決済システム(その2)(銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢、日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁、キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由、「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会) [金融]
決済システムについては、3月28日に取上げた。今日は、(その2)(銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢、日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁、キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由、「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会)である。
先ずは、前日銀審議委員で野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミストの木内 登英氏が8月24日付け東洋経済オンラインに寄稿した「銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/233362
・『技術力とアイデアにモノをいわせたフィンテック企業が、決済、貸出など銀行の牙城とされてきた業務に進出している。顧客のビッグデータもフィンテック企業に集まっていく。危機感を抱いた銀行は自らデジタル通貨を発行し、スマホ決済に乗り出そうとしているが、その動きはいかにも遅い。 『決定版銀行デジタル革命』でキャッシュレス化への流れと銀行の苦境を描いた著者が、動き始めたLINEペイの衝撃度を解説する』、面白そうだ。
・『「決済革命を起こす」――LINE社長の決意 無料対話アプリを運営するLINEが、「決済革命を起こす」との決意で、スマホ(スマートフォン)を使った決済サービス、LINEペイの利用拡大に一気に動きだした。 LINEペイでは店舗側のスマホに専用アプリを入れ、それをQRコード決済の端末として利用する。お客はそこに表示されるQRコードを自分のスマホで読み取って決済する。 LINEは、電子メールよりも簡単に無料で対話できるサービスが急速に利用者を拡大したという成功体験を、決済の分野でも再現しようとしているのだ。 LINEはまず、採算度外視でも利用者を拡大させることが第1と考えた。利用者が増えることでそのサービスの価値が高まるという、ネットワーク効果を狙っているのだ。LINEの出澤剛社長は、利用者が一定数を超えれば生活が変わるとも語っている。これは、LINEが新たな社会インフラを担っていくという野心を示しているのだろう。 日本でのLINE利用者は現在7500万人と、人口の実に6割近くに達している。銀行最大手の三菱UFJ銀行でも、預金口座数はおよそ4000万口座だ。LINE利用者の間で急速にLINEペイの利用が広まっていけば、その衝撃は大きい』、LINE利用者が人口の実に6割近く、とは確かにモンスターのような存在だ。
・『日本人のキャッシュレス決済の比率は現在約2割と、主要国の中で最低水準にとどまっているが、政府はこれを2025年までに4割まで高めることを目標に掲げている。もしかしたら、LINEペイはその実現を大きく助けるかもしれない。 LINEペイの利用を急拡大させるには、まずはそれを使える場所を格段に増やす必要がある。LINEはLINEペイが使える場所を、現在の9万4000カ所から、年度内に100万カ所まで一気に増やすという意欲的な目標を掲げている。 その達成に向けてこの8月から始めたのが、LINEペイの手数料無料化という戦略だ。LINEはスマホにインストールするだけで決済端末となる専用アプリを店舗に無料配信しているが、このアプリを使って決済した場合には、店舗(中小業者)側の手数料を3年間無料とする。 販売額に応じて課される決済手数料は現在、日本では3~4%が主流だ。アメリカでは2.5%、中国では0.5~0.6%がスタンダードとされている。 LINEの場合、とりあえずは3年間という限定ではあるものの、無料というのはかなり衝撃的だ。ヤフーのスマホ決済サービスも10月から手数料を無料にする予定で、今後は手数料無料化がスマホ決済の業界標準となっていく可能性もあるだろう』、手数料無料化とは衝撃的だ。
・『さらにLINEは、利用者(消費者)には決済金額の3~5%をポイント還元して、店舗側と利用者側の双方からLINEペイの利用を促す戦略をとっている。 これ以外にも、LINEペイの利用を促すために、店舗側と利用者側の双方がさまざまな決済方式を選択できるような工夫もしている。 たとえばLINEはJCBと組んで2018年中に、読み取り端末にスマホをかざせば決済できるようにする方針だ。LINEペイの口座にチャージしておけば、アプリを立ち上げなくてもJCBの非接触型「クイックペイ」で決済できる。JCBの「クイックペイ」の加盟店は現在72万カ所あるが、そこでは追加の設備投資なしでLINEペイを導入できるようになることから、LINEペイの利用拡大には有効だ』、なるほどLINEペイは極めて強力な競争力をもちそうだ。
・『お客と「友だち」になれたらお金をもらう LINEやそのライバル会社が決済サービスを無料で提供しても、ビジネスとして成り立つというのは不思議である。そのわけは、それらがもともと決済サービスで儲けるというビジネスモデルではないからだ。 この点が、手数料収入で成り立っている銀行の決済サービスとは根本的に異なるのであり、それゆえにスマホ決済などをめぐる戦いでは、銀行が非常に不利になるのだ。 LINEペイの場合には、無料アプリを使って顧客の決済を行うと、店舗の公式アカウントがその顧客とLINE上で「友だち」になれるという特徴がある。店舗側はその後、キャンペーンやクーポン発行などのメッセージを顧客に届けられるようになるが、その際に広告収入がLINEに入る仕組みだ。 このように、決済サービスを無料で提供しても、その利用が拡大していけば儲けることができるビジネスモデルとなっている。 中国のアリババグループ傘下のアリペイも、決済サービスをほぼ無料で利用者に提供している。アリペイはそこから得られる取引履歴、つまり誰がいつどこで何を買ったか、などといった情報を蓄積し、それを自社のネットショッピングでのターゲット広告などに利用、または他社に販売することで稼ぐというビジネスモデルになっている。つまり、決済サービスは本業ではなく、そこで儲ける必要がないため、無料で提供できるのである。 一方、銀行にとって決済サービスは本業中の本業、業務の中核であり、そのビジネスは手数料収入で成り立っている。銀行にはそれ以外のビジネスモデルの経験がない。 銀行がスマホ決済サービスに本格的に乗り出せば、顧客の取引履歴を入手することはできるが、ネット企業のようにそれを本業に活用することはほとんどできないだろう。またそれを外部に販売して儲けるというビジネスについてもまったく不慣れだ。 したがって、銀行が手数料収入にこだわるならば、スマホ決済サービスの分野で競争していくのはかなり難しい。また先行するLINEペイなどによって、スマホ決済の手数料無料化が一気に業界標準となってしまえば、銀行はこの分野に参入することさえ断念せざるをえなくなるかもしれないNAFTA』、これでは銀行は勝負になりそうもないようだ。
・『2017年、大手銀行はMUFGコイン、Jコインといった仮想通貨を使ったスマホ決済に乗り出す考えを明らかにしたが、その実現には依然手間取っているように見える。 一時はこうしたスマホ決済のシステムを統一することで、利用者の利便性を高め、利用の拡大を狙っていたが、その試みも頓挫しつつある。三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクは、買い物をするときにスマホで読み取るQRコードの規格を統一することでこの5月にようやく合意したものの、その実現を目指すのは2019年度だ。LINEペイなどネット企業とのスピード感の違いは歴然だろう。 ネット企業などによるスマホ決済が広がると、クレジットカードでの決済や銀行預金による決済が減っていくことになる。これはクレジットカードを系列に持つ大手銀行にとっては、大きな収益減となってしまう。それを食い止めようとして、銀行も自らスマホ決済サービスに乗り出そうとしているのだ。しかしそれも手数料無料化の流れの中では、既存の決済手数料収入を減らしてしまうことには変わりない。 銀行は、決済インフラの構築に巨額の資金を注ぎ込んできた。安定した決済システム、いつでも引き出し可能なATM、1万3000カ所に上る店舗など、銀行全体が抱える決済インフラは、合計で10兆円規模にも上るという。銀行預金の決済取引が減れば、その分、固定費の重みは増してしまう。 このように、銀行にとってスマホ決済サービスへの進出は自らの収益基盤を切り崩すことにもなるという、大きな自己矛盾を抱えている。それゆえに、この分野に多くのリソースを投入していくのは難しいのではないか』、銀行の決済のうち大口取引は余り影響を受けないだろうが、小口取引では影響を受けざるを得ないだろう。
