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日本の構造問題(その21)(日本は「北朝鮮より下の196位」というヤバい実態 日本の対内直接投資はなぜこんなに低いのか、太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」、GAFA時価総額が日本株全体を上回った!日本に足りない自己変革) [経済政治動向]

日本の構造問題については、6月2日に取上げた。今日は、(その21)(日本は「北朝鮮より下の196位」というヤバい実態 日本の対内直接投資はなぜこんなに低いのか、太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」、GAFA時価総額が日本株全体を上回った!日本に足りない自己変革)である。

先ずは、8月3日付け東洋経済オンラインが掲載した特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ氏による「日本は「北朝鮮より下の196位」というヤバい実態 日本の対内直接投資はなぜこんなに低いのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/444645
・『なぜ日本は、北朝鮮のすぐ下位である、196カ国中196位という順位につける結果となってしまったのだろうか――。2019年のGDPに占める対内直接投資(FDI)の割合を示すデータのことだ。東京都の長年にわたる努力は功を奏さなかったわけである。 FDIは、外国企業による日本での新規事業立ち上げや、合弁事業の設立、既存日本企業の実質的、あるいは完全買収の際に発生する。FDI残高とは、何十年にもわたって累積されたFDIの総額だ。政府は今年6月に、2030年までにFDI残高を現在の比率の約3倍である12%まで増大させるという目標を採択した。しかし、過去の方策が失敗した理由を理解せずに、どうやって政府は正しい戦略を選択できるというのだろうか』、「FDI残高」は何故、こんなに少ないのだろう。
・『小泉時代から「成長戦略の一環」とされてきたが  FDIの増加は、小泉純一郎氏が首相だった時代から日本の成長戦略の一部とされてきた。これは、非常に理にかなっている。対内直接投資を増やさずして経済改革に成功した主要国はほとんどないからだ。成功談は、アジアの開発途上国から東欧の体制移行国にまで及ぶ。 また、この戦略は成熟経済にも効果を発揮する。日本人が北米に”移植”工場を設置した時の、デトロイトにおける自動車メーカーの発展を考えてほしい。デトロイトは、たとえ工場の組み立てラインの中断が必要となっても、欠陥を後から直すよりも、最初から防ぐほうが、コストがかからないことを学んだのだ。 外国企業が流入する際に経済に与える主な恩恵は、こうした企業がもつ高い効率性だけではない。それよりも、外国企業の新しいアイデアや戦略が、こうした企業にかかわるサプライヤーや顧客の業績を、また、日本の”移植”工場の事例では競合他社の業績までをも向上させる波及効果にあると言える。裕福な19カ国(累積FDI残高が1980年のGDP比6%から2019年のGDP比44%に増加した国)の調査では、FDIのレベルが高いほど、主に労働者一人当たりの生産量が向上し、経済成長が高まることを証明している。 小泉氏が2001年首相に就任した当時、FDI残高は典型的な富裕国ではGDPの28%であるのに対して、日本ではGDPのわずか1.2%だった。小泉氏は2003年に外国直接投資の倍増を約束し、2006年には、2011年までにGDPの5%という目標を設定した。ところが日本は、いまだこの目標を達成していない。 顕著な進展はあった。2008年、FDIは4.0%に増加した。だが、その勢いは停滞。FDIを倍増するという、安倍晋三前首相の2013年の約束にもかかわらず、2019年時点、FDIの対GDP比はわずか4.4%にとどまっている。一方、他の富裕国の中央値は44%に上昇している。 さらに悪いことに、日本政府はIMF、OECD および UNCTAD(国連貿易開発会議)が使用する「directional principle」とは異なる「asset/liability principle」と呼ばれる計上原則を用いることでいかに成功していなかったかを隠している。 2013年から2020年、OECDによるとFDIのストックは6兆円しか増えていないが、財務省は3倍の20兆円の増加と報告。これにより日本政府は、安倍氏が設定したFDIの倍増を達成し、2020年に約40兆円となったと喧伝することができた。グローバルスタンダードとなる数値の計上では、それにはほど遠い24兆円だった。 財務省の使用する数値は一定の正当な会計目的があるが、例えば、海外関連会社から日本の親会社への貸付金など、実質的な直接投資と関係のない項目も含んでいる。 したがって、OECDの広報担当者が東洋経済の取材に対し、「(グローバルスタンダードである)directional principalのほうがFDIの経済的影響の分析に適している。国と産業ごとの直接投資の統計の推奨的な提示法だ」と言ったのもうなずける。問題を解決する第一歩が、問題があることを認識することならば、日本政府は困難に直面している』、「2013年から2020年、OECDによるとFDIのストックは6兆円しか増えていないが、財務省は3倍の20兆円の増加と報告。これにより日本政府は、安倍氏が設定したFDIの倍増を達成し、2020年に約40兆円となったと喧伝することができた。グローバルスタンダードとなる数値の計上では、それにはほど遠い24兆円だった」、こんな悪どい粉飾までするとは、「財務省」は懲りない官庁のようだ。
・『他国ではFDIは跳ね上がっている  FDIに対して抵抗から歓迎へと転換した他国では、FDIは急上昇している。では、なぜ日本の努力は報われていないのか。たとえば韓国では、外国直接投資のGDP比は、1998~99年のアジア通貨危機以前の2%から、現在、14%へと跳ね上がった。インドでは、1990年はわずか0.5%だったが、現在14%へと上昇し。東欧では共産主義崩壊後、7%からなんと55%へと大幅にアップした。 内閣府の対日直接投資推進会議は、6月の声明に、日本の最大の問題は外国企業に魅力をアピールできていないことかもしれないと記した。したがって、ほぼすべての提言が「魅力的なビジネス環境」の構築を目的としている。しかし、この前提は正確ではない。 多数の調査によると、外国や多国籍企業は投資先のトップとして日本を挙げている。日本には大規模で豊かな市場、教育水準が非常に高い労働力と顧客基盤、高水準の技術、優れたインフラ、安定した政治経済システムがある。実際、アメリカの経営コンサルティング会社A.T. カーニーが世界の上級管理者を対象に実施した2020年の「海外直接投資信頼度指数調査」では、日本は富裕国27カ国中4位に入った。 経済学者である星岳雄氏と清田耕造氏の計算によると、日本が類似した特性を持つ他国と同様の経済活動を行えば、GDPにおけるFDIの比率はすでに39%という驚異的な数値に達していたようだ』、「日本の最大の問題は外国企業に魅力をアピールできていないこと」ではなく、真相は以下にあるようだ。
・『日本ではM&Aのハードルが高い  それでは、日本のこの悲惨な結果の原因はどこにあるのか? 主な要因は、固定した労働力、顧客基盤、ブランド名、サプライヤーなどを獲得するために健全な企業を買収するという、FDIの第一段階の実行が非常に困難である点だ。 典型的な富裕国では、FDIの80%が企業の買収・合併(インバウンドM&A)に割かれているが、日本ではわずか14%に過ぎない。これは主にインバウンドM&Aの規模が非常に小さいため、FDIの総額も非常に低くなっているのである。 報道では、外国企業が日産、シャープ、東芝などの経営が破綻した大企業を救済する驚くべきケースが取り上げられる。しかし、そうしたケースは例外的だ。外国人投資家のほとんどが、日本での成長が見込めるだけでなく、親会社のグローバル展開を推し進めるリソースを提供できるような優良企業を買収したいと考えている。大規模な人員削減を要する中小企業への投資は避ける。 残念ながら、最も魅力的なターゲットとなる企業は、「系列企業」という構造を持ったグループ企業に属しているため、ほとんどが手の届かない状況である。日本には2万6000社の親会社と5万6000社の関連会社があり、日本の全労働者の3分の1にあたる1800万人の従業員を雇用している。 これには、系列企業ではない下請け企業や密接な関係にあるメーカー内の魅力的な企業は含まれない。例えば、トヨタグループには1000社の関連会社に加えて、4万社のサプライヤーがあり、その大半が下請け企業である。1996年から2000年の間に外国企業が買収できたグループ企業内のメンバー企業はわずか57社であったのに対し、無関係の企業は約3000社であった。 買収についてのこうした壁は、戦後の数十年間、日本が外国企業からの支配をおそれていたことに由来する。1960年代、日本がOECDに加盟するために外資規制の正式な自由化を迫られた時、政府は「自由化対策」と称して、非公式に国内のM&Aを阻害する要素を設けることに尽力した。 その内容は、巨大企業とその企業の投資家との間の株式の持ち合いの復活、縦横の企業間における系列の強化など多岐にわたっている。形式的な障壁はほとんどなくなったが、こうした時代の遺産は今でもインバウンドM&Aを抑制している』、「典型的な富裕国では、FDIの80%が企業の買収・合併(インバウンドM&A)に割かれているが、日本ではわずか14%に過ぎない」、かつて「非公式に国内のM&Aを阻害する要素を設けることに尽力した」のが、「今でもインバウンドM&Aを抑制している」、身から出たサビだ。
・『大幅な雇用減より外国企業による買収の方が危険?  さらに、多くの政策担当者に時代遅れの考え方がまだ残っている。例えば、対日直接投資推進会議が今年6月に発表した戦略文書では、インバウンドM&Aに関する記述が一切削除されている。その1年前に発表された中間報告書では、日本の中小企業の問題となっている後継者不足に対してインバウンドM&Aは大きな助けになると認知されていた。 この報告書では、2025年には60万社の黒字中小企業が、経営者が70歳を超えても後継者不足のため廃業せざるを得なくなる可能性があると指摘しており、これにより最大600万の雇用が失われる可能性がある。 雇用と技術資源の莫大な損失を食い止める努力の一環として報告書は、これらの中小企業が適切な海外のパートナーを見つけるのを支援し、かつ「第三者間の事業移転(M&A、合併と買収)を促進する」ための「何らかのメカニズム」が望まれるとしていた。これは大きな前進となるはずだった。 しかし、今年6月に内閣府が発表した最終文書では、海外からのM&Aの話はすべて消されていた。明らかに、誰かが大幅な雇用減よりもM&Aの話の方が危険だと考えたのだ。 政府当局者たちは、より多くの海外からのM&Aを望んでいるが、外国による買収に対する国民の警戒感も尊重しなければならないと主張することがある。しかし現実には、政府は国民感情の大きな変化に追いつきそこねているのだ。 2000年代半ばに実施された調査では、回答者の47%が、外国企業は日本経済にプラスの影響を与えていると答えており、マイナスの影響を与えていると答えたのはわずか8%だった。 かつてよく言われていた、外国の企業や投資家は日本企業を安く買って売ることで手っ取り早く稼ごうとする「ハゲタカ」だという見方をしていたのはわずか4%にすぎない。外国の企業で働きたいと答えたのは回答者の20%、働きたくないと答えたのも20%で、残りは意見を示さなかった』、「誰かが大幅な雇用減よりもM&Aの話の方が危険だと考えた」というより日本の中小企業は政治問題化し易い微妙なテーマなので、削除したのではなかろうか。
・『後継者問題に悩む企業は断るか?  政策立案者たちが今とは反対の立場を取って、海外からのM&Aを奨励することにしたとしたら、買収をまずどこから実現しようとするだろうか。後継者問題に悩む中小企業への支援は、いいデモンストレーション効果が期待できる。調査によると、中小企業は、同じ業界や同じ都道府県内の別の中小企業が外国企業の買収を受けて成功している例が見られれば、売却により積極的になるという。 日本にはすでに日本M&Aセンターのように、後継者不足による危機に直面している健全な中小企業のためのM&Aを手がける多くの企業が存在している。こうした企業により、M&Aという概念は高齢の企業オーナーたちにもより受け入れやすいものになっている。しかし、これまでのところ海外の買い手が関わっているケースはほとんど見られない。 JETROの「ジャパンインベスト」プログラムは、外国企業が日本において、まったく新しい事業を始めることを積極的に勧めている。しかし、外国企業が日本企業を買収することは、例え生き残りのためにM&Aが必要な中小企業ですら、積極的な取り組みはない。これは、上述の2020年の報告書に従って、JETROの任務に含まれるべきである。 中小企業の70歳の経営者は、自分が引退した時に従業員が失業するのを心配している。政府が買い手を紹介し、その買い手の意図が従業員の解雇ではなく会社の成長を支援することを保証するとしたら、外国企業への売却を頑固に拒絶する人はどれだけいるだろうか。このプロセスが一度始まれば、後継者問題のない企業にも、雪だるま式で効果が出るだろう。 政府が日本の成長に本気であるならば、外国FDIを真剣に考える時である。他の先進国のように日本でも外国M&Aが一般的になることが必要である。さもなければ、2030年が来ても、日本は196位である可能性がある』、「後継者問題」に悩む「中小企業」に、外国企業が魅力を感じるところがどの程度あるのだろう。実際には、それほどないのではなかろうか。

次に、8月5日付けNewsweek日本版が掲載した経済評論家の加谷珪一氏による「太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/08/post-152_1.php
・『<五輪開幕前、迷走に迷走を重ねた日本。その根本にある「病理」は太平洋戦争を避けられなかった当時から変わっていない> 東京五輪は、国民から100%の支持が得られないという状況下での開催となった。コロナ危機という要因があったとはいえ、ほとんどの国民が支持するはずのイベントがここまでネガティブになってしまったのは、政府の意思決定が迷走に迷走を重ねたことが大きい。 順調に物事が進んでいるときには大きな問題は発生しないが、非常時になると全く機能しなくなるという日本社会の特質を改めて露呈する形となったが、一部からは太平洋戦争との類似性を指摘する声が出ている。80年前と今を比較するのはナンセンスという意見もあるが、事態の推移を考えるとこの類似性を否定するのは難しそうだ。 今回の五輪は当初から問題が山積していた。2015年7月、新国立競技場の建設費が当初予定を大幅に上回ることが判明したが、政府がうやむやに処理しようとしたことから批判が殺到。同年9月には公式エンブレムの盗作疑惑が発覚し、当初は盗作はないと強気の対応を見せたものの、選考過程の不透明性が指摘されるなど外堀が埋められ、使用中止が決断された。  18年には日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長が仏捜査当局から贈賄容疑で捜査され、19年には記者からの質問を一切受け付けず、何の説明もないまま退任。21年2月には森喜朗大会組織委会長が女性蔑視発言をきっかけに辞任し、後任指名された川淵三郎氏にも密室人事批判が殺到。結局、川淵氏も役職を辞退してしまった』、「ほとんどの国民が支持するはずのイベントがここまでネガティブになってしまったのは、政府の意思決定が迷走に迷走を重ねたことが大きい」、「非常時になると全く機能しなくなるという日本社会の特質を改めて露呈する形となった」、その通りだ。
・『佐々木氏、小山田氏、小林氏......  開会式の演出では能楽師の野村萬斎氏を総合統括とするチームが解散を表明。その後、統括に起用されたクリエーティブディレクターの佐々木宏氏は、女性タレントを蔑視する演出プランがきっかけで辞任し、今度は楽曲担当で参加していた小山田圭吾氏が、障害者への虐待を自慢する発言が問題視され、やはり辞任に追い込まれた。 最後は、過去のホロコースト揶揄発言によって開会式ショーディレクターの小林賢太郎氏が解任されるというありさまである。 次から次へと目を覆いたくなる事態が発生したわけだが、これは個別問題へのずさんな対応の積み重ねが大きく影響している。最初に発生した問題に対して責任の所在をはっきりさせ、適切に処理していれば、次の問題処理の難易度は下がる。だが、最初の問題をうやむやにすれば次の問題処理はさらに難しくなる。 太平洋戦争の直接的なきっかけは、アメリカのコーデル・ハル国務長官が突き付けた文書(いわゆるハルノート)だが、これは事実上の最後通牒であり、その時点で日本側に選択肢はなかった。 日米開戦の発端となったのは、1931年の満州事変と翌年のリットン調査団への対応だし、さらにさかのぼれば、南満州鉄道の日米共同経営をめぐって1905年に締結された桂・ハリマン協定の破棄が遠因であるとの見方もある。 日々の小さな交渉や対策の積み重ねとして事態は推移するので、単体として判断することには意味がない。日本政府が満州事変という軍部の違憲行為(統帥権干犯)を適切に処理していれば、先の大戦は避けられた可能性が高く、同じように国立競技場の問題が発覚した段階で組織のガバナンスを改革していれば、ここまでの事態には至らなかっただろう。 日本社会が抱える病理は戦後76年たった今でも変わっていない』、「次から次へと目を覆いたくなる事態が発生したわけだが、これは個別問題へのずさんな対応の積み重ねが大きく影響している。最初に発生した問題に対して責任の所在をはっきりさせ、適切に処理していれば、次の問題処理の難易度は下がる。だが、最初の問題をうやむやにすれば次の問題処理はさらに難しくなる」、鋭い指摘で、同感である。

第三に、9月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「GAFA時価総額が日本株全体を上回った!日本に足りない自己変革」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/281467
・『トヨタが「プリウス」を生み出すも その後が続かなかった  8月末の世界全体の株式時価総額ランキングを見ると、1位から3位がアップル、マイクロソフト、グーグル、5位と6位がアマゾン、フェイスブックだ。上位10社には、台湾積体電路製造(TSMC)や中国のテンセントもランクインする。わが国企業ではトヨタ自動車が40位、キーエンスが90位あたりに入る。 1986年、世界の半導体市場の上位10社のうち6社が日本企業だった。89年の世界トップの時価総額はNTTだった。当時、わが国の半導体、家電製品、通信機器が世界シェアを獲得し、さらなる成長への期待は高かった。 つまり、89年末までわが国経済は世界を席巻したが、その後の凋落が激しい。同年末に日経平均株価は3万8915.87円の史上最高値をつけた後、90年代に入ると資産バブルが崩壊した。株価と地価の下落によって景気は減速・停滞し、経済全体でバランスシート調整が進み、不良債権問題が深刻化した。その状況下、わが国経済全体で雇用の保護を重視する心理が強くなり、既存分野から成長期待の高いITなどへの生産要素の再配分が難航した。 その一方で、世界経済では中国、台湾、韓国などの企業が技術力を蓄積した。また、米国では75年に創業したマイクロソフト、76年のアップルに続き、IT革命が加速する中で94年にアマゾン、98年にグーグル、2004年にフェイスブックが誕生し、GAFAMと呼ばれるIT先端企業の筆頭格に成長している。 1990年代以降、わが国ではトヨタ自動車がハイブリッド自動車の「プリウス」を生み出したが、その後が続かなかった。また、キーエンスは世界経済の変化に合わせてファブレス体制を導入し、さらには実力主義を貫くことによって高い成長を実現した。しかし、わが国の産業全体としては世界各国の主要企業と互角に競争することが難しい状況が続き、時価総額トップ10位に入る企業が見当たらなくなった』、「時価総額トップ10位に入る企業が見当たらなくなった」、「89年の時価総額トップ10」は以下のように日本企業が7社もいたのに比べ、隔世の感がある。
https://www.m-pro.tv/2020/08/8689.html
・『国際分業を追い風に成長期待高まるアップル  IT化の加速などによって世界経済は大きく変化している。最も大きな変化は、国際分業体制の加速だ。それによって、新しい発想をソフトウエアに落とし込み、効率的かつ迅速にデバイスに実装することが可能になった。 アップルはその考えを体現した企業だ。1997年に故スティーブ・ジョブズが経営トップに復帰する直前、アップルはマイクロソフトのウィンドウズOSのシェア拡大に押されて競争力を失い、倒産の危機にひんした。ジョブズは、iMacのヒットによってアップルを再建し、獲得した資金をiPhoneやiPadなどのソフトウエア開発やデザイン強化に再配分した。その上でアップルは機能実現に必要な部品を世界から集め、組み立て生産を台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のフォックスコンなどに委託し、スピーディーに新しいモノを生み出す体制を構築した。 ジョブズが手本にしたのは、「ウォークマン」のヒットで世界の音楽機器市場を席巻したソニーだ。そこには、新しい発想の実現が人々に驚きと感動を与え、より高い成長をもたらすというジョブズの信念があった。ジョブズがアップルをソニーのような企業に成長させるために、アジアの新興国企業の成長は「渡りに船」と映っただろう。 それによって、アップルは得意とするソフトウエアの開発に注力して生産設備を持つ負担を軽減し、企業全体の資産の効率性を高め、得られた収益を新しいチップ開発や、動画配信などのサービスの強化、さらにはアップルウォッチなどを用いた健康・医療分野での事業展開につなげている。それが、アップルの高い成長期待を支えている。他の時価総額上位企業に関しても、より高付加価値のモノやサービスの創造のために自己変革に取り組み、獲得した資金をさらに成長期待の高い分野に再配分する姿勢が共通する』、確かに、「アップル」が「倒産の危機」から見事に立ち直ったのはさすがだ。
・『日本企業は自己変革を行い期待成長率を引き上げよ  時価総額トップ10位の顔ぶれは、世界経済の今後の展開を予想するために有用だ。今後、設計・開発と生産の分離は一段と加速するだろう。一つのシナリオとして、米国のIT先端企業はソフトウエア分野での開発力強化に取り組み、より大きな消費者の満足感の実現を目指す。そのために、デジタル家電の受託生産や最先端の半導体生産面で台湾企業の存在が高まる展開が描ける。 わが国企業に必要なことは、新しいモノを作り出す自己変革を行い、期待成長率を引き上げることだ。近年のわが国にはソニーや日立製作所のように、リストラを進めつつ、画像処理センサや社会インフラ関連のソフトウエア開発など、モノづくりの力を生かして成長期待の高い分野での事業運営体制を強化する企業がある。半導体の部材や精密な工作機械の分野でも競争力を発揮する企業は多い。 しかし、わが国産業全体で見ると、アップルのように最終製品の分野で世界的な競争力を発揮できる企業は少ない。どちらかといえば、わが国では過去の発想の延長で事業戦略を策定し、既存組織の維持を重視する企業が多いように思う。少子化、高齢化、人口の減少が進んでいることも重なり、わが国経済の先行きに関する悲観的な見方は多い。 先行きは楽観できないが、人口が減少したとしてもヒット商品を生み出すことができれば、企業は成長する。新しいモノやコトの創造を目指す企業の取り組み(自己変革)が経済の期待成長率の上昇に欠かせない。 また、2021年4~6月期のアップルの営業利益は241億2600万ドル(約2.6兆円)だ。付加価値ベースで見ても、GAFA4社の時価総額合計がわが国の株式市場を超えるのは行き過ぎている。期待成長率の高さは確かだが、主要投資家が低金利と過剰流動性(カネ余り)の環境が続くと楽観している影響も大きい。米国の金融政策の変更などによってGAFAなどの時価総額が是正される可能性は高いとみる』、「GAFA4社の時価総額合計がわが国の株式市場を超えるのは行き過ぎている」、さすがにそうだろう。しかし、「人口が減少したとしてもヒット商品を生み出すことができれば、企業は成長する。新しいモノやコトの創造を目指す企業の取り組み(自己変革)が経済の期待成長率の上昇に欠かせない」。「企業」には頑張ってほしいものだ。
タグ:日本の構造問題 (その21)(日本は「北朝鮮より下の196位」というヤバい実態 日本の対内直接投資はなぜこんなに低いのか、太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」、GAFA時価総額が日本株全体を上回った!日本に足りない自己変革) 東洋経済オンライン リチャード・カッツ 「日本は「北朝鮮より下の196位」というヤバい実態 日本の対内直接投資はなぜこんなに低いのか」 「FDI残高」は何故、こんなに少ないのだろう。 「2013年から2020年、OECDによるとFDIのストックは6兆円しか増えていないが、財務省は3倍の20兆円の増加と報告。これにより日本政府は、安倍氏が設定したFDIの倍増を達成し、2020年に約40兆円となったと喧伝することができた。グローバルスタンダー「エレキ事業」は「本社」から独立させ、「音楽やゲームなどほかの事業と同等の位置づけにし」た。「「すべての事業がフラットにつながる新しいアーキテクチャーにより、グループとして連携強化の体制が整った」、果たして狙い通り「連携強化」につながるかを注目したい。 「日本の最大の問題は外国企業に魅力をアピールできていないこと」ではなく、真相は以下にあるようだ。 「典型的な富裕国では、FDIの80%が企業の買収・合併(インバウンドM&A)に割かれているが、日本ではわずか14%に過ぎない」、かつて「非公式に国内のM&Aを阻害する要素を設けることに尽力した」のが、「今でもインバウンドM&Aを抑制している」、身から出たサビだ。 「誰かが大幅な雇用減よりもM&Aの話の方が危険だと考えた」というより日本の中小企業は政治問題化し易い微妙なテーマなので、削除したのではなかろうか。 「後継者問題」に悩む「中小企業」に、外国企業が魅力を感じるところがどの程度あるのだろう。実際には、それほどないのではなかろうか。 Newsweek日本版 加谷珪一 「太平洋戦争の開戦に突き進んだ当時と変わらない日本「失敗の本質」」 「ほとんどの国民が支持するはずのイベントがここまでネガティブになってしまったのは、政府の意思決定が迷走に迷走を重ねたことが大きい」、「非常時になると全く機能しなくなるという日本社会の特質を改めて露呈する形となった」、その通りだ。 「次から次へと目を覆いたくなる事態が発生したわけだが、これは個別問題へのずさんな対応の積み重ねが大きく影響している。最初に発生した問題に対して責任の所在をはっきりさせ、適切に処理していれば、次の問題処理の難易度は下がる。だが、最初の問題をうやむやにすれば次の問題処理はさらに難しくなる」、鋭い指摘で、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 「GAFA時価総額が日本株全体を上回った!日本に足りない自己変革」 「時価総額トップ10位に入る企業が見当たらなくなった」、「89年の時価総額トップ10」は以下のように日本企業が7社もいたのに比べ、隔世の感がある。 https://www.m-pro.tv/2020/08/8689.html 確かに、「アップル」が「倒産の危機」から見事に立ち直ったのはさすがだ。 「GAFA4社の時価総額合計がわが国の株式市場を超えるのは行き過ぎている」、さすがにそうだろう。しかし、「人口が減少したとしてもヒット商品を生み出すことができれば、企業は成長する。新しいモノやコトの創造を目指す企業の取り組み(自己変革)が経済の期待成長率の上昇に欠かせない」。「企業」には頑張ってほしいものだ。
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百貨店業界(その4)(店舗の大幅なダウンサイジングが現実味 アパレル大量退店が招く百貨店の「空洞化」、コロナ禍のデパート業界で三越伊勢丹の赤字額がいちばん大きい理由、凋落する百貨店業界を再生する鍵は、パルコ事業にありの意味とは?) [産業動向]

百貨店業界については、昨年1月21日に取上げた。今日は、(その4)(店舗の大幅なダウンサイジングが現実味 アパレル大量退店が招く百貨店の「空洞化」、コロナ禍のデパート業界で三越伊勢丹の赤字額がいちばん大きい理由、凋落する百貨店業界を再生する鍵は、パルコ事業にありの意味とは?)である。なお、タイトルから「小売業」は削除。

先ずは、3月16日付け東洋経済Plus「店舗の大幅なダウンサイジングが現実味 アパレル大量退店が招く百貨店の「空洞化」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26461#contd
・『百貨店業界の苦境はコロナ禍が追い打ちとなって加速した。事業モデルの変革なくして生き残りの道はもはやない。 新型コロナウイルスの感染拡大が、苦境続きの百貨店の経営を大きく揺さぶっている。外出自粛や在宅勤務の普及などの影響で主力の衣料品販売は極度の不振に陥り、これまで二人三脚で成長してきたアパレルメーカーは百貨店からの撤退を急加速。とくに地方都市にある百貨店で大量退店が深刻だ。 「衣料品は以前から苦しかったが、コロナでとどめを刺された」。百貨店大手のJ.フロント リテイリング傘下にある高知大丸(高知市)の営業担当者は、業況の急激な悪化を嘆く。高知県唯一の百貨店である同店では2020年7~8月、婦人服と紳士服の合計31ブランドが一気に退店した。撤退分の売り場面積は計1200平方メートルで、同店全体の1割弱にも及ぶ。 退店したのは、オンワードホールディングスやレナウン(2020年5月に経営破綻)などアパレル大手が展開するブランドだ。従来は退店があれば別のアパレルブランドで埋めてきたが、「新規出店できるほどの余力を持つブランドがもはやない」(同社担当者)。リビング雑貨の売り場を拡充するなどして補うが、いまだ空きスペースを解消しきれていない』、「同店全体の1割弱」であれば、「リビング雑貨の売り場を拡充」程度ではとうてい足りず、「空きスペース」解消にはさらなる努力が必要なのだろう。
・『アパレルの本音は「退店させてくれてありがとう」  フロアが丸ごと空いていた東館2階は2021年2月にようやく埋まった。誘致したのは、アパレルブランドの余剰在庫を買い取って70%割引などで販売するオフプライスストア。高級感が売りだった百貨店のイメージを傷つけかねないが、背に腹は代えられないというわけだ。しかも、その店舗も3カ月の期間限定で、その後の展開は未定という。 2020年における百貨店全体での衣料品販売は前年比で3割超減少した。百貨店向けのブランドを複数展開するオンワードや三陽商会などの総合アパレルメーカー大手4社は、2020年度に多額の赤字を計上する見込み。構造改革の一環として同年度内に合計1400店程度(ショッピングセンターなどの店舗含む)を閉鎖する。その多くは地方百貨店に入る店舗だ。 日本の百貨店では、売り上げたときに商品を仕入れ計上する「消化仕入れ(売り上げ仕入れ)」と呼ばれる独特の取引形態が主流だ。百貨店側は在庫リスクを負わず、多様な商品を店頭に並べられる。アパレルメーカーは在庫リスクを負いつつ店員の派遣など販売現場の主な業務を担うが、好立地の売り場を提供してもらえる。両者ではこのような「持ちつ持たれつ」の関係が続いてきた。 百貨店との付き合いで不採算の地方店にも出店していたアパレル大手にとって、コロナ禍は撤退の口実になった面もある。あるアパレルメーカー首脳は「『百貨店の中に店を残していただいてありがとう』というブランドなんてない。『退店させてくれてありがとう』という気持ちだ」と打ち明ける。 取引条件の変更を提案するなどして百貨店側は引き止めに躍起だが、そもそも消費者が服を買わない状況では焼け石に水だ』、「高知大丸」の空スペースに「オフプライスストア」を「3カ月の期間限定」とはいえ、入れたのは、「高級感が売りだった百貨店のイメージを傷つけかねない」、典型的な悪手だ、「アパレルの本音は「退店させてくれてありがとう」」、百貨店の地位も低下したものだ。
・『常設店を入れるのが難しい  閉鎖を免れたアパレル店舗も状況は悪化するばかりだ。アパレル大手は現在、収益改善のために品番数や生産数量を大幅に絞っている。商品の数が限られるため、地方百貨店の店舗には売れ筋を中心に商品が十分に回ってこない。それが店の魅力を低下させて、一層の客離れを引き起こす悪循環に陥っている。 北陸地方で2店舗を展開する百貨店の大和では、2020年度に主力の香林坊店(金沢市)でレナウンとオンワード、三陽商会が展開する約10ブランドが撤退した。レナウンのブランドが撤退した跡地には、地元の繊維メーカーによる紳士服ブランドの常設店を導入。アパレル大手に頼らない売り場作りへの転換を目指す。 だが、それですべての“空きスペース”を解消できるわけではない。期間限定の店舗を新たな取引先に出店してもらい、しのいでいるのが実情だ。別の地方百貨店でも事情は同じで、ある百貨店幹部は次のように打ち明ける。「期間限定店で埋めるのが精いっぱい。コロナもあって常設店舗を入れるのはなかなか難しい。期間が終了すれば次の期間限定店を入れてと、いたちごっこだ」』、新たな「店舗」を自転車操業的に次々に入れていくというのも、非効率極まりない。
・『アパレルに甘えてきたツケが回ってきた  婦人服売り場が2~3フロアを占めるような状況に対し、百貨店業界内では長らく、売り場面積の過剰感が指摘されてきた。にもかかわらず、衣料品がずっと稼ぎ頭だった成功体験から脱せずに、売り場の転換に時間がかかっている。 別の地方百貨店幹部は「過去20年間で衣料品の売り上げは半分近く減ったのに、売り場面積はあまり変わっていない。遅ればせながら、売り場のバランス変更を考えないといけない」と言う。 大都市にある百貨店も例外ではない。国内最大の売上高を誇る伊勢丹新宿本店(東京都)では2019年に婦人服売り場を集約、インバウンド消費が好調だった化粧品を1フロアから2フロアに拡大するなどのテコ入れを図った。 電鉄系の近鉄百貨店も、あべのハルカス本店(大阪市)の婦人服売り場再編に向けて動き出した。社内にプロジェクトチームを立ち上げ、現在3フロアにまたがる婦人服売り場を縮小し、複数の商品カテゴリーをミックスしたフロアに作り替えることを検討している。 ただ、こうした大幅改装ができるのは多額の投資に耐えられる大手百貨店や一部の地方百貨店に限られる。業界首位の三越伊勢丹ホールディングス(HD)でさえも、首都圏以外の店舗での売り場バランスの修正はほとんど手付かずだ。 「デパ地下」と呼ばれ集客力のある食料品に注力するのも悩ましい。食料品の粗利益率は各社ともに10~20%と、衣料品の20~30%より低いのが一般的。衣料品に代わって食料品を強化すればするほど、商品ミックスが悪化して全体の利益率を押し下げるというジレンマを抱えている。 百貨店大手3社の売り上げの商品別構成比を見ると、現在も衣料品の売り上げが大きなシェアを占める。コロナ前まで成長著しかった化粧品は、インバウンド需要が蒸発し、国内需要も外出自粛の長期化で先行きが見通せない。「衣料品に代わる収益源を見出せているのかというと、正直ない。アパレルに甘えてきたツケが回ってきている」(大手百貨店関係者)』、「食料品の粗利益率は各社ともに10~20%と、衣料品の20~30%より低いのが一般的。衣料品に代わって食料品を強化すればするほど、商品ミックスが悪化して全体の利益率を押し下げるというジレンマを抱えている」、「食料品」を買うついでに「衣料品」などもとの間接的な効果もありそうだ。
・『地方百貨店がすがる「テナント化」  そこで地方百貨店がすがるのが、大型専門店などのテナントだ。定期借家契約(定借)を結び、百貨店は固定賃料と売上歩合の賃料を受け取る。先行するのはJ.フロント リテイリング。大丸下関店(山口県)にはニトリや東急ハンズ系列の雑貨店が入居した。 J.フロントの好本達也社長は「百貨店部分を減らし、テナントを増やしていくしか、地方百貨店が生き残る道はない」と断言する。そごう・西武も家賃収入を主体とするビジネスモデルへの転換を急ぐ。 利益が売り上げに連動する消化仕入れは、市場の右肩上がりが前提のビジネスモデルだ。それに比べて、定借は百貨店側の実入りが減る可能性もあるが、テナントから固定賃料をもらうため、収益は安定する。従来になかった客層を店内に呼び込め、百貨店売り場への波及効果も期待できる。 ただ、そうしたテナント導入の動きを超えるスピードで進むのがアパレルの大量退店だ。西武百貨店出身で百貨店マーケティングに詳しい青山学院大学の宮副謙司教授は、「一部の地方店では、大型テナントを入れてもフロアが余る状況が顕著になっている」と指摘する。 そうなると、店舗規模を現状のまま維持できず、ダウンサイジングするしかない。宮副教授は、大手各社の旗艦店舗を除き、2030年の百貨店は現在の標準的な店舗面積と比べると半分以下になると予測する。 実際、三越伊勢丹HDでは一部の地方店のフロア数を絞り込み、中小型店として衣替えさせる戦略を練る。松山三越(松山市)では9フロアあった百貨店の売り場を3フロアに圧縮し、空いたフロアには高級ホテルやエステサロンなど新しいタイプのテナントを誘致する計画だ。 その戦略にはデベロッパー能力が求められるが、「地方にある地場資本の百貨店だと、大手と比べて抱えている人材の力が劣り、自前でできることは限られる」(宮副教授)。ダウンサイジングに動く百貨店の間でも体力格差がさらに顕在化する可能性が高い。 2020年1月に山形市の大沼、同8月に徳島市のそごう徳島店が閉店し、百貨店が1つもない「空白県」が生まれた。現在、百貨店が1店舗しかない県は17ある。百貨店があるのは東京や大阪など人口100万人以上の大都市だけという未来が訪れてもおかしくはない。人口減少が加速する中、いかに変革を進めて百貨店の新たな形を見出せるかが問われている』、「百貨店が1店舗しかない県は17ある」、徳島県に次いで「空白県」となる候補は多いようだ。

