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インド(その2)(インドがウクライナ侵攻に「NO」と言えない事情 安全保障環境ゆえに軍事面でロシアと深い関係、時代遅れになるボリウッド コロナ禍と動画配信の台頭で興行不振、日本製鉄 あえて「高炉の新設」を選択した事情 インドで合弁会社が1兆円の投資に踏み切る) [世界情勢]

インドについては、昨年8月13日に取上げた。今日は、(その2)(インドがウクライナ侵攻に「NO」と言えない事情 安全保障環境ゆえに軍事面でロシアと深い関係、時代遅れになるボリウッド コロナ禍と動画配信の台頭で興行不振、日本製鉄 あえて「高炉の新設」を選択した事情 インドで合弁会社が1兆円の投資に踏み切る)である。

先ずは、本年3月4日付け東洋経済オンラインが掲載した岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員の笠井 亮平氏による「インドがウクライナ侵攻に「NO」と言えない事情 安全保障環境ゆえに軍事面でロシアと深い関係」を紹介しよう。
・『2022年2月24日、国連安全保障理事会に提出されたロシアのウクライナ侵攻を非難する決議案は、ロシアの拒否権発動によって葬り去られた。棄権した国も3つあった——中国、アラブ首長国連邦(UAE)、そしてインドである』、「QUAD」の一角を占めるのに、「ウクライナ侵攻を非難する決議案」に「棄権」とはどういうことなのだろう。
・『軍事面で不可欠なパートナー  この3カ国は、国連総会の緊急特別会合開催を求める採決でも棄権に回った(ロシアも反対したが、手続き事項に関しては拒否権の対象とならないため、賛成多数で採択された)。民主主義国であり、近年は「自由で開かれたインド太平洋」構想に参加し、日本、アメリカ、オーストラリアとともに「QUAD(クアッド)」の一角を占めるインドがなぜロシアの軍事侵攻を非難しないのか。 その最大の理由は、インドがロシアに対して軍事面で不可欠なパートナーであることだ。金額ベースで見ると、2000年から2020年にかけてインドが外国から輸入した兵器のうち66.5%がロシア製だった。インド軍の超音速巡航ミサイル「ブラーモス」はロシアと共同開発したものだし、インド海軍唯一の空母「ヴィクラマディティヤ」はロシア海軍の空母だったものを購入して改装したものだ。 2018年にはアメリカの懸念をよそにロシア製地対空ミサイル「S400」の導入を決め、2021年11月には実際に供給が始まった。近年インドは兵器調達先の多様化を進めており、米欧やイスラエル製も増えているものの、既存の兵器のメンテナンスや弾薬・各種部品調達の必要性を踏まえれば、ロシア頼みの状況を変えることは容易ではない。 インドは隣国との間で国境問題や領土問題を抱えており、防衛力の整備をおろそかにするわけにはいかないという事情がある。北の中国とは2020年に国境で軍事衝突が発生し、双方に死者が出る事態にまで発展した。西のパキスタンとは、過去3度にわたり戦火を交えてきたほか、カシミール地方をめぐり対立が続いており、過激派によるテロにも悩まされている。中国のインド洋進出を受けて、海軍力の増強も進めている。インドも今回のウクライナ情勢を憂慮しているものの、自国の安全保障を考えればロシアとの良好な関係を損なうわけにはいかないのだ。) インドとロシアの密接な関係は冷戦期にまでさかのぼる。「非同盟」を掲げてきたインドだが、米中接近や中国・パキスタン関係の強化という事態を受けて、1971年には当時のソ連との間で軍事同盟的性格の強い「平和友好協力条約」を結んだ。1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻した際には、翌1980年1月に開かれた国連総会の緊急特別会合でソ連を事実上支持するという、今回の先例とも言える立場をとったこともあった。カシミール問題でインドに不利な決議案が安保理に提出された際、拒否権を発動して不採択に導いたのはソ連だった。 この関係はソ連が崩壊してロシアになってからも続き、両国は軍事以外にもエネルギー(原発)、科学技術、宇宙開発といった分野で協力を進めてきた。インドは日本と「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を構築しているが、ロシアとは「特別かつ特恵的(privileged)な戦略的パートナーシップ」とさらに踏み込んだ関係と位置づけている。BRICSやインド・中国・ロシア3カ国会議、上海協力機構(SCO)といった多国間の枠組みでの協力もある』、「2000年から2020年にかけてインドが外国から輸入した兵器のうち66.5%がロシア製だった。インド軍の超音速巡航ミサイル「ブラーモス」はロシアと共同開発したものだし、インド海軍唯一の空母「ヴィクラマディティヤ」はロシア海軍の空母だったものを購入して改装したものだ。 2018年にはアメリカの懸念をよそにロシア製地対空ミサイル「S400」の導入を決め・・・近年インドは兵器調達先の多様化を進めており、米欧やイスラエル製も増えているものの、既存の兵器のメンテナンスや弾薬・各種部品調達の必要性を踏まえれば、ロシア頼みの状況を変えることは容易ではない」、「インドとロシアの密接な関係は冷戦期にまでさかのぼる」、「ロシアとは「特別かつ特恵的(privileged)な戦略的パートナーシップ」とさらに踏み込んだ関係と位置づけ」、ここまで強固なつながりがあるとは・・・。
・『プーチン「インドの外交哲学はロシアと似ている」  ロシア側もインドを重視してきた。プーチン大統領は2021年11月の外交演説でインドを「多極世界のなかで独立し、強固な中心のひとつ」であり、「(ロシアと)よく似た外交における哲学とプライオリティを持っている」と評した。コロナ禍によって各国の首脳外交は激減するなか、2020年2月からの2年間でプーチン大統領が外国に出たのは3回。スイス(2021年6月のバイデン米大統領との会談)と中国(2022年2月の北京冬季五輪開会式出席)、そしてインド(2021年12月)だった。 このときの訪問では、印ロ間の防衛協力推進がうたわれ、ロシアのカラシニコフ社製自動小銃AK-203をインド国内の工場で60万挺生産する契約がまとまったと報じられた。ロシアとしては、日米豪印のうちもっとも友好的なインドと関係強化を図ることで、「クアッド」にくさびを打ちたいという狙いもあったのだろう。 では、インドは今後もロシア寄りの姿勢を続けるのか。前述したとおり、軍事面の依存を考えれば全面的に対ロ非難に転換することは考えにくい。だが、ロシア軍侵攻によってウクライナの状況がさらに悪化し、国際的非難が一層高まることになれば、対応の再考を迫られることになるかもしれない。) インド有力英字紙『ヒンドゥー』は2022年2月28日付の社説で、安保理での棄権は「既定路線」としながらも、「インド政府は世界の安全を脅かす紛争に対して毅然とした態度をとることなく、自国が『大国』になれるか考える必要がある」「曖昧な立場は強者が弱者を武力で侵略することに対する肯定と受け止められてしまうが、インドは自らの周辺地域でそうした行為に抗議してきたのではないか」と指摘した。 また、2014年まで長く政権与党の座にあった最大野党・インド国民会議派のなかでも、元国連事務次長で現在は下院議員を務めるシャシ・タルールが「安保理常任理事国入りを目指すインドが、国際的に認められている原則に対して沈黙することはいかがなものか」と疑義を呈している』、「インド国民会議派のなかでも、元国連事務次長で現在は下院議員を務めるシャシ・タルールが「安保理常任理事国入りを目指すインドが、国際的に認められている原則に対して沈黙することはいかがなものか」と疑義を呈している」、「インド」も「安保理常任理事国入りを目指」しているとは初めて知った。
・『インドこそ解決への仲介役に適役  インドはロシアと密接な関係にあるが、そのインドだからこそ担いうる役割がある。ロシアと国際社会の仲介役だ。ロシア軍の侵攻が始まった2022年2月24日、モディ首相はプーチン大統領と電話会談を行い、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)の対立を解決する唯一の方途は対話だと主張するとともに、暴力の即時停止を求めた。 その訴えは実らなかったが、インドとロシア首脳のパイプが生きていることを印象づけた。ロシアとしても、戦況が思うように進まず、事態が長期化する事態になれば、いずれ「落としどころ」を模索することになるだろう。その際にインドが米欧との橋渡しをできれば、事態の解決に貢献することができる。ウクライナには約2万人のインド人(多くは医学生)がおり、自国民保護の観点からも早期解決はプラスになる。 日本もインドに対してこの点を提起すべきだ。ウクライナ情勢次第だが、岸田文雄首相は2022年3月中に訪印を予定していると報じられている。モディ首相に対しロシアへの働きかけを促すことこそ、最優先で取り組むことではないだろうか。そうすることで、インドの立場を損なうことなく、日米豪印によるクアッドとしての結束を維持していけるはずだ。(本稿は筆者個人の見解であり、所属先との見解を表すものではありません』、「インドが」ウクライナ問題で「米欧との橋渡しをできれば、事態の解決に貢献することができる。ウクライナには約2万人のインド人(多くは医学生)がおり、自国民保護の観点からも早期解決はプラスになる」、現実には、「ウクライナ問題」での「米欧との橋渡し」はむしろトルコの方が適しているかも知れず、「インド」には多くを期待できないのではなかろうか。

次に、9月5日付けNewsweek日本版「時代遅れになるボリウッド コロナ禍と動画配信の台頭で興行不振」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2022/09/post-99545_1.php
・『インドのヒンドゥー語映画産業「ボリウッド」は壊れているかもれしれない。彼ら自身がそのことを認識している。 大スクリーンで全編にわたって素晴らしい歌とダンスが繰り広げられるボリウッド映画は厳しい現実から逃れられる娯楽として、インド国民や世界中の人々を長らく魅了してきたが、最近は興行面で不振が続いている。 兄と妹たちのきずなを描いた新作「ラクシャバンダン」の興行成績がさっぱりだったことを受け、ボリウッドの大スターで主演を務めたアクシャイ・クマールさんは先月記者団に「映画がうまくいっていない。これはわれわれ、そして私の責任だ。私はいろいろと変えなければならないし、観客が何を望んでいるか理解する必要がある。私の映画はこうあるべきという概念をたたき壊したい」と胸の内を語った。 実際、インド現代文化の1つの柱だったボリウッドは曲がり角を迎え、その輝きは色あせつつある。 特に若い世代は多くのボリウッド映画を時代遅れで「格好悪い」とみている。そこに折あしく登場してきたのがネットフリックスやアマゾン・プライムといった動画配信サービスだ。 業界データを分析するウェブサイト「コイモイ」によると、今年公開されたボリウッド映画26本のうち何と20本(77%)は、収入が投資額の5割かそれ以下にとどまった「失敗作」になった。2019年の失敗作の比率はその半分程度だったが、新型コロナウイルスのパンデミックによって社会が一変し、何十年もボリウッド映画の主な収入源だった映画館から人々が遠ざかってしまった。 ボリウッドの拠点ムンバイで暮らす女性で、2人の10代の娘を持つクリスティナ・スンダレサンさん(40)はパンデミック発生前まで、最低でも週に1回は映画館でボリウッド映画を楽しんでいたにもかかわらず、今は滅多には足を向けない。「笑いが必要な時にボリウッド映画は向いているけれど、もうわざわざ映画館に鑑賞には行かない。昔はどの映画にも一緒についてきた娘たちも、動画配信プラットフォームで韓国のショーやドラマにはまっている」という。 海外の動画配信サービスに流れたのは彼女らだけではない。ネットフリックスとアマゾン・プライムがインドでサービスを開始したのは2016年と比較的最近だが、欧米やインド、その他アジアで制作された「パラサイト 半地下の家族」「アベンジャーズ」「イカゲーム」などさまざまな人気作品を提供している。 市場データ会社スタティスタの分析では、19年にインド国民14億人の約12%だった動画サービス利用者は足元で25%に増加している。この比率は27年までに31%する見通しで、さらに上振れる余地もある。例えば北米では利用率はおよそ80%に達しているからだ』、「今年公開されたボリウッド映画26本のうち何と20本(77%)は、収入が投資額の5割かそれ以下にとどまった「失敗作」になった。2019年の失敗作の比率はその半分程度だったが、新型コロナウイルスのパンデミックによって社会が一変し、何十年もボリウッド映画の主な収入源だった映画館から人々が遠ざかってしまった」、「パンデミック」は予想外に幅広い影響をもたらしたようだが、原因は嗜好の変化など他にもありそうだ。
・『時代への順応必要  インドの映画興行収入はでは19年まで毎年着実に増加し、同年には20億ドル前後に達した。その後パンデミックで落ち込み、現在も持ち直す気配は乏しい。 今年3月以降、興行成績は毎月悪化し続けている。投資銀行エララ・キャピタルの調査に基づくと、特にボリウッド映画は7-9月期に45%の減収が予想される。 ロイターが複数の映画ファンやプロデューサー、配給会社、映画館運営会社などの業界関係者に取材したところ、ボリウッドはもはや黙っていても観客が見込めると考えてはならず、生き残って再び隆盛期を迎えたいならば時代に順応しなければならないと訴えた。 4人の業界幹部は、業界内に広がる混乱や不安の背景をこう描写する。各製作会社はパンデミック前の市場であればヒットしたであろう作品を公開している一方、消費者の好みは動画配信、すなわちインターネット回線で提供されるコンテンツサービス(OTT)の台頭とともに変化が起き、そこにずれが生まれている、と。 インド第2位のシネマコンプレックス運営企業INOX幹部のシン・ジアラ氏は、製作サイドとのやり取りを踏まえ、プロデューサーは脚本の練り直しを急ぎ、俳優への出演料を前払いではなく興行成績と連動する形に切り替えることを検討していると明かした。 一方でジアラ氏は「本当の問題が何なのか誰も分かっていない。パンデミック期間中は映画が1本も公開されず、人々はOTTでさまざまな種類のコンテンツを視聴する時間がたっぷりあった。だから2年前に成功していたコンテンツはそれが何であれ、今ではもう全く価値がない」と話す。 ともかくも業界はすぐさま現実に適応しなければならない。 ある大学の研究によると、ボリウッド映画は収入の75%近くを映画館の興行収入に依存していることが分かった。米国映画協会のデータによると、世界全体では映画の興行収入への依存度は50%未満だ』、「ボリウッドはもはや黙っていても観客が見込めると考えてはならず、生き残って再び隆盛期を迎えたいならば時代に順応しなければならない」、「本当の問題が何なのか誰も分かっていない」、何やら頼りない感じだ。
・『見えない正解  ボリウッド映画のファンからは、進化を遂げて存在感を維持することはできるとエールも送られている。例えば最近の社会情勢をより適切に反映させるために、ゲイの人たちの関係や性転換した人物を作品に取り入れることはそうした進化の1つとみなされる。 ニューデリーの大学生は「話の展開が問題で、過去2年間に視聴者は非常に多くの新しいテーマにさらされ、新しい考え方を提示されてきた。それこそボリウッドに欠けている分野ではないかと思う」と自身の見解を披露した。 先月はクマールさんのラクシャバンダンだけでなく、別のボリウッド大物俳優アーミル・カーンさんが主演した「ラール・シン・チャッダー」も「大コケ」し、まさにボリウッドのたそがれが鮮明になっている。ラール・シン・チャッダーは、米ハリウッドの人気映画「フォレストガンプ」のリメーク版で、祝祭の連休入り前日だった8月11日に公開されたにもかかわらず、興行収入は5億6000万ルピーと投入予算の4分の1程度に過ぎなかった。 INOXのジアラ氏は、あまりの不振ぶりに運営するシネコンでラール・シン・チャッダーの上映回数を25%減らしたと述べた。 今後公開予定で巨額予算を投じた映画2本を抱えるボリウッドのある有力プロデューサーはロイターに、各プロデューサーは新しい映画の製作に当たり、予算から脚本、出演者まで何もかも再調整していると語り、視聴者の求めるものに寄り添っていかなければならないと強調しつつも、「その正解はもう持ち合わせていない」と不安を打ち明けた』、「視聴者の求めるもの」、「その正解はもう持ち合わせていない」とは本当に頼りない限りだ。
・『負担感大きい映画料金  インドは他のほとんどの国・地域と同じく、人々が生活費高騰と苦闘している。それだけに映画ファンや業界関係者は、映画館で鑑賞するのに結構なお金がかかるというのも重大な問題だと指摘する。 大スクリーンを持つ映画館に4人家族で行けば、通常は3000─5000ルピー(35─60ドル)の出費。多くの国民が貧困にあえぎ、平均年収が約16万ルピーにとどまるインドでは高額だ。対照的にネットフリックスなどの動画配信サービスの月額はおよそ150ルピーでしかない。 映画プロダクションと配給会社を所有し、ボリウッド女優と結婚しているアニル・タダニ氏は「どこかで調整が必要になる。予算を組み直し、映画館に行く費用を下げなければならない。ヒンドゥー語映画産業は一般大衆からかい離しつつある。国民の大部分はこれらの映画と一体感を持たなくなっている」と危機感をあらわにした。 スンダレサンさんもタダニ氏と同じ感覚を持っている。「映画館に行ってずっと座りっぱなしで、自分のペースで鑑賞できないというのは時間の浪費に思われる。OTTで視聴した方がメリットは多い」と話す』、「大スクリーンを持つ映画館に4人家族で行けば、通常は3000─5000ルピー(35─60ドル)の出費。多くの国民が貧困にあえぎ、平均年収が約16万ルピーにとどまるインドでは高額だ。対照的にネットフリックスなどの動画配信サービスの月額はおよそ150ルピーでしかない」、「映画館に行ってずっと座りっぱなしで、自分のペースで鑑賞できないというのは時間の浪費に思われる。OTTで視聴した方がメリットは多い」、興行収入の伸び悩みには、こうした「映画館」の「料金」、「OTTで視聴」というライバルの登場、などの問題もあるようだ。

