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パンデミック(新型肺炎感染急拡大)(その13)(安倍政権のコロナ対策に募る不信 問題の本質が「専門家会議」である理由、絶望…コロナ対応国民評価ランキング 安倍晋三がダントツ世界最下位に ついに無能さが数字になってバレた、緊急事態宣言と自粛経済の負の側面は正当化できない 政府のコロナ対応について国際政治学者の三浦瑠麗氏に聞く) [国内政治]

昨日に続いて、パンデミック(新型肺炎感染急拡大)(その13)(安倍政権のコロナ対策に募る不信 問題の本質が「専門家会議」である理由、絶望…コロナ対応国民評価ランキング 安倍晋三がダントツ世界最下位に ついに無能さが数字になってバレた、緊急事態宣言と自粛経済の負の側面は正当化できない 政府のコロナ対応について国際政治学者の三浦瑠麗氏に聞く)を取上げよう。

先ずは、5月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「安倍政権のコロナ対策に募る不信、問題の本質が「専門家会議」である理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/237578
・『新型コロナウイルス対策に関する安倍晋三首相の一連の意思決定に対する世論の評価は低い。その理由は、安倍政権の意思決定プロセスに問題があるためだと筆者は考える。特にコロナ対策で陣頭指揮を執る「専門家会議」が、有事を想定せずに「平時」と同じパターンで発足されたことに問題の本質があると考える。コロナ禍を奇貨として、日本の政策決定システムの抜本的な見直しを考えるべきではないか』、興味深そうだ。
・『専門家が持論をメディアやSNSで発表し それに従うという構図に違和感や不満  安倍晋三首相は5月14日、新型コロナウイルス対策で全国に発令した緊急事態宣言の一部について解除。13の「特定警戒都道府県」のうち茨城、岐阜、愛知、石川、福岡の5県と、特定警戒ではない34県の合計39県で解除すると表明した。また、首相は解除しなかった8都道府県(北海道、東京、神奈川、埼玉、千葉、京都、大阪、兵庫)について「5月21日をメドに専門家に評価してもらい、可能であれば5月31日を待つことなく解除する」と説明した。 5月16日0:00時点の日本国内の新型コロナ感染者は合計1万6237人(死者725人)だ(*)。 *厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について〈令和2年5月16日版〉」 また、朝日新聞「全国で新たな感染55人 13県で2週間感染者ゼロ」(5月14日)によれば、安倍首相が緊急事態宣言の一部解除を発表した14日までの1週間で「感染者がゼロの県は、特定警戒都道府県に指定されている茨城、岐阜を含む22県」。そして、「特定警戒都道府県のうち、解除の方向となった福岡、愛知両県では、最近1週間での感染確認はいずれも計6人」にとどまり、「石川県はほぼ連日1~4人の感染が確認されているが、クラスター(感染者集団)の発生が確認された病院の関係者」だという。 さらに緊急事態宣言の解除対象とならない東京都でも、新規感染者数は5月3日を最後に12日連続で50人を下回っている(東京都「都内の最新感染動向」のPCR検査陽性者の発生動向〈確定日別による陽性者数の推移〉、5月15日時点)。現時点でこの数字を見る限り、新型コロナウイルスの感染拡大はピークを過ぎたといっていい状況だろう』、「感染拡大はピークを過ぎたといっていい状況」、第二次、第三次の拡大もあり得るが、一応幸いなことだ。
・『一方、日本と世界の主な国における感染者数(死者数)を比較すると下記のような状況だ。 
米国:144万2924人(8万7493人) 英国:23万6711人(3万3998人) イタリア:22万3885人(3万1610人) フランス:14万1919人(2万7529人) 中国:8万2941人(4633人) 韓国:1万1037人(262人) 日本:1万6237人(725人) *厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年5月16日版)」 日本の感染者数・死者数についてはさまざまな議論があり、単純な国際比較はできない。それでも米英伊仏と比較して死者数が2桁少ないこと、世界から高い評価を受ける韓国とも遜色のない感染者数・死者数にとどまっていることは、特筆に値するだろう。 だが、コロナ対策に関する安倍首相の一連の意思決定に対する評価は低い。「全校一斉休校」や「アベノマスク」の決断が、専門家の助言に基づかない首相の独断だったことが次々に報道された(本連載第237回)。 一方で、さまざまな専門家が持論をメディアやSNSで次々と発表し、国民がそれに従って行動自粛を続けていることに違和感を持つ人も少なくない。何より、外出や営業の自粛によって倒産や破算の危機に陥った事業者や個人は強い不満を持つようになっている(第239回)。 そこで本稿は、安倍政権の意思決定を検証する。コロナ対策で注目が集まったのは、「専門家」の存在だ。テレビのワイドショーやインターネットのニュースサイトなどに「専門家」と称される人々が登場しない日はない。コロナ対策を理解するには、通常の政策課題と比べて格別に高い専門性を必要とする。それでも国民は、その内容を強く知りたがっているということだろう。そして、日本のコロナ対策の陣頭指揮を執るのはいわゆる「専門家会議」だ』、「専門家会議」の実態をみておく必要もありそうだ。
・『官僚が強大な権力を行使できる審議会 専門家は「お墨付き」を与えるだけ  政策立案において、首相官邸・内閣府の主導が強まっていることは、かねて指摘されてきた(第183回)。しかし、官邸・内閣府が扱う政策案件は全体のごく一部で、政権が支持率を高く維持するために最重要と考える案件だけだ。首相側近の加藤勝信氏(現厚労相)が、かつて「一億総活躍相」など、一見、まったく関連性のなさそうな7閣僚を兼務したのは、世論に受けそうな政策をタイミングよく繰り出すことを政権が何より重要と考えていたためだ(第163回・P3)。 一方、大多数の政策は首相官邸や内閣府が関わることなく、粛々と各省庁で立案され、実施されているのが実態だ。そして政策立案の始まりは、各省庁に設置される「審議会」である。そこに委員としてかかわるのが「専門家」だ。 筆者は、かつてこの審議会について論考を書いたことがある(前連載第20回)。小泉純一郎政権期の2004年に成立した「年金改革法」についてだ。 当時、経済財政諮問会議の委員であった大田弘子氏(現・政策研究大学院大学特別教授)が著書『経済財政諮問会議の戦い』で、「2002年12月に厚労省から諮問会議に改革のたたき台が出た時点で、制度の抜本改革が却下され、現行の制度体系を基本として改革を進めると決められていたこと」を問題視していた。 大田氏は、「制度の抜本的改革には、諮問会議で審議する前に厚労省の審議会・社会保障審議会年金部会でそれを議題として取り上げておかなければならなかった」と指摘している。厚労省が都合の悪い改革案をたたき台に載せなかったので、議論のしようがなかったというのだ。 大田氏の回想は、政策立案過程で「議題設定」の権限を持つ者が極めて大きな権力を行使できることを指摘している。自己に有利な争点だけを選別して政策決定プロセスに持ち込むことができるからだ。 各省庁の審議会では、事務局を務める官僚が議題を設定し、専門家を参考人として招致。彼らの意見を聞き、質疑応答の後に議事録を作成して次回の議案を作成する。審議会の委員は、実質的には質疑応答に参加するだけ。要は、官僚が完全に議論をコントロールしているのだ。 審議会で委員に求められる役割とは何か。筆者が英国に留学中、在外研究で英国に来ていたある経済学者に会ったことがある。彼は、政府の審議会委員の経験について「学者の役割は、官僚がやってほしいことにお墨付きを与える助言をしてあげることだよ」と言い切っていた。 故に、委員には現在の世界最先端の研究に携わっている若手が起用されることはほとんどない。学会等の推薦によって、かつて大きな業績を挙げた重鎮の学者が起用される。彼らは「御用学者」と呼ばれることがある。) 一方、政策を実質的に立案する官僚は、多くが東京大学などの学部卒である。財務官僚の多くが東大法学部出身で、彼らは基本的にジェネラリストの行政官だ。一度は海外留学する機会を持つ人が多いが、学部卒が多いために留学では修士号取得にとどまり、博士号まで取得する人は限られる。もちろん政策について一定の専門性は持っているが、それは行政の経験に基づくものだ。官僚が作成する政策案は、理論的というより現行制度をベースにした現実的なものになる。 一方、米国や英国など欧米の政府でも審議会はあるが、専門家が政策立案に関わる機会はそれだけではない。専門家は、若手の頃からさまざまなレベルでのポストに応募する機会がある。省庁では、政策の原案を練るところから多数の専門家が入り、先端の研究の知見が反映されることになる。 また、官僚組織が終身雇用・年功序列でないことから、専門家は大学・研究所・シンクタンク等と省庁の間を何度も行き来しながらキャリアを形成していく。これを「回転ドア(Revolving Door)」と呼び、終身雇用をベースに省庁を退官後に官僚が民間に籍を移す、日本の「天下り」と対比されることがある。 欧米のこの「回転ドア」は、大学と役所の専門家間で多くの「政策ネットワーク」が形成されることにつながる。また、省庁のポストには学会の推薦ではなく個人で応募する。そのため、学会に従順な専門家だけでなく、多様な学説を持つ専門家が政策立案に参画することになる。学説の間での「競争」が起こって政策案が磨かれ、政府の選択肢も増えることになる』、「欧米のこの「回転ドア」・・・省庁のポストには学会の推薦ではなく個人で応募する。そのため、学会に従順な専門家だけでなく、多様な学説を持つ専門家が政策立案に参画することになる。学説の間での「競争」が起こって政策案が磨かれ、政府の選択肢も増えることになる」、日本も大いに見習うべきだろう。
・『コロナ対策の司令塔「専門家会議」は平時を想定して設置した?  日本のコロナ対策と専門家の関係に話を戻そう。今回のコロナ問題で陣頭指揮を執る「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(以下、専門家会議)は20年2月14日、首相官邸の「新型コロナウイルス感染症対策本部」の傘下に設置された。 その時点では、政府は事態をそれほど深刻に捉えていなかったと思われる。中国などからの入国禁止という強い措置を取ることはなく、感染拡大が過ぎ去れば、中国の習近平国家主席の国賓来日も予定通り行われ、東京オリンピック・パラリンピックも無事に開催できると考えていたはずだ。あまり、「有事」という感覚はなかったと思われる(第234回)。 だから、専門家会議は「平時」の審議会・諮問会議と同様に、学会の重鎮が大所高所から助言を行うために設置されたと考えられる。専門家会議の委員は12人。座長は脇田隆字・国立感染症研究所所長。副座長の尾身茂・地域医療機能推進機構理事長は、20年間世界保健機関(WHO)に勤務し、西太平洋地域におけるポリオ根絶を手掛けたことで世界的に知られる大物だ。 その他、岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長、押谷仁・東北大学大学院医学系研究科微生物分野教授、釜萢敏・日本医師会常任理事、河岡義裕・東大医科学研究所感染症国際研究センター長、鈴木基・国立感染症研究所感染症疫学センター長など、学会の重鎮がズラリと並んだ。 一方、コロナ対策の具体策を立案し、専門家会議の議題設定をするのは、厚労省・健康局結核感染症課の医系技官だ。医師免許・歯科医師免許を有し、専門知識をもって保健医療に関わる制度づくりの中心となる技術系行政官のことを指す(厚生労働省「医系技官採用情報」)。 日本のコロナ対策は当初、PCR検査を抑制的に行い、医療崩壊を防ぎながら感染拡大が終息するのを待つというものだった(第234回・P3)。この意思決定には、2つの理由がある。1つは、新型コロナが「指定感染症」となり、コロナに感染したと診断されると無症状や軽症の人でも原則的に病院で入院隔離措置を取らねばならない「感染症法」が適用されること。もう1つは、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)を経験しなかった日本の感染症医療体制の脆弱性を考慮したものだ(第49回)。医系技官らしい、現行法と現場能力を考えた現実的な政策だったと思う。 ただし、そこに問題がなかったわけではないという指摘がある。上昌弘・医療ガバナンス研究所理事長によれば、世界のコロナ対策の議論をリードする英医学誌「ランセット」や英科学誌「ネイチャー」などの学術誌の議論を医療技官はフォローできていなかったという(上昌弘『医療崩壊 (37) 「医系技官」が狂わせた日本の「新型コロナ」対策(下)』)。 同記事は、世界の最先端の研究成果で次第に明らかになっていく新型コロナの特性について、医療技官は十分な情報を得られていなかったと指摘。その結果、「感染拡大が過ぎ去るのを待つ」という最初に立てた対策に長い間固執してしまうことになったという。 この指摘が正しいとすれば、医系技官は医師免許を持っているが、世界の最先端の議論を追う専門家ではないということだ。さらにいえば、専門家会議の重鎮たちも最先端の議論をフォローできていない、研究者として第一線を退いた人たちばかりだったということになる』、「医系技官は医師免許を持っているが、世界の最先端の議論を追う専門家ではないということだ。さらにいえば、専門家会議の重鎮たちも最先端の議論をフォローできていない、研究者として第一線を退いた人たちばかりだった」、という「上昌弘」氏の指摘通りだとすれば、うすら寒い実態だ。
・『専門家会議が「クラスター対策」を批判的に検証できない構図が問題  一方、「厚労省・クラスター対策班」が発足したのは専門家会議の発足から11日後の2月25日だ。コロナの感染拡大が過ぎ去るのを待っていたかに見えた政府が、事態の深刻さを受け止め、ようやく明確な新型コロナ対策を打ち出した。 クラスター対策班とは、厚労省の新型コロナウイルス対策本部に属する総勢約30人の組織だ。「クラスター対策」とは、理論疫学を専門とする西浦博・北海道大学教授と専門家会議の委員でもある押谷・東北大学大学院教授が中心となって考案したものだ。 押谷氏が3月29日に発表した「COVID-19への対策の概念」によれば、クラスター対策とは、SARSや新型インフルエンザとは異なる、新型コロナウイルスの特性を考慮した対策である。 SARSや新型インフルではすべての感染者が重症化したため症例を把握しやすく、感染連鎖をたどって断ち切ることで封じ込めに成功した。しかし、新型コロナは多くの感染者が軽症か無症状なので、すべての感染連鎖を見つけだすことができない。 ただ、対策を検討する上で重要な特徴も分かってきていた。新型コロナは、多くの場合は周囲にほとんど感染させない一方で、特定の人から多くの人に感染が拡大していたのだ。つまり、「クラスター(感染者の集団)」を制御すれば、新型コロナは終息していくことになる。そこで「クラスター対策」を考えたのだという。 西浦氏は、クラスター対策の具体的な方策を論文として発表している・・・ただし、多くの国で採用されているSARSや新型インフルの対策に準じたコロナ対策とは異なる手法であり、クラスター対策はいまだ仮説の域を出ないというのが公平な見方だろう。 問題は、西浦氏が提案する「クラスター対策」という仮説を、専門家会議が批判的に検証できないことだ。西浦氏の専門は、個人ではなく集団を対象として病気の発生原因や流行状態、予防などを理論的に研究する「理論疫学」。そして、専門家会議のメンバーで「理論疫学者」は押谷氏と鈴木氏だが、2人とも西浦氏のクラスター対策に関する論文の共同執筆者として名を連ねている。クラスター対策を批判的に検証する立場にない。 その他は、脇田座長(C型肝炎)、尾身副座長(ポリオ)、岡部氏(小児科学)、河岡氏(エボラウイルス)、川名氏(呼吸器内科)、館田氏(微生物学)、吉田氏(感染症制御学)と、すべて「個人の予防と治療の専門家」の臨床医。「理論疫学」は専門ではないのだ。 そして、クラスター対策という仮説は専門家会議で承認された。安倍首相は、クラスター対策しか専門家会議から提案されなければ、それを認める以外の選択肢はない』、「クラスター対策はいまだ仮説の域を出ない」にも拘らず、「専門家会議のメンバー」には、「クラスター対策を批判的に検証」できる人間がいないというのは、空恐ろしいことだ。
・専門家会議メンバーではない西浦氏がコロナ対策「司令塔」のような振る舞い  それ以降、西浦氏は専門家会議のメンバーではないにもかかわらず、政府のコロナ対策の「司令塔」のような振る舞いをするようになった。4月7日、安倍首相は東京や大阪など7都府県に緊急事態宣言を発令した。その際、首相は感染者数について「このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1カ月後には8万人を超えることになる」「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じることができる」と述べた。これは、4月3日の日本経済新聞にも出た西浦氏の試算が基となっている・・・この試算は「西浦モデル」と呼ばれるようになった。そして4月10日、西浦氏に自信を与える出来事が起きた。「感染者(発症者)全員が等しく感染を広げるのではなく、クラスター化した感染が大規模感染をもたらす」というクラスター班の発見を、WHOが記者会見で称賛したのだ。 WHOは、大スポンサーである中国に「忖度」する行動を繰り返して新型コロナ感染拡大の事態を悪化させた。また、日本がWHOへの拠出金を増額することを表明すると、途端に日本の新型コロナ対応を称賛するようになった(第236回)。そんなカネに汚いWHOに称賛されても価値はなさそうだが、それでも「西浦モデル」に「権威」を与えることになった。 4月15日、西浦氏は記者会見を開き、まったく対策をとらない場合、国内の重篤患者が約85万人に達し、その49%(単純計算で41万人超)が死亡するという新たな試算を発表。あらためて、「接触8割減の徹底」を国民に求めた。 そして、その翌日の4月16日、安倍首相は、緊急事態宣言を全国に拡大する方針を明らかにした。西浦氏はその記者会見にも登場した。その後も西浦氏はSNSを使って、「三密(密閉、密集、密接)の回避」という国民の意識を変える啓蒙活動を続け、テレビ出演も頻繁に行っている。しかし、繰り返すが、西浦氏は専門家会議の委員ではないのだ』、「西浦氏」は確かに「テレビ出演も頻繁に行っている」が、「日本がWHOへの拠出金を増額することを表明すると、途端に日本の新型コロナ対応を称賛するようになった」、というのは初めて知って、驚いた。「接触8割減の徹底」も「西浦モデル」の試算値に過ぎないようだ。
・『緊急事態宣言の延長から一部解除の間にも検証なされず  その後、5月6日に安倍首相は、期限を迎えた緊急事態宣言を5月末まで延長すると発表した。新規感染者数は全国的に減ったものの、西浦氏は「収束のスピードが期待されたほどでなく、感染拡大で医療提供体制へのさらなる負荷が生じる恐れがある」と慎重だったため、専門家会議は首相に期限延長を進言した。 そして前述の通り、5月14日には安倍首相は緊急事態宣言について、39県で解除すると表明。解除しなかった都道府県についても、専門家の評価によって可能であれば5月31日を待つことなく解除する方針だ。 だが、「西浦モデル」については何も検証がなされていない。西浦氏が訴えた「人の接触を8割減らす」は達成できなかったのだが、新規感染者は減った。結局、「クラスター対策」という仮説は正しかったのか。何より、「死者41万人超」という試算の詳細な根拠はいまだに提示されないままなのだ』、「西浦氏は「収束のスピードが期待されたほどでなく・・・」、「期待」を明らかにしないで、こうした発言をするのは学者の風上にも置けないようだ。
・『自民党の厚労族議員が医療現場の声を官邸に上げない理由  「西浦モデル」に対する批判は、特に現場で新型コロナの治療に当たる臨床医から多く出てきている。例えば前出の上氏は、日本の新型コロナで問題なのは「院内感染」だが、「人との接触8割減の徹底」は、院内感染には効果がないと批判している・・・。 ある自民党の議員と医療関係者から聞いた話を総合すると、このような現場の声は医系技官がガードを固めた専門家会議には届かないが、自民党の厚労族議員などが受け止めているのだという。それでも、その声は自民党から首相官邸に届けられることはないようだ。今、新型コロナ対策について、首相官邸と自民党の間のコミュニケーションの場がほとんどないのだ。 現場の医師はSNSなどでさまざまなコミュニティーをつくって情報交換をし、現場の状況や要望を代表者がツテをたどって厚労族に伝えている。しかし、厚労族はほとんどそれを官邸に伝えず、抱えているのだという。 自民党には、全国の支持者から「現金給付を」「補償を」と、支援を求める声が凄まじい勢いで届いているという。しかし、自民党はそれらをダイレクトに首相官邸に持ち込んで訴えることはせず、党までで止めている。それは、現金給付の当初案に端的に表れている。最初に岸田文雄政調会長が取りまとめた現金給付案は、自民党支持者には届かない生活保護ギリギリの層に限定した30万円の給付だったからだ(第239回)。 自民党は、東日本大震災・福島第1原子力発電所事故が起きた際の当時の民主党政権を反面教師にしているようだ。民主党議員が支持者の声を官邸に次々と持ち込んで大混乱になったことを教訓にして、安倍首相が指導力を発揮しやすいように抑制的に行動しているのだという。特に、民主党政権時の災害・事故対応の拙さは、安倍首相が民主党政権を「悪夢」と呼ぶ理由の1つだ。つまり自民党は、安倍首相に「忖度」して、黙って我慢しているといえる。 そのストレスが爆発したのが、5月7日の自民党の「経済成長戦略本部・新型コロナウイルス関連肺炎対策本部の合同会議」だったのではないだろうか。同会議では多くの議員が殺到し、立ち見が出るほどの混雑となって「三密会議」と批判された』、「自民党は、安倍首相に「忖度」して、黙って我慢している」、いくら「民主党政権を反面教師にして」、とはいえお粗末過ぎる。
・『安倍政権のコロナ対策での迷走は森友・加計学園問題と根っこが同じ  自民党が安倍首相に「忖度」して、医療の現場や支持者の声を受け止めながら首相には伝えない。その一方で、首相官邸・内閣府にはさまざまなツテをたどって、数々の要望が伝えられている。この連載では、「森友学園問題」「加計学園問題」などに関係して、同様の問題を論じたことがある(第176回)。 コロナ対策も同じ構図だ。さまざまな人が官邸・内閣府にやって来ることと、「全校一斉休校」(第234回)「アベノマスク」(第237回)「9月入学(秋入学)の検討」(第241回)などが唐突に浮上し、決まっていくことと関連がないとはいえない。 また、専門家やメディアの間で激しい論争が続く、PCR検査を拡大するか抑制するかについても、安倍首相や加藤厚労相の発言が二転三転しているようにみえる。官邸・内閣府に「拡大派」と「抑制派」が入れ代わり立ち代わり現れて、首相や厚労省を前に自説を展開して帰っていくからだという。特に首相は「八方美人」的なところがある。面と向かって相手の言うことを否定はしない首相の性格が、政府の意思決定を混乱させている面がある』、いくら「首相は「八方美人」的なところがある」とはいっても、自分の発言がブレるのはお粗末過ぎる。
・『今度は「疫学vs経済学」の構図で専門性を欠いた迷走が続く可能性も  5月12日、政府は新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づき設置されている「基本的対処方針等諮問委員会」に、小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹ら経済の専門家4人を加えることを決めた。専門家会議の上部の組織体に経済学者を加えたことで、西浦氏らの影響力が下がり、今後は疫学よりも経済が優先されるように潮目が変わるのだろう。 小林氏は早速、「コロナ対策で収入減少に直面した個人に毎月10万円の現金給付を行うべきだ」などと積極的に発言を始めている。ただし、「経済の停滞を避けるには、財政拡張政策を継続すると同時に、大規模な検査を実施できる能力を確立し、陽性者を隔離して陰性者の不安感を払しょくすることが不可欠である」と指摘したことは、小林氏の専門性とは無関係の発言だ。疫学と経済学の間で、今後も専門性を欠いた迷走が続く懸念がある。 日本の新型コロナウイルスの感染者数・死者数の少なさは、「日本の奇跡」「日本の謎」と世界から呼ばれている。韓国の防疫体制のように「世界のモデル」と称賛されることはない。どうひいき目に見ても、安倍政権の意思決定が混乱していたのは明らかだ。日本のコロナ対策は、たまたまうまくいった「結果オーライ」だとみなされているのだ。 本稿は、日本の政策決定システム、特に「有事」におけるシステムの問題点を詳述してきた。たとえコロナの感染者数、死者数が欧米より少なかったとしても、それがただの幸運ならば、これでいいのだと安心はできない。今後、エボラ出血熱のような強毒性のウイルスに襲われたとき、今のシステムではひとたまりもないだろう。政策決定システムの抜本的な見直しが必要といえる』、説得力溢れた主張で、諸手を挙げて賛成したい。

次に、5月19日付けプレジデント Digitalが掲載したフリーランスライターの三浦 愛美氏による「絶望…コロナ対応国民評価ランキング、安倍晋三がダントツ世界最下位に ついに無能さが数字になってバレた」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/35418
・『日本に漂う政治への不信感がデータとして表れた  「コロナで死ななくても、収入が絶たれて死ぬよ」 ポツリとそうつぶやく自営業の男性がTVに出ていた。同様の溜め息がいま日本全国に広がっている。4月7日発令の「緊急事態宣言」はさらに延長され、十分な補助や補償がないまま4月をなんとか耐え忍んだ中小企業や個人事業主、非正規雇用者などが、次々に廃業、解雇、雇い止めに追い込まれている。 中国が武漢のロックダウン(都市封鎖)を行ったのが今年の1月末。3月には欧州各国が相次いでロックダウンを実施し、同時に休業補償等も速やかに行うなか、日本では5月半ば現在、いまだ10万円の給付金はおろか、首相肝いりの「アベノマスク」2枚すら全国民の手元に届いていない。首相お気に入りのフレーズ「スピード感」は、いったいどれくらいの速度をイメージしているのだろうか。 そんな怒りとも嘆息ともつかない国民感情を反映する数値が、この度、海外の調査会社によって明らかになった。シンガポールの調査会社ブラックボックス・リサーチとフランスのメディア会社トルーナが、共同で行った意識調査だ。 両社による「自国のコロナ(COVID-19)対応への満足度」調査では、ほとんどの国が自国のコロナ対応に不満足を抱いていることがわかったが、なかでも注目すべきは日本の満足度のずば抜けた低さだった』、この「意識調査」は、昨日紹介した「マッキャン・ワールドグループ」による「世界14ヵ国を対象としたグローバルアンケート」とは、調査対象も含め全く別物だ。
・『国民による政権評価、日本はダントツ最下位  23の国と地域に住む約1万2600人(18~80歳)を対象に行われたこの調査の質問項目は全部で4つだ。「政治的リーダーシップ」「企業のリーダーシップ」「地域社会」「メディア」の4分野における世界の総合平均点は100点満点中、45点だった。それに対して日本の総合スコアは16点という驚異的な低さ。「政治的リーダーシップ」分野にいたっては、世界平均40点のところ、驚きの5点だった。見事な赤点ぶりというほかなく、当然のことながら順位は「政治リーダーシップ」でも総合でも、23カ国・地域の中でダントツの最下位だった。 以下、調査結果を詳しく見ていこう』、「日本は」「政治的リーダーシップ」で僅か「5点」、「総合」でも「16点」、と「ダントツ最下位」とはみっともない話だ。
・『西洋先進国よりアジアのほうが、満足度が高いワケ  ランキングのトップに輝いたのは、総合分野で85点を記録した中国だ。4つのカテゴリーすべてでもっとも国民の満足度が高い結果となった。2位はベトナム(77点)、3位はアラブ首長国連邦とインドが同じ59点と続く。 西洋諸国のなかで総合点が平均の45点を上回ったのは、ニュージーランド1国のみ。アメリカ・オーストラリア・イタリア・ドイツ・イギリス・フランスはすべて平均点以下で、特にフランスは西欧諸国内で最下位、23カ国・地域全体でも下から2番目の順位に甘んじることとなった。 さて、この結果をどう見るべきだろう。調査結果は「〈西洋圏〉のほうが〈アジア圏〉よりも自国満足度が低い傾向にある」ことを示している。その理由の一環としては、「アジア主要国は、過去に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)などの経験があり、ふたたび同様の呼吸器系疾患が蔓延しても、自国政府は必要な手段を講じるはずだと信じているから」だと述べられている。 たしかにその点、幸運にも過去の新型コロナウイルスの影響を受けることがほどんどなかった日本やアメリカ、そして西欧諸国は、今回のパンデミックに対しても心の準備ができていなかったといえる。中国武漢で感染爆発したときも、どこか対岸の火事として眺めていた節がある。まさか“先進国”たるわが国の医療体制がここまで壊滅的打撃を受け、政治や経済が混乱することになるとは専門家以外は実感していなかったのだろう。 「フランス人の84%が、指導者のコロナ準備対応が遅すぎると感じており、日本の82%、アメリカの74%の国民も、同様の思いを抱いている」と調査報告は続ける』、「トップに輝いたのは・・・中国だ・・・2位はベトナム・・・3位はアラブ首長国連邦とインド」、というのは首を傾げざるを得ない。
・『中国の点数、異様に高いことが気になる  それにしても中国の点数が異様に高いことが気になる。ブラック・ボックスの創業者兼最高経営責任者のディビッド・ブラック氏は、中国に関してこのような指摘をしている。 「ほとんどの国が自国民の期待にうまく応えられていないなかで、唯一の例外は中国だ。それは世界がいまだコロナの感染爆発から抜け出せていないなか、中国だけがコロナを抑え、すでに次のフェーズへと歩みだしているからだ。中国政府はうまくこの危機を乗り切ったと国民が感じていることの証しである」。 たしかにこの調査が行われた時期が4月3日~19日だったことを考えると、その分析もうなずける。ただ、上位2カ国の中国とベトナムは、共に社会主義国家でもある。都市封鎖や行動制限の厳格さは、他の国々よりも徹底して行うことができたし、また言論の自由という意味でも、他国と単純に比較することができるかは不明な点も多い。 実はコロナウイルスが中国で蔓延しはじめた2月初め、私は中国人の知人に「マスクは足りているか」とSNSを通じてメッセージを送ったことがある。だが、普段ならすぐに返事が来るはずなのに今回はノーレスポンス。返事が来たのは2カ月後の4月1日だった。メッセージには「中国ではこの間、SNSが禁止されており返事ができなかった」とサラリと書かれてあった』、「言論の自由」がない国での「意識調査」にどれだけ意味があるのかは疑問だ。「中国」政府は「コロナ」抑制に成功したことを世界に大々的にPRしようとしており、この調査はその片棒を担いでいる可能性もある。
・『日本の国民は政治のリーダーシップに不満足  現在、中国はコロナウイルスが武漢発祥であることの打ち消しに躍起になっている。危機を乗り越え、他国を援助できる力強い国としてのイメージ戦略にも奔走していることなども、考慮に入れるべきだろう。 ただ、そういったことも、日本のランクが最下位であることの言い訳にはならない。「世界中の国民が自国リーダーの手腕に期待しているが、それに成功して50点以上を獲得できているのは7カ国のみ。ランキング最下位の日本の場合は、わずか国民の5%しか政治のリーダーシップに満足していない」(調査報告)からだ。 日本についての分析はさらにこう続く。「日本の低評価は、緊急事態宣言の発令が遅れたことや、国民が一貫して政権のコロナ対策を批判している現実とも合致している。明らかに日本国民は政治のリーダーシップに不満足であり、安倍政権はこのコロナ危機(という負荷の状態)において、(政治が正常に機能していないと見なされ)リーダーシップのストレステストに合格しなかったのだ」(ブラック氏)』、「日本」についての指摘はその通りだ。
・『安倍首相はリーダーシップを発揮できていないという実感  しかも、改めてよく考えてみよう。今回の調査対象にはイタリアやスペイン、フランスやアメリカなど感染爆発により医療崩壊を起こした国々も多く含まれているのだ。命の選別トリアージが行われ、死者が続々と一時遺体安置室と化した大型冷蔵車に運び込まれ、葬式も出せず埋葬されていく光景を、私達もTV画面を通じて痛ましい思いで眺めていたはずだ。 一方の日本はそこまでの惨状にはギリギリ至っていない。たしかに、いまだPCR検査数が他国に比べて圧倒的に少ないため、そもそもの感染者数が厳密には把握しきれていないという指摘もある。急激な体調悪化で救急車搬送されるも、何十軒もの病院に受け入れを拒否されたという人もいる。それでも5月12日時点の公式発表では、コロナ感染者数は1万6024人で、死亡者数は691人だ。誤差は存在していても、少なくともアメリカの感染者数130万人超え、死亡者数8万人超えの規模に比べたら雲泥の差だ』、確かに「日本」より深刻な「アメリカ」が13位というのは、意外にも思えるが、次にみるように「政治的リーダーシップ」の差なのかも知れない。
・『コロナ禍で明暗を分けたリーダーシップ像の違い  それでも、日本の国民は政権のリーダーシップに満足していない。ブラック氏は、「ほとんどの政権にとって今回のパンデミックは前例がなく、いまだ予期せぬ事態に振り回されている」とコメントしているが、日本の場合は、それ以前の問題かもしれないのだ。それはたとえば、首相自ら「PCR検査を1日に2万件に増やす」と宣言しておきながら1カ月後にも同じことを言っている現実や、「かつてない規模」の「あらゆる政策を総動員」した「大規模な対策」の結果が、まさかの「1世帯2枚の布マスク」であることの衝撃、しかも予算466億円を見積もって届いたマスクがカビだらけだったことの情けなさ、そもそもその予算や発注先も不明瞭な点が多々あることへの不信感など、国民の間に横たわる不安感や絶望感が影響しているのではないだろうか。 今回、西洋諸国でトップに立ったニュージーランドは、「感染拡大の抑え込みに成功し、ジャシンダ・アーダーン首相のリーダーシップは国民から高い評価を受けている」と、ブラック氏から評されている。 かの国の「政治的リーダーシップ」は67点。最下位の日本の5点とは比較にならないが、いったいその差はどこにあるのだろうか』、「政治的リーダーシップ」では、NZは当然として、アメリカでもニューヨーク州のクオモ知事の大活躍と比べ、日本の対応はお粗末だ。
・『SNSで国民に語りかけるNZ首相、一方日本は…  アーダーン首相は笑顔が魅力的な39歳の女性である。だが、美人であるだけではもちろんない。観光国にもかかわらず3月19日時点でいち早く外国人旅行者に対して国境封鎖を行うなど、大胆な決断力と行動力を持っている。その一方で、オフタイムにはスエット姿で自宅からSNSに登場し、気さくに国民からの質問に応える柔軟性も持つ。国民を「500万人のチーム」と呼び、メッセージの最後には必ず「強く、そしてお互いに優しく」と語りかける人間的な親しみやすさが伝わってくる。 翻って日本だ。幸か不幸か、自粛生活で日中にTVを観る人が増え、リアルタイムで国会中継を観る人が増えた。そこで私たちが目にしたのは、カンペがないと目が泳ぎ、事前報告がない国会答弁には、キレまくる首相の姿だった。しかも、コロナ危機という「緊急事態」の裏で、「検察庁法改正案」を押し通そうとする姿勢には、たった数日で400万件以上の「#検察庁法改正案に抗議します」ツイートが国民から発せられた。両者の差は歴然である』、同感だ。
・『自粛警察が続出する日本「地域社会」の点数も低い  もっとも「政治的リーダーシップ」以外の分野でも、日本の課題は多い。「コロナ危機において、企業はより積極的な役割を果たすべき」と考えている人は多く、調査対象の82%の人々が、少なくとも「上場企業は最低限の貢献を社会になすべき」だと感じているからだ。そうしてみると、日本の「企業リーダーシップ」が6点(世界平均28点)というのは、残念な数値だ。その他、「地域社会」が6点(世界平均37点)であることも、「自粛警察」が他者を批判する事例が続出する日本ならではの数値かもしれない。 ブラック・ボックスの調査報告の最後は、このように締めくくられている。 「パンデミックで私たちの世界観は劇的にシフトしていくでしょう。政府のあり方、ビジネス手法、健康医療分野においても。コロナウイルスは人類にとって最初で最後のパンデミックではなく、各国のトップは今後もさらなる政治の舵取りや危機インパクトを熟考していく必要があります」。それこそが国民の信頼の回復につながるとつづっているのだ。 図表1 コロナ対策の国民評価ランキング(総合順位)(リンク先6頁参照)』、「コロナウイルスは人類にとって最初で最後のパンデミックではなく、各国のトップは今後もさらなる政治の舵取りや危機インパクトを熟考していく必要があります」、というのも同感である。

