐々の理由、日大・田中理事長の「疑惑の真相」を下村元文科相に改めて質す 3年前のことは忘れたのか、日大アメフト部問題と「旧日本軍の組織と論理」の共通点が見えた 軍隊をまねた体育会系部活の不条理)である。

先ずは、5月31日付け日刊ゲンダイ「批判の矛先向く日大理事長の“正体” 角界が戦々恐々の理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・予想された通りの「厳罰」だった。 29日、都内で臨時理事会を開いた関東学生アメリカンフットボール連盟は、悪質な反則プレーで問題となっている日大アメフト部の内田正人前監督(62)と井上奨前コーチ(30)を罰則規定で最も重く、永久追放に相当する「除名」とする処分を決定。同学連の規律委員会は、反則が内田、井上両氏の指示によるものと認定した。
・これを受け、同部の加藤直人部長は「ご裁定を重く受け止め、真摯に対応させていただきたく存じます」などとする声明を発表したものの、大学側はいまだ、「指導者の指示はなかった」とする見解を変えていない。それどころか、真相究明を委ねるとした第三者委員会の設置すら実現していない状態だ。
・いよいよ批判の矛先が大学、そして、そのトップである田中英寿理事長(71)に向けられているのだが、予算2620億円の日本最大の学校法人を牛耳るそんな理事長の去就に戦々恐々としているのが、大相撲だという。
▽引退力士を日大職員として再雇用
・田中理事長が総監督を務める日大相撲部は、横綱輪島、大関琴光喜をはじめ、全大学中最多の68人もの力士を大相撲に送り込んでいる一大勢力だ。 相撲部屋にとってもだから、頭が上がらないところがある。幕下付け出し、三段目付け出しの資格を得た力士を入門させれば、労せずして関取を育てられる。即戦力力士の供給源である日大相撲部、いや、田中理事長の影響力は、角界においても絶大なものなのだ。
・ある日大OBはこう話す。「プロを目指す部員がどの部屋に入門するかは、すべて田中理事長の一存です。有無を言わさず、『オマエはこの部屋』と割り振られる。逆に『いや、ボクはこの部屋に入りたいです』などと逆らった力士には容赦しない。一方で面倒見の良い部分もあり、十両止まりで引退した力士を、日大の職員として再雇用したこともある。出身力士にすれば、日大という太いタニマチが付くうえに、引退後の心配もない。相撲部の門を叩く人材が絶えないわけですよ」
・それもこれも、田中理事長の剛腕があってこそ。仮に失脚となれば、日大相撲部は衰退必至で、角界も大ダメージを受けるというわけだ。 相撲指導には定評がある田中理事長は、自身もアマチュア相撲ではそれと知られた存在。日大3年時に学生横綱に輝き、卒業後もアマチュア横綱3回、実業団横綱2回の実績を誇る。
・当時を知る相撲記者は「プロでも横綱になれた逸材でした」と、こう続ける。「本人はプロ志望だったが、学校側に『プロには1年後輩の輪島を行かせるから、オマエは大学に残れ』と言われ、断念した経緯がある。強さは本物でしたね。あの当時、輪島が入門した花籠部屋は、日大相撲部の稽古場の近所にあった。そこに、日大職員時代の田中理事長が『輪島、一丁やるぞ』と、アマ相撲の大会の調整のため、“出稽古”に来る。輪島は入門3年目に関脇を4場所で通過して大関に昇進するが、その時でさえ、田中理事長には歯が立たない。しまいには、『先輩が来そうだから』と逃げ回っていたほどです」
▽語っていた皮肉な信条
・日刊ゲンダイは2006年、日大相撲部監督としての田中理事長に120分にわたってインタビューを行ったことがある。低迷中だった大相撲への提言として、「最近の外国人の相撲を見ていると、勝負を優先するあまり、やや礼儀作法を欠いているように思う。師匠の教えが行き届いているようには見えない」「白鵬や琴欧洲など、外国人力士の急成長を見るにつけ、今の日本人力士は精進しているのかと疑問に思う。現状に満足し、地位に甘んじているだけではないか」「力士は地位が上がれば、それまで以上に周囲からチヤホヤされる。タニマチなどからの誘いも増えていく。カネ回りがよくなり、勘違いする者などは自制心が欠けているのだ」などと語っていた。
・こうした発言の多くが今、自身に跳ね返っている。 礼儀どころか倫理すら疑われているアメフト部を野放しにし、大学の常務理事でもある内田前監督らイエスマンにチヤホヤされ、その地位にあぐらをかいている田中理事長は、過去の自身の発言をどう思うのだろうか。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/230105/1

次に、ジャーナリストの伊藤 博敏氏が6月7日付け現代ビジネスに寄稿した「日大・田中理事長の「疑惑の真相」を下村元文科相に改めて質す 3年前のことは忘れたのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽下村元文科相が驚きの発言
・「日大のドン」として支配体制を固める田中英寿理事長が、事あるごとに取り上げられ、説明に窮するのが「暴力団との関係」である。アメリカンフットボール部の悪質タックル事件の渦中も、西の山口組、東の住吉会トップとの関係が週刊誌などで指摘された。
・「田中理事長と暴力団」を、最初に問題視したのは海外メディアである。3年前、ネット配信のヴァイス・ニュース、デイリー・ビースト、ブルームバーグなどが、山口組6代目の司忍(本名・篠田建市)組長とのツーショット写真を掲載。田中氏が日本オリンピック委員会(JOC)の副会長でもあることから、「ヤクザが、東京オリンピックで暗躍するのではないか」と、懸念した。
・それを受けて、維新の党(当時)の牧義夫代議士(現・国民民主党)が、2015年4月15日、衆議院文部科学委員会で「田中疑惑」を追及。私は本サイトで、牧代議士のインタビューを交えて、「日大理事長兼山口組組長の写真が海外メディアで報じられ、下村文科相が調査を約束」と、題して報じた。(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43023
・2010年に全国施行された暴力団排除条例以降、どんな形でも暴力団関係者と関係を持つのは禁止されたが、田中氏には過去に親しい交際を示す当該写真のような証拠や証言があり、その親しさがどのようなものであるかは、JOC副会長という重責を思えば確認されるべきことだった。
・同時に、牧氏は「読売新聞」(13年2月1日付)に報じられた、受注業者からのキックバック問題を取り上げた。1回あたり10万円前後で50回以上、6年間に五百数十万円を受け取ったという報道は、田中氏への「常態化した上納金」を思わせるもので、見過ごせないのは当然である。
・つまり、1枚の写真があぶり出したのは、田中体制のガバナンス問題である。それは悪質タックルが、有無を言わせない内田正人監督の圧力がもたらしたもので、その背景に内田監督が日大でナンバー2の常務理事という立場にあり、その強圧は、相撲部総監督という体育会を足場にする田中氏のもとで育まれたのと同じ構造である。
・それをまったく理解していないか、あるいは「田中擁護」のために、あえてトボけたのかわからない発言をしたのが、下村博文元文部科学相である。 6月3日のフジテレビ系『報道プライムサンデー』に出演した下村氏は、悪質タックルがガバナンス問題に波及していることに関し、こう述べた。「アメフト問題と日大のガバナンス問題は別に議論する必要があります。(中略)理事長の出身うんぬんと大学のガバナンスは関係ない部分。アメフトと一緒に論議する話ではありません」
・想像力の欠如というしかないが、個人の見解としては許されるかも知れない。ただ、下村氏は牧質問の際、文科相だった。元塾経営者の文教族として第2次安倍内閣以降、約3年にわたって文部科学行政を司り、牧氏の質問に対しては逃げなかった。
・「今回の事案を初めて知りましたが、文科省のなかにつくるか、あるいは大学のなかに第三者委員会をつくるか。いずれにしても私自身で調査をし、判断したい」 実際、動きは速かった。下村氏は、JOCと日大に対し、「田中副会長と反社会的勢力の関係について必要な調査を行なうように」と伝え、それを受けてJOCは、牧質問の13日後の4月28日、常務理事会を開いて、第三者委員会を設けて調査を実施。文科省に報告することを決めた。また、常務理事会に出席した田中氏は、山口組の司6代目など反社との関係について、「事実無根」と否定するとともに、写真は「合成して作られた」と、偽造の認識を示した。
▽田中氏の複雑な人間関係
・私学界はもちろん、教育行政に携わるものの間で日大抗争史は、3年に一度、札束と怪文書が乱れ飛ぶ総長選とともに、長く語り継がれてきた。「66名の総長候補者推薦委員を、総長候補を擁立したそれぞれの派閥が、カネとポストをチラつかせて奪い合う。総長選には数億円のカネが必要だとされていました。私は、ある総長の祝勝会に招待されたのですが、向島の料亭に50名以上が呼ばれ、一人にひとり、芸者がつけられ、それこそ『酒池肉林』の宴会でした。それだけ散財しても惜しくない権力と権威と資金力が、総長にはあるということです」(元理事)
・日大紛争の最中の69年に日大を卒業した田中氏は、体育会枠の職員として奉職。アマ相撲を引退後は、スポーツ部を束ねる保健体育審議会を足場に出世、08年、理事長に上り詰めた。 その過程で、田中氏は買い占め騒動が起きる『暗黒の日大王国』(坂口義弘著)で指摘されるようなカネとポストの争奪戦を生き抜き、常務理事時代には「親密業者からのキックバック」、「工事業者からの謝礼3000万円」、「許永中氏など反社との関係」が、特別調査委員会の報告書で暴かれた。
・田中氏は、50年の日大抗争史を生き抜いたやり手であり、辣腕ゆえに敵が多く、反対勢力はカネとポストで封じ込め、手足には内田氏のような保健体育事務局の側近を使った。文教族の下村氏が、そうした日大の“特色”を知らなかったとは思えず、たとえ3年前の文科相時代に、初めてその深淵に触れたとしても、調査を命じた時点で、田中氏の複雑な人間関係とガバナンス問題には気が付いていたはずである。
・悪質タックル事件は、調査を命じ、修正を促す立場にあった下村氏が、「そこで改善を図らなかった自分の責任」と、受け止めてしかるべきだった。なのに、「ガバナンス問題は別」とは、何たる言い草か。
・今回の「下村発言」を受けて、国会で追及した牧氏が嘆息する。「下村さんは、日大に特有の問題ではなく、『同じような体質の大学は他にある』とまで言った。呆れましたね。個別の問題だから、また日大に発生した。3年前に、個別対応しなければならなかったが、下村さんは調査を約束したのに、私のところには文科省から何の報告もありません」
・下村事務所には、①田中氏への調査結果はどのようなものだったのか、②3年前に指摘された田中氏のガバナンス問題が今も根底にあるのではないか、③日大固有の問題と捉えて個別対応すべきではないか、という3点を質したが、締切までに回答はなかった。
・大学自治とは何か。全共闘時代の問いかけは今に続き、その本質を理解しない行政と組織が、大学の正常化を阻んでいる。発生から1ヵ月に及ぶ悪質タックル事件で、本質に最も迫ったのが、20歳の宮川泰介選手の証言であったのは、保身の日大経営陣はもとより、下村氏を含む教育界全体を司る大人たちが反省すべき点だろう。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55995

第三に、慶応義塾大学商学部教授の菊澤 研宗氏が6月6日付け現代ビジネスに寄稿した「日大アメフト部問題と「旧日本軍の組織と論理」の共通点が見えた 軍隊をまねた体育会系部活の不条理」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今日、多くの人たちが、いま話題になっている日本大学アメリカンフットボール部の反則タックル事件が、安倍政権の森友問題や加計学園問題と重なるという。 首相は不正な指示をしていないといい、官僚が勝手に忖度して不正を働いたという。同様に、日大の監督もケガをさせろと命令した覚えはないといい、選手が思い詰めて行ったものだという。
・一方で、このような上司と部下の関係は、実は旧日本軍が遂行した非人道的な作戦つまり特別攻撃命令とも似ているのだ。 戦後、生き残った海軍軍令部の幹部たちは、特攻を命令していないという。特攻は、あくまでも若者たちの志願だったというのだ。しかし、当時の部下たちは、特攻は明らかに命令だったという。
・もともと日本では部活と軍隊は密接に関係している。反則タックル命令と特攻命令といった2つの異なる事例には、共通するリーダーの行動原理が見いだせる。 それについて、以下に説明してみたい。いずれもリーダーたちが不条理に陥り、その不条理を若者たちに実行させたのである。
▽体育系部活と軍隊の関係
・まず、かつて日本中の学校にある部活が軍隊と密接に関係していたことを忘れてはならない。本来、楽しいはずのスポーツが、日本では軍隊の訓練や兵士予備軍としての男子学生の心身を鍛練する手段として利用された歴史が日本にはある。
・特に、戦前の日本が軍国主義化するとともに、スポーツは「体育」という言葉で置き換えられ、日本人の間には「スポーツ」と「体育」は同じ意味をもつ言葉として定着した。 特に、軍国主義時代には、部下は上官に絶対服従する必要があり、厳しい上下関係による規律が求められていた。それゆえ、命令と服従という組織原理が、学校という教育機関で「体育」という教科を通して、徹底的に叩き込まれていったのである。
・そして、残念ながら、戦後もこの傾向はなくならなかった。いまだに継続されている。特に、ラグビー、野球、サッカー、テニスなどの体育会系運動部では、年功序列の上意下達型の縦社会組織が形成されているように思える。
・そこでは、いまも目上の者に対する絶対的服従は当然であり、目下の者はいかなる命令にも背くことは許されない。非科学的な根性論や精神論がはびこっている。 このような関係のもとに、必然的に起こったのが、戦時中の特攻であり、今回の日大アメフト部の事件なのだ。
▽日本軍の特攻命令と服従関係
・戦後、旧海軍将校たちによって行われた海軍反省会では、興味深いテーマが議論された。戦時中では、上下関係が厳しくて口をきくことすら許されない立場にあった下級将校たちが上官に向かって声を挙げはじめたのである。それは、特攻についてであった。
・一般に、特攻というと、海軍の大西瀧次郎が提案したものとされている。しかし、旧海軍の若手将校たちによると、非人道的で無意味な特攻作戦はそれ以前から軍中央から指示されていたという。 というのも、神風特攻隊以前から、人間の体を兵器に変える人間魚雷「回天」、人間爆撃機「桜花」、人間爆弾ボート「震洋」、そして人間機雷「伏龍」などの様々な特攻兵器が開発されていたからである。
・それにもかかわらず、戦後、海軍軍令部の中枢にいた人たちは、中央から特攻を命令したことはないと主張する。特攻は、あくまで若者たちの志願であったという。そして、戦後もそういった話をいろんなところで広めているというのだ。
・当時、軍隊という上下関係の厳しい組織では、決して主張することができなかった青年将校たちが、戦後、かつての上官たちを問い詰めている。非人道的な特攻作戦は、明らかに上からの命令だったと。 そして、上官は若者を送り出すとき、必ず後に続くからといって送り出したが、結局、続いたものは誰もいなかったと批判している。
▽日大反則タックル命令の矛盾
・この同じことが、今回、日大アメフト部の監督・コーチと選手たちとの間にも起こったように思える。 日大アメフト部の選手が、試合中、ルールを無視してボールを持っていない無防備な状態にあった相手チームの選手に、背後から反則となるタックルをしてケガを負わせた事件である。
・この事件について、5月22日、反則タックルをした日大の宮川泰介選手が、弁護士同席のうえで記者会見を行った。 彼は、一連の経緯や監督やコーチからどのような指示や発言があったのかなどについて詳細に説明した上で、監督やコーチの指示があったにせよ、指示の是非を自分自身で判断することなく反則行為をしてしまったなどとして自己反省し、相手選手に対して改めて謝罪したのである。
・これに対して、翌5月23日、選手が所属する日本大学チームの内田正人監督と井上奨コーチが記者会見を行った。 宮川選手の主張に反して「クオーターバックをつぶしてこい」といった発言は認めたものの、内田監督による指示ではなく、また怪我をさせる目的で発言したものでもないと説明した。
・とくに、「つぶせ」という言葉は、内田監督と井上コーチによると、これまで日常的に使用されてきた表現であり、それは反則を容認したり、ケガをさせたりすることを意味するものではないとして、宮川選手の主張を改めて否定したのである。
▽リーダーが陥っている不条理
・おそらく、いずれもケースも上層部が指示命令し、部下がその命令に忠実に従ったのだろう。 しかし、なぜ上司はそもそもこのようなルール違反で非人道的な命令をおこなったのか。答えは簡単だ。彼らはいずれも損得計算し、その結果、その方が得だと考えたからである。 つまり、不正なことを命令し、実行させることが合理的だという「不条理」に陥ったのである。(このメカニズムについては拙書『改革の不条理』に詳しく解説している)
・戦時中、日本軍の上層部は、海軍航空隊の若手兵士たちの実力では、到底敵を攻撃することはできないことを認識していた。それゆえ、損得計算すれば、若者たちを直接敵に体当たりさせる方が合理的だったのである。
・同様に、日大アメフト部の監督・コーチは、現在の日大の選手の能力では関西学院大学には勝てないと思ったのだろう。それゆえ、損得計算すると、相手選手を直接ケガさせた方が合理的だと判断した可能性がある。
・このような上司たちが行う損得計算の結果を部下に実行させることは、命令と服従の原理が浸透している組織では容易なことだ。 しかも、このような損得計算にもとづく意思決定は、ある意味で合理的で客観的で科学的かもしれない。というのも、この同じ状況に置かれれば、だれでも同じ損得計算を行い、同じ結果をえる可能性があるからである。
・それゆえ、そのような損得計算にもとづいて客観的に命令しているリーダーは、その責任を取る必要性を感じないのである。 しかし、このような損得計算を行うには、はじめから人間を物体や備品のような消耗品として扱う必要がある。 損得計算の中に人間を組み入れるには、一人ひとりの人間がもつ固有の価値、個性、歴史、そして尊厳など、はじめかから無視する必要があるのだ。そうでないと、損得計算ができないのである。
・このような損得計算を行動原理として、上層部は徹底的に行動していたために、戦時中、日本軍は世界でも最も人間の命を粗末にしていたのであり、特攻という人間を兵器の代わりにする前代未聞の作戦を行う鋼鉄の檻のような冷酷な組織だったのである。 その結果、どうなったのか。その過ちからいまだ学んでない組織として日本の一部の体育会系運動部があるように思える。
▽損得計算原理から価値判断原理へ
・では、このようなルール違反で非人道的な命令に出くわしたとき、われわれはどうすべきか。 今回、加害者である日大アメフト部の宮川選手がその答えを示している。 彼は、命令を受けたとき、その命令に従うことが人間として正しいかどうか価値判断すべきであり、問うべきであったと述べた。それを問わずに、ケガさせれば試合に出しやるという上からの指示のもとに、彼自身が損得計算して得する方を選んでしまったのだという。
・確かに、人間の行動原理として経済合理的な損得計算は必要ではある。しかし、それは人間の究極的な行動原理にならないことが、今回の日大アメフト部の事件で明らかになったのだ。
・やはり、人間は、常に正しいかどうか、適切かどうか、価値判断する必要がある。そして、もし正しいと価値判断するならば、次にわれわれは何をなすべきか。その価値判断が、われわれに実践的行為を要求してくるのである。 このような内なる理性の声を聴いて行動したいものだ。そうすれば、悪しき命令はなされないし、それに従うこともないだろう。
・このような価値判断にもとづく実践的行為は、それが主観的であるがゆえにまったく非合理的に思えるかもしれない。それゆえ、多くの優秀な人たちはこれを恐れ、避けようとする。 しかし、恐れるべきことはない。この主観的な価値判断、そしてそれにもとづく実践的行為に対して、われわれは責任をとればいいのだ。ここに、実は人間らしさ、人間の自由や自律があり、人間固有の尊厳や気品がある。
・もちろん、無制約な価値判断にもとづく行為は、単なる子供のわがままな行動にすぎない。啓蒙された大人として主体的に価値判断にもとづく実践行為を行うためには、以下の2つの条件を常に満たす必要がある。
 1) 価値判断にもとづく行為はその原因が唯一自分自身にあるので、その行為の責任は他でもなくすべて自分にあるということを自覚すること。
 2) 価値判断にもとづく行為を実践するために、他人の自由や主体性を無視してはならないこと、つまり他人を単なる道具や手段として扱ってはならないこと。 これである。
・以上のような原理に従っていたならば、冷たい鋼鉄の檻のような組織も、もっと温かいものになっていただろう。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55967

