百貨店業界(その5)(密着営業はもう古い?「ニューリッチ」の開拓策 百貨店の最終兵器「外商ビジネス」が抱える難題、西武HDがホテルなどを大量売却 「身軽な経営」シフトで本当に生き残れるか、阪急百貨店の驚く新展開「常識破る売り場」の正体 アウトドアとラグジュアリーのブランドが共存) [産業動向]
百貨店業界については、昨年9月9日に取上げた。今日は、(その5)(密着営業はもう古い?「ニューリッチ」の開拓策 百貨店の最終兵器「外商ビジネス」が抱える難題、西武HDがホテルなどを大量売却 「身軽な経営」シフトで本当に生き残れるか、阪急百貨店の驚く新展開「常識破る売り場」の正体 アウトドアとラグジュアリーのブランドが共存)である。
先ずは、昨年12月4日付け東洋経済オンライン「密着営業はもう古い?「ニューリッチ」の開拓策 百貨店の最終兵器「外商ビジネス」が抱える難題」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/576059
・『コロナ禍で大きな打撃を受けた百貨店だが、唯一の光明と言えるのが富裕層消費だ。中でも「外商」ビジネスには各社力を注ぐが、一筋縄でいかない面も。 高級ブランドの衣料品に宝飾品、時計、美術品……。 国内の百貨店で、高額品の販売が空前の活況を呈している。コロナ禍で百貨店の来店客数は低迷が続いており、大手各社の売り上げはコロナ前にあたる2019年度の7~8割程度の水準であるにもかかわらず、だ。 「高額品消費の勢いはまったく衰えない。コロナ禍で踏んだり蹴ったりだが、唯一の光明だ」。ある百貨店関係者はそう言って目を細める』、「高額品消費の勢いはまったく衰えない」、「百貨店」にとっては、救いの神だ。
・『成長市場を狙い体制強化 百貨店店舗で全国2位の売り上げを誇る阪急うめだ本店(大阪市)では、2021年4~9月の高級ブランドの売り上げが前年同期比で4割増えた。牽引役は、富裕層顧客に対し特別なサービスを提供する外商部門だ。同部門における500万円以上の商談件数は前年比で5割増え、在宅時間を充実させるための高級家具などが富裕層に人気だという。 J.フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店でも高級ブランドの売り上げが絶好調。2019年度と比べても2割増えている。 外出自粛や店舗休業などの影響で2020年度に数百億円単位の赤字を計上した百貨店各社にとって、富裕層消費は大げさではなく”光明”なのだ。 高額品消費が好調な理由として、コロナ禍での株価や不動産価格の上昇がある。富裕層の実態について詳しい野村総合研究所の宮本弘之パートナーは「富裕層の消費は収入の増減より、保有資産の時価の増減から影響を受ける傾向がある。コロナ禍で株高が続いてきたことで、消費マインドが非常に活発になっている」と分析する。 加えて、海外旅行やイベント、食事などの「コト消費」が長期間制限されたことで、行き場を失ったお金が国内でのモノの消費に向かった側面も大きい。) 野村総研の推計によると、預貯金や株式、債券などの金融資産の合計から負債を差し引いた純金融資産保有額が1億円以上ある富裕層は、2019年時点で全国で132.7万世帯。資産規模合計は333兆円にも上り、全世帯のたった2%が総資産額の2割を保有している構図だ。 この巨大な富裕層需要を取り込もうと、百貨店各社は競うように外商部門の体制を拡充している。店頭での接客要員を最低限必要な数まで絞り込み、外商など成長分野に再配置する動きも相次いでいる。 百貨店各社が外商など富裕層需要の獲得に注力するのは、これまで収益を支えてきた中間層の消費に今後の大きな成長が期待できないからだ。ショッピングセンターなどの商業施設やEC(ネット通販)に顧客を奪われているうえ、人口減少や所得低迷によってミドル市場のパイ自体が縮小することも確実だ。 一方、富裕層は国内市場で将来的にも成長が見込める数少ないカテゴリーだ。野村総研によると、富裕層の世帯数と資産規模は、2008年のリーマンショックを境に一度減少したものの、アベノミクスが本格化した2013年以降は一貫して増加を続けている。 関西を地盤とする阪急阪神百貨店の佐藤行近専務執行役員は「関西だけでも富裕層は数十万世帯いるとみられるが、われわれが接点を持てているのはほんの一握り。全然開拓しきれておらず、ポテンシャルは大きい」と期待する』、「高額品消費が好調な理由として、コロナ禍での株価や不動産価格の上昇がある」、「海外旅行やイベント、食事などの「コト消費」が長期間制限されたことで、行き場を失ったお金が国内でのモノの消費に向かった側面も大きい」、その通りだ。
・『外商顧客の「若返り」は可能か 百貨店の外商とは、富裕層顧客向けに通常の店頭販売とは別で提供している特別なサービスのことだ。 外商と聞いて多くの人がイメージするのが、「御用聞き」と呼ばれるサービスだろう。顧客ごとに付く外商員と呼ばれる営業担当者が、客からの要望に応じて商品を用意する。衣料品から宝飾品、美術品などの定番商品だけでなく、イベントのチケットや旅行まで手配するケースもある。 担当員は顧客の自宅に足しげく通い、具体的な商談がなくてもお茶をすすりながら世間話に花を咲かせる。その会話の中から客のニーズを探ったり、信頼関係を構築したりするのが伝統的な手法だ。 ほかにも、高級ホテルでの催事や食事会などに招待したり、誕生日にワインをプレゼントしたりと、一般客とは一線を画す濃密なサービスを提供する。 当然ながら、誰もが外商の顧客になれるわけではない。最も多いのは、祖父母や両親から引き継ぐパターン。代々の金持ちである「親リッチ」と呼ばれる層だ。次いで、既存顧客からの紹介というケースも多い。職業で見ると、医師や弁護士、会社経営者などが代表的だ。 外商の顧客は買い物のための口座を開設するが、現在、大丸松坂屋百貨店の外商口座数は15万口、阪急阪神百貨店の口座数は10万口だ。決して少なくない数だが、現状のままでは顧客数の先細りやさらなる高齢化は避けられない。各社とも、外商の主要顧客年齢層はおおむね50~70歳代であるためだ。 子どもが祖父母や両親から引き継いだとしても、利用がほとんどない「幽霊顧客」になることも珍しくない』、「外商顧客の「若返り」」は相当難しそうだ。
・『各社が狙うのは「ニューリッチ」 大丸松坂屋は売上高全体に占める外商比率を2023年度に30%(2019年度実績23%)に、業界首位の三越伊勢丹ホールディングスは年間100万円以上購入する上位顧客売上高を2024年度に2300億円(2019年度実績1806億円)に引き上げる計画をそれぞれ掲げる。 その実現に向けてカギを握るのが、若年富裕層の新規開拓だ。 新規顧客の審査基準について、百貨店は各社とも「職業や年収などから総合的に判断する」と説明。詳細は公表していないが、ある百貨店大手の関係者は「最低でも年収1000万~2000万円以上は必要」と話す。加えて、「かつてはストック(保有資産規模)を重視していたが、それでは若年層の開拓に広がりが出ないのでフロー(年収)重視に変わってきた」(同)と明かす。 別の百貨店関係者は「3年連続で年間購入額が100万円以上となることが一つの基準」と話す。 百貨店各社がとくに注目するのが、事業などによって一代で財を成した「ニューリッチ」と呼ばれる30~40代の富裕層だ。IT系企業のオーナー経営者などがそれに当てはまる。 「親リッチ層は消費にメリハリがあるのに対し、ニューリッチ層は消費意欲が旺盛で派手にお金を使う人が多い」(野村総研の宮本パートナー)。コロナ禍での高額品消費バブルも、ニューリッチが牽引しているとみられている。 新規顧客の開拓方法は地道だ。外商の開拓部隊が、高級住宅街はもとより、ニュースなどの公開情報を基に職場に飛び込み営業をかけることもある。 大丸松坂屋で外商部門を担当する中嶋宣浩営業企画部長は、「若い人は百貨店になじみが薄いと言われるが、百貨店に入る高級ブランドのショップでなら買い物をしたことがあるという人は意外と多い。その購買履歴を分析し、購入金額が多い人にダイレクトメールを送ったりもする」と話す』、「百貨店各社がとくに注目するのが、事業などによって一代で財を成した「ニューリッチ」と呼ばれる30~40代の富裕層だ。IT系企業のオーナー経営者などがそれに当てはまる。 「親リッチ層は消費にメリハリがあるのに対し、ニューリッチ層は消費意欲が旺盛で派手にお金を使う人が多い」(野村総研の宮本パートナー)』、「新規顧客の開拓方法は地道だ。外商の開拓部隊が、高級住宅街はもとより、ニュースなどの公開情報を基に職場に飛び込み営業をかけることもある」、かなり難しそうだ。