第三に、5月21日付けJBPressが掲載した結城カオル氏による「緊急事態宣言と自粛経済の負の側面は正当化できない 政府のコロナ対応について国際政治学者の三浦瑠麗氏に聞く」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60609
・『安倍晋三首相は東京都や大阪府を除く39県で、新型コロナウイルス感染に伴う緊急事態宣言を解除すると表明した。大阪府、京都府、兵庫県の関西2府1県でも解除に向けて検討が進むなど、懸念された感染拡大は落ち着きつつある。他方、未曾有の緊急事態宣言と、それに伴う自粛要請は今なお経済に深刻なダメージを与えている。感染第一波に一区切りがつこうとしている今、緊急事態宣言という判断の是非について、国際政治学者の三浦瑠麗氏に話を聞いた(Qは聞き手の質問)』、保守派論客の「三浦瑠麗氏」がどうみているか、は興味深い。
・『「緊急事態宣言は不要だった」  Q:東京都の小池百合子知事は政府の緊急事態宣言が続く5月31日まで、都内の外出自粛や休業要請の解除や緩和を実施しない方針を示しています。三浦さんは最近、ツイッターで自粛経済を批判しています。緊急事態宣言とそれに伴う自粛経済についてお考えをお聞かせください。 三浦瑠麗氏(以下、三浦):私は緊急事態宣言は不要だったと考えています。日本は初期段階でコロナを警戒した人が多く、既に2月の段階で飲食店や宿泊施設などは打撃を受けていました。ダイヤモンドプリンセス号での集団感染が判明した1月下旬から客足が途絶えていたというお店もあります。このように経済的に自粛し始めていた段階で、あえて緊急事態宣言を発令する意味がどこまであったのかという疑問があるからです。 今回の緊急事態宣言には、医療体制を拡充させるまでの時間を稼ぐという面と、クラスター対策班がクラスターを追える規模まで感染者数を減らすといった目的がありました。前者の時間稼ぎという点は理解できますが、その際に重要な参考データとなるはずの東京都の重症患者の病床占拠率が間違っていたことがこのほど明らかになりました。緊急事態宣言延長直前に、専門家会議が医療リソースは引き続き逼迫しているという見解を表明しましたが、その基になった情報自体が部分的に不正確だったということです。後者はクラスター対策班の目的であって、それを実現した結果、何の役に立つのかということが明らかにされていません。 Q:クラスターを放置すると指数関数的に感染者数が増える、それゆえに感染者を追うという話でしたよね。 三浦:もちろん、水際対策としてクラスター対策班の存在は重要でした。とりわけ、感染初期のクラスター潰しには大きく貢献したと思います。「感染者の80%は人に感染させない」という知見が得られたのも、夜の街の接客業を介して感染が広がっていることを示したのも、その後の行動変容を設計できるという点で意義がありました。実態調査という意味では、とても重要だったと思います。 ただ、国の研究チームが4月に実施した新型コロナの抗体検査では、東京都内で0.6%が陽性と判定されました。検体数が少ない点を考慮に入れる必要がありますが、都の人口1400万人の0.6%ですから、単純計算で8万4000人が抗体を持っているということになります。報告感染者数の約5000人と比べてはるかに多い。それだけ、市中感染が進んでいるということです。東京大学の研究チームが実施した抗体検査でも同様の結果が出ています。 Q:既に、クラスター対策で追える規模ではありませんね。 三浦:全体の母数を探りたいのであれば、クラスター班で追跡するよりも、母集団から無作為に取った抗体検査の方が統計的には正しいですよね。 仮に新型コロナの致死率が高く、潜伏期間が長いということであれば、重症化した途端、死んでしまうリスクがありますので、感染者をすべて追いかける必要があります。しかし、先ほどの抗体検査の結果が正しければ、新型コロナウイルスの致死率は0.26%でインフルエンザの倍程度にとどまります。しかも、死亡者は「高齢」「男性」「持病持ち」に集中している。年間の肺炎の死亡者は約9万人。今年中に3600万人が新型コロナに感染しない限り、その数には到達しません。 Q:その中で、緊急事態宣言を続ける意味がどこにあるのか、と。 三浦:緊急事態宣言の負の要素として、失業者の増加や企業の損失、国内総生産(GDP)の減少が考えられます。傾向値に過ぎませんが、失業者が1%増加すると1000人以上の自殺者が増えるという統計もある。とりわけ今回の緊急事態宣言では、それまで健全に経営していた会社まで打撃を受けています。社会に対する破壊力は極めて広範に及ぶ。こういった負の側面を緊急事態宣言は正当化できるのでしょうか。私は正当化できないと考えています』、最後の部分は同感である。
・『「都知事が小池さんであることに強い不安」  Q:改正新型インフルエンザ等対策特別措置法では、外出自粛や休業要請は都道府県知事の権限です。自治体の対応はどう見ますか。 三浦:全国知事会の議論を見ていると、各知事は横を見て行動しているように感じます。選挙で選ばれた政治家なので仕方ありませんが、それぞれの自治体がライバル関係になっている。大阪府知事と兵庫県知事で自粛解除の独自基準を巡って対立したのは典型でしょう。 また、気になるのは地方自治体の対応の優劣が感染者数で計られているところです。本来は病床をどれだけ増やしたか、失業や倒産をどれだけ減らしたか、ということまで含めて実力が測られるべきです。休業要請は知事の権限ですが、その際に経済における指標は考慮されず、感染者数をゼロにすることが目標になってしまっている。それだと経済は死んでしまいます。感染者数ばかりがクローズアップされた弊害だと思います。 Q:日本経済の中心である東京都はいまだ外出自粛や休業要請を続けています。 三浦:日本の成長の大部分を担う東京都知事が小池(百合子)さんであることに、強い不安を感じています。 小池さんのこれまでの都政を見ても、築地市場の豊洲移転に疑義を呈することで人気を得ましたが、豊洲の状況は何も変わらないまま豊洲に移転しました。「安全だが安心ではない」といって豊洲移転を棚上げしましたが、移転したあとも安心の根拠は示されていません。 今回のコロナ対策でも非合理な対応が散見されます。日本商工会議所の三村明夫会頭とテレビ会議をしたとき、出社抑制のためにア行からナ行までの会社は午前中に出社し、それ以外の会社を午後の出社にしてはどうかと提案していました。三村会頭は「強制的にやるよりも、企業の工夫でできるような要請の方がいい」と冷静に返答していましたが、ちょっと常軌を逸しています。 Q:5月末で自粛要請は解除されますか? 三浦:それはするでしょう。重症者数の報告が間違っていた、十分に情報開示してこなかったという批判にも敏感になっているでしょうし、このままのペースが続けば、感染者数がゼロになってしまいますから。それをご自分の政治手腕の結果としてアピールしたいということだと思います。ただ、その発想自体が違いますよね。感染者数も重要かもしれませんが、それ以上にコロナによる死者数であり、失業者数でしょう。特に、経済への影響が相対的に軽視されている現状を考えれば、失業者を抑えることを目標にした方がいい』、「都知事が小池さんであることに強い不安」、これも同感である。
・『11カ月後に60万社が倒産危機  Q:ここまでの官邸の動きはいかがですか? 三浦:経済の司令
がいないということが問題です。西村康稔・経済再生担当大臣は感染症対策と経済対策の両方を見ています。それゆえに、経済を冷やすような発言をせざるを得ない場面があります。 また、官邸が考えている失業者や倒産の規模がまるで見えないのも問題だと思います。官邸はリーマンショック級の経済対策が必要と考えているかもしれませんが、それは規模感の落としどころであって、どれだけ経済が痛むのかというシミュレーションではありません。 4月25日放送のNHKスペシャルによれば、帝国データバンクはこのまま何もしなければ、11カ月後に60万社が倒産危機に陥るという試算を出しました。持続化給付金の効果は3カ月ほどで薄れ、そのあと何もせず売り上げ半減が続けばという話ですがたいへんな数です。また、日本商工会議所の三村会頭が明確におっしゃっていますが、第一次補正予算は4月の自粛に対応したものです。それ以上に自粛を続けたのですから、第二次補正予算は1カ月延長した5月分をカバーするところから始めるべきです。ただ、それ以前に第一補正予算の持続化給付金、雇用調整助成金の申請や支給にも時間がかかっています。 やはり早急に経済の司令塔を置き、経済への影響をシミュレーションするところから始めるべきだと思います。 Q:改めて、コロナについて。 三浦:緊急事態宣言を解除しても、企業が受けた打撃は容易には解消しないでしょう。人々の所得は減っており、健康に対する不安が根強く残っているからです。しかし、抗体検査が進んでいけば、致死率についてより正確な情報を共有できます。政治は、コロナの脅威の見積もりを現実に即したものに軌道修正していくことが必要でしょう』、「西村康稔・経済再生担当大臣は感染症対策と経済対策の両方を見ています。それゆえに、経済を冷やすような発言をせざるを得ない場面があります」、二律背反する問題を兼務させるのは、一概に悪いとはいえない。問題なのは「西村」や「安部首相」が二律背反する問題で、如何に意思決定したかを、分かり易く説明することをせすに、結論だけを押し付けてくることだ。
タグ:パンデミック 新型肺炎感染急拡大 ダイヤモンド・オンライン 「安倍政権のコロナ対策に募る不信、問題の本質が「専門家会議」である理由」 感染拡大はピークを過ぎたといっていい状況 (その13)(安倍政権のコロナ対策に募る不信 問題の本質が「専門家会議」である理由、絶望…コロナ対応国民評価ランキング 安倍晋三がダントツ世界最下位に ついに無能さが数字になってバレた、緊急事態宣言と自粛経済の負の側面は正当化できない 政府のコロナ対応について国際政治学者の三浦瑠麗氏に聞く) 上久保誠人 安倍政権の意思決定プロセスに問題 問題なのは「西村」や「安部首相」が二律背反する問題で、如何に意思決定したかを、分かり易く説明することをせすに、結論だけを押し付けてくることだ 11カ月後に60万社が倒産危機 「都知事が小池さんであることに強い不安」 「緊急事態宣言は不要だった」 「緊急事態宣言と自粛経済の負の側面は正当化できない 政府のコロナ対応について国際政治学者の三浦瑠麗氏に聞く」 結城カオル JBPRESS 自粛警察が続出する日本「地域社会」の点数も低い SNSで国民に語りかけるNZ首相、一方日本は コロナ禍で明暗を分けたリーダーシップ像の違い 安倍首相はリーダーシップを発揮できていないという実感 日本の国民は政治のリーダーシップに不満足 「中国」政府は「コロナ」抑制に成功したことを世界に大々的にPRしようとしており、この調査はその片棒を担いでいる可能性も 「言論の自由」がない国での「意識調査」にどれだけ意味があるのかは疑問 中国の点数、異様に高いことが気になる 西洋先進国よりアジアのほうが、満足度が高いワケ 国民による政権評価、日本はダントツ最下位 マッキャン・ワールドグループ」による「世界14ヵ国を対象としたグローバルアンケート」 シンガポールの調査会社ブラックボックス・リサーチとフランスのメディア会社トルーナが、共同で行った意識調査 「絶望…コロナ対応国民評価ランキング、安倍晋三がダントツ世界最下位に ついに無能さが数字になってバレた」 三浦 愛美 プレジデント Digital 今後、エボラ出血熱のような強毒性のウイルスに襲われたとき、今のシステムではひとたまりもないだろう。政策決定システムの抜本的な見直しが必要 経済の専門家4人を加える 基本的対処方針等諮問委員会 今度は「疫学vs経済学」の構図で専門性を欠いた迷走が続く可能性も 安倍政権のコロナ対策での迷走は森友・加計学園問題と根っこが同じ 自民党は、安倍首相に「忖度」して、黙って我慢している 自民党の厚労族議員が医療現場の声を官邸に上げない理由 西浦氏は「収束のスピードが期待されたほどでなく 緊急事態宣言の延長から一部解除の間にも検証なされず 専門家会議メンバーではない西浦氏がコロナ対策「司令塔」のような振る舞い 専門家会議が「クラスター対策」を批判的に検証できない構図が問題 上昌弘 医系技官は医師免許を持っているが、世界の最先端の議論を追う専門家ではないということだ。さらにいえば、専門家会議の重鎮たちも最先端の議論をフォローできていない、研究者として第一線を退いた人たちばかりだった コロナ対策の司令塔「専門家会議」は平時を想定して設置した? 省庁のポストには学会の推薦ではなく個人で応募する。そのため、学会に従順な専門家だけでなく、多様な学説を持つ専門家が政策立案に参画することになる。学説の間での「競争」が起こって政策案が磨かれ、政府の選択肢も増えることになる 欧米のこの「回転ドア」 官僚が強大な権力を行使できる審議会 専門家は「お墨付き」を与えるだけ 専門家会議 専門家が持論をメディアやSNSで発表し それに従うという構図に違和感や不満
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パンデミック(新型肺炎感染急拡大)(その12)(世界14ヵ国を対象としたグローバルアンケート第2回調査結果、新型コロナ「東京での拡大」のウラにある 小池百合子知事の失敗、「緊急事態宣言延長」は国民のせいなのか 安倍晋三は1カ月何をやってきたのか) [国内政治]

パンデミック(新型肺炎感染急拡大)については、5月3日に取上げた。今日は、(その12)(世界14ヵ国を対象としたグローバルアンケート第2回調査結果、新型コロナ「東京での拡大」のウラにある 小池百合子知事の失敗、「緊急事態宣言延長」は国民のせいなのか 安倍晋三は1カ月何をやってきたのか)である。

先ずは、4月10日付けPRTimesが掲載した株式会社マッキャン・ワールドグループ ホールディングスによる「世界14ヵ国を対象としたグローバルアンケート第2回調査結果。新型コロナウィルスの感染拡大で高まる現実感と不安感 「自分は大丈夫」が36%から24%に減少。日本では「失職や収入減に不安」が4割近い」を紹介しよう。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000027750.html
・『世界有数のグローバル マーケティング ソリューションズ ネットワークであるマッキャン・ワールドグループのグローバルなソートリーダーシップチームであるMcCann Worldgroup Truth Centralは、2020年3月下旬(3月23日〜30日)にCOVID-19パンデミックに関する各国・各世代の意識調査「Truth About Culture and COVID-19 Wave 2(文化と新型コロナウィルスについての真実 第2回調査)」を実施しました。これは日本を含む世界14カ国において、約1万4000人(各国約1000人)を対象として行ったもので、3月中旬(3月12日〜22日)に行った第1回調査の継続調査です』、国際的な「意識調査」とは興味深そうだ。
・高まる現実感  3月中旬の第1回調査時点では、36%の人が「例えコロナウィルスに感染したとしても、自分は大丈夫だと思う」(調査14カ国平均)と回答していたのに対し、3月下旬時点の今回調査では「自分は大丈夫」と考えている人は24%に減少しました。特に感染が急速に広がった欧米では米国が31%(前回調査58%)と大幅に少なくなったほか、カナダ29%(同54%)、英国27%(47%)など約半数の人々が楽観視していた国で、この2週間ほどで認識が大きく変わったことがわかりました。 現実味が増すにつれ「メディアは不要にパニックを煽っている」と感じている人の数も減っています。前回調査では14カ国平均で42%だった同回答が、今回の調査結果では31%に減っています。日本は11ポイント減って45%(前回調査56%)に。他の国別でも米国35%(同:50%)、イタリア24%(同:29%)、スペイン23%(同:29%)、ドイツ28%(同:38%)、フランス34%(同:37%)、英国34%(同:53%)と各国で軒並みメディア報道の信頼性が高まりました』、「現実味が増すにつれ「メディアは不要にパニックを煽っている」と感じている人の数も減っています」、当然のことだろう。
・『不安の高まり  新型コロナウィルスの感染拡大に対して「とても心配している」「心配している」と回答した人は、前回調査では調査14か国平均で53%だったのに対して今回は14ポイント増加して67%でした。感染者数の拡大に伴って人々の不安が高まっているのが分かります。感染者数の増加した国別に「とても心配している」「心配している」の合計値を見ると、米国57%(前回調査:34%)、イタリア67%(同:65%)、スペイン76%(同:68%)、ドイツ59%(同:54%)、フランス74%(同:67%)、英国71%(同:40%)、日本は64%(同:51%)と3月末時点では、どの国でも感染拡大への不安が6割から7割の人々に広がっていたことが分かりました。 新型コロナウィルスの感染の危険以外の人々の懸念や不安は、感染による死亡者数の増加という人的な被害の増加と、失職や収入減による生活への影響の二つの面がありました。 感染死亡者数の増加への懸念を挙げる人は14カ国平均で51%(前回調査:43%)と半数でした。国別に見ると米国で52%(前回調査:34%)、イタリア49%(同:49%)、スペイン61%(同:47%)、ドイツ53%(同:47%)、フランス61%(同:49%)、英国59%(同:52%)、日本43%(同:31%)と各国とも10ポイントから20ポイント増加しました』、「感染死亡者数の増加への懸念」については、「日本」がやや低いのも納得できる。 失職や収入減による生活への影響への懸念や不安がある人々は調査14カ国平均で26%(前回調査:25%)でした。日本では38%(同:35%)と4割近い人々が懸念を抱いています。各国別では経済政策や生活支援政策によって懸念や不安を抑えることに成功している国もあります。米国では31%(前回調査:23%)、イタリア23%(同:17%)、スペイン24%(同:19%)、ドイツ26%(同:27%)、フランス13%(同:17%)、英国29%(同:20%)でした』、「失職や収入減による生活への影響への懸念や不安がある人々は」、日本が突出して高いようだ。まともな生活保障策抜きに自粛要請だけに走っている安部政権のやり方を反映している可能性がある。
・『感染防止の体制と政策に強い関心  新型コロナウィルスの感染拡大防止について、自国政府の対応体制が「整っている」および「とても整っている」と回答した人は、14か国平均は30%(前回調査:31%)とほとんど変わりませんでした。日本では前回調査から4ポイント少ない14%(同:18%)でした。同質問で前回調査より対応体制の評価が高まったのはインド64%(同:55%)、ドイツ33%(同:25%)、英国26%(同:20%)、カナダ44%(同:40%)でした。 感染拡大防止のために「完全なロックダウン」政策を実施すべき、という意見に賛同する人は14カ国平均では約4割でした。日本は調査対象国中では最も低い24%でした』、「自国政府の対応体制が「整っている」および「とても整っている」と回答した人」は、日本だけ低水準でしかも低下しているのは大問題だ。「完全なロックダウン」政策への支持が日本が低いのも頷ける。
・『広がるソーシャルディスタンス(社会的距離)  世界の人々の感染防止への意識と行動は益々高まっています。感染防止のために「人の集まる公共の場を避ける」という人は、調査14か国平均で14ポイント増の73%(前回調査:59%)でした。日本は前回調査の45%から8ポイント増の53%でした。各国別では、3月下旬時点で「外出禁止」などの規制を強めている国では着実に意識が高まっています。国別では米国75%(同:49%)、イタリア70%(同:68%)、スペイン73%(同:73%)、ドイツ75%(同:65%)、フランス79%(同:77%)、英国84%(同:32%)と欧米諸国は7割以上の人々の行動が変わっています』、「日本」は欧米より低いようだ。
・『世界は根本的に変わる  世界の半数の人(および本調査を実施したほぼ全ての国の過半数の人)は、今回のパンデミックで「世界は根本的に変わる」と感じています。しかしその長期的影響の全てがマイナスのものであるとは考えていません。パンデミックの暗い側面については広く認識されているものの、多くの人は、家族やコミュニティとのつながりを再確認する等、この時間を前向きに活用しようとしています。 +3人に1人が「今回の出来事をきっかけに、大切な人たちとの距離が縮まった」とすでに感じています +3人に1人が「いつも以上に人と人が助け合うようになっている」と感じています +10人に6人が、今回の出来事は「人生で本当に大切なものを考える機会になる」と考えています +17%の人が、これを機に新しい趣味を始めています +18%の人が「人々の信仰心が厚くなる」と考えています +46%の人が「二酸化炭素排出量が減る」と思っています(以下は紹介省略)』、なかなか面白い調査結果だが、日本政府に不都合な点があるためか、日本のマスコミによる紹介が殆どなかったのは残念でならない。

次に、5月4日付け現代ビジネス「新型コロナ「東京での拡大」のウラにある、小池百合子知事の失敗」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72292
・『「五輪ファースト」で失敗  「みなさん、一緒に乗り越えていきましょう」 4月13日、新宿アルタの外壁に設置された大型ビジョンに東京都知事・小池百合子氏の顔が大写しにされている。普段であれば買い物客の往来で賑わう新宿東口も、緊急事態宣言下では人通りもまばらだ。ガランとした街に小池知事の声が響き渡った。 小池知事は新型コロナウイルス感染拡大を受け、外出自粛を呼びかけるテレビCMや街頭ビジョンを連日、発信している。都営地下鉄などでポスターを見た人もいるのではないか。 「7月5日に控えた都知事選、また来年の都議選に向けてのアピールでしょう。とはいえ広告費は都民の税金から支払われています。コロナ対策とはいえ、自分の顔を前面に出して広告を打つのは公私混同も甚だしい」(自民党都議) いまでこそコロナに立ち向かう英雄気取りの小池知事だが、新型コロナ関連で最初に緊急記者会見を開いたのは3月23日。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会がIOCと電話会議で東京五輪の延期を検討することで合意した翌日のことだった。 政治アナリストの伊藤惇夫氏が語る。「彼女はオリンピックの延期が決まるまでは何の具体的な手も打たず、コロナ問題については積極的な発言を控えていたのです」』、「小池知事」による「テレビCMや街頭ビジョンを連日、発信」、「コロナ対策とはいえ、自分の顔を前面に出して広告を打つのは公私混同も甚だしい」、全く腹立たしい。
・『16年の都知事選で打ち出した築地市場の豊洲への移転見直し計画を説明不足のまま撤回。翌'17年の総選挙では希望の党を立ち上げるも、「排除」発言が炎上して惨敗した。小池氏にとって、起死回生のために唯一残されたカードがオリンピックだったのだ。 「小池さんは五輪のホスト知事を務めることしか考えていない」と語るのは官邸スタッフの一人である。だが、この五輪への執着が初動の遅れを招いた。 「3月20~22日の3連休の最中の21日、小池氏は厚労省クラスター対策班から『4月2~8日に患者320人』と感染拡大の試算を受けとっていたのに公表しませんでした。3連休は好天に恵まれ、多くの人出があった。対応が遅れたせいで感染が拡大したという批判は免れません」(同・官邸スタッフ) 小池知事は出だしから間違いを犯していたのだ。普通であれば、絶体絶命のピンチだが、ここが、小池氏が凡百の政治家とは違う点だ。小池劇場はここから始まる。 五輪が「利用できない」と見るや、すぐさまコロナ対策にシフト、「ロックダウン」や「重大局面」といったフレーズで徹底的に煽り、都民の注目を一身に集めたのだ。 「ロックダウンと聞いて、都市封鎖、首都封鎖になると想像した人たちも少なくなかったはずです。しかし、人権の保護を重視する日本の法制度ではそれは不可能です。緊急事態宣言=ロックダウンという誤解を生む発言でした」(前出・伊藤氏) 小池氏の発言は混乱を招き、スーパーなどで買い占めが起こった。 これも大きな間違いだったと言えるだろう。しかし、小池氏に近い代議士は、小池知事の計算のうちだったと言う。 「小池さんはロックダウンなどできっこないとわかっていてあえて言ったんです。危機を煽り、混乱状態を作り出すことで、対応がぬるい政府vs.現実を見据えた都知事という構図を演じてみせた」 こうしたパフォーマンスが功を奏し、小池知事を支持する世論が高まりつつある。自民党はすでに都知事選で、小池百合子知事に対抗する候補者を立てられず、擁立を見送る方針を固めている』、「「小池さんはロックダウンなどできっこないとわかっていてあえて言ったんです。危機を煽り、混乱状態を作り出すことで、対応がぬるい政府vs.現実を見据えた都知事という構図を演じてみせた」、本当に腹黒いタヌキだ。
・『何か決断したのか  一方で、勇ましい発言とは裏腹に、肝心の政策の中身がスカスカだという批判もある。 北海道や愛知県、大阪府は危機管理に関する個々の決断や意思決定をしてきたが、小池知事にはそれがなかった。緊急事態宣言についても、発出されてから政府の方針を踏まえて行動計画案を作るだけでした。先行施策を打つことが地方分権の意義なのに小池氏は、ずっと国の指示待ちだった」(都庁幹部) 病床を確保するために軽症者をホテルで療養する措置についても同じことが言える。厚生労働省が3月6日に検討を求め、都はホテルを確保したとアピール。だが実際に患者の移送を始めたのは4月7日から。厚労省が許可を出すまで待っていた。 都内の医療機関では、13日時点で少なくとも2000床が確保されているが、すでに1959人の患者が入院しており、いまなおギリギリの対応を迫られている。 小池氏の前任都知事だった舛添要一氏が語る。 「都はコロナ対策の補正予算として232億円を専決処分で出しましたが、これでは少なすぎます。都の予算は7兆円規模ですから、1割の7000億円出してもいい。本当のところはやる気がなく、責任が生じても国に押し付ければいいと考えているのでしょう」 パフォーマンスの陰に隠れて見えづらいが、小池氏は対応をいくつも間違えてきたのだ。しかし、人間とは違い、ウイルスにはハッタリは通用しない。「オーバーシュート」(爆発的患者急増)目前のいまこそ、小池知事の真価が問われている』、幸い、国民が従順に自粛要請に従っていることから、首都圏の緊急事態宣言解除も見えてきた。「小池知事」は自分の手柄にしたいのだろうが、マスコミも「小池劇場」の囃子てを止めるべきだ。

第三に、5月8日付けプレジデント Digitalが掲載した早稲田大学招聘研究員の渡瀬 裕哉氏による「「緊急事態宣言延長」は国民のせいなのか。安倍晋三は1カ月何をやってきたのか 世界最悪の無能リーダーに天罰を」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/35192
・『安倍晋三が何もやってこなかったこの1カ月間  経済活動再開に向けて、日本政府がほとんど何もしてこなかった1カ月間。それが4月7日~5月6日までの安倍政権の緊急事態宣言期間だったと言って良いだろう。 5月4日に行われた安倍首相による緊急事態宣言延長の記者会見の内容は驚くべきものだった。一体何に驚かされたかというと、緊急事態宣言の解除後に国民が日常に復帰していくための諸施策が5月中に作られるというものだったからだ。 たとえば、安倍晋三首相は5月4日から2週間を目途として各種業態ごとに専門家と協力して事業活動を再開するための詳細な感染予防ガイドラインを策定する旨を発表した。 そもそもこのようなガイドラインは、緊急事態宣言を発出した段階ですでに策定開始していて当然のものだろう。仮に5月6日で緊急事態宣言を解除したとしても、事業者は新型コロナウイルス蔓延事例が自己の責任が及ぶ範囲内で発生した場合の風評被害・訴訟リスクを懸念し、その事業活動を安心して再開することは困難だろう。まして、これだけ政府が自粛を煽った後であるから一層リスクが高まっていることも間違いない。そのため、政府が一定の責任を引き受ける形になるガイドラインの存在は極めて有用である』、確かに「緊急事態宣言延長の記者会見」にはズッコケさせられた。
・『自粛圧力に耐えている民間事業者を馬鹿にするのもいい加減にしろ  したがって、緊急事態宣言延長後にガイドラインを作ることは論外なことは明らかだ。緊急事態宣言期間中に策定が完了することは最低限のことであり、可能であれば先月の同宣言公表以前の段階で作られていることが望ましいのは当然だ。むしろ、事業活動再開のためのガイドラインが緊急事態宣言解除判断日に揃っていないということは、政府は最初から1カ月で緊急事態宣言を解除するつもりが無かったと言っているに等しい。苦しい思いで自粛圧力に耐えている民間事業者を馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。 安倍首相は「わが国の雇用の7割を支える中小・小規模事業者の皆さんが、現在、休業などによって売上げがゼロになるような、これまでになく厳しい経営環境に置かれている。その苦しみは痛いほど分かっています」と述べている。その中で5月1日からの持続化給付金、すでに対応が行われている中小企業への融資や雇用調整助成金の措置について触れている』、「緊急事態宣言延長後にガイドラインを作ることは論外」、「政府は最初から1カ月で緊急事態宣言を解除するつもりが無かったと言っているに等しい」、手厳しい批判だ。
・『安倍晋三の国民生活への無理解が明らかになった  だが、すでに実施されている施策についても制度の複雑さや対応速度等の使い勝手の悪さによって中小企業の怨嗟の声が渦巻く状態となっている。雇用調整助成金を受給するための基準には、行政用語に慣れていない中小企業側にとってはチンプンカンプンな文言が並んでおり、結局は社労士に頼まない限りは申請すらままならない。 諸々の対応策の実施が遅れた理由として補正予算の成立が遅れたこともある。その理由は安倍政権が作成した限られた人しか受け取ることができない30万円給付金にあった。その理不尽さが国民の怒りを買って連立与党の公明党が動いたことで、補正予算閣議決定後に一律10万円給付金に予算の組み直しを行う羽目になったのだ。つまり、国民の現場の声に耳を貸さず、安易に表面上の額面だけを増やした給付金が却下されたのだ。公明党の対応は生活者の声に敏感だったと思うが、逆に安倍政権の国民生活への無理解が明らかになった出来事だった』、「安倍晋三の国民生活への無理解が明らかになった」、全く同感だ。
・『人間社会の現場を全く理解していない専門家集団が経済を壊す  その無理解の極みが専門家会議による「新しい生活様式」の発表だ。この「新しい生活様式」の内容に従った場合、多くの中小企業(飲食店等)は廃業に追い込まれるだろう。提言内容には、食事は「対面ではなく横並びで座ろう」「大皿は避けて料理は個々に」「屋外空間で気持ち良く」と御託が並べられているが、これではほとんどの飲食店にとって回転率が悪すぎて商売が成り立たないことは自明だ。娯楽・スポーツについても「筋トレやヨガは自宅で動画を活用」「予約制を利用してゆったりと」「歌や応援は十分な距離かオンライン」とされているが、多くのレクリエーションはそれでは当然に成り立たない。人間社会の現場を全く理解していない専門家集団による提言とは、斯様に専門家への信頼自体を揺るがすものになるのかと実感する良い見本だ。 安倍政権は、民間事業を潰す提言内容を「新しい生活様式」として持ち上げている暇があるなら、この1カ月の間に上述の経済再開のためのガイドラインや緊急事態宣言停止のための基準を作成しておくべきだった』、確かに「新しい生活様式」は余りに非現実的だ。
・『米国の猿真似を何でもするが、肝心なことだけは真似しない日本  実際、専門家会議の副座長である尾身氏からも「我々のような公衆衛生、感染症のプロと経済のプロの両方が政府に提言し、政府は両方を見た上で最終的な判断をしてほしい」と要請されたほどに、経済面に関しての意識が低かったように思われる。政府の回答は「分かった。何とかしよう」というものだったらしいが、感染症の専門家に経済政策の心配をされるとは政府は恥を知るべきだろう。 海の向こうでは、米ドナルド・トランプ大統領は経済人会議を創設して経済活動再開のためのガイドライン作成に以前から着手しており、すでにそのためのガイドラインは公表されている。米国の場合、ロックダウン解除権限を持つ民主党系州知事が頑なに解除に反対しており、トランプ大統領は経済活動再開に向けて国民の世論を形成するために連日のようにメッセージを発している状況だ。米国の猿真似を何でもしているわが国政府は、このような肝心なことだけはあせ(注:正しくは「え」)て真似しないとはどうしたことか。効果の有無すら不確かな緊急事態宣言の紛い物を発し、経済活動再開に向けてはボケっとしているようでは、現政権は得意の物真似芸すらまともに務まらないと言えるだろう』、「尾身氏からも」嫌味を言われたようだが、担当大臣である西村は経済再生が主担当の筈で、誠に頼りない。
・『世襲政治家や試験秀才の官僚の国民生活への無関心さが露呈した  国民がひたすら理不尽に耐えてきたこの1カ月間、政府がやったことは、同調圧力による私刑を背景とした自粛を国民に強制し、多大な経済被害を与えながら、経済・雇用の命運がかかった経済活動再開についてほぼ何も準備せず、むしろ自粛で困窮する人々への補償を出し渋っていただけだ。 安倍政権の担当者たちは会議室の中で毎日のように新規感染者数の発表を確認することにさぞ忙しかったことだろう。政権の有様から察するに、市井で失業者、倒産者、融資申請件数がどれだけ増えたかは彼らの目には何も入っていないのだろう。国民生活が何によって支えられているかを理解しておらず、世襲政治家や試験秀才の官僚が人々の生活について無関心な有様が露呈している。 ちなみに、筆者の手元に、官邸肝いりのアベノマスクが届いたのは5月頭。うちの町内会はとっくの昔にマスクを早く配布してくれたし、虫入り・カビだらけの可能性があるマスクを貰うよりも、地域コミュニティからの贈り物のほうがよほど役に立つ上に安心だ』、我が家に「アベノマスク」が届いたのは先週。「町内会」はないので、これ以外には、女房による手作りマスクだけだ。
・『真面目に働いたと思われる国内事例を一つ紹介する  最後にこの一カ月の間に経済活動再開に対し、その賛否はあるものの、真面目に働いていたと思われる国内事例を一つ紹介しよう。 大阪府は緊急事態宣言延長の翌日5日に、休業及び外出自粛要請の段階的な解除基準を定めている。その基準は重症病床率、検査対象者の陽性者率、感染経路不明新規感染者数などであり、クラスターが発生していない業種などを解除対象とすると言う。その上で、国の対応について「具体的な基準を示さず、延長することは無責任」と断じている。大阪の吉村洋文知事の政治姿勢は、政府が緊急事態宣言解除の基準すら示さず、自らの判断を専門家会議の判断に丸投げしている姿とは大違いだ。ちなみに、西村康稔経済再生担当大臣が吉村知事の発言にメディア上で噛みつき、吉村知事が大人の対応として陳謝することになったが、誰が仕事をして誰が仕事をしてないかは、衆目の目には明らかだっただろう。 政治家が責任を持って基準を公表することは、その政治生命に対するリスクを自ら背負う行為だ。しかし、それはあくまでも政治生命でしかなく、国民の生命・財産と比べられるようなものではない。内閣総理大臣の政治生命は、失業・倒産がもたらす経済苦で命を落とす国民の命に比べれば何の価値もないものだ』、「内閣総理大臣の政治生命は、失業・倒産がもたらす経済苦で命を落とす国民の命に比べれば何の価値もないものだ」、同感である。
・『一体誰のための政治か、国民はわが国の民主主義を問い直すべき  しかし、残念なことに今の永田町の空気からは、このような筆者の言葉に冷笑を浴びせかけるような雰囲気すら感じる。政治責任をできるだけ回避しようと奔走する政権の有様を見ると、この国の政治家は国民との関係において根本的な部分を履き違えてしまっているように見える。一体誰のための政治か、国民はもう一度我が国の民主主義の在り方を問い直すべきだろう。 今回の自粛延長は政府が目標に掲げた「接触8割削減」などを国民が守り切れなかったからではない。安倍首相が国のリーダーとしてあまりに無能すぎるからだ』、説得力溢れた主張で、諸手を挙げて賛成したい。

・第四に、5月13日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「アベノマスクの圧倒的な「ヤバさ」、やっぱり笑い事では済まない 大変な「掟破り」をしている可能性」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72532
・『安倍首相の肝煎り政策だったアベノマスクは散々な結果に終わった。施策そのものの有効性だけでなく、不良品が大量に見つかったり、発注した企業名の公表を政府が渋るなど、調達の透明性についても疑問の声が上がっている。 もはや失笑の対象となったアベノマスクだが、不透明な調達が行われ、しかも品質を確保できなかったという事実は重い。政府による調達は国民の税金を使って行われるものであり、本来は厳しいチェックが求められる。なぜこうした杜撰な調達になったのか制度面から考察してみたい』、「失笑」するだけでなく、「制度面から考察」する意味は大きい。
・『政府調達は「競争入札」が原則  アベノマスクには466億円の税金が投入されており、日本郵政の配達網を使って国内の全世帯に配られるはずだった。ところがマスクの配布作業は順調に進んでおらず、しかも一部の製品に虫食いやカビなどが見つかるなど、品質が問題視されている。 政府はマスクを受注した企業について大手3社については社名を公表したが、残りについてはなぜか頑なに社名公表を拒否。批判を受けてようやく社名を公表したものの、経営実態がよく分からないと報じられた会社も含まれており、どういう理由で発注したのか明確な説明を求める声が上がっている。 今回のアベノマスク調達は、一般的に行われる入札ではなく随意契約で実施されたことが分かっているが、随意契約というのはどのような調達方法なのだろうか。 政府が物品や役務を調達する際には、会計法上、原則として「競争に付す」ことが求められている。具体的には、複数の業者に同時に価格を提示させ、安い方を採用するという「競争入札」と呼ばれる手法である。だが、現実には価格だけでどの業者にするのか決められないこともある。) 製品の中身が単純で、仕様が最初から固まっている場合、どこから調達してもほとんど違いはないので、価格がもっとも安いところに発注するのが合理的である。だが、納入された物品の品質や安全性、技術など、価格以外の面についても考慮する必要がある場合、価格以外の項目を点数化する総合評価方式が用いられることがある。だが、総合評価方式も競争入札の一種であり、基本的には決められた仕様の中でもっとも安い事業者を選定するという考え方に立脚している。 入札というのは、すべての事業者に対して公平であることが求められるので、政府はいつどのような物品を調達するのか、官報などに定められた期間、公告を行い、特定の事業者が優遇されることがないよう留意しなければならない。入札の手続きは、会計法や政令で厳格に定められており、恣意的な運用はできない仕組みになっている(現実には入札であっても、談合などが生じるケースがあるがこれは犯罪行為にあたるので、制度の不備とは別問題である)。 随意契約というのは、こうした競争入札にどうしても馴染まない物品や役務の調達についてのみ認められた、例外的な手法である。会計法では、諸般の事情で事業者に競争させることができない場合や、緊急性がある場合、あるいは極めて少額の調達の場合には、特定の事業者に意図的に発注する随意契約を行ってもよいとされている』、今回は、「緊急性がある場合」に該当するのだろうか。
・『随意契約には「相応の理由」が必要  随意契約は、競争を行わずに調達する行為なので、当然のことながら政府と事業者の間に癒着が生じやすい。また、両者に不適切な関係が存在しなくても、競争がない場合には、価格が事業者側の「言い値」になってしまう可能性は高く、不当に高い買い物を政府が強いられる結果となる。 したがって随意契約を実施する場合には、なぜその調達を随意契約で行うのか、はっきりとした理由を示さなければならない。 随意契約については、ある企業が隠れ蓑となって政府から受注し、その業務を別の会社に丸投げ(再委託)するといった問題が多発したことから、2004年には少額随契を除き、原則として契約相手先、契約金額、随意契約にした理由を公表するルールが定められた。 公表をいつにするのかという事務的な問題はともかくとして、公表がルール化されている以上、政府が契約相手や金額については明らかにする義務がある。 繰り返しになるが、政府調達は一般競争入札で行うのが基本原則であり、どうしてもその調達方法にそぐわない案件のみが随意契約の対象となる。したがって、透明性、公平性を十分に確保できないのであれば、随意契約は行うべきではない。 一連の状況を総合的に考えた場合、今回のアベノマスクの調達が随意契約で行われたのは適切だろうか。 マスクという製品は汎用的なものであり、特定の事業者しか作れない、あるいは知的財産権に抵触するということは原理的にあり得ない。したがって政府がマスクに必要な性能など各種仕様をあらかじめ明示すれば、一般競争入札で調達できる物品といえる』、その通りだ。
・『透明性の確保は必須要件  もうひとつ、会計法で随意契約が認められている理由は緊急性であり、今回は緊急性を考慮した可能性もある。だが、本当に随意契約でなければ時間がかかったのかについては疑問が残る。政令では10日間以上、入札の情報を公告することが義務付けられているが、緊急性を要する場合には短縮できるという定めもある。 また、随意契約だからといって、調達の手続きが一気に簡素化されるわけではない。あらかじめ仕様書を作成し、複数事業者から見積もりを提出させた上で、予定価格を事前に算出するなど、入札に準じた作業が必要であり、よほどのことが無い限り、緊急性だけを理由に随意契約にするのは難しいだろう(しかも現実には東京都以外の自治体ではGWが明けてもまだマスクがほとんど配布されておらず、緊急配布とはほど遠い状況となっている)。 入札の場合、誰が落札するのか分からないため、納入する能力がない事業者が落札してしまったり、あるいは誰も入札しないというケースも考えられる。入札者がいない場合には、結局、随意契約になるので(不落随契)、最初から確実な随意契約にした方がよいとの判断もあり得るだろう。 だが、こうした事情で随意契約にする場合には、会計法の原理原則上、より厳格な透明性と説明責任が求められる。通常のルールの範囲内でも社名や金額の公表が義務付けられているという現状を考えると、社名の公表を渋ったこと自体が大問題であると言わざるを得ない。 また、事業者の選定理由についても、誰もが納得する理由でなければ、法律の趣旨に沿った調達とはいえないだろう。 政府がなかなか社名を公表しなかった1社については、これまでマスクを大量に納品した実績がなく、なぜこの事業者が選定されたのかはっきりとした理由が分からない。しかも一部では経営実態が不明であるとの報道もある。 入札を実施する場合、参加する事業者は全省統一資格を保有している必要があり、企業の業績などが事前に審査され、資格を与えられた事業者だけが入札に参加できる。資格にはランクがあり、調達金額が大きい場合、ランクが小さい事業者は参加できないことがほとんどである。 随意契約の場合でも、これに準じた参加資格を求めるケースが多く、資格を問わないケースは珍しい。今回の調達について、政府が参加資格についてどう位置付けたのか、国民に説明する必要があるだろう。特に事業規模が小さい会社についてはなおさらである』、「政府がなかなか社名を公表しなかった1社」については、4月27日に菅官房長官が、「納入業者は5社、未公表だった2社の社名は、横井定(株)マスク専門企業、と福島市で木質ペレットを輸出入する無名の会社(株)ユースビオ」、と明らかにしたようだ。ユースビオの社長は創価学会員らしい。
・『批判を受け付けない組織は100%腐敗する  一部からは発注する会社が最初から決まっているため、あえて入札を選択しなかったという指摘も出ている。もしそうであるならば、これは極めて重大な問題である。政府調達は国民の税金を使って行われるものであり、その資金使途については厳しいチェックが入って当然である。 お金の使い道をチェックすれば、その人や組織の本質が分かるというのは、古今東西を問わない真理である。近年、政府の活動を批判するのはよくないといったおかしな論調が目立つようになっているが、これは北朝鮮や中国といった国々でのみ通用する論理であり、民主国家としてはあり得ない見解といってよい。 非常事態においては批判を後回しにすべきという議論も完全な誤りであり、一種の平和ボケであると筆者は考える。こうした主張をする人は、おそらく、本当に危機的な状態で組織を運営した経験がないのだろう。危機的な状況であればなおさらのこと、適性を持たないリーダーはすぐに退場させるべきであり、そのためには外部からのチェックや批判は欠かせない』、全く同感である。
タグ:緊急事態宣言延長後にガイドラインを作ることは論外 安倍晋三が何もやってこなかったこの1カ月間 政府調達は「競争入札」が原則 世襲政治家や試験秀才の官僚の国民生活への無関心さが露呈した 五輪が「利用できない」と見るや、すぐさまコロナ対策にシフト、「ロックダウン」や「重大局面」といったフレーズで徹底的に煽り、都民の注目を一身に集めたのだ PRTIMES 米国の猿真似を何でもするが、肝心なことだけは真似しない日本 自粛圧力に耐えている民間事業者を馬鹿にするのもいい加減にしろ 「新しい生活様式」 「新型コロナ「東京での拡大」のウラにある、小池百合子知事の失敗」 現実味が増すにつれ「メディアは不要にパニックを煽っている」と感じている人の数も減っています 真面目に働いたと思われる国内事例を一つ紹介する 何か決断したのか 世界は根本的に変わる (その12)(世界14ヵ国を対象としたグローバルアンケート第2回調査結果、新型コロナ「東京での拡大」のウラにある 小池百合子知事の失敗、「緊急事態宣言延長」は国民のせいなのか 安倍晋三は1カ月何をやってきたのか) 新型肺炎感染急拡大 パンデミック コロナ対策とはいえ、自分の顔を前面に出して広告を打つのは公私混同も甚だしい 「小池さんはロックダウンなどできっこないとわかっていてあえて言ったんです。危機を煽り、混乱状態を作り出すことで、対応がぬるい政府vs.現実を見据えた都知事という構図を演じてみせた 現代ビジネス 小池氏は、ずっと国の指示待ちだった 安倍晋三の国民生活への無理解が明らかになった 政府は最初から1カ月で緊急事態宣言を解除するつもりが無かったと言っているに等しい マッキャン・ワールドグループ ホールディングス 「「緊急事態宣言延長」は国民のせいなのか。安倍晋三は1カ月何をやってきたのか 世界最悪の無能リーダーに天罰を」 広がるソーシャルディスタンス(社会的距離) 「世界14ヵ国を対象としたグローバルアンケート第2回調査結果。新型コロナウィルスの感染拡大で高まる現実感と不安感 「自分は大丈夫」が36%から24%に減少。日本では「失職や収入減に不安」が4割近い」 高まる現実感 「自国政府の対応体制が「整っている」および「とても整っている」と回答した人」は、日本だけ低水準でしかも低下しているのは大問題 テレビCMや街頭ビジョンを連日、発信 批判を受け付けない組織は100%腐敗する 感染防止の体制と政策に強い関心 「五輪ファースト」で失敗 「失職や収入減による生活への影響への懸念や不安がある人々は」、日本が突出して高いようだ 不安の高まり 日本を含む世界14カ国において、約1万4000人(各国約1000人)を対象 渡瀬 裕哉 プレジデント Digital 透明性の確保は必須要件 随意契約には「相応の理由」が必要 「アベノマスクの圧倒的な「ヤバさ」、やっぱり笑い事では済まない 大変な「掟破り」をしている可能性」 加谷 珪一 一体誰のための政治か、国民はわが国の民主主義を問い直すべき 危機的な状況であればなおさらのこと、適性を持たないリーダーはすぐに退場させるべきであり、そのためには外部からのチェックや批判は欠かせない
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米中経済戦争(その10)(新型コロナの収束で始まる 「米中全面対決」の危険性、習近平 トランプにひれ伏したか?徴収した報復関税の返還命令、米国の対ファーウェイ禁輸措置と台湾TSMCの半導体工場誘致の深層) [世界情勢]

