インド(その1)(RCEP加盟を拒否したインドの過ち──モディ政権が陥った保護主義の罠、政府発表は大きく異なるインド・コロナ危機 火葬が間に合わず葬場外に何時間も死体が放置、インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの 償われることのない重罪) [世界情勢]
今日は、インド(その1)(RCEP加盟を拒否したインドの過ち──モディ政権が陥った保護主義の罠、政府発表は大きく異なるインド・コロナ危機 火葬が間に合わず葬場外に何時間も死体が放置、インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの 償われることのない重罪)を取上げよう。
先ずは、昨年12月5日付けNewsweek日本版が掲載した米メアリー・ワシントン大学教授のスルパ・グプタ氏と、米インディアナ大学教授のスミト・ガングリー氏による「RCEP加盟を拒否したインドの過ち──モディ政権が陥った保護主義の罠」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/12/rcep-3_1.php
・『<アジアとオセアニア15カ国が参加する巨大経済圏に背を向けたことで多くのチャンスを逃しかねない> グローバル経済の約3割を占める巨大経済圏の誕生だ。11月15日、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟10カ国と、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの合わせて15カ国が、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に署名した。 しかし、そこにはアジアの経済大国の1つが欠けていた。インドである。長期にわたる交渉の末、インド政府はRCEPへの参加を拒否した。 RCEPが発効すれば、加盟国間の商品やサービスに対する関税の撤廃や引き下げが行われる。投資と競争に関する規定が設けられ、知的財産の保護も確実なものになる。 政治・経済の専門家は、インドがRCEPに参加すれば恩恵を被ると主張してきた。安価で高品質の製品が手に入るという国内消費者にとってのメリットに加え、インド企業がグローバルなバリューチェーン(価値連鎖)の一部となり、外国からの投資を引き付けられるという利点もある。 インドが過去に参加した自由貿易協定(FTA)は」のは、、タイやカンボジア、ベトナム、マレーシア、フィリピンへの輸出の増加につながった。日本などから製品を安く輸入できるようになり、輸入量は増加し、生産能力が向上した。 さらに専門家らは、RCEPに参加すれば雇用が創出され、経済成長を維持できると主張した。政治的な利点もある。RCEPに加盟すれば、将来的に合意形成に参加するチャンスを得られるはずだった。撤退によってインドは孤立し、貿易に関する将来の制度構築への関与も限られる。 メリットがあるはずなのにインドが加盟を拒否するという事態は、全く予想外というわけではなかった。インドは長年にわたり輸入に代わる産業振興戦略の一環として、極めて保護主義的な経済政策を取ってきたからだ』、「インド」が「RCEPへの参加を拒否したのは、残念なことだ。
・『あくまで自立を目指す インドは1991年の金融危機の余波を受けて、初めて一連の関税障壁を解体する方向に動いた。以来30年間にインドの世界経済への統合は劇的に進んだが、貿易交渉におけるインド政府の姿勢はほとんど保護主義のままだった。 現在のナレンドラ・モディ首相の下では、この保護主義的な傾向がさらに際立っている。モディは就任から間もないうちに、「メーク・イン・インディア(インドでものづくりを)」戦略を推進し始めた。新型コロナウイルスの感染拡大がインド経済を直撃しつつあるときには、国内産業を後押しする経済自立策「自立したインド」を発表した。 FTAに参加したさまざまな経験から、インドは自立を優先するイデオロギー的立場を強化した。過去に署名した貿易協定から恩恵を受けているとはいえ、そうした合意の結果、一部RCEP加盟国相手の貿易収支が赤字になっていると加盟反対派は指摘する。 さらに反対派は、日本、韓国、ASEANとのFTAを国内製造業の衰退に結び付けている。スブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は最近、貿易協定が工業の空洞化につながっていると主張した。 過去の貿易協定では、政策と規制改革に加え、国内の製造業を支えるインフラを構築する努力が伴わず、協定から得られるはずの利益が限られたことは否めない。反対派の大きな不満の1つは、過去のFTAにはセーフガードの項目がなかったため、中国からインドへの輸出の流れに歯止めが利かなくなったことだ。 与党のインド人民党(BJP)と主要野党のインド国民会議派も、イデオロギー面では大きな違いがあるのに、自由市場経済への不信感は共通している。そのため、BJPが貿易協定への参加を拒んでも、最大のライバルである国民会議派から攻撃されることはほとんどない。実際、国民会議派が政権を主導した2004〜14年に締結された過去のFTAには国内に否定的な見方が多く、それが同党のRCEPに対する激しい反対につながったのかもしれない。 自由貿易そのものへの抵抗感とは別に、インドが譲歩を拒む大きな理由は少なくとも2つ考えられる。 第1に、関税障壁をいきなり撤廃すればグローバルな競争力のない多くのインド企業が打撃を被る。鉄鋼やプラスチック、銅、アルミ、紙、自動車、化学製品などインドの産業を支える業界は、RCEPからの離脱を歓迎した。 第2に、インドの政治家は大票田である農家をないがしろにできない。多くの農家は、市場を性急に開放して外国の農産物を受け入れた場合、大きな不利益を受けかねないと考えている。大規模な改革が行われれば、家族経営の小規模農家は廃業に追い込まれる恐れもある。 特に酪農業界からは反発が強い。工業化を進めて高い競争力を持つオーストラリアやニュージーランドの酪農業界との競争に不安があるためだ。 一方、インドのサービス業界はRCEPへの参加を支持するのではないかと思われがちだが、こちらも複雑だ。WTO(世界貿易機関)の2018年のデータによれば、インドはサービス輸出国としては世界8位、サービス貿易国としては9位につけており、今や立派なIT・ビジネスサービス大国だ。実際、インドのIT企業はRCEP加盟国の市場参入拡大を求めてロビー活動を行ってきた。) だがインドがIT関連の輸出を進めれば、同時に技術者も国境を越えていく。そのためインドのIT企業は特に中国に対し、商用ビザの規則や現地国での納税義務について譲歩を求めてきた。 こうした問題には国の移民政策に関する論争が絡むため、交渉は一筋縄ではいかないことが多い。RCEPはサービス業の自由化を一部約束したが、加盟国は技術者の「輸出」問題に関しては譲歩しておらず、この点がインドには大きなネックとなっていた。 さらにインドのサービス業界はとりわけ保護貿易志向が強く、市場を開放する段階にはまだない。その一例が電子商取引で、インドの政策の枠組みや規制環境が未整備であることが市場開放の障壁になっている』、「以来30年間にインドの世界経済への統合は劇的に進んだが、貿易交渉におけるインド政府の姿勢はほとんど保護主義のままだった。 現在のナレンドラ・モディ首相の下では、この保護主義的な傾向がさらに際立っている」、もともとインド独立の父のガンジーが、英国からの綿製品の輸入より、糸車での糸つむぎなどで自立することを呼びかけた歴史も影響しているのだろう。
