尖閣諸島問題(その6)(米軍は「尖閣を守る根拠なし」 日米安保条約を巡る初歩的な勘違いと危うさ、「尖閣」陥落は秒読み? とっくに“レッドゾーン”に突入している「日本の安全保障」) [外交]
尖閣諸島問題については、10月4日に取上げた。今日は、(その6)(米軍は「尖閣を守る根拠なし」 日米安保条約を巡る初歩的な勘違いと危うさ、「尖閣」陥落は秒読み? とっくに“レッドゾーン”に突入している「日本の安全保障」)である。
先ずは、11月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した室伏政策研究室代表・政策コンサルタントの室伏謙一氏による「米軍は「尖閣を守る根拠なし」、日米安保条約を巡る初歩的な勘違いと危うさ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/254873
・『菅義偉首相は11月12日、バイデン次期大統領と電話会談を行い、「バイデン次期大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明があった」とコメントしている。そもそも「5条」の意味するところは何か、それで尖閣が守られるのか』、興味深そうだ。
・『安倍政権や菅政権がこだわる日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用(米国大統領選挙の結果、民主党候補であるバイデン前副大統領が次期大統領に選出されたとされている。「されている」というのは、共和党候補であるトランプ現大統領がバイデン候補の勝利を認めず、「不正があった」として選挙の無効を主張するとともに、法廷闘争に持ち込む可能性を示唆していることによる。 そうした中、菅義偉首相は、11月12日にバイデン次期大統領(便宜上そう記載する)と電話会談を行っている。その詳細な中身は明らかではないが、首相官邸のサイトに掲載された情報によると、以下のとおりとのことである(※カッコ内は筆者追記)。) 「私(菅総理)から、日米同盟は、厳しさを増すわが国周辺地域、そして国際社会の平和と繁栄にとって不可欠であり、一層の強化が必要である。その旨、また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米で共に連携していきたい、こうした趣旨を申し上げました。 バイデン次期大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明があり、日米同盟の強化、また、インド太平洋地域の平和と安定に向けて協力していくことを楽しみにしている旨の発言がありました。 また、コロナ対策や気候変動問題といった国際社会共通の課題についても、日米で共に連携していくことで一致しました。 拉致問題への協力も、私から要請いたしました」 いつまで「日米同盟」という意味不明の呼称を使い続けるのかという点や、その強化とは何を意味するのかこの人は理解できているのだろうか、といった点は脇に置いておくとして、本稿で取り上げたいのは、「日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明があり」という部分。 安倍政権においても米国大統領の訪日の際に確認が行われ、それを言ってもらうために貿易協定等において大幅譲歩(というより献上と表現した方がいいか)が行われたようであるが、いずれにせよ、安倍、菅両政権ともこの点を相当重要視しているようである。 加えて、野党からも、例えば国民民主党の玉木雄一郎代表も、この点が確認されたことを積極的に評価している』、「「日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明・・・安倍政権においても米国大統領の訪日の際に確認が行われ、それを言ってもらうために貿易協定等において大幅譲歩・・・が行われた」、これしきの発言を引き出すため、「貿易協定等において大幅譲歩」、とは正気の沙汰とは思えない。「国民民主党の玉木雄一郎代表も、この点が確認されたことを積極的に評価」、情けない話だ。
・『日米安全保障条約第5条の意味するところは? 本件のポイントは、日米安全保障条約第5条の意味するところ、そしてその適用範囲如何である。 まず第5条の意味についてであるが、同条前段は以下のとおり規定されている。 「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」 この条文のこの部分をもって、アメリカに日本防衛義務があるなどと言われることがあり、そのように説明するメディアや政治家は少なくない。 しかし、この条文をよく読めば、「防衛義務」という言葉もなければ、その根拠となりうる記載も見当たらない。あくまでも日米それぞれが、それぞれの国の憲法の規定及び手続きに従って対処するよう行動すると書いてあるだけであり、その中身が米国にあっては日本を防衛する軍事行動、物理的力の行使であることが一義的に明らかなわけでもない。従って単に非難するだけかもしれない。 あくまでもそれを「宣言」しているだけである。 本条約は日英両語で作成されたものがそれぞれ正文(正式な文書)であるので、英文の同じ箇所を抜き出せば以下のとおりである。 「Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and safety and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes.」 「would」が使われていることからしても、いかなる義務も導き出すことは困難である。 つまり、あくまでも各国の国内手続きに従って、「各国の判断で対処するとされているだけである」ということである。それを「日本防衛義務がある」などとするとは、拡大解釈も甚だしく、「妄想幻想の世界」もいいところである』、「「日本防衛義務がある」などとするとは、拡大解釈も甚だしく、「妄想幻想の世界」もいいところである」、というのは確かだ。
・『日米安全保障条約第5条は尖閣諸島に関する限り「空文」と化すことも 次に、適用範囲如何について、焦眉の課題は尖閣諸島への適用如何ということのようであるが、日米安全保障条約では「日本国の施政の下にある領域における」とされている。尖閣諸島については日本の領土である旨、政府はかねてから主張してきており、少なくとも日本の実効支配下にある。従って、当然に日米安全保障条約第5条の適用範囲に含まれると考えるのが適当である。 ただし、曲者なのは「施政下にある」という表現。「領土」や「領海」という表現は使われていない。この点については11月12日午前6時25分公開のBloombergの記事においても次のとおり指摘されている。 「The U.S. recognizes the disputed islands as administered by Japan, rather than saying they are part of the country.」 つまり、米国からすれば、尖閣諸島は日中両国による「係争地」であり、いずれの領土であるとも認識せずに、ただ単に日本の施政下にあるということだけを認識しているということであり、日米安全保障条約第5条における規定もそうした考え方に基づくか、そうした考え方を反映したものであるということである。 ということは、仮に中国軍の艦船なり、中国の海上保安庁に当たる海警の船舶が、間隙を突いて尖閣諸島に接岸し、上陸して実効支配を始めた場合は、日本の施政下からは外れたことになりえるので、日米安全保障条約第5条の適用範囲から外れることにもなりかねない。 そうなった場合、日米安全保障条約第5条は、尖閣諸島に関する限り「空文」と化すことになる。 「そんなことをさせない、そうならないためにも日米安全保障条約第5条の確認なのだ」といった反論が返ってきそうだが、米国に日本防衛義務がない以上、そして「米国の国益」にとってプラスとならないのであれば、米国軍は尖閣諸島防衛のために何ら行動することはないだろう』、「仮に中国軍の艦船なり、中国の海上保安庁に当たる海警の船舶が、間隙を突いて尖閣諸島に接岸し、上陸して実効支配を始めた場合は、日本の施政下からは外れたことになりえるので、日米安全保障条約第5条の適用範囲から外れることにもなりかねない。 そうなった場合、日米安全保障条約第5条は、尖閣諸島に関する限り「空文」と化すことになる」、驚くべきことだが、確かに米国がそのように解釈しても文句は言えないようだ。。
・『「脱ハンコ」や「携帯料金の引き下げ」の方が安全保障よりも優先すべき課題なのか 要するに日本が「自ら何とかするしかない」「自力で守るしかない」ということなのだが、日米安全保障条約の尖閣諸島への適用について確認することに執心する一方で、中国の海警による尖閣諸島海域への侵入が繰り返されているにもかかわらず、何ら具体的かつ積極的な行動を起こしていないのが実態である。 その背景には、緊縮財政で海上保安庁が十分な人員や艦船などの装備が保有できていないことと、その積極的活動を担保する法制が不十分であることがある(本稿の目的は問題点の指摘にあるので、こうした点についての詳細な解説は別稿に譲ろう)。 いつ「絵に描いた餅」に化するか分からない空文に、後生大事にしがみついている暇があったら、海上保安庁の体制強化のための歳出の拡大と、領域警備法等の関連法性の整備を急ぐべきである。 それよりも「脱ハンコ」や「携帯料金の引き下げ」、「インバウンド」に「カジノ」が優先と言うのであれば、菅首相は具体的かつ物理的にわが国の領土を失った戦後最初の首相として、歴史にその名を刻むことになるだろう』、「日米安全保障条約」の重要部分の解釈で国民に嘘をついているとは罪が深い。「海上保安庁の体制強化のための歳出の拡大と、領域警備法等の関連法性の整備を急ぐべき」、同感である。
次に、12月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経産省出身の評論家の中野剛志氏による「「尖閣」陥落は秒読み? とっくに“レッドゾーン”に突入している「日本の安全保障」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/256426
・『11月24日の日中外相共同記者会見における王毅外相の「尖閣諸島」に関する発言と、その場で反論しなかった茂木外相に対する強い批判が巻き起こったのは当然のことだった。しかし、問題の本質はそこにはない。直視しなければならないのは、中国が爆発的に軍事力を強化した結果、東アジアにおける軍事バランスが完全に崩壊したことだ。アメリカが、東アジアにおける軍事的プレゼンスを維持する「能力」と「意志」を失いつつある今、この10年を無策のまま過ごしてきた日本の「地政学リスク」は、明らかにレッドゾーンに突入した。日本は、あまりに過酷な現実に直面している』、「王毅外相」の発言は、「日本の漁船が絶えず釣魚島(尖閣諸島の中国名)周辺の敏感な水域に入っている」と述べた。日本側が「事態を複雑にする行動」を避けるべきだとも主張」、「先に発言した茂木氏は「中国側の前向きな行動を強く求めた」と強調。「外務省は「ルールとして反論するような場ではなかった」と説明」(日経新聞11月26日)。「中国が爆発的に軍事力を強化した結果、東アジアにおける軍事バランスが完全に崩壊したことだ。「アメリカが、東アジアにおける軍事的プレゼンスを維持する「能力」と「意志」を失いつつある今、この10年を無策のまま過ごしてきた日本の「地政学リスク」は、明らかにレッドゾーンに突入した」、厳しい現状認識だ。
・『すでに絶望的なまでに広がった、日本と中国の「軍事力の差」 2020年は、パンデミックにばかり注目が集まっている。しかし、後世の歴史家は、この年を、東アジアにおける国際秩序の転換点として記録することだろう。 2020年5月、東アジアの軍事情勢研究の権威であるトシ・ヨシハラが、「過去十年間で、中国海軍は、艦隊の規模、総トン数、火力等で、海上自衛隊を凌駕した」とする重要な分析を公表した。 その中で、ヨシハラは、「今日の中国の海軍力は十年前とは比較にならない。中国海軍に対する従来の楽観的仮定はもはや維持不可能である」と指摘した。 ヨシハラは、日中の戦力を詳細に比較しているが、一例をあげると、図のように、中国の軍事費は日本の5倍にもなっている。この結果、中国の政治家や軍の指導者は、自国の軍事的優位に自信をもつに至った。今後、中国は、尖閣諸島など局地的な紛争において攻勢的な戦略を採用するであろうとヨシハラは論じた。 要するに、東アジアの国際秩序を支えてきた軍事バランスが崩壊しつつあるというのだ。 どうして、こうなってしまったのか。先ほどの図を見れば一目瞭然であろう。中国はこの20年間、軍事費を急増させてきたが、日本の防衛費はほぼ横ばいである。これでは、軍事バランスが崩れるのも当然である』、「中国はこの20年間、軍事費を急増させてきたが、日本の防衛費はほぼ横ばいである。これでは、軍事バランスが崩れるのも当然である」、やむを得ないが、日本としての対応はますます難しくなる。
・『この10年の「日本」の過ごし方が、「致命的」であった理由 特に、ヨシハラも言うように、過去10年間が決定的であった。 ちょうど10年前、ヨシハラは、ジェームズ・ホームズ海軍大学教授とともに『太平洋の赤い星』(バジリコ刊)という著作を発表した。 その中で、二人は、中国の戦略研究家たちが鄧小平の「改革開放」以降、海洋戦略家アルフレッド・T・マハンへの関心を強めてきたことに着目した。マハンに学んだ中国の戦略研究家たちは、国際貿易や経済発展のためには海洋進出が必要であり、そのためにはシーレーンの支配が必要だと考え、強力な海軍の建設を目指しているというのである。 冷戦終結後の世界では、グローバル化が進展することで国家は後退し、領土をめぐる国家間の紛争は無意味になるという楽観論が支配していた。日本もこの楽観論を信じた。ところが、中国は、グローバル化が進むからこそ海軍力が必要になるという、日本とはまったく逆の戦略的思考に立っていたのである。 ヨシハラとホームズは、警告を発した。 「今日の西側の研究者たちは、地政学に注意を払わず、グローバル化と相互依存の時代には、絶望的に時代遅れで無関係なものとみなしている。彼らは、国際政治における地理の役割を軽視し、その過程で、自分たちの世界観を他の大国にも当てはめる。しかし、中国の学界の大多数は、まさに正反対の方向に向かっているのは、文献から明らかだ。」 なお、ホームズは、2012年、日中間で尖閣諸島をめぐる軍事衝突が起きた場合のシミュレーションを考察し、日本は、米軍の支援が得られれば、苦戦しつつも勝利するだろうと結論した。つまり、当時はまだ、日本はぎりぎり領土を守れたのだ。 しかし、それから今日までに、中国は軍事費を1.5倍以上にしたというのに、日本の防衛費は微増に過ぎなかった。 この決定的な10年間、日本はいったい何をやってきたのか。 安倍前政権は、TPP(環太平洋経済連携協定)など自由貿易を推進し、集団的自衛権の行使を認める法整備を推進してきた。要するに、グローバル化と日米同盟の強化が、外交戦略の柱だったのだ。 しかし、ヨシハラとホームズが警告したように、中国はグローバル化と共に海軍力を強化していた。したがって、グローバル化は、中国の軍事的な脅威の増大を招くものと認識すべきだった。ところが、日本はその認識を欠き、防衛力の強化を怠った』、「中国はグローバル化と共に海軍力を強化していた。したがって、グローバル化は、中国の軍事的な脅威の増大を招くものと認識すべきだった。ところが、日本はその認識を欠き、防衛力の強化を怠った」、中国に対抗して「防衛力の強化」をするには、膨大な防衛費が必要になるので、「防衛力の強化を怠った」のはやむを得ない。
・『米国に「守ってもらえる」時代は終焉を迎えた 他方で、日本は日米同盟の強化に努めてはきた。しかし、問題は、肝心の米国の軍事的優位が、この10年間で失われたことにある。 10年前、米国の軍事費は中国の5倍あった。それが、今では3倍程度しかないのだ。「3倍もあるではないか」と楽観するのは間違っている。中国は自国の周辺に戦力を展開しさえすればいいが、米国は太平洋を越え、あるいはグアムや沖縄など点在する基地から戦力を投射しなければならない。この地政学的不利を考慮すると、米中の軍事バランスはもはや崩れたと言うべきだ。 実際、2018年、米議会の諮問による米国防戦略委員会の報告書は、もし米国が台湾を巡って中国と交戦状態になったら敗北するだろうと述べている。また、2020年の米国防省の年次報告書は、中国の軍事力がいくつかの点で米国を凌駕したと認め、その一例として、中国が、すでに米国より多くの戦艦等を有する世界最大の海軍国家であると指摘している。 米国は、中国の侵略を抑止する能力だけでなく、その意志も失いつつある。昨年のある調査によると、「近年の中国のパワーと国際的な影響力の著しい増大に対して、米国の対中政策はどうあるべきか」という問いに対して、米国民の57.6%が「アジアの軍事プレゼンスを削減すべき」と回答している。 しかも、2020年は大統領選で国が分断され、政権移行で混乱し、さらにコロナ禍によって現時点で27万人以上もの死者を出している。こんな状態の米国が、尖閣諸島をめぐる日中の軍事衝突が起きた場合に、日本を支援する能力そして意志がどれだけあるというのか。 菅義偉首相は、11月12日、バイデン次期米大統領との電話会談で、日米安保条約が尖閣諸島に適用されることを確認した。しかし、バイデン政権移行チームからの発表には、「尖閣」の文字はなかった。 2020年――。 それは、日本が米国に守ってもらえた時代の終わりが始まった年なのである』、「米国民の57.6%が「アジアの軍事プレゼンスを削減すべき」と回答」、しているような状況では、「日米安保条約」で尖閣奪還してもらおうと期待するのは無理なようだ。日本として、核保有国の中国に如何に対抗すべきかについては、極めて難しい問題なので、今日のところは回答を留保したい。
先ずは、11月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した室伏政策研究室代表・政策コンサルタントの室伏謙一氏による「米軍は「尖閣を守る根拠なし」、日米安保条約を巡る初歩的な勘違いと危うさ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/254873
・『菅義偉首相は11月12日、バイデン次期大統領と電話会談を行い、「バイデン次期大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明があった」とコメントしている。そもそも「5条」の意味するところは何か、それで尖閣が守られるのか』、興味深そうだ。
・『安倍政権や菅政権がこだわる日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用(米国大統領選挙の結果、民主党候補であるバイデン前副大統領が次期大統領に選出されたとされている。「されている」というのは、共和党候補であるトランプ現大統領がバイデン候補の勝利を認めず、「不正があった」として選挙の無効を主張するとともに、法廷闘争に持ち込む可能性を示唆していることによる。 そうした中、菅義偉首相は、11月12日にバイデン次期大統領(便宜上そう記載する)と電話会談を行っている。その詳細な中身は明らかではないが、首相官邸のサイトに掲載された情報によると、以下のとおりとのことである(※カッコ内は筆者追記)。) 「私(菅総理)から、日米同盟は、厳しさを増すわが国周辺地域、そして国際社会の平和と繁栄にとって不可欠であり、一層の強化が必要である。その旨、また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米で共に連携していきたい、こうした趣旨を申し上げました。 バイデン次期大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明があり、日米同盟の強化、また、インド太平洋地域の平和と安定に向けて協力していくことを楽しみにしている旨の発言がありました。 また、コロナ対策や気候変動問題といった国際社会共通の課題についても、日米で共に連携していくことで一致しました。 拉致問題への協力も、私から要請いたしました」 いつまで「日米同盟」という意味不明の呼称を使い続けるのかという点や、その強化とは何を意味するのかこの人は理解できているのだろうか、といった点は脇に置いておくとして、本稿で取り上げたいのは、「日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明があり」という部分。 安倍政権においても米国大統領の訪日の際に確認が行われ、それを言ってもらうために貿易協定等において大幅譲歩(というより献上と表現した方がいいか)が行われたようであるが、いずれにせよ、安倍、菅両政権ともこの点を相当重要視しているようである。 加えて、野党からも、例えば国民民主党の玉木雄一郎代表も、この点が確認されたことを積極的に評価している』、「「日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明・・・安倍政権においても米国大統領の訪日の際に確認が行われ、それを言ってもらうために貿易協定等において大幅譲歩・・・が行われた」、これしきの発言を引き出すため、「貿易協定等において大幅譲歩」、とは正気の沙汰とは思えない。「国民民主党の玉木雄一郎代表も、この点が確認されたことを積極的に評価」、情けない話だ。
・『日米安全保障条約第5条の意味するところは? 本件のポイントは、日米安全保障条約第5条の意味するところ、そしてその適用範囲如何である。 まず第5条の意味についてであるが、同条前段は以下のとおり規定されている。 「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」 この条文のこの部分をもって、アメリカに日本防衛義務があるなどと言われることがあり、そのように説明するメディアや政治家は少なくない。 しかし、この条文をよく読めば、「防衛義務」という言葉もなければ、その根拠となりうる記載も見当たらない。あくまでも日米それぞれが、それぞれの国の憲法の規定及び手続きに従って対処するよう行動すると書いてあるだけであり、その中身が米国にあっては日本を防衛する軍事行動、物理的力の行使であることが一義的に明らかなわけでもない。従って単に非難するだけかもしれない。 あくまでもそれを「宣言」しているだけである。 本条約は日英両語で作成されたものがそれぞれ正文(正式な文書)であるので、英文の同じ箇所を抜き出せば以下のとおりである。 「Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and safety and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes.」 「would」が使われていることからしても、いかなる義務も導き出すことは困難である。 つまり、あくまでも各国の国内手続きに従って、「各国の判断で対処するとされているだけである」ということである。それを「日本防衛義務がある」などとするとは、拡大解釈も甚だしく、「妄想幻想の世界」もいいところである』、「「日本防衛義務がある」などとするとは、拡大解釈も甚だしく、「妄想幻想の世界」もいいところである」、というのは確かだ。
・『日米安全保障条約第5条は尖閣諸島に関する限り「空文」と化すことも 次に、適用範囲如何について、焦眉の課題は尖閣諸島への適用如何ということのようであるが、日米安全保障条約では「日本国の施政の下にある領域における」とされている。尖閣諸島については日本の領土である旨、政府はかねてから主張してきており、少なくとも日本の実効支配下にある。従って、当然に日米安全保障条約第5条の適用範囲に含まれると考えるのが適当である。 ただし、曲者なのは「施政下にある」という表現。「領土」や「領海」という表現は使われていない。この点については11月12日午前6時25分公開のBloombergの記事においても次のとおり指摘されている。 「The U.S. recognizes the disputed islands as administered by Japan, rather than saying they are part of the country.」 つまり、米国からすれば、尖閣諸島は日中両国による「係争地」であり、いずれの領土であるとも認識せずに、ただ単に日本の施政下にあるということだけを認識しているということであり、日米安全保障条約第5条における規定もそうした考え方に基づくか、そうした考え方を反映したものであるということである。 ということは、仮に中国軍の艦船なり、中国の海上保安庁に当たる海警の船舶が、間隙を突いて尖閣諸島に接岸し、上陸して実効支配を始めた場合は、日本の施政下からは外れたことになりえるので、日米安全保障条約第5条の適用範囲から外れることにもなりかねない。 そうなった場合、日米安全保障条約第5条は、尖閣諸島に関する限り「空文」と化すことになる。 「そんなことをさせない、そうならないためにも日米安全保障条約第5条の確認なのだ」といった反論が返ってきそうだが、米国に日本防衛義務がない以上、そして「米国の国益」にとってプラスとならないのであれば、米国軍は尖閣諸島防衛のために何ら行動することはないだろう』、「仮に中国軍の艦船なり、中国の海上保安庁に当たる海警の船舶が、間隙を突いて尖閣諸島に接岸し、上陸して実効支配を始めた場合は、日本の施政下からは外れたことになりえるので、日米安全保障条約第5条の適用範囲から外れることにもなりかねない。 そうなった場合、日米安全保障条約第5条は、尖閣諸島に関する限り「空文」と化すことになる」、驚くべきことだが、確かに米国がそのように解釈しても文句は言えないようだ。。
・『「脱ハンコ」や「携帯料金の引き下げ」の方が安全保障よりも優先すべき課題なのか 要するに日本が「自ら何とかするしかない」「自力で守るしかない」ということなのだが、日米安全保障条約の尖閣諸島への適用について確認することに執心する一方で、中国の海警による尖閣諸島海域への侵入が繰り返されているにもかかわらず、何ら具体的かつ積極的な行動を起こしていないのが実態である。 その背景には、緊縮財政で海上保安庁が十分な人員や艦船などの装備が保有できていないことと、その積極的活動を担保する法制が不十分であることがある(本稿の目的は問題点の指摘にあるので、こうした点についての詳細な解説は別稿に譲ろう)。 いつ「絵に描いた餅」に化するか分からない空文に、後生大事にしがみついている暇があったら、海上保安庁の体制強化のための歳出の拡大と、領域警備法等の関連法性の整備を急ぐべきである。 それよりも「脱ハンコ」や「携帯料金の引き下げ」、「インバウンド」に「カジノ」が優先と言うのであれば、菅首相は具体的かつ物理的にわが国の領土を失った戦後最初の首相として、歴史にその名を刻むことになるだろう』、「日米安全保障条約」の重要部分の解釈で国民に嘘をついているとは罪が深い。「海上保安庁の体制強化のための歳出の拡大と、領域警備法等の関連法性の整備を急ぐべき」、同感である。
次に、12月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経産省出身の評論家の中野剛志氏による「「尖閣」陥落は秒読み? とっくに“レッドゾーン”に突入している「日本の安全保障」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/256426
・『11月24日の日中外相共同記者会見における王毅外相の「尖閣諸島」に関する発言と、その場で反論しなかった茂木外相に対する強い批判が巻き起こったのは当然のことだった。しかし、問題の本質はそこにはない。直視しなければならないのは、中国が爆発的に軍事力を強化した結果、東アジアにおける軍事バランスが完全に崩壊したことだ。アメリカが、東アジアにおける軍事的プレゼンスを維持する「能力」と「意志」を失いつつある今、この10年を無策のまま過ごしてきた日本の「地政学リスク」は、明らかにレッドゾーンに突入した。日本は、あまりに過酷な現実に直面している』、「王毅外相」の発言は、「日本の漁船が絶えず釣魚島(尖閣諸島の中国名)周辺の敏感な水域に入っている」と述べた。日本側が「事態を複雑にする行動」を避けるべきだとも主張」、「先に発言した茂木氏は「中国側の前向きな行動を強く求めた」と強調。「外務省は「ルールとして反論するような場ではなかった」と説明」(日経新聞11月26日)。「中国が爆発的に軍事力を強化した結果、東アジアにおける軍事バランスが完全に崩壊したことだ。「アメリカが、東アジアにおける軍事的プレゼンスを維持する「能力」と「意志」を失いつつある今、この10年を無策のまま過ごしてきた日本の「地政学リスク」は、明らかにレッドゾーンに突入した」、厳しい現状認識だ。
・『すでに絶望的なまでに広がった、日本と中国の「軍事力の差」 2020年は、パンデミックにばかり注目が集まっている。しかし、後世の歴史家は、この年を、東アジアにおける国際秩序の転換点として記録することだろう。 2020年5月、東アジアの軍事情勢研究の権威であるトシ・ヨシハラが、「過去十年間で、中国海軍は、艦隊の規模、総トン数、火力等で、海上自衛隊を凌駕した」とする重要な分析を公表した。 その中で、ヨシハラは、「今日の中国の海軍力は十年前とは比較にならない。中国海軍に対する従来の楽観的仮定はもはや維持不可能である」と指摘した。 ヨシハラは、日中の戦力を詳細に比較しているが、一例をあげると、図のように、中国の軍事費は日本の5倍にもなっている。この結果、中国の政治家や軍の指導者は、自国の軍事的優位に自信をもつに至った。今後、中国は、尖閣諸島など局地的な紛争において攻勢的な戦略を採用するであろうとヨシハラは論じた。 要するに、東アジアの国際秩序を支えてきた軍事バランスが崩壊しつつあるというのだ。 どうして、こうなってしまったのか。先ほどの図を見れば一目瞭然であろう。中国はこの20年間、軍事費を急増させてきたが、日本の防衛費はほぼ横ばいである。これでは、軍事バランスが崩れるのも当然である』、「中国はこの20年間、軍事費を急増させてきたが、日本の防衛費はほぼ横ばいである。これでは、軍事バランスが崩れるのも当然である」、やむを得ないが、日本としての対応はますます難しくなる。
・『この10年の「日本」の過ごし方が、「致命的」であった理由 特に、ヨシハラも言うように、過去10年間が決定的であった。 ちょうど10年前、ヨシハラは、ジェームズ・ホームズ海軍大学教授とともに『太平洋の赤い星』(バジリコ刊)という著作を発表した。 その中で、二人は、中国の戦略研究家たちが鄧小平の「改革開放」以降、海洋戦略家アルフレッド・T・マハンへの関心を強めてきたことに着目した。マハンに学んだ中国の戦略研究家たちは、国際貿易や経済発展のためには海洋進出が必要であり、そのためにはシーレーンの支配が必要だと考え、強力な海軍の建設を目指しているというのである。 冷戦終結後の世界では、グローバル化が進展することで国家は後退し、領土をめぐる国家間の紛争は無意味になるという楽観論が支配していた。日本もこの楽観論を信じた。ところが、中国は、グローバル化が進むからこそ海軍力が必要になるという、日本とはまったく逆の戦略的思考に立っていたのである。 ヨシハラとホームズは、警告を発した。 「今日の西側の研究者たちは、地政学に注意を払わず、グローバル化と相互依存の時代には、絶望的に時代遅れで無関係なものとみなしている。彼らは、国際政治における地理の役割を軽視し、その過程で、自分たちの世界観を他の大国にも当てはめる。しかし、中国の学界の大多数は、まさに正反対の方向に向かっているのは、文献から明らかだ。」 なお、ホームズは、2012年、日中間で尖閣諸島をめぐる軍事衝突が起きた場合のシミュレーションを考察し、日本は、米軍の支援が得られれば、苦戦しつつも勝利するだろうと結論した。つまり、当時はまだ、日本はぎりぎり領土を守れたのだ。 しかし、それから今日までに、中国は軍事費を1.5倍以上にしたというのに、日本の防衛費は微増に過ぎなかった。 この決定的な10年間、日本はいったい何をやってきたのか。 安倍前政権は、TPP(環太平洋経済連携協定)など自由貿易を推進し、集団的自衛権の行使を認める法整備を推進してきた。要するに、グローバル化と日米同盟の強化が、外交戦略の柱だったのだ。 しかし、ヨシハラとホームズが警告したように、中国はグローバル化と共に海軍力を強化していた。したがって、グローバル化は、中国の軍事的な脅威の増大を招くものと認識すべきだった。ところが、日本はその認識を欠き、防衛力の強化を怠った』、「中国はグローバル化と共に海軍力を強化していた。したがって、グローバル化は、中国の軍事的な脅威の増大を招くものと認識すべきだった。ところが、日本はその認識を欠き、防衛力の強化を怠った」、中国に対抗して「防衛力の強化」をするには、膨大な防衛費が必要になるので、「防衛力の強化を怠った」のはやむを得ない。
・『米国に「守ってもらえる」時代は終焉を迎えた 他方で、日本は日米同盟の強化に努めてはきた。しかし、問題は、肝心の米国の軍事的優位が、この10年間で失われたことにある。 10年前、米国の軍事費は中国の5倍あった。それが、今では3倍程度しかないのだ。「3倍もあるではないか」と楽観するのは間違っている。中国は自国の周辺に戦力を展開しさえすればいいが、米国は太平洋を越え、あるいはグアムや沖縄など点在する基地から戦力を投射しなければならない。この地政学的不利を考慮すると、米中の軍事バランスはもはや崩れたと言うべきだ。 実際、2018年、米議会の諮問による米国防戦略委員会の報告書は、もし米国が台湾を巡って中国と交戦状態になったら敗北するだろうと述べている。また、2020年の米国防省の年次報告書は、中国の軍事力がいくつかの点で米国を凌駕したと認め、その一例として、中国が、すでに米国より多くの戦艦等を有する世界最大の海軍国家であると指摘している。 米国は、中国の侵略を抑止する能力だけでなく、その意志も失いつつある。昨年のある調査によると、「近年の中国のパワーと国際的な影響力の著しい増大に対して、米国の対中政策はどうあるべきか」という問いに対して、米国民の57.6%が「アジアの軍事プレゼンスを削減すべき」と回答している。 しかも、2020年は大統領選で国が分断され、政権移行で混乱し、さらにコロナ禍によって現時点で27万人以上もの死者を出している。こんな状態の米国が、尖閣諸島をめぐる日中の軍事衝突が起きた場合に、日本を支援する能力そして意志がどれだけあるというのか。 菅義偉首相は、11月12日、バイデン次期米大統領との電話会談で、日米安保条約が尖閣諸島に適用されることを確認した。しかし、バイデン政権移行チームからの発表には、「尖閣」の文字はなかった。 2020年――。 それは、日本が米国に守ってもらえた時代の終わりが始まった年なのである』、「米国民の57.6%が「アジアの軍事プレゼンスを削減すべき」と回答」、しているような状況では、「日米安保条約」で尖閣奪還してもらおうと期待するのは無理なようだ。日本として、核保有国の中国に如何に対抗すべきかについては、極めて難しい問題なので、今日のところは回答を留保したい。
タグ:日本として、どうすべきかについては、極めて難しい問題なので、今日のところは回答を留保したい 「日米安保条約」で尖閣奪還してもらおうと期待するのは無理なようだ 仮に中国軍の艦船なり、中国の海上保安庁に当たる海警の船舶が、間隙を突いて尖閣諸島に接岸し、上陸して実効支配を始めた場合は、日本の施政下からは外れたことになりえるので、日米安全保障条約第5条の適用範囲から外れることにもなりかねない。 そうなった場合、日米安全保障条約第5条は、尖閣諸島に関する限り「空文」と化すことになる 日米安全保障条約第5条は尖閣諸島に関する限り「空文」と化すことも 「「日本防衛義務がある」などとするとは、拡大解釈も甚だしく、「妄想幻想の世界」もいいところである」 あくまでも日米それぞれが、それぞれの国の憲法の規定及び手続きに従って対処するよう行動すると書いてあるだけであり、その中身が米国にあっては日本を防衛する軍事行動、物理的力の行使であることが一義的に明らかなわけでもない。従って単に非難するだけかもしれない。 あくまでもそれを「宣言」しているだけである 日米安全保障条約第5条の意味するところは? 国民民主党の玉木雄一郎代表も、この点が確認されたことを積極的に評価している それを言ってもらうために貿易協定等において大幅譲歩 日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明があり 日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用 「米軍は「尖閣を守る根拠なし」、日米安保条約を巡る初歩的な勘違いと危うさ」 室伏謙一 ダイヤモンド・オンライン 米国民の57.6%が「アジアの軍事プレゼンスを削減すべき」と回答 (その6)(米軍は「尖閣を守る根拠なし」 日米安保条約を巡る初歩的な勘違いと危うさ、「尖閣」陥落は秒読み? とっくに“レッドゾーン”に突入している「日本の安全保障」) 尖閣諸島問題 米国に「守ってもらえる」時代は終焉を迎えた 中国に対抗して「防衛力の強化」をするには、膨大な防衛費が必要になるので、「防衛力の強化を怠った」のはやむを得ない 中国はグローバル化と共に海軍力を強化していた。したがって、グローバル化は、中国の軍事的な脅威の増大を招くものと認識すべきだった。ところが、日本はその認識を欠き、防衛力の強化を怠った この10年の「日本」の過ごし方が、「致命的」であった理由 中国はこの20年間、軍事費を急増させてきたが、日本の防衛費はほぼ横ばいである。これでは、軍事バランスが崩れるのも当然である 今後、中国は、尖閣諸島など局地的な紛争において攻勢的な戦略を採用するであろうとヨシハラは論じた 「今日の中国の海軍力は十年前とは比較にならない。中国海軍に対する従来の楽観的仮定はもはや維持不可能である」 トシ・ヨシハラ すでに絶望的なまでに広がった、日本と中国の「軍事力の差」 アメリカが、東アジアにおける軍事的プレゼンスを維持する「能力」と「意志」を失いつつある今、この10年を無策のまま過ごしてきた日本の「地政学リスク」は、明らかにレッドゾーンに突入した 「「尖閣」陥落は秒読み? とっくに“レッドゾーン”に突入している「日本の安全保障」」 中野剛志 海上保安庁の体制強化のための歳出の拡大と、領域警備法等の関連法性の整備を急ぐべき 「脱ハンコ」や「携帯料金の引き下げ」の方が安全保障よりも優先すべき課題なのか
スガノミクス(その2)(三浦瑠麗氏 菅首相のブレーン起用も…専門家から「必然性ない」「コア支持層へのアピール」との声、菅首相 医療のブレーン不在と自白? 「コロナ対策は迷走の可能性大」と専門家、コラム:「経済が大事」という優しさが高める景気底割れリスク=鈴木明彦氏、お粗末すぎる自民党「新たな経済対策への提言」 コロナ禍の影響を無視) [国内政治]
スガノミクスについては、10月2日に取上げた。強は、(その2)(三浦瑠麗氏 菅首相のブレーン起用も…専門家から「必然性ない」「コア支持層へのアピール」との声、菅首相 医療のブレーン不在と自白? 「コロナ対策は迷走の可能性大」と専門家、コラム:「経済が大事」という優しさが高める景気底割れリスク=鈴木明彦氏、お粗末すぎる自民党「新たな経済対策への提言」 コロナ禍の影響を無視)である。今回から(アベノミクス)は外した。
先ずは、11月4日付けAERAdot「三浦瑠麗氏、菅首相のブレーン起用も…専門家から「必然性ない」「コア支持層へのアピール」との声」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2020110200039.html?page=1
・『菅首相は日本学術会議の問題では「多様性が大事だ」と強調したが、自らを取り巻くブレーンはいかに。その顔ぶれから、菅政権の特徴も見えてくる。AERA 2020年11月9日号では、菅政権のブレーンに注目した。 「私が目指す社会像は、『自助・共助・公助』そして『絆』です。自分でできることはまず自分でやってみる。そして家族、地域で互いに助け合う。その上で政府がセーフティーネットでお守りする。そうした国民から信頼される政府を目指します」 臨時国会が始まった10月26日、菅義偉首相は所信表明で目指す国の姿をこう話した。 「居抜き内閣」などと揶揄(やゆ)されながら、一方で携帯電話料金の引き下げやデジタル庁の創設などで「菅カラー」も出そうとする新首相。この国をどこに向かわせようとしているのか。処遇されたブレーンたちの顔ぶれから考えてみたい。新政権の発足で、安倍政権で成長戦略づくりを担った「未来投資会議」が「成長戦略会議」に衣替えした。後に触れる内閣官房参与も含め、登用された人たちは以下の通りだ』、どんな人物がいるのだろう。
・『菅首相の主なブレーン(敬称略)
<成長戦略会議の有識者メンバー> 金丸恭文・フューチャー会長兼社長 国部 毅・三井住友フィナンシャルグループ会長 桜田謙悟・SOMPOホールディングス社長 竹中平蔵・慶応大名誉教授、パソナ会長 デービッド・アトキンソン・小西美術工藝社社長 南場智子・ディー・エヌ・エー会長 三浦瑠麗・山猫総合研究所代表、国際政治学者 三村明夫・日本商工会議所会頭
<内閣官房参与(カッコ内は担当分野)> 飯島 勲・元首相秘書官(特命) 平田竹男・早大教授(文化・スポーツ健康・資源戦略) 木山 繁・元国際協力機構理事(経協インフラ) 西川公也・元農林水産相(農林水産業振興) 今井尚哉・元首相補佐官兼首相秘書官(エネルギー政策等) 高橋洋一・嘉悦大教授(経済・財政政策) 宮家邦彦・立命館大客員教授(外交) 岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長(感染症対策) 熊谷亮丸・大和総研チーフエコノミスト(経済・金融) 中村芳夫・経団連顧問(産業政策) 村井 純・慶応大教授(デジタル政策)
ここでは民間出身者に注目するが、米金融大手ゴールドマン・サックス出身で小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏と、三井住友フィナンシャルグループ会長の国部毅氏以外は、未来投資会議からの続投だ。会議出席の謝金は職位などにより、最大で1時間当たり1万1300円が払われる』、「アトキンソン氏」と「国部毅氏以外は、未来投資会議からの続投」、まさに「居抜き内閣」だ。
・『中小企業の再編や統合 注目はアトキンソン氏。菅首相は、国内企業の99.7%を占める中小企業の再編や統合を進めようとするが、そこにアトキンソン氏の影響が指摘されている。経済産業研究所の藤和彦・上席研究員はこう話す。 「政策的に正しくても、コロナ禍による失業増が懸念されるときに、雇用の受け皿だった中小企業が再編されて大リストラが行われれば、どうなるのでしょうか。菅内閣がやっている各論の構造改革ばかりでは、これからやってくる100年に1度の大恐慌に太刀打ちできません」 元文部科学次官の前川喜平さんは同じ視点から、日本商工会議所会頭の三村明夫氏の存在を気にかけているという。 「三村氏には中小企業の人たちの立場を代弁することが期待されているでしょうから、アトキンソン氏と対立する場面もあるでしょう。場合によっては『日商会頭も賛成したのだから』と、中小企業者を納得させるためのアリバイづくりに利用されることがあるかもしれません」 元総務相の竹中平蔵氏についても触れざるを得ないだろう。最近では、BSの番組でベーシックインカムの導入に言及した際、「実現すれば生活保護や年金給付が必要なくなる」という趣旨の発言をして世論の反発を買った。格差社会を肯定、推進するような人物と考えられがちだが、識者はどうみるか。 元総務官僚の平嶋彰英・立教大学特任教授は「菅総理も頼りにし、影響力もある人。やっていることが国民に分かるように政治的責任も問われる立場でやってほしい。自由をあまり大切にしないご都合主義的な“新自由主義”と感じます」と指摘する』、「自由をあまり大切にしないご都合主義的な“新自由主義”」とは言い得て妙だ。
・『旧中間階級の切り捨て 階級・階層論が専門の社会学者、橋本健二・早稲田大学教授も菅内閣のブレーンたちに新自由主義的な傾向を強く感じる。 「零細企業や農協などかつての自民党の支持層だった“旧中間階級”を切り捨て、専門職や管理事務職に従事する“新中間階級”への乗り換えが決定的になりました。一つの階級の崩壊につながります。もう一つ気になるのは、非正規雇用者の問題です。顔ぶれからは、今はまだ規制がある建設業などの分野にも切り込んでくる予感がします」 さらに、橋本教授が注目するのは、国際政治学者の三浦瑠麗氏だ。橋本教授はこれまでの研究から、自民党は自己責任論を強く訴え、排外主義的な傾向を持ち合わせる「新自由主義右翼」と名付けた集団による強い支持を受けて、これまで選挙で勝ち続けたとみている。 三浦氏は、2018年にフジテレビの番組に出演した際、「北朝鮮の潜伏工作員が国内にいる」という趣旨の発言をして問題視されたほか、著書では徴兵制の導入も主張。安倍晋三前首相に近い論客として知られ、今夏、アマゾンが有料サービス「プライムビデオ」のCMに三浦氏を起用すると、ネット上で批判を受けて「解約運動」も起きた。 「経済の専門家でもありませんから必然性は感じられません。差別・排外主義の象徴ととらえられることもあった人ですから、そういう意味ではコア支持層へのアピールだと感じられます」(橋本教授)』、「三浦氏」の起用は「新自由主義右翼」への「アピール」、というのは確かなようだ。
・『大失業時代への対応 非常勤国家公務員の内閣官房参与はどうか。内閣官房の内閣総務官室によると、報酬は1回の“仕事”につき2万6400円。前出の藤研究員が注視している人物は、高橋洋一氏だ。 「政府と日銀の財布を一体として考える『統合政府』論者で、政府は借金を心配せずにどんどんお金を使え、という方です。竹中氏やアトキンソン氏の路線とは違うタイプに感じます。今後の大失業時代は政府が中心になって雇用を生んでいくしかないので、高橋氏がどういう役割を果たすか注目しています」 ただ、一方で立教大の平嶋特任教授はこう指摘している。 「研究者としての能力は高いですが、高橋氏は行動原理の基盤に(古巣の)財務省に対する反発があり、それがベースでの助言で政策がゆがむことが心配です。大きな影響力を行使するのであれば、助言内容は国民にオープンにするべきです」 ※【菅首相、医療のブレーン不在と自白? 「コロナ対策は迷走の可能性大」と専門家】へ続く)』、「高橋洋一」氏は、「研究者としての能力は高い」というのは疑問だ。さらに、私が批判している異次元緩和を支持している点でも私は全く評価しない。
次に、この続き、11月4日付けAERAdot「菅首相、医療のブレーン不在と自白? 「コロナ対策は迷走の可能性大」と専門家」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2020110200041.html?page=1
・『発足早々に何かと話題を集めている菅内閣だが、今後どのような政治手腕をみせるのか。その施政方針を、ブレーンのメンバーから読み解いてみた。AERA 2020年11月9日号では、菅首相のブレーンとなる成長戦略会議と内閣官房参与の顔ぶれを紹介しつつ、そこから見える方向性を専門家らに聞いた・・・(ブレーンの紹介は省略)・・・京都大学大学院の藤井聡教授は安倍内閣で6年間、参与を務めた。参与が、政府とまったく同じ方向を向いていたら意味がないと藤井教授は考えている。助言の必要がないからだ。藤井教授自身は、10%への消費増税に強く反対する意見を各所で表明していたこともあって18年末に参与を退職したが、今回の顔ぶれをどうみるか。 「外交担当の宮家邦彦氏の対米政策や、経済・財政政策担当の高橋洋一氏の構造改革路線など、従来の政府の考え方に沿った人選がされているようです。安倍内閣は実は緊縮内閣だったので、そういう意味では経済・金融担当で消費減税の強力な主張者である熊谷亮丸氏の考え方とも一致しています」 安倍前首相のアベノミクスでは、日本銀行と連携した「金融緩和」(第1の矢)、政府支出で仕事や所得を増やす「財政出動」(第2の矢)、企業などが活動しやすくする「成長戦略」(第3の矢)を打ち出した。 「参与と成長戦略会議のどちらの顔ぶれからも、トータルでは第2の矢を少し引っ込めて、第3の矢をさらに前に出している、というイメージを受けます」(藤井教授) 参与でもう一人注目したいのは岡部信彦氏だ。新型コロナでは、政府の専門家会議やその後の分科会で対応にあたってきたが、徹底的なPCR検査の実施には抑制的な考えだったとされる。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師はこう話す。 「国立感染症研究所OBの岡部先生は、厚生労働省の“お抱え”と言える存在です。この人事は、菅首相には医療についてのブレーンがいないと告白しているのと同じです。コロナ対策が迷走を続ける可能性が大です」 独自のブレーンがいないと考えているのは、政治評論家の有馬晴海さんも同じだ。 「主に政局で生きてきた菅首相が急にトップに立っても、政策を一緒に構築できる人がいません。だから安倍前首相から引き継いだりテレビに出ている人たちからつまんだりして、なんとなく後押ししてくれそうな人を置いているのだと思います」 日本学術会議問題で波乱含みの船出となった新政権。官僚人事などでも強権的な一面をのぞかせる菅首相だが、ブレーンたちとの付き合い方も注目だ』、「岡部先生は、厚生労働省の“お抱え”と言える存在です。この人事は、菅首相には医療についてのブレーンがいないと告白しているのと同じです。コロナ対策が迷走を続ける可能性が大です」、やれやれだ。
第三に、12月4日付けロイターが掲載した三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹の鈴木明彦氏による「コラム:「経済が大事」という優しさが高める景気底割れリスク」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/colmn-akihiko-suzuki-idJPKBN28D3KD
・『新型コロナウイルスにより深い痛手を受けた日本経済の現状について、回復ペースが緩やかだとか、コロナショック前の水準に戻るには何年もかかりそうだとか、様々な指摘があるが、景気はすでに回復軌道に入っている。 輸出と生産はコロナショック前の水準に近づいており、在庫調整も進んで在庫率はかなり下がってきた。在庫循環図を見ると、足元で「意図せざる在庫調整局面」に入り、年明けには「在庫積み増し局面」に入る勢いとなっている。少なくとも輸出や生産に関しては、リーマン・ショック後を上回るペースで回復しており、コロナ禍だから回復が遅いということはない。 確かに雇用情勢は厳しい状況が続いているが、それでも就業者数は徐々に持ち直し、有効求人倍率にも下げ止まりの動きが出ている。急速に悪化していた企業収益も7─9月期は6四半期ぶりに改善した。設備投資はまだ減少が続いているが、企業収益の改善が続けば、今年度下期は下げ止まりから回復に転じてもおかしくない。 景気動向指数の基調判断は、早ければ来年1月に発表される11月の指数で「上方への局面変化」に変更されそうだ。この判断は、景気の谷がそれ以前の数カ月にあったことを示している。今年5月ごろを底に景気は回復局面に入ったと考えるのが素直だ』、もっとも「7─9月期」の回復は「4─6月期の落ち込み」を埋めるには力不足だったようだ。
・『第3波襲来で広がる底割れ懸念 一方で、景気の先行きに対する懸念も広がっている。景気が回復していると言っても、インバウンド消費はもちろん、飲食・宿泊、交通など感染拡大の影響を大きく受けるサービス分野では厳しい状況が続いている。 これから発表される10━12月期の経済指標は景気回復が続いていることを示唆する数字が続きそうだが、それでも7━9月期に比べれば成長ペースの減速は避けられない。日本経済に対する弱気な見方が広がりそうだ。 加えて、新型コロナの感染が再び深刻化している。春の第1波、夏の第2波に続いて、秋以降は第3波と言える拡大が続いている。新型コロナが猛威を振るい始めてから初めて迎える本格的な感染シーズンであり、日本よりひと足早く寒くなる欧米の状況からも推測できたように、日本もすでに新規感染者数、重症者数、死亡者数などが過去最高となるなど、第1波、第2波を上回る感染規模になっている。 インフルエンザと同様に考えれば、新型コロナの感染拡大は来年も続きそうであり、再び経済活動が停止して、せっかく回復してきた景気が腰折れしてしまうのではないかとの懸念が強まっている。 確かに春の第1波を受けた4━6月期の景気の落ち込みの記憶が冷めやらぬところで、それを上回る感染拡大が起きるとなれば、先行き懸念が広がるのは無理からぬところだ』、「第3波襲来で広がる底割れ懸念」、というのは確かだ。
・『感染への耐性も備わった日本経済 しかし、その割に株価が堅調に推移しているのはなぜか。 景気が回復して企業収益も上向いていることが株価堅調の背景にあるのは言うまでもないが、社会や経済に感染拡大への備えが整ってきていることが評価されているのではないか。つまり、感染拡大が続く中で、それに対する耐性を日本経済が持つようになり、経済活動が維持されているということだ。 春の第1波によって日本経済が大きなダメージを受けたのは、世界の経済活動の停止が原因であることはもちろんだが、予期しない脅威に不意を突かれたことも影響していると言えそうだ。中国で新型コロナウイルスの感染が広がり始めたころに、日本でここまで感染が拡大すると予想していた人は少ないだろう。 予防の基本であるマスクも手に入らず、テレワークの準備もない中で在宅勤務と言われて当惑した人も多かったはずだ。経済活動の制限と言われても、何をどの程度止めればよいのか分からないままに、混乱と自粛の嵐の中で経済は大きく落ち込むことになった。 夏の第2波の感染拡大では、新規感染者数は第1波を上回ったが、景気は持ち直しが続いた。また、重症者の増加も第1波の時ほどではなかった。 このころになると、マスクの不足も解消され、医療体制も改善が進み、テレワークの広がりなど、「ウイズコロナ」の経済活動が定着してきた。第2波の感染拡大においては、こうした備えが整ったことで、医療崩壊や経済活動の停止といった状況を回避し、経済の持ち直しが続いたと言えよう』、「感染への耐性も備わった日本経済」と「鈴木」氏が強気になっているのは、株価の堅調も影響しているのだろう。
・『万全とは言えない第3波への備え 第2波の時までに準備されたマスク着用、うがい・手洗いの励行、密を避ける工夫といった予防体制は第3波でも有効だろう。テレワークや製造現場の無人化など、人と人との接触を避けながら経済活動を継続する体制も整っている。 草の根の予防が徹底されて、感染爆発を回避している日本経済の強さはもっと評価されていいだろう。第3波が押し寄せていると言っても、感染の広がりは欧米に比べてはるかに抑制されている。 しかし、その強さに頼り過ぎることが、また別の弱さを生み出す。日本は草の根の予防策が功を奏してこれまでのところ感染爆発を辛うじて防いでいる。しかし、ひとたび感染爆発が起きた時の備えは脆弱である。感染爆発に至らなくても、医療体制はひっ迫する懸念が出ている。ワクチンの開発も国際的な競争で日本が優位に立っているとは言えない。 PCR検査の実施体制、重症者に対する医療体制、ワクチン開発への取り組みなど、日本の脆弱な面を強化していかなければならないことは言うまでもない。しかし、今は爆発的感染を防ぐことが喫緊の課題だ』、「今は爆発的感染を防ぐことが喫緊の課題だ」、その通りだ。
・『成長拡大だけでは命と経済は両立しない 爆発的感染を回避できれば、すでに回復軌道に乗っている日本経済が腰折れすることはなさそうだ。しかし、目先の成長率を高めようとして感染爆発を起こすことが最悪のシナリオだ。日本の弱さが表面化して、厳しい経済活動の制限を余儀なくされ、景気は一気に悪化する。 今の景気回復では満足できないことは日本の弱さと言えそうだ。7━9月期の経済成長率は、前期比プラス5.0%という立派な高成長となったが、それでも米国と比べて低いとの評価が多い。しかし、米国の高成長が、世界最悪の感染状況と引き換えに実現したのであれば、日本が見習うべき姿ではない。 目先の経済成長を高めるよりも、地道な感染防止に注力するべきだ。成長率を無理に高めようとする政策が感染リスクを拡大させる。 もちろん、このままでは立ち行かなくなる会社、自営業、個人が増えているのは事実だ。しかし、それは特定の業種に限った話ではない。需要誘発的な刺激策で救われる会社や個人は限られる。本当に救いたいのであれば、景気刺激効果が乏しく、予算規模もはるかに大きくなるが、社会保障としての政策で幅広い救済措置をとるべきではないか。 命と経済の両立というフレーズはよく使われるが、その意味をしっかり考えなければいけない。 確かに、ブレーキを目いっぱい踏んでいたら車は動かない。だからといってブレーキを踏みながらアクセルを踏んだら、車は壊れる。ブレーキとアクセルは踏み分けなければいけない。ブレーキを緩めるだけでも車は動きだす。 今はこれまで慎重に緩めてきたブレーキを少し踏み直すかどうかという判断の時期だ。アクセルを踏む政策は効果があまり期待できないだけではなく、感染拡大のリスクを高める。少なくともこのタイミングで踏むべきではない。そして、ブレーキとアクセルを同時に踏む政策は人々を混乱させ、回復しようという経済の活力をも損なうことになろう』、「目先の経済成長を高めるよりも、地道な感染防止に注力するべきだ。成長率を無理に高めようとする政策が感染リスクを拡大させる」、「今はこれまで慎重に緩めてきたブレーキを少し踏み直すかどうかという判断の時期だ」、同感である。