第一の記事で、『日大相撲部は、横綱輪島、大関琴光喜をはじめ、全大学中最多の68人もの力士を大相撲に送り込んでいる一大勢力だ。 相撲部屋にとってもだから、頭が上がらないところがある・・・「プロを目指す部員がどの部屋に入門するかは、すべて田中理事長の一存です。有無を言わさず、『オマエはこの部屋』と割り振られる・・・十両止まりで引退した力士を、日大の職員として再雇用したこともある。出身力士にすれば、日大という太いタニマチが付くうえに、引退後の心配もない。相撲部の門を叩く人材が絶えないわけですよ』、というのでは、角界は日大に頭が上がらないというのも確かに理解できる。(田中理事長は)『「プロでも横綱になれた逸材でした」と、こう続ける。「本人はプロ志望だったが、学校側に『プロには1年後輩の輪島を行かせるから、オマエは大学に残れ』と言われ、断念した経緯がある。強さは本物でしたね』、『輪島は入門3年目に関脇を4場所で通過して大関に昇進するが、その時でさえ、田中理事長には歯が立たない。しまいには、『先輩が来そうだから』と逃げ回っていたほどです』、相撲の実力も並大抵ではなかったというのは、なるほどである。『礼儀どころか倫理すら疑われているアメフト部を野放しにし、大学の常務理事でもある内田前監督らイエスマンにチヤホヤされ、その地位にあぐらをかいている田中理事長は、過去の自身の発言をどう思うのだろうか』、自らが築いた圧倒的地位に逆に圧し潰されたのかも知れない。
第二の記事で、 『理事長の出身うんぬんと大学のガバナンスは関係ない部分。アメフトと一緒に論議する話ではありません』、との下村発言は、『想像力の欠如というしかないが』、というのは甘過ぎる評価だ。筆者も可能性として示唆した「理事長を擁護する発言」と考える方が素直だと思う。『日大抗争史は、3年に一度、札束と怪文書が乱れ飛ぶ総長選とともに、長く語り継がれてきた』、田中理事長が総長制を廃止した理由の説明がないが、恐らく理事長の権限を飛躍的に強めるためだったのではなかろうか。 『「66名の総長候補者推薦委員を、総長候補を擁立したそれぞれの派閥が、カネとポストをチラつかせて奪い合う。総長選には数億円のカネが必要だとされていました。私は、ある総長の祝勝会に招待されたのですが、向島の料亭に50名以上が呼ばれ、一人にひとり、芸者がつけられ、それこそ『酒池肉林』の宴会でした。それだけ散財しても惜しくない権力と権威と資金力が、総長にはあるということです」』、これが大学かと思うほどの酷さだったようだ。『田中氏は買い占め騒動が起きる『暗黒の日大王国』(坂口義弘著)で指摘されるようなカネとポストの争奪戦を生き抜き、常務理事時代には「親密業者からのキックバック」、「工事業者からの謝礼3000万円」、「許永中氏など反社との関係」が、特別調査委員会の報告書で暴かれた』、この報告書は下村氏が指示したJOCのものなのだろうか。どうも後ろの方から類推すると、別のものとも思われる。筆者はJOCに報告書のことで取材したのだろうか。それにしても、特別調査委員会の報告書で暴かれたのに、むしろ理事長にまで登りつめた理由も知りたいところだ。
第三の記事で、『日本大学アメリカンフットボール部の反則タックル事件が、安倍政権の森友問題や加計学園問題と重なるという』、というのはその通りだ。『本来、楽しいはずのスポーツが、日本では軍隊の訓練や兵士予備軍としての男子学生の心身を鍛練する手段として利用された歴史が日本にはある・・・命令と服従という組織原理が、学校という教育機関で「体育」という教科を通して、徹底的に叩き込まれていったのである・・・戦後もこの傾向はなくならなかった。いまだに継続されている・・・体育会系運動部では、年功序列の上意下達型の縦社会組織が形成されているように思える』、なるほどである。 『旧海軍の若手将校たちによると、非人道的で無意味な特攻作戦はそれ以前から軍中央から指示されていたという・・・それにもかかわらず、戦後、海軍軍令部の中枢にいた人たちは、中央から特攻を命令したことはないと主張する。特攻は、あくまで若者たちの志願であったという・・・損得計算すれば、若者たちを直接敵に体当たりさせる方が合理的だったのである。 同様に、日大アメフト部の監督・コーチは、現在の日大の選手の能力では関西学院大学には勝てないと思ったのだろう。それゆえ、損得計算すると、相手選手を直接ケガさせた方が合理的だと判断した可能性がある』、後者については、飛躍もある気がする。その試合では勝てても、直ぐに社会的に問題化することが明らかであるような戦術判断は、どう考えても合理的とは言えないだろう。うな上司たちが行う損得計算の結果を部下に実行させることは、命令と服従の原理が浸透している組織では容易なことだ。こうした問題はあるが、全体としては、参考になる点が多い記事だった。
タグ:1回あたり10万円前後で50回以上、6年間に五百数十万円を受け取ったという報道は、田中氏への「常態化した上納金」を思わせるもので、見過ごせないのは当然 いずれもケースも上層部が指示命令し、部下がその命令に忠実に従ったのだろう。 しかし、なぜ上司はそもそもこのようなルール違反で非人道的な命令をおこなったのか。答えは簡単だ。彼らはいずれも損得計算し、その結果、その方が得だと考えたからである 特攻は、あくまで若者たちの志願であったという 戦後、海軍軍令部の中枢にいた人たちは、中央から特攻を命令したことはないと主張する 非人道的で無意味な特攻作戦はそれ以前から軍中央から指示されていたという 体育会系運動部では、年功序列の上意下達型の縦社会組織が形成されている 残念ながら、戦後もこの傾向はなくならなかった 命令と服従という組織原理が、学校という教育機関で「体育」という教科を通して、徹底的に叩き込まれていったのである スポーツが、日本では軍隊の訓練や兵士予備軍としての男子学生の心身を鍛練する手段として利用された歴史が日本にはある 日本大学アメリカンフットボール部の反則タックル事件が、安倍政権の森友問題や加計学園問題と重なる 「日大アメフト部問題と「旧日本軍の組織と論理」の共通点が見えた 軍隊をまねた体育会系部活の不条理」 菊澤 研宗 常務理事時代には「親密業者からのキックバック」、「工事業者からの謝礼3000万円」、「許永中氏など反社との関係」が、特別調査委員会の報告書で暴かれた 受注業者からのキックバック問題 十両止まりで引退した力士を、日大の職員として再雇用したこともある プロを目指す部員がどの部屋に入門するかは、すべて田中理事長の一存です 即戦力力士の供給源である日大相撲部、いや、田中理事長の影響力は、角界においても絶大 日大相撲部は、横綱輪島、大関琴光喜をはじめ、全大学中最多の68人もの力士を大相撲に送り込んでいる一大勢力だ。 相撲部屋にとってもだから、頭が上がらないところがある 理事長の去就に戦々恐々としているのが、大相撲 「批判の矛先向く日大理事長の“正体” 角界が戦々恐々の理由」 日刊ゲンダイ 最初に問題視したのは海外メディア 日大抗争史は、3年に一度、札束と怪文書が乱れ飛ぶ総長選とともに、長く語り継がれてきた 田中理事長と暴力団 「日大・田中理事長の「疑惑の真相」を下村元文科相に改めて質す 3年前のことは忘れたのか」 想像力の欠如 (その11)(日大アメフト問題2)(批判の矛先向く日大理事長の“正体” 角界が戦々恐々の理由、日大・田中理事長の「疑惑の真相」を下村元文科相に改めて質す 3年前のことは忘れたのか、日大アメフト部問題と「旧日本軍の組織と論理」の共通点が見えた 軍隊をまねた体育会系部活の不条理) 現代ビジネス 伊藤 博敏 日本のスポーツ界 「66名の総長候補者推薦委員を、総長候補を擁立したそれぞれの派閥が、カネとポストをチラつかせて奪い合う。総長選には数億円のカネが必要だとされていました。私は、ある総長の祝勝会に招待されたのですが、向島の料亭に50名以上が呼ばれ、一人にひとり、芸者がつけられ、それこそ『酒池肉林』の宴会でした。それだけ散財しても惜しくない権力と権威と資金力が、総長にはあるということです」 礼儀どころか倫理すら疑われているアメフト部を野放しにし、大学の常務理事でもある内田前監督らイエスマンにチヤホヤされ、その地位にあぐらをかいている田中理事長は、過去の自身の発言をどう思うのだろうか 下村博文元文部科学相 理事長の出身うんぬんと大学のガバナンスは関係ない部分。アメフトと一緒に論議する話ではありません 「本人はプロ志望だったが、学校側に『プロには1年後輩の輪島を行かせるから、オマエは大学に残れ』と言われ、断念した経緯がある 田中理事長は、自身もアマチュア相撲ではそれと知られた存在。日大3年時に学生横綱に輝き、卒業後もアマチュア横綱3回、実業団横綱2回の実績を誇る
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今日は更新を休むので、明日にご期待を!

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環境問題(その3)(最強寒波襲来と食糧不足の原因になる「北極温暖化」の深刻 『北極がなくなる日』、大量のペットボトルが行き場を失う事態!?世界衝撃ごみ問題) [経済政策]

環境問題については、3月6日に取上げた。今日は、(その3)(最強寒波襲来と食糧不足の原因になる「北極温暖化」の深刻 『北極がなくなる日』、大量のペットボトルが行き場を失う事態!?世界衝撃ごみ問題)である。

先ずは、3月2日付けダイヤモンド・オンライン「最強寒波襲来と食糧不足の原因になる「北極温暖化」の深刻 『北極がなくなる日』」を紹介しよう(▽は小見出し、──はキャスター田中氏の発言)。
▽北アフリカのサハラ砂漠で積雪が観測された!
・この冬、最強寒波が世界各地を襲っている。日本の北海道・東北・北陸地方では記録的な豪雪となっているし、世界各地でも年初よりアメリカ北東部やロシアの東シベリアは猛烈な寒波におそわれている。ついには北アフリカのサハラ砂漠にて異例の積雪が観測されたという。いったい全体、何が起こっているのか。
・どうやら北極の温暖化がその原因のようである。北極の海氷が溶けたことが中緯度北部地域(特に東アジアと米国東部)の異常な寒冷化現象に繋がっていると、科学者の間では論じられているのだ。北極が温暖化することによってシベリア寒冷高気圧が強大化したことに加え、上空のジェット気流も南北に蛇行しがちになるので、寒冷高気圧が日本や韓国などにもが南下しやすくなるという。
・北極なんて遠い世界の話、と思っていたら意外と私たちの身近に影響を与えているようだ。北極の氷が溶けたら北極海航路による貨物輸送が増えるし、北極圏の資源開発が進んで世界経済が潤う、なんてのんきなことを言っていられない状況になってきた。
・ただ冬に寒くなるだけであればなんとかそれに適応すればいいのだが、一番厄介なのは北極の温暖化によって影響をうける北半球の中緯度地域が、地球全体にとって農作物の高生産性地域であることだろう。異常気象が農作物生産量に影響をおよぼし、世界全体でみれば食料価格が上昇してしまうリスクが高まることになる。貧困国では飢餓の発生が避けられなくなると予想されている。
▽北極の温暖化はなぜ起こっているのか
・ではこの北極の温暖化はなぜ起こっているのだろうか。「そりゃあ、二酸化炭素排出量の上昇による温暖化だろう」と安直に思い込みがちだが、最新の研究によるとどうやらそれだけではないようだ。二酸化炭素の数十倍以上の温室効果があると言われるメタンガスの放出というより深刻な問題が指摘されている。
・北極の海氷は2005年頃より溶け始めているが、時を同じくして北極海大陸棚海底の永久凍土も溶け始めている。永久凍土は数万年間メタンハイドレートを地中にとどめる蓋の役割を果たしていたが、この蓋が溶けたことによって、現在では大量のメタンガスが海底から大量に放出されているのだ。本書『北極がなくなる日』の口絵には、気泡ブルーム状のメタンガスが海底から噴出している異様な写真が載っており、まるで地球が怒っているかのようなぞっとする光景である。
・かつては800平方キロメートルあった夏期の北極海水は、いまやその半分以下へと面積が縮小し、厚さもどんどんと薄まった。「ティッピング・ポイントをすでに超えてしまった」と著者は評価する。40年以上に亘って極地の海氷量の変化を計測・観測してきた第一人者の言葉は重く読み手に突き刺さってくる。
▽海氷はまだまだ解明されていないメカニズムが多い
・本書は、北極のダイナミズムを解説するサイエンス本であると同時に、著者であるピーター・ワダムズ博士の長年にわたる海氷研究の挑戦を綴った本でもある。北極から南極まで地球のあちこちを飛び回る博士は、これまで海氷研究に新たな視点を常に取り入れ続けてきた稀有な研究者の一人だ。本書ではその長年の経験をもとに読者に自然環境メカニズムの解明作業に向かう科学者たちの臨場感を存分に味あわせてくれている。
・著者の経験談の中でも最も臨場感が溢れるのは、著者の十八番である潜水艦を使った海氷研究の場面だろう。世界に多くの海氷研究者がいるといえども、潜水艦で自ら氷の下を訪れた人は世界広しといえどもそうそういない。本書で紹介されている海氷の下を潜水中に潜水艦内で起こった事件についてはぜひ本書を手にとって確認してほしい逸話だ。
・海氷はまだまだ解明されていないメカニズムが多くあるという。特に2000年以降は科学者の追随を許さぬかたちで急速に変化が起きており、世界中の科学者がその解明を試みている。本書はそのダイナミックな変化を追う科学者達の奮闘記ともいえる一冊である。
・また、本当はあまり声を大にして宣伝したくないのだが、ジオエンジニアリングを活用した地球環境ビジネスのアイデアが豊富に掲載されている。ビジネスマンにとっては恰好のネタ帳の役割を果たすことは、ここだけの話だ。
https://diamond.jp/articles/-/161802

次に、5月9日付けNHKクローズアップ現代+「大量のペットボトルが行き場を失う事態!?世界衝撃ごみ問題」を紹介しよう(▽は小見出し、)。
・いま、日本各地で行き場を失ったプラスチックごみが山積みになっている。今年1月、中国政府は突然、これまで世界中から受け入れていた資源ごみ、プラスチックごみの輸入を禁止したためだ。これまで、輸出するペットボトルごみの7割以上を中国に送っていた日本。第3国に輸出する企業、国内処理に奔走する企業など、待ったなしの取り組みが進められているが、課題も多い。消費者や企業に突きつけられた課題とは、リサイクル社会の実現には何が必要か、考える。
・出演者 劉庭秀さん (東北大学 大学院国際文化研究科 教授)  原田禎夫さん (大阪商業大学 公共学部 准教授)  武田真一・田中泉 (キャスター)
▽ペットボトルごみがついに限界!?〜世界に広がる中国ショック〜
・ついに限界!?毎日のように消費され、何気なく捨てられている「ペットボトル」。飲み残したままだったり、ほかのごみと混ぜて捨てたりしていませんか?こうしたごみが、パンクするかもしれません。 日本で増え続けるプラスチックごみ、実に年間900万トン。それが今年(2018年)に入って突然行き場を失う事態に。 廃プラ輸出業者 「廃プラの業界では、それはもう大変ですよ。」
・きっかけは中国。これまで世界中から受け入れていた資源ごみを、突然、輸入禁止としたのです。  中国 廃棄物研究者 「ゴミを中国に輸出して、自分の国を綺麗にしても、中国が汚れます。この先も、輸入禁止の解除はありえません。」 一体なぜ?そしてこの先どうなるの?私たちの暮らしに迫る危機を追跡します。
▽ペットボトルごみ 世界で大混乱が…
・資源ごみの輸入禁止。今、世界中に中国ショックが広がっています。 英BBC 「イギリスのリサイクル社会に深刻な打撃です。 中国はもうこれ以上、こうしたごみを受け入れない、と拒否したのです。」 ヨーロッパ各地では、行き場を失ったプラスチックごみが、たまり続ける事態に。韓国では、ついに大都市の街中に、プラスチックごみがあふれ出しました。
・韓国KBS 「ご覧の通り、ペットボトルのようなプラスチックのごみが、そのまま残っています。」 回収しきれない、と言う業者と住民の間で、トラブルにまで発展しています。
・そして日本では。 まだ私たちの暮らしに影響は出ていないものの、輸出できなくなった廃プラスチックが、全国各地で、たまり続けています。  中には、今年1月からたまり続けたものが、飽和状態に近づきつつあるところも。 廃プラ輸出業者 「中国に行くはずだった商品が、止まっている。3段も4段もたまっている。」
・広がる中国ショック。その震源地では、一体何が起きているのか。今年に入って、港の風景は一変したと言います。資源ごみを輸入してきた業者の倉庫からは、去年まであふれかえっていた、外国製の廃プラスチックが消えました。 「中国の政策変更で輸入は?」 プラ輸入業者「(廃プラは)ほとんどなくなったね。」
▽“資源ごみお断り” 中国で何が?
・きっかけは中国政府が突然打ち出した新たな方針です。 中国 李克強首相 「海外ごみの輸入を厳しく禁じる。水がきれいで空が青い中国を築いていかなければならない。」 30年以上続けてきた、国策の大転換でした。実は中国では、急速な経済発展の一端を、資源ごみが支えてきました。資源不足に悩む中国は、海外から資源ごみを輸入し、リサイクルする方法を選びました。特に先進国が消費した膨大な廃プラスチックは、石油原料よりはるかに安い、貴重な資源だったのです。中国の輸入量は、年々増加。 2000年代に入ってからは、200万トンを突破し、ついに、世界の廃プラスチックの6割を輸入するまでになりました。
・しかしそれは、中国国内に、深刻なひずみを生んでいきました。環境汚染です。汚れた状態で輸入される廃プラスチックをリサイクルするには、手作業による分別が必要でした。人件費の安い農民が、丁寧に仕分け、汚れを洗い落とします。 その時に出る汚泥や、洗浄に使う薬品の多くが、川などにそのまま流されていました。
・リサイクル業者が集まる村の、土壌や水質を調べた専門家がいます。大学で環境政策を研究する、杜歓政さんです。調査では土壌から鉛や水銀などの物質も検出されました。 同済大学 循環経済研究所 杜歓政教授 「この村で栽培した野菜や果物が汚染され、川の魚も全滅しました。環境の回復までには何十年もかかります。代償はあまりにも大きすぎます。」
・こうした事態に、さらに輪をかけたのが、国内で生じる大量のプラスチックごみです。経済環境が変わり、みずからも、世界有数のプラスチック消費国となった中国。自国のプラスチックすら持て余すようになった今、環境汚染を引き起こす海外の資源ごみはもはや受け入れられない、と輸入禁止に踏み切りました。
・中国科学院首席研究員 蒋高明さん「この先も、輸入禁止が再開することはありません。長い時間をかけて、中国政府が議論して決めたことです。この決定は、揺るぎないものです。」
▽ペットボトルごみ限界!?世界に“激震中国ショック”
・ゲスト劉庭秀さん(東北大学大学院国際文化研究科教授) ゲスト原田禎夫さん(大阪商業大学公共学部准教授)
・田中:世界に広がる中国ショック。北米では、回収業者の団体が、緊急声明を発表。アメリカの3分の1以上の州に影響が出ていて、処理しきれない廃棄物があふれている所もあると訴えています。また、EUは緊急対策を打ち出しました。域内で出回るプラスチック容器などを、2030年までにすべて再利用、またはリサイクルできるものにする計画です。
・そして日本、ペットボトルの消費は、90年代半ばから、右肩上がりで増えています。 今のところは、中国の輸入禁止直前に、駆け込み輸出をしたため、問題は表面化していませんが、パンクするのは時間の問題だといわれています。
・ 世界のごみ問題に詳しい劉庭秀さん。ごみのリサイクル、僕は進んでいるんだと思っていたんですが、こんな大変なことになってたんですね。何故なんだ、という思いを禁じえないんですけれども。
・劉さん:今までの廃棄物のリサイクルは、中国への依存度が高かったといえます。国内では資源として需要がなく、汚いものが、中国の人なら、資源として受け入れてくれたということがありまして、巨大なリサイクル市場である中国が、一気に廃棄物の輸入を止めてしまうと、廃棄物資源は行き場を失ってしまう、ということになります。
── そしてもうひと方、プラスチックごみの問題を研究している、原田禎夫さん、私たちまだこの身近にこの問題の深刻さ、ちょっと感じることができないんですけれども、原田さんご自身はどういうふうに感じてこられたんですか?
・原田さん:今、急速に世界で大きな問題になっているのは、海のプラスチック汚染ですね。これ、実は陸から流れ出したごみがほとんどですが、中でも象徴的なのが「ペットボトル」です。先ほどの資料にもありましが、実は日本でも90年代半ばから、急激にペットボトルの消費が増え、それに併せて、海や川のごみも、ペットボトルだけは伸び続けている、増え続けています。私も学生と一緒に調査をしていますが、回収したごみで、とにかく一番多いのはペットボトルです。全国のNPOや市民の皆さんと一緒に行った調査では、日本中の川に、少なくとも4,000万本のペットボトルが落ちている。そういうことも明らかになりつつあります。
── これ、リサイクルはやってるんですよね。
・原田さん:リサイクルもしていて、80%以上の回収率を誇ってはいるのですが、それ以上に、消費のペースが伸びていると。ですから本数で見ると、回収しきれてないごみが、環境中に流出しているということです。
▽世界が大混乱 “中国ショック”の波紋
・田中:こうしたペットボトルなどの廃プラスチックですが、日本の輸出先の7割は中国です。世界で最も多く中国に送り出していて、その量は年間100万トン、東京ドーム3杯分の量です。 これが今後、宙に浮くことになるんですが、今その新たな受け入れ先として、浮かび上がっているのは、東南アジア、タイ、ベトナム、マレーシア、そしてインドネシアなどです。そこで今、何が起きているんでしょうか。
▽“中国ショック”の波紋 どうなる日本の資源ごみ
・中国ショックの余波を受ける、タイ。今年に入り、海外から持ち込まれる廃プラスチックの量が急増しています。日本から訪れた業者もいました。大阪で廃プラスチックを輸出する会社を経営する、平良尚子さんです。
・これまで中国に輸出してきたものを、今後は、タイのリサイクル会社に買い取ってもらいたい、と考えています。受け入れてくれそうな所があると、必ず確認するのが施設の環境対策です。
・リサイクル工場 サンスン・トリヤナンタクンさん「1日あたり5,000リットルもの水を回流させています。タイでは、こんないい設備を持つところはありません。」
・中国ショックの引き金となった、環境汚染。タイで同じてつを踏まないためにも、慎重な進め方が大事だと、平良さんは考えています。
・廃プラ輸出業者 平良尚子さん「ちゃんと責任をもって汚染処理、残渣(ざんさ)まで処理できるかどうか、それをやっていかなかったら、海外でも迷惑をかけると思います。かけるんだったら、いつかストップされると思います。」
・今後、行き場を失った廃プラスチックが、さらに持ち込まれた場合、タイは受け入れられるのでしょうか。
・タイ公害監視局長 スニー・ピヤパンポンさん「それほど量が多くないうちは、受け入れも可能ですが、どんどん増えてしまうと、タイの処理業者の受け入れ能力を超えてしまいます。難しいと判断をした場合は、受け入れの制限を議論しなければならないと思います。」
▽ペットボトルごみ限界!? どうする日本
── 劉さん、東南アジアも中国のように、いずれは限界が来るんじゃないかとも思うんですけれども、どうなんでしょう?
・劉さん:中国への輸出が止まれば、当然、その資源の需要のある所、東南アジアの諸国に流れることになりますけれども、東南アジアのリサイクルのマーケットの規模とか、業界の状況を考えると、いずれ、流れも止まってしまうということが予想されます。
── 実際にそういった動きはあるんですか。
・劉さん:ベトナムが受け入れをしてましたが、すでにベトナム政府が規制をするという動きがありますし、さらにタイも、この夏に、新たな方針を出すということがいわれています。
── さらに、もっとほかの国に持って行くというようなことはできるんでしょうか。
・劉さん:当然、もっと貧しい国、リサイクルの需要がある所に、物が流れることは予想できますが、輸送のコスト、環境問題を考えると、そういった動きは容易ではないということが言えるかと思います。
・田中:中国が受け入れを禁止した今、国内でのリサイクル技術の向上が求められています。しかし、そこにはいくつもの課題があります。
▽ペットボトルごみ限界!? リサイクルの壁
・プラスチックのリサイクルは、膨大な手間とコストがかかっています。公共施設や、オフィスなどから毎日集められる、大量のプラスチックごみ。その多くは分別されず、汚れたままです。 リサイクル会社 西脇誠之さん「飲み残しが入っているものとか、いろんなものがありますので。」
・質の高いプラスチック製品にリサイクルするには、まずは、空き缶や鉄くずなど、ほかのごみと分別。 リサイクル会社 西脇誠之さん「そうですね今日入ってきたものでこういうスプレーですとか。」
・さらに、プラスチックの種類ごとに、きめ細かく分けなければなりません。 こうした手間とコストは、多くの業者にとって負担でしかないのです。では、ほかのごみと混在したままのプラスチックは、どう処理するのか。多くは古紙や木くずと混ぜ合わせて、固形燃料に変え、リサイクルしています。
・固形燃料工場 下別府正樹さん「石炭とほぼ同等の熱量を発することができます。」 中国ショックを受けて、この工場でも「廃プラスチックを引き取ってほしい」という希望が急増。ところが、固形燃料の生産はそれほど増やせないのが実情です。現在、固形燃料の6割は、国内の製紙工場で使われています。しかし、ペーパーレス化や出版不況のあおりを受け、需要は頭打ち。しかも、ほかの業界では、固形燃料の利用はそれほど広まっていません。
・固形燃料工場 下別府正樹さん「中国に流れていた分を受けてほしいという声は、非常に多く声をかけていただけるようになりました。ただ、受け皿がないために応えることができないというのが、非常に、心が痛いところではあります。」
・こうした状況を、どうすれば根本から変えられるのか。専門家はこう指摘します。 神戸大学大学院経済学研究科 石川雅紀教授 「リサイクル市場に、もっと多くの企業が参入してきて、いろんな新しいアイディアで、技術開発をすれば、可能性はあるんだと思います。」
▽ペットボトルごみ限界!? 解決の切り札は
・中国ショックを逆手に取って、動きだした自治体があります。宮城県では、中国の資源ごみ受け入れ禁止を受け、県の担当者がリサイクル業者などを訪ねて回っています。今後、事業を拡大し、より多くの廃プラスチックを受け入れる意思がある企業には、補助金も出します。家庭
・宮城県担当者 「ビジネスチャンスかなと。これだけの技術があれば産業廃棄物の方に共通の技術がいっぱいあると思う。乗り出さないんですか? リサイクル会社 「それは計画はしていまして、相談もいろいろ始めているところなんです。」
・いち早く県の補助金を利用し、新たなリサイクル技術の開発に乗り出した企業もあります。この会社では、種類の違うプラスチックを混ぜて、質の高い素材に再生する技術を研究しています。これまで、種類が混在する廃プラスチックは、リサイクルする際、品質や強度が安定しませんでした。そこで、混ぜ合わせる配合や、つなぎとなる添加剤などの実験を繰り返しました。最近、ようやく品質が安定するようになりました。処理に困っていた、大量の廃プラスチックも、住宅建材や、ガーデニング用品など、幅広い商品に使えると意気込みます。
・リサイクル会社 麦谷貴司さん「行き場がなくなったものが、果たして物が悪いのか。難しいからやらなかっただけで、本当は品質の良い原料に生まれ変わることができるんです。」 宮城県環境政策課 菅原正義さん「今回を機に今まで県外、あるいは国外に流出していた廃プラスチック資源を、県内で循環利用して、それが宮城県の経済の活性化につながると。そういう方向に、県としては進めていければと考えています。」
▽ペットボトルごみ限界!? どうする日本
・田中:このリサイクル、日本の現状はどうなっているのか。私たちが出すごみは、家庭から出るものと、飲食店やコンビニ、オフィスなどを通じて出るものがあります。このうち、家庭から出るものは、近年、分別回収が定着してきたこともありまして、多くがリサイクルに回され、新たな製品に生まれ変わっています。問題は、飲食店やオフィスなどから出るものです。こちらは分別が徹底されていなくても、業者が回収し、海外に輸出されてきました。そのために多くが汚れていたり、ほかのごみと混じり合ったりしていて、リサイクルを難しくしているんです。
── 東北大学の劉さんは、先ほどの、宮城県の取り組みにも関わっていらっしゃいますが、分別されていないごみをリサイクルするということが、技術的には可能になってきている。こうしたことを進めていけば、解決するということなんですか?
・劉さん:宮城県の場合は、中国の政策をいち早くキャッチをして、いろんな情報を提供したり、あるいは技術開発に補助金を出したりしてますので、そのへんの取り組みは、非常に評価ができると思います。 ただし、技術開発といっても、せっかく作ったものの需要がなかったり、あるいは焼却炉を造った場合、住民反対によって、非常に長い時間がかかってしまうことは予想されます。
── つまり、全てをこれで解決するということには、やはりならない?リサイクルだけでうまくいく、ということにはならないと?
・劉さん:やはり技術だけでは解決できないものが、たくさん残ると思います。
── 残った部分はやっぱり焼却しなければいけないけれども、それも難しいということ?
・劉さん:焼却炉を造るには、やっぱり10年以上の時間がかかったり、住民反対をどう解決するか、という問題が残ってしまいます。
── 原田さんは、飲食店やオフィスから出る汚れたもの、これをどう解決すればいいのか、ヒントは何かあるんでしょうか。
・原田さん:ヨーロッパに調査に行ってますと、例えばペットボトルにはデポジット制度というのがあります。預け金という仕組みですが、ペットボトルドリンク、飲料の価格に、日本円でいうと5円、10円といったような預かり金を上乗せして販売をして、そして飲んだ後にお店に持って行くと、自動の返金の機械が置かれています。そこに入れると、お金が返ってくると。なおかつ、この機械の中で、きちんと缶、瓶、あるいはペットボトルにきちんと仕分け、また、中に飲み物が中に残っていると、それを自動ではねたりします。空っぽにしてから入れてくださいと。こういう仕組みを、細かく作っていくことが大事だと思います。また、技術革新が非常に進んでおりまして、膨大な手間とコストを大きく引き下げながら、良いことをする人には補助金、そして悪いこと、例えばポイ捨てをする人にとっては、デポジット料金(=預かり金)を放棄することになりますから、罰金のような仕組みになるわけです。ですので、ヨーロッパ諸国は高い回収率を維持してます。
── いずれにしても、状況は待ったなしだと思うんですけれども、劉さん、私たちどう意識を変えていけばいいんでしょうか?
・劉さん:われわれは今まで、リサイクルをすればなんとかなるという、リサイクルを信じ過ぎていた、というところがあります。実はリサイクルの仕組みですとか、流れに関しては、あまり関心がなかったと思います。われわれができることは、ごみを減量する、リデュースですね、それからリユース、あるいは修理をして長く使う、リペアとか、リサイクル以外にも、われわれができる選択肢はたくさんあるかと思います。今までは、リサイクルに頼りすぎる社会を作ってしまったので、今度はもっと循環型社会のあるべき姿を考える必要があるかと思います。
── 原田さんは?
・原田さん:もう一つは、消費者の私たちが声を上げる。ある大手のスーパーで、有料化していたレジ袋を、無料にキャンペーンしたところ、消費者の皆さんが、「私たちが努力してるのに、なんてことをしてくれるんだ」と、声を上げてそのキャンペーンは取りやめになったということを聞きました。消費者は今、簡単にインターネットなどで声を上げられますし、声を上げたり、あるいは、清掃活動に参加いただいて、まず現場を見ていただく、そういったことを広めていただければなと思います。
── 私たちの側から声を上げていくことで、社会や企業が変わるということなんですね。私自身、家庭ごみの分別には努めていたつもりなんですが、それで本当にうまくいっているというふうにも思い込んでもいました。こうした意識が今回のような世界的な混乱を招いているんだとしますと、私たちの生活スタイルや考え方を、今すぐ変えなければいけないと、今日は思いました。
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4126/