・『アジアから米欧にシフト RCEP加盟諸国は、サービス輸出国としての躍進が著しい。例えば中国は、インフラや物流、テクノロジーの関連部門で輸出額を大きく伸ばしている。 前出のWTOのデータによると、中国は2018年にサービス輸出国として最も急成長し、世界5位になった。WTOが分析しているように、インドにはRCEP加盟に強く賛成する声は少ないが、声高に反対する業界や部門は多い。 インドがRCEP交渉を離脱した理由は、経済的な利益だけでなく、貿易戦略や地政学的な要因も大きいかもしれない。モディ政権は自由貿易協定への取り組みを見直し、重点をアジアから米欧に切り替えた。この戦略は、RCEP離脱によってインドは多国間貿易協定から孤立するという見方に対抗するものだ。 だが過去の経験が示すように、アメリカとFTAを結ぼうとしても容易なことではない。米政府が貿易協定で一般的に求める基準は、RCEPのレベルをはるかにしのぐ。特に「投資家対国家」の紛争や知的財産権などの分野に関しては要求が厳しい。 RCEPに参加せず独立独歩の路線を取れば、将来的に有利な立場でFTAの交渉に臨めるのではないかと、インド政府はにらんだ。だが、そのシナリオが実現する可能性は低い。中国のWTO加盟が示したように、既存の協定に参加するには、より大きな譲歩を迫られる。さらにインドはRCEPからの撤退により、電子商取引などの貿易分野で新たに持ち上がる問題の解決に向けた規範作りに発言する機会も失った。 インドが経済強国になるためには、政策と規制環境を改め、今までの協定を見直して再交渉する必要がある。新しい協定に参加しないことがその答えではない』、「RCEPに参加せず独立独歩の路線を取れば、将来的に有利な立場でFTAの交渉に臨めるのではないかと、インド政府はにらんだ。だが、そのシナリオが実現する可能性は低い」、その通りだ。「インド政府」は冷徹に国際社会との付き合い方を見直すべきだろう。
次に、4月25日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「政府発表は大きく異なるインド・コロナ危機 火葬が間に合わず葬場外に何時間も死体が放置」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/424842
・『インド各地の火葬場や埋葬地には遺体が山積みにされ、新型コロナウイルス感染による実際の死者数が政府の公式発表よりもはるかに多いのではないかという懸念が広がっている。医療体制を逼迫(ひっぱく)させている感染再拡大の深刻さが甘く見積もられている可能性がある。 インドの幾つかの都市では、病院で新型コロナ関連死と確認され、保護カバーに包まれた遺体が火葬場の外に何時間も放置されているという衝撃的な状況が報告されている。ブルームバーグが少なくとも5都市の火葬場で遺族や作業員、立会人から集めた証言は、コロナ感染による実際の死者数が州政府保健当局の報告よりもはるかに多い可能性を示唆している。 インドの1日当たりの新規感染者数は22日に世界最多を更新していたが、23日にはこれをさらに上回る33万2730人の死亡が新たに報告された。累計感染者数は1600万人を超え、米国に次ぎ世界で2番目に多い。 インドの死者数の集計方法についてはコロナ危機前から不明確な点が指摘されてきた。特に農村部では自宅での死亡が大半で、記録に反映されないことが多い。記載された死因が老衰や心臓発作などであることも多く、適切な医学的証明書のある死者数は全体の20ー30%にすぎないと専門家は推計している』、「特に農村部では自宅での死亡が大半で、記録に反映されないことが多い・・・適切な医学的証明書のある死者数は全体の20ー30%にすぎない」、ありそうな話だ。
・『コンサルティング会社IPEグローバルの最高戦略責任者(CSO)、ヒマンシュ・シッカ氏は、死者数が正確に把握されていないため、「メディアは裏付けに乏しい事例を紹介しており、全体的に制御された状況にあるとの誤解が生じ得る」と指摘。「これは感染第3波の可能性に備えるために必要な今後の準備や対策を損なうことになる」と述べた。 インドで最も人口の多いウッタルプラデシュ州の州都ラクノーでは、今月11日から16日までの新型コロナ感染による死者数が政府の公式統計では145人。一方、複数の立会人や作業員が取材に答える権限がないとして匿名で証言したところによると、市内の主要な火葬場のうち2カ所で報告された火葬件数は430件余りで、同期間中にコロナ対策の手順に従って行われた火葬件数の約3倍だという。これには市内の小規模の火葬場での埋葬や葬儀は含まれていないという。 モディ首相の出身地であるグジャラート州の工業都市スーラト。火葬場を運営する委託会社の責任者によると、コロナ対策で義務付けられた保護カバーに包まれた遺体がこの10日間に1日当たり少なくとも100体持ち込まれたという。市当局は19日、新型コロナ感染による死者数を28人と公表していた。 グジャラート州政府の報道官にコメントを求めたが今のところ返答はない。 感染者急増で全国の病院で病床や医療用酸素、医薬品が不足している。ニューデリーの主要病院の一つであるサー・ガンガ・ラム病院は23日、医療用酸素が2時間分を切り、コロナ重症患者60人以上がリスクにさらされていると訴えた。 連邦政府の保健・家族福祉省に電子メールでコメントを求めたが返答はなかった』、「州都ラクノーでは、今月11日から16日までの新型コロナ感染による死者数が政府の公式統計では145人」、「市内の主要な火葬場のうち2カ所で報告された火葬件数は430件余りで、同期間中にコロナ対策の手順に従って行われた火葬件数の約3倍」、「公式統計」の漏れは膨大なようだ。「スーラト・・・保護カバーに包まれた遺体がこの10日間に1日当たり少なくとも100体持ち込まれた・・・市当局は、新型コロナ感染による死者数を28人と公表」、死者数の実態は「公式統計」の数倍はありそうで、極めて深刻なようだ。
第三に、5月12日付けNewsweek日本版が掲載したジャーナリストのカピル・コミレディ氏による「インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われることのない重罪」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/05/post-96262_1.php
