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携帯・スマホ(その9)(巨額赤字の楽天 これから迫る「借金返済」の大波 社債償還が「3年で計9000億円」という難路、背水の楽天モバイル 黄信号灯る「黒字化」の約束 2023年中の達成掲げるが契約数倍増が最低条件、3人で100億円を詐取…「楽天モバイル」幹部社員たちが ここまでの不正に手を染められた理由《渡辺美奈代・K-1武尊との交友も》、《楽天の赤字幅は過去最大に》「タケノコ生活」のカギを握る携帯電話事業のゆくえ) [産業動向]

携帯・スマホについては、昨年6月8日に取上げた。今日は、(その9)(背水の楽天モバイル 黄信号灯る「黒字化」の約束 2023年中の達成掲げるが契約数倍増が最低条件、3人で100億円を詐取…「楽天モバイル」幹部社員たちが ここまでの不正に手を染められた理由《渡辺美奈代・K-1武尊との交友も》、《楽天の赤字幅は過去最大に》「タケノコ生活」のカギを握る携帯電話事業のゆくえ)である。

先ずは、本年2月22日付け東洋経済オンライン「背水の楽天モバイル、黄信号灯る「黒字化」の約束 2023年中の達成掲げるが契約数倍増が最低条件」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/654059
・『楽天グループの赤字の元凶であるモバイル事業。2023年中の単月黒字化を目指してきたが、その姿勢がトーンダウンし始めた。一方で楽天には、そう簡単に撤退できない事情もある。 「2023年中の黒字化はまず無理だろう。会社側からも、『しょうがない』というニュアンスを感じる」。楽天グループが2月14日に発表した決算内容を見て、ある市場関係者はそう話す。 焦点となっているのは、楽天グループが巨額投資を続けるモバイル事業だ。三木谷浩史会長兼社長は以前から、2023年中の単月営業黒字化を掲げ、決算資料などで目標として明記してきた。 ところが同社が2月14日に公表した2022年12月期決算の説明資料を見ると、「黒字化」の文字は1カ所のみ。時期的なメドも「フェーズ2」(編集注・2023~2024年を指す)と、あいまいだ。同日開かれた会見では、会社側から今2023年12月期の黒字化について言及することはなく、報道陣からの質疑で問われた結果、三木谷氏が「年内、なんとか頑張って目指していきたい」と述べるのみだった。 楽天グループの広報担当者は「従来の目標は何も変わっていない」と強調するものの、ここにきて、その姿勢は揺らぎつつあるように映る』、「巨額投資を続けるモバイル事業だ。三木谷浩史会長兼社長は以前から、2023年中の単月営業黒字化を掲げ、決算資料などで目標として明記してきた。 ところが同社が2月14日に公表した2022年12月期決算の説明資料を見ると、「黒字化」の文字は1カ所のみ。時期的なメドも「フェーズ2」・・・と、あいまいだ」、「報道陣からの質疑で問われた結果、三木谷氏が「年内、なんとか頑張って目指していきたい」と述べるのみだった」、苦しそうだ。
・『黒字化には「1000万以上」の契約が最低条件  それも無理はない。楽天モバイルの2023年1月末時点の契約数は451万。2022年1~3月期をピークに減少へと転じ、2022年7月の「0円プラン」の廃止も、顧客離れに追い打ちを掛けた。単月ベースでは同年11月に底打ちしたものの、いまだ1年前と同水準にとどまっている。  直近ではモバイル事業だけで毎四半期1000億円超の営業損失を垂れ流し、本業のEC(ネット通販)や金融事業で稼いだ利益を食い潰している。その結果、楽天グループは4期連続で最終赤字を計上。2022年12月期には3728億円と過去最大の赤字となった。 財務を圧迫し続けるモバイル事業の今期黒字化は、まさに株主や金融機関などのステークホルダーに対する「約束」でもあった(楽天グループに対する投資家や金融機関のスタンスについて詳細はこちら)。だが、業界関係者からは一様に「達成困難だ」との声が上がっている。 そもそもモバイル事業の黒字化には、どれだけの契約数が必要なのか。シティグループ証券の鶴尾充伸アナリストは「年間の営業黒字化には最低でも1000万以上」と分析する。) 前2022年12月期のモバイル事業の営業損失は4928億円、その大半を占める楽天モバイルの損失は4593億円だった。新規の契約獲得に苦戦する中、楽天モバイルは今となってコスト削減策を相次ぎ打ち出している。 2022年後半から順次、同社へ出向していたグループ社員を元の部署などへ戻し始めたほか、郵便局に併設したショップ約200店舗(全店舗の2割弱)を今春にも閉鎖する予定だ。さらに基地局の開設費用などが一巡することを理由に、2月14日には今後月間150億円(年間1800億円)のコスト削減ができるとの見通しを示した。 月間150億円のコスト削減が達成できる具体的時期は明示されていないが、単純計算をすると、年間の黒字化を実現するには、前期の損失額約4600億円からコスト削減額1800億円を引いた、約2800億円分を売り上げの増加によって穴埋めする必要がある。 通信キャリア事業の売上高は、契約数と1契約当たりの平均単価を掛けて算出できる。楽天モバイルの直近実績(月額の平均単価1805円)を前提とした年間の平均単価は2万円強。利ざやの少ない端末販売などを除外し、仮にキャリア事業のみで2800億円の売り上げを作るとすれば、現状の3倍弱に当たる1300万程度の契約が追加で必要だ』、「契約数は」「いまだ1年前と同水準にとどまっている」、「直近ではモバイル事業だけで毎四半期1000億円超の営業損失を垂れ流し、本業のEC(ネット通販)や金融事業で稼いだ利益を食い潰している。その結果、楽天グループは4期連続で最終赤字を計上。2022年12月期には3728億円と過去最大の赤字」、まさに危機的様相だ。
・『歯車を狂わせた「ahamo」の登場  楽天モバイルの料金プランは現在、データ使用量に応じて月額980~2980円(税抜き)に設定され、ユーザーのデータ利用拡大や「0円プラン」廃止などを背景に、平均単価は上昇し続けている。 とはいえ月額平均単価を3000円まで大幅に伸ばせたとしても、800万弱の契約を追加で積み増せないと、年間の黒字化は達成できない計算となる。単月ベースでは、月ごとに多少のコストの増減が想定されるが、持続性のある黒字化には大幅な契約数の積み増しが必要という事実に変わりはない。 楽天は、楽天経済圏のユーザーの取り込みや、2023年1月から本格参入した法人向けプランなどで契約数の積み増しを急ぐ。ただ、倍増させられるほどの起爆剤となるような策は現状打ち出せていない。 三木谷氏が心血を注いできた事業の歯車が狂った原因はどこにあるのか。通信業界に詳しい野村総合研究所の北俊一パートナーは、「楽天にとって、NTTドコモの新料金プラン『ahamo(アハモ)』の登場が最大の誤算だった」と指摘する。 楽天モバイルがサービスを本格始動させたのは2020年4月。それから1年も経たない2021年3月、NTTドコモがahamoをローンチした。データ使用量20GB(ギガバイト)で月額2700円(税抜き)という割安な価格帯が話題を呼び、後を追う形でKDDIとソフトバンクも新料金プランを導入し始めた。 それにより、価格優位性が武器だったはずの楽天モバイルと既存3キャリア間でのプラン価格の差は大幅に縮小。焦った楽天は対抗するべく、1GB以下は0円とする無料プランの提供を2021年4月に始めた。が、モバイル事業の収益改善が見込めないことなどから、2022年7月に廃止(実質無料キャンペーンは同年10月末まで継続)。その後は顧客離れに拍車が掛かり、現在に至っている。) 厳しい競争環境の下、当初計画していた2023年中の黒字化が困難となれば、そのタイミングで事業から撤退するのも選択肢だろう。ただ、楽天にはそう簡単に手を引けない事情がある。 「割り当てを受けた事業者が既存移動通信事業者へ事業譲渡等をしないこと」――。 これは、楽天モバイルが4G・5Gの通信用電波として使用している周波数帯、1.7GHz(ギガヘルツ)帯を2018年に割り当てられた際、総務省から課せられた審査条件だ。要は、同業の既存キャリアへの事業売却が禁じられているのだ。 ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社以外の新規事業者への売却であれば問題ないものの、巨額赤字を計上している経営状況で、新参者が名乗りを挙げるシナリオは考えづらい。さらに「手を挙げた事業者が外資系ともなれば、経済安全保障上の問題にも発展しかねない。そうとう揉めるのは間違いない」(総務省関係者)。 売却ではなく「廃止」することにより、従来手がけていたMVNO(仮想移動体通信事業者、キャリアの通信網を借りてサービスを運営する)に専念したり、通信事業から完全撤退したりする道も選択肢としてありうる。ただし、その場合はこれまで巨額の設備投資を続けてきた通信基地局の減損損失と撤去費用が発生しかねず、財務面への打撃が避けられない』、「楽天にとって、NTTドコモの新料金プラン『ahamo(アハモ)』の登場が最大の誤算だった」、「価格優位性が武器だったはずの楽天モバイルと既存3キャリア間でのプラン価格の差は大幅に縮小。焦った楽天は対抗するべく、1GB以下は0円とする無料プランの提供を2021年4月に始めた。が、モバイル事業の収益改善が見込めないことなどから、2022年7月に廃止・・・。その後は顧客離れに拍車が掛かり、現在に至っている」、プラスの材料はあるのだろうか。
・『成功に賭けて突き進むしかない  進むにせよ、撤退するにせよ、茨の道が待ち受けている楽天モバイル。楽天グループの中堅社員は「ほかの事業を切り売りして(投資余力を確保して)でも、モバイルの成功に賭けて突き進むしかない」とあきらめ顔だ。 「楽天のほぼ唯一の希望は(電波がつながりやすい700MHz~900MHz帯の)『プラチナバンド』を獲得できそうなことくらいだろう」。前出とは別の総務省関係者はそう見通す。 プラチナバンドについては現状、競合の3キャリアは割り当てを受けているのに対し、楽天のみが持っていない。総務省は楽天への割り当てに向けた制度の整備を進めており、獲得できれば基地局数が少なくても通信エリアを幅広くカバーできるほか、通信品質の大幅な改善も見込める。 もっとも、プラチナバンドの割り当てを受けられたとしても、実際に運用が始まるのは早くて2024年中との見方が濃厚だ。品質改善などが実際の契約数に結びつくまで、タイムラグも想定される。2023年中の単月黒字化という約束を果たすうえでは、到底貢献は見込めない。 過去最大の赤字を発表した翌日の2月15日、楽天グループ株の終値は前日比7.7%高の713円をつけた。今後の財務方針として、三木谷氏が有利子負債削減や外部資本の活用などを挙げ、資金繰り改善への期待感が広がったとみられる。ただ、財務悪化の元凶であるモバイル事業の視界は開けないままだ』、「プラチナバンドの割り当てを受けられたとしても、実際に運用が始まるのは早くて2024年中との見方が濃厚だ。品質改善などが実際の契約数に結びつくまで、タイムラグも想定される」、さらに「同業の既存キャリアへの事業売却が禁じられている」のでは、財務改善に使う訳にはいかないようだ。「成功に賭けて突き進むしかない」とはまさに悲劇だ。

次に、3月9日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの伊藤 博敏氏による「3人で100億円を詐取…「楽天モバイル」幹部社員たちが、ここまでの不正に手を染められた理由《渡辺美奈代・K-1武尊との交友も》」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107230?imp=0
・『警視庁よりも先に国税が調査  「楽天モバイル」(東京都世田谷区)から携帯電話基地局をめぐる事業で約300億円を不正に支払わせていた3人の男が、詐取した金額は約100億円だった──。 不正請求といえば、通常の経費に詐取分を3%、5%と水増ししてごまかすというイメージだが、3分(注:「に」ではなく正しくは「の」)1以上をゴッソリ抜くというのは、バレても仕方がないと思った刹那的な確信犯か、楽天モバイルのガバナンス不全を読み切り、絶対にバレないと思った自信過剰の確信犯かのどちらかだろう。 警視庁捜査2課が3月3日に詐欺容疑で逮捕した3人は、楽天モバイル物流管理部長の佐藤友起容疑者(46歳)、中堅物流会社「日本ロジステック」(東京都千代田区)元常務の三橋一成容疑者(53歳)、運輸会社「TRAIL(トレイル)」(港区)の浜中治容疑者(49歳)である。 約100億円の使いっぷりはハンパではない。不正請求に気付いた楽天モバイルが、佐藤容疑者を解雇のうえで資産を差し押さえるなどして事件が発覚した時点で、筆者は本サイトに《楽天・三木谷を苦しめる「不良幹部社員」は4億円タワマンに住んでいた》(22年9月15日)と題して配信した。 港区に新築された地上26階建て最上階136平方メートルをキャッシュで購入したのだから国税から目を付けられるのも当然で、警視庁より先に東京国税局資料査察課が3人の行状に気付き調査していた。 佐藤容疑者はこのタワマン以外に、神奈川県鎌倉市や沖縄県名護市に高級マンションを持ち、高級車6台を所有。また妻が代表を務める「TKロジ」(京都府城陽市)が詐取資金の“受け皿”となっており、この会社名義でも会社所在地などの不動産のほか高級車8台を所有していた。夫妻の口座に残された現預金は約3億6000万円だったという。 佐藤容疑者と浜中容疑者をつなぐのは「車」である。浜中容疑者の場合は、趣味に投資を兼ねていて、150台もの車を神奈川県相模原市内にある「横領倉庫」に保管していた。古いスカイラインなど希少な旧車や1台数千万円の高級車を並べており、その内部写真は『FDIDAYデジタル』(23年1月25日配信)が報じた』、「携帯電話基地局をめぐる事業で約300億円を不正に支払わせていた3人の男が、詐取した金額は約100億円」、よくぞ「約100億円」も「詐取した」ものだ。「新築された地上26階建て最上階136平方メートルをキャッシュで購入したのだから国税から目を付けられるのも当然で、警視庁より先に東京国税局資料査察課が3人の行状に気付き調査」、「キャッシュで購入」とは捕まえてくれと言うようなものだ。
・『50億円を詐取した「物流のプロ」  浜中容疑者は派手な交遊も隠さず、ネット上には今も著名人との交遊履歴が残る。元おニャン子クラブの渡辺美奈代は、インスタグラムで浜中容疑者やK-1選手で元世界チャンピオンの武尊らと一緒に写真に収まり、「濱中社長」と紹介。トレイルは武尊のスポンサー企業であり、武尊のガウンやパンツには「TRAIL」の文字が刻まれていた』、「浜中容疑者は派手な交遊も隠さず、ネット上には今も著名人との交遊履歴が残る」、なるほど。
・『武尊のインスタグラムより  「車」とともに「卓球」が趣味。その縁で著名卓球選手とは親交があり、トレイルは五輪メダリストの吉村真晴、弟の和弘選手のスポンサーを務めていた(現在は離れる)。 真晴選手は、再起を図って21年10月、トレーナーなどを含む「チーム真晴(マハル)」を結成するが、それは真晴選手の決意を聞いた浜中容疑者が、「よし、それだったら一緒にやってやろう」と請け合ってスタートした。 約100億円のうち半分の約50億円が流れたという佐藤容疑者は、金融機関や外資系物流会社を経て、「物流のプロ」としての腕を見込まれて18年7月、楽天に入社。19年4月から楽天モバイルの基地局整備事業に携わるようになった。 楽天の三木谷浩史社長は2017年4月、「第四の携帯キャリア」の参入を表明した。当時は安倍晋三政権下で菅義偉元官房長官が力を持ち、元総務相としてNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社寡占がもたらす携帯料金の高止まりに業を煮やしていた。そこでネットで完結する「楽天経済圏」を目指す三木谷氏の野心を読み取り、携帯事業への参入をバックアップした。 だが、携帯事業を一から立ち上げるのは想像以上にたいへんで、なにより「つながり難さ」を解消するための基地局整備が急務で、そこへの大量投資を惜しまなかった。それが楽天を直撃する。21年12月期決算は最終損益が1338億円の赤字、22年12月期決算はさらに膨らんで過去最高の3728億円の赤字だった。 この急拡大路線を担った「外人部隊」の佐藤容疑者は、19年4月に担当となり、その3か月後の7月には日本ロジと「物流業務の委託契約」を締結し、約2100万円の裏金を受け取っている』、「当時は安倍晋三政権下で菅義偉元官房長官が力を持ち、元総務相としてNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社寡占がもたらす携帯料金の高止まりに業を煮やしていた。そこでネットで完結する「楽天経済圏」を目指す三木谷氏の野心を読み取り、携帯事業への参入をバックアップした」、「だが、携帯事業を一から立ち上げるのは想像以上にたいへんで、なにより「つながり難さ」を解消するための基地局整備が急務で、そこへの大量投資を惜しまなかった。それが楽天を直撃する」、「21年12月期決算は最終損益が1338億円の赤字、22年12月期決算はさらに膨らんで過去最高の3728億円の赤字だった。 この急拡大路線を担った「外人部隊」の佐藤容疑者は、19年4月に担当となり、その3か月後の7月には日本ロジと「物流業務の委託契約」を締結し、約2100万円の裏金を受け取っている」、なるほど。
・楽天のチェック体制の甘さ  楽天モバイル→日本ロジ→トレイル→TKロジという物流の流れはこの時に決まり、請求書はコンサル料や輸送費、部材保管料などの名目で水増しされ、TKロジ→トレイル→日本ロジ→楽天モバイルと渡っていった。この詐欺スキームによって、日本ロジの133億円だった売上高(20年3月期)は、約406億円(22年3月期)と倍増した。トレイルはそれ以上で、約26億円だった売上高(20年3月期)は約193億円(22年3月期)と7・4倍増になった。 内部と外部が確信犯として組んで詐欺を仕掛けたら防御は容易ではないが、それでも楽天のチェック管理体制の甘さは指摘しなければなるまい。 「外人部隊」による詐欺的スキームには先例がある。 楽天は、16年11月に始めた自前の配送サービス「楽天エキスプレス」を21年5月に打ち切った。それが突然の解除であったとして埼玉県の運送会社「トランプ」が、楽天などを相手取り約5億6000万円の損害賠償請求訴訟を起こしている。 その際、明るみに出たのが物流部門のトップに就いていた執行役員が、キックバックを受け取るための会社を作り、事業譲渡をトランプに強要したことだった。この執行役員と直属の部下は、内部告発を受けた社内調査の結果、21年3月までに退職している。執行役員は大手物流会社からの転職組で、18年7月、エキスプレスを本格化させるのに伴い担当責任者となった。 偶然とはいえ転職組の不正が続いたのは、「外部の目」から見て楽天管理体制にスキがあるからだろう。そこを突いて不正に走るのは論外だが、犯罪を誘引する芽は摘むべきだ。 楽天の「顔」である三木谷氏は、パーティー好きをガーシー参院議員に揶揄されてトラブルとなった。所属するNHK党の立花党首は「三木谷氏がガーシーを訴えて捜査が始まった。それは虚偽告訴にあたる」として三木谷氏を民事提訴した。 「告訴はしていない」と楽天が筆者の質問に答えたのは前回(3月2日)の本サイト配信で伝えた通りだが、三木谷氏がガーシー氏の挑発に乗ってしまい、「ハイエナか、お前は!」とツイートしたのは三木谷氏の失態である。 楽天は3月30日開催予定の株主総会で元警察庁長官の安藤隆春氏を社外取締役に迎える。警察OBを雇って何とかなるものではないが、わずか2年で100億円もの貴重な会社資産を抜かれてしまう「管理の甘さ」は、抜本的に変えなければならない』、「警察OBを雇って何とかなるものではないが、わずか2年で100億円もの貴重な会社資産を抜かれてしまう「管理の甘さ」は、抜本的に変えなければならない」、その通りだ。

第三に、3月17日付け文春オンラインが転載した丸の内コンフィデンシャル「《楽天の赤字幅は過去最大に》「タケノコ生活」のカギを握る携帯電話事業のゆくえ」の前半部分を紹介しよう。後半は別の話なので、紹介省略。
https://bunshun.jp/articles/-/61359
・『日本経済の中心地、東京・丸の内から“マル秘”財界情報をお届けする人気コラム「丸の内コンフィデンシャル」。月刊「文藝春秋」2023年4月号より一部を公開します』、興味深そうだ。
・『「ゼロ円プラン」を廃止し、平均収入は大手3社の半分に  楽天(三木谷浩史会長兼社長)の経営に黄信号が灯った。2022年12月期の最終損益は3728億円の赤字。赤字は4期連続で、赤字幅は過去最大となった。 22年12月期の売上収益は21年12月期に比べて15%増の1兆9278億円だった。楽天市場などのインターネットサービス事業、クレジットカード・銀行などの金融事業が伸びを牽引したが、19年10月にサービスを開始した携帯電話事業で進めている基地局の設備投資が利益を吹き飛ばした。 同社のカギを握るのは携帯電話事業の成長だ。同事業の収益は契約者数と契約あたりの月間収入の掛け算で決まるが、昨年、「ゼロ円プラン」を廃止したことで契約数は伸び悩み、同12月末時点で449万件にとどまった。目標とする1200万件は遠い。平均収入は上昇傾向にあるが携帯大手3社の半分程度にとどまる。 22年12月時点で基地局設置数は目標の8割強だ。これまで年間3000億円規模の投資をしてきたが、24年12月期には約半分の1500億円規模に減る見通しという。だが、これから投資のために発行した社債の償還が負担として重くのしかかる。今後3年間で償還を迎える社債の合計は約9000億円。市場はリスクがあると判断し、今年1月に発行した4.5億ドル(約590億円)の優先債の最終利回りは12%となった。同月に別途、起債した個人向け社債2500億円の利回りは3%と高い。 楽天は21年3月に日本郵政から約1500億円の出資を受け、昨年11月には傘下の楽天証券ホールディングスが保有する楽天証券株の約2割をみずほ証券に売却して775億円を確保した。  手元の資産を切り売りする「タケノコ生活」は引き受ける相手がいてこそ成立する話だ。「楽天に興味を示すのはNTTぐらい」というのが通信業界の見立てだが、「いわゆる『楽天経済圏』でNTTが事業展開できない限り、首は縦に振らない」とNTT幹部は言う。「経済圏」という天領を開放するか否か。 三木谷氏は大きな決断を迫られている』、「今後3年間で償還を迎える社債の合計は約9000億円。市場はリスクがあると判断し、今年1月に発行した4.5億ドル(約590億円)の優先債の最終利回りは12%となった。同月に別途、起債した個人向け社債2500億円の利回りは3%と高い」、「「楽天に興味を示すのはNTTぐらい」というのが通信業界の見立てだが、「いわゆる『楽天経済圏』でNTTが事業展開できない限り、首は縦に振らない」とNTT幹部は言う。「経済圏」という天領を開放するか否か。 三木谷氏は大きな決断を迫られている」、「「楽天に興味を示すのはNTTぐらい」というのが通信業界の見立てだが、「いわゆる『楽天経済圏』でNTTが事業展開できない限り、首は縦に振らない」とNTT幹部は言う。「経済圏」という天領を開放するか否か。 三木谷氏は大きな決断を迫られている」、「「経済圏」という天領を開放するか否か」、ここまで追い込まれているとは、初めて知った。
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人工知能(AI)(その13)(中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている、チャットGPTは アメリカ社会をどう変えるか?、チャットGPTで株価高まる世界のAI企業 懸念される「巨大リスク」とは) [イノベーション]

人工知能(AI)については、2021年9月3日に取上げた。久しぶりの今日は、(その13)(中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている、チャットGPTは アメリカ社会をどう変えるか?、チャットGPTで株価高まる世界のAI企業 懸念される「巨大リスク」とは)である。

先ずは、本年2月21日付け東洋経済オンラインが掲載した経済ジャーナリストの浦上 早苗氏による「中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/654040
・『アメリカのスタートアップ企業、オープンAIが昨年末リリースした対話型人工知能(AI)「ChatGPT」が世界的に注目を浴びている。 高度な対話、文章作成が可能なことから、検索、教育、マーケティングなど幅広い応用が期待され、中国では「中国版ChatGPT」の開発競争が過熱するが、その一方で早くも同技術を使ったフェイクニュースがSNSで広がり、警察が介入する騒動も起きている』、興味深そうだ。
・『フェイクニュースで大混乱  2月17日、浙江省の政府系放送局「浙江之声」がSNSの公式アカウントで、前日に拡散した杭州市の政策転換のニュースを「フェイク」だと打ち消した。 「(同省の)杭州市が自動車の通行制限を3月1日に撤廃する」との情報が16日に拡散したが、実際はChatGPTが作成したフェイクニュースだったのだ。 同局の説明によると、地域住民のグループチャットでChatGPTが話題に上った。ITの最新事情に詳しいメンバーが、同技術について説明するため、「杭州市が通行制限を廃止する」という設定でChatGPTにニュースリリースを書かせ、その様子を動画でシェアするとともに完成した文章を投稿した。 その後、ChatGPTを知らない別のメンバーがニュースリリースを本物だと信じ、コピペして別のグループチャットでシェアした。 杭州市は約10年前に、自動車増加に伴う渋滞を緩和するため通行制限を導入したが、ゼロコロナ政策やその後の感染爆発で走行量が減少し、最近は制限解除も期待されている。 絶妙なタイミングで投下された偽リリースは瞬く間に拡散し、ついに浙江省の広報媒体でもある浙江之声が「フェイクニュース」として否定する大騒動となった。) 同局によると警察が捜査に着手し、文章の作成者は「社会や政府に迷惑をかけたこと」を謝罪した。 作成者に悪意はなく、ネットでは同情の声が多く上がっている。一方で多くの人がAI作成の文章だと気づかないまま拡散したことで、これまではIT業界でのバズワードだったChatGPTへの注目度や懸念が一気に高まった。 2022年11月末にリリースされたChatGPTは、誰でも試せる気軽さもあり1月時点でアクティブユーザー数が1億人に達したといわれている。だが、中国のIPアドレスや電話番号では登録できないため、現時点で中国から利用しているのは、アクセスポイントを偽装するソフトや外国の電話番号でアクセスする「IT通」に限られる』、「ChatGPTは、誰でも試せる気軽さもあり1月時点でアクティブユーザー数が1億人に達したといわれている。だが、中国のIPアドレスや電話番号では登録できないため、現時点で中国から利用しているのは、アクセスポイントを偽装するソフトや外国の電話番号でアクセスする「IT通」に限られる」、「「IT通」に限られる」のに、「アクティブユーザー数が1億人」、とはさすが「中国」だ。
・『中国政府は今のところ後押ししている  それでも、お金のにおいがする有望技術に、中国企業や投資家は我先にと飛びついている。 マイクロソフトが2月初旬に、自社の検索エンジン「Bing(ビング)」にChatGPTを搭載し、検索で圧倒的なシェアを持つアルファベット傘下のグーグルが対話型AI「Bard(バード)」を近く一般公開すると発表すると、中国では「中国版ChatGPT」の開発競争が一気に加速した。 株式市場ではAIやマイクロソフトに関係する企業の株価が連日ストップ高となり、当局が注意喚起するほど過熱している。 中国政府は2020年以降IT企業の規制を強化しているが、AIはビッグデータ、5G、ブロックチェーンと並び、次世代の覇権に関わる技術として支援している。 だからか、中国政府の代弁者的なメディアも今のところ中国版ChatGPTの開発を後押しする姿勢を見せる。 政府系経済メディアの経済日報は2月12日、「中国企業の技術力はChatGPTに2年遅れているが、中国は世界最大規模のネットユーザーと多用な応用シーンを持っており、データ蓄積環境の優位性は明らかだ。ChatGPTに追いつき追い越すこともできる」と論評した。 検索に続いて対話型AIが応用されそうな教育・研究分野でも、警戒より期待が上回っている。 上海市で教育行政を統括する倪閩景氏は寄稿で「ChatGPTの登場は教育改革の大きな機会である」「ChatGPTのような学習ツールを教育改革に活用すれば、学習の質をさらに高められる」と指摘した。) そんな中で、共産党のエリート青年組織「中国共産主義青年団(共青団)」の機関紙「中国青年報」は2月17日、中国の大学で学ぶ学生が、ChatGPTを使って期末試験でクラス1位の成績を取った事例をレポートした。 記事によると大学2年生の男子学生は、昨年末に実施された期末試験の課題レポート「インターネット広告マーケティングの特徴」をChatGPTを利用して作成した。 オンラインで実施された期末試験は授業で使った資料や関連論文の閲覧を許可され、制限時間は2時間だった。ほかの学生が授業で配られた資料や数十本の関連論文をパソコンに保存し、試験に備えていたのに対し、男子学生はChatGPTにレポートのテーマを入力し複数回の対話を経て、1分足らずでChatGPTに6000字のドラフトを作らせた。その後、学生が1200文字に編集し、試験終了1時間前に提出したという。 中国青年報によると、「学校の課題にChatGPTを使う是非」について、SNSやインターネット掲示板で少なくとも数十万の投稿が公開されている。学生が「宿題の神器」「最強の家庭教師」と歓迎する一方、「思考力や創造力を奪う」との批判も少なくない。 中国青年報は記事でChatGPTを使って高得点を取った学生を批判しておらず、「正しく質問を入れないと、適切な回答は得られない。AIを使いこなすにも知識や技量がいる」「人間とAIが協業してより価値の高い成果を出せる」といった大学教授の声を多く紹介している。同メディアが共産党の機関紙であることを考えると、政府も対話型AIを「アメリカと肩を並べるための神器」と期待しているように見える』、「期末試験の課題レポート「インターネット広告マーケティングの特徴」をChatGPTを利用して作成した。 オンラインで実施された期末試験は授業で使った資料や関連論文の閲覧を許可され、制限時間は2時間だった。ほかの学生が授業で配られた資料や数十本の関連論文をパソコンに保存し、試験に備えていたのに対し、男子学生はChatGPTにレポートのテーマを入力し複数回の対話を経て、1分足らずでChatGPTに6000字のドラフトを作らせた。その後、学生が1200文字に編集し、試験終了1時間前に提出したという」、なかなか要領がいいようだ。「政府も対話型AIを「アメリカと肩を並べるための神器」と期待しているように見える」、なるほど。
・『締め付けに転じる可能性も  とはいえ、対話型AIの活用についてはまだ始まったばかりで、前述したように中国では使えない建前にもかかわらず、すでに大学の期末試験で使う学生が現れ、フェイクニュースが世の中を騒がせている。政府や企業の前のめりな期待をよそに、政府にとって想定外の事象が次々に生み出されるのは想像にかたくない。 習近平国家主席が率いる共産党政権は社会の秩序を乱す事象を何より嫌う。TwitterやFacebookなどのアメリカのSNSをブロックしたり、巨大なコストをかけてSNSを監視するのも、情報統制に絶対的な価値を置いているからだ。対話型AIが「デマの神器」になりそうな兆候が見えたら、躊躇なく締め付けに転じるだろう。 検索ポータルで中国首位のバイドゥ(百度)は3月に自社開発した対話型AIを発表する計画だが、中国政府のプレッシャーを背負う「中国版ChatGPT」は、どんな姿になるのだろうか』、「対話型AIが「デマの神器」になりそうな兆候が見えたら、躊躇なく締め付けに転じるだろう」、「バイドゥ」の「中国版ChatGPT」はどんな形になるのだろう。

次に、3月1日付けNewsweek日本版が掲載した在米作家の冷泉彰彦氏による「チャットGPTは、アメリカ社会をどう変えるか?」を紹介しよう。引用の順番を部分的に変更した。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2023/03/gpt_1.php
・『<英語で使用する限りでは、文章の作成・添削の能力は実用レベルに達している> 2022年11月30日に、サンフランシスコに本拠を置くベンチャー企業 Open AI 社は、AI(人工知能)が人間と対話する「チャットポット」をインターネットのパブリックな空間でリリースしました。UI(ユーザーインターフェース)は簡単で、ユーザーが文章でポットに質問を投げかけると、文章で回答を返してくるというスタイルです。これが現在、世界中で話題になっているチャットGPT の始まりでした。 私が、その存在と効果を知ったのはリリースから約1カ月弱後の12月後半でした。その時は英文のネイティブチェック的な使い方を、テック技術者のアシストで経験したのですが、その精度に驚嘆したのを覚えています。それから1カ月経過した本年の1月末には、かなり広範な社会現象になり、2月に入るとユーザーが3億人を超えたとして一般のメディアでも話題にされるようになりました。 その後、サーバの容量不足でサービスを受けるのに時間がかかる時期もありましたが、本稿の時点では容量の追加や、日々のアップデートなどがされているらしく、接続については、やや改善されています。運営サイドも、2月13日には「初期リリース」から「安定的リリース」にフェーズを進めています。また、混雑時に優先して使用ができる有料サービスの「PLUS」も始まっていますが、本稿の時点ではキャパを超えているらしく、登録しようとすると「ウェイトリスト」に入れられます。 ちなみに、現時点では日本語のデータ蓄積量はまだまだ少ないようで、事実を問うような質問ではどんどん誤情報が返ってくるのが現状です。試しに、今現在「旬」である芸能人3人について入力してみたところ、1名は「知らない」と言われ、残りの2名については全く間違った情報が返ってきました。ビジネスレターの様式などはある程度は習得しているようですが、日本語特有のニュアンスの表現に関しては、まだまだ実用レベルにはなっていません』、「英語で使用する限りでは、文章の作成・添削の能力は実用レベルに達している」、しかし「日本語特有のニュアンスの表現に関しては、まだまだ実用レベルにはなっていません」、ただ、それも時間の問題だろう。
・『英語の膨大な言語データ  ですが、英語の世界では違います。そもそも Open AI 社が英語圏の企業ということもありますが、恐らく膨大な言語データを有しているものと思われ、まず文章の作成や添削の能力としては、ハッキリ申し上げて実用レベルに達していると思います。現時点では、アメリカ社会もその実力を認め、その上で様々な分野で議論が始まっているところです。今回は4つの分野についてお話したいと思います。 1つ目は、教育の分野です。情報を検索するということでは、既にネットに多くのツールがありますが、チャットGPT を使うと正確な英文が簡単に書けてしまう、これは画期的なことです。まず、高校や大学では宿題のエッセイを書くのに、学生が使い始めており、早速論争になっています。例えば、調査と作文を一括で処理させるような行為が横行するようだと、学生の学習体験にならず学力が向上しないという指摘がされています。このため原則禁止にする学区もあり、学校貸与のデバイスでは接続を遮断するケースも見られます。 一部の大学では、チャットGPT が出力してくる英文の「クセ」を見抜くソフトを導入して「不正行為」の摘発に乗り出すとしているケースもあります。深刻な問題は、大学入試の小論文(エッセイ)試験です。アメリカの場合は、在宅受験であり、しかも教員や親などから英語の「言葉遣い」のチェックを受けることは特に禁止されていません。ですが、最初からAIに書かせたエッセイが横行すると入試制度が混乱してしまう懸念があります。今年の入試(原則として昨年の12月末締め切り)では、表面だった問題にはなっていませんが、次年度へ向けては各大学が対応に追われることと思います。 一方で、修士レベル以上では、文章作成というのが「論文執筆の後工程」に過ぎないという考え方を取るならば、チャットGPT というのは論文の生産性を劇的に高めるのは事実です。また、英語力が発展途上の留学生に取っては、論文執筆の心強い味方になります。もちろん出力された英文が自分の論旨に外れていないかを確認する工程を省略することはできませんし、ある程度はオリジナルな表現を入れるべきですが、こうした使用法は否定できないという意見はあります。) 2つ目は、生活の分野です。医者にちょっと複雑な相談をテキストで行う、小売店などが消費者への注意事項を告知する文書を用意する、保護者が教師に対して子どもの様子を報告する、などといった生活の中で「かなり丁寧で、正確性が求められる」レターを書くという局面はあります。そんな場合に、チャットGPT を使えば誰でも一定レベルの英文が書けるというのは便利です。 さらに、そうした利用者からの依頼や問い合わせに応える側では、一々考えて文章を書くのではなく、AIに条件を放り込めば回答を作ってくれるわけです。この点に関しては、このままAIが進化すると、ある程度の知的労働は機械に取って代わられてしまうのではという議論もあります。 3つ目は、プログラミング(コーディング)の分野です。チャットGPT には、当初からプログラムを入力すると、より良いプログラムの書き方を返してくるという機能があります。もちろん、産業別に込み入った条件があったり、複雑なインターフェースがあったりという条件下では、要件を入れただけでは、使えるプログラムを返してくるわけではありません。 ですが、スキルの低いプログラマーがダラダラ書いたステップ数の多いプログラムを入れると、短くて切れ味の良いプログラムに書き換えてくれるとか、条件の入れ方のコツを習得すると中級者レベルでも生産性支援ツールとして役立つということは確かにあるようです。デバッグ(プログラムのバグの解決)の機能も結構使えるという声があります。そうしたツールは既に色々出回っているわけですが、チャットGPT が相当なビッグデータを集めているとしたら、業界のゲームチェンジャーになる可能性はあります』、「1つ目は、教育の分野です」、「チャットGPT を使うと正確な英文が簡単に書けてしまう、これは画期的」、「調査と作文を一括で処理させるような行為が横行するようだと、学生の学習体験にならず学力が向上しないという指摘がされています。このため原則禁止にする学区もあり」、「2つ目は、生活の分野です。医者にちょっと複雑な相談をテキストで行う、小売店などが消費者への注意事項を告知する文書を用意する、保護者が教師に対して子どもの様子を報告する、などといった生活の中で「かなり丁寧で、正確性が求められる」レターを書くという局面はあります。そんな場合に、チャットGPT を使えば誰でも一定レベルの英文が書けるというのは便利」、「3つ目は、プログラミング(コーディング)の分野です。チャットGPT には、当初からプログラムを入力すると、より良いプログラムの書き方を返してくるという機能があります・・・スキルの低いプログラマーがダラダラ書いたステップ数の多いプログラムを入れると、短くて切れ味の良いプログラムに書き換えてくれるとか、条件の入れ方のコツを習得すると中級者レベルでも生産性支援ツールとして役立つということは確かにあるようです」、この「プログラミングの分野」は本当に便利そうだ。
・「4番目は、これは使用法ではなく、チャットGPT が出力してくる英文の「味付け」の問題です。昨年12月に使い始めた人の多くは、私も含めて、出てくる英語の文章が「とても丁寧で感じがよく、スッキリしていて、しかも世界中の誰も傷つけないように」書かれていることに驚いたのでした。これは、そのような「味付け」がアルゴリズムの中で設定されているようですし、またその背景には、そのような「味付け」が21世紀の英語圏では最も広範な実用性を持つという判断があると考えられます』、「4番目は、これは使用法ではなく、チャットGPT が出力してくる英文の「味付け」の問題です」、なるほど。 
・『ポリコレに汚染されている?  これに対しては早速「チャットGPT はポリコレに汚染されている」とか「政治的バイアスが不快」という声が上がっています。この問題は、もしかすると2022年のイーロン・マスク氏による「同氏の基準による発言の自由」を掲げての、ツイッター買収のような騒動に発展するかもしれません。 チャットGPT が実用化されることで、あるスキル以下のプログラマーは不要になるとか、職種の分担が変わってくるとか、あるいはシリコンバレー名物の「面倒な要件を与えてプログラムを書かせる入社試験」が、今まで以上に、やたらに難しくなるかもしれないなどという議論があります。それはともかく、リベラル寄りとされる チャットGPT に「対抗」して、保守的な立場や、統制的な価値観に基づいたAI開発などの動きが出てくるかもしれません。 いずれにしても、2023年3月初旬の現在、テックの分野では、このチャットGPT が大きな話題になっているのは間違いありません』、「リベラル寄りとされる チャットGPT に「対抗」して、保守的な立場や、統制的な価値観に基づいたAI開発などの動きが出てくるかもしれません」、「リベラル」と「保守」の争いが「AI開発」の分野でまで出てくるとすれば、見物だ。

