ウクライナ(その2)(ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」、ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ) [世界情勢]
ウクライナについては、2月4日に取上げた。今日は、(その2)(ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」、ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ)である。2つとも、やや早い段階での記事ではあるが、基本的な知識を得るには格好の材料である。
先ずは、2月26日杖東洋経済オンラインが掲載した哲学者・経済学者・神奈川大学副学長の的場 昭弘 氏による「ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/514936
・『ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。一方で、これまでのロシアとウクライナの対立の起源はわかりにくい。日本を代表するマルクス研究者で欧州史、欧州思想にも詳しい神奈川大学副学長の的場昭弘氏が、今回の問題と対立の起源を歴史的文脈から解説する』、基礎的知識を得るには格好の記事だ。
・『ウクライナに住む当事者の立場を見ること 今にもウクライナで戦争が起きそうだと大手メディアはかき立てている。残念ながら、すでに、ロシアは独立を求めるウクライナの親ロシアのドンバスの2つの共和国に侵攻してしまった。首都キエフなどでも戦闘が行われている。ロシアとウクライナの対立の小さな火を、扇で仰いでしまったようである。コロナ禍によって世界で多くの人が亡くなっている最中、むしろ世界の協力と平和を求めるべきなのに、第三次大戦になりそうな戦争の可能性をマスコミも大国の外交もあおってしまったのだ。いったい、世界はどうなってしまったのか。 ウクライナ問題は根の深い問題である。歴史をさかのぼればさかのぼるほど、一筋縄ではいかない問題であることが見えるはずだ。この問題を考える際に、まず考えねばならないのは、ロシアの主張は本当に不当なのかどうかである。思考停止は、最初から偏見を持つことにある。相手の立場に立って見ることも重要だ。さらにはウクライナの人々、ウクライナのロシア人、ポーランド人、そのほか普通の人々の立場に立って冷静に見ることも重要だ。 もちろん、ここでロシア政府とロシア人を同じものだと考えてはいけない。またウクライナ政府とウクライナ人(大半はロシア人だが)を同じものだと考えてはならない。ウクライナ問題の中でまったく見えてこないのは、ウクライナに住む人々の声だ。とりわけ問題のドンバス地域に住む人々の声だ。当事者抜きで、アメリカ、ロシア、ウクライナといった国家レベルだけで考えれば、住民の望むところは理解できない。 帝政ロシア時代の哲学者、作家で、『向こう岸から』を書いたアレクサンドル・ゲルツェン(1812~1870年)は、西欧の向こう岸から世界を見ればどうなるかについて書いた人物だが、彼のいう「向こう岸」は東欧にあるロシア政府ではなく、ロシアの農民であった。彼は当時のヨーロッパの良識の代表でもあった歴史家のミシュレによる、ロシア人は野蛮であるという一方的な評価に対して、彼への書簡の中でこう述べている。 「人がロシアについて語る場合にはもはや、その場にいないもの、答えることのできないもの、耳が聞こえないでかつ口がきけないものについてのように語るわけにはいかないのだということをヨーロッパに明かにするときがきたのである」(「ロシヤ民族と社会主義ミシュレへの手紙」金子幸彦訳、世界大思想全集、哲学文芸思想篇、27巻、河出書房、1954年、155ページ)。 彼は、当事者であるロシア人の声を聞けといっているのだ。当事者とは、フランス政府でも、ロシア政府でもなく、そこに住むロシア人の農民のことである。 どこまで歴史をさかのぼるかによって、その国家も民族も、その存在を正当化することも、また否定することも可能だ。どの国家や民族も昔からずっと存在してきているわけではなく、想像されたものであることは、疑いない。国民国家とは「想像の共同体」にすぎない。 19世紀の半ばから歴史を始めれば、なるほどウクライナは独立した民族であり、独立した言語をもつ、国家である。しかし、それ以前にさかのぼれば、小ロシアにしかすぎない、いやさらにローマ帝国崩壊後、北方から侵入したルーシ族が創設したキエフ公国までさかのぼればロシア人の起源はウクライナだといえないこともない』、「国民国家とは「想像の共同体」にすぎない」、どこまでさかのぼるかによって大きく変わってくる。
・『小ロシアとなったウクライナ しかし、歴史は残酷だ。このキエフ公国はモンゴルに潰され、やがて隣のリトアニア=ポーランド王国に潰されていく。そしてウクライナのロシア人を奪回したのがロシアだ。ヨーロッパに接近することで力をもったロシアが大国になるのは、ピョートル大帝(1682~1725年)からだ。その後ロシアの拡張は進み、ウクライナはロシア本体の辺境である小ロシアになる。それが辺境を意味するウクライナということばとなって現れる。 今の大国ロシアから見れば不思議な話だが、ロシアはつねに西に位置するスウェーデンやポーランドの侵入を恐れてきた。とりわけカトリックの宗教騎士団の侵攻である。ロシアは正教会であり、13世紀のアレクサンドル・ネフスキーの名前はカトリックの侵入を阻止した人物としてロシアの歴史に刻まれている。だからこそ、ロシアにとってスウェーデンとの間に横たわるフィンランドは重要で、この国を親ロにすることが重要であった。フィンランドもスウェーデンを恐れていたからある。 スウェーデンとポーランドの侵攻を抑えるために重要なのが、プロイセンである。18世紀に起きたプロセイン、ロシア、オーストリアによるポーランド分割は、ロシアにとってリトアニア=ポーランド王国の残滓を消すことであった。 しかし、状況は19世紀に一変する。そのきっかけをつくったのが、ナポレオンである。今のリトアニアのヴィリヌスに入ったナポレオンは、1812年初夏ロシアへと侵攻する。ロシア侵攻は、結局ナポレオンの敗走によって幕を閉じるのだが、ヨーロッパに民族独立の火をつけ、その後進展する国民国家独立運動を引き起こしてしまう。) それがギリシアのオスマントルコからの独立運動である。英仏の支援を受けたギリシアは独立に成功するが、これがポーランド独立運動の高まりを生み出し、若者たちの独立運動を引き起こす(青年ドイツ、青年イタリアなど)。こうした独立運動は、当然ながら絶対王政による支配に対する抵抗運動として、社会主義者や共産主義者も巻き込み、ポーランド独立運動支援を生み出す。そんな中、1853年イギリス・フランスとロシアが戦ったクリミア戦争(~1856年)が起き、ウクライナの民族独立運動が生まれる。この頃生まれたのが、ウクライナ民族は存在し、ウクライナは独立国であるべきだという主張である。 ウクライナ民族主義がロシアのツァー体制に向けられたことで、ソ連共産党となるボリシェヴィキもウクライナ独立を支援するようになる。ソビエトが成立して、レーニンはウクライナを連邦共和国の一員として迎えることで、ウクライナをロシアとは別の民族だと認めることになる。一方、第一次大戦が終わると同時にこの地域に西欧が軍事介入し、赤軍と戦うことになる。一方、レーニンの主張に対して、マルクス主義の革命家・哲学者であるローザ・ルクセンブルク(1871~1919年)は、ウクライナ民族の創設について、民族は恣意的に創られるものではないと批判する。この問題が、ウクライナには重くのしかかることになる』、「辺境を意味するウクライナということばとなって現れる」、「ウクライナが「辺境」を意味していたとは初めて知った。「ソビエトが成立して、レーニンはウクライナを連邦共和国の一員として迎えることで、ウクライナをロシアとは別の民族だと認めることになる」、これをドイツの「マルクス主義の革命家・哲学者であるローザ・ルクセンブルク」が批判したとは面白い。
・『親米政権の発足が問題の発端に 第二次世界大戦では、ソ連はヒトラーのバルバロッサ作戦(1941年)によるソ連侵入によって、大きな被害を受ける。連合軍の勝利の後、ロシアはウクライナ共和国を拡大し、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、チェコスロバキアと直接接するように国境地域を拡大する。結果的にウクライナにロシア人以外が住むようになる。とはいえ、ウクライナの人口の多くはロシア語を話すロシア人であった。 1991年のソビエト崩壊によって、ソ連の共和国が独立していく。その中にウクライナもあったが、ロシアはこれらの地域がNATO(北大西洋条約機構)に入らないという条件付きで、独立を認めた。 ウクライナは、2014年の「マイダン」のクーデターで、ロシアと対立する資産家ポロシェンコが、大統領ヤヌコヴィッチをロシアに追放し、親米政権を創る。ここからウクライナ問題が起こる。ロシアは東部に軍隊を送り、その結果、ウクライナの中にロシアに近いルガンスク共和国とドネツク共和国が生まれたが、これをウクライナも西側も国として承認していない。一方クリミアは、ロシアに編入された。もちろんこれも承認されてはいないが。 ウクライナにとって不幸なことは、エネルギー資源を含め最も豊かなのが、この東部であることである。だからウクライナはこれらの地域の分離独立を認めることはできない。