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鉄道(その6)(国が画策 運賃「値上げ」で駅ホームドアを設置 利用者の過半数が賛成?鉄道会社の意見は?、マッキンゼーが指摘する「日本の鉄道の改善点」 現在の鉄道業界に足りないものは何か?、鉄道に忍び寄る人材難 駅の安全確認を警備員に委託する事業者も) [社会]

鉄道については、昨年12月19日に取上げた。久しぶりの今日は、(その6)(国が画策 運賃「値上げ」で駅ホームドアを設置 利用者の過半数が賛成?鉄道会社の意見は?、マッキンゼーが指摘する「日本の鉄道の改善点」 現在の鉄道業界に足りないものは何か?、鉄道に忍び寄る人材難 駅の安全確認を警備員に委託する事業者も)である。

先ずは、2月12日付け東洋経済オンライン「国が画策、運賃「値上げ」で駅ホームドアを設置 利用者の過半数が賛成?鉄道会社の意見は?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/264856
・『昨日の夜、駅に降り立ったときにはホームドアが設置されていなかったのに、今朝になったら設置されていた。こんな経験をした人が少しずつ増えているだろう。 国土交通省は2020年度までにホームドア設置駅数を約800駅とする目標を掲げている。2018年3月末時点で725駅に設置済みであり、さらに2020年度までに183駅に設置計画があるという。つまり2020年度時点で900を超える駅にホームドアが設置されるわけだ。この数字だけ見ると、ホームドア設置計画は極めて順調に見える。 「転落事故の約半数を占める、1日の利用者が10万人以上の駅を優先的に整備する」と、国交省は方針を決めている。ところが、JR新宿駅やJR渋谷駅を見てわかるとおり、利用者が多いにもかかわらずホームドアが設置されていない駅も目立つ』、興味深そうだ。
・『設置を阻む「費用の壁」  利用者が10万人以上いる275駅のうち、2018年3月末時点でホームドアが整備されているのは105駅にすぎない。未整備駅が6割を占めていることになる。 設置されていない170駅については2020年度までに57駅で整備予定があるというが、それを合わせてもようやく過半数。2021年度以降の計画も含めると、新型ホームドアの導入や駅改良に合わせて101駅で整備され、ようやく263駅に設置されるという。ホームドアを本当に必要とする駅への設置については、なかなか思うようには進まないというのが実情だ。 ホームドア設置を阻む理由の1つが費用の壁だ。機器の費用、設置に伴う人件費だけでなく、駅ホームを改良したり、ドア位置を統一した新型車両を導入したりするといった費用がかかる場合もある。 駅のバリアフリー化に際しては国や自治体が3分の1ずつ補助を行うことになっているが、国も自治体も財政事情は厳しく、現実には鉄道事業者の負担割合が3割を超える事例も少なくないようだ。 ホームドアを設置したからといって、鉄道事業者の収入が増えるわけではない。そのため、鉄道事業者が消極的になっているという見方も国交省内にはある。 そんな矢先、設置駅数を増やすために、費用を利用者に負担させてはどうか――。国交省内の検討会でこんな意見が飛び出した。 2017年7月から鉄道事業者や学識関係者などを交えて「都市鉄道における利用者ニーズの高度化等に対応した施設整備促進に関する検討会」が行われている。16回にわたって行われた検討会の結果として、2018年9月に出された報告書には「利用者の利便性、安全性及び快適性向上に著しく寄与すると認められるものを、『更なるバリアフリー化』と位置づけ、これに係る料金制度を導入する」ことが提案された。 バリアフリー設備費用は輸送の対価ではないため、その費用は運賃とは切り分けて考える必要がある。そのため、新線建設に係る加算運賃制度のように、バリアフリーに使われることが明確になるような制度を検討しているという。 ただ、運賃に含めるのではないにしても、利用者の金銭的な負担が増えるのであれば、実質的な運賃の値上げにほかならない』、利用客が多い駅で「ホームドア」を導入促進するためには、「実質的な運賃の値上げ」も甘受せざるを得ないだろう。
・『アンケートでは「賛成」優位  この提案を利用者はどう受け止めているのか。同報告書では複数の消費者団体にも意見を求め、「財源の確保が課題であることは理解できるため、(中略)利用者負担を求めることは、更なるバリアフリー化を推進するための選択肢の一つになるのではないか」というコメントを得ている。 さらに、国交省が鉄道利用者を対象に行ったアンケート調査の結果も掲載されている。同アンケートでは、整備費用のすべてを利用者が負担することについて、非高齢者(20~64歳)で「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人の割合は52%、「反対」「どちらかといえば反対」と回答した人の割合は18%だった。 また、整備費用の一部を利用者が負担することについて、非高齢者で「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人の割合は58%、「反対」「どちらかといえば反対」と回答した人の割合は13%だった。アンケート結果を見る限り、利用者の多くが整備費用の負担に賛成の意思表示をしている。 また、整備費用のすべてを利用者が負担することに対して「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人に「1乗車あたり10円の上乗せは妥当か」聞いたところ、非高齢者の74%、高齢者の80%が妥当と回答している。 ただ、具体的に料金を徴収するとなると、駅ごとに負担するのか、路線ごとに負担するのかといった制度設計に加え、IC乗車券のシステム改修といった課題が出てくる。国交省の担当者は「現在は報告書で指摘された課題を解決すべく、具体化に向けて検討を進めている段階」と説明する。制度がスタートする時期は未定としながらも、「値上げ」に向けて着々と準備が進んでいる。 では、もしホームドア整備費用を利用者に負担させる仕組みが導入されたら、鉄道各社はそのような料金制度を導入するのだろうか。首都圏の主要な鉄道会社に確認したところ、多くの会社は「制度が決まっていない以上、検討もしていない」と明言を避けるが、中には個人的な意見と前置きしながらも「せっかくそのような制度が導入されたら、前向きに考えたい」という会社もあった。 また、別の鉄道会社からは、「個々の利用者から直接徴収するのではなく、通勤定期券の割引率を引き下げる形で資金を捻出する方法はどうか」というアイデアを紹介する発言があった。通勤定期券代は企業が負担しているケースが多いことを踏まえた発言だ。確かに利用者の懐が直接痛むことはないが、企業の負担増が従業員にはね返らないとも限らない』、利用者「アンケートでは「賛成」優位」、のようだが、具体的な制度設計には課題も多そうだ。気になるのは、既に自力である程度整備した会社と、まだ未整備な会社の間で、公平性を如何に確保するかも考慮する必要があるが、これは難題だろう。
・『収益力が高ければ自力でできる  東急電鉄は国の新たな制度を待つことなく自力でホームドア設置を進めており、2019年度中に東横線、田園都市線、大井町線の全駅にホームドアを設置する。東京メトロも全路線全駅へのホームドア導入計画を策定済みだ。このように自力でホームドアの設置を進めている会社がある中で、もし新制度を活用する会社が出てくるとしたら、それはホームドアをを自力で設置する余裕がなく経営が厳しいと認めるようなものだ。 上場会社を見渡すと、JR東日本、JR西日本、JR東海、相鉄ホールディングス、京急電鉄、京王電鉄、京成電鉄、近鉄グループホールディングス、阪急阪神ホールディングス、京阪ホールディングス、名古屋鉄道、そして東急など、2017年3月期または2018年3月期に最高純益を達成した鉄道会社の名前が続々と出てくる。 その稼ぎの余剰分を配当として株主に還元する余裕があるなら、ホームドアを自力で整備するほうが、はるかに社会的責任を果たしていることになる』、総論では賛成でも、実際に導入する上では、解決すべき課題も多いようだ。

次に、9月2日付け東洋経済オンライン「マッキンゼーが指摘する「日本の鉄道の改善点」 現在の鉄道業界に足りないものは何か?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/300275
・『マッキンゼー・アンド・カンパニーといえば、世界最高峰のコンサルティングファームとして、ビジネスの世界で知らない者はいないだろう。提供する知見の領域は自動車、ハイテク、金融など多様な産業に広がり、アメリカの『フォーブス』誌が発表する「世界の有力企業2000社ランキング」上位100社の9割が同社の顧客とされる。 鉄道業界に対しても、世界中でコンサルティングを行っている。はたして、世界最高峰のコンサルティング会社は鉄道業界にどのような戦略を授けているのか。その全貌に迫った』、鉄道は各国や路線による固有の事情が大きいとはいえ、世界的の共通する部分もあるだけに、「世界中でコンサルティングを行っている」とはさすが「マッキンゼー」はいいところに目をつけたものだ。
・『各国の鉄道でコンサル事例  マッキンゼーは世界60カ国以上に拠点を持ち、約3万人のスタッフが働いている。鉄道分野においては過去5年間、常時約520人規模のスタッフが鉄道コンサルティングに従事しており、ドイツ鉄道やイタリア鉄道をはじめとする欧州の多数の鉄道会社や鉄道車両メーカーへのコンサルティング実績がある。 アジアでは「台湾新幹線」を運行する台湾高速鉄路のほか、香港の鉄道会社MTRと共同で新規路線と不動産開発に関するリサーチを発表している。日本の鉄道業界へのコンサルティング事例もあるというが、顧客名は開示していない。 では、鉄道業界に対してどのようなコンサルティングを行っているのか。 「従来は戦略立案が支援の中心でしたが、2000年代後半から戦略にとどまらず、売り上げを伸ばす、コストを削減するといった目に見える支援にシフトしています。鉄道においてもそれは変わりません」と、同社の小松原正浩シニアパートナーが話す。 コスト削減といってもいろいろあるが、中でも多いのが調達コスト削減に関するものだという。同社には世界各国に購買専門のコンサルタントが常駐しており、詳細なサプライヤー・データベースを作成している。これらを活用することで品目別の購買戦略立案の基盤を作るほか、取るべき購買活動や契約形態についてアドバイスする。 鉄道分野での調達コスト削減事例も多数有しており、過去事例からコスト削減の可能性を割り出すことが可能だという。小松原氏によれば、購買品目別で削減ポテンシャルが高いのはブレーキ装置、エアコン、電気機器、台車など。逆に乗車情報システム、衛生設備などは削減ポテンシャルが低い。 また、削減ポテンシャルが高いとされる電気機器やエアコンでも、どの側面からコスト削減できるかというアプローチの仕方が異なる。電気機器はケーブル配線の変更など技術的側面からのコスト削減、空調機器はサプライヤーが多いのでサプライヤー間での価格交渉によるコスト削減といった具合に、購買品目によって打つ手が変わってくる。 サプライヤーとの交渉においては、購買品目をパーツ別に分解して、投入された人件費や物流費などを分析して製造原価を割り出し、価格引き下げ交渉に使うことも行われる。欧州のある高速鉄道運営会社では、調達する高速鉄道車両をモジュールごとに分解し、30%のコスト削減可能性を特定できたという。おそらく、鉄道会社が新型車両を調達する際に、車両メーカーが部品を調達する際に、マッキンゼーが価格交渉のための理論構成を指南しているのだろう。 従来のマッキンゼーは戦略立案が中心で、その後の実行やスキル構築は顧客企業が実践したが、現在はコスト削減スキルを会社に定着させるため、交渉トレーニングやロールプレイを通じてバイヤー全員を底上げして調達のプロを育成し、全社に調達マインドを浸透させ、最終的には関連会社への活動の横展開まで行っているという』、従来は顧客企業任せになっていた実践的分野にまでコンサルティングの範囲を広げているとは、驚きだ。
・『日本の鉄道「将来もトップかは疑問」  マッキンゼーのコンサルティングは鉄道会社や車両メーカーだけでなく、政府機関の交通政策にも及ぶ。 例えば、ウーバーなどライドシェアの増加により交通渋滞が増加しているアメリカのイリノイ州シカゴ市では、その現状を分析して、市政が誘導する場合、しない場合のシミュレーションを行い、通勤時間短縮やCO2排出に関する提言を行った。また、ロシアのモスクワ市でもビッグデータを活用して、自動車による移動を鉄道に置き換えるなど、市民に最適な交通ルートを案内できるようにする設計を行っている。 では、日本の鉄道業界の状況をマッキンゼーはどう捉えているのだろうか。 同社ハンブルグ支社でドイツ公共事業担当のトップを努め、世界の鉄道業界の取り組みにも詳しいシニアパートナーのセバスチャン・スターン氏は、「日本の鉄道は世界でもっとも優れているが、デジタル技術が鉄道業界で大いに活用される将来においても日本がトップでいることができるかどうかは疑問だ」と話す。 日本は鉄道会社各社が自前主義をとっていて、保守も運行もインフラ建設も自前で行っているが、この状況をスターン氏は非効率だと考える。「各社はデジタル技術を使って新しいモデルを構築する必要がある」。 では、デジタル技術で解決できる日本の課題とは何か。この点について、「労働力の問題だ」と語るのは、日本支社で世界各国の交通・運輸・物流を担当するシニアパートナーのデトレフ・モーア氏である。「日本の鉄道会社は大量退職の時代を迎えようとしている。新規雇用で代替するだけではなくデジタル技術による自動化によって、安全面や顧客サービス水準をキープしつつ、人手を減らすことが必要だ」と話す。 デジタル化の時代においては、「自前主義にこだわらず、ソフト開発やビジネスモデル構築などでは外部の人材活用も重要だ」という。また、「時間をかけて完璧に行うだけではなく、トライ・アンド・エラーの考え方を取り入れてスピード感を重視した仕事のやり方も必要だ」という。むろんスピード感を重視しつつも安全性の維持が必要であることは言うまでもない。 最近は、故障が起きてから機器交換などのメンテナンスを行うのではなく、故障が起きる前にメンテナンスを行うCBM(予防保全)という考え方を鉄道の保守業務に取り入れ始めている。この動きについても、「日本の鉄道は世界の流れと比べると遅れている。航空業界などCBMが進んでいるほかの業界の動きも参考にするべき」とスターン氏は話す。 最近目立つ、鉄道車両の台車に亀裂が入るトラブルなども、理屈のうえではCBMを活用すれば発生前にメンテナンスを施すことができるはずだ』、「日本は鉄道会社各社が自前主義をとっていて、保守も運行もインフラ建設も自前で行っているが、この状況をスターン氏は非効率だと考える」、「自前主義にこだわらず、ソフト開発やビジネスモデル構築などでは外部の人材活用も重要だ」、その通りなのだろう。
・『新時代の鉄道ビジネスモデルは  世界の鉄道業界の事例や、他産業の事例に精通したマッキンゼーの知見には、日本の鉄道業界が参考にできる部分もいろいろとありそうだ。ただ、気になるのは、マッキンゼーのコンサルティング料だ。 この点については、「以前は固定フィーだったが、最近は成功報酬モデルも導入している」(小松原氏)。売り上げアップやコスト削減で成果が出たら、その一部がマッキンゼーへの報酬になるわけだ。 日本は人口減少時代に突入しており、現在は人口増が続く首都圏も早晩、人口減少が避けられない。これまでのビジネスモデルが通用しない時代に入りつつある。同時に急速に進化するデジタル技術は経営改革の大きな武器になる。マッキンゼーの言うとおり、新しい時代にふさわしい経営手法を取り入れた鉄道会社が業界の勝ち組になるのかもしれない』、「日本の鉄道会社」も「新しい時代にふさわしい経営手法を取り入れ」て、世界の潮流から遅れないようにしてもらいたいものだ。

第三に、鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏が10月28日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「鉄道に忍び寄る人材難、駅の安全確認を警備員に委託する事業者も」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/218611
・『インフラ産業の中でも労働集約型といわれる鉄道事業。若い世代の人口減や大量採用だった国鉄時代入社組の退職を受けて、あの手この手での省力化を進めている。今や、東京圏のそれなりの規模の駅でも、券売機のネットワーク化などを進め、早朝深夜は駅員不在で営業するケースが増えている』、最近は通勤とは縁がなくなったこともあり、実態を知りたいものだ。
・『早朝深夜は駅員のいない駅も…人口減を見据えた省力化が加速  鉄道事業者の人口減少に備えた省力化の取り組みが加速している。券売機や自動改札機のネットワーク化、インターホンなど連絡手段の整備が進み、首都圏でもローカル線区はほとんどが無人駅になっている。東京圏のそれなりの規模の駅でも、早朝深夜は駅員のいない時間帯が増えている。また定期券や企画乗車券などを発行する有人窓口は集約され、多機能券売機への置き換えが進んでいる。 省力化の波は駅から列車にも波及している。「JR東『ワンマン運転拡大』に見る、鉄道乗務員レス化の未来」で取り上げたようにJR東日本は、これまで1~2両の「短編成」に限って実施していたワンマン運転を、3~6両の「中編成」、7両以上の「長編成」にも拡大する方針だ。 またJR九州は、9月18日に国土交通省で行われた「第3回鉄道における自動運転技術検討会」で、現在開発中の新型ATSをベースとした自動運転の検討状況を報告している。10月8日の西日本新聞は、JR九州は駅にホームドア未設置かつ踏切のある路線でのドライバーレス運転の実現を目指し、今年度中に福岡県内の路線で実証実験を開始し、実用化を目指すと報じた。 鉄道事業は、インフラ業の中でも労働集約型産業の側面が強いという特徴を持つが、その中でも機械化や電子化、IT化など、時代の変化に応じた省力化が進められてきた。 例えばJR東日本の鉄道事業に関係する社員数(本体)は、1987年の民営化時に7万1800人だったのが、1997年は5万5680人、2007年は4万5680人、2017年には3万9890人と30余年で4割以上も減少している(いずれも4月1日時点)。とはいえ、合理化と称して社員を解雇していったわけではなく、基本的には退職者数に対して採用者数が少ない状態が続いたことによる自然減である。 JR各社社員の年齢構成は非常にいびつで、年代別に見ると国鉄時代に採用された55歳以上が最多で、国鉄末期からJR初期に一時新規採用を停止していた影響で40代後半から50代前半が極端に少ない。その後は新卒採用と中途採用を計画的に行ったので、ようやく40代以下の年齢構成は安定するようになったが、今後は別の問題に直面する。若年層の減少である』、「JR九州は駅にホームドア未設置かつ踏切のある路線でのドライバーレス運転の実現を目指し、今年度中に福岡県内の路線で実証実験を開始」、ここまでの省力化は、行き過ぎのような気がする。
・『再雇用、IT化…新卒人口減をどう補うか  新成人人口は1995年に201万人だったのが、2005年に150万人になり、2015年には126万人まで減少した。2025年の新成人は106万人と予測されている。ちなみに、2016年には統計開始以来、初めて出生数が100万人を割っており、今後はますます減少していくことが確定している。労働集約型の鉄道業にとって、働き手の確保は今後大きな問題となっていくのである。 労働力は「数×質」であるから、これを調整するいくつかの解決策が考えられる。一番簡単な方法は、現状の数を保つことだ。 JR東日本は2008年度から定年退職者を再雇用する「エルダー社員制度」を導入しているが、2018年度に制度を改正して、グループ会社のJR東日本ステーションサービス(JESS)に出向して、引き続き現場業務に就かせる方針に転換した。経験と技術を持つ定年退職者を同数の新入社員ですぐに置き換えることはできないから、再雇用したエルダー社員を、若手社員の人材育成、技術継承に活用することで、数と質を確保しようというもくろみだ。 もうひとつは、数を確保するために新規採用の母数を増やすことだ。かつては鉄道の現業職の採用は高卒の男子に限られていたが、やがて大学生、女性も対象に含まれるようになり、中途採用も拡大した。新成人200万人が100万人になっても、その分応募者数が増えれば同等以上の人材を確保できることになる。 しかし働き手不足が加速して数の補充が追いつかなくなると、業務の余裕がなくなり、質はあっという間に低下してしまう。そうなれば事業そのものを縮小せざるを得なくなるため、その前に仕事のやり方を抜本的に変える必要が出てくる。 前述の機械化や電子化、IT化のさらなる進展は言うまでもない。ただしこれは、昔は5人でやっていた仕事を1人でできるようにする代わりに、その分、仕事の専門性が高まるということになりやすい。高い知識と技量を持つ人材を採用しようとすると、当然だが人数の確保は難しくなり、解決策としては不十分になる』、そうではあっても、「IT化のさらなる進展」を目指すべきだろう。
・『駅業務の一部を警備員に委託する鉄道も  そこで必要になるのが、専門的な仕事を誰でもできるようにするか、業務範囲を限定することだ。JR東日本は、信号の取り扱いがない駅の業務をグループ会社のJESSに委託しており、今後委託範囲を拡大する方針だ。また、ホーム上の安全確認など、駅業務の一部を警備員に委託する事業者も増えている。この流れは乗務員にも及んでいく。その取り組みの一つが冒頭で紹介した、電車の運転士を機械に置き換えて、運転士の資格を持たない者でも乗務できるようにするドライバーレス運転だ。 運転士が車掌業務も兼ねるワンマン運転と大きく違うのは、知識、技量、健康の厳しい基準をクリアしなければならない狭き門である電車の運転免許「動力車操縦者」の必要性だ。運転士に車掌を兼務させるワンマン運転は、ますます専門性が高くなるため、根本的な解決にはなり得ないからである。 しかしこれは、一面では乗務員の質を落として数を確保するということを意味するため、安全を低下させるのかといった非難・不安が想定される。だが人間が減っていく中でも、鉄道の利便性を維持していくのなら、考え方を根本から変えるしかない。 例えば、かつての蒸気機関車は機関士1人と機関助士2人で運転していた。機関助士はボイラーに水を補給し、石炭を火室に投じ、火力を調整する。この腕前で燃費はもちろん、けん引できる客車や貨車の数が変わったというほどの職人芸だった。運転士はボイラーが生み出した蒸気をシリンダーに送り込み、車輪を空転させないように速度を調整する。しかも車両の状態や気温、湿度によって、生き物のように運転特性が変わるという。蒸気機関車を運転するためには、長い下積みと高い技術が必要とされたのだ。 現在の日本に、蒸気機関車を操縦できる運転士はわずかしか存在しないが、それは技術の退化を意味しているわけではなく、安全意識が低下したわけでもない。機械のバックアップを得て、運転士の役割が変わっただけの話である。 肝心なことは、こうした取り組みを、サービス水準を死守するための悲壮な戦いにしないことだ。蒸気機関車から電車に転換したことで、険しい坂を登れるようになり、線路のルートの自由度が上がった。また、加速がよくなり運転間隔を縮小することができたし、運転士の養成が容易になり、運転本数を増やすことができるようになった。 同様に自動運転の普及が、鉄道のサービスを革新するという希望もあるはずだ』、ただ、始めの方にあった「駅にホームドア未設置かつ踏切のある路線でのドライバーレス運転」、というのは行き過ぎだ。ホームからの転落、踏切でのトラブルなどに、運転士が事故防止にどの程度貢献したのかの分析がないまま、自動運転に踏み切るのはどうかと思う。
タグ:収益力が高ければ自力でできる 各国に購買専門のコンサルタントが常駐しており、詳細なサプライヤー・データベースを作成 国土交通省は2020年度までにホームドア設置駅数を約800駅とする目標 駅業務の一部を警備員に委託する鉄道も 再雇用、IT化…新卒人口減をどう補うか (その6)(国が画策 運賃「値上げ」で駅ホームドアを設置 利用者の過半数が賛成?鉄道会社の意見は?、マッキンゼーが指摘する「日本の鉄道の改善点」 現在の鉄道業界に足りないものは何か?、鉄道に忍び寄る人材難 駅の安全確認を警備員に委託する事業者も) 従来は戦略立案が支援の中心でしたが、2000年代後半から戦略にとどまらず、売り上げを伸ばす、コストを削減するといった目に見える支援にシフト ダイヤモンド・オンライン 枝久保達也 新時代の鉄道ビジネスモデルは 自前主義にこだわらず、ソフト開発やビジネスモデル構築などでは外部の人材活用も重要だ JR九州は駅にホームドア未設置かつ踏切のある路線でのドライバーレス運転の実現を目指し、今年度中に福岡県内の路線で実証実験を開始し、実用化を目指すと報じた 「台湾新幹線」を運行する台湾高速鉄路 鉄道業界に対しても、世界中でコンサルティングを行っている 早朝深夜は駅員のいない駅も…人口減を見据えた省力化が加速 マッキンゼー 「マッキンゼーが指摘する「日本の鉄道の改善点」 現在の鉄道業界に足りないものは何か?」 「実質的な運賃の値上げ」 費用を利用者に負担させてはどうか――。国交省内の検討会 設置を阻む「費用の壁」 日本の鉄道「将来もトップかは疑問」 「転落事故の約半数を占める、1日の利用者が10万人以上の駅を優先的に整備する」 東洋経済オンライン ドイツ鉄道やイタリア鉄道をはじめとする欧州の多数の鉄道会社や鉄道車両メーカーへのコンサルティング実績 既に自力である程度整備した会社と、まだ未整備な会社の間で、公平性を如何に確保するか 鉄道 「国が画策、運賃「値上げ」で駅ホームドアを設置 利用者の過半数が賛成?鉄道会社の意見は?」 鉄道分野においては過去5年間、常時約520人規模のスタッフが鉄道コンサルティングに従事 各国の鉄道でコンサル事例 利用者が10万人以上いる275駅のうち、2018年3月末時点でホームドアが整備されているのは105駅にすぎない。未整備駅が6割 「鉄道に忍び寄る人材難、駅の安全確認を警備員に委託する事業者も」 アンケートでは「賛成」優位 品目別の購買戦略立案の基盤を作るほか、取るべき購買活動や契約形態についてアドバイス 日本は鉄道会社各社が自前主義をとっていて、保守も運行もインフラ建設も自前で行っているが、この状況をスターン氏は非効率だと考える 「日本の鉄道は世界でもっとも優れているが、デジタル技術が鉄道業界で大いに活用される将来においても日本がトップでいることができるかどうかは疑問だ」
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交通事故・あおり運転(その1)(歩行者の死亡事故ダントツの日本 ドライバー厳罰化で解決できない理由、あおり運転で手配の宮崎容疑者 青年実業家と注目されるも「外車やルイ・ヴィトン好きでキレたら恐ろしい」、悪質すぎる「あおり運転・暴行事件」はなぜ起きたのか?加害者の心理 悲惨な事件を防ぐ「治療法」は存在する) [社会]

今日は、交通事故・あおり運転(その1)(歩行者の死亡事故ダントツの日本 ドライバー厳罰化で解決できない理由、あおり運転で手配の宮崎容疑者 青年実業家と注目されるも「外車やルイ・ヴィトン好きでキレたら恐ろしい」、悪質すぎる「あおり運転・暴行事件」はなぜ起きたのか?加害者の心理 悲惨な事件を防ぐ「治療法」は存在する)を紹介しよう。

先ずは、ノンフィクションライターの窪田順生氏が5月9日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「歩行者の死亡事故ダントツの日本、ドライバー厳罰化で解決できない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/201713
・『5月8日、滋賀県大津市でまたもや保育園児の列にクルマが突っ込み、園児2人が死亡するという痛ましい事故が起きた。ただ歩道を歩いているだけの人が次々にクルマにはねられるという現実の裏には、歩行者軽視の交通政策がある』、具体的にはどういうことなのだろう。
・『ドライバー厳罰化では痛ましい事故は減らない  クルマの安全技術をもっと進化させるべきだ。いや、それよりもまずは危険運転の厳罰化と、高齢者など危なっかしいドライバーの規制も本格的に検討すべきではないか――。 なんて感じで、呑気な議論をしている間に、またしてもクルマによって、何の罪もない人々の命が奪われてしまった。 昨日、滋賀県大津市で、散歩中に交差点で信号待ちをしていた保育園児たちの列に、普通乗用車と衝突した軽自動車が突っ込んで、2人の園児が亡くなり、9人が重傷を負ってしまったのである。 少し前に、87歳の元通産官僚の「踏み間違い暴走」によって31歳の母と3歳の娘が亡くなって、日本中が自動車事故の恐ろしさを思い知ったばかりだろ、とドライバーに激しい怒りを抱く方も多いかもしれない。 ただ、このような事故を起こしたドライバーを社会でボコボコに叩いて厳罰に処したところで、しばらくしたら同じように子どもを巻き込むような事故は起きるだろう。この何十年、何度も繰り返されてきたことである。 「だからこそ、官民が一体となってクルマの安全技術を進化させなくてはいけないのだ!」という勇ましいかけ声が聞こえてきそうだが、その素晴らしい技術が日本中の車に搭載されるまで、あと一体どれだけこのような犠牲者を出さなくてはいけないのかという問題がある。 安全技術を確立するのは当然としても、まずは1人でも犠牲者を減らすため、長らく放ったらかしにしている問題に手をつけるべきではないか。 その問題とは何かというと、「歩行者軽視」だ。 ご存じの方もいらっしゃるかもしれないが、実は日本の歩行者は、他の先進国より自動車事故の犠牲になりやすいという事実がある』、恥ずかしい事実だ。
・『ほかの先進国に比べてダントツに多い歩行者の死亡事故  国際道路交通事故データベース(IRTAD)によると、30ヵ国の人口10万人当たりの死者数では、日本は3.8人(2015年)と10番目に少ない。ノルウェー(1位)やスウェーデン(2位)、英国(3位)などには及ばないものの、先進国水準といえる。 しかし、この犠牲者たちがどのように亡くなったのかという「状態別交通事故死者数」というデータを見ると、その評価はまったく変わってくる。 クルマに乗っている時に亡くなる「乗用車乗車中」は、死者数の少ないスウェーデンで55.6%。フランスや英国、ドイツなどもだいたい50%くらいとなっているのだが、なんと日本の場合は、それらの半分以下の21.4%に過ぎないのだ。 「見たか!これが世界に誇るメイドインジャパンの安全技術なんだよ!」と、どっかのテレビ番組のように大ハシャギしてしまう方もいるかもしれないが、実はこの低い割合は、日本のクルマが素晴らしいからだけではない。 別のシチュエーションの死亡率がダントツに高いのだ。もうお分かりだろう、「歩行者」だ。 日本で歩行中に事故に巻き込まれて亡くなったのは37.3%。これがいかに「異常」なことなのかということは、他の先進国の割合を見ればわかる。スウェーデンは10.8%、ドイツは15.5%、英国でも23.7%なのだ。 このデータからもわかるように、道路がしっかりと整備され、歩行者の安全も確保されているような先進国の場合、自動車事故とはハンドルを握るドライバーや同乗者が亡くなるのが一般的だ。 しかし、日本ではどういうわけかそうなっておらず、自動車事故というと、人を跳ね殺す、轢き殺すというパターンがメジャーになっている。なぜかというと、クルマに乗る人の安全確保や、自動車道路の整備ばかりが注力され、歩行者の安全対策がないがしろにされてきたから。要するに、「歩行者軽視」という悪習が続いてきたのだ』、2016年でも下記のように3.7人とほぼ高水準横ばいだ。
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h30kou_haku/zenbun/keikaku/sanko/sanko02.html
・『訪日外国人が怒りを覚える「クルマ優先社会」日本  という話をすると、「日本は欧米のような車社会じゃなく、公共交通機関が充実して歩く人の割合が多いから死亡率も多くなっているだけだ!」と、どうにかして、自動車事故で歩行者の死亡率が高いことを正当化しようとする人たちがいるが、日本も地方へ行けば、すぐ近くのコンビニへ行くのもクルマという、かなりのクルマ社会である。 事実、日本自動車工業会が公表している2015年末の人口1000人当たりの自動車保有台数を見ても、日本(611台)は、英国(591台)、ドイツ(598台)を上回っている。また、百歩譲って「日本はクルマ社会ではない」ということにしても、日本が「歩行者軽視」であるという事実はまったく変わらない。 日本が他の先進国よりも歩く人の割合が多いのなら、他の先進国よりも歩行者が優遇されなくてはいけない。しかし、現実はどうか。 自動車道路は広くて3車線あっても、歩道は狭い。すれ違うと肩がぶつかるし、ベビーカーを押していると急いでいる人に舌打ちされるほどだ。しかも、自動車の往来を邪魔しないように、歩行者は歩道橋を渡ることになっている。 そんなの当たり前でしょ、と思うかもしれないが、外国人には、これはかなり「異常な光景」である。ニューズウィーク日本版でコラムを執筆するコリン・ジョイス氏もこう述べている。 「歩道は狭過ぎて混雑し過ぎ。そして、なぜ道路を渡るのに、僕が階段を上らなければならないのか? 車が優先されていることに、僕は憤りを覚えた」(2018年2月7日) なんてことを紹介しても、憤りを覚えたのはこっちだとキレる人がほとんどだろう。 多くの日本人が抱くセルフイメージでは、日本社会は歩行者優先で、歩道や横断歩道を歩いていれば100%安全。クルマのドライバー側も、歩行者の安全をいつも気にかけている、という世界一交通マナーの素晴らしい国ということになっているからだ。 が、残念ながらこれもデータを見ると、「妄想」に過ぎない』、確かに、日本は「クルマ優先社会」で、「歩行者軽視」だ。
・『子どもが犠牲になる事故は過去数年で何件も起きている  2016年、JAFが各都道府県で2ヵ所ずつ、全国合計94ヵ所で信号機のない横断歩道を通過する1万26台を対象に調査をしたところ、歩行者が渡ろうとしている場面で止まったのは757台(7.6%)だった。 厳しいようだが、これが日本の現実なのだ。 だからこそ、歩行者軽視を変えなくてはいけない。歩道の広さを見直し、ガードレールを整備する。子どもの多い通学路などは、時間帯によって進入制限や速度制限を設けることも必要だろう。 日本が「歩行者軽視」であることは、歩行者の中でもっとも弱い立場である子どもの犠牲が後を断たないことからも明らかだ。 昨年1月30日、岡山県の県道でクルマ5台がからむ衝突事故が発生して、トラックが集団下校中の児童の列に突っ込み、4年生の女児の尊い命が奪われた。その2日後には、大阪府の市道で重機が警備員の制止をふりきって歩道に乗り上げ、聴覚支援学校の生徒や先生をはね、やはり11歳の女児が帰らぬ人となった。 2017年10月には、大阪府枚方市で集団登校していた子どもたちの列に、乗用車が突っ込んで6人が重軽傷を負っている。免許取り立てのドライバーは「(太陽が)まぶしかった」と述べたという。 2016年10月には、横浜市で集団登校中の子どもの列に軽トラックが突っ込み、小学1年生の児童が亡くなった。同じ月には愛知県一宮市で、下校中の4年男児がトラックにはねられ亡くなった。ドライバーは運転中に「ポケモンGO」をやっていた。さらに、その翌月には千葉県八街市でも集団登校の列にトラックが突っ込んで、児童4人が重軽傷を負っている。 他にも例を挙げればきりがない。これらを一部のドライバーのせいや、安全技術の未整備のせいにしているだけでは何も変わらない。 では、変えるためにはどうすればいいのかというと、まずは歩行者軽視という現実を認めなければいけない。 日本は、歩行者に厳しいという事実を受け入れて、それなりの対策をとるべきだ。これ以上犠牲者を増やさぬためにも、いい加減そろそろ、このあたりの耳の痛い話と本気で向き合わなくてはいけないのではないか』、説得力ある主張で、全面的に同意する。

次に、8月17日付けAera.Dot:週刊朝日「あおり運転で手配の宮崎容疑者 青年実業家と注目されるも「外車やルイ・ヴィトン好きでキレたら恐ろしい」」を紹介しよう。
・『茨城県守谷市の常磐自動車道で8月10日、「あおり運転」し、男性会社員(24)を殴るなどした容疑で、全国に指名手配された宮崎文夫容疑者(43)は、今も逃走したままだ。 SNSなどによると、宮崎容疑者は大阪府出身で関西の有名私大を卒業後、会社勤務などを経て不動産事業、コンサルティング会社などを設立。 宮崎容疑者は自身の事業についてインタビュー記事で『私は祖父が所有していたマンションを受け継ぎ、2003年から個人事業主として自社物件を含めた不動産の管理・取り引きや賃貸業を始めました。そして、昨年2018年2月に法人化したんです(略)グループ会社を設立し、経営などのあらゆるご相談や、困りごとにお応えするコンサルティング業務を手がけています』などと語っている。 行方を追う茨城県警は宮崎容疑者の大阪の自宅や会社、名古屋の会社、神奈川県の関係先など各所を捜索しているが、まだ行方はつかめていない』、その後、逮捕されたが、6月にも浜松市の新東名高速道でトラックを相手に「あおり運転」をしたようだ。
・『「あおり運転の動画や、被害者の車にあった指紋からも宮崎容疑者を特定した。動画に映っている女性についても、犯行に関わった疑いがあり、事情を聞くことになる」(捜査関係者) 宮崎容疑者は事件当時、自身が経営する大阪市内のマンションの一室に住んでいたとみられる。マンションの住民はこう話す。「大家さんなのにトラブルメーカー。今年6月、住民の駐輪場に車を2~3台置いて自転車が置けなくなった。文句を言っても『オレのマンションや』『何言うとるねん、いてまうぞ』と凄まれて何も言えなくなった」「普段でも、マンションの廊下を汚すなとか、住民に食ってかかる。それがイヤで引っ越した人もいる。深夜にマンションに戻ってきて、コラァ、とか叫んだりして、近寄りにくい大家さんでした」(別の住民) 近所の人によると、宮崎容疑者は子供の頃から、マンション周辺で育ったという。 「両親も知っているが、昔から近所付き合いは少ない家。時々、姿を見るが、挨拶程度。よく若い女性を連れていましたよ。昨日あたりから警察の人が来ていて宮崎容疑者を知らないかと聞いていた。ニュースに出ているあおり運転の人と聞いて驚いた。マンションから駅に向かって歩く姿とテレビに映っている帽子を被った顔や歩く様子がそっくり。あんな遠いところにまで行って、事件を起こしていたんですね。近所でも意味不明な理由で怒鳴っていたのでやっぱりと思った」(宮崎容疑者の知人) 別の地元知人はこう話す。 「不動産会社以外にも、何年か前から車のディーラーをしているようでした。外車を置いて作業したり、マンションの入り口に車関係のスッテカーを貼ったりしていた」 宮崎容疑者が経営している不動産会社の取引先の会社経営者はこう話す。 「知り合ったのは3、4年前。不動産を持っていて、その収益とコンサルタントの仕事をしていると言っていた。いつも、ブランドの服で身を固め、おしゃれには気を使っていた。SNSにもあるようにルイ・ヴィトンの服をよく着ていたんじゃないかな。靴もどこのブランドだとか、自慢していた。車のディーラーもしていると話していた。白い外車に乗っていると思ったら、次はBMWと違う車だったり、えらい金持ちなんだと思いました。今日は東京、明日は静岡、終われば大阪と忙しそうでしたよ。けど、どんな仕事をしているのか、あまりわからなかった。感情の起伏が激しくて、ご機嫌な時はいいんですが、ちょっと思い通りにいかないとブチ切れるところがあり、どうしようもない。大阪弁で『こら、わかってんのか、おのれ』と誰かを怒鳴っているのを聞いた時には、震えました。常磐道のあおり運転の容疑者として報じられた、高速道路で帽子をかぶって歩く姿は、まさに宮崎容疑者そのものですよ」』、典型的な金持ちのドラ息子だ。自分が所有するマンションでも、「深夜にマンションに戻ってきて、コラァ、とか叫んだりして、近寄りにくい大家さんでした」、本当に自己抑制ができない人物のようだ。