第一の記事で、『北極の海氷は2005年頃より溶け始めているが、時を同じくして北極海大陸棚海底の永久凍土も溶け始めている。永久凍土は数万年間メタンハイドレートを地中にとどめる蓋の役割を果たしていたが、この蓋が溶けたことによって、現在では大量のメタンガスが海底から大量に放出されているのだ』、というのは恐ろしいことだ。温暖化により北極の海氷が溶け始めると、海底の永久凍土も溶け始め、大量のメタンガスが海底から大量に放出、といったように悪循環が始まったようだ。中国は、北極海航路による貨物輸送に熱心なようだが、これが温暖化を酷くしないよう願うばかりだ。
第二の記事で、 『きっかけは中国。これまで世界中から受け入れていた資源ごみを、突然、輸入禁止としたのです』、(中国は)『世界の廃プラスチックの6割を輸入するまでになりました』、それが突然、輸入禁止したので、世界中が大慌てする訳だ。 (日本では)『リサイクルもしていて、80%以上の回収率を誇ってはいるのですが、それ以上に、消費のペースが伸びていると。ですから本数で見ると、回収しきれてないごみが、環境中に流出しているということです・・・ペットボトルの消費は、90年代半ばから、右肩上がりで増えています』、『家庭から出るものは、近年、分別回収が定着してきたこともありまして、多くがリサイクルに回され、新たな製品に生まれ変わっています。問題は、飲食店やオフィスなどから出るものです。こちらは分別が徹底されていなくても、業者が回収し、海外に輸出されてきました。そのために多くが汚れていたり、ほかのごみと混じり合ったりしていて、リサイクルを難しくしているんです』、ということであれば、飲食店やオフィスなどから出るものへの分別の徹底、『ペットボトルにはデポジット制度』、『ごみを減量する、リデュース』、などに真剣に取り組んでゆくべきだろう。
タグ:プラスチックごみが山積みに 日本、ペットボトルの消費は、90年代半ばから、右肩上がりで増えています 「大量のペットボトルが行き場を失う事態!?世界衝撃ごみ問題」 NHKクローズアップ現代+ 夏期の北極海水は、いまやその半分以下へと面積が縮小 北極の海氷は2005年頃より溶け始めているが、時を同じくして北極海大陸棚海底の永久凍土も溶け始めている。永久凍土は数万年間メタンハイドレートを地中にとどめる蓋の役割を果たしていたが、この蓋が溶けたことによって、現在では大量のメタンガスが海底から大量に放出されているのだ 中国政府は突然、これまで世界中から受け入れていた資源ごみ、プラスチックごみの輸入を禁止 北極の温暖化によって影響をうける北半球の中緯度地域が、地球全体にとって農作物の高生産性地域であることだろう 「最強寒波襲来と食糧不足の原因になる「北極温暖化」の深刻 『北極がなくなる日』」 ダイヤモンド・オンライン ごみを減量する、リデュース EUは緊急対策を打ち出しました。域内で出回るプラスチック容器などを、2030年までにすべて再利用、またはリサイクルできるものにする計画 さらに輪をかけたのが、国内で生じる大量のプラスチックごみです ヨーロッパに調査に行ってますと、例えばペットボトルにはデポジット制度というのがあります (その3)(最強寒波襲来と食糧不足の原因になる「北極温暖化」の深刻 『北極がなくなる日』、大量のペットボトルが行き場を失う事態!?世界衝撃ごみ問題) 中国国内に、深刻なひずみを生んでいきました。環境汚染です 中国では、急速な経済発展の一端を、資源ごみが支えてきました。資源不足に悩む中国は、海外から資源ごみを輸入し、リサイクルする方法を選びました。特に先進国が消費した膨大な廃プラスチックは、石油原料よりはるかに安い、貴重な資源だったのです。中国の輸入量は、年々増加。 2000年代に入ってからは、200万トンを突破し、ついに、世界の廃プラスチックの6割を輸入するまでになりました 李克強首相 「海外ごみの輸入を厳しく禁じる。水がきれいで空が青い中国を築いていかなければならない。」 環境問題 問題は、飲食店やオフィスなどから出るものです。こちらは分別が徹底されていなくても、業者が回収し、海外に輸出されてきました。そのために多くが汚れていたり、ほかのごみと混じり合ったりしていて、リサイクルを難しくしているんです 家庭から出るものは、近年、分別回収が定着してきたこともありまして、多くがリサイクルに回され、新たな製品に生まれ変わっています リサイクルもしていて、80%以上の回収率を誇ってはいるのですが、それ以上に、消費のペースが伸びていると。ですから本数で見ると、回収しきれてないごみが、環境中に流出しているということです。 海のプラスチック汚染
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公務員制度(その2)(エリート官僚のスキャンダルが続出する根因 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<前編>、「首相側近幹部」への権限集中が諸悪の根源だ 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<後編>、元財務省・田中秀明氏 官僚の「政治化」が生んだ忖度体質) [国内政治]

公務員制度については、4月4日に取上げた。今日は、(その2)(エリート官僚のスキャンダルが続出する根因 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<前編>、「首相側近幹部」への権限集中が諸悪の根源だ 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<後編>、元財務省・田中秀明氏 官僚の「政治化」が生んだ忖度体質)である。

先ずは、元経産省官僚で早稲田大学ビジネススクール講師の安延 申氏が4月24日付け東洋経済オンラインに寄稿した「エリート官僚のスキャンダルが続出する根因 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<前編>」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・最近、森友学園や加計学園問題を契機に、財務省をはじめ、文部科学省、経済産業省など中央官庁の幹部の人事・言動をめぐってメディアも国会も大荒れである。
・その背景として、「内閣人事局の存在によって官邸が各省庁の幹部人事を一手に左右できるようになったことが、過剰な官邸配慮を引き起こし、行政が忖度(そんたく)だらけになったためだ」という指摘がある。他方で、そうではなくて、各省庁の行政縦割りの弊害をなくすには、内閣人事局の創設は間違いではなく、その運用が良くないという主張もある。
・しかし、こうした「0か1か」タイプの議論は、往々にして間違った結論を導く。内閣人事局の仕組みを今のまま残すか、あるいは、一挙に昔に戻るかという極端な議論はまったく非生産的で、かえって混乱を助長するのではないか。
・官僚時代に人事部門でキャリア官僚の人事に携わり、退職後は大小の民間企業で経営者として、人事の最終責任者でもあった経験を踏まえて、今の仕組みに問題点はあるのか、改善するとしたら、どうすれば良いのか、前後編に分けて考えていく。まず前編は「内閣人事局の問題」について考えていく。明日の後編では、「解決策」を論じたい。
▽内閣人事局創設の経緯と背景
・内閣人事局の創設の背景や意義について詳細を記述し始めると、それだけで大論文になってしまうので、ここではエッセンスだけを述べることにしたい。 内閣人事局は、2014年5月に内閣法が改正され、正式な機関として設けられており、その歴史は長いものではない。この議論のルーツは、橋本龍太郎内閣時代に検討され、2000年に中央省庁の大再編として実現した行政改革にある。その1つの車輪が中央省庁の再編、そしてもう1つの車輪が「公務員制度改革」であったが、公務員制度改革は未完のまま「橋本退陣」という事態を受けてしばらく宙ぶらりん状態に置かれたのである。
・そもそも憲法第73条第4号に「(内閣の権能は)法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」と定められており、官僚の人事は、内閣の長である首相や官房長官の権能として定められている。では、なぜ、わざわざ「人事局」を作らなければならなかったのか。
・これは、考えてみればすぐわかる。国家公務員の総数は60万人弱。いくら官吏の事務を掌理するといっても、こんな数の公務員すべての人事管理を内閣が行えるわけがない。このため、実際は、官僚人事は各省の大臣の所管として運用されていた。
・さらに、各省の大臣も長くて2年。3年やったら驚異という時代であったから、大臣といえども、個々の官僚の能力や性格、適性などを子細に把握するのは到底不可能であった。さらに言えば、国家公務員は政治的に中立であるべきことが国家公務員法に定められており、過度に政治が官僚人事に影響力を持つことに躊躇があったということもあるだろう。
・こういった理由から、事実上官僚人事は、事務方である官僚サイドにほとんど委ねられていたが、こうした中でも閣僚が官僚人事に介入したようなケースはあり、逆に「珍しいこと」として大きな話題になった。筆者が勤務した経済産業省の例でいえば、新進党政権時代に、当時の次官最有力候補者が「政治的に特定勢力と近すぎる」という理由で大臣によって退任を要求された事例は、小説にもなっている。
・このように、長く官僚人事は事務方(=政治レベルではなく官僚レベル)によって行われてきたのだが、他方で、官僚独裁とか政府・閣僚を官僚が牛耳っているといった批判も後を絶たず、「試験を通ればなれる官僚ではなく、選挙で選ばれた政治家が政策を決めていくべきだ」との声が次第に大きくなっていった。
・こうした動きは福田内閣下で渡辺喜美特命大臣によって強力に推し進められ、さらに、民主党内閣になってから「政治家自らが汗をかく」とのキャッチフレーズの下に、官僚を使うのではなく、官僚に仕事をさせず細かい事務仕事まで自分たちがやる……といった見当違いの事象も発生した。
・ただ、民主党内閣時代も、「官邸が官僚を牛耳るべきだ」という思想は連綿と受け継がれ、2010年と2011年に内閣人事局の創設を含む国家公務員法改正案が提出されたが、いずれも成立しないまま廃案となっている。
・その後、2014年4月に安倍内閣下で国家公務員制度改革関連法案が可決され、人事院の一部、総務省行政管理局の査定(組織や定員の管理)部門、人事・恩給局の旧人事局関係部門などを統合する形で内閣人事局の創設が決まったのである。なお、この法案には自民・公明・民主の3党が賛成している。
▽内閣人事局の基本的な仕事とは?
・内閣ホームページによると、「内閣人事局は、国家公務員の人事管理に関する戦略的中枢機能を担う組織として、関連する制度の企画立案、方針決定、運用を一体的に担って」いるとされている。ただ、良くわからないのは、いったいそこに何人の職員がいて、どういう仕事をしているかだ。
・内閣人事局のホームページによれば、その基本的な仕事は、
 ① 国家公務員の人事行政(女性活躍推進などを含む)
 ② 国の行政組織に関する行政
 ③ 幹部職員人事の一元管理(新たに付加された権能) となっているが、正直なところ、この①と②は、女性登用に関する発信などはあるものの、どれだけ内閣人事局が実働し、影響力を発揮しているかは定かではない。
・実際問題として、人事院や旧総務省などの旧組織を統合したとしても、もともとこれらの組織が霞が関で強い影響力があったかというと、そんなことはないのだから、これを統合しただけで突然影響力が増すわけもない。 そうなると、内閣人事局の創設によって付け加えられた新たな権能、すなわち、この③が現在の議論の焦点であり、この「一元管理」なるものが、どれだけ官僚の心理と業務に影響を与えているか……だろう。
・そこで同じ内閣のホームページから、幹部人事の流れを図示してみると下図のようになる。 この図のプロセスを経て任免される幹部職員とは、霞が関で「指定職」と言われる部長・審議官級以上の職員である。この指定職のポストの総数は約900弱と言われているが、この900名の中には、研究者や技術専門職という性格のポストも含まれるため、実際には、このうちの600名程度が、図に示した任用プロセスで内閣人事局の検討を経て発令が行われると言われている(全900ポストの内容は、人事院から、ポスト毎の給与のランクと数を詳細に定めた「案」が提出されており公表されている)。
・ただ、これは、あくまで「職位の数」であって、そこに誰をつけるかの検討・決定は、別途、人事として行われる。その人事プロセスが上の図である。 各省庁から指定職(幹部)の候補となるべき人材のリストが提示されるその人たちが指定職にふさわしいかどうかの「適格性」は官邸で審査される。この「適格性審査」の内容は明らかにされていないが、懲戒処分を受けてないかとか、指定職になるべき前職の履歴が適切か(大きな職位のジャンプの有無など)といったネガティブチェックに近いものではないかと推定される。
・なぜならば、この適格性審査によって、各省庁で幹部となるだろうと目されている職員(日本の官庁の場合、多くは年功で推定が可能である)が突然排除されたという話を聞いたこともないし、逆に、予想もされていなかった人が突然抜擢されたといった騒ぎが起きたこともないからである。
・上記の適格性審査を経て、幹部職に登用される者の名簿が作成され、各省に配布されることになる。 各省庁の大臣は、この名簿を基に人事異動の案、つまり幹部職の任免案を作成する。 この「案」をもって各省庁は官邸と協議し、最終的な幹部職の任免が決定されるわけである。実際には、この「官邸協議」が、おそらく、最も官邸の影響力が発揮される場面であろう。総理であろうと正副官房長官であろうと、600にも上る全指定職のポストの職務を正確に理解はしていないだろうし、また、その候補者がどんな人間であるかも知らないだろう。
・しかし、各省庁の次官、財務省の主計局長や主税局長、外務省の総合外交政策局長や経済局長、厚生労働省の年金局長といった内閣の政策に直結するようなポストであれば、職務もわかるし、そこに誰が就任するかは大きな関心事項でもあろう。ここに「官邸の意向」が官僚人事に反映されてくる余地が生まれると考えられる。
・つまり、「内閣の政策に直結するようなポスト」の人事が問題なのである。ではどのように解決をしていけばいいのか。後編で論じていきたい。
https://toyokeizai.net/articles/-/217838