第三に、10月3日付け東洋経済オンライン「日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情 インドで合弁会社が1兆円の投資に踏み切る」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/622982
・『カーボンニュートラルの要請が強まるタイミングで、なぜ二酸化炭素の排出が多い「高炉」を新設するのか。 日本製鉄のインド拠点  国内拠点のリストラを進めてきた日本製鉄が、今度は「量の拡大」に向けて海外でアクセルを踏み込み始めた。 9月28日、日本製鉄は4割を出資するインド合弁会社「アルセロール ミタル ニッポンスチールインディア(AMNSI)」が約1兆円の投資に踏み切ると発表した。 AMNSIは2019年に欧州アルセロール・ミタル(AM)と共同で買収したインド5位の鉄鋼メーカーだ。7300億円を投じて高炉2基を含む各種生産設備を増強するほか、3400億円を投じて港湾や電力などのインフラを買収する。総投資額1兆0700億円は、AMNSIが自己資金と借入金でまかなう。借入金額は未定だが、必要に応じて、AMと日本製鉄が出資比率に従い債務保証を行う予定。 2基目の高炉が稼働する2026年にはAMNSIの粗鋼生産能力(年間)は現在の900万トンから1500万トンに拡大する。港湾などはAMNSIの製鉄事業に不可欠なインフラばかりだが、買収時には対象外だった。自社保有とすることでこれまで払ってきた使用料が不要になる上、今後の能力拡張にも対応しやすくなる』、なるほど。
・『インドは鉄鋼需要が飛躍的に伸びる  AMNSIを通じてインドで積極投資するのは、成長が確実視されている市場であるからだ。「インドは人口構成が若く、発展が期待でき、人口もさらに伸びていく。鋼材需要も飛躍的に伸びる。能力を拡張して成長市場を捕捉する」と森高弘副社長は9月28日の会見で力を込めた。 2021年のインド国内の鋼材使用量は1億0610万トン。9億5200万トン中国に続く世界2位で、5750万トンの日本を大きく上回る。他方、国民1人当たりでは76キログラムと、456キログラムの日本や、666キログラムの中国に比べるとまだまだ少ない。 経済成長に伴って1人当たり使用量は2030年に倍増すると見込まれている。加えて、人口は増加が続いており、2023年には中国を抜いて世界一となる見通し。 インドの粗鋼生産量は1億1820万トン。輸入規制もあって国内でほぼ完結している。9633万トンを生産し、約4割を輸出する日本と市場構造が対照的だ。 つまり、今後のインド国内の需要増に対応するには、現地での生産能力拡大は必須となる。ただ、インドのカントリーリスクが高いため、AMとの共同歩調を取ることで、リスクをコントロールしながらインドの成長を取り込むスタンスだ。) AMNSIには新たな製鉄所を建設するなど、さらなる能力増強の構想もある。「2030年に3000万トンを(目標として)考えていきたい」(森副社長)。 日本製鉄は将来ビジョンとしてグローバルで1億トンの粗鋼生産能力を掲げている。今回の増強が完了する2026年には7000万トンに到達する。さらにインドを3000万トンに増強すれば、トータルで8500万トンとなる。 1億トンまでの残り1500万トンについては「インドでさらに(の可能性も)あるし、米国は市場が大きく高級鋼の需要もある。ASEANも強い」(森副社長)と、海外に視線を向ける。反面、国内は需要が減退していくので能力拡張はない。日本国内は現状4700万トンの能力があるが、2025年に鹿島の高炉を休止することで4400万トンまで減らすことが決まっている。 鉄鋼業の収益構造を考えると、利益を増やすにはトン当たりの付加価値を上げるか、量を拡大するしかない。2021年以降、大口顧客に対する値上げを実施して付加価値を引き上げてきた。今度は量の拡大にアクセルを踏み込む。市場の成長期待がもっとも高いインドに賭けることに不思議はない』、「2021年のインド国内の鋼材使用量は1億0610万トン。9億5200万トン中国に続く世界2位で、5750万トンの日本を大きく上回る。他方、国民1人当たりでは76キログラムと、456キログラムの日本や、666キログラムの中国に比べるとまだまだ少ない」、特に「国民1人当たり」では成長余地が大きそうだ。
・『二酸化炭素排出の多い高炉を選択する事情  他方、カーボンニュートラル(CN)の要請が強まるタイミングでなぜ高炉を新設するのか。 鉄鉱石から鉄を造り出す最上流工程で、世界でもっとも活用されているのが高炉法。高品質の鉄を大量・高効率に造ることに優れており、日本は粗鋼生産の75%が高炉によるもの。一方、鉄鉱石に含まれる酸素を石炭に含まれる炭素で取り除く(還元)ため、原理的に二酸化炭素(CO2)の排出が多い欠点がある。 鉄鋼業は日本全体のCO2排出量の13%、産業全体でも4割を占める。その8割は高炉を中心とする上工程から出ている。このため近年、CO2排出を減らすために電炉を活用する動きが出てきた。9月初頭にJFEホールディングスが国内で高炉1基を休止し、電炉に置き換えると発表したのはこの流れにある。 還元済みの鉄スクラップを電気の熱で溶かして鉄を造る電炉のCO2排出量は高炉の4分の1と低い。使用電気をCN電力に切り替えれば、理論上はCNスチールの実現も可能である。 しかし、日本製鉄は電炉ではなく、高炉を選んだ。「機会損失をできるだけなくす。自動車を始めとする高級鋼需要にも対応するなら、高炉法が一番だからだ」と森副社長は説明する。 不純物が含まれるスクラップを原料に使う電炉では電磁鋼板や高張力鋼板といった高級鋼は造れない。品質が均一な加工くずのスクラップを使えば造ることは可能だが必要量の確保が難しい。 そもそもスクラップは発生量が限られている。急増する鋼材需要をまかなうには鉄鉱石に頼るほかない。現時点で高級鋼を大量・高効率に生産するのは高炉がベストなことは間違いない。 ただ、もう一つの道がある。気体のガスで鉄鉱石を還元する「直接還元」という手法だ。溶けた鉄が造る高炉と異なり、固形の鉄(直接還元鉄)ができるため、電炉と組み合わせるのが基本。実はAMNSIは、直接還元法の一つで、天然ガスを使う「ミドレックス炉」が主力だ。 ミドレックスは天然ガスに含まれる炭素と水素で還元するため、電炉と組み合わせても高炉法よりもCO2排出量が少ない。「電炉やミドレックスが環境負荷やCO2排出だけなら少ないのは明らか」(森副社長)。 スクラップを使う電炉よりは高級鋼は造りやすい。CO2を出さない完全水素還元はミドレックスがベースになる可能性が高い。将来のCNをにらめばミドレックス+電炉という選択肢はあったはずだ』、「不純物が含まれるスクラップを原料に使う電炉では電磁鋼板や高張力鋼板といった高級鋼は造れない」、「そもそもスクラップは発生量が限られている。急増する鋼材需要をまかなうには鉄鉱石に頼るほかない」、「現時点で高級鋼を大量・高効率に生産するのは高炉がベストなことは間違いない。 ただ、もう一つの道がある。気体のガスで鉄鉱石を還元する「直接還元」という手法だ。溶けた鉄が造る高炉と異なり、固形の鉄(直接還元鉄)ができるため、電炉と組み合わせるのが基本。実はAMNSIは、直接還元法の一つで、天然ガスを使う「ミドレックス炉」が主力だ」、「スクラップを使う電炉よりは高級鋼は造りやすい。CO2を出さない完全水素還元はミドレックスがベースになる可能性が高い。将来のCNをにらめばミドレックス+電炉という選択肢はあったはずだ」、しかし「高炉」を選択した理由は以下の通りだ。
・『高炉の選択が示すカーボンニュートラルの難題  だが、ミドレックス+電炉は生産性で高炉に劣る。完全水素還元の技術は確立できておらず、確立できたとして大量のCN水素を調達する見通しも立っていない。今の段階で高炉を選んだ日本製鉄の決断は極めて現実的といえる。 インドは2070年のCNを目標としており、2050年のCNを目標にしている先進国より20年余裕があることも大きい。だからといって大量のCO2排出が許されるわけではない。新しく建設する高炉は、日本製鉄やAMが開発中の低炭素化技術を導入することが前提。高炉として低炭素化し、将来的にはCCUS(CO2の回収・利用・貯蔵)も組み合わせてさらなるCO2排出削減を追求する考えだ。 低炭素化しても高炉が出すCO2はやはり多く、CCUS活用でもおそらくニュートラルには届かない。厳密なCNを求められる時期が来た時、高炉を捨てるのか。高炉を捨てて鋼材需要を満たせるかはわからない。このタイミングでの高炉という選択は、CN実現がいかに難しいかを示している』、「完全水素還元の技術は確立できておらず、確立できたとして大量のCN水素を調達する見通しも立っていない。今の段階で高炉を選んだ日本製鉄の決断は極めて現実的」、「高炉として低炭素化し、将来的にはCCUS・・・も組み合わせてさらなるCO2排出削減を追求する考えだ。 低炭素化しても高炉が出すCO2はやはり多く、CCUS活用でもおそらくニュートラルには届かない。厳密なCNを求められる時期が来た時、高炉を捨てるのか。高炉を捨てて鋼材需要を満たせるかはわからない。このタイミングでの高炉という選択は、CN実現がいかに難しいかを示している」、「今の段階で高炉を選んだ日本製鉄の決断は極めて現実的」、今後「厳密なCNを求められる時期が来た時」、どうするのかはその時点での「鋼材需要」などの不確定な条件によって決まるようだ。
タグ:インド (その2)(インドがウクライナ侵攻に「NO」と言えない事情 安全保障環境ゆえに軍事面でロシアと深い関係、時代遅れになるボリウッド コロナ禍と動画配信の台頭で興行不振、日本製鉄 あえて「高炉の新設」を選択した事情 インドで合弁会社が1兆円の投資に踏み切る) 東洋経済オンライン 笠井 亮平氏による「インドがウクライナ侵攻に「NO」と言えない事情 安全保障環境ゆえに軍事面でロシアと深い関係」 「QUAD」の一角を占めるのに、「ウクライナ侵攻を非難する決議案」に「棄権」とはどういうことなのだろう。 「2000年から2020年にかけてインドが外国から輸入した兵器のうち66.5%がロシア製だった。インド軍の超音速巡航ミサイル「ブラーモス」はロシアと共同開発したものだし、インド海軍唯一の空母「ヴィクラマディティヤ」はロシア海軍の空母だったものを購入して改装したものだ。 2018年にはアメリカの懸念をよそにロシア製地対空ミサイル「S400」の導入を決め・・・近年インドは兵器調達先の多様化を進めており、米欧やイスラエル製も増えているものの、既存の兵器のメンテナンスや弾薬・各種部品調達の必要性を踏まえれば、ロシア頼みの状況を変えることは容易ではない」、「インドとロシアの密接な関係は冷戦期にまでさかのぼる」、「ロシアとは「特別かつ特恵的(privileged)な戦略的パートナーシップ」とさらに踏み込んだ関係と位置づけ」、ここまで強固なつながりがあるとは・・・。 「インド国民会議派のなかでも、元国連事務次長で現在は下院議員を務めるシャシ・タルールが「安保理常任理事国入りを目指すインドが、国際的に認められている原則に対して沈黙することはいかがなものか」と疑義を呈している」、「インド」も「安保理常任理事国入りを目指」しているとは初めて知った。 「インドが」ウクライナ問題で「米欧との橋渡しをできれば、事態の解決に貢献することができる。ウクライナには約2万人のインド人(多くは医学生)がおり、自国民保護の観点からも早期解決はプラスになる」、現実には、「ウクライナ問題」での「米欧との橋渡し」はむしろトルコの方が適しているかも知れず、「インド」には多くを期待できないのではなかろうか。 Newsweek日本版「時代遅れになるボリウッド コロナ禍と動画配信の台頭で興行不振」 「今年公開されたボリウッド映画26本のうち何と20本(77%)は、収入が投資額の5割かそれ以下にとどまった「失敗作」になった。2019年の失敗作の比率はその半分程度だったが、新型コロナウイルスのパンデミックによって社会が一変し、何十年もボリウッド映画の主な収入源だった映画館から人々が遠ざかってしまった」、「パンデミック」は予想外に幅広い影響をもたらしたようだが、原因は嗜好の変化など他にもありそうだ。 「ボリウッドはもはや黙っていても観客が見込めると考えてはならず、生き残って再び隆盛期を迎えたいならば時代に順応しなければならない」、「本当の問題が何なのか誰も分かっていない」、何やら頼りない感じだ。 「視聴者の求めるもの」、「その正解はもう持ち合わせていない」とは本当に頼りない限りだ。 「大スクリーンを持つ映画館に4人家族で行けば、通常は3000─5000ルピー(35─60ドル)の出費。多くの国民が貧困にあえぎ、平均年収が約16万ルピーにとどまるインドでは高額だ。対照的にネットフリックスなどの動画配信サービスの月額はおよそ150ルピーでしかない」、「映画館に行ってずっと座りっぱなしで、自分のペースで鑑賞できないというのは時間の浪費に思われる。OTTで視聴した方がメリットは多い」、興行収入の伸び悩みには、こうした「映画館」の「料金」、「OTTで視聴」というライバルの登場、などの問題もあるよ うだ。 東洋経済オンライン「日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情 インドで合弁会社が1兆円の投資に踏み切る」 「2021年のインド国内の鋼材使用量は1億0610万トン。9億5200万トン中国に続く世界2位で、5750万トンの日本を大きく上回る。他方、国民1人当たりでは76キログラムと、456キログラムの日本や、666キログラムの中国に比べるとまだまだ少ない」、特に「国民1人当たり」では成長余地が大きそうだ。 「不純物が含まれるスクラップを原料に使う電炉では電磁鋼板や高張力鋼板といった高級鋼は造れない」、「そもそもスクラップは発生量が限られている。急増する鋼材需要をまかなうには鉄鉱石に頼るほかない」、「現時点で高級鋼を大量・高効率に生産するのは高炉がベストなことは間違いない。 ただ、もう一つの道がある。気体のガスで鉄鉱石を還元する「直接還元」という手法だ。溶けた鉄が造る高炉と異なり、固形の鉄(直接還元鉄)ができるため、電炉と組み合わせるのが基本。実はAMNSIは、直接還元法の一つで、天然ガスを使う「ミドレックス 炉」が主力だ」、 「スクラップを使う電炉よりは高級鋼は造りやすい。CO2を出さない完全水素還元はミドレックスがベースになる可能性が高い。将来のCNをにらめばミドレックス+電炉という選択肢はあったはずだ」、しかし「高炉」を選択した理由は以下の通りだ。 「完全水素還元の技術は確立できておらず、確立できたとして大量のCN水素を調達する見通しも立っていない。今の段階で高炉を選んだ日本製鉄の決断は極めて現実的」、「高炉として低炭素化し、将来的にはCCUS・・・も組み合わせてさらなるCO2排出削減を追求する考えだ。 低炭素化しても高炉が出すCO2はやはり多く、CCUS活用でもおそらくニュートラルには届かない。厳密なCNを求められる時期が来た時、高炉を捨てるのか。高炉を捨てて鋼材需要を満たせるかはわからない。このタイミングでの高炉という選択は、CN実現がいかに難し いかを示している」、「今の段階で高炉を選んだ日本製鉄の決断は極めて現実的」、今後「厳密なCNを求められる時期が来た時」、どうするのかはその時点での「鋼材需要」などの不確定な条件によって決まるようだ。
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幼児虐待(その10)(繰り返される子供の置き去り死 「スクールバス大国」の防止策、園児バス置き去り死とその報道に見る 「注意不足」のせいにする危うさ、なぜ通園バスの置き去り事故は繰り返されるのか…「安全装置」で完全解決できると考えてはいけない 「現場力の低下」というニッポンの大問題) [社会]

幼児虐待については、9月15日に取上げた。今日は、(その10)(繰り返される子供の置き去り死 「スクールバス大国」の防止策、園児バス置き去り死とその報道に見る 「注意不足」のせいにする危うさ、なぜ通園バスの置き去り事故は繰り返されるのか…「安全装置」で完全解決できると考えてはいけない 「現場力の低下」というニッポンの大問題)である。

