日本の構造問題(その29)(「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が 日本の命とりとなる」、経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した、誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない) [経済政治動向]
日本の構造問題については、9月24日に取上げた。今日は、(その29)(「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が 日本の命とりとなる」、経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した、誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない)である。
先ずは、11月12日付け現代ビジネス「「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が、日本の命とりとなる」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/101905?imp=0
・『自信なさげにボソボソ喋るメガネの男、キシダに国を任せていて大丈夫なのか? 世界は、日本の総理に厳しい目を向けている。いったいどうすれば日本は復活できるのか、国内外の7人の「知の巨人」に聞いた。7人目は政治学者のイアン・ブレマー氏だ』、「イアン・ブレマー氏」の診断とは興味深そうだ。
・『混沌とした「Gゼロ」の世界 9月28日、都内で開かれた「Gゼロサミット」のために訪日し、翌日に首相官邸で岸田総理にお会いしました。 サミットで岸田氏は「ブレマー博士のおっしゃる『Gゼロ』の世界が現実のものになりました」といったことを話されていました。 私が「Gゼロ」という言葉を造ったのは、約10年前のことです。「G」は世界をリードする大国を指しますが、'12年頃にはG7やG20が機能不全を起こしかけており「リーダー不在」になっていた。この状態を私は「Gゼロ」と名づけたのです。 そして'22年2月、プーチン大統領がウクライナ侵攻を始めたことで、世界秩序の崩壊がいよいよ現実のものとなりました。東アジアでも、台湾統一を公言する中国やミサイル発射を繰り返す北朝鮮など、軍事衝突の脅威が高まっています。 さらにキューバ危機から60年経っても、我々は何も学んでいないことも明らかになりました。想像しうる最悪の兵器―核によって人類が滅びかねない危機に再び直面しているのです。 ロシアがNATO加盟国に核ミサイルを撃ち込まない保障はありませんし、西側でも「核があればウクライナもロシアによる侵攻を防げたはず」「我々にも核が必要だ」といった声が上がっている』、確かに「「Gゼロ」の世界」は「「混沌とし」ている。
・『日本は「科学後進国」になりかけている 「Gゼロ」の世界は、想像以上に混沌としたものになりつつあります。これだけの難局を、岸田総理が乗り切れるとは到底思えません。 百歩譲って、日本、アメリカ、オーストラリア、インドが参加する「QUAD」の連携強化を進めている点は評価してもいいでしょう。 かつての「科学大国」が、今や「科学後進国」に。 しかし、日本には致命的な欠点があります。 科学研究や技術開発への投資が、ほとんど増えていないのです。'00年と'19年の研究開発費(名目額)を比較すると、日本は1.2倍とほぼ横ばいになっています。一方、米国は2.4倍、韓国は6.4倍、中国にいたっては24.7倍に急増している。 潤沢な研究資金を求め、日本を捨てて海外に出る研究者も多くいるようです。かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています。 日本が特に遅れを取っている分野の一つが、デジタル技術です。現在の地政学は、デジタル技術の発展によって大きく転換しています。資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります。 自律型ドローン、人工知能(AI)、さらには量子コンピュータなど、「破壊的なテクノロジー」は次々に生み出されています。 研究開発の努力を怠れば、日本は「Gゼロ」の世界を荒らしまわる強国に飲み込まれてしまうでしょう。 「知の巨人」シリーズ 1ポール・クルーグマンが激白「日本経済を復活させるには、定年を廃止せよ」 2昭和史を見つめてきた作家・保阪正康が岸田総理を斬る「宏池会の系譜に学ばぬ首相に失望した」 3経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」 4「賃金を上げて、非正規雇用を見直せ」ジャーナリストのビル・エモットが考える「日本再生への道」 5姜尚中が痛烈批判「岸田総理は、夏目漱石『それから』の主人公と同じ“煮え切らない男”」 6得権益を温存し衰退する日本…社会学者・宮台真司「愚かな総理を生み出したのは、からっぽの民衆だ」』、「かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています」、「資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります」、由々しい事態だ。
次に、11月16日付けPRESIDENT Onlineが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/63430
・『なぜ日本の製造業は衰退したのか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんは「政府による補助金政策に問題があった。かつては半導体産業にも力があったが、政府が“補助金漬け”にしたことによって競争力を失ってしまった」という――。(第1回)※本稿は、野口悠紀雄『円安と補助金で自壊する日本 2023年、日本の金利上昇は必至!』(ビジネス社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『90年代から始まった政府による製造業への介入政策 高度成長期、日本の製造業は国の直接介入を拒否した。1960年代に、通商産業省は外資自由化に備えて日本の産業の再編成を図ろうとし、「特振法」(特定産業振興臨時措置法)を準備した。しかし、その当時の日本の産業界は、これを「経済的自由を侵害する統制」であるとして、退けてしまったのである。外資による買収を防ぐより、政府に介入されないことのほうが重要と考えたのだ。 この当時、政府による保護策の対象は、高度成長に取り残された農業だった。ところが、1990年代の中頃から、この状況が変わってきた。競争力を失った製造業を救済するために、政府が介入するようになってきたのだ。 まず、マクロ政策において金融緩和を行い、円安に導いた。それに加え、経済産業省の指導による産業再編(その実態は、競争力が失われた製造業への補助と救済)が行われてきた。そして、2000年頃から、国による保護・救済の対象が、農業から製造業に変わった。世界経済の大転換に対して、産業構造の転換を図るのではなく、従来のタイプの製造業を延命させようとしたのだ。 