労働生産性(その1)(誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる、日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ) [経済問題]
今日は、労働生産性(その1)(誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる、日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ)を取上げよう。
先ずは、本年10月19日付け東洋経済オンラインが掲載した日本生産性本部 生産性総合研究センター 上席研究員の木内 康裕氏による「誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/626455
・『日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は大きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7カ国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。 ただ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」と感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、もうこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれても……」と思う人もいる。実は「企業レベルの生産性向上が進んでも、国レベルの労働生産性向上には必ずしもつながらない部分がある」と指摘するのが、日本生産性本部の木内康裕・上席研究員だ。 はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるためにはどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第2回は、生産性向上の議論をする際、近年の大きなテーマの1つとなっている「生産性が低い中小企業」の問題について木内氏が解説する。 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」によると、日本の労働生産性は49.5ドル(5086円)で、OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位の状況が続いている。 これは、各国で1時間働いたときに生み出された付加価値額(=GDP)を比較したものである。そのとき、各国の物価水準の違いを調整する形でドルに換算する(購買力平価換算)。企業業績のように実際にいくら稼いだかをそのまま実勢レートでドルに換算するものとは少し異なる。いくつかの経済統計を基にした、いわば経済学的な手法で測定したものだ。 日本と同水準の国に西欧諸国がほとんどなく、リトアニアやチェコ、エストニアあたりになっていることはやや衝撃的ですらある』、「各国で1時間働いたときに生み出された付加価値額(=GDP)を比較したもの」を「購買力平価換算」した結果は、「OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位」、「日本と同水準の国に西欧諸国がほとんどなく、リトアニアやチェコ、エストニアあたりになっていることはやや衝撃的」、確かに「衝撃的」ではある。
・『多くの要因が複合的に左右する根が深い問題 何が原因なのかというと、前回(『誤解がかなり多い「日本の生産性が低い」真の理由』)もふれたが、無駄な業務が多いとか、仕事が効率的でない、業務プロセスが旧態依然のままだといったことが働く人からはよく挙げられる。 マクロレベルでみると、①イノベーションがあまり起きなくなった(起こせなくなった)こと、②人材や設備に対する投資が減っていること、③これまでのデフレで低価格化競争が進み、諸外国と同じようなモノやサービスを提供しても、受け取れる粗利(≒付加価値)が少なくなっていること、④企業の新規開業や統廃合が少ないこと、⑤労働人口の多いサービス産業の生産性が諸外国より低いこと、などがよく指摘される。 つまり、働く人々の実感から学術研究に基づくものまで実に多くの要因が挙げられており、それがおそらく複合的に作用していて非常に根が深い問題になっているということだ。 そのためか、日本の生産性向上に向けた提案も、多くの人が多岐にわたる観点から行っている。主なテーマについては、この連載でも次回以降詳しく述べていく予定だが、ここでは少し視点を変えて、「あまり儲かっていない」中小企業の問題についてふれてみたい。 一般に、中小企業の労働生産性は、多くの分野で大企業より低いといわれている。 中小企業をどう定義するかにもよるが、例えば中小企業白書(2022年版)をみると、製造業の労働生産性(従業員1人当たり付加価値)は大企業で1180万円だが、中小企業では520万円にとどまっている。非製造業でも大企業が1267万円であるのに対し、中小企業は520万円である。つまり、中小企業の労働生産性は大企業の半分以下でしかない。 そのため、中小企業の生産性が向上すれば日本全体の生産性向上にもつながるといわれてきた。とくに中小企業が多いサービス産業分野を中心に、多くの企業や政府、民間団体などがさまざまな取り組みを行ってきた経緯がある』、「中小企業の労働生産性は大企業の半分以下」、どう読んだらいいのだろう。
・『日本の中小企業の6割以上が赤字の理由 もともと、日本の中小企業は6割以上が赤字である。東京商工リサーチによると、コロナ禍の影響が本格化しない2019年度でみても赤字(欠損)法人の割合は65.4%にのぼる。2010年前後に75%近かった状況からは改善傾向にあるものの、おおむね3分の2の中小企業が赤字ということになる。 このような赤字企業は、業績不振で多くの付加価値を生み出せなかったところももちろんあるが、税制上のメリットを享受するために会計上赤字にしている企業も少なくないと昔から言われている。 これは、赤字だと法人税負担が大幅に減り、場合によっては還付金を受け取れること、繰越欠損金控除を利用してその後も赤字を繰り越せることなどが認められているためだ。 資金繰りの厳しい中小企業が、合法的な範囲で節税に励むのはもちろん悪いことではない。しかし、このような行動が中小企業の付加価値創造を抑制してしまえば、労働生産性を押し下げる要因にはなっても、労働生産性の向上に結び付くとは考えにくい。 生産性のみならず、日本経済の成長性や活力を考えるうえでも、こうした企業をどうしていくことが望ましいのかは考える必要があるだろう。 考えられる方策の1つは、ノウハウや財政などの支援により、そうした企業の生産性を向上させていく「底上げ」策である。これは、経済産業省が行っている「サービス等生産性向上IT導入支援事業」のように生産性向上に役立つデジタル化の取り組みに補助金を支給する事業や、ベンチマーク可能な生産性向上事例を収集・周知する事業などが代表的なものだ。 もう1つは、競争メカニズムが効果的に働いていれば、生産性の低い企業がいずれ市場から退出すること(簡単にいえば倒産や廃業)になり、生産性が高くて賃金も多く払える企業に集約されていくようにすることだ。そうすると結果的に日本全体の生産性も上昇することになる。 最低賃金の引き上げを通じて、それを払えないような企業を淘汰し、生産性や賃金がもっと高い企業に労働者や資金を移動させていくべきだとするデービッド・アトキンソン氏のような意見も、こうした考え方に基づくものといえる。 では、日本の生産性が低いのは中小企業が足を引っ張っているからなのだろうか。これは一部で正しく、一部で正しくない』、どういうことだろう。