第四に、12月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した室伏政策研究室代表・政策コンサルタントの室伏謙一氏による「お粗末すぎる自民党「新たな経済対策への提言」、コロナ禍の影響を無視」を紹介しよう。
・『先月末、新型コロナウイルスの社会経済への影響に対応するための自民党の提言、「新たな経済対策に向けた提言」が取りまとめられた。しかし、これらの内容は、コロナ禍不況への対応とは無関係な事項ばかりが並び、あまりにも緊張感がなく、お粗末すぎるものだ』、どういうことだろう。
・『実にお粗末 自民党「新たな経済対策に向けた提言」 11月30日、新型コロナの社会経済への影響に対応するための自民党の提言、「新たな経済対策に向けた提言」が取りまとめら、菅総理に申し入れが行われた。これまで2回編成された補正予算と同様に、自民党の提言を受けて予算案政府案を編成することになるので、この提言は第3次補正予算案の下敷きになるものである。 もっとも、今後世論も含めて様々な批判等の評価を受けるとともに、各府省内で協議、審査、そして財務省の査定を受けて最終的に政府案となるので、これがそっくりそのまま第3次補正予算案となるわけではないだろう。 さて、「その内容は…」といえば、実にお粗末であり、新型コロナにより、困窮する事業者や国民の支援、救済とは全く関係のないもののオンパレードである。 そこには本気で新型コロナにより疲弊したわが国経済を立て直そうという姿勢は微塵も感じられない。「国民のために働く」という党のスローガンはどこへ行ったのか?(もしかして「国民」とはごく一部の特定の人たちだけのことなのか?) そこで、この提言が、前回のものとは悪い意味で「隔世の感」がある、いかにお粗末で、端的に言って酷いものなのか、具体的な事項を取り上げつつ見ていくこととしよう』、興味深そうだ。
・『経済対策にかこつけて惨事便乗の市場改革を進めるつもりか? まず、冒頭の「基本的な考え方」においては、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を最優先として政府に万全の対応を求める一方、「感染拡大防止と社会経済活動の両立」を基本戦略として、国民の生活を守り切る姿勢が示されている。これについては異論を挟む余地はないだろう。なんと言っても「当たり前」のことが書かれているだけのことだから。 問題はその先。次のような記載がある。 「我が国の活力を取り戻すのみならず、いわゆる「ウィズロナ」、更には「ポストコロナ」の時代を見据えたとき、我が国社会経済の構造転換は避けて通れない。その際、戦略的に成長力を底上げしなければ、コロナのトンネルを抜けた先で、日本経済が世界に伍してしっかりと回復することができないという危機感を持つべきである。そこで、今回の経済対策にあたっては、従来型の施策のみならず、『国民や企業の前向きな動きを後押ししていく』という視点を取り入れ、日本経済の成長力の強化を図っていくべきである。」 新型コロナへの影響により大企業から中小企業に至るまで売り上げ・収益が激減し困窮状態にあるというのに、「社会経済の構造転換は避けて通れない」であるとか、「戦略的に成長力を底上げしなければ」とは、何をか言わんやである。 この「構造転換」に力点が置かれていることは明らかであるが、ここに出てくるような表現は、過去の大規模自然災害の後によく見られたものである。つまり、経済対策にかこつけてショックドクトリン(大惨事に便乗する過激な市場原理主義改革)を進めようということであろう。その意味では「構造転換」とは「構造改革」、特定の者に都合がいいように社会経済を変えることであると解していいだろう。 そうしたことは個別具体的な事項を見ていけば明らかである。 最重点事項として、(1)新型コロナウイルス感染症の拡大防止策、(2)ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現、そして(3)防災減災・国土強靭化の推進等の安全・安心の確保の3つが記載されている。 (1)については内容が薄いこと以外は、そこに記載された項目自体は特段問題があるものではないし、(3)は常に対応していかなければいけないし、本年も自然災害による甚大な被害を受けた地域があることから特段問題がないというより遅気に失した感さえある。しかし、(2)は別である。新型コロナ感染症による影響を緩和するための更なる緊急対策、例えば持続化給付金等の拡充といったものが記載されているかと思いきや、全く記載されていないのである。 冒頭に出てくるのは、なんと「デジタル改革・グリーン社会の実現」で、「その中身は…」といえば、マイナンバーカードの普及促進や行政のデジタル改革の推進、そしてグリーン社会の実現につながる研究開発を行う企業への支援等である』、こんなに関係が薄いものまでシレッと書き込むとは、恥ずかしいと思わないのだろうか。
・『「お花畑」の中にでも暮らしているのか? デジタル化は菅政権が掲げる重点政策の一つであるが、今、この状況下、新型コロナ大不況と言ってもいい状況で、補正予算まで組んで優先的に進める話ではなかろう。相変わらず緊張感の欠片もないのか、それともどこか特定の利益に、優先的に進めることを約束したのかと邪推したくなる。 次に出てくるのは、「経済構造の転換・イノベーション等による生産性向上」である。その中身は、まず、中小企業の経営転換支援と称して、経済社会の変化に対応するための事業再構築・事業再編等に向けた取り組みを支援することが記載されている。これはまさに菅政権が、デビット・アトキンソン氏らの言を鵜呑みにしてがむしゃらに進めようとしている、中小企業の再編による数減らし、はっきり言えば中小企業潰し策である。今政府がなすべきは、必要な手厚い財政支援を行って一社も潰さないことであって、企業の数を減らしたり潰したりすることではない。つまりこの内容は新型コロナ大不況への経済対策とは真逆のことを言っているということである。 「~生産性向上」の項には、その次にサプライチェーンの強靭化が記載されているが、国内への生産拠点の回帰は当然のことである一方、今回の新型コロナ感染症によって引き起こされた危機によって明らかとなったのは、生産拠点の海外依存の危険性や脆弱性であって、中国から別の国に分散させればいいという話ではない。それにもかかわらず、海外での生産拠点の多元化が記載されている。これを進言し、記載させた自民党所属議員の国際情勢認識はどうなっているのだろう? どこか違う世界、「お花畑」の中にでも暮らしているのだろうか? さらに「研究開発の促進」と称した、大学等ファンドの創設、大学の抜本改革なるものを進め、「若手研究者支援を含む研究基盤の抜本強化を後押しする仕組みを構築する」としているが、要は更なる集中と選択による研究現場破壊を行いたいという趣旨のようである。そもそもこれまでの大学改革なるものの失敗が指摘されているところ、再検証を促すのであれば別段、それをさらに進めようとはどういう了見か。 それ以前にこの新型コロナ不況下で、補正予算で措置すべき内容ではあるまい。 「~生産性向上」の次に「地域・社会・雇用における民需主導の好循環の実現」が記載されているが、不妊治療に係る助成措置の拡充が最初にでてくるのは、やはり菅総理が総裁選において目玉政策の一つとして述べたことによるものだろうが、新型コロナ不況に対応するための補正予算で措置すべき事項ではない(そもそも少子化の主な原因は不妊治療よりも貧困化なのだが)。 雇用調整助成金の特例措置の延長も記載されているが、これは既定路線。一方で雇用に関しては、「社会経済構造の変化に対応した雇用政策として、在籍出向や再就職等が円滑に行われるよう必要な支援を行うとともに、兼業・副業などの新しい働き方の普及を促進していくこと。」との記載もある。 要は雇用調整助成金の延長はしつつも、大企業を中心とした人件費削減につながる措置を次々と講じていけということであろうが、失業率が増え続け、今後増大すると言われている中で、なんと不謹慎なことか。 その他資金繰り対策も記載されているが、融資が中心で給付という考え方は皆無のようだ』、「人件費削減」策を推進していけば、失業率上昇、賃金低下など副作用は必至だ。
・『今なすべき事業者支援は事業継続の支援である そして「Go Toキャンペーンの延長」。 来年のゴールデンウィーク直後のころまでトラベルを延長、イートも同様の取り扱いとするようであるが、そもそも「感染の収束」を条件としていた同キャンペーンをその条件が満たされていないにもかかわらず実施したことが間違いである。加えて言えば、今なすべき事業者支援はキャンペーンではなく、失われた粗利の補償による事業継続の支援である。 しかも同キャンペーンは全ての観光関連事業者や飲食関係事業者の支援につながるものではないばかりか、これを利用できる者も限られている。将来的な実施については、否定はしないが、今やるべきことではあるまい。 「農林水産業・食品の輸出力強化」も記載されているが、これも菅総理が基本方針等で記載し、述べてきた事項。輸出よりも国内農業を保護し、育成し、国内自給を高めていくことこそ国家として目指すべき方向性であるのに、種子法を廃止し、種苗法の改正までやってのける党であるし、こちらも新型コロナ不況に対応するための第3次補正予算に盛り込むような内容ではない。日本の農業を日本人のために、地域のために守ろうという気はサラサラないのであろう。 その後には各部会の重点事項が記載されているが、これらは基本的には最重点事項と同じものである。 実は、安藤裕衆院議員らによる「日本の未来を考える勉強会」は、11月27日に、(1)医療機関や介護施設等への更なる支援の継続、(2)持続化給付金の拡充、(3)雇用調整助成金の特例措置の更なる延長等、(4)ひとり親世帯臨時特別給付金の継続的な給付、(5)地方自治体への財政支援を柱とする「新型コロナウイルス感染症対策に係る緊急提言」を党幹部らに提出している。しかし、残念ながらこの提言は完全に無視されてしまったと言っていいだろう(〈3〉の雇用調整助成金の特例措置の延長等は、自民党政調提言に盛り込まれたように見えるかもしれないが、同勉強会の提言では、早期退職や希望退職、雇い止めの拡大を阻止することを明記した、実質的に粗利補償の一部となっており、再就職や在籍出向、副業や兼業による失われた給与の自己の責任による補填を同時に推進しようとする自民党政調提言とは似て非なるものである)』、「「感染の収束」を条件としていた」「Go Toキャンペーン」「をその条件が満たされていないにもかかわらず実施したことが間違いである。加えて言えば、今なすべき事業者支援はキャンペーンではなく、失われた粗利の補償による事業継続の支援である」、その通りだ。
・『なぜこのような緊張感の欠片もない内容となったのか しかし、なぜこのような緊張感の欠片もない、新型コロナ不況への対応とは無関係な事項ばかりの内容となったのだろうか。 なんと、自民党政調の各部会が、それぞれ関係府省に丸投げして経済対策を作成、提出させ、それをただ単に党政調として取りまとめた(役人用語で言えば「ガッチャンコ」、要するにホッチキスドメ)ことにあるようだ。 しかも、取りまとめに当たって開催されるはずの、開催されるべき政調全体会議は、各部会で意見集約は行ったという理解にしたのか開催されず、幹部だけで取りまとめるという前代未聞の事態となっていたようだ。 前回の第2次補正予算の編成を政府に求めるに至らしめた政調全体会議では、ゴールデンウィーク中に地元選挙区に帰り、新型コロナによる甚大な影響を見聞きした議員達が、腰の重い、煮え切らない岸田政調会長(当時)を突き上げ、詰め寄り、2次補正の編成を求めることを明言させた。 下村政調会長は、官邸の意向を忖度し、そうした事態を避けようとしたのではないかとの憶測もある。もしそうであれば、政調軽視、議論を尽くすという自民党の良さを軽んじたということに他ならず、大いに問題にすべきであろう まさに自民党議員の矜持がかかっている。 その後、政調全体会議を開催しなかったことが問題視されたのか、12月4日に「新たな経済対策(仮称)(案)」について討議する全体会議が開催された。既に菅総理に申し入れを行ったにもかかわらず、「仮称」に「案」というのは極めて不可解であり、元の提言の骨格は変わらないものの、具体的な措置を含め内容が倍近くになったというのもまた然りであり、問題点はより明らかとなった(その詳細な解説は別稿に譲る)。 そもそも、4日といえば臨時国会会期末であり、朝から会期末処理のための各委員会が順次開催されている。当然委員会優先であるから、出たり入ったりとなり、最初から最後まで全体会議に出席することなど不可能である。つまり、一応全体会議は開催するがマトモに議論はさせない。 ただ「『やった』という既成事実を作りたい」、そういうことだろう。どこまで姑息なのか』、「各部会が、それぞれ関係府省に丸投げして経済対策を作成、提出させ、それをただ単に党政調として取りまとめた(・・・ホッチキスドメ)」、「政調全体会議は、各部会で意見集約は・・・開催されず、幹部だけで取りまとめるという前代未聞の事態」、全く呆れ果てるようなお粗末ぶりだ。高い報酬を得ながら、こんな体たらくでは、やれやれだ。
先ずは、11月4日付けAERAdot「三浦瑠麗氏、菅首相のブレーン起用も…専門家から「必然性ない」「コア支持層へのアピール」との声」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2020110200039.html?page=1
・『菅首相は日本学術会議の問題では「多様性が大事だ」と強調したが、自らを取り巻くブレーンはいかに。その顔ぶれから、菅政権の特徴も見えてくる。AERA 2020年11月9日号では、菅政権のブレーンに注目した。 「私が目指す社会像は、『自助・共助・公助』そして『絆』です。自分でできることはまず自分でやってみる。そして家族、地域で互いに助け合う。その上で政府がセーフティーネットでお守りする。そうした国民から信頼される政府を目指します」 臨時国会が始まった10月26日、菅義偉首相は所信表明で目指す国の姿をこう話した。 「居抜き内閣」などと揶揄(やゆ)されながら、一方で携帯電話料金の引き下げやデジタル庁の創設などで「菅カラー」も出そうとする新首相。この国をどこに向かわせようとしているのか。処遇されたブレーンたちの顔ぶれから考えてみたい。新政権の発足で、安倍政権で成長戦略づくりを担った「未来投資会議」が「成長戦略会議」に衣替えした。後に触れる内閣官房参与も含め、登用された人たちは以下の通りだ』、どんな人物がいるのだろう。
・『菅首相の主なブレーン(敬称略)
<成長戦略会議の有識者メンバー> 金丸恭文・フューチャー会長兼社長 国部 毅・三井住友フィナンシャルグループ会長 桜田謙悟・SOMPOホールディングス社長 竹中平蔵・慶応大名誉教授、パソナ会長 デービッド・アトキンソン・小西美術工藝社社長 南場智子・ディー・エヌ・エー会長 三浦瑠麗・山猫総合研究所代表、国際政治学者 三村明夫・日本商工会議所会頭
<内閣官房参与(カッコ内は担当分野)> 飯島 勲・元首相秘書官(特命) 平田竹男・早大教授(文化・スポーツ健康・資源戦略) 木山 繁・元国際協力機構理事(経協インフラ) 西川公也・元農林水産相(農林水産業振興) 今井尚哉・元首相補佐官兼首相秘書官(エネルギー政策等) 高橋洋一・嘉悦大教授(経済・財政政策) 宮家邦彦・立命館大客員教授(外交) 岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長(感染症対策) 熊谷亮丸・大和総研チーフエコノミスト(経済・金融) 中村芳夫・経団連顧問(産業政策) 村井 純・慶応大教授(デジタル政策)
ここでは民間出身者に注目するが、米金融大手ゴールドマン・サックス出身で小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏と、三井住友フィナンシャルグループ会長の国部毅氏以外は、未来投資会議からの続投だ。会議出席の謝金は職位などにより、最大で1時間当たり1万1300円が払われる』、「アトキンソン氏」と「国部毅氏以外は、未来投資会議からの続投」、まさに「居抜き内閣」だ。
・『中小企業の再編や統合 注目はアトキンソン氏。菅首相は、国内企業の99.7%を占める中小企業の再編や統合を進めようとするが、そこにアトキンソン氏の影響が指摘されている。経済産業研究所の藤和彦・上席研究員はこう話す。 「政策的に正しくても、コロナ禍による失業増が懸念されるときに、雇用の受け皿だった中小企業が再編されて大リストラが行われれば、どうなるのでしょうか。菅内閣がやっている各論の構造改革ばかりでは、これからやってくる100年に1度の大恐慌に太刀打ちできません」 元文部科学次官の前川喜平さんは同じ視点から、日本商工会議所会頭の三村明夫氏の存在を気にかけているという。 「三村氏には中小企業の人たちの立場を代弁することが期待されているでしょうから、アトキンソン氏と対立する場面もあるでしょう。場合によっては『日商会頭も賛成したのだから』と、中小企業者を納得させるためのアリバイづくりに利用されることがあるかもしれません」 元総務相の竹中平蔵氏についても触れざるを得ないだろう。最近では、BSの番組でベーシックインカムの導入に言及した際、「実現すれば生活保護や年金給付が必要なくなる」という趣旨の発言をして世論の反発を買った。格差社会を肯定、推進するような人物と考えられがちだが、識者はどうみるか。 元総務官僚の平嶋彰英・立教大学特任教授は「菅総理も頼りにし、影響力もある人。やっていることが国民に分かるように政治的責任も問われる立場でやってほしい。自由をあまり大切にしないご都合主義的な“新自由主義”と感じます」と指摘する』、「自由をあまり大切にしないご都合主義的な“新自由主義”」とは言い得て妙だ。
・『旧中間階級の切り捨て 階級・階層論が専門の社会学者、橋本健二・早稲田大学教授も菅内閣のブレーンたちに新自由主義的な傾向を強く感じる。 「零細企業や農協などかつての自民党の支持層だった“旧中間階級”を切り捨て、専門職や管理事務職に従事する“新中間階級”への乗り換えが決定的になりました。一つの階級の崩壊につながります。もう一つ気になるのは、非正規雇用者の問題です。顔ぶれからは、今はまだ規制がある建設業などの分野にも切り込んでくる予感がします」 さらに、橋本教授が注目するのは、国際政治学者の三浦瑠麗氏だ。橋本教授はこれまでの研究から、自民党は自己責任論を強く訴え、排外主義的な傾向を持ち合わせる「新自由主義右翼」と名付けた集団による強い支持を受けて、これまで選挙で勝ち続けたとみている。 三浦氏は、2018年にフジテレビの番組に出演した際、「北朝鮮の潜伏工作員が国内にいる」という趣旨の発言をして問題視されたほか、著書では徴兵制の導入も主張。安倍晋三前首相に近い論客として知られ、今夏、アマゾンが有料サービス「プライムビデオ」のCMに三浦氏を起用すると、ネット上で批判を受けて「解約運動」も起きた。 「経済の専門家でもありませんから必然性は感じられません。差別・排外主義の象徴ととらえられることもあった人ですから、そういう意味ではコア支持層へのアピールだと感じられます」(橋本教授)』、「三浦氏」の起用は「新自由主義右翼」への「アピール」、というのは確かなようだ。
・『大失業時代への対応 非常勤国家公務員の内閣官房参与はどうか。内閣官房の内閣総務官室によると、報酬は1回の“仕事”につき2万6400円。前出の藤研究員が注視している人物は、高橋洋一氏だ。 「政府と日銀の財布を一体として考える『統合政府』論者で、政府は借金を心配せずにどんどんお金を使え、という方です。竹中氏やアトキンソン氏の路線とは違うタイプに感じます。今後の大失業時代は政府が中心になって雇用を生んでいくしかないので、高橋氏がどういう役割を果たすか注目しています」 ただ、一方で立教大の平嶋特任教授はこう指摘している。 「研究者としての能力は高いですが、高橋氏は行動原理の基盤に(古巣の)財務省に対する反発があり、それがベースでの助言で政策がゆがむことが心配です。大きな影響力を行使するのであれば、助言内容は国民にオープンにするべきです」 ※【菅首相、医療のブレーン不在と自白? 「コロナ対策は迷走の可能性大」と専門家】へ続く)』、「高橋洋一」氏は、「研究者としての能力は高い」というのは疑問だ。さらに、私が批判している異次元緩和を支持している点でも私は全く評価しない。
次に、この続き、11月4日付けAERAdot「菅首相、医療のブレーン不在と自白? 「コロナ対策は迷走の可能性大」と専門家」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2020110200041.html?page=1
・『発足早々に何かと話題を集めている菅内閣だが、今後どのような政治手腕をみせるのか。その施政方針を、ブレーンのメンバーから読み解いてみた。AERA 2020年11月9日号では、菅首相のブレーンとなる成長戦略会議と内閣官房参与の顔ぶれを紹介しつつ、そこから見える方向性を専門家らに聞いた・・・(ブレーンの紹介は省略)・・・京都大学大学院の藤井聡教授は安倍内閣で6年間、参与を務めた。参与が、政府とまったく同じ方向を向いていたら意味がないと藤井教授は考えている。助言の必要がないからだ。藤井教授自身は、10%への消費増税に強く反対する意見を各所で表明していたこともあって18年末に参与を退職したが、今回の顔ぶれをどうみるか。 「外交担当の宮家邦彦氏の対米政策や、経済・財政政策担当の高橋洋一氏の構造改革路線など、従来の政府の考え方に沿った人選がされているようです。安倍内閣は実は緊縮内閣だったので、そういう意味では経済・金融担当で消費減税の強力な主張者である熊谷亮丸氏の考え方とも一致しています」 安倍前首相のアベノミクスでは、日本銀行と連携した「金融緩和」(第1の矢)、政府支出で仕事や所得を増やす「財政出動」(第2の矢)、企業などが活動しやすくする「成長戦略」(第3の矢)を打ち出した。 「参与と成長戦略会議のどちらの顔ぶれからも、トータルでは第2の矢を少し引っ込めて、第3の矢をさらに前に出している、というイメージを受けます」(藤井教授) 参与でもう一人注目したいのは岡部信彦氏だ。新型コロナでは、政府の専門家会議やその後の分科会で対応にあたってきたが、徹底的なPCR検査の実施には抑制的な考えだったとされる。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師はこう話す。 「国立感染症研究所OBの岡部先生は、厚生労働省の“お抱え”と言える存在です。この人事は、菅首相には医療についてのブレーンがいないと告白しているのと同じです。コロナ対策が迷走を続ける可能性が大です」 独自のブレーンがいないと考えているのは、政治評論家の有馬晴海さんも同じだ。 「主に政局で生きてきた菅首相が急にトップに立っても、政策を一緒に構築できる人がいません。だから安倍前首相から引き継いだりテレビに出ている人たちからつまんだりして、なんとなく後押ししてくれそうな人を置いているのだと思います」 日本学術会議問題で波乱含みの船出となった新政権。官僚人事などでも強権的な一面をのぞかせる菅首相だが、ブレーンたちとの付き合い方も注目だ』、「岡部先生は、厚生労働省の“お抱え”と言える存在です。この人事は、菅首相には医療についてのブレーンがいないと告白しているのと同じです。コロナ対策が迷走を続ける可能性が大です」、やれやれだ。
第三に、12月4日付けロイターが掲載した三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹の鈴木明彦氏による「コラム:「経済が大事」という優しさが高める景気底割れリスク」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/colmn-akihiko-suzuki-idJPKBN28D3KD
・『新型コロナウイルスにより深い痛手を受けた日本経済の現状について、回復ペースが緩やかだとか、コロナショック前の水準に戻るには何年もかかりそうだとか、様々な指摘があるが、景気はすでに回復軌道に入っている。 輸出と生産はコロナショック前の水準に近づいており、在庫調整も進んで在庫率はかなり下がってきた。在庫循環図を見ると、足元で「意図せざる在庫調整局面」に入り、年明けには「在庫積み増し局面」に入る勢いとなっている。少なくとも輸出や生産に関しては、リーマン・ショック後を上回るペースで回復しており、コロナ禍だから回復が遅いということはない。 確かに雇用情勢は厳しい状況が続いているが、それでも就業者数は徐々に持ち直し、有効求人倍率にも下げ止まりの動きが出ている。急速に悪化していた企業収益も7─9月期は6四半期ぶりに改善した。設備投資はまだ減少が続いているが、企業収益の改善が続けば、今年度下期は下げ止まりから回復に転じてもおかしくない。 景気動向指数の基調判断は、早ければ来年1月に発表される11月の指数で「上方への局面変化」に変更されそうだ。この判断は、景気の谷がそれ以前の数カ月にあったことを示している。今年5月ごろを底に景気は回復局面に入ったと考えるのが素直だ』、もっとも「7─9月期」の回復は「4─6月期の落ち込み」を埋めるには力不足だったようだ。
・『第3波襲来で広がる底割れ懸念 一方で、景気の先行きに対する懸念も広がっている。景気が回復していると言っても、インバウンド消費はもちろん、飲食・宿泊、交通など感染拡大の影響を大きく受けるサービス分野では厳しい状況が続いている。 これから発表される10━12月期の経済指標は景気回復が続いていることを示唆する数字が続きそうだが、それでも7━9月期に比べれば成長ペースの減速は避けられない。日本経済に対する弱気な見方が広がりそうだ。 加えて、新型コロナの感染が再び深刻化している。春の第1波、夏の第2波に続いて、秋以降は第3波と言える拡大が続いている。新型コロナが猛威を振るい始めてから初めて迎える本格的な感染シーズンであり、日本よりひと足早く寒くなる欧米の状況からも推測できたように、日本もすでに新規感染者数、重症者数、死亡者数などが過去最高となるなど、第1波、第2波を上回る感染規模になっている。 インフルエンザと同様に考えれば、新型コロナの感染拡大は来年も続きそうであり、再び経済活動が停止して、せっかく回復してきた景気が腰折れしてしまうのではないかとの懸念が強まっている。 確かに春の第1波を受けた4━6月期の景気の落ち込みの記憶が冷めやらぬところで、それを上回る感染拡大が起きるとなれば、先行き懸念が広がるのは無理からぬところだ』、「第3波襲来で広がる底割れ懸念」、というのは確かだ。
・『感染への耐性も備わった日本経済 しかし、その割に株価が堅調に推移しているのはなぜか。 景気が回復して企業収益も上向いていることが株価堅調の背景にあるのは言うまでもないが、社会や経済に感染拡大への備えが整ってきていることが評価されているのではないか。つまり、感染拡大が続く中で、それに対する耐性を日本経済が持つようになり、経済活動が維持されているということだ。 春の第1波によって日本経済が大きなダメージを受けたのは、世界の経済活動の停止が原因であることはもちろんだが、予期しない脅威に不意を突かれたことも影響していると言えそうだ。中国で新型コロナウイルスの感染が広がり始めたころに、日本でここまで感染が拡大すると予想していた人は少ないだろう。 予防の基本であるマスクも手に入らず、テレワークの準備もない中で在宅勤務と言われて当惑した人も多かったはずだ。経済活動の制限と言われても、何をどの程度止めればよいのか分からないままに、混乱と自粛の嵐の中で経済は大きく落ち込むことになった。 夏の第2波の感染拡大では、新規感染者数は第1波を上回ったが、景気は持ち直しが続いた。また、重症者の増加も第1波の時ほどではなかった。 このころになると、マスクの不足も解消され、医療体制も改善が進み、テレワークの広がりなど、「ウイズコロナ」の経済活動が定着してきた。第2波の感染拡大においては、こうした備えが整ったことで、医療崩壊や経済活動の停止といった状況を回避し、経済の持ち直しが続いたと言えよう』、「感染への耐性も備わった日本経済」と「鈴木」氏が強気になっているのは、株価の堅調も影響しているのだろう。
・『万全とは言えない第3波への備え 第2波の時までに準備されたマスク着用、うがい・手洗いの励行、密を避ける工夫といった予防体制は第3波でも有効だろう。テレワークや製造現場の無人化など、人と人との接触を避けながら経済活動を継続する体制も整っている。 草の根の予防が徹底されて、感染爆発を回避している日本経済の強さはもっと評価されていいだろう。第3波が押し寄せていると言っても、感染の広がりは欧米に比べてはるかに抑制されている。 しかし、その強さに頼り過ぎることが、また別の弱さを生み出す。日本は草の根の予防策が功を奏してこれまでのところ感染爆発を辛うじて防いでいる。しかし、ひとたび感染爆発が起きた時の備えは脆弱である。感染爆発に至らなくても、医療体制はひっ迫する懸念が出ている。ワクチンの開発も国際的な競争で日本が優位に立っているとは言えない。 PCR検査の実施体制、重症者に対する医療体制、ワクチン開発への取り組みなど、日本の脆弱な面を強化していかなければならないことは言うまでもない。しかし、今は爆発的感染を防ぐことが喫緊の課題だ』、「今は爆発的感染を防ぐことが喫緊の課題だ」、その通りだ。
・『成長拡大だけでは命と経済は両立しない 爆発的感染を回避できれば、すでに回復軌道に乗っている日本経済が腰折れすることはなさそうだ。しかし、目先の成長率を高めようとして感染爆発を起こすことが最悪のシナリオだ。日本の弱さが表面化して、厳しい経済活動の制限を余儀なくされ、景気は一気に悪化する。 今の景気回復では満足できないことは日本の弱さと言えそうだ。7━9月期の経済成長率は、前期比プラス5.0%という立派な高成長となったが、それでも米国と比べて低いとの評価が多い。しかし、米国の高成長が、世界最悪の感染状況と引き換えに実現したのであれば、日本が見習うべき姿ではない。 目先の経済成長を高めるよりも、地道な感染防止に注力するべきだ。成長率を無理に高めようとする政策が感染リスクを拡大させる。 もちろん、このままでは立ち行かなくなる会社、自営業、個人が増えているのは事実だ。しかし、それは特定の業種に限った話ではない。需要誘発的な刺激策で救われる会社や個人は限られる。本当に救いたいのであれば、景気刺激効果が乏しく、予算規模もはるかに大きくなるが、社会保障としての政策で幅広い救済措置をとるべきではないか。 命と経済の両立というフレーズはよく使われるが、その意味をしっかり考えなければいけない。 確かに、ブレーキを目いっぱい踏んでいたら車は動かない。だからといってブレーキを踏みながらアクセルを踏んだら、車は壊れる。ブレーキとアクセルは踏み分けなければいけない。ブレーキを緩めるだけでも車は動きだす。 今はこれまで慎重に緩めてきたブレーキを少し踏み直すかどうかという判断の時期だ。アクセルを踏む政策は効果があまり期待できないだけではなく、感染拡大のリスクを高める。少なくともこのタイミングで踏むべきではない。そして、ブレーキとアクセルを同時に踏む政策は人々を混乱させ、回復しようという経済の活力をも損なうことになろう』、「目先の経済成長を高めるよりも、地道な感染防止に注力するべきだ。成長率を無理に高めようとする政策が感染リスクを拡大させる」、「今はこれまで慎重に緩めてきたブレーキを少し踏み直すかどうかという判断の時期だ」、同感である。
第四に、12月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した室伏政策研究室代表・政策コンサルタントの室伏謙一氏による「お粗末すぎる自民党「新たな経済対策への提言」、コロナ禍の影響を無視」を紹介しよう。
・『先月末、新型コロナウイルスの社会経済への影響に対応するための自民党の提言、「新たな経済対策に向けた提言」が取りまとめられた。しかし、これらの内容は、コロナ禍不況への対応とは無関係な事項ばかりが並び、あまりにも緊張感がなく、お粗末すぎるものだ』、どういうことだろう。
・『実にお粗末 自民党「新たな経済対策に向けた提言」 11月30日、新型コロナの社会経済への影響に対応するための自民党の提言、「新たな経済対策に向けた提言」が取りまとめら、菅総理に申し入れが行われた。これまで2回編成された補正予算と同様に、自民党の提言を受けて予算案政府案を編成することになるので、この提言は第3次補正予算案の下敷きになるものである。 もっとも、今後世論も含めて様々な批判等の評価を受けるとともに、各府省内で協議、審査、そして財務省の査定を受けて最終的に政府案となるので、これがそっくりそのまま第3次補正予算案となるわけではないだろう。 さて、「その内容は…」といえば、実にお粗末であり、新型コロナにより、困窮する事業者や国民の支援、救済とは全く関係のないもののオンパレードである。 そこには本気で新型コロナにより疲弊したわが国経済を立て直そうという姿勢は微塵も感じられない。「国民のために働く」という党のスローガンはどこへ行ったのか?(もしかして「国民」とはごく一部の特定の人たちだけのことなのか?) そこで、この提言が、前回のものとは悪い意味で「隔世の感」がある、いかにお粗末で、端的に言って酷いものなのか、具体的な事項を取り上げつつ見ていくこととしよう』、興味深そうだ。
・『経済対策にかこつけて惨事便乗の市場改革を進めるつもりか? まず、冒頭の「基本的な考え方」においては、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を最優先として政府に万全の対応を求める一方、「感染拡大防止と社会経済活動の両立」を基本戦略として、国民の生活を守り切る姿勢が示されている。これについては異論を挟む余地はないだろう。なんと言っても「当たり前」のことが書かれているだけのことだから。 問題はその先。次のような記載がある。 「我が国の活力を取り戻すのみならず、いわゆる「ウィズロナ」、更には「ポストコロナ」の時代を見据えたとき、我が国社会経済の構造転換は避けて通れない。その際、戦略的に成長力を底上げしなければ、コロナのトンネルを抜けた先で、日本経済が世界に伍してしっかりと回復することができないという危機感を持つべきである。そこで、今回の経済対策にあたっては、従来型の施策のみならず、『国民や企業の前向きな動きを後押ししていく』という視点を取り入れ、日本経済の成長力の強化を図っていくべきである。」 新型コロナへの影響により大企業から中小企業に至るまで売り上げ・収益が激減し困窮状態にあるというのに、「社会経済の構造転換は避けて通れない」であるとか、「戦略的に成長力を底上げしなければ」とは、何をか言わんやである。 この「構造転換」に力点が置かれていることは明らかであるが、ここに出てくるような表現は、過去の大規模自然災害の後によく見られたものである。つまり、経済対策にかこつけてショックドクトリン(大惨事に便乗する過激な市場原理主義改革)を進めようということであろう。その意味では「構造転換」とは「構造改革」、特定の者に都合がいいように社会経済を変えることであると解していいだろう。 そうしたことは個別具体的な事項を見ていけば明らかである。 最重点事項として、(1)新型コロナウイルス感染症の拡大防止策、(2)ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現、そして(3)防災減災・国土強靭化の推進等の安全・安心の確保の3つが記載されている。 (1)については内容が薄いこと以外は、そこに記載された項目自体は特段問題があるものではないし、(3)は常に対応していかなければいけないし、本年も自然災害による甚大な被害を受けた地域があることから特段問題がないというより遅気に失した感さえある。しかし、(2)は別である。新型コロナ感染症による影響を緩和するための更なる緊急対策、例えば持続化給付金等の拡充といったものが記載されているかと思いきや、全く記載されていないのである。 冒頭に出てくるのは、なんと「デジタル改革・グリーン社会の実現」で、「その中身は…」といえば、マイナンバーカードの普及促進や行政のデジタル改革の推進、そしてグリーン社会の実現につながる研究開発を行う企業への支援等である』、こんなに関係が薄いものまでシレッと書き込むとは、恥ずかしいと思わないのだろうか。
・『「お花畑」の中にでも暮らしているのか? デジタル化は菅政権が掲げる重点政策の一つであるが、今、この状況下、新型コロナ大不況と言ってもいい状況で、補正予算まで組んで優先的に進める話ではなかろう。相変わらず緊張感の欠片もないのか、それともどこか特定の利益に、優先的に進めることを約束したのかと邪推したくなる。 次に出てくるのは、「経済構造の転換・イノベーション等による生産性向上」である。その中身は、まず、中小企業の経営転換支援と称して、経済社会の変化に対応するための事業再構築・事業再編等に向けた取り組みを支援することが記載されている。これはまさに菅政権が、デビット・アトキンソン氏らの言を鵜呑みにしてがむしゃらに進めようとしている、中小企業の再編による数減らし、はっきり言えば中小企業潰し策である。今政府がなすべきは、必要な手厚い財政支援を行って一社も潰さないことであって、企業の数を減らしたり潰したりすることではない。つまりこの内容は新型コロナ大不況への経済対策とは真逆のことを言っているということである。 「~生産性向上」の項には、その次にサプライチェーンの強靭化が記載されているが、国内への生産拠点の回帰は当然のことである一方、今回の新型コロナ感染症によって引き起こされた危機によって明らかとなったのは、生産拠点の海外依存の危険性や脆弱性であって、中国から別の国に分散させればいいという話ではない。それにもかかわらず、海外での生産拠点の多元化が記載されている。これを進言し、記載させた自民党所属議員の国際情勢認識はどうなっているのだろう? どこか違う世界、「お花畑」の中にでも暮らしているのだろうか? さらに「研究開発の促進」と称した、大学等ファンドの創設、大学の抜本改革なるものを進め、「若手研究者支援を含む研究基盤の抜本強化を後押しする仕組みを構築する」としているが、要は更なる集中と選択による研究現場破壊を行いたいという趣旨のようである。そもそもこれまでの大学改革なるものの失敗が指摘されているところ、再検証を促すのであれば別段、それをさらに進めようとはどういう了見か。 それ以前にこの新型コロナ不況下で、補正予算で措置すべき内容ではあるまい。 「~生産性向上」の次に「地域・社会・雇用における民需主導の好循環の実現」が記載されているが、不妊治療に係る助成措置の拡充が最初にでてくるのは、やはり菅総理が総裁選において目玉政策の一つとして述べたことによるものだろうが、新型コロナ不況に対応するための補正予算で措置すべき事項ではない(そもそも少子化の主な原因は不妊治療よりも貧困化なのだが)。 雇用調整助成金の特例措置の延長も記載されているが、これは既定路線。一方で雇用に関しては、「社会経済構造の変化に対応した雇用政策として、在籍出向や再就職等が円滑に行われるよう必要な支援を行うとともに、兼業・副業などの新しい働き方の普及を促進していくこと。」との記載もある。 要は雇用調整助成金の延長はしつつも、大企業を中心とした人件費削減につながる措置を次々と講じていけということであろうが、失業率が増え続け、今後増大すると言われている中で、なんと不謹慎なことか。 その他資金繰り対策も記載されているが、融資が中心で給付という考え方は皆無のようだ』、「人件費削減」策を推進していけば、失業率上昇、賃金低下など副作用は必至だ。
・『今なすべき事業者支援は事業継続の支援である そして「Go Toキャンペーンの延長」。 来年のゴールデンウィーク直後のころまでトラベルを延長、イートも同様の取り扱いとするようであるが、そもそも「感染の収束」を条件としていた同キャンペーンをその条件が満たされていないにもかかわらず実施したことが間違いである。加えて言えば、今なすべき事業者支援はキャンペーンではなく、失われた粗利の補償による事業継続の支援である。 しかも同キャンペーンは全ての観光関連事業者や飲食関係事業者の支援につながるものではないばかりか、これを利用できる者も限られている。将来的な実施については、否定はしないが、今やるべきことではあるまい。 「農林水産業・食品の輸出力強化」も記載されているが、これも菅総理が基本方針等で記載し、述べてきた事項。輸出よりも国内農業を保護し、育成し、国内自給を高めていくことこそ国家として目指すべき方向性であるのに、種子法を廃止し、種苗法の改正までやってのける党であるし、こちらも新型コロナ不況に対応するための第3次補正予算に盛り込むような内容ではない。日本の農業を日本人のために、地域のために守ろうという気はサラサラないのであろう。 その後には各部会の重点事項が記載されているが、これらは基本的には最重点事項と同じものである。 実は、安藤裕衆院議員らによる「日本の未来を考える勉強会」は、11月27日に、(1)医療機関や介護施設等への更なる支援の継続、(2)持続化給付金の拡充、(3)雇用調整助成金の特例措置の更なる延長等、(4)ひとり親世帯臨時特別給付金の継続的な給付、(5)地方自治体への財政支援を柱とする「新型コロナウイルス感染症対策に係る緊急提言」を党幹部らに提出している。しかし、残念ながらこの提言は完全に無視されてしまったと言っていいだろう(〈3〉の雇用調整助成金の特例措置の延長等は、自民党政調提言に盛り込まれたように見えるかもしれないが、同勉強会の提言では、早期退職や希望退職、雇い止めの拡大を阻止することを明記した、実質的に粗利補償の一部となっており、再就職や在籍出向、副業や兼業による失われた給与の自己の責任による補填を同時に推進しようとする自民党政調提言とは似て非なるものである)』、「「感染の収束」を条件としていた」「Go Toキャンペーン」「をその条件が満たされていないにもかかわらず実施したことが間違いである。加えて言えば、今なすべき事業者支援はキャンペーンではなく、失われた粗利の補償による事業継続の支援である」、その通りだ。
・『なぜこのような緊張感の欠片もない内容となったのか しかし、なぜこのような緊張感の欠片もない、新型コロナ不況への対応とは無関係な事項ばかりの内容となったのだろうか。 なんと、自民党政調の各部会が、それぞれ関係府省に丸投げして経済対策を作成、提出させ、それをただ単に党政調として取りまとめた(役人用語で言えば「ガッチャンコ」、要するにホッチキスドメ)ことにあるようだ。 しかも、取りまとめに当たって開催されるはずの、開催されるべき政調全体会議は、各部会で意見集約は行ったという理解にしたのか開催されず、幹部だけで取りまとめるという前代未聞の事態となっていたようだ。 前回の第2次補正予算の編成を政府に求めるに至らしめた政調全体会議では、ゴールデンウィーク中に地元選挙区に帰り、新型コロナによる甚大な影響を見聞きした議員達が、腰の重い、煮え切らない岸田政調会長(当時)を突き上げ、詰め寄り、2次補正の編成を求めることを明言させた。 下村政調会長は、官邸の意向を忖度し、そうした事態を避けようとしたのではないかとの憶測もある。もしそうであれば、政調軽視、議論を尽くすという自民党の良さを軽んじたということに他ならず、大いに問題にすべきであろう まさに自民党議員の矜持がかかっている。 その後、政調全体会議を開催しなかったことが問題視されたのか、12月4日に「新たな経済対策(仮称)(案)」について討議する全体会議が開催された。既に菅総理に申し入れを行ったにもかかわらず、「仮称」に「案」というのは極めて不可解であり、元の提言の骨格は変わらないものの、具体的な措置を含め内容が倍近くになったというのもまた然りであり、問題点はより明らかとなった(その詳細な解説は別稿に譲る)。 そもそも、4日といえば臨時国会会期末であり、朝から会期末処理のための各委員会が順次開催されている。当然委員会優先であるから、出たり入ったりとなり、最初から最後まで全体会議に出席することなど不可能である。つまり、一応全体会議は開催するがマトモに議論はさせない。 ただ「『やった』という既成事実を作りたい」、そういうことだろう。どこまで姑息なのか』、「各部会が、それぞれ関係府省に丸投げして経済対策を作成、提出させ、それをただ単に党政調として取りまとめた(・・・ホッチキスドメ)」、「政調全体会議は、各部会で意見集約は・・・開催されず、幹部だけで取りまとめるという前代未聞の事態」、全く呆れ果てるようなお粗末ぶりだ。高い報酬を得ながら、こんな体たらくでは、やれやれだ。
タグ:今は爆発的感染を防ぐことが喫緊の課題だ 全く呆れ果てるようなお粗末ぶりだ。高い報酬を得ながら、こんな体たらくでは、やれやれだ 万全とは言えない第3波への備え 政調全体会議は、各部会で意見集約は・・・開催されず、幹部だけで取りまとめるという前代未聞の事態 各部会が、それぞれ関係府省に丸投げして経済対策を作成、提出させ、それをただ単に党政調として取りまとめた(・・・ホッチキスドメ) なぜこのような緊張感の欠片もない内容となったのか 「「感染の収束」を条件としていた」「Go Toキャンペーン」「をその条件が満たされていないにもかかわらず実施したことが間違いである。加えて言えば、今なすべき事業者支援はキャンペーンではなく、失われた粗利の補償による事業継続の支援である」 今なすべき事業者支援は事業継続の支援である 「人件費削減」策を推進していけば、失業率上昇、賃金低下など副作用は必至だ 経済対策にかこつけて惨事便乗の市場改革を進めるつもりか? 実にお粗末 自民党「新たな経済対策に向けた提言」 自民党の提言、「新たな経済対策に向けた提言」 「お粗末すぎる自民党「新たな経済対策への提言」、コロナ禍の影響を無視」 室伏謙一 ダイヤモンド・オンライン 今はこれまで慎重に緩めてきたブレーキを少し踏み直すかどうかという判断の時期だ 感染への耐性も備わった日本経済」と「鈴木」氏が強気になっているのは、株価の堅調も影響しているのだろう 感染への耐性も備わった日本経済 第3波襲来で広がる底割れ懸念 「7─9月期」の回復は「4─6月期の落ち込み」を埋めるには力不足 年5月ごろを底に景気は回復局面に入った 「コラム:「経済が大事」という優しさが高める景気底割れリスク」 「高橋洋一」 大失業時代への対応 「三浦氏」の起用は「新自由主義右翼」への「アピール」、というのは確かなようだ 旧中間階級の切り捨て 自由をあまり大切にしないご都合主義的な“新自由主義” 中小企業の再編や統合 「アトキンソン氏」と「国部毅氏以外は、未来投資会議からの続投」、まさに「居抜き内閣」だ 鈴木明彦 内閣官房参与(カッコ内は担当分野) 成長戦略会議の有識者メンバー 菅首相の主なブレーン 「居抜き内閣」 「三浦瑠麗氏、菅首相のブレーン起用も…専門家から「必然性ない」「コア支持層へのアピール」との声」 ロイター AERAdot 目先の経済成長を高めるよりも、地道な感染防止に注力するべきだ。成長率を無理に高めようとする政策が感染リスクを拡大させる 成長拡大だけでは命と経済は両立しない 国立感染症研究所OBの岡部先生は、厚生労働省の“お抱え”と言える存在です。この人事は、菅首相には医療についてのブレーンがいないと告白しているのと同じです。コロナ対策が迷走を続ける可能性が大です 「菅首相、医療のブレーン不在と自白? 「コロナ対策は迷走の可能性大」と専門家」 (その2)(三浦瑠麗氏 菅首相のブレーン起用も…専門家から「必然性ない」「コア支持層へのアピール」との声、菅首相 医療のブレーン不在と自白? 「コロナ対策は迷走の可能性大」と専門家、コラム:「経済が大事」という優しさが高める景気底割れリスク=鈴木明彦氏、お粗末すぎる自民党「新たな経済対策への提言」 コロナ禍の影響を無視) スガノミクス
日本の政治情勢(その51)(「桜を見る会」騒動 「安倍前総理」起訴される可能性を元特捜部が解説、支持率急落 菅首相「鉄壁ガースー」戦略の限界 会見はメモ棒読み 紋切り型答弁で説明を回避、菅首相 言葉なき「しどろもどろ会見」で広がる絶望) [国内政治]
日本の政治情勢については、10月1日に取上げた。今日は、(その51)(「桜を見る会」騒動 「安倍前総理」起訴される可能性を元特捜部が解説、支持率急落 菅首相「鉄壁ガースー」戦略の限界 会見はメモ棒読み 紋切り型答弁で説明を回避、菅首相 言葉なき「しどろもどろ会見」で広がる絶望)である。
先ずは、12月3日付けデイリー新潮「「桜を見る会」騒動、「安倍前総理」起訴される可能性を元特捜部が解説」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/12060557/?all=1
・『「桜を見る会」騒動から1年の時を経て、その「前夜」の疑惑が新たな火種となりつつある。東京地検特捜部はすでに安倍晋三前総理の秘書にも事情聴取を敢行。検察の威信をかけた捜査は実を結ぶのか、花と散るのか。 果たして、季節外れの桜は再び永田町に舞うのか。 読売新聞の1面に、〈東京地検 安倍前首相秘書ら聴取〉〈「桜」前夜祭 会費補填巡り〉という文字が躍ったのは11月23日のこと。 桜を見る会を巡る騒動についてはまだ記憶に新しいところだが、今回取り沙汰されているのは、その“前夜祭”についてだ。 昨年4月13日に行われた桜を見る会の前日、都内のホテルニューオータニで安倍晋三後援会が主催する前夜祭が開かれた。会場には、安倍前総理の地元・山口県下関市などから後援会関係者ら約800人が集まった。会費は〈お一人様 5千円〉である。 この前夜祭に“違法行為疑惑”があるとして、今年5月21日、法曹関係者が東京地検に告発状を提出。特捜部はこれを受け、後援会の代表でもある安倍前総理の公設第1秘書や、地元の支援者に任意で事情聴取を行っているという。 告発の呼びかけ人にも名を連ねる、神戸学院大学法学部教授の上脇博之氏が解説するには、 「ニューオータニのパーティープランは最低価格でも1万1千円とされ、会費の5千円は半額にも満たない。その差額分を後援会が補填したのなら、公職選挙法199条の5第1項に規定される“寄附の禁止”に違反します。また、政治資金規正法は、政治団体が会費制の催しを開いた場合、政治資金収支報告書に収支を記載することを義務づけている。同様の前夜祭は2013年から昨年まで過去7回開かれてきましたが、現在公表されている後援会の収支報告書には一切記載がありません。この2点の疑惑について、2018年分を東京地検に告発したのです」 「桜」問題が連日のように報じられていた昨年11月、安倍前総理は会見で、次のように釈明している。 前夜祭の会費はあくまでも〈ホテル側が設定した価格〉であり、〈受付で事務所職員が集金し、ホテル名義の領収書を渡した上で、集めた現金をホテル側に支払っている。支出は発生しないので政治資金規正法上の違反には全く当たらない〉。さらに、国会答弁では〈事務所側が補填したという事実は全くない〉とも述べている。 だが、上脇氏はこう言う。 「政治団体がホテルと招待客の間に介在したのは間違いなく、しかも、事務所が一旦、現金を受け取ったのなら収支報告書に記載がないとおかしい。それがない場合、政治資金規正法の不実記載罪に該当する疑いが濃くなります。仮に、勘違いなど、故意ではなく過失で報告書への記載を怠ったとすれば、不起訴となる可能性もある。しかし、前夜祭は長年にわたって常習的に不記載が続いていたわけですから、さすがに過失の弁明は通用しないでしょう」 加えて、読売の報道によると、特捜部は安倍前総理側から出納帳を、ホテル側からは明細書の提出を受けているという。 「特捜部が差額の補填に関する客観的な証拠を入手したのなら、秘書らが起訴されて有罪となることも十分考えられます」(同) さる司法記者も、「特捜部は安倍前総理や公設第1秘書と共に告発状に名前を記された、後援会の会計責任者の立件を視野に入れているようだ」と明かす。 当の安倍事務所は11月23日、「刑事告発されたことを受けて説明を求められたので、捜査に協力し、真摯に対応している」とのコメントを発表した。 では、検察はどこに着地点を見定めているのか』、「公職選挙法」、「政治資金規正法」、などへの違反が今頃になって出てきたのは、菅政権が安部前首相の動きを抑制するためとの見方もあるようだ。
・『「不起訴」の可能性も かつて東京地検特捜部で副部長を務めた、弁護士の若狭勝氏に尋ねると、 「今年5月の告発を受けて捜査を進めてきたのなら、年末までに処分がなされてもおかしくありません。ただ、政治資金規正法の不実記載は第一義的に会計責任者の責任が問われるため、具体的な関与が立証されない限り、そこから先にたどり着くのは難しい。また、政治家の責任を問うのなら公選法違反の方がやりやすいですが、前総理やその秘書を処罰すれば現在の政権にも影響を及ぼしかねません。正直なところ、いまの特捜部がそこまで腹を括れるのか疑問が残ります」 公選法違反の場合、費用を補填した目的や、誰の意図かを明らかにする必要があるためハードルは高く、徹底した捜査が求められる。 「検察審査会に申し立てをされる恐れもあるので、今後も特捜部は幅広く関係者への聴取を続けるはずです。とはいえ、前総理や秘書は不起訴処分となる可能性が高いのではないか。もし、秘書だけでも在宅起訴して罰金刑にできるなら、政治と距離を置く検察本来の秋霜烈日の姿に戻ったと、むしろ嬉しく思いますけどね」(同) 他方、国会で“桜”が返り咲くのは疑いようがない。 政治部記者によれば、 「野党にとっては願ってもないネタですよ。菅政権の発足以来、内閣支持率は50%以上で推移している。学術会議問題も支持率にはほとんど影響していません。もし年明けに衆院の解散があれば、野党は敗色濃厚のまま選挙戦に突入することになる。そのため、野党側はこの機に乗じて“桜問題”を蒸し返し、“反安倍”ムードを再燃させようとするでしょう。もちろん、安倍前総理に国会での説明を求めたところで、安倍政治の継承を掲げる菅総理がおいそれと応じるはずがありません。それでも野党側は“結局、菅政権も隠蔽体質だ!”と騒ぎ立てて支持率ダウンを狙うと思われます」 だが、昨年のような“バカ騒ぎ”が続くとは考えにくいとの指摘もある。 「安倍さん本人が起訴されるとは思えないし、前総理を追及したところで決め手に欠ける。そもそも、時系列が“逆”なのではないか」 とは政治部デスクである。 「今回の報道で特捜部がこれまで前夜祭の内偵を続けてきたことがはっきりしました。ただ、安倍さんが総理在任中からその動きを察知していたとすれば……。退陣の直接的な理由は体調問題ですが、それに加えて、検察による捜査の手が周辺に及ぶ前に職を辞したという考え方もできる。奇しくも、告発状が提出された5月21日は、“官邸の守護神”と呼ばれた黒川弘務・元東京高検検事長が、安倍前総理に辞表を出した日でもあります」 突如として浮上した検察の捜査は大輪の花を咲かせるか。はたまた形だけの徒花に終わるか……』、「検察審査会」に備えた予備的調査で、「形だけの徒花に終わる」可能性も強そうだ。
次に、12月9日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「支持率急落、菅首相「鉄壁ガースー」戦略の限界 会見はメモ棒読み、紋切り型答弁で説明を回避」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/394405
・『12月5日の臨時国会閉幕を受けた各メディアの世論調査で、内閣支持率が急落し、菅義偉首相や与党首脳がいらだちを強めている。Go To事業の見直しに象徴されるようにコロナ対応は迷走。政権絡みの「政治と金」スキャンダルが加わり、菅首相による年末年始の政局運営が厳しさを増している。 政権発足から間もなく3カ月が経過する。いわゆる「新政権のハネムーン期間」に開かれた前の臨時国会は、コロナ対策や日本学術会議会員任命拒否問題に加え、終盤で安倍晋三前首相の「桜」疑惑が再燃するなど、「攻め所満載」(立憲民主幹部)の国会攻防となった。 これに対し、菅首相は「守り一辺倒で塹壕(ざんごう)にこもる」(同)という官房長官時代からの「鉄壁ガースー」戦略で野党の攻勢をかわし続けた。野党の内閣不信任案提出は「年明け解散説」という脅しで封じ込め、会期延長も拒否して国会を閉じた』、「「鉄壁ガースー」戦略」に基づく答弁ぶりには観ていて腹が立つ。