こうした問題は、何もウクライナだけではない。ボスニア・ヘルツェゴビナの北にあるスルプスカヤ共和国も同じような状態が続き、ユーゴでの紛争を長期化させた。またスペインのカタロニア独立を求める運動を、スペイン政府が認めていないという問題もある。要するに近代国民国家の独立には、認められるものと認められないものがあるということだ。 ここに当然、大国が介入する余地がある。そもそもウクライナはヨーロッパに属するのだが、EUには軍事組織がない。あるのはNATOである。ソ連時代はワルシャワ条約機構があり、それが東欧を束ねていたのだが、今ではNATOが束ねている。しかし、ウクライナがこれに入るとなると、ロシアはNATOに包囲されることになる。 EUは独自の軍事組織を持つということを課題にしていたのだが、実際にはNATOの傘下に入ることになる。これがウクライナ問題をこじらせている最大の原因である。EUに参加すると、結果的にNATOに入ることになり、ロシアと敵対することになるからだ。もちろんEU独自の軍事組織をもてば、ロシアの近隣にアメリカ中心のNATOが軍事組織を持つことはない。しかし、EUの中でそうした軍事組織をアメリカが認めるはずはない。この問題がウクライナ問題を袋小路に導いているといえる』、「1991年のソビエト崩壊によって、ソ連の共和国が独立していく。その中にウクライナもあったが、ロシアはこれらの地域がNATO(・・・)に入らないという条件付きで、独立を認めた」、「ウクライナ」が「NATO」に加入したいというのは約束違反だ。「アメリカ」としても、「EUの中でそうした軍事組織を・・・認めるはずはない」、なるほど。
・『地理的にも不幸なウクライナ ウクライナにとって不幸なのは、地理的問題だ。ウクライナは今のロシアにとってEUとの緩衝地帯である。さらに、ウクライナを流れるドニエプル川そしてドネツ川(ドン川)が、ロシアへつながっていることだ。北の海しか持たないロシアの重要な輸送路は、黒海である。黒海に入った船はロシアに向かってこれらの川を上る。これと良く似た不幸な地理的地域がドナウ川流域だ。ドナウ川はルーマニア、ブルガリア、セルビア、ハンガリー、スロバキア、オーストリア、ドイツ(流域を含めるとウクライナも通る)を流れる。これらの国は、一蓮托生であり、勝手な行動を取ると紛争に発展する。 ましてウクライナの東部の天然ガスが、西欧へ流れていく点で、ウクライナは重要な地点である。しかし、一方でロシアとドイツとのノルドストリーム1、2が建設され、さらにはトルコからブルガリア、そしてドイツへと流れる天然ガスのパイプラインができれば、ウクライナは取り残される。それはロシアとドイツの協力による、戦後のヨーロッパ体制の崩壊であり、またEUの崩壊であり、アメリカとフランスにとっても傍観はできない。 だからこそ、この地域はバルカンと並んで重要な地域であり、アメリカの軍事戦略とロシアの軍事戦略が真っ向から対立する地域でもある。巻き込まれているのは、ウクライナだけではない。ルーマニア、ブルガリア、セルビア、ポーランド、バルト3国など周辺諸国も巻き込まれている。NATOとEUの拡大は、これらの地域をロシアとの対立へ誘うことになる。不幸な話である。) ウクライナは歴史に翻弄されてきた地域である。オスマントルコの時代には黒海沿岸部はオスマントルコの支配を受け、ロシアの南下によってロシアの支配を受け、つねにいずれかの強国の支配を受けざるをえなかった地域である。それはバルカンに極めて似ている。今ウクライナに似ているのは、バルカンのセルビアだ。セルビアは、EUとロシアの狭間に立っている。セルビア大統領ヴチッチは、アメリカとロシアの2つの大国を天秤にかけながら外交しているが、場合によってはセルビアの大統領だったスロボダン・ミロシェヴィッチ(1941~2006年)のように大国によって失脚させられるかもしれない。 最初にあげたゲルツェンの書簡は、こうした地域にとっての1つの示唆を与えてくれるかもしれない。彼はこう述べている。 「中央集権化はスラブ精神と相容れない。連邦組織の方がその性格にとってはるかに固有のものである。自由な独立的な諸国民の同盟として結集することによってのみ、スラブ世界はついに真の歴史的存在となるだろう」(前掲書、163ページ)』、「ノルドストリーム1、2が建設され、さらにはトルコからブルガリア、そしてドイツへと流れる天然ガスのパイプラインができれば、ウクライナは取り残される。それはロシアとドイツの協力による、戦後のヨーロッパ体制の崩壊であり、またEUの崩壊であり、アメリカとフランスにとっても傍観はできない」、「ノルドストリーム」などの「天然ガスのパイプライン」が、「ウクライナ」問題に影響しているとは初めて知った。
・『中立的な連邦国家としてのウクライナ ロシアは、それがスラブ精神と相容れないのならば、望むべくは巨大な中央集権的国家であることを辞めるべきであろう。それと同時に、ウクライナも小さなルガンスクやドネツク共和国を認めるべきであろう。ソビエト連邦は少なくともそれを目指したはずだが、実際にはロシア支配になってしまっていた。バルカンでは、バルカン同盟という構想があったが、連邦制という考えはどうであろう。 長い間東欧地域はオスマントルコ帝国、オーストリア帝国、ロシア帝国の絶対主義体制が支配的であったのだが、それを打ち破る連邦制を追求したのが、ロシア革命であったとすれば、今プーチンがやろうとしていることは、ロシアのツアー体制に逆戻りすることにもなりかねない。それを受けて立つウクライナも、ロシア人地域を自国に引き留めておけば、同じ穴の狢だ。 厳しいことをいえば、ウクライナはEUに入るよりも、中立な連邦国家として存在したほうがいい。EUの拡大がNATOの拡大なら、ロシアとの対立は避けられないだろう。EUが独自の軍事機構を持ち、なおかつロシアもその仲間に入れるようになれば、状況は変わるだろうが、それは今のところ無理であろう。ならば、やはり、歴史的にも、地理的にもウクライナは、ロシア=スラブという環境の中で生きていくしかないだろう。もちろん、ウクライナに住む少数民族のルテニア人、ベッサラビア人、ガリツィア人なども小さな国を創り、連邦化するべきかもしれない』、「今プーチンがやろうとしていることは、ロシアのツアー体制に逆戻りすることにもなりかねない」、「やはり、歴史的にも、地理的にもウクライナは、ロシア=スラブという環境の中で生きていくしかないだろう。もちろん、ウクライナに住む少数民族のルテニア人、ベッサラビア人、ガリツィア人なども小さな国を創り、連邦化するべきかもしれない」、説得力がある。
次に、3月3日付けNewsweek日本版が掲載したジャーナリスト・元米陸軍情報分析官のウィリアム・アーキン氏による「ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ」を紹介しよう。
・『アメリカが以前から構築してきた新しい戦争計画が、ロシアによるウクライナ侵攻で現実味を帯びている。非核兵器・核兵器の融合が、かえって「核戦争」を招く恐れも この原稿が世に出る頃ウクライナ争が始まっていても、誰も驚くまい。しかし、これが昔ながらの「局地戦」に終わると思ったら大間違いだ。米ロの緊張が極度に高まるなか、アメリカは新たな「核戦争計画」を用意している。そこに描かれるのは従来とは全く異なる戦争の姿だ。(編集部注:この記事は本誌2月22日発売号(3月1日号)「緊迫ウクライナ 米ロ危険水域」特集に掲載したものです) この計画では、核兵器と非核兵器が初めて対等な兵器群として位置付けられ、統合されている。なお「非核兵器」には伝統的な通常兵器に加え、敵国の送電網や通信網に対するサイバー攻撃といったサイバー戦の領域も含まれる。この場合、伝統的な(核の)抑止力は弱まる。目に見えないサイバー戦を含め、攻撃のオプションが増えれば相手方の意図は読みづらくなる。単なる防衛的措置なのか、先制攻撃の前触れなのか。そこが読めなければ戦闘は拡大するだろうし、読み違えて核兵器のボタンを押す危険も高まる。 一触即発の危機があり、青天の霹靂で核ミサイルが発射され、地球が破滅する──というのは昔の話。今までは核兵器の使用が究極の選択肢だったが、新たな核戦争計画ではそれも多くの選択肢の1つとなる。新たな選択肢には、核兵器も通常兵器も「非通常兵器」も含まれ、従来型の物理的に攻撃する動的(キネティック)な攻撃も「非動的」な攻撃も含まれる。 現にアメリカのジョー・バイデン大統領は2月7日に、ロシアがウクライナに侵攻すればノルドストリーム2(ロシアからドイツに天然ガスを送るパイプラインで、ロシア経済の生命線でもある)を稼働させないと警告した。むろん、爆撃で破壊するという意味ではない。ある種の「非動的」攻撃を示唆したものだ』、「今までは核兵器の使用が究極の選択肢だったが、新たな核戦争計画ではそれも多くの選択肢の1つとなる。新たな選択肢には、核兵器も通常兵器も「非通常兵器」も含まれ、従来型の物理的に攻撃する動的(キネティック)な攻撃も「非動的」な攻撃も含まれる」、戦争のイメージは一変したょうだ。