米中経済戦争については、昨年8月14日に取上げた。久しぶりの今日は、(その10)(新型コロナの収束で始まる 「米中全面対決」の危険性、習近平 トランプにひれ伏したか?徴収した報復関税の返還命令、米国の対ファーウェイ禁輸措置と台湾TSMCの半導体工場誘致の深層)である。

先ずは、本年5月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した国際政治評論家・翻訳家の白川 司氏による「新型コロナの収束で始まる、「米中全面対決」の危険性」を紹介しよう。
・『アメリカの貿易戦争の参謀が参戦した意味  「新型コロナウイルスが武漢研究所から漏れた可能性があることが徐々に明らかになっている。だが、これは生物兵器ではなく、対応能力がアメリカと同等か、アメリカより上であることを見せつけるためのウイルスだった」 国家通商会議トップで、ホワイトハウスの通商戦略ブレーンであるピーター・ナヴァロ氏が、4月19日に放映されたFOXニュース『サンデー・モーニング・フューチャーズ』に出演し、こう断言した。 さらに次のような発言も行っている。「ウイルスが中国で広まっているときに、中国政府はWHOと共同で事実を隠蔽して、PPE(the personal protective equipment 医療マスクや防護服など「個人防護具」)の国際市場を独占して利益を上げている」 ナヴァロ氏はトランプ政権が「米中貿易戦争」を仕掛けたときの、戦略的な支柱となっている人物である。 その彼が表舞台で新型コロナウイルス拡大における中国の責任を追及したということは、米中貿易戦争が次のフェーズに進んだことを意味する。 新型コロナウイルス拡大の責任をアメリカに転嫁して、ウイルス禍の混乱に乗じて5G敷設などの世界戦略を進めようとしている中国に、真っ向勝負で阻止に入ったということだ。 当初、トランプ政権は中国との対立を避けて、新型コロナウイルス封じ込めに集中する戦略をとっていた。だが、明らかに方向転換したとみられる』、「方向転換」させた要因は何なのだろう。
・『中国からの医療物資に高まる礼賛  ナヴァロ氏の発言からさかのぼること約1カ月前の3月12日、イタリア北部のロンバルディア州の空港に、中国の医療チームが30トンの医療物資とともに到着した。 この様子は中国のテレビでも大々的に取り上げられて、「人類共通の枠組み」で取り組んできた外交の成果だと自画自賛した。 すでに2月以降、イタリアでは北部を中心に新型コロナウイルス感染が拡大して深刻さを増していた。時を経るごとに死者が激増。特に人工呼吸器などの医療機器が大幅に不足し、医療崩壊が始まっていた。 イタリア政府はすぐにEUに医療物資支援を求めたが、3月になってもそれに応える国はなかった。それどころかドイツが4日にマスクなどの輸出を禁止、フランスも3日にマスクの政府管理を始めて、国境を閉鎖。イタリアはEUへの失望を隠さなかった。 そんなときに救いの手を差し伸べたのが中国だったわけである。 ロンバルディア州政府は中国の配慮に感謝の言葉を述べた。 EU各国が中国への警戒感を強める中、EUの主要国でありながら中国の国際投資政策「一帯一路」を受け入れたイタリアは恩人でもある。最近はそのイタリアですら中国に警戒を見せ始めていたが、今回の速やかな対応はイタリア世論にも微妙な影響を与えた。 イタリア以外の国でも、医療器材が到着した際、ナイジェリアは大々的な記者会見を催し、ベネズエラは国営テレビが中継して中国をたたえている。 中国が勢力拡大のため、新型コロナウイルスのパンデミックを利用しているのは明らかである』、「イタリアですら中国に警戒を見せ始めていたが、今回の速やかな対応はイタリア世論にも微妙な影響を与えた」、「EU各国」の「イタリア」への対応は致命的なミスだ。
・『批判殺到で変わるマスク外交の狙い  世界でマスクなどの医療防護具の不足が深刻化する中、中国政府はすでに30億枚のマスクと300万セットの検査キットを世界に輸出したと報じられている。 これが可能な理由は、新型コロナウイルスが中国から始まったことで、中国における感染の収束と、欧米における感染の拡大が、ほぼ同時並行で起こったからである。 中国は新型コロナウイルス禍で中国共産党に近い企業に命じてマスクや医療器材の増産を積極的に進め、さらには国内にある外国の工場の一部にも禁輸を強要した。 そして、新型コロナウイルスが収束して在庫を積み上がったことを利用して、今度はそれを外国に振り向け、いわゆる「マスク外交」による勢力拡大に活用し始めたわけである。 マスク外交の初期は、5G敷設を進めるファーウェイの設備導入という見返りを求めた。 だが、アメリカ共和党のマーク・グリーン下院議員がFOXニュースのインタビューで「中国がフランスに対して、マスク10億枚と引き換えにファーウェイ社の5Gを導入することを提案した」と語ったことが報じられると、中国への批判が殺到した。 中仏の両政府ともにその事実を否定したものの、誰もがファーウェイの真の意図を見抜いていた。中国にとって5G敷設は世界のIT覇権を握るための中核であるが、マスク外交はそれを進めるため手段だった。 だが、その後は露骨な5Gの売り込みを批判されて、ナヴァロ氏が言うように、医療マスクや防護服などの国際市場を独占することに目標をシフトさせたのだろう』、「中国にとって5G敷設は世界のIT覇権を握るための中核であるが、マスク外交はそれを進めるため手段だった。 だが、その後は露骨な5Gの売り込みを批判されて・・・医療マスクや防護服などの国際市場を独占することに目標をシフトさせたのだろう」、中国のやり方も余りに露骨だ。
・『中国政府の隠蔽をトランプ氏は批判せず  中国・武漢では、昨年12月の時点で、医師が新型コロナウイルスに感染していたこと、そして、それを当局が把握していたことが発覚している。 言い換えると、遅くとも昨年末の時点で、中国政府は人から人への感染を把握していながら、医師たちを口止めして、「新型コロナウイルスは人から人へはうつらない」という当初の発表が間違っていることを知りながら、1カ月半にもわたり隠蔽(いんぺい)していたことになる。 昨年12月31日に、反中国共産党メディア「大紀元」が「中国、武漢で原因不明のウイルス性肺炎が起こり、7人が重篤。SARS再来の懸念もある」と報じて、世界中のマスコミが後を追い、この事実は徐々に知られていた。 だが、武漢の公安当局は1月1日、「ネット上に真実ではない情報を広げて、社会に悪影響を与えた」として、新型肺炎の存在を知らせようとした医師8人を拘束している(このうちの1人が、2月上旬に新型肺炎で亡くなって国民的英雄になった李文亮氏)。 中国当局は他にもこの問題を告発した市民ジャーナリストを次々と拘束した。 そのため当事者である武漢市民が新型コロナウイルスの深刻さをいつまでも知らされることなく普段どおりに過ごし、結果的に感染拡大が増長した。 こうした中、習主席はWHOのテドロス事務局長と組んで、ウイルス感染拡大の責任を隠蔽すべく、次々と手を打った。 WHOのパンデミック宣言を遅らせ、中国からの渡航制限をする国の政府を批判し、「マスクは不要である」とまで言わせたのである(このことは筆者がダイヤモンド・オンラインに執筆した「中国寄り批判受けるWHO事務局長、『パンデミック宣言』の本当の狙い」で詳しく述べた)。 それでも、トランプ大統領は、自らの責任を隠蔽しようと画策する中国政府をあからさまに批判することはなかった。 米中間で無用な対立を引き起こせば、新型コロナウイルスについて最も情報を蓄積している中国に協力を拒まれ、アメリカ国内のウイルス対策が遅れることを懸念してのことだろう』、「中国」の隠蔽ぶりは確かに目に余るものがあったし、「WHOのテドロス事務局長」の中国寄りの対応も酷かった。
・『アメリカ犯人説で米中対立が激化  そんな折、習主席に融和的だったトランプ大統領を激怒させる事件が起きた。 3月21日に中国外務省の趙立堅副報道局長が「アメリカ軍が新型コロナウイルスを武漢に持ち込んだ可能性がある」とツイートしたのである。 実は「新型コロナウイルスを持ち込んだのはアメリカだ」という主張は、中国の人民解放軍も以前から主張していたのだが、外務高官が発言したことで、国内外で大きな波紋を呼んだ。特に反米的な中東メディアは「新型コロナウイルスの犯人はアメリカ」と事実のように伝えたとも報じられている。 トランプ大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス(Chinese virus)」と呼び始めたのはこのツイートの後のことである。 新型コロナウイルス拡大の責任を、中国がアメリカに転嫁する戦略だと確信したトランプ大統領が、真正面から中国の責任を問う姿勢に転じたわけである。 トランプ大統領は相手国の政治体制をそれだけで批判することはない。その点は民主主義に反した行為があれば批判を繰り返したオバマ前大統領とは対照的である。 だが、たとえ相手国が同盟国であろうとアメリカの国益を脅かすことについては、妥協を許さず徹底的に戦うというのがトランプ流の合理主義であり、それを貫いている。 そこを中国は見誤った。 ニューヨークを中心に新型コロナウイルスが拡大したことで、トランプ政権とニューヨーク州が激しく対立し、海軍空母セオドア・ルーズベルトでの感染拡大で太平洋を中心とする防衛力が著しく低下していたため、今が攻め時だと判断したのだろう。 こうしてトランプ大統領は中国に対して厳しい態度へと転換した。 トランプ大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んで中国を批判し始めたとき、あたかも気まぐれに態度を変えたように報じたメディアもあったが、確信的な中国への反撃であったと思われる。 実際、ポンペオ国務長官も3月24日のG7外相会合の共同声明では、「武漢ウイルス」の文言を入れることに固執した(そのため、共同声明は見送られている)』、「趙立堅副報道局長が「アメリカ軍が新型コロナウイルスを武漢に持ち込んだ可能性がある」とツイート」、中国政府トップの了解の上でやった筈だが、「習主席に融和的だったトランプ大統領を激怒させる」とは、情勢を読み違えた愚挙だ。
・『くすぶる米中対立の可能性  だが、これで「米中対立」が終わったわけではない。 習主席の責任隠蔽とは別に、軍を中心に新型コロナウイルスをアメリカに責任転嫁しようとする動きが終わるとは思えない。 そもそも今はあくまで「休戦」であって、「新型コロナウイルスの責任転嫁をする」という目標に変わりはないからだ。 現在、黒竜江省で感染が再び拡大していており、「アメリカからの帰省者が原因だ」との報道がある。これをきっかけに「アメリカ犯人説」が蒸し返される可能性もある。 また、アメリカでも中国政府に対して、集団訴訟する動きが始まっている。フロリダ州を皮切りにテキサス州やネバダ州がすでに訴訟に入っている。他州でも追随する動きがあり、さらには世界に拡大する可能性もある。 新型コロナウイルス感染の収束後は、米中の全面対決になる可能性がある。新型コロナウイルスの他に、今後は中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)やアメリカ大統領選も絡むことになり、米中両国の今後の動向が注目される』、もともと「米中対立」が技術や貿易で深刻化していたところに、「新型コロナウイルス感染」が「対立」をさらに複雑化させたことは確かなようだ。

次に、5月15日付けNewsweek日本版が掲載した中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏による「習近平、トランプにひれ伏したか?徴収した報復関税の返還命令」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/05/12-512_1.php
・『中国は12日、米中貿易協定第一段階を実行すべく、米国から徴収した報復関税を返還する指示を出し、オーストラリアからの肉製品輸入を停止した。後者は報復措置か。強い者に弱く、弱い者には強く出る中国の戦略がそこにある』、興味深そうだ。
・『中国政府「米国から徴収した報復関税の返還手続きをせよ」と国内企業に指示  アメリカのトランプ大統領が激しく対中批判を強化している中、中国政府はアメリカに対して、米中貿易協定「第一段階協議」に即して、それを粛々と実行すべく、5月12日に政府指示を発布した。 発布したのは「国務院関税税即委員会」で、通知のタイトルは「第二期対米追加関税商品第二次排除リストに関する国務院関税税即委員会の公告」で、文書番号は【税委会公告〔2020〕4号】である。 内容は以下の通りだ。――<対米追加関税商品排除活動試行展開に関する国務院税関税即委員会の公告>(税委会公告〔2019〕2号)に基づき、国務院関税税即委員会は申請主体が提出する有効な申請に対して審査を開始し、決められたプロセスに沿って第二期対米追加関税商品に対する一部分の第二次排除の関連商品名を以下のごとく公告する:添付リストに列挙している商品に対して2020年5月19日から2021年5月18日までの1年間、米国の301措置に対抗する追加関税を課税しない。また既に徴収した追加関税に関しては、これを返還するものとする。関連する輸入企業はリストを交付した日から6カ月以内に税関に対して規定に沿って手続きを行わなければならない。 公文書の文言なので非常に硬いが、咀嚼してご説明すると「これから1年間は米国からの輸入商品に対して(報復関税としての)追加関税を徴収しないようにしますよ」ということであり、「すでに徴収してしまった関税は、6ヵ月以内に返還するよう手続きをしなさいね」ということなのである。 前代未聞の措置ではないか。 5月14日のコラム<感染者急増するロシアはコロナ対中包囲網にどう対応するか_モスクワ便り>の前半に書いた通り、トランプ大統領は「アメリカは国家として中国を提訴し、損害賠償を要求する用意がある」と言い、「アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、エジプト、インド、ナイジェリア、オーストラリア」の8ヵ国の弁護士会や民間シンクタンクあるいはアメリカの場合は州の検察当局などが対中損害賠償請求を用意している中、中国はアメリカに「跪(ひざまず)いている」と言っても過言ではない。 新型コロナウイルス論争に関する「舌戦」はさておいて、中国は実効的には世界最大の強国・アメリカには今のところ逆らわず、返す刀で「弱い国」と中国が看做(みな)している「オーストラリア」を斬りつけるという曲芸をやってのけている』、「追加関税」を既に徴求した分も含め返還するというのは、確かに異例だ。
・『オーストラリアの肉製品企業4社からの輸入を停止  同日(5月12日)、中国政府はオーストラリアの企業4社からの肉製品の輸入を停止する措置を取ると表明した。 もし今コロナ問題がなかったら、実はほぼ当然のような動きなのである。 2019年12月16日のコラム<棘は刺さったまま:米中貿易第一段階合意>をご覧いただければわかるように、筆者は昨年末の時点で、「アメリカから農産物を余分に輸入すると中国が約束したのなら、農産物が余って、結局どこかの国からの輸入を減らす以外にない」として、その国とは「オーストラリア」か「ブラジル」だろうと分析していた。 この農産物は畜産物に関しても言えることで、フォーカスは「オーストラリア」に絞られる。 しかし、今はどういうタイミングかを考えてみれば、誰でも邪推もしたくなるだろう。 それはオーストラリアのモリソン首相が「新型コロナウイルスの発生源などを調べるため、独立した調査委員会を立ち上げるべき」と提案し、中国外交部が、この提案に対して「国際協力を妨害するもので、支持は得られない」と反発していたという事実があるからだ。 だからこれは中国のオーストラリアへの「報復措置」で、意趣返し以外の何ものでもないと誰でもが考えてしまうのである。 かてて加えて中国は、WHOが組織する調査委員会なら受け入れると言っている。ということは親中のテドロス事務局長が采配を振るう調査ならば調査結果にも「柔軟な」調整があり得るだろうと考えているのだろうと、誰でも思うではないか。 おまけに5月14日のコラム<感染者急増するロシアはコロナ対中包囲網にどう対応するか_モスクワ便り>に書いた通り、オーストラリアはこの対中損害賠償を求める「8ヵ国聯合」(香港メディアの命名)の中の有力な一国であり、かつファイブアイズ(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの間の諜報同盟)の一員であり、その中では反中的とみなされている。 コロナに関する独立調査委員会の提案も、もちろんトランプ大統領らと相談の上だ。 だから中国はいきり立ってオーストラリアを攻撃しているのだが、肝心かなめのアメリカには舌戦以外では実効的措置を取っていないというのは、何とも「中国的」ではないか。 強い者には今の段階では腰を低くしておいて、弱い者(中国から見ればオーストラリア)には強硬策に打って出て、言うならば「でかい態度」を取る。まるで「弱い者いじめ」で、そのようなことをする国こそ「弱虫」だと思うが、これがなかなかの曲者。ひれ伏した「ふり」をしておいて、やがてアメリカを乗り越える算段を胸の中ではしているのが中国という国だ。 「8ヵ国聯合」が「100ヵ国聯合」にならない内に、「束」では崩せないが、その中の崩しやすい国を一つずつ切り崩していこうというのが中国の魂胆である』、「8ヵ国聯合」「の中の崩しやすい国を一つずつ切り崩していこうというのが中国の魂胆」、さしずめ次の候補は「イタリア」だろうか。テレビのニュースによると、WHOのテドロス事務局長に対し、トランプ大統領は中国からの独立性を示すよう求め、満たされなければ脱退も示唆したようだ。
・『オーストラリアは見せしめ  オーストラリアの最大の貿易国は中国だ。輸出の40%は中国なのである。おまけに今般輸出停止を受けたこの4社は、肉製品の35%を占めている。この4社が輸出を禁止されれば、オーストラリアへのダメージは相当に大きい。肉製品以外にもオーストラリアはワインや小麦なども対中輸出しており、その額は中国からの輸入の2倍に相当する。またオーストラリアにいる外国人留学生も40%が中国人なので、感情的に「嫌豪」が広がれば、オーストラリアの痛手は大きい。 となると、もしかしたらオーストラリアが寝返るかもしれないと、中国は虎視眈々と戦略を練っているわけだ。こうすれば対中損害賠償要求という運動が世界に広がっていくのを食い止められるかもしれないという寸法なのである。他の国への「見せしめ」の一つと位置付けると、この先が見えやすいかもしれない』、「オーストラリア」が「中国」からの脅しにどう対応するのか、当面の注目点だ。

第三に、5月19日付け日経ビジネスオンラインが掲載した中部大学特任教授(元・経済産業省貿易管理部長)の細川昌彦氏による「米国の対ファーウェイ禁輸措置と台湾TSMCの半導体工場誘致の深層」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00035/?P=1
・『米中技術覇権の主戦場である半導体を巡る米中の綱引きが激化している。中国を半導体の供給網(サプライチェーン)から分離する米国の戦略は確実に進展している。拙稿「新型肺炎から垣間見えた、対中・半導体ビジネスの危うさ」で指摘した「部分的分離」戦略は決定的だ。 5月15日、世界第1位の半導体ファウンドリーである、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が米国のアリゾナに最先端の半導体工場を建設する計画を発表した。米国の連邦・州政府からの支援を受けて総額約120億ドルを投じ、2021年から建設を始める計画だ。 TSMCを巡って米中が工場誘致に激しい綱引きを演じていたのは周知の事実だ。米中がそれぞれ、自国の半導体供給網(サプライチェーン)にTSMCを取り込もうと争奪戦を繰り広げた。TSMCの半導体工場は台湾に集中しているが、中国政府の要請で、南京に先端半導体の工場を建設しており、2018年から稼働している。一方、米国に有する工場は世代が古い工場であった。 この報道に関していくつかの誤解を招きかねない点もある。 米国に建設する半導体工場は“最先端”ということになっている。だが、現時点では微細加工の線幅5ナノというのは確かに最先端ではあるが、TSMCは22年に台湾で3ナノの量産を始める予定だ。さらに2ナノも開発段階にあり、24年に生産開始を計画している。つまり、その時点では5ナノも最先端ではなくなっている。まだまだ米国と中国の取引、駆け引きは続きそうだ。 軍事用途の半導体生産だとの指摘もあるが、これも疑問だ。一般的に半導体は軍事にも使われるので、その点ではもちろん「軍事用途」ともいえる。しかし、本件の誘致問題に米国の国防総省による特段の関与はほとんど見られないことから、この工場が特に軍事用途だというわけではないのだろう。 また米国が半導体の自給自足を目指しているとの報道もある。確かに米国の半導体大手のブロードコムやクアルコムはいずれもファブレス企業で量産工場を持っているわけではない。インテルの生産だけでは心もとない。半導体生産の受託製造(ファウンドリー)の最大手TSMCの量産工場を誘致することは生産面で大きな意味を持つ。 ただし米国だけでの自給自足は無理だ。半導体のサプライチェーンを見ると、日本の部材メーカーや日米欧の製造装置メーカーからの供給も含めたエコシステムとして成り立っている。中国との関係では、日米欧でサプライチェーンを押さえておくことに意味があるのだ』、TSMCが「米国に建設する半導体工場」は、とりあえず「米国」の顔を立てるためなのだろう。
・『日本の戦略は単純な量産工場の誘致ではない  一方で「日本が米国のインテルや台湾のTSMCの最先端工場を国内誘致へ」というスクープ記事が一部で流れ、一瞬ギョッとした。だが、筆者の取材では経産省に「水面下で動き始めた極秘計画」といった大げさな動きが今現在、現実味をもって進められているわけではなさそうだ。 私もかつて「日本も大戦略がなければ、米中のはざまで埋没するだけだ。TSMCを日本に誘致するような大胆な発想があってもよい」と指摘したことがある。かつて世界を主導する半導体メーカーを複数抱えていた日本も、今や国内に強力な半導体メーカーはなくなった。韓国、台湾の半導体メーカーの大胆な投資戦略とコスト競争力が敗因だ。現在の日本の強みは装置メーカー、部材メーカーであるが、これらも大口顧客である海外の半導体メーカーの購買力に引っ張られて、海外流出しかねない懸念がある。半導体メーカー自体を誘致して、半導体産業のエコシステム全体を日本に保持したいとの思いは理解できる。 また韓国は昨年の日韓輸出管理問題もあって、半導体生産の日本依存から脱却して内製化を進めようとしている。文政権が先般の総選挙に勝って、今後反米親中路線が色濃く出ることも予想される。サムスンも中国傾斜を強めていることから、日本にとってのパートナーが台湾のTSMCになるのは自然な流れだ。 しかし現実は日本の電気代、水道代などの立地コストの高さはなかなか克服できない。したがって量産工場を日本に建設することに経済合理性はない。海外の半導体メーカーの量産工場を誘致するのではなく、むしろ国内で研究開発を共同で進める方が現実的だ。ただし知的財産権など技術の流出に注意を要するのは当然だ。 経産省には、1100億円の基金を活用して、ポスト5Gで必要となる次世代の微細加工のロジック半導体の製造技術を開発しようという新規事業がある。ただ、これを外国半導体メーカーの最先端工場を国内誘致する政策とするのは少々飛躍がある。 むしろ日本の部材メーカーなどとの共同研究の結果、この基金を活用して開発段階の試作までは期待できるだろう。そして開発まで見えてくれば、量産の一部ということも将来視野に入ってくる可能性もある。そうなれば日本の強みを生かした戦略といえるだろう』、「海外の半導体メーカーの量産工場を誘致するのではなく、むしろ国内で研究開発を共同で進める方が現実的だ」、というのは確かなようだ。
・『日本企業にも影響、ファーウェイへの禁輸措置の強化  TSMCの米国工場の建設計画発表された5月15日、米国は中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)に対する事実上の禁輸措置の強化を発表した。まさに同じタイミングでの発表だけに、TSMCの工場建設と取引するのではないかとのそれまであった臆測も一蹴するものであった。 昨年5月から米国製品のファーウェイへの事実上の禁輸措置を講じているが、韓国のサムスンや台湾のTSMCといった半導体メーカーを通じて半導体が輸出され続けていて問題視されていた。 米国の技術やソフトウエアが使われている割合が25%以下である外国製品は規制対象外という「25%ルール」が“抜け穴”になっていると見られていた。25%以下であっても、米国製の製造装置や米国企業がデザインしたソフトウエアを使って作られたものであれば米国政府の許可が必要で、原則許可されず、事実上輸出できなくなるという規制がある(直接製品ルール)。今回の規制強化は、ファーウェイ向けの輸出製品にもそのルールを適⽤したのだ。 韓国のサムスンや台湾のTSMCは、米国の規制対象となっている米国企業のアプライドマテリアルズの製造装置やクアルコムのデザインしたソフトウエアを使って半導体を製造し、ファーウェイに輸出している。これが事実上ストップすることになるので、ファーウェイにとってスマホや通信基地局の生産に大打撃だ。中国は半導体の米国依存からの脱却を急ぎ自給自足を急いでいるが、すぐには代替できない。 TSMCは米国政府の要求に応じて米国新工場の建設を表明することでこうした規制を免れる取引を模索したようだ。しかし、米国政府との取引は不成立に終わったようだ。 ただ、一部に「米国製の製造装置などで製造した半導体などを今後はファーウェイに輸出できなくなり、大変だ」と騒ぐ向きもあるが、これは規制内容を誤解したものだ。今回の規制強化がピンポイントで限定されていることも注意して見る必要がある。 すなわち、「ファーウェイ・グループの開発した技術・ソフトウエアに基づく製品」であることが前提であり、典型的なのはファーウェイ傘下の半導体設計のハイシリコンから委託を受けて生産した製品だ。いわゆる汎用品の半導体は規制対象外とされている。産業界からの慎重な規制を求める声を受けて、相当緻密な規制になっているようだ。その結果、今回の規制強化による実際の影響がどこまであるかは精査が必要だ。 今回の規制強化を受けて、「TSMCがファーウェイからの新規受注を停止した」との報道もあるが、これも上記の“受注”生産に限定したものだ。 日本企業にとっても他人事ではない。ファーウェイに半導体や電子部材を供給している日本企業は20社にも及ぶが(公表されているのは11社)、中にはこのルールに引っかかる取引もあるだろう。さらにサムスンやTSMCに半導体の部材を供給している日本企業にも、間接的に影響が波及してくる』、「サムスンやTSMCに半導体の部材を供給している日本企業にも、間接的に影響が波及してくる」、「サムスンやTSMC」が「半導体」をどこに売るのかまでは、「日本企業」は関知しないが、「ファーウェイ」に売れなくなれば、その分「間接的に影響が波及してくる」ということなのだろう。
・『米中の半導体戦争は泥沼化か  またトランプ大統領による選挙対策だと指摘する向きもある。大統領選を控えて、新型コロナの感染拡大の責任を巡って中国への批判を強め、対中強硬姿勢に傾斜している。前日の14日にトランプ大統領は「中国との関係遮断もできる」と発言して、対中強硬姿勢をアピールした。 しかしファーウェイへの制裁強化をこの一環と見るのは本質を見誤っている。前述の“抜け穴”については昨年来、議会も含めて問題視され、これを防ぐための措置が議論されてきたものだ。新型コロナ騒動以前には、一時25%を10%に引き下げて規制強化する案もあったが、トランプ大統領自身が拒否した経緯もある。議会はむしろトランプ大統領がファーウェイへの制裁を中国とのディールに使って安易に譲歩することを懸念しているぐらいだ。 したがって今回の規制強化はトランプ大統領による“気まぐれ対中強硬策”ではなく、根深く、じっくり検討されたものと見るべきだ。 中国政府は予想通り早速、強い反発をした。今後何らかの報復措置があることもちらつかせた。中国が策定することを表明している「信頼できない企業」リストに米国企業を掲載する可能性もある。 また中国はIT機器を調達する際に安全保障の審査を行う「サイバーセキュリティー審査弁法」を今年6月から施行する。これは米国による中国製情報通信企業の排除に対抗するものだ。これを使って米国企業を排除することも予想される。 まさに米中の半導体戦争は泥沼の様相を呈してきた。 コロナ禍に目が行っている中で、米中対立は半導体を主戦場にして、「部分的な分断」が着実に進行中だ。米ソ冷戦期の「鉄のカーテン」になぞらえて、米中間の「シリコン・カーテン」とも言われている。好むと好まざるとに関わらず、こうした状況に直面して、日本政府の政策も日本企業の経営も安全保障を踏まえた判断を迫られているのだ。(補足以下は省略)』、「シリコン・カーテン」とは言い得て妙だ。「米中の半導体戦争は」、「トランプ大統領による“気まぐれ対中強硬策”ではなく、根深く、じっくり検討されたもの」で、「泥沼の様相を呈してきた」、のであれば、日本企業も慎重な対応が求められるようだ。
タグ:(その10)(新型コロナの収束で始まる 「米中全面対決」の危険性、習近平 トランプにひれ伏したか?徴収した報復関税の返還命令、米国の対ファーウェイ禁輸措置と台湾TSMCの半導体工場誘致の深層) ダイヤモンド・オンライン 米中経済戦争 批判殺到で変わるマスク外交の狙い 中国からの医療物資に高まる礼賛 くすぶる米中対立の可能性 アメリカ犯人説で米中対立が激化 オーストラリアからの肉製品輸入を停止 強い者に弱く、弱い者には強く出る中国の戦略 対中損害賠償請求を用意 遠藤誉 「新型コロナの収束で始まる、「米中全面対決」の危険性」 泥沼の様相を呈してきた 「シリコン・カーテン」 米中の半導体戦争は泥沼化か 日本企業にも影響、ファーウェイへの禁輸措置の強化 日本の戦略は単純な量産工場の誘致ではない 「米国の対ファーウェイ禁輸措置と台湾TSMCの半導体工場誘致の深層」 細川昌彦 の国際市場を独占して利益を上げている ピーター・ナヴァロ アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、エジプト、インド、ナイジェリア、オーストラリア」の8ヵ国 「習近平、トランプにひれ伏したか?徴収した報復関税の返還命令」 オーストラリアの肉製品企業4社からの輸入を停止 米国から徴収した報復関税を返還する指示 米国に建設する半導体工場 習主席に融和的だったトランプ大統領を激怒させる事件 中国政府の隠蔽をトランプ氏は批判せず イタリアですら中国に警戒を見せ始めていたが、今回の速やかな対応はイタリア世論にも微妙な影響を与えた 白川 司 日経ビジネスオンライン ウイルスが中国で広まっているときに、中国政府はWHOと共同で事実を隠蔽して、PPE トランプ大統領による“気まぐれ対中強硬策”ではなく、根深く、じっくり検討されたもの 中国政府「米国から徴収した報復関税の返還手続きをせよ」と国内企業に指示 オーストラリアは見せしめ Newsweek日本版 アメリカの貿易戦争の参謀が参戦した意味 海外の半導体メーカーの量産工場を誘致するのではなく、むしろ国内で研究開発を共同で進める方が現実的だ
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中東情勢(その14)(その他)(米軍シリア撤退で具体化したトランプの公約「アメリカ・ファースト」、コロナで深まるレバノン経済危機 宗派の泥仕合再燃、コロナで出稼ぎ労働者排斥 アラブ湾岸経済の未来に影) [世界情勢]

中東情勢については、2018年8月25日に取上げた。今日は、(その14)(その他)(米軍シリア撤退で具体化したトランプの公約「アメリカ・ファースト」、コロナで深まるレバノン経済危機 宗派の泥仕合再燃、コロナで出稼ぎ労働者排斥 アラブ湾岸経済の未来に影)である。

先ずは、昨年10月24日付けNewsweek日本版が掲載した在米作家の冷泉彰彦氏による「米軍シリア撤退で具体化したトランプの公約「アメリカ・ファースト」」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2019/10/post-1123_1.php
・『<シリアのクルド人支配地域からの米軍撤退を「アメリカの勝利」と宣言したトランプの言葉は、ただの負け惜しみではない> トランプ大統領による「米軍のシリアからの撤退」宣言は、米軍が同盟を組んでいたクルド人勢力を見捨てることを意味しました。トランプの宣言を受けると、シリアとトルコの国境地帯からクルド人勢力の駆逐を狙うトルコのエルドアン大統領は、ただちに越境軍事作戦を仕掛けました。 あわてて、アメリカはペンス副大統領と、ポンペオ国務長官をトルコに急派し、エルドアン大統領には自制を求めました。エルドアン大統領は、一応話を聞いたのですが、トランプ大統領の書簡については非礼なので廃棄したとするなど、依然強硬でした。 そこで、トランプ大統領は、常套手段である「経済制裁」を使ってトルコに圧力をかけました。一方で、大量虐殺が懸念されたクルド人勢力は、シリアのアサド政権に庇護を求めるとともに、イラク領内への移動を開始しました。 結果的に、10月22日にはロシアのソチにおいて、プーチン大統領とエルドアン大統領が会談して、とりあえずトルコによるシリア領内への越境攻撃については停戦ということになりました。これを受けて現地時間の23日には、ホワイトハウスでトランプ大統領が会見を行い、改めて撤兵方針を確認しつつ「アメリカは勝利した」と述べています。 2011年のシリア内戦勃発以来、アメリカはこの地に精鋭を送って地域の安定に尽力してきました。当初は、シリア民主軍と呼ばれる反政府勢力を支援して、アラブの春の延長としての「アサド政権崩壊」を狙う構えでしたが、シリア民主軍の同盟軍にアルカイダ系がいるという疑いから、全面支援は行いませんでした。 この辺りから、良くも悪くもアメリカの構えは中途半端となりましたが、やがてIS(イスラム国)が台頭してシリア領内での一部地域を支配し始めると、アメリカの目標はIS掃討へと変化しました。最終的にISの無力化に成功したわけですが、そこに至る道のりではクルド人勢力との全面的な共闘が成功を後押しした格好でした。 ちなみに、クルド人勢力については、そもそもイラク領内でサダム・フセインが毒ガス攻撃を含む迫害を行なったことが、イラク戦争によるフセイン討伐の「大義」とされたこともあって、アメリカは友軍とみなしていました。その結果、イラク戦争によって成立した、新生イラクでは、クルド人勢力はより大きな地位を占めることになりました』、「トランプ大統領による「米軍のシリアからの撤退」宣言は、米軍が同盟を組んでいたクルド人勢力を見捨てることを意味」、ISを駆逐したら功労がある「クルド人勢力」を実質的に裏切った形だ。「プーチン大統領とエルドアン大統領が会談して、とりあえずトルコによるシリア領内への越境攻撃については停戦」、ロシアはアメリカに代わって発言権を確保したようだ。
・『大統領選の選挙公約を実現  今回の決定は、そのクルド人勢力をアメリカが見捨てた形になります。また、シリアだけでなく中東全体におけるアメリカの影響力は一気に低下した形です。クルド人勢力を見捨てたことで、アメリカへの信頼感が消滅したという批判もあります。 それにも関わらず、トランプ大統領は「これはアメリカの勝利」だとしているのです。この言葉は、単なる強がりではありません。トランプ大統領は本当に「これで良かった」と思っているようです。というのは、この「シリア撤兵、クルド見殺し」という行動はトランプ流の「アメリカ・ファースト」という考え方そのものが具体化しているからです。 1つは、アメリカは他国や他の勢力のために犠牲を払いたくないという考え方です。つまり、クルドという「アメリカ以外」のためにカネや兵力という犠牲が発生していたのをストップするのは、アメリカの勝利になるのです。 2つ目は、アメリカがアメリカのことしか眼中にないのであれば、世界平和をどう実現するのかというと、それは大国の首脳との「ディール」で簡単にできるという「俺様ファースト」の考え方です。特にシリアにおける混沌とした状況については、「プーチンに任せる」というのが選挙公約でしたから、今回はそれがまさに実現した形です。 3つ目は、他国への介入をやめるという「非介入主義」、とりわけ「政権転覆(レジーム・チェンジ)」を狙った作戦をやめるという考え方です。究極の孤立主義から来る考え方ですが、アメリカは「シリアにおける政権交代を求めない」ということで、この「非介入主義」を具体化したのです。 ということで、2016年の選挙で公約した内容は、IS掃討も含めて「全部実現した」のだから、これは「アメリカの勝利」だというのがトランプ大統領の考え方であり、勝利宣言というのは負け惜しみでも何でもないのです。 では、こうした「アメリカ・ファースト」によって世界の各地は平和になるのかというと、決してそうではありません。強大なアメリカが、自由と民主主義の理念を掲げつつ、地域紛争の抑止に尽力してきたその努力をストップするのですから、平和にはならないのです。 その場合は、アメリカとして紛争当事国には兵器を売りつけようという魂胆も見え隠れします。「アメリカ・ファースト」だから自分たちは関与しない、けれども紛争があるのなら「アメリカ・ファースト」の考え方から武器の販売は大いにやりたい、つまり自分たちが火の粉をかぶらなければ、各地域が平和である必要もないし、戦争状態ならかえって軍事産業の需要が喚起される、これが「アメリカ・ファースト」の考え方の全体像なのです』、「トランプ大統領は「これはアメリカの勝利」だとしている・・・単なる強がりではありません。トランプ大統領は本当に「これで良かった」と思っているようです。というのは、この「シリア撤兵、クルド見殺し」という行動はトランプ流の「アメリカ・ファースト」という考え方そのものが具体化しているからです」、私は「単なる強がり」と思っていたので、目を醒まされた。「自分たちが火の粉をかぶらなければ、各地域が平和である必要もないし、戦争状態ならかえって軍事産業の需要が喚起される、これが「アメリカ・ファースト」の考え方の全体像」、死の商人としてはしっかり儲けさせてもらう、なんたる汚いやり方だ。こんなことでは、尊敬される国にはなれないだろうし、「クルド見殺し」を見せつけられた以上、米国と同盟して戦おうとの国や勢力はなくなってしまうだろう。