・『Go To継続に感染拡大批判 ただ、菅首相が自らの肝いり政策として推進しているGo Toトラベル事業については、「全国的な人の移動を促進させたことで、11月以降のコロナ感染急拡大につながった」(医療専門家)との批判が噴出。与党内からも「いったん中止して、感染が下火になったら再開するほうが経済への打撃も少ない」(閣僚経験者)と軌道修正を求める意見が相次いでいる。 菅首相は「Go Toトラベルが感染拡大につながったというエビデンス(証拠)はない」の一点張りで、Go To事業の2021年6月末まで延長することを決断した。12月中旬に感染拡大傾向が続いていても事業を続行する構えだが、その時点で内閣支持率がさらに下がれば、年明け以降の政権危機につながる可能性もある。 各メディアが7日にかけて公表した世論調査によると、内閣支持率は平均で10ポイント以上急落した。菅内閣の支持率は発足時に歴代3位とされる平均70%だった。その後、学術会議問題への批判で7~10ポイント下落したものの、その後は回復傾向を示していた。 今回の世論調査で支持率の平均は50%台半ばとなった。3カ月以内で支持率が20ポイント近く下落するのは異例のことだ。加えて、極めて低かった不支持率が急上昇しているのも不安材料となっている。もっとも、歴代内閣に比べれば支持率はなお高く、与党内でも「一喜一憂する必要はない」(自民幹部)と余裕の声も漏れる。 しかし、世論調査結果を分析すると、いずれの調査でも政府のコロナ対応は「評価しない」が「評価する」を大きく上回り、菅首相が主張する「感染防止と経済活動の両立」についても感染防止優先が圧倒的多数となっている。 さらに、前臨時国会終盤で再燃した桜を見る会をめぐる疑惑でも、当事者である安倍前首相の明確な説明を求める声が8割超となった。安倍前首相の国会招致や政府の再調査を求める声も6割前後となり、官房長官として安倍前首相の答弁内容をそのまま繰り返した菅首相への不信感もにじむ』、「Go Toトラベルが感染拡大につながったというエビデンス(証拠)はない」、に対しては反証も徐々に出てきたようだ。
・『記者会見は棒読みに終始 こうした状況について立憲民主党幹部は「コロナ対策はほぼ無為無策で、Go To事業(の見直し)対応も不十分なのが最大の理由」と指摘。共産党は「首相の指導力がないどころか、右往左往、迷走ばかり」(幹部)と酷評している。 菅首相が感染防止策で国民の自衛ばかりを求め、Go Toの運用見直しも都道府県知事に丸投げしていることについて与党内でも不満が相次ぐ。しかし、菅首相はこうした声も無視する形で、具体策を講じずに「国民の命と暮らしを守るため、全力を尽くす」と繰り返すだけだ。 こうした菅首相の「頑迷固陋(ころう)な姿勢」(閣僚経験者)を浮き彫りにしたのが、国会が事実上閉幕した4日夕の記者会見だった。首相官邸における本格記者会見は、就任時の9月16日以来、2度目となる。 まず冒頭発言で約18分間、政権発足以来の内政・外交の成果を語ったが、安倍氏と違ってプロンプター(発言補助装置)を使わず、カメラ目線なしで手元の応答メモの棒読みに終始した。 しかも、その内容は「3大スガ案件」とされる携帯電話料金値下げとデジタル庁の創設、不妊治療の保険適用ばかりを強調するもの。短期間での首脳外交の成果も自賛し、「自己宣伝オンリー」(立憲民主幹部)だった。 その後の記者団との質疑も、幹事社の質問には菅首相のメモ棒読みが続き、自由質問になってようやく緊張したやり取りとなった。学術会議会員の任命拒否問題について、「これだけの反発を予想していたか」との質問にはメモを見ずに顔を上げ、「かなりなるんではないかと思っていた」と、やや得意そうに答えた。 会見時間は約50分間で質問者は12人。司会役の内閣広報官が指名したが、政治スキャンダルを取り上げたのはフランス人の特派員だけだったため、「事前に仕組まれた通りの首相会見」(有力地方紙幹部)との不満も相次いだ』、外国人記者にも門戸が開かれていることを示すために、「フランス人の特派員」を指名したのだろう。
・『首相失格の菅流答弁術 しかも、多くの記者が挙手を続ける中、次の日程を理由に会見を打ち切ったあたりは、安倍前首相の記者会見対応とまったく同じで、「前例打破どころか、悪しき前例踏襲」(大手紙幹部)とも見える。 安倍氏は記者団の追及に時折感情的な言葉で反論する場面もあったが、菅首相の場合は学術会議問題を薄笑いでかわした以外は、表情も変えずに応答メモを読み続ける姿勢に徹していた。このため、会見全体も平板だった。 こうした「菅流答弁術」は、7年8カ月にわたった官房長官時代の定例会見で、批判的な質問を「指摘は当たらない」「問題ない」との紋切り型で否定してきた手法をそのまま継続しているように見える。 ただ、首相就任後も「鉄壁ガースー」の答弁スタイルのままでは、「国民への説明責任を果たしていない。トップリーダーとしては失格」(自民長老)との批判は避けられない。 学術会議問題で最大のポイントの任命拒否の理由については、国会答弁と記者会見で「人事のことは答えられない」と繰り返すだけだ。「桜」と共に浮上した吉川貴盛元農水相への鶏卵業者からの現金供与疑惑についても、「捜査中の問題はコメントを控える」の一点張りで、政治家としての説明責任も「議員個人の問題」と素知らぬ顔だ。 菅首相自身は、国会が閉会した5日夜の側近議員らとの会食で「(国会論戦には)徐々に落ち着いて対応できるようになった」と胸を張ったとされる。これに対し、野党第1党のリーダーとして論戦を挑んだ立憲民主党の枝野幸男代表は7日のインターネット番組で、「一貫して塹壕の中で、守り一辺倒だった。これではまったく議論が深まらない」と、菅首相の答弁スタイルを厳しく指弾した』、「首相就任後も「鉄壁ガースー」の答弁スタイルのままでは、「国民への説明責任を果たしていない。トップリーダーとしては失格」、同感だ。
・『菅首相の強気を支える野党の弱体ぶり 国会閉幕を受けて政府は2020年度第3次補正予算案と2021年度予算案の編成作業に全力を挙げる構えだ。菅首相は両予算案を一体化した15カ月予算とする考えで、菅首相は8日午前の政府・与党政策懇談会において、事業規模を73・6兆円とし、財政支出は40兆円とする追加経済対策の策定を表明した。政府与党はこれを踏まえて、12月中旬にも第3次補正案を、続いて22日に2021年度予算案を閣議決定する段取りだ。 前臨時国会の会期末に立憲民主など野党側が内閣不信任案提出を見送ったのは、「菅首相に衆院解散のきっかけを与えたくなかった」(立憲民主幹部)というのが理由とされる。与党内では、こうした野党の弱体ぶりが、「菅政権の強気を支えており、年末年始も政局混乱はありえない」(公明幹部)との声も広がる。 しかし、12月第3週になっても感染拡大が続いていれば、菅首相の無策への国民的批判はさらに拡大するのは確実だ。その際、Go Toトラベルをいったん中止することになれば、菅首相が自ら失敗を認めたことになる。逆に強引に事業を続ければ、国民の恐怖感も拡大し、大規模な年末年始の旅行キャンセルなどが経済を痛撃する。年明け以降も「出口の見えない闇」(財界幹部)が続くことになりかねない。 菅首相は6日に72歳の誕生日を迎えた。そして24日のクリスマスイブには政権発足100日という節目の日を迎える。今春、4コマ連載漫画「100日後に死ぬワニ」(100ワニ)が大人気となったが、菅首相は「イブの100日目」をどんな状況で迎えるのか。「菅サンタの国民へのクリスマスプレゼントがコロナ感染拡大だったら、支持率はさらに急落して『100ワニ』ならぬ、『100スガ』にもなりかねない」(閣僚経験者)との意地悪な声も聞こえてくる』、「12月第3週になっても感染拡大が続いていれば、菅首相の無策への国民的批判はさらに拡大するのは確実だ。その際、Go Toトラベルをいったん中止することになれば、菅首相が自ら失敗を認めたことになる。逆に強引に事業を続ければ、国民の恐怖感も拡大し、大規模な年末年始の旅行キャンセルなどが経済を痛撃する」、さてどうなることやら。「『100ワニ』ならぬ、『100スガ』にもなりかねない」、その通りなのかも知れない。
第三に、12月8日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「菅首相、言葉なき「しどろもどろ会見」で広がる絶望」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00106/?P=1
・『この問題には触れないでおこうと思っていた。が、100日のハネムーン期間をすぎてもなお、目に余り、少々耐え難いので、今回取り上げようと思う。 テーマは「自分の言葉で話すことができないリーダー」についてだ。 私は常々、「リーダーの言葉」の重要性を訴えてきた。 ところが、どういうわけかこの国のリーダーたちは“言葉”を持っていない。 はい、そうです。現在の“リーダー”菅義偉首相もその1人で、とにもかくにも「言葉のなさ」にがっかりされっぱなしなのだ』、河合氏が政治問題を取上げるのは珍しいが、「この国のリーダーたちは“言葉”を持っていない」、同感である。
・『リーダーの武器は「言葉の力」のはず… 国会では、常に原稿を棒読みし、ぶら下がり取材でさえ原稿を読み上げる始末だ。数日前から前を向いて話すようになったが、そこに「自分の言葉」はない。 「もともと、言葉ではなく行動で示すタイプ」だの、「新型コロナウイルス対策については、担当大臣が頻繁に会見しているので、自分がわざわざ目立たなくてもいいと考えている」だの首相の周辺の人たちは擁護しているようだが、リーダーが持つ言葉には、どんなにナンバー2が持とうとしても持てない重みがある。 リーダーの言葉で、部下は「ちゃんと自分たちのことを分かってくれている」「自分たちのやっていることを見てくれている」と安心し、「頑張ろう」と希望をもち、ためらわずに前進する勇気を持つことができる。 この「言葉の力」こそが、リーダーというポジションについた人だけが手に入れることができる、最高の武器だ。日本のリーダーである総理は、1億3000万人の国民に「勇気と安心と希望」を与える力を手にすることができるポジションである。 なのに「自分の言葉」がない。 「9月16日~12月1日の間、記者団によるぶら下がり要請は少なくとも33回あり、うち首相が応じたのは『就任1カ月の受け止め』など20回だった」(12月3付西日本新聞より)というけど、一度も「自分の言葉」で語らなかった。 国会閉幕前の12月4日の記者会見も、「私たちはやっている」「専門家の意見を聞いている」といった自己弁護まがいの発信ばかり。しかも、答えにつまると「その件については答弁を差し控えたい」と繰り返すだけ。一方的に、コミュニケーションを拒否している。 大抵、コミュニケーションを拒否するのは、都合の悪いことがあるときか、相手が眼中にないときだ。 今こそ求められているコミュニケーションの機会を、自ら率先して逃してどうするというのだろうか。 「皆さんに静かなマスク会食をお願いしたい。私も今日から徹底をしたい」と語ったときの「私」という言葉にさえ、“温度”が感じられなかった』、「記者団によるぶら下がり要請は少なくとも33回あり、うち首相が応じたのは・・・20回だった」、応じないのが3分の1もあるようだ。
・『“温度”が感じられない首相の言葉 新型コロナの感染拡大で医療現場が逼迫し、外出自粛で次々と企業が倒産し、たくさんの人たちが仕事を失い、10月の全国の自殺者数は2153人で、同月までの新型コロナ感染による死亡者数1770人を上回った(同時期の累計)。介護業界では訪問介護のヘルパーさんが続々と離職して9月時点の有効求人倍率が15倍になり、施設の倒産件数も過去最多だ。 医療現場の医師たちが忙しい中、連日のようにメディアの取材に答え、医師や看護師たちが再び“戦場”と化した現場の厳しい状況を伝え、「このままでは救える命が救えなくなる」と訴えている。 GoToトラベルが一時停止されたり、時短営業を要請されたり、「もう持たない」という不安の声が、観光業界や飲食店の人たちから相次いでいる。 この不安な状況で、今、メッセージを伝えなくていつ伝えるのか? 厳しい状況であればあるほど誠意あるコミュニケーションが求められるのに、「国民目線」という言語明瞭意味不明の言葉の「国民」が、誰をさしているのかさえわからない。 ……悲しいかな、我が国の“リーダー”には、「私」たちが見えていないのだ。 8年間“リーダー”だった安倍晋三前首相のときも、「安倍さんほど言葉に温度のない人は見たことがない」と常々感じていたけど、たった1回だけ安倍前首相の「言葉」が胸に刺さったことがある。 それは北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの父親である横田滋さんが他界されたときの言葉だ。 「帰国された拉致被害者の方々は、御家族の皆さんと抱き合って喜びをかみしめておられた。その場を、写真に撮っておられた、滋さんの目から本当に涙が流れていたことを、今でも思い出します」という言葉は、現場を共にした安倍さんにしか語れない言葉だった。 その言葉があまりにも切なく、現場に寄り添ったものだったので、「安倍さんはいつもこうやって話してくれればいいのに」と思ったほどだった』、「安倍晋三前首相」の「横田滋さんが他界されたときの言葉」は、「帰国された拉致被害者の方々」は自分たちの努力で「帰国」させること出来たとの自慢気なニュアンスもありそうで、河合氏が率直に褒めるのには違和感がある。
・『言葉は「思いを乗せる船」 もっとも、安倍前首相はリーダーとして、「滋さんが(妻の)早紀江さんと共にその手でめぐみさんを抱きしめることができる日」を実現できなかった。だが、リーダーに問われるのは「行動」であって、「行動」だけではない。 リーダー自身が「自分のやるべき役割」に徹しながらも、メンバーと“共にいる”ことが必要なのだ。 リーダーがリーダーシップを発揮するには、「このリーダーと共に戦おう」とメンバーが心を寄せないと無理。どんなに「お願い」されたところで、そのお願いに従う気にならない。 「言葉ではなく行動で示すタイプ」だの「自分がわざわざ目立たなくてもいい」だの言ってる場合じゃない。そこに「言葉」がなければ届かない。 そもそも「言葉」とは、心の中の思いを乗せる船のようなもの。人はその思いを伝えたいから、いちばん自分の思いに近い船を探し、メッセージを送るのだ。 逆説的に言えば、伝えたい思いがなければ船を探すこともない。それ以前に、共にいなければ伝えたい思いも沸き立たない。 ある有名な中小企業のトップとして業績を上げたものの、部下たちのクーデターで辞任に追い込まれた経験を持つ男性が、自戒を込めてこう話してくれたことがある。 「僕が前職で失敗したのは、用事があるときだけ部下を呼びつけ、物理的に関係を遮断していたからなんだ」と。 「社長も人の子。人は人との関わりがなくなると周囲が見えなくなる。自分のことも、社員のことも見えなくなって、数字だけを追うようになっていくんです。経営者は孤独とよくいうけど、物理的に孤立していることが問題なの。孤立してれば孤独だろうし、孤立してちゃ経営はできない」――。 こう男性は苦い経験を振り返った』、「そもそも「言葉」とは、心の中の思いを乗せる船のようなもの。人はその思いを伝えたいから、いちばん自分の思いに近い船を探し、メッセージを送るのだ」、なかなか上手い表現だ。
・『五感を共有する「場」が必要だ どんなに高い知性と、先見性と、並外れた能力を持っているトップでも、“人”。 人は誰しも過ちを犯す。感情的になることもあれば、傲慢になったり、保身に走ったりすることもある。その弱さを克服するために、人は他者とつながり、他者と協力することで生き延びてきた。信頼という関係性を築くことで、愚かになったり、自分勝手になったりする際の保険を掛ける。 他者とつながるにはその場の空気、すなわち視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を共有できる“場”が必要不可欠だ。 企業のリーダーであれ、一国のリーダーであれ、同じだ。「経営と政治は違う」だの「企業の話を国の話に用いるのはおかしい」だのと言う人がいるけど、そこに“人”がいる以上同じだ。 リーダーの言葉は、メンバーたちの声でもあり、リーダーには、メンバーの代弁者にもなる「言葉」が必要なのだ。 世界中から注目を浴び、称賛されたニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相の「言葉」を思い出してほしい。 アーダーン首相はいち早く国民につながる“場”をつくり、一貫して国民と「共」に居続け、「自分の言葉」でメッセージを送り続けた。 非常事態が宣言された3月25日の記者会見では、「あなたは一人ではありません。私たちはあなたの声を聞きます」「あなたは働かなくなるかもしれません。でも、仕事がなくなったという意味ではありません。あなたの仕事は命を救うことです」「人に優しく。家にいましょう。そして、感染の連鎖を断ち切りましょう」 と、“あなた”に語りかけ、「私たちが指示することは、常に完璧ではないでしょう。でも、私たちがしていることは、基本的に正しいものです」と、自分の役割を訴えた。 イースターのときに、子どもの抜けた歯を硬貨と交換してくれる「歯の妖精」も、外出制限によって活動できないのではないかと心配する子どもたちに、「歯の妖精も、イースターのうさぎもエッセンシャルワーカーです。でも、この状況では、自分たちの家庭のことで忙しいかもしれません。だから、各地を訪れるのは難しいということを理解してあげないといけませんね」と、“あなた”=子どもに答えた。 ……なんてすてきなんだろう。 アーダーン首相は、「どうか強く、そしてお互いに優しくしてください」と繰り返していたけど、その“メッセージ”がきちんと伝わるよう、透明性のある情報と科学的な予測をつまびらかにし、「何を根拠に、そういった決定がなされたのか?」を分かりやすく、すべての人が理解できる自分の言葉に置き換えた。 論理だけじゃだめ、感情だけじゃ物足りない。論理と感情が誠実さで結びついたとき、初めて相手に届くメッセージが生まれるのだ』、「アーダーン首相」は2017に37歳で最年少の首相に就任、翌年に産休を60日間取った(Wikipedia)ことでも有名だ。
・『都度、最善策にアップデートする 特に、今回のコロナのような緊急事態では、マメに透明性のあるメッセージを発信することが大切だが、アーダーン首相はときにジャージー姿でSNSを使い、スピーチではなくメッセージを発信し続けた。ついつい私たちは現状を過小評価したり、見たい情報だけ見たりして自分の正当性を主張したくなるものだが、アーダーン首相にはそれがなかった。 その即時性と客観性も、多くの人たちからの「信頼」につながったのだろう。 そしてもう1つ、緊急時に最もリーダーが気をつけなくてはいけないのは、「リーダーたるもの、決めたことを覆してはならない」という大いなる誤解だ。 次々と事態が変化するときには、その都度最善の選択にアップデートすることが、メンバーから信頼を得るのに必要不可欠だ。そのためリーダーには不測の事態の中でもあらゆるルートでエビデンスを積み上げ、最悪のシナリオに基づく「勇気ある決断」が求められる。 ……“第3波”がくるのは分かっていたことなのに、我がリーダーにはその備えもなかった。え?ちゃんとある、って? 国民に伝わってないだけだって? 伝わらなければ意味がない。それは「ない」ってことと同じだ。だからこそのリーダーなのだ。 と、ここまで書いていて、「ん?これって以前にも、同じようなことがあったような気がする」とデジャブに襲われ、過去の原稿を検索したところ……、はいはい、ありました! 東日本大震災のあと、“菅直人首相”のときに書いた原稿である。 「かん」と「すが」。どちらも「菅」だった!!』、「次々と事態が変化するときには、その都度最善の選択にアップデートすることが、メンバーから信頼を得るのに必要不可欠だ。そのためリーダーには不測の事態の中でもあらゆるルートでエビデンスを積み上げ、最悪のシナリオに基づく「勇気ある決断」が求められる」、「国民に伝わってないだけだって? 伝わらなければ意味がない。それは「ない」ってことと同じだ。だからこそのリーダーなのだ」、その通りなのだろう。最後のオチも頷ける。
先ずは、12月3日付けデイリー新潮「「桜を見る会」騒動、「安倍前総理」起訴される可能性を元特捜部が解説」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/12060557/?all=1
・『「桜を見る会」騒動から1年の時を経て、その「前夜」の疑惑が新たな火種となりつつある。東京地検特捜部はすでに安倍晋三前総理の秘書にも事情聴取を敢行。検察の威信をかけた捜査は実を結ぶのか、花と散るのか。 果たして、季節外れの桜は再び永田町に舞うのか。 読売新聞の1面に、〈東京地検 安倍前首相秘書ら聴取〉〈「桜」前夜祭 会費補填巡り〉という文字が躍ったのは11月23日のこと。 桜を見る会を巡る騒動についてはまだ記憶に新しいところだが、今回取り沙汰されているのは、その“前夜祭”についてだ。 昨年4月13日に行われた桜を見る会の前日、都内のホテルニューオータニで安倍晋三後援会が主催する前夜祭が開かれた。会場には、安倍前総理の地元・山口県下関市などから後援会関係者ら約800人が集まった。会費は〈お一人様 5千円〉である。 この前夜祭に“違法行為疑惑”があるとして、今年5月21日、法曹関係者が東京地検に告発状を提出。特捜部はこれを受け、後援会の代表でもある安倍前総理の公設第1秘書や、地元の支援者に任意で事情聴取を行っているという。 告発の呼びかけ人にも名を連ねる、神戸学院大学法学部教授の上脇博之氏が解説するには、 「ニューオータニのパーティープランは最低価格でも1万1千円とされ、会費の5千円は半額にも満たない。その差額分を後援会が補填したのなら、公職選挙法199条の5第1項に規定される“寄附の禁止”に違反します。また、政治資金規正法は、政治団体が会費制の催しを開いた場合、政治資金収支報告書に収支を記載することを義務づけている。同様の前夜祭は2013年から昨年まで過去7回開かれてきましたが、現在公表されている後援会の収支報告書には一切記載がありません。この2点の疑惑について、2018年分を東京地検に告発したのです」 「桜」問題が連日のように報じられていた昨年11月、安倍前総理は会見で、次のように釈明している。 前夜祭の会費はあくまでも〈ホテル側が設定した価格〉であり、〈受付で事務所職員が集金し、ホテル名義の領収書を渡した上で、集めた現金をホテル側に支払っている。支出は発生しないので政治資金規正法上の違反には全く当たらない〉。さらに、国会答弁では〈事務所側が補填したという事実は全くない〉とも述べている。 だが、上脇氏はこう言う。 「政治団体がホテルと招待客の間に介在したのは間違いなく、しかも、事務所が一旦、現金を受け取ったのなら収支報告書に記載がないとおかしい。それがない場合、政治資金規正法の不実記載罪に該当する疑いが濃くなります。仮に、勘違いなど、故意ではなく過失で報告書への記載を怠ったとすれば、不起訴となる可能性もある。しかし、前夜祭は長年にわたって常習的に不記載が続いていたわけですから、さすがに過失の弁明は通用しないでしょう」 加えて、読売の報道によると、特捜部は安倍前総理側から出納帳を、ホテル側からは明細書の提出を受けているという。 「特捜部が差額の補填に関する客観的な証拠を入手したのなら、秘書らが起訴されて有罪となることも十分考えられます」(同) さる司法記者も、「特捜部は安倍前総理や公設第1秘書と共に告発状に名前を記された、後援会の会計責任者の立件を視野に入れているようだ」と明かす。 当の安倍事務所は11月23日、「刑事告発されたことを受けて説明を求められたので、捜査に協力し、真摯に対応している」とのコメントを発表した。 では、検察はどこに着地点を見定めているのか』、「公職選挙法」、「政治資金規正法」、などへの違反が今頃になって出てきたのは、菅政権が安部前首相の動きを抑制するためとの見方もあるようだ。
・『「不起訴」の可能性も かつて東京地検特捜部で副部長を務めた、弁護士の若狭勝氏に尋ねると、 「今年5月の告発を受けて捜査を進めてきたのなら、年末までに処分がなされてもおかしくありません。ただ、政治資金規正法の不実記載は第一義的に会計責任者の責任が問われるため、具体的な関与が立証されない限り、そこから先にたどり着くのは難しい。また、政治家の責任を問うのなら公選法違反の方がやりやすいですが、前総理やその秘書を処罰すれば現在の政権にも影響を及ぼしかねません。正直なところ、いまの特捜部がそこまで腹を括れるのか疑問が残ります」 公選法違反の場合、費用を補填した目的や、誰の意図かを明らかにする必要があるためハードルは高く、徹底した捜査が求められる。 「検察審査会に申し立てをされる恐れもあるので、今後も特捜部は幅広く関係者への聴取を続けるはずです。とはいえ、前総理や秘書は不起訴処分となる可能性が高いのではないか。もし、秘書だけでも在宅起訴して罰金刑にできるなら、政治と距離を置く検察本来の秋霜烈日の姿に戻ったと、むしろ嬉しく思いますけどね」(同) 他方、国会で“桜”が返り咲くのは疑いようがない。 政治部記者によれば、 「野党にとっては願ってもないネタですよ。菅政権の発足以来、内閣支持率は50%以上で推移している。学術会議問題も支持率にはほとんど影響していません。もし年明けに衆院の解散があれば、野党は敗色濃厚のまま選挙戦に突入することになる。そのため、野党側はこの機に乗じて“桜問題”を蒸し返し、“反安倍”ムードを再燃させようとするでしょう。もちろん、安倍前総理に国会での説明を求めたところで、安倍政治の継承を掲げる菅総理がおいそれと応じるはずがありません。それでも野党側は“結局、菅政権も隠蔽体質だ!”と騒ぎ立てて支持率ダウンを狙うと思われます」 だが、昨年のような“バカ騒ぎ”が続くとは考えにくいとの指摘もある。 「安倍さん本人が起訴されるとは思えないし、前総理を追及したところで決め手に欠ける。そもそも、時系列が“逆”なのではないか」 とは政治部デスクである。 「今回の報道で特捜部がこれまで前夜祭の内偵を続けてきたことがはっきりしました。ただ、安倍さんが総理在任中からその動きを察知していたとすれば……。退陣の直接的な理由は体調問題ですが、それに加えて、検察による捜査の手が周辺に及ぶ前に職を辞したという考え方もできる。奇しくも、告発状が提出された5月21日は、“官邸の守護神”と呼ばれた黒川弘務・元東京高検検事長が、安倍前総理に辞表を出した日でもあります」 突如として浮上した検察の捜査は大輪の花を咲かせるか。はたまた形だけの徒花に終わるか……』、「検察審査会」に備えた予備的調査で、「形だけの徒花に終わる」可能性も強そうだ。
次に、12月9日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「支持率急落、菅首相「鉄壁ガースー」戦略の限界 会見はメモ棒読み、紋切り型答弁で説明を回避」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/394405
・『12月5日の臨時国会閉幕を受けた各メディアの世論調査で、内閣支持率が急落し、菅義偉首相や与党首脳がいらだちを強めている。Go To事業の見直しに象徴されるようにコロナ対応は迷走。政権絡みの「政治と金」スキャンダルが加わり、菅首相による年末年始の政局運営が厳しさを増している。 政権発足から間もなく3カ月が経過する。いわゆる「新政権のハネムーン期間」に開かれた前の臨時国会は、コロナ対策や日本学術会議会員任命拒否問題に加え、終盤で安倍晋三前首相の「桜」疑惑が再燃するなど、「攻め所満載」(立憲民主幹部)の国会攻防となった。 これに対し、菅首相は「守り一辺倒で塹壕(ざんごう)にこもる」(同)という官房長官時代からの「鉄壁ガースー」戦略で野党の攻勢をかわし続けた。野党の内閣不信任案提出は「年明け解散説」という脅しで封じ込め、会期延長も拒否して国会を閉じた』、「「鉄壁ガースー」戦略」に基づく答弁ぶりには観ていて腹が立つ。
・『Go To継続に感染拡大批判 ただ、菅首相が自らの肝いり政策として推進しているGo Toトラベル事業については、「全国的な人の移動を促進させたことで、11月以降のコロナ感染急拡大につながった」(医療専門家)との批判が噴出。与党内からも「いったん中止して、感染が下火になったら再開するほうが経済への打撃も少ない」(閣僚経験者)と軌道修正を求める意見が相次いでいる。 菅首相は「Go Toトラベルが感染拡大につながったというエビデンス(証拠)はない」の一点張りで、Go To事業の2021年6月末まで延長することを決断した。12月中旬に感染拡大傾向が続いていても事業を続行する構えだが、その時点で内閣支持率がさらに下がれば、年明け以降の政権危機につながる可能性もある。 各メディアが7日にかけて公表した世論調査によると、内閣支持率は平均で10ポイント以上急落した。菅内閣の支持率は発足時に歴代3位とされる平均70%だった。その後、学術会議問題への批判で7~10ポイント下落したものの、その後は回復傾向を示していた。 今回の世論調査で支持率の平均は50%台半ばとなった。3カ月以内で支持率が20ポイント近く下落するのは異例のことだ。加えて、極めて低かった不支持率が急上昇しているのも不安材料となっている。もっとも、歴代内閣に比べれば支持率はなお高く、与党内でも「一喜一憂する必要はない」(自民幹部)と余裕の声も漏れる。 しかし、世論調査結果を分析すると、いずれの調査でも政府のコロナ対応は「評価しない」が「評価する」を大きく上回り、菅首相が主張する「感染防止と経済活動の両立」についても感染防止優先が圧倒的多数となっている。 さらに、前臨時国会終盤で再燃した桜を見る会をめぐる疑惑でも、当事者である安倍前首相の明確な説明を求める声が8割超となった。安倍前首相の国会招致や政府の再調査を求める声も6割前後となり、官房長官として安倍前首相の答弁内容をそのまま繰り返した菅首相への不信感もにじむ』、「Go Toトラベルが感染拡大につながったというエビデンス(証拠)はない」、に対しては反証も徐々に出てきたようだ。
・『記者会見は棒読みに終始 こうした状況について立憲民主党幹部は「コロナ対策はほぼ無為無策で、Go To事業(の見直し)対応も不十分なのが最大の理由」と指摘。共産党は「首相の指導力がないどころか、右往左往、迷走ばかり」(幹部)と酷評している。 菅首相が感染防止策で国民の自衛ばかりを求め、Go Toの運用見直しも都道府県知事に丸投げしていることについて与党内でも不満が相次ぐ。しかし、菅首相はこうした声も無視する形で、具体策を講じずに「国民の命と暮らしを守るため、全力を尽くす」と繰り返すだけだ。 こうした菅首相の「頑迷固陋(ころう)な姿勢」(閣僚経験者)を浮き彫りにしたのが、国会が事実上閉幕した4日夕の記者会見だった。首相官邸における本格記者会見は、就任時の9月16日以来、2度目となる。 まず冒頭発言で約18分間、政権発足以来の内政・外交の成果を語ったが、安倍氏と違ってプロンプター(発言補助装置)を使わず、カメラ目線なしで手元の応答メモの棒読みに終始した。 しかも、その内容は「3大スガ案件」とされる携帯電話料金値下げとデジタル庁の創設、不妊治療の保険適用ばかりを強調するもの。短期間での首脳外交の成果も自賛し、「自己宣伝オンリー」(立憲民主幹部)だった。 その後の記者団との質疑も、幹事社の質問には菅首相のメモ棒読みが続き、自由質問になってようやく緊張したやり取りとなった。学術会議会員の任命拒否問題について、「これだけの反発を予想していたか」との質問にはメモを見ずに顔を上げ、「かなりなるんではないかと思っていた」と、やや得意そうに答えた。 会見時間は約50分間で質問者は12人。司会役の内閣広報官が指名したが、政治スキャンダルを取り上げたのはフランス人の特派員だけだったため、「事前に仕組まれた通りの首相会見」(有力地方紙幹部)との不満も相次いだ』、外国人記者にも門戸が開かれていることを示すために、「フランス人の特派員」を指名したのだろう。
・『首相失格の菅流答弁術 しかも、多くの記者が挙手を続ける中、次の日程を理由に会見を打ち切ったあたりは、安倍前首相の記者会見対応とまったく同じで、「前例打破どころか、悪しき前例踏襲」(大手紙幹部)とも見える。 安倍氏は記者団の追及に時折感情的な言葉で反論する場面もあったが、菅首相の場合は学術会議問題を薄笑いでかわした以外は、表情も変えずに応答メモを読み続ける姿勢に徹していた。このため、会見全体も平板だった。 こうした「菅流答弁術」は、7年8カ月にわたった官房長官時代の定例会見で、批判的な質問を「指摘は当たらない」「問題ない」との紋切り型で否定してきた手法をそのまま継続しているように見える。 ただ、首相就任後も「鉄壁ガースー」の答弁スタイルのままでは、「国民への説明責任を果たしていない。トップリーダーとしては失格」(自民長老)との批判は避けられない。 学術会議問題で最大のポイントの任命拒否の理由については、国会答弁と記者会見で「人事のことは答えられない」と繰り返すだけだ。「桜」と共に浮上した吉川貴盛元農水相への鶏卵業者からの現金供与疑惑についても、「捜査中の問題はコメントを控える」の一点張りで、政治家としての説明責任も「議員個人の問題」と素知らぬ顔だ。 菅首相自身は、国会が閉会した5日夜の側近議員らとの会食で「(国会論戦には)徐々に落ち着いて対応できるようになった」と胸を張ったとされる。これに対し、野党第1党のリーダーとして論戦を挑んだ立憲民主党の枝野幸男代表は7日のインターネット番組で、「一貫して塹壕の中で、守り一辺倒だった。これではまったく議論が深まらない」と、菅首相の答弁スタイルを厳しく指弾した』、「首相就任後も「鉄壁ガースー」の答弁スタイルのままでは、「国民への説明責任を果たしていない。トップリーダーとしては失格」、同感だ。
・『菅首相の強気を支える野党の弱体ぶり 国会閉幕を受けて政府は2020年度第3次補正予算案と2021年度予算案の編成作業に全力を挙げる構えだ。菅首相は両予算案を一体化した15カ月予算とする考えで、菅首相は8日午前の政府・与党政策懇談会において、事業規模を73・6兆円とし、財政支出は40兆円とする追加経済対策の策定を表明した。政府与党はこれを踏まえて、12月中旬にも第3次補正案を、続いて22日に2021年度予算案を閣議決定する段取りだ。 前臨時国会の会期末に立憲民主など野党側が内閣不信任案提出を見送ったのは、「菅首相に衆院解散のきっかけを与えたくなかった」(立憲民主幹部)というのが理由とされる。与党内では、こうした野党の弱体ぶりが、「菅政権の強気を支えており、年末年始も政局混乱はありえない」(公明幹部)との声も広がる。 しかし、12月第3週になっても感染拡大が続いていれば、菅首相の無策への国民的批判はさらに拡大するのは確実だ。その際、Go Toトラベルをいったん中止することになれば、菅首相が自ら失敗を認めたことになる。逆に強引に事業を続ければ、国民の恐怖感も拡大し、大規模な年末年始の旅行キャンセルなどが経済を痛撃する。年明け以降も「出口の見えない闇」(財界幹部)が続くことになりかねない。 菅首相は6日に72歳の誕生日を迎えた。そして24日のクリスマスイブには政権発足100日という節目の日を迎える。今春、4コマ連載漫画「100日後に死ぬワニ」(100ワニ)が大人気となったが、菅首相は「イブの100日目」をどんな状況で迎えるのか。「菅サンタの国民へのクリスマスプレゼントがコロナ感染拡大だったら、支持率はさらに急落して『100ワニ』ならぬ、『100スガ』にもなりかねない」(閣僚経験者)との意地悪な声も聞こえてくる』、「12月第3週になっても感染拡大が続いていれば、菅首相の無策への国民的批判はさらに拡大するのは確実だ。その際、Go Toトラベルをいったん中止することになれば、菅首相が自ら失敗を認めたことになる。逆に強引に事業を続ければ、国民の恐怖感も拡大し、大規模な年末年始の旅行キャンセルなどが経済を痛撃する」、さてどうなることやら。「『100ワニ』ならぬ、『100スガ』にもなりかねない」、その通りなのかも知れない。
第三に、12月8日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「菅首相、言葉なき「しどろもどろ会見」で広がる絶望」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00106/?P=1
・『この問題には触れないでおこうと思っていた。が、100日のハネムーン期間をすぎてもなお、目に余り、少々耐え難いので、今回取り上げようと思う。 テーマは「自分の言葉で話すことができないリーダー」についてだ。 私は常々、「リーダーの言葉」の重要性を訴えてきた。 ところが、どういうわけかこの国のリーダーたちは“言葉”を持っていない。 はい、そうです。現在の“リーダー”菅義偉首相もその1人で、とにもかくにも「言葉のなさ」にがっかりされっぱなしなのだ』、河合氏が政治問題を取上げるのは珍しいが、「この国のリーダーたちは“言葉”を持っていない」、同感である。
・『リーダーの武器は「言葉の力」のはず… 国会では、常に原稿を棒読みし、ぶら下がり取材でさえ原稿を読み上げる始末だ。数日前から前を向いて話すようになったが、そこに「自分の言葉」はない。 「もともと、言葉ではなく行動で示すタイプ」だの、「新型コロナウイルス対策については、担当大臣が頻繁に会見しているので、自分がわざわざ目立たなくてもいいと考えている」だの首相の周辺の人たちは擁護しているようだが、リーダーが持つ言葉には、どんなにナンバー2が持とうとしても持てない重みがある。 リーダーの言葉で、部下は「ちゃんと自分たちのことを分かってくれている」「自分たちのやっていることを見てくれている」と安心し、「頑張ろう」と希望をもち、ためらわずに前進する勇気を持つことができる。 この「言葉の力」こそが、リーダーというポジションについた人だけが手に入れることができる、最高の武器だ。日本のリーダーである総理は、1億3000万人の国民に「勇気と安心と希望」を与える力を手にすることができるポジションである。 なのに「自分の言葉」がない。 「9月16日~12月1日の間、記者団によるぶら下がり要請は少なくとも33回あり、うち首相が応じたのは『就任1カ月の受け止め』など20回だった」(12月3付西日本新聞より)というけど、一度も「自分の言葉」で語らなかった。 国会閉幕前の12月4日の記者会見も、「私たちはやっている」「専門家の意見を聞いている」といった自己弁護まがいの発信ばかり。しかも、答えにつまると「その件については答弁を差し控えたい」と繰り返すだけ。一方的に、コミュニケーションを拒否している。 大抵、コミュニケーションを拒否するのは、都合の悪いことがあるときか、相手が眼中にないときだ。 今こそ求められているコミュニケーションの機会を、自ら率先して逃してどうするというのだろうか。 「皆さんに静かなマスク会食をお願いしたい。私も今日から徹底をしたい」と語ったときの「私」という言葉にさえ、“温度”が感じられなかった』、「記者団によるぶら下がり要請は少なくとも33回あり、うち首相が応じたのは・・・20回だった」、応じないのが3分の1もあるようだ。
・『“温度”が感じられない首相の言葉 新型コロナの感染拡大で医療現場が逼迫し、外出自粛で次々と企業が倒産し、たくさんの人たちが仕事を失い、10月の全国の自殺者数は2153人で、同月までの新型コロナ感染による死亡者数1770人を上回った(同時期の累計)。介護業界では訪問介護のヘルパーさんが続々と離職して9月時点の有効求人倍率が15倍になり、施設の倒産件数も過去最多だ。 医療現場の医師たちが忙しい中、連日のようにメディアの取材に答え、医師や看護師たちが再び“戦場”と化した現場の厳しい状況を伝え、「このままでは救える命が救えなくなる」と訴えている。 GoToトラベルが一時停止されたり、時短営業を要請されたり、「もう持たない」という不安の声が、観光業界や飲食店の人たちから相次いでいる。 この不安な状況で、今、メッセージを伝えなくていつ伝えるのか? 厳しい状況であればあるほど誠意あるコミュニケーションが求められるのに、「国民目線」という言語明瞭意味不明の言葉の「国民」が、誰をさしているのかさえわからない。 ……悲しいかな、我が国の“リーダー”には、「私」たちが見えていないのだ。 8年間“リーダー”だった安倍晋三前首相のときも、「安倍さんほど言葉に温度のない人は見たことがない」と常々感じていたけど、たった1回だけ安倍前首相の「言葉」が胸に刺さったことがある。 それは北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの父親である横田滋さんが他界されたときの言葉だ。 「帰国された拉致被害者の方々は、御家族の皆さんと抱き合って喜びをかみしめておられた。その場を、写真に撮っておられた、滋さんの目から本当に涙が流れていたことを、今でも思い出します」という言葉は、現場を共にした安倍さんにしか語れない言葉だった。 その言葉があまりにも切なく、現場に寄り添ったものだったので、「安倍さんはいつもこうやって話してくれればいいのに」と思ったほどだった』、「安倍晋三前首相」の「横田滋さんが他界されたときの言葉」は、「帰国された拉致被害者の方々」は自分たちの努力で「帰国」させること出来たとの自慢気なニュアンスもありそうで、河合氏が率直に褒めるのには違和感がある。
・『言葉は「思いを乗せる船」 もっとも、安倍前首相はリーダーとして、「滋さんが(妻の)早紀江さんと共にその手でめぐみさんを抱きしめることができる日」を実現できなかった。だが、リーダーに問われるのは「行動」であって、「行動」だけではない。 リーダー自身が「自分のやるべき役割」に徹しながらも、メンバーと“共にいる”ことが必要なのだ。 リーダーがリーダーシップを発揮するには、「このリーダーと共に戦おう」とメンバーが心を寄せないと無理。どんなに「お願い」されたところで、そのお願いに従う気にならない。 「言葉ではなく行動で示すタイプ」だの「自分がわざわざ目立たなくてもいい」だの言ってる場合じゃない。そこに「言葉」がなければ届かない。 そもそも「言葉」とは、心の中の思いを乗せる船のようなもの。人はその思いを伝えたいから、いちばん自分の思いに近い船を探し、メッセージを送るのだ。 逆説的に言えば、伝えたい思いがなければ船を探すこともない。それ以前に、共にいなければ伝えたい思いも沸き立たない。 ある有名な中小企業のトップとして業績を上げたものの、部下たちのクーデターで辞任に追い込まれた経験を持つ男性が、自戒を込めてこう話してくれたことがある。 「僕が前職で失敗したのは、用事があるときだけ部下を呼びつけ、物理的に関係を遮断していたからなんだ」と。 「社長も人の子。人は人との関わりがなくなると周囲が見えなくなる。自分のことも、社員のことも見えなくなって、数字だけを追うようになっていくんです。経営者は孤独とよくいうけど、物理的に孤立していることが問題なの。孤立してれば孤独だろうし、孤立してちゃ経営はできない」――。 こう男性は苦い経験を振り返った』、「そもそも「言葉」とは、心の中の思いを乗せる船のようなもの。人はその思いを伝えたいから、いちばん自分の思いに近い船を探し、メッセージを送るのだ」、なかなか上手い表現だ。
・『五感を共有する「場」が必要だ どんなに高い知性と、先見性と、並外れた能力を持っているトップでも、“人”。 人は誰しも過ちを犯す。感情的になることもあれば、傲慢になったり、保身に走ったりすることもある。その弱さを克服するために、人は他者とつながり、他者と協力することで生き延びてきた。信頼という関係性を築くことで、愚かになったり、自分勝手になったりする際の保険を掛ける。 他者とつながるにはその場の空気、すなわち視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を共有できる“場”が必要不可欠だ。 企業のリーダーであれ、一国のリーダーであれ、同じだ。「経営と政治は違う」だの「企業の話を国の話に用いるのはおかしい」だのと言う人がいるけど、そこに“人”がいる以上同じだ。 リーダーの言葉は、メンバーたちの声でもあり、リーダーには、メンバーの代弁者にもなる「言葉」が必要なのだ。 世界中から注目を浴び、称賛されたニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相の「言葉」を思い出してほしい。 アーダーン首相はいち早く国民につながる“場”をつくり、一貫して国民と「共」に居続け、「自分の言葉」でメッセージを送り続けた。 非常事態が宣言された3月25日の記者会見では、「あなたは一人ではありません。私たちはあなたの声を聞きます」「あなたは働かなくなるかもしれません。でも、仕事がなくなったという意味ではありません。あなたの仕事は命を救うことです」「人に優しく。家にいましょう。そして、感染の連鎖を断ち切りましょう」 と、“あなた”に語りかけ、「私たちが指示することは、常に完璧ではないでしょう。でも、私たちがしていることは、基本的に正しいものです」と、自分の役割を訴えた。 イースターのときに、子どもの抜けた歯を硬貨と交換してくれる「歯の妖精」も、外出制限によって活動できないのではないかと心配する子どもたちに、「歯の妖精も、イースターのうさぎもエッセンシャルワーカーです。でも、この状況では、自分たちの家庭のことで忙しいかもしれません。だから、各地を訪れるのは難しいということを理解してあげないといけませんね」と、“あなた”=子どもに答えた。 ……なんてすてきなんだろう。 アーダーン首相は、「どうか強く、そしてお互いに優しくしてください」と繰り返していたけど、その“メッセージ”がきちんと伝わるよう、透明性のある情報と科学的な予測をつまびらかにし、「何を根拠に、そういった決定がなされたのか?」を分かりやすく、すべての人が理解できる自分の言葉に置き換えた。 論理だけじゃだめ、感情だけじゃ物足りない。論理と感情が誠実さで結びついたとき、初めて相手に届くメッセージが生まれるのだ』、「アーダーン首相」は2017に37歳で最年少の首相に就任、翌年に産休を60日間取った(Wikipedia)ことでも有名だ。
・『都度、最善策にアップデートする 特に、今回のコロナのような緊急事態では、マメに透明性のあるメッセージを発信することが大切だが、アーダーン首相はときにジャージー姿でSNSを使い、スピーチではなくメッセージを発信し続けた。ついつい私たちは現状を過小評価したり、見たい情報だけ見たりして自分の正当性を主張したくなるものだが、アーダーン首相にはそれがなかった。 その即時性と客観性も、多くの人たちからの「信頼」につながったのだろう。 そしてもう1つ、緊急時に最もリーダーが気をつけなくてはいけないのは、「リーダーたるもの、決めたことを覆してはならない」という大いなる誤解だ。 次々と事態が変化するときには、その都度最善の選択にアップデートすることが、メンバーから信頼を得るのに必要不可欠だ。そのためリーダーには不測の事態の中でもあらゆるルートでエビデンスを積み上げ、最悪のシナリオに基づく「勇気ある決断」が求められる。 ……“第3波”がくるのは分かっていたことなのに、我がリーダーにはその備えもなかった。え?ちゃんとある、って? 国民に伝わってないだけだって? 伝わらなければ意味がない。それは「ない」ってことと同じだ。だからこそのリーダーなのだ。 と、ここまで書いていて、「ん?これって以前にも、同じようなことがあったような気がする」とデジャブに襲われ、過去の原稿を検索したところ……、はいはい、ありました! 東日本大震災のあと、“菅直人首相”のときに書いた原稿である。 「かん」と「すが」。どちらも「菅」だった!!』、「次々と事態が変化するときには、その都度最善の選択にアップデートすることが、メンバーから信頼を得るのに必要不可欠だ。そのためリーダーには不測の事態の中でもあらゆるルートでエビデンスを積み上げ、最悪のシナリオに基づく「勇気ある決断」が求められる」、「国民に伝わってないだけだって? 伝わらなければ意味がない。それは「ない」ってことと同じだ。だからこそのリーダーなのだ」、その通りなのだろう。最後のオチも頷ける。
タグ:国民に伝わってないだけだって? 伝わらなければ意味がない。それは「ない」ってことと同じだ。だからこそのリーダーなのだ 次々と事態が変化するときには、その都度最善の選択にアップデートすることが、メンバーから信頼を得るのに必要不可欠だ。そのためリーダーには不測の事態の中でもあらゆるルートでエビデンスを積み上げ、最悪のシナリオに基づく「勇気ある決断」が求められる 都度、最善策にアップデートする アーダーン首相 五感を共有する「場」が必要だ そもそも「言葉」とは、心の中の思いを乗せる船のようなもの。人はその思いを伝えたいから、いちばん自分の思いに近い船を探し、メッセージを送るのだ 言葉は「思いを乗せる船」 “温度”が感じられない首相の言葉 記者団によるぶら下がり要請は少なくとも33回あり、うち首相が応じたのは・・・20回だった リーダーの武器は「言葉の力」のはず… この国のリーダーたちは“言葉”を持っていない 「菅首相、言葉なき「しどろもどろ会見」で広がる絶望」 河合 薫 日経ビジネスオンライン 『100ワニ』ならぬ、『100スガ』にもなりかねない 12月第3週になっても感染拡大が続いていれば、菅首相の無策への国民的批判はさらに拡大するのは確実だ。その際、Go Toトラベルをいったん中止することになれば、菅首相が自ら失敗を認めたことになる。逆に強引に事業を続ければ、国民の恐怖感も拡大し、大規模な年末年始の旅行キャンセルなどが経済を痛撃する 菅首相の強気を支える野党の弱体ぶり 首相就任後も「鉄壁ガースー」の答弁スタイルのままでは、「国民への説明責任を果たしていない。トップリーダーとしては失格 首相失格の菅流答弁術 外国人記者にも門戸が開かれていることを示すために、「フランス人の特派員」を指名したのだろう 記者会見は棒読みに終始 「Go Toトラベルが感染拡大につながったというエビデンス(証拠)はない」、に対しては反証も徐々に出てきたようだ Go To継続に感染拡大批判 「鉄壁ガースー」戦略」 「支持率急落、菅首相「鉄壁ガースー」戦略の限界 会見はメモ棒読み、紋切り型答弁で説明を回避」 泉 宏 東洋経済オンライン 「検察審査会」に備えた予備的調査で、「形だけの徒花に終わる」可能性も強そうだ 「不起訴」の可能性も 菅政権が安部前首相の動きを抑制するためとの見方もある 「公職選挙法」、「政治資金規正法」、などへの違反 「桜を見る会」騒動から1年の時を経て、その「前夜」の疑惑が新たな火種となりつつある 「「桜を見る会」騒動、「安倍前総理」起訴される可能性を元特捜部が解説」 デイリー新潮 (その51)(「桜を見る会」騒動 「安倍前総理」起訴される可能性を元特捜部が解説、支持率急落 菅首相「鉄壁ガースー」戦略の限界 会見はメモ棒読み 紋切り型答弁で説明を回避、菅首相 言葉なき「しどろもどろ会見」で広がる絶望) 日本の政治情勢
ハラスメント(その17)(セクハラ訴訟“福祉のドン”はなぜ権力を持てたのか? 背景にある「有力政治家」との蜜月 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#2、「北岡氏のセクハラやパワハラに異議を唱える人間は誰もいなかった」… “福祉のドン”を作った「福祉利権」人脈 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#3、「露出度が高いユニフォームを着ていないと 誰も見てくれないよ」 それでも女性アスリートが“撮影禁止”を求めない理由) [社会]
ハラスメントについては、11月26日に取上げた。今日は、(その17)(セクハラ訴訟“福祉のドン”はなぜ権力を持てたのか? 背景にある「有力政治家」との蜜月 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#2、「北岡氏のセクハラやパワハラに異議を唱える人間は誰もいなかった」… “福祉のドン”を作った「福祉利権」人脈 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#3、「露出度が高いユニフォームを着ていないと 誰も見てくれないよ」 それでも女性アスリートが“撮影禁止”を求めない理由)である。
先ずは、12月6日付け文春オンライン「セクハラ訴訟“福祉のドン”はなぜ権力を持てたのか? 背景にある「有力政治家」との蜜月 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/42008
・『今年11月13日、滋賀県にある社会福祉法人「グロー」理事長・北岡賢剛氏が、2人の女性から約4250万円の賠償を求めて訴訟を起こされた。原告は、北岡氏から性暴力を振るわれ、10年以上にわたりセクハラとパワハラの被害を受け続けたと告発したのだ。 今回の件が新聞各紙等で大きく報じられた理由のひとつには、北岡氏が障害者福祉の世界では「天皇」と呼ばれており、社会福祉の業界でその名前を知らない者はいない存在だということがある。そして、ハラスメントの被害の大きさもさることながら、加えて問題となったのは、なぜこれほど長い期間にわたるセクハラ・パワハラの事案が表に出てこなかったのかということだ。 どうして北岡氏は、福祉の世界でそれほどまでに圧倒的な権力を持つことができたのか。その背景には、有力政治家たちとの蜜月関係があった――。(#1から続く) この日、質疑の最前線に居並ぶ厚生労働大臣ら大臣。 その背後に控える大勢の厚生労働官僚の事務方はいずれも神妙な面持ちだった。これからどんな質問が飛び出すのか、と戦々恐々としている風にも見えた』、「2人の女性から約4250万円の賠償を求めて訴訟を起こされた」、「賠償」額の大きさ、しかも「障害者福祉の世界では「天皇」」と呼ばれる人物だったとは、心底驚かされた。
・『厚労委員会で取り上げられた“福祉のドン”の疑惑 2020年11月27日。 とうとう衆議院厚生労働委員会で滋賀県近江八幡市の社会福祉法人「グロー」理事長・北岡氏による性暴力、セクハラ・パワハラの疑惑が取り上げられた。 原告の1人、北岡氏が理事を務めていた「愛成会」の幹部であるAさんはこう振り返る。 「仕事だから飲み会への参加は絶対、電話には3コール以内に出ろと罵倒されました。北岡の指示に従わないと会議に呼ばれなくなったり、意図的に仕事を外されました。組織内における北岡の権力は絶対で、それに刃向かうことなど考えられませんでした」 パワハラと並行して日常的なセクハラも続いたという。 仕事でタクシーに乗ると、北岡氏はAさんのおしりの下に手を突っ込んで触った。「やめてください」と拒絶すると、北岡氏はニヤニヤしながらその指を性的に動かす仕草をしてみせた。また、日常的に卑猥な言葉を綴ったセクハラメールも送られてきたという。 決定打となったのは、懇親会での“レイプ未遂”事件だ。 その晩、Aさんは仕事関係者数人との懇親会に呼び出された。普段はビールしか飲まないが、この日は北岡氏にビール以外のお酒をちゃんぽんで飲むように勧められ、泥酔。気づいたときには北岡氏の部屋のベッドに運ばれていたという。 生理中だったためレイプはかろうじて免れたと言うが、「自分に起きたことを受け止められず、誰にも言えなくて放心状態でした。屈辱的な気持ちになり、ずっと家の床に転がって泣き続けました」という彼女が心に負った傷はいかほどのものだっただろうか。 委員会とはいえ国政調査権をも有する国会で、この疑惑が審議される意味は大きい。本件が単なる一地方の社会福祉法人の代表の不祥事に止まらない根深さを物語っている。 質問に立った立憲民主党・尾辻かな子衆議院議員は、開口一番、田村憲久厚労大臣に対し「北岡氏をご存じか? そして、この報道をどう受けとめているか」と質した。 田村大臣は「まだ事実がよく分からない、明らかにされていない」からコメントは差し控えるとしながらも、一般論としてこう答弁した。 「一般的にセクハラという問題は、これはあってはならない話だと思います。雇用機会均等法で、やはり、こういうものは事業主がしっかり対応しなきゃならないというふうになっておるわけでありますが、この北岡さんですか、この人に関しては、私は、もう最近はずっとお会いしていませんが、以前は何回かお会いしたことがございます」 質問に立った尾辻議員は社会福祉士、介護福祉士の資格を有し、厚労行政に明るい。 北岡氏の疑惑を報道で知ったという。なぜ、委員会で取り上げるに至ったか話を聞いた。 「報道によると北岡さんは障害福祉の世界の功労者であることは間違いないと思います。けれども、どんな偉い立場の人、功績を残した人であれ、アカンものはアカンのです。一昨年も財務事務次官が、記者に対してセクシャルハラスメントをして辞任させられました。北岡さんは報道が事実だとすれは、それ以上のことをしていることになります。北岡さんは厚労省や内閣府の委員をされていたわけで、国の事業を主催した社会福祉法人の理事長です。だからこそ、説明責任があると思っています」』、「厚労委員会で取り上げられた」とは普通の「セクハラ」事件とは違いそうだ。
