2022年展望(その1)(池上彰が混とん世界を先読み!「2022年3大テーマ」 相次ぐ選挙 中国 新しい資本主義の行方は、株価「3万7000円」説も飛び出す22年予測で 専門家の口から頻出する“2つの単語”) [経済政治動向]
今日は、2022年展望(その1)(池上彰が混とん世界を先読み!「2022年3大テーマ」 相次ぐ選挙 中国 新しい資本主義の行方は、株価「3万7000円」説も飛び出す22年予測で 専門家の口から頻出する“2つの単語”)を取上げよう。
先ずは、12月20日付け東洋経済オンライン「池上彰が混とん世界を先読み!「2022年3大テーマ」 相次ぐ選挙、中国、新しい資本主義の行方は」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/477378
・『コロナウイルスの変異株「オミクロン」や、インフレ、東アジアやウクライナなどの地政学リスク……。2022年も不確実性が高い状況が続くことになるだろう。混迷な世の中だからこそ、起こりうる出来事を先読みして備えておく必要がある。 週刊東洋経済の12月20日発売号の特集は、「2022年大予測」。国内外の識者や経営者ら総勢35名のインタビュー、「選挙」「中国」「金融」で見通す政治・経済記事、43の業界動向を占う四季報記者の分析、お宝・大化け366銘柄、スポーツ・カルチャーなど全108テーマで2022年に起こりえる激変を徹底予測した。 その中でも、2022年を読み解くために重要なテーマは何か? 時事問題や国際情勢の解説に定評がある、ジャーナリストの池上彰氏に注目すべき3つのテーマを選んでもらい、それぞれのポイントを語ってもらった』、興味深そうだ。
・『参院選で自民党に「お仕置き」したい人は結構いるはず
1. 日・米・韓で選挙 衆議院議員選挙が政権選択選挙であるのに対し、参議院議員選挙は現政権に対する通信簿といった位置づけだ。2021年の衆院選で自民党は、大物議員が一部落選したものの善戦した。 ただ、有権者が抱く「政治と金」への不満は根深く、衆院選後も文書通信交通滞在費などの問題が後を絶たない。このため、2022年夏の参院選で自民党にお仕置きをしたいと思う人は結構いるはずだ。立憲民主党代表は旧民主党色が強かった枝野幸男氏から泉健太氏に交代し執行部も一新した。参院選はそれなりの地殻変動が起こりうる。 2022年11月のアメリカ中間選挙は支持率低迷のバイデン政権(民主党)に厳しいとの見方が大勢だ。そもそも中間選挙はレーガン政権以降、大統領の政党が議席を減らす傾向が強い。ただ今回は、選挙結果を左右する上・下院それぞれの事情が波乱要素だ。 人口比例で各州選出議席数が割り当てられる下院は、ニューヨーク州やカリフォルニア州などで1議席減、テキサス州で2議席増などと州の議席配分が変わる。テキサスは保守的な共和党の牙城だが、IT系企業などの誘致で人口が急増。民主党支持者の多い地域からの流入もあり、選挙行動がどうなるかだ。 上院は共和党と民主党の現議席数が50ずつで、議長(副大統領)を加え民主党がかろうじて多数を保っている。今回、100議席のうち3分の1が改選となるが、共和党のベテラン議員5~7人の引退がささやかれるなど予断を許さない。中間選挙は地元の事情も大きく影響する』、「参議院議員選挙は現政権に対する通信簿といった位置づけ」、「参院選で自民党にお仕置きをしたいと思う人は結構いるはずだ」、そうであれば楽しみだ。「米国中間選挙」もバイデン不人気を反映したものになるのだろうか。
・『混戦模様の韓国大統領選挙 トランプ前大統領とその支持者の動静も気になる。2021年1月6日に彼の支持者が連邦議会議事堂に突入した事件について、トランプ氏に責任があることを認めた共和党の議員たちがいる。彼はその議員たちを目の敵にして、予備選挙でその連中を引きずり下ろそうとしている。 アメリカの選挙は現職優先ではなく、各選挙区の候補者を選ぶ予備選挙を行う。その段階でトランプ氏に忠誠を誓わない人たちが一掃される可能性がある。そうなれば、共和党が完全にトランプ党に衣替えをするという状態になる。共和党の中で、大統領候補になりたいと思っている人たちはもちろんいる。ただ、名乗りを上げるとトランプ氏からののしられて袋叩きにあう恐れがあるので、誰も手を挙げていないという状況だ。 韓国は2022年3月に大統領選挙が行われる。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の反日路線を引き継ぐ李在明(イ・ジェミョン)氏か、あるいは日本との関係改善に動くかもしれない元検事総長の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏になるのか、現在は混戦模様だ。どちらが大統領になるかで、日本との外交関係は大きく変わってくる』、「韓国」「大統領選挙」の結果次第では、確かに「日本との外交関係は大きく変わってくる」。
・『2. 習近平の中国 2022年秋の中国共産党大会で習近平総書記が3期目に突入するのか、同時に毛沢東以来の共産党主席というポジションを復活させるかが最大のテーマだ。過去に毛沢東による独裁政治が行われた反省から、共産党主席のポストは廃止され、集団指導体制に移行した。現在、政治局員7人の合議制ということになっているが、実態としてはすでに習総書記の思惑どおりに動く体制になっている。 (池上 彰氏の略歴はリンク先参照) 「歴史決議」も行われ、中国の学校では習近平思想の学習が必修科目になった。ここで習総書記の力をさらに確固たるものにするのであれば、共産党主席を復活させるだろうとみる専門家が多い。その先では毛沢東以来の偉大な指導者として名前を連ねるために、台湾統一を成し遂げるしかない。毛沢東も鄧小平もなしえなかった大事業。あらゆる策を弄して台湾を手に入れようとするだろう。 日米豪印戦略対話「Quad(クアッド)」が2022年に日本で開催される予定だ。最近、中ロ合同軍事演習では日本領空ギリギリのところまで爆撃機が迫るといったことが起きている。中国包囲網をつくるなら中国はロシアと組んで対抗するぞ、という明らかな挑発的行為で、中国をめぐる緊迫した国際情勢が続きそうだ。そして北京冬季五輪。アメリカ主導の外交的ボイコットが広がる中で、日本もそれに倣えば中国との関係が悪化する。岸田文雄首相は難しい判断を迫られる』、「日本」はJOCを前面に立てて、閣僚は参加しない方針で臨むようだ。
・『脱アベノミクスの成果が求められる 3. 新しい資本主義 岸田首相が掲げる「新しい資本主義」は小泉純一郎、竹中平蔵路線による新自由主義的な政策で拡大した格差を減らそうというもの。要するにアベノミクスからの脱却だ。岸田首相が尊敬するのは宏池会の先輩たち。池田勇人元首相の所得倍増政策は、インフラの整備によって高度成長が始まり、分厚い中間層をつくり上げた。岸田首相はこの現代版をやろうとしているが、物質的に豊かになり新たな需要を喚起することが難しい時代に何ができるのか。 有識者会議の「デジタル田園都市国家構想実現会議」も宏池会の先輩、大平正芳元首相の「田園都市国家構想」がベース。都市と地方の格差拡大を防ごうとする地方創生策で、それを岸田首相はデジタルの力で実現させようとしている。宏池会の伝統活用という思いは感じられるが、具体策が見えない。また、カーボンニュートラルの目標を新しい資本主義にどう結び付けて経済を成長させるかも焦点だ。 50兆円を超す経済対策の財政支出を閣議決定したが、岸田首相は参院選までに一定の成果を上げないと立場が危うい。お手並み拝見だ』、「新しい資本主義」で金融所得課税に手を付けようとして、株価暴落を懸念して、先送りしたのも記憶に新しいところだ。
・次に、12月20日付けダイヤモンド・オンライン「株価「3万7000円」説も飛び出す22年予測で、専門家の口から頻出する“2つの単語”」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/290990
・『『週刊ダイヤモンド』12月25日・1月1日新年合併特大号の第一特集は「2022 総予測」。総予測は年末年始の定番企画だが、2022年版では“二つの単語”が突然、頻出し始めた。そして、日本と中国ともに「政治と不動産」がキーワードになりそうだ』、「政治と不動産」とはどういうことだろう。
・『2022年は「不動産と政治」がなぜか日本と中国でキーワードに!? 年末年始にメディアを賑わす定番企画は、翌年の「予測」だ。とりわけ新たな1年の経済や企業の予測は、経済メディアの実力が試される場とあって、各社が総力を挙げて競い合う。 ダイヤモンド編集部でも「総予測」は年末年始の恒例企画となって久しい。今回も企業のトップやアナリストなど多数の専門家を直撃し、2022年の見通しや注目キーワードなどを徹底分析した。 その取材の過程で、今年は目立った変化が現れた。専門家が語る22年の予測に、明らかに二つの単語が頻出するのだ。 「インフレ」と「スタグフレーション」……。 ダイヤモンド編集部の「総予測」特集で、この二つの単語がこれほど頻繁に登場したことはない。 言葉の意味や背景はここでは割愛するが、22年はインフレとスタグフレーションへの関心がかなり強くなるのは間違いない。実際、既に多くの専門家が、インフレ退治のために米国が行う利上げの悪影響を懸念し始めている。 中でも不動産業界関係者による座談会では、スタグフレーションという言葉が飛び交った。22年は「不動産と政治」の関係も注視する必要があるだろう。しかも、それは日本と中国、双方の国でキーワードとなりそうなのだ。なぜか。 今や首都圏のマンション価格はバブル経済時の水準を超え、普通のサラリーマンの購入は難しい。それでも、「まだまだ値上がりが続く」との強気の見立てが多数を占める。 だからこそ、足元の上昇に対して岸田文雄政権が規制に踏み込むのかどうかも、業界関係者の強い関心事となる。1990年代初頭には、「庶民が家を買えない」と糾弾された政府が土地取引関連融資の総量規制を実施、バブル崩壊の遠因となったからだ。 同じく、中国でも高騰する不動産価格への政府の介入が注目点とされるから、くしくも「不動産と政治」という意味では22年の日中はリンクしている。 そして、近年は「米中対立」が毎年リスクとして挙がるが、22年もその傾向は変わらない。多数の専門家が米中対立に言及している。 その両大国は22年にそれぞれビッグイベントを控え、中国では冬季オリンピックと共産党大会が開催される。共産党大会のある年は景気対策を実施するという読みの一方で、企業への規制強化がさらに進む観測も浮上。一方の米国は中間選挙を巡り、共和党と民主党の駆け引きによる議会の停滞が予測されている。 さて、大きな予測ポイントが出そろったところで、気になる日本の株価はどうか。コロナへの悲観論は後退し、「共存」といった表現も目立つ。結果、株の専門家から「3万7000円」説も登場しているのだ。 もちろん、株価上昇には外部環境だけではなく、企業自身による業績改善が必須となる。特集では編集部記者が企業の内情を徹底取材。人員リストラする56社リストも紹介している。 大人気企画が今年はさらに強力に! 超豪華付録「開運 1億円カレンダー」! 株価はどこまで上がる? 景気はどうなる? 悪い円安はいつまで続くの?インフレは起こる? 週刊ダイヤモンド12月25日・1月1日新年合併特大号 読めば答えが載っています!『週刊ダイヤモンド』12月25日・1月1日新年合併特大号の第一特集は「2022 総予測」です。年末年始の恒例の人気企画が、今年はさらに強力になりました。 ページ数は物理的限界ギリギリの264ページ!250人以上の人物の名前が登場し、多数の専門家と編集部の記者が経済、企業の先行きを徹底的に予測。株価、企業業績から国際関係、政治、社会、文化、スポーツまで完全網羅しています。 しかも付録が超豪華!有名スゴ腕投資家が1億円作るための具体的投資方法を12カ月で指南!「貼って眺めて資産を増やす! 株 投信 不動産でFIRE 開運 1億円カレンダー」となっています。本体から剥がせる綴じ込み付録でご自宅や職場の壁に貼ってご利用できます。 年末年始、2022年の計画を立てる際にぜひ、ご一読いただければ幸いです』、「日中」とも「不動産と政治」が「キーワード」になりそうとのようだ。中国では、光大1)(池上彰が混とん世界を先読み!「2022年3大テーマ」 相次ぐ選挙 中国 新しい資本主義の行方は、株価「3万7000円」説も飛び出す22年予測で 専門家の口から頻出する“2つの単語”)を取上げよう。
先ずは、12月20日付け東洋経済オンライン「池上彰が混とん世界を先読み!「2022年3大テーマ」 相次ぐ選挙、中国、新しい資本主義の行方は」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/477378
・『コロナウイルスの変異株「オミクロン」や、インフレ、東アジアやウクライナなどの地政学リスク……。2022年も不確実性が高い状況が続くことになるだろう。混迷な世の中だからこそ、起こりうる出来事を先読みして備えておく必要がある。 週刊東洋経済の12月20日発売号の特集は、「2022年大予測」。国内外の識者や経営者ら総勢35名のインタビュー、「選挙」「中国」「金融」で見通す政治・経済記事、43の業界動向を占う四季報記者の分析、お宝・大化け366銘柄、スポーツ・カルチャーなど全108テーマで2022年に起こりえる激変を徹底予測した。 その中でも、2022年を読み解くために重要なテーマは何か? 時事問題や国際情勢の解説に定評がある、ジャーナリストの池上彰氏に注目すべき3つのテーマを選んでもらい、それぞれのポイントを語ってもらった』、興味深そうだ。
・『参院選で自民党に「お仕置き」したい人は結構いるはず
1. 日・米・韓で選挙 衆議院議員選挙が政権選択選挙であるのに対し、参議院議員選挙は現政権に対する通信簿といった位置づけだ。2021年の衆院選で自民党は、大物議員が一部落選したものの善戦した。 ただ、有権者が抱く「政治と金」への不満は根深く、衆院選後も文書通信交通滞在費などの問題が後を絶たない。このため、2022年夏の参院選で自民党にお仕置きをしたいと思う人は結構いるはずだ。立憲民主党代表は旧民主党色が強かった枝野幸男氏から泉健太氏に交代し執行部も一新した。参院選はそれなりの地殻変動が起こりうる。 2022年11月のアメリカ中間選挙は支持率低迷のバイデン政権(民主党)に厳しいとの見方が大勢だ。そもそも中間選挙はレーガン政権以降、大統領の政党が議席を減らす傾向が強い。ただ今回は、選挙結果を左右する上・下院それぞれの事情が波乱要素だ。 人口比例で各州選出議席数が割り当てられる下院は、ニューヨーク州やカリフォルニア州などで1議席減、テキサス州で2議席増などと州の議席配分が変わる。テキサスは保守的な共和党の牙城だが、IT系企業などの誘致で人口が急増。民主党支持者の多い地域からの流入もあり、選挙行動がどうなるかだ。 上院は共和党と民主党の現議席数が50ずつで、議長(副大統領)を加え民主党がかろうじて多数を保っている。今回、100議席のうち3分の1が改選となるが、共和党のベテラン議員5~7人の引退がささやかれるなど予断を許さない。中間選挙は地元の事情も大きく影響する』、「参議院議員選挙は現政権に対する通信簿といった位置づけ」、「参院選で自民党にお仕置きをしたいと思う人は結構いるはずだ」、楽しみだ。「米国中間選挙」もバイデン不人気を反映したものになるのだろうか。
・『混戦模様の韓国大統領選挙 トランプ前大統領とその支持者の動静も気になる。2021年1月6日に彼の支持者が連邦議会議事堂に突入した事件について、トランプ氏に責任があることを認めた共和党の議員たちがいる。彼はその議員たちを目の敵にして、予備選挙でその連中を引きずり下ろそうとしている。 アメリカの選挙は現職優先ではなく、各選挙区の候補者を選ぶ予備選挙を行う。その段階でトランプ氏に忠誠を誓わない人たちが一掃される可能性がある。そうなれば、共和党が完全にトランプ党に衣替えをするという状態になる。共和党の中で、大統領候補になりたいと思っている人たちはもちろんいる。ただ、名乗りを上げるとトランプ氏からののしられて袋叩きにあう恐れがあるので、誰も手を挙げていないという状況だ。 韓国は2022年3月に大統領選挙が行われる。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の反日路線を引き継ぐ李在明(イ・ジェミョン)氏か、あるいは日本との関係改善に動くかもしれない元検事総長の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏になるのか、現在は混戦模様だ。どちらが大統領になるかで、日本との外交関係は大きく変わってくる』、「韓国」「大統領選挙」の結果次第では、確かに「日本との外交関係は大きく変わってくる」。
・『2. 習近平の中国 2022年秋の中国共産党大会で習近平総書記が3期目に突入するのか、同時に毛沢東以来の共産党主席というポジションを復活させるかが最大のテーマだ。過去に毛沢東による独裁政治が行われた反省から、共産党主席のポストは廃止され、集団指導体制に移行した。現在、政治局員7人の合議制ということになっているが、実態としてはすでに習総書記の思惑どおりに動く体制になっている。 (池上 彰氏の略歴はリンク先参照) 「歴史決議」も行われ、中国の学校では習近平思想の学習が必修科目になった。ここで習総書記の力をさらに確固たるものにするのであれば、共産党主席を復活させるだろうとみる専門家が多い。その先では毛沢東以来の偉大な指導者として名前を連ねるために、台湾統一を成し遂げるしかない。毛沢東も鄧小平もなしえなかった大事業。あらゆる策を弄して台湾を手に入れようとするだろう。 日米豪印戦略対話「Quad(クアッド)」が2022年に日本で開催される予定だ。最近、中ロ合同軍事演習では日本領空ギリギリのところまで爆撃機が迫るといったことが起きている。中国包囲網をつくるなら中国はロシアと組んで対抗するぞ、という明らかな挑発的行為で、中国をめぐる緊迫した国際情勢が続きそうだ。そして北京冬季五輪。アメリカ主導の外交的ボイコットが広がる中で、日本もそれに倣えば中国との関係が悪化する。岸田文雄首相は難しい判断を迫られる』、「日本」はJOCを前面に立てて、閣僚は参加しない方針で臨むようだ。
・『脱アベノミクスの成果が求められる 3. 新しい資本主義 岸田首相が掲げる「新しい資本主義」は小泉純一郎、竹中平蔵路線による新自由主義的な政策で拡大した格差を減らそうというもの。要するにアベノミクスからの脱却だ。岸田首相が尊敬するのは宏池会の先輩たち。池田勇人元首相の所得倍増政策は、インフラの整備によって高度成長が始まり、分厚い中間層をつくり上げた。岸田首相はこの現代版をやろうとしているが、物質的に豊かになり新たな需要を喚起することが難しい時代に何ができるのか。 有識者会議の「デジタル田園都市国家構想実現会議」も宏池会の先輩、大平正芳元首相の「田園都市国家構想」がベース。都市と地方の格差拡大を防ごうとする地方創生策で、それを岸田首相はデジタルの力で実現させようとしている。宏池会の伝統活用という思いは感じられるが、具体策が見えない。また、カーボンニュートラルの目標を新しい資本主義にどう結び付けて経済を成長させるかも焦点だ。 50兆円を超す経済対策の財政支出を閣議決定したが、岸田首相は参院選までに一定の成果を上げないと立場が危うい。お手並み拝見だ』、「新しい資本主義」で金融所得課税に手を付けようとして、株価暴落を懸念して、先送りしたのも記憶に新しいところだ。
・次に、12月20日付けダイヤモンド・オンライン「株価「3万7000円」説も飛び出す22年予測で、専門家の口から頻出する“2つの単語”」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/290990
・『『週刊ダイヤモンド』12月25日・1月1日新年合併特大号の第一特集は「2022 総予測」。総予測は年末年始の定番企画だが、2022年版では“二つの単語”が突然、頻出し始めた。そして、日本と中国ともに「政治と不動産」がキーワードになりそうだ』、「政治と不動産」とはどういうことだろう。
・『2022年は「不動産と政治」がなぜか日本と中国でキーワードに!? 年末年始にメディアを賑わす定番企画は、翌年の「予測」だ。とりわけ新たな1年の経済や企業の予測は、経済メディアの実力が試される場とあって、各社が総力を挙げて競い合う。 ダイヤモンド編集部でも「総予測」は年末年始の恒例企画となって久しい。今回も企業のトップやアナリストなど多数の専門家を直撃し、2022年の見通しや注目キーワードなどを徹底分析した。 その取材の過程で、今年は目立った変化が現れた。専門家が語る22年の予測に、明らかに二つの単語が頻出するのだ。 「インフレ」と「スタグフレーション」……。 ダイヤモンド編集部の「総予測」特集で、この二つの単語がこれほど頻繁に登場したことはない。 言葉の意味や背景はここでは割愛するが、22年はインフレとスタグフレーションへの関心がかなり強くなるのは間違いない。実際、既に多くの専門家が、インフレ退治のために米国が行う利上げの悪影響を懸念し始めている。 中でも不動産業界関係者による座談会では、スタグフレーションという言葉が飛び交った。22年は「不動産と政治」の関係も注視する必要があるだろう。しかも、それは日本と中国、双方の国でキーワードとなりそうなのだ。なぜか。 今や首都圏のマンション価格はバブル経済時の水準を超え、普通のサラリーマンの購入は難しい。それでも、「まだまだ値上がりが続く」との強気の見立てが多数を占める。 だからこそ、足元の上昇に対して岸田文雄政権が規制に踏み込むのかどうかも、業界関係者の強い関心事となる。1990年代初頭には、「庶民が家を買えない」と糾弾された政府が土地取引関連融資の総量規制を実施、バブル崩壊の遠因となったからだ。 同じく、中国でも高騰する不動産価格への政府の介入が注目点とされるから、くしくも「不動産と政治」という意味では22年の日中はリンクしている。 そして、近年は「米中対立」が毎年リスクとして挙がるが、22年もその傾向は変わらない。多数の専門家が米中対立に言及している。 その両大国は22年にそれぞれビッグイベントを控え、中国では冬季オリンピックと共産党大会が開催される。共産党大会のある年は景気対策を実施するという読みの一方で、企業への規制強化がさらに進む観測も浮上。一方の米国は中間選挙を巡り、共和党と民主党の駆け引きによる議会の停滞が予測されている。 さて、大きな予測ポイントが出そろったところで、気になる日本の株価はどうか。コロナへの悲観論は後退し、「共存」といった表現も目立つ。結果、株の専門家から「3万7000円」説も登場しているのだ。 もちろん、株価上昇には外部環境だけではなく、企業自身による業績改善が必須となる。特集では編集部記者が企業の内情を徹底取材。人員リストラする56社リストも紹介している。 大人気企画が今年はさらに強力に! 超豪華付録「開運 1億円カレンダー」! 株価はどこまで上がる? 景気はどうなる? 悪い円安はいつまで続くの?インフレは起こる? 週刊ダイヤモンド12月25日・1月1日新年合併特大号 読めば答えが載っています!『週刊ダイヤモンド』12月25日・1月1日新年合併特大号の第一特集は「2022 総予測」です。年末年始の恒例の人気企画が、今年はさらに強力になりました。 ページ数は物理的限界ギリギリの264ページ!250人以上の人物の名前が登場し、多数の専門家と編集部の記者が経済、企業の先行きを徹底的に予測。株価、企業業績から国際関係、政治、社会、文化、スポーツまで完全網羅しています。 しかも付録が超豪華!有名スゴ腕投資家が1億円作るための具体的投資方法を12カ月で指南!「貼って眺めて資産を増やす! 株 投信 不動産でFIRE 開運 1億円カレンダー」となっています。本体から剥がせる綴じ込み付録でご自宅や職場の壁に貼ってご利用できます。 年末年始、2022年の計画を立てる際にぜひ、ご一読いただければ幸いです』、「日中」とも「不動産と政治」が「キーワード」になりそうとのことだ。中国では、恒大のドル建て債、期限過ぎるもまだ利払い行われず、事実上のデフォルト状態にある。日本の不動産業界は、今回はそれほどの問題を抱えたところはない様子だが、予断は出来ない。
先ずは、12月20日付け東洋経済オンライン「池上彰が混とん世界を先読み!「2022年3大テーマ」 相次ぐ選挙、中国、新しい資本主義の行方は」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/477378
・『コロナウイルスの変異株「オミクロン」や、インフレ、東アジアやウクライナなどの地政学リスク……。2022年も不確実性が高い状況が続くことになるだろう。混迷な世の中だからこそ、起こりうる出来事を先読みして備えておく必要がある。 週刊東洋経済の12月20日発売号の特集は、「2022年大予測」。国内外の識者や経営者ら総勢35名のインタビュー、「選挙」「中国」「金融」で見通す政治・経済記事、43の業界動向を占う四季報記者の分析、お宝・大化け366銘柄、スポーツ・カルチャーなど全108テーマで2022年に起こりえる激変を徹底予測した。 その中でも、2022年を読み解くために重要なテーマは何か? 時事問題や国際情勢の解説に定評がある、ジャーナリストの池上彰氏に注目すべき3つのテーマを選んでもらい、それぞれのポイントを語ってもらった』、興味深そうだ。
・『参院選で自民党に「お仕置き」したい人は結構いるはず
1. 日・米・韓で選挙 衆議院議員選挙が政権選択選挙であるのに対し、参議院議員選挙は現政権に対する通信簿といった位置づけだ。2021年の衆院選で自民党は、大物議員が一部落選したものの善戦した。 ただ、有権者が抱く「政治と金」への不満は根深く、衆院選後も文書通信交通滞在費などの問題が後を絶たない。このため、2022年夏の参院選で自民党にお仕置きをしたいと思う人は結構いるはずだ。立憲民主党代表は旧民主党色が強かった枝野幸男氏から泉健太氏に交代し執行部も一新した。参院選はそれなりの地殻変動が起こりうる。 2022年11月のアメリカ中間選挙は支持率低迷のバイデン政権(民主党)に厳しいとの見方が大勢だ。そもそも中間選挙はレーガン政権以降、大統領の政党が議席を減らす傾向が強い。ただ今回は、選挙結果を左右する上・下院それぞれの事情が波乱要素だ。 人口比例で各州選出議席数が割り当てられる下院は、ニューヨーク州やカリフォルニア州などで1議席減、テキサス州で2議席増などと州の議席配分が変わる。テキサスは保守的な共和党の牙城だが、IT系企業などの誘致で人口が急増。民主党支持者の多い地域からの流入もあり、選挙行動がどうなるかだ。 上院は共和党と民主党の現議席数が50ずつで、議長(副大統領)を加え民主党がかろうじて多数を保っている。今回、100議席のうち3分の1が改選となるが、共和党のベテラン議員5~7人の引退がささやかれるなど予断を許さない。中間選挙は地元の事情も大きく影響する』、「参議院議員選挙は現政権に対する通信簿といった位置づけ」、「参院選で自民党にお仕置きをしたいと思う人は結構いるはずだ」、そうであれば楽しみだ。「米国中間選挙」もバイデン不人気を反映したものになるのだろうか。
・『混戦模様の韓国大統領選挙 トランプ前大統領とその支持者の動静も気になる。2021年1月6日に彼の支持者が連邦議会議事堂に突入した事件について、トランプ氏に責任があることを認めた共和党の議員たちがいる。彼はその議員たちを目の敵にして、予備選挙でその連中を引きずり下ろそうとしている。 アメリカの選挙は現職優先ではなく、各選挙区の候補者を選ぶ予備選挙を行う。その段階でトランプ氏に忠誠を誓わない人たちが一掃される可能性がある。そうなれば、共和党が完全にトランプ党に衣替えをするという状態になる。共和党の中で、大統領候補になりたいと思っている人たちはもちろんいる。ただ、名乗りを上げるとトランプ氏からののしられて袋叩きにあう恐れがあるので、誰も手を挙げていないという状況だ。 韓国は2022年3月に大統領選挙が行われる。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の反日路線を引き継ぐ李在明(イ・ジェミョン)氏か、あるいは日本との関係改善に動くかもしれない元検事総長の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏になるのか、現在は混戦模様だ。どちらが大統領になるかで、日本との外交関係は大きく変わってくる』、「韓国」「大統領選挙」の結果次第では、確かに「日本との外交関係は大きく変わってくる」。
・『2. 習近平の中国 2022年秋の中国共産党大会で習近平総書記が3期目に突入するのか、同時に毛沢東以来の共産党主席というポジションを復活させるかが最大のテーマだ。過去に毛沢東による独裁政治が行われた反省から、共産党主席のポストは廃止され、集団指導体制に移行した。現在、政治局員7人の合議制ということになっているが、実態としてはすでに習総書記の思惑どおりに動く体制になっている。 (池上 彰氏の略歴はリンク先参照) 「歴史決議」も行われ、中国の学校では習近平思想の学習が必修科目になった。ここで習総書記の力をさらに確固たるものにするのであれば、共産党主席を復活させるだろうとみる専門家が多い。その先では毛沢東以来の偉大な指導者として名前を連ねるために、台湾統一を成し遂げるしかない。毛沢東も鄧小平もなしえなかった大事業。あらゆる策を弄して台湾を手に入れようとするだろう。 日米豪印戦略対話「Quad(クアッド)」が2022年に日本で開催される予定だ。最近、中ロ合同軍事演習では日本領空ギリギリのところまで爆撃機が迫るといったことが起きている。中国包囲網をつくるなら中国はロシアと組んで対抗するぞ、という明らかな挑発的行為で、中国をめぐる緊迫した国際情勢が続きそうだ。そして北京冬季五輪。アメリカ主導の外交的ボイコットが広がる中で、日本もそれに倣えば中国との関係が悪化する。岸田文雄首相は難しい判断を迫られる』、「日本」はJOCを前面に立てて、閣僚は参加しない方針で臨むようだ。
・『脱アベノミクスの成果が求められる 3. 新しい資本主義 岸田首相が掲げる「新しい資本主義」は小泉純一郎、竹中平蔵路線による新自由主義的な政策で拡大した格差を減らそうというもの。要するにアベノミクスからの脱却だ。岸田首相が尊敬するのは宏池会の先輩たち。池田勇人元首相の所得倍増政策は、インフラの整備によって高度成長が始まり、分厚い中間層をつくり上げた。岸田首相はこの現代版をやろうとしているが、物質的に豊かになり新たな需要を喚起することが難しい時代に何ができるのか。 有識者会議の「デジタル田園都市国家構想実現会議」も宏池会の先輩、大平正芳元首相の「田園都市国家構想」がベース。都市と地方の格差拡大を防ごうとする地方創生策で、それを岸田首相はデジタルの力で実現させようとしている。宏池会の伝統活用という思いは感じられるが、具体策が見えない。また、カーボンニュートラルの目標を新しい資本主義にどう結び付けて経済を成長させるかも焦点だ。 50兆円を超す経済対策の財政支出を閣議決定したが、岸田首相は参院選までに一定の成果を上げないと立場が危うい。お手並み拝見だ』、「新しい資本主義」で金融所得課税に手を付けようとして、株価暴落を懸念して、先送りしたのも記憶に新しいところだ。
・次に、12月20日付けダイヤモンド・オンライン「株価「3万7000円」説も飛び出す22年予測で、専門家の口から頻出する“2つの単語”」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/290990
・『『週刊ダイヤモンド』12月25日・1月1日新年合併特大号の第一特集は「2022 総予測」。総予測は年末年始の定番企画だが、2022年版では“二つの単語”が突然、頻出し始めた。そして、日本と中国ともに「政治と不動産」がキーワードになりそうだ』、「政治と不動産」とはどういうことだろう。
・『2022年は「不動産と政治」がなぜか日本と中国でキーワードに!? 年末年始にメディアを賑わす定番企画は、翌年の「予測」だ。とりわけ新たな1年の経済や企業の予測は、経済メディアの実力が試される場とあって、各社が総力を挙げて競い合う。 ダイヤモンド編集部でも「総予測」は年末年始の恒例企画となって久しい。今回も企業のトップやアナリストなど多数の専門家を直撃し、2022年の見通しや注目キーワードなどを徹底分析した。 その取材の過程で、今年は目立った変化が現れた。専門家が語る22年の予測に、明らかに二つの単語が頻出するのだ。 「インフレ」と「スタグフレーション」……。 ダイヤモンド編集部の「総予測」特集で、この二つの単語がこれほど頻繁に登場したことはない。 言葉の意味や背景はここでは割愛するが、22年はインフレとスタグフレーションへの関心がかなり強くなるのは間違いない。実際、既に多くの専門家が、インフレ退治のために米国が行う利上げの悪影響を懸念し始めている。 中でも不動産業界関係者による座談会では、スタグフレーションという言葉が飛び交った。22年は「不動産と政治」の関係も注視する必要があるだろう。しかも、それは日本と中国、双方の国でキーワードとなりそうなのだ。なぜか。 今や首都圏のマンション価格はバブル経済時の水準を超え、普通のサラリーマンの購入は難しい。それでも、「まだまだ値上がりが続く」との強気の見立てが多数を占める。 だからこそ、足元の上昇に対して岸田文雄政権が規制に踏み込むのかどうかも、業界関係者の強い関心事となる。1990年代初頭には、「庶民が家を買えない」と糾弾された政府が土地取引関連融資の総量規制を実施、バブル崩壊の遠因となったからだ。 同じく、中国でも高騰する不動産価格への政府の介入が注目点とされるから、くしくも「不動産と政治」という意味では22年の日中はリンクしている。 そして、近年は「米中対立」が毎年リスクとして挙がるが、22年もその傾向は変わらない。多数の専門家が米中対立に言及している。 その両大国は22年にそれぞれビッグイベントを控え、中国では冬季オリンピックと共産党大会が開催される。共産党大会のある年は景気対策を実施するという読みの一方で、企業への規制強化がさらに進む観測も浮上。一方の米国は中間選挙を巡り、共和党と民主党の駆け引きによる議会の停滞が予測されている。 さて、大きな予測ポイントが出そろったところで、気になる日本の株価はどうか。コロナへの悲観論は後退し、「共存」といった表現も目立つ。結果、株の専門家から「3万7000円」説も登場しているのだ。 もちろん、株価上昇には外部環境だけではなく、企業自身による業績改善が必須となる。特集では編集部記者が企業の内情を徹底取材。人員リストラする56社リストも紹介している。 大人気企画が今年はさらに強力に! 超豪華付録「開運 1億円カレンダー」! 株価はどこまで上がる? 景気はどうなる? 悪い円安はいつまで続くの?インフレは起こる? 週刊ダイヤモンド12月25日・1月1日新年合併特大号 読めば答えが載っています!『週刊ダイヤモンド』12月25日・1月1日新年合併特大号の第一特集は「2022 総予測」です。年末年始の恒例の人気企画が、今年はさらに強力になりました。 ページ数は物理的限界ギリギリの264ページ!250人以上の人物の名前が登場し、多数の専門家と編集部の記者が経済、企業の先行きを徹底的に予測。株価、企業業績から国際関係、政治、社会、文化、スポーツまで完全網羅しています。 しかも付録が超豪華!有名スゴ腕投資家が1億円作るための具体的投資方法を12カ月で指南!「貼って眺めて資産を増やす! 株 投信 不動産でFIRE 開運 1億円カレンダー」となっています。本体から剥がせる綴じ込み付録でご自宅や職場の壁に貼ってご利用できます。 年末年始、2022年の計画を立てる際にぜひ、ご一読いただければ幸いです』、「日中」とも「不動産と政治」が「キーワード」になりそうとのようだ。中国では、光大1)(池上彰が混とん世界を先読み!「2022年3大テーマ」 相次ぐ選挙 中国 新しい資本主義の行方は、株価「3万7000円」説も飛び出す22年予測で 専門家の口から頻出する“2つの単語”)を取上げよう。
先ずは、12月20日付け東洋経済オンライン「池上彰が混とん世界を先読み!「2022年3大テーマ」 相次ぐ選挙、中国、新しい資本主義の行方は」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/477378
・『コロナウイルスの変異株「オミクロン」や、インフレ、東アジアやウクライナなどの地政学リスク……。2022年も不確実性が高い状況が続くことになるだろう。混迷な世の中だからこそ、起こりうる出来事を先読みして備えておく必要がある。 週刊東洋経済の12月20日発売号の特集は、「2022年大予測」。国内外の識者や経営者ら総勢35名のインタビュー、「選挙」「中国」「金融」で見通す政治・経済記事、43の業界動向を占う四季報記者の分析、お宝・大化け366銘柄、スポーツ・カルチャーなど全108テーマで2022年に起こりえる激変を徹底予測した。 その中でも、2022年を読み解くために重要なテーマは何か? 時事問題や国際情勢の解説に定評がある、ジャーナリストの池上彰氏に注目すべき3つのテーマを選んでもらい、それぞれのポイントを語ってもらった』、興味深そうだ。
・『参院選で自民党に「お仕置き」したい人は結構いるはず
1. 日・米・韓で選挙 衆議院議員選挙が政権選択選挙であるのに対し、参議院議員選挙は現政権に対する通信簿といった位置づけだ。2021年の衆院選で自民党は、大物議員が一部落選したものの善戦した。 ただ、有権者が抱く「政治と金」への不満は根深く、衆院選後も文書通信交通滞在費などの問題が後を絶たない。このため、2022年夏の参院選で自民党にお仕置きをしたいと思う人は結構いるはずだ。立憲民主党代表は旧民主党色が強かった枝野幸男氏から泉健太氏に交代し執行部も一新した。参院選はそれなりの地殻変動が起こりうる。 2022年11月のアメリカ中間選挙は支持率低迷のバイデン政権(民主党)に厳しいとの見方が大勢だ。そもそも中間選挙はレーガン政権以降、大統領の政党が議席を減らす傾向が強い。ただ今回は、選挙結果を左右する上・下院それぞれの事情が波乱要素だ。 人口比例で各州選出議席数が割り当てられる下院は、ニューヨーク州やカリフォルニア州などで1議席減、テキサス州で2議席増などと州の議席配分が変わる。テキサスは保守的な共和党の牙城だが、IT系企業などの誘致で人口が急増。民主党支持者の多い地域からの流入もあり、選挙行動がどうなるかだ。 上院は共和党と民主党の現議席数が50ずつで、議長(副大統領)を加え民主党がかろうじて多数を保っている。今回、100議席のうち3分の1が改選となるが、共和党のベテラン議員5~7人の引退がささやかれるなど予断を許さない。中間選挙は地元の事情も大きく影響する』、「参議院議員選挙は現政権に対する通信簿といった位置づけ」、「参院選で自民党にお仕置きをしたいと思う人は結構いるはずだ」、楽しみだ。「米国中間選挙」もバイデン不人気を反映したものになるのだろうか。
・『混戦模様の韓国大統領選挙 トランプ前大統領とその支持者の動静も気になる。2021年1月6日に彼の支持者が連邦議会議事堂に突入した事件について、トランプ氏に責任があることを認めた共和党の議員たちがいる。彼はその議員たちを目の敵にして、予備選挙でその連中を引きずり下ろそうとしている。 アメリカの選挙は現職優先ではなく、各選挙区の候補者を選ぶ予備選挙を行う。その段階でトランプ氏に忠誠を誓わない人たちが一掃される可能性がある。そうなれば、共和党が完全にトランプ党に衣替えをするという状態になる。共和党の中で、大統領候補になりたいと思っている人たちはもちろんいる。ただ、名乗りを上げるとトランプ氏からののしられて袋叩きにあう恐れがあるので、誰も手を挙げていないという状況だ。 韓国は2022年3月に大統領選挙が行われる。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の反日路線を引き継ぐ李在明(イ・ジェミョン)氏か、あるいは日本との関係改善に動くかもしれない元検事総長の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏になるのか、現在は混戦模様だ。どちらが大統領になるかで、日本との外交関係は大きく変わってくる』、「韓国」「大統領選挙」の結果次第では、確かに「日本との外交関係は大きく変わってくる」。
・『2. 習近平の中国 2022年秋の中国共産党大会で習近平総書記が3期目に突入するのか、同時に毛沢東以来の共産党主席というポジションを復活させるかが最大のテーマだ。過去に毛沢東による独裁政治が行われた反省から、共産党主席のポストは廃止され、集団指導体制に移行した。現在、政治局員7人の合議制ということになっているが、実態としてはすでに習総書記の思惑どおりに動く体制になっている。 (池上 彰氏の略歴はリンク先参照) 「歴史決議」も行われ、中国の学校では習近平思想の学習が必修科目になった。ここで習総書記の力をさらに確固たるものにするのであれば、共産党主席を復活させるだろうとみる専門家が多い。その先では毛沢東以来の偉大な指導者として名前を連ねるために、台湾統一を成し遂げるしかない。毛沢東も鄧小平もなしえなかった大事業。あらゆる策を弄して台湾を手に入れようとするだろう。 日米豪印戦略対話「Quad(クアッド)」が2022年に日本で開催される予定だ。最近、中ロ合同軍事演習では日本領空ギリギリのところまで爆撃機が迫るといったことが起きている。中国包囲網をつくるなら中国はロシアと組んで対抗するぞ、という明らかな挑発的行為で、中国をめぐる緊迫した国際情勢が続きそうだ。そして北京冬季五輪。アメリカ主導の外交的ボイコットが広がる中で、日本もそれに倣えば中国との関係が悪化する。岸田文雄首相は難しい判断を迫られる』、「日本」はJOCを前面に立てて、閣僚は参加しない方針で臨むようだ。
・『脱アベノミクスの成果が求められる 3. 新しい資本主義 岸田首相が掲げる「新しい資本主義」は小泉純一郎、竹中平蔵路線による新自由主義的な政策で拡大した格差を減らそうというもの。要するにアベノミクスからの脱却だ。岸田首相が尊敬するのは宏池会の先輩たち。池田勇人元首相の所得倍増政策は、インフラの整備によって高度成長が始まり、分厚い中間層をつくり上げた。岸田首相はこの現代版をやろうとしているが、物質的に豊かになり新たな需要を喚起することが難しい時代に何ができるのか。 有識者会議の「デジタル田園都市国家構想実現会議」も宏池会の先輩、大平正芳元首相の「田園都市国家構想」がベース。都市と地方の格差拡大を防ごうとする地方創生策で、それを岸田首相はデジタルの力で実現させようとしている。宏池会の伝統活用という思いは感じられるが、具体策が見えない。また、カーボンニュートラルの目標を新しい資本主義にどう結び付けて経済を成長させるかも焦点だ。 50兆円を超す経済対策の財政支出を閣議決定したが、岸田首相は参院選までに一定の成果を上げないと立場が危うい。お手並み拝見だ』、「新しい資本主義」で金融所得課税に手を付けようとして、株価暴落を懸念して、先送りしたのも記憶に新しいところだ。
・次に、12月20日付けダイヤモンド・オンライン「株価「3万7000円」説も飛び出す22年予測で、専門家の口から頻出する“2つの単語”」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/290990
・『『週刊ダイヤモンド』12月25日・1月1日新年合併特大号の第一特集は「2022 総予測」。総予測は年末年始の定番企画だが、2022年版では“二つの単語”が突然、頻出し始めた。そして、日本と中国ともに「政治と不動産」がキーワードになりそうだ』、「政治と不動産」とはどういうことだろう。
・『2022年は「不動産と政治」がなぜか日本と中国でキーワードに!? 年末年始にメディアを賑わす定番企画は、翌年の「予測」だ。とりわけ新たな1年の経済や企業の予測は、経済メディアの実力が試される場とあって、各社が総力を挙げて競い合う。 ダイヤモンド編集部でも「総予測」は年末年始の恒例企画となって久しい。今回も企業のトップやアナリストなど多数の専門家を直撃し、2022年の見通しや注目キーワードなどを徹底分析した。 その取材の過程で、今年は目立った変化が現れた。専門家が語る22年の予測に、明らかに二つの単語が頻出するのだ。 「インフレ」と「スタグフレーション」……。 ダイヤモンド編集部の「総予測」特集で、この二つの単語がこれほど頻繁に登場したことはない。 言葉の意味や背景はここでは割愛するが、22年はインフレとスタグフレーションへの関心がかなり強くなるのは間違いない。実際、既に多くの専門家が、インフレ退治のために米国が行う利上げの悪影響を懸念し始めている。 中でも不動産業界関係者による座談会では、スタグフレーションという言葉が飛び交った。22年は「不動産と政治」の関係も注視する必要があるだろう。しかも、それは日本と中国、双方の国でキーワードとなりそうなのだ。なぜか。 今や首都圏のマンション価格はバブル経済時の水準を超え、普通のサラリーマンの購入は難しい。それでも、「まだまだ値上がりが続く」との強気の見立てが多数を占める。 だからこそ、足元の上昇に対して岸田文雄政権が規制に踏み込むのかどうかも、業界関係者の強い関心事となる。1990年代初頭には、「庶民が家を買えない」と糾弾された政府が土地取引関連融資の総量規制を実施、バブル崩壊の遠因となったからだ。 同じく、中国でも高騰する不動産価格への政府の介入が注目点とされるから、くしくも「不動産と政治」という意味では22年の日中はリンクしている。 そして、近年は「米中対立」が毎年リスクとして挙がるが、22年もその傾向は変わらない。多数の専門家が米中対立に言及している。 その両大国は22年にそれぞれビッグイベントを控え、中国では冬季オリンピックと共産党大会が開催される。共産党大会のある年は景気対策を実施するという読みの一方で、企業への規制強化がさらに進む観測も浮上。一方の米国は中間選挙を巡り、共和党と民主党の駆け引きによる議会の停滞が予測されている。 さて、大きな予測ポイントが出そろったところで、気になる日本の株価はどうか。コロナへの悲観論は後退し、「共存」といった表現も目立つ。結果、株の専門家から「3万7000円」説も登場しているのだ。 もちろん、株価上昇には外部環境だけではなく、企業自身による業績改善が必須となる。特集では編集部記者が企業の内情を徹底取材。人員リストラする56社リストも紹介している。 大人気企画が今年はさらに強力に! 超豪華付録「開運 1億円カレンダー」! 株価はどこまで上がる? 景気はどうなる? 悪い円安はいつまで続くの?インフレは起こる? 週刊ダイヤモンド12月25日・1月1日新年合併特大号 読めば答えが載っています!『週刊ダイヤモンド』12月25日・1月1日新年合併特大号の第一特集は「2022 総予測」です。年末年始の恒例の人気企画が、今年はさらに強力になりました。 ページ数は物理的限界ギリギリの264ページ!250人以上の人物の名前が登場し、多数の専門家と編集部の記者が経済、企業の先行きを徹底的に予測。株価、企業業績から国際関係、政治、社会、文化、スポーツまで完全網羅しています。 しかも付録が超豪華!有名スゴ腕投資家が1億円作るための具体的投資方法を12カ月で指南!「貼って眺めて資産を増やす! 株 投信 不動産でFIRE 開運 1億円カレンダー」となっています。本体から剥がせる綴じ込み付録でご自宅や職場の壁に貼ってご利用できます。 年末年始、2022年の計画を立てる際にぜひ、ご一読いただければ幸いです』、「日中」とも「不動産と政治」が「キーワード」になりそうとのことだ。中国では、恒大のドル建て債、期限過ぎるもまだ利払い行われず、事実上のデフォルト状態にある。日本の不動産業界は、今回はそれほどの問題を抱えたところはない様子だが、予断は出来ない。
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2021年の回顧(その1)(2021年回顧と2022年展望:(中東情勢):2022年の焦点はシリアのアラブ復帰 揺れ動く対イラン関係、中国でも起きる人手不足 〝移民開放〟は起きるのか、(中国):中国でも起きる人手不足 〝移民開放〟は起きるのか、(国内政治):岸田長期政権の〝視界ゼロ〟党内対立が政策妨げる恐れも) [世界情勢]
今日は、2021年の回顧(その1)(2021年回顧と2022年展望:(中東情勢):2022年の焦点はシリアのアラブ復帰 揺れ動く対イラン関係、中国でも起きる人手不足 〝移民開放〟は起きるのか、(中国):中国でも起きる人手不足 〝移民開放〟は起きるのか、(国内政治):岸田長期政権の〝視界ゼロ〟党内対立が政策妨げる恐れも)を取上げよう。
先ずは、12月30日付けWEDGE Infinity「2021年回顧と2022年展望」「2022年の焦点はシリアのアラブ復帰 揺れ動く対イラン関係 2021年回顧と2022年展望(中東情勢)佐々木伸 (星槎大学大学院教授)」を紹介しよう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25302
・『2021年の中東情勢を振り返るとき、安定とは程遠い状況が続いた感があるが、米国プレゼンスの弱体化が進む中、イスラエルやペルシャ湾岸諸国を中心に政治的再編の新しい動きも浮き彫りになった。来年の展望はどうなるのか。イランが台風の目にとどまるのは必至だが、アラブ世界ではアサド独裁体制が強まるシリアの復帰が焦点となりそうだ』、なるほど。
・『イラン攻撃への準備は2年必要 今年の中東情勢の最大の出来事はアフガニスタンの崩壊、タリバンの政権奪取だった。米軍や北大西洋条約機構(NATO)が完全撤退した結果だ。その混乱はなお続いているが、タリバンを承認した国がないことでも分かるように、同国の前途は多難だ。国民の大半が食糧不足に直面している。 この他にも、イエメン戦争の泥沼状態は続き、パレスチナのガザの武装組織ハマスとイスラエルの対決はいつ火が吹いてもおかしくない状況だ。イラクではイラン系の民兵によるドローン攻撃で、首相暗殺未遂事件も起きた。内戦終結にこぎ着けたと思ったリビアでは、大統領選挙が土壇場で延期され、再び不穏な空気が漂い始めている。 破綻国家レバノンの窮乏は留まるところを知らず、トルコではエルドアン大統領の金融政策の失敗で通貨リラが暴落、インフレが庶民の生活を直撃し、経済危機が深まっている。こうした中で、核武装が懸念されるイランの動向に周辺国はもとより、欧米も振り回された。 反米強硬派のライシ政権下で11月、イラン核交渉の再建協議が再開したが、予想されていたようにイラン側が米制裁の「即時全面解除」が先決と主張し難航した。協議はいったん中断し、12月27日に再開したが、進展は難しいだろう。 イランの核武装は国家存亡の危機と恐れるイスラエルは軍事攻撃で核開発をストップさせようとしているが、バイデン米政権は新型の空中給油機のイスラエル供与を遅らせるなどイスラエルの暴走に神経を尖らしている。だが、イスラエル単独では、イラン攻撃は困難だ。「攻撃準備に2年間は必要だろう」(米高官)と見られる中、その焦りは高まる一方だ』、「2年間」で「イスラエル単独」でも「イラン攻撃」が可能になるというのも、考えてみれば恐ろしい。
・『サウジとイランの和解の可能性 このイランをめぐってはトランプ米前政権下、湾岸諸国は米、イスラエルとともにイラン包囲網を構築する一方、トランプ氏肝いりの「アブラハム合意」により、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、モロッコ、スーダンがイスラエルと国交回復に合意、従来の「アラブ対イスラエル」という伝統的な中東地図を塗り替えた。 湾岸諸国域内でもサウジアラビアが主導した〝カタールいじめ〟に終止符が打たれ、サウジアラビアが断交していたカタールとの国交正常化に踏み切った。砂漠の風紋のように離合集散を繰り返す中東政治のドラマだ。この中心的役割を果たしたのはUAEの実力者、ムハンマド・アブダビ皇太子だ。 12月にはイスラエルのベネット首相をイスラエルの指導者として初めてUAEへ迎えた。一方でこの訪問に先立ってイランに特使を送って配慮を示し、関係改善の意欲を見せつけた。バイデン政権が中東への関与を弱める中、米国に引きずられていつまでもイランと敵対ばかりしてはいられない、という現実的な感情を反映した動きだろう。 来年の焦点はサウジがイランとの復交に踏み切るかどうかだ。サウジはこの4月からイラクのバグダッドを舞台にイラン側との関係改善に向けた協議を続けてきた。報道によると、サウジ側が12月、ジッダに本部を置く「イスラム協力機構」へのイラン代表外交官3人に査証を発給することで合意したという。関係改善の兆候と言えるが、イランとの復交がなるかどうかはサウジを牛耳るムハンマド・ビン・サルマン皇太子の決断にかかっている』、「サルマン皇太子」は「ジャーナリスト殺害事件」にも関らず、実権を握り続けているようだ。
・『コンドーム禁止でイランが〝富国強兵〟? そのイランだが、コンドームが薬局などで入手できないほどの品不足になっており、その背景には人口増による大国を目指す政府の政策が働いているとの見方が広がっている。女性の人権活動家らは望まない妊娠が増えると懸念しているという。 中東専門誌「ミドルイースト・アイ」などによると、最高指導者ハメネイ師はここ数年、産児制限に強く反対を表明してきたが、最近避妊具の配布を制限するよう指示。イランの人口を1億5000万人まで増大させる必要性を強調した。イランの人口は現在、約8500万人だが、出生率の低下が懸念されており、ハメネイ師の発言にはこの傾向に歯止めをかけ、中東のさらなる大国への野望が込められているようだ。 こうしたハメネイ師の見解を受け、イラン国会は10月、「若年人口と家庭の保護」という新法を成立、このほど施行された。同法は避妊と中絶の規制を求めており、コンドームの全土での無料配布を禁じている。元々、経済制裁下にある中で、外国製のコンドームが入らなくなり、ほとんど店頭から消えた。国内製のコンドームはあるようだが、粗悪で評判が悪い』、「避妊と中絶の規制」をしたところで、人口が想定通り増えると考えるのは甘い。
・『アサド一族によるシリアの私物化進む 中東政治の再編の中で目が離せないのはシリアの復権だ。イランの支援を受けた内戦で、アラブ連盟から〝除名〟処分を受け、資格を停止された。だが、このところ、内戦後を見据えてアラブ諸国との接近が増えてきた。ここでもイニシアチブを取っているのはUAEのムハンマド・アブダビ皇太子だ。 皇太子は10月、シリアのアサド大統領と電話会談。これに先立ちシリアと隣接するヨルダンのアブドラ国王も電話会談した。エジプトとシリアの外相会談も10年ぶりに実現。連盟復帰には全加盟国の賛成が必要だが、復帰が取り沙汰されいること自体、アラブ世界での認知を目指すアサド政権にとっては大きなプラスだろう。 だが、シリアの内情は悲惨な状況だ。過激派組織「イスラム国」(IS)は掃討され、内戦は小康状態にあるものの、終結はしていない。イランやロシアの支援、トルコの介入で戦闘が収まっているにすぎない。人口2000万人の半分が難民となり、国民の大勢が貧困にあえいでいる。 イランとロシアに膨大な借金を背負い込んだアサド大統領は国家の私物化を推進、その独裁ぶりが一段と強まっていることも忘れてはならない。内戦により通貨シリア・ポンドは85%も下落、経済が縮小、国家の破産状態が続いている。ワシントン・ポスト紙によると、こうした中、アサド大統領は生き残りのため、3つの方法で金を稼いでいる。 1つは携帯通信会社の乗っ取り。シリア市場を独占していた2社にさまざまな注文を付けて私物化し、経営者として側近を送り込んだ。このうちの1社は100億ドルの資産価値があるという従兄の「シリアテル」だが、身内であっても容赦しないアサド大統領の非情さを示すものだ。 大統領はこのほか、「カプタゴン」と呼ばれる覚せい剤の密造と販売も手掛け、莫大な利益を得ているという。また、シリアを訪れる人道支援団体や国連機関には、ドルとシリア・ポンドの交換レートを市場より何倍も高く設定し、その利ザヤで19年から20年の1年間で1億ドルを稼ぎ出した。同紙は「泥棒国家」と形容している』、「シリア」を「泥棒国家」とは言い得て妙だ。