・『「金融のリデザイン(再設計)」で、銀行が沈む LINEは、今の金融サービス全体をより利便性の高いものへと劇的に変えていく「金融のリデザイン(再設計)」構想を描いている。決済革命を起こすという豪語も、実は入口でしかない。将来的には融資、資産運用、保険など、さらなる金融ビジネスへの進出を視野に入れているのだ。 また、ブロックチェーン技術を使って独自の「経済圏」を作る構想も示している。LINEの利用者が、各種のサービスにコメントを書き込む、写真を投稿するなどコンテンツの拡充に貢献した際には、独自の仮想通貨を付与するという仕組みだという。利用者は獲得した通貨で各種サービスや商品の代金を支払うことができる。 このように、LINEが既存の金融サービスを次々と切り崩していけば、金融業界とりわけ銀行は顧客情報をLINEに奪われて“中抜き”され、収益機会がどんどん縮小してしまうだろう。 LINEの金融サービスが広まっても、銀行預金や銀行の決済機能がなくなるわけではない。だが、利用者はLINEのサービスを日々利用する中で、どこかでまだ銀行の預金や決済のサービスを受けていることなど、ほとんど意識しなくなるだろう。 LINEの金融サービスが普及する過程では、銀行自体の社会的なプレゼンスも大きく低下していくだろう。決済サービスを奪われることよりも、それこそがエリート銀行員たちにとっての悪夢なのではないか』、大変な時代になったものだ。
次に、FP、マネーステップオフィス代表取締役の加藤 梨里氏が9月20日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/237265
・『今年6月にLINEが手掛けるスマートフォン決済サービス「LINE Pay」が、3年間の加盟店手数料無料化を発表して以来、スマホ決済を中心にキャッシュレス化の動きが加速しています。しかし6日に発生した北海道地震では、キャッシュレス生活のために手元に現金がなく、停電中のコンビニで日用品を買えないとの声が上がるなど、災害時にはほとんど機能しないキャッシュレス決済の弱点も指摘されています。 今夏から秋にかけて全国で地震や豪雨などの自然災害が相次ぎ、生活インフラの異常事態を各地で経験したことは、もともと現金信仰が強かった日本人の意識をより現金へ回帰させるきっかけになるかもしれません。国を挙げたキャッシュレス化に水を差す格好になりますが、筆者はそれ以外にも、家計管理の面で日本のキャッシュレス化を阻む要因があると思います』、言われてみれば、その通りで、こうした面も考慮する必要がありそうだ。
・『キャッシュレス社会を望まない人が半数以上 日本のキャッシュレス決済比率は2015年時点で18%と、韓国(89%)や中国(60%)などと比べて低く、政府は2027年までに4割程度に上げる目標を掲げています。8月にはQRコードを使った決済基盤を提供する事業者への補助金、決済サービスを導入する中小の小売店への税制優遇を検討すると発表。神奈川県は上下水道料金の支払い方法にLINE Payを導入しました。 しかし、官民一体となってキャッシュレス決済のインフラ整備に全力を挙げるのとは対照的に、国内の消費者はまだ及び腰な印象を受けます。博報堂生活総合研究所の調査によれば、キャッシュレス社会に「ならない方がよい」という人は51%と、わずかながら過半数を超えています。 キャッシュレス化のカギを握るとみられているのがスマートフォンを使った決済サービスです。なかでもQRコードを読み取るタイプの決済サービスはLINEのほか楽天、ソフトバンクとヤフー、アマゾンなど大手企業が参入しており、手数料無料など各社が加盟店の負担軽減策にしのぎを削っています。これが奏功すれば街中の小売店に決済端末が整備され、普及を加速させると期待されています。 ところが三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、QRコード決済を知っている人は43%、利用したことがある人は8%にすぎません。しかも「利用したことはないし、今後も利用したいとは思わない」人が55%を占めているのです。これは冒頭のLINE Payが手数料無料を発表する直前に行われた調査結果ですので、現在の認知度や利用意向は上がった可能性もあります。ただ、デジタルネーティブである20代、30代でも半数以上が利用に消極的であるとの結果は、普及への遠い道のりをうかがわせます。 これだけキャッシュレスへのモチベーションが低い要因には、現金払いで不便がない環境が影響しているようです。 上述の調査では、現金払いしかできずに困った経験がある人は全体の47%という結果も得ています。つまり半数以上の人は現金払いのみの店舗でも不自由なく買い物をしているわけです。20~30代では現金払いのみで困った人のほうが多く、世代間で差がありますが、現金主義でもさほど生活に困らなければ、あえて行動習慣を変えてまでキャッシュレスにするモチベーションは湧かないのでしょう』、確かに、サービス提供側の動きだけでなく、利用者が本当のところ何を求めているかを探る意味は大いにありそうだ。
・『そこでQRコード決済サービスの多くは、決済した消費者にポイントを付与しています。楽天ペイでは初めて使う人はもれなく1000ポイント、買い物時には決済金額に応じて0.5~1%(一部キャンペーン時にはそれ以上)のポイントがもらえます。LINE Payも決済金額に応じたポイントを付与しており、条件を満たしたユーザーには期間限定で3%を上乗せしています。こうしたインセンティブは高還元率をうたうクレジットカードにも見劣りしないレベルです』、なるほど。
・『消極的な人は、浪費しそうで怖い それでもキャッシュレス決済に二の足を踏む人には、「お金の管理が難しくなる」という不安があるようです。さきの調査結果を見ると、QRコード決済を使いたくない人は、使いたい人よりも「仕組みは知っているが、利便性を見いだせない、必要性を感じない」や「使いすぎてしまうおそれがある」という傾向が強いのです。 マネーフォワードなどの家計簿アプリでは、データ連携をすることで、QRコード決済アプリでの支出を家計簿上に表示できます。ですから決済アプリを使うと家計管理ができないわけではありません。また、データ連携をさせる操作は銀行の口座引き落としやクレジットカード払いのデータを連携させるのとほぼ同じですから、データ連携の煩雑さゆえに家計管理がしにくくなるわけでもなさそうです。そもそも家計簿アプリに連携しなくても、ほとんどの決済アプリ内では利用履歴を閲覧できます』、消極的な人は、家計簿アプリや利用履歴閲覧などしないのではなかろうか。