次に、上記の続きである同日付け東洋経済オンライン「「首相側近幹部」への権限集中が諸悪の根源だ 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<後編>」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・前編では内閣人事局の設立経緯について詳述してきた。後編では「内閣人事局の何が問題なのか」について考えると同時に、改善策について論じていきたい。
・まず断っておきたいのだが、筆者は「幹部公務員は省益ではなく国益を実現すべく働くべきである」という命題には何の異論もない。しかし、現行の制度にはいくつかの点で問題があると考えている。それを順番に整理してみたい。
▽官僚にとって人事権は最大のパワーソース
・当たり前じゃないかと思われるかもしれない。しかし、官民の両方で人事をする立場を経験すると、官の人事権は民以上に強力なパワーになると痛感した。 民間では(この場合は上場企業レベルの民間企業という意味だが)、どうのこうの言いながらも最後は「数値」という客観指標から逃げることはできない。売り上げと利益を急伸させたマネージャーや常に高視聴率をたたき出す番組プロデューサーは、たとえ、上司がどう思おうと、それなりの処遇を与えざるをえないだろう。逆に、非常に人望があって可愛がっている部下であっても、売り上げを30%ダウンさせ黒字部門を赤字化させてしまった人物を昇格させることは難しい。
・つまり、民間企業の活動はさまざまな意味で数値化されてパフォーマンスが測定できるようになっており、いかに権力者といえども、これを無視して人事を進めるのは難しいのである。 最近で言えばセブン&アイ・ホールディングスの絶対権力者であった鈴木敏文会長ですら、一定の業績を上げていた社長を交代させるという人事案が否決され、会長の座を降りるしかなかったということは好例であろう。
・しかし、官僚の世界では成果もコストも客観的に測ることは難しく、そうなると評価は「主観的」なものに近づかざるをえない。「あいつは頑張っている」とか「皆が褒める人物である」、「オレのために尽くしてくれる」といった主観的な判断のウェイトが増してくる。
・官僚の世界だけではないが、「カネとヒトを握る」というのは、昔からある権力の源泉である。そして、その片方の「カネ」を握っていたからこそ、財務省、あるいは旧大蔵省は「官庁の中の官庁」と呼ばれていたのだが、最近の財政事情では、このカネを使った権力の行使の余地は小さくなっている。財政支出の6割近くが、「社会保障費」と「債務償還」という裁量性のない支出で占められている状況で、財務省が振るえる権力の余地など限られているのである。
・他方、「ヒト=人事を握る」ことの意味は昔と変わっていない。つまり、内閣への人事行政の集約化は、財務省と並ぶ、あるいは、それを凌駕するような権力の源泉を創り出したのに等しいのであるが、それにしては、現行の制度・仕組みは粗雑であると言わざるをえない。
・財務省の予算査定のプロセスは100年以上にわたって骨格を維持しつつ、細部の改善を積み重ねて練り上げられたものであるが、現行の内閣人事局による幹部人事の一元管理の仕組みは、生まれたばかりであり、予算作成プロセスに比べれば、あまりにずさんという事実は否定しようがないのである。
▽今の仕組みは短命政権を想定?
・各省が省益優先に走るのを抑制し、公僕の原点に戻るよう官僚人事も官邸が管理できるようにすべきだという議論は1990年代からあったということは先に述べた。 他方、当時の反対論は、「政治的中立が求められている公務員人事を内閣が行うというのは、その中立性を侵害する可能性がある」、「各省の大臣の人事権、組織掌握力が弱まってしまう」といったものであった。ただ、その頃は、内閣に組織を作っても、結局、各省庁から上がってくる人事案を追認するだけで、どれだけ影響力が発揮できるかは疑問……といった懐疑的な見方も多かったように思う。その理由の1つは、そこまで強い求心力、統率力を発揮できた内閣は、過去それほど存在しなかったということである。
・長く与党であった自由民主党の総裁任期は長い間2年(1978年 - 2003年の間のルール。2004年以降は3年)であり、かつ、連続2期が上限とされていた。したがって総理の在任期間は最長でも4年であり、多くの場合2年から3年で総理は交代してきた。
・過去に任期満了で総理総裁を退任したのは中曽根康弘氏と小泉純一郎氏の2人しかいなかったのである。国際畑では、リーダーのポストの在職期間が大きくものを言う。 筆者も通商畑の仕事が長かったので、サミットに行くたびに首脳の集合写真の端のほうに小さく映るわがリーダーの姿に情けない思いをし、中曽根総理や小泉総理が議長国のリーダーの隣に立つ記念写真を見て、内心誇らしい気持ちになったのを思い出す。
・そして首相が頻繁に「交代するだけでなく、各省の大臣はそれ以上にコロコロ変わる。大臣は、各省庁の最終人事権者である。これでは政治が官僚に人事的な影響力を及ぼそうにも、不可能である。
▽長期政権では弊害が露呈
・ところが、現在の第2次安倍晋三内閣は今年で6年目に入り、さらに自民党総裁としての3選も話題に上っている。そしてこれを支える菅義偉官房長官、杉田和博官房副長官も同じく6年目である。さらに言えば、最近なにかと辣腕ぶりが報道される今井尚哉政務担当秘書官も同様である。
・各省の幹部官僚は、通常同一ポストの在任は長くて2年である。他方、これを統括する側の官邸の主要人物は、すべて就任6年目を迎える大ベテランばかりである。そうなると各省に対する官邸の影響力が強まるのは、必然とも言えよう。何せ、彼らは毎年持ってこられる各省庁の人事案を何回も検討してきているのである。
・その中にはかつて一緒に仕事をした人も入っているだろうし、逆に全然知らない人物が要職の候補者になっていることもあるだろう。官邸幹部といえども人間である。自分の意に添わぬ人間よりも、自分と波長の合う人間、自分の政策を忠実に実現してくれる人間を高く評価するだろう。これは、官民問わず一般的に発生する現象であって、別に人事において「ひいき」をしていなくても、人事権者の心中で評価の高い人材が厚遇されるのは、当然といえば当然なのである。
・しかし、はたしてこれが正しい仕組みなのかどうかは議論の余地がある。たとえば、現在の自民党政権下で、無私無欲で必死に働き、政権から与えられたミッションを忠実にこなして多大な成果を上げた官僚がいたとする。その人は、まさに「官吏」として最高の仕事をしたわけである。しかし、次の選挙で与党が倒れてしまったとする(今の状況では起こりそうにない仮定だが、制度設計においては十分考慮すべき仮定である)。そうするとこの「最高の仕事をした官僚」は次期政権においては、「自分たちの反対する政策を実現させた最悪の戦犯」になってしまうかもしれない。
・その時に、この官僚の人事はどう扱われるべきなのだろうか。 アメリカのように「政治任用=Political Appointee」の仕組みが出来上がっている国は良い。もともと各省庁の上級幹部で政治任用されるポストは決まっており、そこに任用される人たちは、自分の任期は、その政権の寿命の間だけと認識したうえでポストを受諾しているし、任期を終えた後の仕事もいろいろ選択可能である。
・しかし、「天下り根絶」が叫ばれ、民間企業への再就職もさまざまな形で制限されている日本の状況下では、官僚を辞めてほかに職を探します……というのも容易ではない。仮に政治任用的に上級幹部を扱うのであれば、任用期間が終了した後の職業選択の道も開いておかなければ、明らかに機能不全な仕組みが出来上がってしまうだろう。
▽今の仕組みをどう改善すればいいのか
・ここまで述べてきたように、今の霞が関の幹部人事の仕組みは、否応なしに内閣=官邸の意向が強く反映されるようになっている。しかし、これを「安倍内閣のせいだ」とか「安倍一強政治が悪い」というのは間違いだろう。そもそも、公務員人事に内閣の影響力を強めようというのは、民主党政権下でも強力に推進されていた政策であるし、国民世論もこれを支持してきたはずである。ただ、同時に今の仕組みに多くの足らざるところがあることも事実である。
・筆者自身も十分に検討したわけではないので、本稿において、その改善の仕組みを子細に述べることはできないが、それでもいくつか思いつく改善策はあるので、それを列挙してみたい。
・まずは内閣人事局長の任期を長くするべきではない。かつ、現在の杉田局長(事務担当内閣官房副長官)のように、各省庁の幹部の職責や候補人材の人となりをある程度熟知している官僚出身者を充てることが望ましい。
・各省庁の幹部と同様、2年か長くても3年程度にすべきであろう。これによって、官僚が過剰に官邸の意向を気にするような事態は、ある程度緩和されるし、また、過度の権限集中も少しは弱められるのではないか。
・現在のように官邸幹部の主観的人事によって、過剰な省益追求を排するのではなく、明確化したルールによって、各省庁が国益追及型の人事ができるように考えるべきである。具体的には、たとえば各省庁の課長職以上の4分の1、部長・審議官の3分の1、そして局長以上の2分の1は他省庁採用者から任用するといったルールを定めれば良い。そうすれば、自省庁の省益をいくら追及しても、その人が次にどの役所で幹部になるのかわからない訳だから、天下り問題を含め、過度の省益追求にはブレーキがかかる。
・内閣人事局長以外の官邸の幹部職についても、長期化は望ましくない。特に政治家ではなく事務方の幹部職については、あまり長く特定の職位についているのは望ましくない。 繰り返しになるが、結果が数字で客観的に出にくい官僚の世界では、一定のポストに長く特定の人が留まることは、過剰な権限の集中をもたらしやすい。だからこそ、政府の中での特定ポストは、在職最長3年で異動という内規が定められている。それが、政府の中でも中枢になる内閣、首相近辺の職である官房副長官や首相秘書官、その他の枢要ポストに長い期間特定の官僚が留まれば、その影響力が半端なものではないことは容易に想像がつくためである。
・内閣に一定の人事権能を持たせて、霞が関の各省が過度に省益追求に走らないようにするという発想自体は悪くないし、これを否定するべきではない。ただ、現状の仕組みが多くの問題点を内包していることも事実であり、これを「少しずつ改善して望ましい姿に近づけていく」というのが、今求められるアプローチではないだろうか。
https://toyokeizai.net/articles/-/217842

第三に、5月28日付け日刊ゲンダイが掲載した元財務官僚で明大公共政策大学院専任教授の田中秀明氏(最後に経歴)へのインタビュー「元財務省・田中秀明氏 官僚の「政治化」が生んだ忖度体質」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは田中氏の回答、+は回答内の段落)。
・霞が関の官僚の壊れっぷりが酷すぎる。中でも“最強官庁”として君臨してきた財務省は一体どうなってしまったのか。森友疑惑に関して決裁文書改ざんに手を染めたうえ、事務次官がセクハラ発言で辞職に追い込まれた。安倍政権下で官僚は人事を官邸に握られ、忖度ばかりするようになったといわれるが、原因はそうなのか。 元財務官僚でもある明大公共政策大学院専任教授の田中秀明氏に聞くと、官僚の「政治化」がその背景にあるという。
▽「内部統制」の概念がない
Q:古巣の財務省で、あり得ない不祥事が続発しています。
A:公文書の書き換えもセクハラもとんでもないことです。1990年代の接待汚職事件で財務省は逮捕者まで出し、その後、変革を誓って自己改革の報告書をまとめた。しかし、20年経って、元に戻ってしまいました。原因は複雑ですが、組織と公務員制度の2つの問題が背景にあります。それは財務省に限らず、霞が関に共通しています。
Q:組織の問題とは?
A:役所にはマネジメントの概念が乏しく、自己チェック機能が弱いのです。組織のマネジャーは本来、事務次官です。しかし実際は、次官は「名誉職」だと思います。1、2年で交代する順送り人事だからです。英豪などでは、次官は3年以上務め、組織のマネジメントに責任を負っていますが、そう自覚する次官は日本にはいないでしょう。
Q:マネジメントの必要性に対する意識が低いのでしょうか。
A:役所は手続き重視の前例踏襲。マネジメントとは少ない資源でより良い結果を生み出すということですが、役所には、そうした概念はありません。それから、根本的には、内部統制という概念がなく、内部監査も不十分です。
Q:内部統制がない?
A:役所特有の考え方はあるんです。例えば、物品を買うという場合。それを使う人、注文を出す人、お金を出す人、届いた商品をチェックする人などを分ける。不正を回避する仕組みです。しかし、民間企業のような事前のリスクコントロールという考え方はありません。不正や情報漏洩などが起こることをあらかじめ想定して、その発生をどうやって下げるか。そういう意味での内部統制やその重要な要素である内部監査は、法令に書いてありません。
Q:いわゆる危機管理がないのですね。
A:防衛省や警察などには危機管理を担う部署があるのですが、一般の役所は「無謬性」といって、「間違えない」という前提なんです。だからリスクがなく、失敗もない、と。しかし、リスクを想定して、事前に対応を取る仕組みや体制は必要です。 英国などでは、事務次官は「会計官」としても任命され、内部統制報告書や財務書類などに署名します。また、外部の専門家も入る内部監査委員会も設置され、自律的にチェックをしています。今般の財務省・防衛省などの不祥事は、まさにこうしたガバナンスが欠けていたからといえます。
▽政治任用と資格任用の区別が必要
Q:官僚自体も劣化していませんか。
A:80年代にエズラ・ボーゲル(米ハーバード大名誉教授)が著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」で、戦後の奇跡的な経済復興を牽引したのは大蔵省や通産省などの官僚たちだと言いました。これは過大評価であり、右肩上がりの時代は、誰がやってもうまくいった。
+しかし、90年代に入り、バブルがはじけて日本経済は低迷しました。官僚の不祥事も続き、官僚主導から政治主導へと行政改革が行われました。従来官僚たちは、政治家や関係業界と調整して政策を作りながら、自らの利益も追求してきました。私は、これを「政治化」と呼んでいます。しかし、政治主導が進む中でこうしたモデルは通用しなくなったのです。官僚は本来、専門性に基づき分析し選択肢を提示すべきですが、そうした専門性は政治化ゆえにおろそかになっています。それでは、良い政策は作れません。
Q:内閣人事局にも問題があるとされています。
A:公務員の任命権は各省の大臣にありますが、2014年に内閣人事局が設置されてからは、幹部公務員の任免については、総理・官房長官・大臣が事前協議することになりました。政府全体の見地から幹部人事を行う建前は良いのですが、菅官房長官が、各省から出された人事案を差し替えたり、官邸に異論を唱えた幹部を左遷しているといわれています。
+菅長官は適材適所と言っていますが、それは恣意的な人事と紙一重です。人事を握られているので、公務員は政治家に忖度します。今や幹部公務員は官邸のイエスマンとなりました。
Q:菅長官の影響力が強いことが問題なのでしょうか?
A:従来から幹部人事に官房長官等が関与する仕組みがあったのですが、それが過度になっています。ただ根本的な問題は公務員の任命制度にあります。公務員の任命制度には、政治任用と資格任用があります。例えば米国では、局長級以上の幹部公務員については政治任用です。大統領の好き嫌いで決められ、政権交代のたびに入れ替わる。
+英国は、資格任用で、大臣に直接の人事権はありません。事務方トップの次官に至るまで能力や業績で決まる。幹部公務員は公募採用が一般的で、ポストごとに競争原理に基づいて採用されます。公務員には政治的中立性が厳しく求められ、政治家との接触は制限されています。日本は、制度の建前は英国型ですが、公務員の任命権は大臣にあるため、政治任用できる仕組みです。
Q:日本では政治任用と資格任用の区別がない。
A:公務員の政治化は、両者の区別がないことに起因しています。今の官邸主導の人事は、公務員をさらに政治化させています。公務員は忖度し、政治家に耳障りなことは言わないのです。米国も、課長までは厳しい能力主義です。資格任用を建前ではなく、実質的に強化し、政策立案において、中立的な分析や検討ができる仕組みに変えるべきです。そして、資格任用の公務員は、公募のように透明かつ競争的な任命プロセスで選ばれるようにする。政治的な調整は官邸や大臣の仕事であり、新しくつくった補佐官を活用すればいい。
Q:今の公務員制度ではダメですね。
A:専門家が育たず、政策立案・実施能力が高まりません。政治家や業界との調整ばかりで消耗し、優秀な人ほど若くして辞めてしまう。官僚ではキャリアが向上しないので、外資系金融機関に転職したり、弁護士や学者になっていますよ。
Q:いわゆる「財務省解体論」についての是非は?
A:不祥事が続いたので解体すればよいのかもしれませんが、国の財政に誰が責任を持つのでしょうか。よく財務省は最強官庁だといわれますが、昔はともかく、今は違います。もしそうであれば、先進国最悪の財政にはなっていないし、消費税が2度も延期になっていません。多くの研究により、財務大臣の権限が弱い国ほど、透明性が低い国ほど、財政赤字が大きいことがわかっています。日本はまさにこの2点が問題です。
▽財務省は予算中心ではなく経済政策を担うべし
Q:具体的には財務省をどう見直すのですか。
A:世界の財務省は、予算が中心ではなく、経済政策を担う役所です。米国やカナダ、オーストラリアなどでは、財務省と予算省に分かれています。財務省は財政政策、経済政策、金融政策などマクロを扱い、予算省は細かい予算や会計、評価などミクロを扱う。日本もこのようにするのが一案です。今の日本では、予算は財務省、経済政策は内閣府、金融の企画立案は金融庁、とマクロを扱う官庁がバラバラで最悪です。日本の財務省には、博士号を持ったエコノミストは幹部にはいません。経済政策を担当しないからであり、世界標準とはかけ離れています。
Q:その場合、主計局はどうなりますか。
A:主計局の総務課など予算についてマクロ政策を担当する部署は財務省に残すとして、各省との細かな折衝をする部署は総務省と一緒にしたらいいと思います。
Q:歳入庁構想もありますが。
A:社会保険料と税を一緒に徴収するのは効率的ですが、新しい組織をつくらなくても、保険料の徴収業務を国税庁に委託すればよいだけの話です。我々は、今般の不祥事を踏まえて、財政を担う組織はどうあるべきなのかを真剣に議論しなければなりません。財務省は自ら猛省し、ガバナンスを改革する必要があります。(聞き手=本紙・小塚かおる)
▽たなか・ひであき 1960年東京都生まれ。85年東京工業大学大学院修了後、同年大蔵省(現財務省)入省。政策研究大学院大博士。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官などを経て、現職。専門は公共政策・財政・マネジメント、公務員制度など。著書に「日本の財政」(中公新書)などがある。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/229739/1