先ずは、9月25日付け産経新聞「繰り返される子供の置き去り死 「スクールバス大国」の防止策」を紹介しよう。
https://www.sankei.com/article/20220925-O3P7FSLSGZKFZECKTA7GZJKD44/
・『幼稚園・保育園のバスの送迎担当者267人のうち、「過去1年に園児だけを残してバスを離れた」と回答したのは15人―。ある企業の調査結果が物語るのは、静岡県牧之原市の認定こども園で今月起きた悲劇が、決して偶然ではないという現実だ。尊い命をどう守るべきか、通園バスでの園児置き去り防止を巡り、各地で対策の見直しが進められている。海外ではバス内に安全装置の設置を義務付けている国もある。専門家は「ミスは必ず起きるとの前提で対策を講じるべきだ」と訴える』、「幼稚園・保育園のバスの送迎担当者267人のうち、「過去1年に園児だけを残してバスを離れた」と回答したのは15人」、とは潜在的には今回のような事故を起こす可能性がかなり高いことを意味。
・『「通知」あったのに  「痛ましい事案が再度起きてしまったことは極めて遺憾で断腸の思い。一体あの通知は何であったのかと思う」。9月6日、永岡桂子文部科学相は記者会見で語気を強めた。 静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で同月5日、園児の河本千奈(ちな)ちゃん(3)が通園バス内で意識を失っている状態で見つかり、搬送先の病院で熱中症による死亡が確認された。登園時に下車せず、約5時間にわたり置き去りにされたとみられる。静岡県警は園が安全管理を怠ったとみて、業務上過失致死容疑で詳しい経緯を調べている。 永岡氏が言及した「通知」は昨年8月、幼稚園を所管する文科省と厚生労働省などが全国の自治体に出したものを指す。同年7月、福岡県中間市の保育園で送迎バスに取り残された5歳の男児が死亡した事件を受け、登園時の人数確認を複数回行うといった安全管理の徹底を求める内容だった』、一片の「通知」で事足れりとする当局の姿勢も問題だ。
・『「ルールが形骸化」  悲劇はいつ、どこで起きてもおかしくはない。 合成ゴムなどを扱う三洋貿易(東京)は今年5月、全国の幼稚園・保育園のバスの送迎担当者(運転手、添乗員、運行管理者)267人を対象にオンラインで実態を調べた。 それによると全体の5・6%にあたる15人が「直近1年間で園児を残したままバスを離れた経験がある」と回答。そのうち3人は、園児をバスに残していることを認識していなかったという。 置き去りが発生する理由についても尋ねたところ、いずれの属性も65%以上が「送迎担当者や職員の意識が低いから」と答えた。ただ添乗員からは「人手不足だから」(約56%)、「登園確認などのルールが形骸化しているから」(約43%)といった声も聞かれた』、「登園確認などのルールが形骸化しているから」との声は真相に近そうだが、その防止は容易ではなさそうだ。
・『米国では1千人死亡  個人の意識だけでは限界があるのも事実。海外では新たなシステムを導入するなどの動きも出ている。 同種の死亡事故が相次いだ韓国では2018年に法改正を行い、送迎バス内に置き去りを防ぐ装置の設置を義務付けた。エンジンを切った後、3分以内に車両後方のボタンを押さないと警報音が鳴る仕組み。設置には政府からの交付金が出るが、車内点検を怠った運転手には罰金が科される。 米国では非営利団体の調査により、2021年までの32年間で約1千人の子供が高温の車内に取り残されて死亡したことが判明。人の動きを検知できるセンサーを搭載したスクールバスも登場し、再発防止を模索している』、「32年間で約1千人の子供が高温の車内に取り残されて死亡」とおうことは、年平均では30人強と、やはりかなり多いようだ。
・『ヒューマンエラーは生じる前提で対策を  置き去りの実態調査を行った三洋貿易は、この検知システムを近く国内に導入することを計画。同社の堀内登志徳(としのり)さん(37)によると、センサーはバスの天井に設置され、置き去りになっている人を検知すると、あらかじめ登録しておいた担当者の携帯電話にメッセージなどが届く仕組みになっている。 ルクセンブルクの企業が開発した同システムは「毛布の下に寝ている乳児の動きも検知できる」(堀内さん)ほどの精度を誇る。座席下に潜りこんだ子供でも容易に発見できるという。 静岡県での事件以降、保育施設や自治体から問い合わせが相次いでいる。堀内さんは「人による降車確認などは継続しつつ、最後のとりでとして検知システムを使ってもらい、二重三重に事故を防いでもらいたい」と話す。 大阪教育大教育学部の小崎恭弘(やすひろ)教授(保育学)は「ヒューマンエラーは必ず生じるという前提で、人的リソース(資源)だけでなく、システムも使いながら子供の安全を確保する『壁』を増やすことが大切だ」と強調する。 海外の先行例のように、バス内の安全装置の設置義務化と国による費用補助の必要性を示した上で「危機管理について学ぶ研修制度を作るなど、子供の命を守るために考えうる対策を講じていくべきだ」としている。(小川原咲)』、「ヒューマンエラーは必ず生じるという前提で、人的リソース(資源)だけでなく、システムも使いながら子供の安全を確保する『壁』を増やすことが大切だ」、同感である。

次に、9月16日付けNewsweek日本版が掲載した立正大学教授(犯罪学)・社会学博士の小宮信夫氏による「園児バス置き去り死とその報道に見る、「注意不足」のせいにする危うさ」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/komiya/2022/09/post-10_1.php
・『<多くの事故や事件は発生確率が高い状況で起こっている。「運が悪かった」「注意するから大丈夫」で片付けず、再発を防ぐために知っておくべきこと> 今月5日、静岡県牧之原市の認定こども園で、女児がバスで登園後、5時間にわたり車内に置き去りにされ、熱中症で亡くなった。この「置き去り死」をめぐって報道が過熱したが、そのほとんどは「人」に注目する「犯罪原因論」である。悪者を懲らしめたい気持ちは理解できる。しかし残念ながら、それだけでは再発は防げない。 人は絶えず注意することはできない。人はロボットと異なり、「注意モード」と「不注意モード」を行ったり来たりしている。問題は、注意すべきときにどうすれば注意できるかである。 「注意モード」をオンにする確実な方法は、キュー(開始の合図)を出すことだ。その方法を開発してきたのが「デザイン」に注目する「犯罪機会論」である。「人はミスをする」を前提にして、安全確保の「持続可能性」を高める手法だ。 「犯罪機会論」によって、事件や事故が起きやすい場所は「入りやすく見えにくい場所」であることが、すでに分かっている。 例えば、静岡の認定こども園の「置き去り死」では、「バスは車体全面にデザインが施され、外から車内の様子が確認しづらいつくりだった」(日本経済新聞)ことが指摘されている。バス内を「見えにくい場所」にしていたのだ。 読売新聞によると、幼稚園側は、バスの窓がイラストで覆われて外から車内が見えにくい不備を認めているという。朝日新聞は、「せめて普通の窓だったら、異常に気がつく可能性もあったかもしれない」という隣家の住人の声を伝えている。 つまり、ちょっとした配慮で防げた「置き去り死」である。弱い立場の子どもと接する人にとって、最優先であるはずの安全がないがしろにされていたのだ。なぜ、「手抜き」が放置されていても、気にならないのだろうか』、「人はロボットと異なり、「注意モード」と「不注意モード」を行ったり来たりしている。問題は、注意すべきときにどうすれば注意できるかである。 「注意モード」をオンにする確実な方法は、キュー・・・を出すことだ。その方法を開発してきたのが「デザイン」に注目する「犯罪機会論」である。「人はミスをする」を前提にして、安全確保の「持続可能性」を高める手法だ。 「犯罪機会論」によって、事件や事故が起きやすい場所は「入りやすく見えにくい場所」であることが、すでに分かっている。 例えば、静岡の認定こども園の「置き去り死」では、「バスは車体全面にデザインが施され、外から車内の様子が確認しづらいつくりだった」」、「犯罪機会論」とは初めて聞いたが、この問題への切り口としては適合していそうだ。
・『「注意するから大丈夫」の危うさ  そういえば、大阪教育大付属池田小事件も、門が閉まっていたら起きていなかったかもしれない。犯人は法廷で「門が閉まっていたら乗り越えてまで入ろうとは思わなかった」と述べている。 「がんばれば大丈夫」という精神論が強いせいなのだろうか、科学で安全を守る「犯罪機会論」が低調だ。そのため、「置き去り死」をもたらした通園バスのような、「犯罪機会論」に反するデザインは、日本の至る所で見られる。 例えば、アメリカ生まれのコンビニは、元々、アメリカでの犯罪実態の調査を踏まえて、全面ガラス張りの広い窓というデザインを採用した。「見えやすい場所」にしたわけだ。しかし、日本に輸入されると、窓ガラスに大きなポスターが貼られ、「見えにくい場所」になってしまった。これでは、店内では万引きや強盗が起きやすくなり、店の外では車両荒らしや誘拐がしやすくなってしまう。 乗降中の通学通園バスを後続車が追い越したり、対向車がバスとすれ違ったりする際の安全確保についても、「精神論」対「機会論」という構図が見られる。 日本では「徐行して安全を確認する」(道路交通法)だけでよいが、アメリカやカナダでは、後続車や対向車は停車しなければならない。つまり、日本では「注意するから大丈夫」(原因論)だが、アメリカやカナダでは「注意力は当てにならない」(機会論)なのである。 このように、日本人の多くは、「人」に注目する「犯罪原因論」にどっぷりつかっていて、「場所(景色)」に注目する「犯罪機会論」を知らない。そのため、防げたはずの事故や事件を防げていない。 「人がトラブルに巻き込まれるのは知らないからではない。知っていると思い込んでいるからである」 アメリカの作家マーク・トウェインは、そう語ったと伝えられているが、事故や事件についても同じことが言える。 事故や事件が発生しても、それは偶然であって、運が悪かったと考えるのが日本人の常識である。しかし、そのほとんどは、事故や事件の発生確率が高い状況で起こっている。言い換えれば、確率の高低さえ分かっていれば、防げたはずの事故や事件ばかりなのである』、「日本では「徐行して安全を確認する」(道路交通法)だけでよいが、アメリカやカナダでは、後続車や対向車は停車しなければならない。つまり、日本では「注意するから大丈夫」(原因論)だが、アメリカやカナダでは「注意力は当てにならない」(機会論)なのである。 このように、日本人の多くは、「人」に注目する「犯罪原因論」にどっぷりつかっていて、「場所(景色)」に注目する「犯罪機会論」を知らない。そのため、防げたはずの事故や事件を防げていない」、日本の「原因論」は精神主義的で、「機会論」の方が優れているようだ。
・『日本の常識は世界の非常識  現代のような情報社会にあっては、事故や事件に関する情報は満ちあふれている。そのため人々は、事故や事件について知っていると思い込んでいる。事故や事件が起これば、そこかしこで、そのコメントが飛び交うものの、日本の常識は世界の非常識であることが多い。例えば、次のうち、知っているのはいくつあるだろうか。 1 事故や事件は、「入りやすく見えにくい場所」で起こりやすい(犯罪機会論)。いじめや労働災害も「入りやすく見えにくい場所」で起きやすい。インターネットやSNSで犯罪に巻き込まれるのは、そこが「入りやすく見えにくい場所」だからだ。 2 日本では、「不審者」という言葉が普通に使われている(犯罪原因論)。しかし海外では、この言葉は使われていない。そのため、学校でも「不審者に気をつけて」と子どもたちに教えたりはしない。教えているのは、「危険な状況」や「だまされない方法」だ(犯罪機会論)。 3 日本では、防犯ブザーを渡し、「大声で助けを呼べ」「走って逃げろ」と指導している(犯罪原因論)。これらは犯罪発生後のことであり、襲われたらどうするかという「クライシス・マネジメント」である。しかし海外では、襲われないためにはどうするかという「リスク・マネジメント」が主流だ(犯罪機会論)。) 4 日本のドラマや映画には、見るからに異常という犯罪者がしばしば登場する(犯罪原因論)。しかし海外のドラマや映画では、「機会の連鎖の結果が犯罪」というリアリティが的確に描かれている(犯罪機会論)。 5 イギリスの「犯罪及び秩序違反法」は、地方自治体に対して、犯罪防止に配慮して各種施策を実施する義務を課している。自治体がこの義務に違反した場合には、自治体が被害者から訴えられる可能性がある。例えば、犯罪機会論を無視して設計された公園で事件が起きた場合、莫大な賠償金を支払うことになるかもしれない。 6 交通事故の防止に有効とされる手法にハンプ(英語で「こぶ」の意)がある。車の減速を促す路面の盛り上がりで、通過する車は嫌でもスピードを落とさざるを得ない(入りにくい場所)。世界中で当たり前に設置されているが、日本では普及が進んでいない。 7 プールは「入りやすく見えにくい場所」である。かつて「水中の格闘技」と呼ばれる水球でも、水面下で相手の水着を引っ張ったり、つかんだりといった反則が横行していた。そこで、水の透明度を高める化学薬品を採用し、以前より水中を見通せるようにした。 8 海外のトイレでは、日本と異なり、男女別の身体障害者用トイレを設置したり、男女それぞれのトイレの中に障害者用個室を設けたりしている。男性用トイレの入り口と女性用トイレの入り口を左右にかなり離したり、建物の表側と裏側に設けたりすることも珍しくない(入りにくい場所)。 9 日本の公園では、犯罪機会論の基本である「ゾーニング(すみ分け)」が進んでおらず、「みんなの公園」という意識が強い。海外の公園では、子ども向けエリアと大人向けエリアを、フェンスやカラーで明確にゾーニングし、遊具は子ども向けエリアに、樹木は大人向けエリアに集中させている(入りにくく見えやすい場所)。 10 警察の警備において、犯罪機会論が基本理論になっていない。つまり、「ゾーニング」や「多層防御」の戦略や戦術が乏しい。その結果起きたのが、安倍元首相銃撃事件だ。暗殺が実行されたのは、そこが「入りやすく見えにくい場所」だったからである。 防げる事故や事件は、確実に防いでいきたい。それが、犠牲になった子どもへの、せめてもの供養である』、「日本」でも「犯罪原因論」が中心で、海外のような「犯罪機会論」は殆ど浸透してない。「警察の警備において、犯罪機会論が基本理論になっていない」、「日本の常識は世界の非常識」なのは残念だ。もっと「犯罪機会論」を様々なレベルで取り入れてゆくべきだろう。

