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防衛問題(その16)(「行動する時が来た」「靖国の英霊と会話できる」陸自特殊部隊元トップの“危なすぎる世界観”、防衛費の「無駄遣い」が止まらない…アメリカに抵抗できない「日本の悲惨な末路」、日本の自衛隊「最悪の事態」の備えが不可欠な訳 軍事危機にどう使うか コンセンサスが必要だ) [国内政治]

防衛問題については、1月30日に取上げた。今日は、(その16)(「行動する時が来た」「靖国の英霊と会話できる」陸自特殊部隊元トップの“危なすぎる世界観”、防衛費の「無駄遣い」が止まらない…アメリカに抵抗できない「日本の悲惨な末路」、日本の自衛隊「最悪の事態」の備えが不可欠な訳 軍事危機にどう使うか コンセンサスが必要だ)である。

先ずは、2月1日付け文春オンラインが掲載した近現代史研究者の辻田 真佐憲氏による「「行動する時が来た」「靖国の英霊と会話できる」陸自特殊部隊元トップの“危なすぎる世界観”」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/43141
・『「別にコロナ怖くないけど/マスメディアはゴミだと知ってる/そのダルさはプロパガンダから来る/憔悴のせいだよ」 男性がギターを弾きながら満面の笑みで歌う。2019年にリリースされた、瑛人の「香水」の替え歌だ。この不穏な動画をフェイスブックでシェアしたのは、荒谷卓。陸上自衛隊の特殊作戦群(2004年に発足した特殊部隊)の初代群長である。 荒谷は先日、メディアを騒がせた。OBとなった現在も、毎年、現役自衛官や予備自衛官を募って、三重県で私的に戦闘訓練を指導していると報道されたからである。 それに加えて、同人は「作家の故三島由紀夫が唱えた自衛隊を天皇の軍隊にする考え方に同調するなど保守的主張を繰り返しており、隊内への過激な政治思想の浸透を危惧する声も出ている」という(「陸自OBが私的に戦闘訓練『楯の会に酷似』三島信奉」)』、ウルトラ右翼が「特殊部隊の初代群長」、で退任後も活動を主導しているとは・・・。
・『陰謀論者ご用達の「ディープステート」も登場  しかし、実態はより深刻なようだ。荒谷がフェイスブックでときおりシェアする動画の内容は、三島云々どころではない。 いわく、新型コロナウイルスが危険なのではなく、ステイホームとマスク着用こそが人間の免疫力を落としている。いわく、新型コロナウイルスのワクチンは人間の体に未知の遺伝子変化を引き起こす。いわく、メディアはコントロールされており、世界の真実を伝えない――。 果ては、陰謀論者ご用達のワード、「ディープステート」まで出てくる。この世界には、裏から人類を支配しようとする、権力者や資産家たちによる「闇の政府」が存在するらしい。 さきに紹介した「香水」の替え歌も、ここで意味がはっきりする。ようするに、ひとびとが体のダルさを訴えているのは、コロナのせいではなく、むしろ「ディープステート」に支配された、マスメディアの情報操作のせいだと言うわけである。 OBとはいえ、陸自の特殊部隊元トップがこの認識? さすがになにかの間違いでは。そう信じたいところだが、残念ながら、荒谷の著作を読むとその思いは微塵に打ち砕かれる』、「陰謀論者ご用達の「ディープステート」も登場」、現役時代はどうだったのだろう。
・『「社会の破壊と人間の奴隷化」が始まった?  荒谷のデビュー作は『戦う者たちへ』(2010年)だが、昨年その第3版が出た。そこで増補された部分には、コロナ騒動を受けたところがある。そしてこれが、たいへんきな臭い内容なのである。 令和二年、世界では重要な出来事が起こった。いわゆる『コロナ騒動』だ。コロナウイルスそのものは全く問題ないにもかかわらず、コロナを利用して世界中を脅迫し、自分たちの利益獲得と支配体制を目論む極悪非道の連中がメディアを使って、社会の破壊と人間の奴隷化を開始した。 ここでも「ディープステート」的な世界観が明確に出ていて、頭を抱えてしまう。とはいえ、本書の“暴走”はこれで止まらない。 荒谷はさらに、「新しい生活スタイル」を推し進めて、神社の祭りやお盆の帰省などを阻み、日本の歴史・文化・伝統を根本から破壊しようとする者たちを「日本の真の敵」と断定。そして「これと戦うことが、真の国防である」と主張し、「真の日本の戦闘者」にたいして「行動する時が来た」と訴えかけるのである』、妄想たくましいウルトラ右翼だが、現実を重視する必要がある職業軍人にもこんな人物がいるとは、恐ろしいことだ。
・『「靖国の英霊と初めて会話ができる」  ずいぶん物騒になってきた。とはいえ、その具体的な戦い方を聞くと、いささか拍子抜けする。 日本中に有り余っている休耕田を起こして田んぼを再生する。お祭りに参加する。世のため人のために働く。家族的経営の会社運営をする。お金やネット情報に依存しない。テレビは観ない。メディアの情報を無視する。コロナ騒動を扇動する悪人のもとでは働かない。奴らが振りまくリスクを無視する等々、日本文化防衛のためにできることはいっぱいある。(前掲書) 農業や祭りなどはともかく、後半は典型的な「ネットで真実を知った」者の考え方だ。ネット情報に依存しないと言いながら、フェイスブックを見るかぎり、ネット情報にはそれなりに影響を受けているのではないか。 ところが、本書を読み進めると、そのような合理性が一刀両断されてしまう。 その上で、奴らが強制力をもって戦いを仕掛けてきたら断固として戦う。有効性など考える必要はない。合理性を一切排するところに日本文化の輝きが生まれる。『敵は幾万ありとても我行かん』の気概で戦う。身体の保全より心の保全を優先する。そうすれば靖国の英霊と初めて会話ができる。(前掲書) それはなにか別のものと会話しているのでは――。しかし、こんなツッコミも荒谷には届かないだろう。「マスメディアはゴミだと知ってる」のだから』、とうてい正気とは思えないような発想だ。
・『もともと保守的な思想の持ち主だったが……  たしかに荒谷は、本人も語るように、自衛隊でもともと保守的な“問題児”だった。 入隊前より三島由紀夫を信奉し、尊敬する合気道の島田和繁武学師範より「自衛隊に行け!」と言われたときは、「三島由紀夫を罵倒して、誰もついていかなかった自衛隊か」と思いながらも、「自分が入るなら自衛隊を全部変えなきゃいかんな」という意気込みで、幹部自衛官の道に進んだという。そのため、歴史観で同意できなければ教官にも反論。調査隊の監視対象になっても、構わず制服姿で憂国忌(三島の追悼集会)に参加し、靖国神社の清掃奉仕に加わったほどだった(荒谷卓『自分を強くする動じない力』)。 そのような人物が、特殊部隊の責任者となり、「国を守るとは」「部下の生命を預かるとは」と突き詰めて考えた結果、スピリチュアル系の保守思想にたどり着くのは、それほど不自然なことではない。 とはいえ、昨今の発言はそれまでの著作の内容にくらべても、明らかに一線を越えている。神武天皇や八紘一宇あたりはともかく、ディープステートはやりすぎだ。 したがってこの問題は、保守思想や自衛隊云々よりも、もっと広く捉えなければならない』、「自衛隊でもともと保守的な“問題児”だった」、辞めた時の階級を書いてないが、「幹部自衛官の道に進んだ」、「調査隊の監視対象」、「自衛隊」としても扱いには頭を痛めたことだろう。
・『5点の陰謀論を防ぐ65点の物語を  現在、ネットでは、コロナ禍やアメリカ大統領をめぐって、以上と大同小異の陰謀論が渦巻いている。 「ネットで真実を知った」者の成れの果てと、かれらを笑うのはたやすい。だが「もっと確かな情報源を」という指摘自体が「マスゴミ批判」で封じられている以上、事態は深刻である。 そもそもかれらは、一般的な知性をもち、それどころかとても勉強熱心で、平均的な日本人よりも本を読み、そして自分の頭でよく考えている。にもかかわらず、このような世界観に陥ってしまう。そこでなお既存の権威を振りかざすのはあまりに虚しい。 では、どうすればよいか。ひとつの提案として、メディア上に(オンライン記事でも、ウェブ動画でも)、考えるヒントになるような、よりまともな物語を流していくことが考えられるのではないだろうか。具体的には、「ディープステート」を「農業を通じて国に貢献」などで上書きしていくということである。 あえてざっくり言えば、5点の陰謀論よりも、65点の愛国の物語のほうがまだマシだということである』、この部分は筆者の主張は分かり難い。
・『“100点満点主義者”が壊滅させたもの  SNSには、1点の間違いも許さない、リゴリスティックな100点満点主義者がすっかり多くなってしまった。そこで65点の物語はよく血祭りに挙げられている(「国に貢献」というが、そもそも近代国民国家の枠組みを自明視していることが暴力的であり、思慮が浅く云々)。とはいえ、65点の物語を壊滅させたあとにやってくるのは、100点満点主義者が尊敬される世界ではなく、逆に批判などまったく意に介さない、5点の陰謀論が蔓延する世界ではないだろうか。現状はむしろそうなっているように思えてならない。 われわれは不完全な存在である。100点満点主義者も、自分の得意分野以外ではしばしばデタラメなことを言っている。であれば、65点ぐらいの物語を公共財として鍛えていくことが、5点の陰謀論を防ぐ防波堤になると筆者は考える。 今回のニュースについても、ただ笑い、嘆き、蔑んで消費してしまうよりも、このような代替案を考えたほうが生産的で有益だと思うのだが、いかがだろうか』、「65点の物語を壊滅させたあとにやってくるのは、100点満点主義者が尊敬される世界ではなく、逆に批判などまったく意に介さない、5点の陰謀論が蔓延する世界ではないだろうか」、筆者の単なる思い込みなのではなかろうか。後半部分を除けば、興味深い内容だった。

次に、2月11日付け現代ビジネスが掲載した防衛ジャーナリストの現代ビジネス氏による「防衛費の「無駄遣い」が止まらない…アメリカに抵抗できない「日本の悲惨な末路」」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80138?imp=0
・『国会で2021年度予算案の審議が始まった。防衛費は過去最大の5兆3422億円となり、新型コロナウイルス感染症対策の予備費5兆円よりも多い。 武器購入や23万人いる自衛隊の人件・糧食費に多額のカネがかかるとされるが、目に余るのはその無駄遣いぶりだ。 イージス・アショア代替策としてのイージス・システム搭載艦2隻の建造、開発した米国と日本以外どの国も買わないオスプレイの導入、米国でも評判の悪い滞空型無人機「グローバルホーク」の輸入は、まさに「無駄遣い3点セット」。 オスプレイとグローバルホークは、米政府への支払いが進み、実際に導入中止を決断できるのは新たに建造するイージス・システム搭載艦だけ、ということになる。 限られた予算を有効活用すべきなのは言うまでもないが、なぜか野党の中にも防衛費は「聖域」と見なす向きがあり、追及の手は緩い』、「野党の中にも防衛費は「聖域」と見なす向きがあり、追及の手は緩い」、困ったことだ。
・『問題が多すぎるイージス・システム搭載艦  まず、イージス・システム搭載艦の導入過程から振り返ろう。 昨年6月、当時の河野太郎防衛相が配備停止を公表した後、国家安全保障会議で正式に導入断念を決定した。ところが、トランプ米大統領にイージス・アショアを含む米国製武器の「爆買い」を約束した安倍晋三首相は収まらず、「イージス・アショア代替策」と「敵基地攻撃能力の保有」の検討を求める安倍談話を出して退陣した。 「安倍政権の継承」を明言する菅義偉首相は昨年12月、イージス・システム搭載艦2隻の建造と敵基地攻撃に転用できる12式地対艦誘導弾能力向上型の開発を閣議決定し、21年度予算案にこれらの関連費用が計上されている。 イージス・システム搭載艦の問題は多い。そのひとつは巨額の費用がかかることだ。 地上配備を前提に設計されたイージス・アショアの大型レーダー「SPY7」を船に載せることにより、イージス護衛艦「まや」型を大型化する必要が生まれ、1隻あたりの建造費は2500億円以上と「まや」型と比べて766億円以上も高騰。この差額だけで汎用護衛艦が1隻建造できるほどだ。 米国で開発中のイージス艦専用レーダー「SPY6」ならそのまま「まや」型に搭載できることから船体の大型化に伴う出費は不要となるうえ、「米政府御用達」の保証も受けられる。 だが、防衛省はイージス・アショアのレーダー転用にこだわった。 結局、SPY7を搭載するイージス・システム搭載艦は、米政府にとって未知の艦艇となり、防衛省はレーダーの性能を確認する実射試験費や人材育成費を負担することになる。運用開始後も米政府の支援が欠かせず、バカ高い費用を請求される可能性が出てきた。) 「まや」型は乗員310人なので、イージス・システム搭載艦も同数と仮定すれば、2隻で620人の要員が必要だ。人員増が人件費の増加につながるのは言うまでもない。 海上自衛隊は予算不足と人員不足から汎用護衛艦の建造を見合せ、2年前から小型で安い護衛艦の建造を始めている。この小型艦は、多機能護衛艦(FFM)と呼ばれ、1隻495億円、乗員100人とすべてがコンパクトだ。 FFMと比べ、1隻2500億円以上、乗員310人というイージス・システム搭載艦2隻の建造は、組織の実情を無視した「巨大なカネ食い虫」というほかない。 防衛省が天守閣を海に浮かべるのに等しい珍妙なアイデアにこだわるのは、イージス・アショアの配備断念により、米政府から多額の違約金が請求されるのを避けるためだ。 イージス・アショアをめぐり、米政府との間で2018年度6億円、19年度1757億円の契約を締結しており、配備断念となれば、そっくり違約金として没収されるおそれがある。モノが手に入らないにもかかわらず、2000億円近いカネが米政府に取られるのだ。 そうなれば政治問題に発展し、安倍前政権や菅政権が野党に追及されるのは必至。そうした事態を回避するため、防衛省は青天井の支払いになりかねないイージス・システム搭載艦を何食わぬ顔で建造しようとしている。) 振り返れば、安倍前首相がトランプ前大統領の求めるままに購入を約束したことが間違いの元だった。 ミサイル迎撃に対応するイージス護衛艦は4隻から8隻に倍増され、迎撃ミサイルの射程も2倍に延びることが決まった後のイージス・アショアの追加購入は過剰であり、不要だ。ここは米政府に違約金を支払ってでも、イージス・システム搭載艦の建造を見送るべきだろう』、「安倍晋三首相は収まらず、「イージス・アショア代替策」と「敵基地攻撃能力の保有」の検討を求める安倍談話を出して退陣」、とんでもない遺言を残したものだ。「米国で開発中のイージス艦専用レーダー「SPY6」ならそのまま「まや」型に搭載できることから船体の大型化に伴う出費は不要となるうえ、「米政府御用達」の保証も受けられる。 だが、防衛省はイージス・アショアのレーダー転用にこだわった」、「防衛省」がこだわった理由は何なのだろう。「イージス護衛艦は4隻から8隻に倍増され、迎撃ミサイルの射程も2倍に延びることが決まった後のイージス・アショアの追加購入は過剰であり、不要だ。ここは米政府に違約金を支払ってでも、イージス・システム搭載艦の建造を見送るべきだろう」、財務省ももっと厳しく査定すべきだ。
・『値上げされ、それを買わされ…  次にグローバルホークを見てみよう。 グローバルホークは2万メートルの高高度から偵察する無人機だ。米空軍が63機を調達する予定だったが、開発の遅れと価格高騰により、45機に削減、またドイツが導入をキャンセルするなど、売れ行きはよくない。 防衛省は2014年、米政府との間で3機を合計510億円で購入する契約を結んだ。ところが、米側は17年4月になって、追加部品の開発に費用がかかるとして119億円高い合計629億円に値上げすると通告してきた。 一方の防衛省には武器の価格が25%上昇した場合、購入中止を検討するルールがあるが、米側が示した値上げ幅はそれより少ない23%。図ったような「寸止め」に防衛省は中止を検討したが、最後は首相官邸の「予定通り買え」との声に押し切られた』、「イージス護衛艦は4隻から8隻に倍増され、迎撃ミサイルの射程も2倍に延びることが決まった後のイージス・アショアの追加購入は過剰であり、不要だ。ここは米政府に違約金を支払ってでも、イージス・システム搭載艦の建造を見送るべきだろう」、財務省ももっと厳しく査定すべきだ。
・『米人技術者の生活費「約30億円」も負担  だが、問題は終わらない。 防衛省は、尖閣諸島上空から中国公船の監視に活用する予定だったが、その後「陸上偵察用なので海上偵察には不向き」と判明。巨費を投じて使えない偵察機を買うことになったのである。 さらに追い討ちを掛けたのは、再び米政府だ。 防衛省が負担するのは機体価格だけではない。遠隔操作に必要な地上装置や整備用器材などを含めると導入にかかる初期費用は実に1000億円にもなる。 この負担とは別に維持管理のための費用が毎年約100億円もかかる。驚くべきことに、この費用の中に3機が配備される青森県の三沢基地に滞在することになる米人技術者40人の生活費約30億円が含まれているのだ。 一人あたり、年間7500万円の生活費を負担する計算。どれだけ優雅な暮らしをさせようというのか。「なぜ生活費の負担までするのか」との防衛省側の問いに米側は「彼らは米国での生活を捨てて日本のために働くのだ」と「さも当然」と言わんばかりの回答だったという』、「陸上偵察用なので海上偵察には不向き」なのであれば、周囲を海に囲まれた日本では無用の長物だ。そもそも買う目的は何だったのだろう。
・『オスプレイ問題とは何だったのか  最後はオスプレイだ。 自衛隊のオスプレイ導入は、異例の経過をたどった。本来、武器類はユーザーである自衛隊が選定する。だが、10年先の安全保障環境を見通して策定する「陸上自衛隊長期防衛見積り」にオスプレイの名前はなかったとされる。 陸上自衛隊はオスプレイの2倍以上の人員や物資を空輸できるCH47大型ヘリコプターを55機も保有していたからだ。 導入することになったのは、米軍が沖縄配備を進めた2012年当時、沖縄から上がった配備反対の声に対し、民主党政権の玄葉光一郎外相が「安全性を訴えるため自衛隊も保有すべきだ」と提案、当時の森本敏防衛相が同調して調査費を計上、これを安倍晋三政権が引き継いだことによる。 「沖縄の民意」より「米軍の意向」を優先した政治判断である。 オスプレイは滑走路がいらない、夢の航空機とされるが、開発段階から墜落事故が相次ぎ、米国ではすでに40人以上が墜落事故で亡くなっている。 陸上自衛隊には17機配備される。自衛隊版海兵隊と呼ばれる「水陸機動団」(長崎県佐世保市)が運用することから、防衛省は佐世保に近い佐賀空港への配備を決めたが、地権者の有明海漁協の反対により、実現できず、千葉県の木更津駐屯地に暫定配備されることになった。今後、首都圏の空をオスプレイが飛び回ることになる。 こうして見てくると「無駄遣い3点セット」は、いずれも米国からの武器導入であり、政治家が関与したことがわかる。文民である政治家が「これを使え」と軍事のプロである自衛隊の武器を選んだのだ。その結果の「無駄遣い」である。 2021年度予算に盛り込まれるコロナ対策費は、どれほど多くても困るという話ではない。不要不急な武器なら購入は見送り、その分を国民の安全安心のために使うべきだろう』、「オスプレイの2倍以上の人員や物資を空輸できるCH47大型ヘリコプターを55機も保有」しているのであれば、不要なのに、「民主党政権の玄葉光一郎外相が「安全性を訴えるため自衛隊も保有すべきだ」と提案」、完全に政治的に決定されたようだ。どうも無駄遣いは、やはり「官邸主導」のようだ。

第三に、3月16日付け東洋経済オンラインが掲載した元空将でアジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェローの尾上 定正氏による「日本の自衛隊「最悪の事態」の備えが不可欠な訳 軍事危機にどう使うか、コンセンサスが必要だ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/416209
・『米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。 独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく』、興味深そうだ。
・『今できないことは最悪の状況では確実にできない  東日本大震災・福島原発事故から10年が経ち、日本はパンデミックの最中にある。多くの貴重な教訓は活かされているのだろうか。 APIの前身の日本再建イニシアティブは、2013年に「日本最悪のシナリオ9つの死角」で、尖閣衝突、サイバーテロ、北朝鮮崩壊、核テロなど9つの国家危機を想定し、最悪の事態をシミュレーションした。自衛隊は過去の災害派遣活動が評価され、国民から最も信頼される組織となり、これら最悪の事態でも最後の砦となることを期待されている。 だが、自衛隊は危機対処の手段の1つであり、外交・経済・情報などほかの手段を統合する政治指導が、最悪の事態では最も重要となる。最悪のシナリオに沿って危機管理体制を検証し、そのとき自衛隊をどう使うのか。国としてのコンセンサス作りが必要だ。 地震や台風など自然災害が多発する日本は、過酷な実体験に基づき、国の危機管理体制から国民一人ひとりの防災意識に至るまで、逐次強化してきた。一方、未経験の危機については、最悪の事態を想像することを忌避するあまり、危機そのものを否定する罠に陥っているように見える。 最悪の事態に向き合うことは大きなストレスを伴うため、実際に起きるかどうかわからない事態に備え、今ある通常の規範や制度を変えるには大きな抵抗がある。だが、今できないことは、最悪の状況では確実にできない。例えば、「危機に法は沈黙する」と言われる。東日本大震災・福島原発事故で、自衛隊は自衛隊法の任務規定にないご遺体の捜索・収容、ヘリ・地上からの放水などを実施した。 現場では警察・消防などの「指揮」を命じられる場面もあったが、行政法の「運用の幅」で自衛隊に付与できる任務には、限界がある。原発事故が止められなくなったとき、命を懸けて原子炉をコンクリート詰めにする組織はいまだ定められていないが、それを自衛隊に命じることは「運用の幅」でできることではない。また、自衛隊の能力を過信し、いざとなれば自衛隊に命じれば何とかなるという誤った認識が生まれかねない。 職業軍人でない文民が、軍隊に対して最高の指揮権を持つ「シビリアンコントロール」(Civilian Control)の確保のためにも、最悪事態を想像する作業を通じ、憲法の国家緊急事態条項の欠落を含め、有事の視点からすべての法制のあり方を再検討する必要がある』、「未経験の危機については、最悪の事態を想像することを忌避するあまり、危機そのものを否定する罠に陥っているように見える。 最悪の事態に向き合うことは大きなストレスを伴うため、実際に起きるかどうかわからない事態に備え、今ある通常の規範や制度を変えるには大きな抵抗がある。だが、今できないことは、最悪の状況では確実にできない」、「今できないことは、最悪の状況では確実にできない」、とは言い得て妙だ。
・『サイバーテロ、北朝鮮崩壊、核テロの複合事態さえ想定  日本が備えておかなければならないシナリオは深刻化かつ複雑化している。北朝鮮の核弾頭搭載ミサイルは日本を射程に入れ、サイバー攻撃能力も侮れない。場合によっては、サイバーテロ、北朝鮮崩壊、核テロの3つが複合する事態すら想定される。 中国は海軍力や法執行機関の能力を著しく強化し、尖閣諸島に対する侵害を常態化させた。2月1日から施行された海警法は、中国の定義する管轄海域において外国の軍艦や公船に対する武器使用を認めている。明らかな国際法違反だが、尖閣諸島周辺海域における中国の施政権を主張する布石であろう。 尖閣衝突危機は、緩慢だが、確実に進行している。尖閣事態と連動する恐れの強い中国の台湾侵攻の事態にも備えは必要だが、実は、最悪の事態をリアルに想定すること自体、困難な作業なのだ。これらの危機は自然災害やパンデミックと異なり、関係国の意図と行動が相互に影響するため、対応次第で事態を収められることもあれば拡大することもある。 関係国の国益が複雑に交錯する状況において、日本の主権と国民を守るため自衛隊にどのような任務を付与するのか、さらにはその結果としての犠牲をどこまで受容するのか、高度の政治判断と政府全体の対応、そして国としての覚悟が要求される問題である。) 従ってこれらの最悪事態の考証は、対応に当たる主要関係者全員が参加し、公式に実施することが重要となる。その理由は、緩慢に進行する危機の痛みや最悪の状況の怖さを実感し、危機感を共有すると同時に、関係者全体で想像することで、組織間の齟齬や隙間などの具体的な問題点を確認できるからだ。 また、要職者個人の危機管理能力を向上させることで、政府全体の対応の質が高められる。例えば、刻々と変化する状況に対し事態をどう認定するのか、究極の決断を限られた時間内に求められるため、有事や危機は普段とまったく違う法則が支配することを肌で経験できる。 千差万別の、あるいは複合的な危機に際し、確保すべき国益や目標の何を優先するのか、どの手段をどう使うのか、首相はどこに位置して指揮するのか。首相に事故があった場合の自衛隊の指揮権は誰が継承するのか、内閣の危機管理関係局室と防衛省・統合幕僚監部はどのように役割分担・連携するのか、通信連絡・情報共有の手段・手続きは機能するのかなど、確認する必要があることは多い』、「これらの最悪事態の考証は、対応に当たる主要関係者全員が参加し、公式に実施することが重要となる」、理屈の上ではその通りだが、実際には難しそうだ。
・『必要なら新たな法制やインフラ整備、国民への説明を  まず、現行体制を検証し、その運用に習熟しなければならない。そして、必要があれば新たな法制やインフラを整備するとともに、考証の結果を適切に国民に説明し、定期的な訓練などにつなげることが必要だ。 東日本大震災で自衛隊とアメリカ軍は初めて日米共同作戦を実施した。災害救助のトモダチ作戦では従来の共同訓練の成果が遺憾なく発揮されたが、原発事故対応では日米の国益の違いに根差す同盟の限界や放射線に関する行動基準の相違を認識させられた。 その後、日米ガイドラインが更新され、平和安全法制も制定されたが、北朝鮮や中国に関わる最悪の事態を想定した日米政府間の検討は未了である。自衛隊とアメリカ軍は、日米共同統合演習(実動または指揮所)を毎年実施し、有事における軍事面での共同対処能力の向上を図っている。だが、原発事故対応で問題となった日米政府間の協議については、「同盟調整グループ」が組織されたものの、全省庁の恒常的な参加と政治家の関与の仕方は決まっていない。) 武力攻撃事態に至る可能性のある危機は、状況に即した事態認定と自衛隊への任務付与という政治と軍事の接際部、また、戦略的メッセージの発信や地経学的な対応など政府全体のアプローチが重要となる。同時に、日米間の利害調整と共通目標の設定が不可欠であり、それによって自衛隊とアメリカ軍の共同作戦は方向づけられなければならない。 アメリカは、核戦争を筆頭にあらゆる最悪の事態が起きるという前提で体制を整えているが、パンデミックによって加速した相対的な国力の低下のため、同盟国に対する役割分担の増加を求めざるをえなくなっている。外交問題評議会の最新報告書「アメリカ・中国・台湾:戦争抑止の戦略」は、アメリカの台湾防衛戦略には日本の参加と同意が不可欠だと明記している。 台湾有事は、日米同盟にとって最も重要かつ困難な試練となろう。実戦で試される前に、そのとき何が起きるかを合理的に問い詰めていくアメリカ式の想像と思考によって、日本の戦略を考えなければならない。バイデン政権は国防省に中国タスク・フォースを設置し、対中戦略を練り直している。日本は今からでもその作業に関与し、最悪シナリオに基づく同盟戦略をすり合わせる必要がある』、確かに「バイデン政権」の「対中戦略」への関与は重要だ。
・『いざというときの実力を高めなければならない  自衛隊は究極の危機である戦争に備える組織である。災害派遣の実績が評価され、自衛隊に期待する役割の1位は「災害派遣」(79.2%)であり、「国の安全の確保」は2位の60.9%にとどまる。実際、自衛隊はさまざまな災害などに駆り出されており、最後の砦が普段から前線で活動する状況になっている。だが、自衛隊が最後の砦となるべき防衛事態は、自衛隊を含め政府も国民もまだ誰も経験していない。 北朝鮮の核ミサイルや中国の圧倒的な軍事力を相手に、自衛隊が必ず国と国民を守れるという保証はないのだ。政府は、武力攻撃事態の危機管理体制の再点検と修正を急がなければならない。自衛隊に必要な資源と時間を与え、いざというときのための実力を高めなければならない。 そして、最悪の事態を想定したリアリティのある訓練によって、政府全体の危機対処能力を向上させるとともに、国民の理解を深めなければならない。未経験の危機で自衛隊をどう使うか、そのコンセンサスが最悪の事態の備えには不可欠である』、「政府は、武力攻撃事態の危機管理体制の再点検と修正を急がなければならない。自衛隊に必要な資源と時間を与え、いざというときのための実力を高めなければならない」、その通りだ。
タグ:防衛問題 (その16)(「行動する時が来た」「靖国の英霊と会話できる」陸自特殊部隊元トップの“危なすぎる世界観”、防衛費の「無駄遣い」が止まらない…アメリカに抵抗できない「日本の悲惨な末路」、日本の自衛隊「最悪の事態」の備えが不可欠な訳 軍事危機にどう使うか コンセンサスが必要だ) 文春オンライン 辻田 真佐憲 「「行動する時が来た」「靖国の英霊と会話できる」陸自特殊部隊元トップの“危なすぎる世界観”」 ウルトラ右翼が「特殊部隊の初代群長」、で退任後も活動を主導しているとは・・・。 「陰謀論者ご用達の「ディープステート」も登場」、現役時代はどうだったのだろう。 妄想たくましいウルトラ右翼だが、現実を重視する必要がある職業軍人にもこんな人物がいるとは、恐ろしいことだ。 とうてい正気とは思えないような発想だ。 「自衛隊でもともと保守的な“問題児”だった」、辞めた時の階級を書いてないが、「幹部自衛官の道に進んだ」、「調査隊の監視対象」、「自衛隊」としても扱いには頭を痛めたことだろう。 この部分は筆者の主張は分かり難い。 「65点の物語を壊滅させたあとにやってくるのは、100点満点主義者が尊敬される世界ではなく、逆に批判などまったく意に介さない、5点の陰謀論が蔓延する世界ではないだろうか」、筆者の単なる思い込みなのではなかろうか。後半部分を除けば、興味深い内容だった。 現代ビジネス 「防衛費の「無駄遣い」が止まらない…アメリカに抵抗できない「日本の悲惨な末路」」 「野党の中にも防衛費は「聖域」と見なす向きがあり、追及の手は緩い」、困ったことだ。 「安倍晋三首相は収まらず、「イージス・アショア代替策」と「敵基地攻撃能力の保有」の検討を求める安倍談話を出して退陣」、とんでもない遺言を残したものだ 「米国で開発中のイージス艦専用レーダー「SPY6」ならそのまま「まや」型に搭載できることから船体の大型化に伴う出費は不要となるうえ、「米政府御用達」の保証も受けられる。 だが、防衛省はイージス・アショアのレーダー転用にこだわった」、「防衛省」がこだわった理由は何なのだろう。 「イージス護衛艦は4隻から8隻に倍増され、迎撃ミサイルの射程も2倍に延びることが決まった後のイージス・アショアの追加購入は過剰であり、不要だ。ここは米政府に違約金を支払ってでも、イージス・システム搭載艦の建造を見送るべきだろう」、財務省ももっと厳しく査定すべきだ。 「陸上偵察用なので海上偵察には不向き」なのであれば、周囲を海に囲まれた日本では無用の長物だ。そもそも買う目的は何だったのだろう。 「オスプレイの2倍以上の人員や物資を空輸できるCH47大型ヘリコプターを55機も保有」しているのであれば、不要なのに、「民主党政権の玄葉光一郎外相が「安全性を訴えるため自衛隊も保有すべきだ」と提案」、完全に政治的に決定されたようだ。どうも無駄遣いは、やはり「官邸主導」のようだ。 東洋経済オンライン 尾上 定正 「日本の自衛隊「最悪の事態」の備えが不可欠な訳 軍事危機にどう使うか、コンセンサスが必要だ」 「未経験の危機については、最悪の事態を想像することを忌避するあまり、危機そのものを否定する罠に陥っているように見える。 最悪の事態に向き合うことは大きなストレスを伴うため、実際に起きるかどうかわからない事態に備え、今ある通常の規範や制度を変えるには大きな抵抗がある。だが、今できないことは、最悪の状況では確実にできない」、「今できないことは、最悪の状況では確実にできない」、とは言い得て妙だ 「これらの最悪事態の考証は、対応に当たる主要関係者全員が参加し、公式に実施することが重要となる」、理屈の上ではその通りだが、実際には難しそうだ。 確かに「バイデン政権」の「対中戦略」への関与は重要だ。 「政府は、武力攻撃事態の危機管理体制の再点検と修正を急がなければならない。自衛隊に必要な資源と時間を与え、いざというときのための実力を高めなければならない」、その通りだ。
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パンデミック(経済社会的視点)(その15)支える側の実態4題(支援現場の医師が訴える医療者の窮状 クラスター施設職員「2~3割がうつ症状」の悲惨、医療従事者のメンタル悪化が「放置」される複雑背景 うつに不眠、「心の異変」相次ぐ医療現場の深刻実態、クラスター施設では行政の支援が待ったなし 暗中模索の医療機関、コロナで不足する「職員ケア」) [パンデミック]

パンデミック(経済社会的視点)については、3月26日に取上げた。今日は、(その15)支える側の実態3題(支援現場の医師が訴える医療者の窮状 クラスター施設職員「2~3割がうつ症状」の悲惨、医療従事者のメンタル悪化が「放置」される複雑背景 うつに不眠、「心の異変」相次ぐ医療現場の深刻実態、クラスター施設では行政の支援が待ったなし 暗中模索の医療機関、コロナで不足する「職員ケア」)を紹介しよう。

先ずは、5月2日付け東洋経済Plus「支援現場の医師が訴える医療者の窮状 クラスター施設職員「2~3割がうつ症状」の悲惨」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26864
・『コロナ禍で医療従事者や自治体職員の心の問題が顕在化している。患者や住民を「支える立場」にある人たちへの支援が急務だ。 医療従事者や自治体職員のメンタルヘルスが悪化している。コロナ対応に追われて過重労働が常態化し、うつ症状などに悩む人が増えている。 福島県立医科大学・災害こころの医学講座の主任教授を務める前田正治氏は、クラスター(集団感染)が発生した医療・介護施設の職員のメンタルヘルス・ケアを行う。前田教授に、医療従事者らのメンタル危機を防ぐための支援のあり方などについて話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは前田氏の回答)。 Q:コロナ禍で、医療従事者にどのような心のストレスがかかっていますか。 A:医療従事者のうつ症状が強くなる原因は、過重労働による疲弊と、強く自分を責める感情にある。医療従事者は自分が感染する不安より、「(家族や友人などの)誰かに感染させてしまうのではないか」と自分を責める感情のほうが強い。身の周りの人が陽性者や濃厚接触者になった場合には、いっそう自分を責める感情が強くなる。 感染のリスクをゼロにはできない。だが、医療従事者は自分が感染すると社会的な制裁を受けるのではないかという不安も大きい。ある感染症病棟の看護師は、「記者会見で謝罪している自分の姿をよく思い浮かべます」と話していた。(他者に感染させるリスクへの不安から)誰にも会わなくなるなど、職場以外でも萎縮してしまう。 直接コロナ患者に接するスタッフはそれほど増やすことができず、一部の職員に負担がのしかかってしまいがちだ。現場のスタッフからは「まず何より休息がほしい」という声を聞くが、スタッフに十分な休息を与えるシフトを組むことが難しい。 こうした過重労働やストレスが、睡眠不足をもたらすこともある。コロナに対応するスタッフに最も多い訴えの一つが睡眠障害だ』、「医療従事者のうつ症状が強くなる原因は、過重労働による疲弊と、強く自分を責める感情にある」、確かに大変そうだ。
・『「火をつける」との脅しも  Q:クラスターが発生した施設では、具体的に職員の間でどんなメンタルの不調が見受けられるのでしょうか? A:次々に職員が陽性になると、残った職員に負担が集中する。家族にも話すことができず、孤立しがちだ。クラスターが発生した施設の職員に対してストレスチェックを行うと、職員の2~3割に強いうつ症状が出ている。 私が支援に入ったクラスター発生施設の職員は、(周辺の)住民から「家に火をつける」と脅されるなどの嫌がらせを受け、深刻なうつ状態に陥ってしまった。感染症病棟で働く医療スタッフの不足や、医療機関がコロナ対応を避ける状況の背景には、社会的な偏見にさらされる不安や恐怖があるのではないか。 あるコロナ重症者を受け入れている病院では、クラスターが発生して機能が完全にストップした。こうした機能不全も、自然災害ならば職員も「自分たちが災害を被った結果」だと感じるが、コロナの場合は「(感染を予防できなかった)自分たちが悪かった結果」だと感じて深く傷つきがちだ。心の傷が深いほど、職場復帰が難しくなるし、離職につながりかねない。 クラスター発生施設では施設の内外で感染ルートの疫学調査が行われるが、やり方によっては「犯人捜し」のようになる。疫学調査は犯人捜しにならないように、慎重に行うべきだ。 Q:医療従事者と同じく、保健所などの自治体職員の過重労働も問題になっています。 A:保健所も余力がまったくないほど、業務がパンクしている。休暇を取れず、うつ病で休職する職員もいる。ここで辞めれば一生の悔いが残るという気持ちから、辞めることもできない。仕事と家庭のどちらを優先させるかという葛藤に苦しんでいる。 行政に対する住民からのバッシングも起こりやすい。自然災害は一目で被災の状況がわかる。それに対して今回のコロナ禍では(影響度合いが見えづらく)さまざまな公的補償の対象が恣意的な線引きで決まり、不公平感が生まれやすい。その線引きに住民の不満が向かっている。その構図は、原発被災者にとても似ている。 連合の地方組織「連合福島」と福島県立医科大が共同で行った調査(調査期間2020年10月1日~11月23日)では、回答した連合の組合員の50.4%に強いうつ・不安症状が認められた。コロナ禍の前年(2019年)の福島県民のデータ(31.5%)と比べても著しく高かった。 (広く県民の間でも)コロナの影響は感染不安ばかりではなく、情報不安やコミュニケーションの減少など生活全般に及んでいることがうかがえる。総じて女性や医療介護職のストレスが高い結果だった。 Q:医療従事者らにどのような支援が必要なのでしょうか。 A:専門職である医療従事者へのメンタルケアが必要なのかと問われることがある。だが、福島県内で私たちが支援する病院職員らは「震災時以上に大変だ」と口をそろえる。 都道府県にはメンタルヘルスの相談窓口が設置されているが、相談を待っているだけではほとんど利用されない。顔が見られる関係でなければ相談はできないからだ。 コロナ感染症対応病棟のスタッフからは、「不安よりも不満」という言葉をよく聞く。クラスターが発生すると、時にスタッフの怒りが噴出して、病院内の管理体制では組織のコントロールができなくなることがある。 スタッフの不満が最も高まるのがクラスターの収束後、病院再開のときだ。再開の時期をめぐって、地域医療や経営を考える管理者と、過酷な状況にいる現場の看護師の間に亀裂が深まりやすい。クラスターの発生が、そのまま組織の存続危機をまねきかねない』、「クラスターが発生した施設の職員に対してストレスチェックを行うと、職員の2~3割に強いうつ症状が出ている」、「「連合福島」と福島県立医科大が共同で行った調査・・・では、回答した連合の組合員の50.4%に強いうつ・不安症状が認められた。コロナ禍の前年(2019年)の福島県民のデータ(31.5%)と比べても著しく高かった」、「クラスターが発生すると、時にスタッフの怒りが噴出して、病院内の管理体制では組織のコントロールができなくなることがある」、やはり「クラスター」は可能な限り抑え込む必要がありそうだ。
・『外部の支援が足りない  そこで必要なのが、外部の支援チームだ。福島県では県の新型コロナウイルス感染症対策本部のもとで感染症防御の専門家チームと災害派遣医療チーム(DMAT)が協働し、福島県立医科大・災害こころの医学講座の医師、臨床心理士で作る「こころのケア・チーム」がクラスター発生施設を支援している。私たちのチームでは、病院再開後1カ月間は職員のメンタルケアの支援を続けている。復興期こそ心のケアは重要だ。 なかでも必須となるのが、遠隔支援だ。私たちは事前に職員へのアンケートでうつ病などの症状を確認し、その後、ズームや電話で面談をしている。治療が必要な場合や希死念慮(自殺願望)があるような重篤なケースは、対面での面談も行っている。 施設や職員からのメンタルヘルス支援のニーズはあるものの、外部のチームによる積極的な支援はまだ一部の自治体に限られている。 通常の災害では被災地には、(病院や大学などから派遣された)こころのケア・チームの支援が入る。それがコロナ禍では感染リスクなどから、クラスター発生施設に(支援チームを)派遣することに、派遣する側の組織が消極的だ。しかし、訪問が難しい場合でもオンラインを使って支援する方法はあるので、それらを活用すべきだ』、「クラスター発生施設に(支援チームを)派遣する」、「訪問が難しい場合でもオンラインを使って支援」、その通りだ。