特に08年のリーマンショック(08年9月にアメリカの投資銀行リーマンブラザーズが経営破綻したことをきっかけに生じた金融危機)後は、さまざまな製造業救済策がとられた。雇用調整助成金、エコカー減税・補助金、地上波デジタル移行によるテレビ受像機生産の助成などだ。 政府の干渉が強いと、産業構造の調整が遅れる。DRAM(半導体記憶素子)のエルピーダメモリや、LSI(大規模集積回路)のルネサスエレクトロニクスなどがその例だ。これらは業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ。また、シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた。 これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった』、「エルピーダメモリ」、「ルネサスエレクトロニクス」などは「業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ」、「シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた」、「これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった」、情けない限りだ。
・『史上最大の負債総額を出して破綻したエルピーダメモリ これまで日本で行われた企業再建のかなりのものが、官主導で行われた。企業救済を目的とする官製ファンドとして、2003年に経済産業省が主導して「産業再生機構」がつくられた。そして、04年には、カネボーやダイエーの再建にかかわった。さらに09年には、「産業革新機構」が設立された。将来性がある企業や企業の重複事業をまとめることによって、革新をもたらすとされた。 半導体産業については、NEC、日立のDRAM事業を統合したエルピーダメモリが1999年に発足した(後に、三菱電機のDRAM事業を譲り受ける)。しかし、経営に行き詰まり、改正産業活力再生特別措置法の適用第1号となって、公的資金活用による300億円の出資を受けた。それでも事態は好転せず、2012年2月に、会社更生法の適用を申請し、製造業として史上最大の負債総額4480億円で破綻した。 日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう』、「日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう」、その通りだ。
・『莫大な補助金が投入されたジャパンディスプレイだったが… ジャパンディスプレイ(JDI)は、ソニー、東芝、日立が行っていた液晶画面事業を合体して2012年につくられた組織だ。産業革新機構が2000億円を出資し、国策再生プロジェクトとしてスタートした。ところが、19年に危機的な状態になった。 産業革新機構から設立時に2000億円の出資を受け、16年から17年にかけても750億円の投資が追加でなされた。赤字の民間企業に国の金を投入し続けることに対して批判があったが、17年には1070億円の、18年にも200億円の支援がなされた。しかし、18年12月10日、産業革新投資機構の民間出身の取締役全員が辞職。革新機構は機能を停止した。 ジャパンディスプレイの財務状況は厳しいままだった。一時は債務超過に陥った。会計不正事件もあった。20年10月、石川県白山市の工場をシャープとアップルに売却し、経営安定に努めているが、いまだに赤字を続けている。液晶は、半導体と並んで日本製造業の強さの象徴であり、お家芸の技術とされていたものだ。それがこのような状態になった。必要なのは、世界的な製造業の構造変化に対応することだ。 数社の事業を統合して重複を除くというようなことではない。エルピーダメモリやジャパンディスプレイが成功しなかったのは、世界の製造業の基本構造が変わってしまったからだ』、「世界の製造業の基本構造が変わってしまった」、どういうように変わったのだろう。
・『政府の再建政策では抜本的な変革は実現できない 大きな改革は、企業の再建でなく、企業の新陳代謝によってしか進まない。ところが、官庁が主導して関係企業や金融機関が協議して決める再建は、これまでの日本的なビジネスモデルと産業構造を維持することを目的にしている。だから、抜本的な変革が実現できない。 このような官民協調体制が、日本の産業構造の変革を阻んできたのだ。この結果、日本の産業構造の基本的な仕組みと企業のビジネスモデルは、ほとんど変わっていない。日本では、企業の消滅を伴う改革は望ましくないと考えられてきた。その大きな理由は、雇用の確保だ。 しかし企業が残って雇用を維持し続けても、全体としての雇用情勢は大きく変わっている。非正規雇用が全体の4割にもなっている。新しい産業が成長して雇用機会を生み出していくしか、答えはない。 半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ。エルピーダメモリの場合について見れば、DRAMはもともと付加価値が低い製品だった。ジャパンディスプレイの売上高も、2016年までは、iPhoneの出荷台数の成長とともに増大していた。 ところが、16年以降、iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減したのだ』、「半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ」、「iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減」、なるほど。
・『日本経済が抱えている問題は、金融政策では対処できない 半導体では、経営者が大規模投資を決断できなかったことが、その後の不振の原因といわれる。しかし、液晶の場合には、大規模な投資を行った。特にシャープの場合は、「世界の亀山モデル」といわれる垂直統合モデル(液晶パネルの生産から液晶テレビの組立までを同一工場内で行う)を展開した。 ところが、結局は経営破綻して、台湾の鴻海(ホンハイ)の傘下に入らざるを得なくなった。厳重な情報管理をして液晶の技術を守るとしていたが、いまになってみれば、液晶はコモディティ(一般的な商品で、品質で差別化できないため、価格競争せざるを得ないもの)でしかなかったのだ。 日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT(情報通信技術)の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である。 金融緩和をすれば円安になる。そして、円安が進行している間は企業利益が増加して株価が上がる。しかし、これは一時的現象にすぎない。それにもかかわらず、金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ』、「日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT・・・の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である」、その通りだ。「金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ」、同感である。