・『<感染爆発で死者急増のインド、その「戦犯」は過信から備えを怠ってきたモディ首相。ただし彼は国民の悲劇を自らの利益に変えかねない> わが国は「新型コロナウイルスを効果的に抑え込み、人類を巨大な災禍から」救った──。インドのナレンドラ・モディ首相がオンライン会合のダボス・アジェンダ(世界経済フォーラム)で、そう高らかに宣言したのは今年1月28日だ。 それから3カ月。気が付けばインドは世界最悪の感染地となり、医療崩壊が現実となった。首都ニューデリーでは医療用酸素が不足し死亡する患者が続出。最先端の設備を備えた病院でさえ政府に「もっと酸素ボンベを」と訴えている。火葬場はフル稼働で、燃やす場所も薪も足りない。 遺体を自宅の庭に埋める人もいる。路上に薪を積んで遺体を焼く人もいる。首都圏以外の状況はもっとひどい。南インドにいる知り合いの記者は筆者に、「ハエが落ちるように」人が死んでいると電話で伝えてきた。誰の身近にも感染者がいる。5月8日時点の累計死者数は公式発表で23万8000人超とされるが、実数はその20倍とも推定される。酸素や、最低限の医薬品を売る闇市場も出現した。IMFは2015年に、いずれインドは中国以上の経済大国になると予言したが、今のインドは諸外国に緊急援助を請うばかりだ。 未知の病原体だけが、この惨状を招いたのではない。真の原因は、なによりも自画自賛を愛する指導者の行動にある。ダボス・アジェンダでの首相の無邪気な演説を受けて、インド政府は国民に、もう最悪の時期は脱したという取り返しのつかない思い込みを抱かせた。政権与党でヒンドゥー至上主義のインド人民党(BJP)は2月に、「新型コロナウイルスとの闘いに勝利した輝かしい国として、インドを世界に知らしめた首相のリーダーシップ」を称賛する決議を党内で採択した。美辞麗句を並べた決議文には、インドが「モディ首相の有能かつきめ細かく、献身的で先見性のあるリーダーシップ」の下で新型コロナウイルスを打ち負かしたとある』、「モディ首相が」「世界経済フォーラム」でコロナへの勝利「宣言」して、わずか「3カ月」で「インドは世界最悪の感染地となり、医療崩壊が現実となった」、これでは笑うに笑えない喜劇だ。「インド人民党(BJP)は2月に、「新型コロナウイルスとの闘いに勝利した輝かしい国として、インドを世界に知らしめた首相のリーダーシップ」を称賛する決議を党内で採択した。美辞麗句を並べた決議文には、インドが「モディ首相の有能かつきめ細かく、献身的で先見性のあるリーダーシップ」の下で新型コロナウイルスを打ち負かしたとある」、まるで北朝鮮のようで、到底、民主主義国での出来事とは思えない。
・『マスクなしで大規模な選挙集会 3月になると、モディ政権の保健相はインドにおける感染が「終息に向かう局面」にあると発表した。同月、グジャラート州ではモディの名を冠したスタジアムでインド対イングランドのクリケットの試合が開かれ、マスクなしの観客が何千人も集まって大声援を送った。地方選挙の行われた4つの州では、何千人もの与党支持者がバスで集会に動員された。本来なら来年のはずだったヒンドゥー教の祭典「クンブメーラ」も、今年は縁起がいいと言う聖職者らの助言で1年前倒しになり、4月12日には聖地ハリドワールのガンジス川で300万人以上が沐浴した。 その5日後、1日の新規感染者が23万人を超えたという発表があった。それでもモディは西ベンガル州での選挙集会で、「これほど大勢の人が集まるのは見たことがない」と大見えを切った。もう感染症には勝ったと、モディは確信していた。選挙応援の集会は、いわば勝利の凱旋行進だった。 昨年、国内で第1波の感染爆発が起きる1カ月前にアメリカのドナルド・トランプ大統領(当時)を熱烈歓迎したように、モディは今度もイギリスのボリス・ジョンソン首相を招き首脳会談を開く予定でいた。だがインドでの驚異的な感染拡大を受けてジョンソンは訪問中止を決断。さすがのモディも、これで目が覚めたらしい。だが、今さら現実を受け入れても手遅れだ。 モディは1月、インドには「新型コロナ対策の専用インフラ」があると自慢していたが、そんなものが本当にあれば、こんなに多くの人が死ぬわけがない。モディは14年にも、スマートシティーの実現と雇用の拡大を約束して選挙に勝ったが、またしても美辞麗句で国を欺いた。バラ色の公約の下にあったのは、荒廃と死のみだ。 もしも首相が責任を放棄せず、建設的な助言をする人々を悪者扱いしなかったら、インドはこんな人道危機に陥らずに済んだかもしれない。国民を地獄絵図から守るために必要な、時間も方法も専門家の助けもあったはずだ。 既に昨年11月の時点で、インド議会の委員会が感染第2波を警告し、政府に医療用酸素ボンベの調達増を求めていた。だがモディは対策を強化せず、自身のカルト的な人気を高めることと国富を略奪することのために新型コロナウイルスを利用した。 昨年3月、わずか4時間の猶予しか与えずに全土封鎖を発表して国中を混乱に陥れた数日後、モディは信託基金「PMケアズ」を創設し、コロナ救済のための寄付金を募集した。それで最貧層に救いの手を差し伸べ、マスクなどの購入や、各地での酸素ボンベ製造プラント増設を目指すことになっていた。 募集から2カ月で10億ドルを超える金額が集まったが、それをモディが何に使ったかは誰も知らない。というか、誰も知り得ない。寄付者に対しては税金上の便宜を図り、政府機関を通じて大々的な宣伝もしたというのに、基金が民間の公益信託として設立されたため、当局による監査の対象にならないからだ』、「インド議会の委員会が感染第2波を警告し、政府に医療用酸素ボンベの調達増を求めていた。だがモディは対策を強化せず、自身のカルト的な人気を高めることと国富を略奪することのために新型コロナウイルスを利用した」、「募集から2カ月で10億ドルを超える金額が集まったが、それをモディが何に使ったかは・・・誰も知り得ない・・・基金が民間の公益信託として設立されたため、当局による監査の対象にならないからだ」、驚くほどデタラメなやり方だ。
・『インド民主主義の破壊者 遅まきながら、モディは集まった資金の一部を酸素プラントの増設に回すという。だが焼け石に水だ。もはや彼の業績は歴代の首相と比較するに値しない。イギリスの植民地だった時代に、インド各地で飢饉が発生しても狩猟に興じていた悪徳英国商人たちと同類だ。 今のインドの惨状は、建国の父たちが設けてきた制度的な安全装置の数々を、モディが破壊してきたことの結果でもある。モディ個人に権力を集中させ、民主社会にそぐわないカルト的な人格像を確立させたことにより、コロナ禍への迅速な対応を首相に促すべき人や制度のほぼ全てが無力化されている。 例えばインドの最高裁判所は政治に物申す点で世界有数の実績を誇り、国民の期待を裏切る政府を厳しく糾弾してきた。なのにコロナ対策の大失態については一言も発していない。報道機関はモディをかばい、反モディ派を裏切り者呼ばわりする。国営テレビ局に至っては、モディをインドの救世主とたたえている。 外交官も、モディに批判的な外国メディアにせっせと抗議文を書き送って、モディ政権によるコロナ対策は「あまねく高く評価され」ていると反論している。さらに政府はツイッターとフェイスブックに対し、批判的な投稿を削除するよう命じている。この期に及んでも、首相をカルト的存在として守ることが政府の最優先事項なのだ。 