第三に、筑波大学教授(臨床心理学・犯罪心理学)の原田 隆之氏が8月18日付け現代ビジネスに掲載した「悪質すぎる「あおり運転・暴行事件」はなぜ起きたのか?加害者の心理 悲惨な事件を防ぐ「治療法」は存在する」を紹介しよう。なお、付注、その参照番号は省略した。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66601
・『あおり運転の動画を見て  常磐自動車道でのあおり運転の事件が、世間の注目を集め、大きな批判を受けている。 被害者のドライブレコーダーの動画には、加害者が高速道路上で蛇行運転をしたり、急停止して進路をふさいだりした挙句、大声で怒鳴りながら、車の窓越しに被害者の顔面を何度も殴打する様子が鮮明に記録されていた。 あまりの悪質さに、事件は連日の大ニュースとなり、ついに容疑者が指名手配されるに至った。報道によれば、容疑者とされる男は、常磐道だけでなく、遠く離れた複数の場所で、同様に悪質なあおり運転を繰り返しており、常習的な犯行のようである。 また、これだけ世間を騒がせておいて、指名手配されるまで出頭せず、逃げ回っているという行動も理解しがたいものがある。 報道された経歴を見ると、有名大学を卒業し、会社経営をしていた人物だとのことであるが、逃げ切れるとでも思っているのだろうか。騒動がより大きくなり、批判が一層高まるということすら理解できないのだろうか。 さらに不可解なのは,通常はなだめたり制止したりすべき同乗者が,現場を携帯で撮影するような様子を見せていたことだ。このように犯行を増長させるような者が周囲にいることは,加害者が逃走を続けていることとも無関係ではないだろう。 あまりにも近視眼的で、浅はかな行動である』、大学卒業後は、超高給で有名な会社に就職したが、直ぐに辞め、家業を引き継いだようだ。
・『繰り返されるあおり運転  悪質なあおり運転と聞いて思い出すのが、2017年6月に起きた東名高速での事件である(参照:悲惨な「東名高速死亡事故」似た経験をした犯罪心理のプロが思うこと)。 これは、サービスエリアに迷惑駐車をしていた男が、それを注意されたことに激高し、相手の男性の車を執拗に追いかけた後、高速道路上に停車させたという事件である。 その結果、車は後続の車に追突されて、同乗していた子どもの目の前で両親が死亡した。加害者は、危険運転致死傷罪などで懲役18年の判決を受けた。 この事件では、加害者がこのほかにも何度も危険なあおり運転をしたことが明るみになったほか、事件後も反省をしていない態度が報じられ、大きな批判を浴びた。 さらに最近では、常磐道の事件が連日報道されているさなか、愛知県内で、男が執拗なあおり運転の挙句、女性に怪我をさせ器物を損壊したとの容疑で逮捕された。容疑者は、現在のところ容疑を否認しているという。 これらの事件が、かくも注目を集めるのは、以前にも書いたが、誰もが被害者になる可能性のある身近な出来事だからであろう。 遠いシリアで起きている内戦の惨事は「他人事」としてとらえられても、全国各地の道路で起きているあおり運転は、いつ何時自分が巻き込まれるかわからないという恐怖を誰もが抱いてしまう』、「これらの事件が、かくも注目を集めるのは、以前にも書いたが、誰もが被害者になる可能性のある身近な出来事だからであろう」、その通りだろう。
・『加害者の共通点  今回の事件と東名の事件を見比べると、加害者には多くの共通点がある。まず、両者ともほぼ日常的にあおり運転を繰り返していたという点である。 普段から交通ルールを守っている優良ドライバーが、何かちょっとしたアクシデントがあったからといって、急に豹変することは考えにくい。このような常習性は、特筆すべきものである。 また、どちらのケースでも、いつ自分自身が事故に遭っても不思議でないような危険な運転の仕方をしている。 急な幅寄せ、急停止、高速道路上での停車、そして車から高速道路上に降りることなど、どれも1つ間違ったら自分自身も死亡してしまいかねないきわめて危険な行為である。 今回の動画を見ても、被害者に殴りかかる加害者をかすめて何台もの車が通過している様子が映っている。東名の事件では、被害者が死亡したが、これも加害者も死亡していてもおかしくない状況であった。 これらのことからわかるのは、彼らには通常の恐怖心や危機意識が欠如しているということだ。 これは粗暴犯罪者に多い特徴であり、普通の人なら恐怖や不安を感じる状況にあっても、それらにきわめて鈍感で、心拍数が上昇したり、身がすくんだりするという生理学反応が生じない。これは粗暴犯罪者の自律神経系の異常を示唆する特徴として注目を集めている。 したがって、このような危険なことが平気でできるし、普段から猛スピードでの運転、シートベルトの不着装、頻繁な路線変更、飲酒運転などの危険運転を日常的に行っているのではないかとの推測もできる。 さらに顕著な点は、そのパーソナリティの特徴である。両者とも、些細なことでカッとする易怒性や、怒りのコントロールができない統制力欠如、すぐに手を出してしまうような衝動性などが顕著である。 加えて、目先のことしか考えられず長期的に物事を見ることができない「現在指向型の時間展望」という特徴も有している。これは、両者とも事件後にその場を立ち去ったり、逃走したりしている点から明らかである。これらはいずれも、「反社会的なパーソナリティ特性」としてまとめることができる。 ほかにも、危険運転以外のルール無視も平気で行っていたという点も共通している。 今回の加害者は、ディーラーから代車を借りてあおり運転を繰り返していたとのことであるが、代車の返却期限がきても、それを無視して乗り続けていたという。ほかにも、近隣トラブルがいくつも報じられているうえ、過去に逮捕歴があるとの報道もある。 このように、これだけ悪質なあおり運転というのは、そもそも暴力的、犯罪的な特徴を有していた者が、その場の状況に反応して起こした卑劣な犯罪であって、けっして突発的、偶発的な犯罪ではないと考えられる』、「普通の人なら恐怖や不安を感じる状況にあっても、それらにきわめて鈍感で、心拍数が上昇したり、身がすくんだりするという生理学反応が生じない。これは粗暴犯罪者の自律神経系の異常を示唆する特徴として注目を集めている」、「これだけ悪質なあおり運転というのは、そもそも暴力的、犯罪的な特徴を有していた者が、その場の状況に反応して起こした卑劣な犯罪であって、けっして突発的、偶発的な犯罪ではないと考えられる」、さすが犯罪心理学者らしい分析だ。
・『海外の研究  実は、こうした危険運転の増加は日本だけの現象ではなく、世界各国で見られる現象である。アメリカでは、この10年で5倍に増加しているとの報告がある。ざっと論文を検索しても、アメリカ、カナダ、フランス、デンマーク、トルコ、中国など、世界各国からの論文が見つかる。とはいえ、まだまだ研究は多くない。 これらの研究では、危険運転(いわゆるroad rage、路上での逆上)の原因として、いくつかの点が指摘されている。 まずは、やはりパーソナリティの問題である。たとえば、自己中心性、ナルシシズム、衝動性、易怒性、感情統制力欠如、攻撃性などの「ダーク・パーソナリティ」が挙げられている。 あるいは、彼らの「認知のゆがみ」が顕著なことを指摘する研究もある。これらの危険運転に出る者は、他者の何気ない行動に「敵意」を感じやすいのだという。たとえば、相手が車線変更しただけで「邪魔をした」と感じたり、追い抜かれただけで「馬鹿にされた」などととらえてしまったりする。 また、そもそも「感情はコントロールできるものだ」「コントロールすべきものだ」という認知を抱いていないため、瞬間湯沸かし器的に感情を爆発させ、粗暴行動に直結してしまうのである。 とはいえ、「車に乗ると性格が変わる」と言われたことがある人は、案外多いかもしれない。それはおそらく、車内の匿名性ゆえに、粗暴な言動に出てしまいやすくなるということが原因として挙げられるだろう。 車の中でだと相手に聞こえないし、顔も見えないので、ノロノロ運転、割り込み、マナー違反などの車があると、面と向かっては言わないような暴言を思わず言ってしまうのである』、「危険運転の増加は日本だけの現象ではなく、世界各国で見られる現象」、若干、慰めになり材料ではある。私も「「車に乗ると性格が変わる」と言われたことがある」口だが、悪態をつくだけで、「あおり運転」までする勇気はない。
・『悪質あおり運転への処方箋  しかし、一連の研究を見ると、これらの運転中の「悪態」と、今回の事件のような悪質で粗暴な危険運転とは、質が違うと考えたほうがよさそうである。 それは犯罪かどうかとの線引きだけでなく、その基盤に「ダーク・パーソナリティ」や「認知のゆがみ」が存在し、さまざまな問題行動や反社会的行動への親和性が高いかどうかという違いである。 しかし、希望を持ってもよいのは、こうしたパーソナリティや認知は、いずれも「治療」可能だという点である。 すでに「運転者怒り表出尺度」「運転者行動尺度」などという「診断ツール」も開発されている。この項目をチェックすることで、本人の問題性やその深刻度が評定できる。 そして、そこでわかった問題性をターゲットとして、認知行動療法という心理療法を実施することが、現在のところ一番効果が期待できる。 そこでは、怒りのコントロールの方法を学ばせたり、ゆがんだ認知を適切な認知に置き換える訓練をしたりする。こうした治療によって、危険性は相当程度抑制できるだろう。 われわれの日常に襲いかかる卑劣な危険運転を放置することはできない。これには断固とした処罰が必要であることは言うまでもない。 しかしその一方で、ネット上に加害者の個人情報を晒したり、執拗に罵詈雑言を浴びせたりすることは、控えるべきである。なかには、まったくの別人が「加害者の息子」を名乗って、被害者を誹謗するような動画もアップされていた。これなどは、単に注目を集めたいだけの卑劣な「反社会的」行動である。 このように事件への怒りから、あるいは事件に便乗して、軽率な行動を取ることは、加害者と同じ問題性を有していると言われても仕方がない。それは正義でも何でもない。 悲惨な事件を防ぐには、冷静で科学的な知見に導かれた対処こそが一番有効であることを、われわれは肝に銘じておく必要があるだろう』、「運転中の「悪態」と、今回の事件のような悪質で粗暴な危険運転とは、質が違うと考えたほうがよさそうである」、一安心だ。「あおり運転」について、説得力に富んだ主張には全面的に同意する。
タグ:信号機のない横断歩道を通過する1万26台を対象に調査をしたところ、歩行者が渡ろうとしている場面で止まったのは757台(7.6%) 交通事故 あおり運転 JAF 「歩行者の死亡事故ダントツの日本、ドライバー厳罰化で解決できない理由」 目先のことしか考えられず長期的に物事を見ることができない「現在指向型の時間展望」という特徴も有している 宮崎文夫容疑者 文句を言っても『オレのマンションや』『何言うとるねん、いてまうぞ』と凄まれて何も言えなくなった」「普段でも、マンションの廊下を汚すなとか、住民に食ってかかる。それがイヤで引っ越した人もいる。深夜にマンションに戻ってきて、コラァ、とか叫んだりして、近寄りにくい大家さんでした」(別の住民) これらの事件が、かくも注目を集めるのは、以前にも書いたが、誰もが被害者になる可能性のある身近な出来事だからであろう 東名高速での事件 両者ともほぼ日常的にあおり運転を繰り返していた 加害者の共通点 大家さんなのにトラブルメーカー 悲惨な事件を防ぐには、冷静で科学的な知見に導かれた対処こそが一番有効であることを、われわれは肝に銘じておく必要があるだろう 子どもが犠牲になる事故は過去数年で何件も起きている 「歩道は狭過ぎて混雑し過ぎ。そして、なぜ道路を渡るのに、僕が階段を上らなければならないのか? 車が優先されていることに、僕は憤りを覚えた」 ドライバー厳罰化では痛ましい事故は減らない コリン・ジョイス 訪日外国人が怒りを覚える「クルマ優先社会」日本 自動車道路の整備ばかりが注力され、歩行者の安全対策がないがしろにされてきたから。要するに、「歩行者軽視」という悪習が続いてきたのだ ダイヤモンド・オンライン 常磐自動車道で8月10日、「あおり運転」 「あおり運転で手配の宮崎容疑者 青年実業家と注目されるも「外車やルイ・ヴィトン好きでキレたら恐ろしい」」 Aera.Dot:週刊朝日 スウェーデンは10.8%、ドイツは15.5%、英国でも23.7% 怒りのコントロールの方法を学ばせたり、ゆがんだ認知を適切な認知に置き換える訓練をしたりする。こうした治療によって、危険性は相当程度抑制できるだろう 「車に乗ると性格が変わる」と言われたことがある人は、案外多いかもしれない。それはおそらく、車内の匿名性ゆえに、粗暴な言動に出てしまいやすくなるということが原因として挙げられるだろう 繰り返されるあおり運転 「悪質すぎる「あおり運転・暴行事件」はなぜ起きたのか?加害者の心理 悲惨な事件を防ぐ「治療法」は存在する」 現代ビジネス こうしたパーソナリティや認知は、いずれも「治療」可能 こうした危険運転の増加は日本だけの現象ではなく、世界各国で見られる現象 そもそも暴力的、犯罪的な特徴を有していた者が、その場の状況に反応して起こした卑劣な犯罪であって、けっして突発的、偶発的な犯罪ではない 原田 隆之 大津市でまたもや保育園児の列にクルマが突っ込み、園児2人が死亡 「歩行者軽視」 悪質あおり運転への処方箋 日本で歩行中に事故に巻き込まれて亡くなったのは37.3% パーソナリティの特徴である。両者とも、些細なことでカッとする易怒性や、怒りのコントロールができない統制力欠如、すぐに手を出してしまうような衝動性などが顕著 普通の人なら恐怖や不安を感じる状況にあっても、それらにきわめて鈍感で、心拍数が上昇したり、身がすくんだりするという生理学反応が生じない。これは粗暴犯罪者の自律神経系の異常を示唆する特徴として注目 国際道路交通事故データベース(IRTAD) 「反社会的なパーソナリティ特性」 ちょっと思い通りにいかないとブチ切れるところがあり、どうしようもない 窪田順生 どちらのケースでも、いつ自分自身が事故に遭っても不思議でないような危険な運転の仕方をしている 日本は、歩行者に厳しいという事実を受け入れて、それなりの対策をとるべきだ (その1)(歩行者の死亡事故ダントツの日本 ドライバー厳罰化で解決できない理由、あおり運転で手配の宮崎容疑者 青年実業家と注目されるも「外車やルイ・ヴィトン好きでキレたら恐ろしい」、悪質すぎる「あおり運転・暴行事件」はなぜ起きたのか?加害者の心理 悲惨な事件を防ぐ「治療法」は存在する) ほかの先進国に比べてダントツに多い歩行者の死亡事故
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女性活躍(その14)(東大卒・女性キャリア官僚の私が 霞が関を去った理由 この国の中枢で起きていること、私が見た 企業トップの女性活躍への"及び腰" 「30%クラブジャパン」発足で痛感した現実、「仕事人」する50代女性に「組織人」オジサンが学ぶもの) [社会]

女性活躍については、6月20日に取上げた。今日は、(その14)(東大卒・女性キャリア官僚の私が 霞が関を去った理由 この国の中枢で起きていること、私が見た 企業トップの女性活躍への"及び腰" 「30%クラブジャパン」発足で痛感した現実、「仕事人」する50代女性に「組織人」オジサンが学ぶもの)である。

先ずは、エッセイスト・編集者の奥村 まほ氏が6月4日付け現代ビジネスに掲載した「東大卒・女性キャリア官僚の私が、霞が関を去った理由 この国の中枢で起きていること」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64958
・『辞めていく女性官僚たち  私は数年前に官僚を辞め、それまで勤めていた霞が関の官庁を去りました。 東京大学を卒業後、就職してから3年以内の早期退職でした。辞めた理由はいくつかありますが、霞が関の組織のあり方や職員の働き方についてさまざまな疑問や不安を感じていたことが、大きな決め手のひとつになりました。 この春、霞が関を去る若手キャリア官僚のニュースが話題になりました。最初は高い志を持って就職した官僚でも、労働時間や業務内容などを理由にキャリアを再考し、就職から数年で転職してしまう。この実態は霞が関にとって大きな痛手だと報道されていました。 たしかに近年、同じように就職から数年で退職した若手職員の話を耳に入れることが多くなりました。実際に辞めていなくても転職を検討している人、検討したことがある人、「仕事は続けたいけれど、ここでずっと働くつもりはない」と言っている人の話もよく聞きます。 その中でとくに気になっているのが、もともと母数が少ない割には、女性の職員が辞めたという話を耳に入れる機会が多いことです。もちろん私が女性であるがゆえに女性の話が伝わってきやすいのかもしれませんし、統計をとったわけでもありません。しかし、個人的な印象で言えば、女性のほうが早い段階から転職の可能性を視野に入れている人が多いように感じます。 これは一体、なぜなのでしょうか。本来は女性活躍を推進する立場にあるはずの霞が関の現場で、なぜ多くの女性官僚がキャリアに悩み、転職を検討するのでしょうか。 すべての女性官僚に当てはまるわけではありませんが、そこには単に「長時間労働で辛いから」という言葉だけでは割り切れない、女性ならではの事情もあるのではないかと考えています。 私自身、「ここは女性として安心して働き続けられる職場ではない」と判断した経験があるからです。若手官僚、とりわけ若手の女性官僚が転職を考える理由について、私自身も経験した女性としての悩みにスポットライトを当てながら考えていきます』、自らの体験とは、ことの外、興味深そうだ。
・『モチベーションを奪われる職員  私が官僚として働きながら日々感じていたのは、「就職前の私は何を勘違いしていたのだろう」ということでした。 官僚の仕事は過酷です。夕方からが本番といっても過言ではありません。国会の会期中には、夕方に通告された質問に対する回答をその日の夜から翌朝にかけて作成することもしょっちゅう。法改正に携わるチームに配属されれば、数ヶ月のあいだ毎日のように終電帰りや深夜残業が続きます。 多忙な時期には土日祝日や年末年始を返上して職場に泊まりこみ、月200?300時間の残業をこなしている職員もいました。ここまではいかなくとも、月100時間前後の残業を数ヶ月以上に渡って続けている職員は決して珍しくありません。 しかも、長時間の残業をしながらこなす業務は、有意義なものばかりではないのが現実です。国会対応における「待機」など、時間を費やす意味を感じづらい業務もあります。また長時間労働の割に給料が高いわけでもなく、残業代が出る保証もありません。 同学歴・同年代で同じくらいの激務をこなしている人と比べれば、恵まれているとは言いがたい待遇です。こうした状況に疲弊してモチベーションを奪われる職員は男女問わず少なくありません』、この程度の要因は、入省前から分かっていた筈だ。
・『深夜にベビーシッター  こうした光景を目にして、私の中で不安としてわだかまったのは、やはり結婚・妊娠・出産・子育てと仕事の両立の難しさでした。 「長時間労働の霞が関にいる限り、家庭とキャリアの両方を充実させるのは不可能なのではないか」という不安は女性官僚に重くのしかかります。当たり前ですが妊娠・出産は女性にしかできませんし、男性の家事・育児参加が叫ばれる昨今でも、負担は女性に偏っているのが日本の現状ですから。 実際、知り合いの女性職員には、睡眠不足とストレスで生理がこなくなった人がいました。夫婦ともに官僚で、繁忙期には深夜にベビーシッターを呼んでいる家庭の話も聞いたことがあります。霞が関で働きながら結婚~子育てにおけるあらゆるハードルをクリアするには、高いモチベーションと体力・精神力、パートナーの理解と協力体制、周囲の手厚い支援は最低限必要でしょう。 もちろん国家公務員は、制度面だけを見れば支援策が整っているほうかもしれません。産休・育休はもちろん取得できますし、子どもが小さいうちは時短勤務、超過勤務の免除・制限、深夜残業の制限といった制度を利用できます。フレックス制度もあります。しかし期間が限られているものが多く、決して十分とはいえないと感じます。また人員不足のため、制度があっても実際には活用しづらいケースもあると耳にしました。 時短勤務ができたのはいいものの、出産前に担っていたような政策に中心的に関わる仕事が回ってこなくなり、国家公務員として働く意味を感じられなくなった人もいます。 もちろん、すべての女性が結婚や子育てを希望しているとは限りませんし、「結婚して子どもを産み、母親になることこそが女性としての幸せだ」というのは今では数多ある価値観のうちのひとつでしかありません。 しかしながら、実際にどのような選択をするかは別として、さまざまな可能性を考えている女性からすれば、霞が関で働き続けることはリスクに見えてもおかしくありません。少なくとも私には、リスクに見えました』、「夫婦ともに官僚で、繁忙期には深夜にベビーシッターを呼んでいる家庭」、ここまでくると、やはり涙ぐましい苦労話もあるようだ。
・『心身を消耗させるだけで20代が終わってしまう…  いずれ結婚し子どもが生まれた場合、家事や育児と両立できるのか。それ以前に結婚のことを考えたり結婚に向けて行動したりする時間的・精神的余裕やエネルギーがあるのか。多忙な仕事に理解があり、サポートしてくれるパートナーを得られるのか。過酷な勤務を続けているのに、子どもを産める健康な体でいられるのか。不妊治療が必要になったら仕事をしながら取り組めるのか……。 「長時間労働で辛い」ことは、単純に心身がもたないという問題にとどまらず、自分の人生の選択を狭めるリスクを孕んでいるように思えたのです。自分の大切な20代が、心身を消耗させるだけで終わってしまうような気がしました。就職前は、ここまで深くは考えていませんでした。 「就職前の私は、何を勘違いしていたのだろう」――これは自分の経験、そして周囲の様子からしても、女性官僚が就職後、数年してから抱きがちな思いであるように感じます。 就職前、私はキャリアのことで頭がいっぱいでした。働くことへの期待、公務員として、そして働く女性として活躍することへの希望。プライベートについては漠然と「なんとかなるだろう」と思っていました。 仕事も家庭も子育ても私ならどうにでもなる。大学までは、学業をこなしてきたように、きっとうまくやれるはずだ、と。しかし現実は違いました。実際に働き始めてみるとどうにもなりそうにない気配に気づきます。 思った以上に官僚の働く環境は厳しいし、人生を捧げたいと思えるほどのやりがいも見出せない。普通に働くだけでもギリギリの状態という人が大勢いるのに、子育てが加わるなんて想像もつかない。なんとかなると思っていたけど自分には無理そうだ。こんなはずじゃなかったのに……。 友人の結婚・出産の報告を耳にすることが増え、ようやく自分ごととして考えるようになった段階で、これからどうしようかと悩む人もいることでしょう。このままこの仕事を続けていていいのか、気持ちは揺らぎます』、「思った以上に官僚の働く環境は厳しいし、人生を捧げたいと思えるほどのやりがいも見出せない。普通に働くだけでもギリギリの状態という人が大勢いるのに、子育てが加わるなんて想像もつかない。なんとかなると思っていたけど自分には無理そうだ。こんなはずじゃなかったのに……」、辞めざるを得なくなった事情が理解できた。
・『ロールモデルがいない  ここで、「それでも家庭と両立しながら働いている女性官僚がいるではないか。気持ちと頑張りでどうにでもなるだろう」と考える方もいるかもしれません。 しかしながら、その「気持ち」や「頑張り」はすべての女性官僚に当てはめて考えてもいいものでしょうか。また「気持ち」と「頑張り」でどうにか両立しているように見える人は、本当にそれだけで上手く回せているのでしょうか。霞が関には現実的にめざせそうなロールモデルが少ないという点も、若い女性職員が将来像を見出しにくい要因のひとつになっていると考えます。 政府は「女性活躍」を進めてはいますが、それはここ数年の取り組みであり、以前は女性の登用人数そのものが少なかったことを踏まえれば、組織に残っている女性が少ないのは仕方がないことかもしれません。 しかしながら、私見では、現在の霞が関に管理職相当で残っている女性こそがイレギュラーなケースであり、ロールモデルにはなり得ないのではないかと思っています。「私にもできそう」という希望や安心感を与えてくれるロールモデルが滅多に存在しないのです。 たとえば結婚していない、または結婚していても子どもがいないケースなら、結婚・子育てを視野に入れている女性職員のロールモデルにはなりづらいでしょう。また結婚・子育てを経験している職員でも、「実家や夫の支援が手厚い」「仕事に強いやりがいを感じており、割り切ってベビーシッターや深夜保育にお金をかけている」といったケースの場合は、これらの条件をクリアするのが難しい女性にとっては現実的に感じられず、良いロールモデルにはなりません。 若い女性職員が安心して働き続けるためには、強靭なスーパーウーマンや恵まれた環境にいる女性の事例ではなく、だれでもそこそこ頑張ればたどり着ける「普通」のケースが必要です。 私自身、当時も今も子どもはいませんが、子どもができても実家が遠いため親の支援を受けるのは困難であり、また子どもを預けて夜遅くまで残業をする気にはならないだろうと考えていました。そして少なくとも在職中には自分にもめざせそうなロールモデルには出会えませんでした。 組織が変わらない限り、自分がだれかのロールモデルになれるとも思いませんでした。いろいろなものを犠牲にしてまで熱意を持って仕事に向かえる自信もなく、「10年後、20年後にもこの職場で働く未来は見えないな」と就職当初に思ったのを覚えています。 いずれ退職するならキャリアアップにこだわる必要もないし、むしろ若いうちに転職して別の場所で経験を積み、将来のキャリアやプライベートの選択肢を広げよう。そう考えるのは、女性にとってひとつの合理的な判断ではないでしょうか』、「現在の霞が関に管理職相当で残っている女性こそがイレギュラーなケースであり、ロールモデルにはなり得ないのではないかと思っています」、確かに深刻な問題のようだ。
・『空転する「女性活躍」  前述の通り、政府は女性活躍推進を進めていますが、それも十分とは言えません。 私が官僚として働き始めた時期は、ちょうど女性活躍推進が謳われ始めた時期と重なります。政府が先頭に立って女性登用を推進するため、霞が関においても女性の採用人数が大幅に増加しました。 内閣官房が公表したデータによれば、国家公務員試験を経て採用された職員のうち、女性の占める割合は平成26年度から27年度にかけて26.7%から31.5%に上昇し、総合職にいたっては23.9%から34.3%と4割以上も増加しています。私が所属していた官庁にも同様の傾向があり、30人弱の同期のうち女性は10名を上回っていました。 しかしいざ就職してみてわかったのは、少なくとも私の目から見た限りでは、政府は「女性登用」を推進しているだけで、本当の意味での「女性活躍」を推進できているわけではないということでした。 その中身はこれまで見てきた通りです。採用した女性の将来をしっかりと考えないまま、受け入れる人数だけ増やした形です』、「政府は「女性登用」を推進しているだけで、本当の意味での「女性活躍」を推進できているわけではない」、これでは「空転する「女性活躍」」というのも当然だ。
・『スーパーウーマンじゃなくても続けられる職場に  このように女性官僚を取り巻く状況には厳しいものがあります。今回挙げたもの以外にも、月経にまつわる問題など、過酷な環境への適応を難しくする女性特有の事情を抱えている職員は少なくないでしょう。男性ばかりの職場ではこうした悩みは相談しづらく、「相談しても心から理解してくれるはずがないし、弱いと思われて評価が下がるだけだ」と考えてひとりで苦しんでいる人もいると思います。 しかし大学時代まで男性と渡り合って成功を収めてきた女性の中には、私がそうであったように「自分になら何でも乗り越えられる」と思いこみ、仕事内容だけを見て就職先を選ぶ人も少なくありません。説明会で相手がスーパーウーマンとは知らずに話を聞き、「私もきっと大丈夫」と考える学生もいるかもしれません。その中には、本当に「大丈夫」な未来のスーパーウーマンもいることでしょう。 でも、だからといって、すべての女性が同じようになれるわけではないのです。だれもが強いわけではないし、仕事へのモチベーションを高く保てるわけではない。強いだけではどうにもならない問題もあるし、人生における仕事の立ち位置だって価値観だって、刻一刻と変わっていく。 身も心も強靭でなければ、あるいは大きな犠牲を払ったり、手厚い支援を受けたりしなければ残れないような組織では、今後もロールモデルになりそうでならない女性が残っていくだけでしょう。 就職当初、男性職員に「きみたちが女性職員のロールモデルになればいいんだ」と言われたことがありますが、これほど無責任な言葉はないと感じます。環境を改善することなく、耐えて耐えて耐え忍んだ女性や恵まれた環境にある女性をロールモデルとして崇めても、女性職員へのプレッシャーがますます強まるだけです。 政府はやみくもに採用人数を増やすのではなく、採用した女性が安心して働き続けられる環境とは本来どのようなものなのか、本当のロールモデルを作るためには組織がどう変わるべきなのか、真剣に考えていく必要があるのではないでしょうか。 本来、国の政策を考えて実行していくのはやりがいがあり、面白い仕事のはずです。それが就職後、あらゆるマイナス面によってかき消されて見えてしまうのは、男女に関係なく本当にもったいないことだと感じています。 「日本をもっと良い国にしたい」「利益にとらわれない仕事がしたい」そんな強い思いを抱いて就職するすべての若者の熱意が生かされ、また自分自身の心と体も大切にしながら働ける組織に変わっていくことを強く願っています』、「本来、国の政策を考えて実行していくのはやりがいがあり、面白い仕事のはずです。それが就職後、あらゆるマイナス面によってかき消されて見えてしまうのは、男女に関係なく本当にもったいないことだ」、その通りだろう。このままでは、「女性活躍」は看板倒れに終わってしまいそうだ。

次に、 元総理府男女共同参画局長で昭和女子大学理事長の坂東 眞理子氏が8月13日付け東洋経済オンラインに掲載した「私が見た、企業トップの女性活躍への"及び腰" 「30%クラブジャパン」発足で痛感した現実」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/295477
・『ベストセラー『女性の品格』から12年。坂東眞理子・昭和女子大学理事長がいま考える、人生100年時代を納得して生きるために必要な「女性の美学」とは? 大人の女性の3大場面、「職場」「家庭」「社会」それぞれの場で女性が直面する問題にどう対応するか。この連載でつづっていただきます』、興味深そうだ。
・『「30%」の重み  7月17日、30%クラブジャパンのお披露目会があった。 30%クラブとは何か。これは2010年にイギリスで始まった、女性の取締役を30%に増やす努力をすると宣言する民間企業の集まりである。現在までに世界14カ国・地域に活動が広がっている。 正会員はそれぞれの企業のトップだけがなれる。その国におけるトップ100社のうち5社以上が加入して発足が認められるので、日本版もTOPIX100社から参画企業を募るなど、1年がかりで準備し、37社が加盟した。私もアドバイザリーボードの一員として加わっている。 現在、日本の上場企業の取締役に占める女性の割合は4.1%なので、30%はかなり遠い実現不可能の目標のように見える。しかし、世界のほかの国々、とくにヨーロッパの国々を見れば決して驚くような数字ではない。実際、イギリスでは発足当時に12.6%だった女性役員比率は、2018年に30%に達した。 だいぶ前になるが2003年、政府はあらゆる分野の政策決定に参画する地位の30%を女性にという計画を男女共同参画推進本部で決定している。そのときも「何で30%か」「能力もない女性を、女性だからというだけで登用するわけにはいかない」と反対意見が多かった。 当時その活動を推していた私は、「2020年まで17年、十分女性が経験を積み育つ期間はあります」「30%というのは少数者が一応その存在が知られるための塊として必要な数字です」といって、反対の方々を説得した。 その後しばらくこの数字は顧みられず、ほこりをかぶっていたのだが、2012年第2次安倍内閣では「女性が輝く社会」が目標として掲げられ、2020年までに女性管理職を30%にすると打ち出した。しかし現在も日本の女性管理職は30%ならぬ13%にとどまっており、政府も2020年に30%とはあまり声高に言わなくなってきた。 なぜ、なかなか女性管理職が増えないか。長時間労働、性別役割分担の根深さなど、できない理由はたくさんあげられるが、必要なのは変えるための意志である。30%クラブはそう意思表明した企業の集まりである。 取締役に女性がいるか、いないか、複数いるかどうかで企業業績が変わるという数字も内閣府や、産業経済研究所などいろいろなところから出ている。 それでも発足準備の中で目立ったのは、日本企業の及び腰である。多くの企業が、「とても達成する自信がないから加入するのは気が引ける」「なぜ女性を登用するのか、関係者に説得する明確なエビデンスがない」「自分のところだけ突出するのはいかがなものか」などなどの理由で、30%クラブジャパンへの参加を見送った』、「現在、日本の上場企業の取締役に占める女性の割合は4.1%なので、30%はかなり遠い実現不可能の目標のように見える」、4.1%といっても、社外取締役の公認会計士や弁護士が多いのではなかろうか。
・『日本企業トップの参加は3社という事実  7月17日のお披露目会も、加入する日本企業のうちトップご自身が参加されたのは3社だけ、あとは代理出席である。それに引き換え外資系の企業の多くはトップ自らが出席し、女性登用に向けての熱い意気込みを述べた。もちろん代理出席でも参加を見送った企業に比べれば、参加した企業はずっと先進的である。 改めて日本は特別であり、いくら世界で女性が活躍していてもそれは別世界の話、という常識がまだ通用しているのだと痛感させられた。 同様なことを地方議員の集まりでも感じた。2018年に「政治分野における男女共同参画推進法」が成立し、候補者をできるだけ男女均等にと努力することが求められているが、参議院選挙でも女性候補者は28%、当選者に占める割合は22%、いずれも史上最高というものの均等には程遠い。私が出席した集まりでも男性議員が圧倒的に多く、自分たちのライバルになるかもしれない女性議員増大に対する冷ややかさをそこはかとなく感じた。 それでも『日はまた沈む』で有名な英『エコノミスト』誌元編集長のビル・エモットさんは近著『日本の未来は女性が決める!』の中で、「経済も政治も変わる必要がある、その起爆剤となるのが女性だ」と強調されている(その提案の中には女子大の廃止というのがあって、それには私は反論しなければならないのだが)。 人口減、高齢化の進む中で女性が社会の支え手にならなければならないという方向には誰も反対しない。筋肉を使う仕事より、人を支え頭を使う仕事が増えることにも誰も異論はない。しかし意欲と能力のある女性が責任のある地位に就くのが当然と考える人はまだまだ少ないことを痛感することもまた多い』、最後の部分はクールな本音だろう。

第三に、健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏が11月12日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「「仕事人」する50代女性に「組織人」オジサンが学ぶもの」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00048/?P=1
・『「自分はもっとやりたいし、まだまだできる。というか経験を積んできた今の自分だからこそ、やるべき仕事だと思ってる。なのに若手にやらせたいからサポートに回ってくれみたいな。50代になると会社って、もはやキャリアアップする場所じゃなくて、後始末とかゴミ拾いとかをさせられる場所なんだなあってつくづく思います」 一年半前にインタビューでこう話した女性(当時53歳)は、その後異動願を出し続けた。理由は実にシンプル。「何かアクションを起こしてないとモチベーションが保てなかった」からだそうだ。希望先は、海外出張の多い花形の部署で社外との交渉がメインだった。 そんな彼女から、先週届いた一通のメールが実に切なく、面白く、それでいて女性ならではのたくましさを痛感させられるものだったので取り上げてみようと思う。 おいおい! 女性ならでは? いつも男も女も関係ない、違いはないって言ってるじゃないかって? はい、その通りです。正確に言うと、性差ではなく経験による違いです。 というわけで、まずメール内容を抜粋したものからお読みください(本人から許諾済み)』、どんな内容なのだろう。
・『長年のあこがれの部署へ“玉突き”で異動  「今年の春、辞令が出たときには、本当に驚きました。だって、ダメ元で出し続けた異動願です。仕事はきちんとやりたいし、続けたい。でも、自分のやりたいことができないジレンマを抱え、不機嫌に仕事をするのは嫌でした。なので自分の意見を言い続けないといけないと思い、入社当時から行きたかった部署に異動願を出し続けていたんです。 ところが突然の辞令です。え? 私? 私でいいの?って感じでした。といっても、私が選ばれたというわけではなく、いわゆる玉突き人事です。人事って本当に適当だなあってつくづく思います。 上司と前任者は同期だったので、異動させたかったけどできないという状況が続いていました。 そんな折も折、前任者が飲み屋でトラブルに巻き込まれて、会社にも報告が入るなど結構な大ごとになった。異動させる口実ができたので、上司は即異動させたんですが、引っ張ってこようと思っていた社員が希望退職してしまったんです。 それで巡り巡って、私に白羽の矢が立った。異動先は私が入社したときに行きたかったけど行かせてもらえなかった部署です。それが55歳で行くことになった。これまでのキャリアが生かせるとは到底思えない部署の責任あるポジションに、突然行くことになってしまったんです。 なのでものすごいプレッシャーでした。自分で希望していただけに責任も感じました。 でも、実際やってみると自分が経験したことが生かされた。無駄なことって一つもないんですよね。だんだんと自信もついて来たし、まだまだできる、もっとやりたいことがある、と気分は最高潮。自分がこの会社でやりたいと思っていたことができるポジションにこの年で配属されたことに喜びを感じていました。 ところが実は私、がんが見つかってしまったんです」』、「玉突き人事」で念願の部署に転勤するとは、ラッキーな女性だ。
・『「幸い初期だったので二週間ほどの入院で完治できるみたいなんですけど、医師から告げられたときは涙が止まりませんでした。 今は落ち着き、仕事も頑張ってます。でも、50代という年齢はこういうものなのかなぁと思っています。 河合さんが、人は仕事と家庭と健康という3つのボールを持っているというお話をしていましたよね? 私、今、そのことをとても実感しています」 最後のくだりを補足しておく。これは私が「境界」の概念を分かりやすく講演会などでお話している内容の一部だ。「境界」とは「人生においてその人が主観的に重要と考える領域」のこと。 境界に何が入るかは人それぞれだが、境界内に、身近な人間関係(=家庭)、社会的活動(=仕事)、生存に関わる問題(=健康)という、人が生きていくうえで極めて重要な要因を含めない限り、人は困難を乗り越えることができない。人とのつながり、社会との関わり、生命の尊さ。それらを大切だと思う気持ちなくして、幸せを感じることはできないといったことを、3つのボールに例えているのである。 くだんの女性は50代になった今、それを痛感している、と。 若い頃は「仕事」と「家庭」のボールを落とさないように必死で踏ん張ってきて、子育てを終えて「仕事」に集中した。ところが50歳を過ぎた途端に戦力外扱いされ、それでも「仕事」を諦めたくなくて声を出し続けた』、「3つのボール」の比喩は確かに参考になりそうだ。
・『人生は予想外の連続  その夢がかない「よし! 仕事のボールを高く、高く回し続けるぞ!」と意気込んだのもつかの間。今度は「健康」のボールを高く上げなくてはいけない状況に直面してしまったのだ。 「涙が止まらなかった」──この言葉の裏で、一体どれほどの戸惑いと憂いを抱えながら寝床に着いた日々が繰り返されたのだろうか。「50代という年齢はこういうものなのかなぁ」──こんな風に受け入れられるまで、どれだけの覚悟が要っただろうか。 人事もたまさかなら、人生も想定外の連続である。 当たり前だと思っていたものが当たり前じゃなくなったとき、誰だってビビる。それでも彼女は、自分なりに辻褄(つじつま)合わせをし、私にメールをくれた。きっと人に話すことで、どうやっても消えないやりきれない気持ちを吐き出したかったのではないか。しかも、仕事への熱はちっとも衰えていない。 そんな人生の理不尽と、それでも前に進もうとする人が秘める強さの存在を、彼女が教えてくれた なぜ、彼女はこのように人生の辻褄を合わせ、困難にうまく対処できているのか? 私は彼女の経験がそうさせたと確信している』、どういうことなのだろう。
・『その「経験」をお話しする前に、興味深いデータを紹介する。 「50代の男性会社員と女性会社員」の意識の違いについて分析した調査研究で、先週、私自身のメルマガでその一部を取り上げたのだが反響がとても大きく、今回の話にも通じるものなので紹介しようと思う。 調査を行ったのは「公益財団法人21世紀職業財団」のメンバーで、調査対象は50歳時に300人以上の企業に正社員として勤務している(あるいはしていた)50~64歳の男女の2820名だ。 「50代問題」や「働くシニア問題」はこれまで当然のように「男性の問題」として考えられてきたが、男女雇用均等法施行から30年以上がたち、50代の正社員の女性が増加。そこで50代、60代の働く女性の実態を把握し、女性の活躍につながる施策を模索しようと調査を実施したという。 かくいう私もインタビューの協力者は男性が圧倒的多数。特にこの1年間は40代後半~60代を集中的にインタビューしているため、必然的に男性の事情や立場を踏まえて50代問題に言及してきた』、データにはどんな特徴が出たのだろう。
・『働く女性の向上心は50代で再び強くなる  だが、そんな中でも、少数派の女性協力者(インタビュー対象者)にあって、男性にはないものを肌で感じてきた。その感覚が数値で示されていたのが、330ページにわたるこの報告書だ。と同時に、男性の切なさがデータからにじみ出ていて実に面白かった。そこで男女差が鮮明に出ていた箇所を抜粋し、以下に掲載する。
 +「各年代で重視していたことは?」という問いについて、男性では「成長」「仕事の面白さ」「信頼」が20代をピークに年々低下していく。これに対して、女性では「成長」「仕事の面白さ」については、40代までは低下するものの50代でV字型に上昇。「信頼」については、30代で一旦低下するものの、その後は50代にかけて上昇していた。
 +「昇進・昇格」を重視した年齢は、男性では30代がピークだったのに対し、女性では40代がピーク。男性の50代で「昇進・昇給」を重視した人が10.3%だったのに対し、女性の50代では17.5%だった。
 +「会社を辞めなかった理由」を聞いたところ、男性の7割が「家族を養わなければならなかったから」と答えたのに対し、女性では「経済的に自立したかった」が5割でトップ、「社会とつながっていたかった」と続いた。
 +モチベーションが最も高かった時期と比べ、「現在の方が低い」と答えた人の割合は、男性では45.8%だったのに対し、女性は21.6%。
 +「今後もスキルを深めたり発展させたりしたい」とした割合は、男性が5割だったのに対し、女性は7割。
 +定年後のキャリアの希望について、「現在の会社で再雇用」は男性は43.6%、女性34.4%。「転職」は男性19.5%、女性13.9%。「わからない」は男性は19.9%、女性は30.1%だった』、なるほど。
・『あれこれ数字を一気に並べ立てたが、結果を大ざっぱにまとめると……、 「50代の女性会社員はまだまだ元気です! 向上心も成長欲も50歳になっても女性は衰えません!」という元気な女性たちの姿が、男性と比較することで浮かび上がってきたのである。 調査対象の50~60代の女性たちが若かった頃は、子育てと仕事を両立するには相当の覚悟と努力が必要だった。マタハラ(マタニティーハラスメント)は当たり前だし、育児休暇を取らずに復帰した女性も少なくなかった。 10年間同期のトップを走って来た女性が、たまたま出産と昇進の時期が重なり、閑職に回されるなんてことも珍しくなかった。 実は冒頭の女性もそういった経験をした一人だ。 育休から戻ってきた彼女を受け入れる部署はなく、「総務だったら空いてます」と言われ、愕然(がくぜん)としたと一年半前のインタビューで話してくれた』、現在も働き続けている「50~60代の女性たち」は、きっと、試練を乗り越えただけあって、男性よりたくましいのだろう。
・『若い不遇時代にたくましさをはぐくんだ女性たち  「子供を産む」という人生で幸せな経験をした女性たちを待ち受けた「大きな壁」。それが彼女たちを強くしたのではないか。立ちはだかった壁は、私が想像する以上に果てしなく険しく高い壁だったに違いない。でも、その壁があったからこそ「今」がある。 30代で「自分は会社のコマでしかない」と気づき、その屈辱を晴らすために誠実に目の前の仕事に没頭し、一つひとつ自分のキャリアにして来た経験が、女性の受容する力と生き延びるたくましさを高めたと私は考えている。 実際、ものごとがスムーズに進んでると気づかないようなことも、壁があることで気づくことはよくあること。そんな時、つい私たちは他人のせいにしたり、会社のせいにしがちだ。だが、そこで一歩踏みとどまり、それはそれとしてありのままを受け入れることに成功すると、自己受容(=自分を客観的に見てありのままを受け入れること)という、ストレスに対処するリソースを獲得できる。 冒頭の女性や件の対象者の女性たちは、自己受容した人たち。彼女たちは行く手を阻む壁を乗り越えるも屈するも自分次第だと割り切り、会社員として、母として、マイノリティーの女性として、目の前の仕事に没頭した。その経験が、キャリア(=人生)は自分次第だという当たり前の価値観につながったように思う。 一方、男性は40代でだいたい自分の会社での立ち位置が見えてしまい、やる気を失ったり、自分で限界を定めてしまったり。その反面「このままで終わっていいのか?」と自問し、それでも家族のために稼ぎ続けなければならない現実に苦悩する。 日本がいまだに男社会であるがゆえの男性の生きづらさ。医学の急速な進歩で寿命が爆発的に延びたところで、ビジネスの論理から言えば50代は嫌われてしまうという厳しい現実……。 そういった社会環境が男性会社員の心を弱らせているのでないか。 つまるところ、女性は会社で「仕事人」になるが、男性は会社で「組織人」になる。仕事への向き合い方の違いが、50代という実に微妙な年齢の就業意識に影響を与えたのだ。 もちろん同じ男性でも「壁」を経験してる人は「仕事人」になることが多い』、「女性は会社で「仕事人」になるが、男性は会社で「組織人」になる。仕事への向き合い方の違いが、50代という実に微妙な年齢の就業意識に影響を与えたのだ」、なかなか面白い解釈だ。
・『壁の向こうに新しい働き方が見える  私がインタビューした人の中でも、病気をしたり、左遷などで苦い経験をしたりして、早い段階でイス取りゲームから撤退した人は、自己受容し、「“おばちゃん”的働き方」に舵(かじ)を切っていたように思う。 そして、女性であれ男性であれ「仕事人」になった人は決まって、半径3メートルの人間関係を大切にし、自分から若い人たちに仕事を教えてもらったり、若い人たちの相談に乗ったりしていた。家庭での生活も大切にし、仕事だけではない人生を送っていた。 先の調査では、インタビューも行っているのだが、そこには……。 「評価とか、給料を上げていこうとか、そういうのを一回忘れないと、行き詰まって苦しくなる」「子供が生まれて時間的制約がある中で何ができるかを考えると、自分ができる仕事をとにかく頑張るしかなくて、そこで頑張っていきたいと思えるようになった」「上の立場に立たなかったからこそ、上だったり、一緒のメンバーだったりのサポートができる。それが今の自分の立場の面白さ」「年収は下がっていく一方なので、誰かのために働き、ありがとうと言ってもらえれば十分かなと」 人それぞれ言葉に違うはあるけど、自分を取り囲む半径3メートルの世界の中で自分の役割だったり、アイデンティーを確立してきたと推察できるコメントが散見されたのだ。 少々ややこしい話ではあるが、「私」は「私」だけじゃない他者からの外的な影響を受けて作られている。50代は外的にも内的にも小さな変化が起こる時期で、まさに「私」というアイデンティティの危機に遭遇する。この海図なき航海の始まりで、どう仕事に、家族に、健康に向き合うか。私も3つのボールを落とさない生き方を、もう一度考えてみようと思う』、「50代は外的にも内的にも小さな変化が起こる時期で、まさに「私」というアイデンティティの危機に遭遇する」、そうしたなかで「自己受容」の役割は重要なようだ。
タグ:長年のあこがれの部署へ“玉突き”で異動 スーパーウーマンじゃなくても続けられる職場に 女性活躍 「「仕事人」する50代女性に「組織人」オジサンが学ぶもの」 自己受容 「公益財団法人21世紀職業財団」のメンバーで、調査対象は50歳時に300人以上の企業に正社員として勤務している(あるいはしていた)50~64歳の男女の2820名だ 奥村 まほ 東京大学を卒業後、就職してから3年以内の早期退職 心身を消耗させるだけで20代が終わってしまう 夫婦ともに官僚で、繁忙期には深夜にベビーシッターを呼んでいる家庭 モチベーションを奪われる職員 現在の霞が関に管理職相当で残っている女性こそがイレギュラーなケースであり、ロールモデルにはなり得ないのではないかと思っています (その14)(東大卒・女性キャリア官僚の私が 霞が関を去った理由 この国の中枢で起きていること、私が見た 企業トップの女性活躍への"及び腰" 「30%クラブジャパン」発足で痛感した現実、「仕事人」する50代女性に「組織人」オジサンが学ぶもの) 若い不遇時代にたくましさをはぐくんだ女性たち 10年間同期のトップを走って来た女性が、たまたま出産と昇進の時期が重なり、閑職に回されるなんてことも珍しくなかった 調査対象の50~60代の女性たちが若かった頃は、子育てと仕事を両立するには相当の覚悟と努力が必要だった。マタハラ(マタニティーハラスメント)は当たり前だし、育児休暇を取らずに復帰した女性も少なくなかった 50代は外的にも内的にも小さな変化が起こる時期で、まさに「私」というアイデンティティの危機に遭遇する 壁の向こうに新しい働き方が見える 空転する「女性活躍」 ロールモデルがいない 日経ビジネスオンライン 河合 薫 日本企業トップの参加は3社という事実 2010年にイギリスで始まった、女性の取締役を30%に増やす努力をすると宣言する民間企業の集まりである。現在までに世界14カ国・地域に活動が広がっている 「50代の女性会社員はまだまだ元気です! 向上心も成長欲も50歳になっても女性は衰えません!」という元気な女性たちの姿が、男性と比較することで浮かび上がってきた 30%クラブジャパン 『女性の品格』 辞めていく女性官僚たち 「私が見た、企業トップの女性活躍への"及び腰" 「30%クラブジャパン」発足で痛感した現実」 人生は予想外の連続 「東大卒・女性キャリア官僚の私が、霞が関を去った理由 この国の中枢で起きていること」 東洋経済オンライン 霞が関の組織のあり方や職員の働き方についてさまざまな疑問や不安を感じていたことが、大きな決め手のひとつに 坂東 眞理子 現代ビジネス 働く女性の向上心は50代で再び強くなる
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恋愛・愛情・結婚(その2)(社会構造的に「結婚できない男女」がいる大問題 時代が変わっても根本は変わっていない、結婚遠ざける「生涯子育て」という日本的発想 いくつなっても責任から逃れられない、子ども部屋おじさんと揶揄する人に欠けた視点 個人的な感情は抜いて客観的な視点が重要だ) [社会]