第三に、3月14日付けダイヤモンドが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「チャットGPTで株価高まる世界のAI企業、懸念される「巨大リスク」とは」を紹介しよう。
・『世界のIT産業ではAI分野に関心がシフトしている。言語型AIなどと呼ばれる「チャットGPT」を用いてマイクロソフトは検索市場のシェアを、王者・グーグルから奪取しようとしている。AIが果たす役割は日常生活から企業の事業運営、社会インフラなどの管理、さらには防衛(安全保障)まで増えている。米国は中国が台頭する状況に懸念を強め、さまざまな対策を講じている。米中対立のはざまで揺れるAI業界の成長性をどのように見極めればいいのだろうか』、興味深そうだ。
・『米中対立のはざまで揺れるAI業界  最近、世界のIT先端分野の中心は、急速に変化している。主な兆候は、AI(人工知能)を使った文章や画像の生成などへの期待の高まりだ。米オープンAIの「GPT-3.5(チャットGPTを支えるAI)」、グーグルの「Bard」、中国バイドゥの「文心一言(アーニーボット)」などが注目を集めている。こうした先端分野の企業に期待する投資家が増え、足元で米ナスダック総合指数も底堅い展開になっている。 米国のバイデン政権は、中国の華為技術(ファーウェイ)に対する全面禁輸を検討している。米議会では超党派議員によって、動画投稿アプリ「TikTok」の一般利用を禁止する法案成立も視野に入っている。なお、オーストラリアでは、AIを搭載した中国製の監視カメラの排除が進みつつあるようだ。日用品などの分野で米中の相互依存度が高まっている一方、先端分野での米中対立はさらに熱を帯びている。それは、世界経済にとって無視できないマイナスの要因になる。 世界経済はウクライナ紛争をはじめとする不安要因を抱え、インフレなどに苦しんでいる。米国や欧州では、想定以上に金融引き締めが長引く可能性が高い。世界経済の成長に大きなインパクトを与えるAIなどの先端分野において、米中対立が一段と激化すると、実体経済と金融市場にマイナス影響が及ぶことは避けられないだろう』、「AIなどの先端分野において、米中対立が一段と激化すると、実体経済と金融市場にマイナス影響が及ぶことは避けられない」、その通りだ。
・『世界のAI企業で期待の星は?  世界のIT先端分野ではサブスクリプションや広告などのビジネスモデルから、より急速にAI関連分野に関心がシフトしている。きっかけの一つが、マイクロソフトとオープンAIとの連携強化だ。 従来のAI利用方法といえば、機器の使い方の説明やアラームの設定などがメインだった。しかし、言語型AIなどと呼ばれる「チャットGPT」は、自ら情報を生成する力を発揮し始めた。それを用いてマイクロソフトは検索市場のシェアを、王者・グーグルから奪取しようとしている。AIは既存の産業構造にかなりのインパクトを与えるとの見方は増えた。 AI利用の範囲は検索にとどまらない。1月12日の米国株式市場では、企業、政府、安全保障関連で意思決定などをサポートするAI開発を行う企業であるビッグ・ベアAI(BigBear.ai Holdings,Inc)の株価が前営業日の引け値から260%(株価は3.6倍)超上昇した。材料視されたのは、同社が米空軍から数量未確定の契約を(期間10年、総額9億ドル、およそ1215億円)を結んだことだった。 日常生活から企業の事業運営、社会インフラなどの管理、さらには防衛(安全保障)まで、AIが果たす役割は増えている。AI利用には、深層学習を支えるチップの性能向上が欠かせない。AI需要の増加期待を背景に、2023年初から3月初旬まで、米国の株式市場では、フィラデルフィア半導体株指数の上昇が顕著だった。 中国でもAI関連企業が注目されている。代表例はファーウェイだ。米トランプ前政権下での半導体禁輸措置などによって一時、ファーウェイの経営体力は大きく低下した。そのため同社は「オナー」ブランドのスマホ事業を売却して生き残りを図りつつ、AI分野に経営資源を急速に再配分した。その成果として、世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキングで上位の天津港で、ファーウェイのAIを用いた港湾の運行システムを稼働し始めた。 中国では寒武紀科技(カンブリコン・テクノロジーズ)など、AI関連新興企業に対する成長期待も高まっている。習国家主席の肝いりで創設された「科創板市場」に上場するカンブリコンの株価は、3月上旬までの年初来で約70%上昇した』、「言語型AIなどと呼ばれる「チャットGPT」は、自ら情報を生成する力を発揮し始めた。それを用いてマイクロソフトは検索市場のシェアを、王者・グーグルから奪取しようとしている」、「中国では寒武紀科技(カンブリコン・テクノロジーズ)など、AI関連新興企業に対する成長期待も高まっている」、なるほど。
・『米中対立がAI分野で先鋭化  米国は中国が台頭する状況に懸念を強めている。ファーウェイの全面禁輸に加え、TikTokなど外国企業のITサービスの利用を禁じる権限を米国政府に付与する法案成立も目指している。なお、欧州委員会、カナダ、わが国でも政府職員の業務用端末でのTikTok利用が禁止された。カナダでは、「19年と21年の連邦議会選挙に中国が介入した」との報道もある。また、米国では港湾で稼働しているクレーンが、「中国によるデータ抜き取りの手段になる」といった懸念が浮上し始めている。 そうしたリスクに対応するために、米国は日韓台との連携を強化し、半導体など先端分野での対中包囲網をさらに強固にする意向だ。また、アップルなどは生産拠点を中国からインドに移管しており、インドともAIなど先端分野での連携を強化しようとしている。 一方、中国共産党政権は、米国などの圧力に対抗し、AI利用を加速させようとしている。象徴的なのが、3月5日から始まった全人代と同じタイミングで実施された、全人代代表の改選だ。経済分野の代表としてAI開発企業である科大訊飛(アイフライテック)トップの劉慶峰氏が再選された。一方、テンセントの馬化騰(ポニー・マー)氏は代表から退いた。 習政権は、産業補助金の積み増しなどによってAI開発、ロジック半導体の微細化などの製造技術向上を加速するはずだ。また、2月下旬から3月上旬にスペイン・バルセロナで開催された世界最大規模の移動体通信展示会「モバイル・ワールド・コングレス」にて、ファーウェイは、政府や大企業だけでなく、中小企業向けの事業を強化すると発表した。シェアは低下したものの依然としてファーウェイは世界トップの通信基地局メーカーだ。その地位を生かし、同社がAIなどを用いたIoTサービスを新興国の中小事業者に提供するもようだ』、「シェアは低下したものの依然としてファーウェイは世界トップの通信基地局メーカーだ。その地位を生かし、同社がAIなどを用いたIoTサービスを新興国の中小事業者に提供するもようだ」、「ファーウェイ」が「世界トップの通信基地局メーカーだ」、には驚かされた。
・『明確な絵が描けないAIの可能性・成長性  現時点でチャットGPTなど生成AIの設計、開発などに関して、米国は中国をリードしている。米国は中国の半導体関連企業への禁輸措置をさらに強化するなどし、ファーウェイをはじめとするIT先端企業の成長をより強く抑え込もうとするだろう。それによって、先端分野における中国の取り組みが鈍化する可能性がある。 翻って米国をはじめ主要先進国のAI利用には、克服されるべき課題も多い。チャットGPTに関して、誤った検索結果の提示や、子どもの教育への配慮などの懸念が多く指摘されている。  一例としてアップルはチャットGPTを用いて過去のメールを検索し、自動で文書を作成するアプリ、「ブルーメール」のアップデートをしなかった。AIを用いることで定型化された業務の効率化などは期待されているものの、現時点では米中対立の先鋭化、人権への配慮、さらには人類の学ぶ意欲への悪影響など、AI利用がどのように進捗(しんちょく)するか不確定な要素は多い。そう考えると、年初来のAI関連株の上昇は、「行き過ぎ」に見える。 加えて、主要先進国は当面の間、インフレ沈静化のために金融を引き締めなければならない。米国を中心に世界的に金利はさらに上昇し、株価は下落しやすくなる。特に、期待先行で株価が上昇したAI関連銘柄への売り圧力は相対的に大きくなりやすい。 懸念されるのは、世界的に株価が下落するタイミングで、先端分野での米中対立の先鋭化が本格化する展開だ。AI、半導体、さらには人権の分野で米中対立が一段と熱を帯びれば、サプライチェーンの混乱が再燃する。台湾侵攻の緊迫感も高まり、中国ではなく他国に生産拠点をシフトさせる動きも激化するだろう。 そうなると、これまで以上に在庫を積み増そうとする企業は増えるに違いない。それに伴い、各国企業のコストは増加し、世界経済と金融市場の不安定感が追加的に高まると予想される。現在、AI関連企業を物色する投資家は多いが、チャットGPTなどの利用は一筋縄にはいかないだろう』、「期待先行で株価が上昇したAI関連銘柄への売り圧力は相対的に大きくなりやすい。 懸念されるのは、世界的に株価が下落するタイミングで、先端分野での米中対立の先鋭化が本格化する展開だ。AI、半導体、さらには人権の分野で米中対立が一段と熱を帯びれば、サプライチェーンの混乱が再燃する。台湾侵攻の緊迫感も高まり、中国ではなく他国に生産拠点をシフトさせる動きも激化するだろう」、「現在、AI関連企業を物色する投資家は多いが、チャットGPTなどの利用は一筋縄にはいかないだろう」、投資の観点からは、当面、「AI関連企業」は要警戒のようだ。
タグ:東洋経済オンライン (その13)(中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている、チャットGPTは アメリカ社会をどう変えるか?、チャットGPTで株価高まる世界のAI企業 懸念される「巨大リスク」とは) 人工知能(AI) 浦上 早苗氏による「中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている」 オープンAI 「ChatGPT」 「「IT通」に限られる」のに、「アクティブユーザー数が1億人」、とはさすが「中国」だ。 「期末試験の課題レポート「インターネット広告マーケティングの特徴」をChatGPTを利用して作成した。 オンラインで実施された期末試験は授業で使った資料や関連論文の閲覧を許可され、制限時間は2時間だった。ほかの学生が授業で配られた資料や数十本の関連論文をパソコンに保存し、試験に備えていたのに対し、男子学生はChatGPTにレポートのテーマを入力し複数回の対話を経て、1分足らずでChatGPTに6000字のドラフトを作らせた。その後、学生が1200文字に編集し、試験終了1時間前に提出したという」、なかなか要 領がいいようだ。「政府も対話型AIを「アメリカと肩を並べるための神器」と期待しているように見える」、なるほど。 「対話型AIが「デマの神器」になりそうな兆候が見えたら、躊躇なく締め付けに転じるだろう」、「バイドゥ」の「中国版ChatGPT」はどんな形になるのだろう。 Newsweek日本版 冷泉彰彦氏による「チャットGPTは、アメリカ社会をどう変えるか?」 「英語で使用する限りでは、文章の作成・添削の能力は実用レベルに達している」、しかし「日本語特有のニュアンスの表現に関しては、まだまだ実用レベルにはなっていません」、ただ、それも時間の問題だろう。 「1つ目は、教育の分野です」、「チャットGPT を使うと正確な英文が簡単に書けてしまう、これは画期的」、「調査と作文を一括で処理させるような行為が横行するようだと、学生の学習体験にならず学力が向上しないという指摘がされています。このため原則禁止にする学区もあり」、 「2つ目は、生活の分野です。医者にちょっと複雑な相談をテキストで行う、小売店などが消費者への注意事項を告知する文書を用意する、保護者が教師に対して子どもの様子を報告する、などといった生活の中で「かなり丁寧で、正確性が求められる」レターを書くという局面はあります。そんな場合に、チャットGPT を使えば誰でも一定レベルの英文が書けるというのは便利」、 「3つ目は、プログラミング(コーディング)の分野です。チャットGPT には、当初からプログラムを入力すると、より良いプログラムの書き方を返してくるという機能があります・・・スキルの低いプログラマーがダラダラ書いたステップ数の多いプログラムを入れると、短くて切れ味の良いプログラムに書き換えてくれるとか、条件の入れ方のコツを習得すると中級者レベルでも生産性支援ツールとして役立つということは確かにあるようです」、この「プログラミングの分野」は本当に便利そうだ。 4番目は、これは使用法ではなく、チャットGPT が出力してくる英文の「味付け」の問題です 「リベラル寄りとされる チャットGPT に「対抗」して、保守的な立場や、統制的な価値観に基づいたAI開発などの動きが出てくるかもしれません」、「リベラル」と「保守」の争いが「AI開発」の分野でまで出てくるとすれば、見物だ。 ダイヤモンド 真壁昭夫氏による「チャットGPTで株価高まる世界のAI企業、懸念される「巨大リスク」とは」 「AIなどの先端分野において、米中対立が一段と激化すると、実体経済と金融市場にマイナス影響が及ぶことは避けられない」、その通りだ。 「言語型AIなどと呼ばれる「チャットGPT」は、自ら情報を生成する力を発揮し始めた。それを用いてマイクロソフトは検索市場のシェアを、王者・グーグルから奪取しようとしている」、「中国では寒武紀科技(カンブリコン・テクノロジーズ)など、AI関連新興企業に対する成長期待も高まっている」、なるほど。 「シェアは低下したものの依然としてファーウェイは世界トップの通信基地局メーカーだ。その地位を生かし、同社がAIなどを用いたIoTサービスを新興国の中小事業者に提供するもようだ」、「ファーウェイ」が「世界トップの通信基地局メーカーだ」、には驚かされた。 「期待先行で株価が上昇したAI関連銘柄への売り圧力は相対的に大きくなりやすい。 懸念されるのは、世界的に株価が下落するタイミングで、先端分野での米中対立の先鋭化が本格化する展開だ。AI、半導体、さらには人権の分野で米中対立が一段と熱を帯びれば、サプライチェーンの混乱が再燃する。台湾侵攻の緊迫感も高まり、中国ではなく他国に生産拠点をシフトさせる動きも激化するだろう」、 「現在、AI関連企業を物色する投資家は多いが、チャットGPTなどの利用は一筋縄にはいかないだろう」、投資の観点からは、当面、「AI関連企業」は要警戒のようだ。
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中国経済(その16)(政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が 根本的に分かっていないこと、習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道、水増しされていた中国の人口 「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出) [世界経済]

中国経済については、本年2月8日に取上げた。今日は、(その16)(政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が 根本的に分かっていないこと、習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道、水増しされていた中国の人口 「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出)である。特に3番目の記事は衝撃的だ

先ずは、本年2月15日付けNewsweek日本版が掲載した米クレアモント・マッケンナ大学教授のミンシン・ペイ氏による「政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が、根本的に分かっていないこと」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/02/post-100870_1.php
・『<ゼロコロナ政策から抜け出した中国が、本当に経済を成長路線に乗せるために必要なのは威勢のいい掛け声ではない> 中国政府の「経済成長」愛に再び火がついた。ゼロコロナ政策の長い闇から強引に、少なくとも数万の命を犠牲にして抜け出した今、あの国の指導者たちは異口同音に、いざ力強い経済を取り戻すぞと叫び始めた。だが号令だけでは何も変わらない。 昨年末に開かれた共産党の中央経済工作会議で、今年は経済成長を政府の最優先課題とすると定められた。こうした党中央の固い決意を受け、地方の党幹部や首長らも同じ言葉を繰り返し、民間の投資家や実業家らの期待をあおっている。コロナの時代には見られなかった光景だ。 こうした変化の政治的動機は明らかだ。国民が苛酷なゼロコロナ政策への不満を爆発させ、その廃止に伴う混乱にも失望している今は、一刻も早く党に対する信頼と支持を回復したい。だが成長賛歌の合唱だけでは不十分。大事なのは行動だ。 停滞する不動産業界へのテコ入れなど、小手先の対策では足りない。金融緩和やインフラ投資の拡大などの景気刺激策も、せいぜい短期の効果しかあるまい。 ゼロコロナ政策は中国経済に深い傷痕を残した。それ以前には中小零細企業が4400万社もあった。登記された民間企業の約98%を占め、国内の雇用(公務員を除く)の8割前後を支えていた。ほかに、自営業者も9000万人以上いた』、「共産党の中央経済工作会議で、今年は経済成長を政府の最優先課題とすると定められた・・・地方の党幹部や首長らも同じ言葉を繰り返し、民間の投資家や実業家らの期待をあおっている」、「国民が苛酷なゼロコロナ政策への不満を爆発させ、その廃止に伴う混乱にも失望している今は、一刻も早く党に対する信頼と支持を回復したい。だが成長賛歌の合唱だけでは不十分。大事なのは行動だ。停滞する不動産業界へのテコ入れなど、小手先の対策では足りない。金融緩和やインフラ投資の拡大などの景気刺激策も、せいぜい短期の効果しかあるまい」、その通りだ。
・『中国が再び経済成長するのに不可欠なもの  だがゼロコロナ政策で事情は一変した。ロックダウン中も中小零細業者への資金援助はなかったから、多くが廃業に追い込まれた。 そこへ、地政学的な圧力が成長の阻害要因としてのしかかる。アメリカは中国が半導体を入手できないよう、これまで以上に力を入れている。オランダ企業ASMLが半導体製造装置を中国に売らないよう、同国政府に圧力をかけてもいる。米議会の下院で多数派となった共和党が、新たな経済制裁を打ち出す可能性もある。 ウクライナでの戦争に関して、今も中国はロシアを非難していない。当然、EUは腹を立てており、アメリカと同様に経済的なデカップリング(切り離し)を急ぐべきだとの声も上がっている。こんな政治的緊張が続く限り、経済の先は見えない。投資意欲は冷え、外国企業の撤退で製造業の雇用は確実に減っていく。 つまり、中国経済を再び成長軌道に乗せるには欧米諸国との関係改善が不可欠だ。しかし現時点で、米中関係は修復不能なほどに冷え込んでいる。どうすればいいか。プーチン政権下のロシアに対する支持を取り下げるのもいい。台湾に対する軍事的な威嚇をトーンダウンするのもいい。それだけでも投資家の心理は変わるだろう』、「こんな政治的緊張が続く限り、経済の先は見えない。投資意欲は冷え、外国企業の撤退で製造業の雇用は確実に減っていく。 つまり、中国経済を再び成長軌道に乗せるには欧米諸国との関係改善が不可欠だ。しかし現時点で、米中関係は修復不能なほどに冷え込んでいる」、打開は難しそうだ。
・『古典的な共産主義イデオロギーにこだわる習政権  一方で中国は、投資家の信頼を得られる改革に乗り出さねばならない。習近平(シー・チンピン)政権は古典的な共産主義イデオロギーにこだわり、社会と経済に対する党の支配を強化してきた。民間企業に党の支部を置き、貿易相手国への危険な挑発を繰り返したりするようでは、信頼回復など望めない。 本気で成長を取り戻したいなら、かつて鄧小平が推進した政治改革の路線に戻るべきだ。とりわけ大事なのは法治主義の貫徹と司法の独立。さもないと民間事業者が自分の命と財産を守れない。 経済政策では非効率な国有企業を民営化し、企業に優しい規制環境を整えること。中小零細企業に対する支援策も、成長の回復軌道を維持するには欠かせない。 しかし今のところ、中国政府がこうした改革に乗り出す気配はない。成長を口にするだけで、1979年に毛沢東の階級闘争理論と決別した鄧小平のような気概で国の進路を変える兆しは見えない。党の甘言に乗せられてはいけない。この先も当面は、中国経済の息は上がったままだ』、「習近平・・・政権は古典的な共産主義イデオロギーにこだわり、社会と経済に対する党の支配を強化してきた。民間企業に党の支部を置き、貿易相手国への危険な挑発を繰り返したりするようでは、信頼回復など望めない。 本気で成長を取り戻したいなら、かつて鄧小平が推進した政治改革の路線に戻るべきだ。とりわけ大事なのは法治主義の貫徹と司法の独立。さもないと民間事業者が自分の命と財産を守れない」、「習近平」は経済がある程度理解していた李克強を追い出し、イエスマンが首相にしたようでは、「当面は、中国経済の息は上がったままだ」。困ったことだ。

次に、2月16日付けNewsweek日本版が掲載したブルネル大学(ロンドン)ビジネススクール上級講師のティー・クオ氏と、スタンフォード大学中国経済制度センター上級研究員のチョンカン・シュイ氏による「習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/02/post-100878_1.php
・『<共産党の「完全支配」復活を目指す習近平路線は、民間の活力を奪い、先進国市場を遠ざけ、土地バブルを崩壊させかねない> 中国共産党の第20回党大会(2022年10月開催)では、習近平(シー・チンピン)国家主席が今後5年間も政権を担うことが確認された。ただし、それが中国経済にとって何を意味するかは、3つの要素に左右される。国の制度、過去と現在の経済状況、そして指導者の政治的意図だ。 中国の最も基本的な制度は全体主義であり、経済を含む社会の全領域に共産党の独占的支配が及んでいる。全体主義型統制を支える党=国家の制度は、1949年にソビエト連邦から全面的に移植されたものだ。 ソ連型全体主義は30年前に経済の行き詰まりにより崩壊したが、中国は例外に見えた。いま問われているのは、中国独自の全体主義的実験が今後も長続きするかどうかだ。 この問いに答えるためには、「中国の特色ある全体主義」の構造を理解する必要がある。その重要な柱は政治・思想・人事における高度に中央集権化された全体主義型統制と、行政・経済政策の分権化を合体させた地域分権全体主義(RDT)だ。 この組み合わせはポスト毛沢東時代の改革開放政策の原動力だった。この時期に経済への中央集権的・全体主義的な統制は緩和され、RDTは地域分権権威主義(RDA)へと発展した。だが、習が権力を握った2012年以降は全体主義に回帰し、特に急成長する民間部門への統制を再び強めた。この逆流現象が、22年の急激な経済減速の主な理由だ。 毛の死後、共産党指導部は経済成長こそ生き残りの鍵だと考え、RDTを新たな改革開放政策の制度的基盤に据えた。この新モデルでは、地域経済の状況が地方の党=国家官僚の昇進を左右するため、一部の官僚は民間企業の違法行為を隠蔽したり、そうした企業を支援したりして、民間部門の急成長を促した。 民間企業の存在感が増すと、共産党は憲法を改正し、私有財産権を認める世界初の共産主義国家となった。この時点で統制はある程度緩和され、RDTはRDAに移行し始めた。 RDAモデルでは、共産党の政治面での独占に歯向かわない限り、民間部門や萌芽期の市民社会、非国営マスメディアの成長が許容されていた。加えて01年のWTO(世界貿易機関)加盟を機に外国から巨額の投資が流入し、輸出が飛躍的に伸びた。 だがRDAは、より長期的な問題の根本原因でもある。中国経済の持続的エネルギーは、土地と銀行部門の国家による独占、司法の独立性欠如、民間部門に対する差別、内需不足によって常に脅かされている。08年の世界金融危機は、党による完全支配を再び推進する口実となった。) 党=国家は膨大な債務を積み上げてインフラ整備を推し進め、少なくとも当面は高い経済成長を実現した。しかし、投資のほとんどは非効率で、中国は過剰借り入れと過剰設備の悪循環に陥った。さらに問題なのは、借金に頼った巨額の公共投資が民間部門を素通りしたことだ。 一方、土地の国有制と銀行の国家独占は、直接・間接的にGDPの約3分の1を占める不動産部門に深刻な問題を引き起こした。98年に始まった不動産の「市場化」は、国有地を地方政府の収入源に変えるのが狙いだった。この年の土地管理法改正の柱は、地方政府を管轄域内で唯一の土地所有者とすることにあった。 しかし、地方政府は土地から得られる利益を最大化するため、不動産の供給を絞って価格つり上げに走った。その結果、中国の不動産価格は平均世帯収入に対する比率で見ると、世界で最も高い水準に達した。中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回ったが、この意図的に作られたバブルは今や崩壊寸前だ』、「中国の特色ある全体主義」、「の重要な柱は政治・思想・人事における高度に中央集権化された全体主義型統制と、行政・経済政策の分権化を合体させた地域分権全体主義(RDT)だ。 この組み合わせはポスト毛沢東時代の改革開放政策の原動力だった。この時期に経済への中央集権的・全体主義的な統制は緩和され、RDTは地域分権権威主義(RDA)へと発展した。だが、習が権力を握った2012年以降は全体主義に回帰し、特に急成長する民間部門への統制を再び強めた。この逆流現象が、22年の急激な経済減速の主な理由だ」、なるほど。「中国の不動産価格は平均世帯収入に対する比率で見ると、世界で最も高い水準に達した。中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回ったが、この意図的に作られたバブルは今や崩壊寸前だ」、「中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回った」、とはまさに「バブル」だ。
・『全体主義への回帰が鮮明に  土地と銀行の国家独占は金融・財政システムも不安定化させた。地方政府が土地を担保に国有銀行から巨額の借り入れを続けたこともあり、中国全体の対GDP比債務残高は19年第1四半期には300%に達した。 さらに深刻なのは、その大半が土地や金融商品を担保にした住宅ローンであることだ。経済が減速している今、景気の波を増幅させる効果があるこの種の債務の担保価値低下は経済システム全体の重荷になり始め、金融・財政危機を誘発しかねない。 こうした問題に拍車をかけているのが内需の弱さだ。かつての中国は輸出収入でそれを補えたが、先進国との関係が悪化している現在、輸出頼みの経済成長はもはや望めない。中国の民間消費の対GDP比は21年の時点で38.5%(アメリカは70%近く、日本は58%)。依然として世界最低レベルにとどまっている。 中国経済が新たに直面している最大の問題は、共産党の掲げる目標の変化だ。党の存続のための経済発展という従来の目標は、穏やかな政治の進化とカラー革命(民主化運動)の阻止に代わった。党指導部は12年以降、組織的に中国の政治経済を全体主義に引き戻そうとしている。 中国社会の多元主義的要素(民間企業、市民団体、独立系メディア)は依然として制限されているが、党指導部はこの狭い空間が反抗の拠点になることを恐れている。民間の大物起業家や非国有の大手IT企業は容赦なく弾圧された。こうした動きは民間部門を弱体化させ、先進国市場へのアクセスを低下させている。) 党大会を見る限り、今後の中国で全体主義型統制が強化されることは明らかだろう。穏健なテクノクラートの存在感は低下し、今後の経済政策は政治的に決定されることになる。民間企業と市場への締め付けは着実に強化されるだろう。 1980年代、購買力平価でみたソ連の1人当たりGDPはアメリカの約3分の1だったが、今の中国は4分の1をわずかに超える程度。しかも数十年続いた「一人っ子政策」の結果、人口は減少に転じ、人口構造から労働供給と内需の両面で問題のさらなる悪化が示唆されている。 50年代、共産党の有名なスローガンの1つに「ソ連の今日は私たちの明日」というものがあった。現在の党指導部は今日の中国を昨日のソ連に変えようとしている』、「党指導部は12年以降、組織的に中国の政治経済を全体主義に引き戻そうとしている。 中国社会の多元主義的要素・・・は依然として制限されているが、党指導部はこの狭い空間が反抗の拠点になることを恐れている。民間の大物起業家や非国有の大手IT企業は容赦なく弾圧された。こうした動きは民間部門を弱体化させ、先進国市場へのアクセスを低下させている」、「今後の中国で全体主義型統制が強化されることは明らかだろう。穏健なテクノクラートの存在感は低下し、今後の経済政策は政治的に決定されることになる。民間企業と市場への締め付けは着実に強化されるだろう」、その通りだ。

第三に、3月15日付けNewsweek日本版が掲載した香港出身の経済学者・コラムニストの練乙錚氏による「水増しされていた中国の人口、「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出」を紹介しよう。これは、誠に驚くべき内容だ。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/03/post-101105_1.php
・『<労働人口が増え続ければ経済は栄える...。「14億人市場」という売り文句で海外からの投資を呼んできたが、中国の改ざん、捏造の流儀に目をつぶったほうも軽率> 多産多死の時代から多産少死の人口増加期を経て、やがて少産少死の安定期に入る。このプロセスを「人口転換」と呼ぶが、その後半では(今の日本のように)少子高齢化が顕著になり、やがて人口減少の危機を迎えかねない。 それが歴史の常であり、この人口転換からはどの国も逃れられない。まだ人口は増え続けると豪語していた中国政府も、ついにこの1月、従来は「2030年以降」とされていた人口減少が、実は昨年から始まっていたと認めた。 深刻な事態だが、もっと深刻なのは、その背景にある中国ならではの特殊事情だ。 なぜ想定より8年も早く、人口減が始まってしまったのか。中国の人口が「2030年以降」に減り始めるという想定は中国政府の発表してきた過去の公式統計に基づくもので、大多数の国際機関や外国政府もこれを信じ、これによって中国の将来性や国力を推定してきた。 そもそも平時には、一国の人口が激変する事態は考えにくい。しかるべき統計データがあれば、先の予想は十分に可能だ。なのに、なぜ8年も計算が違ったのか。 どう見ても不自然で、基のデータがおかしかったと考えざるを得ない。中国政府の発表する公式統計の信憑性には以前から疑問が提起されていたが、人口統計に関しては明らかに意図的な改ざんがあったと思われる。 かつて中国には「国家衛生計画生育委員会(計生委)」という組織があった。計生委は巨大な官僚機構で、1980年代に急激に力を付け、国民からは最も嫌われ、軽蔑される組織の1つとなった。 なぜか。1980年頃に始まる悪名高い「一人っ子政策」の実行部隊として、計生委は強制的に妊娠を規制し、2人目以降の妊娠に関しては人工中絶を強要してきたからだ。 一方で組織内には腐敗が蔓延し、無能な共産党幹部が違法出産を見逃す代わりに私腹を肥やしていた。一人っ子政策の下でも人口が増え続けるのは、計生委の指導下でのデータ改ざんが原因だった(こちらの記事参照、なお計生委は18年に廃止されている)』、「人口統計に関しては明らかに意図的な改ざんがあった」、「かつて中国には「国家衛生計画生育委員会(計生委)」という組織があった。計生委は巨大な官僚機構で、1980年代に急激に力を付け、国民からは最も嫌われ、軽蔑される組織の1つとなった。 なぜか。1980年頃に始まる悪名高い「一人っ子政策」の実行部隊として、計生委は強制的に妊娠を規制し、2人目以降の妊娠に関しては人工中絶を強要してきた」、「一人っ子政策の下でも人口が増え続けるのは、計生委の指導下でのデータ改ざんが原因」、酷い組織だったようだ。
・『共産党が神話を主導  だが党の指導者──最初は江沢民(チアン・ツォーミン)、次いで胡錦濤(フー・チンタオ)──が旗を振らなければ、データの改ざんがこれほど組織的に行われることはなかっただろう。 江沢民も胡錦濤も、中国経済の成長を支えるには外国資本の誘致が不可欠と考えていた。だから中国には今でも10億人を超える巨大市場があり、その規模は何十年も先まで拡大を続けるし、安価な労働力もたっぷりあるという「神話」をつくり上げた。 データの改ざんは習近平(シー・チンピン)体制になってからも続いた。「14億の民」という標語を振りかざせば、軍事面でも外交面でも虚勢を張り、諸外国を威圧することが可能だった。 しかし偽りの楽観的な人口統計に基づく経済成長は持続不能だ。だから習近平は、あの「ゼロコロナ政策」を放棄したときと同様、唐突に「30年以降の人口減少」説を放棄した。そして中国の人口は既にピークに達し、減少に転じていると認めた。 それでも中国は、全てを白状したわけではない。22年の人口総数は約14億1000万人だったと、今も主張し続けているが、ここ数年の人口データの修正から考えて、極めて疑わしい数字だ。 なお米ウィスコンシン大学の人口統計学者である易富賢(イー・フーシェン)は、水増しされる前の出生データを基に、中国のピーク人口は約12億8000万人だったと推定している(ちなみに彼の著書は、中国国内では発売を禁じられている)。 だが昨年起きたハッキング事件により、中国の人口は彼の推定値よりもずっと少ない可能性が出てきた』、「江沢民も胡錦濤も、中国経済の成長を支えるには外国資本の誘致が不可欠と考えていた。だから中国には今でも10億人を超える巨大市場があり、その規模は何十年も先まで拡大を続けるし、安価な労働力もたっぷりあるという「神話」をつくり上げた。 データの改ざんは習近平・・・体制になってからも続いた」、昔から「改ざん」を続けていたことに驚かされた。
・『データ流出で嘘が露呈?  昨年6月、中国は史上最悪のデータ流出事件に見舞われた。上海警察のデータベースがハッカー攻撃を受けたのだ。 ハッカー集団は、個人を特定できる最新の情報を含む10億人分(23テラバイト相当)のデータセットを盗み、それをダークウェブで1セット10ビットコイン(約20万ドル)で売りに出した。 これを購入した研究者たちが分析してみると、その数値は中国の実際の人口動態プロファイルと酷似していた。つまりデータは本物と考えていいのだが、統計処理に当たって総人口の70%(総数を14億とすれば10億)ものサンプルを使うことはあり得ない。 一般論として、そんな必要はないし、手間も費用もかかりすぎる。普通はどんなに多くても10%程度だ。中国政府は毎年、サンプル調査を基に人口の変動を推計しているが、その際に用いられるサンプル数は総人口の1%だ。 そう考えると、昨年のハッキングで流出したデータセットには(国民の70%ではなく)全国民の個人識別情報が含まれていた可能性が高い。つまり、中国の本当の人口は14億でも12億8000万でもなく、せいぜい10億人程度という可能性が出てくる。 この国の政治は依然として一枚岩のトップダウン型で、それがデータ改ざんを助長する体質を生んだ。人口の水増しを伴うようでは、中央政府の進める壮大な建設プロジェクトも無用なものとなろう。 高速道路や新幹線の建設を急ぎ、人口増を見込んで不動産を開発しても、入居者のいない新築物件のゴーストタウンを生み出すだけだ。関連業界も含め、収益性を欠く無用の事業ばかりで、今や不良債権が山積みされている。 統計偽装の弊害は高齢者の医療保険や年金にも及ぶ。1960年代に生まれたベビーブーム世代には、労働力の増加を前提として潤沢な支給が約束されていた。 ところが今、武漢などの大都市では「白髪革命」と呼ばれる抗議デモが起きている。医療保険の給付金減額に、高齢者が怒りの声を上げているのだ。 外交の分野では虚栄心に満ちた「一帯一路構想」が同じく持続不能となり、挫折しかけている。労働人口が増え続ければ経済は栄え、政府の資金も潤沢になる──。そんな前提で金をつぎ込んできたのだが、今や人口は減少に転じ、経済の先行きも暗い。 こういう展開は、同じような人口問題を抱える他の国々ではあり得ない。いわゆる計画経済に縛られていないから、誰も人口統計を改ざんする必要を感じないからだ。 しかし偽データの影響は他国にも及ぶ。外国の自動車メーカーや携帯電話の製造会社は、人口増という見込みがあればこそ中国に投資してきた。中国市場の拡大に期待し、安価な労働力を搾取して輸出品の生産もしてきた。これらも持続不能になる。) ブラジル、オーストラリア、カナダ、アメリカなどでは、中国を巨大な成長市場と信じて鉱業や農業の分野で生産規模を拡大してきた。これらの業界のもくろみも外れる。 だました中国が悪いとは言える。ただし長期プランを策定する際に中国の公式統計に頼ってきた企業側も、まあ自業自得だろう。 それは各国政府の罪でもあるかもしれない。改ざん・捏造といった、知らないわけではない中国の流儀に目をつぶっていたのは軽率だった。 習近平は最近、中国の人口危機に取り組むことを約束した。だが元紅衛兵ゆえに、かつての一人っ子政策より過激な政策に傾くかもしれない。今度は逆方向、つまり強制妊娠という方向へだ。 そんな発想は狂気の沙汰としか思えないが、世界では現に(毛沢東時代の中国と緊密な関係にあった)カンボジアのポル・ポト政権とルーマニアのチャウシェスク政権がそれを実行に移している。 参考となるのは1966年にルーマニアで制定された政令770号だろう。女性の月経を厳しく監視し、妊娠を中絶した者に厳罰を科した。望まない妊娠が増え、親に捨てられた子供たちで満杯の孤児院がいくつも出現している。習近平がそこまで愚かではないことを願おう。 (リアン・イーゼン氏の略歴はリンク先参照)』、「データ流出で嘘が露呈」、「中国の本当の人口は14億でも12億8000万でもなく、せいぜい10億人程度という可能性が出てくる」、ずいぶんサバを読んだものだ。「高速道路や新幹線の建設を急ぎ、人口増を見込んで不動産を開発しても、入居者のいない新築物件のゴーストタウンを生み出すだけだ。関連業界も含め、収益性を欠く無用の事業ばかりで、今や不良債権が山積みされている。 統計偽装の弊害は高齢者の医療保険や年金にも及ぶ。1960年代に生まれたベビーブーム世代には、労働力の増加を前提として潤沢な支給が約束されていた。 ところが今、武漢などの大都市では「白髪革命」と呼ばれる抗議デモが起きている。医療保険の給付金減額に、高齢者が怒りの声を上げているのだ」、国内での各種歪みは深刻だ。「偽データの影響は他国にも及ぶ。外国の自動車メーカーや携帯電話の製造会社は、人口増という見込みがあればこそ中国に投資してきた。中国市場の拡大に期待し、安価な労働力を搾取して輸出品の生産もしてきた。これらも持続不能になる。 ブラジル、オーストラリア、カナダ、アメリカなどでは、中国を巨大な成長市場と信じて鉱業や農業の分野で生産規模を拡大してきた。これらの業界のもくろみも外れる」、海外にも影響するとは・・・。「習近平は最近、中国の人口危機に取り組むことを約束した。だが元紅衛兵ゆえに、かつての一人っ子政策より過激な政策に傾くかもしれない。今度は逆方向、つまり強制妊娠という方向へだ。 そんな発想は狂気の沙汰としか思えないが、世界では現に(毛沢東時代の中国と緊密な関係にあった)カンボジアのポル・ポト政権とルーマニアのチャウシェスク政権がそれを実行に移している」、「強制妊娠」はやはり無理だろう。それにしても、迷惑な種を世界中に蒔いてくれたものだ。やれやれ・・・。
タグ:中国経済 (その16)(政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が 根本的に分かっていないこと、習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道、水増しされていた中国の人口 「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出) Newsweek日本版 ミンシン・ペイ氏による「政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が、根本的に分かっていないこと」 「共産党の中央経済工作会議で、今年は経済成長を政府の最優先課題とすると定められた・・・地方の党幹部や首長らも同じ言葉を繰り返し、民間の投資家や実業家らの期待をあおっている」、「国民が苛酷なゼロコロナ政策への不満を爆発させ、その廃止に伴う混乱にも失望している今は、一刻も早く党に対する信頼と支持を回復したい。だが成長賛歌の合唱だけでは不十分。 大事なのは行動だ。停滞する不動産業界へのテコ入れなど、小手先の対策では足りない。金融緩和やインフラ投資の拡大などの景気刺激策も、せいぜい短期の効果しかあるまい」、その通りだ。 「こんな政治的緊張が続く限り、経済の先は見えない。投資意欲は冷え、外国企業の撤退で製造業の雇用は確実に減っていく。 つまり、中国経済を再び成長軌道に乗せるには欧米諸国との関係改善が不可欠だ。しかし現時点で、米中関係は修復不能なほどに冷え込んでいる」、打開は難しそうだ。 「習近平・・・政権は古典的な共産主義イデオロギーにこだわり、社会と経済に対する党の支配を強化してきた。民間企業に党の支部を置き、貿易相手国への危険な挑発を繰り返したりするようでは、信頼回復など望めない。 本気で成長を取り戻したいなら、かつて鄧小平が推進した政治改革の路線に戻るべきだ。 とりわけ大事なのは法治主義の貫徹と司法の独立。さもないと民間事業者が自分の命と財産を守れない」、「習近平」は経済がある程度理解していた李克強を追い出し、イエスマンが首相にしたようでは、「当面は、中国経済の息は上がったままだ」。困ったことだ。 チョンカン・シュイ氏による「習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道」 ソ連型全体主義は30年前に経済の行き詰まりにより崩壊したが、中国は例外に見えた。いま問われているのは、中国独自の全体主義的実験が今後も長続きするかどうかだ。 「中国の特色ある全体主義」、「の重要な柱は政治・思想・人事における高度に中央集権化された全体主義型統制と、行政・経済政策の分権化を合体させた地域分権全体主義(RDT)だ。 この組み合わせはポスト毛沢東時代の改革開放政策の原動力だった。 この時期に経済への中央集権的・全体主義的な統制は緩和され、RDTは地域分権権威主義(RDA)へと発展した。だが、習が権力を握った2012年以降は全体主義に回帰し、特に急成長する民間部門への統制を再び強めた。この逆流現象が、22年の急激な経済減速の主な理由だ」、なるほど。「中国の不動産価格は平均世帯収入に対する比率で見ると、世界で最も高い水準に達した。中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回ったが、この意図的に作られたバブルは今や崩壊寸前だ」、「中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回った」 、とはまさに「バブル」だ。 「党指導部は12年以降、組織的に中国の政治経済を全体主義に引き戻そうとしている。 中国社会の多元主義的要素・・・は依然として制限されているが、党指導部はこの狭い空間が反抗の拠点になることを恐れている。民間の大物起業家や非国有の大手IT企業は容赦なく弾圧された。こうした動きは民間部門を弱体化させ、先進国市場へのアクセスを低下させている」、 「今後の中国で全体主義型統制が強化されることは明らかだろう。穏健なテクノクラートの存在感は低下し、今後の経済政策は政治的に決定されることになる。民間企業と市場への締め付けは着実に強化されるだろう」、その通りだ。 練乙錚氏による「水増しされていた中国の人口、「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出」 「人口統計に関しては明らかに意図的な改ざんがあった」、「かつて中国には「国家衛生計画生育委員会(計生委)」という組織があった。計生委は巨大な官僚機構で、1980年代に急激に力を付け、国民からは最も嫌われ、軽蔑される組織の1つとなった。 なぜか。1980年頃に始まる悪名高い「一人っ子政策」の実行部隊として、計生委は強制的に妊娠を規制し、2人目以降の妊娠に関しては人工中絶を強要してきた」、 「一人っ子政策の下でも人口が増え続けるのは、計生委の指導下でのデータ改ざんが原因」、酷い組織だったようだ。 「江沢民も胡錦濤も、中国経済の成長を支えるには外国資本の誘致が不可欠と考えていた。だから中国には今でも10億人を超える巨大市場があり、その規模は何十年も先まで拡大を続けるし、安価な労働力もたっぷりあるという「神話」をつくり上げた。 データの改ざんは習近平・・・体制になってからも続いた」、昔から「改ざん」を続けていたことに驚かされた。 「データ流出で嘘が露呈」、「中国の本当の人口は14億でも12億8000万でもなく、せいぜい10億人程度という可能性が出てくる」、ずいぶんサバを読んだものだ。 「高速道路や新幹線の建設を急ぎ、人口増を見込んで不動産を開発しても、入居者のいない新築物件のゴーストタウンを生み出すだけだ。関連業界も含め、収益性を欠く無用の事業ばかりで、今や不良債権が山積みされている。 統計偽装の弊害は高齢者の医療保険や年金にも及ぶ。1960年代に生まれたベビーブーム世代には、労働力の増加を前提として潤沢な支給が約束されていた。 ところが今、武漢などの大都市では「白髪革命」と呼ばれる抗議デモが起きている。医療保険の給付金減額に、高齢者が怒りの声を上げているのだ」、国内での各種歪みは深刻だ。「偽データの影響は他国にも及ぶ。外国の自動車メーカーや携帯電話の製造会社は、人口増という見込みがあればこそ中国に投資してきた。中国市場の拡大に期待し、安価な労働力を搾取して輸出品の生産もしてきた。これらも持続不能になる。 ブラジル、オーストラリア、カナダ、アメリカなどでは、中国を巨大な成長市場と信じて鉱業や農業の分野で生産規模を拡大してきた。これらの業界のもくろみも外れる」、海外にも影響するとは・・・。「習近平は最近、中国の人口危機に取り組むことを約束した。だが元紅衛兵ゆえに、かつての一人っ子政策より過激な政策に傾くかもしれない。今度は逆方向、つまり強制妊娠という方向へだ。 そんな発想は狂気の沙汰としか思えないが、世界では現に(毛沢東時代の中国と緊密な関係にあった)カンボジアのポル・ポト政権とルーマニアのチャウシェスク政権がそれを実行に移している」、「強制妊娠」はやはり無理だろう。それにしても、迷惑な種を世界中に蒔いてくれたものだ。やれやれ・・・。
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女性活躍(その25)(全国紙初の女性政治部長が「女性活躍社会なんて 絵空事でしかない」と言い切る深い理由 セクハラを反省しない「オッサン社会」の深い病、平安時代もあった「女性キャリアの壁」苦悩の実態 紫式部「源氏物語」好きオタク女子の思いとは?、これぞ日本人が「読みたくないコラム」 “女のバトル”が消した灯火) [社会]

女性活躍については、昨年5月16日に取上げた。今日は、(その25)(全国紙初の女性政治部長が「女性活躍社会なんて 絵空事でしかない」と言い切る深い理由 セクハラを反省しない「オッサン社会」の深い病、平安時代もあった「女性キャリアの壁」苦悩の実態 紫式部「源氏物語」好きオタク女子の思いとは?、これぞ日本人が「読みたくないコラム」 “女のバトル”が消した灯火)である。