・『大企業の生産性を上回る中小企業もある 知識や資金、能力的な制約を抱える中小企業が多いこともあり、統計的に生産性の平均値でみるとどうしても大企業に見劣りしてしまう。 しかし、東京商工リサーチが提供する企業財務データベースを基に筆者が中小企業の生産性の分布をみると、必ずしも生産性の低い企業ばかりではない。従業員100人以下でも、労働生産性(従業員1人当たり付加価値)が2000万円以上の企業が3%程度存在している。 これは、不動産業のように業種特性的に生産性が高くなりやすい分野の企業が含まれていることもあるが、他の分野でもばらつきが非常に大きく、中には大企業の平均的な生産性水準を上回る企業もあることを示す。 実際、優れた技術やノウハウを持ち、ニッチな市場でリーダーになっているような中小企業では、大企業と遜色ない生産性水準や賃金水準になっていることも少なくない。 飲食店や各種小売業、コンサルティングや設計といった専門サービスなどの分野でも、事業環境の変化や消費者の嗜好をうまくつかんで成果につなげられるキーパーソンが1人でもいれば、生産性を高めて大企業と互角に渡り合うことは十分に可能だ。 そのようなやる気があって生産性の高い中小企業が規模を拡大させていければ、産業全体に活力が生まれ、生産性も改善していくことになる。) 問題は、日本ではなかなかそのようなダイナミズムがなく、ともすれば現状維持に意識が向きがちという点だ。 中小企業の方と話をしても、事業改革や生産性向上のために何かしたくても人がいないという話をよく聞く。さまざまな業務を担ってくれる人手が足りないということだけでなく、ICT活用や事業のデジタル化などを含めて生産性をどう向上させていくかを立案・実行する人材がなかなかいないという意見が多い。 経営者自身、あるいは後継者がそうしたキーパーソンになれれば、問題はあまりないかもしれない。しかし、そうでない場合にはどう人材を育成・確保するかを考える必要がある。これは中小企業だけでなく、大企業にも当てはまる課題といってよい』、「中小企業」では、「経営者自身、あるいは後継者が」、「ICT活用や事業のデジタル化などを含めて生産性をどう向上させていくかを立案・実行する」先頭に立ってゆく必要がある。
・『大学院修了者を活用できていない日本 企業や経済の成長や生産性向上には、イノベーションが欠かせないとよくいわれる。そのイノベーションを起こすにあたっても、人材の問題は避けて通れない。働く人が一生懸命に頑張ることも大事だが、イノベーションを生み出すための研究開発やマネタイゼーションには専門性の高い有能な人材が欠かせないからだ。 日本生産性本部とアメリカ・ブルッキングス研究所による研究によると、高度なスキルを持つ大学院修了者の比率が日本では3%に満たず、10%を超えるアメリカやドイツの1/3以下でしかない。これでは、イノベーションの担い手になる高度なスキルを持つ人々が少なすぎるといわざるをえないだろう。 しかも、政策的に支援が講じられつつあるとはいえ、博士号を取っても仕事がないポスドク問題などをみるかぎり、その数少ない人々すら十分に活用できているか心もとないのが実情だ。) また、大学院修了後の所得が高卒と比較してどのくらい高くなっているかを比較すると、日本の男性大学院修了者は高卒男性より47%所得が高くなっている。 しかし、アメリカ(同72%)やドイツ(同59%)と比べると、高度なスキルを持つことに対する「プレミアム(金銭的な見返り)」が大きいわけではない。日本はある意味で平等ともいえるが、高い専門性を得るために学歴に投資をするインセンティブが弱く、イノベーションの担い手を増やす環境が十分ではないということだ。 知的好奇心や世の中に貢献したいという使命感から大学院に進み、研究活動をする立派な人ももちろん多くいるが、その後の不確実性から二の足を踏む人も少なくない。そうした人の背を押すためにも、もう少しインセンティブを考える必要があるだろう』、「ポスドク問題」は企業にとっては、使い難いなどの批判が出ていることも事実だ。大学側の育て方にも問題があるとの声も根強い。
・『専門性やスキルに投資する魅力が欠けている アメリカは、高等教育段階でSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に大量の留学生を受け入れており、彼らがさまざまなイノベーションの担い手にもなっている。彼らは、アメリカの労働力全体の17%、STEM分野の23%を占め、1990~2000年にノーベル賞を受賞したアメリカの研究者のうち26%が海外出身者になっているという。 今の日本の環境では、こうした動きも望むべくもない。 もちろん、イノベーションは学歴やスキルだけで生み出されるわけではない。しかし、専門性やスキルに多くの投資をする魅力に欠けているのに、多くのイノベーションを期待するのは酷な話であろう。 こうした状況は一気に変えられるものでもないが、専門的なスキルを持つ人材が多く育成され、(成功すれば)多くの見返りを得られるような環境づくりをしていかなければ、いつまでも状況は変わらない。 『君主論』で有名なイタリアの政治思想家マキアヴェリは「君主たるものは、才能ある人材を登用し、その功績に対しては十分に報いることも知らねばならない」と述べている。 この言葉は、今の日本でも省みる価値があるように思われる。最近は、人的資本への投資や賃上げの必要性が叫ばれるようになっている。その中でこのような問題も解決されていくことを望みたい』、「マキアヴェリ」まで「人的資本への投資や賃上げの必要性」を説いたというのは初めて知った。日本でも「専門的なスキルを持つ人材が多く育成され、(成功すれば)多くの見返りを得られるような環境づくりをして」ゆくべきだろう。
次に、12月9日付け東洋経済オンラインが掲載した 東京都立大学教授の宮本 弘曉氏による「日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ」を紹介しよう。