第三に、11月30日付け東洋経済オンラインが掲載した学習院大学経済学部教授の宮川 努氏による「誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/636134
・『日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は大きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7カ国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。 ただ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」と感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、もうこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれても……」と思う人もいる。 はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるためにはどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第5回は、「生産性と設備投資」について、学習院大学経済学部教授の宮川努氏が解説する。 日本では「人への投資」がさかんに強調されている。確かに「人への投資」は重要だが、それは生産や研究のための新しい投資が行われて初めて効果的になる。 実は世界金融危機以降に潜在成長力が低下した先進諸国の大きな課題の1つは、生産のための通常の設備投資が減退していることなのである。 10月にイギリスのマンチェスターで開かれた生産性データベースの国際カンファレンスでキーノートスピーチを行った、イングランド銀行(イギリスの中央銀行)の金融政策委員会メンバーであるジョナサン・ハスケル氏も「投資と生産性」というタイトルで、先進諸国の投資の減退の要因を探っていた。 古い設備で経済活動を行うなら「人への投資」は不要(日本も例外ではない。経済成長の要因は、労働投入の増加分と資本投入の増加分とそして生産性に分解することができるが、今世紀に入ってからの資本投入の経済成長への寄与はほとんどないに等しい。つまり設備投資が少なく、新たな設備が蓄積されないのである。 このため、下のグラフにあるように設備の年齢は急速に上昇している。 (外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) もし古い設備で経済活動を行うのなら、「人への投資」は不要である。新たな知識やスキルを得ても使う場所がないのだから時間の無駄というものである。通信手段としてファックスを使い続ける社会にとっては、人材教育は不必要だが、革新的な投資を行えば人材投資は不可避となる。つまり設備を更新していくことと人材投資は車の両輪なのである。 投資には、潜在的な成長力(生産能力)を上げるという役割のほかにもう1つの側面がある。それは景気循環への影響である。 投資という行為は、建物を建築する資材を購入したり、機械設備を購入したりするため、財やサービスへの需要を増やすことになる。この支出の増加は、消費の増加や輸出の増加と同様景気にとってプラスに働く。生産能力の増加という供給面の効果と支出の増加という需要面の効果の双方を併せ持つことを「投資の二面性」と呼んでいる。 それでは投資が増加すればいいことづくめなのかといえば、そうともいえない。投資の増加は、景気を大いに盛り上げるが、いったん増加した生産能力は容易に減らすことはできない。このため、需要が減少した際には、企業は過剰設備を抱えることになる。バブル崩壊後の日本も大幅な過剰設備を抱えていた。 しかし生産性を向上させるためには、こうした設備の過剰を乗り越えて、新たな設備を導入していく必要がある。鉄道事業で自動券売機や自動改札を導入しなければ、生産性は向上しないし、小売業でも自動店舗やセルフ・レジのための機械の導入は、生産性の向上に貢献しているといえる。 今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じているのである』、「今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じている」、なるほど。
・『株価が上昇する一方で設備投資が低迷 ただ不可解なのは、2010年代は企業の株価が大きく上昇した時期でもあった。ダウ=ジョーンズで見ても、日経平均株価で見ても、2010年代の初めから最後にかけて株価は3倍に上昇している。通常、企業価値が上昇するということは、投資家が設備投資から生まれる将来的な利益の増加を期待していることを意味している。 つまり一般的に株価と設備投資は歩調を合わせて動くものなのである。それにもかかわらず、2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた。 このパズルを説明する要因として、先進国共通の要因としては3つ挙げられる。 1つ目は無形資産投資が増えていることである。1990年代後半にアメリカでIT革命が起きてから、ソフトウエアや人材投資をはじめとした目に見えない投資が増えている。株式市場はこの投資による収益の増加を評価しているが、公表される企業の財務諸表にはこうした資産のほとんどは計上されていない。したがって、株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じるのである。 2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなったという点である。アマゾンもグーグルも1990年代に創業した当初は、比較的小規模なベンチャー企業だったが、今やどの企業も太刀打ちできないほどの市場支配力を持っている。リーディング産業におけるこうした独占力は、その企業の利益を増大させ、株価を引き上げる一方で、経済全体の投資を縮小させる効果を持っている。 3つ目は、海外直接投資の影響である。先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる』、「2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた」、「1つ目は無形資産投資が増えている」ので、「株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じる」、「2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなった」、「3つ目は、海外直接投資の影響」、「先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる」、なるほど「パズル」が解けたようだ。