先ずは、昨年5月22日付け東洋経済オンラインがPRESIDENT Onlineを転載した毎日新聞社論説委員の 佐藤 千矢子氏による「全国紙初の女性政治部長が「女性活躍社会なんて、絵空事でしかない」と言い切る深い理由 セクハラを反省しない「オッサン社会」の深い病」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/57343
・『なぜセクハラはなくならないのか。長年政治記者を務めてきた、佐藤千矢子さんは「男女雇用機会均等法にセクハラ対策が初めて明記されたのは1997年。その後、改正を重ねたが、いまだにセクハラの禁止を盛り込むことはできていない。ハラスメントに苦しむ人に対し、周囲が見て見ぬふりをしているうちは、皆が気持ちよく働き、ひいてはそれが業績につながる会社や社会をつくることはできないだろう。ましてや女性活躍社会なんて、絵空事でしかない」という――。 ※本稿は、佐藤 千矢子『オッサンの壁』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです』、全国紙で初の女性政治部長を務めたとは、この問題を語るのに最適だ。
・『財務省事務次官のセクハラ疑惑  2018年4月12日発売の雑誌『週刊新潮』(同年4月19日号)では、財務省の福田淳一事務次官がテレビ朝日の女性記者を飲食店に呼び出しセクハラ発言をしていた疑惑が報じられ、大きな問題になった。週刊新潮はインターネット上でセクハラ場面の音声も公開した。福田氏と見られる声で「胸触っていい?」「抱きしめていい?」などと発言していた。 福田氏は「女性記者との間でこのようなやりとりをしたことはない」「音声データからは、相手が本当に女性記者なのかもわからない」「女性が接客をしている店に行き、店の女性と言葉遊びを楽しむことはある。しかし、女性記者にセクハラ発言をしたという認識はない」など疑惑を真っ向から否定し、当時の麻生太郎副総理・財務相をはじめとして財務省も福田氏を守った。しかし、政府・与党内から更迭を求める声が強まり、福田氏は事実関係を否定したまま、省内を混乱させた責任をとって辞任した』、現在はスマホで録音されるので、逃げようがないが、「事実関係を否定したまま、省内を混乱させた責任をとって辞任」とは往生際が悪い。
・『「被害女性を考えない」オッサン感覚  この問題では、財務省が報道各社の女性記者に調査協力を求めるなど、対応のまずさが批判を浴びた。被害女性が名乗り出ることへの心理的な負担や二次被害の懸念などを全く考慮していない対応で、「オッサン」感覚を露呈した。「官庁の中の官庁」と言われた財務省の実態だった。 一方、記者が福田氏と会食した際の録音の一部を週刊新潮に提供したことで、情報源秘匿との関係で記者へのバッシングが起きた。私自身も、録音の提供ではなく別の方法で解決できればよかったと思うが、このケースでの記者への批判は問題すり替えの意図を感じ、賛同できない。録音は被害者として他に訴える方法がなく、やむを得ず証拠として提出したのであり、記者の倫理の問題とは別に被害救済が議論されるべきだ』、「このケースでの記者への批判は問題すり替えの意図を感じ、賛同できない」、同感である。
・『抗議すれば報復される可能性がある  福田氏のセクハラ問題があった時、自分の過去の経験に照らし合わせて考えざるを得なかった。議員宿舎の部屋で議員から抱きつかれそうになった時、先輩記者2人が「そんな奴のところに、もう夜回りに行かなくていい。それで情報が取れなくなっても構わない」と言ってくれて救われた件では、この議員は大物ではあったが、政党の幹事長のような「オンリー・ワン」という存在ではなかった。彼の情報は新聞社として必要だったが、いざとなったら他の議員の情報があれば、最低限、何とかできるだろうという面もあった。しかし、これが福田氏のような中央官庁の次官で、どうしても日常的に取材しなければならない相手だったら、どうなっていただろう。 もう誰も取材に行かなくていいという結論にはなり得ない。一番いいのは抗議だ。だが抗議しても、なかったことにされて、下手をすれば、報復される可能性がある。報復にはいろんなやり方があるが、一番ありそうなのは一切の取材に応じないことだ。その記者だけでなく、場合によっては新聞社ごと取材拒否にあう可能性もある。「女性の側にも落ち度があるのだろう」と批判されるような二次被害も覚悟しなければならない』、「抗議しても、なかったことにされて、下手をすれば、報復される可能性がある」、その通りで、今回はやはり、週刊誌へのタレ込みしかなかったのだろう。
・『うまく受け流せという暗黙のプレッシャー  抗議には確かな証拠が必要になる。しかし、セクハラは密室状態で行われることが多いため、立証が極めて難しい。隠れて録音したり、その録音データを公開したりするのは、取材源の秘匿との関係でできない。では、担当を替えてもらうのがいいのだろうか。担当替えは急場しのぎにはなるが、根本的な解決にはならない。被害者が自信を喪失することになるだろうし、相手は反省することなく、同じ行為をまた繰り返すかもしれない。 こういうことが目に見えているから、騒ぎ立てず「無難に処理しろ」「うまく受け流せ」という暗黙のプレッシャーが働く。しかし、その場はそれでおさまったように見えても、無難に処理して受け流すことは、女性の心に大きな傷を残す。被害者の女性のみに負担を強いて、それが人生に長く影を落としかねないような、そんな対応は明らかに間違っている』、「騒ぎ立てず「無難に処理しろ」「うまく受け流せ」という」大人の対応は、「女性の心に大きな傷を残す。被害者の女性のみに負担を強いて、それが人生に長く影を落としかねないような、そんな対応は明らかに間違っている」、その通りだ。
・『昔より声は上げやすくなったが…  福田氏のセクハラ疑惑について2018年4月18日、テレビ局の従業員らでつくる「日本民間放送労働組合連合会」(民放労連)と「民放労連女性協議会」は、次のような抗議声明を出している。 「放送局の現場で働く多くの女性は、取材先や、制作現場内での関係悪化をおそれ、セクハラに相当する発言や行動が繰り返されてもうまく受け流す事を暗に求められてきた。たとえ屈辱的な思いをしても誰にも相談できないのが実態だ。この問題はこれ以上放置してはいけない。記者やディレクター、スタッフ、そして出演者らが受けるセクハラは後を絶たないのに、被害を受けたと安心して訴え出られるような環境も整っていない。このような歪みを是正しなければ、健全な取材活動、制作活動は難しくなる」 自分がまだ若くセクハラに悩んでいた1990年代のころから改善されたようでいて、本質的にはあまり変わっていないのだと思う。だんだんと声をあげられるようにはなってきたが、それでもやはり声をあげることにさえ大きなハードルがあるという実態が広がっている』、「「日本民間放送労働組合連合会」・・・と「民放労連女性協議会」が・・・抗議声明」を出したのは当然だ。「自分がまだ若くセクハラに悩んでいた1990年代のころから改善されたようでいて、本質的にはあまり変わっていないのだと思う。だんだんと声をあげられるようにはなってきたが、それでもやはり声をあげることにさえ大きなハードルがある」、なるほど。
・『“セクハラ”という言葉の重み  セクハラという言葉が日本で認知されるようになったのは、1989年の新語・流行語大賞からだと書いたが、その後も数年間は私たちの多くはセクハラという言葉を知らなかったし、意識していなかった。認識が広がったのは、1997年、男女雇用機会均等法にセクハラ対策が初めて明記されたころからだったと思う。 セクハラという言葉ができたのは、大きかった。元大手損保会社で総合職第1号だった知り合いの女性は「当時は、セクハラについて口に出して言えなかったし、セクハラという言葉もなかった。言葉を持つことは、力を持つうえで非常に大切だ」と振り返る。 セクハラという言葉がない状況で、女性が被害を訴えても「気にしすぎだ」などと軽くいなされ、下手をすれば逆に「そんなことを問題にするなんて、お前おかしいんじゃないのか」と女性の側が非難されかねない。 セクハラという言葉がなかった時代、自分も含めて多くの知り合いの女性が泣き寝入りするしかなかったのは、そういう事情があったと思う。しかし、セクハラという言葉が定着することによって、「セクハラはしてはいけない行為だ」「被害女性に非はなく悪いのはあくまでも加害男性だ」ということが社会の共通認識になれば、被害を訴えやすくなるし、報告を受けた上司が対応せざるを得なくなる。大きな違いだ』、「セクハラという言葉が定着することによって、「セクハラはしてはいけない行為だ」「被害女性に非はなく悪いのはあくまでも加害男性だ」ということが社会の共通認識になれば、被害を訴えやすくなるし、報告を受けた上司が対応せざるを得なくなる」、確かにその通りだ。
・『男性側の過剰反応  一方で、「羹あつものに懲りて膾なますを吹く」とでもいうように、男性の側に過剰反応も起きるようになった。よくあるのは、男性上司が女性の部下と一対一で飲みに行くような誘いをしなくなるというケースだ。それで仕事に支障が出ない職種や職場ならば一向に構わないが、新聞記者の場合は困ることもある。 例えば、機微に触れるネタを追っていて、その日のうちに内密に打ち合わせが必要になるようなケースだ。忙しくて時間のない中で、食事の時間を打ち合わせに充てるしかなく、「それじゃあ仕事が一段落したところで、晩飯を食いながら打ち合わせしよう」となるのだが、それが男女一対一だと、やりにくいという場面が出てきた。私は全く意識していなかったのだが、ある時期から急に上司から飲みに誘われなくなったことがあり、「どうしたのか」と聞くと、「いや一対一はまずいかなと思ってね」と言われて、驚いたことがある。仕方ないと思って放っておいたら、何も状況は変わっていないのに、また普通に誘われるようになった。男性の側も、迷いながら対応しているということなのだろう』、「男性」の場合、組織内では「セクハラ」は噂になっただけでも人事考課に影響しかねないだけに、悩ましい問題である。
・『「働く男女の比率」が近づけば解決される  直接的な仕事の話ではなくても、いわゆる「飲みニケーション」として、時には酒を一緒に飲みながら話をするのも必要なことだ。大勢で飲めばいいではないかと言われるかもしれないが、酒を飲もうが飲むまいが、本当に重要な話は「一対一」のサシでするというのは、特に私たち新聞記者には染みついている。そこで、女性ばかりが誘われないというのは、問題が生じる。 ただ、こうした問題も、女性が少数派だから起きることだ。男女の比率がもっと近づけば、お互いに注意しながら付き合うことになり、一方的に女性が飲み会に誘われなくて不利になるということはなくなっていくのではないだろうか。もちろん、女性上司から男性の部下へのセクハラにも、これまで以上に注意を払わなければならない時代に入っていくだろう』、「「働く男女の比率」が近づけば解決される」と楽観的だが、私はそこまで楽観的になれない。また、「飲み会」に「女性」が入った場合には、どうしても遠慮せざるを得ないので、「男性」だけで遠慮せずに飲む会も続くのではなかろうか。
・『なぜセクハラはなくならないのか  セクハラという言葉が定着し、これだけ認識が広まってきたように見えるのに、それでもなくならないのはなぜだろう。 福田次官の問題があった時、ある政治家の言葉が広まった。「福田氏のような話で辞任させれば、日本の一流企業の役員は全員、辞任しないといけなくなるぞ」。本人に発言の確認を直接とっていないし、客観的事実と異なることを言っているので、匿名でしか書けないが、私はいかにもありそうな発言だと思った。 この発言が本当だとしたら、国会議員、中央官庁の幹部だけでなく、民間企業の幹部だって同じだと、政治家自らが言ってはばからず、反省もしない社会とは何なのか。「オッサン社会」の深い病を思う。 私の友人の女性は、「日本の男性は結局、独身女性をバカにしているんだよ」と怒っていた。セクハラの標的になるのは主に独身の女性だ。既婚女性へのセクハラもあるだろうが、独身女性に比べれば圧倒的に少ないのではないか。それは既婚女性には、やはり夫の影がちらつくからではないだろうか。男性からすれば、セクハラが問題化した場合、相手が独身女性ならば相手の責任を言い募って逃れられるかもしれないが、既婚女性ならば夫が乗り出してきて大事になるかもしれない、といった計算が無意識に働いているのではないか。そんなふうに私は見ている』、「福田氏のような話で辞任させれば、日本の一流企業の役員は全員、辞任しないといけなくなるぞ」、というのは程度の違いこそあれ、概ねその通りで、「オッサン社会」の「病」は「深い」。
・『セクハラするオッサンに欠けている意識  時々不思議に感じるのだが、オッサンたちはこのままでは自分の娘が同じような被害にあうかもしれないと考えないのだろうか。それとも「娘は専業主婦にさせて会社勤めなんかさせない」、あるいは「優良企業に就職させるから大丈夫」「親のコネがあるから誰も手を出せないだろう」とでも考えているのだろうか。 または「手を出される女性のほうにスキがあるからだ」とでも考えているのだろうか。セクハラに苦しむ女性たちと、自分の娘を分けて考えられる発想が私には全く理解できない。想像力の欠乏症としか思えない』、「娘」は全く別物と考えないと、「セクハラ」のみならず、不倫も成立しない。
・『女性活躍社会へは程遠い  セクハラ被害に対しては、相手に直接抗議するか、会社の相談窓口や労働組合などに相談し、相手に事実関係を認めさせ、謝罪と再発防止を確約させる必要がある。しかし、一般的にいって会社へのセクハラ相談は、依然としてハードルが高いようだ。女性たちが会社側の対応を信頼できないのが一因だろう。 男女雇用機会均等法にセクハラ対策が初めて明記されたのは1997年。その後、改正を重ねたが、いまだにセクハラの禁止を盛り込むことはできていない。私の友人が言ったようにセクハラは厳罰をもって対処しない限り、なくなることはないが、日本社会の対応は極めて甘い。ハラスメントに苦しむ人に対し、周囲が見て見ぬふりをしているうちは、皆が気持ちよく働き、ひいてはそれが業績につながる会社や社会をつくることはできないだろう。ましてや女性活躍社会なんて、絵空事でしかない』、「セクハラ」は認定が微妙なだけに、「禁止」や「厳罰」は馴染み難いように思う。

次に、本年3月3日付け東洋経済オンラインが掲載した文筆家の三宅 香帆氏による「平安時代もあった「女性キャリアの壁」苦悩の実態 紫式部「源氏物語」好きオタク女子の思いとは?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/655947
・『学校の授業では教えてもらえない名著の面白さに迫る連載『明日の仕事に役立つ 教養としての「名著」』(毎週木曜日配信)の第22回は、前回に引き続き紫式部が書いた『源氏物語』の熱烈なファンだった菅原孝標女の『更級日記』の面白さについて解説します』、興味深そうだ。
・『『源氏物語』大好きオタク女子の回想  平安時代の『源氏物語』オタク菅原孝標女の日記、『更級日記』。物語に夢中になっていた少女時代から始まり、彼女がアラサーで就職し、結婚するところまでを前回まで見てきた。 「光源氏みたいな男、この世にいるわけがないんだ……」と呆然としつつ、なんとか結婚するに至った菅原孝標女。彼女は結婚生活についてあまり多くを書いていない。しかし出産を経験し、家庭生活にそれなりに労力を割いていたらしい。 40代くらいの菅原孝標女は、自分の人生をこう回想している。 <本文>世の中にとにかくに心のみつくすに、宮仕へとても、もとは一筋につかうまつりつがばやいかがあらむ、時々たち出でば、なになるべくもなかめり。 年はややさだ過ぎゆくに、若々しきやうなるも、つきなうおぼえならるるうちに、身の病いと重くなりて、心にまかせて物詣でなどせしこともえせずなりたれば、わくらばのたち出でも絶えて、長らふべき心地もせぬままに、幼き人々を、いかにもいかにも、わがあらむ世に見おくこともがなと、臥し起き思ひ嘆き、たのむ人のよろこびのほどを、心もとなく待ち嘆かるるに、秋になりて待ちいでたるやうなれど、思ひしにはあらず、いとほいなくくちおし。 ※原文はすべて『新編日本古典文学全集26・和泉式部日記/紫式部日記/更級日記/讃岐典侍日記』(犬養廉ほか訳注、小学館、1994年) <意訳>当時、家庭にあれこれ労力を割いていた。もしあの時間、宮中仕事に本腰を入れて打ち込んでいたら……どうなっていただろう。もしかしたら、わりといいところまで出世できたかもしれない。でも実際は、ときどきタイミングが合うときに出仕するだけだった。どうしようもない。 私は年齢を重ね、若作りをして働くような歳でもなくなっていた。そのころ、病気もつらくなってきていた。自由に神社参拝などもとてもできなくなった。たまに出仕することすら、やめてしまったのだ。 長生きする自信なんて、なかった。でも、小さい子どもたちの将来はどうにか見届けたい。私は一日中めそめそ悲しんでいた。ああ、夫の次の赴任先が都になってくれないかな……そうひそかに願っていたが、秋になって任命された場所は、期待通りにはいかなかった。厳しいもんだ。 結婚後の菅原孝標女の勤務スタイルは、たまにタイミングが合ったとき――すなわち自分の手が空いていて、呼ばれたときだけ、出仕するというものだったらしい。しかもどうやら1人の貴族にずっと仕えるというものではなく、呼ばれた人のところにそれぞれ行くのみだった。 たしかに、これでは顔も覚えてもらえない。今でいう派遣社員やパートのような立ち位置の女房が、平安時代にもいたのだなあ、と私は彼女の日記を読むと思う』、「今でいう派遣社員やパートのような立ち位置の女房が、平安時代にもいたのだなあ」、同感である。
・『紫式部や清少納言が活躍できたワケ  菅原孝標女の言う「育児や家庭に使っていた時間を、派遣やパートタイムじゃない正社員型の勤務に使えていたら、今の自分の地位はどうなっていたのかしら」という妄想。これはかなり現代にも通じる悩みではないだろうか。現代のブログかな?と思うような内容である。 というのも平安時代の女房といえば、藤原彰子にずっと仕えた紫式部や、自分が仕えた“お姫様“こと藤原定子のことを随筆に残した清少納言のような働き方を想像してしまう。が、それは紫式部が夫と死別、清少納言は離婚しており、夫の転勤に左右されない立場だったから成立した働き方だったのだ。 菅原孝標女のように、夫が転勤ありの役職で、子どももいるような状況では、「ずっと宮中に詰める」女房になることは難しい。だからこそパートタイム女房勤務しかできなかった。そしてその状況を、彼女はたんたんと日記につづっている。 現代にも通じるテーマである、「夫の転勤についていくとキャリアが途絶える」問題。これを平安時代にすでに指摘していたなんて、菅原孝標女が聡明で優れたエッセイストだったことが、よくわかる。1000年早いよ!その問題、いまだに解決してないよ!と私は菅原孝標女と語り合いたくなる一文である。 しかし救いとしては、菅原孝標女は職場で何人か仲良くなった女性がいたらしいことである。数人、女房仕えをしたときに気の合う友人ができたらしい。彼女たちとは、その後も和歌のやりとりが続いていた。直接会うことはなかなか叶わなかったらしいが、手紙のやりとりができる女友だちができたことは、きっと彼女にとって僥倖だったのではないだろうか。) さて、そんな彼女の夫は、あっさり病で亡くなってしまう。突然のことに彼女はうろたえ、そして嘆き悲しむ。「ああ、もっと若いころにちゃんと仏道修行していたら、こんな孤独な目に遭わなかったんだろうか?」と彼女は後悔を重ねるのだ。これが菅原孝標女、51歳のことだ』、「紫式部が夫と死別、清少納言は離婚しており、夫の転勤に左右されない立場だったから成立した働き方だったのだ。 菅原孝標女のように、夫が転勤ありの役職で、子どももいるような状況では、「ずっと宮中に詰める」女房になることは難しい。だからこそパートタイム女房勤務しかできなかった」、「紫式部」と「清少納言」が、「夫の転勤に左右されない立場だった」とは初めて知った。
・『現実の厳しさに呆然とする菅原孝標女  <本文>昔より、よしなき物語、歌のことをのみ心にしめで、夜昼思ひて、おこなひをせましかば、いとかかる夢の世をば見ずもやあらまし。初瀬にて前のたび、「稲荷より賜ふしるしの杉よ」とて投げ出でられしを、出でしままに、稲荷に詣でたらましかかば、かからずやあらまし。年ごろ「天照御神を念じたてまつれ」と見ゆる夢は、人の御乳母して内裏わたりにあり、みかど、后の御かげにかくるべきさまをのみ、夢ときも合はせしかども、そのことは一つかなはでやみぬ。ただ悲しげなりと見し鏡の影のみたがはぬ、あはれに心憂し。かうのみ心に物のかなふ方なうてやみぬる人なれば、功徳もつくらずなどしてただよふ。 <意訳>昔から、どうということもない物語や和歌にばかり夢中にならず、昼夜問わず仏道修行でもしていたら……今ごろこんな喪失感を噛み締めずに済んだんだろうか。 はじめて初瀬に参拝した際、「稲荷から杉が届いていますよ」と言われる夢を見たけれど。あの夢の跡、すぐに稲荷へ参拝しに行ってれば、こんなつらい目に遭わずに済んだのかな。 私は昔からずっと「天照大神にお祈りしなさい」と言われる夢を見てきた。が、それって私が高貴なお方の乳母になって、宮中で暮らし、帝や后に気に入られる人生を送るサインだと思い込んでいた……。でも私の夢占い、まったく当たらなかった。 当たった占いといえば、昔、鏡で見た「将来の私が悲しそうな顔をしている」姿。それだけは当たった。悲しい。つらい。 こうして昔夢見た将来設計はひとつも叶わず、一生が終わってしまう。でも今更、仏道修行をして徳を積んでも意味ないだろうし、ぼーっと日々を暮らしてしまっている。 現実の厳しさに呆然とする菅原孝標女。その日記の内容は、夫を亡くし、孤独に泣く彼女の姿が綴られている。胸が痛くなる晩年の日記だ。 しかしその中で描かれる夢占いの内容が、やっぱり彼女らしくて笑ってしまう。それは私が彼女のことを日記でしか知らない読者だからだろうか。 そしてこれだけ反省しながらも、結局彼女は尼になったり、修行や参拝に邁進して終わることなどはなく、人生を終えることになる。「結局、徳は積もうとしないんかい」とツッコミを入れたくなるが、菅原孝標女としてはぼんやりしながら晩年を過ごしていたらしい。 『更級日記』のラストは、尼になった友人との和歌で閉じられる。この友人が、昔一緒に暮らしていた女房なのか、あるいは出仕生活で仲良くなった友人なのかはわからない。しかし久しく手紙も交わしていない彼女に、菅原孝標女は「久しぶりに遊びに来てよお」と嘆く和歌を送る。 しげりゆく蓬が露にそほちつつ人にとはれぬ音をのみぞ泣く(荒れ果てた庭の、茂る蓬の露に濡れながら、私はあなたが来てくれない淋しさに泣いていますわ) 相手は、つれない返事を送ってくる。 世のつねの宿の蓬を思ひやれそむきはてたる庭の草むら(あなたの庭は荒れ果ててなんていませんよ、それくらいの蓬の茂みは普通です。私みたいに世を捨てた人間の庭の草むらを想像してください、荒れ放題なんだから) 菅原孝標女は昔、「田舎の山奥に住んで、光源氏か薫みたいな人が来るのを待ちたいわあ」という将来の夢を日記に綴っていた。その着地点である晩年の風景が、「茂る庭のある家に住んで、女友だちに『ねえ、遊びに来てよ~、寂しいのよ~』という手紙を贈る」ものであったところに、なんだか私はちょっとした切なさと温かさを感じる。 もちろん、光源氏みたいなイケメンは現れなかったかもしれない。しかし「寂しいのよねえ、会いたいわ」と言えるような女性の友人がちゃんといたところには、少しばかりの救いの印象を受けるのだ』、「菅原孝標女は昔、「田舎の山奥に住んで、光源氏か薫みたいな人が来るのを待ちたいわあ」という将来の夢を日記に綴っていた。その着地点である晩年の風景が、「茂る庭のある家に住んで、女友だちに『ねえ、遊びに来てよ~、寂しいのよ~』という手紙を贈る」ものであったところに、なんだか私はちょっとした切なさと温かさを感じる」、その通りだ。
・『現代にも通じるような普遍性が宿る『更級日記』  1人で『源氏物語』に耽溺していた少女は、仕事や結婚を経験し、晩年はまた1人に戻る。そのときは寂しくて眠れなかったかもしれない。しかしその先でどうか、ぼーっとしながら、彼女が孤独な時間を手紙や物語で紛らわせられていたらいいな、と思うのだ。 彼女の日記には、現代にも通じるような普遍性が宿っている。それはひとりの文学少女が物語に憧れながらその人生を綴った、平凡で、ありきたりで、でもそれゆえ共感できる点がたくさん詰まった日記文学になっているのだ』、「彼女の日記には、現代にも通じるような普遍性が宿っている。それはひとりの文学少女が物語に憧れながらその人生を綴った、平凡で、ありきたりで、でもそれゆえ共感できる点がたくさん詰まった日記文学になっているのだ」、『更級日記』を改めて見直した。

第三に、3月15日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「これぞ日本人が「読みたくないコラム」 “女のバトル”が消した灯火」を紹介しよう。これは、今月あと2本までは無料。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00240/
・『今回は「きっと読まれない。でも、皆さんに教えてほしい」原稿を書こうと思います。 「何をしょっぱなから言ってるのか」って? いやいや、文字通り「読まれない」かも、でも、「教えてほしい」のです。 「そろそろネタに尽きた」って? いやいや、逆です。一体いつになったら私はこの「ネタ」を書かなくていい日が来るのだろうという“尽きないネタ”です』、「“尽きないネタ”」とはどういうことだろう。
・『指導的地位に女性が占める割合を30%以上に  というわけで、「きっと読まれない」この原稿を開いてくださっている「あなた」。「何を教えてほしいのか知りたい!」という方は、最後までお付き合いください。 まずは、メディアが大喜びした、“ある報道番組”での出来事から。 「女性にげたを履かせて結果平等をつくり、法的拘束力を持たせ数値目標を実行するのはあくまでも過渡期的な施策であるべきだ。社会で活躍する女性の絶対数を増やせば、自然と管理職も増える。法的拘束力を持たせれば、女性の絶対数が少ないので人事に無理が出る。米国では黒人や女性を優遇した政策に対して逆差別だという議論も出た。慎重にしなければならない」 こう持論を展開したのは、時の政調会長、高市早苗氏である。 それに対し 「強制的に枠をつくらないと女性が活躍する場所が生まれてこない。数値目標を持たないと、いつまでも有能な女性を生かしきれない社会が続く。韓国では女性にげたを履かせる形で女性議員を増やした結果、女性大統領が誕生できたと私は推察している。まずは数を確保すること。社会の中枢で働く人たちが女性であり、職場で結婚、妊娠、出産、育児が当然のものになれば、あえて無理をしなくとも社会で女性が活躍できるように移行していくのではないか」 と、180度正反対の論を展開したのが、時の総務会長、野田聖子氏だった。 これは10年前の2013年1月、自由民主党が掲げた「社会のあらゆる分野で20年までに、指導的地位に女性が占める割合を30%以上にする目標を確実に達成する」との公約(12年12月の衆議院選挙)を議論する番組での出来事である。  自民党のツートップである、女性政治家2人が“バトル”を繰り広げた。 そう。今から10年前。10年も前に自民党のトップスリーのうち2人を女性が占めていたのだ。 思い出された人もいるかもしれないが、前述した通りメディアは、「おいおい女同士はやっぱりすごいぞ!」と言わんばかりに、お二人の議論を“女のバトル”とやゆし連日報道した。 当初番組で議論する予定だった「何のための数値目標なのか?」の議論も一切なし。自民党側の「明確な説明」もなかった』、「時の政調会長、高市早苗氏」が「女性にげたを履かせて結果平等をつくり、法的拘束力を持たせ数値目標を実行するのはあくまでも過渡期的な施策であるべきだ」、これに対し「時の総務会長、野田聖子氏」が「強制的に枠をつくらないと女性が活躍する場所が生まれてこない。数値目標を持たないと、いつまでも有能な女性を生かしきれない社会が続く」、との「バトル」とは、それぞれの個性も反映された考え方で面白い。
・『女性=カネという構図  一方で、「20年までに30%を達成するための取り組み第1弾」とされる特別法案の骨子は、日本があえぐ「経済の低成長」から脱する最後の砦(とりで)として、女性の労働力が不可欠と見て取れるものばかりだった。 当時の私のメモによれば、 年4兆~5兆円の規模で推移している国の物品調達にも『女性力』の活用を促す。 制度面で企業に優遇策を設ける。 女性の役員や管理職の割合、出産・育児への支援措置などを基準に、首相が優れた企業を「男女共同参画推進事業者」に認定し、国などが物品調達時に優遇する。 と書かれている。 内閣府の男女共同参画会議は、出産を機に女性が退職する損失は産休後に復職するより大きいとの試算結果を公表。女性の就業希望者(約342万人)が全員就業できれば報酬総額は約7兆円に上り、それが消費に回れば実質国内総生産(GDP)は約1.5%増加すると推計した(資料、https://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/subcommittee/economic_activity/03/pdf/mat03-03.pdf)。 また、数値目標は「女性の視点」という言葉に置き換えられ、新聞やテレビメディアは女性管理職の割合とその経済効果にスポットを当て続けた。「女性管理職が多い会社ほど売上高利益率が高い」「女性管理職の多い国は経済成長している」「経済成長のためには女性の労働力が不可欠」だのと、¥マークばかりが飛び交った。 本来、「20年までに30%」といった数値目標は、差別撤廃が目的であり、人権の問題であり、機会平等のための「ポジティブアクション(アファーマティブアクション:積極的差別是正措置)」のプロセスなのに、「経済、経済、また経済!」とばかりに、女性=カネという構図だった。少なくとも私にはそう見えた。 ポジティブアクションは、米国のリンドン・ジョンソン元大統領の演説がきっかけとされ、人種差別を禁じた1964年成立の公民権法の精神を基本とする積極的な動きを意味している。) その後、人種(差別の禁止)などのマイノリティーに対する施策から、ジェンダーの視点がクローズアップされるようになり、女子差別撤廃条約が、79年の第34回国連総会において採択され、81年に発効した(日本は85年に締結)。 この条約は、男女の完全な平等の達成に貢献することを目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念としている。具体的には、「女子に対する差別」を定義し、締約国に対し、政治的および公的活動、並びに経済的および社会的活動における差別の撤廃のために適当な措置をとることを求めている』、なるほど。
・『首相になったら女性閣僚を半分に  ポジティブアクションは「男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置」と定義し、これが国際的なジェンダー視点におけるポジティブアクションの定義と理解されている。 とまぁ、あれこれ難しく書いたけど、平たく言えば、「女性だから」「小さな子供がいるから」「結婚しているから」「更年期障害だから」といった理由で、雇用や昇進の機会が失われてしまうことを是正するための積極的な措置としての「数値目標」であり、¥マークと結びつけるためのものじゃない。あくまでも数値目標のゴールは「人」だ。 いかなる数値目標もゴールが“人”の尊厳と生活を守るものでない限り、真のポジティブアクションじゃない。そして、数値目標(ゴール・アンド・タイムテーブル方式)の先にあるのが、性別などを基準に一定の枠を法律で決める施策や、性別や人種を基準に一定領域に対する人数や比率を割り当てた「クオータ制」だ。 ちなみに「クオータ制」はもともと政治の舞台から始まっている。政治家が国民の代表であるとするなら、国と同じように一般領域でも男性と女性が同じような割合であるべきだという発想に基づき、女性一般の利益が害されないためという理由で取り入れられた。 日本は政府主導の下「2020年までに30%」を掲げ、「女性活躍」だの「女性を輝かせる」だのというフレーズが多用されたけど、結局、数値目標は消えた。静かに消えていった。まるで数値目標などなかったように。 揚げ句、自身が「首相になったら女性閣僚を半分にする」と宣言しただけで(by 野田氏・自民党総裁選)たたかれる社会になった。 厚生労働省の「令和3年度(2021年度)雇用均等基本調査」によれば、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は12.3%(前年度より0.1ポイント低下)、係長相当職以上も14.5%と、前回調査(同14.6%)より0.1ポイント低下している(資料、https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/02.pdf)。 出所:厚生労働省「令和3年度(2021年度)度雇用均等基本調査」』、「野田氏」は冒頭の論争と同じ姿勢だが、「自身が「首相になったら女性閣僚を半分にする」と宣言しただけで・・・たたかれ」たとは気の毒だ。
・『日本は変わらないことを選択した国  役職別に女性管理職がいる企業の割合を見ると……、かなり微妙だ。 しかも、約4割の企業が総合職は「男性のみ採用」としている。……“大奥”はひっくり返ってるというのに。 出所:厚生労働省「令和3年(2021年)度雇用均等基本調査」 女性閣僚に至っては14年の第2次安倍改造内閣で、過去最高の5人で……、ジ・エンド。 22年の参院選挙で125人の全当選者のうち女性は35人で、過去最多の28人を上回り、立候補した女性も181人で、候補者全体に占める女性の割合は33.2%と、第5次男女共同参画基本計画で示した「25年までに衆参両院での選挙における女性候補者の比率35%」の目標をもう少しで達成できそうだった。 が、「数値目標」を10年前に公約に掲げた、自民党の候補者全体に占める女性比率は23.2%で、主要政党でワースト2位。最も低かったのが公明党で、20.8%。当選者に占める割合も、立憲民主党52.9%、共産党50.0%に対し、自民は20.6%、公明は15.4%にとどまっている。 さて、と。この現実をシンプルに捉えれば、「日本は変わらないことを選択した国」となるわけだが、これは10年前に数値目標を掲げながら「え? そんなことあったかね?」的に動き続けてる自民党の問題なのか、それとも日本という国自体の問題なのか。どっち? 「っていうか、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が問題なんじゃない?」 「っていうか、性別役割分担意識の問題が根深いってことでしょ」 「っていうか、既得権益じゃね?」 「単に女性が機会平等を求めてないってことでしょ」 「っていうか、ロールモデルの問題でしょ」 「そうだよね~、あの人にみたいなりたい! って思える女性政治家いないし」 「会社だとさ、部長とか役員とかなってる女性って、経歴もすごいし」 「っていうか、男社会にどっぷり浸かってる人でしょ」 などと、あれこれ理由づけすることは可能だし、私自身これまでそうやって心理の裏側をひもとき、社会的構造を指摘し、解決策を提案してきた』、「日本は変わらないことを選択した国」とは確かにその通りだ。
・『政治・経済における権力の半分も女性が持つべきだ  だが、それだけでは語り尽くせないほど深い、深い、とんでもなく深い闇を日本社会に感じている。 なにせ「女性問題」を取り上げるだけで、大バッシングされ(はい、そうなんですよ~)、ついには「女性問題」に興味すら示さなくなっているのですよね。はい、だから読まれません(笑)。ここまでお読みいただいた方に、心より感謝です! 「っていうか、そうやってアンタが書いてきたあれこれが複雑に絡まってんでしょ。知らんけど」 おっしゃる通りだ。 だからこそ、知りたい。マスではなく「個」の意見が。幸い本コラムには毎回たくさんのコメントをいただく。「あなた」の意見を、「あなた」の素直な気持ちを教えてほしいのだ。 くしくも先週8日は国際女性デーだった。 見よ、こちらを! なんて豊かな、すてきな写真なのだろう! スペインのペドロ・サンチェス政権は7日、閣僚級ポストや企業の取締役会における比率を男女どちらも40%以上とするクオータ制の導入を盛り込んだジェンダー平等促進法案を閣議決定した。 「社会の半分は女性なのだから、政治・経済における権力の半分も女性が持つべきだ」(by サンチェス首相) ちなみに、18年にサンチェス首相が就任した時には、17人中11人が女性! 先に不信任決議を受けて辞任したマリアノ・ラホイ前首相の男性ばかりの内閣とは対照的だ。 件の写真は、見てるだけで豊かな気持ちになる。ああ、自分も頑張っていいんだね、と前向きな気持ちになれる。 こんな写真、撮ってみたいと思いませんか? 皆さまの「自分の頭で考えたご意見、心の奥底に潜む気持ち」、教えてください』、「ペドロ・サンチェス政権は7日、閣僚級ポストや企業の取締役会における比率を男女どちらも40%以上とするクオータ制の導入を盛り込んだジェンダー平等促進法案を閣議決定」、とはうらやましい限りだ。
タグ:女性活躍 (その25)(全国紙初の女性政治部長が「女性活躍社会なんて 絵空事でしかない」と言い切る深い理由 セクハラを反省しない「オッサン社会」の深い病、平安時代もあった「女性キャリアの壁」苦悩の実態 紫式部「源氏物語」好きオタク女子の思いとは?、これぞ日本人が「読みたくないコラム」 “女のバトル”が消した灯火) 佐藤 千矢子氏による「全国紙初の女性政治部長が「女性活躍社会なんて、絵空事でしかない」と言い切る深い理由 セクハラを反省しない「オッサン社会」の深い病」 PRESIDENT ONLINE 東洋経済オンライン 佐藤 千矢子『オッサンの壁』(講談社現代新書) 全国紙で初の女性政治部長を務めたとは、この問題を語るのに最適だ。 現在はスマホで録音されるので、逃げようがないが、「事実関係を否定したまま、省内を混乱させた責任をとって辞任」とは往生際が悪い。 「このケースでの記者への批判は問題すり替えの意図を感じ、賛同できない」、同感である。 「抗議しても、なかったことにされて、下手をすれば、報復される可能性がある」、その通りで、今回はやはり、週刊誌へのタレ込みしかなかったのだろう。 「騒ぎ立てず「無難に処理しろ」「うまく受け流せ」という」大人の対応は、「女性の心に大きな傷を残す。被害者の女性のみに負担を強いて、それが人生に長く影を落としかねないような、そんな対応は明らかに間違っている」、その通りだ。 「「日本民間放送労働組合連合会」・・・と「民放労連女性協議会」が・・・抗議声明」を出したのは当然だ。「自分がまだ若くセクハラに悩んでいた1990年代のころから改善されたようでいて、本質的にはあまり変わっていないのだと思う。だんだんと声をあげられるようにはなってきたが、それでもやはり声をあげることにさえ大きなハードルがある」、なるほど。 「セクハラという言葉が定着することによって、「セクハラはしてはいけない行為だ」「被害女性に非はなく悪いのはあくまでも加害男性だ」ということが社会の共通認識になれば、被害を訴えやすくなるし、報告を受けた上司が対応せざるを得なくなる」、確かにその通りだ。 「男性」の場合、組織内では「セクハラ」は噂になっただけでも人事考課に影響しかねないだけに、悩ましい問題である。 「「働く男女の比率」が近づけば解決される」と楽観的だが、私はそこまで楽観的になれない。また、「飲み会」に「女性」が入った場合には、どうしても遠慮せざるを得ないので、「男性」だけで遠慮せずに飲む会も続くのではなかろうか。 「福田氏のような話で辞任させれば、日本の一流企業の役員は全員、辞任しないといけなくなるぞ」、というのは程度の違いこそあれ、概ねその通りで、「オッサン社会」の「病」は「深い」。 「娘」は全く別物と考えないと、「セクハラ」のみならず、不倫も成立しない。 「セクハラ」は認定が微妙なだけに、「禁止」や「厳罰」は馴染み難いように思う。 三宅 香帆氏による「平安時代もあった「女性キャリアの壁」苦悩の実態 紫式部「源氏物語」好きオタク女子の思いとは?」 『新編日本古典文学全集26・和泉式部日記/紫式部日記/更級日記/讃岐典侍日記』 「今でいう派遣社員やパートのような立ち位置の女房が、平安時代にもいたのだなあ」、同感である。 「紫式部が夫と死別、清少納言は離婚しており、夫の転勤に左右されない立場だったから成立した働き方だったのだ。 菅原孝標女のように、夫が転勤ありの役職で、子どももいるような状況では、「ずっと宮中に詰める」女房になることは難しい。だからこそパートタイム女房勤務しかできなかった」、「紫式部」と「清少納言」が、「夫の転勤に左右されない立場だった」とは初めて知った。 「菅原孝標女は昔、「田舎の山奥に住んで、光源氏か薫みたいな人が来るのを待ちたいわあ」という将来の夢を日記に綴っていた。その着地点である晩年の風景が、「茂る庭のある家に住んで、女友だちに『ねえ、遊びに来てよ~、寂しいのよ~』という手紙を贈る」ものであったところに、なんだか私はちょっとした切なさと温かさを感じる」、その通りだ。 「彼女の日記には、現代にも通じるような普遍性が宿っている。それはひとりの文学少女が物語に憧れながらその人生を綴った、平凡で、ありきたりで、でもそれゆえ共感できる点がたくさん詰まった日記文学になっているのだ」、『更級日記』を改めて見直した。 日経ビジネスオンライン 河合 薫氏による「これぞ日本人が「読みたくないコラム」 “女のバトル”が消した灯火」 「“尽きないネタ”」とはどういうことだろう。 「時の政調会長、高市早苗氏」が「女性にげたを履かせて結果平等をつくり、法的拘束力を持たせ数値目標を実行するのはあくまでも過渡期的な施策であるべきだ」、これに対し「時の総務会長、野田聖子氏」が「強制的に枠をつくらないと女性が活躍する場所が生まれてこない。数値目標を持たないと、いつまでも有能な女性を生かしきれない社会が続く」、との「バトル」とは、それぞれの個性も反映された考え方で面白い。 「野田氏」は冒頭の論争と同じ姿勢だが、「自身が「首相になったら女性閣僚を半分にする」と宣言しただけで・・・たたかれ」たとは気の毒だ。 「日本は変わらないことを選択した国」とは確かにその通りだ。 「ペドロ・サンチェス政権は7日、閣僚級ポストや企業の取締役会における比率を男女どちらも40%以上とするクオータ制の導入を盛り込んだジェンダー平等促進法案を閣議決定」、とはうらやましい限りだ。
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医療問題(その37)(執刀は研修医 ドナーは生きた女性…日本人男性患者(53)が目撃した“海外臓器移植ツーリズム”の恐怖「意識は戻りましたか?」「ついさっき死んだ」、《暴行動画流出》白衣の男が患者に蹴りを2発 さらに顔面にも…暴行看護師がはびこる「ふれあい沼津ホスピタル」の闇「犬のほうがよっぽどかわいい」と患者に暴言も、《深層スクープ》東京女子医大に“診療報酬の不正請求”疑惑!「ICU死亡事故で厚労省が“緊急調査”」 東京女子医大の闇#15) [生活]

医療問題については、昨年6月16日に取上げた。今日は、(その37)(執刀は研修医 ドナーは生きた女性…日本人男性患者(53)が目撃した“海外臓器移植ツーリズム”の恐怖「意識は戻りましたか?」「ついさっき死んだ」、《暴行動画流出》白衣の男が患者に蹴りを2発 さらに顔面にも…暴行看護師がはびこる「ふれあい沼津ホスピタル」の闇「犬のほうがよっぽどかわいい」と患者に暴言も、《深層スクープ》東京女子医大に“診療報酬の不正請求”疑惑!「ICU死亡事故で厚労省が“緊急調査”」 東京女子医大の闇#15)である。