・『必要以上の反撃を招いてしまう懸念 バイデンは詳細を明かさなかったが、とにかく「わが国にはそれが可能だ」と述べた。要するにサイバー攻撃だと、専門家はみている。 サイバー攻撃能力は、アメリカの新たな核戦争計画の柱の1つだ。バイデンは昨年3月に出した国家安全保障戦略の暫定指針で、「国家安全保障戦略における核兵器の役割を低減する措置を取る」としている。ミサイルを発射する代わりに、パイプラインの運営システムにサイバー攻撃を掛ける。そうした作戦が、核兵器の使用を頂点とする壮大な戦争計画の一環として、しっかり位置付けられているわけだ。 攻撃の選択肢が増えれば、どんな敵対勢力にも対応しやすい。そしてアメリカ大統領にとっては、核戦争回避の選択肢が増える。そういう見方もできるが、こちらの攻撃の幅が広がると相手方が混乱する可能性もある。その場合、非核兵器を使用した動きが核による先制攻撃の前触れと誤解され、回避したかった核戦争が始まってしまう恐れもある。 バイデン政権が唱える新たな核戦争計画は、自国で保有する全ての軍事・非軍事兵器をひとまとめに新たな抑止力と見なし、敵を物理的に打ち負かすのではなく、機能不全に陥らせることを目指している。 核兵器と通常兵器の境目は、かつてないほど曖昧になっている。それに伴い、75年以上にわたって核兵器の使用を思いとどまらせてきた「戦略的安定」という概念も時代遅れになってきた。ロシアの戦車がウクライナ領に攻め込むかどうかは別として、何らかの軍事衝突が起きれば、この新時代の戦争計画が初めて実行に移されることになる。 昨年6月、アメリカとカナダは冷戦終結以降で最大規模の合同軍事演習を実施した。カナダ北部とアラスカ、グリーンランドにある9つの基地に100機以上の戦闘機と支援部隊を展開させた。演習の目的は、北回りで侵入してくるロシアの爆撃機による攻撃を阻止することにあった。 まだウクライナ情勢が緊迫化する前の段階で、なぜそんな演習が行われたのか。冷戦時代の演習では、迎撃作戦はアメリカの国境付近で行われ、戦闘機がどう対応するかは大なり小なり搭乗員の判断に委ねられていた。しかし今回の演習では、国境から遠く離れた場所で、しかも何千キロにもわたる広い空域で戦闘機を動かした。ステルス戦闘機F22ラプターは北極圏上空でロシア国境まで約300キロの距離まで接近した。遠く離れていても各機は互いに連絡を取り合い、地上局や人工衛星からの指示や情報を受信できた。そして地上では、サイバー戦や宇宙戦のプロが目に見えぬ貢献をしていた』、「アメリカ大統領にとっては、核戦争回避の選択肢が増える。そういう見方もできるが、こちらの攻撃の幅が広がると相手方が混乱する可能性もある。その場合、非核兵器を使用した動きが核による先制攻撃の前触れと誤解され、回避したかった核戦争が始まってしまう恐れもある」、「核兵器と通常兵器の境目は、かつてないほど曖昧になっている。それに伴い、75年以上にわたって核兵器の使用を思いとどまらせてきた「戦略的安定」という概念も時代遅れになってきた」、様変わりになるようだ。
・『複数ドメインの攻撃を高度に統合 こうした複数ドメイン(領域)の統合は、現代における戦争の特徴の1つだ。戦闘機の攻撃能力が増していることに加え、今は通常兵器の長距離ミサイルやミサイル防衛システム、サイバー戦、宇宙戦、さらには敵国に潜入した特殊部隊までが統合され、一体として運用できる。 悪夢の9.11同時多発テロから20年、途切れのない紛争に対応するなかでアメリカの戦争遂行能力は高度に統合されてきた。今や通常兵器もデジタル兵器も核戦争計画に盛り込まれている。核兵器の脅威が最大の抑止力とされていたのは昔の話で、今はもっと柔軟で適応力の高い戦争計画が策定され、そこでは心理戦や秘密の偽装工作も含めて「政府の全体」が統合されている。 こうした変化を反映させるため、米戦略軍(STRATCOM)は2019年4月30日に、ほぼ10年ぶりで戦争計画の大改訂版を作成した。1000ページを超す膨大な文書だが、そこではロシアと中国、イラン、北朝鮮の脅威を念頭に、改めて「大国間の競争」に焦点を当てている。) 当然のことながら、最も厄介な相手はロシアだ。保有する核兵器数は拮抗しているし、欧米に対する敵意を隠そうともしない。アメリカ同様に「新型兵器」を保有し、「いかなるレベルでも、どの領域でも、どの場所でも一方的に暴力をエスカレートさせる能力を有している」と、米戦略軍の計画部長フェルディナンド・B・ストスは言う。 この新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった。また内容が極度に細分化されているため、政府部内でも全体像を知るのは数百人程度だった。 「バイデン政権はもうすぐ『核態勢の見直し(NPR)』を発表する予定だが、内容は乏しいだろう」とクリステンセンは本誌に語った。爆撃機、地上配備型ミサイル、原子力潜水艦など、核戦争用の装備の構成は大して変わらないからだ。 「皮肉なことに、今や核兵器は戦略効果の全スペクトラムに組み込まれている」とクリステンセンは言う。だから大事なのは、こうした変化を踏まえた全体的な「戦略態勢の見直し」だと彼は考える。特に必要なのは、こうした戦力の多様化が戦略的安定と平和に役立つのか、その逆なのかの検証だと言う。 「核兵器による戦略的安定と言うなら、頼れるのは今も昔も原子力潜水艦だ。あれは不死身で、ロシアからの先制攻撃でも破壊されない」とクリステンセンは言う。「しかし最新の戦争計画では戦力の統合が進み、核兵器以外の選択肢が増えている。(たとえ核兵器を使わなくても)そういう選択肢の行使をロシアが挑発と見なし、あるいはアメリカからの先制攻撃の始まりと見なす可能性は否定できない」』、「新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった:、情報公開がここまで進んでいるとは驚かされた。もっとも、ロシアや中国などに、事前に知らせておく狙いなのかも知れない。
・『核・非核の統合で戦争激化の道筋が増える クリステンセンは「核・非核の統合が進み、破壊より効果に重点を置くことで、通常兵器による戦争と核戦争を隔てる壁が崩れ、戦闘激化の道筋が増える」ことを懸念する。 あまり知られていないが、もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない。現行の戦略はオバマ政権時代に採用されたもので、まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める。 戦争計画の策定に当たる人たちの言葉を借りるなら、第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。 この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃することが唯一の選択肢ではなくなる。) この場合、爆撃機や潜水艦は分散して配置し、敵を欺いて第一撃を生き延びる必要がある。動きを察知されないよう、空でも地上でも、サイバー空間でも宇宙空間でも守りを固める。そして極めて柔軟性の高い意思決定構造を保ちつつ、ロシアからの攻撃を阻む。タイミングと柔軟性が決め手になる。 当時の米戦略軍司令官だったジョン・ハイテンは、この手法の斬新さを示唆して、こう述べていた。着任してすぐ、「全ての計画に柔軟な選択肢の数々がある」ことに最も驚いたと。「世界で何か悪いことが起きて、対応するために国防長官や大統領と電話で協議するとき、私には諸々の柔軟な選択肢がある。通常兵器から大型核兵器まで、何ができるかの選択肢を進言できる」 それらの選択肢は「指揮計画選択肢(DPO)」と呼ばれる。以前は「適応的」選択肢という呼称だった。具体的には核攻撃を含む対応能力の一覧だが、大量破壊兵器を用いたテロの脅威や、本土に対する大規模な宇宙・サイバー攻撃などを想定し、核以外の広範な種類の反撃オプションも例示してある。 ロシアに関して言えば、核兵器を使わず、動的でもない方法でクレムリン(大統領府)を攻撃し、早期警報システムや通信を遮断して国家の意思決定を妨げることが重視されている。 DPOには、兵器と呼べないような新しい能力も含まれる。中には極度に細分化され、最高機密以上の扱いとなっている選択肢もあり、全体として5次元(陸海空に加えて宇宙とサイバー)的な脅威をロシアに与えることが目的だ』、「もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない」、「まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める」、「第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。 この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃することが唯一の選択肢ではなくなる」、「ロシアに関して言えば、核兵器を使わず、動的でもない方法でクレムリン・・・を攻撃し、早期警報システムや通信を遮断して国家の意思決定を妨げることが重視されている」、なるほど。
