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孤独(その3)(宗男氏長女を襲った「望まない孤独」と対策への使命感、“孤独担当大臣”の設置も 「大人の国」イギリスのよりよい国づくりへ向けた取り組みを紹介) [人生]

孤独については、昨年1月16日に取上げた。今日は、(その3)(宗男氏長女を襲った「望まない孤独」と対策への使命感、“孤独担当大臣”の設置も 「大人の国」イギリスのよりよい国づくりへ向けた取り組みを紹介)である。

先ずは、3月2日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「宗男氏長女を襲った「望まない孤独」と対策への使命感」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00118/
・『「望まない孤独」が注目されている。 人間は独りで生まれ独りで死ぬ。つかの間の孤独感は日常にあふれている。よって、つい私たちは「それも人生」と受け入れてしまいがちだ。だが「孤独」と「つながり」はコインの表と裏ではない。両者が矛盾なく、同時に成り立っている状態こそが精神的にも身体的にも社会的にも健康な状態である。 ところが、人とつながりたいのにつながることができない。「助けて!」と言いたいのに言うことができない。言える人もいない。そんな孤立した状態に置かれ、生きる力を奪われる人たち、特に若い人が以前にも増して顕在化している』、興味深そうだ。
・『珍しく迅速な対応をした政府  そこで政府は、坂本哲志内閣府特命担当大臣(少子化対策、地方創生)に「孤独・孤立対策」を兼務することを指示。さらに、3月末の決定を目指す「子供・若者育成支援推進大綱」の改定案で、「孤独や孤立問題への対応を強化する方針」を明記した上で、増加する自殺についても「最重要課題」と位置付けた。関係省庁間での連携を密にし、対策を急ぐ考えだという(読売新聞オンライン「【独自】不安高まる若者の『望まない孤独』…過去最多の自殺、コロナ禍で政府が対策強化」)。 2020年の1年間に自殺した小中高校生は479人で、前年の339人から140人増えて過去最多。内訳は、小学生が14人(前年比8人増)で、中学生136人(同40人増)、高校生329人(同92人増)で、高校生は男子が191人(同21人増)、女子は138人(同71人増)だった(文部科学省調査)。 また、大人も含めた自殺者数(速報値)は2万919人で11年ぶりに増加。男性(1万3943人)が女性(6976人)を依然として大きく上回っているが、男性が前年より135人減ったのに対し、女性は885人も増えた(1月22日に警察庁、厚生労働省が発表したデータ) コロナ禍の厳しい状況が、若者や女性などの社会的に弱い立場の人に及んでいることは言うまでもない。しかしながら、男性や高齢者の自殺率は依然として高い。5年ほど前には就職氷河期にフリーターという道を余儀なくされた人たちが、「助けて」と言えずに食事も取れずに餓死したケースがあり、ここ数年は引きこもりの高齢者も社会的な問題になっている。 詰まるところ、孤独・孤立問題は日本の長年の重要な課題だったわけだ。 今回、政府がこれまでにないスピード感で孤独・孤立問題の支援に舵(かじ)を切ったのは、自由民主党の若手議員の力によるところが大きい。コロナ禍で孤独・孤立問題が深刻化していることを受けて、自民党若手議員有志で「望まない孤独」問題に関する勉強会を発足。その呼びかけ人が、「孤独感にさいなまれた経験を持つ」という鈴木貴子衆院議員。2002年にあっせん収賄容疑で逮捕・収監された、鈴木宗男氏の長女だ。 毎日新聞のインタビュー記事によれば、当時、高校1年生だった鈴木議員はカナダの高校に留学中だった。しかし、日本で父親が逮捕されたことでバッシングを受け、「世の中の全てから存在を否定されたように感じました。今までの人生で、あのときが一番つらかった」という。 幸いカナダのホストファミリーは「一人の日本人留学生」として接してくれたため、「私の居場所はここにあると思って救われた」そうだ』、「鈴木貴子」氏が「父親」「逮捕」時に、「カナダのホストファミリー」のところにいたのは、ラッキーだった。
・『「孤独」の研究、端緒は1970年代  日本では「孤独」と一緒くたに語られてしまうが、英語では、自分で選択する孤独=solitudeと、寂しい孤独=lonelinessに分けることができる。前者には「自分の存在」があるが、後者にはない。 鈴木議員の言葉を借りれば「世の中の全てから存在を否定されたように感じる」状態こそが、寂しい孤独=loneliness。まさに「望まない孤独」だ。 つまり、鈴木議員のように孤独感を経験した政治家さんが先頭に立って、「現代病」でもある孤独問題に真っ正面から取り組むことは、実効性ある支援につながると期待できる。何よりも「望まない孤独」という新しい言葉が実にいい。 新しい言葉が生まれることで、それまで放置されてきた問題が注目されるようになり、個人の問題とされがちな問題が社会の問題、すなわち「私たちの問題」になる。 「望まない孤独」という言葉が社会に広がり、lonelinessとして理解されるようになれば、悲鳴を上げることができなかった人たちを救う大きなきっかけになるであろう。 というわけで、今回は「望まない孤独」について、あれこれ考えてみようと思う。 孤独問題は以前から本コラムでも取り上げているように、日本も含めた世界中の課題である。 古くは1970年代後半から「孤独=loneliness」の定義がなされ、孤独感を測る尺度が開発され、基本的にはこれらをベースにした研究が現在も蓄積されている。2000年以降は、孤独問題に加え「社会的孤立=social isolation」にも関心が集まり、先進国を中心に世界的に研究が続けられている。 lonelinessとは「『社会的つながりが十分でない』と感じる主観的感情」で、家族といても、職場にいても、ときとして耐え難くなるネガティブな感覚である。 「社会的つながりが十分ではないという主観的な感情」を健康社会学的な文脈で捉えれば、「私は温かく、信頼できる人間関係を築いている(=積極的他者関係、positive relationship)」という感覚の欠如だ』、「2000年以降は、孤独問題に加え「社会的孤立・・・」にも関心が集まり、先進国を中心に世界的に研究が続けられている。 lonelinessとは「『社会的つながりが十分でない』と感じる主観的感情」で、家族といても、職場にいても、ときとして耐え難くなるネガティブな感覚である」、なるほど。
・『自分だけ穴の中に落ちていく  この感覚が持てない状態が続くと、孤独感が強まっていく。 周りに人がいても排除されている感じがして、居場所がない。近くに人がいるのに、ぬくもりを感じることができない。自分の存在が全否定されているような気分になる人もいれば、周りの人と自分との「違い」から、周りの人といることで自尊心が傷つき、自分からコミュニケーションを避けたり、会うことをやめたり、物理的に距離を取るようになる人もいる。 以前、孤独に関する調査でインタビューした男性は、孤独感を「自分だけ穴の中に落ちていく感覚」と表現した。 「家にいるとおかしくなりそうになるから、外に出る。でも、外に出ると周りのまなざしが怖くて、人目を避けて漫画喫茶にこもったり、図書館で過ごしたりした。孤独感をまぎらわすために人ごみに行くのに、逆に孤独感が強まってしまって。完全に悪循環だった」 男性は就職氷河期世代で、正社員になれず、親からは「頑張りが足りない」と言われ続けた。その後も非正規社員として会社を転々とし、結婚もできずに30歳を過ぎた。世間から、「落ちこぼれ」「負け組」「弱虫」など、自業自得と言わんばかりのレッテルを貼られたという。 幸いにも男性は、自尊心が限りなく低下し、将来への不安も募っていた35歳のときに、ある企業にアルバイトで採用され、いい上司と社長さんに出会い、そこで居場所を得ることができたが、「あのままだったら……最悪の選択をしていたかもしれない」と当時を振り返った。 前述の通り、自分で選択する孤独=solitudeは、「自分の存在」がある状態なので、「自分は自分」と考えることができる。一抹の寂しさを感じることがあっても、「自分だけじゃないよな。他の人も似たようなもんじゃないかな」と考えたり、自分の胸の内をポロっとこぼして「私も同じだよ」などという話を聞いて安堵したり。他者と自分とのつながりを、自由に開いたり閉じたり、孤独を楽しんだり、孤独になることで自分と向き合ったり、「自分に足りないモノ」を受け入れたりするのが、自分で選択する孤独=solitudeだ。) こうした孤独は自己の成長につながり、極めて貴重な状態でもある。一方、「社会的つながりが十分でない」と感じる主観的感情=lonelinesを慢性的に感じていると、それが血流や内臓のうねりのごとく、体内の深部にまで入り込み、心臓病や脳卒中、がんのリスクを高めるほど心身をむしばんでいく。また、心理的なダメージから鬱傾向になったり、認知機能が低下したりする場合もある。 皮膚の下まで入り込む孤独は、もはや心の病だけでなく肉体的な病なのだ』、「主観的感情=lonelinesを慢性的に感じていると、それが血流や内臓のうねりのごとく、体内の深部にまで入り込み、心臓病や脳卒中、がんのリスクを高めるほど心身をむしばんでいく。また、心理的なダメージから鬱傾向になったり、認知機能が低下したりする場合もある」、肉体や精神に深刻な影響を与えることもあるとは恐ろしいことだ。
・『「信頼できる他者」がいない状態  また、米国のブリガム・ヤング大学のジュリアン・ホルト-ランスタッド博士らの分析では、孤独に関連する病気のリスクは65歳以上よりも65歳未満の方が高いことが分かっている。さらに、独り暮らしなどの「社会的孤立=social isolation」でも死亡リスクが高まるとしている。 「社会的孤立」に明確な定義は存在しないが、一般的には「家族や地域社会との関係が希薄で、他者との接触がほとんどない状態」を指し、社会学研究では、ソーシャル・サポート、ソーシャル・ネットワーク、ソーシャル・キャピタルなどの概念を用いて、社会的孤立を測る場合が多い。 具体的には、「日常生活の困り事を頼める人がいない」「悩みなどを相談できる人がいない」「病気などの緊急時に助けを頼める人がいない」「自分の問題を理解してくれる人がいない」「一緒に楽しい時間を過ごせる人がいない」といった状態、すなわち「信頼できる他者」がいない状態が社会的孤立だ。 家族、地域、職場、サークルなどのコミュニティーに属し、その中で、たった一人でも「頼っていいんだ」「ここにいていいんだ」「居心地がいい」「ホッとできる」「そこに行くだけで居場所がある」「自分を待っている人がいる」「自分を求めている人がいる」と思える“つながり”があれば、社会的孤立を免れることができる。 鈴木議員が「カナダのホストファミリーは『一人の日本人留学生』として接してくれたため、『私の居場所はここにあると思って救われた』」と語っていたように、だ。 つまり、孤独が極めて主観的な感情であるのに対し、社会的孤立は社会の問題である。社会的孤立が孤独感の引き金になると同時に、孤独感を軽減するには自分を取り囲む世界への「信頼」が必要不可欠。少々ややこしくなるが、孤独感と社会的孤立は鶏と卵のような関係にあり、その裏側にあるのが「信頼」という感情と解釈してよい、 孤独が日本だけでなく、世界の先進国で問題になっているのは、人間関係の希薄化が背景にあることを否定する人はいない。 興味深い調査結果がある。 NHKが5年ごとに実施している「『日本人の意識』調査」で、「なにかにつけ相談したり、たすけ合えるようなつきあい」が望ましいという人が長期的に減少しているのだ。 職場、親せき、近隣の3つの人間関係において、「なにかにつけ相談したり、たすけ合えるようなつきあい」を望ましいという人の割合の変化(出所:NHK「第10回『日本人の意識』調査」) 一方、職場や近隣の人間関係で、あいさつ程度の「形式的つき合い」を望む割合が増加している。 職場で「形式的なつき合い」を望む割合は、1973年の11%から、2018年には27%に増加。近隣では同15%から同33%に増加している(資料、P76より)』、「「なにかにつけ相談したり、たすけ合えるようなつきあい」が望ましいという人が長期的に減少している」、「職場や近隣の人間関係で、あいさつ程度の「形式的つき合い」を望む割合が増加している」、「つきあい」や「人間関係」の希薄化を希望しているようだ。
・『「あなたは大切な人」の一声を  また、慈善活動などは他者への関心を示すソーシャル・キャピタルの指標の1つだが、街頭募金額(赤い羽根共同募金と歳末たすけあい募金)は、1980年をピークに低下し始め、阪神大震災があった1994年ごろ、一旦は上昇に転じるが、その後は減少している(坂本治也氏「日本のソーシャル・キャピタルの現状と理論的背景」掲載の2006年までのデータによる)。 これらの結果は何を示しているのか? 誰もが厳しい状況に置かれ、将来への不安が高まっていて「人のことなどかまっていられない」という感情の高まりなのか? あるいは同調圧力や競争社会のわずらわしさから逃れるため、他人と比較しなくてすむようにあえて「孤立」することを望んでいるのか? その真意は人によってさまざまだろう。 ただ、一つだけ確かなのは、人は一人では生きていけない。どんなにSNSなどでつながっても、同じ空間にフェイス・トゥ・フェイスで共に過ごす経験がないと私たちは相手を心から信頼できず、孤独感が逆に深まってしまうということだ。 いずれにせよ、日本だけでなく世界の先進国が孤独問題を「国の重要課題の一つ」と位置付け、科学的な調査とエビデンスに基づき支援策に乗り出しているように、誰もがちょっとしたきっかけで孤独という病に侵されるリスクが高まっている。 自分の半径3メートルにある世界の「誰か」に声をかけてほしい。たった一言でもいいので「あなたは大切な人」というメッセージを送ってほしい。「望まない孤独」に陥っている人がいるかもしれないのだからして』、「誰もがちょっとしたきっかけで孤独という病に侵されるリスクが高まっている」、「自分の半径3メートルにある世界の「誰か」に声をかけてほしい。たった一言でもいいので「あなたは大切な人」というメッセージを送ってほしい」、実際にはその場の雰囲気にもよるが、「声かけ」はそれほど容易いことではなさそうだ。
タグ:孤独 (その3)(宗男氏長女を襲った「望まない孤独」と対策への使命感、“孤独担当大臣”の設置も 「大人の国」イギリスのよりよい国づくりへ向けた取り組みを紹介) 河合 薫 日経ビジネスオンライン 「宗男氏長女を襲った「望まない孤独」と対策への使命感」 坂本哲志内閣府特命担当大臣(少子化対策、地方創生)に「孤独・孤立対策」を兼務することを指示 「鈴木貴子」氏が「父親」「逮捕」時に、「カナダのホストファミリー」のところにいたのは、ラッキーだった。 「2000年以降は、孤独問題に加え「社会的孤立・・・」にも関心が集まり、先進国を中心に世界的に研究が続けられている。 lonelinessとは「『社会的つながりが十分でない』と感じる主観的感情」で、家族といても、職場にいても、ときとして耐え難くなるネガティブな感覚である」、なるほど。 「主観的感情=lonelinesを慢性的に感じていると、それが血流や内臓のうねりのごとく、体内の深部にまで入り込み、心臓病や脳卒中、がんのリスクを高めるほど心身をむしばんでいく。また、心理的なダメージから鬱傾向になったり、認知機能が低下したりする場合もある」、肉体や精神に深刻な影響を与えることもあるとは恐ろしいことだ。 「「なにかにつけ相談したり、たすけ合えるようなつきあい」が望ましいという人が長期的に減少している」、「職場や近隣の人間関係で、あいさつ程度の「形式的つき合い」を望む割合が増加している」、「つきあい」や「人間関係」の希薄化を希望しているようだ。 「誰もがちょっとしたきっかけで孤独という病に侵されるリスクが高まっている」、「自分の半径3メートルにある世界の「誰か」に声をかけてほしい。たった一言でもいいので「あなたは大切な人」というメッセージを送ってほしい」、実際にはその場の雰囲気にもよるが、「声かけ」はそれほど容易いことではなさそうだ。
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健康(その17)(前立腺肥大には「大豆」が効く!? 今日からできる食事術!、背が伸びない中高生に多い「NGな睡眠習慣」の中身 成長ホルモンの分泌に必要なのは「闇の時間」、医師が「減量で食事制限は不要」と断言する根拠 欧米で使用されていた「やせ薬」が消えた理由) [生活]

健康については、9月30日に取上げた。今日は、(その17)(前立腺肥大には「大豆」が効く!? 今日からできる食事術!、背が伸びない中高生に多い「NGな睡眠習慣」の中身 成長ホルモンの分泌に必要なのは「闇の時間」、医師が「減量で食事制限は不要」と断言する根拠 欧米で使用されていた「やせ薬」が消えた理由)である。

先ずは、10月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した産業医・内科医の森勇磨氏による「前立腺肥大には「大豆」が効く!? 今日からできる食事術!」を紹介しよう。なお、文中の注番号は省略。
https://diamond.jp/articles/-/284328
・『人生100年時代は、健康こそ最大の資産です。 しかし40歳を越えると、がん、糖尿病、腎臓病といった病気を避けては通れません。国立がん研究センターによれば、40~49歳のがん患者数は、30~39歳と比べると3倍以上です(2018年)。もちろん50代、60代と年齢を重ねるにつれ、がん患者数はどんどん増えていきます。 本連載は、毎日の食事から、大病を患ったあとのリハビリまで、病気の「予防」「早期発見」「再発予防」を学ぶものです。著者は、産業医×内科医の森勇磨氏。「予防医学ch/医師監修」の管理人でもあり、動画は「わかりやすい説明で参考になる」「怖いけど面白い」と評判で、チャンネル登録者は27万人を超えています。初の単著『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』を出版し(9月29日発売)、がん、糖尿病、高血圧、食事、生活習慣、人間ドック、メンタルというさまざまな観点から、病気にならない知識と習慣をあますところなく伝えています』、「チャンネル登録者は27万人を超えています」、大人気のようだ。
・『前立腺肥大には「大豆」が効く!? 今日からできる食事術!  前立腺肥大症は、60歳以上の男性の2人に1人以上がなるといわれています。いわば「老化現象」ともいえる病気で、具体的な症状は次のとおりです。 ・残尿感が消えない ・トイレが近くなり、毎日尿意のせいで夜中起こされてしまう ・尿意はあるのになかなか出ない、または逆に何回もトイレに行ってしまう 前立腺は、尿をためておく膀胱と尿の通り道になる尿道の間の脇にある「栗の実程度の臓器」です。加齢とともに大きくなり、卵レベルの大きさになると膀胱や尿道を刺激し、症状を引き起こします』、私も「前立腺肥大」による「夜間頻尿」に、投薬も効果がなく、悩まされている。
・『激痛を伴う処理をすることも  あまりに大きくなるとレーザーや電気メスを使って前立腺を削ることもあります。 放置すると急におしっこが出なくなり、強烈な腹痛が起きることもあり、そのときはおしっこの通り道を作るために、「尿道カテーテル」という管を陰部に入れる処置を行うこともあります(激痛を伴います)。 また、およそ1万3000人のアメリカとヨーロッパのデータを対象にした研究では、「前立腺肥大がひどくなればなるほど勃起不全などの性機能障害のリスクが上昇する」という結果が出ました。排尿以外にも弊害があるのです』、私の場合、まだ「痛み」はないが、やがてそうなる可能性があるというのは恐ろしい。
・『前立腺肥大のしくみと予防法  まずは「大豆製品の摂取」です。豆腐、納豆、きなこ、みそといった大豆を使った食品にはポリフェノールの一種である「イソフラボン」が含まれ、この成分が前立腺肥大の予防効果があるのではないかとされています 前立腺が大きくなる仕組みとして、実は男性ホルモンである「テストステロン」が関係しています。 テストステロンは、前立腺の内部で「5αリダクターゼ」と呼ばれる酵素によってジヒドロテストステロン(DHT)と呼ばれるホルモンに変換されます。 このDHTは男性の薄毛に作用し、前立腺を肥大させることもあります。DHTは男性の生殖器を形作る作用もあり、必要なホルモンなのですが、中高年男性にとっては「悪玉男性ホルモン」と呼ばれることもあります。 大豆に含まれるイソフラボンは、このDHTや変換する酵素(5αリダクターゼ)の働きを抑える役割を持っています。 イソフラボンは、「女性ホルモン」のエストロゲンに構造が似ており、エストロゲンの受け皿である「エストロゲン受容体」にはまり込むので、女性ホルモンのような役割を果たします。この作用で男性ホルモンの働きが抑えられるわけです』、「 大豆に含まれるイソフラボンは」、「悪玉男性ホルモン」(DHT」や変換する酵素・・・の働きを抑える役割を持っています」、食事で抑えられるとは有り難い話だが、既に「肥大した患者」には手遅れなのだろうか。
・『注意!「前立腺がんが進行している」には逆効果?  しかし「前立腺がんが進行している人」には逆効果の可能性があります。4万3000人の日本人を対象にした研究では、大豆やイソフラボンを多めに摂取していた人は、前立腺がんの死亡リスクが上がったというデータがあります まだマウスによる動物実験の段階ですが、「イソフラボンがエストロゲンのような作用だけでなく、男性ホルモンのような挙動を示すことがある」という結果も出ています。 今後の研究に期待したいところですが、現状は「大豆製品(イソフラボン)の摂取は、前立腺肥大の予防にはよいが、前立腺がんが進行している場合は控えたほうがいい」と覚えておいてください。 イタリアの研究では、穀物と肉類を多く食べていた人は前立腺肥大になりやすく、野菜と豆類を多く食べていた人は前立腺肥大になりにくいというデータがあります 他にも「玉ねぎとニンニクを多く食べていた人には前立腺肥大の発症が少なかった」というデータも存在します 日本人にとって穀物の量を減らすというのは少し難しいかもしれません。しかし野菜を多めに食べ、肉の量を少なくするのは実行可能でしょう。大豆食品をしっかり摂取することに加えて、「野菜多め、肉少なめ」の食生活も心がけておきましょう』、私も現在は「野菜多め、肉少なめ」の食事だが、既に「肥大」してしまったので、遅過ぎるのかも知れない。
・『メタボが悪影響を与えている?  また、生活習慣病の予防も欠かせません。世界では「前立腺肥大症は結局メタボリックシンドロームの一種ではないのか?」という概念が提唱されています 高血圧、肥満、糖尿病など、この類の生活習慣病は「交感神経」を刺激します。体をどんどん活性化させ、緊張状態にしてしまうのです。前立腺の筋肉も緊張し、それが前立腺肥大につながっているのではないかという説があります。生活習慣病の改善に定期的な運動も有効です。 人生100年時代は、健康こそ最大の資産です。お金や時間がどれだけあっても、健康でなければ意味がありません。自分の体をこまめにケアしていきましょう。(本原稿は、森勇磨著『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』を編集・抜粋したものです)(注の【出典】、森勇磨氏の略歴、「総合内科医・産業医が教える「病気にならない全知識」」の紹介はリンク先参照)』、既に「肥大化」している私のようなケースでも、食事療法で進行が止まったり遅くなったりするのだろう。

次に、11月8日付け東洋経済オンラインが掲載した 人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家の黒川 伊保子氏による「背が伸びない中高生に多い「NGな睡眠習慣」の中身 成長ホルモンの分泌に必要なのは「闇の時間」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/466371
・『「身長を伸ばしたい」と思っても、大人になってからでは限界があります。特に男子の身長がぐんぐん伸びる「成長スパート」は、中学生になってからが本番です。 『中高生の身長を伸ばす7つの習慣』では、背を伸ばす栄養素や、反対に背が伸びるのを邪魔する食べ物や生活習慣を紹介しています。 本稿では、同書から一部を抜粋してお届けします。 背を伸ばすために必要なのは、「背、伸びなさい」と命令する成長ホルモンと甲状腺ホルモンです。これらを順調に出すために欠かせないのが栄養と睡眠です。今回は睡眠の話をしましょう』、興味深そうだ。
・『成長ホルモン分泌に必要な「闇の時間」  私たちの脳は、昼と夜の繰り返しの中で進化してきました。このため、光と闇のスイッチが脳の中にあるのです。そのスイッチをうまく作動させないと、必要なホルモンが分泌されません。成長ホルモンは、「闇のスイッチ」で分泌が順調になります。夜は、まぶたを閉じて眠る。これが、高身長への第一歩となります。 ホルモンの中枢司令塔である、脳の下垂体や視床下部は、視神経の先端を取り囲むようにして格納されています。視神経に直結しているのです。目(網膜)に光が当たれば、視神経は緊張し、目が暗さの中にあれば、視神経は緊張から緩和されます。この視神経の緊張と緊張緩和が、ホルモンの中枢司令塔に刺激を与えて、そのときにふさわしいホルモンの分泌へと切り替わるのです。 真夜中、目が光の刺激から解放されると、成長ホルモンへ分泌命令が出されます。 つまり、「真夜中、ちゃんと寝ること」。こんなあたりまえの生活習慣が、背を伸ばすための必要条件となります。「寝る子は育つ」は、科学的にも真実なのです。 そもそも、中学生は眠いはず。何時間だって眠れるし、寝ても寝てもまだ眠い。身長が伸びようとしているとき、脳は「まぶたを閉じて、闇のスイッチを入れてほしい」からです。 しかし、現代の生活では、自分を律して死守しないと、この条件がクリアできません。手元に「明るい光を発する画素で構成された画面がクルクル動く」、あまりにもおもしろい道具=スマホがあるのですから。 闇のスイッチが最も入りやすいのは、真夜中てっぺんの4時間(22時~2時)といわれています。受験生ともなれば22時に寝るというわけにはいかないでしょうけれど、22時を過ぎたら電子機器を見ることは最小限に自粛して、0時就寝を目ざしてほしい。せめて、塾のない日にはそうしてほしいと思います。 そして、たまには強化週間を作り、23時就寝を!』、「真夜中、目が光の刺激から解放されると、成長ホルモンへ分泌命令が出されます。 つまり、「真夜中、ちゃんと寝ること」。こんなあたりまえの生活習慣が、背を伸ばすための必要条件となります。「寝る子は育つ」は、科学的にも真実なのです」、「22時を過ぎたら電子機器を見ることは最小限に自粛して、0時就寝を目ざしてほしい」、なるほど。
・『上質な眠りにこだわろう  さて、「真夜中、闇のスイッチ」が作動し、分泌命令が出るのは、成長ホルモンだけではありません。上質の眠りをつくり出すメラトニンも、「真夜中、闇のスイッチ」がいちばん効きます。メラトニンは、上質の眠りをつくり出すとともに、脳の進化を助けます。 実は、脳は、眠っている間に進化します。起きている間の経験(勉強した成果や、運動で体が覚えたこと)を脳に定着させ、センスを作り上げるのも、眠っている間なのです。起きている間に脳に叩き込んだことは、眠っている間に定着します。眠りの質が悪ければ、せっかく100回書いた英単語が、するりと脳から抜け落ちてしまう。 眠りの質がよければ、ちらりと見た英単語を覚えておけるのに。眠りの質は、脳の質。身長のみならず、頭のよさも、眠りがつくり出します。眠りをバカにしていると、たいへんなことになります。 22時以降は電子機器を凝視することを控えて、0時にはまぶたを閉じる。これに、人生がかかっていると思って。 また、夜のお風呂習慣(バスタブにつかる)も、メラトニンの分泌を促進することがわかっています。体表面の温度を一気に40度以上に上げると、脳の内部や内臓の温度を必要以上に上げないために(脳や内臓は高温に弱いから)、深部体温が下がります。これがきっかけとなって、神経回路が興奮系から鎮静系へと切り替わります。眠りへと向かいやすくなるわけですね。さらに、「真夜中、闇のスイッチ」は、生殖ホルモンにも関わっています。 真夜中、ゲームやSNSに興じて眠らないと損をすることばかり。それって、人生を懸けてすることかしら?まぁ、たまにはいいけどね。) 朝日が網膜に当たると、セロトニンと呼ばれるホルモンの分泌が促進されます。朝日は、目にとって特別な光です。朝日は東からさしてきます。地球は東に向かって自転しているので、朝日には光のドップラー効果が加わります。 救急車のサイレンは、向かってくるときには高く(ピーポー)、遠ざかっていくときには低く聞こえますね(ヘ~ホ~)。あれと同じ現象が光にも起こっているのです。朝日は緊張度が高く、脳を目覚めさせる大事なスイッチというわけ。セロトニンは、脳内全体の信号を活性化し、さわやかな寝覚めをもたらすとともに、一日中、意欲を下支えし、脳の学習能力を高めます。生きる力の源となるホルモンなのです。 朝寝坊して、朝日を見逃すなんて、本当にもったいない。また、セロトニンは、上質な眠りをつくり出すホルモン・メラトニンの材料にもなります。早起きすれば、夜、自然に眠くなる。「早寝、早起き」とよくいいますが、科学的には「早起き、早寝」でワンセットです』、「朝日は緊張度が高く、脳を目覚めさせる大事なスイッチというわけ。セロトニンは、脳内全体の信号を活性化し、さわやかな寝覚めをもたらすとともに、一日中、意欲を下支えし、脳の学習能力を高めます。生きる力の源となるホルモンなのです」、「科学的には「早起き、早寝」でワンセットです」、「朝日」は本当に大切なようだ。
・『13~17歳の過ごし方が重要  先に述べたように、「背、伸びなさい」と命令する成長ホルモンと甲状腺ホルモンがしっかり効いていてはじめて、背が伸びる可能性を手にします。 これらは胎児のときから成人になるまでふんだんに分泌されますが、特に大人体型の下で最大限に働くのが、男子の場合、13歳から17歳くらいまで。160センチの身長を180センチにまで押し上げるのが、この時期なのです。このタイミングを逃してはいけません。 前に記した2つのホルモンの分泌を促し、上手に背を伸ばすには、 1.上質な眠り 2.脳神経回路への過度のストレスを避ける 3.適度な運動  の3つが不可欠になります。 運動は、物理的に骨端線を刺激し、骨の成長を加速させます。同時に基礎代謝が上がることで、甲状腺ホルモンと相乗作用を起こします。 上質の眠りのためには、0時(真夜中てっぺん)を寝て過ごすこと。脳神経回路への過度のストレスの筆頭は、日没後の、パソコンやスマホの電子画面の視覚刺激です。くよくよ悩むのも、背のために避けてください。 とはいえ、現代の中高生は、ストレスがゼロというわけにはいかないでしょう。受けてしまった脳神経系のストレスを解消するカギが、ビタミンB群です。肉に多く含まれるビタミンB群は、背を伸ばしたい男子の強い味方。と同時に、脳を活性化するので、勉強の強い味方でもあるのです。肉食は、男子の基本ですね。 ただし、せっかくとったビタミンB群も、炭酸飲料やジャンクフードの中の糖質が、その代謝に使うために奪ってしまいます。肉・魚・卵・乳製品をしっかりとること。これは基本ですが、せっかくとった栄養素を捨てないために、糖質過多の間食を避けることも大事な知恵です。当然、骨の材料になる栄養素も、しっかりとらなければなりません』、「最大限に働くのが、男子の場合、13歳から17歳くらいまで」、「肉・魚・卵・乳製品をしっかりとること。これは基本ですが、せっかくとった栄養素を捨てないために、糖質過多の間食を避けることも大事な知恵です。当然、骨の材料になる栄養素も、しっかりとらなければなりません」、自らの場合、孫世代はこれから成長期を迎えるので、参考にしたい。