次に、この続き、5月2日付け東洋経済Plus「医療従事者のメンタル悪化が「放置」される複雑背景 うつに不眠、「心の異変」相次ぐ医療現場の深刻実態」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26879
・『コロナ禍で医療従事者や自治体職員の心の問題が顕在化している。患者や住民を「支える立場」にある人たちへの支援が急務だ。 2020年12月、長野県のある公立病院では近隣の2カ所の介護施設で新型コロナウイルスのクラスター(集団感染)が発生し、多数の感染患者を受け入れた。それまで最低限の人員で回していたコロナ病棟には、新たにほかの病棟から看護師が投入された。 「準備期間がなく、ぶっつけ本番に近い状態でコロナ病棟に入った。感染防護具を着るのも初めてで、感染の恐怖は大きかった」。コロナ病棟に回された看護師は、こう振り返る。この病院では看護師5人が院内感染しているという。 コロナ患者を受け入れる別の病院で働く理学療法士の男性は、昨年11月下旬にうつ症状が現れ、通院するまでになった。症状が出る前、男性が働く病院ではクラスターが発生。自宅には生まれたばかりの子どもがいたため、家族への感染リスクを懸念し、ホテルで寝泊まりする日々が続いていた』、「理学療法士の男性は・・・うつ症状が現れ、通院する」、「家族への感染リスクを懸念し、ホテルで寝泊まりする日々が続いていた」、という厳しい勤務環境からは同情する他ない。
・『自分が"感染源"になる恐怖  地方自治体職員の労働組合の自治労(全日本自治団体労働組合)が昨年、公立病院で働く医療者に行った調査によると、コロナ患者と直接かかわる職員の約2割にうつ症状の自覚があった。 コロナの感染拡大から1年以上。足元では第4波も広まり、病院職員の間で長期戦によるメンタルの悪化が深刻さを増している。 日本赤十字社医療センター(渋谷区)が2020年4~5月に全職員に行った調査でも、うつ症状があった職員は27.9%に上った。同年11~12月に調査を再び実施したが、うつ症状の職員は25.6%と、なお高い割合だ。同センターで職員支援に当たるメンタルヘルス科の臨床心理士の秋山恵子さんは、「慢性的な疲労やストレスが蓄積しており、依然として油断できない状況だ」と危惧する。 医療者たちが共通して抱くのは、自らが感染源になる恐怖だ。札幌市内の民間病院で働く看護師の女性は、「体調を自己管理するのは限界」と悲鳴を上げる。女性が働く病院は、呼吸器専門の内科だ。 「(病院全体の)入院患者の8割が呼吸器系の重症患者だ。職員はコロナの検査をしてもらえないため、熱を測って自分で体調管理するしかない。自分がウイルスを持ち込んで患者に感染させたらと思うと不安でたまらない」 感染リスクを恐れて、家族や友人とも接触を控える生活が続く日々。そのうえ、「いつもなら同僚と愚痴を言って励まし合っていたが、病院の休憩室で話すことすら禁じられている」(複数の看護師)。 コロナ患者の対応に当たる医師や看護師の睡眠不足も深刻だ。複数の医療機関の職員の電話相談を受けている臨床心理士は、次のように現場の実情を明かす。 「医療者は自分が休むことが患者の命と関係すると考えてしまう。病棟の夢を見る、人工呼吸器のアラーム音が耳から離れないなど、睡眠に影響が出ている人が多い。本人が自覚をしていなくても、眠れているかと質問すると、平均して2~3時間しか眠れていない」』、「職員はコロナの検査をしてもらえないため、熱を測って自分で体調管理するしかない。自分がウイルスを持ち込んで患者に感染させたらと思うと不安でたまらない」、病院は「クラスター」発生を予防するためにも、自らの職員にも検査を徹底すべきだ。
・『根底にある長時間労働とパワハラ  コロナ禍以前から、医療現場は過酷な労働環境が問題視されてきた。 厚労省の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」では、一部医師の時間外労働時間の上限を「年間1860時間」(月平均155時間相当)まで認める方針をおおむね固めている。これは、過労死ラインとされる「月80時間」の約2倍。同検討会の資料によると、約1割の医師が年間1860 時間を超えて働いている。 コロナ対応で現場が逼迫する中、経験の浅い医師にも負荷が押し寄せている。 千葉県の民間病院で働く研修医は、「若手医師の当直回数が増えている」と吐露する。「地方ではもともと医師が足りず、ベテラン医師には当直を頼みにくいため、若手に集中しがち」という。通常の研修がおろそかにされ、コロナ診療に回される研修医も多い。 研修医や、専門医の取得を目指す"専攻医"は、「上司に逆らえないうえ、自分を責めやすい」と、勤務医らで作る全国医師ユニオンの代表を務める植山直人医師は話す。 「メンタルを病んでつぶれた医師はたくさんいる。根底にあるのは、当たり前のように横行する長時間労働と、それとセットのパワハラだ。上司に長時間労働の改善を求められないし、言ったとしても相手にされない。メンタル不調に陥ると、本人の闘う気力も失われる」(植山医師) 長時間労働を背景とした医師のメンタル不調は、数字にも表れている。筑波大学医学医療系・客員准教授の石川雅俊医師が行った専攻医への調査(調査期間は2020年10月10日~23日)では、中等度の抗うつ症状があった医師は18.6%。勤務時間が長いほど、その割合が高くなることもわかった』、「厚労省の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」では、一部医師の時間外労働時間の上限を「年間1860時間」(月平均155時間相当)まで認める方針をおおむね固めている。これは、過労死ラインとされる「月80時間」の約2倍。同検討会の資料によると、約1割の医師が年間1860 時間を超えて働いている」、「医師」の「長時間労働」はやはり酷いようだ。「メンタルを病んでつぶれた医師はたくさんいる。根底にあるのは、当たり前のように横行する長時間労働と、それとセットのパワハラだ」、「中等度の抗うつ症状があった医師は18.6%。勤務時間が長いほど、その割合が高くなることもわかった」、なるほど。 
・『"弱さを見せない"特殊な文化  過度なストレスがかかりやすい職場であるにもかかわらず、従来から医療者の心の問題は放置されやすい傾向が強い。 横浜労災病院の勤労者メンタルヘルスセンターでは、業種を問わず労働者の心の悩みのメール相談を受けている。2020年のメール相談件数は、前年の約1.6倍の1万5223件。メール相談を開始した2000年以降で過去最多となった。 だが、メール相談に応じる山本晴義センター長は、「最もストレスを感じているはずの医療者からの相談は、思っているよりも少なかった」と言う。 「医療者には『弱さを見せない』という特有の文化がある。そのため、身体に症状が出るまで我慢してしまうことが多い」。医療事故問題に詳しい早稲田大学法学学術院の和田仁孝教授は、こう分析する。 和田教授が理事を務める一般社団法人「Heals」では、医療事故を体験した医療者からの相談を受ける活動をしている。設立した理由は、医療者が事故を起こしたときに安心して相談できる場が少なかったからだ。 「医療機関は、組織の中に専門知識を持つ医師や看護師がいるため、職員へのケアは誰でもできると思われがちだ。そのため医療者への精神的なケアは、エアポケット(空白)になりやすかった」(和田教授)』、「医療者には『弱さを見せない』という特有の文化がある。そのため、身体に症状が出るまで我慢してしまうことが多い」、周囲はそれを見込んで対応する必要がありそうだ。
・『院内の窓口には「相談できない」  一定の職員数を超える医療機関は通常、職員向けの専用相談窓口を設置している。だが、その利用率は低い。自治労の調査によると、勤務している施設内にメンタルヘルス相談窓口があると答えた職員は41%だった。ただし、相談したことがあるという職員は6.5%にとどまる。 利用されにくい事情として、「相談窓口があるが、元看護部長がやっているので組織内の不満を言えない」「相談しても組織が改善されない」(複数の医療者)といった声が上がる。 前出の病院職員の電話相談を受ける臨床心理士も、「元看護部長が相談に乗っているケースは多い。経験があるだけに、『もう少しがんばってみて』と、あと一歩無理をさせてしまう」と指摘する。 「Heals」では現在、医療従事者らを対象にコロナに関する電話相談も受けている。相談内容で目立つのが、組織内部での葛藤だ。「感染リスクの高い仕事ばかりやらされる」といった不公平感や、管理職の指示などに対する不満を持つ職員からの相談が多いという。 特殊な職場環境の下、最前線でコロナ対応に当たる医療従事者のメンタルの悪化は表面化しにくい。それゆえに深刻だ。彼らの自助努力を求める体制はすでに限界を迎えている』、「勤務している施設内にメンタルヘルス相談窓口があると答えた職員は41%だった。ただし、相談したことがあるという職員は6.5%にとどまる」、やはり職場では相談し難いケースもあるだろうから、外部に設ける必要があるのだろう。

第三に、この続き、5月2日付け東洋経済Plus「クラスター施設では行政の支援が待ったなし 暗中模索の医療機関、コロナで不足する「職員ケア」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26880
・『コロナ禍で医療従事者や自治体職員の心の問題が顕在化している。患者や住民を「支える立場」にある人たちへの支援が急務だ。 長期化する新型コロナウイルス感染拡大への対応に追われ、うつ症状や不眠など、メンタルの悪化に苦しむ医療従事者が増えている。 医師や看護師が多数在籍する医療機関では、職員のメンタルヘルスの相談対応も、外部の専門家に任せず組織内の人間でまかなうことが多い。そのため院内に相談窓口があったところで、「(同僚や上司に)組織内部の不満を言えない」(複数の医療従事者)といった理由から、広くは利用されていないのが実態だ。 「自分たちが言ったことが組織に反映されると思われなければ、職員に面談の意味も理解されない。個別の励ましや労いの言葉より、拾い上げた声を組織づくりに生かす方が、ずっと大きな心理的サポートになる」 こう話すのは、日本赤十字社医療センター(渋谷区)・メンタルヘルス科の臨床心理士、秋山恵子さんだ。同センターではコロナの感染拡大が本格化した2020年4月、院内に職員支援の専門チーム「スタッフサポートチーム」を作り、職員のメンタルケアを開始した』、なるほど。
・『メンバーが各部署に出向く  日赤医療センターには、災害時に被災者への心理的支援などに当たる職員が「こころのケア要員」として在籍している。こうしたメンバーが中心となり、総勢31人で全職員のメンタルケアに取り組む。 職員へのメンタル支援に必要なのは、ただ話を聞くだけでなく、相談内容を組織改革などへつなげることだ。同センターの支援チームでは、これまでに延べ209人の個人面談を実施。相談者から許可を得られた意見は、各部署の上司や管理職にも報告する。 他方で前述のように、医療機関では相談窓口があっても、利用されないケースも多い。 窓口の利用を促すため、チームではまず、職員自身がストレスに気づくように啓発ポスターを院内に掲示。さらに支援を必要とする職員の声を拾い上げるため、メンバーが定期的に各部署に出向いている。職員との雑談の中で困り事はないかなどを聞き、助言を行うほか、必要に応じて個人面談を促す。 埼玉医科大学病院(埼玉県毛呂山町)も、2020年4月から精神科のメンバーが中心となり、職員からの相談を受ける「こころのケアチーム」を発足。チームの中核を担う神経精神科・心療内科の松岡孝裕医長は、「コロナ病棟で働く職員だけでなく、間接的に関わる職員のストレスも大きい」と話す。 「相談依頼は直接コロナ対応に関わる職員に加え、周辺の職員からも少なからず届く。救急外来の職員やレントゲンを撮影する検査技師、食事を運搬する職員、窓口職員など、全職種への支援が必要だ」(松岡医師) ただ、現状こうした専門チームを作れる病院は、院内に精神的ケアの専門知識を有する人材を豊富に抱える病院に限られている』、「総勢31人で全職員のメンタルケアに取り組む。 職員へのメンタル支援に必要なのは、ただ話を聞くだけでなく、相談内容を組織改革などへつなげることだ。同センターの支援チームでは、これまでに延べ209人の個人面談を実施。相談者から許可を得られた意見は、各部署の上司や管理職にも報告する」、「支援を必要とする職員の声を拾い上げるため、メンバーが定期的に各部署に出向いている。職員との雑談の中で困り事はないかなどを聞き、助言を行うほか、必要に応じて個人面談を促す」、さすが「日赤医療センター」だけあって、取り組みは本格的だ。
・『電話相談を外部に委託  コロナ禍での職員のケアを強化するため、相談窓口の運営を組織内ではなく、外部機関に委託する事例もある。 大手民間病院グループの徳洲会は2020年4月から、職員向けにメンタルヘルス相談の電話窓口を設置している。相談窓口は、企業の従業員のメンタル支援を受託する民間会社のスノーム(名古屋市)が担う。同社は医療従事者向けの相談実績もある。相談内容は相談者の許可が得られた場合にのみ、病院側にフィードバックされる。 窓口導入のきっかけは、同グループの葉山ハートセンター(神奈川県葉山町)でダイヤモンド・プリンセス号の感染患者を受け入れたことだった。 「同調圧力によって、コロナ患者への対応に不安があっても言い出せない職員がいるのではないか」。 そう考えた同グループの医療安全・質管理部の野口幸洋課長補佐は、臨時的な電話相談窓口を設置し、職員へ周知した。「まずは病院側が、職員をフォローしているというメッセージを明確に示すことが重要だった」(野口氏)。 職員支援の必要性を即座に考えた背景には、災害支援での経験があった。 徳洲会では、災害時に医師や看護師で作るチームを被災地に派遣する仕組みがある。被災地に派遣された職員には、派遣直後と3カ月後にメンタルチェックを必ず行う。実際、水害支援に入った職員が被災地を思い出し、フラッシュバックを起こしたケースもあったという』、「徳洲会」の「葉山ハートセンター・・・でダイヤモンド・プリンセス号の感染患者を受け入れたことだった。 「同調圧力によって、コロナ患者への対応に不安があっても言い出せない職員がいるのではないか」。 そう考えた同グループの医療安全・質管理部の野口幸洋課長補佐は、臨時的な電話相談窓口を設置し、職員へ周知した。「まずは病院側が、職員をフォローしているというメッセージを明確に示すことが重要だった」(野口氏)。 職員支援の必要性を即座に考えた背景には、災害支援での経験があった」、早手回しに「職員支援」の体制を整えたというのはさすがだ。
・『休職者も出るクラスター施設  一方、医療機関の中でも突出して職員のメンタル支援の必要性が高まっているのが、クラスター(集団感染)が発生した施設だ。 厚生労働省によると、全国でクラスターが発生した医療機関と福祉施設は4648施設に上る(4月26日時点)。ひとたびクラスターが発生すると、別の業務に当たっていた職員も突然、コロナ対応の最前線に立たされる。職員が次々に陽性になると、残った職員に業務の負荷が集中する。 「クラスターが発生した施設では職員のメンタルケアが後回しになり、休職者が出るほど(メンタルの悪化が)深刻になる」 沖縄県立総合精神保健福祉センターの宮川治所長は、こう警鐘を鳴らす。沖縄県では2020年8月から同センターが中心となり、クラスターが発生した医療・介護施設の職員に対してメンタル支援を行ってきた。 同県では、コロナ対策本部の中に災害派遣精神医療チーム(DPAT)の調整本部を設置。DPATとは、災害時に被災者のメンタルケアや精神科病院の運営支援を行う専門チーム。地域の医療機関などから集められた医師や看護師で構成される。宮川所長が調整役となり、DPATや沖縄県公認心理師協会が、クラスター発生施設の職員のストレスチェックやカウンセリングに当たっている。 県のコロナ対策本部の中に、職員支援の調整機能を位置づけた意味は大きい。支援の存在が医療機関や介護施設側に周知され、クラスター発生の初期段階からのケアが可能となった。2021年3月末までに沖縄県では16施設に支援を実施した。 クラスター発生時には、経営存続を考える管理者側と過酷な環境で働く現場職員の間に溝が生まれやすい。「管理者からの情報不足により、職員の不満はたまる。職員支援では、両者のコミュニケーションの潤滑油となり、両者間の溝を埋める役割になる」(宮川所長)』、「沖縄県」では「コロナ対策本部の中に災害派遣精神医療チーム(DPAT)の調整本部を設置。DPATとは、災害時に被災者のメンタルケアや精神科病院の運営支援を行う専門チーム」、「DPATや沖縄県公認心理師協会が、クラスター発生施設の職員のストレスチェックやカウンセリングに当たっている」、「クラスター発生時には、経営存続を考える管理者側と過酷な環境で働く現場職員の間に溝が生まれやすい。「管理者」と「職員」の「コミュニケーションの潤滑油となり、両者間の溝を埋める役割になる」、なかなかいい仕組みだ。
・『自治体で取り組みに温度差  もっともクラスター発生施設の職員への積極的なメンタル支援は、一部の自治体に限られる。 累計のコロナ陽性者数が最も多い東京都では、沖縄県のようなDPATの仕組みはまだ活用されていない。都内にある3つの精神保健福祉センターでは、クラスター発生施設から要請を受けた場合に職員支援を行う仕組みがある。各センターへの取材によると、東京都立精神保健センター(台東区)では、6施設への支援を実施したが、他の2センターでの実施はなかった。 2021年3月末、厚労省は「新型コロナウイルス感染症感染制御等における体制整備等に係る DPAT の活用等について」という依頼を各自治体に通知し、DPATの活用を促した。ただ、同省の地域医療計画課の担当者は「DPATの派遣状況は把握していない」と言う。 国はコロナに対応できる医療機関の拡充を進めている。だが、代わりの効かない医療者の多くがメンタル不調に陥れば、病院の存続自体が危うくなる。医療機関独自の取り組みだけでなく、行政主導で実効力のある職員支援の拡充が急がれる』、「DPATの活用を促した」のに、「同省の地域医療計画課の担当者は「DPATの派遣状況は把握していない」、無責任だ。把握すべきだろう。「医療機関独自の取り組みだけでなく、行政主導で実効力のある職員支援の拡充が急がれる」、同感である。
なお、この他のパンデミックについては、後日、改めて取上げるつもりである。
タグ:パンデミック (経済社会的視点) (その15)支える側の実態4題(支援現場の医師が訴える医療者の窮状 クラスター施設職員「2~3割がうつ症状」の悲惨、医療従事者のメンタル悪化が「放置」される複雑背景 うつに不眠、「心の異変」相次ぐ医療現場の深刻実態、クラスター施設では行政の支援が待ったなし 暗中模索の医療機関、コロナで不足する「職員ケア」) 東洋経済Plus 「支援現場の医師が訴える医療者の窮状 クラスター施設職員「2~3割がうつ症状」の悲惨」 「医療従事者のうつ症状が強くなる原因は、過重労働による疲弊と、強く自分を責める感情にある」、確かに大変そうだ。 「クラスターが発生した施設の職員に対してストレスチェックを行うと、職員の2~3割に強いうつ症状が出ている」、「「連合福島」と福島県立医科大が共同で行った調査・・・では、回答した連合の組合員の50.4%に強いうつ・不安症状が認められた。コロナ禍の前年(2019年)の福島県民のデータ(31.5%)と比べても著しく高かった」、「クラスターが発生すると、時にスタッフの怒りが噴出して、病院内の管理体制では組織のコントロールができなくなることがある」、やはり「クラスター」は可能な限り抑え込む必要がありそうだ。 「クラスター発生施設に(支援チームを)派遣する」、「訪問が難しい場合でもオンラインを使って支援」、その通りだ。 「医療従事者のメンタル悪化が「放置」される複雑背景 うつに不眠、「心の異変」相次ぐ医療現場の深刻実態」 「理学療法士の男性は・・・うつ症状が現れ、通院する」、「家族への感染リスクを懸念し、ホテルで寝泊まりする日々が続いていた」、という厳しい勤務環境からは同情する他ない 「職員はコロナの検査をしてもらえないため、熱を測って自分で体調管理するしかない。自分がウイルスを持ち込んで患者に感染させたらと思うと不安でたまらない」、病院は「クラスター」発生を予防するためにも、自らの職員にも検査を徹底すべきだ。 「厚労省の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」では、一部医師の時間外労働時間の上限を「年間1860時間」(月平均155時間相当)まで認める方針をおおむね固めている。これは、過労死ラインとされる「月80時間」の約2倍。同検討会の資料によると、約1割の医師が年間1860 時間を超えて働いている」、「医師」の「長時間労働」はやはり酷いようだ。「メンタルを病んでつぶれた医師はたくさんいる。根底にあるのは、当たり前のように横行する長時間労働と、それとセットのパワハラだ」、「中等度の抗うつ症状があった医師は18. 「医療者には『弱さを見せない』という特有の文化がある。そのため、身体に症状が出るまで我慢してしまうことが多い」、周囲はそれを見込んで対応する必要がありそうだ。 「勤務している施設内にメンタルヘルス相談窓口があると答えた職員は41%だった。ただし、相談したことがあるという職員は6.5%にとどまる」、やはり職場では相談し難いケースもあるだろうから、外部に設ける必要があるのだろう。 「クラスター施設では行政の支援が待ったなし 暗中模索の医療機関、コロナで不足する「職員ケア」」 「総勢31人で全職員のメンタルケアに取り組む。 職員へのメンタル支援に必要なのは、ただ話を聞くだけでなく、相談内容を組織改革などへつなげることだ。同センターの支援チームでは、これまでに延べ209人の個人面談を実施。相談者から許可を得られた意見は、各部署の上司や管理職にも報告する」、「支援を必要とする職員の声を拾い上げるため、メンバーが定期的に各部署に出向いている。職員との雑談の中で困り事はないかなどを聞き、助言を行うほか、必要に応じて個人面談を促す」、さすが「日赤医療センター」だけあって、取り組みは本格的 「徳洲会」の「葉山ハートセンター・・・でダイヤモンド・プリンセス号の感染患者を受け入れたことだった。 「同調圧力によって、コロナ患者への対応に不安があっても言い出せない職員がいるのではないか」。 そう考えた同グループの医療安全・質管理部の野口幸洋課長補佐は、臨時的な電話相談窓口を設置し、職員へ周知した。「まずは病院側が、職員をフォローしているというメッセージを明確に示すことが重要だった」(野口氏)。 職員支援の必要性を即座に考えた背景には、災害支援での経験があった」、早手回しに「職員支援」の体制を整えたと 「沖縄県」では「コロナ対策本部の中に災害派遣精神医療チーム(DPAT)の調整本部を設置。DPATとは、災害時に被災者のメンタルケアや精神科病院の運営支援を行う専門チーム」、「DPATや沖縄県公認心理師協会が、クラスター発生施設の職員のストレスチェックやカウンセリングに当たっている」、「クラスター発生時には、経営存続を考える管理者側と過酷な環境で働く現場職員の間に溝が生まれやすい。「管理者」と「職員」の「コミュニケーションの潤滑油となり、両者間の溝を埋める役割になる」、なかなかいい仕組みだ 「DPATの活用を促した」のに、「同省の地域医療計画課の担当者は「DPATの派遣状況は把握していない」、無責任だ。把握すべきだろう。「医療機関独自の取り組みだけでなく、行政主導で実効力のある職員支援の拡充が急がれる」、同感である。 なお、この他のパンデミックについては、後日、改めて取上げるつもりである。
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人権(その6)(体重20キロ減、吐血でも見殺し 女性死亡の入管の闇が深すぎる、スカート男児は奇妙? 報ステCM叩きと大人たちの不始末、ジェノサイド条約 日本未加盟なぜ 見直す動きも) [社会]

人権については、1月23日に取上げた。今日は、(その6)(体重20キロ減、吐血でも見殺し 女性死亡の入管の闇が深すぎる、スカート男児は奇妙? 報ステCM叩きと大人たちの不始末、ジェノサイド条約 日本未加盟なぜ 見直す動きも)である。

先ずは、3月17日付けYahooニュースが掲載したフリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)の志葉玲氏による「体重20キロ減、吐血でも見殺し、女性死亡の入管の闇が深すぎる」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20210317-00227820/
・『またしても、法務省・出入国在留管理庁(入管庁)で重大な人権侵害だ。迫害から逃れてきた難民や、家族が日本にいるなど、母国に戻れない人々の事情を考慮せず、法務省・入管庁は、その収容施設に「収容」している。こうした収容施設では、暴力や虐待、セクハラ等、非収容者に対する非人道的な扱いが常に問題となり続け、被収容者が死亡する事件も毎年のように発生している。今月6日にも、スリランカ人女性が名古屋入管の収容施設で死亡。深刻な体調不良を本人や支援団体が訴えていたにもかかわらず、女性を収容していた名古屋入管側が適切な医療を受けさせなかったことで、痛ましい結果を招いた可能性が高いという。本件について、今月12日、参議院議員の石川大我氏が国会で法務省・入管庁側を問いただした』、どういうことなのだろう。
・『倒れても、まともな薬すら与えない、点滴も認めず  今月12日の国会での石川大我参議院議員と佐々木聖子入管庁長官のやり取りによると、亡くなった女性は30代で、母国で大学を卒業後、英語の堪能さを活かし、日本の子ども達に英語を教えたいとの夢を持って2017年に来日。専門学校に通っていたのだという。ところが、両親からの仕送りが途絶え学費が払えなくなり、留学生ビザが失効。さらにコロナ禍で母国へ帰るに帰れず、昨年8月、名古屋入管に収容されてしまったのだという。その後、女性の体調は悪化。今年1月の時点で、既に深刻な状態だったという。 石川議員「お亡くなりになられる前の面会の記録がありまして、支援者の方の許可を得て、プライバシーを守りながらお話をしたいと思いますが(中略)1月には体重が12キロ減、これ30代の女性の方ですからね、12キロ減るというのはかなりしんどいと思います。喉に違和感があり御飯が食べられない、施設の看護師に相談をすると、適度な運動や胃のマッサージをするようにと言われた。12キロ減って、適度な運動や胃のマッサージをしろ、これ適切ですか」 佐々木長官「今お尋ねの点を含めまして、亡くなられた方の診療経過あるいは健康状態の推移につきまして現在調査中でございます」 石川議員「1月下旬になると足の痛み、胃の痛み、舌がしびれるなど訴え、とうとう血を吐いてしまう、死にそうというふうに面会される支援者の方に訴える、この後も嘔吐、吐血。そのときに入管職員何と言ったか、迷惑だからといって単独房に移されたと、そういうふうに証言しています。目まい、胸の動悸、手足のしびれ、施設内の診療所で処方されたのはビタミン剤とロキソニンですよ。ビタミン剤と痛み止め、これだけで本当に(医療が)充実していると言えるんでしょうか。まともな体制でしょうか」 佐々木長官「その経緯につきましても調査中でございます。先ほど申しましたように、不断にこの医療体制については充実させていきたいと考えています」 石川議員「先月ですけれども、2月になると彼女は車椅子でとうとう面会に現れるようになるということです。食べられない、薬を飲んでも戻す、歩けないという状態、ここでやっと外部の病院での内視鏡検査。その後、点滴を打たせてほしいと言ったにもかかわらず、長い時間が掛かるという理由で入管職員が認めずに、一緒に帰ってしまった。このこと、ありますでしょうか?」 佐々木長官「その経緯につきましても、正確に把握するべく調査中です」 石川議員「(面会記録を)読んでいて本当につらくなるんです。とうとう面会には車椅子で出てくる、そして(嘔吐、吐血するので)バケツを抱えてくるという状態、歩けない状態で、職員はコロナを理由に介助しない、胃がねじれるように痛い、歩けないのに歩けと言われる(中略)担当職員、コロナだから入院できない、病気じゃない、仮病だと言う。そして、2月下旬、とうとう20キロ痩せてしまう、おなかが痛い、口から血が出て倒れても助けてもらえないので床に転んだまま寝た、こんなこともあったというふうに述べております。3月、今月です。頭がしびれる、手足がちゃんと動かないなどの危険な状態になる、熱はずっと37度から38度です。支援者は、このままでは死んでしまう、すぐに入院させるべきだと申し入れますが、職員は拒否、予定は決まっていると答えるのみ。これ、本当にひどくないですか」 *今月12日の参院予算委員会質疑より抜粋』、「佐々木長官」は2回の答弁とも、「調査中」と逃げているが、こ質問は事前通告されていなかったのだろうか。「質問者」の「石川議員」も調査終了の目途を聞きただして、調査終了後に改めて再質問したい旨を主張すべきだ。
・『独立した詳細な調査が必要  石川議員の追及に「調査中」との答弁を繰り返した佐々木長官であったが、今国会では法務省・入管庁による入管法の「改正」案が審議される見込みだ。この入管法「改正」の争点として、収容の是非を司法に判断させることや収容期間に上限を設定すること等の国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会の勧告を、取り入れるか否かがある。 亡くなったスリランカ人女性も、体調悪化が著しくなった時点で、収容施設から仮放免され入院できたなら、命を落とさずにすんだのかもしれない。つまり、本件の調査は入管法「改正」の国会審議にも直接影響を与え得るものなのだが、入管側が、のらりくらり「調査中」だと言い続けて報告を先延ばしする可能性もある。石川議員も「まさか法案の審査の後にこの報告が上がる、そんなことはないですね」と質疑の中で釘を刺したが、佐々木長官は「正確性を期した上で、できるだけ早く調査を遂げます」と述べるにとどまっている。 もう一つ問われるのが、「調査」の独立性だ。入管施設内での被収容者の死亡については、2019年6月に大村入管センター(長崎県)で長期収容されていたナイジェリア人男性がハンガーストライキ中に餓死した件に関して、入管庁は同年10月に調査報告書をまとめているが、その内容は入管庁の立場を擁護するもので、餓死事件以前から、大村入管センターでの長期収容に懸念を表明していた九州弁護士会連合会は餓死事件の調査報告書を批判。独立した第三者による調査が必要だとの声明を発表している(関連情報)。 石川議員も12日の国旗質疑で、名古屋入管でのスリランカ人女性の死亡について「第三者による調査委員会つくる必要がある」「外部の調査が必要なんじゃないですか」と繰り返し問い、田所嘉徳法務副大臣に「(事情を知る)支援者にお話を聞く、そういった予定はありますか」と重ねて確認。田所副大臣は「必要があればしっかりと現地を見て、完全なものにするようにしたいというふうに思っております」と答弁し、言質を引き出したかたちだ』、事実関係は「調査中」とはいえ、余りに酷い人権侵害だ。「入管法の「改正」案が審議される見込み」なのであれば、石川議員は「第三者による調査委員会」設置を審議に応じる条件とするなり、もっと強気に出るべきだ。なお、「国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会の勧告」については、あっさり済ませているが、昨年10月21日付け日本弁護士連合会による「入管収容について国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会の意見を真摯に受け止め、国際法を遵守するよう求める会長声明」によれば、「日本では入管収容に関して差別的対応が常態化しているとまで指摘された。条約機関からの度重なる勧告を軽んじるような態度を指摘されたことを、日本政府は真摯に受け止めるべき」と強い調子で政府に迫っている。
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2020/201021.html
・『入管関係で20人が死亡している!  入管の収容施設内または業務下での死亡者は、この20年余りで20人に上る*。その死因で目立つのは適切な医療を受けさせなかったことであり、今回亡くなってしまった女性の件、と同根の問題である。石川議員が指摘するように、入管法「改正」の国会審議の後に、今回の死亡事件の調査報告がまとめられるのでは論外だ。むしろ、入管法「改正」の審議を一旦停止してでも、まずは死亡事件についての、詳細かつ独立した調査が行われるべきなのであろう。 (了)』、「入管法「改正」の審議を一旦停止してでも、まずは死亡事件についての、詳細かつ独立した調査が行われるべき」、当然の主張で賛成である。