先ずは、本年2月26日付け文春オンライン「執刀は研修医、ドナーは生きた女性…日本人男性患者(53)が目撃した“海外臓器移植ツーリズム”の恐怖「意識は戻りましたか?」「ついさっき死んだ」」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/60962
・『日本で初めて、臓器移植の斡旋の疑いで逮捕者が出ることになった、NPO法人「難民患者支援の会」をめぐる事件が医療業界を震撼させている。逮捕されたのは、「難病患者支援の会」理事の菊池仁達容疑者(62)。肝臓移植を希望する日本人男性をベラルーシへ渡航させ、無許可で移植手術を受けさせた疑いが持たれている。 都内にクリニックを持つ医師の紹介で腎臓の移植手術を受けるために小沢克年さん(53)がキルギスにたどり着いた時、そこで待っていたのも菊池容疑者だった――。(全4回の3回目/#1、#2、#4を読む) 小沢さんは2021年11月12日、医師に指定された口座に腎臓移植の手術費用2170万円を振り込み、12月1日に日本を出国した。 まず中央アジアのウズベキスタンに飛び、そこから移動してキルギスの国立病院で手術を受けるのだという。小沢さんの手術の手続きをした医師は、執刀外科医について「臓器移植の最高のドクターの1人です」と渡航前に説明している。また、小沢さんが受け取った資料にも、現地の医療体制を称賛する記載がある』、「指定された口座に腎臓移植の手術費用2170万円を振り込み」、かなり高いようだ。
・『「担当は『カタールの軍医』と名乗るエジプト人医師でした」  《経験豊富なインド人外科医(英国にて医学博士号取得)とトルコ人外科医(英国にて医学博士号取得)を中心にした移植チーム》 《私が信頼しているDr.Aに紹介状を出します。Dr.Aが現地移植チームと詳細を打合せします》 小沢さんはこうした記述を信じて渡航を決断したが、そんな“最高の移植チーム”は幻だったことが、現地に入りすぐに発覚する。小沢さんは憤りながら話す。 「執刀を担当するA医師本人が空港にピックアップにくると聞いていましたが、『OZAWA』と書いたプラカードを持っていたのが、見るからに少年の顔をしたヤツなんです。聞いてみると、現地医大に通う大学生でした。病院についても資料にあったインド人やトルコ人の医師はおらず、担当は『カタールの軍医』と名乗るエジプト人医師でした。ウズベキスタンでは検査などをすると言われたのですが、渡航前に言われていた国立病院ではなく、産婦人科メインの民間病院でした。しかも医療器具を運び込む時もエレベーターに蹴って無理に押し込むなど、滅茶苦茶でした」 手術の日程も、どんどん後ろに延びていく。 「手術日は当初12月10日と聞いていましたが、まず24日と後ろにずれこみました。エジプト人医師はクリスマスホリデーで帰国すると言っていましたし、術後のケアをちゃんとしてもらえるのか不安でした。結局、『安心だ』という医師の説明とは何もかも違っていたんです」) ウズベキスタンの時点で不信感を感じていたが、実際に手術を受けるキルギスに入国した小沢さんを待っていたのは、なんと「難病患者支援の会」の菊池容疑者だった。小沢さんは都内の医師が渡航手術の仲介をしてくれたと思っていたが、急なスケジュールで詳細を確認できていないこともあり、実際は「難病患者支援の会」の管轄であることに気づかなかったのだ。 「キルギスのホテルに到着して、翌朝の朝食会場に菊池がいたんです。菊池は『やっと会えたね、小沢さん!』と話しかけてきました。僕は驚きながら『あれ、菊池さんのところなんですか?』と聞くと、『ウチ以外できるわけないじゃん!』と彼は笑っていましたよ。『難病患者支援の会』にはいい印象がなかったので失敗したなぁと思いました」』、『難病患者支援の会』はいい加減なようだが、「手術費用2170万円」を既に支払ってしまったのであれば、やむを得ない。
・『「犬の餌にでもなってんじゃねえか?」  キルギスには小沢さん以外に、半年前から滞在して移植を待つ日本人患者が男女1人ずついた。別のホテルでは10人ほどのアラブ人も移植手術を待っていた。小沢さんは現地にいた日本人とともに、治療を受けながら手術を待つ日々を送ることになった。 「夕食は患者3人と菊池で毎日一緒に食べていました。菊池は高飛車で、飲むと饒舌になり、いつも患者に説教を始めるんです。『そんなでっかい身体だと治るもんも治らないよ。運動足りてないんじゃない?』と絡んでくるので、『ついこの間までグラウンドを走り回ってたんだ、俺は!』とキレてしまいました。菊池が酔っ払って『先月、別の団体で移植のためにパキスタンに渡った日本人2人が行方不明になった』と話したことがあります。『2人はどうなったんですか』と聞いたら、『今ごろ犬の餌にでもなってんじゃねえか?』と笑っていました。どういう心境だったんでしょう」 縁を切ったはずの「難病患者支援の会」のてのひらの中に意図せず入り込んでしまった小沢さんだが、すでにキルギスまで来ており引き返すこともできなかった。しかし、やはりこの手術ツアーが臓器売買である気配を感じたのも、到着から数日後だったという。 「いつものように外へみんなでご飯を食べに行くと、酔っ払った菊池が『今日心電図いったでしょ? そん時、待合室に女の人がいたでしょ?』と聞いてきました。そして『それが小沢さんのドナーだよ』と言われたんです」) 小沢さんは渡航前、仲介した都内にクリニックを持つ医師から「合法だ」と聞いていたため、死体からの移植だと思っていた。しかし生きている人からの移植となれば話は変わってくる。 「ホテルに帰って現地で世話をしてくれた難病患者支援の会の日本人の男性コーディネーターに確認すると、『モデルみたいな綺麗な人です』と言われて、全然話にならない。臓器売買みたいなことをしちゃったらサポートしてくれた仲間に顔向けできないと思い菊池に相談すると『大丈夫、ちゃんと死体からもらったように診断書は作るから安心して!』と言われ、唖然としました」 ウクライナで2017年、臓器売買で逮捕された50代のトルコ人ブローカーが、ウクライナ人の貧しいドナーをキルギスに連れてきて、菊池容疑者が『ドナー料』を払い紹介してもらう。ウクライナ人ドナーには、日本人名義の偽造パスポートが渡され、ドナーと患者は親族という建前で移植を行う。そんな流れを知ったのも後になってからのこと。難病患者支援の会のパンフレットでは「NPOとして現地ドナーとの接触は皆無であります」と否定しているが、裏ではブローカーと協力した売買が行われていたようなのだ。 小沢さんの心は揺れた。自分が臓器売買に関わるつもりはない。しかしすでに2000万円以上の大金を振り込み、息子も友人から「お父さん、募金詐欺師なの?」と不信感を向けられたことで引くに引けなくなっていた。そして何より、手術を受けなければ自分の余命がいくばくもないことが決断の邪魔をした。 それでも小沢さんは、最終的に手術を断念した。それは別の日本人患者の手術が、大失敗に終わったことがきっかけだった』、「死体からの移植だと思っていた。しかし生きている人からの移植となれば話は変わってくる」、「最終的に手術を断念した。それは別の日本人患者の手術が、大失敗に終わったことがきっかけ」、なるほど。
・『一緒に手術を待っていた2人が死亡、1人が意識不明に  「渡航から2週間ほどたった12月中旬、現地で半年待っていた50代の日本人女性と、アラブ人3人が第一陣で手術を受けることになったんです。その中の1人のアラブ人女性の夫に手術後にたまたま会うと『まだ妻の意識が戻らないんだ』と青ざめた顔をしていました。そして翌朝、『意識は戻りましたか?』と聞くと『ついさっき死んだ』と言われました……」 手術に失敗して命を失う。「次は自分の番」と感じ、小沢さんは言葉を失った。 「手術を受けた4人のうち、数日以内にアラブ人2人が死亡したんです。日本人女性もしばらく意識が戻らず、重苦しい空気が流れていました。その数日前にも日本人男性が部屋のトイレにうずくまっているのが見つかり、『うー』とうめきながらコーディネーターの腕に抱きかかえられて急死したばかりでしたから」 手術ミスの原因は、何だったのか。 「後にわかったミスの原因は、麻酔の過剰投与でした。そもそも、この病院は産婦人科などが専門で、腎臓手術の経験は全くなかったんです。日本人女性のオペに至っては、腎臓を移植しようとしたら、動脈の長さが足りず、太ももを20センチ切って動脈を取り、それで何とかつなげたというお粗末さ。担当した人はこともあろうか、研修医でした。小学生の図画工作じゃねえんだよと怒りがわいてきました」) 小沢さんの菊池容疑者らへの不信は募っていく。手術後には、難病患者支援の会のコーディネーターが「キルギスの現地警察が動き始めた。エジプト人医師との連絡もつかなくなった」と慌てだし、小沢さんら患者たち、難病患者支援の会のスタッフ一同は警察の目を逃れて一度ウズベキスタンに移動した。 そして年が明けた2022年1月、ついに小沢さんは移植を諦め、手術をした日本人女性らと共に帰国することを決めた。菊池容疑者は不安を募らせる患者たちをなだめようと、小沢さんには「日本人女性はあと2週間で良くなるから心配ない」と伝えていたが、現実は非情だった。 「女性は飛行機に乗る前から顔が土気色で歩くこともできませんでした。成田空港に着くと救急車で千葉の病院に運ばれ、結局、キルギスで移植した腎臓は摘出されることになりました。日本の医師は摘出後、『腎臓が溶けていた。あと1時間遅ければ死んでましたよ』と言ったそうです。そもそも女性は手術後に意識を取り戻したときも、『痛くて歩けない』と訴えていました。それに対して菊池は『本当に痛いの?』と信じず、『おしっこが出るようにするため』と無理矢理歩かせていたんです」』、「女性」は「成田空港に着くと救急車で千葉の病院に運ばれ、結局、キルギスで移植した腎臓は摘出されることになりました。日本の医師は摘出後、『腎臓が溶けていた。あと1時間遅ければ死んでましたよ』と言ったそうです」、悪質な手術詐欺だ。
・『「『生きられて5年』と言われた貴重な時間を浪費させられた…」  結局、キルギスへの“移植ツーリズム”では少なくとも日本人1人を含む3人が死亡したことになる。小沢さんは怒りに震えながらこう話す。 「『生きられて5年』と言われてから既に3年経ちました。その貴重な時間を悪質な業者に浪費させられたことに怒りが収まりません。募金だってラグビーの教え子や父兄だけでなく、『がんばれ小沢克年』『ラガーマン』と匿名でお金を振り込んでくれた人も含め、みんなの善意で集まったものなんです。だから絶対に金は取り返したいと思っています」 臓器移植の斡旋で逮捕されたのは国内で菊池容疑者が初めてだが、巨額のお金を仲介業者に払って手術のために海外へ渡航し、臓器売買に関わる患者は後を絶たない。自らの命の危険が迫る中で、グレーな方法に手を出さない確信がある人間などどれほどいるものだろう。こうした現状について小沢さんは今、何を思うのか。 「海外でのグレーな移植が横行しているのは事実ですが、国内では命が助からない患者が多くいるのも事実です。ドナーが増えてほしいとは思いますが、僕だって23歳の息子や20歳の娘たちが脳死状態になった時に、腹を開いてその臓器を『さあどうぞ』とできるかは自信がない。僕自身はそれを赤の他人に求めているというのに……。僕は自分が死んだら角膜でも肝臓でも何でも使ってくれと思うようになりましたが、それだって家族の同意がなければ認められない。だから本当にどうすればいいのかはわかりません」 小沢さんは現在は透析治療を続けつつ、次の一手を決めかねている。募金についてはひとまず、今後訴訟で取り返すための準備を進めているという。回復の道が見えない患者たちにとって、臓器移植は唯一の希望の灯といえるだろう。こうした患者らを食い物にしてきた菊池容疑者の犯行は、到底許されるものではない』、「募金についてはひとまず、今後訴訟で取り返すための準備を進めている」、既に海外での工作資金や謝礼などで支払われていて、取り戻すのは困難だろう。「回復の道が見えない患者たちにとって、臓器移植は唯一の希望の灯といえるだろう。こうした患者らを食い物にしてきた菊池容疑者の犯行は、到底許されるものではない」、確かに極めて悪質だ。

次に、3月1日付け文春オンライン「《暴行動画流出》白衣の男が患者に蹴りを2発、さらに顔面にも…暴行看護師がはびこる「ふれあい沼津ホスピタル」の闇「犬のほうがよっぽどかわいい」と患者に暴言も」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/61012
・『精神科病院の保護室という密室で、目を覆いたくなるような事件が起こっていた。 無抵抗の患者に白衣の男が近づいて蹴りを1発、続けてもう1発。壁際に追い詰めてさらに顔に1発――監視カメラが捉えたのは、男性看護師による患者への暴行の瞬間だ。看護師の表情はうかがえないが、暴力を振るわれた患者のおびえきった表情が痛ましい』、「精神科病院」ではこれまでも「患者」への「暴力」事件が起きていたが、今回のも悪質だ。
・『病院の謝罪会見では報道陣から事件の隠蔽を疑う声も  この監視カメラ映像は、静岡県沼津市にある「ふれあい沼津ホスピタル」で昨年9月に撮影されたものだ。問題の動画が病院の外部へと流出したのは昨年末。不祥事の発覚を受けた病院は、謝罪会見を開き、現在は県警による捜査や関係機関の調査が継続している状況だ。大手紙事件担当記者が言う。 「流出したのは、50代の准看護師Xによる40代の男性患者に対する2件の暴行動画でした。職員による患者への虐待はXのものだけではなく、40代の看護師Yが70代の男性患者を車椅子ごと転倒させてケガを負わせていた事実も、病院の会見で明らかになっています。本人たちは病院の聞き取りに対し、『食事を床に落として食べることが続き、暴行してしまった』(X)『患者が他の患者に危険な行為をしたのを止めるため』(Y)にやむなく手をあげてしまったと説明。両職員は10月末に自主退職したとのことです」 監視カメラの記録によると、患者への暴行があったのは9月。問題が公になったのはそれから約3カ月後の12月だった。この間に匿名の通報が行政に寄せられており、一部報道機関の取材も始まっていた。当事者である病院の対応は後手に回った。 「会見では報道陣から事件の隠蔽を疑う声も上がりました。病院の代理人弁護士は『事実関係の把握と職員の処分に時間がかかった』と説明し、病院の職員も『認識が甘かった』と謝罪しましたが、暴行を行った看護師らへの処分は10月にさっさと終えているので、納得した記者はいなかったのではないでしょうか。事件についての詳細を話すことにも消極的でしたし、不信感の残る会見でした」(民放事件担当記者)』、「暴行を行った看護師らへの処分は10月にさっさと終えている」が、「問題が公になったのは」、「12月」隠蔽体質は酷いようだ。
・『映像があるのに病院の説明はしどろもどろ  事実、謝罪会見では明かされなかった複数の疑惑がある。匿名を条件に取材に応じた「ふれあい沼津ホスピタル」の現役職員のAさんが明かす。 「おかしなことはたくさんあります。まずはYの暴行なのですが、記者会見で事務長が『机を押すなどの迷惑行為をする患者さんを制止するために、Yが机を押して倒し、それと同時に被害患者も車椅子ごとひっくり返り指に擦り傷を負った』と説明した後に、記者から『蹴りもあったのではないか』と問われると『蹴っていたかもしれない……』といった具合で、映像があるにもかかわらずしどろもどろになっていました。実際の映像には、はっきりと蹴るというか踏みつける様子が映っています』、「映像があるのに病院の説明はしどろもどろ」、ろくに準備もせずに臨んだためだろう。
・『Yの暴行は命にもかかわりかねないものだった  Yの過剰な暴力を記録した映像もあるという。 「Yは机を押したどころか、かなり強い力で投げ飛ばしており、机は患者さんの頭上を飛び越えるように飛んでいます。机は4人がけの四角い木製のもので成人男性でも一人で持つのはちょっとしんどいと感じるくらいの重さがあります。なので、一歩間違えれば命にもかかわりかねないとんでもない行為だったんです。しかも、車椅子で倒れた患者さんをYは乱暴にひきずって動かし、踏みつけるように蹴りをいれていました。『蹴ったかもしれない』なんてレベルではありません。病院幹部は、残された動画をしっかり確認しておきながら、きちんと説明していないんです。これは患者さんの家族に対しても同様で、会見では『被害届を出す意向がなかった』と家族の対応を明かしていますが、そもそも家族は詳しい暴行を知らされていなかった。単に手の傷を負ったとしか説明されていなかったようで、車椅子ごと転倒していたことも会見で初めて知ったくらいですから。こういう事情があるので病院上層部は隠蔽しようとしていたと確信しています」(Aさん) 穏当な表現で暴行の事実を覆い隠そうとしていたなら由々しき事態だ。Xに関するAさんの証言も重い』、「病院上層部が隠蔽しようとしていた」のは確かだろう。
・『表に出ていないだけで他にも数々の問題が  「病院上層部は、暴行は他にないと断言しましたが、彼の虐待行為は常習的でした。今回の被害者の他にも異常なほどXを恐れる患者さんが複数いるんです。50代の女性患者はXに腕を思い切り掴まれ暴力をふるわれた。『こんなの暴力じゃない、もっとひどいことをしてやろうか』などと言われたと訴えています。患者さんに対して『犬のほうがよっぽどかわいい』と暴言を吐くなど、振る舞いからして問題がありました」 看護職員のBさんは病院上層部の“隠蔽体質”を強く非難した。 「院長や看護部長らは会見で、Xの暴行が2件、Yの暴行が1件の計3件しか問題はなかったと話しています。表に出ていないだけで、Xが数々の問題を起こしていたことは多くの職員が知っています。XとYの2人だけじゃありません。例えば、患者さんが『バケツで殴られた』『何かで叩かれた』と訴えていたという記録が残っています。この患者さんの担当職員は女性で、別の職員が暴行をしていた証拠です。私自身は他の精神科病院での勤務の経験もありますが、ここまで職員の看護態様がひどい病院は他に知りません」』、「院長や看護部長らは会見で、Xの暴行が2件、Yの暴行が1件の計3件しか問題はなかったと話しています」、「表に出ていないだけで、Xが数々の問題を起こしていたことは多くの職員が知っています。XとYの2人だけじゃありません。例えば、患者さんが『バケツで殴られた』『何かで叩かれた』と訴えていたという記録が残っています。この患者さんの担当職員は女性」、「ここまで職員の看護態様がひどい病院は他に知りません」、なるほど。
・『全職員と患者へのアンケートを実施  病院は今回の事件を受け、全職員と患者をあわせた約480人を対象にしたアンケートを行った。Bさんによると、職員や患者の話から、XとYの他にも少なくない人数の職員の虐待行為を訴える声が集まっている可能性が高いという。 「明るみに出ていない問題が山積しているのに、病院上層部はその場しのぎで今回の問題を片付けようとしているのは明白です。平気で嘘もつく。例えば会見でYについて、問題発覚後に患者と関わらない看護部長付に異動させたと言っていましたが、外来で患者さんの相手を普通にしていましたよ。さらに、上層部は誰がXの暴行動画を流出させたのかという犯人捜しに躍起になっています。問題を矮小化しようとする上層部に愛想がつきたので、取材に応じることにしました。記者会見でもマスコミに指摘されていましたが、病院は間違いなく暴行、虐待を隠蔽しようとしていた。少なくとも現場の人間の多くはそう考えています」(Bさん)』、「病院は間違いなく暴行、虐待を隠蔽しようとしていた。少なくとも現場の人間の多くはそう考えています」、なるほど。
・『事件の背景に厳しい看護現場  別の職員Cさんはこうも話している。 「うちの病院は利益至上主義で、採用も抑えて職員の人数もギリギリなんです。まるで十分な人員がいるかのように対外的には振舞っていますが、実際はもっと少ない。多めにサバを読んでいるんです。患者に手を出したXやYの暴行は断じて許すことはできませんが、厳しい看護現場のある種の『被害者』であるとも言えるんです」 医療現場の過酷さはつとに知られ、精神科は患者への対応も難しく神経をすり減らす職場だ。人手の少なさ、膨大な仕事量は暴行・虐待の言いわけにはならないとCさんは重々分かっているが、あえて言う。 「Xの暴行は精神状態が特に悪い患者さんを隔離する保護室という密室で行われました。病院のルールでは保護室での対応は職員2人でやることになっている。しかし、実際に2人で看護をすることは人数の問題から不可能なんです。別の職員の目があればXもあんなことはできなかったでしょう。現場を全く理解していない加藤政利院長や石川洋二事務責任者、栗原えみ看護部長はしっかりと再発防止に向けて膿を出して欲しいです」 昨年末以降、「ふれあい沼津ホスピタル」は揺れに揺れている。患者家族に対して行われた説明会では、病院側の対応に一部家族が強く抗議して紛糾。院内の研修では現場職員と経営陣が激しく衝突したという。事件の全容解明に向け静岡県警の捜査も続く。 一連の職員からの告発について「ふれあい沼津ホスピタル」を取材したが、期限までになんら回答はなかった。 まさに内憂外患。病院自身が抱える病は、果たして治せるか。 文春オンライン」では、今回の事件について、情報を募集しています。下記のメールアドレス、または「文春くん公式ツイッター」のDMまで情報をお寄せ下さい』、「ルールでは保護室での対応は職員2人でやることになっている。しかし、実際に2人で看護をすることは人数の問題から不可能なんです。別の職員の目があればXもあんなことはできなかったでしょう」、「院内の研修では現場職員と経営陣が激しく衝突したという。事件の全容解明に向け静岡県警の捜査も続く」、「静岡県警」は「病院」「経営陣」に忖度せずに、法的妥当性だけで判断してもらいたいものだ。

第三に、3月10日付け文春オンライン「《深層スクープ》東京女子医大に“診療報酬の不正請求”疑惑!「ICU死亡事故で厚労省が“緊急調査”」 東京女子医大の闇#15」を紹介しよう。
・『医療ミスで患者が死亡した、東京女子医科大学病院(東京・新宿区)のICUについて、「医師の勤務記録に不備がある」と、厚生労働省の立ち入り調査で指摘されたことが分かった。 “ICUの管理日誌に、医師が何時から勤務しているかの記載が抜けている”、“管理日誌がなかった日もある”など、定められた記録がなく、診療報酬の不正請求にあたる可能性が高いという。患者の命を守る“最後の砦”であるICUの杜撰な管理実態を追及する。 東京では珍しく氷点下まで冷え込んだ、1月30日の朝。女子医大病院・総合外来センターの正面玄関前に、地味なコート姿の男たちが次々と現れた。患者やその家族とは異なる、厳しい雰囲気を漂わせ、交わす言葉も少ない。5人ほど集まると、首に身分証をかけた病院職員が、正面玄関を避けるように裏手の通用門に彼らを誘導していく。すると、また同じような外見の5人が集まってきた。今度は女性の姿も混じっている。患者に対する配慮か、それとも取材を意識しているのか、分散して集合する手順だったらしい。 このようにして女子医大病院に入った約17人は、厚労省で医療機関の監査などを行う、関東信越厚生局の調査官だった。 去年12月、女子医大病院で発生した「ICUの死亡事故」(#10を読む)を、文春オンラインがスクープした1週間後、女子医大の岩本絹子理事長宛に、関東信越厚生局長から「個別指導」と「適時調査」を行う通告書が届いていたのである』、どういうことなのだろう。
・『「個別指導と適時調査が、同時に行われるのは異例」  個別指導とは、厚生局が指定した患者に関して、カルテや看護記録、処方箋、領収書などの記録を全て提出させて調べ、不備があったら指導を行う。今回は30人の患者が指定された。 一方、適時調査は、病院が施設基準として定められた“要件”を満たしているかを確認するものだ。 いずれも保険診療が適切に行われているか、厳しく調査するのが目的である。今回、厚生局の姿勢はこれまでとは明らかに違っていた、と女子医大関係者は話す。 「個別指導と適時調査が、同時に行われるのは異例です。過去20年間で記憶にありません。厚生局からの通知が届いたのが、文春オンラインでICU死亡事故が報道された1週間後ですから、当然、ICUが徹底的に厳しく調査されるだろうと予感しました」』、「厚生局からの通知が届いたのが、文春オンラインでICU死亡事故が報道された1週間後」、なるほど。
・『勤務記録がないICUの管理日誌  人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)などを使い、命の危機に瀕した患者を“24時間体制”で、集中治療医と看護師が治療や看護を行うのが、ICU(集中治療室)だ。新型コロナの重症患者を救い、多くの人がその存在を知るようになったが、高度な外科手術を受けた患者の管理などもICUの重要な役割であり、大学病院にとって「医療安全の砦」というべき重要な部門である。 去年8月時点で、女子医大病院のICUには10人の集中治療医が在籍し、ベッド数は全国トップクラスだったが、経営陣の不可解な懲戒処分を受けるなどして、同9月までに9人が退職に追い込まれた。 そして、その翌月、専門医不在のICUで、消化器外科医が60代の患者から胸水(胸膜腔に溜まった水)を抜く際、ミスをして死亡させる事故が起きたのである。(#14を読む) 女子医大病院を監督指導する立場にある関東信越厚生局としては、死亡事故が起きたICUについて厳しくチェックするのは必然だった。一体、どのような指導が行われたのか。担当の病院事務長が、2月10日の病院運営会議で教授たちにこう報告した。 「ICUの管理日誌に、誰が夜間に勤務しているのか、何時から勤務しているのか、という記載が抜けている、または日誌が無かった日もございました。ICUについては常時、医師が24時間いなくてはいけないという要件がありますが、(厚生局からは)ずっと医師がICUにいることが確認できない、という指摘がございました。最悪、要件を満たさないものに関しては、過去5年間調べて、(診療報酬の)返還という可能性もあります」(一部要約・抜粋)』、「ICUには10人の集中治療医が在籍」していたが、「経営陣の不可解な懲戒処分を受けるなどして、同9月までに9人が退職」、「専門医不在のICUで、消化器外科医が60代の患者から胸水(胸膜腔に溜まった水)を抜く際、ミスをして死亡させる事故が起きた」、「女子医大病院を監督指導する立場にある関東信越厚生局としては、死亡事故が起きたICUについて厳しくチェックするのは必然だった」、「ICUについては常時、医師が24時間いなくてはいけないという要件がありますが、(厚生局からは)ずっと医師がICUにいることが確認できない、という指摘がございました。最悪、要件を満たさないものに関しては、過去5年間調べて、(診療報酬の)返還という可能性もあります」、これは一大事だ。
・『診療報酬の不正請求になる可能性が高い  女子医大病院のICU管理日誌は、勤務時間帯ごとの医師の名前、入室患者数、病名などを、医師が入力したものをプリントアウトし、責任者の印を押して保存していたという。仮に、医師が24時間体制で勤務していなければ、診療報酬の不正請求になる可能性が高い。女子医大の関係者は、次のように証言した。 「厚生局の調査は、管理日誌と医師の出勤簿を突き合わせるなど徹底しているので、不備があれば、すぐに見抜かれてしまいます。まして、ICUの集中治療医10人中9人が退職したと報道されているわけですから、誰が考えても24時間体制を維持できるわけがありません。医療事務の感覚として無理だと判断しますので、“誰かの指示”を受けて診療報酬を請求したということです」 厚生局の調査によって“ICUに夜間勤務した医師の記録がない”、という杜撰な管理実態が明らかになったが、集中治療医の大半が辞めたのに、なぜICUの維持にこだわったのか? 考えられるのが、“高い診療報酬”である』、「集中治療医の大半が辞めたのに、なぜICUの維持にこだわったのか? 考えられるのが、“高い診療報酬”である」、酷い話だ。
・『一般病棟の入院管理料と比較すると約6倍の収益  去年9月以降、女子医大病院のICUは、「特定集中治療室管理料3」の診療報酬で請求されていた。これは、患者1日あたり、「96,970円」(*注1)になり、一般病棟の入院管理料「15,660円」と比較すると、約6倍の収益になる。 ただし、「管理料3」のICUは「専任の医師が常時、特定集中治療室内に勤務していること」という要件が定められており、実際に24時間体制で医師が勤務している“記録”が必要だ。 (*注1:特定集中治療室管理料3で、7日以内の期間の場合) 先に述べた通り、去年9月以降、女子医大のICUには、集中治療医が1人しかいなかった。そこで経営陣は、24時間体制のICUを維持する、苦肉の策を掲げたのである。 「外科手術などを行なった各診療科の医師が、ICUで患者の集中治療も行う」 「夜間のICUは、心臓血管外科の医師が責任者として担当する」 経営陣の方針によって、医師が24時間体制で勤務する「ICUの要件」は満たされた。ただし、大学病院においてICUが「医療安全の砦」とされるのは、高い専門性とスキルを兼ね備えた集中治療医の存在が前提条件だ。 ではなぜ、心臓血管外科の医師が夜間のICUを担当させられたのか。詳しい経緯を知る、元女子医大の医師が内情をこう明かす』、「ICU」は「一般病棟の入院管理料と比較すると約6倍の収益」、なので、「経営陣は、24時間体制のICUを維持する、苦肉の策を掲げた」、なるほど。
・『心臓血管外科のスタッフ「夜間責任者を引き受けられない」  「心臓血管外科に所属する友人の話によると、以前から心臓血管外科では手術した患者をフォローするため、夜間当直をICUに置いていました。それで集中治療医がいなくなった去年9月以降、ICUの夜間責任者を担当するように言われたそうです。 しかし、ICUには脳外科や消化器外科の患者もいますので、修羅場に慣れている心臓血管外科でも急変した時の対応は難しい。それで心臓血管外科のスタッフが『他の診療科の患者については、一切の責任を負わせない旨を文書でほしい』と病院長に要求したそうです」 そして、病院長から文書が渡されたが、要求した内容は反映されていなかった。 “問題が起きた場合は、当院全体で責任を負う。心臓血管外科や医師個人のみに責任を負わせることはしない”(医師の記憶に基づく病院長の文書要旨) この内容では、他の診療科の患者について、完全に免責されることにはならないため、心臓血管外科のスタッフは、改めてICUの夜間責任者は引き受けられないと病院長に伝えたが、聞き入れられなかった。 「その後、ICUの管理日誌に夜間の責任者として、心臓血管外科スタッフの名前が勝手に使われていたそうです。それを知った同科スタッフは、板橋(道朗)病院長に抗議の文書を送りつけ、改めてICUの夜間責任者は引き受けられない、と伝えたと聞きました。その後に、厚生局の調査が入ったのです」(同前) こうした経緯で、夜間のICUに医師が勤務していた記録がない、という状況が起きたという』、「病院長から文書が渡されたが、要求した内容は反映されていなかった。 “問題が起きた場合は、当院全体で責任を負う。心臓血管外科や医師個人のみに責任を負わせることはしない”(医師の記憶に基づく病院長の文書要旨) この内容では、他の診療科の患者について、完全に免責されることにはならないため、心臓血管外科のスタッフは、改めてICUの夜間責任者は引き受けられないと病院長に伝えたが、聞き入れられなかった」、「厚生局の調査が入ったのです」(同前) こうした経緯で、夜間のICUに医師が勤務していた記録がない、という状況が起きたという」、「責任問題」を「病院長」が明確にしないため、「心臓血管外科のスタッフは、改めてICUの夜間責任者は引き受けられないと病院長に伝えたが、聞き入れられなかった」、こんなトラブルが背景にあったとは、病院側の対応は本当にお粗末だ。
・『ICUでは、死亡事故以外にも問題が頻発。医師不足で対応できず。  さらに、別の関係者によると、9月以降のICUでは、死亡事故以外にも問題が頻発していた。集中治療医の不在をカバーするため、ICUの患者に異変が起きると、救命救急センターや麻酔科の医師が駆けつけることになっていたが、医師不足で対応できないケースがしばしば起きていたのだ。 こうした状況に対し、女子医大の40代医師は、医療安全体制の崩壊を引き起こしたのは、経営陣だと批判する。 「夜間のICUに専任の医師が不在なのに、『特定集中治療室管理料 3』を得ていたのなら、診療報酬の不正請求ですし、そもそも集中治療科の医師に、嫌がらせのようなこと(懲戒処分など)を繰り返して辞めさせたのは、現経営陣です。一貫性がなく、行き当たりばったりの経営が、現在の混乱した状況を引き起こしました」 振り返れば2001年に、女子医大病院で心臓手術を受けた、当時12歳の少女が死亡する事故が起きた。その遺族らが「診療報酬で不正請求をしているのではないか」として、厚労省に通報したという。その結果、カルテの改ざんや診療報酬の不正請求などが判明、女子医大病院は診療報酬の返還請求を受け、「特定機能病院」の承認を取り消された。 その後、2007年に再承認されたが、2014年にはICUで鎮静薬プロポフォールの過剰投与により、2歳男児を死亡させて、再び「特定機能病院」の承認は取り消しとなり、現在に至る』、「女子医大病院」「経営陣」の責任は重大だ。
・『現代の高度医療はICUと集中治療医がいてこそ成り立つ  特定機能病院とは、厚生労働大臣が承認した、高度医療の提供や開発などを担う医療機関を指す。診療報酬や補助金などで優遇され、医学部のある全国81の大学のうち、女子医大と新設校を除く全ての大学病院が、特定機能病院に承認されている。 女子医大の関係者によると、再び特定機能病院の承認を取るためには、医療安全体制の確立が絶対条件だと厚労省から示唆されていたという。 集中医療の最前線に立ってきた、帝京大学の福家伸夫名誉教授は、高度医療を行う大学病院のICUには、集中治療専門医の存在が必要不可欠と指摘する。 「ICUで管理する患者は生命の危機に瀕しているケースが多く、わずかな変化が致命的になるので、24時間体制で集中治療に専従する医師が必要です。人工呼吸器の管理技術も、集中治療専門医と非専門医では全然違います。現代の高度医療は、ICUと集中治療専門医がいてこそ成り立つ。女子医大病院が特定機能病院の再承認を目指すのであれば、診療体制を改善しICUを充実させる必要があります」 重大な医療事故を繰り返しながら、医療安全の要である、ICUの杜撰な実態が明らかになった女子医大病院。今後、厚労省から診療報酬の不正請求が認定された場合、岩本絹子理事長らの経営責任が問われることは必至だ』、「重大な医療事故を繰り返しながら、医療安全の要である、ICUの杜撰な実態が明らかになった女子医大病院」、「今後、厚労省から診療報酬の不正請求が認定された場合、岩本絹子理事長らの経営責任が問われることは必至だ」、今後の展開を注視したい。
タグ:(その37)(執刀は研修医 ドナーは生きた女性…日本人男性患者(53)が目撃した“海外臓器移植ツーリズム”の恐怖「意識は戻りましたか?」「ついさっき死んだ」、《暴行動画流出》白衣の男が患者に蹴りを2発 さらに顔面にも…暴行看護師がはびこる「ふれあい沼津ホスピタル」の闇「犬のほうがよっぽどかわいい」と患者に暴言も、《深層スクープ》東京女子医大に“診療報酬の不正請求”疑惑!「ICU死亡事故で厚労省が“緊急調査”」 東京女子医大の闇#15) 医療問題 文春オンライン「執刀は研修医、ドナーは生きた女性…日本人男性患者(53)が目撃した“海外臓器移植ツーリズム”の恐怖「意識は戻りましたか?」「ついさっき死んだ」」 「指定された口座に腎臓移植の手術費用2170万円を振り込み」、かなり高いようだ。 「死体からの移植だと思っていた。しかし生きている人からの移植となれば話は変わってくる」、「最終的に手術を断念した。それは別の日本人患者の手術が、大失敗に終わったことがきっかけ」、なるほど。 「女性」は「成田空港に着くと救急車で千葉の病院に運ばれ、結局、キルギスで移植した腎臓は摘出されることになりました。日本の医師は摘出後、『腎臓が溶けていた。あと1時間遅ければ死んでましたよ』と言ったそうです」、悪質な手術詐欺だ。 「募金についてはひとまず、今後訴訟で取り返すための準備を進めている」、既に海外での工作資金や謝礼などで支払われていて、取り戻すのは困難だろう。「回復の道が見えない患者たちにとって、臓器移植は唯一の希望の灯といえるだろう。こうした患者らを食い物にしてきた菊池容疑者の犯行は、到底許されるものではない」、確かに極めて悪質だ。 文春オンライン「《暴行動画流出》白衣の男が患者に蹴りを2発、さらに顔面にも…暴行看護師がはびこる「ふれあい沼津ホスピタル」の闇「犬のほうがよっぽどかわいい」と患者に暴言も」 「精神科病院」ではこれまでも「患者」への「暴力」事件が起きていたが、今回のも悪質だ。 「暴行を行った看護師らへの処分は10月にさっさと終えている」が、「問題が公になったのは」、「12月」隠蔽体質は酷いようだ。 「映像があるのに病院の説明はしどろもどろ」、ろくに準備もせずに臨んだためだろう。 「病院上層部が隠蔽しようとしていた」のは確かだろう。 「院長や看護部長らは会見で、Xの暴行が2件、Yの暴行が1件の計3件しか問題はなかったと話しています」、「表に出ていないだけで、Xが数々の問題を起こしていたことは多くの職員が知っています。XとYの2人だけじゃありません。例えば、患者さんが『バケツで殴られた』『何かで叩かれた』と訴えていたという記録が残っています。この患者さんの担当職員は女性」、「ここまで職員の看護態様がひどい病院は他に知りません」、なるほど。 「病院は間違いなく暴行、虐待を隠蔽しようとしていた。少なくとも現場の人間の多くはそう考えています」、なるほど。 「ルールでは保護室での対応は職員2人でやることになっている。しかし、実際に2人で看護をすることは人数の問題から不可能なんです。別の職員の目があればXもあんなことはできなかったでしょう」、「院内の研修では現場職員と経営陣が激しく衝突したという。事件の全容解明に向け静岡県警の捜査も続く」、「静岡県警」は「病院」「経営陣」に忖度せずに、法的妥当性だけで判断してもらいたいものだ。 文春オンライン「《深層スクープ》東京女子医大に“診療報酬の不正請求”疑惑!「ICU死亡事故で厚労省が“緊急調査”」 東京女子医大の闇#15」 どういうことなのだろう。 「厚生局からの通知が届いたのが、文春オンラインでICU死亡事故が報道された1週間後」、なるほど。 「ICUには10人の集中治療医が在籍」していたが、「経営陣の不可解な懲戒処分を受けるなどして、同9月までに9人が退職」、「専門医不在のICUで、消化器外科医が60代の患者から胸水(胸膜腔に溜まった水)を抜く際、ミスをして死亡させる事故が起きた」、「女子医大病院を監督指導する立場にある関東信越厚生局としては、死亡事故が起きたICUについて厳しくチェックするのは必然だった」、 「ICUについては常時、医師が24時間いなくてはいけないという要件がありますが、(厚生局からは)ずっと医師がICUにいることが確認できない、という指摘がございました。最悪、要件を満たさないものに関しては、過去5年間調べて、(診療報酬の)返還という可能性もあります」、これは一大事だ。 「集中治療医の大半が辞めたのに、なぜICUの維持にこだわったのか? 考えられるのが、“高い診療報酬”である」、酷い話だ。 「ICU」は「一般病棟の入院管理料と比較すると約6倍の収益」、なので、「経営陣は、24時間体制のICUを維持する、苦肉の策を掲げた」、なるほど。 「病院長から文書が渡されたが、要求した内容は反映されていなかった。 “問題が起きた場合は、当院全体で責任を負う。心臓血管外科や医師個人のみに責任を負わせることはしない”(医師の記憶に基づく病院長の文書要旨) この内容では、他の診療科の患者について、完全に免責されることにはならないため、心臓血管外科のスタッフは、改めてICUの夜間責任者は引き受けられないと病院長に伝えたが、聞き入れられなかった」、 「厚生局の調査が入ったのです」(同前) こうした経緯で、夜間のICUに医師が勤務していた記録がない、という状況が起きたという」、「責任問題」を「病院長」が明確にしないため、「心臓血管外科のスタッフは、改めてICUの夜間責任者は引き受けられないと病院長に伝えたが、聞き入れられなかった」、こんなトラブルが背景にあったとは、病院側の対応は本当にお粗末だ。 「女子医大病院」「経営陣」の責任は重大だ。 「重大な医療事故を繰り返しながら、医療安全の要である、ICUの杜撰な実態が明らかになった女子医大病院」、「今後、厚労省から診療報酬の不正請求が認定された場合、岩本絹子理事長らの経営責任が問われることは必至だ」、今後の展開を注視したい。
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子育て(その5)(「親の愛情不足」感じる子に見えがちな3つの特徴 親は子にかける言葉を選び、頼み聞くのがベスト、「日本の子どもが幸せそうじゃない」問題を直視せよ 自殺・不登校・いじめ過去最多、子どもが否定されたと感じる「一発アウト」の言葉 「聞いてあげている」つもりでも口を挟んでいる) [生活]

子育てについては、2021年10月3日に取上げた。久しぶりの今日は、(その5)(「親の愛情不足」感じる子に見えがちな3つの特徴 親は子にかける言葉を選び、頼み聞くのがベスト、「日本の子どもが幸せそうじゃない」問題を直視せよ 自殺・不登校・いじめ過去最多、子どもが否定されたと感じる「一発アウト」の言葉 「聞いてあげている」つもりでも口を挟んでいる)である。