・『お金の出口が増えることによる錯覚が怖い むしろ問題は、家計管理にかかわるプラットフォームが従来よりも増えることではないでしょうか。現時点で、コード決済よりもクレジットカードや電子マネーに対応した小売店が多ければ、今まで使っていたカード払いをすべてコード決済に切り替えることはできないでしょう。すると、お金の出口が増えることになります。出口が増えただけで使える予算が増えるわけではありませんが、使った金額を錯覚するおそれはあります。 たとえばこれまでクレジットカードで月10万円使っていたものが、コード決済で3万円使うようになったとき、クレジットカードでの支出が7万円なら支出総額は変わりませんが、クレジットカードの明細だけを見れば支出が減ったように見えます。すると、「まだそんなに使っていないから」と油断して使ってしまうかもしれません。 そんな錯覚を防ぐために、一部の家計簿アプリでは銀行口座やクレジットカード、コード決済などの情報を一元的に表示、集計できます。ただ、連携登録できる口座数に制限があると、手持ちのお金の出口をすべてカバーしきれません。現金主義なら銀行口座とお財布の現金の出入りだけをみれば家計収支がわかるところが、さまざまなキャッシュレス決済を使うことで連携すべき情報が増え、お金の流れを追うハードルが上がってしまうのです。 家計の収支を正しく把握するのは意外と難しいものです。「わが家にはいくら収入が入ってきて、いくら出ていっているのか?」。たったそれだけのことでも、実はできている人はごくわずかです。キャッシュレス決済などのテクノロジーは、それを効率化する有効なツールのはずですが、あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません。 キャッシュレス社会が、根強い現金信仰を上回る信頼を得るには、お金を使う入口である「決済」だけでなく、お金を使った後の管理の簡便さも十分に配慮することが大切だと思います』、「あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません」というのは的確な指摘だ。キャッシュレス決済の比率が実際に上っていくには、時間がかかりそうだ。
第三に、サービス提供側の動きを、9月26日付けダイヤモンド・オンライン「キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180539
・『東京・銀座6丁目のラグジュアリーな複合商業施設、GINZA SIX。9月上旬、この建物内にある話題のワークスペース「WeWork」にオフィスを構えるペイペイでは、今年秋のサービス開始に向けて急ピッチでシステム開発が行われていた。日本だけでなくインドなどさまざまな国籍のメンバーが一緒に働く社内には、英語が飛び交っている。 ペイペイは、ソフトバンクとヤフーが共同出資して立ち上げたスマートフォン決済サービスを手掛ける企業だ。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資したインドのスマホ決済サービス最大手のPaytmが技術ノウハウを提供しており、まさにソフトバンクグループの総力が結集されている。 ペイペイの中山一郎社長は、「中国やインドの動きを見れば、キャッシュレス化は世界のムーブメントだ」と言い切る。 そんな世界の潮流に乗り遅れまいと、ここ数年でキャッシュレス決済(QRコードやバーコードを使ったスマホ決済)への新規参入が相次いでいる(下表参照)。従来、キャッシュレス決済の主役はクレジットカードや電子マネーだが、新規参入する企業が狙うのはスマホ決済の分野。それは、参入障壁が低いからだ。米ITジャイアントのアマゾンも満を持して8月に参入し、この分野は大活況を呈している。 今年4月、経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を策定し、2025年の開催を目指す大阪・関西万博に向けて日本のキャッシュレス決済比率を40%まで引き上げる目標を掲げた。政府がキャッシュレス化を積極的に後押しすると表明したのだ。それが各社の動きを加速させている』、なるほど。
・『インバウンド急増と人手不足が迫るキャッシュレス化 なぜいまキャッシュレス決済が注目されているのか。大きく二つの要因がある。 一つ目は外的要因だ。上図で示したように、日本のキャッシュレス化は他の国と比べて遅れている。キャッシュレス比率が最も高い韓国は89.1%に達しており、中国も60%に上る。それに比べて日本はわずか18.4%しかない。 背景には、日本の治安の良さや現金決済インフラの充実がある。日本は治安がいいので現金を持ち歩いても安全であり、偽札もほぼない。かつ至る所にATMがあり、いつでも現金を引き出すことができる。それ故に他国と比べて現金決済の比率が高いのである。 このような状況の中で近年、日本ではインバウンドが右肩上がりで増えている(下図参照)。日本を訪れる外国人にとっては、現金しか使えない場所が多く不便に感じることも多いだろう。 20年の東京五輪、25年の万博に向けて、さらにインバウンドが増えることが予想される。このままキャッシュレス化で後れを取れば、インバウンド向けのビジネスで、大きな機会損失が発生する可能性もある。だからこそ、いまからキャッシュレス化の推進を急ぐ必要があるのだ。 二つ目は内的要因だ。下図で示したように、少子高齢化の進展で日本の生産年齢人口はすでに減少に転じている。一方で有効求人倍率は年々上昇しており、人手不足が深刻化している。そんな中、「生産性を向上させるために、人手のかからないキャッシュレス化が求められている」(大栗竜治・野村総合研究所主任コンサルタント)のである。 また、現金の取り扱いには年間約1.5兆円もの莫大な社会コストが掛かっている。これも政府や企業がキャッシュレス化を進める大きな動機となっている』、確かに、インバウンドと人手不足は、企業がキャッシュレス化を進める大きな動機だろう。
・『JR九州が中国ネット企業とタッグを組む理由 キャッシュレス化が遅れる日本で、いち早くインバウンドの急増に目を付けた企業がある。中国ネット企業大手のアリババグループとテンセントだ。訪日外国人旅行消費額の約4割(17年実績)を占める中国人客向けに、両社は日本企業に先駆けて数年前からスマホ決済のサービスを積極的に展開している。 そんな両社とタッグを組んでスマホ決済の導入を促進しているのがJR九州だ。 上海から飛行機で1時間余りの距離にある九州は、年間23万人(クルーズ船以外の訪日客)もの中国人客が訪れる。JR九州の子会社であるJR博多シティでは、同社が運営するJR博多駅直結の駅ビル、アミュプラザ博多などでアリババグループのスマホ決済サービス「アリペイ」とテンセントの「ウィーチャットペイ」を今年2月から導入した。現在では約400店舗、9割のテナントで利用可能となっている。 アミュプラザ博多の5階にある眼鏡ショップのジンズもそうしたテナントの一つだ。「3割は海外からのお客さまで、そのほぼ全てが中国の方なので、アリペイやウィーチャットペイの導入はチャンス。実際に導入して決済は楽になった」と宮地瑛子店長は語る。 同ビル地下にあるドラッグストアのドラッグイレブンでも、「中国のお客さまの客単価は日本人の10倍。売り上げは顕著に伸びている」と同社店舗営業部の眞ヶ田雅仁係長は顔をほころばせる』、中国観光客の需要を捉えるには「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」は、確かに必須だろう。
・『富士山エリアをキャッシュレス化する富士急行の狙い 年間3600万人もの観光客が訪れる富士山エリア──。この一大観光地を拠点とする富士急行では、17年11月からウィーチャットペイを導入した。富士急ハイランドやタクシー、バス、鉄道、ロープウエーなど富士急グループの35施設(8月14日時点)で利用可能となっている。「世界で10億人以上のアクティブユーザーがいるウィーチャットと組めば、もっと認知度を高めることができる」。斉藤隆憲執行役員はウィーチャットペイ導入の狙いを語る。 富士急ハイランドでのキャッシュレス(1)富士急ハイランドはテンセントから旗艦遊園地に指定されている。(2)4月から中国人客向けにオンラインチケット購入サービスを開始。富士 山エリアでは、(3)タクシーや(4)土産物店、(5)富士急ハイランド内のレストランなど、至る所でウィーチャットペイが使える 今年4月からはウィーチャット上で富士急ハイランドのオンラインチケット販売を開始。中国人客は訪日時に並んでチケットを購入しなくて済むようになった。「富士山エリアをキャッシュレスリゾートにしていきたい」。斉藤執行役員の夢は膨らむ。 インバウンドはここ2~3年、急速に地方へと広がっている。しかし日本では、地方に行けば行くほどキャッシュレス決済が使えない場所が多い。そこに目を付けたのが決済プラットフォームを提供するベンチャー、コイニーだ。地方の銀行や信用組合と組んで、それら金融機関の取引先企業にスマホやタブレットを使ったキャッシュレス決済を導入している。 「決済手段の選択肢が多いことは客の満足度向上につながる。手数料が掛かってもプラスになる」(井尾慎之介・コイニー取締役)。同社のサービスはウィーチャットペイにも対応しており、今後引き合いが増えそうだ』、キャッシュレス決済が遅れている地方での動きも注目点だ。
第四に、9月26日付けダイヤモンド・オンライン「「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180540