次に、3月30日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「スカート男児は奇妙? 報ステCM叩きと大人たちの不始末」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00122/
・『3月22日に「報道ステーション」(テレビ朝日系列)が公開したウェブ用CMに批判が殺到し、削除される事態になった。もうすでにあちこちのメディアで色々な人が色々な意見を書いているのだが、多くの人たちから意見を聞かれたので、お答えする。 まずは、ご覧になっていない方のために、簡単に内容を説明します。 CMは20代と思われる会社員の女性が、「先輩が産休あけて赤ちゃん連れてきてたんだけど、もうすっごいかわいくって」「どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかって今、スローガン的にかかげている時点で、何それ、時代遅れって感じ」「化粧水買っちゃたの。すごいいいやつ」「それにしても消費税高くなったよね。国の借金って減ってないよね?」などと視聴者に話しかけるもので、最後は「こいつ報ステみてるな」というテロップで終わるものだった』、なるほど。
・『「男性たちの声」なぜ取り上げない?  公開直後から批判が殺到し、私も知人から「これひどくないですか?」との連絡をもらい、はじめてCMの存在も炎上していることも知った。 で、早速CMを見たところ……正直、よく分からなかった。ただ、「なんで、こんなに上から目線なんだろう?」という気持ちの悪さだけは強烈に残った。 一方、SNSでは「ジェンダー平等を終わったことにしてる」「女性をバカにしてる」という意見が数多く見られ、番組側が慌てて火消しに走ったことも、逆に火に油を注ぐことになった。 「意図をきちんとお伝えすることができなかった」「不快な思いをされた方がいらしたことを重く受け止める」といった謝罪文のコメントが、「人のせいにするな!」と大ブーイングを食らったのだ。 もし、CMに登場するのが「男性の会社員」だったら、どうだったのだろうか? もし、CM最後のテロップが「報ステで一緒に考えよう!」でも、炎上したのだろうか? 結論を申し上げれば、「デキの悪いCMだった」ということに尽きる。作った人には申し訳ないけれども、とにかくデキが悪かった。だいたい森喜朗氏の発言以降、メディアはこぞって「女性たちの声」を取り上げるが、ジェンダー平等=女性の問題ではない。なぜ、「男性たちの声」を取り上げないんだ? ジェンダー(gender)とは、「社会的・文化的につくられる性別」であり、ジェンダー平等とは「男女の社会的・文化的役割の違いや男女間の関係性」を示すものだ。 生物学的な性別(sex)に分けて考える問題ではない。 というわけで、今回は「ジェンダー」について、あれこれ考えてみようと思う。 その前に……、今回の報ステのCM問題で連絡してくれた人たちの多くは、私を「報ステ」のOGと勘違いしていたようだが、私が気象予報士第1号として出演していたのは久米宏さんの「ニュースステーション」。同じテレビ朝日だが、制作会社も違う別番組だ。しかも、20年以上も前の大昔の話なのであしからず。 では、本題。 先週、日本経済新聞に、「ジェンダー」を考える上で非常に大切な問題が取り上げられていたので紹介する(3月24日付夕刊「幼児の性自認、悩む対応 『女の子の格好』でいじめ」)。 記事によれば、市立保育園に通う6歳の園児が、「おとこおんな」などと他の園児からいじめを受け、保育園に行けなくなってしまったという』、「性自認」が「幼児」から始まっているとは驚いた。
・『ときに残酷「子どもたちの世界」 いじめにあった園児は戸籍上は男だが、自身の性別に違和感があった。 そこで19年4月に年中クラスへ途中入園した際、女の子の服装で登園したところ、他の園児にからかわれたり、暴言や暴力を受けたりしたそうだ。 保育園の先生たちは子どもたちに、「心と体の性にずれがある人がいる」「お友達の気持ちを大事にしてね」といった話をしたそうだが、いじめは止まらなかった。いじめは約1年半続き、園児は不登園になった。 そこで両親が市に相談したところ、「いじめ防止対策推進法」の対象が小学生以上であることから、市は「いじめにはならない」と回答。両親が継続的に訴えたことで、20年11月に「年齢的なことを除けばいじめに当たり、対応は不適切だった」と謝罪したという。 いじめの対象を「小学生以上」と線引きしていること自体、私には理解できないのだが、「子どもの社会」は、ときに残酷すぎるほど残酷である。6歳の園児の苦しみは、私たち大人の想像をはるかに超えるものだったに違いない。しかも、子どものときにつけられた心の傷は、大人になってもなかなか癒えるものではない。 紙面には、園児が書いた、受けたいじめのメモが掲載されていた 。「ぼこぼこ」「なかまはずれ」「あちいけ」「びりびり」とつづらないと息もできないくらい、園児は声にならない悲鳴をあげていたのだと思う。つたない文字を見るだけで胸が痛む。こちら(3月24日付記事「幼児の性別違和、どう対応 いじめ防止法は対象外」)からもご覧いただけるので、ぜひとも見てほしい』、「いじめ防止法」が「いじめの対象を「小学生以上」と線引きしている」とはいえ、当初「市は「いじめにはならない」と回答」、とはお粗末だ。
・『性別違和感、幼児からの例  性自認の問題を取り上げると、「でも、生物学的には男と女は全く違うし」といった具合に、「生物学的=絶対的」というニュアンスの意見が出るが、染色体は実にきまぐれで、簡単に男女の二分法で分けられない多様性を持ち合わせている。 「生物学的にXX=雌、XY=雄」しか存在しないというのは間違いで、性染色体にはXXYや、XXXYというケースが相当数存在することが分かっているのだ。 特に「XXY」はクラインフェルター症候群と呼ばれ、男性600人に1人の割合で発生している(2000人に1人という説もある)。気付かずに生活している場合もあり、実態はもっと多い可能性がある。 また、LGBTという言葉が一般化してきたことで、教育現場でも性同一性障害を中心に子どもの性を巡る課題が顕在化し始めていることは、みなさんもご承知の通りだが、文部科学省の2014年の調査では「600件以上の事例」が報告されている(「学校における性同一性障害に関する調査」)。 かつては「性を巡る問題」は思春期以降を中心に捉えられる傾向にあった。しかし、近年、性的マイノリティーの当事者たちが、「自分の性に違和感を抱き始めたのは幼児の頃だった」と語る研究が散見され、幼児の性自認に関する研究も少しずつ蓄積されるようになった。 岡山大学の中塚幹也教授が、岡山大学ジェンダークリニックの1999~2010年の受診者を対象に行った調査では、性別違和を自覚し始めた時期について、全体の56.5%(1167 症例中 660例)が「小学校入学以前」と答えている。 そもそも社会的動物である人間には、「社会的役割を演じつつ自己を確立する」というプロセスが組み込まれている。発達心理学用語ではこれを「社会化」と呼ぶ。 社会化の過程では、世間に流布されている「ジェンダー・ステレオタイプ」を植え付けられるので、社会化はジェンダー化の過程といっても過言ではない。一般的には、子どもがジェンダーを自覚し、ジェンダー・ステレオタイプのまなざしを取得するのは2歳ごろだと考えられている。 ある実験では、「生後12カ月の赤ちゃんが遊んでいるビデオ」を3歳の子どもに見せ、赤ちゃんの印象を聞くことで、ジェンダー・ステレオタイプの有無を調べた。その際、1つのグループには「右側の赤ちゃんは女の子、左側の赤ちゃんは男の子」と伝え、もう1つのグループには「右側は男の子、左側は女の子」と逆パターンを告げられていた(ビデオの赤ちゃんは同一)』、「性染色体にはXXYや、XXXYというケースが相当数存在することが分かっているのだ」、なるほど「性染色体」から「LGBT]になる因子を持っているようだ。「子どもがジェンダーを自覚し、ジェンダー・ステレオタイプのまなざしを取得するのは2歳ごろだと考えられている」、ずいぶん早いようだ。
・『平等とは自由であること  その結果、どちらのグループも「女の子」と告げられた赤ちゃんには、「弱い、遅い、無口、やさしい」という感想が、一方、「男の子」とされた赤ちゃんには「強い、すばやい、騒々しい、元気」という感想が多く聞かれたという(「生まれる――つくられる男と女」細辻恵子)。 また、他の実験では3歳、5歳、7歳の子どもの比較で、もっとも柔軟性がないのが5歳で、7歳になると、男でも女でも、いろいろな人がいると認識できるようになることが確認されている。 当たり前のことだが、女児であれ男児であれ、無口な幼児はいるし、やさしさに性差があるわけじゃない。ところが、つい私たちは「男の子と女の子では赤ちゃんのときから違うのよね~」「男の子と女の子とでは泣き方も違うしね~」などと、当たり前のように言ってしまうし、そう実感する。 私自身、CA(キャビンアテンダント)をやっているときに、「男の子と女の子って、小さいときから違うんだなぁ」と思うことが度々あった。女の子の場合、私たちの首元のスカーフを興味深そうに触ったり、「きれい」とピンク色の唇に顔を近づけたりするのだ。一方、男の子は食事のサービスのときに使うカートに興味を示すことが多かった。……いや、正確にはそう「私」が感じていただけかもしれないのだ。 いずれにせよ、「社会化」の過程には、家庭や保育園・幼稚園などでの大人の接し方や、周りの子どもたちとの関係など、環境要因が色濃く影響する。ジェンダー・ステレオタイプは、大人が植え付けたもの。そのことを踏まえて「私」たちはジェンダー問題と向き合わなくてはならない。 つまり、幼児が「おとこおんな」とからかわれたり、「なかまはずれ」や「ぼこぼこ」にされたりするのは、大人社会の責任なのだ。 ジェンダー教育先進国スウェーデンでは、「平等とは自由であること」という考え方に基づき、1991年に平等法を制定し、真の平等の実現に向けさまざまなプロジェクトが実施されてきた。 その中の1つに、イェヴレボリ県のプレスクール(1~5歳対象)で行われた、ジェンダー・エクイティ(=ジェンダー平等)のアクション・リサーチがある。 ※アクション・リサーチとは、自分たちが直面している問題の解決に向けて、研究者と当事者の人々とが共同で取り組む研究方法。全ての人の「参加」に価値を置く』、「ジェンダー教育先進国スウェーデンでは、「平等とは自由であること」という考え方に基づき、1991年に平等法を制定し、真の平等の実現に向けさまざまなプロジェクトが実施」、さすが進んでいる。
・『学習で進む「性別役割への同化」  このリサーチでは、「まずは現状を把握しよう」と教師たちは自分たちの行動を録画し、「子どもたちと何を話し、どういう態度で接し、どういう経験をさせているか?」を分析した(An equality project:Experiences from an equality project ago the pre-school Bjorntomtens/Tittmyran in Gable, Sweden.)。 録画前、教師たちは「子どもに対して男女関係なく平等に対応している」と確信していたという。ところが、記録された動画には、教師たちが全く想像していなかった「自分たちの言動」が映し出されショックを受けた。 教師たちは一様に、女の子は「かわいい良い子」とみなし、自分の助手のように扱い、休憩時間になると「おとなしい女の子」か「けんかっ早い男の子」の近くに座り、男の子には「早く着替えなさい」と促し、女の子には自分のペースでゆっくり着替えさせるなど、男女で異なる対応をしていたのだ。 一方、子どもたちの観察記録からは、男の子が大人と距離を置き、独立心を教師にアピールしていたのに対し、女の子は大人たちの体に触れ、おしゃべりをし、かわいらしく振るまい、教師の手伝いを積極的に受け入れていることが分かった。 「男女関係なく平等に対応している」という確信とはほど遠い現実を知った教師たちは、何度も何度も録画し、議論を重ね、「自分たちの子どもへの接し方の違いが、こどもの大人への接し方の性差を生んでいる」とし、「教育は差異を前提にして行うべきもので、一人ひとりを尊重することが極めて重要」と結論づけた。 女の子と男の子では、ホルモン、性器、染色体など身体的・遺伝的に異なっているけど、性別役割への同化は学習によるものだとしたのだ。 スウェーデンでは、子どもたちを「男の子」「女の子」ではなく「おともだち」と呼んだり、同性カップルや一人親家庭、子どもができなくて寂しがっているオス同士の動物カップルの絵本を読ませたりするなど、徹底したジェンダーフリーの教育を行っている。 もっとも「ジェンダーフリーの行き過ぎは不自然」との意見もある。ジェンダーの問題はとてもとても、本当にとっても難しい問題なのだ。 しかし、人は外見、体格、生活状況、趣味、言語などでさまざまな違いがあり、それは決して「性差」だけによるものではない。全ての人に「自由と幸せになる権利」がある。 ズボンが好きな女の子を社会は受け入れているのだから、スカートが好きな男の子がいてもいい。 「ジェンダーの問題については世界的に見ても立ち遅れが指摘される中、議論を超えて実践していく時代にあるという考えをお伝えしようとした」(by 報ステ)のなら、もっとデキのいいCMを作って、世間をさすが!と言わせてくださいな』、「人は外見、体格、生活状況、趣味、言語などでさまざまな違いがあり、それは決して「性差」だけによるものではない。全ての人に「自由と幸せになる権利」がある。 ズボンが好きな女の子を社会は受け入れているのだから、スカートが好きな男の子がいてもいい」、同感である。

第三に、5月5日付けYahooニュースが時事通信を転載した「ジェノサイド条約、日本未加盟なぜ 見直す動きも」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a172ae6506700022b7099c583931f74083a3fe47
・『中国・新疆ウイグル自治区での人権弾圧をきっかけに「ジェノサイド条約」が注目されている。日本は国内法に処罰規定がないことを理由に加盟していないが、国際情勢や世論の変化を受け、批准に向けた機運も生まれつつある(Qは聞き手の質問、Aは回答)。 Q:最近「ジェノサイド条約」が話題になるね。 A:米国が中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害を「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定したのを機に関心が高まった。欧州連合(EU)なども加わり、日本を除く先進7カ国(G7)が対中制裁を科している。 Q:同自治区で何が起きているの。 A:NPO法人「日本ウイグル協会」は、ウイグル族の施設収容や強制労働、拷問、強制不妊手術、親子の引き離しなどが行われていると主張しているよ。中国政府は「世紀のうそ」と否定しているけど、中国の公式統計でも2014年以降、同自治区で不妊手術が急増したことが明らかになった。 Q:日本政府の対応は。 A:中国に対する「深刻な懸念」を表明している。ただ日本は海外で情報収集や分析を行う機関を持たないこともあり、迫害の事実認定には慎重だ。 Q:ジェノサイド条約ってどんな条約? A:特定の国や民族、人種、宗教集団の構成員に対し、(1)殺害する(2)肉体的、精神的危害を加える(3)過重労働など肉体的破壊をもたらす生活を強いる(4)出生を妨げる(5)子を集団から引き離す―ことを「ジェノサイド」と定義。締約国には被害防止や加害者処罰の義務が課せられる。19年7月現在、中国や北朝鮮を含む152カ国・地域が批准しているよ。 Q:日本は入っていないと聞いたけど、どうして。 A:条約ではジェノサイドやその共謀、扇動も処罰対象だけど、日本にはこれらを罰する法律がないんだ。政府は、日本社会でジェノサイドが起こることは想定しづらいとして、法整備の必要性は乏しいと考えてきたようだ。 Q:新しく法律をつくればいいのに。 A:刑法など関連法規の改正が必要になる。膨大な作業になる上、立法事実を説明しにくいから政府は消極的なんだ。政府内には、日本がウイグル問題をジェノサイドと認定すれば、「中国が仕返しに旧日本軍による南京事件もジェノサイドと言ってくるかもしれない」と懸念する声もあるよ。 Q:では何もしないの。 A:与野党から政府に条約批准を求める声が上がり始めた。外務省幹部も「何もしないわけにはいかない」と関係省庁との検討を始める考えを示していて、今後機運が高まる可能性があるよ』、「政府は、日本社会でジェノサイドが起こることは想定しづらいとして、法整備の必要性は乏しいと考えてきたようだ」、しかし、現実には、関東大震災時の朝鮮人虐殺もあった訳で、政府の「何もしたくない」との姿勢を言い訳しているのに過ぎない。「外務省幹部も「何もしないわけにはいかない」と関係省庁との検討を始める考えを示していて」、日本が国際社会で孤立しないためにも、早急に「検討を始める」べきだ。
タグ:人権 (その6)(体重20キロ減、吐血でも見殺し 女性死亡の入管の闇が深すぎる、スカート男児は奇妙? 報ステCM叩きと大人たちの不始末、ジェノサイド条約 日本未加盟なぜ 見直す動きも) yahooニュース 志葉玲 「体重20キロ減、吐血でも見殺し、女性死亡の入管の闇が深すぎる」 スリランカ人女性が名古屋入管の収容施設で死亡 深刻な体調不良を本人や支援団体が訴えていたにもかかわらず、女性を収容していた名古屋入管側が適切な医療を受けさせなかったことで、痛ましい結果 「佐々木長官」は2回の答弁とも、「調査中」と逃げているが、こ質問は事前通告されていなかったのだろうか。「質問者」の「石川議員」も調査終了の目途を聞きただして、調査終了後に改めて再質問したい旨を主張すべきだ 日本弁護士連合会 「入管収容について国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会の意見を真摯に受け止め、国際法を遵守するよう求める会長声明」 日本では入管収容に関して差別的対応が常態化しているとまで指摘された。条約機関からの度重なる勧告を軽んじるような態度を指摘されたことを、日本政府は真摯に受け止めるべき 「入管法「改正」の審議を一旦停止してでも、まずは死亡事件についての、詳細かつ独立した調査が行われるべき」、当然の主張で賛成である 日経ビジネスオンライン 河合 薫 「スカート男児は奇妙? 報ステCM叩きと大人たちの不始末」 「性自認」が「幼児」から始まっているとは驚いた。 「いじめ防止法」が「いじめの対象を「小学生以上」と線引きしている」とはいえ、当初「市は「いじめにはならない」と回答」、とはお粗末だ 「性染色体にはXXYや、XXXYというケースが相当数存在することが分かっているのだ」、なるほど「性染色体」から「LGBT]になる因子を持っているようだ 「子どもがジェンダーを自覚し、ジェンダー・ステレオタイプのまなざしを取得するのは2歳ごろだと考えられている」、ずいぶん早いようだ。 「ジェンダー教育先進国スウェーデンでは、「平等とは自由であること」という考え方に基づき、1991年に平等法を制定し、真の平等の実現に向けさまざまなプロジェクトが実施」、さすが進んでいる。 「人は外見、体格、生活状況、趣味、言語などでさまざまな違いがあり、それは決して「性差」だけによるものではない。全ての人に「自由と幸せになる権利」がある。 ズボンが好きな女の子を社会は受け入れているのだから、スカートが好きな男の子がいてもいい」、同感である。 時事通信 「ジェノサイド条約、日本未加盟なぜ 見直す動きも」 日本は国内法に処罰規定がないことを理由に加盟していないが、国際情勢や世論の変化を受け、批准に向けた機運も生まれつつある 「政府は、日本社会でジェノサイドが起こることは想定しづらいとして、法整備の必要性は乏しいと考えてきたようだ」、しかし、現実には、関東大震災時の朝鮮人虐殺もあった訳で、政府の「何もしたくない」との姿勢を言い訳しているのに過ぎない。「外務省幹部も「何もしないわけにはいかない」と関係省庁との検討を始める考えを示していて」、日本が国際社会で孤立しないためにも、早急に「検討を始める」べきだ。
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保育園(待機児童)問題(その12)(ついに判明した「不当に低い保育士給与」の実際、「ほいくえんに行きたくない…」子どもが泣きながら拒否するワケ、「性犯罪者になるかもしれない」それでも私が男性保育士を積極的に雇うワケ 男女どちらもいたほうが絶対にいい) [生活]

保育園(待機児童)問題については、本年3月2日に取上げた。今日は、(その12)(ついに判明した「不当に低い保育士給与」の実際、「ほいくえんに行きたくない…」子どもが泣きながら拒否するワケ、「性犯罪者になるかもしれない」それでも私が男性保育士を積極的に雇うワケ 男女どちらもいたほうが絶対にいい)である。

先ずは、3月5日付け東洋経済オンライン「ついに判明した「不当に低い保育士給与」の実際」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/415046
・『これまで全国平均でしかわからなかった保育士の人件費の金額が、2021年度から地域ごとにわかるようになる。内閣府の初の試みで通知が改定され、全国を8つに分けた地域区分別の公費から出ている人件費額が示される。 本媒体でこの第一報を打った2月26日、内閣府は都道府県などの自治体に対し通知改定について知らせ、資料も公開した。 4月に新入園児として保育園に通う子も多いはず。子どもの安心、安全を守るには、低く抑えられている保育士の給与水準の改善は不可欠だ。その一端を担うであろう通知改定の意味について、考えたい』、保育士の「賃金」の低さの実態が明らかになるのだろうか。
・『依然として下回る保育士の処遇  「今まで全国各地域の保育士は、本来どのくらいの賃金をもらえるのか、もらえるはずの賃金が抑えられているのかどうか分からずにいました。そのため、私は国に対して、公費で出している人件費の額は全国平均ではなく、各地の数値を出すよう求めてきました。来年度から通知を改定して各地の人件費額を出すと内閣府から報告を受けました。 通知改定によって何が分かるようになるか。東京23区の場合、今年度でいうと処遇改善が最大でつくと、年間の賃金は約565万円になります。実際に受け取る年間賃金は約381万円ですから、約184万円もの差があることが分かるようになる。このような『見える化』は、保育士の処遇改善にとって大きな前進になると思います」 3月4日の参議院予算委員会で、片山大介議員が通知改定の意義について強調した。東京23区を例にした公費と実際の賃金の差額がパネルで示されると、その金額の大きさに議場はどよめいた。通知改定の効果について坂本哲志・少子化対策担当大臣は、こう答弁した。 「2021年度から初めての通知改定で地域区分別に『予算積算上の人件費額』を示すことで、各保育園の賃金水準について確認するための参考にできるようになります。これは各保育園にとっても人件費を支出する参考になります。自治体にとっては、各保育園の人件費の水準を確認するための参考になり、通知の金額と差があった場合、差が生じる理由について説明を求めることが可能となります。 一方、一定の注意も必要で、配置基準を超えて多くの保育士を配置すると一人当たりの賃金が低くなることもあります。保育士の経験年数、賃金体系も各園で違うため、通知の人件費との差だけを見るのは適当ではないことを、通知を出す時には自治体に周知したい」 保育士の処遇改善は急務の課題とされてきたが、依然として全産業平均を大きく下回っている状態だ。保育単価の「公定価格」(基本分)の内訳は通知で示され、2020年度の保育士の人件費額は全国平均で約394万円となっている(人件費額には賞与や手当を含むが、法定福利費や国の処遇改善加算は含まない)。ただ、全国平均では、各地の保育士のあるべき賃金水準が具体的にイメージできないこともあり、内閣府は8区分に分かれた地域区分の人件費の額を通知で出すことに踏み切ったのだった。) 前回の記事で明らかにしたように、公定価格が最も高い東京23区を例に考えてみよう。内閣府の内部資料から、2020年度は公定価格(基本分)の人件費は約443万円だということがわかった。そこに、国による全保育士対象の処遇改善加算Ⅰとキャリアに応じた処遇改善加算Ⅱ、東京都独自の処遇改善加算を加えていく。 すると想定される年間賃金は、処遇改善がまったくつかなくても年間で約443万円、処遇改善加算Ⅰと都独自の処遇改善費がつく場合で約517万円、おおむね経験3年目のキャリアに応じた処遇改善加算Ⅱがつけば約523万円、おおむね経験7年目の処遇改善加算Ⅱが最大でつくと約565万円になる計算だ。 しかし、実際に保育士が受け取る年間賃金の実績は、東京23区の平均が約381万円だ(内閣府の2019年度調査)。公費と実際の賃金の差は最大で約184万円、最小でも約136万円になる』、「公定価格(基本分)の人件費」約443万円、に「東京都独自の処遇改善加算を加えて」ると「経験7年目の処遇改善加算Ⅱが最大でつくと約565万円」、「実際に保育士が受け取る年間賃金の実績は、東京23区の平均が約381万円」、「公費と実際の賃金の差は最大で約184万円」、ずいぶんおおきな額だが、これはどこに流れているのだろう。
・『保育園運営会社大手や中堅の賃金はどうか  ただ、公定価格の人件費は保育士の最低配置基準に基づくため、基準より多い人数、保育士を雇っていれば1人当たりの賃金額はどうしても低くなる。 そのため、これまでの取材から「保育士の配置がギリギリだ」とわかった保育園運営会社大手や中堅の賃金はどうか、東京都がホームページ「こぽる」(とうきょう子供・子育て施設ポータル)で公開している2018年度の常勤保育従事者の賃金実績を調べた。 「1人たりとも最低配置基準以上に保育士を置かない」とされるX社が運営する、東京23区内の認可保育園の賃金を見てみよう。X社傘下のA園の年間賃金は約363万円(平均勤続年数は4年)、B園は同343万円(同2年)、C園は同358万円(同6年)だった。 同様に、経営方針として「配置基準以上に保育士を雇うための自治体からの補助金が出ない場合は配置基準通りにする」というZ社の保育士賃金も低い。Z社傘下の東京23区にあるD園では年間賃金で約392万円(平均勤続年数は6年)、E園では同372万円(同7年)、F園では同355万円(同8年)だった。 「こぽる」(1月15日時点の掲載分)から、株式会社大手9社の賃金状況を集計すると、年間賃金は約323万~386万円にとどまり、公定価格の基本分の約443万円の水準にも達していないことがわかった。想定される年間賃金とおおむね150万円の差が生じていた。ではいったい、差額はどこに消えているのか。 認可保育園の運営費用は公定価格に基づき、その園で必要な費用が「委託費」として各園に給付される。その8割以上が人件費を占める。ところが、「委託費の弾力運用」という制度によって、大部分を占める人件費をほかに流用してもいい仕組みがある。同一法人が運営する他の保育施設や介護施設への流用、新たな保育園を作る施設整備費にも回すことができ、多くは新しく保育園を作るための費用に委託費が流用されている。また、経営者による不正な私的流用も発覚している。 個人加入できる労働組合の介護・保育ユニオンの組合員になった中堅の男性保育士(経験11年、都内の認可保育園勤務)の年収は約360万円。保育士の配置が最低基準ギリギリで、人手不足状態で長時間労働が常態化しているという。男性は、「新しい保育園を作るために保育士の人件費が削られている」とみている。 彼の勤務先の保育園が該当する地域区分で計算すると、公定価格に国と都の処遇改善の最大額を足すと年間賃金は約550万円だった。公費との差は年200万円に上る計算だ。このような実態から、同ユニオンの三浦かおり共同代表は通知改定の効果を期待する。 「ユニオンに相談する保育士の多くが年収300万円台で、残業しても割増賃金が未払い状態になっています。保育士数は配置基準ギリギリです。通知改定により人件費との差額がどう使われているのかと団体交渉の場でも説明を求めやすくなり、検証もしやすくなります。その差額が何に使われたかがわかれば、保育がビジネス化されている実態の解明の後押しとなると思います。今後、事業者が言い逃れしないよう、国は適切な給与水準の基準を設け、国や自治体は給与の実態を調査して委託費の弾力運用に規制をかけていくことが求められます」』、「株式会社大手9社の賃金状況を集計すると、年間賃金は約323万~386万円にとどまり、公定価格の基本分の約443万円の水準にも達していないことがわかった。想定される年間賃金とおおむね150万円の差が生じていた」、「「委託費の弾力運用」という制度によって、大部分を占める人件費をほかに流用してもいい仕組みがある。同一法人が運営する他の保育施設や介護施設への流用、新たな保育園を作る施設整備費にも回すことができ、多くは新しく保育園を作るための費用に委託費が流用されている。また、経営者による不正な私的流用も発覚している」、「経営者による不正な私的流用」はともかく、「他の保育施設や介護施設への流用、新たな保育園を作る施設整備費」、「新しく保育園を作るための費用に委託費が流用」、こんなにも他の施設等に流用されているとは驚かされた。
・『低賃金で長時間労働の中、子どもを守れるのか  保育士の処遇の状況は、保育の質に大きく影響する。その一例として、保育事故の急増が挙げられる。 一般的に「認可保育園なら安心」と思われているが、保育士が低賃金で長時間労働となれば、子どもを守ることができるだろうか。保育施設で子どもを亡くした遺族らによる団体「赤ちゃんの急死を考える会」の小山義夫会長は、こう話す。 「保育士は子どもの命を守るという大きな責任があるのに、低賃金という状況に置かれています。仕事に熱心な保育士ほどバーンアウトして辞めていくため、処遇が不安定な非正規雇用でもクラス担任をもつことが増えています。 国の調査で骨折事故が増えていますが、私たちが事故の相談を受けて弁護士も交えて検証してきたなかでも、知識や経験のあるベテラン保育士がいれば防げたはずの事故が最近、増えている可能性があり、注意しなければなりません。せめて担任は正職員が担えるような処遇にすることが必要です。通知改定によって保育士から声があがることで処遇が改善され、保育士が辞めずに経験を積んでいける環境になることを期待したいです」』、「知識や経験のあるベテラン保育士がいれば防げたはずの事故が最近、増えている可能性があり、注意しなければなりません。せめて担任は正職員が担えるような処遇にすることが必要です」、その通りだろう。
・『通知改定で処遇改善につながる可能性が  これまで自治体の監査部門や保育課の職員からは「民間が運営すれば、あくまで民間の給与規定のため、行政は口を挟めない。園長兼経営者の年収が1000万~2000万円というのはザラにある。一方の保育士の年収が300万円程度だったとしても、最低賃金を下回るなど法令違反がなければ、給与額そのものを指導できない。保育士の適切な給与水準を国が示すことが必要だ」という声が大きかった。 今回の通知改定に伴い、内閣府が自治体向けに周知した動画では「監査のためのものではない」と強調するが、神奈川大学で地方自治を専門とする幸田雅治教授は、貴重な一歩として捉えるべきだと評価する。 「自治体は、通知改定で各地域区分の人件費額が公表されることで、保育士の処遇改善が前進するよう活用すべきです。それにとどまらず、自治体にはすべきことがあります。通知で示された保育士の年間人件費は最低限保障されるレベルですので、事業者が通知を基に給与水準を切り下げることがないよう、行政は厳しく人件費についての指導・監査を行わなければなりません。本来、“企業秘密”とされがちな保育士の給与や委託費の使い道については情報開示すべき内容と捉えるべきです。国が示した人件費の額以上に処遇改善をしていかなければなりません」 通知改定で一歩も二歩も処遇改善につながる可能性が出てくる。ある官僚は、「公務員として税金が保育士の処遇改善に正しく使われるよう、こうした通知を出すことは当然のことで、社会全体に関心を持ってもらいたい」と本音を語った。ややもすれば見逃されそうなこの通知改定は、役所が行う制度改定のただの1項目ではない大きな意味がある』、「通知改定」で「処遇改善につながる可能性が出てくる」のは好ましいことだ。「税金が保育士の処遇改善に正しく使われるよう、こうした通知を出すことは当然」、その通りだろう。

次に、4月12日付け現代ビジネス「「ほいくえんに行きたくない…」子どもが泣きながら拒否するワケ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81955?imp=0
・『「子どもが毎朝、保育園に行きたがりません。『ほいくえんに行きたくない。せんせい、おこってばかり。ぜんぜん、やさしくない』と泣きながら抵抗する子を無理やり預けるのは、本当に胸が痛みました」 都内在住の野村裕子さん(仮名、30代)は保活の激戦を潜り抜け、子どもを認可保育園に入れることができたが、「これで認可保育園と言えるのか」という疑問が膨らんだ。 子どもの口から保育士が優しくないと聞かされ、仕事中も気持ちがモヤモヤして止まらなかった。それだけでなく、ケガや事故の不安が高まると気が気でなくなった。 「子どもが大きな傷を作って帰ってきても、保育士は『見ていませんでした』しか言いません。挙句の果てには『子どもはケガしても当たり前』。質どころの話ではなくなり、園長と話しても埒が明かないので、幼稚園に転園しました」 裕子さんの子だけでなく、その園では保育士が子どもにいうことを聞かせようと無理に腕を引っ張るため、肩が脱臼した子もいたという。子どもたちのケガも頻繁に起こり、「いつ事故に遭うか分からない」という状況で、毎日、1分でも早くお迎えに行こうと走って帰ったという』、「せんせい、おこってばかり。ぜんぜん、やさしくない』と泣きながら抵抗する子を無理やり預けるのは、本当に胸が痛みました」、「園長と話しても埒が明かないので、幼稚園に転園」、「認可保育園」に苦労して入れた意味がなかったことになる。「保育士が子どもにいうことを聞かせようと無理に腕を引っ張るため、肩が脱臼した子もいた」、これでは「ブラック保育園」だ。
・『骨折などの事故が急増中  実際、全国的にも認可保育園での保育事故は増えている。内閣府は、「治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故等」を集計しており、骨折などの事故が急増している。 「骨折」(切り傷やねんざ等の複合症状を伴うものを含む)は2015年の266件から2019年は676件に増え、「その他」(指の切断、唇、歯の裂傷等を含む)は同69件から194件という増加ぶりだ。次々に保育園が開園されるものの、人材育成が追い付かずに保育士が子どもを十分に見守ることができない状況がうかがえる。 年齢別の負傷等の件数は、認可保育園では0歳(3件)、1歳(34件)、2歳(78件)、3歳(138件)、4歳(198件)、5歳(306件)、6歳(124件)で、年齢が上がるにつれ事故が増えている傾向があり、保育士の配置が手薄になるほど事故が増える傾向がある。 保育士の配置基準は、0歳児の場合は子ども3人に保育士1人の「3対1」、1~2歳児で「6対1」、3歳児で「20対1」、4歳児以上で「30対1」となっている。新卒採用で経験の浅い保育士がいきなり1人でクラスを担任するケースもあり、保護者の心配は尽きないだろう。 裕子さんの家庭は夫婦ともに自営業のため、就労状況を何度も自治体の保育課に説明するなどして苦労して入った認可保育園だった。待機児童が多いなか、認可保育園の席を確保するのに有利なのは夫婦ともにフルタイム勤務の正社員。自営業は時間に融通をつけられるから保育の必要度が低いと見られる傾向があり、不利なことが少なくない。 地元で評判の良い保育園に入園でき、園長は保護者の目線になって「おかえりなさい。今日も忙しかった? お疲れ様」と、気軽に声をかけてくれ、育児の相談もしやすく頼れる存在だった。担任の保育士も日々、細かな子どもの様子を伝えてくれ、信頼関係が築けた。 ところが、園長が異動して新しい園長に代わるとまるで「天国から地獄」。みるみる保育の質が落ちていった。』、「認可保育園」で「骨折などの事故が急増中」、とは由々しい問題だ。
・『「認可保育園なんて、名ばかりだ」  待機児童対策で保育園の建設ラッシュが始まると、どこの園でも保育士確保が困難になった。新卒の保育士は争奪戦で、初任給の引き上げ合戦も起こる売り手市場だ。 そうしたなか、保育士が安易に辞めてしまって他の園に転職しがちにもなる。急な退職にでもなれば、派遣会社に頼まざるを得ず、費用もかかることから、裕子さんの子が通う園では経営側が園長に「とにかく保育士を辞めさせないように」と命じていた。 担任の保育士はお迎え時、「今日も変わりありません」「元気に過ごしていました」しか言わず、保育園で1日どんな様子で過ごしているか全く分からなくなった。保育士が子どもに乱暴したり、泣いている子が長時間放置されているのを見かけた保護者が園長に注意するよう求めても、園長はなんら指導することもなかった。 園長に苦情を言っても、園長は「一番、お子さんのことが分かっているのが担任」と言うばかり。保護者対応をしたくないのか、園長は「残業は致しません」と言って、定時ぴったりに帰ってしまうため、保護者が園長に会うこともなくなった。 こうした状況に耐えきれず、あと1年で卒園というところで裕子さんは、転園を決めた。周辺の保育園には空きがなく、やむなく幼稚園に通うことにしたのだった。裕子さんは、「認可保育園なんて、名ばかりだ」と、感じている』、「保育士が子どもに乱暴したり、泣いている子が長時間放置されているのを見かけた保護者が園長に注意するよう求めても、園長はなんら指導することもなかった」、「園長は「残業は致しません」と言って、定時ぴったりに帰ってしまうため、保護者が園長に会うこともなくなった」、酷い話だ。自治体に相談する他ないのだろうか。
・『「認可神話」が崩れている  保育園は規制緩和を受けて現在、多様になっている。認可保育園が保育士配置基準や面積基準が最も厳しい。認可外保育園は行政に縛られない独自の保育ができる良さがある一方で、認可保育園のような保育士配置や面積の最低基準を満たさない園もある。 統計上、死亡事故は認可保育園よりも認可外のほうが多いことや保育料が高い傾向があることから、多くの保護者がまず考えるのは認可保育園への入園だろう。 しかし、待機児童解消のため急ピッチで保育園が作られると、人材育成が追い付かず、裕子さんのケースのような「これで認可保育園といえるのだろうか」という現場が散見され、公立と同様もしくはそれ以上に「認可神話」が崩れている。 私立の認可保育園には、社会福祉法人、株式会社、NPO法人、宗教法人、学校法人がある。2000年までは認可保育園は自治体か社会福祉法人しか作ることができなかったが、規制緩和されて営利企業の参入も認められた。 保育は公共性が高く、労働集約的なため、決して“儲かる”わけではない。私立保育園の運営費は税金と保護者が支払う保育料という公費が充てられ、運営費は必要な経費が積み上げられて保育園に給付されている。国は「運営費は使い切る性格のものだ」と説明していることからも、儲かるものではない。 しかし、営利企業の参入がその様相を変えた。ある株式会社が運営する保育園では保護者サービスをウリにして、保護者は保育室に入って着替えの準備をすることなく、玄関先で子どもと荷物を保育士に渡すのだが、その保育園で働いていた保育士が「全く玩具がなく、絵本も園全体に数冊しかないという状況で、中を見せられないからだ」と明かした。筆者の取材から、玩具代までコストカットの対象になっている園がここ数年で目立って増えている。 株式会社が参入したことで、税金が原資であるはずの運営費の流用が株主配当にまで認められてしまっている。しかし、それらの費用は、もともとは、保育士の待遇や園児の玩具などを買うためのものである。 本来、その園の子どもために使うよう給付される運営費であっても、たとえば約2億円の収入のある認可保育園(約100人の定員)が毎年、3000万~5000万円もの運営費を園児のために使わず、他に回している実態もある。 ある自治体の監査担当者は、「ブラック保育園だと分かっていても、監査でできることは限られてしまう。保育士が数人辞めた程度ではニュースにもならない。一斉退職が起こってニュースになれば、保護者もブラック保育園の実態を知ることになって、事業者も改めるのではないか」と諦め顔だ。 子どもを預けた先、あるいは保育士として就職した先の園で、保育士の給与や平均経験年数、保育材料費や給食材料費がどのくらいかけられているのか。都内の保育園であれば、東京都が「とうきょう子供・子育て施設ポータル こぽる」によって公表しており、筆者の記事「想像以上に搾取される保育士たち……良い保育園と悪い保育園の『決定的な差』~データから見えてくる『重要ポイント』」も参考になるだろう。 ここ数年の間、保育士配置の規制緩和や園庭がないなどの保育園が急増したことで、保護者たちから「どこでも預けたいわけではない。安全で安心して過ごすことができる認可保育園を作ってほしい」との声があがった。 しかし、その声もむなしく、認可保育園の質は低下する一方だ。そして共働き世帯にとって、まさかの幼稚園への転園という事態に陥っている。幼稚園に転園することで就業継続を断念する保護者もいるため、何のための待機児童対策だったのかが問われる』、「「認可神話」が崩れている」のは、乱造したツケで、時間をかけて充実させてゆく他ないだろう。「ある株式会社が運営する保育園では・・・その保育園で働いていた保育士が「全く玩具がなく、絵本も園全体に数冊しかないという状況で、中を見せられないからだ」と明かした。「株式会社が参入したことで、税金が原資であるはずの運営費の流用が株主配当にまで認められてしまっている。しかし、それらの費用は、もともとは、保育士の待遇や園児の玩具などを買うためのものである。 本来、その園の子どもために使うよう給付される運営費であっても、たとえば約2億円の収入のある認可保育園(約100人の定員)が毎年、3000万~5000万円もの運営費を園児のために使わず、他に回している実態もある」、「「株式会社が参入」には原理的にも無理があったようだ。