先ずは、昨年5月5日付け東洋経済オンラインが掲載した思春期の子育てアドバイザーの道山 ケイ氏による「「親の愛情不足」感じる子に見えがちな3つの特徴 親は子にかける言葉を選び、頼み聞くのがベスト」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/584832
・『「最近親に反抗するようになって、言うことを聞かない」「友達とのケンカをきっかけに、長い間学校に行けなくなってしまった」「まったく勉強せず、部屋に引きこもって1日中ゲームをしている」 こんな悩みをお待ちの親御さんはいらっしゃいませんか? 原因は、子どもによって異なります。たまたま購入したゲームにハマってしまい、ゲーム依存になることもあるからです。ただ、「愛情不足」が原因で上記のトラブルが起きているという場合も多いようです。『ウチの子、最近、思春期みたいなんですが親子でイライラせずに乗り切る方法、教えてください!』の著者、道山ケイ氏が解説します』、興味深そうだ。
・『子どもは「自分が親から愛されているか」に敏感  未成年の子どもは、1人で生きていけません。親の支援があってこそ、生活したり、自分のやりたいことをしたりすることができます。そのため、子どもは「自分が親から愛されているか」について、非常に敏感です。 「自分は親から愛されていない」と感じると、「愛情不足」と呼ばれる状態になります。すると、様々なトラブルに発展することが多いです。私がこれまでに1万組以上の親子の子育てをサポートしてわかった「愛情不足の子どもの特徴」を紹介します。それは、 ① 甘えの増加 ② わがままへの発展 ③気力の低下 の3つです。 ① 甘えの増加:親に甘える頻度が増える 「お母さん、冷蔵庫に入っている飲み物とって」 「週末に服買いにつれてって」 「お腹すいたからご飯作って」 子どもなら、誰でも親にするお願いです。1日1~2回くらいなら、まったく問題ないでしょう。ただ、親への要求が極端に増えてきたら、愛情不足になりかけているかもしれません。 ・今までは「飲み物とって」だけだったのが、「リモコンとって」「お菓子もとって」と言う。 ・先週買い物に連れてったばかりなのに「まだ足りない、もっと買いたい」「今週も来週も連れてって」と言う。 ・断ると、かんしゃくを起こしたり暴れたりする。 こういった場合、注意しましょう。なぜなら、子どもは親にお願いを聞いてもらうことで、無意識に愛情を確かめているからです。 前述したように、愛情不足とは「自分は親から愛されていないかも?」と不安になっている状態です。そのため、自分の要求を聞いてもらえるかを確かめるために、甘える頻度が増えています』、「今までは「飲み物とって」だけだったのが、「リモコンとって」「お菓子もとって」と言う」、僕だったら、「甘ったれるな」と叱り飛ばして、子供との溝を深めていたところだ。
・『わざと手のかかる行動を取る点にも注意  ② わがままへの発展:愛情を確かめるために、わざと手のかかる行動をする 甘える頻度が増えたとき、親ができる限り要求を聞いてあげれば、子どもはまた元の状態(愛情不足ではない状態)に戻ります。しかし、仕事や家事の忙しさから、なかなか聞いてあげられないと、さらに状況が悪化します。すると子どもは、理不尽な要求(わがまま)をするようになります。 親が仕事で忙しいのに「今日仕事休んで、買い物に連れてって」と言ったり、無理だとわかっているのに「50万円のゲーミングパソコンを買って」「ブランドのバッグ買って」と言ったりします。子どもの気質によっては、「買い物連れていけ」「バッグ買ってこい」などと言葉遣いが乱暴になることもあるでしょう。 この場合、さすがに子どもも「この要求を聞くのは難しい」とわかっています。ただ「こんなわがままを言う私でも、親は愛してくれるかな?」と試す感覚や、要求を聞いてもらえないイライラから言っているのです。家だけではなく、学校でもわざと先生に迷惑をかけているかもしれません。 ③ 気力の低下:朝起きられなくなったり、自分の未来に希望を持てなくなったりする 子どもの気質によっては、わがままではなく、気力が低下することもあります。「どれだけお願いしても、うちの親はどうせ聞いてくれない」「私は誰からも愛されていない」と感じるため、自分の未来に希望を持てなくなるからです。すると生きることに無気力になって、朝起きられなくなったり、学校に行けなくなったりします。 中学生の場合「高校はどこに行く?」と聞くと「知らん」「どうせ受からないから受験しない」と言うこともあるでしょう。自分の人生に投げやりになっていたら、注意が必要です。) 愛情不足が続くと、人間関係に悩みやすくなります。なぜなら、次の2つの二次障害が起こるからです。 (1)人を信じられなくなる(親からの愛情を感じられないと、親のことを信頼できなくなります。いちばん身近な自分の親でさえ信頼できないのに、学校の先生や友達などの他人を信じることは難しいでしょう。すると、深い人間関係を築くことも難しくなります。 (2)自分を信じられなくなる(親から愛されてないと感じると、自分は価値のない人間だと思ってしまいます。つまり、自分に自信を持てなくなるのです。すると、クラスメイトに話しかける勇気がなくなります。「どうせ無視される」「友達になってくれるわけがない」と無意識に思ってしまうからです。友達がなかなかできず、悩むこともあるでしょう。 ほとんどの子は、友達に会うために学校に行っています。友達関係がうまくいかなくなれば、学校も楽しくないと感じます。それがきっかけで、不登校になることもあるのです』、「ほとんどの子は、友達に会うために学校に行っています。友達関係がうまくいかなくなれば、学校も楽しくないと感じます。それがきっかけで、不登校になることもあるのです」、「愛情不足が続くと」「次の2つの二次障害が起こる」「1)人を信じられなくなる」、「(2)自分を信じられなくなる」、「愛情不足」にそんな副作用があるとは初めて知った。
・『親が悪いのでなく、たまたま上手く伝わらなかっただけ  子どもが愛情不足と聞くと、なんだか子育てに失敗したように感じるかもしれません。しかし、親だけが悪いわけではありません。そもそも学校で「愛情の伝え方」とか「子育ての仕方」なんて学ばないからです。つまり、最初から上手くいく方がまれで、多くの方が手探り状態で始めています。もし今、お子さんが愛情不足かもしれないと思っても、自分を責める必要はありません。 では、どうしたら、愛情不足は解消するのでしょうか? ここからは私の経験を交えてお伝えします。ポイントは「子どもが求める愛情を的確に伝えていく」ことです。たとえば、お子さんはゲームが大好きだとしましょう。おそらく食事中も、常にゲームのことで頭がいっぱいです。ここで親が「宿題は、終わったの?」「夕食が終わったら、勉強しなさい」と言ったら子どもはどう思うでしょうか? ほとんどの子は「そんな話聞きたくない」と感じます。親としては「勉強を頑張って、将来幸せになってほしい」という想いから声をかけていても、子どもにとっては「愛情」ではなく「おせっかい」なのです。 では、どんな言葉をかけたら、子どもは喜ぶのか。たとえば、「最近、どんなゲームやってるの?」と言ったらどうでしょう。自分の好きなことに興味を示してくれているので、嫌な気持ちにはなりません。 「今日、学校はどうだった?」「先週行けなかった買い物、今週だったら行けそうだけどどう?」。こんな言葉も、言われて嫌な気持ちにはならないでしょう。 年齢や現在の親子関係によって、子どもがよろこぶ言葉は変わります。上記の言葉をかければ、100%うまくいくとは言えません。ただ、勉強や宿題の話をするよりも、上手くいく可能性は高いです』、「最近、どんなゲームやってるの?」、「今日、学校はどうだった?」「先週行けなかった買い物、今週だったら行けそうだけどどう?」、会話の口火を切る言葉としてはよさそうだ。
・『子どもが自ら勉強するように変化した親の体験談  また、子どもの頼みをできる限り聞いてあげることも大切です。山本よしみさん(仮名)は、もともとお子さんが愛情不足でした。朝起きられず学校に行けなくなったり、親を階段から突き落とそうとしたりする状況です。「気力の低下」と「わがままへの発展」が一緒に起こっていて、「高校には行かない」と言っていました。 そこで、子どもの要求をできる限り聞くようにしたのです。たとえば、「マック買ってきて」と頼まれたら、できる限り買いに行きました。子どもが言われて嫌がる「勉強しなさい」という言葉もやめたそうです。かわりに、子どもと共通の話題を作るために、YouTubeで子どもが好きな音楽を聞くようにしました。すると、愛情不足がどんどん解消されていったのです。 3カ月前は「高校にはいかない」と言っていたのが「偏差値70の高校に行きたい」と言い、自ら勉強するようになりました。学校にも通えるようになって、親子関係も劇的に良くなったのです。このように、 <1>子どもが嫌がる言葉をやめるor減らす <2>子どもが言われてうれしい言葉をかける <3>子どもの頼みをできる限り聞く をすれば、愛情不足は解消され、子育ては楽になります。ただし、法律やルールに違反すること、他人に迷惑をかけること、人を傷つけることなどの要求は聞いてはいけません。善悪の区別がつけられない人間になってしまうからです。また、こういった要求の多くは本心ではなく、親を試すために言っています。そこで、「ゲーミングパソコンが欲しいんだね。ただ、50万円は買えないよ」という感じで伝えましょう。 このように、子どもに的確に愛情を伝えることが、子育ての悩みを軽減させることの一助となります。子育ては愛情の伝え方が大きな要素を占めると言ってもいいでしょう。これは、幼少期の子どもでも思春期の子どもでも同じです。ただし、的確に愛情を伝える方法はたくさんあり、効果的な方法は1人ひとり異なります。 男女でも違いがあります。男の子は、好きな食事を作ると、愛情を感じやすいです。女の子は、一緒に時間を過ごすと愛情を感じやすいことがわかっています』、「親を階段から突き落とそうとしたりする状況」、とは極めて深刻な状況だ。「「気力の低下」と「わがままへの発展」が一緒に起こっていて、「高校には行かない」と言っていました。 そこで、子どもの要求をできる限り聞くようにしたのです」、「子どもが嫌がる言葉をやめるor減らす」、「子どもが言われてうれしい言葉をかける」、「子どもの頼みをできる限り聞く」をすれば、愛情不足は解消され、子育ては楽になります。ただし、法律やルールに違反すること、他人に迷惑をかけること、人を傷つけることなどの要求は聞いてはいけません」、「こういった要求の多くは本心ではなく、親を試すために言っています。そこで、「ゲーミングパソコンが欲しいんだね。ただ、50万円は買えないよ」という感じで伝えましょう。 このように、子どもに的確に愛情を伝えることが、子育ての悩みを軽減させることの一助となります」、現実には上手く行くことばかりでなく、失敗例もある筈だ。

次に、3月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「日本の子どもが幸せそうじゃない」問題を直視せよ、自殺・不登校・いじめ過去最多」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/318667
・『「子どもが幸せじゃない日本」で育つとどんな思考になる  岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」の目玉のひとつ、「子ども予算倍増」が炎上している。何の予算を、いつまでに、何に対して「倍」に増やすのかがよくわからないとして野党から批判を浴びているのだ。 ただ、カネをいくらバラまこうとも少子化には歯止めがかからないだろう。日本人が子どもをつくりたくないと考える根本的な問題にまったく手がつけられていないからだ。 それは端的に言うと、「日本の子ども、まったく幸せそうじゃない」問題である。 3月1日、ツイッターで「過去最悪の512人」というワードがトレンド入りした。昨年、自殺した小中高校の児童・生徒が512人で過去最多になったというのだ。こういう話を聞くと脊髄反射で、「それはコロナが」と理屈を並べたくなる人たちもいるが、コロナ禍以前から日本は「子どもが生きる希望を失って自殺をする国」として知られていた。 ユニセフが20年に発表した「レポートカード16」では、日本の子どもの精神的幸福度は38カ国中ワースト2位だった。また、日本では15~39歳の各年代の死因の第1位が「自殺」である。人身売買や戦争のない先進国では、子どもが亡くなるのは事故や病気が多いが、日本では自ら死を選ぶ子どもが多い。しかし、G7でこういう異常な国は日本だけだ。 自殺までいかなくとも「心」が殺されている子どもも多い。文部科学省によれば、令和3年度で全国の小中高校などを対象にした「いじめ認知件数」は61万5351件。前年度に比べて9万件以上増えていて、これまた過去最多となっている。また、病気などを除いて30日以上登校しなかった小中学生も21年度に24万人を超えて、こちらも過去最多だ。 さて、そこでちょっと想像していただきたい。このように子どもがいじめられたり、不登校になったり、自殺をしてしまったり…というようなことが日常的に起きている国で、成長した若い男女が結婚をした時、「子どもが欲しい」という発想になるだろうか。 なるわけがない。どんなに苦労をして育てても不幸になることが見えている。そんなわかりきった「無理ゲー」に挑みたくないという若者はかなりいるはずだ。 実際、それがうかがえるような調査もある』、「昨年、自殺した小中高校の児童・生徒が512人で過去最多になった」、「ユニセフが20年に発表した「レポートカード16」では、日本の子どもの精神的幸福度は38カ国中ワースト2位だった。また、日本では15~39歳の各年代の死因の第1位が「自殺」である。人身売買や戦争のない先進国では、子どもが亡くなるのは事故や病気が多いが、日本では自ら死を選ぶ子どもが多い。しかし、G7でこういう異常な国は日本だけだ」、「令和3年度で全国の小中高校などを対象にした「いじめ認知件数」は61万5351件。前年度に比べて9万件以上増えていて、これまた過去最多」、「病気などを除いて30日以上登校しなかった小中学生も21年度に24万人を超えて、こちらも過去最多だ」、「このように子どもがいじめられたり、不登校になったり、自殺をしてしまったり…というようなことが日常的に起きている国で、成長した若い男女が結婚をした時、「子どもが欲しい」という発想になるだろうか。 なるわけがない。どんなに苦労をして育てても不幸になることが見えている。そんなわかりきった「無理ゲー」に挑みたくないという若者はかなりいるはずだ」、その通りだ。
・『お金の問題ではない?若い人が子どもはいらないと思う理由  BIGLOBE・・・が18~25歳の未婚男女500人に実施した「子育てに関するZ世代の意識調査」である。 それによれば、「子どもがほしくない」と回答したのは45.7%と半数近かった。ただ、それよりも注目すべきは、その理由として「お金の問題」と答えた人が17.7%にとどまったことだ。 つまり、政府が「産めよ増やせよ」と税金をバラまいたところで、少子化対策の効果としては限定的ということだ。 では、「お金の問題ではない」とする若い人たちは、なぜ子どもが欲しくないのか。 もっとも多いのは、「育てる自信がないから」(52.3%)である。これは言い換えれば、「子どもをつくっても幸せにする自信がない」ということでもある。先ほども触れたように、日本の子どもはちっとも幸せではないので当然、子どもを産んで育てることは「失敗」が見えている愚かな行為だととらえる人も出てくるのだ。 次いで多いのは、「子ども好きではない、苦手だから」(45.9%)、「自由がなくなる(自分の時間を制約されたくない)から」(36%)だった。これは完全に子どもを「お荷物」「厄介」扱いしている。このように考える人というのは、自身も親や周囲の大人から「お荷物」「厄介」だと思われていたケースが多いのではないか。「不幸な子ども」が大人になって、自分のような不幸な子どもをこれ以上、世に増やしたくないという思いで、「子ども嫌い」になっている可能性もある。 日本の少子化の背景に「日本の子どもが幸せではない」ということもかなり大きなウェイトを占めているかもしれないということを、この調査は示してくれている。 少子高齢化という問題は、かれこれ半世紀以上前からわかっていて警鐘が鳴らされてきた。政府も以前から少子化対策の予算を組んで、「子ども手当」のようなバラまきも行ってきた。しかし、まったく成果が出ていないのは、この問題の元凶が「カネ」だけではないからだ』、「少子高齢化という問題は、かれこれ半世紀以上前からわかっていて警鐘が鳴らされてきた。政府も以前から少子化対策の予算を組んで、「子ども手当」のようなバラまきも行ってきた。しかし、まったく成果が出ていないのは、この問題の元凶が「カネ」だけではないからだ」、その通りだ。
・『日本特有の“ハラスメント教育”が元凶?  では、なぜ日本の子どもは幸せそうじゃないのか。いろいろなご意見があるだろうが、個人的には、日本特有の“ハラスメント教育”が元凶だと考えている。 日本では「子どもを自由にのびのび、個性を尊重して育てる」ということを建前としてはよく言うが、本音ベースでは「そんな風に育てたらロクな大人にならないぞ」と言わんばかりに、自由も個性も否定しがちだ。 事実、物心ついた頃から家庭や学校で「ルールを守れ」ということを教え込み、「みんなのことを考えろ」と同調圧力を叩き込んでいる。そして、もし自分勝手な行動をしたり、集団の秩序を乱したりすると「痛み」でわからせるという大人もまだ存在している。殴ったり、蹴ったり、グラウンドを走らせたりという「折檻(せっかん)」が「愛のある体罰なのでセーフ」と奨励されてきた過去があるからだ。 そんな日本のハラスメント教育の象徴が、「制服」だ。 貧しい家庭でもありがたいとか、もっともらしい理由をつけているが、本質的なところでは、私服よりも没個性の制服の方が、親や教師という大人側が「管理がラク」というだけだ。制服は青春の象徴だ、みたいな話も大人のノスタルジーに過ぎず、「子どものため」を考えたルールではない。 また、授業以外でも徹底的に「個性」を殺して、集団への貢献を誓わせる。わかりやすいのが、運動会の集団体操や人間ピラミッドだ。あれに感動している保護者は、マスゲームで熱狂している北朝鮮の人民と自分たちが何も変わらないことに気づいていない。 世界的にも珍しい「ブラック部活」も同じだ。海外では、スポーツなどの課外活動は自分の意志でやりたい子どもだけが参加して、1年の中で活動する期間が決められている。日本のように、朝から晩まで週6日部活で、子どもが疲労でフラフラ…なんてバカな話は少ない。よく言われる「部活で苦しい経験をしたから今がある」という話も、大人たちが自分の受けたハラスメントを正当化しているだけだ。 しかも、ただスポーツをやるだけではなく、髪型がどうしたとか、声が小さいとか、礼儀作法やら精神論も叩き込まれる。これはあまり言われないが、軍隊的な集団教育だ』、「物心ついた頃から家庭や学校で「ルールを守れ」ということを教え込み、「みんなのことを考えろ」と同調圧力を叩き込んでいる。そして、もし自分勝手な行動をしたり、集団の秩序を乱したりすると「痛み」でわからせるという大人もまだ存在している」、「そんな日本のハラスメント教育の象徴が、「制服」だ。 貧しい家庭でもありがたいとか、もっともらしい理由をつけているが、本質的なところでは、私服よりも没個性の制服の方が、親や教師という大人側が「管理がラク」というだけだ」、「授業以外でも徹底的に「個性」を殺して、集団への貢献を誓わせる。わかりやすいのが、運動会の集団体操や人間ピラミッドだ。あれに感動している保護者は、マスゲームで熱狂している北朝鮮の人民と自分たちが何も変わらないことに気づいていない。 世界的にも珍しい「ブラック部活」も同じだ。海外では、スポーツなどの課外活動は自分の意志でやりたい子どもだけが参加して、1年の中で活動する期間が決められている。日本のように、朝から晩まで週6日部活で、子どもが疲労でフラフラ…なんてバカな話は少ない」、「しかも、ただスポーツをやるだけではなく、髪型がどうしたとか、声が小さいとか、礼儀作法やら精神論も叩き込まれる。これはあまり言われないが、軍隊的な集団教育だ」、その通りだ。
・『集団主義教育によって子どもたちが「日本人」になる  日本の部活が今のように、親や教師という大人が前のめりになって、体罰やシゴギで子どもが死んでいくようになったのは1960年代だ。 この時期に何があったのかというと、「集団主義教育」の復活だ。 戦前の子どものように規律正しい行動ができるようにしよう、ということで東大教授の宮坂哲文氏を中心として結成されたのが、「集団主義教育」の普及を目的とした「全国生活指導研究協議会」だ。これがあれよあれよと勢力を伸ばし、1963年には会員が2000人を突破した。 そしてこの年、GHQが軍隊っぽいとして禁止していた「気をつけ」と「休め」について、文部省によって設けられた集団行動指導の手引き指導委員会が「復活」を検討。その翌年には、「集団行動の統一スタイル」(読売新聞 1964年5月25日)として全国の小学校に普及する。 この時期から「部活」は「涙と根性」がつきものになって、ひねくれた子どもの性根を叩き直す教育的機能が期待されるようになる。つまり、血反吐を吐かせて、ボコボコに殴っても、勝利の喜びを経験させてやれば、自堕落な子どもたちにも、集団主義が身について立派な日本人になれるというわけだ。 こういう集団主義教育の極め付けが、「偏差値」だ。世界の大学は、高校の成績や論文などで総合評価式の審査を行っているが、日本はいまだに一斉学力テストなど、偏差値教育に固執している。そのため、子どもは幼い頃から、遊びの時間を削って、偏差値アップのための詰め込み教育を強いられる。成長するにつれ自由と個性をつぶされていくというのは、子どもにとってこれ以上の「ハラスメント」はない』、「東大教授の宮坂哲文氏を中心として結成されたのが、「集団主義教育」の普及を目的とした「全国生活指導研究協議会」だ。これがあれよあれよと勢力を伸ばし、1963年には会員が2000人を突破」、「GHQが軍隊っぽいとして禁止していた「気をつけ」と「休め」について、文部省によって設けられた集団行動指導の手引き指導委員会が「復活」を検討。その翌年には、「集団行動の統一スタイル」・・・として全国の小学校に普及する」、「集団主義教育」の出発点が理解できた。「世界の大学は、高校の成績や論文などで総合評価式の審査を行っているが、日本はいまだに一斉学力テストなど、偏差値教育に固執している。そのため、子どもは幼い頃から、遊びの時間を削って、偏差値アップのための詰め込み教育を強いられる。成長するにつれ自由と個性をつぶされていくというのは、子どもにとってこれ以上の「ハラスメント」はない」、「偏差値教育」も確かにハラスメント」だ。
・『日本では「自由に生きてはいけない」  さて、いろいろ並べたが、気になるのは、こういう日本独特のハラスメント教育を続けると、一体どういう人間に成長をするのかではないか。 その一端がわかるのが、平成30(2018)年度に実施された「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」だ。これは日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンという7カ国の満13歳から満29歳までの男女を対象に実施したインターネット調査である。 その中で、「他人に迷惑をかけなければ、何をしようと個人の自由だ」という質問に対して、「そう思う」と回答をしたのは、日本以外の国では7~8割いた。しかし、日本だけは42.2%しかいなかった。つまり、日本の若者は「他人に迷惑がかからなくても自由に生きてはいけない」と考えているのだ。 なぜ日本の若者だけがこんなにも「自分を殺す」という傾向があるのかというのは、国民性などというふわっとした言葉では片付けられない。やはり幼い頃からのハラスメント教育によって、大人たちから「いいか、子どもだからって調子に乗るなよ。みんなと同じが一番だから、自由勝手に生きようなんて大それたことをするな」と繰り返し叩き込まれているからではないのか。 いずれにせよ、日本の子どもたちが学校や家庭で、かなり生きづらい環境にいるということは、自殺、いじめ、不登校の多さからも明らかだ。 父親にボコボコに殴られた子どもを保護した後、「やっぱりパパと一緒が幸せだよね」なんて感じで地獄に送り返して死に至らしめるような児童虐待の事件が多いことからもわかるように、日本では欧米と違って、「子どもの人権」は尊重されていない。日本は「親権」が強いので、まだ未成年者は「親の付属物」のような扱いなのだ。 まずは諸外国のように、子どもを一人の人間として扱って、子どもの幸せを実現する。そういう当たり前のことができずに、「子どもを増やせ」もへったくれもないではないか』、「なぜ日本の若者だけがこんなにも「自分を殺す」という傾向があるのかというのは」、「幼い頃からのハラスメント教育によって、大人たちから「いいか、子どもだからって調子に乗るなよ。みんなと同じが一番だから、自由勝手に生きようなんて大それたことをするな」と繰り返し叩き込まれているからではないのか」、同感である。さらに、日本でベンチャーの起業が少ないのも「ハラスメント教育」の副作用なのかも知れない。

第三に、3月10日付け東洋経済オンラインが掲載した解剖学者の養老 孟司氏、医学博士・立命館大学産業社会学部・大学院人間科学研究科教授の 宮口 幸治氏による対談「子どもが否定されたと感じる「一発アウト」の言葉 「聞いてあげている」つもりでも口を挟んでいる」を紹介しよう。
・『医療少年院で少年の認知機能を向上させる取り組みを続けてきた宮口幸治氏が、解剖学者の養老孟司氏と、子どもの話の聞き方や、子どもを自分と向き合わせるための方法について語り合った。親がつい言ってしまう、NGの言葉についても取り上げる(本稿は、養老孟司『子どもが心配』の一部を再編集したものです)(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『つねに「子どもの目線」で接する  Q:子どもをよく観察して、問題行動の兆しがあったらそのことにきちんと気づくことはとても大切なのだと思いますが、子どもをどのように観察すればいいか、アドバイスをいただけますか? 宮口:子どもを観察するときはつねに子どもの目線に落として、何に困っているのかを見る、ということに尽きますね。〝子ども目線〟で何に困っているかを考えると、必要な支援が見えてきます。 Q:子どもの話を聞くときも〝子ども目線〟が必要ですか? 宮口:それもありますが、もっと大事なのは「子どもの話をちゃんと聞く」ことです。子どもに限らず誰が相手でも、みなさん、人の話ってあまり聞かないですよね。自分では聞いてあげているつもりでも、しょっちゅう口を挟むものです。特に子ども相手だと、話がなかなか進まなかったりするので、つい焦って、ろくすっぽ聞かずに遮ってしまいがちです。 そのうえ「ああ、そうだったの。でもあなたにも問題があるんじゃないの?」みたいなことを言ったら、一発アウトです。子どもは自分の話を否定されたことで、大人が思っている以上に傷つきます。最悪、非行の原因になることすら、ありうるのです。子どもにしてみれば、親や先生からコメントが欲しいわけではない。ただ話をちゃんと聞いて、自分のことを受け入れてもらいたい、それだけです。 ですから口を挟まないだけではなく、「ちゃんと聞いているよ」というサインは出さなくてはいけません。相槌を打ってあげたり、オウム返しにしてあげたり、「大変だったね。しんどかったね」と声をかけてあげたりするといいかと思います。 養老:心理学者の河合隼雄先生は「臨床心理士が患者さんの話を上手に引き出す秘訣は何ですか?」と問われると、「相槌の打ち方です」と答えていました。 宮口:深い、深いですね。相槌にもいろいろありますから、おざなりに相槌を打てば、「ああ、聞いてないな」とバレますよね。 養老:逆に相槌1つで、「あなたの話を聞いていますよ」「同意していますよ」「あなたを受け入れていますよ」というサインを送ることもできる。 宮口:そうなんです。子どもの目を見て、しっかり相槌を打ちながら、とにかく真摯に話を聞いてあげることが第一です。それで子どもが「お父さん、どう思う?」とか「先生、どうすればいいと思う?」などと相談を投げかけてきたら、そのとき初めて答えてあげればいいと思います。 子どもの話はまどろっこしく感じられるものなので、大人としてはどうしても口を挟みたくなるものです。難易度は高いとは思いますが、そこは子どもが自分の頭で一生懸命考えて話しているのだからと信頼して、つき合ってあげてほしいですね。子どもに「いま、どんな気持ち?」とダイレクトにたずねるのはお勧めしません』、「自分では聞いてあげているつもりでも、しょっちゅう口を挟むものです。特に子ども相手だと、話がなかなか進まなかったりするので、つい焦って、ろくすっぽ聞かずに遮ってしまいがちです。 そのうえ「ああ、そうだったの。でもあなたにも問題があるんじゃないの?」みたいなことを言ったら、一発アウトです。子どもは自分の話を否定されたことで、大人が思っている以上に傷つきます。最悪、非行の原因になることすら、ありうるのです」、「子どもの話はまどろっこしく感じられるものなので、大人としてはどうしても口を挟みたくなるものです。難易度は高いとは思いますが、そこは子どもが自分の頭で一生懸命考えて話しているのだからと信頼して、つき合ってあげてほしいですね」、なるほど。
・『感情のコントロールが下手な子を支援するには  Q:認知機能が弱い子どもは、感情をコントロールするのが難しくなりますね。親や教師はどのように支援すればよいでしょうか。 宮口:感情統制に問題のある子には、タイプが2つあります。1つは、自分の感情がコントロールできない。もう1つは、人の気持ちが理解できない。大人はまず、その子どもがどちらのタイプなのかを判断するところから始めるといいでしょう。 感情をコントロールすることを教えようと思った大人がやりがちなのは、「いま、どんな気持ち?」などと質問し、子ども自身に自分の気持ちを言わせることです。これは、やめたほうがいいですね。 逆の立場で考えると、よくわかります。事あるごとに「あなた、いま、どんな気持ちですか?」と聞かれたら、誰しも答えたくないですよね?失敗したり、間違ったことをしたりしたときなどはなおさら、自分の気持ちを言葉にするのはしんどいものです。そんなしんどいことを子どもにやらせても、ろくなことにはならない。 けれども、ほかの人を見て、「あの人はいま、どんな気持ちだと思う?」と尋ねると、意外と答えられるものです。ですから、まず「人の気持ちを言う」練習から始めるのがいいと思います。そこから「感情」というものに向き合うようになればいい。) この練習は、認知能力のレベルにかかわらず、感情のコントロールの苦手な人全般に応用できます。そもそも、感情のコントロールは大人にとっても容易なことではなく、賢い人のなかにも怒りっぽかったり、すぐに泣き出したり、機嫌が悪くなったりするなど、苦手な人はいくらでもいます』、「事あるごとに「あなた、いま、どんな気持ちですか?」と聞かれたら、誰しも答えたくないですよね?」、「けれども、ほかの人を見て、「あの人はいま、どんな気持ちだと思う?」と尋ねると、意外と答えられるものです。ですから、まず「人の気持ちを言う」練習から始めるのがいいと思います。そこから「感情」というものに向き合うようになればいい」、なるほど。
・『安楽死を幇助していた医者の「苦悩」  養老:私も若いころは感情のコントロールが苦手でした。人の感情がわからないこともありました。それではいけないと、大人になってから勉強したと言いますか、努めて相手の気持ちを考えるようにしたんです。 でもやりすぎたのか、逆に相手のことを過度に考えるようになってしまいました。それはそれで良くない。人間関係で一番重要と言ってもいい、相手とうまく距離を取ることができなかったのです。 私が臨床医になりそびれたのも、そこら辺に問題があったからかもしれません。本当は精神科に進みたかったんですが、患者さんと親しくなりすぎちゃう、なつかれちゃうところがあって、向いていないとあきらめました。 それに患者さんに感情移入しすぎると、死なれたときに大変につらい。苦しい。極端な話、自分が殺したような痛みすら覚えます。結局、解剖医になったので、私の診る人はすでに亡くなった方ばかり。そこからおつき合いが始まるわけで、相手が何も反応しない分、安心して向き合うことができたような気がします。 ところが、私は患者さんが自然死を迎えるだけでもつらいのに、世の中には安楽死の幇助をする医師もいます。私は長年、そうした医師はどんな気持ちで安楽死に向き合っているのか、疑問に思っていました。それでオランダで安楽死に取り組む医師の書いた本を読み、何度か対談もさせていただいたんです。でも10年後、オランダまで訪ねていったら、「もう安楽死の幇助はやっていない」と言っていました。 彼は自分が見送った患者さんのことを丁寧に記録するうちに、だんだんと記憶が重いものになり、耐えきれなくなったのでしょう。あくまでも「幇助」とはいえ、殺したことに対する罪悪感は拭えないですよ。 宮口:私は少年院で、殺人を犯した少年とも接していました。なかには「あいつが悪いんや。だから僕も刺したんや」と事の重大さをわかっていない少年もいましたが、でも軽度の知的障害とか境界域の子どもたちだったら、さすがにかなり反省しますね。) 宮口:さらに、子どもの精神面に関して言えば、少年院には妙にプライドが高い子とか、根拠なく自分に自信を持っている子、逆に極端に自分に自信のない子がよく見られます。これは適切な自己評価がなされていないことの裏返しとも言えます。そこを改善するにはやはり、「自分を知る」ことがポイントなのですが、それはとても難しいことです。 認知機能の弱い人だけではなく、大多数の人は本音を言えば、「素の自分なんか知りたくない。できれば目を背けていたい」のではないでしょうか。それはそうです、誰だって品行方正な人ばかりではないし、長所もあれば短所もある、人に知られたくないことだってあるでしょう。無意識的に自分から目を背け、そのために「自分のことを棚に上げて、人を悪く言う」ようなことも起こります。 でもそこに、「自分を知る」ヒントがあります。人のことをあれこれ評価するうちに、「あれ、自分はどうだろう。こんな人間かな」と気づいてくるのです。人のことを評価する力がつくにつれて、自然と自分自身のことを客観的に評価できるようになるのでしょう』、養老先生が「努めて相手の気持ちを考えるようにしたんです。 でもやりすぎたのか、逆に相手のことを過度に考えるようになってしまいました。それはそれで良くない。人間関係で一番重要と言ってもいい、相手とうまく距離を取ることができなかったのです。 私が臨床医になりそびれたのも、そこら辺に問題があったからかもしれません。本当は精神科に進みたかったんですが、患者さんと親しくなりすぎちゃう、なつかれちゃうところがあって、向いていないとあきらめました」、初めは「精神科に進みたかった」が、「患者さんと親しくなりすぎちゃう、なつかれちゃうところがあって、向いていないとあきらめました」、とは初めて知った。
・『相手の反応から「自分を知る」  また、自分が言ったこと、行ったことについて、相手がどんな反応を示すのかをフィードバックして、自分自身を知る、という方法もあります。たとえば相手から笑顔が返ってきたら「あ、好かれてるのかな」、逆にムッとして不機嫌なままだったら「嫌われたかな」と思う。そこから「自分には相手に好かれるこういうところがある。こういうところは嫌われる」と気づくようになります。 そうした〝フィードバック経験〟を重ねながら、相手との関係のなかで自分はどんな人間なのかがわかるようになります。無人島で一人暮らしをしていたら、自分がどういう人間なのかなんて、わかるわけありません。 ただ、「相手が笑っているのに、怒っていると思い込む」ようなことがあるなら、それはフィードバックが正しくできていないということ。認知機能の弱さが関連しています。自分を正しく知るためには、やはり認知機能が必要なのです。 少年院に来る子どものなかには、仲間のなかで下に見られて〝パシリ(使い走り)〟扱いされたり、いじめられたり、命じられて悪いことをやらされたりしていたために、たとえば「悪いことをすると、よくやったと悪友から褒められる」など、自己評価が歪められているケースが少なからず見られます。そうなってしまうと、自分を正しく知ることが非常に難しくなると言わざるをえません。) 宮口:では、どうすれば自分を正しく知る力を養うことができるのか。効果的なのはグループワークですね。数人のグループで互いを観察していると、だんだん自分がどんな人間であるかがわかってくる。そのプロセスを経験させることがポイントです。繰り返すうちに、自分のなかに「人を見て自分を知る」仕組みが構築されていくはずです』、「どうすれば自分を正しく知る力を養うことができるのか。効果的なのはグループワークですね。数人のグループで互いを観察していると、だんだん自分がどんな人間であるかがわかってくる。そのプロセスを経験させることがポイントです。繰り返すうちに、自分のなかに「人を見て自分を知る」仕組みが構築されていくはず」、なるほど。
・『明治以降「自分」という存在を考えるように  養老:たしかに自己評価というのは、非常に難しい。ロビンソン・クルーソーなら、自分はあってもなくてもいいけれど、社会では他人があるから自分もある。だから自己評価が必要になってくるのでしょう。 もっともこの間会った禅宗のお坊さんは、「仏教には、自分なんかありません」と言っていました。とはいえ「無我」というのは、「自分という実体はないけれど、関係のなかで認識できる」ことを意味しますから、「人を見て自分を知る」のは理にかなっていますね。 それにしても日本では、明治維新以後に急に自分という存在が表面に出てきた感があります。どうしてかな、と考えていて、これは一神教の世界の影響かもしれないと思い至りました。この世の終わりに神さまがすべての人を裁く「最後の審判」というのがあって、それゆえに生まれてから死ぬまでのすべての行動を背負っている「自分」が存在していなければならない。そうでないと、審判が受けられないからです。 生きている間はずっと、「自分とは何者であるか、何を考え、何をなすべきか」を考えざるをえないんですね。本当は、自分のことなんかあんまり考えないほうが、ハッピーでいられるような気もします。でも、宮口先生がおっしゃるように、罪を犯した場合は、つらくても自分と向き合わなければならない。 宮口:そうですね。罪を犯した、悪いことをした「自分」は、こういう悪いところのある人間なんだと向き合ってもらわなくてはいけないと思っています。そうしなければ、更生しようという動機付けが生まれません。 養老:旧来の日本の共同体では、共同体のメンバーがある程度自分をなくして世間のルールに従っていました。非行少年が反省をしづらいのも、日本人は「自分」という存在が中途半端にしか確立されていないからかもしれません』、「日本では、明治維新以後に急に自分という存在が表面に出てきた感があります。どうしてかな、と考えていて、これは一神教の世界の影響かもしれないと思い至りました。この世の終わりに神さまがすべての人を裁く「最後の審判」というのがあって、それゆえに生まれてから死ぬまでのすべての行動を背負っている「自分」が存在していなければならない。そうでないと、審判が受けられないからです」、「罪を犯した、悪いことをした「自分」は、こういう悪いところのある人間なんだと向き合ってもらわなくてはいけないと思っています。そうしなければ、更生しようという動機付けが生まれません」、「旧来の日本の共同体では、共同体のメンバーがある程度自分をなくして世間のルールに従っていました。非行少年が反省をしづらいのも、日本人は「自分」という存在が中途半端にしか確立されていないからかもしれません」、確かにその通りだ。
タグ:子育て (その5)(「親の愛情不足」感じる子に見えがちな3つの特徴 親は子にかける言葉を選び、頼み聞くのがベスト、「日本の子どもが幸せそうじゃない」問題を直視せよ 自殺・不登校・いじめ過去最多、子どもが否定されたと感じる「一発アウト」の言葉 「聞いてあげている」つもりでも口を挟んでいる) 東洋経済オンライン 道山 ケイ氏による「「親の愛情不足」感じる子に見えがちな3つの特徴 親は子にかける言葉を選び、頼み聞くのがベスト」 『ウチの子、最近、思春期みたいなんですが親子でイライラせずに乗り切る方法、教えてください!』の著者、道山ケイ氏が解説 「今までは「飲み物とって」だけだったのが、「リモコンとって」「お菓子もとって」と言う」、僕だったら、「甘ったれるな」と叱り飛ばして、子供との溝を深めていたところだ。 「ほとんどの子は、友達に会うために学校に行っています。友達関係がうまくいかなくなれば、学校も楽しくないと感じます。それがきっかけで、不登校になることもあるのです」、「愛情不足が続くと」「次の2つの二次障害が起こる」「1)人を信じられなくなる」、「(2)自分を信じられなくなる」、「愛情不足」にそんな副作用があるとは初めて知った。 「最近、どんなゲームやってるの?」、「今日、学校はどうだった?」「先週行けなかった買い物、今週だったら行けそうだけどどう?」、会話の口火を切る言葉としてはよさそうだ。 「親を階段から突き落とそうとしたりする状況」、とは極めて深刻な状況だ。「「気力の低下」と「わがままへの発展」が一緒に起こっていて、「高校には行かない」と言っていました。 そこで、子どもの要求をできる限り聞くようにしたのです」、「子どもが嫌がる言葉をやめるor減らす」、「子どもが言われてうれしい言葉をかける」、「子どもの頼みをできる限り聞く」をすれば、愛情不足は解消され、子育ては楽になります。 ただし、法律やルールに違反すること、他人に迷惑をかけること、人を傷つけることなどの要求は聞いてはいけません」、「こういった要求の多くは本心ではなく、親を試すために言っています。そこで、「ゲーミングパソコンが欲しいんだね。ただ、50万円は買えないよ」という感じで伝えましょう。 このように、子どもに的確に愛情を伝えることが、子育ての悩みを軽減させることの一助となります」、現実には上手く行くことばかりでなく、失敗例もある筈だ。 ダイヤモンド・オンライン 窪田順生氏による「「日本の子どもが幸せそうじゃない」問題を直視せよ、自殺・不登校・いじめ過去最多」 「昨年、自殺した小中高校の児童・生徒が512人で過去最多になった」、「ユニセフが20年に発表した「レポートカード16」では、日本の子どもの精神的幸福度は38カ国中ワースト2位だった。また、日本では15~39歳の各年代の死因の第1位が「自殺」である。人身売買や戦争のない先進国では、子どもが亡くなるのは事故や病気が多いが、日本では自ら死を選ぶ子どもが多い。しかし、G7でこういう異常な国は日本だけだ」、 「令和3年度で全国の小中高校などを対象にした「いじめ認知件数」は61万5351件。前年度に比べて9万件以上増えていて、これまた過去最多」、「病気などを除いて30日以上登校しなかった小中学生も21年度に24万人を超えて、こちらも過去最多だ」、「このように子どもがいじめられたり、不登校になったり、自殺をしてしまったり…というようなことが日常的に起きている国で、成長した若い男女が結婚をした時、「子どもが欲しい」という発想になるだろうか。 なるわけがない。 どんなに苦労をして育てても不幸になることが見えている。そんなわかりきった「無理ゲー」に挑みたくないという若者はかなりいるはずだ」、その通りだ。 「少子高齢化という問題は、かれこれ半世紀以上前からわかっていて警鐘が鳴らされてきた。政府も以前から少子化対策の予算を組んで、「子ども手当」のようなバラまきも行ってきた。しかし、まったく成果が出ていないのは、この問題の元凶が「カネ」だけではないからだ」、その通りだ。 「物心ついた頃から家庭や学校で「ルールを守れ」ということを教え込み、「みんなのことを考えろ」と同調圧力を叩き込んでいる。そして、もし自分勝手な行動をしたり、集団の秩序を乱したりすると「痛み」でわからせるという大人もまだ存在している」、「そんな日本のハラスメント教育の象徴が、「制服」だ。 貧しい家庭でもありがたいとか、もっともらしい理由をつけているが、本質的なところでは、私服よりも没個性の制服の方が、親や教師という大人側が「管理がラク」というだけだ」、「授業以外でも徹底的に「個性」を殺して、集団への貢献を誓わせる。わかりやすいのが、運動会の集団体操や人間ピラミッドだ。あれに感動している保護者は、マスゲームで熱狂している北朝鮮の人民と自分たちが何も変わらないことに気づいていない。 世界的にも珍しい「ブラック部活」も同じだ。海外では、スポーツなどの課外活動は自分の意志でやりたい子どもだけが参加して、1年の中で活動する期間が決められている。日本のように、朝から晩まで週6日部活で、子どもが疲労でフラフラ…なんてバカな話は少ない」、「しかも、ただスポーツをやるだけではなく、髪型がどうしたとか、声が小さいとか、礼儀作法やら精神論も叩き込まれる。これはあまり言われないが、軍隊的な集団教育だ」、その通りだ。 「東大教授の宮坂哲文氏を中心として結成されたのが、「集団主義教育」の普及を目的とした「全国生活指導研究協議会」だ。これがあれよあれよと勢力を伸ばし、1963年には会員が2000人を突破」、「GHQが軍隊っぽいとして禁止していた「気をつけ」と「休め」について、文部省によって設けられた集団行動指導の手引き指導委員会が「復活」を検討。その翌年には、「集団行動の統一スタイル」・・・として全国の小学校に普及する」、「集団主義教育」の出発点が理解できた。 「世界の大学は、高校の成績や論文などで総合評価式の審査を行っているが、日本はいまだに一斉学力テストなど、偏差値教育に固執している。そのため、子どもは幼い頃から、遊びの時間を削って、偏差値アップのための詰め込み教育を強いられる。成長するにつれ自由と個性をつぶされていくというのは、子どもにとってこれ以上の「ハラスメント」はない」、「偏差値教育」も確かにハラスメント」だ。 「なぜ日本の若者だけがこんなにも「自分を殺す」という傾向があるのかというのは」、「幼い頃からのハラスメント教育によって、大人たちから「いいか、子どもだからって調子に乗るなよ。みんなと同じが一番だから、自由勝手に生きようなんて大それたことをするな」と繰り返し叩き込まれているからではないのか」、同感である。さらに、日本でベンチャーの起業が少ないのも「ハラスメント教育」の副作用なのかも知れない。 養老 孟司氏 宮口 幸治氏による対談「子どもが否定されたと感じる「一発アウト」の言葉 「聞いてあげている」つもりでも口を挟んでいる」 養老孟司『子どもが心配』 「自分では聞いてあげているつもりでも、しょっちゅう口を挟むものです。特に子ども相手だと、話がなかなか進まなかったりするので、つい焦って、ろくすっぽ聞かずに遮ってしまいがちです。 そのうえ「ああ、そうだったの。でもあなたにも問題があるんじゃないの?」みたいなことを言ったら、一発アウトです。 子どもは自分の話を否定されたことで、大人が思っている以上に傷つきます。最悪、非行の原因になることすら、ありうるのです」、「子どもの話はまどろっこしく感じられるものなので、大人としてはどうしても口を挟みたくなるものです。難易度は高いとは思いますが、そこは子どもが自分の頭で一生懸命考えて話しているのだからと信頼して、つき合ってあげてほしいですね」、なるほど。 「事あるごとに「あなた、いま、どんな気持ちですか?」と聞かれたら、誰しも答えたくないですよね?」、「けれども、ほかの人を見て、「あの人はいま、どんな気持ちだと思う?」と尋ねると、意外と答えられるものです。ですから、まず「人の気持ちを言う」練習から始めるのがいいと思います。そこから「感情」というものに向き合うようになればいい」、なるほど。 養老先生が「努めて相手の気持ちを考えるようにしたんです。 でもやりすぎたのか、逆に相手のことを過度に考えるようになってしまいました。それはそれで良くない。人間関係で一番重要と言ってもいい、相手とうまく距離を取ることができなかったのです。 私が臨床医になりそびれたのも、そこら辺に問題があったからかもしれません。本当は精神科に進みたかったんですが、患者さんと親しくなりすぎちゃう、なつかれちゃうところがあって、向いていないとあきらめました」、 初めは「精神科に進みたかった」が、「患者さんと親しくなりすぎちゃう、なつかれちゃうところがあって、向いていないとあきらめました」、とは初めて知った。 「どうすれば自分を正しく知る力を養うことができるのか。効果的なのはグループワークですね。数人のグループで互いを観察していると、だんだん自分がどんな人間であるかがわかってくる。そのプロセスを経験させることがポイントです。繰り返すうちに、自分のなかに「人を見て自分を知る」仕組みが構築されていくはず」、なるほど。 「日本では、明治維新以後に急に自分という存在が表面に出てきた感があります。どうしてかな、と考えていて、これは一神教の世界の影響かもしれないと思い至りました。この世の終わりに神さまがすべての人を裁く「最後の審判」というのがあって、それゆえに生まれてから死ぬまでのすべての行動を背負っている「自分」が存在していなければならない。そうでないと、審判が受けられないからです」、 「罪を犯した、悪いことをした「自分」は、こういう悪いところのある人間なんだと向き合ってもらわなくてはいけないと思っています。そうしなければ、更生しようという動機付けが生まれません」、「旧来の日本の共同体では、共同体のメンバーがある程度自分をなくして世間のルールに従っていました。非行少年が反省をしづらいのも、日本人は「自分」という存在が中途半端にしか確立されていないからかもしれません」、確かにその通りだ。
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「物言う株主」(アクティビスト・ファンド)(その5)(京都銀 海外ファンドから「無視できない」要求 地銀にとって決して他人事ではない株主の動き、日本におけるアクティビスト活動と2022年6月株主総会を概観する――株主提案数は過去最高も 盛り上がりに欠ける結果に、2022年アクティビスト=“物言う株主”による重要提案行為の提出件数 ) [金融]