・『日本を見た場合の最大の要因は? 日本の場合を見てみると、無形資産投資の増加については、ある程度あてはまる。しかし、その無形資産投資額も2010年代からは横ばいになっており、あまり有形資産の投資をカバーする力はなさそうである。逆に人材投資は長い期間をとってみると減少しており、それが増加する企業価値と建物や機械などの投資の停滞とのギャップを埋めているとはいいがたい。 2つ目の市場集中度の上昇は、日本では一般的には見られない。しかし情報通信サービス業では、大企業と中小企業の生産性との差が見られることは確かである。この背景には、少数の企業が大きなシステム投資の受注を行い、それを中小の企業に請け負わせるという建設業に似た構造があると考えられる。こうした構造によって情報通信サービス業の投資や生産性が上昇してないという側面はある。 しかし日本の場合、この2つよりも大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである。 実はこの最後の3番目の問題は、地方経済にも暗い影を投げかけている。徳井丞次・信州大学教授と牧野達治・一橋大学経済研究所研究員が最近延長された都道府県別産業生産性データベースを使って都道府県別の研究開発に伴う知識ストックを調べたところ驚くべき結果が出ている。) 1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下している。 背景にはおそらく、この間に企業の海外進出と国内工場の閉鎖が進み、同時に技術者も減少していったことがある。地方はこの製造業の事業所の減少を観光業の振興で補完してきたが、それも東京オリンピック・パラリンピック開催時期における新型コロナウイルスの感染拡大という最悪のタイミングに起きた災禍によって先行きが不透明になっている』、「大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである」、「1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下」、ここまで「東京都」への「集中」が進んだとは、驚かされた。
・『日本は研究開発への支援が足りない? 研究開発力に関してはこうした量的な蓄積に加えて質的な問題も指摘されている。スタンフォード大学のニック・ブルーム教授やチャールズ・ジョーンズ教授らは、研究開発投資の効率性の低下について検証した研究を発表している。彼らは、半導体の集積密度が1年半から2年で2倍になるというムーアの法則を達成したり、新薬を開発したりするためには、これまで以上の研究資源を投入しなければならなくなっていることを示した。 従来の研究開発に関する研究では、研究開発への資源投入量が多ければ多いほど生産性の向上が期待されるという結果が得られていた。しかしながら、彼らが示したのは研究開発投入量当たりの生産性向上分、つまり研究開発の効率性が低下しているために、従来と同様の研究開発資源を投入しても、従来以下の生産性向上しか得られないというものであった。 日本では研究開発への支援が足りないということがさかんにいわれている。しかしながら量的な指標で見ると、日本の研究開発費の対GDP比は長年3%以上を保っている。これは韓国の4%には及ばないが、2%台の欧米先進諸国よりも高い。それでも研究開発費が十分でないということは、革新的な成果を出すために従来以上の資金や資源投入を必要としているということなのだろう。 こうした状況下では、たとえGDP比率が日本より低くとも、GDP自体が急速に膨らんでいる中国の研究成果が存在感を増しているというのもうなずける。) 国内における生産設備や研究開発への投資を増やし、生産性への向上につなげていくにはどのようにすればよいのだろうか。頼るのは、今回の台湾の半導体メーカーTSMCの進出のような海外からの直接投資だろう。 もともと直接投資というのは、経営能力の海外移転として捉えることができる。日本が好調であった時期には、日本の生産プロセスを海外に移転することが移転元、移転先双方にとって好ましいことであった。日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる』、「日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる」、寂しいが、認めざるを得ない。
・『海外直接投資を増やすための2つのハードル ただし、こうした楽観的な期待には2つの注釈が必要になる。 1つは、従来から指摘されていることだが、日本では対日直接投資を実施する際の手続きが煩雑で、これが一種の参入障壁のようになっていた。このため日本への直接投資は中国や韓国よりも低い水準にあった。 もう1つは最近機運が高まっている経済安全保障による制約である。これにより、例えば半導体では外資メーカーが政府の補助金までもが受けられる一方で、ほかの分野では参入を拒否される企業も出てくる可能性がある。こうした政府の恣意的な介入が多くなると、対日投資は増えない。 手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう。 経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう』、「手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう」、その通りだ。 「経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう」、その通りなのだろう。
先ずは、11月12日付け現代ビジネス「「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が、日本の命とりとなる」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/101905?imp=0
・『自信なさげにボソボソ喋るメガネの男、キシダに国を任せていて大丈夫なのか? 世界は、日本の総理に厳しい目を向けている。いったいどうすれば日本は復活できるのか、国内外の7人の「知の巨人」に聞いた。7人目は政治学者のイアン・ブレマー氏だ』、「イアン・ブレマー氏」の診断とは興味深そうだ。
・『混沌とした「Gゼロ」の世界 9月28日、都内で開かれた「Gゼロサミット」のために訪日し、翌日に首相官邸で岸田総理にお会いしました。 サミットで岸田氏は「ブレマー博士のおっしゃる『Gゼロ』の世界が現実のものになりました」といったことを話されていました。 私が「Gゼロ」という言葉を造ったのは、約10年前のことです。「G」は世界をリードする大国を指しますが、'12年頃にはG7やG20が機能不全を起こしかけており「リーダー不在」になっていた。この状態を私は「Gゼロ」と名づけたのです。 そして'22年2月、プーチン大統領がウクライナ侵攻を始めたことで、世界秩序の崩壊がいよいよ現実のものとなりました。東アジアでも、台湾統一を公言する中国やミサイル発射を繰り返す北朝鮮など、軍事衝突の脅威が高まっています。 さらにキューバ危機から60年経っても、我々は何も学んでいないことも明らかになりました。想像しうる最悪の兵器―核によって人類が滅びかねない危機に再び直面しているのです。 ロシアがNATO加盟国に核ミサイルを撃ち込まない保障はありませんし、西側でも「核があればウクライナもロシアによる侵攻を防げたはず」「我々にも核が必要だ」といった声が上がっている』、確かに「「Gゼロ」の世界」は「「混沌とし」ている。