・『スマホによるキャッシュレス決済は普及する?関係者による覆面座談会 ──キャッシュレス化推進に向けて、業界構造が大きく揺れ動いている現状をどう見ていますか。 A氏(クレジットカード会社関係者) 主役は、決済スピードが最速の電子マネーというのが見立てです。クレジットカードは少額で大量の決済にはそぐわない。ただ、富裕層が百貨店で高い買い物をする際に、電子マネーやQRコードで支払う姿を想像できますか? 財布の小銭入れは電子マネー、札入れはクレジットカードというすみ分けで置き換わっていき、共に成長していくでしょう』、確かにすみ分けが進む可能性はあるが、手前味噌的な印象も受ける。
・『B氏(メガバンク関係社) 「銀行の3大業務」といわれるのが、預金と融資、為替(決済)ですが、昔はどれももうかった。ところが、低金利の環境が続き(預金と融資の金利差である利ざやがつぶれて)、預金・融資の業務はもうからなくなりました。そこへさらに、為替にも(IT企業などの)新規参入が相次いで収益を圧迫される。三重苦です。銀行としては固定的な経費に切り込まざるを得ない状況なので、現金の取扱量を減らすことでコストを下げたい。これは地方銀行とも利害が一致します。もし現金の量が2割減れば、5台あるATMを1台減らせることになる。すると、数百万円という1台分の維持コストが浮きます。三菱UFJ銀行がATM台数の2割削減を検討中なんてニュースが出ていましたけど、メガバンクのATM設置台数は何千台とあるので、その2割に維持コスト数百万円を掛けると、何十億円というレベルでコストカットができる。これは大きいです。今それだけ稼ぐのは大変ですから。(編集部注:ATMの設置台数は、三菱UFJ銀行が8000台強、三井住友銀行とみずほ銀行が各6000台弱。また、みずほフィナンシャルグループの試算によると、金融業界全体の現金管理とATM網運営のコストは約2兆円)』、ATMの一部削減では効果は限定的でしかない。
・『C氏(決済サービス事業者) われわれはお店がさまざまな決済方式に対応できるようにお手伝いをする立場ですが、今まではクレジットカードの手数料の高さから、決済手段を複数持つことはコストとしか思っていないお店が多かったという印象です。ところが最近は、決済手段の多さがお客さんのためになるとか、それによってお店の売り上げが伸びる、機会損失を防げる、という話をする事業者が増えてきたように思います』、インバウンドの影響の広がりを改めて知った。
・『──今回の取材を通して感じるのは、キャッシュレス決済の市場が広がるという「総論」には業界関係者全員が賛成だが、損得勘定がもろに働く決済方式や規格、ルールなどの「各論」のところで足並みがそろわないというものです。それぞれの立場で、何か物申したいことはありますか。 B氏 以前から声を上げていますが、競争条件をそろえてほしい。楽天は銀行を持てるのに、銀行はEC(電子商取引)サイトを運営できない。これは不公平です。楽天というのは一例ですが、金融とは別の収益源を持つIT企業などが、それを原資にした採算度外視の戦略を決済分野で打ち出してきたら脅威だと、以前から感じていました。そうしたら案の定、LINEなどが手数料引き下げやポイント付与といった戦略を打ち出してきた。決済において彼らIT企業が間に挟まると、決済情報が銀行に落ちなくなります。そして、私たちは何の付加価値もない、最後の最後の決済処理だけをインフラとして淡々とこなすしかなくなる。銀行が“土管化”してしまいかねないと危惧しています。(編集部注:通信業界において、端末やサービスの提供という高付加価値ビジネスを米アップルや米グーグルなどに握られ、通信回線の提供だけに追いやられる状況を「土管化」と呼ぶ)』、「銀行の“土管化”」とは言い得て妙だ。銀行のECサイト参入のためには、他業禁止規定がある銀行法の見直しが必要になるが、主要国でも事情は同じなので、見直すとしても時間がかかりそうだ。
・『C氏 新しいキャッシュレス決済サービスが次々と登場していますが、その裏側のお金のチャージや支払いではクレジットカードとひも付いている場合が多いです。そして、そのクレジットカード決済に絡む“登場人物”が多過ぎます。それはつまり、それだけ間で手数料を抜く人が多いということ。これではいつまでも決済手数料は安くならないって思います。その要因の一つが、国際ブランド(ビザやマスターカード、ジェーシービーなどの決済機能提供会社)が設定するIRF(Interchange Reimbursement Fee)という手数料です。海外ではそのレートが公開されていて、EU(欧州連合)では上限規制までかかったのに、日本ではそれが非公表という不透明な状況です。 A氏 国際ブランドにIRFを安くしてほしいというのは、クレジットカード会社にとっても永遠のテーマですよ。海外や他の加盟店でうちのカードが決済できるのは彼らのおかげだから、それなりの対価を払わなくてはいけないとは思っていますが……。あとは、(決済情報処理センターネットワークである)CAFIS(Credit And Finance Information Switching system、キャフィス)やJCN(Japan Card Network)の通信料も安くしてくれという話です。クレジットカード会社は、国際ブランドや提携カードの提携先へのロイヤリティー、銀行への口座振替手数料などを払って、決済ネットワークの通信コストやシステムの開発・維持コストも掛かる。そうやっていろいろお金を払っていくので、実入りは多くないです。さらに、最近相次いで打ち出されたIT企業たちの加盟店獲得戦略では、「手数料ゼロ」をウリにしている会社が多い。となれば、クレジットカード業界にも手数料の下方圧力がかかるでしょう。厳しいところですね。決済手数料が1%とかになってしまったら、赤字になりかねない。りそなホールディングスがクレジットカード会社のアクワイアリング業務(加盟店契約・管理)に乗り出すという話も出てきましたが、ここでも利益を奪われる。ただ、銀行にどこまで加盟店の開拓ができるかは見ものです。銀行の多くはクレジットカード子会社を持っていて、これまでもアクワイアリング業務をやってきましたが、それほど加盟店を広げられていません。なぜなら、銀行系のカード会社は、銀行本体で“上がった”人が社長で、その下には銀行から飛ばされた出向者みたいな、モチベーションが低い組織であることが多いからです。銀行本体が手掛けることで何か変化があるのか、注目しています』、りそなのアクワイアリング業務進出のお手並み拝見だ。
・『──QRコード決済がキャッシュレス化推進の切り札というような流れですが、どうお考えですか。 B氏 中堅・中小の事業者や、地方に裾野を広げる上で、非常に魅力的じゃないかと思います。中国でQRコード決済が広がったのも、インフラがなかったが故なので。7月に発足した産官学による「キャッシュレス推進協議会」でもQRコードの規格統一化が重要テーマの一つです。 C氏 その規格統一化ですが、まとまる気がしません。協議会でそれについて議論をする分科会には100社以上も参加していて、自社に有利な展開に誘導しようと“綱引き合戦”です。それでもQRコード決済を手掛けるIT企業などは、規格が統一化されないとキャッシュレス化が成功しないという思いから、議論の落としどころを探っているように見えます。ただ、クレジットカード会社などはQRコードの普及に抵抗するために分科会へ参加しているのではないか、と邪推したくなる場面もあります。 A氏 そんなことはないと思いますが、経済産業省がどんなルールを作るか、という視点も大事じゃないですか。クレジットカードは経産省が消費者保護のためにルールを作り、市場を育ててきました。QRコード決済は自由放任ということにはならないでしょう。消費者保護やセキュリティーの観点からどんなルールができるのか注目しています』、QRコード規格統一化も内ゲバがあっては、容易ではなさそうだが、当面の注目点の1つではある。
先ずは、前日銀審議委員で野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミストの木内 登英氏が8月24日付け東洋経済オンラインに寄稿した「銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/233362