次に、12月28日付けWEDGE Infinity「2021年回顧と2022年展望:中国でも起きる人手不足 〝移民開放〟は起きるのか 2021年回顧と2022年展望(中国)高口康太 (ジャーナリスト)」を紹介しよう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25292
・『「2021年、中国の産業ロボット市場が一気に拡大しました。知り合いの企業は売上が一気に4倍に。ついに産業ロボット元年が到来したのではないでしょうか」 中国のベンチャーキャピタリストからこんな話を聞いた。実際、ロボットはよく売れているようだ。 中国工業の中心地である広東省、同省の統計局は2021年1月から11月の産業ロボット市場が前年同期比60.1%増という高成長を記録したことを発表している。導入が進んでいるだけではない。中国国内のロボット産業をリードする能力があると省政府より認められた「省級ロボット中心企業」の認定を受けた企業は100社を超えるなど、メーカーの数も増え続けている。中国経済紙・21世紀経済報道は「機器換人」(ロボットが人間を代替する)はテスト導入の段階を終え、普及段階に入りつつあると評している。 経済規模のみならず技術力の分野でも目覚ましい成長を続ける中国が、産業ロボットの分野でも飛躍しようとしている……と見れば、中国にとってポジティブなニュースと受け止められるが、「製造業はなぜロボット導入を急ぐのか?」との背景に目を向ければ、けして明るいニュースとだけ見ることは難しい』、どういうことなのだろう。
・『「世界の工場」の人手にも陰りが 中国の経済成長を支えたのは「世界の工場」というポジションだ。人口大国の中国には無限の労働力があるとまで言われた。その労働力を活用すれば、安価に製品を量産することができる。そうした考えから外資系企業が大挙して中国に進出し、工場を構えた。 当初は外資系企業の下請け組み立て工場やサプライヤーだった中国企業も、次第に資本力と技術力を身につけていき、今では世界的企業も数多く生まれている。 工場が増え労働需要が高まれば賃金が上昇するのが道理だが、中国では働き手の数がなにせ膨大にいるだけになかなか賃金が上がらない。広東省を例に出せば、広州市や深圳市の周辺の労働力が払底しても、湖南省や広西チワン族自治区という内陸の後背地からの出稼ぎ労働者が多く、労働力には困らなかった。 しかし、2010年代後半に入ると、ついに中国でも労働力不足が表面化してきた。経済成長に伴い全体の雇用が増えたこと、そして中西部の経済成長が加速しわざわざ遠隔地まで出かける出稼ぎ労働者が減ったことがあげられる。 また、若い世代の価値観の変化も大きい。かつての労働者はいわゆる3Kの仕事もいとわなかったが、今20~30代の若者は出稼ぎ労働者であっても、きつい仕事を敬遠する傾向が強い。消費の成長に伴いサービス業での雇用が増えていることもあって、製造業は労働力の確保が困難になってきた』、「2010年代後半に入ると、ついに中国でも労働力不足が表面化」、ようやく他国並みの経済になったということだ。
・『一人っ子政策から少子化対策へ そこにダメ押しとなったのが少子化だ。中国の出生数は近年、急減している。計画生育、いわゆる一人っ子政策が緩和され、すべての夫婦に2人目出産が解禁された2016年の出生数は前年比131万人増の1786万人を記録したが、その後は急落が続く。20年には1200万人にまで落ち込んだ。わずか4年で600万人近い減少だ。 20年に実施された国勢調査では、中国全体ではかろうじて人口増をキープしたが、すでに人口減が始まっている地域もある。もっとも状況が深刻なのは中国東北部(遼寧省、吉林省、黒竜江省)だ。 20年の人口は9851万人、10年前の前回調査から1101万人の減少となった。重工業と農業が主力産業の東北部は経済低迷が続き、働き手世代の人口流出が続いている。 こうした状況に危機感を覚えた中国政府は21年、本格的に少子化対策を打ち出した。現在、さまざまな模索が始まっている。 吉林省政府は21年12月23日に「生育政策の優良化による人口長期均衡発展の促進に関する実施プラン」を発表した。幼稚園や託児所の整備、育児休暇の延長、義務教育の充実といった社会インフラの整備に加え、結婚した夫婦については最大20万元(約360万円)の結婚子育て消費者ローン枠を提供し、しかも子どもの数が多いほど利息を下げるという不思議なインセンティブまで導入された。中国ネットユーザーの間からは「消費者金融を使って、出産奨励とはむちゃくちゃではないか」との声も上がっている。 禁じ手というべきか、果たしてフェアな社会政策なのだろうかと疑問に思うようなやり方だが、おそらく今後も類似の話は頻出するのではないか。吉林省のプランには、他にも2人目、3人目の子どもを持つ自営業者に対する減税措置が盛り込まれている。 また、12月9日には中国官製メディアの中国報道網に「3人目政策を着実に実行するために、中国共産党員・幹部は行動に移せ」と題した、党員は国民の見本として3人目出産に取り組むべきとのコラムが掲載された。いくらなんでも無理な話だとの批判が相次ぎ、コラムは撤回されたが、もともと中国は無理筋な一人っ子政策を実行していた国だけに、人口対策でも他国では思いも付かないような手法を採っても不思議ではない』、「人口」を人為的にコントロールできるとの妄想にいつまで浸りきっているのだろうか。
・『移民受け入れの可能性も しかし、奇想天外な少子化対策が功を奏するかどうかは未知数だ。台湾、韓国、香港、日本など、東アジアの先行事例を見ると、一度低下した出生率が回復した事例はない。少子化は複数の要因によって引き起こされたもので、からみあった糸をほどいて問題を解決するのは容易ではない。 ではロボットが解決策になる……とは現時点ではまだ断言できない。今まで人力に頼っていた作業の多くが代替され省人化が進むことは間違いないが、労働力不足を解消するほどになるかは未知数だ。 中国では自動化と省人化に取り組む先進製造国として注目されているのが、実は日本である。その日本にしても、製造業の海外移転と空洞化が進み、技能実習生に代表される外国人労働力への依存が進んでいるのは、われわれがよく知るとおりだ。 中国政府は国内の雇用を守る立場から外国人労働者の受け入れは規制してきたが、今後は移民受け入れに転換する可能性は充分に考えられるのではないか。すでに中国南部を中心にベトナム人、ミャンマー人の違法入国者は相当数働いているとされる。ベトナム、ラオス、ミャンマーと中国南部の国境線は長く、そのすべてを監視することは困難である。 「蛇頭(じゃとう)」というと、中国人の密出国、不法移民を仲介するブローカーのネットワークを意味する。今では同様に東南アジアから中国への渡航を仲介するネットワークも構築されているという。 21年初頭には福建省、広東省の警察による共同捜査が行われ、ブローカー51人、違法労働者486人が摘発されたが、氷山の一角に過ぎないだろう。新型コロナウイルス対策によって人の移動が厳しく規制され、居住者管理が強化されているなかでも多くの違法労働者がいるという事実は、中国の製造業がいかに外国人労働者を必要としているかの証左でもある』、「新型コロナウイルス対策によって人の移動が厳しく規制され、居住者管理が強化されているなかでも多くの違法労働者がいる」、なるほど。
・『中国国内で始まっている人材獲得合戦 日本と同様、移民への抵抗感が強い中国では外国人労働力獲得について公に議論することはまだ難しいが、一方で中国国内での労働力をめぐる争いは始まりつつある。かつての中国では経済先進地域への移住が集中する「盲流」を恐れ、戸籍地の自由な移動を禁止する政策が敷かれていたが、北京市や上海市などの大都市以外では、2010年代から規制は大幅に緩和されており、出稼ぎ農民が居住地の戸籍を取得する道が開かれた。 出稼ぎ農民をいかに居着かせないかに苦心していた時代から一転、いかに若い働き手を引きつけるかへと地方政府の関心は移りつつある。 非熟練労働者の獲得でも争いが始まりつつあるのだから、高度人材の獲得競争は激烈だ。中国を代表するイノベーション都市として知られる深圳市は、充実した高度人材獲得計画でもリードしている。 起業家や研究者、医師、教師など深圳にとって必要な人材には、数百万円規模の支度金、住宅費の補助、あるいは不動産購入費の割引きといった支援策が導入されている。西安市は4大卒ならば基本的に申請すればすぐに戸籍を取得できる政策を打ち出した。浙江省杭州市は市街地を大きく拡大し、より多くの人口を取り込める土地政策を進めている。 「中国と移民」というテーマだと、イメージされるのは中国からの移民だろう。しかし、状況は変わりつつある。世界の高度人材を獲得しようという取り組みはすでに大々的に進められているが、5年先10年先には海外の非熟練労働者の獲得、すなわち移民受け入れに舵を切る可能性は充分に考えられるのではないか。 巨大市場・中国が労働力の獲得競争に参戦してきたならば……日本に与える影響は甚大だ。燃料や食糧で繰り返されてきた〝買い負け〟が労働力でも繰り返されないよう、注意する必要がある。 「Wedge」2021年10月号に掲載されたWedge Opinion Special Interview「中国が米国を追い抜くことはあるのか エマニュエル・トッド 大いに語る――コロナ、中国、日本の将来」でも、中国の人口問題について語られております。Wedge Online Premiumにて、是非ご覧ください』、「出稼ぎ農民をいかに居着かせないかに苦心していた時代から一転、いかに若い働き手を引きつけるかへと地方政府の関心は移りつつある」、「巨大市場・中国が労働力の獲得競争に参戦してきたならば……日本に与える影響は甚大だ。燃料や食糧で繰り返されてきた〝買い負け〟が労働力でも繰り返されないよう、注意する必要がある」、同感だ。
第三に、12月30日付けWEDGE Infinity「2021年回顧と2022年展望:岸田長期政権の〝視界ゼロ〟党内対立が政策妨げる恐れも 2021年回顧と2022年展望(国内政治)樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)」を紹介しよう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25304
・『2021年の〝年男〟はいうまでもなく、岸田文雄首相、その人だった。 下馬評を覆して総裁選で完勝、解散総選挙ではこれまた悲観的な予想を覆して実質的な勝利を収めた。22年も〝時の人〟であり続け、長期政権を目指すことができるか?』、興味深そうだ。
・『菅政権を崩壊させた渾身の一太刀 21年の自民党総裁選を省みれば、菅義偉政権を崩壊させたのは、岸田氏の一太刀だった。 総裁選出馬に当たって、「党役員任期は1期1年、連続3期まで」とする公約を打ち出した。 当時の菅義偉首相は、対抗上、二階俊博幹事長の更迭を決意せざるをえず、これが引き金となって党内の支持を失い出馬断念に追い込まれた。 前回、19年の参院選で、官房長官だった菅氏、二階幹事長は岸田氏の地元広島に、現職に加え第2の候補を強引に擁立、現職は落選の憂き目を見た。このとき当選したのが後に買収で有罪判決を受け、議席を失った河井案里氏、落選したのは岸田派議員だった。 「役員任期1年・・」は、二階氏に放った渾身の一撃だった。 そんなこともあってか、「ケンカが強くなった」などと評される岸田首相、12月の新聞各紙の世論調査を見ると、支持率は一部微減はあったものの、おおむね上昇傾向を示した。
12月に開かれた臨時国会予算委員会でのやりとりをみると、前任者とは打って変わった丁寧な答弁ぶり。野党議員の質問に対しても、北京五輪開会式への自らの出席見送りを明言するなどのサービスぶりだった。 コロナ対策での18歳以下への給付金をめぐって方針変更せざるを得なかった不手際に拘わらず、人気が上昇した背景にはこうした誠実に映る態度も影響したのかもしれない』、有権者は「誠実に映る態度」にいつまで騙されるのだろう。
・『「新しい資本主義」国民の心つかむか しかし、「聞く力」「丁寧な説明」だけで人気は続かない。重要政策課題はコロナ対策だけではなく、前向きな将来への展望、国家目標を国民に示さなければ国民の支持と信頼は得られない。 小泉純一郎政権の場合は「構造改革」であり、安倍晋三元首相のそれは、「戦後レジームからの脱却」だった。いずれも国民の間で賛否は分かれたものの、基本理念を国民に示し、それなりに実行された政策だった。 理念、理想を掲げることのできない政治家は、国民の声望、支持を失う。「安倍政治の継承」を唱えるだけで、実現したい政策目標をもたなかった菅義偉前首相が典型的な例だろう。 総裁選、総選挙を通じて、岸田首相はさまざまな政策目標を掲げた。中でも「新しい資本主義」と「デジタル田園都市国家構想」が2枚看板だ。 前者は、過度な市場依存によって格差や貧困などの弊害を生んだ新自由主義を排し、経済の付加価値の創出を通じて成長を実現、分配を豊かにするーというのが基本理念だ(2021年12月6日、臨時国会での所信表明演説)。介護、保育などに従事している人たちの所得を引き上げ、賃上げ企業への補助拡大、労働者の学びなおし、ステップアップを図る――。 もちろん、それ自体重要なことだが、介護職などの所得増加にしても年間わずか11万円。通常の経済政策の枠内で実行可能な内容であり、「新しい資本主義」などというのは大風呂敷にすぎるというべきだろう。) 首相は、郷土の先輩であり、自らの派閥「宏池会」の創始者、故池田勇人首相(1960年~64年在任)の「所得倍増計画」を意識しているのかもしれない。所得倍増計画は、60年の日米安保条約改定をめぐって世論が分断され、暗くよどんだ国内の空気を一新するのが目的だった。 最初の東京五輪(64年)に向けて公共事業が増大、戦後の混乱収束による大量消費時代到来を敏感に読み取り、高度成長によって所得を倍増させるという遠大な計画だった。当時、流行語にもなって一世を風靡した「所得倍増」と、岸田首相の言う「新しい資本主義」は比べるべくもないだろう』、「所得倍増」と、「新しい資本主義」は比べるべくもない」、当然過ぎるほど当然だ。
・『近未来の構想示す「デジタル田園都市」 「専売特許」にするなら、むしろデジタル田園都市国家構想が時代にマッチするとは言えまいか。 4・4兆円を投入し、地域が抱える人口減少、高齢化、産業空洞化などを、デジタルの力を活用することで解決するという(2021年12月6日の所信表明演説)。海底ケーブルで日本を周回する「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」、大規模データセンターを建設、光ファイバー、5Gと組み合わせ、日本中どこにいても、自動配送、ドローン宅配、遠隔医療、教育、防災、リモートワーク、スマート農業などの実現を目指す。 東日本大震災復興の際、実現はしなかったものの、都道府県という単位を取り払って推進すべきだという構想を唱える向きがあった。18年9月の北海道胆振東部地震による大規模停電が起きた際には、東北電力から融通を受けてしのいだことがあり、広域行政の重要さが指摘された。 こうした経緯を考えれば、日本国内のどこにいても同じ条件、環境で仕事、生活ができるという近未来の夢を実現するほうが、国民の将来に幅広い選択肢を与えることになるだろう』、確かに「デジタル田園都市」は、一考に値する。
・『「台湾の平和」への具体的な行動は 外交での厄介な問題はいうまでもなく、「中国」、「台湾」だ。 22年2月4日の北京五輪開会式の〝外交ボイコット〟をどうするかが焦点になっていたが、政府は、閣僚派遣を見送ることを決めた。米国、英国、カナダ、豪州など主要国と足並みをそろえたが、中国の反発を考えれば、首相にとっては厳しい判断だったろう。 台湾問題では、日本の具体的な行動が焦点となる。 20年4月、当時の菅首相が訪米してバイデン大統領と会談した際の共同声明に「台湾海峡の平和の重要性を強調する」との一節が盛り込まれた。台湾有事で日本が危機にさらされた場合、日本はどういう行動をとるのか。 「台湾」が日米共同声明に盛り込まれたのは1969年11月の佐藤栄作首相とニクソン大統領(いずれも当時)の会談以来だ。当時の日本の国力を考えれば、日本は〝お題目〟として述べておけばよかったが、日本の存在が飛躍的に増大した今、それは通らない。 集団的自衛権の行使が容認され、重要影響事態、存立危機事態と認定すれば米軍への支援も可能となる。台湾をめぐる情勢が緊迫の度を加えているなかで、日本政府は近い将来、集団的自衛権の行使を念頭に置いた決定を迫られるかもしれない。 一方で、日中国交正常化50年という節目に当たって、日本としては、対中関係を悪化させることは避けたいところだ。) 延期になったままの習近平国家主席の来日日程も決まらない中で、一方的に米国に強硬政策に与するのは決して得策ではない。とはいうものの、独自の対応を取れば米国の失望を招き、日米関係はぎくしゃくする。国内の対中強硬派の反発も買う。 2022年の対中政策は岸田政権の外交政策の成否を占う重要な問題になる』、「2022年の対中政策は岸田政権の外交政策の成否を占う重要な問題になる」、その通りだ。
・『首相脅かす党内対立 こうした重要な政策課題に岸田首相は全力を傾注できる政治的な環境は整っているのか。 できないとなれば、政権運営に支障が生じるが、そうした事態に陥る懸念がある。首相と距離を置く党内の動きだ。強力な政権基盤を欠く岸田政権の不安定さを象徴する悩みでもあろう。 安倍一強の前々内閣、総裁選で各派が競って菅氏を支持した前内閣と岸田政権は大きく異なる。 総裁選の決選投票で岸田氏が河野太郎氏を大きく引き離したのは、安倍元首相が支持した高市早苗氏の票が回ったためだ。党役員人事、組閣で、高市氏を政調会長に、官房長官に安倍氏側近の松野博一氏を起用するなど安倍氏へ配慮せざるを得なかった。 その高市氏は現職の政調会長であるにもかかわらず、テレビ番組に出演した際、ポスト岸田を目指すのかと聞かれ、「もちろんだ」と即座に答えた。「いまは岸田首相を支える」と強調はしたが、現職党役員でありながら、次期首相の座への野心を公言することへの疑問も少なくなかろう。 高市氏は、中国念頭の人権侵害非難決議をさきの臨時国会で採択するよう茂木敏充幹事長に要請、拒否されると「悔しい」と憤慨して見せた。あたかも〝政敵〟のような発言を弄し、政権の手足を縛るような高市氏に、岸田氏が信頼を寄せるなどできぬ相談だろう。 政権にとって、もうひとつの不安要素は、「維新の会」の存在だ。 馬場伸幸共同代表が臨時国会の代表質問で、18歳以下への給付金問題、文書交通費の見直し問題をめぐって岸田首相を激しく批判。補正予算案にも反対した。 維新が補正予算案に反対したのは大阪維新の会時代のへ16年以来という。維新は安倍、菅両氏とは良好な関係を保ってきたが、岸田政権になってからは、対決色を強めている。岸田氏によって退場を余儀なくされた菅氏と良好な関係にある維新の方針転換は、現政権にとってこれまた大きな脅威だ。 岸田氏に敗れながら、総選挙で応援に引っ張りだこで今も国民の人気が高い河野太郎氏の動きも要警戒だろう。その河野氏を総裁選で支持した菅前首相、石破茂元幹事長、二階派の武田良太前総務相らが12月22日に会合を開いたと報じられ、非主流派結束の印象を与えた。) 5年にわたる長期政権を築いた故中曽根康弘首相は、金脈スキャンダルで失脚した田中角栄元首相の後押しで総理・総裁に就任した。当初は人事でもその影響力を無視できず、〝田中曽根内閣〟などと揶揄されたが、田中氏が病に倒れ影響力を失うに至って、初めて〝自前〟の政権を作り上げることが可能になった。 岸田氏も、政策遂行に加え政権基盤の強化、党内掌握に多くのエネルギーを費やさなければならないかもしれない』、「岸田氏も、政策遂行に加え政権基盤の強化、党内掌握」、にはまだ多くの課題があるようだ。
・『気になるスキャンダルの影 もうひとつ、船出から間もない岸田政権で気になるのは、スキャンダルの影だ。 林芳正外相が参院から衆院に鞍替えするにあたって、山口県副知事が県職員に後援会入会を勧誘、公選法違反の罪で略式起訴され、辞職した。略式起訴ではなく正式起訴されてもおかしくない悪質なケースだ。林氏は陳謝、自らの関与は否定したが、二階派の長老、川村建夫元官房長官を押しのけて出馬だっただけに反発が強まる可能性がある。 落選した石原伸晃氏を内閣官房参与に起用したのはいいが、同氏が代表を務める自民党支部がコロナ禍での困窮事業者向けの雇用調整助成金の給付を受けていたことがわかり辞任に追い込まれた。大岡敏孝環境副大臣も同様の問題があるにもかかわらず、同氏は職にとどまっている。 スキャンダルが続けば、同様の問題が相次ぎ、参院選で敗北して退陣に追い込まれた第一次安倍政権の二の舞にならぬとは言い切れまい。 それやこれやを考えると、参院選を乗り切るのはそう簡単ではない。長期政権への「坦々たる大路」など、まだまだ霞のかなたというべきだろう。岸田氏とっては、「めでたさも中くらい」の正月かもしれない』、「岸田氏とっては、「めでたさも中くらい」の正月かもしれない」、絶妙な表現だ。
先ずは、12月30日付けWEDGE Infinity「2021年回顧と2022年展望」「2022年の焦点はシリアのアラブ復帰 揺れ動く対イラン関係 2021年回顧と2022年展望(中東情勢)佐々木伸 (星槎大学大学院教授)」を紹介しよう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25302
・『2021年の中東情勢を振り返るとき、安定とは程遠い状況が続いた感があるが、米国プレゼンスの弱体化が進む中、イスラエルやペルシャ湾岸諸国を中心に政治的再編の新しい動きも浮き彫りになった。来年の展望はどうなるのか。イランが台風の目にとどまるのは必至だが、アラブ世界ではアサド独裁体制が強まるシリアの復帰が焦点となりそうだ』、なるほど。
・『イラン攻撃への準備は2年必要 今年の中東情勢の最大の出来事はアフガニスタンの崩壊、タリバンの政権奪取だった。米軍や北大西洋条約機構(NATO)が完全撤退した結果だ。その混乱はなお続いているが、タリバンを承認した国がないことでも分かるように、同国の前途は多難だ。国民の大半が食糧不足に直面している。 この他にも、イエメン戦争の泥沼状態は続き、パレスチナのガザの武装組織ハマスとイスラエルの対決はいつ火が吹いてもおかしくない状況だ。イラクではイラン系の民兵によるドローン攻撃で、首相暗殺未遂事件も起きた。内戦終結にこぎ着けたと思ったリビアでは、大統領選挙が土壇場で延期され、再び不穏な空気が漂い始めている。 破綻国家レバノンの窮乏は留まるところを知らず、トルコではエルドアン大統領の金融政策の失敗で通貨リラが暴落、インフレが庶民の生活を直撃し、経済危機が深まっている。こうした中で、核武装が懸念されるイランの動向に周辺国はもとより、欧米も振り回された。 反米強硬派のライシ政権下で11月、イラン核交渉の再建協議が再開したが、予想されていたようにイラン側が米制裁の「即時全面解除」が先決と主張し難航した。協議はいったん中断し、12月27日に再開したが、進展は難しいだろう。 イランの核武装は国家存亡の危機と恐れるイスラエルは軍事攻撃で核開発をストップさせようとしているが、バイデン米政権は新型の空中給油機のイスラエル供与を遅らせるなどイスラエルの暴走に神経を尖らしている。だが、イスラエル単独では、イラン攻撃は困難だ。「攻撃準備に2年間は必要だろう」(米高官)と見られる中、その焦りは高まる一方だ』、「2年間」で「イスラエル単独」でも「イラン攻撃」が可能になるというのも、考えてみれば恐ろしい。
・『サウジとイランの和解の可能性 このイランをめぐってはトランプ米前政権下、湾岸諸国は米、イスラエルとともにイラン包囲網を構築する一方、トランプ氏肝いりの「アブラハム合意」により、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、モロッコ、スーダンがイスラエルと国交回復に合意、従来の「アラブ対イスラエル」という伝統的な中東地図を塗り替えた。 湾岸諸国域内でもサウジアラビアが主導した〝カタールいじめ〟に終止符が打たれ、サウジアラビアが断交していたカタールとの国交正常化に踏み切った。砂漠の風紋のように離合集散を繰り返す中東政治のドラマだ。この中心的役割を果たしたのはUAEの実力者、ムハンマド・アブダビ皇太子だ。 12月にはイスラエルのベネット首相をイスラエルの指導者として初めてUAEへ迎えた。一方でこの訪問に先立ってイランに特使を送って配慮を示し、関係改善の意欲を見せつけた。バイデン政権が中東への関与を弱める中、米国に引きずられていつまでもイランと敵対ばかりしてはいられない、という現実的な感情を反映した動きだろう。 来年の焦点はサウジがイランとの復交に踏み切るかどうかだ。サウジはこの4月からイラクのバグダッドを舞台にイラン側との関係改善に向けた協議を続けてきた。報道によると、サウジ側が12月、ジッダに本部を置く「イスラム協力機構」へのイラン代表外交官3人に査証を発給することで合意したという。関係改善の兆候と言えるが、イランとの復交がなるかどうかはサウジを牛耳るムハンマド・ビン・サルマン皇太子の決断にかかっている』、「サルマン皇太子」は「ジャーナリスト殺害事件」にも関らず、実権を握り続けているようだ。
・『コンドーム禁止でイランが〝富国強兵〟? そのイランだが、コンドームが薬局などで入手できないほどの品不足になっており、その背景には人口増による大国を目指す政府の政策が働いているとの見方が広がっている。女性の人権活動家らは望まない妊娠が増えると懸念しているという。 中東専門誌「ミドルイースト・アイ」などによると、最高指導者ハメネイ師はここ数年、産児制限に強く反対を表明してきたが、最近避妊具の配布を制限するよう指示。イランの人口を1億5000万人まで増大させる必要性を強調した。イランの人口は現在、約8500万人だが、出生率の低下が懸念されており、ハメネイ師の発言にはこの傾向に歯止めをかけ、中東のさらなる大国への野望が込められているようだ。 こうしたハメネイ師の見解を受け、イラン国会は10月、「若年人口と家庭の保護」という新法を成立、このほど施行された。同法は避妊と中絶の規制を求めており、コンドームの全土での無料配布を禁じている。元々、経済制裁下にある中で、外国製のコンドームが入らなくなり、ほとんど店頭から消えた。国内製のコンドームはあるようだが、粗悪で評判が悪い』、「避妊と中絶の規制」をしたところで、人口が想定通り増えると考えるのは甘い。
・『アサド一族によるシリアの私物化進む 中東政治の再編の中で目が離せないのはシリアの復権だ。イランの支援を受けた内戦で、アラブ連盟から〝除名〟処分を受け、資格を停止された。だが、このところ、内戦後を見据えてアラブ諸国との接近が増えてきた。ここでもイニシアチブを取っているのはUAEのムハンマド・アブダビ皇太子だ。 皇太子は10月、シリアのアサド大統領と電話会談。これに先立ちシリアと隣接するヨルダンのアブドラ国王も電話会談した。エジプトとシリアの外相会談も10年ぶりに実現。連盟復帰には全加盟国の賛成が必要だが、復帰が取り沙汰されいること自体、アラブ世界での認知を目指すアサド政権にとっては大きなプラスだろう。 だが、シリアの内情は悲惨な状況だ。過激派組織「イスラム国」(IS)は掃討され、内戦は小康状態にあるものの、終結はしていない。イランやロシアの支援、トルコの介入で戦闘が収まっているにすぎない。人口2000万人の半分が難民となり、国民の大勢が貧困にあえいでいる。 イランとロシアに膨大な借金を背負い込んだアサド大統領は国家の私物化を推進、その独裁ぶりが一段と強まっていることも忘れてはならない。内戦により通貨シリア・ポンドは85%も下落、経済が縮小、国家の破産状態が続いている。ワシントン・ポスト紙によると、こうした中、アサド大統領は生き残りのため、3つの方法で金を稼いでいる。 1つは携帯通信会社の乗っ取り。シリア市場を独占していた2社にさまざまな注文を付けて私物化し、経営者として側近を送り込んだ。このうちの1社は100億ドルの資産価値があるという従兄の「シリアテル」だが、身内であっても容赦しないアサド大統領の非情さを示すものだ。 大統領はこのほか、「カプタゴン」と呼ばれる覚せい剤の密造と販売も手掛け、莫大な利益を得ているという。また、シリアを訪れる人道支援団体や国連機関には、ドルとシリア・ポンドの交換レートを市場より何倍も高く設定し、その利ザヤで19年から20年の1年間で1億ドルを稼ぎ出した。同紙は「泥棒国家」と形容している』、「シリア」を「泥棒国家」とは言い得て妙だ。
次に、12月28日付けWEDGE Infinity「2021年回顧と2022年展望:中国でも起きる人手不足 〝移民開放〟は起きるのか 2021年回顧と2022年展望(中国)高口康太 (ジャーナリスト)」を紹介しよう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25292
・『「2021年、中国の産業ロボット市場が一気に拡大しました。知り合いの企業は売上が一気に4倍に。ついに産業ロボット元年が到来したのではないでしょうか」 中国のベンチャーキャピタリストからこんな話を聞いた。実際、ロボットはよく売れているようだ。 中国工業の中心地である広東省、同省の統計局は2021年1月から11月の産業ロボット市場が前年同期比60.1%増という高成長を記録したことを発表している。導入が進んでいるだけではない。中国国内のロボット産業をリードする能力があると省政府より認められた「省級ロボット中心企業」の認定を受けた企業は100社を超えるなど、メーカーの数も増え続けている。中国経済紙・21世紀経済報道は「機器換人」(ロボットが人間を代替する)はテスト導入の段階を終え、普及段階に入りつつあると評している。 経済規模のみならず技術力の分野でも目覚ましい成長を続ける中国が、産業ロボットの分野でも飛躍しようとしている……と見れば、中国にとってポジティブなニュースと受け止められるが、「製造業はなぜロボット導入を急ぐのか?」との背景に目を向ければ、けして明るいニュースとだけ見ることは難しい』、どういうことなのだろう。
・『「世界の工場」の人手にも陰りが 中国の経済成長を支えたのは「世界の工場」というポジションだ。人口大国の中国には無限の労働力があるとまで言われた。その労働力を活用すれば、安価に製品を量産することができる。そうした考えから外資系企業が大挙して中国に進出し、工場を構えた。 当初は外資系企業の下請け組み立て工場やサプライヤーだった中国企業も、次第に資本力と技術力を身につけていき、今では世界的企業も数多く生まれている。 工場が増え労働需要が高まれば賃金が上昇するのが道理だが、中国では働き手の数がなにせ膨大にいるだけになかなか賃金が上がらない。広東省を例に出せば、広州市や深圳市の周辺の労働力が払底しても、湖南省や広西チワン族自治区という内陸の後背地からの出稼ぎ労働者が多く、労働力には困らなかった。 しかし、2010年代後半に入ると、ついに中国でも労働力不足が表面化してきた。経済成長に伴い全体の雇用が増えたこと、そして中西部の経済成長が加速しわざわざ遠隔地まで出かける出稼ぎ労働者が減ったことがあげられる。 また、若い世代の価値観の変化も大きい。かつての労働者はいわゆる3Kの仕事もいとわなかったが、今20~30代の若者は出稼ぎ労働者であっても、きつい仕事を敬遠する傾向が強い。消費の成長に伴いサービス業での雇用が増えていることもあって、製造業は労働力の確保が困難になってきた』、「2010年代後半に入ると、ついに中国でも労働力不足が表面化」、ようやく他国並みの経済になったということだ。
・『一人っ子政策から少子化対策へ そこにダメ押しとなったのが少子化だ。中国の出生数は近年、急減している。計画生育、いわゆる一人っ子政策が緩和され、すべての夫婦に2人目出産が解禁された2016年の出生数は前年比131万人増の1786万人を記録したが、その後は急落が続く。20年には1200万人にまで落ち込んだ。わずか4年で600万人近い減少だ。 20年に実施された国勢調査では、中国全体ではかろうじて人口増をキープしたが、すでに人口減が始まっている地域もある。もっとも状況が深刻なのは中国東北部(遼寧省、吉林省、黒竜江省)だ。 20年の人口は9851万人、10年前の前回調査から1101万人の減少となった。重工業と農業が主力産業の東北部は経済低迷が続き、働き手世代の人口流出が続いている。 こうした状況に危機感を覚えた中国政府は21年、本格的に少子化対策を打ち出した。現在、さまざまな模索が始まっている。 吉林省政府は21年12月23日に「生育政策の優良化による人口長期均衡発展の促進に関する実施プラン」を発表した。幼稚園や託児所の整備、育児休暇の延長、義務教育の充実といった社会インフラの整備に加え、結婚した夫婦については最大20万元(約360万円)の結婚子育て消費者ローン枠を提供し、しかも子どもの数が多いほど利息を下げるという不思議なインセンティブまで導入された。中国ネットユーザーの間からは「消費者金融を使って、出産奨励とはむちゃくちゃではないか」との声も上がっている。 禁じ手というべきか、果たしてフェアな社会政策なのだろうかと疑問に思うようなやり方だが、おそらく今後も類似の話は頻出するのではないか。吉林省のプランには、他にも2人目、3人目の子どもを持つ自営業者に対する減税措置が盛り込まれている。 また、12月9日には中国官製メディアの中国報道網に「3人目政策を着実に実行するために、中国共産党員・幹部は行動に移せ」と題した、党員は国民の見本として3人目出産に取り組むべきとのコラムが掲載された。いくらなんでも無理な話だとの批判が相次ぎ、コラムは撤回されたが、もともと中国は無理筋な一人っ子政策を実行していた国だけに、人口対策でも他国では思いも付かないような手法を採っても不思議ではない』、「人口」を人為的にコントロールできるとの妄想にいつまで浸りきっているのだろうか。
・『移民受け入れの可能性も しかし、奇想天外な少子化対策が功を奏するかどうかは未知数だ。台湾、韓国、香港、日本など、東アジアの先行事例を見ると、一度低下した出生率が回復した事例はない。少子化は複数の要因によって引き起こされたもので、からみあった糸をほどいて問題を解決するのは容易ではない。 ではロボットが解決策になる……とは現時点ではまだ断言できない。今まで人力に頼っていた作業の多くが代替され省人化が進むことは間違いないが、労働力不足を解消するほどになるかは未知数だ。 中国では自動化と省人化に取り組む先進製造国として注目されているのが、実は日本である。その日本にしても、製造業の海外移転と空洞化が進み、技能実習生に代表される外国人労働力への依存が進んでいるのは、われわれがよく知るとおりだ。 中国政府は国内の雇用を守る立場から外国人労働者の受け入れは規制してきたが、今後は移民受け入れに転換する可能性は充分に考えられるのではないか。すでに中国南部を中心にベトナム人、ミャンマー人の違法入国者は相当数働いているとされる。ベトナム、ラオス、ミャンマーと中国南部の国境線は長く、そのすべてを監視することは困難である。 「蛇頭(じゃとう)」というと、中国人の密出国、不法移民を仲介するブローカーのネットワークを意味する。今では同様に東南アジアから中国への渡航を仲介するネットワークも構築されているという。 21年初頭には福建省、広東省の警察による共同捜査が行われ、ブローカー51人、違法労働者486人が摘発されたが、氷山の一角に過ぎないだろう。新型コロナウイルス対策によって人の移動が厳しく規制され、居住者管理が強化されているなかでも多くの違法労働者がいるという事実は、中国の製造業がいかに外国人労働者を必要としているかの証左でもある』、「新型コロナウイルス対策によって人の移動が厳しく規制され、居住者管理が強化されているなかでも多くの違法労働者がいる」、なるほど。
・『中国国内で始まっている人材獲得合戦 日本と同様、移民への抵抗感が強い中国では外国人労働力獲得について公に議論することはまだ難しいが、一方で中国国内での労働力をめぐる争いは始まりつつある。かつての中国では経済先進地域への移住が集中する「盲流」を恐れ、戸籍地の自由な移動を禁止する政策が敷かれていたが、北京市や上海市などの大都市以外では、2010年代から規制は大幅に緩和されており、出稼ぎ農民が居住地の戸籍を取得する道が開かれた。 出稼ぎ農民をいかに居着かせないかに苦心していた時代から一転、いかに若い働き手を引きつけるかへと地方政府の関心は移りつつある。 非熟練労働者の獲得でも争いが始まりつつあるのだから、高度人材の獲得競争は激烈だ。中国を代表するイノベーション都市として知られる深圳市は、充実した高度人材獲得計画でもリードしている。 起業家や研究者、医師、教師など深圳にとって必要な人材には、数百万円規模の支度金、住宅費の補助、あるいは不動産購入費の割引きといった支援策が導入されている。西安市は4大卒ならば基本的に申請すればすぐに戸籍を取得できる政策を打ち出した。浙江省杭州市は市街地を大きく拡大し、より多くの人口を取り込める土地政策を進めている。 「中国と移民」というテーマだと、イメージされるのは中国からの移民だろう。しかし、状況は変わりつつある。世界の高度人材を獲得しようという取り組みはすでに大々的に進められているが、5年先10年先には海外の非熟練労働者の獲得、すなわち移民受け入れに舵を切る可能性は充分に考えられるのではないか。 巨大市場・中国が労働力の獲得競争に参戦してきたならば……日本に与える影響は甚大だ。燃料や食糧で繰り返されてきた〝買い負け〟が労働力でも繰り返されないよう、注意する必要がある。 「Wedge」2021年10月号に掲載されたWedge Opinion Special Interview「中国が米国を追い抜くことはあるのか エマニュエル・トッド 大いに語る――コロナ、中国、日本の将来」でも、中国の人口問題について語られております。Wedge Online Premiumにて、是非ご覧ください』、「出稼ぎ農民をいかに居着かせないかに苦心していた時代から一転、いかに若い働き手を引きつけるかへと地方政府の関心は移りつつある」、「巨大市場・中国が労働力の獲得競争に参戦してきたならば……日本に与える影響は甚大だ。燃料や食糧で繰り返されてきた〝買い負け〟が労働力でも繰り返されないよう、注意する必要がある」、同感だ。
第三に、12月30日付けWEDGE Infinity「2021年回顧と2022年展望:岸田長期政権の〝視界ゼロ〟党内対立が政策妨げる恐れも 2021年回顧と2022年展望(国内政治)樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)」を紹介しよう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25304
・『2021年の〝年男〟はいうまでもなく、岸田文雄首相、その人だった。 下馬評を覆して総裁選で完勝、解散総選挙ではこれまた悲観的な予想を覆して実質的な勝利を収めた。22年も〝時の人〟であり続け、長期政権を目指すことができるか?』、興味深そうだ。
・『菅政権を崩壊させた渾身の一太刀 21年の自民党総裁選を省みれば、菅義偉政権を崩壊させたのは、岸田氏の一太刀だった。 総裁選出馬に当たって、「党役員任期は1期1年、連続3期まで」とする公約を打ち出した。 当時の菅義偉首相は、対抗上、二階俊博幹事長の更迭を決意せざるをえず、これが引き金となって党内の支持を失い出馬断念に追い込まれた。 前回、19年の参院選で、官房長官だった菅氏、二階幹事長は岸田氏の地元広島に、現職に加え第2の候補を強引に擁立、現職は落選の憂き目を見た。このとき当選したのが後に買収で有罪判決を受け、議席を失った河井案里氏、落選したのは岸田派議員だった。 「役員任期1年・・」は、二階氏に放った渾身の一撃だった。 そんなこともあってか、「ケンカが強くなった」などと評される岸田首相、12月の新聞各紙の世論調査を見ると、支持率は一部微減はあったものの、おおむね上昇傾向を示した。
12月に開かれた臨時国会予算委員会でのやりとりをみると、前任者とは打って変わった丁寧な答弁ぶり。野党議員の質問に対しても、北京五輪開会式への自らの出席見送りを明言するなどのサービスぶりだった。 コロナ対策での18歳以下への給付金をめぐって方針変更せざるを得なかった不手際に拘わらず、人気が上昇した背景にはこうした誠実に映る態度も影響したのかもしれない』、有権者は「誠実に映る態度」にいつまで騙されるのだろう。
・『「新しい資本主義」国民の心つかむか しかし、「聞く力」「丁寧な説明」だけで人気は続かない。重要政策課題はコロナ対策だけではなく、前向きな将来への展望、国家目標を国民に示さなければ国民の支持と信頼は得られない。 小泉純一郎政権の場合は「構造改革」であり、安倍晋三元首相のそれは、「戦後レジームからの脱却」だった。いずれも国民の間で賛否は分かれたものの、基本理念を国民に示し、それなりに実行された政策だった。 理念、理想を掲げることのできない政治家は、国民の声望、支持を失う。「安倍政治の継承」を唱えるだけで、実現したい政策目標をもたなかった菅義偉前首相が典型的な例だろう。 総裁選、総選挙を通じて、岸田首相はさまざまな政策目標を掲げた。中でも「新しい資本主義」と「デジタル田園都市国家構想」が2枚看板だ。 前者は、過度な市場依存によって格差や貧困などの弊害を生んだ新自由主義を排し、経済の付加価値の創出を通じて成長を実現、分配を豊かにするーというのが基本理念だ(2021年12月6日、臨時国会での所信表明演説)。介護、保育などに従事している人たちの所得を引き上げ、賃上げ企業への補助拡大、労働者の学びなおし、ステップアップを図る――。 もちろん、それ自体重要なことだが、介護職などの所得増加にしても年間わずか11万円。通常の経済政策の枠内で実行可能な内容であり、「新しい資本主義」などというのは大風呂敷にすぎるというべきだろう。) 首相は、郷土の先輩であり、自らの派閥「宏池会」の創始者、故池田勇人首相(1960年~64年在任)の「所得倍増計画」を意識しているのかもしれない。所得倍増計画は、60年の日米安保条約改定をめぐって世論が分断され、暗くよどんだ国内の空気を一新するのが目的だった。 最初の東京五輪(64年)に向けて公共事業が増大、戦後の混乱収束による大量消費時代到来を敏感に読み取り、高度成長によって所得を倍増させるという遠大な計画だった。当時、流行語にもなって一世を風靡した「所得倍増」と、岸田首相の言う「新しい資本主義」は比べるべくもないだろう』、「所得倍増」と、「新しい資本主義」は比べるべくもない」、当然過ぎるほど当然だ。
・『近未来の構想示す「デジタル田園都市」 「専売特許」にするなら、むしろデジタル田園都市国家構想が時代にマッチするとは言えまいか。 4・4兆円を投入し、地域が抱える人口減少、高齢化、産業空洞化などを、デジタルの力を活用することで解決するという(2021年12月6日の所信表明演説)。海底ケーブルで日本を周回する「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」、大規模データセンターを建設、光ファイバー、5Gと組み合わせ、日本中どこにいても、自動配送、ドローン宅配、遠隔医療、教育、防災、リモートワーク、スマート農業などの実現を目指す。 東日本大震災復興の際、実現はしなかったものの、都道府県という単位を取り払って推進すべきだという構想を唱える向きがあった。18年9月の北海道胆振東部地震による大規模停電が起きた際には、東北電力から融通を受けてしのいだことがあり、広域行政の重要さが指摘された。 こうした経緯を考えれば、日本国内のどこにいても同じ条件、環境で仕事、生活ができるという近未来の夢を実現するほうが、国民の将来に幅広い選択肢を与えることになるだろう』、確かに「デジタル田園都市」は、一考に値する。
・『「台湾の平和」への具体的な行動は 外交での厄介な問題はいうまでもなく、「中国」、「台湾」だ。 22年2月4日の北京五輪開会式の〝外交ボイコット〟をどうするかが焦点になっていたが、政府は、閣僚派遣を見送ることを決めた。米国、英国、カナダ、豪州など主要国と足並みをそろえたが、中国の反発を考えれば、首相にとっては厳しい判断だったろう。 台湾問題では、日本の具体的な行動が焦点となる。 20年4月、当時の菅首相が訪米してバイデン大統領と会談した際の共同声明に「台湾海峡の平和の重要性を強調する」との一節が盛り込まれた。台湾有事で日本が危機にさらされた場合、日本はどういう行動をとるのか。 「台湾」が日米共同声明に盛り込まれたのは1969年11月の佐藤栄作首相とニクソン大統領(いずれも当時)の会談以来だ。当時の日本の国力を考えれば、日本は〝お題目〟として述べておけばよかったが、日本の存在が飛躍的に増大した今、それは通らない。 集団的自衛権の行使が容認され、重要影響事態、存立危機事態と認定すれば米軍への支援も可能となる。台湾をめぐる情勢が緊迫の度を加えているなかで、日本政府は近い将来、集団的自衛権の行使を念頭に置いた決定を迫られるかもしれない。 一方で、日中国交正常化50年という節目に当たって、日本としては、対中関係を悪化させることは避けたいところだ。) 延期になったままの習近平国家主席の来日日程も決まらない中で、一方的に米国に強硬政策に与するのは決して得策ではない。とはいうものの、独自の対応を取れば米国の失望を招き、日米関係はぎくしゃくする。国内の対中強硬派の反発も買う。 2022年の対中政策は岸田政権の外交政策の成否を占う重要な問題になる』、「2022年の対中政策は岸田政権の外交政策の成否を占う重要な問題になる」、その通りだ。
・『首相脅かす党内対立 こうした重要な政策課題に岸田首相は全力を傾注できる政治的な環境は整っているのか。 できないとなれば、政権運営に支障が生じるが、そうした事態に陥る懸念がある。首相と距離を置く党内の動きだ。強力な政権基盤を欠く岸田政権の不安定さを象徴する悩みでもあろう。 安倍一強の前々内閣、総裁選で各派が競って菅氏を支持した前内閣と岸田政権は大きく異なる。 総裁選の決選投票で岸田氏が河野太郎氏を大きく引き離したのは、安倍元首相が支持した高市早苗氏の票が回ったためだ。党役員人事、組閣で、高市氏を政調会長に、官房長官に安倍氏側近の松野博一氏を起用するなど安倍氏へ配慮せざるを得なかった。 その高市氏は現職の政調会長であるにもかかわらず、テレビ番組に出演した際、ポスト岸田を目指すのかと聞かれ、「もちろんだ」と即座に答えた。「いまは岸田首相を支える」と強調はしたが、現職党役員でありながら、次期首相の座への野心を公言することへの疑問も少なくなかろう。 高市氏は、中国念頭の人権侵害非難決議をさきの臨時国会で採択するよう茂木敏充幹事長に要請、拒否されると「悔しい」と憤慨して見せた。あたかも〝政敵〟のような発言を弄し、政権の手足を縛るような高市氏に、岸田氏が信頼を寄せるなどできぬ相談だろう。 政権にとって、もうひとつの不安要素は、「維新の会」の存在だ。 馬場伸幸共同代表が臨時国会の代表質問で、18歳以下への給付金問題、文書交通費の見直し問題をめぐって岸田首相を激しく批判。補正予算案にも反対した。 維新が補正予算案に反対したのは大阪維新の会時代のへ16年以来という。維新は安倍、菅両氏とは良好な関係を保ってきたが、岸田政権になってからは、対決色を強めている。岸田氏によって退場を余儀なくされた菅氏と良好な関係にある維新の方針転換は、現政権にとってこれまた大きな脅威だ。 岸田氏に敗れながら、総選挙で応援に引っ張りだこで今も国民の人気が高い河野太郎氏の動きも要警戒だろう。その河野氏を総裁選で支持した菅前首相、石破茂元幹事長、二階派の武田良太前総務相らが12月22日に会合を開いたと報じられ、非主流派結束の印象を与えた。) 5年にわたる長期政権を築いた故中曽根康弘首相は、金脈スキャンダルで失脚した田中角栄元首相の後押しで総理・総裁に就任した。当初は人事でもその影響力を無視できず、〝田中曽根内閣〟などと揶揄されたが、田中氏が病に倒れ影響力を失うに至って、初めて〝自前〟の政権を作り上げることが可能になった。 岸田氏も、政策遂行に加え政権基盤の強化、党内掌握に多くのエネルギーを費やさなければならないかもしれない』、「岸田氏も、政策遂行に加え政権基盤の強化、党内掌握」、にはまだ多くの課題があるようだ。
・『気になるスキャンダルの影 もうひとつ、船出から間もない岸田政権で気になるのは、スキャンダルの影だ。 林芳正外相が参院から衆院に鞍替えするにあたって、山口県副知事が県職員に後援会入会を勧誘、公選法違反の罪で略式起訴され、辞職した。略式起訴ではなく正式起訴されてもおかしくない悪質なケースだ。林氏は陳謝、自らの関与は否定したが、二階派の長老、川村建夫元官房長官を押しのけて出馬だっただけに反発が強まる可能性がある。 落選した石原伸晃氏を内閣官房参与に起用したのはいいが、同氏が代表を務める自民党支部がコロナ禍での困窮事業者向けの雇用調整助成金の給付を受けていたことがわかり辞任に追い込まれた。大岡敏孝環境副大臣も同様の問題があるにもかかわらず、同氏は職にとどまっている。 スキャンダルが続けば、同様の問題が相次ぎ、参院選で敗北して退陣に追い込まれた第一次安倍政権の二の舞にならぬとは言い切れまい。 それやこれやを考えると、参院選を乗り切るのはそう簡単ではない。長期政権への「坦々たる大路」など、まだまだ霞のかなたというべきだろう。岸田氏とっては、「めでたさも中くらい」の正月かもしれない』、「岸田氏とっては、「めでたさも中くらい」の正月かもしれない」、絶妙な表現だ。
タグ:WEDGE Infinity「2021年回顧と2022年展望」「2022年の焦点はシリアのアラブ復帰 揺れ動く対イラン関係 2021年回顧と2022年展望(中東情勢)佐々木伸 (星槎大学大学院教授) 有権者は「誠実に映る態度」にいつまで騙されるのだろう。 WEDGE Infinity「2021年回顧と2022年展望:岸田長期政権の〝視界ゼロ〟党内対立が政策妨げる恐れも 2021年回顧と2022年展望(国内政治)樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)」 「出稼ぎ農民をいかに居着かせないかに苦心していた時代から一転、いかに若い働き手を引きつけるかへと地方政府の関心は移りつつある」、「巨大市場・中国が労働力の獲得競争に参戦してきたならば……日本に与える影響は甚大だ。燃料や食糧で繰り返されてきた〝買い負け〟が労働力でも繰り返されないよう、注意する必要がある」、同感だ。 「新型コロナウイルス対策によって人の移動が厳しく規制され、居住者管理が強化されているなかでも多くの違法労働者がいる」、なるほど。 「人口」を人為的にコントロールできるとの妄想にいつまで浸りきっているのだろうか。 「2010年代後半に入ると、ついに中国でも労働力不足が表面化」、ようやく他国並みの経済になったということだ。 どういうことなのだろう。 2021年の回顧 (その1)(2021年回顧と2022年展望:(中東情勢):2022年の焦点はシリアのアラブ復帰 揺れ動く対イラン関係、中国でも起きる人手不足 〝移民開放〟は起きるのか、(中国):中国でも起きる人手不足 〝移民開放〟は起きるのか、(国内政治):岸田長期政権の〝視界ゼロ〟党内対立が政策妨げる恐れも) 「2年間」で「イスラエル単独」でも「イラン攻撃」が可能になるというのも、考えてみれば恐ろしい。 「サルマン皇太子」は「ジャーナリスト殺害事件」にも関らず、実権を握り続けているようだ。 「避妊と中絶の規制」をしたところで、人口が想定通り増えると考えるのは甘い。 「シリア」を「泥棒国家」とは言い得て妙だ。 WEDGE Infinity 「2021年回顧と2022年展望:中国でも起きる人手不足 〝移民開放〟は起きるのか 2021年回顧と2022年展望(中国)高口康太 (ジャーナリスト)」 「所得倍増」と、「新しい資本主義」は比べるべくもない」、当然過ぎるほど当然だ。 確かに「デジタル田園都市」は、一考に値する。 「2022年の対中政策は岸田政権の外交政策の成否を占う重要な問題になる」、その通りだ。 「岸田氏も、政策遂行に加え政権基盤の強化、党内掌握」、にはまだ多くの課題があるようだ。 「岸田氏とっては、「めでたさも中くらい」の正月かもしれない」、絶妙な表現だ。
半導体産業(その6)(台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革 日本企業が学ぶべきこと、ソニー・TSMC合弁が 日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由) [産業動向]
半導体産業については、11月9日に取上げた。今日は、(その6)(台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革 日本企業が学ぶべきこと、ソニー・TSMC合弁が 日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由)である。
先ずは、12月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革、日本企業が学ぶべきこと」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/276561
・『今、世界の半導体業界で大規模な地殻変動が起きている。かつて世界トップの半導体メーカーだった米インテルがその地位を失い、今日のトップメーカーである台湾積体電路製造(TSMC)との協業を強化している。その姿勢に、わが国企業が学ぶべき点は多い』、興味深そうだ。
・『インテルは大胆に変革 TSMCとの協業を強化 今、世界の半導体業界で大規模な地殻変動が起きている。かつて世界トップの半導体メーカーだった米インテルがその地位を失い、今日のトップメーカーである台湾積体電路製造(TSMC)との協業を強化している。 インテルは最先端のロジック半導体事業ではTSMCと協業を深め、最新のCPUの供給を加速度的に増やすはずだ。一方で、自社生産面でインテルは、車載半導体の生産体制を強化している。その一例が、子会社モービルアイのIPO(新規株式公開)計画を発表したことだ。 インテルは自前で設計・開発し、微細化(ロジック半導体などの回路線幅を小さくする製造技術)を進めて最新の生産体制を整える、「垂直統合」のビジネスモデルを急ピッチで見直している。その姿勢にわが国企業が学ぶべき点は多い。詳細は後述するが、過去の成功体験を捨て、大胆な事業運営体制の変革に挑んでいるのだ。 中長期的に考えると、最先端の半導体生産は、台湾への集中がより鮮明化するだろう。世界のIT先端企業によるTSMCの生産ライン争奪戦は激化するはずだ。一方、車載など汎用型半導体の競争も激化し、世界の半導体業界の地殻変動が加速する。わが国企業はそうした展開にどう対応するか、方針を決断しなければならない』、「インテルは・・・「垂直統合」のビジネスモデルを急ピッチで見直している」、「その姿勢にわが国企業が学ぶべき点は多い」、その通りだ。