次に、本年5月2日付けロイター「アングル:コロナで深まるレバノン経済危機、宗派の泥仕合再燃」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/lebanon-crisis-idJPKBN22C18R
・『中東のレバノンを財政危機に追い込んだ同国の政治家らが、責任の所在を巡って言い争い、歴史的に続く宗派勢力間の反目をさらにかき立てる結果になっている。これは経済危機の先行きがさらに困難になることを意味するのかもしれない。 レバノンは1970-90年の内戦以来とも言える最大の危機にひんしている。通貨レバノン・ポンドは急落し、インフレのスパイラルが起き、抗議デモも再開。新型コロナウイルス感染対策防止のための外出規制で、経済危機がさらに悪化したことに怒った市民が街中で暴徒化した。 今週は南部サイダと北部トリポリで騒乱が発生。複数の銀行が放火され、デモ参加者1人が死亡した。これは、貧困と失業が増大する中でこれから何が起こるかを予兆する出来事と受け止められている。消費者物価は昨年10月以来、50%も上昇している。 政府は今週30日にも、経済救済計画を完成させようとしている。これが国際通貨基金(IMF)の関与につながることを望む向きは多い。IMFによる支援は、厳しい条件が付けられるにもかかわらず、同国が実質的な財政支援を頼れる唯一の資金源と多くから見なされているからだ。 計画は巨額の財政赤字の解決策を描くことになる。この中には、銀行部門で見込まれる830億ドル(約8兆9000億円)の資金不足問題が含まれる。レバノン経済は急速に縮小しているだけに、この額は早晩、同国経済の2倍の規模に匹敵することになる。これをどう分担するかが今後の最大の問題のひとつだ。 政府が後押しを得ている政治勢力は親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラ(神の党)と、ヒズボラの盟友であるキリスト教マロン派アウン大統領。一方でレバノンの宗派政治で重要とされる人物らは、これと対立関係にある。イスラム教スンニ派のハリリ前首相、ドルーズ派のジュンブラット氏、マロン派でアウン大統領のライバルであるジャージャー氏だ。 かつて同国の指導者らは反ヒズボラ、反シリアで連携していたが、ハリリ、ジュンブラット、ジャージャーの3氏は、ディアブ首相に対し日増しに批判を強めている。ディアブ氏は政治的な知名度の低い学者だったが、ヒズボラなどの支持を受けて就任した。 以前の政治的亀裂が再燃したのはサラメ中銀総裁を巡る対立がきっかけだった。1993年から同国の銀行システムを守り、外為市場への固定相場制導入の功労者だ。しかし固定相場制は、反汚職・反政府の大規模デモが始まった昨年10月ごろから事実上、崩壊している。 首相は総裁に対し、通貨危機と中銀の透明性欠如の責任を追及。ヒズボラも幹部が、通貨急落は総裁のせいでもあると批判している』、「消費者物価は昨年10月以来、50%も上昇」、「銀行部門で見込まれる830億ドルの資金不足問題」、などレバノン経済は既に破綻状態だ。同国に逃亡したゴーン被告にとっても、覚悟の上とはいえ、心配の種は尽きないだろう。
・『<反目の構図>  武装組織であり、米政府からテロ組織と名指しされるヒズボラは、中銀総裁に対し腹に一物ある。米政府はヒズボラやその支持者らの送金網を遮断したが、こうした制裁を米国に申し出た人物だからだ。 総裁は、政府の一連の改革失敗に非があると反論し、中銀の独立性を守る姿勢を明確にしている。 ハリリ前首相は、以前から中東湾岸諸国や西側諸国と融和的で、総裁を擁護。ディアブ首相に対し、同国の自由市場経済の破壊を試み、政府の汚職に目をつぶっていると非難を向ける。 ジュンブラット氏からすると、首相はヒズボラや大統領の言いなりで影が薄い人物。総裁もミスをしたものの、国営電力会社への予算で500億-600億ドルを浪費した責任は総裁にはないとの立場だ。ジュンブラット氏によれば、国営電力会社の問題は、大統領が興した政党が何年も牛耳ってきたエネルギー省の責任だ。 同国の政治指導者は皆、財政危機をもたらした汚職への関与が批判されているが、だれもが責任逃れに躍起になっている。 カーネギー中東センター(ベイルート)の特別研究員、モハナド・ハゲ・アリ氏は「こうした足の引っ張り合いは経済的苦境を一層悪化させるだけだ。もし同国の通貨相場の緊張が極限まで高まれば、国としての機能がどう維持されるのか分からない」と語る。レバノン・ポンド相場は昨年10月以降、価値が半減している。 今月リークされた政府の改革草案は問題の大きさを物語る。例えば銀行部門で830億ドル、中銀で400億ドルの資金不足問題だ。改革草案はハリリ氏やジュンブラット氏などから攻撃された。草案がとりわけ、銀行の大口預金者に「格段の貢献」を求めていたからだ。銀行界の団体も、政府は銀行に手を突っ込むなと主張し、預金が政府に貸し付けられれば無駄遣いされるだけだと批判した』、「同国の政治指導者は皆、財政危機をもたらした汚職への関与が批判されているが、だれもが責任逃れに躍起になっている」、こんな状態では、IMFとの交渉も難航するだろう。
・『<新型コロナでさらに複雑に>  イッサム・フェアーズ公共政策・国際問題研究所(ベイルート)の上級特別研究員、カリリ・ゲバラ氏は「不足金を公平に分担するのでなければ、国際的な支持を得られるような解決策がまとまる可能性は低い」と指摘。宗派勢力の対立が激しい国で、解決方法を見いだすのは極めて困難だと述べた。 過去にレバノンを援助してきた外国政府は、同国が今回の支援を得る前に改革プランを策定することが必要だと主張する。 米国のデービッド・シェンカー国務次官補(中東問題担当)はサウジアラビア資本のテレビ放送アルアラビーヤで29日、「レバノンが国際金融機関の支援を受けるには、改革を100%確約する困難な選択と決意を示す用意があると証明しなければならない」と述べた。 レバノン中銀の元幹部によると、同国には向こう3-5年で250億-300億ドルのIMF支援が必要。レバノンは自分たちにIMFが必要なことを認め、できるだけ早期に交渉を始めることが必要だという。 4月29日、中東のレバノンを財政危機に追い込んだ同国の政治家らが、責任の所在を巡って言い争い、歴史的に続く宗派勢力間の反目をさらにかき立てる結果になっている。写真はレバノンのサイダで、抗議活動で破壊された銀行の窓(2020年 ロイター/Ali Hashisho) ゴールドマン・サックスのシニアエコノミスト、ファルーク・ソーサ氏は改革計画について、「技術的には非常によくできていて徹底した内容だが、政治的に無防備だ」と分析。何を容認できるかを巡って官僚と政治家らにはかなり開きがあるとし、「普段の政治環境下でさえ極めて困難なのに、新型コロナ危機下とあっては、レバノンの経済情勢の複雑さは増すばかりだ」と嘆いた。(この記事の原文は4月29日に配信されました。レバノン政府は30日までに経済改革プログラムを取りまとめました)』、「向こう3-5年で250億-300億ドルのIMF支援が必要」、なようだが、取りまとめた「経済改革プログラム」がIMFと擦り合わせをしたものなのか、或いは今後交渉するのかは不明だが、いずれにしてもかなり難航するだろうことは確かなようだ。

第三に、5月13日付けNewsweek日本版がロイター記事を転載した「アングル:コロナで出稼ぎ労働者排斥、アラブ湾岸経済の未来に影」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/headlines/world/2020/05/275592.php
・『サウジアラビアで人気のテレビ司会者ハレド・アル・オケイリー氏は、「国内労働者よりも外国人労働者を一時解雇することは民間企業の国家的な義務である」と発言し、国内労働人口の多くを出稼ぎ労働者が占めていることに「現実的な危険」があると警告した。 毎日出演するトークショーでオケイリー氏が発したコメントは、中東の湾岸諸国経済の屋台骨となっている外国人労働者3500万人が直面するジレンマをずばり言い当てている。新型コロナウイルスの感染拡大と原油価格暴落を背景に企業が人員を削減し、各国政府が自国民の雇用・賃金を守ろうと動くなかで、彼らは湾岸諸国にとどまるべきなのか、帰国すべきなのか。 国際労働期間(ILO)は具体的な数字は示さないながらも、2008─09年の金融危機や、湾岸諸国の主力輸出品である原油の価格が急落した2014─15年にときよりも、外国人労働者の出国が多くなるものと予想している。 たとえばオマーン。金融危機を受けた2010年に外国人労働者は34万人以上減少した。世界銀行のデータによれば、この年オマーンの経済成長率は1.3ポイント低下している。 今回、湾岸諸国は外国人労働者を帰国させる手段を用意しようと試みているものの、多くはセーフティネットもないまま足止めを食らっている。 この地域にある各国の大使館などのデータによれば、アジア系を中心に、数十万人の移民労働者がすでに帰国に向けた申請を済ませている。湾岸諸国では、過密状態の地域で生活する低所得の外国人労働者のあいだで新型コロナウイルスの感染が広がっている』、「湾岸諸国は外国人労働者を帰国させる手段を用意しようと試みているものの、多くはセーフティネットもないまま足止めを食らっている」、「過密状態の地域で生活する低所得の外国人労働者のあいだで新型コロナウイルスの感染が広がっている」、シンガポールですら、自国民の感染抑制には成功したが、外国人労働者の感染急拡大に苦しんでいるようだ。
・『<「とどまる意味がない」>  パキスタンとインドは、すでに湾岸諸国から自国民を退避させる動きを始めた。エジプトはクウェートから航空機で自国民を帰還させようとしている。クウェートでは不法在留者収容施設でエジプト出身者による暴動が発生、治安部隊が鎮圧した。 ILOの上級専門家リスザード・チョルウィンスキー氏は、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールから出国する外国人労働者が「非常に多くなる可能性がある」と話す。 UAEで帰国申請を済ませたパキスタン人は6万人。その1人であるファーマンさんは2カ月前、スクールバスの運転手という職を失った。新型コロナの封じ込め措置として、複数の教育センターが閉鎖されたためだ。 ドバイのアル・クオズ工業地区にある共同住宅の前、街灯にぼんやりと照らされた通りに立つファーマンさんは、「自分の国に帰りたい。仕事もないのにこの国にとどまる意味はないから」と話す。 新型コロナによって窮地に追い込まれている労働者は、ブルーカラーだけではない。専門的な資格を持つ労働者も影響を免れない。 「インターネットでたくさんの職に応募したが、どれも期限が過ぎてしまった」と語るのは、エジプト系米国人の建築士ナダ・カリムさん。ドバイで新たな仕事に就くはずだったが、その企業が採用を凍結してしまった。 「収入がなくても2─3カ月はここで粘れるが、それ以降は母国に戻らないとやっていけない」 レバノン系カナダ人のセイマーさんは、サウジアラビアの広告代理店で働いていたが、賃金の支払いがないまま6カ月も仕事から離れており、状況が改善しなければカナダに戻ることを考えている。 「いきなり今後の見通しがきかなくなるというのは、非常に戸惑うし、気が重い」と、セイマーさんは言う。 国際通貨基金(IMF)によれば、中東諸国は今年、2008年の金融危機、そして原油価格が急落した2014─15年をしのぐ深刻な景気後退に見舞われようとしている。。 ノムラ・アセットマネジメント・ミドルイーストのタレク・ファドララー氏は、「外国人労働者が減れば、ピザから別荘に至るまで、あらゆるものの需要が低下する」と話す。「怖いのは、それによって第2波の雇用減少を伴う連鎖的なデフレ効果が生じることだ」 ドバイのライドシェア大手カリームや、複数の航空会社がレイオフに踏み切った。 商業と観光の中心地であるドバイは今年、国際博覧会(ドバイ万博)による経済効果を期待していた。だが、万博は来年10月に延期された。 ロイターが閲覧した内部文書によると、ドバイ万博公社は179人の職員を解雇した。同公社はコメントを拒否している。 「外国人労働者は単なる歯車ではない。地域経済の存続に必要な各国の資本を回転させる上で欠かせない」と、米ワシントンにあるアラブ湾岸諸国研究所のロバート・モギルニッキ常任研究員は言う』、「外国人労働者は単なる歯車ではない。地域経済の存続に必要な各国の資本を回転させる上で欠かせない」、ので、「外国人労働者が減れば、ピザから別荘に至るまで、あらゆるものの需要が低下する」のは確かだろう。
・『<経済改革にも悪影響>  外国人労働者が流出すれば各国政府の歳入が減少し、改革への取り組みが減速する可能性がある、とアナリストらは指摘する。 クウェート現地紙は、複数の国会議員が「国内労働者の賃金を引き下げることを民間企業に認める法案は何であれ阻止する」と警告したと報じた。 湾岸諸国が雇用を「内製化」する可能性は高い。オマーンは4月、国営企業に対し、外国人労働者を国内労働者に置き換えるよう命じた。だがアナリストらは、これによって経済成長を活性化させることはさらに難しくなるかもしれないと話す。 サウジアラビアが娯楽産業や宗教色を伴わない観光産業を構築しようと試みるなど、湾岸諸国におけるいくつかの経済多角化構想は、「国内に居住する外国人労働者や外国からの訪問客を軸とする経済活動に大きく依存している」と、アラブ湾岸諸国研究所のモギルニッキ氏は言う。 司会者のオケイリー氏は、国営SBCテレビの番組のなかで、外国人労働者を雇用し続けるサウジアラビア企業について「恥知らずで、国家への忠誠に無頓着だ」と批判した。 「危機が生じるたびにサウジ国民である労働者が犠牲になる状況を止めなければならない」と、オケイリー氏は語った。「よりスキルの高いサウジ国民の場所を奪っている外国人労働者を排除しよう」』、もともと労働力が不足気味の「湾岸諸国」は、外国人労働者の移入で経済が成り立っていたが、経済が悪化すると、「外国人労働者を排除しよう」と排他的になるのも困ったものだ。ただ、日本もそこまで酷くはないが、多少似たところがあるのも事実だ。
タグ:消費者物価は昨年10月以来、50%も上昇 「米軍シリア撤退で具体化したトランプの公約「アメリカ・ファースト」」 1つは、アメリカは他国や他の勢力のために犠牲を払いたくないという考え方 新型コロナでさらに複雑に 中東情勢 同国の政治指導者は皆、財政危機をもたらした汚職への関与が批判されているが、だれもが責任逃れに躍起になっている クルド人勢力との全面的な共闘が成功を後押し 外国人労働者は単なる歯車ではない。地域経済の存続に必要な各国の資本を回転させる上で欠かせない クルド人勢力は、シリアのアサド政権に庇護を求めるとともに、イラク領内への移動を開始 今回、湾岸諸国は外国人労働者を帰国させる手段を用意しようと試みているものの、多くはセーフティネットもないまま足止めを食らっている クルド人勢力を見捨てたことで、アメリカへの信頼感が消滅したという批判も (その14)(その他)(米軍シリア撤退で具体化したトランプの公約「アメリカ・ファースト」、コロナで深まるレバノン経済危機 宗派の泥仕合再燃、コロナで出稼ぎ労働者排斥 アラブ湾岸経済の未来に影) トルコのエルドアン大統領は、ただちに越境軍事作戦 各国とも、新型コロナによる経済活動の停滞と記録的な原油安という二重苦を受けているからためだ ロイター エルドアン大統領は、一応話を聞いたのですが、トランプ大統領の書簡については非礼なので廃棄したとするなど、依然強硬 トランプ大統領は「これはアメリカの勝利」だとしているのです。この言葉は、単なる強がりではありません。トランプ大統領は本当に「これで良かった」と思っているようです 「米軍のシリアからの撤退」宣言 アングル:コロナで深まるレバノン経済危機、宗派の泥仕合再燃 大統領選の選挙公約を実現 「アングル:コロナで出稼ぎ労働者排斥、アラブ湾岸経済の未来に影」 経済改革にも悪影響 2016年の選挙で公約した内容は、IS掃討も含めて「全部実現した」のだから、これは「アメリカの勝利」だというのがトランプ大統領の考え方 外国人労働者が減れば、ピザから別荘に至るまで、あらゆるものの需要が低下する 外国人労働者を排除しよう 米軍が同盟を組んでいたクルド人勢力を見捨てることを意味 2つ目は、アメリカがアメリカのことしか眼中にないのであれば、世界平和をどう実現するのかというと、それは大国の首脳との「ディール」で簡単にできるという「俺様ファースト」の考え方 サラメ中銀総裁を巡る対立 1993年から同国の銀行システムを守り、外為市場への固定相場制導入の功労者だ。しかし固定相場制は、反汚職・反政府の大規模デモが始まった昨年10月ごろから事実上、崩壊 3つ目は、他国への介入をやめるという「非介入主義」、とりわけ「政権転覆(レジーム・チェンジ)」を狙った作戦をやめるという考え方 IMFによる支援 IS掃討 プーチン大統領とエルドアン大統領が会談して、とりあえずトルコによるシリア領内への越境攻撃については停戦ということになりました 冷泉彰彦 Newsweek日本版 「とどまる意味がない」 「シリア撤兵、クルド見殺し」という行動はトランプ流の「アメリカ・ファースト」という考え方そのものが具体化しているから 銀行部門で見込まれる830億ドル(約8兆9000億円)の資金不足問題 過密状態の地域で生活する低所得の外国人労働者のあいだで新型コロナウイルスの感染が広がっている 自分たちが火の粉をかぶらなければ、各地域が平和である必要もないし、戦争状態ならかえって軍事産業の需要が喚起される、これが「アメリカ・ファースト」の考え方の全体像 「経済改革プログラム」 向こう3-5年で250億-300億ドルのIMF支援が必要 経済危機がさらに悪化したことに怒った市民が街中で暴徒化 通貨レバノン・ポンドは急落し、インフレのスパイラルが起き、抗議デモも再開 国内労働人口の多くを出稼ぎ労働者が占めていることに「現実的な危険」があると警告 シリアのクルド人支配地域からの米軍撤退を「アメリカの勝利」と宣言したトランプの言葉は、ただの負け惜しみではない 反目の構図
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黒川検事長問題(その1)(“官邸の守護神”黒川検事長の黒歴史 安倍官邸擁護に暗躍8年、検察OBが改正案反対 ロッキード事件捜査の元検事総長ら 意見書提出へ、安倍政権「司法人事への介入」は過去にも 最高裁にも残るトラウマ、「検察庁法改正」で、検察は、政権の意向を過激に「忖度」しかねない) [国内政治]

今日は、黒川検事長問題(その1)(“官邸の守護神”黒川検事長の黒歴史 安倍官邸擁護に暗躍8年、検察OBが改正案反対 ロッキード事件捜査の元検事総長ら 意見書提出へ、安倍政権「司法人事への介入」は過去にも 最高裁にも残るトラウマ、「検察庁法改正」で、検察は、政権の意向を過激に「忖度」しかねない)を取上げよう。これまでは「日本の政治情勢」のなかで取上げてきたが、事の重大性から独立させたものである。

先ずは、5月13日付け日刊ゲンダイ「“官邸の守護神”黒川検事長の黒歴史 安倍官邸擁護に暗躍8年」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/273096
・『コロナ禍のさなか、政府与党がシレッと成立を狙う検察庁法改正案に批判が集中している。安倍政権の目的は、検察トップの検事総長に“官邸の守護神”を据えること。数日間で600万~700万件に上る抗議ツイートが投稿されているが、守護神の“黒歴史”を振り返ると、史上最長政権を支えてきた疑惑潰しの正体が垣間見えた。 渦中の黒川弘務・東京高検検事長は東大法学部卒後、1983年に検事任官。東京や新潟などの地検勤務を経て、法務省の刑事局などを渡り歩き、民主党政権下の2011年8月、法務・検察と政界の折衝役である官房長に就任。12年の第2次安倍政権発足時に菅官房長官の信頼を得て以降、官邸とのパイプ役を一手に担った。「黒川氏を通じて官邸の意向が検察サイドに一方的に伝わる状況になった」(司法記者)という。 こうして“守護神”になってからは、内閣が吹っ飛んでもおかしくないレベルの政治事件がことごとく不問にされてきた。秘書が在宅起訴された案件はあるものの、責任者たる政治家や省庁幹部はいずれも不起訴に。黒川氏の意向が働いたのでは、との疑念を招いたのは、この点で国会でも問題視されたほどだ。 むろん、黒川氏が“モミ消し”に動いた証拠はない。しかし、それをうかがわせる傍証がある。黒川氏は政権の要望と検察の悲願とを取引してきたフシがあるのだ。特に、甘利事件では疑わしい動きが見られた。 「盗聴捜査などが可能になる改正刑訴法成立は、検察の長年の悲願だったが『国民監視を広げる』と評判が悪く、15年国会では継続審議となっていた。ところが、甘利氏の疑惑が16年に噴出してからはトントン拍子で審議が進んだ。同年5月の法案成立とほぼ同じタイミングで甘利氏が不起訴となっただけに、水面下で黒川氏が暗躍していたのではとの見方もある」(永田町関係者) 同年9月には、黒川氏は法務事務次官に昇進。「疑惑潰しの論功行賞」(同)ともっぱらだった』、「黒川氏」が「甘利事件」では「疑惑潰し」に動いただけでなく、「検察の長年の悲願だった」「盗聴捜査などが可能になる改正刑訴法」の審議が、「甘利氏の疑惑が16年に噴出してからはトントン拍子で審議が進んだ」、とは「検察」にとってもやはりなかなかのやり手のようだ。
・『政治家にとって「使い勝手がいい」  森友問題でも名前が挙がる。 問題をウヤムヤにする見返りとして狙ったのが、悪評だらけの共謀罪法成立(17年6月)だったという。 「共謀罪法案は、黒川氏が先頭に立って成立に向け奔走していた。12年の第2次政権発足時、法相に就任した谷垣禎一氏に、黒川氏自らが直接レクチャーする熱の入れよう。ただ、09年までに3回も廃案に追い込まれていただけに、17年国会では何が何でも成立にこぎつけたかった。そこへ降って湧いたのが。『政権を助ける代わりに悪法の成立を狙っているのでは』と批判を招きました」(前出の司法記者) 数々の疑惑を握り潰してきた結果、いよいよ、ルール無用の定年延長で検事総長への道が開けたというわけなのか。黒川氏と同期入省の元検事・若狭勝弁護士はこう言う。 「政治家と折衝する機会が多い官房長の中には、議員からの要望をむげに突っぱねる人物もいますが、黒川さんは非常に物腰が柔らかい。どんな要望でも『検討してみます』と一度は受け入れるソツのなさで、人受けがいい。政権の言いなりになるような人格ではありませんが、政治家側から見ると非常に使いやすい人物と受け止められるのでしょう」 イエスマン大好きの安倍官邸とはウィンウィンの関係に違いない』、「共謀罪法案」も「森友問題」で『政権を助ける代わりに悪法の成立を狙っているのでは』と批判を招きました」、「イエスマン大好きの安倍官邸とはウィンウィンの関係」、とは大変な人物のようだ。

次に、5月14日付け毎日新聞「検察OBが改正案反対 ロッキード事件捜査の元検事総長ら 意見書提出へ」を紹介しよう。
https://mainichi.jp/articles/20200514/k00/00m/010/203000c
・『ロッキード事件の捜査に携わった経験を持つ松尾邦弘元検事総長ら検察OBが15日、検事総長や検事長らの定年延長を可能にする検察庁法改正案に反対する意見書を法務省に提出する。改正案を巡っては、ツイッターなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上で抗議の投稿が相次いでいるが、元検察トップも反対を表明する異例の展開となった。 意見書に名を連ねているのは松尾氏のほか、元法務省官房長の堀田力氏ら、1976年に田中角栄元首相を逮捕したロッキード事件の捜査に関わった検察OBを中心とする十数人。東京高検や大阪高検の元検事長も含まれているという。 松尾氏は68年に検事任官。ロッキード事件では若手検事ながら贈賄側幹部の取り調べを担当した。東京地検次席検事や法務事務次官、東京高検検事長などを歴任。検事総長に在任中の2004年6月~06年6月には、ライブドアや村上ファンドの大型経済事件を指揮した。退任後は、07年に発覚した年金支給漏れ問題の原因究明と再発防止策を検討する「年金記録問題検証委員会」の座長を務めた。 改正案は検察官の定年を63歳から65歳に引き上げ、検事長や検事正ら幹部は63歳でポストを退き一般の検事になる役職定年の規定を導入する内容。ただし、内閣の判断で検事総長や検事長の役職定年を最長3年延長できる特例があり、「恣意(しい)的な検察人事が可能になる」との批判があがっている。法曹界では日本弁護士連合会などが反対を表明している』、「検察OBが改正案反対」とは全く異例のことだ。「恣意的な検察人事が可能になる」ことへの危機感がよほど強いのだろう。

第三に、5月17日付けダイヤモンド・オンライン「安倍政権「司法人事への介入」は過去にも、最高裁にも残るトラウマ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/237511
・『検察庁法改案を巡って、国会が紛糾している。ソーシャルメディア上でも「三権分立が侵されるのではないか」「民主主義の根幹に関わる」など、疑問を呈する声が多く挙がっている。しかし、安倍政権が司法に介入するのは今に始まったことではない。週刊ダイヤモンド2017年2月25日号「司法エリートの没落 弁護士 裁判官 検察官」では、最高裁判所の判事人事に政権が介入したとされる内幕を詳細レポートしている。今回、その記事を特別にダイヤモンド・オンラインで公開する。 「週刊ダイヤモンド」2017年2月25日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの 東京都千代田区の日比谷公園の西側には、法務省や検察庁、東京高等裁判所、日本弁護士連合会といった法曹界中枢の高層ビルが立ち並ぶ。 1月中旬。公園の指定された場所で待っていると、日弁連の内部事情に詳しい関係者が現れた。襟には弁護士バッジが見える。 弁護士は怒りをあらわにして吐き捨てた。 「日弁連は内閣から完全に足元を見られている。司法の独立が危ぶまれる事態だ」 事の発端は1月13日にさかのぼる。この日、菅義偉官房長官が記者会見で、最高裁判事人事の閣議決定について発表した。「最高裁判事、櫻井龍子および大橋正春の両名が定年退官をされることに伴い、その後任として弁護士・早稲田大学大学院教授、山口厚氏および元英国駐在特命全権大使、林景一氏を最高裁判事に任命することを決定致しました」。記者の質問はドナルド・トランプ米大統領の就任に伴う日米関係への影響などに終始し、この人事が追及されることはなかった。 だが、一部の弁護士の間では衝撃が走った。その理由を理解するためには、最高裁判事の決定に至る経緯を理解しなければならない。 日本の最高裁判事は15人だ。内閣官房によれば15人の出身分野は決まっており、裁判官6、弁護士4、学識者5(大学教授1、検察官2、行政官1、外交官1)の枠が長年の慣例とされてきた。 最高裁判事の定年は70歳であり、閣議決定は、それぞれ1月と3月に定年退官する厚生労働省出身の櫻井氏、そして弁護士出身の大橋氏の後任を選出したものだ。学識者と弁護士の枠が一つずつ減るので、外務省出身の林氏と「弁護士」の山口氏を後任に据えることは一見妥当に思える。 問題は、山口氏が日弁連の推した後任ではないことだ。 下図のように、大橋氏が定年を迎える3月の1年近く前から、日弁連は後任候補を公募し、選考を進めてきた。だが、刑法の大家として長く学者畑を歩んだ山口氏が弁護士資格を取得したのは昨年8月。日弁連が最高裁に候補を推薦した時点で、山口氏はリストに含まれていなかった。 最高裁は日弁連の推薦を受け、「最適任候補者」を内閣に意見する。最高裁判事の任命権はあくまで内閣総理大臣にあるが、これまで日弁連の推薦した人物が任命され続けてきた。 だが今回、日弁連の推薦外であり、事実上の学識者である山口氏が任命されたことで、長年の慣例が壊された形だ。背景に何があるのか。 「弁護士枠を減らせば弁護士会が反発するのは自明。そんなことを最高裁が自らやるはずがない。今回の人事は明らかに官邸の意向だ。弁護士出身の最高裁判事が政府をいら立たせる意見を書くから、官邸が最高裁に圧力を加えたのだろう」。現役判事はそう声を潜める。問題の本質は、官邸による最高裁への人事介入にあるとの指摘だ。 この数年間を振り返れば、衆議院選挙と参議院選挙の1票の格差を違憲状態とする一連の判断、婚外子相続差別の違憲判断など、最高裁の踏み込んだ判決が相次いだ。2006~12年に最高裁判事を務めた弁護士の那須弘平氏は、「裁判所が自由な発想で前向きに判断できた時期だった」と証言する。 当時、法曹界で司法制度改革が進み、政界では自民党から民主党(当時)への政権交代が起きた。こうした時代の変化を背景に「最高裁も変わってきた」(那須氏)という。 ところが12年の発足以降、長期安定基盤を固めた安倍政権は、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行い、安全保障関連法を成立させた。さらに共謀罪創設や憲法改正に意欲を示す。 日弁連はこうした動きに反対の立場だ。政権としては、最高裁に「自由な発想で前向きに判断」されては困る。そのために日弁連推薦の候補を排除し、最高裁への影響力を強める必要があるのだろう。 那須氏は弁護士出身判事の強みについて「訴訟や法律相談を通じ、長年にわたって紛争を一つずつ処理してきた経験と技能」だと指摘する。 山口氏は確かに形の上では弁護士だ。だが最高裁判事に弁護士としての「経験と技能」を持つ者が加わる意義を鑑みれば、その人選に疑問を感じざるを得ない』、「今回、日弁連の推薦外であり、事実上の学識者である山口氏が任命されたことで、長年の慣例が壊された形」、「政権としては、最高裁に「自由な発想で前向きに判断」されては困る。そのために日弁連推薦の候補を排除し、最高裁への影響力を強める必要があるのだろう」、安部政権の司法支配は既に着々と進んでいたとは、暗然となる。
・『最高裁が権力にひれ伏す黒歴史  最高裁は、内閣と国会を監視する三権分立の一角を担う。仮に内閣の介入があっても、対等の立場であるべき最高裁がなぜ諾々とそれに従うのか。 それは最高裁長官の指名権を内閣が握っているからだ。最高裁が時の権力者にひれ伏す構図は過去にもあった。 1969年1月8日。戦後最長の政権を築いた佐藤栄作元首相は日記に「田中(二郎)君は推さぬ。明日午後、石田(和外)君を官邸によんで交渉をする積(つも)り」(『佐藤榮作日記』)と書いた。 田中氏と石田氏は当時の最高裁判事だ。日記の記載通り佐藤元首相は、長官候補だったリベラル派の田中氏ではなく、保守派の石田氏を第5代最高裁長官に指名した。佐藤元首相の意を受けた石田氏は長官就任後、リベラル傾向が強かった青年法律家協会所属の裁判官を排除。この思想選別は共産主義者を公職や企業から追放したレッドパージにちなんでブルーパージと呼ばれ、裁判官の“黒歴史”として語り継がれる。 元裁判官として最高裁と裁判所の内幕を暴いた『絶望の裁判所』著者の瀬木比呂志氏(明治大学法科大学院教授)は「石田人事の後遺症は今も強く尾を引いている。最高裁は石田人事以降、内部統制を強め権力に弱腰になっている。そういう意味で日本の最高裁は、基本的に権力補完機構にすぎない」と指摘する。 最高裁にとっての最重要人事は、来年1月に定年を迎える寺田逸郎長官の後任選びだろう。現時点でその最有力候補は、最高裁事務総長などを歴任した大谷直人最高裁判事だ。さらに続く後継者として3月に最高裁判事になる戸倉三郎東京高裁長官らも控える。 だが、これら内部人事が成就するとは限らず「官邸が長官人事にも横やりを入れてくる」との観測は絶えない。少なくとも今回の最高裁判事人事への介入は、最高裁にそうした畏怖を植え付けるだけの効果はあっただろう。 寺田長官も相当のプレッシャーを感じているのか、最高裁内部からは「明るく快活だった寺田長官の表情が最近見る見る暗くなっている」との声も漏れ聞こえる。最高裁は司法のとりでではなく、このまま“権力のとりで”に成り下がってしまうのだろうか』、「佐藤栄作元首相」が「長官候補だったリベラル派の田中氏ではなく、保守派の石田氏を第5代最高裁長官に指名」、「石田氏は長官就任後、リベラル傾向が強かった青年法律家協会所属の裁判官を排除。この思想選別は共産主義者を公職や企業から追放したレッドパージにちなんでブルーパージと呼ばれ、裁判官の“黒歴史”として語り継がれる」、とは初めて知った。「来年1月に定年を迎える寺田逸郎長官の後任選び」も注目点のようだ。