第三に、4月16日付けPRESIDENT Onlineが掲載した元気キッズ保育園 代表の中村 敏也氏による「「性犯罪者になるかもしれない」それでも私が男性保育士を積極的に雇うワケ 男女どちらもいたほうが絶対にいい」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/45151
・『男性保育士による性犯罪事件がたびたび報じられている。男性保育士は本当に必要なのか。埼玉県で認可保育園「元気キッズ」など23の事業所を運営するSHUHARIの中村敏也代表は「男性保育士は絶対に必要。人手不足を解消するだけでなく、子どもたちにとっても男女どちらもいたほうがいい」という――』、何故なのだろう。
・『男性保育士がいると心配ですか?  皆さんは男性保育士、と聞いてどんなイメージをもちますか? 残念ながら、男性保育士と児童への性的虐待を結びつける方は、少なくないのではないでしょうか。最近、そうした事件が相次いで報じられました。 たとえばベビーシッターと利用者のマッチングサイト「キッズライン」では、2019年と2020年にそれぞれ別の男性シッターによる強制わいせつ事件が起きました。また2020年2月には、千葉県内の保育所で男性保育士が園児に性的暴行を加えたなどとして逮捕されました。この事件は2021年3月に千葉地裁で判決が下り、男性保育士は懲役6年の実刑となりました。保育士は公判で、約10人の園児にわいせつ行為をしたと認めています。 こうした事件を聞けば、男性保育士に対して親御さんが不安になるのは当然です。それでも私は、埼玉県で保育園など23事業所を運営する経営者として、保育現場に男性保育士が必要だと感じて、積極的に採用しています。当園の取り組みを紹介させてください。 現在、保育所の運営で一番難しいことが何か、ご存じでしょうか。それは、保育士の確保です。ここ10年の間に、保育士の採用は年々難しくなっているのです』、「保育士の確保」のために「男性保育士」を採用しても、「事件」を起こされれば本末転倒な気もするが・・・。
・『新規開所が増えて保育士獲得が困難に  平成24年に「子ども・子育て支援法」が制定され、平成27年から小規模保育園の実地などの具体的な待機児童対策が本格化したころより、新規開所の施設が急激に増えました。 その結果、今までの求人の窓口であった、学校求人、ハローワーク、新聞の折り込み広告、求人サイトなどで募集をしても、保育士を雇うことが難しくなりました(厳密にいうと望ましい保育士を雇用するのが難しい状況です)。 同時に、旧態依然とした保育業界の中では、新卒保育士の定着率が悪く、卒後2年目までに約3割が離職するというデータがあります(木曽陽子「保育者の早期離職に関する研究の動向:早期離職の実態、要因、防止策に着目して」2018-02-28社会問題研究. 67, p.11-22)。採用難になる施設が増えた結果、職員が一斉にやめて休園する施設もあらわれています。 そのような中でも、私が運営している保育園「元気キッズ」では、保育士の離職を防ぎ、安定した保育所運営を続けています。「8年間連続新卒離職0人」という記録を更新中で、離職の少ない園としてメディアでご紹介いただいたこともあります。 保育士の確保という点で、男性保育士の積極的活用というのは大変重要です。また、もちろん、私たちは、「人手が足りないから男性でも仕方ない」という理由で、男性保育士を採用しているわけではありません。男性保育士を採用するのは、いい保育をしていくために欠かせないと考えているからです』、「「8年間連続新卒離職0人」という記録を更新中」とは大したものだ。「男性保育士を採用するのは、いい保育をしていくために欠かせないと考えているからです」、どういうことなのだろう。
・『SNSや掲示板のリサーチは欠かせない  ただし、私たちも男性保育士の採用の際には、女性よりも慎重にならざるを得ません。例えばこんなことがありました。 ある男性が求人に応募してきました。私たちは採用の際、どの求職者に対しても、SNSなどで本人の公開情報を調べます。するとその男性は、YouTubeに半裸で絶叫する不可解な動画を投稿していたのです。 さらに詳しく調べてみると、その男性がある刑事事件にかかわっている疑いが浮上しました。私は不安を覚え、不採用とすることにしました。 本人に不採用の通知を送ったところ、「なぜ不採用なのか」などと執拗に電話をかけてくるようになりました。当初は女性の採用担当が応じていましたが、ある時点から私が引き継ぎ、YouTubeの動画のことなどを問い詰めました。案の定、明確な回答はなかったので、キッパリとお断りをしました。 それ以降は電話などがくることなくなりましたが、仮にもし採用まで至っていたらと思うと心の底からゾッとします。 この事例は必ずしも性別と関係がないかもしれませんが、男性保育士を採用する際には、女性保育士よりも一層慎重に人柄を調べるようにしています。親御さんが不安であるように、私たちにも不安があるからです。 さらに、採用後も事故を未然に防ぐ環境づくりに努めています。男性保育士に女児のおむつ替えはさせませんし、保育士と園児が二人だけの密室状態になることがないようにしています。 男性保育士にはさまざまなリスクがありますが、私はそれでも女性保育士だけの保育園にはしたくないと考えています。それは女性保育士だけになることにもリスクがあるからです』、「男性保育士を採用する際には、女性保育士よりも一層慎重に人柄を調べる」、「採用後も事故を未然に防ぐ環境づくりに努めています」、なるほど。
・『男性保育士がいると女子校ノリがおさまる  保育というのは、子どもの社会を形成する一部です。そこに、女性だけでなく男性が入ることで変化があります。子どもたちは偏りの少ない世界に触れることができます。 これは子どもたちだけでなく、大人の側も同じです。女性だけの職場になると、いわゆる”女子校のノリ”になることがあります。本来仕事には必要のない下ネタやうわさ話などが活発になるのです。これは男性が入ることで多少ブレーキがかかります。 さらに男性保育士は、子供たちから人気があります。女性よりも力があるのでダイナミックな遊びができるからです。遊びだけでなく、女性よりも男性に安心する「パパっ子」も少なくありません。男性と女性の両方がいるほうが、絶対にいいのです。 運営面に関しても、男性保育士の存在は欠かせません。男性保育士はキャリア形成に貪欲です。女性よりも男性のほうが、収入面でシビアに考えがちだからでしょうか。新しいIT機器や保育理論などに対して、男性保育士のほうが積極的な印象があります。そうした男性保育士がいると、女性保育士も引っ張られることになり、園全体として新しい取り組みが進みやすくなります。 保育業界はまだまだ女性社会なので、男性というだけで冷たく扱われることが少なくありません。しかし私は、男性の良いところを積極的に評価することで、男女ともにのびのびと仕事のできる環境をつくっていきたいと思っています』、「男性保育士がいると女子校ノリがおさまる」、「男性保育士は、子供たちから人気があります。女性よりも力があるのでダイナミックな遊びができるからです。遊びだけでなく、女性よりも男性に安心する「パパっ子」も少なくありません。男性と女性の両方がいるほうが、絶対にいいのです」、「新しいIT機器や保育理論などに対して、男性保育士のほうが積極的な印象があります」、説得力ある説明で、「男性保育士」の必要性が理解できた。
・『信頼できる園を探すために必要な3カ条  これから保育園を探していく方は、信頼できる園を探すために、ぜひ行ってほしい3つのことがあります。 1.利用希望の保育園のホームページをくまなくチェックする。 2.見学の予約をとる。その際の対応が、気持ちの良いものがどうか、違和感がないかをチェックする。 3.実際に見学に行き、園の雰囲気を肌で感じる。挨拶しているか、職員が笑顔か、園長先生は信頼できそうか、などを確認する。 ネットのクチコミはあてになりません。実際にご自身で調べて、直接見て、肌で感じた情報こそが、正しい情報だと思います。お子さまを安心して預けることができる、温かく信頼できる保育士のいる保育施設に出会えることを、心から願っております』、入園させることに焦る気持ちも分かるが、ブラック「保育園」に入った場合のリスクも大きいので、やはりこの「3カ条」をチェックする方がよさそうだ。
タグ:保育園 (待機児童) 問題 (その12)(ついに判明した「不当に低い保育士給与」の実際、「ほいくえんに行きたくない…」子どもが泣きながら拒否するワケ、「性犯罪者になるかもしれない」それでも私が男性保育士を積極的に雇うワケ 男女どちらもいたほうが絶対にいい) 東洋経済オンライン 「ついに判明した「不当に低い保育士給与」の実際」 「公定価格(基本分)の人件費」約443万円、に「東京都独自の処遇改善加算を加えて」ると「経験7年目の処遇改善加算Ⅱが最大でつくと約565万円」、「実際に保育士が受け取る年間賃金の実績は、東京23区の平均が約381万円」、「公費と実際の賃金の差は最大で約184万円」、ずいぶんおおきな額だが、これはどこに流れているのだろう 「株式会社大手9社の賃金状況を集計すると、年間賃金は約323万~386万円にとどまり、公定価格の基本分の約443万円の水準にも達していないことがわかった。想定される年間賃金とおおむね150万円の差が生じていた」、 「「委託費の弾力運用」という制度によって、大部分を占める人件費をほかに流用してもいい仕組みがある。同一法人が運営する他の保育施設や介護施設への流用、新たな保育園を作る施設整備費にも回すことができ、多くは新しく保育園を作るための費用に委託費が流用されている。また、経営者による不正な私的流用も発覚している」、「経営者による不正な私的流用」はともかく、「他の保育施設や介護施設への流用、新たな保育園を作る施設整備費」、「新しく保育園を作るための費用に委託費が流用」、こんなにも他の施設等に流用されているとは驚かされ 「知識や経験のあるベテラン保育士がいれば防げたはずの事故が最近、増えている可能性があり、注意しなければなりません。せめて担任は正職員が担えるような処遇にすることが必要です」、その通りだろう。 「通知改定」で「処遇改善につながる可能性が出てくる」のは好ましいことだ。「税金が保育士の処遇改善に正しく使われるよう、こうした通知を出すことは当然」、その通りだろう。 現代ビジネス 「「ほいくえんに行きたくない…」子どもが泣きながら拒否するワケ」 「せんせい、おこってばかり。ぜんぜん、やさしくない』と泣きながら抵抗する子を無理やり預けるのは、本当に胸が痛みました」、「園長と話しても埒が明かないので、幼稚園に転園」、「認可保育園」に苦労して入れた意味がなかったことになる。「保育士が子どもにいうことを聞かせようと無理に腕を引っ張るため、肩が脱臼した子もいた」、これでは「ブラック保育園」だ。 「認可保育園」で「骨折などの事故が急増中」、とは由々しい問題だ 「保育士が子どもに乱暴したり、泣いている子が長時間放置されているのを見かけた保護者が園長に注意するよう求めても、園長はなんら指導することもなかった」、「園長は「残業は致しません」と言って、定時ぴったりに帰ってしまうため、保護者が園長に会うこともなくなった」、酷い話だ。自治体に相談する他ないのだろうか 「「認可神話」が崩れている」のは、乱造したツケで、時間をかけて充実させてゆく他ないだろう。 「ある株式会社が運営する保育園では・・・その保育園で働いていた保育士が「全く玩具がなく、絵本も園全体に数冊しかないという状況で、中を見せられないからだ」と明かした。「株式会社が参入したことで、税金が原資であるはずの運営費の流用が株主配当にまで認められてしまっている。しかし、それらの費用は、もともとは、保育士の待遇や園児の玩具などを買うためのものである。 本来、その園の子どもために使うよう給付される運営費であっても、たとえば約2億円の収入のある認可保育園(約100人の定員)が毎年、3000万~5000万円も PRESIDENT ONLINE 中村 敏也 「「性犯罪者になるかもしれない」それでも私が男性保育士を積極的に雇うワケ 男女どちらもいたほうが絶対にいい」 「保育士の確保」のために「男性保育士」を採用しても、「事件」を起こされれば本末転倒な気もするが・・・ 「「8年間連続新卒離職0人」という記録を更新中」とは大したものだ。「男性保育士を採用するのは、いい保育をしていくために欠かせないと考えているからです」、どういうことなのだろう。 「男性保育士を採用する際には、女性保育士よりも一層慎重に人柄を調べる」、「採用後も事故を未然に防ぐ環境づくりに努めています」、なるほど 「男性保育士がいると女子校ノリがおさまる」、 「男性保育士は、子供たちから人気があります。女性よりも力があるのでダイナミックな遊びができるからです。遊びだけでなく、女性よりも男性に安心する「パパっ子」も少なくありません。男性と女性の両方がいるほうが、絶対にいいのです」、「新しいIT機器や保育理論などに対して、男性保育士のほうが積極的な印象があります」、説得力ある説明で、「男性保育士」の必要性が理解できた。 入園させることに焦る気持ちも分かるが、ブラック「保育園」に入った場合のリスクも大きいので、やはりこの「3カ条」をチェックする方がよさそうだ
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原発問題(その17)(原子力発電所の中央制御室が「時代遅れのメーター」ばかりである根本的理由 ITを導入したくでもできないワケ、麻生大臣の原発処理水「飲んでも何てことはない」発言に決定的に欠けていたもの、なぜ原発処理水の海洋放出に反対するのか 専門家が指摘する5つの理由) [国内政治]

原発問題については、3月15日に取上げた。今日は、(その17)(原子力発電所の中央制御室が「時代遅れのメーター」ばかりである根本的理由 ITを導入したくでもできないワケ、麻生大臣の原発処理水「飲んでも何てことはない」発言に決定的に欠けていたもの、なぜ原発処理水の海洋放出に反対するのか 専門家が指摘する5つの理由)である。

先ずは、本年4月5日付けPRESIDENT Onlineが掲載したイギリスの科学・経済啓蒙家で貴族院議員(子爵)のマット・リドレー氏による「原子力発電所の中央制御室が「時代遅れのメーター」ばかりである根本的理由 ITを導入したくでもできないワケ」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/44699
・『かつて夢の技術といわれた原子力発電は、いまや斜陽産業だ。発電所の新設より閉鎖のほうが多く、出力電力は減っている。科学啓蒙家のマット・リドレー氏は「原子力発電は試行錯誤が許されない。『やってみて学習する』というイノベーション実践の決定的要素に合わないテクノロジーだ。だからテクノロジーとして失速してしまった」という――。 ※本稿は、マット・リドレー『人類とイノベーション 世界は「自由」と「失敗」で進化する』(NewsPicksパブリッシング)の一部を再編集したものです』、マット・リドレー氏の略歴は、1958年、英国生まれ。オックスフォード大学で動物学の博士号を取得。「エコノミスト」誌の科学記者を経て、英国国際生命センター所長、コールド・スプリング・ハーバー研究所客員教授を歴任。オックスフォード大学モードリン・カレッジ名誉フェロー。
・『原子力の民間開発は応用科学の勝利だった  20世紀に現れた革新的なエネルギー源はただひとつ、「原子力」だ(風力と太陽光もはるかに改良され、将来的に有望だが、まだ世界的なエネルギー源としての割合は2%に満たない)。 エネルギー密度の点からすると、原子力に並ぶものはない。スーツケースサイズの物体が、適切に配管されれば、ひとつの町や空母にほぼ永久に電力を供給できる。 原子力の民間開発は応用科学の勝利だった。その道は核分裂とその連鎖反応の発見から始まり、マンハッタン計画によって理論から爆弾になり、制御された核分裂反応とそれを水の沸騰に応用する段階的な工学設計へとつながった。 1933年に早くもレオ・シラードが連鎖反応の将来性に気づいたこと、レズリー・グローヴズ中将が1940代にマンハッタン計画の指揮をとったこと、あるいはハイマン・リッコーヴァー海軍大将が1950年代に最初の原子炉を開発し、それを潜水艦や空母に合わせて改良したことを除けば、この物語で目立つ個人はいない。 しかしこれらの名前から明らかなように、それは軍事産業と国家事業に民間業者を加えた「チームの努力」であり、1960年代までについに、少量の濃縮ウランを使って膨大な量の水を確実に、継続的に、安全に沸騰させる設備を、世界中に建設する巨大計画ができあがった』、「原子炉」は確かに超小型の「エネルギー源」だ。
・『「実験する機会の不足」で進化が止まった  それでも現在の状況は、新しい発電所が開かれるより古いものが閉鎖されるペースのほうが速いために、出力電力が減っている斜陽産業であり、時機をすぎたイノベーション、あるいは失速したテクノロジーだ。 その理由は「アイデア不足」ではまったくない。「実験する機会の不足」だ。 原子力の物語は、イノベーションは「進化」できなければいかに行きづまるか、そして後もどりさえするか、その教訓である』、研究用の原子炉もあるが、やはり本番用では「実験」は不可能で、これが「進化」の障害になっているようだ。
・『安全規制強化によるコストの高騰  問題はコストの膨張だ。原子力発電所は数十年にわたって、容赦ないコストの高騰を経験している。そのおもな理由は、安全性への警戒が高まっていることにある。そしてこの産業はいまだに、確実にコストを下げるプロセス、つまり「試行錯誤」とまったく無縁である。 原子力の場合、錯誤は影響があまりに甚大になるおそれがあるうえ、試行にはとんでもなくコストがかかるので、試行錯誤を再始動させることができない。そのため私たちは、加圧水型原子炉という未熟で効率の悪いテクノロジーで行きづまり、原発反対運動に反応して不安がる人たちのために働く規制機関の要求によって、そのテクノロジーさえしだいに抑制されつつある。 しかも、きちんと準備ができる前に政府によって世間に押しつけられるテクノロジーは、もう少しゆっくり進行することを許されたなら、もっとうまくやっていたかもしれないところで、つまずく場合もある。アメリカの大陸横断鉄道はすべて失敗し、個人出資の1例をのぞいて結果的に破産している。原子力がこれほど急がず、軍事用の副産物ではないかたちで開発されていたら、もっとうまくいっていたかもしれないと考えずにはいられない』、「アメリカの大陸横断鉄道はすべて失敗し、個人出資の1例をのぞいて結果的に破産している」、初めて知った。「加圧水型原子炉という未熟で効率の悪いテクノロジーで行きづまり・・・そのテクノロジーさえしだいに抑制されつつある」、困ったことだ
・『従来の軽水炉とは異なるアイデアもあった  1990年に出版された『私はなぜ原子力を選択するか』(邦訳:ERC出版)のなかで、原子物理学者のバーナード・コーエンは、1980年代に原発の建設がほとんどの西側諸国で中止された理由は、事故や放射能漏れ、あるいは核廃棄物急増への不安ではなく、規制強化による止まらないコストの高騰だった、と述べている。その後、彼のこの分析はさらに真実味を帯びている。 これは新式の原子力のアイデアが足りないせいではない。エンジニアのパワーポイントによるプレゼンには、核分裂原子炉の異なる設計が盛りだくさんで、なかには過去に実用レベルの試作機の設計までたどり着き、従来の軽水炉と同じくらいの財政支援があれば、さらに先に進めたと思われるものもある。 大別すると「液体金属原子炉」と「溶融塩原子炉」のふたつだ。後者はトリウムまたはフッ化ウランの塩を、おそらくリチウム、ベリリウム、ジルコニウム、ナトリウムのようなほかの元素と一緒に使って機能する』、「新式の原子」炉では「試作機の設計までたどり着き、従来の軽水炉と同じくらいの財政支援があれば、さらに先に進めたと思われるものもある」、惜しいことをしたものだ。
・『原理的にメルトダウンしない溶融塩原子炉  その設計のおもな利点は、燃料が固体の棒ではなく液体で入るため、冷却が均一で、廃棄物の除去が容易なことだ。高圧で稼働させる必要がないので、リスクが減る。溶融塩は燃料であるだけでなく冷却剤でもあり、熱くなると反応速度が落ちるというすぐれた特性があるため、メルトダウンは不可能になる。 加えて、その設計には一定温度以上で溶けるプラグが含まれ、燃料が区切られた室に排出され、そこで分裂を止めるという第2の安全装置もある。たとえばチェルノブイリとくらべると、こちらのほうがはるかに安全だ。 トリウムはウランより豊富で、ウラン233を生成することによって、事実上ほぼ無限に増殖できる。同じ量の燃料から約100倍の発電をすることが可能で、核分裂性プルトニウムを生まず、半減期が短くて廃棄物が少ない』、この「溶融塩原子炉」は、確かに安全で素晴らしいアイデアだったようだ。
・『最大の欠点は「試行錯誤」ができないこと  ところが、1950年代にナトリウム冷却剤を積んだ潜水艦が進水し、1960年代に2基の実験的なトリウム溶融塩原子炉がアメリカで建設されたにもかかわらず、資金、教育、そして関心がすべて軽水ウラン炉の設計に注がれたため、プロジェクトはやがて終了した。さまざまな国がこの決定を覆す方法を検討しているが、実際に思いきって実行する国はまだない。 たとえそうしたとしても、1960年代に言われた「原子力はいずれ、メーターがいらないほど安価になる」という、よく知られた見通しが実現することはなさそうだ。問題は単純で、原子力はイノベーション実践の決定的要素に合わないテクノロジーである。 その要素とは「やってみて学習する」だ。 発電所はあまりにも大きくて費用がかかるので、実験でコストを下げるのは不可能だとわかっている。建設前に設計を通さなくてはならない複雑な規制が膨大にあるため、建設途中で設計を変更することも不可能だ。物事をあらかじめ設計し、その設計に忠実にやるか、振り出しにもどるかしなくてはならない。 このやり方ではどんなテクノロジーであれ、コストを下げて性能を上げることはできない。コンピュータチップも1960年の段階に置き去りにされるだろう。原発はエジプトのピラミッドのように、単発プロジェクトとして建設されるのだ』、「発電所はあまりにも大きくて費用がかかるので、実験でコストを下げるのは不可能だとわかっている。建設前に設計を通さなくてはならない複雑な規制が膨大にあるため、建設途中で設計を変更することも不可能だ。物事をあらかじめ設計し、その設計に忠実にやるか、振り出しにもどるかしなくてはならない」、これでは確かに試行錯誤は困難だ。
・『福島原発事故の根本的な原因はなにか  1979年のスリーマイル島および1986年のチェルノブイリの事故のあと、活動家と市民はより厳しい安全基準を要求した。そして手に入れた。 ある推定によると、電力1単位につき、石炭は原子力のほぼ2000倍の死者を出すという。バイオ燃料は50倍、ガスは40倍、水力は15倍、太陽光は5倍(パネルを設置するときに屋根から落ちる人がいる)、そして風力でも原子力の2倍の死者を出す。この数字にはチェルノブイリと福島の事故も入っている。追加の安全要件は原子力をごくごく安全なシステムから、ごくごくごく安全なシステムにしただけだ。 あるいは、ひょっとすると安全性を低下させたのかもしれない。 2011年の福島の大惨事を考えてみよう。福島原発の設計には安全性に大きな欠陥があった。ポンプが高波で浸水しやすい地下にあったのだ。もっと新しい設計では繰り返されそうもない、単純な設計ミスだ。 それは古い原子炉であり、もし日本がまだ新しい原子炉を建設していたら、ずっと前に廃止されていただろう。コストの高い過剰規制によって核の普及とイノベーションが抑制されていたせいで、福島原発は稼働時間が長すぎたために、システムの安全性が低下したのだ』、「福島原発の設計には安全性に大きな欠陥があった。ポンプが高波で浸水しやすい地下にあったのだ」、電力のプロがこんな基本的な設計ミスを見逃すとは、ヒューマンエラーはやはり不可避なようだ。
・『必要以上の安全性は高くつく  規制機関が要求する必要以上の安全性は高くつく。原発建設に携わる労働者は大幅に増えているが、とくに書類にサインするホワイトカラーの仕事が膨大だ。 ある研究によると、1970年代、新しい規制のせいでメガワットあたりの鋼鉄の量は41%、コンクリートは27%、配管は50%、電線は36%増加したという。 実際、規制の歯止めが強まると、プロジェクトでは、されることさえないルール変更を予想して機能を加え始めた。きわめて重要なことだが、この規制環境のせいで原発の建設業者は、規制の修正につながることを心配して、予想外の問題を解決するための現場イノベーションの実践をやめるしかなく、それがさらにコストを押し上げた。 解決法はもちろん、原子力発電をモジュラーシステムにすることだ。工場組み立ての小さな原子炉ユニットを大量に生産ラインで生産し、各発電所の現場で、木箱に卵を詰めるように設置する。これならフォード社の「モデルT」と同じようにコストを削減できる。 問題は、新しい原子炉の設計を認可するのに3年かかり、小型だからといって抜け道はほとんど、またはまったくないので、小型の設計には認可の費用がより重くのしかかることだ』、なるほど。
・『核融合では同じ失敗を避けるべきだ  一方、核融合、すなわち水素原子の融合からエネルギーを放出させてヘリウム原子を生成するプロセスは、ようやく約束を果たし、これから数十年以内に、ほぼ無限のエネルギーを供給するようになる可能性が高い。 いわゆる高温超伝導体の発見と、いわゆる球状トカマクの設計でようやく、核融合発電は30年先だという、30年言われ続けた古いジョークがジョークでなくなったかもしれない。核融合発電は1基につきおそらく400メガワットを発電する比較的小さな原子炉がたくさんというかたちで、商業ベースで結実するかもしれない。 爆発やメルトダウンのリスクがほぼゼロ、放射性廃棄物は非常に少なく、兵器の材料を提供する心配もないテクノロジーだ。燃料はおもに水素であり、水から自分の電気で生成できるので、地球環境への悪影響は小さいだろう。 それでも核融合が解決しなくてはならない大きな問題は、核分裂と同じように、原子炉の大量生産によってコストを下げる方法だ。そしてコスト削減の教訓を得るためには、試行錯誤が許され、途中で設計し直すことができなくてはならない』、「核融合」炉については、2025年の運転開始を目指し、日本を含む各国が協力して国際熱核融合実験炉ITERのフランスでの建設に向けて関連技術を開発中(Wikipedia)。ただ、「2025年の運転開始を目指し」という割には具体的な進捗の報道はまだ余りないようだ。

次に、4月16日付け現代ビジネスが掲載した筑波大学教授の原田 隆之氏による「麻生大臣の原発処理水「飲んでも何てことはない」発言に決定的に欠けていたもの」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82293?imp=0
・『麻生大臣の発言  定期的に問題発言を繰り返す麻生大臣が、今回は福島原発の処理水海洋放出をめぐって物議を醸す発言をした。 「科学的根拠に基づいて、もうちょっと早くやったらと思っていた。飲んでも何てことはないそうだ」というのが、その発言の要旨である。 最初に断っておくが、私が本稿で述べたいのは、処理水の海洋放出の是非についてではなく、「科学的根拠」についての理解のあり方についてである』、興味深そうだ。
・『科学的根拠に基づくとはどういうことか  今回の発言だけでなく、最近は新型コロナウイルス感染症対策をめぐっても、「科学的根拠」「エビデンス」という言葉が広く使われるようになった。 もともと、医療などヒューマンサービスに携わる研究者や実務家の専門用語であったこれらの用語が、広く一般にも使われるようになったのは喜ばしいことである。ただ、麻生大臣の発言は、科学的根拠(エビデンス)の使い方に重大な問題がある。 エビデンスという用語が広く用いられるようになったのは、1991年にカナダの疫学者ゴードン・ガイヤットが、その論文のなかで「エビデンスに基づく医療」(Evidence-Based Medicine: EBM)という用語を用いてからである。医療現場の意思決定は、それまで科学的な根拠よりも、ともすれば経験、印象、直観、権威などの主観的なものに基づいてなされることが少なくなかった。 たとえば、ある薬を使うかどうかというときに、「過去に何例かの患者に処方して効果があったから」(経験)、「効果がありそうだから」(印象、直観)、「有名な医師が勧めていたから」(権威)などに基づいて、その薬を使うという意思決定をすることが少なくなかったのである。 それで思い出すのは、昨年のアビガンをめぐる論争である。テレビによく出てくる専門家は「とにかく早くアビガンを使って」と連呼し、ノーベル賞受賞者までもが治験前であるにもかかわらずアビガンを特例承認することを当時の首相に直談判していた。 たしかに何人かの患者にアビガンが効いたという事例はあったかもしれないが、それは科学的根拠ではなく、臨床経験にすぎず、それを根拠とするのは危険である。なぜなら、その患者に固有の理由(体質や症状の程度など)で効いたのかもしれないし、アビガン服用とは関係なく、もう治癒するところであったのかもしれない。さらに、効果にばかり目が行きがちだが、副作用などの害があるかもしれない。 したがって、このような主観的なものに頼らず、厳密な研究によって得られた科学的データ、すなわちエビデンスに基づいて薬を投与するなどの意思決定をしようというのがEBMである。薬の例であれば、治験の結果がエビデンスということになる』、確かに「アビガン」をめぐっては、様々な雑音があったが、これに屈しなかった厚労省は大したものだ。
・『EBMの3要素  EBMというとき、ともすればエビデンスばかりが前面に出るが、実はEBMには3つの重要な要素がある。それは、「エビデンス」「患者の背景」「臨床技能」である。この3つの交わったところにEBMがある。 まずエビデンスであるが、これは最新最善のエビデンスであることが重要だ。科学的データであれば何でもエビデンスになるわけではない。質の低い研究からは、質の低いエビデンスしか出てこない。それはバイアスに汚染されているリスクが大きく、結果そのエビデンスを用いても判断がゆがめられてしまう。現在のところ、ランダム化比較試験のメタアナリシスが最も質の高いエビデンスであると言われている(詳しくは「コロナ薬『アビガンの安全性・効果のデータはそろっている』は本当か」参照)。 患者の背景というのは、患者側の体質、症状、価値観、好みなどのことを指す。よく誤解されるが、EBMとは、エビデンスがあれば有無を言わさずそれを適用しようというものではない。それはEBMからは最も乖離した態度であり、こういう態度を「エビデンスで殴る」という。 そうではなく、エビデンスと患者の背景の融合したところにEBMがある。つまり、エビデンスのある治療法や薬があれば、それを個々の患者に適用してもよいものかどうかよく吟味するだけでなく、患者にも誠実かつ丁寧に説明して同意を得たうえで最終的な意思決定をすべきなのである。たとえば、手術か投薬かという選択肢があるときに、患者の重症度によってどれを適用すべきかは異なってくるし、患者の価値観や希望によっても異なってくる。医療提供者側は、エビデンスに基づいて最適な方法を丁寧に説明して推奨するべきだが、それでも患者側が拒否すれば次善の策を取るということになるだろう。 最後の「臨床技能」は、純粋に医療提供者側の問題である。どれだけ良い治療法があっても、それを実践する技能がなければならないし、論文を読みこなす技能、患者に説明する技能なども求められる。 このように医療の分野で誕生したEBMであるが、現在は他の多くの領域にも浸透している。医療以外の分野で、物事の意思決定をするときに、エビデンスに基づいて意思決定をすること、そしてそれに基づいて実践をすることをエビデンスに基づいた実践(エビデンス・ベイスト・プラクティス)(Evidence-based Practice: EBP)という。その1つが政策決定の分野である。今回のように汚染水を海洋放出するかどうかという政策決定においても、エビデンスが重視されたことは間違いないし、その点に限ればそれは望ましいことである』、「EBP」は、日本政府が最も不得手とするものだ。
・『麻生発言の何が問題か  さて、ここまで読んでいただいた方は、麻生発言の何が問題かがもうお分かりいただいたのではないかと思う。 あの発言は、たしかにエビデンスを重視しており、一見EBPを実践しているように見える。しかし、実はEBPとは最も乖離した態度であり、まさに「エビデンスで殴る」ような発言なのである。 この場合、殴られたのは福島の人々、漁業関係者、そして不安を抱く一般の国民などである。科学的根拠に基づけば、たしかに処理水は安全なレベルなのだろう。国際原子力機関(IAEA)もそのことは強調しており、今回の日本政府の意思決定を支持している。また、海洋放出に強く反対している韓国や中国も、実は同レベル以上の原発処理水を海洋放出している。しかし、何も問題は発生していない。 だからといって、エビデンスを錦の御旗のように振りかざし、関係者の気持ちや不安に対して聞く耳を持たないような態度は決して許容されるべきものではない。科学的にはどれだけ安全であっても、風評被害が生じれば漁業は甚大な打撃を受けるだろう。風評被害というのは、まさにその名のとおり、実害はなくても人間の不安な心理に基づく被害である。エビデンスだけでは物事は解決しないのだ。 だとすると、やはりエビデンスは重要であるが、それだけを振りかざすのではなく、不安を抱える人々に丁寧に説明を繰り返し、その気持ちを汲み取ったうえで最終的な意思決定をする必要があるだろう。つまり、そこで問われるのは「臨床技能」である。政治家で言えば、国民と誠実に対話したり、説明したりするコミュニケーションの技能が求められる』、「そこで問われるのは「臨床技能」である」、その通りだ。
・『復興庁のゆるキャラに批判集中  麻生発言と同時期にトリチウムのゆるキャラも問題になった。これは、復興庁が処理水の安全性などをPRするポスターや動画に用いられたものである。 復興庁はゆるキャラを作ったことについて、「放射線やトリチウムというテーマは専門性が高く、分かりづらいため、できるだけ多くの方に関心を持ってもらうことが必要です。それと正しい情報を知っていただくことを合わせて全体的にイラストを用いてわかりやすく解説しました」とその理由を述べている。 ここにも関係者の心情や背景を軽視した独善的で一方的な態度が指摘できる。当然の前提として、人々が処理水に不安を抱き、脅威を感じているということへの共感がない。それがあれば、不安の対象であるトリチウムをゆるキャラ化しようという発想はまず浮かばないはずだ。 ゆるキャラ化したところで、脅威であることは変わらないし、そんなことで不安が払しょくされると考えていたのであれば、人々をバカにしているのもいいところだ。これは麻生発言の「飲んでも何てことはない」という表現に通じるところがある。 批判が集中したのを受けて、復興庁はゆるキャラを用いたポスターの配布をとりやめ、PR方法を再検討するようだが、数百万かけたという税金をドブに捨てることになるのだろう。 麻生発言もゆるキャラ問題も、その根っこは同じである。いずれもエビデンスに基づいているところはたしかかもしれない。しかし、それを伝えるときに、エビデンスを振りかざしたり、子どもだましのゆるキャラを用いたりするところに、人々の価値観や心情を著しく軽視していたというところが共通しているのである。これを一言で言えば、「心がない」ということに尽きる。 エビデンスというものは、それさえ用いれば難題をいとも簡単に解決してくれる魔法の杖ではない。エビデンスという科学の力に頼るときにこそ、丁寧なコミュニケーションやきめ細やかな対応など、人間的な心配りが必要なのである』、「批判が集中したのを受けて、復興庁はゆるキャラを用いたポスターの配布をとりやめ、PR方法を再検討するようだが、数百万かけたという税金をドブに捨てることになるのだろう」、何にでも「ゆるキャラを用い」ようとする「復興庁」の姿勢には、呆れ果てた。「エビデンスという科学の力に頼るときにこそ、丁寧なコミュニケーションやきめ細やかな対応など、人間的な心配りが必要なのである」、同感である。

第三に、4月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの姫田小夏氏による「中国はなぜ原発処理水の海洋放出に反対するのか、専門家が指摘する5つの理由」を紹介しよう。なお、本文中の付注は省略。
・『日本政府が4月13日に発表した「処理水の海洋放出」の決定は、中国にも波紋が広がった。中国の専門家らも反発の声を上げているが、中国の原発も放射性物質を排出している。それでも、なぜ日本の対応は不安視されているのか。複数のレポートから客観的にその不安の原因を探った』、興味深そうだ。
・『中国の専門家らも批判する5つの根拠  福島第一原発におけるデブリの冷却などで発生した放射性物質を含む汚染水を処理し、2年後をめどに海洋放出するという決定を日本政府が発表した。これに、中国の一般市民から強い反対の声が上がった。 中国の原発も環境中にトリチウムを放出している。にもかかわらず、日本政府の決定には、中国の政策提言にも関わる専門家や技術者も声を上げた。その主な理由として、下記の要因を挙げている。 (1)10年前(2011年3月)の福島第一原発事故が、チェルノブイリ原発事故(1986年4月)に相当する「レベル7」の事故であること (2)排出される処理水が、通常の稼働下で排出される冷却水とは質が異なること (3)事故の翌年(2012年)に導入した多核種除去設備(ALPS)が万全ではなかったこと (4)日本政府と東京電力が情報やデータの公開が不十分であること (5)国内外の反対にもかかわらず、近隣諸国や国際社会と十分な協議もなく一方的に処分を決定したこと  さらに、復旦大学の国際政治学者である沈逸教授はネット配信番組で、国際原子力機関(IAEA)が公表した2020年4月の報告書を取り上げた。 報告書によると、IAEAの評価チームは「『多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(ALPS小委員会)』の報告は、十分に包括的な分析と科学的および技術的根拠に基づいていると考えている」としている。しかし、同教授は「それだけで、IAEAが処理水の海洋放出に対して“通行証”を与えたわけではない」とし、この報告書に記載されている次の点について注目した。) 「IAEAの評価チームは、ALPS処理水の処分の実施は、数十年にわたる独特で複雑な事例であり、継続的な注意と安全性に対する再評価、規制監督、強力なコミュニケーションによって支持され、またすべての利害関係者との適切な関与が必要であると考えている」(同レポート6ページ) つまりIAEAは、ALPS技術が理論上は基準をクリアしていたとしても、実践となれば「独特で複雑な事例」なので、しっかりとこれを監督し、“すべての利害関係者”との調整が必要だとしている。IAEAは原子力技術の平和的利用の促進を目的とする機関であり、「原発推進の立場で、日本とも仲がいい」(環境問題に詳しい専門家)という側面を持つものの、今回の海洋放出を「複雑なケース」として捉えているのだ。 同教授は「果たして日本は、中国を含む周辺国と強力なコミュニケーションができるのだろうか」と不安を抱く。 他方、日本の政府関係者は取材に対し、「あくまで個人的な考え」としながら、「中国のネット世論は以前から過激な部分もあるが、処理水の海洋放出について疑義が持たれるのは自然なこと」と一定の理解を示した』、なるほど。
・『放射性物質の総量は依然不明のまま  今回の処理水放出の発表をめぐっては、日本政府の説明もメディアの報道も、トリチウムの安全性に焦点を当てたものが多かった。東京電力はトリチウムについて「主に水として存在し、自然界や水道水のほか、私たちの体内にも存在する」という説明を行っている。 原子力問題に取り組む認定NPO・原子力資料情報室の共同代表の伴英幸氏は、取材に対し「トリチウムの健康への影響がないとも、海洋放出が安全ともいえない」とコメントしている。その理由として、海洋放出した場合に環境中で生物体の中でトリチウムの蓄積が起き、さらに食物連鎖によって濃縮が起きる可能性があること、仮にトリチウムがDNAに取り込まれ、DNAが損傷した場合、将来的にがん細胞に進展する恐れがあること、潮の流れが複雑なため放出しても均一に拡散するとは限らないこと、などを挙げている。 ちなみに中国でも「人体に取り込まれたトリチウムがDNAを断裂させ、遺伝子変異を引き起こす」(国家衛生健康委員会が主管する専門媒体「中国放射能衛生」の掲載論文)ため、環境放射能モニタリングの重要な対象となっている。 国際的な環境NGOのFoE Japanで事務局長を務める満田夏花さんは「トリチウムは規制の対象となる放射性物質であるにもかかわらず、日本政府は『ゆるキャラ』まで登場させ、処理水に対する議論を単純化させてしまいました」と語る。同時に、「私たちが最も気にするべきは『処理水には何がどれだけ含まれているか』であり、この部分の議論をもっと発展させるべき」だと指摘する。 「ALPS処理水には、除去しきれないまま残留している長寿命の放射性物質がある」とスクープしたのは共同通信社(2018年8月19日)だった。これは、東京電力が従来説明してきた「トリチウム以外の放射性物質は除去し、基準を下回る」との説明を覆すものとなった。 このスクープを受けて東京電力は「セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性物質が残留し、タンク貯留水の約7割で告示濃度比総和1を上回っている」と修正し、「二次処理して、基準以下にする」という計画を打ち出した。 現在、東京電力のホームページには、トリチウム以外の放射性物質が示されているものの、公開データはタンクごとに測定した濃度(中には1万9909倍の濃度を示すタンクもある)にとどまり、いったいどれだけの量があるのかについては不明、わかっているのは「トリチウムが860兆ベクレルある」ということだけだ』、「共同通信社」の「スクープ」で、「ALPS処理水」の実態が漸く明らかになるといった「東京電力」や「政府」の隠蔽体質が事態を一層混乱させているようだ。
・『海洋放出以外の代替案が選ばれなかった理由  一方、海洋放出以外の代替案には、(1)地層注入、(2)海洋放出、(3)水蒸気放出、(4)水素放出、(5)地下埋設、の5案が検討されていた。ALPS小委員会の報告書(2020年2月10日)は、それぞれが必要とする期間とコストを次のように説明している。 (1)地層注入  期間:104+20nカ月(n=実際の注入期間)+912カ月(減衰するまでの監視期間) コスト:180億円+6.5n億円(n=実際の注入期間) (2)海洋放出  期間:91カ月 コスト:34億円  (3)水蒸気放出  期間:120カ月 コスト:349億円  (4)水素放出  期間:106カ月 コスト:1000億円  (5)地下埋設 期間:98カ月+912カ月(減衰するまでの監視期間) コスト:2431億円  上記からは、(2)の「海洋放出」が最も短時間かつ低コストであることが見て取れる。これ以外にも、原子力市民委員会やFoE Japanが、原則として環境中に放出しないというスタンスで、「大型タンク貯留案」や「モルタル固化処分案」の代替案を提案していた。 これについてALPS小委員会に直接尋ねると「タンクが大容量になっても、容量効率は大差がない」との立場を示し、原子力市民委員会やFoE Japanの「タンクが大型化すれば、単位面積当たりの貯蔵量は上がるはず」とする主張と食い違いを見せた。この2つの代替案は事実上ALPS小委員会の検討対象から除外され、(2)の「海洋放出」の一択に絞られた』、「海洋放出」が「コスト:34億円」、と桁外れに易いのが採択された理由だろう。
・『日中の国民の利害は共通 環境問題と中国問題は切り離して  対立する米中が気候変動でも協力姿勢を見せたこともあるのか、今回の取材では「中国に脅威を感じているが、海洋放出をめぐっては日本の国民と中国の国民は利害が共通する」という日本の市民の声も聞かれた。 実は中国側も同じ意識を持っている。海洋放出について、中国の国家核安全局の責任者は「日本政府は自国民や国際社会に対して責任ある態度で調査と実証を行うべき」とメディアにコメントしていることから、中国側が“日本の国民と国際社会は利害が共通するステークホルダー”とみなしていることがうかがえる。 原子力市民委員会の座長代理も務める満田氏は、「海洋放出についての中韓の反応に注意が向き、論点がナショナリスティックかつイデオロギー的なものに傾斜していますが、もっと冷静な議論が必要です」と呼びかけている。 そのためには、国民と国際社会が共有できる自由で開かれた議論の場が必要だ。日本政府と東京電力にはよりいっそう丁寧な対応が求められている』、同感である。
タグ:原発問題 (その17)(原子力発電所の中央制御室が「時代遅れのメーター」ばかりである根本的理由 ITを導入したくでもできないワケ、麻生大臣の原発処理水「飲んでも何てことはない」発言に決定的に欠けていたもの、なぜ原発処理水の海洋放出に反対するのか 専門家が指摘する5つの理由) PRESIDENT ONLINE マット・リドレー 「原子力発電所の中央制御室が「時代遅れのメーター」ばかりである根本的理由 ITを導入したくでもできないワケ」 『人類とイノベーション 世界は「自由」と「失敗」で進化する』(NewsPicksパブリッシング) 原子力の民間開発は応用科学の勝利だった 「原子炉」は確かに超小型の「エネルギー源」だ 研究用の原子炉もあるが、やはり本番用では「実験」は不可能で、これが「進化」の障害になっているようだ。 「アメリカの大陸横断鉄道はすべて失敗し、個人出資の1例をのぞいて結果的に破産している」、初めて知った 「加圧水型原子炉という未熟で効率の悪いテクノロジーで行きづまり・・・そのテクノロジーさえしだいに抑制されつつある」、困ったことだ 「新式の原子」炉では「試作機の設計までたどり着き、従来の軽水炉と同じくらいの財政支援があれば、さらに先に進めたと思われるものもある」、惜しいことをしたものだ。 この「溶融塩原子炉」は、確かに安全で素晴らしいアイデアだったようだ。 「発電所はあまりにも大きくて費用がかかるので、実験でコストを下げるのは不可能だとわかっている。建設前に設計を通さなくてはならない複雑な規制が膨大にあるため、建設途中で設計を変更することも不可能だ。物事をあらかじめ設計し、その設計に忠実にやるか、振り出しにもどるかしなくてはならない」、これでは確かに試行錯誤は困難だ 「福島原発の設計には安全性に大きな欠陥があった。ポンプが高波で浸水しやすい地下にあったのだ」、電力のプロがこんな基本的な設計ミスを見逃すとは、ヒューマンエラーはやはり不可避なようだ。 核融合では同じ失敗を避けるべきだ 「核融合」炉については、2025年の運転開始を目指し、日本を含む各国が協力して国際熱核融合実験炉ITERのフランスでの建設に向けて関連技術を開発中(Wikipedia)。ただ、「2025年の運転開始を目指し」という割には具体的な進捗の報道はまだ余りないようだ。 現代ビジネス 原田 隆之 「麻生大臣の原発処理水「飲んでも何てことはない」発言に決定的に欠けていたもの」
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シェアリングエコノミー(その3)(ウーバーイーツ配達員の交通事故で裁判が注目されるワケ、インタビュー/出前館 藤井英雄社長 「デリバリー市場はあと3年は成長が続く」、宅配の「個人ドライバー」が直面する争奪戦 緊急事態宣言でドライバーの数が右肩上がり) [生活]