第三に、9月21日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「なぜ通園バスの置き去り事故は繰り返されるのか…「安全装置」で完全解決できると考えてはいけない 「現場力の低下」というニッポンの大問題」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/61890
・『安全装置の設置義務化は早急に進めるべきだが…  またしても悲しい事故が繰り返された。静岡県牧之原市の認定こども園で3歳の園児が送迎バス内に置き去りにされ死亡した。昨年7月に福岡県中間市の保育園で5歳の園児が同様に送迎バスに取り残されて熱中症で亡くなり大きなニュースになったばかり。保育園・幼稚園関係者は危機感を持ってそれを聞いたはずだが、残念ながらその教訓は生かされなかった。 政府は事態を重く見て、送迎バスを持つ全国の幼稚園・保育所などを点検し、安全管理マニュアルの策定する「緊急対策」を10月中にもまとめる方針を示している。それでもマニュアルに沿って実際に行動するのは人間。ヒューマンエラー(人為ミス)をゼロにすることは難しい。 そこで、多くのメディアや識者からあがっているのが、人感センサーなど安全装置の設置義務付けだ。今回のようにミスがいくつも重なったとしても、子どもの命を救う事ができる仕組みを構築すべきだ、というわけだ。 実際、欧米などでは自動車にそうしたセンサーを取り付ける動きが広がっており、米国などでは標準装備として義務化する方向に動いている。日本に輸入する欧州車などの一部には、すでに置き去り防止のセンサーが装備されている車種もある。そうした安全装置の送迎バスへの設置義務化は早急に進めるべきだろう』、「そうした安全装置の送迎バスへの設置義務化は早急に進めるべき」、その通りだ。
・『ヒューマンエラーは機械で100%解決できる問題ではない  だが、そうした安全装置を付ければ100%死亡事故が防げるわけではない。 あくまで機械だから、故障することはあり得る。定期的なメンテナンスやチェックも重要だが、それを担うのも人間だ。センサーの設置を義務付けても、そのスイッチをオフにしてしまうことだってあり得る。 毎年夏になると、送迎バスではなく、駐車場に止めた自家用車の中に置き去りにされ熱中症になる子供の話が報じられる。その多くが、買い物やパチンコに夢中になった母親が、車に待たせた(置き去りにした)子供のことをすっかり忘れたために起きる。あるいは「これぐらいの時間ならば大丈夫だろう」と“意図的に”置き去りにしている。こうした場合、仮にセンサーが付いていても、装置の設定スイッチをオフにするに違いない。 輸入車のカーディーラーによると、この装置が付いていると、コンビニで買い物をする時に、載せているペットが動くだけで作動してしまう。これを避けるために機能をオフにしている人も少なくないという。 今後、日本でもセンサーによる安全装置が標準装備になっていくに違いないが、それでヒューマンエラーがなくなるわけではないのだ。 送迎専用のバスならば、スイッチをオフにすることはないだろうが、機械のことだから、誤作動することはあり得る。誤作動を嫌ってスイッチを切る運転手が出てくるかもしれないのだ』、個人用では、「輸入車のカーディーラーによると、この装置が付いていると、コンビニで買い物をする時に、載せているペットが動くだけで作動してしまう。これを避けるために機能をオフにしている人も少なくないという」、「送迎専用のバスならば、スイッチをオフにすることはないだろうが、機械のことだから、誤作動することはあり得る。誤作動を嫌ってスイッチを切る運転手が出てくるかもしれない」、大いにあり得そうだ。
・『鉄道現場には“指差喚呼”という動作がある  では、どうやったら事故は防げるか。基本的には人為ミスを防ぐために「訓練」することだろう。 日本の鉄道現場には「指差喚呼しさかんこ」と呼ばれる安全確認の動作がある。運転手や車掌が青信号を指差しながら「信号よし!」と大きな声を出す、あの仕草である。 明治時代に始まったとされるが、今日まで国内の鉄道では当たり前の安全確認法になっている。それは、自動列車停止装置などの安全装置が当たり前になった今でも変わらない。この指差喚呼、日本特有の慣行だそうだが、鉄道現場だけでなく、製造業の工場や工事現場などでも幅広く使われている。たとえ相方がいなくても大きな声を出すことで、自分自身の注意力が喚起される。 しかも、この「指差喚呼」を新人教育などで、徹底的に叩き込む。「身体に覚えさせる」わけだ。列車を走らせる前には必ず声を出して安全を確認するという動作を「ルーティーン」化する。いくら綿密なマニュアルを作っても、それが現場で実践されなければ意味がない。実践させるためには繰り返し「訓練」する事が重要だ。バスを止めて子供を下ろしたら、残っている子供はいないか、椅子の下を指差しながら、「座席よし」といった具合に大きな声で確認する。一見、単純な作業でも、安全確認としては大きな効果を上げるはずだ』、「鉄道現場」の「“指差喚呼”」を「送迎バス」にも導入すべきとの提案は大いに検討に値する。確かに、「必ず声を出して安全を確認するという動作を「ルーティーン」化する」、「実践させるためには繰り返し「訓練」する事が重要だ」、その通りだ。
・『マニュアルを守ることが目的になってはいけない  センサーなどの安全装置や、マニュアルは重要には違いない。だがともすると、センサーがあるから確認を怠っても問題は起きないという「機械任せ」の油断が生じる。マニュアル通りに作業を行っていたのに事故になった、と首を捻ることにもなりかねない。「最後は自分の責任だ」と運転手自身が肝に銘じることこそが重要なのだ。 実は、そうした「現場の責任感」が強いことが、欧米の企業経営者から称賛されてきた。「日本企業の強さは『ゲンバ』だ」と破綻の淵に追い込まれた日産自動車に乗り込んだ当時のカルロス・ゴーンは舌を巻いたものだ。 そのゲンバの強さは細かいマニュアルが整備されていたからできたわけではなく、現場を預かる一人ひとりが問題点や危険性を察知して対処、改善することができたからだ。その後、経営効率化の中で、欧米流の経営スタイルから入ってきたマニュアル重視の姿勢に対して、古くからの現場の職人の多くが「最近はマニュアル人間ばかりになった」と批判していた。 仕事の最終目的はより良い製品を作ることであって、マニュアルを遵守していれば良い、というものではない。それが「現場の責任」というものだった』、「ゲンバの強さは細かいマニュアルが整備されていたからできたわけではなく、現場を預かる一人ひとりが問題点や危険性を察知して対処、改善することができたからだ。その後、経営効率化の中で、欧米流の経営スタイルから入ってきたマニュアル重視の姿勢に対して、古くからの現場の職人の多くが「最近はマニュアル人間ばかりになった」と批判・・・仕事の最終目的はより良い製品を作ることであって、マニュアルを遵守していれば良い、というものではない。それが「現場の責任」というものだった」、確かにその通りだ。
・『日本の製造業で「現場力」が失われている  最近、日本の製造業の工場などで「現場が崩壊寸前だ」という声を聞くようになった。コスト削減優先の中で、数年しか働けない技能実習生に現場を任せるところが増えてきた。現場にベテラン作業員がいても高齢化でいつまで勤められるか分からない、と言う。どんどんマニュアル化、機械化して、熟練のベテランは姿を消しつつある。 つまり、現場で責任感をもって仕事をこなす人の力が落ちているというのだ。 現場のいわば“プロ”が減って、「リスク(危険)」を捉える力も落ちている。リスクというのは予想外の事から起きる。すべてマニュアルに書いてあるわけではない。かつては、現場で経験を積んでいる中で、様々なリスクに直面し、自ら解決策や善処方法を会得したものだが、最近は「想定外」に直面した結果、対応が後手に回るケースが少なくない。こういうことが起きれば、こんな事態が生じるかもしれない、という現場ならではの「想像力」が欠落するようになっているのだ』、「かつては、現場で経験を積んでいる中で、様々なリスクに直面し、自ら解決策や善処方法を会得したものだが、最近は「想定外」に直面した結果、対応が後手に回るケースが少なくない。こういうことが起きれば、こんな事態が生じるかもしれない、という現場ならではの「想像力」が欠落するようになっている」、これは面白い見方で、真相を突いているのかも知れない。
・『このままでは不幸な事故は繰り返される  通園バスを日々運転していれば、降りる際に子供がいたずらで椅子の下に隠れているようなことに遭遇するだろう。万が一、椅子の下にいて炎天下で放置されればどうなるか、車内の温度は何度ぐらいになるかリスクに対する「想像力」が働けば、自ら「指差喚呼」して子供が残っていないことを確認するに違いない。漫然と仕事をこなしているから事故は起きる。 残念ながら、今の学校教育では、そうした「想像力」を養うような授業が行われていないのだろう。マニュアル的な知識習得が優先され、A=Bといった答えだけを求める教育が行われている。どんな事にも「リスク」があり、一方で「ベネフィット(利益)」を得ようとすればリスクをゼロにすることはできない。 つまり、ベネフィットを得るためにどうやってリスクを最小化するかという、まさに「現場」で経験的に積み上げられてきた知恵が失われていっているのではないか。 相次いだ通園バス置き去り問題は、日本の「現場力」の弱体化を示しているように見える。だとすると、マニュアル化や機械化をいくら進めても、不幸な事故は形を変えて起き続けるに違いない』、「どんな事にも「リスク」があり、一方で「ベネフィット(利益)」を得ようとすればリスクをゼロにすることはできない。 つまり、ベネフィットを得るためにどうやってリスクを最小化するかという、まさに「現場」で経験的に積み上げられてきた知恵が失われていっているのではないか。 相次いだ通園バス置き去り問題は、日本の「現場力」の弱体化を示しているように見える。だとすると、マニュアル化や機械化をいくら進めても、不幸な事故は形を変えて起き続けるに違いない」、その通りなのだろう。
タグ:(その10)(繰り返される子供の置き去り死 「スクールバス大国」の防止策、園児バス置き去り死とその報道に見る 「注意不足」のせいにする危うさ、なぜ通園バスの置き去り事故は繰り返されるのか…「安全装置」で完全解決できると考えてはいけない 「現場力の低下」というニッポンの大問題) 幼児虐待 産経新聞「繰り返される子供の置き去り死 「スクールバス大国」の防止策」 「幼稚園・保育園のバスの送迎担当者267人のうち、「過去1年に園児だけを残してバスを離れた」と回答したのは15人」、とは潜在的には今回のような事故を起こす可能性がかなり高いことを意味。 一片の「通知」で事足れりとする当局の姿勢も問題だ。 「登園確認などのルールが形骸化しているから」との声は真相に近そうだが、その防止は容易ではなさそうだ。 「32年間で約1千人の子供が高温の車内に取り残されて死亡」とおうことは、年平均では30人強と、やはりかなり多いようだ。 「ヒューマンエラーは必ず生じるという前提で、人的リソース(資源)だけでなく、システムも使いながら子供の安全を確保する『壁』を増やすことが大切だ」、同感である。 Newsweek日本版 小宮信夫氏による「園児バス置き去り死とその報道に見る、「注意不足」のせいにする危うさ」 「人はロボットと異なり、「注意モード」と「不注意モード」を行ったり来たりしている。問題は、注意すべきときにどうすれば注意できるかである。 「注意モード」をオンにする確実な方法は、キュー・・・を出すことだ。その方法を開発してきたのが「デザイン」に注目する「犯罪機会論」である。「人はミスをする」を前提にして、安全確保の「持続可能性」を高める手法だ。 「犯罪機会論」によって、事件や事故が起きやすい場所は「入りやすく見えにくい場所」であることが、すでに分かっている。 例えば、静岡の認定こども園の「置き去り死」では、「バスは車体全面にデザインが施され、外から車内の様子が確認しづらいつくりだった」」、「犯罪機会論」とは初めて聞いたが、この問題への切り口としては適合していそうだ。 「日本では「徐行して安全を確認する」(道路交通法)だけでよいが、アメリカやカナダでは、後続車や対向車は停車しなければならない。つまり、日本では「注意するから大丈夫」(原因論)だが、アメリカやカナダでは「注意力は当てにならない」(機会論)なのである。 このように、日本人の多くは、「人」に注目する「犯罪原因論」にどっぷりつかっていて、「場所(景色)」に注目する「犯罪機会論」を知らない。そのため、防げたはずの事故や事件を防げていない」、日本の「原因論」は精神主義的で、「機会論」の方が優れているようだ。 日本の常識は世界の非常識 1 事故や事件は、「入りやすく見えにくい場所」で起こりやすい(犯罪機会論) 2 日本では、「不審者」という言葉が普通に使われている(犯罪原因論)。しかし海外では、この言葉は使われていない 3 日本では、防犯ブザーを渡し、「大声で助けを呼べ」「走って逃げろ」と指導している(犯罪原因論) これらは犯罪発生後のことであり、襲われたらどうするかという「クライシス・マネジメント」である。しかし海外では、襲われないためにはどうするかという「リスク・マネジメント」が主流だ(犯罪機会論) 4 日本のドラマや映画には、見るからに異常という犯罪者がしばしば登場する(犯罪原因論)。しかし海外のドラマや映画では、「機会の連鎖の結果が犯罪」というリアリティが的確に描かれている(犯罪機会論) 5 イギリスの「犯罪及び秩序違反法」は、地方自治体に対して、犯罪防止に配慮して各種施策を実施する義務を課している 交通事故の防止に有効とされる手法にハンプ(英語で「こぶ」の意)がある 8 海外のトイレでは、日本と異なり、男女別の身体障害者用トイレを設置したり、男女それぞれのトイレの中に障害者用個室を設けたりしている 9 日本の公園では、犯罪機会論の基本である「ゾーニング(すみ分け)」が進んでおらず、「みんなの公園」という意識が強い。海外の公園では、子ども向けエリアと大人向けエリアを、フェンスやカラーで明確にゾーニングし、遊具は子ども向けエリアに、樹木は大人向けエリアに集中させている(入りにくく見えやすい場所) 10 警察の警備において、犯罪機会論が基本理論になっていない。つまり、「ゾーニング」や「多層防御」の戦略や戦術が乏しい。その結果起きたのが、安倍元首相銃撃事件だ 「日本」でも「犯罪原因論」が中心で、海外のような「犯罪機会論」は殆ど浸透してない。「警察の警備において、犯罪機会論が基本理論になっていない」、「日本の常識は世界の非常識」なのは残念だ。もっと「犯罪機会論」を様々なレベルで取り入れてゆくべきだろう。 PRESIDENT ONLINE 磯山 友幸氏による「なぜ通園バスの置き去り事故は繰り返されるのか…「安全装置」で完全解決できると考えてはいけない 「現場力の低下」というニッポンの大問題」 「そうした安全装置の送迎バスへの設置義務化は早急に進めるべき」、その通りだ。 個人用では、「輸入車のカーディーラーによると、この装置が付いていると、コンビニで買い物をする時に、載せているペットが動くだけで作動してしまう。これを避けるために機能をオフにしている人も少なくないという」、「送迎専用のバスならば、スイッチをオフにすることはないだろうが、機械のことだから、誤作動することはあり得る。誤作動を嫌ってスイッチを切る運転手が出てくるかもしれない」、大いにあり得そうだ。 「鉄道現場」の「“指差喚呼”」を「送迎バス」にも導入すべきとの提案は大いに検討に値する。確かに、「必ず声を出して安全を確認するという動作を「ルーティーン」化する」、「実践させるためには繰り返し「訓練」する事が重要だ」、その通りだ。 「ゲンバの強さは細かいマニュアルが整備されていたからできたわけではなく、現場を預かる一人ひとりが問題点や危険性を察知して対処、改善することができたからだ。その後、経営効率化の中で、欧米流の経営スタイルから入ってきたマニュアル重視の姿勢に対して、古くからの現場の職人の多くが「最近はマニュアル人間ばかりになった」と批判・・・仕事の最終目的はより良い製品を作ることであって、マニュアルを遵守していれば良い、というものではない。それが「現場の責任」というものだった」、確かにその通りだ。 「かつては、現場で経験を積んでいる中で、様々なリスクに直面し、自ら解決策や善処方法を会得したものだが、最近は「想定外」に直面した結果、対応が後手に回るケースが少なくない。こういうことが起きれば、こんな事態が生じるかもしれない、という現場ならではの「想像力」が欠落するようになっている」、これは面白い見方で、真相を突いているのかも知れない。 「どんな事にも「リスク」があり、一方で「ベネフィット(利益)」を得ようとすればリスクをゼロにすることはできない。 つまり、ベネフィットを得るためにどうやってリスクを最小化するかという、まさに「現場」で経験的に積み上げられてきた知恵が失われていっているのではないか。 相次いだ通園バス置き去り問題は、日本の「現場力」の弱体化を示しているように見える。だとすると、マニュアル化や機械化をいくら進めても、不幸な事故は形を変えて起き続けるに違いない」、その通りなのだろう。
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ミャンマー(その7)(人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも、ミャンマー情勢 日本外交の選択肢、ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク) [外交]

ミャンマーについては、2月17日に取上げた。今日は、(その7)(人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも、ミャンマー情勢 日本外交の選択肢、ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク)である。