次に、6月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した公認会計士、税理士、LEC会計大学院教授、元明治大学会計大学院特任教授の林 總氏による「コロナ禍のデパート業界で三越伊勢丹の赤字額がいちばん大きい理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/273272
・『38万部超のベストセラー『餃子屋と高級フレンチ』シリーズでおなじみの著者・林總氏の最新刊『たった10日で決算書がプロ並みに読めるようになる! 会計の教室』がダイヤモンド社から発売。本連載では、同書の中から抜粋して決算書を読み解くために必要な基本の知識をお伝えしてきました。今回も特別編として書下ろしの記事を掲載します。登場人物は、これまでと同じく林教授と川村カノンの2人。注目企業の決算書はどうなっているのか? 注目企業の会計のカラクリなどについて解き明かしていきます。しばしお付き合いください。好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ!』、興味深そうだ。
・『コロナ禍で三越伊勢丹の苦境の原因は?  カノン 三越伊勢丹の業績が悪かった理由を考えたのですけど、もしかして店舗の場所が良すぎるからではないかな、と思いました。 林教授 場所が良すぎるね? で、その理由は。 カノン だって、もともと三越の本店は日本橋で伊勢丹は新宿ですよね。三越は銀座のど真ん中にも店舗があります。どちらも超一流の繁華街です。今回の緊急事態宣言で最も影響が大きかったのは、なんといっても東京です。だから、売上高が激減して赤字が多かったと考えました。 林教授 合格点を60点とすると、その答えは59点だね。 カノン あと1点か。 林教授 その1点が大切なんだよ。考えて欲しいのは、これらの企業グループは百貨店業だけを営んでいるわけではない、ということだ。他に、不動産業や金融業も行っている。もちろん一番規模が起きいのは百貨店業だけど。 カノン そうなんですね。 林教授 今回の緊急事態宣言で一番影響を受けたのは百貨店業だった。中でも三越伊勢丹は長年、百貨店業に力を入れてきたから、売上高に占める割合が大きい。そこにコロナ禍の直撃をくらったわけだ』、なるほど。
・『衣料品と食料品の比率の違いが、赤字額に反映  カノン 衣料品売り場は閉まってましたけど、食品売り場は開いていましたよね。 林教授 三越伊勢丹はね。緊急事態宣言の規制対象は「生活必需品」だった。 日経新聞は、三越伊勢丹の苦境の原因を次のように報道している。 「生活必需品ではない」として休業する衣料品売り場や、営業規制がかかる東京都心の店舗の売上比率が大きいからだ。今回の休業による売り上げの機会損失は290億円に達する。2021年5月13日電子版 機会損失は、もし店を閉めなければもたらされたであろう利益のことだ。 カノン ものすごい損失ですね。ちょっと気になるのですけど、三越伊勢丹は衣料品を「生活必需品ではない」と考えているんですね。 林教授 この判断が会社の業績に大きく影響したんだ。この点は後で話そう。ここで三越伊勢丹と高島屋とJ.フロントリテーリングの事業損益を比較してみよう。3社の業績について、君の感想を聞かせてもらいたいね。 カノン 百貨店業の割合と赤字の大きさですね。赤字の一番大きい三越伊勢丹の百貨店業の割合が92%で、高島屋は84%、J.フロントは61%です。つまり百貨店業の割合が大きい会社ほど業績が悪かったということですか。 林教授 そうだね。ついでに百貨店業の売上高に対する赤字の割合を計算してごらん。 カノン 三越伊勢丹が4%、高島屋が3.7%、Jフロントは1%です。なぜこんなに大きな差が出たのでしょうか。 林教授 理由として考えられるのは、百貨店業における食料品と衣料品の売上高の割合だ。三越伊勢丹は衣料品31%、食料品26%。高島屋は衣料品25%に対して食料品は34%だった。 カノン だから休業要請(4月25日~5月31日)によって、衣料品に力を入れてきた三越伊勢丹の売上げが大きく減ったんですね』、「休業要請・・・によって、衣料品に力を入れてきた三越伊勢丹の売上げが大きく減った」、なるほど。
・『三越伊勢丹の業績は、損益計算書の赤字額以上に傷が深い  林教授 いい答えだ。実はもう一つ理由があった。高島屋は早々と衣料品を売り始めんだ。 カノン ほんとですか? 林教授 日経新聞は、こう書いている。「(三越伊勢丹は)業績を左右する衣料品売り場の再開について「人流の抑制を踏まえると(衣料品の)シェアが高いからこそ再開しなかった」(竹内徹副社長)という。衣料品も生活必需品に含まれるとして営業を再開した高島屋とは異なる動きをみせている」 カノン つまり、衣料品が生活必需品かどうかの解釈ですね。 林教授 食料品の販売に力を入れ、衣料品を生活必需品とした高島屋と、衣料品を生活必需品から除外した三越伊勢丹。この両社の経営判断が業績に大きく影響したわけだ。 カノン 経営判断って難しいですね。 林教授 実は、三越伊勢丹の業績は損益計算書の赤字金額以上に傷が深いんだよ。キャッシュフロー計算書をみてごらん。 カノン 営業キャッシュフローが全然違いますね! 三越伊勢丹はたったの12億円ですものね。それから高島屋とJフロントは200億円以上の投資をしているのに、三越伊勢丹は47億円だけ。投資は将来の営業キャッシュフローに影響しますから、三越伊勢丹の来季以降の決算に不安がありますね。 林教授 いい答えだ。『会計の教室』をよく読んでいるね。ここでキャッシュフロー計算書の見方をおさらいしておこう。営業CFはその期間の儲けだ。つまり、1年間商売して増やした現金の大きさのことだ。投資CFの多寡は、次期以降の営業CFに大きく影響する。となると、君が指摘したように2021年度の業績も高島屋に軍配が上がりそうだね。 カノン でも私、新宿の伊勢丹が大好きだから頑張ってもらいたいな。 林教授 ボクは日本橋の三越と高島屋も高級感が好きだね。どちらの百貨店も知恵を絞って、コロナ禍なんか吹き飛ばしてもらいたいものだ。 カノン 質問していいでしょうか。Jフロントの赤字が少ないのとパルコ事業が気になっています。 林教授 いい点に気づいたね。ボクはJフロントのパルコ事業が百貨店業再生の鍵ではないか、と考えているんだ。次回は、この点について説明しよう。 カノン 面白くなってきました』、「(三越伊勢丹は)業績を左右する衣料品売り場の再開について「人流の抑制を踏まえると(衣料品の)シェアが高いからこそ再開しなかった」」、自社の業績よりも「人流の抑制」という国民的な視点を重視したことになるが、こんなキレイごとで経営しているとは、信じ難い。続きをみてみよう。

第三に、この続きを、6月8日付けダイヤモンド・オンライン「凋落する百貨店業界を再生する鍵は、パルコ事業にありの意味とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/273891
・『38万部超のベストセラー『餃子屋と高級フレンチ』シリーズでおなじみの著者・林總氏の最新刊『たった10日で決算書がプロ並みに読めるようになる! 会計の教室』がダイヤモンド社から発売。本連載では、同書の中から抜粋して決算書を読み解くために必要な基本の知識をお伝えしてきました。今回も特別編として書下ろしの記事を掲載します。登場人物は、これまでと同じく林教授と川村カノンの2人。注目企業の決算書はどうなっているのか? 注目企業の会計のカラクリなどについて解き明かしていきます。しばしお付き合いください』、興味深そうだ
・『アクルーアルとは、税引前当期利益から営業CFを引いた金額  カノン 前回先生は三越伊勢丹は他の二社と比べて業績が芳しくなく、このままでは将来も苦戦するようなことをおっしゃったと思いますが、その理由は何でしょうか? 林教授 第一に営業キャッシュフローが少なく、特にアクルーアルが極端に少ないからだ。ここでアクルーアルとは当期利益から営業CFを引いた金額のことだ。言い換えれば、PLの当期利益と儲けの差の(注:「の」不要?)で、マイナスが大きいほど儲けが利益より大きいことを意味する。次の表は、キャッシュフロー計算書にアルーアルを加えたものだ。詳しくは『会計の教室』で勉強しておきなさい。 カノン この表ですけど、三越伊勢丹と高島屋の税引前当期利益は、ほとんど変わりませんね。 林教授 数字だけ見ればね。だが、三越伊勢丹の税引前当期利益には(株)三越伊勢丹不動産の株式売却益が含まれているんだ。どうやら2020年度は大規模なリストラをしたようだ。 2020年度は、三越恵比寿店、イセタンハウス、バンコク伊勢丹など収益力に課題のあった店舗の営業終了、株式会社三越伊勢丹研究所の事業終了、株式会社三越伊勢丹不動産の株式譲渡など、経営資源の再配分、事業ポートフォリオの組み替えを進めてまいりました。(決算短信より) カノン Jフロントリテーリングとのアクルーアルの差額は、もっと大きいですね。 林教授 それは、Jフロントリテーリングが積極的に投資を進めてきたからだ。投資が増えれば減価償却費も増える。 カノン だから減価償却費が三越伊勢丹より220億円も多いんだ』、「2020年度」の「三越伊勢丹」は益出しをして「税引前当期利益」を取り繕ったようだ。
・『同じ商品がどこの百貨店でも買えるようになり、個性がなくなった  カノン 本題に戻って、前回先生がパルコ事業が百貨店再生の鍵とおっしゃられた理由は何でしょうか? 林教授 言うまでもなく三越伊勢丹や高島屋がパルコと同じ商売を始めるというわけではない。おそらく、パルコの進化版を目指しているのではないかな。 カノン パルコって、いろんなテナントが入っているビルですよね。 林教授 そうだね。ところで君は自分の店を持ちたいと思ったことがあるかな? カノン スイスやオーストリアの小さな街で見かける可愛らしい雑貨店なんか憧れます。 林教授 確かにヨーロッパにはセンスのいい店がたくさんあるね。君がそんな素敵な店を持ちたい気持ちはわかる。だが、いざ出店しようとした場合、やはり躊躇するよね。何百万、何千万円もの借金をして開業しても、客が期待どうりに来てくれるかはわからない。仮に客が来てくれても、君が売りたい商品を買ってくれるかは別問題だ。 カノン そこが悩ましいところでしょうね。 林教授 パルコの出番はここにある。ホームページにはこう書かれている。 「パルコのビジネスモデルの特徴と優位性として、安定的な収益構造、商業施設のトータルプロデュース力、豊富なノウハウを活かした店舗開発力、建築・内装デザインのディレクション力と折衝力、テナントリーシング力とインキュベーション力、商業の付加価値としてのソフトコンテンツプロデュース力などがあります」 カノン なるほどね。出店する際にプロデュースしてくれるのですか。確かにテナントのリスクは減りますね。しかも、パルコは場所とアイデアで商売するのだから在庫もいらないし、店員もいらない。そして、場所貸しより高い収益を得ることができる。 林教授 これまでの百貨店はどうだったか。ボクが若い頃は、百貨店に行けば、なんでも手に入った。これは魅力だったね。ところが、客が欲しいものは、裏を返せば百貨店が売りたいものでもある。その結果、同じ商品がどこの百貨店でも買えるようになった。 カノン 個性がなくなったんですね。ちょっと残念です。 林教授 昔はフランスのルイヴィトの店でバッグを買い求める女性が大勢押し寄せたものだ。香港に行けばティファニーのアクセサリーが安く買えた。 カノン そうだったんですか。今は、三越伊勢丹でも、高島屋でも、大丸でも同じ価格で買えます。 林教授 どこの百貨店でも同じ商品が同じ価格で販売されるのだから、百貨店の個性はなくなって利益率は下がる。専門店が至る所に店を出す。ところが、百貨店は店自体を維持するのに膨大な固定費がかかる。これじゃあ売上は減るから商売は続かない。とりわけ、百貨店の販売金額の割合が大きい衣料品は、その物流と売れ残りのリスクが大きい。つまり、買取では儲からない商品なんだ。そこで、いろんな方法を考え出した。 カノン それが「消化仕入れ」ですね。売れた分だけ仕入たことにして、商品在庫の責任を追わなければ、物流のコストも在庫リスクもなくなります 林教授 それでも人件費はかかる』、「パルコのビジネスモデルの特徴と優位性として、安定的な収益構造、商業施設のトータルプロデュース力、豊富なノウハウを活かした店舗開発力、建築・内装デザインのディレクション力と折衝力、テナントリーシング力とインキュベーション力、商業の付加価値としてのソフトコンテンツプロデュース力などがあります」、確かに当たっているような気もする。
・『人が集まるのに大切なのは、ハードではなくソフト  カノン いっそのこと、場所を貸すだけにしたらいいですよね。 林教授 その通り。百貨店は次第に小売業から場所貸しの不動産業に変容してきたんだ。だか、これでは重要な問題の解決にならない。ただ場所を貸すだけでは、しかも百貨店側は高い賃料は取れないし、テナントにリスクが偏ってしまう。 カノン そうか。百貨店とそこで商売をするテナントがどちらも儲かるウィン・ウィンでなければならないんですね。 林教授 その空間に出向くことで、未知の体験ができ、生活に潤いを与えてくれる商品が手に入る。百貨店も、テナントも、顧客も満足する。これこそが百貨店のあるべき姿だと思うね。 カノン よくわかります。 林教授 三越伊勢丹は、この点を意識した大規模な計画を始めているんだ。 カノン 2020年に実施したリストラは今後の準備だったんですね。そうだとしても、営業キャッシュフローが少なすぎますよね。これで大丈夫ですか? 林教授 君は過去にこだわりすぎだね。決算数値や直近のキャッシュフローは、過去の意思決定の結果にすぎないんだ。ダメな経営者は、過去の間違い言い訳を考えようとする。失敗は将来のヒントだ。有能な経営者は違う。 カノン なんだか、私の成績のことを言われているみたいです。いつも言い訳ばかり考えていました。 林教授 成績の良し悪しは、過去の努力不足ではなく、方針が誤っていたからだ。経営者は常に将来の姿を思い浮かべなくてはならない。そして、良い結果を出すには何をすべきかを考え抜き、それを実行することが大切なんだ。 カノン すごくエネルギーを使いそう。でも、この点に全精力を使わないと競争に負けてしまいますね。経営って厳しいんだ。 林教授 三越伊勢丹は、こんな方針を打ち出した。 基幹店の伊勢丹新宿本店(東京・新宿)と三越日本橋本店(同・中央)の再開発に着手する意向を表明した。いずれも店舗周辺で保有する不動産を含めた一体開発を視野に入れる。東京を代表する2つの商業施設を核とする街づくりが動き出す……「単純に百貨店のリモデル(改装)で終わらせず、上手にエリアを街にしたい」と話した。百貨店を中心にオフィスビルやホテル、住居などを配置し、回遊性を持たせた再開発を目指す考えだ。(6月7日付日本経済新聞) カノン 街全体を作り替えるんですね。今までは、インバウンド任せの経営だったのに。 林教授 日本中からこの二つのエリアを目指して人が集まる。大切なのは、ハードではなくソフトなんだ。入れ物だけ立派にしてもソフトがなければ、いずれ廃れてしまう。客は新たな刺激と満足を求めている。人間が生み出すアイデアがこのプロジェクトの鍵となるだろうね。 カノン 頭のいい人は発想が違いますね。 林教授 今回のコロナ禍がなければこの決断はできなかったかもしれない。 カノン 会計を勉強することで、決算書と新聞記事からいろんなことが見えてくるんだわ。突然ですけど、先生は三越伊勢丹の株は買いだと思いますか。 林教授 君からそんな質問が来るとは思わなかったね。すでに三越伊勢丹の株価は上昇している。長期的に見た場合、このプロジェクトが進めば、株価は上がるだろうね。陳腐な言い方になるけど、株式投資は自己責任だ。君が決算書と記事を咀嚼して判断すべきことだ』、「三越伊勢丹」が「「単純に百貨店のリモデル(改装)で終わらせず、上手にエリアを街にしたい」と話した。百貨店を中心にオフィスビルやホテル、住居などを配置し、回遊性を持たせた再開発を目指す考えだ」、意欲的な計画だ。
・『人が集まるのに大切なのは、ハードではなくソフト  カノン いっそのこと、場所を貸すだけにしたらいいですよね。 林教授 その通り。百貨店は次第に小売業から場所貸しの不動産業に変容してきたんだ。だか、これでは重要な問題の解決にならない。ただ場所を貸すだけでは、しかも百貨店側は高い賃料は取れないし、テナントにリスクが偏ってしまう。 カノン そうか。百貨店とそこで商売をするテナントがどちらも儲かるウィン・ウィンでなければならないんですね。 林教授 その空間に出向くことで、未知の体験ができ、生活に潤いを与えてくれる商品が手に入る。百貨店も、テナントも、顧客も満足する。これこそが百貨店のあるべき姿だと思うね。 カノン よくわかります。 林教授 三越伊勢丹は、この点を意識した大規模な計画を始めているんだ。 カノン 2020年に実施したリストラは今後の準備だったんですね。そうだとしても、営業キャッシュフローが少なすぎますよね。これで大丈夫ですか? 林教授 君は過去にこだわりすぎだね。決算数値や直近のキャッシュフローは、過去の意思決定の結果にすぎないんだ。ダメな経営者は、過去の間違い言い訳を考えようとする。失敗は将来のヒントだ。有能な経営者は違う。 カノン なんだか、私の成績のことを言われているみたいです。いつも言い訳ばかり考えていました。 林教授 成績の良し悪しは、過去の努力不足ではなく、方針が誤っていたからだ。経営者は常に将来の姿を思い浮かべなくてはならない。そして、良い結果を出すには何をすべきかを考え抜き、それを実行することが大切なんだ。 カノン すごくエネルギーを使いそう。でも、この点に全精力を使わないと競争に負けてしまいますね。経営って厳しいんだ。 林教授 三越伊勢丹は、こんな方針を打ち出した。 基幹店の伊勢丹新宿本店(東京・新宿)と三越日本橋本店(同・中央)の再開発に着手する意向を表明した。いずれも店舗周辺で保有する不動産を含めた一体開発を視野に入れる。東京を代表する2つの商業施設を核とする街づくりが動き出す……「単純に百貨店のリモデル(改装)で終わらせず、上手にエリアを街にしたい」と話した。百貨店を中心にオフィスビルやホテル、住居などを配置し、回遊性を持たせた再開発を目指す考えだ。(6月7日付日本経済新聞) カノン 街全体を作り替えるんですね。今までは、インバウンド任せの経営だったのに。 林教授 日本中からこの二つのエリアを目指して人が集まる。大切なのは、ハードではなくソフトなんだ。入れ物だけ立派にしてもソフトがなければ、いずれ廃れてしまう。客は新たな刺激と満足を求めている。人間が生み出すアイデアがこのプロジェクトの鍵となるだろうね。 カノン 頭のいい人は発想が違いますね。 林教授 今回のコロナ禍がなければこの決断はできなかったかもしれない。 カノン 会計を勉強することで、決算書と新聞記事からいろんなことが見えてくるんだわ。突然ですけど、先生は三越伊勢丹の株は買いだと思いますか。 林教授 君からそんな質問が来るとは思わなかったね。すでに三越伊勢丹の株価は上昇している。長期的に見た場合、このプロジェクトが進めば、株価は上がるだろうね。陳腐な言い方になるけど、株式投資は自己責任だ。君が決算書と記事を咀嚼して判断すべきことだ。 カノン そうですよね。次回のレクチャーを楽しみにしています。カノン そうですよね。次回のレクチャーを楽しみにしています』、「日本中からこの二つのエリア(伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店)を目指して人が集まる。大切なのは、ハードではなくソフトなんだ。入れ物だけ立派にしてもソフトがなければ、いずれ廃れてしまう。客は新たな刺激と満足を求めている。人間が生み出すアイデアがこのプロジェクトの鍵となる」、「新たな刺激と満足」させてくれる再開発とは楽しみだ。
タグ:「高知大丸」の空スペースに「オフプライスストア」を「3カ月の期間限定」とはいえ、入れたのは、「高級感が売りだった百貨店のイメージを傷つけかねない」、典型的な悪手だ、「アパレルの本音は「退店させてくれてありがとう」」、百貨店の地位も低下したものだ。 東洋経済Plus 「店舗の大幅なダウンサイジングが現実味 アパレル大量退店が招く百貨店の「空洞化」」 百貨店業界 「食料品の粗利益率は各社ともに10~20%と、衣料品の20~30%より低いのが一般的。衣料品に代わって食料品を強化すればするほど、商品ミックスが悪化して全体の利益率を押し下げるというジレンマを抱えている」、「食料品」を買うついでに「衣料品」などもとの間接的な効果もありそうだ。 ダイヤモンド・オンライン 新たな「店舗」を自転車操業的に次々に入れていくというのも、非効率極まりない。 「同店全体の1割弱」であれば、「リビング雑貨の売り場を拡充」程度ではとうてい足りず、「空きスペース」解消にはさらなる努力が必要なのだろう。 (その4)(店舗の大幅なダウンサイジングが現実味 アパレル大量退店が招く百貨店の「空洞化」、コロナ禍のデパート業界で三越伊勢丹の赤字額がいちばん大きい理由、凋落する百貨店業界を再生する鍵は、パルコ事業にありの意味とは?) 「百貨店が1店舗しかない県は17ある」、徳島県に次いで「空白県」となる候補は多いようだ。 「凋落する百貨店業界を再生する鍵は、パルコ事業にありの意味とは?」 「2020年度」の「三越伊勢丹」は益出しをして「税引前当期利益」を取り繕ったようだ。 「休業要請・・・によって、衣料品に力を入れてきた三越伊勢丹の売上げが大きく減った」、なるほど。 「コロナ禍のデパート業界で三越伊勢丹の赤字額がいちばん大きい理由」 「三越伊勢丹」が「「単純に百貨店のリモデル(改装)で終わらせず、上手にエリアを街にしたい」と話した。百貨店を中心にオフィスビルやホテル、住居などを配置し、回遊性を持たせた再開発を目指す考えだ」、意欲的な計画だ。 林 總 「(三越伊勢丹は)業績を左右する衣料品売り場の再開について「人流の抑制を踏まえると(衣料品の)シェアが高いからこそ再開しなかった」」、自社の業績よりも「人流の抑制」という国民的な視点を重視したことになるが、こんなキレイごとで経営しているとは、信じ難い。続きをみてみよう。 「パルコのビジネスモデルの特徴と優位性として、安定的な収益構造、商業施設のトータルプロデュース力、豊富なノウハウを活かした店舗開発力、建築・内装デザインのディレクション力と折衝力、テナントリーシング力とインキュベーション力、商業の付加価値としてのソフトコンテンツプロデュース力などがあります」、確かに当たっているような気もする。 「日本中からこの二つのエリア(伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店)を目指して人が集まる。大切なのは、ハードではなくソフトなんだ。入れ物だけ立派にしてもソフトがなければ、いずれ廃れてしまう。客は新たな刺激と満足を求めている。人間が生み出すアイデアがこのプロジェクトの鍵となる」、「新たな刺激と満足」させてくれる再開発とは楽しみだ。
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韓国(文在寅大統領)(その10)(韓国の「ウォン」がここへ来て下落…世界の投資家たちが「売り」を仕掛けたワケ 韓国経済を取り巻く現状、国連が「言論統制法」に重大懸念 韓国の民主主義は死ぬのか 人権弁護士が大統領を務める国で「人権侵害」が推進される奇怪) [世界情勢]

韓国(文在寅大統領)については、8月12日に取上げた。(その10)(韓国の「ウォン」がここへ来て下落…世界の投資家たちが「売り」を仕掛けたワケ 韓国経済を取り巻く現状、国連が「言論統制法」に重大懸念 韓国の民主主義は死ぬのか 人権弁護士が大統領を務める国で「人権侵害」が推進される奇怪)である。

先ずは、8月23日付け現代ビジネスが掲載した法政大学大学院教授の真壁 昭夫氏による「韓国の「ウォン」がここへ来て下落…世界の投資家たちが「売り」を仕掛けたワケ 韓国経済を取り巻く現状」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/86528?imp=0
・『ウォン安の兆し(8月に入り、韓国のウォンが米ドルに対して下落している。 アジア新興国の通貨と比較しても、ウォンの下落率は大きい。 ウォン安の背景には、複数の要因がある。 その中でも重要と考えられるのが、韓国銀行(中央銀行)による年内の利上げが難しくなった、と考える海外投資家が増加していることだ。 8月の月初から中旬までの世界経済の変化を振り返ると、韓国経済の減速懸念を高める要因が相次いで浮上している。 順を追って確認すると、上旬には、世界の半導体市況でメモリ半導体の一つであるDRAMの需給が緩むとの懸念が高まり、高値圏で推移してきた韓国株とウォンの売りをセットで行う海外投資家が増えた。 その後、中国の主要経済指標は事前予想を下回り、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が資産買入れの段階的縮小=テーパリングを実施する可能性も高まった。 景気の回復ペースを弱める材料が増える中で韓国銀行が利上げを目指すことは難しくなっている。 日韓関係が韓国企業の事業運営にマイナスの影響を与えるとの懸念からウォンを売る投資家もいるようだ。』、ウォンの対ドル相場の長期間のグラフは、下記の通り。
https://jp.investing.com/currencies/usd-krw-chart
・『ウォン上昇を支えた利上げ期待  理論的に、短期から中期の時間軸において通貨の強弱は二国間の金利差に影響される。 特に重要なのが、金融政策への予想を反映しやすい2年金利(2年国債の流通利回り)の差だ。 ウォンで考えると、韓国銀行が米国のFRBよりも早い段階で利上げを実施するとの期待が高まると韓国の2年金利は米金利を上回るペースで上昇する。 それが米韓の金利差が拡大するということだ。 為替レートが一定と仮定すると、主要投資家は米国よりも、韓国の2年国債を保有した方がより多くの利得を期待できる。 その見方に基づいて海外投資家は外国為替市場でドル売り・ウォン買いのオペレーションを行い、ウォンが強含む。 昨年来のウォンの対ドル為替レートを確認すると、4月以降、韓国の景気回復期待が支えとなり、ウォンはドルに対して上昇した。 過去の景気循環を振り返ると、世界経済全体が大きく混乱した後、韓国経済は半導体などの外需をいち早く取り込んで輸出を増やし、早期の景気回復を実現した。 そのため、アジア経済の中でも比較的早い段階で韓国銀行は利上げを実施した。 経験則に従って、主要投資家は韓国銀行が近い将来に利上げを目指す展開を期待しはじめた。 昨年8月頃から米韓の2年金利差は拡大し、ウォンが上昇した。) 2021年4月頃から、韓国銀行は物価と資産価格の高騰を抑えることを理由に年内の利上げを示唆し始めた。 ただし、利上げの期待と、実施の可否は別物だ。 実際に利上げをするとなると、バブルの様相を呈する韓国の不動産や高値圏にある株価は下落し、債務残高が増えた家計の資金繰りは悪化するだろう。 そうした見方から、早期の利上げ実施は容易ではないと考え、ウォンのロング・ポジションを削減する投資家が徐々に増えた』、「実際に利上げをするとなると、バブルの様相を呈する韓国の不動産や高値圏にある株価は下落し、債務残高が増えた家計の資金繰りは悪化するだろう」、これでは、利上げは確かに難しそうだ。
・『増加する韓国経済の減速要因  8月に入り、ウォンの下落が勢いづいた。 日中の為替レートを見ると、ウォンがドルに対して反発すると、すかさず売りが入る場面が増えた。 その要因の一つが、DRAMの世界トップメーカーであるサムスン電子株の下落だ。 パソコンメーカーの在庫確保が進んだ結果、DRAMの価格は下落している。 それは、韓国経済の屋台骨に位置付けられるサムスン電子の収益減少要因だ。 感染再拡大もあり、韓国の景気減速懸念は高まっている。 韓国にとって最大の輸出先である中国経済の減速懸念が高まった影響も大きい。 共産党政権によるIT先端企業などへの締め付け強化は中国株を下落させ、負の資産効果が消費者心理を抑圧する恐れがある。 中国経済の減速が鮮明となれば、韓国の景気減速は避けられない。 その懸念が高まり始めた状況下、韓国銀行が利上げを実施することは難しいとの見方が増え、韓国の2年金利の上昇ペースには一服感が出始めている。 米国では、7月の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨にて年内のテーパリング実施が適当との見方が示された。 さらなる地ならしが進むとの警戒感から、米国の2年金利には、じわじわと上昇圧力がかかり、米韓の金利差は拡大から縮小に転じつつある。 それが、ウォン売りに拍車をかけた。 文大統領の対日姿勢を懸念する投資家もいる。 文大統領は元徴用工訴訟に関して自国内で解決する姿勢を示すことが難しい。 今後、FRBによるテーパリング実施観測の高まりなどによって韓国株への売りが増えれば、韓国からは資金が流出し、経済の先行き不安は高まるだろう。 そうした展開が鮮明となれば、文大統領が不満や批判をかわすためにわが国への強硬姿勢を引き上げ、韓国企業の事業運営にマイナスの影響が及ぶ恐れがある。 当面、ウォンの為替レートは不安定に推移する可能性が高い』、「韓国株への売りが増えれば、韓国からは資金が流出し、経済の先行き不安は高まるだろう。 そうした展開が鮮明となれば、文大統領が不満や批判をかわすためにわが国への強硬姿勢を引き上げ、韓国企業の事業運営にマイナスの影響が及ぶ恐れがある」、まだまだ目が離せないようだ。

次に、9月3日付けJBPressが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「国連が「言論統制法」に重大懸念、韓国の民主主義は死ぬのか 人権弁護士が大統領を務める国で「人権侵害」が推進される奇怪」を紹介しよう。
・『韓国で、言論の自由を脅かしかねない「言論仲裁及び被害者救済などに関する法律」(以下、言論仲裁法)改正案の取り扱いが大きな問題となっている。 与野党が対立する中、朴炳錫(パク・ビョンソク)国会議長は、与野党が激しく対立するこの改正案について、本会議での採決を8月30日まで延期したが、それでも与野党の調整が整わなかった。そこで与党「共に民主党」(以下、民主党)と最大野党「国民の力」の院内代表を集め協議した結果、ひとまず臨時国会中の採決を断念し、次期通常国会中の9月27日に本会議に上程することで合意した。 また、この会合では同法案の本会議上程に向け与野の調整を行うべく、両党の国会議員各2人と専門家各2人とで構成する「協議体」を設置して議論を続けることも確認したという』、なんでこんな「人権侵害」の恐れがある立法を急ぐのだろう。
・『ひとまず国会上程は延期されたが・・・  ただ「採決延期」の合意は成立したが、両党の法案に対する姿勢には依然として大きな隔たりがある。 民主党の尹昊重(ユン・ホジュン)院内代表は「偽ニュースによる被害を受ける国民を救う道を開くことで両党が合意したことに意味がある」「協議体で円満に討論する」と述べ、法案の成立に一歩前進したと評価した。 他方、国民の力の金起鉉(キム・ギヒョン)院内代表は「(採決を)1カ月間延期したが、依然として問題は進行形として残っている」「自由民主主義の体制を守る最も大きな基準は表現の自由であり、国民の知る権利はいかなる場合にも保証されなければならない」と述べた。法案の成立が既成事実化されたわけではなく、採決を延期したことに意義があるとの立場を強調したのだ』、与党の大義名分は「偽ニュースによる被害を受ける国民を救う」のようだが、「表現の自由」を損なうリスクはほおかぶりとは恐れ入る。
・『言論仲裁法の本質は「言論統制法」  今回の改正案は、法律で「虚偽・操作報道」を規定し、これに対し被害額の最大5倍までの懲罰的賠償を報道機関に課す条項を盛り込んでいる。また、訂正報道や記事閲覧遮断も請求できる。要するに、権力者が気に入らないメディアやネットとの報道を恣意的に狙い撃ちし、多額の賠償を課すことで、言論を萎縮させることができるようになるのだ。 当然のことならが同法案に対しては、言論機関の団体等から、「批判するマスメディアを事実上無力化させ、表現と言論の自由を抑圧し、政治経済の権力者が言論にくつわをはめる恐れがある」との懸念が深まっている。 朴議長がこの法案の採決延期の合意に乗り出さざるを得なかった背景には、国内のみならず、国連や国際的な言論団体の激しい批判があったからだと言われている。また、青瓦台や民主党の元老といわれる人々からも「法案の取り扱いは慎重に行うべきだ」との指摘がなされている。とにかくこの改正案は国内外から猛批判を浴びているのだ。 だがこうした批判にも拘わらず、民主党の幹部はなんとしてでも法案を成立させる姿勢を崩していない。議席数では圧倒的多数を誇るだけに、強硬採決しようと思えば不可能ではない。それだけに事態は切迫しているのだ』、「権力者が気に入らないメディアやネットとの報道を恣意的に狙い撃ちし、多額の賠償を課すことで、言論を萎縮させることができるようになるのだ」、こんな悪法が成立したら、「日韓は共通の価値観で結ばれている」などは口が裂けても言えなくなる。
・『言論界の重鎮たちも立ち上がる  メディア関連団体や弁護士会、言論労働組合が一斉に反対の声を上げた。 韓国新聞協会など言論6団体は「韓国民主主義を退行させる立法独裁」、韓国言論学界は「反民主的悪法」、大韓弁護士協会も「言論にさるぐつわ、終局には民主主義を威嚇」として、いずれも民主主義を大きく棄損する立法であると攻撃している。 さらに韓国記者協会、韓国新聞放送編集人協会、韓国新聞協会など韓国のメディア6団体は27日、「言論仲裁法改正案を強行処理するなら、違憲審判訴訟や効力停止仮処分申請など法的措置を取る」と強硬に反発している。 しかし与党とすれば、こうした批判はある意味予想のできたことだろう。言論機関の当事者として、言論の自由を束縛されることには反発するだろう。なにしろ左派で政府寄りの「ハンギョレ新聞」だって批判しているのである。 ただ与党にとってより深刻なのは、「言論界の良心」というべき自由言論実践財団の反発だろう。同財団は8月23日、記者会見を行い、「1987年以後、困難の末に得られた言論の自由に、深刻な制約と萎縮の効果を引き起こしかねない」と警告した。 自由言論実践財団は、朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代に「自由言論実践宣言」を行ったという理由で強制解職された人々が、言論の自由を実践するため設立した団体。主なメンバーは言論運動の第1世代の重鎮たちだ。) 23日の会見で同財団は、「言論の自由を損なうという危険性以外にも、故意・重過失の推定に対する曖昧な基準や、立証責任を何処に置くかに関する議論、法の実効性などいたるところに争点が存在する」「今の法案は、実益より副作用の方が大きい」として重大な懸念を表明した。財団は、高所から韓国の言論の自由を擁護する団体であり、影響力は小さくない。 青瓦台でも同法案に対する反対が、「独善」「傲慢」というイメージを焼き付けられることを警戒している。この言論界の懸念表明を踏まえ、青瓦台は若干慎重な姿勢になってきているようだが、民主党の“青年将校”議員たちは強硬姿勢を貫こうとしている』、「民主党の“青年将校”議員たちは強硬姿勢を貫こうとしている」、危険極まりない存在のようだ。
・『ついに国連も懸念表明  この言論仲裁法には、国内だけでなく海外の言論界からも批判されている。 米国記者協会国際コミュニティーのダン・キュービスケ共同議長は韓国の放送局「チャンネルA」のインタビューの中で「民主主義国家でこんなことをする初の事例になるだろう。独裁国家はよくやることだ。極めて失望感を覚える」と極めて辛辣な言葉で韓国の状況を批判した。 「(改正法が成立すれば)周辺国家がまず影響を受けるが、全世界が影響を受けることになる。香港がそういう法律の検討をしていると聞いている」 「米国では(メディアに対する)訴訟のハードルがとても高く、法律の文言はとても具体的だ。ところが、(韓国の)この法案は具体的ではない。それがとても恐ろしい」 また同議長は、朝鮮日報によるインタビューではこんな発言もしている。 「彼ら(韓国の政権勢力)はこの法律が『反メディア法』であるとは言わない。ただ『メディアはもっと正直であるべきだ』と言う。正直なメディアに反対する人はどこにいるだろうか。問題は(法案の)あいまいさにある」「判事にうまくあいさえすれば、彼らが自分たちが好まない何事であれ『フェイクニュース』『でっち上げ』と決定できる。その後は『このメディアは有罪判決を受けたのだから信用できない』という烙印(らくいん)を押すだろう」 そこには、民主主義国家の仮面をつけながら、実は独裁的で強権的な国に韓国が変貌してしまうのではないかという強い危機感が表れている。 そうしたなか、ついに国連まで深い懸念を表明する事態となった。 8月30日、国連人権理事会(UNHRC)が言論仲裁法改正案に対し懸念の内容を盛り込んだ公文書を韓国政府に伝達したのだ。それは、「公文書は言論仲裁法の言論の自由侵害の素地が懸念されるという点、またこれに対する韓国政府の立場を知らせてほしいという内容」であったという。 また同日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)も韓国政府と民主党に公文書を送ったが、それには「言論仲裁法が世界人権宣言及び自由権規約に反するという疑惑に対する韓国政府の公式な立場を示してもらいたい」とする内容が含まれていた。韓国政府は60日以内に公式な立場を回答しなければならない。 OHCHRは文在寅政権発足以降、23回にわたって韓国政府に人権関連措置を求めたり質問したりする書簡を伝達してきたことも明らかになった。この数は李明博政権や朴槿恵政権と比べて約2倍になるという。「人権弁護士」として知られる文在寅大統領が、人権侵害の疑いでたびたび是正を迫られてきたというわけだ。いったい、文在寅政権や共に民主党は、何を最大の価値として国家の舵取りをしているのだろうか。 国際的な風当たりの強さを目の当たりにした民主党指導部は、議員総会で「国際問題になりそうなので、総合的に検討しよう」という趣旨の発言を行ったという。しかし、法案を是が非でも採決するという民主党指導部の固い決意までは変えていない』、「ダン・キュービスケ共同議長」の「民主主義国家の仮面をつけながら、実は独裁的で強権的な国に韓国が変貌してしまうのではないかという強い危機感」、はもっともだ。「OHCHRは文在寅政権発足以降、23回にわたって韓国政府に人権関連措置を求めたり質問したりする書簡を伝達」、こんなに何回も要求や「質問」が来るというのは全く異常としか言いようがない。
・『「独善」ばかりの民主党  民主党はもともと、臨時国会中の採択を目指し、8月30日までに是が非でも採決したい方針であったが同日の与野党会談で合意できなかった。これに関連し、尹昊重院内代表は民主党の議員総会で「この事案が国内問題を越え、国際問題になっているようだ」「時間をかけて、より詳しく確認してほしい」と発言した。 その日の午後、民主党は「最大5倍の懲罰的損害賠償制」の骨子は維持したまま、故意・重過失推定規定を削除する改正案を「国民の力」に提示して妥協を引き出そうとした。しかし、言論仲裁法の主要な骨子は維持しており、同意は得られなかった。これは強行処理に持っていくための「名分の積み重ね」ではないかと警戒されたのだ。 実際、与野党会談に先立って行われた30日午後の民主党の議員総会では、「いま、崖の端に立っている。決断の瞬間だけが残った」「もっと議論し、もっと熟議しても、新たに出てくる内容はない。メディアの反発は当然ではないか」といった、強行論が主流だったという。 それが朴炳錫議長の仲裁で、改正案上程が1カ月先送りされることになるのは、与党圏元老たちの積極的な引き留めも一部影響を及ぼしたようだ。金元基(キム・ウォンギ)、林采正(イム・チェジョン)・文喜相(ムン・ヒサン)といった元国会議長に柳寅泰(ユ・インテ)元議員ら民主党の長老は、同党の宋永吉(ソン・ヨンギル)代表に会い、強行処理への懸念を伝えていた。 金元基(キム・ウォンギ)元国会議長は中央日報に対し、「私たちは皆『あまりに先に進む必要はない』、『与野の関係を円満に収拾しなければならない』と話した」と述べた。 林元議長も、「(宋代表に)『国民と共に進んで欲しい』と助言した」と述べた。元老4人のうち言論仲裁法の強行処理に同意する者はいなかったという』、「与党圏元老たち」の慎重姿勢はもっともだ。
・『あまりの反発に態度軟化させた青瓦台  今回、言論仲裁法改正案の可決に前のめりになっているのは与党・民主党だが、ハンギョレ新聞によれば、青瓦台には「半歩進めなければならない時もある」と法案の強行処理に対して慎重な声も上がっているという。青瓦台が慎重なのは、言論仲裁法で与野党が激突すれば、多くの懸案を処理しなければならないこの後の通常国会の審議に影響を及ぼしかねないからだ。 また「ややもすれば『独善』という枠にはまりかねないという点を無視してはならないとの雰囲気も感じられる」「一歩進めたいが、相手がいるので仕方なく半歩だけ進めなければならない時もある」と強引な処理に警戒している。 ほんの10日ほど前までは違う態度だった。大統領府は「誤った言論報道による被害救済が十分でないため、被害救済の実効性を高めるための立法的努力も必要だ」とし、法改正に共感する意思を示していた。 それが一変したのは、野党・国民の力ばかりでなく革新系の正義党までが反対を表明。さらにメディア団体だけでなく上述の言論運動に献身した重鎮ジャーナリストなど民主改革陣営内でも懸念の声が高まったためだ。大統領府内「独走」「傲慢」と見なされることへの警戒が強い。 だが、民主党が猛進を止める様子はない。青瓦台の李哲煕(パク・チョルヒ)政務首席も27日前後に民主党議員の多数に言論仲裁法改正案の即決処理に対する懸念を伝えたが、宋代表はびくともしなかった』、なるほど。
・『それでも青瓦台の基本スタンスは「黙認」  法案が可決される場合、国民の力は青瓦台に「大統領拒否権行使」を要求する方針だ。しかし、兪英民(ユ・ヨンミン)大統領秘書室長は23日、国会で「青瓦台はいかなる立場も出す計画はない」と述べているので、大統領の拒否権行使は現在では可能性低いと見られている。このままでは1カ月後に民主党が数の力で押し切ってしまう可能性を否定できない。 言論仲裁法改正案は韓国の民主主義にとって重大な挑戦だ。それなのに、権力の維持に固執する民主党の指導部は、自己保身にまい進し、革新系に対する批判を遮断する言論統制に突き進んでいる。これが通れば韓国は中国やロシア、北朝鮮のように指導部批判のできない社会に変質してしまうだろう。 言論仲裁法の採択まで1カ月弱の猶予ができた。この間にこの法案を廃案とするよう韓国各界各層の良心を集め、民主党の横暴と対抗していく必要がある。 今回の民主党の横暴が通るようであれば、来年の大統領選挙は公平な選挙とはならないであろう。この民主党の暴走を止めるには、決死の覚悟が必要となってきた』、「民主党の指導部は、自己保身にまい進し、革新系に対する批判を遮断する言論統制に突き進んでいる。これが通れば韓国は中国やロシア、北朝鮮のように指導部批判のできない社会に変質してしまうだろう」、韓国が強権国家となるか否かの瀬戸際にあるようだ。大いに注目したい。
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自動運転(その5)(2025年「自動運転レベル4」に立ちはだかる壁 自動運転普及のカギは「社会需要性」にある、自動運転バスが“絵にかいた餅"で終わる理由 永平寺町の実用化現場で感じた普及の難しさ、トヨタの自動運転車が選手村でパラ日本人選手と接触事故 豊田章男社長が謝罪、トヨタ自動運転車事故 目の前に叩きつけられた厳しい現実 「自動運転技術で事故撲滅」までの遠い道のり) [イノベーション]