シェアリングエコノミーについては、昨年1月25日に取上げた。今日は、(その3)(ウーバーイーツ配達員の交通事故で裁判が注目されるワケ、インタビュー/出前館 藤井英雄社長 「デリバリー市場はあと3年は成長が続く」、宅配の「個人ドライバー」が直面する争奪戦 緊急事態宣言でドライバーの数が右肩上がり)である。

先ずは、昨年12月27日付け日刊ゲンダイが掲載した髙橋裕樹弁護士による「ウーバーイーツ配達員の交通事故で裁判が注目されるワケ」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/283227
・『今年のコロナ禍は意外な仕事を生み出しました。巣ごもり需要と職を失ったり減収した人の労働需要、これらを吸い上げた受け皿としてウーバーイーツのサービスが商圏を拡大した年でした。都心ではウーバーイーツのリュックサックを背負った人を見ない日はないと言っても過言ではないでしょう。 その一方で、マナーが悪い配達員が起こした事故などのトラブルがSNSで発信されたり、ウーバーイーツを訴えたという報道もあり、問題になったものです。 皆さんのイメージでは、宅配便の配達員と同じように、ウーバーイーツの配達員がトラブルを起こしたら、ウーバーイーツを訴えるのが当然と思われるかもしれません。しかし、必ずしもそうはならないのが現実です。 ウーバーの規約には、「全ての当該デリバリー等サービスはUber又はその関連会社により雇用されていない独立した第三者の契約者により提供される」との記載があり、ウーバーイーツと配達員とは雇用関係ではなく業務委託先に過ぎず、ウーバーイーツはプラットフォームを提供しているに過ぎないというスタンスだからです。 そのため、裁判でも、配達員が事故を起こしてもウーバーイーツ側は法的な責任はないという反論をしています』、「ウーバーイーツと配達員とは雇用関係ではなく業務委託先に過ぎず、ウーバーイーツはプラットフォームを提供しているに過ぎないというスタンス」、驚くべき厚かましさだ。
・『しかし、実際の裁判でウーバーイーツが全く責任を負わないという結論になるかといえば、必ずしもそうではないと思います。 民法は、「ある事業のために他人を使用する者」(使用者)は被用者が事業の執行について生じさせた第三者への損害を賠償しなければなりません(民法715条、使用者責任)。ここにいう使用者は、雇用主だけでなく他人を使って利益を得る者が広く含まれます。ウーバーイーツも、アプリを介して配達員に仕事の指示をし、その販売利益の一部を自身の利益にしています。まさに「事業のために他人を使用している」と言えるのではないかと思います。 この点は現在裁判で争われており、いずれ裁判所が出す判断に注目していただきたいと思います』、既に海外では、本年2月20日付け日経新聞は、「ウーバー運転手は「従業員」 英最高裁、仏に続き認定」を伝えた。また、3月17日付け日経夕刊は、「ウーバー、英で最低賃金保障 運転手7万人、雇用法の「労働者」に 最高裁判決受け」と伝えた。英仏での裁判例からみて、日本でも「「運転手は「従業員」」と見做される可能性が高そうだ。

次に、本年1月5日付け東洋経済Plus「インタビュー/出前館 藤井英雄社長 「デリバリー市場はあと3年は成長が続く」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/25757/?utm_campaign=EDtkprem_2101&utm_source=edTKO&utm_medium=article&utm_content=210105&_ga=2.187565352.1680389212.1618707326-1011151403.1569803743
・『新型コロナ禍で需要が急増しているフードデリバリー業界にあって、日本最大のフードデリバリーポータルサイトを運営する出前館。2020年3月にはLINEと資本業務提携契約を結び、2012年以降、現場の陣頭指揮を執ってきた中村利江社長が2020年6月に退任することになった。 新社長に就いたのは、出前館の同業「LINEデリマ」を展開するLINEのO2OカンパニーCEOを務めた藤井英雄氏。出前館には2017年11月から社外取締役として関わってきた。 UberEatsをはじめとする競合他社とのシェア争いが熾烈を極める中、どんな成長シナリオを描くのか。藤井社長に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは藤井氏の回答)』、興味深そうだ。
・『向こう3年間は市場拡大が続く  Q:出前館のトップに就いてみて、どんな印象を抱きましたか。 A:第一印象は『すごい会社』。古くからのデリバリートップ企業で、ヤフーや楽天の追撃を振り払っての業界1位。しかもシェアの差は僅差ではない。 株主と直接向き合う上場会社の社長はLINEの子会社の社長とはまったく違う。先日(2020年11月26日)、株主総会が終わったが、高い経営計画数値へのプレッシャーも感じているし、株主をどうフォローアップしていくか、(経営の)方向性にどうやって納得してもらうか。経営者としてコミットしていく責任の重さは上場会社ならでは、と思う。 Q:2021年8月期の業績予想は、売上高が280億円と前期比170%増の計画なのに対し、営業利益は130億円(2020年8月期実績は26億円の赤字)の赤字見通しです。2018年10月策定の中期経営計画では、大胆な成長投資を行い、2021年8月期には50億円の営業利益を達成する計画でした。巨額の成長投資はいつまで続けるのでしょうか。 この10カ月で、20年間かけて獲得してきた数を超える加盟店を獲得できた。このペースを維持できれば、(2021年8月期の)売上高(目標)は十分達成可能だ。 市場が拡大している間は成長投資をやめるべきではないと考えている。デリバリー市場には中食からも需要が流れ込んできていて、市場全体がハイペースの成長を続けている。ライバルも伸びているが、出前館も伸びている。市場が拡大している間はライバルがいたほうがいい。パイの食い合いになっているのなら不毛感もあるだろうが、今はそうではない。 デリバリー普及で先行した各国の状況を見ても、市場拡大の余地が十分あるのは明らか。アメリカですらまだ二桁成長が続いている。日本はまだ圧倒的に普及率が低い。少なくとも向こう3年間は成長が続くと思う。 Q:成長投資の原資はLINEが投じた300億円に加え、出前館が自前で稼ぐキャッシュですね。 A:トップライン(売上高)があがればあがるだけ、成長投資に(資金を)回す。株価を見てもこの戦略に株主が理解を示してくれていることを実感できる。海外の投資家とはテレビ会議でコミュニケーションをとっているが、海外の投資家はよく研究していて、積極的な投資に賛同してくれている。(資金を)ちゃんと使いきれと、むしろ背中を押されている』、「出前館」は「古くからのデリバリートップ企業で、ヤフーや楽天の追撃を振り払っての業界1位」、「ウーバー」との明確な比較はないが、上回っているのだろう。「この10カ月で、20年間かけて獲得してきた数を超える加盟店を獲得」、すごいペースだ。
・『抜本的なシステム改革に注力  Q:2021年に一番力を入れたいことは何ですか。 A:まずは抜本的なシステム改革だ。出前館のシステムは約20年にわたって機会損失を回避できるよう対応してきたために、いわばつぎはぎ。われわれが想定しているトラフィック量には対応ができない。クラウド化し、トラフィック量の増加に合わせて拡張できるようにする。 この部分はユーザーからは見えにくいが、ユーザーから見えやすい改革という点では、ユーザーのレビューや趣味嗜好などから、ユーザーをパーソナライズするデータベースを構築したい。これができないとメニューのリコメンドができない。 Q:アマゾンで何かを買うと、「これを買った人はあれも買っている」という商品推奨情報が出ますが、あのイメージでしょうか。 A:ほぼそれに近い。日本のフードサービスはお店にフォーカスする傾向にあるが、われわれはメニューにフォーカスしたい。例えば、天津飯がおいしい店を探したいと思っても、今のシステムでは探せない。これができれば差別化できる。 現状では何と迷ってそのメニューを選んだのかや、同時に購入したメニューのデータも取れていない。それができれば、サイドメニューの効果的なリコメンドも可能になり、客単価の引き上げにつなげられる。これらはすべて抜本的なシステム改革があってこそ実現できる。 Q:メニューにフォーカスする場合、これまで以上に加盟店の獲得は重要になりますね。 A:加盟店を獲得できる体制はほぼ整い、2020年12月末時点で加盟店は5万店を突破した。2020年11月~12月ペースの加盟店獲得が継続できれば、2022年12月末に10万店の達成は十分可能。 2021年は新規(の加盟店)獲得だけでなく、既加盟だが、売れていない店のサポートも強化したい。これは競合がやっていないことだ。その意味では(加盟店に包装材料や食材を供給する)仕入館もキラーコンテンツになる。 Q:仕入館は2014年にサービスを開始しましたが、目立たない存在でした。 A:仕入館は大きく伸ばしたい事業の1つだ。中小規模の店舗を加盟店として取り込んでいくうえで、当社が安く、小ロットで、デリバリーに適した包装材を提供できれば、店舗側の需要に応えられるだけでなく、当社の配送品質向上にも寄与する。 冷めにくい、デリバリーに適した容器の開発はまだノウハウが確立しておらず、包装材メーカーと共同開発していく。食材についても当社が大量購入し、小ロット化して中小規模の加盟店に提供できるメリットは大きい。 いずれにしても、出前館への加盟と同時に仕入館の口座も開いてもらい、当社が売り上げと仕入れを相殺して店舗に支払う形にすれば、場合によっては店舗側の資金繰りが好転する可能性もある。実は中期計画にも数字は織り込んでいる。単体で成り立つくらいのビジネスにしたい。 Q:配送品質は出前館にとって最大の強みですが、トップラインを大きく伸ばす中で、配送効率と配送品質の両立は可能なのでしょうか。 A:配送品質と配送効率の両立はもっともハードルが高く、かつ重要な課題だと認識している。配送品質では競合に勝てていると自負しているが、配送効率は若干負けている。加盟店にもユーザーにも配送コストを負担してもらっている状態なので、何とかしたい。そのために始めたのがクラウドキッチンだ』、「冷めにくい、デリバリーに適した容器の開発はまだノウハウが確立しておらず、包装材メーカーと共同開発していく」、まだまだ工夫の余地があるのだろう。「出前館への加盟と同時に仕入館の口座も開いてもらい、当社が売り上げと仕入れを相殺して店舗に支払う形にすれば、場合によっては店舗側の資金繰りが好転する可能性もある」、「仕入館」とは面白い取り組みだ。配達員との関係はウーバーとは違うのだろうか。
・『企業向けの福利厚生サービスも展開  Q:東京・江東区で2020年暮れに始めた、飲食店にキッチンスペースを貸す事業ですね。 A:過去には名店のレシピをもらい、出前館のスタッフが調理して提供する試みも実施していたが、やはり調理はプロにやってもらったほうがいい。 基本は注文から30分での配送を目指している。その地域に足りないカテゴリーメニューの補完という目的もある。首都圏店舗の地方進出や地方店舗の首都圏進出にも活用できる。当社でマーケティングデータを持っているので、進出したい店舗が自前でマーケティング調査をする必要がない。 Q:企業向けの福利厚生サービスも始めました。 A:全国に拠点がある企業から相談を受けたことをきっかけに始めた。リモートワークが定着し、通勤交通費や事務所コストが削減できた分、企業は従業員に何らかの形で還元したいと考えているが、何をしたらいいかわからない。 そこで、出前館のクーポン配布を提案した。出前館は全国をカバーしているので、全国規模の会社にとって従業員に平等に、同じものを提供できる。郵便番号で加盟店を調べられるから出前館にした、という声もいただいている。 Q:目下の経営課題は。 A:とにかく配送効率と配送品質の両立だ。そのためには外から優秀な人が来たいと思う会社にしたい。そのために、弊社に来れば市場価値が高い人になれるような環境作りをする。報酬面を含め、制度を抜本的に改革したい。まだこれからだが、教育制度も確立していきたい』、ビジネスとして、今後一層磨かれてゆくのだろう。

第三に、4月30日付け東洋経済オンライン「宅配の「個人ドライバー」が直面する争奪戦 緊急事態宣言でドライバーの数が右肩上がり」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/425683
・『「来週の配送案件が取れていない。他のドライバーとの奪い合いになっている」――。4月下旬、個人事業主のドライバーである首都圏の30代男性、Aさんはそう言ってうなだれた。コロナ禍でネット通販(EC)の荷物が増える一方、その配送では“競争”が一段と熾烈化している。 2020年初めに個人ドライバーになったAさんは、もともと工場の派遣社員だった。「以前の職場は残業が多く家族との時間が思うように取れなかった」(Aさん)ため、自分で仕事の案件を選び、労働時間を調整できる個人ドライバーになることを決めた。 Aさんが利用しているのが「アマゾンフレックス」だ。EC最大手アマゾンが手掛けるサービスで、個人ドライバーと配送拠点ごとの案件をマッチングしている。直接業務委託の形で、個人ドライバーは、アマゾンフレックスのアプリ上に表示されている案件の中から自由に受注できる。 報酬額は2時間枠1回で4000円程度。「週に5日間働けば最低でも6万円超は稼いでいる。工場のときと比べると収入はおよそ1.5倍。予定時間よりも早く荷物を配り終える日もあり、家族と過ごす時間が増えた」(Aさん)』、「報酬」は「工場の派遣社員」よりもややや高くなる程度だったようだ。
・『個人ドライバーが急増  ところが、2021年1月に首都圏で緊急事態宣言が出されたときに状況が一変。Aさんによれば、「配送案件が取りづらくなり、他のドライバーのキャンセルを待つことが多くなった。配送拠点で見かけるドライバーの数も2~3倍に増えたように感じる」という。ドライバー増加はアマゾンフレックスを利用する複数のドライバーが口にする。 この背景には、コロナ禍での休業や失業が増加していることに加え、個人ドライバーの開業支援を行うサービスが出てきていることもあるだろう。 例えば、スタートアップ企業のグローバルモビリティサービス(以下、GMS)は、配送車両の購入などで金融機関に借り入れを申し込んで与信審査が通らなかった人にも車両をリースしている。 そうしたことが可能なのは、同社はIoTデバイスを通じて走行距離や稼働時間のデータを把握し、貸し倒れの兆候をある程度事前に把握できるようにしているため。仮に利用者の支払いが滞った場合、遠隔制御で車両を円滑に回収できる仕組みを構築している。) GMSの長澤亮執行役員は「2020年2月にサービスを開始してから、利用者数は右肩上がりで伸びている」と語る。1カ月のリース代は5~6万円ほど。アマゾンフレックスであれば「5日ほど働けば支払える金額」(前出のAさん)だという。 2020年夏ころから個人ドライバーとして働く首都圏の40代男性のBさんも、GMSカーリースで配送車両をリースし、アマゾンフレックスで仕事をしている。「飲食店を開くのが夢だったが、コロナ禍で先行きが不透明になった。当面はコロナ禍でも仕事のある個人ドライバーとして仕事を続けたい」(Bさん) だが、Bさんは「半年後に仕事や報酬の条件ががらりと変わってしまわないか心配だ」と打ち明ける。アマゾンフレックスは、報酬額が同じでも配送エリアの状況に応じて荷物の個数が大きく変動する。荷物の多寡は案件を実際に受注してみないとわからない。複数の業界関係者は「アマゾンフレックスで長く働いていると、荷物が増やされるようだ」と話す』、「個人ドライバーが急増」すると、「個人ドライバーの開業支援を行うサービスが出てきている」、意外な広がりがあるようだ。
・『今までどおりの報酬を得られるか  前出のAさんも「アマゾンフレックスには、優良ドライバーに案件を優先的に回す仕組みもあるらしい。だが、具体的な基準はドライバーにもわからない。今までどおりの報酬を稼げるかどうか不安だ」とこぼす。 とはいえ、「アマゾンフレックス以外の働き口も必要だが、他がなかなか見つからない。アマゾンのような時間制ではなく、単発の配送案件ごとに報酬が支払われるサービスを使ってみたが、効率が悪かった」(Aさん)。当面はアマゾンフレックス一本で稼ぐつもりだという。 大手宅配企業などの配送事業者から配送業務を受託するドライバーとは違い、個人ドライバーは自由に仕事を選べるのが利点だった。しかし、実際はアマゾンフレックス頼み。荷物量と個人ドライバーの需給バランスが崩れると、先行き不透明な状況に置かれるという現実がある』、さらに、「ドライバー」と雇用関係にあることになれば、また「報酬」も見直されるだろう。いずれにしても、まだビジネスとしては、緒についたばかりで、今後とも変わってゆくだろう。
タグ:シェアリングエコノミー (その3)(ウーバーイーツ配達員の交通事故で裁判が注目されるワケ、インタビュー/出前館 藤井英雄社長 「デリバリー市場はあと3年は成長が続く」、宅配の「個人ドライバー」が直面する争奪戦 緊急事態宣言でドライバーの数が右肩上がり) 日刊ゲンダイ 髙橋裕樹 「ウーバーイーツ配達員の交通事故で裁判が注目されるワケ」 「ウーバーイーツと配達員とは雇用関係ではなく業務委託先に過ぎず、ウーバーイーツはプラットフォームを提供しているに過ぎないというスタンス」、驚くべき厚かましさだ 既に海外では、本年2月20日付け日経新聞は、「ウーバー運転手は「従業員」 英最高裁、仏に続き認定」を伝えた。また、3月17日付け日経夕刊は、「ウーバー、英で最低賃金保障 運転手7万人、雇用法の「労働者」に 最高裁判決受け」と伝えた。英仏での裁判例からみて、日本でも「「運転手は「従業員」」と見做される可能性が高そうだ。 東洋経済Plus 「インタビュー/出前館 藤井英雄社長 「デリバリー市場はあと3年は成長が続く」 「出前館」は「古くからのデリバリートップ企業で、ヤフーや楽天の追撃を振り払っての業界1位」、「ウーバー」との明確な比較はないが、上回っているのだろう。「この10カ月で、20年間かけて獲得してきた数を超える加盟店を獲得」、すごいペースだ 「冷めにくい、デリバリーに適した容器の開発はまだノウハウが確立しておらず、包装材メーカーと共同開発していく」、まだまだ工夫の余地があるのだろう。 ビジネスとして、今後一層磨かれてゆくのだろう。 東洋経済オンライン 「宅配の「個人ドライバー」が直面する争奪戦 緊急事態宣言でドライバーの数が右肩上がり」 「報酬」は「工場の派遣社員」よりもややや高くなる程度だったようだ。 「個人ドライバーが急増」すると、「個人ドライバーの開業支援を行うサービスが出てきている」、意外な広がりがあるようだ。 さらに、「ドライバー」と雇用関係にあることになれば、また「報酬」も見直されるだろう。いずれにしても、まだビジネスとしては、緒についたばかりで、今後とも変わってゆくだろう。
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東京オリンピック(五輪)(その16)(大逆風の東京五輪 「中止カード」を先に切るのは菅首相か小池都知事か、コロナが炙り出す「菅政権のための東京五輪」) [国内政治]

東京オリンピック(五輪)については、3月29日に取上げた。今日は、(その16)(大逆風の東京五輪 「中止カード」を先に切るのは菅首相か小池都知事か、コロナが炙り出す「菅政権のための東京五輪」ピック)である。

先ずは、4月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「大逆風の東京五輪、「中止カード」を先に切るのは菅首相か小池都知事か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/269612
・『東京五輪が1番!一般市民は後回しで反発高まる   今から4カ月前の2021年1月、菅義偉首相は東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)について「人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証」「東日本大震災からの復興を世界に発信する機会」だと胸を張っていた。しかし、残念ながら今の調子でいけば、苦しむ自国民を見殺しにしながら「負け戦」へとつき進む「日本の狂気」を全世界に見せつけるだけになりそうだ。 アスリートやその家族、関係者、そして五輪ファンの方たちには大変申し訳ないが、東京五輪への「逆風」がシャレにならないところまできている。 まず、槍玉にあげられているのが、緊急事態宣言が、IOCのバッハ会長の来日予定日の前にピタッと終了するといういわゆる「バッハシフト」だ。五輪開催のための露骨な「東京は大丈夫ですよ」アピールに、休業や自粛を余儀なくされている国民の間で批判の声があがっている。 また、「聖火リレー」への疑問の声も少なくない。緊急事態宣言の対象となっている自治体が「命を守るために出かけるな」「外で騒ぐな」「越境するな」と喉を枯らして呼びかけている。にもかかわらず、その横を、聖火をもった著名人が大量のスタッフの引き連れて練り歩くという矛盾を指摘する声が後を絶たない。 既に炎上状態になっているが、さらに灯油をぶっかけた形になったのが、「看護師500人動員」と「選手用病院確保」だ。4月9日、東京五輪組織委員会(組織委)が日本看護協会に「大会にご活躍頂く看護職の確保に関するご協力について」という文書を送って、500人の看護師確保の協力を要請したという。また、JNN(TBS系列のニュースネットワーク)が報じたところによれば、組織委はアスリートが感染した際に収容できる指定病院の確保に動いているというのだ。 国民に対してはさまざまな我慢を強いているにもかかわらず、東京五輪には医療資源をしっかりと動員する。まるで「五輪が1番、医療が2番、3、4がなくて、5に政治家、6、7くらいで国民」というかのようだ。そんな日本社会の「序列」があらためて明らかになったことで、国民の怒りが爆発しているのだ。 東京五輪への風当たりが強くなっていく中で、永田町界隈ではある「暗闘」に注目が集まっている。菅義偉首相と、小池百合子東京都知事のどちらが先に「五輪中止」をぶち上げるのかというバトルだ』、「緊急事態宣言が、IOCのバッハ会長の来日予定日の前にピタッと終了するといういわゆる「バッハシフト」」は見え見えだ。「「看護師500人動員」と「選手用病院確保」」も医療崩壊を一層悪化させるもので、正気の沙汰とは思えない。
・『菅首相と小池都知事、どちらが先に「五輪中止」を叫べるかという競争  4月12日の共同通信世論調査によると、東京五輪について「中止するべきだ」は39.2%。「再延期するべきだ」(32.8%)を合わせると、72%が通常開催に否定的だ。時事通信の世論調査もだいたい同じで65.4%が開催に後ろ向きだという。 これだけ圧倒的な「民意」が存在するということは裏を返せば、国民のフラストレーションが極限まで高まったタイミングで「五輪中止・再延期」のフラッグを掲げた政治家は、圧倒的な支持を得られるかもしれない、ということなのだ。 では、そんな「掟破りの五輪中止カード」を一体誰が切るのかというと、ともに「負けられない戦い」が間近に控え、互いに主導権争いでバトルを展開しているあの2人しかいない。 そう、7月4日に東京都議会議員選挙(都議選)が控えている小池百合子東京都知事と、秋までに衆議院議員選挙をしなくてはいけない菅義偉首相である。  「おいおい、どちらも五輪をゴリ押ししている当事者じゃないか」と思うかもしれないが、政治家というのは選挙のためならどんなモラルの欠いた行為でもできてしまうものなのだ。また、今回は「民意」という強い後ろ盾もある。 実際、政治家にとって選挙がどれほど重要なのかを熟知している、元大阪市長の橋下徹氏も4月27日の「ゴゴスマ」(TBS系)に出演した際、小池都知事が状況を見て「五輪中止」と言い出す可能性を示唆して、下記のように話していた。 「コロナの状況を見ていると出来るのか?とみんな思っている。それが頂点に達したところをとらえて、小池さんはいち早く無理だという発言をされるんじゃないか。そういうのは天才的能力があると思っている」 まったく同感である。さらに言わせていただくと、この五輪中止カードがミソなのは、あくまで「政治利用」なので本当に「中止」をしなくてもいいという点だ。例えば、「国民のために五輪は中止すべき」という公約を掲げて選挙に勝ったとしても、「いろいろ交渉をしましたがIOCとの契約もあるので無理でした」というような感じでウヤムヤにできてしまう。そんな無責任が許されるわけがないと思うかもしれないが、これまでの日本の選挙を振り返ってみるといい。公約やらマニフェストが律儀に守られたケースの方が圧倒的に少ない。 つまり、IOCと「国民の不満が高まっているので一度、中止議論をしますけど、そのままちゃんと開催しますから」という風に、裏で握ってさえいれば、小池都知事にとっても、菅首相にとっても「五輪中止」は支持率爆上げの政治カードになり得るということだ』、「「国民のために五輪は中止すべき」という公約を掲げて選挙に勝ったとしても、「いろいろ交渉をしましたがIOCとの契約もあるので無理でした」というような感じでウヤムヤにできてしまう」、こんな騙しの「政治利用」は願い下げだが、見え見えのトリックに騙されるほど有権者が馬鹿とは信じたくない。
・『「天才・小池百合子」の巧みな戦略  では、いったいどちらが先に「五輪中止」を掲げるのか。大方の予想では、「天才・小池百合子」に軍配が上がると見られている。 これまでも小池都知事は、政府のコロナ対策の「先手」を打つというスピンコントロール(情報操作)で、「頼りにならない政府と比べると、小池さんは頑張っているなあ」というブランディングに成功し、昨年6月時点では7割という高い支持率も得ている。 また、女性蔑視発言で森喜朗氏への国民の批判が高まった絶妙なタイミングで、四者会談を拒否することを表明するなど、小池氏の国民の不満の方向性、ピークを捉える「選球眼」に関しては、その辺の政治家は足元にも及ばない。 例えば、菅政権が「アスリートにワクチンを優先的に接種させるべきか」などとじっくり検討しているうちに、小池都知事が「本日、コロナ感染状況を踏まえて、東京都としては五輪を中止すべきだとバッハ会長に申し上げました」などと不意打ちを喰らわせる可能性はゼロではない。 ただでさえ「感染拡大を防ぐために何もしていない」なんて叩かれる菅政権の評価は地に落ちるだろう。 本当は誰よりも通常開催したいという気持ちがありながらも、国民の命を守るために、苦渋の「英断」を果たした女性リーダーとして小池都知事は評価され、「日本初の女性首相」という野望にまたひとつ近づく。一方、菅首相は「決断できないリーダー」「五輪に固執する既得権益おじさん」というようなネガティブイメージが定着するかもしれない。 そうなれば、実際に五輪が中止になるかどうかはさておき、菅政権の支持率はガクンと落ちる。現時点で有力視されている9月の解散選挙の結果もかなり厳しいものとなり、「菅おろし」がスタート。有力な「ポスト菅」も見当たらないなかで、安倍晋三元首相の「復権」も現実味を増しそうだ』、「菅首相」サイドでも、「小池都知事」に対する「ネガティブ」キャンペーンを張り、泥仕合になる可能性もあるだろう。
・『菅首相が小池都知事に「負けない」ためにはどうすれば良いか  もちろん、このような「菅政権終焉シナリオ」というのは当然、菅首相側も意識している。派閥の後ろ盾もない菅首相が「中継ぎ」で終わることなく延命し、権力の座に座り続けるには、「天才・小池百合子」の裏をかくしかない。 では、どうするのか。 選択肢のひとつとしてあるのは、小池都知事よりも早く「五輪中止」のカードを切って、「国民の信を問う」と解散、都議選とのダブル選である。 今言われているような「9月解散」では正直、菅首相に未来はない。ワクチン接種が劇的に進み、感染が収束するなどの奇跡でも起きない限り、じわじわと支持率を下げたまま衆院選に突入して、過半数は守れたとしても、議席を大きく減らす可能性もある。選挙の弱い総裁を担ぐほど、自民党は優しくない。 だったら、一か八かで逆転の東京五輪中止のカードを切るという可能性もあるのではないか。 実際、それを思わせるような動きが続いている。 4月15日、菅政権の後ろ盾である二階俊博幹事長がTBSのCSの番組で、「これ以上無理ということなら、すぱっとやめないといけない」と与党トップとしてはじめて東京五輪中止の可能性に言及した。しかもこの発言を受けて、丸川珠代五輪相は「ある意味当たり前のことだ」と肯定をしているのだ。 普通に考えれば、これは世論の反応を伺う「観測気球」ではないだろうか。 さらに気になるのは、この5日後、多忙を極める小池氏が二階氏に会いに行っていたことだ。会談内容は、緊急事態宣言とワクチン接種についてだというがタイミング的にも、二階氏の五輪中止発言の真意を探りにいったと考えるべきだ。やはりこれは「Xデー」に向けて、狐と狸のばかしあいが始まっていそうだ。 もちろん、これらはすべて筆者の推測に過ぎない。ただ、一つだけ断言できるのは、もはや東京五輪は、アスリートのためでもなければ、国民のためにもなっていない。ましてや、「平和でより良い社会をつくることに貢献」なんて理念ともかけ離れてしまっている。 なんのための五輪なのか。この原点に立ち戻れば、政治カードにされる前におのずと答えは見えてくるだろう』、確かに「二階氏の五輪中止発言」を考えると、「菅首相側」から「中止」カードを切る可能性もあるが、この場合には本当に中止にしないと恰好がつなかいので、続行させたいIOCとのバトルになるかも知れない。