・『日本といえば、世界的にもサービスの品質が高いことで知られているが、実は労働生産性という観点ではアメリカの約半分だという。元IMFのエコノミストで、東京都立大学教授の宮本弘曉氏は、日本の労働生産性が低いのは、人的資本・物的資本の枯渇――つまり、「人やモノにお金をかけない」からだと断言する(本記事は宮本氏著『51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因』の抜粋記事です)』、「日本の労働生産性が低いのは、人的資本・物的資本の枯渇――つまり、「人やモノにお金をかけない」からだ」、「カネ」の面では、内部留保は貯まる一方で、それを有効活用していないことになる。
・『改革のカギは「日本型雇用」にあり 日本で賃金が停滞している大きな原因は、生産性が低迷していることと、相対的に賃金が低い非正社員が増加していることです。では、なぜ生産性は低迷しているのでしょうか。 日本で生産性が低迷している大きな理由としては、企業行動が積極姿勢を欠き、守りの経営に入り、企業が人や資本に投資をしなくなったことがあげられます。また、日本的雇用慣行により、労働市場が硬直化してしまい、その結果、経済の新陳代謝が低くなっていることも、生産性の低迷につながっていると考えられます。 非正社員の増加という労働者構成の変化の背後にも、日本の雇用慣行の存在があります。日本では正社員を雇用すると、解雇するのが難しいため、経済が長期にわたり停滞し、将来の見通しが立たないときには、雇用調整のコストが低い非正社員を用いるというのは企業の合理的な判断となりえます。 さらに、日本的雇用慣行は労働者が賃金交渉において声をあげにくい環境を作っており、賃金低迷の原因となっています。ここでは、企業行動と雇用慣行に注目しながら、労働生産性が低迷している理由について考えることにしましょう。) あらためて日本の労働生産性の現状を確認しておきましょう。 上の図は、日本の労働生産性をOECD加盟諸国と比較したものです。2020年の日本の1時間当たりの労働生産性は49.5ドル(5086円)でした。これはOECD加盟国の平均59.4ドルより、2割弱低い数字です。OECD加盟38か国中、日本の順位は23位となっており、データが取得可能な1970年以降、もっとも低い順位となっています。 G7に注目すると、もっとも生産性が高いのがアメリカで80.5ドル、次がフランスの79.2ドル、そして、ドイツの76.0ドルとなっており、日本の順位はもっとも低くなっています。なお、G7における日本の順位は、1970年以降、50年以上にわたって最下位です。日本の1時間当たりの労働生産性は、アメリカの6割程度しかないのが現状です』、「2020年の日本の1時間当たりの労働生産性は49.5ドル(5086円)でした・・・OECD加盟38か国中、日本の順位は23位と」、「データが取得可能な1970年以降、もっとも低い順位」、「G7における日本の順位は、1970年以降、50年以上にわたって最下位」、酷い数字だ。
・『1人当たりの労働生産性でも出遅れている なお、1時間当たりでなく1人当たりでも労働生産性を測ることがあります。付加価値を就業者数で割ることで求められる1人当たりの労働生産性は、2020年に日本では7万8655ドル(809万円)でした。これはOECD加盟38カ国中28位にあたります。 アメリカの就業者1人当たりの労働生産性は14万1370ドルとなっており、日本はその56%しかありません。また、かつては日本のほうが韓国より上位でしたが、2018年に逆転され、2020年の日本の就業者1人当たりの労働生産性は韓国より6%程度低くなっています。 労働生産性は産業ごとにも大きく異なっています。ここでは大きく、製造業とサービス業の2つをみていきましょう。 日本生産性本部によると、2019年における日本の製造業の労働生産性は、1時間当たり5512円、就業者1人当たり1054万円でした。一方、サービス業では1時間当たり91円、就業者1人当たり781万円と、サービス業の労働生産性は、製造業よりも低い水準にあることがわかります。 GDPに占める製造業の割合は約2割で、経済活動の大部分はサービス業で行われていることから、サービス業の労働生産性の低さが、日本全体の労働生産性を押し下げる要因となっていることがわかります。 次に、産業別に日本の労働生産性を他の先進諸国と比べてみましょう。まず、製造業について、2017年時点で、日本の労働生産性はイギリスやイタリアとほとんど同水準にある一方、アメリカより約30%、フランスより約23%、ドイツより約17%低い水準になっています。20年前の1997年の数字と比較すると、日本とこれらの国で労働生産性の格差はほとんど拡大していないことがわかります。) では、サービス業はどうでしょうか? 2017年における日本のサービス業の労働生産性は、アメリカの約半分で、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアより約27~35%低くなっています。製造業とは異なり、20年前の1997年の数字と比べると、日本と欧米諸国間の労働生産性格差が拡大していることがわかります。例えば、日本のサービス業の労働生産性を100とした場合の1997年におけるアメリカの労働生産性は174.5ですが、2017年は205.4となっています。 日本のサービス業の労働生産性がアメリカよりも低いと聞くと、遠和感を覚える方がいるかもしれません。アメリカのみならず、海外に旅行したり、住んだりしたことがある方は、日本のサービスの質が世界のなかでいかに優れているかを、肌身で感じられているのではないかと思います。 例えば、日本では電車が定刻どおり、寸分の狂いもなく正確に来ますが、そんな国は他にほとんどありません。私がかつて住んでいたアメリカの首都ワシントンD.Cのメトロ(地下鉄)には、そもそも時刻表がありませんでした。 また、日本のレストランやホテルでは、どこでも従業員が笑顔で両手を前に重ねて深々と頭を下げるのは日常風景ですが、海外であんな質の高いサービスを受けたければ、最高級のレストランやホテルに行かなくてはいけません。「日本の常識、世界の非常識」と言われることがありますが、日本と海外のサービスの質をうまく描写していると思われます』、「2019年における日本の製造業の労働生産性は、1時間当たり5512円、就業者1人当たり1054万円でした。一方、サービス業では1時間当たり91円、就業者1人当たり781万円」、「サービス業の労働生産性の低さが、日本全体の労働生産性を押し下げる要因となっている」、「サービス業はどうでしょうか? 2017年における日本のサービス業の労働生産性は、アメリカの約半分で、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアより約27~35%低くなっています」、「日本では電車が定刻どおり、寸分の狂いもなく正確に来ますが、そんな国は他にほとんどありません」、「日本のレストランやホテルでは、どこでも従業員が笑顔で両手を前に重ねて深々と頭を下げるのは日常風景ですが、海外であんな質の高いサービスを受けたければ、最高級のレストランやホテルに行かなくてはいけません。「日本の常識、世界の非常識」と言われることがありますが、日本と海外のサービスの質をうまく描写」、その通りだ。