・『北岡氏の不可解な省庁関連職の“辞任” 質疑を通じて新たな事実も発覚した。北岡氏はこれまで厚労省、内閣府の委員という要職にあったが、いずれも辞任届が提出されたという。 特筆すべきは辞任の理由が不明確な点だ。尾辻氏の質問に対し、厚労省、内閣府は次のように回答している。 「北岡氏につきましては、社会保障審議会障害者部会の委員でございましたが、この度、所属団体を通じて委員の辞任届が提出されました。この辞任届を踏まえ、厚生労働省といたしましてはこれを受け入れることとし、昨日、11月26日付で委員の辞任となったということでございます」(赤澤公省厚労省障害保健福祉部長) 「北岡氏につきましては障害者政策委員会の委員を11月24日付で辞任されました。これは本人から辞任の申出があったことを受けた辞任ということであります。理由について具体的なところは承知しておりません」(難波康修内閣府男女共同参画局男女間暴力対策課長)) もし、何もやましいことがなければ、委員を辞職する必要はない。 仮に辞任するのであれば、その理由を明示できるはずだ。北岡氏、およびグローには質問状を送るなど再三にわたって連絡をとってきたが、12月6日時点で何の連絡もない』、「厚労省、内閣府の委員・・・いずれも辞任届が提出された」、やはり「やましいこと」があるのだろう。
・『“福祉のドン”の力の源泉はどこにあるのか? それにしても、北岡氏が「障害福祉業界の天皇」の異名をとるまでになったその力の源泉は何なのだろうか? その背景を知るべく北岡氏とも面識があるという、元厚労省関係者をたずねると、自身のスマホに収められた北岡氏と撮った一枚の写真に目を落としながら、厳しい表情でこう淡々と語り出した。 「北岡氏は障害者芸術の分野に影響力を持つ『共生社会の実現を目指す障害者の芸術文化振興議員連盟』に名を連ねる有力な政治家の力を使って、厚労省の人事と予算に影響力を持つようになったのです。会長は衛藤晟一元内閣府特命大臣が務めています。 宮仕えの官僚も、所詮、政治家の前では下僕です。政治家が動けばその意に沿わなければなりません。北岡氏の一報を聞いた時、まさか性暴力とは思いませんでしたが、よくよく考えると『さもありなん』という気持ちでした。彼の功績は厚労省内では知らぬ者はいませんが、同時に彼の権力への執念と異なる意見を持つ団体への排他性は有名でした。近年、障害者芸術の普及に努めてきた厚労省とすれば、北岡氏とその背後にいる政治家に振り回されてきた、というのが正直なところだったからです」 衛藤氏の関係者に北岡氏について取材することができた。 両者の関係が深くなったのは、2005年。衛藤氏が郵政民営化を掲げた小泉純一郎氏に反旗を翻し造反。直後の郵政解散選挙で自民党執行部から公認を取り消され、無所属で出馬するも落選した前後からだと説明する 「衛藤さんはその後、参議院に鞍替えして当選するのですが、その時、勝手連として衛藤氏の選挙活動を現場で支えたのが北岡さんでした。自ら衛藤さんの応援チラシを作り、部下を引き連れ手弁当で選挙の応援に駆けつけたのです。それから今日に至るまで、衛藤氏の選挙を3回、やはり勝手連として衛藤氏を支えています。北岡さんは男気があって、誰かのピンチには真っ先に手弁当で飛んできてくれる。義理人情に深い人です」 衛藤氏が後述するアメニティーフォーラムに初めて登壇したのが2004年。郵政解散選挙の前年のことだ。誰かのピンチには真っ先に飛んでゆく、という北岡氏のエピソードは、ある元グロー職員も証言している。 「誰かのピンチに飛んでゆく、と言いますが、それは自分の名誉と出世のために利用できる有力者に限ります。こうした利用できる人物の前では、北岡氏は人懐っこく、酒を飲んで、泣いて、笑って、夢を語る情熱家の一面を演じます。多くの人がその人間臭さに絆されるのです。北岡氏はとにかく人垂らしの名人でした」』、「自分の名誉と出世のために利用できる有力者・・・の前では、北岡氏は人懐っこく、酒を飲んで、泣いて、笑って、夢を語る情熱家の一面を演じます。多くの人がその人間臭さに絆されるのです」、ということからすれば、「人垂らしの名人」とは言い得て妙だ。「衛藤」氏は頭が上がらないだろう。
・『自身が代表を務める団体から厚労省へ出向 「人事とカネ」そして「障害者芸術」という利権――。 ここでいう“人事”というのは、例えば社会福祉施策の向上を図るために、専門的および技術的な助言を行う専門官の任命などに代表される。過去の専門官には北岡氏の口利きで、北岡氏が率いるグローから専門官として厚労省に出向、現在は滋賀県庁障害福祉課に勤める人物も複数人いる。また、北岡氏と滋賀県のつながりは、北岡氏が県の外郭団体「滋賀県社会福祉事業団」にいた20年前から深く、人事交流という名目で県庁職員が北岡氏の関連団体に出向することもあった。 北岡氏は、自らに近い人物を同様の手段で厚労省に送り込み、自身の影響力を誇示するようになった。北岡氏は「オレは厚労省の人事を動かせる」と周囲に自慢げに話していたと複数の職員、元職員が証言している。それはまんざら嘘ではないのだろう。 その一方、北岡氏の障害福祉分野における“功績”は誰に聞いても間違いないとも言う。 かつて、障害者の福祉制度は「施設福祉」と言われていた。 1960年代、アメリカでは障害者を収容するための巨大な施設(コロニー)が建てられた。当時は障害者に対する偏見は凄まじく、福祉の発想そのものが「障害者は施設に収容すればいい」だった。それを突き崩していく動きが活発化し、「精神病院解体」などのスローガンが福祉業界で叫ばれるようになる。 その変革の流れは日本にも伝播し、70年代に入ると「地域に開かれた施設作り」を念頭に福祉の実践現場では「脱施設」の動きが始まる。これらの礎を作った先駆者を「第一世代」とすると、北岡氏らはその背中を追って、この「地域に開かれた施設」を日本に根付かせることに奔走した第二世代だ。 1993年、北岡氏は全国の障害者施設で働く職員のネットワーク作りを夢見て、仲間らと「へいももの会(平成桃太郎の会)」を発足。そして、翌年、全国に先駆けて障害児者を対象とする「24時間対応型在宅サービス」を立ち上げるのだった』、「北岡氏は「オレは厚労省の人事を動かせる」と周囲に自慢げに話していた」、確かに並外れたパワーを持っていたようだ。
・『「アメニティーフォーラム」という祭典の存在 実はこの「へいももの会」を土台として、1999年に北岡氏らが創設した「全国地域生活支援ネットワーク(現NPO法人全国地域生活支援ネットワーク)」と、北岡氏のお膝元・滋賀県の琵琶湖を一望できるホテルを貸し切って毎年行われる障害福祉の祭典「アメニティーフォーラム」が、北岡氏が築き上げた帝国の力の源泉だと、前出の元厚労省関係者は断言する。 「当時、日本の障害者施策の主流は、国が予算を丸抱えして障害者の面倒は施設でみる、でした。その根底には『障害は治らない』という偏見もあったと思います。北岡氏には、この国の歪んだ施策を変えたいという強烈な熱意がありました。それが2006年、障害者自立支援法として日の目をみます。それまでの施設という概念を地域、そして社会に開くこと。ある意味で障害福祉分野の民営化でした。北岡氏らは障害者をひとりの人間として、地域で草の根の力で支え、共に生きていこうと訴えました。この理念自体は間違っていなかったと思います」 当時、北岡氏ら民間の動きを厚労省側で支えたのが、当時、社会・援護局障害保健福祉部企画課長で、後にえん罪事件を経て事務次官となった村木厚子氏だった。 この法律が実現したことで、障害福祉分野の施策は大きな転換点を迎える。その一方、後のセクハラ・パワハラ訴訟につながる北岡氏の“権力“も強大になっていった。(#3に続く)』、「それまでの施設という概念を地域、そして社会に開くこと。ある意味で障害福祉分野の民営化でした。北岡氏らは障害者をひとりの人間として、地域で草の根の力で支え、共に生きていこうと訴えました。この理念自体は間違っていなかったと思います」、その通りだろう。
次に、この続きを12月6日付け文春オンライン「「北岡氏のセクハラやパワハラに異議を唱える人間は誰もいなかった」… “福祉のドン”を作った「福祉利権」人脈 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#3」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/42010
・『・・・実は取材の過程で気がかりなことがあった。 北岡賢剛という男は政府委員の要職を引き受けるにあたり、2つの肩書きを使い分けていたのだ。ひとつは「社会福祉法人グロー理事長」。もう一つが「NPO法人全国地域生活支援ネットワーク顧問」だ。後者は業界では「全国ネット」の名前で定着している』、「2つの肩書きを使い分けていた」理由は何なのだろう。
・『国の事業採択に北岡氏が大きな影響を与える ある社会福祉法人の幹部は、北岡氏は2008年頃から、「グロー」と「全国ネット」をたくみに使い分けて、国の障害者芸術分野事業の採択に大きな影響力を及ぼすようになったという。 無論、北岡氏がこの分野の先駆者の1人であることは間違いない。ただ、これらの事業採択は、表向きは公募だが、実態は明らかな出来レースだったと語る。 「北岡氏は障害者芸術の分野において、仮に実績がなかったとしても、自分の政治力の傘下にある全国ネットに名を連ねる団体を優遇して、厚労省、文化庁などの事業を政治家の力を使って採択させてきました。つまり、北岡氏に逆らえば国の事業には採択されにくい構造であることは、この分野に関わる人であれば誰でも知っています。 社会福祉法人は老舗を除いて、地域の障害者施設の指定管理を任されるなどしなければ、その運営は財政的に厳しい法人が多い。だからこそ、どの法人も国の事業を主催したいのです。北岡氏は自分を慕う身内には情が深く、面倒見がよい一方、異論を挟む相手を徹底して排除する田舎のヤンキー気質でした」 北岡氏は厚労省の委員をしながら、同時に同省の事業を毎年、主催していた。 尾辻かな子事務所が厚労省に照会して入手した資料によると、この数年だけでも「グロー」、そして「全国ネット」にあわせて2億円を超える金額が国から支払われている。 その内のひとつが「障害者芸術文化活動普及支援事業」。平成29年から令和2年までの4年間で合計、約7300万円がグローに支払われている。 この障害者の芸術文化普及に関わる事業は、全国6つのブロックに分けられて実施される。その広域支援を担う6つの団体のうち、4つは「全国ネット」の傘下にある団体で、グローは全国レベルの活動支援の団体として、そのトップに名を連ねている。 そして、「2020東京大会・日本博を契機とした障害者の文化芸術フェスティバル」と銘打ったイベントには、令和元年、令和2年の2年間で合計、約1億3000万円が支払われている。このイベントは実行委員会形式だが、その多くが「全国ネット」に名を連ねる団体が中心で、事務局はグローが担っている。 グローはこの他にも「障害者総合福祉推進事業」などを過去には主催しているので、実際には厚労省や文化庁からグローや全国ネットに流れたカネの総額は、さらに膨らむだろう。 そして、北岡氏と厚労省、有力政治家との癒着が最も顕著に表れているのが「アメニティーフォーラム」と呼ばれる大規模イベントの存在だ。 「障害福祉の世界でアメニティーフォーラムを知らない人はいませんよ。何しろ福祉関係者以外に現役の首長、政治家、官僚、そして文化人、著名人などが、わざわざ北岡氏のお膝元である滋賀に大集結するのです。障害福祉の分野で働く職員の賃金など待遇を決める障害福祉サービスの報酬も、このアメニティーの二次会で決まると噂されるくらいですから」 そう話すのは、また別の社会福祉法人の理事長である。 厚生労働委員会でも度々、その名前が飛び出した「アメニティーフォーラム」は、まさに障害福祉業界の祭典だ。今年開催された第24回大会のパンフレットを見ても、参加者の数、出席者の顔ぶれ、イベントの内容、どれをとっても破格のスケールだということが分かる』、「北岡氏は厚労省の委員をしながら、同時に同省の事業を毎年、主催していた」、「この数年だけでも「グロー」、そして「全国ネット」にあわせて2億円を超える金額が国から支払われている」、利益相反関係は大丈夫なのだろうか。
・『フォーラムの人脈が北岡氏の力の源泉 大会冒頭、全国ネット顧問の肩書きで北岡氏が登壇する。 対談相手は、NHK『バリバラ』の司会を務める玉木幸則氏、全国ネット代表・大原裕介氏、そしてアメニティーフォーラム実行委員長であり、北岡氏が「へいもも」の会を設立した当時からの盟友でもあり、北岡氏に性暴力を振るわれたと告発したAさんが所属する社会福祉法人「愛成会」の理事をしている田中正博氏だ。 突出しているのが、やはり厚労省関係の幹部らの顔ぶれである。 下記の図は、過去15年間のアメニティーフォーラムのパンフレットをもとに厚労省関係者の参加当時の肩書きと参加回数を一覧にしたものだ。現役事務次官こそいないが、後の事務次官など名だたるキャリア官僚がずらりと名前を連ねる。 北岡氏は、2004年出版の鼎談集「僕らは語り合った 障害福祉の未来を」の中で、厚労省とのつながりをこう振り返っている。 「行政の人との出会いって、地方からだんだん中央へ行くのかなと思うんですけど。僕の場合は逆だったんですよ。でも、僕には戦略ってないんです。皆さんどう思っているかわからないけど、自分ではない人だと思っている。最初に出会ったのは地元の市町村よりも厚生省なんですね」 この本には浅野史郎・元宮城県知事、元厚生省官僚、辻哲夫・東京大学高齢社会総合研究機構特任教授、元厚労省事務次官などの厚労行政に関わる大物の名前が並ぶ。北岡氏はアメニティーフォーラムという場を使って、福祉業界の現場で働く全国の実践者らと政治家、厚労官僚、大学教授、そして、北岡氏の障害者福祉観を支持する文化人、著名人を引き合わせ、そして永田町、霞ヶ関とのパイプを太くしてきた。この北岡氏の行動力と障害福祉への貢献は評価されてしかるべきだろう。 このフォーラムに参加したことのある福祉関係者は、このイベントに登壇している人々こそが、北岡氏が30年かけて築き上げてきた人脈であり、北岡氏の人生そのものだと語った。 「福祉業界、とくに障害分野は過酷な『3K』労働で、華やかさとは正反対の業界です。だからこそ、日々、当事者に向き合っている福祉関係者は、このきらびやかなお祭り騒ぎを目の当たりにすることで、北岡氏の政治力に平伏し、周囲の誰も何も言えなくなるのです。北岡氏のセクハラやパワハラは内部だけでなく、出入りする関係者の間では周知の事実でした」) 休憩時間もない程、ぎっしりと詰め込まれた企画の数々は、まるで有名大学の「学祭」だ』、「北岡氏はアメニティーフォーラムという場を使って、福祉業界の現場で働く全国の実践者らと政治家、厚労官僚、大学教授、そして、北岡氏の障害者福祉観を支持する文化人、著名人を引き合わせ、そして永田町、霞ヶ関とのパイプを太くしてきた」、確かに「北岡氏の力の源泉」のようだ。
・『「職員たちは北岡氏に気に入られようと必死だった」 北岡氏を筆頭にグロー上層部(理事長、副理事、理事)は全員男性。現場の職員の多くは女性。普段から法人内には、北岡氏を頂点とする徹底した上意下達の体育会系の指示系統が敷かれているという。 「管理職レベルの男性職員たちであっても、北岡氏を前にすると、背筋をのばし目線は足元を見下げて、非常に緊張しながら話していた」 「北岡氏に近い男性職員たちは、北岡氏が滋賀県にいる夜は常にスマホを気にしていた。北岡氏から電話がかかってくるとすぐに出て、終電間際でも呼ばれる場所に向かっていた。呼ばれたら駆けつけることを北岡氏は『待機の男』と呼び、夜遅くや朝早くの送迎をすることで、彼に気に入られようと必死だった」 「職員に説教のようなものをした後、他の複数の職員たちが集まっている場で『○○がさぁ、泣くんだよねぇ』とバカにするように話をしたり、大勢の職員の前で一人の職員の失敗をコテンパンにけなして吊し上げるようなことをしていても、それに異議を申し立てる職員はおらず黙って聞いているだけであった」 こうした証言は枚挙にいとまが無い。 反論のひとつも許されない絶対的な上下関係に、最初は北岡氏に憧れてグローの門を叩いた職員も、日が経つにつれて「共依存」や「従属」という関係に支配されてゆく。逆に、北岡氏は自分よりも優位で特別な存在と思わされる環境に耐えきれない職員は、この組織を去って行く――。 何度も言うが、アメニティーフォーラムの理念そのものは全く間違ってはいない。 ただ、本来、人間は誰もが平等であるという当たり前の福祉観が、ここでは通用しないのだ。そして日常的に北岡氏や幹部職員によるセクハラやパワハラが横行するようになる。北岡氏、およびグローには質問状を送るなど再三にわたって連絡をとってきたが、12月6日時点で何の連絡もない。 そんな絶対服従を強いられる環境下で、北岡氏を告発したBさんは性的暴行を受けるのである』、障害者福祉法人は奇特な方がやっていると思っていたのに、裏面には「福祉利権」まであったとは驚かされた。「北岡氏」はまるで絶対君主のように君臨してきたようだ。公職からは手を引いたようだが、今後の民事訴訟、「北岡」帝国の行方に注目したい。「北岡氏」をのさばらせた厚労省や「衛藤」氏の責任も重大だ。
第三に、12月6日付け文春オンライン「「露出度が高いユニフォームを着ていないと、誰も見てくれないよ」 それでも女性アスリートが“撮影禁止”を求めない理由」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/41917
・『ユニフォーム姿のアスリートを狙う、悪質な撮影行為。「スポーツ界全体の問題だ」と声を上げた20代の女子陸上選手のハナさんとカオルさん(いずれも仮名)の思いを受け、JOC(日本オリンピック委員会)は、性的ハラスメントに競技横断的に対応しようと奔走している。 選手たちが一番に求めるのは法整備だが、実現までには長い道のりが待っている。法整備まで手をこまねくのではなく、具体的に何ができるかも重要だ。ハナさんとカオルさんが、動き出したスポーツ関連団体への期待と不安を語った。(全2回の2回目)(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『「研修って、誰がするんだろう?」 Q:11月、JOCなどが出した声明文には、(1)各競技団体が独自に行ってきた被害防止の取り組みを共有 (2)アスリートが自衛するためのネット研修の実施 (3)一般向けに情報提供サイトを設置 といった内容が盛り込まれました。第一歩として、どう受け止めますか? ハナ 陸連(日本陸上競技連盟)やJOCの中にも、性的ハラスメント被害を知らない方が結構いたと思うので、声明文という形になったことは嬉しく思います。 ただ、研修って、誰がするんだろう? という不安もあります……。現在、最前線で陸上競技をしておらず、性的被害を受けていない人たちが、どうやってその研修をするのか、と考えてしまうんで。「そんなことがあるらしいぞ、気をつけろよ」程度の内容だったら、不安が残るだけだなと。 Q:具体的に、どんな対策ができるかを指導してほしいということですね。 ハナ 自分を守るために何ができるのかとか、競技ユニフォームひとつとっても、いろいろ選ぶ権利があるんだよとか。きちんと教えてほしいことがいっぱいあるから……。 Q:写真や動画をアップする中で気をつけなければいけないこと。経験者のおふたりだからこそ分かることもあるし、中高生に伝えたいこともありますよね。 カオル 今はSNSが普及しているので、何も考えずにアップするとその写真がどう使われる可能性があるのか、ちゃんと知るべきだと思います。例えば更衣室で自撮りすると、周りの着替えている子まで写ってしまいかねない。それを悪用する人はいます。自分だけじゃなく、周りにも被害が出る恐れがあると理解した上で、写真をあげた方がいいと思うし、そういうSNSの使い方をもっとちゃんと中高生に教えてあげるべきだと思っています』、「更衣室で自撮り」などは、「研修」以前の常識の問題の筈だが、「SNSの使い方をもっとちゃんと中高生に教えてあげるべき」、その通りだ。
・『陸上が好きで、きらきらしているところを撮りたい人もいる Q:一方、競技中の撮影は、選手にコントロールできない部分でもあります。そもそも、こうした問題には20年ほど前から競技団体も頭を悩ませてきました。例えば体操やビーチバレーは一般客の撮影を原則禁止していますが、陸上では撮影を認め、頻繁に見回りをして不審者に声をかけるという対応を続けています。 ハナ その方法でやっていくしか、仕方がないです。大きい試合ならば、観客席の隣やすぐ後ろで怪しい行為をしている人を見かけたら通報してほしい、と呼びかけるのが今は一番いいのかなと思います。小さい大会なら、大きいカメラを持っているような方が目に付いたら、声をかけてもらう、などでしょうか。できるだけ、どこの試合でも警備員や巡回する人をつくる形で対応していただきたいです。被害が最小になるような流れを作る、今はそれしかできないとも感じています。 Q:陸上でも撮影禁止を、という規制までは求めないですか? カオル 陸上競技を多くの人に知っていただくためには、撮影禁止を求めることは難しいかもしれないですね。陸上でも100mなどの花形種目ならみんな知ってるでしょうけれど、全種目となると、知名度のためには……難しいところだなと思います。撮影を一律禁止したら確かに被害は減ると思うのですが、陸上界全体を盛り上げるためには……。サッカーなどメジャーなスポーツに比べると、スポットライトが当たることが少ないですから。 ハナ 自分の宣材写真を、陸上が好きで写真を撮りに来ている子にお願いする人もいるんです。友達にも、陸上がすごく好きで、みんなのきらきらしているところを撮りたくて、競技場に足を運んでいる人もいます。そういった方との接点を全てなくしてしまうことは望みません。だから、撮影の機会は残してほしいと思います』、「陸上競技を多くの人に知っていただくためには、撮影禁止を求めることは難しいかもしれないですね」、結局、「陸上競技」PRのためには、「撮影禁止を求め」ないようだ。
・『「ジャージ着て走れよ」という反応 Q:今回、JOCが対応に乗り出したことで、さまざまなメディアで報道されました。ネットニュースなどに寄せられたコメントで、印象に残ったものはありましたか? カオル 「女子選手は男子に比べて競技レベルが劣っているから、露出度が高いユニフォームを着ていないと、誰も見てくれないよ」、「ジャージ着て走れよ」などでしょうか……。ああ、そう捉えられてしまうのかと思いました。 ハナ 「あのユニフォームがおかしい」というコメントが大半でしたね。ただ、ユニフォームにだって、選手の選択の自由があるべきだと思うんです。性的に見られることがあるかもしれない、性的被害に巻き込まれる可能性もあると理解した上で、できるだけ露出が少ないユニフォームに変えようとか、セパレート(上下で分かれ、お腹の見えるタイプ)のユニフォームを着たいとか、選択できる世の中になればいいなと思います。今、選手たちはセパレートがかっこいいと思って、みんな着ていますからね。 Q:セパレートを好きで着ている選手が、競技以外の面を気にして服装をかえることには、葛藤もありませんか。 ハナ あとから傷ついたり、写真が悪用されてしまうよりは、良いのではないでしょうか。一回、SNSに上げてしまったり、上げられてしまった後は、自分の手の届かないところに行ってしまうので。 カオル 性的ハラスメントを受けてからでないと、分からない人の方が多いと思うんです。だから被害も多いのだなと思います。私たちは陸上の成績が第一で、絶対その試合に集中しているから、撮られるとか思わないんです。ユニフォームのことばかり意識していられない。それで、撮られて後からSNSに載せられて、気づくんです。 ハナ 一番望ましいのは、みんながかっこいいなと思っているセパレートのユニフォームを着ても、被害に遭わないように、陸連やJOCに対策をしていただくことですね』、「陸連やJOC」なら対策が出来るというのは、余りに甘い。
・『年々SNSが発達してきて被害が増えていく Q:おふたりが声を上げたことで、他の選手にも広がりはありましたか? ハナ 大半の人は被害にあったといえないので、ここまで問題が大きくなってしまったと思います。今回のような報道が出ても、私もそう思うとは言いづらいですから……。 カオル みんながみんな、試合での撮影に反対しているわけではないので、そこも難しいところです。 ハナ 写真を撮ってもらったり、かわいいって言われるのがうれしいという人もいます。(撮影による被害を)「なんとも思わない、こういうものだと思っています」と割り切っている選手もいます。でも、年々SNSが発達してきて、そういう被害が増えていく世の中だなと思うので、私たちだけでも声を上げないとって。 Q;おふたりはずっと陸上をやってきて、他競技については今回初めて知ったそうですね。 ハナ 自分に来るものしか見てなかったんですけど、弁護士さんに「できるだけ被害を探してみてほしい」って言われて検索したら、バレーが多かったですかね。おしりのアップの写真が結構あって、「他競技でもこういうことをされてるんだ」って思った記憶があります。 カオル バレーの選手を見て思ったんですけど、室内バレーのユニフォームは半袖シャツにショートパンツといった感じで、それほど露出は多くないですよね。それでも、撮る人は撮る。だから、陸上選手がたとえ露出の少ないユニフォームにしたとしても、撮る人は撮ると思います。私たちに「そういうユニフォームを着ているのが悪い」と批判してくる人たちは、ただ言いたいだけなんでしょうね。 Q:他競技からは、「よくぞ陸上の選手、言ってくれた」という感謝の声も聞きます。 ハナ 少なからず他競技でもそう思ってくださる人がいるのはすごくうれしいです。ぜひ協力してほしいです。協力してくれればしてくれるだけ、ありがたいので』、「他競技からは、「よくぞ陸上の選手、言ってくれた」という感謝の声も聞きす」、そんなものなのだろうか。
・『法を整備してもらうのが一番の願い Q:おふたりが声を上げ、JOCまでが動いて、この問題を多くの人に知ってもらうことができました。アスリートとして、競技以外の面でも社会に影響を与えられたのではないでしょうか。 ハナ この問題が解決しない限りは、よかったとは思えないかもしれません。今回の声明文に合わせて、JOCが情報提供を求める新しいサイトを立ち上げました。でも、アメリカ大統領選挙の報道などと重なり、あまりSNSで流れてこなくて。それをみんなに見てほしかったんですけれど……。 カオル まだ、序盤の序盤です。サイトを立ち上げて終わりだったら今までと変わらないですし、法的な対応が整って初めて、「言ってよかったな」と安心できます。 やはり、法を整備してもらうのが一番の願いですか?(カオル 残念ですが、法規制がないと減らないと思うんです。取り締まられた前例がない限り、「やめよう」とか「気をつけなきゃ」と思わない人の方が多いと思うのが実情だと思います。 ハナ 何もできないんですよ、現状だと。写真を削除しようと思っても、時間もお金もかかります。そもそも、陸上のユニフォーム姿を撮ったからといって基本的に罪にはなりません。性的ハラスメントを行っている人は、だめだと分かっていて、むしろ相手が嫌がる姿を見たくてやっている面もあると思いますし。厳しいですが、法整備が整わない限り、現状は大きく変わらないのではないでしょうか』、「法整備」を万能視しているようだが、カメラがスマホまで拡大したなかでは、法技術的にも規制は困難なのではなかろうか。観客の良識に委ねるか、ユニフォームを改良するしかなさそうだ。
先ずは、12月6日付け文春オンライン「セクハラ訴訟“福祉のドン”はなぜ権力を持てたのか? 背景にある「有力政治家」との蜜月 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/42008
・『今年11月13日、滋賀県にある社会福祉法人「グロー」理事長・北岡賢剛氏が、2人の女性から約4250万円の賠償を求めて訴訟を起こされた。原告は、北岡氏から性暴力を振るわれ、10年以上にわたりセクハラとパワハラの被害を受け続けたと告発したのだ。 今回の件が新聞各紙等で大きく報じられた理由のひとつには、北岡氏が障害者福祉の世界では「天皇」と呼ばれており、社会福祉の業界でその名前を知らない者はいない存在だということがある。そして、ハラスメントの被害の大きさもさることながら、加えて問題となったのは、なぜこれほど長い期間にわたるセクハラ・パワハラの事案が表に出てこなかったのかということだ。 どうして北岡氏は、福祉の世界でそれほどまでに圧倒的な権力を持つことができたのか。その背景には、有力政治家たちとの蜜月関係があった――。(#1から続く) この日、質疑の最前線に居並ぶ厚生労働大臣ら大臣。 その背後に控える大勢の厚生労働官僚の事務方はいずれも神妙な面持ちだった。これからどんな質問が飛び出すのか、と戦々恐々としている風にも見えた』、「2人の女性から約4250万円の賠償を求めて訴訟を起こされた」、「賠償」額の大きさ、しかも「障害者福祉の世界では「天皇」」と呼ばれる人物だったとは、心底驚かされた。
・『厚労委員会で取り上げられた“福祉のドン”の疑惑 2020年11月27日。 とうとう衆議院厚生労働委員会で滋賀県近江八幡市の社会福祉法人「グロー」理事長・北岡氏による性暴力、セクハラ・パワハラの疑惑が取り上げられた。 原告の1人、北岡氏が理事を務めていた「愛成会」の幹部であるAさんはこう振り返る。 「仕事だから飲み会への参加は絶対、電話には3コール以内に出ろと罵倒されました。北岡の指示に従わないと会議に呼ばれなくなったり、意図的に仕事を外されました。組織内における北岡の権力は絶対で、それに刃向かうことなど考えられませんでした」 パワハラと並行して日常的なセクハラも続いたという。 仕事でタクシーに乗ると、北岡氏はAさんのおしりの下に手を突っ込んで触った。「やめてください」と拒絶すると、北岡氏はニヤニヤしながらその指を性的に動かす仕草をしてみせた。また、日常的に卑猥な言葉を綴ったセクハラメールも送られてきたという。 決定打となったのは、懇親会での“レイプ未遂”事件だ。 その晩、Aさんは仕事関係者数人との懇親会に呼び出された。普段はビールしか飲まないが、この日は北岡氏にビール以外のお酒をちゃんぽんで飲むように勧められ、泥酔。気づいたときには北岡氏の部屋のベッドに運ばれていたという。 生理中だったためレイプはかろうじて免れたと言うが、「自分に起きたことを受け止められず、誰にも言えなくて放心状態でした。屈辱的な気持ちになり、ずっと家の床に転がって泣き続けました」という彼女が心に負った傷はいかほどのものだっただろうか。 委員会とはいえ国政調査権をも有する国会で、この疑惑が審議される意味は大きい。本件が単なる一地方の社会福祉法人の代表の不祥事に止まらない根深さを物語っている。 質問に立った立憲民主党・尾辻かな子衆議院議員は、開口一番、田村憲久厚労大臣に対し「北岡氏をご存じか? そして、この報道をどう受けとめているか」と質した。 田村大臣は「まだ事実がよく分からない、明らかにされていない」からコメントは差し控えるとしながらも、一般論としてこう答弁した。 「一般的にセクハラという問題は、これはあってはならない話だと思います。雇用機会均等法で、やはり、こういうものは事業主がしっかり対応しなきゃならないというふうになっておるわけでありますが、この北岡さんですか、この人に関しては、私は、もう最近はずっとお会いしていませんが、以前は何回かお会いしたことがございます」 質問に立った尾辻議員は社会福祉士、介護福祉士の資格を有し、厚労行政に明るい。 北岡氏の疑惑を報道で知ったという。なぜ、委員会で取り上げるに至ったか話を聞いた。 「報道によると北岡さんは障害福祉の世界の功労者であることは間違いないと思います。けれども、どんな偉い立場の人、功績を残した人であれ、アカンものはアカンのです。一昨年も財務事務次官が、記者に対してセクシャルハラスメントをして辞任させられました。北岡さんは報道が事実だとすれは、それ以上のことをしていることになります。北岡さんは厚労省や内閣府の委員をされていたわけで、国の事業を主催した社会福祉法人の理事長です。だからこそ、説明責任があると思っています」』、「厚労委員会で取り上げられた」とは普通の「セクハラ」事件とは違いそうだ。
・『北岡氏の不可解な省庁関連職の“辞任” 質疑を通じて新たな事実も発覚した。北岡氏はこれまで厚労省、内閣府の委員という要職にあったが、いずれも辞任届が提出されたという。 特筆すべきは辞任の理由が不明確な点だ。尾辻氏の質問に対し、厚労省、内閣府は次のように回答している。 「北岡氏につきましては、社会保障審議会障害者部会の委員でございましたが、この度、所属団体を通じて委員の辞任届が提出されました。この辞任届を踏まえ、厚生労働省といたしましてはこれを受け入れることとし、昨日、11月26日付で委員の辞任となったということでございます」(赤澤公省厚労省障害保健福祉部長) 「北岡氏につきましては障害者政策委員会の委員を11月24日付で辞任されました。これは本人から辞任の申出があったことを受けた辞任ということであります。理由について具体的なところは承知しておりません」(難波康修内閣府男女共同参画局男女間暴力対策課長)) もし、何もやましいことがなければ、委員を辞職する必要はない。 仮に辞任するのであれば、その理由を明示できるはずだ。北岡氏、およびグローには質問状を送るなど再三にわたって連絡をとってきたが、12月6日時点で何の連絡もない』、「厚労省、内閣府の委員・・・いずれも辞任届が提出された」、やはり「やましいこと」があるのだろう。
・『“福祉のドン”の力の源泉はどこにあるのか? それにしても、北岡氏が「障害福祉業界の天皇」の異名をとるまでになったその力の源泉は何なのだろうか? その背景を知るべく北岡氏とも面識があるという、元厚労省関係者をたずねると、自身のスマホに収められた北岡氏と撮った一枚の写真に目を落としながら、厳しい表情でこう淡々と語り出した。 「北岡氏は障害者芸術の分野に影響力を持つ『共生社会の実現を目指す障害者の芸術文化振興議員連盟』に名を連ねる有力な政治家の力を使って、厚労省の人事と予算に影響力を持つようになったのです。会長は衛藤晟一元内閣府特命大臣が務めています。 宮仕えの官僚も、所詮、政治家の前では下僕です。政治家が動けばその意に沿わなければなりません。北岡氏の一報を聞いた時、まさか性暴力とは思いませんでしたが、よくよく考えると『さもありなん』という気持ちでした。彼の功績は厚労省内では知らぬ者はいませんが、同時に彼の権力への執念と異なる意見を持つ団体への排他性は有名でした。近年、障害者芸術の普及に努めてきた厚労省とすれば、北岡氏とその背後にいる政治家に振り回されてきた、というのが正直なところだったからです」 衛藤氏の関係者に北岡氏について取材することができた。 両者の関係が深くなったのは、2005年。衛藤氏が郵政民営化を掲げた小泉純一郎氏に反旗を翻し造反。直後の郵政解散選挙で自民党執行部から公認を取り消され、無所属で出馬するも落選した前後からだと説明する 「衛藤さんはその後、参議院に鞍替えして当選するのですが、その時、勝手連として衛藤氏の選挙活動を現場で支えたのが北岡さんでした。自ら衛藤さんの応援チラシを作り、部下を引き連れ手弁当で選挙の応援に駆けつけたのです。それから今日に至るまで、衛藤氏の選挙を3回、やはり勝手連として衛藤氏を支えています。北岡さんは男気があって、誰かのピンチには真っ先に手弁当で飛んできてくれる。義理人情に深い人です」 衛藤氏が後述するアメニティーフォーラムに初めて登壇したのが2004年。郵政解散選挙の前年のことだ。誰かのピンチには真っ先に飛んでゆく、という北岡氏のエピソードは、ある元グロー職員も証言している。 「誰かのピンチに飛んでゆく、と言いますが、それは自分の名誉と出世のために利用できる有力者に限ります。こうした利用できる人物の前では、北岡氏は人懐っこく、酒を飲んで、泣いて、笑って、夢を語る情熱家の一面を演じます。多くの人がその人間臭さに絆されるのです。北岡氏はとにかく人垂らしの名人でした」』、「自分の名誉と出世のために利用できる有力者・・・の前では、北岡氏は人懐っこく、酒を飲んで、泣いて、笑って、夢を語る情熱家の一面を演じます。多くの人がその人間臭さに絆されるのです」、ということからすれば、「人垂らしの名人」とは言い得て妙だ。「衛藤」氏は頭が上がらないだろう。
・『自身が代表を務める団体から厚労省へ出向 「人事とカネ」そして「障害者芸術」という利権――。 ここでいう“人事”というのは、例えば社会福祉施策の向上を図るために、専門的および技術的な助言を行う専門官の任命などに代表される。過去の専門官には北岡氏の口利きで、北岡氏が率いるグローから専門官として厚労省に出向、現在は滋賀県庁障害福祉課に勤める人物も複数人いる。また、北岡氏と滋賀県のつながりは、北岡氏が県の外郭団体「滋賀県社会福祉事業団」にいた20年前から深く、人事交流という名目で県庁職員が北岡氏の関連団体に出向することもあった。 北岡氏は、自らに近い人物を同様の手段で厚労省に送り込み、自身の影響力を誇示するようになった。北岡氏は「オレは厚労省の人事を動かせる」と周囲に自慢げに話していたと複数の職員、元職員が証言している。それはまんざら嘘ではないのだろう。 その一方、北岡氏の障害福祉分野における“功績”は誰に聞いても間違いないとも言う。 かつて、障害者の福祉制度は「施設福祉」と言われていた。 1960年代、アメリカでは障害者を収容するための巨大な施設(コロニー)が建てられた。当時は障害者に対する偏見は凄まじく、福祉の発想そのものが「障害者は施設に収容すればいい」だった。それを突き崩していく動きが活発化し、「精神病院解体」などのスローガンが福祉業界で叫ばれるようになる。 その変革の流れは日本にも伝播し、70年代に入ると「地域に開かれた施設作り」を念頭に福祉の実践現場では「脱施設」の動きが始まる。これらの礎を作った先駆者を「第一世代」とすると、北岡氏らはその背中を追って、この「地域に開かれた施設」を日本に根付かせることに奔走した第二世代だ。 1993年、北岡氏は全国の障害者施設で働く職員のネットワーク作りを夢見て、仲間らと「へいももの会(平成桃太郎の会)」を発足。そして、翌年、全国に先駆けて障害児者を対象とする「24時間対応型在宅サービス」を立ち上げるのだった』、「北岡氏は「オレは厚労省の人事を動かせる」と周囲に自慢げに話していた」、確かに並外れたパワーを持っていたようだ。
・『「アメニティーフォーラム」という祭典の存在 実はこの「へいももの会」を土台として、1999年に北岡氏らが創設した「全国地域生活支援ネットワーク(現NPO法人全国地域生活支援ネットワーク)」と、北岡氏のお膝元・滋賀県の琵琶湖を一望できるホテルを貸し切って毎年行われる障害福祉の祭典「アメニティーフォーラム」が、北岡氏が築き上げた帝国の力の源泉だと、前出の元厚労省関係者は断言する。 「当時、日本の障害者施策の主流は、国が予算を丸抱えして障害者の面倒は施設でみる、でした。その根底には『障害は治らない』という偏見もあったと思います。北岡氏には、この国の歪んだ施策を変えたいという強烈な熱意がありました。それが2006年、障害者自立支援法として日の目をみます。それまでの施設という概念を地域、そして社会に開くこと。ある意味で障害福祉分野の民営化でした。北岡氏らは障害者をひとりの人間として、地域で草の根の力で支え、共に生きていこうと訴えました。この理念自体は間違っていなかったと思います」 当時、北岡氏ら民間の動きを厚労省側で支えたのが、当時、社会・援護局障害保健福祉部企画課長で、後にえん罪事件を経て事務次官となった村木厚子氏だった。 この法律が実現したことで、障害福祉分野の施策は大きな転換点を迎える。その一方、後のセクハラ・パワハラ訴訟につながる北岡氏の“権力“も強大になっていった。(#3に続く)』、「それまでの施設という概念を地域、そして社会に開くこと。ある意味で障害福祉分野の民営化でした。北岡氏らは障害者をひとりの人間として、地域で草の根の力で支え、共に生きていこうと訴えました。この理念自体は間違っていなかったと思います」、その通りだろう。
次に、この続きを12月6日付け文春オンライン「「北岡氏のセクハラやパワハラに異議を唱える人間は誰もいなかった」… “福祉のドン”を作った「福祉利権」人脈 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#3」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/42010
・『・・・実は取材の過程で気がかりなことがあった。 北岡賢剛という男は政府委員の要職を引き受けるにあたり、2つの肩書きを使い分けていたのだ。ひとつは「社会福祉法人グロー理事長」。もう一つが「NPO法人全国地域生活支援ネットワーク顧問」だ。後者は業界では「全国ネット」の名前で定着している』、「2つの肩書きを使い分けていた」理由は何なのだろう。
・『国の事業採択に北岡氏が大きな影響を与える ある社会福祉法人の幹部は、北岡氏は2008年頃から、「グロー」と「全国ネット」をたくみに使い分けて、国の障害者芸術分野事業の採択に大きな影響力を及ぼすようになったという。 無論、北岡氏がこの分野の先駆者の1人であることは間違いない。ただ、これらの事業採択は、表向きは公募だが、実態は明らかな出来レースだったと語る。 「北岡氏は障害者芸術の分野において、仮に実績がなかったとしても、自分の政治力の傘下にある全国ネットに名を連ねる団体を優遇して、厚労省、文化庁などの事業を政治家の力を使って採択させてきました。つまり、北岡氏に逆らえば国の事業には採択されにくい構造であることは、この分野に関わる人であれば誰でも知っています。 社会福祉法人は老舗を除いて、地域の障害者施設の指定管理を任されるなどしなければ、その運営は財政的に厳しい法人が多い。だからこそ、どの法人も国の事業を主催したいのです。北岡氏は自分を慕う身内には情が深く、面倒見がよい一方、異論を挟む相手を徹底して排除する田舎のヤンキー気質でした」 北岡氏は厚労省の委員をしながら、同時に同省の事業を毎年、主催していた。 尾辻かな子事務所が厚労省に照会して入手した資料によると、この数年だけでも「グロー」、そして「全国ネット」にあわせて2億円を超える金額が国から支払われている。 その内のひとつが「障害者芸術文化活動普及支援事業」。平成29年から令和2年までの4年間で合計、約7300万円がグローに支払われている。 この障害者の芸術文化普及に関わる事業は、全国6つのブロックに分けられて実施される。その広域支援を担う6つの団体のうち、4つは「全国ネット」の傘下にある団体で、グローは全国レベルの活動支援の団体として、そのトップに名を連ねている。 そして、「2020東京大会・日本博を契機とした障害者の文化芸術フェスティバル」と銘打ったイベントには、令和元年、令和2年の2年間で合計、約1億3000万円が支払われている。このイベントは実行委員会形式だが、その多くが「全国ネット」に名を連ねる団体が中心で、事務局はグローが担っている。 グローはこの他にも「障害者総合福祉推進事業」などを過去には主催しているので、実際には厚労省や文化庁からグローや全国ネットに流れたカネの総額は、さらに膨らむだろう。 そして、北岡氏と厚労省、有力政治家との癒着が最も顕著に表れているのが「アメニティーフォーラム」と呼ばれる大規模イベントの存在だ。 「障害福祉の世界でアメニティーフォーラムを知らない人はいませんよ。何しろ福祉関係者以外に現役の首長、政治家、官僚、そして文化人、著名人などが、わざわざ北岡氏のお膝元である滋賀に大集結するのです。障害福祉の分野で働く職員の賃金など待遇を決める障害福祉サービスの報酬も、このアメニティーの二次会で決まると噂されるくらいですから」 そう話すのは、また別の社会福祉法人の理事長である。 厚生労働委員会でも度々、その名前が飛び出した「アメニティーフォーラム」は、まさに障害福祉業界の祭典だ。今年開催された第24回大会のパンフレットを見ても、参加者の数、出席者の顔ぶれ、イベントの内容、どれをとっても破格のスケールだということが分かる』、「北岡氏は厚労省の委員をしながら、同時に同省の事業を毎年、主催していた」、「この数年だけでも「グロー」、そして「全国ネット」にあわせて2億円を超える金額が国から支払われている」、利益相反関係は大丈夫なのだろうか。
・『フォーラムの人脈が北岡氏の力の源泉 大会冒頭、全国ネット顧問の肩書きで北岡氏が登壇する。 対談相手は、NHK『バリバラ』の司会を務める玉木幸則氏、全国ネット代表・大原裕介氏、そしてアメニティーフォーラム実行委員長であり、北岡氏が「へいもも」の会を設立した当時からの盟友でもあり、北岡氏に性暴力を振るわれたと告発したAさんが所属する社会福祉法人「愛成会」の理事をしている田中正博氏だ。 突出しているのが、やはり厚労省関係の幹部らの顔ぶれである。 下記の図は、過去15年間のアメニティーフォーラムのパンフレットをもとに厚労省関係者の参加当時の肩書きと参加回数を一覧にしたものだ。現役事務次官こそいないが、後の事務次官など名だたるキャリア官僚がずらりと名前を連ねる。 北岡氏は、2004年出版の鼎談集「僕らは語り合った 障害福祉の未来を」の中で、厚労省とのつながりをこう振り返っている。 「行政の人との出会いって、地方からだんだん中央へ行くのかなと思うんですけど。僕の場合は逆だったんですよ。でも、僕には戦略ってないんです。皆さんどう思っているかわからないけど、自分ではない人だと思っている。最初に出会ったのは地元の市町村よりも厚生省なんですね」 この本には浅野史郎・元宮城県知事、元厚生省官僚、辻哲夫・東京大学高齢社会総合研究機構特任教授、元厚労省事務次官などの厚労行政に関わる大物の名前が並ぶ。北岡氏はアメニティーフォーラムという場を使って、福祉業界の現場で働く全国の実践者らと政治家、厚労官僚、大学教授、そして、北岡氏の障害者福祉観を支持する文化人、著名人を引き合わせ、そして永田町、霞ヶ関とのパイプを太くしてきた。この北岡氏の行動力と障害福祉への貢献は評価されてしかるべきだろう。 このフォーラムに参加したことのある福祉関係者は、このイベントに登壇している人々こそが、北岡氏が30年かけて築き上げてきた人脈であり、北岡氏の人生そのものだと語った。 「福祉業界、とくに障害分野は過酷な『3K』労働で、華やかさとは正反対の業界です。だからこそ、日々、当事者に向き合っている福祉関係者は、このきらびやかなお祭り騒ぎを目の当たりにすることで、北岡氏の政治力に平伏し、周囲の誰も何も言えなくなるのです。北岡氏のセクハラやパワハラは内部だけでなく、出入りする関係者の間では周知の事実でした」) 休憩時間もない程、ぎっしりと詰め込まれた企画の数々は、まるで有名大学の「学祭」だ』、「北岡氏はアメニティーフォーラムという場を使って、福祉業界の現場で働く全国の実践者らと政治家、厚労官僚、大学教授、そして、北岡氏の障害者福祉観を支持する文化人、著名人を引き合わせ、そして永田町、霞ヶ関とのパイプを太くしてきた」、確かに「北岡氏の力の源泉」のようだ。
・『「職員たちは北岡氏に気に入られようと必死だった」 北岡氏を筆頭にグロー上層部(理事長、副理事、理事)は全員男性。現場の職員の多くは女性。普段から法人内には、北岡氏を頂点とする徹底した上意下達の体育会系の指示系統が敷かれているという。 「管理職レベルの男性職員たちであっても、北岡氏を前にすると、背筋をのばし目線は足元を見下げて、非常に緊張しながら話していた」 「北岡氏に近い男性職員たちは、北岡氏が滋賀県にいる夜は常にスマホを気にしていた。北岡氏から電話がかかってくるとすぐに出て、終電間際でも呼ばれる場所に向かっていた。呼ばれたら駆けつけることを北岡氏は『待機の男』と呼び、夜遅くや朝早くの送迎をすることで、彼に気に入られようと必死だった」 「職員に説教のようなものをした後、他の複数の職員たちが集まっている場で『○○がさぁ、泣くんだよねぇ』とバカにするように話をしたり、大勢の職員の前で一人の職員の失敗をコテンパンにけなして吊し上げるようなことをしていても、それに異議を申し立てる職員はおらず黙って聞いているだけであった」 こうした証言は枚挙にいとまが無い。 反論のひとつも許されない絶対的な上下関係に、最初は北岡氏に憧れてグローの門を叩いた職員も、日が経つにつれて「共依存」や「従属」という関係に支配されてゆく。逆に、北岡氏は自分よりも優位で特別な存在と思わされる環境に耐えきれない職員は、この組織を去って行く――。 何度も言うが、アメニティーフォーラムの理念そのものは全く間違ってはいない。 ただ、本来、人間は誰もが平等であるという当たり前の福祉観が、ここでは通用しないのだ。そして日常的に北岡氏や幹部職員によるセクハラやパワハラが横行するようになる。北岡氏、およびグローには質問状を送るなど再三にわたって連絡をとってきたが、12月6日時点で何の連絡もない。 そんな絶対服従を強いられる環境下で、北岡氏を告発したBさんは性的暴行を受けるのである』、障害者福祉法人は奇特な方がやっていると思っていたのに、裏面には「福祉利権」まであったとは驚かされた。「北岡氏」はまるで絶対君主のように君臨してきたようだ。公職からは手を引いたようだが、今後の民事訴訟、「北岡」帝国の行方に注目したい。「北岡氏」をのさばらせた厚労省や「衛藤」氏の責任も重大だ。
第三に、12月6日付け文春オンライン「「露出度が高いユニフォームを着ていないと、誰も見てくれないよ」 それでも女性アスリートが“撮影禁止”を求めない理由」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/41917
・『ユニフォーム姿のアスリートを狙う、悪質な撮影行為。「スポーツ界全体の問題だ」と声を上げた20代の女子陸上選手のハナさんとカオルさん(いずれも仮名)の思いを受け、JOC(日本オリンピック委員会)は、性的ハラスメントに競技横断的に対応しようと奔走している。 選手たちが一番に求めるのは法整備だが、実現までには長い道のりが待っている。法整備まで手をこまねくのではなく、具体的に何ができるかも重要だ。ハナさんとカオルさんが、動き出したスポーツ関連団体への期待と不安を語った。(全2回の2回目)(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『「研修って、誰がするんだろう?」 Q:11月、JOCなどが出した声明文には、(1)各競技団体が独自に行ってきた被害防止の取り組みを共有 (2)アスリートが自衛するためのネット研修の実施 (3)一般向けに情報提供サイトを設置 といった内容が盛り込まれました。第一歩として、どう受け止めますか? ハナ 陸連(日本陸上競技連盟)やJOCの中にも、性的ハラスメント被害を知らない方が結構いたと思うので、声明文という形になったことは嬉しく思います。 ただ、研修って、誰がするんだろう? という不安もあります……。現在、最前線で陸上競技をしておらず、性的被害を受けていない人たちが、どうやってその研修をするのか、と考えてしまうんで。「そんなことがあるらしいぞ、気をつけろよ」程度の内容だったら、不安が残るだけだなと。 Q:具体的に、どんな対策ができるかを指導してほしいということですね。 ハナ 自分を守るために何ができるのかとか、競技ユニフォームひとつとっても、いろいろ選ぶ権利があるんだよとか。きちんと教えてほしいことがいっぱいあるから……。 Q:写真や動画をアップする中で気をつけなければいけないこと。経験者のおふたりだからこそ分かることもあるし、中高生に伝えたいこともありますよね。 カオル 今はSNSが普及しているので、何も考えずにアップするとその写真がどう使われる可能性があるのか、ちゃんと知るべきだと思います。例えば更衣室で自撮りすると、周りの着替えている子まで写ってしまいかねない。それを悪用する人はいます。自分だけじゃなく、周りにも被害が出る恐れがあると理解した上で、写真をあげた方がいいと思うし、そういうSNSの使い方をもっとちゃんと中高生に教えてあげるべきだと思っています』、「更衣室で自撮り」などは、「研修」以前の常識の問題の筈だが、「SNSの使い方をもっとちゃんと中高生に教えてあげるべき」、その通りだ。
・『陸上が好きで、きらきらしているところを撮りたい人もいる Q:一方、競技中の撮影は、選手にコントロールできない部分でもあります。そもそも、こうした問題には20年ほど前から競技団体も頭を悩ませてきました。例えば体操やビーチバレーは一般客の撮影を原則禁止していますが、陸上では撮影を認め、頻繁に見回りをして不審者に声をかけるという対応を続けています。 ハナ その方法でやっていくしか、仕方がないです。大きい試合ならば、観客席の隣やすぐ後ろで怪しい行為をしている人を見かけたら通報してほしい、と呼びかけるのが今は一番いいのかなと思います。小さい大会なら、大きいカメラを持っているような方が目に付いたら、声をかけてもらう、などでしょうか。できるだけ、どこの試合でも警備員や巡回する人をつくる形で対応していただきたいです。被害が最小になるような流れを作る、今はそれしかできないとも感じています。 Q:陸上でも撮影禁止を、という規制までは求めないですか? カオル 陸上競技を多くの人に知っていただくためには、撮影禁止を求めることは難しいかもしれないですね。陸上でも100mなどの花形種目ならみんな知ってるでしょうけれど、全種目となると、知名度のためには……難しいところだなと思います。撮影を一律禁止したら確かに被害は減ると思うのですが、陸上界全体を盛り上げるためには……。サッカーなどメジャーなスポーツに比べると、スポットライトが当たることが少ないですから。 ハナ 自分の宣材写真を、陸上が好きで写真を撮りに来ている子にお願いする人もいるんです。友達にも、陸上がすごく好きで、みんなのきらきらしているところを撮りたくて、競技場に足を運んでいる人もいます。そういった方との接点を全てなくしてしまうことは望みません。だから、撮影の機会は残してほしいと思います』、「陸上競技を多くの人に知っていただくためには、撮影禁止を求めることは難しいかもしれないですね」、結局、「陸上競技」PRのためには、「撮影禁止を求め」ないようだ。
・『「ジャージ着て走れよ」という反応 Q:今回、JOCが対応に乗り出したことで、さまざまなメディアで報道されました。ネットニュースなどに寄せられたコメントで、印象に残ったものはありましたか? カオル 「女子選手は男子に比べて競技レベルが劣っているから、露出度が高いユニフォームを着ていないと、誰も見てくれないよ」、「ジャージ着て走れよ」などでしょうか……。ああ、そう捉えられてしまうのかと思いました。 ハナ 「あのユニフォームがおかしい」というコメントが大半でしたね。ただ、ユニフォームにだって、選手の選択の自由があるべきだと思うんです。性的に見られることがあるかもしれない、性的被害に巻き込まれる可能性もあると理解した上で、できるだけ露出が少ないユニフォームに変えようとか、セパレート(上下で分かれ、お腹の見えるタイプ)のユニフォームを着たいとか、選択できる世の中になればいいなと思います。今、選手たちはセパレートがかっこいいと思って、みんな着ていますからね。 Q:セパレートを好きで着ている選手が、競技以外の面を気にして服装をかえることには、葛藤もありませんか。 ハナ あとから傷ついたり、写真が悪用されてしまうよりは、良いのではないでしょうか。一回、SNSに上げてしまったり、上げられてしまった後は、自分の手の届かないところに行ってしまうので。 カオル 性的ハラスメントを受けてからでないと、分からない人の方が多いと思うんです。だから被害も多いのだなと思います。私たちは陸上の成績が第一で、絶対その試合に集中しているから、撮られるとか思わないんです。ユニフォームのことばかり意識していられない。それで、撮られて後からSNSに載せられて、気づくんです。 ハナ 一番望ましいのは、みんながかっこいいなと思っているセパレートのユニフォームを着ても、被害に遭わないように、陸連やJOCに対策をしていただくことですね』、「陸連やJOC」なら対策が出来るというのは、余りに甘い。
・『年々SNSが発達してきて被害が増えていく Q:おふたりが声を上げたことで、他の選手にも広がりはありましたか? ハナ 大半の人は被害にあったといえないので、ここまで問題が大きくなってしまったと思います。今回のような報道が出ても、私もそう思うとは言いづらいですから……。 カオル みんながみんな、試合での撮影に反対しているわけではないので、そこも難しいところです。 ハナ 写真を撮ってもらったり、かわいいって言われるのがうれしいという人もいます。(撮影による被害を)「なんとも思わない、こういうものだと思っています」と割り切っている選手もいます。でも、年々SNSが発達してきて、そういう被害が増えていく世の中だなと思うので、私たちだけでも声を上げないとって。 Q;おふたりはずっと陸上をやってきて、他競技については今回初めて知ったそうですね。 ハナ 自分に来るものしか見てなかったんですけど、弁護士さんに「できるだけ被害を探してみてほしい」って言われて検索したら、バレーが多かったですかね。おしりのアップの写真が結構あって、「他競技でもこういうことをされてるんだ」って思った記憶があります。 カオル バレーの選手を見て思ったんですけど、室内バレーのユニフォームは半袖シャツにショートパンツといった感じで、それほど露出は多くないですよね。それでも、撮る人は撮る。だから、陸上選手がたとえ露出の少ないユニフォームにしたとしても、撮る人は撮ると思います。私たちに「そういうユニフォームを着ているのが悪い」と批判してくる人たちは、ただ言いたいだけなんでしょうね。 Q:他競技からは、「よくぞ陸上の選手、言ってくれた」という感謝の声も聞きます。 ハナ 少なからず他競技でもそう思ってくださる人がいるのはすごくうれしいです。ぜひ協力してほしいです。協力してくれればしてくれるだけ、ありがたいので』、「他競技からは、「よくぞ陸上の選手、言ってくれた」という感謝の声も聞きす」、そんなものなのだろうか。