・『日本は「科学後進国」になりかけている 「Gゼロ」の世界は、想像以上に混沌としたものになりつつあります。これだけの難局を、岸田総理が乗り切れるとは到底思えません。 百歩譲って、日本、アメリカ、オーストラリア、インドが参加する「QUAD」の連携強化を進めている点は評価してもいいでしょう。 かつての「科学大国」が、今や「科学後進国」に。 しかし、日本には致命的な欠点があります。 科学研究や技術開発への投資が、ほとんど増えていないのです。'00年と'19年の研究開発費(名目額)を比較すると、日本は1.2倍とほぼ横ばいになっています。一方、米国は2.4倍、韓国は6.4倍、中国にいたっては24.7倍に急増している。 潤沢な研究資金を求め、日本を捨てて海外に出る研究者も多くいるようです。かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています。 日本が特に遅れを取っている分野の一つが、デジタル技術です。現在の地政学は、デジタル技術の発展によって大きく転換しています。資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります。 自律型ドローン、人工知能(AI)、さらには量子コンピュータなど、「破壊的なテクノロジー」は次々に生み出されています。 研究開発の努力を怠れば、日本は「Gゼロ」の世界を荒らしまわる強国に飲み込まれてしまうでしょう。 「知の巨人」シリーズ 1ポール・クルーグマンが激白「日本経済を復活させるには、定年を廃止せよ」 2昭和史を見つめてきた作家・保阪正康が岸田総理を斬る「宏池会の系譜に学ばぬ首相に失望した」 3経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」 4「賃金を上げて、非正規雇用を見直せ」ジャーナリストのビル・エモットが考える「日本再生への道」 5姜尚中が痛烈批判「岸田総理は、夏目漱石『それから』の主人公と同じ“煮え切らない男”」 6得権益を温存し衰退する日本…社会学者・宮台真司「愚かな総理を生み出したのは、からっぽの民衆だ」』、「かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています」、「資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります」、由々しい事態だ。
次に、11月16日付けPRESIDENT Onlineが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/63430
・『なぜ日本の製造業は衰退したのか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんは「政府による補助金政策に問題があった。かつては半導体産業にも力があったが、政府が“補助金漬け”にしたことによって競争力を失ってしまった」という――。(第1回)※本稿は、野口悠紀雄『円安と補助金で自壊する日本 2023年、日本の金利上昇は必至!』(ビジネス社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『90年代から始まった政府による製造業への介入政策 高度成長期、日本の製造業は国の直接介入を拒否した。1960年代に、通商産業省は外資自由化に備えて日本の産業の再編成を図ろうとし、「特振法」(特定産業振興臨時措置法)を準備した。しかし、その当時の日本の産業界は、これを「経済的自由を侵害する統制」であるとして、退けてしまったのである。外資による買収を防ぐより、政府に介入されないことのほうが重要と考えたのだ。 この当時、政府による保護策の対象は、高度成長に取り残された農業だった。ところが、1990年代の中頃から、この状況が変わってきた。競争力を失った製造業を救済するために、政府が介入するようになってきたのだ。 まず、マクロ政策において金融緩和を行い、円安に導いた。それに加え、経済産業省の指導による産業再編(その実態は、競争力が失われた製造業への補助と救済)が行われてきた。そして、2000年頃から、国による保護・救済の対象が、農業から製造業に変わった。世界経済の大転換に対して、産業構造の転換を図るのではなく、従来のタイプの製造業を延命させようとしたのだ。 特に08年のリーマンショック(08年9月にアメリカの投資銀行リーマンブラザーズが経営破綻したことをきっかけに生じた金融危機)後は、さまざまな製造業救済策がとられた。雇用調整助成金、エコカー減税・補助金、地上波デジタル移行によるテレビ受像機生産の助成などだ。 政府の干渉が強いと、産業構造の調整が遅れる。DRAM(半導体記憶素子)のエルピーダメモリや、LSI(大規模集積回路)のルネサスエレクトロニクスなどがその例だ。これらは業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ。また、シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた。 これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった』、「エルピーダメモリ」、「ルネサスエレクトロニクス」などは「業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ」、「シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた」、「これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった」、情けない限りだ。
・『史上最大の負債総額を出して破綻したエルピーダメモリ これまで日本で行われた企業再建のかなりのものが、官主導で行われた。企業救済を目的とする官製ファンドとして、2003年に経済産業省が主導して「産業再生機構」がつくられた。そして、04年には、カネボーやダイエーの再建にかかわった。さらに09年には、「産業革新機構」が設立された。将来性がある企業や企業の重複事業をまとめることによって、革新をもたらすとされた。 半導体産業については、NEC、日立のDRAM事業を統合したエルピーダメモリが1999年に発足した(後に、三菱電機のDRAM事業を譲り受ける)。しかし、経営に行き詰まり、改正産業活力再生特別措置法の適用第1号となって、公的資金活用による300億円の出資を受けた。それでも事態は好転せず、2012年2月に、会社更生法の適用を申請し、製造業として史上最大の負債総額4480億円で破綻した。 日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう』、「日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう」、その通りだ。