自動運転については、2020年3月5日に取上げた。今日は、(その5)(2025年「自動運転レベル4」に立ちはだかる壁 自動運転普及のカギは「社会需要性」にある、自動運転バスが“絵にかいた餅"で終わる理由 永平寺町の実用化現場で感じた普及の難しさ、トヨタの自動運転車が選手村でパラ日本人選手と接触事故 豊田章男社長が謝罪、トヨタ自動運転車事故 目の前に叩きつけられた厳しい現実 「自動運転技術で事故撲滅」までの遠い道のり)である。

先ずは、3月25日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの桃田 健史氏による「2025年「自動運転レベル4」に立ちはだかる壁 自動運転普及のカギは「社会需要性」にある」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/418070
・『2021年3月4日、ホンダが世界初の自動運転レベル3量産車「レジェンド」を発表した。 このクルマに搭載される「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」では、高速道路の渋滞中に運転者が車載器でDVD視聴等が可能となるため、「ついに本格的な自動運転時代の幕開け」といった切り口でテレビやネットで大きな話題となったので知っている人も多いだろう。 自動運転について政府は、今から4年後の2025年をめどに高速道路を走行する乗用車でレベル3よりさらに高度なレベル4を実現させるとしている。 では2025年、本当に日本の道路で自動運転が登場しているのだろうか』、興味深そうだ。
・『N-BOXにレベル3が搭載される日  自動運転レベルは、アメリカの自動車技術会(SAE)が基準として提案したものがその後に国際的な合意となり、その表示は0から5までの6段階となっている。 レベル1~2は「高度運転支援システム」として運転の主体が運転者だが、レベル3~5になると運転の主体がクルマのシステムに移るため「レベル3以上が自動運転」(ホンダ関係者)という解釈だ。 レベル3では、気象状況などによりシステムが自動運転の継続ができないと判断したり高速道路から一般道に降りたりするなど、レベル3に合致する走行条件から抜けると判断すると、運転者に対して運転の移譲を要請してくる。 車内での表示、音声、またシートベルト等での振動を通じて行うこうした行為を、TOR(テイク・オーバー・リクエスト)という。レジェンドでもメーター表示や音声、インジケーターの色の変化によって、TORを発する。 なお、ホンダが採用したレベル3では、高速道路を走行中にシステムが周囲の状況を判断し自動で追い越しを行う「ハンズオフ機能付き高度車線変更支援機能」も搭載される。 今回、発表されたレジェンドの価格は、レベル3非搭載車よりも375万円も高い1100万円と高額だが、今後は自動運転レベル3に関連する機器や技術の量産効果で自動運転システム全体の価格は下がってくる。 アダプティブ・クルーズ・コントロールが軽自動車の「N-BOX」や「N-ONE」などにも搭載されたように、レベル3が多くのホンダ車に採用される人(注:正しくは「日」)がくるだろう。では、それはいつのことなのか。 レベル3に関するオンライン記者発表会に、筆者は所有車であるN-BOXの車内からリモートで参加した。 質疑応答の際、ホンダの自動運転開発担当者に「このN-BOXがレベル3になるのはいつごろか?」と聞いたところ、「10年、いや20年先……」と現時点で将来を予測することは極めて難しいとの表情を見せ、そのうえで販売店やユーザーなど市場でのレベル3に対する「社会受容性を精査していきたい」という姿勢を示した。 筆者は2000年代中盤からこれまで、自動運転について世界各地で自動車メーカーや自動車部品メーカー、IT関連企業、研究機関や大学、そして国や地方自治体への取材や意見交換を定常的に行ってきた。 また、国道交通省と経済産業省による中山間地域でのラストワンマイル自動走行実証試験では、その現場となる福井県永平寺町で2018年から一軒家を借り、街の政策に対して議論する永平寺町エボリューション大使に就任。各方面から永平寺町実証への視察対応なども行ってきた。 そうした中で「社会受容性」という視点が、自動運転の普及に向けた大きな課題であると強く感じている』、「レジェンドの価格は、レベル3非搭載車よりも375万円も高い1100万円と高額」、も「社会受容性」に影響を与える要素だ。それにしても、レベル3の自動運転中に「TOR」が鳴った時に、居眠りなどしていたらどうなるのだろう。
・『「社会受容性」の本質を問う  自動運転の社会受容性に対して、国や自動車メーカーが直近の考え方を示す機会が2021年3月15日にあった。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムにおける自動運転プロジェクト(通称SIP-adus)に関する、オンラインワークショップでのことだ。 国土交通省 自動車局 技術・環境政策課の多田善隆氏が「自動運転車の技術基準策定のポイント」として、道路運送車両法と道路交通法におけるレベル2とレベル3の解釈の違い、国際基準策定の取組などを説明していたのだが、その中で、自動運転車の普及には「技術開発を阻害しないように、技術の進展と普及活動に応じた段階的な施策が重要だ」と指摘していた。 そして、具体的に以下の4つのフェーズにおける施策例を挙げた。 (1)技術開発期:技術ガイドラインや保安基準〔任意規格〕の策定 (2)技術競争期:自動車アセスメント (3)普及拡大期:サポカー補助金や税全優遇措置 (4)標準搭載期:保安基準〔強制規格〕の策定 そして多田氏は、現状での自動運転は(1)の「技術開発期にあると思う」と個人的な見解を述べ、社会受容性については、ユーザーの自動運転機能に対する過信を問題視した。 現状のレベル2(実質的には高度運転支援システム)に関しても、逆光や悪天候などが理由で年間100件ほどの不具合事案が国交省に報告されているという。そのため「レベル2を含めて、レベル3でもユーザーに対する機能への過信を防止するよう、技術の特性をしっかりと伝えることが必要だ」と強調する。 国交省に次いで、一般社団法人 日本自動車工業会の自動運転部会長 横山利夫氏が「自動運転の実用化に向けた日本自動車工業会の取り組み」を発表した。 そこでは「技術基準と標準」「道路交通ルール」への対応という大きく2つの方向で、国内外の関係各部門と連携して基準化と標準化を進めていることを紹介するとともに、自動運転部会傘下のユースケース、ヒューマンファクター、AD安全性評価など6つの分科会の活用内容も示した。 さらに質疑応答では、社会受容性について大きく3つのポイントがあると指摘した。 (1)適切な安全性を社会が需要できるかどうか (2)メーカーやメディアが自動運転に対してミスリードしないような仕組みをつくること (2)(注:正しくは(3))自動運転がメーカーによるプロダクトアウトの商品であること 横山氏は、「自動運転は、メーカーが交通事故の減少などを目指したプロダクトアウト(の商品)である。消費に対する魅力がどういった反響が(社会から)あるのか。(販売)コストを含めて、ステップバイステップで進めていくべき」との考えを示す。 この「プロダクトアウト」という視点こそ、自動運転における社会受容性の議論で重要な点だと筆者は思う。ユーザーや販売店から「できるだけ早く(レベル3以上の本格的な)自動運転のクルマが欲しい」といった、マーケットイン型の要望が強くあるわけではないからだ』、私も渋滞区間はともかく、通常の区間で「自動運転」してもらいたいとは思わない。
・『自動運転への需要は本当にあるのか?  自動運転は、あくまでも自動車メーカーやIT企業が「交通事故ゼロを目指す」という社会的な責任を踏まえたうえでの新規事業として開発しているにすぎない。そのため、実現には法整備や安全性の確保など、これまでの自動車開発と比べるとさまざまな点で実用化へのハードルが高く、どうしても研究開発や法務対策が優先される。 そして、そうした対応にある程度のめどがついた状態で“実証試験”として世に出し、社会からどう見られるかを“後付け”で考えている。これを「社会受容性」と呼んでいるというのが実情だ。 そのため、社会からの本質的な需要と、自動車メーカーや研究機関が想定している需要に差異が生じる場合もある。さらにいえば、実質的に社会から自動運転に対する具体的な要求があまりない状態で、需要の創出を仮想しながら社会受容性を議論しているようにも思える。 これは、国や自動車メーカーが自動運転を議論する際に用いる、オーナーカー(乗用車)とサービスカー(公共交通機関に近い存在)のどちらにもいえることだ。今、“オーナーカーのレベル3”がホンダによって世に出たことで、ユーザー、販売店、そして社会全体から自動運転全般に対して、厳しい評価の目が向けられることになる』、「ホンダ」の「レベル3”」はどのような「評価」を受けるのだろうか。

次に、この続きを、4月5日付け東洋経済オンライン「自動運転バスが“絵にかいた餅"で終わる理由 永平寺町の実用化現場で感じた普及の難しさ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/420632
・『自動運転は、乗用車や商用車を中心とした「オーナーカー」と、バスやタクシーなど公共性がある交通機関「サービスカー」という2つの領域で、日本を含めた世界の国や地域で、自動車メーカーや自動車部品メーカー、そしてアップル、グーグル、中国のバイドゥなどといったIT系企業が、継続的な事業化について戦略を練っている段階である。 こうしたオーナーカーとサービスカー、どちらについても本格的な普及に対する課題は、社会受容性とそれに見合うコスト管理にある。社会受容性については、「2025年『自動運転レベル4』に立ちはだかる壁 自動運転普及のカギは『社会受容性』にある」にて紹介した。 今回はコスト管理について、筆者がエボリューション(注)大使として町の政策に参画している、福井県吉田郡永平寺町の事例を軸足として話を進める』、興味深そうだ。
(注)エボリューション:進化(Wikipedia)
・『ゴルフカートベースの実験車両  2021年3月25日、サービスカーとして日本初の1:3(1人が3台を同時監視する)の遠隔型自動走行車両による自動運転レベル3実用化を記念した出発式が行われ、福井県の杉本達治知事や永平寺町の河合永充町長、そして関係省庁と地元の交通事業者や商工関係者らが参加した。 運行管理を町が出資するまちづくり会社ZENコネクトが行い、永平寺町の門前に近い2km区間で、遠隔管理室にいる1人が3台を同時に監視して無人走行させる。運賃は大人100円、子どもが50円。 自動運転車両は、ヤマハが製造開発し、全国各地のゴルフ場や遊興施設などで数多く使われている電磁誘導方式のゴルフカートをベースに、国の産業総合技術研究所が一部を改良したものだ。 地中に埋設した誘導線の磁力線を車両下にある3つのガイドセンサーが検知し、設定されたルートを走るというのが、基本的な走行システム。地中に埋設したマグネットの上を走行すると、車両のマグネットセンサーによる電圧発生で車両位置を検知し、得られた信号をコンピューターが解析して車両の動作を制御する。 電磁誘導方式は事実上の軌道交通であり、運用の自由度はあまり高くないという見方もある。一方で、走行ルートから外れて暴走しないこと、積雪や落ち葉などの路面環境の変化に強いこと、10年以上とされる耐久性の高さや、月額数千円程度の電気代で済むという経済性が、メリットとして挙げられる。 また、明確な金額は公開されていないが、車両本体はベースとなるヤマハ製ゴルフカートの販売価から数百万円程度と考えられる。 さらに、遠隔管理は運行管理の人件費を抑制するためでもあるが、永平寺町の事例は専用空間を走行するため、遠隔管理者の精神的な負担も比較的少なくできるメリットもある』、いくら電気を「電磁誘導方式」で取り込むとはいっても、たかが「ゴルフカート」に毛が生えた程度なのに、1台「数百万円程度」とはいささか高過ぎる印象だ。
・『“身の丈”を考えた“現実解“として  この地が、「専用空間における自動走行などを活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」として国に認定されたのは、今から4年前の2017年3月だった。 同年4月には、京福電鉄の廃線跡を利用した遊歩道に、自動運転を行うための電磁誘導線などの付帯設備の工事が行われ、同年5月より産業技術総合研究所などによる試験走行が開始された。なお、工事費用には、地方創生拠点整備交付金(国:6000万円、県:3000万円、町:3000万円、合計1億2000万円)が投じられている。 2019年4月から5月の大型連休にかけては、車両10台を使った1カ月実証が実施され、同年6月から12月までは当時、日本で最長期間となる6カ月連続実証が、さらに2020年7月からは車内無人でのレベル3の実証などが行われてきた。 こうした各種実証には、全国各地の自治体、民間企業、大学などの教育機関の担当者が現地視察に訪れ、筆者も参加し、永平寺町の社会実情と自動運転の社会実装に対する可能性について意見交換してきた。 その中で、町側からは「継続的な運用に向けたコスト抑制」が強調された。グーグルカーやアップルカー、またはヨーロッパのベンチャー企業などが実用化を目指す、走行場所の制約をあまり受けずに走行可能な高級な自動運転車両の導入は、町の財政状況を考えると難しく、国や県と連携した永平寺町としての“身の丈”を考えた“現実解”として、自動運転の実用化を考えるというものだ。 永平寺町では、もう1つ“身の丈”交通がある。約1年間の試走を経て2020年10月に実用化した、オンデマンド型交通システムの「近助(きんじょ)タクシー」だ。 福井県内の全トヨタ販売企業が共同で車両のサポートをする体制を敷き、地元住民がミニバンを運転して、高齢者の通院や買い物、小学生の通学などを支援するものだ。 また、経済産業省の支援事業として、近助タクシーのドライバーがゆうパックの配送を行う日本初の貨客混載の実証も2021年2月に行われた。 自家用有償旅客運送は全国各地で実用化されている手法だが、国は2020年2月に地域公共交通の活性化とそのための法改正を行っており、近助タクシーのような新たな事業の実現に向けて国土交通省が後押しする体制が整ってきている。 全国各地から永平寺町への視察では、自動運転と近助タクシーの現場に案内し、それぞれの長所と短所を実感してもらう。その中でよく出る話題は、コミュニティバスから自動運転車両への転換だ。 コミュニティバスは、路線バスより車両がこぶりで、集落の中の比較的細い道まで路線がある地方自治体が運用し、地元のバス会社やタクシー会社に運行管理を委託する公共交通機関として全国各地に広まっている』、なるほど。
・『自動運転車を赤字でも続ける理由  コミュニティバス発祥の地とされる東京都武蔵野市役所にもうかがい、同地における公共交通会議の活発な議論について市職員から話を聞いたが、年間で1億円を超える収入があっても収支は若干の赤字であるという。 一方、永平寺町のコミュニティバスは年間4000万円強の財源を要して、年間収入は数十万円程度である。それでも、コミュニティバスは住民サービスであり、また住民に対するセーフティネットという観点から、赤字体質でも事業を継続することに住民が反対するケースは少ない。永平寺町を含めて、全国各地のコミュニティバス事業を実際に取材すると、そうした声が多い。 一方でバスやタクシーのドライバーの高齢化と、ドライバーのなり手不足という課題も全国共通にある。そこで、「コミュニティバスから自動運転車への転換」という発想が生まれるのだが、多くの場合は“絵にかいた餅”で終わる。 なぜかといえば、自治体の財政状況によらず「どこで」「誰が」「いつ」「どのように利用し」「コスト管理をどうするのか」という出口戦略の詰めが甘いからだ。 実際、自動運転と自家用有償旅客運送の2つをやっと実現した永平寺町の事例についても、筆者の立場として言えば、自動運転事業の継続はサービス事業として数多くの課題があり、解決に向けた議論は今度さらに難しさを増すと感じている。 それでも、「小さな歩みを続けていこう」と地元の皆さんと交流を深める中で、自らの気持ちを整理している。地域交通をよりよい形にするのは、並大抵のことではない』、高齢化が進むなかでは「地域交通をよりよい形にする」のは、喫緊の課題だ。大いに頑張ってほしい。

第三に、8月28日付けNewsweek日本版が転載したロイター「トヨタの自動運転車が選手村でパラ日本人選手と接触事故 豊田章男社長が謝罪」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/08/post-96996.php
・『東京・中央区の東京パラリンピック選手村を巡回する自動運転車に選手が接触した事故を受け、車両を提供・運営するトヨタ自動車の豊田章男社長が27日夜、自社のオンラインサイトで「多くの方々にご心配をおかけし、大変申し訳ない」と謝罪した。事故の原因は調査中とした。 事故は26日午後に発生。右折しようとした自動運転車が、柔道(視覚障害)男子81キロ級日本代表の北薗新光選手(30)に接触した。北薗選手は転倒し、頭などに全治2週間のけがをした。NHKなど国内メディアによると、北薗選手は28日に出場予定だった試合を欠場する。 豊田社長は、車両に搭載された自動運転技術について、「パラリンピックという特殊な環境の中で、目の見えない方もおられれば、いろいろと不自由な方もおられる。そこまでの環境に対応できなかった」と説明。「普通の道を普通に走るのはまだ現実を帯びていない」と語った。 豊田社長によると、事故は車両がT字路を右折する際に起きた。曲がる前の直進は自動運転で走行し、横断歩道前でいったん停止。その後、乗車していたオペレーターのマニュアル操作で再スタートした瞬間に接触したという。「スピードにして(時速)1、2キロ。時間にして1、2秒の間に接触が起こった」と語った。 事故の原因はまだ不明だが、車両は電気自動車(EV)で、ガソリンエンジン車と異なり接近時の音が静かなため、接近を知らせる音量をこれまでの2倍にするなどの対策を講じるとしている。現在、車両は運行を停止している』、「マニュアル操作で再スタートした瞬間に接触」、厳密には「自動運転」中の事故とはいえないのかも知れないが、被害者は「全治2週間のけがをした・・・28日に出場予定だった試合を欠場」、というのはやはり深刻だ。次の記事でもこの問題を取上げる。

第四に、この続きを、9月1日付けJBPressが掲載したジャーナリストの桃田 健史氏による「トヨタ自動運転車事故、目の前に叩きつけられた厳しい現実 「自動運転技術で事故撲滅」までの遠い道のり」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66744
・『2021年8月26日、東京パラリンピック選手村内でトヨタ自動車製の自動運転車「eパレット(e-Pallet)」とパラリンピック出場選手との接触事故が発生した。その影響でトヨタはeパレットの運行を同日から停止していたが、8月31日15時に運行再開することを大会組織委員会が決定した。 トヨタはオウンドメディア「トヨタイムズ放送部」で事故の発生状況と対策内容を示し、豊田章男社長が「この度接触した方の一日も早い回復をお祈りしている。(自動運転の)モビリティの運行停止で選手村の方々にご不便をおかけしたことを申し訳なく思う」と謝意を表明した』、なるほど。
・『事故再発を防ぐトヨタの対策  トヨタの発表内容から事故の発生状況を振り返ってみたい。 歩行者は視覚障害者で、信号機のない交差点を単独で渡ろうとしていたところ、車両が交差点を右折して接近し、車両は歩行者の動きを検知して停止した。その後、車内のオペレータが安全を確認して再度発進したうえで、交差点内の状況を確認して手動で減速を始めたが、道路を横断してきた歩行者を車両のセンサーが検知して自動ブレーキが作動した。それと並行してオペレータが緊急ブレーキを作動させたが、接触事故が発生した。 接触事故の発生時、交差点内に誘導員が2人いたが、パラリンピックのように多様な人がいる状況で、誘導員が複数の方向からの歩行者や車両の動向を確認できる環境ではなかった。誘導員とオペレータとの連携の仕組みが十分ではなかったという認識もあるという。 今後の対策としては、歩行者に対しては組織委員会が選手団長会議などで移動のルールなどを改めて周知し、車両については、自動運転ではなくマニュアルでの加速・減速・停止を行う。さらに、接近通報音の音量を上げ、搭乗員を増員することを決めた。 そのほか、交差点の誘導員を現在の6人から20人に増員し、車両担当と歩行者担当に分離して専業化する。同時に、信号の代わりとなって車両と歩行者を安全に誘導できる体制を構築するとした。 要するに、東京パラリンピック選手村においてeパレットはもはや自動運転車としての運用ではなく、高度な運転支援システムを持った小型電動バスという位置付けになったと言える。 これはあくまでも選手村が閉村するまでの期間、大会関係者が選手村内での移動に困らないような応急措置としており、その中でトヨタがより安全な自動運転車のあり方を検証していくことになる』、「トヨタ」としては、「安全な自動運転車」のPRをする筈だったのが、飛んだハプニングになったものだ。
・『コスト削減と安心・安全の両立が課題  では、トヨタの自動運転モビリティは今後どのような改善が可能なのか? 筆者がサポーター(永平寺町エボリューション大使)として参加している福井県永平寺町での自動運転実証試験(国土交通省、経済産業省、産業総合研究所が共同で実施)での現場の状況、さらに筆者がこれまで現場で取材してきた各種の自動運転車の状況を踏まえて考えてみたい。 国が自動車メーカーなどと協議して決めた自動運転に関する指針では、自家用車や商用車などを「オーナーカー」、公共交通を主体とした乗り物を「サービスカー」と定義している。東京オリンピック・パラリンピック選手村でトヨタが運行するモビリティはサービスカーである。自動運転サービスカーが目指すのは、「運行コスト削減」と「安心・安全」の両立だ。 全国各地で近年、路線バスやタクシーの運転手の高齢化が進み、新たな成り手を見つけることも難しくなってきた。また、自家用車の普及によって路線バス乗車客数が減る中、バス運行会社が運行ダイヤを見直して減便するケースも少なくない。地方自治体の中には、路線バス継続のためにバス運行会社に補助金を交付したり、コミュニティバスの費用を負担しているところもあるが、財政への負担が大きく、コミュニティバスの減便や廃止を検討せざるを得ない状況もある。 こうした状況を打開するため、搭乗員がいない自動運転バスや自動運転タクシーへの期待が高まっている。国と自動車産業界は、永平寺町や東京オリンピック・パラリンピックでの実証実験を国内外に向けたショーケースとして、サービスカーの自動運転化を検討してきた。 だが現状では、今回の選手村での接触事故への対策に見られるように、安心・安全を確保するためには、まだまだ人によるサポートが欠かせないことが分かる。実証試験では、事故が起こらなければ自動運転運行に関わる人の数を段階的に減らしていく。だが、一度でも事故が起こると、そうした流れが一気に逆戻りしてしまう。そんな厳しい現実を目の前に叩きつけられたような思いがする』、安全に関することでは当然だ。
・『自動運転技術は確かに必要だが  トヨタを含めた自動車産業界には、「死亡事故ゼロを実現するためには自動運転技術が欠かせない」という認識が存在する。そこには、死亡事故の多くが運転者の運転判断ミスや運転操作ミスによるものだという大前提がある。 確かに、完全自動運転まで至らなくても、自動運転技術を活用した高度な運転支援システムが事故発生を軽減しているとのエビデンスもある。今回のパラリンピック選手村内での接触事故においても、自動ブレーキが作動したことで接触時の速度が抑制されたことは事実だ。自動ブレーキの作動によって、接触した歩行者の負傷の度合いが抑えられた可能性もある。 これまでの自動運転技術の進化を俯瞰してみると、2010年代中盤以降、AI(人工知能)に関する研究開発が進むのと並行するように、一気に量産化に向けた動きが加速してきた。筆者は公道で一般車両と混流して走る実証試験車にも体験乗車する機会があるが、その技術進化の速さに驚かされることが多い。 その上で今回の接触事故を踏まえて、単なる技術論だけではなく、自動運転の社会との関係があるべき姿について、関係者はいま一度深く考えるべき時期ではないだろうか』、「自動運転の社会との関係があるべき姿について、関係者はいま一度深く考えるべき時期」、同感である。
タグ:自動運転 (その5)(2025年「自動運転レベル4」に立ちはだかる壁 自動運転普及のカギは「社会需要性」にある、自動運転バスが“絵にかいた餅"で終わる理由 永平寺町の実用化現場で感じた普及の難しさ、トヨタの自動運転車が選手村でパラ日本人選手と接触事故 豊田章男社長が謝罪、トヨタ自動運転車事故 目の前に叩きつけられた厳しい現実 「自動運転技術で事故撲滅」までの遠い道のり) 東洋経済オンライン 桃田 健史 「2025年「自動運転レベル4」に立ちはだかる壁 自動運転普及のカギは「社会需要性」にある」 「レジェンドの価格は、レベル3非搭載車よりも375万円も高い1100万円と高額」、も「社会受容性」に影響を与える要素だ。それにしても、レベル3の自動運転中に「TOR」が鳴った時に、居眠りなどしていたらどうなるのだろう。 私も渋滞区間はともかく、通常の区間で「自動運転」してもらいたいとは思わない。 「ホンダ」の「レベル3”」はどのような「評価」を受けるのだろうか。 「自動運転バスが“絵にかいた餅"で終わる理由 永平寺町の実用化現場で感じた普及の難しさ」 いくら電気を「電磁誘導方式」で取り込むとはいっても、たかが「ゴルフカート」に毛が生えた程度なのに、1台「数百万円程度」とはいささか高過ぎる印象だ。 高齢化が進むなかでは「地域交通をよりよい形にする」のは、喫緊の課題だ。大いに頑張ってほしい。 Newsweek日本版 ロイター 「トヨタの自動運転車が選手村でパラ日本人選手と接触事故 豊田章男社長が謝罪」 「マニュアル操作で再スタートした瞬間に接触」、厳密には「自動運転」中の事故とはいえないのかも知れないが、被害者は「全治2週間のけがをした・・・28日に出場予定だった試合を欠場」、というのはやはり深刻だ。次の記事でもこの問題を取上げる。 JBPRESS 「トヨタ自動運転車事故、目の前に叩きつけられた厳しい現実 「自動運転技術で事故撲滅」までの遠い道のり」 「トヨタ」としては、「安全な自動運転車」のPRをする筈だったのが、飛んだハプニングになったものだ。 安全に関することでは当然だ。 「自動運転の社会との関係があるべき姿について、関係者はいま一度深く考えるべき時期」、同感である。
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NHK問題(その5)(またもや菅総理の差し金か…? NHK「重役ポスト」をめぐる暗闘の一部始終、NHK有馬キャスター 人事異動でパリのヨーロッパ副総局長へ、「政権におもねる"国営放送"になりつつある」NHKの"番組介入問題"が示す末期症状 問われる経営委員会の”不当圧力”) [メディア]

NHK問題については、2月3日に取上げた。今日は、(その5)(またもや菅総理の差し金か…? NHK「重役ポスト」をめぐる暗闘の一部始終、NHK有馬キャスター 人事異動でパリのヨーロッパ副総局長へ、「政権におもねる"国営放送"になりつつある」NHKの"番組介入問題"が示す末期症状 問われる経営委員会の”不当圧力”)である。

先ずは、5月15日付け現代ビジネス「またもや菅総理の差し金か…? NHK「重役ポスト」をめぐる暗闘の一部始終」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/83142
・『異例の番狂わせ  「板野さんは67歳と高齢にもかかわらず、これで3度目の理事就任となった。異例中の異例です」(NHK中堅記者) 先月20日に行われたNHK経営委員会で、新年度の理事が決まり、安倍政権時代から官邸に近いとされる板野裕爾専務理事が再任された。 「理事の任期は最長2期4年」の慣例を破ったのもさることながら、局内外に衝撃を与えたのは、人事の裏で繰り広げられた激しい暗闘だ。 菅義偉総理は官房長官のときから、NHKに対する「圧力」をたびたび報じられてきた。昨年1月に就任した前田晃伸会長は、受信料値下げや局内改革を指示する菅総理に抵抗を試みるも、力負けしてきた経緯がある。 「前田会長としては、NHKに対する菅総理の影響力を削ぎたい。それで、総理側近の杉田和博官房副長官と親しい板野氏を退任させ、NHKエデュケーショナルの熊埜御堂朋子社長らを新任理事とする案を経営委員会に提出したのです」(NHKベテラン記者) だが、これが経営委員会から差し戻される「番狂わせ」が起こった』、「前田会長」を指名したのは安部前首相なので、菅首相とは折り合いが悪いのだろうか。
・『「会長の人事案が突き返されることは通常あり得ません。前田会長は案を撤回し、官邸の意向を考慮して板野氏に書き換え、再提出することになり大恥をかいたと噂されている」(前出・ベテラン記者) 板野氏は、菅総理が官房長官時代の'14年7月に『クローズアップ現代』に出演し、国谷裕子キャスターに激怒した際の放送総局長を務めていた。国谷氏の降板を主導したとされ、以降「官邸の代理人」とも言われてきた。 「官邸は森下俊三経営委員長を介して、板野氏再任の根回しを進めていたとみられる。森下委員長はNTT西日本元社長で、総務大臣を務めた菅総理とは旧知の間柄なのです」(前出・ベテラン記者) NHK広報局に詳しい経緯を尋ねたが「個別の人事についてはお答えしていない」と回答するのみ。もはや、菅総理に制圧されてしまったのか』、「菅総理」は辞任する方向とはいえ、首相官邸が「NHK」をがっちり握った体制は続くことになりそうだ。

次に、6月3日付けデイリー新潮「NHK有馬キャスター、人事異動でパリのヨーロッパ副総局長へ」を紹介しよう。
・『これまでにない新設ポスト  NHKニュースウオッチ9のキャスターを3月いっぱいで交代した有馬嘉男氏(55)が6月の人事で、パリにあるヨーロッパ副総局長に就くことが内示された。副総局長はこれまでにない新設ポストとされる。有馬氏の交代をめぐっては官邸の圧力、あるいは官邸への忖度説が取りざたされ、その後の人事が注目されていた。 有馬氏は1990年に入局後、経済部から国際部でキャリアを積み、シンガポール支局長や国際報道番組のキャスターを経て2016年にニュースチェック11の、17年からニュースウオッチ9のキャスターを担当してきた。 足掛け4年にわたったキャスター時代には演出家・宮本亞門が企画した動画プロジェクトを紹介した際に涙を流すなど、NHKには珍しく感情を表に出すこともいとわないキャスターとして人気を博した。 そんな有馬氏をそれまで以上に有名にしたのが、就任したばかりの菅義偉首相とのやりとりだった。 昨年10月26日、有馬氏は番組で、当時の臨時国会の焦点となっていた日本学術会議問題について菅首相に質した。それは一部、事前に打ち合わせなくダイレクトなものもあったとされ、菅首相は語気を荒らげて不快感を露わにするシーンが全国のお茶の間に届けられることとなった。 「あの時は担当の理事らがスタジオでやり取りを見守るなど、菅さんシフトを敷いていましたね」 と、NHKのある局員。首相はかつてNHKを管轄する総務相を務め、今もなお厳然たる影響力を保持している。やり取りを見守っていたとされる理事にとっては首相を迎えたというよりはむしろ、管轄する省庁のドンを迎えたという心境だったのかもしれない』、「有馬氏」の「キャスター」時代、「菅首相」との「やりとり」は見逃したが、ハッキリものを言うので好感がもてた。
・『とにかく自分の意見を言わないタイプを  改めて首相と有馬氏のやりとりを見てみると、特に突っ込んだ質問を有馬氏がしているわけではなく、見る人によってはせっかく時の宰相を呼んでいるのに物足りないなぁと映った点もあるかもしれない。 しかし官邸の考えはそうではなかったのか、放送後に内閣広報官からNHKの政治部長に対し、有馬氏に関して抗議があったという情報が駆け巡った。その後には朝日新聞が12月11日付で、 〈坂井学官房副長官は5日夜の会食の場で、菅義偉首相が出演した10月のNHKの報道番組をめぐり、「所信表明の話を聞きたいといって呼びながら、所信表明にない(日本)学術会議について話を聞くなんて。全くガバナンス(統治)が利いていない」などと言及した。坂井氏は7日、朝日新聞の取材に対し、会食の席での会話にすぎないとの認識を示したうえで、発言内容を認めて、「報道を規制すべきだという趣旨では全くない」と説明した』、「学術会議について話を聞くなんて。全くガバナンス(統治)が利いていない」、「ガバナンス」とは本来関係ない話だが、取材手法など報道の自由に触れないように逃げただけで、これは第三の記事にもある。
・『政治部は良くない、すでに終わっている  有馬氏としてはキャスターを4年やっていることなどから人事異動はいつあってもおかしくないとは思っていたようだが、 「それとは別に、“政治部は良くない、すでに終わっている”と話していることがあったと言います。安倍政権からずっと官邸に忖度して報じるべきものが報じられていないという不満が溜まっていたのは間違いありません」(同) 当初は国際部長のポストも取りざたされたが、報道局長が経済部出身者から政治部出身へと交代したことなどもあり、今回の人事に繋がったと指摘する声もある。 「新しくポストを作ってそこに押し込んだようにも見え、その意味では有馬さんの行く場所が他になかったということなんでしょうね。本人は海外に行きたい、それも本流であるアメリカへという希望があり、その一方、現場でやりたいという意向もあったようです。会社としてはアメリカへは難しいが、管理業務からは解放される副総局長として処遇しようということになったのかもしれません。その意味では思惑が一致したと言えるかもしれません」(同) ちなみに、有馬氏の前にウオッチ9のキャスターを務めていた河野憲治氏は、今回の人事でアメリカ総局長から解説委員長に栄転となっている。 ともあれ、ヨーロッパから有馬氏の元気な顔でお茶の間にニュースを伝えて欲しいという声も少なくないだろう。)と報じ、広報官の抗議の有無はともかく、官邸のNHKへの不満が明らかとなった。有馬氏の降板が明らかとなったのは今年2月のことだった。その後の会見で有馬氏が官邸の不興を買ったがゆえの忖度人事ではないかと問われた放送総局長は、「そのような人事はしていない。自主自律を堅持している」と訴えたが、 「菅さんと有馬アナのやりとり、内閣広報官による抗議報道、官房副長官がNHKに不満があるのを認めたこと……と、有馬さんを交代させるための状況証拠は確かにそろっていますよね(笑)。それとは別に、有馬さんとウオッチ9の編集責任者との年次差が広がっているのを是正する必要があって、交代は官邸の意向とは無関係だと指摘する声もありますが、真相は藪の中です」  別の局員によると、「有馬さんの後任はワシントン支局長などを務めた田中正良さんですが、かなり地味な印象がぬぐえないですよね。上層部は“とにかく自分の意見を言わないタイプを”と指示して人選を進めさせたと聞いています」』、「後任者」は本当に「地味」で、確かに「自分の意見を言わないタイプを”と指示して人選を進めさせた」結果のようだ。余りににもつまらないので、番組を殆ど観なくなった。