「物言う株主」(アクティビスト・ファンド)については、2021年7月1日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その5)(京都銀 海外ファンドから「無視できない」要求 地銀にとって決して他人事ではない株主の動き、日本におけるアクティビスト活動と2022年6月株主総会を概観する――株主提案数は過去最高も 盛り上がりに欠ける結果に、2022年アクティビスト=“物言う株主”による重要提案行為の提出件数 )である。

先ずは、2022年5月9日付け東洋経済オンライン「京都銀、海外ファンドから「無視できない」要求 地銀にとって決して他人事ではない株主の動き」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/586653
・『株主は特別配当の実施を京都銀行に要求。定時株主総会での議案記載を拒否した場合、海外投資家は「臨時株主総会開催の手続きを取る」としている。 日本の上場企業に対する物言う株主の注文は日常茶飯事だが、その矛先が地方銀行にも向き始めた。 注文を付けたのはイギリスの運用会社であるシルチェスターだ。4月25日、京都銀行に対して特別配当の実施を求める催告書を送ったと公表した。6月に開催予定の定時株主総会の議案として記載することを求めている。 京都銀行がこれを拒否した場合、シルチェスターは「臨時株主総会開催の手続きを取る」とリリースに明記しており、 京都銀行株を10年以上保有するという海外投資家の注文をないがしろにはできない状況だ。 東洋経済の取材に対して京都銀行は「(シルチェスターからの)書簡が届いていることは認識している。対応についての回答は差し控える」と回答した』、「京都銀行」は要求通り、株主提案を「定時株主総会の議案として記載」。
・『1兆円を超える有価証券の「含み益」  シルチェスターは4月に入り、岩手銀行、滋賀銀行、中国銀行にも特別配当実施を求めたことを公表している。だが、臨時株主総会の開催まで言及したのは京都銀行だけだ。 この背景には、京都銀行ならではの事情があるといえる。収益における有価証券運用への依存度が高いのだ。 京都にはエレクトロニクス関係の大手上場企業が数多く存在する。京都銀行はそうした会社がまだ小さかったころから株式を保有し、取引を続けてきた。 保有する上場銘柄は日本電産や任天堂、村田製作所などそうそうたる顔ぶれだ(図参照)。そうした企業の株価上昇に伴い、貸借対照表に計上されている金額は大きく膨らんできた。 2021年3月期時点で京都銀行の有価証券の評価損益(含み損益の合計)は1兆0232億円のプラスで、そのうち1兆0016億円が株式によるものだ。これは京都銀行の時価総額の倍以上の水準で、地銀の中でも突出して大きい。そして、株から得られる配当が収益に大きく貢献している。 では、肝心の銀行業務の実力はどうか。有価証券から得られる収益を除外し、融資と手数料でどれだけ利益を上げられているかをみる指標で、本業利益(貸出残高×預貸金利回り差+役務取引等利益−営業経費)というものがある。これは金融庁が定義して重視する指標だ。 東洋経済が試算した本業利益(詳しくは、100社のうち30社が赤字「地方銀行 本業利益ランキング」)をみると、2021年3月期の京都銀行は約13億円の赤字。100ある地銀のうちワースト15位だ。) シルチェスターも京都銀行の本業部分の収益力の弱さを問題視する。実際、4月25日付のリリースで、「2021年3月期の純利益は169億円。保有株式に関して173億円の配当金を受け取った。これは、銀行業務の損失が約4億円だったことを意味する」と指摘している。 今回の要求を行う前、シルチェスターは2022年2月に配当政策の修正を要求している。このときは、京都銀行が保有株式から得る年間配当の100%に相当する配当などを求めていた。配当増加を求めたのは、「コアの融資・銀行業務から利益を生むためのインセンティブを確実に与えられる」(シルチェスター)からだとしている。 要は、潤沢な配当収入に依存せず、もっと銀行業務からの収益力強化に努めよ、というメッセージだろう。株主の期待に応えて収益改善を図るには、手数料収益を向上させたり、店舗などのインフラを削減するほかない』、「株式含み益」が恵まれた環境を生かして「1兆0016億円」とは大したものだが、肝心の「本業利益」は「約13億円の赤字」とは寂しい限りだ。
・『「政策保有株」の縮減は銀行の共通テーマ  さらに大きな問題として、政策保有株式がある。今回は京都銀行に対して売却を迫ることこそしなかったものの、シルチェスターは「顧客との関係維持に必要なものではない」と見直しの必要性もにおわせている。 政策保有株などから生み出される莫大な含み益について、京都銀行は自社のサイトで「強固な財務基盤」とアピールしている。だが、投資家からは「資本効率が悪い」と見られてしまう。 コーポレートガバナンスの改善が謳われる中、政策保有株式の縮減は銀行界の一大テーマでもあり、今後、物言う株主が売却を迫る展開もありうると見ておくべきだろう。 シルチェスターは、今回増配を要求した4行のほかにも、横浜銀行を傘下にもつコンコルディア・フィナンシャルグループや沖縄銀行を傘下に持つおきなわフィナンシャルグループの株を保有している。これらの銀行に対する動きには注目だ。 当然、ほかの地銀もひとごとではいられない。あるファンドの関係者は「ここ数年、地銀周りをしているファンドが増えてきた」と明かす。有価証券運用頼みで銀行業務での収益がなかなか改善しない地銀や、自己資本比率が高い地銀などを狙って、物言う株主が動き出す可能性もある』、「ファンド」の要求に従うことを通じて、銀行経営が効率化してほしいものだ。

次に、8月29日付けMARRonlineが掲載したみずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジストの菊地 正俊氏による「日本におけるアクティビスト活動と2022年6月株主総会を概観する――株主提案数は過去最高も、盛り上がりに欠ける結果に」を紹介しよう。※本記事は、M&A専門誌マール 2022年10月号 通巻336号(2022/9/15発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。
https://www.marr.jp/menu/ma_strategy/ma_planning/entry/38875?gclid=Cj0KCQjw2cWgBhDYARIsALggUhoGGw1TeuNj6Z0CoDdcDw6aAtpPNQZ4J0tN60sM97CmscKRlh-44lsaApq7EALw_wcB
・『世界のアクティビスト活動の約6割は米国で  Lazardの集計によると、2022年上期に世界のアクティビスト・キャンペーン数は前年同期比34%増の126件と2018年上期以来最高になったが、アクティビスト活動の過半数は北米で行われている。日本はアクティビストの投資対象になった企業数が米国、オーストラリアに次いで世界3位であるが、小さなキャンペーンが多いため、日本を含むアジア太平洋地域が世界のアクティビスト・キャンペーン数に占めるシェアは17%にとどまる(図表1)。 バリューアクトはオリンパス(7733)とJSR(4185)に社外取締役を送り込むことに成功した。両社とも株式市場から評価される事業ポートフォリオの見直しを行ったが、エリオットやサードポイントなどの米国大手アクティビストは最近、日本市場で音沙汰がない。(1)日本企業は依然として株式持合が多い、(2)国内機関投資家の株主提案への賛成率が低い、(3)日本語でキャンペーンを実施しなければならないのでコスト高になる――ことなどが欧米大手アクティビストの参入が増えない理由だろう。 一方、任天堂(7974)の創業家の運用会社Yamauchi-No.10 Family Officeが、インフロニアHD(5076)による東洋建設(1890)へのTOBに介入したため、新興のアクティビストとみなす向きもあった。日本株に投資しているアクティビストはAUM(運用資産規模)が小さいため、ターゲットになるのはほとんどが中小型企業である。日本ではPBRが1倍を割っている企業が依然約半数あり、ROEも国際比較で低いので、持合解消が進み、アクティビストと国内機関投資家との対話が進めば、アクティビストの活動余地は大きいだろう。 図表1 アクティビストのキャンペーン件数の地域別比率の推移  注: データは、キャンペーン発表時に時価総額5億ドル以上の企業に対してアクティビストがグローバルに行ったキャンペーンを示す。発表時の時価総額が5億ドル未満の一部のキャンペーンには、COVID-19パンデミックによる市場低迷期に行われたものを含む。キャンペーンのプロセスの一環としてスピンオフした企業は別にカウント。出資比率および投下資本は、デリバティブを通じたポジションを反映していない場合がある 出所: Lazard “H1 2022 REVIEW OF SHAREHOLDER ACTIVISM”よりみずほ証券エクイティ調査部作成』、「日本株に投資しているアクティビストはAUM(運用資産規模)が小さいため、ターゲットになるのはほとんどが中小型企業である。日本ではPBRが1倍を割っている企業が依然約半数あり、ROEも国際比較で低いので、持合解消が進み、アクティビストと国内機関投資家との対話が進めば、アクティビストの活動余地は大きいだろう」、その通りだ。 
・『世界の主要アクティビスト  日本に投資する主なアクティビストを図表2に示した。世界最大のアクティビストは、米国の投資家であるポール・シンガー氏によって設立されたエリオットである。エリオットはHPに1977年創業、2022年6月末時点でAUM557億ドル(1ドル=130円換算で約7.2兆円)、499人の社員などと掲載している。エリオットは巨大なので、運用戦略も株式、PE、プライベート・クレジット、ディストレス債券、ヘッジ・アービトラージ、イベント・ドリブン、不動産、コモディティ、ボラティリティ取引など様々な取引を行う。日本株投資も担当者が変わると、戦略が変わる印象だ。 以前は香港から日本株に投資していたが、担当者がいなくなり、その後ロンドン経由になったようだ。2020年にソフトバンクグループ(9984)に投資して以来、マーケットから音沙汰がなくなった。欧米の大手アクティビストは運用資産が大きいので、ターゲットとする企業も大きくなる一方、日本のアクティビストはAUMが小さいので、中小型株をターゲットにしやすい。 エリオットは2021年に薬品セクターの中で、同業他社比で株価がアンダーパフォームしていた英GSKに対して経営陣刷新や事業再編を求めた。エリオットと並んで、東芝に対して社外取締役を送り込んだファラロンは1986年創業で、運用資産は422億ドル(約5.5兆円)と報じられている。投資先に対する姿勢はエリオットの方がファラロンよりアグレッシブのようである。エリオットのエンゲージメントがソフトバンクグループの大規模な自社株買いにつながったとみられる一方、ファラロンが過去5年に東芝以外で大量保有報告書を提出したのはアイリックコーポレーションだけである。ファラロンはロー・プロファイルを維持しているようであり、投資先があまり報じられない。 サードポイントも2019年にソニーグループ(6758)に2度目の株主提案をした後、日本株で音沙汰がない。サードポイントは2021年に株価がアンダーパフォームしていたインテルのCEO交代で大きな役割を果たし、英国シェルに会社分割を求めた。サードポイントはグロース株への投資で失敗し、今年上期の運用パフォーマンスが-20%になったと報じられている。欧州最大級のアクティビストである英TCIに至っては、2007年に電源開発(9513)に対する投資が外為法に抵触し、撤退して以来、日本株では存在感がなくなり、欧州で環境アクティビスト活動を中心に行っている。 図表2 日本株に投資する主なアクティビスト(リンク先参照) アクティビストの評判の日米格差(以下は有料の会員登録必要)』、「海外の有名アクティビスト」も現在では、「日本株で音沙汰がない」、「撤退」など様々なようだ。

第三に、2月9日付けダイヤモンド・オンラインが転載したM&A Online編集部「2022年アクティビスト=“物言う株主”による重要提案行為の提出件数 」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317040
・『2022年に提出された大量保有報告書の件数は1万1694件と昨年の1万2470件より6.2%減少となった。また保有目的欄に「重要提案行為等を行う」と明記された報告書件数は100件と昨年の98件とほぼ同数だった。(M&A Online編集部) かつてのアクティビスト(物言う株主)は標的企業に対し、水面下で資本効率の改善や株主還元を働きかけていたが、最近は表立って行動している。コーポレートガバナンス改革の流れの中で、議決権行使の個別開示制度が導入されたことや持ち合い株の解消が進んだことが背景にある。 2022年はアクティビストの提案に賛成票を投じる機関投資家の動きが目立った。例えば、英アクティビストファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズは、岩手銀行、滋賀銀行、京都銀行、中国銀行の地銀4行に対し、特別配当を求める株主提案を行う書簡を送ると表明した。この株主提案は賛否が分かれたが、農林中金や三井住友DSアセットマネジメント、ゴールドマンサックスなどが賛成した。)  一方で気になる動きもある。水面下で協調しながら標的企業の株式を一気に買い進めるウルフパック戦術という投資手法だ。協調関係の有無を立証するのは難しく、関係者も頭を悩ませている。 3月に任天堂創業家の資産運用会社ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスが東洋建設の株式を大量取得した際には、当初素性が分からず株式市場が一時騒然となった。4月には仕手筋とも外国資本とも言われるリ・ジェネレーションがナガホリに対し市場内で株式を買い集め、買収防衛策の導入を決議する事態となった。2023年も法律の抜け穴を突いた仕手筋による中小株を狙った日本版ウルフパックが増えると予想される。 司法判断に至ったのは、アダージキャピタルに対する三ッ星の買収防衛策だ。アダージとの争いは最高裁までもつれ込み、ポイズンピル(新株予約権の無償割当)の差し止め決定が最高裁で確定した。経営陣による過度な防衛策は認められなかった。 例年同様に旧村上ファンド系の動向にも注目が集まった。旧村上系の提案を受け入れる形で、大豊建設とセントラル硝子が400億〜500億円規模の自社株買いを実施、旧村上系が20%近い株式を保有するジャフコグループも年末から2023年1月末にかけて420億円の自社株買いを行った。建設株を売り抜けた旧村上系が次に狙うのは石油元売り業界。コスモエネルギーホールディングスの筆頭株主に躍り出た後も追加取得を進め、11月22日に提出した変更報告書によると19.81%まで買い増しており、要注目だ』、「かつてのアクティビスト(物言う株主)は標的企業に対し、水面下で資本効率の改善や株主還元を働きかけていたが、最近は表立って行動している。コーポレートガバナンス改革の流れの中で、議決権行使の個別開示制度が導入されたことや持ち合い株の解消が進んだことが背景にある」、動きが透明化したことは望ましい。ただ、「水面下で協調しながら標的企業の株式を一気に買い進めるウルフパック戦術という投資手法だ。協調関係の有無を立証するのは難しく、関係者も頭を悩ませている。 3月に任天堂創業家の資産運用会社ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスが東洋建設の株式を大量取得した際には、当初素性が分からず株式市場が一時騒然となった。4月には仕手筋とも外国資本とも言われるリ・ジェネレーションがナガホリに対し市場内で株式を買い集め、買収防衛策の導入を決議する事態となった。2023年も法律の抜け穴を突いた仕手筋による中小株を狙った日本版ウルフパックが増えると予想される」、資本市場の公正さを歪めることのないよう市場関係者やマスコミも監視してゆくべきだろう。
タグ:「物言う株主」(アクティビスト・ファンド) (その5)(京都銀 海外ファンドから「無視できない」要求 地銀にとって決して他人事ではない株主の動き、日本におけるアクティビスト活動と2022年6月株主総会を概観する――株主提案数は過去最高も 盛り上がりに欠ける結果に、2022年アクティビスト=“物言う株主”による重要提案行為の提出件数 ) 東洋経済オンライン「京都銀、海外ファンドから「無視できない」要求 地銀にとって決して他人事ではない株主の動き」 「京都銀行」は要求通り、株主提案を「定時株主総会の議案として記載」。 「株式含み益」が恵まれた環境を生かして「1兆0016億円」とは大したものだが、肝心の「本業利益」は「約13億円の赤字」とは寂しい限りだ。 「ファンド」の要求に従うことを通じて、銀行経営が効率化してほしいものだ。 MARRonline 菊地 正俊氏による「日本におけるアクティビスト活動と2022年6月株主総会を概観する――株主提案数は過去最高も、盛り上がりに欠ける結果に」 「日本株に投資しているアクティビストはAUM(運用資産規模)が小さいため、ターゲットになるのはほとんどが中小型企業である。日本ではPBRが1倍を割っている企業が依然約半数あり、ROEも国際比較で低いので、持合解消が進み、アクティビストと国内機関投資家との対話が進めば、アクティビストの活動余地は大きいだろう」、その通りだ。 「海外の有名アクティビスト」も現在では、「日本株で音沙汰がない」、「撤退」など様々なようだ。 ダイヤモンド・オンライン M&A Online編集部「2022年アクティビスト=“物言う株主”による重要提案行為の提出件数 」 「かつてのアクティビスト(物言う株主)は標的企業に対し、水面下で資本効率の改善や株主還元を働きかけていたが、最近は表立って行動している。コーポレートガバナンス改革の流れの中で、議決権行使の個別開示制度が導入されたことや持ち合い株の解消が進んだことが背景にある」、動きが透明化したことは望ましい。 ただ、「水面下で協調しながら標的企業の株式を一気に買い進めるウルフパック戦術という投資手法だ。協調関係の有無を立証するのは難しく、関係者も頭を悩ませている。 3月に任天堂創業家の資産運用会社ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスが東洋建設の株式を大量取得した際には、当初素性が分からず株式市場が一時騒然となった。4月には仕手筋とも外国資本とも言われるリ・ジェネレーションがナガホリに対し市場内で株式を買い集め、買収防衛策の導入を決議する事態となった。2023年も法律の抜け穴を突いた仕手筋による中小株を狙 った日本版ウルフパックが増えると予想される」、資本市場の公正さを歪めることのないよう市場関係者やマスコミも監視してゆくべきだろう。
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少子化(その3)(「異次元の少子化対策」が逆に少子化を進める理由 フィンランドの失敗に学べ、「異次元の少子化対策」はアベノミクスと同様の対症療法にすぎないと言い切れる理由、「子どものいない社会」が理想になっている…養老孟司「日本の少子化が止まらない本当の理由」 「いきなり大人になってくれたら便利だろう」と思っている)

少子化については、2020年11月28日に取上げた。今日は、(その3)(「異次元の少子化対策」が逆に少子化を進める理由 フィンランドの失敗に学べ、「異次元の少子化対策」はアベノミクスと同様の対症療法にすぎないと言い切れる理由、「子どものいない社会」が理想になっている…養老孟司「日本の少子化が止まらない本当の理由」 「いきなり大人になってくれたら便利だろう」と思っている)である。

先ずは、本年2月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したイトモス研究所所長の小倉健一氏による「「異次元の少子化対策」が逆に少子化を進める理由、フィンランドの失敗に学べ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317216
・『岸田政権が打ち出した「異次元の少子化対策」について、世論はおおむね歓迎しているようだ。しかし実は、この政策は逆に少子化が進めかねない巨大なリスクを抱えている。その根拠について、「子育て支援先進国」とされるフィンランドの失敗と、日本のデータに基づいて解説する』、「逆に少子化が進めかねない巨大なリスクを抱えている」とはどういうことだろう。
・『「異次元の少子化対策」への賛意の中に本質からずれた論点が散見される  岸田文雄首相が、年頭に「異次元の少子化対策」を打ち出したことを受け、政府内では少子化対策の積み増しが進められている。 具体的には、児童手当の所得制限撤廃と多子世帯への加算にはじまり、保育人材の処遇改善、子育て家庭の相談や一時預かりのサービス拡充。さらには医療費の高校3年生までの無償化、給付型奨学金の対象を年収600万円まで拡大、育児休業給付の対象外の人への給付など、豊富な内容になっている。 この「異次元の少子化対策」について、世論はおおむね歓迎しているようだ。しかし、少子化対策とは出生率を上げる対策のはずだ。これまで人類、特に先進国が直面してきた少子化を止める手立てについて、子育て世代にいくら手厚い支援をしたところで、少子化を止めるどころか、進んでしまっている現実がある。 そのメカニズムは後段で説明をするとして、まずは「異次元の少子化対策」に賛成する根拠として挙げられているのに、実は本質からずれてしまっている議論の整理から行っていきたい』、興味深そうだ。
・『本質からずれた論点(1)「高齢者が優遇されすぎている」  一つ目の論点は、「高齢者があまりにも優遇されすぎている」という訴えだ。 確かに、筆者もそう思う。貧困は高齢者だけの問題ではないにもかかわらず、医療費や公共施設の入場料、公共交通の運賃など、なぜか高齢者というだけで無料であったり、価格が異常に安かったりする。東京都中央区では、高齢者というだけで毎年、歌舞伎座の一等席で観劇し、豪華幕の内弁当が食べられる。高齢者は、税金によって無料だ。 戦争を経験した世代については、ウクライナ戦争を見ても、やはり国家のために理不尽な思いをした人が多いので、多少の優遇を受けるのは理解できる。しかし、これから後期高齢者となる団塊の世代は高度経済成長やバブルなど、ありとあらゆる恩恵を受けてきた世代である。高齢者というだけで、なぜサービスの対価を支払わなくていいのか。 しかし、この論点は正直、少子化対策とは何の関係もないはずだ。一連の子育て世代へのバラマキによって、政府による高齢者から若い世代への所得移転が行われるのは間違いないが、そもそも政策の本来の目的とは違うということだ』、「戦争を経験した世代については・・・やはり国家のために理不尽な思いをした人が多いので、多少の優遇を受けるのは理解できる。しかし、これから後期高齢者となる団塊の世代は高度経済成長やバブルなど、ありとあらゆる恩恵を受けてきた世代である。高齢者というだけで、なぜサービスの対価を支払わなくていいのか」、「一連の子育て世代へのバラマキによって、政府による高齢者から若い世代への所得移転が行われるのは間違いないが、そもそも政策の本来の目的とは違うということだ」、その通りだ。
・『本質からずれた論点(2)子どもに「教育機会の平等」を  二つ目の論点として、教育における「機会の平等」を子どもたちに与えようという意見が挙げられる。子育て支援を手厚くすることで「親ガチャ」を無くし、貧困を理由に進学の機会を失うことがないようにしようというものだ。 個人的にはこの論点については完全には同意しかねる。中卒でも高卒でも立派に働いている人はいるし、そもそも大学に通っていることに何の意味も見いだせていない若者は多い。私立学校に税金を投入することで、国家からの指導が強くなり、各学校の個性を殺してしまいかねないのも心配だ。同質性の高い社会ほどもろく弱い社会はない。学校教育は自由が一番だ。 そんな筆者の意見は横に置いておくとしても、やはりこれも一つ目の論点と同様に、少子化対策とは関係のない話だ。 なぜこの話を先にしたのかというと、この一つ目、二つ目の論点に基づいて「岸田首相の異次元の少子化対策」を称賛する識者がたくさんいるのが確認できるからだ』、「そもそも大学に通っていることに何の意味も見いだせていない若者は多い。私立学校に税金を投入することで、国家からの指導が強くなり、各学校の個性を殺してしまいかねないのも心配だ」、同感である。
・『「異次元」の予算規模となれば大増税が待つのは必然  そして、もう一つ押さえておきたい点が、当然ながら、税金で大盤振る舞いをした後に待つのは大増税であるという事実だ。岸田政権が打ち出した少子化対策の「異次元」というのは、予算規模のことを必ずしも指さないのではないかと淡い期待をしていたが、ダメだった。予算規模が異次元に拡大するのは間違いがないようだ。 日本銀行の分析(「国民負担率と経済成長」2000年)によれば、国民負担率(税負担+社会保障負担の対名目国内総生産〈GDP〉比)が1%上昇すると経済成長率は0.30%低下するという相関関係が見られる。 また、第一生命経済研究所「国民負担率の上昇がマクロ経済に及ぼす影響(続編)」(05年)によれば、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、家計貯蓄率が0.28%ポイント低下する負の相関関係にあるという。 そして、日本人の潜在的国民負担率(将来世代の負担である財政赤字を含む)は22年度(見通し)で56.9%(対国民所得比)になっている。これは、福祉国家として知られる北欧のスウェーデンをも上回る値だ。政策目的と違う上記二つの論点のような効果を期待したバラマキについては、国益の観点から拒否しておいた方がよさそうだ』、「「異次元」の予算規模となれば大増税が待つのは必然」として、反対するとは論理的で、同意できる。
・『出生率を分解すると見えてくる少子化対策「真のポイント」とは  さて、ここまできてようやく本題に移ろう。 内閣府子ども・子育て本部がまとめた「我が国のこれまでの少子化対策について」に、注目したいデータがある。そして、同じデータが、内閣官房のこども政策の推進に係る有識者会議の資料「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会 における議論の状況について」(21年9月16日)が内閣府に提出されている。 その二つの資料には、こう書いてある。 (1)合計特殊出生率は、有配偶率と有配偶者出生率に分解できる。 (2)50歳時の未婚割合は、1980年に男性2.60%、女性4.45%であったが、直近の2015年には男性23.37%、女性14.06%に上昇している。この傾向が続けば、いずれ、男性で3割近く、女性で2割近くになると推計されている。 (3)夫婦の完結出生児数は、1970年代から2002年まで2.2人前後で安定的に推移していたが、2005年から減少傾向となり、直近の2015年には過去最低である1.94人になった。 そして、図が二つ提示してある。 ちょっと難しい言葉が続いたが、これらが何を意味しているのかを簡単に言うと、ざっとこのようなイメージだ。) 出生率の算定式は、(1)女性が結婚したかどうかと、(2)女性が結婚した後に、子どもを何人産んでいるかということに分解できる。前述した、資料内に提示してある「二つの図」で数字の推移を見ると、日本では未婚率がどんどん高まっていく一方で、結婚した後で何人子どもを産むかについては(微減しているが)ほとんど変わっていない。 このデータから導き出される結論は、少子化対策で最大の効果を狙うなら、子育て世帯を支援するよりも未婚者にもっと結婚をしてもらうしかないということだ』、「このデータから導き出される結論は、少子化対策で最大の効果を狙うなら、子育て世帯を支援するよりも未婚者にもっと結婚をしてもらうしかないということだ」、確かにその通りだ。
・『少子化対策の手本だったフィンランド 出生率が急落していた  このデータを理解していれば、赤川学・東京大学大学院教授の「少子化の原因を分解すると、結婚しない人が増えていることの効果が9割を占めている」(日経ビジネス電子版、22年10月23日)という指摘も非常に納得できるはずだ。 欧米でも日本と同じように、「子育ての障害」となるようなお金の問題、休暇の問題、女性の待遇ばかりが議題として噴出し、効果のない少子化対策が繰り返された。とりわけ、そんな子育て支援先進国であるフィンランドの出生率は、10年には1.87だったがこの10年余りで急落。19年には過去最低の1.35にまで落ち込んだ。20年には微増したが1.37と、日本の1.34と大して変わらない状況だ。 子育て支援をすればするほど税金や社会保障による国民負担が増し、家計に打撃を与える。お金の問題で少子化が進むというのであれば、子育て支援に投じる税金の財源は高齢者のみに求めるしかないが、そんなことを自公政権がするはずもない。結局、現役世代への増税となって返ってくるだけであろう。であれば、岸田政権による意味のない少子化対策は、未婚率を下げ止めることなく、国民負担をただ増やすだけだ。金銭的事情で結婚をためらう人は増えてしまう。故に、コロナ禍で極端に減った出生数は短期的には多少の回復を見込めるかもしれないが、少子化はさらに進むことになる。 統一地方選挙を前にして、「異次元」なる言葉の下、与野党がバラマキ合戦を始めた――そんな現状は、国の経済成長にとっても私たちの家計にとっても悪夢でしかない(バラマキを勝ち誇る公明党の選挙ポスターが町中に張り出されるのが目に浮かぶ)。 「異次元の子育て支援」の恩恵を受けることになる子育て中の親からすれば、以上のことは受け入れ難い話だろう。しかし、自分たちが受け取った恩恵のツケは、今あなたの下で育っている子どもが払うことになる。果たして、それで本当にいいのだろうか。 国会議員、そして国民は、もう少し冷静になって考えてほしいところだ』、「自分たちが受け取った恩恵のツケは、今あなたの下で育っている子どもが払うことになる。果たして、それで本当にいいのだろうか。 国会議員、そして国民は、もう少し冷静になって考えてほしいところだ」、その通りだ。

次に、2月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「「異次元の少子化対策」はアベノミクスと同様の対症療法にすぎないと言い切れる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317327
・『岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」が波紋を呼んでいる。筆者もこの施策は少子化の抜本的な解決にはつながらず、「対症療法」にすぎないと考えている。そう言い切れる理由と、少子化脱却に向けて日本政府が本当に解決すべき問題について解説する』、興味深そうだ。
・『「異次元の少子化対策」はアベノミクスに似ている  今年1月、通常国会が開幕した。その中で岸田文雄首相が最重要課題の一つとして位置付けているのが「異次元の少子化対策」だ。 日本の合計特殊出生率は下落を続け、2021年は1.30人である。22年の日本の出生数は80万人を割り込んだとみられる。国家として危機的な状況といえる。岸田首相は、こうした状況を「異次元」の施策で一挙に解決するという。 「異次元」と聞いて想起されるのは、安倍晋三元首相が展開した「アベノミクス」の「異次元の金融緩和」だ。 だが、私はアベノミクスを評価していない。金額が異次元だっただけで、中身は旧来型のバラマキ政策だったからだ。この政策は、輸出産業など斜陽産業を延命させる「対症療法」だった。 経済を本格的に復活させる新しい産業を生み出す本質的な改革、いわば「原因療法」と呼べる規制緩和や構造改革は十分に行われなかった(本連載第305回・p2)。 「異次元の少子化対策」もアベノミクスに似ている。まず形式的な話をすると、主要な施策が「三本柱(三本の矢)」にまとめられる点が同じだ。 次に中身を見ていくと、(1)児童手当を中心とする経済的支援強化、(2)幼児教育や保育サービスの支援拡充、(3)働き方改革の推進――の三本柱は既存政策の拡充にすぎない。これもアベノミクスと同じだ。 さらに、「異次元」の予算規模で実行される点も同じだ。特に(1)(2)は本質的な課題を解消する「原因療法」ではなく、目の前に見えている問題を解決するためにバラマキを行う「対症療法」である点も似通っている。 こうした支援の充実は、既に子どもがいて、子育てにお金がかかる親にとっては助かる話だろう。だが、子どもがいない夫婦も含めて、国民が「もう1人子どもを産み、育てる」ことにつながるかというと、必ずしもそうではない印象だ』、「こうした支援の充実は、既に子どもがいて、子育てにお金がかかる親にとっては助かる話だろう。だが、子どもがいない夫婦も含めて、国民が「もう1人子どもを産み、育てる」ことにつながるかというと、必ずしもそうではない」、その通りだ。
・『「子どもがいる夫婦」だけの支援では少子化対策につながらない理由  2022年11月18日付の日本経済新聞電子版に掲載された調査結果によれば、「子どもが減っている理由は何だと思いますか」との問いに対する答えは「家計に余裕がない」「出産・育児の負担」「仕事と育児の両立難」が上位を占めた。 また、「結婚はした方がよいと思いますか」との問いに対し、30代女性のわずか9%が「そう思う」と回答した。結婚が減っている理由は「若年層の低賃金」「将来の賃上げ期待がない」などが上位を占めていた。 要するに、経済的な理由で、結婚したいのにできないでいる人たちや、結婚しても子どもを持てない人たちが多くいる。これが日本の「少子化問題」の本質だ。 だが前述の三本柱では、「既に結婚して子どもがいる人たち」だけを支援の対象とし、未婚や子どもがいない人たちは支援の対象外としている。 つまり、三本柱は本当の意味での「少子化対策」ではなく、子どものいる家庭の生活をサポートする「子育て支援策」にすぎない』、「前述の三本柱では、「既に結婚して子どもがいる人たち」だけを支援の対象とし、未婚や子どもがいない人たちは支援の対象外としている」、それでは効果は大したことはなさそうだ。
・『日本で少子化問題が深刻な一因は「日本型雇用システム」だ  日本で少子化問題が深刻なのは、日本特有の問題がある。今でこそ女性の社会進出が進んでいるが、かつての日本では結婚して子どもができると、妻は離職して専業主婦になるか、正規雇用の職を失い、パートなどの非正規雇用になっていくしかなかった。いわゆる「日本型雇用システム」だ(第269回・p3 )。 その実態は、データで見るとよく分かる。「女性の年齢別労働力率」をグラフ化すると、学校を卒業した20代でピークに達し、その後30代の出産・育児期に落ち込み、子育てが一段落した40代で再上昇する。いわば「M字」に似た曲線となるのだ(参考:男女共同参画局の「年齢階級別労働力率」のグラフ)。 30代女性の労働力率が低下する「M字の谷」現象は、日本や韓国に特徴的な現象だ。欧米諸国などでは、一定の年齢層で労働力率が下がらず、女性の働き方に対して柔軟性が高いので「M字の谷」はない(参考:男女共同参画局の「主要国における女性の年齢階級別労働力率」のグラフ)。 確かに、日本でも安倍政権以降に打ち出された女性の社会進出を促進する政策によって、「M字の谷」が緩やかになった。今では「台形」に近づきつつある。だが、それは「未婚」のまま働き続ける女性や、出産などを機に非正規雇用として働く女性が増えた結果だ。正規雇用の女性が爆発的に増えたわけではない』、「日本でも安倍政権以降に打ち出された女性の社会進出を促進する政策によって、「M字の谷」が緩やかになった。今では「台形」に近づきつつある。だが、それは「未婚」のまま働き続ける女性や、出産などを機に非正規雇用として働く女性が増えた結果だ。正規雇用の女性が爆発的に増えたわけではない」、その通りだ。
・『女性が正社員になれない日本の「あしき風習」  男女共同参画局がまとめた「男女共同参画白書」によると、2021年の時点で専業主婦世帯数は458万世帯(28.0%)、共働き世帯数は1177万世帯(72.0%)と、後者が圧倒的に多い(いずれも妻が64歳以下の場合)。 だが、21年時点の労働力の内訳を見てみると、正規雇用は男性が2334万人に対し、女性は1221万人。非正規雇用は男性が652万人に対し、女性は1413万人となっており、本当の意味での「女性活躍」には程遠いことが分かる。 こうした現象が起きる要因も、先述した「日本型雇用システム」によるものだと考えられる。 年功序列・終身雇用を前提としたこのシステムでは、一度離職した女性が幹部になるのは難しい。日本における離職は、組織内における同世代の「出世争い」からの離脱を意味し、一度離れると二度と争いに復帰できない。 ゆえに、数年のブランクのある女性は正規雇用での職場復帰は難しく、正規雇用での中途採用枠も極めて狭い。 一方、欧米諸国の企業や官僚組織は、基本的に年功序列・終身雇用ではない。新卒の一括採用は少なく、組織が必要とする業務について人材を募集する。 マネジャーや幹部職も公募で決まる。内部昇格が行われるのは、外部から応募してきた人材と公平に比較・検討され、内部の人材が優秀と判断された場合のみである。 欧米でも、女性が結婚・出産で離職することはもちろんあるが、キャリアアップのハンディにはならない。離職前の経歴をアピールすれば、それに適したさまざまなポジションを獲得できる。 世界的に見れば、女性の政治家や企業経営者・幹部、学者には、パートナーを持ち、出産・子育てを経験している人が多い。企業の管理職における女性の割合が、わずか14.9%の日本とは大きな違いがある(参考:男女共同参画局がまとめた「就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)」)。 表面上は、日本企業でも産休・育休制度が普及し、一度現場を離れた女性(育休の場合は男性も)が正社員として復帰できる体制が整っている。 だが、日本型雇用システムの名残なのか、復帰した人が周囲になじめなかったり、子どもの送り迎えなどで仕事を中抜けする人が白い目で見られたりといった「あしき風習」は今も企業に色濃く残っているようだ。 政府は「対症療法」に終始するのではなく、少子化問題の根本原因である雇用慣行の是正にこそ、「異次元」の投資をするべきではないか。 そこで本稿では、本質的な少子化対策として「ファミリーの所得倍増計画」を提起したい。あえて「倍増」とした理由は、妻が正社員として働き、夫と同程度の給料を得られるようになれば、単純計算で世帯年収が倍増するからだ。 実現はそう簡単にできることではなく、さまざまな課題を乗り越えなければならないのは確かだが、その第一歩となる案を示していきたい』、「表面上は、日本企業でも産休・育休制度が普及し、一度現場を離れた女性(育休の場合は男性も)が正社員として復帰できる体制が整っている。 だが、日本型雇用システムの名残なのか、復帰した人が周囲になじめなかったり、子どもの送り迎えなどで仕事を中抜けする人が白い目で見られたりといった「あしき風習」は今も企業に色濃く残っているようだ」、「「異次元」の投資をするべきではないか。 そこで本稿では、本質的な少子化対策として「ファミリーの所得倍増計画」を提起したい」、なるほど。
・『本質的な少子化対策にはどんな取り組みが必要なのか  まず、「103万円の壁」をはじめとするボーダーラインの改革だ。妻が夫の扶養に入っている世帯では、妻の収入が103万円を超えると、所得税の支払い義務が発生して負担が重くなる。 他にも、年収が130万円を超えると扶養から外れる「130万円の壁」など、配偶者控除や社会保険の仕組みにはさまざまな“壁”が存在する。 だが、これらの制度は女性の労働意欲を阻害している側面がある。女性の社会進出が進む時代に適した制度だともいえない。これらのボーダーラインを見直し、“壁”のあり方を変えれば、夫婦の経済的な余裕につながり、有効な少子化対策になるのではないか。 次は、「日本型雇用システム」の改革だ。厚生労働省は現在、「くるみん認定」「えるぼし認定」といった認定制度を設け、女性活躍や育児支援に力を入れている企業に助成金を給付するなどの優遇措置を実施している。 だが繰り返しになるが、日本では女性の非正規雇用者が多く、少子化が進んでいるのが現状であり、両制度が飛躍的な効果を生んでいるとはいえない。効果をさらに高める上では、助成金給付の対象となる企業を広げたり、給付金額を手厚くしたりといったテコ入れが必要ではないだろうか。 最後は、共働き世帯を支援する体制の改革だ。その上で最も重要になるのは、「保育園の待機児童問題」の完全な解消だろう(第128回)。保育園の建設増、保育士の人数増、その待遇の改善などの政策に、最優先に予算を付ける必要がある。 その上では、現在の「出入国管理法」のスキームを超えて移民を拡大し、保育・家事に携わる人材を確保するという選択肢も検討すべきだ(第200回)。 具体的には、共働き夫婦をサポートし、子育て・家事を行うベビーシッターやハウスキーパーを海外から受け入れる。上海など中国本土の大都市や、香港、台湾、シンガポールなどで行われている、共働き夫婦のキャリア形成を支援するモデルを日本に導入するのだ。 移民の受け入れには批判が根強い。だが、リスク防止策も含めて政府は従来の発想を変える政策を打ち出す必要がある。 私が挙げた「ファミリーの所得倍増計画」は一例にすぎないが、日本政府はこれらに匹敵するような抜本的な改革がなければ、少子化の改善は見込めず、衰退の一途をたどることになるだろう。 今の日本には何が必要なのか、歴史、伝統、文化、そして思想信条の違いを超えて、国民全体で議論していくべきではないだろうか』、「配偶者控除や社会保険の仕組みにはさまざまな“壁”が存在・・・これらのボーダーラインを見直し、“壁”のあり方を変えれば、夫婦の経済的な余裕につながり、有効な少子化対策になるのではないか。 次は、「日本型雇用システム」の改革だ。厚生労働省は現在、「くるみん認定」「えるぼし認定」といった認定制度を設け、女性活躍や育児支援に力を入れている企業に助成金を給付するなどの優遇措置を実施している。 だが繰り返しになるが、日本では女性の非正規雇用者が多く、少子化が進んでいるのが現状であり、両制度が飛躍的な効果を生んでいるとはいえない。効果をさらに高める上では、助成金給付の対象となる企業を広げたり、給付金額を手厚くしたりといったテコ入れが必要ではないだろうか。 最後は、共働き世帯を支援する体制の改革だ。その上で最も重要になるのは、「保育園の待機児童問題」の完全な解消」、私は「ベビーシッターやハウスキーパーを海外から受け入れる」のには反対である。「今の日本には何が必要なのか、歴史、伝統、文化、そして思想信条の違いを超えて、国民全体で議論していくべきではないだろうか」、といった総論には賛成である。