第三に、11月23日付け東洋経済オンラインが掲載した福島県立医大主任教授、医師の下村 健寿氏による「医師が「減量で食事制限は不要」と断言する根拠 欧米で使用されていた「やせ薬」が消えた理由」を紹介しよう。
・『日本の医学界に絶望し、単身渡英。何のつてもない状態で、世界大学ランキング1位に君臨し続ける英国・オックスフォード大学に研究員として就職。インスリン・糖尿病学の世界的権威であるフランセス・アッシュクロフト教授のもとで、新生児糖尿病の治療法の発見に貢献するなど、在籍8年間で数々の価値ある論文を発表してきた医師で現在、医学部教授も務める下村健寿氏。 その下村氏が長年にわたって取り組んできた、糖尿病や生活習慣病の研究から辿り着いた答えをまとめた一冊『オックスフォード式 最高のやせ方』より一部抜粋、再構成し、お届けします』、興味深そうだ。
・『誰もが誤解しているダイエットのパラドックス  「食べる量を減らせばやせられる」。誰だってご存じのはずです。でも、これがなかなかできません。 そのために自己嫌悪に陥ってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか?でも落ち込む必要なんて全然ありません。食事制限ができないのは当然のことです。 「食べる」という行為は、私たちが生きるうえで必須の行為。呼吸や心臓の拍動と同じです。意志の力でどうこうできるものではありません。医学的・生理学的観点からも、食欲は我慢できないようにできています』、「医学的・生理学的観点からも、食欲は我慢できないようにできています」、道理で「食欲」「の抑制」で「減量」が上手くいかない訳だ。
・『そもそも、「食欲」とは何でしょうか?  まずダイエットを成功させるには食欲の仕組みを知らなければいけません。敵を知らずに戦いを挑んでも失敗してしまいます。 「食欲」とは、「お腹がすいた状態」です。つまり胃の中が空っぽということです。 では、胃が膨れればいいのでしょうか? 試しにお腹がすいているときに水をたくさん飲んでみてください。空腹感が消えましたか? いえ、依然としてお腹はすいていると感じているはずです。 つまり、お腹が物理的に体積として膨れても、空腹感は満たされません。) では、人はどうやって空腹を感じているのでしょうか? 食事をして胃が食べ物で満たされると、胃や小腸からホルモンが分泌されると同時に血糖値が上昇します。 これらの食後に増加するホルモンや糖などの因子が脳に働きかけて、「お腹いっぱい」と感じさせることで、「満腹」の状態を作っています。 逆に言えば、「お腹がすいた」という空腹感も、「何か食べたい」という食欲も、脳が感じているのです。 つまり、食欲をコントロールしているのは脳です。 そして、脳がコントロールする「食欲」は、じつは2種類あります。「恒常性食欲」と「報酬系食欲」のふたつです』、「脳がコントロールする「食欲」は、じつは2種類あります。「恒常性食欲」と「報酬系食欲」のふたつ」、なるほど。
・『人を太らせる元凶「報酬系回路」とは  「恒常性食欲」とは、体の内部の環境を一定の「生きている」という状態に保つための食欲。言い換えるなら「生きていくために食べる」ための食欲です。 たとえば夕食を食べずに翌朝を迎えて、そのまま何も食べずに空腹が続いていたら、翌日のパフォーマンスが落ちてしまいます。つまり、体がいつもの調子「恒常性」を保てなくなるから、パフォーマンスが落ちるのです。 だから、この夕食を食べるときの食欲は「生きるための食欲」、つまり「恒常性食欲」です。 一方で「報酬系食欲」とは、すなわち「快楽を覚える」ための食欲です。お腹がいっぱいなのに、デザートを「食べたい」と思ってしまうのはなぜでしょうか。いわゆる「スイーツは別腹」という現象です。 このスイーツは、仮に食べなかったとしても、翌日のパフォーマンスに響くことはありません。 つまり、これは体の「恒常性」を保つこととはまったく無関係の食欲、すなわち「報酬系食欲」です。ひたすら脳が快感を求めた結果です。極端に言ってしまいますと、麻薬を使った際の快感とまったく同じです。 この「報酬系食欲」こそ人を太らせる元凶です。 そして残念ながら、この快感はコントロールすることが不可能です。 なぜなら、「報酬系」という仕組みは皆さんが思っている以上に動物を支配する力を持っていることが、わかってきたからです。 ある恐ろしい実験があります。 ネズミの脳の報酬系回路に電極を埋め込み、それをネズミが前足で押すことのできるレバーにつなぎます。つまり、ネズミは前足でこのレバーを押すことで、自らの力で報酬系回路を活性化して快感を覚えられるようになります。 するとネズミはすべてを忘れて、レバーを押し続けるようになってしまいました。食事も水もとらずに押し続け、そのまま放っておいたら餓死寸前の状態にまで陥ったのです。 それはネズミだったから、と考える方もいるかもしれません。 しかし同様の現象は人間においても確認されています。 過去一時期、電気刺激によって精神疾患の患者さんを治すという試みが行われたことがあります。ある時、この報酬系回路に電極が置かれてしまったことがあります。 その際、やはり人間でも、ネズミと同じようにすべてを忘れて電気刺激を求めるようになってしまったと報告されています。ひどい場合には、電気刺激のスイッチを押しすぎて、指に潰瘍ができるほどだったそうです。 このように書くと、報酬系回路は恐ろしいものと感じるかもしれません。 しかし、報酬系回路は恐ろしいばかりではありません。 なぜなら、この回路は恋をしたときにも活性化されるからです』、「この「報酬系食欲」こそ人を太らせる元凶です。 そして残念ながら、この快感はコントロールすることが不可能です。 なぜなら、「報酬系」という仕組みは皆さんが思っている以上に動物を支配する力を持っていることが、わかってきたからです」、「報酬系回路は恐ろしいばかりではありません。 なぜなら、この回路は恋をしたときにも活性化される」、いい面も持っているようだ。
・『一時期使用された「やせ薬」が消えた理由  恋とは切なく、つらいものです。 しかし同時に、このうえない幸福感、つまり快感を引き起こします。この幸福感は強烈です。恋の経験がない、という方はいらっしゃらないのではないでしょうか。 そして、この恋をしたときと同じメカニズムが報酬系の食欲では働いています。 おわかりいただけたと思います。意志の力で恋、つまり人を好きになる気持ちを止めることは絶対にできないはずです。 「やせ薬」がないのは、ここに理由があります。 じつは、脳の報酬系に働きかけて食欲を制御する薬は、欧米で一時期使用されたことがあります。 しかし、これらの薬を飲んだ方に「自殺を増やす」という副作用の存在が指摘されました。 これは、この手の食欲を制御する薬に報酬系回路、つまり快感を抑えてしまう作用があったからと考えられています。 食事だけでなく、恋をしたり、何かを楽しいと思ったりする気持ちが抑えられてしまうと、人には生きている喜びがなくなってしまうのです。 食欲を抑えてダイエットに成功しても、「生きているのがイヤ」になったら元も子もありません。ダイエットに挑戦する方は、健康的に痩せることで人生をもっと楽しく過ごしたい、そう思っておられるはずです。 ダイエットで食事を我慢してはいけない理由が、ご理解いただけたと思います。 ぜひ、ご自身の体の仕組みを知っていただいたうえで、コロナ太りを解消するダイエットを実践する際の参考にしていただければ幸いです』、「脳の報酬系に働きかけて食欲を制御する薬は、欧米で一時期使用されたことがあります。 しかし、これらの薬を飲んだ方に「自殺を増やす」という副作用の存在が指摘」、「報酬系回路・・・を抑えてしまう」と、「人には生きている喜びがなくなってしまうのです」、生体のバランスはなかなか難しいものだ。
タグ:健康 (その17)(前立腺肥大には「大豆」が効く!? 今日からできる食事術!、背が伸びない中高生に多い「NGな睡眠習慣」の中身 成長ホルモンの分泌に必要なのは「闇の時間」、医師が「減量で食事制限は不要」と断言する根拠 欧米で使用されていた「やせ薬」が消えた理由) ダイヤモンド・オンライン 森勇磨 「前立腺肥大には「大豆」が効く!? 今日からできる食事術!」 「チャンネル登録者は27万人を超えています」、大人気のようだ。 『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』 私も「前立腺肥大」による「夜間頻尿」に、投薬も効果がなく、悩まされている。 私の場合、まだ「痛み」はないが、やがてそうなる可能性があるというのは恐ろしい。 「 大豆に含まれるイソフラボンは」、「悪玉男性ホルモン」(DHT」や変換する酵素・・・の働きを抑える役割を持っています」、食事で抑えられるとは有り難い話だが、既に「肥大した患者」には手遅れなのだろうか。 私も現在は「野菜多め、肉少なめ」の食事だが、既に「肥大」してしまったので、遅過ぎるのかも知れない。 既に「肥大化」している私のようなケースでも、食事療法で進行が止まったり遅くなったりするのだろう。 東洋経済オンライン 黒川 伊保子 「背が伸びない中高生に多い「NGな睡眠習慣」の中身 成長ホルモンの分泌に必要なのは「闇の時間」」 「真夜中、目が光の刺激から解放されると、成長ホルモンへ分泌命令が出されます。 つまり、「真夜中、ちゃんと寝ること」。こんなあたりまえの生活習慣が、背を伸ばすための必要条件となります。「寝る子は育つ」は、科学的にも真実なのです」、「22時を過ぎたら電子機器を見ることは最小限に自粛して、0時就寝を目ざしてほしい」、なるほど。 「朝日は緊張度が高く、脳を目覚めさせる大事なスイッチというわけ。セロトニンは、脳内全体の信号を活性化し、さわやかな寝覚めをもたらすとともに、一日中、意欲を下支えし、脳の学習能力を高めます。生きる力の源となるホルモンなのです」、「科学的には「早起き、早寝」でワンセットです」、「朝日」は本当に大切なようだ。 「最大限に働くのが、男子の場合、13歳から17歳くらいまで」、「肉・魚・卵・乳製品をしっかりとること。これは基本ですが、せっかくとった栄養素を捨てないために、糖質過多の間食を避けることも大事な知恵です。当然、骨の材料になる栄養素も、しっかりとらなければなりません」、自らの場合、孫世代はこれから成長期を迎えるので、参考にしたい。 下村 健寿 「医師が「減量で食事制限は不要」と断言する根拠 欧米で使用されていた「やせ薬」が消えた理由」 『オックスフォード式 最高のやせ方』 「医学的・生理学的観点からも、食欲は我慢できないようにできています」、道理で「食欲」「の抑制」で「減量」が上手くいかない訳だ。 「脳がコントロールする「食欲」は、じつは2種類あります。「恒常性食欲」と「報酬系食欲」のふたつ」、なるほど。 「この「報酬系食欲」こそ人を太らせる元凶です。 そして残念ながら、この快感はコントロールすることが不可能です。 なぜなら、「報酬系」という仕組みは皆さんが思っている以上に動物を支配する力を持っていることが、わかってきたからです」、「報酬系回路は恐ろしいばかりではありません。 なぜなら、この回路は恋をしたときにも活性化される」、いい面も持っているようだ。 「脳の報酬系に働きかけて食欲を制御する薬は、欧米で一時期使用されたことがあります。 しかし、これらの薬を飲んだ方に「自殺を増やす」という副作用の存在が指摘」、「報酬系回路・・・を抑えてしまう」と、「人には生きている喜びがなくなってしまうのです」、生体のバランスはなかなか難しいものだ。
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マイナンバー制度(その1)(マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた 「税務署が怖い」は先入観?、マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>) [経済政策]

今日は、マイナンバー制度(その1)(マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた 「税務署が怖い」は先入観?、マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>)を取上げよう。

先ずは、11月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた、「税務署が怖い」は先入観?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/288413
・『マイナンバーカードの申請やマイナンバーと銀行口座のひも付けといった条件をクリアすると、最大2万円相当分のマイナポイントが付与されるという。税務署が怖くて銀行口座とマイナンバーのひも付けを嫌がる人は多いが、先入観で勘違いしている場合も多い。一方、国は「同調圧力戦略」でマイナンバーの浸透を図るが、国民を不安にさせる大問題を放置したままだ。あなたと国は、マイナンバーをどうするべきか』、興味深そうだ。
・『複雑なマイナポイント付与制度 銀行口座とマイナンバーをひも付けする?  先般、岸田内閣が閣議決定したもろもろの経済対策の中に、マイナンバーカードの利用に関する項目が含まれていた。 まず、マイナンバーカードの申請に対してマイナポイントを5000円相当分付与する。次に、マイナンバーカードを健康保険証として利用登録すると7500円相当、さらに銀行口座とマイナンバーをひも付けすると同じく7500円相当のマイナポイントが付与されるという。いかにも細かくて面倒くさい。 一方、ポイント自体には経済価値があるので、他人に対するアドバイスとして正しいのは「不都合がないなら、手続きをしてポイントをもらおう」だろう。 率直に言ってこの記事を書くのでなければ、筆者は三つのいずれについても手続きをしなかっただろう。 問題は、不都合の有無だ』、私の場合は、「マイナンバーカード」は既に税務申告用に作成し、銀行にも届け出ているので、「健康保険証として利用登録すると7500円相当」のメリットしかない。早く手続きをした正直者には余りメリットがないようだ。
・『マイナンバーカードを作るか?  政府は「同調圧力戦術」で普及推進(筆者はマイナンバーカードを昨年作った。自分のマイナンバーは既に与えられており、この情報を持ち歩けるカードを作ることには特に問題はないし、「今のところあってもいいことは特にないが、そろそろカードがないと不便なことが生じるだろう」と思って申請することにした。 申請はスマートフォンを使って行うと比較的簡単だった。カードに使いたい写真をあらかじめスマートフォンに読み込んでおくと手続きがスムーズだった。申請からカードができるまでに1カ月以上時間が掛かったし、区役所での受け取りには1時間程度を要した(単にカードを受け取るだけなのだが)。ただ、申請が受け付けられたことは確認できたし、カードの受け取りに特段の不愉快はなかった。 実は、5000円分のマイナポイントは申し込み手続きが必要なので、そのまま放置していた。だが、今回申請の期限が2021年12月末まで延長されたことを知って申し込もうというやる気が出た。マイナポイントのアプリをダウンロードしなければならないし、マイナポイントのリンク先をクレジットカードにしたので、カード会社側のID・パスワードその他の入力がなかなか面倒だった。別のキャッシュレス決済手段とリンクさせた方が良かったのかもしれないが、手間賃5000円ならまあいいだろうと思えた。 マイナンバーカードは現在の仕組み上、これを作ることを国民に強制するわけにはいかない。従って、インセンティブを付与して徐々に普及率を高め、カードを持っていない国民に手続きの不便と少数派意識を与えることによって普及を進めようという意図なのだろうか。一種の同調圧力戦術だ』、「一種の同調圧力戦術」は言い得て妙だ。
・『健康保険証とマイナンバーカード リンクに不都合はなさそうだ  マイナンバーカードと健康保険証とのリンクに不都合はないか。自分の健康保険利用に関わるデータは既に健康保険組合にあるのだから、データがマイナンバーとひも付くことに不都合は無さそうに思えた。 今度は、別途マイナポータルのアプリをダウンロードするところから始まって、前回よりもさらに面倒だった。前回の5000円に対して、今回7500円が手間賃なのは妥当な気がした。) 厚生労働省のサイトは、受付がなされたのか、マイナポイントに申し込みがいるのか否か等が分かりにくい。健康保険証とのリンクができたらしい反応があったので、できたと考えることにした。 これでいいのかどうかは、次に病院に行く機会がないと(ない方がいいのだが)分からない。また、7500円がどうなっているのかも申し込み後すぐの現在分からない。 今後、健康保険が代わっても、マイナンバーカードが保険証代わりになって使えて、健康保険関連の医療データがまとめてひも付けできるなら、いいことだと納得することにした』、私は「マイナンバーカード」は紛失を恐れて、持ち歩くことはしない主義だ。使用頻度が高い「保険証」を常時、持ち歩くようにしている。ただ、後期高齢者になって「健康保険」が代わった際のささやかなメリットを受け損ねたのかも知れない。
・『銀行口座とマイナンバーの連携 油断ならないと思ったが…  銀行口座とマイナンバーのひも付けについては少々考えた。銀行口座の情報(支払いと受け取り両方の相手・時期・金額が分かる)は個人のさまざまな経済活動にリンクしている。仮に第三者が入手した場合に経済価値が高いし、自分のプライバシーの一部の流出にもつながり得る。 しかし、自分は政府に目を付けられそうな重要人物ではないし、税務署に知られて困るお金の動きもない。内閣府のサイトには、Q&Aの形で「マイナンバーの届け出をきっかけに、銀行が行政機関に預貯金残高などをお知らせすることはありません」(https://www.cao.go.jp/bangouseido/pdf/leaflet_yokin.pdf)とある。 微妙な書きぶりだが、まあいいだろう。銀行口座のひも付けもやってみようと思った。 この手続きは、銀行側から行う。使っている銀行のアプリをダウンロードして手続きしたら、簡単に完了できた。 手続きの途中に、銀行の使用目的が列挙されているページをチェックしたら、以下のようなビジネス目的が並んでいる(※スクリーンショット画面参照)。 ・市場調査 ・金融商品やサービスの研究や開発のため ・ダイレクトメールの発送・電話によるご案内等、金融商品やサービスに関する各種ご提案のため ・その他、お客様とのお取引を適切かつ円滑に履行するため) 銀行としては、マイナンバーが何らかのビジネスに使える場合があると考えているのかもしれない。油断ならないと思ったが、筆者の場合、銀行のセールスに影響される可能性はなさそうだから、いいことにした』、私の場合、「銀行」に「マイナンバー」を知らせただけで、あと銀行がどう処理したかは知らない。
・『税務署が怖い人も追加的に不利を被ることは少ないのではないか  一般の人で、例えば税務署が怖い場合も、既に税務署は金融口座を把握しているのだから、マイナンバーとのひも付けで追加的な不利を被ることは少ないのではないか。もっとも、マイナンバーがあることによって税務署側のデータ処理は効率化されるので、「網」が大きくなったり、「漏れ」が減ったりすることはあるのかもしれない。 筆者には「絶対に損はないから、7500円もらおう」と言い切る自信はないので、読者ご自身が損得を判断してほしい。 筆者は、自身の63歳という年齢を調整してITリテラシーを考えた場合、「上」のグループにも、「下」のグループにも入っていないだろうと自己評価している。そのような筆者が、スマートフォンとマイナンバーカードと時間的余裕があれば、三つの手続きができたことをご報告しておく(途中で少し心配したけれども)』、私はちょっとした手続きでもエラーになって、ヘルプデスクの助けでなんとか完了するが、トラブルもなく「三つの手続きができた」とは、大したものだ。
・『マイナンバーのあるべき姿 脱税が難しくなるのは大歓迎すべきことさて、例えばマイナンバーと税金について考えてみよう。マイナンバーでデータが管理できることによって、脱税が難しくなったり徴税の漏れが減ったりすることの、個人にとっての損得はどうか。税務署がより強力になるのだとすると、何となく不利になるように感じるかもしれないが、大多数の人にとってそれは違う。 脱税しようとする意図も能力もない多くの納税者にとって(筆者自身もその一人だと思っている)、脱税がより難しくなって徴収される税金が増えることは、「他人が払う税金が増える!」ことなので、大いに歓迎すべき事態だ。大いに進んでほしい。 このことは国税庁をはじめとして政府が、具体的な見込みの数字なども添えて、もっと訴えていい話ではないだろうか。 また、そもそも「お金」「金融」は公共性の高いシステムなので、その管理のために取引・残高などのデータが漏れなく集約できるような管理システムがあるのは良いことだろう。国レベルで脱税を減らすためにも、金融システムをより便利に管理するためにも、全ての金融口座とマイナンバーを結び付けることが望ましいと筆者は考えている』、私も「全ての金融口座とマイナンバーを結び付ける」のは大賛成だ。
・『マイナンバーの問題点は国民が安心できない「曖昧な規定」  問題は、その際のデータ利用目的の明確化とその保証、さらにデータ管理の安全性と責任について、国民が安心できるような具体的な規定がなされていないことだ。 例えば、公務員がマイナンバーから得られたデータを目的外に利用したり、外部にこっそり売ったりした場合に、その公務員がどのような罰則を受けるのか。生じた被害に対する賠償がどうなされるのか。こういった点が、明確に伝えられているようには思えない。自分のデータをマイナンバーにリンクさせて提供するに当たって、これでは安心できないと思う国民が少なくないのではないか。 将来、不適切な事例が起こってかつ露見した場合、刑法、民法など諸々の法律が適用されて罰則や賠償は生じ得るのだろう。しかし、そのような曖昧な条件では、政府とマイナンバーを信用しきれない国民が多いのではないだろうか。 マイナンバーを普及させてかつ有効に利用するためには、マイナポイントで登録者を増やして後に同調圧力で普及を図るよりも、データの利用に関して政府(と公務員)自身にとって厳しい規定を発表することが効果的ではないだろうか。 十分に厳しい規定を作った後なら、省庁をまたぐデータの利用があってもいいし、全ての金融口座のマイナンバー登録が義務であってもいいと思う。 デジタル後進国を脱するためにも、マイナンバーは有効に活用したい』、完全に同感である。

次に、11月23日付けエコノミストOnline「マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211119/se1/00m/020/001000d
・『マイナンバー制度が始まって近く丸6年。マイナンバーと金融口座とのひも付けが新たな局面を迎えている。預金口座とのひも付けは、コロナ対応給付金の支給が遅れたことを教訓に新たな管理制度が来年度に動き出すが、義務化は見送られた。一方、証券口座とのひも付けは今年末に完了する見通しだ。なぜ、こうした差が生じたのだろうか。口座のひも付けは、国民感情を考慮してナイーブに取り扱われてきた経緯があり、状況がわかりにくいという人は多い。現状と課題を整理した』、「証券口座」の方が順調に進んでいるのは、何故だろう。
・『証券口座は「ひも付け代行」サービスも  マイナンバーはすべての人に一人一つの番号を割り振る制度で2016年に始まった。当面、利用は「社会保障・税・災害」の3分野に限定するが、将来は幅広い行政分野や官民連携での利用を念頭に置く。 制度の目的は、行政手続きを合理化し国民の利便性を高めるとともに、社会保障や税の「給付と負担」の公平性を保つことにある。そのためには、所得や資産を正しく把握する必要があり、金融口座とマイナンバーのひも付けは既定路線だ。 ただし、金融分野ごとに温度差がある。証券口座については、制度導入時から所有者にマイナンバー登録を義務づけた。16年以降に口座を開設する人は登録が必須で、15年までに開設した既存口座は18年までの登録を求めた。 だが、罰則はなく、既存口座で登録したのは18年6月で41%と低迷した。そこで19年度税制改正で登録期限を21年までに延長した。 その期限まで2カ月を切った。まだ登録していない人はどうなるのだろうか。 実は、登録しなくてもすでに問題はなくなった。未登録の場合、証券会社が「証券保管振替機構(ほふり)」を通じてマイナンバーを取得できる法的措置ができているためだ。 株式売買する際は、その都度、株券名義を書き換えるわけではなく、所有権を電子管理している。ほふりはその管理機関だ。新たな措置は、証券会社が口座のマイナンバーをほふりに請求すると、ほふりは、マイナンバー事務を行う「地方公共団体情報システム機構」に照会し、証券会社に伝える仕組みだ。 この措置は、未登録者の手をわずらわせず、証券会社が登録代行する「サービス」という位置付けだ。これを利用し、証券会社はほぼ登録を終えた状況だ。 一方、預金口座は事情が異なる。 制度導入時は扱いを先送りし、法改正で18年に口座とマイナンバーをひも付ける「口座付番制度」を導入し、金融機関にはマイナンバーで検索できるよう口座管理することを義務付けた。しかし、預金者には登録を義務付けず、登録状況を踏まえて3年後をめどに制度を見直すと先送りした。 全銀協ガイドラインは、金融機関が口座開設などの手続きを受け付ける際、預金者にマイナンバーの案内をすることを期待するとしたが、対応は各金融機関の判断に委ねた。 こうした結果、ひも付けはほとんど進んでいない』、「証券会社が口座のマイナンバーをほふりに請求すると、ほふりは、マイナンバー事務を行う「地方公共団体情報システム機構」に照会し、証券会社に伝える仕組みだ・・・これを利用し、証券会社はほぼ登録を終えた状況だ」、他方、「預金者にマイナンバーの案内をすることを期待するとしたが、対応は各金融機関の判断に委ねた。 こうした結果、ひも付けはほとんど進んでいない」、好対照だ。
・『証券と預金の差「三つの理由」  (なぜ、証券と預金で扱いにこれほど差があるのか。理由は主に三つだ。 第一に課税の違いだ。証券には、複数口座間で利益と損失を相殺できる損益通算制度があり、国税当局は一人一人の口座を正しく把握する必要がある。一方、預金の利子は源泉分離課税で、口座ごとに課税が完結するため、その必要が薄い。 第二に個人口座数の差だ。14年の政府税制調査会で、金融機関側は、預金口座は約13億と膨大で、急速にひも付けるにはコストが過大になるという懸念を示した。一方、証券口座は2166万口座(14年3月)にとどまり、証券会社の負担はそれほど重くないとみなされた。 第三に国民の意識だ。預金口座のひも付けには「中身が国に筒抜けになる」と漠然と不安に感じる人が少なくない。それを払拭(ふっしょく)せずに、ひも付けを進めればマイナンバー制度自体への不信につながりかねない。 1980年代には、少額貯蓄非課税制度(マル優)の不正利用を防ぐため、口座利用者を番号管理する「グリーンカード制度」を導入しようとしたが、大反対で実施を断念した経緯がある。その教訓から、政府は預金口座のひも付けにはことさら慎重になっている。 ここで面白いのは「中身を知られたくない」のは証券口座でも同じだと考えられるのに、その配慮はないことだ。日本では「証券取引は富裕層が行うもの」という見方が根強く、証券口座とのひも付けには反対する動きがほとんどないという事情がありそうだ』、「1980年代には・・・「グリーンカード制度」を導入しようとしたが、大反対で実施を断念した経緯がある。その教訓から、政府は預金口座のひも付けにはことさら慎重になっている」、口実に過ぎず、「中身を知られたくない」政治家の意向を反映している可能性もあるのではなかろうか。
・『給付金支給で22年度から新制度  だが、コロナ禍で風向きは変わった。特別定額給付金の支給では、マイナンバーを利用した申請システムに不備があり、給付金を振り込む預金口座のチェックにも膨大な手間がかかることが問題になった。社会保障や納税のため預金口座と個人番号をひも付ける欧米各国は給付金支給がスムーズで、一転して日本の「遅れ」が批判を浴びた。 5月に成立したデジタル改革関連法は、これに対応する新制度を盛り込んだ。ひも付けを希望する人は、金融機関の窓口やマイナンバーカードのポータルサイト「マイナポータル」で登録すれば、緊急時の給付金や児童手当などの支給で利用できるようになる。22年度に実施の見通しだ。 また、金融機関は、口座開設などの手続きの際は預金者にひも付けの意思を確認しなければならない。 新制度では、国民1人1口座をマイナンバーとひも付ける義務も検討したが、現実にひも付けが進む方法を優先した結果、義務付けは見送ったという。 将来はどうなるだろうか。社会保障と税の公平性という観点からは、将来、すべての金融口座とマイナンバーをひも付ける方針は揺るがないだろう。 口座のひも付けが進めば、社会保障の所得再分配を効果的に行うことが可能になる。所得の規模や変化を正しくつかむことで、ゆとりのある人は負担を増やし、困っている人には給付を増やすことができる。公的支援があっても仕組みを知らなかったり申請をためらったりする人がいても、率先して手を差し伸べる「プッシュ型支援」も可能だ。 また、医療・介護・年金など社会保険料は原則、所得に応じた負担だが、所得はなくても資産が多く豊かな生活をしている人もいる。資産が把握できれば「負担と給付」のバランスを見直すこともできる。 「口座の中身を見られてしまう」という懸念には誤解が大きい。マイナンバーは利用範囲を限定しており、預金口座をひも付けても、法的根拠がなければ、政府がその中身を見ることはできない。逆に、ひも付けがない口座でも、税務調査の必要があれば、国税当局が内容を把握することはできる。 ひも付けを進めるには、こうした点を整理し、国民の理解を得る努力が必要になってくるだろう』、一般国民の間には誤解も多い。国税当局には丁寧な説明により「理解を得る努力」がますます求められている。
タグ:ダイヤモンド・オンライン マイナンバー制度 (その1)(マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた 「税務署が怖い」は先入観?、マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>) 山崎 元 「マイナポイント2万円付与の3条件をやってみた、「税務署が怖い」は先入観?」 私の場合は、「マイナンバーカード」は既に税務申告用に作成し、銀行にも届け出ているので、「健康保険証として利用登録すると7500円相当」のメリットしかない。早く手続きをした正直者には余りメリットがないようだ。 「一種の同調圧力戦術」は言い得て妙だ。 私は「マイナンバーカード」は紛失を恐れて、持ち歩くことはしない主義だ。使用頻度が高い「保険証」を常時、持ち歩くようにしている。ただ、後期高齢者になって「健康保険」が代わった際のささやかなメリットを受け損ねたのかも知れない。 私の場合、「銀行」に「マイナンバー」を知らせただけで、あと銀行がどう処理したかは知らない。 私はちょっとした手続きでもエラーになって、ヘルプデスクの助けでなんとか完了するが、トラブルもなく「三つの手続きができた」とは、大したものだ。 私も「全ての金融口座とマイナンバーを結び付ける」のは大賛成だ。 完全に同感である。 エコノミストOnline 「マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>」 「証券口座」の方が順調に進んでいるのは、何故だろう。 「証券会社が口座のマイナンバーをほふりに請求すると、ほふりは、マイナンバー事務を行う「地方公共団体情報システム機構」に照会し、証券会社に伝える仕組みだ・・・これを利用し、証券会社はほぼ登録を終えた状況だ」、他方、「預金者にマイナンバーの案内をすることを期待するとしたが、対応は各金融機関の判断に委ねた。 こうした結果、ひも付けはほとんど進んでいない」、好対照だ。 「1980年代には・・・「グリーンカード制度」を導入しようとしたが、大反対で実施を断念した経緯がある。その教訓から、政府は預金口座のひも付けにはことさら慎重になっている」、口実に過ぎず、「中身を知られたくない」政治家の意向を反映している可能性もあるのではなかろうか。 一般国民の間には誤解も多い。国税当局には丁寧な説明により「理解を得る努力」がますます求められている。
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台湾(その3)(これがリアルの台湾有事〜上陸侵攻はあり得ない!…が この方法で来る ハイブリッド戦はもう始まっている、中国軍 台湾有事の際には在日米軍基地に先制ミサイル攻撃 日本は中国の台湾侵攻を現実的に想定すべき段階に) [世界情勢]