第三に、8月29日付けPRESIDENT Onlineが掲載したメディア激動研究所 代表の水野 泰志氏による「「政権におもねる"国営放送"になりつつある」NHKの"番組介入問題"が示す末期症状 問われる経営委員会の”不当圧力”」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/49288
・『白日の下にさらされた番組への干渉  NHKの最高意思決定機関である経営委員会が自壊しつつある。 7月8日、NHK経営委員会は、NHKのかんぽ生命保険の不正販売報道をめぐって、経営委員会が2018年10月23日に執行部トップの上田良一会長(当時)に「厳重注意」した議事の全容を開示したと発表した。3年近く経ってようやく、である。 「NHKは存亡の危機に立たされるようなことになりかねない」 その当時、「厳重注意」を受けた上田会長は、「厳重注意」に至る経緯が表に出ればNHKはかつてない危機に直面すると警告したという。経営委員会が個別番組への干渉を禁じている放送法に抵触することを確信していたからにほかならない。 そして今、経営委員会がかたくなに公表を拒んできた議事録が白日の下にさらされ、経営委員会の番組介入は疑いようもなくなった。上田会長の「予言」どおり、執行部のガバナンス(企業統治)を問題視した経営委員会そのもののガバナンスが欠けていることが露見したのである。 放送法を遵守できない最高意思決定機関をいただくNHKは、組織としての根本的なあり方が問われる事態となった。それは、NHKが、受信料を支払っている国民のための「公共放送」か、権力におもねる「国営放送」か、を問われる重大局面に立たされることになったともいえる』、現在のところは明らかに「権力におもねる「国営放送」」だ。
・『始まりは「クローズアップ現代+」  NHKのかんぽ不正報道問題の経過を振り返ってみる。 始まりは、2018年4月24日放送の「クローズアップ現代+プラス」。日本郵政グループの郵便局員がかんぽ生命の保険を不適切な営業で販売していたことを報じた。 その後、SNSなどを駆使した続編を制作しようとしたところ、日本郵政グループが激しく反発。8月に入って、続編の放送は取りやめになった。 だが、それだけでは終わらなかった。 番組自体に不満をもつ日本郵政グループは10月初め、NHKの番組幹部が日本郵政グループに対し「会長は番組制作に関与しない」という趣旨の説明をしたこと(放送法上では番組制作の最終責任者は会長)を捉えて、長門正貢日本郵政社長、横山邦男日本郵便社長、植平光彦かんぽ生命保険社長の三者連名で、経営委員会に「ガバナンス体制の検証と必要な措置」を要求した。 主導したのは、NHKを監督する総務省の事務次官の経歴をもつ鈴木康雄・日本郵政上級副社長。抗議文を発出する前には、やはり総務省の監督下にあるNTT西日本の社長を務めた経営委員会の森下俊三委員長代行(当時)を訪ね、きっちり対応するよう求めていた。 経営委員会は、日本郵政グループの意に沿う形で議論を進め、石原進委員長(当時、元JR九州社長)と森下委員長代行のリードで10月、上田会長に「厳重注意」を行った。執行部は反発したものの、結局、上田会長が日本郵政グループに事実上の謝罪文を届け、いったん幕引きとなった』、混乱の大本は「鈴木康雄・日本郵政上級副社長」のようだ。
・『正鵠を射ていたNHKの番組  「厳重注意」をめぐる一連の経緯は、一切公「表されず水面下に埋もれていたが、1年ほど経った2019年9月、毎日新聞の報道で発覚した。 「経営委員会は個別番組への編集に干渉することを禁じた放送法に違反しているのではないか」「『厳重注意』によってNHKの番組制作の自主自律が脅かされたのではないか」という「公共放送・NHK」の存立の根幹にかかわる問題が急浮上したのだ。 これ以後、かんぽ不正報道問題は、大きく動く。 国会でも取り上げられ、事実関係を解明するため、議事録や関連資料の全面開示を求める声が高まった。しかし、経営委員会は「非公表を前提とした意見交換の場での議論だった」として「厳重注意」に至る議事の開示には応じようとしなかった。 一方、2019年夏ごろから全国の郵便局でかんぽ生命保険の不正販売が表面化、膨大な数の被害者が存在することがわかり、日本中が騒然となった。 「クローズアップ現代+」の報道はまさに正鵠せいこくを射ていたのである。 日本郵政グループが不正販売を認めた後の7月には、棚上げされていた続編が放送されたが、もはや日本郵政グループに番組を押しとどめるすべはなかった。 年末になると、日本郵政グループは、NHKに抗議した3社長と鈴木上級副社長が引責辞任、3カ月の業務停止に追い込まれるという前代未聞の不祥事に発展した』、「NHKに抗議した3社長と鈴木上級副社長が引責辞任、3カ月の業務停止に追い込まれるという前代未聞の不祥事に発展」、とは当然のことだ。
・『2度の答申を受けてようやく議事録を全面開示  経営委員会は12月、上田会長の再任を見送り、「厳重注意」を主唱した森下委員長代行が委員長に昇格。新体制になっても、議事録の非開示を継続した。 ところが、事態は、経営委員会の不実を許さぬ方向で展開する。 2020年5月、NHKの情報公開・個人情報保護審議委員会(委員長・藤原靜雄中央大学大学院教授)が、議事録の全面開示を答申したのだ。 さすがに経営委員会も無視するわけにはいかず、しぶしぶ「議事概要」だけを公表した。 しかし、答申をないがしろにされた審議委員会は2021年2月、改めて全面開示を答申。そこでは、「情報公開制度の対象となる経営委員会が対象文書に手を加えることは、改ざんというそしりを受けかねない」と指弾した。 そして7月8日、経営委員会は、「厳重注意」から3年近く、審議委員会の最初の答申から1年余り経って、ようやく議事の全容を開示、真相が明らかになったのである』、「NHKの情報公開・個人情報保護審議委員会」が「議事録の全面開示を答申」したのは、大したものだが、背景には何があったのだろう。
・『「ガバナンス問題」にすりかえられた番組介入  全面開示された議事録で浮き彫りになったのは、経営委員会による番組介入の疑いだけではない。経営委員の多くが放送法をきちんと理解しているとは言い難く、経営委員会という最高意思決定機関の一員としての自覚に欠けることや、当然の責務である議事の透明性を確保しようとしなかったことなど、公共放送を標榜するNHKにとって致命傷になりかねない問題ばかりだ。 経営委員会が「厳重注意」を発した当時の議論を詳しく見てみる。 まず、日本郵政グループから「NHKはガバナンスが効いていない」との抗議文を受け取った直後の2018年10月9日の経営委員会。 石原委員長は、抗議文が発出された背景に「郵政には放送に詳しい方がいらっしゃる」と鈴木上級副社長の存在をちらつかせ、「経営委員会は、番組の中身の問題だと受け入れ難いが、ガバナンスの問題なら放ってはおけなかろう」と、真意は番組内容に対する不満だが、放送法に抵触しないよう「ガバナンス問題」を持ち出してきたとの認識を示した。 これを受ける形で、森下委員長代行は、SNSなどを活用して番組を制作するオープンジャーナリズムについて「ちゃんと取材になっているのか。一方的な意見だけが出てくる番組はいかがなものか」と取材手法を批判、さらに番組制作や取材方法の基準を経営委員会が関与してつくるべきだと踏み込んだ。 経営委員会は、禁じられているはずの個別番組への介入が、「ガバナンスの問題」にすりかえれば容易にできてしまうことを実践してしまったのである』、第二の記事にもあったが、「経営委員会は、禁じられているはずの個別番組への介入が、「ガバナンスの問題」にすりかえれば容易にできてしまうことを実践してしまった」、大義名分の巧妙なすり替えだ。
・『報告を無視して口々に番組批判  そして、上田会長を「厳重注意」した2018年10月23日の経営委員会。 冒頭、高橋正美監査委員から「NHKから日本郵政グループへの説明責任は果たされ、ガバナンスに問題はなかった」旨の報告がなされた。 ところが、その報告をあえて無視するかのように、森下委員長代行が「今回の番組は極めて稚拙。ほとんど取材をしていない」「つくり方に問題がある」「視聴者目線に立っていない」と、番組批判の口火を切った。 すると、他の経営委員も口々に「誤解を与えるような説明がある」(小林いずみ委員)、「一方的になりすぎたような気がして」(渡邊博美委員)など、取材方法や番組の内容にかかわる意見が続出。さらに、「番組の作り方が問題にされた。会長はその責任がある」(中島尚正委員)と禁句ともいえる見解まで飛び出した』、「2018年10月23日の経営委員会」は、事前に打ち合わせをしていたのだろう。
・『経営委員会の圧力に屈した執行部  そのうえで、石原委員長は、「番組内容の問題」ではなく、あくまで「ガバナンスの問題」を強調、番組責任者へのガバナンス不足などを理由とした「厳重注意」を取りまとめ、上田会長に口頭で「厳重注意」を伝えた。 これに対し、上田会長は、「厳重注意」は「NHK全体、経営委員会も含めて非常に大きな問題になる」と強く反発。さらに、冒頭で紹介した「NHK存亡の危機」発言につながっていく。 監査委員会が「問題なし」と結論づけているのに、経営委員会が「問題あり」と正反対の結果を出したのだから、当然の反応だった。 だが、石原委員長や森下委員長代行は譲らず、「必要な措置」を講じるよう迫った。 上田会長は、執行部に持ち帰ったものの抗し切れず、最終的に日本郵政グループに「(番組責任者の説明は)不十分で遺憾」とする事実上の謝罪文を届けることになり、経営委員会の圧力に屈した形で区切りがついた』、「上田会長」は最大限抵抗したのだろうが、「経営委員会の圧力に屈した形で区切りがついた」のは残念だ。
・『報道各社による経営委員会の「放送法違反」断罪  そして2021年7月8日。「議事概要」ではわからなかった「厳重注意」をめぐる議論の全容が判明すると、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞など報道各社は、それぞれ社説で「経営委員会の番組介入は明らか」と断じた。放送界に詳しい有識者も、口々に経営委員会の放送法違反を指摘した。 放送法は、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」(第三条)と番組編集の自由をうたい、「委員は、個別の放送番組の編集について、第三条の規定に抵触する行為をしてはならない」(第三十二条)と経営委員の権限を規制している。 番組制作や編集に責任を持つのは会長以下執行部で、別組織である経営委員会は番組に干渉できないと、明確に定めているのだ。 だが、「厳重注意」を導いた経営委員会の議論をみると、石原委員長や森下委員長代行はもとより「。 かつて経営委員の中には「『ニュースの内容がおかしい』と、報道担当理事に注意しておいた」と自慢げに語る輩もいたというから、不思議ではないかもしれないが……。 経営委員会の事情に詳しい元NHK幹部は「コトの重大性を正確に理解していたのが、経営委員も監査委員も経験した上田会長だけだったというのは、とても残念」と嘆く』、「多くの経営委員が、条文に込められた趣旨をきちんと理解しているのかどうかを疑わざるにはいられない発言を続けていた」、ということは「経営委員会」の事務局スタッフから、「委員」への法律面のアドバイスはないようだ。
・『信念もプライドもない経営委員たち  7月23日には、別の議事録が公表された。 審議委員会が「議事の全面開示」を求める2度目の答申が出されてから5カ月もたなざらしになっていた間に開かれた経営委員会の10回分の議事録である。 これをみると、2度にわたる答申を受けた後も、経営委員会は、すでに公表した部分以外を「黒塗り」にして一部開示にとどめる案を模索するなど、なお全面開示への抵抗を続けていた。 だが、「経営委員会が審議委員会の答申と異なる議決をする場合、NHKの定款に違反する恐れがある」「経営委員が定款を守る義務を定めた放送法に違反するとみなされる恐れがある」という弁護士の見解が示されると、風向きは一変する。 放送法違反の嫌疑が自分たちにかかるとわかったとたんに、多くの経営委員が、それまで営々と積み上げてきた議論を放り出し、次々に答申受け入れに方向転換したのだ。 経営委員としての信念もプライドもあったものではない。単なる名誉職として引き受けていた節もうかがえ、ひたすら保身に走るさまは滑稽にさえ見える。 議論の流れの急変に、森下委員長も、ついに観念。答申に全面的に従うことを受け入れざるを得なくなった。 森下委員長は、いまだに「番組介入には当たらない。その後の放送にも影響はなかった」と悪あがきを続け、辞任する意思はないと開き直っている。 森下氏は、NTT西日本社長に続きNHK経営委員長を歴任、通信と放送の巨大会社のトップを務めるという業績を残したが、すっかり晩節を汚してしまった』、「森下氏は」これだけ主導的役割を果たした責任を取って、本来、「NHK経営委員長」を辞任すべきだ。
・『置き忘れた視聴者代表の自覚  翻ってみれば、経営委員会の大失態は、執行部のトップを「厳重注意」するというNHKにとっての最重要案件を、非公表の議論の場で論じ、極秘に処理したことに行き着く。 そうさせたのは、当時の石原委員長以下の経営委員に、「厳重注意」が放送法に抵触しかねないというやましさがあったからと推察される。 「番組介入には当たらない」と胸を張るなら、最初から堂々と議事を公表し、国民の判断を仰ぐべきだった。 もともと、放送法は「委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、経営委員会の定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表しなければならない」(第四十一条)と、議事録の公表を定めている。 この規定は、経営委員長が恣意的に公開・非公開を判断することを認めているわけではなく、審議委員会も、議事の「非開示」を認めず断罪した。 徹底した情報公開は、国民に受信料を負担してもらうための大前提で、NHKの生命線にほかならない』、「徹底した情報公開は、国民に受信料を負担してもらうための大前提で、NHKの生命線にほかならない」、同感である。
・『「もはや末期症状」NHKに残した傷跡は大きすぎる  かんぽ不正報道問題で、経営委員会は、あまねく視聴者の代表としてNHKの業務をチェックすべき存在だったのに、日本郵政グループという特別扱いの「視聴者」の代弁者と化してしまった。 放送法の理念を十分に理解できず、視聴者代表の自覚を置き忘れ、かんぽ保険の被害拡大を食い止めようとする番組を封じ込もうとした経営委員会の罪は重い。 情報隠蔽いんぺいが視聴者の信頼を裏切ることにつながることがわからないほど、無知蒙昧の集団に成り下がってしまったのである。 もはや末期症状を呈していると言わざるを得ない。 もっとも、経営委員会に無理筋を押しつけた張本人は、NHKを監督する総務省の事務次官の経歴をもつ鈴木日本郵政上級副社長だという指摘もある。日本郵政グループの中枢にあって、NHK攻撃にうつつを抜かし、足元で起きたかんぽ不正販売問題では適切な対処ができず被害を拡大させてしまった。その結果は、日本郵政グループ3社長の辞任につながり、さらに、後輩の鈴木茂樹事務次官まで辞任に追い込んだ。そして、いまだに森下委員長をさらし者にしている。 かんぽ不正報道問題は、NHK経営委員会がきちんと機能しているのかが問われた「事件」であり、「公共放送」を維持するための受信料制度の根幹にかかわる問題としてとらえられねばならない。 このため、現在、NHK内部からも検証が進められている。 NHK放送文化研究所の村上圭子研究員が、「文研ブログ」で、8月13日の第一弾を皮切りに、順次、実相を解き明かそうと試みている。 一連のかんぽ不正報道問題が、NHKに残した傷跡はとてつもなく大きい。 上田会長の警告は、まさに現実のものになりつつある』、「NHK内部からも検証が進められている」、のはいいことだが、問題は責任を取るべき「NHK経営委員」が生き残っていることだ。きちんと責任を取らせるべきだが、首相官邸や総務省にはその気がないようだ。野党にはもっと頑張ってほしい。
タグ:「NHK内部からも検証が進められている」、のはいいことだが、問題は責任を取るべき「NHK経営委員」が生き残っていることだ。きちんと責任を取らせるべきだが、首相官邸や総務省にはその気がないようだ。野党にはもっと頑張ってほしい。 「徹底した情報公開は、国民に受信料を負担してもらうための大前提で、NHKの生命線にほかならない」、同感である。 「森下氏は」これだけ主導的役割を果たした責任を取って、本来、「NHK経営委員長」を辞任すべきだ。 「多くの経営委員が、条文に込められた趣旨をきちんと理解しているのかどうかを疑わざるにはいられない発言を続けていた」、ということは「経営委員会」の事務局スタッフから、「委員」への法律面のアドバイスはないようだ。 「上田会長」は最大限抵抗したのだろうが、「経営委員会の圧力に屈した形で区切りがついた」のは残念だ。 「2018年10月23日の経営委員会」は、事前に打ち合わせをしていたのだろう。 第二の記事にもあったが、「経営委員会は、禁じられているはずの個別番組への介入が、「ガバナンスの問題」にすりかえれば容易にできてしまうことを実践してしまった」、大義名分の巧妙なすり替えだ。 「NHKの情報公開・個人情報保護審議委員会」が「議事録の全面開示を答申」したのは、大したものだが、背景には何があったのだろう。 「NHKに抗議した3社長と鈴木上級副社長が引責辞任、3カ月の業務停止に追い込まれるという前代未聞の不祥事に発展」、とは当然のことだ。 混乱の大本は「鈴木康雄・日本郵政上級副社長」のようだ。 現在のところは明らかに「権力におもねる「国営放送」」だ。 「「政権におもねる"国営放送"になりつつある」NHKの"番組介入問題"が示す末期症状 問われる経営委員会の”不当圧力”」 水野 泰志 PRESIDENT ONLINE 「後任者」は本当に「地味」で、確かに「自分の意見を言わないタイプを”と指示して人選を進めさせた」結果のようだ。余りににもつまらないので、番組を殆ど観なくなった。 「学術会議について話を聞くなんて。全くガバナンス(統治)が利いていない」、「ガバナンス」とは本来関係ない話だが、取材手法など報道の自由に触れないように逃げただけで、これは第三の記事にもある。 「有馬氏」の「キャスター」時代、「菅首相」との「やりとり」は見逃したが、ハッキリものを言うので好感がもてた 「NHK有馬キャスター、人事異動でパリのヨーロッパ副総局長へ」 デイリー新潮 「菅総理」は辞任する方向とはいえ、首相官邸が「NHK」をがっちり握った体制は続くことになりそうだ。 「前田会長」を指名したのは安部前首相なので、菅首相とは折り合いが悪いのだろうか。 NHK問題 「またもや菅総理の差し金か…? NHK「重役ポスト」をめぐる暗闘の一部始終」 (その5)(またもや菅総理の差し金か…? NHK「重役ポスト」をめぐる暗闘の一部始終、NHK有馬キャスター 人事異動でパリのヨーロッパ副総局長へ、「政権におもねる"国営放送"になりつつある」NHKの"番組介入問題"が示す末期症状 問われる経営委員会の”不当圧力”) 現代ビジネス
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資本主義(その5)(「炎と猫と資本主義」に見る「2021年欲望の行方」 異色TV番組の背景「資本のない資本主義」の時代、「市場原理主義を徹底するとコミュニズムに至る」私有財産に定率の税(富のCOST)を課すと効率的な市場が生まれる、斎藤幸平さんが勧める思想・教養書5冊2題:#1「みんな頑張って働いているのに幸せそうに見えない」、#2コロナ対策で政府が供給した巨額のお金はどこへ消えたか? 銀行も証券会社も退職した“森ビル”元幹部が語る資本主義の“限界”) [経済]

資本主義については、昨年10月14日に取上げた。今日は、(その5)(「炎と猫と資本主義」に見る「2021年欲望の行方」 異色TV番組の背景「資本のない資本主義」の時代、「市場原理主義を徹底するとコミュニズムに至る」私有財産に定率の税(富のCOST)を課すと効率的な市場が生まれる、斎藤幸平さんが勧める思想・教養書5冊2題:#1「みんな頑張って働いているのに幸せそうに見えない」、#2コロナ対策で政府が供給した巨額のお金はどこへ消えたか? 銀行も証券会社も退職した“森ビル”元幹部が語る資本主義の“限界”)である。

先ずは、本年1月1日付け東洋経済オンラインが掲載したNHKエンタープライズ制作本部番組開発エグゼクティブ・プロデューサーの丸山 俊一氏による「「炎と猫と資本主義」に見る「2021年欲望の行方」 異色TV番組の背景「資本のない資本主義」の時代」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/398342
・『資本主義が抱える本質的な問題を世界の知性とともに多角的に考察する番組「欲望の資本主義」。新春恒例となった異色の教養エンタメ番組で、『欲望の資本主義4スティグリッツ×ファーガソン不確実性への挑戦』など、書籍化もされている。今回特に注目されるのが「無形資産」と格差拡大だ。コロナ禍でデジタルテクノロジー主導の経済がますます存在感を増している中、日本と世界はどこへ向かうのかを追った元日放送の「BS1スペシャル欲望の資本主義2021~格差拡大社会の深部に亀裂が走る時~」の見どころをお届けする。 一方、そうしたバーチャルな経済が増殖する中で注目されている番組が、「ネコメンタリー」と「魂のタキ火」だ。一見、つながりのないように見える3番組に通底する問題意識について、番組を企画したNHKエンタープライズ番組開発エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏に伺った』、残念ながら両方とも見逃したので、この記事はとりわけ興味深い。
・『火が、炎が、人々の心を開放する  「魂のタキ火」なる番組を始めた。 冒頭からカメラはひたすら燃える火を捉え、炎のアップの映像が延々と続く。ナレーションはない。パチパチと薪がはぜる音、風の音、遠く過ぎゆく電車の音もうっすらと鼓膜に響く。そして画面には、炎が相変わらず揺れ続ける……。 いったいこれは「番組」なのか、たまたまテレビを点けて、この映像に遭遇した方はその唐突な出会いに一瞬戸惑われることだろう。しかし同時に、少しずつ時の流れの感じ方が変わり、感覚の変容を覚えるという方も少なくない。 そのうちに炎の向こうから 聞こえてくる、とりとめのない言葉、素朴な声、洒脱な会話……。ようやく、さまざまなジャンルの3人のゲストたちがタキ火を囲み、言葉を交わすさまが描き出される。台本はもちろんない。炎を囲むことで、たまたま居合わせたかのような3人に、日常から少し自由になって、心の底に眠る思いを吐露してもらおうというわけだ。 そして、もう1つ特筆すべき点があるとすれば、「主役は炎とあなたです」というコピーを番組HPにも沿わせているように、ゲストの皆さんの話から刺激を受けた視聴者の方々も、自由に想像力の世界に遊んでほしいという思いがそこにはある。 話の行間から想起された思いを、それぞれが炎に投影させる。もちろん番組というものはどなたにもどのようにでも自由に見ていただくもの、すべての企画が「主役はあなた」なのだが、そのことをあらためてど真ん中に考えた企画だともいえるのかもしれない。 こんな番組を毎週火曜の夜にお送りしているわけだが、別に奇をてらって考えたわけではない。企画したのは1年以上前のこと、さらに言えば30年以上前と言ったら呆れられるだろうか。 駆け出しのディレクターだった頃、ひたすら滝や炎をカメラが捉える番組は……などと口にして、プロデューサーたちに「テーマは何か?それで何を狙うのか?」と問い詰められ、言葉に窮した記憶がある。 ゆらめく炎、流れ落ちる滝、寄せては返す波、木々を揺らす風……、 そうした揺らぎを捉えた映像は今でこそ、このYouTube時代、「癒やし」の名の下に広がりを見せ珍しくなくなり、「コンテンツ」として立派に成立する時代となった。 皮肉なことにこのコロナによる不透明な状況の中、「安らぎ、静かな落ち着けるひととき」とご好評をいただいている。 なぜ今、火、炎なのか?つかまえられない揺らぎを宿し、すべてを燃やし尽くす炎は、原初の存在、文明の始まりでもある。そして「町の火を消してはならない」などと表現されるように、小さくともその存在をなくすべきではないものにたとえられることがある。 怖くて偉大で大切さの象徴たる火は、私たちの本能を刺激する。そしてそれは、実は現代社会の大いなる欠落の象徴でもあるのではないだろうか?』、「すべての企画が「主役はあなた」なのだが、そのことをあらためてど真ん中に考えた企画だともいえるのかもしれない」、その通りなのだろう。
・『デジタルテクノロジーが招く無形資産の時代  現代の社会をあらためてフラットに眺めたとき、デジタルテクノロジーの進化、デジタル技術がもたらした変貌ぶりは見落とすわけにはいかないだろう。この四半世紀の間、IT、ビッグデータ、AI、そして今DXと語られる資本主義の「最前線」は、その多くをデジタル技術に負い、人々のコミュニケーション様式も、ビジネスの作法も、生活スタイルも大きく変わった。 人々の心、精神、思考などのかけがえのない人間らしさとされてきたものも、いつの間にか易々と数量化、データ化され、アルゴリズムで表現できるというストーリーがまことしやかに語られるようになった。 本当に人間のすべてがデジタルに解析できるか否か、その問題を今ここで俎上に乗せようとは思わないが、ここで重要なのは、それが錯覚であれ、あたかもすべてが解析されてしまうかのごとき感覚を持つ人間の性である。そしてそれは、自らの精神による主体性への懐疑を生み、ある種の無力感を生んでいるようにも思える。 ちなみに私はそれを「デジタル・アパシー」と勝手に呼んでいるのだが、悲喜劇的な事態ではある。私たちの生活を豊かにするための手段だったはずの技術がいつの間にか目的化、人間がシステムに合わせている倒錯的な状況は、日常さまざまなところで多くの人々が経験しているのではないだろうか? 自分で設定したパスワードが思い出せずに冷や汗をかくぐらいはご愛嬌だが、「人が選択するよりデータに基づく選択のほうが正しい」「AIに人生の目的を設定してもらうほうが楽だ」といった声まで聞くようになると、少し恐ろしくなる。実際、現在のデジタルテクノロジーによる資本主義は私たちに不思議な「夢」を見させるのだ。それは、希望なのか?悪夢なのか?そこでも私たちは立ち止まり、安易な二元論の選択に乗らないことだ。 2016年春に始まり、翌年以降新春恒例の番組となった「欲望の資本主義」の中にあっても、このデジタルテクノロジー主導の経済の変化については、毎年重要な問題の1つとしてきた。新たに2021年元日にお送りする新作も、この混迷する状況の中にあって技術の問題は避けて通れそうにない。 もちろん今回はパンデミックという思わぬ事態の影響から語り始めることになるが、コロナが浮き彫りにしたのは従来からの本質的な問題であり、構図は変わらず、状況をさらに加速させただけともいえる。デジタル資本主義による格差の拡大、ゲーム、オンラインなどの伸び……、失業、倒産などの憂き目に遭う人々を尻目に、ネット空間の中の「バーチャル」経済は躍進する。 そこで注目を浴びているのが「無形資産」なる概念だ』、「私たちの生活を豊かにするための手段だったはずの技術がいつの間にか目的化、人間がシステムに合わせている倒錯的な状況は、日常さまざまなところで多くの人々が経験しているのではないだろうか?』、確かにその通りだ。
・『「無形資産」が生み出す渦巻きその力が及ぶのは…?  「見えない資産」とも言われ、英インペリアル・カレッジ・ビジネススクールのジョナサン・ハスケル教授らによって示された「無形資産」なる概念が、現代の資本主義にあっては企業価値を左右するものになっている。 無形資産とは、モノとして実態の存在しない資産だ。例えば特許や商標権や著作権などの知的資産、人々の持つ技術や能力などの人的資産、企業文化や経営管理プロセスなどがこれにあたる。 これは実体を伴わない資産であることから、会計制度上では原則として資産として計上することはできなくなっているが、そこを見直していく気運も高まっているようだ。現金、証券、商品、不動産など実態の存在する資産である「有形資産」とは異なり、計測の仕方が難しいであろうことは想像にかたくない。 しかし、この文字どおり形を持たない資産、ソフト、ブランド、アイデアなどが、今、経済を動かす主力となっている。GAFAの強大化に象徴されるように、その求心力になっているのは、情報であり、インテリジェンスであり、未来への可能性なのだ。) 今、人々はモノではなく夢に投資する。そしてそれは、「見えない資本」による資本主義、一見「資本のない」資本主義が世界に、ネット空間を介して広がっていることを物語る。確かに古くはすでに1970年代から『脱工業社会の到来』(ダニエル・ベル)、『第三の波』(アルビン・トフラー)など、モノの生産を主軸とする工業化の後にやってくる経済の潮流について語られ日本のビジネス論壇でも話題となっていたが、その引き起こす変化、与える影響の大きさが、今切実なものとなってきているということだろう。 商品は、情報、知識、感性……、さらに進めば、共感、感情、精神、イメージ……。デジタルテクノロジーの複製技術は、そうした「幻影」も「複製」「増幅」「拡散」させていくことにも長けている。コロナの中、人々が直接の接触を避け、いよいよネットの海の中に埋没する時代に、「無形資産」は大きな渦巻きの中心にあるかのようだ。そこから生み出される波は、現代社会の岸壁にも打ち寄せ、徐々に浸食、いつの間にか社会の構図を変えていくように見える。変化は静かに確実に押し寄せる』、「いよいよネットの海の中に埋没する時代に、「無形資産」は大きな渦巻きの中心にあるかのようだ」、上手いこと言うものだ。
・『現代はトキ消費、イミ消費の時代  モノからコト、コトからトキ、あるいはイミへ……。現代はトキ消費、イミ消費の時代ともいわれるようになってからもすでに久しい。ユーザーのゲーム内での滞留「時間」を重視しある種の「囲い込み」を狙う戦略や、人々が商品に見いだすそれぞれの物語における「意味」の発見にこそ付加価値があるとする発想がそうしたトレンドを支えている。そこで商品となっているのは、「アイデア」であり、「創造性」であり、「人生の時間」なのだ。 それはある意味、従来の生産手段に囚われることなく、無限の「生産」「消費」を可能にする資本主義ともいえる。しかし同時に、フランスの知性ダニエル・コーエンがかつて番組内でも用いた表現を引けば、すべてのプレーヤーに「創造的であれ、さもなければ、死だ!」(「欲望の資本主義2018」)と宣言するような過酷な社会でもあるのだ。 そこには功罪、光と影がある。資本主義の常として、成長が、生産性の向上が至上命題となるとき、このデジタルテクノロジー主導の「資本のない」資本主義にあっての「成長」とは?「生産性」とは? 工業化の時代と同じように「成長」も「生産性」も定義できないとするならば、私たちはどこかで間違ったのか?それは資本主義がはらむ根源的な不安定性なのか?それとも……?まるでメビウスの輪のように反転しながら原点へと回帰しつつ、問いは続く。 コロナが加速化させるのは、単に格差問題というにとどまらず、こうした社会の歪な構造変化なのではないだろうか?「富を生む構造」を経済理論のみならず、社会哲学的にも解明する必要があるゆえんである。そしてそれは、「経済」現象を抽象化することに対して極めて注意深くあらねばならない探究であると、あらためて思う。 そして、この「無形資産」にこそ、ある意味究極的な「欲望の資本主義」の課題がある。毎回冒頭に「やめられない、止まらない、欲望が欲望を生む……」というナレーションをリフレインしてきたが、それは強欲批判というより、際限なく自己増殖する人の欲望、資本の運動性に着目しての表現だった。 「未来の可能性」という幻想を貨幣に抱くのと同様、「無形資産」=形なきものへの欲望も始末に負えなさそうだ。「夢」なしでも「夢」だけでも生きられない人間の性。世界を覆う自然の脅威の中、「欲望が欲望を生む」資本主義は、社会は、どこへ向かうのか?) 今回の「欲望の資本主義2021」では、こうした状況を、先にあげたジョナサン・ハスケル他、ノーベル賞受賞の重鎮でいつもユニークな視点を世に問うているイェール大学のロバート・シラー教授、フランスの異才エマニュエル・トッド氏、さらに経済発展や民主制の研究で世界的に知られ最近は新たな経済学のスタンダードとなる教科書を執筆した気鋭のマサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授、マイク・サヴィジ氏、グレン・ワイル氏ほかさまざまな世界の知性へのインタビューに、多面的な考察を織り成し考えていく。 無形資産が生み出す異形の資本主義。その運動性を渦巻きにたとえて表現してみたわけだが、渦であるなら中心もあるはずだ。台風ならば、中心は無風にして穏やかな青空が広がっているだろう。 その新たな資本主義の「台風の目」に、冒頭で触れた、静かに揺れて燃える炎をイメージすると言ったら、驚かれるだろうか?現代に至るまで高度な文明を発展させてきた人類は、今その原点に帰りたいと、どこかで無意識に思っていると見えなくもないのだから』、「現代に至るまで高度な文明を発展させてきた人類は、今その原点に帰りたいと、どこかで無意識に思っていると見えなくもないのだから」、なるほど。
・『炎と猫と資本主義欲望の行方は?  意識か無意識か、原点への回帰を志向する現代人。その視点で、もう1つ重なる問題意識で発案した企画がある。 「ネコメンタリー猫も、杓子も。」まさに「猫も杓子も」猫ブームの中、「もの書く人」と愛猫の日常をそっとカメラで記録、その関係性を描き出そうという一風変わった、柔らかなタッチのドキュメンタリーを「ネコメンタリー」と名付けた。漱石以来、多くの作家たちが猫に投影させてきたさまざまな心情が、現代の「もの書く人」と愛猫の姿を通して描かれる。 幼さと老成が同居し、あくまでもマイペースでアマノジャクな存在である猫は、ものごとをさまざまな角度から切りとろうと企む作家、表現者たちと、もともと相性がいい。 とはいえ、この何年にもわたる猫ブームの中、その関係性から現代の何が見えてくるのか?現代人が猫という存在に何を託しているのか?あらためて映像を通して考察しようというわけだ。そこにも、野生への憧憬であり、文明化の中である種の欠落を埋めようとする私たち自身の姿が見え隠れするように思われるのだ。漱石以来の、私たちの猫への想いの投影は続く。 企画のテーマは、いつも時代との対話だと思っている。日々、日常の些末な一場面から大衆的な人気を獲得する社会風俗まで、聖俗、硬軟、すべてつながっている。そうしたあらゆるものを同時代の現象として捉え、みなさんとともに考えるきっかけとすることができるのが、映像という媒体の可能性だといつも思う。 炎を眺め、猫と戯れながら、資本主義の本質へ……。 2021年が始まる』、「幼さと老成が同居し、あくまでもマイペースでアマノジャクな存在である猫は、ものごとをさまざまな角度から切りとろうと企む作家、表現者たちと、もともと相性がいい」、このシリーズも見逃したのは本当に残念だ。

次に、5月6日付けダイヤモンド・オンライン「「市場原理主義を徹底するとコミュニズムに至る」私有財産に定率の税(富のCOST)を課すと効率的な市場が生まれる【橘玲の日々刻々】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/270251
・『「市場原理主義を徹底するとコミュニズムに至る」などというと、なにを血迷ったことをと思われるだろうが、エリック・A・ポズナーとE・グレン・ワイルは『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(東洋経済新報社)でそう主張している。それもポズナーは著名な法学者、ワイルは未来を嘱望される経済学者だ。原題は“RADICAL MARKET: Uprooting Capitalism and Democcy for a Just Society(公正な社会のために、資本主義と民主政を根底から覆す)”  この大胆(ラディカル)な理論を紹介する前に、著者たちのバックグラウンドについて触れておこう。 エリック・ポズナーは55歳で、シカゴ大学ロースクールの特別功労教授。法や慣習(社会規範)をゲーム理論を用いて分析する「法と経済学」を専門にしている。名前に見覚えがあると思ったら、保守系リバタリアンの法学者で、共和党を支持しながら、ドラッグ合法化や同性婚、中絶の権利を認めるリチャード・ポズナー(連邦巡回区控訴裁判所判事)の息子だった。 リチャード・ポズナーには、『ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学』(東洋経済新報社)など、経済学者ゲイリー・ベッカーとの多数の共著がある(もともとは2人でブログを書いていた)。ノーベル経済学賞を受賞したベッカーは「20世紀後半でもっとも重要な社会科学者」とされ、ミルトン・フリードマンらとともにシカゴ経済学派(新自由主義経済学)を牽引し、レーガン政権の政策に大きな影響を与えた。 もう一人の著者であるグレン・ワイルは1985年生まれの若干36歳で、プリンストン大学で博士号を取得、ハーバード大学、シカゴ大学での教職を経て、現在はマイクロソフト・リサーチ社の首席研究員だ(マイクロソフトCEOのサティア・ナデラが本書の推薦文を書いている)。イェール大学で「デジタルエコノミーをデザインする」というコースを教えてもいる。 Wikipediaのワイルの人物紹介では、「両親は民主党支持のリベラルだったが、アイン・ランドとミルトン・フリードマンの著作に触れてから市場原理主義(free market principles)に傾倒していく」とされている。 本書の謝辞には、「グレン(・ワイル)にとっては、この非常に大胆なアイデアを追求すれば、研究者としてのキャリアを犠牲にするリスクがあり、出版するのも困難だったのだが、そんな状況の中でゲイリー・ベッカー(略)が強く背中を押してくれた」とある。ベッカーは2014年に世を去っているから、シカゴ大学で最晩年のリバタリアン経済学者の知己を得たのだろう。リチャード・ポズナーの息子エリックとも、ベッカーの縁で知り合ったのかもしれない。 このようなことをわざわざ書いたのは、グレン・ワイルが考案した「ラディカル・マーケット」のデザイン(設計)が、一見、リバタリアニズムの対極にあるからだ。なんといっても、ワイルは私有財産を否定しており、それによって「共同体(コミュニティ)」を再生しようとしている。孫のような若者のそんなラディカルなアイデアを、新自由主義経済学の大御所ベッカーが後押ししたというのはなんとも興味深い』、「市場原理主義を徹底するとコミュニズムに至る」、「グレン・ワイルが考案した「ラディカル・マーケット」のデザイン(設計)が、一見、リバタリアニズムの対極にあるからだ。なんといっても、ワイルは私有財産を否定しており、それによって「共同体(コミュニティ)」を再生しようとしている」、とは面白い。 
・『「真の市場ルール」を阻む「私有財産」という障害  ポズナーとワイルは、現代の先進国が抱える問題は「スタグネクオリティ(stagnequality)」だという。スタグネーションstagnationは「景気停滞」のことで、これにインフレ(inflation)を組み合わせると、経済活動の停滞と物価の持続的上昇が併存する「スタグフレーション(stagflation)」になる。 それに対して景気停滞に「不平等inequality」を組み合わせた造語がstagnequalityで、「経済成長の減速と格差の拡大が同時に進行すること」だ。その結果、アメリカではリベラル(民主党支持)と保守(共和党支持)が2つの部族(党派)に分かれ、互いに憎悪をぶつけあっている。 この混乱を目の当たりにして、近年では右も左も「グローバル資本主義」を諸悪の根源として、資本主義以前の人間らしい共同体(コミューン、コモンズ、共通善)をよみがえらせるべく「共同体主義(コミュニタリアニズム)」を唱えている。 だが著者たちは、こうした「道徳と互酬性、個人的評判による統治(モラル・エコノミー)」は、狩猟採集社会や中世の身分制社会ではそれなりに機能したかもしれないが、現代の巨大化・複雑化した資本主義+自由市場経済では役に立たないという。「取引の範囲が広がり、規模が大きくなると、モラル・エコノミーは崩れてしまう」からで、「大規模な経済を組織するアプローチとして、市場経済に対抗する選択肢はない」のだ。  「脱資本主義」の代わりに提案されるのが「メカニカル・デザイン」で、「オークションを生活に取り込む」よう市場を再設計することだ。なぜならオークションこそが、市場を通した資源配分の機能をもっとも効果的にはたらかせる方法だから。これはオークションをデザインした経済学者ウィリアム・ヴィックリーの思想を現代によみがえらせることでもある。 著者たちは、「真に競争的で、開かれた、自由な市場を創造すれば、劇的に格差を減らすことができて、繁栄を高められるし、社会を分断しているイデオロギーと社会の対立も解消できる」として、これを「市場原理主義」ではなく「市場急進主義」と呼ぶ。真の市場ルールは「自由」「競争」「開放性」で、次のように定義される。 +自由:自由市場では、個人がほしいと思う商品があるとき、その商品の売り手が手放す代償として十分な金額を支払う限り、それを購入することができる。また、個人が仕事をしたり、商品を売り出したりするときには、こうしたサービスが他の市民に生み出す価値どおりの対価を受け取らなければいけない。そのような市場では、他者の自由を侵害しない限りにおいて、あらゆる個人に最大限の自由が与えられる。 +競争:競争市場では、個人は自分が支払う価格や受け取る価格を与えられたものとして受け入れなければいけない。経済学者のいう「市場支配力」を行使して価格を操作することはできない。 +開放性:開かれた市場では、すべての人が、国籍、ジェンダー・アイデンティティ、肌の色、信条に関係なく、市場交換のプロセスに加わることができて、お互いが利益を得る機会を最大化できる。 そんなことは当たり前だと思うだろうが、じつは「真の市場ルール」を阻む重大な障害がある。それが「私有財産」だ。 私的所有権こそが自由な市場取引の基礎だとされているが、「再開発や道路の拡張を阻む頑迷な地権者」を考えれば、いちがいにそうともいえないことがわかる。この地権者は、開発業者が「十分な金額」を払うといっても拒否し、「市場支配力」を行使して適正な取引を妨害し、「お互いが利益を得る」機会をつぶしているのだ。 これはけっして奇矯な主張ではなく、アダム・スミスやジェレミー・ベンサム、ジェーミズ・ミルなどは封建領主の特権と慣習が財産の効率的な利用の障害だと考えていた。「限界革命」を主導した「近代経済学の3人の父」のうち、ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズは「財産とは、独占の別名にすぎない」と述べ、私有財産制を深く疑っていた。レオン・ワルラスも「土地は個人の所有物であると断じることは、土地が社会にとって最も有益な形で使われなくなり、自由競争の恩恵を受けられなくなることだ」と書いている。 ワルラスは、「土地は国家が所有して、その土地が生み出す超過利潤は「社会的配当」として、直接、あるいは公共財の提供を通じた形のいずれかの方法で公共に還元するべきだ」と述べ、これを「総合的社会主義」と呼んだ。マルキシズムとのちがいは、ワルラスが中央計画を「計画者自身が独占的な封建領主になるおそれがある」として敵視し、「土地は競争を通じて社会が管理するようにし、その土地が生み出す収益は社会が享受したい」と考えていたことだ。  「私有財産否定」はマルクス経済学の専売特許ではなく、近代経済学のなかにもその思想は脈々と流れているのだ』、「レオン・ワルラスも「土地は個人の所有物であると断じることは、土地が社会にとって最も有益な形で使われなくなり、自由競争の恩恵を受けられなくなることだ」と書いている。 ワルラスは、「土地は国家が所有して、その土地が生み出す超過利潤は「社会的配当」として、直接、あるいは公共財の提供を通じた形のいずれかの方法で公共に還元するべきだ」と述べ、これを「総合的社会主義」と呼んだ」、恥ずかしながら初めて知った。