次に、4月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したデモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員の山田厚史氏による「コロナが炙り出す「菅政権のための東京五輪」」を紹介しよう。
・『3度目の緊急事態宣言下「補選全敗」が示すもの  コロナ禍は、日頃、気付きにくい「弱点」をあぶりだす、という。 ワクチン開発の遅れや医療崩壊に象徴される安心の基盤の脆弱さや、在宅勤務も選べない余裕のない働き方などもそうだが、菅義偉内閣が露呈することになったのは、統治能力の無さと身勝手な五輪利用だ。 東京・大阪など4都府県で3度目の緊急事態宣言が出された25日、北海道、長野、広島県での国政の補欠選挙で与党は全敗した。 異例の事態に首相は、「謙虚に受け止め、正すべき点はしっかり正していきたい」と語ったが、用意された文言を、ただなぞるだけ。 正すべき点とは何か、は語らず、「謙虚に受け止めている」のか疑いたくなるほど心がこもらない発言だった。) 週明けの東京・大阪では、通勤電車は密のまま。宣言が出ても「人流抑制」の効果は薄い。「緊急事態慣れ」と言われるが、人々は政府の言うことなど聞かず、そっぽを向いている』、確かに「緊急事態慣れ」の広がりは、深刻だ。
・『政府は何をしたのか? 感染源対策は「やっているフリ」  新型コロナウイルスによる死者は、26日で1万人を超えた。この2月以降、急ピッチで増えている。 東京では新規感染者が27日は800人を超えた。大阪では1231人。第4波は勢いを増している。感染力が強い変異株へと置き換わり、若年層や子どもの感染も増えている。 この間、政権は何をしてきたのか。 コロナが問題化して1年余り、「3密回避」「ステイホーム」「マスク会食」…。政府は行動を縛ることばかりしてきた。 感染が広がると「緊急事態」を宣言し、人々に不便・不利益を強いる。それが政府のコロナ対策だ。 人々は未知のウイルスを恐れ、言われるまでもなく自粛し、医療の現場や売り上げが蒸発してしまった事業者は命を削るようにして頑張ってきた。 その一方で政治家は夜の街で女性と会食を重ね、まともな対応をしてこなかった。 補選の結果も、緊急事態の空振りも、政権の無策に愛想が尽きた人々の「静かな反乱」ではないか。 感染症対策には、外してはいけない以下の「3原則」がある。 (1)感染源の隔離(徹底した検査で感染者を見つけ収容する) (2)感染経路の遮断(ロックダウンなどで人の接触を減らす) (3)社会的免疫の獲得(ワクチン接種) これらは政府の分科会の報告書に載っている項目だが、実際に政府がやっているのは、(2)「感染経路の遮断」だけだ。 それも自粛するのは国民で、政府は「ベカラズ集」を作って尻をたたくだけだ。 (3)のワクチンはこれから。そして真っ先にやるべき(1)感染源対策は、「体制を整えてやります」と安倍晋三前政権のころから言われているが、できていない。 新型コロナは無症状の感染者がウイルスをまき散らす。病院に来ない隠れた患者を見つけるには、PCR検査や抗体の検査が欠かせない。 感染率の高い地域を中心に一般の人を対象にした大規模な検査をして「隠れ感染者」を探し出し、健康な人と分離することが基本だ。) こうした徹底した感染源対策が、武漢を“制圧”した中国だけでなく、米国でもNYは郵便番号で分けられた地域ごとにモニタリング調査が行われている。 検査で感染実態を掌握することはコロナ対策の一丁目一番地とされ、多くの国では第一に行われている。 3月の国会で、立憲民主党の早稲田ゆき衆院議員の質問に厚労省は、「1日1万件を検査するモニタリング体制を整備中」と答弁した。 前回の緊急事態宣言が終わった後、政府は感染状況を把握するといって11都府県の街頭で検査キッドを配っている。やっと重い腰を上げた、ともいえるが、問題は取り組む姿勢だ。 これまでの検査数を聞かれた政府の担当者の答えは「これまで2万件配布し、回収できたのは1万1500件、陽性反応は7件」だった。まだ「2日分」の検査しかできていない。 西村康稔経済再生(コロナ対策)担当相によると、4月4日までに配布した検査キッドは2万6905件、回収したのは1万8312件、陽性反応が確認されたのはわずか11件だった。 こんな少ないサンプリングで、感染実態をつかめるのだろうか。1年も前から検査の必要性を認めながら「やっているフリ」である』、「1年も前から検査の必要性を認めながら「やっているフリ」である」、腹立しいことだ。
・『指導力がないから失敗を自己修正できない  政府は初期対応を誤った。 政府の専門家会議は当初、新型コロナは8割以上が軽症か無症状、重症化した患者に対応すればいい、と楽観的なことを言った。 検査を増やして陽性反応が出た感染者が病院に殺到したら、ベッドは足らず医療崩壊が起きることを口実に、「検査抑制」へと傾いた。 背景には医系技官や保健所など、従来の保険行政の枠組みのもと、いわば「コロナ村」で感染実態を抱え込んで対応しようとしたことがあるといわれる。 未知のウイルスが相手だ。専門家が判断を誤ることもある。大事なのは、誤りと気づいた時に直ちに修正することだ。バッサリ切り替えるのはリーダーの仕事だ。 ところが安倍・菅政権は、うやむやにした。 「間違えました。これからはPCR検査を徹底してやります。協力お願いします」と言えばよかった。専門家のなかにもPCR検査の徹底を言う人もいたが、政策の失敗と見られることを恐れてか、方針転換ができなかった。 日本の民間企業には、PCR検査が大量にできる機器や一般の人が自分でやれる簡易検査キットなど、世界で使われる優れた製品や技術がある。 だが、国立感染症研究所を中心とする厚労省の医系技官たちは「精度に問題がある」などと理由をつけ、民間の受け入れを阻む方向に動いた。 菅首相は、口では「検査拡充」をかかげたが、結局、リーダーシップを取れず、「感染源を断つ」という責任を放棄してしまった。 その結果、責任を国民に転嫁する「自粛」へと傾斜した。 世界の常識である感染源対策を怠ったため、「人と人の接触を断つ」ことに逃げ込んだ。その限界がいま表れている』、「ベッドは足らず医療崩壊が起きることを口実に、「検査抑制」へと傾いた。 背景には医系技官や保健所など、従来の保険行政の枠組みのもと、いわば「コロナ村」で感染実態を抱え込んで対応しようとしたことがある」、「専門家が判断を誤ることもある。大事なのは、誤りと気づいた時に直ちに修正することだ。バッサリ切り替えるのはリーダーの仕事だ。 ところが安倍・菅政権は、うやむやにした」、「責任を国民に転嫁する「自粛」へと傾斜した。 世界の常識である感染源対策を怠ったため、「人と人の接触を断つ」ことに逃げ込んだ。その限界がいま表れている」、政府の「コロナ対策」の誤りを見事に指摘している。
・『政権の本気度は首相や閣僚の発言ににじみ出る  3回目の緊急事態宣言の発令を決めた23日の記者会見で、菅首相は、「欧米に比べ感染者ははるかに少ないのに医療体制が逼迫(ひっぱく)している。首相がコロナ患者の病床数を増やすといっても増えないのはなぜか」と聞かれた。 だが「現状は(病床数を増やすのは民間病院に)お願い、要請しかできない」としか答えられず、聞かれてもいないワクチンの話をしゃべり出した。 田村憲久厚生労働相はNHKの番組で、「自粛でなくロックダウンなどもっと強い措置は取れないのか」と聞かれ、「国民に強制できる法律がない」と答えた。 首相も担当相も「法的権限がない」ことをできない理由に挙げる。気は確かか、と首をかしげたくなる。 内閣や国会は法律を作るのが仕事だ。必要な政策を進める権限がないのなら法制化して実現するのが首相や閣僚の責任だ。 「権限がない」は言い訳でしかない。 やる気がないのか、国民を説得する自信がないのか。いずれにせよ統治者として自覚と能力に欠けることを白状したようなものだ』、憲法改正に非常事態を入れ込むjため、現在はあえて何もしないのかも知れない。
・『東京五輪開催の思惑で宣言の解除や期間を決めた?  その一方で菅首相が身を乗り出したのは、政局や東京五輪が絡む政治案件だった。 緊急事態宣言の期間や対象業種など、本来なら役人や専門家に任せる課題に首を突っ込んだ。 今回の緊急事態宣言発令でも、専門家が3週間必要と主張した宣言の期間を5月11日までの17日間にしたのは、5月中旬に予定されるIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長の来日を意識したため、とみられている。 前回の緊急事態宣言を感染が収まりきらないうちに解除したのは、聖火リレーのスタートが迫っていたからだといわれる。 検査はしない、強い措置も取らない、病床は確保できない。そんな中で、首相は「東京五輪はやる」と言う。 23日の会見でも「五輪開催はIOCの権限。IOCは既にやると決めている」と、IOCの方針を前面に立てて開催を主張した。 東京五輪組織員会は、入国者に義務づけられている「2週間の隔離」を免除し、その日から練習できるようにすると言う。 小池百合子都知事は、緊急事態宣言で「東京に来ないで」と訴えているが、1万人規模でやってくる五輪選手の水際対策は当然、甘くなる。2週間も隔離されたらベストコンディションで臨めない、と考える選手は少なくないだろう。 通常の検疫体制では参加者は減る、だから甘くして参加しやすくするということのようだ。 入国者に義務づけられている「2週間の隔離」を免除し、その日から練習できるようにするということなのか。東京五輪は、感染対策より上位にあるということなのか』、「入国者に義務づけられている「2週間の隔離」を免除し、その日から練習できるようにする」、「東京五輪は、感染対策より上位にあるということなのか」、酷い話だ。
・『医療人材をひっぺがす五輪 ワクチ接種は「机上のプラン」  組織委は、500人の看護師派遣を日本看護師協会に依頼した。ボランティアとして、選手村の発熱外来などで働いてもらうのだという。医師も日に400人が必要とされている。 だが、医療が逼迫している時、どうやって人繰りをつけるのか。五輪に割かれる人材が医療現場に更なる負担を押し付けるのは明らかだ。 一方で、コロナ対策で唯一希望とされるワクチン情報は、意図的と思えるほど楽観的だ。 根拠のない見通しを意識的に流し、一種の世論誘導をしている。 医療関係者のワクチン接種は3月中に終え、高齢者は4月から始めて6月までに、その後、特定の疾病のある人が接種し、一般への提供も7月中に可能などと、机上のプランがあたかも実現するかのように喧伝(けんでん)されている。 プラン通り進めばオリンピック前に接種は山を超え、多くの人は免疫を獲得し、ひと安心となっているだろう。それなら東京五輪は大丈夫か、と多くの人は思いたくなる。 だが、そうはならない現実が見えてきている。 4月から始まった高齢者の接種はまだ対象者の1%にも満たない(27日現在)。それどころか、医療関係者の接種もまだ終わっておらず、ワクチン接種をできていない医師が接種に訪れる人に対応している。 自民党内部からは「ワクチン接種が完了するのは、来年になってから」などの声も出ている。 担当の河野太郎行革相は「首相が自ら交渉しファイザー社から追加供給のめどが立った。国民全てが接種できる数量が確保された」と言うが、現場にいつ届くのか。円滑な接種が行われる体制を自治体が取れるのか、疑わしい。 現実に、接種の始まった自治体ではワクチン接種券が届いても予約の電話がつながらない混乱が起きている。医療は物流だけでは解決しない。 政府は、自衛隊に出動を要請し、東京などで医官・看護官が大規模会場で接種に当たることをあわてて決めた。東京五輪を前に「背水の陣」ということだろう』、「首相が自ら交渉しファイザー社から追加供給のめどが立った」は、どうもPR臭が強く、実際には具体的約束はなかったようだ。「ワクチ接種は「机上のプラン」」を意図的に流すというマスコミ対策は悪質だ。
・『五輪は「パンとサーカス」か 利害一致の菅首相とIOC  政府の思惑は、感染拡大が和らげば緊急事態宣言を解除しバッハ会長を迎えて、「開催」を世界に発信し一気に突き進むという筋書きだ。 一方でIOCにとっても、無観客で行われたところで米国NBCのテレビ放映権で収入は確保できる。組織を維持するためにも中止はあり得ない。 感染対策や観客受け入れなど面倒な問題は、開催地の責任だ。「非常宣言は関係ない」というバッハ発言は「何をおいても開催」というIOCの身勝手が表れている。 国民が生命の危機にさらされている時、五輪を開催することにどれほどの意味があるのか。 多くの人は「こんな時に五輪か」と考えるが、「こんな時だから五輪で」というのが政権の思惑だろう。 補選で3連敗したことで、政権与党はまますます東京五輪にすがる。 菅首相にとって秋の自民党総裁で再選されることと、その前後にある総選挙で議席を守り抜くことが第一だ。そのために東京五輪は不可欠と考えている。 与党内にも、五輪の熱戦をメディアが連日伝えれば、世の中の気分はいっぺんに変わる、と期待する政治家は少なくない。 ローマの時代から為政者は統治の要諦を「パンとサーカス」と心得ていた。「腹を満たす食べ物」と「心を喜ばす娯楽」を与えられた市民は政治に目をつむると、詩人ユウェナリスは指摘した。 組織維持のため開催を主張するバッハ会長と政権延命のため五輪を必要とする菅首相は、固く結ばれている。 誰のためにオリンピックはあるのか。新型コロナの蔓延(まんえん)は隠れている構造をあぶり出す』、「組織維持のため開催を主張するバッハ会長と政権延命のため五輪を必要とする菅首相は、固く結ばれている」、同感である。いずれにしろ、ワクチン入手に主要国のなかでも大幅に遅れを取り、日本としては安全に運営できる保証がなくなった以上、IOCが米国のTV放映権確保のため開催に固執しても、恥をしのんででも開催中止を申し出るべきだろう。
タグ:(五輪) (その16)(大逆風の東京五輪 「中止カード」を先に切るのは菅首相か小池都知事か、コロナが炙り出す「菅政権のための東京五輪」) ダイヤモンド・オンライン 「大逆風の東京五輪、「中止カード」を先に切るのは菅首相か小池都知事か」 窪田順生 東京オリンピック 「緊急事態宣言が、IOCのバッハ会長の来日予定日の前にピタッと終了するといういわゆる「バッハシフト」」は見え見えだ 「「看護師500人動員」と「選手用病院確保」」も医療崩壊を一層悪化させるもので、正気の沙汰とは思えない。 「「国民のために五輪は中止すべき」という公約を掲げて選挙に勝ったとしても、「いろいろ交渉をしましたがIOCとの契約もあるので無理でした」というような感じでウヤムヤにできてしまう」、こんな騙しの「政治利用」は願い下げだが、見え見えのトリックに騙されるほど有権者が馬鹿とは信じたくない。 「菅首相」サイドでも、「小池都知事」に対する「ネガティブ」キャンペーンを張り、泥仕合になる可能性もあるだろう。 確かに「二階氏の五輪中止発言」を考えると、「菅首相側」から「中止」カードを切る可能性もあるが、この場合には本当に中止にしないと恰好がつなかいので、続行させたいIOCとのバトルになるかも知れない。 山田厚史 「コロナが炙り出す「菅政権のための東京五輪」」 確かに「緊急事態慣れ」の広がりは、深刻だ。 「1年も前から検査の必要性を認めながら「やっているフリ」である」、腹立しいことだ。 「ベッドは足らず医療崩壊が起きることを口実に、「検査抑制」へと傾いた。 背景には医系技官や保健所など、従来の保険行政の枠組みのもと、いわば「コロナ村」で感染実態を抱え込んで対応しようとしたことがある」、「専門家が判断を誤ることもある。大事なのは、誤りと気づいた時に直ちに修正することだ。バッサリ切り替えるのはリーダーの仕事だ。 ところが安倍・菅政権は、うやむやにした」、「責任を国民に転嫁する「自粛」へと傾斜した。 世界の常識である感染源対策を怠ったため、「人と人の接触を断つ」ことに逃げ込んだ。その限界がいま表れている」、政府の「コロナ対策」の誤りを見事に指摘している。 憲法改正に非常事態を入れ込むjため、現在はあえて何もしないのかも知れない。 「入国者に義務づけられている「2週間の隔離」を免除し、その日から練習できるようにする」、「東京五輪は、感染対策より上位にあるということなのか」、酷い話だ。 「首相が自ら交渉しファイザー社から追加供給のめどが立った」は、どうもPR臭が強く、実際には具体的約束はなかったようだ。 「ワクチ接種は「机上のプラン」」を意図的に流すというマスコミ対策は悪質だ。 「組織維持のため開催を主張するバッハ会長と政権延命のため五輪を必要とする菅首相は、固く結ばれている」、同感である いずれにしろ、ワクチン入手に主要国のなかでも大幅に遅れを取り、日本としては安全に運営できる基盤がなくなった以上、IOCが米国のTV放映権確保のため開催に固執しても、開催国として断固として開催中止を申し出るべきだろう。
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環境問題(その9)(商船三井はなぜ謝った? 石油流出事故は「SDGs謝罪」の号砲か、菅内閣でついに動き出す「炭素の価格付け」論議 焦点の1つは炭素税 求められる税制グリーン化、三菱UFJと住商が直面する「脱炭素」株主提案 2020年のみずほに続き NGOが定款変更を要求) [経済政策]

環境問題については、昨年12月17日に取上げた。今日は、(その9)(商船三井はなぜ謝った? 石油流出事故は「SDGs謝罪」の号砲か、菅内閣でついに動き出す「炭素の価格付け」論議 焦点の1つは炭素税 求められる税制グリーン化、三菱UFJと住商が直面する「脱炭素」株主提案 2020年のみずほに続き NGOが定款変更を要求)である。

先ずは、昨年12月14日付け日経ビジネスオンライン「商船三井はなぜ謝った? 石油流出事故は「SDGs謝罪」の号砲か」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00212/120900006/
・『これまで、同調圧力や謝罪の流儀の海外比較、SNSでの炎上、「土下座」や「丸刈り」について論じてきた。今回は、謝罪の新しい潮流について考えてみたい。題材にするのは、今年7月に起きた貨物船「WAKASHIO(わかしお)」の事故だ。「法的責任はない」と認識している商船三井は、なぜ謝罪したのか。 「新型コロナでただでさえ国外からの観光客がいなくなっているのに、国内からも来なくなった。二重苦だ」 人口約126万人、面積はほぼ東京都と同じ島国のモーリシャスで、ホテル経営者やエコツーリズム業者らは、こう口をそろえる。 インド洋のモーリシャス沖で7月25日(現地時間)、長鋪汽船(岡山県笠岡市)所有のばら積み船「WAKASHIO(わかしお)」の座礁事故が発生。8月6日に燃料油が流出し始め、約1000トンが海に流れた。モーリシャスの海岸線約30kmに漂着したとされ、多くの海水浴場が閉鎖され、漁も禁止された。 事故現場は湿地の保全を定めるラムサール条約に登録された国立公園にも近い。マングローブやサンゴ礁など生態系への影響が懸念されているほか、そうした自然に魅了されて世界中から人が訪れる観光産業への影響も不安視される。観光業や水産業は同国の基幹産業なだけに、流出した燃料油の与える影響への懸念は強い。 8月下旬には事故を巡って、モーリシャス政府の対応の遅さが被害を拡大したと批判する大規模デモが起きた。市民らは首相や関係閣僚の辞任を求めた。 こうした中、長鋪汽船という一企業の対応を超えて、日本では国を挙げての支援体制が敷かれている。茂木敏充外務相は9月上旬、モーリシャスの首相に環境の回復だけでなく、経済・社会分野でも協力することを伝えた。独立行政法人国際協力機構(JICA)は3度の国際緊急援助隊の派遣に続いて、10月下旬から調査団を派遣。現地住民への聞き取りやマングローブ、サンゴ礁への影響を調べている。 12月上旬の状況について、現地で活動する阪口法明・JICA国際協力専門員は「大規模にサンゴ礁が死滅したり、マングローブ林が枯れたりという状況は見られていない。ただ、サンゴ礁には今も堆積物が蓄積しており、油の漂着が見られたマングローブ林も根や土壌表面の洗浄をまさに続けているところ。引き続きモニタリングが必要だ」と語り、注意を継続する必要性を強調する。 12月には茂木外相がモーリシャスを訪問。日本だけでなく、フランス政府もモーリシャスに専門家を派遣するなどの支援に当たる。 当然、これほどの規模の事故ともなると、加害者は謝罪会見を開くことになる。 WAKASHIOを所有する長鋪汽船は、8月8日にリリースを出し事故が起きた事実を伝え、同9日に記者会見を実施。長鋪慶明社長は「多大なご迷惑とご心配をおかけし、心より深くおわび申し上げる」と陳謝し、油の流出防止や漂着した油の回収に取り組む計画を語った。 ただ、この謝罪会見は、危機管理コンサルタントなど“謝罪のプロ”たちが注目するところとなった。長鋪汽船だけではなく、もう1社、登壇した会社があったからだ。商船三井である。 「これは、新しい会見の流れになるのかもしれない」 ある危機管理コンサルタントは、この会見を見てこう口にした。 商船三井は、長鋪汽船から船を借り、荷物を付けて輸送する指令を出す「定期用船者」に当たる。船を所有し、乗組員を乗船させて運航するのは船主である長鋪汽船。一般的に、船舶事故の場合は船主が責任を負い、事故への賠償責任の費用をカバーするP&I保険(船主責任保険)は船主が加入している。 法的責任を一義的に負うのは長鋪汽船。だが、謝罪会見の開催場所は東京・港区の商船三井本社の会議室。「まるで、商船三井が謝罪会見を開いているかのようだった」(ある危機管理コンサルタント)。 そして、長鋪汽船の社長と共に登壇した商船三井の小野晃彦副社長は、こう謝罪の意を示したのである。 「モーリシャスをはじめ、関係者にご迷惑をお掛けしていることを誠に深くおわび申し上げる」』、この事故については、このブログの昨年10月20日で取上げた。「国際協力機構(JICA)は3度の国際緊急援助隊の派遣に続いて、10月下旬から調査団を派遣」、「茂木外相がモーリシャスを訪問」、など日本政府も異例の対応をしたようだ。
・『商船三井に「法的責任」はあるのか  ここで注意が必要なのは、商船三井が自らに事故の法的責任があると考えて謝罪したわけではないことだ。9月11日、商船三井は改めて会見を開き、商船三井の池田潤一郎社長は、「法的責任は一義的には船主が負うべきものと考えている」と明言している。 それでも、謝罪の意を表明するだけではなく、商船三井は主体的に被害を受けているモーリシャスに対する支援策を矢継ぎ早に打ち出した。 「モーリシャス自然環境回復基金(仮称)」設置などの10億円規模の拠出の計画を公表。資金だけでなく、これまでに社員延べ約20人を現地に派遣している。10月にはモーリシャス現地事務所を設立し、環境保護活動を行うNGO(非政府組織)との連携にも乗り出している。スタートアップのイノカ(東京・港)とも提携し、新技術による原油除去の可能性を探るなど、その支援範囲は幅広い。 池田社長は手厚い支援を実施する背景について、「今回の事故はモーリシャスの自然環境、人々の生活に大きな影響を与えるもの。用船者である我々が社会的責任を背負うことは当然であり、前面に立って対応しなければならない」「法的責任だけで整理できるものではない」(池田社長)と説明する。 もっとも、商船三井にも法的責任があるかどうかは、必ずしも明確ではないという見方もある。『船舶油濁損害賠償・補償責任の構造―海洋汚染防止法との連関―』(成文堂)の著者である信州大学の小林寛教授(環境法)は「商船三井が法的責任を負う可能性は低い」と指摘するが、「そもそも燃料油による汚染損害との関係では、定期用船者の法的責任は、これまであまり議論されてこなかった」(小林教授)と話す。要するに、“グレーゾーン”にあるわけだ。 オイルタンカーの事故では船主に責任があることが明確になっている。一方、WAKASHIOのような貨物船については、バンカー(燃料油)条約が「船舶所有者(所有者、裸用船者、管理人、運航者)は、船舶から流出した燃料油による汚染損害について責任を負う」と規定されている。定期用船者である商船三井の場合、「運航者」に当たるかどうか議論の余地があるというのである』、今回の場合、「船主」が「長鋪汽船」という弱小企業だったこともあり、「定期用船者である商船三井」が乗り出してきたのはさすがだ。「用船者である我々が社会的責任を背負うことは当然であり、前面に立って対応しなければならない」「法的責任だけで整理できるものではない」としているようだ。
・『増加するESG投資、無視できない環境  だが、今回の対応が注目されるのは、池田社長が語ったように、法的責任がなくとも「社会的責任」から謝罪し、行動しているという点だ。小林教授は、「商船三井の対応は(法的責任の所在より)SDGsを意識しているのだろう」とみる。 「SDGs(持続可能な開発目標)」は、言わずと知れた2015年に国連で採択された、国際社会における行動の指針だ。貧困撲滅や気候変動対策など17のゴールからなり、その14番目に海の生態系を守ることが掲げられている。 SDGsは民間企業の参加を促しており、商船三井も経営計画と連動した「サステナビリティ課題」として、SDGsの17の目標と対照させながら海洋・地球環境の保全などに向けた取り組みを表明している。 SDGsの世界的なうねりは、機関投資家による「ESG投資」も加速している。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3要素で構成するESG投資は、2006年に国連が責任投資原則(PRI)を公表したことをきっかけに拡大が加速。PRIに署名した金融機関の保有資産残高は2010年の21兆ドルから19年には86兆3000億ドルまで増加している。 『企業と社会―サステナビリティ時代の経営学―』(中央経済社)などの著書を持ち、企業の社会的責任に関する研究をする早稲田大学の谷本寛治教授は「企業に期待される役割は時代とともに変化する。地球環境問題についての世界的な世論の関心の高まりに加え、特にこの10年間はESG投資が増えた。上場企業として、この流れは無視できない」と語る。 日興リサーチセンター社会システム研究所の寺山恵所長もESG投資の流れから「上場企業である商船三井は、投資家から、事故に至った背景や今後のリスク管理だけでなく、今回の事故での社会的責任が問われるのはよく分かっているはず」とし、基金設置などの「商船三井の対応は時節にかなっている。逆に企業がESGについてどう考えているのか見せる良い機会にもなる」と話す。 国際的な環境NGOからの監視の目も厳しい。グリーンピースは8月、「現地住民と積極的に話し合い、誠意をもって解決策を探ることを求めます」などといった公開状を長鋪汽船と商船三井に送付。両社は期限までに「このようなご意見があることも踏まえ、今後本件のような事態が二度と発生しないよう取り組んでまいります」などと社長名の文書で回答している』、「小林教授は、「商船三井の対応は(法的責任の所在より)SDGsを意識しているのだろう」とみる」、「SDGs」がここまで浸透しているとは、驚かされた。
・『「ESG」の原点も原油流出事故による海洋汚染だった  被害を直接的に与えたモーリシャスの国民にとどまらず、今回の事故の利害関係者は多岐にわたる。SDGs時代には、ひとたび大規模な事故や不祥事を起こせば、影響を受ける未来の世代も含めて、謝罪の相手は直接的な被害者だけでは済まされない。 その点で、商船三井と長鋪汽船の対応は及第点と言えそうだ。早稲田大学の谷本教授は「新型コロナの影響で、航空機に乗ってすぐに現地に向かうことが難しいといった制約があった中、特に8月はリリースを頻繁に更新して情報を出そうとする努力の姿勢が見えた」と評する。 ただし、「少なくとも事故前の状態に近づけるところまで、支援を続けることが必要。資金面の支援だけでなく、定期的にどのような活動をしたのか、その効果について開示していくことが今後の課題だ」(谷本教授)と語る。 そもそも、こうした「社会的責任」を重視する世界的な潮流を遡ると、日興リサーチセンター社会システム研究所の寺山所長は「企業のESGへの関心が高まった契機は船舶の座礁事故だった」と解説する。 1989年に米エクソン社のタンカー「バルディーズ号」がアラスカ沖で座礁。大量の原油流出による生態系の破壊は、投資家やNGOからの企業の環境責任を求める声につながった。 「商船三井も含め、グローバルを舞台にする物流船は特にESGへの意識が高いはずだ」との見方をする。 それだけに、今回の商船三井の対応は、SDGs時代の謝罪の流儀として、1つのモデルケースになる可能性がある。 商船三井が連携を表明しているモーリシャスの環境NGO「エコモード・ソサエティー」の代表で、モーリシャス大学の海洋学教授でもあるナディーム・ナズラリ氏は「生態系が壊れ、海岸に行くたびに悲しくなり、涙が出そうになる。漁業ができなくなり貧しい人の生活を直撃している」と窮状を訴える。「商船三井が私たちを助けようとしているのは理解している。ただ、サンゴの保全活動のために早く資金の支援がほしい」と語る。 商船三井は本誌の取材に対し、今回のような対応理由や経緯について「会見で説明した通りで、それ以上の回答は差し控える」とコメントし、明らかにしていない。黙して行動で謝意を示すということなのだろう。多様なステークホルダーが心から許すかどうかは、謝罪の言葉以上に実行力にかかっている。 商船三井は12月11日、社長交代を発表した。21年4月1日付で池田社長は代表権のある会長に就き、新たに橋本剛副社長が社長に昇格する。今後、商船三井は経営体制が変わることになるが、長鋪汽船とともに、事故によって破壊された環境を回復させる長期的な取り組みが求められることになる』、「「ESG」の原点も原油流出事故による海洋汚染だった」、初めて知った。「モーリシャス」の汚染被害が一刻も早く解決することを期待したい。

次に、本年2月1日付け東洋経済オンラインが掲載した 慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「菅内閣でついに動き出す「炭素の価格付け」論議 焦点の1つは炭素税、求められる税制グリーン化」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/408601
・『わが国でも、カーボンプライシング(炭素の価格付け)の議論が本格的に動き出そうとしている。 梶山弘志経済産業相と小泉進次郎環境相は1月26日、それぞれ記者会見で、カーボンプライシングについての検討を進めることを発表した。 梶山経産相は同省内にカーボンプライシングについての研究会を新設し、2月中旬から議論を始めることを表明した。小泉環境相は、2018年7月に設置した中央環境審議会のカーボンプライシングの活用に関する小委員会での議論を、2月1日から再開させることを表明した。両省は互いにオブザーバーとしてそれぞれの会議体に参加する』、これまでは議論すらされてなかったのが、漸く議論が始まるようだ。
・『菅内閣で一変した導入論議  カーボンプライシングの議論で焦点となるのは排出量取引と炭素税だ。 わが国でのカーボンプライシングについては、安倍政権で静かに進む「もう1つの増税計画」の中で、2019年4月段階での議論の進捗状況に触れた。カーボンプライシングに対する経済界の反対も強く、導入の実現可能性は低かった。 その後、中央環境審議会の同小委員会は2019年8月、「カーボンプライシングの活用の可能性に関する議論の中間的な整理」を取りまとめた。当時は安倍内閣で、消費税率も8%だった。同小委員会の中間的な整理も導入ありきではなく、限りなく賛否両論併記に近いものだった。 ただ、排出量取引と炭素税を日本に本格導入する場合、どのような制度設計が必要かについて反対論に配慮した形で具体的に踏み込んだ検討結果が記された。 この状況は、2020年10月26日に菅義偉首相が所信表明演説を行い、2050年にカーボンニュートラル(脱炭素社会の実現)を目指すことを宣言したことにより、一変した。) 欧州連合(EU)は2020年7月の首脳会議で、国際炭素税の導入や、EU域内排出量取引制度で財源を賄う復興基金を設置することで合意した。アメリカも、地球環境問題を重視する民主党のバイデン氏が大統領に就任し、この流れを決定的なものにした。 経済界の意向を反映してカーボンプライシングに消極的とされていた経済産業省も、2020年12月の成長戦略会議で取りまとめられた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で一歩踏み込んだ。経産省は「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、経済と環境の好循環につなげるための産業政策と位置づけた』、「菅義偉首相」の「カーボンニュートラル」「宣言」は、米国でのトランプから「バイデン」への政権移行を踏まえたのだろう。
・『成長戦略に資するカーボンプライシング  グリーン成長戦略には、「市場メカニズムを用いる経済的手法(カーボンプライシング等)は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長戦略に資するものについて、既存制度の強化や対象の拡充、更には新たな制度を含め、躊躇なく取り組む」「国際的な動向や我が国の事情、産業の国際競争力への影響等を踏まえた専門的・技術的な議論が必要である」などと明記された。 梶山経産相や小泉環境相の表明はこの線に沿ったものである。つまり、今回のカーボンプライシングの検討は「成長戦略に資するもの」という条件が付されているのだ。 急進的な地球環境保護派ならば、カーボンプライシングはCO2の排出に対して懲罰的に炭素税を課したり、排出量取引で温室効果ガス排出量の上限を厳しく設定したりすることに重きを置くべきと主張するだろう。 しかし、欧米の出方が未確定な段階で、日本が先んじてカーボンプライシングに踏み込もうという機運はない。ただでさえ、輸出競争力が低迷している日本企業に対して、あえて不利になるようなカーボンプライシングを課せば、欧米は日本の足元をみて自国企業に有利になるようにしながら、温暖化防止に積極的だと印象付ける政策を講じてくるだろう。 これまで日本は、気候変動問題に消極的だと世界的に批判されてきた。日本企業に過重な負担増を課さないように配慮をし、カーボンプライシングを軽微にしたとしても、逆に地球環境問題に対して不熱心だとレッテルを貼られて負担増以上の不利益を日本企業が被るということにもなりかねない。 この期に及んで、わが国でカーボンプライシングの議論を封印することはできなくなった。いま反対している企業に対しては、成長戦略に資するカーボンプライシングを示すことで、納得してもらうことが得策である。 では、そのような政策はありうるのか。当然ながら、唯一の特効薬のような政策はなく、さまざまな政策の合わせ技となる。その1つになりうるのが、エネルギー諸税についてCO2排出量比例の課税を拡大することと同時に、その税収を脱炭素化を早期に実現するための設備投資や技術革新に用いることである。 わが国で炭素税といえる税は、地球温暖化対策のための税(温対税)である。ただ、温対税の税率はCO2・1トン当たり289円で、主な炭素税導入国の中では低い水準にある。温対税以外に石油石炭税や揮発油税などのエネルギー諸税があって、これらの課税を炭素排出量換算すると、CO2・1トン当たり約4000円になると経済産業省は試算している』、「温対税の税率はCO2・1トン当たり289円」だが、「温対税以外に石油石炭税や揮発油税などのエネルギー諸税があって、これらの課税を炭素排出量換算すると、CO2・1トン当たり約4000円になると経済産業省は試算」、「エネルギー諸税」の重さには驚かされたが、本当だろうか。
・『早期の「税制のグリーン化」実現を  しかし、エネルギー諸税はCO2排出量に比例していない。その背景には、製鉄プロセスで石炭が必要な鉄鋼業や石炭火力発電に依存する電力業、さらには灯油を多用する寒冷地住民への配慮がある。 とはいえ、脱炭素を早期に目指すならば、税制でそうした配慮をいつまでも続けるわけにはいかない。むしろ、税制ではCO2排出量比例の課税を拡大(税制のグリーン化)しつつ、その税収を使って、そうした配慮なしで雇用や生活が成り立つような技術革新や製品開発を促すという政策転換が求められる。早期に脱炭素化が進められるような技術革新の促進や産業振興を行うことで、成長戦略にも資する。 税制のグリーン化を本格的に進めるには、温対税の単純な拡大だけでは不十分で、エネルギー諸税の抜本的な改革も必要だろう。ただ、いきなり過重な負担増を課すわけにはいかない。まずは緩やかに、かつ遅滞なく温対税を拡大する方法もありえよう。 税収を脱炭素化の促進に用いるのはよいとしても、長期にわたり漫然と補助し続けるような支出であってはならない。日本は2050年のカーボンニュートラル実現とともに、温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比でマイナス26%とする目標を掲げている。 2050年までにカーボンニュートラルを実現できればよいわけではない。2030年まであと9年しかなく、脱炭素化の促進を財政的に支援するとしても早期にその成果を求めなければならない。 もちろん、新型コロナウイルス対策が目下の最優先課題である。しかし、その収束後には、遅滞なく政策が講じられるようにスタンバイ状態にしておく必要がある。新型コロナが収束していない段階でも、EUにはカーボンプライシングの強化を断行した国があることを看過してはいけない』、「早期の「税制のグリーン化」実現を」、賛成である。

第三に、4月21日付け東洋経済オンライン「三菱UFJと住商が直面する「脱炭素」株主提案 2020年のみずほに続き、NGOが定款変更を要求」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/423904
・『環境NGOが機関投資家と連携し、大手金融機関や大手エネルギー関連企業に対する脱炭素化の働きかけを世界規模で強めている。 日本では3月26日、環境NGO「気候ネットワーク」のほか、国際的な環境NGOに所属する三菱UFJフィナンシャル・グループの個人株主3人が、気候変動に関するパリ協定の目標に沿った投融資計画を策定・開示するよう求める株主提案を同社に提出した』、IR担当部署が対応する必要があるのは、「環境NGO」にも広がっているようだ。
・『定款に脱炭素化の方針明記を  三菱UFJに株主提案したオーストラリアの環境NGOに所属する個人株主は同日、住友商事にも株主提案を送付。同社の石炭や石油、ガス関連事業資産や事業の規模を減らすべく、パリ協定の目標に沿った新たな事業戦略の策定や情報開示を求めている。三菱UFJ、住商のいずれに対しても、脱炭素化の方針を定款に盛り込むことを求めている。 三菱UFJに株主提案を提出したのは、気候ネットワークのほか、オーストラリアの環境NGO「マーケット・フォース」とアメリカの環境NGO「レインフォレスト・アクション・ネットワーク」(RAN)、「350.org」の日本組織に所属する個人株主ら。住商にはマーケット・フォースの個人株主が株主提案した。 イギリスやアメリカでは、NGOによる気候変動問題に関する株主提案が急増している。そして、機関投資家がその提案に賛同し、株主提案が可決・成立したり、提案をきっかけに会社と新たな合意を結ぶケースも相次いでいる。 イギリスの大手銀行HSBCは3月11日、気候変動問題に関してより踏み込んだ対応策を5月の株主総会で発表すると明らかにした。これを踏まえ、同社に株主提案していた環境NGOが提案を撤回。HSBCの対応策を支持すると表明した。 HSBCは、パリ協定を踏まえた脱炭素化に関する目標に従い、2021年の年次報告書から年度ごとの温室効果ガス削減の進捗状況を開示する。また、EUとOECD加盟国において、石炭火力発電や一般炭採掘向け融資を2030年までにゼロに、それ以外の国についても2040年までにゼロにすると公約した。 アメリカでも2021年初めの数カ月だけで30件を超える株主提案が出されている。JPモルガン・チェースやウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカなどの大手銀行は、二酸化炭素など温室効果ガス排出量の測定や開示などの要求を受け入れると表明。株主側は提案を取り下げている。 環境NGOによる圧力は日本の大手銀行や大手商社にも及んでいる。気候ネットワークは2020年、みずほフィナンシャルグループに株主提案を行った。2021年は三菱UFJに株主提案を提出し、投融資の脱炭素化に向けて踏み込んだ対応を求めている。大手商社の中では住商が初めてターゲットになった』、「HSBC」や主要米銀が「環境NGO」の「要求を受け入れると表明。株主側は提案を取り下げている」、欧米ではずいぶん影響力を持っているようだ。
・『みずほでは3分の1超の賛同を獲得  三菱UFJと住商に対し、NGO株主はパリ協定に沿った経営戦略を立てるよう定款の変更を求めている。定款変更を求める理由について、マーケット・フォースは「日本の会社法では、株主が提案権を有するのは議決権を行使できる事項に限られる。議決権を行使できるのは、会社法または対象企業の定款に定められた株主総会決議事項に限定されているため」としている。それゆえ、定款を変更しないと要求を実現できない。 2020年の株主総会で定款変更を求められたみずほは、「会社の目的、名称や商号等を定める定款本来の位置づけ等に照らして不適切」などとして株主提案に反対を表明した。しかし、株主提案は34.5%の賛同を獲得。金融界に大きな衝撃が走った。 みずほの株主総会で、カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)やBNPパリバ・アセットマネジメントのほか、野村アセットマネジメントやニッセイアセットマネジメントなどが株主提案に賛成票を投じた。 今回、三菱UFJに株主提案した理由について、気候ネットワークの平田仁子理事は「(三菱UFJの)化石燃料関連への投融資がパリ協定で必要とされる削減の道筋と整合していない。これまで対話を続けてきたが、三菱UFJが整合した方針を設定する確証を得られなかったため、株主提案という方法を提起した」という。 また、RANの川上豊幸日本代表も、「当団体などが3月24日付で発表した『化石燃料ファイナンス成績表』によれば、パリ協定採択後の化石燃料産業への融資額に関して三菱UFJは世界6位、アジアの金融機関としては最も多い結果になった」という。) 川上氏はさらに、「(三菱UFJは)二酸化炭素排出量が突出して多い北米のオイルサンド産業や、北極圏の石油・ガス産業、シェールオイル・ガス事業への融資額が多く、現在、反対運動が強まっているオイルサンドのライン3パイプライン建設でもアジアの銀行として最も多額の資金提供を行っている」と指摘する。 三菱UFJは熱帯林の破壊や森林火災などの恐れのある東南アジアのパーム油関連事業に最も多くの資金を提供している銀行の1つといわれる。RANは2016年ごろから三菱UFJと対話を続けてきたが、「改善は見られるものの、その進展ははかばかしくない」(川上氏)という』、「環境NGO」が「定款の変更を求めている」理由がこれまでは理解できなかったが、「会社法では、株主が提案権を有するのは議決権を行使できる事項に限られる」ためとの理由で、ようやく理解できた。
・『メガバンクはどこまで本気なのか  同じく株主提案に参加した350.orgの横山隆美・日本代表は「パリ協定に盛り込まれた、平均気温の上昇を1.5度以内に抑える目標に整合的であるためには、OECD諸国では2030年までに石炭の使用をゼロにする必要がある。その実現には3メガバンクの役割は大きいが、各社の統合報告書を見ても、どこまで本気なのか懸念を持っている」と指摘する。 むろん、三菱UFJや住商がこれまで何も対応してこなかったわけではない。三菱UFJはG20の金融安定理事会が創設した「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)に沿った情報開示の拡充や、国連環境計画・金融イニシアティブが定めた「責任銀行原則」に署名している。そして、ESGに関する新たな取り組み方針を近く公表するとしている。 住商も「2050年にカーボンニュートラル化を目指す」方針を2020年に策定。5月には気候変動への取り組みに関する中期目標などを公表する。ただ住商の場合、ベトナムやバングラデシュでの石炭火力発電所建設を継続する方針を示しており、「ほかの大手商社と比べて、脱炭素化への取り組みが遅れている」(マーケット・フォースの福澤恵氏)と指摘されている。 ESG投資に詳しい高崎経済大学の水口剛教授は、「株主提案の増加は気候変動の面からNGOや投資家と金融機関、企業との間での対話がより密接になっていく市場の変化の一環だ」と評価する一方、「日本においては、株主提案の方法として定款変更という選択肢しかないのが実情。そうした状況が議論の幅を狭めてしまっている。株主総会以外でも対話の機会を広げていく必要がある」ともいう。 政権交代を機にアメリカがパリ協定に復帰し、中国も2060年のカーボンニュートラルを打ち出した。EUやイギリスは二酸化炭素削減目標の積み増しで世界をリードしている。日本も遅ればせながら、2050年カーボンニュートラルを表明し、国内の金融機関や企業も安閑としていられなくなっている』、「日本においては、株主提案の方法として定款変更という選択肢しかないのが実情。そうした状況が議論の幅を狭めてしまっている。株主総会以外でも対話の機会を広げていく必要がある」、同感である。
タグ:環境問題 (その9)(商船三井はなぜ謝った? 石油流出事故は「SDGs謝罪」の号砲か、菅内閣でついに動き出す「炭素の価格付け」論議 焦点の1つは炭素税 求められる税制グリーン化、三菱UFJと住商が直面する「脱炭素」株主提案 2020年のみずほに続き NGOが定款変更を要求) 日経ビジネスオンライン 「商船三井はなぜ謝った? 石油流出事故は「SDGs謝罪」の号砲か」 モーリシャス この事故については、このブログの昨年10月20日で取上げた。 「国際協力機構(JICA)は3度の国際緊急援助隊の派遣に続いて、10月下旬から調査団を派遣」、「茂木外相がモーリシャスを訪問」、など日本政府も異例の対応をしたようだ。 今回の場合、「船主」が「長鋪汽船」という弱小企業だったこともあり、「定期用船者である商船三井」が乗り出してきたのはさすがだ。「用船者である我々が社会的責任を背負うことは当然であり、前面に立って対応しなければならない」「法的責任だけで整理できるものではない」としているようだ。 「小林教授は、「商船三井の対応は(法的責任の所在より)SDGsを意識しているのだろう」とみる」、「SDGs」がここまで浸透しているとは、驚かされた。 「「ESG」の原点も原油流出事故による海洋汚染だった」、初めて知った。「モーリシャス」の汚染被害が一刻も早く解決することを期待したい。 東洋経済オンライン 土居 丈朗 「菅内閣でついに動き出す「炭素の価格付け」論議 焦点の1つは炭素税、求められる税制グリーン化」 「菅義偉首相」の「カーボンニュートラル」「宣言」は、米国でのトランプから「バイデン」への政権移行を踏まえたのだろう 「温対税の税率はCO2・1トン当たり289円」だが、「温対税以外に石油石炭税や揮発油税などのエネルギー諸税があって、これらの課税を炭素排出量換算すると、CO2・1トン当たり約4000円になると経済産業省は試算」、「エネルギー諸税」の重さには驚かされたが、本当だろうか。 「早期の「税制のグリーン化」実現を」、賛成である。 「三菱UFJと住商が直面する「脱炭素」株主提案 2020年のみずほに続き、NGOが定款変更を要求」 IR担当部署が対応する必要があるのは、「環境NGO」にも広がっているようだ。 「HSBC」や主要米銀が「環境NGO」の「要求を受け入れると表明。株主側は提案を取り下げている」、欧米ではずいぶん影響力を持っているようだ 「環境NGO」が「定款の変更を求めている」理由がこれまでは理解できなかったが、「会社法では、株主が提案権を有するのは議決権を行使できる事項に限られる」ためとの理由で、ようやく理解できた。 「日本においては、株主提案の方法として定款変更という選択肢しかないのが実情。そうした状況が議論の幅を狭めてしまっている。株主総会以外でも対話の機会を広げていく必要がある」、同感である。
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いじめ問題(その10)(《不都合メモをシュレッダー》加古川中2いじめ自殺訴訟 市側の“開き直り”は法廷で通用するか、いじめで1年半の刑期と約100万円の罰金…フランスの学校が子どもを守る「これだけの対策」、「ふざけんな」「おぞましい」旭川少女イジメ凍死 ついに「臨時保護者会」開催も怒号飛び交う90分に《教育委員会は「重大事態」認定》 爆破予告でパトカーも出動 旭川14歳少女イジメ凍死事件 #10) [社会]