・『法を整備してもらうのが一番の願い Q:おふたりが声を上げ、JOCまでが動いて、この問題を多くの人に知ってもらうことができました。アスリートとして、競技以外の面でも社会に影響を与えられたのではないでしょうか。 ハナ この問題が解決しない限りは、よかったとは思えないかもしれません。今回の声明文に合わせて、JOCが情報提供を求める新しいサイトを立ち上げました。でも、アメリカ大統領選挙の報道などと重なり、あまりSNSで流れてこなくて。それをみんなに見てほしかったんですけれど……。 カオル まだ、序盤の序盤です。サイトを立ち上げて終わりだったら今までと変わらないですし、法的な対応が整って初めて、「言ってよかったな」と安心できます。 やはり、法を整備してもらうのが一番の願いですか?(カオル 残念ですが、法規制がないと減らないと思うんです。取り締まられた前例がない限り、「やめよう」とか「気をつけなきゃ」と思わない人の方が多いと思うのが実情だと思います。 ハナ 何もできないんですよ、現状だと。写真を削除しようと思っても、時間もお金もかかります。そもそも、陸上のユニフォーム姿を撮ったからといって基本的に罪にはなりません。性的ハラスメントを行っている人は、だめだと分かっていて、むしろ相手が嫌がる姿を見たくてやっている面もあると思いますし。厳しいですが、法整備が整わない限り、現状は大きく変わらないのではないでしょうか』、「法整備」を万能視しているようだが、カメラがスマホまで拡大したなかでは、法技術的にも規制は困難なのではなかろうか。観客の良識に委ねるか、ユニフォームを改良するしかなさそうだ。
タグ:「更衣室で自撮り」などは、「研修」以前の常識の問題の筈 フォーラムの人脈が北岡氏の力の源泉 法を整備してもらうのが一番の願い ハラスメント 法技術的にも規制は困難なのではなかろうか。観客の良識に委ねるか、ユニフォームを改良するしかなさそうだ 利益相反関係 年々SNSが発達してきて被害が増えていく JOCなどが出した声明文 「ジャージ着て走れよ」という反応 「陸連やJOC」なら対策が出来るというのは、余りに甘い 北岡氏はアメニティーフォーラムという場を使って、福祉業界の現場で働く全国の実践者らと政治家、厚労官僚、大学教授、そして、北岡氏の障害者福祉観を支持する文化人、著名人を引き合わせ、そして永田町、霞ヶ関とのパイプを太くしてきた 「研修って、誰がするんだろう?」 「人垂らしの名人」 やましいこと」があるのだろう 「セクハラ訴訟“福祉のドン”はなぜ権力を持てたのか? 背景にある「有力政治家」との蜜月 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#2」 の前では、北岡氏は人懐っこく、酒を飲んで、泣いて、笑って、夢を語る情熱家の一面を演じます。多くの人がその人間臭さに絆されるのです 厚労省、内閣府の委員という要職にあったが、いずれも辞任届が提出された 自分の名誉と出世のために利用できる有力者 厚労委員会で取り上げられた“福祉のドン”の疑惑 衛藤晟一元内閣府特命大臣 文春オンライン 賀県にある社会福祉法人「グロー」理事長・北岡賢剛氏が、2人の女性から約4250万円の賠償を求めて訴訟を起こされた “福祉のドン”の力の源泉はどこにあるのか? 北岡氏の不可解な省庁関連職の“辞任” 障害者福祉の世界では「天皇」」と呼ばれる人物 (その17)(セクハラ訴訟“福祉のドン”はなぜ権力を持てたのか? 背景にある「有力政治家」との蜜月 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#2、「北岡氏のセクハラやパワハラに異議を唱える人間は誰もいなかった」… “福祉のドン”を作った「福祉利権」人脈 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#3、「露出度が高いユニフォームを着ていないと 誰も見てくれないよ」 それでも女性アスリートが“撮影禁止”を求めない理由) 「「北岡氏のセクハラやパワハラに異議を唱える人間は誰もいなかった」… “福祉のドン”を作った「福祉利権」人脈 セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#3」 北岡氏は「オレは厚労省の人事を動かせる」と周囲に自慢げに話していた 2つの肩書きを使い分け 自身が代表を務める団体から厚労省へ出向 この数年だけでも「グロー」、そして「全国ネット」にあわせて2億円を超える金額が国から支払われている 国の事業採択に北岡氏が大きな影響を与える それまでの施設という概念を地域、そして社会に開くこと。ある意味で障害福祉分野の民営化でした。北岡氏らは障害者をひとりの人間として、地域で草の根の力で支え、共に生きていこうと訴えました。この理念自体は間違っていなかったと思います 「アメニティーフォーラム」という祭典の存在 「NPO法人全国地域生活支援ネットワーク顧問」 「社会福祉法人グロー理事長」 「「露出度が高いユニフォームを着ていないと、誰も見てくれないよ」 それでも女性アスリートが“撮影禁止”を求めない理由」 「SNSの使い方をもっとちゃんと中高生に教えてあげるべき」、その通りだ 「職員たちは北岡氏に気に入られようと必死だった」 陸上が好きで、きらきらしているところを撮りたい人もいる
中国国内政治(その10)(ウイグル チベット モンゴルで中国政府がしつこく宗教を弾圧するワケ 政策と法律に見る当局の「深い恐れ」、駐日中国大使館も警鐘 地下活動を続ける「邪教」法輪功とは?) [世界情勢]
中国国内政治については、10月5日に取上げた。今日は、(その10)(ウイグル チベット モンゴルで中国政府がしつこく宗教を弾圧するワケ 政策と法律に見る当局の「深い恐れ」、駐日中国大使館も警鐘 地下活動を続ける「邪教」法輪功とは?)である。
先ずは、10月21日付けPRESIDENT Onlineが掲載した著作家の宇山 卓栄氏による「ウイグル、チベット、モンゴルで中国政府がしつこく宗教を弾圧するワケ 政策と法律に見る当局の「深い恐れ」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/39632
・『広大な領土に多数の少数民族を抱える中国は、一方で各民族独自の文化や宗教を弾圧している。著述家の宇山卓栄氏は、「宗教は古今東西、対外工作と支配のツールとして利用されてきた。中国共産党は、国外の敵対勢力が国内の宗教団体をテコにして、反政府の動きを強めることを恐れている」と指摘する——。 ※本稿は、宇山卓栄『「宗教」で読み解く世界史』(日本実業出版社)の一部を加筆・再編集したものです』、興味深そうだ。
・『「モンゴル語教育制限」はなぜ始まったか 中国政府の宗教や民族の弾圧は、ウイグルやチベットだけではなく、南モンゴルにも及んでいます。中国政府は内モンゴル自治区において、学校での中国語教育を強制し、モンゴル語やモンゴル文化を教えることを制限しています。 モンゴル人は民族のアイデンティティを学ぶこともできません。行政や経済を取り仕切っているのは中国人であるため、中国語ができないと就職もできないようになっています。中国政府は「モンゴル語は先進的な科学技術や中国流の思想道徳を教えるのに不向き」などと理不尽な説明をしています。 今日、モンゴル民族は南北に分断され、北部は「モンゴル国」、南部は中国領の「内モンゴル自治区」と呼ばれます。モンゴル国の人口は約330万人、内モンゴル自治区の人口は約2800万人です。 この「内モンゴル」という言い方は中国に近い側を「内」と呼び、離れた側を「外」と呼ぶ中国本位の呼び方です。従って、モンゴル人たちは「南モンゴル」と呼びます。南モンゴル人はモンゴル人としての独自の言語や宗教文化を持っています。モンゴル人はチベット仏教を信奉しています』、「内モンゴル自治区」は「人口」では「モンゴル国」の8.5倍と圧倒的比重のようだ。「学校での中国語教育を強制し、モンゴル語やモンゴル文化を教えることを制限・・・モンゴル人は民族のアイデンティティを学ぶこともできません」、とは過酷な支配だ。
・『チベット仏教指導者が考案したモンゴル文字 13世紀、チベット仏教の教主パスパはモンゴルのフビライ・ハンの参謀として活躍しました。パスパはモンゴル帝国の国師として迎えられ、チベット語を基に、モンゴルの公用文字パスパ文字をつくったことで知られます。パスパの影響で、モンゴル人のチベット仏教信奉が定着し、それが今日まで続いています』、「モンゴル文字」は「フビライ・ハンの参謀」により作られたとは初めて知った。
・『抗議デモに参加すれば逮捕 中国政府はこうした民族の文化教育を制限して、民族のアイデンティティを喪失させようとしているのです。そもそも、中国は宗教などの文化・文明が異なる他民族の生存圏に対し、何の正当な根拠もなく、不法な統治を続けています。 中国政府の教育強制に反発し、抗議デモを行うモンゴル人は逮捕されています。公安当局は抗議デモに参加した住民の顔写真を張り出し、逮捕に協力をした者には懸賞金を与えると布告しています。 ウイグルでも同じですが、逮捕者は刑務所から出て来られず、思想教育の名の下、強制労働を強いられます。刑務所で死亡し、家族が遺体を持ち帰りたいと懇願しても、当局は引き渡しを拒否します。中国政府は強硬政策で、反対者を一気に炙り出し、一網打尽に彼らを捕らえ、刑務所に送ろうとしています』、「そもそも、中国は宗教などの文化・文明が異なる他民族の生存圏に対し、何の正当な根拠もなく、不法な統治を続けています。 中国政府の教育強制に反発し、抗議デモを行うモンゴル人は逮捕されています」、確かに「中国」のやり方は不当だ。
・『習近平が強調する「中華民族の共同体意識」 中国政府はこのような民族弾圧を、中国が一体化することのできる「正しい道」であると信じており、罪悪感をまるで感じていません。むしろモンゴル人に「科学的な言語」を与えて、文明化を支援しているとさえ考えています。 習近平指導部は9月24日と25日の2日間、「新疆工作座談会」という最高指導部会議を開き、この中で、習主席はイスラム教を信仰するウイグル族について、「中華民族の共同体意識を心に深く植え付けるべきだ」と述べ、思想や宗教の統制を徹底していくことを表明しています。また10月17日に終了した全国人民代表大会(全人代)の常務委員会では、「国旗法」の改正が可決され、少数民族の伝統的な祝日でも、来年1月から中国国旗の掲揚が義務づけられることになりました。 民族の言語や宗教を長期的に封殺し、気が付けば漢民族に完全同化し、皆が民族のアイデンティティを忘れてしまう、こうした目に見えない民族浄化が確実に進んでいます。このままでは、いずれ、ウイグルの問題、モンゴル問題、チベット問題そのものがなくなります。これこそ、中国が狙う「合理的な解決法」です。21世紀の現在において、このような露骨な民族浄化政策が許されるかどうか、国際社会はこの問題に真剣に向き合わなければなりません』、「中国政府は・・・モンゴル人に「科学的な言語」を与えて、文明化を支援しているとさえ考えています」、まるで厚かましい植民地主義者の主張だ。「民族の言語や宗教を長期的に封殺し、気が付けば漢民族に完全同化し、皆が民族のアイデンティティを忘れてしまう、こうした目に見えない民族浄化が確実に進んでいます」、「民族浄化」がこのような形で行われるとは狡猾だ。
・『ウイグル人弾圧に冷淡な中央アジア諸国 新疆ウイグル自治区のウイグル人は本来、民族や宗教、文化の上で、中央アジア諸国の文明圏に属し、中国の一部に組み込まれるべき地域ではありません。「新疆ウイグル自治区」などと呼ぶのではなく、「東トルキスタン」と呼ばれるべきでしょう。 中国の不当な支配をウイグル人は被っていますが、中央アジア諸国は同胞のウイグル人を助けようとしません。中央アジア5カ国のうち、新疆に隣接するのはカザフスタン・キルギス・タジキスタンの3カ国ですが、これらの国は中国から経済支援を受けています。1996年、中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタンの5カ国による上海協力機構(上海ファイブ体制)を結成し、中国からの経済支援と引き換えに、ウイグル人の分離独立運動に介入しないと約束しています。 5カ国の中でも、カザフスタンは最大の人口規模(約3000万人)を擁し、近年、中国と連携を強め、中国マネーが流入し、急激に経済発展しています。中国は現代版シルクロード「一帯一路」の経済圏を強固に結び付けるため、デジタル人民元をグローバル決済の手段として流通させようとしています。 カザフスタンは石油を中国に輸出しています。決済はドルで行われるため、取引はアメリカに筒抜けになっています。デジタル人民元はドル決済を避けることのできる有効なツールであり、カザフスタンはその導入に最も熱心な国です。 こうした「一帯一路」の経済圏の形成に、カザフスタンをはじめ中央アジア諸国は積極協力し、同胞のウイグル人の苦しみを見て見ぬふりをしています。中国はカネの力で、民族の文明を分断しているのです』、「カザフスタンをはじめ中央アジア諸国」が、「一帯一路」に「積極協力し、同胞のウイグル人の苦しみを見て見ぬふりをしています。中国はカネの力で、民族の文明を分断している」、「ウイグル人」がここまで孤立しているのであれば、「中国」のたりたい放題だ。
・『宗教の「中国化」を国家的に推進 改訂版「宗教事務条例」(2017年8月26日公布)には、「憲法、法律、法規と規制を遵守し、社会主義核心価値観を履践し、国家統一、民族団結、宗教の和睦と社会の安定を擁護しなければならない」(第4条)と規定され、宗教が共産主義に適応するよう努めることが義務化されるとともに、国家による宗教管理の法治化が打ち出されています。これがいわゆる「宗教の中国化」と呼ばれるものです。 かつて毛沢東は「マルクス主義の中国化」を唱え、中国の社会実態に適合するようにマルクス主義の原理を修正しました。本来、中国のような農村社会はマルクス主義とは相入れないものであるにも関わらず、無理矢理に適合させようとしたのです。これと同じように、宗教は本質的に共産主義的唯物論の国家体制とは相入れないものですが、強引に適合させて「宗教の中国化」を推進しようとしているのです。これにより、仏教寺院で中国国旗が掲揚されるなど、「愛国宗教団体」なるものが昨今、多く生まれています。 また、この「宗教事務条例」には、「各宗教は独立自主と自弁の原則を堅持し、宗教団体、宗教学校、宗教活動場所と宗教事務は外国勢力の支配を受けない」(第36条)と規定されています。中国共産党が最も恐れているのは、国外の敵対勢力が国内の宗教団体をテコにして、反政府の動きを強めていくことです。宗教団体が工作活動に利用されることを警戒し、監視を強めているのです』、「宗教の中国化」とは巧妙な支配方法だ。
・『ローマ教皇庁も中国当局と「妥協」 2018年、ローマ教皇庁は中国当局が任命した7人の中国国内の司教を正式に承認することで合意しました。かつて、11世紀に、ヨーロッパで聖職叙任権闘争というものがあり、司教などの人事任命権を巡って、教皇と神聖ローマ皇帝が激しく争いました。今日、中国における聖職叙任権は中国当局にあることを、バチカンがあっさりと認めて妥協したのです。 およそ1000万人はいるとされる中国のカトリック信者は事実上、中国当局の監督下に置かれています。因みに中国当局が認めない聖職者を立てるキリスト教会は「宗教への外国勢力の支配」の排除を規定した「宗教事務条例」第36条に基づき、閉鎖させられています』、「ローマ教皇庁も」「1000万人はいるとされる中国のカトリック信者」の存在を前に妥協せざるを得なかったのだろう。
・『宗教は安全保障に直結する政治課題である 宗教は古今東西、公然性を伴った対外工作と支配のツールとして、政治的に利用されてきました。宗教は安全保障問題に直結する政治課題です。中国などは宗教が持つ力をよく認識しているからこそ、上記のような宗教に関する法整備を徹底し、また、宗教的異分子を過酷に弾圧するのです。 たとえば日本には、こうした「宗教への外国勢力の支配」を排除する法規制がありません。そのため、日本と敵対するような国に本拠を置く宗教勢力も日本国内に入り込み、政界などに影響力を行使しています。 私自身の経験でもこんなことがありました。国会議員の選挙の手伝いをしていると、ある集団が現れて、ポスター貼りやビラ配りを協力してくれ、演説会場では椅子並べや荷物運びを手際よくこなします。ずいぶんと選挙に慣れている集団だなと思い、彼らに、あなたたちは何者なのかと問いました。某国に本拠を置く宗教団体でした。国会議員の中には、こうした宗教団体の支援を受けている者が与野党問わず、少なくありません。 日本人の多くが宗教を個人の内心の問題と考える傾向がありますが、世界の歴史の過酷さを振り返ると、そのような性善説的な認識で弱肉強食の国際社会を生き残れるのか、少々心配になります』、「国会議員の中には、こうした宗教団体の支援を受けている者が与野党問わず、少なくありません」、困ったことだ。
・『党の方針に従う宗教団体は優遇 ウイグル人やモンゴル人、そして、チベット人らにとって、宗教こそが自分たちの文明を維持し、中国に抵抗する最後の砦です。これを失えば、中国に服属する以外にありません。 今日の中国政府の宗教政策は従来のようなマルクス主義の無神論に基づき、宗教を弾圧するばかりではなく、積極的に懐柔して利用しようとする「飴と鞭」の巧みさも兼ね備えています。共産党の方針に従わない宗教やその団体への弾圧を強める一方、方針に従う宗教団体を国家公認に指定し、法人格を付与して補助金などで支援優遇しています』、「宗教を弾圧するばかりではなく、積極的に懐柔して利用しようとする「飴と鞭」の巧みさも兼ね備えています」、これでは欧米がせいぜい注文を付ける以外に手はなさそうだ。
次に、11月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した筑前サンミゲル氏による「駐日中国大使館も警鐘、地下活動を続ける「邪教」法輪功とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/254116
・『法輪功は中国の「オウム真理教」? 中華人民共和国駐日本国大使館が説明 「『法輪功』とは、いったい何か。一口で言えば、中国の『オウム真理教』です」と、1ページを割いて説明するのは「中華人民共和国駐日本国大使館」の公式サイト だ。その文末には、「法に基づいてカルト教団である『法輪功』を取り締まり、厳しく打撃を与えることは、国民の生活と生命安全を守り、正常な社会秩序を維持するためなのです」と結ぶ。 著者は、香港で盛んに行われていた法輪功弾圧への抗議活動を見て、「香港へ来たな」と実感していた。この10年を振り返っても香港の街中で広東語がメインだったのが、いわゆる北京語(中国の共通語)が通じる場所が年々増えていたり、本土から訪れている中国人を頻繁に目にするようになり、中国化が着実に進んでいることは感じていたが、法輪功のデモ活動を見ると、「ここは中国本土とは違う」という香港らしさを感じていたのだ。 今年6月30日に成立、即日施行された国家安全維持法(国安法)後も法輪功の活動は継続されており、「ツイッター」を見ると10月にもデモが行われたことが確認できる。しかし今後は、中国本土同様に法輪功の活動やデモも全面禁止される日は近いとみられる』、「法輪功」とは、「中国古来の精神修養法です。仏教の伝統に根ざし、道徳的な教えと瞑想と4つのゆったりとした動作から構成され、独自の効果的な方法で心身の向上を促します」(法輪功ホームページ)。
https://jp.faluninfo.net/what-is-falun-gong-falun-dafa/
・『法輪功愛好者の反政府勢力化を恐れ 中国政府は1999年に「邪教」認定 法輪功、彼らが主張する正式呼称は「法輪大法」で、その実践者を「学習者」と呼ぶとしている。法輪功は1992年に中国吉林省出身の李洪志氏が開いた気功を実践する会としてスタートし、短期間で愛好者を増やす。当初は中国政府も健康促進に寄与するとして全面的に称賛し推奨していた。 しかし、愛好者が激増し7000万人ほどに達したため、中国政府は脅威となると判断したのか、江沢民時代の1999年に「邪教」として認定し、全面禁止となった。 中国政府が法輪功を禁止した理由は諸説あるが、愛好者の人数である7000万人は中国共産党の党員とほぼ同数で、愛好者が団結し結束力を発揮して反政府勢力になることを危惧したことが有力とされる。 そもそも、中国では原則デモは禁止。不特定多数の集会も規制されている。集会規制は緩く運用されているので表面的には自由に行われているようにみえる。しかし、いつでも集会を理由に拘束できるという国なのだ。 ここで注目したいのが、中国政府が法輪功を「カルト宗教」扱いにして禁止した点だ。中国では中国政府が認める5宗教――道教、仏教、プロテスタント、カトリック、イスラム――を公認しているが、法輪功は禁止(宗教活動せず信仰するだけなら新興宗教も含め私的信仰は容認)しているので宗教扱いしたほうが禁止する理由にしやすかったのだろう。 そのような経緯があるため、法輪功は江沢民元国家主席を恨んでおり、印字する文言には江沢民批判の言葉がよく並ぶ』、「法輪功を禁止した理由」では、「愛好者の人数である7000万人は中国共産党の党員とほぼ同数で、愛好者が団結し結束力を発揮して反政府勢力になることを危惧したことが有力とされる」、なるほど。
・『中国政府の監視下でタブーとされる法輪功 法輪功について中国本土では言葉にすることも避けられる状態で、誰も話題にしない。中国のSNSや検索エンジン「百度(バイドゥ)」で法輪功と調べると、検索結果なしと一切の情報が表示されない。強力な検閲対象となっているからだ。中国滞在中に同キーワードで調べると、アラートが飛びIP情報が特定されて疑念を持たれるので注意したい。 それでも中国国内ではひそかに法輪功愛好者たちの活動は続いており、法輪功の理念や「中共(中国共産党)滅亡」「中共へ天罰を」などの政府批判を1元札や10元札など小額紙幣を中心に印字して流通させている。 この印字入り紙幣を中国人に見せると、印字しているのは法輪功関係者だと多くの中国人は知っているが、もし手にしたら優先的に使って手元に残らないようにする。 中国政府は人間を使ったアナログ監視からITや監視カメラ等を駆使したデジタル監視へ移行させて監視を年々強化させているので、うかつなことを口にできないと用心している中国人も少なくない。 さらに、中国では、紙幣以外にも法輪功のスローガンを書いた紙などを確認することができる。いずれも目立たないところに添付されていることが多く、監視カメラの死角を狙っている可能性もある』、「政府批判を1元札や10元札など小額紙幣を中心に印字して流通させている」、本来は違法な筈だが、違法ついでにやっているのだろうか。
・『中国以外で法輪功の活動を禁じている国は少ない 中国以外でも、タイの観光地で同じような張り紙を見つけた。中国語(簡体字)で書かれているので、訴えたい相手は中国人なのだろうか。 他にも、米ロサンゼルス国際空港の到着エリアで、アジア人乗客と見るや紙面を配布していた。受け取ると法輪功系の新聞『大紀元』だった。配布していた若い女性に、「これは大紀元ですよね?」と日本人であることを最初に伝えて中国語で尋ねると、「そうだ」と答えて、自分たちの活動についてマシンガントークで説明してくれた。 法輪功が、中国政府が主張するようなカルト集団、危険な宗教かはここでは言及しないが、事実として言えることは、中国以外で活動が禁じられている国が少ないということだ。 公式サイトを見ると、アジアで活動拠点がないのは、カンボジア、ラオス、ミャンマーくらいで、いずれも中国資本が多く入り経済的な依存度が高い親中国家である。中国に配慮して規制しているとみられる。 反セクト法(注)を持つフランスでも、活動者数が少ないのか、法輪功には適応されていない。日本では2004年に「日本法輪大法学会」がNPO法人格を取得している』、(注)反セクト法:セクトと看做される団体の違法かつ悪質な活動に一定の活動制限や処罰を与える裁判を開くことを可能にした法律。統一教会、創価学会も指定されている(Wikipedia)
・『法輪功が運営するメディアからは中国政府批判する記事も この問題で注意したいのは、「法輪功」で検索して見つかる、「弾圧される法輪大法」「学習者の人権が蹂躙(じゅうりん)」や中国政府批判、中国を厳しく糾弾する記事は法輪功が運営するメディアが中心ということだ。 日本でも知られる大紀元、「新唐人テレビ」などがメディアの代表で、これらが法輪功関連ニュースのソースであることが多い。両メディアとも中国共産党を批判する内容が多いため、近年は“ネトウヨホイホイ”的な、中国をよく思っていない人たちを歓喜させるメディアとしても知られる。そのため、偏りを少なくするためにもソースをチェックしつつ報道に接する必要がある。 もっとも中国政府が正式発表することの正反対が事実であることが多い。「法治国家」「責任ある大国」「ウイグルやチベットを弾圧してはいない」など枚挙にいとまがない。 最近のより強くなるこの傾向を鑑みると、“法輪功はオウム、危険なカルト教団”という中国の主張は、実はまったくの逆なのではないかと勘繰りたくなる』、日本では「オウム」を引き合いに出せば、「危険なカルト教団」との印象を与えられるが、「中国」の為にする主張に過ぎないようだ。
先ずは、10月21日付けPRESIDENT Onlineが掲載した著作家の宇山 卓栄氏による「ウイグル、チベット、モンゴルで中国政府がしつこく宗教を弾圧するワケ 政策と法律に見る当局の「深い恐れ」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/39632
・『広大な領土に多数の少数民族を抱える中国は、一方で各民族独自の文化や宗教を弾圧している。著述家の宇山卓栄氏は、「宗教は古今東西、対外工作と支配のツールとして利用されてきた。中国共産党は、国外の敵対勢力が国内の宗教団体をテコにして、反政府の動きを強めることを恐れている」と指摘する——。 ※本稿は、宇山卓栄『「宗教」で読み解く世界史』(日本実業出版社)の一部を加筆・再編集したものです』、興味深そうだ。
・『「モンゴル語教育制限」はなぜ始まったか 中国政府の宗教や民族の弾圧は、ウイグルやチベットだけではなく、南モンゴルにも及んでいます。中国政府は内モンゴル自治区において、学校での中国語教育を強制し、モンゴル語やモンゴル文化を教えることを制限しています。 モンゴル人は民族のアイデンティティを学ぶこともできません。行政や経済を取り仕切っているのは中国人であるため、中国語ができないと就職もできないようになっています。中国政府は「モンゴル語は先進的な科学技術や中国流の思想道徳を教えるのに不向き」などと理不尽な説明をしています。 今日、モンゴル民族は南北に分断され、北部は「モンゴル国」、南部は中国領の「内モンゴル自治区」と呼ばれます。モンゴル国の人口は約330万人、内モンゴル自治区の人口は約2800万人です。 この「内モンゴル」という言い方は中国に近い側を「内」と呼び、離れた側を「外」と呼ぶ中国本位の呼び方です。従って、モンゴル人たちは「南モンゴル」と呼びます。南モンゴル人はモンゴル人としての独自の言語や宗教文化を持っています。モンゴル人はチベット仏教を信奉しています』、「内モンゴル自治区」は「人口」では「モンゴル国」の8.5倍と圧倒的比重のようだ。「学校での中国語教育を強制し、モンゴル語やモンゴル文化を教えることを制限・・・モンゴル人は民族のアイデンティティを学ぶこともできません」、とは過酷な支配だ。
・『チベット仏教指導者が考案したモンゴル文字 13世紀、チベット仏教の教主パスパはモンゴルのフビライ・ハンの参謀として活躍しました。パスパはモンゴル帝国の国師として迎えられ、チベット語を基に、モンゴルの公用文字パスパ文字をつくったことで知られます。パスパの影響で、モンゴル人のチベット仏教信奉が定着し、それが今日まで続いています』、「モンゴル文字」は「フビライ・ハンの参謀」により作られたとは初めて知った。
・『抗議デモに参加すれば逮捕 中国政府はこうした民族の文化教育を制限して、民族のアイデンティティを喪失させようとしているのです。そもそも、中国は宗教などの文化・文明が異なる他民族の生存圏に対し、何の正当な根拠もなく、不法な統治を続けています。 中国政府の教育強制に反発し、抗議デモを行うモンゴル人は逮捕されています。公安当局は抗議デモに参加した住民の顔写真を張り出し、逮捕に協力をした者には懸賞金を与えると布告しています。 ウイグルでも同じですが、逮捕者は刑務所から出て来られず、思想教育の名の下、強制労働を強いられます。刑務所で死亡し、家族が遺体を持ち帰りたいと懇願しても、当局は引き渡しを拒否します。中国政府は強硬政策で、反対者を一気に炙り出し、一網打尽に彼らを捕らえ、刑務所に送ろうとしています』、「そもそも、中国は宗教などの文化・文明が異なる他民族の生存圏に対し、何の正当な根拠もなく、不法な統治を続けています。 中国政府の教育強制に反発し、抗議デモを行うモンゴル人は逮捕されています」、確かに「中国」のやり方は不当だ。
・『習近平が強調する「中華民族の共同体意識」 中国政府はこのような民族弾圧を、中国が一体化することのできる「正しい道」であると信じており、罪悪感をまるで感じていません。むしろモンゴル人に「科学的な言語」を与えて、文明化を支援しているとさえ考えています。 習近平指導部は9月24日と25日の2日間、「新疆工作座談会」という最高指導部会議を開き、この中で、習主席はイスラム教を信仰するウイグル族について、「中華民族の共同体意識を心に深く植え付けるべきだ」と述べ、思想や宗教の統制を徹底していくことを表明しています。また10月17日に終了した全国人民代表大会(全人代)の常務委員会では、「国旗法」の改正が可決され、少数民族の伝統的な祝日でも、来年1月から中国国旗の掲揚が義務づけられることになりました。 民族の言語や宗教を長期的に封殺し、気が付けば漢民族に完全同化し、皆が民族のアイデンティティを忘れてしまう、こうした目に見えない民族浄化が確実に進んでいます。このままでは、いずれ、ウイグルの問題、モンゴル問題、チベット問題そのものがなくなります。これこそ、中国が狙う「合理的な解決法」です。21世紀の現在において、このような露骨な民族浄化政策が許されるかどうか、国際社会はこの問題に真剣に向き合わなければなりません』、「中国政府は・・・モンゴル人に「科学的な言語」を与えて、文明化を支援しているとさえ考えています」、まるで厚かましい植民地主義者の主張だ。「民族の言語や宗教を長期的に封殺し、気が付けば漢民族に完全同化し、皆が民族のアイデンティティを忘れてしまう、こうした目に見えない民族浄化が確実に進んでいます」、「民族浄化」がこのような形で行われるとは狡猾だ。
・『ウイグル人弾圧に冷淡な中央アジア諸国 新疆ウイグル自治区のウイグル人は本来、民族や宗教、文化の上で、中央アジア諸国の文明圏に属し、中国の一部に組み込まれるべき地域ではありません。「新疆ウイグル自治区」などと呼ぶのではなく、「東トルキスタン」と呼ばれるべきでしょう。 中国の不当な支配をウイグル人は被っていますが、中央アジア諸国は同胞のウイグル人を助けようとしません。中央アジア5カ国のうち、新疆に隣接するのはカザフスタン・キルギス・タジキスタンの3カ国ですが、これらの国は中国から経済支援を受けています。1996年、中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタンの5カ国による上海協力機構(上海ファイブ体制)を結成し、中国からの経済支援と引き換えに、ウイグル人の分離独立運動に介入しないと約束しています。 5カ国の中でも、カザフスタンは最大の人口規模(約3000万人)を擁し、近年、中国と連携を強め、中国マネーが流入し、急激に経済発展しています。中国は現代版シルクロード「一帯一路」の経済圏を強固に結び付けるため、デジタル人民元をグローバル決済の手段として流通させようとしています。 カザフスタンは石油を中国に輸出しています。決済はドルで行われるため、取引はアメリカに筒抜けになっています。デジタル人民元はドル決済を避けることのできる有効なツールであり、カザフスタンはその導入に最も熱心な国です。 こうした「一帯一路」の経済圏の形成に、カザフスタンをはじめ中央アジア諸国は積極協力し、同胞のウイグル人の苦しみを見て見ぬふりをしています。中国はカネの力で、民族の文明を分断しているのです』、「カザフスタンをはじめ中央アジア諸国」が、「一帯一路」に「積極協力し、同胞のウイグル人の苦しみを見て見ぬふりをしています。中国はカネの力で、民族の文明を分断している」、「ウイグル人」がここまで孤立しているのであれば、「中国」のたりたい放題だ。
・『宗教の「中国化」を国家的に推進 改訂版「宗教事務条例」(2017年8月26日公布)には、「憲法、法律、法規と規制を遵守し、社会主義核心価値観を履践し、国家統一、民族団結、宗教の和睦と社会の安定を擁護しなければならない」(第4条)と規定され、宗教が共産主義に適応するよう努めることが義務化されるとともに、国家による宗教管理の法治化が打ち出されています。これがいわゆる「宗教の中国化」と呼ばれるものです。 かつて毛沢東は「マルクス主義の中国化」を唱え、中国の社会実態に適合するようにマルクス主義の原理を修正しました。本来、中国のような農村社会はマルクス主義とは相入れないものであるにも関わらず、無理矢理に適合させようとしたのです。これと同じように、宗教は本質的に共産主義的唯物論の国家体制とは相入れないものですが、強引に適合させて「宗教の中国化」を推進しようとしているのです。これにより、仏教寺院で中国国旗が掲揚されるなど、「愛国宗教団体」なるものが昨今、多く生まれています。 また、この「宗教事務条例」には、「各宗教は独立自主と自弁の原則を堅持し、宗教団体、宗教学校、宗教活動場所と宗教事務は外国勢力の支配を受けない」(第36条)と規定されています。中国共産党が最も恐れているのは、国外の敵対勢力が国内の宗教団体をテコにして、反政府の動きを強めていくことです。宗教団体が工作活動に利用されることを警戒し、監視を強めているのです』、「宗教の中国化」とは巧妙な支配方法だ。
・『ローマ教皇庁も中国当局と「妥協」 2018年、ローマ教皇庁は中国当局が任命した7人の中国国内の司教を正式に承認することで合意しました。かつて、11世紀に、ヨーロッパで聖職叙任権闘争というものがあり、司教などの人事任命権を巡って、教皇と神聖ローマ皇帝が激しく争いました。今日、中国における聖職叙任権は中国当局にあることを、バチカンがあっさりと認めて妥協したのです。 およそ1000万人はいるとされる中国のカトリック信者は事実上、中国当局の監督下に置かれています。因みに中国当局が認めない聖職者を立てるキリスト教会は「宗教への外国勢力の支配」の排除を規定した「宗教事務条例」第36条に基づき、閉鎖させられています』、「ローマ教皇庁も」「1000万人はいるとされる中国のカトリック信者」の存在を前に妥協せざるを得なかったのだろう。
・『宗教は安全保障に直結する政治課題である 宗教は古今東西、公然性を伴った対外工作と支配のツールとして、政治的に利用されてきました。宗教は安全保障問題に直結する政治課題です。中国などは宗教が持つ力をよく認識しているからこそ、上記のような宗教に関する法整備を徹底し、また、宗教的異分子を過酷に弾圧するのです。 たとえば日本には、こうした「宗教への外国勢力の支配」を排除する法規制がありません。そのため、日本と敵対するような国に本拠を置く宗教勢力も日本国内に入り込み、政界などに影響力を行使しています。 私自身の経験でもこんなことがありました。国会議員の選挙の手伝いをしていると、ある集団が現れて、ポスター貼りやビラ配りを協力してくれ、演説会場では椅子並べや荷物運びを手際よくこなします。ずいぶんと選挙に慣れている集団だなと思い、彼らに、あなたたちは何者なのかと問いました。某国に本拠を置く宗教団体でした。国会議員の中には、こうした宗教団体の支援を受けている者が与野党問わず、少なくありません。 日本人の多くが宗教を個人の内心の問題と考える傾向がありますが、世界の歴史の過酷さを振り返ると、そのような性善説的な認識で弱肉強食の国際社会を生き残れるのか、少々心配になります』、「国会議員の中には、こうした宗教団体の支援を受けている者が与野党問わず、少なくありません」、困ったことだ。
・『党の方針に従う宗教団体は優遇 ウイグル人やモンゴル人、そして、チベット人らにとって、宗教こそが自分たちの文明を維持し、中国に抵抗する最後の砦です。これを失えば、中国に服属する以外にありません。 今日の中国政府の宗教政策は従来のようなマルクス主義の無神論に基づき、宗教を弾圧するばかりではなく、積極的に懐柔して利用しようとする「飴と鞭」の巧みさも兼ね備えています。共産党の方針に従わない宗教やその団体への弾圧を強める一方、方針に従う宗教団体を国家公認に指定し、法人格を付与して補助金などで支援優遇しています』、「宗教を弾圧するばかりではなく、積極的に懐柔して利用しようとする「飴と鞭」の巧みさも兼ね備えています」、これでは欧米がせいぜい注文を付ける以外に手はなさそうだ。
次に、11月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した筑前サンミゲル氏による「駐日中国大使館も警鐘、地下活動を続ける「邪教」法輪功とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/254116
・『法輪功は中国の「オウム真理教」? 中華人民共和国駐日本国大使館が説明 「『法輪功』とは、いったい何か。一口で言えば、中国の『オウム真理教』です」と、1ページを割いて説明するのは「中華人民共和国駐日本国大使館」の公式サイト だ。その文末には、「法に基づいてカルト教団である『法輪功』を取り締まり、厳しく打撃を与えることは、国民の生活と生命安全を守り、正常な社会秩序を維持するためなのです」と結ぶ。 著者は、香港で盛んに行われていた法輪功弾圧への抗議活動を見て、「香港へ来たな」と実感していた。この10年を振り返っても香港の街中で広東語がメインだったのが、いわゆる北京語(中国の共通語)が通じる場所が年々増えていたり、本土から訪れている中国人を頻繁に目にするようになり、中国化が着実に進んでいることは感じていたが、法輪功のデモ活動を見ると、「ここは中国本土とは違う」という香港らしさを感じていたのだ。 今年6月30日に成立、即日施行された国家安全維持法(国安法)後も法輪功の活動は継続されており、「ツイッター」を見ると10月にもデモが行われたことが確認できる。しかし今後は、中国本土同様に法輪功の活動やデモも全面禁止される日は近いとみられる』、「法輪功」とは、「中国古来の精神修養法です。仏教の伝統に根ざし、道徳的な教えと瞑想と4つのゆったりとした動作から構成され、独自の効果的な方法で心身の向上を促します」(法輪功ホームページ)。
https://jp.faluninfo.net/what-is-falun-gong-falun-dafa/
・『法輪功愛好者の反政府勢力化を恐れ 中国政府は1999年に「邪教」認定 法輪功、彼らが主張する正式呼称は「法輪大法」で、その実践者を「学習者」と呼ぶとしている。法輪功は1992年に中国吉林省出身の李洪志氏が開いた気功を実践する会としてスタートし、短期間で愛好者を増やす。当初は中国政府も健康促進に寄与するとして全面的に称賛し推奨していた。 しかし、愛好者が激増し7000万人ほどに達したため、中国政府は脅威となると判断したのか、江沢民時代の1999年に「邪教」として認定し、全面禁止となった。 中国政府が法輪功を禁止した理由は諸説あるが、愛好者の人数である7000万人は中国共産党の党員とほぼ同数で、愛好者が団結し結束力を発揮して反政府勢力になることを危惧したことが有力とされる。 そもそも、中国では原則デモは禁止。不特定多数の集会も規制されている。集会規制は緩く運用されているので表面的には自由に行われているようにみえる。しかし、いつでも集会を理由に拘束できるという国なのだ。 ここで注目したいのが、中国政府が法輪功を「カルト宗教」扱いにして禁止した点だ。中国では中国政府が認める5宗教――道教、仏教、プロテスタント、カトリック、イスラム――を公認しているが、法輪功は禁止(宗教活動せず信仰するだけなら新興宗教も含め私的信仰は容認)しているので宗教扱いしたほうが禁止する理由にしやすかったのだろう。 そのような経緯があるため、法輪功は江沢民元国家主席を恨んでおり、印字する文言には江沢民批判の言葉がよく並ぶ』、「法輪功を禁止した理由」では、「愛好者の人数である7000万人は中国共産党の党員とほぼ同数で、愛好者が団結し結束力を発揮して反政府勢力になることを危惧したことが有力とされる」、なるほど。
・『中国政府の監視下でタブーとされる法輪功 法輪功について中国本土では言葉にすることも避けられる状態で、誰も話題にしない。中国のSNSや検索エンジン「百度(バイドゥ)」で法輪功と調べると、検索結果なしと一切の情報が表示されない。強力な検閲対象となっているからだ。中国滞在中に同キーワードで調べると、アラートが飛びIP情報が特定されて疑念を持たれるので注意したい。 それでも中国国内ではひそかに法輪功愛好者たちの活動は続いており、法輪功の理念や「中共(中国共産党)滅亡」「中共へ天罰を」などの政府批判を1元札や10元札など小額紙幣を中心に印字して流通させている。 この印字入り紙幣を中国人に見せると、印字しているのは法輪功関係者だと多くの中国人は知っているが、もし手にしたら優先的に使って手元に残らないようにする。 中国政府は人間を使ったアナログ監視からITや監視カメラ等を駆使したデジタル監視へ移行させて監視を年々強化させているので、うかつなことを口にできないと用心している中国人も少なくない。 さらに、中国では、紙幣以外にも法輪功のスローガンを書いた紙などを確認することができる。いずれも目立たないところに添付されていることが多く、監視カメラの死角を狙っている可能性もある』、「政府批判を1元札や10元札など小額紙幣を中心に印字して流通させている」、本来は違法な筈だが、違法ついでにやっているのだろうか。
・『中国以外で法輪功の活動を禁じている国は少ない 中国以外でも、タイの観光地で同じような張り紙を見つけた。中国語(簡体字)で書かれているので、訴えたい相手は中国人なのだろうか。 他にも、米ロサンゼルス国際空港の到着エリアで、アジア人乗客と見るや紙面を配布していた。受け取ると法輪功系の新聞『大紀元』だった。配布していた若い女性に、「これは大紀元ですよね?」と日本人であることを最初に伝えて中国語で尋ねると、「そうだ」と答えて、自分たちの活動についてマシンガントークで説明してくれた。 法輪功が、中国政府が主張するようなカルト集団、危険な宗教かはここでは言及しないが、事実として言えることは、中国以外で活動が禁じられている国が少ないということだ。 公式サイトを見ると、アジアで活動拠点がないのは、カンボジア、ラオス、ミャンマーくらいで、いずれも中国資本が多く入り経済的な依存度が高い親中国家である。中国に配慮して規制しているとみられる。 反セクト法(注)を持つフランスでも、活動者数が少ないのか、法輪功には適応されていない。日本では2004年に「日本法輪大法学会」がNPO法人格を取得している』、(注)反セクト法:セクトと看做される団体の違法かつ悪質な活動に一定の活動制限や処罰を与える裁判を開くことを可能にした法律。統一教会、創価学会も指定されている(Wikipedia)
・『法輪功が運営するメディアからは中国政府批判する記事も この問題で注意したいのは、「法輪功」で検索して見つかる、「弾圧される法輪大法」「学習者の人権が蹂躙(じゅうりん)」や中国政府批判、中国を厳しく糾弾する記事は法輪功が運営するメディアが中心ということだ。 日本でも知られる大紀元、「新唐人テレビ」などがメディアの代表で、これらが法輪功関連ニュースのソースであることが多い。両メディアとも中国共産党を批判する内容が多いため、近年は“ネトウヨホイホイ”的な、中国をよく思っていない人たちを歓喜させるメディアとしても知られる。そのため、偏りを少なくするためにもソースをチェックしつつ報道に接する必要がある。 もっとも中国政府が正式発表することの正反対が事実であることが多い。「法治国家」「責任ある大国」「ウイグルやチベットを弾圧してはいない」など枚挙にいとまがない。 最近のより強くなるこの傾向を鑑みると、“法輪功はオウム、危険なカルト教団”という中国の主張は、実はまったくの逆なのではないかと勘繰りたくなる』、日本では「オウム」を引き合いに出せば、「危険なカルト教団」との印象を与えられるが、「中国」の為にする主張に過ぎないようだ。
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貧困問題(その3)(新型コロナが追い打ち「月収10万円」貧しさの現実、5歳超の非正規男性が悲惨なほど困窮する現実 正社員と違い年齢を重ねても賃金が上がらない)
貧困問題については、3月19日に取上げた。今日は、(その3)(新型コロナが追い打ち「月収10万円」貧しさの現実、5歳超の非正規男性が悲惨なほど困窮する現実 正社員と違い年齢を重ねても賃金が上がらない)である。
先ずは、5月26日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「新型コロナが追い打ち「月収10万円」貧しさの現実」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00075/?P=1
・『数年前、40代の男性のインタビューで、思わぬ告白をされたことがあった。 「お恥ずかしい話なんですけど……、僕、半年前はホームレスやってたんです」 目の前に座っているスーツを着た男性は、ごく普通のサラリーマン。その彼から、「ホームレス」という言葉が飛び出して面食らった。というか、私は正直なところ、何の話をしてるのか一瞬分からなくなった。 河合「えっ……と。それって……」 男性「派遣切りにあって、次の仕事がなかなか見つからなかったんです。それで家賃も払えなくて、ひと月くらいですけどね」 河合「で、そのあとが、今の会社ですか?」 男性「はい。そうです。ハローワークに行くときに、昔、飲みに行ってた焼鳥屋のマスターにばったり会いましてね。『お客さんの会社で体調を崩して入院する社員がいて、時間をかけて採用してる余裕もないから仕事の一部をバイトに頼みたいと言ってた』と、すぐに連絡してくれたんです」 河合「今、契約社員……ですよね?」 男性「はい。バイトなのに、上司の人がすごく丁寧に仕事を教えてくれたんですよ。不思議なもんで、そうやって扱ってもらうと自分でもいろいろと工夫するようになって、ひと月後に『契約社員にならないか』って言ってくれたんです。時給が月給になったし、がんばれば正社員にもなれると言われました。生まれて初めて仕事って楽しいって思えました。僕は本当に運が良かった。ホント、運が良かったんだと思います」 「貧困は簡単に外から見えない」。彼の話を聞き、強く実感した』、「焼鳥屋のマスター」の紹介で就職先が見つかったとはラッキーという他ない。
・『新型コロナの影響で貧困問題も表面化 先週、NPO法人しんぐるまざあーず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長が、新型コロナウイルスの影響で困窮するシングルマザーについてコメントしていた。その内容があまりに衝撃的で、今回は「見えない貧困」を取り上げようと思った次第である。 赤石氏によると、4月以降、シングルマザーからの相談が急増し、「子供がおなかをすかせていても、食べさせるものがない」「公園の水や野草で空腹を満たしている」などの、驚くべき内容もあったそうだ。 多くがパートなどの非正規で雇用されているため、自宅待機で収入が減るという人が半数以上。中には、子供の保育園が休みになったと相談したら、「だったら来なくていい」と言われたケースもあった。 「私たちの感触では、本当にいつ悲惨な事件が起きてもおかしくない」。こうコメントしていた(5月21日付朝日新聞朝刊)。 新型コロナウイルス感染が拡大した当初から、「今起きている問題はこれまで見ないふりをされたり、だましだましやり過ごしたりしてきた問題が表面化しただけ」と書き続けているけど、貧困問題はその1つだ。 しかしながら、貧困問題を取り上げると、「公園の水と野草食べるなんて人、本当にいるの?」「昔の方がもっと貧しい人が多かった」というリアクションが少なくない。 そういった意見が出てしまうのは、貧困問題を語るときに、使われる「相対的貧困」という言葉のニュアンスにあると私は考えている。つまり、「貧困っていっても、相対的貧困でしょ?」と。「その日に食べるものがなくて困ってるわけじゃないだろ」と。つまり、「相対的」という言葉が、貧しさのリアルをぼやかしてしまうのだ。 ご承知のとおり、相対的貧困は、絶対的貧困=1日2ドル未満で生活する人々(世界銀行の定義)とは異なり、「世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない人々」のこと。平たく言うと「恥ずかしい思いをすることなく生活できる水準」にない人々を捉えたものだ。 その水準の目安となるのが貧困ラインで、日本の場合、122万円程度になる(国民生活基礎調査)。月額にすると10万円(単身世帯の場合)。たった10万円だ。月に10万円の収入では普段から貯金するのは難しい。となれば、今回のコロナ禍のような突発的な出来事に耐えられるわけがない。 この10万円という金額を念頭に、改めて次の数字の重みを考えてみてほしい。 +日本の相対的貧困率はG7(先進7カ国)でワースト2位 +ひとり親世帯に限るとOECD(経済協力開発機構)加盟国35カ国中ワースト1位 +そして、日本の母子家庭の母親の就業率は、84.5%と先進国の中でもっとも高いにもかかわらず、突出して貧困率が高く、アメリカ36%、フランス12%、英国7%に対して、日本は58%と半数を超えている(OECDの報告より)』、「日本の相対的貧困率はG7(先進7カ国)でワースト2位、ひとり親世帯に限るとOECD(経済協力開発機構)加盟国35カ国中ワースト1位」、「日本の相対的貧困」の酷さに改めて驚かされた。
・『相談に行ったことがさらなる貧困のきっかけに 日本も含めた先進国の貧しさは「目に見えない」。とりわけ日本では、働いているのに貧困、すなわち「ワーキングプア」が多いので、余計に見えなくなる。 さらに、貧困の問題は「そういう人はなぜ、生活保護を受けないのだろう?」「シングルマザーの貧困は養育費をちゃんともらえばかなり解決できるのでは?」といった疑問で矮小(わいしょう)化され、個人の責任にすり替えられがちだ。 数年前、就職氷河期に非正規社員の道を余儀なくされた人たちが、「助けて」と言えずに孤立したり、食事も取れずに餓死するという事件があった。この時代に「餓死する」とは、信じがたい出来事だが、取材する中で、生活保護の相談に行ったことが、孤立の引き金になった人がいることがわかった。 「まだ、若いんだから、もう少しがんばって仕事探してみなさい」──。 こう言われたことで、二度とSOSを出せなくなってしまったのだ。 彼らは一見すると健康に見える。何よりも若い。なので、相談された人も「もう少しがんばって」と励ました。 だが、彼らの心は既にズタズタだった。藁(わら)をもつかむ気持ちで相談にいったのに、「がんばって」と突き放され、心も体も金縛りにあったように動けなくなってしまったのだ。 実は冒頭の「僕は運が良かった」と繰り返した男性も、そのひとりだった。 彼は地方の有名国立大学に進学しながらも、就職できずにフリーターの道に進み、結婚もできずに30歳を過ぎてしまったという。 「正社員の経験がないと、中途採用にも応募できない。年齢的にもどんどん厳しくなり、30を過ぎると応募できる会社自体がなくなる。周りの視線も厳しくなっていきました。『落ちこぼれ』『負け組』などと、自業自得と言わんばかりのレッテルを貼られ、自己嫌悪に陥りました。俺はなんてダメな人間なんだろう、って。ホント、最悪でした」 生活や将来への不安と、自尊心が限りなく低下し、「もうどうにでもなれ」とホームレスになったときに、たまたま出会ったのが焼鳥屋さんだった。 弱い立場にならないと見えない景色がある。彼が「僕は運が良かった」と繰り返したのは、その景色を見た経験があったからだ。 そして、「私たちの感触では、本当にいつ悲惨な事件が起きてもおかしくない」という赤石理事長の懸念も、その景色を実感できるからなのだろう』、「生活保護」バッシングのなかで、窓口担当者も、「もう少しがんばって」と励ますよう上司から指示されている可能性がある。
・『格差拡大で80年代以降先進国の貧困が問題に そもそも先進国が相対的貧困を貧しさの指標に用いるようになったのは、1980年以降だ。それまでは絶対的貧困の方が重視されていたのだが、先進国で格差が広がり始めたことで、相対的貧困が注目されるようになった。 絶対的貧困が「人が生きていく上で最低限必要な生活」を主要な論点にしているのに対し、相対的貧困は「貧困がどの程度社会に容認されているのか?」という問題意識が根底にある。すなわち「広がり過ぎた格差=相対的貧困率」を捉えれば、貧困の背後に隠された低賃金の労働要因、ひとり親世帯や高齢者世帯などの家族要因、病気などの医療要因、学歴格差などの教育要因などを、時代を追って分析すれば「私たちの問題」を具体的に知ることができる。 例えば、経済格差が拡大し始めた1995~2001年の厚生労働省の「所得再分配調査」から所得の中央値と貧困線、貧困率を推定すると、中間層の所得水準は、1995年の284万円台から01年は262万円台に落ち込み、貧困ラインは142万から131万円と10万円低下。相対的貧困率は、15.2%から17%に上昇していたことが分かった。 そこで95年の貧困ラインを基準にして相対的貧困率を推定したところ、01年の貧困率は20%。なんと5世帯に1世帯が貧困ライン以下という、かなり衝撃的な状況になってしまったのだ(「日本の貧困と労働に関する実証分析」橘木俊詔、浦川邦夫)。) また、過去10年間における貧困率の上昇には、「単身世帯(主に単身高齢者世帯)」「高齢者の世帯」「大人1人と子供1人の世帯」の増加が影響していていることも分かっている(「相対的貧困率等に関する調査分析結果について」平成27年12月18日)。 日本では貧困層の約9割が働いているので、ワーキングプアの割合を年齢階級と性別に見ると、もっと「今の日本社会の問題」が分かる。
(ワーキングプア率=働いている層で世帯所得が相対的貧困線以下の人の割合のグラフはリンク先参照) ご覧の通り、男性のワーキングプア率は20代後半から減少し、50代になると増加に転じ70歳で急増する。一方、女性は25~29歳では低下するがそれ以外は一貫して男性より高く、70代になるとさらに差は広がっていく。 別の調査からは、この30年間で働き盛り世代の非正規化の問題も指摘されている。男性の25歳~34歳では4%から14.4%に増加し、そのまま高水準が続いている。 このような年齢別、性別格差をもたらしているのは、第1に、正規雇用と非正規雇用の賃金格差。第2に、男性と女性の雇用格差による賃金格差だ。非正規社員男性の生涯賃金は約6200万円、これは正社員の約4分の1(正社員男性=約2億3200万円。みずほ総合研究所の試算)。非正規の年収では、男性229万円に対し女性はわずか150万円になってしまうのだ。) ……とまぁ、数字を立て続けに紹介してしまったけど、とにもかくにも貧困ラインは年収122万円。月々の所得は10万円程度。その生活が、コロナ禍で突然途切れた。今すぐにでもお金が必要なのに、なかなか届かない。いつになったら次の仕事が見つかるか分からないのに、そのあとの支援は決まっていない現状がある。 個人的には今こそ、「ベーシックインカム(最低限所得保障)」を導入したらいいと考えている。ベーシックインカムの考え方自体は18世紀に生まれたものだが、1980年代以降、格差問題から注目され、「ピケティに次ぐ欧州の知性」と称されるオランダ人歴史学者のルトガー・ブレグマン氏により、さまざまな国で「導入実験」の機運が高まった。 ブレグマン氏は「Poverty isn’t a lack of character, it’s a lack of cash(貧困とは人格の欠陥によるものではない。貧困は現金の欠如によるもの)」と説き、ホームレスなどは最初から怠惰だったわけではないし、貧困層が薬物をより頻繁に使用するのは、基本的欲求(寝食住)が満たされていないからだと訴えた』、「貧困とは人格の欠陥によるものではない」、とは言い得て妙だ。