・『「密着型」営業が通用しない ただ、「の開拓には従来とは異なるアプローチも必要になりそうだ。嗜好や消費様式は中高年齢の外商顧客とは大きく異なり、自宅や職場への飛び込み営業などの手法はむしろ逆効果になりかねない。 仮に顧客化したとしても、プライベートを重視する若年層は、自宅に通い詰めるような「密着型」の営業を好まない。都心のタワーマンションに居住する場合が多く、「商品をお持ちしても『宅配ボックスに入れておいて』で終わってしまい、関係性の構築がなかなか難しい」(大丸松坂屋の中嶋部長)。 そこで百貨店各社が目指すのが、スマホアプリやオウンドメディアなどのデジタルツールによる接点の拡大だ。 大丸松坂屋は2021年9月、自社で展開する富裕層向けウェブメディア「J PRIME」を30~50代の男性富裕層向けに刷新。新しい編集長にはファッション雑誌『メンズクラブ』の元編集長を招聘し、商品やサービスの内容を紹介するコンテンツを発信している。 掲載された商品やサービスに関心を持った富裕層は、大丸松坂屋のスマホアプリに誘導。アプリのプッシュ通知やメールなどでアプローチしていく。外商顧客向け専用サイト「コネスリーニュ」ではオンライン接客サービスを開始し、多忙で店舗を訪れる余裕のないニューリッチの買い物をサポートする。 求められる商品も従来とは異なる。男性用の衣料品ならば、スーツではなくブランドロゴが入ったパーカーやスニーカー、美術品ならば伝統的な日本画や洋画ではなく現代アートの需要が大きい。それに応じた品ぞろえを実現できるかどうかも顧客獲得の必須要素だ。 百貨店外商の強みは、ほかの小売りやECにはない1対1の接客対応力にある。コアである中高年齢層への従来型の外商営業を維持しつつ、次世代のニーズに合った新しい外商の勝ちパターンを確立できるか。そのバランスこそが新時代の外商ビジネスの行く末を左右しそうだ』、「プライベートを重視する若年層は、自宅に通い詰めるような「密着型」の営業を好まない。都心のタワーマンションに居住する場合が多く、「商品をお持ちしても『宅配ボックスに入れておいて』で終わってしまい、関係性の構築がなかなか難しい」、「百貨店外商の強みは、ほかの小売りやECにはない1対1の接客対応力にある。コアである中高年齢層への従来型の外商営業を維持しつつ、次世代のニーズに合った新しい外商の勝ちパターンを確立できるか。そのバランスこそが新時代の外商ビジネスの行く末を左右しそうだ」、「「百貨店外商」が果たして、「ニューリッチ」層を取り込んでいけるのか、注目される。
次に、2月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「西武HDがホテルなどを大量売却、「身軽な経営」シフトで本当に生き残れるか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/296175
・『西武ホールディングス(HD)は、ホテルやゴルフ場、スキー場など31施設をシンガポールの政府系ファンドであるGICに売却する。売却額は約1500億円、売却益は約800億円となる見通し。資産売却によって身軽になる=「アセットライト」経営へ方針転換を図り、ウィズコロナ時代に生き残りをかける』、興味深そうだ。
・『ホテルやゴルフ場、スキー場など31施設を海外ファンドに売却 西武ホールディングス(HD)は、ホテルなど31施設をシンガポールの政府系ファンドであるGICに売却する。今回の決定の背景には、新型コロナウイルス感染再拡大など経営環境が激変する中で、生き残るために資産売却に踏み切らざるを得ない危機感がある。 西武HDは、資産売却後もホテルなど施設の運営は続ける。そうした動きを見ると、同社が資産売却によって身軽になる=「アセットライト」経営へと方針転換を図っているといえる。 資産の売却は、基本的に財務内容の改善や収益性の向上にプラスに働く。同社がホテルなどの運営に集中することによって、事業運営の効率性向上が期待できる。 国内外でコロナ変異株・オミクロン株の影響が深刻化し、人流や物流が寸断あるいは不安定な状況が続いている。そうした状況下、「ウィズコロナ」の経済運営に取り組む国や企業が増えている。西武HDがウィズコロナ時代において、どのように効率的なアセットライト経営を実現し、新しいビジネスモデルを作り出すことができるか注目される』、「海外ファンド」は「西武」をヨドバシHDに売却するとの噂が有力だが、豊島区長が、家電量販店はもう既に池袋に沢山あるので、考え直して欲しい旨を言明しているようだ。
・『ウィズコロナ時代に生き残りを目指す西武 交通や飲食、宿泊は以前と同様には戻らない 当面、世界経済はウィズコロナを余儀なくされる。どこかの時点では感染を克服するだろうが、いつまた違う変異株が出現するかわからないため、先行きは見通しづらい。 不確定要素が増大する環境下で企業が生き残るためには、身軽になって損益分岐点を引き下げ、収益を獲得しやすい体制整備が不可欠だ。西武HDがアセットライト経営に大胆にかじを切った背景には、そうした危機感がある。 コロナ禍で人々の生き方は激変した。交通や飲食、宿泊などの業界では、コロナ禍以前と全く同じ様相には戻らないだろう。ただし、それは単純に需要が減退するだけでなく、新しい価値観を生み出してもいる。 例えば、ワーケーションやテレワークの一環としてホテルを利用する人が増えている。シェアオフィスを利用する手もあるが、落ち着いた環境で安心して仕事をするのに、相応のサービスが行き届いたホテルやレジャー施設の利用に意義を感じる人が多い。「ホテルは宿泊施設」という既成概念は、コロナ禍の発生によって崩れた。また、コロナ禍を境にアウトドアやキャンプの需要も急増している 感染状況が落ち着けば、国内の観光需要は急速に回復する可能性が高い。飲食や宿泊、音楽イベントへの参加など、これまで我慢してきた需要(ペントアップ・ディマンド)が一気に表出する。その際にホテル・レジャー施設やイベントの運営者が、どれだけ鮮烈な参加体験を提供できるかが、中長期的な収益獲得に大きく影響する。 西武HDが環境変化に柔軟に応じて業績を回復させるには、そうした新しい価値観に沿った、消費者にとって鮮烈な体験の場を増やす必要がある。強化すべきは、体験の中身(コンテンツ)の創出だ。その分野に集中するために、同社はホテル・レジャー施設の所有と運営を一体的に行う従来戦略を改める。 グループ経営としては建設子会社を売却する一方、ホテル運営に特化した新会社、西武・プリンスホテルズワールドワイドを設立し、構造改革を加速させる』、「西武HDが環境変化に柔軟に応じて業績を回復させるには、そうした新しい価値観に沿った、消費者にとって鮮烈な体験の場を増やす必要がある。強化すべきは、体験の中身(コンテンツ)の創出だ。その分野に集中するために、同社はホテル・レジャー施設の所有と運営を一体的に行う従来戦略を改める」、なるほど。
・『世界最大手ホテルチェーン 米マリオットもアセットライトを推進 2021年5月に西武HDが発表した中期経営計画では、アセットライトをテーマに経営改革を断行すると明記された。その後、所有するホテルなどの売却先を探し始め、2月10日に売却先と内容の詳細を発表した。 アセットライト経営とは、バランスシート上の資産(アセット)を圧縮して、財務面の負担を軽く(ライトに)する経営をいう。今回、西武HDは資産を投資ファンドに売却することで、事業運営の効率性向上が期待される。 具体的には、保有資産の減少はコスト削減につながる。また、得られた資金を成長期待の高い分野に再配分することによって、資本の収益率は高まる可能性がある。売却資金を負債返済に充てる場合、財務内容は改善するだろう。 事業運営の観点から考えると、新しいサービスの創出やホテルブランドの価値向上などに集中しやすくなる。その成果によって、投資ファンドなどホテルの所有者は利得を手にする。 もし、期待する利得が実現できなければ、オーナーは別の企業に運営を任せようとするだろう。アセットライト経営によって、所有を前提としたビジネスモデルは大きく変わる。 海外では、積極的にアセットライト経営を強化してきた企業がある。世界最大手のホテルチェーン、米マリオット・インターナショナルだ。同社はホテルの運営受託に特化し、低価格帯から高付加価値型まで多種多様なブランドを確立している。それは、より多くの需要を取り込むために欠かせない戦略だ。 米国では金利が上昇し金融政策の大転換が近づいているが、マリオット株は上昇基調だ。それは主要投資家が、ウィズコロナ時代でもマリオットが人々の価値観の変容に柔軟に対応し、安定的に収益を生み出せると考えているからに他ならない。 わが国ではモノを所有し、その利用権を独占することに意義を見いだす個人や企業が多い。しかし、そうした発想が、常に人々の満足度向上につながるとは限らない。ウィズコロナで事業運営の効率性を高めるために、アセットライト経営を目指す日本企業は増えるだろう』、「米国では金利が上昇し金融政策の大転換が近づいているが、マリオット株は上昇基調だ。それは主要投資家が、ウィズコロナ時代でもマリオットが人々の価値観の変容に柔軟に対応し、安定的に収益を生み出せると考えているからに他ならない。 わが国ではモノを所有し、その利用権を独占することに意義を見いだす個人や企業が多い。しかし、そうした発想が、常に人々の満足度向上につながるとは限らない。ウィズコロナで事業運営の効率性を高めるために、アセットライト経営を目指す日本企業は増えるだろう」、なるほど。