・『核攻撃で始まらない核戦争 しかし危機においては、通常兵器と核兵器の区別も、情報戦とリアルな戦闘の区別もつきにくい。だから危機対策や防衛を意図した行動が、核による第一撃の準備段階のように誤解される恐れもある。つまり、核戦争を回避するための柔軟な対応が、逆に核戦争に直結しかねない。 かつて戦略軍幹部だった人物が匿名を条件に語ったところでは、DPOは全て「実行可能」だ。理論的に可能なだけでなく、準備は万全で、いつでも実行に移せる。そもそも、危機に際して「ただちに実行」できないDPOなど無意味だ。 これからの核戦争は「青天の霹靂の核ミサイル攻撃」で始まるわけではないと、この人物は言う。むしろ早期警報や通信、意思決定といった指揮命令系統に対する組織的な攻撃のように見える可能性が高いという。核兵器のみの戦争計画から複数ドメインの戦争計画への移行は、より多くの「決断の余裕」を大統領に与え、核戦争の可能性を減らすのが目的とされる。だが実際には総合的な戦略的安定を脅かす懸念があると、この人物は考える。 「新しい戦争計画に含まれるDPOの多くはゼロ段階をカバーするものだ」と、この人物は言う。「ゼロ段階」は、6段階に分かれた戦争計画のうち「環境整備」のフェーズを指す。「これらの能力はどれも実証済みだ。核兵器ではないにせよ、アメリカ側には先制攻撃をかける準備ができていると相手方に伝える意味もある」 この人物は、今年1月に行われた空軍の演習にも言及した。アーカンソー州の小さな飛行場にB 52 爆撃機2機が飛来しただけのことだが、それは「戦力の迅速な展開」というコンセプトの実証だったという。つまり、ロシアのミサイル攻撃が来たら米軍の全爆撃機をできるだけ多くの飛行場に分散させ、戦闘能力を温存するというコンセプトだ。空軍は19年からこうした演習を繰り返しているが、ここへきてそれが新たな核戦争計画に組み込まれた。 「単なるサバイバルの話ではない。戦闘継続の手段でもある」と、この人物は言う。つまり、ロシアの先制攻撃に耐えて、すぐに反撃できる能力をできるだけ多く保持することが目的だ。具体的に言えば、2機1組の爆撃機がどこかの飛行場に緊急避難し、燃料や爆弾の補給などを済ませ、再び飛び立つまでに要する時間は数時間以内。これなら敵に居場所を特定されずに済む。 昨年12月の別の演習では、B52爆撃機がカナダ西部の空軍基地に飛来し、遠隔地への迅速な散開を試している。この演習に参加した将校の1人は空軍機関誌に、要は敵に「予測させない」ことだと語っている』、「ロシアのミサイル攻撃が来たら米軍の全爆撃機をできるだけ多くの飛行場に分散させ、戦闘能力を温存するというコンセプトだ。空軍は19年からこうした演習を繰り返しているが、ここへきてそれが新たな核戦争計画に組み込まれた」、「爆撃機がどこかの飛行場に緊急避難し、燃料や爆弾の補給などを済ませ、再び飛び立つまでに要する時間は数時間以内。これなら敵に居場所を特定されずに済む」、「数時間以内、なら敵に居場所を特定されずに済む」、とは大変だ。
・『小規模な核攻撃はやりやすく だが、予測不可能性と柔軟性にこだわれば「アメリカの意図が伝わりにくくなる。それは私たちが過去50年間考えてきた抑止力の概念と全く相いれない」。そこに懸念があると、この人物は指摘する。 ロシアの爆撃機やミサイルに対するより確実な迎撃、ロシアの偵察衛星の破壊や妨害、ロシアのナビゲーションシステムに対する電子戦、ロシアの指揮系統や電力の妨害、さらには特殊部隊による隠密作戦まで、「核以外の戦闘能力を統合すれば新しい可能性が開ける」と、この人物は言う。「そうすると、核の全面戦争に発展しない程度の小規模な核攻撃は可能だと考えやすくなる」 現在のアメリカの核戦力(実戦配備の核弾頭数)は約1650発。原子力潜水艦に950発、地上の基地に400発、爆撃機に300発という構成だ。 地上配備のミサイルは西部の5つの州にある格納庫に、950発の核弾頭は12隻の潜水艦に搭載され、1隻を除く全ての潜水艦ではいつでもミサイルを発射できる状態が維持されている。B2およびB52爆撃機は国内3カ所の基地に配備され、さらに100発余りの核弾頭が欧州各地に前方展開されている。 この数は冷戦の最盛期から劇的に減少しているが、核戦争計画に直接組み込まれる通常兵器は急増した。通常兵器で信頼性の高い「戦略的攻撃手段」が加わったことは91年の湾岸戦争以降で「最も劇的な変化」だとクリステンセンは言う。 このカテゴリーにおける最強の通常兵器は、統合空対地スタンドオフミサイル(JASSM)だ。1000〜2000キロ以上をひそかに移動でき、たいていの標的であればほぼ全てを破壊できる。 空軍と海軍はJASSM1万発の購入を計画しており、現在はB1爆撃機にのみ配備されているが、最終的には全ての戦闘機がこの兵器を搭載することになっている。 空軍の専門家によれば、核戦争計画にある標的の3分の1以上は、理論的には通常兵器で破壊できる。JASSMの将来は、海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」と共に、ロシアに対する全方位的な脅威と、軍における核兵器の位置付けを一変させるものだ』、「統合空対地スタンドオフミサイル(JASSM)」が「核戦争計画にある標的の3分の1以上は、理論的には通常兵器で破壊できる。JASSMの将来は、海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」と共に、ロシアに対する全方位的な脅威と、軍における核兵器の位置付けを一変させる」、「通常兵器」にも強力なものが出てきたものだ。
・『サイバー戦力の重要性 核兵器や通常兵器の背後には、サイバー兵器や宇宙兵器など、数値化できない兵器や技術が追加されている。10年版の「核態勢の見直し」でサイバー領域の核戦争計画における役割が拡大され、18年の「国家サイバー戦略」ではサイバー抑止が戦略的抑止力の一部として正式に追加された。 これは米軍の指揮系統を保護する防衛の手段と考えられがちだが、今や核戦争計画に組み込まれ、攻撃オプションとして核および通常兵器と同等の存在になっている。 「今後の課題は、こうした兵器がいかにして核兵器を補強し、核に代わる存在になり得るかを理解することだ」と前出の戦略軍元幹部は言う。「核兵器の数は軍縮条約によって制限され、核戦力の3本柱の構成は将来も基本的に変わらない。だが抑止力の非核要素の進歩がもたらす影響は、その実態が広く理解されないまま増大していく危険がある」 1961年9月、当時のジョン・F・ケネディ大統領は核戦争計画の詳しい説明を受けて愕然とした。それは「オール・オア・ナッシング」の闘いであり、最善のシナリオでも死者は数億人という予測だった。ケネディは戦略空軍司令部に、もっと多くの選択肢、特に民間人の被害を減らす方法を考えるよう求めた。 以来50年かけて、核兵器そのものが抑止力だという発想を捨て、先制攻撃を考えている敵がひるむほどの損害を核以外の手段で与えるための新たな戦争計画が作成された。 デジタル時代までは、核兵器による不気味な均衡が保たれていた。しかし今は、もう核兵器によるダメージだけが問題とは言えなくなり、核兵器の抑止力も疑問視されるようになった。新しい「核」戦争計画は、もはや核以外の戦争(や軍事的な威嚇)計画と切り離せない。 一方、即応性と柔軟性の重視にも一定のリスクが潜む。互いの疑心暗鬼が募れば、どこで何が起きるか分からない。ミサイルや原潜には見掛けの安定感があるが、今は電線や電波に、そして宇宙空間にこそ社会を破壊する力が潜んでいる』、「デジタル時代までは、核兵器による不気味な均衡が保たれていた。しかし今は、もう核兵器によるダメージだけが問題とは言えなくなり、核兵器の抑止力も疑問視されるようになった。新しい「核」戦争計画は、もはや核以外の戦争(や軍事的な威嚇)計画と切り離せない」、「互いの疑心暗鬼が募れば、どこで何が起きるか分からない。ミサイルや原潜には見掛けの安定感があるが、今は電線や電波に、そして宇宙空間にこそ社会を破壊する力が潜んでいる」、「サイバー戦」への備えも重要なようだ。
先ずは、2月26日杖東洋経済オンラインが掲載した哲学者・経済学者・神奈川大学副学長の的場 昭弘 氏による「ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/514936
・『ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。一方で、これまでのロシアとウクライナの対立の起源はわかりにくい。日本を代表するマルクス研究者で欧州史、欧州思想にも詳しい神奈川大学副学長の的場昭弘氏が、今回の問題と対立の起源を歴史的文脈から解説する』、基礎的知識を得るには格好の記事だ。
・『ウクライナに住む当事者の立場を見ること 今にもウクライナで戦争が起きそうだと大手メディアはかき立てている。残念ながら、すでに、ロシアは独立を求めるウクライナの親ロシアのドンバスの2つの共和国に侵攻してしまった。首都キエフなどでも戦闘が行われている。ロシアとウクライナの対立の小さな火を、扇で仰いでしまったようである。コロナ禍によって世界で多くの人が亡くなっている最中、むしろ世界の協力と平和を求めるべきなのに、第三次大戦になりそうな戦争の可能性をマスコミも大国の外交もあおってしまったのだ。いったい、世界はどうなってしまったのか。 ウクライナ問題は根の深い問題である。歴史をさかのぼればさかのぼるほど、一筋縄ではいかない問題であることが見えるはずだ。この問題を考える際に、まず考えねばならないのは、ロシアの主張は本当に不当なのかどうかである。思考停止は、最初から偏見を持つことにある。相手の立場に立って見ることも重要だ。さらにはウクライナの人々、ウクライナのロシア人、ポーランド人、そのほか普通の人々の立場に立って冷静に見ることも重要だ。 もちろん、ここでロシア政府とロシア人を同じものだと考えてはいけない。またウクライナ政府とウクライナ人(大半はロシア人だが)を同じものだと考えてはならない。ウクライナ問題の中でまったく見えてこないのは、ウクライナに住む人々の声だ。とりわけ問題のドンバス地域に住む人々の声だ。当事者抜きで、アメリカ、ロシア、ウクライナといった国家レベルだけで考えれば、住民の望むところは理解できない。 帝政ロシア時代の哲学者、作家で、『向こう岸から』を書いたアレクサンドル・ゲルツェン(1812~1870年)は、西欧の向こう岸から世界を見ればどうなるかについて書いた人物だが、彼のいう「向こう岸」は東欧にあるロシア政府ではなく、ロシアの農民であった。