先ずは、7月15日付け東洋経済オンライン「人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/603730
・『日本のODA(政府開発援助)を担う独立行政法人の国際協力機構(JICA)が、農業やインフラ整備などの技術協力に関わる専門家を7月中旬以降、ミャンマーに順次派遣する方針であることがわかった。JICAは人数を明らかにしていないが、数十人規模とみられる。 渡航要請を受けた専門家から、「安全が担保されていないのではないか」「専門家の本格的な派遣はクーデター政権の容認につながりかねない」との疑問の声が挙がっている』、軍事クーデター後、アウンサンスーチー氏を事実上拘束、民主派リーダー4人を死刑にするなど、軍政の暴挙が激化するなかでのJICA支援再開は、信じられない弱腰外交だ。
・『渡航制限を見直し、専門家を再派遣  ミャンマーでは2021年2月に軍事クーデターが発生し、それからしばらくしてJICAは専門家を一時帰国させていた。その後、ミャンマー国軍はクーデターに反対する市民への弾圧をエスカレートさせており、少数民族の居住地区への空爆や市民の逮捕・拘束や殺害も相次いでいる。 そうした中、JICAはミャンマーへの渡航制限を見直し、専門家を再び派遣する方針を6月に決定した。6月24日には専門家を対象としたオンライン形式での説明会が開かれ、専門家の再渡航を速やかに進めることが専門家に伝えられた。 同説明会でJICAが示した内容は、「任地は最大都市ヤンゴンに限定し、首都ネピドーでの業務は当面、短期滞在の出張で対応すること。また、地方への渡航は一部の地域を除いて原則として禁止し、不要不急の夜間外出を避けること」などだった。 JICAは4月中旬に日本から専門の調査団を派遣して現地の安全状況を調査している。しかし、6月24日の説明会では「派遣本格化の前提であるはずの治安や人権状況に関する詳しい説明はなかった」(参加者)という。) 他方、JICAミャンマー事務所が作成した「ミャンマー国内の安全対策と健康管理について」と題した2022年5月付の文書は、「外出に当たっては、特に爆発、銃撃事案等に巻き込まれるリスクを十分意識したうえで、身の回りの安全に十分注意して行動してください」と注意を促している。まさに安全が担保されているとは言いがたい状況にある。報道によれば、7月12日、専門家の赴任地であるヤンゴン市内では7件の爆発事件が発生。これまでに2人の死亡が確認されている。 では、JICAの要請を専門家が拒否した場合、どうなるのか。 JICAが6月に配付した文書では、「事情により再渡航を希望しない専門家については、任期短縮・要員交代や派遣形態の変更により対応する」と記されている。「専門家はJICAとの間で業務委託契約を締結しており、任期は2年程度。そのため、任期短縮は早晩、失職につながりかねない」と前出の関係者は危惧する。そのうえで「専門家の多くは家族を抱え、断りにくい状況にある」(同関係者)という』、「「専門家はJICAとの間で業務委託契約を締結しており、任期は2年程度。そのため、任期短縮は早晩、失職につながりかねない」と前出の関係者は危惧する。そのうえで「専門家の多くは家族を抱え、断りにくい状況」、そうした「断りにくい状況」を踏まえて危険な任務を押し付けるとは、「JICA」のやり方も汚い。
・『悪化するミャンマーの人権状況  ミャンマーの人権状況は悪化している。ミャンマーの人権問題を担当する国連人権理事会のトーマス・アンドリュース特使は6月29日付の声明文で、「国軍による暴力はさらにひどくなっている。空爆で村を焼き払い、子どもまで殺害している。これは戦争犯罪に相当する」と非難している。 クーデターを起こした国軍は国家統治評議会を組織し、ミン・アウン・フライン国軍総司令官自らが暫定首相に就任。だが、日本政府はこのクーデター政権を正式に承認しておらず、クーデターを非難するとともに、新規のODA供与も見合わせている。 その一方で2022年5月、民間の経済協力団体である日本ミャンマー協会の渡邉秀央会長とともに、日本政府の内閣官房内閣審議官がミャンマーを訪問し、クーデター政権の労働相などと会談していた事実がミャンマー国営紙によって報じられている。この件を問題視する日本や海外など110の市民団体は岸田文雄首相宛てに抗議文を送付し、同審議官の訪問の目的や対談相手、対談内容などを明らかにするように求めている。 そうしたさなかにJICAによる専門家のミャンマー派遣再開が明らかになったことで、その活動がクーデター政権に宣伝材料として悪用されるリスクも持ち上がっている。 東洋経済が入手したJICAの内部文書では、「(局長以上の現地関係者との)会合を開催する場合、国営メディア等で報道されないよう留意する」「JICAとカウンターパート(相手方)との共同活動が国軍のプロパガンダに活用される懸念がある」との記述もみられ、JICA自身がこうしたリスクを懸念していることがわかる。 JICAのホームページでは7月14日現在、専門家の派遣について何の情報も掲載されていない。東洋経済の取材に対し、JICA報道課は「安全に活動できるとの判断に基づいて専門家に現地での業務をお願いしている。専門家本人が不安を感じているのであれば、関係部署や現地事務所がいつでも相談に応じる」などと説明。 クーデター政権を利する恐れがあるとの懸念が持たれていることについては、「専門家にはできるだけ目立たないように活動してもらう」(同課)という。ただ、なぜ今、派遣しなければならないのかも含めてJICAの説明内容はあいまいだ。 国民の理解と支持が必要な開発協力には高い透明性が求められている。理由を含め十分な説明なしに人権侵害が横行している国にODAを担う専門家を派遣するやり方に問題はないのか。JICAはこの間のいきさつをきちんと明らかにすべきだ』、「東洋経済が入手したJICAの内部文書では、「(局長以上の現地関係者との)会合を開催する場合、国営メディア等で報道されないよう留意する」「JICAとカウンターパート(相手方)との共同活動が国軍のプロパガンダに活用される懸念がある」との記述もみられ、JICA自身がこうしたリスクを懸念していることがわかる」、「国民の理解と支持が必要な開発協力には高い透明性が求められている。理由を含め十分な説明なしに人権侵害が横行している国にODAを担う専門家を派遣するやり方に問題はないのか。JICAはこの間のいきさつをきちんと明らかにすべきだ」、その通りだ。

次に、8月3日付けNewsweek日本版が掲載した在米作家の冷泉彰彦氏による「ミャンマー情勢、日本外交の選択肢」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2022/08/post-1281_1.php
・『<国軍が独裁体制を強化し中ロに接近するなか、日本の外交政策は行き詰まっている> 2021年の2月に国軍が実権を掌握して、事実上の軍政に戻っているミャンマーでは、最大都市のヤンゴンで7月30日、日本人ジャーナリストが治安当局に拘束されました。この事件については、この間起きている一連の流れの中で理解する必要があると思います。 まず6月22日には、クーデター以来軟禁されていた、アウンサンスーチー氏がネピドーの自宅から、「刑務所敷地内に新築された施設」に移動させられています。事実上の収監と言えます。 7月2日には、中国の王毅外相がクーデター後、初の要人訪問として、ミャンマーを訪問し、国際会議に参加しています。 さらに、7月11日には、国軍の最高指導者である、ミンアウンフラインが、ロシアを訪問し、国防省の高官と会談しました。この会談について、ロシア国防省は12日になって声明を発表し「戦略的なパートナーシップの精神に基づき、軍事面や技術協力を深めていくことを再確認した」としています』、「中国」や「ロシア」とは既に強固な関係を築いているようだ。
・『民主活動家処刑の衝撃  7月25日には、民主活動家4人に対する死刑が執行され世界を震撼させました。罪状はテロ行為に関わったなどというもので、ミャンマーでは久々の死刑執行でした。死刑が執行されたのはNLD(国民民主連盟)の元国会議員で、スーチー氏の側近だったピョーゼヤートー氏や、民主活動家として有名なチョーミンユ氏など4人だということです。 つまり、この1カ月間に、フライン体制の国軍は、より独裁的な性格を強め、とりわけスーチー氏率いるNLDへの弾圧を強めています。また、同時に中国とロシアに接近しているようです。 日本としては、今後のミャンマー外交をどうしたらいいのか、非常に難しい選択となってきました。ミャンマーに対する日本外交は、どう考えても行き詰まっているからです。NLDと国軍が和解したことで2015年に民主体制が確立して以来、日本からは多くの企業がミャンマーに進出しました。現在でも数百社という日本企業が残っています。事実上、内戦状態となった現在、その経済的な活動は非常に限定されています。 また、民主化後に投資が増えたとはいえ、それ以前から日本政府はミャンマー国軍とは関係を築いており、21年のクーデターで民主制が壊された後も、国軍との関係を保っているのは事実です。一方で、国軍からもNLDからも「ミャンマー人ではない」とされて厳しい差別を受けているロヒンギャの人々に対する人道支援については、日本はこの間ずっと模索を続けてきましたが事態は改善していません。) そんななかで、今回の死刑執行やスーチー氏収監、日本人拘束、そして中ロ接近という一連の事件で、流れはますます悪化しているように見えます。今後の日本外交の方向性についても、方向性を見極めるのは難しくなっています。 まず、このような軍政と内戦が続くのであれば、日本の進出企業は総撤退、ビジネスチャンスを求めてミャンマーに渡航した日本の人々も一斉に引き揚げというのが合理的なように思えます。 ですが、仮に日本の経済プレゼンスが消えてしまえば、ミャンマーは中国とロシアの陣営により傾斜していくと思います。そうなれば、ベンガル湾にロシアの海軍基地が建設されるなど、地政学的なバランスは一変してしまいます。それこそ安全なインド太平洋などという戦略は大きく揺さぶられることになります。また、日本が総撤退してしまうと、ミャンマー経済が民主化以前の貧困状態に戻ってしまうことも考えられます』、「仮に日本の経済プレゼンスが消えてしまえば、ミャンマーは中国とロシアの陣営により傾斜していくと思います。そうなれば、ベンガル湾にロシアの海軍基地が建設されるなど、地政学的なバランスは一変してしまいます。それこそ安全なインド太平洋などという戦略は大きく揺さぶられることに」、確かにこのシナリオは是非避けたいものだ。
・『軍政との関係維持の理由  ロヒンギャの人々の問題も難題です。彼らに対しては、民主派のNLDも軍政も同じように差別と弾圧を加える側です。かといって、隣国バングラデシュには彼らを支える力はありません。そんな中で、日本が全ての努力を放棄してしまうと、より深刻な人道危機が発生する可能性があります。 このように、日本外交が現在取っている方向性には、一応の理屈はあるわけです。国際的な非難を浴びている軍政に対して、一定の2国間関係を維持しているということにも、それなりの背景があるという見方も可能です。 そうではあるのですが、問題はそろそろ全体的に行き詰まりに来ていることです。今後のミャンマー外交をどうするのか、この辺りで総括をして国会などで包括的な審議を行なうべきです。安倍政権で外相を務めていた岸田首相は、この間のミャンマー外交について、当事者として深い理解をしているはずです。総理は、少なくともその全体像を世論に説明をする必要があると思います』、「総理は、少なくともその全体像を世論に説明をする必要がある」、その通りだ。

第三に、10月2日付け日刊ゲンダイ「ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/312211
・『何とも後味が悪い。日本政府は安倍元首相の国葬に、国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーを招待。軍事政権に“お墨付き”を与えた愚行には、国外から厳しい批判が寄せられている。国軍下のミャンマー外務省は早速、国葬参列を国内外に周知して正当性のアピールに余念がない。 ミャンマーからは、ソー・ハン駐日大使夫妻が参列。駐日大使といえど、国軍支配下の政府代表である。国葬後に、ミャンマー外務省が公式ホームページとフェイスブックに、祭壇や大使夫妻の写真を添えて〈ミャンマー政府を代表して出席した〉などと掲載。 日本政府はミャンマーの参列を認めたことにより、軍事政権に「公式の政府」としての正当性を国際社会へアピールする機会を与えてしまった格好だ。 林外相は9月30日、ミャンマー国軍関係者の参列について「さまざまな意見があることは承知している」「(国葬という)行事の性質に鑑み、外交関係を有する国にはすべて通報を行った」などと釈明。「クーデターの正当性を認めないというわが国の立場は、駐日大使の参列によって変わるものではない」と説明したが、そんな理屈は国際社会に通用しない。 「たとえ日本側が公式に承認していない未承認の国であっても、その代表を自国の行事に招いたり、親書を送ったりすれば、外交上は『黙示の承認』を行ったことになります。つまり、林外相が『わが国の立場は変わらない』と言い張ったところで、国際社会からは『日本は事実上、軍事政権を承認した』とみなされるわけです。軍事政権にとって宣伝効果を生む行為は厳に慎まねばならなかったのに、まったくもって外交上の配慮に欠けていました。軍事政権が正当性を訴えるプロパガンダに、日本政府がくみしているとみなされても仕方ありません」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)』、「「たとえ日本側が公式に承認していない未承認の国であっても、その代表を自国の行事に招いたり、親書を送ったりすれば、外交上は『黙示の承認』を行ったことになります。つまり、林外相が『わが国の立場は変わらない』と言い張ったところで、国際社会からは『日本は事実上、軍事政権を承認した』とみなされるわけです。軍事政権にとって宣伝効果を生む行為は厳に慎まねばならなかったのに、まったくもって外交上の配慮に欠けていました。軍事政権が正当性を訴えるプロパガンダに、日本政府がくみしているとみなされても仕方ありません」、お粗末極まりない。
・『「人権意識の低さ、外交オンチぶりを露呈した」  村の焼き打ちや空爆を繰り返すミャンマー国軍の非人道ぶりを黙認するかのような日本政府の姿勢に、SNS上は大荒れ。特に国外のアカウントから、怒りの声が続出している。英語のツイートを訳してみる。 〈違法なミャンマー軍事政権の代表者を安倍元首相の国葬に招いた日本政府は恥を知れ。軍事政権は残虐行為を犯しているのに、罰せられない。彼らに正当性を与えることは、非人道行為を助長することになる〉) 〈在日ミャンマー人や人権団体の抗議があったにもかかわらず、軍事政権のソー・ハン駐日大使が国葬に出席した〉 米シンクタンクの研究員のツイッターを訳すと、〈日本政府のミャンマー軍事政権への接し方を鑑みれば、(国葬招待は)驚くことではない。1988年にミャンマー国軍がクーデターを起こした直後、軍政を公式に承認した最初の国が日本だからだ〉と皮肉交じりに投稿していた。まさに世界中から大ヒンシュクを買っている状況だ。 「岸田政権は人権意識の低さ、外交オンチぶりを国内外に露呈してしまいました。外交上の立ち振る舞いがどんな意味を持つのか、もっと真剣に考えてほしいものです」(五野井郁夫氏) 岸田首相は安倍国葬の意義について、「暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜く決意を示す」と意気込んでいた。ただでさえ決断力に欠ける岸田首相だが、その「決意」とやらも薄っぺらである』、「まさに世界中から大ヒンシュクを買っている状況だ。 「岸田政権は人権意識の低さ、外交オンチぶりを国内外に露呈してしまいました。外交上の立ち振る舞いがどんな意味を持つのか、もっと真剣に考えてほしいものです」、同感である。 
タグ:ミャンマー (その7)(人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも、ミャンマー情勢 日本外交の選択肢、ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク) 東洋経済オンライン「人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも」 軍事クーデター後、アウンサンスーチー氏を事実上拘束、民主派リーダー4人を死刑にするなど、軍政の暴挙が激化するなかでのJICA支援再開は、信じられない弱腰外交だ。 「「専門家はJICAとの間で業務委託契約を締結しており、任期は2年程度。そのため、任期短縮は早晩、失職につながりかねない」と前出の関係者は危惧する。そのうえで「専門家の多くは家族を抱え、断りにくい状況」、そうした「断りにくい状況」を踏まえて危険な任務を押し付けるとは、「JICA」のやり方も汚い。 「東洋経済が入手したJICAの内部文書では、「(局長以上の現地関係者との)会合を開催する場合、国営メディア等で報道されないよう留意する」「JICAとカウンターパート(相手方)との共同活動が国軍のプロパガンダに活用される懸念がある」との記述もみられ、JICA自身がこうしたリスクを懸念していることがわかる」、 「国民の理解と支持が必要な開発協力には高い透明性が求められている。理由を含め十分な説明なしに人権侵害が横行している国にODAを担う専門家を派遣するやり方に問題はないのか。JICAはこの間のいきさつをきちんと明らかにすべきだ」、その通りだ。 Newsweek日本版 冷泉彰彦氏による「ミャンマー情勢、日本外交の選択肢」 「中国」や「ロシア」とは既に強固な関係を築いているようだ。 「仮に日本の経済プレゼンスが消えてしまえば、ミャンマーは中国とロシアの陣営により傾斜していくと思います。そうなれば、ベンガル湾にロシアの海軍基地が建設されるなど、地政学的なバランスは一変してしまいます。それこそ安全なインド太平洋などという戦略は大きく揺さぶられることに」、確かにこのシナリオは是非避けたいものだ。 「総理は、少なくともその全体像を世論に説明をする必要がある」、その通りだ。 日刊ゲンダイ「ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク」 「「たとえ日本側が公式に承認していない未承認の国であっても、その代表を自国の行事に招いたり、親書を送ったりすれば、外交上は『黙示の承認』を行ったことになります。つまり、林外相が『わが国の立場は変わらない』と言い張ったところで、国際社会からは『日本は事実上、軍事政権を承認した』とみなされるわけです。軍事政権にとって宣伝効果を生む行為は厳に慎まねばならなかったのに、まったくもって外交上の配慮に欠けていました。軍事政権が正当性を訴えるプロパガンダに、日本政府がくみしているとみなされても仕方ありません」、お粗末極 まりない。 「まさに世界中から大ヒンシュクを買っている状況だ。 「岸田政権は人権意識の低さ、外交オンチぶりを国内外に露呈してしまいました。外交上の立ち振る舞いがどんな意味を持つのか、もっと真剣に考えてほしいものです」、同感である。
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インバウンド戦略(その14)(観光競争力で初首位も 海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満、中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない これだけの深刻な理由、インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ) [経済政策]

インバウンド戦略については、2020年10月17日に取上げたままだった。今日は、(その14)(観光競争力で初首位も 海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満、中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない これだけの深刻な理由、インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ)である。