・『施設の魅力を磨くだけでなく潜在的な顧客の目を向けさせることが必要 今後の注目点は、西武HDがいかに高付加価値型のサービスを創出できるかだ。20年に実施された国の支援策、Go Toトラベルキャンペーンの際、多くのシニアが自宅から近いエリアで旅行を楽しんだ。特に、首都圏からほど近い箱根や軽井沢などのリゾートが多くの人気を集めた。 どんなに困難な状況下でも、私たちは「日常と異なる空間を楽しみたい」という欲求がある。国の家計調査によると、60歳を超える世代の貯蓄額は、他の世代を大きく上回る。シニア層のレジャーへの支出余地は大きい。 ウィズコロナで、感染に留意しつつ自宅から1~2時間圏内で旅行を楽しむ「マイクロツーリズム」への潜在的な需要は増えるだろう。また、訪日外国人(インバウンド)需要は蒸発しているが、「コロナ禍が収束すれば日本を訪れたい」と考えている外国人は多い。そうした需要を取り込み、業績の回復と拡大につなげるためには、客単価の高い富裕層向けビジネスの強化も必要だ。 西武HDは、国内外の需要を取り込む、新しい動線の確立に取り組むべきだ。そのためには施設の魅力を磨くだけでなく、潜在的な顧客の目を施設に向けさせることが必要だ。 例えば、施設周辺の自然環境の美しさをコンテンツで創出し、それを拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などの先端技術を駆使して、より鮮烈な体験につながる形で潜在顧客に伝える。他には、プライベートジェット運営会社との連携を強化し、より快適な移動体験を提供するのはどうだろうか。 そうした取り組みが成果につながれば、新しいホテル運営会社がグループ外施設の運営を受託する展開もあるだろう。アセットライト経営の実践には、自社の経営資源に、社外の新しい発想を結合させる施策が必要だ。より効率的に付加価値を獲得することが、西武HDには求められている』、「アセットライト経営の実践には、自社の経営資源に、社外の新しい発想を結合させる施策が必要だ。より効率的に付加価値を獲得することが、西武HDには求められている」、なかなか困難そうな課題だが、それに果敢に立ち向かっていくことを期待したい。
第三に、12月14日付け東洋経済オンラインが掲載した ジャーナリストの川島 蓉子氏による「阪急百貨店の驚く新展開「常識破る売り場」の正体 アウトドアとラグジュアリーのブランドが共存」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/637724
・『企業を取り巻く環境が激変する中、経営の大きなよりどころとなるのが、その企業の個性や独自性といった、いわゆる「らしさ」です。ただ、その企業の「らしさ」は感覚的に養われていることが多く、実は社員でも言葉にして説明するのが難しいケースがあります。 いったい「らしさ」とは何なのか、それをどうやって担保しているのか。ブランドビジネスに精通するジャーナリストの川島蓉子さんが迫る連載の第7回は「阪急阪神百貨店」に迫ります』、興味深そうだ。
・『ターミナルデパートの先駆者である阪急百貨店 阪急百貨店は1929年、大阪・梅田で創業した日本の老舗百貨店だ。旗艦店である「阪急うめだ本店」は「伊勢丹新宿本店」に次いで、単店ベースで全国2位を誇り、業界では「東の伊勢丹、西の阪急」と名を馳せる。 創業者は関西財界の雄、小林一三。阪急電鉄の梅田駅と直結した、いわゆるターミナルデパートとして阪急百貨店を開業した。駅と直結した百貨店やファッションビルは、今やすっかりポピュラーな存在だが、そのルーツと言えるのが阪急百貨店なのだ。 また小林は、阪急電鉄沿線の住宅開発を進める一方、劇場や球団などを興し、文化や娯楽に関連する事業を成功させた。その意味では、鉄道の沿線開発を行うビジネスモデルを作った元祖でもある。 2007年、阪急百貨店は阪神百貨店と経営統合し、「エイチ・ツー・オー リテイリング」と名を改めた。阪急阪神百貨店はその傘下にある。 百貨店業界は、厳しい状況が続いている。都内でも平日の日中は、お客がまばらで販売員の立ち姿が目につく。地方をはじめ都市部でも、百貨店が閉店する例は後をたたない。 最近では、セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武が、アメリカの投資ファンドであるフォートレス・インベストメント・グループに売却されることが決まった。若い人と話していると「百貨店に行ったことがない」「ウリが何なのかがわからない」という声を聞くこともある。 阪急阪神百貨店も決して楽観できる状況ではない。エイチ・ツー・オー リテイリングの百貨店事業のセグメント利益を見ると、コロナ禍の影響もあって2021年3月期は19億円の赤字、2022年3月期は9億円の黒字になったが、利益水準は低い。 一方で、少し明るい兆しもある。コロナ禍のマイナス影響が薄らぎ、売り上げが2022年4~9月期の百貨店事業のセグメント利益は16億円の黒字を計上した。 秋口に「阪急うめだ本店」を訪ねたのだが、「英国フェア」が開催されていた。9階から12階まで4層にわたる吹き抜けを備え、階段状のベンチが設えてある「祝祭広場」を取り巻くように「フェア」が開催されたのだが、その賑わいぶりに驚いた。他フロアも東京の百貨店より賑わっているし、お客が楽しんでいる様子が伝わってくる。全体に「楽しげ」な空気が漂っているのだ。 阪急百貨店はこれからどこに向かおうとしているのか。阪急阪神百貨店社長の山口俊比古さんに話を聞いた』、「ターミナルデパート」の「老舗」でも、「「フェア」が開催されたのだが、その賑わいぶりに驚いた。他フロアも東京の百貨店より賑わっているし、お客が楽しんでいる様子が伝わってくる。全体に「楽しげ」な空気が漂っているのだ」、大したものだ。
・『小林一三が掲げた理念 「“らしさ”を語るときに、創業者である小林一三の理念に触れないわけにはいきません」と山口さん。小林一三氏が理念として掲げていたのは、「大衆第一主義」「ステップバイステップ」「共存共栄」だったという。 (山口氏の略歴はリンク先参照) まず「大衆第一主義」について、「政府の要職を務め、欧米を視察して豊かな生活文化に触れた小林一三は、多くの人に幸福感を提供したいと考えていたのです」(山口さん)。阪急電鉄沿線の住宅をはじめ、「宝塚歌劇団」「宝塚新温泉」など、文化やレジャーにまつわる施設の開発を進め、暮らしを取り巻く質を上げて人々の心を豊かにすることに腐心した。その精神性を大事にしているという。 次の「ステップバイステップ」は、「私が社長になったとき、掲げた言葉が『着眼大局、着手小局』でした。文字どおり、大きな着眼点を抱いて地道に実行していくこと。自分自身の座右の銘を、戒める意図も込めて掲げたのです」。 そして3つめが「共存共栄」。社内外の多様なつながりを大切にし、ともに繁栄していくことを目指している。いわば「小林一三イズム」ともいえるこの3つの思想が“らしさ”を支えているのだ。 現在、阪急阪神百貨店が掲げているビジョンは、「お客様の暮らしを楽しく 心を豊かに 未来を元気にする楽しさNo. 1百貨店」。未来に向けて元気になる、嬉しくなる。そういうマインドを大切にしている。 「平たく言えば『夢』と『元気』と『共存共栄』と私はとらえています」(山口さん) ベタではあるが、気持ちが伝わってくる。何よりそれが、文言を掲げて終わりでなく実践されている。だから売り場に「楽しげな空気」が漂っているのだと腑に落ちた。 昨今、百貨店の戦略では、富裕層とインバウンドを狙い、ラグジュアリーブランド、時計・宝飾、アートで攻めていく戦術が多い。が、どの百貨店もそこを狙うのであれば、同質化して“らしさ”は薄まってしまう。山口さんはどうとらえているのか。 「生活必需品としての機能価値を提供する百貨店の役割が小さくなり、楽しさや豊かさという付加価値を提供することが求められているのです」 ラグジュアリーが好調なのは、もちろん富裕層が動いていることもあるが、「ブランドとしての強固な土台を鍛えながら、未来に向けた価値をきっちり提案しているから」という分析だ。 阪急は、ラグジュアリーだからという理由でブランド導入をするのではなく、目指している価値観を共有・共感できる取引先として、ブランドと一体となって売り場を作り、ともに成長していくことを重視している』、「ラグジュアリーが好調なのは、もちろん富裕層が動いていることもあるが、「ブランドとしての強固な土台を鍛えながら、未来に向けた価値をきっちり提案しているから」という分析だ」、大したものだ。
・『ラグジュアリーとアウトドアがカテゴリーを超えて共存 その表れの1つが、来春「阪急うめだ本店」に登場する「グリーンエイジ」だ。“自然との共生”と“サステイナビリティ”の大切さを訴える売り場で、アパレルと雑貨の比率が約6:4と雑貨の比率が高い。 居並ぶブランドも、アウトドアもあればコスメブランドも、ラグジュアリーブランドもあるというから驚いた。 百貨店におけるラグジュアリーブランドの位置づけは、1階のメインスペースや、ブランド群を集積したフロアに豪勢なブティックを構えるのが常識。百貨店が設定したテーマのもと、ラグジュアリーが他ブランドと軒を並べるのはほとんど例を見ない。 「『自然と共生する暮らし』におけるファッションという私たちの掲げた思想に共感し、賛同を得た結果です」(山口さん) これはまた、阪急百貨店と取引先とのかかわりだけでなく、阪急百貨店とお客のかかわりにおいても同様のこと。つまり、「グリーンエイジ」という売り場の思想に共感してくれた人が集まり、応援の意味も含めて買い物する、イベントに参加する。一種のコミュニティを作っていくプロジェクトでもある。) 企画自体はコロナ禍前から進んでいたという。時代の大きな流れが、アウトドアも含めた自然と共生する生き方、ナチュラルで健やかな暮らし、ウェルネスな心と身体を求めるといったベクトルに向かっている。そういった中で、“阪急百貨店が提案する豊かな暮らしのありよう”を発信していこうと企画が進められた。 コロナ禍によって当初の予定より少し遅れたものの、プロジェクトの意義を改めて深掘りすることができたし、周囲からの賛同を得ることができた。満を持して来年春、登場するという。 具体的には、「アウトドアを通じて自らの暮らしを高めることを掲げた“グリーンネイバーフッドライフ”」と「自然に寄り添いながら、美と健康を実現し、自分自身も持続可能であろうという“グリーンウェルネスライフ”」をキーワードとした2つの小ワールドを作る。約2300㎡の売り場のうち70㎡ほどは、物販ではなくイベントやワークショップを行うスペースとして配するという』、「来春「阪急うめだ本店」に登場する「グリーンエイジ」だ。“自然との共生”と“サステイナビリティ”の大切さを訴える売り場で、アパレルと雑貨の比率が約6:4と雑貨の比率が高い。 居並ぶブランドも、アウトドアもあればコスメブランドも、ラグジュアリーブランドもあるというから驚いた」、伝統ある百貨店での実験としては、画期的だ。