・『日本とアメリカ、サービス業の差はどれくらい? 実際に、日本とアメリカでサービス業の質はどれくらい違うのでしょうか?下の図はアメリカ滞在経験のある日本人、また、日本滞在経験のあるアメリカ人を対象に、28の対人サービス業分野について、日米のサービス産業の品質の差に相当する価格比(日米の各サービスへの支払い意思額の比)を質問したアンケート結果を示したものです(出所:深尾京司、池内健太、滝澤美帆(2018)「質を調整した日米サービス産業の労働生産性水準比較」日本生産性本部、生産性レポートVol.6)。 ここから、米国滞在経験のある日本人は、宅配便やタクシー、コンビニなどの分野で、日本のサービスを享受するために、アメリカでの同種のサービス価格に比べて15?20%程度、高い金額を支払ってもいいと回答していることがわかります。さらに、ホテルやレストランでも1割程度、日本はアメリカより品質が高いと認識されています。 このようにアンケート調査からも日本のサービスの品質は、アメリカよりも高くなっていることがわかります。では、サービスの質を考慮した場合、日本とアメリカの労働生産性はどの程度異なるのでしょうか?) サービスの質を考慮して調整した労働生産性の日米比較を行った研究によると、調整後の日本の労働生産性の水準は、調整前のものよりも高くなっています。これは、アメリカよりも日本のほうがサービスの質が高いとするアンケートの回答結果と整合的です。 しかし、質の高さを考慮しても、労働生産性はアメリカのほうが日本よりも依然として高くなっています。その理由は、日本の価格が安いからです。品質に応じた価格がついていれば、「品質が高い=生産性が高い」になるのですが、日本の物価はこの30年間ほとんど上がっていないのに対して、アメリカでは物価が上がり続けたため、このような結果となってしまうのです』、「質の高さを考慮しても、労働生産性はアメリカのほうが日本よりも依然として高くなっています。その理由は、日本の価格が安いからです。品質に応じた価格がついていれば、「品質が高い=生産性が高い」になるのですが、日本の物価はこの30年間ほとんど上がっていないのに対して、アメリカでは物価が上がり続けたため、このような結果となってしまうのです」、逆に言えば、「日本」は「サービス」を安売りし過ぎていることになる。
・『日本の労働生産性が低迷しているワケ 現在まで、日本の労働生産性はどのように変化してきたのでしょうか?下の表は1970年以降、およそ10年ごとの労働生産性の変化率の動向を示したものです(出所:深尾京司、牧野達治「賃金長期停滞の背景(上)製造業・公的部門の低迷響く」日本経済新聞、経済教室(2021年12月6日))。日本の労働生産性の上昇率は、長期的に低下傾向にあることがわかります。 1970年代や80年代の労働生産性の上昇率は約45?51%と非常に高いものでしたが、90年代には約21%、2000年代は約12%に低下しています。こうした労働生産性上昇の減速が賃金成長率の低迷の主要因です。 ではなぜ、日本の労働生産性上昇率は低下したのでしょうか?この問いに答えるためには、労働生産性がどのように決まるのかを考える必要があります。労働生産性は、労働成果の指標である付加価値を労働投入量で割ったものとして定義されます。つまり、次のように表せます。 労働生産性=「付加価値÷労働投入量」 ここから、労働生産性が低くなる理由としては、付加価値が小さいこと、あるいは労働投入量が多い、つまり過剰労働になっていること、あるいはその両方が考えられます。逆に、労働生産性を高めるには付加価値を増やすか、労働投入量を節約するか、あるいはその両方が必要になるということです。 付加価値を生み出すには、機械や設備などの「資本」や、それを使いこなす「労働」といった生産要素が必要となります。また、生産技術や経営効率、組織運営効率なども付加価値に影響すると考えられます。これら生産要素以外で付加価値に寄与するものを「全要素生産性(TFP)」と言います。 生産要素のひとつである「労働」は、単にどれだけ働いたかだけではなく、労働者の持つスキルや経験など「労働の質」にも左右されます。つまり、労働は労働投入量(就業者数×労働時間)と労働の質の2つに分けて考えることができます。労働生産性は付加価値を労働投入量で割ったものですから、労働生産性は、労働の質、資本装備率(労働力当たりの資本)、そしてTFPの3つにより決まることがわかります。 先の表では、労働生産性の上昇率を、労働の質上昇、資本装備率上昇、そしてTFP上昇に要因分解しています。これをみると、1990年までの労働生産性の高い伸びは、資本装備率やTFPの上昇に大きく支えられていたことがわかります。 しかし、その後、1990年代にはTFPが大幅に減速し、それに伴い労働生産性の上昇も減速します。2000年以降、TFPの上昇は若干回復しますが、労働の質の低下と資本蓄積の減速により、労働生産性は停滞しています。ここからわかることは、この20年間の労働生産性の低迷、つまりは賃金の低迷の背景には、物的・人的資本そしてTFPの停滞があるということです』、「この20年間の労働生産性の低迷、つまりは賃金の低迷の背景には、物的・人的資本そしてTFPの停滞があるということです」、設備投資は堅調な動きを続けているので、「物的資本」はやがて押し上げる要因に変わる可能性もある。
先ずは、本年10月19日付け東洋経済オンラインが掲載した日本生産性本部 生産性総合研究センター 上席研究員の木内 康裕氏による「誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/626455
・『日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は大きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7カ国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。 ただ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」と感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、もうこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれても……」と思う人もいる。実は「企業レベルの生産性向上が進んでも、国レベルの労働生産性向上には必ずしもつながらない部分がある」と指摘するのが、日本生産性本部の木内康裕・上席研究員だ。 はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるためにはどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第2回は、生産性向上の議論をする際、近年の大きなテーマの1つとなっている「生産性が低い中小企業」の問題について木内氏が解説する。 