・『技術力とアイデアにモノをいわせたフィンテック企業が、決済、貸出など銀行の牙城とされてきた業務に進出している。顧客のビッグデータもフィンテック企業に集まっていく。危機感を抱いた銀行は自らデジタル通貨を発行し、スマホ決済に乗り出そうとしているが、その動きはいかにも遅い。 『決定版銀行デジタル革命』でキャッシュレス化への流れと銀行の苦境を描いた著者が、動き始めたLINEペイの衝撃度を解説する』、面白そうだ。
・『「決済革命を起こす」――LINE社長の決意 無料対話アプリを運営するLINEが、「決済革命を起こす」との決意で、スマホ(スマートフォン)を使った決済サービス、LINEペイの利用拡大に一気に動きだした。 LINEペイでは店舗側のスマホに専用アプリを入れ、それをQRコード決済の端末として利用する。お客はそこに表示されるQRコードを自分のスマホで読み取って決済する。 LINEは、電子メールよりも簡単に無料で対話できるサービスが急速に利用者を拡大したという成功体験を、決済の分野でも再現しようとしているのだ。 LINEはまず、採算度外視でも利用者を拡大させることが第1と考えた。利用者が増えることでそのサービスの価値が高まるという、ネットワーク効果を狙っているのだ。LINEの出澤剛社長は、利用者が一定数を超えれば生活が変わるとも語っている。これは、LINEが新たな社会インフラを担っていくという野心を示しているのだろう。 日本でのLINE利用者は現在7500万人と、人口の実に6割近くに達している。銀行最大手の三菱UFJ銀行でも、預金口座数はおよそ4000万口座だ。LINE利用者の間で急速にLINEペイの利用が広まっていけば、その衝撃は大きい』、LINE利用者が人口の実に6割近く、とは確かにモンスターのような存在だ。
・『日本人のキャッシュレス決済の比率は現在約2割と、主要国の中で最低水準にとどまっているが、政府はこれを2025年までに4割まで高めることを目標に掲げている。もしかしたら、LINEペイはその実現を大きく助けるかもしれない。 LINEペイの利用を急拡大させるには、まずはそれを使える場所を格段に増やす必要がある。LINEはLINEペイが使える場所を、現在の9万4000カ所から、年度内に100万カ所まで一気に増やすという意欲的な目標を掲げている。 その達成に向けてこの8月から始めたのが、LINEペイの手数料無料化という戦略だ。LINEはスマホにインストールするだけで決済端末となる専用アプリを店舗に無料配信しているが、このアプリを使って決済した場合には、店舗(中小業者)側の手数料を3年間無料とする。 販売額に応じて課される決済手数料は現在、日本では3~4%が主流だ。アメリカでは2.5%、中国では0.5~0.6%がスタンダードとされている。 LINEの場合、とりあえずは3年間という限定ではあるものの、無料というのはかなり衝撃的だ。ヤフーのスマホ決済サービスも10月から手数料を無料にする予定で、今後は手数料無料化がスマホ決済の業界標準となっていく可能性もあるだろう』、手数料無料化とは衝撃的だ。
・『さらにLINEは、利用者(消費者)には決済金額の3~5%をポイント還元して、店舗側と利用者側の双方からLINEペイの利用を促す戦略をとっている。 これ以外にも、LINEペイの利用を促すために、店舗側と利用者側の双方がさまざまな決済方式を選択できるような工夫もしている。 たとえばLINEはJCBと組んで2018年中に、読み取り端末にスマホをかざせば決済できるようにする方針だ。LINEペイの口座にチャージしておけば、アプリを立ち上げなくてもJCBの非接触型「クイックペイ」で決済できる。JCBの「クイックペイ」の加盟店は現在72万カ所あるが、そこでは追加の設備投資なしでLINEペイを導入できるようになることから、LINEペイの利用拡大には有効だ』、なるほどLINEペイは極めて強力な競争力をもちそうだ。
・『お客と「友だち」になれたらお金をもらう LINEやそのライバル会社が決済サービスを無料で提供しても、ビジネスとして成り立つというのは不思議である。そのわけは、それらがもともと決済サービスで儲けるというビジネスモデルではないからだ。 この点が、手数料収入で成り立っている銀行の決済サービスとは根本的に異なるのであり、それゆえにスマホ決済などをめぐる戦いでは、銀行が非常に不利になるのだ。 LINEペイの場合には、無料アプリを使って顧客の決済を行うと、店舗の公式アカウントがその顧客とLINE上で「友だち」になれるという特徴がある。店舗側はその後、キャンペーンやクーポン発行などのメッセージを顧客に届けられるようになるが、その際に広告収入がLINEに入る仕組みだ。 このように、決済サービスを無料で提供しても、その利用が拡大していけば儲けることができるビジネスモデルとなっている。 中国のアリババグループ傘下のアリペイも、決済サービスをほぼ無料で利用者に提供している。アリペイはそこから得られる取引履歴、つまり誰がいつどこで何を買ったか、などといった情報を蓄積し、それを自社のネットショッピングでのターゲット広告などに利用、または他社に販売することで稼ぐというビジネスモデルになっている。つまり、決済サービスは本業ではなく、そこで儲ける必要がないため、無料で提供できるのである。 一方、銀行にとって決済サービスは本業中の本業、業務の中核であり、そのビジネスは手数料収入で成り立っている。銀行にはそれ以外のビジネスモデルの経験がない。 銀行がスマホ決済サービスに本格的に乗り出せば、顧客の取引履歴を入手することはできるが、ネット企業のようにそれを本業に活用することはほとんどできないだろう。またそれを外部に販売して儲けるというビジネスについてもまったく不慣れだ。 したがって、銀行が手数料収入にこだわるならば、スマホ決済サービスの分野で競争していくのはかなり難しい。また先行するLINEペイなどによって、スマホ決済の手数料無料化が一気に業界標準となってしまえば、銀行はこの分野に参入することさえ断念せざるをえなくなるかもしれないNAFTA』、これでは銀行は勝負になりそうもないようだ。
・『2017年、大手銀行はMUFGコイン、Jコインといった仮想通貨を使ったスマホ決済に乗り出す考えを明らかにしたが、その実現には依然手間取っているように見える。 一時はこうしたスマホ決済のシステムを統一することで、利用者の利便性を高め、利用の拡大を狙っていたが、その試みも頓挫しつつある。三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクは、買い物をするときにスマホで読み取るQRコードの規格を統一することでこの5月にようやく合意したものの、その実現を目指すのは2019年度だ。LINEペイなどネット企業とのスピード感の違いは歴然だろう。 ネット企業などによるスマホ決済が広がると、クレジットカードでの決済や銀行預金による決済が減っていくことになる。これはクレジットカードを系列に持つ大手銀行にとっては、大きな収益減となってしまう。それを食い止めようとして、銀行も自らスマホ決済サービスに乗り出そうとしているのだ。しかしそれも手数料無料化の流れの中では、既存の決済手数料収入を減らしてしまうことには変わりない。 銀行は、決済インフラの構築に巨額の資金を注ぎ込んできた。安定した決済システム、いつでも引き出し可能なATM、1万3000カ所に上る店舗など、銀行全体が抱える決済インフラは、合計で10兆円規模にも上るという。銀行預金の決済取引が減れば、その分、固定費の重みは増してしまう。 このように、銀行にとってスマホ決済サービスへの進出は自らの収益基盤を切り崩すことにもなるという、大きな自己矛盾を抱えている。それゆえに、この分野に多くのリソースを投入していくのは難しいのではないか』、銀行の決済のうち大口取引は余り影響を受けないだろうが、小口取引では影響を受けざるを得ないだろう。
・『「金融のリデザイン(再設計)」で、銀行が沈む LINEは、今の金融サービス全体をより利便性の高いものへと劇的に変えていく「金融のリデザイン(再設計)」構想を描いている。決済革命を起こすという豪語も、実は入口でしかない。将来的には融資、資産運用、保険など、さらなる金融ビジネスへの進出を視野に入れているのだ。 また、ブロックチェーン技術を使って独自の「経済圏」を作る構想も示している。LINEの利用者が、各種のサービスにコメントを書き込む、写真を投稿するなどコンテンツの拡充に貢献した際には、独自の仮想通貨を付与するという仕組みだという。利用者は獲得した通貨で各種サービスや商品の代金を支払うことができる。 このように、LINEが既存の金融サービスを次々と切り崩していけば、金融業界とりわけ銀行は顧客情報をLINEに奪われて“中抜き”され、収益機会がどんどん縮小してしまうだろう。 LINEの金融サービスが広まっても、銀行預金や銀行の決済機能がなくなるわけではない。だが、利用者はLINEのサービスを日々利用する中で、どこかでまだ銀行の預金や決済のサービスを受けていることなど、ほとんど意識しなくなるだろう。 LINEの金融サービスが普及する過程では、銀行自体の社会的なプレゼンスも大きく低下していくだろう。決済サービスを奪われることよりも、それこそがエリート銀行員たちにとっての悪夢なのではないか』、大変な時代になったものだ。