・『過去の成功体験を捨て TSMCとの連携を重視するインテル インテルにとって、TSMCは競争上のライバルから、「成長を目指すためのパートナー」に変わり始めた。2021年に入り、インテルは最先端の5ナノメートルの製品をTSMCから調達し始めた。さらにインテルが、TSMCが量産を目指す次世代(3ナノ)の生産ラインの「大部分を確保した」という観測も浮上している。両社の協業関係は、一層強化され始めていると見ていい。 インテルの設備投資戦略も変化し始めた。同社はパッケージングなど微細化とは異なる分野で設備投資を進めている。生産能力を強化するといっても、インテルは「TSMCとの棲(す)み分け」を念頭に置いている。 インテルはTSMCとの微細化競争に敗れたことを潔く認め、最先端のロジック半導体に関しては設計と開発に集中しようとしている。その意味は大きい。インテルはCPUなどすべての半導体の設計・開発・生産・販売を自社で完結する体制に、こだわらなくなっている。 つまり、これまでの発想にしがみついていると変化への対応が遅れて、より多くの顧客を失う可能性が高まることを理解し、過去の成功体験を捨てたのだ。 今後、自社で設計開発した最新のロジック半導体の生産のために、インテルはTSMCの最新の生産ラインを他社に先駆けて、より多く確保することを重視するだろう。それによってインテルはアップルやAMD、エヌビディアなどよりも高性能のチップをいち早く世界に供給できる。 それができれば、アップルやマイクロソフトなどがインテルからのチップ調達を再度重視する展開もあり得る。このように考えると今後、世界の半導体業界で競争が激化するのはファウンドリ分野よりも、ファブレスの分野である可能性が高まっている』、「自社で設計開発した最新のロジック半導体の生産のために、インテルはTSMCの最新の生産ラインを他社に先駆けて、より多く確保することを重視するだろう。それによってインテルはアップルやAMD、エヌビディアなどよりも高性能のチップをいち早く世界に供給できる」、「世界の半導体業界で競争が激化するのはファウンドリ分野よりも、ファブレスの分野である可能性が高まっている」、なるほど。
・『自社生産面では車載半導体を強化 モービルアイのIPO計画を発表 TSMCとの協業に加えて、自社生産面でインテルは車載半導体の生産能力を強化しようとしている。同社経営陣がTSMCに言及しつつ、車載半導体事業の強化を強調しているのは、社内に取り組むべき分野を明示するためだろう。 その象徴が、画像処理半導体の開発を行う子会社モービルアイのIPO計画を発表したことだ。最先端の製造技術を必要としない分野で、インテルはより効率的な事業運営体制の確立を急いでいる。 自動車産業では、解消の兆しは出ているものの、車載半導体の不足感が続く。さらに、自動車とネット空間の接続や自動運転技術、シェアリング、電動化を指す「CASE」の取り組みが急加速し、マイコンに加えてパワー半導体の需要が増える。また、車載半導体は28ナノなど、どちらかといえば汎用型の生産ラインを用いて生産される。そのため、最先端の製造技術を持たないルネサスエレクトロニクスなど、日欧の半導体メーカーが存在感を維持できたわけだ。 その点にインテルは勝機を見いだした。TSMCは次世代、次々世代の微細化など常に新しい半導体製造技術を確立して、利幅の厚いチップ生産に集中したい。ファウンドリ第2位のサムスン電子は、車載半導体の製造能力が十分ではない。 インテルは微細化に関してはTSMCとサムスン電子に遅れたが、10ナノレベルの生産能力を持つ。その生産能力を生かすことによって、日欧など既存の車載半導体メーカーよりもより効率的にインテルが車載半導体の生産を行い、ビジネスチャンスを手にすることは可能だ。 その判断に基づいてインテルは、アイルランドのCPU生産施設を車載半導体の製造に転用すると表明した。そのうえでモービルアイのIPOによって、まとまった資金を調達し、インテルはソフトウエア開発力と受託生産を含めた車載半導体の生産体制を強化する意向だ。となると結果的に、TSMCが汎用型の半導体生産に配分する経営資源を抑え、インテルがより多くのTSMCの最新生産ラインを確保する可能性がある』、「インテルはソフトウエア開発力と受託生産を含めた車載半導体の生産体制を強化する意向だ。となると結果的に、TSMCが汎用型の半導体生産に配分する経営資源を抑え、インテルがより多くのTSMCの最新生産ラインを確保する可能性がある」、「TSMC]を巧みに使う「インテル」恐るべしだ。
・『メタバースの実現に向けて 激しさ増す半導体業界の地殻変動 今後、インテルなど世界のIT先端企業は、TSMCとの協業を一段と強化しようとするだろう。その結果、最先端の半導体生産施設が台湾に集中するはずだ。それ以外の国と地域では、汎用型の生産ラインが増え、半導体メーカー間の競争は一段と激化するだろう。 TSMCの最先端の生産ラインをめぐる各国企業の争奪戦は、熾烈(しれつ)化するだろう。TSMCの生産ラインを確保する力が、インテルをはじめ世界のIT先端企業の事業運営に決定的な影響を与えるといっても過言ではない。足元では、メタバース(仮想空間)の実現に向けて、世界のIT企業が取り組みを強化している。例えばアップルは来年にも、ARヘッドセットの発表を目指している。 新しい機能の実現には、新しい半導体が欠かせない。需要の高まりによって、TSMCは生産価格を引き上げる。外注コストの増加を吸収して成長を実現するために、企業は新需要の創出を強化しなければならない。意思決定のスピードはおのずと速まり、国際分業も加速する。他方で、TSMCはこれまで以上に微細化やパッケージング技術の革新に取り組み、それがIT先端企業のさらなるイノベーション発揮を刺激するだろう。 その一方で、インテルのように汎用型の生産ラインを用いて、車載半導体などの生産能力強化に活路を見いだす半導体メーカーは増えるだろう。各社は、競合他社の買収、あるいは資産売却によって、事業運営の効率性を高める必要がある。それが出来ない半導体メーカーは、淘汰(とうた)されるだろう。 そうした環境変化に、わが国企業は対応しなければならない。過去の事業運営の経験を捨てることができなければ、わが国企業が半導体業界の地殻変動に対応することは一段と難しくなるだろう』、「インテルはCPUなどすべての半導体の設計・開発・生産・販売を自社で完結する体制に、こだわらなくなっている。 つまり、これまでの発想にしがみついていると変化への対応が遅れて、より多くの顧客を失う可能性が高まることを理解し、過去の成功体験を捨てたのだ」、日本企業も目を覚まし、現実を直視、自分の得意分野ぶ特化すべきだ。
次に、12月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「ソニー・TSMC合弁が、日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/291808
・『TMSCとソニーの合弁を日本政府が支援することの意義 半導体不足が深刻化し、電化製品だけでなく自動車など様々な産業の生産に影響が出始め、各国は半導体の確保競争に乗り出している。そうした中で、日本は熊本に世界最大の半導体製造企業TSMCを誘致することに成功し、ソニーグループとの合弁で22~28nmプロセスの工場を建設する。大半はTSMCの出資になる見込みだが、日本政府も6000億円規模の基金をつくり、その多くを新工場の補助に当てるといわれる。 TSMCは昨年にも、米国に5nmプロセスの最新の半導体工場を建設することを発表している。米国に最新プロセスの工場を作るのに対して、日本には10年前の技術、世代でいうと4~5世代古い22~28nmクラスの工場を作るということに対して懐疑的な意見もある。しかし筆者は、12月16日に放送されたNHK『クローズアップ現代+』で、この日本政府の決定は今までにない画期的な決断だと述べた。 TSMCが米国に作る工場の5nmプロセスの半導体と、日本に作る工場の22~28nmプロセスの半導体がどれほどの世代差かといえば、5nmプロセスが今年発表されたアップルのiPhone13に搭載されているA15Bionicチップに使われているのに対し、2013年に発売されたiPhone5sに搭載されたA7チップが28nmプロセスであったといわれる。 こう聞くと「今さら古い工場を作ってどうするのか」と思われるかもしれないが、製品開発はなんでもかんでも新しいものや高性能なものが良いという話ではない。製品は複数の部品やモジュールから成るシステムであるが、全体として製品コンセプトに合致するようにバランスの良い部品が選択され、調整されてひとつの製品になる。街乗りのコンパクトカーにF1のエンジンを積んだり、山手線に新幹線のモーターを積んだりするのがオーバースペックでバランスが悪くなるのと同じだ。 半導体と一口に言っても様々な種類があり、製品によって用途が異なる。半導体の種類については後述するが、22~28nmレベルのプロセスは、現在生産されている自動車や電化製品に多く用いられている半導体であり、今特に不足しているのがこの世代の半導体なのである。報道で報じられているように、自動車の生産が減産に追い込まれたり、家庭の給湯器や電化製品の製品が滞っていたりするというのは、この世代の半導体の不足によるものである。 一方米国では、民間でのAI技術の開発に加えて、軍事用途に多くの最新プロセスが必要とされるため、主に5nmプロセスの半導体を優先的に国内生産している。自動車や電化製品など民需用の半導体を必要としている日本では、22~28nmプロセスの半導体の生産を優先して調達しようとしているのに過ぎない。 そもそも半導体は、メモリと呼ばれる記憶素子とロジックと呼ばれる論理素子に大別できる。メモリはDRAMやフラッシュメモリーのようにデータを記憶するための半導体であり、かつて日本の半導体産業が得意であったのも特にこの領域である。 一方、ロジックICはシステムLSIとも呼ばれ、CPUのように計算に用いられる半導体である。民生用であればPCに用いられるCPUやスマホのチップセット、家電製品などの制御などに使われる半導体として使用される。日本もかつてテレビ、ビデオ、FAXなど当時のハイテク製品が輸出産業の花形であったときには、自社のハイテク製品向けにこうしたシステムLSIの生産を行い、世界規模の半導体生産拠点となっていた。こうした自社向けに開発した半導体を自社で消費する形態をIDM(垂直統合型製造企業)という。 しかし、今日の主流は台湾のTSMCのような半導体製造に特化して、様々な企業の半導体をまとめて作る、ファブレス&ファウンドリという作り方が一般的になり、徐々に日本の半導体の競争力は下がり、今日の半導体の国内自給率は27%ほどに過ぎない』、「米国では、民間でのAI技術の開発に加えて、軍事用途に多くの最新プロセスが必要とされるため、主に5nmプロセスの半導体を優先的に国内生産している」、「今日の主流は台湾のTSMCのような半導体製造に特化して、様々な企業の半導体をまとめて作る、ファブレス&ファウンドリという作り方が一般的になり、徐々に日本の半導体の競争力は下がり、今日の半導体の国内自給率は27%ほどに過ぎない」、日本メーカーは時代の波に取り残されたようだ。
・『今不足して求められているのは収益率が悪い古い半導体 なぜ日本の半導体産業が衰退したのかを論じる前に、なぜ22~28nmプロセスの不足が問題なのかといえば、それは古い半導体製品であるため、利益率が低いという問題があるからだ。 現在の半導体不足によって、PCやタブレット、スマホなどの製品にも一部供給不足が起きているが、これらは最新スペックのCPUやチップセットの不足というより、スマホなどの製品に使われる周辺の部品、たとえば液晶ディスプレイを制御する半導体や、周辺機器との通信を行う半導体など、それほど高性能ではない古い世代のプロセスで作られる半導体部品の不足によるものだ。新しいものだけあっても、製品を作ることができるわけではないということである。 しかし、いくら必要な部品だとしても古い技術の半導体は価格が安く収益性が悪い。しかも、たとえば22~28nmプロセスの工場の投資は主に10年前に行われているので、すでに減価償却が終わっており、仮に低価格で製品を販売しても作れば作るほど利益が出る構造になっている。よって、このプロセスの半導体製品は価格が低く、新規参入のメリットが少ないので、半導体不足にかかわらず増産しようとする企業がなかなか現れなかったのである』、なるほど。
・『10年も前の技術に投資するという大胆な意識の変革 そこで、今回の熊本の新工場である。冒頭で日本政府の支援がなぜ画期的かというと、理由は2つある。 1つは、それが外資との共同プロジェクトであることである。産業再生機構の活動などを含めて日本のこれまでのハイテク産業支援は、主に日の丸半導体、日の丸液晶など、国内企業の弱った企業同士の再編、意地悪な言い方をすれば、弱者連合への支援であった。 しかし今回は、世界最大の半導体製造企業であるTSMCと、世界最大のCMOSセンサー(撮像素子)メーカーのソニーの協業という、国際的なプロジェクトへの支援である。かつて液晶パネル分野で、ソニーが当時の最大手メーカーだったサムスン電子とS-LCDの合弁事業を始めたときに経済産業省から批判を受けたことを考えれば、隔世の感がある。 もう1つ、さらに重要なのは、今回の投資が最新技術への投資ではないことである。常に新しいものを作り、今のビジネスで失敗をしたら常に「次の技術で頑張ります」としか言ってこなかった日本のエレクトロニクス産業と、それを支援する行政が、10年も前の技術に投資をしようというのだから、ここには大きな意識の変革を感じる。 熊本のTSMCとソニーの新工場の建設は8000億円規模といわれ、その大半をTSMCが出資すると言われるが、10年前に生産を開始した同世代の半導体工場がすでに減価償却を終えていることを考えると、それだけでは同レベルの競争力を持つことができるとは思えない。そこで、6000億円規模と言われる日本政府の支援である。 これだけの支援が政府から民間企業に行われれば、すでに減価償却を終えた海外の22~28nmプロセスの工場と同じ価格で競争することも不可能ではない。言い換えれば、10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなものである。 これまでの日本政府の支援は、何を作るか、どのような新しい技術を開発するかに対する支援が中心であり、どのように作り、どのように世界で戦うためかを重視した支援ではなかった。これは政府だけでなく、日本のエレクトロニクス産業全体の問題である。) 日本企業にはとかく、「新しい技術で良いものさえ作ればいつか消費者は分かってくれる」という甘えがあり、新しい技術や製品を作っても作りっぱなしにして、すぐに次の開発プロジェクトに移行していた。そうした中で、韓国、台湾、中国の競合メーカーは、日本が注力しないすでに確立した技術をいかに安定的に大量に安価に生産し、世界との競争で勝ち抜くかを考えて、生産技術を磨いてきた』、「すでに減価償却を終えた海外の22~28nmプロセスの工場と同じ価格で競争」できるようにするため、「10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなもの」、ずいぶん思い切ったことをしたものだ。
・『新しい技術は日本という研究所に任せておけばいい 筆者は15年ほど前、ある台湾の液晶パネルメーカーの役員に、疑問をぶつけたことがある。同社が持つ特許を見ると、当時日本の液晶パネルメーカーが開発していたような最新世代の液晶の生産に乗り出すこともできたはずであったが、その台湾メーカーは常に日本のメーカーのひとつ前の世代の生産設備にしか投資しないのだ。そこで、「なぜ台湾メーカーは最新のパネルの開発や生産をしないのか?そのほうが世界でトップクラスの技術を誇ることができるのではないか?」と尋ねると、笑いながらこう答えてくれた。 最新のプロセスには不確実性が伴い歩留まりも悪く、顧客に対して約束した数量のパネルが供給できないかもしれないですし、なによりも儲かりません。最新の技術は黙っていても日本メーカーがやってくれて、問題点の洗い出しもしてくれます。我々はそれを待って技術が安定したところに、生産技術と設備に大きく投資をして、収益を獲得するのです。新しいことは日本という研究所に任せておけばいいのです」 この言葉はかつて、パナソニックの松下幸之助氏が言っていた「我々には東京にソニーという研究所がある」というものに似ている。日本は常に最新の技術を追いかけ、東アジアの他のメーカーが技術的に遅れていると見下してきた。メディアも「技術流出の恐れがある」と諸外国を下に見てきた。しかし、手のひらで踊らされていたのはむしろ日本の方なのかもしれない。 日本の半導体産業の衰退は、ここに原因がある。新技術に取り組み差別化を図るのは良い。しかし、それだけでは勝てないのが今日のエレクトロニクス産業である。それを考えると、今回の日本政府の半導体支援は、市場のニーズに鑑みた現実的な施策ということが言えよう。 それでは、日本は古い世代の半導体技術のままでいいのか、といわれればそうではない。技術も進化するが、市場も進化する。今後の市場の進化とともに、必要とされる半導体プロセスにも変化が生じるであろう。しかし、それは技術の進化だけではなく、ビジネスの進化も同時に行う必要がある。 イノベーションとは「既存の、もしくは新しい技術、アイデア、仕組み、組織などの新しい組み合わせ」であって、「企業に経済的な収益をもたらすもの」と定義されている。そもそもイノベーションの概念を提示したシュンペーターは、労働と資本以外に企業の売り上げを増やすための要素として、イノベーションという概念を用いたのである。 しかし、日本では古くはイノベーションが技術革新と訳され、今日でも「新結合」のような、よく意味の分からない言葉で語られている感がある。その定義の前半部分「なにかあたらしいものさえ作ればなんとかなる」という概念が、誤解をされているようだ』、「今回の日本政府の半導体支援は、市場のニーズに鑑みた現実的な施策ということが言えよう」、と高く評価しているが、本当だろうか。
・『「価値創造」は得意だが「価値獲得」が苦手な日本 MITのスローンマネジメントスクールでは、このイノベーションの定義の前半を「価値創造(Value Creation)」と呼び、後半を「価値獲得(Value Capture)」と呼んで学生に教えている。大阪大学の延岡健太郎教授は、「日本は高い技術力によって価値創造が得意であるが、戦略を駆使して価値獲得をすることが苦手である」と指摘している。 「価値獲得」を行うために何が必要なのか。20世紀のエレクトロニクス産業は垂直統合的に技術を囲い込み、新たな技術が産み出した機能、性能の差が価値を産み出してきた。しかし、世の中は技術の変化のスピードが飛躍的に速くなり、製品は複雑なものになる一方であり、1つの会社や国の中だけで作ることはできなくなってきている。 むしろ先述の台湾企業のように、立ち止まる(Step back)ことでより多くの価値獲得を行う戦略で成功している企業もあり、ただ闇雲に最新の技術を追いかけるだけでは、価値創造はできても価値獲得ができないままになってしまうであろう。 考えるまでもなく、太陽光パネル、フラッシュメモリー、液晶パネル、プラズマパネル、そしてリチウムイオン電池など、多くの技術が日本発の技術であり、ノーベル賞学者まで輩出した日本の価値創造の成果である。しかし、これらの日本企業がしっかり価値獲得をできていたであろうか。今挙げた製品は全て日本が開発し、他国の企業が大量に安定的に安価に生産をすることで、他国企業の価値獲得に繋がってしまった製品たちである。 だからこそ、今回日本も22~28nmプロセスの半導体という技術にステップバックして、今しっかり日本の自動車産業や電化製品事業を支える価値獲得に貢献することが重要なのである。これは、「失敗したら、何か次の新しい技術課題に取り組めば、いつかはなんとかなるだろう」という、日本の幻想的な負けパターンから目を覚まし、日本の産業・企業が、技術以外の戦略的な能力を高めるためのリハビリのプロセスとも言える。そのために必要な投資であり、今回の日本政府の支援はこれまでになく、日本の産業の育成に貢献するのではないか』、「今挙げた製品は全て日本が開発し、他国の企業が大量に安定的に安価に生産をすることで、他国企業の価値獲得に繋がってしまった製品たちである。 だからこそ、今回日本も22~28nmプロセスの半導体という技術にステップバックして、今しっかり日本の自動車産業や電化製品事業を支える価値獲得に貢献することが重要なのである」、「他国企業の価値獲得に繋がってしまった」、のは悪いようなイメージで主張しているが、それが貿易の役割の筈だ。「価値創造」と「価値獲得」が概念だけなので、分かり難い。簡単な数値例でもあれば、分かり易いのだが・・・。
・『GAFAが持っていない日本が得意とするハードウエア技術 話を今後の技術のアップデートに戻すと、日本の22~28nmプロセスの工場誘致は、今必要な価値獲得のための戦略である。今後、日本がより高度な半導体生産に乗り出さなくてよいかといえば、そうではない。しかし、いきなり5nmで米国と張り合うことも意味はない。もう少し具体的にいえば、日本はGAFAに追い付き、追い越そうとする必要はないのかもしれない。これからは自動運転技術などで、AI技術が重要になる。そのためには、最先端の半導体プロセスが必要になることは明らかである。 しかし、米国には軍事産業という最先端技術に莫大な投資をできる産業があり、潤沢な資金を基に莫大な研究開発と設備投資を行った技術を民間転用して、GAFAのような民需企業が活用することができる。防衛予算が抑制的な日本で、同じビジネスモデルを行うことはできない。 ビジネスは精神論だけでは戦えない。それは第二次世界大戦で日本が負けたのと同じパターンだ。世の中はこれまでのように、各国の企業がクローズドに、垂直統合的に技術を囲い込んで製品を開発する時代ではない。日米のIT産業、エレクトロニクス産業、あるいは自動車産業も、張り合いながらも協調することができるし、そうしたオープンな環境でのイノベーションが不可欠だ。 戦略の基本は、競争相手がいない市場で自身の強みが生かせることである。GAFAを代表とするIT企業が今後、自動車のAIなどの技術で先に進んだとしても、彼らにも持っていないものがある。それはハードウエアだ。 1980年代に最も激しかった日米貿易摩擦を経て、米国はそれまでの主力産業であった自動車、エレクトロニクスという製造業から、サービスやソフトウエアに産業の主軸を移している。しかし依然として、サービスやソフトウエアを実装するハードウエアは必要である。アップルが自動車を作りたくても、アップルだけでハードウエアを作ることはできない。そもそも、アップルはPCやスマートフォンですら、ハードウエアは自社で生産しておらず、台湾企業の中国工場で作っている。) AI技術が進めば、IT技術は今まで以上に企業や家庭の中に入り込み、個人情報などの機微情報を取り扱うことになる。そうしたときに、AI技術が米国のように機微情報を安心して任せるに足り得る国の産業や企業で開発されたとしても、それらのサービスやソフトウエアを実装するハードウエアも、信頼に足りる国や企業で生産されるのであろうか。 今日の米国企業のIoT機器の多くは、中国で生産されている。しかし、中国は2017年に施行された国家情報法によって、中国政府の情報工作については企業、市民に協力義務があることを規定している。2021年に施行された個人情報保護法は、個人の機微情報の取り扱いをかなり厳格に取り決めた法律ではあるが、個人情報の域外持ち出しに大きな制限があり、国際的な情報の運用に関しては国家が厳格に管理することができる』、「中国」の「国家情報法」が頼みの綱のようだ。
・『自由主義経済のネットワークで日の丸電機が再び輝けるチャンス 民間企業に他意はないとしても、こうした個人情報に対する国家の管理が厳しい国で、企業や個人の機微情報を扱うハードを作ることに、不安はないのであろうか。むしろ、この状況は日本にとってはチャンスではないだろうか。 いやまスマホだけでなく、ゲーム機、テレビ、家電製品などにもIoTやAIの技術は入り込み、やろうと思えば家庭の中のあらゆる情報を、これらの機器から抜き出すことも技術的には不可能ではない。そうしたときに、米国のパートナーとして、自由経済と民主主義の理念を70年以上共有してきた日本の製造業こそが、IoT機器やAI機器、自動運転自動車などの機微情報を扱う製品を、世界に安心して供給できるのではないだろうか。 ただ闇雲に最新の半導体技術を追いかけるのは、前世紀の技術戦略である。今日求められるのは、企業や家庭に入り込み個人の機微情報を取り扱う、エレクトロニクス製品や自動車を安心して使える信頼あるメーカーがつくることの重要性を、日本の最大のセールスポイントとして、官民が一致して世界に売り込むことである。 その中で、日本、米国、台湾という自由経済と民主主義を堅持する国家や地域とのネットワークの中で、オープンな環境のイノベーションに資する技術を提供し、製品を作っていくことが、日本の価値の最大化に最も貢献するのではないだろうか。そうした視点で、米国や台湾と役割分担をしながら、日本にしかできない、AIを実装するハードウエアに必要な半導体の国内自給率を上げていく戦略を描いていくことが、求められるのではないだろうか』、ドイツなどの欧州企業も中国に食い込んでおり、強力なライバルだ。
先ずは、12月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革、日本企業が学ぶべきこと」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/276561
・『今、世界の半導体業界で大規模な地殻変動が起きている。かつて世界トップの半導体メーカーだった米インテルがその地位を失い、今日のトップメーカーである台湾積体電路製造(TSMC)との協業を強化している。その姿勢に、わが国企業が学ぶべき点は多い』、興味深そうだ。
・『インテルは大胆に変革 TSMCとの協業を強化 今、世界の半導体業界で大規模な地殻変動が起きている。かつて世界トップの半導体メーカーだった米インテルがその地位を失い、今日のトップメーカーである台湾積体電路製造(TSMC)との協業を強化している。 インテルは最先端のロジック半導体事業ではTSMCと協業を深め、最新のCPUの供給を加速度的に増やすはずだ。一方で、自社生産面でインテルは、車載半導体の生産体制を強化している。その一例が、子会社モービルアイのIPO(新規株式公開)計画を発表したことだ。 インテルは自前で設計・開発し、微細化(ロジック半導体などの回路線幅を小さくする製造技術)を進めて最新の生産体制を整える、「垂直統合」のビジネスモデルを急ピッチで見直している。その姿勢にわが国企業が学ぶべき点は多い。詳細は後述するが、過去の成功体験を捨て、大胆な事業運営体制の変革に挑んでいるのだ。 中長期的に考えると、最先端の半導体生産は、台湾への集中がより鮮明化するだろう。世界のIT先端企業によるTSMCの生産ライン争奪戦は激化するはずだ。一方、車載など汎用型半導体の競争も激化し、世界の半導体業界の地殻変動が加速する。わが国企業はそうした展開にどう対応するか、方針を決断しなければならない』、「インテルは・・・「垂直統合」のビジネスモデルを急ピッチで見直している」、「その姿勢にわが国企業が学ぶべき点は多い」、その通りだ。
・『過去の成功体験を捨て TSMCとの連携を重視するインテル インテルにとって、TSMCは競争上のライバルから、「成長を目指すためのパートナー」に変わり始めた。2021年に入り、インテルは最先端の5ナノメートルの製品をTSMCから調達し始めた。さらにインテルが、TSMCが量産を目指す次世代(3ナノ)の生産ラインの「大部分を確保した」という観測も浮上している。両社の協業関係は、一層強化され始めていると見ていい。 インテルの設備投資戦略も変化し始めた。同社はパッケージングなど微細化とは異なる分野で設備投資を進めている。生産能力を強化するといっても、インテルは「TSMCとの棲(す)み分け」を念頭に置いている。 インテルはTSMCとの微細化競争に敗れたことを潔く認め、最先端のロジック半導体に関しては設計と開発に集中しようとしている。その意味は大きい。インテルはCPUなどすべての半導体の設計・開発・生産・販売を自社で完結する体制に、こだわらなくなっている。 つまり、これまでの発想にしがみついていると変化への対応が遅れて、より多くの顧客を失う可能性が高まることを理解し、過去の成功体験を捨てたのだ。 今後、自社で設計開発した最新のロジック半導体の生産のために、インテルはTSMCの最新の生産ラインを他社に先駆けて、より多く確保することを重視するだろう。それによってインテルはアップルやAMD、エヌビディアなどよりも高性能のチップをいち早く世界に供給できる。 それができれば、アップルやマイクロソフトなどがインテルからのチップ調達を再度重視する展開もあり得る。このように考えると今後、世界の半導体業界で競争が激化するのはファウンドリ分野よりも、ファブレスの分野である可能性が高まっている』、「自社で設計開発した最新のロジック半導体の生産のために、インテルはTSMCの最新の生産ラインを他社に先駆けて、より多く確保することを重視するだろう。それによってインテルはアップルやAMD、エヌビディアなどよりも高性能のチップをいち早く世界に供給できる」、「世界の半導体業界で競争が激化するのはファウンドリ分野よりも、ファブレスの分野である可能性が高まっている」、なるほど。
・『自社生産面では車載半導体を強化 モービルアイのIPO計画を発表 TSMCとの協業に加えて、自社生産面でインテルは車載半導体の生産能力を強化しようとしている。同社経営陣がTSMCに言及しつつ、車載半導体事業の強化を強調しているのは、社内に取り組むべき分野を明示するためだろう。 その象徴が、画像処理半導体の開発を行う子会社モービルアイのIPO計画を発表したことだ。最先端の製造技術を必要としない分野で、インテルはより効率的な事業運営体制の確立を急いでいる。 自動車産業では、解消の兆しは出ているものの、車載半導体の不足感が続く。さらに、自動車とネット空間の接続や自動運転技術、シェアリング、電動化を指す「CASE」の取り組みが急加速し、マイコンに加えてパワー半導体の需要が増える。また、車載半導体は28ナノなど、どちらかといえば汎用型の生産ラインを用いて生産される。そのため、最先端の製造技術を持たないルネサスエレクトロニクスなど、日欧の半導体メーカーが存在感を維持できたわけだ。 その点にインテルは勝機を見いだした。TSMCは次世代、次々世代の微細化など常に新しい半導体製造技術を確立して、利幅の厚いチップ生産に集中したい。ファウンドリ第2位のサムスン電子は、車載半導体の製造能力が十分ではない。 インテルは微細化に関してはTSMCとサムスン電子に遅れたが、10ナノレベルの生産能力を持つ。その生産能力を生かすことによって、日欧など既存の車載半導体メーカーよりもより効率的にインテルが車載半導体の生産を行い、ビジネスチャンスを手にすることは可能だ。 その判断に基づいてインテルは、アイルランドのCPU生産施設を車載半導体の製造に転用すると表明した。そのうえでモービルアイのIPOによって、まとまった資金を調達し、インテルはソフトウエア開発力と受託生産を含めた車載半導体の生産体制を強化する意向だ。となると結果的に、TSMCが汎用型の半導体生産に配分する経営資源を抑え、インテルがより多くのTSMCの最新生産ラインを確保する可能性がある』、「インテルはソフトウエア開発力と受託生産を含めた車載半導体の生産体制を強化する意向だ。となると結果的に、TSMCが汎用型の半導体生産に配分する経営資源を抑え、インテルがより多くのTSMCの最新生産ラインを確保する可能性がある」、「TSMC]を巧みに使う「インテル」恐るべしだ。
・『メタバースの実現に向けて 激しさ増す半導体業界の地殻変動 今後、インテルなど世界のIT先端企業は、TSMCとの協業を一段と強化しようとするだろう。その結果、最先端の半導体生産施設が台湾に集中するはずだ。それ以外の国と地域では、汎用型の生産ラインが増え、半導体メーカー間の競争は一段と激化するだろう。 TSMCの最先端の生産ラインをめぐる各国企業の争奪戦は、熾烈(しれつ)化するだろう。TSMCの生産ラインを確保する力が、インテルをはじめ世界のIT先端企業の事業運営に決定的な影響を与えるといっても過言ではない。足元では、メタバース(仮想空間)の実現に向けて、世界のIT企業が取り組みを強化している。例えばアップルは来年にも、ARヘッドセットの発表を目指している。 新しい機能の実現には、新しい半導体が欠かせない。需要の高まりによって、TSMCは生産価格を引き上げる。外注コストの増加を吸収して成長を実現するために、企業は新需要の創出を強化しなければならない。意思決定のスピードはおのずと速まり、国際分業も加速する。他方で、TSMCはこれまで以上に微細化やパッケージング技術の革新に取り組み、それがIT先端企業のさらなるイノベーション発揮を刺激するだろう。 その一方で、インテルのように汎用型の生産ラインを用いて、車載半導体などの生産能力強化に活路を見いだす半導体メーカーは増えるだろう。各社は、競合他社の買収、あるいは資産売却によって、事業運営の効率性を高める必要がある。それが出来ない半導体メーカーは、淘汰(とうた)されるだろう。 そうした環境変化に、わが国企業は対応しなければならない。過去の事業運営の経験を捨てることができなければ、わが国企業が半導体業界の地殻変動に対応することは一段と難しくなるだろう』、「インテルはCPUなどすべての半導体の設計・開発・生産・販売を自社で完結する体制に、こだわらなくなっている。 つまり、これまでの発想にしがみついていると変化への対応が遅れて、より多くの顧客を失う可能性が高まることを理解し、過去の成功体験を捨てたのだ」、日本企業も目を覚まし、現実を直視、自分の得意分野ぶ特化すべきだ。
次に、12月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「ソニー・TSMC合弁が、日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/291808
・『TMSCとソニーの合弁を日本政府が支援することの意義 半導体不足が深刻化し、電化製品だけでなく自動車など様々な産業の生産に影響が出始め、各国は半導体の確保競争に乗り出している。そうした中で、日本は熊本に世界最大の半導体製造企業TSMCを誘致することに成功し、ソニーグループとの合弁で22~28nmプロセスの工場を建設する。大半はTSMCの出資になる見込みだが、日本政府も6000億円規模の基金をつくり、その多くを新工場の補助に当てるといわれる。 TSMCは昨年にも、米国に5nmプロセスの最新の半導体工場を建設することを発表している。米国に最新プロセスの工場を作るのに対して、日本には10年前の技術、世代でいうと4~5世代古い22~28nmクラスの工場を作るということに対して懐疑的な意見もある。しかし筆者は、12月16日に放送されたNHK『クローズアップ現代+』で、この日本政府の決定は今までにない画期的な決断だと述べた。 TSMCが米国に作る工場の5nmプロセスの半導体と、日本に作る工場の22~28nmプロセスの半導体がどれほどの世代差かといえば、5nmプロセスが今年発表されたアップルのiPhone13に搭載されているA15Bionicチップに使われているのに対し、2013年に発売されたiPhone5sに搭載されたA7チップが28nmプロセスであったといわれる。 こう聞くと「今さら古い工場を作ってどうするのか」と思われるかもしれないが、製品開発はなんでもかんでも新しいものや高性能なものが良いという話ではない。製品は複数の部品やモジュールから成るシステムであるが、全体として製品コンセプトに合致するようにバランスの良い部品が選択され、調整されてひとつの製品になる。街乗りのコンパクトカーにF1のエンジンを積んだり、山手線に新幹線のモーターを積んだりするのがオーバースペックでバランスが悪くなるのと同じだ。 半導体と一口に言っても様々な種類があり、製品によって用途が異なる。半導体の種類については後述するが、22~28nmレベルのプロセスは、現在生産されている自動車や電化製品に多く用いられている半導体であり、今特に不足しているのがこの世代の半導体なのである。報道で報じられているように、自動車の生産が減産に追い込まれたり、家庭の給湯器や電化製品の製品が滞っていたりするというのは、この世代の半導体の不足によるものである。 一方米国では、民間でのAI技術の開発に加えて、軍事用途に多くの最新プロセスが必要とされるため、主に5nmプロセスの半導体を優先的に国内生産している。自動車や電化製品など民需用の半導体を必要としている日本では、22~28nmプロセスの半導体の生産を優先して調達しようとしているのに過ぎない。 そもそも半導体は、メモリと呼ばれる記憶素子とロジックと呼ばれる論理素子に大別できる。メモリはDRAMやフラッシュメモリーのようにデータを記憶するための半導体であり、かつて日本の半導体産業が得意であったのも特にこの領域である。 一方、ロジックICはシステムLSIとも呼ばれ、CPUのように計算に用いられる半導体である。民生用であればPCに用いられるCPUやスマホのチップセット、家電製品などの制御などに使われる半導体として使用される。日本もかつてテレビ、ビデオ、FAXなど当時のハイテク製品が輸出産業の花形であったときには、自社のハイテク製品向けにこうしたシステムLSIの生産を行い、世界規模の半導体生産拠点となっていた。こうした自社向けに開発した半導体を自社で消費する形態をIDM(垂直統合型製造企業)という。 しかし、今日の主流は台湾のTSMCのような半導体製造に特化して、様々な企業の半導体をまとめて作る、ファブレス&ファウンドリという作り方が一般的になり、徐々に日本の半導体の競争力は下がり、今日の半導体の国内自給率は27%ほどに過ぎない』、「米国では、民間でのAI技術の開発に加えて、軍事用途に多くの最新プロセスが必要とされるため、主に5nmプロセスの半導体を優先的に国内生産している」、「今日の主流は台湾のTSMCのような半導体製造に特化して、様々な企業の半導体をまとめて作る、ファブレス&ファウンドリという作り方が一般的になり、徐々に日本の半導体の競争力は下がり、今日の半導体の国内自給率は27%ほどに過ぎない」、日本メーカーは時代の波に取り残されたようだ。
・『今不足して求められているのは収益率が悪い古い半導体 なぜ日本の半導体産業が衰退したのかを論じる前に、なぜ22~28nmプロセスの不足が問題なのかといえば、それは古い半導体製品であるため、利益率が低いという問題があるからだ。 現在の半導体不足によって、PCやタブレット、スマホなどの製品にも一部供給不足が起きているが、これらは最新スペックのCPUやチップセットの不足というより、スマホなどの製品に使われる周辺の部品、たとえば液晶ディスプレイを制御する半導体や、周辺機器との通信を行う半導体など、それほど高性能ではない古い世代のプロセスで作られる半導体部品の不足によるものだ。新しいものだけあっても、製品を作ることができるわけではないということである。 しかし、いくら必要な部品だとしても古い技術の半導体は価格が安く収益性が悪い。しかも、たとえば22~28nmプロセスの工場の投資は主に10年前に行われているので、すでに減価償却が終わっており、仮に低価格で製品を販売しても作れば作るほど利益が出る構造になっている。よって、このプロセスの半導体製品は価格が低く、新規参入のメリットが少ないので、半導体不足にかかわらず増産しようとする企業がなかなか現れなかったのである』、なるほど。
・『10年も前の技術に投資するという大胆な意識の変革 そこで、今回の熊本の新工場である。冒頭で日本政府の支援がなぜ画期的かというと、理由は2つある。 1つは、それが外資との共同プロジェクトであることである。産業再生機構の活動などを含めて日本のこれまでのハイテク産業支援は、主に日の丸半導体、日の丸液晶など、国内企業の弱った企業同士の再編、意地悪な言い方をすれば、弱者連合への支援であった。 しかし今回は、世界最大の半導体製造企業であるTSMCと、世界最大のCMOSセンサー(撮像素子)メーカーのソニーの協業という、国際的なプロジェクトへの支援である。かつて液晶パネル分野で、ソニーが当時の最大手メーカーだったサムスン電子とS-LCDの合弁事業を始めたときに経済産業省から批判を受けたことを考えれば、隔世の感がある。 もう1つ、さらに重要なのは、今回の投資が最新技術への投資ではないことである。常に新しいものを作り、今のビジネスで失敗をしたら常に「次の技術で頑張ります」としか言ってこなかった日本のエレクトロニクス産業と、それを支援する行政が、10年も前の技術に投資をしようというのだから、ここには大きな意識の変革を感じる。 熊本のTSMCとソニーの新工場の建設は8000億円規模といわれ、その大半をTSMCが出資すると言われるが、10年前に生産を開始した同世代の半導体工場がすでに減価償却を終えていることを考えると、それだけでは同レベルの競争力を持つことができるとは思えない。そこで、6000億円規模と言われる日本政府の支援である。 これだけの支援が政府から民間企業に行われれば、すでに減価償却を終えた海外の22~28nmプロセスの工場と同じ価格で競争することも不可能ではない。言い換えれば、10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなものである。 これまでの日本政府の支援は、何を作るか、どのような新しい技術を開発するかに対する支援が中心であり、どのように作り、どのように世界で戦うためかを重視した支援ではなかった。これは政府だけでなく、日本のエレクトロニクス産業全体の問題である。) 日本企業にはとかく、「新しい技術で良いものさえ作ればいつか消費者は分かってくれる」という甘えがあり、新しい技術や製品を作っても作りっぱなしにして、すぐに次の開発プロジェクトに移行していた。そうした中で、韓国、台湾、中国の競合メーカーは、日本が注力しないすでに確立した技術をいかに安定的に大量に安価に生産し、世界との競争で勝ち抜くかを考えて、生産技術を磨いてきた』、「すでに減価償却を終えた海外の22~28nmプロセスの工場と同じ価格で競争」できるようにするため、「10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなもの」、ずいぶん思い切ったことをしたものだ。
・『新しい技術は日本という研究所に任せておけばいい 筆者は15年ほど前、ある台湾の液晶パネルメーカーの役員に、疑問をぶつけたことがある。同社が持つ特許を見ると、当時日本の液晶パネルメーカーが開発していたような最新世代の液晶の生産に乗り出すこともできたはずであったが、その台湾メーカーは常に日本のメーカーのひとつ前の世代の生産設備にしか投資しないのだ。そこで、「なぜ台湾メーカーは最新のパネルの開発や生産をしないのか?そのほうが世界でトップクラスの技術を誇ることができるのではないか?」と尋ねると、笑いながらこう答えてくれた。 最新のプロセスには不確実性が伴い歩留まりも悪く、顧客に対して約束した数量のパネルが供給できないかもしれないですし、なによりも儲かりません。最新の技術は黙っていても日本メーカーがやってくれて、問題点の洗い出しもしてくれます。我々はそれを待って技術が安定したところに、生産技術と設備に大きく投資をして、収益を獲得するのです。新しいことは日本という研究所に任せておけばいいのです」 この言葉はかつて、パナソニックの松下幸之助氏が言っていた「我々には東京にソニーという研究所がある」というものに似ている。日本は常に最新の技術を追いかけ、東アジアの他のメーカーが技術的に遅れていると見下してきた。メディアも「技術流出の恐れがある」と諸外国を下に見てきた。しかし、手のひらで踊らされていたのはむしろ日本の方なのかもしれない。 日本の半導体産業の衰退は、ここに原因がある。新技術に取り組み差別化を図るのは良い。しかし、それだけでは勝てないのが今日のエレクトロニクス産業である。それを考えると、今回の日本政府の半導体支援は、市場のニーズに鑑みた現実的な施策ということが言えよう。 それでは、日本は古い世代の半導体技術のままでいいのか、といわれればそうではない。技術も進化するが、市場も進化する。今後の市場の進化とともに、必要とされる半導体プロセスにも変化が生じるであろう。しかし、それは技術の進化だけではなく、ビジネスの進化も同時に行う必要がある。 イノベーションとは「既存の、もしくは新しい技術、アイデア、仕組み、組織などの新しい組み合わせ」であって、「企業に経済的な収益をもたらすもの」と定義されている。そもそもイノベーションの概念を提示したシュンペーターは、労働と資本以外に企業の売り上げを増やすための要素として、イノベーションという概念を用いたのである。 しかし、日本では古くはイノベーションが技術革新と訳され、今日でも「新結合」のような、よく意味の分からない言葉で語られている感がある。その定義の前半部分「なにかあたらしいものさえ作ればなんとかなる」という概念が、誤解をされているようだ』、「今回の日本政府の半導体支援は、市場のニーズに鑑みた現実的な施策ということが言えよう」、と高く評価しているが、本当だろうか。
・『「価値創造」は得意だが「価値獲得」が苦手な日本 MITのスローンマネジメントスクールでは、このイノベーションの定義の前半を「価値創造(Value Creation)」と呼び、後半を「価値獲得(Value Capture)」と呼んで学生に教えている。大阪大学の延岡健太郎教授は、「日本は高い技術力によって価値創造が得意であるが、戦略を駆使して価値獲得をすることが苦手である」と指摘している。 「価値獲得」を行うために何が必要なのか。20世紀のエレクトロニクス産業は垂直統合的に技術を囲い込み、新たな技術が産み出した機能、性能の差が価値を産み出してきた。しかし、世の中は技術の変化のスピードが飛躍的に速くなり、製品は複雑なものになる一方であり、1つの会社や国の中だけで作ることはできなくなってきている。 むしろ先述の台湾企業のように、立ち止まる(Step back)ことでより多くの価値獲得を行う戦略で成功している企業もあり、ただ闇雲に最新の技術を追いかけるだけでは、価値創造はできても価値獲得ができないままになってしまうであろう。 考えるまでもなく、太陽光パネル、フラッシュメモリー、液晶パネル、プラズマパネル、そしてリチウムイオン電池など、多くの技術が日本発の技術であり、ノーベル賞学者まで輩出した日本の価値創造の成果である。しかし、これらの日本企業がしっかり価値獲得をできていたであろうか。今挙げた製品は全て日本が開発し、他国の企業が大量に安定的に安価に生産をすることで、他国企業の価値獲得に繋がってしまった製品たちである。 だからこそ、今回日本も22~28nmプロセスの半導体という技術にステップバックして、今しっかり日本の自動車産業や電化製品事業を支える価値獲得に貢献することが重要なのである。これは、「失敗したら、何か次の新しい技術課題に取り組めば、いつかはなんとかなるだろう」という、日本の幻想的な負けパターンから目を覚まし、日本の産業・企業が、技術以外の戦略的な能力を高めるためのリハビリのプロセスとも言える。そのために必要な投資であり、今回の日本政府の支援はこれまでになく、日本の産業の育成に貢献するのではないか』、「今挙げた製品は全て日本が開発し、他国の企業が大量に安定的に安価に生産をすることで、他国企業の価値獲得に繋がってしまった製品たちである。 だからこそ、今回日本も22~28nmプロセスの半導体という技術にステップバックして、今しっかり日本の自動車産業や電化製品事業を支える価値獲得に貢献することが重要なのである」、「他国企業の価値獲得に繋がってしまった」、のは悪いようなイメージで主張しているが、それが貿易の役割の筈だ。「価値創造」と「価値獲得」が概念だけなので、分かり難い。簡単な数値例でもあれば、分かり易いのだが・・・。
・『GAFAが持っていない日本が得意とするハードウエア技術 話を今後の技術のアップデートに戻すと、日本の22~28nmプロセスの工場誘致は、今必要な価値獲得のための戦略である。今後、日本がより高度な半導体生産に乗り出さなくてよいかといえば、そうではない。しかし、いきなり5nmで米国と張り合うことも意味はない。もう少し具体的にいえば、日本はGAFAに追い付き、追い越そうとする必要はないのかもしれない。これからは自動運転技術などで、AI技術が重要になる。そのためには、最先端の半導体プロセスが必要になることは明らかである。 しかし、米国には軍事産業という最先端技術に莫大な投資をできる産業があり、潤沢な資金を基に莫大な研究開発と設備投資を行った技術を民間転用して、GAFAのような民需企業が活用することができる。防衛予算が抑制的な日本で、同じビジネスモデルを行うことはできない。 ビジネスは精神論だけでは戦えない。それは第二次世界大戦で日本が負けたのと同じパターンだ。世の中はこれまでのように、各国の企業がクローズドに、垂直統合的に技術を囲い込んで製品を開発する時代ではない。日米のIT産業、エレクトロニクス産業、あるいは自動車産業も、張り合いながらも協調することができるし、そうしたオープンな環境でのイノベーションが不可欠だ。 戦略の基本は、競争相手がいない市場で自身の強みが生かせることである。GAFAを代表とするIT企業が今後、自動車のAIなどの技術で先に進んだとしても、彼らにも持っていないものがある。それはハードウエアだ。 1980年代に最も激しかった日米貿易摩擦を経て、米国はそれまでの主力産業であった自動車、エレクトロニクスという製造業から、サービスやソフトウエアに産業の主軸を移している。しかし依然として、サービスやソフトウエアを実装するハードウエアは必要である。アップルが自動車を作りたくても、アップルだけでハードウエアを作ることはできない。そもそも、アップルはPCやスマートフォンですら、ハードウエアは自社で生産しておらず、台湾企業の中国工場で作っている。) AI技術が進めば、IT技術は今まで以上に企業や家庭の中に入り込み、個人情報などの機微情報を取り扱うことになる。そうしたときに、AI技術が米国のように機微情報を安心して任せるに足り得る国の産業や企業で開発されたとしても、それらのサービスやソフトウエアを実装するハードウエアも、信頼に足りる国や企業で生産されるのであろうか。 今日の米国企業のIoT機器の多くは、中国で生産されている。しかし、中国は2017年に施行された国家情報法によって、中国政府の情報工作については企業、市民に協力義務があることを規定している。2021年に施行された個人情報保護法は、個人の機微情報の取り扱いをかなり厳格に取り決めた法律ではあるが、個人情報の域外持ち出しに大きな制限があり、国際的な情報の運用に関しては国家が厳格に管理することができる』、「中国」の「国家情報法」が頼みの綱のようだ。
・『自由主義経済のネットワークで日の丸電機が再び輝けるチャンス 民間企業に他意はないとしても、こうした個人情報に対する国家の管理が厳しい国で、企業や個人の機微情報を扱うハードを作ることに、不安はないのであろうか。むしろ、この状況は日本にとってはチャンスではないだろうか。 いやまスマホだけでなく、ゲーム機、テレビ、家電製品などにもIoTやAIの技術は入り込み、やろうと思えば家庭の中のあらゆる情報を、これらの機器から抜き出すことも技術的には不可能ではない。そうしたときに、米国のパートナーとして、自由経済と民主主義の理念を70年以上共有してきた日本の製造業こそが、IoT機器やAI機器、自動運転自動車などの機微情報を扱う製品を、世界に安心して供給できるのではないだろうか。 ただ闇雲に最新の半導体技術を追いかけるのは、前世紀の技術戦略である。今日求められるのは、企業や家庭に入り込み個人の機微情報を取り扱う、エレクトロニクス製品や自動車を安心して使える信頼あるメーカーがつくることの重要性を、日本の最大のセールスポイントとして、官民が一致して世界に売り込むことである。 その中で、日本、米国、台湾という自由経済と民主主義を堅持する国家や地域とのネットワークの中で、オープンな環境のイノベーションに資する技術を提供し、製品を作っていくことが、日本の価値の最大化に最も貢献するのではないだろうか。そうした視点で、米国や台湾と役割分担をしながら、日本にしかできない、AIを実装するハードウエアに必要な半導体の国内自給率を上げていく戦略を描いていくことが、求められるのではないだろうか』、ドイツなどの欧州企業も中国に食い込んでおり、強力なライバルだ。
タグ:真壁昭夫 ダイヤモンド・オンライン 「台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革、日本企業が学ぶべきこと」 「インテルは・・・「垂直統合」のビジネスモデルを急ピッチで見直している」、「その姿勢にわが国企業が学ぶべき点は多い」、その通りだ。 半導体産業 (その6)(台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革 日本企業が学ぶべきこと、ソニー・TSMC合弁が 日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由) 「自社で設計開発した最新のロジック半導体の生産のために、インテルはTSMCの最新の生産ラインを他社に先駆けて、より多く確保することを重視するだろう。それによってインテルはアップルやAMD、エヌビディアなどよりも高性能のチップをいち早く世界に供給できる」、「世界の半導体業界で競争が激化するのはファウンドリ分野よりも、ファブレスの分野である可能性が高まっている」、なるほど。 「インテルはソフトウエア開発力と受託生産を含めた車載半導体の生産体制を強化する意向だ。となると結果的に、TSMCが汎用型の半導体生産に配分する経営資源を抑え、インテルがより多くのTSMCの最新生産ラインを確保する可能性がある」、「TSMC]を巧みに使う「インテル」恐るべしだ。 「インテルはCPUなどすべての半導体の設計・開発・生産・販売を自社で完結する体制に、こだわらなくなっている。 つまり、これまでの発想にしがみついていると変化への対応が遅れて、より多くの顧客を失う可能性が高まることを理解し、過去の成功体験を捨てたのだ」、日本企業も目を覚まし、現実を直視、自分の得意分野ぶ特化すべきだ。 長内 厚 「ソニー・TSMC合弁が、日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由」 「米国では、民間でのAI技術の開発に加えて、軍事用途に多くの最新プロセスが必要とされるため、主に5nmプロセスの半導体を優先的に国内生産している」、「今日の主流は台湾のTSMCのような半導体製造に特化して、様々な企業の半導体をまとめて作る、ファブレス&ファウンドリという作り方が一般的になり、徐々に日本の半導体の競争力は下がり、今日の半導体の国内自給率は27%ほどに過ぎない」 日本メーカーは時代の波に取り残されたようだ。 「すでに減価償却を終えた海外の22~28nmプロセスの工場と同じ価格で競争」できるようにするため、「10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなもの」、ずいぶん思い切ったことをしたものだ。 「今回の日本政府の半導体支援は、市場のニーズに鑑みた現実的な施策ということが言えよう」、と高く評価しているが、本当だろうか。 「今挙げた製品は全て日本が開発し、他国の企業が大量に安定的に安価に生産をすることで、他国企業の価値獲得に繋がってしまった製品たちである。 だからこそ、今回日本も22~28nmプロセスの半導体という技術にステップバックして、今しっかり日本の自動車産業や電化製品事業を支える価値獲得に貢献することが重要なのである」 、「他国企業の価値獲得に繋がってしまった」、のは悪いようなイメージで主張しているが、それが貿易の役割の筈だ。「価値創造」と「価値獲得」が概念だけなので、分かり難い。簡単な数値例でもあれば、分かり易いのだが・・・。 「中国」の「国家情報法」が頼みの綱のようだ。 ドイツなどの欧州企業も中国に食い込んでおり、強力なライバルだ。