・『「ファッションを主語にしていない」 百貨店の中で婦人服が稼ぎ頭であることは、ここで改めて触れるまでもない。そのルーツは歴史にある。既成服の普及をはじめ、欧米のトップデザイナーの服を紹介するなど、百貨店はファッションを牽引する存在として、大きな役割を果たした。その後、右肩上がりで成長していたアパレル業界と一体となり、百貨店は売り上げを伸ばしてきたのである。 ところが、バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍を経て、その威力はあきらかに衰えている。阪急はファッションをどうとらえているのか。 「うちはファッションを主語にしていないのです」(山口さん) ファッションありきでとらえると、トレンドやヒットアイテム、人気ブランドやデザイナーの話に落ちていくが、阪急は同社のビジョンである「暮らしを楽しく 心を豊かに 未来を元気にする楽しさNo. 1百貨店」という文脈の中でファッションをとらえている。「暮らしのありよう=ライフスタイル」を土台にしたファッションを基軸に、ものではなく「楽しく」「元気に」というマインド作りに比重を置いているのだ。) これからの百貨店ビジネスはどうなっていくのか。「情報リテイラーからコミュニケーションリテイラーへと変わらなければととらえています」と山口さん。 2012年に「阪急うめだ本店」がリニューアルした際、時代は「モノの持つ機能的価値にあこがれる時代」から「モノの持つ文化的価値に共感する時代」へ移行しつつあり、百貨店のビジネスモデルは「モノ価値小売業=モノリテイラー」から「生活情報サービス業=情報リテイラー」へ変化していくととらえた。 ここでいうビジネスモデルとは、「顧客には満足=顧客価値を、企業には利益をもたらす仕組み」だという。そういった考えのもと、「モノ」ではなく、豊かな暮らしを実現するための「情報」を提供する品揃えや売り場とその伝え方に注力した。 それから10年、時代はさらに進み「自分の持つ自己実現価値に共感する時代」、さらには「他人の持つ自己実現価値に共感する時代」へと移行してきた。「例えば応援消費もその1つ。他の人の自己実現価値に共感し、いわば利他的な自己実現として、それを応援する動きが顕著になっています」(山口さん)。 そういった中、百貨店のビジネスモデルは「自己実現支援ビジネス=コミュニケーションリテイラー」になっていくという。「コミュニケーションリテイラー」とは、コミュニケーションを通じて自己実現を支援するビジネスのことを指す』、「百貨店のビジネスモデルは「自己実現支援ビジネス=コミュニケーションリテイラー」になっていくという。「コミュニケーションリテイラー」とは、コミュニケーションを通じて自己実現を支援するビジネスのことを指す」、なるほど。
・『三段重ねのビジネス構造を作る 「これからの百貨店ビジネスは、新しいモノが見つかるという『機能的価値』における豊富な品ぞろえに、新しい暮らしが見つかるという『文化的価値』における上質な提案力を備える。そのうえに、新しい自分になれるという「お客様の自己実現価値」をお手伝いできる専門性と共感コミュニケーション力により、全体として楽しさや豊かさを作っていく。そういう3つが重なり合う三段重ねのビジネス構造をきっちり作っていかなければいけないということです」(山口さん) しかもそれを「声高に言うだけでなく、実験的な試みとして行い、お客様の声を聞いたうえで、さらに前に向かって進んでいく。それをやり続けることが大事なのです」と山口さんは言う。) 例えば、前述した「グリーンエイジ」と同様の文脈で、地方とつながって応援していくビジネスも立ち上げた。それは、岡山県真庭市とタッグを組んだ「グリーナブル」というプロジェクトで、自然共生にまつわるモノやコトを紹介していくコミュニティブランドを立ち上げたのだ。 2021年には、真庭市が観光文化の発信拠点として「グリーナブルヒルゼン」という施設を立ち上げ、阪急阪神百貨店が商品の選定や開発をはじめ、ロゴやホームページの制作も含めたブランディングを手がけた。 百貨店が地域おこしにかかわる事例はほかにもあるが、ここまで具体的な施策に踏み込んだ事例はあまり耳にしたことがない。まさにこれも「コミュニケーションリテイラー」の役割のひとつなのだろうし、阪急阪神百貨店が手がける実験的な試みとして“らしさ”につながっていくのだと思う』、「「グリーンエイジ」と同様の文脈で、地方とつながって応援していくビジネスも立ち上げた。それは、岡山県真庭市とタッグを組んだ「グリーナブル」というプロジェクトで、自然共生にまつわるモノやコトを紹介していくコミュニティブランドを立ち上げたのだ。 2021年には、真庭市が観光文化の発信拠点として「グリーナブルヒルゼン」という施設を立ち上げ、阪急阪神百貨店が商品の選定や開発をはじめ、ロゴやホームページの制作も含めたブランディングを手がけた」、地方を「応援」する「プロジェクト」まで手掛けるとは意欲的だ。
・『理念を踏まえ、時代に合わせて進化する 「いずれの活動も、小林一三が築いた理念を踏まえ、しっかりと受け継ぎながら、その時代時代に合わせて進化させていく。代々の経営トップがきっちり行ってきた成果であり、こうやって“ビジョンを連鎖させていくこと”が大事なのです」と山口さん。 年に2回、ビジョンを語る動画メッセージを全社員に配信し、アンケート調査を実施しているという。王道の手法ではあるが、山口さんが備えている本気の熱意は、おそらく映像を通して伝わっているに違いない。視聴者数は回を重ねるとともに上がっているし、アンケートで忌憚のない意見を寄せてくる社員もいるという。 「お客様のよりよい生活スタイル、今、見えている現象だけでなく、その先にある『なりたい自分、送りたい生活』を実現することが私たちの役割。これを追求し続けていくことが使命だと思っています」(山口さん)。阪急阪神百貨店の明るい未来をつくることができるのか。山口さんが担う役割は大きい』、「阪急阪神百貨店」が革新的な取り組みを意欲的に推進しているだけに、今後の展開が注目される。
先ずは、昨年12月4日付け東洋経済オンライン「密着営業はもう古い?「ニューリッチ」の開拓策 百貨店の最終兵器「外商ビジネス」が抱える難題」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/576059
・『コロナ禍で大きな打撃を受けた百貨店だが、唯一の光明と言えるのが富裕層消費だ。中でも「外商」ビジネスには各社力を注ぐが、一筋縄でいかない面も。 高級ブランドの衣料品に宝飾品、時計、美術品……。 国内の百貨店で、高額品の販売が空前の活況を呈している。コロナ禍で百貨店の来店客数は低迷が続いており、大手各社の売り上げはコロナ前にあたる2019年度の7~8割程度の水準であるにもかかわらず、だ。 「高額品消費の勢いはまったく衰えない。コロナ禍で踏んだり蹴ったりだが、唯一の光明だ」。ある百貨店関係者はそう言って目を細める』、「高額品消費の勢いはまったく衰えない」、「百貨店」にとっては、救いの神だ。