難いテーマが続いたので、今日はソフトに。恋愛・愛情・結婚については、8月10日に取上げた。今日は、(その2)(社会構造的に「結婚できない男女」がいる大問題 時代が変わっても根本は変わっていない、結婚遠ざける「生涯子育て」という日本的発想 いくつなっても責任から逃れられない、子ども部屋おじさんと揶揄する人に欠けた視点 個人的な感情は抜いて客観的な視点が重要だ)である。

先ずは、8月10日付け東洋経済オンラインが掲載した 婚活アドバイザー、結婚相談所マリーミー代表の 植草 美幸氏と中央大学教授の 山田 昌弘氏の対談「社会構造的に「結婚できない男女」がいる大問題 時代が変わっても根本は変わっていない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/296258
・『結婚したいのにできない――。この結婚困難社会はなぜ生まれたのか。生涯未婚率(50歳時点で結婚したことのない人の割合)は男性で23.4%、女性で14.1%と過去最高を記録した日本(2015年国勢調査)。 「それでも結婚したい」という生の声を聞き、年間100?150組のカップルを結婚に導いている結婚相談所・マリーミー代表で本連載筆者の植草美幸氏と、結婚をめぐる問題について社会学の視点から詳細に論じた『結婚不要社会』を5月に上梓した、中央大学文学部教授・山田昌弘氏が、最近の結婚事情について語り合った』、興味深そうだ。 
・『日本と欧米で「結婚不必要」な理由が違う(山田昌弘(以下、山田):『結婚不要社会』では、タイトルのとおり、日本は結婚が必要のないものになっているということが、大きなコンセプトになっています。欧米も結婚不要社会です。 しかし、欧米の不要の意味と日本の不要の意味は違う。欧米では性的なパートナーは人間の幸せにおいて必要だけど、パートナーと結婚する必要はないし、ずっと同じパートナーと一緒にいる必要もないと考えているという意味で、結婚は不要になっています。 一方、日本の近代社会は結婚しないと心理的に生きにくくなる「結婚不可欠社会」でした。それは現代も変わらず、結婚を望む人はいまだ多い。しかし、結婚が困難になりつつあるから、パートナーなしでも楽しく過ごす。そういう意味で不要になりつつあります。 植草美幸(以下、植草):確かに、昔は結婚していないと世間体が悪いと考える人が多かった。先日、うどん屋さんに入ったら6テーブル中5テーブルはおひとり様の女性でした。しかもその多くはおそらく独身。見ればだいたいわかります。 おひとり様を楽しんでいる女性は本当に多い。「いつでも結婚できるだろう」という人もいるのでしょうが、30代後半になって慌てて結婚相談所に駆け込んで来るケースは少なくありません。 山田:欧米だと、そういうところで女性が1人でいたら男性が声をかけますが、日本の場合、ナンパや偶然の出会いで付き合って結婚するケースは少数派。およそ5%程度です。これはずいぶん前から増えても減ってもいません。よく知らない人と付き合うのは危ないというリスク意識がすごく高いんです。 植草:その割には出会い系サイトに登録してしまう人が多い印象も受けます。出会い系サイトでは、異性に会うことができても、結婚までつながりにくいのでは、と思うのですが。 山田:いわゆる出会い系サイトで付き合ったり結婚したりする人は、5%以下でしょう。「遊び相手」を求める人が多いのでは』、『結婚不要社会』、とは言われてみれば、そうなってきたことは確かだ。
・『男性はモテる人とモテない人に二極化  植草:学生さんのような若い人も恋愛しなくなったと聞きます。どうしてだと思われますか? 山田:リスク回避ですね。問題のある人と付き合いたくないんです。 結婚がしにくくなっているという事実が知られてきたので、「恋愛相手=結婚する相手」という確率が高まってくる。そのため結婚相手にふさわしくない人と付き合うのは時間とお金の無駄だと考える。 「好きという一時的な感情で付き合ってはいけないと思います」と言う学生もいますよ。どんな調査においても、今の若い人は恋愛に対して消極的という結果になっています。 植草:弊社では、お互いのデータとしてはぴったりの相手とお見合いしても、恋愛経験がないので自分が相手からどう見えているかわからずうまくいかない、という例が結構あります。とくに男性に恋愛経験が少ないがゆえの失敗が、しばしば見られますね。 山田:男性は、モテる人とそうでない人に二極化しています。女性は恋愛経験がある人は結構いるようですが。 植草:そうなんですよ。女性は恋愛経験もあるし、見た目もきれいにしている。そういう女性に「20代、30代前半で付き合った人となぜ結婚しなかったの?」と聞くと、「結婚を前提とした恋愛をしなかった」と言う。 山田:それは1990年代までの恋愛が活発化していた時代の特徴ですね。男性もその頃は猫も杓子も女性に声をかけたけれども、今はかけない。断られるリスク回避です。自分の価値、プライドを下げたくない』、「結婚相手にふさわしくない人と付き合うのは時間とお金の無駄だと考える」、ふさわしいか否かを判断するためには、時間とお金をある程度かけざるを得ないとは考えないのだろうか。「「好きという一時的な感情で付き合ってはいけないと思います」と言う学生もいますよ」、そこまで抑制的になったのでは、本当に世も末だ。
・『女性が肉食化しても問題は解決しない  山田:スクールカーストという言葉がありますが、中学高校時代からモテる男性とモテない男性に分かれ、モテる男性はモテる男性同士と友達になり、モテない男性はモテない男性と友達になる。その構図が大人になってもずっと続く。 だからモテない男性は、友達からのアドバイスどころか、恋愛経験すら聞けない。それでいて恋愛のきっかけは相変わらず男性側から声をかけるのがほとんどで、女性から声をかけるケースは増えていません。だからモテない男性はずっとモテないままなんです。 植草:弊社では逆プロポーズが結構多い。いわゆる肉食系女性がリードをするとサッと結婚が決まります。だから、女性には「待っていないで積極的に気持ちを伝えてね」といつもアドバイスしています。 山田:男性は、女性側からプロポーズされれば結婚を決めるでしょうね。男性が相手にこだわるのは年齢くらいで、あとは細かい条件よりもフィーリングで結婚を決めがちなので。 ただ、結婚相談所ではそれでうまくいくと思うのですが、社会全体で見ると根本的な課題解決にはつながりません。というのも、女性から声をかけるに足る、つまり“条件がいい男性”の数が絶対的に少ない。 積極的に声をかける女性がその男性と結婚すれば、結局、声をかけない消極的な女性や“条件が悪い男性”は余る。そういう人たちが結婚できる条件を整えない限り、日本全体としての結婚のあり方は変わらないんです。 植草:なるほど。男性の経済力の問題は大きい』、「声をかけない消極的な女性や“条件が悪い男性”は余る。そういう人たちが結婚できる条件を整えない限り、日本全体としての結婚のあり方は変わらないんです」、さすが社会学の教授らしい冷静な見方だ。
・『山田:男性は経済的に条件に合わないと、民間の結婚相談所に入会すらさせてもらえないでしょう。日本の未婚男性のおよそ3割は非正規雇用か無職。日本の未婚男性で年収400万円以上は約25%しかいません。一方、「適齢期の男性で年収400万以上を希望する」という女性は6?7割。社会構造的に結婚は無理なんです。 女性側を調査すると、「自分が稼ぐから相手の収入はこだわらない」という人は2割程度。それは、高卒だろうと大卒だろうと同じ。どんな調査をしても2割。ちなみに、女性管理職比率もだいたい十数%、東京大学の女子学生比率も2割。不思議とこの数字は動かない。 結婚したら男性の収入で暮らすという考え方が、今もメジャーなんです。昭和の頃はそれでもよかったんです。収入が低かったとしても安定して将来アップする可能性が高かったから。 植草:弊社の会員さんにも、相手の希望年収を書いてもらうんですが、そこを空欄のままにしているのはだいたい2割ですね。ほとんどは自分の年収よりも多い男性を希望します。 ただ、最近はこだわらないという方が少しずつ増えてきたように思います。それに、年収400万円以下であっても結婚が不可能なわけではありません。そういう男性が弊社の会員さんにもいらっしゃいます。最初は女性に好かれるタイプではなかったのですが、「そのままじゃ結婚できないよ」という話をすると理解してくれて、身だしなみを整えるところから始めて、内面的にもどんどん変身しました。そういう人は結婚できる。 山田:前向きな努力が必要ですね。 植草:以前、農村のセミナーに呼ばれて行ったとき、セミナー後に婚活パーティーがあるというのに、普段着に長靴を履いてきた男性がたくさんいました。女性はきれいにしているんですよ。男女で意識に大きな違いを感じました。 山田:男性は「ありのままの自分を見てほしい」と考える人が多いんです。日本の男性の化粧がはやらないのもそのせい』、「農村のセミナー・・・セミナー後に婚活パーティーがあるというのに、普段着に長靴を履いてきた男性がたくさんいました」、いくら「ありのままの自分を見てほしい」とは言っても、ここまで居直る姿勢には驚かされた。
・『男女の意識が凝り固まっている  植草:「ありのまま」と言っても、若いうちはいいかもしれませんが、女性の目は厳しいですから……。 山田:女性は「自分を選んでくれる高収入の男性がいるかもしれない」と考え、男性は「ありのままの自分を選んでくれる女性がいるかもしれない」と信じているんでしょうね。その意識を変えないと。 植草:最近の男性のいい傾向を1つ言うとすると、「家事はおまかせください」とアピールする人が増えてきました。これは女性にはとても響くポイントだと思います。 山田:都市部や若い人はそうかもしれませんが、世代や地方によっては「父親が何もしないから自分も」という意識はまだ強いと思いますよ。でも、実際、男性は一人暮らし率が高いので、パラサイトしている女性と比較したら家事能力はあるはず。 植草:パラサイトと言えば、私は業界に入って間もない頃、山田先生の『パラサイト社会のゆくえ』などパラサイトに関する書籍を読んで衝撃を受けたのですが、現在のパラサイト問題はさらに深刻になっています。50歳を過ぎても親御さんが出てくる。 話がまとまりそうなときに、80代の母親が「その女性は家事どのくらいできるの?働いていて家事をする時間はあるの?」と言い出してくるのです。母親としては息子には家事はさせないことが前提なんです。 女性が「働いていてもできます」というと「反抗的だ」と言うし、さらに、その女性の母親が再婚していることが気に入らないと破談にしてきた。昔ながらの固定観念を、息子や娘に託して結果的に結婚の邪魔をするんです。 山田:それは息子を不幸にしていますね。息子は反抗しないんですか。 植草:反抗せず「母親がだめと言うのでやめます」と従っていました。その方は収入も学歴も高いのにもったいない』、「息子は・・・反抗せず「母親がだめと言うのでやめます」と従っていました」、そんなに弱い息子では、仮に結婚したとしても、嫁姑問題で離婚必至かも知れない。
・『本人の意思ではなく、親の意思で結婚  山田:妻よりも母親を選んだということですね。親御さんには何を言っても変わりませんから仕方がない。本人がそれで幸せならいいですが……。パラサイトを容認する親の心理は、「子どもが1人で苦労して生活するのを見るのはかわいそうだから一緒に住む」。でも、それが本人にとっていいこととは限らない。 植草:親と一緒に相談所に来る人は、男性も女性も本当に多く、だいたいそこで親子げんかが始まります。先日は娘さんと父親が2時間くらいけんか。総じて、女性は父親にも母親にも強い。それでも親と一緒じゃないと来られないんです、不思議と。 山田:「仕方なく親に連れてこられた」というスタンスをとりたいんでしょうね。見栄です。 植草:先に親御さんが1人で来るケースもあります。 山田:親が子どもに代わってお見合いするパーティーがあるくらいですもんね。 植草:そうですね。そこに本人の意見は入らない。でも残念ながら親同士が話して結婚するケースは少ないのが現状です。 山田:でも親の満足度は高いんですよ。自分の息子、娘の自慢話ができるから。欧米では、成人したら男性でも女性でも親元を放り出されて一人暮らしを始めます。だから経済的にパートナーを見つけて一緒に暮らさないと生活できない。日本も成人したら、子どもを手放すようにすれば結婚は増える方に変わると思いますよ』、「日本も成人したら、子どもを手放すようにすれば結婚は増える方に変わる」、その通りかも知れない。

次に、この続き、8月17日付け東洋経済オンライン「結婚遠ざける「生涯子育て」という日本的発想 いくつなっても責任から逃れられない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/297366
・『生涯未婚率が上昇し続けている日本。なぜ日本の男女は結婚から遠ざかっているのか。結婚相談所マリーミーの代表で本連載の筆者、植草美幸氏と、『結婚不必要社会』の筆者、中央大学文学部教授・山田昌弘氏が、最近の婚活事情について徹底議論。 前回(社会構造的に「結婚できない男女」がいる大問題)は、結婚がしにくくなっている社会構造について議論を交わしたが、話はそこから婚活における男女の「変化」について及んでいく』、どんな「変化」なのだろう。
・『成人しても子育てが終わらない日本  植草美幸(以下、植草):結婚したい人が結婚できないという状況をどうすればいいでしょうか。女性の場合、やはり子どもを産むのにリミットを感じるので30代後半ごろから結婚を焦る人が多い。一方、男性は子どもに関してはいつまでも大丈夫と思っている。その意識のズレがあるように思います。 山田昌弘(以下、山田):やはり「女性のほうが、リミットが見えやすい」ということだと思います。どうしても子どもをもうけたければ養子という方法もあります。昔は多かったけれども激減しました。世界的に見ても日本は養父母になろうという夫婦は少ない。 植草:最近、ニューヨーク育ちで外資系企業に勤めている40代半ばの女性が、「もう自分で子どもを産むのは難しい年齢だから乳児院から養子を迎えたい。それでもいいという男性を紹介してほしい」と言って弊社に来ました。悲観的にならず前向きでうれしかったですね。彼女はアメリカ育ちだからこそそう考えたのかもしれません。日本ではまだまだ血のつながった子どもにこだわる人が一般的。 山田:血縁を重んじるのは、“世間体を考えて”と“成人すれば子育てが終わりではない”というところが大きな理由でしょう。2019年6月に大阪・吹田市で巡査が刃物で刺され拳銃が奪われた事件が起きました。強盗殺人未遂容疑で逮捕された30代の容疑者の父親は、放送局の役員だったのですが、責任を感じて退任した。 山田:このように、成人した子の責任を親が取る、親がたたかれるというケースは日本では多いですよね。欧米ではありえない。アメリカではむしろ犯罪者の親には激励や同情の手紙が届くそうですよ。日本は成人しても子育ては終わらない。だから、パラサイトシングル問題も起きるわけです。こうした意識が社会をマイナスの方向に回している。 植草:成人したら苦労しようが何しようが本人の責任と考えた方がいいですよね』、「成人した子の責任を親が取る、親がたたかれるというケースは日本では多いですよね。欧米ではありえない」、その通りだ。
・『増える「オタク同士」の結婚  山田:子育ては生涯にわたって責任がつきまとい、経済的にも負担が大きいという認識は、若い世代にも浸透しています。学生に「あなたは30年後、親以上の生活をしていますか」と質問したところ、「私は結婚しないつもりだから親以上の生活が送れているはず」「私は3人兄弟だけど、私自身は将来子どもは2人までと決めているから親よりいい生活ができるはず」という回答がありました。子どもがいること、子どもが多いことは生活が厳しくなるという考え方なんです。 植草:そういう意識では、養子を迎えようという夫婦はなかなか増えないでしょうね。男女の意識のズレでいうと、最近、40、50代の男性にゲームやアニメ、アイドル好きが増えてきたことも気になります。頭の中は20代の独身男性と同じ、人間的に成熟していないように思うんです。これでは婚活は厳しい。 山田:確かに、女性アイドルのコンサートに行くとファンが中年男性化しているそうですよ。日本はそれを恥ずかしいと思う社会ではない。むしろそれで1人の生活を楽しみ満足できてしまう。それが結婚不要社会の特徴です。 ただ、趣味やこだわりが強い人は、逆に婚活に有利な場合もあります。同じような趣味、こだわりを共有することでつながることができるからです。非正規雇用同士で結婚したカップルにインタビュー調査をしたら夫婦ともオタク的趣味の持ち主でした。県の結婚支援事業でお見合いをしたら、お互いの趣味で数時間も語り合いすっかり意気投合して結婚を決めたそうです。オタクで生活を楽しんでいれば結婚は不要ではあるんですが、逆にそれがきっかけで話があって結婚することもある。 植草:確かにそういうカップル、弊社の会員さんにもいました。デートは秋葉原。2人で向かい合ってただゲームをしているだけで会話がないのに、「ゲームで気持ちが通じた、結婚します」と。プロフィールにも、趣味の欄にアニメやゲームと書く人が増えています、男女とも。 山田:オタク的なことは日本社会では許容されつつあります。経済的な条件は合わなくても、趣味で意気投合して健康であれば、地方だったらそれなりの暮らしはできる。若い人の間にそういうカップルが増えているような印象を受けます』、「女性アイドルのコンサートに行くとファンが中年男性化しているそうですよ。日本はそれを恥ずかしいと思う社会ではない。むしろそれで1人の生活を楽しみ満足できてしまう。それが結婚不要社会の特徴です」、いやはや、嘆かわしい。
・『日本人が思うほど日本は裕福ではない  植草:外国人が今後ますます増えると思いますが、国際結婚は増えるとお思われますか? そうなったら状況が変わるのではないかと思うのですが。 山田:日本人女性が海外にいって国際結婚するケースは増えていますが、日本国内での国際結婚は減っているんですよ。というのも、日本の経済力が落ちているから。シンガポールの生活水準は日本の2倍、香港は1.5倍、台湾も日本より上と言われています。 中高年世代は、日本がアジアでいちばんと思っているかもしれませんが、海外での認識はそんなことはありません。ある地方都市に暮らす日本人男性と結婚した中国・上海出身の女性に「日本に来てどうですか」と聞いたら、「田舎」と言っていました。「日本は六本木のようなところばかりだと思っていたのに、こんな田舎があるのか」と。 つまり、外国人にとって日本は第1選択肢ではなく、生活水準の高い人は来なくなってきている。ですから、外国から来て働く人はある程度増えるとは思いますけど、それで結婚が増えるとは考えにくいと思います。 植草:なるほど。ではまた少し論点が変わるんですが、私は結婚したいという女性に対して「まず生活に必要な条件を優先的に考えて、夫婦の絆は結婚した後から築いていければいいんじゃないですか」とアドバイスしていますが、それについてはどう思われますか? 山田:他人から後ろ指差されないような生活をすることが第1、親密性は結婚に求めなくてもいいのではないか、という考えは確かにありますね。とくに前近代社会はそうでした。 植草:条件が合っていたほうがスムーズに結婚生活は進むと思うんですよ。「お金持ちと結婚したい」とハッキリ条件を言う女性もいます。「お金があれば、年齢は一回り上でもいいの?」と聞くと「いいです」と言う。そうやって自分にとって必要な条件が明確にわかっている人はご成婚に至りやすい。 山田:でもその場合、生活のリスクはなくても情緒面でのリスクはあるのではないですか? 経済的な条件を重視して結婚したために、結婚後、女性は親やペットとベッタリ、男性は風俗やキャバクラに走るというケースがあると聞きます。 ある婿養子に入った男性にインタビューしたことがあるのですが、彼は、「妻は僕が次男だから結婚したのだと思う。結婚後、妻は二世帯住宅に同居している実母と一緒に食事をして、僕はいつもひとり」と言う。ある日、奥さんに「僕と母親とどっちが大事なんだ?」と聞いたそうです。奥さんは「母親」と答えたので、結局離婚しました。奥さんは彼のことを好きでもないのに「次男」という条件だけで結婚したんでしょうね』、「日本人女性が海外にいって国際結婚するケースは増えていますが、日本国内での国際結婚は減っているんですよ。というのも、日本の経済力が落ちているから」、寂しい現実だ。
・『女性の意識が変わらないと状況は変わらない  植草:そういうケースもあるかもしれませんが、そもそも初婚の人は「結婚が生活である」ということを知らない場合が多いんです。結婚をすてきな結婚式を挙げる日、すなわち“点”だと思っている。実際には、結婚はこれから先、長い人生を一緒に生きていくという生活であり、点ではなく“線”です。 「条件を考える」というのは「自分がどういう生活をしたいか、どういう人生を生きたいかを考える」ということ。そうすると、男性として惹かれるかどうかというよりも、収入はいくらか、妻が働き続けることに肯定的かどうか、子どもはほしいかどうかといったことのほうが優先度が高くなる  山田:結婚相談所ではそうかもしれません。しかし、収入に関していえば、前回もお話ししたように低収入の男性が激増しました。女性が男性に経済的に依存するという状況が変わらなければ、社会全体としては未婚率の上昇を抑えることはできない。男性も家事をするという方向で意識改革が必要ですが、収入は男性に頼って当然という女性側の意もが大きく変わることが必要ですよね。 植草:その点については、私はこれからの新しい結婚の形として「尊敬婚」を提唱しています。年齢が上、年収も上の成熟した女性が、5歳とか10歳年下の自分よりも年収が低い男性と結婚する。 植草:弊社でも何組かありましたが、女医さんが特に多いですね。激務ですし、オペが入ればたとえ自分の子どもが発熱したとしても保育園に迎えに行けないので、旦那さんが迎えに行くことになる。そうすると、おのずと旦那さんはバリバリ働くタイプではなく育休が取れるくらいの余裕がある人がいい。そして、旦那さんが家事育児を中心的に担う。 山田:収入の低い男性と収入の高い女性が婚活市場では“余っている”状態なので、そうした結婚が増えるのはいいですね。でも、女性側はそれで本当にいいと考えているのでしょうか』、「これからの新しい結婚の形として「尊敬婚」を提唱しています。年齢が上、年収も上の成熟した女性が、5歳とか10歳年下の自分よりも年収が低い男性と結婚する」、との植草氏の提案は一考に値する。
・『35歳過ぎると鼻毛が出ている男性が多い  植草:「いい」と言う女性が、30代半ば以上から少しずつですが増えてきました。30代後半?40代の女性は一般的な婚活には不利かもしれない。でも、仕事で成功しているのであれば、こうした結婚のあり方を視野に入るれると、対象となる男性の幅は広がります。 先ほども言いましたが、結婚は自分がその後どういう人生を歩みたいかが重要で、そこに条件を絞るべき。にもかかわらず、まだ顔だの身長だの学歴だのあれこれこだわっている女性には、「どうしてその要素が重要なの?」「それは結婚生活に必要なの?」とひとつずつ確認して、「人生を共に歩めるかどうか」を基準にお互いの希望を絞ってご成婚に導いています。 山田:結婚相談所の方は条件を絞らせるのに一苦労、それが仕事のようなものらしいですね。ただ、女性が顔や身長にこだわるのは、単に当人の好みというだけでなく子どもに引き継ぐ遺伝子の問題があるからだとも思います。 女子学生に「女の子は父親に似るって言いますよね?女の子はかわいいかかわいくないかで扱われ方が全然違う。だから顔がいい男性がいい」と言われたことがあります。……そう考えると、男性の役割って遺伝子とATMしかない(笑)。 植草:確かに(笑)。まあ顔のよし悪しは置いといても、婚活男性は小ぎれいにすることは大切です。35歳を過ぎると、鼻毛が出ている男性が本当に多い。お見合いで女性に「どうだった?」と聞くと3人に2人は「鼻毛が出ていました」と答えますから。 山田:鼻毛(笑)。自動的に結婚できた時代は、奥さんが世話していたのでしょう。今はそういう時代じゃない。 植草:本当にそのとおりです。婚活男性はまず鼻毛耳毛カッターを買うべきですね(笑)』、「35歳を過ぎると、鼻毛が出ている男性が本当に多い」、困ったことだ。いずれにしても、婚活が活発化してほしいものだ。

第三に、10月28日付け東洋経済オンラインが掲載したソロもんラボ・リーダー、独身研究家の荒川 和久 氏による「子ども部屋おじさんと揶揄する人に欠けた視点 個人的な感情は抜いて客観的な視点が重要だ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/309877
・『多くの人は、見たいと欲する現実しか見ない。 これは、古代ローマの礎を築いたユリウス・カエサル(シーザー)の言葉とされています。人間は自分が見たいものしか見ないし、たとえ目に入っていても記憶のフォルダーに残りません。信じたくない事実は無視し、信じたいと思う事実だけを脳内に取り入れようとします。心理学において、「確証バイアス」と呼ばれるものです』、まだ心理学が発達していない古代ローマ時代に、このような言葉を残した「シーザー」はやはり偉大だ。
・『確証バイアスとは?  世間の未婚者に対する偏見の多くは、この「確証バイアス」によって生まれています。例えば、孤独死についてもそうです。「結婚しないと孤独死するぞ」とよく言われます。「孤独死する人=未婚者」と思われがちですが、これも事実とは異なります。孤独死者の多くは高齢男性ですが、そもそも彼らはかつて皆婚時代を生きていた人たちです。 つまり、現在孤独死している多くの高齢男性は、妻との死別や離別で独身に戻った「元既婚者」たちということになります。 同様に、40歳を過ぎてなお親元に住み続ける未婚者を「子ども部屋おじさん」などと揶揄する言葉があります。「かつての親に依存するパラサイトシングルやニートと呼ばれる人がそのまま中高年化しているのだろう。未婚化は、こうした親元から自立できない中高年未婚者の増加のせいである」などというもっともらしい言説もささやかれます。 中には、「いつまで親離れできないのか、情けない」などと怒りをあらわにする人もいます。そうかと思えば、「これは子離れできない親の問題だ」などという人もいます。 子の問題にしても、親の問題にしても、個人の意識の問題として処理して納得する人があまりに多いようですが、はたしてそれは事実として正しいのでしょうか? 大前提として間違ってはいけないのは、親元に住む未婚者がすべて無業者であるはずもなく、パラサイトでもなければニートでもなく、ましてや引きこもりでもないということです。そもそも中高年で親元に住む未婚者は「おじさん」だけではありません。 2015年国勢調査では、20~50代のうち、親元に居住する全国の親元未婚数は、男性約723万人、女性約579万人で、それぞれ未婚者全体に対する親元未婚率は、男性60%、女性65%です。実に、6割以上の未婚男女が親元にいるということになります。男女合わせて約1300万人の未婚者が親元未婚なのです』、いいかげんな言説に乗せられるのではなく、統計に基づいた判断はやはり重要だ。
・『35歳以上の親元率は男女同一  20代に関しては、まだ学生である場合も多く、親元にいても不自然ではありません。しかし、40代前半になってもこの親元未婚率は6割台周辺をキープしています。 年代別に見ると、20~34歳の若年層に関しては、女性の親元率が上回っていますが、35歳以上を見ると、男女ともきれいに同一であることがわかります。男女で偏りがあるわけではないのです。実数で男のほうが多いのは、そもそも未婚者人口が男のほうが300万人以上も多いので当然です。 こういう事実を出すと、鬼の首を取ったように「ほら、1300万人もいるじゃないか。こんなに増えているなんて前代未聞だ。これが日本の未婚化の根本原因だ」などと言う人もいますが、15年前の2000年における20~50代の親元未婚者は約1364万人でした。 むしろ15年前より親元未婚者総数は少しだけ減っています。とはいえ、20代の未婚者の絶対数が2000年と比べると減少していることもあるので、実数ではなく、親元未婚率で比較してみましょう。 20代では、実数も減っていますが、親元未婚率も減っています。35歳以上で15年前より増加となり、40代、50代と年代が上がるごとに親元未婚率は大きく増えていることがわかります。とくに、大きく増加しているのが50代です。 しかし、こうなるのは当然で、そもそも50代の未婚者そのものが当時の1.8倍に増えていますし、未婚だけではなく全体の総同居率も増えています。これは、いわゆる「8050問題」(80代の親が50代の子どもの生活を支える問題)とも関係しますが、親の介護のための再同居という形の影響もあります』、「「8050問題」・・・親の介護のための再同居という形の影響もあります」、私はこの側面を忘れていた。統計のの読み方も当然ながら難しいものだ。
・『都道府県別の40~50代で親元未婚率を見てみる  2015年国勢調査から都道府県別の40~50代親元未婚率を男女別に見てみると、全国平均を上回って親元未婚が多い県は、男では37県、女では40県もあります。男女共通して親元未婚率が全国平均を下回るのは、東京・神奈川・大阪・福岡など流入人口の多いエリアでした。 つまり、親元を離れざるをえない物理的条件がない地方エリアにおいては、昔も今も未婚者が親元に住み続けることのほうがデフォルト行動と言えます。よくよく考えれば、親元を離れて独立するきっかけというのは、遠方への進学や就職および結婚によるものであり、未婚であり続ける場合、家を出る理由はないわけです。 「そうは言うが、結局いつまでも親元に住んでいるから結婚ができないんじゃないか」と反論される人もいるかもしれません。では、都道府県別に、2000年と2015年の国勢調査から40~50代親元未婚率と生涯未婚率(45~54歳の未婚率平均)との差分相関を見てみましょう。 男のほうの相関係数は、▲0.1653で親元への同居と未婚率との間には相関はほとんどありません。女のほうは▲0.5050で、むしろ親元に住んでいない一人暮らしのほうが未婚率は高いということになります。要するに、少なくとも親元に住んでいるから未婚率が上がるなんてことは言えないのです』、「親元を離れて独立するきっかけというのは、遠方への進学や就職および結婚によるものであり、未婚であり続ける場合、家を出る理由はないわけです」、「少なくとも親元に住んでいるから未婚率が上がるなんてことは言えないのです」、俗説の誤りは恐ろしいものだ。
・『経済的問題が大きい  ましてや、「中高年の親元未婚が増えたから未婚化が進んだ」という因果はなく、むしろ中高年の未婚化のほうが先で、結果として40~50代の親元未婚者数が増えたと見るべきです。決して、子どもの自立意識の問題ではないし、親が子離れできないからでもありません。自立する・しないや甘える・甘えないという問題以前に、子にしても親にしても、そもそも経済的問題が最も大きいのではないでしょうか。 一人暮らし未婚と、親元未婚とで所得にどれくらいの格差があるか、調べてみました。2017年就業構造基本調査には、親元未婚という指標は存在しないため、以下のような形で推計しました。 所得分布別有業未婚者総数から、同じく所得分布別有業単身世帯のうちの未婚者だけを引き算して、親元未婚の所得分布を推計、おのおのの平均所得を男女別に算出しています。全年代を対象としていますが、無業者は除くため、無業の高齢者や若年の学生などは含みません。 それによると、確かに、一人暮らし未婚のほうが親元未婚と比べると所得は全体的に上回っています。が、その差分は、男性で年間67万円、女性でも69万円で、月当りにすれば6万円弱の差にすぎません。むしろ、6万円程度の差にもかかわらず、その中から家賃・水道光熱費・日々の食費など必要経費を賄わなければならない一人暮らし未婚のほうが、財布状況は苦しいと言えるかもしれません。 親元未婚は、月6万円所得が少なくても実家にいる分、コストが削減されます。一人暮らし未婚が外食によって日々の食事に対応せざるをえないことに対して、その分の食費も浮きます。浮いたコストは、そのまま自分の趣味や関心領域に思う存分使えるということです。言うなれば、賢い生き方をしていると言えるでしょう』、「6万円程度の差にもかかわらず、その中から家賃・水道光熱費・日々の食費など必要経費を賄わなければならない一人暮らし未婚のほうが、財布状況は苦しいと言えるかもしれません」、見事な推論だ。
・『親も苦しい  ちなみに、2018年家計調査から35~59歳単身世帯における家賃・水道光熱費・外食を除く食費の月間平均費用は男女とも約7万円程度です。つまり、一人暮らし未婚の6万円分多い所得は、必要経費を支払ったら、親元未婚に対して逆に1万円の赤字であるということになります。 一方で親も苦しいのです。全国大学生活協同組合連合会による「第54回学生生活実態調査の概要報告」によれば、学生に対する親の仕送り額は、2018年で平均7万1500円です。2003年頃までは、月10万円以上の仕送りをする親の比率が過半数を超えていましたが、最近は3割を切っています。 未婚化の問題を「若者の草食化」などとする考え方同様、親元未婚に対して「社会の落伍者」であるかのようなレッテル貼りは正しくありません。 ましてや、「おじさん」という属性なら安心してたたいていいという風潮は、正しい事実をねじ曲げ、未婚化や少子化の本質的部分を曖昧にする危険性があると考えます。それでは、「見たいものしか見ない」というより「見てもいないものを見たと信じてしまう」ようなものです。個人的な不快感や怒りの感情に支配されて、不都合な真実を透明化してはいけないと思います』、説得力溢れ参考になる記事だった。
タグ:親も苦しい 経済的問題が大きい 35歳以上の親元率は男女同一 確証バイアスとは? 多くの人は、見たいと欲する現実しか見ない 植草 美幸 「子ども部屋おじさんと揶揄する人に欠けた視点 個人的な感情は抜いて客観的な視点が重要だ」 日本と欧米で「結婚不必要」な理由が違う 東洋経済オンライン (その2)(社会構造的に「結婚できない男女」がいる大問題 時代が変わっても根本は変わっていない、結婚遠ざける「生涯子育て」という日本的発想 いくつなっても責任から逃れられない、子ども部屋おじさんと揶揄する人に欠けた視点 個人的な感情は抜いて客観的な視点が重要だ) 生涯未婚率 荒川 和久 35歳過ぎると鼻毛が出ている男性が多い 恋愛・愛情・結婚 女性の意識が変わらないと状況は変わらない 日本人が思うほど日本は裕福ではない 増える「オタク同士」の結婚 成人しても子育てが終わらない日本 「結婚遠ざける「生涯子育て」という日本的発想 いくつなっても責任から逃れられない」 本人の意思ではなく、親の意思で結婚 男女の意識が凝り固まっている 女性が肉食化しても問題は解決しない 男性はモテる人とモテない人に二極化 「社会構造的に「結婚できない男女」がいる大問題 時代が変わっても根本は変わっていない」 山田 昌弘
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日本の政治情勢(その36)(日本会議系に統一教会系…安倍新内閣はまるで“カルト内閣”、支持者を堂々と「税金」で接待する安倍氏の驕り、招待客1万人の口を封じることはムリ) [国内政治]

昨日に続いて、日本の政治情勢(その36)(日本会議系に統一教会系…安倍新内閣はまるで“カルト内閣”、支持者を堂々と「税金」で接待する安倍氏の驕り、招待客1万人の口を封じることはムリ)を取上げよう。

先ずは、9月17日付け日刊ゲンダイ「日本会議系に統一教会系…安倍新内閣はまるで“カルト内閣”」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/261913
・『11日発足の第4次安倍再改造内閣は、党4役を含めると日本会議国会議員懇談会の幹部が12人もいる極右内閣。ところが実は、霊感商法問題で知られる宗教団体「統一教会」(現・世界平和統一家庭連合)がらみの大臣と党4役も計12人いる。 安倍晋三首相自身、官房長官時代に統一教会の大規模イベントに祝電を送り、首相就任後も教団幹部を官邸に招待するなどしてきた。菅義偉官房長官、麻生太郎財務相、高市早苗総務相、加藤勝信厚労相、下村博文選対委員長も、統一教会と関わりが深い。 さらに今回、初入閣13人の中にも6人もの“統一教会系大臣”がいる。統一教会問題に詳しいジャーナリストの鈴木エイト氏の解説。 「萩生田光一文科相は、2014年に都内での統一教会系イベントで来賓として挨拶に立っています。17年に統一教会系団体がワシントンで開いた日米韓の国会議員会議やニューヨークで教団が開催した大規模フェスティバルに参加していたのが武田良太国家公安委員長や竹本直一IT政策担当相、山本朋広防衛副大臣です」 衛藤晟一1億総活躍担当相も、14年に統一教会系団体で講演。議員会館使用の便宜もはかった。田中和徳復興相は16年に川崎駅構内での街頭演説の際、自身の名刺とともに統一教会の機関紙「世界日報」を配布した。菅原一秀経産相は自身が代表を務める自民党支部が17年に統一教会系の世界平和女性連合に会費を支払っている。 統一教会は16年に世界平和国会議員連合(IAPP)を設立。世界各国で大会を開き、現地の国会議員を巻き込んでいる』、統一教会系がここまで多いとは驚かされた。
・『「同年の日本での大会には、統一教会幹部らや自民党を中心とした国会議員63人が出席。そこに竹本大臣や御法川信英国交副大臣もいます」(鈴木エイト氏) しかもIAPPの目的は「統一教会の日本の国教化」だという。 「教団は内部資料で、IAPPを“真の父母様(文鮮明夫妻)の主権によって国家を動かす”ための戦略としている。教団ではこれを“国家復帰”と呼び、日本を含め21カ国での実現を目指しています」(鈴木エイト氏) 知ってか知らずか統一教会国教化計画に加担している議員が、内閣に加わったということだ。 「武田大臣と山本副大臣は17年2月、韓国で開かれたIAPPの総会で韓鶴子から直接、国家復帰指令を受けた。昨年10月、東京での国際勝共連合(統一教会の政治組織)50周年大会にも出席しています」(鈴木エイト氏) 韓国との対立を深める安倍政権だが、韓国のカルト宗教とはズブズブ。まさに「カルト内閣」だ』、「「統一教会の・・・国教化」・・・を“国家復帰”と呼び、日本を含め21カ国での実現を目指しています」、「武田大臣と山本副大臣は・・・IAPPの総会で韓鶴子から直接、国家復帰指令を受けた」、国教化となると、さすがの安倍首相も日本会議の意向を無視できないだろう。