先ずは、6月3日付け東洋経済オンラインが掲載した経営コンサルタントの日沖 健氏による「観光競争力で初首位も、海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/592965
・『岸田首相は先週、新型コロナウイルスの水際対策について、6月1日から1日あたりの入国者総数の上限を2万人に引き上げるとともに、10日から訪日外国人観光客の受け入れを再開すると表明しました。外国人観光客の受け入れは、約2年2カ月ぶりになります。 全国の観光地・観光関連業者は、この2年間コロナ禍で壊滅的な打撃を受けました。そこにようやく復活の光が差してきたわけです。しかし、コロナ対策の観点から慎重な対応を求める声もあり、この政策転換を歓迎する意見ばかりではないようです。 今回は、訪日外国人観光客の受け入れ再開に関する意見を確認したうえで、今後考えたい2つの視点を紹介しましょう』、興味深そうだ。
・『外国人観光客がいなくなって「コロナ様様」  岸田首相が訪日外国人観光客の受け入れ再開をしたところ、各方面から色々な意見が上がりました。観光客の回復を期待する観光関連業者は今回の政策転換を歓迎する一方、SNSやネット掲示板では慎重な意見や反対意見が多く見受けられました(Yahoo!ニュースのアンケートでは、70%以上が水際対策の緩和に「反対」)。 筆者がまず一般市民に取材したところ耳にしたのが、コロナ対策の観点から慎重な対応を求める意見でした。 「まだ毎日2万~3万人の新規感染者が出ており、コロナが完全には終息していません。時期尚早だと思います」(50代男性・会社員) 「ここまで日本でコロナの被害が小さかったのは、水際対策がうまく行ったからでしょう。それを一気に緩めると、欧米のような感染爆発が起こるのではないかと心配です」(30代女性・会社員) 「感染症法上の分類を2類から5類にするなど、国内の対策が先。いずれ訪日外国人観光客を受け入れることには反対しませんが、国内の対策を完了した後じっくり時間を掛けて進めることでよいのでは」(40代男性・自営) そして、コロナとは関係なく、そもそも訪日外国人観光客それ自体を歓迎しないという意見がたくさん聞かれました。) 「コロナ前はどこの観光地も外国人観光客でごった返して、ゆっくりできませんでした。私は旅行が好きなので、今回の受け入れ再開でまた旅行を楽しめなくなるのは残念です」(60代女性・主婦) 「外国人観光客はうるさいし、マナーが悪い。とくにお隣りの2カ国は最悪。治安だって確実に悪くなりますよね。この2年間、外国人観光客がいなくて、実に快適でした。大きな声では言えませんが、この点に関してはコロナ様様です」(40代男性・団体職員)』、「「外国人観光客はうるさいし、マナーが悪い。とくにお隣りの2カ国は最悪・・・この2年間、外国人観光客がいなくて、実に快適でした」、その通りだろう。
・『再び奈落の底に突き落とす?  さて、ここからは、今回あまり議論されていない2つの視点を紹介しましょう。 1つ目は、観光関連業者の怒りです。観光関連業者に取材したところ、今回の受け入れ再開に反対する声は皆無で、国内で反対意見が出ていることに憤っていました。 「この2年間、外国人観光客がいなくなって、われわれは壊滅的な打撃を受けました。私の周りでも耐えきれなくなって廃業した同業者がわんさかいます。借金が残って廃業できず、夜逃げしたという同業者もいます。こういった実情を少しでも知ったら、外国人観光客の受け入れ再開に軽々しく反対できないのではないでしょうか」(北陸の旅館経営者) 「今回の受け入れ再開で、ようやくトンネルの出口が見えてきました。再開に反対する人は、地獄から這い上がろうとしているわれわれに手を差し伸べるどころか、再び奈落の底に突き落とそうとしているわけです。よく『コロナは生命の問題だ』と言われますが、外国人観光客の受け入れもわれわれにとって死ぬか生きるかの問題なのです」(関東の旅行代理店経営者) コロナに関する議論では、よく「生命と経済を同列で比較するな」「経済よりもまず生命を優先せよ」と言われます。しかし、こと観光関連業者にとっては、コロナとその対策は生命と経済が渾然一体となった複雑な問題のようです。) また、「訪日外国人観光客に対し、日本人はかなり偏ったイメージを持っている」という指摘もありました。 「コロナ前に日本人のお客様から『外国人観光客が多くて接客とか大変でしょ?』とよく言われましたが、そんなことはありません。中国からの団体客のマナーはかなり改善していて、日本人と同じくらい。日本人と違ってちゃんとたくさん買ってくれるので、 われわれにとってありがたい存在です。大切な外国人観光客を、偏ったイメージで排除しないで欲しいものです」(九州の土産物店経営者)』、「中国からの団体客のマナーはかなり改善していて、日本人と同じくらい。日本人と違ってちゃんとたくさん買ってくれるので、 われわれにとってありがたい存在です。大切な外国人観光客を、偏ったイメージで排除しないで欲しいものです」、第一の記事とは異なり、「中国からの団体客のマナーはかなり改善」としている。
・『観光立国は実現するのか  もう1つ決定的に欠落しているのが、観光立国という視点です。今回、受け入れ再開をどのように進めていくのか、詳細は未定です。ただ、5月27日の衆議院予算委員会で「訪日外国人観光客に誰がマスクを配るのか?」が論戦になったように、コロナ対策という視点が中心で、日本を観光立国にしようという長期的な視点はありません。 観光庁の和田浩一長官は3月18日、1年間の空白期間が生じている観光立国推進基本計画について、インバウンドの動向を見通すのが難しいことを理由に「もう少し感染状況が落ち着き、議論できるような状況の下で具体的な検討を進めていきたい」と述べました。その後も政府から観光立国に関する目立った発信はなく、お手上げ状態が続いています。 2006年に観光立国推進基本法が成立し、政府は観光立国推進基本計画に沿って施策を展開してきました。円安・近隣諸国の所得上昇といった追い風もあって、日本の旅行市場の市場規模は、コロナ前の2019年に27.9兆円に達しました。 ただ、観光産業が十分に成長し、「日本は観光立国だ」と胸を張れる状態になっているかというと、2019年の段階でも「まったく物足りない」というのが、率直な評価になるのではないでしょうか。 2019年の訪日外国人旅行者数は、過去最高となる3188万人でした。東日本大震災があった2011年を底に着実に増えてきましたが、世界最多のフランス8932万人はもちろん、アジアでも中国6573万人やタイ3992万人の後塵を拝しています。また、旅行市場に占めるインバウンド需要の割合は2割弱に過ぎません(2019年時点)。 先週5月24日、ダボス会議で有名な「世界経済フォーラム」が、観光地としてどれだけ魅力的か、世界各国の競争力を比較した調査結果を発表しました。日本は交通インフラの利便性や自然や文化の豊かさなどが評価され、総合順位で調査の開始以来、初めて世界1位になりました。日本は世界一の旅行市場になる潜在力がありながら、生かせていないのです』、「「世界経済フォーラム」が、観光地としてどれだけ魅力的か、世界各国の競争力を比較した調査結果を発表しました。日本は交通インフラの利便性や自然や文化の豊かさなどが評価され、総合順位で調査の開始以来、初めて世界1位になりました」、現実の「2019年の訪日外国人旅行者数は」「3188万人」と、「世界最多のフランス8932万人はもちろん、アジアでも中国6573万人やタイ3992万人の後塵を拝しています」、「日本は世界一の旅行市場になる潜在力がありながら、生かせていない」、残念だ。
・『地方経済は観光産業が頼みの側面も  もちろん、オーバーツーリズムの問題やSDGsの要請などがあり、単純に訪日外国人観光客を増やせばよいというわけではありません。観光産業や地域の持続性を確保しつつ、いかに観光を中心にした国づくりをしていくかが問われています。 著名な未来学者ジョン・ネイスビッツは、『Global Paradox』(1994、佐和隆光訳『大逆転潮流』)で、「21世紀に観光が最大の産業になる」と予測しました。 とりわけ日本では、戦後の経済成長を支えた基幹産業がすっかり衰退し、観光産業に対する期待が高まっています。金融産業のある東京と自動車産業のある愛知・静岡・埼玉などを除く多くの地域では、雇用吸収力の大きい観光産業に地域の命運がかかっていると言って過言ではありません。 政府も観光関連業者も、そしてわれわれ国民も、コロナ対策にとどまらず、国家百年の計で観光について考え、訪日外国人観光客の受け入れ再開に臨みたいものです』、「国家百年の計で観光について考え、訪日外国人観光客の受け入れ再開に臨みたいものです」、その通りだ。

次に、7月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの姫田小夏氏による「中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない、これだけの深刻な理由」を紹介しよう。
・『日本政府は外国人観光客の入国を6月10日から再開し、中国を含む98の国と地域からのツアー客の受け入れを開始した。しかし、中国人観光客は今のところ動き出す気配はない。2019年には959万人に達した中国人観光客は、コロナとともに“蒸発”したままとなっている』、今後はどうなるのだろう。
・『「海外旅行なんてあり得ない」  上海市では6月24日、市中の新型コロナウイルスの新規感染者がついにゼロとなった。「勝利宣言」が出された上海では、緊張状態はだいぶ緩和され、外食もできるようになった。何事にも機先を制する上海市民なので、中にはすでに“旅支度”を始めている人がいるかもしれない…そう思って上海の友人に聞いてみたら、「海外旅行なんてあり得ない」と一笑に付された。 機はまだ熟してはいないようだ。 日本のインバウンド市場が中国人観光客でにぎたとえば、航空券の予約のしやすさにつながるのは航空機の座席数だが、これが潜在する需要に追いついていない。 というのも、2022年3月末、中国航空当局が中国国内の航空機について「各国1路線、週に1往復」に縮小させてしまったためだ。外国の航空会社についても同様に、中国との航空路線を1路線、週1往復に限定した。その後運行状況は毎月更新されつつも、日本航空の場合は北京便、上海便とも7、8月は運休状態にある。 こうした状況を反映してか、上海から日本への航空運賃は異常な値上がりとなっている。7月上旬の航空運賃を検索してみると、上海浦東国際空港から成田国際空港へは、中国の航空会社利用で、片道かつ香港経由・エコノミークラスという条件ですら8000元(約16万円)を超えていた。2019年まで中国の航空会社の上海直行便は5万円程度で往復ができていたから、かなり高額だ。 年間3回の訪日旅行が趣味だったという上海・浦東新区在住の陳佳楠さん(仮名)は「座席数が限られる中で航空券の価格が高騰しています。留学生やビジネスマンも海外渡航が困難となっている状況で、観光客が海外に出て行くなんて、とても考えられないです」と話す』、「上海浦東国際空港から成田国際空港へは、中国の航空会社利用で、片道かつ香港経由・エコノミークラスという条件ですら8000元(約16万円)を超えていた。2019年まで中国の航空会社の上海直行便は5万円程度で往復ができていたから、かなり高額だ」、「「座席数が限られる中で航空券の価格が高騰しています。留学生やビジネスマンも海外渡航が困難となっている状況で、観光客が海外に出て行くなんて、とても考えられない」、これでは、「中国人」による日本へのインバウンド需要には全く期待できないようだ。
・『中国当局が設ける海外との壁  もっとも金に糸目をつけなければ、海外旅行を試みることはできる。 上海に拠点を置く旅行会社の担当者は「便数は減ってはいますが、高額な航空券を購入できるなら個人での海外旅行はできる、という建前となっています」と話す。 一部では減便は緩和に向かうという報道もあり、隔離政策についても「14日間の集中隔離+7日間の自宅健康観察」を「7日間の集中隔離+3日間の自宅健康観察」に短縮した。今後は正常化が期待できそうな気配も漂う。 だが、今あるのは「中国から出るな」という出国制限だ。 国家移民管理局は5月12日、「中国国民の不要不急の出国を厳しく制限し、出国や入国のために必要な書類や理由を厳格に審査する」と発表した。外国からのウイルスの侵入と、国内の感染のリバウンドを防ぐためというのが主な理由だが、「必要な場合を除いて」との前置きはあるにせよ、「中国から出るな」という強いメッセージである。  “建前”としては、パスポートがあり、航空券の予約があれば出国できるわけだが、今のところ空港の出入国管理官による“出国目的の尋問”を免れることは難しいだろう。また中国政府は昨年8月、パスポートの発行についても緊急の場合を除いて大幅に制限し、「当面は発行を行わない」(国家移民管理局)と発表、国民の自由な移動に制限をかけている』、「今あるのは「中国から出るな」という出国制限」、「パスポートの発行についても緊急の場合を除いて大幅に制限し、「当面は発行を行わない」」、これでは、中国からの旅行者には全く期待できない。。
・『海外旅行はぜいたく消費と捉えられる?  コロナがまん延する前の2018年には、年間延べ1億5000万人の中国人が楽しんだ海外旅行(旅行消費は2770億ドル、数字は中国文化観光部)だが、気になるのは、財政難のため倹約令を唱える習指導部に国民の海外旅行がどう映るのか、ということだ。 格差縮小のため富の分配を目指す共同富裕路線を掲げた習指導部は、「海外旅行はぜいたく消費だ」とも言いだしかねない。また、外貨準備高の減少を避けるためには、海外旅行での国民の散財も制限したいところだろう。あるいは、「海外で使う金は国内消費に回せ」という大号令がかかる可能性もある。 目下、緊縮財政を敷く習指導部は公務員に対して、出国にかかわる費用、公用車の購入と運行にかかわる費用、公務接待費にかかわる費用の“三大経費”の圧縮を掲げており、「それら経費は2019年の81億元(約1620億円)から2021年には51億元(約1020億円)に削減された」(中国メディア「央広網」)。習指導部は、会議、出張、研修などにかかる移動経費も削減したい意向だ。 日本のインバウンドを盛り上げた団体ツアーの中には、会議や研修・視察を名目にしたツアーも少なくなかった。しかし、このような緊縮財政下では公務員も海外渡航どころではない。ましてや民間企業に目を向ければ、ゼロコロナ政策で疲弊しインセンティブツアーどころではないだろう。頼みの中間層も“大失業時代”に直面し、それこそ海外旅行を楽しむ気分にはならないかもしれない』、「緊縮財政下では公務員も海外渡航どころではない。ましてや民間企業に目を向ければ、ゼロコロナ政策で疲弊しインセンティブツアーどころではないだろう。頼みの中間層も“大失業時代”に直面し、それこそ海外旅行を楽しむ気分にはならないかもしれない」、これではいよいよ期待薄だ。
・『海外旅行商品の販売はまだ  今回、日本政府が解禁の対象にしたのは、中国を含む98の国と地域からの団体旅行客の訪日旅行だが、前出の旅行会社の担当者によれば「中国から海外に行くアウトバウンド業務の取り扱い開始の許可が下りておらず、今も弊社では海外旅行商品の販売は行っていない」という。 中国側のアウトバウンドとは、日本からすればインバウンドを意味するが、コロナがまん延してからは、中国の旅行会社の中にはアウトバウンドの部署を丸ごと閉鎖してしまった企業もあった。この旅行会社も、海外に送客するアウトバウンド業務は復活していない。 今後の動向を決めるのはゼロコロナ政策次第だが、「人の移動が厳しく制限される中国のゼロコロナ政策は、この先3年から5年は続くだろう」と予測する中国の政治学者もいる。ロックダウンは将来的にも繰り返される恐れもあるというわけだ。実際、上海でも再封鎖されるマンションが出てきている。 もっともそれ以上に懸念されるのが、中国政府が意図的に観光客を送らなくなる可能性だ。一時期、中国人観光客が大挙して押し寄せた台湾も、アメリカ寄りの蔡英文政権が発足してからは鳴かず飛ばずとなった。その時と同じパターンで、日本がアメリカ寄りの立場をより強めれば、中国人団体客を“手札”として切ってくることもあるだろう。 東アジア情勢に深い霧が立ち込める中、コロナとともに蒸発した中国からの“客足”は、一時的に戻ってきたとしても、「いつまた途絶えるのか」というリスクと常に背中合わせの状態にある』、「「人の移動が厳しく制限される中国のゼロコロナ政策は、この先3年から5年は続くだろう」と予測する中国の政治学者もいる」、「日本がアメリカ寄りの立場をより強めれば、中国人団体客を“手札”として切ってくることもあるだろう」、「中国」とは本当に面倒な国だ。