次に、FP、マネーステップオフィス代表取締役の加藤 梨里氏が9月20日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/237265
・『今年6月にLINEが手掛けるスマートフォン決済サービス「LINE Pay」が、3年間の加盟店手数料無料化を発表して以来、スマホ決済を中心にキャッシュレス化の動きが加速しています。しかし6日に発生した北海道地震では、キャッシュレス生活のために手元に現金がなく、停電中のコンビニで日用品を買えないとの声が上がるなど、災害時にはほとんど機能しないキャッシュレス決済の弱点も指摘されています。 今夏から秋にかけて全国で地震や豪雨などの自然災害が相次ぎ、生活インフラの異常事態を各地で経験したことは、もともと現金信仰が強かった日本人の意識をより現金へ回帰させるきっかけになるかもしれません。国を挙げたキャッシュレス化に水を差す格好になりますが、筆者はそれ以外にも、家計管理の面で日本のキャッシュレス化を阻む要因があると思います』、言われてみれば、その通りで、こうした面も考慮する必要がありそうだ。
・『キャッシュレス社会を望まない人が半数以上 日本のキャッシュレス決済比率は2015年時点で18%と、韓国(89%)や中国(60%)などと比べて低く、政府は2027年までに4割程度に上げる目標を掲げています。8月にはQRコードを使った決済基盤を提供する事業者への補助金、決済サービスを導入する中小の小売店への税制優遇を検討すると発表。神奈川県は上下水道料金の支払い方法にLINE Payを導入しました。 しかし、官民一体となってキャッシュレス決済のインフラ整備に全力を挙げるのとは対照的に、国内の消費者はまだ及び腰な印象を受けます。博報堂生活総合研究所の調査によれば、キャッシュレス社会に「ならない方がよい」という人は51%と、わずかながら過半数を超えています。 キャッシュレス化のカギを握るとみられているのがスマートフォンを使った決済サービスです。なかでもQRコードを読み取るタイプの決済サービスはLINEのほか楽天、ソフトバンクとヤフー、アマゾンなど大手企業が参入しており、手数料無料など各社が加盟店の負担軽減策にしのぎを削っています。これが奏功すれば街中の小売店に決済端末が整備され、普及を加速させると期待されています。 ところが三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、QRコード決済を知っている人は43%、利用したことがある人は8%にすぎません。しかも「利用したことはないし、今後も利用したいとは思わない」人が55%を占めているのです。これは冒頭のLINE Payが手数料無料を発表する直前に行われた調査結果ですので、現在の認知度や利用意向は上がった可能性もあります。ただ、デジタルネーティブである20代、30代でも半数以上が利用に消極的であるとの結果は、普及への遠い道のりをうかがわせます。 これだけキャッシュレスへのモチベーションが低い要因には、現金払いで不便がない環境が影響しているようです。 上述の調査では、現金払いしかできずに困った経験がある人は全体の47%という結果も得ています。つまり半数以上の人は現金払いのみの店舗でも不自由なく買い物をしているわけです。20~30代では現金払いのみで困った人のほうが多く、世代間で差がありますが、現金主義でもさほど生活に困らなければ、あえて行動習慣を変えてまでキャッシュレスにするモチベーションは湧かないのでしょう』、確かに、サービス提供側の動きだけでなく、利用者が本当のところ何を求めているかを探る意味は大いにありそうだ。
・『そこでQRコード決済サービスの多くは、決済した消費者にポイントを付与しています。楽天ペイでは初めて使う人はもれなく1000ポイント、買い物時には決済金額に応じて0.5~1%(一部キャンペーン時にはそれ以上)のポイントがもらえます。LINE Payも決済金額に応じたポイントを付与しており、条件を満たしたユーザーには期間限定で3%を上乗せしています。こうしたインセンティブは高還元率をうたうクレジットカードにも見劣りしないレベルです』、なるほど。
・『消極的な人は、浪費しそうで怖い それでもキャッシュレス決済に二の足を踏む人には、「お金の管理が難しくなる」という不安があるようです。さきの調査結果を見ると、QRコード決済を使いたくない人は、使いたい人よりも「仕組みは知っているが、利便性を見いだせない、必要性を感じない」や「使いすぎてしまうおそれがある」という傾向が強いのです。 マネーフォワードなどの家計簿アプリでは、データ連携をすることで、QRコード決済アプリでの支出を家計簿上に表示できます。ですから決済アプリを使うと家計管理ができないわけではありません。また、データ連携をさせる操作は銀行の口座引き落としやクレジットカード払いのデータを連携させるのとほぼ同じですから、データ連携の煩雑さゆえに家計管理がしにくくなるわけでもなさそうです。そもそも家計簿アプリに連携しなくても、ほとんどの決済アプリ内では利用履歴を閲覧できます』、消極的な人は、家計簿アプリや利用履歴閲覧などしないのではなかろうか。
・『お金の出口が増えることによる錯覚が怖い むしろ問題は、家計管理にかかわるプラットフォームが従来よりも増えることではないでしょうか。現時点で、コード決済よりもクレジットカードや電子マネーに対応した小売店が多ければ、今まで使っていたカード払いをすべてコード決済に切り替えることはできないでしょう。すると、お金の出口が増えることになります。出口が増えただけで使える予算が増えるわけではありませんが、使った金額を錯覚するおそれはあります。 たとえばこれまでクレジットカードで月10万円使っていたものが、コード決済で3万円使うようになったとき、クレジットカードでの支出が7万円なら支出総額は変わりませんが、クレジットカードの明細だけを見れば支出が減ったように見えます。すると、「まだそんなに使っていないから」と油断して使ってしまうかもしれません。 そんな錯覚を防ぐために、一部の家計簿アプリでは銀行口座やクレジットカード、コード決済などの情報を一元的に表示、集計できます。ただ、連携登録できる口座数に制限があると、手持ちのお金の出口をすべてカバーしきれません。現金主義なら銀行口座とお財布の現金の出入りだけをみれば家計収支がわかるところが、さまざまなキャッシュレス決済を使うことで連携すべき情報が増え、お金の流れを追うハードルが上がってしまうのです。 家計の収支を正しく把握するのは意外と難しいものです。「わが家にはいくら収入が入ってきて、いくら出ていっているのか?」。たったそれだけのことでも、実はできている人はごくわずかです。キャッシュレス決済などのテクノロジーは、それを効率化する有効なツールのはずですが、あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません。 キャッシュレス社会が、根強い現金信仰を上回る信頼を得るには、お金を使う入口である「決済」だけでなく、お金を使った後の管理の簡便さも十分に配慮することが大切だと思います』、「あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません」というのは的確な指摘だ。キャッシュレス決済の比率が実際に上っていくには、時間がかかりそうだ。
第三に、サービス提供側の動きを、9月26日付けダイヤモンド・オンライン「キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180539