第三に、7月19日付け文春オンラインが掲載した斎藤 幸平氏と堀内 勉氏による対談「「みんな頑張って働いているのに幸せそうに見えない」 斎藤幸平がマルクスから見つけた、労働問題の“答え” 斎藤幸平さんが勧める思想・教養書5冊 #1」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/47022
・『晩期マルクスの思想の新解釈から、気候変動などの環境危機を脱するヒントを探り、30万部のベストセラーとなった『人新世の「資本論」』(集英社)の著者の斎藤幸平さん。そして、不安定な時代を生き抜くためのブックガイドである『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)を上梓した堀内勉さん。「知の水先案内人」であるお二人に、先行きの見えない時代を生き延びるための教養・ビジネス書について語っていただいた。(全2回の1回目) 斎藤幸平(以下、斎藤) 堀内さんは、日本興業銀行でMOF担(旧大蔵省担当)をなさり、ゴールドマン・サックス証券に転職、森ビルのCFO(最高財務責任者)も務めたというご経歴ですよね。まさに資本主義の最前線でキャリアを積まれたわけです。一方、私は『人新世の「資本論」』で痛烈に資本主義を批判し、脱成長まで提案している。そんな私ですが、さまざまな名著をベースにして、今日は堀内さんといろいろお話ししたいと思っています』、キャリアが好対照の人物の対談とは興味深そうだ。
・『これからの社会が生き延びるために読むべき本(堀内勉(以下、堀内)  「堀内さんはずっとエリート街道を歩まれてきましたよね」と言われることがあるのですが、実際は挫折の連続で、結局はシステムの歯車として働いていたに過ぎません。とても充実した人生と言えるようなものではなく、自分の仕事に対する疑問を払拭できず、銀行も証券会社も退職することになります。そして、自分を取り巻くシステムである資本主義について、独学で研究を始めました。 しかしながら、「資本主義」という人間存在そのものに関わるテーマは壮大過ぎて、ビジネスや経済の分野からだけでは解明できない。必然的に、哲学、歴史、科学へと関心領域が広がっていき、古典から現代の名著まで200冊を紹介してまとめた『読書大全』まで書いてしまいました。 こうした私の目に、改めて資本主義のその先を展望する斎藤さんの著作『人新世の「資本論」』は、とても新鮮に映りました。特に、斎藤さんが次にどのような社会を構想なされているのかとても興味があります。本日は、われわれがこれからの社会が生き延びるために読むべき本を挙げつつ、資本主義のその先を考えていければと思います』、なるほど。
・『資本主義における労働は不断の競争に駆り立てる  斎藤  となれば、まず取り上げたいのは、マルクスですね。『資本論』でもいいのですが、今日は『経済学・哲学草稿』(カール・マルクス著)、いわゆる「経哲草稿」を紹介したい。これは彼が20代のときに書いた若さみなぎる作品で、まさに資本主義の歯車として働くことの「疎外感」を論じたものです。その中で彼は、資本主義における労働は、お互いを不断の競争に駆り立てる楽しくないものだ、と述べています。競争の激化によって、労働が、ご飯とお金を得るためだけの手段になっていて、人間が持っている様々な能力を失っていき、貧しい人生を送らざるをえない。本来の人間らしい自己実現や豊かさからは、程遠くなっていることを批判したのです。 私は大学生の頃にこの本を読んだのですが、みんな頑張って働いているのに幸せそうに見えないという、自分自身が社会に対して感じていた違和感をずばり見事に説明してくれていることに感銘を受けました。 堀内 サラリーマンとして経済社会を生きていた昔の私も、まさに同じ疎外感を感じていました』、「資本主義の歯車として働くことの「疎外感」」、は多くが一度は感じるものだ。
・『社会や地球環境を維持するには相互扶助が必要  斎藤 私たちの人生の時間の多くは労働にあてられるので、労働が疎外されていれば、幸せになれないのはいわば当然です。でも、こうした競争システムは人間の本性だから、仕方がないと割り切らなくてはならないのでしょうか。その問いに答えてくれるのが『相互扶助論』(ピョートル・クロポトキン著)です。競争によって自然淘汰されて人間が生き延びてきたというダーウィン的な理解は間違っていて、むしろ自然の脅威を前にして人間はお互いに助け合って進化してきた、とこの本は、主張しています。人間の本質には、相互扶助が間違いなくあるというわけです。 ところが、資本主義社会、とりわけ新自由主義がいまだに猛威をふるう世界では、過当な競争ばかりがもてはやされています。クロポトキンの問いかけは、新自由主義のもとで相互扶助が忘れられたせいで、私たちの社会を発展させていくための可能性が抑圧されているのではないか、ということです。事実コロナ禍でも明らかとなっているように、社会や地球環境を維持していくには、相互扶助が絶対に必要です』、「クロポトキンの問いかけは、新自由主義のもとで相互扶助が忘れられたせいで、私たちの社会を発展させていくための可能性が抑圧されているのではないか、ということです」、同感だ。
・『エリート職に多い“ブルシット・ジョブ”  斎藤 労働の疎外との関連で、3冊目に挙げたいのは『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(デヴィッド・グレーバー著)。昨年亡くなった文化人類学者の著作で、世界的なベストセラーになっていますが、これはマルクスの疎外論を現代に蘇らせたといってもいいでしょう。 堀内 ブルシット・ジョブとは、ホワイトカラーによくある意味のない仕事のことですね。弁護士、コンサルタント、広告代理店など高給なエリート職に多いそうです。今振り返ってみると、私の仕事も銀行勤めのときは95パーセントがペーパーワークやハンコ仕事などの、何の付加価値も生み出していないブルシット・ジョブでした。でも、頑張ってエリートコースに乗るためには、意味のないことを承知で取り組まなければならなかったのです』、人間の緊張感は長続きしないので、「行勤めのときは95パーセントがペーパーワークやハンコ仕事などの、何の付加価値も生み出していないブルシット・ジョブでした」、というのは丁度いいのかも知れない。
・『重要な仕事なのに軽視されている「ケア労働」「ケア階級」  斎藤 グレーバーは、そんなブルシット・ジョブと対比して、エッセンシャルワーカーが担う「ケア労働」「ケア階級」を重視しています。そして、介護や看護、教育や清掃、バスや鉄道の運転手などのケア労働は、われわれの社会を支えている重要な仕事なのに、報酬も社会的地位も低いことを指摘します。私自身も、コロナ禍のもとエッセンシャルワーカーの方々に過剰な負荷をかけているのを心苦しく思っています。 この問題とつながるのが、『ケアするのは誰か? 新しい民主主義のかたちへ』(ジョアン・C・トロント著)です。これまでは、男性中心の製造業や金融が高く評価され、ケア労働は女性に押しつけられてきましたが、ケアこそが人間の本質的な活動であり、社会の中心に据えられるべきである、とこの本は訴えています。ちょうど私自身もコロナ禍で子育てをしながら、その負担をしばしばパートナーに押し付けてきたという自覚と反省を深めました。 それ以外にも、健全な民主主義が機能するためには、ケアが必要というトロントの視点が重要です。民主主義とは他者を論破し、支配するものではなく、意見の違う他者の存在を尊重し、様々な困難を抱えている人々の問題解決に共に取り組むことだからです』、なるほど。
・『いま求められる新しいモデル  堀内 今はケアも商品化されていて、お金持ちであればなんでもお金で買えますという社会になっていますね。けれども一方で、お金を稼ぐしか自分を守る術がないというのは、恐ろしいなと感じます。かつてのサラリーマンは会社に守られていましたが、いまや日本の会社システム自体が壊れはじめています。もはやわれわれには、愕然とするくらい拠って立つものがない。そのため、地域社会をはじめとするコミュニティを取り戻そうという動きも出てきていますね。 斎藤 まさにその通りです。さらに言うと、男性正社員中心の会社コミュニティや、若者を排除し女性に負担を強いるような年長男性のための地域コミュニティとは違った、新しいモデルが求められています。いま注目しているのが、バルセロナ市政などが旗振り役になっているミュニシパリズム(自治体主義)です。これは5冊目に挙げた『なぜ、脱成長なのか』(ヨルゴス・カリス他著)にくわしいです。 堀内 ミュニシパリズム、ですか』、どんなものなのだろう。
・『人々の〈コモン〉(共有財産)を増やそうとする挑戦  斎藤 EUという巨大組織の新自由主義的な動きに対抗して、住民のための街づくりをしようという革新的な自治体の運動のことです。 たとえば、スペインのバルセロナは、リーマンショックで打撃を受け、さらにはオーバーツーリズムによる物価上昇で市民は疲弊していましたが、大企業に地域の富を吸い取られるだけの社会を変えたいという市民運動が巻き起こり、その運動をベースにした地域政党の女性市長が2期目に入っています。 『人新世の「資本論」』でも紹介していますが、彼らの取り組みはたとえば、水道の再公営化を目指すことだったり、民泊に規制をかけ公営住宅を増やすことだったりします。人々の〈コモン〉(共有財産)を増やそうとする挑戦ですね。また、気候危機に関しても独自の非常事態宣言を発出し、二酸化炭素排出量削減のために、飛行場の拡張や高速道路の新設を禁止し、市内中心部でも自動車の進入できないスーパーブロックを拡充するなど、将来世代のための革新的なチャレンジをしています。 こうした試みの知恵をアムステルダムなど別の大都市とも共有しながら進めているのがミュニシパリズムです。 堀内 戦後、アメリカという教師を表面的に真似して、トクヴィルが『アメリカのデモクラシー』で指摘したように、資本主義の本場であるアメリカでもそれなりにコミュニティが残っているのに、それ以上にコミュニティを消失してしまった戦後の日本に戦慄していたのですが、バルセロナの話を聞いて希望を持ちました』、「コミュニティ」の「消失」は「日本」が一番酷いようなので、その再構築が必要なようだ。

第四に、この続きを、7月19日付け文春オンライン「コロナ対策で政府が供給した巨額のお金はどこへ消えたか? 銀行も証券会社も退職した“森ビル”元幹部が語る資本主義の“限界” 堀内勉さんが勧めるビジネス・経済書5冊 #2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/47023
・『「みんな頑張って働いているのに幸せそうに見えない」 斎藤幸平がマルクスから見つけた、労働問題の“答え” から続く 晩期マルクスの思想の新解釈から、気候変動などの環境危機を脱するヒントを探り、30万部のベストセラーとなった『 人新世の「資本論」 』(集英社)の著者の斎藤幸平さん。そして、不安定な時代を生き抜くためのブックガイドである『 読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊 』(日経BP)を上梓した堀内勉さん。「知の水先案内人」であるお二人に、先行きの見えない時代を生き延びるための教養・ビジネス書について語っていただいた。(全2回の2回目) 斎藤 『 人新世の「資本論」 』にもくわしく書いた通り、今まさに資本主義の限界や気候変動という危機的な状況にあります。興銀、ゴールドマン・サックス、森ビルCFOの経歴を持つ堀内さんに、是非お聞きしたいことがあります。果たして資本主義サイドには、われわれサイドへの歩み寄り、もしくは変革の動きはあるのでしょうか』、どうなのだろう。
・『「人間らしさ」に即した見方こそ経済社会の出発点  堀内 はい。じつはビジネスや経済の領域においても、人間らしさを考えることに注目が集まっています。私が『 読書大全 』のなかで最初に紹介した『 道徳感情論 』(アダム・スミス著)から説明させてください。アダム・スミスが前提としているのは、古典的な経済学で想定される単なる合理的経済人ではなく、相手に「共感」や「同感」するリアルな人間です。スミスは、秩序というものは抽象的な「べき論」ではなく、相手との生身のやりとりや共感を通して出来ていくのだ、とします。だから、トマス・ホッブズが言うように、「法という社会契約を結ばないと、血で血を洗う『万人の万人に対する闘争』になる」と、ことさらに言い立てる必要はない。これはいわゆるイギリス経験論の考え方ですが、人間をきめ細かくかつ深く観察している。私はこうした人間の現実に即した見方こそが、すべての経済社会の出発点であるべきだと思っています。 2冊目は『 プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 』(マックス・ヴェーバー著)です。ここでは、プロテスタンティズムの世俗的禁欲主義が、資本主義の精神に合致していることが、逆説的に説明されています。これが現代の労働観のもととなっている一方で、いまや当時の宗教色は完全に失われ、利潤追求だけが自己目的化しています。3冊目は『 経済学は人びとを幸福にできるか 』(宇沢弘文著)です。シカゴ大学で数理経済学者として大活躍していた宇沢先生。けれども日本帰国後は、リアルな人間がどうしたら幸せになれるかを考える、より現場に近い活動家としての経済学者に変わっていくのです』、「宇沢先生」が「日本帰国後は、リアルな人間がどうしたら幸せになれるかを考える、より現場に近い活動家としての経済学者に変わっていく」、変わらなかったらシカゴ学派のゴリゴリのままだったのだろう。
・『現在のSDGsに通じる考え方  斎藤 宇沢さんは、社会的共通資本という概念も提案していますね。私の考える〈コモン〉(共有財産)とも近い考え方です。 堀内 はい。水や空気や山などの自然、道路や電力などのインフラ、教育や医療などの制度を、社会的共通資本と呼んでいます。これらは、国家や市場に任せるのではなく、専門的知見があり、職業倫理をもった専門家が管理・運営すべき、と言っています。現在のSDGs(持続可能な開発目標)の考え方にも通じるものですね。 そんな宇沢先生と対極にあるのが、新自由主義の象徴とされる経済学者ミルトン・フリードマンです。フリードマンは、人間の自由の重要性を強調して、全てを市場にまかせるべきだとして、「べき論」を追求します。人間のリアリティを超越して、市場という万能のシステムを作ってそれをうまく動かせば世の中がうまく回る、と提唱しています。けれどもこうした考えだと、そこに組み込まれる個々の人間は、必ず疎外されてしまいます。 斎藤 まさに、マルクスが指摘した疎外に通じますね』、「市場という万能のシステムを作ってそれをうまく動かせば世の中がうまく回る、と提唱しています。けれどもこうした考えだと、そこに組み込まれる個々の人間は、必ず疎外されてしまいます」、その通りだ。
・『人間的なものに目を向けるという教育  堀内 4冊目は『 イノベーション・オブ・ライフ 』(クレイトン・M・クリステンセン他著)です。イノベーションのジレンマで有名なハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の教授が、最終講義で学生に伝えたメッセージです。クリステンセン教授は、エンロンのCEOになったHBSの同級生が不正会計事件を起こして刑務所に入ったことに衝撃を受けたそうです。それだけでなく、職業的な成功にもかかわらず不幸になる卒業生が同校にはあまりに多い。本当の人生の意味を問いかけたこの本もひとつのきっかけとなり、リーマンショック後、HBSは徳や人格を重視する人格教育へ舵を切ったそうです。 斎藤 人間的なものに目を向けるという教育ですね。堀内さんは、人間のリアリティをきめ細かく観察するビジネス書・経済書の系譜が好きなのですね。 堀内 ええ。人間へのリアリティが前提にないと、どんなシステムを作っても必ず人間疎外が起きます。そして、システムをうまく利用する数パーセントだけが勝ち組になり、残りの大半の人たちは負け組になる。 斎藤 市場というシステムが暴走すると、働いている労働者たちの幸福も、人間として持っている資質も、歪められてしまいますよね。資本主義を野放しにすれば、暴利をむさぼる人たちばかりになってしまう傾向がある』、「資本主義を野放しにすれば、暴利をむさぼる人たちばかりになってしまう傾向がある」、その通りだ。
・『いくらお金を刷っても富裕層へ流れてしまう構造  堀内 5冊目『 21世紀の資本 』(トマ・ピケティ著)がその答えとなると思います。今の資本主義が暴走している理由は、「金融」資本主義だからです。お金がお金を勝手に稼ぐこのシステムが異常なのです。今回、コロナ対策として各国政府が巨大な予算を組み、市中に流しました。けれどもリーマンショックのときと同じで、いくらお金を刷ってもそれが満遍なく人びとに行き渡ることはなく、ほとんどが富裕層へと流れていってしまう構造になっています。富裕層は低率のキャピタルゲイン課税の恩恵を受けているだけでなく、ほとんどがタックスヘイブン(租税回避地)を使っているので、実際の税率がすごく低い。ピケティは、国際的な課税条約を締結して税逃れを取り締まるべきだと主張しています。 斎藤 逆に言うと、金融資本主義の部分を取り払えば、今よりもすごく細った資本主義になって、もはや資本主義ではないものになるんじゃないかな、と思いませんか。 堀内 そうだと思います。暴走しない控えめな「資本主義」ですね』、「暴走しない控えめな「資本主義」」とは面白い表現だ。
・『もっと平等になるのも悪くない  斎藤 それを私は、社会主義と呼んでいます。ピケティが昨年刊行した本、そのタイトルがなんとTime for Socialism。もちろん、ソ連時代に戻ろう、すべて計画経済にしよう、と言っているわけではありません。働いていない人たちが不労所得を得て、そのお金を倍増させる。実体経済と関係ないところで、実際のニーズを満たさないものを大量に買って地球環境を破壊している。それはもうやめにして、人々の生活を安定させたり、意味のないものを作るのをやめて労働時間を減らして人間らしい生活を送った方がいい。そのためにもっと平等になるのも悪くないよ、ということです。 堀内 資本主義サイドからも、格差拡大や地球環境破壊を食い止めようという問題意識から、SDGs、ESG投資、サステナブル経営、パーパス経営などの動きが出ています。 斎藤 私自身はSDGs企業の9割はウォッシュ(まやかし)と思っていますが、残りの1割に期待しています。資本主義の真ん中を歩んできた堀内さんと、マルクス研究者の私とでは、バックグラウンドがかなり違います。でも、堀内さんが思い描かれている社会は、ソーシャリズム的な理念に近いと感じました。僕の本のなかでは、それを〈コモン〉に基づく社会、つまりコミュニズムと呼んでいます。立場は違えど、意外に共通点もあるのかも知れませんね』、「SDGs企業の9割はウォッシュ(まやかし)と思っていますが、残りの1割に期待しています」、「堀内さんが思い描かれている社会は、ソーシャリズム的な理念に近いと感じました」、確かに「斎藤」氏と「堀内」氏の理想が近いのには驚かされた。 
タグ:「SDGs企業の9割はウォッシュ(まやかし)と思っていますが、残りの1割に期待しています」、「堀内さんが思い描かれている社会は、ソーシャリズム的な理念に近いと感じました」、確かに「斎藤」氏と「堀内」氏の理想が近いのには驚かされた。 「暴走しない控えめな「資本主義」」とは面白い表現だ。 「資本主義を野放しにすれば、暴利をむさぼる人たちばかりになってしまう傾向がある」、その通りだ。 「宇沢先生」が「日本帰国後は、リアルな人間がどうしたら幸せになれるかを考える、より現場に近い活動家としての経済学者に変わっていく」、変わらなかったらシカゴ学派のゴリゴリのままだったのだろう。 「コロナ対策で政府が供給した巨額のお金はどこへ消えたか? 銀行も証券会社も退職した“森ビル”元幹部が語る資本主義の“限界” 堀内勉さんが勧めるビジネス・経済書5冊 #2」 「コミュニティ」の「消失」は「日本」が一番酷いようなので、その再構築が必要なようだ。 人間の緊張感は長続きしないので、「行勤めのときは95パーセントがペーパーワークやハンコ仕事などの、何の付加価値も生み出していないブルシット・ジョブでした」、というのは丁度いいのかも知れない。 「クロポトキンの問いかけは、新自由主義のもとで相互扶助が忘れられたせいで、私たちの社会を発展させていくための可能性が抑圧されているのではないか、ということです」、同感だ。 「資本主義の歯車として働くことの「疎外感」」、は多くが一度は感じるものだ。 キャリアが好対照の人物の対談とは興味深そうだ。 「「みんな頑張って働いているのに幸せそうに見えない」 斎藤幸平がマルクスから見つけた、労働問題の“答え” 斎藤幸平さんが勧める思想・教養書5冊 #1」 斎藤 幸平氏と堀内 勉氏による対談 文春オンライン 「レオン・ワルラスも「土地は個人の所有物であると断じることは、土地が社会にとって最も有益な形で使われなくなり、自由競争の恩恵を受けられなくなることだ」と書いている。 ワルラスは、「土地は国家が所有して、その土地が生み出す超過利潤は「社会的配当」として、直接、あるいは公共財の提供を通じた形のいずれかの方法で公共に還元するべきだ」と述べ、これを「総合的社会主義」と呼んだ」、恥ずかしながら初めて知った。 「市場原理主義を徹底するとコミュニズムに至る」、「グレン・ワイルが考案した「ラディカル・マーケット」のデザイン(設計)が、一見、リバタリアニズムの対極にあるからだ。なんといっても、ワイルは私有財産を否定しており、それによって「共同体(コミュニティ)」を再生しようとしている」、とは面白い。 「「市場原理主義を徹底するとコミュニズムに至る」私有財産に定率の税(富のCOST)を課すと効率的な市場が生まれる【橘玲の日々刻々】」 ダイヤモンド・オンライン 「幼さと老成が同居し、あくまでもマイペースでアマノジャクな存在である猫は、ものごとをさまざまな角度から切りとろうと企む作家、表現者たちと、もともと相性がいい」、このシリーズも見逃したのは本当に残念だ。 「現代に至るまで高度な文明を発展させてきた人類は、今その原点に帰りたいと、どこかで無意識に思っていると見えなくもないのだから」、なるほど。 「いよいよネットの海の中に埋没する時代に、「無形資産」は大きな渦巻きの中心にあるかのようだ」、上手いこと言うものだ 「私たちの生活を豊かにするための手段だったはずの技術がいつの間にか目的化、人間がシステムに合わせている倒錯的な状況は、日常さまざまなところで多くの人々が経験しているのではないだろうか?』、確かにその通りだ 「すべての企画が「主役はあなた」なのだが、そのことをあらためてど真ん中に考えた企画だともいえるのかもしれない」、その通りなのだろう。 残念ながら両方とも見逃したので、この記事はとりわけ興味深い。 丸山 俊一 「「炎と猫と資本主義」に見る「2021年欲望の行方」 異色TV番組の背景「資本のない資本主義」の時代」 東洋経済オンライン (その5)(「炎と猫と資本主義」に見る「2021年欲望の行方」 異色TV番組の背景「資本のない資本主義」の時代、「市場原理主義を徹底するとコミュニズムに至る」私有財産に定率の税(富のCOST)を課すと効率的な市場が生まれる、斎藤幸平さんが勧める思想・教養書5冊2題:#1「みんな頑張って働いているのに幸せそうに見えない」、#2コロナ対策で政府が供給した巨額のお金はどこへ消えたか? 銀行も証券会社も退職した“森ビル”元幹部が語る資本主義の“限界”) 資本主義
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アフガニスタン問題(その1)(アフガン撤退で最大の危機 バイデン政権に向けられる3つの批判、タリバン「最速の無血入城」は米軍植民地統治の当然の帰結、日本の「アフガン退避作戦」こんなにも遅れた理由 アフガン人を大量救出した韓国と何が違った?) [世界情勢]

今日は、アフガニスタン問題(その1)(アフガン撤退で最大の危機 バイデン政権に向けられる3つの批判、タリバン「最速の無血入城」は米軍植民地統治の当然の帰結、日本の「アフガン退避作戦」こんなにも遅れた理由 アフガン人を大量救出した韓国と何が違った?)を取上げよう。

先ずは、8月25日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元外交官でキヤノングローバル戦略研究所 研究主幹の宮家 邦彦氏による「アフガン撤退で最大の危機、バイデン政権に向けられる3つの批判」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/082300279/
・『8月15日、アフガニスタンの首都・カブールがあっけなくタリバンの手に落ちた。たまたま米国出張から帰国後2週間の「自宅検疫」期間中だった筆者は、久しぶりに寝る間も惜しんで情報収集にいそしんだ。その際、多くの方々からこんな質問を受けた。「なぜタリバンはこれほど早く全土を掌握できたのか?」「なぜ30万人を擁するアフガン政府軍は機能しなかったのか?」。理由は簡単だ。アフガニスタン政府軍はタリバンと戦う前に「蒸発」してしまったからである。 アフガン政府軍兵士が臆病だったわけでは決してない。それどころか、彼らは自分の家族や部族のためなら命を賭けてでも勇敢に戦う人々である。今回、政府軍が「蒸発」した最大の理由は、ガニ大統領率いる中央政府に不正・腐敗がまん延していたからだ。だが、そんなことは現場を知る米軍関係者なら誰でも知っていたこと。ワシントンの政策決定者はアフガン政府関係者にまんまとだまされたのだろうか。 何よりも気になるのはアフガニスタンに取り残された米国人、同盟国人、外国人ジャーナリスト、アフガン人協力者たちの脱出状況だ。今も現地からは悲しくも恐ろしい情報が連日大量に流れてくる。個人的には現地の在留邦人の安否も気になる。今後アフガニスタンにはいかなる政権ができるのか。同国が再び国際テロの出撃基地となるのだろうか。不安は尽きないが、この点については内外の専門家に任せることにしよう。 タリバンという組織が対外広報、対米交渉、国内政治などの面で戦術的に進化したことは事実だ。しかし、それはタリバンの勝利というより、腐敗した中央政府が自滅した結果であり、その意味でカブール早期陥落の理由はほぼ出尽くしている。されば、今回は視点を変えて、カブール陥落後に米国内で巻き起こったバイデン政権に対する批判に焦点を当て、同政権の将来を占ってみよう。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。 バイデン大統領に対する批判は大きく3つに分類できる』、「今回、政府軍が「蒸発」した最大の理由は、ガニ大統領率いる中央政府に不正・腐敗がまん延していたからだ」、なるほど。ただ、「何よりも気になるのはアフガニスタンに取り残された米国人、同盟国人、外国人ジャーナリスト、アフガン人協力者たちの脱出状況だ」、その後30日から31日に切り替わる寸前に最後の米軍輸送機がカブール空港を離陸したので、かなりが脱出した可能性がある。
・『事後批判する無責任な結果論者  第1は無責任な結果論である。米語にMonday Morning Quarterback(月曜朝のクオーターバック、QB)という言葉がある。QBとはアメリカンフットボールなどで、攻撃する選手にプレーを指示する「司令塔」の役割を果たすポジション。米国のフットボールの試合はおおむね土日開催なので、月曜日朝のQBとは、ごひいきチームの試合の結果を、「あれはだめだった」「こうすればよかった」などと素人が無責任に批判する結果論者のことを指す言葉だ。 8月15日からの米国内報道を見ていると、今一番多いのはこの種の結果論的な事後批判だ。当然ながら、共和党保守系メディアは今回の対応を「破滅的失敗」とこっぴどく報じている。さらに、バイデン政権に優しいあのCNNですら、「バイデン政権のアフガニスタン撤退判断は正しかったとしても、その手法は拙速だった」といった厳しい批判を続けている。バイデン大統領は就任後最大の政治的困難に直面していると言ってよいだろう。 ワシントンにはIntelligence failureという言葉もある。直訳すれば「諜報(ちょうほう)の失敗」、すなわち、情報機関が正しい情報(諜報、インテリジェンス)を政策決定者に提供しなかったという批判だ。バイデン政権批判にも聞こえるが、実はこれ、「政治判断の失敗」という批判に反論するため、ホワイトハウス側が意図的に流す決まり文句でもある。「間違った」のは「情報機関」であって、自分たちホワイトハウスではないという毒のある言葉だ。 こうした状況を象徴する以下のやりとりが8月20日のバイデン大統領の記者会見で見られた。 (記者)バイデン政権は、タリバンがアフガニスタンを短期で制圧する力を見誤ったのではないか? (中略)現地大使館からタリバンによる早期制圧を警告する公電があったと聞くが… (大統領)その種の公電やアドバイスはたくさんあった。具体的時期を示さず、単にカブールは「陥落するだろう」とする内容から、政権は「当面持つだろう」「年末までは続くだろう」という内容まで、幅があった。私は決断を下した。責任は私にある。自分はコンセンサスの意見を採用した。コンセンサスとは、実際には、本年後半まで陥落は起きないというものであり、それが私の決断だった。 苦しい説明だが、アフガニスタンの実態をそれなりに知る筆者は同情を禁じ得ない。そもそも、米国の情報機関はつい1カ月ほど前まで、「アフガン政権はもって2年」「いや年末までは」「90日間は」「60日間」は、などと言っていたではないか。アフガン政府軍の「蒸発」は大半の関係者にとり予測不能だった。ここで完璧な脱出作戦を計画・実行することは容易ではない。無責任な「月曜朝のQB」の政治的批判の多くは「ないものねだり」である』、「無責任な「月曜朝のQB」に似た存在は日本にもいるので、万国共通の現象なのかも知れない。
・『何のために戦い、傷付き、死んだのか  次に「月曜朝のQB」よりも深刻な批判が、一部軍人、特にアフガニスタン帰還兵や戦死者の家族などから出ている。「Sacrifice for Nothing?」。すなわち「自分たちは何のために自己犠牲したのか?」という素朴な疑問だ。 青春の最も輝く時期に、彼らはアフガニスタンに派遣され、過去20年も戦った成果が、カブール陥落により雲散霧消し始めた。彼らが不満の声を上げるのは当然であろう。 米国では、戦後の日本とは異なり今も、国のために戦った軍人に敬意を払う伝統が生きている。もちろん、米軍人は最高司令官である大統領の命令に服従する。しかし、命令に従うことと、その命令が正しいか否かを退役後に判断することは別問題だろう。退役軍人が発するこうした批判は決して軽くない。この点はCNNですら例外ではなく、何人ものアフガン帰還兵がバイデン政権を批判するインタビューを番組内で流していたのが印象的だった』、「何のために戦い、傷付き、死んだのか」は、確かに「「月曜朝のQB」よりも深刻な批判」だ。「青春の最も輝く時期に、彼らはアフガニスタンに派遣され、過去20年も戦った成果が、カブール陥落により雲散霧消し始めた。彼らが不満の声を上げるのは当然」、その通りだろう。
・『米国には道義的義務がある  それでも、アフガン帰還兵が米国の全国民に占める割合は小さい。今回筆者が最も多く耳にし、かつ最も米国人の胸に響いたと思われるバイデン政権批判は「Moral Obligation」という言葉だ。要するに、米国のために、米軍人や外交官などと共に文字通り命を賭けて戦ってきたアフガン人に対し、米国には一定の責任があり、彼らを助けるのは「道義上の義務」だというのである。 確かに、カブール陥落後、現地から届く報道は心が痛むものばかりだ。特に、空港で輸送機に群がるアフガン人群衆、リレーされた赤ん坊を引き上げ空港敷地内で保護する米海兵隊兵士、タリバンに見つからないよう息を潜め「いつ殺されるか分からない」と米国による保護を懇願するアフガン人通訳や女性権利活動家のことが繰り返し報じられた。 確かに、一般米国人の琴線に触れる感情的な問題かもしれない。しかし、彼らの多くが、バイデン政権は「一体何をやっているのだ」と思うのは当然である。この関連では、バイデン大統領が「言い訳」がましく、「compassionateでない」つまり「思いやり」が足りない、との批判も聞かれた。今後、米国人の脱出はもちろんだが、アフガン人協力者の救出も含め、この作戦のどこかで悲劇が起きれば、バイデン政権の評価は急落する可能性がある。 バイデン大統領の支持率は? 6月1日 54%。7月1日 52%。8月1日 51%。8月20日 49%―― これはCNNが報じた、過去3カ月におけるバイデン大統領の支持率である。瞬間的に50%を切ったからといって、大統領に対する支持が急落したわけでは必ずしもない。また、同じくCNNによれば、海外で重大事件が発生したときの歴代米大統領の対応振りに関する支持率は次のとおりである。現状がバイデン政権にとって危機的状況であるとは言い切れないだろう。 2021年 バイデン大統領 アフガニスタン撤退時 41%  2011年 オバマ大統領  イラク撤退時 48%  1991年 ブッシュ大統領 湾岸戦争勝利時 83% 1984年 レーガン大統領 レバノン撤退時 39%  これらの数字が暗示するのは、海外での戦争に大勝利して支持率が一時8割を超えても、結局再選されなかった(ブッシュ)大統領もいれば、逆に海外で大失敗して支持率が一時40%を切っても、再選された(レーガン)大統領もいるということ。されば、今回の件でバイデン政権の将来を占うのは時期尚早だろう。All politics is local。全ての政治はローカルであり、海外での重大事件が中長期的に政権を左右するわけでは必ずしもない、ということか』、「海外での戦争に大勝利して支持率が一時8割を超えても、結局再選されなかった(ブッシュ)大統領もいれば、逆に海外で大失敗して支持率が一時40%を切っても、再選された(レーガン)大統領もいる」、「全ての政治はローカルであり、海外での重大事件が中長期的に政権を左右するわけでは必ずしもない、ということか」、なるほど。