民主的な良識など、モディには無縁だ。国際社会から救援物資が空輸されている状況でも、与党BJPは各地で大規模な選挙集会を開いている。だが国民が文句を言う機会はない。首相として過去7年間、モディは一度も質疑応答のある記者会見を開いていない。 国民へのワクチン接種について言えば、モディはあらかじめ十分な数のワクチンを発注していなかった。しかも接種の責任は州政府に委ねた。結果、ただでさえ財政の苦しい州政府は市場価格でのワクチン確保に悲鳴を上げている。 インドはワクチンの製造能力で世界一だが、国民の命を救うのに必要な量を確保できていない。しかも多くの州は迅速な接種に必要な資金もインフラも欠いている』、「インドの惨状は、建国の父たちが設けてきた制度的な安全装置の数々を、モディが破壊してきたことの結果でもある。モディ個人に権力を集中させ、民主社会にそぐわないカルト的な人格像を確立させたことにより、コロナ禍への迅速な対応を首相に促すべき人や制度のほぼ全てが無力化されている」、曲がりなりにも「民主主義」が機能してきた「インド」の「制度的な安全装置の数々を」「破壊してきた」とは、「モディ」氏の罪は深い。「首相として過去7年間、モディは一度も質疑応答のある記者会見を開いていない」、マスコミも機能してないようだ。
・『「大国」として認められるという妄想 4月後半だけでも、コロナ関連死はインド独立以来の戦死者数の累計を上回る。この国が生き延びるには、最前線の医療従事者に加えて一般市民が立ち上がるしかない。政府が国民を見捨てた以上、ほかに手はない。 国民の利益も幸せも、歴代の政権によって無視されてきた。政治家たちは世界の「大国」として国際社会で認められるという妄想を追うのに忙しかったからだ。 今世紀に入ってから、インドこそ次なる民主主義の超大国だと称揚する本が続々と刊行されてきたのは事実。だが実際には、プリンストン大学の政治学者アトゥル・コーリ教授が言う「二重構造民主主義」に退化していた。つまり「一般国民は選挙の時にのみ必要とされ、投票が済んだら家に帰って政治を忘れ、あとは全てを『合理的』なエリートに任せて企業優先の政治を許す」ような社会だ。 そんな支配層の身勝手な幻想を、新型コロナウイルスは冷酷に打ち砕いた。1%の最富裕層が国富の半分近くをため込む一方、政府が国民の医療に充てる予算はGDPのわずか0.34%。そんな国に民主的超大国の資格はない。 では、これでモディも終わりか? 社会全体に広がる絶望と怒りで、ついにモディ政権は倒れるのか。 いや、モディはしぶとい。グジャラート州首相になったばかりの02年、同州ではインド史上最悪の宗教間対立による暴力事件が続発し、モディの在任中に少なくとも1000人以上のイスラム教徒がヒンドゥー教徒によって虐殺された。モディへの風当たりは強まり、ナチス・ドイツのヒトラーに例えられたこともある。当時のアメリカ政府は彼の入国を禁じた。それでも、彼は国内の経済界を味方に付け、自分への悪評を消し去り、気が付けば近代化の旗手と目されていた。 16年の高額紙幣廃止は経済に大きな打撃を与え、多くのインド人の希望を完全に打ち砕いた。それでも有権者の心を巧みに支配するモディの力は弱まらなかった。まるで催眠術だ。高額紙幣廃止の悲劇から数カ月後、モディ率いるBJPはインド最大州の議会選で圧勝している。 今、目の前に広がる惨状は次元が違う。その責任を逃れることはできないが、モディが責任を取り、潔く身を引く気配は全くない。 次の総選挙は3年先だ。インド人は大昔の恨みを晴らすためならいくらでも血を流すが、政治家の悪行に関しては忘れっぽい』、「インド人は大昔の恨みを晴らすためならいくらでも血を流すが、政治家の悪行に関しては忘れっぽい」、困った気質だ。
・『名実共に独裁者に? モディは国民の忘れやすさを当てにしている。過去の行状から見て、いずれ権力を失う可能性があるからといって意欲を失ったり、弱気になったりする男ではない。そんな状況は彼を元気づけ、より危険な存在にするだけだ。 モディは、いわゆる「ガンジー王朝」の呪縛から解放された最初のヒンドゥー教徒の首相で、植民地時代を含めても最強のヒンドゥー教支配者だ。そして「新インド」というスローガンの父でもある。モディが退場すれば、この空虚な「新インド」も粉々に砕け散るに違いない。 思えば、半世紀近く前のインディラ・ガンジーも政権を追われることを恐れて非常事態を宣言し、憲法を停止し、独裁者に変身したのだった。今まで選挙で負けたことのないモディが、もう選挙では勝てないと気付いたとき、先人ガンジーの例に倣おうとする可能性は否定できない。 死人が街にあふれる現状は彼の無能さ・無謀さをさらけ出しているが、それは彼に民主主義の停止を正当化させる口実を与えるかもしれない。インドの状況は今でも事実上の非常事態に等しいが、この男なら平気で、これを常態化しかねない。 新型コロナウイルスの危機はインド独立以来最大の悲劇だが、それをも自分の利益に変えようとする男。それがナレンドラ・モディだ』、「インドの状況は今でも事実上の非常事態に等しいが、この男なら平気で、これを常態化しかねない。 新型コロナウイルスの危機はインド独立以来最大の悲劇だが、それをも自分の利益に変えようとする男。それがナレンドラ・モディだ」、神経の太さは並大抵ではなさそうだ。
先ずは、昨年12月5日付けNewsweek日本版が掲載した米メアリー・ワシントン大学教授のスルパ・グプタ氏と、米インディアナ大学教授のスミト・ガングリー氏による「RCEP加盟を拒否したインドの過ち──モディ政権が陥った保護主義の罠」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/12/rcep-3_1.php
・『<アジアとオセアニア15カ国が参加する巨大経済圏に背を向けたことで多くのチャンスを逃しかねない> グローバル経済の約3割を占める巨大経済圏の誕生だ。11月15日、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟10カ国と、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの合わせて15カ国が、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に署名した。 しかし、そこにはアジアの経済大国の1つが欠けていた。インドである。長期にわたる交渉の末、インド政府はRCEPへの参加を拒否した。 RCEPが発効すれば、加盟国間の商品やサービスに対する関税の撤廃や引き下げが行われる。投資と競争に関する規定が設けられ、知的財産の保護も確実なものになる。 政治・経済の専門家は、インドがRCEPに参加すれば恩恵を被ると主張してきた。安価で高品質の製品が手に入るという国内消費者にとってのメリットに加え、インド企業がグローバルなバリューチェーン(価値連鎖)の一部となり、外国からの投資を引き付けられるという利点もある。 インドが過去に参加した自由貿易協定(FTA)は」のは、、タイやカンボジア、ベトナム、マレーシア、フィリピンへの輸出の増加につながった。日本などから製品を安く輸入できるようになり、輸入量は増加し、生産能力が向上した。 さらに専門家らは、RCEPに参加すれば雇用が創出され、経済成長を維持できると主張した。政治的な利点もある。RCEPに加盟すれば、将来的に合意形成に参加するチャンスを得られるはずだった。撤退によってインドは孤立し、貿易に関する将来の制度構築への関与も限られる。 メリットがあるはずなのにインドが加盟を拒否するという事態は、全く予想外というわけではなかった。インドは長年にわたり輸入に代わる産業振興戦略の一環として、極めて保護主義的な経済政策を取ってきたからだ』、「インド」が「RCEPへの参加を拒否したのは、残念なことだ。