第三に、9月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ」を紹介しよう。
・『10月11日から、入国者数の上限と訪日ビザが撤廃されインバウンドが解禁されます。待望の解禁ですが、実は、観光業界には素直に喜べない事情があります。このインバウンド解禁には三つの「死角」が潜んでいるからです』、「三つの「死角」」とは穏やかではないが、何なのだろう。
・『インバウンド解禁で観光業界は復活するのか  いよいよ10月11日から、訪日外国人の観光、すなわちインバウンドが実質的に解禁になりそうです。新型コロナの水際対策に関する入国者数の上限を撤廃すると同時に、訪日外国人によるビザなし個人旅行も解禁されるといいます。 「待ちに待った」というべき、政府の方針転換でしょう。業界の期待感としては参院選があった7月は無理だとしても、本当は旅行シーズンである8月にでもインバウンドを解禁してほしかったところです。 解禁が遅れた理由は、オミクロン株による第7波がなかなか収束せず、今年の夏休みは自粛ムードが続いていたことでしょう。 ただ、細かい不満を拾うと「このとき、世界で一番感染者数が多かったのが日本だったので、水際対策をする意味はなかったはず」という意見は正論だと思います。 この時期、欧米ではすでにアフターコロナの旅行ブームに沸いていました。日本の解禁が遅れたことで、観光業界にはこの夏得られるはずだった逸失利益が一定規模で生じていたはずです。 とはいえ、秋からのインバウンド解禁でいよいよ観光ビジネスの本格的な復活が期待できます。 コロナ前の2019年を思い起こしていただくと、過去最高、年間3188万人の外国人が日本を訪れていました。東京や大阪、京都の高級ホテルは満室になり、銀座の百貨店には行列ができ、京都など人気の観光地は人の波で身動きもとれない状況でした。 そこから一転してのコロナ禍で、観光業のみなさんは本当に苦しい時代を耐えてきたと思います。およそ2年と8カ月ぶりにいよいよ守りから攻めに風向きが変わるわけで、その意味では業界は重要な転機を迎えることになります。 基本は「どう攻めるか」を考えるべきですが、じつはインバウンド需要を取り込むにあたって手放しでは喜べない三つの死角が存在しています。 観光業界がインバウンド戦略を考えるにあたって、考慮すべき課題を挙げてみたいと思います』、「世界で一番感染者数が多かったのが日本だったので、水際対策をする意味はなかったはず」という意見は正論だと思います。 この時期、欧米ではすでにアフターコロナの旅行ブームに沸いていました。日本の解禁が遅れたことで、観光業界にはこの夏得られるはずだった逸失利益が一定規模で生じていたはずです」、その通りだ。
・『第一の死角 中国本土の観光客がやってこない  日本が水際対策の方針を転換することで、多くの国々から日本に観光に来やすくなることは事実です。ただ、国別の人数で最大勢力であった中国本土からの観光客だけはその例外です。ビジネス旅客は復活しているのですが、ゼロコロナ政策が厳しいため、観光客はまだ日本に来ることができないのです。 2019年の中国本土からの訪日客の人数は約960万人でした。これはインバウンド全体のちょうど3割に相当します。 中国の中流階級から富裕層にかけての層は経済的にも羽振りが良く、爆買いでたくさんのお金を日本経済に落としてくれていました。この部分がしばらくの間、経済需要としては欠けそうです。 とはいえ、それ以外の国からの需要についてはいまのところ期待ができそうです。2番目に多い韓国の観光業界は、むしろずっと日本の水際対策が緩和されるのを待っていました。 ビザがないと日本への観光ができず、そのビザを取るために大使館に長蛇の列ができるような不自由な状況が続いていたのです。ビザなしでOKとなれば、需要は急速に戻ってきそうです。 人数面で見ると、日本のインバウンド需要はアジアからの観光客に支えられています。ここが早期復活すれば、業界は比較的早く活性化しそうです。 ただ気をつけるべき点は、観光業界はかなり細分化されていて、それぞれの業者が得意な国が異なっている点です。 その観点で考えると、2019年以前に中国本土からの観光客に注力してきた会社は、中国本土需要が復活するまでの間、さらにどうやって生き延びるのかを考える必要があるかもしれません』、「2019年の中国本土からの訪日客の人数は約960万人でした。これはインバウンド全体のちょうど3割に相当します。 中国の中流階級から富裕層にかけての層は経済的にも羽振りが良く、爆買いでたくさんのお金を日本経済に落としてくれていました。この部分がしばらくの間、経済需要としては欠けそうです」、「人数面で見ると、日本のインバウンド需要はアジアからの観光客に支えられています。ここが早期復活すれば、業界は比較的早く活性化しそうです」、なるほど。
・『第二の死角 人が雇えない  実は私が一番心配しているのが、この2番目の死角です。今、雇用の現場では世界的に大量離脱(グレートレジグネーション)と呼ばれる現象が起きています。人手が不足して、人が雇えないのです。 観光業界はコロナ禍を生き延びるためにコストを削られるだけ削り、必要性から多くの従業員の雇い止めをしてきました。2020年にコロナが始まり、21年に開催された期待の東京オリンピックも無観客で終わり、極限までのリストラは致し方のない対策だったことと思います。 しかし問題は業界から大量の経験者が消えてしまったことです。10月からいよいよインバウンド解禁で、経験者に元の職場に戻ってほしいと考えても、実は雇い戻しが想定よりも難しいかもしれません。 実際にアメリカで今起きているのが、人が雇えないことに起因するインフレです。 アメリカは日本社会以上に雇用の流動性が高いことから、コロナ禍で多くの企業が当たり前のように人員整理を行いました。ところが、そこで計算外の事態が起きたといいます。コロナ禍をきっかけに人生を見直す人が一定規模で増加したのです。 ある推計によれば、全従業員の約5%が人生を見直して労働市場から離脱したといいます。これがグレートレジグネーションという現象です。 コロナ禍以前と比較してそもそも雇える人口の母数が減ってしまっている。そのうえで、コロナ禍で雇い止めに遭った経験者がすでに他の仕事を見つけていたりします。 もちろん「いつかは観光業に戻りたい」と思っている人もいらっしゃるとは思いますが、中には「新しい職場の方が気を使わなくてもいいし、自分には向いている」と考えた人もいらっしゃるでしょう。 要するに、日本でもインバウンド需要が急回復する中で、人が雇えないことによる逸失利益がこれから先、新たな問題になりそうなのです』、「全従業員の約5%が人生を見直して労働市場から離脱したといいます。これがグレートレジグネーションという現象です」、「日本でもインバウンド需要が急回復する中で、人が雇えないことによる逸失利益がこれから先、新たな問題になりそう」、「コロナ禍で雇い止め」などをした以上、やむを得ないことだ。
・『第三の死角 世界が不況に突入  そしてもう一つ気になるのは、リベンジ消費のブームがそろそろ終幕かもしれないという話です。 昨年の秋ごろにリベンジ消費という言葉が騒がれ始めて、気が付けばそれからもう1年たっています。この間、日本では第6波、そして強烈な第7波による経済停滞が起きていたため、日本人の感覚的には「リベンジ消費はまだまだこれからだ」という気分かもしれません。 しかし問題は、外国人のリベンジ消費意欲です。過去1年間、日本に行けないということでアジア人は近隣諸国で、欧米人はイビサ島(スペイン)やバハマ、フロリダなどでリベンジ消費を堪能したでしょう。 とはいえ日本旅行解禁を心待ちにしていた人たちは、日本に来ればパーっとお金を使ってくれるとは思います。 ただ心配なことに、十分な数の旅行客がリベンジ消費に戻ってくるかどうかはわかりません。特に気になるのは、いよいよ欧米経済がリセッション(景気後退局面)に向かいそうだということです。 円安の今、日本は欧米人から見れば買い物天国で、すべてのものが驚くほど安い価格で手に入ります。しかしその円安の原因は、欧米がインフレ経済を抑え込むために利上げをしたことに起因しています。欧米の中央銀行は景気を悪化させてもインフレ退治をしなければならないと必死で、結果として2023年の世界経済は大きく景気後退しそうだという予測です。 つまり、日本人が「いよいよこれからだ」と思っている今のタイミングは、世界から見れば「そろそろこれまでだ」というタイミングなのかもしれないのです。 さて、話をまとめましょう。 コロナ禍前、2019年の10月から12月にかけての訪日外国人数は月平均250万人でした。そこから中国本土の観光需要がないことを想定すると、「月175万人の訪日客」を一つの期待上限として想定すべきでしょう。 そのラインと比較して実際に発表されるインバウンド人数の速報値がどれくらい乖離(かいり)しているのか? そして観光地の景気は急回復できるのか? 解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視していきたいと思います』、「日本人が「いよいよこれからだ」と思っている今のタイミングは、世界から見れば「そろそろこれまでだ」というタイミングなのかもしれないのです」、「「月175万人の訪日客」を一つの期待上限として想定すべきでしょう。 そのラインと比較して実際に発表されるインバウンド人数の速報値がどれくらい乖離(かいり)しているのか? そして観光地の景気は急回復できるのか? 解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視していきたいと思います」、確かに「解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視」する価値がありそうだ。
タグ:インバウンド戦略 (その14)(観光競争力で初首位も 海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満、中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない これだけの深刻な理由、インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ) 東洋経済オンライン 日沖 健氏による「観光競争力で初首位も、海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満」 「「外国人観光客はうるさいし、マナーが悪い。とくにお隣りの2カ国は最悪・・・この2年間、外国人観光客がいなくて、実に快適でした」、その通りだろう。 「中国からの団体客のマナーはかなり改善していて、日本人と同じくらい。日本人と違ってちゃんとたくさん買ってくれるので、 われわれにとってありがたい存在です。大切な外国人観光客を、偏ったイメージで排除しないで欲しいものです」、第一の記事とは異なり、「中国からの団体客のマナーはかなり改善」としている 「「世界経済フォーラム」が、観光地としてどれだけ魅力的か、世界各国の競争力を比較した調査結果を発表しました。日本は交通インフラの利便性や自然や文化の豊かさなどが評価され、総合順位で調査の開始以来、初めて世界1位になりました」、現実の「2019年の訪日外国人旅行者数は」「3188万人」と、「世界最多のフランス8932万人はもちろん、アジアでも中国6573万人やタイ3992万人の後塵を拝しています」、「日本は世界一の旅行市場になる潜在力がありながら、生かせていない」、残念だ。 「国家百年の計で観光について考え、訪日外国人観光客の受け入れ再開に臨みたいものです」、その通りだ。 ダイヤモンド・オンライン 姫田小夏氏による「中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない、これだけの深刻な理由」 今後はどうなるのだろう。 「上海浦東国際空港から成田国際空港へは、中国の航空会社利用で、片道かつ香港経由・エコノミークラスという条件ですら8000元(約16万円)を超えていた。2019年まで中国の航空会社の上海直行便は5万円程度で往復ができていたから、かなり高額だ」、 「「座席数が限られる中で航空券の価格が高騰しています。留学生やビジネスマンも海外渡航が困難となっている状況で、観光客が海外に出て行くなんて、とても考えられない」、これでは、「中国人」による日本へのインバウンド需要には全く期待できないようだ。 「今あるのは「中国から出るな」という出国制限」、「パスポートの発行についても緊急の場合を除いて大幅に制限し、「当面は発行を行わない」」、これでは、中国からの旅行者には全く期待できない。。 「緊縮財政下では公務員も海外渡航どころではない。ましてや民間企業に目を向ければ、ゼロコロナ政策で疲弊しインセンティブツアーどころではないだろう。頼みの中間層も“大失業時代”に直面し、それこそ海外旅行を楽しむ気分にはならないかもしれない」、これではいよいよ期待薄だ。 「「人の移動が厳しく制限される中国のゼロコロナ政策は、この先3年から5年は続くだろう」と予測する中国の政治学者もいる」、「日本がアメリカ寄りの立場をより強めれば、中国人団体客を“手札”として切ってくることもあるだろう」、「中国」とは本当に面倒な国だ。 鈴木貴博氏による「インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ」 「三つの「死角」」とは穏やかではないが、何なのだろう。 「世界で一番感染者数が多かったのが日本だったので、水際対策をする意味はなかったはず」という意見は正論だと思います。 この時期、欧米ではすでにアフターコロナの旅行ブームに沸いていました。日本の解禁が遅れたことで、観光業界にはこの夏得られるはずだった逸失利益が一定規模で生じていたはずです」、その通りだ。 第一の死角 中国本土の観光客がやってこない 「2019年の中国本土からの訪日客の人数は約960万人でした。これはインバウンド全体のちょうど3割に相当します。 中国の中流階級から富裕層にかけての層は経済的にも羽振りが良く、爆買いでたくさんのお金を日本経済に落としてくれていました。この部分がしばらくの間、経済需要としては欠けそうです」、「人数面で見ると、日本のインバウンド需要はアジアからの観光客に支えられています。ここが早期復活すれば、業界は比較的早く活性化しそうです」、なるほど。 第二の死角 人が雇えない 「全従業員の約5%が人生を見直して労働市場から離脱したといいます。これがグレートレジグネーションという現象です」、「日本でもインバウンド需要が急回復する中で、人が雇えないことによる逸失利益がこれから先、新たな問題になりそう」、「コロナ禍で雇い止め」などをした以上、やむを得ないことだ。 第三の死角 世界が不況に突入 「日本人が「いよいよこれからだ」と思っている今のタイミングは、世界から見れば「そろそろこれまでだ」というタイミングなのかもしれないのです」、「「月175万人の訪日客」を一つの期待上限として想定すべきでしょう。 そのラインと比較して実際に発表されるインバウンド人数の速報値がどれくらい乖離(かいり)しているのか? そして観光地の景気は急回復できるのか? 解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視していきたいと思います」、確かに「解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視」する価値がありそうだ。
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企業不祥事(その27)(吉野家が“牛丼マーケティングの寵児”を電撃解任!「生娘シャブ漬け」発言で、吉野家の常務解任騒動「プロ経営者」3つのリスク コンプライアンス教育も大事だがここも外せない、不祥事の工場が謝罪…東京湾へ猛毒流出「戦慄の真っ赤な川」写真、船橋屋 罵声動画拡散よりもきつい「最大の痛恨」 217年の老舗のブランド以上に傷ついたもの) [企業経営]

企業不祥事については、4月18日に取上げた。今日は、(その27)(吉野家が“牛丼マーケティングの寵児”を電撃解任!「生娘シャブ漬け」発言で、吉野家の常務解任騒動「プロ経営者」3つのリスク コンプライアンス教育も大事だがここも外せない、不祥事の工場が謝罪…東京湾へ猛毒流出「戦慄の真っ赤な川」写真、船橋屋 罵声動画拡散よりもきつい「最大の痛恨」 217年の老舗のブランド以上に傷ついたもの)である。

先ずは、4月19日付け日刊ゲンダイ「吉野家が“牛丼マーケティングの寵児”を電撃解任!「生娘シャブ漬け」発言で」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/304161
・『「牛丼マーケティングの寵児」が電撃解任となった。 早稲田大学が16日に主催した「デジタル時代のマーケティング総合講座」の担当講師で参加した際、若い女性客をターゲットにするための手法として「生娘をシャブ漬けに戦略」などと発言したとされる、牛丼チェーン大手「吉野家」の伊東正明常務のことだ。 伊東氏は発言が問題視され、講座の翌日に早稲田大学に謝罪したものの、吉野家は19日、「人権・ジェンダー問題の観点から到底容認することの出来ない職務上著しく不適切な言動があった」として、伊東氏の解任を発表した。 生活用品大手「プロクター・アンド・ギャンブル」(P&G)のバイスプレジデントを経て、18年1月、戦略担当顧問として吉野家に移り、同10月に常務に就いた伊東氏。吉野家がそれまで手薄だった若年層の取り込みに力を入れ、「超特盛」やコラボメニューの「ライザップ牛サラダ」などの新標品を次々に投入。とりわけ、伊東氏がこだわっていたのが「若い女性客の開拓」だったという。 「若年層や若い女性の利用が多いとしてメルカリに目を付け、同社のスマホ決済『メルペイ』を使ったキャンペーンを発表。おじさん客主体だった店雰囲気を変え、女性客が1人でも気軽に入店できるよう知恵を絞っていました。取り組みが奏功し、吉野家の業績は着実に回復。外食業界で伊東氏は『牛丼マーケティングの寵児』とも言われていました」(飲食業界ライター)) しかし、今回の問題発言で会社は早々に伊東氏を解任した。 「シャブ漬け発言は論外ですが、ネット上では『顧客に提供する食事は単なるエサであり、食えりゃ何でもいいとしか思っていなかったのね』といった意見や、『男に高い飯をおごってもらえるようになれば、絶対に(牛丼は)食べない』という伊東氏の別の発言について、『そんなモノを食べさせているワケ?』という意見も増えている。吉野家としても、もはや個人の問題ではなく、企業姿勢が問われると判断したのでしょう」(前出のライター) 好事魔多し』、外資系の「P&G」から来た『牛丼マーケティングの寵児』で、「若い女性客の開拓」を目指していた人物が、このような軽率な発言をするとは、開いた口が塞がらない。特に、「生娘をシャブ漬けに戦略」は余りに酷い。「早稲田大学でのマーケティング総合講座」ということで、気が緩んだのだろうが、本音が出たとみるべきだろう。