天皇制度(その3)(海外メディアが報じた「女性皇族」の過酷な現実 日本では女性はいまだに「二級市民」なのか、「世間」の名の下に小室批判続けるメディアの罪 緊急連載・社会学的皇室ウォッチング!/11=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉、皇室の安定的な存続に必要な発想とは?王位継承者5000人超の英国に学べ) [国内政治]
天皇制度については、10月11日に取上げた。今日は、(その3)(海外メディアが報じた「女性皇族」の過酷な現実 日本では女性はいまだに「二級市民」なのか、「世間」の名の下に小室批判続けるメディアの罪 緊急連載・社会学的皇室ウォッチング!/11、皇室の安定的な存続に必要な発想とは?王位継承者5000人超の英国に学べ)である。
先ずは、10月27日付け東洋経済オンラインが転載したThe New York Times「海外メディアが報じた「女性皇族」の過酷な現実 日本では女性はいまだに「二級市民」なのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/464681
・『日本で女性にとって最も厳しい場所は皇室である。 30年近く前、皇后美智子さま(当時)は明仁天皇(当時)の妻として至らないという世間からの批判を受け、話すことができなくなった。それから10年後、皇太子妃雅子さま(当時)は、跡継ぎとなる男子を生めないことをメディアに非難され、うつ病の治療に専念するために公務を休むことになった』、これまで「女性皇族」が受けてきた精神的重圧は、以下にもあるように本当に酷いものだ。
・『「自分は価値のない人間だと考えている」 今月初め、宮内庁は美智子上皇后の孫娘である眞子さんが、フォーダム大学ロースクール卒業生で26日に結婚した小室圭さんとの婚約について世間から厳しく反論されたことから、心的外傷後ストレス障害と診断されていたことを明らかにした。 会見で眞子さんを担当した精神科医は、「彼女は人としての尊厳が踏みにじられたと感じていた」とし、さらに「自分は価値のない人間だと考えている」と話した。 皇室に入った理由が結婚であれ出生であれ、日本の皇族の女性はメディアや世間だけでなく、彼らの日常生活を管理する宮内庁からも厳しいものさしで測られる。天皇と皇族が伝統的な日本の象徴であるなかで、今でも女性を型にはめるという保守的な風潮のある、日本国内に広がる男女格差を凝縮したものが皇族の女性にふりかかる。 皇族の女性は皇位につく資格を与えられないものの、彼女たちが受ける批判は、相続順位に近いことで守られている男性たちのそれよりも厳しいことがある。 「皇族としての任務を果たすだけでなく、美しさも保ち、結婚後は出産という目的を与えらえるのです」と立教大学の教授であり精神科医の香山リカ氏は話す。 また、「『いい母でいられていますか』とか、『義理のお母さまとの関係は良好ですか』『どのようにしてご主人を支えていますか』などと聞かれます。多くの仕事を抱え、それらを完璧にこなさなければならない。皇族の男性がこれほど見張られているとは思えません」と香山氏は付け加える。 直近の自民党総裁選で、2人の女性が首相の座を目指すなど、日本も少しずつ変わってきてはいる。また、一部の企業は女性の登用に会社全体で取り組んでいる。 だが、日本社会はまだ多くの意味で女性を二級市民として扱っている。夫婦別姓は法律で認められておらず、実際に多くの女性が夫の姓を名乗ることしかできない。そして企業の経営陣、国会、名門大学では、いまだに女性は少数派だ。 不平等な扱いに抵抗したり、男女平等の権利を訴える女性は、出しゃばり過ぎだと非難されることも多い。ソーシャルメディアで眞子さんが浴びた批判は、性的暴力や、職場でハイヒールを履かなくてはいけないという職場の決まりについて声を上げた女性たちに対するメディアの扱いを彷彿させる』、テレビのワイドショーもここぞとばかりに大問題であるかのように取上げた。
・『皇族は「時代を超越した存在」との見方 皇室の中で、女性は昔の価値観に従うことを期待される。 「皇族は時代を超越した存在であり、現代社会に属さないというような考えがあります」と話すのは、マイアミ大学の人文科学センター創始者兼ディレクターであり、君主制における女性に関する本を執筆してきた鈴木美穂子氏だ。伝統主義者というのは、「古くて馴染みのある、長く続く男女の役割を皇族に映したがるものだ」と彼女は指摘する。 第二次世界大戦後、アメリカに押し付けられた新憲法の下、天皇は神のような地位を失った。そして多くの意味で3代にわたる皇族の女性がそれから何十年における日本の進化を反映している。 戦争の歴史から日本が解き放たれ、美智子さまが過去何世紀のなかで初めて一般人として皇族と結婚した。子どもたちを皇室の侍従に預けず、自ら育てた。夫である明仁天皇とともに国内外を回り、災害の被害者や障害を持った人々には膝をついて話すなど、それまで遠い存在だった皇族に人間らしさをもたらした。 だが、皇居を改築したり、色々な洋服を着ると、メディアは批判した。宮内庁や美智子さまの義理の母親は、彼女には敬意が足りないと考えていたという噂も広がった。 1963年、結婚して4年目に胞状奇胎で人口流産をし、御用邸で2カ月以上過ごした美智子さまがノイローゼになったという憶測が広まった。それから30年後、極度のストレスにより声を失い、回復には数カ月を要した。 雅子さまは、ハーバード大学を卒業し、外交官として将来を期待されていた1993年に、徳仁皇太子(当時)と結婚。多くの論評者は、彼女が古臭い皇室の近代化を手助けし、日本の若いキャリアウーマンにとっての手本となることを期待した。 ところが、雅子さまの行動はすべて、子どもを授かることができるかどうかという視点で分析された。流産を経験した後、愛子さまを生んだが、男子の後継者を望む者たちはがっかりした。彼女の子宮を守りたい宮内庁は旅行に制限をかけ、結局公務も休むことになった。雅子さまは、「積み重なった心身の疲労」に苦しんでいるという声明を発表した』、「雅子さま」に対し、「宮内庁は旅行に制限をかけ、結局公務も休むことになった」、気晴らしの海外旅行まで禁止され、事実上の蟄居を強いられたのでは快方に向かうチャンスも奪われたようだ。
・『誰もが結婚について発言したがる奇妙さ 眞子さんに関する直近のケースでは、眞子さんが結婚とともに家族から離れることを余儀なくされるにもかかわらず、皇室の期待に応えて欲しいという世論の一部が見える。 世間は小室さんとの結婚という彼女の選択を残酷に非難し、小室さんの母親の経済状況を攻め(さらに彼に逆玉狙いというレッテルを貼り)、皇族の娘の結婚相手として相応しくないとした。それなのに、法律の下で眞子さんは入籍と同時に皇族の地位を失うことになるのだ。 眞子さんのほかにこれまで8人の女性皇族が結婚をして、皇室を離れているが、その中の誰も眞子さんほど攻撃は受けていない。 「日本人が、眞子さんが誰と結婚すべきかということについてどんな形であれ発言すべきだと信じていることは非常に奇妙だ」日本の皇族が専門分野の歴史家であるケネス・ルオフ氏は話す。 眞子さんの父である秋篠宮さまは、2017年に2人が婚約を発表した当初、自分よりも前に世間に2人を認めて欲しいとして、承諾を控えた。 秋篠宮さまの言葉を真に受けた人もいたようだ。 (秋篠宮さまは)「2人が人々の祝福を受けるべきだとおっしゃっています。つまり、私たちが意見を言ってもいいということです」と皇居の庭園で散歩していた西村ようこさん(55)は話す。「皇族はある意味日本人の象徴ですから、私たちも意見を言う権利があると考えています」と。 秋篠宮さまは結局許したが、マスコミやソーシャルメディアからの絶え間ない批判は犠牲を生んだ。 2人は皇室の華やかさなしで、ひっそりと私人として婚姻届けを準備していたが、攻撃は止まなかった。ここ数週間は銀座で「呪われた結婚で皇室家を汚すな」「結婚前に責任を果たせ」と書かれたプラカードを掲げた抗議者たちが行進している。 週刊誌『現代ビジネス』に執筆するある作家は、眞子さんは「日本をさらし者にして国際的に恥かしめた」と主張し、その選択を激しく非難した。 ツイッターでは、約1.4億円の皇室持参金を放棄する旨決定したにもかかわらず、眞子さんを「税金泥棒」と呼ぶ者もいる。心的外傷後ストレスは偽りだと非難する者もいる。「数カ月後によくなったと発表すれば、大衆はあなたを疑う」とあるツイッターユーザーは書き込んでいる』、「ツイッターユーザー」もさることながら、かれらを煽るワイドショーの出演者の責任も大きい。
・『王族や皇族がメンタル問題を話す意味 イギリス王室との比較は必然と言えるだろう。ハリー王子との結婚前、メーガン妃は自身の素性を理由に何か月も攻撃の的となった。メーガン妃とハリー王子同様、眞子さん、そしてフォーダム大学のロースクールを卒業した小室さんも、彼がニューヨークの法律事務所で働くためアメリカに逃げるのだ。 ハリー王子もメーガン妃も、自身らのメンタルヘルスの代償について率直に話している。うつ病と摂食障害に苦しんだ母、ダイアナ妃の死で経験したうつ病について話すハリー王子の正直さは、イギリスにおけるメンタルヘルスに関する話し合いを広げるのに役立った。 日本の皇室の女性たちも同じく、いまだにメンタルヘルスがデリケートなトピックである日本において、議論を始めるきっかけになるかもしれない。 「皇族の女性たちは、メンタルヘルスの問題について公言し、対話を始めようとしてきたとは思えない」と、兵庫県立大学国際商経学部の田中キャサリン准教授は話す。「もっとも問題があると認めただけでも勇気のあることだ」、その通りだ。
次に、11月21日付けエコノミストOnline「「世間」の名の下に小室批判続けるメディアの罪 緊急連載・社会学的皇室ウォッチング!/11=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211121/se1/00m/020/001000d
・『眞子さん(30)と小室圭さん(30)はニューヨークで新生活を開始した。11月14日の米国到着後もワイドショーや週刊誌の一部は小室さんに否定的な報道を続けている。世間の掟(おきて)に背いた小室さんに対するマスメディアの集団主義的圧力はさすがに行き過ぎを感じる。 小室さんは、母親の元婚約者Aさんと11月12日夜に面会し、金銭トラブルを解決するための合意文書を取り交わした。約400万円の解決金を渡す形での和解が成立したのである。翌朝、Aさんは手記を公表し、そのなかには「私はおカネを貸したほうの立場です(略)交渉を通じて向こう(小室さん)から謝罪の言葉のようなものはありませんでした」との一節があった(FRIDAYデジタル11月13日)。 「謝罪」という言葉に飛びついたのは、デイリー新潮(11月16日)であった。「担当記者」の話として、「普通なら必要以上に世論を刺激しない戦略を採るはずです。とりあえずは、元婚約者に最大限の礼を尽くす。何よりも、これまでのことを真摯(しんし)に謝罪する。そうすれば、少しは世論も軟化したかもしれません」と伝えた。 この「謝罪」という言葉には引っ掛かりを感じる。小室さん母子は、Aさんから金銭的援助を受けていた。婚約期間中のことなので小室さん側は貸借だとは認識していなかったが、Aさんは「返してほしい」と思っていた。認識の違いがトラブルになった。 過去の援助について感謝の意を示すべきだという主張なら分かる。ただ、母親を含め、何を謝罪すべきなのだろうか』、何故「謝罪」しなければならないのだろう。
・『国民の名で小室さん否定 金銭トラブルは解決した。しかし、小室さんの姿勢を、なお悪(あ)しざまに言うコメンテーターは少なくない。 フジテレビ系の「バイキングMORE」(11月15日)に出演したモデルのアンミカさんは、今年4月に発表された小室文書について、「(小室さんがもっと)相手に寄り添っていたら、もうちょっと譲歩するんじゃない。(略)勝ちとか、負けとか、不利とか。そういう言葉が前に進んで……」と小室さんには「心」が欠けていると批判した。 同じ番組で、司会の坂上忍さんも「国民感情とか、世論っていうのに、もうちょっと寄り添っていたら、こういうことにはなっていなかった」と、素直に解決を喜べない気持ちを述べている。 この番組には盛んに「国民」「世論」というキーワードが出てくる。皇室ジャーナリストの近重幸哉さんは、「国民が気にするような問題がなければ、すんなりと認められた結婚だった」と国民を引き合いに出し、トラブルに迅速に対応できなかった小室さんを批判した。 「バイキング」の出演者たちが繰り返す国民、世論とは、すなわち「世間」のことだろうと思う。 歴史家の故阿部謹也氏が明らかにしたように、世間は、西欧的な個人を前提とした「社会」とは概念を異にする。世間は、集団による文化的圧力として機能するのである。異質なものは排除され、嫉妬が個人への足の引っ張りにつながる。贈与・互酬性が重要であり、相手から何かをしてもったら、それへの返礼は事実上の義務である。 小室さん母子が「ありがとう」と言わないと批判する人は、社会でなく、世間に軸足を置いていると言える。 TBS系の「ゴゴスマ GO GO! Smile!」(CBCテレビ制作、11月15日)では、司会の石井亮次さん(フリーアナウンサー)が、「ウソでも『すんません、ありがとう』。舌を出してね、こっちで舌を出しながら。僕が小室さんなら、『すんません。ありがとう』……」と頭を何度も下げるおどけたジェスチャーを演じてみせた。これを受けた元宮崎県知事の東国原英夫さんも「言いたいことはいっぱいあ」ったとしても、謝って早く金を払うべきだったと主張した。 こうした人びとにとって、和解自体は重要ではない。小室さんが世間の掟に反したことが永遠に糾弾すべき対象なのである。 「ゴゴスマ」にも出演した近重さんは「お互いが理解し合えて、納得できる状態で終わることを秋篠宮殿下は願われていた」とした。そのうえで、そういう解決ではなかった今回の和解は残念であり、「早い時点でお互いが和解する気持ちを持って解決できるような方と(眞子さんは)結婚してほしかったというのが国民の気持ちではないか」と主張した。新婚生活をすでに始めている小室さん夫妻を、国民の名のもとで否定したコメントに聞こえた。 ワイドショーや週刊誌なんて所詮、世間に迎合するメディアであると安易に批判しているわけではない。国民や世論を持ち出すとき、それが個人を抑圧する集団主義を背景にしていないかどうか、コメンテーターや司会者は常に胸に問うべきだということを言いたいのである』、「世間は、西欧的な個人を前提とした「社会」とは概念を異にする。世間は、集団による文化的圧力として機能するのである。異質なものは排除され、嫉妬が個人への足の引っ張りにつながる」、「国民や世論を持ち出すとき、それが個人を抑圧する集団主義を背景にしていないかどうか、コメンテーターや司会者は常に胸に問うべきだということを言いたい」、その通りだ。
・『行き過ぎた推測 解決金の原資についても行き過ぎた推測があった。「バイキング」で近重さんは、「400万円には眞子さんのお気持ち(フリップボードの表記は「眞子さんからの援助」)が入っているんじゃないかってことを国民が感じても仕方ない」と指摘した。 トラブルの当事者は、小室さんの母親である。解決金を払うべき主体は母親であって、小室さんでも、眞子さんでもない。それを、「眞子さんからの援助」があると国民が考えても仕方がないという批評には何の根拠もない。このような推測が許されるなら、どのようなことも疑惑に仕立てることが出来てしまう。 ここでもやはり国民、すなわち世間が立ち上がっている。そして、解決金の原資を明らかにしないこと自体が「疑惑」にすり替わり、「解決金400万円出所は黙秘(ダンマリ)」というタイトルの記事ともなる(『女性自身』11月30日・12月7日合併号)。 小室さんは帰国時にはポニーテールの長髪が話題になり、出国時には、ダースベイダーのTシャツが注目された。世間は、外見の逸脱を問題にしがちである。 米国での新生活によって、世間の目から逃れたはずの小室さん夫妻だが、到着当日、海外メディアによって、マンハッタンのマンションが特定され、入居する様子がパパラッチされた。 二人が自由に生活を楽しめる日がいつ来るのかと心配になる。 (森暢平氏の略歴はリンク先参照)、もう「マンハッタン」では「二人」の好きにさせるべきと思う』、「もう「マンハッタン」では「二人」の好きにさせるべきと思う」、その通りだ。
第三に、12月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「皇室の安定的な存続に必要な発想とは?王位継承者5000人超の英国に学べ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/291748
・『12月22日、安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議が、皇族数の減少への対応策の最終報告書をまとめた。その中では「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」と「旧皇族の男系男子を養子に迎える案」の二つが示されているが、現実的にはハードルがいくつもある。そこで私は英国王室の徹底した維持の備えも参考にすべきだと考える』、興味深そうだ。
・『世界と比較しても日本の皇室維持は不安 2021年3月から、複数回にわたって、安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議が開かれてきた。その最終報告書には、皇族数確保のため「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」と「旧皇族の男系男子を養子に迎える案」の、2案がまとめられた。 現在、皇位継承権を持つのは、秋篠宮さま、秋篠宮さまの長男の悠仁さま、常陸宮さまの3人だ。しかし、常陸宮さまは現在86歳である。実質的に皇位継承権者は、秋篠宮家の2人だけで、皇統の維持は、きわめて不安定な状況にあるのは間違いない。 世界中のさまざまな王室にとっても、王位継承のための血統維持は最重要事項であり、さまざまな王位継承の方法が取られてきた。それら諸外国と比較しても、日本の皇統は、不安定な状況にあるといえる。 諸外国の中でも特筆すべき王位継承の方法として参考になるのは、日本とある意味、正反対といっていい王族の血統維持の方法を取ってきた英国である』、「日本とある意味、正反対といっていい」「英国」の方法とは、どんなものなのだろう。
・『英国の王位継承権者は5000人以上!?ドイツの一般人まで… 英国の王位継承権者の数は、実は正確に分からない。さまざまな学者などが調査しているが、2011年時点で4973人いるというのが定説となっていた(Reitwiesner, W. A “Persons eligible to success to the British Throne as of 1 Jan 2001” )。その後、元々王室から排除されていたカトリック教徒に王位継承権が認められて、5753人だという説もある(David Lewis “Persons eligible to success to the British Throne as of 1 Jan 2011”)。 英国の王位継承順位は、国王の直系子孫で、2011年10月28日以降に誕生したものは、男女の性別を問わずに長子先継(第一子→第一子の子孫→第二子→第二子の子孫)で、2011年10月27日以前誕生の者については、兄弟姉妹間男子優先となっている。 要は、エリザベス2世のような「女王」が存在し、女王の第一子・チャールズ皇太子が皇位継承第1位という「女系継承」も行われる。 「女系継承」も可能であることで、諸外国の王室・名家と歴代英国王・女王の子孫が婚姻関係を結んだことで、それらの王室・名家にも英国の王位継承者が存在している。 例えば、ノルウェー国王ハーラル5世、スウェーデン国王カール16世グスタフ、デンマーク女王マルグレーテ2世、ギリシャ王妃アンナ・マリア、ギリシャ国王コンスタンティノス2世、オランダのベアトリクス前女王とウィレム・アレクサンダー国王などが含まれる。 その他、ルーマニア、セルビア、ロシア、ジョージア、ブルガリアなどの旧王家・名家にも英国の王位継承権保持者が存在する。ただし、各国の王室・名家は現在の英国王室とはかなりの遠縁であるため、彼らが英国王を継承する可能性は限りなく低い。 一方、英国の王位継承者には、一般人として暮らす多くの人も含まれている。現在、最下位とされているのは、ドイツの一般人の女性である(WSJ日本版「ライフスタイル/英王位継承権4973位―最下位はドイツの女性」)』、「英国の王位継承者には、一般人として暮らす多くの人も含まれている。現在、最下位とされているのは、ドイツの一般人の女性である」、なるほど。
・『パンデミックにも対応できる英国王室の徹底した備え 私は、英国在住時にBBCで、英国の地方都市の小さなアパートに一般人として暮らす、王位継承権を持つ老人を取材したテレビ番組を見たことがある。気さくな笑顔で質素な家の中を案内する老人が、年に一度エリザベス女王の主催するパーティーに招かれて、正装で女王とツーショットに収まる写真をうれしそうに見せていたのを覚えている。 また、ビジネス界やファッション界など多彩な活躍をしている若い王位継承権者が頻繁にメディアに登場したりもしている(COSMOPOLITAN「あなたが知らない若き英ロイヤル12人、王位継承順位とともにチェック!」)。 これら王位継承権者は経済的に自立し、自由に活動していて、相続税の減免などはあるようだが、特に国費が投入されることもない。 また、英国では、日本のような「宮家」があるわけではない。あくまで、「個人」が王位継承者に認定されているだけである。 これを王室側から見れば、約5000人の王位継承権者が存在するが、特にコストはかからない。実質的に英国王室以外の人に王位を回すことはないので、特に気を使う必要はない。国内の王位継承権者に特権を与えているわけでもないからだ。 一方、もしも強毒性の感染症のパンデミックで人類の多数が死亡したり、核戦争が起こったりして、王室が滅ぶようなことがあっても、王位継承権者が約5000人もいて、外国にもいるので、誰かが生き残っていれば王位を継承できる。英国王室は、存続のために徹底した備えをしているとはいえるだろう』、「約5000人の王位継承権者が存在するが、特にコストはかからない」、「もしも強毒性の感染症のパンデミックで人類の多数が死亡したり、核戦争が起こったりして、王室が滅ぶようなことがあっても、王位継承権者が約5000人もいて、外国にもいるので、誰かが生き残っていれば王位を継承できる」、日本よりはるかに盤石だ。
・『皇室存続のための有識者会議の2案は現実的に問題だらけ 私は、皇室の存続のために、「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」「旧皇族の男系男子を養子に迎える案」という有識者会議の「二つの案」に加えて、英国的な皇位継承権者認定のシステムを一部取り入れてはどうかと考える(これについては後述する)。 なぜなら、「二つの案」を実行するには、現実的にさまざまな問題があるからだ。 まず、「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」を考えてみよう。有識者会議では、内親王、女王の配偶者たる夫が有力となって、権力を持ってしまう事態があり得ることが指摘されている。 特に、女性皇族と結婚する一般国民たる配偶者に皇族の身分を認めると、一般人が皇族となる唯一の機会が婚姻ということになる。その結果、女性皇族の婚姻というものにさまざまな思惑が入り込む事態になり、いろいろないさかいが生じるという懸念がある(第6回「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議・ 議事録)。 次に、「旧皇族の男系男子を念頭に、皇族と養子縁組や、旧宮家そのものの復活を行うとする案」についてだ。 現在、「旧皇族の男系男子」とされる人の人数は、正確に捉えづらい。識者によって見解が異なり、その人数に幅があるのだ。現実的に皇統の維持のために必要と考えられる「独身の男系男子」に絞ると、久邇宮家、賀陽宮家、東久邇宮家、竹田宮家の旧4宮家に7人~9人いらっしゃるという見解もあった(「旧宮家は現在いくつある? 旧皇族の独身男系男子は何人?」)。 ただし、その多くの方が未成年とみられ、「子どもの人権」に配慮が必要だ。未成年の男子だけを直接養子にするという無理なことはできず、その父親を養子とすることが、有識者会議でも想定されている。 しかし、両親とともに子どもも皇室入りすれば、人権上問題がないのかといえば、そうとはいえない。子どもがある日突然、自らの意思にかかわらず皇室に入らされ、人権を制限されるということになるからだ。 そのため、有識者会議では「養子縁組は、十分な判断能力を有する成人が自らの意思により皇族の養子となり皇族となること」を想定し、「未成年が養子となる場合」は、「一定の年齢に達した後はその意思のみで離縁・皇籍離脱することができる」としている(第11回「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する付帯決議」に関する有識者会議・資料2)。 だが、離縁・皇籍離脱の自由を与えても、人権上の問題は万事解決とはいかない。例えば、皇族として教育を受けた子どもが、成人して皇籍離脱した場合、国民の税金で最高の教育を受けさせるため皇室を利用したなどと批判を受けかねない。「国民の血税の無駄遣い」という国民の皇室に対する不満が広がる懸念があるのだ。 さらに、「門地による差別」という問題もある。旧宮家の男系男子を現在の皇室とは別に、新たに皇族とすることは、一般国民の間における平等原則に対して「門地」などに基づく例外を設けて、「皇族」という継続的な特例的地位を認めることになる。 いわば、一般人の中から「新たな貴族階級」を作ることになり、それは憲法上疑義があるということだ(第4回「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議・ 議事録)。 要するに、有識者会議の二つの案を実行するには、さまざまな問題を慎重に検討し、乗り越えなければならないということだ。何よりも問題なのは、男系男子を有する旧4宮家の男系男子自身がこれらさまざまな問題を嫌い、皇族入りを拒んでしまうことだろう』、「有識者会議の二つの案」はもっと確固としたものと思っていたが、どうも単なるたたき台に近いようだ。
・『英国式システムを取り入れた場合の日本の皇室とは そこで、英国式の王位継承を一部応用することを考えたい。それは、男系男子継承の伝統を前提にしながら、皇位継承権者の範囲を大きく広げることである。 実際に皇族の血を引く男系男子が何人いるのか、できる限り歴史をさかのぼって調査してみることは意味がある。実際、桓武平氏、清和源氏、足利氏など、天皇家を起源として血統が広がり、系図も比較的明確に残っている武家や貴族の末裔(まつえい)は全国に存在するだろう。 その上で、皇統の男系男子を「皇位継承の権利を持つ男子」として認定して本人に伝える。宮内庁がそれを記録しておくが、その記録は個人情報に配慮して、原則的には非公開とする。 「皇位継承の権利を持つ男子」には、公的な支援はなく、新たな宮家の創設などは行われない。あくまで、権利を持つ「個人」が認定されるだけにとどめることとする。 ただし、現在の宮家が断絶の危機に陥ったり、公務を行う皇族数が不足したりする場合、この「皇位継承の権利を持つ男子」から、皇族側と本人の合意で、養子縁組が結ばれることとする。女性皇族との結婚を前提とした「見合い」の相手ともなりえるだろう。 皇位継承の権利を持つ人を「個人」として認定するだけならば、「門地による差別」という憲法上の疑義を乗り越えられるのではないか。例えば「徳川家」や「細川家」など名門とされる家柄・血統が特権を受けることなく存在しているからだ。養子縁組や婿入り自体も、国民の自由意思に基づくものならば問題はない。 「旧皇族の男系男子」の数が増えることで、たとえ人権の制限がありえる環境でも、皇室の危機を救う覚悟を持つ人が出現する可能性が高まる。皇統消滅のリスクが減る上に、女性皇族の婚姻を巡る思惑が入り込む余地も減じることもできるだろう。 これまで私は、保守派の「日本の伝統」とされるものに固執する主張は、日本を衰退させる一方ではないかと指摘してきた(本連載第144回)。皇位継承のあり方の議論でも、伝統を重んじる保守派の意見が強すぎては、議論を進めることができず、本質的な問題の解決は先送りされてしまう。 「皇室」「宮家」という「家」を重んじることなど、伝統は大事だ。しかし、「個人」に皇位継承の権利を与えるという伝統から離れた新たな発想を取り入れることも、将来の持続可能な制度を作るためには重要なのではないかと考える。<参考資料>等は省略』、「「個人」に皇位継承の権利を与えるという伝統から離れた新たな発想を取り入れることも、将来の持続可能な制度を作るためには重要なのではないかと考える」、前向きに検討する価値がありそうだ。
先ずは、10月27日付け東洋経済オンラインが転載したThe New York Times「海外メディアが報じた「女性皇族」の過酷な現実 日本では女性はいまだに「二級市民」なのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/464681
・『日本で女性にとって最も厳しい場所は皇室である。 30年近く前、皇后美智子さま(当時)は明仁天皇(当時)の妻として至らないという世間からの批判を受け、話すことができなくなった。それから10年後、皇太子妃雅子さま(当時)は、跡継ぎとなる男子を生めないことをメディアに非難され、うつ病の治療に専念するために公務を休むことになった』、これまで「女性皇族」が受けてきた精神的重圧は、以下にもあるように本当に酷いものだ。
・『「自分は価値のない人間だと考えている」 今月初め、宮内庁は美智子上皇后の孫娘である眞子さんが、フォーダム大学ロースクール卒業生で26日に結婚した小室圭さんとの婚約について世間から厳しく反論されたことから、心的外傷後ストレス障害と診断されていたことを明らかにした。 会見で眞子さんを担当した精神科医は、「彼女は人としての尊厳が踏みにじられたと感じていた」とし、さらに「自分は価値のない人間だと考えている」と話した。 皇室に入った理由が結婚であれ出生であれ、日本の皇族の女性はメディアや世間だけでなく、彼らの日常生活を管理する宮内庁からも厳しいものさしで測られる。天皇と皇族が伝統的な日本の象徴であるなかで、今でも女性を型にはめるという保守的な風潮のある、日本国内に広がる男女格差を凝縮したものが皇族の女性にふりかかる。 皇族の女性は皇位につく資格を与えられないものの、彼女たちが受ける批判は、相続順位に近いことで守られている男性たちのそれよりも厳しいことがある。 「皇族としての任務を果たすだけでなく、美しさも保ち、結婚後は出産という目的を与えらえるのです」と立教大学の教授であり精神科医の香山リカ氏は話す。 また、「『いい母でいられていますか』とか、『義理のお母さまとの関係は良好ですか』『どのようにしてご主人を支えていますか』などと聞かれます。多くの仕事を抱え、それらを完璧にこなさなければならない。皇族の男性がこれほど見張られているとは思えません」と香山氏は付け加える。 直近の自民党総裁選で、2人の女性が首相の座を目指すなど、日本も少しずつ変わってきてはいる。また、一部の企業は女性の登用に会社全体で取り組んでいる。 だが、日本社会はまだ多くの意味で女性を二級市民として扱っている。夫婦別姓は法律で認められておらず、実際に多くの女性が夫の姓を名乗ることしかできない。そして企業の経営陣、国会、名門大学では、いまだに女性は少数派だ。 不平等な扱いに抵抗したり、男女平等の権利を訴える女性は、出しゃばり過ぎだと非難されることも多い。ソーシャルメディアで眞子さんが浴びた批判は、性的暴力や、職場でハイヒールを履かなくてはいけないという職場の決まりについて声を上げた女性たちに対するメディアの扱いを彷彿させる』、テレビのワイドショーもここぞとばかりに大問題であるかのように取上げた。
・『皇族は「時代を超越した存在」との見方 皇室の中で、女性は昔の価値観に従うことを期待される。 「皇族は時代を超越した存在であり、現代社会に属さないというような考えがあります」と話すのは、マイアミ大学の人文科学センター創始者兼ディレクターであり、君主制における女性に関する本を執筆してきた鈴木美穂子氏だ。伝統主義者というのは、「古くて馴染みのある、長く続く男女の役割を皇族に映したがるものだ」と彼女は指摘する。 第二次世界大戦後、アメリカに押し付けられた新憲法の下、天皇は神のような地位を失った。そして多くの意味で3代にわたる皇族の女性がそれから何十年における日本の進化を反映している。 戦争の歴史から日本が解き放たれ、美智子さまが過去何世紀のなかで初めて一般人として皇族と結婚した。子どもたちを皇室の侍従に預けず、自ら育てた。夫である明仁天皇とともに国内外を回り、災害の被害者や障害を持った人々には膝をついて話すなど、それまで遠い存在だった皇族に人間らしさをもたらした。 だが、皇居を改築したり、色々な洋服を着ると、メディアは批判した。宮内庁や美智子さまの義理の母親は、彼女には敬意が足りないと考えていたという噂も広がった。 1963年、結婚して4年目に胞状奇胎で人口流産をし、御用邸で2カ月以上過ごした美智子さまがノイローゼになったという憶測が広まった。それから30年後、極度のストレスにより声を失い、回復には数カ月を要した。 雅子さまは、ハーバード大学を卒業し、外交官として将来を期待されていた1993年に、徳仁皇太子(当時)と結婚。多くの論評者は、彼女が古臭い皇室の近代化を手助けし、日本の若いキャリアウーマンにとっての手本となることを期待した。 ところが、雅子さまの行動はすべて、子どもを授かることができるかどうかという視点で分析された。流産を経験した後、愛子さまを生んだが、男子の後継者を望む者たちはがっかりした。彼女の子宮を守りたい宮内庁は旅行に制限をかけ、結局公務も休むことになった。雅子さまは、「積み重なった心身の疲労」に苦しんでいるという声明を発表した』、「雅子さま」に対し、「宮内庁は旅行に制限をかけ、結局公務も休むことになった」、気晴らしの海外旅行まで禁止され、事実上の蟄居を強いられたのでは快方に向かうチャンスも奪われたようだ。
・『誰もが結婚について発言したがる奇妙さ 眞子さんに関する直近のケースでは、眞子さんが結婚とともに家族から離れることを余儀なくされるにもかかわらず、皇室の期待に応えて欲しいという世論の一部が見える。 世間は小室さんとの結婚という彼女の選択を残酷に非難し、小室さんの母親の経済状況を攻め(さらに彼に逆玉狙いというレッテルを貼り)、皇族の娘の結婚相手として相応しくないとした。それなのに、法律の下で眞子さんは入籍と同時に皇族の地位を失うことになるのだ。 眞子さんのほかにこれまで8人の女性皇族が結婚をして、皇室を離れているが、その中の誰も眞子さんほど攻撃は受けていない。 「日本人が、眞子さんが誰と結婚すべきかということについてどんな形であれ発言すべきだと信じていることは非常に奇妙だ」日本の皇族が専門分野の歴史家であるケネス・ルオフ氏は話す。 眞子さんの父である秋篠宮さまは、2017年に2人が婚約を発表した当初、自分よりも前に世間に2人を認めて欲しいとして、承諾を控えた。 秋篠宮さまの言葉を真に受けた人もいたようだ。 (秋篠宮さまは)「2人が人々の祝福を受けるべきだとおっしゃっています。つまり、私たちが意見を言ってもいいということです」と皇居の庭園で散歩していた西村ようこさん(55)は話す。「皇族はある意味日本人の象徴ですから、私たちも意見を言う権利があると考えています」と。 秋篠宮さまは結局許したが、マスコミやソーシャルメディアからの絶え間ない批判は犠牲を生んだ。 2人は皇室の華やかさなしで、ひっそりと私人として婚姻届けを準備していたが、攻撃は止まなかった。ここ数週間は銀座で「呪われた結婚で皇室家を汚すな」「結婚前に責任を果たせ」と書かれたプラカードを掲げた抗議者たちが行進している。 週刊誌『現代ビジネス』に執筆するある作家は、眞子さんは「日本をさらし者にして国際的に恥かしめた」と主張し、その選択を激しく非難した。 ツイッターでは、約1.4億円の皇室持参金を放棄する旨決定したにもかかわらず、眞子さんを「税金泥棒」と呼ぶ者もいる。心的外傷後ストレスは偽りだと非難する者もいる。「数カ月後によくなったと発表すれば、大衆はあなたを疑う」とあるツイッターユーザーは書き込んでいる』、「ツイッターユーザー」もさることながら、かれらを煽るワイドショーの出演者の責任も大きい。
・『王族や皇族がメンタル問題を話す意味 イギリス王室との比較は必然と言えるだろう。ハリー王子との結婚前、メーガン妃は自身の素性を理由に何か月も攻撃の的となった。メーガン妃とハリー王子同様、眞子さん、そしてフォーダム大学のロースクールを卒業した小室さんも、彼がニューヨークの法律事務所で働くためアメリカに逃げるのだ。 ハリー王子もメーガン妃も、自身らのメンタルヘルスの代償について率直に話している。うつ病と摂食障害に苦しんだ母、ダイアナ妃の死で経験したうつ病について話すハリー王子の正直さは、イギリスにおけるメンタルヘルスに関する話し合いを広げるのに役立った。 日本の皇室の女性たちも同じく、いまだにメンタルヘルスがデリケートなトピックである日本において、議論を始めるきっかけになるかもしれない。 「皇族の女性たちは、メンタルヘルスの問題について公言し、対話を始めようとしてきたとは思えない」と、兵庫県立大学国際商経学部の田中キャサリン准教授は話す。「もっとも問題があると認めただけでも勇気のあることだ」、その通りだ。
次に、11月21日付けエコノミストOnline「「世間」の名の下に小室批判続けるメディアの罪 緊急連載・社会学的皇室ウォッチング!/11=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211121/se1/00m/020/001000d
・『眞子さん(30)と小室圭さん(30)はニューヨークで新生活を開始した。11月14日の米国到着後もワイドショーや週刊誌の一部は小室さんに否定的な報道を続けている。世間の掟(おきて)に背いた小室さんに対するマスメディアの集団主義的圧力はさすがに行き過ぎを感じる。 小室さんは、母親の元婚約者Aさんと11月12日夜に面会し、金銭トラブルを解決するための合意文書を取り交わした。約400万円の解決金を渡す形での和解が成立したのである。翌朝、Aさんは手記を公表し、そのなかには「私はおカネを貸したほうの立場です(略)交渉を通じて向こう(小室さん)から謝罪の言葉のようなものはありませんでした」との一節があった(FRIDAYデジタル11月13日)。 「謝罪」という言葉に飛びついたのは、デイリー新潮(11月16日)であった。「担当記者」の話として、「普通なら必要以上に世論を刺激しない戦略を採るはずです。とりあえずは、元婚約者に最大限の礼を尽くす。何よりも、これまでのことを真摯(しんし)に謝罪する。そうすれば、少しは世論も軟化したかもしれません」と伝えた。 この「謝罪」という言葉には引っ掛かりを感じる。小室さん母子は、Aさんから金銭的援助を受けていた。婚約期間中のことなので小室さん側は貸借だとは認識していなかったが、Aさんは「返してほしい」と思っていた。認識の違いがトラブルになった。 過去の援助について感謝の意を示すべきだという主張なら分かる。ただ、母親を含め、何を謝罪すべきなのだろうか』、何故「謝罪」しなければならないのだろう。
・『国民の名で小室さん否定 金銭トラブルは解決した。しかし、小室さんの姿勢を、なお悪(あ)しざまに言うコメンテーターは少なくない。 フジテレビ系の「バイキングMORE」(11月15日)に出演したモデルのアンミカさんは、今年4月に発表された小室文書について、「(小室さんがもっと)相手に寄り添っていたら、もうちょっと譲歩するんじゃない。(略)勝ちとか、負けとか、不利とか。そういう言葉が前に進んで……」と小室さんには「心」が欠けていると批判した。 同じ番組で、司会の坂上忍さんも「国民感情とか、世論っていうのに、もうちょっと寄り添っていたら、こういうことにはなっていなかった」と、素直に解決を喜べない気持ちを述べている。 この番組には盛んに「国民」「世論」というキーワードが出てくる。皇室ジャーナリストの近重幸哉さんは、「国民が気にするような問題がなければ、すんなりと認められた結婚だった」と国民を引き合いに出し、トラブルに迅速に対応できなかった小室さんを批判した。 「バイキング」の出演者たちが繰り返す国民、世論とは、すなわち「世間」のことだろうと思う。 歴史家の故阿部謹也氏が明らかにしたように、世間は、西欧的な個人を前提とした「社会」とは概念を異にする。世間は、集団による文化的圧力として機能するのである。異質なものは排除され、嫉妬が個人への足の引っ張りにつながる。贈与・互酬性が重要であり、相手から何かをしてもったら、それへの返礼は事実上の義務である。 小室さん母子が「ありがとう」と言わないと批判する人は、社会でなく、世間に軸足を置いていると言える。 TBS系の「ゴゴスマ GO GO! Smile!」(CBCテレビ制作、11月15日)では、司会の石井亮次さん(フリーアナウンサー)が、「ウソでも『すんません、ありがとう』。舌を出してね、こっちで舌を出しながら。僕が小室さんなら、『すんません。ありがとう』……」と頭を何度も下げるおどけたジェスチャーを演じてみせた。これを受けた元宮崎県知事の東国原英夫さんも「言いたいことはいっぱいあ」ったとしても、謝って早く金を払うべきだったと主張した。 こうした人びとにとって、和解自体は重要ではない。小室さんが世間の掟に反したことが永遠に糾弾すべき対象なのである。 「ゴゴスマ」にも出演した近重さんは「お互いが理解し合えて、納得できる状態で終わることを秋篠宮殿下は願われていた」とした。そのうえで、そういう解決ではなかった今回の和解は残念であり、「早い時点でお互いが和解する気持ちを持って解決できるような方と(眞子さんは)結婚してほしかったというのが国民の気持ちではないか」と主張した。新婚生活をすでに始めている小室さん夫妻を、国民の名のもとで否定したコメントに聞こえた。 ワイドショーや週刊誌なんて所詮、世間に迎合するメディアであると安易に批判しているわけではない。国民や世論を持ち出すとき、それが個人を抑圧する集団主義を背景にしていないかどうか、コメンテーターや司会者は常に胸に問うべきだということを言いたいのである』、「世間は、西欧的な個人を前提とした「社会」とは概念を異にする。世間は、集団による文化的圧力として機能するのである。異質なものは排除され、嫉妬が個人への足の引っ張りにつながる」、「国民や世論を持ち出すとき、それが個人を抑圧する集団主義を背景にしていないかどうか、コメンテーターや司会者は常に胸に問うべきだということを言いたい」、その通りだ。
・『行き過ぎた推測 解決金の原資についても行き過ぎた推測があった。「バイキング」で近重さんは、「400万円には眞子さんのお気持ち(フリップボードの表記は「眞子さんからの援助」)が入っているんじゃないかってことを国民が感じても仕方ない」と指摘した。 トラブルの当事者は、小室さんの母親である。解決金を払うべき主体は母親であって、小室さんでも、眞子さんでもない。それを、「眞子さんからの援助」があると国民が考えても仕方がないという批評には何の根拠もない。このような推測が許されるなら、どのようなことも疑惑に仕立てることが出来てしまう。 ここでもやはり国民、すなわち世間が立ち上がっている。そして、解決金の原資を明らかにしないこと自体が「疑惑」にすり替わり、「解決金400万円出所は黙秘(ダンマリ)」というタイトルの記事ともなる(『女性自身』11月30日・12月7日合併号)。 小室さんは帰国時にはポニーテールの長髪が話題になり、出国時には、ダースベイダーのTシャツが注目された。世間は、外見の逸脱を問題にしがちである。 米国での新生活によって、世間の目から逃れたはずの小室さん夫妻だが、到着当日、海外メディアによって、マンハッタンのマンションが特定され、入居する様子がパパラッチされた。 二人が自由に生活を楽しめる日がいつ来るのかと心配になる。 (森暢平氏の略歴はリンク先参照)、もう「マンハッタン」では「二人」の好きにさせるべきと思う』、「もう「マンハッタン」では「二人」の好きにさせるべきと思う」、その通りだ。
第三に、12月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「皇室の安定的な存続に必要な発想とは?王位継承者5000人超の英国に学べ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/291748
・『12月22日、安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議が、皇族数の減少への対応策の最終報告書をまとめた。その中では「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」と「旧皇族の男系男子を養子に迎える案」の二つが示されているが、現実的にはハードルがいくつもある。そこで私は英国王室の徹底した維持の備えも参考にすべきだと考える』、興味深そうだ。
・『世界と比較しても日本の皇室維持は不安 2021年3月から、複数回にわたって、安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議が開かれてきた。その最終報告書には、皇族数確保のため「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」と「旧皇族の男系男子を養子に迎える案」の、2案がまとめられた。 現在、皇位継承権を持つのは、秋篠宮さま、秋篠宮さまの長男の悠仁さま、常陸宮さまの3人だ。しかし、常陸宮さまは現在86歳である。実質的に皇位継承権者は、秋篠宮家の2人だけで、皇統の維持は、きわめて不安定な状況にあるのは間違いない。 世界中のさまざまな王室にとっても、王位継承のための血統維持は最重要事項であり、さまざまな王位継承の方法が取られてきた。それら諸外国と比較しても、日本の皇統は、不安定な状況にあるといえる。 諸外国の中でも特筆すべき王位継承の方法として参考になるのは、日本とある意味、正反対といっていい王族の血統維持の方法を取ってきた英国である』、「日本とある意味、正反対といっていい」「英国」の方法とは、どんなものなのだろう。
・『英国の王位継承権者は5000人以上!?ドイツの一般人まで… 英国の王位継承権者の数は、実は正確に分からない。さまざまな学者などが調査しているが、2011年時点で4973人いるというのが定説となっていた(Reitwiesner, W. A “Persons eligible to success to the British Throne as of 1 Jan 2001” )。その後、元々王室から排除されていたカトリック教徒に王位継承権が認められて、5753人だという説もある(David Lewis “Persons eligible to success to the British Throne as of 1 Jan 2011”)。 英国の王位継承順位は、国王の直系子孫で、2011年10月28日以降に誕生したものは、男女の性別を問わずに長子先継(第一子→第一子の子孫→第二子→第二子の子孫)で、2011年10月27日以前誕生の者については、兄弟姉妹間男子優先となっている。 要は、エリザベス2世のような「女王」が存在し、女王の第一子・チャールズ皇太子が皇位継承第1位という「女系継承」も行われる。 「女系継承」も可能であることで、諸外国の王室・名家と歴代英国王・女王の子孫が婚姻関係を結んだことで、それらの王室・名家にも英国の王位継承者が存在している。 例えば、ノルウェー国王ハーラル5世、スウェーデン国王カール16世グスタフ、デンマーク女王マルグレーテ2世、ギリシャ王妃アンナ・マリア、ギリシャ国王コンスタンティノス2世、オランダのベアトリクス前女王とウィレム・アレクサンダー国王などが含まれる。 その他、ルーマニア、セルビア、ロシア、ジョージア、ブルガリアなどの旧王家・名家にも英国の王位継承権保持者が存在する。ただし、各国の王室・名家は現在の英国王室とはかなりの遠縁であるため、彼らが英国王を継承する可能性は限りなく低い。 一方、英国の王位継承者には、一般人として暮らす多くの人も含まれている。現在、最下位とされているのは、ドイツの一般人の女性である(WSJ日本版「ライフスタイル/英王位継承権4973位―最下位はドイツの女性」)』、「英国の王位継承者には、一般人として暮らす多くの人も含まれている。現在、最下位とされているのは、ドイツの一般人の女性である」、なるほど。
・『パンデミックにも対応できる英国王室の徹底した備え 私は、英国在住時にBBCで、英国の地方都市の小さなアパートに一般人として暮らす、王位継承権を持つ老人を取材したテレビ番組を見たことがある。気さくな笑顔で質素な家の中を案内する老人が、年に一度エリザベス女王の主催するパーティーに招かれて、正装で女王とツーショットに収まる写真をうれしそうに見せていたのを覚えている。 また、ビジネス界やファッション界など多彩な活躍をしている若い王位継承権者が頻繁にメディアに登場したりもしている(COSMOPOLITAN「あなたが知らない若き英ロイヤル12人、王位継承順位とともにチェック!」)。 これら王位継承権者は経済的に自立し、自由に活動していて、相続税の減免などはあるようだが、特に国費が投入されることもない。 また、英国では、日本のような「宮家」があるわけではない。あくまで、「個人」が王位継承者に認定されているだけである。 これを王室側から見れば、約5000人の王位継承権者が存在するが、特にコストはかからない。実質的に英国王室以外の人に王位を回すことはないので、特に気を使う必要はない。国内の王位継承権者に特権を与えているわけでもないからだ。 一方、もしも強毒性の感染症のパンデミックで人類の多数が死亡したり、核戦争が起こったりして、王室が滅ぶようなことがあっても、王位継承権者が約5000人もいて、外国にもいるので、誰かが生き残っていれば王位を継承できる。英国王室は、存続のために徹底した備えをしているとはいえるだろう』、「約5000人の王位継承権者が存在するが、特にコストはかからない」、「もしも強毒性の感染症のパンデミックで人類の多数が死亡したり、核戦争が起こったりして、王室が滅ぶようなことがあっても、王位継承権者が約5000人もいて、外国にもいるので、誰かが生き残っていれば王位を継承できる」、日本よりはるかに盤石だ。
・『皇室存続のための有識者会議の2案は現実的に問題だらけ 私は、皇室の存続のために、「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」「旧皇族の男系男子を養子に迎える案」という有識者会議の「二つの案」に加えて、英国的な皇位継承権者認定のシステムを一部取り入れてはどうかと考える(これについては後述する)。 なぜなら、「二つの案」を実行するには、現実的にさまざまな問題があるからだ。 まず、「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」を考えてみよう。有識者会議では、内親王、女王の配偶者たる夫が有力となって、権力を持ってしまう事態があり得ることが指摘されている。 特に、女性皇族と結婚する一般国民たる配偶者に皇族の身分を認めると、一般人が皇族となる唯一の機会が婚姻ということになる。その結果、女性皇族の婚姻というものにさまざまな思惑が入り込む事態になり、いろいろないさかいが生じるという懸念がある(第6回「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議・ 議事録)。 次に、「旧皇族の男系男子を念頭に、皇族と養子縁組や、旧宮家そのものの復活を行うとする案」についてだ。 現在、「旧皇族の男系男子」とされる人の人数は、正確に捉えづらい。識者によって見解が異なり、その人数に幅があるのだ。現実的に皇統の維持のために必要と考えられる「独身の男系男子」に絞ると、久邇宮家、賀陽宮家、東久邇宮家、竹田宮家の旧4宮家に7人~9人いらっしゃるという見解もあった(「旧宮家は現在いくつある? 旧皇族の独身男系男子は何人?」)。 ただし、その多くの方が未成年とみられ、「子どもの人権」に配慮が必要だ。未成年の男子だけを直接養子にするという無理なことはできず、その父親を養子とすることが、有識者会議でも想定されている。 しかし、両親とともに子どもも皇室入りすれば、人権上問題がないのかといえば、そうとはいえない。子どもがある日突然、自らの意思にかかわらず皇室に入らされ、人権を制限されるということになるからだ。 そのため、有識者会議では「養子縁組は、十分な判断能力を有する成人が自らの意思により皇族の養子となり皇族となること」を想定し、「未成年が養子となる場合」は、「一定の年齢に達した後はその意思のみで離縁・皇籍離脱することができる」としている(第11回「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する付帯決議」に関する有識者会議・資料2)。 だが、離縁・皇籍離脱の自由を与えても、人権上の問題は万事解決とはいかない。例えば、皇族として教育を受けた子どもが、成人して皇籍離脱した場合、国民の税金で最高の教育を受けさせるため皇室を利用したなどと批判を受けかねない。「国民の血税の無駄遣い」という国民の皇室に対する不満が広がる懸念があるのだ。 さらに、「門地による差別」という問題もある。旧宮家の男系男子を現在の皇室とは別に、新たに皇族とすることは、一般国民の間における平等原則に対して「門地」などに基づく例外を設けて、「皇族」という継続的な特例的地位を認めることになる。 いわば、一般人の中から「新たな貴族階級」を作ることになり、それは憲法上疑義があるということだ(第4回「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議・ 議事録)。 要するに、有識者会議の二つの案を実行するには、さまざまな問題を慎重に検討し、乗り越えなければならないということだ。何よりも問題なのは、男系男子を有する旧4宮家の男系男子自身がこれらさまざまな問題を嫌い、皇族入りを拒んでしまうことだろう』、「有識者会議の二つの案」はもっと確固としたものと思っていたが、どうも単なるたたき台に近いようだ。
・『英国式システムを取り入れた場合の日本の皇室とは そこで、英国式の王位継承を一部応用することを考えたい。それは、男系男子継承の伝統を前提にしながら、皇位継承権者の範囲を大きく広げることである。 実際に皇族の血を引く男系男子が何人いるのか、できる限り歴史をさかのぼって調査してみることは意味がある。実際、桓武平氏、清和源氏、足利氏など、天皇家を起源として血統が広がり、系図も比較的明確に残っている武家や貴族の末裔(まつえい)は全国に存在するだろう。 その上で、皇統の男系男子を「皇位継承の権利を持つ男子」として認定して本人に伝える。宮内庁がそれを記録しておくが、その記録は個人情報に配慮して、原則的には非公開とする。 「皇位継承の権利を持つ男子」には、公的な支援はなく、新たな宮家の創設などは行われない。あくまで、権利を持つ「個人」が認定されるだけにとどめることとする。 ただし、現在の宮家が断絶の危機に陥ったり、公務を行う皇族数が不足したりする場合、この「皇位継承の権利を持つ男子」から、皇族側と本人の合意で、養子縁組が結ばれることとする。女性皇族との結婚を前提とした「見合い」の相手ともなりえるだろう。 皇位継承の権利を持つ人を「個人」として認定するだけならば、「門地による差別」という憲法上の疑義を乗り越えられるのではないか。例えば「徳川家」や「細川家」など名門とされる家柄・血統が特権を受けることなく存在しているからだ。養子縁組や婿入り自体も、国民の自由意思に基づくものならば問題はない。 「旧皇族の男系男子」の数が増えることで、たとえ人権の制限がありえる環境でも、皇室の危機を救う覚悟を持つ人が出現する可能性が高まる。皇統消滅のリスクが減る上に、女性皇族の婚姻を巡る思惑が入り込む余地も減じることもできるだろう。 これまで私は、保守派の「日本の伝統」とされるものに固執する主張は、日本を衰退させる一方ではないかと指摘してきた(本連載第144回)。皇位継承のあり方の議論でも、伝統を重んじる保守派の意見が強すぎては、議論を進めることができず、本質的な問題の解決は先送りされてしまう。 「皇室」「宮家」という「家」を重んじることなど、伝統は大事だ。しかし、「個人」に皇位継承の権利を与えるという伝統から離れた新たな発想を取り入れることも、将来の持続可能な制度を作るためには重要なのではないかと考える。<参考資料>等は省略』、「「個人」に皇位継承の権利を与えるという伝統から離れた新たな発想を取り入れることも、将来の持続可能な制度を作るためには重要なのではないかと考える」、前向きに検討する価値がありそうだ。