・『莫大な補助金が投入されたジャパンディスプレイだったが… ジャパンディスプレイ(JDI)は、ソニー、東芝、日立が行っていた液晶画面事業を合体して2012年につくられた組織だ。産業革新機構が2000億円を出資し、国策再生プロジェクトとしてスタートした。ところが、19年に危機的な状態になった。 産業革新機構から設立時に2000億円の出資を受け、16年から17年にかけても750億円の投資が追加でなされた。赤字の民間企業に国の金を投入し続けることに対して批判があったが、17年には1070億円の、18年にも200億円の支援がなされた。しかし、18年12月10日、産業革新投資機構の民間出身の取締役全員が辞職。革新機構は機能を停止した。 ジャパンディスプレイの財務状況は厳しいままだった。一時は債務超過に陥った。会計不正事件もあった。20年10月、石川県白山市の工場をシャープとアップルに売却し、経営安定に努めているが、いまだに赤字を続けている。液晶は、半導体と並んで日本製造業の強さの象徴であり、お家芸の技術とされていたものだ。それがこのような状態になった。必要なのは、世界的な製造業の構造変化に対応することだ。 数社の事業を統合して重複を除くというようなことではない。エルピーダメモリやジャパンディスプレイが成功しなかったのは、世界の製造業の基本構造が変わってしまったからだ』、「世界の製造業の基本構造が変わってしまった」、どういうように変わったのだろう。
・『政府の再建政策では抜本的な変革は実現できない 大きな改革は、企業の再建でなく、企業の新陳代謝によってしか進まない。ところが、官庁が主導して関係企業や金融機関が協議して決める再建は、これまでの日本的なビジネスモデルと産業構造を維持することを目的にしている。だから、抜本的な変革が実現できない。 このような官民協調体制が、日本の産業構造の変革を阻んできたのだ。この結果、日本の産業構造の基本的な仕組みと企業のビジネスモデルは、ほとんど変わっていない。日本では、企業の消滅を伴う改革は望ましくないと考えられてきた。その大きな理由は、雇用の確保だ。 しかし企業が残って雇用を維持し続けても、全体としての雇用情勢は大きく変わっている。非正規雇用が全体の4割にもなっている。新しい産業が成長して雇用機会を生み出していくしか、答えはない。 半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ。エルピーダメモリの場合について見れば、DRAMはもともと付加価値が低い製品だった。ジャパンディスプレイの売上高も、2016年までは、iPhoneの出荷台数の成長とともに増大していた。 ところが、16年以降、iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減したのだ』、「半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ」、「iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減」、なるほど。
・『日本経済が抱えている問題は、金融政策では対処できない 半導体では、経営者が大規模投資を決断できなかったことが、その後の不振の原因といわれる。しかし、液晶の場合には、大規模な投資を行った。特にシャープの場合は、「世界の亀山モデル」といわれる垂直統合モデル(液晶パネルの生産から液晶テレビの組立までを同一工場内で行う)を展開した。 ところが、結局は経営破綻して、台湾の鴻海(ホンハイ)の傘下に入らざるを得なくなった。厳重な情報管理をして液晶の技術を守るとしていたが、いまになってみれば、液晶はコモディティ(一般的な商品で、品質で差別化できないため、価格競争せざるを得ないもの)でしかなかったのだ。 日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT(情報通信技術)の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である。 金融緩和をすれば円安になる。そして、円安が進行している間は企業利益が増加して株価が上がる。しかし、これは一時的現象にすぎない。それにもかかわらず、金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ』、「日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT・・・の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である」、その通りだ。「金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ」、同感である。
第三に、11月30日付け東洋経済オンラインが掲載した学習院大学経済学部教授の宮川 努氏による「誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/636134
・『日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は大きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7カ国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。 ただ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」と感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、もうこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれても……」と思う人もいる。 はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるためにはどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第5回は、「生産性と設備投資」について、学習院大学経済学部教授の宮川努氏が解説する。 日本では「人への投資」がさかんに強調されている。確かに「人への投資」は重要だが、それは生産や研究のための新しい投資が行われて初めて効果的になる。 実は世界金融危機以降に潜在成長力が低下した先進諸国の大きな課題の1つは、生産のための通常の設備投資が減退していることなのである。 10月にイギリスのマンチェスターで開かれた生産性データベースの国際カンファレンスでキーノートスピーチを行った、イングランド銀行(イギリスの中央銀行)の金融政策委員会メンバーであるジョナサン・ハスケル氏も「投資と生産性」というタイトルで、先進諸国の投資の減退の要因を探っていた。 古い設備で経済活動を行うなら「人への投資」は不要(日本も例外ではない。経済成長の要因は、労働投入の増加分と資本投入の増加分とそして生産性に分解することができるが、今世紀に入ってからの資本投入の経済成長への寄与はほとんどないに等しい。つまり設備投資が少なく、新たな設備が蓄積されないのである。 このため、下のグラフにあるように設備の年齢は急速に上昇している。 (外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) もし古い設備で経済活動を行うのなら、「人への投資」は不要である。