・『あくまで自立を目指す インドは1991年の金融危機の余波を受けて、初めて一連の関税障壁を解体する方向に動いた。以来30年間にインドの世界経済への統合は劇的に進んだが、貿易交渉におけるインド政府の姿勢はほとんど保護主義のままだった。 現在のナレンドラ・モディ首相の下では、この保護主義的な傾向がさらに際立っている。モディは就任から間もないうちに、「メーク・イン・インディア(インドでものづくりを)」戦略を推進し始めた。新型コロナウイルスの感染拡大がインド経済を直撃しつつあるときには、国内産業を後押しする経済自立策「自立したインド」を発表した。 FTAに参加したさまざまな経験から、インドは自立を優先するイデオロギー的立場を強化した。過去に署名した貿易協定から恩恵を受けているとはいえ、そうした合意の結果、一部RCEP加盟国相手の貿易収支が赤字になっていると加盟反対派は指摘する。 さらに反対派は、日本、韓国、ASEANとのFTAを国内製造業の衰退に結び付けている。スブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は最近、貿易協定が工業の空洞化につながっていると主張した。 過去の貿易協定では、政策と規制改革に加え、国内の製造業を支えるインフラを構築する努力が伴わず、協定から得られるはずの利益が限られたことは否めない。反対派の大きな不満の1つは、過去のFTAにはセーフガードの項目がなかったため、中国からインドへの輸出の流れに歯止めが利かなくなったことだ。 与党のインド人民党(BJP)と主要野党のインド国民会議派も、イデオロギー面では大きな違いがあるのに、自由市場経済への不信感は共通している。そのため、BJPが貿易協定への参加を拒んでも、最大のライバルである国民会議派から攻撃されることはほとんどない。実際、国民会議派が政権を主導した2004〜14年に締結された過去のFTAには国内に否定的な見方が多く、それが同党のRCEPに対する激しい反対につながったのかもしれない。 自由貿易そのものへの抵抗感とは別に、インドが譲歩を拒む大きな理由は少なくとも2つ考えられる。 第1に、関税障壁をいきなり撤廃すればグローバルな競争力のない多くのインド企業が打撃を被る。鉄鋼やプラスチック、銅、アルミ、紙、自動車、化学製品などインドの産業を支える業界は、RCEPからの離脱を歓迎した。 第2に、インドの政治家は大票田である農家をないがしろにできない。多くの農家は、市場を性急に開放して外国の農産物を受け入れた場合、大きな不利益を受けかねないと考えている。大規模な改革が行われれば、家族経営の小規模農家は廃業に追い込まれる恐れもある。 特に酪農業界からは反発が強い。工業化を進めて高い競争力を持つオーストラリアやニュージーランドの酪農業界との競争に不安があるためだ。 一方、インドのサービス業界はRCEPへの参加を支持するのではないかと思われがちだが、こちらも複雑だ。WTO(世界貿易機関)の2018年のデータによれば、インドはサービス輸出国としては世界8位、サービス貿易国としては9位につけており、今や立派なIT・ビジネスサービス大国だ。実際、インドのIT企業はRCEP加盟国の市場参入拡大を求めてロビー活動を行ってきた。) だがインドがIT関連の輸出を進めれば、同時に技術者も国境を越えていく。そのためインドのIT企業は特に中国に対し、商用ビザの規則や現地国での納税義務について譲歩を求めてきた。 こうした問題には国の移民政策に関する論争が絡むため、交渉は一筋縄ではいかないことが多い。RCEPはサービス業の自由化を一部約束したが、加盟国は技術者の「輸出」問題に関しては譲歩しておらず、この点がインドには大きなネックとなっていた。 さらにインドのサービス業界はとりわけ保護貿易志向が強く、市場を開放する段階にはまだない。その一例が電子商取引で、インドの政策の枠組みや規制環境が未整備であることが市場開放の障壁になっている』、「以来30年間にインドの世界経済への統合は劇的に進んだが、貿易交渉におけるインド政府の姿勢はほとんど保護主義のままだった。 現在のナレンドラ・モディ首相の下では、この保護主義的な傾向がさらに際立っている」、もともとインド独立の父のガンジーが、英国からの綿製品の輸入より、糸車での糸つむぎなどで自立することを呼びかけた歴史も影響しているのだろう。
・『アジアから米欧にシフト RCEP加盟諸国は、サービス輸出国としての躍進が著しい。例えば中国は、インフラや物流、テクノロジーの関連部門で輸出額を大きく伸ばしている。 前出のWTOのデータによると、中国は2018年にサービス輸出国として最も急成長し、世界5位になった。WTOが分析しているように、インドにはRCEP加盟に強く賛成する声は少ないが、声高に反対する業界や部門は多い。 インドがRCEP交渉を離脱した理由は、経済的な利益だけでなく、貿易戦略や地政学的な要因も大きいかもしれない。モディ政権は自由貿易協定への取り組みを見直し、重点をアジアから米欧に切り替えた。この戦略は、RCEP離脱によってインドは多国間貿易協定から孤立するという見方に対抗するものだ。 だが過去の経験が示すように、アメリカとFTAを結ぼうとしても容易なことではない。米政府が貿易協定で一般的に求める基準は、RCEPのレベルをはるかにしのぐ。特に「投資家対国家」の紛争や知的財産権などの分野に関しては要求が厳しい。 RCEPに参加せず独立独歩の路線を取れば、将来的に有利な立場でFTAの交渉に臨めるのではないかと、インド政府はにらんだ。だが、そのシナリオが実現する可能性は低い。中国のWTO加盟が示したように、既存の協定に参加するには、より大きな譲歩を迫られる。さらにインドはRCEPからの撤退により、電子商取引などの貿易分野で新たに持ち上がる問題の解決に向けた規範作りに発言する機会も失った。 インドが経済強国になるためには、政策と規制環境を改め、今までの協定を見直して再交渉する必要がある。新しい協定に参加しないことがその答えではない』、「RCEPに参加せず独立独歩の路線を取れば、将来的に有利な立場でFTAの交渉に臨めるのではないかと、インド政府はにらんだ。だが、そのシナリオが実現する可能性は低い」、その通りだ。「インド政府」は冷徹に国際社会との付き合い方を見直すべきだろう。