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」によると、日本の労働生産性は49.5ドル(5086円)で、OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位の状況が続いている。 これは、各国で1時間働いたときに生み出された付加価値額(=GDP)を比較したものである。そのとき、各国の物価水準の違いを調整する形でドルに換算する(購買力平価換算)。企業業績のように実際にいくら稼いだかをそのまま実勢レートでドルに換算するものとは少し異なる。いくつかの経済統計を基にした、いわば経済学的な手法で測定したものだ。 日本と同水準の国に西欧諸国がほとんどなく、リトアニアやチェコ、エストニアあたりになっていることはやや衝撃的ですらある』、「各国で1時間働いたときに生み出された付加価値額(=GDP)を比較したもの」を「購買力平価換算」した結果は、「OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位」、「日本と同水準の国に西欧諸国がほとんどなく、リトアニアやチェコ、エストニアあたりになっていることはやや衝撃的」、確かに「衝撃的」ではある。
・『多くの要因が複合的に左右する根が深い問題 何が原因なのかというと、前回(『誤解がかなり多い「日本の生産性が低い」真の理由』)もふれたが、無駄な業務が多いとか、仕事が効率的でない、業務プロセスが旧態依然のままだといったことが働く人からはよく挙げられる。 マクロレベルでみると、①イノベーションがあまり起きなくなった(起こせなくなった)こと、②人材や設備に対する投資が減っていること、③これまでのデフレで低価格化競争が進み、諸外国と同じようなモノやサービスを提供しても、受け取れる粗利(≒付加価値)が少なくなっていること、④企業の新規開業や統廃合が少ないこと、⑤労働人口の多いサービス産業の生産性が諸外国より低いこと、などがよく指摘される。 つまり、働く人々の実感から学術研究に基づくものまで実に多くの要因が挙げられており、それがおそらく複合的に作用していて非常に根が深い問題になっているということだ。 そのためか、日本の生産性向上に向けた提案も、多くの人が多岐にわたる観点から行っている。主なテーマについては、この連載でも次回以降詳しく述べていく予定だが、ここでは少し視点を変えて、「あまり儲かっていない」中小企業の問題についてふれてみたい。 一般に、中小企業の労働生産性は、多くの分野で大企業より低いといわれている。 中小企業をどう定義するかにもよるが、例えば中小企業白書(2022年版)をみると、製造業の労働生産性(従業員1人当たり付加価値)は大企業で1180万円だが、中小企業では520万円にとどまっている。非製造業でも大企業が1267万円であるのに対し、中小企業は520万円である。つまり、中小企業の労働生産性は大企業の半分以下でしかない。 そのため、中小企業の生産性が向上すれば日本全体の生産性向上にもつながるといわれてきた。とくに中小企業が多いサービス産業分野を中心に、多くの企業や政府、民間団体などがさまざまな取り組みを行ってきた経緯がある』、「中小企業の労働生産性は大企業の半分以下」、どう読んだらいいのだろう。
・『日本の中小企業の6割以上が赤字の理由 もともと、日本の中小企業は6割以上が赤字である。東京商工リサーチによると、コロナ禍の影響が本格化しない2019年度でみても赤字(欠損)法人の割合は65.4%にのぼる。2010年前後に75%近かった状況からは改善傾向にあるものの、おおむね3分の2の中小企業が赤字ということになる。 このような赤字企業は、業績不振で多くの付加価値を生み出せなかったところももちろんあるが、税制上のメリットを享受するために会計上赤字にしている企業も少なくないと昔から言われている。 これは、赤字だと法人税負担が大幅に減り、場合によっては還付金を受け取れること、繰越欠損金控除を利用してその後も赤字を繰り越せることなどが認められているためだ。 資金繰りの厳しい中小企業が、合法的な範囲で節税に励むのはもちろん悪いことではない。しかし、このような行動が中小企業の付加価値創造を抑制してしまえば、労働生産性を押し下げる要因にはなっても、労働生産性の向上に結び付くとは考えにくい。 生産性のみならず、日本経済の成長性や活力を考えるうえでも、こうした企業をどうしていくことが望ましいのかは考える必要があるだろう。 考えられる方策の1つは、ノウハウや財政などの支援により、そうした企業の生産性を向上させていく「底上げ」策である。これは、経済産業省が行っている「サービス等生産性向上IT導入支援事業」のように生産性向上に役立つデジタル化の取り組みに補助金を支給する事業や、ベンチマーク可能な生産性向上事例を収集・周知する事業などが代表的なものだ。 もう1つは、競争メカニズムが効果的に働いていれば、生産性の低い企業がいずれ市場から退出すること(簡単にいえば倒産や廃業)になり、生産性が高くて賃金も多く払える企業に集約されていくようにすることだ。そうすると結果的に日本全体の生産性も上昇することになる。 最低賃金の引き上げを通じて、それを払えないような企業を淘汰し、生産性や賃金がもっと高い企業に労働者や資金を移動させていくべきだとするデービッド・アトキンソン氏のような意見も、こうした考え方に基づくものといえる。 では、日本の生産性が低いのは中小企業が足を引っ張っているからなのだろうか。これは一部で正しく、一部で正しくない』、どういうことだろう。
・『大企業の生産性を上回る中小企業もある 知識や資金、能力的な制約を抱える中小企業が多いこともあり、統計的に生産性の平均値でみるとどうしても大企業に見劣りしてしまう。 しかし、東京商工リサーチが提供する企業財務データベースを基に筆者が中小企業の生産性の分布をみると、必ずしも生産性の低い企業ばかりではない。従業員100人以下でも、労働生産性(従業員1人当たり付加価値)が2000万円以上の企業が3%程度存在している。 これは、不動産業のように業種特性的に生産性が高くなりやすい分野の企業が含まれていることもあるが、他の分野でもばらつきが非常に大きく、中には大企業の平均的な生産性水準を上回る企業もあることを示す。 実際、優れた技術やノウハウを持ち、ニッチな市場でリーダーになっているような中小企業では、大企業と遜色ない生産性水準や賃金水準になっていることも少なくない。 飲食店や各種小売業、コンサルティングや設計といった専門サービスなどの分野でも、事業環境の変化や消費者の嗜好をうまくつかんで成果につなげられるキーパーソンが1人でもいれば、生産性を高めて大企業と互角に渡り合うことは十分に可能だ。 そのようなやる気があって生産性の高い中小企業が規模を拡大させていければ、産業全体に活力が生まれ、生産性も改善していくことになる。) 問題は、日本ではなかなかそのようなダイナミズムがなく、ともすれば現状維持に意識が向きがちという点だ。 中小企業の方と話をしても、事業改革や生産性向上のために何かしたくても人がいないという話をよく聞く。さまざまな業務を担ってくれる人手が足りないということだけでなく、ICT活用や事業のデジタル化などを含めて生産性をどう向上させていくかを立案・実行する人材がなかなかいないという意見が多い。 経営者自身、あるいは後継者がそうしたキーパーソンになれれば、問題はあまりないかもしれない。しかし、そうでない場合にはどう人材を育成・確保するかを考える必要がある。これは中小企業だけでなく、大企業にも当てはまる課題といってよい』、「中小企業」では、「経営者自身、あるいは後継者が」、「ICT活用や事業のデジタル化などを含めて生産性をどう向上させていくかを立案・実行する」先頭に立ってゆく必要がある。