彼は当時のヨーロッパの良識の代表でもあった歴史家のミシュレによる、ロシア人は野蛮であるという一方的な評価に対して、彼への書簡の中でこう述べている。 「人がロシアについて語る場合にはもはや、その場にいないもの、答えることのできないもの、耳が聞こえないでかつ口がきけないものについてのように語るわけにはいかないのだということをヨーロッパに明かにするときがきたのである」(「ロシヤ民族と社会主義ミシュレへの手紙」金子幸彦訳、世界大思想全集、哲学文芸思想篇、27巻、河出書房、1954年、155ページ)。 彼は、当事者であるロシア人の声を聞けといっているのだ。当事者とは、フランス政府でも、ロシア政府でもなく、そこに住むロシア人の農民のことである。 どこまで歴史をさかのぼるかによって、その国家も民族も、その存在を正当化することも、また否定することも可能だ。どの国家や民族も昔からずっと存在してきているわけではなく、想像されたものであることは、疑いない。国民国家とは「想像の共同体」にすぎない。 19世紀の半ばから歴史を始めれば、なるほどウクライナは独立した民族であり、独立した言語をもつ、国家である。しかし、それ以前にさかのぼれば、小ロシアにしかすぎない、いやさらにローマ帝国崩壊後、北方から侵入したルーシ族が創設したキエフ公国までさかのぼればロシア人の起源はウクライナだといえないこともない』、「国民国家とは「想像の共同体」にすぎない」、どこまでさかのぼるかによって大きく変わってくる。
・『小ロシアとなったウクライナ しかし、歴史は残酷だ。このキエフ公国はモンゴルに潰され、やがて隣のリトアニア=ポーランド王国に潰されていく。そしてウクライナのロシア人を奪回したのがロシアだ。ヨーロッパに接近することで力をもったロシアが大国になるのは、ピョートル大帝(1682~1725年)からだ。その後ロシアの拡張は進み、ウクライナはロシア本体の辺境である小ロシアになる。それが辺境を意味するウクライナということばとなって現れる。 今の大国ロシアから見れば不思議な話だが、ロシアはつねに西に位置するスウェーデンやポーランドの侵入を恐れてきた。とりわけカトリックの宗教騎士団の侵攻である。ロシアは正教会であり、13世紀のアレクサンドル・ネフスキーの名前はカトリックの侵入を阻止した人物としてロシアの歴史に刻まれている。だからこそ、ロシアにとってスウェーデンとの間に横たわるフィンランドは重要で、この国を親ロにすることが重要であった。フィンランドもスウェーデンを恐れていたからある。 スウェーデンとポーランドの侵攻を抑えるために重要なのが、プロイセンである。18世紀に起きたプロセイン、ロシア、オーストリアによるポーランド分割は、ロシアにとってリトアニア=ポーランド王国の残滓を消すことであった。 しかし、状況は19世紀に一変する。そのきっかけをつくったのが、ナポレオンである。今のリトアニアのヴィリヌスに入ったナポレオンは、1812年初夏ロシアへと侵攻する。ロシア侵攻は、結局ナポレオンの敗走によって幕を閉じるのだが、ヨーロッパに民族独立の火をつけ、その後進展する国民国家独立運動を引き起こしてしまう。) それがギリシアのオスマントルコからの独立運動である。英仏の支援を受けたギリシアは独立に成功するが、これがポーランド独立運動の高まりを生み出し、若者たちの独立運動を引き起こす(青年ドイツ、青年イタリアなど)。こうした独立運動は、当然ながら絶対王政による支配に対する抵抗運動として、社会主義者や共産主義者も巻き込み、ポーランド独立運動支援を生み出す。そんな中、1853年イギリス・フランスとロシアが戦ったクリミア戦争(~1856年)が起き、ウクライナの民族独立運動が生まれる。この頃生まれたのが、ウクライナ民族は存在し、ウクライナは独立国であるべきだという主張である。 ウクライナ民族主義がロシアのツァー体制に向けられたことで、ソ連共産党となるボリシェヴィキもウクライナ独立を支援するようになる。ソビエトが成立して、レーニンはウクライナを連邦共和国の一員として迎えることで、ウクライナをロシアとは別の民族だと認めることになる。一方、第一次大戦が終わると同時にこの地域に西欧が軍事介入し、赤軍と戦うことになる。一方、レーニンの主張に対して、マルクス主義の革命家・哲学者であるローザ・ルクセンブルク(1871~1919年)は、ウクライナ民族の創設について、民族は恣意的に創られるものではないと批判する。この問題が、ウクライナには重くのしかかることになる』、「辺境を意味するウクライナということばとなって現れる」、「ウクライナが「辺境」を意味していたとは初めて知った。「ソビエトが成立して、レーニンはウクライナを連邦共和国の一員として迎えることで、ウクライナをロシアとは別の民族だと認めることになる」、これをドイツの「マルクス主義の革命家・哲学者であるローザ・ルクセンブルク」が批判したとは面白い。
・『親米政権の発足が問題の発端に 第二次世界大戦では、ソ連はヒトラーのバルバロッサ作戦(1941年)によるソ連侵入によって、大きな被害を受ける。連合軍の勝利の後、ロシアはウクライナ共和国を拡大し、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、チェコスロバキアと直接接するように国境地域を拡大する。結果的にウクライナにロシア人以外が住むようになる。とはいえ、ウクライナの人口の多くはロシア語を話すロシア人であった。 1991年のソビエト崩壊によって、ソ連の共和国が独立していく。その中にウクライナもあったが、ロシアはこれらの地域がNATO(北大西洋条約機構)に入らないという条件付きで、独立を認めた。 ウクライナは、2014年の「マイダン」のクーデターで、ロシアと対立する資産家ポロシェンコが、大統領ヤヌコヴィッチをロシアに追放し、親米政権を創る。ここからウクライナ問題が起こる。ロシアは東部に軍隊を送り、その結果、ウクライナの中にロシアに近いルガンスク共和国とドネツク共和国が生まれたが、これをウクライナも西側も国として承認していない。一方クリミアは、ロシアに編入された。もちろんこれも承認されてはいないが。 ウクライナにとって不幸なことは、エネルギー資源を含め最も豊かなのが、この東部であることである。だからウクライナはこれらの地域の分離独立を認めることはできない。こうした問題は、何もウクライナだけではない。ボスニア・ヘルツェゴビナの北にあるスルプスカヤ共和国も同じような状態が続き、ユーゴでの紛争を長期化させた。またスペインのカタロニア独立を求める運動を、スペイン政府が認めていないという問題もある。要するに近代国民国家の独立には、認められるものと認められないものがあるということだ。 ここに当然、大国が介入する余地がある。そもそもウクライナはヨーロッパに属するのだが、EUには軍事組織がない。あるのはNATOである。ソ連時代はワルシャワ条約機構があり、それが東欧を束ねていたのだが、今ではNATOが束ねている。しかし、ウクライナがこれに入るとなると、ロシアはNATOに包囲されることになる。 EUは独自の軍事組織を持つということを課題にしていたのだが、実際にはNATOの傘下に入ることになる。これがウクライナ問題をこじらせている最大の原因である。EUに参加すると、結果的にNATOに入ることになり、ロシアと敵対することになるからだ。もちろんEU独自の軍事組織をもてば、ロシアの近隣にアメリカ中心のNATOが軍事組織を持つことはない。しかし、EUの中でそうした軍事組織をアメリカが認めるはずはない。この問題がウクライナ問題を袋小路に導いているといえる』、「1991年のソビエト崩壊によって、ソ連の共和国が独立していく。その中にウクライナもあったが、ロシアはこれらの地域がNATO(・・・)に入らないという条件付きで、独立を認めた」、「ウクライナ」が「NATO」に加入したいというのは約束違反だ。「アメリカ」としても、「EUの中でそうした軍事組織を・・・認めるはずはない」、なるほど。
・『地理的にも不幸なウクライナ ウクライナにとって不幸なのは、地理的問題だ。ウクライナは今のロシアにとってEUとの緩衝地帯である。さらに、ウクライナを流れるドニエプル川そしてドネツ川(ドン川)が、ロシアへつながっていることだ。北の海しか持たないロシアの重要な輸送路は、黒海である。黒海に入った船はロシアに向かってこれらの川を上る。これと良く似た不幸な地理的地域がドナウ川流域だ。ドナウ川はルーマニア、ブルガリア、セルビア、ハンガリー、スロバキア、オーストリア、ドイツ(流域を含めるとウクライナも通る)を流れる。これらの国は、一蓮托生であり、勝手な行動を取ると紛争に発展する。 ましてウクライナの東部の天然ガスが、西欧へ流れていく点で、ウクライナは重要な地点である。しかし、一方でロシアとドイツとのノルドストリーム1、2が建設され、さらにはトルコからブルガリア、そしてドイツへと流れる天然ガスのパイプラインができれば、ウクライナは取り残される。それはロシアとドイツの協力による、戦後のヨーロッパ体制の崩壊であり、またEUの崩壊であり、アメリカとフランスにとっても傍観はできない。 だからこそ、この地域はバルカンと並んで重要な地域であり、アメリカの軍事戦略とロシアの軍事戦略が真っ向から対立する地域でもある。巻き込まれているのは、ウクライナだけではない。ルーマニア、ブルガリア、セルビア、ポーランド、バルト3国など周辺諸国も巻き込まれている。NATOとEUの拡大は、これらの地域をロシアとの対立へ誘うことになる。