台湾については、7月24日に取上げた。今日は、(その3)(これがリアルの台湾有事〜上陸侵攻はあり得ない!…が この方法で来る ハイブリッド戦はもう始まっている、中国軍 台湾有事の際には在日米軍基地に先制ミサイル攻撃 日本は中国の台湾侵攻を現実的に想定すべき段階に)である。

先ずは、8月23日付け現代ビジネスが掲載した軍事アナリスト 静岡県立大学グローバル地域センター特任教授、国際変動研究所理事長の小川 和久氏による「これがリアルの台湾有事〜上陸侵攻はあり得ない!…が、この方法で来る ハイブリッド戦はもう始まっている」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/86424?imp=0
・『「6年以内」米海軍の危惧  中国の軍事力増強を前に、日本国民の間で台湾有事への危機感が高まっている。本稿ではリアリティの面から台湾有事を考えてみたい。 3月9日、米国議会上院軍事委員会の公聴会でインド太平洋軍司令官フィリップ・デービッドソン海軍大将は次のように発言し、にわかに台湾有事が注目されることとなった。 「その脅威はこの10年、実際には今後6年のうちに明らかになると思う」 太平洋艦隊司令官ジョン・アキリーノ海軍大将も3月24日、同委員会で台湾有事の緊迫性を強調した。 これを受けるかのように、英国コーンウォールでの先進国首脳会議では首脳宣言に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と明記されることになった。 その一方、米軍トップの統合参謀本部議長マーク・ミリー陸軍大将は6月17日、上院歳出委員会で次のように発言、2人の海軍大将の見解を否定した。 「中国が台湾全体を掌握する軍事作戦を遂行するだけの本当の能力を持つまでには、まだ道のりは長い」 「中国には現時点で(武力統一するという)意図や動機もほとんどないし、理由もない」 もともと米国内でも上院における2人の海軍大将の発言を疑問視する向きは多く、基本的に海軍の予算増額が目的であり、好意的に見ても国際社会への注意喚起以上のものではないと見られていた。なかには「機械を相手にしているだけの海軍や空軍の軍人にありがちな揚陸作戦への無知と戦争全体に対する視野の欠落」という厳しい指摘も出ていた』、アメリカのマスコミは遠慮会釈なく叩くから面白い。
・『人民解放軍に台湾上陸能力はない  当然ながら、ミリー統参議長の発言は軍事的なリアリズムに基づいている。 一般的に思い浮かべるのは、ある日、中国の大軍が陸海空から台湾に襲いかかり、占領してしまうという図である。そうした想像を掻き立て、威嚇するために、中国側も武力統一の意志を隠していない。 しかし、そのパターンでの武力統一は成り立たない。 台湾軍の反撃、米軍の来援をはねのけて台湾に上陸し、占領するためには、中国側はおよそ100万人ほどの陸軍を投入しなければならない。米台軍の反撃で半数は海の藻くずとなるからだ。 大規模な上陸作戦を行う場合、私が習った定員1万3000人、車両3000両の旧ソ連軍の自動車化狙撃師団(機械化歩兵師団)の1週間分の燃料、弾薬、食料とともに海上輸送するには、1個師団だけで25万〜50万トンの船腹量が必要というのは、今日でも世界各国に共通する海上輸送の計算式である。 船積みは重量トンではなく容積トン(船舶で貨物の積載に必要な容積。1トンの積載能力は40立方フィート=1.1327立方メートルに換算される)で計算するので、人間1人が4トン、40トンの戦車は90トン。100万人規模の部隊だと数千万トンの船腹量が必要ということになる。 中国式に詰め込んだとしても2000万トン以上は必要だろう。そんな海上輸送能力は中国にはない。米国国防総省の年次報告書も、海兵隊を使った中国の強襲上陸能力は兵員1万人と戦車400両としている』、「100万人規模の部隊だと数千万トンの船腹量が必要」、距離は短くても、大量の輸送が必要で、中国も輸送能力では間に合わないようだ。
・『制空権も十分に確保できない  しかも、中国は台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる航空戦力も十分ではない。 イギリス国際戦略研究所のミリタリーバランスなどによれば、中国空軍の作戦用航空機は2890機。そのうち第4世代、第5世代の近代的戦闘機988機とされる。第4世代はJ-10(426機)、J-11/Su27(349機)、 Su30(97機)、 Su35(24機)、J-15(20機)、J-16(60機)、第5世代は12機のステルス戦闘機J-20である。 これに対して、台湾空軍の作戦用航空機は500機。うち第4世代の近代的戦闘機はミラージュ2000(55機)、F-16(143機)、経国(127機)の325機である。 台湾有事にあたっては第7艦隊と在日米軍の海軍、海兵隊、空軍の戦闘機約200機も計算に入れなければならない。 それだけでなく、中国側の稼働率は米台側に比べて低く、空中警戒管制機AWACS、空中給油機の能力でも劣ることをみれば、中国側が航空優勢をとることは相当の困難が伴う。しかも、これは緒戦の状況であり、米国側の増援能力を考えると中国が火遊びに出るとは考えにくい。 福建省に1600基以上展開する短距離弾道ミサイルなどによって台湾の政治、経済、軍事の重要目標を攻撃し、その混乱に乗じて短時間のうちに傀儡政権を樹立する斬首戦にしても、米国との全面戦争を招く危険が大きく、中国が採用するとは思われない』、「これは緒戦の状況であり、米国側の増援能力を考えると中国が火遊びに出るとは考えにくい」、「緒戦」の優位維持が容易ではないのは、日本も真珠湾攻撃後の惨状が如実に物語っている。
・『空母キラーミサイルは「幻」か  さらに中国の軍事力について見落とされているのは軍事インフラの立ち後れの問題である。代表的なものは、軍事力がハイテク化されるほどに高い能力が必要になるデータ通信衛星だが、米国が専用衛星TDRS (Tracking and Data Relay Satellite) 15機だけでなく、データ中継に使える衛星10機以上を保有するのに対して、中国は天鏈1号(CTDRS-1) をようやく5機運用しているに過ぎない。 このような軍事インフラの課題は、中国の対艦弾道ミサイルにも影を落としている。 米国の空母を狙う中国の対艦弾道ミサイルの脅威は米国の専門家によって指摘されてきた。しかし、中国は2020年8月末に初めてDF21D(射程1500キロ)とDF26(同4000キロ) 計4発を南シナ海に向けて発射するまで、ゴビ砂漠に設けた陸上標的以外に発射したことはなかった。 南シナ海での発射では移動している船舶を直撃したとの中国側の非公式な発言もあるが、空母を狙うための一連の能力が備わっていないことから、ブラフに過ぎないと受け止められている。 移動している米国の空母を弾道ミサイルで直撃するには、発見から位置の確定、継続的追跡、空母の重層的な防御の突破、戦果の確認に至るキル・チェーンと呼ばれる機能が備わっていなければならない。 まず、空母打撃群の発見と追尾の手段にはOTH(超水平線)レーダーと偵察衛星がある。OTHレーダーは精度が悪く、施設も巨大なため緒戦で破壊される運命にある。また、移動中の空母を継続して追尾し、直撃させようとすれば3つの極軌道にそれぞれ数十個の偵察衛星を挙げなければならない。中国にはそれが決定的に不足している。 航空機や艦船によって空母を追尾しようとしても、空母側の戦闘機、電子攻撃機、原子力潜水艦によって阻止される。さらに米国の空母打撃群のミサイル防衛能力は米本土のものと比較にならないほど濃密である。これをすり抜けて直撃するのは至難の業だろう。 弾道ミサイルが空母を確実に破壊できたかどうかの戦果の確認も、中国側の偵察衛星の不足と空母側の阻止能力によってままならない。いまのところ対艦弾道ミサイルは幻に過ぎないのだ』、「米国の空母打撃群のミサイル防衛能力は米本土のものと比較にならないほど濃密である。これをすり抜けて直撃するのは至難の業だろう」、「ミサイル防衛能力は米本土のものと比較にならないほど濃密」、なるほど。
・『やることはひとつ、「何でもあり」のハイブリッド戦  残る選択肢はハイブリッド戦である。2014年のクリミア半島では所属不明の武装集団が士気の低いウクライナ軍を駆逐し、ロシア寄り住民の支持のもと、ロシアへの併合が無血で行われた。 ハイブリッド戦は、軍事力を含む「何でもあり」の戦法で、人民解放軍の喬良、王湘穂両大佐が1999年に出版した『超限戦』に起源をもつとされる。『超限戦』が次のように述べているように、政治、経済、宗教、心理、文化、思想など社会を構成する全ての要素を兵器化する考えである。 「21 世紀の戦争は、あらゆる限度を超えた紛争であり、あらゆる手段が軍事兵器になり、あらゆる場所で軍事紛争が生起する」 中国はこれを2003年、輿論戦、法律戦、心理戦の「三戦」として『人民解放軍政治工作条例』に採用した。「砲煙の上がらない戦争」の別名の通り、超限戦と古代中国の戦略の書『孫子』を融合し、戦火を交えずに勝利しようとする高等戦術である。このような動きを米軍は2008年にハイブリッド脅威と位置づけた。 三戦は具体的には次のような動きと考えてよいだろう。 輿論戦は、自国の主張を繰り返し世界に発信し、あたかも真実であるかのように思い込ませ、同時に国連平和維持活動(PKO)待機部隊の設置や病院船による無料の医療活動を実施して国際的イメージの向上を図る。法律戦は国際法を活用すべく研究し、対応する国内法を整備して南シナ海での管轄権などの根拠とする。心理戦は国産空母の展開などの圧力で外交的に優位に立つ』、「「21 世紀の戦争は、あらゆる限度を超えた紛争であり、あらゆる手段が軍事兵器になり、あらゆる場所で軍事紛争が生起する」 中国はこれを2003年、輿論戦、法律戦、心理戦の「三戦」として『人民解放軍政治工作条例』に採用」、中国にとっては得意そうな戦略だ。
・『日本はもはやハイブリッド戦の渦中  このように眺めると、台湾や日本の尖閣諸島などは既にハイブリッド戦や三戦の渦中にあると考えてよい。それを抑止するには、次の手立てを着実に実行するほかない。 まず、ハイブリッド戦と思われるあらゆる兆候について台湾は米国と日本に通報するシステムを構築する。次いで、日米両国は「台湾有事は日本有事と重なる」との認識を明らかにし、台湾からの通報があり次第、国境付近に軍事力を緊急展開する態勢を整える。そして、その日米台の連携を世界に公表するのである。 台湾有事が日本有事だとするのはほかでもない。先に述べたように中国軍機が台湾を攻撃するようなことは考えにくいが、威嚇のために台湾の防空識別圏に多数の戦闘機を飛行させ、スクランブルをかけた台湾空軍の戦闘機と接触することは想定しなければならない事態である。場合によっては両軍の戦闘機が時速300〜500キロほどでもつれ合いながら日本の国境を越え、先島諸島上空まで飛来することも考えられる。 その場合、無線で退去を呼びかけるといったことでは侵犯を阻止できない。中国軍機に対しては即座に威嚇射撃を行い、場合によっては撃墜することになる。自衛隊機が行動しない場合、普段はスクランブル任務に就いていない米軍機が行動に出ることは間違いない。逆に、侵犯した中国機を追って日米の戦闘機が台湾南部まで飛んでしまうこともありうる。台湾と日本の距離はそれほど近い。 ここで重要なのは、首相をはじめとする日本の政治家は機会を捉えて「だから、そんな事態が起きないように関係国は緊張を高めるような行動を慎むべきだ」と日米の姿勢を明らかにしておくことである。 これによって、中国にハイブリッド戦を躊躇わせる抑止効果は一気に高まる。中国の抗議にたじろぐようであってはならない』、「首相をはじめとする日本の政治家は機会を捉えて「だから、そんな事態が起きないように関係国は緊張を高めるような行動を慎むべきだ」と日米の姿勢を明らかにしておくことである。 これによって、中国にハイブリッド戦を躊躇わせる抑止効果は一気に高まる」、「抑止効果」が本当にあるかはともかく、少なくとも無駄ではなさそうだ。

次に、11月24日付けJBPressが掲載した産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授の古森 義久氏による「中国軍、台湾有事の際には在日米軍基地に先制ミサイル攻撃 日本は中国の台湾侵攻を現実的に想定すべき段階に」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67833
・『米国議会の政策諮問機関が11月中旬に米中関係についての報告書を公開した。その報告書では、台湾有事の際に中国が日本国内の米軍基地への先制ミサイル攻撃を想定していることが明らかにされていた。 また同報告書は、中国側のその種の攻撃を抑止するために日米が連携して実施すべき各措置についても提起していた。日本が台湾有事への具体的な対応を迫られるという現実の情勢が明確になったといえるだろう』、「台湾有事の際に中国が日本国内の米軍基地への先制ミサイル攻撃を想定」、もう太平の夢をむさぼることは出来ないようだ。
・『実際に攻撃を開始できる態勢を強化  米国議会の米中経済安保調査委員会は11月17日、2021年度の年次報告書を公表した。同委員会は元々、米中間の経済関係が米国の国家安全保障にどのような影響を及ぼすかの調査を主目的に2000年に発足した。連邦議会上下両院の超党派の有力議員がそれぞれ任命した合計12人の専門家の委員の下、米中関係に関する学者や研究者、軍人らの協力を得て恒常的に調査と研究を続け、毎年1回、年次報告書の形で議会と政府とに政策を提案している。 2021年度の同報告書には、「台湾海峡抑止の危険な時期・台湾での戦争への中国の軍事能力と決定」と題する章が盛り込まれた。全体の約500ページのうち50ページを使ったこの章では、中国側の台湾への軍事攻撃の能力や意図と、米国側の対応策が詳しく述べられていた。 中国の状況について同報告書は「人民解放軍は台湾を軍事的に攻略し占拠する能力を初めて取得したといえる段階に近づき、実際に攻撃を開始できる態勢を強化している」という趣旨を強調した。 そのうえで同報告書は、「米国には中国の台湾への軍事侵攻を阻止する能力が今なおあるが、中国側は急速に追いついている」と述べ、中国側が米国の軍事能力や軍事介入への意思の強さを誤認した際に米中の軍事衝突のリスクが高くなるとの警告を発していた』、米国は「軍事能力や軍事介入への意思の強さ」を「中国」に繰り返し説明し、日本も機を捉えて米国の姿勢を説明すべきだ。
・『在日米軍基地、グアム基地への先制攻撃を想定  とくに注目されるのは台湾有事の際の日本への影響、日本の役割である。同報告書は「米国の軍事対応を阻む」という項目で、中国人民解放軍が台湾への攻撃に際して米軍の全面介入を遅らせ、阻むために、日本国内の米軍基地へのミサイル攻撃をも想定していることを明らかにしていた。 この点についての要旨は以下のとおりである。 ・中国人民解放軍は台湾攻撃に際して、台湾側の軍事司令機能、情報機能、空軍と海軍、ミサイル、防空システムなどの主要拠点を破壊するためにサイバー攻撃やミサイル攻撃をかける。ただしその際に米軍が台湾への軍事支援を決め、中国側がその米軍の支援活動を事前もしくは初期段階に放置したら台湾攻略は成功しない、とみている。 ・このため中国軍は、台湾有事に介入する米軍の兵力を最小限にし、その投入を最大限に遅らせる目的で、在日米軍基地への先制予防攻撃(米軍の活動を未然に防ぐという意味の予防)を想定している。その手段は、中国が最小限200基を保有するとみられる中距離弾道ミサイル(IRBM)が主体となり、在日米軍の艦艇や軍用機の破壊が目的となる。 ・中国軍のこの攻撃は、在日米軍の少なくとも200機の各種軍用機やそのための司令部機能、兵站機能、滑走路などの完全な破壊を主目的とする。中国のロケット軍は、そのためのミサイルの精密照準能力を十分に取得するにいたったと判断しているとみられる。 ・米軍側ではインド太平洋軍のデービッドソン前司令官が、台湾有事への米軍の大規模支援は米国本土西海岸からの出動ならば3週間はかかると証言したが、日本の基地からならばより敏速に出動でき、中国軍への脅威も増大する。このため中国軍は在日米軍の主要基地とともにグアム島の米軍基地への本格攻撃も想定している』、「中国のロケット軍は、そのためのミサイルの精密照準能力を十分に取得するにいたったと判断」、日米両国も「ミサイル」防衛網を強化すべきだ。
・『日本に必要な対策とは  以上のように、中国側の軍事作戦の効率化という観点からすれば、中国が台湾への軍事攻撃にあたり在日米軍基地を破壊するという意図は自然だともいえる。しかし日本にとっては日本領土への直接的な軍事攻撃であり、日本が台湾有事に直接介入することは不可避となる。 だから米中経済安保調査委員会の報告書は米国政府への政策提言として、日本の対中軍事抑止力を強化するために日本の領土や領海に中距離ミサイルを新たに配備する、あるいはミサイル防衛を大幅に強化するという措置を含む対日協議を挙げていた。 一方で同報告書は、このような在日米軍基地への先制攻撃という大胆なシナリオが中国自体に突きつける政治的リスクも指摘していた。それは以下のような趣旨だった。 ・中国が台湾攻略のためとはいえ、日本と米国へ軍事奇襲をかけるという動きへの米国の同盟諸国や国際社会の反発はきわめて重大となる。日本の横田基地には朝鮮戦争時からの国連軍後方司令部もある。横田基地への中国の攻撃は国連への敵対行為ともみなされ、とくに米軍の全面的な反撃は必至である。中国首脳部はこのリスクを当然、真剣に事前考慮するだろう。 いずれにしても日本にとって、台湾の有事、つまり台湾海峡をめぐる軍事衝突という危険性は、すでに現実的に想定すべき段階になったということであろう』、この記事は、第一の記事とは大きく現状認識が違っており、産経新聞や古森氏がすぐ軍事に走りがちなのは、気を付けたい。少なくとも、米国と緊密に連絡しながら、有効な対応策を練り上げるべきであることははっきりしている。
タグ:台湾 (その3)(これがリアルの台湾有事〜上陸侵攻はあり得ない!…が この方法で来る ハイブリッド戦はもう始まっている、中国軍 台湾有事の際には在日米軍基地に先制ミサイル攻撃 日本は中国の台湾侵攻を現実的に想定すべき段階に) アメリカのマスコミは遠慮会釈なく叩くから面白い。 「これがリアルの台湾有事〜上陸侵攻はあり得ない!…が、この方法で来る ハイブリッド戦はもう始まっている」 小川 和久 現代ビジネス 「100万人規模の部隊だと数千万トンの船腹量が必要」、距離は短くても、大量の輸送が必要で、中国も輸送能力では間に合わないようだ。 「これは緒戦の状況であり、米国側の増援能力を考えると中国が火遊びに出るとは考えにくい」、「緒戦」の優位維持が容易ではないのは、日本も真珠湾攻撃後の惨状が如実に物語っている。 「米国の空母打撃群のミサイル防衛能力は米本土のものと比較にならないほど濃密である。これをすり抜けて直撃するのは至難の業だろう」、「ミサイル防衛能力は米本土のものと比較にならないほど濃密」、なるほど。 「「21 世紀の戦争は、あらゆる限度を超えた紛争であり、あらゆる手段が軍事兵器になり、あらゆる場所で軍事紛争が生起する」 中国はこれを2003年、輿論戦、法律戦、心理戦の「三戦」として『人民解放軍政治工作条例』に採用」、中国にとっては得意そうな戦略だ。 「首相をはじめとする日本の政治家は機会を捉えて「だから、そんな事態が起きないように関係国は緊張を高めるような行動を慎むべきだ」と日米の姿勢を明らかにしておくことである。 これによって、中国にハイブリッド戦を躊躇わせる抑止効果は一気に高まる」、「抑止効果」が本当にあるかはともかく、少なくとも無駄ではなさそうだ。 この記事は、第一の記事とは大きく現状認識が違っており、産経新聞や古森氏がすぐ軍事に走りがちなのは、気を付けたい。少なくとも、米国と緊密に連絡しながら、有効な対応策を練り上げるべきであることははっきりしている。
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アフガニスタン問題(その2)(カブール救出作戦 日本はなぜ韓国にも“大負け”したのか アフガン人協力者らを置き去りに、風を読む:やっぱり奥大使は泣いている、中国がタリバンに見せる「友好姿勢」に透ける意図 中国のアフガン関与は日本にどんな意味があるか) [外交]

アフガニスタン問題については、9月4日に取上げた。今日は、(その2)(カブール救出作戦 日本はなぜ韓国にも“大負け”したのか アフガン人協力者らを置き去りに、風を読む:やっぱり奥大使は泣いている、中国がタリバンに見せる「友好姿勢」に透ける意図 中国のアフガン関与は日本にどんな意味があるか)である。

先ずは、9月9日付けデイリー新潮「カブール救出作戦、日本はなぜ韓国にも“大負け”したのか アフガン人協力者らを置き去りに」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/09090558/?all=1
・『アフガンから怒りの声を上げるのは、現地で日本人の活動を支えながらも見捨てられたアフガン人たち。盟友を保護すべく「カブール救出作戦」で結果を出した韓国と比較すれば、我々とて日本政府の体たらくには憤りを覚える。いったい何が明暗を分けたのか。 〈日本、カブールの恥辱〉との見出しで〈アフガニスタン退避計画は失敗に終わった〉と報じたのは、8月28日付の韓国紙・中央日報だ。東亜日報など他の大手メディアも横並びで日本政府の対応を取り上げると共に、中国メディアまでもが〈韓国紙が日本を嘲笑〉と報じるなど、中韓がここぞとばかりに“日本叩き”に熱をあげている。 情けない話だが、かの国々が喧伝するように日本が大負けしたのは否めない事実だ。振り返れば、米国が今年4月にアフガンからの撤退を表明して以降、イスラム原理主義組織タリバンは攻勢を強め、米軍の後ろ盾を失ったアフガニスタン政府は壊滅状態に陥った。8月15日にはタリバンが首都カブールを掌握。以降、31日の米軍完全撤退に間に合わせるべく、タリバンの制圧下で唯一の脱出口となったカブール国際空港には、世界各国から航空機が殺到したのだった。その目的は残留する自国民と、協力者として通訳や警備業務などに従事したアフガン人とその家族の救出である。 実際、韓国政府はアフガン人協力者390人を3機の輸送機にわけて移送。25日にカブールを発ち、パキスタンを経由して無事に韓国まで送り届けている。冒頭の韓国紙は文在寅大統領が陣頭指揮を執った脱出劇を〈ミラクル作戦〉と呼び、〈カブールのミラクルが成し遂げられた〉と褒め称えた。 片や日本はといえば、韓国軍機がアフガンを飛び立った翌日の26日、ようやく自衛隊の輸送機がカブールに到着。現地で飲食店などを営みながら共同通信のカブール通信員を務めていた安井浩美さん(57)ただ一人を救出できたが、日本大使館や国際協力機構(JICA)の現地事務所に雇われて、日本人と共に汗を流してきたアフガン人協力者の退避希望者約500人は置き去りにされた。 タリバンは外国勢力に協力したアフガン人の身柄を次々に拘束し、場合によっては殺害しているともいわれており、彼らは命の危険に晒されている』、「〈日本、カブールの恥辱〉との見出しで〈アフガニスタン退避計画は失敗に終わった〉と報じたのは・・・韓国紙・中央日報だ。東亜日報など他の大手メディアも横並びで日本政府の対応を取り上げると共に、中国メディアまでもが〈韓国紙が日本を嘲笑〉と報じるなど、中韓がここぞとばかりに“日本叩き”に熱をあげている」、全く国辱ものの不手際だ。何度読んでも、腹が立つ。
・『全国紙の外報部記者曰く、「日本政府は、カブール市内に集まった脱出希望者をバスに乗せるところまではこぎ着けたのですが、折悪しく26日に空港周辺で米兵を含む140名もの死傷者が出た自爆テロが発生し、自衛隊機まで運ぶことができなかったのです。あと1日早ければという声もありますが、そもそも日本政府が自衛隊機の出動を決めたのは23日になってからでした。カブール陥落後、すぐ軍用機を出して救援活動に乗り出した欧米各国と比べれば、1週間ほど遅かったと思います」。 結論からいえば、日本政府の初動が遅れた理由は二つ。一つ目は現地事情に最も精通しているはずの外務省の対応にある。 「救出作戦の明暗を分けた背景には、日韓の“外交官格差”があると思います」 とは、元時事通信外信部長で拓殖大学海外事情研究所教授の名越健郎氏だ。 「韓国の報道によれば、カブールが陥落してから韓国の大使館員も国外へ一旦避難してはいますが、救出作戦を遂行するために4人が現地に戻り、大混乱の中でも、米軍が契約するバスを素早くチャーターして空港まで脱出希望者を送り届けることに成功しています。外交官の日頃の人脈や行動力、機転が成功につながったのだと思いますが、これに対して日本大使館の日本人職員12人は、カブール陥落2日後の17日、全員が英国軍の輸送機に便乗してドバイへと脱出してしまっているのです」 ちなみに日本大使館ご一行様が脱出時に頼ったイギリスは、米軍が撤退するギリギリのタイミングまで大使自らが残留し、ビザ発給業務などを続けたという。結果、取り残された人々がいるものの、英国は8千人超、ドイツは4千人超のアフガン人を退避させることに成功した』、「韓国の大使館員も・・・救出作戦を遂行するために4人が現地に戻り、大混乱の中でも、米軍が契約するバスを素早くチャーターして空港まで脱出希望者を送り届けることに成功」、他方「日本大使館の日本人職員12人は、カブール陥落2日後の17日、全員が英国軍の輸送機に便乗してドバイへと脱出」、「イギリスは、米軍が撤退するギリギリのタイミングまで大使自らが残留し、ビザ発給業務などを続けた」、「日本人職員」は本当に腰抜けだ。
・『頼りにならない国  一方、現場の“最高責任者”である岡田隆・アフガン大使の姿が、カブール空港で見られることはなかった。日本の名誉のため付言すれば、自衛隊の先遣隊が派遣された22日以降、一部の日本大使館員がカブールに戻って救援業務にあたったとの報道もある。とはいえ、刻一刻と治安状況が悪化するにもかかわらず、米軍やタリバンとの折衝などにおいて空白期間があったことは否めない。 名越氏はこうも指摘する。「日本政府は過去20年で約7700億円もの援助をアフガンに行い、欧米諸国と違って自衛隊を派遣してタリバンと戦ってはいません。日本人外交官が危害を加えられることは考えられない。現地に踏みとどまる気概はなかったのでしょうか」 時代や状況は異なれど、ナチスに迫害されたユダヤ人を救うために「命のビザ」を発給し続けた杉原千畝のような外交官はいなかったのか。 そして、もう一つの理由は法律上の限界である。当初は民間機をチャーターして救援に向かう計画だったが、想定よりカブール陥落が早く急遽自衛隊に要請が下った。本来の自衛隊は、騒乱の現場で邦人を保護して空港へ運び、日本まで退避させる訓練を積んでいるというが、現状ではその能力をフルに発揮できないというのだ。 防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏によれば、 「自衛隊法84条の4では、海外で邦人輸送できるのは〈安全に実施することができると認めるとき〉との要件が定められ、今回は米軍のコントロール下にあるカブール空港の中でしか活動できなかった。もともと自国民が危険に晒されているから自衛隊を派遣するのに、安全な場所でしか行動できないというのは矛盾しています。政治家はこのような現実を直視して法改正を検討すべきですが、今の菅首相や政権与党は喉元過ぎれば熱さを忘れる。そうした危機意識の欠如が、救出作戦が難航した理由だと思います」 米軍が完全にアフガンを去った今、日本政府は出国を希望する協力者の救出を求めてタリバンと交渉するとは明言しているが、タリバンは9月上旬にも新政府を樹立すると意気込む。いざという時に頼りにならない国だとの烙印を押されないよう、救出作戦を完遂する必要がある。残された時間は限りなく少ない』、「もともと自国民が危険に晒されているから自衛隊を派遣するのに、安全な場所でしか行動できないというのは矛盾しています。政治家はこのような現実を直視して法改正を検討すべきですが、今の菅首相や政権与党は喉元過ぎれば熱さを忘れる。そうした危機意識の欠如が、救出作戦が難航した理由」、「いざという時に頼りにならない国だとの烙印を押されないよう、救出作戦を完遂する必要」、その通りだ。