新たな知識やスキルを得ても使う場所がないのだから時間の無駄というものである。通信手段としてファックスを使い続ける社会にとっては、人材教育は不必要だが、革新的な投資を行えば人材投資は不可避となる。つまり設備を更新していくことと人材投資は車の両輪なのである。 投資には、潜在的な成長力(生産能力)を上げるという役割のほかにもう1つの側面がある。それは景気循環への影響である。 投資という行為は、建物を建築する資材を購入したり、機械設備を購入したりするため、財やサービスへの需要を増やすことになる。この支出の増加は、消費の増加や輸出の増加と同様景気にとってプラスに働く。生産能力の増加という供給面の効果と支出の増加という需要面の効果の双方を併せ持つことを「投資の二面性」と呼んでいる。 それでは投資が増加すればいいことづくめなのかといえば、そうともいえない。投資の増加は、景気を大いに盛り上げるが、いったん増加した生産能力は容易に減らすことはできない。このため、需要が減少した際には、企業は過剰設備を抱えることになる。バブル崩壊後の日本も大幅な過剰設備を抱えていた。 しかし生産性を向上させるためには、こうした設備の過剰を乗り越えて、新たな設備を導入していく必要がある。鉄道事業で自動券売機や自動改札を導入しなければ、生産性は向上しないし、小売業でも自動店舗やセルフ・レジのための機械の導入は、生産性の向上に貢献しているといえる。 今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じているのである』、「今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じている」、なるほど。
・『株価が上昇する一方で設備投資が低迷 ただ不可解なのは、2010年代は企業の株価が大きく上昇した時期でもあった。ダウ=ジョーンズで見ても、日経平均株価で見ても、2010年代の初めから最後にかけて株価は3倍に上昇している。通常、企業価値が上昇するということは、投資家が設備投資から生まれる将来的な利益の増加を期待していることを意味している。 つまり一般的に株価と設備投資は歩調を合わせて動くものなのである。それにもかかわらず、2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた。 このパズルを説明する要因として、先進国共通の要因としては3つ挙げられる。 1つ目は無形資産投資が増えていることである。1990年代後半にアメリカでIT革命が起きてから、ソフトウエアや人材投資をはじめとした目に見えない投資が増えている。株式市場はこの投資による収益の増加を評価しているが、公表される企業の財務諸表にはこうした資産のほとんどは計上されていない。したがって、株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じるのである。 2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなったという点である。アマゾンもグーグルも1990年代に創業した当初は、比較的小規模なベンチャー企業だったが、今やどの企業も太刀打ちできないほどの市場支配力を持っている。リーディング産業におけるこうした独占力は、その企業の利益を増大させ、株価を引き上げる一方で、経済全体の投資を縮小させる効果を持っている。 3つ目は、海外直接投資の影響である。先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる』、「2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた」、「1つ目は無形資産投資が増えている」ので、「株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じる」、「2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなった」、「3つ目は、海外直接投資の影響」、「先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる」、なるほど「パズル」が解けたようだ。
・『日本を見た場合の最大の要因は? 日本の場合を見てみると、無形資産投資の増加については、ある程度あてはまる。しかし、その無形資産投資額も2010年代からは横ばいになっており、あまり有形資産の投資をカバーする力はなさそうである。逆に人材投資は長い期間をとってみると減少しており、それが増加する企業価値と建物や機械などの投資の停滞とのギャップを埋めているとはいいがたい。 2つ目の市場集中度の上昇は、日本では一般的には見られない。しかし情報通信サービス業では、大企業と中小企業の生産性との差が見られることは確かである。この背景には、少数の企業が大きなシステム投資の受注を行い、それを中小の企業に請け負わせるという建設業に似た構造があると考えられる。こうした構造によって情報通信サービス業の投資や生産性が上昇してないという側面はある。 しかし日本の場合、この2つよりも大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである。 実はこの最後の3番目の問題は、地方経済にも暗い影を投げかけている。徳井丞次・信州大学教授と牧野達治・一橋大学経済研究所研究員が最近延長された都道府県別産業生産性データベースを使って都道府県別の研究開発に伴う知識ストックを調べたところ驚くべき結果が出ている。) 1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下している。 背景にはおそらく、この間に企業の海外進出と国内工場の閉鎖が進み、同時に技術者も減少していったことがある。地方はこの製造業の事業所の減少を観光業の振興で補完してきたが、それも東京オリンピック・パラリンピック開催時期における新型コロナウイルスの感染拡大という最悪のタイミングに起きた災禍によって先行きが不透明になっている』、「大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである」、「1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下」、ここまで「東京都」への「集中」が進んだとは、驚かされた。