次に、11月13日付けPRESIDENT Online「支持者を堂々と「税金」で接待する安倍氏の驕り」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/30723
・『「安倍氏の安倍氏による安倍氏のための会」  首相主催の「桜を見る会」が大炎上している。 毎年4月に開かれるこの会は、安倍政権の長期化によって少しずつ膨張してきた。プレジデントオンライン編集部では、今年5月にその問題点を指摘していたが、ここにきて「税金で地元有権者を接待している」という点に目が向くようになった。自民党の対応は鈍く、長期政権の致命傷となる可能性が出てきた。 プレジデントオンライン編集部は、以前から「桜を見る会」の問題に注目してきた。今年5月17日には「予算の3倍に膨張『桜を見る会』の政治利用」という記事を公開している。ここでは、安倍政権のもとで「桜を見る会」の参加者数や費用が右肩上がりに増えている点を指摘した。さらに今年の「桜を見る会」では作家の百田尚樹氏ら保守系の論客、つまり安倍晋三首相の「お友だち」が大挙して参加していたことから、「安倍氏の安倍氏による安倍氏のための会」ではないかと問題提起した』、既に「5月17日」から問題視していたとはさすがだ。
・『バス17台連ねて850人が安倍氏の地元から上京  この問題が再燃したのは11月8日。参院予算委員会で共産党の田村智子氏が独自調査をもとにこの問題を取り上げた。 田村氏は、安倍内閣で閣僚だった稲田朋美氏、官房副長官だった世耕弘成氏、自民党総裁特別補佐だった萩生田光一氏らの後援会活動報告などに、後援会のメンバーが多数「桜を見る会」に参加したことが分かる記載や写真が掲載されていることを指摘していった。 さらに矛先は安倍氏に向けられ、地元の山口県議が14年の「桜を見る会」に際しブログで「今回は私の後援会女性部の7人の会員の方と同行しました。(中略)貸し切りバスで新宿御苑に向かい、到着するとすぐに安倍首相夫妻との写真撮影会」などと書いている話を暴露(現在は閲覧できなくなっている)。山口県防府市のライオンズクラブの会報を基に、安倍氏の地元から850人が貸し切りバス17台を連ねて参加したのではないかとただした』、今回、共産党が予算委員会で「後援会のメンバー」の参加を問題視したとは、これもさすがだ。
・『自腹のカネが有権者に渡っただけでも辞任している  安倍氏は、懇親会などで後援者らと写真を撮っている事実は認めながら、招待客の選定基準といった内容については、セキュリティーなどの理由で「答えは差し控える」と述べるにとどめた。 田村氏の質問は、自民党議員らの情報を丹念に調べた労作ではある。ただし、「桜を見る会」に政権与党の後援者が相当数参加していることは周知の事実だ。安倍氏の「お友達」や後援者が多数含まれていることも多くの人が知っていた。それなのになぜ、秋も深まった今、「桜を見る会」の問題が盛り上がっているのか。 大きな理由は10月末の2つのスキャンダルだろう。 菅原一秀経済産業相は10月25日、秘書が有権者に香典を渡し、選挙区の有権者にメロンやカニを贈っていた疑いなどを指摘されて辞任。31日には河井克行法相が、参院選に出馬した妻の運動員に法定を超える報酬を渡していた疑いを報じられて辞任した。2人が批判を受けたのは「政治とカネ」の認識の甘さだ。いずれも自腹のカネが有権者や運動員に渡ったことの責任を取った。 「桜を見る会」はどうか。出席者によると樽酒、オードブル、軽食などが提供された。みやげもあった。メルカリをはじめとするフリマアプリには、みやげとして提供された酒升などが出品されている』、「菅原一秀経済産業相」や「河井克行法相」の問題のあと、取上げたのもタイミング的には絶好だ。
・『地元後援会の人間を堂々と「税金」を使って接待  もちろん選挙区から上京してくる後援者らは、交通費、宿泊費など応分の負担はしているだろう。それは後援会のツアーで東京1泊旅行をするのと同じだ。しかし、同じ1泊旅行でも浅草やスカイツリーを見学して帰る旅行に、「桜を見る会」が加われば価値は変わってくる。 菅原氏や河井氏は有権者に「自腹」で金品を配った。一方、安倍政権の幹部たちは「桜を見る会」において、地元後援会の人間を堂々と税金を使って接待している。 「政治家が自分のお金でやったら明らかに公職選挙法違反。(今回の件では)税金を利用している。モラルハザードを安倍政権が起こしている」という田村氏の指摘は多くの国民が共感しているのではないか。 「桜を見る会」の問題は、菅原、河井の両氏が辞任したスキャンダルよりも悪質ではないか。そういう疑念が広がりつつある』、「菅原、河井の両氏が辞任したスキャンダルよりも悪質」、その通りだ。
・『二階氏は「何か問題あるか」と開き直ったが…  これに対して、政府・自民党側の動きは鈍い。二階俊博幹事長は12日の記者会見で、「桜を見る会」に自民党議員の後援者らが招待されていることについて「議員は選挙区の皆さんに、できるだけのことを配慮するのは当然のことだ」と発言。さらに党役員に「桜を見る会」に参加できる枠が割り当てられているとの指摘に対しては「あったって別にいいんじゃないですか。何か問題になることはありますか」と開き直るように、質問した記者にかみついた。 恐らく自民党議員の多くは二階氏と同じ考えなのだろう。長い間、政府と党による持ちつ持たれつの関係が染み付いてしまっているため、批判されていることに鈍感になっているのだろう。 安倍政権側は、菅原、河井の両氏が辞任した時に内閣や自民党の支持率が落ちなかったことで自信を深めている。しかし閣僚辞任ドミノではびくともしなかった政権の屋台骨が「桜を見る会」で揺らぐ可能性もあるのだ。 菅義偉官房長官は12日夕の記者会見で「桜を見る会」の開催要領を見直す考えを示した。しかし朝日新聞は翌13日の朝刊1面トップで「首相事務所 ツアー案内」という記事を掲載。安倍氏の事務所が「桜を見る会」を目玉とするツアー日程をプロデュースしている実態を浮き彫りにした。当面、国民の怒りは静まりそうにない』、「二階俊博幹事長」の開き直りには唖然とするほかなかった。
・『対応の鈍さは、長期政権の致命傷となりえる  最後に「ブーメラン」の可能性について触れておきたい。ここ数年、政権与党側に問題が起きると、数日後に旧民主党などの野党勢力側にも同様の問題が浮上し、痛み分けとなるパターンが続く。「桜を見る会」についても、民主党政権時のことが「ブーメラン」となって返ってくるかもしれない。 民主党政権下では3度、「桜」の季節を迎えている。最初の2010年、鳩山政権下で一度行われたが、安倍政権で肥大化した現在の規模と比べると、内容は抑制的だったようだ。当時の民主党幹部らの後援会の参加が、今後取り沙汰されるだろうが、今の自民党幹部と比べると規模は格段に小さい。その後の2年は、東日本大震災後の対応などを優先して行わなかった。 この件に関しては野党側の傷は浅く、「ブーメラン」となることはなさそうだ。だからこそ、自民党の対応の鈍さは長期政権の致命傷となるかもしれない』、「野党側の傷は浅く、「ブーメラン」となることはなさそうだ」、そうであれば、徹底追及してもらいたい。
・『「桜を見る会」の開催中止を発表  11月13日17時35分追記)(菅義偉官房長官は13日午後の記者会見で来年の「桜を見る会」の開催中止を発表した。 大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入問題で批判を受けた際に2020年度の導入の見送りを決断したように、この政権は旗色が悪いとみると方針を転換することで傷を最小限に食い止めようという手を打つことが多い。 今回の中止もそうなのだが、当日午前まで「(初めて開いた)昭和27年(1952年)以来の慣行の中で行われている」と説明していただけに、朝令暮改の批判は免れない。「中止」で逆風を止めるのは難しそうだ』、本日の日経新聞は「「桜を見る会」で首相「後援会支出ない」 異例の21分説明「出席者増は反省」 野党反発」を伝えた。国会での追及を回避する狙いなのだろうが、野党は堂々と国会の場で追及すべきだ。

第三に、コラムニストの小田嶋 隆氏が11月15日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「招待客1万人の口を封じることはムリ」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00044/?P=1
・『今回は、「桜を見る会」の話をするつもりでいる。 このあまりにもベタで生煮えな話題を、あえていま騒動の渦中にあるタイミングでまな板に載せることにした理由は、私自身が「桜を見る会」まわりの問題を重視しているからというよりは、いまのうちに取り上げておかないと、来週の今頃にはすっかり風化しているだろうと考えたからだ。 桜は満開から3日後には早くも散り始める。この種の話題は、風化が早い。 そう判断したからこそ、官邸は中止の決断を急いだのだろう。 「なあに、さっさとテントを畳んで撤収すれば、じきにいつまでも跡地で騒いでいる連中の方が間抜けに見えるようになる」という判断だ。 そして、その彼らの判断は、おそらく間違っていない。 メディアは3日で飽きるだろうし、野党が粘ったところで国民の関心はどうせ1週間ももたない。われわれは匙を投げるだろう。 「やめるって言ってるんだからもういいじゃないか」と、そういう空気が漂って、それでじきに沙汰やみになる。 だから、今のうちに騒いでおく。 というよりも、騒いだ証拠を文字として残しておこうと考えている。 いずれ、ここに書いたことが役に立つ日がやってくるかもしれないからだ。 やってこないのだとしたら、それはそれで仕方がない。自分たちの国をそういう国にしてしまった責任を噛みしめつつ、余生をやり過ごすことにしよう。 桜が1週間で散るのは、われら日本人が飽きっぽいからだ。 それほど、この国で暮らす人々の思考は持久力を欠いている。 というよりも、たったの1週間で跡形もなく消えてなくなるからこそ、桜は、日本人にこれほど愛されている、と、この話題は、そういう方向で考えるべきタームであるのかもしれない。 とにかく、この種のニュースは、熱のさめないうちに調理するに限る。 味は問題ではない。舌なりノドなりに火傷を負わすことができれば、とりあえずは上出来だ。 総理大臣主催の「桜を見る会」が、年を追って麗々しいイベントに変質しつつあるという話を聞かせてくれたのは、昨年の春、さる知り合いの葬儀の折に久しぶりに会った年配の編集者だった。 なるほど、と、感心しながら耳を傾けた。誰なにがしは数年前からの常連で、今年は誰と誰が新たなメンバーとして呼ばれているとか、総理と同じフレームに写った写真をしきりに公開しているのが、おもにどの方面の人間であるのだとかいった、彼の分析は、詳細かつ的確だった。 「いや。恐れ入りました。どうしてまた総理の花見会なんかに詳しいんですか?」「相変わらず痛いところを突いてくるねえ。要するに私は、昼間っからバカなワイドショーを見てる役立たずの年寄りになったということです。なさけない話です」などと笑い合いながら、話題は毎度おなじみの出版不況の行く末に落ち着いていったわけなのだが、それはまた別の話だ』、「メディアは3日で飽きるだろうし、野党が粘ったところで国民の関心はどうせ1週間ももたない。われわれは匙を投げるだろう。 「やめるって言ってるんだからもういいじゃないか」と、そういう空気が漂って、それでじきに沙汰やみになる。 だから、今のうちに騒いでおく」、小田嶋氏らしいクールな見方だ。
・『とにかく、彼がその時に明言していたのは、「桜を見る会」をエサに各界の著名人に渡りをつけて支持層の拡大を画策している官邸と、宴の会場で人脈形成と売名をたくらむ芸能人と、花見取材でぬかりなくVTRの尺を稼ぎつつ、画面に登場する各界のセレブの無料晴れ着映像を、近未来のスキャンダル発覚時に再生するための資料として蓄積しにかかっているワイドショーのスタッフは、みんな「同じ穴のムジナ」だということだった。 「とすると、そんな花見の映像を見せられている視聴者は、いいツラの皮ということになりますね」「そうだね。まあ、穴の外のネズミってとこかな」などと、知人の葬儀の席で不謹慎なバカ話に興じている人間たちの品性の問題はおくとして、私個人は、その時点では、「桜を見る会」が特段に問題のあるイベントだとは考えていなかった。正直なところを言えば「桜を見る会」のニュースを伝えるテレビメディアのなんともうれしそうなトーンには毎度のことながら不快感を抱いていたのだが、その不快感については、自分自身の偏狭さないしはケツメド(注)の小ささに由来する感情なのであろうと考えて、あえて表に出すことを自重していた。 仮に、あの宴会が、文字通りの政権のサクラを含んだ「Win-Win」の人々による「共存共栄」の「内輪褒め」の「総決起集会」であったのだとしても、宴会はそもそもが偏ったメンバーによる自己完結した営みだ。開かれているように見えて、その実、外に向かっては頑ななまでに閉ざされている利己的な結界に過ぎない。仮に、公平で公正でポリティカリーにコレクトな宴会があったのだとして、そんないけ好かない会合がいったい誰を慰安というのだろうか。 「桜を見る会」を問題視していなかったのは、私だけではない。同じ穴の中で仕事をしているメディア業界人も同様で、彼らは、この何年もの間、問題視どころか、宴の盛況をことほぎつつ、日本の国に桜が咲くことのうれしさを宣べ伝えるコンテンツの制作に専念していた。 それが、招待客の選定基準と運営資金の拡大にスポットライトが当てられてみると、めでたかったはずの宴会の話が、あらまあびっくり、いきなり政治問題化している。 なんとも滑稽な景色ではある。 とはいえ、言われてみればたしかに宴会への参加資格は、いつの間にやら利権化していたわけだし、ということは、招待客の選定基準と選定権のあり場所次第では、この宴会をめぐるあれこれは、そのまま、政治的権益の分配を含んだなまぐさい話題になる。 さらに、報道されている通りに、招待客の中に政治家の後援会関係者が数百人単位でまぎれこんでいるということになれば、宴会での飲食や記念品の受け渡しは、そのまま選挙民に向けた「饗応」の色彩を帯びる。処理の仕方次第では、公職選挙法なり政治資金規正法なりに抵触するかもしれない。 なるほど。目からウロコが落ちるとはこのことだ 私は、こういった問題点にまるで気づいていなかった』、「「桜を見る会」を問題視していなかったのは、私だけではない。同じ穴の中で仕事をしているメディア業界人も同様で、彼らは、この何年もの間、問題視どころか、宴の盛況をことほぎつつ、日本の国に桜が咲くことのうれしさを宣べ伝えるコンテンツの制作に専念していた」、見逃がしてきたのは小田嶋氏だけではないようだ。
(注)ケツメド:尻、肛門の東京方言(weblio)
・『われわれは、共産党の議員さんがあらためて指摘するまで、「桜を見る会」の問題をまるっきり看過していた。この点は、深く反省せねばならない。 もっとも、問題点を見過ごしていたのは、宴会を主催していた人々や無邪気に参加していた面々にしても同じことで、なればこそ彼らは、今回の事態に当たって大いに脇の甘さを露呈している。具体的には、後援会の名前を堂々と掲げた観光バスを連ねて会場に堂々と参集し、また、少なからぬ数の政治家が、当日の会場で撮影した芸能人や支持者との記念写真を無警戒にブログやSNSにアップしていた。 彼らはバレることを恐れていなかった。 というのも、自分たちがバレて困ることをしているという自覚すら欠いていたからだ。 このことは特筆大書しておきたい。 われわれの国では、政治家が自分の支持者を饗応するに当たって税金を使うことが、さして問題視されていない。それどころか、その種の力こそが「政治力」であると考える人たちが、この国を動かしているのかもしれない。 だとすると、われわれの国がふつうの民主主義国として再出発する未来は果てしなく遠いのだろう。 じっさい、後援会の関係者を自身の裁量で招待者名簿に書き加えた政治家も、その名簿を丸呑みで承認した官僚も、後援会の窓口を通じて宴会への参加を申し込んだ政治家の支持者も、大量の「素人」を含んだ当日の新宿御苑の映像を「セレブたちの宴」として全国に向けて配信していたメディアの人間たちも、誰一人として、あの宴会の怪しさとうさんくささに気づいていなかった。 つまり、わたくしどもふつうの日本国民は、どうやらああいうこと(表向きは「各界の功労者」を招待することになっている宴会が、与党政治家の後援会の観光ツアー先になっていたり、政府の名において主催されるイベントへ参加する権利の分配権を特定の政党が独占したりしていることなどなど)を「いけないこと」「アンフェアな行為」としてとらえる感受性を、天然自然の天性として備えていないのだ。 わたしたちは、どうやら、特権を帯びた人間がその特権をかさにえこひいきを発動することや、特定の政治家を支持する人間が見返りを求めることを「ごく自然な」「人として当然の」態度だと思っている。それどころか、われわれは、莫大な資産を持つ人間が自分の周囲にいる人間に金品をばらまくことや、人事権を握った人間が、自分の好みの人間が有利になるべく取り計らうことを「器の大きさ」ないしは「度量」と見なす感覚さえ抱いている。 してみると、このたびの「花見の会」をめぐる一連の経緯は、現政権の体質を露見させた意味で、結果として、大変に出来の良い試金石であった以上に、われら日本人に自分たちの国民性の弱点を思い知らせる絶好の教訓話であったのかもしれない。 問題発覚に至るまで、招待客の選定基準が恣意的である点を指摘したり反省したりした関係者が、一人として見当たらなかったのもさることながら、安倍首相をはじめとする自民党の主だったメンバーが、この点が問題であるとすら認識していなかったことも実に興味深い。 つまり「招待客をオレたちの胸三寸で選ぶことのどこが不正だというのか」というのが、彼らの正直な胸の内であったわけだ。 もう少し噛み砕いて言えば、現政権の中枢を占めている彼らは 「だって、政府主催の宴会なんだから、その招待客を政府の重鎮でもある自分たちが選んでいけないという法があるのか?」と、おそろしくも無邪気に、そう考えていたようなのだ。 なんというのか、こういう雑なところがないとあの党の議員はつとまらないのかもしれない。というよりも、自民党政治の真骨頂は、権益と責任の区別をあえて曖昧にしておくところにあるのだろう』、「わたしたちは、どうやら、特権を帯びた人間がその特権をかさにえこひいきを発動することや、特定の政治家を支持する人間が見返りを求めることを「ごく自然な」「人として当然の」態度だと思っている。それどころか、われわれは、莫大な資産を持つ人間が自分の周囲にいる人間に金品をばらまくことや、人事権を握った人間が、自分の好みの人間が有利になるべく取り計らうことを「器の大きさ」ないしは「度量」と見なす感覚さえ抱いている」、「自民党政治の真骨頂は、権益と責任の区別をあえて曖昧にしておくところにあるのだろう」、今回の問題を見事なまでに一般化した知力には感服するほかない。
・『彼らは、しばしば責任という言葉を口にするものの、実のところ、「責任なんていうのは、しくじった権力者を別の権力者が追い落とす時に使う棍棒に過ぎないのであって、現実に権力を持っている人間はそんな言葉は使わない」という程度にしか考えていない。というよりも、彼らにとって「責任」という言葉は、権力を持っていない人間が権力を語る時の皮肉な用法以上の言葉ではないのだろう。 この話題に関しての二階幹事長の反応は、政権の本音を見事に代弁している点で貴重だ。「議員が選挙区の皆さんに配慮するのは当然だ」と、二階さんは言っている。さらに、党の議員に割り当てられていたと言われる招待「枠」の存在についても、「それはあったって別にいいんじゃないですか。特別問題になることがありますか」と、逆に記者団を問い詰めている。 なんと堂々たる正面突破の居直りではないか。 記者諸君が黙ってしまったようなので、私が代わりにお答えしておく。 議員が選挙区の皆さんに配慮するのは当然なのだとして、その「配慮」は、政策の実現や、議員としての政治活動を通して報いられるべきものだ。 仮に政治家が選挙区の住民に分かち与える「配慮」が、物理的な金品であった場合には、議員個人が公職選挙法で告発されることになる。あるいは、自腹の金品ではなくて、政府主催の宴会への招待状や、その宴会の席で供される飲食や配布される記念品を介して、政治家が選挙区の人間の期待に応えたのだとすると、問題はさらに深刻になる。議員は、行政の私物化を追及されることになるはずだ。 冒頭で、この話題が、せいぜい1週間しかもたないだろうという見込みをお知らせしたのだが、正直なところを申し上げるに、私自身、そこまで早々と絶望しているわけではない。 ただ、これほどまでにあからさまに現政権の体質を明らかにしているこの案件が、本当に1週間程度の小ネタとして忘れ去られるのだとしたら、いよいよこの国の政治は、行くところまで行くしかないのだろうなとは思っている。まあ、来週になれば分かることだが。 今回の騒動の一連の経緯を振り返ってつくづく感じ入るのは、報道などでしきりに言われている「行政の私物化」という論点もさることながら、なにより、われわれの政府が、「情報」「文書」「記録」「データ」を、アタマから軽視しにかかっている、その「事実」軽視の態度の有害さについてだ。 歴史を直視せず、それを自分たちにとって都合の良い妄想で代置しようとする態度のことを「歴史修正主義」と言い、そういう人たちのことを「歴史修正主義者」(リビジョニスト)と呼ぶのだそうだが、現政権の中枢には、たった半年前の記録さえ破棄したと言い張り、いま現在目の前で起こっている事実すら認めようとしない人たちが席を占めている。彼らは、議事録を作っていないと言い張り、面会記録さえその日のうちに廃棄したと主張する。そうまでして自分たちの足跡を消そうとする人々を、どうやって信用することができるだろうか。 時系列に沿って振り返ってみると、菅官房長官は、この「桜を見る会」をめぐる問題が国会答弁の中で取り上げられた当初(11月11日)の段階では、「問題ない」と明言している。タカをくくっていたのだと思う。 翌12日の衆院本会議で、招待者の名簿を開示することを求められると、今度は「招待者名簿については会の終了をもって使用目的を終えることに加え、これを全て保存すれば、個人情報を含んだ膨大な量の文書を適切に管理する必要が生じることもあり、終了後、遅滞なく廃棄する取り扱いと承知をしてます」と、いけ図々しくも例によって型通りに「廃棄」した旨の答弁を繰り返している』、「この話題に関しての二階幹事長の反応は・・・なんと堂々たる正面突破の居直りではないか。 記者諸君が黙ってしまったようなので、私が代わりにお答えしておく。 議員が選挙区の皆さんに配慮するのは当然なのだとして、その「配慮」は、政策の実現や、議員としての政治活動を通して報いられるべきものだ。 仮に政治家が選挙区の住民に分かち与える「配慮」が、物理的な金品であった場合には、議員個人が公職選挙法で告発されることになる。あるいは、自腹の金品ではなくて、政府主催の宴会への招待状や、その宴会の席で供される飲食や配布される記念品を介して、政治家が選挙区の人間の期待に応えたのだとすると、問題はさらに深刻になる。議員は、行政の私物化を追及されることになるはずだ」、さすが立派な反論だ。二階幹事長に反論しようとする記者がいなかったのは、マスコミが如何に飼い馴らされているかを示している。
・『この段階に至ってなお、正面突破で知らぬ存ぜぬを押し通せると考えていた長官の自信は、おそらく森友問題に関する財務省の文書や、加計問題で萩生田文科相(当時は官房副長官)の名前が出たと言われている文科省内の文書について、「廃棄した」「分からない」の一点張りで、逃げ切った経験から導き出されたものなのだろう。 しかしながら、1万人以上の招待者がいて、映像やら写真やらが無数にインターネット上にアップされているイベントの実態は、党本部がどんなに頑張ってももみ消せるものではない。1万人の生きている証言者の口を封じることは、おそらく、北朝鮮の政府にとってさえ簡単なことではないはずだ。 そんなわけで、菅官房長官は、13日になると、恥も外聞もなく前言を翻して、大あわてで来年の「桜を見る会」を中止する旨を発表する 事態に追い込まれる。 菅官房長官、あるいは安倍首相が「桜を見る会」の中止を決断した理由は、問題の深刻さを理解したからというよりは、何百人何千人の生き証人をかかえているこの案件について、口封じや証拠隠滅が不可能である旨をいよいよ本格的に悟ったからなのだと思う。 今回の中止の発表について、いくつかのメディアが「電光石火」「素早い決断」という言葉を使ってその決断の速さを評価しているが、私は必ずしもそう思っていない。  検索してみると、赤旗の日曜版がこの問題をはじめて記事にしたのは、10月13日だ。 とすると、この時点から数えて、官邸が「桜を見る会」中止の決断に至るまでには、約1カ月以上の時日を要したことになる。 遅すぎる。 でもまあ、彼らがタカをくくっている通りなのだとしたら、だらだらと様子見をしていた彼らの判断は、結局のところ、正しかったということになる。 彼らが正しいのかもしれない。 ということは、われら国民がまるごと間違っているわけだ。 いずれにせよ、あと1週間程度で答えが出る話ではある。 あんまり見たくないわけだが』、「「桜を見る会」の中止を決断した理由は、問題の深刻さを理解したからというよりは、何百人何千人の生き証人をかかえているこの案件について、口封じや証拠隠滅が不可能である旨をいよいよ本格的に悟ったからなのだと思う」、鋭い指摘だ。野党は、中止したから手を緩めるのではなく、問題を徹底的に追及してほしいものだ。
タグ:「桜を見る会」を問題視していなかったのは、私だけではない。同じ穴の中で仕事をしているメディア業界人も同様で、彼らは、この何年もの間、問題視どころか、宴の盛況をことほぎつつ、日本の国に桜が咲くことのうれしさを宣べ伝えるコンテンツの制作に専念していた 二階幹事長の反応 メディアは3日で飽きるだろうし、野党が粘ったところで国民の関心はどうせ1週間ももたない。われわれは匙を投げるだろう。 「やめるって言ってるんだからもういいじゃないか」と、そういう空気が漂って、それでじきに沙汰やみになる。 だから、今のうちに騒いでおく 「招待客1万人の口を封じることはムリ」 「桜を見る会」の中止を決断した理由は、問題の深刻さを理解したからというよりは、何百人何千人の生き証人をかかえているこの案件について、口封じや証拠隠滅が不可能である旨をいよいよ本格的に悟ったからなのだと思う 記者諸君が黙ってしまったようなので、私が代わりにお答えしておく。 議員が選挙区の皆さんに配慮するのは当然なのだとして、その「配慮」は、政策の実現や、議員としての政治活動を通して報いられるべきものだ。 仮に政治家が選挙区の住民に分かち与える「配慮」が、物理的な金品であった場合には、議員個人が公職選挙法で告発されることになる。あるいは、自腹の金品ではなくて、政府主催の宴会への招待状や、その宴会の席で供される飲食や配布される記念品を介して、政治家が選挙区の人間の期待に応えたのだとすると、問題はさらに深刻になる。 なんと堂々たる正面突破の居直り 日経ビジネスオンライン 小田嶋 隆 「桜を見る会」で首相「後援会支出ない」 異例の21分説明「出席者増は反省」 野党反発 日経新聞 「桜を見る会」の開催中止を発表 この件に関しては野党側の傷は浅く、「ブーメラン」となることはなさそうだ 対応の鈍さは、長期政権の致命傷となりえる 二階氏は「何か問題あるか」と開き直ったが… わたしたちは、どうやら、特権を帯びた人間がその特権をかさにえこひいきを発動することや、特定の政治家を支持する人間が見返りを求めることを「ごく自然な」「人として当然の」態度だと思っている。それどころか、われわれは、莫大な資産を持つ人間が自分の周囲にいる人間に金品をばらまくことや、人事権を握った人間が、自分の好みの人間が有利になるべく取り計らうことを「器の大きさ」ないしは「度量」と見なす感覚さえ抱いている 菅原、河井の両氏が辞任したスキャンダルよりも悪質 政治家が自分のお金でやったら明らかに公職選挙法違反。(今回の件では)税金を利用している。モラルハザードを安倍政権が起こしている」という田村氏の指摘は多くの国民が共感しているのではないか 地元後援会の人間を堂々と「税金」を使って接待 自腹のカネが有権者に渡っただけでも辞任している 安倍氏の地元から850人が貸し切りバス17台を連ねて参加したのではないかとただした 参院予算委員会で共産党の田村智子氏が独自調査をもとにこの問題を取り上げた バス17台連ねて850人が安倍氏の地元から上京 ここにきて「税金で地元有権者を接待している」という点に目が向くように 今年5月にその問題点を指摘 首相主催の「桜を見る会」が大炎上 「安倍氏の安倍氏による安倍氏のための会」 「支持者を堂々と「税金」で接待する安倍氏の驕り」 PRESIDENT ONLINE 武田大臣と山本副大臣は17年2月、韓国で開かれたIAPPの総会で韓鶴子から直接、国家復帰指令を受けた。昨年10月、東京での国際勝共連合(統一教会の政治組織)50周年大会にも出席しています 教団ではこれを“国家復帰”と呼び、日本を含め21カ国での実現を目指しています IAPPの目的は「統一教会の日本の国教化」 初入閣13人の中にも6人もの“統一教会系大臣” 安倍晋三首相自身、官房長官時代に統一教会の大規模イベントに祝電 宗教団体「統一教会」(現・世界平和統一家庭連合)がらみの大臣と党4役も計12人いる 党4役を含めると日本会議国会議員懇談会の幹部が12人もいる極右内閣 第4次安倍再改造内閣 「日本会議系に統一教会系…安倍新内閣はまるで“カルト内閣”」 日刊ゲンダイ (その36)(日本会議系に統一教会系…安倍新内閣はまるで“カルト内閣”、支持者を堂々と「税金」で接待する安倍氏の驕り、招待客1万人の口を封じることはムリ) 日本の政治情勢
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日本の政治情勢(その35)(浜矩子「戦後最悪の政治指導者トリオに戦前に引き戻されるのは御免だ」、16人の首相に仕えた男が語る 「安倍一強」が実現した理由、古谷経衡さんが憂う有権者の劣化 日本の知性の底が抜けた、劣化が止まらない日本 安倍政権6年半の「なれの果て」) [国内政治]

日本の政治情勢については、7月19日に取上げた。今日は、(その35)(浜矩子「戦後最悪の政治指導者トリオに戦前に引き戻されるのは御免だ」、16人の首相に仕えた男が語る 「安倍一強」が実現した理由、古谷経衡さんが憂う有権者の劣化 日本の知性の底が抜けた、劣化が止まらない日本 安倍政権6年半の「なれの果て」)である。

先ずは、8月1日付けAERA.dotが掲載した「浜矩子「戦後最悪の政治指導者トリオに戦前に引き戻されるのは御免だ」を紹介しよう。
・『経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。 ボリス・ジョンソン氏が英国の首相に就任した。間違いなく、戦後最悪の英国首相だと思う。これで、戦後最悪の政治指導者は3人目だ。1人目が日本の安倍首相。2人目が米国のトランプ大統領。そして、今回のジョンソン英首相だ。彼らには、三つの共通点がある。一に幼児性。二に不寛容。三に未熟な涙腺。 幼児性がこの3人組の共通点だというのは幼児に失礼ではある。だが、彼らのあの忍耐力の無さや自己中心性は、やはり幼すぎるというほかはない。不寛容な彼らは、自分にとって異質なものを受容することが出来ない。違和感があるものを極端に恐れる。怖いから排除しようとする。不寛容の背後には、臆病者の怯えが見え隠れしている。 彼らは他者のために泣くことが出来ない。他者の痛みがわからない。だから、他者の痛みに思いを馳せてもらい泣きすることが出来ない。自分以外の人間のためには涙腺から涙が出てきそうにない。もらい泣き力は、涙腺成熟度の証しだ』、「安倍首相」が「米国のトランプ大統領」、英国の「ジョンソン英首相」と並んで「戦後最悪の政治指導者」とされたが、「安倍首相」もずいぶん大物になったようだ。
・『戦後最悪男(幸い、今のところ男だけだ)が、どうしてこうも次々出現するのだろう。それはつまり、戦後という時代が危機に瀕していることを意味しているのだろう。これは恐ろしいことだ。これから先、二度と再び「戦前」という時代が戻ってきてもらっては困る。「戦前」の次に来るのは戦争だ。我々は、これからずっと、未来永劫、「戦後」という状態を守り抜かなければいけない。戦後最悪男たちの野望や勘違いや愚かさのおかげで、「戦前」状態に引きずり戻されることは、断じて御免被る必要がある。 幼児的で不寛容で涙腺が未熟な戦後最悪男たちは、口汚く他者をののしる。ジョンソン首相は大陸欧州の人々を。安倍首相は野党とそのサポーターたちを。トランプ大統領は、手当たり次第、誰でも彼でも。ののしりの雄叫びは、人々の戦闘性を鼓舞する。戦闘とは無縁の「戦後」を保持していこうとする我らは、ののしりにののしりをもって逆襲してはいけない。そんなことをいうアンタこそののしり屋だろう。そう言われそうだと思いつつ、大人の寛容さともらい泣き力をもって「戦後」を守護する側にいたいと思う』、「戦後という時代が危機に瀕している・・・二度と再び「戦前」という時代が戻ってきてもらっては困る・・・我々は、これからずっと、未来永劫、「戦後」という状態を守り抜かなければいけない」、少なくとも戦前の体制を美化する安倍首相には大いに気を付けるべきだ。最後の自虐をまじえたオチはよく出来ている。

次に、ジャーナリストの横田由美子氏が8月14日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「16人の首相に仕えた男が語る、「安倍一強」が実現した理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/211143
・『自民党政務調査会で16人もの首相に仕えてきた田村重信氏。首相たちの素顔を知り尽くした田村氏は、「安倍一強」が実現した背景には、いくつかの要因があると語る』、どのような要因を上げるのだろう。
・『長期政権の首相は前任者が不人気である  「安倍一強」という言葉がメディアに躍るようになってから久しい。事実、11月20日で、安倍晋三首相(第90、96、97、98代) は、桂太郎(第11、13、15代) の在職日数を抜き、憲政史上最長の在職日数を更新することになる。 「今はそういう認識はあまりないかもしれないけれど、安倍さんは間違いなく、後世に残る“大宰相”だ。私には、なぜだかわかるような気がします」 『秘録・自民党政務調査会 16人の総理に仕えた真実の告白』を出版した田村重信は、そう語る。現在は、自民党政務調査会嘱託を務める田村いわく、中曽根康弘(第71、72、73代)、小泉純一郎(第87、88、89代)、そして安倍には、大きく2つの共通点があるという。 1つは、前任者の首相がさまざまな要因で、不人気だったことだという。 中曽根の前の鈴木善幸(第70代)は、大平正芳(第68、69代)が大きく支持率を落とす中で急死したため、中継ぎ的に首相に就いた。小泉の前は森喜朗(第85、86代)で、森政権時代、内閣支持率が7.9%にまで凋落したことを覚えている人も少なくないだろう。 そして、二度の政権交代を経て、2012年に第二次安倍政権がスタートする前は、悪名高き「民主党政権」。その政権運営のまずさで、驚くべきスピードで民意が離れた。 そういう意味では、民主党政権発足当時の鳩山由起夫(第93代)も長期政権を敷ける土壌は持っていた。なにしろ、国民が自民党に見切りをつけていた頃で、前任の麻生太郎現副首相(第92代)は、衆参ねじれ国会の運営に四苦八苦していた。それだけではない。マスコミは「漢字が読めない」「庶民感覚が欠如したぜいたくぶり」など、麻生の首相としての資質に疑問符を突きつけていた。そして、自民党は衆院総選挙で大敗し、下野した後に、鳩山がさっそうと登場したのだから』、「長期政権の首相は前任者が不人気である」、言われてみれば、確かにその通りなのだろう。
・『間近で見た小泉の意外な素顔  ここで田村が指摘するのは、長期政権に必要な2番目の資質である「首相になる準備ができていたかどうか」ということだ。 宇野宗佑(第75代)、細川護煕(第79代)、海部俊樹(第76、77代)などは、いずれも短命内閣として知られる。宇野と海部は、竹下登内閣の時に起きたリクルート事件(1989年)の余波で、首相候補に軒並み土がついたため、首相の椅子が巡ってきている。 「誰も、宇野や海部が首相になるなんて夢にも思っていなかった。こうした時流だけは誰も読むことができない」と、当時を知る元議員も現職議員も口をそろえる。 かつての自民党総裁選は、まさに首相の椅子をつかむための選挙だった。権謀術数が張り巡らされた苛烈な戦を、緻密な戦略と強力な運で勝ち抜いた者だけが、首相の椅子に座ることができたのだ。 そういう意味で、海部や宇野、森も含めた短命内閣の主は「自分自身も首相になると思っていなかったのではないか」と、見る向きは多い。 安倍も最初に首相に就任した時は(第一次安倍政権)、1年の短命で終わっている。この時は、首相になる準備が完全にはできていなかったからだというのが、田村の見立てだ。 小泉は安倍を引き立て、後継にした。しかし、同時に負の遺産をも引き継いだ。圧倒的な人気を誇り、しかも、惜しまれつつ退場した小泉の後では、どうしてもかすんで見えてしまうことは間違いない。また、小泉には「郵政民営化」、すなわち「官から民へ」という強烈な政策的信念があり、政敵を次々と追い落とした。 郵政選挙の4年後、自民党は下野に下るのだが、この時の選挙で小泉が元首相として全国遊説した時、田村が随行していたという。その時、田村は、表の顔とは全く違う小泉の寡黙ぶりに接し、驚嘆したという』、「第一次安倍政権、1年の短命で終わっている。この時は、首相になる準備が完全にはできていなかったからだ」、なるほど。
・『執念を持ってチャレンジした首相は長続きする  「新幹線の中では微動だにせず、新聞各紙、スポーツ紙にまで全て目を通す。トイレにも行かないし、車窓も眺めない。そして帰路では、だいたいカップ酒の日本酒を飲んだ」 その時間を使い、田村は一度、ずっと聞いてみたかったことを思い切って質問したことがあるという。それは、党内分裂選挙になってもなお、なぜ郵政解散に至ったのか、ということだ。 すると、小泉はこう答えたという。 「僕は郵政法案が通らなかったら、解散するといっていた。でも誰も信用しなかった」「僕はね、絶対に郵政法案を通すつもりだったし、もし通らなかったら絶対に解散するつもりだった。田村君、これを何というかわかるかね…信念だよ」 詳細は、田村の本に詳しいが、小泉の強靱な意志を感じさせるエピソードだ。首相を辞めても、わずかな移動時間でさえ無駄にしないのだから、それより以前の小泉の不断の努力は、想像を絶するものだったに違いない。 小泉は「YKK(山崎拓、加藤絋一、小泉)」のトリオで知られるようになったが、首相になるのは誰もが加藤だと考えていた。3人でなじみの料亭で毎晩のように会合を持っていたが、上座は加藤、一番の末席が小泉だった。奇人変人と誹られ、バカにされながらも3度総裁選に挑戦し、最終的に首相への切符を手にしただけでなく、小泉劇場と呼ばれる手法を駆使してブームすらつくりあげた。 総裁選に挑戦してみた、という政治家は恐らく数多くいる。しかし、ここまで執拗に挑戦し続けた政治家はまずいない。そういう意味では石破茂も、いつか首相になる日がきてもおかしくはない。 石破のそれは、単なる準備というよりも「執念」とも呼べるかもしれない。 一方、第一次政権で大失敗するまでの安倍には、このような執念はなかったはずだ』、「新幹線の中では微動だにせず、新聞各紙、スポーツ紙にまで全て目を通す。トイレにも行かないし、車窓も眺めない。そして帰路では、だいたいカップ酒の日本酒を飲んだ」、小泉の集中力はやはり尋常ではないようだ。YKKのなかで頭角を現したのも頷ける。
・『第一次政権で失敗した安倍は努力家に変貌した  安倍は、首相の座を外れた後の2007年から12年までの5年間、周囲が驚くほど勉強していたという。また、若手議員の応援には、率先して駆けつけるようになった。若手議員たちが、「少し煙たく感じていたようだった」(官邸関係者)というほどの変貌ぶりである。櫻井よしこなど、右派系論壇人とも積極的に交流をもつようになった。逆にいえば、それまであまり汗をかいていなかったということの証左でもあるが…。 満を持して安倍が2回目の総裁選に出馬した時、所属派閥である清和会のトップは町村信孝。周囲では当然、「ボスを差し置いて出るのか」という非難の声が強かった。その声を押しのけてまで「もう一度、首相の椅子に座るんだ」という安倍の意志はすさまじかった。 当然、反発も大きかった。当時、清和会の真の首領であった森喜朗、山崎拓(現石原派最高顧問)、渡邉恒雄読売新聞社主などの間で「談合」が持たれ、石原伸晃を推すことが決まったのだという。 しかし、安倍の準備(執念)は、石原や石破などの敵失によって成就することになる。自民党本部での決選投票日、本部の前で安倍に心酔していた言論人が、日章旗を振って、「フレー、フレー、安倍!」と、叫んでいた。 そうして、党内野党時代に臥薪嘗胆して耐え忍んだ経験が、全て敵失で報いられるという皮肉な結果を生んだのだ。それが安倍長期政権の最大の理由である。田村は言う。 「民主党がなぜダメなのか。それは、再び野に下っても離合集散を繰り返しているからだ。反省せずに、党名が悪いと言っては名称を変える。選挙になると、小池新党にいったり、立憲民主党に分かれたり、日に日に混乱に拍車をかけている。これが、安倍さんが6回も国政選挙に勝てた最大の勝因ですよ。誰もが野党よりマシだと思うでしょう」 田村は、それもまた、「時流」という誰も読めない風に乗れた安倍の強運であるというが、安倍には、5年をかけて側近と共に下絵を描いた小泉の「郵政民営化」のように、「信念を持った政策」がある。憲法改正だ。郵政法案同様、否、それ以上に賛否両論が大きく、歴代首相が避けてきた課題でもある。 最近の安倍は、党則を改正して4選を目指し、その布石として、来秋までに解散総選挙を打つと見られている。その時に、「憲法改正」は錦の御旗になるのか。そしてそれは、民意を得られるのか。いかに安倍が強運に恵まれた宰相であったとしても、時流が彼に味方するかどうかは、16人の首相に仕えた田村ですら、想像もつかないという』、安倍が「党内野党時代に臥薪嘗胆して耐え忍んだ経験が、全て敵失で報いられるという皮肉な結果を生んだのだ。それが安倍長期政権の最大の理由」、「民主党がなぜダメなのか。それは、再び野に下っても離合集散を繰り返しているからだ。反省せずに、党名が悪いと言っては名称を変える。選挙になると、小池新党にいったり、立憲民主党に分かれたり、日に日に混乱に拍車をかけている。これが、安倍さんが6回も国政選挙に勝てた最大の勝因ですよ。誰もが野党よりマシだと思うでしょう」、いずれも説得力がある。しかし、安倍はいまや「臥薪嘗胆して耐え忍んだ経験」をすっかり忘れ去り、驕り高ぶっているのは、残念なことだ。