第四に、元東京地検特捜部検事で郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士の郷原信郎氏が5月17日付けYahooニュースに掲載した「「検察庁法改正」で、検察は、政権の意向を過激に「忖度」しかねない」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20200517-00178921/
・『「検察庁法改正案」が衆議院内閣委員会で審議入りしたことに対して、ネットで「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグで、900万件以上のツイートが行われ、多くの芸能人や文化人が抗議の声を上げ、元検事総長など検察OBが法案に反対する意見書を法務大臣に提出し記者会見するなど、国民が反対の声が大きく盛り上がった。 与党は、5月15日に強行採決の方針と報じられていたが、野党側から、武田良太担当大臣の不信任決議案が出され、審議は打切りとなった。18日からの週の国会での動きに注目が集まる。 国会審議に、多くの国民が関心を持ち、活発な議論が行われることは大変望ましいことだが、本来、多くの国民にはあまりなじみがない「検察庁法」の問題であるだけに、基本的な事項についての疑問が生じることが考えられる。 この法案の問題点については、【検察官定年延長法案が「絶対に許容できない」理由 #検察庁法改正案に抗議します】で詳しく述べたが、想定される基本的な疑問について、私なりに解説をしておきたいと思う』、郷原氏による「解説」とは興味深そうだ。
・『検察について基本的な疑問に答える  まず、第1の疑問として、今回、検察官の定年延長の問題が「三権分立」が問題とされていることに関して、 安倍首相も言っているように、検察は行政機関でしょう。行政の内部の問題なのに、なぜ、立法・司法・行政の「三権分立」が問題になるの? という疑問があり得るだろう。 それに対する端的な答は、 確かに、検察も法務省に属する行政機関です。しかし、検察官は、起訴する権限を独占しているなど、刑事訴訟法上強大な権限を持っており、検察が起訴した場合の有罪率は99%を超えます。したがって、検察の判断は事実上司法判断になると言ってもよいほどなので、そのような権限を持った検察は、単なる行政機関ではなく、「司法的機能を強く持つ機関」と言うべきなのです。ですから、内閣と検察の関係は、内閣と司法の関係の問題でもあるのです。 ということになろうかと思う。 そこで考えられる第2の疑問が、 検察に権限があると言っても、検察が起訴した場合は、間違っていれば裁判所が無罪判決を出すはず。検察の不起訴が間違っていれば、検察審査会が強制起訴の議決をする。だから、結局、検察がどう判断しようと結論に影響はないんじゃない? という疑問だ。 この疑問には、刑事事件の捜査と処分の関係の理解が必要であり、以下のような説明が可能だ。 検察官は、単に、刑事事件について起訴・不起訴を判断するだけではありません。検察官自ら取調べや他の証拠収集をした上で、起訴・不起訴を判断するのです。特に、政治家・経済人などの事件が告発されたりして「特捜部」が捜査する場合、もともと告発状だけで、証拠はないわけです。検察が積極的に捜査して証拠を集めれば起訴して有罪に持ち込めますが、逆に、検察が、ろくに捜査しなかったり、不起訴にするために証拠を固めたりすれば、「不起訴にすべき事件」になります。検察の不起訴処分に対して検察審査会に申立てをしても、証拠がないのだから「起訴相当」にはなりません。せいぜい「不起訴不当」が出るだけです。その場合は、検察が再び不起訴にすれば、事件は決着します。 それに対して、次のような第3の疑問を持つ人もいるだろう。 検察の捜査や処分に対して、政治的な圧力をかけようとしても、そもそも内閣には、検察官を解任する権限がないわけだから、検察の判断に介入することはできないんじゃない?内閣の判断で定年延長ができてもできなくても変わらないんじゃない? その点に関しては、検察も「官僚組織」であり、組織内で、上位の権力者に対する「忖度」が働くということが重要だ。次のような答になるだろう。 検察も、法務省内に属する官僚組織です。法務省に人事権があるわけですから、どうしても法務省を通じて、内閣側の意向が法務省を通じて検察に伝わり、それを「忖度」して、捜査や処分するということはあり得ます。それがどれだけ強く作用するかは、法務省幹部の考え方や姿勢によりますし、それを検察側でどう受け止めるかは検察幹部によります。法務省幹部が、内閣側の意向に基づいて、検察幹部に事件の捜査・処分について要請をすれば、後は、検察幹部の受け止め方次第ということになります。 この第2の疑問と第3の疑問については、実例で説明しないとピンと来ないかもしれない。そこで、過去の事例の中から、解りやすい事例を挙げよう』、「実例で説明」とは有り難い。
・『甘利明氏に関するあっせん利得罪の事件  まず、第2の疑問に関して、検察官が告訴告発を受けた場合の「不起訴処分」に至るプロセスとして典型的なのは、甘利明氏のあっせん利得罪の事件だ。 私は、この事件が週刊文春の記事で報じられた際に、あっせん利得罪が成立する可能性があるとコメントし、その後、詳細がわかった段階で「絵に描いたようなあっせん利得罪の事件」と述べ、2016年2月24日に衆議院予算委員会の中央公聴会で公述人として、「独立行政法人のコンプライアンス」を中心に意見を述べた際にも、この甘利氏の事件にも言及し、同様の見解を述べた(【独法URのコンプライアンスの視点から見た甘利問題】)。 この事件が、その後、告発が行われ、刑事事件としてどのような経過をたどったのか、甘利氏がどう対応したのかは、(【甘利氏「石破氏への苦言」への”国民的違和感”】)で総括して述べている。検察の捜査と不起訴処分の意味を理解するための典型事例なので、是非お読み頂きたい。 要するに、この事件では、甘利氏本人や秘書に多額の現金が渡ったことは明らかで、甘利氏自身もそれを認めて大臣を辞任していた。あっせん利得罪の刑事事件としてポイントとなるのは、甘利氏にURに対する「議員としての権限に基づく影響力」が認められるかであったが、URに関連のある閣僚ポストも経験した与党の有力議員としての甘利氏とURとの関係が、「議員としての権限に基づく影響力」の背景になっていると見ることが可能であり、甘利氏本人と秘書がS社側から多額の金銭を受領した事実を認めているのであるから、「議員の権限に基づく影響力を行使した」あっせん利得罪が成立する可能性は十分にある事案だった。 ところが、弁護士団体の告発を受けて、東京地検特捜部が、この事件の捜査を行ったものの、UR側への家宅捜索を形だけ行っただけで、肝心の甘利氏の事務所への強制捜査も、秘書の逮捕等の本格的な捜査は行われることなく、国会の会期終了の前日の5月31日、甘利氏と元秘書2人を不起訴処分(嫌疑不十分)とした。その際、「起訴できない理由」に関して「検察の非公式説明」がマスコミで報じられたが、全く不合理極まりないものだった。 その後、検察審査会への審査申立の結果「不起訴不当」の議決が出されたことからも、「国民の目」からも到底納得できないものだったことは明らかだったが、検察は再捜査の結果、再度、強引に不起訴とした。しかも、国会閉会の前日に、公訴時効までまだ十分に期間がある容疑事実についても、丸ごと不起訴にしてしまうなど、方針は最初から決まっていて、不起訴のスケジュールについて、政治的配慮したとしか思えなかった。 検察審査会の議決を受けての検察の再捜査では、元秘書と建設業者の総務担当者とのやりとりが、同法の構成要件である「国会議員の権限に基づく影響力の行使」に当たるかどうかを改めて検討。審査会は「言うことを聞かないと国会で取り上げる」と言うなどの典型例でなくても「影響力の行使」を認めうると指摘していたが、特捜部は「総合的に判断して構成要件に当たらない」と結論づけたとのことだ(2016年8月16日日付け朝日)。 この事件で、大臣室で業者から現金を受け取ったことを認めて大臣を辞任した後、「睡眠障害」の診断書を提出して、4ヵ月にもわたって国会を欠席していた甘利氏は、この不起訴処分を受けて、「不起訴という判断をいただき、私の件はこれで決着した」と記者団に述べ、政治活動を本格的に再開する意向を示した。 この事件での検察の捜査・処分は、最初から、事件をつぶす方針で臨み、ろくに捜査しなかったり、不起訴にするために証拠を固めたりして不起訴にした典型的な例だ。当初の検察の不起訴処分は、「議員の権限に基づく影響力を行使した」とは言えないという点で、捜査が尽くされておらず、素人の検察審査会からも「不起訴が不当」とされたのだが、如何せん、捜査不十分なままでは「起訴相当」とは言えない、「もっと捜査を尽くすべきだ」ということで「不起訴不当」との議決が出たが、それを受けた再捜査をした上で、不起訴処分をされてしまうと、それで刑事処分は決着してしまうのだ。 この事件では、検察の不起訴処分が、その対象とされた人物に「犯罪の嫌疑を否定することの有力な根拠を与えたのであるが、それと同様のパターンになったのが、ジャーナリストの伊藤詩織氏が、安倍首相と親しいと言われる山口敬之氏を準強姦で告訴した事件である。検察は、警察から送付した事件を不起訴(嫌疑不十分)にした。これを受けて山口氏が、「検察の判断によって潔白が明らかになった」と堂々と主張した。しかし、その後、伊藤氏が起こした民事訴訟で、山口氏は一審で不法行為責任が認定されている』、「甘利明氏のあっせん利得罪の事件」、「山口敬之氏を準強姦で告訴した事件」とも「検察の不起訴処分が、その対象とされた人物に「犯罪の嫌疑を否定することの有力な根拠を与えた」、「検察」はクロをシロに出来る実質的な権限を持っているようだ。
・『黒川官房長の応答  実は、甘利氏の事件の関係では、私は、事件が表面化した当初から、当時、法務省官房長を務めていた黒川氏と頻繁に携帯電話で連絡をとっていた。私は、黒川氏とは検事任官同期で、個人的に付き合いもあった。大阪地検の証拠改ざん問題等の不祥事を受けて法務省に設置された「検察の在り方検討会議」で、私が委員の一人として、黒川氏が事務局だったこともあり、話をする機会が多かった。それ以降、折に触れて、連絡を取り合っていた。 この甘利氏の事件は、私は、検察不祥事で信頼を失った検察が、名誉回復を図る格好の事件だと思い、まさに、検察に、事件の組み立て、法律構成を指導し、エールを送るつもりで、事件に関するブログ記事を頻繁に発信していた。そして、黒川氏にも、電話で、私の事件に対する見方を伝え、「ブログに詳しく書いているから、読んでおいてくれ」と言っていた。黒川氏は「わかった。わかった。しっかりやらせるから」と、私の言うことを理解しているような素振りだった。 一連のブログの中に、検察がURの事務所に対して捜索を行ったことが報じられた直後に書いた【甘利問題、「政治的向かい風」の中で強制捜査着手を決断した検察】という記事がある。結果的には、「告発を受けて捜査をせざるを得ない立場の検察が「ガス抜き」のためにやっているのではないか、という見方」が正しかったわけだが、このブログ記事で、私は、「政治的な強い向かい風」の中での強制捜査に着手にした東京地検特捜部の決断に、まずは敬意を表したい。そして、今後、事件の真相解明に向け、幾多の困難を乗り越えて捜査が遂行されていくことを強く期待したい。 などと肯定的に評価し、期待を表明している。 それは、URへの強制捜査のニュースを見て、すぐに、黒川氏に電話をしたところ、「取りあえずはここまでだけど、今後もしっかりやらせる」というような「前向き」の話だったからである。この時に限らず、私が黒川氏に電話して具体的事件のことを話した際、「自分は官房長なので、具体的事件のことには関知しない」などと言ったことは一度もない。ひょっとすると、私には「前向き」のことを言う一方で、自民党や官邸サイドには、真逆のことを言っていたのかもしれない。 実際に、この事件に関して黒川氏が法務・検察の内部でどのように動いたのかは知る由もない。しかし、彼の言葉が、私を含めた「検察外部者」に、「検察の捜査・処分を、希望する方向に向けてくれるのではないか」との期待を抱かせる効果を持っていたことは確かなのである』、郷原氏が「私は、黒川氏とは検事任官同期で、個人的に付き合いもあった」、とは初めて知った。捜査方針で「郷原氏」を騙していたとは、やはりかなりの役者のようだ。
・『緒方重威元検事長の逮捕・起訴と「官邸の意向への『忖度』」  そこで、検察の組織内で上位の権力者に対する「忖度」が働くのか、という第3の疑問である。「すべての事件を法と証拠に基づき適切に処理している」というのは建前であり、実際には、「忖度」が働くものであることを当事者が著書で明らかにした事件がある。 2007年に、元広島高検検事長・公安調査庁長官の緒方重威氏が、朝鮮総連本部の所有権移転をめぐる詐欺事件で、東京地検特捜部に逮捕・起訴された。緒方氏は、著書「公安検察」(講談社)で、次のように述べている。 当時首相の座にあった安倍晋三氏は、拉致問題をめぐる強硬姿勢を最大の足がかりとして宰相の地位を射止め、経済制裁などによって北朝鮮への圧力を強めていた。 時の政権の意向が法務・検察の動向に影響を及ぼすことは、多かれ少なかれあるだろう。当事者として検察に奉職していた私もそれは理解できる。だが、今回の事件では、「詐欺の被害者」とされる朝鮮総連側が「騙されていない」と訴えている。強引に被害者を設定して私を詐欺容疑で逮捕、起訴するという捜査の裏側に、官邸の意向が色濃く反映したことは疑いようがない。まして私には、独自のチャンネルによって官邸周辺の情報が入ってくる。法律の知識がある人間なら誰もが耳を疑うような捜査に検察を突き進ませた大きな要因は、官邸と、その意向を忖度した検察の政治的意思であった。 五三歳という若さで政権の座を射止めた安倍首相は、北朝鮮に対する強硬姿勢を最大の求心力とし、政権発足後も北朝鮮に関しては圧力一本槍の姿勢を鮮明にして人気を集めていた。当然のことながら、内政に関しても朝鮮総連に対して徹底的に厳しい態度で臨んでいた。 そこに元検事長であり、公安調査庁の長官まで務めた私が登場し、まるで朝鮮総連の窮状に救いの手を差し伸べるかのような振る舞いに出た。これが明るみに出たため、安倍首相と官邸、さらには与党・自民党が激怒し、法務・検察は何としても自力で私を”除去”しなければならない必要性に迫られたのだ。それが実行できなかった場合、批判の矛先は法務・検察に向けられかねない。 だから法務・検察は、東京地検特捜部まで動員して、徹底して荒唐無稽な容疑事実をつくりあげてでも、私たちを詐欺容疑で逮捕しなければならなかったのである。 緒方氏は、元高検検事長であり、検察の組織内での捜査・処分の実情を知り尽くしている。その緒方氏が、「時の政権の意向が法務・検察の動向に影響を及ぼすことは多かれ少なかれあるだろう」と述べた上、検事長まで務めた緒方氏を検察が逮捕起訴した「大きな要因」が、「官邸の意向を忖度したこと」にあったと述べている。 同じ安倍政権下だが、当時の「第一次安倍政権」は、比較的短命で終わり、少なくとも「安倍一強」と言われる現政権ほどには政治権力は集中していなかった。しかし、当時でさえ、検察は、「官邸の意向を忖度して」検察幹部を詐欺罪で逮捕するに至ったというのである。 もちろん、逮捕・起訴された当事者の言うことなので、すべて額面どおりに受け止めることはできないかもしれない。しかし、やはり、この事件の経過を見ると、通常、被害者側も処罰を望んでいるわけでもないのに、詐欺罪で立件する事件とは思えない』、「元検事長であり、公安調査庁の長官まで務めた」「緒方氏」が「まるで朝鮮総連の窮状に救いの手を差し伸べるかのような振る舞いに出た」ので、「法務・検察は、東京地検特捜部まで動員して、徹底して荒唐無稽な容疑事実をつくりあげてでも、私たちを詐欺容疑で逮捕しなければならなかった」、「官邸の意向を忖度したこと」、「忖度」がここまで働くとは驚かされた。
・『検察の「忖度」は、積極的に逮捕・起訴する方向にも働く  政治の意向への「忖度」が、検察の捜査・処分に影響を与える余地は、「事件をつぶす」という方向だけではなく、「人を逮捕・起訴する」という「積極的な方向」にも働くということを示しているものと言える。 「内閣が検察幹部の任命権を持っている」と言っても、一度任命してしまえば、その検察幹部を辞めさせることはできない。これまでは、その職の終期は「年齢」という極めて客観的な事実によって決まっていた。それが、今回の検察庁法改正で、内閣の判断による検察幹部の定年延長ができるようになると、検察幹部の任期の「終期」を決められることになる。安倍内閣が、内閣人事局の設置によって他の官庁の幹部の任免を自由に決定できるのと同じような関係が、検察との関係にも事実上持ち込まれることになる。 それは、政権への「忖度」が、検察の「暴走」につながってしまう危険もはらんでいるのである』、「検察幹部の任期の「終期」を決められることになる」、「政権への「忖度」が、検察の「暴走」につながってしまう危険もはらんでいる」、「検察の「暴走」リスクがあるとは初めて知らされたが、これは深刻な問題だ。「検察庁法改正案」は来週には、多数の暴力で強行採決されるのだろうが、新型コロナウィルス対応で、国民の団結が求められているときに、分断を煽るような法案を成立させようとする安部政権は正常な判断力を失っているのだろう。
タグ:「検察の長年の悲願だった」「盗聴捜査などが可能になる改正刑訴法」の審議が、「甘利氏の疑惑が16年に噴出してからはトントン拍子で審議が進んだ 「黒川氏」が「甘利事件」では「疑惑潰し」に動いた 数日間で600万~700万件に上る抗議ツイートが投稿 検察庁法改正案 「“官邸の守護神”黒川検事長の黒歴史 安倍官邸擁護に暗躍8年」 日刊ゲンダイ (その1)(“官邸の守護神”黒川検事長の黒歴史 安倍官邸擁護に暗躍8年、検察OBが改正案反対 ロッキード事件捜査の元検事総長ら 意見書提出へ、安倍政権「司法人事への介入」は過去にも 最高裁にも残るトラウマ、「検察庁法改正」で、検察は、政権の意向を過激に「忖度」しかねない) 黒川検事長問題 それは、政権への「忖度」が、検察の「暴走」につながってしまう危険もはらんでいるのである 安倍内閣が、内閣人事局の設置によって他の官庁の幹部の任免を自由に決定できるのと同じような関係が、検察との関係にも事実上持ち込まれることになる 検察の「忖度」は、積極的に逮捕・起訴する方向にも働く 私が登場し、まるで朝鮮総連の窮状に救いの手を差し伸べるかのような振る舞いに出た。これが明るみに出たため、安倍首相と官邸、さらには与党・自民党が激怒し、法務・検察は何としても自力で私を”除去”しなければならない必要性に迫られたのだ 強引に被害者を設定して私を詐欺容疑で逮捕、起訴するという捜査の裏側に、官邸の意向が色濃く反映したことは疑いようがない 朝鮮総連本部の所有権移転をめぐる詐欺事件で、東京地検特捜部に逮捕・起訴 元広島高検検事長・公安調査庁長官の緒方重威氏 緒方重威元検事長の逮捕・起訴と「官邸の意向への『忖度』」 私は、黒川氏とは検事任官同期で、個人的に付き合いもあった 黒川官房長の応答 伊藤詩織氏が、安倍首相と親しいと言われる山口敬之氏を準強姦で告訴した事件である。検察は、警察から送付した事件を不起訴(嫌疑不十分)にした この事件での検察の捜査・処分は、最初から、事件をつぶす方針で臨み、ろくに捜査しなかったり、不起訴にするために証拠を固めたりして不起訴にした典型的な例 甘利氏は、この不起訴処分を受けて、「不起訴という判断をいただき、私の件はこれで決着した」と記者団に述べ、政治活動を本格的に再開する意向を示した 肝心の甘利氏の事務所への強制捜査も、秘書の逮捕等の本格的な捜査は行われることなく、国会の会期終了の前日の5月31日、甘利氏と元秘書2人を不起訴処分(嫌疑不十分)とした 絵に描いたようなあっせん利得罪の事件 甘利明氏に関するあっせん利得罪の事件 。検察が積極的に捜査して証拠を集めれば起訴して有罪に持ち込めますが、逆に、検察が、ろくに捜査しなかったり、不起訴にするために証拠を固めたりすれば、「不起訴にすべき事件」になります 検察の判断は事実上司法判断になると言ってもよいほどなので、そのような権限を持った検察は、単なる行政機関ではなく、「司法的機能を強く持つ機関」と言うべき 「三権分立」 検察について基本的な疑問に答える #検察庁法改正案に抗議します 「「検察庁法改正」で、検察は、政権の意向を過激に「忖度」しかねない」 yahooニュース 政権を助ける代わりに悪法の成立を狙っているのでは 郷原信郎 佐藤元首相の意を受けた石田氏は長官就任後、リベラル傾向が強かった青年法律家協会所属の裁判官を排除。この思想選別は共産主義者を公職や企業から追放したレッドパージにちなんでブルーパージと呼ばれ、裁判官の“黒歴史”として語り継がれる 森友問題 共謀罪法案 若狭勝弁護士 長官候補だったリベラル派の田中氏ではなく、保守派の石田氏を第5代最高裁長官に指名した 佐藤栄作元首相 最高裁が権力にひれ伏す黒歴史 政権としては、最高裁に「自由な発想で前向きに判断」されては困る。そのために日弁連推薦の候補を排除し、最高裁への影響力を強める必要がある 政治家にとって「使い勝手がいい」 裁判所が自由な発想で前向きに判断できた時期だった 今回の人事は明らかに官邸の意向だ。弁護士出身の最高裁判事が政府をいら立たせる意見を書くから、官邸が最高裁に圧力を加えたのだろう 問題は、山口氏が日弁連の推した後任ではないこと 弁護士・早稲田大学大学院教授、山口厚氏および元英国駐在特命全権大使、林景一氏を最高裁判事に任命 「安倍政権「司法人事への介入」は過去にも、最高裁にも残るトラウマ」 ダイヤモンド・オンライン 「恣意的な検察人事が可能になる」ことへの危機感 検察庁法改正案に反対する意見書を法務省に提出 イエスマン大好きの安倍官邸とはウィンウィンの関係 松尾邦弘元検事総長ら検察OB 「検察OBが改正案反対 ロッキード事件捜査の元検事総長ら 意見書提出へ」 毎日新聞
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”ひきこもり”問題(その9)(「ひきこもりの長期化」が招くとても悲惨な結末 「自尊心の喪失」が当事者をさらに苦しめる、ひきこもりを「犯罪者予備軍」扱いする人の愚行 加害者がひきこもりの殺人はわずか0.002%、「生きづらさが改善しない」引きこもり実態調査の深刻な中身) [社会]

”ひきこもり”問題については、2月5日に取上げた。今日は、(その9)(「ひきこもりの長期化」が招くとても悲惨な結末 「自尊心の喪失」が当事者をさらに苦しめる、ひきこもりを「犯罪者予備軍」扱いする人の愚行 加害者がひきこもりの殺人はわずか0.002%、「生きづらさが改善しない」引きこもり実態調査の深刻な中身)である。

先ずは、2月25日付け東洋経済オンラインが掲載した臨床心理士の桝田 智彦氏による「「ひきこもりの長期化」が招くとても悲惨な結末 「自尊心の喪失」が当事者をさらに苦しめる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/327907
・『ひきこもりが長期化するほど、なかなか外に出ることは難しくなります。というのも、外に出られない期間が長ければ長いほど、自分の欠点ばかりに目がいき、自己肯定感を下げてしまうからです。その果てにどんな事態が待っているのか? 新書『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』などの著作を持つ臨床心理士の桝田智彦氏が解説します。 誰にでも起こりうるひきこもりだからこそ、他人事ではなく、「自分の事」として捉えることが大切です。そして「自分の事」として捉えるのなら、実際にひきこもっている人たちの心の中でどのようなことが起きているのかを、ぜひ知っていただきたいと思います。 そのことは、ひきこもりという現象自体への理解を深めることにつながりますし、さらに彼らの苦悩を知ることで、彼らへのあなたのまなざしも変わることでしょう。 というわけで、ここからは、ひきこもりに悩んでいる方々の心の中へ分け入ってみたいと思います』、「誰にでも起こりうるひきこもりだからこそ、他人事ではなく、「自分の事」として捉えることが大切です」、「他人事」として捉えていたことを反省させられた。
・『ひきこもり当事者が抱える「罪悪感」  ひきこもりの方々のほぼ全員の心にある気持ち、それは孤独感と罪悪感と言えます。とくに、罪悪感については、「ひきこもりになりたくて生まれてきた人など、1人としていない」ということをお伝えしたいのです。それなのに、ひきこもってしまっている自分……。彼らはそのことへの罪悪感を抱えこんで生きています。 定職に就いて、人並みに結婚して、子どもをつくり、家庭を築くべきだし、でも、そのまえに、とにかく外へ出るべきだし、アルバイトでもなんでもいいから、せめてお金を稼ぐべきだし、といったことは、親や世間の人たちに言われなくても、彼らにはすべて痛いほどわかっています。 私の研究で、ひきこもり状態にある人には「〇〇しなければならない、〇〇すべきである」といった、特有の信念体系があることがわかりました。「〇〇すべき」という信念や思考は不適応状態や心の病の誘い水になることがわかっており、心理学ではイラショナル・ビリーフ(非合理思考)と呼ばれています。 ひきこもり状態にある人たち特有の信念体系であることから「ひきこもりビリーフ」と名付けました。ひきこもりビリーフを、次にご紹介しましょう。 ひきこもり状態にある人たちは、これらのことが「わかっているけれど、できない」から苦しくて、つらいのです。そんな自分のことで、親が悲しんでいることを思うと、罪悪感はいっそう強まり、悲しみと孤独は深まります。 彼らの多くは親や世間が望むように外へ出たいし、仕事に就きたいと思っています。けれども、外へ出て、他者の冷たい視線、無能者を見るような蔑みの視線、不審者に対するような奇異な視線にさらされることが怖くて、家の外へ出られないのです。 さらに、ひきこもる期間が長くなればなるほど、他人の視線がますます気になり、そのため、ますます外へ出られなくなります。なぜなら、自己肯定感が低下するにつれて、セルフイメージ(自分に対する印象)も低下していき、そして、セルフイメージの低い人が最も気にするのが、他人の視線だからです。 セルフイメージが高い人は自信に満ちていますから、他人にどう見られているかをさほど気にかけません。逆に、セルフイメージが低い人は自信が持てなくて、いわば自分の中に自信という「芯」がない状態です。そのため、「ダメなやつだと思われていないだろうか」などと、絶えずビクビクしながら、他人の目を気にするようになってしまうのです。 人一倍、他人の視線が気になるのですから、無職の中高年者が外出することへのハードルは、時を経るにつれて高くなるばかりで、ますます家にひきこもることになると言えるでしょう』、「「〇〇すべき」という信念や思考は不適応状態や心の病の誘い水になることがわかっており、心理学ではイラショナル・ビリーフ(非合理思考)と呼ばれています」、「セルフイメージが低い人は自信が持てなくて・・・「ダメなやつだと思われていないだろうか」などと、絶えずビクビクしながら、他人の目を気にするようになってしまうのです」、なるほど分かるような気がする。
・『人間は「欠点ばかり」注目する生き物  こうして外へ出られないまま、ひきこもっていると、自分の欠点にばかり目が行くようになります。下の図を見てください(リンク先参照)。 ほとんどの方が、一部が欠けている円を選ばれたと思います。人間は他者に対しても、自分自身に対しても、欠けているところ、つまり欠点に注目するようにできているからです。 この特性は進化の過程で人類が獲得したものだといわれています。マンモスがいた先史時代、厳しい自然環境の中で、一歩間違えれば命を落としかねない脅威にさらされながら、人間は狩りをし、生活を続けてきました。 自分や自分の子孫たちの命を守るためには、自分自身や狩猟の仲間に欠けている点、住環境の不備など「あらゆるものの欠点」にいち早く気づいて、素早くそれを補い、修正する必要があったと思われます。 このように、人間はもともと自分や他者の欠点に目が行くようにできているうえに、ひきこもりの方たちは世間から隔絶されて孤立し、自分を肯定する要素は1つとして見いだせないまま、罪悪感にさいなまれながら生きています。すると、自分の欠点以外に目が行かなくなり、「ダメな自分」を責め続けるわけです。 欠点だらけで、いいところが何1つない……。自分のことをそのようにしか思えなくなれば、自分でいいという自己肯定感など持てるはずがありません。あるのは、「誰でもない自分」「何者でもない自分」という感覚です。 誰でもない自分、何者でもない自分とは、他者にとって「透明人間」にすぎません。他者にとっては無視する存在ですらなく、それ以前に、彼らの目には映らない、存在すらしていない透明人間、“インビジブルマン”なのです』、「人間はもともと自分や他者の欠点に目が行くようにできているうえに、ひきこもりの方たちは世間から隔絶されて孤立し、自分を肯定する要素は1つとして見いだせないまま、罪悪感にさいなまれながら生きています。すると、自分の欠点以外に目が行かなくなり、「ダメな自分」を責め続けるわけです」、不幸な悪循環のようだ。
・『「自尊心の喪失」が彼らをさらに苦しめる  このように自分自身を感じるとき、人は生きながら、死んでいるのと同じような心持ちになるのだと思います。 そうなると、服装にも食事にもかまわなくなり、お風呂にも入らなくなり、病気になっても病院にかかる気が起きません。つまり、セルフネグレクトの状態になっていくのです。 ひきこもっている方たちはこうして自尊心を持てなくなり、生きる意欲も欲求も失われていきます。自分が生きていていいとはとても思えなくて、こんな自分は社会にお世話になる価値はないと感じてしまうのです。 ですから、多くのひきこもりの方々は生活が苦しくなっても、社会に助けを求めるという考えすら浮かばない傾向にあります。 社会に助けを求めるという発想すらなく、また、自分には社会のお世話になるだけの価値がないと感じている……。そうなると、最悪、餓死することも考えられるのです』、「セルフネグレクトの状態になっていく」、恐ろしいことだ。

次に、この続き、3月8日付け東洋経済オンライン「ひきこもりを「犯罪者予備軍」扱いする人の愚行 加害者がひきこもりの殺人はわずか0.002%」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/327908
・『なぜ「ひきこもり=犯罪者予備軍」という間違ったイメージが世の中で拡散されてしまったのか?その理由と実際の状況について、新書『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』などの著作を持つ臨床心理士の桝田智彦氏が解説します。 【2020年3月8日11時15分追記】初出時、サブタイトルと本文でひきこもっている人が起こした殺人の割合の数字について誤りがありましたので修正しました。 自己肯定感があまり持てなかったり、就活でつまずいたり、解雇されたり、いじめや、親の介護などで退職したり、あるいは、再就職した先で屈辱的な思いをさせられたり……。生きていれば、誰にでも起こりうるこのようなことがきっかけとなって、今、多くの人たちがひきこもっています。 つまり、ひきこもっている人たちの大半は少し運が悪かっただけであり、善良で、心やさしく、人づきあいも人並みにできる、ごく普通の人たちなのです』、「ひきこもっている人たちの大半は少し運が悪かっただけであり、善良で、心やさしく、人づきあいも人並みにできる、ごく普通の人たちなのです」、特殊な人々と捉えるべきではないようだ。
・『なぜ「偏見」が生まれたのか?  ところが、2019年5月28日早朝、川崎市の登戸駅近くでスクールバスを待っていた小学生の児童や保護者が、刃物を持った男に次々に襲われるという痛ましい事件が起きました。負傷者18人、死亡者3人(犯人も含む)。幼い子どもたちを無差別に切りつけるという残忍きわまる手口に、犯人に対する激しい怒りの声が上がったのも当然であり、決して許されるものではないと考えます。 犯行自体の残忍さとともに衝撃的だったのは、51歳の犯人の男が伯父夫婦と同居していて、長年、ひきこもり状態だったという事実でした。人々は50歳を過ぎてもひきこもっている人間がいることに驚いたと推察します。そして、ひきこもりと犯罪を関連づけるような形で報道がなされたことで、ひきこもり、すなわち「犯罪者予備軍」というようなイメージが世の中に流布され、拡散されていったのです。 また、この登戸通り魔事件のわずか4日後に、元農林水産省事務次官という東大卒の超エリート官僚だった76歳の父親が、44歳の息子の上半身を包丁で数十カ所も刺して殺害するというショッキングな事件が起きました。殺された息子もやはり、ひきこもりで、家庭内暴力もありました。殺害の前日には隣接する小学校の運動会があって、「うるせーな、子どもをぶっ殺す!」とわめき散らしたともいわれています。 この事件もまた、ひきこもりは人を殺しかねない犯罪者予備軍との印象を人々に植え付けたように思います。 しかし、ここで声を大にして伝えたいことがあります。それは、「ひきこもり=犯罪者予備軍」では決してないということです。私どもは21年以上、カウンセリングを通して数多くのひきこもりの方々と関わってきましたが、他人を傷つける重大な他害案件に遭遇したことはただの1回としてありません。 実際、ひきこもりの方たちは、その場の空気を読みすぎる傾向さえあるほど繊細で、やさしくてまじめな人たちが大半です。私の体感としても、彼らが無差別殺人などを起こすなどとはとても思えません。登戸の事件はごくごくまれなケースと言って間違いないと思っています』、「登戸駅」事件は例外中の例外なのだろうか。
・『「ひきこもりの犯罪率」は高くない  ひきこもりに関して著名な筑波大学医学医療系社会精神保健学教授の斎藤環先生も、2019年7月9日号の『婦人公論』で、登戸の事件と元農林水産省事務次官の事件を念頭に、ひきこもりと犯罪の関係について次のように語っていらっしゃいます──。 「私が今回のことで強調したいのは、家庭内暴力の延長線上に、通り魔的な暴力があるわけではない、ということです。この2つは方向性がまったく違う。現在のひきこもり人口は、100万人規模に達しているという内閣府の統計があります。しかし、それだけ当事者がいながら、明らかにひきこもりの人が関わったという犯罪は数件しかない。とくに無差別殺人のような重大犯罪は今まで見たことがありません」 斎藤先生は最後に、「ひきこもりは決して犯罪率の高い集団ではない」と言い切っているのです。 しかし、斎藤先生のお話以上に説得力のあったのが、東京新聞の2019年6月6日の「こちら特報部」の記事です。「こちら特報部」では共同通信の記事データベースに当たり、殺人・殺人未遂の容疑者・被告で、ひきこもりと報じられたケースが何件あるかを調べました。その結果、1999年から2019年までの20年間で43件あり、これを年平均にすると約2件だったのです。 さらに、記者たちが警察庁のまとめた各年の犯罪情勢を調べたところ、殺人の件数は1999年に1265件、2003年頃に1400件を超えましたが、それ以降は減少傾向にあります。過去5年間では年間900件前後です。 ひきこもっている人間が起こした殺人の年平均2件という数字は、過去5年間の900件前後という全体件数のわずか0.2%でしかないことを東京新聞は証明してみせたのです。ひきこもりの人間が起こした殺人事件は全体のわずか0.2%──。ひきこもりが犯罪者予備軍ではないことを示す決定的な数字です。) とはいえ、元農林水産省事務次官に殺害された息子さんは母親や父親に暴力を振るっていたと言われています。実際、ひきこもりの人の3、4割に家庭内暴力があるように、私自身も感じています。そのような暴力的な人間なら、殺人事件を起こしても不思議はないと思われるかもしれません。 しかし、たとえ家庭内暴力があったとしても、外でそれが起きることはほぼ皆無です。ひきこもりでも、また不登校でも、家で怒りにまかせて暴力を振るっていても、外では決してやりません。なぜでしょうか。 怒りは、相手との距離が近くなるほど強く感じるものです。人は赤の他人にはめったに怒ったりしません。友だちや恋人、配偶者、親、兄弟姉妹、子どもなど、近しい関係になればなるほど怒りを感じるのです。 さらに、心理学では「怒りは第1感情ではない」と言われています。怒りの前には必ず「別の感情」が生まれていて、この「別の感情」が第1感情であり、怒りは第2感情です。つまり、怒りの前に生まれる第1感情が怒りの正体なのです』、「ひきこもりの人間が起こした殺人事件は全体のわずか0.2%」、確かに説得的な数字だ。
・『家庭内暴力は彼らの「悲鳴」だ  では、怒りの正体とはなんでしょうか。それは悲しみです。こうあってほしいのにそうじゃない、こうなるはずだったのに、そうならないという悲しみが怒りの正体であり、第1感情なのです。それでは、なぜ相手が距離の近い人間であるほど怒りが湧き、悲しみを感じるのでしょうか。 それは「愛情」があるからです。愛情があるから悲しくて、愛情があるから怒るのです。家庭内暴力の正体は、彼らの愛情が愛する人に伝わっていないことへの悲鳴なのです。ですから、ひきこもりの人は、母親や父親など家族には怒って暴力を振るうことはあっても、愛情のない外の人間に対して決して暴力行為を行うことはないのです。 かく言う私も、口論などで母に怒ったりすると、罪悪感を覚えたものでした。しかし、心理学を学んでからは、母に怒って大声をあげても、そのあと落ち込むこともなくなりました。「ああ、母に対して愛があるからなのだなあ」と思えるからです。 家庭内暴力があっても外へ向かって暴力を振るうことはほとんどないということや、ひきこもりの人が殺人事件を起こす割合が全体の0.2%でしかないという事実を考えても、ひきこもりが犯罪者予備軍というのはまったくの的外れな考え方であり、このことはいくら強調しても強調しすぎることはないと考えています』、「怒りの正体とはなんでしょうか。それは悲しみです。こうあってほしいのにそうじゃない、こうなるはずだったのに、そうならないという悲しみが怒りの正体であり、第1感情なのです・・・愛情があるから悲しくて、愛情があるから怒るのです。家庭内暴力の正体は、彼らの愛情が愛する人に伝わっていないことへの悲鳴なのです。ですから、ひきこもりの人は、母親や父親など家族には怒って暴力を振るうことはあっても、愛情のない外の人間に対して決して暴力行為を行うことはないのです」、「ひきこもり」への理解が深まった気がする。ためになる記事だった。

第三に、4月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの池上正樹氏による「「生きづらさが改善しない」引きこもり実態調査の深刻な中身」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/233520
・『「生きづらさが改善しない」引きこもり当事者たちの本音  引きこもり経験者らでつくる当事者団体が、現在「ひきこもり」状態にあると自認する900人以上を対象に実態調査を行った結果、6割が働きたいと思っているのに、その大半は「就職しても生きづらさが改善しない」と考えていることがわかった。 調査を行ったのは、引きこもり経験者や、発達障害、セクシャル・マイノリティといった当事者でつくる一般社団法人「ひきこもりUX会議」。この『ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019』は、2019年10月から11月にかけて、SNSなどのオンラインやイベントで調査用紙を配布し、1686人から回答を得た。この調査結果は、社会学者の新雅史氏が分析し、3月26日に公表された。 調査によると、「現在『ひきこもり』「ですか」の問いに「はい」と答えた人は、全体の65%の940人。その中には、今は就職や就労、就学していても「生きづらさがある」などの理由で「ひきこもりだと思っている」人も13%いた。 また、これまで「ひきこもりだったことがある」経験者も含めると、回答者は86%の1448人に上った。 2019年3月に公表された内閣府の40歳以上の実態調査は、調査対象者5000人のうち、「ひきこもり」群の定義に該当した47事例という少ないサンプルから試算せざるを得なかった。周囲には知られたくない、生きている価値がないと思わされている「引きこもり」という特徴は、行政でも調査方法が難しいと言われている。それだけに、これだけ数多くの当事者の状況や背景が初めてデータで示されたことは注目される。 現在「ひきこもり」と自認する940人の性別(性自認)は、女性の割合が61%と多かった。これまでの行政の調査では、男性のほうが7割~8割と多く、男性特有のイメージがあったことについて、同団体の林恭子代表理事は「もともと私たちが活動している現場では、半々くらいの割合という実感があり、社会からのプレッシャーは同じなのではないか」と説明する。 また、内閣府の調査では確認できなかった性別の「その他」が6%いたことから、これまでセクシャルマイノリティに対する性的差別や理解不足などの原因で引きこもらざるを得なかった人たちが一定数存在していることも、データとして拾うことができたのは画期的だ。 そしてこの940人のうち、半数近い48%が「生活費に困っている」という生活困窮の実態も浮き彫りになった』、『ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019』が「現在「ひきこもり」状態にあると自認する900人以上を対象に実態調査」、実態を明らかにするいい試みだ。「女性の割合が61%と多かった」、意外な気もするが、これが実態なのかも知れない。
・『生きづらさが改善するのは「安心できる居場所」が見つかったとき  興味深いのは、現在「ひきこもり」と自認する940人に、どのような変化によって生きづらい状況が軽減、改善したかを尋ねたところ、人によって生きづらさの変化がそれぞれ違うという前提があるとはいえ、「安心できる居場所が見つかったとき」と回答した人が42%超と最も多かったことだ。 一方で、生きづらい状況が軽減、改善したとは思えない人は、「就職したとき」が87%、「家族関係が修復したとき」が86%、「新しい人間関係ができたとき」も75%に上り、従来の「ひきこもり支援」の価値観を覆す結果がエビデンスとして初めて裏付けられた格好だ。 調査では、大学や短大、大学院に在籍したことがある人は半数近く。また、就労していない人の6割弱が働きたいと思っていた。それなのに、就職しても生きづらさが改善しないのはなぜなのか。 引きこもり支援は、「就職」や「家族関係の修復」を目指すよりもまず、親子それぞれの状況や人生をサポートして、個々の「安心できる居場所」を一緒に時間をかけて探していく関係性が求められているといえる。 そんな「居場所/場づくり」についての設問もある。 「当事者会や居場所、フリースペースに参加したい」人は57%、参加したい理由として半数を超える51%が「同じような経験をした人と出会える・話せる」を挙げた。 たとえ就職、就労できたとしても、職場で傷つけられたときなどに、自宅以外でも安心して戻って来られるような、あるいは、行ったり来たりできるような受け皿づくりが大事なことも改めて示されたといえる。 一方で、当事者会や居場所、フリースペースに「参加したいと思わない」人も28%と4分の1を超えた。その理由は「人と話すのが苦手」(24%)、「行っても意味がない」(23%)が目立った。 また、引きこもり当事者や経験者がつくり出す取り組みについては、「当事者や経験者が働ける場をつくる活動」が最も多い66%を占めた』、「引きこもり支援は、「就職」や「家族関係の修復」を目指すよりもまず、親子それぞれの状況や人生をサポートして、個々の「安心できる居場所」を一緒に時間をかけて探していく関係性が求められている」、こうしてみると、やはり解決は簡単なことではなさそうだ。
・『「親が亡くなったら困窮」 将来を不安視する深刻な声も  さらに、行政からの支援を受けたものの、その内容に課題を感じた人の割合は9割に上った。 自分がこれまでに利用した「ひきこもり支援・サービスの課題」や、「将来について感じている不安」などの自由記述欄にも、数多くの声が寄せられたという。 中でも、「経済的に困窮していて国民年金を支払っておらず、独身で職歴もなく、親が亡くなった後は困窮する未来しか見えない」「お金や介護のことなど不安なことだらけです。現在無職で、貯金が底をつきそう……」といった深刻な声が数多く紹介されている。 同団体によると、自由記述欄には「安楽死を望む」と十数人が書き込むなど、特に地方では困難な状況に置かれているため、今すぐにでも何らかの手立てが必要だと感じたという』、「「安楽死を望む」と十数人が書き込む」とは確かに深刻だ。
・『安心して言える場がいない だから言葉が紡げない  「支援者の方や親御さんは、“話を聞いても何も言ってくれない。何も考えていないのではないか”などとよく言いますが、決してそんなことはない。皆、思いがあって、伝えたいことをたくさん持っている。でも、安心して言える場がない。心から聞いてくれると思えないから、言葉を紡ぐことができないことを感じました」(前出・林代表理事) 同団体では今後、こうした実態調査の結果を基に、引きこもり状態をどう考えていくのか、行政の担当者や支援者に伝えるためのイベントを実施するとともに、当事者団体の目線から「ひきこもり白書」の制作も企画している。 ※この記事や引きこもり問題に関する情報や感想をお持ちの方、また、「こういうきっかけが欲しい」「こういう情報を知りたい」「こんなことを取材してほしい」といったリクエストがあれば、下記までお寄せください。 Otonahiki@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください) なお、毎日、当事者の方を中心に数多くのメールを頂いています。本業の合間に返信させて頂くことが難しい状況になっておりますが、メールにはすべて目を通させて頂いています。また、いきなり記事の感想を書かれる方もいらっしゃるのですが、どの記事を読んでの感想なのか、タイトルも明記してくださると助かります』、「ひきこもりUX会議」の今後の活動に期待したい。
タグ:家庭内暴力は彼らの「悲鳴」だ 「親が亡くなったら困窮」 将来を不安視する深刻な声も ひきこもりの人は、母親や父親など家族には怒って暴力を振るうことはあっても、愛情のない外の人間に対して決して暴力行為を行うことはないのです ひきこもっている人たちの大半は少し運が悪かっただけであり、善良で、心やさしく、人づきあいも人並みにできる、ごく普通の人たちなのです 女性の割合が61%と多かった 「「生きづらさが改善しない」引きこもり実態調査の深刻な中身」 それは「愛情」があるからです。愛情があるから悲しくて、愛情があるから怒るのです。家庭内暴力の正体は、彼らの愛情が愛する人に伝わっていないことへの悲鳴なのです ひきこもり・生きづらさについての実態調査2019 池上正樹 「ひきこもりを「犯罪者予備軍」扱いする人の愚行 加害者がひきこもりの殺人はわずか0.002%」 セルフネグレクトの状態になっていく 引きこもり支援は、「就職」や「家族関係の修復」を目指すよりもまず、親子それぞれの状況や人生をサポートして、個々の「安心できる居場所」を一緒に時間をかけて探していく関係性が求められている 「「ひきこもりの長期化」が招くとても悲惨な結末 「自尊心の喪失」が当事者をさらに苦しめる」 ひきこもりUX会議 「自尊心の喪失」が彼らをさらに苦しめる 人間はもともと自分や他者の欠点に目が行くようにできているうえに、ひきこもりの方たちは世間から隔絶されて孤立し、自分を肯定する要素は1つとして見いだせないまま、罪悪感にさいなまれながら生きています。すると、自分の欠点以外に目が行かなくなり、「ダメな自分」を責め続けるわけです ひきこもりの人間が起こした殺人事件は全体のわずか0.2% 生きづらさが改善するのは「安心できる居場所」が見つかったとき 人間は「欠点ばかり」注目する生き物 なぜ「偏見」が生まれたのか? 安心して言える場がいない だから言葉が紡げない 自己肯定感が低下するにつれて、セルフイメージ(自分に対する印象)も低下していき、そして、セルフイメージの低い人が最も気にするのが、他人の視線だからです 「〇〇すべき」という信念や思考は不適応状態や心の病の誘い水になることがわかっており、心理学ではイラショナル・ビリーフ(非合理思考)と呼ばれています ひきこもり当事者が抱える「罪悪感」 桝田 智彦 ”ひきこもり”問題 現在「ひきこもり」状態にあると自認する900人以上を対象に実態調査 「生きづらさが改善しない」引きこもり当事者たちの本音 ひきこもり、すなわち「犯罪者予備軍」というようなイメージが世の中に流布 「安楽死を望む」と十数人が書き込む 登戸駅 誰にでも起こりうるひきこもりだからこそ、他人事ではなく、「自分の事」として捉えることが大切です (その9)(「ひきこもりの長期化」が招くとても悲惨な結末 「自尊心の喪失」が当事者をさらに苦しめる、ひきこもりを「犯罪者予備軍」扱いする人の愚行 加害者がひきこもりの殺人はわずか0.002%、「生きづらさが改善しない」引きこもり実態調査の深刻な中身) ダイヤモンド・オンライン 『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』 東洋経済オンライン 「ひきこもりの犯罪率」は高くない 怒りの正体とはなんでしょうか。それは悲しみです。こうあってほしいのにそうじゃない、こうなるはずだったのに、そうならないという悲しみが怒りの正体であり、第1感情なのです
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働き方改革(その26)(テレワーク拡大を妨げる同調圧力 2万人緊急調査から見えてきた課題、テレワークできるのにやらない…日本での普及を阻む「3つの壁」 ポスト・コロナの働き方を考える、小田嶋氏:Zoomに心を許さない理由) [企業経営]