次に、4月25日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「政府発表は大きく異なるインド・コロナ危機 火葬が間に合わず葬場外に何時間も死体が放置」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/424842
・『インド各地の火葬場や埋葬地には遺体が山積みにされ、新型コロナウイルス感染による実際の死者数が政府の公式発表よりもはるかに多いのではないかという懸念が広がっている。医療体制を逼迫(ひっぱく)させている感染再拡大の深刻さが甘く見積もられている可能性がある。 インドの幾つかの都市では、病院で新型コロナ関連死と確認され、保護カバーに包まれた遺体が火葬場の外に何時間も放置されているという衝撃的な状況が報告されている。ブルームバーグが少なくとも5都市の火葬場で遺族や作業員、立会人から集めた証言は、コロナ感染による実際の死者数が州政府保健当局の報告よりもはるかに多い可能性を示唆している。 インドの1日当たりの新規感染者数は22日に世界最多を更新していたが、23日にはこれをさらに上回る33万2730人の死亡が新たに報告された。累計感染者数は1600万人を超え、米国に次ぎ世界で2番目に多い。 インドの死者数の集計方法についてはコロナ危機前から不明確な点が指摘されてきた。特に農村部では自宅での死亡が大半で、記録に反映されないことが多い。記載された死因が老衰や心臓発作などであることも多く、適切な医学的証明書のある死者数は全体の20ー30%にすぎないと専門家は推計している』、「特に農村部では自宅での死亡が大半で、記録に反映されないことが多い・・・適切な医学的証明書のある死者数は全体の20ー30%にすぎない」、ありそうな話だ。
・『コンサルティング会社IPEグローバルの最高戦略責任者(CSO)、ヒマンシュ・シッカ氏は、死者数が正確に把握されていないため、「メディアは裏付けに乏しい事例を紹介しており、全体的に制御された状況にあるとの誤解が生じ得る」と指摘。「これは感染第3波の可能性に備えるために必要な今後の準備や対策を損なうことになる」と述べた。 インドで最も人口の多いウッタルプラデシュ州の州都ラクノーでは、今月11日から16日までの新型コロナ感染による死者数が政府の公式統計では145人。一方、複数の立会人や作業員が取材に答える権限がないとして匿名で証言したところによると、市内の主要な火葬場のうち2カ所で報告された火葬件数は430件余りで、同期間中にコロナ対策の手順に従って行われた火葬件数の約3倍だという。これには市内の小規模の火葬場での埋葬や葬儀は含まれていないという。 モディ首相の出身地であるグジャラート州の工業都市スーラト。火葬場を運営する委託会社の責任者によると、コロナ対策で義務付けられた保護カバーに包まれた遺体がこの10日間に1日当たり少なくとも100体持ち込まれたという。市当局は19日、新型コロナ感染による死者数を28人と公表していた。 グジャラート州政府の報道官にコメントを求めたが今のところ返答はない。 感染者急増で全国の病院で病床や医療用酸素、医薬品が不足している。ニューデリーの主要病院の一つであるサー・ガンガ・ラム病院は23日、医療用酸素が2時間分を切り、コロナ重症患者60人以上がリスクにさらされていると訴えた。 連邦政府の保健・家族福祉省に電子メールでコメントを求めたが返答はなかった』、「州都ラクノーでは、今月11日から16日までの新型コロナ感染による死者数が政府の公式統計では145人」、「市内の主要な火葬場のうち2カ所で報告された火葬件数は430件余りで、同期間中にコロナ対策の手順に従って行われた火葬件数の約3倍」、「公式統計」の漏れは膨大なようだ。「スーラト・・・保護カバーに包まれた遺体がこの10日間に1日当たり少なくとも100体持ち込まれた・・・市当局は、新型コロナ感染による死者数を28人と公表」、死者数の実態は「公式統計」の数倍はありそうで、極めて深刻なようだ。
第三に、5月12日付けNewsweek日本版が掲載したジャーナリストのカピル・コミレディ氏による「インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われることのない重罪」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/05/post-96262_1.php
・『<感染爆発で死者急増のインド、その「戦犯」は過信から備えを怠ってきたモディ首相。ただし彼は国民の悲劇を自らの利益に変えかねない> わが国は「新型コロナウイルスを効果的に抑え込み、人類を巨大な災禍から」救った──。インドのナレンドラ・モディ首相がオンライン会合のダボス・アジェンダ(世界経済フォーラム)で、そう高らかに宣言したのは今年1月28日だ。 それから3カ月。気が付けばインドは世界最悪の感染地となり、医療崩壊が現実となった。首都ニューデリーでは医療用酸素が不足し死亡する患者が続出。最先端の設備を備えた病院でさえ政府に「もっと酸素ボンベを」と訴えている。火葬場はフル稼働で、燃やす場所も薪も足りない。 遺体を自宅の庭に埋める人もいる。路上に薪を積んで遺体を焼く人もいる。首都圏以外の状況はもっとひどい。南インドにいる知り合いの記者は筆者に、「ハエが落ちるように」人が死んでいると電話で伝えてきた。誰の身近にも感染者がいる。5月8日時点の累計死者数は公式発表で23万8000人超とされるが、実数はその20倍とも推定される。酸素や、最低限の医薬品を売る闇市場も出現した。IMFは2015年に、いずれインドは中国以上の経済大国になると予言したが、今のインドは諸外国に緊急援助を請うばかりだ。 未知の病原体だけが、この惨状を招いたのではない。真の原因は、なによりも自画自賛を愛する指導者の行動にある。ダボス・アジェンダでの首相の無邪気な演説を受けて、インド政府は国民に、もう最悪の時期は脱したという取り返しのつかない思い込みを抱かせた。政権与党でヒンドゥー至上主義のインド人民党(BJP)は2月に、「新型コロナウイルスとの闘いに勝利した輝かしい国として、インドを世界に知らしめた首相のリーダーシップ」を称賛する決議を党内で採択した。美辞麗句を並べた決議文には、インドが「モディ首相の有能かつきめ細かく、献身的で先見性のあるリーダーシップ」の下で新型コロナウイルスを打ち負かしたとある』、「モディ首相が」「世界経済フォーラム」でコロナへの勝利「宣言」して、わずか「3カ月」で「インドは世界最悪の感染地となり、医療崩壊が現実となった」、これでは笑うに笑えない喜劇だ。「インド人民党(BJP)は2月に、「新型コロナウイルスとの闘いに勝利した輝かしい国として、インドを世界に知らしめた首相のリーダーシップ」を称賛する決議を党内で採択した。美辞麗句を並べた決議文には、インドが「モディ首相の有能かつきめ細かく、献身的で先見性のあるリーダーシップ」の下で新型コロナウイルスを打ち負かしたとある」、まるで北朝鮮のようで、到底、民主主義国での出来事とは思えない。