第三に、8月26日付け日刊ゲンダイが掲載した文筆家の古谷経衡氏へのインタビュー「古谷経衡さんが憂う有権者の劣化 日本の知性の底が抜けた」を紹介しよう(Qは聞き手の質問、Aは古谷氏の回答)。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/260692
・『先月の参院選で「NHKをぶっ壊す!」のワンイシューを掲げる「NHKから国民を守る党」(N国)が1議席獲得した理由を「日本人の知性の劣化」と喝破するのが、元“ネット右翼”で文筆家の古谷経衡さん(36歳)だ。自らがネトウヨから離れたワケ、そして今の時代に「極論」が支持される背景などについて歯に衣着せぬ言葉で鋭く語った』、興味深そうだ。
・『「面白いからいいじゃん」で投票する“政治的非常識”層が増えた  参院選の一番の驚きは、N国が98万票を獲得し、1議席獲得したことでした。 N国が98万票取った時、同党首の立花孝志さんの知名度からして、数が合わないと直感的に思いました。10年近く前から立花さんを知っていますが、今はユーチューバーをやられていますね。コアなファンが5万人、最大で10万人いたらいい方でしょうが、約100万票も取っているわけですよ。 Q:その現状をどう分析していますか。(A:朝日新聞の出口調査によると、N国に票を入れた人のうち安倍政権下での憲法改正に「賛成」が54%、「反対」が44%でした。ネット右翼、いわゆるネトウヨは安倍政権下での憲法改正に反対とは絶対に言いません。ということは、N国に票を入れた人のほぼ半分はネトウヨでもなければ、保守でもない。NHKに不満のある人もいるでしょうが、それでも数が合わない。残りは、N国の政見放送がユーチューブに流れて、「何これ。面白いね」って思って投票しただけのユーチューバー層なんですよ。 Q:ネット動画が投票行動に影響していると。 A:立花さんは政見放送で「路上カーセックス」を連呼していましたが、政治的常識のある人は、そういう政見放送を見ても笑って受け流して、他の政党に入れる。ところが、「面白いからいいじゃん」という動機で投票する“政治的非常識”の有権者がここ3、4年で増えたんですよ。この国の知性の底が抜けてしまった印象です』、「この国の知性の底が抜けてしまった」とは言い得て妙だ。
・『Q:国会議員の中にも“政治的非常識”の人が見受けられます。 A:戦争やってもいいんだとか、人権なんて要らないんだとか、そういうことを言う議員がいますが、20年前だったら即刻アウトでした。北方領土へのビザなし交流の時に「戦争発言」をした丸山穂高衆院議員については、憲政史上初めて糾弾決議が出ましたが、いまだに議員の座に居座っているわけですよね。国会議員には憲法順守義務があるにもかかわらず、明らかに平和憲法の理念を踏みにじっている。「有権者の劣化=政治家の劣化」ですね。どちらか一方が劣化したのではなく、両方劣化しています。 Q:原因は何でしょうか。 A:新聞や雑誌、本も読まずに、ネット動画ばかり見ているからでしょう。今の若者は漫画も読まない。「コマをどう追うのか分からないから、読めない」と言うらしいです。じゃあ何をやっているかというと、ユーチューブ。せいぜい長くて数十分の動画を見て、世の中のことが分かった気になっている。映画でもアニメでもどんどん短くなってますね。この間TSUTAYAに行ったら、90分以下で見られる映画コーナーがあってビックリしました。長時間座って何かを見るという集中力がなくなっているのです』、「有権者の劣化=政治家の劣化」、「新聞や雑誌、本も読まずに・・・ユーチューブ。せいぜい長くて数十分の動画を見て、世の中のことが分かった気になっている」、も困ったことだ。
・『Q:ネット右翼、いわゆるネトウヨは「ネットが真実」だと思っています。 A:インターネットが不自由だった時代を知らないからです。今の30歳過ぎから40代後半は、インターネットがナローバンドで画像1枚を読みこむのも大変だったことを知っています。動画を見るなんてとんでもないことでした。当時出てきたネット掲示板「2ちゃんねる」は、書いてあることの99%がウソ、0.5%が中立、0.5%が本当だと分かった上で楽しむのが当たり前でした。ところが、今のネトウヨの主流である50代、60代ってそういう経験をしていないですよね。子供や孫が家に光ファイバーを導入したことで、超高画質の動画の世界が広がっていることをいきなり知って、「大新聞が伝えない真実」なるものが広がっているんだと勘違いしちゃうのです。 Q:ネット上には中国や韓国に対するヘイトがあふれています。) A:昔は、ネット上で他人を誹謗中傷したら、すぐプロバイダーに通報されて退会処分でした。インターネット規制が現在議論されていますが、1990年代のインターネット黎明期、ナローバンド時代の方が規制は厳しかった。今の30代、40代の前後の世代、つまり10代、20代の若者と50代以上のネットリテラシーが低くなっています。タチが悪いのは、ネットリテラシーが低いのに、「右」に引き込まれる高齢者。とんでもない差別発言も普通に言いますからね』、「右」に引き込まれる高齢者」、社会経験は豊な筈なのに、「超高画質の動画の世界が広がっていることをいきなり知って、「大新聞が伝えない真実」なるものが広がっているんだと勘違いしちゃう」、信じられないような話だ。
・『職能団体の弱体化と高速インターネットが「極論」を放出  Q:古谷さん自身は、どうしてネトウヨから離れたのでしょう。 A:僕は基本的にタカ派で、ミリオタ(軍事オタク)なんです。いわゆる反米右翼です。2000年代後半にネトウヨ界の中心となっていたメディアに出演するようになったのですが、自称保守の人たちは何も勉強していなかったことが分かって幻滅しました。ただ、韓国と中国に対する差別的な発言を繰り返しているだけ。保守をうたっているので、(保守思想の父として知られる)エドマンド・バークや(保守派の文化人である)福田恆存や小林秀雄をちゃんと読んでいる人ばかりだと思ったら、何にも読んでいない。僕は保守向けに本を書いていたのですが、「朝鮮人は――」を連呼している人たちに向けて書くのがバカバカしいと思ったのです』、「自称保守の人たちは何も勉強していなかったことが分かって幻滅しました」、知的な古谷氏には耐えられなかったようだ。
・『Q:「NHKをぶっ壊す!」や丸山議員の「戦争発言」など、極論が一部の有権者から熱狂的に支持されています。 A:背景にあるのは、職能団体の弱体化だと考えています。かつて日本の政治は、職能単位で支持政党が決まっていました。例えば、労働組合に属している正社員は社会党、医師会は自民党、繊維系労組は民社党、民主商工会は共産党、創価学会は公明党というふうに。こうした職能団体は所属する有権者の意見を集約して政党に上げると同時に、極端な意見を排除する役割を担っていた。有権者と政党の間の“緩衝材”として機能していたので、極論が存在しても世の中に出ることがなかったのです。ところが、非正規雇用が労働者の4割を占めるまでになり、職能の力が落ちたことで、極論を止める中間的存在の力がなくなった。そこにインターネットという拡散器がプラスされたので、どんどん極論が世の中に出てくるようになったのです。 Q:有権者が極論を支持すると、国会議員も極論に走ってしまうという危機感があります』、「非正規雇用が労働者の4割を占めるまでになり、職能の力が落ちたことで、極論を止める中間的存在の力がなくなった。そこにインターネットという拡散器がプラスされたので、どんどん極論が世の中に出てくるようになったのです」、ユニークな仮説で、さすがだ。
・『A:ある自民党議員は、極論を言う議員は比例区から出てくると言っていました。面白いのは、小選挙区から出馬すると、極端なネトウヨ議員がどんどんまともになっていくと言っていたことです。小選挙区の有権者はせいぜい20万~50万人。狭いエリアを相手にするから、あまり極端なことを言うと、有権者が引いてしまう。結局、極端なことを言う人は、左も右も全人口の数%しかいないわけで、その数%が全国区や比例ブロックだと1議席になる。いわゆる“どぶ板選挙”をする小選挙区では極論が通用しないから、“脱ネトウヨ化”していくというのです。 Q:選ぶ方も賢くならないといけませんね。 A:憲法の理念である基本的人権や平和主義、民主主義を守りましょうと言うと、「パヨク」と言われてしまう世の中です。重度障害のある、れいわ新選組の舩後靖彦参院議員と木村英子参院議員の介助費用を参院が負担することが問題となりましたが、正当な選挙を通じて選ばれた代表者に必要な費用を議会が負担するのは当たり前です。基本的人権を尊重することと同じで、議論の余地すらありません。歴史が教えてくれているように、当たり前のことだからと沈黙するのではなくて、当たり前のことだからこそ何度も言わないといけないと思います』、「小選挙区では極論が通用しないから、“脱ネトウヨ化”していく」、小選挙区制度には思わぬ効用もあるようだが、総じてみれば問題が多く、私は中選挙区制度に戻すべきとの考えだ。

第四に、9月15日付け日刊ゲンダイ「劣化が止まらない日本 安倍政権6年半の「なれの果て」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/261886
・『上から下まで総腐敗  いつから、日本はこんな国になってしまったのか。 時代が令和に変わって以降、日本社会の理性とモラルを疑うような事件が相次いでいる。 例えば、詐欺的手法が次々と明るみに出た日本郵便の「かんぽ生命」不正販売。ターゲットは主に地方の高齢者で、詐欺的手法を担ったのは、高齢者に身近な郵便局員たちだった。 「郵便局」という地方で圧倒的な信頼を持つ肩書を悪用し、営業成績維持のため、組織ぐるみで数字をカサ上げ。契約を取りやすい独居老人を「ゆるキャラ」「半ぼけ」「甘い客」と陰で呼び、ひとりに数十件も契約させるなど、特殊詐欺グループも真っ青の悪質さ。 日本郵便はかんぽ販売のノルマを廃止するというが、問題の本質は「過剰なノルマ」だけでは片づけられない。底流にあるのは、理性とモラルを喪失した日本社会の劣化ではないのか。 報酬不正で日産を追われた西川広人社長も同類だ。検察とタッグを組んだ報酬不正事件でゴーン前会長を追い出しながら、自らも業績連動型報酬の権利行使日をズラし、4000万円超を不正に受け取る犯罪的チョロマカシ。こんなトップが企業統治改革の旗を振っていたとは、冗談にも程がある。 日産のほかにも、神戸製鋼、東芝、三菱マテリアル……と日本を代表する大企業が、ドミノ倒しのように「不正」や「改ざん」に手を染める。最近も日立製作所が外国人実習生に計画外作業を指示して、業務改善命令をくらったばかり。同社の中西宏明会長は経団連のトップだ。企業の模範となるべき立場すら守れない倫理観の逸脱。「公正」「正直」「勤勉」という日本人の美徳は、とうに死語と化している。 ここ数年、児童の虐待死のニュースは後を絶たず、「最低限の責任」すら果たせない親が増えている。ちょっとしたことでキレる大人も増え、厳罰化が求められるほど、あおり運転が社会問題化。鉄道各社が啓発ポスターを掲出せざるを得ないのも、駅員への暴力沙汰が数多く発生している証拠だ。 言うまでもない常識がもはや通用しないほど、この国は堕落してしまったのである』、「上から下まで総腐敗」、とは言い得て妙だが、本当に深刻な問題だ。
・『美徳破壊の政権が生み落とした卑怯な社会  「日本社会の構造的な劣化が、いよいよ覆い隠せなくなって一気に表面化した印象です」と言うのはコラムニストの小田嶋隆氏だ。こう続ける。 「私は2012年を境に日本社会は変容したと感じています。リーマン・ショックからの長引く不況と、3・11の一撃を経たタイミングで誕生したのが、第2次安倍内閣でした。粛々と日本を立て直すことを期待したのに、結果はモラルぶっ壊し政治。改ざん、隠蔽は当たり前で、平気でごまかし、嘘をつく。『総理のご意向』の忖度強要で官僚機構のモラルは崩れ、今や機能不全に陥っています。 強行採決の連発で民主的手続きを無視し、集団的自衛権容認の解釈改憲で憲法をタテマエ化。この春から予算委員会の開催すら拒み続けているのです。日本社会の寛容性が失われていく中、率先して『公正』『正直』『勤勉』という美徳を破壊。こんな政治が許されるなら、正直者はバカを見るだけとなり、卑怯な社会に拍車がかかるのは当然の帰結です」』、安倍政権が「日本社会の寛容性が失われていく中、率先して『公正』『正直』『勤勉』という美徳を破壊」、との小田嶋氏の指摘は誠に的確だ。
・『落ちるところまで落ちた政界劣化の象徴が、「日本人の知性の底が抜けてしまった」と文筆家の古谷経衡氏が喝破したN国の出現だ。同党所属の丸山穂高議員は竹島を巡り「戦争で取り返すしかないんじゃないですか?」と自身のツイッターに投稿。昭和の時代なら、こんな暴言を吐いた時点で即刻、議員の職を失ったものだ。そうならないのが、政治の劣化とメディアの堕落を物語る。 今やメディアは「関係悪化の全責任は韓国にある」とケンカ腰の政権をいさめるどころか、一緒になって朝から晩まで嫌韓扇情一色。日本の内閣改造の“お友だち”人事よりも、韓国法相の疑惑のタマネギ男の追及に血道を上げているのだから、権力の監視役を期待するだけムダである』、「今やメディアは「関係悪化の全責任は韓国にある」とケンカ腰の政権をいさめるどころか、一緒になって朝から晩まで嫌韓扇情一色」、いくら読者や視聴者が「嫌韓」を好んでいたとしても、煽るような真似だけは止めてほしいものだ。
・『韓国叩きで留飲を下げる世の中でいいのか  前出の小田嶋隆氏はこう言った。「不安なのは国民の嫌韓感情をあおって、安倍政権が維新の会を巻き込み9条改憲に突き進みそうなことです。改造内閣のメンバーを見ても、最側近の萩生田光一氏をはじめ、安倍首相の親衛隊のような“ネトウヨ”大臣ばかり。日本社会のモラル喪失を逆に利用して、この国をガタガタにした張本人である首相が『社会がほころんでいるからこそ、改憲でこの国を変える必要がある』『“お花畑”の憲法では今の日本は治められない』などと言いだしかねません」 民衆の不安や危機感につけ入るのが、権力者の常套手段。6年半を過ぎたアベ政治も常にそうだ。そんな腐臭漂う政治が社会全体に伝播し、上から下まで総腐敗の惨状を招いているのが、安倍政権6年半の「なれの果て」である。政治評論家の森田実氏はこう言う。 「競争第一、弱肉強食の『新自由主義』がはびこりだしてから、この国はおかしくなってしまった。新自由主義に潜むのは『今だけカネだけ自分だけ』の考え。この発想に国の指導層が完全に染まっています。かつては政治家も経営者も官僚も『国民の生活を豊かにする』との気概に満ちていましたが、今や見る影もない。コスト重視で賃金を減らし、大衆からの収奪しか考えていません。『貧すれば鈍する』で、生活が苦しくなれば精神もすさんでいく。日本社会の荒廃は『今だけカネだけ自分だけ』主義が招いた必然なのです。加えて戦争を知らない政治家ばかりとなり、隣国に対する過去の反省や責任も放り出しています。はたして嫌韓扇情に留飲を下げる世の中でいいのか。腐敗した社会への批判精神に国民が目覚めなければ劣化は止まりません」 劣情国家の行く末を危ぶむ気持ちがあれば、批判の声を上げ、うねりに変えていくしかない』、「日本社会のモラル喪失を逆に利用して、この国をガタガタにした張本人である首相が『社会がほころんでいるからこそ、改憲でこの国を変える必要がある』『“お花畑”の憲法では今の日本は治められない』などと言いだしかねません」、小田嶋氏の警告は説得力がある。「日本社会の荒廃は『今だけカネだけ自分だけ』主義が招いた必然なのです。加えて戦争を知らない政治家ばかりとなり、隣国に対する過去の反省や責任も放り出しています。はたして嫌韓扇情に留飲を下げる世の中でいいのか。腐敗した社会への批判精神に国民が目覚めなければ劣化は止まりません」、との森田氏の指摘もその通りだ。国民を目覚めさせるのは、野党とマスコミの役割なので、大いに奮起してほしいところだ。
タグ:「面白いからいいじゃん」で投票する“政治的非常識”層が増えた 「古谷経衡さんが憂う有権者の劣化 日本の知性の底が抜けた」 古谷経衡 日本社会の寛容性が失われていく中、率先して『公正』『正直』『勤勉』という美徳を破壊。こんな政治が許されるなら、正直者はバカを見るだけとなり、卑怯な社会に拍車がかかるのは当然の帰結です」 美徳破壊の政権が生み落とした卑怯な社会 日刊ゲンダイ 第一次政権で失敗した安倍は努力家に変貌した 「新幹線の中では微動だにせず、新聞各紙、スポーツ紙にまで全て目を通す。トイレにも行かないし、車窓も眺めない。そして帰路では、だいたいカップ酒の日本酒を飲んだ」 執念を持ってチャレンジした首相は長続きする 第一次安倍政権、1年の短命で終わっている。この時は、首相になる準備が完全にはできていなかったからだ 間近で見た小泉の意外な素顔 長期政権の首相は前任者が不人気である 自民党政務調査会で16人もの首相に仕えてきた田村重信氏 「16人の首相に仕えた男が語る、「安倍一強」が実現した理由」 ダイヤモンド・オンライン 横田由美子 大人の寛容さともらい泣き力をもって「戦後」を守護する側にいたいと思う 幼児的で不寛容で涙腺が未熟な戦後最悪男たちは、口汚く他者をののしる 二度と再び「戦前」という時代が戻ってきてもらっては困る。「戦前」の次に来るのは戦争だ 、戦後という時代が危機に瀕していることを意味 戦後最悪の政治指導者 ジョンソン英首相 トランプ大統領 安倍首相 「浜矩子「戦後最悪の政治指導者トリオに戦前に引き戻されるのは御免だ」 AERA.dot (その35)(浜矩子「戦後最悪の政治指導者トリオに戦前に引き戻されるのは御免だ」、16人の首相に仕えた男が語る 「安倍一強」が実現した理由、古谷経衡さんが憂う有権者の劣化 日本の知性の底が抜けた、劣化が止まらない日本 安倍政権6年半の「なれの果て」) 日本の政治情勢 ユーチューブ。せいぜい長くて数十分の動画を見て、世の中のことが分かった気になっている 小選挙区では極論が通用しないから、“脱ネトウヨ化”していく 極論を言う議員は比例区から出てくる 10代、20代の若者と50代以上のネットリテラシーが低くなっています。タチが悪いのは、ネットリテラシーが低いのに、「右」に引き込まれる高齢者。とんでもない差別発言も普通に言いますからね 有権者の劣化=政治家の劣化 職能団体の弱体化と高速インターネットが「極論」を放出 上から下まで総腐敗 競争第一、弱肉強食の『新自由主義』がはびこりだしてから、この国はおかしくなってしまった。新自由主義に潜むのは『今だけカネだけ自分だけ』の考え。この発想に国の指導層が完全に染まっています。かつては政治家も経営者も官僚も『国民の生活を豊かにする』との気概に満ちていましたが、今や見る影もない 森田実氏 韓国叩きで留飲を下げる世の中でいいのか 今やメディアは「関係悪化の全責任は韓国にある」とケンカ腰の政権をいさめるどころか、一緒になって朝から晩まで嫌韓扇情一色 小田嶋氏 「劣化が止まらない日本 安倍政権6年半の「なれの果て」」
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医療問題(その22)(「名医という言葉には抵抗を感じる」という医師が追求する 真の神業とは、国保料引き上げの真犯人 「ムダな医療費」を貪る人々の正体、徹底討論! それでも必要?一般病院の“身体拘束”) [生活]

医療問題については、9月10日に取上げた。今日は、(その22)(「名医という言葉には抵抗を感じる」という医師が追求する 真の神業とは、国保料引き上げの真犯人 「ムダな医療費」を貪る人々の正体、徹底討論! それでも必要?一般病院の“身体拘束”)である。

先ずは、医療ジャーナリストの木原洋美氏が9月29日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「「名医という言葉には抵抗を感じる」という医師が追求する、真の神業とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/215721
・『名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を、医療ジャーナリストの木原洋美が取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第17回。画期的な術式や医療機器、医療材料などの開発者として高く、現在も甲南病院(滋賀県)で消化器外科医として診療にあたっている谷徹医師(滋賀医科大学革新的医療機器・システム研究開発講座特任教授)を紹介する』、興味深そうだ。
・『内臓をじゃぶじゃぶ洗う手術も 敗血症を治療する血液浄化器も  「私、失敗しないので」の名セリフで人気を博した医療系ドラマ『ドクターX』(テレビ朝日)。主人公が毎度のように駆使する一見「ありえない」手術法も話題になったが、なかでも視聴者の度肝を抜いたのが、シーズン2で登場した、がん切除手術後に内蔵をお湯でじゃぶじゃぶと洗浄してしまう 「腹腔内温熱化学療法(HIPEC)」ではないだろうか。 驚くなかれ、この術式は、現滋賀医科大学 革新的医療機器・システム研究開発講座特任教授の谷徹先生が外科学講座現役の時に開発・実践したもので、実在している。 もちろん、内臓を洗うのには理由がある』、「がん切除手術後に内蔵をお湯でじゃぶじゃぶと洗浄してしまう」、家族が意味も分からずに見たら卒倒してしまいそうだ。
・『例えば進行性胃がんの場合、手術後の再発率は高く、ステージIIIBで患部を全部摘出したとしても、再発による5年生存率は31%。術前や術中に、がん細胞が腹膜内に散らばってしまうことが、再発の一番の原因と考えられている。 そこで先生たちは、手術でがんを取り去った後、生理食塩水に複数の抗がん剤を加えて加熱し、腹膜内を30分にわたり洗浄することにした。 「肉眼で確認できるがんを全部摘出した後、お湯の温度を抗がん剤の効果が最も高まる42~43度に保持しながら、お腹全体を洗います。そして、3種類の抗がん剤を入れてさらに洗います。この抗がん剤は、点滴などの濃度の70~80倍の濃さです。こうすることにより、腹膜内に拡散していた目に見えないがん細胞が死滅し、ステージIIIBの5年生存率は77.9%と生存率が飛躍的に高まりました。胃がん(IIIAまで)切除後の5年生存率は100%です」(谷先生) ちなみにその後、手術中にガン細胞が飛散する元凶としてリンパ管断端が特定され、飛散のある場合に再発率が高くなることも確認されたが、谷先生は、後で述べるマイクロ波手術器によってリンパ漏も抑制できるようにしてしまった』、「進行性胃がん」「ステージIIIB」の手術で、「再発による5年生存率は31%」から「77.9%」へ飛躍的に高まったとは驚くべき成果だ。
・『消化器外科医である谷先生は、現在も甲南病院(滋賀県)で診療にあたっているが、その名声はむしろ、画期的な術式や医療機器、医療材料などの開発者として高い。中でも、世界的に知られているのが東レ・メディカル株式会社との共同研究によって生み出した血液浄化器(製品名「トレミキシン」)だ。生産・販売開始は1994年で、なんと20年以上も前になる。 「当初は5年で競争相手があらわれると思っていましたが、意外なことに、未だ登場していません。欧米でも広く普及しており、本製品に関する論文は1000点を超えています」 敗血症は、大ケガや手術の後に起こりやすい病気で、医学が発達した今日でも死亡率は約30%と非常に高い。薬での治療が主だが特効薬はなく、発症は相変わらずの状況にある。感染症などで体に病原体(細菌など)が侵入することをきっかけに発症するのだが、その際、体内では菌の細胞壁の成分である「エンドトキシン」と呼ばれる毒素が発生し、悪さをする。トレミキシンは、このエンドトキシンなどの毒素を除去する血液浄化器で、これまでに、十数万人もの重症敗血症患者の治療に使われてきた。 また昨年には、血中エンドトキシン値に基づく対象患者において二重盲検法による臨床治験サブ解析にて有効性が確認され、今年から米国FDAの認可に向け、追加の臨床治験を実施中である』、「トレミキシン・・・十数万人もの重症敗血症患者の治療に使われてきた」、というのも画期的だ。
・『外科手術に革命を起こす 血の出ないメスを開発  谷先生の直近の功績は、独自に開発を重ね、医療機器メーカーの日機装と共に製品化した、電子レンジや携帯電話と同じマイクロ波を利用して切離と同時に止血もできる血の出ないメス「アクロサージ」だ。マイクロ波を用いる治療用製品は、1981年に針型で実用化されているが、ハサミ型と鑷子(ピンセット)型は世界初。 アクロサージがどれくらい役に立つのか、一般人には分かりにくいので、少し解説したい。 外科手術はある意味、出血との戦いだ。出血が少ないということは、即ち肉体に与えるダメージも小さいということにつながるし、大量に出血した場合には、いかに迅速かつ手際よく止血できるかが手術の成功、ひいては患者の生命を左右する。 電気メスは、そうした医療現場のニーズに応えて開発され、今やそれなしには外科手術が成り立たないほど、重要な医療機器になっている。 ただし従来の電気メスには、改良すべき点が多々あった。高周波や超音波を用いて、切離する箇所の組織表面を加熱することでその機能を果たすため、加温のON-OFF スピードは遅く、組織は焼け焦げ易く、周辺にも熱損傷を与えてしまう。電気メス使用中のオペ室には、肉の焦げる臭いと煙や湯気が漂い、切離部分にできた焦げは、剥がれる際に再出血の原因にもなる。煙やミストはしばしば視野を妨げ、手術の手を止めざるを得ない、などだ。 アクロサージは、電子レンジと同じ2.45GHz帯のマイクロ波を使い、生体組織を凝固することで切離と止血を同時に行う。生体組織の水分子にマイクロ波が直接作用し、水分子を励起して発熱するので、生体組織の外側だけでなく内側からも加熱される点で、高周波や超音波とは大きく異なる。加熱部分の温度は、高くても100℃を少し超える程度。生体を焦がす心配もなければ、煙も発生しないのだ。 谷先生は、こうしたマイクロ波の特性に独自の技術を掛け合わせることで、日本の消化器外科医が世界に誇るリンパ節廓清術をエネルギー器具にて実現するべく、刃の形をハサミ状とし、リンパ管の封止も完全にできる器具として、従来品が持つ数々の弱点解消に成功した。 「その昔、輸血の登場が外科手術に革命を起こしたように、アクロサージは、輸血不要の手術を可能にするでしょう。手術が身体に及ぼすダメージを最小限にすることで、身体の回復が早くなり、入院日数も短くなります。リンパ節廓清時には、リンパ網のシーリングができるため、術中がん細胞飛散を抑制し、予後改善に寄与できる可能性があります。ほかにもメリットは枚挙にいとまがありません。 電子レンジが台所に革命起こしたように、アクロサージは手術に革命を起こすでしょう」』、「手術に革命を起こす」「アクロサージ」は2017年に発売されたようだ。世界的な評価も知りたいところだ。
・『患者が元気で長生きすることが真に神業といえる手術の証  さて、これほど凄い功績をあげてきたにもかかわらず、谷先生は「アイデアマンと呼ばれるのは好きじゃない」と語る。 「アイデアって、何か天から、努力もなしに閃きが降ってくるような印象がありませんか。そうではないんです。常に、患者さんへの低侵襲と医療現場の労働環境を改善するには何が必要かを考え続けているからこそ、アイデアにもたどり着けるし、問題を解決するヒントに気づくこともできる。ぽっと思いつくわけじゃない、問題意識の継続性が重要なんです」 追求しているのは「患者さんのためになること」。加えて、大学で教鞭をとっていた頃には「できない理由を探すな、できることからやれ。」と教えていた。 「(滋賀医科大学)は新設医大ですから、従来の領域では、何十年も先行している大学に追いつくのは至難の業です。私たちが10年やったら、向こうも10年。だから、自分たちの特徴ある研究に取り組み、独自の武器を持たなければいけない」 谷先生は金沢大学医学部を76年に卒業し、東京の虎の門病院外科に4年間勤務したのち滋賀医科大学第一外科に入局。85年に同大学医学研究科外科学専攻博士課程を修了したのだが、まだ助手にもなっていなかった大学院生時代に着手し、10年近い歳月をかけて開発したのがトレミキシンだ。 一方アクロサージの開発にも10年余りの歳月をかけている。発端は放射線被曝のないMRI装置を術中モニターとして用いて、手術器具の位置をモニタリングしながら手術ができる「MR画像誘導下手術システム」の開発という壮大なプランだった。 「このシステムなら身体の深部を3次元で、リアルタイムで見ながら手術ができます。血管と神経の区別もできますし、温度も組織の代謝も画像化して表示される。同様の研究に取り組んでいる有名大学はたくさんありますが、リアルタイムに行えるシステムは我々が世界で唯一で、すでに動物を使った模擬手術実験に成功しています」 アクロサージは、この手術システムの開発過程での副産物だ。MR画像強磁場下では、高周波も超音波も使えないため、MRと干渉しないマイクロ波の手術器具がどうしても必要だった。 「しかしながら、『MR画像誘導下手術システム』を世に出すには、もう少し時間がかかります。でもアクロサージなら、マイクロ波を用いた一般の手術器具として世に出せば、多くの現場で早く使っていただけると考え、先に事業化しました」』、「常に、患者さんへの低侵襲と医療現場の労働環境を改善するには何が必要かを考え続けているからこそ、アイデアにもたどり着けるし、問題を解決するヒントに気づくこともできる。ぽっと思いつくわけじゃない、問題意識の継続性が重要なんです」、地に足がついた開発姿勢だ。「アクロサージ」は「MR画像誘導下手術システム」の「開発過程での副産物」、とはまだ開発中の「MR画像誘導下手術システム」もきっと凄いのだろう。
・『ところで、冒頭で紹介した「腹腔内温熱化学療法(HIPEC)」は、2016年に先進医療として認めてくれるよう国に申請したが、却下されてしまった。過去の治療成績に対するネガティブな意見があり、賛同が得られなかったからだが、「お湯の温度管理をしっかりやっていなかったのでは」と谷先生は悔しがっている。 MR画像誘導下手術システムにも、やるせないエピソードがある。 「十数年前に東京の新聞社が取材に来てくれましたが、『山の中の大学がこんな凄いことやるなんて腰が抜けた』と言ってくれました。でも掲載はしてもらえませんでした。『人口100万の滋賀県のニュースより、1000万の東京のニュースの方が読んでもらえるから』だそうです」 日本は狭い。どこの大学にいようが、谷先生が消化器外科医として常に患者のためを思い、手術法や医療機器を開発し、膨大な数の生命を救ってきた名医であることは間違いない。 「名医という言葉には抵抗があります。例えば、小説やドラマでは、早さと手際の良さが名医の条件のようになっていますが、少なくとも消化器外科の悪性腫瘍手術で一番大切なのは、なすべきことを丁寧に、正確に行うことです。なぜなら、手術の本当の結果が分るのは5年後、10年後で、手術直後ではありません。当然術後も患者さんが元気でいられ、さらに長く生きていただくことが、真の意味での神業であり、『失敗ではない手術』だからです」』、「HIPEC」が「先進医療として認め」られなかったのは残念だ。東大など医学会主流と距離があったことが影響したのかも知れない。「MR画像誘導下手術システム」も取材されながら、「掲載はしてもらえませんでした」のも残念だが、今回、ダイヤモンド・オンライン記事になったのは何よりだ。それにしても、凄い医師がいたものだ。

次に、フリーランス・ライターのみわよしこ氏が11月8日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「国保料引き上げの真犯人、「ムダな医療費」を貪る人々の正体」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/219866
・『国民健康保険料の引き上げは本当に「仕方ない」のか  2019年10月30日、厚労省の社保審・医療保険部会は、2020年、国民健康保険料の課税限度額を3万円引き上げる方針を示した。国民健康保険料は、ある程度は所得に比例する仕組みとなっているが、「年間所得2000万円の世帯は、年間所得400万円の世帯の5倍」となるわけではなく、課税限度額という“天井”がある。 この“天井”を引き上げ、「高額所得者には所得に見合う国民健康保険料を払っていただきましょう」というのが、現在検討されている改定の趣旨だ。同時に、中間所得層の負担を軽減する措置も検討されている。 しかし、10月1日に消費税率が8%から10%へと引き上げられてから、1ヵ月も経っていない。正直なところ、「また?」と言いたくなるが、高齢化が進行する日本で、増大する医療費が国家財政の大きな負担になり続けているのは事実である。国民健康保険が破綻すると、必要なときに医療を受けることはできなくなるかもしれない。日本の国民皆保険制度と良好な医療アクセスは、世界に誇るべき日本社会の宝物、社会の健康を底支えする重要な土台だ。 現在は「社保完」の会社員も、退職後はいつか、国民健康保険または後期高齢者医療のお世話になる。国民健康保険を維持するために必要な負担なら、「痛いけれど、仕方ない」と受け入れるしかないのかもしれない。 しかし医療費の内訳や削減の仕方には、数多くの疑問を感じている。それは、「医療費が無料だからといって、ムダな医療を欲しがる生活保護の人々」という都市伝説にも通じている』、「医療費の内訳や削減の仕方には、数多くの疑問を感じている」、同感だ。具体的に知りたいところだ。
・『多くの精神科入院患者は誰のために必要なのか  まず気になるのは、精神医療の医療費だ。 精神科病院の入院患者数は、世界において日本の「悪名が高い」点の1つだ。2017年度、日本には約28万人の精神科入院患者がいた。この人数は、全世界の精神科入院患者の約2割にあたる。しかも、平均入院日数は2014年に281日で、世界ダントツの長さであった。 日本に次いで平均入院日数が長いのは韓国だが、それでも同年に125日だった。他の先進国には50日を超える国はない。公費による医療が比較的充実している国々では、平均入院日数はやや長めになる傾向があるが、それでも30~45日程度にとどまる。 1970年代に法律で精神科入院を原則禁止して「どうしても」という場合に厳しく制限したイタリアや、米国のように高額化した入院医療費が退院を促進してきた国では、平均入院日数は10~20日前後となる。これらの国々では、家庭や地域から長期にわたって離れること自体が社会復帰の阻害要因になるということが、広く認識されている。 「日本人は精神疾患にかかりやすく重症化しやすい」という事実はない。長年にわたって、入院を短期化する努力が続けられており、精神医療そのものも進歩している。1990年ごろの平均入院日数が約500日だったことを考えると、2014年に281日まで短縮されていたことは、むしろ大きな進歩であろう。 しかし2014年、約18.5万人が1年以上にわたって入院していた。このうち約10万人は、5年以上の入院であった。長期にわたる入院は、それだけで大きな医療費負担となる。1年間の精神科入院に必要な医療費は、少なくとも500万円~600万円程度と見積もられる。すると、10万人分の入院医療費だけで、5000~6000億円となる。 この背景として、日本の精神科病院の約9割が私立精神科病院であるという事実は、どうしても考えざるを得ないだろう。厚労省は国内外からの長年の要請を受け、精神科入院患者の退院促進と地域移行に取り組んではいるのだが、「重度かつ慢性」ならば地域移行は考慮しなくても良いこととしている。 そして厚労省は、「重度かつ慢性」の入院患者数を見積もり、それに合わせた退院目標を設定し、各都道府県に実行を求めている。語弊を恐れずに言えば、これは「一定数の入院患者は確保し続ける」ということだ。認知症の高齢者を「重度かつ慢性」のカテゴリに含めれば、当面「重度かつ慢性」の入院患者数が減ることはない』、精神科の「平均入院日数」が短くなったとはいえ、「281日」と他の先進国の「30~45日程度」と比べ、飛躍的に長いのには改めて驚かされた。「家庭や地域から長期にわたって離れること自体が社会復帰の阻害要因になる」、のであれば、再考が必要だろう。「約18.5万人が1年以上にわたって入院」、入院医療費だけで、9250~11100億円、というのはベラボウな大きさだ。「精神科病院の約9割が私立精神科病院」で、「厚労省は、「重度かつ慢性」の入院患者数を見積もり、それに合わせた退院目標を設定し、各都道府県に実行を求めている。語弊を恐れずに言えば、これは「一定数の入院患者は確保し続ける」ということだ」、やる気のない厚労省に対し、財務省はもっと切り込むべきだろう。
・『交通が不便で偏見の強い地域に精神科病床が突出して多い現実  厚労省が毎年取りまとめている「医療費の地域差分析」の2016年版には、「地域差への寄与を疾病分類別に見ると、入院では『V 精神及び行動の障害』の寄与度が大」という記述がある。精神科入院患者数の多さは、公共の医療費を圧迫している。このことは、誰の目にも明らかだ。 精神科病棟が多い地域で、入院医療費が増大するのは当然だ。そして、人口あたり精神科病床数を県別に見ていくと、四国や九州などの交通が不便で偏見の強い地域が突出している。責任は、そのような地域に精神科病院を押し付けてきた他地域や政策にあるはずだが、たとえば「東京都が責任を持つから、栃木県や山梨県は精神科病床を減らしてください」という方向への動きは聞いたことがない。 そうこうする間にも、国民健康保険料の地域格差は拡大していく。地域の高齢化が進み、雇用が劣化し、納税者と納税額が減少すると、国民健康保険料は引き上げられる。そうしないと、医療ニーズに対応できないからだ。しかし、そのことが意味するのは、減少していく現役世代が、減少していく自らの所得から、さらに重い負担を強いられるということだ。公的健康保険の意義と必要性がわかっていても、「仕方ない」と納得できるとは限らない』、「責任は、そのような地域に精神科病院を押し付けてきた他地域や政策(正しくは:地域政策?)にあるはずだが」、意味不明だ。むしろ、国の精神医療政策の貧しさにあるのではなかろうか。
・『社会にコストを強いる人に「死んで」と望むことの是非  担い手や負担能力が増えない以上は、医療ニーズを減らす必要があるかもしれない。9月にも、花粉症薬が保険適用外になる可能性が関心を集めたばかりだ。精神科以外の入院医療に関しては、「極力、短期で」という方向での制度改革が進められてきている。 長年にわたって高額の医療費を必要とする疾患の患者に対しては、「治療しない」という方向性も検討されている。2018年、腎臓病で人工透析の開始を希望していた40代女性が、入院していた公立病院で希望に応じられず、死亡した。女性はいったん、透析治療を希望しないと述べたのだが、その後、やはり透析を受けて生き延びたいと望んだ。 しかし、病院は応じなかった。今年10月、遺族が病院を提訴したのだが、当事者らの主張も報道も、病院の判断を是とするか非とするかによって、二分された形となっている。日本透析医学会は、病院の判断を妥当としている。 筆者は、「社会コストが必要な状態で生き続け、メリットをもたらす見込みが薄いのなら、死んでください」という論理に賛成する気はない。その論理が言葉通りに実行されていたら、たとえば参議院議員の舩後靖彦氏と木村英子氏(れいわ新選組)は、とっくにこの世にいなくなっていたかもしれない。2人はALSや脳性麻痺の当事者として、日本社会が必要としている変革を実現することを期待され、立法府のプレーヤーとして活躍している。それが可能になったのは、2人が生き延びてきたからだ。 しかし、「命は大切」「かけがえのない人生」という言葉を、言葉通りに実行するのなら、実行するための医療経済の維持について考えることも、避けて通れないはずだ。そして日本の病院の経営は、財務省の方針に沿って、厚労省がベネフィットとコストの「アメとムチ」で統制している。統制が「医療費がかさみそうな場合、早く死なせれば評価して利益をバックする」という方向に向かうと、本人が「生きたい」「生きよう」と思っていても、生きられなくなってしまうかもしれない』、誠に難しい問題で、私も回答は持ち合わせない。
・『冷静に考えたい医療制度改革の「誰得」  今回の国民健康保険料の上限額引き上げは、仕方なく認めざるを得ないものかもしれない。しかし、高度成長期の恩恵を受けて長生きできた高齢者に怒りをぶつける前に、怒りのターゲットを考え直す必要はないだろうか。 2013年以後、水道や種子など日本の人々の生存にとっての重要な基盤を、日本と日本の人々のために保護するための規制が、次々に撤廃された。そして、必ずしも日本のために活動しているわけではない外国資本が参入している。地方行政や条例レベルでの抵抗は続いているが、国の政策に自治体が対抗することは容易ではない。 そして日本国内では、「いくつかの企業に日本の人々のお金を渡す」と見るのが妥当と言える動きが続く。2020年度から開始される予定の「大学入試共通新テスト」は、幸いにも英語民間試験の導入が見送られ、大手業者への文科省からの「天下り」などの背景が明らかにされつつある。少子化対策が必要な日本で、子育て世帯の教育資金が業者に移動させられることは、それだけで弊害となるはずだ。 2018年から今年にかけては、「“貧困ビジネス”に対する経済的保護ですか」と言いたくなるような無料定額宿泊所政策が検討され、現実になりつつある。そのことが意味するのは、「生活保護費が貧困ビジネス業者の利益になる」ということだ。 そしてもともと、精神医療の医療費の多くは、私立精神科病院の収入となってきた。そこには、国民健康保険料も生活保護費も含まれている。生活保護費のうち精神科入院費は、医療以外の日用品費などの費用を合わせ、国と自治体の負担分を合計すると、2500億円~3000億円程度の金額と見積もられる。1%の桁で四捨五入すれば、生活保護費総額の10%に達する。生活保護の医療費を本気で削減したいのなら、最初にすべきことは、「精神科病院からの、聖域なき退院促進」だろう。それは、国民健康保険料の負担にも、大いに関係している』、この部分はその通りだ。