働き方改革については、4月13日に取上げた。今日は、(その26)(テレワーク拡大を妨げる同調圧力 2万人緊急調査から見えてきた課題、テレワークできるのにやらない…日本での普及を阻む「3つの壁」 ポスト・コロナの働き方を考える、小田嶋氏:Zoomに心を許さない理由)である。

先ずは、4月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した株式会社パーソル総合研究所 主任研究員の小林祐児氏による「テレワーク拡大を妨げる同調圧力、2万人緊急調査から見えてきた課題」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/235942
・『緊急事態宣言の対象地域が全国に広がってから10日が過ぎた。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、テレワーク実施に踏み切る企業も少なくないが、実際のところ、出社抑制にはまだまだ課題も多い。どうすれば、テレワークを拡大できるのか。パーソル総合研究所の緊急調査データを基に解説する』、「緊急調査」とは興味深そうだ。
・『テレワーク実施率は1カ月で約2倍に 全国2万人超への調査で判明  連日報道されている通り、一斉休校、外出自粛要請、そして緊急事態宣言などを契機として、テレワークが一気に広がりだした。こうした状況を見て、パーソル総合研究所では、テレワークの実態について2万人を超える規模の緊急調査を3月、4月と2回にわたって実施した。 果たして、日本においてテレワークのこれ以上の拡大はあり得るのだろうか。少しでもエビデンスに基づいた議論を行うために、ここでは全国の20~59歳、2万人超を対象にした本調査のデータを用いながら検討したい。 まず、4月調査時の従業員のテレワーク実施率は27.9%と、約1カ月前の3月調査時(13.2%)と比べて、2.1倍に伸びた。急速なテレワーク拡大が進んでいる。簡易的に推計すれば、全国でおよそ761万人がテレワークを実施していることになる。 従業員のテレワーク実施率(グラフはリンク先参照) また、4月の調査(4月10日~12日)直前の4月7日には、7都府県に対して緊急事態宣言が発令された。その後、4月16日には、宣言対象地域が全国へと拡大された。では、この緊急事態宣言により、テレワークは進むだろうか。 そもそも「テレワークを実施していること」と、「完全に出社しないこと」は異なる。接触を防ぐ目的に照らせば、一部の業務がテレワークで行えても、出社してしまえば、必然的に人との接触頻度は増えてしまう。調査データから、先に対象となった東京・大阪など7都府県における「出社」率を見ることで、緊急事態宣言の効果を見てみよう。 緊急事態宣言後の出社率の推移(グラフはリンク先参照) 7日夜に7都府県に対して緊急事態宣言が出された翌日、8日水曜日の出社率がマイナス6.2ポイントと最も大きい減少幅だった。それ以降はマイナス2.8ポイント、マイナス0.5ポイントと、あまり減少していない。つまり、出社率で見れば、それほど大きな変化がない、という実態が明らかになる。要因はいくつも考えられるが、すでに東京などでは緊急事態宣言が予想されており、テレワークを行う気がある企業はすでにテレワークに移行していたということがあるだろう。 次ページでは、テレワーク実施率を都道府県別に見てみよう。このデータを見ると、緊急事態宣言が最初に発出された都府県は、他地域と比較してテレワーク実施率が高い。また、これらの都府県では、3月調査時と比較してもその実施率が増加している。厳密に見るにはサンプル数に限界はあるが、最上位になった東京都と最下位となった山口県は10倍以上の差が開いている』、「テレワーク実施率は1カ月で約2倍に」、とはいえ、「4月調査時の従業員のテレワーク実施率は27.9%」、と水準は依然低い。出社率も58.5%と高水準のようだ。
・『テレワーク拡大を阻む「心の足かせ」とは?  緊急事態宣言が全国に広がった今、特に平日の感染拡大を防ぐには、より広くテレワークを推進するほかない。では、どうすればテレワーク実施がさらに拡大できるのか。 テレワーク拡大を阻む要因を探るため、まずは「テレワークを実施できていない理由」を見てみよう。調査結果では、「テレワークで行える業務ではない」が47.3%、「テレワーク制度が整備されていない」が38.9%となった。これだけ見れば、テレワーク実施には業務や制度上の現実的なハードルが高いことが要因のように見えるし、現在世間でも多く議論されている。しかし、もう少しデータを読み解けば、違う見方ができる。 テレワークが実施できていない理由(グラフはリンク先参照)  結論を端的に言えば、現段階におけるテレワーク拡大の最も高いハードルは、人々の「危機感の濃淡」にある。 先ほどの都道府県別のテレワーク実施率と、その当時(4月10日)におけるその都道府県の新型コロナウイルス感染者数の相関係数は0.79と、かなり強い相関関係にある。つまり、「テレワークが実施できない」という現実的制約よりも、まだ周囲に感染者が少なく、「大丈夫だろう」と感じている企業・従業員が多くいることのほうが、テレワーク実施率に影響しているということだ。 ほとんどの企業活動、従業員の業務は、「他者」との相互行為を含んでいる。多くの仕事は、同僚、上司などの職場関係や、クライアントや同業他社、取引先などと関係しながら進んでいく。つまり、以下の図の左で示したような単純なモデルのように、「危機感の強い企業・個人から徐々にテレワークしていく」ということは、現実的には難しい。実際には図の右のように、周囲の関係する他者との相互作用によって、危機感が強い人がいるとしても、理想よりもテレワークを実施できない。つまり、「足かせ」をはめられているような状況になる。 完全テレワークは「ひとり」「1社」単位ではできない(グラフはリンク先参照)  調査においても多数を占めた「テレワークではできない業務がある」の「できない」の中には、例えばクライアント先の設定した納期に間に合わないだとか、他社が電子取引に対応していないだとか、会社全体の業務指示だとか、個人や個社にとっては「どうしようもない」ようにみえる制約が多数含まれているだろう。「同僚が出ているから」という同調圧力に打ち勝てない個人などもたくさんいるはずだ』、「調査においても多数を占めた「テレワークではできない業務がある」の「できない」の中には・・・個人や個社にとっては「どうしようもない」ようにみえる制約が多数含まれているだろう。「同僚が出ているから」という同調圧力に打ち勝てない個人などもたくさんいるはずだ」、なるほど。
・『政府やメディアの啓蒙施策だけではテレワークの「足かせ」を断てない  なぜこうした当たり前のことをわざわざ整理したのかというと、それがテレワーク推進の「次の一手」に関わるからだ。政府の呼びかけやメディアを通じた情報拡散など、現在行われている啓蒙施策は、「多数」を相手に「面」で展開するがゆえに、個人や個社に対しての「危機感の底上げ」の効果を持つ。これはもちろん前提として必要なのだが、残念ながら先ほどのような相互作用を断ち切る機能を直接的に有していない。現状、自分はテレワークをしたくても、「足かせ」が付いた状態でできない事情を抱える個人や会社にとっては、「そう簡単に言うな」と反発心を覚えかねない。テレワークを推進するという真の目的を達成するためにも、そうした反発心を蓄積していくのは極めてまずい。 これ以上のテレワーク拡大を狙うフェーズでは、「足かせを断つ」、つまり互いにテレワークできなくさせるような会社間・個人間の相互作用をなくしていく施策を押し進めることが必要だ。 具体的には、「会社間」の問題については、業界団体を通じた納期緩和や電子取引の依頼、呼びかけや、大企業からの同様の通達などが考えられる。中小企業は相対的に弱い立場にある。集団的な交渉を行うことや、強い立場の企業から救済に乗り出すことが有効ではないか。個人の問題については、企業トップからのメッセージングや、「出勤承認制」によって、テレワークをすることを社内のデファクトスタンダード(事実上の標準)にすることも有効だろう。こうした呼びかけによって、自社や自身“だけ”でなく、「みんながテレワークをするはずだ」「テレワークすることが当たり前だとみんなも感じているはずだ」という集団レベルの意識を形成する必要がある』、「これ以上のテレワーク拡大を狙うフェーズでは、「足かせを断つ」、つまり互いにテレワークできなくさせるような会社間・個人間の相互作用をなくしていく施策を押し進めることが必要だ」、実際には時間もかかり、なかなか難しそうだ。
・『テレワーク拡大には「みんなやってる」状態を広げること  テレワークの現状を、ノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリングの「臨界質量critical mass」の考え方を借りて整理してみよう。 (臨界質量のグラフはリンク先参照) 図のように、「自分自身がテレワークをするかどうか」を縦軸に、「他者がどのくらいテレワークをしているか」を横軸にしたとき、それぞれの数値の比例関係は一定ではない。企業活動には先ほどのような相互作用が常にあるので、他社や他人が「まだテレワークをしていない」ということを認識し続け、それに影響をうける。実施率が伸びていき、図の中の臨界値を超えたあたりで、「みんなやっているから自分もやらないとまずい」という右上の赤いゾーンに入り、一気に伸びていく。 全国規模のテレワークという初めての事態で、この臨界値に参照できる基準などないが、実施率の差を見ると、おそらく東京の企業や、大企業では、この右上のゾーンにすでに入っているが、地方の中小企業では、左下のゾーンにとどまっている。まさに今求められているのは、この臨界値をできるだけ左下に寄せていくこと、つまり「みんなやっている」ゾーンを広げていくことに他ならない。そのためには政府・行政による戦略的なコミュニケーションや、個社を超えたレベルの企業の動きが必要になる。 そうした集団的な判断や呼びかけに参照してもらえるよう、パーソル総合研究所では、テレワーク実施率のデータを職種別・業界別に細かい粒度で公開している。一研究者としても、人々が少しでも接触頻度を減らし、ウイルス感染の抑制につながることを願ってやまない。 【訂正】記事初出時より以下のように修正しました。3ページ目図版:都道府県別テレワーク実施率ランキング 37位富山県、38位岡山県、39位広島県→すべて37位、44位岩手県、45位秋田県、46位長崎県→すべて44位(2020年5月8日18:00 ダイヤモンド編集部)』、「トーマス・シェリングの「臨界質量critical mass」の考え方」を使って、「「テレワーク拡大には「みんなやってる」状態を広げる」べく、「政府・行政による戦略的なコミュニケーションや、個社を超えたレベルの企業の動きが必要」、と結論付けたのはさすがだ。

次に、5月6日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの治部 れんげ氏による「テレワークできるのにやらない…日本での普及を阻む「3つの壁」 ポスト・コロナの働き方を考える」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72315
・『緊急事態宣言が当初の期限である5月6日から31日まで延長になった。政府は「人と人との接触を8割減らす」ことを目標にしてきたが、感染者の減少がまだ十分ではなく、医療崩壊の可能性が懸念されるためだ。 「8割減」に向け、テレトワークの導入や不要不急の外出自粛が要請されてきたが、日本におけるテレワークの利用率の低さが問題視されている。 いったい何が「テレワークの壁」になっているのか。原因を3つに分類し、それぞれの実状や問題点、個人にできることを考えてみたい』、「「テレワークの」「3つの壁」、とは面白そうだ。
・『テレワークの壁1:できるのにやらない  最初の壁は、テレワークが可能な職種なのに、やらないという問題だ。総務省の調べによると、テレワークの進み具合を3段階(低・中・高)で分けた場合、日本は低と中の間に位置する。IPSOS社の2011年調査をもとに、最も進んだ地域は中近東・アフリカやラテンアメリカ(共に普及率27%)だとしている。欧米は日本より進んでいる。 やらない/やれない理由のひとつは、端末や通信環境が未整備ということだ。中には資金に余裕がない、という声も聞く。また、環境以上に問題なのは意識だ。特に管理職で、部下が目の前にいないと仕事をしているか分からない、評価できないという人が少なくない。 私は自営業で取引先は官公庁から民間企業まで多様である。公的機関より民間企業の方が、古くて大きな組織より、新しくて小さな組織の方が、そして日本の組織より欧米本社の組織にテレワークが根づいている。 緊急事態宣言に先立ち、2月中旬頃から外資系コンサルティング会社や、技術力の高い日本のベンチャー企業はテレワークに切り替えていた。通勤や密集したオフィスでの感染を心配せず、自宅で仕事に集中できてよかった、という話を直に聞いた。 これから就職・転職する人には「コロナ対応」を軸に勤務先を選ぶことをお勧めしたい。「書類にハンコが必要」といった商慣習を今なお変えようとしない組織は、できれば避けた方がいい。古いルールに縛られて、従業員の健康を後回しにしているからだ。 私自身は、社員数300名ほどのベンチャー企業で働いた経験がある。創業経営者は日本の巨大企業出身だった。大企業の問題点を反面教師としてハンコを使わずに、上司の決裁を得て仕事を進め経費精算ができる仕組みがあり、働きやすかった』、「テレワークが可能な職種なのに、やらないという問題」で、「環境以上に問題なのは意識だ。特に管理職で、部下が目の前にいないと仕事をしているか分からない、評価できないという人が少なくない」、「管理職」がいまだにそんなことをうそぶいていられるのも、トップがそれを放置しているからなのだろう。
・『テレワークの壁2:コミュニケーションが難しい  実際にテレワークをしている人には、この2つ目の壁が最も気になるのではないだろうか。特に「対面でコミュニケーションする」ことが重要な職種では困難を感じるだろう。 私は今、ZoomやTeams、Facebookメッセンジャーの電話機能や通常の音声通話を使って多くの人とやり取りしている。もともとメールのやり取りが多く、対面せずに物事を進めることに慣れていたため、ポスト・コロナの働き方は、これまでの延長線上にある。 その大きな要因として、取引先のほぼ全員と「コロナ前」に会っている、というのがある。これまで対面で話を重ね、信頼関係ができているから「話をする場」をリアルからオンラインに移行できたわけだ。逆にいえば、全く顔を合わせたことがない人とオンラインでやり取りを始めて仕事を進めることは、それほど簡単ではない。 4月27日、一般社団法人営業部女子課の会が公表した「コロナ時代のモノの売り方~営業職のテレワーク」調査には、非対面の課題がよく表れている。315名の回答者中、62%が女性であり、全体の71%が法人営業に携わっている。そしておよそ6割の人が「リモート営業で困っている」と回答している。 困っている理由としては、「顧客との信頼関係の強化について」「顧客側の環境が進んでいない」「顧客とのアポイントが取りにくい(オンライン商談等)」が挙がった。 具体的には次の通りだ。 「訪問すれば、いろんな情報を収集できる。リモートでは余計な話をして長引かせてはいけないと思い、関係が希薄になるのではないかという懸念がある」 「微妙な顔色や反応を感じとることが難しい。また名刺交換ができないため、その後のフォローがしにくい(メルアドや電話が不明)。会社の電話番号を前から知っていたとしても、先方もリモートのため電話がつながらない」「商品に触れてもらえないので素材の良さを伝えるのが難しい。興味が薄くても触ってもらうことで興味を引き出していたので。印象に残るようなコンタクトが難しい」 実際に相手のオフィスを訪問すれば、話の内容だけでなく、従業員の様子や会議室のインテリア等からも先方の価値観や好みを感じ取ることができる。リモートでは、話をする相手の上半身しか見えない上、背景すら分からないことがある。 また、「テレワークの壁1」で指摘した課題を相手が抱えている場合は、より困難になる。 「相手側の環境、リテラシーがないと、こちら側はいくら環境が整っていても無理。そもそも営業先(飲食店や百貨店など)が休業しているので営業どころではない」「ITリテラシーが低い世代(特に部課長クラス)は、リモート営業に懐疑的」 こうした現場の声を裏付けるのが政府の統計だ。2018年版の情報通信白書によれば、日本企業におけるテレワークの普及率は14%程度であり、若い世代ほど利用希望者が多いが、中高年以上は敬遠していて世代間ギャップが見て取れる。 営業部女子課は、もともとリクルートの営業を経験した太田彩子さんが、女性の営業職を増やすことを目指して作った全国の女性営業職をつなぐネットワークだ。太田さんは、営業職が女性の経済的自立につながる職種という実体験に基づく信念がある。リモート営業の難しさだけでなく、克服方法や工夫についても情報収集している。今回の調査に加えて、営業部女子課で開催したZoom会議では、こんな意見も出たそうだ。 「声のトーンや画像の遅れなどを考慮しゆっくり話す、ポイントをかいつまんで話す」「新規顧客との商談前には『自分の自己紹介(プライベート含め)』ページを表示して、相手との距離を縮めている」「商談の冒頭は自ら自己開示し、積極的に話した。顔を画面にかなり近づけて(笑)、オーバーリアクションが大事」 ここで共有されている工夫は、営業職以外の人がウェブ会議などをする時も参考になりそうだ。ゆっくり、ポイントをまとめて話すこと、相手との距離を縮めるための自己開示の工夫、そして分かりやすい反応を示すこと――今日の仕事から使ってみたい』、「「コロナ時代のモノの売り方~営業職のテレワーク」調査」、で「「訪問すれば、いろんな情報を収集できる。リモートでは余計な話をして長引かせてはいけないと思い、関係が希薄になるのではないかという懸念がある」 「微妙な顔色や反応を感じとることが難しい。また名刺交換ができないため、その後のフォローがしにくい」、などさすがよくポイントを突いているようだ。
・『テレワークの壁3:エッセンシャル・ワーク  最後に、仕事の性質からテレワークができない職種について考える。医療、介護、保育など人の直接的なケアをする職業や、郵便、宅配便など物理的にものを運ぶ職業、食料品販売業や清掃業、運輸業などが該当する。特徴は、サービス提供と消費が同じ場所であることだ。 海外で都市封鎖を実施している国でも、こうした職種「Essential work(エッセンシャル・ワーク/必要不可欠な仕事)」に従事する人は出勤を認められている。これは労働者にとっては良い面と悪い面がある。良い面はコロナ対応で需要が減らず(むしろ増えることもある)、雇用と収入が維持できること。悪い面は通勤しなくてはいけないことと、対人接触を減らせず感染リスクがあることだ。 私たちは皆、エッセンシャル・ワークに依存して生活している。それに従事する人たちがいなくては生活が成り立たないから、まさにエッセンシャルな仕事だ。「重要な仕事を担う人たちが公衆衛生上のリスクを負うのは不公平なことだ」ともし思うなら、この分野において行動を変えるべきは労働者ではなく消費者だろう。エッセンシャル・ワークの中には、重要度やリスクに見合わない、低賃金の仕事もある。この問題は私たち消費者の意識を変えないと解決できないものだ。 最後に2つ提案したい。第一に、消費者はエッセンシャルワーカー達に過剰なサービスを要求しないこと。第二に料金の値上げがあった場合、それが働き手の賃金に回るなら、受け入れることだ。ポスト・コロナの働き方を考える時は、同時に消費者の期待のありようも変える必要がある』、「提案」の「第一」はいいとしても、「第二に料金の値上げがあった場合、それが働き手の賃金に回るなら、受け入れること」は、「働き手の賃金に回る」か否かは、消費者には判断しようがなく違和感がある。

第三に、5月1日付け日経ビジネスオンラインが掲載したコラムニストの小田嶋 隆氏による「Zoomに心を許さない理由」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00068/?P=1
・『緊急事態宣言が出てからこっち、世の中の設定が、すっかり変わってしまったように見える。 にもかかわらず、先週も書いたことだが、私の生活はたいして変わっていない。 あるいは、私はずっと以前から緊急事態を生きていたのかもしれない……というのは、はいそうです、格好をつけただけです。本当のところを申し上げるに、私の生活は、緊急性とはほぼ無縁だ。それゆえ、このたびの事態にも影響を受けていない。それだけの話だ。 ブルース・スプリングスティーンの歌(1973年に発売されたアルバム「アズベリー・パークからの挨拶“Greetings from Asbury Park, N.J.”」に収録されている“For You”という歌です)の中に 「おい、人生ってのはひとつの長い非常事態だぞ」(Your life was one long emergency)という素敵滅法な一節がある。 私は、残念なことに、そういうロケンロールな生き方をしていない。 いたって暢気に暮らしている。 とはいえ、こんなにも蟄居して暮らすのは、たぶん大学に入学した最初の年の夏に軽い虚脱状態に陥って以来のことだ。 そこで、今回は、人間が部屋に引きこもることの意味について考えてみたい。 このことは、同時に、われわれが他人と会うことの意味を考える機会にもなるはずだ。 このたびの蟄居生活の中で、いくつかのテレワークでの会議仕事を経験した。 アプリの名前を挙げるなら、Zoom、Skype、Lineのグループ通話(アプリによっては「会議」と呼び習わしたりする。実態は同じ。つまり、「離れた場所にいる複数の人間が、ひとつの画面上で同時通話をする」ことだ)を使って会議をしたことになる。この原稿を書いている3日後には、マイクロソフトのTeamsという会議ソフトを使ったインタビュー取材を受けることが決まっている』、小田嶋氏はIT機器には詳しいので、既に多くの「テレワーク」「アプリ」を使いこなしているようだ。
・『これまで、Skypeなどを使ったテレビ電話の経験をまるで持っていなかったわけではないのだが、ありていに言えば、私は、一度か二度ためしてみた上で、それ(テレビ電話)を見限っていた。理由は、 「相手の顔が見える必要は感じないし、自分の顔を相手に見せる理由なんかもっとないぞ」と思ったからだ。実際、通話の間、自分がどんな顔をしていれば良いのやら、見当がつかない。なのでとても疲れる。 3人以上でのグループ通話も、2年ほど前にやってみたことはあるのだが、なんだか学生演劇の稽古風景みたいで、ひたすらに照れくさく思えた。なので、以来、封印していた。 それが、今回、インタビュー取材(被取材)、編集会議、配信コンテンツ収録、ネット麻雀(ウェブアプリ+Lineグループ通話)という、いくつかの違った枠組みで、次々と新しい遠隔ミーティングを経験する運びになった。 世の中の進歩は、われわれを放っておいてくれない。こっちが二の足を踏んでいても、先端技術のほうが末端の人間を取り込みにくる。 他方、週に一度のペースで出演しているラジオ番組では、コロナ感染の危機を回避すべく、この4回ほど、電話(に加えてSkypeを使うこともあります)による出演が続いていたりする。 冒頭で自分の暮らしぶりが変わっていない旨をお伝えしたばかりなのだが、あらためて振り返るに、私の情報環境は、どうやら、かなり劇的に変貌しつつある。ただ、私自身がテレワークの環境にうまく適応できていないというだけのことなのだろう。 総体として言えるのは、電話出演やグループ通話やテレビ会議でのオダジマは、空回りをしているということだ。 なんというのか、画面上の人間を相手にしゃべっている時の自分は、口数が多い一方で、くだらないことばかり言っている気がするのだ。 理由はある程度わかっている。 画面(あるいはインターネット回線)を間にはさんだ対話に参加している人間たちは、リアルで対面している時に比べて、「空白」「沈黙」「間」を恐れる傾向がより顕著になる。このことが、会話を散漫な方向に導くのだ。 実際、テレビやラジオの出演に慣れていない出演者は、「空白」を過剰にこわがると言われている』、「(テレビ電話)を見限っていた。理由は、「相手の顔が見える必要は感じないし、自分の顔を相手に見せる理由なんかもっとないぞ」と思ったからだ」、確かにその通りだ。「テレビやラジオの出演に慣れていない出演者は、「空白」を過剰にこわがると言われている」、あり得る話だ。
・『こっちが視聴者なりリスナーなりの立場で放送コンテンツを鑑賞している時には、多少の間があっても不自然には感じない。むしろ、昼間のラジオ番組などでは、対話のアタマと尻尾に適当に沈黙がはさまっているほうが、落ち着きがあって聴きやすかったりする。 ところが、出演する立場になると、0.5秒の返事の遅れや、「えーと」と言ってからの1秒の間が、放送事故に思えてしまう。それで、あわててしまってつまらないことを口走ったり、さらに致命的な沈黙に沈み込んでしまったりするわけなのだが、パソコンを介した多人数同時対話のメンバーが味わうことになる焦りも、これに似ている。 であるから、テレビ会議参加者は、無意識のうちに沈黙を消しにかかる。 と、言わずもがなの凡庸な感想や、生煮えの見解をあえて口に出して墓穴を掘ることになる。 私自身、この10日ほどの間に経験したいくつかのテレビ会議で、毎回バカな空回りをした自覚を抱いている。 野球で言えば、ボール球に手を出してボテボテの内野ゴロを打った感じだ。 どうしてそんなことが起こるのか。 たぶん、平常心を失っているからだ。 では、どうして平常心を失うに至るのか。 それは、テレビ会議に集うメンバーがその枠組みに慣れていないからでもあるのだが、それ以上に、社会的動物たる人間が、「孤独な環境の中で親和的に振る舞う」ことにうまく対処できないからなのではあるまいか。 やや難しい話をしている。 冒頭のところで、大学一年生の時に虚脱状態に陥ってしばらく引きこもりの暮らしをした話をした。 この話題(つまり「孤独」と「親和性」の話)は、その時点にさかのぼって書き起こしにかからないといけない。でないと、真意が伝わらない。 大学に入学した最初の年の夏まで、私は、本格的な孤独を経験したことがなかった。 「孤独」という大げさな言葉を使っていることに失笑している読者もいらっしゃると思うのだが、大学に進んだ最初の年の大学生にとって、孤独は、いまも昔も、致死的に重大なテーマなのである。 最近の学生は、あらかじめスマホを握って生まれてきているので、真正の孤独に陥ることは少ない(←いつだったか、ある若い人から「スマホを持っていながら対話する相手を持っていない孤独こそが本当のガチな孤独ですよ」という見解を伝えられたことがある。たしかに、多くの人々の孤独を癒やすツールは、本当に孤独な人間の孤独を増幅するツールでもあるのかもしれない)と思うのだが、私の世代の学生は、大学に進学した時点ではじめて、 「クラスルームが存在しない学校」に直面したものだった。 クラスルームが無いということは、クラスメート(級友)がいないということでもある。それまでの学校生活を通じて、私は、常に大勢の友人たちの中心にいた。教室には常に級友たちがいて、放課後といわず昼休みといわず、われわれは、いつもじゃれあったりふざけあったりして過ごしていた。 それが、突然、何万人もの見知らぬ薄汚い学生が行ったり来たりしているキャンパスに放り込まれたのだから、調子を狂わせないほうがおかしい。 私は、これまで、19歳の時に、自分が軽い引きこもりになった事態について、 「受験勉強の圧力から解放されたことによる虚脱」であるとか 「すべての時間を自分で管理できる生活への不適応」みたいな言葉で説明していたのだが、実際には、19歳時点のオダジマは、誰も知り合いのいないキャンパスで授業を受けることの寂しさや、一人で昼飯を食うことのキツさに単に参ってしまっていたのだ。そう考えるほうがスジが通っている。実際、どうにも意気地のない話ではあるし、自分ながらなさけないなりゆきだとも思うのだが、そっちの解釈のほうがずっと本当らしいのだから仕方がない。要するに、オダジマは孤独に負けたのである。 で、苦しんだ結果、私は、なぜなのか、不思議な考え方を身につけるに至る』、「テレビ会議参加者は、無意識のうちに沈黙を消しにかかる。 と、言わずもがなの凡庸な感想や、生煮えの見解をあえて口に出して墓穴を掘ることになる」、「社会的動物たる人間が、「孤独な環境の中で親和的に振る舞う」ことにうまく対処できないからなのではあるまいか」、確かに「無意識のうちに沈黙を消しにかかる」、のは思い当たる節がある。
・『具体的に申し上げるなら、オダジマは、その時以降、 「大人になるということは、一人で過ごす時間に適応することだ」「孤独を愛せない人間は自分自身を愛することができない」「ツルんでる連中は要するにアタマが悪いのだ」「ちいちいぱっぱは20歳前に卒業しないといけない」 てな調子で、孤独を武器に生きていく決意を固めたわけなのだ。 まあ、若い人間にはありがちなことだ。 しかも、私は、その時に強く心に刻み込んだその決意からいまだに自由になっていない。 いまでも時々顔を出すチームスピリットや集団性への敵意は、たぶん、この時に身につけたものだと思っている。 自分ながら、半分ほどは、やっかいな病気だと思っているのだが、残りの半分では、この孤独を失ったら自分が自分でなくなると感じていたりもする。 この感覚は、恐怖心に近いものだ。 なので、私は、一人で自分の部屋にいる時の自分と、公共の場所で他人とともに過ごしている時の自分が、ひとつながりの同じ人間であるという実感を、明確に抱くことができない。だからこそ、自室からテレビ電話経由で他人と対話をしていることに、なかなかうまく適応できないのだと思っている。 これ(様々な場面で、自分自身の身の置きどころを見つけられないこと)は、しかし、私に限ったことではない。 誰であれ、一人で過ごしている時と、他人と共存している時では、多かれ少なかれ人格を変容させている。とすれば、テレワークの会議で自分自身を見失ってしまうことは、むしろ自然な反応であるはずだ。 ずっと昔に読んだ心理学だったか社会学だったか社会心理学だったかの本に、こんなことが書いてあった。きちんと出典を探し出して、原著を手に入れて正確に引用した上で話ができればそれはそれでこのテキストも、もう少し学問的に信頼の置ける文章になるかもしれないのだが、当稿はそういう原稿ではない。 私が読んだのは、ドイツ軍のある将校が、ナチスの制服を着ることで自身の人格を「区画化」しているというお話だった。つまり、制服を脱いで自宅でくつろぐA氏は良き夫であり優しい父であり、温厚なご近所さんでもある。ところが、ひとたび制服を着用するや、A将校は、冷酷無比な死刑執行人として、顔色ひとつ変えずに職務に従事したのである。 ナチスの将校でなくても、われわれは、公的な人間として振る舞う時、社会に対峙するための服装と肩書と場と決意の助けを借りている。もっと言えば、当たり前の人間に見えるビジネスパーソンとて、その一人ひとりは、背広という社会的外骨格を装着し、通勤という社畜生成過程の通過儀礼をくぐりぬけることではじめてそれらしい機能を果たし得ているのである。 とすれば、猫の毛がふわふわしている自室で、息子が食べ残したクッキーなんかを食べつつ、GU謹製のルームウェア上下1980円也を身にまとった状態でテレワークの会議に出ている営業部長53歳が、チームを率いるリーダーとして十全な役割を果たせる道理は皆無なわけで、実に、裸に剥いた孤独な人間は、社会的には役立たずなのである』、「誰であれ、一人で過ごしている時と、他人と共存している時では、多かれ少なかれ人格を変容させている。とすれば、テレワークの会議で自分自身を見失ってしまうことは、むしろ自然な反応であるはずだ」、「裸に剥いた孤独な人間は、社会的には役立たずなのである」、さすが鋭い指摘だ。
・『私の場合は、テレワーク不適応の意味合いが少し違う。 というのも、私自身、コラムニストとしての独自の視点を防衛するためには、孤独であることから逃避してはいけない、と、強くそう思い込んでいたりするからだ。 してみると、テレワークは、その私自身のかけがえのない孤独を決壊させる何かであるかもしれないわけで、それをオダジマは警戒してやまないわけだ。 いずれにせよ、テレワークの会議は、一個の人間が自分の中に持っている孤独と社会性のいずれか(あるいは両方)をゆさぶりにかかる。そういう意味で、なかなか油断のできない相手なのである。 コロナ蟄居下での経験を生かして、テレワークや大学のオンライン授業を日常化しようと画策している人々がいる。 私は彼らの考えを支持しない。 学生であれ会社員であれ、自室にこもっている時の自分と、他人とツルんでいる時の自分はきちんと区画化しないといけない。 テレワークを介して、自室に会社員の自分を召喚したり、逆にオフィスにプライベートの自分を派遣したりしたら、あるタイプの人間は破滅する。 私は間違いなく破滅するタイプだ。 なのでZoomには心を許さない。絶対にだ』、「テレワークの会議は、一個の人間が自分の中に持っている孤独と社会性のいずれか(あるいは両方)をゆさぶりにかかる。そういう意味で、なかなか油断のできない相手なのである」、「テレワークを介して、自室に会社員の自分を召喚したり、逆にオフィスにプライベートの自分を派遣したりしたら、あるタイプの人間は破滅する」、「テレワーク」に対する小田嶋氏んお違和感を、ここまでかみ砕いて、一般化するとは、完全に脱帽だ。
タグ:働き方改革 (その26)(テレワーク拡大を妨げる同調圧力 2万人緊急調査から見えてきた課題、テレワークできるのにやらない…日本での普及を阻む「3つの壁」 ポスト・コロナの働き方を考える、小田嶋氏:Zoomに心を許さない理由) 小林祐児 テレワークを介して、自室に会社員の自分を召喚したり、逆にオフィスにプライベートの自分を派遣したりしたら、あるタイプの人間は破滅する テレワークの会議は、一個の人間が自分の中に持っている孤独と社会性のいずれか(あるいは両方)をゆさぶりにかかる。そういう意味で、なかなか油断のできない相手なのである 裸に剥いた孤独な人間は、社会的には役立たずなのである 誰であれ、一人で過ごしている時と、他人と共存している時では、多かれ少なかれ人格を変容させている。とすれば、テレワークの会議で自分自身を見失ってしまうことは、むしろ自然な反応であるはずだ 社会的動物たる人間が、「孤独な環境の中で親和的に振る舞う」ことにうまく対処できないからなのではあるまいか テレビ会議参加者は、無意識のうちに沈黙を消しにかかる。 と、言わずもがなの凡庸な感想や、生煮えの見解をあえて口に出して墓穴を掘ることになる テレビやラジオの出演に慣れていない出演者は、「空白」を過剰にこわがると言われている (テレビ電話)を見限っていた。理由は、 「相手の顔が見える必要は感じないし、自分の顔を相手に見せる理由なんかもっとないぞ」と思ったからだ アプリの名前を挙げるなら、Zoom、Skype、Lineのグループ通話 蟄居生活の中で、いくつかのテレワークでの会議仕事を経験 「Zoomに心を許さない理由」 小田嶋 隆 日経ビジネスオンライン テレワークの壁3:エッセンシャル・ワーク テレワークの壁2:コミュニケーションが難しい テレワークの壁1:できるのにやらない 3つの壁 テレワークの 「テレワークできるのにやらない…日本での普及を阻む「3つの壁」 ポスト・コロナの働き方を考える」 治部 れんげ 現代ビジネス 他社や他人が「まだテレワークをしていない」ということを認識し続け、それに影響をうける。実施率が伸びていき、図の中の臨界値を超えたあたりで、「みんなやっているから自分もやらないとまずい」という右上の赤いゾーンに入り、一気に伸びていく 「臨界質量critical mass」の考え方 テレワーク拡大には「みんなやってる」状態を広げること これ以上のテレワーク拡大を狙うフェーズでは、「足かせを断つ」、つまり互いにテレワークできなくさせるような会社間・個人間の相互作用をなくしていく施策を押し進めることが必要だ 政府やメディアの啓蒙施策だけではテレワークの「足かせ」を断てない 個人や個社にとっては「どうしようもない」ようにみえる制約が多数含まれているだろう。「同僚が出ているから」という同調圧力に打ち勝てない個人などもたくさんいるはずだ 「テレワークが実施できない」という現実的制約よりも、まだ周囲に感染者が少なく、「大丈夫だろう」と感じている企業・従業員が多くいることのほうが、テレワーク実施率に影響 現段階におけるテレワーク拡大の最も高いハードルは、人々の「危機感の濃淡」にある。 テレワーク拡大を阻む「心の足かせ」とは? 出社率 4月調査時の従業員のテレワーク実施率は27.9%と、約1カ月前の3月調査時(13.2%)と比べて、2.1倍に テレワーク実施率は1カ月で約2倍に 全国2万人超への調査で判明 緊急調査データ ダイヤモンド・オンライン 「テレワーク拡大を妨げる同調圧力、2万人緊急調査から見えてきた課題」
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「9月入学」問題(その1)(「9月入学制」が政治利用されている! 元事務次官は「コロナに乗じて子どもの人権が奪われている」と批判、「拙速な9月入学」が日本教育を大混乱に陥れるこれだけの理由 9月入学の考察①問題点、「検察庁法改正案」の裏で 安倍首相が「9月入学」をぶち上げた事情 1日も早く国民の関心をそらせたい) [国内政治]

今日は、急に盛り上がった「9月入学」問題(その1)(「9月入学制」が政治利用されている! 元事務次官は「コロナに乗じて子どもの人権が奪われている」と批判、「拙速な9月入学」が日本教育を大混乱に陥れるこれだけの理由 9月入学の考察①問題点、「検察庁法改正案」の裏で 安倍首相が「9月入学」をぶち上げた事情 1日も早く国民の関心をそらせたい)を取上げよう。

先ずは、4月30日付けAERAdot「「9月入学制」が政治利用されている! 元事務次官は「コロナに乗じて子どもの人権が奪われている」と批判」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2020043000006.html?page=1
・『今回のコロナ禍は、日本の「教育の形」も大きく変えることになるかもしれない。 4月29日の衆院予算委員会。安倍晋三首相は新型コロナウイルスの感染拡大によって公立学校の休校がさらに長期化した場合を視野に、秋から新学期が始まる「9月入学制」の検討に前向きな姿勢を示した。 安倍首相は野党からの質問に対して、こう答弁した。 「国際社会で9月が主流であるのも事実。さまざまな要素を勘案しながら前広に判断していきたい」「社会全体に大きな影響を及ぼすので慎重に、との意見も承知しているが、これくらい大きな変化がある中では、さまざまな選択肢を検討していきたい」 さらに、萩生田光一文部科学相も「関連法案がいくつもあるので簡単ではない」と前置きしたうえで、「社会全体の問題として広く国民の間で認識を共有できるなら、大きな選択肢の一つ」と述べた。 4月下旬以降、休校が長引く地域やIT教育の普及具合によって学力格差が広がる懸念があることから、一部の知事は「9月入学制」の可能性に言及していた。 4月27日に宮城県の村井嘉浩知事が会見で「思い切って学校の入学、始業の時期を9月にずらすというのも一つの大きな方法ではないか」と述べると、28日には東京都の小池百合子知事も「9月スタートもありではないかと思います。大きな流れ、新しい流れはこういうときに、出てくるのではないか」と同調した。そして29日に開かれた全国知事会では、土曜日や夏休みなど長期休暇の活用とともに、「9月入学制」の検討を国に求めることが決まった。 こうした流れのなか、安倍首相が国会で「選択肢になる」と答弁したことで一気に現実味を帯びた。だが、入学・新学期開始を一律に4月から9月に移行させることは、教育制度に甚大な影響を及ぼす。現時点では政府や自治体も経済対策などに追われ、議論を重ねた形跡もない。はたして、このまま突き進んでいいのだろうか』、事態は慌ただしく動き出したが、「コロナ」への悪乗りとの印象も受ける。
・『元文部科学省事務次官の前川喜平氏は、9月入学の年度内導入に対しては「思いつきでやるべきではない」と、断固反対の姿勢をみせる。 「実務的な視点で見れば、やりましょうと言ってすぐやれるレベルの話ではありません。過去、文科省ではすでに何度も検討して見送った経緯があります。正しく適用するには、多額のお金と長い時間を要する。きちんとした検討を経ないまま勢いで物事を進めれば、そのしわ寄せは、子どもたちにきます」 まず、すでに全国各地で授業を再開している学校が多数あるにもかかわらず、一律に対応させようとする点に疑問を呈する。 「(次の9月から適用すれば)つつがなく学校に行けている子たちを、無理やり入学させ直すことになります。もう一度学校に入り直さなければいけないという事態を、はたして子どもや保護者は望むでしょうか」 また、現行の学校教育法では、義務教育開始の下限年齢が「6歳0カ月」と規定されているため、学齢を「6歳5カ月」に引き上げるための法改正が必要だという。法改正せず6歳0カ月から受け入れた場合、初年度は(誕生月が)17カ月分の生徒が入学することになる。 「生徒が4割近く増える分、その年だけ教師を余計に配置しなければならない。教育費も膨れ上がります」 小学校低学年の児童は数カ月の違いで発達段階に差が出るため、半年ずらすだけでも学習に影響が出るという。その対応として「カリキュラム自体を変更するなどの配慮が必要だ」と指摘する。 小学校だけではない。9月入学にした場合、大学では5カ月間、新1年生がいないことになるため、大学側の収入が絶たれる。こうした収入減に対する補償を含め、多額の費用がかかるという。 「国や地方自治体の支出が、一時的に大きく増えるでしょう。少なくとも1年あたり数千億円かかるのではないか」 では、これから政府が最優先させるべきことは何か。前川氏は「まず学校の再開に全力を傾けるべきだ」と話す。 「今は子どもの『教育を受ける権利』、つまり人権が侵害されている状態です。学校は『休業補償』がいらないため、政府は安易に休校に踏み切りましたが、子どもが教育を受ける機会を失うという、お金に換算できない損失が発生しています。学校を閉めるのは、本来は最終手段のはずです」』、確かに切り替え時には、「5カ月間」の分を前の学年と一緒にすると「17カ月分の生徒が入学することになる」、「大学では5カ月間、新1年生がいないことになる」、といった深刻な問題が生じる。
・『前川氏は、「コロナ対策」と「9月入学の検討」は別の問題であり、切り離して考えるべきだと強調する。 「学校制度全体を変えるというのは、まさに『牛刀をもって鶏を割く』そのもの。やり過ぎです。目下の『コロナ対策』として考えるのであれば、(不満の声が多い)高校3年生を対象に、センター試験の6月実施や9月入学枠の拡大をするなど、限定的な対応をとるべきです。(9月入学制の議論は)安直で、失政に対する目くらましにしか見えません。思いつきや、評判狙いの施策はやめるべきです」 前川氏のような反対論がある一方で、教育評論家の尾木直樹氏は、29日に<文科省の皆さん!既成の枠の中で考えないで!>と題してブログを更新し、9月入学に前向きな考えを記している。 <9月新学期制の検討始めてくださりホットしました。が、心配は、既成の枠組みの中でシュミュレーションするとあちこちに壁がそびえ立ちとても無理になります。今は異常事態 平時の議論ではありません!だからこそ枠外してシュミレーションお願いしますね> 日本の教育システムの“大転換”となる「9月入学制」。だからこそ、もっと多様な意見を交わし、熟議をへてから決定するプロセスが必要ではないだろうか』、「前川氏は、「コロナ対策」と「9月入学の検討」は別の問題であり、切り離して考えるべきだと強調する」、「目下の『コロナ対策』として考えるのであれば、(不満の声が多い)高校3年生を対象に、センター試験の6月実施や9月入学枠の拡大をするなど、限定的な対応をとるべき」、「安直で、失政に対する目くらましにしか見えません。思いつきや、評判狙いの施策はやめるべきです」、全く同感である。「尾木直樹氏」の賛成論は安直すぎる。