・『大学院修了者を活用できていない日本 企業や経済の成長や生産性向上には、イノベーションが欠かせないとよくいわれる。そのイノベーションを起こすにあたっても、人材の問題は避けて通れない。働く人が一生懸命に頑張ることも大事だが、イノベーションを生み出すための研究開発やマネタイゼーションには専門性の高い有能な人材が欠かせないからだ。 日本生産性本部とアメリカ・ブルッキングス研究所による研究によると、高度なスキルを持つ大学院修了者の比率が日本では3%に満たず、10%を超えるアメリカやドイツの1/3以下でしかない。これでは、イノベーションの担い手になる高度なスキルを持つ人々が少なすぎるといわざるをえないだろう。 しかも、政策的に支援が講じられつつあるとはいえ、博士号を取っても仕事がないポスドク問題などをみるかぎり、その数少ない人々すら十分に活用できているか心もとないのが実情だ。) また、大学院修了後の所得が高卒と比較してどのくらい高くなっているかを比較すると、日本の男性大学院修了者は高卒男性より47%所得が高くなっている。 しかし、アメリカ(同72%)やドイツ(同59%)と比べると、高度なスキルを持つことに対する「プレミアム(金銭的な見返り)」が大きいわけではない。日本はある意味で平等ともいえるが、高い専門性を得るために学歴に投資をするインセンティブが弱く、イノベーションの担い手を増やす環境が十分ではないということだ。 知的好奇心や世の中に貢献したいという使命感から大学院に進み、研究活動をする立派な人ももちろん多くいるが、その後の不確実性から二の足を踏む人も少なくない。そうした人の背を押すためにも、もう少しインセンティブを考える必要があるだろう』、「ポスドク問題」は企業にとっては、使い難いなどの批判が出ていることも事実だ。大学側の育て方にも問題があるとの声も根強い。
・『専門性やスキルに投資する魅力が欠けている アメリカは、高等教育段階でSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に大量の留学生を受け入れており、彼らがさまざまなイノベーションの担い手にもなっている。彼らは、アメリカの労働力全体の17%、STEM分野の23%を占め、1990~2000年にノーベル賞を受賞したアメリカの研究者のうち26%が海外出身者になっているという。 今の日本の環境では、こうした動きも望むべくもない。 もちろん、イノベーションは学歴やスキルだけで生み出されるわけではない。しかし、専門性やスキルに多くの投資をする魅力に欠けているのに、多くのイノベーションを期待するのは酷な話であろう。 こうした状況は一気に変えられるものでもないが、専門的なスキルを持つ人材が多く育成され、(成功すれば)多くの見返りを得られるような環境づくりをしていかなければ、いつまでも状況は変わらない。 『君主論』で有名なイタリアの政治思想家マキアヴェリは「君主たるものは、才能ある人材を登用し、その功績に対しては十分に報いることも知らねばならない」と述べている。 この言葉は、今の日本でも省みる価値があるように思われる。最近は、人的資本への投資や賃上げの必要性が叫ばれるようになっている。その中でこのような問題も解決されていくことを望みたい』、「マキアヴェリ」まで「人的資本への投資や賃上げの必要性」を説いたというのは初めて知った。日本でも「専門的なスキルを持つ人材が多く育成され、(成功すれば)多くの見返りを得られるような環境づくりをして」ゆくべきだろう。
次に、12月9日付け東洋経済オンラインが掲載した 東京都立大学教授の宮本 弘曉氏による「日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ」を紹介しよう。
・『日本といえば、世界的にもサービスの品質が高いことで知られているが、実は労働生産性という観点ではアメリカの約半分だという。元IMFのエコノミストで、東京都立大学教授の宮本弘曉氏は、日本の労働生産性が低いのは、人的資本・物的資本の枯渇――つまり、「人やモノにお金をかけない」からだと断言する(本記事は宮本氏著『51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因』の抜粋記事です)』、「日本の労働生産性が低いのは、人的資本・物的資本の枯渇――つまり、「人やモノにお金をかけない」からだ」、「カネ」の面では、内部留保は貯まる一方で、それを有効活用していないことになる。
・『改革のカギは「日本型雇用」にあり 日本で賃金が停滞している大きな原因は、生産性が低迷していることと、相対的に賃金が低い非正社員が増加していることです。では、なぜ生産性は低迷しているのでしょうか。 日本で生産性が低迷している大きな理由としては、企業行動が積極姿勢を欠き、守りの経営に入り、企業が人や資本に投資をしなくなったことがあげられます。また、日本的雇用慣行により、労働市場が硬直化してしまい、その結果、経済の新陳代謝が低くなっていることも、生産性の低迷につながっていると考えられます。 非正社員の増加という労働者構成の変化の背後にも、日本の雇用慣行の存在があります。日本では正社員を雇用すると、解雇するのが難しいため、経済が長期にわたり停滞し、将来の見通しが立たないときには、雇用調整のコストが低い非正社員を用いるというのは企業の合理的な判断となりえます。 さらに、日本的雇用慣行は労働者が賃金交渉において声をあげにくい環境を作っており、賃金低迷の原因となっています。ここでは、企業行動と雇用慣行に注目しながら、労働生産性が低迷している理由について考えることにしましょう。) あらためて日本の労働生産性の現状を確認しておきましょう。 上の図は、日本の労働生産性をOECD加盟諸国と比較したものです。2020年の日本の1時間当たりの労働生産性は49.5ドル(5086円)でした。これはOECD加盟国の平均59.4ドルより、2割弱低い数字です。OECD加盟38か国中、日本の順位は23位となっており、データが取得可能な1970年以降、もっとも低い順位となっています。 G7に注目すると、もっとも生産性が高いのがアメリカで80.5ドル、次がフランスの79.2ドル、そして、ドイツの76.0ドルとなっており、日本の順位はもっとも低くなっています。なお、G7における日本の順位は、1970年以降、50年以上にわたって最下位です。日本の1時間当たりの労働生産性は、アメリカの6割程度しかないのが現状です』、「2020年の日本の1時間当たりの労働生産性は49.5ドル(5086円)でした・・・OECD加盟38か国中、日本の順位は23位と」、「データが取得可能な1970年以降、もっとも低い順位」、「G7における日本の順位は、1970年以降、50年以上にわたって最下位」、酷い数字だ。