第三に、10月16日付けNHKクローズアップ現代+「徹底討論! それでも必要?一般病院の“身体拘束”」を紹介しよう。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4342/
・『医療現場のスタッフ、患者の家族など関係者がスタジオで徹底討論!患者の体をベッドや車いすに縛る“身体拘束”。番組では先月、一般病院で広がる実態とその深刻な影響、そして、削減へ向けた現場の取り組みについて放送した。すると、放送直後から「現場の厳しさを分かっていない」「今後も拘束はなくせない」など、現場で働く医療関係者を中心に多くの批判が。拘束は本当に減らせないのか?声を寄せてくれた現場の人たち、患者の家族、専門家など総勢13名をスタジオに招いて議論、解決策の糸口を探る。 記事【身体拘束は減らせない?】① 医療の担い手は“孤立”している!? 出演者 宮田裕章さん (慶應義塾大学 教授) 小川朝生さん (国立がん研究センター東病院 医師) 田中志子さん (内田病院 理事長 医師) 小池京子さん (内田病院 看護師) 中西悦子さん (金沢大学附属病院 副看護部長) 小川聡子さん (調布東山病院 理事長 医師) 福地洋子さん (調布東山病院 看護部長) 番組に意見を寄せてくれた皆さん(看護師・介護福祉士など) 母親が身体拘束された息子さん 武田真一 (キャスター) 、 高山哲哉 (アナウンサー)』、見ごたえがある番組だったので紹介したい。
・『徹底討論 “身体拘束”  武田:一般病院での身体拘束は、今よりも減らすことができるのではないか。私たちの問題提起に対して多くの方から、現場を知らない、理想論だという批判の声がたくさん寄せられました。 高山:放送の直後からインターネット、SNSで本当に大きな反響を頂戴しまして、番組では改めて皆さんからご意見を募集しました。わずか3日間で200を超えるご意見が届いたんですが、その中の一部をご紹介していきたいと思います。 ある男性です。「1人で15~30人をみなければならない中、身体拘束を減らせというのは現実が見えていないとしか言いようがない」。 東京都にお住まいの40代の看護師の方です。「安静にさせるためには身体拘束をするしかないんです。暴力を振るわれても我慢。看護師も守らないといけません」。 そして、愛知県40代、公立病院に勤務されている方です。「誰もがインシデント、つまり事故につながるようなことは起こしたくないんです。拘束を解除して事故が起こったら後悔します。だから解除しない。できないんだよ!」。 武田:そこで私たちは、もう一度現場の声にしっかり耳を傾けてみることにしました。スタジオには、番組にこういった意見を寄せてくださった方にお越しいただいています。ありがとうございます。 長期入院の患者さんを主に担当しているという看護師のささきさん。やっぱり減らせないですか? ささきさん(仮名)(慢性期病院 看護師):そうですね。高齢の患者さんが増えてきてる中、事故を起こさないためにはやはり身体拘束はまぬがれないかなと思っています。 武田:いちばん減らせない理由はどういうことなんですか? ささきさん:看護師は患者さんを24時間みているのと、あと多重業務といいまして、ほかにも業務に追われていまして、ほかの業務をしながら、ほかの重症な患者さんをみながら、危険のある患者さんを集中してみるということは難しいので、やはり身体拘束という手段を使わざるを得ないことが多いです。 武田: そしてもうひと方、救急の患者も受け入れている病院の看護師のさとうさん。 さとうさん(仮名)(二次救急指定病院 看護師):認知症を持っている方もすごく多くて、現場でも「危ないから立っちゃだめだよ」と言った言葉が通じないことが大半なので、縛らざるを得ないというか、転倒・転落、また新しい傷を作らないために、安全のためにっていうことで、命を守るためにということで、やりたくはないですけどやらざるを得ない現状はあると思います。 武田:やりたくはないんですか? さとうさん:やりたくないですね、本当は。やりたくないっていう思いでやってますけど、だから「ごめんね」って言いながら、いつも「ごめんね」って言いながら(拘束具を)つけますね。 まみさん(仮名)(准看護師、学生):私は准看護師なんですけども、やっぱり身体拘束を選ばないと患者さんの命を守れないという状況が多くありました。 武田:命を守れないというのは、具体的にはどういうことなんでしょうか? まみさん:点滴を抜いてしまうとか。いろんなものが体についてるんですけど、胃ろうとかチューブとかついてるんですけど、それを自己抜去してしまうと生命に関わってしまったり、あと、骨折の恐れもありますし、点滴を見えないような位置に置いたりとか、看護師はみんな試行錯誤していろんな病院でやっているんですけども、やっぱりそれが防ぎようがないときがどうしてもあるので身体拘束を選ばざるをえない状況が多くありました。(※自己抜去(ばっきょ)=点滴やチューブなどを自分で抜き取ること)』、医療現場には「身体拘束」がやむを得ないという意見が予想通り多いようだ。
・『身体拘束 何が問題?  高山:すべての身体拘束が禁じられているというわけではありません。身体拘束は厚生労働省が作った手引きによると、こういったケースで認められています。 命が危険にさらされる可能性が著しく高い「切迫性」、ほかに替わる方法がない「非代替性」、そして、身体拘束が一時的なものである「一時性」。これらの3つの要件をすべて満たす「緊急やむをえない場合」は認められています。 武田:身体拘束が行われることで、さまざまな弊害も起きているということも私たちはお伝えしました。 <9月11日放送より>前回の番組に登場した、70代の女性と、その息子です。もともと自立していた母親が身体拘束され、心や体に大きな悪影響を受けたといいます。4年前、持病で入院した母親は、「治療と安全の確保のため」という理由で、両手両足を拘束されていたといいます。およそ2ヶ月にわたる拘束の後の母親の姿です。コミュニケーションはほとんどとれず、余命宣告されるほど衰弱していたといいます。足の筋肉が落ち、歩くこともできなくなっていました。転院した先の病院では、身体拘束せず、薬を減らしてリハビリに力を入れました。すると、普通に会話ができるほど回復しました。 (ディレクター「(100マス計算を)どうしてやられているんですか?」) 母親「どうして?頭がボケないように。」 武田:一時は、余命3か月と宣告もされたということですよね? 母親が身体拘束された息子さん:そのときには車いすにぐるぐる巻きの状態にされました。余命3か月ぐらいですねと言われたことはありました。 武田:拘束が患者さんの安全のためというお話もあったと思いますが、患者さんの状態を逆に悪化させてしまうという現実もあるということが浮かび上がってきてるんですけれども。 ささきさん:確かに身体拘束の期間とか時間が長くなると、歩けていた患者さんが筋力が落ちて歩けなくなったりですとか、動きが悪くなったりとか、そういうことはあるというのは実感としてはあります。 武田:状態が悪くなるかもしれない。だけど、いま目の前にある危険にも対処しなきゃいけない? まみさん:歩けなくなったりとかは、よく目にしていた光景なんですけども、やっぱり看護師とか現場にいる人たちはジレンマだと思うんです。それでも縛らなきゃいけないという現実を知っているので、それに替わるものがないというか、やっぱり、人手不足とか。人がずっとみていられない。 ささきさん:時間とか労力を考えたときに、効率というか、いちばんすぐに解決できる手段をみんな選んでしまうんではないかなと思います』、「2ヶ月にわたる拘束・・・余命宣告されるほど衰弱」、ここまでマイナス面があるというのに、改めて驚かされた。
・『現場の訴え① 深刻な人手不足  武田:皆さんから多く出ているご意見の1つに、人手の問題というのがあると思います。 高山:いただいた声の中にも「休憩なしで働かざるをえない」という現場からの声や、みている患者さんにもよると思うんですけど「計り知れない力で暴力を震われることもあります。こうなってくると、1人では夜とても対応できないんです。特に夜間は患者さんへの対応も手薄になってしまう」「看護師、患者さんを守るためなんだ」などがありました。 さとうさん:ひと晩で2人体制で、多いときは40~45人くらいを持ちますね。 武田:2人で? さとうさん:2人でです。1人が仮眠に入ってる時間はフロアに1人です。救急外来の対応もします。 武田:その間に入院患者さんに何かあったらどうなるんですか? さとうさん:ないように、縛ってるんですよね、結局は。お薬使って眠ってもらっているとか。そうじゃないと救急外来に対応ができないし。 ささきさん:患者さんが歩いて転んだりとかした場合、看護師の責任を問われることが多くて。みているのは看護師なので、直接的な事故報告書を書くのも看護師ですし、「もっとこうできなかったのか」とか、「こうすることができたんじゃないか」とか、後々責められたりするのも看護師ですし。 まみさん:私も夜間、顔を殴られることとかしょっちゅうありました。 武田:どうして殴られちゃうんですか。 まみさん:患者さんのご家族とか、ほかの職種の人は夜いないから分からないと思うんですけど、人って変わるんですよね。夜になったら、本当に。泣き叫んだり、すごく暴れたりとかして。そのときに、やっぱり身体拘束をしなければ転んでしまったりとか、看護師の責任がすぐ問われてしまう。下手をすれば訴訟問題になったりとか。 武田:人手もないし、責任の多くも現場の看護師に負わせられてしまうという現状があるわけですけども。 小川聡子さん(調布東山病院 理事長 医師):もう胸が詰まってくる。私たちも6年ぐらい前、取り組みを始めたときは、本当に同じ状況でした。働く看護師さんたちが本当にぼろぼろで、すばらしい仕事をしているのにやりがいを失っている。やりがいを失ってる看護師さんたちがいちばんそばで患者さんをみている。 田中志子さん(内田病院 理事長 医師):私たちの病院も、初めから身体拘束がなかったわけではなくて、かつてあった身体拘束を、いろんな工夫をしてみんなで減らしてきたというような歴史があります。49人に対して、夜間、看護師さんが2名と看護師さんをサポートするケアの方が1人でみています。だから、決して人数が多いわけではないんですけれども、患者さんが日中活動して、落ち着いて夜休むとか、BPSDが起こらないような、せん妄を起こさないような関わりを、医師も含めてすべての職種で作り上げていくということで、何とか穏やかな夜を積み重ねているという感じです。(※BPSD(行動心理症状)=暴言・暴行などの認知症の症状)(※せん妄=一時的な意識レベルの低下などを伴う症状) 高山:医療現場がいかに追いつめられているのかを物語るデータがあります。医療系の労働組合が全国3万人以上の看護師に聞いた調査の結果なんですが、7割以上が「仕事を辞めたいと思ったことがある」と回答してるんです。 高山:その理由についても尋ねています。およそ半数が「人手不足で仕事がきつい」。続いて「賃金が安い」「休暇が取れない」「夜勤がつらい」「思うような看護ができない」「医療事故が不安である」。労働環境も大きな負担になっていることがうかがえるんです。 宮田裕章さん(慶應義塾大学 教授):病棟が努力していないのかと言えば、そんなこと全くなくて、本当に医療現場はギリギリの中で、患者さんのために最善を尽くすという中でやっている。ただ、高齢者がどんどん増えていると。80年代は65歳以上の入院患者さんは3割。これが2000年代に6割になって、いま7割以上になっている。さらにそれだけではなくて、医療の進歩で、これはすばらしいことなんですが、体への負担が少ない手術や治療を行うことができるようになって、いま高齢で入院する患者さんが急速に増えている。そういった現状が大きく変わる中で、これは現場の1人1人、あるいは病院だけではなくて、状況が変わったということを国が認識した上で、対策を行っていくことも必要なのかなと』、高齢化の急速な進展で、対策は待ったなしだ。
・『現場の訴え② 難しい家族との関係  武田:もう1つ寄せられた意見で多かったのは、家族との関わりですよね。 高山:結構来ています。「けがをさせるな、転ばせるな」「うば捨て山のように施設や病院を利用する家族もいらっしゃる」ということです。 ささきさん:私がとても感じているのは、いま日本の病院とか医療現場とかそうなんですけど、ご家族の協力を得られていないというか。例えば、家に帰りたいといって寝ない患者さん、帰宅願望というんですけど。帰りたいという患者さんに、ご家族が付き添ってくれれば、まだ落ち着いたりとかするんですけれど。協力をお願いしても、仕事があるんでとか、家が忙しいとか。高齢社会なので老老介護で、息子さん、娘さんとかが高齢だったりもするわけで、そこの協力が得られないというのも看護師としては苦しいところです。 さとうさん:ご家族もいろんな意見を持っていると思うんですけど、社会的な風潮が、訴訟とか事故を起こしたスタッフとか、病院が敵みたいな、悪みたいなところがあるから、なかなか(拘束が)なくならないんじゃないかなっていうのはありますね。 稲葉玲奈さん(訪問介護事業所 介護士):うば捨て山じゃないけど、全く無関心な家族っていうのもいらっしゃいます。「転倒しないように生命を守ってくださればいい」というような考え方のご家族ということですね。 宮田裕章さん:司法の判断で、かつて、転倒で重いけがをさせた病院が訴訟を受けて罪に問われた。このケースが、特に一般病棟、急性期病院ではすごく重くのしかかってるということですよね。 小川朝生さん(国立がん研究センター東病院 医師):他の手段がもうない。そういう中でやむを得ず実施しているという、その判断を現場のスタッフだけに、本当に忙しい、そして緊急の場面で求めるというのは非常に厳しい状況だと思います。何らかのガイドラインであるとか手引きというような、社会を含めたコンセンサスを作るとか。 小川聡子さん(調布東山病院 理事長 医師):拘束されたときに、された人がどうなるかというのは、ご家族もわれわれも本当の意味でまだ知らないと思います。実際、自分が縛られたらどうなるかを経験すれば、誰もが「あっ!」って思うんですけど、私も教わったことがないです。当然、看護教育もそういう教育はされてないし、まだまだ今の高齢社会に対応するような教育が追いついていない。そこが今のいちばんのジレンマではないか。 福地洋子さん(調布東山病院 看護部長):さまざまなジレンマはあると思うんですけど、家族とふだんから関係性を築いておくと、意外と転倒しても全然うまくいくっていうのは、私も何例か経験しています。患者さんも、骨折してほかで手術して、また当院に戻りたいっていう方もいますので、そこは重要かなと思っております。 小川朝生さん:いちばん大事なのは、認知症のご本人がどんなふうなことを望んでいるのか。それを、医療者もそうですし、ご家族も一緒に考えていくという、そういう姿勢をどう作っていくか。そこへの医療者の試みであるとか社会への働きかけとかが大事になってくるんじゃないかと思いますね。 高山:番組では、実際に身体拘束の削減に成功した病院に、あなたも視察・見学に行ってみませんかという呼びかけをしてみました。今回スタジオにいらっしゃっているさとうさんが参加してくださったんです』、「かつて、転倒で重いけがをさせた病院が訴訟を受けて罪に問われた」、患者が高齢者だったのかは不明だが、高齢者については拘束しない代わりに、けがをしてもやむを得ないとの認識に変えてゆくべきだろう。それが心配なら、家族が付添うべきだ。
・『どう実現? 身体拘束の削減  番組の呼びかけに応じたさとうさんたち、医療関係者です。さとうさんがまず驚いたのは、拘束をしないこの病院のケアが、患者に与える変化でした。 この病院に入院した直後の、認知症の男性。暴力や大きな声を上げるなどせん妄の症状があらわれています。それが、拘束をしないケアを続けること、10日間・・・。(笑ったり、盆踊りを踊るようになった男性) 次に、ふだん病院スタッフ向けに行われている研修も受けることにしました。認知症のお年寄りの立場を体験するという研修です。その際、看護師の都合を優先させたケアをあえて行うことで、患者の側の気持ちに気づいてもらおうという狙いです。そして、両手両足をしばられます。 さとうさん「これは厳しいですね、これは。でも良い患者体験でした。これをやってるんだなって思うと、悲しくなりますね本当に・・・。悲しすぎて涙が出てくる・・・。」 内田病院では、患者に対するケアは職種を越えて連携していました。 病院のスタッフ「ここで離床してるのナースじゃないんですよ。歯科衛生士とリハビリ職。ナース1人じゃ大変でしょ。」 さとうさんは、日々、看護を行うなかで気になっていたことを、質問しました。 さとうさん「やっぱりアクシデント、インシデントは起きていますか?」 病院のスタッフ「起きています。起きます。」 さとうさん「起きているんですね。起きてても、やっぱり縛らない?」 病院のスタッフ「縛りません。起きてしまって、そこを責めませんね、本当に。」 さとうさん「普通だったら(批判)されますもんね。アクシデント、インシデントが起きたら、『何してんだよ』ってなりますよね。」 武田:さとうさんの中で身体拘束に関するイメージ、あるいは、いままで思っていたことは変わりましたか? さとうさん:180度変わりました。がらっと変わって、これはできるなって。内田病院さんのことを聞いて魔法でも使ってるのかなぐらいに思っていて、第1回目(の番組)は理想論だっていう意見派でした。でも、視察が終わってから、早く伝えたいなっていう思いがすごく強くなって、これは本当に知ってもらいたい。 武田:個人の意識が変わったとして、周りはどういうふうに変わるべきだと感じました? さとうさん:病院のトップだったり、看護部だったり、各職トップがそういう覚悟というか「取り組んでいくんだよ。これだったらなくせるんだよ、やっていこう」と声を出してくれないと。看護師が「こんな視察に行ってきて、身体拘束ゼロの病院あるんです、やってみませんか?」と言ったところで、そんなの無理でしょみたいに言われると思うんですよね。 武田:ささきさんいかがですか。何か聞きたいことがあれば? ささきさん:病院が取り組みますって決めたときと、下の温度差ですよね。私たちはギリギリのモチベーションを保って、仕事をしている中で、さらにそういう取り組みをしましょうというのも1つの精神的な負担であることと。看護師としての根性論というか、1人1人が頑張ればできるんだぞみたいなことを求められたところで、全員のスタッフが、じゃあやりましょうってなったのかって。全員が全員、そうやって納得してというか。全体的にできないと意味がないことじゃないですか。 まみさん:私も看護師のモチベーションとしていまギリギリの状態でやってるのに、自分たちの仕事を増やすわけではないですけど、(削減への取り組みを)やっていくというのが、まだ現状としては厳しいのかなって率直に思いました。 小池京子さん(内田病院 看護師):(身体拘束削減への取り組みを)なんでやってるかって言ったら、患者さんが教えてくれた。楽しかったんです。本当にそれが私たちの喜びだった。それでいまも続けてるんですけど。患者さんがありがとうと言ってくれたり、ほどいていって目が合うようになってきた。この人たちはただ縛られてる人じゃないんだなって、1人の人なんだっていう思いがあって、そこからが私たちのスタートだった。 田中志子さん:理想論と方法論はセットでなければ、身体拘束は減らすこともできなくて。この人だけでも外してみようっていうような、本当に初めの一歩ができるとすごい自信になっていくんですよね。 武田:(急性期病院で身体拘束ゼロを実現している)中西さん、どうですか? 中西悦子さん(金沢大学附属病院 副看護部長):個人ではなくみんなで行います。ケアもチームで考えて決定していきますので、できるだけ個人の責任にはしたくないと思っています。最初、抑制(身体拘束)をしていたころは、チューブ類の自己抜去を防ぎたいってことでやってたんですけれども。例えば自己抜去が起こったときに、個人だけの責任ではなくて、そこはチームとしてケアが足りなかったんじゃないかとか、患者さんがチューブを持つという意味があるはずですので、何かしたかったんじゃないかとか、そこをちゃんとアセスメント(評価)できなかったんじゃないか、そういうところで必ず振り返りをみんなで行います。 小川朝生さん:重要なのは、これを看護だけの責任にしてはならない。具体的にいえば、医師とか、リハビリとか、多職種での問題意識の共有と連携、いわゆる多職種チームだと思うんですけれども、そういう現場の活性というのができるのかどうか、目標がどれだけ共有できるのか。そこの力というのは非常に大きいかなと思います。 山賀献夫さん(特別養護老人ホーム ヘルパー):たぶんですけど、ふだんのそこの関係性が。いちばん末端の仕事を現場でしている管理職ではない人たちからすると、(管理職と)話す機会って正直なかなかなくて。いざ何かそういう場になったときに、配慮した聞き方をしてくれるのか、上から聞いちゃうのかみたいなのことも、現場として受ける印象が違う。 稲葉玲奈さん:多職種で連携していくことに光があるんじゃないかなってすごく思うんですね。制度の問題だったりは結構あると思うので、その辺を、大きな部分でカバーしていただけるような社会体制みたいなものができたら、ナースさんの負担も減ると思いますし、私たち介護士も、よりよいケアを共有していくことができるんじゃないかな。 ささきさん:私もやりがいを感じているので看護師を続けてますけれども、いちばんは患者さんに寄り添いたいですし、看護師の味方でもありたいというか、医療者の味方でもありたい。これ以上辞めていく人たちとか、やりがいを感じられなくなる人が増えるのは嫌ですし、病院とかだけではなくて、世の中がいま高齢者の時代で、日本がどういう状況に置かれているかっていうのを社会全体で理解してもらうことも大事だと思うので、私自身は看護師として努力していきたいと思いますけども、世間の方との距離も縮められるように、今後もコミュニケーションを取っていきたいと思います。 武田:ありがとうございました。きょうは番組にご意見を寄せてくださった医療現場で働く皆さんとともに、身体拘束にまつわる医療のあり方を考えました』、「重要なのは、これを看護だけの責任にしてはならない。具体的にいえば、医師とか、リハビリとか、多職種での問題意識の共有と連携、いわゆる多職種チームだと思うんですけれども、そういう現場の活性というのができるのかどうか、目標がどれだけ共有できるのか。そこの力というのは非常に大きいかなと思います」、その通りで、先進的な取り組みが広がってほしいものだ。厚労省も「身体拘束」しない病院には何らかのインセンティブを与えることで、積極的に広げるべきだろう。
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トランプ大統領(その43)(トランプ 突然の「グリーンランド買収」表明の本気度と隠された真意 景気問題が噴出した瞬間に…、トランプ大統領と闘う正体不明の内部告発者 ウクライナ疑惑はアメリカ民主主義の試金石、トランプ大統領じわり追い込む「支持層」の本音 2年前とは様相が変わってきている) [世界情勢]

トランプ大統領については、9月1日に取上げた。今日は、(その43)(トランプ 突然の「グリーンランド買収」表明の本気度と隠された真意 景気問題が噴出した瞬間に…、トランプ大統領と闘う正体不明の内部告発者 ウクライナ疑惑はアメリカ民主主義の試金石、トランプ大統領じわり追い込む「支持層」の本音 2年前とは様相が変わってきている)である。

先ずは、明治大学教授の海野 素央氏が9月5日付け現代ビジネスに掲載した「トランプ、突然の「グリーンランド買収」表明の本気度と隠された真意 景気問題が噴出した瞬間に…」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66968
・『なぜ突然……?  ドナルド・トランプ米大統領がこの数週間に、異例中の異例といえる2つの行動に出ました。1つはグリーンランド買収を巡るデンマーク訪問中止、もう1つは野党民主党の女性新人下院議員2人のイスラエル訪問阻止です。 いったいトランプ大統領は何を狙っているのでしょうか。これらふたつの行動の背景には、共通のある「隠された意図」がありました。 デンマーク領であるグリーンランドの人口は5万6000人で、島には先住民族も生活しています。9月上旬に予定されていたデンマーク訪問を前に、トランプ大統領はグリーンランド買収を「最重要課題ではない」としながらも、「大型の不動産取引になる」と自ら宣伝していました。 米メディアによれば、トランプ大統領がグリーンランド買収に乗り出した理由は、主として3つあります。 第1に、グリーンランドは石炭やアルミニウムといった鉱物資源が豊富だから。第2に、グリーンランドは欧州と北米をつなぐ戦略的に極めて重要な位置にあるから。NATO(北大西洋条約機構)の一環として、米国はすでにグリーンランドに空軍基地及びレーダー基地を置いています。そして第3に、中国がグリーンランドへの投資に意欲を示しているからです。 しかし、トランプ大統領のグリーンランド買収に関する自身のツイッター投稿、そしてホワイトハウスの記者団からの質問に対する回答、買収に乗り出したタイミングを分析すると、本当の狙いは上記の3つ以外にあることが分かります』、突如の表明には驚かされたが、「本当の狙いは」どこにあるのだろう。
・『トルーマン大統領も検討していた  まずトランプ大統領は8月19日、自身のツイッターにグリーンランドの小さな村に金色のトランプタワーが建っている合成写真を掲載し、「グリーンランドはこんなふうにはならないと約束する」と投稿しました(写真はリンク先参照)。不動産業出身のトランプ大統領は、グリーンランドに観光立国としての潜在能力をみて、それを利用しようとしていると疑われたことを意識していたのでしょう。 Donald J. Trump @realDonaldTrump I promise not to do this to Greenland! View image on Twitter 308K 9:07 AM - Aug 20, 2019 Twitter Ads info and privacy 109K people are talking about this 余談ですが、トランプ大統領は北朝鮮に対しても「不動産業の視点から見ると、経済的潜在性が高い」との評価を下し、同国における観光産業の可能性に言及しています。グリーンランドに対しても、同様の観点から見ていておかしくはありません。 次に、トランプ大統領はホワイトハウスの記者団からの質問に、かつて1946年にハリー・トルーマン元米大統領がグリーンランド買収を試みたことに触れました。当時、トルーマン元大統領は1億ドルで島の買収を図ろうとしましたが、デンマークから拒否されています。 デンマークとの「大型の不動産取引」に成功すれば、トランプ大統領はトルーマン元大統領が達成できなかったグリーンランド買収を実現し、「レガシー(政治的遺産)」を作ることができる、というわけです。 さらに、トランプ大統領がグリーンランド買収への関心を認めたタイミングにも注意を払う必要があります。米メディア、経済学者や民主党大統領候補指名争いを戦っている候補が、米国における景気後退の兆候についての議論を盛んに始めたときだったのです。 この議論では、米景気の後退をもたらす主要因として、トランプ大統領による中国からの輸入品に対する追加関税がやり玉に上がり、大統領は守勢に回っていました。 言うまでもなく、トランプ大統領の支持率を支えているのは好調な経済と高い株価です。大統領の支持率は40%から45%の間を推移していますが、経済政策に関してはそれを上回る50%の支持率があります。つまり、再選を目指すトランプ大統領にとって景気後退が最大の懸念材料になるというわけです。 今のところトランプ大統領は「景気後退からほど遠い」と繰り返し言い張っています。しかしその反面、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長に責任を押しつけ、しかも「フェイク(偽)メディアと民主党候補が米国経済を潰そうとしている」とも主張しています。 このような状況の中で、トランプ大統領は米国民の関心を景気後退からそらすために、グリーンランド買収を公表したとみてよいでしょう。 結局、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相がグリーンランド買収を「馬鹿げた議論」と一蹴したので、トランプ大統領は同国訪問を中止しました。この突然のキャンセルも話題になり、トランプ大統領は一時的にせよ、米国民の関心を景気後退からグリーンランド買収へとそらすことができました』、「米国民の関心を景気後退からそらすために、グリーンランド買収を公表」、とはさすがにメディアの使い方を知り尽くしたトランプ大統領ならではだ。しかし、大統領の訪問を突然キャンセルされたデンマークにとっては、腹の虫がおさまらないだろう。
・『イスラム教徒の議員にレッテル貼り  もう1つの異例中の異例の行動、民主党議員のイスラエル訪問阻止についても説明しましょう。 トランプ大統領は、自らに非常に批判的な、イスラム教徒でソマリア出身のイルハン・オマル下院議員(ミネソタ州)と、同教徒でパレスチナ系のラシダ・タリーブ下院議員(ミシガン州)に「反イスラエル・反ユダヤ人」とレッテルを貼り、「彼女たちは民主党の新しい顔だ」と語気を強めて語りました。 2020年米大統領選挙を強く意識しているトランプ大統領は、彼女たち2人の下院議員を利用して「民主党は極左の政党である」とアピールし、民主党に対する有権者の警戒心を高めようとしています。 しかも、トランプ大統領は「オマルとタリーブが民主党の顔になったので、(同じ極左のアレクサンドリア・オカシオ=)コルテスが(彼女たちに注目を奪われて)いきり立っている」と自身のツイッターに投稿しました。民主党の極左グループにくさびを打ち込み、弱体化を図ろうと試みているのが明らかです。 タリーブ下院議員とオマル下院議員に対する攻撃は続きます。大統領は「イスラエルがタリーブとオマルの(イスラエル)訪問を許可すれば、弱みを見せることになる」「タリーブはイスラエルとすべてのユダヤ人を憎んでいる」「タリーブはイスラエルへの支援金額を減らす」などと自身のツイッターに投稿し、同国のネタニエフ政権に圧力をかけました。 そもそも米政府は、イスラエルに対して年間30億ドル(約3162億円)もの軍事支援を行っており、これまでにも米上下両院の議員が超党派でイスラエルを訪問しています。にもかかわらず、トランプ大統領はタリーブ下院議員とオマル下院議員のイスラエル入国の差し止めをネタニエフ政権に要求したのです。その結果、同政権は2人の入国禁止を発表しました』、「民主党の極左グループにくさびを打ち込み、弱体化を図ろうと試みている」、汚い手だが、効果的なのだろう。イスラム教徒が下院議員になるというのは、トランプは別として、米国はやはり開かれた国のようだ。イスラエルにしたら「入国禁止」の口実が出来てホッとしたのではなかろうか。
・『さすがにこれに関しては、大統領の身内である与党共和党の議員からも批判が出ました。しかしトランプ大統領にとっては、支持基盤を強化することが目的であり、その目的はこの一件で果たされたはずです。つまり、今回の「騒動」は、トランプ大統領にとって政治的得点になったのです。 加えて、トランプ大統領が「トランプ対タリーブ+オマル」の対立構図を作り、米国民、殊に支持者の関心をやはり景気後退からそらした点も看過できません。米メディアは、トランプ大統領のアドバイザーが「民主党の極左の女性新人下院議員4人(コルテス、アヤンナ・プレスリー、タリーブ、オマル)」の中で、「タリーブとオマルを集中して攻撃するべきである」と助言した、とも報じています。おそらく、トランプ大統領の支持層がこのふたりを特に嫌っているという点で、逆に利用価値が高いからでしょう。 トランプ大統領は自身にとって都合が悪い話題から米国民の関心をそらすために、「異例の行動」をとることが有効である、と考えています。一見すると無関係な「グリーンランド買収」の試みと「タリーブ・オマル両議員のイスラエル訪問阻止」に隠された共通の意図は、主要メディアが争点にしている「景気後退」をカモフラージュすることだった、といえるでしょう』、トランプ大統領の手法は汚いが、実に効果的なようだ。民主党も早く一本化しないと、トランプ劇場を閉鎖に追い込めないだろう。

次に、 米州住友商事会社ワシントン事務所 シニアアナリストの渡辺 亮司氏が10月15日付け東洋経済オンラインに掲載した「トランプ大統領と闘う正体不明の内部告発者 ウクライナ疑惑はアメリカ民主主義の試金石」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/307851
・『9月末からアメリカの首都ワシントンで吹き荒れているトランプ大統領とウクライナをめぐる弾劾調査の嵐はいっこうに勢いが弱まらない。トランプ大統領は「政権転覆を狙ったクーデターだ」として、10月8日、下院民主党が求める文書提出や証言などを拒否、全面対決に出た。対決が続く限り、民主党が多数派を占める下院での大統領弾劾は不可避だ。 トランプ政権は弾劾調査を、民主党が始めた「党派対立」、あるいは国家に従わない官僚軍団「闇の国家(ディープステート)」によるものだ、と訴えて、共和党の支持を固めると同時に、他の話題で国民の気を散らすことで、この苦境を乗り越えようとしている。今のところ、この戦略は効果を発揮し、議会共和党の多くはトランプ政権と歩調を合わせているため、上院の雰囲気は罷免には程遠く、大統領の座は揺るぎない。 現在、大統領と共和党の攻撃の矛先は、事の発端であり、いまだ正体不明のCIA(中央情報局)職員とされる内部告発者に向けられている』、「トランプ政権は弾劾調査を、民主党が始めた「党派対立」、あるいは国家に従わない官僚軍団「闇の国家」によるものだ、と訴え」、とは巧みな防戦だ。
・『トランプ氏の攻撃の的となる内部告発者  前回、現職大統領の行為について内部告発があり、弾劾手続きが行われたのは、1998年のビル・クリントン元大統領(民主党)の不倫スキャンダルであった。大統領の不倫相手モニカ・ルインスキー元ホワイトハウスインターンとの電話を密かに録音していた元ホワイトハウス職員のリンダ・トリップ氏が、録音テープをケネス・スター独立検察官(当時)に提出した。スター独立検察官はその録音テープを大統領弾劾条項の1つとなる偽証罪の証拠として利用するに至った。 クリントン元大統領が、下院で弾劾されるも、上院で罷免を逃れた背景には、自らの弾劾手続きは「党派対立」によるものだと、民主党支持者、国民に訴えたことが大きい。当時は共和党が上下両院で過半数を握っていたものの、上院では3分の2に達していなかった。下院で弾劾されることは目に見えていたが、上院で民主党が団結しているかぎり、罷免を回避できるのは確実であった。党派対立との訴えは功を奏し、クリントン元大統領は政権を存続することができた。 しかし、党派対立が強調される過程で犠牲となったのが、アメリカの民主国家を支えてきた内部告発制度への国民の信頼だ。内部告発者のトリップ氏は無所属として登録し、共和党にも民主党にも献金したことがなかった。クリントン政権や民主党は党派対立と位置付け、共和党が民主党大統領を追い出す陰謀に加担したとして内部告発者のトリップ氏に「右翼」の烙印を押した。 トランプ政権もウクライナ疑惑を党派対立の一環と位置づけている。その結果、政権や共和党の内部告発者に対する強い批判が目立つ。なお、1人目の内部告発者については、情報当局の監察官に内部告発する前に民主党のアダム・シフ下院情報特別委員長の側近に接触していたことが判明した。そのため、「ウクライナ疑惑」は民主党が当初から内部告発者と共謀して党派的に動いたものだと、共和党は批判している。 10月6日のフォックスニュースにおいて、ホワイトハウスのスティーブン・ミラー上級顧問は、内部告発者を「ディープステートの工作員」と呼び、トランプ政権発足以降に選挙で選ばれていない政府職員がトランプ大統領を失脚させようと企んでいることの一環である、と主張した』、「内部告発者」の正体は、トランプの息子が名前入りで暴露したとの報道もある。
・『世界最強のアメリカ大統領を内部告発することは容易ではない。特にCIAのような情報当局に勤務する政府職員の内部告発は、現行法では完全に守られていない。他の政府機関の職員よりもさらに難易度が高いのだ。 今回、内部告発者のCIA職員は2つのルートで大統領の行為について告発している。1つがCIA法律顧問局を通じた告発だ。 匿名を望むCIA職員は、同僚を通じてコートニー・エルウッドCIA首席弁護士に報告。その後、規則に基づきエルウッド首席弁護士が、ホワイトハウスと司法省安全保障部門の首席弁護士と、大統領の違法行為の疑いについて電話で協議。数日後にはウィリアム・バー司法長官にも共有された。だが、司法省はその告発を実質握り潰した。 本来、司法省は法律に基づき党派を意識せずに判断を下すべきである。だが、大統領に指名された司法長官は党派的となりがちであり、大統領あるいは政権と自らに不都合なことをしないことは想像できる。リチャード・ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件当時の司法長官も同様に党派的であった。 1つ目の告発ルートが機能しないことを察知した内部告発者は、直接、情報当局の監察官に告発した。告発を受けた情報当局のマイケル・アトキンソン監察官は国家情報長官(DNI)室に報告。報告を受けたジョセフ・マグワイア国家情報長官代行は、大統領に関わる話であることから、司法省と協議した。司法省はまたしても、何も問題がないとDNIに返答した。 しかし、法律では監察官とDNIの間で合意に至らなかった案件について、監察官は議会にその存在を通知する義務がある。そのため、監察官は下院情報特別委員会に内部告発の存在について通知し、それによってシフ下院情報特別委員長が内部告発書の提出を求め召喚状を出すに至った。 民主党が多数派の議会下院が関与することで、大統領府を牽制する3権分立の抑制と均衡が機能して、内部告発は世に知れ渡ることとなった。アトキンソン監察官はトランプ大統領によって指名された人物だ。もしアトキンソン監察官がトランプ大統領への忠誠心から党派的に内部告発を自らの手で握り潰し議会に通知していなければ、内部告発は今頃、闇に葬られていたであろう』、「司法省はその告発を実質握り潰した」が、「アトキンソン監察官」がルール通りに、「下院情報特別委員会に内部告発の存在について通知」、とは勇気ある行動だ。
・『内部告発制度はアメリカ建国以来の伝統  内部告発者を守る法律を世界で初めて制定したのはアメリカだ。内部告発制度は民主国家のアメリカを象徴するものであり、その成り立ちはアメリカ建国の頃までさかのぼる。 独立戦争の最中、1777年にエセック・ホプキンズ大陸海軍司令官がイギリス人捕虜に対して行った虐待行為について部下が告発し、司令官解任に至った。その後、ホプキンズ元司令官は同氏と同じロードアイランド州出身の部下で内部告発を行った海軍将校サミュエル・ショー氏とリチャード・マーベン氏の2人を解任に追いやり告訴するなど報復。 だが、現在の議会の前身である「大陸会議」が介入して内部告発者を守った。この事件を契機に1778年、大陸会議は内部告発者を保護する法律を全会一致で制定するに至った。ホプキンズ司令官は、兄がロードアイランド州知事を務め、1776年の独立宣言にも署名したスティーブン・ホプキンズであり、政治的影響力のある一族の出身だった。だが、国民を代表する大陸会議は弱者を守ったのだ。) アメリカには建国当初から、このように、職権を乱用し秘密裏に不法行為などを働く権力者を、弱者の内部告発者が暴くという伝統があり、これが民主国家の土台となってきた。アメリカの内部告発制度に詳しいミドルベリー大学のアリソン・スタンガー国際政治経済学教授は内部告発をアメリカ人の「DNAに刻まれている」ものと称している。 だが、内部告発は必ずしもアメリカ政府によって歓迎されてきたわけではない。特に国家安全保障に重要となる情報をどこまで国民に公開すべきかは民主主義を唱える政府にとっては悩みどころである。 エドワード・スノーデン元国家安全保障局(NSA)契約職員は国家機密をメディアに暴露したことで、1917年諜報活動取締法(スパイ活動法)違反などの罪で起訴されている。もし、スノーデン氏が正規ルートで当時のNSA監察官に内部告発していたら、握り潰されていた可能性が高いとみられている。スノーデン氏はいまだにアメリカに戻っていない。内部告発者が英雄とされるか、あるいは反逆者と評されるかは紙一重だ。 しかし、ウクライナ疑惑がスノーデン事件と異なるのはアメリカの安全保障への脅威には関係がなく、2020年の大統領再選を狙ったトランプ大統領の政治的思惑に関わる疑惑である点だ。また、同疑惑では内部告発者は正規ルートで報告している。とはいえ、トランプ大統領はウクライナ疑惑が世に知れ渡った直後、内部告発者について「スパイのようなもの」と非公開会合で主張した』、「ウクライナ疑惑・・・2020年の大統領再選を狙ったトランプ大統領の政治的思惑に関わる疑惑」、どうみても悪質だ。
・『内部告発制度が危機に瀕するおそれも  内部告発者は欧州に知見があり、ホワイトハウスでの勤務経験のあるCIAの男性職員と報道されている。ネット上などではすでに有力候補の名前も浮上しているありさまで、いずれ正体が暴かれるリスクがある。正体が判明すれば、保守系メディアは内部告発者を反トランプの民主党支持者、または「ディープステート」の一味だとして集中攻撃するであろう。内部告発者の過去にまでさかのぼってさまざまな個人情報が明かされる危険性も高い。 10月6日、2人目の内部告発者がいることを1人目の内部告発者を弁護するマーク・ザイード弁護士などが明らかにした。10月10日にはトランプ大統領の顧問弁護士ルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長の協力者2人が選挙資金法違反の容疑で逮捕された。翌11日、今年5月に解任されたマリー・ヨバノビッチ前駐ウクライナ大使が議会で証言。今週以降も元政府職員を含め議会での証言者が続き、ウクライナ疑惑に関する事実関係が徐々に解明されていくであろう。 内部告発者の情報ついての信憑性は高まっており、トランプ大統領は下院で弾劾されるとの見方が支配的だ。だが、共和党が団結してトランプ大統領が上院で有罪となることはないだろう。 アメリカ人のDNAに刻まれているはずの内部告発制度が今回の大統領弾劾をめぐる議論で「党派対立」、「ディープステート」と位置付けられて、国民の信頼が失われてしまうと、アメリカの民主主義は深い傷を負いかねない。約半世紀前のウォーターゲート事件は、内部告発制度などアメリカの民主国家の仕組みが大幅に見直される契機となった。 アメリカ憲法は「We the People of the United States (われわれ、アメリカ国民は)」から始まり、3権分立でお互いをけん制し合うが、憲法上は国民を代表する議会が大統領や最高裁を上回る権力を保持している。世界最強の大統領に立ち向かう内部告発がどのように扱われるのか、ウクライナ疑惑は再びアメリカの民主主義の将来を占う試金石となるだろう』、当面、今夜から始まる下院での公聴会の審議を見守りたい。