次に、5月5日付け現代ビジネスが掲載した教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏による「「拙速な9月入学」が日本教育を大混乱に陥れるこれだけの理由 9月入学の考察①問題点」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72359
・『にわかに真実味を帯びて急浮上してきた「9月入学」案。教育ジャーナリストのおおたとしまささんは「9月入学」議論をどのように受け止めたのか。テーマを3つに分けてお届けする。まずは拙速に9月入学を実施したときの問題点を具体的に提示してもらおう。 【考察2】 「『9月入学』は「魔法の杖」ではない…教育コロナ対策にもっと大切なもの」はこちら 【考察3】 「受験も教科書も…『拙速な9月入学』に代わる『コロナ禍教育』発想の転換」はこちら』、興味深そうだ。
・『影響大きく論点整理すら困難  休校期間が長引いていることへの対策として、学校の始業や入学を9月に移行する、いわゆる「9月入学」案がにわかに浮上している。まともに授業ができていない本年度4月からの各学校での取り組みをリセットし、9月に1学期を始めようという案である。 GWを前にして、私も複数のメディアから意見を聞かれた。その時点で「あまりに影響範囲が大きすぎてにわかには論点整理すらできず、論理的に是非を表明することは難しい。ただし直感的には、たった4カ月で準備するにはちょっと無理があると思う」と述べた。 ところが、である。これに対して著名人らが前向きな意見を表明したことで一気に風が吹く。野党はワーキングチームを結成し、都道府県知事の会でも賛意が目立った。これが全国紙でも連日大きく取り上げられることで世論も動く。 日刊スポーツが4月29日にインターネット上で行った緊急アンケートでは、回答者918人のうち賛成約41%、反対約55%。特に10代以下では約77%が反対だった。しかし5月に入ってから中国新聞、スポーツ報知、河北新報が発表したアンケート結果ではいずれも6割近くが賛成だった。 ただし、賛成の理由を見てみると、緊急時対応策としての是非判断だけでなく、「子どもの留学時にスムーズに入学できる」「インフルエンザや大雪の心配をしなくて済む」など「9月入学」という制度そのものへの賛意が含まれてしまっていることがわかる』、一般のマスコミ報道は賛成論が中心なので、最近の「アンケート結果」では賛成の方が多いのだろう。
・『9月入学は「入試をずらす」だけではない  また、もしかしたら大学入試の時期をずらすだけだと勘違いしているひとも含まれているかもしれない。しかし文脈的に考えて、いま検討されているのは、小学校から大学までのすべての学校の本年度を半年間延長し、2021年度の始業・入学を9月にし、かつ、今後ずっと9月をすべての学校の年度始まりにするということだ。 世論の高まりを見たのだろう。文科相も選択肢の一つであるとの認識を示し、4月30日、首相は導入に向けた論点整理を関係府省の事務次官に指示した。6月上旬には方向性が発表される見込み。そのことを告げるYahoo!ニュース記事に私は取り急ぎ以下のようにコメントした。 これは普通なら、国家の総力をかけても準備に数年を要する大プロジェクト。社会への影響力は大学入試改革の何十倍にもおよぶ。それがこの大混乱期にできるのか? これをきっかけに数年後を見据えた変更の検討を開始するのならわかるが、いま無理にやろうとすれば、文科省も学校の先生たちもそのための対応に追われて、ますます子どもたちが置き去りにされる可能性だってある。 たとえるなら、川の堤防が決壊しそうになって村人総出で土嚢を積んでいるところに「ちょうどいい。洪水対策で上流にダムを造るから全員集合!」と号令をかけるようなもの。 今年の学習の遅れをどう取り戻すか、受験生をどう救済するかということと、日本の学校制度を9月始まりにするということは分けて考えたほうがいい。 このコメントに込めた意味を、本稿で補足する』、「川の堤防が決壊しそうになって村人総出で土嚢を積んでいるところに「ちょうどいい。洪水対策で上流にダムを造るから全員集合!」と号令をかけるようなもの」、とのたとえは分かり易い。
・『「9月入学」が社会と教育現場にもたらす衝撃波  私も個人的には「9月入学」という制度そのものに前向きな考えをもっている。海外の学校制度と足並みがそろうことももちろん、大雪やインフルエンザのリスクが増す真冬に入試を行う必要もなくなる。学年をまたげば、夏休みの宿題も性格が変わるかもしれない。「卒業・入学の時期には桜がなければ」という反対意見もあるようだが、制度が変われば新しい風景が生まれるはずだ。 しかし、いまじゃない。 学事暦が9月始まりとなれば、パッと思いつくだけでも以下のような社会的影響が予測できる。 ・生まれ月による学年の区切りが9月に変わる ・国や自治体の会計年度とのズレが生まれる ・就職活動の時期やしくみを変えなければいけない ・国家試験の時期やしくみを変えなければいけない ・保育園の入園・卒園のタイミングがズレる ・カレンダーや手帳の年度始まりが3種類になる ・教科書に描写されている季節感がズレる ・塾や予備校のカリキュラムの全面見直し ・習い事や通信教育のサイクルの全面見直し……etc. 挙げ始めれば、きりがない。文科省マターを中心に膨大な数の法規・制度改正が必要になることは言うにおよばず、会計年度や人材供給時期という経済面での影響もさることながら、以下、子どもの成長に直接的に関連する部分だけを考えて見ても副作用は甚大だ。 保育園の入園・卒園の時期がずれれば待機児童問題に混乱をおよぼすことは間違いない。ただでさえ経営難に陥ることが予測される塾・予備校業界への打撃は計り知れない。就活制度が変わる過渡期にはなんらかのバグが生じ、落とし穴にはまる学生も増えるだろう。また、教科書を全面改訂しなければ、真冬に水遊びの文章を読まされることになるかもしれない。 変化に混乱はつきものである。混乱を恐れていては何も変えられない。しかし、この社会的大混乱の最中に新たな大混乱の種をまくのは控えめにいって愚行である』、「この社会的大混乱の最中に新たな大混乱の種をまくのは控えめにいって愚行である」、言い得て妙だ。
・『現場にかかる甚大な負荷  もちろん小学校から大学まで、学校の中にも大混乱が生じる。何より罪深いのは、もしこのタイミングで急遽学事暦が変更になるとしたら、いま休校期間中においても子どもたちの学びを止めないためにオンライン授業実施などを含めてあの手この手の方法を試行錯誤していている現場の教員たちに、さらに甚大な負荷がかかるということだ。 5月2日、文科相は「学習時間の確保に加え、運動会や修学旅行など学校行事の実施に向けた解決策にもなる」という主旨を述べたが、非現実的である。パッと思いつくだけでも、教育現場は夏休み期間を含めたたった3カ月間で以下のような対応に追われることになる。 ・1年間の臨時カリキュラムを策定 ・運動会、学芸会などの年間行事予定のつくり直し ・修学旅行、遠足、社会科見学などの再手配 ・学費、教材費、給食費など諸費用に関する方針策定 ・PTAなど関連団体の運営・人事対応 ・地域活動、ボランティアスタッフなどとの各種調整 ・教職員の定年、育休、正規採用などの人事的なタイミングの調整 ・上記に伴う、教育委員会や文科省との膨大な事務手続き……etc. 6月に方針が発表されたとして、8月末までに各学校の教員たちが、大学入試や高校入試のタイミングも睨みながら、新しい学年行事予定をいちからつくりなおし、1年間の臨時カリキュラムを策定し、修学旅行の交通手段やホテルを押さえ、遠足や社会科見学の手配をし、関係各所に連絡することなど、現実的ではない。新しい学校の開校準備にほとんど等しい、膨大な事務手続きが必要になる』、「教育現場は夏休み期間を含めたたった3カ月間で以下のような対応に追われることになる」、「現場」の混乱は、先生たちだけでなく、子どもたちにも悪影響を及ぼすだろう。
・『最優先事項は「子どもたちの日常」  全国の学校の教員がそのための事務手続きに忙殺されたら、ますます目の前の子どもたちに対するケアが手薄になる可能性が高い。それが本当に子どもたちのためになるのだろうか。この緊急事態に際して、最も優先順位が高いのは、子どもたちの日常を少しでも取り戻すことであって、学校の見た目の体裁を整えることではないはずだ。 そもそも学校のカリキュラムや学校行事は、そのときどきの子どもの心身の発達段階にあわせて緻密に設計されている。スマホにうまくインストールできなかったアプリをあとから再びインストールし直すのとはわけが違う。学校が休みでも子どもたちは日々猛烈なスピードで成長しているというあたり前の事実を、忘れてはいけない。カレンダーを半年ずらせば以前と同じ教育ができると思ったら大間違いなのである。 逆に言えば、残念だが、失われてしまった時間は取り戻せない。その事実を受け入れてむしろ糧にする術を教えることも、大人が子どもにしてやれる教育の一環ではないだろうか。人生とは、そういうものなのだから』、「カレンダーを半年ずらせば以前と同じ教育ができると思ったら大間違い」、その通りだろう。
・『問題がすり替えられている  教育関係者が「9月入学」と聞いてただちに連想するのは、2012年に検討された東大での「秋入学」構想だ。海外の大学との足並みをそろえる狙いがあったが頓挫した。 当時の東大学長だった浜田純一氏は5月2日の日本経済新聞で「いろいろな施策をギリギリまでやって、それでもうまくいかないときに、秋入学のような大胆な手が必要となる」と述べている。秋入学実現への希望はあるが、拙速な導入についてはやはり前向きではないニュアンスに読み取れる。 もともとは休校期間中の学習の遅れをどうするかという課題を解決する「手段」の1つとして発案された「9月入学」であるにもかかわらず、いつの間にか「グローバル化」という大義名分を引っさげて、「いましかできない」という意見まで聞かれるようになった。 「いましかできない」という表現は、「もともとあった『目的』を達成するためにはこの機を逃してはいけない」という意味である。この表現が使われている時点で「9月入学」が、目の前の子どもたちのためという発想から離れ、国の制度改革のための損得勘定にすり替えられていることがわかる。 手段が目的化すれば、大学入試改革の二の舞である。ただし、影響の範囲は大学入試改革の比ではない。 そもそもの話、OECD(経済協力開発機構)の「図表で見る教育2017年版」によれば、海外留学をする日本人大学生の割合は1%以下である。大学に進学しないひとも45%くらいいるので、人口比にすれば0.5%程度。それを増やすのが国の方針であるわけだが、海外留学をする大学生の割合はOECD平均でも5.9%である。そのために大学のみならず小学校までグローバルな学事暦にそろえる必要があるのか、そこも議論が分かれるところだろう。 【考察2】 「『9月入学』は魔法の杖ではない…教育コロナ対策にもっと大切なもの」はこちら 【考察3】 「受験も教科書も…『拙速な9月入学』に代わる『コロナ禍教育』発想の転換」はこちら *2020年5月5日6時に公開いたしましたが、8時の時点で一部に事実誤認があり、その個所を削除しております。ご了承ください』、「「いましかできない」という表現は、「もともとあった『目的』を達成するためにはこの機を逃してはいけない」という意味である。この表現が使われている時点で「9月入学」が、目の前の子どもたちのためという発想から離れ、国の制度改革のための損得勘定にすり替えられていることがわかる。 手段が目的化すれば、大学入試改革の二の舞である。ただし、影響の範囲は大学入試改革の比ではない」、説得力溢れた主張で、諸手を挙げて賛成だ。

第三に、5月11日付けPRESIDENT Online「永田町コンフィデンシャル:「検察庁法改正案」の裏で、安倍首相が「9月入学」をぶち上げた事情 1日も早く国民の関心をそらせたい」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/35325
・『何年も議論が必要な重要案件が、なぜ急浮上しているのか  新型コロナウイルスの伝染拡大は、最悪の事態は回避して「出口」を見いだそうという局面に入ってきたが、依然として予断を許さない。だが、その推移を見定める前に、秋から新学年を始める「9月入学」に向けて安倍政権が大きくハンドルを切り始めた。 これまでも浮上しては消えてきたこの問題。本来ならば何年も議論が必要な重要案件が、なぜ急浮上しているのか。安倍政権はコロナ問題で後手後手の対応が続いている。さらに検察官の定年を引き上げる法案をめぐり国民の批判が高まっている。このため、「9月入学」をぶち上げることで国民の関心をそらそうという思惑が透けてみえる』、確かに、「コロナ問題で後手後手の対応」、「検察官の定年を引き上げる法案」なかで、「「9月入学」をぶち上げることで国民の関心をそらそうという思惑」、大いにあり得る話だ。
・『口火を切ったのは高校生の署名運動だった  5月8日、首相官邸に陣取る杉田和博官房副長官のもとには、各省庁の次官クラスが次々と入った。目的は「9月入学」についての論点整理。コロナの感染拡大で全国の小中高校で休校が続く中、4月に急浮上した「9月入学」問題は、杉田氏のもとで6月をめどに論点を整理することになっているのだ。 警察官僚出身で、内閣危機管理監などを歴任した杉田氏は危機管理のプロ。未曾有の危機となっているコロナ対応が続いている今、「9月入学」の司令塔になるのは少々奇異な印象も受けるが、安倍政権がこの問題に前のめりになっている証左ともいえる。 今回「9月入学」の盛り上がりは、複雑な経緯をたどった。最初は高校生がインターネットを通じて署名運動を展開。休校がずるずる続き、学校、地域によって教育格差が広がることが避けられない状況の中、平等に9月からリスタートしたいという若者の叫びだった。 学生たちの訴えに小池百合子都知事、吉村洋文大阪府知事ら、発信力のある知事らが共鳴。その後で、安倍政権が食いついた。安倍晋三首相は4月29日の衆院予算委員会で「これくらい大きな変化がある中では、前広にさまざまな選択肢を検討したい」と答弁。その後、「9月入学」に積極的な議員たちと積極的に会いながら、検討を続けるように求めている。最後で乗っかったような形の安倍氏だが、今や推進派の最右翼のようになってきた』、「口火を切ったのは高校生の署名運動」、初めて知った。「最後で乗っかったような形の安倍氏だが、今や推進派の最右翼のようになってきた」、「危機管理のプロ」の「杉田氏」が担当とは本腰が入っているようだ。
・『来年9月を念頭に、今年9月から「予行演習」する  今、政府内で前提となっているスケジュールは以下の通りだ。 「9月入学」を導入する時期は来年、2021年の9月だ。4月に「9月入学」論が浮上した頃は、今年9月から一気に導入しようという意見もあった。しかし、それではあまりにも性急だし、コロナ禍による混乱に便乗した「火事場泥棒」との批判も受けかねない。そこで目標は「来年9月」と定まった。 杉田氏のもとで進む論点整理を6月ごろ受けた後、文部科学省を中心とした関係各省で協議して法案を作成。秋の臨時国会に法案を提出して成立を図る。 一方、学校教育の現場はコロナの感染拡大が沈静化するのを待ち、それぞれの地域事情をにらみながら学校教育を開始する。遅くとも9月までには再開するだろう。ことしは制度上は「4月入学」のままなので9月はあくまで「2学期」だ。しかし、今後「9月入学」となるのを念頭に、現場で浮上した問題点を整理し、翌年に備えることになりそうだ。来年9月を念頭に、今年9月から「予行演習」するということだ』、「「火事場泥棒」との批判も受けかねない」、ので「来年9月を念頭に、今年9月から「予行演習」」とは、さすが巧みな判断だ。
・『「9月入学」は2006年の第1次政権の時からの悲願  安倍氏は、もともと「9月入学」論者だ。2006年、初めて首相になった時、自身の肝いりで政府内に教育再生会議をつくり「大学の9月入学」を打ち出した。 この時の「9月入学」は大学のみを念頭に置いていた。国際基準の「9月入学」にあわせることで留学生や教員の国際交流を可能にするとともに、高校生は3月に卒業してから大学入学までの半年間にボランティア活動などをさせて若者の規範意識を高めようという発想があった。 今回の「9月入学」は大学だけでなく小中高も一斉に行うことを前提にしているので、高卒生がボランティア活動を行う時間はないが、欧米諸国の国際基準にあわせることはできる。安倍氏の方向性と合致する。14年越しの悲願といってもいい。 今回「9月入学」が走り始めているのは、このような政策的な理由だけではない。自民党ベテラン議員の1人は、こうつぶやく。 「簡単に言えば、国民の目をコロナからそらすということだよ」』、「「9月入学」は2006年の第1次政権の時からの悲願」、漸く思い出せた。「簡単に言えば、国民の目をコロナからそらすということだよ」、ズバリ本音だろう。
・『「火事場泥棒」の検察庁法改正案の批判をそらすため  今、コロナ対応で、安倍政権は守勢に立たされている。国民1人ごとに10万円配布する「特別定額給付金」が行われることになった経緯は二転三転して後手に回り、野党だけでなく与党内からも批判の声が上がった。 PCR検査数が、諸外国と比べて圧倒的に少ないことも日々指摘され続けている。 評判の悪い「アベノマスク」は、東京都などの一部を除いてまだ配布されておらず、その間にディスカウントストアの店頭にはマスクが山積みされるようになってしまっている。 今は、まだ感染拡大に関心が集まっているだけに批判は一定レベルにとどまっているが、ピークアウトした後は、安倍政権の対応への批判が集中するのは避けられない。 さらに安倍政権には新たな火種が浮上している。 今、国会で審議中の検察庁法改正案だ。この法案は、国家公務員の定年を引き上げる国家公務員法改正案と1体の「束ね法案」として審議されている。しかし、政府が先に黒川弘務東京高検検事長の定年延長を決めたことを裏打ちする法案として野党側は批判を強めている。 しかも、今は政府をあげてコロナ対応に全力を尽くさなければならない時。どさくさに紛れて成立を急ぐ政府の姿勢に国民の反発が高まっており、SNSでは「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ付きの書き込みがあふれ、10日夜の段階で書き込みは500万件近くに及んだ』、確かに「安倍政権」は発足以来最大の危機に直面しているようだ。
・『コロナ前のスキャンダルは「過去のもの」になる  国民は、検察官の人事を政権の意のままに操ることへの怒りとともに、コロナ禍のまっただ中に「火事場泥棒」のような形で法改正してせいまおうという政権の姑息さに怒っているのだ。 コロナ対応への不満。そして検察庁法改正案への怒り。コロナ禍が沈静化した後、安倍政権は大逆風にさらされる。その矛先をそらすために、「9月入学」をぶち上げようという発想だというのだ。 確かに入学時期を4月から9月に変えるというのは、子供はもちろん、子を持つ親、教育業界、そして新卒学生を採用する企業など、利害関係者が多く、大論争となるのは必至。コロナ禍後の空気を変えるテーマだ。 秋の臨時国会では、野党側はコロナ対応での政府の不手際を批判しようと手ぐすね引く。森友、加計、「桜を見る会」などの問題も仕切り直しして攻めてくるだろう。 しかし「9月入学」の関連法案が提出されれば国民の関心はそちらに向かう。森友、加計、桜などの、コロナ前のスキャンダルは「過去のもの」にすることができる。と、なれば、政権側の作戦勝ちだ』、「「9月入学」は、「利害関係者が多く、大論争となるのは必至。コロナ禍後の空気を変えるテーマだ」、「コロナ前のスキャンダルは「過去のもの」にすることができる」、「野党側」も本腰を入れる必要があるが、維新が賛成派であることもあって、残念ながら「政権側の作戦勝ち」に終わってしまうだろう。
・『「9月入学」実現→安倍4選のシナリオは…  2021年夏には1年遅れで東京五輪・パラリンピックが予定されている。7月23日に五輪が始まり、パラリンピックが9月5日に終わる。来年「9月入学」が実現すれば、五輪直後。国家的イベントの直後に教育の大改革が行われるということになる。 そして「2021年9月」といえば忘れてはいけない政治イベントがある。安倍氏の自民党総裁任期切れに伴う党総裁選だ。安倍氏は、公の席では4選を目指さない考えを繰り返し表明しているが、二階俊博党幹事長らは安倍4選待望論を唱えている。安倍氏自身も、心の中では4選という選択肢は残している。 ただ、その選択肢は憲法改正とセットで考えていた。改憲を実現して、その勢いで4選を実現する……というシナリオだった。しかし、改憲論議は安倍氏の思うようには進まなかった。本来なら、ことし2020年に憲法改正を実現し、新憲法を施行させるシナリオを描いていたが、それは断念せざるを得ない。その経緯は5日に配信した「コロナ対策そっちのけで『憲法改正』を訴える安倍首相のうさんくささ」を参照いただきたい。 改憲の道は険しくなったが、「9月入学」という教育の大改革を実現して4選を迎える。 そんなシナリオが安倍氏の頭の中にないはずはない。「9月入学」問題が実現するかどうかは、与野党、そして自民党内の権力闘争に大きく左右されることになるだろう』、「安倍政権」にとっては、「9月入学」問題はさしずめ「神風」のようだ。
タグ:来年9月を念頭に、今年9月から「予行演習」 初年度は(誕生月が)17カ月分の生徒が入学することに 9月入学の年度内導入に対しては「思いつきでやるべきではない」と、断固反対の姿勢 「火事場泥棒」との批判も受けかねない 前川喜平 「「9月入学制」が政治利用されている! 元事務次官は「コロナに乗じて子どもの人権が奪われている」 AERAdot (その1)(「9月入学制」が政治利用されている! 元事務次官は「コロナに乗じて子どもの人権が奪われている」と批判、「拙速な9月入学」が日本教育を大混乱に陥れるこれだけの理由 9月入学の考察①問題点、「検察庁法改正案」の裏で 安倍首相が「9月入学」をぶち上げた事情 1日も早く国民の関心をそらせたい) 「9月入学」問題 「9月入学」実現→安倍4選のシナリオは… 危機管理のプロ コロナ前のスキャンダルは「過去のもの」にすることができる 「利害関係者が多く、大論争となるのは必至。コロナ禍後の空気を変えるテーマだ」 「9月入学」 コロナ前のスキャンダルは「過去のもの」になる 最後で乗っかったような形の安倍氏だが、今や推進派の最右翼のようになってきた 口火を切ったのは高校生の署名運動だった 「#検察庁法改正案に抗議します」 「「9月入学」をぶち上げることで国民の関心をそらそうという思惑」 検察官の定年を引き上げる法案 新たな火種が浮上している。 今、国会で審議中の検察庁法改正案 コロナ問題で後手後手の対応 「永田町コンフィデンシャル:「検察庁法改正案」の裏で、安倍首相が「9月入学」をぶち上げた事情 1日も早く国民の関心をそらせたい」 PRESIDENT ONLINE 「「いましかできない」という表現は、「もともとあった『目的』を達成するためにはこの機を逃してはいけない」という意味である。この表現が使われている時点で「9月入学」が、目の前の子どもたちのためという発想から離れ、国の制度改革のための損得勘定にすり替えられていることがわかる。 手段が目的化すれば、大学入試改革の二の舞である。ただし、影響の範囲は大学入試改革の比ではない 最優先事項は「子どもたちの日常」 現場にかかる甚大な負荷 この社会的大混乱の最中に新たな大混乱の種をまくのは控えめにいって愚行である 「9月入学」が社会と教育現場にもたらす衝撃波 安倍政権の対応への批判が集中するのは避けられない 川の堤防が決壊しそうになって村人総出で土嚢を積んでいるところに「ちょうどいい。洪水対策で上流にダムを造るから全員集合!」と号令をかけるようなもの 9月入学は「入試をずらす」だけではない たった4カ月で準備するにはちょっと無理があると思う 影響大きく論点整理すら困難 「「拙速な9月入学」が日本教育を大混乱に陥れるこれだけの理由 9月入学の考察①問題点」 コロナ対応で、安倍政権は守勢 「火事場泥棒」の検察庁法改正案の批判をそらすため 「杉田氏」が担当 おおたとしまさ 現代ビジネス 高校3年生を対象に、センター試験の6月実施や9月入学枠の拡大をするなど、限定的な対応をとるべき 「コロナ対策」と「9月入学の検討」は別の問題であり、切り離して考えるべき 「簡単に言えば、国民の目をコロナからそらすということだよ」 「9月入学」は2006年の第1次政権の時からの悲願 来年9月を念頭に、今年9月から「予行演習」する 大学では5カ月間、新1年生がいないことになる
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日銀の異次元緩和政策(その32)(「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」、元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質、新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」) [経済政策]

日銀の異次元緩和政策については、昨年11月22日に取上げた。今日は、(その32)(「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」、元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質、新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」)である。

先ずは、本年3月17日付け日経ビジネスオンラインが掲載したみずほ証券チーフMエコノミストの上野 泰也氏による「「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00122/00061/?P=1
・『3月3日に開催された主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁による緊急電話会議では、新型コロナウイルスの感染拡大が市場や経済状況に与える影響を緊密に監視しているとしていた。その上で、「全ての適切な政策手段を用いるとのわれわれのコミットメントを再確認する」「適時かつ効果的な施策について、さらなる協力を行う用意ができている」と表明していた。 だが、中央銀行の政策運営についてこの共同声明では「引き続き自らのマンデートを履行し、もって金融システムの強靱(きょうじん)性を維持しつつ、物価の安定と経済成長を支える」と書かれたのみだった(引用は日本の財務省による仮訳から)。事前に一部で報道されていたような、協調利下げなどの具体的な政策行動が声明に盛り込まれることはなかったため、市場では失望感が広がった。 その直後に突然公表されたのが、0.5ポイント幅の緊急利下げを全員一致で決定したとする、米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文である。G7の議長国である米国が何もアクションをとらないのは許されないという政治的な雰囲気があったのだろうか。ちなみに、これより前、トランプ大統領は米連邦準備理事会(FRB)に対し、迅速な利下げを要求していた。3月17~18日開催予定の定例のFOMCを待たずに、緊急で大幅な利下げに踏み切ったわけである』、「トランプ大統領は」「FRBに対し、迅速な利下げを要求」、中央銀行の「独立性」などはなから無視して、以前から要求しているので、今さら市場も驚かないようだが、慣れとは恐ろしいものだ。
・『緊急利下げは「アナウンス効果」  市場はすでにFRBによる連続的な利下げを織り込んでおり、長期金利は過去最低の水準に下がっていたので、上記の緊急利下げの意味合いはもっぱらアナウンスメント効果にあったということになる。 声明文は、2月28日に利下げの予告のように出されたパウエル議長の緊急声明にもあった、「米国経済のファンダメンタルズは引き続き強い」という文章を改めて冒頭で掲げつつも、経済活動に対するコロナウイルスのリスクが大きくなりつつあるとして、これを緊急利下げの理由とした。 この利下げによって、フェデラルファンド(FF)レートの誘導水準は1.0~1.25%になった。パウエルFRB議長は記者会見で、米国でも新型コロナウイルス感染者が出始めたことを理由に、米国の景気見通しが「大幅に変わった」と述べた。FOMC声明文は「今後も適切に行動する」と明記していたため、市場はさらなる利下げを予期していた。 米国の場合、短期金融市場に厚みがあり、その機能を維持する必要があることから、日欧のようなマイナス金利導入はハードルが非常に高い。したがって、FFレート誘導水準の事実上の下限は0~0.25%である。 この水準までは、1回の利下げを0.25ポイント幅で考えた場合でも、残り4回分という計算であり、日銀や欧州中央銀行(ECB)に続いてFRBについても、「弾切れ」状態がはっきり視野に入った。追加緩和手段の面での金融政策の手詰まりが露呈し、FRBも日銀流の「持久戦」、すなわち低金利を粘り強く続けて物価が目標に向かって上がるのをじっと待つ作戦へとやむなく移行する流れが、従来の想定よりも数年早く、見えるようになったわけである。 緊急利下げ当日の米国株はいったん上昇したものの、結局は大幅に反落して取引を終えた。その後も過去最大の下落幅を3月9日さらには12日に記録するなど、不安定な展開が続いている。 結局のところ、新型コロナウイルス感染拡大に対して、利下げは無力である。各国の保健当局・研究所・製薬会社などが新型コロナウイルス対策の「最前線」に立っているわけであり、金融緩和は市場心理の不安定化や株価急落への手当てにしかならない。むろん、米10年債利回りが1%を下回るなど長期金利が大きく下がっており、住宅市場などへの追加的な刺激効果はあるものの、新型コロナウイルスによる新たなタイプの危機は、個人消費の大幅な減少を各国でもたらしつつあり、次元が全く異なるように思う。 緊急利下げをアナウンスした後の記者会見でパウエル議長は、仮に新型コロナウイルスによる影響が現在考えられているよりも軽いと判明した場合、今回の利下げは撤回され得るのかと問われ、次のように返答した(和訳は筆者)。 「われわれは常に、課されている2つの責務(物価安定と最大雇用)が目指すところに最も資するとわれわれが考える道筋に、その時々の金融政策を設定しようとしている。ただそれだけの簡単なことだ。仮に、われわれが金融政策のスタンスを変更するのに適切なタイミングだと考えるところに立ち至ったならば、そうすることをためらうつもりはない」』、FRBも「「弾切れ」状態がはっきり視野に入った」、にも拘らず、強気の表明をせざるを得ないのだろう。
・『一般論で逃げたパウエル議長  「緊急的に実施した利下げの撤回」という意味を持つ利上げが実行され得るのかどうかについて、パウエル議長は直接の言及はせずに、一般論で逃げた形である。緊急利下げでもっぱら期待しているアナウンスメント効果を利上げへのダイレクトな言及で弱めたくないという配慮のほかに、あるいはそれ以上に、そうした利下げの撤回という形での利上げは現実問題としてきわめて難しいという思いが、パウエル議長の心中にあるのだろう。 マイナス金利を含む日銀の異次元緩和の事例が示す通り、半ば強引に実行した結果、市場(特に外為市場)に一度インプットされてしまった政策行動を元に戻すのは、けっして容易なことではない。FRBが近い将来に利上げに動こうとすれば、ドル高進行(およびトランプ大統領からの執拗なまでのFRB批判)や、株価の大きな動揺を招く可能性が高い。 しかも、FRBの2つの責務のうち物価安定(インフレ目標である2%の持続的な実現)は、達成がさっぱり視野に入ってきていない。米個人消費支出(PCE)デフレーターの総合は15カ月連続、コアは13カ月連続で、前年同月比プラス2%未満にとどまっている。政策金利の下げ余地が仮にもっと大きかったならば、FRBはよりアグレッシブに利下げを実行していたはずである。 2019年7~8月に市場では「米国債ゼロ%論」が目立っていた(当コラム 19年8月20日配信「近づく『米国でさえプラス金利がない世界』」ご参照)。米国の政策金利はゼロ%近くに張り付くようになり、10年債利回りはゼロ%か場合によってはマイナスになるだろうというシナリオである。その実現の可能性がにわかに上昇している。米金利の位置の激変により、市場は「パラダイムシフト」の様相を呈しつつある。 3月6日に米労働省から発表された2月の雇用統計は、予想より上振れの強い内容になった。だが、新型コロナウイルス感染が米国内で大きく問題視されるよりも前の経済実績であり、「コロナ前の数字」であるとみなして金融市場はこれをスルーした。 新型コロナウイルスが米国を含む世界経済全体を揺さぶる前には、FRBは少なくとも年内は様子見、据え置きを続けて利下げ余地を「温存」し、ドルの長短金利はそこそこの水準を保つという大きな枠組みの中で、どのように資金運用を展開するかが、内外機関投資家の主要な関心事になっていた。 ところが、新型コロナウイルスを材料にした株価急落・市場心理の不安定化をFRBは座視し得なくなり、すでに述べた通り、0.5ポイント幅で緊急利下げに動いた。 けれども、これは「対症療法」にすぎず、問題の根源である新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、完全に無力である。それでもFRBが動いたことにより、「FRBは何か市場が知らないことを知っているのではないか」といった疑念を抱きつつ、市場はFRBによる今後の連続的な利下げを織り込まざるを得なくなった』、「緊急利下げ」は「「対症療法」にすぎず、問題の根源である新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、完全に無力である」、FRBとしては苦しいところだ。
・『楽観論戒めるWHO  FRBの「弾切れ」が早い段階で現実になり得る情勢であれば、「質への逃避」の対象でもある米国債については「金利がまだあるうちに買っておこう」という心理が働きやすい。それが、10年債で0.31%、30年債で0.70%をつけるところまで米長期金利が過去最低水準を一気に更新していった動きの根底にあると、筆者はみている。 米国債の利回り低下は異例のペースで進んだため、新型コロナウイルスに関するポジティブな情報を材料に、たとえば米国株が2日以上続けて大幅上昇するような場合には、米国債を売り戻す動きがそれなりに強まってもおかしくない。 だが、すでに述べた通り、「だからFRBは利上げに動ける」ということには、まずならないだろう。いったん下げた政策金利は、そのまま維持される公算が大きい。 世界屈指の医学部を有するとされる米ジョンズ・ホプキンス大学のウェブサイトによると、新型コロナウイルス感染者数は、世界全体で17万人規模に達した。インドネシアなど高温多湿の国でも、新型コロナウイルスへの感染者がすでに確認されている。これから冬に向かっていく南半球の国々でも、感染者数が徐々に増えてきている(当コラム 3月3日配信「コロナ制圧は『南半球の感染者数』がカギ?」ご参照)。 世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏は3月6日の記者会見で、「夏になればインフルエンザのように消えてなくなるだろうという希望的観測は間違っている。そうなる根拠は今のところない」と述べて、楽観論を戒めた。) 国内の専門家の間からも、新型コロナウイルスの問題が長引く可能性ありというコメントが出てきている。3月9日に首相官邸で開催された新型コロナウイルス対策の専門家会議は、「爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度持ちこたえているのではないか」との認識を示した。ただし、感染者の増加傾向は当面続くと予想され、依然として警戒を緩めることはできないという指摘がなされた。 あまり大きく報道されなかったようだが、同会議のメンバーからは「新型コロナ感染症は、インフルエンザのように暖かくなると消えてしまうウイルスではない。闘いは数カ月から半年、もしかすると年を越えて続くかもしれない」との発言があった。この問題がこの先さらに数カ月続く場合、東京での五輪・パラリンピック開催には、赤に近い黄信号がともることになる。 そうした中で起こった予想外の衝撃的な出来事が、原油の協調減産打ち切りである。 3月6日に開催された「OPECプラス」(石油輸出国機構加盟国およびロシアなど非加盟国で構成)の会合は決裂し、サウジアラビアは原油増産へと方針を転換した。減産強化による原油価格下支えを主張するサウジと、国内石油大手の意向を背景にこれを拒否するロシアの対立は、最後まで解消されなかったわけである』、「原油価格」暴落は、シェールオイル産業にも深刻な打撃を与え、米銀の貸出を不良債権化するリスクもある。
・『ますます視野に入りにくくなる物価安定  英経済紙フィナンシャル・タイムズは、生産コストが相対的に高い米シェール会社たたきのため原油価格下落を容認したいロシアに対して、サウジが懲罰を加えようとして「価格戦争」に踏み切ったと報じた。サウジは原油需給の調整役を放棄し、価格下落を容認しつつ市場シェアを取りにいく方針に切り替えたと言える。米原油先物は時間外取引で一時1バレル=27.34ドルと、記録的な下げとなった。 こうした原油価格の急落は、消費国の景気にはポジティブに作用する一方で、消費者物価や期待インフレ率を大きく押し下げるため、FRBを含む各国中銀の利上げを一層困難にする。「イールドハント」が根強く続いていく見通しの中で、グローバルな金利水準が大きな流れとして、一段と低くなりつつあることは間違いあるまい。 その後、FRBは現地時間3月15日夕刻(日本時間16日朝)、「全部入り」的な金融緩和パッケージをアナウンスした。新型コロナウイルスがもたらしている世界経済への強い下押し圧力が、与信(クレジット)の面でも大きな圧迫要因になりかねないという強い危機感から、定例会合を待たずに、手持ちの手段を総動員することにした。FFレート誘導水準は一気に1.0%ポイント引き下げられて、0~0.25%になった<図1>。これで政策金利は事実上の下限到達である。 ■図1:米フェデラルファンド(FF)レート誘導水準(リンク先参照) ゼロ金利復帰と同時に再開がアナウンスされた量的緩和は、仮に新型コロナウイルス問題がヤマ場を越えてくれば、打ち切りが視野に入るだろう。しかし、ゼロ金利についてはそうはいかない。物価安定(2%の目標達成)が、ますます視野に入りにくくなっているからである。 結局、利下げ余地を一気に使い切ることでFRBは日銀やECBの仲間入りをしたと、筆者はみている。常態としての超低金利が粘り強く続く「日本化」である。 日本だけでなく米国でもいずれ、子供が親に「昔は金利っていうものが預金についていたんだね」と言うような時代がやって来るのではないか。筆者が冗談めかしてそのように説明する機会が増えている』、「利下げ余地を一気に使い切ることでFRBは日銀やECBの仲間入りをした」、今後、経済がさらに悪化した場合にはどうするのだろう。