次に、9月14日付け産経新聞「風を読む」欄を紹介しよう。
https://www.sankei.com/article/20210914-YZY7SEGLMFO4DMOFXCHUPQ333M/
・『「9・11」から20年の歳月が流れた。だが、その後の国際情勢の激変に日本は対応できていない。いや、日本人そのものの劣化が進行したのではないか、とさえ感じる「事件」があった。 在アフガニスタン大使館での現地職員「置き去り事件」である。タリバンの攻勢で首都・カブールが陥落した8月15日の2日後、12人の日本人外交官は、英国軍機で逃げ出した。 米軍から「日本大使館を警護できない」と通告され、空港のパニック状況を考慮すれば情状酌量の余地はあるが、完全なミスである。恐怖政治でしられるタリバンとて今後の外交を考慮すれば、むやみに大使館員の身柄を拘束するとは考えにくい。英国大使は、ギリギリまで現地に残り、協力者にビザを出し続けた。第一、司令官たる岡田隆大使が、カブールに不在だったのは、更迭に値する。 外務省では、厳しい環境で勤務する外交官をケアするためローテーションを組んで年に何回か任地を離れて英気を養うことを認めている。この制度を利用して大使は、日本に帰国しており、慌てて現地に戻ろうとしたが、イスタンブールから先へは行けなかった。 大使館の情報収集力は、ゼロといっていい。米軍撤収の1カ月前には、「ごく近いうちにカブールは陥落する」との情報が出回っており、東京にいる私の耳にも入っていた。現地職員も早くから退避を進言していたとの報道もある。 外務省も何もしなかったわけではない。18日に民間機をチャーターして脱出させようとしたが、失敗。ここで即、自衛隊機の派遣を要請すればよかったのに、派遣が決まったのは、陥落から8日後で、間に合わなかった。 外務省出身の評論家、宮家邦彦氏は「『置き去りにして逃げる』などあり得ない」と本紙に寄稿した(9日付オピニオン面)が、政治も外交も結果がすべてである。 18年前、イラクで凶弾に倒れた奥克彦大使は、その3カ月前、バグダッドの国連事務所が爆破された跡地で、犠牲になった友人の血染めの名刺を見つけた。 「わが日本の友人よ、まっすぐ前に向かって行け!」「何を躊躇(ためら)っているんだ。やることがあるじゃないか」と感じた彼は、イラク復興に文字通り命を捧(ささ)げた。 今の外務省に「奥克彦」はいないのか。産経抄(8月30日付)の通り、やっぱり彼は泣いている』、産経新聞にしては、珍しい政府批判で、同感である。通常、このブログでは新聞記事は扱わないのを原則としているが、この記事はコンパクトにまとまっていたので、紹介した次第である。

第三に、9月27日付け東洋経済オンラインが掲載したAPI地経学ブリーフィング(山口信治/防衛研究所主任研究官)による「中国がタリバンに見せる「友好姿勢」に透ける意図 中国のアフガン関与は日本にどんな意味があるか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/457773
・『米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。 コロナウイルス危機で先が見えない霧の中にいる今、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく』、興味深そうだ。
・『中国にとってのアフガン問題  中国は、タリバンについてポジティブイメージを前面に出すような報道を繰り返している。8月15日のカブール陥落に合わせて「人民日報」の微博(ウェイボー)アカウントは、「60秒でわかるタリバン」という動画を投稿した。これはテロ活動についてまったく触れずに、タリバンを民族主義的勢力として紹介する内容で、国内で批判が相次ぎ、4時間余りで削除された。しかしその後も中国の対外宣伝メディアであるCGTNは、タリバンが秩序回復のために努力する姿を強調して報道している。 中国のタリバンに対する友好的な姿勢は、こうした宣伝にとどまらず、建設的な関係構築に向けて動いているように見える。9月8日、中国はアフガニスタンに対する人道支援として、ワクチンや食糧など2億元(約34億円)相当の提供を発表した。 さらに同日、中国は、欧米の主催するアフガニスタンに関する会議には出席せず、パキスタンやイラン、中央アジア諸国との間で周辺国によるアフガン問題外相会議を開催した。9月17日には上海協力機構(SCO)サミットとSCOとロシアを中心とする集団安全保障条約(CSTO)の合同サミットが開催されるなど、アフガニスタンをめぐる中国外交が活発となっている。 中国は、アメリカ軍撤退後のアフガニスタン情勢にどのように関わろうとしているのだろうか。この地域の秩序をリーダーとして牽引し、中国中心の秩序を作ろうとしているのだろうか。中国の対アフガニスタン政策の根底にあるロジックを探ってみたい。 中国の国内安全保障問題が、アフガニスタン問題に対する中国の中心的関心となっている。これは、アフガニスタンの安定は、新疆ウイグル自治区の安定と関わると中国が考えているためである。中国は、新疆ウイグル自治区の分離を目指す東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)などの分離独立勢力やテロリズムが外国勢力とつながるという警戒を、一貫して抱いてきた。とくにこれらと中央アジアやアフガニスタンのテロリズムとのつながりを警戒している。) アフガニスタンがこうしたテロリストや分離独立運動の温床となるのが、中国にとって最大の懸念である。中国は分離独立運動に対して過剰とも思えるほどの懸念を抱き、国内ではウイグル族やカザフ族に対する抑圧を強化している。アフガンが不安定化し、テロリストの活動が活発化することは、中国の恐怖を増大させるだろう。こうした意味で、アフガニスタンの安定は中国の国益につながる重要な問題である。 またアフガニスタンの国内が安定することで、その鉱物資源などの資源採掘や、一帯一路協力などの経済的協力が可能になるかもしれない。しばしば中国は鉱物資源を狙ってアフガン進出を強化するという予測がみられるが、事はそれほど単純ではない。 中国はアフガンにおける銅山採掘の契約を締結するなど、これまでもある程度の経済進出を試みてきたものの、安全への懸念やインフラの不備などから、プロジェクトはほとんど進んでこなかった。よって、中国にとってアフガンは、経済的利益は潜在的にあるものの、国内の安定なくして、それを得ることはできない、というのが実情である』、「中国は分離独立運動に対して過剰とも思えるほどの懸念を抱き・・・アフガンが不安定化し、テロリストの活動が活発化することは、中国の恐怖を増大させるだろう・・・経済的利益は潜在的にあるものの、国内の安定なくして、それを得ることはできない」、なるほど。
・『中国外交の試金石  アフガニスタンの安定に中国がどのように関与していくかが、中国がどのようにリーダーシップを発揮し、自国中心の秩序をどの程度積極的に構築していくかを図る試金石になる。中国は従来、リーダーシップを発揮して秩序を担うことには消極的だった。習近平政権までに、より積極的に国際秩序を主導することをうたうようになったが、あくまで理念的レベルにとどまっており、実際にリーダーシップを発揮することは少なかった。 中国は従来、国際秩序を支える原則として、国連憲章や平和五原則の主権平等、内政不干渉が重要との立場を取っており、これを外交の原則として掲げてきた。欧米が民主や人権をかざして他国の内政に介入することに中国は批判的立場を取り続け、中国は相手国の政治体制がどのように抑圧的な体制であろうとも、プラグマティックに外交を行うことができるとアピールしてきた。 アメリカ軍撤退とそれに続くカブール陥落の劇的な展開は、中国にはアメリカの失敗と衰退を象徴しているように映っているだろう。またアメリカの掲げてきた介入による民主主義国家建設は失敗し、人権を信奉するアメリカが多くのアフガニスタン住民を見捨てて逃げざるをえなかったことは、その大義の失敗を示していると中国は捉えている。その意味では、タリバンの勝利は中国にとって喜ぶべき展開なのかもしれない。) しかし従来、中国はアフガンの安定化を丸投げに近いかたちでアメリカにほぼ依存してきた。アメリカ軍が全面的に撤退し、力の空白が生まれたことで、アフガンの安定化という役割を誰が担うのかが大きな課題となっていることも事実だ。 これは中国外交の大きなトレンドとしての、他国への介入の必要性の増大と関わる。中国の台頭に伴って海外における利益が拡大し、それを守る必要が増大していること、そして過剰なまでの国内安全保障への不安感が高まっていることから、中国外交において以前よりも積極的に他国に関与したり、介入したりするインセンティブが高まりつつある。 中国では、従来の内政不干渉という建前を守りつつ、自国の影響力を他国に及ぼしていくために、「中国の特色ある建設的介入」(王毅外相)を行うべきという議論が行われている』、「中国の特色ある建設的介入」といっても、「アフガンの安定化という役割」、まで負うかどうかは不透明だ。
・『中国のアプローチと不安  では、中国はどのようにアフガニスタン問題に関わろうとしているのだろうか。現在のところ、中国にとっては、タリバンを中心とした政権が、外国におけるテロ活動を支援せず、原理主義的な立場を改めて穏健化したうえで、これを中心とした安定政権を築くことが最善となっている。経済協力や外交的承認を誘因にして、タリバンの穏健化を促すのが、中国が使える手段となるだろう。 中国がタリバンのポジティブイメージを宣伝しているのは、国内に向けてタリバン政権と友好的関係を作ることを説得するのと同時に、ある意味でタリバンに向けたメッセージであるともいえるかもしれない。 中国にとって重要なのは、多国間の協力であり、とくにパキスタン、ロシア、イラン、中央アジア諸国との協力を重視している。9月8日、パキスタンの主催で、中国、パキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、イランによる周辺諸国外相会議が開催された。また、9月17日にはSCOサミットとSCO-CSTOの合同サミットが開催され、その中でアフガニスタン問題が取り上げられている。 これに併せて、前日には中国、ロシア、パキスタン、イランによるアフガニスタン問題に関する非公式外相会談が開催された。これら会議では、アフガニスタン問題についてこれら周辺国が協力して対処することを確認し、タリバンに対して包括的政治枠組みを作り、穏健な政策を取ることを促すとともに、反テロ協力を進めることがうたわれた。中国がパキスタンなどとの協力の下で、アメリカ撤退後の地域秩序をうまく安定させることができれば、それは中国主導の地域秩序への第一歩となるかもしれない。 だが、中国の思い描くような展開とならない可能性は十分にある。タリバン政権が内政を安定化させることができるかどうか未知数であるし、タリバンが穏健化する保証はどこにもない。さらに、タリバンが末端組織を統制できるとも限らない。 タリバンの政権奪取に伴うテロ活動の活発化はすでに懸念されるところとなっている。王毅外相は、「アフガニスタンに拠点を置く国際テロ組織が周辺国に侵入しようとしている」と警告している』、「中国がパキスタンなどとの協力の下で、アメリカ撤退後の地域秩序をうまく安定させることができれば、それは中国主導の地域秩序への第一歩となるかもしれない。 だが・・・「タリバン政権が内政を安定化させることができるかどうか未知数」、「タリバンが穏健化する保証はどこにもない」、「タリバンが末端組織を統制できるとも限らない」、まだまだなんとも言えないようだ。
・『中国のタリバンに対する不安感と不信感  中国は再三にわたってタリバンに対して、過激派との関係を完全に断ち、これらに対して強硬な態度を保つよう要請している。このことが示すのは、中国のタリバンに対する不安感や不信感であるように見える。 実際に、7月から8月にかけてパキスタンの自爆テロで中国人が殺害される事件が起きるなど、地域全体の不安定化の傾向がみられる。王毅外相は、周辺国外相会議において、インテリジェンス協力や国境管理を強化し、アフガニスタンからテロ集団が流入することを共同で防ぐことを提案している。 問題は、仮にタリバンの穏健化というシナリオがうまくいかなかった場合、中国はどうするのかということである。自国内に過激派や分離独立勢力が侵入し、新疆の不安定をもたらす可能性が高まれば、中国がアフガン内政により介入する誘因が高まるかもしれない。 しかし、しばしば「帝国の墓場」と呼ばれるアフガンに過度に介入することは、ソ連やアメリカの二の舞いになる危険性もあるため、中国としては避けたいところであろう。中国にとってここでも重要となるのは、ロシアや中央アジア諸国との共同歩調ということになるだろう。 日本から見れば、中国のアフガニスタンへの関与の増大は、いい面と悪い面の入り交じったものである。中国がアフガニスタンの安定化に積極的に乗り出すならば、それは地域における中国の影響力増大につながるかもしれない。 しかし中国がそれまで地域秩序の維持にほとんど貢献してこなかったことを考えれば、地域の安定に責任を負うこと自体を否定すべきではないだろう。また中国の関心が海洋よりも西側の内陸に向けられることは、海洋で紛争を抱える国々にとって、圧力の軽減にもつながりうるかもしれない』、「中国の関心が海洋よりも西側の内陸に向けられることは・・・」、はいささか虫が良すぎるが、「中国が・・・地域の安定に責任を負うこと自体を否定すべきではないだろう」、その通りだ。実際には、どのように展開していくか、大いに注目される。 
タグ:「〈日本、カブールの恥辱〉との見出しで〈アフガニスタン退避計画は失敗に終わった〉と報じたのは・・・韓国紙・中央日報だ。東亜日報など他の大手メディアも横並びで日本政府の対応を取り上げると共に、中国メディアまでもが〈韓国紙が日本を嘲笑〉と報じるなど、中韓がここぞとばかりに“日本叩き”に熱をあげている」、全く国辱ものの不手際だ。何度読んでも、腹が立つ。 「カブール救出作戦、日本はなぜ韓国にも“大負け”したのか アフガン人協力者らを置き去りに」 デイリー新潮 アフガニスタン問題 (その2)(カブール救出作戦 日本はなぜ韓国にも“大負け”したのか アフガン人協力者らを置き去りに、風を読む:やっぱり奥大使は泣いている、中国がタリバンに見せる「友好姿勢」に透ける意図 中国のアフガン関与は日本にどんな意味があるか) 「韓国の大使館員も・・・救出作戦を遂行するために4人が現地に戻り、大混乱の中でも、米軍が契約するバスを素早くチャーターして空港まで脱出希望者を送り届けることに成功」、他方「日本大使館の日本人職員12人は、カブール陥落2日後の17日、全員が英国軍の輸送機に便乗してドバイへと脱出」、「イギリスは、米軍が撤退するギリギリのタイミングまで大使自らが残留し、ビザ発給業務などを続けた」、「日本人職員」は本当に腰抜けだ。 「もともと自国民が危険に晒されているから自衛隊を派遣するのに、安全な場所でしか行動できないというのは矛盾しています。政治家はこのような現実を直視して法改正を検討すべきですが、今の菅首相や政権与党は喉元過ぎれば熱さを忘れる。そうした危機意識の欠如が、救出作戦が難航した理由」、「いざという時に頼りにならない国だとの烙印を押されないよう、救出作戦を完遂する必要」、その通りだ。 産経新聞「風を読む」欄 「やっぱり奥大使は泣いている 論説委員長・乾正人」 産経新聞にしては、珍しい政府批判で、同感である。通常、このブログでは新聞記事は扱わないのを原則としているが、この記事はコンパクトにまとまっていたので、紹介した次第である。 東洋経済オンライン API地経学ブリーフィング 「中国がタリバンに見せる「友好姿勢」に透ける意図 中国のアフガン関与は日本にどんな意味があるか」 「中国は分離独立運動に対して過剰とも思えるほどの懸念を抱き・・・アフガンが不安定化し、テロリストの活動が活発化することは、中国の恐怖を増大させるだろう・・・経済的利益は潜在的にあるものの、国内の安定なくして、それを得ることはできない」、なるほど。 「中国の特色ある建設的介入」といっても、「アフガンの安定化という役割」、まで負うかどうかは不透明だ。 「中国がパキスタンなどとの協力の下で、アメリカ撤退後の地域秩序をうまく安定させることができれば、それは中国主導の地域秩序への第一歩となるかもしれない。 だが・・・「タリバン政権が内政を安定化させることができるかどうか未知数」、「タリバンが穏健化する保証はどこにもない」、「タリバンが末端組織を統制できるとも限らない」、まだまだなんとも言えないようだ。 「中国の関心が海洋よりも西側の内陸に向けられることは・・・」、はいささか虫が良すぎるが、「中国が・・・地域の安定に責任を負うこと自体を否定すべきではないだろう」、その通りだ。実際には、どのように展開していくか、大いに注目される。
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政府財政問題(その5)(財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?、「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論、「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ) [経済政策]

政府財政問題については、4月13日に取上げた。今日は、(その5)(財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?、「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論、「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ)である。

先ずは、10月14日付けデイリー新潮「財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/10140605/?all=1
・『コロナ禍で痛み、苦しむ人たちに  財務省の矢野康治事務次官による月刊誌「文藝春秋」(11月号)への寄稿が話題となっている。財政再建の必要性を訴え、新型コロナウイルスの経済対策を「バラマキ」と喝破し、国家財政破綻の可能性に言及する内容だ。財務省といえば霞が関の頂点に君臨する省庁で、その現役トップが自身の考えを表明するのは異例のことだ。しかし、財務省は過去に、国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定していた。それとの整合性はどうなのだろうか? 矢野氏は、与野党で10万円の定額給付金や消費税率引き下げなどが議論されている点について、「国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」「(今の日本の財政状況は)タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです」と主張。 さらに、「(この状況を放置すれば)日本国債の格付けに影響が生じかねず、そうなれば、日本経済全体にも大きな影響が出ることになります」と訴える。 選挙直前のタイミングということもあり、コロナ禍で痛み、苦しむ国民に救いの手を差し伸べようとしている点では与野党共通しているといえるだろう。そうした政策に異議申し立てをしているのだ。本人によれば寄稿の動機は「やむにやまれぬ大和魂」だという』、「寄稿の動機は「やむにやまれぬ大和魂」」とは苦しい言い訳だ。
・『日本円による借金で財政が破綻することはない  「財務官僚にとって悔やんでも悔やみ切れないのが、今や1200兆円を超える借金の山にあるのは言うまでもないでしょう」 と話すのは、読売新聞経済部で大蔵省などを担当し、現在は経済ジャーナリストとして活躍する岸宣仁氏。日本を牛耳る財務官僚たちの立身出世の掟などについて論じた『財務省の「ワル」』の著者でもある。 日本が抱える借金を表す数字として「1200兆円」がよく使われる。これは、国と地方を合わせた長期債務残高(2020年度末)を意味し、日本が1年間に生み出す付加価値の総和である国内総生産(GDP)の約2倍の水準にある。 長期債務は、建設国債と赤字国債(正式には特例公債)からなる普通国債のほか、国際機関への拠出国債、特別会計の借入金、地方公共団体が発行する地方債などを合計したものだ。このうち、国の借金に当たる普通国債の発行残高は906兆円にのぼり、長期債務全体の76%を占める。 気の遠くなるような金額を見れば、日本は大丈夫かと不安になるかもしれない。しかし、実はそういう不安を否定する文書を財務省はかつて作成していた。 「日本円による借金で財政が破綻することはない、と財務省自身が認めた文書があります。2002年、外国の格付け会社が“日本の国債にはデフォルト(債務不履行)のリスクがある”と指摘したのに対し、反論の意見書を提出したものです」(岸氏)』、「外国の格付け会社」向け「意見書」も当然、財務省にファイルされている筈だが、都合の悪い文書はなかったことにする姿勢が常態化しているので、見ていないことにしたのかも知れない。
・『財務省の公式文書  「外国格付け会社宛意見書要旨」と題されたその中身は、大要以下の通りである。 《貴社(外国の格付け会社を指す)による日本国債の格付けについては、当方としては日本経済の強固なファンダメンタルズを考えると既に低過ぎ、更なる格下げは根拠を欠くと考えている。貴社の格付け判定は、従来より定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。従って、以下の諸点に関し、貴社の考え方を具体的・定量的に明らかにされたい》 《(1)日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。(2)格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべきである。例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。 ・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国  ・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている  ・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高  (3)各国間の格付けの整合性に疑問。次のような例はどのように説明されるのか。 ・1人当たりのGDPが日本の1/3でかつ大きな経常赤字国でも、日本より格付けが高い国がある。・1976年のポンド危機とIMF借入れの僅か2年後(1978年)に発行された英国の外債や双子の赤字の持続性が疑問視された1980年代半ばの米国債はAAA格を維持した。 ・日本国債がシングルAに格下げされれば、日本より経済のファンダメンタルズではるかに格差のある新興市場国と同格付けとなる。》 ちなみにこれは黒田東彦日銀総裁が財務官だった当時に出されたもので、国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した財務省の公式文書である。今から19年前の文書ではあるが、財務省はこの主張をその後も変えていない。矢野次官の今回の主張とは正反対ではないか』、「事務次官」が従来の主張とは「正反対」の主張を平然とするとは、「財務省」の権威も地に落ちたものだ。
・『オオカミ少年になる危険がある  岸氏はこう解説する。 「《日本、米国など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか》という箇所には、その行間に怒りの感情さえ感じますね。折に触れてマスコミなどへの説明に、“歯止めのない国債発行はいつの日か財政破綻を招きかねない”と決まり文句のようにしてきた財務省ですが、海外向けについつい本音を漏らしてしまった格好です」 財務省自らが財政破綻のリスクを否定してしまっている以上、国債の大量発行、ひいては彼らの永遠なるスローガンである「財政再建」も色褪せて見えてきてしまう。 「理財局で国債を担当したことがあり、現在は予算を編成する主計局に籍を置く現役幹部は以前に、『国債の暴落をブラフに使うのは、確かにオオカミ少年になる危険がある』と素直に認めていました。長州人の矢野次官が『やむにやまれぬ大和魂』で書き上げた原稿なのだと思いますが、デフォルトを否定した反論書を公表した事実がある以上、単に赤字国債からの脱却を軸にした『財政再建』の4文字を声高に叫ぶだけでは、不可避的に積み上がる借金の山を前に手をこまぬいて見ているとしか思えません」』、国会審議がまだ始まってないが、始まれば野党の追及にどう答えるのだろう。

次に、11月18日付け文春オンライン「「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/50066
・『財務省は、東大法学部出身者の多い役所らしく理屈をこねるのが上手な官庁です。私も内閣官房参与として官邸に行った際、彼らが政治家をうまく説得するようすを見てきました。矢野さんは一橋大学の経済学部ご卒業のようですが、あの論文には、法律家集団である財務省の性格がよく出ていると感じました。 「ショッピングや外食や旅行をしたくてうずうずしている消費者が多い」(だから国民は給付金など求めていない)と書くのは、自分の結論に都合のよい人間像を証拠もなく作りあげているだけです。こういったところにいかにも財務省らしいところが出ています』、リフレ派の大物の「浜田」氏らしいコメントだ。
・『日本は『世界最悪の財政赤字国』ではない  経済は、理屈で勝っても、現実に合っていなければしようがない世界です。いくら政治家を説得できても、現実の経済が違ってしまったのでは話にならない。経済は、実際の人やモノの動きを事実として見つめる必要があり、ときに理屈では説明がつかない局面もある。日本が瀕死の借金国で、タイタニック号の運命にある、というのは単なるたとえ話であって事実と認めることはできません。 もちろん、現役の財務事務次官である矢野さんが「このままでは国家財政は破綻する」という論文を発表したことは、立派だったと思います。決定が下れば命令に服することを前提に、「勇気をもって意見具申せよ」という後藤田正晴さんの遺訓通り、あるべき国家財政のありようについて堂々と思うところを述べられた。霞が関全体に、ことなかれ主義の風潮がある中で、行政官のトップが自らの立場を踏まえながら、官僚や国民にどう持論を発すべきか、を示したことは、議論のよい出発点になりえます。ただし、論じられた内容についていえば、ほぼ100%、私は賛成できません。 矢野さんは「わが国の財政赤字は過去最悪、どの先進国よりも劣悪」という現状認識に立って、「将来必ず財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかか」ると警告し、与野党によるバラマキ合戦を諫める。そして日本の財政を氷山に向かって突進するタイタニック号に喩え、近い将来、国家財政は破綻すると警告する。 ただ、この論文を貫く「暗黙の前提条件」と、「経済メカニズムの理解」の両面で、矢野論文には大きな問題があります。自民党政調会長の高市早苗氏が「馬鹿げた話」と批判したそうですが、もっともな指摘です。こうして話題になったことは、財務省に考えを改めてもらうよい機会ですから、私からは「3つの誤り」を指摘しておきたいと思います』、「霞が関全体に、ことなかれ主義の風潮がある中で、行政官のトップが自らの立場を踏まえながら、官僚や国民にどう持論を発すべきか、を示したことは、議論のよい出発点になりえます」、と投稿した姿勢を評価しつつも、「論じられた内容についていえば、ほぼ100%、私は賛成できません」、と自論を展開するのは当然だろう。「3つの誤り」とは何なのだろう。
・『日本政府は金持ちである  第1に、「日本は世界最悪の財政赤字国である」という認識は事実ではありません。 矢野論文は、財政赤字の指標として、一般政府債務残高をGDPで割った数字が256.2%と先進各国の中でも突出して悪い、と強調しています。そして、この借金まみれの状況では、支出を切り詰めるか、増税を行う必要がある、と財務省の伝統的な主張を繰り返します。 財務省は「年収(経済規模)に比べて借金がどれだけあるか」という数字をよく用います。しかし、年収との比較だけで借金の重さを捉えるのは適切ではない。なぜならば、金融資産や実物資産があるならば、借金があっても、そのぶん実質的な借金は減るからです。 国際通貨基金(IMF)が公表した2018年の財政モニター・レポートは、実物資産を考慮して各国政府がどれだけ金持ちなのか、を試算しています。これによれば日本政府は十分な資産を持っているため、わずかに純債務国ではあるが、大債務国のポルトガル、英国、オーストラリア、米国よりも相対的に債務は少ない。試算に誤差はありえますが、「どの先進国よりも劣悪」という矢野氏の主張とは印象がだいぶ違います。 政府の資産とは、例えば、東京・港区の1等地に立つ国際会議場「三田共用会議所」のような優良不動産。広大な国有林も、独立行政法人の保有になっている高速道路のようなインフラもある。道路は売却できる資産ではありませんが、将来にわたって通行料金が入ってくるので、この将来キャッシュフローを資産と捉えることができます。 「日本は瀕死の借金国」という宣伝には熱心な財務省ですが、主張と矛盾する分析には冷淡で、翻訳すらしない。IMFには、財務省の出向者もいるはずなのに、不都合な真実については目立たせない工夫をしているのでは、と勘ぐってしまいます』、「国際通貨基金(IMF)が公表した2018年の財政モニター・レポートは、実物資産を考慮して各国政府がどれだけ金持ちなのか、を試算しています。これによれば日本政府は十分な資産を持っているため、わずかに純債務国ではあるが、大債務国のポルトガル、英国、オーストラリア、米国よりも相対的に債務は少ない」、こんなIMFのレポートは初めて知った。
・『MMT理論の根幹は正しい  第2の誤りは、「国家財政も家計と同じだ」という考え方です。これは財務省お得意の喩えですが、実際にはフェイクニュースに近いものです。 浜田宏一氏「国の借金はまだまだできる」全文は、文藝春秋「2021年12月号」と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます』、「「国家財政も家計と同じだ」という考え方」は、前者は苦しくなれば、増税も可能で、確かに手段がない「家計」とは異なる。中途半端な形で記事が終わってしまったことは、誠に残念だ。