第一の記事で、 『内閣人事局の創設によって付け加えられた新たな権能、すなわち、この③が現在の議論の焦点であり、この「一元管理」なるものが、どれだけ官僚の心理と業務に影響を与えているか……だろう』、『各省庁の次官、財務省の主計局長や主税局長、外務省の総合外交政策局長や経済局長、厚生労働省の年金局長といった内閣の政策に直結するようなポストであれば、職務もわかるし、そこに誰が就任するかは大きな関心事項でもあろう。ここに「官邸の意向」が官僚人事に反映されてくる余地が生まれると考えられる』、なるほどである。
第二の記事で、『民間企業の活動はさまざまな意味で数値化されてパフォーマンスが測定できるようになっており、いかに権力者といえども、これを無視して人事を進めるのは難しいのである・・・しかし、官僚の世界では成果もコストも客観的に測ることは難しく、そうなると評価は「主観的」なものに近づかざるをえない』、というのは官民とも経験した筆者ならでは指摘で、説得力がある。『「カネ」を握っていたからこそ、財務省、あるいは旧大蔵省は「官庁の中の官庁」と呼ばれていたのだが、最近の財政事情では、このカネを使った権力の行使の余地は小さくなっている』、『「ヒト=人事を握る」ことの意味は昔と変わっていない。つまり、内閣への人事行政の集約化は、財務省と並ぶ、あるいは、それを凌駕するような権力の源泉を創り出したのに等しいのであるが、それにしては、現行の制度・仕組みは粗雑であると言わざるをえない』、『現在の第2次安倍晋三内閣は今年で6年目に入り、さらに自民党総裁としての3選も話題に上っている。そしてこれを支える菅義偉官房長官、杉田和博官房副長官も同じく6年目である。さらに言えば、最近なにかと辣腕ぶりが報道される今井尚哉政務担当秘書官も同様である。 各省の幹部官僚は、通常同一ポストの在任は長くて2年である。他方、これを統括する側の官邸の主要人物は、すべて就任6年目を迎える大ベテランばかりである。そうなると各省に対する官邸の影響力が強まるのは、必然とも言えよう』、などの鋭い指摘はさすがである。 『まずは内閣人事局長の任期を長くするべきではない・・・各省庁の幹部と同様、2年か長くても3年程度にすべきであろう』、というのはその通りだろう。『政府の中での特定ポストは、在職最長3年で異動という内規が定められている。それが、政府の中でも中枢になる内閣、首相近辺の職である官房副長官や首相秘書官、その他の枢要ポストに長い期間特定の官僚が留まれば、その影響力が半端なものではないことは容易に想像がつくためである』、ということは、現在はその内規が無視されていることなのだろうか。
第三の記事で、『役所は手続き重視の前例踏襲。マネジメントとは少ない資源でより良い結果を生み出すということですが、役所には、そうした概念はありません。それから、根本的には、内部統制という概念がなく、内部監査も不十分です』、というのは想像通りだ。ただ、聞き手が 『いわゆる危機管理がないのですね』、とまもめようとしたのはいささかピント外れだ。むしろ、「リスク管理がない」方が適切な気がする。 『一般の役所は「無謬性」といって、「間違えない」という前提なんです。だからリスクがなく、失敗もない、と。しかし、リスクを想定して、事前に対応を取る仕組みや体制は必要です』、というのはその通りだ。 『従来から幹部人事に官房長官等が関与する仕組みがあったのですが、それが過度になっています。ただ根本的な問題は公務員の任命制度にあります』、『公務員の政治化は、両者の区別がないことに起因しています。今の官邸主導の人事は、公務員をさらに政治化させています。公務員は忖度し、政治家に耳障りなことは言わないのです』、『資格任用を建前ではなく、実質的に強化し、政策立案において、中立的な分析や検討ができる仕組みに変えるべきです。そして、資格任用の公務員は、公募のように透明かつ競争的な任命プロセスで選ばれるようにする。政治的な調整は官邸や大臣の仕事であり、新しくつくった補佐官を活用すればいい』、『財務省は予算中心ではなく経済政策を担うべし』、などの指摘は説得力がある。筆者は理工系出身ながら、たぶん経済などで上級職の試験を通ったとは、大したものだ。今後も注目したい。
なお、今日の日経新聞夕刊では、「佐川氏が改ざん主導 財務省調査「国会の紛糾回避」」、「麻生氏、給与1年分返納 財務省、幹部ら20人処分へ」とのニュースが報じられたが、これは別途、森友問題で取上げるつもりである。
タグ:公務員制度 根本的な問題は公務員の任命制度にあります 各省庁の幹部と同様、2年か長くても3年程度にすべきであろう 「元財務省・田中秀明氏 官僚の「政治化」が生んだ忖度体質」 菅長官は適材適所と言っていますが、それは恣意的な人事と紙一重です。人事を握られているので、公務員は政治家に忖度します。今や幹部公務員は官邸のイエスマンとなりました 各省の幹部官僚は、通常同一ポストの在任は長くて2年である。他方、これを統括する側の官邸の主要人物は、すべて就任6年目を迎える大ベテランばかりである。そうなると各省に対する官邸の影響力が強まるのは、必然とも言えよう 省庁の次官、財務省の主計局長や主税局長、外務省の総合外交政策局長や経済局長、厚生労働省の年金局長といった内閣の政策に直結するようなポストであれば、職務もわかるし、そこに誰が就任するかは大きな関心事項でもあろう。ここに「官邸の意向」が官僚人事に反映されてくる余地が生まれると考えられる 一般の役所は「無謬性」といって、「間違えない」という前提なんです。だからリスクがなく、失敗もない、と。しかし、リスクを想定して、事前に対応を取る仕組みや体制は必要です 財務省は予算中心ではなく経済政策を担うべし 内閣人事局長の任期を長くするべきではない 専門家が育たず、政策立案・実施能力が高まりません。政治家や業界との調整ばかりで消耗し、優秀な人ほど若くして辞めてしまう 実際には、このうちの600名程度が、図に示した任用プロセスで内閣人事局の検討を経て発令が行われると言われている 今の官邸主導の人事は、公務員をさらに政治化させています。公務員は忖度し、政治家に耳障りなことは言わないのです 「「首相側近幹部」への権限集中が諸悪の根源だ 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<後編>」 2014年4月に安倍内閣下で国家公務員制度改革関連法案が可決 菅官房長官が、各省から出された人事案を差し替えたり、官邸に異論を唱えた幹部を左遷しているといわれています 政治任用と資格任用の区別が必要 現在の第2次安倍晋三内閣は今年で6年目に入り、さらに自民党総裁としての3選も話題に上っている。そしてこれを支える菅義偉官房長官、杉田和博官房副長官も同じく6年目である。さらに言えば、最近なにかと辣腕ぶりが報道される今井尚哉政務担当秘書官も同様である 総理の在任期間は最長でも4年であり、多くの場合2年から3年で総理は交代してきた 日刊ゲンダイ 民間企業の活動はさまざまな意味で数値化されてパフォーマンスが測定できるようになっており、いかに権力者といえども、これを無視して人事を進めるのは難しいのである 「ヒト=人事を握る」ことの意味は昔と変わっていない。つまり、内閣への人事行政の集約化は、財務省と並ぶ、あるいは、それを凌駕するような権力の源泉を創り出したのに等しいのであるが、それにしては、現行の制度・仕組みは粗雑であると言わざるをえない 指定職のポストの総数は約900弱 「カネ」を握っていたからこそ、財務省、あるいは旧大蔵省は「官庁の中の官庁」と呼ばれていたのだが、最近の財政事情では、このカネを使った権力の行使の余地は小さくなっている。財政支出の6割近くが、「社会保障費」と「債務償還」という裁量性のない支出で占められている状況で、財務省が振るえる権力の余地など限られているのである 官僚の世界では成果もコストも客観的に測ることは難しく、そうなると評価は「主観的」なものに近づかざるをえない 幹部職員人事の一元管理 安延 申 東洋経済オンライン 国の行政組織に関する行政 公務員の政治化は、両者の区別がないことに起因 国家公務員の人事行政 実際には、この「官邸協議」が、おそらく、最も官邸の影響力が発揮される場面であろう 適格性」は官邸で審査 内閣人事局の問題 役所は手続き重視の前例踏襲。マネジメントとは少ない資源でより良い結果を生み出すということですが、役所には、そうした概念はありません。それから、根本的には、内部統制という概念がなく、内部監査も不十分です 「エリート官僚のスキャンダルが続出する根因 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<前編>」 各省庁の課長職以上の4分の1、部長・審議官の3分の1、そして局長以上の2分の1は他省庁採用者から任用するといったルールを定めれば良い。そうすれば、自省庁の省益をいくら追及しても、その人が次にどの役所で幹部になるのかわからない訳だから、天下り問題を含め、過度の省益追求にはブレーキがかかる (その2)(エリート官僚のスキャンダルが続出する根因 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<前編>、「首相側近幹部」への権限集中が諸悪の根源だ 内閣人事局の「課題」と「処方箋」<後編>、元財務省・田中秀明氏 官僚の「政治化」が生んだ忖度体質)
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情報セキュリティー・サイバー犯罪(その4)(アップルの従業員が逮捕される理由、麻薬・銃器売買からサイバー攻撃代行まで 「ダークウェブ」の実態、日本人はダークウェブの危難をわかってない いつ日本企業が狙われてもおかしくない) [科学技術]

情報セキュリティー・サイバー犯罪については、1月7日に取上げた。今日は、(その4)(アップルの従業員が逮捕される理由、麻薬・銃器売買からサイバー攻撃代行まで 「ダークウェブ」の実態、日本人はダークウェブの危難をわかってない いつ日本企業が狙われてもおかしくない)である。

先ずは、未来調達研究所取締役の牧野 直哉氏が4月25日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「アップルの従業員が逮捕される理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米アップルが社員に対して情報管理の徹底を呼びかけているブログの内容がリークされた。リークの内容を読むと、29人の社員が情報漏えいをしたことが判明し、12人が逮捕されたとある。逮捕された人の中には、アップルの社員だけではなく、サプライヤーの従業員も含まれているとされる。
・情報管理の重要性は、いまさら強調する話でもない。しかし、アップルがこのタイミングで社員のみならずサプライチェーン上の関係者を含め、厳しく対処する姿勢を明らかにした背景は2つある。社内だけではなく、サプライチェーンに存在するサプライヤーを含めた情報管理の必要性の喚起と、アップルがこれまで徹底活用し効果を生んできた情報管理の重要性を、改めて社員に徹底する狙いが読み取れる。
▽問題の背景
・アップルの製品情報は、世界中の衆目を集めている。そんな市場における類いまれな評価を、アップルは徹底的に活用して自社製品やサービスを拡大してきた。事実、新製品情報を効果的に公開して、注目を浴びてきた。初めて世に「iPhone」を紹介したスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションを覚えている方も多いだろう。世界に衝撃を与える発表手法は、アップルの強さの源泉でもある。
・しかし、昨今では新製品に関するさまざまな情報が、正式発表前にリークされている。リーク情報には、新製品の外観やディスプレーの大きさ、搭載される新たな機能まで多岐にわたる内容が含まれている。こういったアップルが意図しない情報リークは、発表会の価値を減少させ、消費者にとって発表会の価値を変節させてしまっている。正式発表会は、事前にリークされた情報の確認の場と化しており、従来の驚きや感動が少なくなってしまったのだ。「えっ?!」と驚くよりも、「やっぱり」と予定調和でうなずく場になってしまったのだ。
・こういった変化は、アップルにとって大きな痛手である。消費者をワクワクさせ新鮮な価値を提供し続けるためには、新製品に関する徹底した情報管理、発表する方法へのこだわりが欠かせない。自社発表の注目度をアップさせ、過去と同じようなワクワクする期待を消費者に抱かせるために今回の処置が必要だったのである。
▽企業における情報管理のポイント
・企業における情報管理のポイントは、情報の「保持」、「公開」そして「共有」。それぞれで狙った効果を創出しなくてはならない。情報によって、公開する方法と範囲、タイミングをコントロールするのだ。
・まず情報の「保持」。自社の競争優位に欠かせない新たな企画や開発に関連する情報は、関係者だけに保って流通させなければならない。公開できない内容は、情報にアクセスできる人間を限定する管理が必要だ。筆者は一度だけアップル本社を訪問した。ドアを入った瞬間、屈強な男性から「用件は?」と声をかけられ、部外者の侵入を許さない厳格な管理を目の当たりにした。この点の管理レベルの高さを示している。
・企画や開発に携わる部門や担当者であれば、情報の秘匿への意識は高いであろう。新たな企画や開発の結果が市場に投入され成功すれば、得られるメリットもあり、情報を流出させる可能性は低い。
・続いて「公開」だ。製品やサービスを投入する市場に驚きや感動を生むために、社内で保持していた情報を広めるのが目的だ。アップルの「公開」方法は、極めて優れていた。消費者に期待を抱かせ、いまかいまかと待ち望む消費者を裏切らない商品を発表してきたのも事実だ。今回の情報漏えい防止の社内喚起は、この効果を再び取り戻したい気持ちの表れと言える。
・最後の「共有」とは、社内の関連部門やサプライヤーが、事業展開の目的を達成するために、足並みをそろえるアクションの「同期」が目的だ。比較的関係者が多く、収益をあげるために欠かせない。このプロセスでは、従来機密扱いだった情報が、関係者に公開される。この段階における情報管理のリスクは、大きく2つに分類される。
▽情報共有時の対処
・まず今回の社内喚起は、公権力による逮捕といった例を引き合いに、従業員やサプライチェーンに関係する人々による「意図した情報流出の防止」を狙っている。解雇され罪を問われる事態になる事実を公開し、情報流失に歯止めをかける狙いだ。機密情報の保持は、アップルにとって永続的な企業利益に直結しており、個人的に伝えたい、知らない人に話したいといった気持ちを思いとどめ、社外からの情報提供に応じない意識の確立を目指している。
・流出した文章には、具体的なSNS名を列挙して、情報提供のアプローチ例が示されている。誰もが知っておりアカウントを持っている可能性が高いSNSばかりだ。こういった具体例によって、他人事ではなく、今回の問題が従業員やサプライチェーンに携わるすべての人に関係する警鐘となっている。
▽意図しない流出の防止
・もう一つ、実はアップルのサプライチェーンに関係する日本企業がもっとも注意しなければならないポイントがある。サイバーセキュリティーの問題だ。サプライチェーン上で効率を追求するためには、サプライチェーンに参加するすべての企業がWebを活用したデータ共有によって高い効率の実現が必要だ。これは同時に、インターネット上のセキュリティー確保を行わなければ、発注企業で高いセキュリティーを実現しても、サプライチェーンのどこかから情報が流出する新たなリスクの可能性を生んでしまう。
・現在、日本では政府主導の「働き方改革」によって、生産性の向上が喫緊の課題だ。特に事務部門の効率化が叫ばれている。事務部門は、情報を受け、内容を理解し、処理・展開するのが仕事だ。これはどんな企業であっても、そう大きくは違わないだろう。事務部門の効率化には、インターネットを活用したデータの送受信や処理が効果的である。国内でも効率化に向けた動きはさらに加速していくだろう。この加速が、新たなリスクを生む要因になるのだ。
・社内やサプライヤーの従業員の口は教育によって閉じられても、情報流通の仕組みに脆弱性が残れば、リスクをぬぐい去ることができない。脆弱性を残したままで電子データのやりとりをWeb上で行えば、意図しない情報流出や漏えいのリスクが高まってしまう。情報流出を防ぐためには、情報を取り扱うハードのセキュリティーレベルの管理が欠かせないのだ。
・現在、世界的にサイバー攻撃によるリスクが高まっているといわれる。IoTによって、あらゆるものがインターネットに接続されれば、それだけ攻撃対象の増加を意味する。しかし、経済的損失の観点から見れば、企業間で流通する情報の方が、より大きな価値を持つはずだ。特に好調な業績を維持してきた、アップルのような企業の情報は価値があるだろう。
・今回のアップルから流出した文書の内容は、サプライチェーンにおける情報流出の可能性の中で、人為的な側面を指摘したにすぎない。しかし、インターネット上を行き交う情報は、人間の意図がなくても脆弱性を突いて情報が流出する可能性は否めない。すでにアップルのような企業では対策が施されているかもしれないが、果たしてサプライヤーはどうだろうか。今回の問題は、ほぼすべての企業が活用している、サプライヤー管理に新たな課題を示しているといってよい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/258308/042400132/?P=1&prvArw

次に、5月23日付けダイヤモンド・オンライン「麻薬・銃器売買からサイバー攻撃代行まで、「ダークウェブ」の実態」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・通常のネット検索ではたどり着くことができないサイバー空間「ダークウェブ」。先のコインチェック不正送金事件を含め、ここ近年でよく耳にするワードだが、この空間では、どんな違法ビジネスが行われているのか。『闇ウェブ』(文藝春秋)の著者で、株式会社スプラウトの代表である高野聖玄氏に聞いた。
▽普段、我々が閲覧しているネット情報はわずか1%
・ダークウェブでは、さまざまな違法取引が横行しています。麻薬や銃、児童ポルノといった違法な商品のみならず、「サイバー攻撃代行」サービスまで売られているダークウェブ。個人情報も安価に取引されている
・「私や家族の情報もすべて漏れた」こう憤ったのは、2015年当時、FBI(アメリカ連邦捜査局)長官だったジェームズ・コミー氏。OPM(アメリカ連邦人事管理局)がハッカーからの攻撃を受け、同国政府職員の個人情報が2000万件も流出した事件での一コマである。
・日本でも同様の事件は後を絶たない。報道によれば、眼鏡チェーン「JINS」やTOKYO MX、Facebookといった大手企業だけでなく、東京都などの自治体までが個人情報流出の被害に遭っており、その数は17年だけで308万件にも上るという。 先進国であるはずの日本やアメリカでさえ、サイバー空間では個人情報すら守れない時代なのだ。そして、これらの盗まれた個人情報は、しばしば「ダークウェブ」で売買される。
・通常、インターネットを使う場合、「Google Chrome」や「Internet Explorer」といったウェブブラウザを起動し、「Yahoo!」や「Google」など検索エンジンを用いる。 しかし、こういった手段で普通にたどり着けるようなサイトは、実はネット空間のわずか1%程度に過ぎず、残る99%は「ディープウェブ」と呼ばれている。個人の「Gmail」ボックスや「Twitter」の非公開ページなど、第三者が勝手にアクセスできないコンテンツがこれに当たる。 そして、このディープウェブのさらに深いところにダークウェブは存在するのだ。
▽犯罪のデパートに国や企業は手だてなし
・「ダークウェブでは、独裁政権下でレジスタンス中の政治家やジャーナリストといった人たちに加え、テロリスト、ハッカー、犯罪者なども活動しています。このサイバー空間は、非常に匿名性と秘匿性が高く、取引も現金ではなく、足が着きにくい仮想通貨で行われることが多いので、世界中の警察や政府も手を焼いている状況です」(高野氏、以下同)
・アクセスする方法は簡単だ。これは一例だが、「Tor Browser」という特殊なブラウザをインストールし、その先のネット空間にアクセスすると、そこにしか表示されないサイトが膨大に存在する。 サイト群の中には、一見、「Amazon」や「2ちゃんねる」と似通ったサービスもあるが、そこで取引されているのは、麻薬、銃、児童ポルノ、個人情報、サイバー攻撃代行など法的に“アウト”なものばかりだ。
・全体的に見ると日本語対応されたサービスはまだ少ないようだが、こうした世界的な流れの一方で15年、日本でもサイバーセキュリティ基本法が施行され、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が発足した。 しかし、その体制は必ずしも十分とはいえないようだ。その理由の1つとして、高野氏はこう指摘する。
・「頻発するサイバー攻撃が、国家的な意思によるものなのか、個人の私欲なのか、判断しづらいこともあり、政府も全方位的にはなかなか対応できていない状況です。ここ近年は着々とサイバーセキュリティー人材も育ってきていますが、それでもまだ足りておらず、政府はどの分野に重点を置くか、難しい判断を迫られているのだと思います」
・NISCは、サイバー犯罪から国家や企業を守る技術者を育成すべく、新たに国家資格を設け、20年までに3万人の有資格者を確保するとしているが、果たして実現できるかは不透明だ。 一方、企業ではセキュリティー会社を使って情報漏洩対策に取り組む大手も増えているが、中小レベルではまだその意識は薄いといえる。
▽たった5ドルでサイバー攻撃を代行
・ダークウェブには、依頼を受けて犯罪行為を代行するサービスも多数存在する。「ある特定のサーバーをダウンさせるようなDDoS攻撃を仕掛けたり、データを盗むとうたうサービスがたくさんあります。昔は技術力のある悪いハッカーでなければできなかったことが、闇市場の拡大によって、今では学生であろうが、多少の知識さえあれば誰でも手軽にできるようになりました」
・ダークウェブ上のあるサイトでは、「1秒間に125GBのDDoS攻撃を600秒間」行うサービスを、たったの5ドル(支払いは仮想通貨)で請け負っている。DDoS攻撃とは、ターゲットのサーバーに大量のデータを送りつけ、機能を低下・麻痺させる手法のことだ。
・また、同様に個人情報の取引額もお手頃だ。「一概には言えませんが、データブローカーが、出会い系サイトの運営者に、氏名、年齢、住所、性別、メールアドレスなどの名簿を売る際、その取引額は1件につき、1~5円程度という話もあります」
・我々の個人情報がそれほどの安価で売られているとは、いささか悲しくなるが、その中で最も危惧すべきは、個人の医療データだという。医療情報があれば、サイバー犯罪者は、よりピンポイントで個人を狙い撃ちできるからだ。
・例えばかかりつけの医師を装ったメールアドレスから「○○さんの体調が心配なので、ご連絡しました」とメッセージが届き、そこに「食事の注意.xls」というExcelファイルが添付されていた場合、うっかり開くとウイルスに感染してしまうようなこともありえるだろう。 また、例えばアメリカなどでは、医療カルテには、髪や目の色、体格まで記載されていることも多いので、身体的特徴やDNAに関する情報まで筒抜けになってしまい、用途によっては「なりすまし」も容易にできてしまうのだ。
▽リアルの金融機関より仮想通貨交換業者が狙われる
・医療機関だけではなく、金融機関や仮想通貨交換業者も狙われている。一昔前は、ネットバンキング口座から現金が不正に引き出される被害が目立ったが、ここ最近、その矛先は仮想通貨に向けられているという。 今年1月、仮想通貨交換業者「コインチェック」から、580億円相当の仮想通貨NEMが流出し、それらはダークウェブ上で洗浄された後、全額が第三者に渡ってしまった。
・「この事件で、一層ダークウェブに注目が集まったと思います。中には摘発されている事例もあるのですが、犯罪者たちには足がつかないイメージを与えてしまったのではないでしょうか。今後もこういった犯罪は増えていくと予測しています」
・日本に限らず、今や世界中が、ダークウェブ上の犯罪に右往左往している。お上の力が及ばない以上、企業はどのような対策を講じればいいのだろうか。「企業がダークウェブ対策まで自前でやるとなると技術的にも費用的にも大変なので、外部のセキュリティー会社を使うのが現実的だと思います。まずは犯罪者たちが、自分たちが持っているどんな情報に興味があるのか、既に情報が外に漏れている可能性はないかといった、自社が置かれている状況を把握するところから始めるのがいいでしょう。あとは、セキュリティ会社と一緒にそういったリスクアセスメントを行うチームを社内に作ることをお勧めしたいですね」
・念のため忠告しておくと、もしネットリテラシーに自信がないのなら、間違っても安易にダークウェブにアクセスしようなどとは思わないほうがいい。会社のパソコンをウイルスに感染させ、上司にどやされた筆者から、僭越ながらの忠告である。
https://diamond.jp/articles/-/170674