・『東京・銀座6丁目のラグジュアリーな複合商業施設、GINZA SIX。9月上旬、この建物内にある話題のワークスペース「WeWork」にオフィスを構えるペイペイでは、今年秋のサービス開始に向けて急ピッチでシステム開発が行われていた。日本だけでなくインドなどさまざまな国籍のメンバーが一緒に働く社内には、英語が飛び交っている。 ペイペイは、ソフトバンクとヤフーが共同出資して立ち上げたスマートフォン決済サービスを手掛ける企業だ。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資したインドのスマホ決済サービス最大手のPaytmが技術ノウハウを提供しており、まさにソフトバンクグループの総力が結集されている。 ペイペイの中山一郎社長は、「中国やインドの動きを見れば、キャッシュレス化は世界のムーブメントだ」と言い切る。 そんな世界の潮流に乗り遅れまいと、ここ数年でキャッシュレス決済(QRコードやバーコードを使ったスマホ決済)への新規参入が相次いでいる(下表参照)。従来、キャッシュレス決済の主役はクレジットカードや電子マネーだが、新規参入する企業が狙うのはスマホ決済の分野。それは、参入障壁が低いからだ。米ITジャイアントのアマゾンも満を持して8月に参入し、この分野は大活況を呈している。 今年4月、経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を策定し、2025年の開催を目指す大阪・関西万博に向けて日本のキャッシュレス決済比率を40%まで引き上げる目標を掲げた。政府がキャッシュレス化を積極的に後押しすると表明したのだ。それが各社の動きを加速させている』、なるほど。
・『インバウンド急増と人手不足が迫るキャッシュレス化 なぜいまキャッシュレス決済が注目されているのか。大きく二つの要因がある。 一つ目は外的要因だ。上図で示したように、日本のキャッシュレス化は他の国と比べて遅れている。キャッシュレス比率が最も高い韓国は89.1%に達しており、中国も60%に上る。それに比べて日本はわずか18.4%しかない。 背景には、日本の治安の良さや現金決済インフラの充実がある。日本は治安がいいので現金を持ち歩いても安全であり、偽札もほぼない。かつ至る所にATMがあり、いつでも現金を引き出すことができる。それ故に他国と比べて現金決済の比率が高いのである。 このような状況の中で近年、日本ではインバウンドが右肩上がりで増えている(下図参照)。日本を訪れる外国人にとっては、現金しか使えない場所が多く不便に感じることも多いだろう。 20年の東京五輪、25年の万博に向けて、さらにインバウンドが増えることが予想される。このままキャッシュレス化で後れを取れば、インバウンド向けのビジネスで、大きな機会損失が発生する可能性もある。だからこそ、いまからキャッシュレス化の推進を急ぐ必要があるのだ。 二つ目は内的要因だ。下図で示したように、少子高齢化の進展で日本の生産年齢人口はすでに減少に転じている。一方で有効求人倍率は年々上昇しており、人手不足が深刻化している。そんな中、「生産性を向上させるために、人手のかからないキャッシュレス化が求められている」(大栗竜治・野村総合研究所主任コンサルタント)のである。 また、現金の取り扱いには年間約1.5兆円もの莫大な社会コストが掛かっている。これも政府や企業がキャッシュレス化を進める大きな動機となっている』、確かに、インバウンドと人手不足は、企業がキャッシュレス化を進める大きな動機だろう。
・『JR九州が中国ネット企業とタッグを組む理由 キャッシュレス化が遅れる日本で、いち早くインバウンドの急増に目を付けた企業がある。中国ネット企業大手のアリババグループとテンセントだ。訪日外国人旅行消費額の約4割(17年実績)を占める中国人客向けに、両社は日本企業に先駆けて数年前からスマホ決済のサービスを積極的に展開している。 そんな両社とタッグを組んでスマホ決済の導入を促進しているのがJR九州だ。 上海から飛行機で1時間余りの距離にある九州は、年間23万人(クルーズ船以外の訪日客)もの中国人客が訪れる。JR九州の子会社であるJR博多シティでは、同社が運営するJR博多駅直結の駅ビル、アミュプラザ博多などでアリババグループのスマホ決済サービス「アリペイ」とテンセントの「ウィーチャットペイ」を今年2月から導入した。現在では約400店舗、9割のテナントで利用可能となっている。 アミュプラザ博多の5階にある眼鏡ショップのジンズもそうしたテナントの一つだ。「3割は海外からのお客さまで、そのほぼ全てが中国の方なので、アリペイやウィーチャットペイの導入はチャンス。実際に導入して決済は楽になった」と宮地瑛子店長は語る。 同ビル地下にあるドラッグストアのドラッグイレブンでも、「中国のお客さまの客単価は日本人の10倍。売り上げは顕著に伸びている」と同社店舗営業部の眞ヶ田雅仁係長は顔をほころばせる』、中国観光客の需要を捉えるには「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」は、確かに必須だろう。
・『富士山エリアをキャッシュレス化する富士急行の狙い 年間3600万人もの観光客が訪れる富士山エリア──。この一大観光地を拠点とする富士急行では、17年11月からウィーチャットペイを導入した。富士急ハイランドやタクシー、バス、鉄道、ロープウエーなど富士急グループの35施設(8月14日時点)で利用可能となっている。「世界で10億人以上のアクティブユーザーがいるウィーチャットと組めば、もっと認知度を高めることができる」。斉藤隆憲執行役員はウィーチャットペイ導入の狙いを語る。 富士急ハイランドでのキャッシュレス(1)富士急ハイランドはテンセントから旗艦遊園地に指定されている。(2)4月から中国人客向けにオンラインチケット購入サービスを開始。富士 山エリアでは、(3)タクシーや(4)土産物店、(5)富士急ハイランド内のレストランなど、至る所でウィーチャットペイが使える 今年4月からはウィーチャット上で富士急ハイランドのオンラインチケット販売を開始。中国人客は訪日時に並んでチケットを購入しなくて済むようになった。「富士山エリアをキャッシュレスリゾートにしていきたい」。斉藤執行役員の夢は膨らむ。 インバウンドはここ2~3年、急速に地方へと広がっている。しかし日本では、地方に行けば行くほどキャッシュレス決済が使えない場所が多い。そこに目を付けたのが決済プラットフォームを提供するベンチャー、コイニーだ。地方の銀行や信用組合と組んで、それら金融機関の取引先企業にスマホやタブレットを使ったキャッシュレス決済を導入している。 「決済手段の選択肢が多いことは客の満足度向上につながる。手数料が掛かってもプラスになる」(井尾慎之介・コイニー取締役)。同社のサービスはウィーチャットペイにも対応しており、今後引き合いが増えそうだ』、キャッシュレス決済が遅れている地方での動きも注目点だ。
第四に、9月26日付けダイヤモンド・オンライン「「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180540
・『スマホによるキャッシュレス決済は普及する?関係者による覆面座談会 ──キャッシュレス化推進に向けて、業界構造が大きく揺れ動いている現状をどう見ていますか。 A氏(クレジットカード会社関係者) 主役は、決済スピードが最速の電子マネーというのが見立てです。クレジットカードは少額で大量の決済にはそぐわない。ただ、富裕層が百貨店で高い買い物をする際に、電子マネーやQRコードで支払う姿を想像できますか? 財布の小銭入れは電子マネー、札入れはクレジットカードというすみ分けで置き換わっていき、共に成長していくでしょう』、確かにすみ分けが進む可能性はあるが、手前味噌的な印象も受ける。
・『B氏(メガバンク関係社) 「銀行の3大業務」といわれるのが、預金と融資、為替(決済)ですが、昔はどれももうかった。ところが、低金利の環境が続き(預金と融資の金利差である利ざやがつぶれて)、預金・融資の業務はもうからなくなりました。そこへさらに、為替にも(IT企業などの)新規参入が相次いで収益を圧迫される。三重苦です。銀行としては固定的な経費に切り込まざるを得ない状況なので、現金の取扱量を減らすことでコストを下げたい。これは地方銀行とも利害が一致します。もし現金の量が2割減れば、5台あるATMを1台減らせることになる。すると、数百万円という1台分の維持コストが浮きます。三菱UFJ銀行がATM台数の2割削減を検討中なんてニュースが出ていましたけど、メガバンクのATM設置台数は何千台とあるので、その2割に維持コスト数百万円を掛けると、何十億円というレベルでコストカットができる。これは大きいです。今それだけ稼ぐのは大変ですから。(編集部注:ATMの設置台数は、三菱UFJ銀行が8000台強、三井住友銀行とみずほ銀行が各6000台弱。また、みずほフィナンシャルグループの試算によると、金融業界全体の現金管理とATM網運営のコストは約2兆円)』、ATMの一部削減では効果は限定的でしかない。