第三に、2月22日付けPRESIDENT Onlineが掲載した解剖学者・東京大学名誉教授の養老 孟司氏による「「子どものいない社会」が理想になっている…養老孟司「日本の少子化が止まらない本当の理由」 「いきなり大人になってくれたら便利だろう」と思っている」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/66648
・『なぜ日本の少子化は止まらないのか。解剖学者の養老孟司さんは「現代の人は、お金にならない自然は価値がないとして消していっている。先行きの分からない子どもも同じで、子ども自体には価値がないから投資をしなくなっているのだ」という――。 ※本稿は、養老孟司『ものがわかるということ』(祥伝社)の一部を再編集したものです』、「先行きの分からない子どもも同じで、子ども自体には価値がないから投資をしなくなっているのだ」、養老氏らしいユニークな主張だ。
・『学問をすると、自分が「違う人」になる  『論語』の「朝あしたに道を聞かば夕べに死すとも可なり」という言葉があります。朝学問をすれば、夜になって死んでもいい。学問とはそれほどにありがたいものだ。普通はそう解釈されています。でも現代人には、ピンとこないでしょう。朝学問をして、その日の夜に死んじゃったら、何の役にも立ちませんから。 私の解釈は違います。学問をするとは、目からウロコが落ちること、自分の見方がガラッと変わることです。自分がガラッと変わると、どうなるか。それまでの自分は、いったい何を考えていたんだと思うようになります。 前の自分がいなくなる、たとえて言えば「死ぬ」わけです。わかりやすいたとえは、恋が冷めたときです。なんであんな女に、あんな男に、死ぬほど一生懸命になったんだろうか。いまはそう思う。実は一生懸命だった自分と、いまの自分は「違う人」なんです。一生懸命だった自分は、「もう死んで、いない」んです』、「恋が冷めたときです。なんであんな女に、あんな男に、死ぬほど一生懸命になったんだろうか。いまはそう思う。実は一生懸命だった自分と、いまの自分は「違う人」なんです。一生懸命だった自分は、「もう死んで、いない」んです」、分かり易い喩えだ。
・『変わりたくない人は知ることはできない  人間が変わったら、前の自分は死んで、新しい自分が生まれていると言っていいでしょう。それを繰り返すのが学問です。ある朝学問をして、自分がまたガラッと変わって、違う人になった。それ以前の自分は、いわば死んだことになります。それなら、夜になって本当に死んだからって、いまさら何を驚くことがあるだろうか。『論語』の一節は、そういう反語表現だというのが私の解釈です。正しいかどうかはわかりません。 確固とした自分があると思い込んでいるいまの人は、この感じがわからない。むしろ変わることはマイナスだと思っています。私は私で、変わらないはず。だから変わりたくないのです。それでは、知ることはできません。 でも、先に書いたように、人間はいやおうなく変わっていきます。どう変わるかなんてわからない。変われば、大切なものも違ってきます。だから、人生の何割かは空白にして、偶然を受け入れられるようにしておかないといけません。人生は、「ああすれば、こうなる」というわけにはいきません』、「確固とした自分があると思い込んでいるいまの人は、この感じがわからない。むしろ変わることはマイナスだと思っています。私は私で、変わらないはず。だから変わりたくないのです。それでは、知ることはできません。 でも、先に書いたように、人間はいやおうなく変わっていきます。どう変わるかなんてわからない。変われば、大切なものも違ってきます。だから、人生の何割かは空白にして、偶然を受け入れられるようにしておかないといけません。人生は、「ああすれば、こうなる」というわけにはいきません」、その通りだ。
・『都会人が「空き地」と呼ぶ空間にあるもの  現代の人たちは、偶然を受け入れることが難しくなっています。なぜか。都市化が進んできたからです。私の言葉で言えば「脳化」です。 戦後日本の特徴を一言で言えば、都市化に尽きます。戦後の日本社会に起こったことは、本質的にはそれだけだと言ってもいいくらいです。都会の人々は自然を「ない」ことにしています。 木や草が生えていても、建物のない空間を見ると、都会の人は「空き地がある」と言うでしょう。人間が利用しない限り、それは空き地だという感覚です。 空き地って「空いている」ということです。ところがそこには木が生えて、鳥がいて、虫がいて、モグラもいるかもしれない。生き物がいるのだから、空っぽなんてことはありません。それでも都会の人にとっては、そこは「空き地」でしかないのです。 それなら、木も鳥も虫もモグラも、「いない」のと同じです。なにしろ空き地、空っぽなんですから。要するに木が生えている場所は、空き地に見える。そうすると、木のようなものは「ないこと」になってしまうわけです』、「都会の人は「空き地がある」と言うでしょう。人間が利用しない限り、それは空き地だという感覚です。 空き地って「空いている」ということです。ところがそこには木が生えて、鳥がいて、虫がいて、モグラもいるかもしれない。生き物がいるのだから、空っぽなんてことはありません。それでも都会の人にとっては、そこは「空き地」でしかないのです。 それなら、木も鳥も虫もモグラも、「いない」のと同じです。なにしろ空き地、空っぽなんですから。要するに木が生えている場所は、空き地に見える。そうすると、木のようなものは「ないこと」になってしまうわけです」、鋭い指摘だ。
・『なぜ樹齢八百年のケヤキを切ってしまうのか  なぜ自然がないことになるのかというと、空き地の木には社会的・経済的価値がないからです。都会で「ある」のは、売り買いできるものです。売れないものは、現実に「ない」も同然。だから「空き地」と言われるのです。 岡山県の小さな古い神社で、宮司さんが社殿を建て直したいと思いました。その宮司さんが何をしたかというと、境内に生えている樹齢八百年のケヤキを切って売った。その金で社殿を建て直しました。八百年のケヤキを保たせておけば、二千年のケヤキになるかもしれません。大勢の人がそれを眺めて心を癒すことでしょう。でも、それを売ったお金で建てた社殿は、千年はぜったいに保ちません。これがいまの世の中です。 社会的・経済的価値のある・なしは、現実と深く関わっています。いまの社会では、自然そのものに価値はありません。観光業では自然を大切にしていると言いますが、それはお金になるからです。お金にならない限り価値がないということは、それ自体には価値がないということです。 なぜ価値がないかというと、多くの人にとって、自然が現実ではないからです。現実ではないものに、私たちが左右されることはありません。つまり、現実ではない自然は、行動に影響を与えないのです』、「いまの社会では、自然そのものに価値はありません。観光業では自然を大切にしていると言いますが、それはお金になるからです。お金にならない限り価値がないということは、それ自体には価値がないということです。 なぜ価値がないかというと、多くの人にとって、自然が現実ではないからです。現実ではないものに、私たちが左右されることはありません。つまり、現実ではない自然は、行動に影響を与えないのです」、確かにその通りだ。
・『「現実ではない」ものは消されてしまう  不動産業者にとっても、財務省のお役人にとっても、地面に生えている木なんて、切ってしまうだけのものです。誰かに切らせて、更地にする。どうして切るかというと、本来「ない」はずのものだからです。 そこに木が生えているから、家の建て方を変えよう。川や森があるから、町のつくり方を工夫しよう。そう思うなら、木や川、森はあなたにとって現実です。でも、更地にする人にとっては、木は「現実ではない」。現実ではないのですが、実際には生えていますから、邪魔物扱いをして切ってしまう。まさしく木を「消す」のです。 頭の中から消し、実際に切ってしまって、現実からも消すのです。不動産業者もお役人も、自分が扱っているのは「土地そのもの」だと思っている。土地なんですから、更地に決まってるじゃないですか。まして地面の下に棲んでるモグラや、葉っぱについている虫なんて、まったく無視されます。「現実ではない」からです』、「不動産業者もお役人も、自分が扱っているのは「土地そのもの」だと思っている。土地なんですから、更地に決まってるじゃないですか。まして地面の下に棲んでるモグラや、葉っぱについている虫なんて、まったく無視されます。「現実ではない」からです」、面白い捉え方だ。虫採りが趣味だと、虫の立場でものを考えられるのだろう。
・『都会人にとって、幼児期の子どもは必要悪  こういう世界で、子どもにまともに価値が置かれるはずがありません。子どもの先行きなど、誰もわからないからです。子どもにどれだけの元手をかけたらいいかなんて計算できません。さんざんお金をかけても、ドラ息子になるかもしれない。現代社会では、そういう先が読めないものには、利口な人は投資しません。だから、自然と同じように、子どももいなくなるのです。 いや、子どもはいるじゃないか。たしかに、子どもはいます。しかし、それは空き地の木があるのと同じです。いるにはいるけれど、子どもそれ自体には価値がない。現実ではないもの、つまり社会的・経済的価値がわからないものに、価値のつけようはないのです。 木を消すのと同じ感覚で、いまの子どもは、早く大人になれと言われています。都市は大人がつくる世界です。都市の中にさっさと入れ。そうすれば、子どもはいなくなりますから。 都会人にとっては、幼児期とは「やむを得ないもの」です。はっきり言えば、必要悪になっています。子どもがいきなり大人になれるわけがない。でも、いきなり大人になってくれたら便利だろう。都会の親は、どこかでそう思っているふしがある。 ところが田畑を耕して、種を蒔いている田舎の生活から考えたら、子どもがいるというのは、あまりにも当たり前のことです。人間の種を蒔いて、ちゃんと世話して育てる。育つまで「手入れ」をする。稲やキュウリと同じで、それで当たり前です。そういう社会では、子育てと仕事との間に原理的な矛盾がないわけです。具体的にやることも同じです。「ああすれば、こうなる」ではなく、あくまで「手入れ」です』、「子どもにどれだけの元手をかけたらいいかなんて計算できません。さんざんお金をかけても、ドラ息子になるかもしれない。現代社会では、そういう先が読めないものには、利口な人は投資しません」、「都会人にとっては、幼児期とは「やむを得ないもの」です。はっきり言えば、必要悪になっています」、「田畑を耕して、種を蒔いている田舎の生活から考えたら、子どもがいるというのは、あまりにも当たり前のことです。人間の種を蒔いて、ちゃんと世話して育てる。育つまで「手入れ」をする。稲やキュウリと同じで、それで当たり前です。そういう社会では、子育てと仕事との間に原理的な矛盾がないわけです。具体的にやることも同じです。「ああすれば、こうなる」ではなく、あくまで「手入れ」です」、よくぞここまでズバリと本質をえぐるものだ、さすが養老先生だけある。久しぶりに刺激が強い記事だった。
タグ:「自分たちが受け取った恩恵のツケは、今あなたの下で育っている子どもが払うことになる。果たして、それで本当にいいのだろうか。 国会議員、そして国民は、もう少し冷静になって考えてほしいところだ」、その通りだ。 「日本でも安倍政権以降に打ち出された女性の社会進出を促進する政策によって、「M字の谷」が緩やかになった。今では「台形」に近づきつつある。だが、それは「未婚」のまま働き続ける女性や、出産などを機に非正規雇用として働く女性が増えた結果だ。正規雇用の女性が爆発的に増えたわけではない」、その通りだ。 「こうした支援の充実は、既に子どもがいて、子育てにお金がかかる親にとっては助かる話だろう。だが、子どもがいない夫婦も含めて、国民が「もう1人子どもを産み、育てる」ことにつながるかというと、必ずしもそうではない」、その通りだ。 だが繰り返しになるが、日本では女性の非正規雇用者が多く、少子化が進んでいるのが現状であり、両制度が飛躍的な効果を生んでいるとはいえない。効果をさらに高める上では、助成金給付の対象となる企業を広げたり、給付金額を手厚くしたりといったテコ入れが必要ではないだろうか。 最後は、共働き世帯を支援する体制の改革だ。その上で最も重要になるのは、「保育園の待機児童問題」の完全な解消」、私は「ベビーシッターやハウスキーパーを海外から受け入れる」のには反対である。 「配偶者控除や社会保険の仕組みにはさまざまな“壁”が存在・・・これらのボーダーラインを見直し、“壁”のあり方を変えれば、夫婦の経済的な余裕につながり、有効な少子化対策になるのではないか。 次は、「日本型雇用システム」の改革だ。厚生労働省は現在、「くるみん認定」「えるぼし認定」といった認定制度を設け、女性活躍や育児支援に力を入れている企業に助成金を給付するなどの優遇措置を実施している。 ダイヤモンド・オンライン 本質からずれた論点(1)「高齢者が優遇されすぎている」 本質からずれた論点(2)子どもに「教育機会の平等」を 「表面上は、日本企業でも産休・育休制度が普及し、一度現場を離れた女性(育休の場合は男性も)が正社員として復帰できる体制が整っている。 だが、日本型雇用システムの名残なのか、復帰した人が周囲になじめなかったり、子どもの送り迎えなどで仕事を中抜けする人が白い目で見られたりといった「あしき風習」は今も企業に色濃く残っているようだ」、「「異次元」の投資をするべきではないか。 そこで本稿では、本質的な少子化対策として「ファミリーの所得倍増計画」を提起したい」、なるほど。 「前述の三本柱では、「既に結婚して子どもがいる人たち」だけを支援の対象とし、未婚や子どもがいない人たちは支援の対象外としている」、それでは効果は大したことはなさそうだ。 「戦争を経験した世代については・・・やはり国家のために理不尽な思いをした人が多いので、多少の優遇を受けるのは理解できる。しかし、これから後期高齢者となる団塊の世代は高度経済成長やバブルなど、ありとあらゆる恩恵を受けてきた世代である。高齢者というだけで、なぜサービスの対価を支払わなくていいのか」、「一連の子育て世代へのバラマキによって、政府による高齢者から若い世代への所得移転が行われるのは間違いないが、そもそも政策の本来の目的とは違うということだ」、その通りだ。 少子化 「逆に少子化が進めかねない巨大なリスクを抱えている」とはどういうことだろう。 「そもそも大学に通っていることに何の意味も見いだせていない若者は多い。私立学校に税金を投入することで、国家からの指導が強くなり、各学校の個性を殺してしまいかねないのも心配だ」、同感である。 (その3)(「異次元の少子化対策」が逆に少子化を進める理由 フィンランドの失敗に学べ、「異次元の少子化対策」はアベノミクスと同様の対症療法にすぎないと言い切れる理由、「子どものいない社会」が理想になっている…養老孟司「日本の少子化が止まらない本当の理由」 「いきなり大人になってくれたら便利だろう」と思っている) 「「異次元」の予算規模となれば大増税が待つのは必然」として、反対するとは論理的で、同意できる。 小倉健一氏による「「異次元の少子化対策」が逆に少子化を進める理由、フィンランドの失敗に学べ」 「このデータから導き出される結論は、少子化対策で最大の効果を狙うなら、子育て世帯を支援するよりも未婚者にもっと結婚をしてもらうしかないということだ」、確かにその通りだ。 上久保誠人氏による「「異次元の少子化対策」はアベノミクスと同様の対症療法にすぎないと言い切れる理由」 「今の日本には何が必要なのか、歴史、伝統、文化、そして思想信条の違いを超えて、国民全体で議論していくべきではないだろうか」、といった総論には賛成である。 PRESIDENT ONLINE 養老 孟司氏による「「子どものいない社会」が理想になっている…養老孟司「日本の少子化が止まらない本当の理由」 「いきなり大人になってくれたら便利だろう」と思っている」 「先行きの分からない子どもも同じで、子ども自体には価値がないから投資をしなくなっているのだ」、養老氏らしいユニークな主張だ。 「恋が冷めたときです。なんであんな女に、あんな男に、死ぬほど一生懸命になったんだろうか。いまはそう思う。実は一生懸命だった自分と、いまの自分は「違う人」なんです。一生懸命だった自分は、「もう死んで、いない」んです」、分かり易い喩えだ。 「確固とした自分があると思い込んでいるいまの人は、この感じがわからない。むしろ変わることはマイナスだと思っています。私は私で、変わらないはず。だから変わりたくないのです。それでは、知ることはできません。 でも、先に書いたように、人間はいやおうなく変わっていきます。どう変わるかなんてわからない。変われば、大切なものも違ってきます。だから、人生の何割かは空白にして、偶然を受け入れられるようにしておかないといけません。人生は、「ああすれば、こうなる」というわけにはいきません」、その通りだ。 「都会の人は「空き地がある」と言うでしょう。人間が利用しない限り、それは空き地だという感覚です。 空き地って「空いている」ということです。ところがそこには木が生えて、鳥がいて、虫がいて、モグラもいるかもしれない。生き物がいるのだから、空っぽなんてことはありません。それでも都会の人にとっては、そこは「空き地」でしかないのです。 それなら、木も鳥も虫もモグラも、「いない」のと同じです。なにしろ空き地、空っぽなんですから。要するに木が生えている場所は、空き地に見える。そうすると、木のようなものは「ないこと」にな てしまうわけです」、鋭い指摘だ。 「いまの社会では、自然そのものに価値はありません。観光業では自然を大切にしていると言いますが、それはお金になるからです。お金にならない限り価値がないということは、それ自体には価値がないということです。 なぜ価値がないかというと、多くの人にとって、自然が現実ではないからです。現実ではないものに、私たちが左右されることはありません。つまり、現実ではない自然は、行動に影響を与えないのです」、確かにその通りだ。 「不動産業者もお役人も、自分が扱っているのは「土地そのもの」だと思っている。土地なんですから、更地に決まってるじゃないですか。まして地面の下に棲んでるモグラや、葉っぱについている虫なんて、まったく無視されます。「現実ではない」からです」、面白い捉え方だ。虫採りが趣味だと、虫の立場でものを考えられるのだろう。 「子どもにどれだけの元手をかけたらいいかなんて計算できません。さんざんお金をかけても、ドラ息子になるかもしれない。現代社会では、そういう先が読めないものには、利口な人は投資しません」、「都会人にとっては、幼児期とは「やむを得ないもの」です。はっきり言えば、必要悪になっています」、「田畑を耕して、種を蒔いている田舎の生活から考えたら、子どもがいるというのは、あまりにも当たり前のことです。人間の種を蒔いて、ちゃんと世話して育てる。 育つまで「手入れ」をする。稲やキュウリと同じで、それで当たり前です。そういう社会では、子育てと仕事との間に原理的な矛盾がないわけです。具体的にやることも同じです。「ああすれば、こうなる」ではなく、あくまで「手入れ」です」、よくぞここまでズバリと本質をえぐるものだ、さすが養老先生だけある。久しぶりに刺激が強い記事だった。
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政府の賃上げ要請(その6)(賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準 春闘に異例の熱視線が集まる、女たちの賃上げ2題(イオン パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資、「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁)) [経済政策]

政府の賃上げ要請については、本年2月15日に取上げた。今日は、(その6)(賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準 春闘に異例の熱視線が集まる、女たちの賃上げ2題(イオン パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資、「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁))である。

先ずは、3月6日付け東洋経済オンライン「賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準、春闘に異例の熱視線が集まる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/656267
・『ファーストリテイリング、三菱UFJ銀行、トヨタ自動車、任天堂……。春闘が本格化する中、日本企業で続々と賃上げを行う機運が生まれている。 会社が独自に表明したものもあれば、労使交渉を経て、すでに会社が満額回答した例もある。賃上げの幅はさまざまだが、いずれもここ数年では見られなかった異例の高水準だ。 主な理由は物価の上昇にある。ウクライナ戦争に端を発した世界的なエネルギーや食料価格の高騰、さらに内外の金利差拡大に伴う円安が、「輸入インフレ」として日本の消費者を襲っている。 総務省が発表した2022年12月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比で4%増と、41年ぶりの上昇率となった。23年1月も同4.3%の上昇率となっている。 物価が上がっているのに給料が上がらなければ、社員の実質賃金はマイナスになり、就業意欲をそぐことになる。そうした事情が企業経営者たちを賃上げに駆り立てているという側面がある』、「ベア率」が今年は上がる可能性が出てきたが、「実質賃金はマイナス」なのは変わらないだろう。
・『26年ぶりの高水準  労務行政研究所が1月30日に発表した「賃上げ等に関するアンケート」の調査結果では、23年の賃上げ見通しが定期昇給分を含め平均2.75%となり、前年を0.75ポイント上回った。厚生労働省が集計する主要企業の賃上げ実績は同調査の見通しを若干上回る傾向があることを踏まえ、ニッセイ基礎研究所は23年春闘の賃上げ率を2.9%(22年実績は2.2%)と想定している。実現すれば、23年の春闘賃上げ率は1997年以来26年ぶりの高水準となる。 ただ足元のインフレ率を考慮すると、これでも十分ではない。 ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済研究部経済調査部長は、「23年春闘は定昇を除くベースアップ(基本給引き上げ)が最終的に1%強にとどまる。賃上げ率は2年連続で消費者物価の伸びを下回る公算が大きい」と指摘する。 電力会社各社が4月以降、料金を値上げすることも消費者物価の押し上げ要因となる。定昇込みで5〜10%レベルの賃上げを表明している一部の大企業を除き、「名目賃金は伸びても、実質賃金は減少しそうだ」(斎藤氏)』、やはり、「名目賃金は伸びても、実質賃金は減少しそうだ」との見方が有力なようだ。
・『24年も流れは続くのか  この先賃上げは、インフレが鎮静化した後も持続するのか。答えはイエス、といえるようなデータがいくつか存在している。 アベノミクス期にあたる12〜19年の間に雇用者数(役員除く)は約500万人増加した。増加した雇用者の7割を非正規が占めるものの、労働力率の高い生産年齢人口(15〜64歳)が少子高齢化で減り続ける日本経済において、これは福音だった。 しかしこの間、労働力人口の大幅な増加が続いたのは、高齢者と女性の労働力率が上がった影響が大きかった。65〜69歳の就業率は21年に初めて50%を超え、低調だった女性の労働参加も欧米先進国を抜いた。出産・子育て期に労働力率が落ち込む「M字カーブ」はほぼ消滅した。 BNPパリバ証券の河野龍太郎・チーフエコノミストは、「年金の支給開始年齢が引き上げられ働かざるをえない人が増えたことなど、いくつかの要因が重なった結果だが、日本の労働供給はいよいよ掘り尽くされ、限界に近づいてきている」と分析する。 労働需給が逼迫すれば、一般的に採用は売り手市場となり、賃金は上昇する。ただ政府が産業界に対し賃上げを求める「官製春闘」を始めても笛吹けど踊らず、実質賃金は13〜18年度平均で前年比0.4%のマイナスだった。 この要因は、賃金水準の低い非正規労働者の比率が上がったことが、平均賃金を押し下げたからなどといったさまざまな分析がある。アベノミクスでの追加的な労働供給の押し上げ余地は限定的であり、これからは本当の人手不足がやってくる可能性が高い。 24年の賃上げについては、ニッセイ基礎研究所が3%、大和総研が2.9%など大手シンクタンクは今のところ23年並みの水準を予測する。企業業績や輸入インフレの動向次第だが、2年連続で直近の比較では高水準の賃上げが行われるとの見立てだ。) 金融市場も今年の春闘には高い関心を寄せている。物価と賃金がダブルで上昇する好循環が実現するかどうかは、「2%物価目標」の達成を掲げる日本銀行の出口戦略を占ううえでも、大きな注目ポイントとなるからだ。 国債の金利や株価、為替の動向は、10年に及んだ日銀の異次元金融緩和策が、いつ、いかなる形で出口に向かうかにかかっている。それゆえ、市場関係者は日銀の政策を必死に見定めている。 では、2%目標に見合う賃金上昇はどの程度なのか。その際に必要な賃金上昇率を日銀は3%程度とみている。黒田東彦総裁は昨年5月の講演で、「生産性と物価の上昇率と整合的で、持続可能な名目賃金の上昇率は3%程度ということになる」と述べている。 2%弱の定昇を含めれば、日銀が目指すマクロの賃金上昇3%の達成には毎年5%近くの賃上げが必要になる。ただ下図のとおり、ここ数年の春闘賃上げ率は2%前後。2.75%と予測されている今年の水準から見ても、実現のハードルはかなり高いことがわかる』、「2%弱の定昇を含めれば、日銀が目指すマクロの賃金上昇3%の達成には毎年5%近くの賃上げが必要になる。ただ・・・ここ数年の春闘賃上げ率は2%前後。2.75%と予測されている今年の水準から見ても、実現のハードルはかなり高い」、なるほど。
・『「ノルム」の変化がカギ  みずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫・エグゼクティブエコノミストは、「日銀のいう『物価と賃金の好循環』は生産性とは関係なく、物価に関する『ノルム(常識ないし規範)』の変化を指す。分岐点となる24年春闘の結果から、人々の中長期の期待インフレ率、つまりノルムの変化が確認できるかどうかが日銀の出口戦略においてカギを握る」と語る。 折しも日銀の総裁は、今年4月から学者出身の植田和男氏が起用される見通し。「植田新総裁はノルムの変化が起きているかをじっくり見極め、出口戦略の時期を探る」(門間氏)とみられている。 舵取りは容易ではない。金融緩和の縮小によって企業が採用意欲を失い、労働需要が冷え込んでしまえば元も子もない。たとえ人手不足であっても賃金の上昇は期待できなくなる。23〜24年の春闘は賃金の上昇を好機に変え、生産性向上や消費の拡大につなげていけるのか。「ニッポンの給料」は大きな転換期を迎えている』、「分岐点となる24年春闘の結果から、人々の中長期の期待インフレ率、つまりノルムの変化が確認できるかどうかが日銀の出口戦略においてカギを握る」、「ノルムの変化が確認でき」そうもないが、「植田新総裁は」「出口戦略の時期を探る」のは先送りされるのだろうか。

次に、3月9日付け日経ビジネスオンライン「[新連載]イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資 女たちの賃上げ【1】」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00342/030800081/
・『イオンなど流通大手が相次ぎ、女性を主力としたパートへの大幅な賃上げを打ち出している。人手不足対策に加えて、彼女らの経験や知恵で厳しい競争に打ち勝つ狙いだ。人件費はコストでなく投資――。イオンの渡邉廣之副社長は「今回の賃上げはスタートにすぎない」と話す。世界有数の男女間の賃金格差を解消できれば、日本が再成長する原動力にもなる』、「人件費はコストでなく投資」とは思い切った発言だ。
・『主な連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)・イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資(今回) ・103万円の壁はいらない 連合会長「女性の収入増を後押し」 ・賃上げで大量離職にストップ 日本生命社長「長く安定して活躍を」 ・NTTとJTB、「リモート」で育児と両立 コロナ禍対応を奇貨に ・富士通と日立、「ジョブ型」で女性はキャリアを自ら選び取る ・スタートアップも男性優位社会 「出産の壁」を壊せ、女性起業家 ・「売り場の魅力を高めるには賃上げが不可欠」ライフ岩崎社長 ・「配偶者手当を廃止し、子ども手当に」昭和女子大・八代特命教授  今年2月、イオンが約40万人に上るパートの時給を平均7%引き上げる方針を明らかにし、流通業界に激震が走った。同社として過去最大の賃上げとなり、人件費は300億円ほど増加する見通し。年間に120万円程度を稼いでいたパートの年収は128万円に増える。この賃上げの恩恵を受ける約8割が女性だ。 千葉市内にあるイオンの大型総合スーパー「イオンスタイル幕張新都心」でパートとして働く(左から)花井澄江さん、辻本有紀子さん、渡辺三佳さん、萩原勝利さん(写真:的野 弘路) 千葉市内の大型総合スーパー「イオンスタイル幕張新都心」でパートとして働く花井澄江さん(51)はその一人。「最近は食品も電気代も、ガソリン代まで値上がりし生活が圧迫されていた。時給が上がるのはありがたい」と話し、胸をなで下ろす。 イオンが示した7%という賃上げ水準は、流通や外食、繊維などの労働組合が加盟するUAゼンセンが今年の春闘で示した6%を上回る。その背景を同社の渡邉廣之副社長はこう説明する。「パートの採用環境は厳しく、優秀な人は奪い合いになっている。競争力のある賃金体系を示せなければ生き残っていけない」 「もう横並びでパート賃金は決めない」 厚生労働省によると、新型コロナウイルス禍で低下していた全国のパート有効求人倍率は2021年5月の1.00倍を底に反転し、22年12月には1.48倍まで上昇した。人手不足を主因とした倒産が増加していた18年や19年の水準(それぞれ1.82倍と1.76倍、年平均)にじわりと近づいている。「実感としては、コロナ禍前よりも人材の確保は難しくなっている」と多くの関係者は口をそろえる。 今年の春闘では、トヨタ自動車が賃上げと一時金についての労組の要求に満額回答するなど、賃上げのうねりが産業界全体に広がっている。だが、そうした動きに先駆けて昨年から大幅な賃上げに動いているのが、国内で大量の労働力を必要とする第3次産業だ。パートやアルバイトなど非正規雇用の比率が高く、その大半を女性が占める。人手不足が当面続きそうなことを考えると、これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が高い。 賃上げの動きが拡大しているのは人手不足対策だけが理由ではない。現場で女性たちが担ってきた仕事を評価し直し、これに正しく報いることで危機を乗り越えようとする狙いも透ける。イオンの渡邉副社長は「(競合スーパーと)横並びで賃金を決める考え方からはもう離れたいと思う」とも打ち明け、「(人件費は)コストではなく投資。その水準を自主的に考えるタイミングが来ている」と話す』、「昨年から大幅な賃上げに動いているのが、国内で大量の労働力を必要とする第3次産業だ。パートやアルバイトなど非正規雇用の比率が高く、その大半を女性が占める。人手不足が当面続きそうなことを考えると、これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が高い」、「現場で女性たちが担ってきた仕事を評価し直し、これに正しく報いることで危機を乗り越えようとする狙いも透ける。イオンの渡邉副社長は「(競合スーパーと)横並びで賃金を決める考え方からはもう離れたいと思う」とも打ち明け、「(人件費は)コストではなく投資。その水準を自主的に考えるタイミングが来ている」、「イオン」の考え方は。「これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が」高く、極めてインパクトが大きい。

第三に、3月13日付け日経ビジネスオンライン「「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁 女たちの賃上げ【3】」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00342/031000083/
・『パートの賃金を引き上げる動きが広がり、政府もパートに就業調整を強いてきた「年収の壁」の見直しに動き出した。「これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。パートの位置づけは変わりつつある」――。短時間で働く女性組合員を多く抱える日本最大の産業別労組UAゼンセンの松浦昭彦会長はこう指摘する。年収の壁については「制度を抜本的につくり変える時期が来ている」と話し、パートのリスキリングを通じた生産性向上の必要性も説く』、「政府もパートに就業調整を強いてきた「年収の壁」の見直しに動き出した」、遅まきながらよい動きだ。
・『主な連載予定  タイトルや回数は変わる可能性があります ・イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資 ・年収の壁は撤廃を 連合会長が激白「このままでは企業がもたない」 ・「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁(今回) ・賃上げで大量離職にストップ 日生社長「長く安定して活躍を」 ・NTTとJTB、「リモート」で育児と両立 コロナ禍対応を奇貨に ・富士通と日立、「ジョブ型」で女性はキャリアを自ら選び取る ・スタートアップも男性優位社会 「出産の壁」を壊せ、女性起業家 ・「売り場の魅力を高めるには賃上げが不可欠」ライフ岩崎社長 ・「配偶者手当を廃止し、子ども手当に」昭和女子大・八代特命教授 Qは聞き手の質問  Q:UAゼンセンは今回の春闘で6%程度の賃上げを掲げました。連合(5%程度)を上回る水準です。 松浦昭彦UAゼンセン会長(以下、松浦氏):UAゼンセンは飲食業や食品製造業、それに小売業など、賃金水準が相対的に低い業種の組合員を多く抱えています。加えて、中小規模の組合や、正社員以外の方々の割合も多い。組合員の約6割は女性で、同じく約6割が短時間で働く方です。物価の上昇が生活に与える影響は大きく、組合員の生活を守るためには高い水準の賃上げを実現しなければなりません。 加えて、我々は今回の春闘を大きな変革点にしたいとも考えています。長年にわたって停滞してきた賃金を継続的に上げていく変わり目としたい。ですから、たとえ来年の物価上昇率が1%台に戻ったとしても、賃上げ水準をかつてのような低いレベルに戻すことは考えていません。 (松浦会長の略歴はリンク先参照) Q:パートの時給を平均で7%引き上げると表明したイオンを筆頭に、非正規社員、特にパートの待遇の見直しに動く企業が相次いでいます。 松浦氏:これまでは主婦やシニアの方が次々とパートとして働きに出てきました。企業は募集すればいくらでも人を採用できたかもしれません。しかし状況は変わりました。働く意欲のある方はもう実際に働いています。これ以上はもう増えないでしょう。雇用調整の対象になりやすかったパートの位置づけは変わったのです。これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。それを理解しているから企業側も「選ばれる存在」になるために動き出しているのではないかと思います。企業としては、とにかく長く働いてほしいという感覚を強めているのではないでしょうか。 正社員とパートの違いも小さくなってきています。UAゼンセンの組合員でも、勤続10年以上とか、雇用期間に定めがない、つまり無期雇用に転換したパートの方々が多くおります。正社員とほぼ同じように働いている方がたくさんいらっしゃるのです』、「雇用調整の対象になりやすかったパートの位置づけは変わったのです。これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。それを理解しているから企業側も「選ばれる存在」になるために動き出しているのではないかと思います。企業としては、とにかく長く働いてほしいという感覚を強めているのではないでしょうか。 正社員とパートの違いも小さくなってきています」、「UAゼンセンの組合員でも、勤続10年以上とか、雇用期間に定めがない、つまり無期雇用に転換したパートの方々が多くおります。正社員とほぼ同じように働いている方がたくさんいらっしゃるのです」、そこまで「正社員とパートの違いも小さくなってきて」いるとは初めて知った。
・『現場のパートにこそリスキリングを  特に流通の現場では、パートの方々が基幹的な仕事を担っています。それには理由があります。1980年代のスーパーの入社式を見たことがありますか。新入社員の圧倒的多数は女性でした。当時の社会背景もあって、多くは結婚や出産を機に退職していきました。そして子育てが一段落した90年代や2000年代になると、今度はパートとして現場に戻ってくる。元正社員ですから職場のことも仕事のこともよく分かっている。ですから当然、戦力になるわけです。 正社員のようにいつでも残業できるとか、どこでも転勤できるというわけではありません。働く時間の制約もある。でもパートが担ってきた仕事については、もっと評価されてしかるべきだと思います。新型コロナウイルス禍でも(社会機能の維持に必要な)エッセンシャルワーカーとして活躍しました。パートの方々の声を聞くと、「自分のやっている仕事は世の中の役に立っている」という意識を非常に強く持っていることが分かります。企業としても、強い思いを持ったパートに最大限能力を発揮してもらいたいと思っているはずです。 Q:確かに、賃上げをするだけではなく、パートとして働く人のスキルも高めて生産性を向上させようとする動きもあります。 松浦氏:多くの産業で仕事の在り方は大きく変わります。スーパーでも、セルフレジが導入されたり、AI(人工知能)を活用した発注の仕組みが導入されたりするなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。 DXへの対応が求められるのは正社員ばかりではありません。むしろ現場のことをよく分かっているパートの方々こそデジタル教育やリスキリングが必要だと思います。どうしたらDXで業務を効率化できるか、顧客へのサービスを向上させられるかといった点について深い知見を持っているのは、現場の第一線に立っているパートの方々だからです。パートの付加価値をどう高めていくかは、企業にとって重要な課題になるでしょう』、「現場のことをよく分かっているパートの方々こそデジタル教育やリスキリングが必要だと思います。どうしたらDXで業務を効率化できるか、顧客へのサービスを向上させられるかといった点について深い知見を持っているのは、現場の第一線に立っているパートの方々だからです」、その通りだ。
・『「日本は変な制度を持っているね」  Q:パートの就業調整を招いていた、いわゆる「年収の壁」についても、ようやく見直しの機運が出てきました。 松浦氏:制度を抜本的につくり変えるべき時期に来ていると思います。なぜ(夫などに扶養されている)配偶者は第3号被保険者として社会保険料の支払いが免除されるのか。同じ収入で配偶者のいない方は保険料を負担する必要があるのです。(収入のない)専業主婦に近いという理由で免除される根拠を私は示すことができません。海外の労組の方と話していると、「日本は変な制度を持っているね」と不思議がられます。 Q:年収の壁への対応として、自民党内などでは社会保険料の労働者負担分を補助金で穴埋めする案などが浮上しています。 松浦氏:保険料を支払うべき人を補助するというのは目的としては逆行していると思います。今の制度ありきではなく、第3号被保険者制度の背景にある基礎年金制度そのものについて根本から見直していくような議論をしていくべきだと思います。社会保険料の支払いは確かに負担かもしれませんが、将来の生活の支えにもなります。働いている人が広く薄く負担する仕組みが必要ではないでしょうか。 Q:パートについて賃上げが必要な背景は見えてきました。一方で正社員についてはどうでしょうか。正社員の領域でも男女間の格差は歴然として存在します。 松浦氏:例えば女性の場合、育休を取ったことで巻き返しが不可能なほどに昇進が遅れるという状況がまだ残っています。女性だけが育休を取るというのも問題ですが、仮にそうなった場合でも、1年も遅れることなく昇進できる仕組みになっているか。まだ企業はそこまで踏み切れていないという感じはします。 家庭の責任を配偶者(妻)に押し付けて、残業も転勤もいとわず働ける人を評価する企業の組織風土はまだ残っています。もっとも、最近は女性役員の比率を定めたり、賃金差の公表を義務化したりする動きがあります。こうした「結果」からアプローチするしかないのでしょう。 加えて、男性が育休を取ることが企業にとって付加価値になるような取り組みや仕組みも必要だと思います。「会社のためにも育休を取ってください」と言わなければ、制度があると言ったところで多くの男性は結局休めない。多くの企業は男性社員を休ませたくない、その社員の配偶者に休んでもらえばいいと思っているのかもしれません。この配偶者の会社も同じようなことを考えているとすれば、状況はいつまでたっても変わらない。だからこそ育休取得の推進が会社にとって付加価値になる仕組みが必要です。 課題は多くあります。また企業が置かれている環境は厳しく、容易に賃上げができる状況ではないことも理解しています。ただパートの待遇改善の機運が出てきたことや、政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている今の流れは大事にしたい。加えて、働き方や制度の見直しを進めていくことができれば、持続可能な成長は実現するはずです』、「育休取得の推進が会社にとって付加価値になる仕組みが必要です」、「パートの待遇改善の機運が出てきたことや、政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている今の流れは大事にしたい。加えて、働き方や制度の見直しを進めていくことができれば、持続可能な成長は実現するはずです」、「政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている」、「政労使」の動きが実ってほしいものだ。
タグ:「2%弱の定昇を含めれば、日銀が目指すマクロの賃金上昇3%の達成には毎年5%近くの賃上げが必要になる。ただ・・・ここ数年の春闘賃上げ率は2%前後。2.75%と予測されている今年の水準から見ても、実現のハードルはかなり高い」、なるほど。 やはり、「名目賃金は伸びても、実質賃金は減少しそうだ」との見方が有力なようだ。 「ベア率」が今年は上がる可能性が出てきたが、「実質賃金はマイナス」なのは変わらないだろう。 東洋経済オンライン「賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準、春闘に異例の熱視線が集まる」 政府の賃上げ要請 (その6)(賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準 春闘に異例の熱視線が集まる、女たちの賃上げ2題(イオン パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資、「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁)) 「分岐点となる24年春闘の結果から、人々の中長期の期待インフレ率、つまりノルムの変化が確認できるかどうかが日銀の出口戦略においてカギを握る」、「ノルムの変化が確認でき」そうもないが、「植田新総裁は」「出口戦略の時期を探る」のは先送りされるのだろうか。 日経ビジネスオンライン「[新連載]イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資 女たちの賃上げ【1】」 「人件費はコストでなく投資」とは思い切った発言だ。 「昨年から大幅な賃上げに動いているのが、国内で大量の労働力を必要とする第3次産業だ。パートやアルバイトなど非正規雇用の比率が高く、その大半を女性が占める。人手不足が当面続きそうなことを考えると、これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が高い」、「現場で女性たちが担ってきた仕事を評価し直し、これに正しく報いることで危機を乗り越えようとする狙いも透ける。 イオンの渡邉副社長は「(競合スーパーと)横並びで賃金を決める考え方からはもう離れたいと思う」とも打ち明け、「(人件費は)コストではなく投資。その水準を自主的に考えるタイミングが来ている」、「イオン」の考え方は。「これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が」高く、極めてインパクトが大きい。 日経ビジネスオンライン「「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁 女たちの賃上げ【3】」 「政府もパートに就業調整を強いてきた「年収の壁」の見直しに動き出した」、遅まきながらよい動きだ。 「雇用調整の対象になりやすかったパートの位置づけは変わったのです。これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。それを理解しているから企業側も「選ばれる存在」になるために動き出しているのではないかと思います。企業としては、とにかく長く働いてほしいという感覚を強めているのではないでしょうか。 正社員とパートの違いも小さくなってきています」、 「UAゼンセンの組合員でも、勤続10年以上とか、雇用期間に定めがない、つまり無期雇用に転換したパートの方々が多くおります。正社員とほぼ同じように働いている方がたくさんいらっしゃるのです」、そこまで「正社員とパートの違いも小さくなってきて」いるとは初めて知った。 「現場のことをよく分かっているパートの方々こそデジタル教育やリスキリングが必要だと思います。どうしたらDXで業務を効率化できるか、顧客へのサービスを向上させられるかといった点について深い知見を持っているのは、現場の第一線に立っているパートの方々だからです」、その通りだ。 「育休取得の推進が会社にとって付加価値になる仕組みが必要です」、「パートの待遇改善の機運が出てきたことや、政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている今の流れは大事にしたい。加えて、働き方や制度の見直しを進めていくことができれば、持続可能な成長は実現するはずです」、「政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている」、「政労使」の動きが実ってほしいものだ。
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人生論(その12)(「若年性アルツハイマー」になっった「元・東大教授」2題(「意外な楽しみ」 それまでとは違った世界が見えた、デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは)、作家・林真理子が説く「成熟した大人」の流儀 もらっても心が動かなかった企画書とは) [人生]

人生論については、昨年3月29日に取上げた。今日は、(その12)(「若年性アルツハイマー」になっった「元・東大教授」2題(「意外な楽しみ」 それまでとは違った世界が見えた、デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは)、作家・林真理子が説く「成熟した大人」の流儀 もらっても心が動かなかった企画書とは)である。