第三に、セールスフォース・ドットコム シニアビジネスコンサルタント / エバンジェリスト の熊村 剛輔氏が5月31日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人はダークウェブの危難をわかってない いつ日本企業が狙われてもおかしくない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・昨年頃からサイバー犯罪に関係するニュースに「ダークウェブ(闇ウェブ)」という言葉をよく目にするようになった。それだけではなく、今や「相棒」(テレビ朝日系)などテレビドラマにまでダークウェブが登場している。
・最近になって急にダークウェブが語られるようになったのは、仮想通貨の影響が大きい。たとえば今年1月に仮想通貨業者である「コインチェック」から580億円相当の仮想通貨「NEM」が流出したが、この事件に関する報道においてもダークウェブが頻繁に語られていた。その理由は、犯人と思われる人物が盗んだ通貨をダークウェブで別の仮想通貨に交換していたと見られているからだ。
▽「ダークウェブ」とはいったい何か?
・では、このダークウェブとはいったいどういうものだろう。ダークウェブはよく「闇サイト」と混同されるが、まったく別のものである。 闇サイトはインターネットエクスプローラーやクロームのようなブラウザで閲覧可能でヤフーやグーグルといった検索エンジンなどでも参照できる「サーフェスウェブ」や、検索エンジンにはヒットしないが、ブラウザでアクセスできる「ディープウェブ」の中に存在しており、犯罪などの違法性の高い情報が掲載されたサイトを指す。
・一方のダークウェブとは、「匿名性を維持した通信が可能なネットワーク上で、自身を匿名化する特定のブラウザを用いて接続しないかぎり閲覧できないサイトなどが集まったネットワーク空間」のことを指す。これらのサイトは、サーバーの運営元などを特定することが非常に困難で、そもそもブラウザで閲覧することができない。また、検索エンジンで探し出すこともできない。いわばアンダーグラウンドなサイバー空間だ。
・そのためダークウェブは、違法取引やサイバー犯罪の温床となっている。ある調査によれば、ダークウェブ上に存在しているサイトの半数以上で何らかの違法取引が行われているという。たとえば薬物や武器、(盗まれた)クレジットカード番号やパスポートなどの売買だ。つい先日も、日本人の個人情報約2億件が中国語のダークウェブで販売されていたと報道された。こういった取引の決済手段として、(クレジットカードなどから素性が明らかになることを避けるために)仮想通貨が用いられている。
・これだけ見るとダークウェブは非常に閉ざされた空間であり、なかなかアクセスできない世界であるように感じられる。しかし実は、中に足を踏み入れること自体はそれほど難しくはない。利用者の素性と通信経路を隠すことができる「Tor(トーア)」や「I2P(アイツーピー)」と呼ばれるソフトウエアを用いることで、誰でもアクセスは可能になる。
・もともと方法さえわかっていれば、誰でもアクセス可能だったダークウェブ。そこに仮想通貨の認知が徐々に高まってきたことやサイバー犯罪がこれまで以上に大きく報じられるようになったことで、最近では初心者が興味本位でダークウェブの世界に入り始めているとも言われている。つまり、それだけダークウェブというものが多くの人に浸透し始めてきたということだ。
▽企業に与える影響は「情報漏洩」や「風評被害」がメイン
・ダークウェブのインパクトはビジネスの世界においても無視できないものになりつつある。もはやどの企業も「ウチは関係ない」とは言い切れない状況にあると言ってもいい。 昨年、米国のサイバーセキュリティ関連企業が発表したデータによれば、2017年度版の米フォーチュン500にリストされている企業(日本からはトヨタ自動車やホンダ、日本郵政、NTTなどがランクイン)はすべて何らかの形でダークウェブ上で言及がなされていると言われている。特に数多く言及されているのがテクノロジー系企業であるというのは想像に難くないが、金融企業やメディア、航空会社、流通小売企業など、幅広い業界、業種で言及がなされている。
・もちろんダークウェブ上で語られているからといって、それがそのまま何らかの危害に直結するわけではない。だが、ビジネスにインパクトを与える可能性のあるリスク要因であることは間違いない。ダークウェブ上で頻繁に語られているということは、それだけサイバー攻撃の標的にされる危険性も高いと考えられるし、情報漏洩や風評被害などの被害に発展する可能性も大いにある。
・実際、ダークウェブ上では世界規模のサイバー攻撃に用いられるようなマルウェア(不正かつ有害な動作を行うウイルスなど)が非常に多くやり取りされている。こういったマルウェアは世界中のハッカーたちの手によって日々改良が重ねられ、その攻撃力も増している。ダークウェブがハッカーたちの共同の制作環境になっている。
・このようなハッカーたちの活動は、マルウェアの制作や改良だけにとどまらない。今はダークウェブ上でサイバー攻撃の依頼を受け、ダークウェブを通じてメンバーを集め、依頼主から成功報酬を仮想通貨で受け取るようなことも行われているという。これは”HaaS(Hacking as a Serviceの略)”と呼ばれており、いわば制作から攻撃までを請け負う「サイバー攻撃のパッケージサービス」のようなものだ。
▽廃棄したパソコンから情報が漏洩するリスクも
・近年、ダークウェブではその取引でやり取りされるものにも変化が見え始めている。これまでよく取引がなされていた薬物や武器だけではなく、企業に関する機密情報が増えてきた。たとえば社員の個人情報や企業内でやり取りされるメールやファイル類などだ。これらのファイル類には経営幹部の会議に用いられるような機密が満載された資料なども少なくない。場合によっては企業の財務情報や取引先との契約書、さらには資金のやり取り、不正行為の隠蔽工作に関する文書やメールなどもやり取りされるケースがある。
・今や機密データが漏洩する原因はサイバー攻撃だけではない。むしろ最近になってダークウェブ上で多くやり取りされているのは企業が廃棄したパソコンから復旧されたデータだ。たとえば企業が廃棄したはずのパソコンが中古パソコン店などに流れ、それを購入した人が何らかの手でデータを復旧させ、それをダークウェブで販売しているようなケースである。あるいは、小遣い稼ぎや(リストラなどの)意趣返しを目的に意図的に機密データを盗み出し、ダークウェブ上のマーケットで売りさばくようなケースも少なくない。
・もともと特別に高いスキルや設備を要求されることもなく、誰でもアクセスできるうえに、その存在自体が徐々に広く知られるようになってきたことで、ダークウェブ上にこういった新たなマーケットが生まれるようになってきた。今後企業は今まで以上に、オンライン上の“脅威”に対して自衛していくことが必要になってくるだろう。
・自衛とは単にこれまでのように自社のシステムの防御を強固にするということだけではない。社員一人ひとりが情報セキュリティに対するリテラシーを高めることが必要だ。個人が興味本位でダークウェブに足を踏み入れることでリスクが増大している今、企業は、まずダークウェブ上でアンダーグラウンドな取引に手を染めるということ自体が違法であり、処分の対象になるということを周知する必要がある。
・さらにダークウェブからもたらされる脅威に対して“受け身”の対応だけではなく、自発的に動いていくことも求められる。そのためにはダークウェブ上で何が今起こっているかをきちんと把握し、次に自分たちにどういった危機が降り掛かってくるかを予測する仕組みが必要だ。実際にそういったサービスを提供する事業者も昨今拡大するニーズに伴い増えてきている。
・このようなダークウェブ上の(簡単には気づかれない)情報のやり取りを早い段階で察知することで、たとえば“HaaS”を利用したサイバー攻撃だけではなく、爆破予告や殺人予告、あるいは風評被害や名誉毀損を引き起こすような事案の抑止にもつながる。
・ダークウェブで行われていることは、もはや「知らない」では済まされない。企業にとって自分たちを守るためにも、その存在を認識し、きちんとしたアクションを取る必要があるのだ。
https://toyokeizai.net/articles/-/222841

第一の記事は、『世界に衝撃を与える発表手法は、アップルの強さの源泉でもある』、というアップルならではの情報管理の厳しさを背景にしたもので、そんなブランド力やマーケティング力がない殆どの日本企業にとっては、縁遠いことかも知れないが、サプライ・チェーン間での情報共有自体は広がっているので、『今回の問題は、ほぼすべての企業が活用している、サプライヤー管理に新たな課題を示しているといってよい』、というのはその通りだろう。
第二の記事で、『普通にたどり着けるようなサイトは、実はネット空間のわずか1%程度に過ぎず、残る99%は「ディープウェブ」と呼ばれている・・・このディープウェブのさらに深いところにダークウェブは存在するのだ』、とあるが、ディープウェブのうちどの程度がダークウェブなのかまで記してないのが、若干残念だ。 『たった5ドルでサイバー攻撃を代行』、というのはここまできたかと、改めて驚かされた。
第三の記事で、「闇サイト」、「サーフェスウェブ」、「ディープウェブ」、「ダークウェブ」の違いがよく理解できた。ただ、ディープウェブのうちどの程度がダークウェブなのか、についてはここでも触れてない。『最近では初心者が興味本位でダークウェブの世界に入り始めているとも言われている』、ということであれば、そうした初心者を対象にした犯罪も起こる懸念があろう。『”HaaS(Hacking as a Serviceの略)”と呼ばれており、いわば制作から攻撃までを請け負う「サイバー攻撃のパッケージサービス」のようなものだ』、いやはや、こんな商売まで登場したとは、人間とは抜け目ないものだ。『最近になってダークウェブ上で多くやり取りされているのは企業が廃棄したパソコンから復旧されたデータだ』、廃棄する際にかなり厳重なデータの消去を行っても、復元されてしまうということなのだろうか。企業にとって、『“受け身”の対応だけではなく、自発的に動いていくことも求められる』、というのはその通りなのだろう。大変な時代になったものだ。
タグ:過去と同じようなワクワクする期待を消費者に抱かせるために今回の処置が必要だったのである 正式発表会は、事前にリークされた情報の確認の場と化しており、従来の驚きや感動が少なくなってしまったのだ 世界に衝撃を与える発表手法は、アップルの強さの源泉でもある 逮捕された人の中には、アップルの社員だけではなく、サプライヤーの従業員も含まれているとされる 29人の社員が情報漏えいをしたことが判明し、12人が逮捕 「アップルの従業員が逮捕される理由」 日経ビジネスオンライン 牧野 直哉 (その4)(アップルの従業員が逮捕される理由、麻薬・銃器売買からサイバー攻撃代行まで 「ダークウェブ」の実態、日本人はダークウェブの危難をわかってない いつ日本企業が狙われてもおかしくない) サイバー犯罪 情報セキュリティー 脅威に対して“受け身”の対応だけではなく、自発的に動いていくことも求められる 最近になってダークウェブ上で多くやり取りされているのは企業が廃棄したパソコンから復旧されたデータだ 企業に関する機密情報が増えてきた ”HaaS(Hacking as a Serviceの略)”と呼ばれており、いわば制作から攻撃までを請け負う「サイバー攻撃のパッケージサービス」のようなものだ 企業に与える影響は「情報漏洩」や「風評被害」がメイン 最近では初心者が興味本位でダークウェブの世界に入り始めているとも言われている 仮想通貨が用いられている 取引の決済手段として ダークウェブ上に存在しているサイトの半数以上で何らかの違法取引が行われている 違法取引やサイバー犯罪の温床 匿名性を維持した通信が可能なネットワーク上で、自身を匿名化する特定のブラウザを用いて接続しないかぎり閲覧できないサイトなどが集まったネットワーク空間 ダークウェブ 「ディープウェブ」 「サーフェスウェブ」 闇サイト ダークウェブで別の仮想通貨に交換 580億円相当の仮想通貨「NEM」が流出 コインチェック 「相棒」(テレビ朝日系)などテレビドラマ 「日本人はダークウェブの危難をわかってない いつ日本企業が狙われてもおかしくない」 東洋経済オンライン 熊村 剛輔 外部のセキュリティー会社を使うのが現実的 最も危惧すべきは、個人の医療データ たった5ドルでサイバー攻撃を代行 特殊なブラウザをインストールし、その先のネット空間にアクセスすると、そこにしか表示されないサイトが膨大に存在する Tor Browser ディープウェブのさらに深いところにダークウェブは存在 検索エンジンを用いる。 しかし、こういった手段で普通にたどり着けるようなサイトは、実はネット空間のわずか1%程度に過ぎず、残る99%は「ディープウェブ」と呼ばれている 「麻薬・銃器売買からサイバー攻撃代行まで、「ダークウェブ」の実態」 ダイヤモンド・オンライン 今回の問題は、ほぼすべての企業が活用している、サプライヤー管理に新たな課題を示しているといってよい 意図しない流出の防止 情報共有時の対処
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松山刑務所逃走事件(日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題、「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点) [社会]

今日は、松山刑務所逃走事件(日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題、「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点)を取上げよう。

先ずは、筑波大学教授(臨床心理学、犯罪心理学)の原田 隆之氏が5月12日付け現代ビジネスに寄稿した「日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題 「松山刑務所逃走事件」から見えたこと」を紹介しよう(▽は小見出し、注は省略)。
・「塀のない刑務所」として、1961年から受刑者の開放処遇を行ってきた松山刑務所大井造船作業場から、4月8日に平尾龍磨受刑者が逃走した。 単純逃走容疑で逮捕されるまでの23日間、受刑者から容疑者となった平尾容疑者が潜伏しているとみられていた広島県尾道市の向島の住民は、不安な夜を過ごし、日常生活にも多大な影響が及んだ。平尾容疑者によるとみられる窃盗の被害も多数報告されている。
・上川陽子法務大臣は、容疑者逮捕後、すぐさま地元を訪れ住民に陳謝した。一方で、開放的施設の再犯防止効果の大きさを強調し、理解を求めている。法務省も開放的施設の更生効果を強調しつつ、再発防止策などに追われている。
▽そもそも「開放処遇」とは何か?
・全国にこのような開放処遇を実施している刑務所は複数ある。 大井造船作業場は、松山刑務所管轄の施設ではあるが、松山刑務所の本所とは地理的にも大きく離れた民間の造船会社の敷地内にあり、全国から選ばれた受刑者が会社の従業員とともに造船作業に従事している。つまり、民間会社の手厚い協力の下、更生と社会復帰に向けての処遇がなされているのである。
・選抜される条件はかなり厳しく、刑務所初入であること、犯罪傾向が進んでいないこと、心身に大きな障害がないこと、高い更生意欲が認められること、身元引受人がいること、犯罪組織加入歴がないこと、薬物使用歴や入れ墨がないこと、などである。
・また、処遇の内容は異なるが、千葉県の市原刑務所もわが国を代表する開放施設である。ここはいわゆる「交通刑務所」として知られ、交通死亡事故などを犯した受刑者を収容している。 いわば、刑務所のなかでも一番一般人に近い人々を収容する施設であり、その性格上、開放処遇になじみやすいと言える。 ここでは、居住棟の入り口は施錠されるが、受刑者の各居室には鍵がない造りになっていたり、面会も仕切り板のない部屋でできるようになっていたりする。
・意外なところでは、網走刑務所も開放処遇を行っている。網走刑務所と言えば、「網走番外地」など映画のイメージから、極道の入る恐ろしい施設だと思われがちであるが、選ばれた受刑者が施設内の農場で開放的な処遇を受けている。
・網走刑務所を訪れて驚くのは、その施設の広大さで、何と東京都新宿区と同じくらいの敷地面積がある。施設内の水路には、毎年何百匹もの鮭が遡上する。刑務所敷地のほとんどが農場や山林であり、そこで開放的な刑務作業に従事する受刑者がいる。
・網走刑務所で処遇されるのは、大井造船作業場や市原刑務所と異なり、累犯、つまり刑務所に入るのが2度目以上の受刑者であり、比較的犯罪傾向が進んだ者たちである。その中から、逃走のおそれがなく、更生意欲の高い者たちだけが開放処遇の対象となる。
・私自身、東京拘置所に心理技官として勤務していた時代、これら受刑者の分類に携わっていた。なかでも、大井や網走に移送する者たちの選抜には、とても苦労した記憶がある。
・そもそも、受刑者というのは、当然悪いことをして刑務所に入っている。日本では、毎年刑法犯が200万件、特別法犯が50万件弱起こっている。 そのうち、受刑に至るのは約2万人である。単純に計算すれば、刑務所に入るのは犯罪者のなかのわずか1%足らずであり、悪い意味で「選ばれた者たち」である。 したがって、開放処遇対象者の選抜とは、言葉は悪いが、「悪人のなかから善人を選ぶ」という矛盾した作業であるから、その困難さはご想像いただけるであろう。
▽容疑者はどんな人物なのか?
・ところで、この事件の報道を受けて、私が疑問に思った点は、なぜ平尾容疑者が開放処遇の対象者として選ばれたのか、という点である。 報道によれば、容疑者は、これまで120件を超える多くの窃盗事犯を起こしていたとのことで、職業的な犯罪者であると言っても過言ではない。
・脱走後も検問をかいくぐって長期間にわたり逃走を続け、その間、報道によれば、窃盗を繰り返している。 本土に泳いで逃げてからは、盗んだバイクで移動したり、他人名義の身分証でネットカフェに入店したりと、相当手慣れた様子で犯罪を繰り返している。また、以前の犯罪で逮捕された際にも逃走したというエピソードが報じられている。
・おそらく、一見素直で従順な性格だったのだろう。更生意欲についても、言葉巧みに述べていたのかもしれない。しかし、彼の従前の犯行の態様や逮捕時の逃走のエピソードを知れば、開放処遇には不適格であると考えざるを得ない。
・また、これもあくまでも報道されたことに過ぎないが、逃走の直前に仲の良い妹が大ケガをしたという内容の手紙を受け取って、心情不安定になっていたという。これが事実ならば、一時的に開放施設から引き揚げて、松山刑務所の本所に戻して収容することもできたかもしれない。
▽昨今の刑務所事情:受刑者人口の減少
・ここで想像するに、最近の受刑者人口減少の折、開放処遇の条件にぴったりと当てはまる適格者が少なくなっているのではないかということである。 わが国では、かれこれ10年以上、犯罪発生件数が減少の一途をたどり、刑務所収容人員もそれにつれて減少している。先ほど、刑務所に入るのは2万人と述べたが、10年前は3万人を超えていた。 犯罪発生件数や刑務所人口の減少は、望ましいことであるが、一方で「再犯者率」が増えているという問題もある。
・これは、メディアでたびたび報じられ、警鐘が鳴らされることがある。ただその場合、「再犯者率」を「再犯率」と混同していることが非常に多い。 これらは、言葉は似ていてもまったく異なった概念である。「再犯者率」とは、事件を犯した者のうち、再犯者が占める割合のことである。一方の「再犯率」は、かつて事件を犯した者が、再び事件を犯す割合のことである。
・再犯率が高くなっているのであれば、それは刑事司法制度が機能していないことの証拠であり、憂慮すべき事態である。しかし、データを見る限り刑務所出所者の再犯率は横ばいか微減傾向にあり、決して増加はしていない。
・一方、再犯者率は増加の一途であるが、現在の日本の状況に照らせば、当たり前であり、望ましい数字であるとも言える。 世の中には、どの社会にも、どの時代にも、犯罪を繰り返す者が一定数いる。海外の研究で繰り返し報告されている知見によれば,世の中の犯罪の過半数は,人口で言うと数%程度の慢性的犯罪者によるものだということがわかっている。彼らはいわば,「コアな犯罪者」である。
・一方、経済状況が悪化したときや、社会の混乱時などには、そのような社会状況に影響を受けた機会的、偶発的な犯罪者が増加する。わが国の場合、終戦直後、高度成長期、バブル崩壊時などが、これに当たる。
・先述したとおり、ここ10年以上犯罪は減少傾向にあり、このような機会的犯罪者が減少している。すると、社会情勢がどうであれ常に犯罪を行う「コアな犯罪者」が残り、彼らが犯罪を繰り返しているのであるから、再犯者率は増加する。
・このような状況のなか、当然、開放処遇に適する受刑者は減少しているはずである。そのため、少々無理をして、あるいはハードルを下げて、今回の容疑者のような者を選ばざるを得なくなっているのであれば、再度基準を厳格にとらえ直すべきであろう。
▽もう1つの刑務所事情:刑務所内引きこもり
・平尾容疑者が逮捕後、明らかにした点として、刑務所でのいじめなど対人関係上の問題が逃走の原因であるという。 実はここしばらく日本の刑務所が頭を抱える問題は、逃走や暴動など、欧米の刑務所を悩ませている問題とは大きく異なっている。
・日本の刑務所特有の問題は、「刑務所内引きこもり」とも言える現象である。受刑者同士の対人関係のいざこざや、他の受刑者からのいじめなどから、刑務作業を拒否して、「自室」に引きこもってしまう受刑者が数多くいる。
・その原因としてはいくつか考えられるが、第1に、問題を「内面化」して、内にため込みやすい国民性が挙げられるだろう。ケンカや暴動に発展しない反面、問題をため込んで引きこもってしまうのである。
・第2に、わが国の刑務所は、他国の刑務所と比べて、受刑者同士、職員と受刑者の対人関係が密接であることが考えられる。 例えば、わが国の刑務所には俗に「雑居房」と呼ばれる集団室が多く、集団生活の場が格段に多い。また、刑務作業として、毎日の大半を共同作業に従事している。
・ハリウッド映画などに出てくる海外の刑務所を見てもわかるように、受刑者は個室で生活しているし、昼間も特段の作業に従事せず、グランドでキャッチボールや雑談に興じたりしている。 これも国民性の違いであるが、海外の刑務所関係者が一様に驚嘆の声を上げるほど、わが国の刑務所処遇は、諸外国とは大きく異なっている。
・第3に、わが国の刑務所は「規律維持」に大きな力が傾注され、ともすれば受刑者の一挙手一逃走を細かく規定するような非人間的な処遇にもつながってしまう。 集団生活が多く、受刑者同士の接触が多いという特色上、ケンカや暴動などに発展しないように、規律の維持は重要であるが、厳しい締めつけは、不適応者を生む土壌ともなってしまう。
・このような背景は、もちろん良い面もあるし、海外の刑務所が見習うべき点も少なくないが、一方で、それらが裏目に出たり、行き過ぎたりして、集団生活になじめず、個室に閉じこもってしまう者が出てくるわけである。 刑務所ではこれを「作業拒否」と呼んでおり、規律違反行為である。私も刑務所での勤務時に、多くの作業拒否受刑者と面接をしたことがある。
・最初は、刑務所処遇に反抗して、作業を拒否しているのかと思ったものだが、面接してわかったことは、彼らは繊細で小心な者ばかりで、刑務所内での対人関係に耐えかねて、引きこもってしまっていたのである。
・通常の刑務所であれば、引きこもることもできたかもしれないが、皮肉なことに開放処遇の施設では、それもできない。平尾容疑者は、内に逃げることができずに、外に逃げるしかなかったのであろう。 一般の社会以上に人間関係が濃密になる刑務所、しかもそこで共同生活しているのは皆、犯罪者であるから、一筋縄ではいかない人々である。受刑者同士の人間関係のケアや「刑務所内引きこもり」対策は、非常に重要な課題である。
▽開放処遇をやめるべきでない理由
・平尾容疑者の事件を受けて、開放処遇を疑問視する意見が少なくない。しかし、理由はこのあと述べるが、私はその意見には反対である。また、GPS装置を装着させ、監視をしたうえで開放処遇をすればよいという意見もあるが、これにも賛成できない。
・「監視されているから逃げない」「罰を受けるから逃げない」という認知は、いかにも犯罪者的な認知であるし、単なる罰による脅しでしかない。 刑務所で教育すべきことは、犯罪者的認知を改め、「ルールを重視し、自主的にルールを守ること」であり、「逃げてはいけないから逃げない」「やってはならないことは、やらない」という規範の内面化を促進することである。 さらに、信頼関係や自律性を育むこととも重要であり、これらが開放処遇の真髄であるはずだ。
・では、開放処遇をなぜやめるべきでないか、その理由と意義は次のとおりである。 事件後、法務省が繰り返し強調したように、開放処遇は受刑者処遇のなかでも重要な意義がある。それは、再犯抑制効果の大きさである。 開放施設を退所した受刑者の刑務所再入率をみたとき、法務省発表のデータによれば、大井造船作業場は10%、市原刑務所は8%であり、全国平均の43%を大きく下回っている。
・もちろん、そもそも開放処遇適格者として選ばれた者の数字であるから、処遇如何を問わず、元々犯罪傾向が低かったためという見方もできるが、それでもこの数字は際立っている。 最近の犯罪心理学の研究データを見れば、最も再犯抑制効果が高いのは、刑務所などの施設処遇や刑罰のみに頼った場合ではなく、社会内で心理療法などの治療的介入を実施した場合であることがわかっている。
・同じ治療でも、閉じ込めて塀のなかで実施する場合と、社会内で実施する場合とでは、効果が大きく異なってくる3。 いくら自業自得とはいえ、刑務所に収容され、家族から見放されたり、仕事を解雇されたりすれば、釈放後、元の生活に戻ることはきわめて困難になる。そして、それがまた再犯に追いやってしまうことになる。
・法治国家である以上、犯罪者に対する刑罰の必要性を軽視するわけにはいかないが、社会から切り離してしまえば切り離してしまうほど、再犯リスクが増え、かえって社会への脅威となることを、われわれは知っておくべきであろう。 開放処遇は、施設処遇と社会内処遇の中間的な性格であり、いわばその両者のよいところを取った先進的な処遇であると言える。
・松山刑務所大井造船作業場の場合、50年余の歴史のなかで、逃走事件が20件に及ぶという。逃走があってはならないものであると考えると、この数は多いと言わざるを得ないし、一旦逃走が起きると今回のように周辺住民に多大な迷惑が及ぶことは事実である。
・一方、再犯の抑制というベネフィットを考慮したとき、このリスクをどれだけ許容できるか。そして、開放処遇の良さを生かしつつも、効果的な逃走防止策はあるか。それを今一度冷静に考えるべきであろう。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55621