・『成長市場を狙い体制強化 百貨店店舗で全国2位の売り上げを誇る阪急うめだ本店(大阪市)では、2021年4~9月の高級ブランドの売り上げが前年同期比で4割増えた。牽引役は、富裕層顧客に対し特別なサービスを提供する外商部門だ。同部門における500万円以上の商談件数は前年比で5割増え、在宅時間を充実させるための高級家具などが富裕層に人気だという。 J.フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店でも高級ブランドの売り上げが絶好調。2019年度と比べても2割増えている。 外出自粛や店舗休業などの影響で2020年度に数百億円単位の赤字を計上した百貨店各社にとって、富裕層消費は大げさではなく”光明”なのだ。 高額品消費が好調な理由として、コロナ禍での株価や不動産価格の上昇がある。富裕層の実態について詳しい野村総合研究所の宮本弘之パートナーは「富裕層の消費は収入の増減より、保有資産の時価の増減から影響を受ける傾向がある。コロナ禍で株高が続いてきたことで、消費マインドが非常に活発になっている」と分析する。 加えて、海外旅行やイベント、食事などの「コト消費」が長期間制限されたことで、行き場を失ったお金が国内でのモノの消費に向かった側面も大きい。) 野村総研の推計によると、預貯金や株式、債券などの金融資産の合計から負債を差し引いた純金融資産保有額が1億円以上ある富裕層は、2019年時点で全国で132.7万世帯。資産規模合計は333兆円にも上り、全世帯のたった2%が総資産額の2割を保有している構図だ。 この巨大な富裕層需要を取り込もうと、百貨店各社は競うように外商部門の体制を拡充している。店頭での接客要員を最低限必要な数まで絞り込み、外商など成長分野に再配置する動きも相次いでいる。 百貨店各社が外商など富裕層需要の獲得に注力するのは、これまで収益を支えてきた中間層の消費に今後の大きな成長が期待できないからだ。ショッピングセンターなどの商業施設やEC(ネット通販)に顧客を奪われているうえ、人口減少や所得低迷によってミドル市場のパイ自体が縮小することも確実だ。 一方、富裕層は国内市場で将来的にも成長が見込める数少ないカテゴリーだ。野村総研によると、富裕層の世帯数と資産規模は、2008年のリーマンショックを境に一度減少したものの、アベノミクスが本格化した2013年以降は一貫して増加を続けている。 関西を地盤とする阪急阪神百貨店の佐藤行近専務執行役員は「関西だけでも富裕層は数十万世帯いるとみられるが、われわれが接点を持てているのはほんの一握り。全然開拓しきれておらず、ポテンシャルは大きい」と期待する』、「高額品消費が好調な理由として、コロナ禍での株価や不動産価格の上昇がある」、「海外旅行やイベント、食事などの「コト消費」が長期間制限されたことで、行き場を失ったお金が国内でのモノの消費に向かった側面も大きい」、その通りだ。
・『外商顧客の「若返り」は可能か 百貨店の外商とは、富裕層顧客向けに通常の店頭販売とは別で提供している特別なサービスのことだ。 外商と聞いて多くの人がイメージするのが、「御用聞き」と呼ばれるサービスだろう。顧客ごとに付く外商員と呼ばれる営業担当者が、客からの要望に応じて商品を用意する。衣料品から宝飾品、美術品などの定番商品だけでなく、イベントのチケットや旅行まで手配するケースもある。 担当員は顧客の自宅に足しげく通い、具体的な商談がなくてもお茶をすすりながら世間話に花を咲かせる。その会話の中から客のニーズを探ったり、信頼関係を構築したりするのが伝統的な手法だ。 ほかにも、高級ホテルでの催事や食事会などに招待したり、誕生日にワインをプレゼントしたりと、一般客とは一線を画す濃密なサービスを提供する。 当然ながら、誰もが外商の顧客になれるわけではない。最も多いのは、祖父母や両親から引き継ぐパターン。代々の金持ちである「親リッチ」と呼ばれる層だ。次いで、既存顧客からの紹介というケースも多い。職業で見ると、医師や弁護士、会社経営者などが代表的だ。 外商の顧客は買い物のための口座を開設するが、現在、大丸松坂屋百貨店の外商口座数は15万口、阪急阪神百貨店の口座数は10万口だ。決して少なくない数だが、現状のままでは顧客数の先細りやさらなる高齢化は避けられない。各社とも、外商の主要顧客年齢層はおおむね50~70歳代であるためだ。 子どもが祖父母や両親から引き継いだとしても、利用がほとんどない「幽霊顧客」になることも珍しくない』、「外商顧客の「若返り」」は相当難しそうだ。
・『各社が狙うのは「ニューリッチ」 大丸松坂屋は売上高全体に占める外商比率を2023年度に30%(2019年度実績23%)に、業界首位の三越伊勢丹ホールディングスは年間100万円以上購入する上位顧客売上高を2024年度に2300億円(2019年度実績1806億円)に引き上げる計画をそれぞれ掲げる。 その実現に向けてカギを握るのが、若年富裕層の新規開拓だ。 新規顧客の審査基準について、百貨店は各社とも「職業や年収などから総合的に判断する」と説明。詳細は公表していないが、ある百貨店大手の関係者は「最低でも年収1000万~2000万円以上は必要」と話す。加えて、「かつてはストック(保有資産規模)を重視していたが、それでは若年層の開拓に広がりが出ないのでフロー(年収)重視に変わってきた」(同)と明かす。 別の百貨店関係者は「3年連続で年間購入額が100万円以上となることが一つの基準」と話す。 百貨店各社がとくに注目するのが、事業などによって一代で財を成した「ニューリッチ」と呼ばれる30~40代の富裕層だ。IT系企業のオーナー経営者などがそれに当てはまる。 「親リッチ層は消費にメリハリがあるのに対し、ニューリッチ層は消費意欲が旺盛で派手にお金を使う人が多い」(野村総研の宮本パートナー)。コロナ禍での高額品消費バブルも、ニューリッチが牽引しているとみられている。 新規顧客の開拓方法は地道だ。外商の開拓部隊が、高級住宅街はもとより、ニュースなどの公開情報を基に職場に飛び込み営業をかけることもある。 大丸松坂屋で外商部門を担当する中嶋宣浩営業企画部長は、「若い人は百貨店になじみが薄いと言われるが、百貨店に入る高級ブランドのショップでなら買い物をしたことがあるという人は意外と多い。その購買履歴を分析し、購入金額が多い人にダイレクトメールを送ったりもする」と話す』、「百貨店各社がとくに注目するのが、事業などによって一代で財を成した「ニューリッチ」と呼ばれる30~40代の富裕層だ。IT系企業のオーナー経営者などがそれに当てはまる。 「親リッチ層は消費にメリハリがあるのに対し、ニューリッチ層は消費意欲が旺盛で派手にお金を使う人が多い」(野村総研の宮本パートナー)』、「新規顧客の開拓方法は地道だ。外商の開拓部隊が、高級住宅街はもとより、ニュースなどの公開情報を基に職場に飛び込み営業をかけることもある」、かなり難しそうだ。
・『「密着型」営業が通用しない ただ、「の開拓には従来とは異なるアプローチも必要になりそうだ。嗜好や消費様式は中高年齢の外商顧客とは大きく異なり、自宅や職場への飛び込み営業などの手法はむしろ逆効果になりかねない。 仮に顧客化したとしても、プライベートを重視する若年層は、自宅に通い詰めるような「密着型」の営業を好まない。都心のタワーマンションに居住する場合が多く、「商品をお持ちしても『宅配ボックスに入れておいて』で終わってしまい、関係性の構築がなかなか難しい」(大丸松坂屋の中嶋部長)。 そこで百貨店各社が目指すのが、スマホアプリやオウンドメディアなどのデジタルツールによる接点の拡大だ。 大丸松坂屋は2021年9月、自社で展開する富裕層向けウェブメディア「J PRIME」を30~50代の男性富裕層向けに刷新。新しい編集長にはファッション雑誌『メンズクラブ』の元編集長を招聘し、商品やサービスの内容を紹介するコンテンツを発信している。 掲載された商品やサービスに関心を持った富裕層は、大丸松坂屋のスマホアプリに誘導。アプリのプッシュ通知やメールなどでアプローチしていく。外商顧客向け専用サイト「コネスリーニュ」ではオンライン接客サービスを開始し、多忙で店舗を訪れる余裕のないニューリッチの買い物をサポートする。 求められる商品も従来とは異なる。男性用の衣料品ならば、スーツではなくブランドロゴが入ったパーカーやスニーカー、美術品ならば伝統的な日本画や洋画ではなく現代アートの需要が大きい。それに応じた品ぞろえを実現できるかどうかも顧客獲得の必須要素だ。 百貨店外商の強みは、ほかの小売りやECにはない1対1の接客対応力にある。コアである中高年齢層への従来型の外商営業を維持しつつ、次世代のニーズに合った新しい外商の勝ちパターンを確立できるか。そのバランスこそが新時代の外商ビジネスの行く末を左右しそうだ』、「プライベートを重視する若年層は、自宅に通い詰めるような「密着型」の営業を好まない。都心のタワーマンションに居住する場合が多く、「商品をお持ちしても『宅配ボックスに入れておいて』で終わってしまい、関係性の構築がなかなか難しい」、「百貨店外商の強みは、ほかの小売りやECにはない1対1の接客対応力にある。コアである中高年齢層への従来型の外商営業を維持しつつ、次世代のニーズに合った新しい外商の勝ちパターンを確立できるか。そのバランスこそが新時代の外商ビジネスの行く末を左右しそうだ」、「「百貨店外商」が果たして、「ニューリッチ」層を取り込んでいけるのか、注目される。
次に、2月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「西武HDがホテルなどを大量売却、「身軽な経営」シフトで本当に生き残れるか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/296175
・『西武ホールディングス(HD)は、ホテルやゴルフ場、スキー場など31施設をシンガポールの政府系ファンドであるGICに売却する。売却額は約1500億円、売却益は約800億円となる見通し。資産売却によって身軽になる=「アセットライト」経営へ方針転換を図り、ウィズコロナ時代に生き残りをかける』、興味深そうだ。