タグ:天皇制度 (その3)(海外メディアが報じた「女性皇族」の過酷な現実 日本では女性はいまだに「二級市民」なのか、「世間」の名の下に小室批判続けるメディアの罪 緊急連載・社会学的皇室ウォッチング!/11=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉、皇室の安定的な存続に必要な発想とは?王位継承者5000人超の英国に学べ) 東洋経済オンライン The New York Times「海外メディアが報じた「女性皇族」の過酷な現実 日本では女性はいまだに「二級市民」なのか」 これまで「女性皇族」が受けてきた精神的重圧は、以下にもあるように本当に酷いものだ。 テレビのワイドショーもここぞとばかりに大問題であるかのように取上げた。 「雅子さま」に対し、「宮内庁は旅行に制限をかけ、結局公務も休むことになった」、気晴らしの海外旅行まで禁止され、事実上の蟄居を強いられたのでは快方に向かうチャンスも奪われたようだ。 「ツイッターユーザー」もさることながら、かれらを煽るワイドショーの出演者の責任も大きい。 「もっとも問題があると認めただけでも勇気のあることだ」、その通りだ。 エコノミストOnline 「「世間」の名の下に小室批判続けるメディアの罪 緊急連載・社会学的皇室ウォッチング!/11=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉」 何故「謝罪」しなければならないのだろう。 「世間は、西欧的な個人を前提とした「社会」とは概念を異にする。世間は、集団による文化的圧力として機能するのである。異質なものは排除され、嫉妬が個人への足の引っ張りにつながる」、「国民や世論を持ち出すとき、それが個人を抑圧する集団主義を背景にしていないかどうか、コメンテーターや司会者は常に胸に問うべきだということを言いたい」、その通りだ。
災害(その11)(「富士山噴火と巨大地震」リスクが巨大になると人は思考停止に、備えがなければ 死に至る「富士山大噴火」…ライフラインが止まり 食料も手に入らない、「熱海土石流は人災」土地所有者らを提訴 殺人容疑の刑事告訴も、) [社会]
災害については、昨年7月31日に取上げた。今日は、(その11)(「富士山噴火と巨大地震」リスクが巨大になると人は思考停止に、備えがなければ 死に至る「富士山大噴火」…ライフラインが止まり 食料も手に入らない、「熱海土石流は人災」土地所有者らを提訴 殺人容疑の刑事告訴も)を紹介しよう。
先ずは、1月8日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元日本マイクロソフト社長の成毛 眞氏と京大教授の鎌田浩毅教授との対談「富士山噴火と巨大地震」リスクが巨大になると人は思考停止に」を紹介しよう。
・『20年後の未来はどうなるのでしょうか? 元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏は、年金・社会保障・医療などを筆頭に暗い未来がやってくると予想します。その中でも、あまりにも巨大すぎるがゆえに、正面から向き合えていないもののひとつが天災です。果たして、私たちは災害をどう考えればよいのでしょうか。『2040年の未来予測』(日経BP)を上梓した成毛氏が、地震学と火山学に詳しい、京都大学大学院人間・環境学研究科の鎌田浩毅教授と考えます。 成毛眞氏(以下、成毛):老人だらけになり、年金ももらえず、経済成長がゼロに限りなく近づく。2040年はそうした世界になるのが現実的になってきました。ただ、未来を予測する上で、みなさんが見落としがちで絶対に避けられそうもないのが災害リスクです。 鎌田浩毅氏(以下、鎌田):それは間違いありません。2035年から前後5年、つまり、2030年から2040年までの間に、南海トラフ巨大地震というとてつもない災害がかなり高い確率で起き、その合間に富士山噴火と首都直下地震が加わるのではと私は考えています。 成毛:私も同意見ですが、多くの読者には新年早々、重い話ですね。まず、巨大地震から伺います。2040年までに南海トラフはどの程度の確率で起きますか。 鎌田:私は限りなく100%に近いと思っています。『2040年の未来予測』にも書かれていますように、国ですら、今後30年で南海トラフは「70~80%」で発生すると試算しています。それも、この数値は18年2月にそれまでの「70%程度」から引き上げられています。発生確率は確実に高まっているわけです。 (鎌田浩毅氏の略歴はリンク先参照) 成毛:厄介なのは、南海トラフは東海・東南海・南海の3地震が同時に発生する連動型の地震で、関東から九州まで広域の大災害になる可能性が濃厚ですよね。 鎌田:はい。太平洋ベルト地帯を直撃することは確実で、全人口の半分近い約6000万人が深刻な影響を受けます。 国のシミュレーションでも犠牲者の総数は約23万人、全壊または焼失する建物は約209万棟です。また、土木学会は地震発生後20年間での直接間接の経済損失は約1400兆円と試算しています。日本どころか世界の経済が停滞する引き金になります。大きすぎて実感がわきませんが、これが私たちが直視しなければいけないリスクなのです。 成毛:『2040年の未来予測』でも書きましたが、地震で亡くなるリスクは正直、交通事故や未知のウイルスで亡くなる確率よりはるかに高い。小学生でも分かります。けれども、試算されている数字があまりにも大きい上に、いつ起きるかが分からないのでイメージがわかない人が多い。結局、いつ、どの程度かがはっきり分からないと人は動きません。多くの人が締め切りがないと仕事が進まないのと同じですよね。 鎌田:はい。ですから、私はことあるごとに、「あと15年で東日本大震災の10倍以上の被害をもたらす巨大地震が日本を襲う」と訴えてきたわけですが、いまいち浸透していません。 成毛:そして、恐ろしいことに、首都圏は首都直下地震のリスクもあります。首都直下も国は30年以内に起きる確率を70%程度と試算していますが、鎌田先生は「明日起きてもおかしくない」と常々公言されています。危機をいたずらにあおられているわけではなく、明日か明後日起きてもおかしくない地殻変動が日本では起きています。 鎌田:正直、私に言わせれば毎日が「ロシアンルーレット」のような感じです。 首都圏の地下には4枚のプレートと呼ばれる厚い岩板がありますが、2011年の東日本大震災以降、ひずみが生じています。そのひずみを解消しようとして、地震が頻発しています。「ここ10年ほど地震が多い」と感じている人は多いかもしれませんが、震災前に比べて内陸地震は3倍に増えています。私は「大地変動の時代」に入ったと言っているのですが、約1100年前にも日本は今と同じような地殻変動を起こしています。 869年に東北沖の震源域で貞観地震が発生しました。これは東日本大震災(マグニチュード9)に匹敵するM(マグニチュード)8.4と推定されますが、この地震以降、地震が頻発しました。そして、9年後の878年に関東南部でM7を超える地震が発生しました。現代に置き換えると東日本大震災の9年後は2020年です。単純に足しただけなので、もちろんその通り起きるわけではありませんが、地殻の状況は1100年前と似た不安定な状況にあります』、「2030年から2040年までの間に、南海トラフ巨大地震というとてつもない災害がかなり高い確率で起き、その合間に富士山噴火と首都直下地震が加わる」、「「大地変動の時代」に入った」、「地殻の状況は1100年前と似た不安定な状況にあります」、不吉な予言だ。
・『今、富士山は「噴火スタンバイ」状態 成毛:2つの巨大地震がいつ起きても不思議ではないわけですが、忘れてはいけないのが富士山の噴火です。私はこれが日本が抱える最大の気候変動リスクだと思っています。前回噴火したのが1707年。約300年前の江戸時代ですね。これほどの期間、富士山が噴火しないことは歴史上ありません。そして、巨大地震との連動も予想されます。 鎌田:まさに富士山は「噴火スタンバイ状態」です。いずれ噴火する火山から、近い将来、必ず噴火する火山に日々近づいています。地殻がこれまでにない変動を起こしている日本では、直近数十年間の常識は通じません。事実、終戦後から1995年の阪神大震災までの日本は、地殻変動の「静穏期」にありました。ちょうど高度成長期に地震が少ない幸運が重なったのですね。そして富士山が前回噴火したときの状況としては、当時の南海トラフ地震で富士山地下のマグマが不安定になっていたため、大噴火となりました。まさに、今、これと似た状況にあります。 成毛:政府も2020年に富士山が大規模噴火した場合の被害想定を初めて公表しました。放置できないリスクとして認識しはじめています。本に詳しく書きましたが、富士山が噴火すれば日本のインフラは壊滅します。数ミリ火山灰が積もっただけで電気系統や通信機能は破壊され、電車も動かなくなり、水道や道路設備も止まります。農作物への影響も甚大です。 鎌田:富士山の噴火と聞くと、「東京にいるから関係ない」と考えるかもしれませんが、火山を甘く見てはいけない。江戸時代の噴火では江戸に5センチ、横浜に10センチ積もっています。ご指摘の通り、数ミリでインフラがまひするわけですから、江戸時代のような噴火が起きれば、首都圏はしばらく廃虚と化します。 成毛:仕事どころか暮らしもままなりませんよね。政府の試算では、噴火から3時間で首都圏に火山灰が降る。みんな右往左往して買い占めているうちに、灰だらけになってしまう。どこかに逃げようとしても時間もありません。 鎌田:東京以外に拠点を持っておくことは、精神的にも物理的にも有効かもしれません。例えば、私が住んでいる京都は天災リスクには強い。湧き水があるから水には不自由しないし、観光客が多いので食料の備蓄もあります』、「富士山の噴火」で最も恐ろしいのは、火山灰で原発の冷却が出来なくなることである。その結果、最悪の場合には冷却できなくなった原発が相次いで、メルトダウンし、東日本に大打撃を受けざるを得ない。この点の2人が触れないには物足りない。
・』日本人は、揺れる大地に住みながらも生き延びてきた 成毛:本では不動産についても言及していますが、2040年に住宅の世界は一変しています。例えば空き家も増え、定額で全国住み放題のようなサービスがもっと活性化するはずです。そういうのを利用すれば、会社員でも多拠点を構えるのは決して非現実的ではないですよね。 鎌田:重要なのは「不意打ちを食らわないこと」です。現在の最先端の地球科学でも地震や噴火が起きる日付を特定するのはまったく不可能です。日本地震学会も地震予知に白旗をあげました。ただ、これまでお話ししたように、災害が起きる場所と期間の範囲を示すことは可能です。実は、2035年±5年に南海トラフ巨大地震が起きるというのは、本当に「虎の子」の情報なのです。そして教科書的ですが、平時から危機を想定して備えるしかありません。 成毛:リスクはゼロにはできませんが、個人の取り組みでも減らせますからね。そうしたヒントを得るためにも、あらゆる分野に対するアンテナの感度を良くしておくことが欠かせませんよね。 鎌田:はい。最後に明るい話をしますと、2040年の日本は復興の途上にあると思います。巨大地震が起きて、富士山も噴火して大変だと思われるかもしれませんが、どん底を経験すれば、上向くしかないわけですから。南海トラフは約100年周期で起きましたが、歴史を振り返るとひとつの時代の区切りになっているんですね。時代がガラガラポンされています。 成毛:確かに、前回起きたのは1946年ですね。太平洋戦争が前年に終わり、日本は人類史上、まれに見る経済成長をとげました。その前は1854年、黒船が来航して、明治維新に向かって走り出した頃ですね。痛みは伴いますが、南海トラフで旧世代が一掃されて新しい時代が始まっています。 鎌田:そうなんです。日本人はこんな揺れる大地に住みながらも、必ず生き延びてきたわけです。完璧主義に陥らず「減災」の発想で被害を可能な限り抑え、新しい時代に備えることが求められているのではないでしょうか』、原発メルトダウンを前提にすると、能天気なことは言ってられなくなる。
・『『 2040年の未来予測』(紹介省略、リンク先参照)
次に、12月25日付け現代ビジネス「備えがなければ、死に至る「富士山大噴火」…ライフラインが止まり、食料も手に入らない」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/90712?imp=0
・『(第一の記事が余りに楽観的だったので、紹介するが、これも原発問題はスルーしている)。日本では現在、各地で地震活動が盛んになっている。前編の「「富士山噴火」は必ずやってくる…知らないと命にかかわる「やってはいけない」意外な行動」では、もしも富士山が本当に噴火したら、都内まで火山灰が広がり、電車はおろか携帯電話も使えなくなることをお伝えした。 では、実際に富士山噴火のXデーに備えどんな準備をしておけばよいだろうか…? 専門家のアドバイスとともに、逃げ遅れる前にやっておくべきことをお伝えする』、興味深そうだ。
・『雨が降ると大規模停電 火山灰が東京で降り始めるまでの2時間の行動が明暗を分ける。 そうはいっても、子供や孫を迎えに行く必要に迫られたり、すぐに動けない事情があったりして、火山灰の中を動かなければいけないこともあるだろう。) 「ただ、灰が積もると、車は使用できなくなります。フロントガラスに積もった灰をワイパーで落とそうとすると、灰でガラスが傷つき、前がまったく見えなくなってしまうのです」(災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏) 電車が止まり、自動車も使えない。そうなると、歩くしかない。もし、あなたがコンタクトレンズを装着しているなら、すぐに外したほうがいい。 火山灰はただの灰ではなく、ガラスを多く含んでいます。そのため、コンタクトレンズと角膜の間に火山灰が入ると角膜を痛めてしまいます。万が一に備えて、かばんに眼鏡を忍ばせておいたほうがいいかもしれません」(武蔵野学院大学特任教授の島村英紀氏) 火山灰の中を裸眼で歩くことも避けたい。自宅にある水中メガネやスキー用ゴーグルなどでも、ないよりはましだ。マスクも防塵仕様が望ましいが、なければ不織布マスクを二重にして手で押さえ、顔に密着させるようにして息をしよう。 「火山灰が体に付着すると、皮膚を傷つける場合があるので、外を歩く時は長袖を着用し、手袋をしてください。髪の毛につくと落とすのが大変なので、帽子を被るか、なければ、傘を差すことも有効です」(島村氏)) 100均で買えるレジャー用アルミブランケットも有効だ。保温性が高く、被れば防寒になる上、表面がツルツルしているので灰を簡単に落せる。 国の中央防災会議が公表したシミュレーションによれば、富士山噴火から2日間で灰は東へと広がり、横浜から東京沿岸部にかけて2〜4cmの火山灰が降り積もる計算になっている。 「火山灰の中での生活は健康被害に直結します。とくに喘息など呼吸器系の疾患を持つ人には深刻です。日頃から家庭に防塵マスクを用意しておくことが大切です。これがないと、屋外での活動がほとんど不可能になります」(和田氏) さらに火山灰に雨が降りそそぐと、関東地方は大規模な停電に襲われるという。なぜか。 「火山灰は水に濡れると電気を通す性質があります。そのため、電柱などにつけられた絶縁体に灰が積もり、雨に濡れると漏電が起こってショートしてしまうのです。 実際に'16年10月に起こった熊本県の阿蘇山の噴火では、噴火後に雨が降り、2万9000戸が停電しました」(和田氏) 太陽光パネルは降灰で発電しなくなり、火力発電所は吸気フィルターが目詰まりを起こして停止する。電力がなくなれば、当然、ATMも動かず、いざという時のために現金を引き出しておくこともできない』、「火力発電所は吸気フィルターが目詰まりを起こして停止」、前述の通り、原発の場合は冷却できなくなり、メルトダウンを起こしかねない。
・『水道もトイレも使えない 水に濡れると泥のようになる火山灰は、浄水場の浄化槽や下水管をも容易に詰まらせる。 「水道が止まり、トイレも使えないという状況も想定しておかなければいけません。さらに物流がストップすることで、生活物資が枯渇することも考えられます。自宅には家族の人数分の飲用水や食料、防災用の簡易トイレ、カイロなどを備蓄しておく必要があるでしょう」(島村氏) 電気も電話もネットも上下水道も交通機関も車もすべてストップ。東京で人々は江戸時代のような暮らしを強いられる。 前編で著したシミュレーションによれば、除去が必要な火山灰の総量は4・7億平方メートルという。これは東日本大震災の災害廃棄物量の約10倍である。 東日本大震災の廃棄物は3年をかけて約9割が処理された。噴火が収まれば、世界中から支援の手が差し伸べられるだろう。しかし、火山灰が完全に撤去されるまでには数年を要するはずだ。 さらに深刻なのは、日本だけではなく世界を襲う長期的な被害だ。 「'93年に日本を記録的な冷夏が襲い、東北地方を中心に凶作に陥りました。タイ米を大量に輸入したことを記憶している方も多いと思います。これは、'91年に発生したフィリピンのピナツボ火山の噴火が原因とされています。) 20世紀最大級とされる火山の噴火で、莫大な量の火山灰が放出されました。その灰が太陽の光を遮って、世界的な気温低下をもたらしたのです。この火山灰は地球を3周半も移動したといわれています。その結果、噴火から数年にわたって世界中で農作物の不作が続きました。 これが富士山で起こるとどうなるでしょうか。すでに中国が食料を輸入に頼るなど、国際的に食料事情は逼迫しています。富士山噴火後の寒冷化で、世界は想定外の飢餓に見舞われる可能性もある。危機に備えて、日頃から食べ物への関心を高めておきたいですね」(立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授の高橋学氏) 地球規模の大災害をもたらす富士山噴火---。 個々の人間ができることは限られるが、自分や家族の命を守るため、常に備えはしておいたほうがいい』、「富士山噴火」は破局的惨事をもたらすので、個人の努力の範囲を超えている。備蓄もせいぜい数日分とすれば、あとは醜い争奪戦に・・・、考えるだけで恐ろしくなるので、思考停止という安易な道を選択せざるを得ない。
第三に、10月4付けけ日経ビジネスオンライン「「熱海土石流は人災」土地所有者らを提訴、殺人容疑の刑事告訴も」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00145/100400044/
・『7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流では26人が命を落とし、131軒の家屋が被災。現在も1人が行方不明となっている。復興や復旧のめどが立たない中、9月28日に被災者や遺族ら70人が土石流の起点となった土地の現所有者、前所有者などに対し、合計で32億円超の損害賠償を求める訴訟を静岡地方裁判所沼津支部に起こした。 静岡県によると、市街地に押し寄せた土石流のうち9割超の土砂が逢初(あいぞめ)川上流部の盛り土由来であった。訴状では「土石流自体が明確に『人災』により生じたものであったと考えている」と指摘しており、土地所有者らの法的責任を追及する姿勢だ』、「法的責任」は「土地所有者ら」もさることながら、「熱海市」にも違法状態を放置しら責任がある筈だ。
・『証拠隠滅や資産隠しにくさび 伊豆山の逢初川上流部に置かれた盛り土には、適切な排水工事や擁壁の設置がなかった。下流域への土砂崩壊の危険性については以前から指摘されていたという。そのため原告側は、盛り土を放置した過失や保存の瑕疵(かし)が土石流の原因になったと主張している。 「熱海市盛り土流出事故被害者の会」の会長を務める瀬下雄史氏は8月に、前所有者を業務上過失致死容疑で、現所有者を重過失致死容疑で刑事告訴している。瀬下氏は今回の土石流で70代の母親を亡くしており、「土地所有者らが証拠隠滅や資産隠しをしないようくさびを打っておきたかった」と話す。 遺族らは10月中にも前所有者を殺人容疑で刑事告訴する準備を進めている。原告の訴訟代理人を務める加藤博太郎弁護士は「強い行政処分がなされないまま、違法な盛り土が10年近く放置されてきた。安全確保の措置が適切に取られていたならば、これほど多くの人命が失われなかっただろう」と指摘する』、「強い行政処分がなされないまま、違法な盛り土が10年近く放置されてきた」、行政の責任も重大だ。
・いまだ被害に苦しむ被災者たち 被災者の日常は失われたままだ。熱海の文化や景観が気に入って来日した中国籍の徐浩予氏は、6月下旬に伊豆山へ移住した。民宿を購入後わずか1週間で被災してしまった。被災時はまだ住民票を東京都から移していなかったため、熱海市の救済措置が受けられず困窮した。現在は地元市議らの計らいで市が用意した避難所のホテルに入っているという。 徐氏は現在、在日中国人の仲間たちに呼びかけて義援金募集に尽力している。「土石流で全て失ったが『伊豆の踊子』などが好きで熱海に移住した。この街の復興に力を尽くしたい」と話す。 ▽土石流で被災した徐氏の民宿。購入してまだ1週間だった(被害者の会の副会長を務める太田滋氏も自宅が全壊し、1500平方メートルとの畑が土砂に埋まったままだ。太田氏は「逢初川に泥水が流れてきたのを見て家を飛び出し、後ろを振り返らずに逃げたので、幸い家族の命は無事だった」と語る。民事訴訟では土石流発生の原因について土地所有者らの責任を問うが、「個人的には盛り土を見過ごしていた行政の責任も重いと思う。住民の命を守る行政指導ができていたかを追及したい」と語る。 実際、被災者らは行政にも訴えかけている。8月31日には立憲民主党などが国会内で「合同ヒアリング」を開催し、被害者の会から被災状況の説明を受けた。原告代理人を務める加藤弁護士は「違法な盛り土をしても利益が得られるなら事業者はそれを放置してしまう。こうした盛り土は日本各地にあり、人命の観点から法律で取り締まれないかを検討すべきだ」と盛り土規制の必要性を訴えた。 行政も動き出している。8月10日には内閣官房を事務局とした「盛土による災害防止のための関係府省連絡会議」の初会合が開催された。今後は都道府県と連携して全国で3万カ所以上の盛り土が点検される見通しだ。カーボンニュートラルの流れに乗って急速に普及した太陽光発電は、山林などの斜面に設置する事例も多い。メガソーラーの設置場所における土砂災害も全国で散発しており、豪雨の多発に比例して損害賠償を求める訴訟も増える可能性がある』、「訴訟も増える」ことにより、「行政」にも緊張感が増すのは望ましいことだ。
先ずは、1月8日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元日本マイクロソフト社長の成毛 眞氏と京大教授の鎌田浩毅教授との対談「富士山噴火と巨大地震」リスクが巨大になると人は思考停止に」を紹介しよう。
・『20年後の未来はどうなるのでしょうか? 元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏は、年金・社会保障・医療などを筆頭に暗い未来がやってくると予想します。その中でも、あまりにも巨大すぎるがゆえに、正面から向き合えていないもののひとつが天災です。果たして、私たちは災害をどう考えればよいのでしょうか。『2040年の未来予測』(日経BP)を上梓した成毛氏が、地震学と火山学に詳しい、京都大学大学院人間・環境学研究科の鎌田浩毅教授と考えます。 成毛眞氏(以下、成毛):老人だらけになり、年金ももらえず、経済成長がゼロに限りなく近づく。2040年はそうした世界になるのが現実的になってきました。ただ、未来を予測する上で、みなさんが見落としがちで絶対に避けられそうもないのが災害リスクです。 鎌田浩毅氏(以下、鎌田):それは間違いありません。2035年から前後5年、つまり、2030年から2040年までの間に、南海トラフ巨大地震というとてつもない災害がかなり高い確率で起き、その合間に富士山噴火と首都直下地震が加わるのではと私は考えています。 成毛:私も同意見ですが、多くの読者には新年早々、重い話ですね。まず、巨大地震から伺います。2040年までに南海トラフはどの程度の確率で起きますか。 鎌田:私は限りなく100%に近いと思っています。『2040年の未来予測』にも書かれていますように、国ですら、今後30年で南海トラフは「70~80%」で発生すると試算しています。それも、この数値は18年2月にそれまでの「70%程度」から引き上げられています。発生確率は確実に高まっているわけです。 (鎌田浩毅氏の略歴はリンク先参照) 成毛:厄介なのは、南海トラフは東海・東南海・南海の3地震が同時に発生する連動型の地震で、関東から九州まで広域の大災害になる可能性が濃厚ですよね。 鎌田:はい。太平洋ベルト地帯を直撃することは確実で、全人口の半分近い約6000万人が深刻な影響を受けます。 国のシミュレーションでも犠牲者の総数は約23万人、全壊または焼失する建物は約209万棟です。また、土木学会は地震発生後20年間での直接間接の経済損失は約1400兆円と試算しています。日本どころか世界の経済が停滞する引き金になります。大きすぎて実感がわきませんが、これが私たちが直視しなければいけないリスクなのです。 成毛:『2040年の未来予測』でも書きましたが、地震で亡くなるリスクは正直、交通事故や未知のウイルスで亡くなる確率よりはるかに高い。小学生でも分かります。けれども、試算されている数字があまりにも大きい上に、いつ起きるかが分からないのでイメージがわかない人が多い。結局、いつ、どの程度かがはっきり分からないと人は動きません。多くの人が締め切りがないと仕事が進まないのと同じですよね。 鎌田:はい。ですから、私はことあるごとに、「あと15年で東日本大震災の10倍以上の被害をもたらす巨大地震が日本を襲う」と訴えてきたわけですが、いまいち浸透していません。 成毛:そして、恐ろしいことに、首都圏は首都直下地震のリスクもあります。首都直下も国は30年以内に起きる確率を70%程度と試算していますが、鎌田先生は「明日起きてもおかしくない」と常々公言されています。危機をいたずらにあおられているわけではなく、明日か明後日起きてもおかしくない地殻変動が日本では起きています。 鎌田:正直、私に言わせれば毎日が「ロシアンルーレット」のような感じです。 首都圏の地下には4枚のプレートと呼ばれる厚い岩板がありますが、2011年の東日本大震災以降、ひずみが生じています。そのひずみを解消しようとして、地震が頻発しています。「ここ10年ほど地震が多い」と感じている人は多いかもしれませんが、震災前に比べて内陸地震は3倍に増えています。私は「大地変動の時代」に入ったと言っているのですが、約1100年前にも日本は今と同じような地殻変動を起こしています。 869年に東北沖の震源域で貞観地震が発生しました。これは東日本大震災(マグニチュード9)に匹敵するM(マグニチュード)8.4と推定されますが、この地震以降、地震が頻発しました。そして、9年後の878年に関東南部でM7を超える地震が発生しました。現代に置き換えると東日本大震災の9年後は2020年です。単純に足しただけなので、もちろんその通り起きるわけではありませんが、地殻の状況は1100年前と似た不安定な状況にあります』、「2030年から2040年までの間に、南海トラフ巨大地震というとてつもない災害がかなり高い確率で起き、その合間に富士山噴火と首都直下地震が加わる」、「「大地変動の時代」に入った」、「地殻の状況は1100年前と似た不安定な状況にあります」、不吉な予言だ。
・『今、富士山は「噴火スタンバイ」状態 成毛:2つの巨大地震がいつ起きても不思議ではないわけですが、忘れてはいけないのが富士山の噴火です。私はこれが日本が抱える最大の気候変動リスクだと思っています。前回噴火したのが1707年。約300年前の江戸時代ですね。これほどの期間、富士山が噴火しないことは歴史上ありません。そして、巨大地震との連動も予想されます。 鎌田:まさに富士山は「噴火スタンバイ状態」です。いずれ噴火する火山から、近い将来、必ず噴火する火山に日々近づいています。地殻がこれまでにない変動を起こしている日本では、直近数十年間の常識は通じません。事実、終戦後から1995年の阪神大震災までの日本は、地殻変動の「静穏期」にありました。ちょうど高度成長期に地震が少ない幸運が重なったのですね。そして富士山が前回噴火したときの状況としては、当時の南海トラフ地震で富士山地下のマグマが不安定になっていたため、大噴火となりました。まさに、今、これと似た状況にあります。 成毛:政府も2020年に富士山が大規模噴火した場合の被害想定を初めて公表しました。放置できないリスクとして認識しはじめています。本に詳しく書きましたが、富士山が噴火すれば日本のインフラは壊滅します。数ミリ火山灰が積もっただけで電気系統や通信機能は破壊され、電車も動かなくなり、水道や道路設備も止まります。農作物への影響も甚大です。 鎌田:富士山の噴火と聞くと、「東京にいるから関係ない」と考えるかもしれませんが、火山を甘く見てはいけない。江戸時代の噴火では江戸に5センチ、横浜に10センチ積もっています。ご指摘の通り、数ミリでインフラがまひするわけですから、江戸時代のような噴火が起きれば、首都圏はしばらく廃虚と化します。 成毛:仕事どころか暮らしもままなりませんよね。政府の試算では、噴火から3時間で首都圏に火山灰が降る。みんな右往左往して買い占めているうちに、灰だらけになってしまう。どこかに逃げようとしても時間もありません。 鎌田:東京以外に拠点を持っておくことは、精神的にも物理的にも有効かもしれません。例えば、私が住んでいる京都は天災リスクには強い。湧き水があるから水には不自由しないし、観光客が多いので食料の備蓄もあります』、「富士山の噴火」で最も恐ろしいのは、火山灰で原発の冷却が出来なくなることである。その結果、最悪の場合には冷却できなくなった原発が相次いで、メルトダウンし、東日本に大打撃を受けざるを得ない。この点の2人が触れないには物足りない。
・』日本人は、揺れる大地に住みながらも生き延びてきた 成毛:本では不動産についても言及していますが、2040年に住宅の世界は一変しています。例えば空き家も増え、定額で全国住み放題のようなサービスがもっと活性化するはずです。そういうのを利用すれば、会社員でも多拠点を構えるのは決して非現実的ではないですよね。 鎌田:重要なのは「不意打ちを食らわないこと」です。現在の最先端の地球科学でも地震や噴火が起きる日付を特定するのはまったく不可能です。日本地震学会も地震予知に白旗をあげました。ただ、これまでお話ししたように、災害が起きる場所と期間の範囲を示すことは可能です。実は、2035年±5年に南海トラフ巨大地震が起きるというのは、本当に「虎の子」の情報なのです。そして教科書的ですが、平時から危機を想定して備えるしかありません。 成毛:リスクはゼロにはできませんが、個人の取り組みでも減らせますからね。そうしたヒントを得るためにも、あらゆる分野に対するアンテナの感度を良くしておくことが欠かせませんよね。 鎌田:はい。最後に明るい話をしますと、2040年の日本は復興の途上にあると思います。巨大地震が起きて、富士山も噴火して大変だと思われるかもしれませんが、どん底を経験すれば、上向くしかないわけですから。南海トラフは約100年周期で起きましたが、歴史を振り返るとひとつの時代の区切りになっているんですね。時代がガラガラポンされています。 成毛:確かに、前回起きたのは1946年ですね。太平洋戦争が前年に終わり、日本は人類史上、まれに見る経済成長をとげました。その前は1854年、黒船が来航して、明治維新に向かって走り出した頃ですね。痛みは伴いますが、南海トラフで旧世代が一掃されて新しい時代が始まっています。 鎌田:そうなんです。日本人はこんな揺れる大地に住みながらも、必ず生き延びてきたわけです。完璧主義に陥らず「減災」の発想で被害を可能な限り抑え、新しい時代に備えることが求められているのではないでしょうか』、原発メルトダウンを前提にすると、能天気なことは言ってられなくなる。
・『『 2040年の未来予測』(紹介省略、リンク先参照)
次に、12月25日付け現代ビジネス「備えがなければ、死に至る「富士山大噴火」…ライフラインが止まり、食料も手に入らない」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/90712?imp=0
・『(第一の記事が余りに楽観的だったので、紹介するが、これも原発問題はスルーしている)。日本では現在、各地で地震活動が盛んになっている。前編の「「富士山噴火」は必ずやってくる…知らないと命にかかわる「やってはいけない」意外な行動」では、もしも富士山が本当に噴火したら、都内まで火山灰が広がり、電車はおろか携帯電話も使えなくなることをお伝えした。 では、実際に富士山噴火のXデーに備えどんな準備をしておけばよいだろうか…? 専門家のアドバイスとともに、逃げ遅れる前にやっておくべきことをお伝えする』、興味深そうだ。
・『雨が降ると大規模停電 火山灰が東京で降り始めるまでの2時間の行動が明暗を分ける。 そうはいっても、子供や孫を迎えに行く必要に迫られたり、すぐに動けない事情があったりして、火山灰の中を動かなければいけないこともあるだろう。) 「ただ、灰が積もると、車は使用できなくなります。フロントガラスに積もった灰をワイパーで落とそうとすると、灰でガラスが傷つき、前がまったく見えなくなってしまうのです」(災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏) 電車が止まり、自動車も使えない。そうなると、歩くしかない。もし、あなたがコンタクトレンズを装着しているなら、すぐに外したほうがいい。 火山灰はただの灰ではなく、ガラスを多く含んでいます。そのため、コンタクトレンズと角膜の間に火山灰が入ると角膜を痛めてしまいます。万が一に備えて、かばんに眼鏡を忍ばせておいたほうがいいかもしれません」(武蔵野学院大学特任教授の島村英紀氏) 火山灰の中を裸眼で歩くことも避けたい。自宅にある水中メガネやスキー用ゴーグルなどでも、ないよりはましだ。マスクも防塵仕様が望ましいが、なければ不織布マスクを二重にして手で押さえ、顔に密着させるようにして息をしよう。 「火山灰が体に付着すると、皮膚を傷つける場合があるので、外を歩く時は長袖を着用し、手袋をしてください。髪の毛につくと落とすのが大変なので、帽子を被るか、なければ、傘を差すことも有効です」(島村氏)) 100均で買えるレジャー用アルミブランケットも有効だ。保温性が高く、被れば防寒になる上、表面がツルツルしているので灰を簡単に落せる。 国の中央防災会議が公表したシミュレーションによれば、富士山噴火から2日間で灰は東へと広がり、横浜から東京沿岸部にかけて2〜4cmの火山灰が降り積もる計算になっている。 「火山灰の中での生活は健康被害に直結します。とくに喘息など呼吸器系の疾患を持つ人には深刻です。日頃から家庭に防塵マスクを用意しておくことが大切です。これがないと、屋外での活動がほとんど不可能になります」(和田氏) さらに火山灰に雨が降りそそぐと、関東地方は大規模な停電に襲われるという。なぜか。 「火山灰は水に濡れると電気を通す性質があります。そのため、電柱などにつけられた絶縁体に灰が積もり、雨に濡れると漏電が起こってショートしてしまうのです。 実際に'16年10月に起こった熊本県の阿蘇山の噴火では、噴火後に雨が降り、2万9000戸が停電しました」(和田氏) 太陽光パネルは降灰で発電しなくなり、火力発電所は吸気フィルターが目詰まりを起こして停止する。電力がなくなれば、当然、ATMも動かず、いざという時のために現金を引き出しておくこともできない』、「火力発電所は吸気フィルターが目詰まりを起こして停止」、前述の通り、原発の場合は冷却できなくなり、メルトダウンを起こしかねない。
・『水道もトイレも使えない 水に濡れると泥のようになる火山灰は、浄水場の浄化槽や下水管をも容易に詰まらせる。 「水道が止まり、トイレも使えないという状況も想定しておかなければいけません。さらに物流がストップすることで、生活物資が枯渇することも考えられます。自宅には家族の人数分の飲用水や食料、防災用の簡易トイレ、カイロなどを備蓄しておく必要があるでしょう」(島村氏) 電気も電話もネットも上下水道も交通機関も車もすべてストップ。東京で人々は江戸時代のような暮らしを強いられる。 前編で著したシミュレーションによれば、除去が必要な火山灰の総量は4・7億平方メートルという。これは東日本大震災の災害廃棄物量の約10倍である。 東日本大震災の廃棄物は3年をかけて約9割が処理された。噴火が収まれば、世界中から支援の手が差し伸べられるだろう。しかし、火山灰が完全に撤去されるまでには数年を要するはずだ。 さらに深刻なのは、日本だけではなく世界を襲う長期的な被害だ。 「'93年に日本を記録的な冷夏が襲い、東北地方を中心に凶作に陥りました。タイ米を大量に輸入したことを記憶している方も多いと思います。これは、'91年に発生したフィリピンのピナツボ火山の噴火が原因とされています。) 20世紀最大級とされる火山の噴火で、莫大な量の火山灰が放出されました。その灰が太陽の光を遮って、世界的な気温低下をもたらしたのです。この火山灰は地球を3周半も移動したといわれています。その結果、噴火から数年にわたって世界中で農作物の不作が続きました。 これが富士山で起こるとどうなるでしょうか。すでに中国が食料を輸入に頼るなど、国際的に食料事情は逼迫しています。富士山噴火後の寒冷化で、世界は想定外の飢餓に見舞われる可能性もある。危機に備えて、日頃から食べ物への関心を高めておきたいですね」(立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授の高橋学氏) 地球規模の大災害をもたらす富士山噴火---。 個々の人間ができることは限られるが、自分や家族の命を守るため、常に備えはしておいたほうがいい』、「富士山噴火」は破局的惨事をもたらすので、個人の努力の範囲を超えている。備蓄もせいぜい数日分とすれば、あとは醜い争奪戦に・・・、考えるだけで恐ろしくなるので、思考停止という安易な道を選択せざるを得ない。
第三に、10月4付けけ日経ビジネスオンライン「「熱海土石流は人災」土地所有者らを提訴、殺人容疑の刑事告訴も」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00145/100400044/
・『7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流では26人が命を落とし、131軒の家屋が被災。現在も1人が行方不明となっている。復興や復旧のめどが立たない中、9月28日に被災者や遺族ら70人が土石流の起点となった土地の現所有者、前所有者などに対し、合計で32億円超の損害賠償を求める訴訟を静岡地方裁判所沼津支部に起こした。 静岡県によると、市街地に押し寄せた土石流のうち9割超の土砂が逢初(あいぞめ)川上流部の盛り土由来であった。訴状では「土石流自体が明確に『人災』により生じたものであったと考えている」と指摘しており、土地所有者らの法的責任を追及する姿勢だ』、「法的責任」は「土地所有者ら」もさることながら、「熱海市」にも違法状態を放置しら責任がある筈だ。
・『証拠隠滅や資産隠しにくさび 伊豆山の逢初川上流部に置かれた盛り土には、適切な排水工事や擁壁の設置がなかった。下流域への土砂崩壊の危険性については以前から指摘されていたという。そのため原告側は、盛り土を放置した過失や保存の瑕疵(かし)が土石流の原因になったと主張している。 「熱海市盛り土流出事故被害者の会」の会長を務める瀬下雄史氏は8月に、前所有者を業務上過失致死容疑で、現所有者を重過失致死容疑で刑事告訴している。瀬下氏は今回の土石流で70代の母親を亡くしており、「土地所有者らが証拠隠滅や資産隠しをしないようくさびを打っておきたかった」と話す。 遺族らは10月中にも前所有者を殺人容疑で刑事告訴する準備を進めている。原告の訴訟代理人を務める加藤博太郎弁護士は「強い行政処分がなされないまま、違法な盛り土が10年近く放置されてきた。安全確保の措置が適切に取られていたならば、これほど多くの人命が失われなかっただろう」と指摘する』、「強い行政処分がなされないまま、違法な盛り土が10年近く放置されてきた」、行政の責任も重大だ。
・いまだ被害に苦しむ被災者たち 被災者の日常は失われたままだ。熱海の文化や景観が気に入って来日した中国籍の徐浩予氏は、6月下旬に伊豆山へ移住した。民宿を購入後わずか1週間で被災してしまった。被災時はまだ住民票を東京都から移していなかったため、熱海市の救済措置が受けられず困窮した。現在は地元市議らの計らいで市が用意した避難所のホテルに入っているという。 徐氏は現在、在日中国人の仲間たちに呼びかけて義援金募集に尽力している。「土石流で全て失ったが『伊豆の踊子』などが好きで熱海に移住した。この街の復興に力を尽くしたい」と話す。 ▽土石流で被災した徐氏の民宿。購入してまだ1週間だった(被害者の会の副会長を務める太田滋氏も自宅が全壊し、1500平方メートルとの畑が土砂に埋まったままだ。太田氏は「逢初川に泥水が流れてきたのを見て家を飛び出し、後ろを振り返らずに逃げたので、幸い家族の命は無事だった」と語る。民事訴訟では土石流発生の原因について土地所有者らの責任を問うが、「個人的には盛り土を見過ごしていた行政の責任も重いと思う。住民の命を守る行政指導ができていたかを追及したい」と語る。 実際、被災者らは行政にも訴えかけている。8月31日には立憲民主党などが国会内で「合同ヒアリング」を開催し、被害者の会から被災状況の説明を受けた。原告代理人を務める加藤弁護士は「違法な盛り土をしても利益が得られるなら事業者はそれを放置してしまう。こうした盛り土は日本各地にあり、人命の観点から法律で取り締まれないかを検討すべきだ」と盛り土規制の必要性を訴えた。 行政も動き出している。8月10日には内閣官房を事務局とした「盛土による災害防止のための関係府省連絡会議」の初会合が開催された。今後は都道府県と連携して全国で3万カ所以上の盛り土が点検される見通しだ。カーボンニュートラルの流れに乗って急速に普及した太陽光発電は、山林などの斜面に設置する事例も多い。メガソーラーの設置場所における土砂災害も全国で散発しており、豪雨の多発に比例して損害賠償を求める訴訟も増える可能性がある』、「訴訟も増える」ことにより、「行政」にも緊張感が増すのは望ましいことだ。
タグ:『2040年の未来予測』 「法的責任」は「土地所有者ら」もさることながら、「熱海市」にも違法状態を放置しら責任がある筈だ。 対談「富士山噴火と巨大地震」リスクが巨大になると人は思考停止に」 鎌田浩毅 成毛 眞 日経ビジネスオンライン「「熱海土石流は人災」土地所有者らを提訴、殺人容疑の刑事告訴も」 「富士山噴火」は破局的惨事をもたらすので、個人の努力の範囲を超えている。備蓄もせいぜい数日分とすれば、あとは醜い争奪戦に・・・、考えるだけで恐ろしくなるので、思考停止という安易な道を選択せざるを得ない。 日経ビジネスオンライン 「訴訟も増える」ことにより、「行政」にも緊張感が増すのは望ましいことだ。 「火力発電所は吸気フィルターが目詰まりを起こして停止」、前述の通り、原発の場合は冷却できなくなり、メルトダウンを起こしかねない。 「備えがなければ、死に至る「富士山大噴火」…ライフラインが止まり、食料も手に入らない」 現代ビジネス 「強い行政処分がなされないまま、違法な盛り土が10年近く放置されてきた」、行政の責任も重大だ。 原発メルトダウンを前提にすると、能天気なことは言ってられなくなる。 「富士山の噴火」で最も恐ろしいのは、火山灰で原発の冷却が出来なくなることである。その結果、最悪の場合には冷却できなくなった原発が相次いで、メルトダウンし、東日本に大打撃を受けざるを得ない。この点の2人が触れないには物足りない。 「2030年から2040年までの間に、南海トラフ巨大地震というとてつもない災害がかなり高い確率で起き、その合間に富士山噴火と首都直下地震が加わる」、「「大地変動の時代」に入った」、「地殻の状況は1100年前と似た不安定な状況にあります」、不吉な予言だ。 国のシミュレーションでも犠牲者の総数は約23万人、全壊または焼失する建物は約209万棟 (その11)(「富士山噴火と巨大地震」リスクが巨大になると人は思考停止に、備えがなければ 死に至る「富士山大噴火」…ライフラインが止まり 食料も手に入らない、「熱海土石流は人災」土地所有者らを提訴 殺人容疑の刑事告訴も、) 災害
日本型経営・組織の問題点(その12)(なぜ おじさんは「群れたがる」のか?対面会議や打ち合わせが早くも復活、社員の責任と役割を明確化 若手も昇進可能に 三菱ケミカル、日本的人事と決別宣言した背景) [経済政治動向]
日本型経営・組織の問題点については、8月9日に取上げた。今日は、(その12)(なぜ おじさんは「群れたがる」のか?対面会議や打ち合わせが早くも復活、社員の責任と役割を明確化 若手も昇進可能に 三菱ケミカル、日本的人事と決別宣言した背景である。
先ずは、10月26日付けダイヤモンド・オンライン「なぜ、おじさんは「群れたがる」のか?対面会議や打ち合わせが早くも復活」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/284715
・『ウィズ・コロナによって会食や集団行動が規制される中、政治家による大人数での会食や会合などが相次いで報道されたことは記憶に新しい。また会社においてもおじさんたちは対面での打ち合わせや会議を熱望していることも多い。このように中高年になるほど集団行動かつ対面を重視したがる理由は何なのか。『大人力検定』(文藝春秋)などの著者であり、大人の振る舞いに詳しいコラムニストの石原壮一郎氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)』、身につまされそうだが、興味深そうだ。
・『仕事に絡めないと人に会えない悲哀 コロナ禍によって3密が避けられ、仕事でもプライベートでも以前のような対面を基本とするあらゆるコミュニケーションが制限された。にもかかわらず、政治家らが大人数で会食をしたり、中高年のおじさん社員がテレワークに苦言を呈すなどの話は後を絶たない。また、緊急事態宣言の期間中は比較的減少したが、解除後は部下を引き連れてランチや飲み会に行く姿も目にするようになった。 このように改めて振り返ると、おじさんほど公私を問わず対面を重視し、なにかと群れて行動したがる傾向があるのではないだろうか。その理由を石原氏はこう分析する。) 「かつての日本の企業文化は組織という群れの中にいれば生活をまるごと会社が守ってくれるものでした。組織で役割を果たしていれば、よほどのことがない限り、その群れから追い出されることもなく、安心・安全だったのです。そのため、現在のおじさんの多くは、若手の頃から群れの一員となることに腐心し、今も同じ習慣と価値観が残っているのです」 先輩や同僚と昼食や飲みに行き、毎日会社で顔を合わせることは、群れの一員を自覚し、結束するという儀礼でもあった。 ただ、トヨタ自動車の豊田章男社長による「終身雇用を守っていくのは難しい」という発言や副業の解禁、大企業でも相次ぐ早期退職制度など、組織や雇用のあり方は平成から令和にかけて、めまぐるしく変化している。 このような状況にもかかわらず、かつてと同じように社内の人間を中心に群れるという行動原理を中高年は変えられないのであろう。 そのような長年の積み重ねによる行動原理の他にも、おじさんならではの悲哀と寂寞(せきばく)感が群れることには表れているという。 「おじさんの相手はおじさんしかしてくれないのです。父親として尊敬されている人は少ないので家庭は窮屈だし、会社の中でもプライベートを重視する今時の若手社員は付き合いも悪い。そうなるとおじさん同士で寂しさを埋め、承認欲求を満たすしかなく、会議を開いたり会食をしたりとなにかと集まりたがるのです。年を取るほど気軽に遊びや食事に誘える友人も少なくなるので、社会的地位や仕事の必然性を絡めないと誰かと会うこともなくなりますから」』、「家庭は窮屈だし、会社の中でもプライベートを重視する今時の若手社員は付き合いも悪い。そうなるとおじさん同士で寂しさを埋め、承認欲求を満たすしかなく、会議を開いたり会食をしたりとなにかと集まりたがるのです」、寂しい限りだ。
・『変化への不安から若手と群れたがる このような会合は当人同士でやってほしいものだが、往々にして若手や後輩も巻き添えになる。おじさんたちの雑談を聞かされ続けるだけの会議や、行きたくもない飲み会に有無を言わさず駆り出されるということは、多くの社員が経験しているだろう。このような行動をしてしまうおじさんに石原氏は苦言を呈す。 「おじさんたちは『俺らの何気ない話も若手には勉強になるはず』と思いがちですが、それはあまりにも自らを美化しすぎています。多少は有意義な話題があるかもしれませんが、現代の多くの若者は好きでもないおじさんから何かを得ようと思いません。知りたいことはネットでいくらでも検索できますし、そもそも群れ(組織)にいれば安心という意識も薄いので、貴重な時間を削っておじさんに付き合うメリットも感じません」 さらに若者と群れたがるおじさんには、ある種の焦りがあると石原氏は語る。 「インターネットやパソコンなどテクノロジーの変化への対応力を欠くおじさんは多く、柔軟に対応する若者に差をつけられていないかと不安になっています。このようなおじさんたちは会議や飲みの場で人生経験などを語ることで、自分はまだ若者よりも秀でていると思い込みたいのです。また、自分がバリバリ仕事をできないと自覚する上司に残るのは『部下に慕われる』という矜持だけなので、彼らは若者にとって迷惑な群れ方を強要している可能性が高いです」 コロナによって新しいコミュニケーションツールや仕事の進め方などが急激に変化したが、その反動でより群れたい欲が強くなっているのかもしれない。 「コロナによって不安や焦りはますます強くなっています。そうした気持ちを慰めてくれる場所がキャバクラなどの、いわゆる夜のお店だった。お金を払って仕事に関する愚痴をこぼし『俺に言わせりゃ』と気勢を上げられるオアシスだったのです。しかし、コロナ禍によりそれもかなわず、欲求がより身近な人に向いている可能性があります」 緊急事態宣言の解除を一番待ち望んでいたのは、このように行き場を失ったおじさんたちだったのかもしれない』、「コロナ禍によりそれもかなわず、欲求がより身近な人に向いている可能性があります」、「身近な人」こそいい迷惑だ。
・『コロナ禍で増えるオンライン上の群れ ただ、現在はテレワークや飲食店の時短営業、人数制限で思うように人と会えない。こうした中で増えつつあるのが、LINEグループやメーリングリストといった「オンライン上の群れ」を作りたがるおじさんたちである。 「やたらとLINEグループを作りたがったり、『今日は中秋の名月ですね』などと仕事と関係のない投稿やメールを送ったりするおじさんもいます。対面で話せない寂しさをオンラインで晴らそうとするわけですが、他のメンバーにとっては興味がないか、もしくは迷惑なだけ。『やめた方がいいですよ』と言うと逆恨みされるので、メンバーは精いっぱいの抵抗として既読スルーするわけですが、そのような空気を察することができないおじさんも多い。彼らは、上司や先輩というだけで若手が構ってくれるという価値観から抜け出せていません」 このような投稿は、時として部下の労働意欲をそぐ効果も働いてしまうので、上司の役割としては本末転倒だ。 ここまで散々、若者に群れを強要するおじさんについて書いてきたが、決して世代間の対立をあおりたいわけではない。石原氏も、おじさんをあまりに忌避する若者に対してこう警鐘を鳴らす。 「おじさんを老害とやゆし、あたかも世代の仮想敵のように考えるのも危険です。そこには、おじさんを否定することで自分たちの価値やプライドを保っている側面があり、おじさんたちが『最近の若者は……』と話すことと構造は同じなのです。実際、高慢で群れたがる先輩にはなるまいと思っていたおじさんも多いのですが、期せずしてそうなってしまった。若者にとっても明日は我が身なのです」 大抵の人間は、「こんな大人にはなるまい」と思っていたのに、気づけばそんな大人になっているものだ。今の若者も30年後には、迷惑な群れるおじさんになってしまう可能性はある。最後に、石原氏はおじさんのあるべき振る舞い方について、次のように話す。 「現在のおじさんが若手の頃は我慢して先輩に気を使いましたが、いざ先輩の立場になったときに、かつてと同じようには振る舞えない時代になりました。リストラや技術革新など状況の変化もあり、おじさんにとっては受難の時代ともいえます。こうした状況下において『自分の言動は若者にとって迷惑かもしれない』ことを念頭に置くべきです。部下を誘うときは『オイ、行くぞ』という上から目線ではなく、『行けたらうれしい』と下手に出る。会話する際も『尊敬されたい』という欲を捨てる。また、プライベートでは一人でできる趣味を見つけ、会社や家庭以外の居場所を見つけると迷惑な群れ方を予防できます」 これらに気をつければ時代や周りに取り残されず、慕われる中高年になれるはずだ』、「「現在のおじさんが若手の頃は我慢して先輩に気を使いましたが、いざ先輩の立場になったときに、かつてと同じようには振る舞えない時代になりました。リストラや技術革新など状況の変化もあり、おじさんにとっては受難の時代ともいえます」、「『自分の言動は若者にとって迷惑かもしれない』ことを念頭に置くべきです。部下を誘うときは『行けたらうれしい』と下手に出る。会話する際も『尊敬されたい』という欲を捨てる。大変な時代になったものだ。
次に、12月24日付け東洋経済Plus「社員の責任と役割を明確化、若手も昇進可能に 三菱ケミカル、日本的人事と決別宣言した背景」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29234#contd
・『総合化学大手の三菱ケミカルが大胆な人事改革を進めている。日本的な職能等級制度を廃止し、若手でも成果次第で大きく昇進することが可能になった。その狙いは何か。 年功序列にとらわれない「ごぼう抜き人事」で大抜擢――。 日本では、社長人事など経営幹部層の間ではよくある話でも、一般社員の間で起こることはこれまでほとんどなかった。それが、国内最大手の総合化学メーカー・三菱ケミカルホールディングスの中核会社の三菱ケミカルで、現実的な話になった。2021年の春、ジョブ型に近い新たな人事制度を導入したからだ。 「すでに飛び級のような例もいくつか出てきている。従来よりも、若い世代の登用が進んでいる。本人にスキルさえあれば、年齢関係なしにやりたい仕事に就けるようになってきている」 アメリカの製薬大手ファイザーの日本法人を経て2018年3月に招聘され、三菱ケミカルで大胆な人事制度改革を進める人事戦略担当の取締役、中田るみ子氏はこう語る』、さすが「三菱ケミカルホールディングス」の社長は外国人だけあって、思い切ったやり方だ。