第三に、ジャーナリストのジェームズ・シムズ氏が10月24日付け東洋経済オンラインに掲載した「トランプ大統領じわり追い込む「支持層」の本音 2年前とは様相が変わってきている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/309911
・『2020年の大統領選はドナルド・トランプ敗退の様相――。 少し前まではトランプの勝算は高かった。今のところは経済指標も好調で、アメリカ国民の不評を買うような海外における戦争もない。ジョージ・W・ブッシュ元大統領は不景気によって、リンドン・ジョンソン元大統領が泥沼化したベトナム戦争によって支持を失ったように、こうした要素は現職のアメリカ大統領の支持率に大きく影響する。 スキャンダルは通常、政権に悪影響を及ぼすが、現時点ではトランプ支持者や無党派層にはあまり影響を及ぼしていない。 ところが、ウクライナをめぐる新たなスキャンダルで状況は一変している。下院議会で弾劾調査が開始され、トランプの周辺人物たちを巻き込み始めた。すでに微妙な支持率に加えて、景気の先行きも不透明感を増しているほか、民主党が格差問題を取り上げ始めていることもトランプにとってはバッドニュースだ。 かつてのリアリティーテレビ番組のスターだったトランプが敗退すれば、同氏はえり抜きの一群に仲間入りする。1952年以降、1期しか務められなかった大統領はジミー・カーターとブッシュの2人だけだ。ロナルド・レーガン元大統領や、バラク・オバマ前大統領などほか6人は、2期務めている』、「ドナルド・トランプ敗退の様相」、とは面白くなってきた。
・『ウクライナ・スキャンダルという痛手  最近で最も大きいスキャンダルはウクライナ絡みで、これこそがトランプ政権最大のスキャンダルとなりそうだ。内部告発者による申し立てが調査の発端となり、トランプ政権が軍事援助を逆手にとって、ウクライナ政府にトランプ氏最大の民主党ライバルである前ジョー・バイデン前副大統領と、その息子による汚職の可能性について調べさせようとしたとして、民主党が非難している。 その申し立てによると、トランプ政権はトランプの電話内容が発覚すれば問題となりうる性質のものであることに気づき、文字起こしを隠蔽させようとした疑いが持たれている。 弾劾に向けて下院は訴追者として告発を行い、決定されれば上院が裁判を行う。2大政党間におけるトランプへの見解はほぼ固まっており、共和党優位の上院が3分の2以上の票でトランプ追放を宣告することは考えにくい。だが、予定される公聴会で証人たちに召喚され、公開されていない詳細事項や関係書類などが公にされれば、大統領選を大きく左右する要素になるだろう。 すでに9月25日に電話の内容が公開された後、何人かの現役および元国務省高官が不利な証言を下院にしたり、問題になった政策を議論するメッセージなど公開。ミック・マルバニー主席補佐官代行がいったんウクライナの軍事支援をする代わりにトランプがウクライナに政治的な調査を依頼したと会見で認めた後、翌日これを撤回するという事態が起きている。 「今回の件は、トランプにとって重大な脅威になるだろう。真摯に対応しないとまずい」と、トランプの側近であり、保守系メディア、ニュースマックスのCEOであるクリス・ラディは話す。「トランプを弾劾すべきという人の数は急激にとは言えないが増え続けており、これは大統領にとってはいい話ではない」 注目すべきは、この1件によってトランプ氏が無所属有権者ならびに、中道共和党有権者の支持を失うかどうかだ。ほかの世論調査同様、モンマス大学の調査でも、弾劾及び解任を支持するアメリカ国民の割合は8月から9月にかけて35%から44%に上昇している。無党派有権者間では30%から41%に増えている』、「ウクライナ・スキャンダル」は確かに驚くほど悪質だ。
・『支持層に広がるトランプへの「不信感」  前回選挙の2016年、トランプ氏はその人気度を上回る得票率を獲得することができた。支持率は38%だったのに対し、一般投票では46%を得票して当選したのだ。 ところが、今年10月に行われたフォックスニュースの有権者調査では、43%がトランプ氏を支持しているものの、民主党のバイデン前副大統領、バーニー・サンダース上院議員、エリザベス・ウォーレン上院議員らと比較した想定票数ではトランプ氏が下回った。 元軍人のジェラルド・エブセンと彼の妻デビーにとっては、健康保険と気候変動問題が重要な問題だ。「健康保険については、(アメリカの65歳以上向け健康保険)メディケアよりは、オバマケア的な観点のバイデンを支持している。2人にとっては、医療保険が誰に投票するか決める材料になる」と、夫妻で、アイオワ州で8月に開かれたウォーレンのキャンペーンイベントに参加していたデビーは話す。 とはいえ、2人の最終ゴールは「トランプを落とすこと」であり、最終的には民主党候補に票を投じる考えだ。 大統領に就任してからほぼ3年、トランプ氏の支持率が50%を超えたことはまだない。これは近年の大統領としては前代未聞だ。 一方で、同氏の不支持率はつねに50%を上回っている。2018年にはそれを示唆するかのように、共和党が下院議席過半数を失った。トランプ氏の行動と敵対意識を高めるような物言いによって、郊外の有権者、とくに大卒の共和党女性有権者、そして無党派有権者投票者たちに愛想を尽かされたからだ。 景気が後退し、中国との貿易戦争が農業や工業の主要地帯に大きな悪影響を及ぼすようになれば、トランプ支持はさらに弱まるものと思われる。こうした地域からの支持がトランプ氏の最大の強みの1つだからだ。9月のワシントン・ポスト/ABCニュースによる世論調査によると、対象となった有権者の59%が2020年は不景気に陥ると考えており、43%がトランプ氏の経済貿易政策によってその可能性が高まると考えている。 実際、トランプ支持層である農家でもトランプ氏に対する「不信感」は広がっている。筆者が8月に生産金額において全米最大の農業地区であるネブラスカ州の第3下院選挙区を訪れた際にも、農業団体幹部が農民たちは中国との貿易戦争や、トウモロコシと大豆を原料とするエタノールのための再生可能燃料令を緩和するといったトランプ氏の政策の一部に憤っていると話していた。) 「農民たちはとても不満に思っている。先の選挙では農業コミュニティーがトランプ支持に大きく貢献したと彼らは思っているのだから」とこの幹部は言う。「トランプに見捨てられた気分だ、という声も聞かれる」。 カンザス州の元州議会議員(共和党)のウィント・ウィンターも、「トランプが中国との貿易協議で大きな成果を上げるとは最初から思っていなかったが、一連の関税引き上げやツイートなどは茶番でしかない」と話す。「トランプはおそらく大統領選直前に何らかの手打ちをし、それを自分の成果として喧伝するだろう」。 ウィンターは、2018年のカンザス州知事選の際には、トランプが支持した右派候補ではなく、民主党候補を応援にまわっており、次期大統領選でも民主党候補に投票するとしている。ただしウォーレンやサンダースといった急進派を応援するのは心情的に難しい、ともしている』、「民主党候補」が急進派のままでは、共和党支持者の票は確かに期待できないだろう。
・『勢いを増す「格差是正」を訴える声  対して、ネブラスカ州第3下院選挙区の共和党エイドリアン・スミス議員は、農民たちがトランプ大統領を「裏切る」とは見ていない。「トランプ以外の人で、少しでもマシになるとはどうしても考えにくいんでね」と、同議員は笑いながら語る。 一方、「大企業や一握りの世界的エリートがブルーカラーの仕事をたたき潰してしまったのであり、中産階級がトランプを当選に導いた」というトランプによる大衆受けするメッセージはすでに浸透しており、これに伴って民主党ではウォーレン人気が高まってきている。同氏のメッセージは、労働者の経済的困窮を改善するには構造変革が必要だというもの。一部の世論調査では、ウォーレンがバイデン及びサンダースを抜いている。 「富の99%を上位1%の人間が握っているこの現状には大きな問題がある。アメリカはそのような国として成り立っているのではない」と、特殊教育の教師であるジェシカ・マッケナ氏は言う。同氏は8月、幼い娘とともにアイオワ州でのウォーレン氏の選挙運動に参加していた。 こうした中、トランプ氏が大衆受けする経済不満を再び振りかざすかどうかは定かではない。前回同氏に投票した国民は、トランプ氏の見え透いた口先の約束を見透かしているかもしれない。例えば、同氏のPRポイントであった1.5兆ドルの減税は、結局主として企業や上位1%の富裕層をさらに優遇するものだったからだ。) 6月には、右派のアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所が「共和党員たちは、この世の中における自分たちの立ち位置をよく考える必要がある。ますます多くのアメリカ国民が、格差を是正することに関して、国がもっと大きな役割を担う必要があると考えるようになっている」と、書いている。 同研究所が1月に行った世論調査では、回答者の55%が、貧困は各個人の努力というよりも構造的問題によって形成されていると考えており、この数字は2001年における44%から上昇している』、右派の研究所でも「格差を是正」への国民の要望が強まっているとの世論調査結果は重い。
・『共和党内での支持率は依然高い  とはいえ、トランプは共和党内ではいまだに常時90%に上る支持率を維持しており、2016年がまさにそうだったように、一般投票では負けても、選挙人団のほうは同氏に優勢に動く可能性がある。共和党の政治家たちはトランプ氏を裏切ることを恐れており、一生懸命声援を送っている。 例えば、トランプが、ソマリアから帰化してアメリカ国民となった議員をはじめとする4人の少数派民族出身の女性議員について、「『国へ帰って』自分の破綻した国をどうにかしろ」と発言し、彼女たちがトランプを非難したときも、ほとんどの共和党員がそうした人種差別的発言に対してトランプを非難することはなかった。 この件の数週間後、カンザス州代表の第2下院選挙区のスティーブ・ワトキンス議員は、トランプのこれまでの発言の数々について意見を求められ、20人強の選挙人の出席したタウンホール後にこう答えている。「彼が人種差別をする人だとは思わない」。 選挙まで余すところあと1年強となったが、多くのことが起こり、民主党が2016年同様にあとひと息のところで負ける可能性もある。しかし今明らかなのは、トランプの権力掌握が日に日に弱まっている様相だということだ』、いずれにしろ、景気後退はこれから明確になり、株式相場も下落するとすれば、トランプ再選は遠のくだろう。ただし、民主党が穏健派で一本化できなければ、泥沼化する可能性も残されているようだ。
タグ:タリーブ下院議員とオマル下院議員のイスラエル入国の差し止めをネタニエフ政権に要求 「民主党は極左の政党である」とアピール 共和党内での支持率は依然高い ラシダ・タリーブ下院議員 イルハン・オマル下院議員 勢いを増す「格差是正」を訴える声 イスラム教徒の議員にレッテル貼り 米国民の関心を景気後退からグリーンランド買収へとそらすことができました 支持層に広がるトランプへの「不信感」 2020年の大統領選はドナルド・トランプ敗退の様相―― デンマークのメッテ・フレデリクセン首相がグリーンランド買収を「馬鹿げた議論」と一蹴したので、トランプ大統領は同国訪問を中止 支持率を支えているのは好調な経済と高い株価 米国における景気後退の兆候についての議論を盛んに始めたときだった タイミング 「トランプ大統領じわり追い込む「支持層」の本音 2年前とは様相が変わってきている」 トルーマン元大統領は1億ドルで島の買収を図ろうとしましたが、デンマークから拒否 ジェームズ・シムズ 野党民主党の女性新人下院議員2人のイスラエル訪問阻止 内部告発制度が危機に瀕するおそれも 内部告発制度はアメリカ建国以来の伝統 トランプ氏の攻撃の的となる内部告発者 グリーンランド買収を巡るデンマーク訪問中止 正体不明のCIA(中央情報局)職員とされる内部告発者 (その43)(トランプ 突然の「グリーンランド買収」表明の本気度と隠された真意 景気問題が噴出した瞬間に…、トランプ大統領と闘う正体不明の内部告発者 ウクライナ疑惑はアメリカ民主主義の試金石、トランプ大統領じわり追い込む「支持層」の本音 2年前とは様相が変わってきている) 海野 素央 現代ビジネス トランプ大統領 トランプ政権は弾劾調査を、民主党が始めた「党派対立」、あるいは国家に従わない官僚軍団「闇の国家(ディープステート)」によるものだ、と訴えて、共和党の支持を固めると同時に、他の話題で国民の気を散らすことで、この苦境を乗り越えようとしている 「トランプ、突然の「グリーンランド買収」表明の本気度と隠された真意 景気問題が噴出した瞬間に…」 「トランプ大統領と闘う正体不明の内部告発者 ウクライナ疑惑はアメリカ民主主義の試金石」 東洋経済オンライン 渡辺 亮司 トランプ大統領は自身にとって都合が悪い話題から米国民の関心をそらすために、「異例の行動」をとることが有効である、と考えています 同政権は2人の入国禁止を発表
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ベンチャー(その5)(アマゾンを“蹴った” 時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由、フラットな組織も崩壊 「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長、16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた) [イノベーション]

ベンチャーについては、2月11日に取上げた。今日は、(その5)(アマゾンを“蹴った” 時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由、フラットな組織も崩壊 「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長、16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた)である。

先ずは、8月21日付け日経ビジネスオンライン「アマゾンを“蹴った”、時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00074/081900004/?P=1
・『米アマゾン・ドット・コムと米マイクロソフトという世界を代表する2社がそれぞれ1兆円規模の買収に動いていたとされるベンチャーが米スラック・テクノロジーズだ。だがスラックは、こうした買収提案を蹴って経営の自主独立を守る方針を貫き、株式上場を果たした。ビジネスチャットという新領域で旋風を起こすスラックの強みはどこにあるのか。日経BPから刊行した『10年後のGAFAを探せ 世界を変える100社』で取り上げた多様なイノベーションを生み出すベンチャーを紹介する本連載の4回目では、スラックを取り上げる。 ビジネス用のチャットツール「スラック」が旋風を巻き起こしている。アプリに文字などを打ち込むだけで、チーム全員で情報を共有できる。1対1でもグループでも、誰とでもチャットが可能なことに加えて、PCやスマートフォンなど端末も選ばない。 仕事をするうえで必要な情報を迅速に共有したり、意見交換したりできることが人気になり、瞬く間にユーザー数が増加。14年のサービス開始から5年で、利用者の数は全世界で1000万人を超えた。電子メールと異なり、宛先アドレスを入力する必要がなく、大事なメッセージが埋もれにくい。返信が重なっても「Re:Re:」のような意味不明な件名に悩まされることもない。 世界的に普及が進むスラックを開発したのが米スラック・テクノロジーズだ。2019年6月20日に米ニューヨーク証券取引所に株式を上場。初値は取引所が事前に示す参考価格を48%上回り、株式時価総額は約195億ドル(約2兆1000億円)に達した。 スラックの2019年1月期の売上高は約4億ドル(約430億円)、最終損失は約1億4000万ドル(約150億円)。売上高規模が小さい、赤字のベンチャーなのに、過大な評価ではないかと思う人は少なくないことだろう。 だが上場前から、スラックは世界的なIT大手から巨額の買収オファーを受けていた。2016年にはマイクロソフトが80億ドルで買収を検討していたと報じられ、2017年にもアマゾンが90億ドルで買収を打診したと報じられていた。 1兆円規模の買収オファーに心が動かない経営者はなかなかいないはずだ。多くの株式を保有する創業者は、莫大な資産を手にすることが可能になる。だが、スラックの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のスチュワート・バターフィールド氏は、自主独立の経営を貫く道を選んだ』、高値での買収をオファーされると直ぐに売ってしまうベンチャー企業経営者が多いなかで、骨がある経営者もいたものだ。
・『フリッカーの買収提案を受け入れた苦い経験  買収を拒否する戦略は、マイクロソフトやアマゾンなどを向こうに回して戦うことを意味する。なぜバターフィールド氏はあえて険しい道を進もうとするのか。 背景には過去の苦い経験がある。2004年にバターフィールド氏が共同創業した写真共有サービスのFlickr(フリッカー)。使い勝手の良さが評価され、瞬く間に人気になったが、2005年に米ヤフーからオファーを受けて事業を売却した。 いったんは「世界一のオンライン写真共有サービス」となったフリッカーだったが、あれよあれよという間に転落する。ヤフーの既存サービスと「統合」することを重視した結果、使い勝手が低下。新機能を充実させてイノベーションを生み出すフリッカーの力が弱まってしまったと批判された。 一方で、Facebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)が台頭。友人などとつながるソーシャルな写真共有の場として多くの人に支持されるようになる。フリッカーも、独立した企業として経営を続けていれば、違う発展の道があったのかもしれない。 そんな悔しい経験を持つだけに、バターフィールド氏はスラックのCEOとして、魅力的な買収提案を受けても首を縦に振らず、自分たちの手で経営を続けていく方針を守ってきた。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に買収された多くのベンチャーの事業は、経営の自主性を失って衰退するケースが目立つとの指摘もある。だからこそ「鶏口となるも牛後となるなかれ」の精神で、スラックは戦ってきた。 それではスラックは、いかにしてイノベーションを実現しようとしているのか。 「急速に移り変わる市場や消費者ニーズに対応するには、企業や組織がアジリティ(俊敏性)を身に付け、変革を続ける必要がある」。バターフィールド氏はこう強調する』、「フリッカーの買収提案を受け入れた苦い経験」があったとは納得できた。
・『アイアンマンがパワードスーツを着るようなもの  従来の企業で主流だった電子メールを使うやりとりは時間がかかり、迅速に仕事を進めるのには向いていないという。「映画『アイアンマン』の主人公がパワードスーツを着るように、ナレッジワーカーは生産性を上げるツールで武装して、組織のパフォーマンスを高めることが求められる。そのニーズに応えるのがスラックだ」(バターフィールド氏) トップ自身が語るように、スラックの魅力は、組織内のさまざまなチームがスピード感を持って仕事を進めやすい環境を実現できることにある。チームで、ファイルやドキュメントを共有し、各メンバーが書き込むさまざまなメッセージを一覧できる。共有ファイルを見ながら、音声・ビデオ通話で議論することも可能だ。 しかもスラックの基本的な機能は「無料」で利用できる。企業が、規模やニーズに応じた機能を追加したり、サービス保証や24時間サポートを受けたりするプランにアップグレードした場合に、有料課金する仕組みだ。 こうした特徴が支持されて、スラックは電子メールに代わるビジネスのコミュニケーション手段として普及が進んでいる。IT大手の米IBM、ライドシェアの米リフト、小売り大手の米ターゲットから、フリマアプリの日本のメルカリまで、幅広い業種の企業で採用が広がっているという。 「世界の企業は、ERP(統合基幹業務システム)に年間300億ドルを投じており、CRM(顧客情報管理)市場も250億ドルに成長。スラックのようなコミュニケーションツールの市場は、現在は高く見積もって10億ドル程度だが、100億ドル規模に育っても不思議はない」。バターフィールド氏はこう語る』、「スラック」は確かに便利なツールのようだ。
・『「チームズ」で逆襲するマイクロソフト  もちろんスラックの買収をかつて検討していたとされるマイクロソフトも黙ってはいない。スラックと似た機能を実現する競合製品の「Microsoft Teams(チームズ)」を投入。マイクロソフトの「Office 365」で利用できるチャットツールだ。マイクロソフト製品は、ビジネス市場に広く、深く、浸透しているだけに、間違いなく強力なライバルになる。 巨人の攻勢を受けても、バターフィールド氏の自信は揺るがない。「マイクロソフトの動きは脅威ではなく追い風。スラックが狙う市場は有望とのお墨付きが得られたわけだから。当社は米IBMや米オラクル、独SAPなど大手から新興系まで、多くのIT企業とパートナーシップを結んでいる」 企業内の情報のやりとりで最も重要なのは今後も「テキスト」であり続けるという。スラックは、AI(人工知能)や機械学習を駆使し、過去のやりとりを簡単に共有できる技術の開発に取り組む。優先順位の高いメッセージを抽出したり、要約したりすることもできるようになりそうだ。進化を加速させることで、ビジネスチャットのリーダーとしての地位を揺るぎないものにしようとする。 「10年後にグーグルのようになるのか」とバターフィールド氏に聞いたところこんな答えが返ってきた。「扱う技術が違うから置き換わることはないだろう。だが、同規模の成功を収められるかという質問なら、答えは『イエス』だ」』、「マイクロソフト」からの攻勢を「進化を加速させることで」受けて立とうというのは勇ましい。今後の動向を注目したい。

次に、10月23日付けダイヤモンド・オンライン「フラットな組織も崩壊、「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/218157
・『資金調達にサービスの立ち上げ、上場や事業売却と、ポジティブな側面が取り上げられがちなスタートアップだが、その実態は、失敗や苦悩の連続だ。この連載では、起業家の生々しい「失敗」、そしてそれを乗り越えた「実体験」を動画とテキストのインタビューで学んでいく。第5回はGunosy創業者でLayerX代表取締役社長の福島良典氏の「失敗」について聞いた。 ニュースアプリ「グノシー」を提供するGunosyの創業は2012年のことだ。東京大学大学院に在学中の福島氏とその同級生だった吉田宏司氏、関喜史氏が2011年に趣味として公開したサービスこそがその母体になっている。 起業後、サービスは順調に成長。2015年には東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たした。創業から2年4カ月というスピードだった。2017年には東証一部市場に市場を変更している。 その後福島氏は、2018年8月にブロックチェーン領域の事業を手がける子会社のLayerXを設立。同社の代表取締役社長に就任する。 2019年7月には、そのLayerXをGunosyからMBOして独立。同10月には取締役にユナイテッド元取締役でXTech Ventures共同創業者の手嶋浩己氏らを招聘(しょうへい)して、新体制で事業を展開している。そんな福島氏に、Gunosyの創業秘話と、当時経験した4つの失敗を語ってもおう』、絵に描いたような成功物語のように思えるが、やはり「失敗」はあったようだ。
・『創業からの7年間「苦労しかなかった」  グノシーは、もともとは機械学習の研究室にいた同級生3人で「何か自分たちで作りたい」という話をしていたところからはじまったサービスです。機械学習の分野では、自分たちでプログラムを書いて、自分たちでデータをさわっていないとスキルが上がりません。だからプロダクトも自分たちで作らないといけないと考えていたんです。いざ作ったところで、正直なところ、それがビジネスになるかどうかも分かりませんでした。 ですがおかげさまでサービスはすぐに伸びてきて、「スマートフォン×ニュース×機械学習」という領域に可能性を感じるようになっていました。それと同時に、趣味として週末にメンテナンスをしている程度では、サービスは終わってしまうとも思いました。サービスって、常に改善していかないと死んでしまうんです。 長い目で見たとき、インターネット上に記事が増えてきて、「ニュースはパーソナライズされるのが当たり前」となる世界が来ることについては確信がありました。もしそれを僕らがやらなかったら、グーグルやヤフーがやるんじゃないか?それって悔しい、と思ったんです。そうしたことが起業につながりました。 もう1つきっかけになったのは、当時のスタートアップバブルです。周囲の大学生が続々と起業するタイミングでした。当時僕は22、23歳の頃。一度起業して、失敗したとしても、そのあとは普通に働けると思ったんです。ビジネスにできるかどうかは分からない。でも信じられる未来がある。キャリアとして考えれば、スタートアップをやるのはむしろ人生にとってプラスだろうと考えたんです。 結果として、僕たちは創業から2年4カ月で上場することができました。世間一般の定義で見れば、僕たちの起業は成功だと思います。ですが、起業家として走っていた僕自身は、めちゃくちゃ失敗をしていたんです。サービスが本当に伸びるのか、マネタイズが本当にできるのかと、不安なことも数多くありました。事業をするお金も集まって、「やるしかない」と覚悟を決めてもがき続けた7年間です。よく「急成長して、苦労はかなかったんですか?」と聞かれるのですが、「苦労しかなかったですよ!」としか言えません(笑)。 (競合サービスも同じ時期に出てきていたので)競争も意識せざるを得ませんでした。ですから、「絶対的な数字が伸びてる」ということよりも、競合やグローバルにあるサービスと比較して、細かいことや新しいことをしないといけないという危機感を持ち続けていました。もっとユーザーにとって便利なサービスにしなければいけない。でも便利なだけでも使ってもらえない。何よりまず、どうやったら知ってもらえるのか。そんなことをひたすら考えていました』、「「やるしかない」と覚悟を決めてもがき続けた7年間です」、「競合やグローバルにあるサービスと比較して、細かいことや新しいことをしないといけないという危機感を持ち続けていました」、やはりこうした「危機感」を持ち続けることが大切なようだ。
・『マーケットが伸びる前に勝負に出る  ニュースアプリとしてのグノシーは、上場した年に初めて利益が出ているんです。それがなぜここまで成長したのかを考えると、「マーケットが伸びたから」のひと言に尽きると思っています。もちろん、ものすごい努力をしてきた自負はあります。ですが同じように努力しても、マーケットがずれていたために幸運を受けられなかった企業はたくさんあると思っています。それは、紙一重の差だったんだと思います。 当時、「スマートフォンで、アルゴリズムを使ってニュースを効率化していく」というところで勝負したのが、世の中に刺さったんだと思います。その時点だと、多くの企業にとっては「やってくる(マーケットができる)」かどうか分からなかった。まだマーケットが伸びるか怪しい時に勝負に出たからこそ成長できたんだと思っています。 2015年に上場して、2017年に東証一部上場まで会社を経営してきました。そして今、ブロックチェーンという次の大きな流れを感じています。インターネットが始まって以来の大きな革命に挑戦しようと思い、もともとGunosy傘下だったLayerXをMBOしました。 LayerXの事業は、ブロックチェーンを使ってプロダクトを作りたい企業に対して、そのお手伝いをするというものです。企業に対して開発のコンサルティングをしたり、ビジネスモデルの構築をしたりとお手伝いしています。僕らは企業に向けてソフトウェアライセンスを作り、それを使っていただく、もしくは提携や共同事業なども進めていきます。AIの領域で言えば、PKSHA Technology(パークシャーテクノロジー)、PFN(Preferred Networks:プリファードネットワークス)、HEROZといった開発会社がありますが、そのブロックチェーン領域版です。 インターネットの大きな波がやってきた中で“正しいポジション”を取った企業は大きくなっているんです。ヤフーや楽天、サイバーエージェント、グローバルならGoogleやAmazonですね。そのあとにはモバイルインターネットの波もありました。彼らは大きなリスクを取り、それをコントロールしてきました。同じように、大きな入り口に立たないと成功は難しいと思っているんです。パラダイムシフトが起きる時、リスクを取って“ファーストペンギン“――つまり新領域に一番乗りで挑戦するスタートアップになりたいと思っています。僕らはブロックチェーンについて、時代がやってくると確信しています。ですがまだ確定しているわけではなく、周囲は半信半疑です。そんなところに張りたいと思っています』、頼もしい心掛けだ。
・『「自分の頭で考えていなかった」で直面した、4つの失敗  僕は今まで多くの失敗をしてきました。その原因は何かいうと、「自分の頭で考えていなかった」ということ。自分の頭で考えきらずに、マーケットで言われている常識や定説と、起業家として直面する「リアル」に差があることに気付いていなかったんです。 具体的には、(1)「フラットな組織がいい」と言われていたが、実際には崩壊してしまったこと、(2)「テレビCMはブランディングだ」と言われていたが、実際に作ってみるとCPA(Cost Per Action:1人あたりの獲得コスト)が想定の100倍になってしまったこと、(3)「アプリはプラットフォーム化すべき」といわれていたが、実際には誰も使ってくれなかったこと、(4)「受託ビジネスはよくない」と言われていたのに、今は受託で伸びている会社がいること。この4点です。 まず、フラットな組織についてです。僕は、人の出せる能力の総数は「能力×情報へのアクセシビリティ」だと思っています。ですがここで人間のメカニズムを無視しちゃいけないんです。どういうことかというと、人間本来の機能的に「部下を一定数以上付けるとマネジメントが破綻する」ということがあります。Slackのようなツールを使うことで多少は補完できても、1人で100人のマネジメントはできないんです。 それなのに「フラット=階層的でない組織」と一面的に考えてしまい、(中間層の)マネージャーを置かなかった。その結果、マネージャーは部下の体調管理すらできなくなってしまって、チームに不満がたまり、多くの人が辞めていくことになりました。フラットな組織の良さって、つまりは情報の平準化だったんです』、本来、組織の在り方は、業種、企業の発展段階、従業員の質など多くの要素により決まるので、「フラット」が最善とはいえない筈だ。福島氏も実践するなかで、問題点を解決していったようだ。
・『次にテレビCMについてです。CMを作った経験はこれまでありませんでしたが、有力なマーケティングの手段だろうとは考えていました。これまでやってきたモバイル広告の運用では、(クリエイティブを複数作り)CPA、、つまり獲得単価を見ながら高速でPDCAを回すという手法をとってきました。ですが、テレビCMは素材1つ1つのコストもかかります。それで、「ドーンと作って、バーンとやる。ブランディングなので、CM中に同じフレーズを何度も言う」といった提案をいただいたんです。 僕らが未熟だったので、何の疑問も持たずにそのとおりCMを制作した結果、CPAが想定の100倍になってしまったんです。もちろん同じ作り方でユーザーをうまく取った企業もあるんですが、僕らは数字を地道に見つめて、積み重ねていた会社です。テレビCMだってモバイルマーケティングのように何かしらの指標を作るべきだったんです。その後、クリエイティブを出し分けて、反響を測定していくことで、CMの効率を上げることができました。「得意な方法」を最初からできなかったのは、大きな反省です』、「クリエイティブを出し分けて、反響を測定していくことで、CMの効率を上げることができました」、と改善したところはさすがだ。
・『3つめのアプリのプラットフォーム化ですが、中国の「WeChat」はご存じでしょうか? 彼らはメッセンジャーアプリからスタートして、決済をはじめとした機能を増やしてアプリをプラットフォーム化していきました。彼らを見て、生活での接点を増やして、ユーザーのエンゲージメントを強くするいい事例だと思っていたんです。インターネットの歴史を調べると、Yahoo!もそうですが、プラットフォーム化、ポータル化は“王道”の戦略です。じゃあグノシーでもニュース以外の接点を持てないかとやってみたんですが、これがユーザーに使われなかったんですよ。 戦略的には正しいという思い込みがあったんですけど、結局のところ、ニュースを読みたい人はニュースを読みたいんです。旅行の予約をしたいわけでも、マンガを読みたいわけでもありませんでした。ネットサービスでは「プラットフォーム化」とはよく言いますが、意味がない多機能化をしても仕方ないんです。大事なのはマーケットを観察することと、「何を求めているか」を考えることなんです』、確かに、一時は「ポータル化」が流行ったが、それに成功したのはごく一部にとどまったようだ。
・『「受託」が正解だったと証明したい  4つめの受託ビジネスは、今まさにLayerXで挑戦しているところです。前述のPKSHAやPFNなどは、機械学習の領域でも、(自社サービスではなく)クライアントワークや企業との共同事業をメインにしています。この10年ほどで生まれたスタートアップの中を見ると、メルカリやSansanのような飛び抜けた事例を除いて、領域として大きく成長しているのは、実はこの領域(機械学習関連の受託事業)だけなんです。 「受託」というと誤解を生むかもしれませんが、パートナー企業からお金をいただいてサービスを作る、ということに可能性を感じています。もちろん自社だけでできる事業で協業をすると、意志決定のスピードは(パートナーに引きずられて)遅くなります。ですが、たとえば「自動運転の技術を作りたい」となった時に自動車の企業と組まないのは筋が悪いですよね。結局「何がプロダクトを作るまでの最速なのか」を考えないといけません。 また、日本はベンチャーファンディングで研究開発をするのが難しい国なんです。もちろんその後は自社サービスをやるのですが、最初はクライアントワークをやっていたという企業は多いんです。ZOZOはECサイトの開発をやっていたし、サイバーエージェントは広告代理店業を今もやっています。GMOも、オンザエッヂ(のちのライブドア)もそうです。 もちろん受託にも質があります。売り上げなり、ノウハウなり、アセットなりがストックされていくものでなければいけません。それでビジネスへの入り方を間違えなければ、大きくスケールします。世の中的には「受託はカッコ悪い」と言われます。ですが、小さいときにはクライアントワークでも成長するので資本効率的には悪くないんです。そこも含めて、考え方をフラットにしないといけません。僕らも現在進行形でトライしているところです。これが正解だったと証明していきたいと思っています』、「小さいときにはクライアントワークでも成長するので資本効率的には悪くないんです」、その通りだろう。
・『原理原則はあっても、「自分で考える」ことが大事  これからの起業家の皆さんには、「とにかく自分で考えよう」と伝えたいです。起業家というのは、ないものづくしな中でジャイアントキリング(格上を倒す番狂わせのこと。ここではスタートアップが大企業を超えることを指す)を起こさないといけません。 今は、僕が起業した頃よりもまわりにアドバイスをしてくれる人もいるし、書籍も含めて、情報量が増えています。そこから学ぶ「原理原則」はあるんですが、そういうものはツールでしかありません。結局ジャイアントキリングを起こすには、その人しか見つけていない型であったり、考え方が必要です。瞬間瞬間、自分の組織に合った意志決定が求められるんです。 組織個別性の「正しさ」しか、スタートアップが大企業に勝つ道はありませんから。常識が勝つ世界、定理で勝つ世界というのは、すなわち大企業が勝つ世界なんです。スタートアップは失敗する。一度失敗するからこそ、リカバリして勝つ。それがスタートアップの真理です。僕はこれからもたくさんの失敗をするでしょう。でもそこで諦めずに、立ち上がります。そうやっていくのが真の起業家なんだと思います。福島氏の略歴は省略)』、「常識が勝つ世界、定理で勝つ世界というのは、すなわち大企業が勝つ世界なんです。スタートアップは失敗する。一度失敗するからこそ、リカバリして勝つ。それがスタートアップの真理です」、その通りなのだろう。私にはスタートアップはいまさら難しいようだ。

第三に、作家・生活史研究家の阿古 真理氏が11月8日付け東洋経済オンラインに掲載した「16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/313162
・『15歳という若さで種苗会社を始めた高校生がいる。東京在住の小林宙(そら)氏、現在16歳の高校2年生だ。会社の名前は「鶴頸(かくけい)種苗流通プロモーション」。伝統野菜を主とする種と苗と、農薬・化学肥料不使用の伝統野菜の販売を行っている。 京都名物、千枚漬けの材料になる聖護院かぶら、東京の練馬大根、金沢野菜の金時草、鹿児島の桜島大根、味のよさで知られる山形のだだちゃ豆。最近、食の世界で注目を集める伝統野菜のブランドはもともと、土地の人たちが種を採り受け継いできた在来作物である。ほかにも、全国には多様な在来の野菜や穀物がある』、「15歳という若さで種苗会社を始めた高校生」、とは驚いた。
・『幼少期から種と植物に興味があった  一方、私たちが普段スーパーや八百屋で購入するのは、種苗会社が種を管理し販売するF1種と呼ばれる1代限りの交配種だ。農家は毎年、種を買わなければならないが、栽培や収穫が楽なので、昭和後半に多くの産地で在来作物と入れ替わっていった。例えば神奈川県の三浦大根は、1979年の台風20号で大きな被害に見舞われたことをきっかけに、F1種の青首大根が急速に普及し、栽培が衰退した。 F1種に押され、絶滅の危機に瀕する在来作物を守ろうと取り組む人たちは、全国にたくさんいる。それでも、衰退を止められない。もう一刻の猶予もない、と会社を立ち上げたのが小林氏だ。 インターネットなどで全国の種苗会社から仕入れた種は、小学生時代から通っていた絵本カフェや、農業書センターのほか、花屋、カフェなど10店ほどの店で委託販売をしている。店の販売スペースをふさがないよう、袋は小ぶりにし、1袋200円を中心にしている。大量に売れるのは、都内のほか全国で開かれる食のイベントに参加した折だ。 平日は学業で忙しいので、仕事をするのは週末。細かい作業で手間がかかる種の袋詰めには、2人の妹や学校の友達に手伝ってもらうこともあるという。それにしても、この若さにしてなぜ種苗、しかも在来種に特化した、会社を始めようと思ったのだろうか。 小林氏は、幼少期から種と植物に興味を抱いてきた。最初のきっかけは、小学校1年生のとき。学校で育てた朝顔から種を採り、再びまいてみたところ見事に花を咲かせたのに、2度目は葉があまり茂らず茎も頼りなく、咲いた花がとても小さかったのである。一方、幼稚園児の頃、庭に埋めたどんぐりは、めったに生えてこないはずなのに芽を出した。こういった出来事から好奇心をかき立てられ、野菜の苗を買って育てるようになった。 あるとき、ホームセンターの種売り場に、苗では売られていない野菜の種がたくさんあることに気づく。野菜や種についてもっと知りたい、と東京・神田神保町で古書を探し、専門的な本を集める農文協・農業書センターにも通い始める。 中学生になると、インターネットでも自分が知らない種がたくさんあることを知り、もっと集めたいと思うようになる。たくさんある種の中に、在来野菜のものもあった。それらの種は、栽培されている地域の種苗店へ行かなければ手に入れることができない。そこで、家族で父親の出身地の長野県や、父方の祖父が住む新潟県へ帰省するたびに、近辺の種苗店を回るようになった。長野県や新潟県には種苗店がたくさんあった』、「私たちが普段スーパーや八百屋で購入するのは、種苗会社が種を管理し販売するF1種と呼ばれる1代限りの交配種だ」、初めて知った。「野菜の種」についての興味は本格的だ。
・『種苗店が廃業している実態を知る  中学生になると、両親から「関東の日帰り圏内なら、1人で行っていいよ」と言われ、関東の種苗店を回るようになった。高校生になると、「泊まりで行ってもいいよ」と言われる。夏休みなどの長期休暇に1週間ほどかけ、素泊まりできる民宿や、バックパッカーが泊まる宿などに泊まる旅をしている。 小林氏は民宿で、地元の食材を使った料理などを教えてもらうという。「種から育てたものを、その地域の食文化の中でどう食べるのか知ることも大事。自分で種を採る農家の人たちは、自分の好みの味にしようと思って種を選んで育てるので、その地域でどういう味がおいしいと思われているのか、体感しておきたい」と小林氏は説明する。 各地を回るうちに、種苗店がどんどん廃業していることに気づいた。「日本種苗協会という業界団体から脱会する人が多いのです」と小林氏が言うので、協会のウェブサイトを調べたところ、2018年度には27人も脱会していた。 「次に、お店にある資料を見て、『この種ありますか?』と聞くと、『その種を採っている人が亡くなっちゃったから、扱えないわ』と言われることが、行く先々であるんです」と小林氏。実情を知るにつけ、種を守らなければという思いが募る。 2018年、高校合格が決まってすぐに会社を起こしたのは、在来作物の種を全国区で流通させることが、「日本全体で種をコレクションするのと同じ」と考えたからだ。「地域を超えて種の需要を生み出し、全国規模で流通させることで保存していく」ことを社是としている。 起業にあたり、小林氏はまず父の了解を得るため、企画書をまとめた。書類を作ったのは、小林家にはおこづかい制度がなく、欲しいものを親に説明してお金をもらい、購入後は領収書を渡す習慣があったからだ。父は、驚きつつも会社形態にすると責任も持つのでよい経験になる、と認めてくれた。 両親は会社勤めで親戚は教員中心と、種の会社を設立する手続きについて詳しい大人は周りにいない。小林氏は、インターネットや法律関係の書籍などで調べ、種苗店にも相談した。 「中学生がアポイントを取ろうとしても、絶対断られる。直接社長に会えそうな小さな会社へ行こうと、社長が日本種苗協会の理事をしている埼玉県の野原種苗を訪問しました。販売する種の袋に書く情報や、写真の版権についてなど、いろいろ教えていただいてお世話になりました」』、「「地域を超えて種の需要を生み出し、全国規模で流通させることで保存していく」ことを社是」、とは本格的だ。
・『多くの人に支えられ事業が広がっていく  10代の小林氏は、たくさんの人に支えられている。いちばんの支えになっている両親は、折々に助け舟を出してくれた。栽培について詳しいのは農文協の書籍、と教えてくれたのは母。同僚から群馬県伊勢崎市に畑を借り、開業届を出すのに同行してくれた父。 小学生のときに母に連れられて行った食のイベントでは、農文協に知り合いができた。そして、当時同協会が発行していた『のらのら』という子供向けの農業誌で取材された。小学校6年生のとき、同誌の企画で都内に住む種採り名人から、種の採り方を教わったのである。 「その方はサラリーマン。会社の屋上の菜園で、公園で落ち葉を拾って堆肥を作り有機栽培しているんです。都会に住んでいても、自分で動いたらできることがあるのではないか、と気づかされました」と小林氏は話す。 中学校の課題の職場体験でも、農文協で編集補助をさせてもらった。親しくなった編集者に、畑で野菜が穫れすぎた話をすると「売りにおいでよ」と言われ、イベントで販売させてもらったこともある。店を手伝ったからと農文協の本をもらい、野菜を詰めてきた段ボールに、今度は欲しい本を詰めて帰る。そして野菜や種についての知識をたくさん教えてもらってきた。) 起業してまだ2年目のため、種の販売だけで利益はそれほど上がらない。伊勢崎市の畑で作った野菜を販売する、イベントの講師や執筆などで、運営資金を捻出している。今年9月には『タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ』という本も出した。自分の給料が必要ないので、何とか赤字にならずに回っているという程度だ。株式会社にはしておらず、個人事業主なのでそれでも大丈夫なのだという。 NPOにする方法もあるのではないかと問うと、将来、農業法人化して畑を借りることを考えているから、企業が望ましいという小林氏。「種がなくなっていくのは、農家の副業として種採りができる人がいなくなっているからで、種採りの技術を継承する人を増やせるようにしたいと思っています」と話す。 そして、補助金をもらいながら運営する方法は難しいと言う。「やり始めたら際限のない仕事なので、使用目的を限定する補助金は違うのかなと。もちろん協賛してくださる方から寄付をいただくのはいいと思います。今はクラウドファンディングなど、事業を応援してもらう方法は、いろいろありますから」』、「高校生」とは思えないほどしっかりしていて、頼もしい。
・『利益より種を流通させることが大事  鶴頸種苗流通プロモーションは今のところ、将来も副業とするつもりだとも言う。「好きなことを本業にすると失敗する、という話をよく聞くので。それに、お金にならないから辞める、という事態を避けたいです」と語る。 利益より、種を流通させることが大事と考える小林氏。委託販売を行うのも、種に興味がなかった人に知ってもらうことが目的の1つである。 小林氏がそこまでして種を守ろうとするのは、多様性を守るためである。有名な話では、1845年にアイルランドでジャガイモ飢饉が起こり、国民の2割以上が餓死し、大量の移民をアメリカなどに出したことがある。それは、単一品種のジャガイモに食料を頼っていたことが原因だった。 今は気候変動が激しく、従来の作物が育てにくくなっている地域もある。多様な種があれば、暑さに強いものなどを掛け合わせで作ることもできる。在来作物を守ることは、野菜や穀物のバックアップをしておくことに等しいのだ。) ただ、在来作物の中には、気候と土壌が変われば特徴ある形や味を失うものがある。例えば大阪の天王寺蕪は、江戸時代に長野の野沢温泉村の健命寺住職が種を持ち帰って育てたところ、茎葉ばかりが成長して野沢菜となった。 全国区で種を流通させれば、特徴を維持できないのではと問うと、「守ることは種苗会社や熟練の種採りの方がやってくださっている。僕は新しい伝統野菜を作ることも大事だと思います。いろいろな地域で新しい野菜が生まれれば非常に面白いですし、町おこしにつながるかもしれない」と明快に答えてくれた』、「アイルランドでジャガイモ飢饉・・・それは、単一品種のジャガイモに食料を頼っていたことが原因だった」、「種を守ろうとするのは、多様性を守るため」、高校生とは思えない説得力がある。
・『種の保存は、地域の食文化や歴史を守ること  種を守ることで野菜や穀物の多様性を守ることは、地域の食文化を守ることであり、受け継がれてきた歴史を守ることでもある。同時に、食料危機を防ぐためでもある。気象変動のため、当たり前に食べてきたものが食べられなくなるかもしれない、と考えればこれが誰にとっても切実な問題であることがわかる。 しかし、小林氏のように若い世代が新しい発想で、種を守る活動に参画していけば、野菜の未来は変わるかもしれない。 平成の30年間に、インターネットの普及で、情報収集や情報交換の手段は多様になった。グローバリゼーションの進行で、社会の構造も大きく変化した。今、世の中は新しい発想、新しい才能を必要としている。年齢や経歴に関係なく、未来を築こうとする人を助けたい、と望む人たちもたくさんいる。 利益を上げることは大切だが、それ以外にも大切なことがあると考える若い世代が登場してきたのは、社会が成熟した証しと言える。さまざまな問題は山積しているが、案外私たちの未来は明るいかもしれない』、こういう志がある若者がいるというのは、例外的存在なのだろうが、頼もしい。
タグ:種苗店が廃業している実態を知る (4)「受託ビジネスはよくない」と言われていたのに、今は受託で伸びている会社がいること アマゾン・ドット・コムと米マイクロソフトという世界を代表する2社がそれぞれ1兆円規模の買収に動いていた 「受託」が正解だったと証明したい (1)「フラットな組織がいい」と言われていたが、実際には崩壊してしまったこと 多くの人に支えられ事業が広がっていく 創業からの7年間「苦労しかなかった」 ビジネスチャット 「16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた」 (3)「アプリはプラットフォーム化すべき」といわれていたが、実際には誰も使ってくれなかったこと 競合やグローバルにあるサービスと比較して、細かいことや新しいことをしないといけないという危機感を持ち続けていました 東洋経済オンライン Gunosy創業者でLayerX代表取締役社長の福島良典氏の「失敗」 常識が勝つ世界、定理で勝つ世界というのは、すなわち大企業が勝つ世界なんです。スタートアップは失敗する。一度失敗するからこそ、リカバリして勝つ。それがスタートアップの真理です 「フラットな組織も崩壊、「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長」 種の保存は、地域の食文化や歴史を守ること ダイヤモンド・オンライン 米スラック・テクノロジーズ フリッカーの買収提案を受け入れた苦い経験 アイアンマンがパワードスーツを着るようなもの マーケットが伸びる前に勝負に出る 利益より種を流通させることが大事 15歳という若さで種苗会社を始めた高校生 「自分の頭で考えていなかった」で直面した、4つの失敗 「アマゾンを“蹴った”、時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由」 「チームズ」で逆襲するマイクロソフト (2)「テレビCMはブランディングだ」と言われていたが、実際に作ってみるとCPA(Cost Per Action:1人あたりの獲得コスト)が想定の100倍になってしまったこと 阿古 真理 幼少期から種と植物に興味があった 東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たした。創業から2年4カ月というスピード その後福島氏は、2018年8月にブロックチェーン領域の事業を手がける子会社のLayerXを設立。同社の代表取締役社長に就任する スラックは、こうした買収提案を蹴って経営の自主独立を守る方針を貫き、株式上場を果たした 原理原則はあっても、「自分で考える」ことが大事 日経ビジネスオンライン ベンチャー (その5)(アマゾンを“蹴った” 時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由、フラットな組織も崩壊 「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長、16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた) 株式時価総額は約195億ドル(約2兆1000億円)に
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カジノ解禁(その8)(ギャンブルが下手な日本人 日本人の脳に迫る⑪、資料ブン投げ映像が波紋…カジノ誘致の林市長は、大前研一「カジノは不要であるこれだけの理由」 世界から見て周回遅れになることも、米中激突で「マカオ利権」が危うい米カジノ 日本上陸の裏事情) [国内政治]