次に、健康社会学者の河合 薫氏が5月8日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点 低い再入率を支える刑務官の優しさと厳しさ」を紹介しよう’▽は小見出し)。
・今回のテーマは「自首」、いや「自主」。 しょっぱなから、ギャグにもならないオヤジギャグ(オババギャグ? 笑)で申し訳ない。が、連休のリフレッシュな気持ちもつかの間、現実の“塀の中”で萎えそうになっている気持ちに喝を入れるべく、自主的に動く、ことについてアレコレ考えてみようと思った次第だ。
・「人間関係がイヤだった」との理由(本人説明)から、22日間の逃亡劇を演じた男が収容されていた松山刑務所大井造船作業場(愛媛県今治市)は、ご承知のとおり「塀のない刑務所」の異名をもつ開放的矯正施設である。
・その開設に尽力したのが、一代で造船・海洋を中心とした来島グループ(来島ドックグループ、180社を超える巨大企業群)を作り上げた坪内寿夫氏(故人)だ。坪内氏は誰もが匙(さじ)を投げるような倒産寸前の企業を、ことごとく引き受け、蘇らせた。 その手腕を強引すぎると批判する人もいるが、そこには「現場の従業員たちを路頭に迷わせたくない」との強い信念があった。
・1961年、坪内氏は来島ドックの大西工場(現:新来島どっく大西工場)を新設する際、松山刑務所の構外に泊まりこみ作業場として、木造平屋建ての大井作業場を開設。この更生保護事業が、現在の松山刑務所大井造船作業場の原点である。
・受刑者が収容されている鉄筋5階建ての寮舎(友愛寮)は出入り自由。部屋には鍵がなく、窓の鉄格子もない。刑務所の作業員は大西工場で一般従業員と一緒に働き、区別されているのはヘルメットの色のみ。作業のスキルアップに必要な資格取得の際には、一般従業員の上司から指導を受ける。
・休日には地域の海岸や神社、駅の周辺の溝、標識などの清掃活動にも積極的に参加し、受刑者たちで自治会を組織し受刑者を管理するシステムを取るなど、受刑者として厳しい規律を課せられる以外は、当人たちの自主性に任されている。
・61年の開設から2011年までに3547人の受刑者が就業し、そのうちおよそ7割の2517人が仮釈放され、8割が鉄工の仕事、2割は飲食等の仕事に就いているそうだ(アムネスティ・インターナショナル日本より)。
・大井作業場で刑期を終えた全受刑者が再び刑務所に入る「再入率」は6.9%で、全国平均の41.4%と比べると大幅に低い。また、仕事に就いている人の再犯率が7.6%であるのに対し、無職者は28.1%と4倍も多いことから、法務省では積極的に受刑者たちのキャリア支援に取り組んでいる(平成21~25年度「保護統計年報」)。
▽“塀”の高さにショック
・以前、私が刑務所を訪問した時のことはこちらに書いた(“塀の中”で見えた「依存なき自立」観の罪深さ)。 受刑者たちにキャリア教育を行なっている支援者の方から、「刑務所内でのキャリア支援は、再犯を防ぐためにとても重要です。もっと受刑者に効果的な授業をやりたい。そのために力を借りたい」といった内容のメールをいただいたのがきっかけだった。
・刑務所を初めて訪問したとき、私は“塀”の高さにショックを受けた。外からみるとただの物理的な塀が、中に入ると正に“壁”として存在し、その高さに圧倒されたのだ。 受刑者たちの作業、キャリア教育の講義、塀の外の人(=刑務官や支援者)と受刑者の関係、そのすべての間にとてつもない高い塀(=壁)が立ちはだかり、私の感情は複雑に揺れた。「塀のない刑務所」脱走犯が「刑務官との人間関係がイヤだった」と言うような人間関係は、私が見た塀の中にはなかった。
・クリーニング、民芸品の作製、洋服の縫合などの刑務作業は、刑務官の監視する中で行われ、受刑者は決められた姿勢で、規律正しく、言葉を発することも許されず、ひたすら手を動かす。 キャリア教育の60分間の講義中も、受刑者たちは足をそろえ、背筋を伸ばして、視線をそらすこともなく、講師の先生の話を聴く。時折、意見を求められ発言の機会を与えられるが、答えにも無駄がない。
・独特の空気感への極度の緊張から、私が受刑者に「仕事をしたいですか?」などと愚問を投げかけてしまったときもそうだった。「仕事をしてお金を稼がないと、生活できない」「仕事をして、自立したい」「仕事をして、普通の生活をしたい」「仕事をして、人を喜ばせたい」と、回答の内容そのものは極めて普通だが、そのやり取りは良く言えば洗練、悪く言えば冷淡。私たちが日常経験する「関係性」とか「交流」というものとは明らかに異なる。
・……温度感。そう、人と人の温度感。徹底的に“監視”されている塀の中では、日常私たちが人間関係を築くときに生じる「温度感」とは異質のものが漂っていたのである。 それだけに今回の脱走犯が収容されていた「塀のない刑務所」には、再犯率の低さだけでは語りきれない、人が生きるための大切なモノが存在していると私は確信している。
・ところが法務省は今回の事件を受け、GPS端末で受刑者を監視する案の検討をスタート。松山刑務所の吉田博志所長も会見し、「今後の作業場の運営について、収容者の面接やカウンセリングの仕方、自治会のあり方、刑務官の指導方法をはじめ、施設のハード面まで総合的に見直し、再発防止策を検討していく(参考記事)」とした。
▽問題が起こる→厳罰、は解決の手立てになるのか
・目撃情報のあった向島に投入した捜査員は延べ6000人超。住民の方たちの不安とストレスを鑑みれば、なんらかの対策を施すことは必要だろう。 だが、問題が起こる→監視、問題が起こる→厳罰、という方向性は、果たして問題を解決する手立てになるのか。
・メディアは「厳し過ぎる作業所」「刑務官のイジメ」「脱走犯の多さ」といったネガティブな面だけを取り上げ、「刑務官批判」ともいえる報道を繰り返しているけど、私が塀の中で感じたのは、刑務官たちの愚直なまでの優しさと厳しさだった。
・彼らは「少しでも受刑者たちの励みになれば」と正月に餅つきをしたり、クリスマスには小さなケーキを振る舞ったり、日常の食事も決められた予算の中で少しでも美味しいものをと、知恵を絞っていた。出所後にサポートしたくても、接点をもってはいけないという規則があるので「無事」を願うしかない。
・偶然スーパーなどで出会い、向こうから「がんばってます!」と声をかけてくれたときが唯一、「自分たちのやっていたことは無駄じゃなかった」と思える瞬間で、「二度と戻ってきません」と出所するときに断言していた受刑者が、再び戻ってきたときの空しさなどを話してくれた。 大井造船作業場の刑務官の方たちも、同じだと思う(人事院のホームページから)。
・これは「人事院総裁賞」職域部門賞を受賞したときのもので、
 +「民間従業員の方々が受刑者の謙虚な態度に感嘆し、部下として、あるいは同僚として受刑者を温かく見守ってくれている」ということ
 +「開設当時は、地域には懲役受刑者に対する忌避感があったが、今は町内清掃奉仕の際、『おはようございます。ご苦労さま』と声を掛けてくれる」こと
 +「受刑者の活動を発表する文化祭には、地域から多数の方々に御来場いただき、彼らの活動に温かいまなざしを向けていただいている」 といったことが、刑務官がインタビューに答える形で掲載されている。
・刑務官たちのはにかんだ笑顔は、自分たちの思いが届き、数字として現れていることへの誇りだ。 冒頭で紹介した坪内氏は53年に「町の唯一の産業である来島船渠を再建してほしい」と、波止浜町(現今治市)の今井五郎町長に拝み倒され、来島船渠(せんきょ、後の来島どっく)の社長になった。再建に失敗すれば何もかも失ってしまう。妻のスミコには「一文無しになってもいいか」と問うほどの覚悟で挑んだそうだ(「向学新聞」より)。
・最初の仕事は工場内の雑草抜きと機械のさび落とし。工場は蘇るも一向に注文が来ない。そこで坪内は「海を走るトラック」と呼ばれる貨物船を作り、船主たち販売。これが成功し、来島船渠は生き返った。坪内氏は85年に円高不況で、来島どっくグループが6000億円超の負債額を抱え窮地に追い込まれた時も、個人資産の全てを投げ出し、最後まで資金繰りに苦悩する船主たちを守り続けた。
・そんな「現場の人たち」に寄り添い続けた坪内氏が、亡くなる瞬間まで尽力したのが、囚人の更生保護事業だ。「金もいらん、名誉もいらん、わしがあの世に行く時は、手紙で一杯になっている段ボール箱一つ担いでいくんだ」 坪内氏は晩年、受刑者から届いた感謝の手紙を身辺から離さず、折にふれ、側近に読ませていたという。
・坪内氏は逃亡犯に、何と声をかけるだろうか? 坪内氏は、監視を強めようとする動きに、どう意見するだろうか。 残念ながらその答えはわからない。 だが、坪内氏が「人の力」を信じる気持ちが、3000人もの受刑者の「再入率」は6.9%という数字に反映されているのではないか。 再入率の低さは「模範囚だけが収容されていることによる」との指摘もあるが、刑務官や関係者に意見を聞くと、「それを加味しても低い。一般の人たちに交じって就業経験する意義は大きい」と口をそろえる。
▽物理的な壁をなくすことが、心の壁をなくす
・塀のない刑務所とは、「自分で決められる自由」があるとき、人は自主的に行動するという信念に基づいた刑務所。どんなに信頼しても裏切り、恩を仇で返すような人がいるかもしれない。それでも物理的な壁をなくすことが、心の壁をなくすと、坪内氏、刑務官、支援者、そして地域の人たちが信じ、その信念への答えが段ボールに詰まっているのだ。
・「刑務所は社会の縮図」と、刑務官たちは言う。監視と管理を進めようとする今回の動きは、私たちの社会の動きそのものなのでは? と思ったりもする。 それを考える上で参考になる、ある企業を、最後に紹介する。
・「ebm パプスト社」。従業員1万4000人が働く、ドイツ南部の工業用通気システムを製造する世界的企業だ。 パプスト社は、「一日いつでも、最低4時間だけ出社すれば、あとの労働時間は好きにふりわけていい」という夢のような労働条件で、生産性を上げた。 今から4年前、人手不足に悩んでいたパプスト社は、「働き方を変えよう。出社から、結果の文化に変えよう。若い世代を呼び込むには、もっと自由が必要だ」と、シフト制を廃止。一日のうち最低4時間出社していれば、日中の労働時間は好きなように振り分け、残業した場合は「時間口座」に貯めることができるようにしたのだ(時間口座は、働く人たちは必要なとき自分の口座から残業時間をおろし、有給休暇として使うことができる制度)。
・ところが、自由を与えられた社員たちは「上司がいるのに帰れない」とトップに直訴。それでもトップは「結果さえ出せばいいんだ。みんなで文化を変えよう!」と、何度も何度も社員に言い続けた。「僕は社員を信じている」
・その気持ちが社員にも伝わったのだろう。社員たちは次第に自分のペースで、自分がもっとも結果を出せる働き方を工夫するようになり、生産性は右肩上がりで向上。現在の売上高は19億ユーロ、日本円で約2520億円。現地知人によると、本社のエンジニアの売上高は一人あたり2億円近くとの情報もある。
・「僕は社員を信じている」と、パプスト社のトップは断言する。そして、「自由に慣れ、堕落した働き方をする社員も出てくるかもしれない。大切なのはそのリスクを経営者が常に考え、働く人たちと向き合うことだ」と。
・現在、同社は「一日の最低出社時間」も廃止し、「最低週38時間は必ず働いてくれればいい。ただし、一日働いた時間は必ず記録して欲しい」と、労働者の健康を守るために時間管理義務(企業)の協力をしてもらっている。
・信頼の上に信頼は築かれ、期待の先に結果がある。そのシンプルな「人」の摂理を私たちは忘れているのかもしれない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/050700158/?P=1

第一の記事で、『意外なところでは、網走刑務所も開放処遇を行っている・・・網走刑務所を訪れて驚くのは、その施設の広大さで、何と東京都新宿区と同じくらいの敷地面積がある。施設内の水路には、毎年何百匹もの鮭が遡上する』、というのには驚かされた。 『私自身、東京拘置所に心理技官として勤務していた時代、これら受刑者の分類に携わっていた。なかでも、大井や網走に移送する者たちの選抜には、とても苦労した記憶がある』、この問題を語るには最適任者といえよう。 『単純に計算すれば、刑務所に入るのは犯罪者のなかのわずか1%足らずであり、悪い意味で「選ばれた者たち」である。したがって、開放処遇対象者の選抜とは、言葉は悪いが、「悪人のなかから善人を選ぶ」という矛盾した作業であるから、その困難さはご想像いただけるであろう』、なるほど。 『彼の従前の犯行の態様や逮捕時の逃走のエピソードを知れば、開放処遇には不適格であると考えざるを得ない』、その背景を、『世の中の犯罪の過半数は,人口で言うと数%程度の慢性的犯罪者によるものだということがわかっている。彼らはいわば,「コアな犯罪者」である・・・ここ10年以上犯罪は減少傾向にあり、このような機会的犯罪者が減少している・・・このような状況のなか、当然、開放処遇に適する受刑者は減少しているはずである。そのため、少々無理をして、あるいはハードルを下げて、今回の容疑者のような者を選ばざるを得なくなっているのであれば、再度基準を厳格にとらえ直すべきであろう』、と深く分析したのはさすがである。 『日本の刑務所特有の問題は、「刑務所内引きこもり」とも言える現象である。受刑者同士の対人関係のいざこざや、他の受刑者からのいじめなどから、刑務作業を拒否して、「自室」に引きこもってしまう受刑者が数多くいる・・・通常の刑務所であれば、引きこもることもできたかもしれないが、皮肉なことに開放処遇の施設では、それもできない。平尾容疑者は、内に逃げることができずに、外に逃げるしかなかったのであろう』、というのは皮肉なことだ。 『再犯の抑制というベネフィットを考慮したとき、この(逃走)リスクをどれだけ許容できるか。そして、開放処遇の良さを生かしつつも、効果的な逃走防止策はあるか。それを今一度冷静に考えるべきであろ』、という結論には大賛成だ。
上記記事だけでも十分かと思ったが、第二の記事を紹介したのは、現在の松山刑務所大井造船作業場の原点が、『1961年、坪内氏は来島ドックの大西工場(現:新来島どっく大西工場)を新設する際、松山刑務所の構外に泊まりこみ作業場として、木造平屋建ての大井作業場を開設。この更生保護事業』、にあることを紹介したかったからである。坪内氏は佐世保重工の再建でも世の中を賑わせた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%AA%E5%86%85%E5%AF%BF%E5%A4%AB
『塀のない刑務所とは、「自分で決められる自由」があるとき、人は自主的に行動するという信念に基づいた刑務所』、を安易に厳しくすべきでないとの主張には賛成だ。ただ、『ebm パプスト社』の事例は確かに素晴らしいが、果たして一般化できるかという疑問も残る。
記事からは、離れるが、私は、開放型施設での逃走事件に備えた訓練が不十分だったのではないか、との疑念を拭うことが出来ない。マスコミの報道も遠慮がちで、捜査員の投入も当初は人数が少ない逐次投入で、警察犬の投入も遅かった印象を受けた。法務省の見直しでは、警察も含めてほしいものだ。
タグ:一日いつでも、最低4時間だけ出社すれば、あとの労働時間は好きにふりわけていい」という夢のような労働条件で、生産性を上げ ドイツ南部の工業用通気システムを製造する世界的企業 題が起こる→厳罰、は解決の手立てになるのか 塀のない刑務所とは、「自分で決められる自由」があるとき、人は自主的に行動するという信念に基づいた刑務所 坪内氏は来島ドックの大西工場(現:新来島どっく大西工場)を新設する際、松山刑務所の構外に泊まりこみ作業場として、木造平屋建ての大井作業場を開設。この更生保護事業が、現在の松山刑務所大井造船作業場の原点 開設に尽力したのが、一代で造船・海洋を中心とした来島グループ(来島ドックグループ、180社を超える巨大企業群)を作り上げた坪内寿夫氏(故人)だ 「「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点 低い再入率を支える刑務官の優しさと厳しさ」 日経ビジネスオンライン 河合 薫 再犯の抑制というベネフィットを考慮したとき、このリスクをどれだけ許容できるか。そして、開放処遇の良さを生かしつつも、効果的な逃走防止策はあるか。それを今一度冷静に考えるべきであろう 開放処遇は受刑者処遇のなかでも重要な意義がある。それは、再犯抑制効果の大きさである 開放処遇をやめるべきでない理由 通常の刑務所であれば、引きこもることもできたかもしれないが、皮肉なことに開放処遇の施設では、それもできない。平尾容疑者は、内に逃げることができずに、外に逃げるしかなかったのであろう ここ10年以上犯罪は減少傾向にあり、このような機会的犯罪者が減少している。すると、社会情勢がどうであれ常に犯罪を行う「コアな犯罪者」が残り、彼らが犯罪を繰り返している 「日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題 「松山刑務所逃走事件」から見えたこと」 塀のない刑務所 当然、開放処遇に適する受刑者は減少しているはずである。そのため、少々無理をして、あるいはハードルを下げて、今回の容疑者のような者を選ばざるを得なくなっているのであれば、再度基準を厳格にとらえ直すべきであろう 大井造船作業場 平尾龍磨受刑者が逃走 逮捕されるまでの23日間 開放処遇 民間会社の手厚い協力の下、更生と社会復帰に向けての処遇がなされている 選抜される条件はかなり厳しく 市原刑務所 交通刑務所 網走刑務所も開放処遇を行っている その施設の広大さで、何と東京都新宿区と同じくらいの敷地面積がある。施設内の水路には、毎年何百匹もの鮭が遡上する 私自身、東京拘置所に心理技官として勤務 受刑者の分類に携わっていた 現代ビジネス 原田 隆之 (日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題、「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点) 逃走事件 松山刑務所 もう1つの刑務所事情:刑務所内引きこもり ebm パプスト社 世の中の犯罪の過半数は,人口で言うと数%程度の慢性的犯罪者によるものだということがわかっている。彼らはいわば,「コアな犯罪者」 刑務所に入るのは犯罪者のなかのわずか1%足らずであり、悪い意味で「選ばれた者たち」である 彼の従前の犯行の態様や逮捕時の逃走のエピソードを知れば、開放処遇には不適格であると考えざるを得ない 開放処遇対象者の選抜とは、言葉は悪いが、「悪人のなかから善人を選ぶ」という矛盾した作業であるから、その困難さはご想像いただけるであろう
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ネットのトラブル(懲戒請求4000件…集団ヒステリーと化したネトウヨの末路、小田嶋氏:「懲戒請求→返り討ち」が発生した事情) [社会]

今日は、ネットのトラブル(懲戒請求4000件…集団ヒステリーと化したネトウヨの末路、小田嶋氏:「懲戒請求→返り討ち」が発生した事情)を取り上げよう。このブログでの関連したものとしては、昨年12月1日の”右傾化”(その5)である。