・『現状はベーシックインカムを再考する機会 2年前に、こちらのコラムで取り上げ、みなさんからご意見を募集したところ、たくさんの前向きな意見、懸念点などを書いていただいた(参考コラム:「働かなくてもカネがもらえる」から働くんです)。 残念ながら、サイトが変わってしまいコメント欄が削除されてしまったのでそれを見ることができないのだが、「財源の問題」が多かった。 ならば、今こそ、困窮している人たちに焦点を絞った追加の経済対策を盛り込み、実証実験も兼ねてやってみてはどうだろうか』、最近は新自由主義旗手の竹中平蔵までがベーシックインカム導入を主張しだしたようだ。彼の主張は、代わりに社会保障などを廃止するというドラスチックで、乱暴極まりないもののようだ。河合氏はそこまで考えてはいないのではあるまいか。
次に、9月16日付け東洋経済オンラインが掲載した京都女子大学客員教授・京都大学名誉教授の橘木 俊詔氏による「35歳超の非正規男性が悲惨なほど困窮する現実 正社員と違い年齢を重ねても賃金が上がらない 」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/375140
・『1990年代半ばから2000年代前半の「就職氷河期」。その影響を全面に受けた世代が今、大きな格差に直面している。一度レールから落ちてしまった人に厳しい日本社会の特徴が、就職時期に「機会の平等」を享受できなかった中年世代の上に重くのしかかっている。 しかし、それは決して特定の世代の問題ではない。「今の40歳前後に苦しい生活を送る人が多い因縁」(2020年9月1日配信)、「今の30~40代非正規を待つ『極貧』老後の超不安」(同9月8日配信)に続き、格差問題に取り組み続けている橘木俊詔氏の新刊『中年格差』から、本書の一部を抜粋・再編集してお届けする』、興味深そうだ。
・『非正規雇用者の厳しい労働条件 格差社会に入った日本において、それを説明する根拠として1つ重要なのが、労働者の雇用形態における正規労働と非正規労働の対比である。細かいことを言えば両者の定義はそう単純ではないし、しかもあいまいさが残るものである。 しかしわかりやすい定義をすれば、正規はフルタイムで働いており、しかも雇用期間は無限が原則であるのに対して、非正規は労働時間が短くかつ雇用期間が無限ではない、ということになる。 前者は正社員と呼ばれ、後者は非正社員と呼ばれることもある。両者間に賃金を含めた労働条件にかなりの格差があり、ここ数十年間の不況経済の継続によって非正規労働者の数が激増したことで低所得の人を多く生み、高所得の正規労働者と低所得の非正規労働者の併存というのが、格差社会の1つの象徴となったのである。 非正規労働は、労働時間が短く、雇用期間に定めがあるのが2大特色であるが、これに関連していくつかの特性がある。 +解雇通知があらかじめあればいつでも解雇できる +労働時間も企業側の都合によって自由に変更できる +ボーナス支払いのない場合が多い +労働時間が特に短ければ(例、週20時間以下)社会保険制度(年金、医療、失業など)に入る資格がない などである。これらの諸特性を知ると、非正規労働者の労働条件は悪いと言わざるをえない。なお、派遣社員やアルバイトも非正規のカテゴリーに入る。 非正規労働者の急増を統計で確認しておこう。下記の図(2-3)は、ここ20年弱の間に、形態別に非正規の人がどのように増加してきたかを示したものである。(図はリンク先参照) まず全体で見ると、1984(昭和59)年が604万人だったところ、2017(平成29)年には2036万人に達しており、実に1400万人ほどの急増加である。労働人口に占める比率も、15.3%から37.3%へと22%ポイントの増加であるし、現代ではほぼ40%弱の人が日本では非正規で働いているという異常さにいる。 異常さというのは少し誇張を含んでいる。非正規の人でも意図的にそれを望んでいる人(特に既婚女性のパート、学生のアルバイト)がかなりいるからである。とはいえ、たとえ意図的に非正規労働を選択しているとしても、賃金などの労働条件が悪いという事実は厳然と存在している。 ところで非正規労働者のうち、もっとも多いのはパート労働であり、およそ半数を占めている。これは既婚女性と高齢者に多い。次いで20.5%のアルバイトであり、これは若者や学生に多い。この両者、すなわちパート労働とアルバイトの増加が、非正規労働の急増を説明する重要な要因である』、「ほぼ40%弱の人が日本では非正規で働いている」、「非正規」の比率はやはり異常に高いようだ。
・『中年期の人に非正規労働者はどれだけいるか 本記事のポイントとなるのが、年齢別に見た場合に、中年期の人に非正規労働者がどれだけいるかだ。下の図(2-4)で総計と年齢別の動向を示した。 (図はリンク先参照) 2017(平成29)年でもっとも非正規労働者の多いのは、421万人(20.7%)の55~64歳である。次いで413万人(20.3%)の45~54歳である。これら後期中年期の人(45~64歳)に非正規労働が多いのである。これに前期中年期(35~44歳)を加味すると、中年層に多くの非正規労働者のいることがわかり、まさに不況の影響を直接に受けた世代の代表とみなしてよい。 それを証明するもう1つの手段は、各年齢別に増加率を見ることにある。1992(平成4)年から2017(平成29)年まで、15年間ほどの増加率を計算してみた。15~24歳で1.53倍、25~34で2.17倍、35~44歳で1.48倍、45~54歳で1.97倍、55~64歳で2.64倍、65歳以上で5.54倍となる。 もっとも高い増加率の見られる年代は高齢者である。定年などによる退職後も週に2~3日とか、1日に4~5時間とか働くのは健康に良いし、高齢者の持っている技能を若い年齢の人に教える機会もあるので、この増加は悪いことではなくとても好ましい。 次いで高い増加率は45~64歳の中年層の2.64倍と1.97倍であり、長い深刻な不況が中年層に及ぼした影響力の大きいことを物語っている。このうちのかなりの割合は、若い頃や中年期にバブル後の不況によって職探しに苦労して、失業の状態からやっとのことで非正規の仕事が得られたか、それともずっと以前から非正規労働を続けているか、のどちらかである。いずれにせよ、中年期の人が非正規で働いており、経済的に苦労している姿が明らかである。 では、どれほどの経済的な苦痛の下にいるかを確認しておこう。下の図(2-5)は雇用形態別、男女別に正規労働者と非正規労働者の間でどの程度の賃金差があるかを示した。 (図はリンク先参照) これは年齢別に見ていない平均像の姿である。男性の非正規労働の賃金は正規労働者の約6割強、女性の場合には約7割の賃金しか受領していない。男性のほうに格差の大きいのは、男性の正規労働者の中には管理職に就いている人が女性に比較してかなり多く、平均して男性の正規労働者の賃金が高くなるからである。一方の女性では管理職が少ないので、正規労働であっても賃金は低く、したがって格差は小さくなるのである』、「長い深刻な不況が中年層に及ぼした影響力の大きいことを物語っている。このうちのかなりの割合は、若い頃や中年期にバブル後の不況によって職探しに苦労して、失業の状態からやっとのことで非正規の仕事が得られたか、それともずっと以前から非正規労働を続けているか、のどちらかである。いずれにせよ、中年期の人が非正規で働いており、経済的に苦労している姿が明らか」、就職氷河期の影響がその後も続いているようだ。
・『正社員は年齢とともに賃金上昇を続けるのに もう1つこの図から読み取れることは、男性と女性を比較すれば、正規と非正規ともに女性のほうが男性よりも水準としての賃金が低いということである。これは女性差別もあるが、一般に教育水準と就いている職業、そして管理職の地位などで女性が男性よりも低い点の効果もある。 むしろ衝撃的な事実は、年齢別に見た結果に出現する。下の図(2-6)は、一般労働者(正社員と非正社員の両方がいる)と短時間労働者(正社員と非正社員の両方がいる)の間で、1時間あたり賃金額が、年齢でどう異なるかを示した。 (図はリンク先参照) ここでは正社員と正社員以外の格差と一般労働者と短時間労働者に注目してみよう。この図でわかることは、若年層(~19歳から29歳頃まで)は正社員と非正社員の間で時給はそう変わらないが、30歳を超える頃から賃金が開き始め、そして30歳から35歳を超えると、まず正社員の人の賃金は急カーブで上昇するが、正社員であっても短時間労働の人はなんと賃金は低下に転じるということだ。 そして、もっと強調すべきことは、正社員であれ非正社員であれ、短時間労働の人の賃金は年齢を重ねても変化しない点である。正社員の一般労働者だけが年功序列の恩恵を受けて、賃金は上昇を続けるのである。この結果が50~54歳になると、それらの人はかなり高い賃金を得ており、他の労働者との格差は非常に大きくなっているのである。 では一方の非正社員の人の賃金はどうかといえば、年功序列という勤続年数による賃金増加はなく、中年になっても時給が1100円前後であり、それが高年まで続く。30歳から49歳までの時給は1100円で、たとえ1日に8時間、月に22日というようにあたかもフルタイムのように働いたとしても、月額で19万円前後の賃金にしか達しない。現実は労働時間が短いので、この額より低いのは確実である。一般労働者としての非正社員の時給を1300円とみなして同じように月額賃金を計算しても、おおよそ23万円程度にしかならない』、「非正社員の人の賃金はどうかといえば、年功序列という勤続年数による賃金増加はなく、中年になっても時給が1100円前後であり、それが高年まで続く。30歳から49歳までの時給は1100円で、たとえ1日に8時間、月に22日というようにあたかもフルタイムのように働いたとしても、月額で19万円前後の賃金にしか達しない」、就職氷河期の影響で一旦、「正社員」になり損ねると一生低賃金にあえぐとは、余りに不条理だ。
・『未婚者であれば結婚して家庭を持つ人生は不可能 これら中年になってから20万円弱、あるいは高くても23万円の月額の収入であれば、生活が非常に苦しいことは確実である。所得税を払っているかどうかは課税最低限所得あたりなので、ゼロかとても低い所得税しか課せられないであろうが、社会保険料負担がもしあればそれが控除されるので、可処分所得はもっと低くならざるをえない。既婚者で子どもがいれば生活保護支給を必要とするほどの生活困窮者になること確実である。未婚者であれば結婚して家庭を持つという人生は不可能である。 さらに付言すれば、ここで挙げた時給の額は、該当する労働者の平均額であり、この平均額より低い額の賃金しか受領できない人が相当数いることを忘れてはならない。これらの人を貧困者とみなせることは当然であり、悲惨な経済生活を強いられているのである。 ただしここで留意すべきことがある。後に示すように、中年の非正規ないし非正社員の労働者の多くは女性、特に既婚女性で占められている。中年で単身の女性、ないし男性でここに該当する人はそう多くない。 こういう人が該当しているなら中年貧困者とみなしてよいが、多くを占める既婚女性においては夫の収入が充分にあれば、貧困の状態にはいないと解釈してよい。ただし、夫が失業しているとか、夫の収入が低ければたとえ夫婦が働いていたとしても、貧困者になる可能性はある。 もう一つ重要な留意点は、中年の女性で離婚した人は、一部のキャリアウーマンでフルタイムで働いていた人を除いて、一気に貧困者になってしまう点である。特に専業主婦だった人、パートなどの非正規労働であった女性は、技能の程度が低いだけに、離婚後に賃金の高い仕事を探しても、なかなか見つけられないのは確かである。 日本では男性よりも女性が離婚後に子どもを引き取る確率がかなり高い。子どもを引き取った女性であれば、生活費を一人で負担できるほどの収入はない。母子家庭の貧困者の生まれる理由がここにあり、およそ50%の母子家庭が貧困に陥っている現状がある』、「およそ50%の母子家庭が貧困に陥っている」とは深刻だ。別れた夫からの扶養手当などが離婚時の約束通り支払われない場合も多いだろう。簡便な救済手段の検討も必要だろう。
先ずは、5月26日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「新型コロナが追い打ち「月収10万円」貧しさの現実」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00075/?P=1
・『数年前、40代の男性のインタビューで、思わぬ告白をされたことがあった。 「お恥ずかしい話なんですけど……、僕、半年前はホームレスやってたんです」 目の前に座っているスーツを着た男性は、ごく普通のサラリーマン。その彼から、「ホームレス」という言葉が飛び出して面食らった。というか、私は正直なところ、何の話をしてるのか一瞬分からなくなった。 河合「えっ……と。それって……」 男性「派遣切りにあって、次の仕事がなかなか見つからなかったんです。それで家賃も払えなくて、ひと月くらいですけどね」 河合「で、そのあとが、今の会社ですか?」 男性「はい。そうです。ハローワークに行くときに、昔、飲みに行ってた焼鳥屋のマスターにばったり会いましてね。『お客さんの会社で体調を崩して入院する社員がいて、時間をかけて採用してる余裕もないから仕事の一部をバイトに頼みたいと言ってた』と、すぐに連絡してくれたんです」 河合「今、契約社員……ですよね?」 男性「はい。バイトなのに、上司の人がすごく丁寧に仕事を教えてくれたんですよ。不思議なもんで、そうやって扱ってもらうと自分でもいろいろと工夫するようになって、ひと月後に『契約社員にならないか』って言ってくれたんです。時給が月給になったし、がんばれば正社員にもなれると言われました。生まれて初めて仕事って楽しいって思えました。僕は本当に運が良かった。ホント、運が良かったんだと思います」 「貧困は簡単に外から見えない」。彼の話を聞き、強く実感した』、「焼鳥屋のマスター」の紹介で就職先が見つかったとはラッキーという他ない。
・『新型コロナの影響で貧困問題も表面化 先週、NPO法人しんぐるまざあーず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長が、新型コロナウイルスの影響で困窮するシングルマザーについてコメントしていた。その内容があまりに衝撃的で、今回は「見えない貧困」を取り上げようと思った次第である。 赤石氏によると、4月以降、シングルマザーからの相談が急増し、「子供がおなかをすかせていても、食べさせるものがない」「公園の水や野草で空腹を満たしている」などの、驚くべき内容もあったそうだ。 多くがパートなどの非正規で雇用されているため、自宅待機で収入が減るという人が半数以上。中には、子供の保育園が休みになったと相談したら、「だったら来なくていい」と言われたケースもあった。 「私たちの感触では、本当にいつ悲惨な事件が起きてもおかしくない」。こうコメントしていた(5月21日付朝日新聞朝刊)。 新型コロナウイルス感染が拡大した当初から、「今起きている問題はこれまで見ないふりをされたり、だましだましやり過ごしたりしてきた問題が表面化しただけ」と書き続けているけど、貧困問題はその1つだ。 しかしながら、貧困問題を取り上げると、「公園の水と野草食べるなんて人、本当にいるの?」「昔の方がもっと貧しい人が多かった」というリアクションが少なくない。 そういった意見が出てしまうのは、貧困問題を語るときに、使われる「相対的貧困」という言葉のニュアンスにあると私は考えている。つまり、「貧困っていっても、相対的貧困でしょ?」と。「その日に食べるものがなくて困ってるわけじゃないだろ」と。つまり、「相対的」という言葉が、貧しさのリアルをぼやかしてしまうのだ。 ご承知のとおり、相対的貧困は、絶対的貧困=1日2ドル未満で生活する人々(世界銀行の定義)とは異なり、「世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない人々」のこと。平たく言うと「恥ずかしい思いをすることなく生活できる水準」にない人々を捉えたものだ。 その水準の目安となるのが貧困ラインで、日本の場合、122万円程度になる(国民生活基礎調査)。月額にすると10万円(単身世帯の場合)。たった10万円だ。月に10万円の収入では普段から貯金するのは難しい。となれば、今回のコロナ禍のような突発的な出来事に耐えられるわけがない。 この10万円という金額を念頭に、改めて次の数字の重みを考えてみてほしい。 +日本の相対的貧困率はG7(先進7カ国)でワースト2位 +ひとり親世帯に限るとOECD(経済協力開発機構)加盟国35カ国中ワースト1位 +そして、日本の母子家庭の母親の就業率は、84.5%と先進国の中でもっとも高いにもかかわらず、突出して貧困率が高く、アメリカ36%、フランス12%、英国7%に対して、日本は58%と半数を超えている(OECDの報告より)』、「日本の相対的貧困率はG7(先進7カ国)でワースト2位、ひとり親世帯に限るとOECD(経済協力開発機構)加盟国35カ国中ワースト1位」、「日本の相対的貧困」の酷さに改めて驚かされた。
・『相談に行ったことがさらなる貧困のきっかけに 日本も含めた先進国の貧しさは「目に見えない」。とりわけ日本では、働いているのに貧困、すなわち「ワーキングプア」が多いので、余計に見えなくなる。 さらに、貧困の問題は「そういう人はなぜ、生活保護を受けないのだろう?」「シングルマザーの貧困は養育費をちゃんともらえばかなり解決できるのでは?」といった疑問で矮小(わいしょう)化され、個人の責任にすり替えられがちだ。 数年前、就職氷河期に非正規社員の道を余儀なくされた人たちが、「助けて」と言えずに孤立したり、食事も取れずに餓死するという事件があった。この時代に「餓死する」とは、信じがたい出来事だが、取材する中で、生活保護の相談に行ったことが、孤立の引き金になった人がいることがわかった。 「まだ、若いんだから、もう少しがんばって仕事探してみなさい」──。 こう言われたことで、二度とSOSを出せなくなってしまったのだ。 彼らは一見すると健康に見える。何よりも若い。なので、相談された人も「もう少しがんばって」と励ました。 だが、彼らの心は既にズタズタだった。藁(わら)をもつかむ気持ちで相談にいったのに、「がんばって」と突き放され、心も体も金縛りにあったように動けなくなってしまったのだ。 実は冒頭の「僕は運が良かった」と繰り返した男性も、そのひとりだった。 彼は地方の有名国立大学に進学しながらも、就職できずにフリーターの道に進み、結婚もできずに30歳を過ぎてしまったという。 「正社員の経験がないと、中途採用にも応募できない。年齢的にもどんどん厳しくなり、30を過ぎると応募できる会社自体がなくなる。周りの視線も厳しくなっていきました。『落ちこぼれ』『負け組』などと、自業自得と言わんばかりのレッテルを貼られ、自己嫌悪に陥りました。俺はなんてダメな人間なんだろう、って。ホント、最悪でした」 生活や将来への不安と、自尊心が限りなく低下し、「もうどうにでもなれ」とホームレスになったときに、たまたま出会ったのが焼鳥屋さんだった。 弱い立場にならないと見えない景色がある。彼が「僕は運が良かった」と繰り返したのは、その景色を見た経験があったからだ。 そして、「私たちの感触では、本当にいつ悲惨な事件が起きてもおかしくない」という赤石理事長の懸念も、その景色を実感できるからなのだろう』、「生活保護」バッシングのなかで、窓口担当者も、「もう少しがんばって」と励ますよう上司から指示されている可能性がある。
・『格差拡大で80年代以降先進国の貧困が問題に そもそも先進国が相対的貧困を貧しさの指標に用いるようになったのは、1980年以降だ。それまでは絶対的貧困の方が重視されていたのだが、先進国で格差が広がり始めたことで、相対的貧困が注目されるようになった。 絶対的貧困が「人が生きていく上で最低限必要な生活」を主要な論点にしているのに対し、相対的貧困は「貧困がどの程度社会に容認されているのか?」という問題意識が根底にある。すなわち「広がり過ぎた格差=相対的貧困率」を捉えれば、貧困の背後に隠された低賃金の労働要因、ひとり親世帯や高齢者世帯などの家族要因、病気などの医療要因、学歴格差などの教育要因などを、時代を追って分析すれば「私たちの問題」を具体的に知ることができる。 例えば、経済格差が拡大し始めた1995~2001年の厚生労働省の「所得再分配調査」から所得の中央値と貧困線、貧困率を推定すると、中間層の所得水準は、1995年の284万円台から01年は262万円台に落ち込み、貧困ラインは142万から131万円と10万円低下。相対的貧困率は、15.2%から17%に上昇していたことが分かった。 そこで95年の貧困ラインを基準にして相対的貧困率を推定したところ、01年の貧困率は20%。なんと5世帯に1世帯が貧困ライン以下という、かなり衝撃的な状況になってしまったのだ(「日本の貧困と労働に関する実証分析」橘木俊詔、浦川邦夫)。) また、過去10年間における貧困率の上昇には、「単身世帯(主に単身高齢者世帯)」「高齢者の世帯」「大人1人と子供1人の世帯」の増加が影響していていることも分かっている(「相対的貧困率等に関する調査分析結果について」平成27年12月18日)。 日本では貧困層の約9割が働いているので、ワーキングプアの割合を年齢階級と性別に見ると、もっと「今の日本社会の問題」が分かる。
(ワーキングプア率=働いている層で世帯所得が相対的貧困線以下の人の割合のグラフはリンク先参照) ご覧の通り、男性のワーキングプア率は20代後半から減少し、50代になると増加に転じ70歳で急増する。一方、女性は25~29歳では低下するがそれ以外は一貫して男性より高く、70代になるとさらに差は広がっていく。 別の調査からは、この30年間で働き盛り世代の非正規化の問題も指摘されている。男性の25歳~34歳では4%から14.4%に増加し、そのまま高水準が続いている。 このような年齢別、性別格差をもたらしているのは、第1に、正規雇用と非正規雇用の賃金格差。第2に、男性と女性の雇用格差による賃金格差だ。非正規社員男性の生涯賃金は約6200万円、これは正社員の約4分の1(正社員男性=約2億3200万円。みずほ総合研究所の試算)。非正規の年収では、男性229万円に対し女性はわずか150万円になってしまうのだ。) ……とまぁ、数字を立て続けに紹介してしまったけど、とにもかくにも貧困ラインは年収122万円。月々の所得は10万円程度。その生活が、コロナ禍で突然途切れた。今すぐにでもお金が必要なのに、なかなか届かない。いつになったら次の仕事が見つかるか分からないのに、そのあとの支援は決まっていない現状がある。 個人的には今こそ、「ベーシックインカム(最低限所得保障)」を導入したらいいと考えている。ベーシックインカムの考え方自体は18世紀に生まれたものだが、1980年代以降、格差問題から注目され、「ピケティに次ぐ欧州の知性」と称されるオランダ人歴史学者のルトガー・ブレグマン氏により、さまざまな国で「導入実験」の機運が高まった。 ブレグマン氏は「Poverty isn’t a lack of character, it’s a lack of cash(貧困とは人格の欠陥によるものではない。貧困は現金の欠如によるもの)」と説き、ホームレスなどは最初から怠惰だったわけではないし、貧困層が薬物をより頻繁に使用するのは、基本的欲求(寝食住)が満たされていないからだと訴えた』、「貧困とは人格の欠陥によるものではない」、とは言い得て妙だ。
・『現状はベーシックインカムを再考する機会 2年前に、こちらのコラムで取り上げ、みなさんからご意見を募集したところ、たくさんの前向きな意見、懸念点などを書いていただいた(参考コラム:「働かなくてもカネがもらえる」から働くんです)。 残念ながら、サイトが変わってしまいコメント欄が削除されてしまったのでそれを見ることができないのだが、「財源の問題」が多かった。 ならば、今こそ、困窮している人たちに焦点を絞った追加の経済対策を盛り込み、実証実験も兼ねてやってみてはどうだろうか』、最近は新自由主義旗手の竹中平蔵までがベーシックインカム導入を主張しだしたようだ。彼の主張は、代わりに社会保障などを廃止するというドラスチックで、乱暴極まりないもののようだ。河合氏はそこまで考えてはいないのではあるまいか。
次に、9月16日付け東洋経済オンラインが掲載した京都女子大学客員教授・京都大学名誉教授の橘木 俊詔氏による「35歳超の非正規男性が悲惨なほど困窮する現実 正社員と違い年齢を重ねても賃金が上がらない 」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/375140
・『1990年代半ばから2000年代前半の「就職氷河期」。その影響を全面に受けた世代が今、大きな格差に直面している。一度レールから落ちてしまった人に厳しい日本社会の特徴が、就職時期に「機会の平等」を享受できなかった中年世代の上に重くのしかかっている。 しかし、それは決して特定の世代の問題ではない。「今の40歳前後に苦しい生活を送る人が多い因縁」(2020年9月1日配信)、「今の30~40代非正規を待つ『極貧』老後の超不安」(同9月8日配信)に続き、格差問題に取り組み続けている橘木俊詔氏の新刊『中年格差』から、本書の一部を抜粋・再編集してお届けする』、興味深そうだ。
・『非正規雇用者の厳しい労働条件 格差社会に入った日本において、それを説明する根拠として1つ重要なのが、労働者の雇用形態における正規労働と非正規労働の対比である。細かいことを言えば両者の定義はそう単純ではないし、しかもあいまいさが残るものである。 しかしわかりやすい定義をすれば、正規はフルタイムで働いており、しかも雇用期間は無限が原則であるのに対して、非正規は労働時間が短くかつ雇用期間が無限ではない、ということになる。 前者は正社員と呼ばれ、後者は非正社員と呼ばれることもある。両者間に賃金を含めた労働条件にかなりの格差があり、ここ数十年間の不況経済の継続によって非正規労働者の数が激増したことで低所得の人を多く生み、高所得の正規労働者と低所得の非正規労働者の併存というのが、格差社会の1つの象徴となったのである。 非正規労働は、労働時間が短く、雇用期間に定めがあるのが2大特色であるが、これに関連していくつかの特性がある。 +解雇通知があらかじめあればいつでも解雇できる +労働時間も企業側の都合によって自由に変更できる +ボーナス支払いのない場合が多い +労働時間が特に短ければ(例、週20時間以下)社会保険制度(年金、医療、失業など)に入る資格がない などである。これらの諸特性を知ると、非正規労働者の労働条件は悪いと言わざるをえない。なお、派遣社員やアルバイトも非正規のカテゴリーに入る。 非正規労働者の急増を統計で確認しておこう。下記の図(2-3)は、ここ20年弱の間に、形態別に非正規の人がどのように増加してきたかを示したものである。(図はリンク先参照) まず全体で見ると、1984(昭和59)年が604万人だったところ、2017(平成29)年には2036万人に達しており、実に1400万人ほどの急増加である。労働人口に占める比率も、15.3%から37.3%へと22%ポイントの増加であるし、現代ではほぼ40%弱の人が日本では非正規で働いているという異常さにいる。 異常さというのは少し誇張を含んでいる。非正規の人でも意図的にそれを望んでいる人(特に既婚女性のパート、学生のアルバイト)がかなりいるからである。とはいえ、たとえ意図的に非正規労働を選択しているとしても、賃金などの労働条件が悪いという事実は厳然と存在している。 ところで非正規労働者のうち、もっとも多いのはパート労働であり、およそ半数を占めている。これは既婚女性と高齢者に多い。次いで20.5%のアルバイトであり、これは若者や学生に多い。この両者、すなわちパート労働とアルバイトの増加が、非正規労働の急増を説明する重要な要因である』、「ほぼ40%弱の人が日本では非正規で働いている」、「非正規」の比率はやはり異常に高いようだ。
・『中年期の人に非正規労働者はどれだけいるか 本記事のポイントとなるのが、年齢別に見た場合に、中年期の人に非正規労働者がどれだけいるかだ。下の図(2-4)で総計と年齢別の動向を示した。 (図はリンク先参照) 2017(平成29)年でもっとも非正規労働者の多いのは、421万人(20.7%)の55~64歳である。次いで413万人(20.3%)の45~54歳である。これら後期中年期の人(45~64歳)に非正規労働が多いのである。これに前期中年期(35~44歳)を加味すると、中年層に多くの非正規労働者のいることがわかり、まさに不況の影響を直接に受けた世代の代表とみなしてよい。 それを証明するもう1つの手段は、各年齢別に増加率を見ることにある。1992(平成4)年から2017(平成29)年まで、15年間ほどの増加率を計算してみた。15~24歳で1.53倍、25~34で2.17倍、35~44歳で1.48倍、45~54歳で1.97倍、55~64歳で2.64倍、65歳以上で5.54倍となる。 もっとも高い増加率の見られる年代は高齢者である。定年などによる退職後も週に2~3日とか、1日に4~5時間とか働くのは健康に良いし、高齢者の持っている技能を若い年齢の人に教える機会もあるので、この増加は悪いことではなくとても好ましい。 次いで高い増加率は45~64歳の中年層の2.64倍と1.97倍であり、長い深刻な不況が中年層に及ぼした影響力の大きいことを物語っている。このうちのかなりの割合は、若い頃や中年期にバブル後の不況によって職探しに苦労して、失業の状態からやっとのことで非正規の仕事が得られたか、それともずっと以前から非正規労働を続けているか、のどちらかである。いずれにせよ、中年期の人が非正規で働いており、経済的に苦労している姿が明らかである。 では、どれほどの経済的な苦痛の下にいるかを確認しておこう。下の図(2-5)は雇用形態別、男女別に正規労働者と非正規労働者の間でどの程度の賃金差があるかを示した。 (図はリンク先参照) これは年齢別に見ていない平均像の姿である。男性の非正規労働の賃金は正規労働者の約6割強、女性の場合には約7割の賃金しか受領していない。男性のほうに格差の大きいのは、男性の正規労働者の中には管理職に就いている人が女性に比較してかなり多く、平均して男性の正規労働者の賃金が高くなるからである。一方の女性では管理職が少ないので、正規労働であっても賃金は低く、したがって格差は小さくなるのである』、「長い深刻な不況が中年層に及ぼした影響力の大きいことを物語っている。このうちのかなりの割合は、若い頃や中年期にバブル後の不況によって職探しに苦労して、失業の状態からやっとのことで非正規の仕事が得られたか、それともずっと以前から非正規労働を続けているか、のどちらかである。いずれにせよ、中年期の人が非正規で働いており、経済的に苦労している姿が明らか」、就職氷河期の影響がその後も続いているようだ。
・『正社員は年齢とともに賃金上昇を続けるのに もう1つこの図から読み取れることは、男性と女性を比較すれば、正規と非正規ともに女性のほうが男性よりも水準としての賃金が低いということである。これは女性差別もあるが、一般に教育水準と就いている職業、そして管理職の地位などで女性が男性よりも低い点の効果もある。 むしろ衝撃的な事実は、年齢別に見た結果に出現する。下の図(2-6)は、一般労働者(正社員と非正社員の両方がいる)と短時間労働者(正社員と非正社員の両方がいる)の間で、1時間あたり賃金額が、年齢でどう異なるかを示した。 (図はリンク先参照) ここでは正社員と正社員以外の格差と一般労働者と短時間労働者に注目してみよう。この図でわかることは、若年層(~19歳から29歳頃まで)は正社員と非正社員の間で時給はそう変わらないが、30歳を超える頃から賃金が開き始め、そして30歳から35歳を超えると、まず正社員の人の賃金は急カーブで上昇するが、正社員であっても短時間労働の人はなんと賃金は低下に転じるということだ。 そして、もっと強調すべきことは、正社員であれ非正社員であれ、短時間労働の人の賃金は年齢を重ねても変化しない点である。正社員の一般労働者だけが年功序列の恩恵を受けて、賃金は上昇を続けるのである。この結果が50~54歳になると、それらの人はかなり高い賃金を得ており、他の労働者との格差は非常に大きくなっているのである。 では一方の非正社員の人の賃金はどうかといえば、年功序列という勤続年数による賃金増加はなく、中年になっても時給が1100円前後であり、それが高年まで続く。30歳から49歳までの時給は1100円で、たとえ1日に8時間、月に22日というようにあたかもフルタイムのように働いたとしても、月額で19万円前後の賃金にしか達しない。現実は労働時間が短いので、この額より低いのは確実である。一般労働者としての非正社員の時給を1300円とみなして同じように月額賃金を計算しても、おおよそ23万円程度にしかならない』、「非正社員の人の賃金はどうかといえば、年功序列という勤続年数による賃金増加はなく、中年になっても時給が1100円前後であり、それが高年まで続く。30歳から49歳までの時給は1100円で、たとえ1日に8時間、月に22日というようにあたかもフルタイムのように働いたとしても、月額で19万円前後の賃金にしか達しない」、就職氷河期の影響で一旦、「正社員」になり損ねると一生低賃金にあえぐとは、余りに不条理だ。
・『未婚者であれば結婚して家庭を持つ人生は不可能 これら中年になってから20万円弱、あるいは高くても23万円の月額の収入であれば、生活が非常に苦しいことは確実である。所得税を払っているかどうかは課税最低限所得あたりなので、ゼロかとても低い所得税しか課せられないであろうが、社会保険料負担がもしあればそれが控除されるので、可処分所得はもっと低くならざるをえない。既婚者で子どもがいれば生活保護支給を必要とするほどの生活困窮者になること確実である。未婚者であれば結婚して家庭を持つという人生は不可能である。 さらに付言すれば、ここで挙げた時給の額は、該当する労働者の平均額であり、この平均額より低い額の賃金しか受領できない人が相当数いることを忘れてはならない。これらの人を貧困者とみなせることは当然であり、悲惨な経済生活を強いられているのである。 ただしここで留意すべきことがある。後に示すように、中年の非正規ないし非正社員の労働者の多くは女性、特に既婚女性で占められている。中年で単身の女性、ないし男性でここに該当する人はそう多くない。 こういう人が該当しているなら中年貧困者とみなしてよいが、多くを占める既婚女性においては夫の収入が充分にあれば、貧困の状態にはいないと解釈してよい。ただし、夫が失業しているとか、夫の収入が低ければたとえ夫婦が働いていたとしても、貧困者になる可能性はある。 もう一つ重要な留意点は、中年の女性で離婚した人は、一部のキャリアウーマンでフルタイムで働いていた人を除いて、一気に貧困者になってしまう点である。特に専業主婦だった人、パートなどの非正規労働であった女性は、技能の程度が低いだけに、離婚後に賃金の高い仕事を探しても、なかなか見つけられないのは確かである。 日本では男性よりも女性が離婚後に子どもを引き取る確率がかなり高い。子どもを引き取った女性であれば、生活費を一人で負担できるほどの収入はない。母子家庭の貧困者の生まれる理由がここにあり、およそ50%の母子家庭が貧困に陥っている現状がある』、「およそ50%の母子家庭が貧困に陥っている」とは深刻だ。別れた夫からの扶養手当などが離婚時の約束通り支払われない場合も多いだろう。簡便な救済手段の検討も必要だろう。
タグ:正社員は年齢とともに賃金上昇を続けるのに 非正社員の人の賃金はどうかといえば、年功序列という勤続年数による賃金増加はなく、中年になっても時給が1100円前後であり、それが高年まで続く。30歳から49歳までの時給は1100円で、たとえ1日に8時間、月に22日というようにあたかもフルタイムのように働いたとしても、月額で19万円前後の賃金にしか達しない 相談に行ったことがさらなる貧困のきっかけに 長い深刻な不況が中年層に及ぼした影響力の大きいことを物語っている。このうちのかなりの割合は、若い頃や中年期にバブル後の不況によって職探しに苦労して、失業の状態からやっとのことで非正規の仕事が得られたか、それともずっと以前から非正規労働を続けているか、のどちらかである。いずれにせよ、中年期の人が非正規で働いており、経済的に苦労している姿が明らか 『中年格差』 「新型コロナが追い打ち「月収10万円」貧しさの現実」 (その3)(新型コロナが追い打ち「月収10万円」貧しさの現実、5歳超の非正規男性が悲惨なほど困窮する現実 正社員と違い年齢を重ねても賃金が上がらない) 非正規雇用者の厳しい労働条件 最近は新自由主義旗手の竹中平蔵までがベーシックインカム導入を主張しだしたようだ。彼の主張は、代わりに社会保障などを廃止するというドラスチックで、乱暴極まりないもののようだ。河合氏はそこまで考えてはいないようだ 「およそ50%の母子家庭が貧困に陥っている」とは深刻だ 就職氷河期の影響で一旦、「正社員」になり損ねると一生低賃金にあえぐとは、余りに不条理だ 未婚者であれば結婚して家庭を持つ人生は不可能 就職氷河期の影響がその後も続いているようだ 中年期の人に非正規労働者はどれだけいるか 「非正規」の比率はやはり異常に高いようだ ほぼ40%弱の人が日本では非正規で働いている 「35歳超の非正規男性が悲惨なほど困窮する現実 正社員と違い年齢を重ねても賃金が上がらない 」 橘木 俊詔 東洋経済オンライン 現状はベーシックインカムを再考する機会 貧困とは人格の欠陥によるものではない ワーキングプア 日本では貧困層の約9割が働いている 格差拡大で80年代以降先進国の貧困が問題に 「生活保護」バッシングのなかで、窓口担当者も、「もう少しがんばって」と励ますよう上司から指示されている可能性がある 日本の相対的貧困率はG7(先進7カ国)でワースト2位、ひとり親世帯に限るとOECD(経済協力開発機構)加盟国35カ国中ワースト1位 新型コロナの影響で貧困問題も表面化 河合 薫 日経ビジネスオンライン 貧困問題
GoTo問題(その1)(「GoTo停止」の衝撃 ちらつくホテル特需の終焉 絶好調のリゾートホテルも浮かれていられない、菅氏と小池氏のかけ引きに見る 「東京のGo To停止」があり得ない理由、GoToで感染爆発なら「菅首相の責任」の波紋 問われる事業継続の可否 勝負は12月の3週間) [国内政治]
今日まで更新を休む予定でいたが、GoTo問題の余りの分かり難さもあって、GoTo問題(その1)(「GoTo停止」の衝撃 ちらつくホテル特需の終焉 絶好調のリゾートホテルも浮かれていられない、菅氏と小池氏のかけ引きに見る 「東京のGo To停止」があり得ない理由、GoToで感染爆発なら「菅首相の責任」の波紋 問われる事業継続の可否 勝負は12月の3週間)を取上げよう。
先ずは、12月2日付け東洋経済オンライン「「GoTo停止」の衝撃、ちらつくホテル特需の終焉 絶好調のリゾートホテルも浮かれていられない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/392454
・『「11月まで好調だったが、12月の予約キャンセルがかかりはじめた」「ここにきて予約のペースが落ちている」――。ホテル業界関係者からは早速、懸念の声が聞こえてくる。 政府は11月24日、GoToトラベル事業の対象から、コロナ感染が拡大している大阪市、札幌市を一時除外すると発表した。12月15日までの3週間、両市を目的地とした旅行について、新規予約に対する適用を停止する(後に両市を出発する旅行の自粛も要請)。 たった3週間、大阪と札幌のみの除外にもかかわらず、懸念の声が上がるのは、足元のGoToによる需要の底上げ効果が絶大だからにほかならない』、東京都問題が加わる前の記事だが、旅行業界への影響をみるため紹介した次第である。
・『車で行ける高級リゾートホテルに恩恵 7月22日のキャンペーン開始にあたっては、コロナ感染の増加で「東京外し」が決まるなど混乱気味のスタートだった。そんな中、いち早く反応したのが都市部からそう遠くなく、高価格帯のリゾートホテルだ。 藤田観光の「箱根小涌園 天悠(てんゆう)」(150室)は全室露天風呂付きで、基本料金が1人1泊3万3000円~(2食付き)という高級旅館だ。7月の売上高は前年同月比60%程度にとどまっていたが、8月には前年実績と肩を並べ、9月、10月とさらに売り上げを伸ばした。10月初旬には稼働率が95%を超えるなど、ほぼ満室の盛況が続く。 同じく藤田観光のグランピングリゾート「藤乃煌(ふじのきらめき)富士御殿場」も、密を避ける構造から需要を捉えており、天悠とともに過去最高の稼働率を記録している。 この傾向は他社でも同様だ。プリンスホテルも、「ザ・プリンス箱根芦ノ湖」などを展開する箱根エリアは11月、稼働率で前年を上回って推移している。中でも各客室が独立した構造を持つコテージタイプのホテルが人気だ。プリンスホテルでは、箱根をはじめ大磯、軽井沢などが早期に回復をみせ、近場から訪れる客を中心に好調に推移しているという。 客のニーズをつかんだ理由は、なるべく接触を避けて移動・滞在できるクローズ感のようだ。客はコロナ感染リスクを十分に考慮したうえで、宿泊先を選んでいる。業界関係者は「感染リスクが少なく、都市部から車で1~2時間と公共交通機関を使わずに行ける適度な遠さの観光地に人気が集中している」と口々に語る』、潤っているのは都市部に近い高級ホテルのようだ。
・『テレワークの普及が追い風に? 千葉県の「鴨川グランドホテル」もGoTo需要をとらえた。前身の旅館時代から天皇陛下がたびたび宿泊した名門ホテルで、風呂付き、部屋食のハイグレードなプランが人気だ。平日の予約も多く、11月の稼働率は9割超と絶好調。法人需要は大幅に減ったが、個人客の宿泊が増え、単価を高く保っている。 こうした都市部に近いリゾートが平日も高稼働で推移する理由には、「テレワークが増え休暇が取りやすくなっている。休暇と仕事を合わせたワーケーションのような形で利用しているのではないか」(業界関係者)といった指摘がなされている。 そのほか、帝国ホテルでは週末を中心に、8万円前後と高単価のプランが人気で、以前よりも若い年齢層の宿泊が増えている。都心ながら緑に囲まれ、喧噪から離れた点が特徴の「ホテル椿山荘東京」も2020年10~12月期の宿泊部門は前年を上回る見通しだという。GoToは割引率が50%で一定のため、利用者が「いつもは利用できない高いホテルに泊まろう」と考えるのは当然の帰結だ。 一方、十分な効果を享受できなかったのは、1泊1万円台など値頃感のあるホテル。京都ホテルでは、1万円台のプランを中心とする「からすま京都ホテル」の予約が厳しい推移だという。首都圏で数店舗を展開するホテルチェーンの社員は「ファミリー向けなどで単価が低めだと、GoToの恩恵は週末しかない。土日は盛況でも、平日は赤字になってしまう」と語る。 ビジネスホテル各社も苦戦を強いられている。「ワシントンホテルプラザ」や「R&B」を展開するワシントンホテルは、4~9月期の客室稼働率が14.1%(前年同期は79.1%)だった。臨時休業の影響もあるが、ウェブ会議やテレワークの普及で出張需要が急激に落ち込んだ。 加えて、音楽ライブをはじめとする大規模なイベントが中止・延期になったことで、観光・レジャー需要も取り逃がす結果になった。各社とも地方を中心に稼働率を持ち直しつつあるが、本格回復には至っていない』、「値頃感のあるホテル」や「ビジネスホテル」は「苦戦」しているようだ。
・『忍び寄るGoTo特需の終わり ホテルの業態や料金に関係なく、都市部は総じて苦戦ぎみだ。帝国ホテルでは、前述のように週末の高単価なプランは好調だが、平日の稼働率が低いことで、全体の回復が遅れている。旅の目的となるイベントが大幅に減っていること、コロナ感染を恐れる動きが原因とみられる。実際、東京の感染者数が増加した7~8月には横浜や大宮で稼働率が上昇するなど、如実に「東京回避」の動きがみられたチェーンもあった。 このように濃淡こそあれど旅行需要を強力に刺激したGoTo。これまで業界関係者の間では「3月まで延長される」、「結局、ゴールデンウィークまで続くのではないか」などと、2021年1月までの期限を延長するとの楽観論が多くを占めていた。実際、自民党はゴールデンウィークまでの延長を提言している。 ただ、今回の一部都市の除外で、「GoToの終わり」を改めて意識した関係者は多かったのではないだろうか。今は活況に沸くリゾートホテルも、割引が終われば足をすくわれる恐れがある。訪日客需要が見込めない間は、仮にGoToが終わっても、日本人観光客をどうにか取り込み続けるしかない。重要なのはGoTo後を見据えた集客策だ。 GoToが始まる以前から、「コロナ禍では自宅から車で1~2時間で行ける地域を旅行する『マイクロツーリズム』がカギになる」と主張し続けてきたのが、星野リゾートの星野佳路代表だ。同社の「星のや京都」は8月の稼働率が9割超となり、現在に至るまで好調が続く。昨年は全体の半数近くをインバウンド客が占めたが、この消失を近場の客で補っている。 具体的な集客の戦術には地元産の食材を駆使し、かつ新しい食べ方を提案すること、地域と連携したアクティビティの開発、地元向けにタウン誌などでの情報発信を強化することなどだ。遠方からの客が年に数回も宿泊することはないが、マイクロツーリズムの客は何度も訪れる可能性があるという。これこそ、同社がマイクロツーリズムを重視する理由なのだ。 また、高級ホテルでは、GoToを機に訪れた若い層をリピーターとして取り込む努力も必要だ。「従来の客層よりも10~20歳ほど若い宿泊客が増えた」との声は多く聞かれる。資金と時間に余裕のある年配の常連客に力を注ぐだけでは、GoTo後に客を維持することはできないだろう』、「高級ホテル」で「従来の客層よりも10~20歳ほど若い宿泊客が増えた」のは、「GoTo」のお得感ゆえで、「リピーターとして取り込む」のは難しいだろう。
・『ビジネスホテルは業態転換まで検討 一方、ビジネスホテルは、出張需要の早期回復が期待できず、GoTo効果もないため、前代未聞の危機を抜け出せずにいる。それゆえに、「宿泊特化型」という、従来の枠を超えた取り組みも始まっている。 シンプルな朝食が付くのが定番だが、周辺の地元飲食店と提携した夕食付きプランを始めたホテル。そのほか自治体のキャンペーンと連携したプラン、長期滞在プランをアピールするホテル。一部フロアにデイサービス設備を導入するなど、業態変更の検討を始めたケースまである。各社とも何らかの付加価値を打ち出したり、独自のノウハウを生かそうとしている。 「金融危機でも震災でも、これほど需要が落ち込んだことはなかった」。業界幹部が語るように、GoToは自助努力のレベルを超える需要減から旅行業界を救うキャンペーンだった。だが、いつかは終わる。今回のように、コロナの感染動向次第で突然除外されることもある。強力な割引がなくとも客を呼べる知恵とサービスの創出が、今こそ求められているのだ』、「ビジネスホテルは業態転換まで検討」とはいっても、自ずから限界があるだろう。いずれにしろ、ホテル業界全体として厳しい時代を迎えたようだ。
次に、12月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「菅氏と小池氏のかけ引きに見る、「東京のGo To停止」があり得ない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/256201
・『なぜGo Toは停止にならなかった? 菅首相と小池知事のわかりにくい合意 12月1日、菅義偉首相と小池百合子東京都知事の会談が行われ、焦点となっていた東京都におけるGo Toトラベルの扱いをどうするかについて、「65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人」に自粛を呼びかけることで、合意しました。 わかりにくい合意に見えますが、ひとことでまとめれば、東京発着のGo Toトラベルの割引については、継続判断が合意されたということです。もちろん「自粛を呼びかけることで利用についての一定の歯止めになる」という政府や都の主張は理解したうえでの話ですが、それでも今回の合意の最大のポイントは「東京についてはGo Toトラベルは停止にならなかった」ということです。 先に「本当はGo Toを停止すべきだったのか?」について事実だけ申し上げます。予めGo Toトラベルの一時停止判断をする基準としては、6つの指標が決められており、「それらの指標が『ステージ3相当』となった場合に総合的に一時停止を検討する」とされていました。 現実には、東京よりも先に一部運用停止となった札幌と大阪では、すでに4つの指標でステージ3ではなく「ステージ4」に到達しており、その指標を踏まえてのそれぞれの知事による運用停止判断は、妥当だといえるでしょう。 では、東京はどうかというと、11月27日時点で厚生労働省が公表した指標では、やはり4つの指標でステージ4になっています。中でも、東京が北海道や大阪よりも上回っているのが重症者の確保想定病床使用率で、50.0%に達しており、医療現場から「何とかしてくれ」という悲鳴が上がっていたというのが、合意直前の状況でした。 ルール上は運用停止を検討する水準をすでに超えている東京都について、なぜ菅首相も小池都知事も停止を判断しなかったのでしょうか。それぞれの言い分と、これまでの経緯、そしてこれからどうなるのかについて、まとめてみたいと思います。 菅義偉首相がGo Toトラベルの運用見直しを表明したのは、11月21日でした。国の肝入りの経済政策であり、観光業関係者が越年できるかどうかの生命線を握るGo Toトラベル事業なので、その見直しには大きな影響があります。 しかし、この段階では見直しの中身は決まっておらず、しかも停止などの見直しについては「都道府県知事が判断し、政府が最終決定」するということで、その判断を知事に求めるという内容でした。 この方針を受けて、大阪府の吉村洋文知事は「大阪は当てはまると思うので、その方向で進めていきたい」と述べる一方で、北海道の鈴木直道知事は、当初は停止に反対しました。しかし道内の感染者が連日200人を超え、「大変苦しい判断だが、やむを得ない」と、札幌市をキャンペーンの対象から除外するよう、正式要請しました』、「ルール上は運用停止を検討する水準をすでに超えている東京都について、なぜ菅首相も小池都知事も停止を判断しなかったのでしょうか」、お互いに確執があるとしても、なんとも不自然だ。
・『国と都道府県のどちらがやるべき? 「Go To停止判断」の3つの論点 この大阪と北海道の判断とは対照的に、「国が判断すべき」と声を上げたのが小池百合子東京都知事でした。国と都道府県のどちらが判断すべきかの主張について、論点は3つあります。 1つ目は、東京都が「Go Toトラベル」事業の開始当初に、国による判断と決定で対象地域から除外されたという事実です。当時は「再流行は東京問題だ」という論調もあり、都は感染拡大の責任の矢面に立たされていました。これまでも国が判断してきた国のキャンペーンについて、今回だけ判断を都道府県に投げるのはおかしいのではないか、という論点です。 2つ目に札幌、大阪の判断の非合理性です。札幌市や大阪市を目的地とする旅行への補助は停止になったものの、札幌市民や大阪市民がGo Toトラベルを利用して他の地域に旅行することは可能という決定になったのですが、これでは感染拡大の防止にならないという指摘です。 3つ目に、政府がGo Toトラベルとコロナ第三波の流行は関係がないという説明を繰り返している点です。菅首相は衆議院予算委員会の集中審議で、「(Go Toトラベルが)原因だというエビデンスは存在しない」と発言しています。延べ利用者4000万人に対して感染者は202人に過ぎない、というのが政府の主張です。 「感染が拡大している地域への観光と、そうした地域からの旅行の両面を、行く場合と来る場合と、発着で止める必要があるのではないか、そうした全国的な視点、両方から止めるということについては、全国的な視点から国が判断を行うということが、筋ではないかというふうに考えております」 これが11月28日の段階における小池都知事の発言であり、その論拠から「国が判断すべき」と強く主張したわけです』、「「再流行は東京問題だ」という論調もあり」、これは菅官房長官(当時)の発言で、この頃から、ツバ競り合いをしてきた。「(Go Toトラベルが)原因だというエビデンスは存在しない」、というのはキチンとした調査をしている訳ではないので、疑わしい。
・『よく考えると見えて来る「停止」と「自粛」の効果の違い そして、逼迫する医療現場の悲鳴を受け、急遽菅首相と小池都知事の会談が行われたわけです。そこで都知事は、東京におけるGo Toトラベルの一時停止の判断を国に求めたということです。しかし、国は停止判断をしなかった。これが冒頭にお話ししたトップ会談の結果でした。 国の主張では、単なる自粛でも感染拡大防止にとっては一定の抑止策になるといいます。制度の細部は会談を受けて観光庁が急ピッチで詰めている最中ではありますが、論理的には自粛か停止かで、次のような違いが出てきます。 制度が一時停止になると、その期間に予定していた旅行に出かけても割引が受けられなくなります。だから、キャンセルが相次ぐ。そのキャンセル料は国が負担する方向で、キャンセルを促すように舵をとる。これが一時停止です。 一方で自粛の場合は、旅行を決行した場合、行き先が大阪か札幌でなければ割引は予定通り受けられます。ただし、高齢者が不安を感じた場合、中止にしてもキャンセル料は政府が負担してくれます。そうなると若者は、予定通り12月から1月にかけて旅行を楽しみ、高齢者の一部だけが旅行をキャンセルする方向にインセンティブが働く。これが自粛で起きることです。 旅行業界の立場から見れば、GoToトラベルがうまく回り出したのは10月に東京が対象になってからでした。現実には、東日本の道県民の国内旅行では、行き先の大半は東京で、それらの道や県に来訪する観光客の多くも、東京からの観光客です。 したがって、旅行業界から見れば、今回の自粛判断は「切れかかっていた最後の蜘蛛の糸が、何とか繋がった状態で留まった」と言えるでしょう。そう考えれば、経済を考えた国の判断の背景がよく理解できます』、「若者は、予定通り12月から1月にかけて旅行を楽しみ、高齢者の一部だけが旅行をキャンセルする方向にインセンティブが働く。これが自粛で起きること」、「GoToトラベルがうまく回り出したのは10月に東京が対象になってから」、「経済を考えた国の判断の背景」、なるほど。
・『今より事態が悪化した場合、「Go To停止」はあり得るのか では今後、事態が一歩進んだ場合に「東京ではGo Toトラベルを停止する」という判断になるのでしょうか。 あくまで私の予測ですが、そうはならないでしょう。その代わりに次のステージでは、「Go Toトラベルは全国一斉に停止し、期間を来年夏まで延長する」という宣言が下されるはずです。 今回の都道府県知事に判断を委ねるという騒動は、一歩引いて見れば、国民の間に議論を起こし、世論の問題意識を喚起することにあったのだと思います。そこに大阪の吉村知事、北海道の鈴木知事が応えたことで、政府は第一段階の目的は達したと思えます。 そして次の段階は、この冬、本格的に新型コロナ感染が拡大して、病床がどうしようもなく逼迫した段階です。そのときに判断すべきはGo Toトラベルといった個別政策ではなく、緊急事態宣言の是非でしょう。そして緊急事態宣言が下されれば、自動的にGo Toトラベルも全国的に一時停止になる。ただし、観光業界の救済のために停止したGo Toトラベルは来夏まで延長される。こういったシナリオがすでに検討済みなのではないかと、私は捉えています。 結局、首相も都知事もお互いに判断を押し付け合ったこと、そして抜本的ではない合意に至ったことは、いずれにしても国民にはわかりにくい状況でした。けれど、政治ゲームの当事者同士にとっては、意味のあるやりとりだったのだと思います』、「政治ゲームの当事者同士にとっては、意味のあるやりとりだった」、何が言いたいのか分からない。私の印象は、政府側の勝利で小池都知事側の完敗だと思う。
第三に、12月4日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「GoToで感染爆発なら「菅首相の責任」の波紋 問われる事業継続の可否、勝負は12月の3週間」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/393258
・『師走を迎えた永田町が「Go To政局」で大揺れとなっている。「コロナ感染防止と経済回復の両立を目指す、菅義偉首相肝いりのGo To事業が、冬場のコロナ感染急拡大により、継続の可否が厳しく問われているからだ。 立憲民主などの主要野党は「感染拡大防止のため、いったん事業中止」を主張するが、菅首相は「やめたら経済に甚大な悪影響がある」と、一部見直しなどで事業を継続し、2021年1月末までの実施時期も6月末まで延長する構えだ』、いくら「菅義偉首相肝いりのGo To事業」といっても、ここまで強引に突っ走るのは、二階幹事長の後押しもあるのだろう。