次に、8月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した軍事ジャーナリストの田岡俊次氏による「タリバン「最速の無血入城」は米軍植民地統治の当然の帰結」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/280338
・『タリバンが10日で制圧 米軍協力者全員の脱出は困難 日本の1.7倍の面積を有するアフガニスタンでは、8月6日にタリバンが攻勢に出てから足掛け10日で、カブールに15日に無血入城、全土を平定という世界の戦史上例のない早さで勝利を収めた。 「9・11テロ」を契機に米国が介入し支配をしてきた約20年間、主として米国が育成してきたアフガン政府軍と国家警察隊はほとんど無抵抗で逃走し、米国が2.2兆ドル(約250兆円)を投じて築いた体制は「砂上の楼閣」のように崩壊した。 バイデン大統領は8月20日の記者会見で、「米国人1万3000人を避難させた。今後救出が必要な米国人は1万ないし1万5000人、アフガン人の米国への協力者が5万ないし6万5000人」と述べた。その後、1日2000人以上が脱出している様子だが、空前の大脱出劇の成否は見えていない。 ベトナム戦争の最後、1975年4月30日に北ベトナム軍が、南ベトナムの首都だったサイゴンに無血入城した際には、米国人1373人、ベトナム人など他国人5595人がヘリコプターで脱出、米空母に収容された。 それとは比べようもないぐらいの大脱出劇が展開されている。 タリバンも外国人の脱出を認め、輸送機が離着陸することは許し、対米協力者だったアフガン人が空港に殺到するのもほとんど見逃している。反タリバン分子を国外に追い出す方が新政権の安定、治安維持に得策だからだろう。 だが、カブール以外の各地にいる米国人も少なくなく、米国に協力していたアフガン人は多い。日本を含め同盟諸国が脱出支援で協力しているとはいえ、全員を脱出させるのは極めて困難だ。悲惨な大混乱が続くだろう』、「米国が介入し支配をしてきた約20年間、主として米国が育成してきたアフガン政府軍と国家警察隊はほとんど無抵抗で逃走し、米国が2.2兆ドル(約250兆円)を投じて築いた体制は「砂上の楼閣」のように崩壊した」、確かに余りにもあっけなかった。
・『タリバンの規律は維持されている 他国からの早期承認を得る思惑  いま米軍は残っていた兵員約2000人に加え、最大6000人を投入して空港警備を続け、協力者らの国外避難を助ける構えだが、空港以外に派遣することは計画していない。 米軍など外国軍が各地に出動すれば衝突が起きてアフガン戦争の再燃となりかねないが、すでにアフガン政府軍と国家警察、計公称30万人は霧消し、大量の武器、弾薬、車両7万6000両はタリバン軍が接収している。勝利を収めたタリバン軍に加わる者は多いから、以前よりはるかに悪い状況下でもう一度戦うことになるからだ。 幸いタリバン側の規律は保たれているようだ。 首都カブール制圧の際も、8月14日にカブールの玄関口に迫ったが、乱入して略奪などが起きないよう進撃を一時停止、翌日、粛々と無血入城した。 20年間の戦いでやっと政権を奪回したタリバンにとって、まずは国内を安定させ、他国の承認を得て、財政、経済を再建することが最大の命題だからだろう。 タリバンは元政府軍人や対米協力者に対する「恩赦」を宣言している。現状では国内の統治にある程度の自信を持っているのではないか』、「首都カブール制圧の際も、8月14日にカブールの玄関口に迫ったが、乱入して略奪などが起きないよう進撃を一時停止、翌日、粛々と無血入城」、自制の利いた「タリバン」の姿勢には安心した。
・『士気も練度も低い「傭兵」の政府軍 民心をつかめなかった米国  もともと米軍などによる統治は根付いたものではなかった。 タリバンとの戦いには、米軍9万人のほか、英、独、仏など49国が加わり、最大期には14万人の兵力が投入された。 米軍の攻撃開始から2カ月後の、2001年12月には南部のタリバンの拠点カンダハルを陥落させ、タリバンは壊滅したように思われた。 だがタリバンは武器を携えて故郷に戻ったりパキスタン国境地帯の拠点にひそんだだけだった。 2003年にはゲリラ攻撃を始めて勢力を次第に回復し、地方ではもめ事の裁定をタリバンに頼むこともあったようだ。 タリバンの戦闘員は4万5000人ないし6万人余りとみられ、これに対してアフガン政府軍は約20万人、国家警察隊は10万人と公称され、数の上では圧倒的な優位だった。 だが、政府軍や警察の経費は、日本を含む「国際社会」が全額を負担し、装備を米国が供与、指揮と訓練も米軍が行ったから事実上の「傭兵」だった。 占領軍の指示の下、自国民と戦わされる政府軍兵士の士気は低く、政府軍幹部らが兵の数を水増ししていて給与をポケットに入れるのが常態化していた。 カブールの米国大使館は巨大な建物で、職員は現地雇用者を含め4000人もいた。通常は、駐在国との外交が任務の大使館は多くても数十人の館員がいる程度だ。 4000人もいたのは、アフガニスタンの政治、軍事、行政をすべて指導していたためで、」、米大使館はまるで植民地の総督府だった。 これでは民心を掌握できるはずがない。今回タリバンの一斉蜂起が起こると大半の州都で政府軍兵が抗戦せず、知事から大統領までが逃亡したのも当然だった』、「タリバンの戦闘員は4万5000人ないし6万人余りとみられ、これに対してアフガン政府軍は約20万人、国家警察隊は10万人と公称され、数の上では圧倒的な優位」だったが、「政府軍や警察の経費は、日本を含む「国際社会」が全額を負担し、装備を米国が供与、指揮と訓練も米軍が行ったから事実上の「傭兵」だった。 占領軍の指示の下、自国民と戦わされる政府軍兵士の士気は低く、政府軍幹部らが兵の数を水増ししていて給与をポケットに入れるのが常態化していた」、のが米国側の努力を水に流してしまったようだ。
・『地方に拠点を確保 住民の信頼を得たタリバン  1979年に起きたイランのイスラム革命はアフガニスタンに波及し、その社会主義政権は風前の燈となったため、ソ連が介入したがゲリラに勝てず89年に撤退した。社会主義政権はその後3年間はもったものの1992年に崩壊した。するとかつてソ連軍と戦ったアフガンゲリラは8派に分かれて勢力争いの内戦を始めた。無秩序の部族兵は各地で物資懲発や略奪を続け国民は悲惨な状態に置かれた。 隣国パキスタンにとってもアフガニスタンの混乱は迷惑だっからパキスタン西部に多いパシュトゥン人と同民族のイスラム神学校の学生を中心とする軍事組織の結成を支援し、タリバンが誕生した。 信心が深いだけに規律が正しいタリバンは住民の支持を得て、内戦を収束させ1996年に政権を確保した。 イスラム原理主義を掲げ、古来の慣習や道徳を重視する学生主体のタリバンの堅苦しさに閉口する人もアフガニスタン国民の中にはいたと思われるが、内戦を終わらせ平和と規律をもたらしたことで一定の信頼を得ていたようだ。 8月15日のタリバンのカブール制圧後、欧米のメディアはカブールで英語を話せる女性をインタビューし、「タリバンによる女性差別が復活する。将来が不安」などという反応を報道していた。 だが米軍の爆撃、侵攻で始まった20年間の戦争の死者は敵、味方双方で17万人余り、民間人の死者は4万7000人余りとされ、夫、子ども、親、兄弟、姉妹などを失ったアフガニスタンの女性は多い。戦争中に国外に逃れた難民は260万人。国内避難者は400万人以上といわれる。 女性が占領軍、政府軍に恨みを抱くのは避けがたく、長い戦争がタリバンの勝利で終わったことを祝う女性の方がはるかに多いのではないかと考えられる』、「パシュトゥン人と同民族のイスラム神学校の学生を中心とする軍事組織の結成を支援し、タリバンが誕生した。 信心が深いだけに規律が正しい」、「規律の正しさ」の背景が理解できた。
・『対米協力者への報復、迫害 フランスでは対独協力者狩りが発生  この戦争で死んだアフガン人は14万人以上だから、タリバン政権が対外関係の好転と国内の安定を目指し、占領軍への協力者の恩赦を唱えても恨みを晴らしたいアフガン人が私的に対米協力者に報復、迫害をすることを完全に防げるとは考え難い。 第2次世界大戦ではドイツ軍が敗退した後のフランスで対独協力者狩りが起きた。 1940年6月にフランスを降伏させたドイツ軍は約4年間、フランス国土の約60%に当たる北部と大西洋岸地域を占領、南部の40%は右翼の親独派ヴィシー政権に統治させた。 これに対して一部のフランス人が「レジスタンス」(抵抗活動)を行った一方で、ドイツへの協力者が大勢を占めた。 1944年8月にパリが解放され、ドイツ軍が一掃されると、民衆は「コラボ」と称された対独協力者の摘発に興奮し、ドイツ将兵と親密だった女性を捕らえて丸刈りにし、市中を引き回した後、一部は処刑することが続発した。私刑の対象となった女性は数千人といわれている。私刑で殺された男女は推定約9000人、公式の裁判でも1560人の政治家、官僚、軍人、警察官などが死刑に処された。 タリバンが恩赦を宣言しても、私的報復がアフガニスタンでも起こる可能性はあるから米軍は協力者の避難を助けるため、予定の8月末より撤退の延期をタリバンに打診している。だがいずれ撤退することは確実だ』、なるほど。
・『タリバン政権のカギを握る中国 イスラム過激派、波及を防ぐ思惑  日本の刑法でも外国と通謀して日本に対し武力を行使させたものはすべて死刑と定め、武力行使が起きた後に、それに加担した者は、死刑、無期、2年以上の懲役としている。 米国が敗退した後のこの地域の安定をどう確保するかも大きな問題だ。とりわけ注目されているのが、中国だ。 中国政府は、新疆ウイグル自治区でテロ活動をする「東トルキスタンイスラム運動」などのイスラム過激派が、タリバンの勝利に勢いづき提携することを防ごうとしている。タリバン政権の承認や財政支援と引き換えに、新疆ウイグルの安定、治安維持への協力を求めている。 タリバンもそれに応じる姿勢を示している。元々凶悪な「イスラム国」とは対立していたのだ。米国がタリバンに圧力をかけようとしアフガニスタン政府の預金を凍結すれば、タリバンは一層、中国に頼ることになるだろう。 アフガニスタンには天然ガスや原油、銅鉱山など未開発の鉱物資源があり、中国はすでにアフガニスタン北部の油田開発で協力を始めている。 ロシアも国内のチェチェン独立派などイスラム過激派の行動が再び活発になることを警戒し、タリバンに接近を図っている。 だが旧ソ連時代、アフガニスタンに侵攻したもののイスラム過激派に敗北して1989年に撤退。結局、ソビエト連邦自体が崩壊することになった。 この教訓はロシア指導部には残って、タリバンとは良好な関係を築くことに努めるはずだ。 タリバンが多民族国家アフガニスタンの統治を続けられるか否かは、世界の不安定要因になるだろう』、「イスラム国」関連では先日の首都カブールで起きた自爆テロは、「イスラム国(IS)」傘下の「ホラサン州(IS-K)が犯行声明」、と健在のようだ。
・『ベトナム後は慎重だった米国 対中強硬世論、沈静化か  タリバンに敗れた米国が、協力者を見捨てる形で撤退すれば、世界の指導者を自負した威信を失うのは不可避だ。その腹いせに他国の協力を得てタリバン政権を締め上げようとしても、負け惜しみとの冷笑を招いて傷を大きくすることになりかねない。 ソ連はアフガニスタンのイスラムゲリラと戦って敗れ、1989年に完全撤退したが、東欧支配国と国内統治の要だった軍事的威信を失い、91年に崩壊した。だが、米国は旧ソ連のように軍事的威信だけが頼りではない。 米国は昨年末で1460兆円という途方もない対外純債務を抱える最大の債務国(日本は純債権が356兆円で最大の債権国)だが、米国の金融機関は他国から預かった資金を運用して世界の金融を牛耳る力を持ち続けている。 CNNテレビやAP通信などのメディアは世界に影響力を持つから、旧ソ連のようにアフガニスタンでの敗戦で超大国の地位を失うことはありそうにない。 ただ米国も1973年にベトナムから完全撤退した後、10年間は武力行使に慎重だった。 次に戦争をしたのは1983年カリブ海の島国、グレナダの侵攻だった。人口10万人、面積は東京都の16%の小国に左派の「人民革命政府」が生まれ、飛行場を建設していたことが「米国の安全保障をおびやかす」という被害妄想的な論が侵攻の口実になり、米国は空母や6000人の兵力を投入、1週間で制圧した。 大人が幼児を相手にするような戦いだったが米国人は「大勝利」に熱狂し、レーガン大統領の支持率は一気に高まった。ベトナムに負けて以来の屈辱感が久々に晴れた、ともいわれる。 今回の失敗から米国は何を学ぶのか。米国の覇権が崩れることはないにしても、米国世論が中国との軍事的対決に慎重になれば、アフガン20年戦争の教訓は生きる。 日本にとっても米中の衝突に巻き込まれて、最大の中国市場を失って経済に致命的打撃を受け、安全保障も危うくなる事態を避けられるかしれない』、「グレナダの侵攻」はどう考えても大義名分のない露骨な侵略戦争だったが、「米国人は「大勝利」に熱狂し、レーガン大統領の支持率は一気に高まった」、とはいいかげんなものだ。米国ともほどほどの距離を保っておく必要がありそうだ。

第三に、9月1日付け東洋経済オンラインが掲載した『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員 のレジス・アルノー氏による「日本の「アフガン退避作戦」こんなにも遅れた理由 アフガン人を大量救出した韓国と何が違った?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/451919
・『自衛隊にとっては歴史的な任務だった。8月23、24日に、数百人の自衛隊員が拍手に送られ、行進しながら3機の軍用機に乗り込んだ。指をズボンの縫い目に当て、まるで戦地に向かうかのようだった。最終目的地はアフガニスタンのカブール。目的は現地に残る数人の日本人を帰還させ、日本に関係する約500人のアフガニンスタン人を国外退避させることだった』、全く恥さらしな出来事だった。
・『約500人のアフガン人を保護する予定だった  今回の退避作戦が成功していれば、自衛隊による初の外国人救援になっていただろう。救援したアフガニスタン人に対して、定住者ビザを発行していれば、移民の受け入れについては世界からかなり後れをとって批判されている日本のプラスになったかもしれない。 日本が保護することを考えていたアフガニスタン人500人は、通常時の約16年分の亡命件数(2005年から511件)に相当する。2020年に日本が許可した数が47件だったことを考えるとかなりの数だ。 だが、残念ながら作戦は完全に失敗に終わった。このためにパキスタンに3機の自衛隊機を送ったが、脱出させることができたのは日本人1人だった。このほか14人のアフガニスタン人を搭乗させたが、彼らはアメリカ人に雇われていた人たちであり、今回の作戦の対象となった人は誰1人カブール空港にでさえ到着できなかったのだ。 「考えうる最悪の退避オペレーション。派遣された自衛隊員、米軍兵士らに責任はない。限界以上のことをしている。各政府の見通しと計画の問題」と、紛争の予防に尽力する国際NGO、REALsの瀬谷ルミ子理事長はツイッターにこう書いた。「搭乗予定だった数百名の個人情報は検問を通るためという理由でタリバンに提出されている。それが何に使われるか」。 今回の成果は、韓国と比べてもかなり見劣りする。韓国人に雇われたアフガニスタン人とその家族391人は8月26日にソウルに到着し、長期滞在許可証を取得する予定だ。 いくつかの報道によると、自衛隊は日本に雇用されているアフガニスタン人をその場で脱出させようと試みた。26日、十数台のバスをカブール市内の各所でチャーターしたが、輸送と同時に空港付近でテロが起こったため、その任務を中止せざるを得なくなったのだ。今回帰国した唯一の日本人である共同通信社の安井浩美氏は、ジャーナリスト用にカタールがチャーターしたバスになんとか乗ることができたという。 この失敗から学べる教訓はあるだろうか。自衛隊法第84条の3または第84条の4は、邦人、および外国人を避難させるための法的根拠である。これらの条項は、現地当局の同意、または活動状況の安全性が確かであることを求めているが、今回の場合、例えばタリバンの同意を得ることは現実的ではないなど、法律の限界を指摘する声も少なくない。 だが、瀬谷理事長が述べている通り、今回の失敗は軍事ではなく、政治的な失敗だ。「カブールが陥落したのは15日だが、政府がアフガニスタン入りを決めたのは23日。日本のアフガニスタン入りは遅すぎたし、行動を起こすのも遅すぎた」と、安全保障問題に詳しい慶應義塾大学総合政策学部の鶴岡路人准教授は指摘する。 自衛隊の動きが遅かったのは今回だけではない。「2013年にフィリピンでハイエン台風が起こり、日本が『緊急援助隊』をフィリピンに送った時、自衛隊は大災害の2週間後に到着した。自衛隊はあまり多くの人々を救助できなかった」と、ある外国の軍事関係者は振り返る。 「自衛隊は8月25日に到着した。アメリカ軍撤退予定日のわずか1週間前だ。フランスの最後の飛行機はその1週間前に到着している」と、フランスの軍事関係者も話す。 なぜ日本政府が動くのはこんなにも遅かったのか。残念ながら、日本政府は日本人に協力してきたアフガニスタン人について何も考えてなかったように見える。 実際、日本大使館の職員12人は8月17日にイギリスの軍用機を利用して国外退避した。この時、アフガニスタン人のスタッフが1人も同乗していない。 「いったん外交官の退避が終わると、『任務は完了した』という安堵感が漂った」と、鶴岡准教授は指摘する。「政治家たちの注意力は低いままだったが、自民党議員に背中を押され、他国の作戦を目の当たりにしてやっと、政府はアフガニスタン人の同僚たちも救出されるべきではないかと気がついた」。 岡田隆駐アフガニスタン大使は、ガニ政権崩壊までにアフガニスタンを離れていたと伝えられている。イギリスやフランスの大使が、最後まで残って業務を続けたのと対照的だ』、「駐アフガニスタン大使は、ガニ政権崩壊までにアフガニスタンを離れていた」、「日本大使館の職員12人は8月17日にイギリスの軍用機を利用して国外退避」、日本人は現地職員に余りに冷た過ぎる。
・『フランスは今春から退避計画をしていた  アメリカ軍が撤退することはすでに前トランプ大統領時に決められていた。タリバンによる全土掌握が予想以上に早かったとはいえ、日本政府が事前に準備することはできなかったのだろうか。 「そもそもフランスが本国への送還を始めたのは、この状況が予測できるようになってきた今春のことだった。まず、大使館の現地職員とその家族を脱出させ、7月には残りのフランス人を送還するための特別便を計画した。このため、8月15日以降の避難活動は、アフガニスタンの一般市民と、7月の便での帰国を拒否した一部のフランス人が中心となっている」と、フランス人らの退避に携わったフランスの外交官は説明している。 日本大使館や日本の関係機関へ協力してきたアフガニンスタン人は今も危機にさらされている。日本政府にはこうした人たちを救うために、引き続き尽力してもらいたい』、現地人職員の忠誠を確保するためにも彼らの安全確保に最大限、努力すべきだ。さもないと、「日本」は国際社会のもの笑いの種になるだろう。
タグ:全く恥さらしな出来事だった。 「日本の「アフガン退避作戦」こんなにも遅れた理由 アフガン人を大量救出した韓国と何が違った?」 レジス・アルノー 東洋経済オンライン 「グレナダの侵攻」はどう考えても大義名分のない露骨な侵略戦争だったが、「米国人は「大勝利」に熱狂し、レーガン大統領の支持率は一気に高まった」、とはいいかげんなものだ。米国ともほどほどの距離を保っておく必要がありそうだ。 「イスラム国」関連では先日の首都カブールで起きた自爆テロは、「イスラム国(IS)」傘下の「ホラサン州(IS-K)が犯行声明」、と健在のようだ。 「パシュトゥン人と同民族のイスラム神学校の学生を中心とする軍事組織の結成を支援し、タリバンが誕生した。 信心が深いだけに規律が正しい」、「規律の正しさ」の背景が理解できた。 「タリバンの戦闘員は4万5000人ないし6万人余りとみられ、これに対してアフガン政府軍は約20万人、国家警察隊は10万人と公称され、数の上では圧倒的な優位」だったが、「政府軍や警察の経費は、日本を含む「国際社会」が全額を負担し、装備を米国が供与、指揮と訓練も米軍が行ったから事実上の「傭兵」だった。 占領軍の指示の下、自国民と戦わされる政府軍兵士の士気は低く、政府軍幹部らが兵の数を水増ししていて給与をポケットに入れるのが常態化していた」、のが米国側の努力を水に流してしまったようだ。 「首都カブール制圧の際も、8月14日にカブールの玄関口に迫ったが、乱入して略奪などが起きないよう進撃を一時停止、翌日、粛々と無血入城」、自制の利いた「タリバン」の姿勢には安心した。 「米国が介入し支配をしてきた約20年間、主として米国が育成してきたアフガン政府軍と国家警察隊はほとんど無抵抗で逃走し、米国が2.2兆ドル(約250兆円)を投じて築いた体制は「砂上の楼閣」のように崩壊した」、確かに余りにもあっけなかった。 「タリバン「最速の無血入城」は米軍植民地統治の当然の帰結」 田岡俊次 ダイヤモンド・オンライン 「海外での戦争に大勝利して支持率が一時8割を超えても、結局再選されなかった(ブッシュ)大統領もいれば、逆に海外で大失敗して支持率が一時40%を切っても、再選された(レーガン)大統領もいる」、「全ての政治はローカルであり、海外での重大事件が中長期的に政権を左右するわけでは必ずしもない、ということか」、なるほど。 「何のために戦い、傷付き、死んだのか」は、確かに「「月曜朝のQB」よりも深刻な批判」だ。「青春の最も輝く時期に、彼らはアフガニスタンに派遣され、過去20年も戦った成果が、カブール陥落により雲散霧消し始めた。彼らが不満の声を上げるのは当然」、その通りだろう。 「無責任な「月曜朝のQB」に似た存在は日本にもいるので、万国共通の現象なのかも知れない。 事後批判する無責任な結果論者 「今回、政府軍が「蒸発」した最大の理由は、ガニ大統領率いる中央政府に不正・腐敗がまん延していたからだ」、なるほど。ただ、「何よりも気になるのはアフガニスタンに取り残された米国人、同盟国人、外国人ジャーナリスト、アフガン人協力者たちの脱出状況だ」、その後30日から31日に切り替わる寸前に最後の米軍輸送機がカブール空港を離陸したので、かなりが脱出した可能性がある。 「アフガン撤退で最大の危機、バイデン政権に向けられる3つの批判」 宮家 邦彦 日経ビジネスオンライン (その1)(アフガン撤退で最大の危機 バイデン政権に向けられる3つの批判、タリバン「最速の無血入城」は米軍植民地統治の当然の帰結、日本の「アフガン退避作戦」こんなにも遅れた理由 アフガン人を大量救出した韓国と何が違った?) アフガニスタン問題 現地人職員の忠誠を確保するためにも彼らの安全確保に最大限、努力すべきだ。さもないと、「日本」は国際社会のもの笑いの種になるだろう。 「駐アフガニスタン大使は、ガニ政権崩壊までにアフガニスタンを離れていた」、「日本大使館の職員12人は8月17日にイギリスの軍用機を利用して国外退避」、日本人は現地職員に余りに冷た過ぎる。
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人工知能(AI)(その12)(「部門予算」でDXをやる会社が、3年後に後悔すること【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(前編)、DXがわからない経営者・AIを使えないベンチャーは去ったほうがいい【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(後編)、藤井聡太はなぜこんなに強いのか?将棋のレジェンド・谷川浩司の「天才論」 谷川浩司九段に聞く・前編) [イノベーション]

人工知能(AI)については、4月5日に取上げた。今日は、(その12)(「部門予算」でDXをやる会社が、3年後に後悔すること【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(前編)、DXがわからない経営者・AIを使えないベンチャーは去ったほうがいい【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(後編)、藤井聡太はなぜこんなに強いのか?将棋のレジェンド・谷川浩司の「天才論」 谷川浩司九段に聞く・前編)である。

先ずは、4月29日付けダイヤモンド・オンライン「「部門予算」でDXをやる会社が、3年後に後悔すること【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(前編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/269476
・『シナモンAI共同創業者として、多くの企業にAIソリューションを提供して、日本のDXを推進する堀田創さんと、『アフターデジタル』『ネットビジネス進化論』をはじめ、数々のベストセラーでIT業界を牽引する尾原和啓さんがタッグを組んだ『ダブルハーベスト──勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』(ダイヤモンド社)が刊行された。「このままでは日本はデジタル後進国になってしまう」「日本をAI先進国にしたい」という強い思いでまとめられた同書は、発売直後にAmazonビジネス書第1位を獲得し、さまざまな業界のトップランナーたちからも大絶賛を集めているという。 データを育てて収穫する「ハーベストループ」とは何か。それを二重(ダブル)で回すとはどういうことか。IT業界の最長老を自認するドワンゴ代表の夏野剛さんをゲストにお招きして、AIを使ってDXを全社的に進めるときの心得や、乗り越えるべきハードル、間違いやすいポイントについて、シナモンAI代表の平野未来さんとともに聞いた(構成:田中幸宏)』、興味深そうだ。
・『「業務の生態系」ごとデザインしないと、AIが役に立つようにはならない(堀田創(以下、堀田):『ダブルハーベスト』刊行を記念し、夏野剛さんをお招きさせていただきました。シナモンAI代表の平野さんと一緒に、いろいろお話をうかがいたいと思います。本日はよろしくお願いします。 夏野剛(以下、夏野):夏野です。もう25年くらいIT業界にいて、最長老に近いと思いますが、ここ数年で大きく変わったのは、コンピューティングパワーとネットワークの能力が上がって、本格的なクラウド時代が到来したことですね。それがAI(人工知能)にとっても、ものすごく追い風になっています。 (夏野剛(なつの・たけし) 株式会社ドワンゴ 代表取締役社長/慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授 早稲田大学政治経済学部卒、東京ガス入社。ペンシルバニア大学経営大学院(ウォートンスクール)卒。ベンチャー企業副社長を経て、NTTドコモへ。「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げ、ドコモ執行役員を務めた。現在は慶應大学の特別招聘教授のほか、株式会社ドワンゴ代表取締役社長、株式会社ムービーウォーカー代表取締役会長、そして、KADOKAWA、トランスコスモス、セガサミーホールディングス、グリー、USEN-NEXT HOLDINGS、日本オラクルの取締役を兼任。このほか経済産業省の未踏IT人材発掘・育成事業の統括プロジェクトマネージャー、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会参与、内閣官房規制改革推進会議委員も務める。) ただ、日本は通信ネットワークも充実しているし、アプリケーションもたくさんあるにもかかわらず、世界から見ると、1周、2周、もしかしたら3周くらい遅れている。その中で、AIをどれだけ本気で活用できるかに、日本の未来はかかっています。私も政府の委員会や企業経営などをやっていますが、いろんな場面でテクノロジーのさらなる活用を人生のミッションとしてがんばっています。 平野未来(以下、平野):シナモンAI代表の平野です。私自身は15年以上前からAIの研究をしていて、学生時代にAIで起業したんですけれども、当時はまだ誰もAIに興味がないという時代で、すぐに失敗してしまいました。そうした経験があるので、いまAIが注目され、世の中でDX(デジタルトランスフォーメーション)がブームになっているのは驚くばかりです。 その一方で、AIやDXが盛り上がっているとはいっても、ほとんどの議論が「コスト削減」どまりになっていて、その先を見通せていない現状を考えると、もっともっと変えていかなければいけない。なので、今回『ダブルハーベスト』が大きな反響を呼んでいることをとてもうれしく思っています。 堀田:今回、IT批評家の尾原和啓さんと『ダブルハーベスト』を書かせていただいたのは、私たちAI技術者の立場からすると、AIを使って働き方や会社のあり方そのものを変えていくという発想から遠いところで、AIをちょこっと使っただけで「AIってこの程度だよね」と見限ってしまったり、それ以前に「AIはまだ早い」「うちには関係ない」という方々もたくさんいて、さすがにこのままではマズいだろうという思いがあったからです。 そこで、AIをビジネスの中にどう組み込んでいくかを体系的にまとめた本を出版したわけですが、大きなメッセージとして、「すでにあるデータをどうやって活用するか」という発想ではなく、日常業務の中でAIが学習するためのデータを取り込み、それによってAIを進化させ、そのAIを使うことでさらに別のデータをためていくという循環構造、ハーベストループをつくることを提唱しています。 (平野未来(ひらの・みく) シナモンAI代表 シリアル・アントレプレナー。東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。iOS/Android/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をミクシィに売却。ST.GALLEN SYMPOSIUM LEADERS OF TOMORROW、FORBES JAPAN「起業家ランキング2020」BEST10、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019イノベーティブ起業家賞、VEUVE CLICQUOT BUSINESS WOMAN AWARD 2019 NEW GENERATION AWARDなど、国内外での受賞多数。また、AWS SUMMIT 2019 基調講演、ミルケン・インスティテュートジャパン・シンポジウム、第45回日本・ASEAN経営者会議、ブルームバーグTHE YEAR AHEAD サミット2019などへ登壇。2020年より内閣官房IT戦略室本部員および内閣府税制調査会特別委員に就任。2021年より内閣府経済財政諮問会議専門委員に就任。プライベートでは2児の母。) 夏野:僕もAI関係のプロジェクトをいくつかやっていて、そこで感じるのは、AIは1つの「生態系」みたいなものだということです。AIはつくってすぐに効果が出るものではなく、グルグル回していく中でだんだん精度が上がっていく。そして新しい状況が発生したときにそれに適応していく。その意味で、AIのシステムをいかに日常業務の中に組み込んでいくかが大事だと思っています。 たまっているデータを分析して結果を導き出して終わり、ではなく、ふだんの業務フローの中で、あるいはユーザーが我々のサービスを使った結果、生み出されるデータから新しい分析が行われ、それによって打ち手が変わっていく。その流れの中にAIを組み込むというのは、まさにハーベストループの考え方そのもので、とてもしっくりきます。 いままではシステム開発をする人も発注する側も、どうしても何か成果物を受け取って終わり、みたいな考え方が根付いているので、走りながらだんだん精度を上げていくという開発の手法がなかなかなじまないのでしょうね。 堀田:いままでと開発のしかたが違ってくるので、経営者も社員も大きく考え方を変えていく必要がありますね。 夏野:いろいろなプロジェクトを見ていて思うのは、AIに短期的な効用を求める人が結構いるということです。やってみたらここがダメとか、全然使えないという判断をすぐに下してしまう人が多い。状況に応じてつねにチューニングをしながらループをつくっていくという発想が、いままでのシステム開発と全然違うので、人間の側が適応できていないわけです。 実はいま、経営に携わっているKADOKAWAやドワンゴでもループをつくろうとしています。そのときにも、部署ごと、ドメインごとの成果だけで判断するのではなく、トータルで均したときにどういう成果がどういう形で、グループ全体にどういう影響をもたらすのか、大局的な観点からどうなのかを見るようにしています。 堀田:すばらしい。事業レイヤーだけでなく、経営全体としてのループ化まで意識されていらっしゃるのはさすがです』、「いろいろなプロジェクトを見ていて思うのは、AIに短期的な効用を求める人が結構いるということです。やってみたらここがダメとか、全然使えないという判断をすぐに下してしまう人が多い。状況に応じてつねにチューニングをしながらループをつくっていくという発想が、いままでのシステム開発と全然違うので、人間の側が適応できていないわけです」、なるほど。
・『「うちにはデータがないから、AIは使えない……」と諦めなくていい 夏野:でも、APIでデータを出せるようにして、それがきちんと回り始めるまでには、やっぱり時間がかかるんです。正直、3年はかかるなという実感ですね。最近ようやく成果も出てきて、プロジェクトに参加している人たちの意識も変わってきました。あとは、基本設計もフレキシブルに変えていく。これがすごく大事だなというのが、いまのところの学びです。 (堀田創(ほった・はじめ) 株式会社シナモン 執行役員/フューチャリスト 1982年生まれ。学生時代より一貫して、ニューラルネットワークなどの人工知能研究に従事し、25歳で慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了(工学博士)。2005・2006年、「IPA未踏ソフトウェア創造事業」に採択。2005年よりシリウステクノロジーズに参画し、位置連動型広告配信システムAdLocalの開発を担当。在学中にネイキッドテクノロジーを創業したのち、同社をmixiに売却。さらに、AI-OCR・音声認識・自然言語処理(NLP)など、人工知能のビジネスソリューションを提供する最注目のAIスタートアップ「シナモンAI」を共同創業。現在は同社のフューチャリストとして活躍し、東南アジアの優秀なエンジニアたちをリードする立場にある。また、「イノベーターの味方であり続けること」を信条に、経営者・リーダー層向けのアドバイザリーやコーチングセッションも実施中。認知科学の知見を参照しながら、人・組織のエフィカシーを高める方法論を探究している。マレーシア在住。『ダブルハーベスト』が初の著書となる。) 堀田:ハーベストループの実装には、3年とか5年とかの長いスパンでビジョンをもってやっていくことが不可欠だと私も思います。 平野:『ダブルハーベスト』でいちばん気に入っているのが、「データはあとからでもいい」という考え方です。ありがちなのは、「いまあるデータをどうやって使おうか」という発想ですが、そうすると、「そのデータがないから何もできません」という話になりかねません。もう1つは、AIには取りかかるのが大変というイメージがあるけれども、「最初は小さく始められる」というところも好きですね。 身近な例でいうと、フェイスブックのMessengerで音声通話をすると、話が終わったあとに通話に問題がなかったかを尋ねるポップアップが出てきます。フェイスブックはその回答データをためていて、どういう環境だと通話のクオリティが悪くなるかがわかる。そういうループが回っているからこそ、ユーザーに対してよりよいUX(ユーザー体験)を提供できるわけです。 シナモンAIでも、お客様に対してハーベストループを描いてAIソリューションを提供させていただいています。たとえば、物流商社さんにとっては、お客様がほしいと思ったらすぐに商品が届くというのが実現したい世界観です。そこで、需要予測や倉庫内の配置、なるべく多くの商品を取り扱うにはどうするかといったところでAIを使っていただいています。これは、三重にループが回っているケースですね。 ほかにもたとえばメーカーさんで、お客様の声はあるんだけれども、それが商品設計まで生かされていなかった。そこにハーベストループを回してすぐに伝達される仕組みをつくってあげると、よりお客様のニーズに合った商品づくりができるようになるわけです。そういう事例も出てきました。 堀田:「循環構造をつくることが大事」という意識が広がっているのは私も実感していますね。他方で、いまDXに注目が集まっていますが、日本のDXの現状について、夏野さんはどのように見ていらっしゃいますか? 夏野:「とにかくDXをしろ」とか「DXが重要だ」という経営者は多いですけれども、DXは単なる手段であって目的ではありません。そこを見えていない方が多いですね。大事なのは、デジタライゼーションが起こった結果、人の仕事のフローがどう変わるか、人の組織設計がどう変わるか、ということであって、思考がそこに至らないままテクノロジーだけ導入しても、結局何も変わらない。 その意味では、いまのコロナ禍の状況は追い風というか、根本から考え直すいい転機になっています。そもそもリモートワーク自体が仕事のやり方を変換しているわけで、そのためにはデジタルツールを使わざるを得ない。DXの名の下に、いままでやったことのない働き方を試してみるということがふつうに起こっていて、その中でどれがうまくいったかという知見がたまっていっています。それはとてもいいことです』、「DXは単なる手段であって目的ではありません。そこを見えていない方が多いですね。大事なのは、デジタライゼーションが起こった結果、人の仕事のフローがどう変わるか、人の組織設計がどう変わるか、ということであって、思考がそこに至らないままテクノロジーだけ導入しても、結局何も変わらない」、その通りだろう。
・『DXを理解していない経営者ほど、「部門予算」で済ませようとする  夏野:ただ、そうした変化を定着させるには、トップの理解が欠かせません。たとえば、予算措置をとってみても、AIを使って根本的に業務改革をしようというときに、ループがちゃんと回るということが証明されるまでには、それなりに時間がかかるわけです。 ところが、その間の開発費を特定の部局の予算につけてしまうと、単純にコストが増えるので、現場は動きたくなくなる。だから、それは社長予算でやる必要があります。現場に「経営者予算だから支出は気にしなくていい。エンジニア人員をしっかり割いてくれ」といえるかどうかがすごく重要です。 経営者がDXの本質を理解していればできると思いますが、理解していない経営者には、そういった決断ができない。できないということは、まだまだ理解していない経営者が多いということではないかと思います。 堀田:DXは手段であって、最終的に何を目指すのか、いわゆるパーパス(Purpose)はまた別の問題ですよね。たとえば、「顧客体験を劇的に向上させる」というパーパスがしっかりあれば、そこから一貫したメッセージを届けることができます。 逆に、パーパスが見えていない・浸透していない企業にハーベストループをご提案しても、どこかで食い違うという体験を何度かしています。DXにしろAIを活用したループにしろ、やはりパーパスがカギになるんでしょうね。(後編に続く)) (P3は本の「ダブルハーベスト」の紹介なので省略)』、「AIを使って根本的に業務改革をしようというときに、ループがちゃんと回るということが証明されるまでには、それなりに時間がかかるわけです。 ところが、その間の開発費を特定の部局の予算につけてしまうと、単純にコストが増えるので、現場は動きたくなくなる。だから、それは社長予算でやる必要があります。現場に「経営者予算だから支出は気にしなくていい。エンジニア人員をしっかり割いてくれ」といえるかどうかがすごく重要です」、「部門予算」ではなく、「経営者予算」でやれとの主張は理解はできるが、予算統制上の問題も出てきそうだ。

次に、この続きを、5月6日付けダイヤモンド・オンライン「DXがわからない経営者・AIを使えないベンチャーは去ったほうがいい【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(後編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/269477
・『シナモンAI共同創業者として、多くの企業にAIソリューションを提供して、日本のDXを推進する堀田創さんと、『アフターデジタル』『ネットビジネス進化論』をはじめ、数々のベストセラーでIT業界を牽引する尾原和啓さんがタッグを組んだ『ダブルハーベスト──勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』(ダイヤモンド社)が刊行された。「このままでは日本はデジタル後進国になってしまう」「日本をAI先進国にしたい」という強い思いでまとめられた同書は、発売直後にAmazonビジネス書第1位を獲得し、さまざまな業界のトップランナーたちからも大絶賛を集めているという。 データを育てて収穫する「ハーベストループ」とは何か。それを二重(ダブル)で回すとはどういうことか。IT業界の最長老を自認するドワンゴ代表の夏野剛さんをゲストにお招きして、AIを使ってDXを全社的に進めるときの心得や、乗り越えるべきハードル、間違いやすいポイントについて、シナモンAI代表の平野未来さんとともに聞いた(構成:田中幸宏)』、興味深そうだ。
・『いまだに消えない「AI担当=情報システム部署」という誤解  堀田創(以下、堀田) 日本の産業を見たときに、なかなかDX(デジタルトランスフォーメーション)の波にうまく乗り切れていないように思うのですが、このチャンスを活かすときにはどんな発想が大事になるとお考えですか?  (夏野 剛氏の略歴は省略) 夏野剛(以下、夏野) DXはすべての産業に当てはまると思っています。大前提として、日本はこれから人口が減っていくので、「AI(人工知能)にやってもらえること」と「人の業務」との分担をつねに見直していくことがすごく大事です。そのなかで、「人間がやらなくていいこと」をできる限り増やしていく。『ダブルハーベスト』の中でも、「我々の仕事のフローそのものがAIのループの中に組み込まれる」という考え方が紹介されていましたが、非常に共感しました。 平野未来(以下、平野) 「ヒューマン・イン・ザ・ループ」や「エキスパート・イン・ザ・ループ」の考え方ですね。おっしゃるとおり、AIと人間が同じループの中に自然な形で入っているというのがすごく重要です。人間が通常の仕事をするだけで、いつのまにかAI向けの学習データが生み出され、AIがどんどん改善されていく。そういうループをつくれるかどうかです。 メディアでは「AIが人間の仕事を奪う」という文脈ばかりが強調されますが、実際には「AIと人が一緒に働く世の中」がやってくるんでしょうね。 夏野 そうですね。AIには子どもみたいなところがあって、最初はたいして成果は出ないけれども、ちゃんと教育していくことによって、だんだん使い物になっていく。それもあって、いまからやっておかないと、すべての産業で人手が足りなくなります。すべての産業がもっと効率化しないと、いまある日本を維持することすらできないわけです。 ところが、企業の方にAIの話をすると、どうしてもデータシステムのことだと思い込んで、「情報システム部がやればいい」という話になりがちなんですよね。だけど、実際にはこれからすべての業務の中にAIが組み込まれていくわけです。そこにデータを流してあげると、AIが勝手に判断して、いままで人がやってきたことを、より効率的に、素早くやってくれるようになる。人間とAIが一体となって、堀田さんのいうパーパス(会社が実現したい未来)に向かうことが重要なので、すべての産業がいますぐにやるべきだと思っています。 平野未来氏の略歴も省略) 平野 日本のDXという観点でいうと、1つよかったのは、コロナによっていろいろなものがデジタル化されたということです。アナログなまますべてが完結していると、なかなかAIの導入は難しいので、デジタル化が進んだのはよかったと思います。 たしかに、いま起きていることのほとんどは、あくまでも「デジタル化」にすぎないので、「DXごっこをしているだけ」などと揶揄されてしまうこともあるんですが、いまの時点では「DXごっこ」でもいいのかなと思っています。 というのも、いまDXに成功している会社の数年前の姿を思い出すと、彼らもAIの戦略的側面なんて全然考えないまま、単なるコスト削減に取り組んでいたわけですから。ですけど、わからないなりにとにかくやってみて、失敗しながら知見を積み上げてきた。そういう時期があったからこそ、いま、DXがうまくいっているわけです。なので、DXごっこでもかまわないので、まずはやってみる。そこからハーベストループを描く形になっていければいいと考えています』、「日本はこれから人口が減っていくので、「AI(人工知能)にやってもらえること」と「人の業務」との分担をつねに見直していくことがすごく大事です。そのなかで、「人間がやらなくていいこと」をできる限り増やしていく」、「企業の方にAIの話をすると、どうしてもデータシステムのことだと思い込んで、「情報システム部がやればいい」という話になりがちなんですよね。だけど、実際にはこれからすべての業務の中にAIが組み込まれていくわけです。そこにデータを流してあげると、AIが勝手に判断して、いままで人がやってきたことを、より効率的に、素早くやってくれるようになる。人間とAIが一体となって、堀田さんのいうパーパス(会社が実現したい未来)に向かうことが重要なので、すべての産業がいますぐにやるべきだと思っています」、その通りだ。
・『「DXの本質を理解できていない経営者は去ったほうがいい」  堀田 DXを推進するにあたって、とくに大企業では、組織の動かし方とか、全体戦略と個別の施策をどうやってつなげていくかというところで悩んでいる方が多い印象があります。前回、夏野さんがおっしゃっていたように、DXをうまくいかせるには、トップダウンでの差配が重要なりますから、トップがしっかりしていないと、なかなかDXが実現しないんですよね。だから、事業の責任者が「DXを推進しよう!」と思っても、壁にぶつかってしまう。この壁を乗り越えるうまいやり方はありますか? 夏野 僕自身は、経営陣がハッパをかけてでもDXを進めないと次の時代に行けないと思っているので、予算を個別の部局につけることをせずに、こちらで責任をもって進めています。ですが、上層部がなかなかそういう判断をしてくれない、あるいは、もともとそういう判断をする文化がないという大企業は少なくないでしょうね。 そういう中で、DX、中でもAIのように時間がかかるものについて上層部の理解を得るには、現場にいる人たちが実際に「小さなループ」をつくって回すことが大事だと思います。ただ、これは常道ではありません。正直、ここにきてDXの本質を理解できない経営者は去ったほうがいいと思っています。でも、実際にそういう経営者がたくさんいる日本の現状を見たときに、現場の人たちがループを回して、それを実際に見てもらうことには意味があります。 (堀田創氏の略歴は省略) 「こういうデータをこう分析すると、こういう結果が出てくるので、それを応用してこうすれば、こういう効果が出ます」といくら説明しても、「そんなにうまくいくはずない」と言い出す人はいます。だから、実際にやってみて、まずは小さな成功体験を見てもらう。そのうえで、「もしこれを全社展開したら、もっとすごいことになりませんか?」と説得するわけです。概念が理解できていない、あるいは、理解できても確信がもてないという経営者に対して、確信をもって「いける!」と思わせるような証拠をつくって見せることが重要です。 堀田 ハーベストループはダブル、トリプルどころか、超並列処理的に100個のループを同時に回すこともできるはずで、いったん回り出すとどんどん加速していきます。でも、最初の1ループをちゃんと回すには時間がかかって、1カ月で成果を出すのは難しい。小さいループでも大きいループでも2年くらいかけないと、成果を出し切ることはできないという面があります。 いまから2年かけて小さいループを仕込んだあとに、もう1回、2年仕込んでそれを全社展開するとなると、そこまで待てるかどうかというのがハードルになりそうです。 夏野 ただ、小さなループであれば、部署の予算内で実現できるかもしれません。大きなループは大量のデータを要するので、どうしても予算規模が大きくなる。そうすると、会社に隠れてこっそりやるというわけにはいかないんですよね。まずは小さな規模でいいから、1ループつくってみるというのはすごく大事です。 堀田 どうしても動きが鈍い大企業の中だと、まず自分たちで先駆的に小さなループを回して、それがうまくいったというところまでいけば、社内でヒーローになれる可能性があるということですね。 平野 DXがうまくいくかどうかは、パーパス次第というところがあります。自分たちが目指したい未来像がはっきりしている企業さんは、ハーベストループも描きやすい。個別施策と全体感がズレることもありません。でも、自社サイトに経営理念やビジョンを出してすらいなくて、パーパスがはっきりしていないような企業では、アイデアが散発的になってしまいがちで、どこから手をつければいいかが見えてきません。なので、まずはパーパスを明確にし、それを全社に浸透させる必要があります。 組織的には、トップのコミットメントは絶対に必要です。最近では富士通の時田隆仁社長のように、社長兼CDXO(最高デジタル変革責任者)を名乗る方も出てきて、すばらしいと思います。トップのコミットメントと同時に、現場レベルでも、いろんな部門を渡り歩いてきて全体感が見えているような優秀な人がいると強い。トップと現場、上と下の両方がそろっていると、DXは進めやすいと思います』、「トップのコミットメントと同時に、現場レベルでも、いろんな部門を渡り歩いてきて全体感が見えているような優秀な人がいると強い。トップと現場、上と下の両方がそろっていると、DXは進めやすいと思います」、なるほど。
・『中小・ベンチャーのAI&DXは?──「お金がないからできない」は言い訳  堀田 大企業の場合は、パーパスの実現に向けて全社的なうねりをつくっていくのが肝になりそうです。一方、ベンチャーや中小企業の場合は、AIとどういうふうに向き合うべきなのか。率直なところをうかがいたいと思います。 私自身はAIベンチャーを創業した身でもありますし、当然AIは必要だという立場ですが、一方で、ハーベストループがきちんと成果を出すまでは持ち出しが続くわけで、資金力のないベンチャーがどこまで先行投資に耐えられるかという切実な問題があります。夏野さんはベンチャー投資もされているとお聞きしていますが、ベンチャーや中小企業にとってのAIについては、どうお考えですか? 夏野 ベンチャーも中小企業も、大企業と戦っていく、あるいは、大企業がもっている市場に切り込んでいくときの切り口は、テクノロジーしかないんです。テクノロジーという観点でいうと、いまいちばんホットな武器、最先端で切れ味のいい武器はAIです。大企業がまだ活用しきれていないからです。 これを武器にできないのであれば、ベンチャーをやめたほうがいいと思います。イニシャルの投資に耐えられるかという話はありますが、ベンチャーを起業した時点で、その覚悟はできているはずなんです。ベンチャーにとっての問題は、むしろ、人のアサインが間に合わないことです。成長するベンチャーほど、人材が絶対に不足する。そうなると、大企業と同じような生産性でやっている限り、絶対に勝てません。だから、テクノロジーをフル活用して、一人あたりの生産性を極限まで高めて切り込んでいかなければ勝負にならないんです。そのためには、最先端の武器が不可欠です。その武器がない状態で事業をやるなら、最初からやらないほうがいいと思います。 それに、いまほどベンチャーとか中小企業が資金調達しやすい環境なんて、ほとんどないはずです。お金が余っているからです。なので、いまは、ゲームプランを描き、リスクをとったうえで、一気に切り込んでいく大きなチャンスです。これを逃す手はない。 平野 私も同じ意見で、『ダブルハーベスト』の中でも紹介されているアメリカの損害保険会社「レモネード」はいい事例です。彼らは設立6年足らずで時価総額5000億円を超えています(2021年4月時点)。創業5年目でここまで大きくなったのはすごいことで、彼らは従来の保険会社とはまったく違うサービスをつくっています。 チャットボットと90秒ほど話をするだけで保険に加入できて、何か事故があったときには数分でお金が振り込まれる。そういうUX(ユーザー体験)をAIによって実現しています。既存の保険会社が同じことをやろうと思っても、従来のオペレーションと矛盾することが出てきてしまったりして、なかなかできません。しがらみのないスタートアップだからこそ実現できたサービスです。 レモネードは、チャットボットのやりとりで得られたデータを使って、よりよいUXを提供するというループを回しているだけではなく、不正請求を見破ったりするためのループなど、複数のループを同時に回しています。彼らにできたのですから、我々日本のスタートアップもそういう事例をどんどんつくっていかなければ、と思っています。 堀田 私も夏野さんに同意します。いまはAIをはじめ、いくつかの技術が同時多発的に出てきて、それを使えない状態で勝負するのがだんだん難しくなってきています。それに、いくら動きが鈍いとはいっても、大企業も5年くらいのスパンでは確実にキャッチアップしてくる。機動力の高いベンチャーや中小企業は、いまこそAIを活用して先行者利益を追求すべきタイミングだと思いますね。 夏野さんには『ダブルハーベスト』にすばらしい推薦コメントをいただきましたし、われわれとしては日本企業のAI実装を後押しするお手伝いを、これからもどんどん加速し(きたいと思っています。本日はお時間をいただき、ありがとうございました! (鼎談おわり)(P3は本の「ダブルハーベスト」の紹介なので省略)』、「ベンチャーも中小企業も、大企業と戦っていく、あるいは、大企業がもっている市場に切り込んでいくときの切り口は、テクノロジーしかないんです。テクノロジーという観点でいうと、いまいちばんホットな武器、最先端で切れ味のいい武器はAIです。大企業がまだ活用しきれていないからです」、「機動力の高いベンチャーや中小企業は、いまこそAIを活用して先行者利益を追求すべきタイミングだと思いますね」、「ベンチャー」や「中小企業」に頑張ってもらいたいとは思うが、果たしてそれが可能なのだろうか。