・『マスクなしで大規模な選挙集会 3月になると、モディ政権の保健相はインドにおける感染が「終息に向かう局面」にあると発表した。同月、グジャラート州ではモディの名を冠したスタジアムでインド対イングランドのクリケットの試合が開かれ、マスクなしの観客が何千人も集まって大声援を送った。地方選挙の行われた4つの州では、何千人もの与党支持者がバスで集会に動員された。本来なら来年のはずだったヒンドゥー教の祭典「クンブメーラ」も、今年は縁起がいいと言う聖職者らの助言で1年前倒しになり、4月12日には聖地ハリドワールのガンジス川で300万人以上が沐浴した。 その5日後、1日の新規感染者が23万人を超えたという発表があった。それでもモディは西ベンガル州での選挙集会で、「これほど大勢の人が集まるのは見たことがない」と大見えを切った。もう感染症には勝ったと、モディは確信していた。選挙応援の集会は、いわば勝利の凱旋行進だった。 昨年、国内で第1波の感染爆発が起きる1カ月前にアメリカのドナルド・トランプ大統領(当時)を熱烈歓迎したように、モディは今度もイギリスのボリス・ジョンソン首相を招き首脳会談を開く予定でいた。だがインドでの驚異的な感染拡大を受けてジョンソンは訪問中止を決断。さすがのモディも、これで目が覚めたらしい。だが、今さら現実を受け入れても手遅れだ。 モディは1月、インドには「新型コロナ対策の専用インフラ」があると自慢していたが、そんなものが本当にあれば、こんなに多くの人が死ぬわけがない。モディは14年にも、スマートシティーの実現と雇用の拡大を約束して選挙に勝ったが、またしても美辞麗句で国を欺いた。バラ色の公約の下にあったのは、荒廃と死のみだ。 もしも首相が責任を放棄せず、建設的な助言をする人々を悪者扱いしなかったら、インドはこんな人道危機に陥らずに済んだかもしれない。国民を地獄絵図から守るために必要な、時間も方法も専門家の助けもあったはずだ。 既に昨年11月の時点で、インド議会の委員会が感染第2波を警告し、政府に医療用酸素ボンベの調達増を求めていた。だがモディは対策を強化せず、自身のカルト的な人気を高めることと国富を略奪することのために新型コロナウイルスを利用した。 昨年3月、わずか4時間の猶予しか与えずに全土封鎖を発表して国中を混乱に陥れた数日後、モディは信託基金「PMケアズ」を創設し、コロナ救済のための寄付金を募集した。それで最貧層に救いの手を差し伸べ、マスクなどの購入や、各地での酸素ボンベ製造プラント増設を目指すことになっていた。 募集から2カ月で10億ドルを超える金額が集まったが、それをモディが何に使ったかは誰も知らない。というか、誰も知り得ない。寄付者に対しては税金上の便宜を図り、政府機関を通じて大々的な宣伝もしたというのに、基金が民間の公益信託として設立されたため、当局による監査の対象にならないからだ』、「インド議会の委員会が感染第2波を警告し、政府に医療用酸素ボンベの調達増を求めていた。だがモディは対策を強化せず、自身のカルト的な人気を高めることと国富を略奪することのために新型コロナウイルスを利用した」、「募集から2カ月で10億ドルを超える金額が集まったが、それをモディが何に使ったかは・・・誰も知り得ない・・・基金が民間の公益信託として設立されたため、当局による監査の対象にならないからだ」、驚くほどデタラメなやり方だ。
・『インド民主主義の破壊者 遅まきながら、モディは集まった資金の一部を酸素プラントの増設に回すという。だが焼け石に水だ。もはや彼の業績は歴代の首相と比較するに値しない。イギリスの植民地だった時代に、インド各地で飢饉が発生しても狩猟に興じていた悪徳英国商人たちと同類だ。 今のインドの惨状は、建国の父たちが設けてきた制度的な安全装置の数々を、モディが破壊してきたことの結果でもある。モディ個人に権力を集中させ、民主社会にそぐわないカルト的な人格像を確立させたことにより、コロナ禍への迅速な対応を首相に促すべき人や制度のほぼ全てが無力化されている。 例えばインドの最高裁判所は政治に物申す点で世界有数の実績を誇り、国民の期待を裏切る政府を厳しく糾弾してきた。なのにコロナ対策の大失態については一言も発していない。報道機関はモディをかばい、反モディ派を裏切り者呼ばわりする。国営テレビ局に至っては、モディをインドの救世主とたたえている。 外交官も、モディに批判的な外国メディアにせっせと抗議文を書き送って、モディ政権によるコロナ対策は「あまねく高く評価され」ていると反論している。さらに政府はツイッターとフェイスブックに対し、批判的な投稿を削除するよう命じている。この期に及んでも、首相をカルト的存在として守ることが政府の最優先事項なのだ。 民主的な良識など、モディには無縁だ。国際社会から救援物資が空輸されている状況でも、与党BJPは各地で大規模な選挙集会を開いている。だが国民が文句を言う機会はない。首相として過去7年間、モディは一度も質疑応答のある記者会見を開いていない。 国民へのワクチン接種について言えば、モディはあらかじめ十分な数のワクチンを発注していなかった。しかも接種の責任は州政府に委ねた。結果、ただでさえ財政の苦しい州政府は市場価格でのワクチン確保に悲鳴を上げている。 インドはワクチンの製造能力で世界一だが、国民の命を救うのに必要な量を確保できていない。しかも多くの州は迅速な接種に必要な資金もインフラも欠いている』、「インドの惨状は、建国の父たちが設けてきた制度的な安全装置の数々を、モディが破壊してきたことの結果でもある。モディ個人に権力を集中させ、民主社会にそぐわないカルト的な人格像を確立させたことにより、コロナ禍への迅速な対応を首相に促すべき人や制度のほぼ全てが無力化されている」、曲がりなりにも「民主主義」が機能してきた「インド」の「制度的な安全装置の数々を」「破壊してきた」とは、「モディ」氏の罪は深い。「首相として過去7年間、モディは一度も質疑応答のある記者会見を開いていない」、マスコミも機能してないようだ。
・『「大国」として認められるという妄想 4月後半だけでも、コロナ関連死はインド独立以来の戦死者数の累計を上回る。この国が生き延びるには、最前線の医療従事者に加えて一般市民が立ち上がるしかない。政府が国民を見捨てた以上、ほかに手はない。 国民の利益も幸せも、歴代の政権によって無視されてきた。政治家たちは世界の「大国」として国際社会で認められるという妄想を追うのに忙しかったからだ。 今世紀に入ってから、インドこそ次なる民主主義の超大国だと称揚する本が続々と刊行されてきたのは事実。だが実際には、プリンストン大学の政治学者アトゥル・コーリ教授が言う「二重構造民主主義」に退化していた。つまり「一般国民は選挙の時にのみ必要とされ、投票が済んだら家に帰って政治を忘れ、あとは全てを『合理的』なエリートに任せて企業優先の政治を許す」ような社会だ。 そんな支配層の身勝手な幻想を、新型コロナウイルスは冷酷に打ち砕いた。1%の最富裕層が国富の半分近くをため込む一方、政府が国民の医療に充てる予算はGDPのわずか0.34%。そんな国に民主的超大国の資格はない。 では、これでモディも終わりか? 社会全体に広がる絶望と怒りで、ついにモディ政権は倒れるのか。 いや、モディはしぶとい。