・『医療崩壊なら緊急事態「再宣言」も 12月17日までの「極めて重要な3週間」(菅首相)で東京、大阪など大都市が感染爆発となり、医療崩壊も現実味を帯びれば、政府は4月以来の緊急事態再宣言も検討せざるをえない。 その場合、年末年始の帰省や旅行の自粛圧力が強まり、緊急事態宣言下だった5月連休時と同様、観光だけでなく経済全体に大きな打撃を与えるのは避けられない。強引にGo To事業を押し進めてきた菅首相の政治責任も問われ、2021年1月18日召集予定の次期通常国会における野党側の厳しい追及で、「政権もピンチに陥る」(自民幹部)ことも想定される。 Go To事業は4月にコロナ収束後の実施を前提に政府が閣議決定した観光業救済策だ。安倍晋三内閣(当時)の官房長官だった菅首相が主導する形で、コロナ第2波が始まっていた7月下旬に、事業の中核であるGo Toトラベルを前倒しでスタートさせた。 ただ、感染再拡大が際立っていた東京都は、小池百合子都知事が「暖房と冷房を同時にかけるようなもの。(政府は)よーく考えてほしい」などと反発。結果的に政府が東京を除外して実施を決めた経緯がある。 ただ、夏休みの観光シーズンでの事業の経済効果は大きく、官房長官だった菅首相も「賭けに勝った」と周囲に漏らしたとされる。菅首相は9月16日の政権発足後も、Go Toを経済回復策の中軸に据え、秋や年末年始の観光シーズンにトラベル、イート両事業を全面展開する考えを繰り返してきた。 しかし、先行して冬場を迎えた北海道を先頭に全国的な感染急拡大が始まった。11月に入ってからは連日、感染者数や重傷者・死亡者が過去最高記録を更新する状況が続いており、国民の不安は高まるばかりだ。 政府の感染症対策分科会の尾身茂会長も危機感を強め、菅首相らに対し「今までのままでは(感染を)コントロールできない」などとGo To事業の一時中止など運用見直しを要望。日本医師会の中川俊男会長も「Go Toトラベルが(感染拡大の)きっかけになったことは間違いない」と政府の対応を批判した』、「夏休みの観光シーズンでの事業の経済効果は大きく、官房長官だった菅首相も「賭けに勝った」と周囲に漏らした」、「菅首相」にとっては誇るに足る成果だったのだろう。
・『菅首相は「エビデンスはない」と反論 しかし、菅首相は「専門家の間でも(Go Toが)主要な要因であるとのエビデンス(証拠)は現在のところ存在しないとされている」などと、方針転換を否定し続けた。11月下旬の3連休直前になってようやく、鈴木直道北海道知事と吉村洋文大阪府知事の要請に基づき、札幌市と大阪市をGo To目的地から除外する部分的な運用見直しを決めた。 その一方、東京都については「現場の状況を知る知事が判断すべきだ」とする政府と、「そもそも国の事業だから政府が対応を決めるべきだ」と主張する小池百合子知事との間での「責任の押し付け合い」(政府筋)が続いている。 ただ、12月1日には小池知事が首相官邸を訪れて菅首相と会談。トラベルの東京発着分について65歳以上の高齢者と基礎疾患を持つ人の利用自粛を要請することで一致した。 会談後、菅首相は「東京都知事の要請を受けて、65歳以上の高齢者と疾患を持つ人にGo Toトラベル利用の自粛を要請することにした」と説明。しかし、都庁で会見した小池氏は「停止を提案したが、調整の結果、自粛要請ということになった」などと双方の立場の違いをにじませた。 関係者によると、両者の会談は12月1日昼になって小池氏が急きょ申し入れ、菅首相と電話で協議したうえで、夕刻に直接会って方針を決めた。トラベル事業を担当する国土交通省や観光庁は徹夜作業での対応に追われたが、自粛要請という曖昧さと基礎疾患の確認などの困難さもあり、今後現場の混乱は必至だ。 札幌、大阪両市から出発する旅行でのトラベル事業の利用自粛要請は全閣僚が出席する政府対策本部で決定した。菅首相と親しい鈴木、吉村両知事との調整だったためで、政府はキャンセル料の扱いも含めてすぐ詳細を発表するなど混乱は少なかった。 しかし、小池氏の要請について、菅首相は「都の対応として理解できる」と述べるにとどめるなど、感情的に対立しているとされる両氏の意思疎通の不足も目立ち、それが政府と都の担当部局の混乱した対応を招いた』、「菅首相」、「小池氏」の意地の張り合いは、「菅首相」側の勝利だったようだ。
・『運用見直しでは感染は止まらない この菅・小池会談に象徴されるように、Go To事業の運用方法をめぐっては、政府が都道府県知事に判断を委ねる立場を打ち出したのに対し、知事側からは「国が知事任せにするのは責任放棄だ」(有力知事)との不満が噴出している。 東京での高齢者などの発着自粛要請についても、医療関係者からは「そもそも高齢者や基礎疾患の人は、Go To利用を控えていたはず。むしろ、感染していても無症状で活発に活動する若い世代にこそ自粛要請すべきだった」との指摘が相次ぐなど、対応の「ちぐはぐ感」(都庁幹部)は否めない。 「重要な3週間」が終わるのは12月17日だが、専門家の間では「東京も含めた一部の運用見直しだけでは、それまでに感染拡大が止まるはずがない」との見方が支配的だ。12月最初の週末には「感染者が4000人を突破し、東京の感染者も600人超えとなるのは必至」との見方も出る。 重傷者・死亡者増は1週間程度遅れて現れるとされるだけに、12月17日前後に感染急拡大が頂点に達し、「東京、大阪など大都市が事実上の感染爆発状態になる可能性」(専門家)も否定できない。 そうなれば、菅首相は年末年始の緊急事態再宣言を検討することを迫られる。ただ、政府与党は臨時国会を延長せずに5日で閉会させ、その後は第3次補正予算案や2021年度予算案の編成作業に全力を挙げる一方、緊急事態宣言は回避する方針だ。 野党側は年末ぎりぎりまで会期を延長し、Go To問題や桜を見る会前夜祭の経費補填問題で安倍前首相の国会招致を求めているが、自民党は国会閉会後も毎週、衆参両院での閉会中審査を実施することで野党を説得する構えだ。 そうした中、野党側は臨時国会会期末の内閣不信任案提出を見送る方向となった。自民党が国民投票法の次期通常国会での採決を容認する姿勢を示したのが提出見送りの理由だが、「不信任提出が年明け解散の引き金になることを恐れた」(国民民主幹部)との見方も出る。 国会閉会後、菅首相は予算編成などで政府の対応を国民にアピールする一方、NTTドコモが3日に発表した携帯料金大幅値下げなどを政策運営の成果として、コロナ対応での迷走批判をかわしたい考えだとされる。 菅首相は12月2日夜、都内での自民党議員との会食で、ドコモの料金値下げについて、「大きな第一歩を踏み出してくれたことは非常にありがたい」などと自慢げに語ったとされる』、「そもそも高齢者や基礎疾患の人は、Go To利用を控えていたはず。むしろ、感染していても無症状で活発に活動する若い世代にこそ自粛要請すべきだった」との指摘には同感である。「野党側は臨時国会会期末の内閣不信任案提出を見送る」、解散を恐れてのことなのだろうが、正々堂々と勝負すべきだ。
・『会見で問われる「首相の器」 しかし、年末までに感染爆発状態となれば、緊急事態再宣言をしなくても経済への打撃は計り知れない。感染によって死亡者が増えたり、企業倒産の増加などに伴う自殺者急増が重なれば、感染防止優先派と経済回復優先派の双方から政府の責任が追及されることは避けられない。 菅首相は国会が事実上閉幕する12月4日夕にも、就任時以来2度目の本格的記者会見に臨むとみられる。しかし、これまでの国会答弁のようにメモの棒読みに終始し、質問にも自らの言葉で説明できなければ、「首相としての器かどうか」も問われかねない。 自民党の吉川貴盛元農林水産相が在任中に大手鶏卵生産会社の元幹部から現金を受け取った疑惑が浮上したことも、菅政権への打撃となっている。安倍前首相の桜疑惑とともに年内の捜査進展は必至とみられており、与党内にも不安が広がる。 年末年始の政局展開次第では菅首相の解散権も縛られ、「2021年9月の総裁再選による4年の本格政権どころか、任期内の退陣も含めた政権危機も現実のものとなりかねない」(自民長老)との見方も出る。菅首相にとって年末までの師走が「政権の命運を決める重要な4週間」(同)となりそうだ』、「菅首相」は「小池氏」に勝ったとはいえ、「年末までに感染爆発状態となれば」、「エビデンスはない」と強弁できなくなり、「Go To問題」での判断の妥当性を問う声が高まるだろう。
先ずは、12月2日付け東洋経済オンライン「「GoTo停止」の衝撃、ちらつくホテル特需の終焉 絶好調のリゾートホテルも浮かれていられない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/392454
・『「11月まで好調だったが、12月の予約キャンセルがかかりはじめた」「ここにきて予約のペースが落ちている」――。ホテル業界関係者からは早速、懸念の声が聞こえてくる。 政府は11月24日、GoToトラベル事業の対象から、コロナ感染が拡大している大阪市、札幌市を一時除外すると発表した。12月15日までの3週間、両市を目的地とした旅行について、新規予約に対する適用を停止する(後に両市を出発する旅行の自粛も要請)。 たった3週間、大阪と札幌のみの除外にもかかわらず、懸念の声が上がるのは、足元のGoToによる需要の底上げ効果が絶大だからにほかならない』、東京都問題が加わる前の記事だが、旅行業界への影響をみるため紹介した次第である。
・『車で行ける高級リゾートホテルに恩恵 7月22日のキャンペーン開始にあたっては、コロナ感染の増加で「東京外し」が決まるなど混乱気味のスタートだった。そんな中、いち早く反応したのが都市部からそう遠くなく、高価格帯のリゾートホテルだ。 藤田観光の「箱根小涌園 天悠(てんゆう)」(150室)は全室露天風呂付きで、基本料金が1人1泊3万3000円~(2食付き)という高級旅館だ。7月の売上高は前年同月比60%程度にとどまっていたが、8月には前年実績と肩を並べ、9月、10月とさらに売り上げを伸ばした。10月初旬には稼働率が95%を超えるなど、ほぼ満室の盛況が続く。 同じく藤田観光のグランピングリゾート「藤乃煌(ふじのきらめき)富士御殿場」も、密を避ける構造から需要を捉えており、天悠とともに過去最高の稼働率を記録している。 この傾向は他社でも同様だ。プリンスホテルも、「ザ・プリンス箱根芦ノ湖」などを展開する箱根エリアは11月、稼働率で前年を上回って推移している。中でも各客室が独立した構造を持つコテージタイプのホテルが人気だ。プリンスホテルでは、箱根をはじめ大磯、軽井沢などが早期に回復をみせ、近場から訪れる客を中心に好調に推移しているという。 客のニーズをつかんだ理由は、なるべく接触を避けて移動・滞在できるクローズ感のようだ。客はコロナ感染リスクを十分に考慮したうえで、宿泊先を選んでいる。業界関係者は「感染リスクが少なく、都市部から車で1~2時間と公共交通機関を使わずに行ける適度な遠さの観光地に人気が集中している」と口々に語る』、潤っているのは都市部に近い高級ホテルのようだ。
・『テレワークの普及が追い風に? 千葉県の「鴨川グランドホテル」もGoTo需要をとらえた。前身の旅館時代から天皇陛下がたびたび宿泊した名門ホテルで、風呂付き、部屋食のハイグレードなプランが人気だ。平日の予約も多く、11月の稼働率は9割超と絶好調。法人需要は大幅に減ったが、個人客の宿泊が増え、単価を高く保っている。 こうした都市部に近いリゾートが平日も高稼働で推移する理由には、「テレワークが増え休暇が取りやすくなっている。休暇と仕事を合わせたワーケーションのような形で利用しているのではないか」(業界関係者)といった指摘がなされている。 そのほか、帝国ホテルでは週末を中心に、8万円前後と高単価のプランが人気で、以前よりも若い年齢層の宿泊が増えている。都心ながら緑に囲まれ、喧噪から離れた点が特徴の「ホテル椿山荘東京」も2020年10~12月期の宿泊部門は前年を上回る見通しだという。GoToは割引率が50%で一定のため、利用者が「いつもは利用できない高いホテルに泊まろう」と考えるのは当然の帰結だ。 一方、十分な効果を享受できなかったのは、1泊1万円台など値頃感のあるホテル。京都ホテルでは、1万円台のプランを中心とする「からすま京都ホテル」の予約が厳しい推移だという。首都圏で数店舗を展開するホテルチェーンの社員は「ファミリー向けなどで単価が低めだと、GoToの恩恵は週末しかない。土日は盛況でも、平日は赤字になってしまう」と語る。 ビジネスホテル各社も苦戦を強いられている。「ワシントンホテルプラザ」や「R&B」を展開するワシントンホテルは、4~9月期の客室稼働率が14.1%(前年同期は79.1%)だった。臨時休業の影響もあるが、ウェブ会議やテレワークの普及で出張需要が急激に落ち込んだ。 加えて、音楽ライブをはじめとする大規模なイベントが中止・延期になったことで、観光・レジャー需要も取り逃がす結果になった。各社とも地方を中心に稼働率を持ち直しつつあるが、本格回復には至っていない』、「値頃感のあるホテル」や「ビジネスホテル」は「苦戦」しているようだ。
・『忍び寄るGoTo特需の終わり ホテルの業態や料金に関係なく、都市部は総じて苦戦ぎみだ。帝国ホテルでは、前述のように週末の高単価なプランは好調だが、平日の稼働率が低いことで、全体の回復が遅れている。旅の目的となるイベントが大幅に減っていること、コロナ感染を恐れる動きが原因とみられる。実際、東京の感染者数が増加した7~8月には横浜や大宮で稼働率が上昇するなど、如実に「東京回避」の動きがみられたチェーンもあった。 このように濃淡こそあれど旅行需要を強力に刺激したGoTo。これまで業界関係者の間では「3月まで延長される」、「結局、ゴールデンウィークまで続くのではないか」などと、2021年1月までの期限を延長するとの楽観論が多くを占めていた。実際、自民党はゴールデンウィークまでの延長を提言している。 ただ、今回の一部都市の除外で、「GoToの終わり」を改めて意識した関係者は多かったのではないだろうか。今は活況に沸くリゾートホテルも、割引が終われば足をすくわれる恐れがある。訪日客需要が見込めない間は、仮にGoToが終わっても、日本人観光客をどうにか取り込み続けるしかない。重要なのはGoTo後を見据えた集客策だ。 GoToが始まる以前から、「コロナ禍では自宅から車で1~2時間で行ける地域を旅行する『マイクロツーリズム』がカギになる」と主張し続けてきたのが、星野リゾートの星野佳路代表だ。同社の「星のや京都」は8月の稼働率が9割超となり、現在に至るまで好調が続く。昨年は全体の半数近くをインバウンド客が占めたが、この消失を近場の客で補っている。 具体的な集客の戦術には地元産の食材を駆使し、かつ新しい食べ方を提案すること、地域と連携したアクティビティの開発、地元向けにタウン誌などでの情報発信を強化することなどだ。遠方からの客が年に数回も宿泊することはないが、マイクロツーリズムの客は何度も訪れる可能性があるという。これこそ、同社がマイクロツーリズムを重視する理由なのだ。 また、高級ホテルでは、GoToを機に訪れた若い層をリピーターとして取り込む努力も必要だ。「従来の客層よりも10~20歳ほど若い宿泊客が増えた」との声は多く聞かれる。資金と時間に余裕のある年配の常連客に力を注ぐだけでは、GoTo後に客を維持することはできないだろう』、「高級ホテル」で「従来の客層よりも10~20歳ほど若い宿泊客が増えた」のは、「GoTo」のお得感ゆえで、「リピーターとして取り込む」のは難しいだろう。
・『ビジネスホテルは業態転換まで検討 一方、ビジネスホテルは、出張需要の早期回復が期待できず、GoTo効果もないため、前代未聞の危機を抜け出せずにいる。それゆえに、「宿泊特化型」という、従来の枠を超えた取り組みも始まっている。 シンプルな朝食が付くのが定番だが、周辺の地元飲食店と提携した夕食付きプランを始めたホテル。そのほか自治体のキャンペーンと連携したプラン、長期滞在プランをアピールするホテル。一部フロアにデイサービス設備を導入するなど、業態変更の検討を始めたケースまである。各社とも何らかの付加価値を打ち出したり、独自のノウハウを生かそうとしている。 「金融危機でも震災でも、これほど需要が落ち込んだことはなかった」。業界幹部が語るように、GoToは自助努力のレベルを超える需要減から旅行業界を救うキャンペーンだった。だが、いつかは終わる。今回のように、コロナの感染動向次第で突然除外されることもある。強力な割引がなくとも客を呼べる知恵とサービスの創出が、今こそ求められているのだ』、「ビジネスホテルは業態転換まで検討」とはいっても、自ずから限界があるだろう。いずれにしろ、ホテル業界全体として厳しい時代を迎えたようだ。
次に、12月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「菅氏と小池氏のかけ引きに見る、「東京のGo To停止」があり得ない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/256201
・『なぜGo Toは停止にならなかった? 菅首相と小池知事のわかりにくい合意 12月1日、菅義偉首相と小池百合子東京都知事の会談が行われ、焦点となっていた東京都におけるGo Toトラベルの扱いをどうするかについて、「65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人」に自粛を呼びかけることで、合意しました。 わかりにくい合意に見えますが、ひとことでまとめれば、東京発着のGo Toトラベルの割引については、継続判断が合意されたということです。もちろん「自粛を呼びかけることで利用についての一定の歯止めになる」という政府や都の主張は理解したうえでの話ですが、それでも今回の合意の最大のポイントは「東京についてはGo Toトラベルは停止にならなかった」ということです。 先に「本当はGo Toを停止すべきだったのか?」について事実だけ申し上げます。予めGo Toトラベルの一時停止判断をする基準としては、6つの指標が決められており、「それらの指標が『ステージ3相当』となった場合に総合的に一時停止を検討する」とされていました。 現実には、東京よりも先に一部運用停止となった札幌と大阪では、すでに4つの指標でステージ3ではなく「ステージ4」に到達しており、その指標を踏まえてのそれぞれの知事による運用停止判断は、妥当だといえるでしょう。 では、東京はどうかというと、11月27日時点で厚生労働省が公表した指標では、やはり4つの指標でステージ4になっています。中でも、東京が北海道や大阪よりも上回っているのが重症者の確保想定病床使用率で、50.0%に達しており、医療現場から「何とかしてくれ」という悲鳴が上がっていたというのが、合意直前の状況でした。 ルール上は運用停止を検討する水準をすでに超えている東京都について、なぜ菅首相も小池都知事も停止を判断しなかったのでしょうか。それぞれの言い分と、これまでの経緯、そしてこれからどうなるのかについて、まとめてみたいと思います。 菅義偉首相がGo Toトラベルの運用見直しを表明したのは、11月21日でした。国の肝入りの経済政策であり、観光業関係者が越年できるかどうかの生命線を握るGo Toトラベル事業なので、その見直しには大きな影響があります。 しかし、この段階では見直しの中身は決まっておらず、しかも停止などの見直しについては「都道府県知事が判断し、政府が最終決定」するということで、その判断を知事に求めるという内容でした。 この方針を受けて、大阪府の吉村洋文知事は「大阪は当てはまると思うので、その方向で進めていきたい」と述べる一方で、北海道の鈴木直道知事は、当初は停止に反対しました。しかし道内の感染者が連日200人を超え、「大変苦しい判断だが、やむを得ない」と、札幌市をキャンペーンの対象から除外するよう、正式要請しました』、「ルール上は運用停止を検討する水準をすでに超えている東京都について、なぜ菅首相も小池都知事も停止を判断しなかったのでしょうか」、お互いに確執があるとしても、なんとも不自然だ。
・『国と都道府県のどちらがやるべき? 「Go To停止判断」の3つの論点 この大阪と北海道の判断とは対照的に、「国が判断すべき」と声を上げたのが小池百合子東京都知事でした。国と都道府県のどちらが判断すべきかの主張について、論点は3つあります。 1つ目は、東京都が「Go Toトラベル」事業の開始当初に、国による判断と決定で対象地域から除外されたという事実です。当時は「再流行は東京問題だ」という論調もあり、都は感染拡大の責任の矢面に立たされていました。これまでも国が判断してきた国のキャンペーンについて、今回だけ判断を都道府県に投げるのはおかしいのではないか、という論点です。 2つ目に札幌、大阪の判断の非合理性です。札幌市や大阪市を目的地とする旅行への補助は停止になったものの、札幌市民や大阪市民がGo Toトラベルを利用して他の地域に旅行することは可能という決定になったのですが、これでは感染拡大の防止にならないという指摘です。 3つ目に、政府がGo Toトラベルとコロナ第三波の流行は関係がないという説明を繰り返している点です。菅首相は衆議院予算委員会の集中審議で、「(Go Toトラベルが)原因だというエビデンスは存在しない」と発言しています。延べ利用者4000万人に対して感染者は202人に過ぎない、というのが政府の主張です。 「感染が拡大している地域への観光と、そうした地域からの旅行の両面を、行く場合と来る場合と、発着で止める必要があるのではないか、そうした全国的な視点、両方から止めるということについては、全国的な視点から国が判断を行うということが、筋ではないかというふうに考えております」 これが11月28日の段階における小池都知事の発言であり、その論拠から「国が判断すべき」と強く主張したわけです』、「「再流行は東京問題だ」という論調もあり」、これは菅官房長官(当時)の発言で、この頃から、ツバ競り合いをしてきた。「(Go Toトラベルが)原因だというエビデンスは存在しない」、というのはキチンとした調査をしている訳ではないので、疑わしい。
・『よく考えると見えて来る「停止」と「自粛」の効果の違い そして、逼迫する医療現場の悲鳴を受け、急遽菅首相と小池都知事の会談が行われたわけです。そこで都知事は、東京におけるGo Toトラベルの一時停止の判断を国に求めたということです。しかし、国は停止判断をしなかった。これが冒頭にお話ししたトップ会談の結果でした。 国の主張では、単なる自粛でも感染拡大防止にとっては一定の抑止策になるといいます。制度の細部は会談を受けて観光庁が急ピッチで詰めている最中ではありますが、論理的には自粛か停止かで、次のような違いが出てきます。 制度が一時停止になると、その期間に予定していた旅行に出かけても割引が受けられなくなります。だから、キャンセルが相次ぐ。そのキャンセル料は国が負担する方向で、キャンセルを促すように舵をとる。これが一時停止です。 一方で自粛の場合は、旅行を決行した場合、行き先が大阪か札幌でなければ割引は予定通り受けられます。ただし、高齢者が不安を感じた場合、中止にしてもキャンセル料は政府が負担してくれます。そうなると若者は、予定通り12月から1月にかけて旅行を楽しみ、高齢者の一部だけが旅行をキャンセルする方向にインセンティブが働く。これが自粛で起きることです。 旅行業界の立場から見れば、GoToトラベルがうまく回り出したのは10月に東京が対象になってからでした。現実には、東日本の道県民の国内旅行では、行き先の大半は東京で、それらの道や県に来訪する観光客の多くも、東京からの観光客です。 したがって、旅行業界から見れば、今回の自粛判断は「切れかかっていた最後の蜘蛛の糸が、何とか繋がった状態で留まった」と言えるでしょう。そう考えれば、経済を考えた国の判断の背景がよく理解できます』、「若者は、予定通り12月から1月にかけて旅行を楽しみ、高齢者の一部だけが旅行をキャンセルする方向にインセンティブが働く。これが自粛で起きること」、「GoToトラベルがうまく回り出したのは10月に東京が対象になってから」、「経済を考えた国の判断の背景」、なるほど。
・『今より事態が悪化した場合、「Go To停止」はあり得るのか では今後、事態が一歩進んだ場合に「東京ではGo Toトラベルを停止する」という判断になるのでしょうか。 あくまで私の予測ですが、そうはならないでしょう。その代わりに次のステージでは、「Go Toトラベルは全国一斉に停止し、期間を来年夏まで延長する」という宣言が下されるはずです。 今回の都道府県知事に判断を委ねるという騒動は、一歩引いて見れば、国民の間に議論を起こし、世論の問題意識を喚起することにあったのだと思います。そこに大阪の吉村知事、北海道の鈴木知事が応えたことで、政府は第一段階の目的は達したと思えます。 そして次の段階は、この冬、本格的に新型コロナ感染が拡大して、病床がどうしようもなく逼迫した段階です。そのときに判断すべきはGo Toトラベルといった個別政策ではなく、緊急事態宣言の是非でしょう。そして緊急事態宣言が下されれば、自動的にGo Toトラベルも全国的に一時停止になる。ただし、観光業界の救済のために停止したGo Toトラベルは来夏まで延長される。こういったシナリオがすでに検討済みなのではないかと、私は捉えています。 結局、首相も都知事もお互いに判断を押し付け合ったこと、そして抜本的ではない合意に至ったことは、いずれにしても国民にはわかりにくい状況でした。けれど、政治ゲームの当事者同士にとっては、意味のあるやりとりだったのだと思います』、「政治ゲームの当事者同士にとっては、意味のあるやりとりだった」、何が言いたいのか分からない。私の印象は、政府側の勝利で小池都知事側の完敗だと思う。
第三に、12月4日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「GoToで感染爆発なら「菅首相の責任」の波紋 問われる事業継続の可否、勝負は12月の3週間」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/393258
・『師走を迎えた永田町が「Go To政局」で大揺れとなっている。「コロナ感染防止と経済回復の両立を目指す、菅義偉首相肝いりのGo To事業が、冬場のコロナ感染急拡大により、継続の可否が厳しく問われているからだ。 立憲民主などの主要野党は「感染拡大防止のため、いったん事業中止」を主張するが、菅首相は「やめたら経済に甚大な悪影響がある」と、一部見直しなどで事業を継続し、2021年1月末までの実施時期も6月末まで延長する構えだ』、いくら「菅義偉首相肝いりのGo To事業」といっても、ここまで強引に突っ走るのは、二階幹事長の後押しもあるのだろう。
・『医療崩壊なら緊急事態「再宣言」も 12月17日までの「極めて重要な3週間」(菅首相)で東京、大阪など大都市が感染爆発となり、医療崩壊も現実味を帯びれば、政府は4月以来の緊急事態再宣言も検討せざるをえない。 その場合、年末年始の帰省や旅行の自粛圧力が強まり、緊急事態宣言下だった5月連休時と同様、観光だけでなく経済全体に大きな打撃を与えるのは避けられない。強引にGo To事業を押し進めてきた菅首相の政治責任も問われ、2021年1月18日召集予定の次期通常国会における野党側の厳しい追及で、「政権もピンチに陥る」(自民幹部)ことも想定される。 Go To事業は4月にコロナ収束後の実施を前提に政府が閣議決定した観光業救済策だ。安倍晋三内閣(当時)の官房長官だった菅首相が主導する形で、コロナ第2波が始まっていた7月下旬に、事業の中核であるGo Toトラベルを前倒しでスタートさせた。 ただ、感染再拡大が際立っていた東京都は、小池百合子都知事が「暖房と冷房を同時にかけるようなもの。(政府は)よーく考えてほしい」などと反発。結果的に政府が東京を除外して実施を決めた経緯がある。 ただ、夏休みの観光シーズンでの事業の経済効果は大きく、官房長官だった菅首相も「賭けに勝った」と周囲に漏らしたとされる。菅首相は9月16日の政権発足後も、Go Toを経済回復策の中軸に据え、秋や年末年始の観光シーズンにトラベル、イート両事業を全面展開する考えを繰り返してきた。 しかし、先行して冬場を迎えた北海道を先頭に全国的な感染急拡大が始まった。11月に入ってからは連日、感染者数や重傷者・死亡者が過去最高記録を更新する状況が続いており、国民の不安は高まるばかりだ。 政府の感染症対策分科会の尾身茂会長も危機感を強め、菅首相らに対し「今までのままでは(感染を)コントロールできない」などとGo To事業の一時中止など運用見直しを要望。日本医師会の中川俊男会長も「Go Toトラベルが(感染拡大の)きっかけになったことは間違いない」と政府の対応を批判した』、「夏休みの観光シーズンでの事業の経済効果は大きく、官房長官だった菅首相も「賭けに勝った」と周囲に漏らした」、「菅首相」にとっては誇るに足る成果だったのだろう。
・『菅首相は「エビデンスはない」と反論 しかし、菅首相は「専門家の間でも(Go Toが)主要な要因であるとのエビデンス(証拠)は現在のところ存在しないとされている」などと、方針転換を否定し続けた。11月下旬の3連休直前になってようやく、鈴木直道北海道知事と吉村洋文大阪府知事の要請に基づき、札幌市と大阪市をGo To目的地から除外する部分的な運用見直しを決めた。 その一方、東京都については「現場の状況を知る知事が判断すべきだ」とする政府と、「そもそも国の事業だから政府が対応を決めるべきだ」と主張する小池百合子知事との間での「責任の押し付け合い」(政府筋)が続いている。 ただ、12月1日には小池知事が首相官邸を訪れて菅首相と会談。トラベルの東京発着分について65歳以上の高齢者と基礎疾患を持つ人の利用自粛を要請することで一致した。 会談後、菅首相は「東京都知事の要請を受けて、65歳以上の高齢者と疾患を持つ人にGo Toトラベル利用の自粛を要請することにした」と説明。しかし、都庁で会見した小池氏は「停止を提案したが、調整の結果、自粛要請ということになった」などと双方の立場の違いをにじませた。 関係者によると、両者の会談は12月1日昼になって小池氏が急きょ申し入れ、菅首相と電話で協議したうえで、夕刻に直接会って方針を決めた。トラベル事業を担当する国土交通省や観光庁は徹夜作業での対応に追われたが、自粛要請という曖昧さと基礎疾患の確認などの困難さもあり、今後現場の混乱は必至だ。 札幌、大阪両市から出発する旅行でのトラベル事業の利用自粛要請は全閣僚が出席する政府対策本部で決定した。菅首相と親しい鈴木、吉村両知事との調整だったためで、政府はキャンセル料の扱いも含めてすぐ詳細を発表するなど混乱は少なかった。 しかし、小池氏の要請について、菅首相は「都の対応として理解できる」と述べるにとどめるなど、感情的に対立しているとされる両氏の意思疎通の不足も目立ち、それが政府と都の担当部局の混乱した対応を招いた』、「菅首相」、「小池氏」の意地の張り合いは、「菅首相」側の勝利だったようだ。
・『運用見直しでは感染は止まらない この菅・小池会談に象徴されるように、Go To事業の運用方法をめぐっては、政府が都道府県知事に判断を委ねる立場を打ち出したのに対し、知事側からは「国が知事任せにするのは責任放棄だ」(有力知事)との不満が噴出している。 東京での高齢者などの発着自粛要請についても、医療関係者からは「そもそも高齢者や基礎疾患の人は、Go To利用を控えていたはず。むしろ、感染していても無症状で活発に活動する若い世代にこそ自粛要請すべきだった」との指摘が相次ぐなど、対応の「ちぐはぐ感」(都庁幹部)は否めない。 「重要な3週間」が終わるのは12月17日だが、専門家の間では「東京も含めた一部の運用見直しだけでは、それまでに感染拡大が止まるはずがない」との見方が支配的だ。12月最初の週末には「感染者が4000人を突破し、東京の感染者も600人超えとなるのは必至」との見方も出る。 重傷者・死亡者増は1週間程度遅れて現れるとされるだけに、12月17日前後に感染急拡大が頂点に達し、「東京、大阪など大都市が事実上の感染爆発状態になる可能性」(専門家)も否定できない。 そうなれば、菅首相は年末年始の緊急事態再宣言を検討することを迫られる。ただ、政府与党は臨時国会を延長せずに5日で閉会させ、その後は第3次補正予算案や2021年度予算案の編成作業に全力を挙げる一方、緊急事態宣言は回避する方針だ。 野党側は年末ぎりぎりまで会期を延長し、Go To問題や桜を見る会前夜祭の経費補填問題で安倍前首相の国会招致を求めているが、自民党は国会閉会後も毎週、衆参両院での閉会中審査を実施することで野党を説得する構えだ。 そうした中、野党側は臨時国会会期末の内閣不信任案提出を見送る方向となった。自民党が国民投票法の次期通常国会での採決を容認する姿勢を示したのが提出見送りの理由だが、「不信任提出が年明け解散の引き金になることを恐れた」(国民民主幹部)との見方も出る。 国会閉会後、菅首相は予算編成などで政府の対応を国民にアピールする一方、NTTドコモが3日に発表した携帯料金大幅値下げなどを政策運営の成果として、コロナ対応での迷走批判をかわしたい考えだとされる。 菅首相は12月2日夜、都内での自民党議員との会食で、ドコモの料金値下げについて、「大きな第一歩を踏み出してくれたことは非常にありがたい」などと自慢げに語ったとされる』、「そもそも高齢者や基礎疾患の人は、Go To利用を控えていたはず。むしろ、感染していても無症状で活発に活動する若い世代にこそ自粛要請すべきだった」との指摘には同感である。「野党側は臨時国会会期末の内閣不信任案提出を見送る」、解散を恐れてのことなのだろうが、正々堂々と勝負すべきだ。
・『会見で問われる「首相の器」 しかし、年末までに感染爆発状態となれば、緊急事態再宣言をしなくても経済への打撃は計り知れない。感染によって死亡者が増えたり、企業倒産の増加などに伴う自殺者急増が重なれば、感染防止優先派と経済回復優先派の双方から政府の責任が追及されることは避けられない。 菅首相は国会が事実上閉幕する12月4日夕にも、就任時以来2度目の本格的記者会見に臨むとみられる。しかし、これまでの国会答弁のようにメモの棒読みに終始し、質問にも自らの言葉で説明できなければ、「首相としての器かどうか」も問われかねない。 自民党の吉川貴盛元農林水産相が在任中に大手鶏卵生産会社の元幹部から現金を受け取った疑惑が浮上したことも、菅政権への打撃となっている。安倍前首相の桜疑惑とともに年内の捜査進展は必至とみられており、与党内にも不安が広がる。 年末年始の政局展開次第では菅首相の解散権も縛られ、「2021年9月の総裁再選による4年の本格政権どころか、任期内の退陣も含めた政権危機も現実のものとなりかねない」(自民長老)との見方も出る。菅首相にとって年末までの師走が「政権の命運を決める重要な4週間」(同)となりそうだ』、「菅首相」は「小池氏」に勝ったとはいえ、「年末までに感染爆発状態となれば」、「エビデンスはない」と強弁できなくなり、「Go To問題」での判断の妥当性を問う声が高まるだろう。
タグ:「値頃感のあるホテル」や「ビジネスホテル」は「苦戦」 テレワークの普及が追い風に? 「菅首相」は「小池氏」に勝ったとはいえ、「年末までに感染爆発状態となれば」、「エビデンスはない」と強弁できなくなり、「Go To問題」での判断の妥当性を問う声が高まるだろう 会見で問われる「首相の器」 潤っているのは都市部に近い高級ホテルのようだ 野党側は臨時国会会期末の内閣不信任案提出を見送る」、解散を恐れてのことなのだろうが、正々堂々と勝負すべきだ 「高級ホテル」で「従来の客層よりも10~20歳ほど若い宿泊客が増えた」のは、「GoTo」のお得感ゆえで、「リピーターとして取り込む」のは難しいだろう 忍び寄るGoTo特需の終わり 車で行ける高級リゾートホテルに恩恵 「「GoTo停止」の衝撃、ちらつくホテル特需の終焉 絶好調のリゾートホテルも浮かれていられない」 東洋経済オンライン GoTo問題 そもそも高齢者や基礎疾患の人は、Go To利用を控えていたはず。むしろ、感染していても無症状で活発に活動する若い世代にこそ自粛要請すべきだった」との指摘には同感である 運用見直しでは感染は止まらない 「菅首相」、「小池氏」の意地の張り合いは、「菅首相」側の勝利だったようだ 菅首相は「エビデンスはない」と反論 夏休みの観光シーズンでの事業の経済効果は大きく、官房長官だった菅首相も「賭けに勝った」と周囲に漏らした 医療崩壊なら緊急事態「再宣言」も 「GoToで感染爆発なら「菅首相の責任」の波紋 問われる事業継続の可否、勝負は12月の3週間」 泉 宏 今より事態が悪化した場合、「Go To停止」はあり得るのか 経済を考えた国の判断の背景 (その1)(「GoTo停止」の衝撃 ちらつくホテル特需の終焉 絶好調のリゾートホテルも浮かれていられない、菅氏と小池氏のかけ引きに見る 「東京のGo To停止」があり得ない理由、GoToで感染爆発なら「菅首相の責任」の波紋 問われる事業継続の可否 勝負は12月の3週間) GoToトラベルがうまく回り出したのは10月に東京が対象になってから 若者は、予定通り12月から1月にかけて旅行を楽しみ、高齢者の一部だけが旅行をキャンセルする方向にインセンティブが働く。これが自粛で起きること よく考えると見えて来る「停止」と「自粛」の効果の違い (Go Toトラベルが)原因だというエビデンスは存在しない」、というのはキチンとした調査をしている訳ではないので、疑わしい 「再流行は東京問題だ」という論調もあり」、これは菅官房長官(当時)の発言で、この頃から、ツバ競り合いをしてきた (Go Toトラベルが)原因だというエビデンスは存在しない」 3つ目に、政府がGo Toトラベルとコロナ第三波の流行は関係がないという説明を繰り返している点 2つ目に札幌、大阪の判断の非合理性 1つ目は、東京都が「Go Toトラベル」事業の開始当初に、国による判断と決定で対象地域から除外された 国と都道府県のどちらがやるべき? 「Go To停止判断」の3つの論点 ルール上は運用停止を検討する水準をすでに超えている東京都について、なぜ菅首相も小池都知事も停止を判断しなかったのでしょうか 今回の合意の最大のポイントは「東京についてはGo Toトラベルは停止にならなかった」 なぜGo Toは停止にならなかった? 菅首相と小池知事のわかりにくい合意 「菅氏と小池氏のかけ引きに見る、「東京のGo To停止」があり得ない理由」 鈴木貴博 ダイヤモンド・オンライン ビジネスホテルは業態転換まで検討
教育(その22)(毎年5000人が心を病む「教員」の過酷すぎる実態 疲労やストレスをためこんで心身が疲弊する、英国の超名門校トップが語る「日本の学校では創造性が育たないたった一つの理由」 「私たちとは教え方が根本的に違う」、ハーバードで世界の教育を学んで分かった「好奇心」を伸ばす2つの秘訣) [社会]
教育については、11月11日に取上げた。今日は、(その22)(毎年5000人が心を病む「教員」の過酷すぎる実態 疲労やストレスをためこんで心身が疲弊する、英国の超名門校トップが語る「日本の学校では創造性が育たないたった一つの理由」 「私たちとは教え方が根本的に違う」、ハーバードで世界の教育を学んで分かった「好奇心」を伸ばす2つの秘訣)である。
先ずは、11月27日付け東洋経済オンラインが掲載した教育ライター の朝比奈 なを氏による「毎年5000人が心を病む「教員」の過酷すぎる実態 疲労やストレスをためこんで心身が疲弊する」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/390826
・『業務負担が過大な日本の教員。加えて教員同士の人間関係のストレスや新型コロナの対応などで、心身ともに限界の教員が増加し、かつての聖職は今や「ブラック化」している。 「日本の教員があまりに疲弊せざるをえない事情」(2020年11月20日配信)に続いて、教育ジャーナリストの朝比奈なを氏の著書『教員という仕事なぜブラック化したのか』より、知られざる「職員室」の現状を紹介する』、「かつての聖職は今や「ブラック化」している」、とはどういうことなのだろう。
・『精神的ストレスが引き起こす大量の休職 厳しい環境の中で働いていれば、当然のことながら心身の健康を損ねる教員が多くなる。現時点で特に深刻なのが、精神疾患による休職者の増加だ。 下記の図表は、病気による休職者数の推移を表したものである。2002年に精神疾患による病休者が全病休者の過半数に達し現在まで続いている。実数では2008年に精神疾患による病休者は5000人を超え、途中若干前年を下回る年はあったものの、10年以上5000名前後で高止まりしている。教員全体数が減少している中においてである。(外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 文部科学省もこの状況を問題視し、2013年3月に教職員のメンタルヘルス対策検討会議が出した「教職員のメンタルヘルス対策について(最終まとめ)」では、2011年度時点の調査結果を基に対策の検討が行われている。 この時点では所属校勤務2年以内の発病者が約半数であること、40、50代の発病者が多いこと、新任でいわゆる研修期間内の病休者の9割が精神疾患であることなどが判明した。増加の背景には業務量増加と業務の質の困難化があるとし予防的対策を始め多くの対策が挙げられたが、改善はほとんど進んでいない。 2018年度の文科省「公立学校教職員の人事行政状況調査」結果から最近の病休者の特徴を見ると、学校種別では小学校、中学校、特別支援学校に多く、いわゆる「ヒラ」教諭に多いこと、病休者が多いのは30代以上だが、精神疾患が占める割合は20代に多いことなどがわかる。 精神疾患を含め病休者の中には回復せず、やむなく退職する者も少なくない。最悪の場合には自死を選ぶ可能性もあるが、このようなケースでの退職者数は明確ではない。本人や家族が事実を公にし、訴訟を起こした場合に社会的関心を集めるだけである。 教員経験の短い発病者は、予想していた教員の仕事と現実とのギャップに悩むことが原因だろう。一方、経験を積んだ教員はこれとは異なる原因が推測される。 学校という場は各学校で職場環境が大きく異なる。比較的落ち着いた学校に赴任した直後、それ以前の疲労やストレスが一気に噴き出すことが、仕事熱心な教員に多く見られるのだ』、「2002年に精神疾患による病休者が全病休者の過半数に達し現在まで続いている」、この表現は甘く、むしろ比重は着実に上昇している、とすべきだろう。「教員経験の短い発病者は、予想していた教員の仕事と現実とのギャップに悩むことが原因だろう」、なるほど。「比較的落ち着いた学校に赴任した直後、それ以前の疲労やストレスが一気に噴き出すことが、仕事熱心な教員に多く見られる」、ちょっと常識では考え難いようなことも起きているようだ。
・『激務の末、命を落としていった教員 筆者の同僚だった40代の女性教員がいた。彼女は、生徒指導が大変な高校で中心的な存在だった。当時の彼女は自らの家庭を顧みずに長時間労働をし、男性教員顔負けの気迫で生徒に臨んでいた。7年後、彼女は中堅進学校に異動になる。 しかし、4月の初めに数回勤務した後に病休に入り、生徒の顔を見ることもなく数カ月後に亡くなった。がんが全身に転移し手遅れだったのである。体調不良に気づかない、気づいても後回しにしてしまう心境になっていたのだろう。 同じく、同僚だった男性教員は定年を機に発病した。真面目で教科指導も部活動指導も熱心だった彼は比較的落ち着いた学校での勤務が長かったが、50代になってから生徒指導が大変な学校に異動し進路指導主任となった。 進路指導は進学や就職の実績が毎年公表され生徒募集にも直結するシビアな校務分掌である。指導に従わない生徒たちを前に、長時間勤務し神経をすり減らす毎日が続いた。数年間の勤務の後、彼は定年を迎え、再任用として進学校で常勤講師を務めることになる。 4月の初め、勤務校でパソコンに向かっていた時、ふと、何も考えられず、何もできなくなったと生前の彼から聞いた。わずかに働いた理性が「これはうつ病だ」と判断し、即入院となった。自分の症状を判断できたのは、彼の周囲に同病の人がいたからである。数カ月の入院を経て、一旦は学校現場に戻ったが完全な回復はならずに数年後に亡くなった。 病気休職を取る教員がその後どうなるのか楽観視はできない。自らの状態に気づいて休職できる人だけでも毎年5000人も生んでいるのが教員という仕事である』、「自らの状態に気づいて休職できる人だけでも毎年5000人も生んでいるのが教員という仕事である」、確かに教職の「ブラック化」は放置できない段階にあるようだ。さらなる実態調査が必要だろう。
次に、11月21日付けPRESIDENT Onlineが掲載したリトルエンジェルス・インターナショナルスクール 理事長の宇野 令一郎氏による「英国の超名門校トップが語る「日本の学校では創造性が育たないたった一つの理由」 「私たちとは教え方が根本的に違う」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/40686
・『イギリスのパブリックスクール「ハロウスクール」は、450年の歴史を持ち、ウィンストン・チャーチルをはじめ過去7人の首相を輩出した超名門だ。2022年8月には、岩手県安比高原に日本校を開く。なぜいま日本で開校するのか。ハロウスクールトップのマイケル・ファリー氏に聞いた(Qは質問)』、「全寮制」なので、「安比高原」を選んだのだろう。
・『2022年夏、安比高原に日本校を開校 Q:2022年8月に岩手県の安比高原にハロウインターナショナルスクール安比ジャパン(以下、ハロウ安比校)が開校します。開校の経緯を教えてください。 【マイケル氏】これまでハロウインターナショナルスクールは、1998年に設立したタイのバンコクに始まり、香港、上海、北京に開校してきました。これらアジアの国々は、かねて国際教育への関心が大変高く、それに応える形で学校をつくってきたのです。今回、安比高原に開校するハロウインターナショナルスクールは、初めての日本校になります。 今回、日本に開校するようになった理由は、岩手県安比高原という最高の教育ができるロケーションの土地を確保できたからです。岩手県と岩手ホテルアンドリゾートというパートナーに恵まれ、安比高原スキー場に隣接する場所に全寮制の寄宿学校が建てられることになりました。 英国ハロウスクールは、ヒースロー空港から車で30分程離れたロンドン郊外の丘の上にあります。豊かな自然の中でコミュニティをつくり、さまざまな経験をさせて、リーダーを育ててきた歴史があります。私たちはこの環境こそが「ゴールドストーン(宝)」だと考えていて、ハロウ安比校は、都市部に建てられたアジアのどの校舎よりも英国ハロウスクールに近いものとなっています。実際、ハロウインターナショナルスクールの教員の多くが、ハロウ安比校の素晴らしい環境を知って、異動を希望しているくらい(笑)。生徒も中国や香港、台湾、韓国、インド、シンガポールなど、アジア全域を中心に、そしてヨーロッパ、北アメリカからも募集する予定です』、既にアジアに4か所も出来ていたとは初めて知った。
・『リーダーシップやレジリエンスが育つ Q:ハロウ安比校では、どんな教育が行われるのでしょうか? 【マイケル氏】基本的には英国ハロウスクールと同じです。11歳(小学校6年生)〜18歳(高校3年生)の7年間の教育課程を計画しています。共学で、生徒全員が寄宿舎に住むフル・ボーディングスクール(※)です。 カリキュラムはイギリス式で、高1終了時に英国義務教育終了資格である国際標準試験「International General Certificate of Secondary Education(IGCSE)」を、高校最終学年ではイギリスの大学入学資格にあたる「General Certificate of Education Advanced Level(Aレベル)」を受験し、世界のトップ大学への進学を目指します。 英国ハロウスクールでは卒業生の多くがケンブリッジ大学やオックスフォード大学などに進学しています。しかし、特筆すべきは学業成績だけではありません。大学入学時にはリーダーシップやレジリエンス(注)、協働力、コミュニケーションスキルなど、社会で必要とされている力を身に付けている点が評価されています。高校卒業時点で、すでに社会に貢献できる人材が育っているのです。 その秘密は、寄宿生活にあります。長期休暇を除き、生徒は仲間とともに学校とハウス(寮)を行き来します。ハウスでは自分の選択したスポーツ競技やボランティア活動に従事するほか、教員は授業後もハウスで個別の宿題をサポートします。 さらに、個別化されたパストラルケア(学習面・精神面・健康面を始めとした多面的・総合的サポート)も、教員と寮のハウスマスターによってなされます。ハウスマスターは、思春期の心身の悩みなどもサポートできるプロフェッショナルです。全寮制という制度のもと、教員・ハウスマスター・同じ寮の仲間が一体となって一人ひとりの学力と心身の発達をサポートし、生徒一人ひとりの最大限の可能性を引き出す仕組みがあるのです。 ※フル・ボーディングとは、通学を認めない全寮制寄宿学校のこと。通学と寄宿の両方があるボーディングスクールは、ハーフ・ボーディングと言ったりする』、「ハウスマスターは、思春期の心身の悩みなどもサポートできるプロフェッショナルです」、まさにスーパーマンだ。
(注)レジリエンス:自発的治癒力、精神的回復力、抵抗力、復元力、耐久力(Wikipedia)。
・『課題授業で忙しい生徒の一日 Q:学校生活をイメージするために、生徒の1日の過ごし方を教えてください。 【マイケル氏】一言で言うと、なかなか忙しいです。 まず生徒たちは、早朝からクラブ活動の練習などで1日をスタートします。その後ハウスで一緒に朝食をとり、1時限目のクラスに向かいます。昼食の時間も、生徒が自主的にアクティビティーを行ったり、教員に授業の質問に行ったりと、忙しいことが多いです。 放課後もさまざまな部活動、ゲストスピーカーを招いたイベント、ボランティアなどが用意されており、生徒はいくつかの活動に参加し、夕方に寮に戻ります。 夕食後は、宿題や予習などハウスマスターにサポートしてもらう勉強の時間があります。勉強については、新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインを使ったレクチャーや課題提出の仕組みが整いました』、「ハウスマスター」はやはりスーパーマンだ。
・『座学だけではリーダーは育たない Q:課外授業が非常に充実していますが、これにはどのような意図がありますか。 【マイケル氏】課外授業活動を通じてさまざまな経験を積むことは、リーダーになるために必要不可欠だからです。人生は常に順調とは限りません。良い教育とは、生徒が困難に直面しても、生き抜くことができる教育だと考えています。そのためには挑戦や失敗をする経験が不可欠で、座学だけでは良きリーダーは育めないと考えています。 ひとつの例として、ボランティア活動を通じた「リーダーシップサービスプログラム」の話をしたいと思います。 ハロウインターナショナルスクールバンコク校のある女子生徒は、観光客が多く訪れるタイでは有名な山にもかかわらず、観光客が立ち止まる施設もなければ、電気などの設備も不十分で、夜は子供たちが焚火の煙の中で勉強するような環境のため、村以外の人を引き付けることができていなかった、ある村のためにプロジェクトを始めました。 自分たちが普段知っているものとは全く異なる環境に置かれたからこそ、生徒が考えた方法は大変クリエーティブで、かつ、サステイナブルな方法でした。山から草木を切る、土を集め自分たちで踏んで混ぜて粘土を作るところから始めたのです。村の人たちと協働し、関係性を築き、2つの建物を建てていきました。 3年後、建物は完成し、鍵を村長にプレゼントしました。その後、これまで立ち止まりもしなかった観光客がその建物を中心に立ち寄るようになり、村に新たな収入が生まれ、雇用も創出できたのです。 ハロウスクールは約450年前に、もともとエリートや富裕層のための学校としてではなく、若い青年たちが、郊外の自然豊かな環境で精神的にも身体的にも健康に成長し、リーダーとしての教養と精神を身に付け、コミュニティへ貢献できる人材を育てるための学校として生まれました。その精神は今も生きているのです』、「良い教育とは、生徒が困難に直面しても、生き抜くことができる教育だと考えています。そのためには挑戦や失敗をする経験が不可欠で、座学だけでは良きリーダーは育めないと考えています」、なかなかいい考えだ。
・『日本には創造性の教育が足りない Q:日本では2020年に学習指導要領を変更し、生徒中心のアクティブな学びを増やしていこうとしています。しかし、まだまだ座学が中心で、ハロウのような課外授業も不足しているように感じます。日本の教育については、どのように思われていますか? 【マイケル氏】私は2003年から6年ほど日本にいたので、日本の教育者と交流があり、日本の教育の素晴らしい点も知っています。たとえば、実用的な知識を授けることにはたけています。 ただ、創造性や、ゼロから物を作り出すマインドセットを育てる仕組みは足りないと感じます』、「日本の教育」は、「創造性や、ゼロから物を作り出すマインドセットを育てる仕組みは足りないと感じます」、同感だ。
・『知識ではなく学びのプロセスを教える Q:創造性を育てるには、どのような教育が必要でしょうか? 【マイケル氏】ハロウで行われているように、生徒それぞれの興味、関心にあわせた活動をサポートする必要があるので、一斉授業中心から、一人ひとりの個別化を重視した授業に切り替えていく必要があると思います。しかし、これは大改革になるので政府が動かないと難しいでしょう。 授業で教える内容も、ハロウの教育とは根本的に違っていると感じています。知識を教えることは確かに大切ですが、ハロウ校では学び方のプロセスを教えることを重視しています。たとえば、生徒が問題を見つけ出し、リサーチ方法を組み立て、テストしてデータを集め、結果を導き出す。こういった学び方のプロセスを教えていくことを大切にしています。 そして、さまざまな活動を通じて、挑戦する機会を与えます。失敗しても、それが学びの機会であることを教えていきます。こうすることで、フレキシブルで創造的で、失敗を恐れないマインドセットを持つ人材が育っていきます。 日本の教員のトレーニングも必要でしょう。ハロウ安比校ができれば、国際教育の新しい基準を創り出すだけでなく、カリキュラムデザインや学生の評価方法などの指導でもお手伝いができるかもしれません。日本の教育改革の促進剤になれればとも思っています。私はできると信じています』、「一斉授業中心から、一人ひとりの個別化を重視した授業に切り替えていく必要がある」、「ハロウ校では学び方のプロセスを教えることを重視しています。たとえば、生徒が問題を見つけ出し、リサーチ方法を組み立て、テストしてデータを集め、結果を導き出す。こういった学び方のプロセスを教えていくことを大切にしています・・・こうすることで、フレキシブルで創造的で、失敗を恐れないマインドセットを持つ人材が育っていきます」、現在の日本式よりもはるかに手間がかかりそうだが、取り組む必要はある。
第三に、11月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した日本財団子どもサポートチーム兼人材開発チーム チームリーダーの本山勝寛氏による「ハーバードで世界の教育を学んで分かった「好奇心」を伸ばす2つの秘訣」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/254870
・『これからの不確実な社会を生き抜いていくために「教育」に求められることはどんなことなのでしょうか。ハーバードで世界の教育を研究した本山勝寛氏は、これからの日本の教育では「好奇心」を育てることが重要だと言います。なぜ「好奇心」を伸ばす教育が重要なのか、解説します』、同感だ。
・『時代が変わったのに 変わりきれていない「日本の教育」 いきなりですが、質問から入ります。 日本の教育はこのままで大丈夫だと思いますか? 大丈夫だ、と自信をもって言える人は少ないのではないでしょうか。 親の立場からしたら学校だけでは心配なので、塾や習い事に通わせ、小さいうちから何かをさせないと不安になってしまいます。先生の立場からは、家庭の環境も理解度も異なるたくさんの生徒たちを、学習指導要領に沿って一斉に教えなければならないうえに、英語教育、プログラミング教育、道徳教育、オリパラ教育、キャリア教育、いじめ対策とやらなければならないことがあり過ぎて、毎日がそれらに忙殺されています。 日本の教育は何を目指し、どんな人に育てたいと考えて教育制度が設計されているのでしょうか? もちろん、「生きる力」といった言葉が文部科学省から示されてはいますが、実態としては、少しでも偏差値の高い大学に合格することが教育のゴールで、そのゴールに向かって幼少期からの子どもの教育が設計されたままになっているように思います。 少しでも偏差値の高い大学に行くことを目指して、まずは少しでも偏差値の高い私立中高一貫校に合格できるよう、子どもの動機とは別に、周りがそうしているから、親が不安だからという理由で、子どもの発達の早い段階から塾に通わせる。子どもたちは決められたカリキュラムの工場に流し込まれたように、正解をより速く選ぶマニュアルをたたき込まれます。 欧米諸国に追いつけ追い越せを目指していた高度経済成長期は、それでもよかったのかもしれません。吸収すべき知識と正解があって、それをより速く正確に解答することが求められる人材像であったからです。急スピードで経済成長した日本の底力となった教育も、1980年代までは世界から注目されていました。 では、先頭集団に既に追いつき、自分たちが新たなものを創造し、開拓すべき時代を迎えた今日はいかがでしょうか?社会に出たら決まった正解のないものばかりです。自らが問題を発見し、複雑な問題を解決するために自分の頭で考えて行動し、トライアンドエラーを繰り返していかなければなりません。学び続けること、成長し続けること、挑戦し続けることが求められるのです。 時代は変わったのに、教育は変わりきれていない。それが日本の現状なのかもしれません』、「社会に出たら決まった正解のないものばかりです。自らが問題を発見し、複雑な問題を解決するために自分の頭で考えて行動し、トライアンドエラーを繰り返していかなければなりません。学び続けること、成長し続けること、挑戦し続けることが求められるのです」、「時代は変わったのに、教育は変わりきれていない。それが日本の現状なのかもしれません」、その通りだ。