第三に、10月21日付け東洋経済オンラインが掲載した元外資系証券会社のアナリストで小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏による「「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/462504
・『オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。 今回は、プライマリーバランスの黒字化目標を当面、凍結すべき理由を解説してもらう。 今回の記事のポイントは、以下のとおりです。 (1) 社会保障費の増加によって、政府の先行投資が著しく不足している (2) 生産的政府支出の対GDP比は先進国平均24.4%に対し、日本は10%以下 (3) 生産的政府支出の不足によって、GDPの成長率が低迷している (4) 結果、財政が悪化している (5) この状況を正すには、生産的政府支出を大幅に増やすべき (6) 金額は、最終的に年間数十兆円の規模まで増やすべき (7) したがって、当面はプライマリーバランスの黒字化の目標は凍結すべき  (8) 新規財政出動はバラマキではなく、乗数が1以上の元が取れる支出に集中させるべき (9) 何に対してどれだけ財政出動をするかは、雇用の量と質を基準にして決定するべき』、興味深そうだ。
・『毎年「数十兆円規模」の財政出動をせよ  日本は、人口減少と「3大基礎投資」の不足が要因となり、賃金が上昇せず、経済が成長しない状態に陥っています。この状況から脱却するには、研究開発、設備投資、人材投資という「3大基礎投資」を喚起し、経済を成長させ、その成果で賃金を上昇させるための経済政策が求められます。 つまり、長期的な経済成長や賃金の引き上げは、あくまでも投資によってのみ実行できるという経済学の大原則を忘れてはいけないということです。 持続的な経済成長は、バラマキによって達成できるものでは断じてありません。国際決済銀行の「Consumption-led expansions」の分析によると、個人消費主導の景気回復は相対的に回復力も持続性も弱いと確認されています。 私は5年前から日本経済に関してさまざまな分析を行い、以下に挙げる政策を提言してきました。 (1) 労働分配率の引き上げ (2) 研究開発予算の増加 (3) 設備投資の喚起 (4) 人材投資の促進 (5) 格差縮小のための最低賃金引き上げ (6) 輸出の促進 (7) 中小企業の強化 (8) 黒字廃業の回避  これらの政策を実現するためには、毎年かなりの額の政府支出が必要になります。 こういった投資を「生産的政府支出(Productive Government Spending:PGS)」と言います。GDP560兆円、世界第11位の人口大国の日本を動かすには、毎年数十兆円単位の予算が不可欠です。 将来的に経済を大きく改善させるためにこのくらいの規模の先行投資をしながら、なおかつ社会保障の負担もあるので、間違いなく当面プライマリーバランスの黒字化はできません。日本はプライマリーバランス黒字化を公約として掲げてきましたが、残念ながらこの公約は、当分の間、凍結せざるをえません。 しかし、先に挙げた政策を、賢く、かつ着実に行えば、やがて財政は健全化します。要するに、元の取れる政府支出を増やしてGDPを高めることで、財政を健全化させるということです』、なるほど。
・『経済成長に寄与する財政支出が先進国中、最も低い  プライマーバランス黒字化が当面不可能なのは、政府支出の中身を見れば一目瞭然です。 GDPに対する日本の政府支出の割合は、他国と比較しても決して低いわけではないのですが、社会保障費以外の予算が異常に少ないのです。日本では生産年齢人口の減少と高齢化が同時に進んでいるため、政府支出のうち社会保障費の金額が大きく膨らんでいます。特に2000年あたりから社会保障費は大きく増えているのに、生産的政府支出(PGS)は抑制されて、ほとんど増えていません。 社会保障費などは「移転的政府支出」と呼ばれ、経済成長には貢献しないと分析されています。一方、インフラ投資、教育や基礎研究などの政府支出は、経済全体の質の改善・向上につながるので、「生産的政府支出(PGS)」と位置づけられ、経済成長率の改善に寄与することが確認されています。 日本のPGSは対GDP比で見ると10%にも満たず、先進国平均の24.4%を大きく下回っています。おそらく、高齢者比率が世界一高いので、PGS比率が先進国最低水準になってしまっているのだと思います。 今後、高齢者の数は減りませんから、社会保障費の負担は減りません。しかし、経済を維持・成長させるには、PGSの増加は不可欠です。よって、諸外国以上に対GDPの政府支出を高めなければなりません。プライマリーバランスの黒字化が当面困難になるほどの巨額の財政出動が必要であることは、「成長戦略会議」の委員として何度も指摘してきました。 先述したように、日本は1億人以上の人口を抱えた人口大国です。人口が1億人を超えている国は世界で14カ国しかありません。人口は世界第11位、GDPは560兆円で世界第3位の経済大国です。 このような巨大な国の経済を動かすには、相当規模の金額でなくては不可能です。だから、これまで政府がつけてきたような1兆~2兆円レベルの予算では経済政策は成功しないと訴えてきました。 自民党総裁選挙に立候補した高市早苗議員が主張していた、10年100兆円のインフラ投資でも(中身の議論は別として)、規模的には足りないくらいだと思います。当初は抑えめに始めても、徐々に増やし、最終的には数十兆円単位の年間予算とするのが理想でしょう。 諸外国と同じレベルまでPGSの対GDP比率を引き上げようとすると、社会保障費の負担増もあるので、プライマリーバランスの黒字化はさらに難しくなります。 とはいえ、高齢化の進展で社会保障費の負担が増える中でも、あえて政府支出を増やして投資を喚起し、財政の健全性を示す「借金/GDP」の分母であるGDPを大きくするのは、国益にかなっています。これは甘利明幹事長が主張しているとおりです。 逆に、今までのようにPGSを抑え続けていけば、GDPも減ってしまいます。分子が減るのを分母が追いかけて減ることになるので、財政の健全化目標はいつまで経っても達成できません。似たような現象は江戸時代にも起きていたので、その歴史を振り返るだけで、同じ轍を踏む結果になるのは明らかです』、「生産的政府支出」について、実際の数字を示してもらいたいものだ。公共投資もこの中に含まれる筈だが、現実には必ずしも「生産的」でないものも多い。公共投資は無駄との認識が広まったことも、諸外国に比べ少ない一因だ。
・『財政出動の基準は「雇用の質、雇用の量、乗数効果」  ただし、やみくもに財政支出を増やしても、狙っている成果にはつながりません。財政出動の判断基準を何に置くかは、真剣に議論するべきです。 岸田文雄新総理は経済対策に積極的なようですが、すでに巨額の借金があるうえ、大地震への備えも必要なので、何に対して予算をつけるべきかの評価基準、またどういう成果を求めて政策を実施するべきかの基準は、絶対に定めておかなくてはいけません。 この議論の本質からすると、基軸にするべきは「(1)雇用の質(賃金水準)」「(2)雇用の量」の2つです。 これから、日本では生産年齢人口が約3000万人も減少します。GDPを縮小させることなく、ますます貴重になる人材を、どの業種のどういった企業を中心に配分するかも重要なポイントになります。労働参加率を低下させることなく、賃金を引き上げる政策が求められます。あえて言うまでもなく、これは日本にとってとても重要な「経済政策」です。 要するに、生産性を高め、それに伴って賃金を上昇させることでGDPを増やすのです。岸田総理にはリーダーとして、財政出動で投資した以上の金額が将来的には戻ってくることを想定し、思い切った国家運営にあたっていただきたいと思います。 過去に何度も指摘したように、アベノミクスの結果、日本の労働参加率は史上最高になり、世界的に見ても非常に高い水準にまで上がりました。しかし、増えた雇用のほとんどは、賃金水準が低いという意味で「質が低い」仕事でした。それによって生産性は上がりましたが、労働生産性は上がっていません。 これ以上労働参加率を高める、つまり雇用の量を増やすのは限界に近づいているので、岸田総理は雇用の質を高める政策に舵を切るべきです。それこそが日本に求められている政策であり、そのためにこそPGSを増やすべきなのです。 となると、「賃金の動向」と「雇用の動向」を財政出動の判断材料にするべきだという結論となります。「賃金の動向」と「雇用の動向」のデータはすでに整備されているので、目標を設定するための直接的な材料にできます』、「雇用の質を高める政策」、具体的にはどんなことをするのだろう。まさか、高賃金を払った企業への補助金などの古典的手法ではあるまい。
・『「本当に政府は破綻しないか」実験より先にできること  一部には、インフレにならないかぎり、政府の借金をどんなに増やしても政府は破綻しないという見解もあります。しかし、すでにここまで政府の借金が増えている中で、無尽蔵にばらまいて「本当に政府は破綻しないのか」という実験に挑戦するメリットがあるとは思えません。 財政出動を増やすのであれば、PGSを中心に、「元が取れる」支出に限定するべきでしょう。となると、オーソドックスなケインズ経済学に基づいて、乗数が1以上の支出でないといけません。ここでいう「乗数」とは、政府支出に対してどれだけGDPが増えるかを測る指標で、1億円の支出の乗数が1.2だった場合、GDPは1億2000万円増えることになります。これなら「政府の借金/GDP」の分子以上に分母が増えることになるので、現在の低い金利を考えれば、政府の借金の対GDP比率は改善します。 この乗数効果が大きい政府支出には、基礎研究やインフラ投資が含まれます。 ただ、乗数効果に関しては、勘違いをしている人が多いと最近わかりました。政府が100兆円の支出をすれば、GDPは自動的に100兆円以上、例えば330兆円も純増すると妄想している人がいるようです。実際の乗数効果は、それよりもずっと小さいことがわかっています。政府支出に過剰に期待してはいけません。この点は、次回の記事で検証します。 私自身、財政出動は必要だと考えていますが、2%のインフレ目標を判断基準にするべきではないとも考えています。財政出動の是非はあくまでも、「雇用の量」と「雇用の質」、そして「乗数効果」をもとに判断するべきです。 次回から2回にわたって、なぜ財政出動の基準を2%のインフレ目標にするべきではないのかを説明します』、いつもの「デービッド・アトキンソン氏」の具体的な提言と異なり、今回は肝心の「生産的政府支出」についての説明が不足し、説得力を欠くようだ。次回の「インフレ目標」ぶ期待しよう。
タグ:デイリー新潮 政府財政問題 (その5)(財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?、「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論、「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ) 「財務次官の異例の「国家破綻・財政再建」寄稿 過去の「国債の暴落を引き金にした財政破綻を明確に否定した公式文書」との整合性は?」 「寄稿の動機は「やむにやまれぬ大和魂」」とは苦しい言い訳だ。 「外国の格付け会社」向け「意見書」も当然、財務省にファイルされている筈だが、都合の悪い文書はなかったことにする姿勢が常態化しているので、見ていないことにしたのかも知れない。 「事務次官」が従来の主張とは「正反対」の主張を平然とするとは、「財務省」の権威も地に落ちたものだ。 国会審議がまだ始まってないが、始まれば野党の追及にどう答えるのだろう。 文春オンライン 「「国の借金はまだまだできる」「GDP比1000%でも大丈夫です」元内閣官房参与・浜田宏一が“バラマキ合戦”批判に反論」 リフレ派の大物の「浜田」氏らしいコメントだ。 「霞が関全体に、ことなかれ主義の風潮がある中で、行政官のトップが自らの立場を踏まえながら、官僚や国民にどう持論を発すべきか、を示したことは、議論のよい出発点になりえます」、と投稿した姿勢を評価しつつも、「論じられた内容についていえば、ほぼ100%、私は賛成できません」、と自論を展開するのは当然だろう。「3つの誤り」とは何なのだろう。 「国際通貨基金(IMF)が公表した2018年の財政モニター・レポートは、実物資産を考慮して各国政府がどれだけ金持ちなのか、を試算しています。これによれば日本政府は十分な資産を持っているため、わずかに純債務国ではあるが、大債務国のポルトガル、英国、オーストラリア、米国よりも相対的に債務は少ない」、こんなIMFのレポートは初めて知った。 「「国家財政も家計と同じだ」という考え方」は、前者は苦しくなれば、増税も可能で、確かに手段がない「家計」とは異なる。中途半端な形で記事が終わってしまったことは、誠に残念だ。 東洋経済オンライン デービッド・アトキンソン 「「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 財政出動の判断基準は「乗数効果、雇用、賃金」だ」 興味深そうだ。 「生産的政府支出」について、実際の数字を示してもらいたいものだ。公共投資もこの中に含まれる筈だが、現実には必ずしも「生産的」でないものも多い。公共投資は無駄との認識が広まったことも、諸外国に比べ少ない一因だ。 「雇用の質を高める政策」、具体的にはどんなことをするのだろう。まさか、高賃金を払った企業への補助金などではあるまい。 いつもの「デービッド・アトキンソン氏」の具体的な提言と異なり、今回は肝心の「生産的政府支出」についての説明が不足し、説得力を欠くようだ。次回の「インフレ目標」ぶ期待しよう。
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異次元緩和政策(その38)(世界でエネルギー価格が高騰 忍び寄るインフレの足音は日本にも?、米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める、日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か) [経済政策]

異次元緩和政策については、8月14日に取上げた。今日は、(その38)(世界でエネルギー価格が高騰 忍び寄るインフレの足音は日本にも?、米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める、日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か)である。

先ずは、10月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「世界でエネルギー価格が高騰、忍び寄るインフレの足音は日本にも?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/283820
・『世界的にエネルギー価格が上昇し、インフレの足音が忍び寄っている。特に石炭価格の上昇が鮮明で、各国が石炭をし烈に奪い合っている。世界全体でエネルギー資源、自動車、生鮮食料品などの供給が、需要に追い付いていない状況だ。10月から、わが国でもマーガリンやコーヒー豆などが値上がりした。物価の上昇ペースが鈍かった日本にもインフレの波が押し寄せつつある』、「日本にもインフレの波が押し寄せつつある」、本当だろうか。
・『物価の上昇ペースが鈍かった日本 インフレの波が押し寄せつつある(世界的にエネルギー価格が上昇し、インフレの足音が忍び寄っている。主要国の物価動向を見ると、まず目に付くのがエネルギー価格の上昇で、企業間物価の上昇が顕著になっていることだ。それが、徐々に川下の消費者物価にも波及し始めている。 エネルギーの中でも、特に石炭価格の上昇が鮮明化している。中国、米国、欧州各国など世界各国が石炭をし烈に奪い合っている。その背景には、中国とオーストラリアの対立、気候変動問題の深刻化、新型コロナウイルス感染再拡大による物流の寸断とそれによる供給制約の深刻化など複合的な要因が絡む。世界全体でエネルギー資源、自動車、生鮮食料品などの供給が、需要に追い付いていない状況だ。 今後、世界的にインフレ懸念は一段と強まる可能性がある。10月から、わが国でもマーガリンやコーヒー豆などが値上がりした。物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある。世界的な供給制約は長期化する恐れがあるだけに、今後のインフレ動向が国内外の経済、および金融市場に与える影響は軽視できない』、「物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある」、やはり事実のようだ。
・『各国の物価動向を見ると上昇圧力が強くなっている  今春以降、多くの国で企業間物価指数の上昇が鮮明だ。その状況が続くと、企業はコストの上昇に呼応して製品やサービスの価格を引き上げ始める。米国ではその動きが顕著だ。2020年12月、前年同月比で0.8%だった米国の生産者物価指数の上昇率は、21年8月には同8.3%まで跳ね上がった。その背景には、コロナ感染再拡大によって世界経済の供給制約が顕在化し、鉱山やエネルギー資源、自動車などの工業製品、あらゆる製品に用いられる半導体などの供給が減少、あるいは停滞したことがある。 また、コロナワクチン接種の増加などによって人々の移動が徐々に緩和されつつあるため、経済活動の正常化が進み、需要が盛り返しつつある。一方、供給サイドでは人手不足も発生している。その結果、米国をはじめ主要国では消費者物価指数が上昇している。 8月の米消費者物価指数の上昇率は前年対比5.3%だった。米国では国内の需要が旺盛であるため、企業はコストの増加分を最終価格に転嫁しやすい。7月の米家計貯蓄率は9.6%と高い。貯蓄が消費に回ることもインフレを押し上げるだろう。 中国でも徐々に消費者物価指数に上昇圧力がかかりつつある。また、ユーロ圏の物価推移を見ると、7月の生産者物価指数は前年同月比で12.1%上昇した。それはいずれ、川下の消費者物価指数の上昇圧力として作用することになる。これまで、主要国ではほとんどインフレに対して警戒する必要を感じてこなかったが、ここへ来て、世界的にインフレの足音が近づいていることは間違いない』、「米消費者物価指数の上昇率は」10月では前年対比6.2%と、1990年以来の高い上昇となった。FRBは依然として、上昇が一時的とみているようだが、旗色が悪くなってきた。
・『石炭価格が上昇している背景 中国とオーストラリアの対立(エネルギーや生鮮食品、さらにはタンカーの船賃まで幅広く物価が上昇する中、石炭価格の上昇が鮮明だ。過去1年間で石炭価格は約3.5倍も上昇して最高値を更新している。さらに足元、石炭価格の上昇の勢いは強まっている。需給は極めてタイトだ。天然ガスなどのエネルギー資源の価格も上昇している。 石炭価格が上昇している背景として見逃せないのが、世界最大の石炭消費国である中国と、インドネシアと並ぶ石炭輸出大国であるオーストラリアの対立だ。新型コロナウイルスの発生源を巡って中豪関係は悪化した。中国はオーストラリア産石炭の輸入を制限し、インドネシアやロシアからの輸入増加を重視した。 オーストラリアからの石炭調達が減少することもあり、中国は火力発電などに必要な石炭を確保できなくなっている。その結果、最近の中国では停電が発生し、遼寧省瀋陽市では信号が消えた。電力供給不足は生産活動にも深刻な影響を与える。中国国内の生産量を増やそうにも、追加の投資を行い、炭鉱を開発するには時間がかかる。不動産大手・恒大集団(エバーグランデ)の債務問題に加え、石炭不足による電力需給のひっ迫も中国経済にマイナス要因である。 同様の事態が世界各国でも発生している。脱炭素への取り組みが進む中、燃焼時の温室効果ガス発生量が相対的に少ない、液化天然ガスを用いた火力発電を重視する国が増えている。その一方で、世界的な気候変動の影響で冷暖房のための電力需要が急速に増えている。加えて、コロナワクチン接種などによる経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている。 そうした中、各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている。4月にドイツでは最新鋭の石炭火力発電所が稼働し始めた。経済運営のために世界各国が石炭を奪い合う状況はしばらく続くだろう』、「経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている・・・各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている」、やむを得ない「石炭火力」依存だ。
・『わが国にも忍び寄るインフレの足音  英国ではトラック運転手の不足によってガソリン供給が減少している。その結果、一部の買いだめ行動がハーディング現象(周りへの同調や行動追随)を引き起こしてパニックが起きた。米国ではハリケーンの襲来によってメキシコ湾での原油生産が減っている。原油の需給もひっ迫している。 そうした状況下、わが国にインフレの足音が近づいている。10月から、マーガリン、輸入車、電力・ガス、小麦などが値上がりした。異常気象の影響によって葉物野菜など生鮮食料品も値上がりしている。8月、わが国の企業物価指数は前年同月比5.5%上昇した。消費者物価は総合指数が同0.4%下落し、生鮮食品を除く総合指数は横ばい(同0.0%)だった。物価上昇の勢いは強まるとみておくべきだ。 今後、世界経済の供給制約はより深刻化する可能性がある。コロナ感染が再拡大すれば世界の物流がひっ迫する。中豪の対立は一段と深刻化する恐れがある。また、新興国でのワクチン接種の遅れは物流寸断を長引かせ、電子部品などの生産や鉱山資源などの供給が遅れる要因だ。 その結果、世界的なインフレ圧力は一段と強まる可能性がある。FRBのパウエル議長は、物価上昇は一時的としながらも「予想以上に長引く可能性」に言及し始めた。 その一方で、世界経済の回復ペースは徐々に鈍化する恐れもある。コロナ感染再拡大に加えて、中国のエバーグランデのデフォルトリスクが高まっている。仮に、エバーグランデの債務がクロスデフォルトのような状況に陥れば、中国の不動産市況は悪化し、中国の景気減速はさらに進むだろう。物価上昇懸念は金利を上昇させ、株価の下落リスクも高まる。いずれも世界経済にはマイナスだ。 今後、インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開は軽視できない。それは、需要が縮小均衡に向かうわが国経済にとって大きな逆風になるはずだ』、「インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開」、となれば典型的なスタグフレーションだ。やれやれ・・・。

次に、11月5日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/466587
・『米連邦公開市場委員会(FOMC)は2、3両日に開催した定例会合で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0-0.25%で据え置くことを決定した。毎月実施している資産購入については、月額150億ドル(約1兆7000億円)のペースで縮小を開始すると表明。新型コロナウイルス禍に導入した緊急支援策の解除を始める。インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた』、いわゆるテーパリング開始を決定した。「インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた」、一時は自信満々だったのに、弱気になったようだ。
・『市場関係者の見方は以下の通り。 ◎FOMC決定、150億ドルが最大のテーパリングペースを意味-BMO FOMCの決定は、150億ドルが当面のテーパリング(資産購入の段階的縮小)の最大のペースになることを意味しているとBMOキャピタル・マーケッツのストラテジスト、ベン・ジェフリー氏は指摘した。 ・2年債がアウトパフォームする一方で5年債が売られている理由はこれで説明される ・「FOMCは英中銀やカナダ中銀よりも遅く始める可能性もあり、後手に回って結局は劇的な利上げを行う必要に迫られるリスクがある」 ◎11月からのテーパリング、可及的速やかな開始望む意向を示唆-RBC FOMCが12月ではなく11月のテーパリング(資産購入の段階的縮小)開始を決めたことは、「若干タカ派的であり、できるだけ速やかに開始したい金融当局の意向を示唆している」と、RBCウェルス・マネジメントのシニア・ポートフォリオストラテジスト、トム・ギャレットソン氏が指摘した。 ・発表されたペースでの今月からのテーパリング開始は、それが来年6月までに終了し、金融政策の次の段階が設定されることを示唆 ・市場が来年に想定している利上げ回数はあまりにも多く、RBCの基本シナリオでは最初の利上げは2022年12月 ・金融当局が資産購入を今月と来月に月額150億ドルずつ縮小するとのFOMC決定を踏まえたコメント)   FOMCのインフレに関する文言、タカ派色少し強めた-BNYメロン FOMCがインフレに関する文言を「一過性と予想される」に変えたことは、11月の声明にタカ派色を添えたとバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)のストラテジスト、ジョン・ベリス氏が指摘した。 ・「150億ドルのテーパリングは予想されていただけに、これでほんの少しだけタカ派色が強まった」 ・市場はまだ大きく動いていないかもしれないが、トレーダーはパウエルFRB議長がインフレとテーパリングのペースをどう詳しく説明するかに注目するだろう ・「議長がインフレに関する質問にどう対処するか、テーパリングのペースを変える能力に関してどう話すのかが、より重要かもしれない」 ◎ドル売りは限定的に、FOMCのテーパリング調整余地で-ウェルズF」、FOMC決定で、テーパリングペースを調整する余地を自らに与え、これがドルへの影響を限定的なものにするだろうと、ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、エリック・ネルソン氏(ニューヨーク在勤)が指摘した。 ・テーパリングは「必要になれば加速できる」 ・「そのことが利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」 備考:ドルはFOMC決定の発表直後に下落したが、その後は下げを消した』、「利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」、とは、利上げをそれほどしないだろうとの見方が限定的になったので、ドルがそれだけ堅調になったとの意味である。