・『日本は研究開発への支援が足りない? 研究開発力に関してはこうした量的な蓄積に加えて質的な問題も指摘されている。スタンフォード大学のニック・ブルーム教授やチャールズ・ジョーンズ教授らは、研究開発投資の効率性の低下について検証した研究を発表している。彼らは、半導体の集積密度が1年半から2年で2倍になるというムーアの法則を達成したり、新薬を開発したりするためには、これまで以上の研究資源を投入しなければならなくなっていることを示した。 従来の研究開発に関する研究では、研究開発への資源投入量が多ければ多いほど生産性の向上が期待されるという結果が得られていた。しかしながら、彼らが示したのは研究開発投入量当たりの生産性向上分、つまり研究開発の効率性が低下しているために、従来と同様の研究開発資源を投入しても、従来以下の生産性向上しか得られないというものであった。 日本では研究開発への支援が足りないということがさかんにいわれている。しかしながら量的な指標で見ると、日本の研究開発費の対GDP比は長年3%以上を保っている。これは韓国の4%には及ばないが、2%台の欧米先進諸国よりも高い。それでも研究開発費が十分でないということは、革新的な成果を出すために従来以上の資金や資源投入を必要としているということなのだろう。 こうした状況下では、たとえGDP比率が日本より低くとも、GDP自体が急速に膨らんでいる中国の研究成果が存在感を増しているというのもうなずける。) 国内における生産設備や研究開発への投資を増やし、生産性への向上につなげていくにはどのようにすればよいのだろうか。頼るのは、今回の台湾の半導体メーカーTSMCの進出のような海外からの直接投資だろう。 もともと直接投資というのは、経営能力の海外移転として捉えることができる。日本が好調であった時期には、日本の生産プロセスを海外に移転することが移転元、移転先双方にとって好ましいことであった。日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる』、「日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる」、寂しいが、認めざるを得ない。
・『海外直接投資を増やすための2つのハードル ただし、こうした楽観的な期待には2つの注釈が必要になる。 1つは、従来から指摘されていることだが、日本では対日直接投資を実施する際の手続きが煩雑で、これが一種の参入障壁のようになっていた。このため日本への直接投資は中国や韓国よりも低い水準にあった。 もう1つは最近機運が高まっている経済安全保障による制約である。これにより、例えば半導体では外資メーカーが政府の補助金までもが受けられる一方で、ほかの分野では参入を拒否される企業も出てくる可能性がある。こうした政府の恣意的な介入が多くなると、対日投資は増えない。 手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう。 経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう』、「手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう」、その通りだ。 「経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう」、その通りなのだろう。
タグ:日本の構造問題 (その29)(「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が 日本の命とりとなる」、経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した、誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない) 現代ビジネス「「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が、日本の命とりとなる」」 「イアン・ブレマー氏」の診断とは興味深そうだ。 確かに「「Gゼロ」の世界」は「「混沌とし」ている。 「かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています」、「資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります」、由々しい事態だ。 PRESIDENT ONLINE 野口 悠紀雄氏による「経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した」 野口悠紀雄『円安と補助金で自壊する日本 2023年、日本の金利上昇は必至!』(ビジネス社) 「エルピーダメモリ」、「ルネサスエレクトロニクス」などは「業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ」、「シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた」、「これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった」、情けない限りだ。 「日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう」、その通りだ。 「世界の製造業の基本構造が変わってしまった」、どういうように変わったのだろう。 「半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ」、「iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減」、なるほど。 「日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT・・・の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である」、その通りだ。 「金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ」、同感である。 東洋経済オンライン 宮川 努氏による「誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない」 「今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じている」、なるほど。 「2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた」、「1つ目は無形資産投資が増えている」ので、「株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じる」、「2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなった」、 「3つ目は、海外直接投資の影響」、「先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる」、なるほど「パズル」が解けたようだ。 「大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである」、 「1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下」、ここまで「東京都」への「集中」が進んだとは、驚かされた。 「日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる」、寂しいが、認めざるを得ない。 「手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう」、その通りだ。 「経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう」、その通りなのだろう。