グジャラート州首相になったばかりの02年、同州ではインド史上最悪の宗教間対立による暴力事件が続発し、モディの在任中に少なくとも1000人以上のイスラム教徒がヒンドゥー教徒によって虐殺された。モディへの風当たりは強まり、ナチス・ドイツのヒトラーに例えられたこともある。当時のアメリカ政府は彼の入国を禁じた。それでも、彼は国内の経済界を味方に付け、自分への悪評を消し去り、気が付けば近代化の旗手と目されていた。 16年の高額紙幣廃止は経済に大きな打撃を与え、多くのインド人の希望を完全に打ち砕いた。それでも有権者の心を巧みに支配するモディの力は弱まらなかった。まるで催眠術だ。高額紙幣廃止の悲劇から数カ月後、モディ率いるBJPはインド最大州の議会選で圧勝している。 今、目の前に広がる惨状は次元が違う。その責任を逃れることはできないが、モディが責任を取り、潔く身を引く気配は全くない。 次の総選挙は3年先だ。インド人は大昔の恨みを晴らすためならいくらでも血を流すが、政治家の悪行に関しては忘れっぽい』、「インド人は大昔の恨みを晴らすためならいくらでも血を流すが、政治家の悪行に関しては忘れっぽい」、困った気質だ。
・『名実共に独裁者に? モディは国民の忘れやすさを当てにしている。過去の行状から見て、いずれ権力を失う可能性があるからといって意欲を失ったり、弱気になったりする男ではない。そんな状況は彼を元気づけ、より危険な存在にするだけだ。 モディは、いわゆる「ガンジー王朝」の呪縛から解放された最初のヒンドゥー教徒の首相で、植民地時代を含めても最強のヒンドゥー教支配者だ。そして「新インド」というスローガンの父でもある。モディが退場すれば、この空虚な「新インド」も粉々に砕け散るに違いない。 思えば、半世紀近く前のインディラ・ガンジーも政権を追われることを恐れて非常事態を宣言し、憲法を停止し、独裁者に変身したのだった。今まで選挙で負けたことのないモディが、もう選挙では勝てないと気付いたとき、先人ガンジーの例に倣おうとする可能性は否定できない。 死人が街にあふれる現状は彼の無能さ・無謀さをさらけ出しているが、それは彼に民主主義の停止を正当化させる口実を与えるかもしれない。インドの状況は今でも事実上の非常事態に等しいが、この男なら平気で、これを常態化しかねない。 新型コロナウイルスの危機はインド独立以来最大の悲劇だが、それをも自分の利益に変えようとする男。それがナレンドラ・モディだ』、「インドの状況は今でも事実上の非常事態に等しいが、この男なら平気で、これを常態化しかねない。 新型コロナウイルスの危機はインド独立以来最大の悲劇だが、それをも自分の利益に変えようとする男。それがナレンドラ・モディだ」、神経の太さは並大抵ではなさそうだ。
タグ:インド (その1)(RCEP加盟を拒否したインドの過ち──モディ政権が陥った保護主義の罠、政府発表は大きく異なるインド・コロナ危機 火葬が間に合わず葬場外に何時間も死体が放置、インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの 償われることのない重罪) Newsweek日本版 スルパ・グプタ スミト・ガングリー 「RCEP加盟を拒否したインドの過ち──モディ政権が陥った保護主義の罠」 「インド」が「RCEPへの参加を拒否したのは、残念なことだ。 「以来30年間にインドの世界経済への統合は劇的に進んだが、貿易交渉におけるインド政府の姿勢はほとんど保護主義のままだった。 現在のナレンドラ・モディ首相の下では、この保護主義的な傾向がさらに際立っている」、もともとインド独立の父のガンジーが、英国からの綿製品の輸入より、糸車での糸つむぎなどで自立することを呼びかけた歴史も影響しているのだろう。 「RCEPに参加せず独立独歩の路線を取れば、将来的に有利な立場でFTAの交渉に臨めるのではないかと、インド政府はにらんだ。だが、そのシナリオが実現する可能性は低い」、その通りだ。「インド政府」は冷徹に国際社会との付き合い方を見直すべきだろう。 東洋経済オンライン ブルームバーグ 「政府発表は大きく異なるインド・コロナ危機 火葬が間に合わず葬場外に何時間も死体が放置」 「特に農村部では自宅での死亡が大半で、記録に反映されないことが多い・・・適切な医学的証明書のある死者数は全体の20ー30%にすぎない」、ありそうな話だ。 「州都ラクノーでは、今月11日から16日までの新型コロナ感染による死者数が政府の公式統計では145人」、「市内の主要な火葬場のうち2カ所で報告された火葬件数は430件余りで、同期間中にコロナ対策の手順に従って行われた火葬件数の約3倍」、「公式統計」の漏れは膨大なようだ。「スーラト・・・保護カバーに包まれた遺体がこの10日間に1日当たり少なくとも100体持ち込まれた・・・市当局は、新型コロナ感染による死者数を28人と公表」、死者数の実態は「公式統計」の数倍はありそうで、極めて深刻なようだ。 カピル・コミレディ 「インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われることのない重罪」 「モディ首相が」「世界経済フォーラム」でコロナへの勝利「宣言」して、わずか「3カ月」で「インドは世界最悪の感染地となり、医療崩壊が現実となった」、これでは笑うに笑えない喜劇だ。「インド人民党(BJP)は2月に、「新型コロナウイルスとの闘いに勝利した輝かしい国として、インドを世界に知らしめた首相のリーダーシップ」を称賛する決議を党内で採択した。美辞麗句を並べた決議文には、インドが「モディ首相の有能かつきめ細かく、献身的で先見性のあるリーダーシップ」の下で新型コロナウイルスを打ち負かしたとある」、まるで北朝鮮 「インド議会の委員会が感染第2波を警告し、政府に医療用酸素ボンベの調達増を求めていた。だがモディは対策を強化せず、自身のカルト的な人気を高めることと国富を略奪することのために新型コロナウイルスを利用した」、「募集から2カ月で10億ドルを超える金額が集まったが、それをモディが何に使ったかは・・・誰も知り得ない・・・基金が民間の公益信託として設立されたため、当局による監査の対象にならないからだ」、驚くほどデタラメなやり方だ。 「インドの惨状は、建国の父たちが設けてきた制度的な安全装置の数々を、モディが破壊してきたことの結果でもある。モディ個人に権力を集中させ、民主社会にそぐわないカルト的な人格像を確立させたことにより、コロナ禍への迅速な対応を首相に促すべき人や制度のほぼ全てが無力化されている」、曲がりなりにも「民主主義」が機能してきた「インド」の「制度的な安全装置の数々を」「破壊してきた」とは、「モディ」氏の罪は深い。「首相として過去7年間、モディは一度も質疑応答のある記者会見を開いていない」、マスコミも機能してないようだ。 「インド人は大昔の恨みを晴らすためならいくらでも血を流すが、政治家の悪行に関しては忘れっぽい」、困った気質だ。 「インドの状況は今でも事実上の非常事態に等しいが、この男なら平気で、これを常態化しかねない。 新型コロナウイルスの危機はインド独立以来最大の悲劇だが、それをも自分の利益に変えようとする男。それがナレンドラ・モディだ」、神経の太さは並大抵ではなさそうだ。