不幸な話である。) ウクライナは歴史に翻弄されてきた地域である。オスマントルコの時代には黒海沿岸部はオスマントルコの支配を受け、ロシアの南下によってロシアの支配を受け、つねにいずれかの強国の支配を受けざるをえなかった地域である。それはバルカンに極めて似ている。今ウクライナに似ているのは、バルカンのセルビアだ。セルビアは、EUとロシアの狭間に立っている。セルビア大統領ヴチッチは、アメリカとロシアの2つの大国を天秤にかけながら外交しているが、場合によってはセルビアの大統領だったスロボダン・ミロシェヴィッチ(1941~2006年)のように大国によって失脚させられるかもしれない。 最初にあげたゲルツェンの書簡は、こうした地域にとっての1つの示唆を与えてくれるかもしれない。彼はこう述べている。 「中央集権化はスラブ精神と相容れない。連邦組織の方がその性格にとってはるかに固有のものである。自由な独立的な諸国民の同盟として結集することによってのみ、スラブ世界はついに真の歴史的存在となるだろう」(前掲書、163ページ)』、「ノルドストリーム1、2が建設され、さらにはトルコからブルガリア、そしてドイツへと流れる天然ガスのパイプラインができれば、ウクライナは取り残される。それはロシアとドイツの協力による、戦後のヨーロッパ体制の崩壊であり、またEUの崩壊であり、アメリカとフランスにとっても傍観はできない」、「ノルドストリーム」などの「天然ガスのパイプライン」が、「ウクライナ」問題に影響しているとは初めて知った。
・『中立的な連邦国家としてのウクライナ ロシアは、それがスラブ精神と相容れないのならば、望むべくは巨大な中央集権的国家であることを辞めるべきであろう。それと同時に、ウクライナも小さなルガンスクやドネツク共和国を認めるべきであろう。ソビエト連邦は少なくともそれを目指したはずだが、実際にはロシア支配になってしまっていた。バルカンでは、バルカン同盟という構想があったが、連邦制という考えはどうであろう。 長い間東欧地域はオスマントルコ帝国、オーストリア帝国、ロシア帝国の絶対主義体制が支配的であったのだが、それを打ち破る連邦制を追求したのが、ロシア革命であったとすれば、今プーチンがやろうとしていることは、ロシアのツアー体制に逆戻りすることにもなりかねない。それを受けて立つウクライナも、ロシア人地域を自国に引き留めておけば、同じ穴の狢だ。 厳しいことをいえば、ウクライナはEUに入るよりも、中立な連邦国家として存在したほうがいい。EUの拡大がNATOの拡大なら、ロシアとの対立は避けられないだろう。EUが独自の軍事機構を持ち、なおかつロシアもその仲間に入れるようになれば、状況は変わるだろうが、それは今のところ無理であろう。ならば、やはり、歴史的にも、地理的にもウクライナは、ロシア=スラブという環境の中で生きていくしかないだろう。もちろん、ウクライナに住む少数民族のルテニア人、ベッサラビア人、ガリツィア人なども小さな国を創り、連邦化するべきかもしれない』、「今プーチンがやろうとしていることは、ロシアのツアー体制に逆戻りすることにもなりかねない」、「やはり、歴史的にも、地理的にもウクライナは、ロシア=スラブという環境の中で生きていくしかないだろう。もちろん、ウクライナに住む少数民族のルテニア人、ベッサラビア人、ガリツィア人なども小さな国を創り、連邦化するべきかもしれない」、説得力がある。
次に、3月3日付けNewsweek日本版が掲載したジャーナリスト・元米陸軍情報分析官のウィリアム・アーキン氏による「ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ」を紹介しよう。
・『アメリカが以前から構築してきた新しい戦争計画が、ロシアによるウクライナ侵攻で現実味を帯びている。非核兵器・核兵器の融合が、かえって「核戦争」を招く恐れも この原稿が世に出る頃ウクライナ争が始まっていても、誰も驚くまい。しかし、これが昔ながらの「局地戦」に終わると思ったら大間違いだ。米ロの緊張が極度に高まるなか、アメリカは新たな「核戦争計画」を用意している。そこに描かれるのは従来とは全く異なる戦争の姿だ。(編集部注:この記事は本誌2月22日発売号(3月1日号)「緊迫ウクライナ 米ロ危険水域」特集に掲載したものです) この計画では、核兵器と非核兵器が初めて対等な兵器群として位置付けられ、統合されている。なお「非核兵器」には伝統的な通常兵器に加え、敵国の送電網や通信網に対するサイバー攻撃といったサイバー戦の領域も含まれる。この場合、伝統的な(核の)抑止力は弱まる。目に見えないサイバー戦を含め、攻撃のオプションが増えれば相手方の意図は読みづらくなる。単なる防衛的措置なのか、先制攻撃の前触れなのか。そこが読めなければ戦闘は拡大するだろうし、読み違えて核兵器のボタンを押す危険も高まる。 一触即発の危機があり、青天の霹靂で核ミサイルが発射され、地球が破滅する──というのは昔の話。今までは核兵器の使用が究極の選択肢だったが、新たな核戦争計画ではそれも多くの選択肢の1つとなる。新たな選択肢には、核兵器も通常兵器も「非通常兵器」も含まれ、従来型の物理的に攻撃する動的(キネティック)な攻撃も「非動的」な攻撃も含まれる。 現にアメリカのジョー・バイデン大統領は2月7日に、ロシアがウクライナに侵攻すればノルドストリーム2(ロシアからドイツに天然ガスを送るパイプラインで、ロシア経済の生命線でもある)を稼働させないと警告した。むろん、爆撃で破壊するという意味ではない。ある種の「非動的」攻撃を示唆したものだ』、「今までは核兵器の使用が究極の選択肢だったが、新たな核戦争計画ではそれも多くの選択肢の1つとなる。新たな選択肢には、核兵器も通常兵器も「非通常兵器」も含まれ、従来型の物理的に攻撃する動的(キネティック)な攻撃も「非動的」な攻撃も含まれる」、戦争のイメージは一変したょうだ。
・『必要以上の反撃を招いてしまう懸念 バイデンは詳細を明かさなかったが、とにかく「わが国にはそれが可能だ」と述べた。要するにサイバー攻撃だと、専門家はみている。 サイバー攻撃能力は、アメリカの新たな核戦争計画の柱の1つだ。バイデンは昨年3月に出した国家安全保障戦略の暫定指針で、「国家安全保障戦略における核兵器の役割を低減する措置を取る」としている。ミサイルを発射する代わりに、パイプラインの運営システムにサイバー攻撃を掛ける。そうした作戦が、核兵器の使用を頂点とする壮大な戦争計画の一環として、しっかり位置付けられているわけだ。 攻撃の選択肢が増えれば、どんな敵対勢力にも対応しやすい。そしてアメリカ大統領にとっては、核戦争回避の選択肢が増える。そういう見方もできるが、こちらの攻撃の幅が広がると相手方が混乱する可能性もある。その場合、非核兵器を使用した動きが核による先制攻撃の前触れと誤解され、回避したかった核戦争が始まってしまう恐れもある。 バイデン政権が唱える新たな核戦争計画は、自国で保有する全ての軍事・非軍事兵器をひとまとめに新たな抑止力と見なし、敵を物理的に打ち負かすのではなく、機能不全に陥らせることを目指している。 核兵器と通常兵器の境目は、かつてないほど曖昧になっている。それに伴い、75年以上にわたって核兵器の使用を思いとどまらせてきた「戦略的安定」という概念も時代遅れになってきた。ロシアの戦車がウクライナ領に攻め込むかどうかは別として、何らかの軍事衝突が起きれば、この新時代の戦争計画が初めて実行に移されることになる。 昨年6月、アメリカとカナダは冷戦終結以降で最大規模の合同軍事演習を実施した。カナダ北部とアラスカ、グリーンランドにある9つの基地に100機以上の戦闘機と支援部隊を展開させた。演習の目的は、北回りで侵入してくるロシアの爆撃機による攻撃を阻止することにあった。 まだウクライナ情勢が緊迫化する前の段階で、なぜそんな演習が行われたのか。冷戦時代の演習では、迎撃作戦はアメリカの国境付近で行われ、戦闘機がどう対応するかは大なり小なり搭乗員の判断に委ねられていた。しかし今回の演習では、国境から遠く離れた場所で、しかも何千キロにもわたる広い空域で戦闘機を動かした。ステルス戦闘機F22ラプターは北極圏上空でロシア国境まで約300キロの距離まで接近した。遠く離れていても各機は互いに連絡を取り合い、地上局や人工衛星からの指示や情報を受信できた。そして地上では、サイバー戦や宇宙戦のプロが目に見えぬ貢献をしていた』、「アメリカ大統領にとっては、核戦争回避の選択肢が増える。そういう見方もできるが、こちらの攻撃の幅が広がると相手方が混乱する可能性もある。その場合、非核兵器を使用した動きが核による先制攻撃の前触れと誤解され、回避したかった核戦争が始まってしまう恐れもある」、「核兵器と通常兵器の境目は、かつてないほど曖昧になっている。それに伴い、75年以上にわたって核兵器の使用を思いとどまらせてきた「戦略的安定」という概念も時代遅れになってきた」、様変わりになるようだ。