第三に、9月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの粟野仁雄氏による「藤井聡太はなぜこんなに強いのか?将棋のレジェンド・谷川浩司の「天才論」 谷川浩司九段に聞く・前編」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/280494
・『藤井聡太二冠(棋聖・王位)は7月3日に静岡県沼津市で行われた渡辺明三冠(名人・王将・棋王)との棋聖位の防衛戦で、最年少九段(18歳11カ月)と最年少タイトル防衛を達成した。8月25日には挑戦者の豊島将之二冠(竜王・叡王)を破り、4勝1敗で王位も防衛。その豊島二冠と2勝2敗になっている叡王戦五番勝負の最終局(9月13日)に「史上最年少三冠」がかかっているが、8月30日には竜王戦の挑戦者決定三番勝負で永瀬拓矢王座(28)を下して豊島竜王への挑戦権を獲得したため、年内に四冠達成の可能性も出てきている。中学生でプロ棋士(四段)デビュー、破竹の勢いで勝ち星を重ねる藤井二冠について、同じく中学生でプロデビューし、日本将棋連盟の前会長、十七世名人資格者・谷川浩司九段はどう見ているのか。(本文敬称略)』、「谷川浩司九段はどう見ているのか」とは興味深い切り口だ。
・『二人の天才  藤井聡太は2002年、愛知県瀬戸市出身。2016年、史上最年少の14歳でプロ入り(奨励会で四段昇段)。デビュー戦で元名人の加藤一二三九段(後に引退)を破ったのを皮切りに、29連勝という新記録を打ち立てる。 2018年には全棋士とアマの強豪、女流棋士が参加する朝日杯将棋オープンで初優勝、この時は準決勝で羽生善治(永世七冠資格)を破り、決勝で広瀬章人(後に竜王)を破った。翌年も連覇。今年は渡辺らを破って三度目の優勝をした。2020年7月には渡辺棋聖を3勝1敗で破り、史上最年少でタイトル獲得。8月には木村一基王位に4-0のストレート勝ちしてすぐに二冠を達成した。トップ級棋士も参加する「詰将棋解答選手権」では小学校6年から優勝し続けている(昨年と今年はコロナ禍で中止)。 今年は渡辺を退けて棋聖を初防衛し、史上最年少の九段を達成した。すでに王位の防衛戦が始まっており、三冠目を狙い叡王戦にも挑戦中だ。今春、卒業寸前で高校を中退し、棋士に専念している。 実は、中学生でプロデビューした棋士は藤井を含め歴代で5人しかいない。しかも全員将棋史に名を残す超一流の棋士ばかりだ。そのうちの一人が、『藤井聡太論 将棋の未来』(講談社+α新書)を上梓した谷川浩司九段である。) 谷川は1962年、神戸市出身。1976年にプロ入り。名人戦順位戦の最初の1期だけ2年在籍したが、その後は毎年度昇級し、1983年度に最高成績で挑戦権を得て、名人戦で6月に加藤一二三を破り、史上最年少の21歳2カ月で名人となった。この記録は今も破られていない。詰将棋力を生かした終盤の寄せの鋭さから「光速の寄せ」の異名を持つ。十七世名人資格者。名人5期、竜王4期などタイトル歴の通算は27期で歴代5位。日本将棋連盟の前会長で紫綬褒章を受章している』、「谷川」氏がこんなにもすごい経歴とは初めて知った。
・『相手と戦うのではなく、将棋盤と対峙している  子ども時代の藤井聡太は負けると将棋盤にしがみついて激しく泣いた。「引きはがすのに苦労した」という瀬戸市の「ふみもと子供将棋教室」の文本力雄は「将棋を始めると何も見えない。すさまじい盤面集中だった」と振り返る。将棋を考えながら歩いていて、溝に落ちた逸話も有名だ。 谷川は語る。「彼は相手によって作戦を変えることはなく、相手の得意戦法を外すこともしません。対戦相手と戦っているのではなく、将棋盤と対峙しているのです。子ども時代の将棋教室で培われた集中力と長時間考え続けられる力から来たのでしょう。普通は1時間も考えていたら、考えるのを休みたくなりますが、彼は公式戦でも相手の手番の時間帯も休まず考え続けます」。 藤井は対局中、ほとんど相手を見ない。相手が羽生であれ、誰であれ関係ない印象だ。ある意味、社会体験が少ないから萎縮しないで済むのでは?とも思うが、谷川の見方は異なる。 「社会体験の多寡より、彼は強い相手と将棋ができることが純粋にうれしいのでしょう。将棋の真理を追究することを実現するためには相手が強ければ強いほどいい。きっと初防衛戦で渡辺さんと豊島(将之。竜王・叡王)さんが挑戦者になったことさえも喜んでいると思います。普通は『大変なことになったな』と思うものですが」と驚くのだ』、「彼(藤井氏)は相手によって作戦を変えることはなく、相手の得意戦法を外すこともしません。対戦相手と戦っているのではなく、将棋盤と対峙しているのです。子ども時代の将棋教室で培われた集中力と長時間考え続けられる力から来たのでしょう」、なるほど。
・『驚異の逆転力は「意図せぬ難局面への誘導」と、詰将棋力  昨年7月、札幌での王位戦の第2局、絶体絶命から木村一基王位に大逆転した。藤井の数々の逆転は将棋界を驚かせてきた。逆転力について谷川は「最近は逆転勝ちも減り、序盤からのリードを守ることが増えました。とはいえ逆転力は藤井将棋の魅力の一つですね。劣勢でも相手にぴったりと肉薄して複雑な局面に持ち込んでゆき、相手がなかなか最善手にたどり着けないような局面に誘導していく。本人には罠をかけているつもりはなく、意図せず自然にできる能力がありますね」と分析する。 藤井と谷川、40歳違いの天才には“詰将棋の強さ”という共通点もある。二人とも詰将棋を好み、難解な詰将棋問題を創作するのだ。これが彼らの終盤の逆転力に生きている。詰将棋について谷川はこう語る。「私が子どもの頃は詰将棋を解くというのが勉強で大きかったのですが、今の棋士の研究ではAIの活用が第一で、研究の半分の時間を占めるともいわれています。他の研究方法の重要度が落ち、詰将棋を解くことは研究の順位として下がりました。とはいっても、トップ同士が互いに時間がなくなってからの戦いでは、詰将棋経験が豊富な棋士は『これは見た形だ』として考えずに指せる。(詰将棋を)やっていない人なら30秒かかるところを、やっている人なら1秒で分かることもあります」。なるほど、この差は大きいはずだ。 2年前の朝日杯の準決勝で藤井に敗れた行方尚史九段が「真綿で首を絞められるようで、いつの間にか息ができなかった」と話し、「一番強い勝ち方では」と感じた。 谷川は「藤井さんは四段(プロ)になって1年くらいは逆転勝ちが多かったのですが、3年目くらいから序盤の精度が高くなってきた。作戦負けもなくなり、作戦勝ちから有利優勢のまま差を広げていく勝ち方ができるようになりました。その頃からですね」と振り返る。 「AIの申し子」と言われる藤井二冠だが、実際にAIを取り入れたのはプロ入りの少し前からだ。藤井はAIについて「序盤で定跡とされてきた指し手以外にもいろいろあると分かってきて、自由度が高まっていると感じています」と語っている』、「トップ同士が互いに時間がなくなってからの戦いでは、詰将棋経験が豊富な棋士は『これは見た形だ』として考えずに指せる。(詰将棋を)やっていない人なら30秒かかるところを、やっている人なら1秒で分かることもあります」、「「AIの申し子」と言われる藤井二冠だが、実際にAIを取り入れたのはプロ入りの少し前からだ」、初めて知った。
・『AIの常識外の一手  そんな藤井の言葉を象徴するような「事件」があった。2017年5月、現役名人だった佐藤天彦九段と対戦したAI「ポナンザ」の初手は常識外れの「3八金」。棋士の公式戦では出現したことがない、つまり人間ならまず指さない手だ。 佐藤は体を真横に折り曲げて悩んだが、この勝負を制したAIだった。羽生は「我々がやってきた将棋は、将棋の一部でしかなかったのでは」とうなった。これについて谷川は「将棋の初手は30通りの選択肢があり、普通は角道を開く7六歩とか飛車の前の歩を進める2六歩、さらには真ん中の歩を進める5六歩の3通りが圧倒的です。それ以外を指されたらそこで考えるしかない。人間は何百手とかは読めても何万手とかまでは読めません。AIと違い、直感で多くの手は捨てて、残りだけで考えます。3八金なんていう手を指されることを考えませんが、序盤なのでそれで形勢を損ねるわけでもない。これからもAIの長所、人間の長所をうまく組み合わせて(将棋以外でも)すべての分野でAIとうまく付き合うしかないと思います」』、「AI「ポナンザ」の初手は常識外れの「3八金」。棋士の公式戦では出現したことがない、つまり人間ならまず指さない手だ・・・この勝負を制したAIだった。羽生は「我々がやってきた将棋は、将棋の一部でしかなかったのでは」とうなった」、さすがAIだ。
・『AIの登場により、将棋は新しい時代に入った  藤井はAIについて「数年前は棋士とソフトの対局が大きな話題になりました。今は対決の時代を超えて共存という時代に入ったのかなと思います」と語っている。言葉通り、「人間対AI」の時代は短期間で終わり、棋士たちは研究に使うようになった。 「AI研究を始めるのは比較的遅かった」という谷川は、藤井について「AIを非常にうまく取り入れることに成功した」とみる。「AIで事前の研究と対局後の研究がやりやすくなりました。戦略としての事前研究が大事になってきて、次の対局に向けて相手が知らないような指し方を自分だけが知っていれば、そこに引っ張り込んで戦えれば有利にもなります。以前はどこが敗着か分からないことが多かったのが、今はデータを打ち込めば分かる。負けた将棋を研究し次に生かせる。対局では直後に感想戦もしますが、その検討が正しいかどうかは何ともいえない。どの手が疑問手だったかとか、対局で感じていた優勢、劣勢が本当はどうだったのかなどもAIと人間の感覚が違うことはあります」(谷川) 名古屋には将棋会館がないため、藤井は東京か大阪に始終通わねばならないハンディがある。こうした中、多くの研究が自宅でできるAIがハンディをカバーしている面もあるのではないだろうか』、「「人間対AI」の時代は短期間で終わり、棋士たちは研究に使うようになった」、対決ではなく、協働の時代に入ったようだ。
・『AIと本質的な棋力は関係がない  藤井にとって「天敵」ともいえる存在が、豊島将之二冠だった。今年の6月時点での成績は1勝6敗と大きく負け越していたが、その後、王位戦では4勝1敗で豊島を退けるなど、今年に入ってからは7勝3敗。早くも天敵とは言えなくなっている。豊島は一時期、対人研究を封じてAI研究に没頭した。藤井に勝つには、人間相手よりもAIを使った研究のほうが良いのだろうか? しかし、谷川はAIが「藤井キラー」になっている要因ではないとみる。 「豊島さんは棋士になるのも早かったし、20歳でタイトル挑戦もしていた。本来、もっと前から今のような活躍ができた棋士です。だから藤井さんに勝つことは全く不思議ではないのですよ。ただ以前、電王戦(人間対AIの団体戦)の第3回で、トップ棋士の中で彼だけが勝利したことは、AIに没頭するきっかけになったかもしれません。20代半ばで何度かタイトル戦に挑戦して跳ね返され続けて試行錯誤する中で、ソフトの研究に時間を費やしたのでしょう」 藤井自身、AIについて「序中盤の形勢判断などで力になった部分は大きいとは思いますが、考える候補手、拾う手が若干増えたかなという印象はあります。ただ、はっきりと違いを感じるものではないです」と話している。谷川は著書で「藤井さんの強さは、最善手を求める探求心と集中力、詰将棋で培った終盤力とひらめき、局面の急所を捉える力、何事にも動じない平常心と勝負術など極めてアナログ的なもの。将棋ソフトを使い始めたのはプロデビューする直前であり、彼の本質的な強さはAIとは関係がないと言っていい」としている』、「藤井自身、AIについて「序中盤の形勢判断などで力になった部分は大きいとは思いますが、考える候補手、拾う手が若干増えたかなという印象はあります。ただ、はっきりと違いを感じるものではないです」と話している」、「将棋ソフトを使い始めたのはプロデビューする直前であり、彼の本質的な強さはAIとは関係がないと言っていい」、なるほど。
・『成るか、至難の最年少名人  藤井二冠はタイトル獲得の最年少記録や今年のタイトル防衛の最年少記録を達成した対局が誕生日の直前にあるなど、記録に花を添える「運」も持っている。 谷川は彼の運について「14歳のデビュー戦で藤井さんは加藤一二三九段と対局して勝ち、29連勝へのスタートとなりました。加藤さんはまもなく引退されたので、あの時でなければ『62歳差の公式戦対局』は実現しませんでした。タイトル戦もコロナ禍で、将棋連盟の手合課が苦労して対局予定を組み、藤井さんはそれに応えました。結果的には幸運に見えても、彼は自分の力で運を呼び寄せているのです」と語る。谷川自身は早くから目をかけてくれた芹沢博文九段(故人)に「お前は運がいい。運を大事にしろ」と言われ、いつも自分は運がいいと思うようにしているそうだ。 さて、藤井にとって最も難しい最短記録が、谷川の持つ「最年少名人」(21歳2カ月)だ。 名人になるには「鬼の棲家(すみか)」と言われるつわものぞろいの今期のB1を1期抜けして来期にAクラスに上がり、総当たり戦で最優秀成績を収めて挑戦者になり、現役名人を七番勝負で破らなくてはならない。 谷川は「大変ですが、彼のことですから乗り越えるかなという気持ちもありますね。楽しみですが、私にとって残る(最年少)記録は名人獲得だけなので、抜かれたらちょっと寂しい気持ちになるかもしれませんね」とほほえんだ。 >>後編「AIは将棋をどう変えたのか?谷川浩司九段が語る棋士の未来」に続く)』、「藤井にとって最も難しい最短記録が、谷川の持つ「最年少名人」」、どうなるのだろうか。なお、「後編」の紹介は省略。
タグ:人工知能 (AI) (その12)(「部門予算」でDXをやる会社が、3年後に後悔すること【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(前編)、DXがわからない経営者・AIを使えないベンチャーは去ったほうがいい【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(後編)、藤井聡太はなぜこんなに強いのか?将棋のレジェンド・谷川浩司の「天才論」 谷川浩司九段に聞く・前編) ダイヤモンド 「「部門予算」でDXをやる会社が、3年後に後悔すること【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(前編)」 「いろいろなプロジェクトを見ていて思うのは、AIに短期的な効用を求める人が結構いるということです。やってみたらここがダメとか、全然使えないという判断をすぐに下してしまう人が多い。状況に応じてつねにチューニングをしながらループをつくっていくという発想が、いままでのシステム開発と全然違うので、人間の側が適応できていないわけです」、なるほど。 「DXは単なる手段であって目的ではありません。そこを見えていない方が多いですね。大事なのは、デジタライゼーションが起こった結果、人の仕事のフローがどう変わるか、人の組織設計がどう変わるか、ということであって、思考がそこに至らないままテクノロジーだけ導入しても、結局何も変わらない」、その通りだろう。 「AIを使って根本的に業務改革をしようというときに、ループがちゃんと回るということが証明されるまでには、それなりに時間がかかるわけです。 ところが、その間の開発費を特定の部局の予算につけてしまうと、単純にコストが増えるので、現場は動きたくなくなる。だから、それは社長予算でやる必要があります。現場に「経営者予算だから支出は気にしなくていい。エンジニア人員をしっかり割いてくれ」といえるかどうかがすごく重要です」、「部門予算」ではなく、「経営者予算」でやれとの主張は理解はできるが、予算統制上の問題も出てきそうだ 「DXがわからない経営者・AIを使えないベンチャーは去ったほうがいい【ゲスト:夏野剛さん】[『ダブルハーベスト』トーク]夏野剛+平野未来+堀田創(後編)」 「日本はこれから人口が減っていくので、「AI(人工知能)にやってもらえること」と「人の業務」との分担をつねに見直していくことがすごく大事です。そのなかで、「人間がやらなくていいこと」をできる限り増やしていく」、「企業の方にAIの話をすると、どうしてもデータシステムのことだと思い込んで、「情報システム部がやればいい」という話になりがちなんですよね。だけど、実際にはこれからすべての業務の中にAIが組み込まれていくわけです。そこにデータを流してあげると、AIが勝手に判断して、いままで人がやってきたことを、より効 「トップのコミットメントと同時に、現場レベルでも、いろんな部門を渡り歩いてきて全体感が見えているような優秀な人がいると強い。トップと現場、上と下の両方がそろっていると、DXは進めやすいと思います」、なるほど。 「ベンチャーも中小企業も、大企業と戦っていく、あるいは、大企業がもっている市場に切り込んでいくときの切り口は、テクノロジーしかないんです。テクノロジーという観点でいうと、いまいちばんホットな武器、最先端で切れ味のいい武器はAIです。大企業がまだ活用しきれていないからです」、「機動力の高いベンチャーや中小企業は、いまこそAIを活用して先行者利益を追求すべきタイミングだと思いますね」、「ベンチャー」や「中小企業」に頑張ってもらいたいとは思うが、果たしてそれが可能なのだろうか。 ダイヤモンド・オンライン 粟野仁雄 「藤井聡太はなぜこんなに強いのか?将棋のレジェンド・谷川浩司の「天才論」 谷川浩司九段に聞く・前編」 「谷川浩司九段はどう見ているのか」とは興味深い切り口だ。 「谷川」氏がこんなにもすごい経歴とは初めて知った。 「彼(藤井氏)は相手によって作戦を変えることはなく、相手の得意戦法を外すこともしません。対戦相手と戦っているのではなく、将棋盤と対峙しているのです。子ども時代の将棋教室で培われた集中力と長時間考え続けられる力から来たのでしょう」、なるほど。 「トップ同士が互いに時間がなくなってからの戦いでは、詰将棋経験が豊富な棋士は『これは見た形だ』として考えずに指せる。(詰将棋を)やっていない人なら30秒かかるところを、やっている人なら1秒で分かることもあります」、「「AIの申し子」と言われる藤井二冠だが、実際にAIを取り入れたのはプロ入りの少し前からだ」、初めて知った。 「AI「ポナンザ」の初手は常識外れの「3八金」。棋士の公式戦では出現したことがない、つまり人間ならまず指さない手だ・・・この勝負を制したAIだった。羽生は「我々がやってきた将棋は、将棋の一部でしかなかったのでは」とうなった」、さすがAIだ。 「「人間対AI」の時代は短期間で終わり、棋士たちは研究に使うようになった」、対決ではなく、協働の時代に入ったようだ。 「藤井自身、AIについて「序中盤の形勢判断などで力になった部分は大きいとは思いますが、考える候補手、拾う手が若干増えたかなという印象はあります。ただ、はっきりと違いを感じるものではないです」と話している」、「将棋ソフトを使い始めたのはプロデビューする直前であり、彼の本質的な強さはAIとは関係がないと言っていい」、なるほど。 「藤井にとって最も難しい最短記録が、谷川の持つ「最年少名人」」、どうなるのだろうか。なお、「後編」の紹介は省略。
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ソーシャル・ファイナンス(その3)(SBIソーシャルレンディング関連3題:(上)北尾氏はベンチャーの社長を「詐欺師」呼ばわり SBIグループは事件の「最大の被害者」なのか、(中)社内の諫言でも融資は続けられた SBIソーシャルレンディングが放置した問題、(下)真相はまだ明らかになっていない SBIグループとテクノの不可解な関係) [金融]

ソーシャル・ファイナンスについては、6月20日に取上げた。今日は、(その3)(SBIソーシャルレンディング関連3題:(上)北尾氏はベンチャーの社長を「詐欺師」呼ばわり SBIグループは事件の「最大の被害者」なのか、(中)社内の諫言でも融資は続けられた SBIソーシャルレンディングが放置した問題、(下)真相はまだ明らかになっていない SBIグループとテクノの不可解な関係)である。

先ずは、8月29日付け東洋経済Plus「(上)北尾氏はベンチャーの社長を「詐欺師」呼ばわり SBIグループは事件の「最大の被害者」なのか」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27878#contd
・『「あの詐欺師によってたくさんの被害者が出たが、最大の被害者がわれわれだった」 4月28日の決算説明会で、こう強く言い放ったのは東証1部上場企業、SBIホールディングス(SBI)の北尾吉孝社長だった。 「詐欺師」と呼ばれたのは太陽光発電のベンチャー・テクノシステム(本社・神奈川県横浜市。以下テクノ)の生田尚之社長。 生田氏が東京地検特捜部によって詐欺容疑で逮捕されたのは北尾発言から1カ月後の5月27日のことだった。阿波銀行や富士宮信用金庫から引き出した十数億円の融資を、名目とは別の用途に使っていた疑いで、金融機関から資金をだまし取ったというものだ』、広がりがあって興味深そうだ。なお、同社のURLはまだ閉鎖されておらず、以下の通り
https://www.technosystems.co.jp/
・『会社の整理は遅々として進まず  北尾氏がSBIを「最大の被害者」と表現したのは、前出の金融機関より大きな資金を100%子会社SBIソーシャルレンディング(以下、SBISL)がテクノに貸し付けていたからだ。テクノはSBISLから200億円以上の資金を事業資金として借りていながら、そのうち130億円近い額を融資の名目とは違う用途に充てていた疑いがあがっている。 SBIは4月初め、ソーシャルレンディングの貸付先に重大な懸案事項が生じており、債権が回収できないおそれがあるとして、2021年3月期に多額の損失を計上すると発表している。一方、資金繰りに行き詰まったテクノの負債総額は150億円(うち金融債務が90億円)。事後処理を任された弁護士は5月中旬、6月初旬にも東京地裁に民事再生法の適用を申請するという意向を示していた。 社長の生田氏は司直の手に委ねられ、会社は法的整理へ――。事態は収束に向かうかに思われた。ところが、それから約3カ月、会社の整理が遅々として進んでいない。 東洋経済の取材によると、民事再生は現実的に難しいと判断した弁護士が破産手続きに切り替えようとするも、勾留されている生田氏が破産には強い抵抗を示していることがわかった。テクノ本社のある横浜ランドマークタワー19階の部屋は、8月上旬時点で椅子や机が放置されたままになっている。 ソーシャルレンディングでSBISLから200億円以上の融資を受けながら、SBIグループトップの北尾氏から「詐欺師」呼ばわりされた生田氏は、胸中に何を秘めているのか』、債権者であるSBISLも破綻申し立てが出来る筈だが、してないのも不可解だ。
・『SBIへの信頼感を背景に  ソーシャルレンディングとは投資家と資金を必要とする人をインターネット上で結びつけるフィンテックの1つで、投資家はソーシャルレンディングのファンドに対し数万円から出資ができる。 お金を借りた企業は運営者(本件の場合SBISL)に利子や元本を返済し、運営者はそれを原資に投資家へと分配・償還する。投資家にとっての魅力は利回りが2.5~10%と高い点にあり、資金が集まりやすい構図になっている。 一方で借り手企業にとっては、毎月高い金利を払いながら事業を継続し利益を出すことは容易ではない。借り手企業の負担は重く、返済原資を作るために新たなプロジェクトを立ち上げるといった自転車操業に陥る企業が続出。 そうした状況を見逃したソーシャルレンディングの運営会社の責任も問われ、2017年には「みんなのクレジット」、2018年には「エーアイトラスト」、最大手の「maneoマーケット」が金融庁から行政処分を受けた。 競合の事業者が次々に行政処分を受ける中、優位に立ったのがSBISLだった。 SBISLの親会社は一般事業会社の売上高に相当する営業収益が5000億円を超すSBI。近年、グループでは「第4のメガバンク構想」を掲げて地方銀行との提携戦略を主導している。傘下のSBI証券はネット証券でシェアトップだ。「終わったビジネスモデル」と一部で目されていながらも、投資家がSBISLに出資してきたのはSBIグループへの信頼感があったからだろう。  しかしテクノ事件の発覚で、6月8日、SBISLにも金融庁から経営管理や運営態勢の重大な不備があったとして業務停止命令が下った。行政処分を待たずして、SBIは5月24日付でソーシャルレンディング事業撤退の決定を発表している』、「テクノはSBISLから200億円以上の資金を事業資金として借りていながら、そのうち130億円近い額を融資の名目とは違う用途に充てていた疑い」、深刻な事態だ。「SBISLの廃業と事業からの撤退に当たっては、投資家に損失が生じないよう、SBIが損失補填をするようだ。
・『直筆の「詫び状」は語る  北尾氏から詐欺師呼ばわりされた生田氏の胸中をうかがい知れる資料がある。 生田氏は逮捕前の5月9日、A4ノート4枚分の「詫び状」を直筆でしたため、親しい関係者にのみ渡していた。関係者の間では「生田ノート」と呼ばれ、東洋経済が入手したその資料には、「絶対に詐欺などをしていない」と身の潔白を強調している。 生田ノートは、「この度は、株式会社テクノシステムの取引先、関係者各位の皆様に多大なるご心配をおか(け)して、誠に申し訳ございません 」(原文ママ。丸カッコ内は編集部。以下同じ)という書き出しで始まる。 この中で、自身が2009年にテクノを設立して以降、技術者として水や食、電気にかかわる事業を起こし、仲間や取引先、金融機関と連携しながら売上高を160億円まで伸ばしてきたこと、SBI証券が主幹事証券になる方向で上場準備に入っていたことが記されている。 そして、上場を意識していたゆえに「一気にものづくりを進めた。外からみたら、あせって経営を進めていると見られても仕方のない点はあったこと、社内の内部統制も十分ではなかった」とし、「多くの経営反省点があったことは真摯に受け止め反省をし」と悔恨の念を示している。 一方、生田氏が怒りの矛先を向けたのがSBIだった。 不正が発覚した2021年2月以降、調査のためにSBISLが立ち上げた第三者委員会に対し、弁護士を通じて自身の見解を伝えてきたにもかかわらず、4月に公表された調査報告書は「一方的な決めつけにより責務を負わされる、いわば、テクノだけを悪者にする文章になっております」と批判している。 調査報告書はSBISLのホームページで公開されているが、登場する企業や人物はすべてアルファベットで匿名化されており、生田氏のような当事者や近しい関係者でなければ今回の構図を理解するのは難しい。 東洋経済は取材を通じて調査報告書に登場する企業や人物を特定したうえで、事件の経緯を整理した。浮かびあがったのは、テクノの異変に気づきながら、テクノをつかんで離そうとしなかったSBISLの姿だ』、「調査報告書」は下記の通りだが、「SBISL」の異常な姿も確かだ。
https://www.sbi-sociallending.jp/pages/press210428

次に、この続きを、「(中)社内の諫言でも融資は続けられた SBIソーシャルレンディングが放置した問題」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28040
・『「あの詐欺師によってたくさんの被害者が出たが、最大の被害者がわれわれだった」。SBIホールディングスの北尾吉孝社長は、太陽光ベンチャー・テクノシステム(テクノ)の生田尚之社長をこう批判する。 第三者委員会による調査報告書からは、テクノのずさんな経営実態だけでなく、異変に気づきながらテクノをつかんで離そうとしなかったSBIソーシャルレンディングの姿も浮かび上がる。 静岡県熱海市。太平洋を望む住宅街の一角に、不自然な空き地がある。 ここに「熱海SDGsホテル」を建設する計画が持ち上がったのは2019年夏のことだった。屋上に太陽光パネルを敷設し、持続可能な社会を意識したホテルを建設するプロジェクトを立ち上げたのはテクノで、そのための資金を投資家から集めたのがSBISLだった。 2019年7月と11 月に組成されたファンドの名称はSBISL不動産ディベロッパーズファンドの16号と18号 。投資家に示されたプロジェクト概要には「借手が静岡県熱海市で行うリゾートホテル開発のための、土地の購入及び建築プロジェクト資金の一部」とある。事業者への貸付金利は9.5%。そのうち1.5% がSBISLの手数料となるため投資家向け利回りは8%だった。 投資家から集まった資金は16号と18号合わせて30.4億円で、2019年7月19日以降、全額がテクノに貸し付けられた。不動産の登記簿謄本によれば、7月19日付で「SDGs熱海合同会社」(テクノが設立した特別目的会社)に土地の所有権が移っている。 つまり、ホテル建設に向け土地の取得までは進んでいた。が、2021年8月上旬、記者が現地に赴くと草木が生い茂り、工事が進められた気配は見られなかった。地元の不動産業者や近隣の住民にホテル建設計画について尋ねても「聞いたことすらない」と一様に首をかしげた。 SBISLの第三者委員会がとりまとめた調査報告書によれば、ホテル建設は下請け業者との契約も結ばれぬまま、貸し出された約30億円のうち約22億5000万円がホテル建設とは関係のない用途に使われていた』、「SBIホールディングスの北尾吉孝社長」は被害者顔だが、真相はどうなのだろう。
・『融資の6割が別の用途に  こうした例は熱海の案件だけではない。2019年11月~12月にかけて組成されたSBISLメガソーラーブリッジローンファンド24号と25号では、福島県内の3カ所でメガソーラー発電所を建設するプロジェクトとして投資家に出資を募り、24号ファンドでは約8.5億円、25号ファンドでは約9億円がテクノへ貸し付けられた。 投資家向け利回りはともに7.0%で、工事は2020年夏にも完了する計画だった。しかしテクノは下請け業者への発注すらしておらず、予定地は現在も工事が着工されていない。 熱海のケースと同様、24号ファンドで集められた約8.5億円のうち約5億2000万円が、25号ファンドで集められた約9億円のうち約6億7000万円がプロジェクトとは別の用途に使われていた。 プロジェクトを立ち上げて資金を集め、その後は中途半端なままという無責任な取引が繰り返された。太陽光発電の案件では2020年10月、熊本県水俣市にメガソーラー発電所を作る名目で40億8000万円がテクノに貸し付けられるまで続いた。この案件でも工事は止まり、約20億円が本来の使途とは違うことに使われた。 報告書によれば、SBISLが太陽光発電案件と不動産案件でテクノに貸し付けた資金の合計額は207億2805万円。そのうち投資家に示した資金使途とは別の使われ方をしていたのは129億2711万円と、融資総額の6割を超える。これは、投資家に対する裏切りとしか言いようがなく、生田氏が詫び状で主張した「絶対に詐欺などしていない」という言い分は説得力に欠ける。 では、多額の資金を貸し付けていたSBISLはテクノの異変に気づかなかったのか』、「テクノに貸し付けた資金の合計額は207億2805万円。そのうち投資家に示した資金使途とは別の使われ方をしていたのは129億2711万円と、融資総額の6割を超える」、銀行が貸す場合、目的通り使われたかを厳格にチェックするのが普通で、こんなに目的外が多いのは考え難い。
・『方針と相反する対応をとっていた  報告書によると、SBISLは2019年末時点でテクノの異常を察知していた。「テクノの工事に遅延が生じている」と最初に気がついたのは2019年12月19日のこと。2018年の秋に約18億円を貸し付けたメガソーラーブリッジローンファンド3本(17号、18号、20号)の開発スケジュールにズレが生じていることがわかったのだ。それを受けてSBISLは2019年末、テクノに説明を求めた。 ところがテクノは十分な説明をしなかった。そして2020年1月24日、SBISLは上記3号の問題が整理されるまでテクノ事案は受けつけないことにした。だが実際は、この方針と相反する対応をしていた。 なぜ、SBISLはテクノを当てにし続けたのか。背景には「上場」という悲願があった。 SBISLが上場準備を本格的に開始したのは2018年末ごろからだった。SBISLの融資残高は毎年拡大を続け、2020年3月5日、ソーシャルレンディングの融資残高が400億円を突破して415億円になったと発表。4月6日には登録投資家数が5万人を突破したとリリースした。  勢いよく伸びているように見えるが、内実は「テクノ頼み」だった。2020年3月末時点の融資残高422億円のうち180億円超、割合にして43.8%がテクノで占められていた。 2019年末にテクノの異変に気づく中、2020年3月期は売上高8.4億円(前期比114%)、営業利益2.2億円(同104%)と増収増益で着地している。さらに上場直前期の2021年3月期は、売上高11億円(前期比131%)、営業利益4億円(同164%)というより高い目標を掲げた。 ところが業績は思うように上向かない。第1四半期(2020年4~6月)が終わったところで営業利益実績が約1000万円と、目標を大きく下回った。ここでSBISLの織田貴行社長(当時)は大勝負に出る。第2四半期の営業利益目標を大幅に引き上げ、年間営業利益目標の約半分の2億円を上半期で達成するよう社内に号令をかけたのだ。 報告書によれば、2020年6月29日、SBISLはテクノに福島2案件を7月に、山梨案件は8月に募集する方向で進める旨をメールで送信。翌30日には再びテクノに「弊社も臨戦態勢で案件組成してまいりますので」と伝達。 さらに7月3日には「7、8月は他社の案件ストップし貴社のみ対応いたします」と、“ラブコール”とも言える呼びかけまでしている。報告書は「問題(テクノ案件の工事遅延)を直視せず、A社(テクノ)の工事完成能力への懸念を漫然と放置」と断じている。 テクノに対する懸念は消えていないが、上場に向けて業績を大幅に伸ばしていくうえでは、テクノという大口顧客を捨て置けなかったということだろう』、「SBISL」の「融資残高」の「43.8%がテクノで占められていた。「テクノに「弊社も臨戦態勢で案件組成してまいりますので」と伝達。 さらに7月3日には「7、8月は他社の案件ストップし貴社のみ対応いたします」と、“ラブコール”とも言える呼びかけまでしている」、ここまで癒着していたとは「SBISL」の責任も重大だ。
・『諫言があっても融資は続いた  しかし、異変に気づいた出資者がいた。織田社長が業績拡大に向けて大号令をかける中、2020年7月17日に出資者からSBISLに1通のメールが届いていた。 内容は、横浜市内に建設される予定のビジネスホテル予定地に赴いたが、工事現場が見つからないというもの。このプロジェクトはSBISL不動産ディベロッパーズローンファンド14号で、2019年5月に約16億2600万円がテクノに貸し付けられていた。プロジェクト概要では同年12月にも着工する予定だが、どうなっているのかと説明を求めるものだった。 再び対応を迫られることになったSBISLはテクノに「14号プロジェクトの進捗状況はどうなっているのか」とメールを送信するとともに、横浜市内の建設予定地に赴き、現場が駐車場のままであることを確認した。 テクノは、「業者のオリンピック特需による多忙さやコロナ禍での協議中断等が着工が遅れている原因」と説明し、工事の遅延について「工法を工夫することで工期を短縮することが可能」と釈明した。第三者委員会の調査報告書ではこの件について「SBISLは(中略)、その(テクノによる)説明内容について、客観的な裏付資料の確認等を行わず、疑問点を看過した」と指摘している。 それでも、2020年7月以降、SBISLの社内において、テクノへの新規融資が「他のファンドの貸付金の返済原資に充てられるおそれがある」と織田社長に諫言する者が出始めた。 社内外から懸念の声があったにもかかわらず、2020年10月までに太陽光発電プロジェクトである福島県郡山市案件(約11億円)、茨城県那珂市と桜川市案件(約6億円)、北海道北斗市案件(約28億円)、熊本県水俣市案件(約40億円)の融資が実行されている。 そして、SBISLが「貸付先の事業運営に重大な懸念事項が生じている可能性が認められた」として、調査を行う第三者委員会の設置をホームページで発表したのは、最後の水俣案件の融資実行から4カ月が経過した、2021年2月5日のことだった。>>後編に続く』、「テクノへの新規融資が「他のファンドの貸付金の返済原資に充てられるおそれがある」と織田社長に諫言する者が出始めた」、「テクノ」の資金繰りは自転車操業状態だったようだ。