・『ホテルやゴルフ場、スキー場など31施設を海外ファンドに売却 西武ホールディングス(HD)は、ホテルなど31施設をシンガポールの政府系ファンドであるGICに売却する。今回の決定の背景には、新型コロナウイルス感染再拡大など経営環境が激変する中で、生き残るために資産売却に踏み切らざるを得ない危機感がある。 西武HDは、資産売却後もホテルなど施設の運営は続ける。そうした動きを見ると、同社が資産売却によって身軽になる=「アセットライト」経営へと方針転換を図っているといえる。 資産の売却は、基本的に財務内容の改善や収益性の向上にプラスに働く。同社がホテルなどの運営に集中することによって、事業運営の効率性向上が期待できる。 国内外でコロナ変異株・オミクロン株の影響が深刻化し、人流や物流が寸断あるいは不安定な状況が続いている。そうした状況下、「ウィズコロナ」の経済運営に取り組む国や企業が増えている。西武HDがウィズコロナ時代において、どのように効率的なアセットライト経営を実現し、新しいビジネスモデルを作り出すことができるか注目される』、「海外ファンド」は「西武」をヨドバシHDに売却するとの噂が有力だが、豊島区長が、家電量販店はもう既に池袋に沢山あるので、考え直して欲しい旨を言明しているようだ。
・『ウィズコロナ時代に生き残りを目指す西武 交通や飲食、宿泊は以前と同様には戻らない 当面、世界経済はウィズコロナを余儀なくされる。どこかの時点では感染を克服するだろうが、いつまた違う変異株が出現するかわからないため、先行きは見通しづらい。 不確定要素が増大する環境下で企業が生き残るためには、身軽になって損益分岐点を引き下げ、収益を獲得しやすい体制整備が不可欠だ。西武HDがアセットライト経営に大胆にかじを切った背景には、そうした危機感がある。 コロナ禍で人々の生き方は激変した。交通や飲食、宿泊などの業界では、コロナ禍以前と全く同じ様相には戻らないだろう。ただし、それは単純に需要が減退するだけでなく、新しい価値観を生み出してもいる。 例えば、ワーケーションやテレワークの一環としてホテルを利用する人が増えている。シェアオフィスを利用する手もあるが、落ち着いた環境で安心して仕事をするのに、相応のサービスが行き届いたホテルやレジャー施設の利用に意義を感じる人が多い。「ホテルは宿泊施設」という既成概念は、コロナ禍の発生によって崩れた。また、コロナ禍を境にアウトドアやキャンプの需要も急増している 感染状況が落ち着けば、国内の観光需要は急速に回復する可能性が高い。飲食や宿泊、音楽イベントへの参加など、これまで我慢してきた需要(ペントアップ・ディマンド)が一気に表出する。その際にホテル・レジャー施設やイベントの運営者が、どれだけ鮮烈な参加体験を提供できるかが、中長期的な収益獲得に大きく影響する。 西武HDが環境変化に柔軟に応じて業績を回復させるには、そうした新しい価値観に沿った、消費者にとって鮮烈な体験の場を増やす必要がある。強化すべきは、体験の中身(コンテンツ)の創出だ。その分野に集中するために、同社はホテル・レジャー施設の所有と運営を一体的に行う従来戦略を改める。 グループ経営としては建設子会社を売却する一方、ホテル運営に特化した新会社、西武・プリンスホテルズワールドワイドを設立し、構造改革を加速させる』、「西武HDが環境変化に柔軟に応じて業績を回復させるには、そうした新しい価値観に沿った、消費者にとって鮮烈な体験の場を増やす必要がある。強化すべきは、体験の中身(コンテンツ)の創出だ。その分野に集中するために、同社はホテル・レジャー施設の所有と運営を一体的に行う従来戦略を改める」、なるほど。
・『世界最大手ホテルチェーン 米マリオットもアセットライトを推進 2021年5月に西武HDが発表した中期経営計画では、アセットライトをテーマに経営改革を断行すると明記された。その後、所有するホテルなどの売却先を探し始め、2月10日に売却先と内容の詳細を発表した。 アセットライト経営とは、バランスシート上の資産(アセット)を圧縮して、財務面の負担を軽く(ライトに)する経営をいう。今回、西武HDは資産を投資ファンドに売却することで、事業運営の効率性向上が期待される。 具体的には、保有資産の減少はコスト削減につながる。また、得られた資金を成長期待の高い分野に再配分することによって、資本の収益率は高まる可能性がある。売却資金を負債返済に充てる場合、財務内容は改善するだろう。 事業運営の観点から考えると、新しいサービスの創出やホテルブランドの価値向上などに集中しやすくなる。その成果によって、投資ファンドなどホテルの所有者は利得を手にする。 もし、期待する利得が実現できなければ、オーナーは別の企業に運営を任せようとするだろう。アセットライト経営によって、所有を前提としたビジネスモデルは大きく変わる。 海外では、積極的にアセットライト経営を強化してきた企業がある。世界最大手のホテルチェーン、米マリオット・インターナショナルだ。同社はホテルの運営受託に特化し、低価格帯から高付加価値型まで多種多様なブランドを確立している。それは、より多くの需要を取り込むために欠かせない戦略だ。 米国では金利が上昇し金融政策の大転換が近づいているが、マリオット株は上昇基調だ。それは主要投資家が、ウィズコロナ時代でもマリオットが人々の価値観の変容に柔軟に対応し、安定的に収益を生み出せると考えているからに他ならない。 わが国ではモノを所有し、その利用権を独占することに意義を見いだす個人や企業が多い。しかし、そうした発想が、常に人々の満足度向上につながるとは限らない。ウィズコロナで事業運営の効率性を高めるために、アセットライト経営を目指す日本企業は増えるだろう』、「米国では金利が上昇し金融政策の大転換が近づいているが、マリオット株は上昇基調だ。それは主要投資家が、ウィズコロナ時代でもマリオットが人々の価値観の変容に柔軟に対応し、安定的に収益を生み出せると考えているからに他ならない。 わが国ではモノを所有し、その利用権を独占することに意義を見いだす個人や企業が多い。しかし、そうした発想が、常に人々の満足度向上につながるとは限らない。ウィズコロナで事業運営の効率性を高めるために、アセットライト経営を目指す日本企業は増えるだろう」、なるほど。
・『施設の魅力を磨くだけでなく潜在的な顧客の目を向けさせることが必要 今後の注目点は、西武HDがいかに高付加価値型のサービスを創出できるかだ。20年に実施された国の支援策、Go Toトラベルキャンペーンの際、多くのシニアが自宅から近いエリアで旅行を楽しんだ。特に、首都圏からほど近い箱根や軽井沢などのリゾートが多くの人気を集めた。 どんなに困難な状況下でも、私たちは「日常と異なる空間を楽しみたい」という欲求がある。国の家計調査によると、60歳を超える世代の貯蓄額は、他の世代を大きく上回る。シニア層のレジャーへの支出余地は大きい。 ウィズコロナで、感染に留意しつつ自宅から1~2時間圏内で旅行を楽しむ「マイクロツーリズム」への潜在的な需要は増えるだろう。また、訪日外国人(インバウンド)需要は蒸発しているが、「コロナ禍が収束すれば日本を訪れたい」と考えている外国人は多い。そうした需要を取り込み、業績の回復と拡大につなげるためには、客単価の高い富裕層向けビジネスの強化も必要だ。 西武HDは、国内外の需要を取り込む、新しい動線の確立に取り組むべきだ。そのためには施設の魅力を磨くだけでなく、潜在的な顧客の目を施設に向けさせることが必要だ。 例えば、施設周辺の自然環境の美しさをコンテンツで創出し、それを拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などの先端技術を駆使して、より鮮烈な体験につながる形で潜在顧客に伝える。他には、プライベートジェット運営会社との連携を強化し、より快適な移動体験を提供するのはどうだろうか。 そうした取り組みが成果につながれば、新しいホテル運営会社がグループ外施設の運営を受託する展開もあるだろう。アセットライト経営の実践には、自社の経営資源に、社外の新しい発想を結合させる施策が必要だ。より効率的に付加価値を獲得することが、西武HDには求められている』、「アセットライト経営の実践には、自社の経営資源に、社外の新しい発想を結合させる施策が必要だ。より効率的に付加価値を獲得することが、西武HDには求められている」、なかなか困難そうな課題だが、それに果敢に立ち向かっていくことを期待したい。
第三に、12月14日付け東洋経済オンラインが掲載した ジャーナリストの川島 蓉子氏による「阪急百貨店の驚く新展開「常識破る売り場」の正体 アウトドアとラグジュアリーのブランドが共存」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/637724
・『企業を取り巻く環境が激変する中、経営の大きなよりどころとなるのが、その企業の個性や独自性といった、いわゆる「らしさ」です。ただ、その企業の「らしさ」は感覚的に養われていることが多く、実は社員でも言葉にして説明するのが難しいケースがあります。 いったい「らしさ」とは何なのか、それをどうやって担保しているのか。ブランドビジネスに精通するジャーナリストの川島蓉子さんが迫る連載の第7回は「阪急阪神百貨店」に迫ります』、興味深そうだ。