・『年功序列賃金を廃止 三菱ケミカルのこれまでの人事制度は管理職と一般社員とで大きな違いがあった。三菱化学など3社が統合して発足した2017年4月から、管理職では欧米のようなジョブ型雇用(職務等級制度)を採り入れていた。ただ、一般社員の人事制度のほうは前身からほぼ変わらず、年功序列になりやすい日本型のメンバーシップ型雇用(職能等級制度)がベースのものだった。 一般社員は働きぶりに加え、経験につながる勤続年数などの要素も加味して評価し、処遇を決めていた。飛び級はなく、昇級は段階的に一歩ずつ上がる。出世に差がつかないわけではないが、昇級の蓄積がモノを言うため、年齢が高いほどよいポストや高い給与を得やすかった。 社員は会社命令に従い、転勤も含めて異動するのが当たり前だった。その代わり、与えられた仕事さえこなして働けば、昇級昇格がほぼ自動的に与えられてきたという。 三菱ケミカルはそうした職能等級制度を2021年4月に廃止し、年功序列の要素がない役割等級制度に変えた。職務(ジョブ)はある程度固定して責任の範囲や求める役割を明確化し、職務の責任の重さや役割貢献への評価に応じて処遇を決めるようになった。これにより、若手でも成果次第で大きく昇進することが可能になった。 本人の同意がない異動や転勤も原則的に廃止した。事業拡大や社員の退職により欠員が出たポストは、社内公募か中途採用でまかなう。公募を通過すれば、社内FA(フリーエージェント)のように、やりたい職務に移ることができる。公募や中途採用で欠員が補充できない場合には、会社命令で異動をさせる可能性があるという。 人事制度を大きく変えた背景の1つが社会情勢の変化だ。中田氏は「例えば、転勤を理由に辞めてしまう人が少しずつ増えてきていた。これまでの制度ではそういう層に十分に応えられるようにはなっていなかった」と振り返る』、「本人の同意がない異動や転勤も原則的に廃止」は社員にはいいことだ。
・『「制約社員」とみなして人事改革 女性総合職や共働き世帯、親の介護をする人も増え、男性社員にも転勤を伴う異動命令を出しにくくなっている。また、少子化で若者の数が減少し、やりたい仕事を求めて転職する人も増えている。 そこで三菱ケミカルは、すべての社員を会社の都合だけでは動かせない「制約社員」(働く場所、時間、仕事内容などの労働条件に関して、何らかの制約がある社員のこと)とみなすことにした。その結果、社員が職務や勤務地を主体的に選ぶことができ、年齢や勤続年数といった属性に関係なく処遇が決まる設計の役割等級制度へ行きついた。 中田氏は「昔のように若くて健康な男性を数多く採れる時代は終わった。採用はこれからもっと難しくなっていくだろう。多様な人材にとって『魅力的な会社』に映るように、人事制度を改める必要があった」と話す。 人事制度を大きく変えたもう1つの要因がイノベーション推進の必要性だ。 中田氏は「グローバルでの競争という面でも(国境や事業間での)垣根がどんどん低くなってきている。社員が創造性を発揮できるようにしていかないと、会社がこのまま成長を続けていくことができなくなる」と危機感を口にする。 かつて主力事業だった化学系の汎用品は、今や中国や中東勢に価格面で押されて厳しくなっている。脱炭素の流れもダメ押しとなり、親会社である三菱ケミカルホールディングスは汎用品が多い石化事業と炭素事業を分離させる方針を発表したばかりだ。 今後の成長は、製品の高機能化や環境負荷の軽減といった付加価値をどれだけ生み出せるかにかかっている。同時に社員にも、より高いレベルの創造性が求められるようになってきている。 会社命令に従うのが当たり前の職能等級制度から、社員が主体的にキャリア形成を考え、専門性を深められる役割等級制度にシフトすることは、三菱ケミカルが置かれた事業環境の要請に合致する』、「会社命令に従うのが当たり前の職能等級制度から、社員が主体的にキャリア形成を考え、専門性を深められる役割等級制度にシフトすることは、三菱ケミカルが置かれた事業環境の要請に合致」、極めて合理的な選択だ。
・『降格・降級もありえる 新人事制度への移行に伴い、今後は昇格・昇給だけでなく降格・降給もありえるという。2020年12月には50歳以上の管理職を対象にした退職募集も行っている。三菱ケミカルHDの伊達英文CFOは退職募集を発表した2020年11月の決算会見で、「(新人事制度によって)若い人にポストを取られていく。忸怩たる思いをする人には(転職を)サポートする」と説明していた。 これまで年功序列の恩恵を受けてきた40~50代を中心に、新人事制度への移行によって大きく降格・降給している社員はいないのか。また、不満はないのか。 三菱ケミカルによると、「ある一定のポジションに着くためには、スキルや経験といった年功に一定程度比例する要素も必要なため、大幅な降格や減給になった事例は把握していない」という。中田氏も「昇格昇給は一気にポーンとやるが、降格・降給は、指導を含む話し合いを入れるなどの手順を踏んで段階的に行う」と説明する。 成果評価を強めると、社員の将来設計を難しくさせるおそれがある。20代後半から30代の社員でも、職能等級制度の賃金モデルで将来収入を見込んで住宅ローンを組んでいる人もいるだろう。旧人事制度時代のような、ほぼ自動的な昇格・昇給がなくなったことで社員が不安を抱き、逆に人材流出につながるおそれも否定はできない。 三菱ケミカル労働組合の堀谷俊志・中央執行委員長は、「(新人事制度の導入によって)必ずしも全員の賃金が向上するとは限らないことは、組合としても検討段階から懸念の1つだった」としたうえで、「それでも(会社と新人事制度で)合意したのは、中長期で雇用を守るためだ。急速な技術革新で、人の仕事が機械に取って代わられる可能性がある。社員が年齢や年功にかかわらず、機械では代替が難しいレベルの高い仕事に今のうちから挑戦することが、中長期で雇用を守ることにつながる。レベルの高い仕事には賃金で応える必要がある」と文書で回答した』、「社員が年齢や年功にかかわらず、機械では代替が難しいレベルの高い仕事に今のうちから挑戦することが、中長期で雇用を守ることにつながる」、なるほど。
・『人件費総額は増えていく 三菱ケミカルでは成果目標や評価に関する上司と部下の面談を今までの年3回から年5回に増やしたほか、評価者向けの研修なども実施する。 また、新人事制度の導入で人件費総額はむしろ増えると想定している。レベルの高い職務に就く社員がいっそう増えていけば、給与総額もさらに増えていく設計になっているという。 三菱ケミカルで人事制度改革のプロジェクトリーダーを務める労制人事部の杉浦史朗氏は「もともとの人事制度では年功の要素があったことで若い社員の給与のスタートライン(最初の水準)が低かった。(役割等級制度にして)職務のレベルを明確化したことにより、最低水準を引き上げている。一方で上の層は、職務レベル並みの賃金を維持している。結果的に給与が上がる人のほうが多いので総額も上がる」と説明する。 労組の堀谷氏は人件費総額の増加方針への評価は示しつつ、「課題は、会社がよりレベルの高い職務を従業員に本当に提示できるかどうか。また、従業員を育成できるかだ。それができなければ制度改革の目的を達成できない」とくぎを刺す。 新人事制度に基づく初めての評価と処遇は、2022年3月末で最初の1年が終わってから決まる。時間の経過とともに、社内での処遇格差が広がっていく可能性もある。それが実際に社員のモチベーションにどのように影響するのか。大胆な人事制度改革の本当の真価が問われるのはこれからになる』、「本当の真価」はどう出てくるのだろうか。
先ずは、10月26日付けダイヤモンド・オンライン「なぜ、おじさんは「群れたがる」のか?対面会議や打ち合わせが早くも復活」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/284715
・『ウィズ・コロナによって会食や集団行動が規制される中、政治家による大人数での会食や会合などが相次いで報道されたことは記憶に新しい。また会社においてもおじさんたちは対面での打ち合わせや会議を熱望していることも多い。このように中高年になるほど集団行動かつ対面を重視したがる理由は何なのか。『大人力検定』(文藝春秋)などの著者であり、大人の振る舞いに詳しいコラムニストの石原壮一郎氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)』、身につまされそうだが、興味深そうだ。
・『仕事に絡めないと人に会えない悲哀 コロナ禍によって3密が避けられ、仕事でもプライベートでも以前のような対面を基本とするあらゆるコミュニケーションが制限された。にもかかわらず、政治家らが大人数で会食をしたり、中高年のおじさん社員がテレワークに苦言を呈すなどの話は後を絶たない。また、緊急事態宣言の期間中は比較的減少したが、解除後は部下を引き連れてランチや飲み会に行く姿も目にするようになった。 このように改めて振り返ると、おじさんほど公私を問わず対面を重視し、なにかと群れて行動したがる傾向があるのではないだろうか。その理由を石原氏はこう分析する。) 「かつての日本の企業文化は組織という群れの中にいれば生活をまるごと会社が守ってくれるものでした。組織で役割を果たしていれば、よほどのことがない限り、その群れから追い出されることもなく、安心・安全だったのです。そのため、現在のおじさんの多くは、若手の頃から群れの一員となることに腐心し、今も同じ習慣と価値観が残っているのです」 先輩や同僚と昼食や飲みに行き、毎日会社で顔を合わせることは、群れの一員を自覚し、結束するという儀礼でもあった。 ただ、トヨタ自動車の豊田章男社長による「終身雇用を守っていくのは難しい」という発言や副業の解禁、大企業でも相次ぐ早期退職制度など、組織や雇用のあり方は平成から令和にかけて、めまぐるしく変化している。 このような状況にもかかわらず、かつてと同じように社内の人間を中心に群れるという行動原理を中高年は変えられないのであろう。 そのような長年の積み重ねによる行動原理の他にも、おじさんならではの悲哀と寂寞(せきばく)感が群れることには表れているという。 「おじさんの相手はおじさんしかしてくれないのです。父親として尊敬されている人は少ないので家庭は窮屈だし、会社の中でもプライベートを重視する今時の若手社員は付き合いも悪い。そうなるとおじさん同士で寂しさを埋め、承認欲求を満たすしかなく、会議を開いたり会食をしたりとなにかと集まりたがるのです。年を取るほど気軽に遊びや食事に誘える友人も少なくなるので、社会的地位や仕事の必然性を絡めないと誰かと会うこともなくなりますから」』、「家庭は窮屈だし、会社の中でもプライベートを重視する今時の若手社員は付き合いも悪い。そうなるとおじさん同士で寂しさを埋め、承認欲求を満たすしかなく、会議を開いたり会食をしたりとなにかと集まりたがるのです」、寂しい限りだ。
・『変化への不安から若手と群れたがる このような会合は当人同士でやってほしいものだが、往々にして若手や後輩も巻き添えになる。おじさんたちの雑談を聞かされ続けるだけの会議や、行きたくもない飲み会に有無を言わさず駆り出されるということは、多くの社員が経験しているだろう。このような行動をしてしまうおじさんに石原氏は苦言を呈す。 「おじさんたちは『俺らの何気ない話も若手には勉強になるはず』と思いがちですが、それはあまりにも自らを美化しすぎています。多少は有意義な話題があるかもしれませんが、現代の多くの若者は好きでもないおじさんから何かを得ようと思いません。知りたいことはネットでいくらでも検索できますし、そもそも群れ(組織)にいれば安心という意識も薄いので、貴重な時間を削っておじさんに付き合うメリットも感じません」 さらに若者と群れたがるおじさんには、ある種の焦りがあると石原氏は語る。 「インターネットやパソコンなどテクノロジーの変化への対応力を欠くおじさんは多く、柔軟に対応する若者に差をつけられていないかと不安になっています。このようなおじさんたちは会議や飲みの場で人生経験などを語ることで、自分はまだ若者よりも秀でていると思い込みたいのです。また、自分がバリバリ仕事をできないと自覚する上司に残るのは『部下に慕われる』という矜持だけなので、彼らは若者にとって迷惑な群れ方を強要している可能性が高いです」 コロナによって新しいコミュニケーションツールや仕事の進め方などが急激に変化したが、その反動でより群れたい欲が強くなっているのかもしれない。 「コロナによって不安や焦りはますます強くなっています。そうした気持ちを慰めてくれる場所がキャバクラなどの、いわゆる夜のお店だった。お金を払って仕事に関する愚痴をこぼし『俺に言わせりゃ』と気勢を上げられるオアシスだったのです。しかし、コロナ禍によりそれもかなわず、欲求がより身近な人に向いている可能性があります」 緊急事態宣言の解除を一番待ち望んでいたのは、このように行き場を失ったおじさんたちだったのかもしれない』、「コロナ禍によりそれもかなわず、欲求がより身近な人に向いている可能性があります」、「身近な人」こそいい迷惑だ。
・『コロナ禍で増えるオンライン上の群れ ただ、現在はテレワークや飲食店の時短営業、人数制限で思うように人と会えない。こうした中で増えつつあるのが、LINEグループやメーリングリストといった「オンライン上の群れ」を作りたがるおじさんたちである。 「やたらとLINEグループを作りたがったり、『今日は中秋の名月ですね』などと仕事と関係のない投稿やメールを送ったりするおじさんもいます。対面で話せない寂しさをオンラインで晴らそうとするわけですが、他のメンバーにとっては興味がないか、もしくは迷惑なだけ。『やめた方がいいですよ』と言うと逆恨みされるので、メンバーは精いっぱいの抵抗として既読スルーするわけですが、そのような空気を察することができないおじさんも多い。彼らは、上司や先輩というだけで若手が構ってくれるという価値観から抜け出せていません」 このような投稿は、時として部下の労働意欲をそぐ効果も働いてしまうので、上司の役割としては本末転倒だ。 ここまで散々、若者に群れを強要するおじさんについて書いてきたが、決して世代間の対立をあおりたいわけではない。石原氏も、おじさんをあまりに忌避する若者に対してこう警鐘を鳴らす。 「おじさんを老害とやゆし、あたかも世代の仮想敵のように考えるのも危険です。そこには、おじさんを否定することで自分たちの価値やプライドを保っている側面があり、おじさんたちが『最近の若者は……』と話すことと構造は同じなのです。実際、高慢で群れたがる先輩にはなるまいと思っていたおじさんも多いのですが、期せずしてそうなってしまった。若者にとっても明日は我が身なのです」 大抵の人間は、「こんな大人にはなるまい」と思っていたのに、気づけばそんな大人になっているものだ。今の若者も30年後には、迷惑な群れるおじさんになってしまう可能性はある。最後に、石原氏はおじさんのあるべき振る舞い方について、次のように話す。 「現在のおじさんが若手の頃は我慢して先輩に気を使いましたが、いざ先輩の立場になったときに、かつてと同じようには振る舞えない時代になりました。リストラや技術革新など状況の変化もあり、おじさんにとっては受難の時代ともいえます。こうした状況下において『自分の言動は若者にとって迷惑かもしれない』ことを念頭に置くべきです。部下を誘うときは『オイ、行くぞ』という上から目線ではなく、『行けたらうれしい』と下手に出る。会話する際も『尊敬されたい』という欲を捨てる。また、プライベートでは一人でできる趣味を見つけ、会社や家庭以外の居場所を見つけると迷惑な群れ方を予防できます」 これらに気をつければ時代や周りに取り残されず、慕われる中高年になれるはずだ』、「「現在のおじさんが若手の頃は我慢して先輩に気を使いましたが、いざ先輩の立場になったときに、かつてと同じようには振る舞えない時代になりました。リストラや技術革新など状況の変化もあり、おじさんにとっては受難の時代ともいえます」、「『自分の言動は若者にとって迷惑かもしれない』ことを念頭に置くべきです。部下を誘うときは『行けたらうれしい』と下手に出る。会話する際も『尊敬されたい』という欲を捨てる。大変な時代になったものだ。
次に、12月24日付け東洋経済Plus「社員の責任と役割を明確化、若手も昇進可能に 三菱ケミカル、日本的人事と決別宣言した背景」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29234#contd
・『総合化学大手の三菱ケミカルが大胆な人事改革を進めている。日本的な職能等級制度を廃止し、若手でも成果次第で大きく昇進することが可能になった。その狙いは何か。 年功序列にとらわれない「ごぼう抜き人事」で大抜擢――。 日本では、社長人事など経営幹部層の間ではよくある話でも、一般社員の間で起こることはこれまでほとんどなかった。それが、国内最大手の総合化学メーカー・三菱ケミカルホールディングスの中核会社の三菱ケミカルで、現実的な話になった。2021年の春、ジョブ型に近い新たな人事制度を導入したからだ。 「すでに飛び級のような例もいくつか出てきている。従来よりも、若い世代の登用が進んでいる。本人にスキルさえあれば、年齢関係なしにやりたい仕事に就けるようになってきている」 アメリカの製薬大手ファイザーの日本法人を経て2018年3月に招聘され、三菱ケミカルで大胆な人事制度改革を進める人事戦略担当の取締役、中田るみ子氏はこう語る』、さすが「三菱ケミカルホールディングス」の社長は外国人だけあって、思い切ったやり方だ。
・『年功序列賃金を廃止 三菱ケミカルのこれまでの人事制度は管理職と一般社員とで大きな違いがあった。三菱化学など3社が統合して発足した2017年4月から、管理職では欧米のようなジョブ型雇用(職務等級制度)を採り入れていた。ただ、一般社員の人事制度のほうは前身からほぼ変わらず、年功序列になりやすい日本型のメンバーシップ型雇用(職能等級制度)がベースのものだった。 一般社員は働きぶりに加え、経験につながる勤続年数などの要素も加味して評価し、処遇を決めていた。飛び級はなく、昇級は段階的に一歩ずつ上がる。出世に差がつかないわけではないが、昇級の蓄積がモノを言うため、年齢が高いほどよいポストや高い給与を得やすかった。 社員は会社命令に従い、転勤も含めて異動するのが当たり前だった。その代わり、与えられた仕事さえこなして働けば、昇級昇格がほぼ自動的に与えられてきたという。 三菱ケミカルはそうした職能等級制度を2021年4月に廃止し、年功序列の要素がない役割等級制度に変えた。職務(ジョブ)はある程度固定して責任の範囲や求める役割を明確化し、職務の責任の重さや役割貢献への評価に応じて処遇を決めるようになった。これにより、若手でも成果次第で大きく昇進することが可能になった。 本人の同意がない異動や転勤も原則的に廃止した。事業拡大や社員の退職により欠員が出たポストは、社内公募か中途採用でまかなう。公募を通過すれば、社内FA(フリーエージェント)のように、やりたい職務に移ることができる。公募や中途採用で欠員が補充できない場合には、会社命令で異動をさせる可能性があるという。 人事制度を大きく変えた背景の1つが社会情勢の変化だ。中田氏は「例えば、転勤を理由に辞めてしまう人が少しずつ増えてきていた。これまでの制度ではそういう層に十分に応えられるようにはなっていなかった」と振り返る』、「本人の同意がない異動や転勤も原則的に廃止」は社員にはいいことだ。
・『「制約社員」とみなして人事改革 女性総合職や共働き世帯、親の介護をする人も増え、男性社員にも転勤を伴う異動命令を出しにくくなっている。また、少子化で若者の数が減少し、やりたい仕事を求めて転職する人も増えている。 そこで三菱ケミカルは、すべての社員を会社の都合だけでは動かせない「制約社員」(働く場所、時間、仕事内容などの労働条件に関して、何らかの制約がある社員のこと)とみなすことにした。その結果、社員が職務や勤務地を主体的に選ぶことができ、年齢や勤続年数といった属性に関係なく処遇が決まる設計の役割等級制度へ行きついた。 中田氏は「昔のように若くて健康な男性を数多く採れる時代は終わった。採用はこれからもっと難しくなっていくだろう。多様な人材にとって『魅力的な会社』に映るように、人事制度を改める必要があった」と話す。 人事制度を大きく変えたもう1つの要因がイノベーション推進の必要性だ。 中田氏は「グローバルでの競争という面でも(国境や事業間での)垣根がどんどん低くなってきている。社員が創造性を発揮できるようにしていかないと、会社がこのまま成長を続けていくことができなくなる」と危機感を口にする。 かつて主力事業だった化学系の汎用品は、今や中国や中東勢に価格面で押されて厳しくなっている。脱炭素の流れもダメ押しとなり、親会社である三菱ケミカルホールディングスは汎用品が多い石化事業と炭素事業を分離させる方針を発表したばかりだ。 今後の成長は、製品の高機能化や環境負荷の軽減といった付加価値をどれだけ生み出せるかにかかっている。同時に社員にも、より高いレベルの創造性が求められるようになってきている。 会社命令に従うのが当たり前の職能等級制度から、社員が主体的にキャリア形成を考え、専門性を深められる役割等級制度にシフトすることは、三菱ケミカルが置かれた事業環境の要請に合致する』、「会社命令に従うのが当たり前の職能等級制度から、社員が主体的にキャリア形成を考え、専門性を深められる役割等級制度にシフトすることは、三菱ケミカルが置かれた事業環境の要請に合致」、極めて合理的な選択だ。
・『降格・降級もありえる 新人事制度への移行に伴い、今後は昇格・昇給だけでなく降格・降給もありえるという。2020年12月には50歳以上の管理職を対象にした退職募集も行っている。三菱ケミカルHDの伊達英文CFOは退職募集を発表した2020年11月の決算会見で、「(新人事制度によって)若い人にポストを取られていく。忸怩たる思いをする人には(転職を)サポートする」と説明していた。 これまで年功序列の恩恵を受けてきた40~50代を中心に、新人事制度への移行によって大きく降格・降給している社員はいないのか。また、不満はないのか。 三菱ケミカルによると、「ある一定のポジションに着くためには、スキルや経験といった年功に一定程度比例する要素も必要なため、大幅な降格や減給になった事例は把握していない」という。中田氏も「昇格昇給は一気にポーンとやるが、降格・降給は、指導を含む話し合いを入れるなどの手順を踏んで段階的に行う」と説明する。 成果評価を強めると、社員の将来設計を難しくさせるおそれがある。20代後半から30代の社員でも、職能等級制度の賃金モデルで将来収入を見込んで住宅ローンを組んでいる人もいるだろう。旧人事制度時代のような、ほぼ自動的な昇格・昇給がなくなったことで社員が不安を抱き、逆に人材流出につながるおそれも否定はできない。 三菱ケミカル労働組合の堀谷俊志・中央執行委員長は、「(新人事制度の導入によって)必ずしも全員の賃金が向上するとは限らないことは、組合としても検討段階から懸念の1つだった」としたうえで、「それでも(会社と新人事制度で)合意したのは、中長期で雇用を守るためだ。急速な技術革新で、人の仕事が機械に取って代わられる可能性がある。社員が年齢や年功にかかわらず、機械では代替が難しいレベルの高い仕事に今のうちから挑戦することが、中長期で雇用を守ることにつながる。レベルの高い仕事には賃金で応える必要がある」と文書で回答した』、「社員が年齢や年功にかかわらず、機械では代替が難しいレベルの高い仕事に今のうちから挑戦することが、中長期で雇用を守ることにつながる」、なるほど。
・『人件費総額は増えていく 三菱ケミカルでは成果目標や評価に関する上司と部下の面談を今までの年3回から年5回に増やしたほか、評価者向けの研修なども実施する。 また、新人事制度の導入で人件費総額はむしろ増えると想定している。レベルの高い職務に就く社員がいっそう増えていけば、給与総額もさらに増えていく設計になっているという。 三菱ケミカルで人事制度改革のプロジェクトリーダーを務める労制人事部の杉浦史朗氏は「もともとの人事制度では年功の要素があったことで若い社員の給与のスタートライン(最初の水準)が低かった。(役割等級制度にして)職務のレベルを明確化したことにより、最低水準を引き上げている。一方で上の層は、職務レベル並みの賃金を維持している。結果的に給与が上がる人のほうが多いので総額も上がる」と説明する。 労組の堀谷氏は人件費総額の増加方針への評価は示しつつ、「課題は、会社がよりレベルの高い職務を従業員に本当に提示できるかどうか。また、従業員を育成できるかだ。それができなければ制度改革の目的を達成できない」とくぎを刺す。 新人事制度に基づく初めての評価と処遇は、2022年3月末で最初の1年が終わってから決まる。時間の経過とともに、社内での処遇格差が広がっていく可能性もある。それが実際に社員のモチベーションにどのように影響するのか。大胆な人事制度改革の本当の真価が問われるのはこれからになる』、「本当の真価」はどう出てくるのだろうか。
タグ:「家庭は窮屈だし、会社の中でもプライベートを重視する今時の若手社員は付き合いも悪い。そうなるとおじさん同士で寂しさを埋め、承認欲求を満たすしかなく、会議を開いたり会食をしたりとなにかと集まりたがるのです」、寂しい限りだ。 日本型経営・組織の問題点 「本当の真価」はどう出てくるのだろうか。 「会社命令に従うのが当たり前の職能等級制度から、社員が主体的にキャリア形成を考え、専門性を深められる役割等級制度にシフトすることは、三菱ケミカルが置かれた事業環境の要請に合致」、極めて合理的な選択だ。 「本人の同意がない異動や転勤も原則的に廃止」は社員にはいいことだ。 「コロナ禍によりそれもかなわず、欲求がより身近な人に向いている可能性があります」、「身近な人」こそいい迷惑だ。 「「現在のおじさんが若手の頃は我慢して先輩に気を使いましたが、いざ先輩の立場になったときに、かつてと同じようには振る舞えない時代になりました。リストラや技術革新など状況の変化もあり、おじさんにとっては受難の時代ともいえます」、「『自分の言動は若者にとって迷惑かもしれない』ことを念頭に置くべきです。部下を誘うときは『行けたらうれしい』と下手に出る。会話する際も『尊敬されたい』という欲を捨てる。大変な時代になったものだ。 石原壮一郎 ダイヤモンド・オンライン「なぜ、おじさんは「群れたがる」のか?対面会議や打ち合わせが早くも復活」 (その12)(なぜ おじさんは「群れたがる」のか?対面会議や打ち合わせが早くも復活、社員の責任と役割を明確化 若手も昇進可能に 三菱ケミカル、日本的人事と決別宣言した背景) 「社員が年齢や年功にかかわらず、機械では代替が難しいレベルの高い仕事に今のうちから挑戦することが、中長期で雇用を守ることにつながる」、なるほど。 東洋経済Plus さすが「三菱ケミカルホールディングス」の社長は外国人だけあって、思い切ったやり方だ。 『大人力検定』 「社員の責任と役割を明確化、若手も昇進可能に 三菱ケミカル、日本的人事と決別宣言した背景」
税制一般(その2)(確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説、111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!、金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」) [経済政策]
税制一般については、2017年1月12日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その2)(確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説、111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!、金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」)である。
先ずは、本年2月4日付け東洋経済オンラインが掲載した公認会計士・税理士 の渡辺 義則氏による「確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/408996
・『今年の確定申告では、改正点がいやというほど目白押し。毎年、申告している方ほど混乱必至かもしれません。そこで、『自分ですらすらできる確定申告の書き方 令和3年3月15日締切分』から、注意したい改正点をピックアップして解説します』、私は実は恥ずかしながら、「確定申告「雑にやる人」に該当する。修正申告を何回もやるのが普通だ。
・『確定申告の改正の注意点6つ まずは、どんな改正があったのかを、ザっと見てみましょう。今年、注意したいのは、主に次の6つです。 ①すべての人に関係する基礎控除の改正⇒減税 ②給与やアルバイト収入のある人に関係する改正⇒増税 ③年金をもらっている人に関係する改正⇒増税 ④青色申告をしている人に関係する改正⇒増税の場合あり ⑤寡婦、ひとり親の人に関係する改正⇒減税または増税 ⑥配偶者、扶養家族に関係する改正⇒減税の場合あり パッとみると非常にややこしいですね。しかし、改正による影響について見てみると、②③で増税となりますが、①で減税となるため、全体としては増減なく変わらない人の多い改正となっています。 個人事業や不動産賃貸業をしている方は、①で減税となりますが、青色申告者の場合、e-Taxを使って申告しないと増税となる④の改正があるため、要注意です。 未婚のひとり親の方、寡夫の方は、⑤の改正により減税となります。ただし、今回の改正で対象から外れて増税となる人もいるので注意しましょう。⑥は控除対象になる人の範囲が広がるため、場合によっては減税となります。 では、それぞれの内容について見ていきましょう』、興味深そうだ。
・『①すべての人に関係する基礎控除の改正 注意したい改正点の1つ目は、「基礎控除」です。これは、申告する人すべてに関わってくる控除になります。 従来、基礎控除の金額は38万円でしたが、今年の申告からは48万円となり、10万円引き上げられています。とくに例年申告している方は、昨年分と金額が違いますので、注意しましょう。 基礎控除は、所得から引くこと(控除)のできる項目(所得控除)ですから、多いほど、税金面では有利となります。 したがって、通常は減税となりますが、合計所得が2400万円を超える方は、下図のように控除額が段階的に引き下げられ、増税となります』、なるほど。
・『年収850万円超の人は増税に ②給与やアルバイト収入のある人に関係する改正 注意したい改正点の2つ目は、給料やアルバイト・パート収入のある人に関係する改正です。大きく2つあります。ただし、年末調整を受けた方は、会社がすでに改正を反映させて給与所得を計算してくれていますので、「こんな改正があったのだな」くらいに思っていただければ、大丈夫です。 1. 給与所得控除額の引き下げ 1つは給与所得控除額の改正です。下図のように、年収850万円以下の人は給与所得控除額が一律10万円引き下げになり、年収850万円超の人は一律給与所得控除額が195万円となります。 給与所得控除額は、給料収入から所得を計算するときに、必要経費のように引くことができる項目です。その金額が少なくなったということですから、増税となります。 ただし、前述の基礎控除が10万円引き上げられたため、年収850万円以下の人については、全体としては増税も減税もなし、という建て付けになっています』、「増減税」なしで一安心だ。
・『①すべての人に関係する基礎控除の改正 注意したい改正点の1つ目は、「基礎控除」です。これは、申告する人すべてに関わってくる控除になります。 従来、基礎控除の金額は38万円でしたが、今年の申告からは48万円となり、10万円引き上げられています。とくに例年申告している方は、昨年分と金額が違いますので、注意しましょう。 基礎控除は、所得から引くこと(控除)のできる項目(所得控除)ですから、多いほど、税金面では有利となります。 したがって、通常は減税となりますが、合計所得が2400万円を超える方は、下図のように控除額が段階的に引き下げられ、増税となります』、「減税」になる方が圧倒的に多いのだろう。
・『年収850万円超の人は増税に ②給与やアルバイト収入のある人に関係する改正 注意したい改正点の2つ目は、給料やアルバイト・パート収入のある人に関係する改正です。大きく2つあります。ただし、年末調整を受けた方は、会社がすでに改正を反映させて給与所得を計算してくれていますので、「こんな改正があったのだな」くらいに思っていただければ、大丈夫です。 1. 給与所得控除額の引き下げ 1つは給与所得控除額の改正です。下図のように、年収850万円以下の人は給与所得控除額が一律10万円引き下げになり、年収850万円超の人は一律給与所得控除額が195万円となります。 給与所得控除額は、給料収入から所得を計算するときに、必要経費のように引くことができる項目です。その金額が少なくなったということですから、増税となります。 ただし、前述の基礎控除が10万円引き上げられたため、年収850万円以下の人については、全体としては増税も減税もなし、という建て付けになっています』、なるほど。
・『2. 所得金額調整控除の創設 年収850万円超の方については、前述の改正による影響があまり大きくならないよう、「所得金額調整控除」というものが創設されました。これは、子育て世帯と特別障害者のいる世帯(本人または家族)に限って、最大15万円の所得金額調整控除額を、給与所得の金額から引くことができるというものです』、余り関係ないようだ。
・『年金に関する改正の注意点は2つ ③年金をもらっている人に関係する改正 注意したい改正点の3つ目は、年金をもらっている人に関係する改正です。大きく2つあります。 1. 公的年金等控除額の引き下げ 1つは、公的年金等控除額が一律10万円引き下げられたことです。また、合計所得の金額によって計算区分が3つに分けられました。図は公的年金等の所得を計算するための図ですが、赤字の部分が引き下げられた箇所になります。 公的年金等控除額は、年金収入から所得を計算するときに、必要経費のように引くことができる項目です。その金額が少なくなったということですから増税となりますが、前述の基礎控除が10万円引き上げられたため、結果的に増税も減税もないことになっています。 2. 所得金額調整控除の創設 公的年金収入に加えて給料、アルバイト・パート収入がある方に対して、最大10万円の「所得金額調整控除」が設けられました。 今回の改正では、前述したように給与所得控除額と公的年金等控除額が10万円引き下げられました。両方の所得がある人は、20万円の所得アップとなってしまいます。そこで、10万円の所得アップですむよう、調整するために設けられたものです』、私の場合、もともと「10万円の所得アップ」となるようだ。
・『e-Taxを始めるには ④青色申告をしている人に関係する改正 青色申告をしている人が注意したいのは、今年からe-Tax(インターネットを使った電子申告)をしないと、青色申告特別控除額が55万円に引き下げられてしまうことです。e-Taxで申告しないと増税となりますが、e-Taxを使えば、従来どおりの65万円の控除を受けることができます。 e-Taxを始めるには、マイナンバーカードとICカードリーダライタを使う方法と、IDとパスワードを税務署に発行してもらう方法の2つがあります。くわしくは、図をご参照ください。 ⑤寡婦、ひとり親の人に関係する改正 寡婦、ひとり親の人に関係するものでは、大きく3つの改正があります。また、「寡婦、寡夫控除」という名称が「寡婦、ひとり親控除」という名称に変更されました。 改正の1つ目は、未婚のシングルマザー・ファーザーの人も控除を受けられるようになったことです。従来は結婚していた人でないと、控除が認められませんでした。これは減税となる改正で、控除額は35万円となります。 2つ目は、寡夫控除が廃止されて、「ひとり親控除」に統合されたことです。控除額は従来の27万円から35万円に引き上げられ、減税となります。 3つ目は、「合計所得500万円以下」という所得制限が加わったことです。従来は、夫と死別・離婚して子どもか扶養親族のいる人であれば、所得と関係なく、控除を受けることができました。合計所得が500万円を超える方は対象から外されますので、増税となります。 具体的な要件などをまとめると、次のようになります』、私は既に「e-Taxで申告」しているので、関係なさそうだ。
・『確定申告の際には改正内容をよく確認して ⑥配偶者、扶養親族に関係する改正 注意したい改正点の最後は、配偶者や扶養親族がいる人に関係する改正です。 控除の対象にできる家族の所得(合計所得)が10万円引き上げられました。 扶養控除と配偶者控除は、合計所得48万円以下(改正前38万円以下)になり、配偶者特別控除は、合計所得48万円超133万円以下(改正前38万円超123万円以下)となります。 ただし、合計所得が10万円引き上げられた一方、給与所得控除額も10万円引き下げられたため、対象となる年収は従来と同じです。具体的には、扶養控除と配偶者控除は給与年収が103万円以下、配偶者特別控除は103万円超201万5999円以下であることが条件となります。 以上、今年の変更点をご紹介しました。今回の改正は、フリーランスやシングルマザーの方は減税、給与年収が高い方は増税など、ケースによって増税と減税に分かれます。また、青色申告をしている人は、e-Taxを使わないと増税です。 今年は、所得金額調整控除も創設されましたので、改正内容についてよく確認をして確定申告をしていただくとよいでしょう』、普段は間違った申告を後日、修正申告することが多かったが、今回は間違えないよう慎重にやろう。
次に、5月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した税理士の橘慶太氏による「「111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/271602
・『コロナ禍では、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。 相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。 本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuber税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は6万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し、現在3.5万部。遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。(この記事は2020年12月3日付の記事を再構成したものです』、「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています」、大いに気を付けたいところだ。
・『なぜ税務署にマークされるのか? 111万円の贈与をして、贈与税を少しだけ納税すれば、贈与契約書を作成しなくても問題ないと聞きました」 よくいただく質問ですが、これは間違っています。あえて110万円を1万円だけ超える111万円を贈与し、贈与税を1000円だけ納める税務調査対策があります。 これは税務署に対して「私は贈与税の申告をして、贈与税も払って、きちんとした形で贈与を受けていますよ」とアピールするために行います。 一見よい対策に見えますが、むしろ税務署から目を付けられ、税務調査を誘発するケースがあります。詳しく見ていきましょう。 本来、贈与税の申告は財産をもらった人が行わなければいけません。それにもかかわらず、財産をあげた人(親)が、もらった人(子)の名前で勝手に贈与税申告書を作成し、納税まで済ませてしまうことがよくあります。 贈与税の申告は、提出の際に身分証明書は一切必要なく、郵送だけでも可能です。そのため、親が子の名前の申告書を作り、郵送で提出すれば手続きは完了です。 しかし、贈与税申告書の筆跡や、納税された通帳の履歴等を見れば、親が子の名前で勝手に申告をしていたかどうかは、税務署側では大体わかります』、建前通り「本人申告」の形をとるべきなのだろう。
・『税務署が「これは怪しい」と疑うポイントとは? 生前贈与そのものは「あげた、もらったの約束」等がしっかりできていれば成立します。贈与税の申告を親が代わりに行ったとしても、直ちに贈与そのものが否定されるわけではありません。 しかし、そういった贈与税申告が行われている場合、調査官には「贈与税の申告書は提出されているものの、子どもは贈与のことを知らされていないのではないか?」と映り、疑いを持たれます。 結果として、相続が発生したときに税務調査に選ばれ、過去の贈与税申告の真相について追及される可能性があります。 このやり方の本来の趣旨通り、贈与で財産をもらった人が、自ら贈与税の申告をし、納税まで済ませるのであれば、何も問題ありません。 しかしいつの間にか、「贈与税を少しだけ納めれば、名義預金にならない」という間違った認識が世の中に広がり、余計に怪しい贈与税申告書が税務署に提出される結果になっています。 贈与税を払うこと自体に意味があるのではなく、贈与で財産をもらった人自らが申告手続きをすることに意味があるのです。) 橘慶太氏の略歴はリンク先参照)』、「名義預金」とされれば、大変だ。
・『相続争いの大半は「普通の家庭」で起きている 「相続争いは金持ちだけの話」ではありません。 実は「普通の家庭」が一番危ないのです。 2018年に起こった相続争いの調停・審判は1万5706件。そのうち、遺産額1000万円以下が33%、5000万円以下が43.3%。つまり、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」 で起きています。 さらに、2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます。 相続トラブルはなぜ起こるのか? なぜ、普通の家庭で相続争いが起こるのでしょうか? 「財産がたくさんある家庭」が揉めると思われがちですが、それは間違いです。 揉めるのは 「バランスが取れるだけの金銭がない家庭」 です。 例えば、同じ5000万円の財産でも、「不動産が2500万円、預金が2500万円」という家庭であれば、一方が不動産を、もう一方は預金を相続すれば問題ありません。 しかし、「不動産が4500万円、預金が500万円」ならどうでしょうか? 不動産をどちらか一方が相続すれば、大きな不平等が生じます。こういった家庭に相続争いが起こりやすいのです。 多くの方が「私たちの家庭事情は特殊だから」と考えがちです。しかし、相続にまつわるトラブルには明確なパターンが存在します。パターンが存在するということは、それを未然に防ぐ処方箋も存在します』、「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」 で起きています。 さらに、2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます」、「揉めるのは 「バランスが取れるだけの金銭がない家庭」 です」、どうしても不動産に偏っており、やはり周到な準備が必要なようだ。
・『日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます! はじめまして。円満相続税理士法人の橘慶太(たちばな・けいた)と申します。 この度『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』を出版しました。 私は、相続税専門の税理士法人の代表として、これまで5000人以上の方の相続相談に乗ってきました。また、これまで日本全国で500回以上、相続セミナーの講師を務めた経験もあります。 限られた人にしか伝えることができないセミナーよりも、もっと多くの人に相続の知識を広めたいと想い、2018年からYou Tubeを始めました。現在、チャンネル登録者は4.8万人を超えており、相続に関する情報発信者としては、間違いなく日本一の実績を持っています。 相続にまつわる法律や税金を解説した本は星の数ほどあります。しかし、本に書いてあることと、実際の現場で起きていることはまったく別物です。 「教科書的な本ではなく、相続の現場で起きている真実をぶっちゃけた1冊にしたい!」 という想いを込めて、本書を執筆しました。 専門用語は使わず、イメージがつかみやすいよう随所に工夫をちりばめました。ただ、わかりやすさを追求しつつも、伝えるべき相続の勘所(ポイント)は一切カットしていません。この1冊で、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所といった深い部分まで学べる内容になっています。 さらには2019年、約40年ぶりに相続にまつわる法律が改正され、遺言書のルールが大きく変更されたり、配偶者居住権という新しい制度が始まったりするなど、「相続の常識」が大きく様変わりしました。もちろん本書は、この大改正に完全対応しており、変更点・注意点をあますところなく解説します。 本書を読み終わるころには、相続にまつわる網羅的な基礎知識が身につき、円満相続への準備がうこと間違いありません。自分が今すべきことが明確になり、暗中模索だった状態から、パーッと目の前が明るくなることをお約束します。 そして巻末資料として、「知りたいことすぐわかるお悩み別索引」「いつまでに何をすべきかがわかる相続対策シート」も完備。ここを読むだけで、相続にまつわる網羅的な知識が身につき、円満相続への準備が整うこと間違いありません! 『本書の主な内容 (リンク先参照)』、一度、図書館ででも目を通しておこう。
第三に、12月18日付け東洋経済Plus「金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29221
・『2021年末、与党の税制改正大綱がまとまり、金融所得課税の増税は見送られた。しかしその陰で、富裕層の徴税強化は着々と進められていた。 「金融所得に対する課税のあり方について検討する必要がある」 12月10日、自民・公明両党がまとめた2022年度税制改正大綱のこの文言に、溜飲が下がった投資家は多かっただろう。 そもそも、岸田文雄首相は政権発足当初、「成長と分配」路線の実現に向けて、株式の配当や売却による金融所得について、増税を声高に訴えていた。それが一転、市場関係者の猛反発や株価の急落という事態を受けて、発言はみるみるトーンダウン。結果として課税のあり方について「検討する」と表明しただけで、肝心の見直し期限すら大綱に盛り込めなかったわけだ。 ところが、金融所得が多く影響が大きいと思われる富裕層の表情は、一様に硬いままだ。というのも、まるで金融所得課税において増税できなかった意趣返しをするかのように、富裕層への徴税強化に向けた税制の見直し方針を、大綱の至る所にちりばめてきたからだ』、「金融所得」「増税」を見送ったとはいえ、「増税できなかった意趣返しをするかのように、富裕層への徴税強化に向けた税制の見直し方針を、大綱の至る所にちりばめてきた」、興味深そうだ。
・『所得基準一部廃止の衝撃 中でも、富裕層がため息を漏らすのが、「財産債務調書制度」の見直しだ。 これは、億円単位の資産を持つ富裕層を対象に、不動産や株式などの資産の状況を、毎年詳細に税務署に報告させるものだ(下表参照)。 その目的は、富裕層における「所得税・相続税の申告の適正性を確保」(国税庁)すること。つまり、資産の状況について毎年詳しく税務署に報告させることで、所得隠しや相続時の資産隠しといった課税逃れを、簡単にはできないようにしているわけだ。 調書の提出は、これまで「所得が2000万円超」かつ「資産の合計額が3億円以上」の富裕層が対象だった。それを今回の税制改正によって、2024年から「合計10億円以上の資産」を持つ人には所得金額に関係なく提出を義務づけることにしたのだ。 10億円以上もの資産を持つ富裕層であれば、すでに毎年調書を提出しており、今さらため息をつくようなことではないと思うかもしれないが、そうではない。実は一部の富裕層は、調書提出の条件になっている2000万円超という所得基準を逆手に取り、提出しなくて済むようにさまざまな策を弄していたのだ。 その代表的なものが、少額の減価償却資産を活用したスキーム。課税所得を2000万円以下に圧縮し、提出義務の対象者にならないようにしていた。しかし、所得基準がなくなれば、問答無用で資産について報告しなければならなくなってしまう。 ため息の理由はほかにもある。それは、資産隠しなどを目的に海外業者の口座で保有している暗号資産(仮想通貨)についても、「財産債務調書」に詳細に記載しなければいけなくなるという点だ。 国税当局はすでに、海外への資産フライト(逃避)による課税逃れを防ぐため、2014年から「国外財産調書制度」を導入。調書提出の条件は5000万円を超える資産が海外にある場合となっているが、国税庁は暗号資産について「調書に記載しなくていい」と取り扱い方針の中で整理している。 これが、いわゆる税務上の「抜け穴」の1つになっているが、財産債務調書に関しては海外口座にある暗号資産についても調書に記載する必要がある。国外財産調書よりも、国内外を問わずかける資産把握の網が広いわけだ。 それゆえ、これまであの手この手で課税逃れを模索してきた資産10億円以上の富裕層にとって、今回の財産債務調書制度の大幅な見直しは憂鬱なのだ』、「課税逃れ」の穴を塞ぐ意味は大きい。
・『税務当局が手に入れた武器 富裕層の海外資産に対する“課税包囲網”を着々と築き上げている国税庁にとって、目下強力な武器となっている1つの制度がある。それは「共通報告基準(CRS)に基づく金融口座情報の自動交換制度」だ(下図参照)。 経済協力開発機構(OECD)が旗振り役となって進めているもので、制度を導入している国や地域の税務当局が、非居住者の銀行口座の残高といった情報(CRS情報)を、定期的に交換する仕組みだ。 日本は2017年から制度を導入しており、2020年7月から2021年1月までの約7カ月間で、84 の国・地域から219万件の情報を受領したという。口座残高の総額は約10兆円にのぼるとされており、国税庁はその巨額な資金に対し監視の目を強めることで、申告漏れなどの事案を洗い出しているわけだ。 国税庁が2021年11月に公表した個別の申告漏れ事案では、日本の企業経営者が海外のA国に多額の預金を持っていることがCRS情報によって発覚した。国外送金をした形跡がなかったことから調査を進めたところ、タックスヘイブン(租税回避地)のB国に法人を設立、A国の預金口座に役員報酬として入金させていたことがわかったという。 さらに、その役員報酬を元手にファンドに投資して配当を得ていたほか、A国にある預金を隠す目的で日本円として出金し、手荷物として日本に持ち込んでいたことも判明した。結果として、この経営者の申告漏れ所得は約1億3000億円、追徴税額は5100万円にのぼっている。 この事例を見ても、海外の口座残高情報という“端緒”をつかむことが、国税庁にとっていかに税務調査における大きな武器になっているかがよくわかる』、「84 の国・地域から219万件の情報を受領したという。口座残高の総額は約10兆円にのぼるとされており、国税庁はその巨額な資金に対し監視の目を強めることで、申告漏れなどの事案を洗い出しているわけだ」、大いにやってほしいものだ。
・『カンボジアに資産フライト 一方、そうした国税庁による課税包囲網の形成を、富裕層は指をくわえてただ眺めているわけではない。金融所得をはじめ税率の低いシンガポールなど、海外に移住するのはよくある話だが、「カンボジアなどCRSの枠組みに参加していない国に資産フライトさせている富裕層の話は、いまだによく耳にする」と、国際税務に詳しいある税理士は明かす。 カンボジアはCRSに参加してないうえ、日本との2国間の租税条約も結んでいない。そのため、税務当局同士の個別の口座情報などの交換ができておらず、富裕層にとって“ラストリゾート”となっているわけだ。 この税理士は、「そうした国の銀行は信用力が乏しく、資金を預けていても『いつのまにか消えてなくなってしまうのでは』といった不安が少なからずあった。しかし今は、日本のメガバンクが出資している銀行も多く、信用不安が解消されていることも資産フライトを後押ししているようだ」と話す。 海外資産をめぐる富裕層と税務当局のいたちごっこは、まだまだ続きそうだ。 雑誌『週刊東洋経済』では、2022年1月4日に特集号「狙われる富裕層」を発売予定です』、「カンボジアはCRSに参加してないうえ、日本との2国間の租税条約も結んでいない。そのため、税務当局同士の個別の口座情報などの交換ができておらず、富裕層にとって“ラストリゾート”となっている」、「日本のメガバンクが出資している銀行も多く、信用不安が解消されていることも資産フライトを後押し」、日本政府がその気になれば、「カンボジア」に圧力をかけることも可能な筈だ。いずれにしても「富裕層」だけがおいしい思いをするような仕組みを許してはならない。
先ずは、本年2月4日付け東洋経済オンラインが掲載した公認会計士・税理士 の渡辺 義則氏による「確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/408996
・『今年の確定申告では、改正点がいやというほど目白押し。毎年、申告している方ほど混乱必至かもしれません。そこで、『自分ですらすらできる確定申告の書き方 令和3年3月15日締切分』から、注意したい改正点をピックアップして解説します』、私は実は恥ずかしながら、「確定申告「雑にやる人」に該当する。修正申告を何回もやるのが普通だ。
・『確定申告の改正の注意点6つ まずは、どんな改正があったのかを、ザっと見てみましょう。今年、注意したいのは、主に次の6つです。 ①すべての人に関係する基礎控除の改正⇒減税 ②給与やアルバイト収入のある人に関係する改正⇒増税 ③年金をもらっている人に関係する改正⇒増税 ④青色申告をしている人に関係する改正⇒増税の場合あり ⑤寡婦、ひとり親の人に関係する改正⇒減税または増税 ⑥配偶者、扶養家族に関係する改正⇒減税の場合あり パッとみると非常にややこしいですね。しかし、改正による影響について見てみると、②③で増税となりますが、①で減税となるため、全体としては増減なく変わらない人の多い改正となっています。 個人事業や不動産賃貸業をしている方は、①で減税となりますが、青色申告者の場合、e-Taxを使って申告しないと増税となる④の改正があるため、要注意です。 未婚のひとり親の方、寡夫の方は、⑤の改正により減税となります。ただし、今回の改正で対象から外れて増税となる人もいるので注意しましょう。⑥は控除対象になる人の範囲が広がるため、場合によっては減税となります。 では、それぞれの内容について見ていきましょう』、興味深そうだ。
・『①すべての人に関係する基礎控除の改正 注意したい改正点の1つ目は、「基礎控除」です。これは、申告する人すべてに関わってくる控除になります。 従来、基礎控除の金額は38万円でしたが、今年の申告からは48万円となり、10万円引き上げられています。とくに例年申告している方は、昨年分と金額が違いますので、注意しましょう。 基礎控除は、所得から引くこと(控除)のできる項目(所得控除)ですから、多いほど、税金面では有利となります。 したがって、通常は減税となりますが、合計所得が2400万円を超える方は、下図のように控除額が段階的に引き下げられ、増税となります』、なるほど。