先ずは、昨年3月29日付け現代ビジネスが掲載した主婦の若井 克子氏による「元・東大教授が「若年性アルツハイマー」になって見つけた「意外な楽しみ」 それまでとは違った世界が見えた」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/92664?imp=0
・『病気になって「いいこと」などあるのだろうか。きっと多くの人が「ない」と考えるだろう。だが、若年性アルツハイマー病で早期退職を余儀なくされた、東京大学の元教授・若井晋は、あると言うのである。果たしてそれはなぜなのか? 失語の症状で言葉を失いゆくなか、若井は講演やインタビューで、自らの率直な気持ちを語ってきた。彼はなぜ、そんな心境に達することができたのか。妻・若井克子がその様子を備(つぶさ)に記した『東大教授、若年性アルツハイマーになる』(講談社)からお届けする。 【第1回】54歳で「若年性アルツハイマー」になった東大教授が書き残していた「日記の中身」 【第2回】手術上手な脳外科医が一転、ネクタイが結べず…東大教授を襲った「若年性アルツハイマー」の現実 【第3回】文字が書けない…54歳で「若年性アルツハイマー」になった東大教授の苦悩 【第4回】失意の元・東大教授は、なぜ「若年性アルツハイマー」を公表したのか? 【第5回】「ぼくは、エイリアン」54歳で若年性アルツハイマーになった東大教授が見た世界』、「若年性アルツハイマー」で「失語症」になったとあっては、「東大教授」を「早期退職」せざるを得なくなったのは、本人にとってはさぞかしつらかったことだろう。 
・『「人の価値」について語る  「『生きる』ことを考える――若年性アルツハイマー病と共に生きて――」 そんな演題が掲げられた私たちの2度目の講演は、都村先生の見事なリードでスムーズに進み、ついに終盤にさしかかりました。 「これ(アルツハイマー病)だけはいやだ」という言葉にせよ、エイリアンという言葉にせよ、まさしく病を得た当事者である晋にしか言えないことだったと思います。 うまく波に乗れたのか、会場からの質疑にも、晋はうまく答えていました。たとえばある参加者からは、 「人の価値についてどう思いますか」 と、こんな質問が。とっさには答えにくい問いですが、晋は動じるふうもなく、こう応じたのです。 「人生で一番大切なことは何か、ということが分からない人、分かる人、いろいろあると思うんです。その中で一人一人が自分の生き様に合わせて絶えず歩み続ける。そういう中で私も生きてゆきたい。これからも、この後も生きていきたいなと思います」 神戸講演は成功に終わりました。 晋がすっかりリラックスした様子で笑い、語り、会場になじんでいたのが何より印象的でした。私自身、彼につられて笑ってしまうことがあったほどです。 リラックス……と言うと、いかにも軽く聞こえることでしょう。しかし、このリラックスこそが大事なのだと痛感しました。 思えば横浜講演のときは、講演自体は失敗でしたが、その後ひらかれた立食形式の懇親会での晋の様子は、まったく異なっていたのです。どこで聞きつけたのか、国際地域保健学教室の秘書さんと学生数人が参加していて、 「先生!」 こう声をかけてくださったのですが、その瞬間、晋の顔がパッと明るくなったのがわかりました。そのあとは、わりと普通に談笑していたのです。 打ち解けた雰囲気のなかであれば、彼はまだまだ話すことができる……。神戸講演では、都村先生の配慮のおかげで、晋は壇上にいながらリラックスできたのかもしれません』、「人の価値についてどう思いますか」といった答え難い「質問」をした質問者のセンスを疑う。ただ、「動じるふうもなく、こう応じたのです。 「人生で一番大切なことは何か、ということが分からない人、分かる人、いろいろあると思うんです。その中で一人一人が自分の生き様に合わせて絶えず歩み続ける。そういう中で私も生きてゆきたい。これからも、この後も生きていきたいなと思います」、と答えたのはさすがだ。
・『「私は私であることがやっとわかった」 それでも晋が、少しずつ、少しずつ、言葉を失っているのは明らかでした。 自分で原稿やメモを用意することは、だいぶ前からできなくなっていました。たとえ用意できたとしても、もう読めなかったでしょう。 でも、リラックスした雰囲気のなかでは十分に自分の言葉で話せるし、答えやすく工夫された質問であれば、やりとりは十分、可能でした。 神戸講演が行われた同じ年、私たちはDIPEx-Japan(ディペックス・ジャパン)というNPO法人のインタビューを受けることになりました。患者本人の語りを記録・保存する活動をしている団体です。 インタビューの場所は我が家の書斎。インタビュアーと晋のふたりだけで取材が行われ、私は物陰でそれを聞いていました。 一対一の会話がよかったのか、晋はとりわけ伸び伸びと自己を語っていました。当時は近くの公園に毎朝ラジオ体操をしに出かけていましたが、そのことにも触れています。 質問者(以下「質」) (クリスティーン・ブライデンは)「アルツハイマーとはどんどん余分なものが取り払われて本当の自分になっていく」とおっしゃっていたけれど、その感じはいかがですか。 晋 今まで自分が何かいいことをしたとか、そういうものが私たちではないんじゃないかと思うんです。 大切なことは私たちが本当の自分と出会うことじゃないかと。自分が自分になって他の人と一緒に歩んでいけるというところが大切なんじゃないかと思いますね。 質 病気になってよかったなあ、と思われることってありますか。 晋 いいですよ。友人がいろいろ来てくれたり、友人のなかにスッと入れるようになった。いろいろな人とも一緒に行けるようになったし、それはすごくよかったですね。 朝のラジオ体操はいつも一緒にしているんですよね。毎日。そういう中でもいろんな人たちがいて、そこで話をしながらやっている。そのへんがすごくいいですね。誰でも一緒に行ってエンジョイできるところではあるんですね。何でもいいわけですよね。そこのところでは。 質 というと、以前はそういう楽しみ方はできなかったのですか。 晋 そうですね。 質 何かそれを妨げるようなことが? 晋 どうだったんでしょうね。確かに何かを、何かがダメだったんでしょうね。 質 時間的にゆとりがなかったとか。 晋 それはありますね。東大の時からですからね。その時はカサカサしていましたね。何か忙しいし、そういうこともあって、あんまりよくなかったですね。 質 いろんな所でスッと人と接したり楽しめる? 晋 自分はアルツハイマーという話をしましたし、みなさんも話してくれる。それはよかったです。 質 アルツハイマーになったことの意味が、ご自身のなかにあると考えていらっしゃいますか。 晋 私がアルツハイマーになったということが、自分にとって最初は「何でだ」と思っていました。けれども私は私であることがやっとわかった。そこまでに至るまでに相当格闘したわけですけど。ときどき妻とけんかしたりしましたが、だんだんと一緒にやっていくということが、やっとできているというようなことを最近考えていますね。 質 同じ病にかかった方、その家族の方へのメッセージを。 晋 「こういう病気はどうしようもない、何もできない」、多くの人がそういうことでこの病気を考えていると思います。私がそのことに対して皆さんに「そうでないんだよ」と言えることができれば一番いいのではないかと思います』、「質 病気になってよかったなあ、と思われることってありますか。 晋 いいですよ。友人がいろいろ来てくれたり、友人のなかにスッと入れるようになった。いろいろな人とも一緒に行けるようになったし、それはすごくよかったですね。 朝のラジオ体操はいつも一緒にしているんですよね。毎日。そういう中でもいろんな人たちがいて、そこで話をしながらやっている。そのへんがすごくいいですね。誰でも一緒に行ってエンジョイできるところではあるんですね。何でもいいわけですよね。そこのところでは。 質 というと、以前はそういう楽しみ方はできなかったのですか。 晋 そうですね」、「病気になってよかったなあ、と思われることってありますか。 晋 いいですよ。友人がいろいろ来てくれたり、友人のなかにスッと入れるようになった。いろいろな人とも一緒に行けるようになったし、それはすごくよかったですね」、「病気」いなってよかったとは意外だ。
・『「苦悩と同一ではない何か」に向かい始めた晋  沖縄に住んでいたころ、晋は、 「自分は何もせずに朽ち果てるのか」と怒って、朝になっても寝床から起きてこないことがありました。自分の病についても、積極的には語ろうとしませんでした。 病を公にする活動は、そんな彼の苦悩に意味を与えてくれたようです。 クリスティーンが愛読していることを知って、私がふと手に取った本があります。オーストリアの精神科医、V・E・フランクルの著作『苦悩する人間』(春秋社)です。ナチス政権下でユダヤ人として収容所生活を経験したフランクルは、苦悩について次のように書いていました。 苦悩を志向し、有意味に苦悩することができるのは、何かのため、誰かのために苦悩するときだけなのです。(中略)意味に満ちた苦悩とは、「何々のための」苦悩なのです。私たちは苦悩を受容することによって、苦悩を志向するだけではなく苦悩を通り抜けて、苦悩と同一ではない何かを志向するのです。 「Go to the peopleだね」 講演に出かけるとき私がこう声をかけると、晋は必ず、 「そうだよ」と応えていました。 〈医者だったころは多くの患者さんを治したけれども、今はその何倍もの苦しんでいる人に慰め、励ましを与えている〉 そんなお便りをくれた晋の友人もいました。 晋は、脳外科医だったからこそ誰よりも認知症を恐れ、なかなかそれを受け入れられませんでした。ですが今、あえて病を公表し、恐れることはないというメッセージを誰かに届けることで、「苦悩と同一ではない何か」を目指せるようになったのかもしれません。 とはいえ正直に書けば、日々の晋のサポートや講演に同行するのは、私にとって楽なことではありません。そして晋は、徐々に衰えていきます。 ゆったりしたスローライフが、私たちの生活の基調となりました。 ふたりで遠出することはよくありましたが、必ず手をつなぐようにしたのも、このころです。 人ごみのなかでは晋の手に力が入ります。緊張するからでしょうか。あるときは新宿駅で、彼が突然、大声を上げたことがありました。駅の構内はアナウンスや足音、話し声など、騒音に満ちています。私は気にも留めませんが、晋は音に耐えかねたのでしょうか。 彼の脳裏には、どんな風景が広がっていたのでしょう。 足腰が丈夫だった晋。かつては二段跳び・三段跳びで階段を駆け上がるので、置いてきぼりになるのは私でした。 今では晋は、注意深く一段一段上っています。そしてときどき、私にこんな抗議の声を上げます。 「君のペースにはついていけない」 「君は、やることが速すぎる」 どうしても上着を着られないことがありました。腹を立てた彼は、服を放り出してしまいました。思わずため息が漏れます。 「ああ……、もう少しで着られたのに」 「君は人のことを言いすぎる。僕は本当にアルツハイマーか? 死にたい」 一緒に寄り添って歩むことの難しさを、私はつくづく思い知らされるのでした。 最高学府の教授でもあった夫・若井晋。その彼が若年性認知症になるとき、本人は、そして家族は、どうしたのか。病を受け入れてもなお歩き続けた夫婦の軌跡を、妻・若井克子が克明に描き出す新刊『東大教授、若年性アルツハイマーになる』は、全国の書店・ネット書店にて好評発売!』、「足腰が丈夫だった晋。かつては二段跳び・三段跳びで階段を駆け上がるので、置いてきぼりになるのは私でした。 今では晋は、注意深く一段一段上っています。そしてときどき、私にこんな抗議の声を上げます。 「君のペースにはついていけない」 「君は、やることが速すぎる」 どうしても上着を着られないことがありました。腹を立てた彼は、服を放り出してしまいました。思わずため息が漏れます。 「ああ……、もう少しで着られたのに」 「君は人のことを言いすぎる。僕は本当にアルツハイマーか? 死にたい」 一緒に寄り添って歩むことの難しさを、私はつくづく思い知らされるのでした」、よくぞここまで「寄り添って歩む」ことをしてこられただけでも、立派だ。

次に、4月3日付け現代ビジネスが掲載した主婦の若井 克子氏による「若年性アルツハイマーを発症した元東大教授が、デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/92672?imp=0
・『若年性アルツハイマー病で、東京大学を早期退官した若井晋。沖縄での療養などを経て病を公表し、それがきっかけで「認知症当事者としての講演」という生きがいを見つけた彼だったが、症状の悪化からついに講演は不可能となった。妻とともに日常に戻った彼は、介護保険サービスを利用してデイサービスに通い始める。そこで明らかになった、認知症の当事者だからこその苦悩とは? 近刊『東大教授、若年性アルツハイマーになる』(若井克子・著、講談社)よりお届けする。 これまでの記事はコチラ 【第1回】54歳で「若年性アルツハイマー」になった東大教授が書き残していた「日記の中身」 【第2回】手術上手な脳外科医が一転、ネクタイが結べず…東大教授を襲った「若年性アルツハイマー」の現実 【第3回】文字が書けない…54歳で「若年性アルツハイマー」になった東大教授の苦悩 【第4回】失意の元・東大教授は、なぜ「若年性アルツハイマー」を公表したのか? 【第5回】「ぼくは、エイリアン」54歳で若年性アルツハイマーになった東大教授が見た世界 【第6回】元・東大教授が「若年性アルツハイマー」になって見つけた「意外な楽しみ」 【第7回】アルツハイマーを発症した元・東大教授が、言葉を失いつつも講演を続けた理由』、「症状の悪化からついに講演は不可能となった。妻とともに日常に戻った彼は、介護保険サービスを利用してデイサービスに通い始める。そこで明らかになった、認知症の当事者だからこその苦悩とは?」、興味深そうだ。 
・『弱っていく体、澄んでいく心  講演行脚をやめる少し前から、晋(すすむ)の体は目に見えて衰えていき、それにつれて私たちの生活も変化していきました。 ■2010年 この年に介護保険を使い始めたことはすでに書きました。家で私たちは畳に布団を敷いて寝ていましたが、晋が立ち上がるのが難しくなったのがこの頃です。 幸い、ケアマネジャーさんが介護ベッドの導入を提案してくれたおかげで、解決することができました。 ■2012年 講演を通じて偶然知り合った医師の助言をきっかけに、デイサービス(デイ)に通い始めました(後で書く通り、うまくなじめず、いくつかのデイを転々とするのですが)。 この頃から、入浴に危険を感じるようになりました。滑りやすいタイル張りの浴室で、晋の大きな体を支えられるか、それだけの力が私に残っているか、不安になったのです。 ケアマネジャーさんに相談したところ、さっそく屈強なヘルパーさんを紹介してもらうことができ、見守りと介助を受けられるようになりました。 ■2015年 晋の要介護度は、最重度の「5」に引き上げられました。 そして、この年のある日、ついに晋が立ち上がれなくなります。 以前から足が上がりにくくなり、車にも乗れず、外出が減っていました。 ソファに座っても、自分の力だけでは立ち上がることができません。それでも、私が晋の前に立ち、両足で彼の足をしっかり踏んで固定し、手を握って全体重をかけて引っ張り上げれば、まだ立たせることができたのです。 しかし2015年のある冬の日、ついに手伝っても立てなくなりました。私が引っ張り上げるのに合わせて、晋も立とうとします。でも足に力が入らないのか、くにゃ、となってしまうのです。 それまでの「立てない」とは、明らかに様子が違いました。そこで私はまず、彼をなんとか座布団の上に座らせ、その座布団を引っ張って寝室へ移動し、ベッドの横に敷いた布団に彼を転がすように寝かせました。 私は力自慢ではありませんし、晋とはだいぶ体格差があるのですが、これが「火事場の……」というものでしょうか。 ともかく、翌朝ケアマネジャーさんに連絡をとると、さっそく訪問看護師が3人、我が家に飛んできて、晋を布団からベッドに移してくれました。 夏には誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)も経験し、1ヵ月半にわたって入院。 晋にとっては多難な年でした。 ■2016年 肺炎で再び入院。しかし前回の入院で、晋には病院での生活が負担になると痛感していたので、自宅での療養を選びました。抗生剤が効き前後10日ほどでデイサービスに通えるくらい回復したのは幸いでした。 こうして晋は、ベッド中心の生活になっていきました。いわゆる「寝たきり」です。 言葉を失い、寝たきりになった晋。 生きていて、幸せなのでしょうか。 尋ねてみたいと思うこともありますが、聞くまでもない、そうも感じます。 南向きの部屋で寝ている彼のもとに、朝日がガラス戸越しに射す。 そのとき彼の目は、重荷をすべて下ろしたかのように澄み切って、平穏に満ちています。その幸せそうな顔を見ていると、問うこと自体が無意味にも思えるのです。 ただ、この静けさに至るまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした』、「講演行脚をやめる少し前から、晋(すすむ)の体は目に見えて衰えていき、それにつれて私たちの生活も変化していきました」、「晋は、ベッド中心の生活になっていきました。いわゆる「寝たきり」です。 言葉を失い、寝たきりになった晋。 生きていて、幸せなのでしょうか。 尋ねてみたいと思うこともありますが、聞くまでもない、そうも感じます。 南向きの部屋で寝ている彼のもとに、朝日がガラス戸越しに射す。 そのとき彼の目は、重荷をすべて下ろしたかのように澄み切って、平穏に満ちています」、急速に悪化したようだ。
・『デイサービスになじめない  少し話が戻りますが、晋がデイに行き始めたのは、些細なことがきっかけでした。2012年に招かれた日本老年精神医学会の講演で、M先生という医師から、 「ぜひ、診断に使ったMRIの画像を見せてほしい」 と申し出がありました。さっそく一式お送りすると、しばらくしてお便りが届きます。 その手紙のなかでM先生は、晋は「緩徐進行性非流暢性失語症(かんじょしんこうせいひりゅうちょうせいしつごしょう)」かもしれないと指摘したうえで、それでも、 「アルツハイマー病の可能性は否定できない。言葉を出してください」 と書いてあったのです。そのことを説明しながら、私は彼にこうすすめたのでした。 「晋さん、言葉のリハビリだと思って、デイサービスへ行ってみたら」 「行くよ」 即答でした。リハビリという言葉が気に入ったのでしょうか。あとで子どもたちにこの一部始終を話すと、 「やっぱり、医者に言われると行くんだねえ」 と納得顔。さっそくケアマネジャーさんに相談し、とりあえずデイに週1回、半日通うところから始めます。 これまで晋とふたりきりで、あまりにも密な生活を続けていた私は、晋が留守の間どう過ごそうか、あれこれ考えて夢を膨(ふく)らませていました。 晋も当初は、デイを楽しんでいました。 早くから支度をして外に出て、迎えの車を待つ、なんてこともしていたほどです。気持ちよく入浴させてもらい、笑顔で帰ってくる日が続いていました。 ところが、通い始めて3ヵ月ほど過ぎたころから、時折、暗く険しい顔つきが目立つようになりました。ついにある日、送りのデイ職員から、 「今日は職員の髪をひっぱりました」 という報告が――。 「どうしたの? 何があったの?」 尋ねても、晋はうつむいたままです。それでもしつこく問うと、たどたどしくはありましたが、彼の言葉からようやく事情がつかめました。 同じデイを利用するお年寄りから、「あの人は何もできない」と言われたそうなのです。 「それくらいのことで、落ち込んじゃだめだよ」 「落ち込んじゃいけないね」――そう言う晋は、しかし、うなだれたままです。 「もう、無理して行かなくていいよ。行きたくなかったら、やめていいんだよ」 私はたまらずこう声をかけました。 ケアマネジャー経由でデイに聞いても、「悪口」があった事実は確認できませんでしたが、こうして晋は、初めてのデイを去ることになったのです』、「同じデイを利用するお年寄りから、「あの人は何もできない」と言われたそうなのです」、そんな「悪口」でも「落ち込む」とは繊細さに驚かされた。
・『心に刻まれる苦しさ  この時期の晋は、ふだんから「何もできない」ことを気にしていました。小さな悪口にみえるかもしれませんが、本人にとっては「無能」の烙印(らくいん)を押されたようなもので、何にもまして屈辱的だったのではないでしょうか。 実際、デイでの一件は、彼の中でずっと尾を引いていたのです。ある夜、布団に入った晋が言います。 「僕は何もできない」 「何もできないのが病人じゃない? でも晋さんは散歩にも行ける。電車にも乗れる。歌も歌えるじゃない」 「ありがとう」 ようやく眠りに入るのでした。 また、こんなこともありました。デイをやめた少しあと、私が発熱して一日家で寝ていたことがありました。晋がそばに来て、おろおろしながら尋ねます。 「誰かに何か、言われたんじゃないの」 「誰も何も言わないよ」 私はあわてて打ち消しましたが、内心、驚きでいっぱいでした。 晋は、かつての自分と今の私を重ねていたのです。私が寝込んでいるのは、誰かに酷いことを言われて傷ついたからではないか――そう推測していたのです。 その時の彼にできる、最大限のお見舞いだったに違いありません。人を思いやる心は、損なわれていませんでした。 認知症は物忘れの病気だといわれます。確かに、具体的なことは時間とともに忘れてしまうのでしょう。でも、苦しさは深く心に刻みこまれるのだと痛感した出来事でした』、「晋は、かつての自分と今の私を重ねていたのです。私が寝込んでいるのは、誰かに酷いことを言われて傷ついたからではないか――そう推測していたのです。 その時の彼にできる、最大限のお見舞いだったに違いありません。人を思いやる心は、損なわれていませんでした。 認知症は物忘れの病気だといわれます。確かに、具体的なことは時間とともに忘れてしまうのでしょう。でも、苦しさは深く心に刻みこまれるのだと痛感した出来事でした」、「人を思いやる心は、損なわれていませんでした」、なるほど。
・『「ちがうんだよ」と騒いでしまう理由  それでも、しばらくすると晋は、また別のデイに通うようになりました。家で退屈そうにしているのを見かねて、私がすすめたのです。もちろん、私自身にも、骨休めしたいという気持ちがありました。 2つめのデイ。ここでも晋は、当初ごきげんで通っていました。職員からは「先生」と呼ばれ、ほかの利用者と歌ったり踊ったり、楽しめていたようです。 「僕って面白いでしょ」 これが当時の、彼の口癖でした。しかし残念ですが、いい時間は長く続きません。) デイは毎回、行った日の詳しい出来事を「連絡ノート」で報告してくれます。そのノートからは、晋が次第に疲れをためていることが伝わりました。 「うるさい!」 そう大声を出すようにもなっていきました。 通い始めて5ヵ月ほど過ぎた、6月のある日。ついにこんな電話が入ります。 「先生が興奮しているので、来てくれませんか」 デイからでした。急いで迎えに行き、連れ帰りました。 何があったのか……「連絡ノート」を開くと、こんなくだりが目に飛び込んできます。 ■6月×日 9時15分 ホーム着です。室内を歩かれています。「うるさい!」を連発して言っています。 ずっと、 「ちがうんだよ、ちがうんだから」 「何度も言ってるじゃないか。わかってください。場所がちがうんだ、やめてくれ」 と大きな声で言われています。 「人がちがうんだから、ボクはボクで一人でやってるの、わかった?」 「わかったか! やめてよ!」 とずっと興奮されています。まわりのことは見えてないようです。 ■11時40分 早めの昼食にしました(鶏の天ぷら、春菊のごま和え、リンゴ、トマト、レタス)。鶏の天ぷら、トマトは完食です。リンゴは2人分食べました。ごはん、みそ汁、春菊は残っています。 ■12時 歩きながら食べています。だいたい食べると 「うるさーい!」 を連発して歩いています。 「ちがうんだからやめてよ本当に!!」 「だからいいよ、もう」 デイで「ちがう」としきりに口にしていることがわかります。 「晋さん、どうしたの、何かあったの?」 「僕はひとりなんだよ」 「いったい、何が『ちがう』の?」 「僕は今までの僕とはちがうんだから、わかってほしい。相手の言うことを一生懸命理解しようとすると、頭が疲れてきて、何が何だかわからなくなる。わかるように話してほしい」 「『場所がちがうんだ、やめてくれ』っていうのは、どういうこと?」 「場所が我が家とちがったり、知らない人に何か言われても、さっと理解できないし、言葉が出ない」 ゆっくりとではありましたが、晋が理路整然と説明することに、私は驚きを隠せませんでした。 このとき彼から聞き取ったことを私なりにまとめると、次のようになります。 「自分は理解力が落ちている。だから、自宅を離れてデイに行き、よく知らない職員に声をかけられても、わかるまでに時間がかかる」 問題が起こった時期、晋は週2回のペースでデイに通っていました。そんな頻度で顔を合わせる職員であっても、いつも初めて会う気がするらしいのです。だから5ヵ月たった時点でも「まだ人と場所に慣れない」のでした。 最高学府の教授でもあった夫・若井晋。その彼が若年性認知症になるとき、本人は、そして家族は、どうしたのか。病を受け入れてもなお歩き続けた夫婦の軌跡を、妻・若井克子が克明に描き出す新刊『東大教授、若年性アルツハイマーになる』は、全国の書店・ネット書店にて好評発売!』、「問題が起こった時期、晋は週2回のペースでデイに通っていました。そんな頻度で顔を合わせる職員であっても、いつも初めて会う気がするらしいのです。だから5ヵ月たった時点でも「まだ人と場所に慣れない」のでした」、「週2回」では「いつも初めて会う気がするらしい」、ようやく謎が解けたっとはいえ、困ったことだ。

第三に、本年3月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した小説家・エッセイスト・日本大学理事長の林 真理子氏による「作家・林真理子が説く「成熟した大人」の流儀、もらっても心が動かなかった企画書とは」を紹介しよう。
・『「人に食事をおごってもらったらお礼はどうするべき?」「会食での支払いは?」「人を紹介してくれた相手にどこまで礼を尽くす?」人付き合いには正確な答えのないさまざまな疑問がつきまとい、いつまでも頭を悩ませます。日本大学の学生から、50年の時を経て日本大学の理事長に。数々の文学賞を受賞したベストセラー作家で、2022年に日本大学理事長に就任した林真理子氏の人生論新書『成熟スイッチ』(講談社現代新書)の一部を抜粋・編集して、林真理子流の世渡り作法を紹介します』、「林真理子流の世渡り作法」とは興味深そうだ。
・『感謝の流儀その1 自分も得をするお礼の仕方  親の教えの本当の意味とありがたさは若い時にはわからないものです。たとえば、母から教えられた、 「『~宛』とか『~係』を『~御中』と書き直さない人はみっともない」 ということも、ようやく身についたのは三十代も半ばを過ぎた頃でした。 やってあげたことはいつまでも覚えているけれど、やってもらったことはすぐに忘れてしまう――。これも、母から叩き込まれた教えです。つまりは意識的に感謝の気持ちを心に留めておかないと、自動的に「恩知らず」「礼儀知らず」になってしまう。相手からのお礼が無かったりすると、何かをやってあげた側は軽い失望とともに、ずっとそのことを忘れません。 年をとって若い人にご馳走する機会も増え、お礼を言われる側の正直な気持ちもいっそうわかるようになりました。あんまりうるさいことは言いたくないですが、気になるのは、食事を奢った次の日に会っても「昨日はご馳走さまでした」と言わない人たちです。 当日にお礼を言ったからもう義務は果たしたと思っているのかもしれませんが、私はたとえ3~4カ月たっても「あの時はありがとうございました」と必ず言うようにしています。時間をおいたぶん、「まだあの時のことを覚えてくれているんだ」という義理がたさへのプラス評価も加わりますから、忘れずに伝えた方が自分にとっても得だと思います。 やはり感謝されると嬉しいのが人情ですし、さらには、きちんとしたかたちでお礼を伝えられると、その人への評価も高まるのが世の道理というものです。 私はものをもらったりご馳走されたりしたら、すぐに自筆のお礼状を書きます。もちろん、メールなどでもお礼を伝えないよりはマシですが、自筆で丁寧に書かれた手紙の方がいっそう気持ちを届けられるでしょう。手紙を書く人がほとんどいない世の中ですから、印象にも残ります。 お礼状ではありませんが、先日、会ったこともない編集者から、単行本企画の執筆依頼が届きました。ワープロソフトで数行だけ打ってある企画書を見て、 「なぜ見ず知らずのあなたのために、私がこんなことしなくちゃいけないの……」 と無視しました。たとえ実現は難しい内容でも、真剣さが伝わる自筆で書かれた依頼の手紙が封書で届いたら、断るにしても申し訳ないなと思ってその人のことはすごく心に残ったと思います。 知らない相手に「当たるも八卦(はっけ)」みたいな気持ちで何かをお願いするのなら、なおさら心を込めて手紙を書きなさい、と言いたいです。人の心を動かそうとすることを何もしないで、「万が一」など起きるはずはありません。私が自分でよく手紙を書くのは、その効果をよく知っているからでもあります。 お礼状をまめに書く人になるためには、まず形から入ること。私は鳩居堂で季節ごとに便せんを揃え、春・夏・秋・冬と書いた封筒に入れて分類しています。そしてお気に入りの万年筆を用意する。書きたくなったらすぐに手紙を書ける態勢から整えます。 お礼状の文面は短く、ごくありきたりでいいと思います。一文だけ自分らしい文章が入っていたりすると、なおいいですね。 手書きの礼状を送ること自体を楽しめるようになると、もうこっちのものです』、「知らない相手に「当たるも八卦(はっけ)」みたいな気持ちで何かをお願いするのなら、なおさら心を込めて手紙を書きなさい、と言いたいです。人の心を動かそうとすることを何もしないで、「万が一」など起きるはずはありません。私が自分でよく手紙を書くのは、その効果をよく知っているからでもあります」、「お礼状をまめに書く人になるためには、まず形から入ること。私は鳩居堂で季節ごとに便せんを揃え、春・夏・秋・冬と書いた封筒に入れて分類しています。そしてお気に入りの万年筆を用意する。書きたくなったらすぐに手紙を書ける態勢から整えます。 お礼状の文面は短く、ごくありきたりでいいと思います。一文だけ自分らしい文章が入っていたりすると、なおいいですね」、「お礼状をまめに書く人になるためには、まず形から入ること」、私のような筆無精にとっては、有難いアドバイスだ。
・『感謝の流儀その2 お返しは独自のテリトリーから  さて、目上の人から、けっこうなご馳走になってしまった場合、どのように感謝の気持ちを伝えたらよいでしょうか。値段も格もとても高い店だったり、まともにお返ししようとすることが無理だったりする場合です。 そんな時は、前述のとおり自筆のお礼状は必須として、私がおすすめするのが自分の出身地の名産品をお返しに贈ることです。 私もよく山梨の桃や干し柿を贈ります。お礼状には「地元のもので恐縮ですけど……」と書き添えておく。あたたかみも感じられますし、こうしたお返しの仕方はとても好感度が高いと思います。 東京出身の人なら、自分の近所にある、知る人ぞ知る名店の品などでもいいでしょう。あるいは、旅先で知ったおいしいものを「休暇で訪れた先で、とても美味しかったので」と贈ったり。覚えておきたいのは、東京のお金持ちに銀座の和光のお菓子を贈ってもあまり意味がないということ。「独自のテリトリーで見つけて自分がよいと思ったもの」を贈ることが重要です。 関連することでは、お店に招待してもらった時に、誘ってくれた人も初めて行く店で、「本で見て知りました」なんて言われると少しがっかりします。可能であればの話ですが、人をお店に招待する時には、人気店でもまずは自分で訪れて雰囲気もわかってからの方が望ましいでしょう。 お返しの話でつけ加えると、やはり花をもらって嬉しくない人はいないのではないでしょうか。ある会食の場を取り持ったお礼に、若手の女性作家からとてもセンスのいい花のアレンジメントが届いた時には「さすがだな」と感心しました。常日ごろからお世話になっている人になら、毎年のお正月に大きなお花を贈るのもいいと思います』、「可能であればの話ですが、人をお店に招待する時には、人気店でもまずは自分で訪れて雰囲気もわかってからの方が望ましいでしょう」、その通りだ。
・『品性が試される時その1 「支払うのは誰か」に敏感であれ  さて、今夜は面白いメンバーが揃う会食に出かけるとします。場所はなかなか予約が取れない高級日本料理店。そこで「わーい、楽しみー」と無邪気に浮かれているだけなら未熟者のそしりを免(まぬか)れないでしょう。成熟した大人の心得として、「支払うのは誰か」という問題に敏感であるのは当然のことです。 友人・知人同士で明らかにワリカンという場合――現金で細かくワリカンというのはみっともないのでやめるべきだと思いますが――は問題ありません。気をつかわなければいけないのは、メンバー間に何らかの力関係が働いている時です。 まず支払いの基本ルールとして、求められて来た側が正客として奢られて、来ることを求めた側が支払うということがあると思います。しかし、その応用編のルールもあるから、事態はややこしいのです。 たとえば、こんなことがありました。私がお呼ばれして3人でやるはずだった会食に、芸能人A氏が会いたがっていた人がいるので、A氏を誘ってお連れしたケース。A氏を紹介された2人も大喜びでしたが、A氏は私の知り合いですから、その会食の支払いは合計を2で割った分を私が支払いました。友人や知人を連れて行ったら、自分が支払いを持つのが当然だからです。もう1つの方法としては、「じゃあ、二次会をお支払いさせてくださいな」というやり方もありますね。――いずれにしても「誰がどのように支払うのか」ということは常に頭を悩ます、非常にナーバスな問題なのです。 明らかにその日の会計を支払ってくれそうな人がいる場合は、お酒の持ち込みが可能なお店であれば、ワインを持参するという手を使うこともあります。ただ、相手が相当なお金持ちだったり、超高級店だったりすると、持参するワインの格も求められますから非常に難易度が高い。若い人であれば、前述のように自筆のお礼状をお送りすれば十分です。 支払ってもらうことが明らかな会食の当日、先回りしてお礼の品を持って行くのも、スマートな方法だと思います。ほんのちょっとした“気持ちばかりの品”でいいのですが、支払う人にだけ渡すのも露骨なので、全員分を用意して帰りぎわに皆に渡すようにするのがいいでしょう。) お礼に心を尽くさなければならないのは、もちろん会食にかぎりません。基本的に、頼みごとをしてタダですむということは世の中にはないと思ってください。何かを頼んだ相手が動いてくれたら、たとえそれが叶わなくても、食事を奢ったりシャンパンを贈ったりということを忘れてはならないと思います。 息子さんのことで頼まれごとをしたお母さんからエルメスのスカーフをいただき、それを包みなおして自分がお世話になった方にまわしたこともあります。九州の産物をもらったら、お世話になった北海道の人へ贈る。逆に北から南へとか……。「地球上で感謝の気持ちをまわす」ことだって、SDGsの一環と考えられなくもありません(違うか)。 人に物事を頼むということは、大きな責任を伴うということを忘れないようにしたいものです』、「支払ってもらうことが明らかな会食の当日、先回りしてお礼の品を持って行くのも、スマートな方法だと思います。ほんのちょっとした“気持ちばかりの品”でいいのですが、支払う人にだけ渡すのも露骨なので、全員分を用意して帰りぎわに皆に渡すようにするのがいいでしょう」、「全員分を用意」とは驚いた。確かにその方がいいだろうが。人数にもよるだろう。
・『品性が試される時その2 紹介後のモヤモヤに「3回ルール」  もう1つ、ちょっと気になることがあります。紹介して引き合わせたばかりの人たちが私が知らないうちに何回も会って距離を縮めていると、「聞いてない!」と思ってモヤモヤしてしまうのです。 「いろいろと心が狭すぎる」「成熟なんて程遠いじゃん」という声がそろそろ聞こえてくるような気がしますが、「こういうことで腹を立てる人もいるんだから、成熟したいと思う人は気をつけようよ」という話だと思ってください。 先日もこんなことがありました。 Aさんに大金持ちのBさんを紹介しました。ちなみに、Bさんを紹介したその会食は私がご馳走しています。それ以降、AさんはBさんと何回も会ってグイグイ仲よくなっていったのです。しばらくしてAさんが「最近、Bさんと随分親しくしているんだよね」という話をしていたと別の人から聞き、「それって私が紹介したんだけど……」と心がざわつきました。 そしてある日、某社のトップCさんから「AさんがBさんと仲よくなったらしくて3人で食事をするけど、来ない?」と誘われます。「AさんにBさんを紹介したのって私ですよ」と言いかけましたが、ハッとして言葉を呑み込みました。よくよく思い出してみれば、大金持ちのBさんを私に紹介してくれたのはCさんだったのです……。 こうしてまとめてみると、ちょっとした小噺のようですね。本章の冒頭で「やってあげたことはいつまでも覚えているけれど、やってもらったことはすぐに忘れる」という法則に触れましたが、人に人を紹介するということも、見事にこの法則に準じていることがよくわかります。 「人にされて嫌だと思ったことはしない」のが私の矜持です。そのために自分に課しているのが「3回ルール」というもの。その内容は基本的に「紹介された人と3回会うまでは、紹介者に報告する」ということ。4回目以降は、断りなく会って差し支えないというルールです。 3回どころか数十年を経ても、大事な局面では紹介者にお礼を言う必要があります。宮内義彦さん(オリックスグループ前CEO)を日大の顧問にお迎えする際も、20数年前に宮内さんを紹介してくれた奥谷禮子さん(元ザ・アール会長)に「ご縁を繋いでくださって感謝します」と、しっかり仁義を切りました。 人を紹介するという行為には、人間関係の繊細な部分が絡み合っています。紹介してくれた人への配慮を常に欠かさないようにしたいものです。 ちなみに私のマイルールをあと2つお教えしましょう。「その場に招待されていない人がいた場合に、『このあいだは楽しかった』などと言わない」と「もらいものは2人になった時にお礼を言う」。――人間関係のルールは案外、根本のところでは子ども時代とさほど変わらないものなのかもしれません』、「3回ルール」、「「紹介された人と3回会うまでは、紹介者に報告する」ということ。4回目以降は、断りなく会って差し支えないというルール」、合理的だ。「私のマイルールをあと2つお教えしましょう。「その場に招待されていない人がいた場合に、『このあいだは楽しかった』などと言わない」と「もらいものは2人になった時にお礼を言う」。――人間関係のルールは案外、根本のところでは子ども時代とさほど変わらないものなのかもしれません」、なかなかよく練られた「ルール」で、さすが「林」氏だ。 
タグ:人生論 (その12)(「若年性アルツハイマー」になっった「元・東大教授」2題(「意外な楽しみ」 それまでとは違った世界が見えた、デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは)、作家・林真理子が説く「成熟した大人」の流儀 もらっても心が動かなかった企画書とは) 現代ビジネス 若井 克子氏による「元・東大教授が「若年性アルツハイマー」になって見つけた「意外な楽しみ」 それまでとは違った世界が見えた」 『東大教授、若年性アルツハイマーになる』(講談社) 「若年性アルツハイマー」で「失語症」になったとあっては、「東大教授」を「早期退職」せざるを得なくなったのは、本人にとってはさぞかしつらかったことだろう。 「人の価値についてどう思いますか」といった答え難い「質問」をした質問者のセンスを疑う。ただ、「動じるふうもなく、こう応じたのです。 「人生で一番大切なことは何か、ということが分からない人、分かる人、いろいろあると思うんです。その中で一人一人が自分の生き様に合わせて絶えず歩み続ける。そういう中で私も生きてゆきたい。これからも、この後も生きていきたいなと思います」、と答えたのはさすがだ。 「病気」いなってよかったとは意外だ。 「足腰が丈夫だった晋。かつては二段跳び・三段跳びで階段を駆け上がるので、置いてきぼりになるのは私でした。 今では晋は、注意深く一段一段上っています。そしてときどき、私にこんな抗議の声を上げます。 「君のペースにはついていけない」 「君は、やることが速すぎる」 どうしても上着を着られないことがありました。腹を立てた彼は、服を放り出してしまいました。思わずため息が漏れます。 「ああ……、もう少しで着られたのに」 「君は人のことを言いすぎる。僕は本当にアルツハイマーか? 死にたい」 一緒に寄り添って歩むことの難しさを、私はつくづく思い知らされるのでした」、よくぞここまで「寄り添って歩む」ことをしてこられただけでも、立派だ。 若井 克子氏による「若年性アルツハイマーを発症した元東大教授が、デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは」 「症状の悪化からついに講演は不可能となった。妻とともに日常に戻った彼は、介護保険サービスを利用してデイサービスに通い始める。そこで明らかになった、認知症の当事者だからこその苦悩とは?」、興味深そうだ。 「講演行脚をやめる少し前から、晋(すすむ)の体は目に見えて衰えていき、それにつれて私たちの生活も変化していきました」、「晋は、ベッド中心の生活になっていきました。いわゆる「寝たきり」です。 言葉を失い、寝たきりになった晋。 生きていて、幸せなのでしょうか。 尋ねてみたいと思うこともありますが、聞くまでもない、そうも感じます。 南向きの部屋で寝ている彼のもとに、朝日がガラス戸越しに射す。 そのとき彼の目は、重荷をすべて下ろしたかのように澄み切って、平穏に満ちています」、急速に悪化したようだ。 「同じデイを利用するお年寄りから、「あの人は何もできない」と言われたそうなのです」、そんな「悪口」でも「落ち込む」とは繊細さに驚かされた。 「晋は、かつての自分と今の私を重ねていたのです。私が寝込んでいるのは、誰かに酷いことを言われて傷ついたからではないか――そう推測していたのです。 その時の彼にできる、最大限のお見舞いだったに違いありません。人を思いやる心は、損なわれていませんでした。 認知症は物忘れの病気だといわれます。確かに、具体的なことは時間とともに忘れてしまうのでしょう。でも、苦しさは深く心に刻みこまれるのだと痛感した出来事でした」、「人を思いやる心は、損なわれていませんでした」、なるほど。 新刊『東大教授、若年性アルツハイマーになる』 「問題が起こった時期、晋は週2回のペースでデイに通っていました。そんな頻度で顔を合わせる職員であっても、いつも初めて会う気がするらしいのです。だから5ヵ月たった時点でも「まだ人と場所に慣れない」のでした」、「週2回」では「いつも初めて会う気がするらしい」、ようやく謎が解けたっとはいえ、困ったことだ。 ダイヤモンド・オンライン 林 真理子氏による「作家・林真理子が説く「成熟した大人」の流儀、もらっても心が動かなかった企画書とは」 林真理子氏の人生論新書『成熟スイッチ』(講談社現代新書) 「林真理子流の世渡り作法」とは興味深そうだ。 感謝の流儀その1 自分も得をするお礼の仕方 「知らない相手に「当たるも八卦(はっけ)」みたいな気持ちで何かをお願いするのなら、なおさら心を込めて手紙を書きなさい、と言いたいです。人の心を動かそうとすることを何もしないで、「万が一」など起きるはずはありません。私が自分でよく手紙を書くのは、その効果をよく知っているからでもあります」、 「お礼状をまめに書く人になるためには、まず形から入ること。私は鳩居堂で季節ごとに便せんを揃え、春・夏・秋・冬と書いた封筒に入れて分類しています。そしてお気に入りの万年筆を用意する。書きたくなったらすぐに手紙を書ける態勢から整えます。 お礼状の文面は短く、ごくありきたりでいいと思います。一文だけ自分らしい文章が入っていたりすると、なおいいですね」、「お礼状をまめに書く人になるためには、まず形から入ること」、私のような筆無精にとっては、有難いアドバイスだ。 感謝の流儀その2 お返しは独自のテリトリーから 「可能であればの話ですが、人をお店に招待する時には、人気店でもまずは自分で訪れて雰囲気もわかってからの方が望ましいでしょう」、その通りだ。 品性が試される時その1 「支払うのは誰か」に敏感であれ 「支払ってもらうことが明らかな会食の当日、先回りしてお礼の品を持って行くのも、スマートな方法だと思います。ほんのちょっとした“気持ちばかりの品”でいいのですが、支払う人にだけ渡すのも露骨なので、全員分を用意して帰りぎわに皆に渡すようにするのがいいでしょう」、「全員分を用意」とは驚いた。確かにその方がいいだろうが。人数にもよるだろう。 品性が試される時その2 紹介後のモヤモヤに「3回ルール」 「3回ルール」、「「紹介された人と3回会うまでは、紹介者に報告する」ということ。4回目以降は、断りなく会って差し支えないというルール」、合理的だ。「私のマイルールをあと2つお教えしましょう。「その場に招待されていない人がいた場合に、『このあいだは楽しかった』などと言わない」と「もらいものは2人になった時にお礼を言う」。 ――人間関係のルールは案外、根本のところでは子ども時代とさほど変わらないものなのかもしれません」、なかなかよく練られた「ルール」で、さすが「林」氏だ。
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