第三に、この続き、「(下)真相はまだ明らかになっていない SBIグループとテクノの不可解な関係」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27879
・『SBIホールディングスの北尾吉孝社長から「詐欺師」呼ばわりされた太陽光ベンチャー・テクノシステムの生田尚之社長。 前編、中編では、テクノのずさんな経営の実態と、そこに資金を貸し込んできたSBIソーシャルレンディングの内情を記した。 後編では第三者委員会の調査報告書が触れなかったテクノとSBIグループの関係とともに、問題の全体像に迫る。 懸念や異論が出ながらもSBISLがテクノへの融資を続けた理由について、調査報告書は「営業優先・過大な収益目標の設定」を挙げ、それは「経営トップの独断による」としている。ここでいう経営トップとはSBISLの社長だった織田貴行氏(2021年2月に交代)のことだ。 報告書は「貸付者と当該債務者はいわば『運命共同体』の関係となりがちである(借りて貰うことを頼みやすく、貸すことを断りにくい状態)」としたうえで、テクノへの融資は「いわば『情実融資』とも評価できる」と厳しく指摘している。 だが、この調査報告書では読み取れないものがある。SBIグループの一子会社の社長である織田氏が、なぜ大きな権限を持っていたのかだ』、「第三者委員会の調査報告書」が「SBISL]に限定して、「SBIグループ」を見ないと忖度しているようでは、説得力を欠く。
・『親会社を護るための報告書  「この報告書は何らかの理由で、あえてSBIソーシャルレンディングスのみに焦点を当てている。『隠れ蓑』調査ではないのかとの疑念が拭えない。SBISLの社長に全ての責任を押しつけている感もあり、親会社を護るための報告書にも思われてくる」 不祥事を起こした企業が公表する調査報告書の格付けを行う「第三者委員会報告書格付け委員会」は2021年6月に記者会見を開き、委員長の久保利英明弁護士がSBISLの調査報告書についてそう指弾した。 副委員長の國廣正弁護士も「(織田社長の)経歴などをあいまいにして北尾氏との関係への言及を避けてきたのは、本件不祥事をSBISLだけの問題に止め、その影響がSBIグループや北尾氏に波及しないように忖度した結果ではないのか」と指摘した。 織田氏は、1977年に野村証券に入社しており、北尾氏の3年後輩に当たる。その後、ソフトバンク、SBIグループと北尾氏と同じ道を歩んだ。そうした2人の関係性は、SBISLの調査報告書から読み取れない。そして現在、織田氏はSBIグループにいないという。 第三者格付け委員会のほとんどすべての委員が、SBISLの親会社であるSBIホールディングス、ひいてはSBIグループ全体を率いる北尾氏の責任が抜け落ちていると批判した』、「第三者格付け委員会」が「北尾氏の責任が抜け落ちていると批判」のは当然だ。これほど手厳しく「批判」を受けるようであれば、「第三者委員会」の設置はむしろ逆効果だったようだ。
・『テクノとSBI証券の「接点」  調査報告書はSBISLのみに焦点を当てたが、実は、SBIグループとテクノの接点はほかにもある。 それを示す物件がJR山手線の鶯谷駅前にある。不動産の登記簿謄本によると、現在の所有権はSBI証券になっているが、紆余曲折があった。 SBISLにおいて、ある会社への融資(2.7億円)が焦げついたのは3年ほど前のこと。債権回収に黄信号が灯っていたとき、SBISLに“助け船”を出したのがほかならぬテクノだった。2019年、前出の会社が所有する鶯谷駅前の土地(従前はSBISLが抵当権を設定)が競売にかけられ、大東京信用組合から融資を受けたテクノが落札しているからだ。2020年2月、テクノはそこに4階建てのビルを建てた。 この建物を社員寮として借りていたのがSBI証券だったとされる。SBIグループは、家賃の支払いを通じてテクノに“恩返し”をしていたともいえるが、2021年2月16日、SBI証券はこの物件をテクノから買い取っている。しかも、SBISLが「貸付先の事業運営に重大な懸念事項」と発表(2月5日)してから間もないタイミングである。 テクノとのSBIグループの接点はこれだけではない。SBIの100%子会社でエネルギー事業を担うSBIエナジーがそうだ。同社の社長は中塚一宏氏だった(2021年4月に辞任)。中塚氏は民主党政権時代に復興副大臣や金融担当大臣を歴任し、政界引退後にSBIグループに入った。2021年4月には株式会社化した堂島取引所の初代社長にも就任した実力者だ。 その中塚氏はSBIエナジー社長の傍ら、テクノのシニアアドバイザーも務めていた。当時、テクノが建てる太陽光発電の買取先としてSBIエナジーの名が挙がっていたという話もある。 東洋経済はSBIホールディングスに、鶯谷駅前にある物件をSBI証券が取得した経緯や、SBIエナジー社長の中塚氏がテクノシステムのシニアアドバイザーを兼務していたのは利益相反に当たらないのかなど、確認のために北尾氏もしくは中塚氏から話を聞きたいと取材を申し込んだ。 だが、SBIからの回答は「第三者委員会の調査報告にてご報告申し上げている以上のことは当社からはお答えいたしかねます」というものだった』、「SBISLにおいて、ある会社への融資・・・の債権回収に黄信号が灯っていたとき、SBISLに“助け船”を出したのがほかならぬテクノ・・・テクノはそこに4階建てのビルを建てた。 この建物を社員寮として借りていたのがSBI証券」、「テクノ」と「SBI」の間には深い関係があったようだ。
・『お互いがしがみついた?  テクノについては数年前から取引先や調査会社の間で「支払いの遅延が多く、決算内容にも疑いがある」という情報が飛び交っていた。事業拡大のためにあらゆる銀行に声をかけていたようで、信用調査会社によると、テクノが取引していた金融機関は地方銀行から信用組合、信用金庫など30を超す(2020年9月時点)。 今回、警察ではなく東京地検特捜部がテクノ事件を手がけているのは、金融機関との取引に絡む部分を「政治案件」と見なしているからだ。 8月4日、特捜部は衆議院議員会館など公明党の議員、元議員の関係先へ家宅捜索に入った。元議員はコロナ禍での銀座クラブ通いが発覚して議員辞職した遠山清彦氏で、特捜部は、生田氏が日本政策金融公庫に融資を頼む際、財務副大臣経験者の遠山氏や秘書の力を借りていたとみて捜査を進めているもようだ。 複数の銀行取引を経て、生田氏は資金集めをSBISLのソーシャルレンディングに頼った。そもそも銀行から融資を受けられる信用力のある企業なら、金利の高いソーシャルレンディングに頼ったりしない。 当然ながら、そこに依存すればするほど返済負担が増す。結局、テクノは借入金の返済原資を作るために新たなプロジェクトを立ち上げるという自転車操業に陥った。なぜ生田氏はそこまでして成長を急いだのか。 数年前から生田氏にヒアリングをしていた民間調査会社・東京経済の森田龍二情報部副部長によれば、生田氏は「上場」にこだわっていたという。 「金利が高いソーシャルレンディングに頼るのは危ういが、上場さえできれば与信を底上げでき、銀行からの融資に切り替えることができると生田氏は考えていた。当初は『マザーズに上場する』と言っていたが、あるときから『東京プロマーケットに上場することにした』という話に変わり、逮捕される前は『シンガポール市場に上場したい』と言い始めていた」(森田氏) 上場のために危うい手段にもしがみつく――。テクノがはまったこの陥穽は、2018年末から上場準備を始めたSBISLにも当てはまる。上場のために互いが互いにしがみつき、離そうとしなかった結果起きたのがテクノ事件だったと言えるのではないか。 もっとも、生田氏が抵抗を示しているが、テクノの破産は免れない状況だ。破産申請が受理されれば管財人が入り、SBIグループとの取引を含むあらゆる取引の実態が明るみに出る。また、東京地検の捜査がどこまで手が及ぶのかにも注目が集まっている。 いずれ始まる生田氏の刑事裁判で本人が何を語るのか。全容の解明はこれからだ』、「上場のために危うい手段にもしがみつく――。テクノがはまったこの陥穽は、2018年末から上場準備を始めたSBISLにも当てはまる。上場のために互いが互いにしがみつき、離そうとしなかった結果起きたのがテクノ事件だった」、どっちもどっちだ。「破産申請が受理されれば管財人が入り、SBIグループとの取引を含むあらゆる取引の実態が明るみに出る。また、東京地検の捜査がどこまで手が及ぶのかにも注目が集まっている。 いずれ始まる生田氏の刑事裁判で本人が何を語るのか。全容の解明はこれからだ」、今後、徹底的に解明されていくのが楽しみだ。
タグ:ソーシャル・ファイナンス (その3)(SBIソーシャルレンディング関連3題:(上)北尾氏はベンチャーの社長を「詐欺師」呼ばわり SBIグループは事件の「最大の被害者」なのか、(中)社内の諫言でも融資は続けられた SBIソーシャルレンディングが放置した問題、(下)真相はまだ明らかになっていない SBIグループとテクノの不可解な関係) 東洋経済Plus 「(上)北尾氏はベンチャーの社長を「詐欺師」呼ばわり SBIグループは事件の「最大の被害者」なのか」 広がりがあって興味深そうだ。なお、同社のURLはまだ閉鎖されておらず、以下の通り 債権者であるSBISLも破綻申し立てが出来る筈だが、してないのも不可解だ。 「テクノはSBISLから200億円以上の資金を事業資金として借りていながら、そのうち130億円近い額を融資の名目とは違う用途に充てていた疑い」、深刻な事態だ。「SBISLの廃業と事業からの撤退に当たっては、投資家に損失が生じないよう、SBIが損失補填をするようだ。 「調査報告書」は下記の通りだが、「SBISL」の異常な姿も確かだ。 https://www.sbi-sociallending.jp/pages/press210428) 「(中)社内の諫言でも融資は続けられた SBIソーシャルレンディングが放置した問題」 「SBIホールディングスの北尾吉孝社長」は被害者顔だが、真相はどうなのだろう。 「テクノに貸し付けた資金の合計額は207億2805万円。そのうち投資家に示した資金使途とは別の使われ方をしていたのは129億2711万円と、融資総額の6割を超える」、銀行が貸す場合、目的通り使われたかを厳格にチェックするのが普通で、こんなに目的外が多いのは考え難い。 「SBISL」の「融資残高」の「43.8%がテクノで占められていた。「テクノに「弊社も臨戦態勢で案件組成してまいりますので」と伝達。 さらに7月3日には「7、8月は他社の案件ストップし貴社のみ対応いたします」と、“ラブコール”とも言える呼びかけまでしている」、ここまで癒着していたとは「SBISL」の責任も重大だ。 「テクノへの新規融資が「他のファンドの貸付金の返済原資に充てられるおそれがある」と織田社長に諫言する者が出始めた」、「テクノ」の資金繰りは自転車操業状態だったようだ。 「(下)真相はまだ明らかになっていない SBIグループとテクノの不可解な関係」 「第三者委員会の調査報告書」が忖度しているようでは、説得力を欠く。 「第三者委員会の調査報告書」が「SBISL]に限定して、「SBIグループ」を見ないと忖度しているようでは、説得力を欠く。 「第三者格付け委員会」が「北尾氏の責任が抜け落ちていると批判」のは当然だ。これほど手厳しく「批判」を受けるようであれば、「第三者委員会」の設置はむしろ逆効果だったようだ。 「SBISLにおいて、ある会社への融資・・・の債権回収に黄信号が灯っていたとき、SBISLに“助け船”を出したのがほかならぬテクノ・・・テクノはそこに4階建てのビルを建てた。 この建物を社員寮として借りていたのがSBI証券」、「テクノ」と「SBI」の間には深い関係があったようだ。 「上場のために危うい手段にもしがみつく――。テクノがはまったこの陥穽は、2018年末から上場準備を始めたSBISLにも当てはまる。上場のために互いが互いにしがみつき、離そうとしなかった結果起きたのがテクノ事件だった」、どっちもどっちだ。「破産申請が受理されれば管財人が入り、SBIグループとの取引を含むあらゆる取引の実態が明るみに出る。また、東京地検の捜査がどこまで手が及ぶのかにも注目が集まっている。 いずれ始まる生田氏の刑事裁判で本人が何を語るのか。全容の解明はこれからだ」、今後、徹底的に解明されていくの
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中国経済(その10)(中国の新たな経済政策の標題はクロスシクリカル 早く小さくより長い時間軸を念頭に置いて行動、中国国家プロジェクトに「日本人44人」の重大懸念 機体に攻撃性、人を襲う「殺戮ドローン」の脅威、中国・習近平の目指す「格差解消」が最大のチャイナリスクを招く理由) [世界情勢]

中国経済については、7月16日に取上げた。今日は、(その10)(中国の新たな経済政策の標題はクロスシクリカル 早く小さくより長い時間軸を念頭に置いて行動、中国国家プロジェクトに「日本人44人」の重大懸念 機体に攻撃性、人を襲う「殺戮ドローン」の脅威、中国・習近平の目指す「格差解消」が最大のチャイナリスクを招く理由)である。

先ずは、8月29日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「中国の新たな経済政策の標題はクロスシクリカル 早く小さくより長い時間軸を念頭に置いて行動」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/450509
・『中国共産党は同党の経済政策で「クロスシクリカル(跨周期)」という新たなキャッチフレーズを用いている。政府顧問が言うには、これまでより早めかつ小さめの措置でより長い時間軸を念頭に置いて行動するアプローチを意味する』、どういうことなのだろう。
・『中国の不動産規制強化が共産党の新たな方針示唆  つまりは「カウンターシクリカル(逆周期)」からの脱却だ。中国人民銀行(中央銀行)や各省庁の従来戦略は、利下げや減税、インフラ投資拡大などの刺激策で減速しつつある景気を支え、成長が加速し始めれば、引き締めるというものだった。 当局は「クロスシクリカル」政策の概要を示していないが、政府と関係の深い何人かのエコノミストは、景気変動をスムーズにするため、先手を打った穏健な行動を取ることが目標だと述べている。 こうした説明が暗示しているのは、一部の領域では制限を維持し、他の領域では緩和するということだ。人民銀は最近、流動性を高めるため市中銀行の預金準備率を引き下げる一方、不動産相場を抑えようと規制を強化した。こうした行動が、共産党の新たな政策スタンスを浮き彫りにしている。 中国の不動産規制強化、共産党の新たな方針示唆-国民の不満に対応→一部をカットし、位置を変更)』、「景気変動をスムーズにするため、先手を打った穏健な行動を取ることが目標」、経済政策はなかなか上手くいかないのが普通だ。
・『当局が政策手段を検討する際、より長い時間軸を優先  中国社会科学院傘下のシンクタンク、国家金融・発展実験室(NIFD)の張暁晶氏はクロスシクリカルなアプローチについて、当局が政策手段を検討する際、これまでより長い時間軸で経済パフォーマンスを考えることを示唆していると指摘。 「政策当局は足元のボラティリティーを静観し、経済を次の2、3年にわたり確実に軌道上に保つことを狙っている」とし、今年これまで地方政府の借り入れペースが鈍っていることにも、こうした方向が反映されているとの見方を示した。 張氏はまた、中国がなぜ最近インターネットのプラットフォームや民間の教育企業を締め付け、二酸化炭素排出の削減や出生率引き上げ、都市化拡大といった政策を推し進めているかについても、時間軸の長期化でその理由が説明できると話した』、「インターネットのプラットフォームや民間の教育企業を締め付け、二酸化炭素排出の削減や出生率引き上げ」などは、景気政策ではなく、構造政策なので、「時間軸の長期化でその理由が説明できる」、というのはこじつけに近い。

次に、8月29日付け東洋経済オンラインが掲載した読売新聞取材班による「中国国家プロジェクトに「日本人44人」の重大懸念 機体に攻撃性、人を襲う「殺戮ドローン」の脅威」を紹介しよう。
・『東京オリンピックの開会式、見せ場の1つは「ドローンの舞」だった。遠隔操作によって1824台もの機体が飛び交い、発光ダイオード(LED)をきらめかせながら大会エンブレムの市松模様を描いたり、地球を形作ったりした。機体はアメリカ・インテル製だったが、もちろん中国もドローンの技術開発を進めている。 機体に攻撃性を持たせ、人を襲わせる「殺戮ドローン」――2018年の段階で、それを開発するためのプログラムが始まったと報じられていた。またそこには、読売新聞が2021年元旦の記事で「少なくとも44人の日本人研究者が参加したり、関連した表彰を受けたりしていた」と報じた中国の「千人計画」も関係してくる。新刊『中国「見えない侵略」を可視化する』(読売新聞取材班)から抜粋して紹介する』、「「少なくとも44人の日本人研究者が参加したり、関連した表彰を受けたりしていた」と報じた中国の「千人計画」」、とは穏やかではない。
・『「殺戮ドローン」を作る技術  内部に3グラムの指向性爆薬を備えた手のひらサイズの小型ドローン群が、顔認証システムを使ってターゲットを捜索・追跡し、見つけ次第、額にくっついて脳だけを爆薬で破壊して殺害する──。 テクノロジーの未来について研究している「フューチャー・オブ・ライフ・インスティテュート」のスチュアート・ラッセル米カリフォルニア大バークレー校コンピューターサイエンス教授が、2017年に制作したショートムービー「スローターボッツ(殺戮ドローン)」の一場面だ。自律型のAIロボット兵器が悪用される恐怖の世界を描き、関係者に衝撃を与えた。 映画では、スローターボッツがテロリストの手に渡り、要人が暗殺される。権力者の側も、この最先端技術を悪用し、権力者の腐敗を追及する活動に関わる学生たちにスローターボッツを放つ。スローターボッツは教室で逃げ惑う学生たちからターゲットを見つけ出し、次々と殺害していく。監視カメラと顔認証システムを使って人権活動家らの行動を監視しているという中国を連想させる内容だ。「Slaughterbots」と検索すれば、動画投稿サイトYouTubeで見ることができる。 香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは2018年11月、北京理工大が、こうした殺戮ドローンを開発するためのプログラムを開始したと報じている。5000人を超す候補者から31人の学生を選抜し、AIを利用した「インテリジェント兵器システム」の開発を目指すという。) 「スローターボッツ」の作者であるラッセル教授は同紙の取材に、「非常に悪いアイデアだ。生徒たちは最初の授業に『スローターボッツ』のフィルムを見るべきだ」と強い懸念を示した。そのうえで、「機械が人を殺す決定を下せることがあってはならない。そのような兵器はすぐに大量破壊兵器となる。それだけでなく、戦争の可能性を高めるものになる」と指摘した。 北京理工大は中国国内で、「兵器科学の最高研究機関」と称される。実は同大の「ロボット研究センター」には近年、千人計画に参加する日本人4人が所属し、AIやロボット工学、神経科学など、自律型のAIロボットにも応用できる研究を行っていた』、「「機械が人を殺す決定を下せることがあってはならない。そのような兵器はすぐに大量破壊兵器となる。それだけでなく、戦争の可能性を高めるものになる」、その通りだ。なお、「Slaughterbots」のプリゼンテーション動画は、https://www.youtube.com/watch?v=9CO6M2HsoIA
・『中国共産党中央組織部の「千人計画」  千人計画とは何か。前身は、1990年代に行われた、海外の中国人留学生を呼び戻して先端技術を中国国内に取り込む「海亀〈ハイグイ〉政策」だとされる。中国では海外から帰ってくるという意味の「海帰」と発音が同じであることから、帰国した留学生を「海亀」と呼んでいる(参考:『中国人留学生は「知的財産の収集人」の危険な実態』)。 中国はその後、2020年までに世界トップレベルの科学技術力を持つイノベーション型国家へ転換することを目標に掲げ、その実現に向けた取り組みの一環として外国人研究者の招致を含む千人計画を2008年にスタートさせた。 名前は千人計画だが、中国人を含めた参加者は、2018年までに7000人を超えているという。 千人計画を率いるのは、中国共産党中央組織部だ。中央・地方合わせて9500万人の党員を束ねる党の中でも強大な力を持つ組織で、千人計画の全ての申請書を最終的に確認し、採用の可否の決定権を握ってきた。 中国の中枢が組織的に推進するプロジェクトだけに、参加する外国人研究者は、巨額の報酬や研究費に加え、家族を含めて外国人永久居留証を与えられるといった特権を享受できる。 中国が最先端技術を持つ外国人研究者を厚遇で囲い込んでいるのは、純粋に科学的な理由からだけではない。 北京理工大の「ロボット研究センター」はこれまで、弾道ミサイルの誘導や軍民両用ロボットなどを研究してきたとホームページで説明している。北京理工大で日本人研究者がAIやロボット工学などを研究・指導していることに対しては、欧米から懸念する声が出ている。 米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」のホームページに掲載されている報告書は、「中国の軍事指導者や戦略家は、無人プラットフォームによって戦闘のあり方が劇的に変わると信じ、ロボット工学や無人システムの研究・開発に対する惜しみない資金を、国防産業や大学に投じている」と警鐘を鳴らし、中国がこうした技術を千人計画を通じて得ていると指摘する。そして実例として、北京理工大で指導する日本人教授の名前を挙げている。 同大で指導する別の日本人研究者は、「自分は軍事研究に関わらず、日本に迷惑をかけないようにと考えている」と釈明しつつ、自身の研究について「応用すれば、無人機を使って攻撃したり、自爆させたりすることができる」と認める。 そのうえで、「中国の大学は、軍事技術を進化させる研究をして成果を出すのが当たり前だという意識が強い。外国の研究者を呼ぶのは、中国にはない技術を母国から流出させてくれると期待しているからだろう」と語った。 内閣府の「科学技術イノベーション政策推進のための有識者研究会」に参加していた専門家は、「千人計画の問題は、数ではない。優秀な専門家に狙いを付けて中国に呼び寄せ、その中に一人でもすごい人がいれば、中国に大きな利益をもたらす」と語る』、「北京理工大で日本人研究者がAIやロボット工学などを研究・指導していることに対しては、欧米から懸念する声が出ている」、「日本人研究者が」「海外」で研究などをする場合には、安全保障上の観点からの届け出などが必要になりそうだ。
・『「国防七校」にも8人の日本人  読売新聞が確認した研究者44人の中には、中国軍に近い「国防七校」と呼ばれる大学に所属していた研究者が8人いた。 国防七校とは、中国の軍需企業を管理する国家国防科学技術工業局に直属する北京航空航天大、北京理工大、ハルビン工業大、ハルビン工程大、南京航空航天大、南京理工大、西北工業大の7大学を指す。 中国は民間の先端技術を軍の強化につなげる「軍民融合」を国家戦略として推進している。軍民融合については本書で取り上げているが、日本政府は、日本が保有する軍事転用可能な技術が中国に流出することを強く懸念している。 北京理工大のケースには先ほど触れたが、国防七校の1つ、北京航空航天大にも4人の日本人が所属していた。同大は、ミサイル開発の疑いがあるとして、貨物や技術の輸出時には経済産業省の許可が必要な「外国ユーザーリスト」に記載されている。 同大に所属する宇宙核物理学の研究者は、「軍事転用される危険性はどんなものにでもある」としつつ、「教えているのは基礎科学の分野で、軍事転用とは最も距離がある。経産省の許可も得ている」と強調した。 日本人研究者本人や周りにいる中国人たちが軍事転用をするつもりはなくても、中国では軍民融合戦略に加え、国民や企業に国の情報活動への協力を義務付ける「国家情報法」が施行されている。軍事転用などのリスクの高い機微な技術は当然、中国当局に狙われると考えなければならないだろう。 千人計画の怖さは、外国人研究者の研究成果を中国自らのモノ、つまり「メイド・イン・チャイナ」にしてしまうところにもある。 代表的なやり方は、外国人研究者に中国人の若手を指導させ、最先端技術と研究手法を身につけさせるというものだ。 千人計画に参加した複数の日本人研究者が、特許の取得や論文執筆に加え、若い中国人研究者を育成することが参加の条件の1つだったと証言する。先ほどの専門家は、「優秀な研究者1人に10人の中国人学生をつければ、1万になる。そうやって学生に技術を学ばせ、いろいろな技術を中国が吸収していく。中国は千人計画と連動して『万人計画』も進めている」と解説する。 日本人研究者から指導を受ける中国人の若手研究者は、海外の大学などで学んだ留学経験者が多いが、最近は、中国人研究者が中国国内で育てた第2世代も増えてきているという。第2世代は、中国共産党の思想教育が浸透しており、愛国心が強いのが特徴だ。 千人計画では、外国人研究者に本国の大学で中国人留学生を受け入れさせるケースもある。そうした場合、留学生を通じ、外国の進んだ研究施設をそっくりそのまま中国国内に再現する「シャドーラボ(影の研究室)」が作られることもあるという。 日本人研究者たちが教えた中国の若手研究者が将来、AIやロボット工学の技術を用いて兵器開発に従事する可能性は少なくないだろう』、「日本人研究者本人や周りにいる中国人たちが軍事転用をするつもりはなくても、中国では軍民融合戦略に加え、国民や企業に国の情報活動への協力を義務付ける「国家情報法」が施行されている。軍事転用などのリスクの高い機微な技術は当然、中国当局に狙われると考えなければならないだろう」、「千人計画の怖さは、外国人研究者の研究成果を中国自らのモノ、つまり「メイド・イン・チャイナ」にしてしまうところにもある」、「中国」への学術協力は慎重な上にも慎重に臨むべきだ。
・『日本の研究が中国発の論文に  外国人研究者に中国発で論文を書かせることも、メイド・イン・チャイナ化の1つの手法として行われている。 「著名な科学誌に2本の論文を出すよう求められた」 千人計画に参加した複数の日本人研究者が、中国側から論文執筆のノルマを課され、特に「ネイチャー」「サイエンス」など世界的に著名な科学誌への掲載を求められたと証言する。ノルマが明記された契約書に署名した研究者もいた。 また、複数の研究者が、過去に日本で行った研究のデータを使って論文を書く場合でも、中国の大学の肩書で発表するよう要求されたと口にする。 文部科学省によると、2016~2018年に発表された世界各国の自然科学系の論文数(年平均)は、中国が約30万6000本で、アメリカを抜いて初めてトップに立った。日本は約6万5000本で、2001~2003年の2位から4位に順位を下げた。 論文の掲載数は、各国の学術レベルを示す指標とされている。しかし、ある日本人研究者は、「データは他国での研究で得たものなのに、中国の大学名で論文を発表する研究者が多い。中国の論文数は水増しされていると思う」と疑問を呈する』、「過去に日本で行った研究のデータを使って論文を書く場合でも、中国の大学の肩書で発表するよう要求された」、多少高目の報酬があるにせよ、こんな無茶な要求に対しては断固拒否してほしいものだ。

第三に、8月31日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「中国・習近平の目指す「格差解消」が、最大のチャイナリスクを招く理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/280834
・『中国では貧富の差が急拡大している。経済が高成長する過程で、富は共産党幹部と民間企業の創業者に集中した。長期支配を目指す習近平は、国民の不満を軽減しようと民間の創業経営者への締め付けを強化。しかしその施策は、中国経済にとって重大なマイナス要因になるはずだ。それは、最大のチャイナリスクになるだろう』、興味深そうだ。
・『IT先端企業の経営者への締め付けで中国経済の潜在成長率は低下に向かう  1921年に中国共産党が結成されて以来、毛沢東から習近平まで歴代の指導者は、一貫して共産党による一党独裁体制の維持を目指してきた。共産党政権は経済成長を実現し、成長の分け前として恩恵を与えることで国民の不満を和らげてきた。 ただ、そうした政策の下で、中国では貧富の差が急拡大している。中国経済の高成長は、改革・開放路線による外資系企業の進出とそれに伴う工業化の進展によって支えられた。90年代以降の10%を超えるGDP成長は、インフラ投資の需要による鉄鋼やセメントなどの重厚長大分野での国有・国営企業の事業運営に支えられた。それに加えて、2000年代に入り、情報、通信など民間の新興企業の急成長が加わることによって、中国経済は高成長を維持することができた。 他方、高成長の過程で、富は共産党幹部とアリババやテンセントなど民間企業の創業者に集中した。貧富の差の拡大は国民の不満を増幅する可能性があり、社会全体にとって大きな不安定化要因だ。長期支配を目指す習氏は、国民に対して貧富の差の解消を約束する姿勢を示すことで、国民の不満の軽減を図っているようだ。 そうした背景もあり、IT先端企業の経営者への締め付けを強めている。ただ、締め付けは貧富の差の解消に一定の効果は見込めるものの、中国経済の成長の源泉である「アニマルスピリット」を減殺することになりかねない。それが現実味を帯びてくるようだと、中国経済の潜在成長率は低下に向かうことは避けられない』、「締め付けは・・・中国経済の成長の源泉である「アニマルスピリット」を減殺することになりかねない」、その通りだが、「中国政府」も織り込み済みだろう。
・『共産党幹部と民間企業の創業者 「2つの富裕層」が出現した  1978年に中国では鄧小平による指導体制が確立され、経済運営では改革・開放が重視された。具体的には、深センなどに経済特区が設けられて海外資本の誘致が進み、中国は海外から国内企業へ技術の移転などを進めた。その上で、石油化学や鉄鋼などの重厚長大産業では、国有・国営の鉄鋼やセメント企業などが勃興し、インフラ投資が進み経済は成長した。 89年の「天安門事件」によって中国経済は一時的に減速したが、その後も中国共産党政権は、党の指揮に基づいた経済運営を続けた。国有・国営企業が鉄鋼など基礎資材の生産を増やし、インフラ投資を行い、雇用を創出することによって生活水準の向上と所得の増加が実現された。それは、「共産党についていけば豊かになれる」という社会心理の醸成につながった。その過程で、国営企業とつながりの深い共産党の幹部に大きな富が集中することになった。 一方、情報や通信など、大規模な国有・国営企業の取り組みが少ない分野では民間企業が設立された。代表例として、98年には馬化騰(ポニー・マー)がテンセントを、99年には馬雲(ジャック・マー)がアリババグループを創業し、翌2000年にはバイドゥが誕生した。各社に共通するのは、創業の時期が米国のITバブルが膨らんだ1990年代後半から2000年代であることと、創業者が米国に留学したり欧米流の文化に魅力を感じたりして、IT先端技術の実用化による成長を目指したことだ。成長の実現によって民間企業の創業者も富裕層に仲間入りした。 このように、中国経済は、重厚長大分野では国有・国営企業が、情報・通信などの先端分野では企業家による事業運営が進み経済成長を実現する「ツートラック」だ。成長とともに、共産党幹部と民間企業の創業者の「二つの富裕層」が出現した』、「二つの富裕層」のうち、「民間企業の創業者」は当然としても、「共産党幹部」は不正なしになれるのだろうか。
・『このままだと中国はバブル崩壊後の日本のようになる  経済成長によって、インフラ整備需要は飽和する。工業化の初期段階では、高速道路の建設によって物流が効率化され、経済全体で生産性は上がる。しかし、高速道路網の整備が一巡した状況下で追加の道路を建設しても、生産性は高まらない。そのため、社会全体の資本効率性は低下する。 実例が1990年代のわが国経済だ。バブル崩壊後のわが国は、雇用を守るために公共事業を積み増した。しかし、社会インフラ整備が一巡していたため資本の効率性は低下し、投資は波及需要を生まなかった。近年の中国のGDP成長率の鈍化は、インフラ投資による成長が限界を迎えたことを示している。景気対策としてのインフラ投資が増えるにつれて中国の債務問題は深刻化している。中国経済は、不良債権問題が深刻化した97年から2002年頃のわが国経済のような状況に向かいつつある。 中国経済の成長率の鈍化は、貧富の差を拡大させている。The World Inequality Databaseによると、15年時点で中国の所得の41.7%を上位10%が占め、下位50%が受け取る所得は全体の14.4%だった。中国のジニ係数は0.6を超えると指摘する中国経済の専門家もいる。(ジニ係数は0から1までで表され、1に近づくほど貧富の差が激しくなる) 貧富の差の拡大は、為政者の求心力を低下させる。つまり、貧富の差の拡大は共産党政権が体制を維持する脅威となる。所得格差を是正しなければならないが、習近平国家主席にとって、富裕層の一つである共産党幹部に手を付けることはできない。それは共産党内部から同氏への批判が強まる原因になる。 そのため、習政権は、アリババやテンセント、さらには滴滴出行(ディディチューシン)などのIT先端企業への規制強化や資金調達の道を閉ざし、もう一つの富裕層である民間企業の創業経営者をたたかざるを得なくなっている。習氏が宣言した「共同富裕」のコンセプトは、慈善事業による寄付を重視する。それは、多くの富を得てきた民間企業の創業経営者から他の層への「強制的な富の移転」を示唆する』、「習近平国家主席にとって、富裕層の一つである共産党幹部に手を付けることはできない・・・民間企業の創業経営者をたたかざるを得なくなっている」、取り易いところから取る安易なやり方だ。
・『民間の取り組みを支援し基礎技術の向上を目指すべきだ  今後、共産党幹部の資産を大きく縮小させることは考えにくいだろう。中国が貧富の差を完全に解消することは事実上難しい。 また、貧富の差の解消のために民間企業の創業経営者をターゲットにすると、民間部門のエネルギーを減殺することが想定される。2000年代に入ってから11年半ばまで、概ね中国経済が10%台の成長率を達成し、その後も相応の成長力を維持しているのは、インフラ投資が一巡する中で民間企業がネット通販やフィンテックのサービスを提供し、経済の効率性が部分的に高まったからだ。その結果、高成長という果実を経済全体で共有することによって、中国の経済と社会全体がそれなりの安定性を維持することができたといえる。 しかし、今、習政権は、経済成長を支えてきた民間のアニマルスピリットを押しつぶし、より効率的な付加価値の創出を目指す人々の考えを脆弱(ぜいじゃく)化させているようだ。それは結果的に、中国経済の潜在成長率を低下させるだろう。 本来であれば、中国は民間企業の新しい取り組みを支援し、基礎技術の向上を目指さなければならない。例えば、半導体の機能向上に欠かせない微細化技術に関して、中国のファウンドリである中芯国際集成電路製造(SMIC)が、世界トップの技術力を持つ台湾積体電路製造(TSMC)に追いつくには10年は必要と指摘する半導体の専門家は多い。 企業の自由な発想や取り組みが制限されれば、基礎技術面でのキャッチアップは遅れるだろう。世界的に研究が進行段階にある人工知能(AI)や量子技術で中国は米国としのぎを削っているが、その機能発揮に不可欠な素材や製造装置など基礎技術の差は大きい。 長い目で考えると、富裕層である民間の創業経営者への締め付け強化によって、中国から海外に企業や人材が流出する恐れがある。投資資金にも同じことがいえる。貧富の差の解消のために中国経済の成長を支えた民間企業のエネルギーを減殺する習政権の考えは、中国経済にとって重大なマイナス要因になる可能性がある。それは、最大のチャイナリスクになるだろう』、「中国経済の成長を支えた民間企業のエネルギーを減殺する習政権の考えは、中国経済にとって重大なマイナス要因になる可能性がある」、同感である。
タグ:中国経済 (その10)(中国の新たな経済政策の標題はクロスシクリカル 早く小さくより長い時間軸を念頭に置いて行動、中国国家プロジェクトに「日本人44人」の重大懸念 機体に攻撃性、人を襲う「殺戮ドローン」の脅威、中国・習近平の目指す「格差解消」が最大のチャイナリスクを招く理由) 東洋経済オンライン ブルームバーグ 「中国の新たな経済政策の標題はクロスシクリカル 早く小さくより長い時間軸を念頭に置いて行動」 「クロスシクリカル(跨周期)」という新たなキャッチフレーズ 「景気変動をスムーズにするため、先手を打った穏健な行動を取ることが目標」、経済政策はなかなか上手くいかないのが普通だ。 「インターネットのプラットフォームや民間の教育企業を締め付け、二酸化炭素排出の削減や出生率引き上げ」などは、景気政策ではなく、構造政策なので、「時間軸の長期化でその理由が説明できる」、というのはこじつけに近い。 読売新聞取材班 「中国国家プロジェクトに「日本人44人」の重大懸念 機体に攻撃性、人を襲う「殺戮ドローン」の脅威」 「「少なくとも44人の日本人研究者が参加したり、関連した表彰を受けたりしていた」と報じた中国の「千人計画」」、とは穏やかではない。 「「機械が人を殺す決定を下せることがあってはならない。そのような兵器はすぐに大量破壊兵器となる。それだけでなく、戦争の可能性を高めるものになる」、その通りだ。なお、「Slaughterbots」のプリゼンテーション動画は、https://www.youtube.com/watch?v=9CO6M2HsoIA。 「北京理工大で日本人研究者がAIやロボット工学などを研究・指導していることに対しては、欧米から懸念する声が出ている」、「日本人研究者が」「海外」で研究などをする場合には、安全保障上の観点からの届け出などが必要になりそうだ。 「日本人研究者本人や周りにいる中国人たちが軍事転用をするつもりはなくても、中国では軍民融合戦略に加え、国民や企業に国の情報活動への協力を義務付ける「国家情報法」が施行されている。軍事転用などのリスクの高い機微な技術は当然、中国当局に狙われると考えなければならないだろう」、「千人計画の怖さは、外国人研究者の研究成果を中国自らのモノ、つまり「メイド・イン・チャイナ」にしてしまうところにもある」、「中国」への学術協力は慎重な上にも慎重に臨むべきだ。 「過去に日本で行った研究のデータを使って論文を書く場合でも、中国の大学の肩書で発表するよう要求された」、多少高目の報酬があるにせよ、こんな無茶な要求に対しては断固拒否してほしいものだ。
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