・『複数ドメインの攻撃を高度に統合 こうした複数ドメイン(領域)の統合は、現代における戦争の特徴の1つだ。戦闘機の攻撃能力が増していることに加え、今は通常兵器の長距離ミサイルやミサイル防衛システム、サイバー戦、宇宙戦、さらには敵国に潜入した特殊部隊までが統合され、一体として運用できる。 悪夢の9.11同時多発テロから20年、途切れのない紛争に対応するなかでアメリカの戦争遂行能力は高度に統合されてきた。今や通常兵器もデジタル兵器も核戦争計画に盛り込まれている。核兵器の脅威が最大の抑止力とされていたのは昔の話で、今はもっと柔軟で適応力の高い戦争計画が策定され、そこでは心理戦や秘密の偽装工作も含めて「政府の全体」が統合されている。 こうした変化を反映させるため、米戦略軍(STRATCOM)は2019年4月30日に、ほぼ10年ぶりで戦争計画の大改訂版を作成した。1000ページを超す膨大な文書だが、そこではロシアと中国、イラン、北朝鮮の脅威を念頭に、改めて「大国間の競争」に焦点を当てている。) 当然のことながら、最も厄介な相手はロシアだ。保有する核兵器数は拮抗しているし、欧米に対する敵意を隠そうともしない。アメリカ同様に「新型兵器」を保有し、「いかなるレベルでも、どの領域でも、どの場所でも一方的に暴力をエスカレートさせる能力を有している」と、米戦略軍の計画部長フェルディナンド・B・ストスは言う。 この新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった。また内容が極度に細分化されているため、政府部内でも全体像を知るのは数百人程度だった。 「バイデン政権はもうすぐ『核態勢の見直し(NPR)』を発表する予定だが、内容は乏しいだろう」とクリステンセンは本誌に語った。爆撃機、地上配備型ミサイル、原子力潜水艦など、核戦争用の装備の構成は大して変わらないからだ。 「皮肉なことに、今や核兵器は戦略効果の全スペクトラムに組み込まれている」とクリステンセンは言う。だから大事なのは、こうした変化を踏まえた全体的な「戦略態勢の見直し」だと彼は考える。特に必要なのは、こうした戦力の多様化が戦略的安定と平和に役立つのか、その逆なのかの検証だと言う。 「核兵器による戦略的安定と言うなら、頼れるのは今も昔も原子力潜水艦だ。あれは不死身で、ロシアからの先制攻撃でも破壊されない」とクリステンセンは言う。「しかし最新の戦争計画では戦力の統合が進み、核兵器以外の選択肢が増えている。(たとえ核兵器を使わなくても)そういう選択肢の行使をロシアが挑発と見なし、あるいはアメリカからの先制攻撃の始まりと見なす可能性は否定できない」』、「新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった:、情報公開がここまで進んでいるとは驚かされた。もっとも、ロシアや中国などに、事前に知らせておく狙いなのかも知れない。
・『核・非核の統合で戦争激化の道筋が増える クリステンセンは「核・非核の統合が進み、破壊より効果に重点を置くことで、通常兵器による戦争と核戦争を隔てる壁が崩れ、戦闘激化の道筋が増える」ことを懸念する。 あまり知られていないが、もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない。現行の戦略はオバマ政権時代に採用されたもので、まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める。 戦争計画の策定に当たる人たちの言葉を借りるなら、第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。 この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃することが唯一の選択肢ではなくなる。) この場合、爆撃機や潜水艦は分散して配置し、敵を欺いて第一撃を生き延びる必要がある。動きを察知されないよう、空でも地上でも、サイバー空間でも宇宙空間でも守りを固める。そして極めて柔軟性の高い意思決定構造を保ちつつ、ロシアからの攻撃を阻む。タイミングと柔軟性が決め手になる。 当時の米戦略軍司令官だったジョン・ハイテンは、この手法の斬新さを示唆して、こう述べていた。着任してすぐ、「全ての計画に柔軟な選択肢の数々がある」ことに最も驚いたと。「世界で何か悪いことが起きて、対応するために国防長官や大統領と電話で協議するとき、私には諸々の柔軟な選択肢がある。通常兵器から大型核兵器まで、何ができるかの選択肢を進言できる」 それらの選択肢は「指揮計画選択肢(DPO)」と呼ばれる。以前は「適応的」選択肢という呼称だった。具体的には核攻撃を含む対応能力の一覧だが、大量破壊兵器を用いたテロの脅威や、本土に対する大規模な宇宙・サイバー攻撃などを想定し、核以外の広範な種類の反撃オプションも例示してある。 ロシアに関して言えば、核兵器を使わず、動的でもない方法でクレムリン(大統領府)を攻撃し、早期警報システムや通信を遮断して国家の意思決定を妨げることが重視されている。 DPOには、兵器と呼べないような新しい能力も含まれる。中には極度に細分化され、最高機密以上の扱いとなっている選択肢もあり、全体として5次元(陸海空に加えて宇宙とサイバー)的な脅威をロシアに与えることが目的だ』、「もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない」、「まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める」、「第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。 この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃することが唯一の選択肢ではなくなる」、「ロシアに関して言えば、核兵器を使わず、動的でもない方法でクレムリン・・・を攻撃し、早期警報システムや通信を遮断して国家の意思決定を妨げることが重視されている」、なるほど。
・『核攻撃で始まらない核戦争 しかし危機においては、通常兵器と核兵器の区別も、情報戦とリアルな戦闘の区別もつきにくい。だから危機対策や防衛を意図した行動が、核による第一撃の準備段階のように誤解される恐れもある。つまり、核戦争を回避するための柔軟な対応が、逆に核戦争に直結しかねない。 かつて戦略軍幹部だった人物が匿名を条件に語ったところでは、DPOは全て「実行可能」だ。理論的に可能なだけでなく、準備は万全で、いつでも実行に移せる。そもそも、危機に際して「ただちに実行」できないDPOなど無意味だ。 これからの核戦争は「青天の霹靂の核ミサイル攻撃」で始まるわけではないと、この人物は言う。むしろ早期警報や通信、意思決定といった指揮命令系統に対する組織的な攻撃のように見える可能性が高いという。核兵器のみの戦争計画から複数ドメインの戦争計画への移行は、より多くの「決断の余裕」を大統領に与え、核戦争の可能性を減らすのが目的とされる。だが実際には総合的な戦略的安定を脅かす懸念があると、この人物は考える。 「新しい戦争計画に含まれるDPOの多くはゼロ段階をカバーするものだ」と、この人物は言う。「ゼロ段階」は、6段階に分かれた戦争計画のうち「環境整備」のフェーズを指す。「これらの能力はどれも実証済みだ。核兵器ではないにせよ、アメリカ側には先制攻撃をかける準備ができていると相手方に伝える意味もある」 この人物は、今年1月に行われた空軍の演習にも言及した。アーカンソー州の小さな飛行場にB 52 爆撃機2機が飛来しただけのことだが、それは「戦力の迅速な展開」というコンセプトの実証だったという。つまり、ロシアのミサイル攻撃が来たら米軍の全爆撃機をできるだけ多くの飛行場に分散させ、戦闘能力を温存するというコンセプトだ。空軍は19年からこうした演習を繰り返しているが、ここへきてそれが新たな核戦争計画に組み込まれた。 「単なるサバイバルの話ではない。戦闘継続の手段でもある」と、この人物は言う。つまり、ロシアの先制攻撃に耐えて、すぐに反撃できる能力をできるだけ多く保持することが目的だ。具体的に言えば、2機1組の爆撃機がどこかの飛行場に緊急避難し、燃料や爆弾の補給などを済ませ、再び飛び立つまでに要する時間は数時間以内。これなら敵に居場所を特定されずに済む。 昨年12月の別の演習では、B52爆撃機がカナダ西部の空軍基地に飛来し、遠隔地への迅速な散開を試している。この演習に参加した将校の1人は空軍機関誌に、要は敵に「予測させない」ことだと語っている』、「ロシアのミサイル攻撃が来たら米軍の全爆撃機をできるだけ多くの飛行場に分散させ、戦闘能力を温存するというコンセプトだ。空軍は19年からこうした演習を繰り返しているが、ここへきてそれが新たな核戦争計画に組み込まれた」、「爆撃機がどこかの飛行場に緊急避難し、燃料や爆弾の補給などを済ませ、再び飛び立つまでに要する時間は数時間以内。これなら敵に居場所を特定されずに済む」、「数時間以内、なら敵に居場所を特定されずに済む」、とは大変だ。