第三に、9月5日付け東洋経済オンラインが掲載した財務省出身で慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏による「日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/453017
・『ジェローム・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、注目された8月27日のジャクソンホール会議での講演で「まもなくテーパリング(緩和縮小、国債などの買い入れ額を削減すること)する」と明確に述べた。ついに、アメリカの中央銀行であるFEDはテーパリングを開始しようとしている。 さあ、日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた。即時開始すべきだ。今回は、日銀がすぐさまとるべき金融政策の変更を提言したい』、「日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた」、との衝撃的な見解を示したのは、私が知る限り小幡氏だけである。
・『日米2つの中央銀行の差は歴然  FEDと日本銀行とのパフォーマンスの差は歴然だ。ともに量的緩和を行ったが、アメリカは、行った2度とも脱出に成功している(ちなみにFEDは量的緩和という言葉を自らは決して使わない。バランスシート政策あるいは資産買い入れプログラムと呼んでいる)。 1度目は、世界金融危機(2008年のリーマンショック)のときのベン・バーナンキFRB議長(当時)だ。2013年に「バーナンキショック」などと投機関係者には八つ当たりされたが、しかし、自分が広げた風呂敷は、しっかりたたむメドをつけて去っていった。 だから、その後FEDのバランスシートはしっかりと縮小し、今回のコロナショックへの対応で、国債などの資産買い入れを大規模に行うことができた。そして、また、今回もその資産買い入れ政策の役割が終わったら、さっと引き揚げることに成功しつつある。資産買い入れ政策は危機対応の緊急政策であって、ドカンとやって、さっと引き揚げる。これが戦略の要諦である。アフガニスタンが、その反対の例だ。 一方、日本銀行は、言ってみれば昨今のアフガニスタンよりもひどい状況だ。2001年に量的緩和を開始し、福井俊彦総裁(当時)が2006年に解除した。これは、パウエル議長と同様、きちんと幕引きをして去っていったのだが、現在は見るも無残な状況になっており、国債発行残高の半分は日本銀行が保有するという有様だ。 しかし、日本銀行は、もともと世界的に珍しく、長期国債を恒常的に買ってきた中央銀行であった。当時は日銀ルール(銀行券ルール)という、紙幣の流通量以下に長期国債の保有額を抑えるという自主ルールがあった。自主ルールではあったが、強力な歯止めとして、これを破るのは日銀としては絶対のタブーだった。しかし、黒田東彦総裁があっさりと無視し、外し、現在はこのタガは外れっぱなしどころか、ほとんどの人が忘れている。もう2度と戻ってくることはないだろう。 つまり、FEDも量的緩和(資産買い入れ)という危険な政策をとったが、危機対応であるという認識は保持し、隙あらば撤回するという姿勢で臨み、退却に成功した。一方、日本はそれに失敗しただけでなく、危機対応であるという認識が一般には薄れてしまい、今では日銀自身も諦めたかのような状況だ』、日米の金融政策の大きな格差はどうして生じたのだろう。小幡氏が以下で謎解きをしてくれるようだ。
・『日銀は何を間違えたのか?  さて、日銀は何が悪かったのか。何を間違えてしまったのか。 第1に、2001年に量的緩和というものを発明してしまったことだ。この量的緩和こそが本当の量的緩和だが、それは長期国債を買い入れることではない。短期金利を政策目標にすることから、日銀当座預金残高を政策指標とすることに変更したことだった。これは、短期金利市場を壊すという副作用があるが、長期国債の市場を壊すよりは罪が軽く、「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった。 しかし、これにより、量的緩和という画期的なおもちゃが、金融市場を知らないばかりか、日本経済の将来に対して無邪気で無責任な人々に与えられてしまった。日銀の政策手段が、王道の金利操作だけでなく、資産の買い入れ(このときは超短期国債であったにせよ)という邪道なものまで追加されてしまったのである。これが、後にリーマンショック後の政策、そしてアベノミクスによるリフレ政策という最悪の事態を招くこととなる』、「「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった」、とは手厳しい批判だ。
・『第2に、量的緩和のイメージから、誤ったマネタリズムを振りかざす、いわゆる有識者の政策マーケットへの参入を招いてしまったことだ。彼ら(厳密に言うとマネタリズムを強引に都合よく解釈した「誤った」マネタリストたち)は、「とにかくマネーそのものを増やせ」と主張した。 実際、日銀の当初の量的緩和はそれを実行していたのだから、日銀がそれを否定するには、日銀の行った量的緩和と巷の誤ったマネタリストたちの主張する無邪気なマネタリズムを区別する厳密な議論が必要となった。結局、世間、メディア、政治家達には理解ができず、単純なお金が増えるというイメージに訴えかける彼らの主張がはびこることとなった。 彼らは「デフレと円高を解消し、日本経済の問題は一挙に解決し、バラ色の日本経済がやってくる」と騒いだ。これ以降、まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった。この結果、経済政策は金融政策だけでなく、すべての分野で不在となり、日本経済の停滞に寄与した』、「まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった」、その主犯の「「誤った」マネタリストたち」の罪はまことに深い。
・『第3の間違いは、このマネタリストの圧力により「インフレターゲット2%」を日銀が導入してしまったことだ。 これが現在も日銀の金融政策を縛っている。欧米主要国の多くが2%ターゲットをとっているから、日銀だけそれをターゲットとして数量的な目標を設定しないのは無責任だ、という議論に押されて導入してしまった。 だが、日本ではそもそもインフレ率が継続的に2%を超えていたのは、1990年のバブルのときまでさかのぼらなければならない。しかも、その当時は、世界的に日本の物価は異常に高すぎるとして、物価をとにかく下げろ、内外価格差是正、ということが経済政策の大きな目標の1つだった。 すなわち、2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった。 この結果、日銀の政策は、いわゆるデフレマインド、実際のところは、貧乏くさい萎縮マインドを改善する、というある程度意味のある効果を伴ったときはよかった。だが、現在の異次元緩和の主人公である黒田総裁自身が「日本経済の問題は需要不足ではないことが明らかになった」と宣言した後、7年たっても、なお2%のインフレ率達成がゴールとされ続けている。 これは不必要どころか、副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられていることにほかならない。長期国債を大量に購入するという政策からの出口を議論できなくなってしまったという最大の困難をもたらしている』、「2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった」、「副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられている」、これは日銀が犯した重大なミスだ。
・『さて、それ以外にも、日銀はさまざま過ちを犯している。第4として、上場株式ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)というリスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策を行った。これは、いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤りである。 ただし、日経平均株価が8000円台などの場合には、株価下支え効果がてきめんにあった。実際、アベノミクスでは、円安誘導、異常国債買い入れとともに、株価の急回復をもたらした』、「リスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策」は「いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤り」、その通りだ。
・『中央銀行が企業の株式を買うことは無意味  しかし、理論的には、意味がまったくないし、中央銀行が企業の株式を買うということはまったく意味がない。「リスクプレミアムに働きかける」というが、株式トレーダーのリスクプレミアムに働きかけることは理論的だけでなく、道義的、社会的にもやってはならないことであり、実体経済における設備投資や人的資本投資という実物投資行動へのリスクプレミアムに働きかけるものでなくてはならない。そこへ到達できる金融市場における唯一の道は金利であり、株価とは無関係である。 さらに、現在は、イールドカーブコントロールと呼ばれる、長期金利を直接コントロールするためのターゲット水準を設けている。今は10年物国債金利をゼロ程度にすることで、長期金利をゼロに釘付けにしている。これは、短期金利市場を政策金利で殺していると同時に、長期金利市場までをも殺すことによって、金融市場を完全に長短ともに殺してしまっている、という重大な罪を犯している。これが第5の誤りだ。 実は、この第5の誤りと第4の誤りは、第3の誤りの副作用として生じたものである。長期国債のさらなる買い入れを、世間から、メディアから、そして自ら宣言した政策方針によって迫られてしまい、逃げ場がなくなった。 しかし「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである。罪深いが、これが罪を犯した根本の原因ではない。それは日銀もわかっているはずだ』、「「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである」、痛烈な日銀批判だ。
・『日銀は「過ち」をどうすべきか?  では、このような経緯、環境の下で、今、日本銀行は、どのように、罪滅ぼし、いやさらなる罪を犯すことを止めるように動くべきか。第1と第2の過ちは取り返しがつかない。もう、そうなってしまっているから時計の針は元に戻せない。根本的な罪は、第3の過ち「インフレターゲット2%」、物価目標の存在である。これを撤廃するのが、根本的な解決の1つである。 日銀が行うべきもっとも重要なことは、継続的な物価下落(いわゆるデフレスパイラル)とはとことん戦うが、物価が安定的にプラスあるいはゼロ付近であれば、物価自体ではなく、景気の安定化という本来の目的を直接的な政策目標とする、と宣言することである。 もはやデフレではなく、デフレスパイラルが起こる恐れは小さいのだから「物価そのものではなく、景気減速を防止するために最大限の金融政策を行う」と宣言するべきである。 しかし、これが理想ではあるが、現実的ではない。なぜなら、中央銀行の政策目標は一義的には物価であり、物価の安定を通じて、景気安定、経済の長期的な発展に資するものである、という主張は理論的には否定できない。また、現実にも、その考え方を文字通りに捉えるべきだと考える経済学者、セントラルバンカーが数多くいるからだ。 今、このような根本的な論争をしている場合ではない。危機対応、異次元緩和という異常事態の是正であるから、このような根本の議論は長期的な課題として後回しにするべきである。 最小限やっておくべきことは「物価は重要だが、2%という絶対水準にこだわるのではなく、ある程度柔軟に考える」というスタンスをはっきり打ち出すことである。これは、はっきりとは打ち出されてはいないが、暗には成立しており、日銀は、この考え方で動いている。はっきりさせたほうがよいことはよいが、すべてを犠牲にして無理してやることもない。) なんといっても、日銀がまず第1に、誰の目から見てもやるべきことがある。それはテーパリングである。しかし、それは国債ではなく株である。「上場株式の買い入れ」という百害あって一利なしの政策をとっているのだから、即刻これを止めるのである。ETF(上場投資信託)、J-REIT(上場不動産投資信託)のテーパリングである』、「ETF・・・、J-REIT・・・のテーパリング」、とは面白いアイデアだ。
・『日銀はただちに少額でいいから株を売却せよ  これは誰もが賛成するはずだ。とにかく株価を高くして儲けたいという仕手筋のような投機家以外は賛成するはずである。 そこで、テーパリングだけでなく、さらに踏み込んで、即時、売却を開始するのである。 日銀は株を持つべきでない。また株式市場は今大暴落の底にあるわけでもない。また、世界的に株式は上昇局面にあり、日本株は相対的に鈍いとはいえ、ゆるやかな上昇基調にはある。ここで売らずにどこで売る。明日にでも、日銀が株の売却を始めるのである。 ただし、それは本当に需給に影響を与えないほどの小規模で行う。例えば1日10億円程度ではじめる。これなら年間でも2000億円程度であり、ほとんどインパクトはない。 もちろん、このペースでいけば、売却終了に30年もかかってしまう。それでもいい。売らないよりはましだ。そして「日銀が株を売る」というニュースのインパクトはかなりあり、株価は一時的には大幅に下落するだろう。だが、それは一時のショックであり、その後は止まるだろうし、相場が上昇基調なら、緩やかにそのショックによる下落分は回復していくだろう。その後は、1日当たり15億円、20億円と売却額を少しずつ増やしていけばよい。 しかし、株式市場関係者、そして株価を異常に気にする官邸は、強く懸念を持つだろう。「需給には影響なくとも、そのニュースインパクトでショックを与えてしまう。だから、やめろ」と。 この政策の問題点は、ニュースによりショックが起こる可能性がある、という1点に尽きる。それならば、対策を採っておけばよい。 それは、現物のETFは相場状況によらず、淡々と一定額売っていくのだが、相場のセンチメントが大きく揺らぎ、株式市場のリスクプレミアムが異常に大きくなった場合には、そのときこそ、買い入れを行えばよいのである。そして、それは企業経営にひずみをもたらさない、議決権などガバナンスをあいまいにするという副作用をなくすために、日経平均、TOPIX(東証株価指数)先物を売買することにすればよいのだ。 これは「日銀がヘッジファンド化する」という批判を受けるであろう。だが、そんなことはない。むしろ理論的には正統派である。企業経営に影響を与えず、市場のセンチメントがおかしくなることを防ぐだけなのだから、センチメントに直接関係あるのは先物市場であるから、そこで売買を行うのは、リスクプレミアムへの働き方としては、直接的、正統的である。 私は、日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい』、「日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい」、私も賛成だ。
・『日銀が株売却の次に行うこととは?  そして、その次に行うことは、イールドカーブコントロールの“テーパリング”である。こちらは量ではなく、金利を直接コントロールしている。金融政策とは、金利を通じて経済に働きかけることであるから、これは長期金利市場を殺すという重大な副作用があるものの、政策としては本筋である。したがって、これを枠組みは維持したまま、テーパリングならぬ出口に向かって進めるのである。 それは、利上げ、つまり10年物金利をゼロ付近から、0.2%、0.5%と上げていくのが普通だが、これは利上げ、というインパクトを名実ともにもたらしてしまう。 今回のFEDのテーパリングの打ち出しで、最新の注意を払ったのは、「国債買い入れ量は減らすが、金利は上げない」というメッセージであった。つまり、この2つは別物であり「金利引き上げはより一層慎重に行う」というメッセージを繰り返し強く伝えることだった。 日銀も同じである。金利は上げない。その代わり、ターゲット年限を短くしていくのである。つまり、10年から残存期間9年の国債の市場利回りをゼロ程度に、とし、次は8年、7年、6年、5年としていくのである。 そして、最後には短期金利ゼロのみ、と金利政策において、正常化を図るのである。短期金利をゼロにするのがゼロ金利政策の核であり、短期金利操作は金融政策の王道であり、本来はすべてである。だから、これこそが本当の正常化である。 そして、これにより、長期金利市場を少しずつ生き返らせるのである。10年物の金利がどのように動くか。それを丁寧に観察して、金融政策を調節していくのである。そして、これはアメリカのテーパリングからの同国長期金利の変動の動向と歩調を合わせるようにして、調節していくのである。 したがって、このイールドターゲット短期化政策は、今、FEDがテーパリングを始めるのに合わせて行うのが適切である。もちろん、アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである。 「こちらもショックがあるのでは」という意見もあるだろう。だが、現実には、10年物の金利はゼロでくぎ付けだが、15年、20年の金利は市場で日銀の買い入れ額をにらみながらも一応生きている。したがって、まったくの断絶があるわけではない。生きている残存期間11年金利の市場から10年へと波及してくることになる。 ETFの売却、イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”、実際には短期化、この2つを日銀の次の政策変更として提案したい』、「イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”」、もいいアイデアだ。「アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである」、現実味があってよさそうだ。今回の小幡氏の提案は、なかなかの力作だ。 
タグ:ダイヤモンド・オンライン 異次元緩和政策 (その38)(世界でエネルギー価格が高騰 忍び寄るインフレの足音は日本にも?、米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める、日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か) 真壁昭夫 「世界でエネルギー価格が高騰、忍び寄るインフレの足音は日本にも?」 「日本にもインフレの波が押し寄せつつある」、本当だろうか。 「物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある」、やはり事実のようだ。 「米消費者物価指数の上昇率は」10月では前年対比6.2%と、1990年以来の高い上昇となった。FRBは依然として、上昇が一時的とみているようだが、旗色が悪くなってきた。 「経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている・・・各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている」、やむを得ない「石炭火力」依存だ。 「インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開」、となれば典型的なスタグフレーションだ。やれやれ・・・。 東洋経済オンライン ブルームバーグ 「米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める」 いわゆるテーパリング開始を決定した。「インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた」、一時は自信満々だったのに、弱気になったようだ。 「利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」、とは、利上げをそれほどしないだろうとの見方が限定的になったので、ドルがそれだけ堅調になったとの意味である。 小幡 績 「日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か」 「日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた」、との衝撃的な見解を示したのは、私が知る限り小幡氏だけである。 、日米の金融政策の大きな格差はどうして生じたのだろう。小幡氏が以下で謎解きをしてくれるようだ。 「「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった」、とは手厳しい批判だ。 「まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった」、その主犯の「「誤った」マネタリストたち」の罪はまことに深い。 「2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった」、「副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられている」、これは日銀が犯した重大なミスだ。 「リスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策」は「いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤り」、その通りだ。 「「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである」、痛烈な日銀批判だ。 「ETF・・・、J-REIT・・・のテーパリング」、とは面白いアイデアだ。 「日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい」、私も賛成だ。 「イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”」、もいいアイデアだ。「アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである」、現実味があってよさそうだ。今回の小幡氏の提案は、なかなかの力作だ。
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エネルギー(その8)(再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機、世界同時多発エネルギー危機の真因 スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった、三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負) [産業動向]

エネルギーについては、11月14日に取上げたばかりだが、余りの市場混乱を受けた今日は、(その8)(再生可能エネばかりを重視したヨーロッ
パがはまったエネルギー危機、世界同時多発エネルギー危機の真因 スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった、三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負)である。

先ずは、10月14日付けNewsweek日本版が掲載した民主主義防衛財団エネルギー問題上級顧問のブレンダ・シェーファー氏による「再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/10/post-97270_1.php
・『<現在のエネルギー需給の逼迫を招いた原因は、再生エネルギーへの過剰投資とエネルギー地政学の軽視にあり> エネルギー危機が世界中に広がっている。燃料価格の高騰や供給の不足に加え、停電も頻発している。アメリカでも一部の州は電力の安定供給に四苦八苦している。 こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた。 エネルギーはどんな商品にも使われており、全ての商品価格に影響を及ぼす。エネルギーなくして製造業は成り立たず、その価格と供給の安定は一国の経済的競争力を維持する上で死活的に重要だ。また電気代と燃料費は国民生活に必須な支出項目であり、その急激な上昇は貧困層を直撃する。電力供給に不安があれば、政府機関やインフラも維持できない。エネルギー安保の重要性は明らかで、いわゆる国家安全保障と同等に扱われねばならない。 ヨーロッパを見るがいい。ガスや石炭、電気の価格が高騰し、スペインでは家庭用電気料金の値上げに抗議するデモが起きた。イギリスでは給油待ちのトラックが長蛇の列を成している。まるで1970年代のような光景だ。このまま天然ガスをはじめとするエネルギーの不足が続けば、ヨーロッパは暖房のない冬を覚悟しなければならない。 こうした惨状に、世界各国は学ぶべきだ。ヨーロッパはエネルギー市場の再編に知恵を絞り、多額の資金を投じてきたが、見るも無惨な状況に陥った。何が間違っていたのか。他国にとっての教訓は何か』、「こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた」、その通りだ。
・『現実の複雑さを無視した議論  ヨーロッパのエネルギー問題をめぐる議論は、もっぱら再生可能エネルギー派と化石燃料派の対決という構図で行われてきた。これは文化戦争であり、後者は風力も太陽光も安定性を欠く(そもそもヨーロッパの大半の地域は日照が少ない)から、そんなものには依存できないと論ずる。逆に前者は、化石燃料は価格が変動しやすいし、ロシア産の天然ガスに依存することのリスクは大きいと指摘する。 だが現実はもっと複雑だ。エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった。 EUはエネルギー市場自由化の一環として、特定企業(ロシアのガスプロムなど)と固定価格で長期の供給契約を結ぶ方式をやめて、日々のスポット価格をベースにした契約に移行するよう促してきた。それは市場原理派の勝利を意味していたが、必ずしも安定供給と価格のバランスに関する綿密な分析を踏まえた上の判断ではなかった』、「エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった」、明快な解説だ。
・『EUの誤算でロシア有利の状況に  そのため、この政策はいくつかの点でネガティブな結果を招いた。まず、日々変動するスポット価格を基準にした結果、天然ガスの価格支配力を持つロシア側の優位性が一段と高まった。ロシアはヨーロッパ向け天然ガスの最大の供給国であり、生産力には十分な余裕がある。だから供給量の調節によって、いくらでも市場価格を操作できる。 それだけではない。固定価格方式の排除は供給の安定を困難にする。天然ガスの生産とパイプライン敷設には巨額の投資と長年に及ぶ開発期間が必要だ。それほどの投資をする意欲はなかなか生まれないから、供給側の数は限られる。結果、ロシアの市場支配力が高まった。そのロシアが欧州地域への供給拡大に後ろ向きであることも、今回の危機の要因となっている。 ロシア産天然ガスの供給減を補うには割高な液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすしかない。しかしLNGは従来から東アジア諸国が買っており、その価格水準はヨーロッパより高い。それでも買いたければ、ヨーロッパはアジア諸国以上の価格を受け入れるしかない。 価格は市場原理に委ねると言いながら、EUはしばしば政治的な目的を優先してきた。総電力に占める再生可能エネルギーの割合を増やすよう加盟国に義務付けているし、電力会社が最も採算性の高い燃料(石炭)を使うことも許さない。しかも大半の国が電気料金やガス料金に規制を設けているから、電力会社はコストを消費者に転嫁できない。 問題はそれだけではない。太陽光や風力に頼る場合、発電量は天候に左右される。しかし電力会社は電力の安定供給と停電回避を求められているので、悪天候時のバックアップ用に在来の(つまり天然ガスや石炭を燃やす)火力発電施設も維持しなければならない。 言うまでもないが、そうした余剰発電能力の維持には費用がかかる。しかしその費用は、再生可能エネルギー事業者ではなく、電力会社が負担し、最終的には消費者に転嫁される。しかもエネルギー価格の上昇を受けて、イギリスを含む各国政府は新たに価格上限を設けた。これでは市場の自由を放棄したに等しい。 ヨーロッパは長期に及ぶ寒波の到来といった急激な電力需要増への対策を用意していない。自国内で電力不足が予想される場合、各国政府はどんな犠牲を払っても国内向けの天然ガスを確保しようとする。例えば厳冬となった2010年の初め、一部の国は国内の暖房用電力を確保するため、ルール違反を承知でパイプラインから他国向けのガスを抜き取った。今年もガスの供給量が落ち込んでいるから、同様な事態が起きる可能性がある。) また、再生可能エネルギーに莫大な投資をしながら、ヨーロッパは電力供給の要となる送配電網への投資をおろそかにしてきた。電力の安定供給には蓄電システムやバックアップ電源の確保、送配電網の整備など複雑な体制づくりが必要で、とても民間だけでは対応できない。 電力会社に適切な蓄電とバックアップの体制を義務付けるのが無理なら、政府自身がその責任を果たすしかない。電気自動車のために補助金を大盤振る舞いして電力の使用を増やす一方で、そこで生じる需要増に見合うだけの電力供給体制を用意しないとすれば、大規模停電のお膳立てをしているようなものだ』、極めて手厳しい欧州政府への批判だ。
・『エネルギー地政学への関与をやめた欧州  最後に、ヨーロッパ各国はエネルギー地政学への関与をやめてしまった。EUはかつて、域内の天然ガスパイプライン網を構築し、カスピ海沿岸からの新しい天然ガス輸送プロジェクトなどを進め、エネルギー安全保障の強化に成功した。 こうしてヨーロッパにおけるガス供給の安全は高まり、多くの地域でロシアの独占は失われた。だが現在の欧州委員会はエネルギー政策を気候政策の一部としており、安全保障や手頃な価格のエネルギー供給にはほとんど注意を払っていない。 地中海東部などの比較的近い場所でも新しい天然ガス資源が発見されているのに、EUの指導者たちは環境活動家の圧力に屈し、新たに利用可能な資源の開発に真剣に取り組もうとしていない。 また福島第一原発の事故以来、ドイツを含む一部の諸国が原子力発電所の閉鎖や順次廃止に踏み切ったため、安全で安定したクリーンなエネルギー源が失われたことも、現下のエネルギー危機の要因の1つだ。 アメリカも同じ道を歩み、遠からずヨーロッパ的な危機を招くのだろうか? 状況は似ている。今年2月の寒波で起きたテキサス州の電力危機や8月のカリフォルニア州の計画停電は、今後起こりそうな事態の前触れかもしれない。 アメリカもエネルギー地政学に背を向けようとしている。バイデン政権はパンデミックでエネルギー需要が急減した後、国内の石油・ガス生産の再開を抑制している。石油・ガスへの民間投資も、化石燃料からの撤退を求める国際社会の圧力や世論の動向、そして投資家の意向によって抑えられている。 アメリカ政府はOPEC(石油輸出国機構)からの輸入を増やせばいいと考えているようだが、それでは化石燃料の生産地がアメリカから外国に移るだけで、環境問題の改善にはならない。またエネルギー安全保障上の新たな懸念も生じる。) アメリカ政府が国内の化石燃料生産を抑え続けるなら、1970年代のようにOPECが価格と供給を支配することになる。これでは気候や環境面の利点がほとんどなく、地政学上の問題が増加するだけだ。 バイデン政権はまた、国内のエネルギー供給の安定を確保できるはずだった複数のパイプライン敷設計画を中止させた。 このことは天然ガスの価格に重大な影響を及ぼす。LNGに対する需要は世界中で増えているから、米国産天然ガスも多くは輸出に振り向けられる。そうなれば、国内のエネルギー価格は高騰する』、「アメリカ政府が国内の化石燃料生産を抑え続けるなら、1970年代のようにOPECが価格と供給を支配することになる。これでは気候や環境面の利点がほとんどなく、地政学上の問題が増加するだけだ」、その通りだ。
・『欧州の危機を反面教師にせよ  またアメリカは連邦レベルでも州レベルでも、運輸産業などにおけるエネルギー消費の「電化」を推進している。国内最大のエネルギー消費地であるカリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州は今でも電力の構造的な不足を抱えているのに、政府が電力消費の増加を促している。しかも電力需要の増加に対応できる送配電網は整備されていない。 今こそ世界各国はヨーロッパのエネルギー政策の失敗をつぶさに検証し、現在のエネルギー危機を、同じ過ちを犯さないための警鐘と捉えるべきだ。電力の生産・供給・販売は民間企業でもできる。しかし電力不足で大規模停電が起きた場合、国民は政府の責任を問う。手頃な価格でエネルギーを安定供給できないような国に、未来はない』、「国内最大のエネルギー消費地であるカリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州は今でも電力の構造的な不足を抱えているのに、政府が電力消費の増加を促している」、アメリカでも政策は整合性を著しく欠いているようだ。

次に、10月22日付け日経ビジネスオンラインが掲載したエネルギーアナリスト/ポスト石油戦略研究所代表の大場 紀章氏による「世界同時多発エネルギー危機の真因、スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00237/102100014/
・『昨今の原油高や欧州での電力・ガス価格の高騰などは、なぜ起きているのか。急激に動き出した各国の脱炭素政策の影響はあるのだろうか。エネルギーアナリストでポスト石油戦略研究所代表の大場紀章氏に解説してもらった。 現在、世界同時多発的にエネルギー危機が発生している。特に、欧州での電力・ガス価格の高騰、中国での計画停電、そして原油価格高騰によるガソリン高が話題になっている。 こうした問題を受けて「脱炭素政策の行き過ぎによるもの」という指摘がある。全く無関係とまでは言わないが、ほとんどナンセンスと言っていい。そう説明がしたい人による説明だろう。 そもそも「脱炭素政策」というのは、この2年で急に世界で起きたムーブメントであり、そのような短期間でエネルギー供給の構造が大きく変わるということはない。 それでは、なぜエネルギー価格が一斉に上昇しているのか。価格高騰原因は、どこを起点にして、何を前提にして考えるかによって様々な説明があり得る。究極的には神学論争となるが、筆者が最も説得力があると考えているのは、化石資源開発の停滞問題である』、「「脱炭素政策の行き過ぎによるもの」という指摘がある。全く無関係とまでは言わないが、ほとんどナンセンスと言っていい」、「価格高騰原因は・・・・様々な説明があり得る・・・筆者が最も説得力があると考えているのは、化石資源開発の停滞問題である」、なるほど。
・『石油業界の懸念が的中した  覚えておられる方もいるかもしれないが、2014年から2016年にかけて原油価格が大幅に下落した時期があった。きっかけは2014年春に上海株式市場が混乱し、中国経済の失速懸念が出たことだった。 世界のエコノミストが予想経済成長率を軒並み下方修正した結果、それまで1バレル100ドル程度で推移していた原油価格が急落。さらに同年秋の石油輸出国機構(OPEC)総会で、市場が期待していた減産合意を行わなかったことで、原油価格はさらに下落し、歯止めが効かなくなった。このOPECの動きは後に「シェール潰し」などと呼ばれた。 その結果、石油やガスの上流投資は大幅に削減され、投資額がピークだった2014年比で2016年は45%の減少となった』、
・『化石資源の上流投資額は2014年がピークだった  その後、原油価格は徐々に回復したが、石油・ガス業界は数十万人のリストラに踏み切るなどダメージが大きく、上流投資が戻って来ない状況が続いていた。そこに到来したのが、新型コロナウイルス感染拡大による経済の停滞だ。コロナ禍によって再び原油価格は下落し、上流投資はさらに減って2020年は2014年比で58%減となった。 一般に、石油・ガス開発は、開発サイクルの速いシェールを除けば、投資から生産まで少なくとも5~6年はかかる。このため2015年以降の上流投資不足が2020~2021年ごろの供給に影響を及ぼすだろうと、石油業界はかねて懸念していた。 ところが、2020年はコロナ禍で石油需要が縮小してしまったため、この懸念はひとまず表出せずに済んだ。だが、徐々に世界経済が回復するにつれて、供給力不足の問題が原油価格の高騰という形で現れてきたというのが筆者の見立てである』、「石油・ガス開発は・・・投資から生産まで少なくとも5~6年はかかる。このため2015年以降の上流投資不足が2020~2021年ごろの供給に影響を及ぼすだろうと、石油業界はかねて懸念・・・2020年はコロナ禍で石油需要が縮小してしまったため、この懸念はひとまず表出せずに済んだ。だが、徐々に世界経済が回復するにつれて、供給力不足の問題が原油価格の高騰という形で現れてきたというのが筆者の見立てである」、なるほど。
・『脱炭素トレンドは上流投資縮小より後の話  脱炭素やカーボンニュートラルというトレンドは、2019年の英国による宣言を皮切りに顕在化した。2019年にEU各国が英国に続いて宣言し、2020年には中国、そして日本も続いた。米国もバイデン政権が誕生すると、この動きに追随した。 だが、いずれも石油・ガス上流投資が縮小した後に起きており、直接関係がない。確かに今年に入り石油メジャーが脱炭素のために石油開発を縮小するという動きはあったが、現在の生産量には全く影響していないだろう』、「脱炭素トレンドは上流投資縮小より後の話」、その通りなのだろう。
・『英国の危機は不幸な事態がたまたま重なった  現在起きている世界エネルギー危機の中でも、最も深刻な事態となっているのは英国だろう。不幸にも様々な事態が、たまたま重なって危機に陥ったと筆者はみている。 まず、上流投資縮小の影響が最も出た地域の1つが欧州の北海油田・ガス田であり、生産量が大きく縮小している。それに加え、欧州の排出権価格(EU-ETS)の高騰で石炭火力から天然ガス火力へのシフトが起き、天然ガス需要が増えていた。そこへきて、たまたま風が弱い時期が続き、風力発電の出力が低下した。 加えて、計画していたロシアからのガスパイプラインの稼働時期が米国の制裁のため遅れていることや、米国のLNG(液化天然ガス)輸出基地の投資が縮小していたことも影響した。中国が国内の石炭炭鉱の生産性向上のために生産抑制政策を打ち出し、LNG調達量を増やしたことで、アジアのLNG価格が高騰。その結果、米国のLNGが欧州ではなくアジアに向かったことが追い打ちをかけている。 こうして欧州の天然ガス在庫量が例年を下回り、ガス価格の高騰から電力価格が急激に上昇。その影響で小売事業者が破綻するといった事態が連鎖的に発生しているのだと考えられる。 一部には、風力発電の出力低下を電力不足の要因とする声もあるが、欧州で再エネを主因とする言説はマジョリティではない。むしろ、だからこそ風力開発を加速すべきだとさえ言われている』、「たまたま風が弱い時期が続き、風力発電の出力が低下・・・計画していたロシアからのガスパイプラインの稼働時期が米国の制裁のため遅れ・・・米国のLNG輸出基地の投資が縮小していたことも影響」、多くの要因が重なったようだ。
・『短期的にはCO2排出量を増やす方策で、この冬をしのぐ  世界的なエネルギー価格の高騰は、元をたどれば石油・ガスの上流投資の縮小に起因しているため、現在の状況はすぐには解決しない。欧州で石炭火力や石油火力を稼働させたり、中国で石炭を増産するなど、短期的にはCO2排出量を増やす方策を講じながら、なんとか今年の冬を越すしかない。 上流側の打開策としては、OPEC加盟国とロシアなどでつくる「OPECプラス」による減産解除の前倒しやロシアの天然ガスパイプラインの稼働、そして中国による石炭の増産がある。時期は読み通せないが、エネルギー価格の高騰が続けば、いずれ動き出すだろう。 天然ガスと石炭の需給は、この3つの方策で緩むはずだ。ガスと石炭は発電用燃料としての利用が中心なので、3つの方策によって電力価格の高騰はしばらくの間は乗り切れるだろう。 石油に関しては、EV(電気自動車)が欧州や中国でいくら売れても、世界の道を走る車が内燃機関から電動車に入れ替わるには、長い時間を要する。つまり、輸送の電動化は短期的な石油需要削減の効果はほとんどない。加えて、OPECプラスの増産余地はさほど大きくない。このため、原油高は世界経済が減速するまで高止まりが続く可能性がある。 国際エネルギー機関(IEA)は、石油が不足していても上流投資の増額は不要で、再エネに今の3倍投資すべきだとした。ただ、現状を直視すれば「石油投資はまだ必要」だとメッセージを出すのがIEAの本来の役割だろう』、「現状を直視すれば「石油投資はまだ必要」だとメッセージを出すのがIEAの本来の役割だろう」、その通りだ。
・『上流開発の不足を甘く見ていた  結局、現在のエネルギー危機は、脱炭素トレンドとは無関係で、単に社会が化石資源の上流開発の不足を甘く見ていたため発生したのである。 一方、脱炭素トレンドは、「これからは化石資源に頼らずとも再生可能エネルギーで賄える」と人々に信じさせたという意味で、上流投資の問題に気づくのを遅らせたという影響はあったかもしれない。 サウジアラビアの元石油大臣だったアハマド・ザキ・ヤマニは、「石器時代は石が不足して終わったのではないように、石油時代も石油が枯渇して終わるのではないだろう」と言ったといわれる。 これは、石器に代わる鉄器などのより良い道具が出現したことが、石器時代を終わらせたという意味だが、現在起きていることは、鉄器が十分供給される前に、石の供給を止めた結果、道具が不足してしまったという状況にあたる。新しい道具は使い方が異なるので、うまく扱わなければケガをすることもあるだろう。 石油時代を終わらせるには、投資を先に止めるのではなく、それに代わるものを普及させることで、石油を無用のものとするしかない。そうでなければ、現在起きているような危機を繰り返すことになるだろう。(大場氏の略歴はリンク先参照)』、「現在のエネルギー危機は、脱炭素トレンドとは無関係で、単に社会が化石資源の上流開発の不足を甘く見ていたため発生したのである。 一方、脱炭素トレンドは、「これからは化石資源に頼らずとも再生可能エネルギーで賄える」と人々に信じさせたという意味で、上流投資の問題に気づくのを遅らせたという影響はあったかもしれない」、なるほど。