・『ターミナルデパートの先駆者である阪急百貨店 阪急百貨店は1929年、大阪・梅田で創業した日本の老舗百貨店だ。旗艦店である「阪急うめだ本店」は「伊勢丹新宿本店」に次いで、単店ベースで全国2位を誇り、業界では「東の伊勢丹、西の阪急」と名を馳せる。 創業者は関西財界の雄、小林一三。阪急電鉄の梅田駅と直結した、いわゆるターミナルデパートとして阪急百貨店を開業した。駅と直結した百貨店やファッションビルは、今やすっかりポピュラーな存在だが、そのルーツと言えるのが阪急百貨店なのだ。 また小林は、阪急電鉄沿線の住宅開発を進める一方、劇場や球団などを興し、文化や娯楽に関連する事業を成功させた。その意味では、鉄道の沿線開発を行うビジネスモデルを作った元祖でもある。 2007年、阪急百貨店は阪神百貨店と経営統合し、「エイチ・ツー・オー リテイリング」と名を改めた。阪急阪神百貨店はその傘下にある。 百貨店業界は、厳しい状況が続いている。都内でも平日の日中は、お客がまばらで販売員の立ち姿が目につく。地方をはじめ都市部でも、百貨店が閉店する例は後をたたない。 最近では、セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武が、アメリカの投資ファンドであるフォートレス・インベストメント・グループに売却されることが決まった。若い人と話していると「百貨店に行ったことがない」「ウリが何なのかがわからない」という声を聞くこともある。 阪急阪神百貨店も決して楽観できる状況ではない。エイチ・ツー・オー リテイリングの百貨店事業のセグメント利益を見ると、コロナ禍の影響もあって2021年3月期は19億円の赤字、2022年3月期は9億円の黒字になったが、利益水準は低い。 一方で、少し明るい兆しもある。コロナ禍のマイナス影響が薄らぎ、売り上げが2022年4~9月期の百貨店事業のセグメント利益は16億円の黒字を計上した。 秋口に「阪急うめだ本店」を訪ねたのだが、「英国フェア」が開催されていた。9階から12階まで4層にわたる吹き抜けを備え、階段状のベンチが設えてある「祝祭広場」を取り巻くように「フェア」が開催されたのだが、その賑わいぶりに驚いた。他フロアも東京の百貨店より賑わっているし、お客が楽しんでいる様子が伝わってくる。全体に「楽しげ」な空気が漂っているのだ。 阪急百貨店はこれからどこに向かおうとしているのか。阪急阪神百貨店社長の山口俊比古さんに話を聞いた』、「ターミナルデパート」の「老舗」でも、「「フェア」が開催されたのだが、その賑わいぶりに驚いた。他フロアも東京の百貨店より賑わっているし、お客が楽しんでいる様子が伝わってくる。全体に「楽しげ」な空気が漂っているのだ」、大したものだ。
・『小林一三が掲げた理念 「“らしさ”を語るときに、創業者である小林一三の理念に触れないわけにはいきません」と山口さん。小林一三氏が理念として掲げていたのは、「大衆第一主義」「ステップバイステップ」「共存共栄」だったという。 (山口氏の略歴はリンク先参照) まず「大衆第一主義」について、「政府の要職を務め、欧米を視察して豊かな生活文化に触れた小林一三は、多くの人に幸福感を提供したいと考えていたのです」(山口さん)。阪急電鉄沿線の住宅をはじめ、「宝塚歌劇団」「宝塚新温泉」など、文化やレジャーにまつわる施設の開発を進め、暮らしを取り巻く質を上げて人々の心を豊かにすることに腐心した。その精神性を大事にしているという。 次の「ステップバイステップ」は、「私が社長になったとき、掲げた言葉が『着眼大局、着手小局』でした。文字どおり、大きな着眼点を抱いて地道に実行していくこと。自分自身の座右の銘を、戒める意図も込めて掲げたのです」。 そして3つめが「共存共栄」。社内外の多様なつながりを大切にし、ともに繁栄していくことを目指している。いわば「小林一三イズム」ともいえるこの3つの思想が“らしさ”を支えているのだ。 現在、阪急阪神百貨店が掲げているビジョンは、「お客様の暮らしを楽しく 心を豊かに 未来を元気にする楽しさNo. 1百貨店」。未来に向けて元気になる、嬉しくなる。そういうマインドを大切にしている。 「平たく言えば『夢』と『元気』と『共存共栄』と私はとらえています」(山口さん) ベタではあるが、気持ちが伝わってくる。何よりそれが、文言を掲げて終わりでなく実践されている。だから売り場に「楽しげな空気」が漂っているのだと腑に落ちた。 昨今、百貨店の戦略では、富裕層とインバウンドを狙い、ラグジュアリーブランド、時計・宝飾、アートで攻めていく戦術が多い。が、どの百貨店もそこを狙うのであれば、同質化して“らしさ”は薄まってしまう。山口さんはどうとらえているのか。 「生活必需品としての機能価値を提供する百貨店の役割が小さくなり、楽しさや豊かさという付加価値を提供することが求められているのです」 ラグジュアリーが好調なのは、もちろん富裕層が動いていることもあるが、「ブランドとしての強固な土台を鍛えながら、未来に向けた価値をきっちり提案しているから」という分析だ。 阪急は、ラグジュアリーだからという理由でブランド導入をするのではなく、目指している価値観を共有・共感できる取引先として、ブランドと一体となって売り場を作り、ともに成長していくことを重視している』、「ラグジュアリーが好調なのは、もちろん富裕層が動いていることもあるが、「ブランドとしての強固な土台を鍛えながら、未来に向けた価値をきっちり提案しているから」という分析だ」、大したものだ。
・『ラグジュアリーとアウトドアがカテゴリーを超えて共存 その表れの1つが、来春「阪急うめだ本店」に登場する「グリーンエイジ」だ。“自然との共生”と“サステイナビリティ”の大切さを訴える売り場で、アパレルと雑貨の比率が約6:4と雑貨の比率が高い。 居並ぶブランドも、アウトドアもあればコスメブランドも、ラグジュアリーブランドもあるというから驚いた。 百貨店におけるラグジュアリーブランドの位置づけは、1階のメインスペースや、ブランド群を集積したフロアに豪勢なブティックを構えるのが常識。百貨店が設定したテーマのもと、ラグジュアリーが他ブランドと軒を並べるのはほとんど例を見ない。 「『自然と共生する暮らし』におけるファッションという私たちの掲げた思想に共感し、賛同を得た結果です」(山口さん) これはまた、阪急百貨店と取引先とのかかわりだけでなく、阪急百貨店とお客のかかわりにおいても同様のこと。つまり、「グリーンエイジ」という売り場の思想に共感してくれた人が集まり、応援の意味も含めて買い物する、イベントに参加する。一種のコミュニティを作っていくプロジェクトでもある。) 企画自体はコロナ禍前から進んでいたという。時代の大きな流れが、アウトドアも含めた自然と共生する生き方、ナチュラルで健やかな暮らし、ウェルネスな心と身体を求めるといったベクトルに向かっている。そういった中で、“阪急百貨店が提案する豊かな暮らしのありよう”を発信していこうと企画が進められた。 コロナ禍によって当初の予定より少し遅れたものの、プロジェクトの意義を改めて深掘りすることができたし、周囲からの賛同を得ることができた。満を持して来年春、登場するという。 具体的には、「アウトドアを通じて自らの暮らしを高めることを掲げた“グリーンネイバーフッドライフ”」と「自然に寄り添いながら、美と健康を実現し、自分自身も持続可能であろうという“グリーンウェルネスライフ”」をキーワードとした2つの小ワールドを作る。約2300㎡の売り場のうち70㎡ほどは、物販ではなくイベントやワークショップを行うスペースとして配するという』、「来春「阪急うめだ本店」に登場する「グリーンエイジ」だ。“自然との共生”と“サステイナビリティ”の大切さを訴える売り場で、アパレルと雑貨の比率が約6:4と雑貨の比率が高い。 居並ぶブランドも、アウトドアもあればコスメブランドも、ラグジュアリーブランドもあるというから驚いた」、伝統ある百貨店での実験としては、画期的だ。
・『「ファッションを主語にしていない」 百貨店の中で婦人服が稼ぎ頭であることは、ここで改めて触れるまでもない。そのルーツは歴史にある。既成服の普及をはじめ、欧米のトップデザイナーの服を紹介するなど、百貨店はファッションを牽引する存在として、大きな役割を果たした。その後、右肩上がりで成長していたアパレル業界と一体となり、百貨店は売り上げを伸ばしてきたのである。 ところが、バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍を経て、その威力はあきらかに衰えている。阪急はファッションをどうとらえているのか。 「うちはファッションを主語にしていないのです」(山口さん) ファッションありきでとらえると、トレンドやヒットアイテム、人気ブランドやデザイナーの話に落ちていくが、阪急は同社のビジョンである「暮らしを楽しく 心を豊かに 未来を元気にする楽しさNo. 1百貨店」という文脈の中でファッションをとらえている。「暮らしのありよう=ライフスタイル」を土台にしたファッションを基軸に、ものではなく「楽しく」「元気に」というマインド作りに比重を置いているのだ。) これからの百貨店ビジネスはどうなっていくのか。「情報リテイラーからコミュニケーションリテイラーへと変わらなければととらえています」と山口さん。 2012年に「阪急うめだ本店」がリニューアルした際、時代は「モノの持つ機能的価値にあこがれる時代」から「モノの持つ文化的価値に共感する時代」へ移行しつつあり、百貨店のビジネスモデルは「モノ価値小売業=モノリテイラー」から「生活情報サービス業=情報リテイラー」へ変化していくととらえた。 ここでいうビジネスモデルとは、「顧客には満足=顧客価値を、企業には利益をもたらす仕組み」だという。そういった考えのもと、「モノ」ではなく、豊かな暮らしを実現するための「情報」を提供する品揃えや売り場とその伝え方に注力した。 それから10年、時代はさらに進み「自分の持つ自己実現価値に共感する時代」、さらには「他人の持つ自己実現価値に共感する時代」へと移行してきた。「例えば応援消費もその1つ。他の人の自己実現価値に共感し、いわば利他的な自己実現として、それを応援する動きが顕著になっています」(山口さん)。 そういった中、百貨店のビジネスモデルは「自己実現支援ビジネス=コミュニケーションリテイラー」になっていくという。「コミュニケーションリテイラー」とは、コミュニケーションを通じて自己実現を支援するビジネスのことを指す』、「百貨店のビジネスモデルは「自己実現支援ビジネス=コミュニケーションリテイラー」になっていくという。「コミュニケーションリテイラー」とは、コミュニケーションを通じて自己実現を支援するビジネスのことを指す」、なるほど。