・『小規模な核攻撃はやりやすく だが、予測不可能性と柔軟性にこだわれば「アメリカの意図が伝わりにくくなる。それは私たちが過去50年間考えてきた抑止力の概念と全く相いれない」。そこに懸念があると、この人物は指摘する。 ロシアの爆撃機やミサイルに対するより確実な迎撃、ロシアの偵察衛星の破壊や妨害、ロシアのナビゲーションシステムに対する電子戦、ロシアの指揮系統や電力の妨害、さらには特殊部隊による隠密作戦まで、「核以外の戦闘能力を統合すれば新しい可能性が開ける」と、この人物は言う。「そうすると、核の全面戦争に発展しない程度の小規模な核攻撃は可能だと考えやすくなる」 現在のアメリカの核戦力(実戦配備の核弾頭数)は約1650発。原子力潜水艦に950発、地上の基地に400発、爆撃機に300発という構成だ。 地上配備のミサイルは西部の5つの州にある格納庫に、950発の核弾頭は12隻の潜水艦に搭載され、1隻を除く全ての潜水艦ではいつでもミサイルを発射できる状態が維持されている。B2およびB52爆撃機は国内3カ所の基地に配備され、さらに100発余りの核弾頭が欧州各地に前方展開されている。 この数は冷戦の最盛期から劇的に減少しているが、核戦争計画に直接組み込まれる通常兵器は急増した。通常兵器で信頼性の高い「戦略的攻撃手段」が加わったことは91年の湾岸戦争以降で「最も劇的な変化」だとクリステンセンは言う。 このカテゴリーにおける最強の通常兵器は、統合空対地スタンドオフミサイル(JASSM)だ。1000〜2000キロ以上をひそかに移動でき、たいていの標的であればほぼ全てを破壊できる。 空軍と海軍はJASSM1万発の購入を計画しており、現在はB1爆撃機にのみ配備されているが、最終的には全ての戦闘機がこの兵器を搭載することになっている。 空軍の専門家によれば、核戦争計画にある標的の3分の1以上は、理論的には通常兵器で破壊できる。JASSMの将来は、海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」と共に、ロシアに対する全方位的な脅威と、軍における核兵器の位置付けを一変させるものだ』、「統合空対地スタンドオフミサイル(JASSM)」が「核戦争計画にある標的の3分の1以上は、理論的には通常兵器で破壊できる。JASSMの将来は、海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」と共に、ロシアに対する全方位的な脅威と、軍における核兵器の位置付けを一変させる」、「通常兵器」にも強力なものが出てきたものだ。
・『サイバー戦力の重要性 核兵器や通常兵器の背後には、サイバー兵器や宇宙兵器など、数値化できない兵器や技術が追加されている。10年版の「核態勢の見直し」でサイバー領域の核戦争計画における役割が拡大され、18年の「国家サイバー戦略」ではサイバー抑止が戦略的抑止力の一部として正式に追加された。 これは米軍の指揮系統を保護する防衛の手段と考えられがちだが、今や核戦争計画に組み込まれ、攻撃オプションとして核および通常兵器と同等の存在になっている。 「今後の課題は、こうした兵器がいかにして核兵器を補強し、核に代わる存在になり得るかを理解することだ」と前出の戦略軍元幹部は言う。「核兵器の数は軍縮条約によって制限され、核戦力の3本柱の構成は将来も基本的に変わらない。だが抑止力の非核要素の進歩がもたらす影響は、その実態が広く理解されないまま増大していく危険がある」 1961年9月、当時のジョン・F・ケネディ大統領は核戦争計画の詳しい説明を受けて愕然とした。それは「オール・オア・ナッシング」の闘いであり、最善のシナリオでも死者は数億人という予測だった。ケネディは戦略空軍司令部に、もっと多くの選択肢、特に民間人の被害を減らす方法を考えるよう求めた。 以来50年かけて、核兵器そのものが抑止力だという発想を捨て、先制攻撃を考えている敵がひるむほどの損害を核以外の手段で与えるための新たな戦争計画が作成された。 デジタル時代までは、核兵器による不気味な均衡が保たれていた。しかし今は、もう核兵器によるダメージだけが問題とは言えなくなり、核兵器の抑止力も疑問視されるようになった。新しい「核」戦争計画は、もはや核以外の戦争(や軍事的な威嚇)計画と切り離せない。 一方、即応性と柔軟性の重視にも一定のリスクが潜む。互いの疑心暗鬼が募れば、どこで何が起きるか分からない。ミサイルや原潜には見掛けの安定感があるが、今は電線や電波に、そして宇宙空間にこそ社会を破壊する力が潜んでいる』、「デジタル時代までは、核兵器による不気味な均衡が保たれていた。しかし今は、もう核兵器によるダメージだけが問題とは言えなくなり、核兵器の抑止力も疑問視されるようになった。新しい「核」戦争計画は、もはや核以外の戦争(や軍事的な威嚇)計画と切り離せない」、「互いの疑心暗鬼が募れば、どこで何が起きるか分からない。ミサイルや原潜には見掛けの安定感があるが、今は電線や電波に、そして宇宙空間にこそ社会を破壊する力が潜んでいる」、「サイバー戦」への備えも重要なようだ。
タグ:ウクライナ (その2)(ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」、ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ) 東洋経済オンライン 的場 昭弘 氏による「ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」」 基礎的知識を得るには格好の記事だ。 「国民国家とは「想像の共同体」にすぎない」、どこまでさかのぼるかによって大きく変わってくる。 「辺境を意味するウクライナということばとなって現れる」、「ウクライナが「辺境」を意味していたとは初めて知った。 「ソビエトが成立して、レーニンはウクライナを連邦共和国の一員として迎えることで、ウクライナをロシアとは別の民族だと認めることになる」、これをドイツの「マルクス主義の革命家・哲学者であるローザ・ルクセンブルク」が批判したとは面白い。 「1991年のソビエト崩壊によって、ソ連の共和国が独立していく。その中にウクライナもあったが、ロシアはこれらの地域がNATO(・・・)に入らないという条件付きで、独立を認めた」、「ウクライナ」が「NATO」に加入したいというのは約束違反だ。「アメリカ」としても、「EUの中でそうした軍事組織を・・・認めるはずはない」、なるほど。 「ノルドストリーム1、2が建設され、さらにはトルコからブルガリア、そしてドイツへと流れる天然ガスのパイプラインができれば、ウクライナは取り残される。それはロシアとドイツの協力による、戦後のヨーロッパ体制の崩壊であり、またEUの崩壊であり、アメリカとフランスにとっても傍観はできない」、「ノルドストリーム」などの「天然ガスのパイプライン」が、「ウクライナ」問題に影響しているとは初めて知った。 「今プーチンがやろうとしていることは、ロシアのツアー体制に逆戻りすることにもなりかねない」、「やはり、歴史的にも、地理的にもウクライナは、ロシア=スラブという環境の中で生きていくしかないだろう。もちろん、ウクライナに住む少数民族のルテニア人、ベッサラビア人、ガリツィア人なども小さな国を創り、連邦化するべきかもしれない」、説得力がある。 Newsweek日本版 ウィリアム・アーキン氏による「ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ」 「今までは核兵器の使用が究極の選択肢だったが、新たな核戦争計画ではそれも多くの選択肢の1つとなる。新たな選択肢には、核兵器も通常兵器も「非通常兵器」も含まれ、従来型の物理的に攻撃する動的(キネティック)な攻撃も「非動的」な攻撃も含まれる」、戦争のイメージは一変したょうだ。 「アメリカ大統領にとっては、核戦争回避の選択肢が増える。そういう見方もできるが、こちらの攻撃の幅が広がると相手方が混乱する可能性もある。その場合、非核兵器を使用した動きが核による先制攻撃の前触れと誤解され、回避したかった核戦争が始まってしまう恐れもある」、「核兵器と通常兵器の境目は、かつてないほど曖昧になっている。それに伴い、75年以上にわたって核兵器の使用を思いとどまらせてきた「戦略的安定」という概念も時代遅れになってきた」、様変わりになるようだ。 「新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった:、情報公開がここまで進んでいるとは驚かされた。もっとも、ロシアや中国などに、事前に知らせておく狙いなのかも知れない。 「もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない」、「まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める」、「第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。 この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃するこ 「ロシアのミサイル攻撃が来たら米軍の全爆撃機をできるだけ多くの飛行場に分散させ、戦闘能力を温存するというコンセプトだ。空軍は19年からこうした演習を繰り返しているが、ここへきてそれが新たな核戦争計画に組み込まれた」、「爆撃機がどこかの飛行場に緊急避難し、燃料や爆弾の補給などを済ませ、再び飛び立つまでに要する時間は数時間以内。これなら敵に居場所を特定されずに済む」、「数時間以内、なら敵に居場所を特定されずに済む」、とは大変だ。 「統合空対地スタンドオフミサイル(JASSM)」が「核戦争計画にある標的の3分の1以上は、理論的には通常兵器で破壊できる。JASSMの将来は、海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」と共に、ロシアに対する全方位的な脅威と、軍における核兵器の位置付けを一変させる」、「通常兵器」にも強力なものが出てきたものだ。 「デジタル時代までは、核兵器による不気味な均衡が保たれていた。しかし今は、もう核兵器によるダメージだけが問題とは言えなくなり、核兵器の抑止力も疑問視されるようになった。新しい「核」戦争計画は、もはや核以外の戦争(や軍事的な威嚇)計画と切り離せない」、「互いの疑心暗鬼が募れば、どこで何が起きるか分からない。ミサイルや原潜には見掛けの安定感があるが、今は電線や電波に、そして宇宙空間にこそ社会を破壊する力が潜んでいる」、「サイバー戦」への備えも重要なようだ。