第三に、11月22日付け東洋経済オンライン「三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/470519
・『総合商社大手の三菱商事は10月18日、温室効果ガス(GHG)排出量を2050年に実質ゼロにする方針を公表。あわせてエネルギートランスフォーメーション(EX)関連投資へ2030年までに2兆円を投じる方針を明らかにした。 現在は世界的に脱炭素が叫ばれ、再生可能エネルギーの普及が進む、まさに「エネルギーの移行期」だ。三菱商事にとっても再エネの導入拡大や水素・アンモニア事業への投資など、脱炭素社会を見据えたビジネスモデルへ転換させていくことは喫緊の課題となっている。 一方、足元では急速な再エネの普及が電力供給の不安定さを誘発する一因となり、天然ガスや石炭など化石燃料の価格高騰につながった。一足飛びに脱炭素を急げば、エネルギー価格の高騰や電力不足を招きかねない事態になっている。 資源の安定供給に深く携わってきた商社トップは、現在のエネルギー市場の激変をどう見るか。三菱商事の垣内威彦社長を直撃した(Qは聞き手の質問、Aは垣内氏の回答)、「エネルギー」取扱高、商社NO.1の「三菱商事」社長へのインタビューとは興味深そうだ。
・『異常なのは天然ガス価格  Q:世界的に資源価格が高騰しています。  原油価格は1バレル=60~70ドル前後が妥当な水準だ。(足元の)80ドル前後は決しておかしなレベルではない。 いま異例の価格をつけているのは天然ガスだ。異常気象の影響を受けて、欧州と中国が大量に天然ガスを買っている。 重要なのは、現在のようなエネルギーの移行期には需給のバランスが取りにくくなるということだ。世界的に再エネの比率が明らかに増えてきている。再エネは天候によって出力が変動する電源で、猛暑や厳冬といった事情で需要が変化すれば、需給が不安定になりやすい。 その結果、資源、電力価格の上昇につながる。これは企業にとっては大きな問題だ。エネルギーは最も基礎的な素材だから、エネルギー価格が2倍、3倍と上がってしまえば事業の採算をとりづらくなってしまう。 Q:エネルギー移行期に商社が果たす役割は? A:移行期の局面で、エネルギーを安定供給するためには天然ガスやLNG(液化天然ガス)を活用するほかない。特に日本ではそうだ。 (脱化石燃料の)流れに逆行するようだが、われわれは局面に応じてLNGの増産や再投資をする覚悟があると、10月に公表した「カーボンニュートラル社会へのロードマップ」の中で示した。エネルギーの安定供給に必要ならばこそこそ黙って投資するのではなく、腹を括って実行しようと決断した。 長期で見たときに究極のエネルギーは何かというと、水素やアンモニアだろう。ただ、当面はコスト上の問題や安定供給を考えるとCO2(二酸化炭素)を分離・回収した上で、天然ガスから比較的安価なブルー水素・ブルーアンモニアが製造されることになる』、「移行期の局面で、エネルギーを安定供給するためには天然ガスやLNG・・・を活用するほかない。特に日本ではそうだ・・・エネルギーの安定供給に必要ならばこそこそ黙って投資するのではなく、腹を括って実行しようと決断した」、なるほど。
・『「半歩先」を予測してきた  どちらも元になる素材は天然ガスだ。つまり、天然ガスは繋ぎのエネルギーとして、長期にわたって生き残る。そんな宿命を背負った燃料になるだろう。 やがては(生成時にCO2を排出しない)グリーン水素があるはずだが、イノベーションを起こさないと実現は難しい。2030年までの話と2050年の話をするのでは大違いだ。 Q:社内でも議論があったのではないでしょうか? (垣内氏の略歴はリンク先参照) A:ロードマップの策定に当たっては、社会の変化に対して三菱商事がどう対応するべきかを議論した。グループ(部門)の壁を越えて議論することが重要だ。社長就任以来、組織がたこつぼ化しないようにと、ずっと心掛けてきた。 2年ほど前から天然ガス、石油化学ソリューション、電力ソリューションの3グループを中心に議論を重ねてきた。このロードマップをしっかり理解し、全社員が一丸となって前に進んでいかなければならない。 当社が今日までやって来られたのは将来を予測し、半歩先を歩んできたからだ。例えば、かつて(1969年に)東京ガスとともに日本へ初めてLNGを導入したときも半歩先を歩むという姿勢があったからこそ、上手くいったのだと思う。外部環境や価値観の変化といった難しい局面をこれまで何度も乗り越えてきた。そのことを忘れてはいけない。 Q:一方、再エネにも投資を加速する計画です。 A:2030年度までにエネルギートランスフォーメーション(EX)関連投資に2兆円を投じる。このうち、約半分ほどは洋上風力を中心とする再エネに投資し、再エネの持分容量を660万kWに倍増させる見通しだ。発電機の大型化が進む風力はまだまだコストダウンを図れる。 資源についても次世代で必要とされる競争力の高い案件には力を入れていきたい。一般炭権益を売却し、電化に欠かせない銅などへ資産の入れ替えを進めてきた。2022年度にはペルーのケジャベコ銅鉱山が生産を開始する』、「半歩先を歩むという姿勢があったからこそ、上手くいったのだと思う」、「半歩先を歩む」、というのも、余り先行し過ぎずにやる絶妙なバランスなのだろう。
・『AIやデジタル化も活用  Q:2兆円というと巨額ですね。 A:再エネや鉱山開発、アンモニアなどを進めるとお金がかかる。それなりの試算をした上で約2兆円という金額を出している。私が社長に就任して6年弱の間にグロスで5兆円を投資し、約3兆円を回収している。2030年までに2兆円というと年間2000億円程度だ。三菱商事のポートフォリオからすれば、無理のない金額だ。 Q:脱炭素はピンチとチャンスどちらですか。 A:当社は2050年に温室効果ガス排出量をネット(実質)ゼロにする方針を掲げており、全社を挙げて実現に取り組んでいる。 今後、自らカーボンニュートラルを達成できない企業は、未達となる排出量分の炭素クレジットを購入しなさいという仕組みが導入される可能性がある。当社の排出量(2020年度)は2530万トン。仮に炭素クレジットが1トン当たり150ドルかかる前提なら、金額は約38億ドル(約4300億円)にものぼる。早めに手を打って再エネを推進していくことが重要だ。 脱炭素の移行期に、単純にエネルギーを置き換えるだけというのは原始的な発想。AI(人工知能)やデジタル化といったイノベーションを組み合わせ、省エネなどにつなげることも重要だ。それが企業価値を高めることにもつながる』、「私が社長に就任して6年弱の間にグロスで5兆円を投資し、約3兆円を回収・・・2030年までに2兆円というと年間2000億円程度だ。三菱商事のポートフォリオからすれば、無理のない金額だ」、「回収」がかなりあるのに驚かされた。「脱炭素の移行期に、単純にエネルギーを置き換えるだけというのは原始的な発想。AI(人工知能)やデジタル化といったイノベーションを組み合わせ、省エネなどにつなげることも重要」、なるほど上手いやり方だ。
タグ:エネルギー (その8)(再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機、世界同時多発エネルギー危機の真因 スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった、三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負) Newsweek日本版 ブレンダ・シェーファー 「再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機」 「こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた」、その通りだ。 「エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった」、明快な解説だ。 極めて手厳しい欧州政府への批判だ。 「アメリカ政府が国内の化石燃料生産を抑え続けるなら、1970年代のようにOPECが価格と供給を支配することになる。これでは気候や環境面の利点がほとんどなく、地政学上の問題が増加するだけだ」、その通りだ。 「国内最大のエネルギー消費地であるカリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州は今でも電力の構造的な不足を抱えているのに、政府が電力消費の増加を促している」、アメリカでも政策は整合性を著しく欠いているようだ。 日経ビジネスオンライン 大場 紀章 「世界同時多発エネルギー危機の真因、スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった」 「「脱炭素政策の行き過ぎによるもの」という指摘がある。全く無関係とまでは言わないが、ほとんどナンセンスと言っていい」、「価格高騰原因は・・・・様々な説明があり得る・・・筆者が最も説得力があると考えているのは、化石資源開発の停滞問題である」、なるほど。 「シェール潰し」とは上手く表現したものだ。 「石油・ガス開発は・・・投資から生産まで少なくとも5~6年はかかる。このため2015年以降の上流投資不足が2020~2021年ごろの供給に影響を及ぼすだろうと、石油業界はかねて懸念・・・2020年はコロナ禍で石油需要が縮小してしまったため、この懸念はひとまず表出せずに済んだ。だが、徐々に世界経済が回復するにつれて、供給力不足の問題が原油価格の高騰という形で現れてきたというのが筆者の見立てである」、なるほど 「脱炭素トレンドは上流投資縮小より後の話」、その通りなのだろう。 「たまたま風が弱い時期が続き、風力発電の出力が低下・・・計画していたロシアからのガスパイプラインの稼働時期が米国の制裁のため遅れ・・・米国のLNG輸出基地の投資が縮小していたことも影響」、多くの要因が重なったようだ。 「現状を直視すれば「石油投資はまだ必要」だとメッセージを出すのがIEAの本来の役割だろう」、その通りだ。 「現在のエネルギー危機は、脱炭素トレンドとは無関係で、単に社会が化石資源の上流開発の不足を甘く見ていたため発生したのである。 一方、脱炭素トレンドは、「これからは化石資源に頼らずとも再生可能エネルギーで賄える」と人々に信じさせたという意味で、上流投資の問題に気づくのを遅らせたという影響はあったかもしれない」、なるほど。 東洋経済オンライン 「三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負」 「エネルギー」取扱高、商社NO.1の「三菱商事」社長へのインタビューとは興味深そうだ。 「移行期の局面で、エネルギーを安定供給するためには天然ガスやLNG・・・を活用するほかない。特に日本ではそうだ・・・エネルギーの安定供給に必要ならばこそこそ黙って投資するのではなく、腹を括って実行しようと決断した」、なるほど。 「半歩先を歩むという姿勢があったからこそ、上手くいったのだと思う」、「半歩先を歩む」、というのも、余り先行し過ぎずにやる絶妙なバランスなのだろう。 「私が社長に就任して6年弱の間にグロスで5兆円を投資し、約3兆円を回収・・・2030年までに2兆円というと年間2000億円程度だ。三菱商事のポートフォリオからすれば、無理のない金額だ」、「回収」がかなりあるのに驚かされた。「脱炭素の移行期に、単純にエネルギーを置き換えるだけというのは原始的な発想。AI(人工知能)やデジタル化といったイノベーションを組み合わせ、省エネなどにつなげることも重要」、なるほど上手いやり方だ。
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東芝問題(その42)(紆余曲折を経て新方針が決まった 東芝が繰り出した「会社3分割」に拭えない懸念、東芝的な企業分割は案外はやりそうだが 社員には「残酷な未来」が待つ理由、不祥事の温床だった東芝…「3社分割」をした後に起きる「スゴいこと」 透明性は高まるか) [企業経営]

東芝問題については、6月30日に取上げた。今日は、(その42)(紆余曲折を経て新方針が決まった 東芝が繰り出した「会社3分割」に拭えない懸念、東芝的な企業分割は案外はやりそうだが 社員には「残酷な未来」が待つ理由、不祥事の温床だった東芝…「3社分割」をした後に起きる「スゴいこと」 透明性は高まるか)である。

先ずは、11月17日付け東洋経済Plus「紆余曲折を経て新方針が決まった 東芝が繰り出した「会社3分割」に拭えない懸念」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28819
・『漂流状態に陥っていた中、ようやく新たな中期経営計画が示された。事業会社をスピンオフさせる方針には課題もある。 紆余曲折の末に1つの「答え」を示した。 11月12日、東芝は新たな中期経営計画を発表し、2つの事業会社をスピンオフ(分離)させる方針を打ち出した。発送電や鉄道、ビルマネージメントなどの「インフラサービス」と、パワー半導体やHDDといった「デバイス」を担当する新会社を設立し、2023年度中に上場させる。 存続する旧「東芝」は半導体メモリー大手のキオクシアと、上場子会社である東芝テックの株式を保有する。東芝は実質的に3分割される格好だ』、様々な問題に見舞われ混乱の極致にあった「東芝」が、ようやく出した回答が「総合電機の看板を下ろす」「3分割」だ。
・『総合電機の看板を下ろす  2017年にスピンオフを円滑化する税制改正が行われて以降、日本のコングロマリット(複合企業)による初めてのケースとなる。東芝の中では、非上場化や事業の切り売りも検討されたが、総合電機の看板を下ろしての再出発を選択した。 「執行側が自信を持って提案した案だ」。東芝の綱川智社長は12日の会見で、今回の決定が大株主であるアクティビスト(モノ言う株主)から押し付けられたものではないことを強調した。一定の方向性を決めた安堵からか、4月から急きょ再登板している綱川社長の頬が緩む場面も見られた。 英投資ファンドによる買収計画の浮上や前社長の唐突な辞任に端を発した今年4月以降、東芝は漂流状態に陥った。6月には20年の定時株主総会をめぐり、経済産業省を通した株主への不当な圧力があったとの調査報告書が発表される。 直後の株主総会では、永山治議長らの取締役再任案が否決。不測の事態を受け、綱川社長が取締役会議長を務めることになった(東芝では社外取締役が議長を務める内規がある)。 こうした混乱を受け、東芝は総会後に社外取による「戦略委員会」を設置。株主と意見交換しつつ今後の方向性を決めることにした。並行して綱川社長や執行部も新たな中計の作成に取りかかることになった。 執行部は当初、一部の非中核事業を売却する形を検討していた。選択と集中を進めて株主の理解を得つつ、コングロマリットは維持する。従来路線の延長線上にある発想だった。 それに「待った」をかけたのが戦略委だ。執行部とは別に5つのプライベートエクイティー(PE)ファンドと非上場化について協議した。その場合、非上場化後に各事業をバラバラにして売却する可能性も高い。協議内容は、東芝の成長戦略から、非上場化する際の株式公開買い付けの価格水準にまで及んだ。ただ、経済安保問題やキオクシアの評価の難しさもあり、ファンドによる買収は難しいと判断したという。 一方で、執行部の提案も、「中核事業における価値創造がかなり不確実」と戦略委から評価された。過去の中計において、業績目標が未達に終わるケースが多く、信用されなかったのだ』、「執行部は当初、一部の非中核事業を売却する形を検討していた。選択と集中を進めて株主の理解を得つつ、コングロマリットは維持する・・・それに「待った」をかけたのが戦略委だ」、「社外取による」組織が効果を上げたようだ。
・『値踏みは始まったばかり  そうした中、今年9月になって浮上したのがスピンオフ案だった。ビジネスサイクルや投資形態が異なる事業を、それぞれが独立して運営したほうが「専門的かつ俊敏な経営」を実現できるとして最終決定に至った。11月12日の会見では各事業の業績目標や投資計画も発表。「次の体制」へ一気に動き出す姿勢を示した。 しかし、スピンオフには課題もある。東芝全体では3兆円超の売り上げ規模だが、個々の事業規模は数千億円程度。顧客が全世界にわたるだけに、営業や調達などはそれぞれが協力する「規模のメリット」を享受してきた。別の日系のコングロマリット企業幹部は「各事業で分かれて逆にコストがかからないか」と懐疑的な目を向ける。 東芝のスピンオフ案もそんな見方を意識してか、エネルギーとビルシステムが一体となるなど、規模の維持に腐心した跡も見受けられる。真の意味で、専門的かつ俊敏な経営を実践できるかどうかには懸念も残る。 また、スキームには生煮えの部分もある。東芝が保有する、キオクシアや東芝テックといったグループ会社の扱いが決まっていないからだ。キオクシア株は売却する方針だが、キオクシアが上場するのか、他社が買収するのか決まっていない。上場子会社の東芝テックについて、綱川社長は、「連結子会社で、キオクシアとは位置づけが違う。決まったことは何もない」と述べるにとどめた。 東芝は2022年3月までに臨時株主総会を開いて承認を求めるが、株主らは様子見だ。筆頭株主で約10%を保有するエフィッシモは11月13日、「まだ賛否は決定していない」との声明を出した。この案についての値踏みは始まったばかり。3分割を実現するまでは、まだ予断を許さない』、「2022年3月」までにこの問題を巡って議論が活発化するだろう。

次に、11月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「東芝的な企業分割は案外はやりそうだが、社員には「残酷な未来」が待つ理由」を紹介しよう。
・『東芝に米ゼネラル・エレクトリック(GE)、米ジョンソン・エンド・ジョンソンが立て続けに会社を分割する計画を発表した。筆者は、この「会社分割」が今後、案外はやるのではないかと思う。しかしそうなれば、分割される会社で働いてきた社員にとっては「残酷な未来」が待っているだろう。コストカットやリストラに対する圧力の高まりや労働強化、そして経営幹部と社員の間の格差拡大が予想されるからだ』、「分割される会社で働いてきた社員にとっては「残酷な未来」が待っている」、とは不吉な予告だ。
・『東芝もGEもJ&Jも会社分割 コングロマリットディスカウント解消へ(何かと話題の多い会社である、あの東芝が、会社を3分割する案を発表した。インフラ事業とデバイス関連事業と大手半導体メーカーであるキオクシアホールディングス(HD)の株式などを管理する会社に3分割するという。 一方、米国でもゼネラルエ・レクトリック(GE)がエネルギー、医療、航空の3事業に会社を分割すると発表したし、ジョンソン・エンド・ジョンソンも日用品や市販薬などの「消費者向け部門」と処方薬や医療機器などの「医療向け部門」に2分割すると発表した。 いずれもお題目は「コングロマリットディスカウント」の解消だ。コングロマリットディスカウントとは、複数の事業を持つ会社の時価総額が、個々の事業を上場した場合の時価総額の合計を下回ることを指す』、「GE」や「J&J」まで「「コングロマリットディスカウント」の解消」に走っているようだ。
・『株主が「会社分割」を歓迎し 経営者や銀行が避けてきた理由  例えば、異なる分野の事業A、B、Cを持つ会社があるとして、この3部門を分割して上場すると考えよう。 三つの事業を持つ状態では、一定のリスク分散効果が働いて会社は安定する。これは、お金を貸している銀行や社債の保有者には望ましい状態だが、有限責任の下でアップサイドを追求したい株主にとっては不利な要素だ。 一方、A社、B社、C社に分割して別々に経営すると、大成功する会社もあるかもしれないし、失敗して倒産に至る会社もあるかもしれない。事業A、B、Cの将来のキャッシュフローに対する期待値を一定とした場合、大成功する会社によってメリットを得ることが期待できる株主には好都合で、倒産するリスクを負わねばならなくなる債権者には不都合だ。 大まかには、債権者が保有する企業価値が低下して、その分株主が保有する企業価値が増加する。もちろん、債権者たる銀行や社債保有者は契約で会社を縛っているので、株主の自由に何でもできるわけではないが、株主は事業分割を歓迎する傾向がある。 一方、従来の経営者にとっては倒産リスクが小さい複合的な会社の方が自分の保身には好都合だし、会社が大きいことのステータス感もある。A、B、Cの事業には「シナジー効果」(相乗効果)があると説明して、コングロマリットを維持しようとする傾向が強かった』、「大成功する会社によってメリットを得ることが期待できる株主には好都合で、倒産するリスクを負わねばならなくなる債権者には不都合だ」、「従来の経営者にとっては倒産リスクが小さい複合的な会社の方が自分の保身には好都合だし、会社が大きいことのステータス感もある」、なるほど。
・『東芝のコングロマリットディスカウント解消が単なる「お題目」に思える理由  ただし今回の東芝の場合、同社の戦略委員会は以下の7点を主なコミットメントだとしている。 ・移行チームの立ち上げ ・キオクシアHD株式の現金化と株主還元 ・借入金比率の引き上げと自社株買いの実施 ・分割会社での海外人材の登用 ・事業売却を含む事業構成見直しとコスト削減 ・外部企業との提携模索 ・ガバナンス強化) いずれもいわゆるアクティビスト(物言う株主)やファンド株主の好みそうな内容である。率直に言って、コングロマリットディスカウントの解消よりも、自社株買いに、借入金比率の向上によるレバレッジの引き上げ、さらにコスト削減、株主寄りの経営の強化、といったことの効果が大きそうに見える。 「コングロマリットディスカウントの解消」はむしろ単なるお題目で、事業分割を通じた株主利益追求のための財務政策の実施が株主の望みであり、それに東芝の経営陣が呼応せざるを得ない状況なのではないか。 では、わが国で、こうした東芝的な事業分割は今後も登場するのだろうか。分割できる複数の事業分野を持つ会社は多い』、「「コングロマリットディスカウントの解消」はむしろ単なるお題目で、事業分割を通じた株主利益追求のための財務政策の実施が株主の望みであり、それに東芝の経営陣が呼応せざるを得ない状況なのではないか」、その通りなのかも知れない。
・『会社分割が案外はやるのではないか そう考える理由  筆者は、案外はやる可能性があるのではないかと思う。 今回東芝は、アクティビスト的なファンド株主に追い込まれて、このような事態を迎えているように見えるが、同社の場合は株主の構成上、時間が早く進んでしまった。しかし、アクティビストが追い込まなくても、株主の経済的な利益の方向性は一緒だ。経営者のインセンティブ構造を変化させると、事業分割は他の会社でも行われる可能性がある。 端的に言って、事業分割は、経営者に経済的メリットを与える「きっかけ」として利用できる。 例えば、A社、B社、C社に事業を分割してこれを上場させるとしよう。そのとき経営者に自社株を付与したり、ストックオプションを与えたりして、彼らが個人的にもうけられる機会を作ると、彼らが事業の分割に協力してくれる可能性は大いにあるのではないか。 現在でも多くの会社が、社外取締役の起用で体裁を整えつつ、横並び的に他社を見ながら経営幹部の報酬をじわじわと上げ続けている。しかし、経営者たちは(特にサラリーマン経営者は)もっと手っ取り早くもうけたいだろう。 事業分割は、ストックオプションなどの制度を変えたり、事業を売却してキャッシュを作ったり、株式の上場を通じる収益機会を作ったりするのに好都合なイベントとすることができる。 もちろん、株主にとってももうかるものになり得るのは前述の通りだ。 現在、日本が米国に何周か遅れて進めている「ガバナンス改革」も大いに利用できそうだ。 多くの企業が、多額のキャッシュないしキャッシュ相当の資産を保有しているし、売却できる事業を抱えている。「事業分割でひともうけ!」は、投資家、投資銀行家、経営者の利害が一致する可能性のあるたくらみである。 経営者個人の価値観が、会社の大きさや安定よりも個人の経済的メリットに傾斜するなら、大いにありそうなことだ。事業分割をうまく使うと、サラリーマン経営者にすぎない人物でも、これまでに期待できた収入よりも1桁大きな報酬を手に入れられるかもしれない。 かくして、投資家を潤しながら、一般社員と経営幹部の経済格差がより大きく広がるのではないか、というのが「経済的には自然だが、あまり美しくない未来の日本企業の姿」ではないだろうか』、「経済的には自然だが、あまり美しくない未来の日本企業の姿」、」とは言い得て妙だ。
『リストラ、コストカット、格差拡大…会社分割後の社員を待つ「厳しい未来」  社員にとって、東芝的な事業分割はどのような意味を持つのだろうか。一言で言えば、厳しいものになるだろうというのが、筆者の予想だ。 それは、前出の東芝の経営委員会のコミットメントが雄弁に物語っている。かつて、不適切会計問題につながった「チャレンジ」の洗礼を受けた東芝社員にとっても、楽な未来ではなさそうだ。 コングロマリットの解消で分割後の会社は経営的によりリスキーになるし、自己資本比率も下がりそうだ。 分割後のA社、B社、C社には待遇の差が生まれるだろうし、事業売却もあれば、事業の再編成を理由とするコストカットやいわゆるリストラ(雇用削減)もあるだろう。事業ごと提携先に吸収される可能性もあるし、海外人材の登用(例えば役員)なども一般論としては労働強化要因だ。 個々の社員としては、自分が「コスト」として目を付けられないように頑張るしかない』、「分割後の会社は経営的によりリスキーになるし、自己資本比率も下がりそうだ。 分割後のA社、B社、C社には待遇の差が生まれるだろうし、事業売却もあれば、事業の再編成を理由とするコストカットやいわゆるリストラ・・・もあるだろう。事業ごと提携先に吸収される可能性もあるし、海外人材の登用・・・・なども一般論としては労働強化要因だ」、従業員には厳しくならざるを得ないようだ。