・『C氏(決済サービス事業者) われわれはお店がさまざまな決済方式に対応できるようにお手伝いをする立場ですが、今まではクレジットカードの手数料の高さから、決済手段を複数持つことはコストとしか思っていないお店が多かったという印象です。ところが最近は、決済手段の多さがお客さんのためになるとか、それによってお店の売り上げが伸びる、機会損失を防げる、という話をする事業者が増えてきたように思います』、インバウンドの影響の広がりを改めて知った。
・『──今回の取材を通して感じるのは、キャッシュレス決済の市場が広がるという「総論」には業界関係者全員が賛成だが、損得勘定がもろに働く決済方式や規格、ルールなどの「各論」のところで足並みがそろわないというものです。それぞれの立場で、何か物申したいことはありますか。 B氏 以前から声を上げていますが、競争条件をそろえてほしい。楽天は銀行を持てるのに、銀行はEC(電子商取引)サイトを運営できない。これは不公平です。楽天というのは一例ですが、金融とは別の収益源を持つIT企業などが、それを原資にした採算度外視の戦略を決済分野で打ち出してきたら脅威だと、以前から感じていました。そうしたら案の定、LINEなどが手数料引き下げやポイント付与といった戦略を打ち出してきた。決済において彼らIT企業が間に挟まると、決済情報が銀行に落ちなくなります。そして、私たちは何の付加価値もない、最後の最後の決済処理だけをインフラとして淡々とこなすしかなくなる。銀行が“土管化”してしまいかねないと危惧しています。(編集部注:通信業界において、端末やサービスの提供という高付加価値ビジネスを米アップルや米グーグルなどに握られ、通信回線の提供だけに追いやられる状況を「土管化」と呼ぶ)』、「銀行の“土管化”」とは言い得て妙だ。銀行のECサイト参入のためには、他業禁止規定がある銀行法の見直しが必要になるが、主要国でも事情は同じなので、見直すとしても時間がかかりそうだ。
・『C氏 新しいキャッシュレス決済サービスが次々と登場していますが、その裏側のお金のチャージや支払いではクレジットカードとひも付いている場合が多いです。そして、そのクレジットカード決済に絡む“登場人物”が多過ぎます。それはつまり、それだけ間で手数料を抜く人が多いということ。これではいつまでも決済手数料は安くならないって思います。その要因の一つが、国際ブランド(ビザやマスターカード、ジェーシービーなどの決済機能提供会社)が設定するIRF(Interchange Reimbursement Fee)という手数料です。海外ではそのレートが公開されていて、EU(欧州連合)では上限規制までかかったのに、日本ではそれが非公表という不透明な状況です。 A氏 国際ブランドにIRFを安くしてほしいというのは、クレジットカード会社にとっても永遠のテーマですよ。海外や他の加盟店でうちのカードが決済できるのは彼らのおかげだから、それなりの対価を払わなくてはいけないとは思っていますが……。あとは、(決済情報処理センターネットワークである)CAFIS(Credit And Finance Information Switching system、キャフィス)やJCN(Japan Card Network)の通信料も安くしてくれという話です。クレジットカード会社は、国際ブランドや提携カードの提携先へのロイヤリティー、銀行への口座振替手数料などを払って、決済ネットワークの通信コストやシステムの開発・維持コストも掛かる。そうやっていろいろお金を払っていくので、実入りは多くないです。さらに、最近相次いで打ち出されたIT企業たちの加盟店獲得戦略では、「手数料ゼロ」をウリにしている会社が多い。となれば、クレジットカード業界にも手数料の下方圧力がかかるでしょう。厳しいところですね。決済手数料が1%とかになってしまったら、赤字になりかねない。りそなホールディングスがクレジットカード会社のアクワイアリング業務(加盟店契約・管理)に乗り出すという話も出てきましたが、ここでも利益を奪われる。ただ、銀行にどこまで加盟店の開拓ができるかは見ものです。銀行の多くはクレジットカード子会社を持っていて、これまでもアクワイアリング業務をやってきましたが、それほど加盟店を広げられていません。なぜなら、銀行系のカード会社は、銀行本体で“上がった”人が社長で、その下には銀行から飛ばされた出向者みたいな、モチベーションが低い組織であることが多いからです。銀行本体が手掛けることで何か変化があるのか、注目しています』、りそなのアクワイアリング業務進出のお手並み拝見だ。
・『──QRコード決済がキャッシュレス化推進の切り札というような流れですが、どうお考えですか。 B氏 中堅・中小の事業者や、地方に裾野を広げる上で、非常に魅力的じゃないかと思います。中国でQRコード決済が広がったのも、インフラがなかったが故なので。7月に発足した産官学による「キャッシュレス推進協議会」でもQRコードの規格統一化が重要テーマの一つです。 C氏 その規格統一化ですが、まとまる気がしません。協議会でそれについて議論をする分科会には100社以上も参加していて、自社に有利な展開に誘導しようと“綱引き合戦”です。それでもQRコード決済を手掛けるIT企業などは、規格が統一化されないとキャッシュレス化が成功しないという思いから、議論の落としどころを探っているように見えます。ただ、クレジットカード会社などはQRコードの普及に抵抗するために分科会へ参加しているのではないか、と邪推したくなる場面もあります。 A氏 そんなことはないと思いますが、経済産業省がどんなルールを作るか、という視点も大事じゃないですか。クレジットカードは経産省が消費者保護のためにルールを作り、市場を育ててきました。QRコード決済は自由放任ということにはならないでしょう。消費者保護やセキュリティーの観点からどんなルールができるのか注目しています』、QRコード規格統一化も内ゲバがあっては、容易ではなさそうだが、当面の注目点の1つではある。
タグ:「銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢」 (その2)(銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢、日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁、キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由、「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会) りそなホールディングス もし現金の量が2割減れば、5台あるATMを1台減らせることになる。すると、数百万円という1台分の維持コストが浮きます 財布の小銭入れは電子マネー、札入れはクレジットカードというすみ分け 「「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会」 インバウンド急増と人手不足が迫るキャッシュレス化 ペイペイは、ソフトバンクとヤフーが共同出資して立ち上げたスマートフォン決済サービスを手掛ける企業 「キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由」 ダイヤモンド・オンライン お金の出口が増えることによる錯覚が怖い 消極的な人は、浪費しそうで怖い キャッシュレス社会を望まない人が半数以上 災害時にはほとんど機能しないキャッシュレス決済の弱点 「日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁」 加藤 梨里 「金融のリデザイン(再設計)」で、銀行が沈む 分科会には100社以上も参加していて、自社に有利な展開に誘導しようと“綱引き合戦”です Line LINEペイの手数料無料化 東洋経済オンライン 決済システム 木内 登英 フィンテック 「決済革命を起こす」 QRコードの規格統一化 日本人のキャッシュレス決済の比率は現在約2割と、主要国の中で最低水準 日本でのLINE利用者は現在7500万人と、人口の実に6割近くに達している LINEペイの利用拡大に一気に動きだした アクワイアリング業務