・『これから最も求められる力は「好奇心」である 教育のゴールが大学受験のテストでより速く正解を出すことになっているため、学びの成長曲線が受験期でピークアウトしてしまい、大学生や社会人になると多くの人が学びをストップさせてしまっています。本来は、大学生や社会人になってからこそが、高校までの基礎力を応用して各自の学びを開花させる時期であるはずなのに、実にもったいない状況です。 日本は国際学力調査でも初等中等教育まではトップレベルなのに、大学生、社会人になると、国際社会におけるレベルは低い状況に陥ってしまっています。それでも国民全体の平均的な基礎力は高いのですが、時代を切り拓くような創造性や生産性は低いレベルにとどまっているのです。 では、日本の教育は何を目指し、どんな人を育てていくべきなのでしょうか? 私がハーバードで世界の教育を研究し、実際に5児の子どもの父親になってみて痛感しているのは、これからの時代において最も求められる力は「好奇心」だということです。そしてこの「好奇心」を養うことは、日本のこれまでの教育で最も足りていない部分だと思います。 世界的ベストセラーになった『フラット化する世界』でトーマス・フリードマンは、「フラットな世界では、仕事、成功、学科の分野、趣味ですら、好奇心と熱意がさらに重要になる。なぜならフラットな世界には、好奇心とそれを抱く人間の奥行きや幅をどんどん広げるツールが山ほどあるからだ。フラットな世界ではIQ(知能指数)も重要だが、CQ(好奇心指数)とPQ(情熱指数)がもっと大きな意味を持つ」と語っています。 今や世界を席巻しているグーグル(Alphabet社)やアマゾンも、社員の採用において好奇心を重視しています。グーグルの人材開発部長は『未来のイノベーターはどう育つのか』(トニー・ワグナー著)のなかで以下のように述べています。 「もちろん賢いことは重要だ。でも知的好奇心のほうがもっと重要だ。グーグルで成功する人は、すぐに行動を起こしたがる傾向がある。壊れている物を見つけたらすぐに直すような性格だ。問題を見つける能力も重要だが、見つけた問題について不満を並べたり、誰かがそれを解決してくれるのを待っていないこと。『どうすればもっとよくできるだろう』と自問すること。それからすべてにおいてコラボレーションが必要不可欠だ。周囲に多様な専門性を持つ人がいることに気がつき、彼らから学ぶ能力のある人物を私たちは高く評価する。」(トニー・ワグナー著/藤原朝子訳『未来のイノベーターはどう育つのか』(英治出版)より) 高い好奇心を持っていれば、親や先生から勉強するように強制されなくても自ら主体的に学び、学校を卒業して社会人になってからも常に新しいことを学び続け、上司から指示されなくても仕事を改善し、新たな価値を創り出します』、「高い好奇心を持っていれば、親や先生から勉強するように強制されなくても自ら主体的に学び、学校を卒業して社会人になってからも常に新しいことを学び続け、上司から指示されなくても仕事を改善し、新たな価値を創り出します」、まさに理想的だ。
・『子どもの好奇心を伸ばす2つのポイント では、どうすれば子どもの好奇心を伸ばすことができるのでしょうか? 私は「没頭」と「アウトプット」がポイントになると考えています。 まずはどんなことでもよいので、好きなことに時間を忘れるくらい集中して没頭する体験をたくさん積むことです。マンガにハマること、ブロックで作品をつくること、昆虫採集で自然を探索すること、好きな絵を描くこと。なんでもよいので子どもが好きなことをとことんやらせて、大人の事情で遮らずに、背中を後押ししてあげます。 そして、自ら何かを生み出すようなアウトプットの機会をつくるとよいです。たとえば、昆虫採集であれば、観察絵日記を書いて、それを一冊の本にまとめて形にする。絵が好きであれば、オリジナルの絵本作品をつくってみる、といった具合です。 わが家ではハムスターを飼っていますが、オスとメスのペアを育てていたところ、赤ちゃんが生まれました。子どもたちは大騒ぎで、毎日ハムスターと赤ちゃんたちのお世話をしています。どんなエサなら食べるのか、どんなおもちゃだと喜ぶのか、理科の実験のように、一つ一つ試しながら一喜一憂しています。また、マンガ『ハムスターの研究レポート』にはまったり、図鑑やハムスターの飼い方に関する本をじっくり読んで学んだり、自分でハムスターのオリジナルキャラクターを考え、オリジナル絵本を描いてつくったりしています。 ハムスターに関する知識そのものが将来何かに役立つことはほとんどないかもしれませんが、何かにはまって心から楽しみ、自ら探求し学んだ経験や、自分で考えて作品を創造した経験こそが、「学ぶことは楽しい」ということを理屈抜きに心身に刻み、好奇心を伸ばすことにつながるのだと思います。 わが家の5人の子どもたちは、自分が幼少期そうだったように、学習塾に通うことはしていません。それよりも、一人一人が与えられた個性をその子と一緒になって探して、見つけ出すこと。そして、好きなものが見つかったら、それをとことんやって没頭できるようにすること。何らかのアウトプットを創り出せるよう、子どもの背中を後押しすること。また、親自身が子どもと一緒になって学びを楽しみたい、そんなふうに考えながら、子育てを楽しんでいます。 子どもたちも、親たちも、そして先生たちも、もっともっと学びを楽しんでいい。そうすれば育まれた好奇心が原動力となって、だめと言われても自ら学び続けるものです。それが日本の教育が良くなる秘訣だと思います』、「一人一人が与えられた個性をその子と一緒になって探して、見つけ出すこと。そして、好きなものが見つかったら、それをとことんやって没頭できるようにすること。何らかのアウトプットを創り出せるよう、子どもの背中を後押しすること。また、親自身が子どもと一緒になって学びを楽しみたい、そんなふうに考えながら、子育てを楽しんでいます」、自分が忍耐強くなければいけないので、私にはどうも無理なようだ。
先ずは、11月27日付け東洋経済オンラインが掲載した教育ライター の朝比奈 なを氏による「毎年5000人が心を病む「教員」の過酷すぎる実態 疲労やストレスをためこんで心身が疲弊する」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/390826
・『業務負担が過大な日本の教員。加えて教員同士の人間関係のストレスや新型コロナの対応などで、心身ともに限界の教員が増加し、かつての聖職は今や「ブラック化」している。 「日本の教員があまりに疲弊せざるをえない事情」(2020年11月20日配信)に続いて、教育ジャーナリストの朝比奈なを氏の著書『教員という仕事なぜブラック化したのか』より、知られざる「職員室」の現状を紹介する』、「かつての聖職は今や「ブラック化」している」、とはどういうことなのだろう。
・『精神的ストレスが引き起こす大量の休職 厳しい環境の中で働いていれば、当然のことながら心身の健康を損ねる教員が多くなる。現時点で特に深刻なのが、精神疾患による休職者の増加だ。 下記の図表は、病気による休職者数の推移を表したものである。2002年に精神疾患による病休者が全病休者の過半数に達し現在まで続いている。実数では2008年に精神疾患による病休者は5000人を超え、途中若干前年を下回る年はあったものの、10年以上5000名前後で高止まりしている。教員全体数が減少している中においてである。(外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 文部科学省もこの状況を問題視し、2013年3月に教職員のメンタルヘルス対策検討会議が出した「教職員のメンタルヘルス対策について(最終まとめ)」では、2011年度時点の調査結果を基に対策の検討が行われている。 この時点では所属校勤務2年以内の発病者が約半数であること、40、50代の発病者が多いこと、新任でいわゆる研修期間内の病休者の9割が精神疾患であることなどが判明した。増加の背景には業務量増加と業務の質の困難化があるとし予防的対策を始め多くの対策が挙げられたが、改善はほとんど進んでいない。 2018年度の文科省「公立学校教職員の人事行政状況調査」結果から最近の病休者の特徴を見ると、学校種別では小学校、中学校、特別支援学校に多く、いわゆる「ヒラ」教諭に多いこと、病休者が多いのは30代以上だが、精神疾患が占める割合は20代に多いことなどがわかる。 精神疾患を含め病休者の中には回復せず、やむなく退職する者も少なくない。最悪の場合には自死を選ぶ可能性もあるが、このようなケースでの退職者数は明確ではない。本人や家族が事実を公にし、訴訟を起こした場合に社会的関心を集めるだけである。 教員経験の短い発病者は、予想していた教員の仕事と現実とのギャップに悩むことが原因だろう。一方、経験を積んだ教員はこれとは異なる原因が推測される。 学校という場は各学校で職場環境が大きく異なる。比較的落ち着いた学校に赴任した直後、それ以前の疲労やストレスが一気に噴き出すことが、仕事熱心な教員に多く見られるのだ』、「2002年に精神疾患による病休者が全病休者の過半数に達し現在まで続いている」、この表現は甘く、むしろ比重は着実に上昇している、とすべきだろう。「教員経験の短い発病者は、予想していた教員の仕事と現実とのギャップに悩むことが原因だろう」、なるほど。「比較的落ち着いた学校に赴任した直後、それ以前の疲労やストレスが一気に噴き出すことが、仕事熱心な教員に多く見られる」、ちょっと常識では考え難いようなことも起きているようだ。
・『激務の末、命を落としていった教員 筆者の同僚だった40代の女性教員がいた。彼女は、生徒指導が大変な高校で中心的な存在だった。当時の彼女は自らの家庭を顧みずに長時間労働をし、男性教員顔負けの気迫で生徒に臨んでいた。7年後、彼女は中堅進学校に異動になる。 しかし、4月の初めに数回勤務した後に病休に入り、生徒の顔を見ることもなく数カ月後に亡くなった。がんが全身に転移し手遅れだったのである。体調不良に気づかない、気づいても後回しにしてしまう心境になっていたのだろう。 同じく、同僚だった男性教員は定年を機に発病した。真面目で教科指導も部活動指導も熱心だった彼は比較的落ち着いた学校での勤務が長かったが、50代になってから生徒指導が大変な学校に異動し進路指導主任となった。 進路指導は進学や就職の実績が毎年公表され生徒募集にも直結するシビアな校務分掌である。指導に従わない生徒たちを前に、長時間勤務し神経をすり減らす毎日が続いた。数年間の勤務の後、彼は定年を迎え、再任用として進学校で常勤講師を務めることになる。 4月の初め、勤務校でパソコンに向かっていた時、ふと、何も考えられず、何もできなくなったと生前の彼から聞いた。わずかに働いた理性が「これはうつ病だ」と判断し、即入院となった。自分の症状を判断できたのは、彼の周囲に同病の人がいたからである。数カ月の入院を経て、一旦は学校現場に戻ったが完全な回復はならずに数年後に亡くなった。 病気休職を取る教員がその後どうなるのか楽観視はできない。自らの状態に気づいて休職できる人だけでも毎年5000人も生んでいるのが教員という仕事である』、「自らの状態に気づいて休職できる人だけでも毎年5000人も生んでいるのが教員という仕事である」、確かに教職の「ブラック化」は放置できない段階にあるようだ。さらなる実態調査が必要だろう。
次に、11月21日付けPRESIDENT Onlineが掲載したリトルエンジェルス・インターナショナルスクール 理事長の宇野 令一郎氏による「英国の超名門校トップが語る「日本の学校では創造性が育たないたった一つの理由」 「私たちとは教え方が根本的に違う」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/40686
・『イギリスのパブリックスクール「ハロウスクール」は、450年の歴史を持ち、ウィンストン・チャーチルをはじめ過去7人の首相を輩出した超名門だ。2022年8月には、岩手県安比高原に日本校を開く。なぜいま日本で開校するのか。ハロウスクールトップのマイケル・ファリー氏に聞いた(Qは質問)』、「全寮制」なので、「安比高原」を選んだのだろう。
・『2022年夏、安比高原に日本校を開校 Q:2022年8月に岩手県の安比高原にハロウインターナショナルスクール安比ジャパン(以下、ハロウ安比校)が開校します。開校の経緯を教えてください。 【マイケル氏】これまでハロウインターナショナルスクールは、1998年に設立したタイのバンコクに始まり、香港、上海、北京に開校してきました。これらアジアの国々は、かねて国際教育への関心が大変高く、それに応える形で学校をつくってきたのです。今回、安比高原に開校するハロウインターナショナルスクールは、初めての日本校になります。 今回、日本に開校するようになった理由は、岩手県安比高原という最高の教育ができるロケーションの土地を確保できたからです。岩手県と岩手ホテルアンドリゾートというパートナーに恵まれ、安比高原スキー場に隣接する場所に全寮制の寄宿学校が建てられることになりました。 英国ハロウスクールは、ヒースロー空港から車で30分程離れたロンドン郊外の丘の上にあります。豊かな自然の中でコミュニティをつくり、さまざまな経験をさせて、リーダーを育ててきた歴史があります。私たちはこの環境こそが「ゴールドストーン(宝)」だと考えていて、ハロウ安比校は、都市部に建てられたアジアのどの校舎よりも英国ハロウスクールに近いものとなっています。実際、ハロウインターナショナルスクールの教員の多くが、ハロウ安比校の素晴らしい環境を知って、異動を希望しているくらい(笑)。生徒も中国や香港、台湾、韓国、インド、シンガポールなど、アジア全域を中心に、そしてヨーロッパ、北アメリカからも募集する予定です』、既にアジアに4か所も出来ていたとは初めて知った。
・『リーダーシップやレジリエンスが育つ Q:ハロウ安比校では、どんな教育が行われるのでしょうか? 【マイケル氏】基本的には英国ハロウスクールと同じです。11歳(小学校6年生)〜18歳(高校3年生)の7年間の教育課程を計画しています。共学で、生徒全員が寄宿舎に住むフル・ボーディングスクール(※)です。 カリキュラムはイギリス式で、高1終了時に英国義務教育終了資格である国際標準試験「International General Certificate of Secondary Education(IGCSE)」を、高校最終学年ではイギリスの大学入学資格にあたる「General Certificate of Education Advanced Level(Aレベル)」を受験し、世界のトップ大学への進学を目指します。 英国ハロウスクールでは卒業生の多くがケンブリッジ大学やオックスフォード大学などに進学しています。しかし、特筆すべきは学業成績だけではありません。大学入学時にはリーダーシップやレジリエンス(注)、協働力、コミュニケーションスキルなど、社会で必要とされている力を身に付けている点が評価されています。高校卒業時点で、すでに社会に貢献できる人材が育っているのです。 その秘密は、寄宿生活にあります。長期休暇を除き、生徒は仲間とともに学校とハウス(寮)を行き来します。ハウスでは自分の選択したスポーツ競技やボランティア活動に従事するほか、教員は授業後もハウスで個別の宿題をサポートします。 さらに、個別化されたパストラルケア(学習面・精神面・健康面を始めとした多面的・総合的サポート)も、教員と寮のハウスマスターによってなされます。ハウスマスターは、思春期の心身の悩みなどもサポートできるプロフェッショナルです。全寮制という制度のもと、教員・ハウスマスター・同じ寮の仲間が一体となって一人ひとりの学力と心身の発達をサポートし、生徒一人ひとりの最大限の可能性を引き出す仕組みがあるのです。 ※フル・ボーディングとは、通学を認めない全寮制寄宿学校のこと。通学と寄宿の両方があるボーディングスクールは、ハーフ・ボーディングと言ったりする』、「ハウスマスターは、思春期の心身の悩みなどもサポートできるプロフェッショナルです」、まさにスーパーマンだ。
(注)レジリエンス:自発的治癒力、精神的回復力、抵抗力、復元力、耐久力(Wikipedia)。
・『課題授業で忙しい生徒の一日 Q:学校生活をイメージするために、生徒の1日の過ごし方を教えてください。 【マイケル氏】一言で言うと、なかなか忙しいです。 まず生徒たちは、早朝からクラブ活動の練習などで1日をスタートします。その後ハウスで一緒に朝食をとり、1時限目のクラスに向かいます。昼食の時間も、生徒が自主的にアクティビティーを行ったり、教員に授業の質問に行ったりと、忙しいことが多いです。 放課後もさまざまな部活動、ゲストスピーカーを招いたイベント、ボランティアなどが用意されており、生徒はいくつかの活動に参加し、夕方に寮に戻ります。 夕食後は、宿題や予習などハウスマスターにサポートしてもらう勉強の時間があります。勉強については、新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインを使ったレクチャーや課題提出の仕組みが整いました』、「ハウスマスター」はやはりスーパーマンだ。
・『座学だけではリーダーは育たない Q:課外授業が非常に充実していますが、これにはどのような意図がありますか。 【マイケル氏】課外授業活動を通じてさまざまな経験を積むことは、リーダーになるために必要不可欠だからです。人生は常に順調とは限りません。良い教育とは、生徒が困難に直面しても、生き抜くことができる教育だと考えています。そのためには挑戦や失敗をする経験が不可欠で、座学だけでは良きリーダーは育めないと考えています。 ひとつの例として、ボランティア活動を通じた「リーダーシップサービスプログラム」の話をしたいと思います。 ハロウインターナショナルスクールバンコク校のある女子生徒は、観光客が多く訪れるタイでは有名な山にもかかわらず、観光客が立ち止まる施設もなければ、電気などの設備も不十分で、夜は子供たちが焚火の煙の中で勉強するような環境のため、村以外の人を引き付けることができていなかった、ある村のためにプロジェクトを始めました。 自分たちが普段知っているものとは全く異なる環境に置かれたからこそ、生徒が考えた方法は大変クリエーティブで、かつ、サステイナブルな方法でした。山から草木を切る、土を集め自分たちで踏んで混ぜて粘土を作るところから始めたのです。村の人たちと協働し、関係性を築き、2つの建物を建てていきました。 3年後、建物は完成し、鍵を村長にプレゼントしました。その後、これまで立ち止まりもしなかった観光客がその建物を中心に立ち寄るようになり、村に新たな収入が生まれ、雇用も創出できたのです。 ハロウスクールは約450年前に、もともとエリートや富裕層のための学校としてではなく、若い青年たちが、郊外の自然豊かな環境で精神的にも身体的にも健康に成長し、リーダーとしての教養と精神を身に付け、コミュニティへ貢献できる人材を育てるための学校として生まれました。その精神は今も生きているのです』、「良い教育とは、生徒が困難に直面しても、生き抜くことができる教育だと考えています。そのためには挑戦や失敗をする経験が不可欠で、座学だけでは良きリーダーは育めないと考えています」、なかなかいい考えだ。
・『日本には創造性の教育が足りない Q:日本では2020年に学習指導要領を変更し、生徒中心のアクティブな学びを増やしていこうとしています。しかし、まだまだ座学が中心で、ハロウのような課外授業も不足しているように感じます。日本の教育については、どのように思われていますか? 【マイケル氏】私は2003年から6年ほど日本にいたので、日本の教育者と交流があり、日本の教育の素晴らしい点も知っています。たとえば、実用的な知識を授けることにはたけています。 ただ、創造性や、ゼロから物を作り出すマインドセットを育てる仕組みは足りないと感じます』、「日本の教育」は、「創造性や、ゼロから物を作り出すマインドセットを育てる仕組みは足りないと感じます」、同感だ。
・『知識ではなく学びのプロセスを教える Q:創造性を育てるには、どのような教育が必要でしょうか? 【マイケル氏】ハロウで行われているように、生徒それぞれの興味、関心にあわせた活動をサポートする必要があるので、一斉授業中心から、一人ひとりの個別化を重視した授業に切り替えていく必要があると思います。しかし、これは大改革になるので政府が動かないと難しいでしょう。 授業で教える内容も、ハロウの教育とは根本的に違っていると感じています。知識を教えることは確かに大切ですが、ハロウ校では学び方のプロセスを教えることを重視しています。たとえば、生徒が問題を見つけ出し、リサーチ方法を組み立て、テストしてデータを集め、結果を導き出す。こういった学び方のプロセスを教えていくことを大切にしています。 そして、さまざまな活動を通じて、挑戦する機会を与えます。失敗しても、それが学びの機会であることを教えていきます。こうすることで、フレキシブルで創造的で、失敗を恐れないマインドセットを持つ人材が育っていきます。 日本の教員のトレーニングも必要でしょう。ハロウ安比校ができれば、国際教育の新しい基準を創り出すだけでなく、カリキュラムデザインや学生の評価方法などの指導でもお手伝いができるかもしれません。日本の教育改革の促進剤になれればとも思っています。私はできると信じています』、「一斉授業中心から、一人ひとりの個別化を重視した授業に切り替えていく必要がある」、「ハロウ校では学び方のプロセスを教えることを重視しています。たとえば、生徒が問題を見つけ出し、リサーチ方法を組み立て、テストしてデータを集め、結果を導き出す。こういった学び方のプロセスを教えていくことを大切にしています・・・こうすることで、フレキシブルで創造的で、失敗を恐れないマインドセットを持つ人材が育っていきます」、現在の日本式よりもはるかに手間がかかりそうだが、取り組む必要はある。
第三に、11月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した日本財団子どもサポートチーム兼人材開発チーム チームリーダーの本山勝寛氏による「ハーバードで世界の教育を学んで分かった「好奇心」を伸ばす2つの秘訣」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/254870
・『これからの不確実な社会を生き抜いていくために「教育」に求められることはどんなことなのでしょうか。ハーバードで世界の教育を研究した本山勝寛氏は、これからの日本の教育では「好奇心」を育てることが重要だと言います。なぜ「好奇心」を伸ばす教育が重要なのか、解説します』、同感だ。
・『時代が変わったのに 変わりきれていない「日本の教育」 いきなりですが、質問から入ります。 日本の教育はこのままで大丈夫だと思いますか? 大丈夫だ、と自信をもって言える人は少ないのではないでしょうか。 親の立場からしたら学校だけでは心配なので、塾や習い事に通わせ、小さいうちから何かをさせないと不安になってしまいます。先生の立場からは、家庭の環境も理解度も異なるたくさんの生徒たちを、学習指導要領に沿って一斉に教えなければならないうえに、英語教育、プログラミング教育、道徳教育、オリパラ教育、キャリア教育、いじめ対策とやらなければならないことがあり過ぎて、毎日がそれらに忙殺されています。 日本の教育は何を目指し、どんな人に育てたいと考えて教育制度が設計されているのでしょうか? もちろん、「生きる力」といった言葉が文部科学省から示されてはいますが、実態としては、少しでも偏差値の高い大学に合格することが教育のゴールで、そのゴールに向かって幼少期からの子どもの教育が設計されたままになっているように思います。 少しでも偏差値の高い大学に行くことを目指して、まずは少しでも偏差値の高い私立中高一貫校に合格できるよう、子どもの動機とは別に、周りがそうしているから、親が不安だからという理由で、子どもの発達の早い段階から塾に通わせる。子どもたちは決められたカリキュラムの工場に流し込まれたように、正解をより速く選ぶマニュアルをたたき込まれます。 欧米諸国に追いつけ追い越せを目指していた高度経済成長期は、それでもよかったのかもしれません。吸収すべき知識と正解があって、それをより速く正確に解答することが求められる人材像であったからです。急スピードで経済成長した日本の底力となった教育も、1980年代までは世界から注目されていました。 では、先頭集団に既に追いつき、自分たちが新たなものを創造し、開拓すべき時代を迎えた今日はいかがでしょうか?社会に出たら決まった正解のないものばかりです。自らが問題を発見し、複雑な問題を解決するために自分の頭で考えて行動し、トライアンドエラーを繰り返していかなければなりません。学び続けること、成長し続けること、挑戦し続けることが求められるのです。 時代は変わったのに、教育は変わりきれていない。それが日本の現状なのかもしれません』、「社会に出たら決まった正解のないものばかりです。自らが問題を発見し、複雑な問題を解決するために自分の頭で考えて行動し、トライアンドエラーを繰り返していかなければなりません。学び続けること、成長し続けること、挑戦し続けることが求められるのです」、「時代は変わったのに、教育は変わりきれていない。それが日本の現状なのかもしれません」、その通りだ。
・『これから最も求められる力は「好奇心」である 教育のゴールが大学受験のテストでより速く正解を出すことになっているため、学びの成長曲線が受験期でピークアウトしてしまい、大学生や社会人になると多くの人が学びをストップさせてしまっています。本来は、大学生や社会人になってからこそが、高校までの基礎力を応用して各自の学びを開花させる時期であるはずなのに、実にもったいない状況です。 日本は国際学力調査でも初等中等教育まではトップレベルなのに、大学生、社会人になると、国際社会におけるレベルは低い状況に陥ってしまっています。それでも国民全体の平均的な基礎力は高いのですが、時代を切り拓くような創造性や生産性は低いレベルにとどまっているのです。 では、日本の教育は何を目指し、どんな人を育てていくべきなのでしょうか? 私がハーバードで世界の教育を研究し、実際に5児の子どもの父親になってみて痛感しているのは、これからの時代において最も求められる力は「好奇心」だということです。そしてこの「好奇心」を養うことは、日本のこれまでの教育で最も足りていない部分だと思います。 世界的ベストセラーになった『フラット化する世界』でトーマス・フリードマンは、「フラットな世界では、仕事、成功、学科の分野、趣味ですら、好奇心と熱意がさらに重要になる。なぜならフラットな世界には、好奇心とそれを抱く人間の奥行きや幅をどんどん広げるツールが山ほどあるからだ。フラットな世界ではIQ(知能指数)も重要だが、CQ(好奇心指数)とPQ(情熱指数)がもっと大きな意味を持つ」と語っています。 今や世界を席巻しているグーグル(Alphabet社)やアマゾンも、社員の採用において好奇心を重視しています。グーグルの人材開発部長は『未来のイノベーターはどう育つのか』(トニー・ワグナー著)のなかで以下のように述べています。 「もちろん賢いことは重要だ。でも知的好奇心のほうがもっと重要だ。グーグルで成功する人は、すぐに行動を起こしたがる傾向がある。壊れている物を見つけたらすぐに直すような性格だ。問題を見つける能力も重要だが、見つけた問題について不満を並べたり、誰かがそれを解決してくれるのを待っていないこと。『どうすればもっとよくできるだろう』と自問すること。それからすべてにおいてコラボレーションが必要不可欠だ。周囲に多様な専門性を持つ人がいることに気がつき、彼らから学ぶ能力のある人物を私たちは高く評価する。」(トニー・ワグナー著/藤原朝子訳『未来のイノベーターはどう育つのか』(英治出版)より) 高い好奇心を持っていれば、親や先生から勉強するように強制されなくても自ら主体的に学び、学校を卒業して社会人になってからも常に新しいことを学び続け、上司から指示されなくても仕事を改善し、新たな価値を創り出します』、「高い好奇心を持っていれば、親や先生から勉強するように強制されなくても自ら主体的に学び、学校を卒業して社会人になってからも常に新しいことを学び続け、上司から指示されなくても仕事を改善し、新たな価値を創り出します」、まさに理想的だ。
・『子どもの好奇心を伸ばす2つのポイント では、どうすれば子どもの好奇心を伸ばすことができるのでしょうか? 私は「没頭」と「アウトプット」がポイントになると考えています。 まずはどんなことでもよいので、好きなことに時間を忘れるくらい集中して没頭する体験をたくさん積むことです。マンガにハマること、ブロックで作品をつくること、昆虫採集で自然を探索すること、好きな絵を描くこと。なんでもよいので子どもが好きなことをとことんやらせて、大人の事情で遮らずに、背中を後押ししてあげます。 そして、自ら何かを生み出すようなアウトプットの機会をつくるとよいです。たとえば、昆虫採集であれば、観察絵日記を書いて、それを一冊の本にまとめて形にする。絵が好きであれば、オリジナルの絵本作品をつくってみる、といった具合です。 わが家ではハムスターを飼っていますが、オスとメスのペアを育てていたところ、赤ちゃんが生まれました。子どもたちは大騒ぎで、毎日ハムスターと赤ちゃんたちのお世話をしています。どんなエサなら食べるのか、どんなおもちゃだと喜ぶのか、理科の実験のように、一つ一つ試しながら一喜一憂しています。また、マンガ『ハムスターの研究レポート』にはまったり、図鑑やハムスターの飼い方に関する本をじっくり読んで学んだり、自分でハムスターのオリジナルキャラクターを考え、オリジナル絵本を描いてつくったりしています。 ハムスターに関する知識そのものが将来何かに役立つことはほとんどないかもしれませんが、何かにはまって心から楽しみ、自ら探求し学んだ経験や、自分で考えて作品を創造した経験こそが、「学ぶことは楽しい」ということを理屈抜きに心身に刻み、好奇心を伸ばすことにつながるのだと思います。 わが家の5人の子どもたちは、自分が幼少期そうだったように、学習塾に通うことはしていません。それよりも、一人一人が与えられた個性をその子と一緒になって探して、見つけ出すこと。そして、好きなものが見つかったら、それをとことんやって没頭できるようにすること。何らかのアウトプットを創り出せるよう、子どもの背中を後押しすること。また、親自身が子どもと一緒になって学びを楽しみたい、そんなふうに考えながら、子育てを楽しんでいます。 子どもたちも、親たちも、そして先生たちも、もっともっと学びを楽しんでいい。そうすれば育まれた好奇心が原動力となって、だめと言われても自ら学び続けるものです。それが日本の教育が良くなる秘訣だと思います』、「一人一人が与えられた個性をその子と一緒になって探して、見つけ出すこと。そして、好きなものが見つかったら、それをとことんやって没頭できるようにすること。何らかのアウトプットを創り出せるよう、子どもの背中を後押しすること。また、親自身が子どもと一緒になって学びを楽しみたい、そんなふうに考えながら、子育てを楽しんでいます」、自分が忍耐強くなければいけないので、私にはどうも無理なようだ。
タグ:良い教育とは、生徒が困難に直面しても、生き抜くことができる教育だと考えています。そのためには挑戦や失敗をする経験が不可欠で、座学だけでは良きリーダーは育めないと考えています イヤモンド・オンライン 課外授業活動を通じてさまざまな経験を積むことは、リーダーになるために必要不可欠 座学だけではリーダーは育たない 課題授業で忙しい生徒の一日 時代が変わったのに 変わりきれていない「日本の教育」 ハウスマスターは、思春期の心身の悩みなどもサポートできるプロフェッショナル 秘密は、寄宿生活にあります これからの日本の教育では「好奇心」を育てることが重要 ハロウ校では学び方のプロセスを教えることを重視しています。たとえば、生徒が問題を見つけ出し、リサーチ方法を組み立て、テストしてデータを集め、結果を導き出す。こういった学び方のプロセスを教えていくことを大切にしています 「ハーバードで世界の教育を学んで分かった「好奇心」を伸ばす2つの秘訣」 会に出たら決まった正解のないものばかりです。自らが問題を発見し、複雑な問題を解決するために自分の頭で考えて行動し、トライアンドエラーを繰り返していかなければなりません。学び続けること、成長し続けること、挑戦し続けることが求められるのです 一斉授業中心から、一人ひとりの個別化を重視した授業に切り替えていく必要がある 知識ではなく学びのプロセスを教える 創造性や、ゼロから物を作り出すマインドセットを育てる仕組みは足りないと感じます こうすることで、フレキシブルで創造的で、失敗を恐れないマインドセットを持つ人材が育っていきます 日本の教育 日本には創造性の教育が足りない 本山勝寛 カリキュラムはイギリス式 フル・ボーディングスクール リーダーシップやレジリエンスが育つ ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン(以下、ハロウ安比校) 高い好奇心を持っていれば、親や先生から勉強するように強制されなくても自ら主体的に学び、学校を卒業して社会人になってからも常に新しいことを学び続け、上司から指示されなくても仕事を改善し、新たな価値を創り出します 2022年夏、安比高原に日本校を開校 岩手県安比高原に日本校を開く パブリックスクール「ハロウスクール」 これから最も求められる力は「好奇心」である 「英国の超名門校トップが語る「日本の学校では創造性が育たないたった一つの理由」 「私たちとは教え方が根本的に違う」」 宇野 令一郎 PRESIDENT ONLINE 教職の「ブラック化」は放置できない段階にあるようだ。さらなる実態調査が必要 自らの状態に気づいて休職できる人だけでも毎年5000人も生んでいるのが教員という仕事である 激務の末、命を落としていった教員 「比較的落ち着いた学校に赴任した直後、それ以前の疲労やストレスが一気に噴き出すことが、仕事熱心な教員に多く見られる」、ちょっと常識では考え難いようなことも起きているようだ 「2002年に精神疾患による病休者が全病休者の過半数に達し現在まで続いている」、この表現は甘く、むしろ比重は着実に上昇している、とすべきだろう 精神的ストレスが引き起こす大量の休職 かつての聖職は今や「ブラック化」 『教員という仕事なぜブラック化したのか』 毎年5000人が心を病む「教員」の過酷すぎる実態 疲労やストレスをためこんで心身が疲弊する」 朝比奈 なを 東洋経済オンライン 子どもの好奇心を伸ばす2つのポイント (その22)(毎年5000人が心を病む「教員」の過酷すぎる実態 疲労やストレスをためこんで心身が疲弊する、英国の超名門校トップが語る「日本の学校では創造性が育たないたった一つの理由」 「私たちとは教え方が根本的に違う」、ハーバードで世界の教育を学んで分かった「好奇心」を伸ばす2つの秘訣) 教育 時代は変わったのに、教育は変わりきれていない。それが日本の現状なのかもしれません 一人一人が与えられた個性をその子と一緒になって探して、見つけ出すこと。そして、好きなものが見つかったら、それをとことんやって没頭できるようにすること。何らかのアウトプットを創り出せるよう、子どもの背中を後押しすること。また、親自身が子どもと一緒になって学びを楽しみたい、そんなふうに考えながら、子育てを楽しんでいます 「没頭」と「アウトプット」がポイント
暗号資産(仮想通貨)(その16)(ビットコイン 再び最高値圏 市場成熟でも決済利用遠く、機関投資家が買うビットコイン 3年ぶり最高値更新) [金融]
暗号資産(仮想通貨)については、6月27日に取上げた。今日は、(その16)(ビットコイン 再び最高値圏 市場成熟でも決済利用遠く、機関投資家が買うビットコイン 3年ぶり最高値更新)である。
先ずは、11月18日付けロイター「焦点:ビットコイン、再び最高値圏 市場成熟でも決済利用遠く」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/bitcoin-market-idJPKBN27Z0HF
・『代表的な暗号資産(仮想通貨)のビットコインの価格が2017年に記録した過去最高値に迫りつつある。ビットコイン推進派の人々は、今回の上昇局面は、熱狂した個人投資家の関与が減っているので、かつてのような暴落が起きる公算は乏しいと期待している。しかし決済手段としてはまだほとんど使われず、金融市場全般に対する世界的な不透明感も広がっているため、ビットコインは安全な投資先とは到底言えない、とアナリストは警告する。 「以前の事態とは異なる要素がたくさんある」と語るのは仮想通貨メディア、ザ・ブロックの調査ディレクターのラリー・サーマク氏だ。「価格は着実に上がり、個人の参加はほとんど見られず、市場は流動性がずっと高まり、機関投資家にとってはるかに利用しやすくなっている。とはいえ、今のところ非常にリスクが大きい」という。 ビットコインBTC=BTSPの価格は18日に1万8000ドル台を突破し、17年12月以来の高水準を付け、年初来の上昇率はおよそ160%に達した。 この勢いは17年に匹敵する。当時は、個人投資家の買いが広がって一時2万ドル近くに跳ね上がった後、1カ月後には半値未満に落ち込んだが、現在は有効に機能するデリバティブ市場や、既存の大所の金融機関による保管サービスなど、インフラ環境は比べものにならないほど整っている。 例えば17年12月に始まったCMEグループCME.Oのビットコイン先物の取組残高は今週、初めて10億ドルを超えた。仮想通貨データ提供会社スキューによると、19年初め段階でほぼゼロだった主なビットコイン関連オプション市場の規模は、40億ドル強にまで拡大した。 一方、フィデリティ・インベストメンツや野村ホールディングスといった大手金融機関は、ビットコインその他仮想通貨について、機関投資家向けの保護預かりサービスを開始している。 仮想通貨データを扱うメサリのライアン・セルキス最高経営責任者(CEO)は「市場の成熟度という面では17年と今とでは全く比較にならない。当時はデリバティブとクレジット市場はほとんどなく、機関投資家向け保護預かりは存在しなかった」と話す。 この種のインフラ登場により、ヘッジファンドからファミリーオフィスに至るまでの機関投資家が、仮想通貨投資に向かいやすくなった。 ブロックチェーンのソフトウエアを手掛けるクリアマトリクスの市場情報責任者ティム・スワンソン氏は「3年前とは使い勝手が一変したため、仮想通貨市場に積極的に参入しようとする投資家の層が広がっている」と語る。機関投資家が市場に加われば、流動性はより分厚くなり、価格変動は小さくなると考えられる。 規制面では、仮想通貨は依然として対象となっていない部分が大半だが、反マネーロンダリングなどの分野で国際基準が導入されており、大口投資家に道を開いている。 また先月には、決済サービス大手ペイパル・ホールディングスPYPL.Oが仮想通貨取引のプラットフォームを開設すると発表。ライバルのスクエアは、全資産の1%をビットコインに投資したことを明らかにしている。 足元では、政府や中央銀行が新型コロナウイルスのパンデミック対策として大規模な財政・金融政策を打ち出し、市場のリスク志向が強まってビットコイン価格が支えられているという点も、17年との違いだ。推進派は、ビットコインの供給上限が2100万と決まっていることが、インフレを促進する政策に対するヘッジになると主張している。 仮想通貨ファンドのデジタル・アセット・キャピタル・マネジメントのリチャード・ガルビン氏は、こうした話を総合してみると、より原則に忠実な考え方をする投資家を含めて、ビットコインの価格設定に参加できる層は広がる余地があると指摘した。 もっともインフラが改善し、主流投資家に認知されるようになってもなお、ビットコインの値動きは安定していない。仮想通貨セクターは引き続き不透明で、従来の金融市場に比べれば規制が緩く、取引データは不ぞろいで、相場操縦への懸念がまん延しているからだ。 仮想通貨コンサルタントのコリン・プラット氏は「要するに、ビットコインはリスク性が高い市場で、リスク性が高い資産だということだ」と言い切った。 さらにこれだけビットコインの取引が活発となっても、本来目指したような使われ方をほとんどされていない。AJベルの投資ディレクター、ラス・モールド氏は「採掘と使用にかかるコストや、カードやスマートフォンによる非接触型電子決済が安心して使えるようになったことを踏まえると、ビットコインが『通貨』として幅広く利用されるという保証はない」と述べた』、「デリバティブ市場や、既存の大所の金融機関による保管サービスなど、インフラ環境」、は「比べものにならないほど整」い、「機関投資家が、仮想通貨投資に向かいやすくなった」、ようだが、「決済手段としてはまだほとんど使われず」、というのでは、「『通貨』として幅広く利用されるという保証はない」というのは確かなようだ。
次に、12月1日14:09付け日経新聞「機関投資家が買うビットコイン、3年ぶり最高値更新」を紹介しよう。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66842990R01C20A2000000/
・『代表的な暗号資産(仮想通貨)であるビットコインの価格が1日、1万9800ドル台に乗せ、3年ぶりに過去最高を更新した。米国の機関投資家が株式や債券とは値動きが連動しない「代替資産」として保有する動きが加速しているうえ、決済手段としての利用に期待を込めた個人マネーも流入している。 市場から注目されている調査会社コインデスクのデータによれば、1日のビットコイン価格は一時1万9800ドルを超え、ビットコインバブル崩壊前の17年12月につけた最高値(1万9786ドル)を超えた。17年の最高値は仮想通貨交換業者によって若干ずれがあるが、おおむね1万9600ドル~1万9700ドル台に収まっていた。 ビットコイン相場を底上げしているのは、代替資産として資産構成に組み入れる機関投資家の買いだ。米JPモルガン・チェースは11月のリポートで「ビットコインに長期資金を振り向ける投資家が増えてきた」と分析した その代表例が米グレイスケール・インベストメンツが運営するファンドだ。年金基金や富裕層の資金を仮想通貨ファンドを通じて運用しており、11月上旬に発表した運用資産額は91億ドルに達した。投資責任者のマイケル・ソンネンシェイン氏は「金の上場投資信託(ETF)を上回るペースで資金が入ってきている」と指摘する。 ビットコインと金の共通項は希少性にある。ビットコイン発行枚数は世界で2100万枚と上限があり、「デジタルゴールド」とも呼ばれる。その希少性はインフレヘッジ手段として機能を発揮する。ヘッジファンドを運営するポール・チューダー・ジョーンズ氏は投資家向けの書簡でビットコインについて「70年代の金に似ている」と指摘する。 ビットコインが買われる背景のひとつは、各国政府の信用力が裏付けとなっている法定通貨への不信感だ。新型コロナウイルス対策で米国の財政悪化が目立つことへの懸念から、米ドルは主要通貨と比べた総合力指数が3月高値から1割下がった。そこで無国籍通貨であるビットコインに脚光が当たりやすくなった』、「ビットコイン相場を底上げしているのは、代替資産として資産構成に組み入れる機関投資家の買い」、「代替資産」とは株式や債券の伝統的な運用に頼らない資産(金やビットコイン)を指し、オルタナティブ資産ともいう。「個人」に代わって「機関投資家」が買い出したというのは心強い。
・『日本では機関投資家によるビットコインの資産組み入れは、ほとんど進んでいない。ある大手生命保険会社の運用責任者は「研究といいながら1、2年たってしまった。ファンド経由での運用などを早急に検討しなければいけないかもしれない」と話す。 個人マネーも流入している。パンテラ・キャピタルによれば、市場では米電子決済大手ペイパルとスクエアの2社の購入が目立つという。いずれもアプリ経由で個人がビットコインを購入できるサービスを提供しており、スクエアの20年7~9月期のビットコイン売上高は約16億3000万ドル(1700億円)と前年同期比で11倍に膨らんだ。ペイパルでは仮想通貨での決済も21年から可能になるため、こうした企業を通じた若年層の購入のハードルが下がったとみられる。 ビットコインは1日で価格が1割動くなど変動が激しい。ビットコインバブル崩壊時は最高値から価格は4分の1に急落した。ただ、少ない元手で数十倍の取引ができるレバレッジ取引が横行した17年と違って今回は現物買いが繰り広げられている。仮想通貨交換業を営むビットバンク(東京・品川)の長谷川友哉マーケットアナリストは「決済という実需に使える世界が21年以降広がってくる。今回の高値更新は通過点だろう」と話す』、「日本では機関投資家によるビットコインの資産組み入れは、ほとんど進んでいない」、またもやガラパゴス化するのだろうか。「ペイパルでは仮想通貨での決済も21年から可能になる」、としても、これが果たして「決済という実需に使える世界が21年以降広がってくる」、のにつながるかは本当のところはよく分からない。ただ、「機関投資家」の参入により価格の安定性が向上する可能性はありそうだ。
先ずは、11月18日付けロイター「焦点:ビットコイン、再び最高値圏 市場成熟でも決済利用遠く」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/bitcoin-market-idJPKBN27Z0HF
・『代表的な暗号資産(仮想通貨)のビットコインの価格が2017年に記録した過去最高値に迫りつつある。ビットコイン推進派の人々は、今回の上昇局面は、熱狂した個人投資家の関与が減っているので、かつてのような暴落が起きる公算は乏しいと期待している。しかし決済手段としてはまだほとんど使われず、金融市場全般に対する世界的な不透明感も広がっているため、ビットコインは安全な投資先とは到底言えない、とアナリストは警告する。 「以前の事態とは異なる要素がたくさんある」と語るのは仮想通貨メディア、ザ・ブロックの調査ディレクターのラリー・サーマク氏だ。「価格は着実に上がり、個人の参加はほとんど見られず、市場は流動性がずっと高まり、機関投資家にとってはるかに利用しやすくなっている。とはいえ、今のところ非常にリスクが大きい」という。 ビットコインBTC=BTSPの価格は18日に1万8000ドル台を突破し、17年12月以来の高水準を付け、年初来の上昇率はおよそ160%に達した。 この勢いは17年に匹敵する。当時は、個人投資家の買いが広がって一時2万ドル近くに跳ね上がった後、1カ月後には半値未満に落ち込んだが、現在は有効に機能するデリバティブ市場や、既存の大所の金融機関による保管サービスなど、インフラ環境は比べものにならないほど整っている。 例えば17年12月に始まったCMEグループCME.Oのビットコイン先物の取組残高は今週、初めて10億ドルを超えた。仮想通貨データ提供会社スキューによると、19年初め段階でほぼゼロだった主なビットコイン関連オプション市場の規模は、40億ドル強にまで拡大した。 一方、フィデリティ・インベストメンツや野村ホールディングスといった大手金融機関は、ビットコインその他仮想通貨について、機関投資家向けの保護預かりサービスを開始している。 仮想通貨データを扱うメサリのライアン・セルキス最高経営責任者(CEO)は「市場の成熟度という面では17年と今とでは全く比較にならない。当時はデリバティブとクレジット市場はほとんどなく、機関投資家向け保護預かりは存在しなかった」と話す。 この種のインフラ登場により、ヘッジファンドからファミリーオフィスに至るまでの機関投資家が、仮想通貨投資に向かいやすくなった。 ブロックチェーンのソフトウエアを手掛けるクリアマトリクスの市場情報責任者ティム・スワンソン氏は「3年前とは使い勝手が一変したため、仮想通貨市場に積極的に参入しようとする投資家の層が広がっている」と語る。機関投資家が市場に加われば、流動性はより分厚くなり、価格変動は小さくなると考えられる。 規制面では、仮想通貨は依然として対象となっていない部分が大半だが、反マネーロンダリングなどの分野で国際基準が導入されており、大口投資家に道を開いている。 また先月には、決済サービス大手ペイパル・ホールディングスPYPL.Oが仮想通貨取引のプラットフォームを開設すると発表。ライバルのスクエアは、全資産の1%をビットコインに投資したことを明らかにしている。 足元では、政府や中央銀行が新型コロナウイルスのパンデミック対策として大規模な財政・金融政策を打ち出し、市場のリスク志向が強まってビットコイン価格が支えられているという点も、17年との違いだ。推進派は、ビットコインの供給上限が2100万と決まっていることが、インフレを促進する政策に対するヘッジになると主張している。 仮想通貨ファンドのデジタル・アセット・キャピタル・マネジメントのリチャード・ガルビン氏は、こうした話を総合してみると、より原則に忠実な考え方をする投資家を含めて、ビットコインの価格設定に参加できる層は広がる余地があると指摘した。 もっともインフラが改善し、主流投資家に認知されるようになってもなお、ビットコインの値動きは安定していない。仮想通貨セクターは引き続き不透明で、従来の金融市場に比べれば規制が緩く、取引データは不ぞろいで、相場操縦への懸念がまん延しているからだ。 仮想通貨コンサルタントのコリン・プラット氏は「要するに、ビットコインはリスク性が高い市場で、リスク性が高い資産だということだ」と言い切った。 さらにこれだけビットコインの取引が活発となっても、本来目指したような使われ方をほとんどされていない。AJベルの投資ディレクター、ラス・モールド氏は「採掘と使用にかかるコストや、カードやスマートフォンによる非接触型電子決済が安心して使えるようになったことを踏まえると、ビットコインが『通貨』として幅広く利用されるという保証はない」と述べた』、「デリバティブ市場や、既存の大所の金融機関による保管サービスなど、インフラ環境」、は「比べものにならないほど整」い、「機関投資家が、仮想通貨投資に向かいやすくなった」、ようだが、「決済手段としてはまだほとんど使われず」、というのでは、「『通貨』として幅広く利用されるという保証はない」というのは確かなようだ。
次に、12月1日14:09付け日経新聞「機関投資家が買うビットコイン、3年ぶり最高値更新」を紹介しよう。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66842990R01C20A2000000/
・『代表的な暗号資産(仮想通貨)であるビットコインの価格が1日、1万9800ドル台に乗せ、3年ぶりに過去最高を更新した。米国の機関投資家が株式や債券とは値動きが連動しない「代替資産」として保有する動きが加速しているうえ、決済手段としての利用に期待を込めた個人マネーも流入している。 市場から注目されている調査会社コインデスクのデータによれば、1日のビットコイン価格は一時1万9800ドルを超え、ビットコインバブル崩壊前の17年12月につけた最高値(1万9786ドル)を超えた。17年の最高値は仮想通貨交換業者によって若干ずれがあるが、おおむね1万9600ドル~1万9700ドル台に収まっていた。 ビットコイン相場を底上げしているのは、代替資産として資産構成に組み入れる機関投資家の買いだ。米JPモルガン・チェースは11月のリポートで「ビットコインに長期資金を振り向ける投資家が増えてきた」と分析した その代表例が米グレイスケール・インベストメンツが運営するファンドだ。年金基金や富裕層の資金を仮想通貨ファンドを通じて運用しており、11月上旬に発表した運用資産額は91億ドルに達した。投資責任者のマイケル・ソンネンシェイン氏は「金の上場投資信託(ETF)を上回るペースで資金が入ってきている」と指摘する。 ビットコインと金の共通項は希少性にある。ビットコイン発行枚数は世界で2100万枚と上限があり、「デジタルゴールド」とも呼ばれる。その希少性はインフレヘッジ手段として機能を発揮する。ヘッジファンドを運営するポール・チューダー・ジョーンズ氏は投資家向けの書簡でビットコインについて「70年代の金に似ている」と指摘する。 ビットコインが買われる背景のひとつは、各国政府の信用力が裏付けとなっている法定通貨への不信感だ。新型コロナウイルス対策で米国の財政悪化が目立つことへの懸念から、米ドルは主要通貨と比べた総合力指数が3月高値から1割下がった。そこで無国籍通貨であるビットコインに脚光が当たりやすくなった』、「ビットコイン相場を底上げしているのは、代替資産として資産構成に組み入れる機関投資家の買い」、「代替資産」とは株式や債券の伝統的な運用に頼らない資産(金やビットコイン)を指し、オルタナティブ資産ともいう。「個人」に代わって「機関投資家」が買い出したというのは心強い。
・『日本では機関投資家によるビットコインの資産組み入れは、ほとんど進んでいない。ある大手生命保険会社の運用責任者は「研究といいながら1、2年たってしまった。ファンド経由での運用などを早急に検討しなければいけないかもしれない」と話す。 個人マネーも流入している。パンテラ・キャピタルによれば、市場では米電子決済大手ペイパルとスクエアの2社の購入が目立つという。いずれもアプリ経由で個人がビットコインを購入できるサービスを提供しており、スクエアの20年7~9月期のビットコイン売上高は約16億3000万ドル(1700億円)と前年同期比で11倍に膨らんだ。ペイパルでは仮想通貨での決済も21年から可能になるため、こうした企業を通じた若年層の購入のハードルが下がったとみられる。 ビットコインは1日で価格が1割動くなど変動が激しい。ビットコインバブル崩壊時は最高値から価格は4分の1に急落した。ただ、少ない元手で数十倍の取引ができるレバレッジ取引が横行した17年と違って今回は現物買いが繰り広げられている。仮想通貨交換業を営むビットバンク(東京・品川)の長谷川友哉マーケットアナリストは「決済という実需に使える世界が21年以降広がってくる。今回の高値更新は通過点だろう」と話す』、「日本では機関投資家によるビットコインの資産組み入れは、ほとんど進んでいない」、またもやガラパゴス化するのだろうか。「ペイパルでは仮想通貨での決済も21年から可能になる」、としても、これが果たして「決済という実需に使える世界が21年以降広がってくる」、のにつながるかは本当のところはよく分からない。ただ、「機関投資家」の参入により価格の安定性が向上する可能性はありそうだ。
タグ:暗号資産 「機関投資家」の参入により価格の安定性が向上する可能性はありそうだ 「決済という実需に使える世界が21年以降広がってくる」、のにつながるかは本当のところはよく分からない ペイパルでは仮想通貨での決済も21年から可能になる 「日本では機関投資家によるビットコインの資産組み入れは、ほとんど進んでいない」、またもやガラパゴス化するのだろうか 「個人」に代わって「機関投資家」が買い出したというのは心強い 「代替資産」とは株式や債券の伝統的な運用に頼らない資産(金やビットコイン)を指し、オルタナティブ資産ともいう ビットコイン相場を底上げしているのは、代替資産として資産構成に組み入れる機関投資家の買い 「機関投資家が買うビットコイン、3年ぶり最高値更新」 日経新聞 『通貨』として幅広く利用されるという保証はない 機関投資家が、仮想通貨投資に向かいやすくなった 「比べものにならないほど整」い、 デリバティブ市場や、既存の大所の金融機関による保管サービスなど、インフラ環境 市場は流動性がずっと高まり、機関投資家にとってはるかに利用しやすくなっている ビットコインは安全な投資先とは到底言えない、とアナリストは警告 決済手段としてはまだほとんど使われず 今回の上昇局面は、熱狂した個人投資家の関与が減っている 「焦点:ビットコイン、再び最高値圏 市場成熟でも決済利用遠く」 ロイター (その16)(ビットコイン 再び最高値圏 市場成熟でも決済利用遠く、機関投資家が買うビットコイン 3年ぶり最高値更新) (仮想通貨)