・『年収850万円超の人は増税に ②給与やアルバイト収入のある人に関係する改正 注意したい改正点の2つ目は、給料やアルバイト・パート収入のある人に関係する改正です。大きく2つあります。ただし、年末調整を受けた方は、会社がすでに改正を反映させて給与所得を計算してくれていますので、「こんな改正があったのだな」くらいに思っていただければ、大丈夫です。 1. 給与所得控除額の引き下げ 1つは給与所得控除額の改正です。下図のように、年収850万円以下の人は給与所得控除額が一律10万円引き下げになり、年収850万円超の人は一律給与所得控除額が195万円となります。 給与所得控除額は、給料収入から所得を計算するときに、必要経費のように引くことができる項目です。その金額が少なくなったということですから、増税となります。 ただし、前述の基礎控除が10万円引き上げられたため、年収850万円以下の人については、全体としては増税も減税もなし、という建て付けになっています』、「増減税」なしで一安心だ。
・『①すべての人に関係する基礎控除の改正 注意したい改正点の1つ目は、「基礎控除」です。これは、申告する人すべてに関わってくる控除になります。 従来、基礎控除の金額は38万円でしたが、今年の申告からは48万円となり、10万円引き上げられています。とくに例年申告している方は、昨年分と金額が違いますので、注意しましょう。 基礎控除は、所得から引くこと(控除)のできる項目(所得控除)ですから、多いほど、税金面では有利となります。 したがって、通常は減税となりますが、合計所得が2400万円を超える方は、下図のように控除額が段階的に引き下げられ、増税となります』、「減税」になる方が圧倒的に多いのだろう。
・『年収850万円超の人は増税に ②給与やアルバイト収入のある人に関係する改正 注意したい改正点の2つ目は、給料やアルバイト・パート収入のある人に関係する改正です。大きく2つあります。ただし、年末調整を受けた方は、会社がすでに改正を反映させて給与所得を計算してくれていますので、「こんな改正があったのだな」くらいに思っていただければ、大丈夫です。 1. 給与所得控除額の引き下げ 1つは給与所得控除額の改正です。下図のように、年収850万円以下の人は給与所得控除額が一律10万円引き下げになり、年収850万円超の人は一律給与所得控除額が195万円となります。 給与所得控除額は、給料収入から所得を計算するときに、必要経費のように引くことができる項目です。その金額が少なくなったということですから、増税となります。 ただし、前述の基礎控除が10万円引き上げられたため、年収850万円以下の人については、全体としては増税も減税もなし、という建て付けになっています』、なるほど。
・『2. 所得金額調整控除の創設 年収850万円超の方については、前述の改正による影響があまり大きくならないよう、「所得金額調整控除」というものが創設されました。これは、子育て世帯と特別障害者のいる世帯(本人または家族)に限って、最大15万円の所得金額調整控除額を、給与所得の金額から引くことができるというものです』、余り関係ないようだ。
・『年金に関する改正の注意点は2つ ③年金をもらっている人に関係する改正 注意したい改正点の3つ目は、年金をもらっている人に関係する改正です。大きく2つあります。 1. 公的年金等控除額の引き下げ 1つは、公的年金等控除額が一律10万円引き下げられたことです。また、合計所得の金額によって計算区分が3つに分けられました。図は公的年金等の所得を計算するための図ですが、赤字の部分が引き下げられた箇所になります。 公的年金等控除額は、年金収入から所得を計算するときに、必要経費のように引くことができる項目です。その金額が少なくなったということですから増税となりますが、前述の基礎控除が10万円引き上げられたため、結果的に増税も減税もないことになっています。 2. 所得金額調整控除の創設 公的年金収入に加えて給料、アルバイト・パート収入がある方に対して、最大10万円の「所得金額調整控除」が設けられました。 今回の改正では、前述したように給与所得控除額と公的年金等控除額が10万円引き下げられました。両方の所得がある人は、20万円の所得アップとなってしまいます。そこで、10万円の所得アップですむよう、調整するために設けられたものです』、私の場合、もともと「10万円の所得アップ」となるようだ。
・『e-Taxを始めるには ④青色申告をしている人に関係する改正 青色申告をしている人が注意したいのは、今年からe-Tax(インターネットを使った電子申告)をしないと、青色申告特別控除額が55万円に引き下げられてしまうことです。e-Taxで申告しないと増税となりますが、e-Taxを使えば、従来どおりの65万円の控除を受けることができます。 e-Taxを始めるには、マイナンバーカードとICカードリーダライタを使う方法と、IDとパスワードを税務署に発行してもらう方法の2つがあります。くわしくは、図をご参照ください。 ⑤寡婦、ひとり親の人に関係する改正 寡婦、ひとり親の人に関係するものでは、大きく3つの改正があります。また、「寡婦、寡夫控除」という名称が「寡婦、ひとり親控除」という名称に変更されました。 改正の1つ目は、未婚のシングルマザー・ファーザーの人も控除を受けられるようになったことです。従来は結婚していた人でないと、控除が認められませんでした。これは減税となる改正で、控除額は35万円となります。 2つ目は、寡夫控除が廃止されて、「ひとり親控除」に統合されたことです。控除額は従来の27万円から35万円に引き上げられ、減税となります。 3つ目は、「合計所得500万円以下」という所得制限が加わったことです。従来は、夫と死別・離婚して子どもか扶養親族のいる人であれば、所得と関係なく、控除を受けることができました。合計所得が500万円を超える方は対象から外されますので、増税となります。 具体的な要件などをまとめると、次のようになります』、私は既に「e-Taxで申告」しているので、関係なさそうだ。
・『確定申告の際には改正内容をよく確認して ⑥配偶者、扶養親族に関係する改正 注意したい改正点の最後は、配偶者や扶養親族がいる人に関係する改正です。 控除の対象にできる家族の所得(合計所得)が10万円引き上げられました。 扶養控除と配偶者控除は、合計所得48万円以下(改正前38万円以下)になり、配偶者特別控除は、合計所得48万円超133万円以下(改正前38万円超123万円以下)となります。 ただし、合計所得が10万円引き上げられた一方、給与所得控除額も10万円引き下げられたため、対象となる年収は従来と同じです。具体的には、扶養控除と配偶者控除は給与年収が103万円以下、配偶者特別控除は103万円超201万5999円以下であることが条件となります。 以上、今年の変更点をご紹介しました。今回の改正は、フリーランスやシングルマザーの方は減税、給与年収が高い方は増税など、ケースによって増税と減税に分かれます。また、青色申告をしている人は、e-Taxを使わないと増税です。 今年は、所得金額調整控除も創設されましたので、改正内容についてよく確認をして確定申告をしていただくとよいでしょう』、普段は間違った申告を後日、修正申告することが多かったが、今回は間違えないよう慎重にやろう。
次に、5月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した税理士の橘慶太氏による「「111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/271602
・『コロナ禍では、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。 相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。 本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuber税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は6万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し、現在3.5万部。遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。(この記事は2020年12月3日付の記事を再構成したものです』、「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています」、大いに気を付けたいところだ。
・『なぜ税務署にマークされるのか? 111万円の贈与をして、贈与税を少しだけ納税すれば、贈与契約書を作成しなくても問題ないと聞きました」 よくいただく質問ですが、これは間違っています。あえて110万円を1万円だけ超える111万円を贈与し、贈与税を1000円だけ納める税務調査対策があります。 これは税務署に対して「私は贈与税の申告をして、贈与税も払って、きちんとした形で贈与を受けていますよ」とアピールするために行います。 一見よい対策に見えますが、むしろ税務署から目を付けられ、税務調査を誘発するケースがあります。詳しく見ていきましょう。 本来、贈与税の申告は財産をもらった人が行わなければいけません。それにもかかわらず、財産をあげた人(親)が、もらった人(子)の名前で勝手に贈与税申告書を作成し、納税まで済ませてしまうことがよくあります。 贈与税の申告は、提出の際に身分証明書は一切必要なく、郵送だけでも可能です。そのため、親が子の名前の申告書を作り、郵送で提出すれば手続きは完了です。 しかし、贈与税申告書の筆跡や、納税された通帳の履歴等を見れば、親が子の名前で勝手に申告をしていたかどうかは、税務署側では大体わかります』、建前通り「本人申告」の形をとるべきなのだろう。
・『税務署が「これは怪しい」と疑うポイントとは? 生前贈与そのものは「あげた、もらったの約束」等がしっかりできていれば成立します。贈与税の申告を親が代わりに行ったとしても、直ちに贈与そのものが否定されるわけではありません。 しかし、そういった贈与税申告が行われている場合、調査官には「贈与税の申告書は提出されているものの、子どもは贈与のことを知らされていないのではないか?」と映り、疑いを持たれます。 結果として、相続が発生したときに税務調査に選ばれ、過去の贈与税申告の真相について追及される可能性があります。 このやり方の本来の趣旨通り、贈与で財産をもらった人が、自ら贈与税の申告をし、納税まで済ませるのであれば、何も問題ありません。 しかしいつの間にか、「贈与税を少しだけ納めれば、名義預金にならない」という間違った認識が世の中に広がり、余計に怪しい贈与税申告書が税務署に提出される結果になっています。 贈与税を払うこと自体に意味があるのではなく、贈与で財産をもらった人自らが申告手続きをすることに意味があるのです。) 橘慶太氏の略歴はリンク先参照)』、「名義預金」とされれば、大変だ。
・『相続争いの大半は「普通の家庭」で起きている 「相続争いは金持ちだけの話」ではありません。 実は「普通の家庭」が一番危ないのです。 2018年に起こった相続争いの調停・審判は1万5706件。そのうち、遺産額1000万円以下が33%、5000万円以下が43.3%。つまり、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」 で起きています。 さらに、2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます。 相続トラブルはなぜ起こるのか? なぜ、普通の家庭で相続争いが起こるのでしょうか? 「財産がたくさんある家庭」が揉めると思われがちですが、それは間違いです。 揉めるのは 「バランスが取れるだけの金銭がない家庭」 です。 例えば、同じ5000万円の財産でも、「不動産が2500万円、預金が2500万円」という家庭であれば、一方が不動産を、もう一方は預金を相続すれば問題ありません。 しかし、「不動産が4500万円、預金が500万円」ならどうでしょうか? 不動産をどちらか一方が相続すれば、大きな不平等が生じます。こういった家庭に相続争いが起こりやすいのです。 多くの方が「私たちの家庭事情は特殊だから」と考えがちです。しかし、相続にまつわるトラブルには明確なパターンが存在します。パターンが存在するということは、それを未然に防ぐ処方箋も存在します』、「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」 で起きています。 さらに、2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます」、「揉めるのは 「バランスが取れるだけの金銭がない家庭」 です」、どうしても不動産に偏っており、やはり周到な準備が必要なようだ。
・『日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます! はじめまして。円満相続税理士法人の橘慶太(たちばな・けいた)と申します。 この度『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』を出版しました。 私は、相続税専門の税理士法人の代表として、これまで5000人以上の方の相続相談に乗ってきました。また、これまで日本全国で500回以上、相続セミナーの講師を務めた経験もあります。 限られた人にしか伝えることができないセミナーよりも、もっと多くの人に相続の知識を広めたいと想い、2018年からYou Tubeを始めました。現在、チャンネル登録者は4.8万人を超えており、相続に関する情報発信者としては、間違いなく日本一の実績を持っています。 相続にまつわる法律や税金を解説した本は星の数ほどあります。しかし、本に書いてあることと、実際の現場で起きていることはまったく別物です。 「教科書的な本ではなく、相続の現場で起きている真実をぶっちゃけた1冊にしたい!」 という想いを込めて、本書を執筆しました。 専門用語は使わず、イメージがつかみやすいよう随所に工夫をちりばめました。ただ、わかりやすさを追求しつつも、伝えるべき相続の勘所(ポイント)は一切カットしていません。この1冊で、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所といった深い部分まで学べる内容になっています。 さらには2019年、約40年ぶりに相続にまつわる法律が改正され、遺言書のルールが大きく変更されたり、配偶者居住権という新しい制度が始まったりするなど、「相続の常識」が大きく様変わりしました。もちろん本書は、この大改正に完全対応しており、変更点・注意点をあますところなく解説します。 本書を読み終わるころには、相続にまつわる網羅的な基礎知識が身につき、円満相続への準備がうこと間違いありません。自分が今すべきことが明確になり、暗中模索だった状態から、パーッと目の前が明るくなることをお約束します。 そして巻末資料として、「知りたいことすぐわかるお悩み別索引」「いつまでに何をすべきかがわかる相続対策シート」も完備。ここを読むだけで、相続にまつわる網羅的な知識が身につき、円満相続への準備が整うこと間違いありません! 『本書の主な内容 (リンク先参照)』、一度、図書館ででも目を通しておこう。
第三に、12月18日付け東洋経済Plus「金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29221
・『2021年末、与党の税制改正大綱がまとまり、金融所得課税の増税は見送られた。しかしその陰で、富裕層の徴税強化は着々と進められていた。 「金融所得に対する課税のあり方について検討する必要がある」 12月10日、自民・公明両党がまとめた2022年度税制改正大綱のこの文言に、溜飲が下がった投資家は多かっただろう。 そもそも、岸田文雄首相は政権発足当初、「成長と分配」路線の実現に向けて、株式の配当や売却による金融所得について、増税を声高に訴えていた。それが一転、市場関係者の猛反発や株価の急落という事態を受けて、発言はみるみるトーンダウン。結果として課税のあり方について「検討する」と表明しただけで、肝心の見直し期限すら大綱に盛り込めなかったわけだ。 ところが、金融所得が多く影響が大きいと思われる富裕層の表情は、一様に硬いままだ。というのも、まるで金融所得課税において増税できなかった意趣返しをするかのように、富裕層への徴税強化に向けた税制の見直し方針を、大綱の至る所にちりばめてきたからだ』、「金融所得」「増税」を見送ったとはいえ、「増税できなかった意趣返しをするかのように、富裕層への徴税強化に向けた税制の見直し方針を、大綱の至る所にちりばめてきた」、興味深そうだ。
・『所得基準一部廃止の衝撃 中でも、富裕層がため息を漏らすのが、「財産債務調書制度」の見直しだ。 これは、億円単位の資産を持つ富裕層を対象に、不動産や株式などの資産の状況を、毎年詳細に税務署に報告させるものだ(下表参照)。 その目的は、富裕層における「所得税・相続税の申告の適正性を確保」(国税庁)すること。つまり、資産の状況について毎年詳しく税務署に報告させることで、所得隠しや相続時の資産隠しといった課税逃れを、簡単にはできないようにしているわけだ。 調書の提出は、これまで「所得が2000万円超」かつ「資産の合計額が3億円以上」の富裕層が対象だった。それを今回の税制改正によって、2024年から「合計10億円以上の資産」を持つ人には所得金額に関係なく提出を義務づけることにしたのだ。 10億円以上もの資産を持つ富裕層であれば、すでに毎年調書を提出しており、今さらため息をつくようなことではないと思うかもしれないが、そうではない。実は一部の富裕層は、調書提出の条件になっている2000万円超という所得基準を逆手に取り、提出しなくて済むようにさまざまな策を弄していたのだ。 その代表的なものが、少額の減価償却資産を活用したスキーム。課税所得を2000万円以下に圧縮し、提出義務の対象者にならないようにしていた。しかし、所得基準がなくなれば、問答無用で資産について報告しなければならなくなってしまう。 ため息の理由はほかにもある。それは、資産隠しなどを目的に海外業者の口座で保有している暗号資産(仮想通貨)についても、「財産債務調書」に詳細に記載しなければいけなくなるという点だ。 国税当局はすでに、海外への資産フライト(逃避)による課税逃れを防ぐため、2014年から「国外財産調書制度」を導入。調書提出の条件は5000万円を超える資産が海外にある場合となっているが、国税庁は暗号資産について「調書に記載しなくていい」と取り扱い方針の中で整理している。 これが、いわゆる税務上の「抜け穴」の1つになっているが、財産債務調書に関しては海外口座にある暗号資産についても調書に記載する必要がある。国外財産調書よりも、国内外を問わずかける資産把握の網が広いわけだ。 それゆえ、これまであの手この手で課税逃れを模索してきた資産10億円以上の富裕層にとって、今回の財産債務調書制度の大幅な見直しは憂鬱なのだ』、「課税逃れ」の穴を塞ぐ意味は大きい。
・『税務当局が手に入れた武器 富裕層の海外資産に対する“課税包囲網”を着々と築き上げている国税庁にとって、目下強力な武器となっている1つの制度がある。それは「共通報告基準(CRS)に基づく金融口座情報の自動交換制度」だ(下図参照)。 経済協力開発機構(OECD)が旗振り役となって進めているもので、制度を導入している国や地域の税務当局が、非居住者の銀行口座の残高といった情報(CRS情報)を、定期的に交換する仕組みだ。 日本は2017年から制度を導入しており、2020年7月から2021年1月までの約7カ月間で、84 の国・地域から219万件の情報を受領したという。口座残高の総額は約10兆円にのぼるとされており、国税庁はその巨額な資金に対し監視の目を強めることで、申告漏れなどの事案を洗い出しているわけだ。 国税庁が2021年11月に公表した個別の申告漏れ事案では、日本の企業経営者が海外のA国に多額の預金を持っていることがCRS情報によって発覚した。国外送金をした形跡がなかったことから調査を進めたところ、タックスヘイブン(租税回避地)のB国に法人を設立、A国の預金口座に役員報酬として入金させていたことがわかったという。 さらに、その役員報酬を元手にファンドに投資して配当を得ていたほか、A国にある預金を隠す目的で日本円として出金し、手荷物として日本に持ち込んでいたことも判明した。結果として、この経営者の申告漏れ所得は約1億3000億円、追徴税額は5100万円にのぼっている。 この事例を見ても、海外の口座残高情報という“端緒”をつかむことが、国税庁にとっていかに税務調査における大きな武器になっているかがよくわかる』、「84 の国・地域から219万件の情報を受領したという。口座残高の総額は約10兆円にのぼるとされており、国税庁はその巨額な資金に対し監視の目を強めることで、申告漏れなどの事案を洗い出しているわけだ」、大いにやってほしいものだ。
・『カンボジアに資産フライト 一方、そうした国税庁による課税包囲網の形成を、富裕層は指をくわえてただ眺めているわけではない。金融所得をはじめ税率の低いシンガポールなど、海外に移住するのはよくある話だが、「カンボジアなどCRSの枠組みに参加していない国に資産フライトさせている富裕層の話は、いまだによく耳にする」と、国際税務に詳しいある税理士は明かす。 カンボジアはCRSに参加してないうえ、日本との2国間の租税条約も結んでいない。そのため、税務当局同士の個別の口座情報などの交換ができておらず、富裕層にとって“ラストリゾート”となっているわけだ。 この税理士は、「そうした国の銀行は信用力が乏しく、資金を預けていても『いつのまにか消えてなくなってしまうのでは』といった不安が少なからずあった。しかし今は、日本のメガバンクが出資している銀行も多く、信用不安が解消されていることも資産フライトを後押ししているようだ」と話す。 海外資産をめぐる富裕層と税務当局のいたちごっこは、まだまだ続きそうだ。 雑誌『週刊東洋経済』では、2022年1月4日に特集号「狙われる富裕層」を発売予定です』、「カンボジアはCRSに参加してないうえ、日本との2国間の租税条約も結んでいない。そのため、税務当局同士の個別の口座情報などの交換ができておらず、富裕層にとって“ラストリゾート”となっている」、「日本のメガバンクが出資している銀行も多く、信用不安が解消されていることも資産フライトを後押し」、日本政府がその気になれば、「カンボジア」に圧力をかけることも可能な筈だ。いずれにしても「富裕層」だけがおいしい思いをするような仕組みを許してはならない。
タグ:税制一般 (その2)(確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説、111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!、金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」) 東洋経済オンライン 渡辺 義則 「確定申告「雑にやる人」が今年要注意の6つの点 ややこしい「変更ポイント」を図解で解説」 私は実は恥ずかしながら、「確定申告「雑にやる人」に該当する。修正申告を何回もやるのが普通だ。 「増減税」なしで一安心だ。 「減税」になる方が圧倒的に多いのだろう。 私の場合、もともと「10万円の所得アップ」となるようだ。 私は既に「e-Taxで申告」しているので、関係なさそうだ。 普段は間違った申告を後日、修正申告することが多かったが、今回は間違えないよう慎重にやろう。 ダイヤモンド・オンライン 橘慶太 「「111万円の生前贈与」をすると税務署にマークされる!? 理由を徹底解説!」 「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています」、大いに気を付けたいところだ。 建前通り「本人申告」の形をとるべきなのだろう。 「名義預金」とされれば、大変だ。 「相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」 で起きています。 さらに、2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます」、「揉めるのは 「バランスが取れるだけの金銭がない家庭」 です」、どうしても不動産に偏っており、やはり周到な準備が必要なようだ。 一度、図書館ででも目を通しておこう。 東洋経済Plus 「金融所得課税の増税見送りもまったく安心できず 税制改正大綱にちりばめられた「富裕層の苦難」」 「課税逃れ」の穴を塞ぐ意味は大きい。 「84 の国・地域から219万件の情報を受領したという。口座残高の総額は約10兆円にのぼるとされており、国税庁はその巨額な資金に対し監視の目を強めることで、申告漏れなどの事案を洗い出しているわけだ」、大いにやってほしいものだ。 「カンボジアはCRSに参加してないうえ、日本との2国間の租税条約も結んでいない。そのため、税務当局同士の個別の口座情報などの交換ができておらず、富裕層にとって“ラストリゾート”となっている」、「日本のメガバンクが出資している銀行も多く、信用不安が解消されていることも資産フライトを後押し」、日本政府がその気になれば、「カンボジア」に圧力をかけることも可能な筈だ。いずれにしても「富裕層」だけがおいしい思いをするような仕組みを許してはならない。
テスラ(その2)(イーロン・マスクが自動車とロケット業界に持ち込んだ「禁断の手法」とは?、イーロン・マスクの世界的な成功を支える マネできない「奇妙な才能」とは?) [産業動向]
テスラについては、7月15日に取上げた。今日は、(その2)(イーロン・マスクが自動車とロケット業界に持ち込んだ「禁断の手法」とは?、イーロン・マスクの世界的な成功を支える マネできない「奇妙な才能」とは?)である。
先ずは、8月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経営コンサルタントの竹内一正氏による「イーロン・マスクが自動車とロケット業界に持ち込んだ「禁断の手法」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278521
・『アメリカの天才経営者、イーロン・マスク率いる電気自動車メーカー「テスラ」と、宇宙開発企業「スペースX」は、驚くほどの短期間で、なぜ世界的な大成功を遂げることができたのか。『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の著者であり、経営コンサルタントの竹内一正氏が、イーロン・マスクの成功の秘訣を3回にわたって解き明かしていく』、興味深そうだ。
・『全米の学生が憧れるテスラとスペースX イーロン・マスク率いる「テスラ」は、創業わずか17年目の2020年にトヨタを抜き、時価総額世界一の自動車メーカーとなった。 彼がCEOを務めるもうひとつの企業「スペースX」はロケット再利用を実現し、創業から18年で宇宙飛行士たちを国際宇宙ステーションに輸送することに成功し世界を驚かせた。 今や全米の工学部の学生たちにとって、最も魅力的な企業ランキングの1位はグーグルでもアップルでもアマゾンでもない。1位がテスラで、2位がスペースXだ。 イーロン・マスクと働けば、「世界を変える一員に自分もなれる」と学生たちは信じている』、「工学部の学生たちにとって、最も魅力的な企業ランキング」の1位、2位を取るとはさすがだ。
・『ベストエフォート型とギャランティ型の違い それにしても、なぜ、テスラとスペースXはこれほどまでの大成功を短期間で成し遂げることができたのか。その鍵は、「ベスト・エフォート型」にあった。 まずは、ベスト・エフォート型の対極にあるギャランティ型から説明しよう。 テレビや自動車といったハードウエア製品の世界では、「ギャランティ型」という手法で品質や性能の保証をしてきた。これはあらゆる状況を最大限想定し、性能テストを繰り返し、時間とコストをかけることで不良品が出ないように万全を期す方法だ。 ただし、ギャランティ型を採用すると、不良品だけでなく失敗も“悪”だと拒絶する企業風土になってしまう。その結果、失敗した社員は給料が減り、出世が遠のいた。 一方、シリコンバレーを中心としたソフトウエア製品の世界では、プログラムのバグはあって当たり前。不具合が起きることも織り込んで、結果を保証しない「ベストエフォート型」という手法で成長してきた。 例えば、PCがフリーズしたら、電源を切ってもう一度立ち上げればいい。インターネット回線は絶対につながることを保証してはいないし、ソフトウエアの動作が途中でおかしくなれば、アンインストールしてインストールし直せばいい』、安全性を求められる分野に「ベスト・エフォート型」を導入したのは、確かに画期的だ。
・『「とりあえずやってみる。問題が起きれば修正する」 これはアメリカ人の気質にマッチしていた。 さて、ギャランティ型は時間もコストもかかるが、万が一の問題が起きる確率は大きく下げられる。従って、社長がマスコミの批判にさらされる回数も減る。その一方で、革新的なテクノロジーが誕生する可能性ははなはだ低くなる。 かたや、最短コースを軽装備で駆け抜けるようなベスト・エフォート型は、導入が格段にスピーディで、コストも大幅に低減できる。“失敗”を容認するので、革命的なテクノロジーが生まれやすくなる。 だが、万が一の問題が起きる確率は極めて高くなり、その結果、社長が批判にさらされる回数はひときわ多くなる。さらに、会社業績は乱高下しやすく、事業継続性は低くなる。 企業の安定を求めるなら、ベスト・エフォート型は禁断の手法だった』、「万が一の問題が起きる確率は極めて高くなり、その結果、社長が批判にさらされる回数はひときわ多くなる。さらに、会社業績は乱高下しやすく、事業継続性は低くなる」、そうしたデメリットより、メリットが上回ると判断したのだろう。
・『最も保守的な自動車・宇宙ロケット業界で利用 ところが、イーロン・マスクは、最も保守的といえる自動車業界にベスト・エフォート型で戦いを挑んでいた。例えば、テスラの高級セダン「モデルS」の開発におけるアルファ版(開発初期の試作品)はたった15台だった。これで、インテリアデザインから寒冷地走行テストも衝突試験もやってしまう。しかし、トヨタなど大手自動車メーカーならギャランティ型で“万全を期す”ため、200台以上が必要だった。 とりあえずやってみる。でも、ダメだったら、原因を解明し、改善する。ベストエフォート型でテスラはこのサイクルを猛スピードで回し、モデルSのアルファ版の台数の少なさを補っていた。 テスラの自動運転「オートパイロット」もベスト・エフォート型と見ればわかりやすい。 膨大なテスラ車の実走行データを収集して創り上げるオートパイロットは現時点では完璧ではなく、レベル2だ(完全自動運転はレベル5)。しかし、運転する人が正しく使えば、オートパイロットは画期的に便利なツールである。万が一の場合に備えて、運転手はハンドルに手を置いておくだけで、オートパイロットが目的地へクルマを運んでくれる。そして、万が一の時は、運転手がハンドルを操作すればいい。 宇宙ロケット開発も非常に保守的な業界だが、スペースXもベスト・エフォート型でここに切り込んだ。 NASAでさえ不可能と諦めていたロケット再利用にスペースXは挑み、海への軟着水、海上ドローン船への着陸など、何度も失敗を繰り返しながら技術を革新的に進化させ、7回の失敗の末に成功をつかんだ。その間の世間からの辛辣(しんらつ)な批判はイーロンが一手に引き受けた』、「世間からの辛辣・・・な批判はイーロンが一手に引き受けた』、さすが潔い姿勢だ。
・『ベスト・エフォート型を持ち込んだことが革新的 しかし、ベスト・エフォート型は口で言うのは簡単だが、実行するのは容易ではない。自動車やロケット開発でベスト・エフォート型が機能するには2つの絶対的条件が欠かせないからだ。 その一つ目は、基本設計が正しいこと。基本設計が正しければ、「後付け改善」で問題点を解決し、完成度を高めていくことができる。 例えば、モデルSの基本設計のひとつは、約7000個のバッテリーを車体下部に敷き詰める点だ。この設計なら低重心で走行性は安定するが、路肩などに乗り上げた際はバッテリーが損傷する危険性があった。そこで、バッテリーパックの底は防御プロテクターでカバーした。 ところが2013年、ワシントン州の高速道路を走行中のモデルSが落下物を車体の下に引っかけ、発火事故となったことがあった。 しかし、この時もテスラは後付け改善で対応し、安全性を確保したのだ。具体的には、高速走行中はソフトウエアで自動的に車高を上げ、ハードウエア的には、車底に3重構造の強力なプロテクトシールドを追加した。それ以降、問題は起きていない。 車体下部にバッテリーを敷き詰める基本設計はそのまま継続され、さらに45万台以上売れた3万5000ドルのEV「モデル3」でもバッテリーは同様のレイアウトを踏襲した。だが、もし車高を上げても、強力なプロテクトシールドを破壊し火災事故が続出したなら、大量のバッテリーを車底に敷き詰めるという基本設計が正しくなかったことになり、一から見直す必要が出てくる』、「ベスト・エフォート型が機能するには2つの絶対的条件が欠かせない」、「その一つ目は、基本設計が正しいこと」、このケースでは該当したようだ。
・『他社がギャランティ型を選ぶ、もっともな理由 基本設計を一からやり直すとなると、その影響はすべての部品に及び、生産設備の変更も避けられない。発注していた部品のキャンセルや、生産ラインの組み替えも必要となってくる。自動車でもロケットでも、基本設計が間違ったとなると、ソフトウエア製品とはケタ違いに莫大な費用が発生し、経営を揺るがしかねない事態となる。 ならば、「とりあえずやってみる」のベスト・エフォート型ではなく、最初の段階から万全を期するギャランティ型で、走行実験を最大限広範囲に実施し、絶対に安全なバッテリー位置を見つけ出す作業に多大なコストと時間を費やす方を選ぶだろう。 基本設計に絶対の自信がないと、自動車やロケットのような大規模ハードウエア製品の開発でベスト・エフォート型でやると、ひどい目に遭う。 遠回りと見えても、ギャランティ型で自動車開発もロケット開発も進められてきたのはそういう背景からだ。 そう考えると、テスラとスペースXの技術力の革新性に驚くだけでなく、それ以上に、イーロンがベスト・エフォート型でこの2社の事業を進めたことこそが革新的だと我々は捉えなければいけない』、「イーロンがベスト・エフォート型でこの2社の事業を進めたことこそが革新的だと我々は捉えなければいけない」、その通りだ。
・『トップが失敗する覚悟を持てるかどうか 自動車やロケット開発でベストエフォート型が機能するための絶対的条件の二つ目は、トップが失敗する覚悟を持つことだ。 「たかが失敗だ。失敗なくしてイノベーションは起こせない」とイーロンは常々言っている。 この男ほど失敗を積極的に受け入れる経営者は世界にいないだろう。失敗は、貴重な学習材料であり、何を学び、どれだけ早く改善策を見つけ出せるかが重要だと捉えている。 多くの企業は、とりわけ大企業になるほど失敗を避けたいがために会議を重ねるものだ。 ところが、テスラもスペースXも、会議に無駄な時間を割くぐらいなら、さっさと実験してデータを取って、次に進めばいいと考えている。失敗してもデータは次に生かされる。トップに失敗を恐れない覚悟があるからこそ、5%、10%といった小さな改良ではなく、5倍、10倍といったケタ違いのスケールアップを目指すことが可能になる。 リチウム電池の巨大工場「ギガファクトリー」が米ネバダ州で着工した時、その総工費はテスラの年間売上の2倍以上だった。だからこそ専門家たちは「非常識だ。需要が見込めてからそんな巨大工場は造るものだ」と批判していた。 ところが、彼らの批判を蹴散らすように、テスラは中国上海をはじめ、ドイツのベルリン、米テキサス州にもギガファクトリーを次々と世界展開している。 テスラとスペースXのスピード感の早さと、スケール感の壮大さは、ベスト・エフォート型だから成し得たものだ。それは、これまでの企業経営の常識にはない異端の手法であった。 だがもし、イーロン・マスクが旧来のギャランティ型で事業経営していたら、テスラもスペースXも凡庸なメーカーで終わったに違いない。 (経営コンサルタント 竹内一正)(本原稿は、書籍『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の一部を抜粋・編集して掲載しています)』、「テスラとスペースXのスピード感の早さと、スケール感の壮大さは、ベスト・エフォート型だから成し得たものだ」、同感である。
次に、この続きを、8月30日付けダイヤモンド・オンライン「イーロン・マスクの世界的な成功を支える、マネできない「奇妙な才能」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/280165
・『アメリカの天才経営者、イーロン・マスク率いる電気自動車メーカー「テスラ」と、宇宙開発企業「スペースX」は、驚くほどの短期間で、なぜ世界的な大成功を遂げることができたのか。『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の著者であり、経営コンサルタントの竹内一正氏が、イーロン・マスクの成功の秘訣を3回にわたって解き明かしていく。前回に続き、今回はその2回目である。
・『イーロンの成功を支えるのは「2つの両極の思考をバランスさせる」才能 テスラの3万5000ドルのEV「モデル3」は販売絶好調で、欧州市場では今年6月にEV部門はもちろん、ミッドサイズでも販売台数1位に輝き、快進撃を見せている。そして、2024年NASAが打ち上げを予定する木星衛星探査機を搭載するロケットには、ライバル企業を抑えて、スペースXの大型ロケット「ファルコン・ヘビー」が選ばれた。 テスラとスペースXという世界有数のハイテク企業を成功に導く底辺には、イーロン・マスクの『両極にある2つの思考をバランスさせ、実行する』という奇妙な才能があった。 イーロン特有のこの奇妙な才能は、「新品」と「中古品」に顕著に表れている。まず、ここから話を進めよう。 イーロンは、閉鎖が決まっていたトヨタとGM(ゼネラル・モーターズ)の合弁の自動車工場NUMMI、つまり「中古の工場」を安く買い取って、自動車の常識を覆すEV「モデルS」の生産工場とした。これがテスラフリーモント工場だ。その際、NUMMIにあった中古品の大型プレス機などもついでに安価で手に入れた。 一方で、組み立てラインへ入れるロボットにはカネをかけて「新品」のドイツ製の最新機械を導入していた。 最新設計を施したスペースXのファルコンロケットの工場は、旅客機を作っていたボーイング社の中古品だった。しかも、ファルコンロケットの発射台の改修に使う部品は、新品を買うのではなく部下に中古品を探させて対応した。 ペイパル株で約190億円を得て大金持ちになっていたイーロンだから、カネには糸目をつけないと思いきや、実際は違っていて、費用を少しでも安くあげる努力を惜しまなかった。 だからといって、すべてをケチって中古品で賄おうとするのでもなかった。 イーロンは、「新品」と「中古品」の2つの思考のバランスをうまく取って、カネの使い方にメリハリをつけていた。ただしこれは、技術を深く理解していないとできない』、「NUMMIにあった中古品の大型プレス機などもついでに安価で手に入れた。 一方で、組み立てラインへ入れるロボットにはカネをかけて「新品」のドイツ製の最新機械を導入」、「メリハリ」がついた投資姿勢だ。
・『イーロンの才能は「小」を集めて「大」を作り出す 両極にある2つの思考をバランスさせ、実行するイーロンの才能は、小さい既存技術を集めて、大きな性能を生み出す、つまり「小」から「大」を作り出す点でも見て取れる。テスラのバッテリーや、ファルコンロケットのマーリン・エンジンがその良い事例だ。 EV開発において、他社は大きくて高性能なバッテリーを専用で開発しようとしたがテスラはすでに大量生産されノートPCで使われ、“そこそこ”の性能が出る汎用のリチウムイオン電池を使う方法を選んだ。つまり、リチウム電池を約7000個もパッケージ化して、1個の大きなバッテリーのように扱う方法を開発したのだ。 厳密にはテスラの共同創業者だったマーチン・エバーハードが生み出したアイデアだったが、イーロンはこれを進化させ、製品化に結び付けた。そして、ポルシェを超える優れた走行性能の実現に成功した。今日まですべてのテスラEVはこの大量のリチウム電池を搭載する設計で貫かれている。 既存の小さな技術を集めて、大きな性能を作り出す手法は、スペースXのファルコンロケットで使っているマーリン・エンジンにも表れている。 ファルコン9は、野口聡一宇宙飛行士たちを乗せ国際宇宙ステーションに向けて打ち上げた高性能ロケットだが、そのエンジンは1960年代後半に登場した古い技術「ガスジェネレータ・サイクル」を採用していた。 これはエネルギーロスもあるものの、多くのロケットが採用し、安定した技術だった。燃料にはケロシン、酸化剤に液体酸素という組み合わせも、性能は“そこそこ”だが、取り扱いが簡単という利点があった。 つまり、安定していて“そこそこ”の性能のマーリン・エンジンを9基束ねることで、大きな1つのロケットエンジンのような高い性能をスペースXの技術者たちは短期間で生み出し、ファルコン9は完成した。 さらに、マーリン・エンジンを27基束ねたのが、性能がファルコン9の3倍の巨大ロケット「ファルコン・ヘビー」だ。ちなみに、ファルコン・ヘビーはNASAが進める月周回軌道有人拠点「ゲートウェイ」に物資を輸送するためのロケットとして打ち上げが予定されている』、確かに「「小」を集めて「大」を作り出す才能は並外れている。
・『イーロンを取り巻く壮大な目標と1ミクロンの設計 両極にある2つの思考をバランスさせ、実行するイーロンの能力は、「壮大な目標」と「日常の業務」にも表れている。 テスラで「世界中のクルマをすべてEVに置き換える」とイーロンは大きな目標を掲げ、1億台(10の9乗)のEV生産を目指すと公言している。 だが、その一方で、高級EVセダン「モデルS」の開発ではドアノブのミクロン単位(10のマイナス6乗)の設計にまで注文をつけていた。 また、3万5000ドルのEVモデル3が量産立ち上げでつまずくと、製造ラインに入って工場で寝泊まりし、問題解決に奔走していた。 スペースXでは「火星に人類を移住させる」と壮大な目標を掲げていたかと思うと、ロケットエンジンの水圧実験の現場に立ち会い、亀裂が入ったエンジンの冷却部分に自分でエポキシ樹脂を注入して、効果を確かめようとしたこともあった』、通常は「壮大な目標」と「日常の業務」のどちらかに偏りがちだが、イーロンの場合、両者のバランスが取れているのもさすがだ。
・『イーロンは鷹の目とアリの目を併せ持つ男 会社で10億円、20億円単位の商談をしている営業部長に、経理担当者が「部長、先月の出張の宿泊費の金額が1000円違っているんですが……」と恐る恐る尋ねたら、「なんだ、そんなささいなこと気にしてられるか!適当にやっておけ」と一喝された。アナタも似たようなシーンを目にしたこともあるのではないか。 人の頭の中には“モノ差し”がある。大きなモノ差しの人は、小さなことには興味を示さない。その逆に、小さなモノ差しの人は、大きなことは理解できないものだ。 ところが、イーロンはNASAから数千億円、つまりテラ(10の12乗)の金額の契約を獲得しながらも、ロケットコスト削減のために、通常は使い捨てにするロケットの先端部品「フェアリング」を海上で回収して再利用しようとまで考えた。そして実際に成功させた。 こんな両極端の思考を内在させ、巧みに操れる経営者はまずいない。 イーロンはまるで、空からの「鷹の目」と、地面の「アリの目」という両極のモノ差しを持ち、見事に使いこなしているようだ。 だがもし、鷹の目しかイーロンになかったらアリの現場はついてこないし、現場の問題を彼が理解することもできない。その結果、イーロンと部下との間に大きな溝ができて、会社は空中分解しただろう。 では、逆に、アリの目しかなかったら、壮大な目標は決して掲げられず、世間の注目も、多額の資金も、優秀な人材も集まってはこなかった。ちなみに、米国の工学部学生の人気ナンバーワン企業はアップルやグーグルを押しのけてテスラが1位で、2位はスペースXだ。 高度なテクノロジー企業を短期間で偉大な成功に導くには、この2つの両極にある思考をバランスさせ、実行できる才能が極めて強力な武器になり、そして不可欠なのだろう。 だが、これは簡単にマネできることではない。 今年5月に米テレビ番組でイーロン自身がアスペルガー症候群であることをカミングアウトしたが、アスペルガー症候群ゆえに導かれた才能かの議論は専門家に任せるしかない。 ただ、イーロンの言動が一般人に理解されづらいことはしばしばあるし、SNSへの風変わりな投稿で世間を騒がせることもある。 すると、そんな人たちにイーロンはこう言い放った。 「私は、電気自動車を再発明し、ロケットで火星に人を送ろうとしている。なのに、落ち着き払った普通の男だと思ってたのかい」』、「イーロン自身がアスペルガー症候群であることをカミングアウト」、そのなかには極めて優秀な人間もいて、「イーロン」はその典型のようだ、
先ずは、8月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経営コンサルタントの竹内一正氏による「イーロン・マスクが自動車とロケット業界に持ち込んだ「禁断の手法」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278521
・『アメリカの天才経営者、イーロン・マスク率いる電気自動車メーカー「テスラ」と、宇宙開発企業「スペースX」は、驚くほどの短期間で、なぜ世界的な大成功を遂げることができたのか。『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の著者であり、経営コンサルタントの竹内一正氏が、イーロン・マスクの成功の秘訣を3回にわたって解き明かしていく』、興味深そうだ。
・『全米の学生が憧れるテスラとスペースX イーロン・マスク率いる「テスラ」は、創業わずか17年目の2020年にトヨタを抜き、時価総額世界一の自動車メーカーとなった。 彼がCEOを務めるもうひとつの企業「スペースX」はロケット再利用を実現し、創業から18年で宇宙飛行士たちを国際宇宙ステーションに輸送することに成功し世界を驚かせた。 今や全米の工学部の学生たちにとって、最も魅力的な企業ランキングの1位はグーグルでもアップルでもアマゾンでもない。1位がテスラで、2位がスペースXだ。 イーロン・マスクと働けば、「世界を変える一員に自分もなれる」と学生たちは信じている』、「工学部の学生たちにとって、最も魅力的な企業ランキング」の1位、2位を取るとはさすがだ。
・『ベストエフォート型とギャランティ型の違い それにしても、なぜ、テスラとスペースXはこれほどまでの大成功を短期間で成し遂げることができたのか。その鍵は、「ベスト・エフォート型」にあった。 まずは、ベスト・エフォート型の対極にあるギャランティ型から説明しよう。 テレビや自動車といったハードウエア製品の世界では、「ギャランティ型」という手法で品質や性能の保証をしてきた。これはあらゆる状況を最大限想定し、性能テストを繰り返し、時間とコストをかけることで不良品が出ないように万全を期す方法だ。 ただし、ギャランティ型を採用すると、不良品だけでなく失敗も“悪”だと拒絶する企業風土になってしまう。その結果、失敗した社員は給料が減り、出世が遠のいた。 一方、シリコンバレーを中心としたソフトウエア製品の世界では、プログラムのバグはあって当たり前。不具合が起きることも織り込んで、結果を保証しない「ベストエフォート型」という手法で成長してきた。 例えば、PCがフリーズしたら、電源を切ってもう一度立ち上げればいい。インターネット回線は絶対につながることを保証してはいないし、ソフトウエアの動作が途中でおかしくなれば、アンインストールしてインストールし直せばいい』、安全性を求められる分野に「ベスト・エフォート型」を導入したのは、確かに画期的だ。
・『「とりあえずやってみる。問題が起きれば修正する」 これはアメリカ人の気質にマッチしていた。 さて、ギャランティ型は時間もコストもかかるが、万が一の問題が起きる確率は大きく下げられる。従って、社長がマスコミの批判にさらされる回数も減る。その一方で、革新的なテクノロジーが誕生する可能性ははなはだ低くなる。 かたや、最短コースを軽装備で駆け抜けるようなベスト・エフォート型は、導入が格段にスピーディで、コストも大幅に低減できる。“失敗”を容認するので、革命的なテクノロジーが生まれやすくなる。 だが、万が一の問題が起きる確率は極めて高くなり、その結果、社長が批判にさらされる回数はひときわ多くなる。さらに、会社業績は乱高下しやすく、事業継続性は低くなる。 企業の安定を求めるなら、ベスト・エフォート型は禁断の手法だった』、「万が一の問題が起きる確率は極めて高くなり、その結果、社長が批判にさらされる回数はひときわ多くなる。さらに、会社業績は乱高下しやすく、事業継続性は低くなる」、そうしたデメリットより、メリットが上回ると判断したのだろう。
・『最も保守的な自動車・宇宙ロケット業界で利用 ところが、イーロン・マスクは、最も保守的といえる自動車業界にベスト・エフォート型で戦いを挑んでいた。例えば、テスラの高級セダン「モデルS」の開発におけるアルファ版(開発初期の試作品)はたった15台だった。これで、インテリアデザインから寒冷地走行テストも衝突試験もやってしまう。しかし、トヨタなど大手自動車メーカーならギャランティ型で“万全を期す”ため、200台以上が必要だった。 とりあえずやってみる。でも、ダメだったら、原因を解明し、改善する。ベストエフォート型でテスラはこのサイクルを猛スピードで回し、モデルSのアルファ版の台数の少なさを補っていた。 テスラの自動運転「オートパイロット」もベスト・エフォート型と見ればわかりやすい。 膨大なテスラ車の実走行データを収集して創り上げるオートパイロットは現時点では完璧ではなく、レベル2だ(完全自動運転はレベル5)。しかし、運転する人が正しく使えば、オートパイロットは画期的に便利なツールである。万が一の場合に備えて、運転手はハンドルに手を置いておくだけで、オートパイロットが目的地へクルマを運んでくれる。そして、万が一の時は、運転手がハンドルを操作すればいい。 宇宙ロケット開発も非常に保守的な業界だが、スペースXもベスト・エフォート型でここに切り込んだ。 NASAでさえ不可能と諦めていたロケット再利用にスペースXは挑み、海への軟着水、海上ドローン船への着陸など、何度も失敗を繰り返しながら技術を革新的に進化させ、7回の失敗の末に成功をつかんだ。その間の世間からの辛辣(しんらつ)な批判はイーロンが一手に引き受けた』、「世間からの辛辣・・・な批判はイーロンが一手に引き受けた』、さすが潔い姿勢だ。
・『ベスト・エフォート型を持ち込んだことが革新的 しかし、ベスト・エフォート型は口で言うのは簡単だが、実行するのは容易ではない。自動車やロケット開発でベスト・エフォート型が機能するには2つの絶対的条件が欠かせないからだ。 その一つ目は、基本設計が正しいこと。基本設計が正しければ、「後付け改善」で問題点を解決し、完成度を高めていくことができる。 例えば、モデルSの基本設計のひとつは、約7000個のバッテリーを車体下部に敷き詰める点だ。この設計なら低重心で走行性は安定するが、路肩などに乗り上げた際はバッテリーが損傷する危険性があった。そこで、バッテリーパックの底は防御プロテクターでカバーした。 ところが2013年、ワシントン州の高速道路を走行中のモデルSが落下物を車体の下に引っかけ、発火事故となったことがあった。 しかし、この時もテスラは後付け改善で対応し、安全性を確保したのだ。具体的には、高速走行中はソフトウエアで自動的に車高を上げ、ハードウエア的には、車底に3重構造の強力なプロテクトシールドを追加した。それ以降、問題は起きていない。 車体下部にバッテリーを敷き詰める基本設計はそのまま継続され、さらに45万台以上売れた3万5000ドルのEV「モデル3」でもバッテリーは同様のレイアウトを踏襲した。だが、もし車高を上げても、強力なプロテクトシールドを破壊し火災事故が続出したなら、大量のバッテリーを車底に敷き詰めるという基本設計が正しくなかったことになり、一から見直す必要が出てくる』、「ベスト・エフォート型が機能するには2つの絶対的条件が欠かせない」、「その一つ目は、基本設計が正しいこと」、このケースでは該当したようだ。
・『他社がギャランティ型を選ぶ、もっともな理由 基本設計を一からやり直すとなると、その影響はすべての部品に及び、生産設備の変更も避けられない。発注していた部品のキャンセルや、生産ラインの組み替えも必要となってくる。自動車でもロケットでも、基本設計が間違ったとなると、ソフトウエア製品とはケタ違いに莫大な費用が発生し、経営を揺るがしかねない事態となる。 ならば、「とりあえずやってみる」のベスト・エフォート型ではなく、最初の段階から万全を期するギャランティ型で、走行実験を最大限広範囲に実施し、絶対に安全なバッテリー位置を見つけ出す作業に多大なコストと時間を費やす方を選ぶだろう。 基本設計に絶対の自信がないと、自動車やロケットのような大規模ハードウエア製品の開発でベスト・エフォート型でやると、ひどい目に遭う。 遠回りと見えても、ギャランティ型で自動車開発もロケット開発も進められてきたのはそういう背景からだ。 そう考えると、テスラとスペースXの技術力の革新性に驚くだけでなく、それ以上に、イーロンがベスト・エフォート型でこの2社の事業を進めたことこそが革新的だと我々は捉えなければいけない』、「イーロンがベスト・エフォート型でこの2社の事業を進めたことこそが革新的だと我々は捉えなければいけない」、その通りだ。
・『トップが失敗する覚悟を持てるかどうか 自動車やロケット開発でベストエフォート型が機能するための絶対的条件の二つ目は、トップが失敗する覚悟を持つことだ。 「たかが失敗だ。失敗なくしてイノベーションは起こせない」とイーロンは常々言っている。 この男ほど失敗を積極的に受け入れる経営者は世界にいないだろう。失敗は、貴重な学習材料であり、何を学び、どれだけ早く改善策を見つけ出せるかが重要だと捉えている。 多くの企業は、とりわけ大企業になるほど失敗を避けたいがために会議を重ねるものだ。 ところが、テスラもスペースXも、会議に無駄な時間を割くぐらいなら、さっさと実験してデータを取って、次に進めばいいと考えている。失敗してもデータは次に生かされる。トップに失敗を恐れない覚悟があるからこそ、5%、10%といった小さな改良ではなく、5倍、10倍といったケタ違いのスケールアップを目指すことが可能になる。 リチウム電池の巨大工場「ギガファクトリー」が米ネバダ州で着工した時、その総工費はテスラの年間売上の2倍以上だった。だからこそ専門家たちは「非常識だ。需要が見込めてからそんな巨大工場は造るものだ」と批判していた。 ところが、彼らの批判を蹴散らすように、テスラは中国上海をはじめ、ドイツのベルリン、米テキサス州にもギガファクトリーを次々と世界展開している。 テスラとスペースXのスピード感の早さと、スケール感の壮大さは、ベスト・エフォート型だから成し得たものだ。それは、これまでの企業経営の常識にはない異端の手法であった。 だがもし、イーロン・マスクが旧来のギャランティ型で事業経営していたら、テスラもスペースXも凡庸なメーカーで終わったに違いない。 (経営コンサルタント 竹内一正)(本原稿は、書籍『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の一部を抜粋・編集して掲載しています)』、「テスラとスペースXのスピード感の早さと、スケール感の壮大さは、ベスト・エフォート型だから成し得たものだ」、同感である。