先ずは、5月18日付け日刊ゲンダイ「懲戒請求4000件…集団ヒステリーと化したネトウヨの末路」を紹介しよう。
・正気の沙汰じゃない――。東京弁護士会に所属する佐々木亮弁護士と北周士弁護士が、不当な理由で約4000件もの懲戒請求を受けた問題。2人は、16日、都内で会見を開き、約960人の請求者に対して訴訟を起こす考えを明らかにしたが、悪行を主導した“張本人”は懲りていないらしい。
・コトの発端は、2016年4月に東京弁護士会が出した「朝鮮学校への適正な補助金交付を求める会長声明」。ネット上の匿名のブロガーがこの声明を「犯罪行為」とあおり、不特定多数の人が真に受けて両弁護士に対して昨年6月ごろから懲戒請求を送りまくったのだ。被害を受けた北弁護士は、あらためて今回の問題を「匿名性を盾にした集団暴行」と批判し、こう言った。
・「和解を打診してきた請求者の話を聞いてみると、『(懲戒請求すれば)日本が良くなると思った』などが主な理由で、『みんながやっているから私も』という軽い気持ちだったようです。ところが、我々がどのような活動をしているか知らない人ばかり。朝鮮学校の件と関係ないと伝えると、『そうなんですか』と驚く請求者が大半です。人種差別に基づくヘイトクライムと同じで、やっていることの認識の軽さと、損害を受ける差が大きい。こうした加害意識のない暴力が広がることを危惧しています」
・要するに、知識や教養はもちろん、一般常識もない連中が「集団ヒステリー化」して大騒ぎしていたということだ。佐々木、北両弁護士は裁判を始める来月20日ごろまでに、謝罪と、弁護士1人につき5万円ずつの和解金を支払えば和解に応じる方針だが、問題の発端となったブログ主には反省の文字はないらしい。会見後に記されたとみられるブログにはこう書いてある。<弁護士記者会見はまったくの期待外れ><佐々木亮弁護士が落とし前をつけてやると発言した件はどこへいった><自身だけのお涙ちょうだい会見だったな>
・ナントカにつける薬はないが、佐々木、北両弁護士は、虚偽告訴罪や業務妨害罪などで徹底的に刑事責任を追及する予定だから、ブログ主も法廷の場で徹底的に持論、暴論をぶちまけたらいい。ネトウヨの哀れな末路が見モノだ。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/229338/1

次に、コラムニストの小田嶋 隆氏が5月18日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「懲戒請求→返り討ち」が発生した事情」を紹介しよう。
・今週のはじめ頃だと思うのだが、ツイッター上で2人の弁護士への組織的な懲戒請求が話題になった。 タイムラインに流れてきたいくつかの書き込みを眺めて、私は「まあ、よくある話だわな」と判断して、以後、たいして注目していなかった。というよりも、すっかり忘れていた。
・ところが、しばらく私が注視を怠っているうちに、この件はちょっとした事件に発展しつつある。なるほど。よくある話だと見て軽視したのは、私の考え違いだったようだ。 よくある話だからこそ、重要視していなければならなかった。よくある不快ないやがらせだからこそ、めんどうがらずに、的確に対応せねばならない。肝に銘じておこう。
・話題の焦点は、インターネット上で挑発的な言論運動を展開しているブログの呼びかけに応じる形で、特定の弁護士に対して集団的な懲戒請求を送った人々が、その懲戒請求の対象である2人の弁護士によって逆に損害賠償の訴訟を示唆されているところだ。
・バズフィードニュースの記事が伝えているところによれば、そもそもの発端は2017年の6月で、10人の弁護士に 《「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は、日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である」》という内容の懲戒請求が届いたことだった。
・この懲戒請求はしだいに数を増し、このたび訴えを起こした2人の弁護士に届けられた件数を合わせるとのべ4000件以上に達する。被害者は2人に限らない。2017年12月の日弁連会長談話によると、全国21弁護士会の所属弁護士全員に対し、800人近い人たちから懲戒請求が送られている。 2人の弁護士は、この5月16日に記者会見し、請求者にそれぞれ60万円の賠償を求める訴訟を6月末をめどに起こす方針を明らかにしている(こちら)。
・今回の騒動を通じて、私自身、はじめて知ったのだが、弁護士への懲戒請求は、弁護士法に基づくもので、基本的には誰にでも送付可能なものであるのだそうだ。つまり、懲戒に値する事実に心当たりがあるのなら、誰であれ、当該の弁護士が所属する弁護士会に対して懲戒を請求することができるということだ。 請求を受けた弁護士会は、調査の上、当該弁護士の「非行」が判明すれば処分するわけだが、今回のケースのように根拠が希薄であったり、当人の活動と無縁な請求は、当然のことながら、無視される。
・今回の件で、ネット上の扇動に乗って実際に懲戒請求を送った人たちにとって誤算だったのは、請求者の氏名と住所が相手側(つまり懲戒請求を起こされた弁護士)に伝えられることだった。 であるからして、不当請求をしていた何百人(1人で何通も書いていた人間も含まれていると思うので、現時点では正確な人数はわからない)かの人々は、先方の弁護士たちに、自分たちの個人情報を把握されることになった。これは、当人たちにとって、いかにも不都合な展開だったはずだ。
・ともかく、結果として、彼らは、自分たちが懲戒請求をした弁護士に反撃の損害賠償請求の訴訟を示唆され、訴訟を受けて立つのか、和解に応じるべくそれなりの誠意を示すのかの選択を迫られている。
・以上が現時点でのおおまかな状況だ。よくできた4コママンガみたいな話だ。 基本的には、「自業自得を絵に描いたような」とか「自己責任ワロタ」てな調子で一笑に付しておけばそれで十分な話題であるようにも見える。
・が、思うに、この事件の示唆するところは、単にお調子者のリンチ加担者が返り討ちに遭ったというだけの話ではない。というのも、ネット上のリンチ的言論行為の被害者が、反撃に打って出た今回のようなケースは、むしろ例外的な展開なのであって、多くの場合、被害者は泣き寝入りしているはずだからだ。
・ということはつまり、われわれの社会は、すでに、数を頼んだ匿名の集団クレーマーが様々な立場の少数者に対して思うままにいやがらせを仕向けることの可能な私刑横行空間に変貌してしまっているのかもしれない、ということだ。 今回、弁護士たちを血祭りにあげようとした人たちが、ふだんターゲットに選んでいると思われる在日コリアンや生活保護受給者は、自前の専門知識と資格を備えた弁護士とは違って、有効な反撃の手段を持っていない人が多いだろう。
・してみると、リンチに加担していた人たちは、今回こそ旗色が良くないように見えるものの、全体としては連戦連勝だったはずで、むしろ、これまで好き放題に気に入らない人々をやりこめてきた実績があるからこそ、今回のヤマで調子に乗って墓穴を掘ってしまった、と考えたほうが実態に近いのだと思う。おそろしいことだ。
・事件の経緯を眺めていて、半月ほど前に伝えられた内閣府の「国政モニター」の事件を思い出した。その「国政モニター」の事件について、毎日新聞は、以下のように伝えている。《内閣府が国民の意見を募るために行っていた「国政モニター」のサイトに「在日、帰化人の強制退去が必要なのではないか」「鳩山(由紀夫)元総理を処刑すべきではないか」などの過激な意見が掲載されている。内閣府はサイト内で「お寄せいただいたご意見は誹謗(ひぼう)中傷などを除き、公開している」と説明しているが、事実上、ヘイトスピーチや誹謗中傷が野放しになっている。-略-》(こちら)
・このニュースのキモは、「国政モニター」に寄せられた不特定多数の投稿の中に、明らかな民族差別発言や個人を名指しにした処刑勧告のような逸脱発言が含まれていたということなのだが、このこと自体は、さして驚くにはあたらない。 誰であれ、アタマの中で考える内容を他人に制限されるいわれはないのだし、自由に書かれた国民からの投稿の中に、いくらか不穏当な内容の文章が含まれていることそのものは、大いにあり得る話でもある。
・ただ、内閣府という公的機関が、その不穏当な国民の声をそのまま開示して一般の閲覧に供することは、あたかも、国家がその不穏当な見解にお墨付きを与えるかのような印象を与える意味で、単なる投稿の結果とは別だ。到底容認できる話ではない。
・いかに表現の自由が保障されているとはいえ、内閣府の名において公開される国民の声として、ヘイトスピーチが市民権を得て良い道理はない。 というよりも、政府主催のサイトを通じて、差別扇動の言説を流布できるということにでもなったら、法が法である意味も政府が政府である正当性もあったものではない。
・今回の国政モニターに関する不手際は、おそらくは、単なる運営側の怠慢あるいは見落としに起因するもので、政府が差別扇動者の言論宣伝に加担していたということではないのだろう。 とはいえ、在日、帰化人の強制退去の必要性を喧伝していた人間たちが、掲載によって勇気づけられた可能性は否定できない。というよりも、彼らは、自分たちが内閣府の担当者によって、容認ないしは承認されているというふうに受け止めて、大きな自信を得ていたかもしれない。
・あのページを見た在日外国人は、どんな気持ちを抱いたことだろう。政府が政府の名において発信している公式の情報の中に、自分たちの国外退去を促す言説が堂々と掲出されていることに、物理的な恐怖を感じたとしても無理はないはずだ。
・その意味でも、「国政モニター」事件の副作用は小さくない。結局、この件も含めて、私は、うちの国の社会全体が、群れ集まって大きい声をあげる人たちの意図どおりに動きはじめていることを実感せずにおれない。めんどうな交渉事やクレームを嫌う現場の人々が、激越な調子で語る人々に対して妥協的に振る舞うことの積み重ねが世界を動かしているのだとすると、私のような人間のための場所は、この先、ますます限られていくことになる気がしている。
・このたび、特定の弁護士に懲戒請求を送る運動に参加した面々は、様々な場面で、集団的な「言論活動」に従事していた可能性が高い。 現状、ネット社会の中で最も伝播力が高いと見られているヤフーのニュースサイトは、一方において、そのコメント欄がいわゆる「ネトウヨ」と呼ばれる人々の拠点になっている。実際、このコメント欄を通じて共有され、拡散される言論やものの見方が、特定の人々にもたらしている影響は、日々拡大しつつある。
・ヤフーに限った話ではない。コメント欄は、この5年ほどの間に、どこのニュースサイトやウェブマガジンも、おしなべて同じタイプの政治的志向を持つ人々によって席巻されつつある。当連載のコメント欄も同様だ。寄せられる意見の大勢は、3年前とはまるで肌触りの違うものになっている。
・もちろん、このコメント欄の変化を、世論の変化をそのまま反映したものだと考えることは可能だし、寄せられてきてるコメントを虚心に読めば、世間の空気が、まるごと「反日的な言論を許さない」方向に変わったのだというふうに受け止めるほうが、むしろ自然な態度であるのかもしれない。 しかし、私は、必ずしもそういうふうには考えていない。個人的には、厭戦気分に似たものが社会を覆い尽くしていることの結果が、現状の頽廃なのだと思っている。
・つまり、世間のサイト運営者や、ウェブマガジンの編集部が、あの「めんどうくさい人たち」の扱いにうんざりしていることが、あのめんどうくさい人たちを勢いづけているということだ。今回の懲戒請求の運動については、PDF化された「懲戒請求パック」が提供されていた事実が伝えられている。すなわち、法律や書類に詳しくないメンバーのために、空欄を埋めれば完成するように作られた、懲戒請求のためのガイドページが用意されていたということだ。
・これは、珍しいなりゆきではない。企業への抗議メールやメディア向けの問い合わせの電話(「電凸」と呼ばれる)については、もう10年以上前から、2ちゃんねる(←最近「5ちゃんねる」に変化したらしい)のような共通のネット上のたまり場をベースに、アドレス、書式、要点、注意すべき言葉づかいなどを整理した、詳細なテンプレート(雛形)が共有される流れが定着している。
・要するに、抗議や、感想コメントや、各種ウェブ上のアンケートやamazonの読者コメントのようなものも含めて、インターネットをベースに集約される「情報」は、すべて、「運動」として、組織化され得るということだ。
・以前、当欄でも触れたことがあるかもしれないが、前回のブラジルワールドカップの折、私自身、組織的な抗議活動のターゲットになったことがある。具体的な内容は省く(←再炎上するのも面倒なので)が、発端は、私が、とある芸能人について漏らした不用意な発言なのだが、ともあれ、クレーマーたちは、私が出演している民放のラジオ番組のスポンサーに問い合わせのメールを送るという方法で、私を追い詰めにかかった。なかなかよく考えられた抗議メソッドだった。具体的には、 放送局そのものへの電凸やメールは「承りました。ガチャン」で打ち捨てられる。 激越な抗議文や、乱暴な口調での電話は、「おかしな人」ということで無視される。
・ 一方、スポンサー筋への紳士的な「問い合わせ」は、企業の立場からは無視できない。 てなわけで、企業→広告代理店の担当者→代理店のラテ局→放送局編成→番組プロデューサーという順序で、特定の出演者をキャスティングしている意図についての問い合わせが届く。
・これに対応して、プロデューサーによる出演者への事情聴取がおこなわれ、その結果の書類が、→局編成→広告代理店ラテ局→代理店担当者→スポンサー企業の順に渡って一件落着。という手順で追い詰められることになる。
・結果としては、何も起こらなかったわけだが、無事で済んで万々歳というわけではない。なぜというに、それぞれの担当者が、少しずつ余計な仕事に駆り出され、少しずつ疲弊したからだ。 ということは、当該の「出演者(オダジマ)」は、札付きというほどではないものの、「めんどうくさいキャスト」くらいな扱いにはなるわけで、ということは、彼らのクレーム運動は、結局のところ、成功していたのだ。
・成功もなにも、ノーリスクで展開される匿名の集団リンチは、結果としてターゲットがツブれようが生き残ろうが、リンチ参加者の側には何のコストも要求しないのみならず、祭りに参加する昂揚感をもたらすことは確実なのだからして、リンチがはじまった瞬間に、すでにして勝利しているのである。
・出版の世界でも事情は変わらない。組織化された人々による集団的なクレームは、直接的な記事の差し止めや、執筆者の追放にこそつながらないものの、クレームに対応する末端の人間を確実に疲弊させる。その意味で不滅でもあれば不敗でもある。われわれに勝ち目はない。
・であるからして、たとえばこの連載や、それ以外も含めた編集者から私のところに、最近の例で言えば、前々回にアップしたハリルホジッチについての原稿(こちら)への過剰な絶賛の声が届けられる。「ものすごく面白かった」「近来まれに見る最高の原稿でした」と。はいはい。
・つまり、あれだ。政治的な主題を含まない原稿は、特段の歓迎をもって迎えられるわけなのだな。自分自身の感触としては、ハリルホジッチ氏の解任について考察したあの回のあの文章が、特段に素晴らしいデキだったとは思っていない。悪くはなかったと思っているが、そんなに特筆すべき内容だとも思っていない。が、それが過剰に喜ばれる。
・なぜかといえば、ああいう原稿を載せるにあたっては、各方面の顔色をうかがったり、面倒なコメント欄に付き合ったり、電話にビクビクしたりせずに済むからだ。
・てなわけで、今回の原稿は、荒れる原稿になる。いろいろとめんどうくさいことになるはずだ。が、このめんどうを厭ってはいけない。 以前、言論への弾圧は、めんどうくささという形で立ち上がってくるものだということを書いたと思うのだが、そのことを踏まえて言うなら、文章を書く人間は、めんどうくささにひるんではならないのであって、だとすれば、このどうにもめんどうくさい原稿は、読んで面白くなくても、書いて楽しくなくても、言葉として残しておく価値を持っているのである。
・でもまあ、次回は、できれば、楽しい原稿を書いてみたいものだと思っている。自戒をこめて。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/051700143/?P=1

第一と第二の記事は、同じ問題を取り上げたものだが、ニュースとコラムの違いがあるとはいえ、これだけ深み、広がりに差があるというのは、改めて驚いた。
第二の記事で、 『今回の件で、ネット上の扇動に乗って実際に懲戒請求を送った人たちにとって誤算だったのは、請求者の氏名と住所が相手側(つまり懲戒請求を起こされた弁護士)に伝えられることだった。 であるからして、不当請求をしていた何百人・・・かの人々は、先方の弁護士たちに、自分たちの個人情報を把握されることになった。これは、当人たちにとって、いかにも不都合な展開だったはずだ』、『ネット上のリンチ的言論行為の被害者が、反撃に打って出た今回のようなケースは、むしろ例外的な展開なのであって、多くの場合、被害者は泣き寝入りしているはずだからだ。 ということはつまり、われわれの社会は、すでに、数を頼んだ匿名の集団クレーマーが様々な立場の少数者に対して思うままにいやがらせを仕向けることの可能な私刑横行空間に変貌してしまっているのかもしれない、ということだ』、『リンチに加担していた人たちは、今回こそ旗色が良くないように見えるものの、全体としては連戦連勝だったはずで、むしろ、これまで好き放題に気に入らない人々をやりこめてきた実績があるからこそ、今回のヤマで調子に乗って墓穴を掘ってしまった、と考えたほうが実態に近いのだと思う』、というのは、確かに深刻な事態だ。『今回の懲戒請求の運動については、PDF化された「懲戒請求パック」が提供されていた』、には「ここまでやるか」と驚かされた。 『ノーリスクで展開される匿名の集団リンチは、結果としてターゲットがツブれようが生き残ろうが、リンチ参加者の側には何のコストも要求しないのみならず、祭りに参加する昂揚感をもたらすことは確実なのだからして、リンチがはじまった瞬間に、すでにして勝利しているのである』、『世間のサイト運営者や、ウェブマガジンの編集部が、あの「めんどうくさい人たち」の扱いにうんざりしていることが、あのめんどうくさい人たちを勢いづけているということだ』、ネット上のリンチ的言論行為に対しては、ネット言論のあり方を根本的に考え直してゆく必要があろう。まずは、このブログが実践している「実名主義」を、世間のサイト運営者に受け入れさせる運動を起こしてみるのも一案だろう。
タグ:リンチに加担していた人たちは、今回こそ旗色が良くないように見えるものの、全体としては連戦連勝だったはずで、むしろ、これまで好き放題に気に入らない人々をやりこめてきた実績があるからこそ、今回のヤマで調子に乗って墓穴を掘ってしまった、と考えたほうが実態に近いのだと思う スポンサー筋への紳士的な「問い合わせ」は、企業の立場からは無視できない。 てなわけで、企業→広告代理店の担当者→代理店のラテ局→放送局編成→番組プロデューサーという順序で、特定の出演者をキャスティングしている意図についての問い合わせが届く 世間のサイト運営者や、ウェブマガジンの編集部が、あの「めんどうくさい人たち」の扱いにうんざりしていることが、あのめんどうくさい人たちを勢いづけているということだ ノーリスクで展開される匿名の集団リンチは、結果としてターゲットがツブれようが生き残ろうが、リンチ参加者の側には何のコストも要求しないのみならず、祭りに参加する昂揚感をもたらすことは確実なのだからして、リンチがはじまった瞬間に、すでにして勝利しているのである コメント欄は、この5年ほどの間に、どこのニュースサイトやウェブマガジンも、おしなべて同じタイプの政治的志向を持つ人々によって席巻されつつある うちの国の社会全体が、群れ集まって大きい声をあげる人たちの意図どおりに動きはじめていることを実感せずにおれない 政府主催のサイトを通じて、差別扇動の言説を流布できるということにでもなったら、法が法である意味も政府が政府である正当性もあったものではない いかに表現の自由が保障されているとはいえ、内閣府の名において公開される国民の声として、ヘイトスピーチが市民権を得て良い道理はない 「国政モニター」の事件 ふだんターゲットに選んでいると思われる在日コリアンや生活保護受給者は、自前の専門知識と資格を備えた弁護士とは違って、有効な反撃の手段を持っていない人が多いだろう われわれの社会は、すでに、数を頼んだ匿名の集団クレーマーが様々な立場の少数者に対して思うままにいやがらせを仕向けることの可能な私刑横行空間に変貌してしまっているのかもしれない ネット上のリンチ的言論行為の被害者が、反撃に打って出た今回のようなケースは、むしろ例外的な展開なのであって、多くの場合、被害者は泣き寝入りしているはずだからだ めんどうな交渉事やクレームを嫌う現場の人々が、激越な調子で語る人々に対して妥協的に振る舞うことの積み重ねが世界を動かしているのだとすると、私のような人間のための場所は、この先、ますます限られていくことになる気がしている 不当請求をしていた何百人(1人で何通も書いていた人間も含まれていると思うので、現時点では正確な人数はわからない)かの人々は、先方の弁護士たちに、自分たちの個人情報を把握されることになった。これは、当人たちにとって、いかにも不都合な展開だったはずだ ネット上の扇動に乗って実際に懲戒請求を送った人たちにとって誤算だったのは、請求者の氏名と住所が相手側(つまり懲戒請求を起こされた弁護士)に伝えられることだった 弁護士への懲戒請求は、弁護士法に基づくもので、基本的には誰にでも送付可能 「「懲戒請求→返り討ち」が発生した事情」 日経ビジネスオンライン 小田嶋 隆 知識や教養はもちろん、一般常識もない連中が「集団ヒステリー化」して大騒ぎしていた 加害意識のない暴力が広がることを危惧 ヘイトクライム ネット上の匿名のブロガーがこの声明を「犯罪行為」とあおり、不特定多数の人が真に受けて両弁護士に対して昨年6月ごろから懲戒請求を送りまくった 「朝鮮学校への適正な補助金交付を求める会長声明」 東京弁護士会 約960人の請求者に対して訴訟を起こす考え 「懲戒請求4000件…集団ヒステリーと化したネトウヨの末路」 日刊ゲンダイ (懲戒請求4000件…集団ヒステリーと化したネトウヨの末路、小田嶋氏:「懲戒請求→返り討ち」が発生した事情) ネットのトラブル
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