第三に、11月17日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「不祥事の温床だった東芝…「3社分割」をした後に起きる「スゴいこと」 透明性は高まるか」を紹介しよう』、「加谷 氏」も前向きに捉えているようだ。
・『経営再建中の東芝が3会社に分割する方針を発表した。これまで東芝はガバナンスに大きな問題を抱え、迷走に迷走を重ねてきた。3社分割について「東芝解体」と評価する声もあるが、事業を絞った方が意思決定が迅速になり、経営の透明性も高まる。今回の決断によってようやく東芝は正常化への第一歩を踏み出したといってよいだろう』、なるほど。
・『分社化は時代の必然  東芝は2021年11月12日、事業の再編を実施し、インフラサービス、各種デバイス、POSシステムを手がける3つの企業に分割すると発表した。 インフラサービス企業は発電システム、ビル管理、鉄道などいわゆる重電分野を中心とした事業領域でビジネスを行うほか、政府向けのITシステムも担当する。デバイス企業はハードディスクドライブ、半導体製造装置などエレクトロニクス関連分野を中心とした事業領域を担当し、東芝本体はフラッシュメモリーを製造するキオクシア、POSシステムなどに強みを持つ東芝テックの株式を保有する持株会社となる。 キオクシアは株式の過半数を米投資ファンドが保有しているので、東芝にとってはもはや投資先の一部でしかない。同社はいずれ再上場する可能性が高く、東芝本体は最終的に東芝テックの事業領域を担当すると考えられる。 これまで東芝は総合電機の看板を掲げて事業を行ってきたので、今回の決断は総合メーカーからの脱却となり、一部からは「東芝はいよいよ解体される」との声も聞こえてくる。 同社は米国原子力事業における巨額損失や不正会計、株主総会への介入疑惑など不祥事のオンパレードとなっており、2021年6月に行われた株主総会では、取締役会議長と監査委員の再任が反対多数で否決されるなど、前代未聞の事態となった。この総会では、いわゆるモノ言う株主だけでなく、生命保険会社など一般的な機関投資家も反対票を投じており、東芝のガバナンスは完全に崩壊したといってよい。 筆者は東芝のガバナンス欠如について、これまで何度も批判してきたが、今回の会社分割については前向きにとらえている。その理由は、無目的にコングロマリットを維持するよりも事業領域を絞った方が透明性が高まり、企業価値の向上が容易になることに加え、現在の市場環境を考えた場合、選択と集中がより重要だからである。 日本では総合メーカー(コングロマリット)であることを高く評価する風潮が根強いが、この認識は完全に時代遅れになっている。発展途上国の場合、社会が成熟していないので特定の財閥がコングロマリットを形成し、多くの事業領域を抱えるケースが散見される。だが付加価値の高いビジネス戦略が求められる先進国の企業の場合、こうしたコングロマリットはむしろ逆効果となることが多い。 今では新興国の多くが先進国の仲間入りを果たし、ネットの普及によってあらゆる領域においてイノベーションが活発になっている。こうした大競争時代においては、事業領域を絞り、その中で先鋭化した取り組みを行わななければ、他社と差別化することは不可能である。厳しい言い方になるが、コングロマリットであることだけを求めるのは、もはや牧歌的・昭和的な価値観でしかないという現実について理解する必要がある』、「コングロマリットであることだけを求めるのは、もはや牧歌的・昭和的な価値観でしかない」、なるほど。
・『企業にも投資家にもメリットが大きい  現実問題としてグループ全体で総合力を発揮するというのは、経営学的に見ても難易度が高い。東芝の事業領域のひとつである重電の分野では、米GE(ゼネラルエレクトリック)と独シーメンスが2強となっており、かつて両社は典型的なコングロマリットであった。だがITの急激な発達によって事業環境が激変し、両社はそれに対応するため、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用した製造業のサービス化に舵を切った。) だが、様々な事業を抱える中で、グループ全体としてビジネス戦略を統一するのは至難の業である。結局、GEはグループ全体としての戦略立案がうまくいかず、航空、ヘルスケア、エネルギー部門を担う3つの企業に分割することになった。シーメンスは総合企業の形態は維持しているが、事業領域の再編を積極的に行っており、従来の組織を維持したわけではない。 東芝の場合、経営そのものが危ぶまれており、戦略転換以前の問題である。難易度が高いコングロマリットを維持したまま経営再建を行うのはほぼ不可能に近く、今回の3社分割は必然と考えてよいだろう。 3つの会社に分割した後、各社の経営陣には各事業の部門責任者が就任する可能性が高い。他部門との調整を行う必要がないので意思決定が迅速になるとともに、事業価値の最大化に注力できる(コングロマリットの場合、全社的な利害から事業部の利益が犠牲になるケースは枚挙にいとまがない)。 分割は株主にとってもメリットが大きい。コングロマリットの規模が大きければ大きいほど、会社から開示される部門情報は手薄になる。事業領域がハッキリしていれば、株主は詳細な情報を入手できるので、投資判断が格段に容易になるだろう。 分割は企業側にとってもメリットが大きい。情報を入手しにくいというのは株主がもっとも嫌う事態だが、そのような企業には当然の結果として資金が集まりにくくなり、資金調達条件が悪化する。明確な情報を開示できる企業は有利に資金調達できるので最終的には業績に跳ね返ってくるのだ』、「東芝の場合、経営そのものが危ぶまれており、戦略転換以前の問題である。難易度が高いコングロマリットを維持したまま経営再建を行うのはほぼ不可能に近く、今回の3社分割は必然と考えてよいだろう」、確かにその通りだ。
・『インフラ事業が示すビジョンが成否のカギを握る  では分割された3社は今後、どのような事業戦略を描くのだろうか。実際に分割が行われるのはまだ先(新設2社の上場は2023年度の予定)なので、本格的な評価は経営陣が固まり、基本戦略が提示されてからになるが、もっとも注目度が高いのはやはりインフラ企業だろう。 インフラビジネスの領域は、AI(人工知能)化と再生可能エネルギーの急拡大という、これまでの時代では考えられなかったパラダイムシフトに直面している。 従来の製造業というのは製品を製造して納入すればビジネスは終了だが、これからの時代は違う。納入した製品に搭載された部品をネット接続し、稼働状況をAIが監視。故障を起こす前に交換するなど、限りなくサービス業に近い業態に変化している。こうした時代においては高度なITとソリューション(問題解決)能力が必須であり、新しい人材を積極的に投入しなければ時代について行けない。 火力発電のタービンは重電分野におけるもっとも重要な製品のひとつだったが、国際社会は再生可能エネルギーへのシフトを急ピッチで進めており、今後は再生可能エネに関連した製品が主流になることが確実視されている。しかも再生可能エネは、火力や原子力とは異なり、集中電力システムではなく、小規模な発電プラントが網の目のように接続されるグリッド型配電網となる。 グリッド型配電網をスムーズに運用するためには、高度なITシステムとの連携が不可欠であり、この分野においてもITやAIが果たす役割は大きい。従来の重電分野における技術的常識は通用しなくなると思って良い。 今回の東芝の3分割スキームがうまく機能するのかは、新会社が上場する23年度までの間に、インフラ企業がどれだけ新しいシナリオを描けるのか、またキオクシア売却後の東芝本体がどのようなビジネスに注力するのかにかかっている。この部分について明確な方向性を示せれば、3分割スキームについて支持する投資家は多いのではないだろうか。 一方で、単体企業として再出発する以上、十分な業績を上げられなければ、容赦なく市場から叩き出される。総合メーカーという看板に甘え、ガバナンスが不十分な状態で経営を続けることはもはや許容されないだろう』、これまでのような「甘え」が許されず、「十分な業績を上げられなければ、容赦なく市場から叩き出される」、のは一般企業と同じで当然だ。
タグ:東芝問題 (その42)(紆余曲折を経て新方針が決まった 東芝が繰り出した「会社3分割」に拭えない懸念、東芝的な企業分割は案外はやりそうだが 社員には「残酷な未来」が待つ理由、不祥事の温床だった東芝…「3社分割」をした後に起きる「スゴいこと」 透明性は高まるか) 東洋経済Plus 「紆余曲折を経て新方針が決まった 東芝が繰り出した「会社3分割」に拭えない懸念」 様々な問題に見舞われ混乱の極致にあった「東芝」が、ようやく出した回答が「総合電機の看板を下ろす」「3分割」だ。 「執行部は当初、一部の非中核事業を売却する形を検討していた。選択と集中を進めて株主の理解を得つつ、コングロマリットは維持する・・・それに「待った」をかけたのが戦略委だ」、「社外取による」組織が効果を上げたようだ。 「2022年3月」までにこの問題を巡って議論が活発化するだろう。 ダイヤモンド・オンライン 山崎 元 「東芝的な企業分割は案外はやりそうだが、社員には「残酷な未来」が待つ理由」 「分割される会社で働いてきた社員にとっては「残酷な未来」が待っている」、とは不吉な予告だ。 「GE」や「J&J」まで「「コングロマリットディスカウント」の解消」に走っているようだ 「大成功する会社によってメリットを得ることが期待できる株主には好都合で、倒産するリスクを負わねばならなくなる債権者には不都合だ」、「従来の経営者にとっては倒産リスクが小さい複合的な会社の方が自分の保身には好都合だし、会社が大きいことのステータス感もある」、なるほど。 「「コングロマリットディスカウントの解消」はむしろ単なるお題目で、事業分割を通じた株主利益追求のための財務政策の実施が株主の望みであり、それに東芝の経営陣が呼応せざるを得ない状況なのではないか」、その通りなのかも知れない。 「経済的には自然だが、あまり美しくない未来の日本企業の姿」、」とは言い得て妙だ。 「大成功する会社によってメリットを得ることが期待できる株主には好都合で、倒産するリスクを負わねばならなくなる債権者には不都合だ」、「従来の経営者にとっては倒産リスクが小さい複合的な会社の方が自分の保身には好都合だし、会社が大きいことのステータス感もある」、なるほど 「「コングロマリットディスカウントの解消」はむしろ単なるお題目で、事業分割を通じた株主利益追求のための財務政策の実施が株主の望みであり、それに東芝の経営陣が呼応せざるを得ない状況なのではないか」、その通りなのかも知れない 「分割後の会社は経営的によりリスキーになるし、自己資本比率も下がりそうだ。 分割後のA社、B社、C社には待遇の差が生まれるだろうし、事業売却もあれば、事業の再編成を理由とするコストカットやいわゆるリストラ・・・もあるだろう。事業ごと提携先に吸収される可能性もあるし、海外人材の登用・・・・なども一般論としては労働強化要因だ」、従業員には厳しくならざるを得ないようだ。 現代ビジネス 加谷 珪一 「不祥事の温床だった東芝…「3社分割」をした後に起きる「スゴいこと」 透明性は高まるか」 「加谷 氏」も前向きに捉えているようだ。 「コングロマリットであることだけを求めるのは、もはや牧歌的・昭和的な価値観でしかない」、なるほど。 「東芝の場合、経営そのものが危ぶまれており、戦略転換以前の問題である。難易度が高いコングロマリットを維持したまま経営再建を行うのはほぼ不可能に近く、今回の3社分割は必然と考えてよいだろう」、確かにその通りだ。 これまでのような「甘え」が許されず、「十分な業績を上げられなければ、容赦なく市場から叩き出される」、のは一般企業と同じで当然だ。
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ゴーン問題(その3)(日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた、逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」、ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士) [司法]

ゴーン問題については、昨年3月25日に取上げたままだった。今日は、(その3)(日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた、逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」、ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士)である。なお、タイトルから「逃亡」は削除した。

先ずは、本年5月27日付け東洋経済オンライン「日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/430516
・『「虚偽記載ではないと考えます」――。 東京大学の田中亘教授はそう証言した。4月22日、東京地方裁判所104号法廷でのことだ。 2018年11月に起きたカルロス・ゴーン氏の逮捕劇から2年半余り、ゴーン氏は国外に逃亡したが、同氏とともに逮捕された日産自動車・元代表取締役グレッグ・ケリー被告(64)の裁判が2020年9月から続いている。この日、田中教授は弁護側(ケリー被告側)からの証人として出廷した。 ケリー被告の容疑は金融商品取引法違反で、元CEO(最高経営責任者)のカルロス・ゴーン氏(67)と共謀し、ゴーン氏の役員報酬を実際よりも低く記載した有価証券報告書(有報)を提出したというもの。 2010年度から2017年度のゴーン氏の報酬が合計170億円だったのに、実際の記載は合計79億円だけだったので「虚偽記載」だというのが、検察の起訴事実である。これらに対し、ケリー被告は公判で「未払い報酬を隠すためにゴーンと共謀した事実はない」と一貫して否認している』、「ゴーン氏」逃亡後は、マスコミ報道も激減したので、貴重な続報だ。
・『虚偽記載ではなく「不記載」  田中教授が見解を示すうえで着目したのは、日産が有報に書いた「支払われた報酬は」という文言だった。 この開示の仕方は、内閣府令が役員報酬1億円以上の役員について個別の報酬開示を義務づけた2010年以前から、日産に限らず多くの上場企業が行ってきた。内閣府令が施行された後も、同じ形式で開示をしていた。 その事業年度の役員への対価はすべて「当期の役員報酬」とみなされる。内閣府令は、既払いか未払いかについて特に定めておらず、「役員報酬は未払い分を含めて開示しなければならない」と解釈するのが法律家の間では常識なのだという。 金融商品取引法は、「虚偽記載」と「不記載」を明確に分けている。投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。 虚偽記載も不記載も、証券取引等監視委員会が課徴金の対象となると金融庁に勧告すれば、金融庁が当該企業に課徴金の納付命令を出せる。 日産は2020年2月に金融庁から24億円の課徴金納付命令を受けて、それに応じている。あくまでこれは行政処分だ。だが、検察が「特に悪質だ」と判断すれば起訴し、刑事責任の有無を問う』、「投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。 虚偽記載も不記載も、証券取引等監視委員会が課徴金の対象となると金融庁に勧告すれば、金融庁が当該企業に課徴金の納付命令を出せる」、とはいっても、「不記載」より「虚偽記載:の方がはるかに悪質だ。
・『「投資家の判断」に影響を与えたか  法廷での証言から、虚偽記載ではないという田中教授の考え方はこうなる。 日産自動車の有価証券報告書。 日産の有報に書かれた「支払われた報酬は」という文言から、一般投資家は「既払いの役員報酬額が書かれているのだな」と読む。未払い分を含めた役員報酬のすべてを開示すべきと解釈されている内閣府令の趣旨を一般投資家は熟知していないだろうから「既払いの報酬はこのくらいかな」としか考えない。 機関投資家などプロの投資家ではどうか。内閣府令を熟知したプロの投資家ならば、「支払われた報酬は」と書いてあっても「報酬はすべて支払い済みであり、他に未払い報酬はないのだろう」と推察するかもしれない。 とはいえ「支払われた金額は」という書き方に、プロの投資家ならば違和感を覚えるかもしれない。その場合でも「もしかしたら未払い報酬は不記載であり、本当はあるのかもしれない」と慎重になり、他の自動車メーカーに分散投資するなどして開示に不備があるリスクを低減しようとする。だから、未払い報酬が不記載でも大きな影響はないというのが田中教授の見解だ。 この見解と正反対の証言をしたのが証券取引等監視委員会だ。 田中教授が出廷する2日前、証券取引等監視委員会の谷口義幸・開示検査課長が証言台に立った。かつて役員報酬の個別開示を企画立案した官僚であり、日産の有報を虚偽記載だと判断した責任者だ。2012年から2015年には東北大学で教鞭を取った経験もある。 谷口氏の説明はこうだった。「(日産の有報に記載された)『支払われた報酬』というのは、前置きのような文章だと一般投資家は理解する。前後の文脈から、そして総合的に見れば、内閣府令で求められている報酬(受け取るもしくは、受け取る見込みの報酬)が記載されていることは明らかだから、一般投資家は未払い報酬を含むと読む」。一般投資家が内閣府令を“熟知”しているという前提である。 だが、虚偽記載か不記載かは「個々にいろいろ勘案して決めている」。ゴーン氏の役員報酬を虚偽記載だと判断した理由や個別具体的な事情については「お話をしないことになっている」と、明確な根拠を示さなかった』、「証券取引等監視委員会の谷口義幸・開示検査課長」は「判断した理由や個別具体的な事情については「お話をしないことになっている」と、明確な根拠を示さなかった」、なるほど。
・『「田中証言は到底無視できない」  当局とは正反対の田中見解を、本裁判を担当している下津健司裁判長はどう受け止めたのだろうか。 株式会社商事法務の発刊する『会社法コンメンタール』。ビジネスに関する判例や法解釈をまとめた全22巻の大著だが、その第8巻「機関(2)」(2009年2月発行)の「第361条(取締役の報酬等)」「第379条(会計参与の報酬等)」「第379条(監査役の報酬等)」の計498ページ(索引除く)のうち、85ページを執筆したのが当時35歳だった田中教授だった。 会社関係の法務に詳しいある弁護士は、「(田中教授は)商法学者の中でもホープ中のホープ」とし、「下津裁判長はもちろんのこと、法務省のお偉方は田中証言を到底無視できない」と指摘する。 田中教授はケリー裁判の最後の証人だった。本裁判は被告人のケリー氏本人への尋問が始まっている。5月27日までで計6日間の主尋問が行われ、5月28日から計6日間の検察側尋問が始まる。 ケリー氏はゴーン氏との共謀を否定しており、司法取引をした大沼敏明・元秘書室長の証言についても「ケリー氏に指示されて未払い報酬の仕組みを考えた」などの主要部分をことごとく否定している。結審は7月7日の予定。はたして田中見解は判決にどう影響するのか。ゴーン事件の結末を最後まで見届ける必要があるだろう。 2020年1月8日、逃亡したゴーン氏がレバノンで行った会見で「田中先生」と口にしたため、後日、東洋経済は田中教授にインタビューした。全文(「ゴーン事件は日本にとって恥ずかしいことだと思う」)は『東洋経済プラス』で無料でお読み頂けます』、「「(田中教授は)商法学者の中でもホープ中のホープ」とし、「下津裁判長はもちろんのこと、法務省のお偉方は田中証言を到底無視できない」と指摘する」、さてどうなるのだろう。

次に、10月2日付けNewsweek日本版が掲載した自動車業界担当記者のアイリーン・ファルケンバーグハル 氏による「逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」を紹介しよう。
・『<自らの失脚は、一部の日産幹部が画策して日本の検察と共謀した「でっち上げ」だと主張> 自分を裏切った人間に仕返しするためではなく、自らの汚名をそそぐために、本当のことを話したいと、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長は私たちに語った。 自分の失脚は、役員報酬の開示をめぐる不正とされるものとは全く関係がないと、新著『壊れた連合』のプロモーションのために先頃レバノンの自宅で本誌のインタビューに答えたゴーンは主張した。日本側が経営の実権をフランスに譲り渡すことを恐れたのが真相だという。 ゴーンは新著で、ビジネス界での特筆すべき成功、その輝かしいキャリアに終止符を打った「陰謀」、そして2018年11月19日の逮捕について語っている。 この著書でゴーンは初めて、自らの追放を画策したと考えている日産幹部の実名を挙げた。まず、内部監査室本部長を務めていたクリスティーナ・ムレイは、社内でゴーンのスキャンダルを探っていたと、同書は記している』、「ゴーンのスキャンダルを探っていた」、ありそうなことだ。
・『画策したのは日産の幹部たち  チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)の職にあったホセ・ムニョス(現在は現代自動車のグローバル最高執行責任者)も、追放計画に共謀したという。また、日産のベテラン幹部だった川口均(現在は副社長を退任)も関与したとしている。 こうした幹部たちが日本政府と一緒になって、逮捕の理由をでっち上げたと、ゴーンは語った。「この謀略は、いわば日産のオールド・ボーイズが画策したものだと思う。日産で長年働いていて......(ルノーと資本提携を結ぶ以前の時代に)郷愁を抱いている人たちのことだ」 転機になったのは18年6月にルノーと日産と三菱自動車の3社連合の全体を監督するようになったときだったと、ゴーンは振り返る。「(オールド・ボーイズたちは)自分たちの自治が奪われることを恐れた......そこで、日本政府の一部の支援を得て検察と共謀した。まさかそんなことが起きるとは、想像もしていなかった」) この出来事は単なるビジネス上の事件ではなく、国際問題という性格を持っていたと、ゴーンは指摘する。「私が逮捕されたとき......ルノーはCEOだった私を守ろうとせず、すぐに厄介払いした。フランスの大統領と財務大臣は、1つのビジネス上の取引よりも日本とフランスの関係のほうが重要だと言った」 自分の失脚の背景には人種差別とナショナリズムもあったと、ゴーンは言う。「私は日本で人気のある人物の1人ではあったが、外国人だというだけの理由で一部の日本人に嫌われていることにも気付いていた。日本有数の大企業で実権を持っているために、なおさら嫌われていたのだと思う......それでも構わないと、私は思っていた」 「けれども、タカタやオリンパス、東芝など、日本の企業でスキャンダルが持ち上がっても、日本人経営幹部は1人も刑事責任を問われなかった。私は思った。『責任を問われるべき日本人が1人もいないなんてあり得ない』」 ゴーンの逮捕と起訴は世界中で大きなニュースになり、19年末の逃亡劇はそれに輪を掛けて大きな話題を呼んだ。しかし、ゴーン自身は、「日本で大企業を立て直した唯一の外国人、そして、3つの大陸で2社、のちに3社の経営者として成功した唯一の人物として記憶されたい」と語る。 そして言う。「私は、この地球上で日本から逃げ出すことに成功した数少ない人物の1人だ」と』、「フランスの大統領と財務大臣は、1つのビジネス上の取引よりも日本とフランスの関係のほうが重要だと言った」、「フランス」から見捨てられたようだ。

第三に、11月20日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/470352
・『日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が羽田空港で身柄を拘束されてから3年の間、権勢を誇っていた元会長排除のために日産社内でどのような力関係が働いたかについて多くのことが明らかになってきた。一連の過程で主要な役割を果たしたにも関わらず、その役回りについて追及を免れてきた存在がある。弁護士だ。 世界最大級の法律事務所であるレイサム・アンド・ワトキンス(L&W)所属の一部の弁護士らは長年にわたりゴーン元会長の報酬のあり方について日産に助言を行っていた。その中にゴーン元会長が起訴された理由の一つとなった収入の総額を隠した報酬パッケージの問題が含まれていた。 一方で、2018年にゴーン元会長の報酬問題が刑事事件の捜査対象となった際には、深刻な利益相反になるとの警告が日産取締役会に寄せられていたにも関わらず、同事務所は不正行為の調査担当に採用された。 会社によるゴーン元会長の不正行為の調査に「彼らが関与することに私は当初から懸念を抱いていた」と日産の元グローバル法務担当のラビンダ・パッシ氏は話す。パッシ氏は昨年、L&Wが日産の最善の利益のために行動していたかどうかについて疑問を呈したことで解雇されたとして、不当解雇で日産を訴えた。 「私は信じられないほど驚き、ショックを受けた。同じ弁護士が自身の関与した仕事を含む事案を調査するということがどのように思われるか。不正行為があってもおかしくない状況だった」。 日産は、ルノーとのより緊密な統合を進めようとしたゴーン元会長の計画が自分たちの地位を脅かし、自社の独立性が損なわれることを恐れた。しかし、社内の関係者らが自ら引き金を引くことはしなかった。 多くの主要な局面で、1980年代から日産の法務を担ってきたL&Wの存在があったことが数百枚に及ぶ文書やインタビュー、ゴーン元会長とともに逮捕されたグレッグ・ケリー元日産取締役の公判での証言などに基づいたブルームバーグの調査で明らかになった。 利益相反の立場にあるとのパッシ氏の指摘にも関わらず、日産が裁判対応も含めてゴーン元会長関連の案件処理に追われる中、L&Wは同社の最上位の顧問法律事務所の地位にとどまった。 日産はまた、世界各地で株主やビジネスパートナー、元従業員らから起こされた多くの訴訟にも直面している。ゴーン元会長のハリウッド映画的な逮捕・逃亡劇は人々の記憶から薄れたかもしれないが、日産にとっては赤字脱却や自動車業界の急激な変化に対抗するための努力の妨げとなっており、長引く影響として残っている。 日産広報担当の百瀬梓氏は「当社は確固たる、徹底した、かつ適切な社内調査」を進め、ゴーン元会長とケリー元取締役に「重大な不正行為があったことを確認」したとコメント。「その内容は、その後複数の政府機関が自身で実施した、綿密で独立した調査結果によって裏付けられています」とした。 百瀬氏はまた、「L&Wのクライアントは常に日産であり、日産の調査に関わることによる利益相反はありません。L&Wに利益相反があった、または利益相反の可能性により確固たる調査が行えなかったという主張は、事実に基づいたものではありません」とも述べた。  L&Wはブルームバーグに宛てた声明文で、同社は「内部調査への弊社の関与については定期的に日産や同社の役員、パッシ氏を含む従業員らと議論してきた。彼ら全員が弊社の関与の継続について許可し、同意した」とコメント。 さらに、「レイサムは内部調査が偏っていたとするいかなる指摘にも強く異議を唱える。また、日米の多くの独立機関や司法当局がそれぞれ綿密な独立した捜査を実施し、内部調査と矛盾しない結論に至ったことも指摘しておく」とも述べた。 L&Wの東京オフィスのパートナーである小林広樹弁護士は、3月のケリー元取締役の公判でL&Wと日産の関係を詳細に説明した。小林氏らL&Wの東京オフィスの弁護士は日産の大株主であるルノーとの契約や子会社の設立、商業上の契約まであらゆることについて助言した。それには役員報酬の案件も含まれていたという。 2018年の初頭、ゴーン元会長は、10年に報酬1億円以上の役員に関して有価証券報告書への報酬額の開示が義務づけられて以降、自主的に放棄していた収入の一部を取り戻す方法を探っていた。 ブルームバーグが確認した電子メールによると、18年7月3日、小林氏は、当時日産の法務責任者だったハリ・ナダ専務に、ゴーン元会長の退職前に退職金から元会長への報酬を支払う場合に求められる開示内容の要件について助言を行っていた。 このやり取りは、ナダ専務やケリー元取締役を介してL&Wに転送されたゴーン元会長からの質問に対する返答という形でなされた。弁護士らはまた、日産がゴーン元会長のためにブラジルやフランス、レバノンで購入した不動産物件を元会長に売却する可能性に関してもナダ専務に助言を行った。 小林氏が送信した電子メールによると、ナダ専務とケリー元取締役は、もし株主がゴーン元会長への早期の退職金支払いを承認したとしても「取締役報酬の開示をやり直す必要はない」とL&Wから伝えられたという。 ただ、遅くともその年の4月ごろまでには、L&Wはナダ専務に別件で助言を与えるようになっていた。事情に詳しい関係者とブルームバーグが確認した文書によると、ナダ専務は公開されない給与を用意するという刑事事件に発展する可能性がある行為について、ゴーン元会長が不利になるような情報を求めていた。 L&Wからナダ専務あてに送られたある電子メールでは、日産が有価証券報告書でゴーン元会長の報酬について完全に説明することができなかった場合、日本の当局から罰金や罰則、責任者の収監などを含めた介入を受ける可能性があることなどが説明されている。 電子メールの内容は、L&Wが日産社内の少人数のグループと仕事をしていたナダ専務に対して、金融商品取引法に違反している可能性がある報酬の支払い方法について助言を行っていたことを示している。資料によると、それらの電子メールのいくつかはナダ専務の会社のメールアドレスではなく、個人のアドレス宛てに送られていた。 報酬問題で主要なアドバイザーを務めていたにも関わらず、L&Wはゴーン元会長の逮捕後に、当時の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)から社内調査に関する正式な依頼を受け、これを引き受けた。事情に詳しい関係者によると、西川元社長はナダ専務の意見を受けてL&Wを起用したという。19年に日産を退社した西川氏はコメントを控えた。  小林氏はゴーン元会長とケリー元取締役の逮捕から1年半後の19年9月の日産取締役会で社内調査の結果を発表し、この調査が最終的に両社の不正に関する公的な説明となった。 ゴーン元会長の広報担当者であるジュン・アイセンウォーター氏は「日産がL&Wと実施した日産の内部調査は利益相反の問題で汚点がついており、独立したものではない」とコメント。「まさに捜査対象となっていた案件について法務上のアドバイスを与えていたということで、日産の長年にわたる外部顧問としてL&Wは独立して事実を指摘する存在ではなかった」。 ケリー元取締役の米国における代理人を務めるジェームス・ウェアハム氏はL&Wについて自らが助言した案件についての調査を主導したという意味で「地球上で最も利益相反となっている法律事務所」だと表現。調査に関わることに同意するべきではなかったとした。 少なくとも六つの法律事務所が当時パッシ氏が率いていた日産の法務部門に対し、ナダ専務とL&Wに調査の責任者を継続させることについての法的なリスクや利益相反を警告した。そのうちの一つはルノー、もう一つは日産が採用した事務所だった。 「L&Wは調査の対象となっている事実に関与しており、証人として呼ばれる可能性があることを認めていることから、独立しているとはみなされない」。日産に採用された法律事務所のアレン・アンド・オーヴェリーは19年1月の書簡でこのように述べた。 ゴーン元会長らの逮捕を巡る状況を精査するためにルノーに採用されたクイン・エマニュエル・アークハート・サリバンは、「レイサムは日産の役員報酬問題のさまざまな側面に深く、長期にわたって関与してきた。その結果がゴーン元会長にかけられた嫌疑の基礎となっている」とした。 調査の評価のためにパッシ氏によって雇われたクリアリー・ゴットリーブ・スティーン・アンド・ハミルトンと森・濱田松本法律事務所などもL&Wは刑事訴訟や内部調査の手続きから距離を置かれるべきだと警鐘を鳴らしていた。 クリアリー・ゴットリーブはこの記事に関するコメントを控えた。アレン・アンド・オーヴェリーとクイン・エマニュエル、森・濱田松本にもコメントを求めたが返答はなかった。  元裁判官で19年に刑事手続きのアドバイス役として日産の法務部門に採用された山室恵弁護士も、L&Wが利益相反の可能性があるにも関わらずゴーン元会長の調査に関与していることに衝撃を受けたと日産の担当弁護士に伝えていたことが、19年7月の山室氏と担当弁護士らとの会合の要旨で明らかになっている。山室氏は取材に対してコメントを控えるとした。 その年の年末までには、ゴーン元会長の調査に携わったL&Wの東京オフィスの弁護士2人が退社していた。この弁護士らの当時の考えに詳しい複数の関係者によると、利益相反の案件に関わることで自分たちのキャリアに傷が付くことを恐れたためという。 ブルームバーグが確認した文書によると、日産の法務部門の責任者だったパッシ氏もナダ専務やL&Wが内部調査に関与することは、会社にとってリスクにつながると反対していた。裁判において日産を守れるかどうか危うくなるというのが理由だ。 その兆候は既に出始めているのかもしれない。日産はこのほど、米テネシー州で投資家が提起したゴーン元会長の報酬体系や内部調査に関する文書の提出を求める集団訴訟で和解に合意した。 日産はまた、多くの地域で元従業員から不当解雇で訴えられてもいる。そのうちのいくつかはゴーン元会長の件が関係している。 ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている』、「ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている」、収益基盤の弱い「日産」にとっては大きな負担だ。「ゴーン元会長の調査に携わったL&Wの東京オフィスの弁護士2人が退社・・・利益相反の案件に関わることで自分たちのキャリアに傷が付くことを恐れたためという」、「L&W」の脱法行為を如実に示しているようだ。
タグ:(その3)(日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた、逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」、ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士) ゴーン問題 東洋経済オンライン 「日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた」 「ゴーン氏」逃亡後は、マスコミ報道も激減したので、貴重な続報だ。 「投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。 虚偽記載も不記載も、証券取引等監視委員会が課徴金の対象となると金融庁に勧告すれば、金融庁が当該企業に課徴金の納付命令を出せる」、とはいっても、「不記載」より「虚偽記載:の方がはるかに悪質だ。 「証券取引等監視委員会の谷口義幸・開示検査課長」は「判断した理由や個別具体的な事情については「お話をしないことになっている」と、明確な根拠を示さなかった」、なるほど。 「「(田中教授は)商法学者の中でもホープ中のホープ」とし、「下津裁判長はもちろんのこと、法務省のお偉方は田中証言を到底無視できない」と指摘する」、さてどうなるのだろう。 Newsweek日本版 アイリーン・ファルケンバーグハル 「逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」 「ゴーンのスキャンダルを探っていた」、ありそうなことだ。 「フランスの大統領と財務大臣は、1つのビジネス上の取引よりも日本とフランスの関係のほうが重要だと言った」、「フランス」から見捨てられたようだ。 ブルームバーグ 「ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士」 世界最大級の法律事務所であるレイサム・アンド・ワトキンス(L&W) 長年にわたりゴーン元会長の報酬のあり方について日産に助言 「ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている」、収益基盤の弱い「日産」にとっては大きな負担だ。「ゴーン元会長の調査に携わったL&Wの東京オフィスの弁護士2人が退社・・・利益相反の案件に関わることで自分たちのキャリアに傷が付くことを恐れたためという」、「L&W」の脱法行為を如実に示しているようだ。
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