次に、この続きを、8月30日付けダイヤモンド・オンライン「イーロン・マスクの世界的な成功を支える、マネできない「奇妙な才能」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/280165
・『アメリカの天才経営者、イーロン・マスク率いる電気自動車メーカー「テスラ」と、宇宙開発企業「スペースX」は、驚くほどの短期間で、なぜ世界的な大成功を遂げることができたのか。『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の著者であり、経営コンサルタントの竹内一正氏が、イーロン・マスクの成功の秘訣を3回にわたって解き明かしていく。前回に続き、今回はその2回目である。
・『イーロンの成功を支えるのは「2つの両極の思考をバランスさせる」才能 テスラの3万5000ドルのEV「モデル3」は販売絶好調で、欧州市場では今年6月にEV部門はもちろん、ミッドサイズでも販売台数1位に輝き、快進撃を見せている。そして、2024年NASAが打ち上げを予定する木星衛星探査機を搭載するロケットには、ライバル企業を抑えて、スペースXの大型ロケット「ファルコン・ヘビー」が選ばれた。 テスラとスペースXという世界有数のハイテク企業を成功に導く底辺には、イーロン・マスクの『両極にある2つの思考をバランスさせ、実行する』という奇妙な才能があった。 イーロン特有のこの奇妙な才能は、「新品」と「中古品」に顕著に表れている。まず、ここから話を進めよう。 イーロンは、閉鎖が決まっていたトヨタとGM(ゼネラル・モーターズ)の合弁の自動車工場NUMMI、つまり「中古の工場」を安く買い取って、自動車の常識を覆すEV「モデルS」の生産工場とした。これがテスラフリーモント工場だ。その際、NUMMIにあった中古品の大型プレス機などもついでに安価で手に入れた。 一方で、組み立てラインへ入れるロボットにはカネをかけて「新品」のドイツ製の最新機械を導入していた。 最新設計を施したスペースXのファルコンロケットの工場は、旅客機を作っていたボーイング社の中古品だった。しかも、ファルコンロケットの発射台の改修に使う部品は、新品を買うのではなく部下に中古品を探させて対応した。 ペイパル株で約190億円を得て大金持ちになっていたイーロンだから、カネには糸目をつけないと思いきや、実際は違っていて、費用を少しでも安くあげる努力を惜しまなかった。 だからといって、すべてをケチって中古品で賄おうとするのでもなかった。 イーロンは、「新品」と「中古品」の2つの思考のバランスをうまく取って、カネの使い方にメリハリをつけていた。ただしこれは、技術を深く理解していないとできない』、「NUMMIにあった中古品の大型プレス機などもついでに安価で手に入れた。 一方で、組み立てラインへ入れるロボットにはカネをかけて「新品」のドイツ製の最新機械を導入」、「メリハリ」がついた投資姿勢だ。
・『イーロンの才能は「小」を集めて「大」を作り出す 両極にある2つの思考をバランスさせ、実行するイーロンの才能は、小さい既存技術を集めて、大きな性能を生み出す、つまり「小」から「大」を作り出す点でも見て取れる。テスラのバッテリーや、ファルコンロケットのマーリン・エンジンがその良い事例だ。 EV開発において、他社は大きくて高性能なバッテリーを専用で開発しようとしたがテスラはすでに大量生産されノートPCで使われ、“そこそこ”の性能が出る汎用のリチウムイオン電池を使う方法を選んだ。つまり、リチウム電池を約7000個もパッケージ化して、1個の大きなバッテリーのように扱う方法を開発したのだ。 厳密にはテスラの共同創業者だったマーチン・エバーハードが生み出したアイデアだったが、イーロンはこれを進化させ、製品化に結び付けた。そして、ポルシェを超える優れた走行性能の実現に成功した。今日まですべてのテスラEVはこの大量のリチウム電池を搭載する設計で貫かれている。 既存の小さな技術を集めて、大きな性能を作り出す手法は、スペースXのファルコンロケットで使っているマーリン・エンジンにも表れている。 ファルコン9は、野口聡一宇宙飛行士たちを乗せ国際宇宙ステーションに向けて打ち上げた高性能ロケットだが、そのエンジンは1960年代後半に登場した古い技術「ガスジェネレータ・サイクル」を採用していた。 これはエネルギーロスもあるものの、多くのロケットが採用し、安定した技術だった。燃料にはケロシン、酸化剤に液体酸素という組み合わせも、性能は“そこそこ”だが、取り扱いが簡単という利点があった。 つまり、安定していて“そこそこ”の性能のマーリン・エンジンを9基束ねることで、大きな1つのロケットエンジンのような高い性能をスペースXの技術者たちは短期間で生み出し、ファルコン9は完成した。 さらに、マーリン・エンジンを27基束ねたのが、性能がファルコン9の3倍の巨大ロケット「ファルコン・ヘビー」だ。ちなみに、ファルコン・ヘビーはNASAが進める月周回軌道有人拠点「ゲートウェイ」に物資を輸送するためのロケットとして打ち上げが予定されている』、確かに「「小」を集めて「大」を作り出す才能は並外れている。
・『イーロンを取り巻く壮大な目標と1ミクロンの設計 両極にある2つの思考をバランスさせ、実行するイーロンの能力は、「壮大な目標」と「日常の業務」にも表れている。 テスラで「世界中のクルマをすべてEVに置き換える」とイーロンは大きな目標を掲げ、1億台(10の9乗)のEV生産を目指すと公言している。 だが、その一方で、高級EVセダン「モデルS」の開発ではドアノブのミクロン単位(10のマイナス6乗)の設計にまで注文をつけていた。 また、3万5000ドルのEVモデル3が量産立ち上げでつまずくと、製造ラインに入って工場で寝泊まりし、問題解決に奔走していた。 スペースXでは「火星に人類を移住させる」と壮大な目標を掲げていたかと思うと、ロケットエンジンの水圧実験の現場に立ち会い、亀裂が入ったエンジンの冷却部分に自分でエポキシ樹脂を注入して、効果を確かめようとしたこともあった』、通常は「壮大な目標」と「日常の業務」のどちらかに偏りがちだが、イーロンの場合、両者のバランスが取れているのもさすがだ。
・『イーロンは鷹の目とアリの目を併せ持つ男 会社で10億円、20億円単位の商談をしている営業部長に、経理担当者が「部長、先月の出張の宿泊費の金額が1000円違っているんですが……」と恐る恐る尋ねたら、「なんだ、そんなささいなこと気にしてられるか!適当にやっておけ」と一喝された。アナタも似たようなシーンを目にしたこともあるのではないか。 人の頭の中には“モノ差し”がある。大きなモノ差しの人は、小さなことには興味を示さない。その逆に、小さなモノ差しの人は、大きなことは理解できないものだ。 ところが、イーロンはNASAから数千億円、つまりテラ(10の12乗)の金額の契約を獲得しながらも、ロケットコスト削減のために、通常は使い捨てにするロケットの先端部品「フェアリング」を海上で回収して再利用しようとまで考えた。そして実際に成功させた。 こんな両極端の思考を内在させ、巧みに操れる経営者はまずいない。 イーロンはまるで、空からの「鷹の目」と、地面の「アリの目」という両極のモノ差しを持ち、見事に使いこなしているようだ。 だがもし、鷹の目しかイーロンになかったらアリの現場はついてこないし、現場の問題を彼が理解することもできない。その結果、イーロンと部下との間に大きな溝ができて、会社は空中分解しただろう。 では、逆に、アリの目しかなかったら、壮大な目標は決して掲げられず、世間の注目も、多額の資金も、優秀な人材も集まってはこなかった。ちなみに、米国の工学部学生の人気ナンバーワン企業はアップルやグーグルを押しのけてテスラが1位で、2位はスペースXだ。 高度なテクノロジー企業を短期間で偉大な成功に導くには、この2つの両極にある思考をバランスさせ、実行できる才能が極めて強力な武器になり、そして不可欠なのだろう。 だが、これは簡単にマネできることではない。 今年5月に米テレビ番組でイーロン自身がアスペルガー症候群であることをカミングアウトしたが、アスペルガー症候群ゆえに導かれた才能かの議論は専門家に任せるしかない。 ただ、イーロンの言動が一般人に理解されづらいことはしばしばあるし、SNSへの風変わりな投稿で世間を騒がせることもある。 すると、そんな人たちにイーロンはこう言い放った。 「私は、電気自動車を再発明し、ロケットで火星に人を送ろうとしている。なのに、落ち着き払った普通の男だと思ってたのかい」』、「イーロン自身がアスペルガー症候群であることをカミングアウト」、そのなかには極めて優秀な人間もいて、「イーロン」はその典型のようだ、
タグ:ダイヤモンド・オンライン テスラ (その2)(イーロン・マスクが自動車とロケット業界に持ち込んだ「禁断の手法」とは?、イーロン・マスクの世界的な成功を支える マネできない「奇妙な才能」とは?) 竹内一正 「イーロン・マスクが自動車とロケット業界に持ち込んだ「禁断の手法」とは?」 「工学部の学生たちにとって、最も魅力的な企業ランキング」の1位、2位を取るとはさすがだ。 安全性を求められる分野に「ベスト・エフォート型」を導入したのは、確かに画期的だ。 「万が一の問題が起きる確率は極めて高くなり、その結果、社長が批判にさらされる回数はひときわ多くなる。さらに、会社業績は乱高下しやすく、事業継続性は低くなる」、そうしたデメリットより、メリットが上回ると判断したのだろう。 「世間からの辛辣・・・な批判はイーロンが一手に引き受けた』、さすが潔い姿勢だ。 「ベスト・エフォート型が機能するには2つの絶対的条件が欠かせない」、「その一つ目は、基本設計が正しいこと」、このケースでは該当したようだ。 「イーロンがベスト・エフォート型でこの2社の事業を進めたことこそが革新的だと我々は捉えなければいけない」、その通りだ。 『TECHNOKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』 「テスラとスペースXのスピード感の早さと、スケール感の壮大さは、ベスト・エフォート型だから成し得たものだ」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン「イーロン・マスクの世界的な成功を支える、マネできない「奇妙な才能」とは?」 「NUMMIにあった中古品の大型プレス機などもついでに安価で手に入れた。 一方で、組み立てラインへ入れるロボットにはカネをかけて「新品」のドイツ製の最新機械を導入」、「メリハリ」がついた投資姿勢だ。 、確かに「「小」を集めて「大」を作り出す才能は並外れている。 通常は「壮大な目標」と「日常の業務」のどちらかに偏りがちだが、イーロンの場合、両者のバランスが取れているのもさすがだ。 「イーロン自身がアスペルガー症候群であることをカミングアウト」、そのなかには極めて優秀な人間もいて、「イーロン」はその典型のようだ、
外国人問題(その6)(武蔵野市の住民投票条例で噴出した外国人投票権「陰謀論」、武蔵野市の住民投票条例案 なぜ否決されたのか?市長がこだわる「先進性」、アメリカ大使館が異例の警告「日本の警察」の疑い 多くの在日外国人が感じている「不当な扱い」) [社会]
外国人問題については、5月24日に取上げた。今日は、(その6)(武蔵野市の住民投票条例で噴出した外国人投票権「陰謀論」、武蔵野市の住民投票条例案 なぜ否決されたのか?市長がこだわる「先進性」、アメリカ大使館が異例の警告「日本の警察」の疑い 多くの在日外国人が感じている「不当な扱い」)である。
先ずは、12月17日付けNewsweek日本版が掲載した思想史研究社の藤崎剛人氏による「武蔵野市の住民投票条例で噴出した外国人投票権「陰謀論」を紹介しよう。
・『<住民投票に外国人の投票権を認めると、某国から移民が押し寄せて市が乗っ取られる、というあり得ない妄想より、外国人増加の実態を否定し続けた結果の分断の弊害を考えよ> 武蔵野市議会で「武蔵野市住民投票条例」が審議されている。ところが、この条例が現在、猛烈な反対運動に晒されている。条例案に3ヶ月以上市内に居住する18歳以上の外国籍住民も住民投票に投票権を与えると定められていたことが、その理由だ。市の内外から反対派が市役所や吉祥寺駅前に集結し、デモ行進が行われるなど激しい示威活動が続けられている。条例の採決は21日の本会議で行われる見込みだが、その成否は予断を許さない』、「本会議」では反対多数で否決された。
・『住民投票での外国人投票権は珍しくはない 住民投票で外国人の投票権を認めている自治体は、全国で40以上存在する。その多くは永住権獲得が条件だが、武蔵野市の条例案のように比較的短期間の居住で投票権が認められている自治体も、大阪府豊中市、神奈川県逗子市という先例がある。もし武蔵野市で可決されれば3例目、都内では初となる。 外国人参政権に関する議論は国政から地方自治まで様々なレベルで存在するが、最高裁は地方自治体の参政権に関しては憲法上否定していない。自治体の住民投票条例で外国籍住民に投票権を与えることはトレンドとなりつつある。 その理由の一つは、自治体の住民投票条例には法的拘束力がなく、首長や議会はそれをあくまで「尊重する義務」があるだけだからだろう。大阪維新のように、二度の住民投票での否決を無視してなお都構想の実現を行おうとする政治勢力もある。武蔵野市も、この投票権は参政権ではなく、あくまで条例についての住民の意思表示であるという立場だ。 地方自治は「民主主義の学校」とも呼ばれるように、より身近で具体的な生活の問題が扱われることが多い。そして地域の生活者に日本人も外国人もない。それぞれが協力して生活の質を向上させていかなければならないところ、外国籍の住民にのみ意思表示の権利を与えなくてよいということにはならない』、「地域の生活者に日本人も外国人もない。それぞれが協力して生活の質を向上させていかなければならない」、その通りだ。
・『反対運動の中にみられる陰謀論 武蔵野市の条例案については、国会議員も含め市内外からの反対も多い。たとえ住民投票レベルであれ、外国人参政権に関する抵抗感は根強くある。その抵抗感が陰謀論にまで達してしまっている場合もある。典型的な陰謀論的反応としては、ある特定の国が大量の移民を武蔵野市に対して送り込み、市を乗っ取るのではないか、というものがある。 少し考えてみれば、これがどれだけ非合理的な思考かが分かるはずだ。武蔵野市を乗っ取るためには、少なくとも数万人の成人を送り込まなくてはならない。また、少なくとも3ヶ月は市の住民でいられるような在留資格および生活資金を人数分準備しなければならない。しかもそこまでやって出来ることは、法的強制力をもたない住民投票での意見表明なのだ。) 外国人参政権の話題になると、即座に「国(自治体)が乗っ取られる」という妄想のような意見が寄せられる。しかしそのような意見は、大抵が上述のような実行手段の困難さが全く考慮されていない。また、先行して住民投票条例を可決した自治体でも、そのような現象が起こっていないということからも、地域を乗っ取られるという思考には根拠はないのだ』、「陰謀論的反応」としては、自民党の国会議員のなかにはこれに乗って住民を煽っている悪質な人物もいる。
・『ホラー小説化する外国人嫌悪 一般論として外国人参政権は自明な権利とはいえないので、その拡大には個別の議論が必要だ。しかし外国人参政権を「外国人に国を乗っ取られる」という理由で一律に否定するような外国人嫌悪(ゼノフォビア)は、マジョリティの過剰な防衛本能に由来すると考えられる。 クトゥルー神話で有名なホラー作家ラブクラフトは、人種差別主義者であったことが知られている。彼の小説に登場する半魚人のようなグロテスクな生き物たちは、20世紀前半のアメリカに大量に流入してきた移民への恐怖がモチーフになっていると読み解くこともできる。マジョリティにとって外国人はホラーであり、そのような心理が前提にあるから、「国を乗っ取られる」というようなホラー小説じみた非合理的な妄想も直感的に受け入れることができてしまうのだ。 しかし現実は、マイノリティのほうこそ、こうした外国人嫌悪が誘発するマジョリティの暴力に怯えている。この暴力を現実化させないためにも、外国人参政権について議論する場合は、まずはマジョリティの恐怖から来る非合理的な妄想は取り除いてから行う必要がある』、「現実は、マイノリティのほうこそ、こうした外国人嫌悪が誘発するマジョリティの暴力に怯えている。この暴力を現実化させないためにも、外国人参政権について議論する場合は、まずはマジョリティの恐怖から来る非合理的な妄想は取り除いてから行う必要がある」、その通りだ。
・『外国籍住民の増加という現実への対応を 外国籍住民への投票権付与は、かれらを地域社会へと包摂するためにも役立つ。 地域差はあるにせよ、自分が住む地域に外国籍住民がいる、という状況は、現代の日本ではまったく珍しくなくなっている。一方で入管問題や技能実習生の問題など、外国人の人権がほとんど顧みられていない現状があり、意識と制度の両面での改善が必要になっている。 現在はコロナ禍の入国規制で外国人の新規入国が止まってはいるが、日本政府は特定技能制度の拡大によって家族を含む外国人労働者を増加させる方針を示している。外国人にとって現在の日本に移民を検討するだけの魅力があるかはともかく、日本側からみれば、少子化が止まらない以上は社会を維持するために国を開いていかなければならない。このトレンドには、しばらく変化はないだろう。 そうであるならば、外国籍の住民の権利を守り、かれらをいかに包摂していくかが マジョリティたる日本市民の責任となる。子どもの教育や言語など生活面のサポートも考える必要もあるだろうし、日本社会が多様性を認めるよう変化する必要もある。) そして、外国籍住民に地域社会の一員たる自覚と誇りを持ってもらうためには、行政について意見表明をする機会を与えることは重要な手段となるだろう。将来的には投票権のみならず、参政権そのものについても検討が必要だと思う』、「外国籍の住民の権利を守り、かれらをいかに包摂していくかが マジョリティたる日本市民の責任となる」、同感である。
・『ドイツの失敗に見習うべき 外国籍住民の包摂の必要性については、80年代までの西ドイツの失敗が反面教師となるだろう。高度経済成長時代に大量の外国人労働者を受け入れた西ドイツは、かれらを移民として処遇することを長く認めず、外国籍住民の増加に伴う問題を放置し続けたため、建て前と実態の剥離によって、深刻な社会の分断を生み出してしまった。 ドイツでは80年代から90年代にかけて、外国籍住民への生活サポートや権利付与が充実してくるが、それでもなお問題は残る。もっと早く外国籍住民の定住という実態を認識し、その包摂に動いていれば、問題が深刻化する前にソフトランディングできただろう。 多様な人々、多様な文化がいま目の前に存在しているという現実を認めず、純粋な国民、純粋な文化という幻想に固執する社会は、あとで必ずそのツケを払うことになる。日本社会は好む好まざるに拘らず、多様なルーツをもつ人々との共生へと進んでいく。外国籍住民に対する投票権付与は、その長いプロセスの一歩にすぎないのだ』、私は「外国人労働者」への安易な依存には反対だが、一旦、入れた「外国人労働者」を「包摂」できるよう最大限、努力すべきとの立場である。
次に、12月22日付け東京新聞Web「武蔵野市の住民投票条例案、なぜ否決されたのか?市長がこだわる「先進性」」を紹介しよう。
・『外国籍の市民も日本人と同等になるはずだった東京都武蔵野市の住民投票条例案は21日、市議会で反対多数で否決された。「多様性を認め、支え合うまち」を目指す松下玲子市長がこだわる、市内在住3カ月以上を条件とするなどの「先進性」が、是々非々の対応だった市議の態度を硬化させた。今後の見直しの協議で、外国人の在留期間などに一定の制限を設ける「後退」を市長が受け入れるかが焦点だ。(花井勝規)』、「市長」はあえて理想形に走って自沈したようだ。
・『◆公明党への淡い期待\ 「あれで潮目が変わってしまった」 住民投票条例制定に向けて旗を振ってきたベテラン市議は、13日の市議会総務委員会を振り返る。委員の賛否は3対3の同数となり、委員長裁決で可決したが、結果よりも公明党の委員が反対に回ったことに驚いた。「同党は永住外国人の地方参政権付与に前向きで、住民投票条例案に賛成してくれるか、棄権に回ってくれるはず。条例案は可決される」。賛成派市議らのそんな淡い期待は消し飛んだ』、確かに「公明党」の態度は不思議だ。
・『◆永住か、定住か 「市の提案はタイミングが少し早かった」。市議会公明党の落合勝利代表は、外国人の参加要件などで議論が尽くされていないと話す。全国の他自治体の例を挙げ「永住外国人なら市民の理解を得やすいが、定住外国人は在留期間の幅が広く、何が最適なのか分かりにくい」と指摘する。 「3カ月前に日本に来て、言葉もよく分からない人が市の課題に意見を表明できるのか」「永住外国人や在留資格を3年以上持っている人なら考慮の余地はあるが、日本人と同じ条件にするのは乱暴だ」。自民党系市議らと条例案反対の論陣を張った、同市などを地盤とする長島昭久衆院議員(自民)も街頭演説で外国人の在留期間に言及していた。 武蔵野市によると、常設型の住民投票条例を持つ全国の自治体のうち、外国人にも投票を認めているのは43自治体。このうち小金井市など28自治体は永住外国人に限定。残る13自治体は、永住外国人に加え、中長期の定住外国人に「国内で在留資格を持ってから3年以上」(川崎市)などの要件を付けている』、「市長」が「在留期間」で原理主義的姿勢を貫いた要因は何なのだろう。
・『◆市民への周知、不十分 松下市長に近い賛成派の市議は「外国籍の人も同じ市民で、投票資格に差をつけるべきではないと市長は考え、3カ月以上市内に住む18歳以上の人という設定にした」と明かす。 外国籍の市民も日本人と同等の条件で投票できる条例は、神奈川県逗子市と大阪府豊中市の2自治体。今後の協議で外国人の在留期間が見直しの俎上そじょうに載った場合は「市長は『先進性』のこだわりが強く、簡単に折り合えるか」と首をかしげる。 住民投票関連の市の意見交換会に出席した市民は13人だったなど、条例案の市民への周知が不十分だったことも反対派からやり玉に挙げられた。市報「むさしの」(タブロイド判)8月15日号は、住民投票制度の1ページ特集を組んだが、外国籍に触れたのは「(外国籍の方を含む)」のわずか8文字だった。 2009年に住民投票条例を施行した川崎市は、条例の検討委員会をほぼ月1回のペースで計11回開催。外国人市民代表者会議や高校生との意見交換もする念の入れようだった。武蔵野市が住民投票条例を成立させるのに、越えなければならない壁が多い』、「武蔵野市」のやり方は、どうも硬直的過ぎたようだ。
第三に、12月16日付け東洋経済オンラインが掲載した作家のバイエ・マクニール氏による「アメリカ大使館が異例の警告「日本の警察」の疑い 多くの在日外国人が感じている「不当な扱い」」を紹介しよう。
・『12月6日の朝、ツイッターでアメリカ大使館領事部が、日本の警察が外国人を「レイシャル・プロファイリング」していることについて、日本で暮らすアメリカ国民に警告を発したことを知った。レイシャル・プロファイリングとは、特定の人種や民族、肌の色、宗教などを対象に捜査活動を行うことだ。 そのツイートは、文字通り非常警報で、次のように書かれている。「レイシャル・プロファイリングが疑われる事案で、外国人が日本の警察から職務質問を受けたという報告があった。数名が拘束され、職務質問や所持品検査をされた」「拘束された場合は領事館への連絡を要請する必要がある」』、面倒な「外国人」を「レイシャル・プロファイリグ」の対象にするとは通常、考え難い。
・『自転車に乗っていると突然警官が来て… 私は驚かなかった。 数週間前のある日の午後、八王子駅の近くで、自転車でブラブラしていると、突然警察官が目の前に割り込み、私に止まるように合図した。私は驚いた。そして、私の中にいるブラック・アメリカンが、一抹の恐怖と憤りを感じた。 だが、私はそれを抑えた。 警官は私の自転車の登録を確認したいと伝えた。 理由を聞いた。警官は自転車が盗難されていないことを確認しなければならないと言ったので、私はその必要はないと言った。彼は拘束して申し訳ないが、最近盗まれた自転車があったので、確認しなければならないと言った。これは決まっている任務だと言い、 そしてまた詫びた。 私は警察は自転車に乗っている人全員を定期的に止めて確認しているかどうか尋ねた。もしそうなら、ひどい人員不足だ。彼はニタっと笑って、一部の人を止めただけだと言った。私はどんな理由であっても今後避けることができるように、自分が何をしたからこの「一部の」人々に含まれたのかと当然疑問に思った。 「一部の人? 本当に? ランダムですか? もしくは直感的ですか? それと決まりがあるのですか?」 私は尋ねた。「常連の容疑者たちを検挙しただけだと言わないでくださいね」。 警官は答えなかった。彼は私に奇妙な視線を向けただけで、私の在留カードを確認したいと言った。ちょうど近くの交番からほかの警官が何人か現れた。 そして、私が大道芸人で、彼らは熱狂的ファンであるかのように、みんな笑顔で会釈をし、そして密かに「ソフトに」私を取り囲んだ。) その時八王子駅には多くの通行人がいて、通り過ぎる人たちはこの光景を決めつけた目で一瞥し、非難するように私を睨みつけた。私はこの非難の焦点となることでとても恥ずかしい思いをした。非常に不快だと警官に伝えた。彼は私の在留カードを偽造品だと疑うかのようにスキャンし続け、その間、謝罪して会釈をした。 人生で初めて、自分個人が法執行機関のハラスメントの標的にされていると感じた。この犯罪に関する疑いは、自分の人種や民族(外国人であること)に関係していると感じた。誰かが私の尊厳に唾を吐いたように感じ、泣きそうになった。警官たちは自転車が盗難されていないと確認するためだけに15分間公然と私を辱めたのだ。 帰宅途中で私は側溝に嘔吐し、その週の残りは具合が悪かった』、きっとショックが大きかったのだろう。警官たちは、相手が弱い立場だと見ると、徹底的に居丈高になるケースが多いようだ。
・『「20年間頻繁に警察に止められた」 日本におけるレイシャル・プロファイリングの存在を感じているのは私だけではない。 世界的なダンサー兼振付師であり、長年日本に住んでいるブルックリン出身のテリー・ライトさんは、警告の中で「疑い」という言葉が使われていることに気づいた。彼は初めて日本に来てから20年以上の間、日本の警察に頻繁に止められてきたので、彼にとってレイシャル・プロファイリングは疑いどころか、「当たり前のこと」とさえ感じると語る。 その理由として、ライトさんは自分が止められた時のエピソードを挙げた。東京で何人かの友人とともに金曜の夜に繰り出した時のことだ。自分たちが警官に止められる前に、酔っ払って騒いでいる日本人男性たちを目にした。ライトさんほかの黒人男性2人とドレッドヘアの日本人男性と一緒だった。 「警察は私のことを調べようとしたが、大声で話している酔っ払いの日本人男性たちにはまったく注意を払っていなかった」。アメリカのストリートダンスのパイオニアであるライトさんはこう話す。 「だから、私は警官に尋ねた。『なぜあなたは彼らのところには行かなかったんですか? どうして私たちのところに来たのですか? 私たちは黒人だからですか?』。すると、警官はこう答えた。『ええと、それがまさにあなたがドラッグを持っていると思う理由です』」。 この答えに私は大笑いしてしまった。つい最近私が経験したことと同じだったからだ。だが、ライトさんは笑っていなかった。 「だからこそ、アメリカ大使館から、日本でプロファイリングされている疑いを警告されたとき」と、テリーは苦笑いして続けた。「『濡れているから、ビーチに行くときは気をつけて!』と言われているように感じた」。 今回のアメリカ大使館による警告が遅きに失していると思ったのは、テリーさんだけではなかった。実際、ソーシャルメディアでは多くの人が「そんなこといまさら言うまでもない」という反応をしていた。 一部の人はまた、レイシャル・プロファイリングが疑われる例が大幅に増えている理由をそれぞれ推察した。アメリカ人、特に有色人種が、警察がつねに自分たちを不当に標的にしていると不満を言っているわけではない。 ここでのシナリオは、映画「カサブランカ」のシーンを思い出させた。腐敗したフランスの警官ルノー署長が、自分が常連のカジノの真ん中で、その晩のギャンブルの賞金を手渡される直前に、ハンフリー・ボガート演じるリックに対して、「ここでギャンブルが行われているのを知ってショックだ」と言うシーンだ』、なるほど。
・『なぜ突然アメリカ大使館が警告を発したのか アメリカ大使館が突然、日本の警察を諌めることに決めた真相に迫ろうとして、いくつかの理論が浮上した。 「アメリカ大使館の誰かが警察に止められたに違いない」と、日本で作家として活躍するマシュー・カウフマンさんは推察する。 「長年にわたって多くのアメリカ人が、何度も警察に止められたことへの不満を伝えにアメリカ大使館に行ったはずだ。しかし、私が知るかぎり、プレスリリースみたいな警告がこれまで発行されたことがなかった。連続的にハラスメントを受けてきた一般の人々の苦情は却下されることが多いが、幹部からの苦情は波風を立てることがあるのではないか」 私は在日アメリカ大使館に連絡し、実際の回答を得て憶測に終止符を打とうとしたが、残念ながらなんの回答もなかった。 プライバシー上の理由から、アメリカ大使館は特定の件について論じないと言う。 広報担当者によると、「アメリカ国務省は、海外のアメリカ国民の安全と保安を超えた責任を負わない。当局は、警察によるアメリカ国民を含む外国人のレイシャル・プロファイリングの疑いについて、日本で複数の信頼できる報告を受けており、これらの報告をしかるべき日本当局に伝えている。在日大使館のアメリカ市民サービス課のツイッターアカウントは、重要な安全および保安情報を提供することにより、海外に渡航および居住するアメリカ国民を保護する役目がある」としている。 「私は日本が大好きで、文化と人々が大好きだ。しかし、日本はつねに島国であり続け、その歴史の大半は世界から孤立してきた」と、教師、ミュージシャン、音楽プロデューサーのデロン・レイノルズさんは話す。 「根底にある人種差別的なトーンに加えて、今の日本は孤立主義的な感情を強めている。日本政府が外国人にハラスメントをするように伝えているとしか思えない。白人である私もハラスメントを受けていると思うが、悲しいことに、日本では有色人種の人々からよりひどい話を聞く」 私は日本に17年間住んでいるが、アメリカ大使館が日本について警告を出したことはほとんどない。他国と異なり、日本は長年アメリカ人にとって安全な場所だった。 2011年の東日本大震災の時、アメリカ大使館は日本からの出国を検討するよう忠告した。私も出国しかけたが、私もこの国が大好きだ。日本は私の家であり、危機の最中に日本を捨てることはできなかった』、一般的には日本人は欧米の白人には卑屈で、その他の外国人には居丈高である。東南アジア諸国の人々には失礼なことをしている懸念が強い。
・『パンデミックが人種差別的な空気を強めた そして今、私たちは別の危機の真っ只中にいる。今回は終わりの見えないパンデミックだ。そしてこう状況は、いわゆるグローバルコミュニティの醜さを引き出している。世界中で外国人排斥が加速しており、日本もその例外ではない。一部の国で人種差別と新型コロナウイルスに結び付けられる中、アメリカなどでは、#StopAsianHateのような運動も起こった。 今回、新たな変異株であるオミクロン株がアフリカで検出された際、多くの感染症学者が「ウイルスの特性については研究中」としているにもかかわらず、多くの国はアフリカ諸国を対象とした渡航禁止措置などを発し、さらにアフリカ系の人々に汚名を着せた。 これが、アメリカ大使館が疑うレイシャル・プロファイリングに悪影響を及ぼす可能性があるだろうか。つまり、この影響がバイレイシャル(注)の日本人や、アメリカ人以外の「黒人」にまで及ぶか、ということである。 日本政府はそうではないと述べている。事実、松野博一官房長官は、警察が人種や国籍に基づいて不審者に質問しているという主張を否定した。しかしこれは、多くの外国人居住者の生きた経験に反する。 警官がプロファイリングを行っていないのであれば、きちんとその誤解を説明して、解消しなければならない。私の個人的な経験から言えば、このような扱いを受けることは不愉快以外何でもなく、多くの外国人、特に有色人種は同じように感じているのだ』、同感である。(注)バイレイシャル:両親の人種が異なる。 日本では、人種差別がないなどの暴論を主張する向きがあるが、厳然と存在することをまず認めるべきだろう。
先ずは、12月17日付けNewsweek日本版が掲載した思想史研究社の藤崎剛人氏による「武蔵野市の住民投票条例で噴出した外国人投票権「陰謀論」を紹介しよう。
・『<住民投票に外国人の投票権を認めると、某国から移民が押し寄せて市が乗っ取られる、というあり得ない妄想より、外国人増加の実態を否定し続けた結果の分断の弊害を考えよ> 武蔵野市議会で「武蔵野市住民投票条例」が審議されている。ところが、この条例が現在、猛烈な反対運動に晒されている。条例案に3ヶ月以上市内に居住する18歳以上の外国籍住民も住民投票に投票権を与えると定められていたことが、その理由だ。市の内外から反対派が市役所や吉祥寺駅前に集結し、デモ行進が行われるなど激しい示威活動が続けられている。条例の採決は21日の本会議で行われる見込みだが、その成否は予断を許さない』、「本会議」では反対多数で否決された。
・『住民投票での外国人投票権は珍しくはない 住民投票で外国人の投票権を認めている自治体は、全国で40以上存在する。その多くは永住権獲得が条件だが、武蔵野市の条例案のように比較的短期間の居住で投票権が認められている自治体も、大阪府豊中市、神奈川県逗子市という先例がある。もし武蔵野市で可決されれば3例目、都内では初となる。 外国人参政権に関する議論は国政から地方自治まで様々なレベルで存在するが、最高裁は地方自治体の参政権に関しては憲法上否定していない。自治体の住民投票条例で外国籍住民に投票権を与えることはトレンドとなりつつある。 その理由の一つは、自治体の住民投票条例には法的拘束力がなく、首長や議会はそれをあくまで「尊重する義務」があるだけだからだろう。大阪維新のように、二度の住民投票での否決を無視してなお都構想の実現を行おうとする政治勢力もある。武蔵野市も、この投票権は参政権ではなく、あくまで条例についての住民の意思表示であるという立場だ。 地方自治は「民主主義の学校」とも呼ばれるように、より身近で具体的な生活の問題が扱われることが多い。そして地域の生活者に日本人も外国人もない。それぞれが協力して生活の質を向上させていかなければならないところ、外国籍の住民にのみ意思表示の権利を与えなくてよいということにはならない』、「地域の生活者に日本人も外国人もない。それぞれが協力して生活の質を向上させていかなければならない」、その通りだ。
・『反対運動の中にみられる陰謀論 武蔵野市の条例案については、国会議員も含め市内外からの反対も多い。たとえ住民投票レベルであれ、外国人参政権に関する抵抗感は根強くある。その抵抗感が陰謀論にまで達してしまっている場合もある。典型的な陰謀論的反応としては、ある特定の国が大量の移民を武蔵野市に対して送り込み、市を乗っ取るのではないか、というものがある。 少し考えてみれば、これがどれだけ非合理的な思考かが分かるはずだ。武蔵野市を乗っ取るためには、少なくとも数万人の成人を送り込まなくてはならない。また、少なくとも3ヶ月は市の住民でいられるような在留資格および生活資金を人数分準備しなければならない。しかもそこまでやって出来ることは、法的強制力をもたない住民投票での意見表明なのだ。) 外国人参政権の話題になると、即座に「国(自治体)が乗っ取られる」という妄想のような意見が寄せられる。しかしそのような意見は、大抵が上述のような実行手段の困難さが全く考慮されていない。また、先行して住民投票条例を可決した自治体でも、そのような現象が起こっていないということからも、地域を乗っ取られるという思考には根拠はないのだ』、「陰謀論的反応」としては、自民党の国会議員のなかにはこれに乗って住民を煽っている悪質な人物もいる。
・『ホラー小説化する外国人嫌悪 一般論として外国人参政権は自明な権利とはいえないので、その拡大には個別の議論が必要だ。しかし外国人参政権を「外国人に国を乗っ取られる」という理由で一律に否定するような外国人嫌悪(ゼノフォビア)は、マジョリティの過剰な防衛本能に由来すると考えられる。 クトゥルー神話で有名なホラー作家ラブクラフトは、人種差別主義者であったことが知られている。彼の小説に登場する半魚人のようなグロテスクな生き物たちは、20世紀前半のアメリカに大量に流入してきた移民への恐怖がモチーフになっていると読み解くこともできる。マジョリティにとって外国人はホラーであり、そのような心理が前提にあるから、「国を乗っ取られる」というようなホラー小説じみた非合理的な妄想も直感的に受け入れることができてしまうのだ。 しかし現実は、マイノリティのほうこそ、こうした外国人嫌悪が誘発するマジョリティの暴力に怯えている。この暴力を現実化させないためにも、外国人参政権について議論する場合は、まずはマジョリティの恐怖から来る非合理的な妄想は取り除いてから行う必要がある』、「現実は、マイノリティのほうこそ、こうした外国人嫌悪が誘発するマジョリティの暴力に怯えている。この暴力を現実化させないためにも、外国人参政権について議論する場合は、まずはマジョリティの恐怖から来る非合理的な妄想は取り除いてから行う必要がある」、その通りだ。
・『外国籍住民の増加という現実への対応を 外国籍住民への投票権付与は、かれらを地域社会へと包摂するためにも役立つ。 地域差はあるにせよ、自分が住む地域に外国籍住民がいる、という状況は、現代の日本ではまったく珍しくなくなっている。一方で入管問題や技能実習生の問題など、外国人の人権がほとんど顧みられていない現状があり、意識と制度の両面での改善が必要になっている。 現在はコロナ禍の入国規制で外国人の新規入国が止まってはいるが、日本政府は特定技能制度の拡大によって家族を含む外国人労働者を増加させる方針を示している。外国人にとって現在の日本に移民を検討するだけの魅力があるかはともかく、日本側からみれば、少子化が止まらない以上は社会を維持するために国を開いていかなければならない。このトレンドには、しばらく変化はないだろう。 そうであるならば、外国籍の住民の権利を守り、かれらをいかに包摂していくかが マジョリティたる日本市民の責任となる。子どもの教育や言語など生活面のサポートも考える必要もあるだろうし、日本社会が多様性を認めるよう変化する必要もある。) そして、外国籍住民に地域社会の一員たる自覚と誇りを持ってもらうためには、行政について意見表明をする機会を与えることは重要な手段となるだろう。将来的には投票権のみならず、参政権そのものについても検討が必要だと思う』、「外国籍の住民の権利を守り、かれらをいかに包摂していくかが マジョリティたる日本市民の責任となる」、同感である。
・『ドイツの失敗に見習うべき 外国籍住民の包摂の必要性については、80年代までの西ドイツの失敗が反面教師となるだろう。高度経済成長時代に大量の外国人労働者を受け入れた西ドイツは、かれらを移民として処遇することを長く認めず、外国籍住民の増加に伴う問題を放置し続けたため、建て前と実態の剥離によって、深刻な社会の分断を生み出してしまった。 ドイツでは80年代から90年代にかけて、外国籍住民への生活サポートや権利付与が充実してくるが、それでもなお問題は残る。もっと早く外国籍住民の定住という実態を認識し、その包摂に動いていれば、問題が深刻化する前にソフトランディングできただろう。 多様な人々、多様な文化がいま目の前に存在しているという現実を認めず、純粋な国民、純粋な文化という幻想に固執する社会は、あとで必ずそのツケを払うことになる。日本社会は好む好まざるに拘らず、多様なルーツをもつ人々との共生へと進んでいく。外国籍住民に対する投票権付与は、その長いプロセスの一歩にすぎないのだ』、私は「外国人労働者」への安易な依存には反対だが、一旦、入れた「外国人労働者」を「包摂」できるよう最大限、努力すべきとの立場である。
次に、12月22日付け東京新聞Web「武蔵野市の住民投票条例案、なぜ否決されたのか?市長がこだわる「先進性」」を紹介しよう。
・『外国籍の市民も日本人と同等になるはずだった東京都武蔵野市の住民投票条例案は21日、市議会で反対多数で否決された。「多様性を認め、支え合うまち」を目指す松下玲子市長がこだわる、市内在住3カ月以上を条件とするなどの「先進性」が、是々非々の対応だった市議の態度を硬化させた。今後の見直しの協議で、外国人の在留期間などに一定の制限を設ける「後退」を市長が受け入れるかが焦点だ。(花井勝規)』、「市長」はあえて理想形に走って自沈したようだ。
・『◆公明党への淡い期待\ 「あれで潮目が変わってしまった」 住民投票条例制定に向けて旗を振ってきたベテラン市議は、13日の市議会総務委員会を振り返る。委員の賛否は3対3の同数となり、委員長裁決で可決したが、結果よりも公明党の委員が反対に回ったことに驚いた。「同党は永住外国人の地方参政権付与に前向きで、住民投票条例案に賛成してくれるか、棄権に回ってくれるはず。条例案は可決される」。賛成派市議らのそんな淡い期待は消し飛んだ』、確かに「公明党」の態度は不思議だ。
・『◆永住か、定住か 「市の提案はタイミングが少し早かった」。市議会公明党の落合勝利代表は、外国人の参加要件などで議論が尽くされていないと話す。全国の他自治体の例を挙げ「永住外国人なら市民の理解を得やすいが、定住外国人は在留期間の幅が広く、何が最適なのか分かりにくい」と指摘する。 「3カ月前に日本に来て、言葉もよく分からない人が市の課題に意見を表明できるのか」「永住外国人や在留資格を3年以上持っている人なら考慮の余地はあるが、日本人と同じ条件にするのは乱暴だ」。自民党系市議らと条例案反対の論陣を張った、同市などを地盤とする長島昭久衆院議員(自民)も街頭演説で外国人の在留期間に言及していた。 武蔵野市によると、常設型の住民投票条例を持つ全国の自治体のうち、外国人にも投票を認めているのは43自治体。このうち小金井市など28自治体は永住外国人に限定。残る13自治体は、永住外国人に加え、中長期の定住外国人に「国内で在留資格を持ってから3年以上」(川崎市)などの要件を付けている』、「市長」が「在留期間」で原理主義的姿勢を貫いた要因は何なのだろう。
・『◆市民への周知、不十分 松下市長に近い賛成派の市議は「外国籍の人も同じ市民で、投票資格に差をつけるべきではないと市長は考え、3カ月以上市内に住む18歳以上の人という設定にした」と明かす。 外国籍の市民も日本人と同等の条件で投票できる条例は、神奈川県逗子市と大阪府豊中市の2自治体。今後の協議で外国人の在留期間が見直しの俎上そじょうに載った場合は「市長は『先進性』のこだわりが強く、簡単に折り合えるか」と首をかしげる。 住民投票関連の市の意見交換会に出席した市民は13人だったなど、条例案の市民への周知が不十分だったことも反対派からやり玉に挙げられた。市報「むさしの」(タブロイド判)8月15日号は、住民投票制度の1ページ特集を組んだが、外国籍に触れたのは「(外国籍の方を含む)」のわずか8文字だった。 2009年に住民投票条例を施行した川崎市は、条例の検討委員会をほぼ月1回のペースで計11回開催。外国人市民代表者会議や高校生との意見交換もする念の入れようだった。武蔵野市が住民投票条例を成立させるのに、越えなければならない壁が多い』、「武蔵野市」のやり方は、どうも硬直的過ぎたようだ。
第三に、12月16日付け東洋経済オンラインが掲載した作家のバイエ・マクニール氏による「アメリカ大使館が異例の警告「日本の警察」の疑い 多くの在日外国人が感じている「不当な扱い」」を紹介しよう。
・『12月6日の朝、ツイッターでアメリカ大使館領事部が、日本の警察が外国人を「レイシャル・プロファイリング」していることについて、日本で暮らすアメリカ国民に警告を発したことを知った。レイシャル・プロファイリングとは、特定の人種や民族、肌の色、宗教などを対象に捜査活動を行うことだ。 そのツイートは、文字通り非常警報で、次のように書かれている。「レイシャル・プロファイリングが疑われる事案で、外国人が日本の警察から職務質問を受けたという報告があった。数名が拘束され、職務質問や所持品検査をされた」「拘束された場合は領事館への連絡を要請する必要がある」』、面倒な「外国人」を「レイシャル・プロファイリグ」の対象にするとは通常、考え難い。
・『自転車に乗っていると突然警官が来て… 私は驚かなかった。 数週間前のある日の午後、八王子駅の近くで、自転車でブラブラしていると、突然警察官が目の前に割り込み、私に止まるように合図した。私は驚いた。そして、私の中にいるブラック・アメリカンが、一抹の恐怖と憤りを感じた。 だが、私はそれを抑えた。 警官は私の自転車の登録を確認したいと伝えた。 理由を聞いた。警官は自転車が盗難されていないことを確認しなければならないと言ったので、私はその必要はないと言った。彼は拘束して申し訳ないが、最近盗まれた自転車があったので、確認しなければならないと言った。これは決まっている任務だと言い、 そしてまた詫びた。 私は警察は自転車に乗っている人全員を定期的に止めて確認しているかどうか尋ねた。もしそうなら、ひどい人員不足だ。彼はニタっと笑って、一部の人を止めただけだと言った。私はどんな理由であっても今後避けることができるように、自分が何をしたからこの「一部の」人々に含まれたのかと当然疑問に思った。 「一部の人? 本当に? ランダムですか? もしくは直感的ですか? それと決まりがあるのですか?」 私は尋ねた。「常連の容疑者たちを検挙しただけだと言わないでくださいね」。 警官は答えなかった。彼は私に奇妙な視線を向けただけで、私の在留カードを確認したいと言った。ちょうど近くの交番からほかの警官が何人か現れた。 そして、私が大道芸人で、彼らは熱狂的ファンであるかのように、みんな笑顔で会釈をし、そして密かに「ソフトに」私を取り囲んだ。) その時八王子駅には多くの通行人がいて、通り過ぎる人たちはこの光景を決めつけた目で一瞥し、非難するように私を睨みつけた。私はこの非難の焦点となることでとても恥ずかしい思いをした。非常に不快だと警官に伝えた。彼は私の在留カードを偽造品だと疑うかのようにスキャンし続け、その間、謝罪して会釈をした。 人生で初めて、自分個人が法執行機関のハラスメントの標的にされていると感じた。この犯罪に関する疑いは、自分の人種や民族(外国人であること)に関係していると感じた。誰かが私の尊厳に唾を吐いたように感じ、泣きそうになった。警官たちは自転車が盗難されていないと確認するためだけに15分間公然と私を辱めたのだ。 帰宅途中で私は側溝に嘔吐し、その週の残りは具合が悪かった』、きっとショックが大きかったのだろう。警官たちは、相手が弱い立場だと見ると、徹底的に居丈高になるケースが多いようだ。
・『「20年間頻繁に警察に止められた」 日本におけるレイシャル・プロファイリングの存在を感じているのは私だけではない。 世界的なダンサー兼振付師であり、長年日本に住んでいるブルックリン出身のテリー・ライトさんは、警告の中で「疑い」という言葉が使われていることに気づいた。彼は初めて日本に来てから20年以上の間、日本の警察に頻繁に止められてきたので、彼にとってレイシャル・プロファイリングは疑いどころか、「当たり前のこと」とさえ感じると語る。 その理由として、ライトさんは自分が止められた時のエピソードを挙げた。東京で何人かの友人とともに金曜の夜に繰り出した時のことだ。自分たちが警官に止められる前に、酔っ払って騒いでいる日本人男性たちを目にした。ライトさんほかの黒人男性2人とドレッドヘアの日本人男性と一緒だった。 「警察は私のことを調べようとしたが、大声で話している酔っ払いの日本人男性たちにはまったく注意を払っていなかった」。アメリカのストリートダンスのパイオニアであるライトさんはこう話す。 「だから、私は警官に尋ねた。『なぜあなたは彼らのところには行かなかったんですか? どうして私たちのところに来たのですか? 私たちは黒人だからですか?』。すると、警官はこう答えた。『ええと、それがまさにあなたがドラッグを持っていると思う理由です』」。 この答えに私は大笑いしてしまった。つい最近私が経験したことと同じだったからだ。だが、ライトさんは笑っていなかった。 「だからこそ、アメリカ大使館から、日本でプロファイリングされている疑いを警告されたとき」と、テリーは苦笑いして続けた。「『濡れているから、ビーチに行くときは気をつけて!』と言われているように感じた」。 今回のアメリカ大使館による警告が遅きに失していると思ったのは、テリーさんだけではなかった。実際、ソーシャルメディアでは多くの人が「そんなこといまさら言うまでもない」という反応をしていた。 一部の人はまた、レイシャル・プロファイリングが疑われる例が大幅に増えている理由をそれぞれ推察した。アメリカ人、特に有色人種が、警察がつねに自分たちを不当に標的にしていると不満を言っているわけではない。 ここでのシナリオは、映画「カサブランカ」のシーンを思い出させた。腐敗したフランスの警官ルノー署長が、自分が常連のカジノの真ん中で、その晩のギャンブルの賞金を手渡される直前に、ハンフリー・ボガート演じるリックに対して、「ここでギャンブルが行われているのを知ってショックだ」と言うシーンだ』、なるほど。
・『なぜ突然アメリカ大使館が警告を発したのか アメリカ大使館が突然、日本の警察を諌めることに決めた真相に迫ろうとして、いくつかの理論が浮上した。 「アメリカ大使館の誰かが警察に止められたに違いない」と、日本で作家として活躍するマシュー・カウフマンさんは推察する。 「長年にわたって多くのアメリカ人が、何度も警察に止められたことへの不満を伝えにアメリカ大使館に行ったはずだ。しかし、私が知るかぎり、プレスリリースみたいな警告がこれまで発行されたことがなかった。連続的にハラスメントを受けてきた一般の人々の苦情は却下されることが多いが、幹部からの苦情は波風を立てることがあるのではないか」 私は在日アメリカ大使館に連絡し、実際の回答を得て憶測に終止符を打とうとしたが、残念ながらなんの回答もなかった。 プライバシー上の理由から、アメリカ大使館は特定の件について論じないと言う。 広報担当者によると、「アメリカ国務省は、海外のアメリカ国民の安全と保安を超えた責任を負わない。当局は、警察によるアメリカ国民を含む外国人のレイシャル・プロファイリングの疑いについて、日本で複数の信頼できる報告を受けており、これらの報告をしかるべき日本当局に伝えている。在日大使館のアメリカ市民サービス課のツイッターアカウントは、重要な安全および保安情報を提供することにより、海外に渡航および居住するアメリカ国民を保護する役目がある」としている。 「私は日本が大好きで、文化と人々が大好きだ。しかし、日本はつねに島国であり続け、その歴史の大半は世界から孤立してきた」と、教師、ミュージシャン、音楽プロデューサーのデロン・レイノルズさんは話す。 「根底にある人種差別的なトーンに加えて、今の日本は孤立主義的な感情を強めている。日本政府が外国人にハラスメントをするように伝えているとしか思えない。白人である私もハラスメントを受けていると思うが、悲しいことに、日本では有色人種の人々からよりひどい話を聞く」 私は日本に17年間住んでいるが、アメリカ大使館が日本について警告を出したことはほとんどない。他国と異なり、日本は長年アメリカ人にとって安全な場所だった。 2011年の東日本大震災の時、アメリカ大使館は日本からの出国を検討するよう忠告した。私も出国しかけたが、私もこの国が大好きだ。日本は私の家であり、危機の最中に日本を捨てることはできなかった』、一般的には日本人は欧米の白人には卑屈で、その他の外国人には居丈高である。東南アジア諸国の人々には失礼なことをしている懸念が強い。
・『パンデミックが人種差別的な空気を強めた そして今、私たちは別の危機の真っ只中にいる。今回は終わりの見えないパンデミックだ。そしてこう状況は、いわゆるグローバルコミュニティの醜さを引き出している。世界中で外国人排斥が加速しており、日本もその例外ではない。一部の国で人種差別と新型コロナウイルスに結び付けられる中、アメリカなどでは、#StopAsianHateのような運動も起こった。 今回、新たな変異株であるオミクロン株がアフリカで検出された際、多くの感染症学者が「ウイルスの特性については研究中」としているにもかかわらず、多くの国はアフリカ諸国を対象とした渡航禁止措置などを発し、さらにアフリカ系の人々に汚名を着せた。 これが、アメリカ大使館が疑うレイシャル・プロファイリングに悪影響を及ぼす可能性があるだろうか。つまり、この影響がバイレイシャル(注)の日本人や、アメリカ人以外の「黒人」にまで及ぶか、ということである。 日本政府はそうではないと述べている。事実、松野博一官房長官は、警察が人種や国籍に基づいて不審者に質問しているという主張を否定した。しかしこれは、多くの外国人居住者の生きた経験に反する。 警官がプロファイリングを行っていないのであれば、きちんとその誤解を説明して、解消しなければならない。私の個人的な経験から言えば、このような扱いを受けることは不愉快以外何でもなく、多くの外国人、特に有色人種は同じように感じているのだ』、同感である。(注)バイレイシャル:両親の人種が異なる。 日本では、人種差別がないなどの暴論を主張する向きがあるが、厳然と存在することをまず認めるべきだろう。
タグ:(その6)(武蔵野市の住民投票条例で噴出した外国人投票権「陰謀論」、武蔵野市の住民投票条例案 なぜ否決されたのか?市長がこだわる「先進性」、アメリカ大使館が異例の警告「日本の警察」の疑い 多くの在日外国人が感じている「不当な扱い」) 外国人問題 Newsweek日本版 藤崎剛人 「武蔵野市の住民投票条例で噴出した外国人投票権「陰謀論」 「本会議」では反対多数で否決された。 「地域の生活者に日本人も外国人もない。それぞれが協力して生活の質を向上させていかなければならない」、その通りだ 「陰謀論的反応」としては、自民党の国会議員のなかにはこれに乗って住民を煽っている悪質な人物もいる。 「現実は、マイノリティのほうこそ、こうした外国人嫌悪が誘発するマジョリティの暴力に怯えている。この暴力を現実化させないためにも、外国人参政権について議論する場合は、まずはマジョリティの恐怖から来る非合理的な妄想は取り除いてから行う必要がある」、その通りだ。 「外国籍の住民の権利を守り、かれらをいかに包摂していくかが マジョリティたる日本市民の責任となる」、同感である。 私は「外国人労働者」への安易な依存には反対だが、一旦、入れた「外国人労働者」を「包摂」できるよう最大限、努力すべきとの立場である。 東京新聞Web「武蔵野市の住民投票条例案、なぜ否決されたのか?市長がこだわる「先進性」」 「市長」はあえて理想形に走って自沈したようだ。 確かに「公明党」の態度は不思議だ。 「市長」が「在留期間」で原理主義的姿勢を貫いた要因は何なのだろう。 「武蔵野市」のやり方は、どうも硬直的過ぎたようだ。 東洋経済オンライン バイエ・マクニール 「アメリカ大使館が異例の警告「日本の警察」の疑い 多くの在日外国人が感じている「不当な扱い」」 面倒な「外国人」を「レイシャル・プロファイリグ」の対象にするとは通常、考え難い。 きっとショックが大きかったのだろう。警官たちは、相手が弱い立場だと見ると、徹底的に居丈高になるケースが多いようだ。 なるほど。 一般的には日本人は欧米の白人には卑屈で、その他の外国人には居丈高である。東南アジア諸国の人々には失礼なことをしている懸念が強い。 同感である。(注)バイレイシャル:両親の人種が異なる。 日本では、人種差別がないなどの暴論を主張する向きがあるが、厳然と存在することをまず認めるべきだろう。