カジノ解禁については、昨年10月19日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その8)(ギャンブルが下手な日本人 日本人の脳に迫る⑪、資料ブン投げ映像が波紋…カジノ誘致の林市長は、大前研一「カジノは不要であるこれだけの理由」 世界から見て周回遅れになることも、米中激突で「マカオ利権」が危うい米カジノ 日本上陸の裏事情)である。

先ずは、脳科学者の中野 信子氏が昨年11月11日付け現代ビジネスに掲載した「ギャンブルが下手な日本人 日本人の脳に迫る⑪」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58381
・『今年の7月、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案が可決され「カジノ」の文字を目にする機会が多くなりました。まだ日本人にそれほど馴染みのないものかもしれませんが、海外でカジノに行かれたことのある方なら、大勢の中国人がゲームにエキサイトしている光景を目にされていることでしょう。 彼らの賭け方は大胆で、堅実に賭けたい“慎重派”の日本人とはやや様子が異なります。今回は「カジノ」を含むギャンブルの“打ち筋”から見えてくる日本人の性質に迫ってみたいと思います』、脳科学からの見方とは興味深そうだ。
・『生きることそのものがギャンブル  ギャンブルには、ひとたび足を踏み入れればお金をむしりとられて破産に至る世界、といったネガティブなイメージを持つ人も多いようです。 一方、海外で遊びなれた方なら、いくらかのフィーを払って仲間たちと賭けの楽しみを買う時間、と理解してほどよくたしなむ方法を身に着けていることでしょう。いわば、大人の社交場、といってよいものでしょう。 では私たちは、なぜ確実なものよりも、不確実な賭けのほうに興奮するのでしょうか。これはギャンブルだけに限った話ではなく、勝負ごとであればスポーツでもビジネスでもパートナー選びでも何でも、すでに結果がわかっているものを私たちは「つまらない」といってこれを顧みなくなってしまいます。 映画や小説や漫画などのあらすじを解説する際に、ネタバレ禁止など半ば暗黙裡にルール化されていることからもわかりますが、私たちは先のことがわからない状態を好む性質があるのです。これはいったいなぜなのでしょうか。 この疑問に対するひとつの答えは、長い生命の歴史の中で、生きることそのものが賭けのようなものだからだったということができるでしょう。 この人は信用できるのか、この仕事をしていていいのか、この人と取引すべきだろうか、この場所に住み続けるべきか、この人と結婚したほうがいいのだろうか、この人と子どもをつくってよいのか……生きるとは、まさに選択の連続です。 選択の連続である生のさなかにあって、確実なことしか選ぶことができない、となると、ほとんど何も決定することができません。そこで、未知の世界に勇んで飛び込んでいけるように(ときには勇み足すぎることもありますが)、わざわざ脳の快感を感じる部位を刺激するドーパミンを利用して、わからないほうが楽しい、興奮する、という仕組みが脳につくりあげられてきたのです』、「生きることそのものがギャンブル」、とは言い得て妙だ。「生きるとは、まさに選択の連続です・・・そこで、未知の世界に勇んで飛び込んでいけるように・・・わざわざ脳の快感を感じる部位を刺激するドーパミンを利用して、わからないほうが楽しい、興奮する、という仕組みが脳につくりあげられてきたのです」、脳科学による分析はさすがに面白い。
・『新奇探索性を決定するドーパミン受容体の遺伝子  ギャンブルに熱くなりやすい、なりにくいで言うと、日本人は比較的熱くなりにくい性質を持った人が多くいる集団です。日本人にはドーパミンの要求量の低い人がほとんどで、高い人の割合は1~5%であることがわかっています。 この人たちは新奇探索性といって新しいものごとや未知の世界に触れたいという性質の極めて強い人たちです。中国や韓国では日本よりはこうした人たちの割合が多いのですが、東アジア全体でみると世界的に多い地域というわけではありません。 多い地域は、南米や南ヨーロッパです。新奇探索性が高いと考えられる遺伝的資質を持っている人は20~25%いるというデータがあります。こうした人たちは、新しいビジネスにも貪欲であったり知的好奇心が高かったりという一般に望ましいと思われる性質も強く持っているのですが、ギャンブルなどにはまりやすくものごとに熱中してわれを忘れてしまいやすいという傾向もまた強いのです。 ただ、日本にはドーパミンの要求量が多い人であっても、そこまで熱くなる人は比較的少ないということは言えるでしょう』、「日本人は」「新奇探索性」が中国人や韓国人より弱いというのは、ベンチャー創業が少ないことにも通じるのかも知れない。
・『ギャンブルにハマる脳の二大要因―報酬系と前頭葉  ギャンブルは依存を引き起こすことがあります。 勝負勘があるビジネスマンなどで、ギャンブルでも博才を発揮してハマっているけれど、お金の出入りもコントロールできているし周囲も困っていない、というのは依存とは言いません。これは報酬系が刺激に対して反応をくり返しているだけです。この報酬系とは、受験勉強や農作業など目的に向かって頑張っているときに味わう快楽のこと。 依存とは、自分が困っていて周囲も困っている、という状況を指します。例えば、奥さんと子どもがいるのに、働かないで朝から晩までギャンブルに夢中で、あげくの果てに借金を抱えてしまう、といったケースです。 なぜそのような思考を生んでしまうのでしょうか。新奇探索性以外のもうひとつの要因は、前頭葉です』、なるほど。
・『遠い時間軸の損得を勘定できない―時間割引率  目の前にある10000円と1週間後の12000円では、どちらの価値が高いでしょうか。単純に考えれば10000円よりは12000円のほうが価値が高いですよね。しかし、確実に目の前にある10000円をとらなければ、1週間後の12000円は不確実性が高いのだから、もしかしたら12000円が手に入らないかもしれない。 このとき「1週間という時間を前倒しすることが、約17%お金の価値を目減りさせている」と考えることができ、これを時間割引率と言います。行動経済学の概念です。 確実ではないけれど、待てば利益は高くなる。人間は欲の深い生き物ですが、どちらの選択肢をとればより多くが手に入るのか、それを計算する機能を私たちは本来は持っています。 ただ、冷静な計算ができず、未来の富をその額と不確実性とを天秤にかけたときに、不確実性のほうを過小評価する人もいます。ゲームを続ければ不確実だが巨額の利益を得られるのではないか……こう考える傾向が強いとき、自分の行動を冷静に制御することが難しく、ギャンブル依存症になりやすくなると考えられます』、「冷静な計算ができず、未来の富をその額と不確実性とを天秤にかけたときに、不確実性のほうを過小評価する人」、は「ギャンブル依存症になりやすくなる」、その通りなのかも知れない。
・『将来の不確実性のリスクがビジネスの力になる  この遠い時間軸のことを冷静に考える力は前頭葉が担う能力です。 生まれながらに前頭葉の能力が高くなることを運命づけられている遺伝的資質の持ち主もいるのですが、それでも適切な養育環境がなければせっかくの資質も育ち切らずに終わります。 早ければ7歳、遅いと9歳くらいからこの部分は厚くなりはじめ、11歳から13歳くらいまでかけて一気に成長します。その後も時間をかけて徐々に完成していくのですが、やはり重大な時期は思春期。しかるべき教育を与えられないだとか、知的に貧困な環境にある、この時期に虐待を受けてしまうなどの悪条件が重なると、遠い時間軸の話を適切に評価できず、わかりやすい額の大きさに負けてギャンブルに失敗しやすくなる、ということが起こります。 ギャンブルでは必ず胴元がもうかる仕組みをつくっています。客に「勝っている」という感覚を持たせながら、コミッションなどのかたちであまりそれとは意識させないように少しずつ利益を集める、という方法をとっています。 この原理原則さえ知っていれば、少額で長く遊べば遊ぶほどだらだらとマイナスが込んでいくということがわかるので、楽しんだらそれで切り上げよう、だとか、大きく賭けてある程度勝ったタイミングでさっと切り上げよう、などと方針を立てやすくなるのですが、そうできる人とできない人の差は大きいようです。 ただ、将来の不確実性によるリスクを低く評価し、より大きく勝負に出るという性質は、それが仕事に適切に生かされれば、能力を存分に発揮してビジネスを展開していける力になり得るものかもしれません。確実な利益か、未来の不確実な勝負か。どちらを選択するかに定まった正解はなく、だからこそ賭けに対する人間の性質にも多様性が存在するのです。 しいて言えば、自分の選んだ答えを正解にする力が重要、といったところでしょうか』、「将来の不確実性によるリスクを低く評価し、より大きく勝負に出るという性質は、それが仕事に適切に生かされれば、能力を存分に発揮してビジネスを展開していける力になり得るものかもしれません。確実な利益か、未来の不確実な勝負か。どちらを選択するかに定まった正解はなく、だからこそ賭けに対する人間の性質にも多様性が存在するのです」、短所にみえても、長所にもなり得る、」やはり人間とは複雑な存在のようだ。
・『高揚感の正体―期待感と報酬でドーパミンを放出  賭け事をしている最中に高揚を感じさせる仕組みは、基本的には恋愛と一緒です。報酬系にドーパミンが放出されると快楽を感じるようにできています。ギャンブルではこのドーパミンを出させるよう、うまく設計されています。また、そういったゲームしか現代に残っていません。 ゲームによっては勝敗の確率がランダムに変動するかもしれないし、アクションに対して報酬が得られるかどうかわからなかったりします。この不確実性がポイントです。 こちらからのアクションに対して確実に利益があるのなら、これはもうゲームではなくて作業です。地道な喜びはある場合もあるかもしれませんが、そこに私たちは大きな快楽を得ることはほとんどありません。できるだけ不確実に、変動する割合で、変化のある間隔で報酬が来る。すると、私たちの脳はあっという間にそのアクションをし続けるようになります。 ボタンを押せば確実に利益が来るとわかっていれば利益の欲しいときだけボタンを押す。このときドーパミンはそれほど出ません。しかし、ボタンを押してもいつ当たりが来るかわからない。だから、ずっとボタンを押し続ける。そして当たりが来るかもしれないと期待しているとき、脳にはドーパミンが多く放出されるというわけです。 これが、私たちが高揚感を感じ、ハマっていくときの脳の仕組みです。 ギャンブルを賢く遊んでいる人とわれを忘れてハマっている人の違いは、お金を増やすのではなく、お金で楽しみを買っているという認識の差だということがわかっています。つまり、お金がもったいない人は損をしたと思うし、ハマっている人からすれば使っているお金の額はどうでもよく、そのとき大当たりしたのかどうか、つまり高揚感の大きさのほうが大事です。 冷静にカジノゲームの仕組みを考えると、賭けた目の倍率が高いほど控除率(胴元が持っていくお金の割合)も高く設計されているので、高い倍率の目に多く賭けることは長期的には損になることがすぐにわかるはずです。しかし、ハマっている人は冷静に考えることができず、自分だけは高倍率の目が当たり続けて得をする、という認知バイアスの罠にかかってしまっています』、「ボタンを押してもいつ当たりが来るかわからない。だから、ずっとボタンを押し続ける。そして当たりが来るかもしれないと期待しているとき、脳にはドーパミンが多く放出されるというわけです。 これが、私たちが高揚感を感じ、ハマっていくときの脳の仕組みです」、「ハマ」ることの脳科学的説明は、なるほどと納得させられた。
・『お金を使わせる仕掛け  カジノのメインゲームに「バカラ」と「ルーレット」があります。これらのゲームでは、勝敗や出た目の数を記録できるようになっています(一方、ブラックジャックではこうした行為は許されていません)。どうしてバカラとルーレットではそのような行為が許されているのでしょうか。 逆説的ですが、これは結果がほぼランダムであり、記録をつけさせても勝負に影響しないことがわかっているからです。つまり、つけさせるという行為そのものに意味があるということです。 記録をあえて見せることのメリットはいったい何なのでしょうか。記録を見せると、人は次の目を予測しようとします。その予測が当たるか外れるか。この勝負によってさらに客のドーパミンを多く分泌させることができ、より「自分独自の理論を打ち立てれば連戦連勝できるかもしれない」という錯覚――認知バイアスを強めることができるのです。 もちろんカジノ側もこの錯覚を持ってもらったほうがもうかるのですが、客側もそのほうがよりドーパミンを出すことができてゲームを楽しめるため、記録をつけることによって互いにwin-winの関係をつくることができる、とも言えるでしょうか。 そのほかにも高揚感を盛り上げるためのキラキラした内装、音楽、パフォーマンスやディーラーの容姿やファッションなど、カジノにはドーパミンを出させるための仕掛けがたくさんあります。それで完全にハマってしまう人もいますが、客を楽しませるためのコミッションとして適正な額を支払う、という意識を大切にしていればハマりすぎることにブレーキを掛けられるのではないでしょうか』、「記録を見せると、人は次の目を予測しようとします。その予測が当たるか外れるか。この勝負によってさらに客のドーパミンを多く分泌させることができ・・・認知バイアスを強めることができるのです・・・そのほかにも高揚感を盛り上げるためのキラキラした内装、音楽、パフォーマンスやディーラーの容姿やファッションなど、カジノにはドーパミンを出させるための仕掛けがたくさんあります」、カジノの商売を上手くやるための仕組みにも、脳科学的にみても合理性があるようだ。
・『自分自身と相手とを知るきっかけとして賢く遊ぶ  これまで説明してきたとおり、日本人に多く見られる形質の持ち主の勝負の仕方というのには特徴があります。慎重で自分を守りながら損失を少なくして勝とうとするやり方です。 ビジネスでも、手堅く勝っていわゆる富裕層にはなれるけれど、大勝して世界的な大富豪に、という人は少ないようです。資産が1億円以上の人は多くても10億以上の人は意外なほど少ない、ということを聞きます。 日本で生き延びることを考えるのなら、富裕層を目指すやり方がよいのでしょうが、世界で勝負していく、ということを考えたときに、これまでの自分のやり方でいいのか、と自問自答するきっかけに賭け事で楽しむ時間はなり得るかもしれません。 自分自身の勝負のクセは、自分でコントロールできていると思っていても、意外と把握できていなかったりするものです。慎重だと自認していても、大胆な勝負をできる自分を発見したり、その逆に意外なほど慎重派だったということを知るかもしれません。 また、あの人は思ったよりずっと大きな勝負が好きなタイプだ、とか、自分の奥さんは大雑把に見えていたけれど意外と堅実だった、などと自分の周りにいる人についても新しい発見があることでしょう。ゲームを通じてその人の本質が透けて見えるとき、人間観察の場としてカジノの面白さは倍増するでしょう。 多くの人がギャンブルを品よく楽しむことができ、気付きを与えてくれる場として賢く活用していけることを願っています』、最後の部分のまとめは実に巧みだ。さすがと脱帽。

次に、8月26日付け日刊ゲンダイ「資料ブン投げ映像が波紋…カジノ誘致の林市長は」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/260835
・『カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致表明をめぐり、横浜市が大揺れだ。カジノ誘致を「白紙状態」と訴え、一昨年3選した林文子市長の方針転換に市民は猛反発。22日に市役所で会見した林市長は報道陣の追及にイラ立ちを隠さず、終了後のペーパーぶん投げ映像がSNSで拡散され、ますます株を下げている。林市長のリコールを求める動きは加速必至だ。 会見で林市長は、カジノ誘致の理由として高齢化や人口減少による財政難を挙げ、開業後の経済効果が1兆円に上るとの試算を公表した。しかし、昨年、市が実施したパブリックコメントでは94%が誘致に否定的。そうした点を会見で問われると、「〈白紙にした〉というのは一切やりません、ということではないんですよ」「納得いくかは、みなさまがお決めになること」と憮然とした表情で開き直っていた。 会見後の林市長の行動もホメられたものじゃなかった。24日放送の「報道特集」(TBS系)が悪態をオンエアし、話題騒然だ。それによると、ペーパーの束を手に仏頂面で会場を後にした林市長は執務スペースに姿を消した。その直後、すりガラス越しに見えたのは、大量のペーパーが放り投げられ、宙に舞う様子。林市長が怒りにまかせてブン投げたのだろう。林市長の本性が垣間見えるこの映像はツイッターで拡散されている』、林市長は産業再生機構下にあったダイエーの社長をやったが、パフォーマンスばかりで何ら実績を残さなかった。今回は、記者会見後、自室での行状とはいえ、余程、腹に据えかねたのだろう。
・『カジノ問題に詳しいジャーナリストの横田一氏は言う。 「市民の間では〈林市長にだまされた〉という声が広がっている。市長リコールと同時に、カジノ誘致の賛否を問う住民投票実施に向けた署名集めの動きに弾みがついた格好です。前回の市長選で林市長を応援した民進党(現在は立憲民主党)の牧山弘恵参院議員は選挙中、〈林市長はカジノ賛成ではない〉〈市民の意見を聞いて、それに従うことを約束している。一筆取っている〉と言っていました」 横浜市の有権者は312万2275人(7月3日現在)。リコールには約49万人の署名が必要だ。前回市長選の林市長の得票数は59万8115票。カジノ誘致反対を掲げた対立候補2人の得票数は合計で52万7562票だ。クリアできない数字ではないだろう。 「ハマのドン」と呼ばれる横浜港運協会の藤木幸夫会長も「山下ふ頭は我々の聖地。命を懸けて反対する」とボルテージを上げている。林市長は万事休すじゃないか』、菅官房長官の求心力が急速に弱まり、東京都も名乗りを上げそうであることもあり、横浜への誘致には暗雲が立ち込めてきたようだ。

第三に、ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏が11月1日付けPRESIDENT Onlineに掲載した「大前研一「カジノは不要であるこれだけの理由」 世界から見て周回遅れになることも」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/30401
・『日本各地で透けて見えるIR利権  2019年8月22日、横浜市の林文子市長がカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を正式表明した。林市長は「持続的発展には必要」とIR誘致に前向きだったが、2年前の市長選では「IRは白紙」としていた。ここへ来て誘致参戦を明確にした理由について、人口や税収の減少による厳しい財政状況を挙げている。世界的に見てIRの経済効果は薄れてきているので、これはとってつけたような詭弁であり、真実は外交や政治の藪の中、ということだろう。 候補地は観光スポットの山下公園に隣接する47ヘクタールの山下埠頭。現在は港湾事業者の倉庫などが並んでいるエリアだが、2020年代後半の開業を目指すという。 トランプ氏が大統領選に勝利した16年11月にニューヨークを訪問した安倍晋三首相が帰国するなり急遽成立させたのがIR整備推進法案、通称「カジノ法案」だ。その背景にはトランプの最大支援者の1人と言われるラスベガス・サンズなどを経営するシェルドン・アデルソンの影響があると言われてきた。つまり国内のパチンコ利権と対立する海外のカジノ利権を前提とした外交・政治の闇の中で日本の地方自治体が踊っている構図が横浜でも透けて見える。 すでに誘致を表明、あるいは検討しているのは北海道(苫小牧)、千葉(幕張)、東京(台場)、神奈川(横浜)、愛知(名古屋、常滑)、大阪(夢洲)、和歌山(マリーナシティ)、長崎(ハウステンボス)など。沖縄も有力な候補地だったが、翁長雄志前知事に続き、現職の玉城デニー知事もIR誘致には否定的だ』、なるほど。
・『IRの区域認定地域は全国で最大3カ所  IR整備法によれば、IRの区域認定地域は全国で最大3カ所。関西圏では大阪と和歌山が名乗りを上げているが、同じ圏内から2カ所が選定されるとは考えにくい。バランス的には首都圏1、関西圏1、その他1という「割り当て」が予想される。 大阪府・市は大阪湾の人工島・夢洲に万博とカジノをセットで持ってこようと精力的に誘致活動を展開、まずは25年の万博誘致に成功した。IR誘致でも有力視されてきたが、ここにきて雲行きが怪しくなった。大阪のIR誘致に伴って大阪への事業進出に意欲を見せていたのは件のラスベガス・サンズだ。 ところが横浜市がIR誘致を表明した途端にサンズは掌を返して、「大阪の事業者募集の入札には参加せずに、横浜市や東京都の開発に注力する」と方針転換した。マカオのカジノ王スタンレー・ホーの息子であるローレンス・ホー(メルコリゾーツ&エンターテインメント)も東京または横浜、と明言している。大阪府・市は「負の遺産」になっている埋め立て地の再利用などというケチなコンセプトにこだわらず、和歌山も巻き込んで、関空を基点とした新たな構想でIR誘致を推し進めたほうがいい。 二者択一のライバル関係は東京都と横浜市にも当てはまる。ともに羽田空港という国際空港に近く、大型船が入れる港湾を備えていて、誘致条件的には申し分ない。小池百合子都知事は「プラス面もデメリットもある。要検討」と態度を明確にはしていないが、誘致に前向きな言動もちらつく。小池都知事は和歌山のIR誘致の後ろ盾と言われる二階俊博自民党幹事長とは仲良しだが、横浜市が地元の菅義偉官房長官との関係はよろしくない。横浜市の突然のIR誘致表明は、菅氏が小池都知事の初動を封じるために仕掛けた、との観測もある。 カジノを含むIRは巨大な利権の巣窟。IRの区域認定は20年のオリンピック後と言われている。表の誘致合戦と裏の利権を巡る「暗闘」は今後さらに激しくなるだろう。 断っておくが、私はカジノ不要論者である。訪日外国人客数が1000万人に満たなかった12年までなら、訪日客を呼び込む観光素材としてカジノ誘致にもそれなりの意義があっただろう。しかし今や訪日外国人客数は年間3000万人を突破し、20年には4000万人、30年には6000万人という目標を政府は掲げている。 年間4000万人はイギリスやドイツを超える。6000万人ならイタリアや中国と肩を並べる。官僚や政治家のマネーロンダリング(資金洗浄)で栄えた中国のマカオは別として、これらの国々はカジノ目当ての外国人観光客を集めているわけではない。訪日外国人客数が年間3000万人を超える時代にはカジノなどまったく必要ないのだ。 今どき、カジノを新設しているのは東欧やバルト三国、アメリカの先住民族対策地など観光素材の乏しいところばかりで、世界的に見るとギャンブルとしてのカジノ産業は斜陽化している』、「訪日外国人客」による観光公害まで問題視されるようになったなかでは、「訪日客を呼び込む観光素材としてカジノ誘致」の意義は消え失せた。
・『カジノがドミノ倒しのように倒産  カジノ・リゾートとして知られる米ニュージャージー州のアトランティックシティでは14年以降、トランプ大統領が経営していた「トランプ・プラザ・ホテル・アンド・カジノ」をはじめ、カジノがドミノ倒しのように倒産した。 対照的に堅調なのがラスベガスで、こちらはもはや「売春とギャンブルの街」ではない。90年代にテーマパーク型のホテルとコンベンション施設を整備、各種スポーツイベントやシルク・ドゥ・ソレイユ、人気歌手のショーを誘致するなどして、展示会や見本市、国際会議、そしてファミリーデスティネーション(家族旅行の目的地)、リタイアメントタウンに完全に路線変更した。街全体がテーマパークのような「非日常」を提供しつつ、エンターテインメントやショッピングが楽しめる健全な街に生まれ変わって、国内はもとより世界中から観光客を呼び込んでいる。 そのラスベガスからカジノ売り上げ世界一の座を奪ったのがマカオだが、マカオでも14年以降、カジノ収益が大幅に落ち込んでいる。原因は中国のバブル崩壊と政府の反腐敗キャンペーン。マカオのカジノは不正なマネーロンダリングの温床になっていたが、取り締まりが強化されたために高級官僚や企業幹部など富裕層の客足が遠のいたのだ。マカオのカジノ依存経済も転換点を迎えて、ラスベガスのようなIR化が進んでいる。 このように世界的にはカジノビジネスは退潮傾向にあって、カジノを売り物にした日本のIRは時代遅れ、周回遅れの産物になる可能性が相当に高いと私は見ている。 横浜市では、地元の賛否は割れている。横浜商工会議所はIR誘致に賛成の立場を表明しているが、山下埠頭を拠点とする港湾事業者らが組織する「横浜港運協会」はカジノ導入に大反対。横浜エフエム放送の社長も務め、「ハマのドン」と言われている藤木企業の藤木幸夫会長は「山下埠頭は聖地。バクチ場にはしない。ギャンブル依存症への懸念もある。命を張ってでも立ち退きには応じない」と啖呵を切っている』、「世界的にはカジノビジネスは退潮傾向にあって、カジノを売り物にした日本のIRは時代遅れ、周回遅れの産物になる可能性が相当に高い」、その通りだろう。
・『横浜市の将来図  横浜は私が育った土地であり、思い入れも深い。20年ほど前には横浜市の将来図を横浜の財界人の会合に何回か提案している。またその構想は市長が代わるたびに説明に行っているし、かなりの部分は実現してきている。その中で、IR誘致をするのなら、横浜港の瑞穂埠頭の大部分を占めている港湾施設「ノースピア(横浜ノース・ドック)」を使うことを進言した。 このエリアは横浜のど真ん中にありながら、アメリカ軍(陸軍)が港北区の岸根基地から撤退した後もいまだに返還されず、アメリカが占領する形になっている。今さら鉢巻きを締めて返還請求運動を起こすのは横浜らしくないし、トランプ大統領得意のディールに持ち込まれたら、いくら金を請求されるかわからない。 そこで建前上は米軍が占領したままにして、ノースピアにカジノをつくるのである。入るにはパスポートが必要だから、入場管理はしやすいし、ギャンブル依存症のリスクも軽減できる。 ノースピアを使うアイデアは奇抜でもなんでもない。一番オーソドックスだと思うし、これで港運協会の懸念も丸く収まるのではないか。 ラスベガス・サンズが大阪を見限って横浜、東京のIRに乗り換えたのは前述の通り。サンズのオーナーであるシェルドン・アデルソンはトランプ大統領を顎で使う、と言われている。瑞穂埠頭をサンズに献上すればトランプ大統領も喜ぶに違いない。 一方、間もなくマカオのカジノライセンスを失う、と言われているメルコリゾーツのローレンス・ホーには中華街に近い場所を与えて、今やマカオのランドマークになっているグランド・リスボアのようなIR施設をつくってもらうのがいいだろう。 私は世界中のカジノを見てきたが、カジノというのは1つだけぽつんとつくってもなかなか集客は期待できない。商業施設やイベント施設も含めて「集積」させることが非常に大事で、横浜に数社まとめて誘致することができれば、新生ラスベガスやマカオのような賑わいをつくり出せるかもしれない。その中で私が20年来提案し、今や8割方できてきている「横浜をベニスに」という親水性のある構想も完成の領域に達するに違いない』、横浜出身の大前氏にとっては、「横浜市の将来図」は「思い入れも深い」のだろう。カジノには否定的だったのが、最後の部分で、山下埠頭ではなく、瑞穂埠頭であれば前向きに変わったようだ。やはり、同氏の「「横浜をベニスに」という親水性のある構想」実現のためには、必要ということなのだろうか。若干違和感がある。

第四に、デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員の山田厚史氏が11月8日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「米中激突で「マカオ利権」が危うい米カジノ、日本上陸の裏事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/219869
・『マカオの「営業権」満期に 中国の「報復」で排除の可能性  カジノは日本に必要なのか。「もうかる事業」というが、もうかるのは誰なのか。 一部は地元自治体に落ちるというが、もうけとは、博打に負けた人の散財だ。横浜や大阪など大都市が賭博のテラ銭に頼るほど、落ちぶれてしまったということか。 カジノをめぐり多くの国民が疑問に思うのがこうした点だろうが、国際カジノ資本は「100億ドルを投資する」(ラスベガス・サンズ)などと意気込む。  “カジノ処女地ニッポン”は、世界に冠たる個人金融資産を抱えることに加え、パチンコという類似産業が盛んなことも国際カジノ資本が日本に熱いまなざしを向ける理由だが、ここにきて、緊急事態となった。米中激突である。 9月22日のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、「ラスベガス・サンズの創業CEOであるシェルドン・アデルソン氏はトランプ大統領に電話し、米中貿易戦争が米国経済や2020年の大統領再選に与える影響を警告、早期の関係安定化を求めた」と伝えた。 アデルソン氏は、「カジノの帝王」であると同時に、トランプ大統領のスポンサーとしても有名だ。2016年の大統領選では選挙資金として2200万ドル(24億円)を寄付し、大統領就任式には500万ドル(5.5億円)を差し出した。 カジノや不動産事業を通じてトランプ大統領と親密な関係にあり、再選を目指す来年の大統領選キャンペーンの重要人物だ。8月にもホワイトハウスで大統領と面談している。 WSJはアデルソン氏が米中関係の改善をトランプに訴えた背景には、マカオで米国カジノ業者の営業権が危うくなっていることがある、と指摘している。 マカオは1999年、ポルトガルから返還されたが、中国が任命する行政長官が統治している。観光客や資金を呼び込むため2002年にカジノ営業権を外資に開放。香港の華人企業が独占していたカジノ市場に、集客力のある米国資本が参入、ホテルや劇場を併設する統合型リゾート(IR)として急成長した。 マカオに展開する米国企業は、アデルソン氏のラスべガス・サンズをはじめMGMリゾーツ・インターナショナル、ウィン・リゾーツの3社。この営業権が2022年に満期を迎える。 当初は、実績をもとに自動更新と見られていたが、マカオ行政長官は2017年に、「再入札」の方針を打ち出した。 トランプ政権になって米中関係が悪化したことが背景にある。 米国は通信機器のファーウェイを市場から締め出し、中国製品に対する制裁関税実施などの強硬措置を相次いで実施してきた。これに対する中国の「報復」がマカオの利権に及ぶことをカジノ資本は警戒する。 マカオで営業権を与えられているのは6社、うち3社は華人系資本。米国流の経営はすでに学び取っている。今年5月、マカオ行政庁は「再入札は実績に関係なくゼロベースで」との方針を改めて表明した。 表向き「米国排除」には触れていないが、米国のカジノ資本は「経済戦争の人質」となってしまった』、「米国のカジノ資本は「経済戦争の人質」となってしまった」、初耳だが、思いもよらぬ副次作用がでつつあるようだ。
・『「受け皿」は日本 安倍首相に「参入を要請」  業界関係者によると、カジノの利益は、IRビジネスの中核になっているので、営業権が失効すれば、ホテルや劇場などIR全体が成り立たなくなり、全面撤退を余儀なくされるという。 マカオはチャイナマネーを取り込み、いまや本場ラスベガスの4倍の利益を稼いでいる。世界最大のカジノ市場になったマカオの権益を失うことはカジノ資本にとって死活問題だ。 カジノ資本は、顧客を握っている。なじみの客を遊ばせる賭場を確保しなければならない。常連にとっては、金銭がらみの「個人の情報」を知る業者との関係は簡単に切れない。 仮にマカオの営業権を失ったとき、マカオに代わる賭場が必要になる、と業界関係者はいう。そして、世界一の規模となったマカオの受け皿は日本しかないというのだ。 「マカオの営業権」と「日本進出」。微妙に絡む2つの課題を結ぶ接点でもアデルソン氏が登場する。 調査報道メディアである米国の「プロパブリカ」は2018年10月、前年2月に行われた日米首脳会談で、「トランプ大統領は安倍首相に対し、自らの支持者であるアデルソン氏の名を挙げ、日本市場への参入を要請した」とする記事を掲載した。 ラスベガス・サンズは、この記事を否定せず、記事にあった「ゲーミング業界は長い間、日本市場に参入する機会を求めていた。ゲーミング会社はそれを実行すべく多大な資金を費やしており、ラスベガス・サンズも例外ではない」というコメントを繰り返すにとどめた』、「マカオはチャイナマネーを取り込み、いまや本場ラスベガスの4倍の利益を稼いでいる。世界最大のカジノ市場になったマカオの権益を失うことはカジノ資本にとって死活問題だ」、「日本市場への参入」は生き残りのための必須条件のようだ。
・『IR法検討時からロビー活動 横浜「誘致表明」にも陰  日本でIR実施法が強行採決によって国会を通過したのは、2018年7月。世論と野党の抵抗で暗礁に乗り上げていたカジノ実現で陰に陽に展開されたのが、カジノ資本のロビー活動だ。 日本では、外国人観光客を増やすなどが狙いのIRの目玉として、カジノ法制化の議論が始まり、2016年12月にIR推進法が成立。ギャンブル依存症対策の取り組みとともに、IR実施法の検討が始まった。 アデルソン氏は2017年、大阪で知事・市長に面会した後、カジノ施設の面積規制を盛り込んだIR実施法草案を、「これではわれわれが望んでいたIRを実現できない」と批判した。 面積に上限が設けられれば、IRの投資を50億ドル(約5500億円)以下に抑えざるを得ないとも語った。 面積規制は、有識者会議の提言で盛り込まれたものだったが、翌年、国会に提出された法案からはバッサリ削られていた。 カジノ解禁に二の足を踏んでいた横浜市が今年8月22日、「カジノ誘致」を表明した際も、まるで呼吸をあわせたかのようなアデルソン氏の素早い反応が話題になった。 林市長が「カジノ誘致」を表明すると、アデルソン氏は同じ日のうちに「大阪は撤退。東京・横浜への投資が最善」との声明を出し関係者を驚かせた。 もともとサンズは「大阪に世界最大級のカジノを」と表明していたのだ。 国際戦略担当のジョージ・タナシェビッチ氏は、この約2ヵ月前の6月18日の産経新聞のインタビューでも、「サンズは大阪に注力する。横浜は方針が不透明。東京は五輪で手いっぱい。大阪は姿勢が明確だ」と語っていた。 今になれば、林市長や後ろにいる陰の実力者への「催促」だったと思われる。「いつまで待てばいいのだ。ぐずぐずしていると大阪と組むぞ」と揺さぶりを掛けたのだろう。 横浜では、カジノ問題を仕切っているのは神奈川2区を地盤とする菅義偉官房長官と見られている。カジノ政策の基本は内閣官房に置かれたIR区域整備推進本部が所管しており、官房長官は事実上の司令塔だ』、サンズが「大阪は撤退。東京・横浜への投資が最善」、変わり身の早さには驚かされた。「事実上の司令塔」の「官房長官」が急速に求心力を失っていることは、どのように影響するのだろうか。
・『大阪と首都圏が有力 開業は2024年ごろに  カジノ資本は、これまでロビー活動に多額の資金を投じてきた。IR実施法の立法までこぎ着けたが、営業開始はいつになるか不透明だ。このことが、最大のリスクになっている。 一方でマカオの営業権が2022年に満期を迎える。ちょうど日本で、「全国3ヵ所」とされるIR整備地域が固まり、カジノ業者の選定が行われる時期とほぼ重なる。 米中貿易戦争で双方がどういった形で妥協するのか、いまだ見えず、また貿易戦争は妥協したところで、米中の対立の構図が続く。米国カジノ資本の日本上陸への動きはさらに加速するだろう。 施設の建設が始まり開業は早くても2024年ごろとみられ、サンズが撤退を表明した大阪は、オリックスと組んだMGMリゾーツ・インターナショナルの進出が有力視されている。 一方で首都圏では、トランプ大統領が再選されれば、アデルソンのサンズで決まり、という観測がもっぱらだ。 菅氏の地元・横浜になるかは、市民や港湾業者が反対していることもあって、不透明だ。 時間がかかりそうなら「東京に乗り換え」も選択肢だろう。小池百合子知事は、かつての林横浜市長と同じ「検討中・白紙」という姿勢だ。 石原慎太郎・元都知事が「お台場カジノ構想」を打ち上げたのは1999年。それから20年かけて、上陸をめざす国際カジノ資本の姿がはっきり見えてきた。“収穫”は目前のアデルソン氏はどう動くのだろうか』、大阪はサンズが撤退を表明したが、「オリックスと組んだMGMリゾーツ・インターナショナルの進出が有力視」、維新の会の面目もかろうじて保てた格好だ。小池知事の出方が大いに注目されるようだ。
タグ:IRの区域認定地域は全国で最大3カ所 大前 研一 世界的に見るとギャンブルとしてのカジノ産業は斜陽化 市長リコールと同時に、カジノ誘致の賛否を問う住民投票実施に向けた署名集めの動きに弾みがついた格好 日本各地で透けて見えるIR利権 市役所で会見した林市長は報道陣の追及にイラ立ちを隠さず、終了後のペーパーぶん投げ映像がSNSで拡散され、ますます株を下げている 山田厚史 林文子市長の方針転換に市民は猛反発 「米中激突で「マカオ利権」が危うい米カジノ、日本上陸の裏事情」 ダイヤモンド・オンライン カジノがドミノ倒しのように倒産 「資料ブン投げ映像が波紋…カジノ誘致の林市長は」 日刊ゲンダイ 自分自身と相手とを知るきっかけとして賢く遊ぶ 「大前研一「カジノは不要であるこれだけの理由」 世界から見て周回遅れになることも President お金を使わせる仕掛け 高揚感の正体―期待感と報酬でドーパミンを放出 将来の不確実性のリスクがビジネスの力になる 遠い時間軸の損得を勘定できない―時間割引率 ギャンブルにハマる脳の二大要因―報酬系と前頭葉 新奇探索性を決定するドーパミン受容体の遺伝子 わざわざ脳の快感を感じる部位を刺激するドーパミンを利用して、わからないほうが楽しい、興奮する、という仕組みが脳につくりあげられてきた 生きることそのものがギャンブル 「ギャンブルが下手な日本人 日本人の脳に迫る⑪」 現代ビジネス 中野 信子 (その8)(ギャンブルが下手な日本人 日本人の脳に迫る⑪、資料ブン投げ映像が波紋…カジノ誘致の林市長は、大前研一「カジノは不要であるこれだけの理由」 世界から見て周回遅れになることも、米中激突で「マカオ利権」が危うい米カジノ 日本上陸の裏事情) カジノ解禁 大阪と首都圏が有力 開業は2024年ごろに IR法検討時からロビー活動 横浜「誘致表明」にも陰 「受け皿」は日本 安倍首相に「参入を要請」 マカオの「営業権」満期に 中国の「報復」で排除の可能性 横浜市の将来図
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