次に、5月7日付け日刊ゲンダイ「元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/272617
・『2013年4月に始まった日銀の異次元金融緩和。丸7年、吹かし続け、27日、国債買い入れ上限撤廃というさらなる追加緩和が決まった。だが、黒田バズーカは、本当に経済成長をもたらしたのか。長期の緩和やゼロ金利によって、誰が得をして誰が損をしたのか――。元日銀マンが本質をあぶりだす(Qは聞き手の質問、Aは岩村氏の回答)。  Q:異次元金融緩和から7年が経過しました。どう評価されますか。 A:「現金を出すぞ」と言ったら、景気は良くなるというシナリオのもとに動いてみたが、まったく結果を出せなかったということでしょう。中央銀行が貨幣量を増やすぐらいでは人の心は変わらなかった。マーケットの方が賢かったということです。「黒田緩和」の問題は、うまくいかなかった時にどう戻るかを考えずに、ひたすら突っ走ったというところに尽きます。もっとも、コロナで当面、戻る必要はなくなり、黒田緩和の是非を問う意味もなくなってしまった感じですが』、ある意味で「黒田総裁」はホッとしているのかも知れない。
・『中央銀行は経済成長のエンジンにはなれない  Q:金融政策の限界を実証した。 A:金融政策とは、金利ゼロの中央銀行券とそこそこ金利がある国債を交換することだと言えます。ですから、どちらもゼロになったら金融政策は効きません。そもそも、経済を成長させるための金融政策という考え方が間違いなのです。経済成長のエンジンは人口増とか技術進歩などの経済の基本条件から生まれてくるもの。金融政策はアクセルやブレーキ役はできても、成長のエンジンそのものではありません。中央銀行が経済を背負っていると考えるのは思い上がりの一種です。 Q:日本だけでなく、米国、欧州の中央銀行もずっと低金利政策や金融緩和を続け、経済成長を導こうとしてきています。 A:19世紀後半から20世紀は世界的にまれに見る経済成長の時代でした。私的所有権が確立され、技術進歩にも画期的なものがあった。その中で国民国家、民主主義、中央銀行、株式会社などの「仕掛け」が世界標準になったのです。今、経済成長が頭打ちになり、そこで機能する新しい仕掛けが見つからないなかで、中央銀行と政府の区別がつかなくなっています。中央銀行と政府の役割分担は、19世紀後半から20世紀の成長の時代に作り上げた「二分法」ですから、成長が止まったら溶けてしまうのは仕方がない気がします。 Q:今後も20世紀のように経済成長が続くわけではないと。 A:続かないでしょう。経済成長が当然だと思うと、皆の期待ほど経済成長していないと、政府は何とか成長を加速しなければと考える。そこで、中央銀行が低金利政策、金融緩和を続けることになるのです。 Q:低金利政策の長期化で何が起こりましたか。 A:株式投資とそれ以外の資金運用の間で大きな格差が生じてしまいました。金利が下がると、企業は借金や社債など資金調達の利払いが抑えられ、株主への配当をどんどん厚くします。経済成長がゼロ、うまくいっても2%の時代に、株主資本に対する当期純利益の割合を示すROE(自己資本利益率)について「8%が国際標準だ」という話が大手を振って通るんですから呆れた話です。企業は必死に株主優遇競争を展開し、それを国家と中央銀行が全力で後押しするというのが今の世界なのです。そのしわ寄せを受けるのが、一般の預金者なのです。 Q:株式投資をできる人と普通の預金者の格差ですね。 A:黒田総裁もパウエルFRB議長も格差を拡大させようと思って、金融政策をやっているわけではないでしょう。しかし、金融政策自体が富の分配でもあることに気をとめないようでは専門家失格です。成長エンジンが失われている状況で、ともかく経済成長しようという金融政策が結果として格差をつくっているからです。無理な金融緩和で格差づくりに関与してしまったという点では、責任は黒田総裁だけでなく、白川方明前総裁やその前任者の福井俊彦元総裁も同じなのですが、白川や福井は、今は低い金利に抑えるけれどもいずれ取り返すよという考えだったと思います。しかし、黒田総裁には、いずれ巻き戻すという考えはないようです。だから、ずっと格差が拡大するし、それを他人事のように言えるのですね』、「無理な金融緩和で格差づくりに関与」、「黒田総裁には・・・格差が拡大・・・を他人事のように言える」、嘆かわしいことだ。
・『消費税の本質は労働課税  Q:グローバル化による格差拡大もありますね。 A:背景にあるのは国家間の企業呼び込み競争です。富裕層や法人を優遇しないと、国外に逃げられて国が空っぽになるという恐怖をどこの国の政府も抱いています。だから、所得税の最高税率や法人税を劇的に下げてきました。その減収分を補うのが消費税ですが、消費税の本質は労働課税なのです。 Q:といいますと。 A:法人税は、売り上げから物的な仕入れと人件費を差し引いた残余に課します。消費税は、売り上げから物的な仕入れを引いた残余が課税対象です。人件費は差し引かれません。ですから、国の税収の軸足を法人税から消費税に移すということは、税負担を株主から従業員に移すことを意味することになります。労働者の犠牲のもとに、法人や株主を優遇しているわけです。このままでは、格差はますます拡大するでしょう。 Q:低金利政策と税制で労働者など中間層は痛めつけられている。中間層が決起してもおかしくない状況です。 A:中間層はバラバラな方向に向かっています。ひとつは、富裕層により多くの負担を求めるという方向です。米国型リベラリズムや社会民主主義にはそういう面があります。米国のサンダースの支持者はそういう意識なのでしょう。 Q:ただ、最近はどこの先進国もリベラル勢力や社会民主主義はパッとしません。 A:そこで受け皿になってしまうのがポピュリズムです。自分が豊かになれない理由を、自分たちでない誰かのせいにしようとするのですね。あれだけおかしなことをやりながらトランプ政権の支持基盤が固い理由や、欧州のネオナチや反イスラムの台頭にも同じ背景があると思います。 Q:コロナ禍は世界をどう変えると思いますか。 A:グローバル化には一定のブレーキがかかるでしょう。コロナの脅威がある間はそうでしょうし、今のコロナウイルスに対するワクチンが作り出せても、別の新種ウイルスが大流行する可能性は消えません。そうした観点からグローバリズムにリスクがあると考える人が増えてくれば、能天気とも言えそうな国家間の企業呼び込み競争やサプライチェーンのグローバル化には慎重にならざるを得なくなるはずです』、「グローバリズムにリスクがあると考える人が増えてくれば、能天気とも言えそうな国家間の企業呼び込み競争やサプライチェーンのグローバル化には慎重にならざるを得なくなるはずです」、望ましい方向のようだ。
・『自由の劣化が進む中、コロナ禍が襲った  Q:新型コロナが終息した後は、どんな国家間競争が起きると予想されますか。 A:今回の経験を経て、国家はより強く、市民や国民を監視してコントロールする方向に向かう可能性があります。欧米型の自由主義体制ではなくて中国型の政治体制への誘惑が強まってしまうのです。医療産業を国家安全保障の文脈で守ろうとする動きなどには、国際緊張を増し、軍拡競争に転化していく危険すらもあります。 Q:自由が制約される強権的な体制を国民は受け入れるのでしょうか。 A:残念ながら受け入れる土壌はできつつあります。責任の一端は、サッチャーやレーガン以来の新自由主義にもあります。19世紀型国民国家の理念になった自由とは、血と涙で守るものでした。明治時代の自由民権運動で「板垣死すとも自由は死なず」というのがありましたが、そこでの自由とは命をかけて守るものなのです。ところが、新自由主義における自由とは要するに規制緩和で、つまり自由は儲けるための道具におとしめられてしまったのですね。自由を守ろうとする気概も勇気も劣化してしまっているのです。コロナウイルス封じ込めのためには何が何でも外出を取り締まるべきだとか、個人行動履歴もどんどん追跡すべきだという議論には怖さを感じます。症状のある人を治療するための検査は重要ですが、疑わしい人を隔離して自分は安全に暮らすための検査拡充論として主張されるとしたら僕は反対です。自由とは、そんなに安っぽいものではありません。コロナ禍で、自由や人権に対する私たちの根性、据わり方が試されているのです。僕だって感染の不安がないわけではないけれど、ここで譲ってしまったらおしまいだろうなという気がするんです。(岩村氏の略歴はリンク先参照)』、「自由を守ろうとする気概も勇気も劣化してしまっているのです。コロナウイルス封じ込めのためには何が何でも外出を取り締まるべきだとか、個人行動履歴もどんどん追跡すべきだという議論には怖さを感じます」、同感である。

第三に、5月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部研究主幹の鈴木明彦氏による「新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/237005
・『日本銀行は、新型コロナウイルス感染問題への対応で大胆な金融緩和に踏み込んだ。 この間までマイナス金利の深掘りにちゅうちょしていた日銀もついに“白旗”を掲げたかのように見え、金融危機を回避するために思い切って緩和を進める腹を固めたようだ。 だが新型コロナウイルス対策を前面に出す一方で、同時にマイナス金利政策を骨抜きにし、さらに国債買入れの物差しを保有残高の前年比増加額から単なる買入れ額に置き換えるなど、「金融政策正常化」に向けた手をうつ深謀遠慮が窺える』、思い切った「深読み」で、興味深そうだ。
・『コロナ対策が前面に出た3月と4月の金融緩和強化  新型コロナウイルスの感染が広がるなか、日銀は相次いで金融緩和を強化している。) 3月16日には日程を前倒しして金融政策決定会合を開き、(1)国債買入れやドルオペを含む一層潤沢な資金供給の実施、(2)新たなオペレーションの導入を含めた企業金融支援のための措置、(3)ETF(上場投資信託)・J-REITの積極的な買入れ、の三つからなる「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化」を決めた。 さらに、4月27日の定例の政策決定会合で、(1)CP・社債などの買入れ増額、(2)新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充、(3)国債のさらなる積極的な買入れを決めた。 3月と4月の二度の金融緩和強化はワンセットで考えた方がよい。 まず、3月の会合で導入された「新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペ」は、民間企業債務を担保(約8兆円)に必要な資金を日銀がゼロ金利で供給するものだが、4月の会合では、対象担保の範囲が住宅ローンなどの家計債務を含めた民間債務全般に広げられ、対象担保の規模も約23兆円に拡大した。 また、CP・社債などの買入れは、3月の会合で合計2兆円の追加買入れ枠が設けられたが、4月の会合ではさらに13兆円追加され、従来の買入れと合わせて約20兆円の買入れ枠となった。これは、CPと社債の発行残高が計約90兆円であることを考えるとかなりの規模だ。 コロナ禍が世界に広がる中、世界の中央銀行と歩調を合わせた緊急対応だが、最近までマイナス金利の深掘りといった追加の金融緩和圧力を巧みに避けていた日銀も、ついに白旗を掲げたとの見方もできるだろう』、「マイナス金利の深掘り」は避け、量的緩和を強化したので、「白旗を掲げた」ことにはならないようだ。
・『金融不安回避のためなら思い切って緩和できる日銀  しかし一方で、日銀はむしろ積極的に思い切った金融緩和を打ち出しているように見える。それは、今回の金融緩和が中央銀行としてやるべきことと納得しているからではないか。 「脱デフレ」ということで、達成できる見込みのない「2%の物価目標」を掲げさせられ、しかも政府・日銀のアコードによって金融政策の独立性を失った形で、出口の見えない異次元の金融緩和に踏み込んだあげくに、効果が期待できないどころか、副作用が懸念されるマイナス金利政策まで採用してしまった。 日銀が、マイナス金利の深掘りに消極的なのは当然だ。 それに対し新型コロナ対策はまったく違う話だ。新型コロナの感染拡大で世界の経済活動が止まってしまった。売り上げが急減した中小・零細企業や収入がなくなった自営業、非正規、フリーランスなど、倒産や失業、破産の危機に直面する人も出てきた。 社会不安や金融不安を回避するためであれば、中央銀行が潤沢な資金供給や資金繰り支援のための金融緩和にちゅうちょする理由はない。 また、金融緩和の中身も、金融支援特別オペや社債・CPの買い増しなど質的金融緩和を中心とした潤沢な資金供給であり、マイナス金利の深掘りに踏み切る必要もない。 さらに、半永久的に達成できそうもない2%の物価目標と異なり、新型コロナウイルスの感染はいずれ終息する。長期化する可能性は排除できないものの、出口の見えない金融緩和ではない。 デフレとの泥沼の戦いと異なり、新型コロナとの戦いであれば、日銀もちゅうちょなく対応する気構えのようだ』、説得力溢れた指摘だ。
・『デフレ対応は棚上げ、声明文から消えた文言  日銀としては、今回の一連の緩和強化が、デフレ脱却のための金融緩和とは別物だとはっきりさせたい。3月の決定会合で決めた措置を、「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化」と銘打ったのもこのためだろう。 金融政策決定会合後に発表される日銀の声明文でも、新型コロナ対策を前面に出す一方で、デフレ脱却の姿勢が後退している。 3月の決定会合では、金融政策のこの先の方向性を示すフォワードガイダンスの文言が、それまでと変わった 「『物価安定の目標』に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、ちゅうちょなく、追加的な金融緩和措置を講じる」という文言が落ちた。 その代わりに「当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」という表現になった。 さらに、4月の決定会合の声明文では、3月までは「政策金利については、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定している」と書かれていたが、『物価安定の目標』に関連付けた期間の記述が消えた』、日経新聞の解説では、そこまで触れてなかったように思う。有力な日銀ウォッチャーである鈴木氏らしい分析だ。
・『危機対応モードの中でマイナス金利政策も後退  新型コロナウイルス問題に対する危機対応モードの中でも、-0.1%の政策金利と10年国債金利のゼロ%程度の誘導目標を軸とするイールドカーブコントロールの枠組みは変わっていない。 しかし、ここにも微妙な変化が生じている。 まず、マイナス金利政策が一段と存在感を薄めている。 新型コロナ対応の金融支援の特別オペは、3月に導入した時から利用残高の2倍の金額を金利ゼロ%のマクロ加算残高に加算することになった。 これによって銀行は、マイナス金利が適用される政策金利残高を減らすことができる。 さらに、4月に金融支援特別オペが拡充されたときに、利用残高に相当する日銀当座預金への+0.1%の付利がなされることになった。-0.1%の政策金利残高は20兆円程度だが、それとほぼ同じ規模で日銀当座預金残高に+0.1%の金利が付く。 この措置について、黒田日銀総裁は4月の決定会合後の記者会見で、「金融機関が資金繰り支援をより行いやすくすることを考えています」と説明している。 これは、オペで拡大した当座預金にマイナス金利が付利されるようでは、貸し出し拡大という金融緩和効果が出てこないと認めたようなものだ。 マイナス金利政策は今後も、それと相反する政策が採られることによって副作用が抑えられ、実質的に骨抜きになっていくのではないか』、「マイナス金利政策は今後も、それと相反する政策が採られることによって副作用が抑えられ、実質的に骨抜きになっていくのではないか」、さすが読みが深い。
・『国債の「無制限買入れ」は「量の縛り」を外す狙い  新型コロナ対応は質的金融緩和が中心だが、同時に潤沢な資金供給の実施も図られている。4月の緩和強化では、国債のさらなる積極的な買入れが決まった。 その中で、長期国債の買入れ方針に、「上限を設けず必要な金額の」という文言が加わる一方で、「買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する」という文言が外れた。 国債の積極的買入れについては、「政府の緊急経済対策により国債発行が増加することの影響も踏まえ」として、上限を設けずに長期国債の買入れを約束するかのようになっていることから、中央銀行が財政赤字を肩代わりする財政ファイナンスにつながるのではないかとの批判もある。 ただ10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように買入れを行うというイールドカーブコントロールの基本原則は崩していない。 たしかに国債増発に伴って日銀の国債買入れ額が増えていくことは考えられるが、10年金利のマイナス幅が拡大するような無茶な買入れは考えていないようだ。 それでは、このタイミングで「80兆円のめど」を外してきた日銀の意図はどこにあるのか。 目標ではなくなったのだから、日銀は80兆円のめど(しかも目途ではなくひらがな)を守る気はもとからなかったと思われる。 ただ、大量の国債買入れを続けてきた結果、償還を迎える国債が増加して保有残高が減少する月も増えてきた。このままだと前年比で残高が減少基調に入ることも想定できる状況になってきた(図表)』、「償還を迎える国債が増加して保有残高が減少する月も増えてきた。このままだと前年比で残高が減少基調に入ることも想定できる状況になってきた」、ので「「80兆円のめど」を外してきた」、なるほど。
・『グロスで見れば積極的な国債買入れ  日銀は80兆円というめどではなく、保有残高の前年比増加額というやっかいな量的緩和の指標そのものを葬り去りたかったのではないか。 日銀が「上限を設けず」と強い言葉を使っているのは長期国債のグロスの買入れ額についてだ。これからは、長期国債のグロスの買入れ額で積極的な金融緩和をアピールするつもりだろう。 つまり、積極的に国債を買入れても償還額が増加しているため、結果として日銀保有の長期国債残高が減少することもあり得る。こうして日銀は「量の縛り」を弱めることができる。 大胆な金融緩和に踏み出した日銀だが、その決断の背後には、これを金融政策の正常化につなげたいという深謀遠慮が潜んでいるように見える』、「これを金融政策の正常化につなげたいという深謀遠慮が潜んでいる」、「深謀遠慮」を鋭く読み解くとは、鈴木氏の面目躍如のようだ。
タグ:これを金融政策の正常化につなげたいという深謀遠慮が潜んでいる グロスで見れば積極的な国債買入れ 「80兆円のめど」を外してきた 償還を迎える国債が増加して保有残高が減少する月も増えてきた。このままだと前年比で残高が減少基調に入ることも想定できる状況になってきた 国債の「無制限買入れ」は「量の縛り」を外す狙い マイナス金利政策は今後も、それと相反する政策が採られることによって副作用が抑えられ、実質的に骨抜きになっていくのではないか 危機対応モードの中でマイナス金利政策も後退 デフレ対応は棚上げ、声明文から消えた文言 新型コロナウイルスの感染はいずれ終息する。長期化する可能性は排除できないものの、出口の見えない金融緩和ではない。 デフレとの泥沼の戦いと異なり、新型コロナとの戦いであれば、日銀もちゅうちょなく対応する気構えのようだ 金融不安回避のためなら思い切って緩和できる日銀 コロナ対策が前面に出た3月と4月の金融緩和強化 「新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」」 鈴木明彦 ダイヤモンド・オンライン 自由を守ろうとする気概も勇気も劣化してしまっているのです。コロナウイルス封じ込めのためには何が何でも外出を取り締まるべきだとか、個人行動履歴もどんどん追跡すべきだという議論には怖さを感じます 自由の劣化が進む中、コロナ禍が襲った グローバリズムにリスクがあると考える人が増えてくれば、能天気とも言えそうな国家間の企業呼び込み競争やサプライチェーンのグローバル化には慎重にならざるを得なくなるはずです 消費税の本質は労働課税 を他人事のように言える 格差が拡大 黒田総裁 無理な金融緩和で格差づくりに関与 金融政策はアクセルやブレーキ役はできても、成長のエンジンそのものではありません 中央銀行は経済成長のエンジンにはなれない 「黒田緩和」の問題は、うまくいかなかった時にどう戻るかを考えずに、ひたすら突っ走ったというところに尽きます 中央銀行が貨幣量を増やすぐらいでは人の心は変わらなかった。マーケットの方が賢かったということです 元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質 日刊ゲンダイ 利下げ余地を一気に使い切ることでFRBは日銀やECBの仲間入りをした ますます視野に入りにくくなる物価安定 楽観論戒めるWHO 「対症療法」にすぎず、問題の根源である新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、完全に無力である 緊急利下げ 利下げの撤回という形での利上げは現実問題としてきわめて難しいという思い 一般論で逃げたパウエル議長 1回の利下げを0.25ポイント幅で考えた場合でも、残り4回分という計算であり、日銀や欧州中央銀行(ECB)に続いてFRBについても、「弾切れ」状態がはっきり視野に入った 緊急利下げは「アナウンス効果」 これより前、トランプ大統領は米連邦準備理事会(FRB)に対し、迅速な利下げを要求 その直後に突然公表されたのが、0.5ポイント幅の緊急利下げを全員一致で決定したとする、米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文 主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁による緊急電話会議 「「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」」 上野 泰也 日経ビジネスオンライン (その32)(「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」、元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質、新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」) 日銀の異次元緩和政策
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積水ハウス事件(その4)(リクシル 積水ハウスで露わになった「第三者委員会」の限界 会社依頼では中立な調査はできない、積水ハウスのドンの座をめぐる会長と前会長の壮絶バトル~新型コロナの緊急事態宣言下 「三密」総会を強行した会社側が勝利(前)、~新型コロナの緊急事態宣言下 「三密」総会を強行した会社側が勝利(後)) [企業経営]

積水ハウス事件については、3月13日に取上げた。今日は、(その4)(リクシル 積水ハウスで露わになった「第三者委員会」の限界 会社依頼では中立な調査はできない、積水ハウスのドンの座をめぐる会長と前会長の壮絶バトル~新型コロナの緊急事態宣言下 「三密」総会を強行した会社側が勝利(前)、~新型コロナの緊急事態宣言下 「三密」総会を強行した会社側が勝利(後))である。

先ずは、3月17日付けBUSINESS INSIDER「リクシル、積水ハウスで露わになった「第三者委員会」の限界。会社依頼では中立な調査はできない」を紹介しよう。
https://www.businessinsider.jp/post-209074
・『「Save Sekisui House」というサイトがある。 2019年、LIXILグループの株主総会で会社提案の取締役候補と株主提案の取締役候補が共に選任を争った際に、株主提案側が「savelixil」というサイトを立ち上げて(現在は閉鎖)、ステークホルダーに取締役候補の考えや会社側主張の矛盾などを指摘したが、「Save Sekisui House」は、それと似たような建て付けだ。 その主要コンテンツは調査報告書である』、興味深そうだ。
・『会社側が公表しなかった調査委員会報告書  積水ハウスは2017年に東京・西五反田の土地売買で、いわゆる地面師に55億円を騙し取られた。その地面師集団のリーダーと目されているカミンスカス操被告の公判が進行中だから、「そんな事件もあったなあ」と思い出す人も多いだろう。 「Save Sekisui House」サイトで公開されているのは、この事件に絡み、積水ハウスが立ち上げ、社外監査役と社外取締役で構成された調査委員会がまとめた結果の報告書である。 サイトで調査報告書が主要コンテンツとなっているのは、この内容を会社側が公表していないからだ。 地面師事件を巡って株主が起こしている株主代表訴訟で、大阪地裁は調査報告書の提出を求めたが、積水ハウスはこれを拒否。積水ハウス側は即時抗告したものの大阪高裁に棄却され、渋々提出したという代物である。 個人名などが黒塗りとなっている「ノリ弁報告書」の見どころは、騙し取られた過程が生々しく記されていること。詳細はサイトを見てもらうとして、まず思うのは、これが架空取引であることに気づくタイミングはいくらでもあったということだ』、「株主代表訴訟で、大阪地裁は調査報告書の提出を求めたが、積水ハウスはこれを拒否。積水ハウス側は即時抗告したものの大阪高裁に棄却され、渋々提出したという代物」、とはさぞかし会社側には不都合な内容なのだろう。
・『「気づくタイミングは10回以上あった」  報告書によると、問題の土地は海老澤佐妃子という人が所有するもので、その知人と称する人物が土地売買を積水ハウスに持ちかけたとされる。ところが同社に現れた海老澤は偽物で(報告書では偽海老澤と記されている)、本物の海老澤からは会社に「真の所有者は自分であり、売買予約をしたり、仮登記を行ったことはないので、仮登記の抹消を要求する」という内容証明郵便が複数届いている。 このため弁護士などは、「会社に現れた海老澤が本人なのか、海老澤の知人などによる確認が必要」と指摘したものの、実行されなかった。積水ハウスは手付金以外の残余金支払いをなぜか約2カ月前倒しし、詐欺師集団に巨額のお金を支払った。 あまり細々と書いても仕方がないので、この程度にしておくが、当時の社内を知る積水ハウス関係者に言わせれば「おかしな取引と気づくタイミングは10回以上あった」という』、「会社に現れた海老澤が本人なのか・・・確認が必要」との「弁護士など」の指摘を無視したばかりか、「手付金以外の残余金支払いをなぜか約2カ月前倒し」、とは不自然極まりない。
・『「なぜ」に答えていない報告書  調査報告書は生々しい。しかし、それ以上に思うことがある。 おかしな取引がなぜ結果的に見過ごされてしまったのか、その原因を調査していないことだ。 海老澤の本人確認が必要とされたのに、それを実施しなかったのはなぜか。残余金の支払いを前倒ししたのはなぜか。そこに踏み込んでいない。だからどうにも腹落ちしない。 誰もが思う「なぜ」が書かれていないのは「会社が調査を打ち切ったからだ」と積水ハウス関係者は言う。 地面師事件をきっかけに、当時、積水ハウスの会長だった和田勇氏は当時社長だった阿部俊則氏(現会長)を解任しようとした。しかし返り討ちに会い、会長ポストを追われた。 一方、調査報告書では問題の取引に和田氏の直接関与はなく、阿部氏が関わっていることが記されている。 これらを考え合わせると、誰もが抱く「なぜ」が書かれていないのは、和田氏を追い出した現経営陣が調査担当者に「調査に及ばず」と言ったか、それとも調査担当者が現経営陣に忖度したかだろうと推察される』、「誰もが思う「なぜ」が書かれていないのは「会社が調査を打ち切ったからだ」」、裁判所に命じられてしぶしぶ出したのは、単なるポーズだったようだ。
・『中立性・独立性疑われる第三者委員会  無理もない。不祥事が起きると大概、弁護士などで構成される第三者委員会が立ち上げられ、事実関係を調査、その上で再発防止策などを提案する。しかし調査を誰に依頼するのか、依頼した人にどれだけ報酬を出すのかを決めるのは会社。その時点で「中立性」や「独立性」は怪しいものとなる。 似たようなことが、「Save Sekisui House」のモデルであろう「savelixil」が立ち上がった過程でもあった。 LIXILグループでオーナーのように振る舞っていた、母体企業の1つである旧トステム創業家の潮田洋一郎氏が当時、社長兼CEOだった瀬戸欣哉氏を辞任に追い込んだのは2018年10月だった。 そのプロセスがコーポレートガバナンス上、極めて問題ありとした機関投資家は会社側に調査を要求。第三者委員会が立ち上がり、報告書はまとまったが、当初、公表されたものが会社にとって都合の良い部分を抜き出した要約版だった。 これを問題視した機関投資家が完全版の開示を要求すると、辞任プロセスにさまざまな問題があったことが公になった。そこまでは良かったが、辞任そのものを覆す必要はないという結論は変わらず。株主提案側は「結論ありきの調査報告書だ」と批判した。 LIXILグループの株主総会では株主提案が事実上の勝利を収めた。 社外取締役に就任した鬼丸かおる元最高裁判所判事はその後、株主提案の取締役候補に名前を連ねた理由について、こう語ったとされる。 「杜撰な調査報告書を読んで憤りすら感じたから」』、「LIXILグループの株主総会では株主提案が事実上の勝利を収めた」、結果オーライとはいえ、「第三者委員会」のあり方には疑問符が投げかけられた。
・『忖度必要のない独立機関の必要性  不祥事のたびに登場する第三者委員会は本当に中立なのか。法曹界からも疑問の声が上がっているのである。 「会社の依頼を受けた第三者委員会では真相究明は無理。会社に忖度する必要のない『独立委員会』が調査をするようにしないと、コーポレートガバナンスは健全化しない」 日本のコーポレートガバナンス研究の草分けでもある若杉敬明東京大学名誉教授はそう指摘する。 4月下旬に開かれるであろう積水ハウスの株主総会を前に、現会長の阿部氏らに返り討ちにあった和田氏らが取締役候補として名前を連ねる株主提案が2月17日に発表された。和田氏らは発表の席で、「Save Sekisui House」では閲覧できる調査報告書を、自ら公表しない会社側の姿勢を強く批判した。 株主提案に対して会社側は今のところダンマリを決め込んでいるが、株主総会を乗り切るため、隠蔽体質批判をかわす一手として調査報告書を公表する可能性がある。だが、その内容は生々しくとも肝心なことが書かれていないこと、そもそも調査委員会報告書というものに中立性が担保されていないことは留意していおいた方が良い』、「積水ハウス」の「株主代表訴訟」の今後の展開が注目される。

次に、4月27日付けNet IB News「積水ハウスのドンの座をめぐる会長と前会長の壮絶バトル~新型コロナの緊急事態宣言下、「三密」総会を強行した会社側が勝利(前)」を紹介しよう。
https://www.data-max.co.jp/article/35451
・『会長か前会長か――。経営対立に揺れる積水ハウスは4月23日、大阪市で定時株主総会を開いた。会社提案の阿部俊則会長らの取締役選任が可決、和田勇前会長らによる経営陣刷新の株主提案は否決された。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下で、株主総会を強行した会社側が勝利し、和田前会長が完敗した』、「会社側が勝利」、とは残念だ。
・『和田前会長の賛成率はわずか6.13%  積水ハウスは4月24日、定時株主総会の臨時報告書を開示した。 最大の注目は取締役の選任議案だ。会社提案(第3号議案)は、阿部俊則会長や仲井嘉浩社長らの再任など12人の取締役選任の件。株主提案(第8号議案)は、和田優前会長ら11人の取締役選任の件。 臨時報告書によると、阿部俊則会長の取締役再任への賛成比率は69.27%だった。前回の改選期だった2018年の総会と同様に約3割の株主が反対した。経営陣の刷新を求め、取締役への復帰を提案した和田勇会長への賛成は6.13%にとどまった。阿部氏の完全勝利とはいえないが、和田氏は完敗である。 和田氏は総会前、メディアのインタビューに応じ、「勝算は十分にあり」と語っていたが、百戦錬磨の経営者である和田氏がなぜ、票読みを誤ったのか。勝負を分けた要因は、新型コロナウイルスの感染拡大である。 ■第3号議案(会社提案):取締役12名選任の件(個人別賛成票の表はリンク先参照) ■第8号議案(株主提案):取締役11名選任の件(個人別賛成票の表はリンク先参照)』、「新型コロナウイルスの感染拡大」、がこんなところにまで影響を及ぼしたとは意外だ。
・『株主総会は三密(密集・密閉・密接)の最たるもの  新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府は4月7日、 東京、大阪、福岡など全国7都市に「緊急事態宣言」を出した。8割の接触減を達成するために、「三密」(密集・密閉・密接)を避けることを求めた。 株主総会は「三密」の最たるものだ。金融庁や経団連は、株主総会について、延期を含めた柔軟の運用を求める指針を示した。 積水ハウスは4月15日、こんなリリースを出した。 〈4月23日開催予定の当社第69回定時株主総会の開催場所として「ウェスティンホテル大阪ローズルーム」を予定していましたが、今般、当該ホテルより、同場所の提供が困難であるとの通知を受けました。(中略)できる限りの感染防止策を実施させていただくことを前提として、開催場所・開催時刻を変更し、本株主総会を開催させていただく所存です〉 「三密総会」はクラスター(感染者集団)が発生する恐れがある。ホテルは株主総会の会場使用を断った。そのため、会場を変更して株主総会を開催する。変更の場所は、積水ハウスの本社も入る梅田スカイビルの35階。その際、感染リスクを低減するために参加株主の人数制限もあり得るとしたことから、和田氏側は緊急声明を出した。 〈現経営陣は、密閉されたエレベーターに乗らなければたどり着けない35階の、しかも当初のホテル会場よりも天井が低く狭い会場に変更しています。このような会場変更は、株主の感染リスクを高めるものです〉 和田氏側は4月17日、積水ハウスが23日に予定する定時株主総会を、同日に開催しないよう求める仮処分を大阪地裁に申し立てた。新型コロナウイルスの感染拡大を理由としており、開催延期も可能だと主張した。 総会の開催の中止や延期を法律で強制できるものではない。地裁は4月21日に却下。積水ハウスは4月23日、株主総会を開催した。(つづく)』、裁判所もここまでは介入できないのだろう。

第三に、この続き、4月28日付けNet IB News「積水ハウスのドンの座をめぐる会長と前会長の壮絶バトル~新型コロナの緊急事態宣言下、「三密」総会を強行した会社側が勝利(後)」を紹介しよう。
https://www.data-max.co.jp/article/35452
・・・出席株主は昨年の10分の1に激減  緊急事態宣言を受け、株主総会や決算発表の延期といった対策が求められるなか、積水ハウスは直前に会場を変更して、総会を強行した。なぜか。 会社側は総会を断行する理由について、前出のリリースでこう述べている。 〈株主の皆様への期末配当金の支払(剰余金の処分)や取締役・監査役の任期満了にともなう選任等は法令に基づき本株主総会での決議が必要であり、本株主総会を延期した場合、株主の皆様及び当社の経営に重大な影響が生じるおそれがあります〉 結果を見れば、意図は明白だ。出席株主は約160人と昨年の10分の1に減った。高齢者など個人株主はコロナ感染を恐れて、総会には出てこない。従業員持ち株会の社員株主を集めて、会社提案への支持、株主提案の反対をとりつけたということだ。 和田氏とその側近たちに対する支持率の低さは、出席株主が激減したことによる。緊急事態宣言にもかかわらず、「三密」総会を強行した会社側の作戦勝ちといえる』、場所をホテルからの申し出で小さなところへ変更したのも、ホテルへ上手く根回しした可能性もあろう。
・『2年前、解任を仕掛けた和田氏が、逆に解任された怨念  内紛のきっかけは2017年に積水ハウスが、東京・五反田の土地取引をめぐって「地面師」グループに約55億円をだまし取られた事件だ。当時会長だった和田氏と社長・阿部氏(現・会長)との間で土地取引の責任の所在をめぐって権力闘争が勃発。2018年1月の取締役会で、和田氏が阿部氏の解任を仕掛けたが失敗。逆に、解任に追い込まれた。 それから2年。内紛が再燃した。なぜ2年後かというと、積水ハウスの取締役任期は2年だから。任期満了を迎える今年の株主総会が勝負の場だ。もっとも、取締役任期について今回、1年に短縮することを第2号議案に盛り込み、99.65%の賛成で可決した。 今年2月、和田前会長と現職の勝呂文康専務らは経営陣を総入れ替えする取締役選任議案を株主提案した。勝呂氏は勝利すれば、社長に就くとされる人物だ。 和田氏は、多額な損害が発生した土地取引は単なる地面師詐欺事件ではなく、阿部会長らが主導した不正取引だと主張し、これに関連して重要情報の隠蔽、ガバナンス(企業統治)不全があったことをあげた。 だが、そんな正論ではなく、和田氏は、自分を追い落としたかつての腹心の部下だった阿部俊則会長と稲垣士郎副会長に復讐するという怨念に突き動かされていると見る向きがほとんどだった』、「和田氏」の提案が個人的な「怨念に突き動かされていると見る向きがほとんどだった」、のは「和田氏」側の作戦もお粗末だったのだろう。
・『議決権助言会社2社は阿部会長の再任に反対を推奨  積水ハウスの2020年1月期の売上高は11.8%増の2兆4,150億円、営業利益8.5%増の2,052億円と過去最高の業績を達成した。業績は申し分ない。 海外株主に大きな影響力を持つ議決権行使助言会社の賛否はどうだったか。米ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は阿部会長と稲垣副会長の取締役再任に反対する意見を出した。マンション用地の詐欺事件をめぐって、ガバナンス(企業統治)や情報開示姿勢への懸念など責任があることを理由にあげた。株主提案の和田前会長、勝呂取締役へも反対を推奨した。喧嘩両成敗だ。 米グラスルイスは阿部会長、仲井嘉浩社長ら4人の再任に反対を推奨。和田氏と勝呂氏ら4人選任には賛成を推奨した。 積水ハウスの株主構成は外国人が約30%を占め、個人株主は14%程度。残りは機関投資家、金融機関などの法人筋。委任状はどちらの陣営に流れたか。助言会社2社が阿部会長の再任の反対を推奨したことから、株主提案側が思いのほか善戦中と伝えられた。 ふたを開けてみると、和田前会長の完敗。こんなに賛成票が少ないとは、思ってもいなかったのではないだろうか。一方、阿部会長の3割の反対は想定内にとどまった。勝負を左右したのは出席株主が10分の1に激減したこと。少数株主が総会に出席していれば、阿部会長への反対票がもっと増えた可能性がある。薄氷を踏む勝利だったといえる』、「ISS]が「株主提案の和田前会長、勝呂取締役へも反対を推奨した。喧嘩両成敗だ」、というのは「和田前会長」にとっても誤算だったのではなかろうか。
・『マネーロンダリング疑惑でFBIが内定(注:正しくは内偵)(総会を乗り切った阿部会長が安泰かというと、そうとばかりいえない。和田前会長は、メディアとのインタビューで、地面師詐欺事件への経営陣の関与に米国の連邦捜査局(FBI)が関心をもって、内定を続けていると明かした。 〈3月19日、FBIから私のところへ電話がありました。内容については詳しく喋れませんが、弁護士と通訳を交えて1時間くらい話しまして、聞かれたことには正直に答えました。FBIは、この事件について相当興味をもっていると感じましたね。今回の事件はお金の流れが非常に不鮮明ですから、アメリカの捜査機関は”これは間違いなく資金洗浄、マネーロンダリングに使われている”と言っておりました〉(『週刊新潮』20年4月23日号) 積水ハウスの経営者がマネロンに関わっているとFBIが認定したら、積水ハウスは米国で事業ができなくなる。「一難去ってまた一難」だ。(了)』、「一難去ってまた一難」とは言い得て妙だ。FBI内偵の行方が当面の注目点だ。
タグ:誰もが思う「なぜ」が書かれていないのは「会社が調査を打ち切ったからだ」 マネーロンダリング疑惑でFBIが内定(注:正しくは内偵) 議決権助言会社2社は阿部会長の再任に反対を推奨 怨念に突き動かされていると見る向きがほとんどだった 2年前、解任を仕掛けた和田氏が、逆に解任された怨念 出席株主は昨年の10分の1に激減 定時株主総会を、同日に開催しないよう求める仮処分を大阪地裁に申し立てた 「積水ハウスのドンの座をめぐる会長と前会長の壮絶バトル~新型コロナの緊急事態宣言下、「三密」総会を強行した会社側が勝利(前)」 ウェスティンホテル大阪ローズルーム 勝負を分けた要因は、新型コロナウイルスの感染拡大 株主総会は三密(密集・密閉・密接)の最たるもの 手付金以外の残余金支払いをなぜか約2カ月前倒し これを問題視した機関投資家が完全版の開示を要求すると、辞任プロセスにさまざまな問題があったことが公になった 「なぜ」に答えていない報告書 「気づくタイミングは10回以上あった」 株主代表訴訟で、大阪地裁は調査報告書の提出を求めたが、積水ハウスはこれを拒否。積水ハウス側は即時抗告したものの大阪高裁に棄却され、渋々提出したという代物 Save Sekisui House 和田氏側 「リクシル、積水ハウスで露わになった「第三者委員会」の限界。会社依頼では中立な調査はできない」 BUSINESS INSIDER (その4)(リクシル 積水ハウスで露わになった「第三者委員会」の限界 会社依頼では中立な調査はできない、積水ハウスのドンの座をめぐる会長と前会長の壮絶バトル~新型コロナの緊急事態宣言下 「三密」総会を強行した会社側が勝利(前)、~新型コロナの緊急事態宣言下 「三密」総会を強行した会社側が勝利(後)) 会社側が公表しなかった調査委員会報告書 積水ハウス事件 更の場所は、積水ハウスの本社も入る梅田スカイビルの35階。その際、感染リスクを低減するために参加株主の人数制限もあり得るとした 当該ホテルより、同場所の提供が困難であるとの通知 当初、公表されたものが会社にとって都合の良い部分を抜き出した要約版 忖度必要のない独立機関の必要性 Net IB News LIXILグループ 中立性・独立性疑われる第三者委員会 「一難去ってまた一難」 「積水ハウスのドンの座をめぐる会長と前会長の壮絶バトル~新型コロナの緊急事態宣言下、「三密」総会を強行した会社側が勝利(後)」 和田前会長の賛成率はわずか6.13% 地裁は4月21日に却下 社外監査役と社外取締役で構成された調査委員会がまとめた結果の報告書
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