いじめ問題については、2019年12月30日に取上げた。その後もいじめは相次いだが、私がいささか食傷気味で取上げるのを控えてきたが、余りに酷い事件があったので、今日は、(その10)(《不都合メモをシュレッダー》加古川中2いじめ自殺訴訟 市側の“開き直り”は法廷で通用するか、いじめで1年半の刑期と約100万円の罰金…フランスの学校が子どもを守る「これだけの対策」、「ふざけんな」「おぞましい」旭川少女イジメ凍死 ついに「臨時保護者会」開催も怒号飛び交う90分に《教育委員会は「重大事態」認定》 爆破予告でパトカーも出動 旭川14歳少女イジメ凍死事件 #10)である。

先ずは、本年2月15日付け文春オンライン「《不都合メモをシュレッダー》加古川中2いじめ自殺訴訟 市側の“開き直り”は法廷で通用するか」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/43447
・『すべてを闇に葬りたかったと思われても仕方がない。いじめを苦にした中学2年生の女子生徒の訴えを何度も見逃した挙げ句、生徒が自殺した後も事実を隠蔽し続け、「法的責任はない」と言い張る学校と教育委員会がまた一つ、問題になっている。 2016年9月、兵庫県加古川市で市立中学2年だったAさん(当時14歳)がいじめを苦に自殺した。その後に明らかになったのは、Aさんや他の生徒が再三にわたって教師にいじめを訴え、「死にたい」というメッセージを送り続けていたにもかかわらず、学校側が一貫して「ただの生徒間のトラブル」と無視を決め込んでいた事実だった。地元記者が言う。 「さらに問題になったのが、いじめ発覚後の学校の対応です。Aさんへのいじめは主に所属していた剣道部で深刻でした。Aさんの訴えを受けて、剣道部の顧問は部員たちにメモ用紙を渡していじめについて書かせましたが、あろうことかそのメモを副顧問がシュレッダーで廃棄したのです。いじめの事実を校長にも報告していませんでした」』、「メモ」には「いじめ」の実態が書かれていたので、「シュレッダーで廃棄した」可能性が高い。それにしても、悪質だ。
・『廃棄のメモ「紛失した」とごまかし  Aさんがいじめを受け始めたのは、中学1年の頃からだ。部活やクラス内で無視や仲間はずれにされ、無力感に苛まれるようになった。「うざい」などの暴言を日常的に受け、「死ね」と書かれたメモを渡されることもあった。 一方で、Aさんは何度もSOSを発した。1年生の秋には両親経由で部活の顧問に相談し、冬以降には担任への連絡ノートに「しんどい」と書き続けた。2年生になってからも、全校生徒向けのアンケートで「友だちにバカにされることがある」「無視されることがある」などのいじめ関連の全5項目で「あてはまる」と答え、周囲にも「死にたい」とこぼしていた。だが、学校側は何の反応もしなかった。 前述のメモ廃棄は、1年生だった15年11月に両親の訴えを受けて剣道部の顧問が行った調査で起きた。加古川市関係者が明かす。 「メモには、複数の部員らが見聞きした悪口や舌打ちの場面など、いじめの内容が書かれていたようです。ただ、事を大きくしたくない顧問や副顧問は『お互いさまやろ』の一言で片付け、メモを捨て去りました。そして、その後に市が設置したいじめの第三者委員会に副顧問は『メモは紛失した』と答えています。ウソにウソを塗り重ねたわけです」』、「顧問や副顧問は『お互いさまやろ』の一言で片付け、メモを捨て去りました」、「剣道部の顧問は部員たちにメモ用紙を渡していじめについて書かせました」のは、何のためだったのだろう。
・『「調査に協力する生徒への圧力と受け取られても仕方ない」  学校側の隠蔽体質は一貫していた。Aさんの自殺後、学校側はAさんらがいじめの事実を書いたアンケートの存在を遺族である両親に伝えず、自殺の事実そのものも公表しなかった。両親は16年10月に真相究明を訴えて加古川市に第三者委員会の設置を求めたが、アンケートの存在は、その外部調査の過程で知らされたという。 さらに今年1月、メモのシュレッダー廃棄が明るみになった後も学校側は「廃棄したかは答えられない」と事実を伏せた。 「実は自殺があった2年後、遺族にメモの所在を聞かれた副顧問が『僕がシュレッダーにかけた』と説明していたんです。それでも学校は廃棄を認めませんでした。遺族はこのやり取りを録音しており、その音声データが報道されて初めてしぶしぶ認めました」(学校関係者) 第三者委員会の調査による生徒への聴き取りで廃棄されたメモの内容は大半が復元できたものの、その中でも学校側の調査妨害とも取れる行為があったという。 「第三者委はAさんへのいじめを知る他の生徒らにも話を聞いていましたが、学校側は調査を受けた生徒を呼び出し、何をしゃべったかを聞き回っていたのです。調査に協力する生徒への圧力と受け取られても仕方ありません」(同前) こうした経緯について、文春オンライン編集部を通じて加古川市教育委員会に質問状を送ったところ、教育委員会は隠蔽と圧力を否定した。 「メモは副顧問が廃棄したが、話し合いでAさんと他の部員との関係は改善していました。いじめを隠蔽しようとしたものとは認められません。 第三者委員会の調査について生徒に聞き回ったという事実自体、市教委として確認できておりません。学校関係者からの聞き取りも行いましたが、かかる事実の存在を否定しております。市としては第三者委員会の調査に協力する姿勢を示してきたものであり、圧力という表現は極めて心外であります」 だが、「極めて心外」な対応を受け、怒りが冷めないのは遺族だろう。娘のいじめに関する調査と再発防止を求め続けてきたAさんの両親はその後、加古川市教委と全面的に対立せざるを得なくなっている。理由は「市教委への不信」だ』、「学校側は調査を受けた生徒を呼び出し、何をしゃべったかを聞き回っていた」、こんな明白な隠蔽工作まで行うとは、教育者失格だ。
・『「娘は学校に殺されたも同然」  第三者委員会は17年12月に出した報告書で、Aさんの死がいじめによる自殺だったと認め、「Aさんがアンケートでいじめを訴えたときに学校がきちんと対応していれば、Aさんは自殺せずに済んだと考えるのが合理的」と学校の落ち度を指摘。Aさんの父親もこのとき、「教師たちはいじめを疑うことすらせず、娘の『絶望の中にいる』というシグナルを無視した。娘は学校に殺されたも同然だ」という手記を公表している。 県教委は報告を受け18年11月になって剣道部の顧問や元担任、校長らに懲戒処分を下した。だが、その内容は校長に戒告、担任らに訓告。メモを廃棄した顧問ら2人は「厳重注意」という軽いものだった』、「第三者委員会」が「報告書で、Aさんの死がいじめによる自殺だったと認め、「Aさんがアンケートでいじめを訴えたときに学校がきちんと対応していれば、Aさんは自殺せずに済んだと考えるのが合理的」と学校の落ち度を指摘」、「学校側」の責任は重大だ。
・『加古川市「法的責任はない」と遺族と法廷闘争  加古川市側の「誠意がない」対応に業を煮やした両親は昨年、市に7700万円の損害賠償を求める提訴に踏み切った。不信感を抱きながらも和解の道を探り続けた末の法廷闘争だった。 だが、市教委はここでも「調査から得られた事実や過去の裁判例などに照らせば、市側に法的責任は認められない」と、遺族の感情を刺激するコメントを公表。岡田康裕市長も、メモの廃棄を「理解できないことではない。紛失も廃棄も大差ない」と隠蔽行為を問題視しない姿勢を見せている。 両親はすぐに「市教委の対応に誠意を感じなかった。娘の身に起きた悲しい事件を二度と起こさないためにも市教委の改革が必要。争い事が大嫌いであった亡き娘は、訴訟を一番嫌がっていると思うと忸怩たる思い」と怒りをあらわにした。 前述の市関係者は言う。「遺族は娘さんを失っただけでも相当なショックを受けている。そのうえ、市との和解協議でも決裂し、『法的責任は認められない』なんてコメントを出されてしまった。市がケンカを売ったとしか思えない」 両親が苦悩の末に起こした裁判は2月10日、神戸地裁姫路支部で初めての口頭弁論が開かれ、Aさんの父親は「ただの言い逃れに終始する加古川市教育委員会には反省の気持ちを微塵も感じず、許すことはできない」と改めて憤った。それに対し、事実を闇に葬り続けた市が見せたのは、「請求棄却」を求めて争う姿勢。遺族を悲しませる対応を、どこまで続けるつもりだろうか』、「加古川」市議会がこの問題を取上げてないのであれば、情けない。「加古川市」や「市長」も「教育委員会」に和解を指導すべきだ。

次に、4月25日付け現代ビジネス「いじめで1年半の刑期と約100万円の罰金…フランスの学校が子どもを守る「これだけの対策」」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82393?imp=0
・『旭川女子中学生いじめ凍死事件について詳細ないきさつが報道されている。そこには恐ろしいほどの被害生徒と母親の孤立が描かれている。学校には助けてくれる人はおらず、他に助けてくれる機関もなく、警察が関わっても加害者のうち誰も罪を問われず問題は続いた。被害生徒はPTSDと診断され、ここ1年は引きこもっていたが特段支援機関が関わった様子もない。校長先生は「子どもは失敗する存在です」と取材に答えているそうだ。 フランスでは違反行為をしたときに責任を問う年齢制限はない。何歳であっても加害者は子ども専門裁判所に呼び出される。被害届や被害者の訴えの有無は問わない。教育的施設への入所や社会奉仕活動の参加義務と国への罰金、そして被害者への償い金が課される。筆者は中高生で百万円近い借金を国に負って被害者に償った加害児童に出会っている。 何歳であっても「悪いことをしたら責任をとらなければならない」というルールの中で子どもたちは育っている。 厳罰化を求めているのではない。ルールがあることは安心感を生む。理不尽な思いをする人を出さずに済む。加害者も被害者も生まないようにルールとセットで子どもをケアする仕組みが必要なことは言うまでもない。 前回の記事でフランスでは学校内に児童福祉の様々な専門職を配置し、子どもたちの「うまくいっていないことがあるかもしれない」というサインに気づきケアすることを求めていると書いた。それは、いじめがあったかどうかを争点にするのとは大きく違う視点である』、「フランスでは学校内に児童福祉の様々な専門職を配置し、子どもたちの「うまくいっていないことがあるかもしれない」というサインに気づきケアすることを求めている」、日本との違いは大きい。
・『いじめが起きるとはどういうことか  フランスの学校は子どもが安心して通える環境を重視し、嫌がらせや暴力、先生へ暴言を吐いたりすると中学生でも退学・転校処分になってしまう。 「敬意を欠いた態度」など軽度であれば「1〜8日間の学校立ち入り禁止」処分とされ、学校の代わりに市のサポート機関に通い心理士や指導員のもと過ごす。 トラブルがあったりして警告を受けた子どもは退学にならないよう「ティーンエイジャーの家」でケアを受けることもある。 そこは心理士のフォローを受けるだけでなく、怒りのコントロールやコミュニケーションスキルなど特別なプログラムをもうけている。 勉強に身が入らなくなったり誰かにちょっかいを出したり反抗的な態度をとるといった症状は、家庭での悩み、学校での人間関係、進路や将来や男女関係についての悩み、全てが関連し合ったなかで表れる。言葉にできていなかった複雑な気持ちを抱えている症状の表れなのだ。それに対しケアをしないままでいるといじめで被害者を出してしまったり、学校に行きたくない子どもが出てしまう。 心理士と一緒にスポーツなどする中で、うまく自分の気持ちを言葉にできなかった子どももLINEのようなSNSツールで夜中に長いメッセージを送るようになることが多いと言う。心理士は次に会ったときにその内容について話し合う。 加害者の退学処分についてはメディアでも現場でも度々論争になっている。 調査先の中学校の校長先生は「学校を移ることで新しく中学生活をやり直すことができ、嫌がらせをしなくなる子どもがほとんどで、かつその過程でサポート機関で手厚いケアを受けるので生徒にとってプラスに働くことが多い」と話す。 「いじめがあったかどうか」ではなく、嫌がらせをしたり、ちょっかいを出す子どもがいたら、その子どもの「うまくいっていないことがある症状」と捉えて家族丸ごとケアし、改善しない場合は環境自体を変える』、「「いじめがあったかどうか」ではなく、嫌がらせをしたり、ちょっかいを出す子どもがいたら、その子どもの「うまくいっていないことがある症状」と捉えて家族丸ごとケアし、改善しない場合は環境自体を変える」、との考え方は日本も学ぶべきだ。
・『「警察・司法・教育」がセットで子どもを守る  フランスでも学校での嫌がらせは問題の1つであるが、子どもを守るために警察・司法・教育がセットになって動いている。警察の特別部隊である未成年保護班は年間7万件の未成年間の嫌がらせを扱っている。 筆者はパリの北にあるセーヌ・サン・ドニ県の中学校で警察が毎年全クラスで行っている講習に同行した。 「学校ハラスメントは6〜18ヶ月の刑期と94万円の罰金」「サイバーハラスメントは18ヶ月の刑期と94万円の罰金」と生徒たちに法律を確認し、実際に警察署で対応した事例を紹介して生徒たちと話し合う。 警察からは事例を紹介し「クラスメイトの着替えを盗撮してSNSにアップした」「仲間の喧嘩をSNSに載せて、映っている加害者も、撮影し投稿した人も処罰された」「SNSにクラスメイトのことを『バカ』と書いたり噂話を書き込み裁判所で『法律の確認』を受けた」件について意見を求め、生徒からは自身が見聞きした事例について「こういう場合は罪になる?」「どう対応するべき?」と質問が相次いだ。 校長は、学内外で生徒間のトラブルがあり病院に連れて行く必要があったとき、生徒が暴力を受けたとわかったとき、親から学校への攻撃的な発言があったときなど警察と県の担当部署へ規定の書式に書きEメールで報告する義務がある。 受け取った警察は校長に即日電話し、未成年の被害者がいる場合は子ども専門裁判官に連絡し行政上の記録に止めるか捜査を開始するか指示を受け、未成年の被害者がいない場合は学校内で対応するか警察が動くか決める。 警察には未成年保護班(県によっては家族保護班)という特別部隊があり、彼らは小さい子どもやティーンエイジャーの聞き取りと支援について専門的な訓練を受けている。 手続きについても特別な配慮がなされ、例えば聞き取りは全てビデオで録画し、後で文字化する。どんなに小さくても子ども1人で警察の聴取を受けるが、警察は話を聞きながら書く必要がないので子どもは自分の話を聞いてもらえていると感じることができるし、事情聴取を短時間で済ませることができる。ビデオに撮ることで、子どもの様子を心理士などが観察し判断材料にすることもできる。 児童ポルノのサイトの取り締まりもしており、子どものふりをして違反者の証拠集めをすることもあるという。筆者が調査した市の未成年保護班は5人ともポニーテールやショートカットにタトゥーの入った快活な女性たちだった。チームで撮った写真がいくつも壁に飾られている。 未成年保護班に集まる情報については、被害者がいる限り被害届がなくても子ども専門裁判官に連絡の上、指示があれば捜査を開始する。子ども専門裁判官が指揮官で未成年保護の要であり、警察が裁判官の目となって指示を受けた内容について調査する。 必要があればソーシャルワーク的支援や、家出用シェルターなど他の専門機関につなぐコーディネーターの役割も果たす。また警察署にはソーシャルワーカーも心理士もいる(未成年保護班の家出対応については「絶望した若者たちは『家出』する…フランスの『ここにいたい』と思える場所」を参照)。 子ども専門裁判官は「即座に対応します。子どもに関する事件について情報が来たときに、些細な事件だからといって対応しないことはありません。一回の嫌がらせでも裁判所で対応することで、再度同じことが起きたり悪化することを防ぐのです。大きな問題は、その前に何度も出来事が起きる中で発展して起きているので、なるべく早く対応することが重要です」と言う。) 日本では学校内のトラブルに警察が介入することを教育的ではないという意見もある。その結果教師に加害生徒のケアも被害生徒のケアも求めている。 しかし、フランスの調査先の警察官は「私の3歳の息子が幼稚園でスカートめくりをしたと校長に本人と両親揃って呼び出され法律の確認を受けました。息子はその一件で遊びでは済まされないことを理解しやめたので、きちんと場を設けてダメだと伝えてよかったと思います」と言う。 そしてこうも話す――「クラス内で暴力を伴わない子ども同士のいざこざがあり、被害を受けたという生徒が転校依頼をした機会に初めて警察に届出があったことがあったが、すでにその時には転校依頼をした生徒は元気がなくなっていました。そのような場合、学校がその責任を問われることになってしまいます。日頃から細かいことも警察に伝えて警察が被害者と加害者に聞き取りをしてケアにつなげ適切な対応ができていれば被害者を出さずに済んだはずだったのに残念です。子どもの人権を守る意識をもっと共有していきたいです」』、「「警察・司法・教育」がセットで子どもを守る」、というのは、「法律」を身近なものにするいい試みで、日本でも検討すべきだ。
・『「勉強支援、社会的支援、家族支援」  学校から一時立ち入り禁止処分や退学処分になった子どもに集中的な個別支援をする市のサポート機関は市役所内にあり、子どもに担当心理士がつき、様々な支援を組み合わせて子どもの周りに「勉強支援、社会的支援、家族支援」のバランスのいいコーディネートがされるようにする。 サポート機関の所長は「まず1つめの課題は親との話し合いです。親が協力的でない、問題を見ようとしない場合、子どもの不具合の解決は難しいからです」「子どもに障害やケアの必要性があるのに親が認めないことはよくあります」「いくら子どもの周りにサポート体制ができても、親が教育的な関わりをせず家にルールがないような状況や親の気まぐれで子どもが振り回されるようでは、子どもは何度も築きかけたものを崩されることになります」と言う。 子どもに「なぜ処分を受けたのか」を理解できるように心理士がサポートし、トラブルが起きたときの自分について理解し解決方法をとれるように支える。特に「助けを求められるようになる」ことを学ぶことが重要であるとする。 「自分でコントロールできないことがある、ときがある」「判断を間違えるときがある」と自覚できるようになるステップから「この人に助けを求めよう、相談しよう」と行動できることを目指す。 筆者が訪問したときには友達に携帯電話を取られ腹を立ててつかみかかったところで仲介に入った職員を強く押してしまったという生徒が来ていた。どうして携帯電話でそこまで怒ったのか、携帯電話との付き合い方についてのプログラムを受けていた。) 思春期トラブルを専門とする「ティーンエイジャーの家」の心理士は、子どもが友達にちょっかいを出してしまい心理ケアを受けるようになり、その親に会うと、親の方が調子が悪いということがよくあると言う。 子どもは数回のセッションで問題が改善されても、親の方は気づきに時間を要し、子どもより長く通い考えの整理をすることが度々ある。感情のコントロールを練習するセッションにおいても親の方が改善まで回数を重ねる必要があるそうだ。 けれど親の調子が悪い場合はそれを改善しない限り子どももやがてまたバランスを崩す可能性がある。まず「一回来てすぐにまた来たいと思ってもらえること」そして「大人にとっても通い続けたくなる工夫」が腕の見せどころであると言う。 子どもの中には「麻薬の売買や売春の方が学校より効率が良く成功できる」と考えている場合もあるため、社会構造の抱える問題について、不平等や差別についての話にも時間を費やす。 なるべくたくさん刺激を受け広い世界を知ること、お金を稼ぐ体験をすること、刑務所に行かないで済む人生について考える機会を持つようにしていると言う。 それでも誘われてついて行く子どももいるがしっかり出会って話し合っていれば、いずれやめたいときに相談に来るそうだ。 性ビジネス、リスクを伴う性行動、薬物について、テロ組織への勧誘についてなどの情報は現実に流れている。子どもが出会うかもしれないそれらの情報について話し合っておく機会がなければ、子どもにとって「門戸が開かれている」も同然であると中学校の校長は言う(「閉じられている」の間違いでは?)。 これらは同じ状況の中で起きる。サポート体制が整っていない環境の中で、自信喪失し、情報が十分なく、自分で思考する訓練も足りていないと「これが最善の方法なんじゃないか」と考えてしまう。 本人の中に「差別されている意識」や「社会の中で持っているものが少ない方だという意識」が言語化されず話し合われないときに「こっちに来ればこんなことができる」という誘いがあると「この人が答えをくれるかもしれない」と感じついて行ってしまう。 リスクに関する正しい情報を得ていることも重要だが、それ以上に重要なのは自信や自尊心が育っていることだと言う。 不安定な状況だと特に勧誘に乗りやすいので子どもの周りに話し合える大人を長い時間をかけて関係構築しておくこと、家族や学校などと断絶することがなければ孤立もしないので家族と学校と子どもとの関係性が維持されるよう尽力している』、「市のサポート機関は市役所内にあり、子どもに担当心理士がつき、様々な支援を組み合わせて子どもの周りに「勉強支援、社会的支援、家族支援」のバランスのいいコーディネートがされるようにする」、なかなかいい制度のようだ。「子どもは数回のセッションで問題が改善されても、親の方は気づきに時間を要し、子どもより長く通い考えの整理をすることが度々ある」、確かに「親」の方が厄介なケースもありそうだ。
・『問題を起こす子どもにこそ最高の人材を  「子どもを守ること」「子どもを教育し育てること」を国が引き受けて専門職を配置し専門機関を用意しているフランスと、保護者と学校に対応を任せている日本。 フランスで未成年の被害者加害者が少ないわけではない。仕組みがあっても全員がケアを享受しているとも限らない。 それでも、子どもたちを守り支える枠組みがあることは社会全体にとってプラスであると思う。枠組みがあることで子どもたちは自分たちが守られているという安心感があり、相談すれば応えてくれる大人がいることを知っている。 加害生徒にとっては警察と司法の介入によっていけないことはいけないと理解する機会があり、特別機関での家族丸ごとの支援やケアを受け、親と先生以外の頼れる大人にも出会える可能性がある。 「人は常に自分が考えうる最善の行動をとっている」とフランスのソーシャルワーカー養成校では学ぶ。いじめも不登校も、その子どもにとっては最善の選択だった、それだけの背景を整理しケアする役割は十分訓練を受けた専門職にしか担えない。 フランスのある中学校の校長は「問題を起こす子どもはそれだけケアを必要としていることを問題として表現しているのだから、最高の人材を雇って最高の教育をすることが求められている」と言う。 日本でも全ての役割を教師に押し付けるのではなく、子どもや親に自己責任を押し付けるのでもなく、子どたちが安心して楽しく通える「子どもを守り支える学校」を整備する方向に議論が進むことを願う。 注:筆者はパリ市と、郊外のセーヌ・サン・ドニ県で調査している。他の県で運用が同じとは限らない』、「「子どもを守ること」「子どもを教育し育てること」を国が引き受けて専門職を配置し専門機関を用意しているフランスと、保護者と学校に対応を任せている日本」、つくづく「日本」とは冷たい国だと思う。「「人は常に自分が考えうる最善の行動をとっている」とフランスのソーシャルワーカー養成校では学ぶ。いじめも不登校も、その子どもにとっては最善の選択だった、それだけの背景を整理しケアする役割は十分訓練を受けた専門職にしか担えない」、ずいぶん進んだ考え方だ。日本も謙虚に学ぶ必要がありそうだ。

第三に、4月30日付け文春オンライン「「ふざけんな」「おぞましい」旭川少女イジメ凍死 ついに「臨時保護者会」開催も怒号飛び交う90分に《教育委員会は「重大事態」認定》 爆破予告でパトカーも出動 旭川14歳少女イジメ凍死事件 #10」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/45235
・『旭川14歳少女イジメ凍死事件がついに国会審議の俎上に載せられた。4月26日、萩生田光一文科大臣は音喜多駿参議院議員の質問にこう答えた。 「本事案については、文科省として4月23日に旭川市教育委員会及び北海道教育委員会に対し、事実関係等の確認を行い、遺族に寄り添った対応を行うことなど指導、助言を行った」』、「文科大臣」がここまで踏み込んだ答弁をするとは、異例中の異例だ。
・『萩生田大臣は「事案が進まなければ政務三役が現場に入る」  今年3月、旭川で当時14歳の廣瀬爽彩(さあや)さんが凍死して見つかった事件の背景に凄惨なイジメがあったことについて、「文春オンライン」では4月15日からこれまで9本の記事を掲載し、詳報を続けてきた。爽彩さんが通っていたY中学校では、これまで「イジメはなかった」としていたが、報道を受けて22日には旭川市がイジメの再調査に乗り出すことを公表。だが、冒頭の発言の後、萩生田大臣はさらに、 「文科省としても必要な指導、助言を行っていくことが重要であると考えており、今後なかなか事案が進まないということであれば、文科省の職員を現地に派遣する。或いは私を含めた政務三役が現場に入って直接お話する。ただ、一義的には少し時間がかかり過ぎじゃないかと」 と述べ、旭川市の対応に釘をさした。旭川市の再調査の発表を踏まえたうえで、その調査に迅速な対応がとられない場合は、本省の職員あるいは政務三役を直接現地に派遣する可能性に言及したわけだが、これは「イジメ対応としては、かなり踏み込んだ発言」(全国紙政治部デスク)と見られている』、「本省の職員あるいは政務三役を直接現地に派遣する可能性に言及」、そこまで「言及」せざるを得ないほど、「旭川市」の対応が酷かったようだ。
・『4月26日に開かれたY中学校の臨時保護者説明会  しかし、その一方で、渦中の旭川市の教育現場では、いまだに煮え切らない対応が続いている。取材班は4月26日、萩生田大臣の答弁が行われた同日の夜に臨時に開催されたY中学校の保護者説明会の様子を取材。保護者説明会では、学校側は相変わらずの隠ぺい体質を貫き、イジメの実態については何も明らかにしなかった。保護者達は反発し、怒号が飛び交う「大荒れ」の展開となった――。 ※本記事では廣瀬爽彩さんの母親の許可を得た上で、爽彩さんの実名と写真を掲載しています。この件について、母親は「爽彩が14年間、頑張って生きてきた証を1人でも多くの方に知ってほしい。爽彩は簡単に死を選んだわけではありません。名前と写真を出すことで、爽彩がイジメと懸命に闘った現実を多くの人たちに知ってほしい」との強い意向をお持ちでした。編集部も、爽彩さんが受けた卑劣なイジメの実態を可能な限り事実に忠実なかたちで伝えるべきだと考え、実名と写真の掲載を決断しました。 「文春オンラインの報道が出てから学校には問い合わせの電話が殺到。取材活動も過熱し、地元メディアがY中学校の生徒に直接コンタクトしようと声がけをするなど保護者から不安の声が上がっていました。学校側が自主的に説明の場を設けたというより、開かざるを得なかったというのが本当のところです」(Y中学校関係者)』、なるほど。
・『平日夜にもかかわらず保護者100名が詰めかけた  19時から校内の体育館で行われた保護者会では厳戒態勢が敷かれた。体育館の入口では教員らが在校生名簿と保護者の名前を照合し、部外者を完全にシャットアウト。不測の事態に備えて、パトカー数台が警戒に当たるなど、学校周辺には異様な雰囲気が漂っていた。 平日の夜にも拘わらず、体育館には100名ほどの保護者が詰めかけた。取材班は出席した複数の保護者から現場の様子を聞き取った。 パイプ椅子に座った保護者の前に校長と教頭が立ち、体育館の横の壁に沿ってPTA会長、教育委員会のカウンセラー、爽彩さんの当時の担任教師を含めた各学年の教員20名ほどが直立不動の姿勢で並んでいたという』、「平日の夜にも拘わらず、体育館には100名ほどの保護者が詰めかけた」、父兄の関心は高そうだ。
・『当時別の中学校在籍だった校長が、何度も頭を下げて説明  19時、開始の時刻を過ぎると、重々しい空気の中、校長がまずマイクを取った後、深々と頭を下げ、爽彩さんに向けたお悔やみの言葉を口にした。なお、この校長は昨年4月にY中学校に赴任したばかり。爽彩さんがイジメを受けた2019年は市内の別の中学校に在籍していた。校長はこう述べた。 「本校の対応に対するご意見やご指摘が続いており、生徒や保護者の皆様にはご不安な思いやご心配をおかけしております。そのような中、生徒の不安解消や、安心安全を確保するために、その一助になることを願い、本会を開催させていただきました」 校長は何度も頭を下げ、今後の措置として、在校生の心のケアのために個別面談を実施することや教育委員会からスクールカウンセラーを招聘することなどを説明したという』、「スクールカウンセラーを招聘」、当然のことだ。
・『対応していた教頭、当時の担任教師は同様の言葉を述べるのみ  続いて、6月に起きたウッペツ川飛び込み事件(#3参照)の後から、爽彩さんの家族への対応窓口となった教頭と、当時の担任教師が、揃って同様の言葉を述べた。 「本校に在籍していた生徒が亡くなったことに関しまして、心から残念であり、言葉になりません。ご冥福をお祈り申し上げます。また、ご遺族の方にはお悔やみを申し上げます。本校生徒の保護者の皆さんにご心配、ご不安な思いをさせておりますことに、お詫び申し上げます。報道に関する部分につきましては、今後予定させていただいている第三者委員会において、誠心誠意対応させていただきます。今、私ができることですが、保護者の皆様にできることに一生懸命努力していきたいと考えています。よろしくお願いいたします」』、「第三者委員会」を口実に、当日の答弁を事実上拒否するとは汚い。
・『質疑応答で担任教師は下を向くだけ  その後、20分ほどで学校側の説明は終わり、次に保護者による質疑応答の時間となった。最初にマイクを持ったのは同校に3年生の子供を通わせている母親だった。この子供のクラス担任を今務めているのは、爽彩さんの母親がイジメの相談をしてもまともに取り合わなかった当時の担任教師である。質問した母親はまず「亡くなった子の担任だった先生に何を子供は相談するのか? 担任を代えてください」と訴え、涙で声を震わせながらこう続けた。 「担任の先生が(爽彩さんの母親からイジメの)相談を受けたときに『今日わたしデートですから、明日にしてもらえませんか』って言ったというのが報道で出ていますよね。小耳に挟んだ話ですけど、先生がお友達にLINEで『今日親から相談されたけど彼氏とデートだから断った』って送ったっていう話をちらっと聞いたんですよ。本当に腹が立ちました。そういうことも言ったかどうか全部はっきりして欲しいです」 当時の担任教師は前に立っていた同僚の後ろに隠れるようにして、下を向くだけで、一言も答えない。代わりに校長が「いまの質問にここで即答はできない。申し訳ございません。検討します」と答えた』、「担任の先生が(爽彩さんの母親からイジメの)相談を受けたときに『今日わたしデートですから、明日にしてもらえませんか』って言った」、事実であれば、開いた口が塞がらない。
・『「報道されている言葉が本当であれば、ふざけんなって思います」  爽彩さんが加害生徒から受けた凄惨なイジメの実態を報じた文春オンラインの記事について、その真偽を問う質問も集中した。 「報道されていることは事実なんですか? 過剰なんでしょうか? 子供に『お母さん私どうしたらいいの?』と言われて正直悩みました。先生方は命の大切さとおっしゃっていましたが、言葉の重みというものも子供達に伝えて欲しいです。報道されている先生が発した言葉が本当であれば、ふざけんなって思います。今回報道されなかったら誰も何もしなかったのか」(在校生の母親) 校長はこう答えた。「言葉の重みというものにつきましては、本当に重く受け止めて参りたいと思っております。今回の報道に関わる部分ですけれども、当時の学校の対応に関わる部分の中で、食い違っている部分もあります。その部分も含めてこの後の第三者による調査の中でしっかりと検証されていくと思っております」』、「第三者委員会」が「保護者会」で答弁しない口実に使われたようだ。
・『学校側はイジメについて子供たちに「話はしていない」  爽彩さんが受けたイジメの事実について、これまでY中学校は保護者、在校生らに詳しい説明をしてこなかった。ネットで事件を知った子供から事件について聞かされた保護者たちは混乱していた。質疑応答は白熱していった。 「今回の件について、生徒たちには学校からどのように説明しているのでしょうか。子供に質問された時に私たち親はなんて答えればいいんでしょうか、教えてください!」(在校生の母親) 「今回の件につきましては、先ほども申し上げましたように、今後第三者による調査によりまして学校の対応を含めて色々な面が明らかになったら、今後学校としてどういうふうにして受け止めて、指導にいかしていかなければならない。そのことをしっかりと受け止めて参りたいと思っております」(校長) 「スマホ、タブレット、パソコンでどんどん情報が入ってきて、子供たちは私が教えなくてもネットを見て知っていくという状態です。学校側は今日この説明会があるまで子供たちに対して何の説明をして、どういう対応をしたんですか?」(3年生の母親) 「この事案に関わるお話は公表できない事になっておりますので、お話はしておりません。学校が行っている対応は警察と連携しながら登下校の時に巡回をしていただくとかですね、安全安心に関わる部分の対応を行ってきているところであります」(校長)』、「「スマホ、タブレット、パソコンでどんどん情報が入ってきて、子供たちは私が教えなくてもネットを見て知っていくという状態」、なのに、「第三者委員会」が調査結果を公表するまでは、学校は生徒に何も話せないというのは、余りに官僚的過ぎる対応だ。
・『「Y中学校を爆破する」と脅迫電話が…  実はこの日の朝、何者かが市役所に「Y中学校を爆破する」と脅迫電話をかけてきたという。そのため、市は警察と相談し、この日は学校周辺をパトカー数台が一日中警戒に当たるなど、終日緊張感に包まれていた。保護者からはこの点についても不安の声が出た。 「今日、爆破予告が入っていたというのは本当ですか?」(1年生の母親) 「今お話にありました爆破予告と言いますか、そういうような愉快犯は市役所の方にそういう情報が入っていたということは聞いております」(校長) 「私は不安を抱えたまま子供を送り出しましたし、学校に行った子供も不安だったと思います。そういう(爆破予告の)事実があったら、まず(爆弾が校内にないか)確認して大丈夫なのか、少し登校時間をずらすとかできないのか、せっかくメールを登録しているのでご連絡いただきたいです」(1年生の母親) 「わかりました。警察、教育委員会と連携してですね、施設も一度全部点検していただいて、安心だということでこのまま対応させていただいております」(校長)』、官僚的対応だ。
・『学校側の煮え切らない態度に、飛び交う怒号  いつしか会場には怒号が飛び交うようになっていたという。学校側の煮え切らない態度に怒り、途中退席する保護者も大勢出るなど、保護者会は大荒れとなった。保護者の非難の矛先はイジメ問題の当事者でありながら、今回の保護者会には姿を現さなかった前校長や当時対応にあたった現教頭に向けられた。 「2年前にいた校長先生は、今日この場にいらしてないんですか? なぜですか?」(1年生の母親) 「来ておりません。お気持ちはよくわかるんですけども、いま本校の職員でないので、そのような状況にはならなかったです。大変申し訳ございません」(校長) 「最初に、報道に対しての説明をするという話で開始しましたよね。SNSでの誹謗中傷、(子供は)当然みんなSNSや報道も見ている。文春オンラインの記事の内容を見て僕は涙が出た。この学校に子供を通わす親として、本当に大丈夫なのかと。それに事件に関して何の説明もない。『第三者委員会』を繰り返して、あのおぞましい行為をイジメじゃなかったと判断している学校。この中途半端な説明会でどれだけみんなが納得すると思いますか。そしてやるからにはきちんと記者会見して、イジメはなかったと言えるくらい胸張っていてくださいよ。教頭先生、生徒のスマホ画面をカメラで撮ったそうじゃないですか。これも第三者委員会じゃなくては分からないことなんでしょうか」(在校生の父親)』、「保護者会」の余りの官僚的で、「飛び交う怒号」も当然だ。
・『教頭は「私自身は法に反することはしていない」と主張  「……」(教頭) 「今あったお話にこの場でお答えできないことが本当に心苦しいですけども、私どももお話できない状況になっておりますので本当に申し訳ございません」(校長) 「教頭先生にお話はしていただけないのでしょうか?」(在校生の母親) すると、教頭はこう答えた。 「私の方からお話できることは、第三者委員会の調査の中では、私の知っていることは全て誠実にお伝えさせていただきたいと思っております。1つだけ今回の報道等に関することは、個別の案件に関わることですのでお答えすることができませんが、私自身は法に反することはしていないということはお伝えさせていただきたいと思います。このあと捜査を受けることになるか分かりませんけども、しっかりと対応していきたいと思っております。現段階では私のお話は以上です」(教頭)』、「教頭」は「第三者委員会の調査の中で」話すので、「保護者会」では話せないとしながら、「私自身は法に反することはしていないということはお伝えさせていただきたいと思います」、と虫のいい自己主張だけはするというのは、余りに勝手過ぎる。
・『教頭、担任教師は一度も頭を下げることはなかった  1時間30分に渡って行われた保護者会は20時30分に終了。20名を超える保護者から学校側に厳しい意見が突き付けられたが、学校は「第三者委員会の調査」を理由にほとんどの回答を拒否。保護者からは「何のための保護者会だったのか」「まったく意味がなかった」などの声が洩れたという。 事件当時を知らない校長は何度も陳謝し、保護者に頭を下げたが、爽彩さんや母親が必死に助けを求めた教頭、担任教師は一度も頭を下げることはなかったという。 爽彩さんの遺族は、文春オンラインの取材に対して以下のコメントを寄せた。 「事前に連絡はなく、説明会のことは知りませんでした。どんな説明会だったのかはわかりませんが、ほかの関係のない子供たちが巻き込まれてしまっているのは、とても辛いです。学校に対しては、イジメと向き合って、第三者委員会の調査に誠実に向き合っていただきたいです」 保護者会の翌日の4月27日、旭川市教育委員会は定例会議で「女子生徒がイジメにより重大な被害を受けた疑いがある」と、いじめ防止対策推進法上の「重大事態」に認定。5月にも第三者委員会による本格的な調査を始めると発表した。Y中学校の誠実な対応が求められるだろう。 4月30日(金)21時~の「文春オンラインTV」では担当記者が本件について詳しく解説、Y中学校でおこなわれた保護者会の音声の一部も公開する』、文科大臣までが乗り出した騒動、「旭川市」はどう決着をつけてゆくのか、大いに注目される。 
タグ:「メモ」には「いじめ」の実態が書かれていたので、「シュレッダーで廃棄した」可能性が高い。それにしても、悪質だ 「加古川」市議会がこの問題を取上げてないのであれば、情けない。「加古川市」や「市長」も「教育委員会」に和解を指導すべきだ。 「第三者委員会」が「報告書で、Aさんの死がいじめによる自殺だったと認め、「Aさんがアンケートでいじめを訴えたときに学校がきちんと対応していれば、Aさんは自殺せずに済んだと考えるのが合理的」と学校の落ち度を指摘」、「学校側」の責任は重大だ。 「学校側は調査を受けた生徒を呼び出し、何をしゃべったかを聞き回っていた」、こんな明白な隠蔽工作まで行うとは、教育者失格だ。 「顧問や副顧問は『お互いさまやろ』の一言で片付け、メモを捨て去りました」、「剣道部の顧問は部員たちにメモ用紙を渡していじめについて書かせました」のは、何のためだったのだろう。 いじめを苦にした中学2年生の女子生徒の訴えを何度も見逃した挙げ句、生徒が自殺した後も事実を隠蔽し続け、「法的責任はない」と言い張る学校と教育委員会がまた一つ、問題に 「《不都合メモをシュレッダー》加古川中2いじめ自殺訴訟 市側の“開き直り”は法廷で通用するか」 文春オンライン (その10)(《不都合メモをシュレッダー》加古川中2いじめ自殺訴訟 市側の“開き直り”は法廷で通用するか、いじめで1年半の刑期と約100万円の罰金…フランスの学校が子どもを守る「これだけの対策」、「ふざけんな」「おぞましい」旭川少女イジメ凍死 ついに「臨時保護者会」開催も怒号飛び交う90分に《教育委員会は「重大事態」認定》 爆破予告でパトカーも出動 旭川14歳少女イジメ凍死事件 #10) いじめ問題 現代ビジネス 「いじめで1年半の刑期と約100万円の罰金…フランスの学校が子どもを守る「これだけの対策」」 「フランスでは学校内に児童福祉の様々な専門職を配置し、子どもたちの「うまくいっていないことがあるかもしれない」というサインに気づきケアすることを求めている」、日本との違いは大きい。 「「いじめがあったかどうか」ではなく、嫌がらせをしたり、ちょっかいを出す子どもがいたら、その子どもの「うまくいっていないことがある症状」と捉えて家族丸ごとケアし、改善しない場合は環境自体を変える」、との考え方は日本も学ぶべきだ。 「「警察・司法・教育」がセットで子どもを守る」、というのは、「法律」を身近なものにするいい試みで、日本でも検討すべきだ。 「市のサポート機関は市役所内にあり、子どもに担当心理士がつき、様々な支援を組み合わせて子どもの周りに「勉強支援、社会的支援、家族支援」のバランスのいいコーディネートがされるようにする」、なかなかいい制度のようだ 「子どもは数回のセッションで問題が改善されても、親の方は気づきに時間を要し、子どもより長く通い考えの整理をすることが度々ある」、確かに「親」の方が厄介なケースもありそうだ。 「「子どもを守ること」「子どもを教育し育てること」を国が引き受けて専門職を配置し専門機関を用意しているフランスと、保護者と学校に対応を任せている日本」、つくづく「日本」とは冷たい国だと思う。 「「人は常に自分が考えうる最善の行動をとっている」とフランスのソーシャルワーカー養成校では学ぶ。いじめも不登校も、その子どもにとっては最善の選択だった、それだけの背景を整理しケアする役割は十分訓練を受けた専門職にしか担えない」、ずいぶん進んだ考え方だ。日本も謙虚に学ぶ必要がありそうだ。 「「ふざけんな」「おぞましい」旭川少女イジメ凍死 ついに「臨時保護者会」開催も怒号飛び交う90分に《教育委員会は「重大事態」認定》 爆破予告でパトカーも出動 旭川14歳少女イジメ凍死事件 #10」 「文科大臣」がここまで踏み込んだ答弁をするとは、異例中の異例だ 「本省の職員あるいは政務三役を直接現地に派遣する可能性に言及」、そこまで「言及」せざるを得ないほど、「旭川市」の対応が酷かったようだ 「平日の夜にも拘わらず、体育館には100名ほどの保護者が詰めかけた」、父兄の関心は高そうだ。 「スクールカウンセラーを招聘」、当然のことだ。 「第三者委員会」を口実に、当日の答弁を事実上拒否するとは汚い。 「担任の先生が(爽彩さんの母親からイジメの)相談を受けたときに『今日わたしデートですから、明日にしてもらえませんか』って言った」、事実であれば、開いた口が塞がらない。 「第三者委員会」が「保護者会」で答弁しない口実に使われたようだ。 「「スマホ、タブレット、パソコンでどんどん情報が入ってきて、子供たちは私が教えなくてもネットを見て知っていくという状態」、なのに、「第三者委員会」が調査結果を公表するまでは、学校は生徒に何も話せないというのは、余りに官僚的過ぎる対応だ。 官僚的対応だ 「保護者会」の余りの官僚的で、「飛び交う怒号」も当然だ。 「教頭」は「第三者委員会の調査の中で」話すので、「保護者会」では話せないとしながら、「私自身は法に反することはしていないということはお伝えさせていただきたいと思います」、と虫のいい自己主張だけはするというのは、余りに勝手過ぎる。 文科大臣までが乗り出した騒動、「旭川市」はどう決着をつけてゆくのか、大いに注目される。
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医療問題(その31)(スクープ!東京女子医大で医師100人超が退職 一方的な経営陣の方針に抗議の意思表示か、「医療のバカの壁」養老孟司が生死をさまよって感じた「データには出ない大切なこと」 「10万人に1人」をどう考えるか) [生活]