・『1人当たりの労働生産性でも出遅れている なお、1時間当たりでなく1人当たりでも労働生産性を測ることがあります。付加価値を就業者数で割ることで求められる1人当たりの労働生産性は、2020年に日本では7万8655ドル(809万円)でした。これはOECD加盟38カ国中28位にあたります。 アメリカの就業者1人当たりの労働生産性は14万1370ドルとなっており、日本はその56%しかありません。また、かつては日本のほうが韓国より上位でしたが、2018年に逆転され、2020年の日本の就業者1人当たりの労働生産性は韓国より6%程度低くなっています。 労働生産性は産業ごとにも大きく異なっています。ここでは大きく、製造業とサービス業の2つをみていきましょう。 日本生産性本部によると、2019年における日本の製造業の労働生産性は、1時間当たり5512円、就業者1人当たり1054万円でした。一方、サービス業では1時間当たり91円、就業者1人当たり781万円と、サービス業の労働生産性は、製造業よりも低い水準にあることがわかります。 GDPに占める製造業の割合は約2割で、経済活動の大部分はサービス業で行われていることから、サービス業の労働生産性の低さが、日本全体の労働生産性を押し下げる要因となっていることがわかります。 次に、産業別に日本の労働生産性を他の先進諸国と比べてみましょう。まず、製造業について、2017年時点で、日本の労働生産性はイギリスやイタリアとほとんど同水準にある一方、アメリカより約30%、フランスより約23%、ドイツより約17%低い水準になっています。20年前の1997年の数字と比較すると、日本とこれらの国で労働生産性の格差はほとんど拡大していないことがわかります。) では、サービス業はどうでしょうか? 2017年における日本のサービス業の労働生産性は、アメリカの約半分で、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアより約27~35%低くなっています。製造業とは異なり、20年前の1997年の数字と比べると、日本と欧米諸国間の労働生産性格差が拡大していることがわかります。例えば、日本のサービス業の労働生産性を100とした場合の1997年におけるアメリカの労働生産性は174.5ですが、2017年は205.4となっています。 日本のサービス業の労働生産性がアメリカよりも低いと聞くと、遠和感を覚える方がいるかもしれません。アメリカのみならず、海外に旅行したり、住んだりしたことがある方は、日本のサービスの質が世界のなかでいかに優れているかを、肌身で感じられているのではないかと思います。 例えば、日本では電車が定刻どおり、寸分の狂いもなく正確に来ますが、そんな国は他にほとんどありません。私がかつて住んでいたアメリカの首都ワシントンD.Cのメトロ(地下鉄)には、そもそも時刻表がありませんでした。 また、日本のレストランやホテルでは、どこでも従業員が笑顔で両手を前に重ねて深々と頭を下げるのは日常風景ですが、海外であんな質の高いサービスを受けたければ、最高級のレストランやホテルに行かなくてはいけません。「日本の常識、世界の非常識」と言われることがありますが、日本と海外のサービスの質をうまく描写していると思われます』、「2019年における日本の製造業の労働生産性は、1時間当たり5512円、就業者1人当たり1054万円でした。一方、サービス業では1時間当たり91円、就業者1人当たり781万円」、「サービス業の労働生産性の低さが、日本全体の労働生産性を押し下げる要因となっている」、「サービス業はどうでしょうか? 2017年における日本のサービス業の労働生産性は、アメリカの約半分で、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアより約27~35%低くなっています」、「日本では電車が定刻どおり、寸分の狂いもなく正確に来ますが、そんな国は他にほとんどありません」、「日本のレストランやホテルでは、どこでも従業員が笑顔で両手を前に重ねて深々と頭を下げるのは日常風景ですが、海外であんな質の高いサービスを受けたければ、最高級のレストランやホテルに行かなくてはいけません。「日本の常識、世界の非常識」と言われることがありますが、日本と海外のサービスの質をうまく描写」、その通りだ。
・『日本とアメリカ、サービス業の差はどれくらい? 実際に、日本とアメリカでサービス業の質はどれくらい違うのでしょうか?下の図はアメリカ滞在経験のある日本人、また、日本滞在経験のあるアメリカ人を対象に、28の対人サービス業分野について、日米のサービス産業の品質の差に相当する価格比(日米の各サービスへの支払い意思額の比)を質問したアンケート結果を示したものです(出所:深尾京司、池内健太、滝澤美帆(2018)「質を調整した日米サービス産業の労働生産性水準比較」日本生産性本部、生産性レポートVol.6)。 ここから、米国滞在経験のある日本人は、宅配便やタクシー、コンビニなどの分野で、日本のサービスを享受するために、アメリカでの同種のサービス価格に比べて15?20%程度、高い金額を支払ってもいいと回答していることがわかります。さらに、ホテルやレストランでも1割程度、日本はアメリカより品質が高いと認識されています。 このようにアンケート調査からも日本のサービスの品質は、アメリカよりも高くなっていることがわかります。では、サービスの質を考慮した場合、日本とアメリカの労働生産性はどの程度異なるのでしょうか?) サービスの質を考慮して調整した労働生産性の日米比較を行った研究によると、調整後の日本の労働生産性の水準は、調整前のものよりも高くなっています。これは、アメリカよりも日本のほうがサービスの質が高いとするアンケートの回答結果と整合的です。 しかし、質の高さを考慮しても、労働生産性はアメリカのほうが日本よりも依然として高くなっています。その理由は、日本の価格が安いからです。品質に応じた価格がついていれば、「品質が高い=生産性が高い」になるのですが、日本の物価はこの30年間ほとんど上がっていないのに対して、アメリカでは物価が上がり続けたため、このような結果となってしまうのです』、「質の高さを考慮しても、労働生産性はアメリカのほうが日本よりも依然として高くなっています。その理由は、日本の価格が安いからです。品質に応じた価格がついていれば、「品質が高い=生産性が高い」になるのですが、日本の物価はこの30年間ほとんど上がっていないのに対して、アメリカでは物価が上がり続けたため、このような結果となってしまうのです」、逆に言えば、「日本」は「サービス」を安売りし過ぎていることになる。