・『三段重ねのビジネス構造を作る 「これからの百貨店ビジネスは、新しいモノが見つかるという『機能的価値』における豊富な品ぞろえに、新しい暮らしが見つかるという『文化的価値』における上質な提案力を備える。そのうえに、新しい自分になれるという「お客様の自己実現価値」をお手伝いできる専門性と共感コミュニケーション力により、全体として楽しさや豊かさを作っていく。そういう3つが重なり合う三段重ねのビジネス構造をきっちり作っていかなければいけないということです」(山口さん) しかもそれを「声高に言うだけでなく、実験的な試みとして行い、お客様の声を聞いたうえで、さらに前に向かって進んでいく。それをやり続けることが大事なのです」と山口さんは言う。) 例えば、前述した「グリーンエイジ」と同様の文脈で、地方とつながって応援していくビジネスも立ち上げた。それは、岡山県真庭市とタッグを組んだ「グリーナブル」というプロジェクトで、自然共生にまつわるモノやコトを紹介していくコミュニティブランドを立ち上げたのだ。 2021年には、真庭市が観光文化の発信拠点として「グリーナブルヒルゼン」という施設を立ち上げ、阪急阪神百貨店が商品の選定や開発をはじめ、ロゴやホームページの制作も含めたブランディングを手がけた。 百貨店が地域おこしにかかわる事例はほかにもあるが、ここまで具体的な施策に踏み込んだ事例はあまり耳にしたことがない。まさにこれも「コミュニケーションリテイラー」の役割のひとつなのだろうし、阪急阪神百貨店が手がける実験的な試みとして“らしさ”につながっていくのだと思う』、「「グリーンエイジ」と同様の文脈で、地方とつながって応援していくビジネスも立ち上げた。それは、岡山県真庭市とタッグを組んだ「グリーナブル」というプロジェクトで、自然共生にまつわるモノやコトを紹介していくコミュニティブランドを立ち上げたのだ。 2021年には、真庭市が観光文化の発信拠点として「グリーナブルヒルゼン」という施設を立ち上げ、阪急阪神百貨店が商品の選定や開発をはじめ、ロゴやホームページの制作も含めたブランディングを手がけた」、地方を「応援」する「プロジェクト」まで手掛けるとは意欲的だ。
・『理念を踏まえ、時代に合わせて進化する 「いずれの活動も、小林一三が築いた理念を踏まえ、しっかりと受け継ぎながら、その時代時代に合わせて進化させていく。代々の経営トップがきっちり行ってきた成果であり、こうやって“ビジョンを連鎖させていくこと”が大事なのです」と山口さん。 年に2回、ビジョンを語る動画メッセージを全社員に配信し、アンケート調査を実施しているという。王道の手法ではあるが、山口さんが備えている本気の熱意は、おそらく映像を通して伝わっているに違いない。視聴者数は回を重ねるとともに上がっているし、アンケートで忌憚のない意見を寄せてくる社員もいるという。 「お客様のよりよい生活スタイル、今、見えている現象だけでなく、その先にある『なりたい自分、送りたい生活』を実現することが私たちの役割。これを追求し続けていくことが使命だと思っています」(山口さん)。阪急阪神百貨店の明るい未来をつくることができるのか。山口さんが担う役割は大きい』、「阪急阪神百貨店」が革新的な取り組みを意欲的に推進しているだけに、今後の展開が注目される。
タグ:「プライベートを重視する若年層は、自宅に通い詰めるような「密着型」の営業を好まない。都心のタワーマンションに居住する場合が多く、「商品をお持ちしても『宅配ボックスに入れておいて』で終わってしまい、関係性の構築がなかなか難しい」、「百貨店外商の強みは、ほかの小売りやECにはない1対1の接客対応力にある。コアである中高年齢層への従来型の外商営業を維持しつつ、次世代のニーズに合った新しい外商の勝ちパターンを確立できるか。 「新規顧客の開拓方法は地道だ。外商の開拓部隊が、高級住宅街はもとより、ニュースなどの公開情報を基に職場に飛び込み営業をかけることもある」、かなり難しそうだ。 「外商顧客の「若返り」」は相当難しそうだ。 「高額品消費が好調な理由として、コロナ禍での株価や不動産価格の上昇がある」、「海外旅行やイベント、食事などの「コト消費」が長期間制限されたことで、行き場を失ったお金が国内でのモノの消費に向かった側面も大きい」、その通りだ。 「高額品消費の勢いはまったく衰えない」、「百貨店」にとっては、救いの神だ。 東洋経済オンライン「密着営業はもう古い?「ニューリッチ」の開拓策 百貨店の最終兵器「外商ビジネス」が抱える難題」 (その5)(密着営業はもう古い?「ニューリッチ」の開拓策 百貨店の最終兵器「外商ビジネス」が抱える難題、西武HDがホテルなどを大量売却 「身軽な経営」シフトで本当に生き残れるか、阪急百貨店の驚く新展開「常識破る売り場」の正体 アウトドアとラグジュアリーのブランドが共存) 百貨店業界 そのバランスこそが新時代の外商ビジネスの行く末を左右しそうだ」、「「百貨店外商」が果たして、「ニューリッチ」層を取り込んでいけるのか、注目される。 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫氏による「西武HDがホテルなどを大量売却、「身軽な経営」シフトで本当に生き残れるか」 「海外ファンド」は「西武」をヨドバシHDに売却するとの噂が有力だが、豊島区長が、家電量販店はもう既に池袋に沢山あるので、考え直して欲しい旨を言明しているようだ。 「西武HDが環境変化に柔軟に応じて業績を回復させるには、そうした新しい価値観に沿った、消費者にとって鮮烈な体験の場を増やす必要がある。強化すべきは、体験の中身(コンテンツ)の創出だ。その分野に集中するために、同社はホテル・レジャー施設の所有と運営を一体的に行う従来戦略を改める」、なるほど。 「米国では金利が上昇し金融政策の大転換が近づいているが、マリオット株は上昇基調だ。それは主要投資家が、ウィズコロナ時代でもマリオットが人々の価値観の変容に柔軟に対応し、安定的に収益を生み出せると考えているからに他ならない。 わが国ではモノを所有し、その利用権を独占することに意義を見いだす個人や企業が多い。しかし、そうした発想が、常に人々の満足度向上につながるとは限らない。ウィズコロナで事業運営の効率性を高めるために、アセットライト経営を目指す日本企業は増えるだろう」、なるほど。 「アセットライト経営の実践には、自社の経営資源に、社外の新しい発想を結合させる施策が必要だ。より効率的に付加価値を獲得することが、西武HDには求められている」、なかなか困難そうな課題だが、それに果敢に立ち向かっていくことを期待したい。 東洋経済オンライン 川島 蓉子氏による「阪急百貨店の驚く新展開「常識破る売り場」の正体 アウトドアとラグジュアリーのブランドが共存」 「ターミナルデパート」の「老舗」でも、「「フェア」が開催されたのだが、その賑わいぶりに驚いた。他フロアも東京の百貨店より賑わっているし、お客が楽しんでいる様子が伝わってくる。全体に「楽しげ」な空気が漂っているのだ」、大したものだ。 「ラグジュアリーが好調なのは、もちろん富裕層が動いていることもあるが、「ブランドとしての強固な土台を鍛えながら、未来に向けた価値をきっちり提案しているから」という分析だ」、大したものだ。 「来春「阪急うめだ本店」に登場する「グリーンエイジ」だ。“自然との共生”と“サステイナビリティ”の大切さを訴える売り場で、アパレルと雑貨の比率が約6:4と雑貨の比率が高い。 居並ぶブランドも、アウトドアもあればコスメブランドも、ラグジュアリーブランドもあるというから驚いた」、伝統ある百貨店での実験としては、画期的だ。 「百貨店のビジネスモデルは「自己実現支援ビジネス=コミュニケーションリテイラー」になっていくという。「コミュニケーションリテイラー」とは、コミュニケーションを通じて自己実現を支援するビジネスのことを指す」、なるほど。 「「グリーンエイジ」と同様の文脈で、地方とつながって応援していくビジネスも立ち上げた。それは、岡山県真庭市とタッグを組んだ「グリーナブル」というプロジェクトで、自然共生にまつわるモノやコトを紹介していくコミュニティブランドを立ち上げたのだ。 2021年には、真庭市が観光文化の発信拠点として「グリーナブルヒルゼン」という施設を立ち上げ、阪急阪神百貨店が商品の選定や開発をはじめ、ロゴやホームページの制作も含めたブランディングを手がけた」、地方を「応援」する「プロジェクト」まで手掛けるとは意欲的だ。 「阪急阪神百貨店」が革新的な取り組みを意欲的に推進しているだけに、今後の展開が注目される。