医療問題については、4月25日に取上げた。今日は、(その31)(スクープ!東京女子医大で医師100人超が退職 一方的な経営陣の方針に抗議の意思表示か、「医療のバカの壁」養老孟司が生死をさまよって感じた「データには出ない大切なこと」 「10万人に1人」をどう考えるか)である。

先ずは、4月21日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの岩澤 倫彦氏による「スクープ!東京女子医大で医師100人超が退職 一方的な経営陣の方針に抗議の意思表示か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/423926
・『女子医科大学の3つの付属病院で、100人を超える医師が3月までに一斉退職したことが、独自取材でわかった。辞めた分の補充が間に合わず、各病院は大幅に医師が減少した状態で、4月からの新年度を迎えているという。新型コロナ第4波を迎える中、東京の医療体制にも影響を及ぼしかねない。 昨年、「夏のボーナス支給ゼロ」に対して、看護師約400人が辞職の意向を示した混乱に続き、今回は医師100人超の一斉退職という異常事態。 医師たちは、なぜ東京女子医大を辞めなければならなかったのか? 名門ブランド医大の内部で起きた、深刻な問題の真相に迫る──』、一体、何があったのだろう。
・『100人以上の医師が次々と辞めていった  「若手医師たちから、もう辞めたいと言われた時、引き留める気にはなりませんでした。ここに残っても状況が良くなる保証は何もありませんし、私も若ければとっくに辞めていましたから」 電話から聞こえてくるベテラン医師の声は、疲れ切っていた。 医師が次々と辞めていくとの情報が寄せられて、筆者が複数の東京女子医大・関係者を取材したところ、尋常ではない数の医師が一気に辞めることが判明した。 東京・新宿区に位置する東京女子医科大学病院。「本院」と呼ばれ、国内最大規模の1193床、医師数は831人と公表されている。この本院に勤務していた内科の医師、約170人のうち50人以上が、今年3月末までに退職した。 内科の3割以上が去ったことで、残された医師は当直業務が一気に増えたという。当直後、そのまま翌朝からの診療を担当するので体力的な負担は大きい。これが長期化すると、通常診療にも影響がでてくる可能性が懸念される。このほか、外科の医師も10人以上が辞めている。 東京・荒川区にある、東京女子医大の東医療センターは450床。医師数258 人の2割にあたる、約50人の医師が退職した。 東医療センターは、足立区に新しい病院が建設され、今年度中に移転する予定だが、働く医師が足りなくなる事態も懸念される。 千葉・八千代市にある八千代医療センターは、501床で医師数233人。救命救急センターなど、地域の重要な拠点病院だが、ここでも相当数の医師が退職していた。(3病院の病床数と医師数は公式HPから引用) 東京女子医大3つの附属病院を合わせると、実に100人以上の医師が減った計算になる。今年度に採用した医師は、この数に到底及ばないという。) 関係者によると、一部の診療科が閉鎖され、入院治療の中止を余儀なくされた診療科も出ているという。 「あっという間に人が減ってしまいました。これまでと同じ診療ができなくなった科もあります。コロナの第4波が東京で始まっていますが、どこまで対応できるのか、まだわかりません」(ベテラン医師) 「全体で何人の医師が辞めたのか、まだ病院側から正式に知らされていません。ただ、当直業務ができる医師が、半分になったと聞きました。これからが、大変になると思います」(30代医師) 医師の一斉退職に関して、東京女子医大の広報室に質問状を送ったところ、「回答できない」という返事だった。 関係者によると、本院の内科医師が大量に退職したのは、新型コロナの対応をめぐって、臓器別に分かれている診療体系を再編する計画が影響した可能性もあるという。ただし、取材を進めていくと、決定的な理由は別にあるとわかった』、何が「決定的な理由」だったのだろう。
・『「名門」女子医大の光と影  東京女子医大が名門としての存在感を放っているのは、日本を代表するカリスマ的な医師が揃っていたからだ。 現在、本院の副院長を務める、心臓血管外科医の新浪博教授もその一人。群馬大学医学部を卒業後、東京女子医大の日本心臓血圧研究所に入局して、オーストラリアに渡り、日本とはケタ違いの手術数で腕を磨いた。帰国後、天皇陛下(当時)の執刀医を務めた天野篤氏と働くなどして、わが国を代表する心臓外科医となり、2018年から古巣の東京女子医大に復帰している。 伝統的に心臓外科、脳外科、臓器移植などの外科分野は、国内トップレベルの手術件数を誇ってきた東京女子医大。 新浪教授のようなカリスマ的な外科医の元には、全国の優秀な若手医師が必然的に集まる。そのため、唯一の女子大医学部でありながら、外科系の医局(診療科)は、他大学出身の男性医師が大半を占めるようになった。 その一方で、影の部分も存在する。あまり知られていないが、私立の医大病院に勤める医師給与は、一般病院に勤務する医師よりもかなり低い。 30歳の場合、東京女子医大の基本給は25.9万円、東京医大:31.1万円。これに対して、日赤医療センター:41.1万円、がん研有明病院:49.7万円。(東京医労連調査部「賃金・労働条件実態 2020年度版」より) 病院によって資格手当などが加算されているので、あくまで参考値だが、東京女子医大の給与が低いことに変わりはない。) 名門で華やかなイメージを持つ東京女子医大の医師給与が、最低ランクという自慢できない現実もある。 「給料が安くても東京女子医大の人気が高いのは、間違いなく国内トップレベルの医療が行われているからです。それに公的な資金を獲得して研究を行う場合には、女子医大のネームバリューが圧倒的に有利になります」(30代医師) このように目的意識を持つ医師が、安月給を承知のうえで、東京女子医大を選択しているのだという』、高い「目的意識を持つ医師が、安月給を承知のうえで、東京女子医大を選択」、とは感心なことだ
・『外部病院でのアルバイトという救済措置  ただし、それでは生活を維持できないので、救済措置が用意されている。それは、外部の病院でのアルバイト=「外勤」である。東京女子医大では週1回の研究日が設定されており、その日は「外勤」に当てられていた。 「外勤先の病院は大学の医局が斡旋します。医師の経験にもよりますが、報酬は、1日働いて8万~10万円。医局はスルーして、各医師に報酬は直接支払われます。これで安い給料を補填するのが、長年の慣行となっていました」(東京女子医大・元准教授) 医師のアルバイト料は、他の業種と比べると破格だ。ただし、医療ミスなどで、多額の賠償を医師個人が要求されるケースも増えている。つまり、医師個人がつねにリスクを負いながら仕事をしているのだ。 外勤中の賠償責任保険料は、基本的に各医師の自己負担になる。さらに、学会の会費や医学誌などの費用を合わせると、年間数十万円が自腹になるという。こうした経費を引くと、手元に残る金額はそれほど多くない。 こうした特殊な事情から、研究日の「外勤」は、東京女子医大だけでなく、大半の大学医学部でも認められてきた慣例だった。経営側としてはコストを抑えながら、優秀な医師を確保するための苦肉の策ともいえる。 しかし、東京女子医大の経営陣はこの慣例を一方的に破った。 「外勤」をやめなければ給与を下げる、という方針を今年2月に打ち出したのである。不意打ちを食らった医師たちの間に、衝撃が広がった』、「東京女子医大の経営陣はこの慣例を一方的に破った。 「外勤」をやめなければ給与を下げる、という方針を今年2月に打ち出した」、これでは「外勤」で食っていた「医師」たちは大変だ。
・『方針を受け入れるか、それとも大学を去るか──  選択を迫られた結果、100人を超える医師が退職を決断したのである。 東京女子医大の経営統括部が、教授ら管理職に対して配布した学外秘の資料を筆者は入手した。そこに記されたポイントを要約すると、次のようになる。
 +「研究日」に医師の「外勤」をあてる慣例があったが、国が推進する「医師の働き方改革」に合わせて、今年3月末で廃止する 
 +東京女子医大に勤務する医師は「週39時間」の労働義務を負う
 +「外勤」を継続する医師には「週32時間」勤務の選択肢を用意するが、給与は相応の水準とする 研究日の廃止によって、医師には2つの選択肢が与えられた。 まず、「週39時間」勤務を選ぶと、外勤をしていた1日分を東京女子医大で働き、現在と同じ額の本給が支給される。ただし、外勤で得ていた1カ月あたり32万~40万円分がなくなるので、そのまま減収になる計算だ(あくまでも概算。医師の経験や技量によって、外勤先からの収入はさまざま)。 一方、週1回の外勤を継続すると、これまでどおり1カ月あたり32万~40万円の収入は確保できる計算だが、毎週1日分は本給から引かれてしまう』、ずいぶん厳しい選択を迫ったものだ。
・『どちらを選んでも収入が大幅に減る  いずれにせよ、どちらを選んでも、現在より収入が大幅に減ることは間違いない。 研究日の廃止は、働き方改革に名を借りた、人件費のコスト削減が真の目的なのではないか? 医師たちの間に、疑念が深まった。アンフェアな経営側の姿勢に不信感を募らせた結果、東京女子医大を去るという決断は必然だった。 「うちの医局は大荒れになりました。学費や住宅ローンを払っている医局員は、外勤ができないと生活が立ち行かなくなりますから、すぐに退職を決めた者もいます。コロナ対応で疲弊している私たちに、なぜこのような仕打ちをするのか、理事会には怒りを覚えました」(ベテラン医師) 「経営側は、研究日の廃止について学内で説明会をしたといっていますが、私も含めて誰も知りませんでした。いきなり外勤の病院を辞めると迷惑がかかりますし、いちばん困るのは患者さんではないでしょうか。外勤を続けたら、ただでさえ安い基本給がカットされるなんて、絶対に納得がいきません」(30代医師) 東京女子医大・労働組合の顧問を務める、東京法律事務所の大竹寿幸弁護士は、法的な問題点を指摘する。 「東京女子医大の資料には、研究日の外勤を慣例として認めていたと記載されています。今回の規則改定では、研究日の外勤は所定労働時間に含まないとしたうえで、研究日だった1日分を東京女子医大で働くことを要求しています。 そうすると、医師の勤務労働時間が伸びるのに、東京女子医大が支払う賃金は同じ。つまり実質的な賃下げですので、医師にとって『不利益変更』にあたると考えられます」 不利益変更とは、合意がなく一方的に労働者にとって不利益な労働条件に変更することを指す。これは労働契約法第9条で禁じられている行為である(合理的な理由がある場合は別)。 強引とも言える規則改定をした背景には、人件費のコストをカットして経営収支を改善する、という東京女子医大の戦略が見え隠れする』、「医師の勤務労働時間が伸びるのに、東京女子医大が支払う賃金は同じ。つまり実質的な賃下げですので、医師にとって『不利益変更』にあたると考えられます」、というのは確かだ。
・『6年間の学費は1200万円増の4700万円  冷たい雨が降りしきる4月5日、東京女子医大の弥生記念講堂に新入生とその家族が集まった。エントランスで記念撮影する新入生たちの表情は、一様に屈託がなく明るい。 今年度から医学部の6年間の学費は1200万円も一気に値上げされ、学費総額は約4700万円。私立医大ではトップクラスだ。受験業界では「女子医大ショック」と言われ、財政状況の悪化がささやかれた。 昨年、コロナ対応に追われていた医師や看護師らに対して、「夏のボーナス支給ゼロ」と回答、大騒ぎになったことは記憶に新しい。 その理由について、理事会側の代理人(弁護士)は、コロナによる財政悪化で、30億円の赤字であると説明した。しかし、赤字30億円という数字は、ボーナスを前年並みに支給した場合の推計値にすぎないことが、筆者の調査で判明した。この問題は国会でも取り上げられて、最終的に東京女子医大は1カ月分を支給している。振り返れば、「ボーナス支給ゼロ」も人件費をカットする方針の一貫だったとみるべきだろう。 (参考記事:「東京女子医大病院『400人退職』の裏にある混沌」東洋経済オンライン2020年7月16日配信) 名門とされながら、東京女子医大は経営悪化に苦しんできた。 2001年の心臓手術後に子供が死亡した事故、そして2014 年に集中治療中の子供に禁止されていた鎮静剤「プロポフォール」の投与で死亡事故を起こし、厚労省から2度にわたって特定機能病院の認定を取り消された。 これによって患者数が一気に減り、事故の対応をめぐる混乱などから私学助成金も減額された。 存続の危機とまでいわれる中、創業者一族である岩本絹子氏は2014年に副理事長に就き、2015年度からは副理事長兼経営統括理事として辣腕を振るうようになる。東京女子医大の経営統括は事務局の責任者として、経営面での責任を負うポストだ。岩本氏は2019年度から理事長に就いたが、引き続き経営統括理事を兼ねる。 関係者によると、岩本氏はボーナスの大幅な減額や定期昇給の抑制など、徹底した人件費削減を実施したという』、「岩本氏」は「存続の危機」を「徹底した人件費削減」で乗り切ってきたようだ。
・『人件費を削り、50億円の黒字決算  これによって、収入に占める人件費比率は2015年に46.9パーセントだったが、19年には38.9パーセントまで下がり、開設以来、最高額の黒字を記録。間もなく20年度の決算が公表されるが、コロナ禍であっても、約50億円の黒字の見込みだという。 医師をはじめとする職員たちは、経営立て直しのために人件費の削減を受け入れてきた。だが、黒字経営になっても、理事会は職員に利益を還元するのではなく、大学施設の大半を建て替える計画に着手、莫大な資金を投入している。 さらに、施設の建設などにあてる、目標額50億円の募金を広く呼びかける文書が、職員にも回ってきたという。個人の場合、一口10万円を3口からの協力を求めたことから、職員の感情を逆なでした。 「大学病院に勤務するのは、高い給料を得たいからではありません。医師として高度な医療や臨床研究に携わって、患者さんの治療に貢献したいからです。しかし、東京女子医大の理事会は、別の方向を目指しているとしか思えません」 こう話してくれた30代医師の言葉は、去っていった100人超の医師たちの心を代弁しているような気がしてならない。 新型コロナは、医師や看護師たちの使命感によって、私たちの命が支えられていることを実感させてくれた。本当に必要な医師の働き方改革とは、大学病院に勤務する医師がアルバイトをしなくても済む、妥当な賃金を保証して、医療に打ち込む環境を整えることではないだろうか』、「人件費を削り、50億円の黒字決算」、さらに「寄付」として「一口10万円を3口からの協力を求めたことから、職員の感情を逆なでした」。かっての名声はなくなったのに、それにすがる強気の経営は、医師たちに通じないのは当然だ。今後、大学側はどうするのだろう。

次に、4/28PRESIDENT Onlineが掲載した東京大学名誉教授の養老 孟司氏による「「医療のバカの壁」養老孟司が生死をさまよって感じた「データには出ない大切なこと」 「10万人に1人」をどう考えるか」を紹介しよう。なお、この前編の「養老孟司「生死をさまよい、娑婆に戻ってきた」病院嫌いが心筋梗塞になって考えたこと」は、このブログの4月19日に紹介した。
https://president.jp/articles/-/45072?page=1
・『447万部の大ベストセラー『バカの壁』の著者として知られる解剖学者・養老孟司氏が、82歳で心筋梗塞に。長年健康診断も一切受けず、かねて避けてきた現代医療。しかし25年ぶりに東大病院にかかり入院することに……。そして考えた、医療との関わり方、人生と死への向き合い方。体験をもとに、教え子であり主治医の中川恵一医師とまとめた『養老先生、病院へ行く』を上梓。同書より第1章を2回に分けて特別公開する──。(第2回/全2回) ※本稿は、養老孟司、中川恵一『養老先生、病院へ行く』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです』、前編も面白かったので、今回も期待できそうだ。
・『統計が優越する現代医学  今回の心筋梗塞による入院体験を経て、現代の医療をどう思うかと何度か訊きかれたように思うけれども、その根本を考えたいとしばらくの間思っていました。でもなんだか面倒くさくなってきてしまいました。 一番のもとにあるのは、「統計」というものをどう考えるかという点です。 社会全体もそうですが、現代の医学は統計が優越しています。統計は数字で、数字は抽象的です。では抽象でないものとは何か。感覚に直接与えられるもの、『遺言。』(新潮社)ではそれを感覚所与と書きました。『遺言。』を書いた時点では、その程度で話を済ませましたが、その後あれこれ考えたら、感覚所与と意識の間の関係をもっと煮詰めないといけないと思うに至りました。 統計に関する本を集めて、基礎からあらためて勉強しようと思ったけれども、この本(『養老先生、病院へ行く』)にあるように、私は心筋梗塞を起こしたし、その背景にあるのは強い動脈硬化です。それなら当然、脳動脈も十分に硬化しているに違いありません。 その壊れかけた脳みそで、統計の基礎のようなややこしい問題を考えても、不十分な思考になるに決まっています。気を取り直して頑張ってみても、脳がさらに壊れるだけのことかもしれません。年寄りの冷や水でしょう』、「心筋梗塞を起こしたし、その背景にあるのは強い動脈硬化です。それなら当然、脳動脈も十分に硬化しているに違いありません。 その壊れかけた脳みそで、統計の基礎のようなややこしい問題を考えても、不十分な思考になるに決まっています」、ここまで冷静にみられるのはさすがだ。
・『統計データは「個人の差異」を無視する  私はタバコを吸っていますが、喫煙者はがんになりやすいというデータがあります。57歳のときに肺がんが疑われたことがありますが、当時はタバコを吸っていたので、検査の結果が出るまで、その可能性はあると覚悟していました。結局、肺がんではありませんでした。 がんになる要因は1つではありません。発症する現実の仕組みは複雑です。にもかかわらず、がんを予防するためには複雑化を取り払い、単純化して因果関係を絞り込んでいるように思われます。 統計で得られたデータというのは、そのように使うことも可能ですから、場合によっては、原因を1つに特定することもできます。 人間を喫煙者と非喫煙者に分けて、どちらががんの発症率が高いかどうかを調べるとします。その結果、タバコを吸う人のほうががんになる確率が高いことがわかります。これによって、喫煙とがんの因果関係が「実証」されるわけです。 統計というのは、個々の症例の差異を平均化して、数字として取り出せるところだけに着目してデータ化します。逆にいえば、統計においては、差異は「ないもの」として無視しなければなりません』、「統計においては、差異は「ないもの」として無視しなければなりません」、その通りだ。
・『データとノイズ、どちらが本物の自分なのか?  差異というのはノイズです。『養老先生、病院へ行く』の中で「現実の身体というのはノイズだらけ」という話をしていますが、統計を重視する医療の中にいると、データから読み取れる自分が本当の自分で、自分の身体はノイズであるということになってしまうのです。 本来、医療は身体を持った人間をケアし、キュア(治療)する営みです。それなのに、患者の身体がノイズだというのは、おかしなことです。 統計は事実を抽象化して、その意味を論じるための手段にすぎません。統計そのものに罪があるわけではありませんが、要は使い方の問題なのです』、「本来、医療は身体を持った人間をケアし、キュア(治療)する営みです。それなのに、患者の身体がノイズだというのは、おかしなことです。 統計は事実を抽象化して、その意味を論じるための手段にすぎません。統計そのものに罪があるわけではありませんが、要は使い方の問題なのです」、よくぞこんなに本質的な問題を考え貫けるものだ。
・『都市の中では「意味のあるもの」しか経験できない  統計は「意味を論じるための手段」ですが、意味はもともとあるものではありません。 都市に住んでいると、すべてのものに意味があるように思われます。それは周囲に意味のあるものしか置かないからです。 例えば、都市のマンションの中に住んでいるとします。部屋の中のテレビやテーブルやソファー、目につくものには、すべて意味があります。たまに何の役にもたたない無意味なものがあっても、「断捨離だんしゃり」とかいって片づけてしまいます。それを日がな一日見続けていれば、世界は意味で満たされていると思って当然です。それに慣れきってしまうと、やがて意味のない存在を許せなくなってしまうのです。 そう思うのは、すべてのものに意味がある、都市と呼ばれる世界を作ってしまい、その中で人間が暮らすようにしたからです。都市の中では、意味のあるものしか経験することができません』、「都市の中では、意味のあるものしか経験することができません」、言われてみれば、その通りで、「養老」氏の哲学的思索の深さには脱帽するしかない。
・『意味は「感覚所与」によって、脳の中で作られるもの  でも現実はそうではありません。山に行って虫でも見ていれば、すべてのものに意味があるのは誤解であることがすぐわかります。 虫捕りをしていると、「なんでこんな変な虫がいるんだ?」と感じることは日常茶飯事です。このような感覚には意味はありません。目に見える世界が変化したということを、とりあえず伝えてくれるだけです。意味というのは、感覚に直接与えられるもの(感覚所与)から、改めて脳の中で作られるものです。 都市はその典型で、道路もビルも、都市の人工物はすべて脳が考えたものを配置しています。自分の内部にあるものが外に表れたもの。人が作るものは、すべて脳の「投射」なのです。 都市化が進めば進むほど、周囲には人工物しかなくなり、脳が考えたものの中に人間が閉じ込められることになります。都市化も統計化も、抽象とか、解釈とか、脳が考える営みの中で進んできたものです。 がんにかかる人がたくさんいるという事実があり、それを把握するため、個別データを取捨選択して集め、特定の手順で抽象化します。そして抽象化されたデータは、現実の解釈に使われ、がん予防のための基礎情報になるのです』、なるほど。
・『病院に行くのは、現代医療システムに完全に取り込まれること  がん予防では禁煙がとても重要だといわれています。中川さんによると、喫煙者は膀胱ぼうこうがんになる確率が2倍になり、肺がんになる確率は5倍になるそうです。それはデータの解釈としては確かでしょう。 では1日1箱(20本)タバコを吸う人と、3日で1箱吸う人ではどうなのか。20歳からタバコを吸い始め、40歳でやめて、今60歳の人はどうなのか。 タバコとの付き合いは千差万別です。それを1つに丸めて、全体の数値を出して確率を提示しているのが統計データです。 中川さんはタバコを吸わないのに、膀胱がんになっています。タバコと無縁に生きている人でも、がんにかかることがあるのです。 では医療における統計を否定すればよいのかというと、そんなことは不可能です。そう願ったとしても、過去の医療に戻ることはありません。現在、病院に行くというのは、この医療システムに完全に取り込まれてしまうことなのです。これが2020年6月に、病院に行くべきかどうかで悩んだ理由です』、元東大医学部教授が、「現代医療システムに完全に取り込まれること」の是非で悩んだというのも興味深い。
・『今は昔の医療と未来の医療の中間の過渡期…  一方で、未来の医療は個人に合った医療にするとか、オーダーメードの医療にするとか言われています。ただしそれをやるには、膨大な情報量が必要です。AI化が進んで、いずれそんな時代がくるかもしれませんが、今は過渡期というか、昔の医療と未来の医療の中間にいるわけです。 その中間にいるときは、どうすればよいのでしょうか。新型コロナの対策では、みんなが勝手なことを言って、どういう対策をたてればいいのかはっきりしないまま1年以上も終息できずにいます。 でもそんなことは、はっきりしなくて当然です。誰かが1つの論理で決めていかなければはっきりさせることはできません。 自分が医療を受けるのも同じです。自分で決めるしかないのです。ところが、普通の人は決めるための十分な知識を持ち合わせていません。 自分で決めるために、セカンド・オピニオン(納得のいく治療法を選択することができるように担当医とは別の医療機関の医師に「第2の意見」を求めること)という制度もありますが、病気について十分な知識がなければ、結局、確率が高いほうを選ぶしかありません』、「オーダーメードの医療」になれば、統計にすがる必要もなくなる筈だが、現在は「確率が高いほうを選ぶしかありません」、なるほど。
・『医師もデータに乗っかって「楽」をしていないか?  医者のほうも、データばかり見ていると、確率的にあなたはこうだから、この治療が最善です、終わり。というようなことになってしまいます。 本当は治療しながら仕事を続けたいとか、家族との関わりとか、患者個人の事情をよく聞き出して、それに沿って治療方針を決めることが大事なのです。中川さんはそういうタイプの医者ですが、データに乗っかって楽をしている医者が圧倒的に多いような気がします。 統計的データは、あくまで判断材料の1つです。今後、医療システムの中にAIが本格的に入ってくるはずですが、事情は変わりません。 もしも最終的な判断をAIに預けるような医者が出てきたら、どうしようもありません』、「最終的な判断をAIに預けるような医者が出てきたら」、そんな「医者」に独自の役割はなく、AIによる代替が可能だ。
・『身体の状態から情報化されるのはほんの一部  身体がある状態を示す要因は複合的です。健康診断や人間ドックで、まったく異常が見つからなかったのに、突然倒れてしまうことがあります。 血圧とか血液検査の数値とか、身体の状態から情報化されるのはほんの一部です。だから、予想外の病気が見つかることがあります。私のような胸の激痛がまったく出ない心筋梗塞もその1つでしょう。 数値に目を奪われていると、健康のためにはそれだけが重要なことのように思われてきます。健康診断に一喜一憂する人は、この罠にはまっているといえます。 もちろん、私のように健康診断を受けないことを勧めるわけではありません。ただ、データさえ見ていれば病気にはかからない、という論理に囚とらわれないようにする必要はあると思います。なかなか難しいことではありますが』、私も「人間ドック」の「検査数値」に一喜一憂するタイプだが、これを機に余り気にし過ぎないようにしよう。
・『自分を「まっさら」にして身体の声を聞く  自分の身体の異変に気づいて、例えばがんかもしれないと思ったとき、ネットで検査して、「10万人に1人」という数字が出てきたとします。確率が低いので、「これは違うな」と思うかもしれません。身体に異変を感じていながら、それを無視する結果になるので、これは危険です。 私がさんざん悩んだ末に病院に行くことにしたのは、体調が悪くてどうしようもなかったからです。病院に行く前の3日間は眠くて眠くて、ほとんど寝てばかりいました。それが身体の声だったのでしょう。 動物は意味ではなく感覚だけで生きています。猫が日当たりのよいところにいるのは、そこにいるのが気持ちよいからです。すべての猫を見たわけではありませんが、少なくともうちの猫(まる)は正直です。そこにいたいからそこにいる。身体の声に従って生きているのです。 ただ、身体の声を聞こえるようにするには、自分が「まっさら」でなければなりません。私は花粉症がありますが、症状がひどくても、これまで薬は飲まないようにしてきました。薬で症状を抑えてしまうと、身体の声が聞こえなくなるのではないかと思うからです。 しかし、今回のように病院に行って、医療システムに取り込まれてしまうと、医者が出す薬を飲まないわけにはいきません。退院後は仕方がないので、処方された薬を毎日きちんと飲んでいます。身体は自分だけのものではないので、これまた仕方がありませんね』、奥さんや今回世話になった「中川」氏ことを考えると「身体は自分だけのものではない」、と達観したのだろう。
・『これからも医療とは距離をとって生きていく  なぜ病院に行きたくないのか、いろいろ理屈を言ってきましたが、今回は医療に助けられたことに感謝はしています。しかし、原則として医療に関わりたくないという気持ちは今も変わりません。 中川さんも言っていましたが、受診の予定を2020年6月ではなく7月にしていたら、もはや生きていなかったかもしれません。 そもそもかつての東大病院というのは、どこの医者に診てもらっても匙さじを投げられ、「最後の望み」として患者さんがやってくる病院だったからです。 とりあえず、今回は生きて帰ってきました。それどころか、病院嫌いの私が再び入院して、白内障の手術も受けました。 おかげで、メガネなしで本が読めるようになりました。本を読むのが仕事の一部なので、これはとても助かっています。 ただ、白内障の手術を受けたことで、中川さんなどは私の医療に対する考え方が変わったのではないかと言っていますが、実は何も変わっていません。 これからも、身体の声に耳を傾けながら、具合が悪ければ医療に関わるでしょうし、そうでないときは医療と距離をとりながら生きていくことになるでしょう』、「そもそもかつての東大病院というのは、どこの医者に診てもらっても匙さじを投げられ、「最後の望み」として患者さんがやってくる病院だった」、とは初めて知った。「これからも、身体の声に耳を傾けながら、具合が悪ければ医療に関わるでしょうし、そうでないときは医療と距離をとりながら生きていくことになるでしょう」、出来れば長生きして、洒脱な文章で楽しませてほしいものだ。
タグ:医療問題 (その31)(スクープ!東京女子医大で医師100人超が退職 一方的な経営陣の方針に抗議の意思表示か、「医療のバカの壁」養老孟司が生死をさまよって感じた「データには出ない大切なこと」 「10万人に1人」をどう考えるか) 東洋経済オンライン 岩澤 倫彦 「スクープ!東京女子医大で医師100人超が退職 一方的な経営陣の方針に抗議の意思表示か」 昨年、「夏のボーナス支給ゼロ」に対して、看護師約400人が辞職の意向を示した混乱に続き、今回は医師100人超の一斉退職という異常事態 「名門」女子医大の光と影 高い「目的意識を持つ医師が、安月給を承知のうえで、東京女子医大を選択」、とは感心なことだ 「東京女子医大の経営陣はこの慣例を一方的に破った。 「外勤」をやめなければ給与を下げる、という方針を今年2月に打ち出した」、これでは「外勤」で食っていた「医師」たちは大変だ。 ずいぶん厳しい選択を迫ったものだ。 医師の勤務労働時間が伸びるのに、東京女子医大が支払う賃金は同じ。つまり実質的な賃下げですので、医師にとって『不利益変更』にあたると考えられます」、というのは確かだ。 「岩本氏」は「存続の危機」を「徹底した人件費削減」で乗り切ってきたようだ。 「人件費を削り、50億円の黒字決算」、さらに「寄付」として「一口10万円を3口からの協力を求めたことから、職員の感情を逆なでした」。かっての名声はなくなったのに、それにすがる強気の経営は、医師たちに通じないのは当然だ。今後、大学側はどうするのだろう。 PRESIDENT ONLINE 「「医療のバカの壁」養老孟司が生死をさまよって感じた「データには出ない大切なこと」 「10万人に1人」をどう考えるか」 前編の「養老孟司「生死をさまよい、娑婆に戻ってきた」病院嫌いが心筋梗塞になって考えたこと」 養老孟司、中川恵一『養老先生、病院へ行く』(エクスナレッジ) 「心筋梗塞を起こしたし、その背景にあるのは強い動脈硬化です。それなら当然、脳動脈も十分に硬化しているに違いありません。 その壊れかけた脳みそで、統計の基礎のようなややこしい問題を考えても、不十分な思考になるに決まっています」、ここまで冷静にみられるのはさすがだ 「統計においては、差異は「ないもの」として無視しなければなりません」、その通りだ。 「本来、医療は身体を持った人間をケアし、キュア(治療)する営みです。それなのに、患者の身体がノイズだというのは、おかしなことです。 統計は事実を抽象化して、その意味を論じるための手段にすぎません。統計そのものに罪があるわけではありませんが、要は使い方の問題なのです」、よくぞこんなに本質的な問題を考え貫けるものだ 都市の中では、意味のあるものしか経験することができません」、言われてみれば、その通りで、「養老」氏の哲学的思索の深さには脱帽するしかない。 意味は「感覚所与」によって、脳の中で作られるもの 元東大医学部教授が、「現代医療システムに完全に取り込まれること」の是非で悩んだというのも興味深い 「オーダーメードの医療」になれば、統計にすがる必要もなくなる筈だが、現在は「確率が高いほうを選ぶしかありません」、なるほど。 「最終的な判断をAIに預けるような医者が出てきたら」、そんな「医者」に独自の役割はなく、AIによる代替が可能だ。 奥さんや今回世話になった「中川」氏ことを考えると「身体は自分だけのものではない」、と達観したのだろう 「そもそもかつての東大病院というのは、どこの医者に診てもらっても匙さじを投げられ、「最後の望み」として患者さんがやってくる病院だった」、とは初めて知った。 「これからも、身体の声に耳を傾けながら、具合が悪ければ医療に関わるでしょうし、そうでないときは医療と距離をとりながら生きていくことになるでしょう」、出来れば長生きして、洒脱な文章で楽しませてほしいものだ
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