・『日本の労働生産性が低迷しているワケ 現在まで、日本の労働生産性はどのように変化してきたのでしょうか?下の表は1970年以降、およそ10年ごとの労働生産性の変化率の動向を示したものです(出所:深尾京司、牧野達治「賃金長期停滞の背景(上)製造業・公的部門の低迷響く」日本経済新聞、経済教室(2021年12月6日))。日本の労働生産性の上昇率は、長期的に低下傾向にあることがわかります。 1970年代や80年代の労働生産性の上昇率は約45?51%と非常に高いものでしたが、90年代には約21%、2000年代は約12%に低下しています。こうした労働生産性上昇の減速が賃金成長率の低迷の主要因です。 ではなぜ、日本の労働生産性上昇率は低下したのでしょうか?この問いに答えるためには、労働生産性がどのように決まるのかを考える必要があります。労働生産性は、労働成果の指標である付加価値を労働投入量で割ったものとして定義されます。つまり、次のように表せます。 労働生産性=「付加価値÷労働投入量」 ここから、労働生産性が低くなる理由としては、付加価値が小さいこと、あるいは労働投入量が多い、つまり過剰労働になっていること、あるいはその両方が考えられます。逆に、労働生産性を高めるには付加価値を増やすか、労働投入量を節約するか、あるいはその両方が必要になるということです。 付加価値を生み出すには、機械や設備などの「資本」や、それを使いこなす「労働」といった生産要素が必要となります。また、生産技術や経営効率、組織運営効率なども付加価値に影響すると考えられます。これら生産要素以外で付加価値に寄与するものを「全要素生産性(TFP)」と言います。 生産要素のひとつである「労働」は、単にどれだけ働いたかだけではなく、労働者の持つスキルや経験など「労働の質」にも左右されます。つまり、労働は労働投入量(就業者数×労働時間)と労働の質の2つに分けて考えることができます。労働生産性は付加価値を労働投入量で割ったものですから、労働生産性は、労働の質、資本装備率(労働力当たりの資本)、そしてTFPの3つにより決まることがわかります。 先の表では、労働生産性の上昇率を、労働の質上昇、資本装備率上昇、そしてTFP上昇に要因分解しています。これをみると、1990年までの労働生産性の高い伸びは、資本装備率やTFPの上昇に大きく支えられていたことがわかります。 しかし、その後、1990年代にはTFPが大幅に減速し、それに伴い労働生産性の上昇も減速します。2000年以降、TFPの上昇は若干回復しますが、労働の質の低下と資本蓄積の減速により、労働生産性は停滞しています。ここからわかることは、この20年間の労働生産性の低迷、つまりは賃金の低迷の背景には、物的・人的資本そしてTFPの停滞があるということです』、「この20年間の労働生産性の低迷、つまりは賃金の低迷の背景には、物的・人的資本そしてTFPの停滞があるということです」、設備投資は堅調な動きを続けているので、「物的資本」はやがて押し上げる要因に変わる可能性もある。
タグ:労働生産性 (その1)(誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる、日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ) 東洋経済オンライン 木内 康裕氏による「誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる」 「各国で1時間働いたときに生み出された付加価値額(=GDP)を比較したもの」を「購買力平価換算」した結果は、「OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位」、「日本と同水準の国に西欧諸国がほとんどなく、リトアニアやチェコ、エストニアあたりになっていることはやや衝撃的」、確かに「衝撃的」ではある。 「中小企業の労働生産性は大企業の半分以下」、どう読んだらいいのだろう。 どういうことだろう。 「中小企業」では、「経営者自身、あるいは後継者が」、「ICT活用や事業のデジタル化などを含めて生産性をどう向上させていくかを立案・実行する」先頭に立ってゆく必要がある。 「ポスドク問題」は企業にとっては、使い難いなどの批判が出ていることも事実だ。大学側の育て方にも問題があるとの声も根強い。 「マキアヴェリ」まで「人的資本への投資や賃上げの必要性」を説いたというのは初めて知った。日本でも「専門的なスキルを持つ人材が多く育成され、(成功すれば)多くの見返りを得られるような環境づくりをして」ゆくべきだろう。 宮本 弘曉氏による「日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ」 宮本氏著『51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因』 「日本の労働生産性が低いのは、人的資本・物的資本の枯渇――つまり、「人やモノにお金をかけない」からだ」、「カネ」の面では、内部留保は貯まる一方で、それを有効活用していないことになる。 「2020年の日本の1時間当たりの労働生産性は49.5ドル(5086円)でした・・・OECD加盟38か国中、日本の順位は23位と」、「データが取得可能な1970年以降、もっとも低い順位」、「G7における日本の順位は、1970年以降、50年以上にわたって最下位」、酷い数字だ。 「2019年における日本の製造業の労働生産性は、1時間当たり5512円、就業者1人当たり1054万円でした。一方、サービス業では1時間当たり91円、就業者1人当たり781万円」、「サービス業の労働生産性の低さが、日本全体の労働生産性を押し下げる要因となっている」、 「サービス業はどうでしょうか? 2017年における日本のサービス業の労働生産性は、アメリカの約半分で、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアより約27~35%低くなっています」、「日本では電車が定刻どおり、寸分の狂いもなく正確に来ますが、そんな国は他にほとんどありません」、「日本のレストランやホテルでは、どこでも従業員が笑顔で両手を前に重ねて深々と頭を下げるのは日常風景ですが、海外であんな質の高いサービスを受けたければ、最高級のレストランやホテルに行かなくてはいけません。「日本の常識、世界の非常識」と言われ ることがありますが、日本と海外のサービスの質をうまく描写」、その通りだ。 「質の高さを考慮しても、労働生産性はアメリカのほうが日本よりも依然として高くなっています。その理由は、日本の価格が安いからです。品質に応じた価格がついていれば、「品質が高い=生産性が高い」になるのですが、日本の物価はこの30年間ほとんど上がっていないのに対して、アメリカでは物価が上がり続けたため、このような結果となってしまうのです」、逆に言えば、「日本」は「サービス」を安売りし過ぎていることになる。 「この20年間の労働生産性の低迷、つまりは賃金の低迷の背景には、物的・人的資本そしてTFPの停滞があるということです」、設備投資は堅調な動きを続けているので、「物的資本」はやがて押し上げる要因に変わる可能性もある。