次に、この問題に絡んで、4月21日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表の鈴木 貴博氏による「吉野家の常務解任騒動「プロ経営者」3つのリスク コンプライアンス教育も大事だがここも外せない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/583661
・『吉野家の伊東正明常務取締役企画本部長が早稲田大学で行った社会人セミナーでの不適切発言で解任されました。女性顧客を取り込むマーケティング施策について「生娘をシャブ漬け戦略」とネーミングしたことがSNSで拡散された件で、吉野家も「人権・ジェンダー問題の観点からとうてい許容することのできない」問題だとして迅速に処分に及んだものです。 外資系企業からマーケティングのプロとして鳴り物入りで移籍して、科学的な手法で吉野家の売り上げ増にも一定の貢献をしたプロ経営者が、最後は吉野家ブランドに致命的なダメージを与えて会社を去ったこの事件。世間的にはコンプライアンス(法令遵守や社会的規範・社会道徳、ステークホルダーの利益・要請に従うことなども含んだ概念)の問題だと捉えられていますが私はもう1つ別の重大事にフォーカスをあてるべきだと考えます』、「もう1つ別の重大事」とは何なのだろう。
・『プロ経営者の任命責任  それはプロ経営者の任命責任の問題です。 近年、日本企業にプロ経営者の招へいブームが起きています。もちろん経営者としてきちんと機能して賞賛されるべきプロ経営者もたくさんいらっしゃいます。 しかし同時に会社をダメにするプロ経営者がいる。吉野家の場合は次期社長を狙える常務取締役企画本部長のポジションを伊東氏に託していました。これは解任して終わりではなく、もし解任事案が起きなければ吉野家という伝統ある企業に何が起きていたのかを経営陣が猛省すべき問題ではなかったのか。その観点から問題点をまとめてみます。) プロ経営者というものは日本人から見ると魅力的な人物です。伊東氏の場合、華々しい実績がありました。同時に非常に科学的・論理的にマーケティング戦略を構築する手腕をお持ちです。 こういったプロ経営者は人材としては希少で、それを欲しいと考える日本人経営者は少なくありません。結果としてヘッドハンティングの市場での価値は上がり、高額の報酬と高いポジションを提示されて大企業の経営陣に収まることになります。 もちろん結果も出すプロ経営者はたくさんいらっしゃいます。私が尊敬する経営者の名前を挙げれば、日本航空を再建した稲盛和夫氏や、現サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏はトップランクのプロ経営者です。一方でこれは強い私見と申し上げておきますが、東芝は外部から招聘したプロ経営者によってボロボロにされてしまった典型例です。問題は招へいの段階ではそのどちらに転がるのか、招へいした側がそのリスクを評価できないことです。 何しろプロ経営者は既存の経営陣から見れば魔法のような新しい経営手法を引っ提げて登場します。表現に気をつけて発言させていただくと「経営陣は新経営手法の中毒にする戦略」に巻き込まれてしまって、危険かもしれないその人物をあたかも救世主のように感じてしまう錯覚が起きるのです』、「東芝は外部から招聘したプロ経営者によってボロボロにされてしまった典型例です。問題は招へいの段階ではそのどちらに転がるのか、招へいした側がそのリスクを評価できないことです。 何しろプロ経営者は既存の経営陣から見れば魔法のような新しい経営手法を引っ提げて登場します。表現に気をつけて発言させていただくと「経営陣は新経営手法の中毒にする戦略」に巻き込まれてしまって、危険かもしれないその人物をあたかも救世主のように感じてしまう錯覚が起きるのです」、今回は、「伊東氏」が「常務取締役企画本部長」で、まだ「社長」にはなってない段階で問題が発覚したのは、「吉野家」にとって不幸中の幸いと言えるだろう。
・『危険なプロ経営者を見抜く3つのポイント  では危険なプロ経営者と、信頼して託せるプロ経営者はどう見分ければよいのでしょうか? 私の経験からは危険なプロ経営者には3つの見分けられる悪い兆候が見られます。 それは、1. 商材の強みについてのリスペクト(尊敬)がない 2. 社員力の把握が弱い 3. マウントの手段として会社の文化を壊す の3点です。順番に説明していきましょう。 まず「商品の強みについてのリスペクト(尊敬)がない」ですが、これは今回の吉野家の問題発生直後から私が抱いた違和感でもありました。各社の報道等を総合すると、例の「戦略」の中身として若い女性をターゲットにしたマーケティングを導入する理由を「高い料理をご馳走してもらうようになった後では牛丼のファンにするのは難しい」からだと伊東氏は説明されていたそうです。吉野家ファンである私には高い料理を食べるようになった後だと吉野家の牛丼のおいしさが伝わらないという理屈がわからない。 マーケティングのプロである以上、吉野家の牛丼のブランドコンセプトが「うまい、やすい、はやい」であることは十分に承知されているはずです。ところがご本人は「やすい」は強みだが「うまい」という強みはないと発言されている。これは内部で育った経営陣であれば、すぐに気づくであろう違和感です。 2番目の「社員力の把握が弱い」という点は今回の吉野家のケースについて当てはまるかどうかまではよくわかりませんが、一般的に、危険なプロ経営者の場合は会社の人財というリソースの把握が不十分なことが多いです。これは部外者が短期間に人心を掌握するという必要上、仕方のないことでもありますが、自分の味方になりそうな人材を見極めて周囲を固めて、潜在的な抵抗勢力とどう戦うのか早期に構えなければならないからです』、「「高い料理をご馳走してもらうようになった後では牛丼のファンにするのは難しい」からだと伊東氏は説明」したようだが、「高い料理をご馳走してもらうようになった後で」も、「牛丼」はコスト・パフォーマンスの良さなどそれなりの魅力を持っていると思う。「「うまい」という強みはないと発言」、は確かに違和感がある。
・『古参社員を頼れるかどうか  ただこれは断言できるのですが、外資系企業で欧米流のプロ経営手法を学んできた経営者のいちばんの弱点が、日本企業の持つ人財の把握と掌握・活用が不得手という点です。吉野家のように少なからずの社員がバイトから入って吉野家を好きになり、その中から幹部や役員が生まれるという企業にとっては、人間の力こそが会社の最大の強みであり財産です。この点に詳しくないという弱点をカバーするために古参社員を頼ることができるかどうかでプロ経営者としての差が生まれます。 「いや、それだったら最初から頭を下げて現場の力に頼ればいいじゃないか」 と思うかもしれませんが、プロ経営者にはなかなかそれが簡単ではない別の事情がある。それが3番目の問題と関係します。 外部から招聘される中で、危険なプロ経営者の3番目の問題は「マウントの手段として会社の文化を壊す」という傾向です。 外部から招聘されたプロ経営者が権力を掌握するために「どう既存幹部をマウントするか」が戦術的なカギとなります。その手段の1つとなるのが既存の文化の否定です。 「これまでの経営は科学的ではなかった」 「利益が出るという尺度で見ることが何よりも重要だ」 とプロ経営者が発言すると、なんとなくそれが正しいように思えてきます。 本当は、「数字でみることが科学的なのか、それとも現場が肌で感じた事実のほうが科学的なのか」 「利益を越えた長期的な信頼の方が重要な局面もある。今はどちらなのか」』、なるほど。
・『マウントされた側は平伏してしまうことも  といった視点が重要でも、マウントされた側はそれに気づかずに平伏してしまうことがあるのです。 ここからは一般論ですが、最大の問題は、どんな企業であっても危険なプロ経営者を招き入れてしまうことで、ここで挙げた3つの問題が顧客と株主に波及していくことです。会社の文化を壊し、社員力をないがしろにし、なによりも商品についてのリスペクトに欠けた経営者をトップの座に招き入れてしまうのは、長期的に株式を保有している株主から見れば失策です。それで万が一にも味や価格などが大きく変わるようなことがあれば長年利用している顧客にとっても悪夢でしょう。 一部のプロ経営者から見れば業績は科学であり数字でしかないかもしれませんが、顧客から見れば商品は人生そのものかもしれません。従業員にとってもそうです。 「そんなものをなぜ引き入れてしまったのか?」 吉野家は全社をあげてコンプライアンス教育に力を入れると表明していますが、それよりも経営を誰にどう任せるかということに関した反省会に力を入れてほしいと、50年来の吉野家ファンとしては切に願います』、確かに「コンプライアンス教育」よりも、「経営を誰にどう任せるかということに関した反省会に力を入れてほしい」、同感である。

第三に、8月19日付けFRIDAY「不祥事の工場が謝罪…東京湾へ猛毒流出「戦慄の真っ赤な川」」を紹介しよう。
https://jp.sunnews.site/domestic/2022/08/19/171761.html
・『「近隣住民の皆さま、行政、関係者にご心配とご迷惑をお掛けし、まことに申し訳ございません」 8月18日に日本製鉄東日本製鉄所(千葉県君津市)は千葉県庁で記者会見を開き、谷潤一所長がこう謝罪した。同社が謝ったのは、工場から有害物質シアンが流出したことについて。8月15日までに423回の自主検査を行い、37回の基準超過があったという。 シアンは人間の体内に入れば死に至ることもある、危険な化学物質だ。『FRIDAYデジタル』は、流出直後の不気味な川の様子を取材。今年7月11日に配信した記事を再掲載したいーー。 「家の前を流れる川を見ると、あたり一面が真っ赤に染まり、死んだ魚が浮いていました。原因が、工場から漏れた猛毒のシアンだと聞いたときには恐ろしくて震えました。またいつ同じことが起こるかと考えると、気が気でありません」(周辺住民) 日本製鉄東日本製鉄所君津地区(千葉県君津市)で、6月から毒性の強いシアンが東京湾や周辺の川に相次いで流出している。 「最初に発覚したのは6月18日です。敷地東側の排水口から生産工程で使用する脱硫液が漏れ出し、東京湾に流出。翌19日には敷地南側の排水口からも漏洩し、水路とそこに繋がる小糸川の河口付近が赤く染まり水面には魚が浮きました。 川の水を検査すると猛毒シアンを検出。続く20日には、敷地東側の別の排水口からも排水基準を大きく上回る1リットル当たり0.6ミリグラムのシアンが見つかっています。7月に入っても、シアンが東京湾に流れ出ているのがわかっているんです」(全国紙社会部記者) シアンは人間の体内に入ると呼吸困難に陥り、 数秒で死亡する強い毒性を持つ。致死量は0.06 グラム。千葉県は排水基準を、1リットル当たり0.1ミリグラム未満と厳しく規制している。 「ハッキリした原因はわかっていません。日本製鉄によると、6月18日から20日にかけての漏洩は、工場内にある約3000立方メートルに上る脱硫液を溜めたタンクから。6月30日と7月1日の漏洩は、高炉の集塵関連施設の排水ルートからの流出とされます。 しかし、脱硫液には本来、シアンは含まれていません。混入ルートなど、詳しい原因を調査中です。同工場には全部で17個の排水口がありますが、シアンなど有害物質が検出された場所は閉鎖し水質調査を継続しているそうです」(同前)』、「6月18日から20日にかけての漏洩は、工場内にある約3000立方メートルに上る脱硫液を溜めたタンクからの流出」、「6月30日と7月1日の漏洩は、高炉の集塵関連施設の排水ルートからの流出」、しかし、「脱硫液には本来、シアンは含まれていません」、「詳しい原因を調査中」、信じ難い事故だ。
・『夏場の漁への深刻な影響  7月6日に記者が現地を訪れると、シアンが流れ出た水路や約1.7㎞離れた小糸川の合流地点の水の色は元に戻っていたものの、所々に魚の死骸が浮いていた。 工場周辺の漁港からは心配の声が上がる。 「現在、海の状態を厳重に警戒しています。魚への影響は確認していませんが、再びシアンが流出するようなことがあれば夏場のマコガレイやスズキ漁に影響がでるかもしれません」(富津漁港で働く関係者) 「流出が止まったと思ったら、6月30日と7月1日に木更津側からも漏洩が起きた。魚の汚染や風評被害が出るようだと、補償問題にもなり兼ねない。木更津海岸は7月末まで潮干狩りシーズンですが、不安に感じた人からの問い合わせがきています」(木更津市の漁港関係者) 千葉県などによると、シアンは海水で分解されるため今回の流出による人体への影響は考えにくいとされる。だが県や近隣の市は、同製鉄所近くを流れる水路や小糸川河口付近に近寄らず、同地区の水を飲むことや魚に触れたり食べたりしないよう呼びかけている。 日本製鉄の見解だ。 「近隣の住民と関係者にご心配とご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません。今回の事態を非常に重く受け止め、現在、千葉県や近隣の市、海上保安庁の指導に真摯に対応すると同時に再発防止策を検討しています」(君津地区総務部) 流出したシアンが人体に入れば、取り返しがつかないことになる。原因究明と対策徹底が求められる』、いまだに原因が不明とはどうなっているのだろう。確かに「原因究明と対策徹底が求められる」。

第四に、10月1日付け東洋経済オンラインが掲載したネットメディア研究家の城戸 譲氏による「船橋屋、罵声動画拡散よりもきつい「最大の痛恨」 217年の老舗のブランド以上に傷ついたもの」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/622998
・『不祥事が起きた時、いかに「炎上」を最小限に抑えるか——。 筆者はネットメディア編集者として、10年近く、あらゆる炎上をウォッチしてきた。その経験から振り返ると、ここ数日話題になっている和菓子メーカー「元祖くず餅 船橋屋」(以下、船橋屋)の事例は、いいケーススタディになりそうだ』、興味深そうだ。
・『船橋屋が炎上に至った経緯  時系列を追って説明したい。各社報道によると、船橋屋の渡辺雅司社長(当時)は2022年8月24日、東京都千代田区内で乗用車を運転中、赤信号に気付かず直進したところ、右折してきた車に衝突した。後に船橋屋から出た発表によると、事故後に警察へ届け出て、すでに和解・示談が成立しているという。 示談が済んだから、それでおしまい……ではなかった。事故発生から1カ月後、衝突された車のドライブレコーダー映像が、インターネットで拡散された。渡辺氏らしき人物が「どっからお前出てきてるんだ、この野郎!」などと怒鳴り散らし、衝突された車のドアを蹴る。そんな様子が9月26日ごろから拡散され、企業トップとしての姿勢を問われることとなったのだ。 今回の特徴的だったのは、炎上の「ハブ」となる人物を介して、拡散が加速した点にある。ドライブレコーダー動画は、9月26日夜に「暴露系」と呼ばれるインフルエンサーによってツイッターへ投稿され、10月1日未明時点で3.7万のリツイート・引用ツイート、7.7万の「いいね」が付いている。ここを発火点として、ネット上には非難の声がこだました。 船橋屋とは、そもそもどんな会社か。公式サイトによると、創業は文化2年(1805年)、東京・亀戸天神のそばに、初代・勘助氏が開いたのが始まりだった。雅司氏は8代目にあたる。土地勘がある人だと「亀戸なのに、なぜ船橋?」と思われるだろうが、初代の出身地が、千葉の船橋なんだそうだ。小麦粉のでんぷん質を、乳酸菌で発酵させた「くず餅」をメインに、和菓子商品を販売している。 200年以上の歴史が揺らぐ「大炎上」。しかしながら、拡散から数日間の動きを見ていると、従業員300人規模の企業としては珍しいほど、しっかりと対応しているように見受けられる。不祥事が発覚してからの「初動の早さ」と「適時の報告」、そして平時からの「消費者との関係性」、これらが十分満たされているのだ。 まずは公式サイトの発表文と掲載日、それぞれの概要をみてみよう。 「弊社代表取締役社長の交通事故に関するインターネット上での書き込みについて」(9月27日) 「無関係な企業と弊社従業員へのインターネット上の書き込みについて」(28日、執行役員で29日に社長に就任した佐藤恭子氏) 「代表取締役社長・渡辺雅司の辞任に関して」(28日) 「代表取締役社長の辞任に関するお知らせ」(29日) 「代表取締役社長選任のお知らせ」(30日) 第一報で事故・現場対応の事実を認め、続いて「今回の事態の責任は、弊社代表取締役社長・渡辺雅司にございます」として、従業員や類似名称の企業への誹謗中傷や問い合わせを控えるよう呼びかける。その後、渡辺氏から辞任の申し出があったと伝え、翌日の取締役会で受理した旨を報告。そして新社長選任を発表——。 中小企業では人的リソースや、ノウハウなどの関係で、対応が後手後手に回るケースが多々あるが、こと今回の事案は、迅速かつ的確に行われている印象を受ける』、確かに手際の良さには感心させられた。危機管理のコンサルタントからアドバイスでも受けたのだろうか。
・『背景には卓越した「SNS発信力」  他の老舗和菓子メーカーと比べて、船橋屋が持っている特徴が、SNSでの発信力だ。ツイッターは10月1日時点で7.8万フォロワー。9月27日以降は公式サイトのプレスリリースをシェアする類いの形式的な投稿ばかりだが、前日までは商品写真や、ゆるい口調のつぶやきばかりだった。 企業ツイッター界隈には「中の人」という文化がある。広報やツイッター担当者が、同業・別業種を問わず、企業アカウント同士で交流したり、消費者と直接コミュニケーションを取ったりするもので、ここ数年、頭角を現していた企業のひとつが、船橋屋ツイッターだった。フォロワーからは批判が絶えないが、「商品や店員さんには罪ないもんね」「中の人大変だと思いますが、頑張ってください」といった声も見られるのは、普段から消費者とのリレーションシップを作ってきたからに他ならない。 船橋屋の「中の人」は2020年12月、日経クロストレンドの記事で、こう語っていた。 「215年のブランドを『中の人』としても大切にすることが、結果的に会社のブランドを守り、炎上対策にもなっているではないかと思います」(原文ママ) もし渡辺氏も「中の人」と同じ精神を持っていたなら、今回のようなことにはならなかっただろう』、「広報やツイッター担当者が、同業・別業種を問わず、企業アカウント同士で交流したり、消費者と直接コミュニケーションを取ったりするもので、ここ数年、頭角を現していた企業のひとつが、船橋屋ツイッターだった」、「フォロワーからは批判が絶えないが、「商品や店員さんには罪ないもんね」「中の人大変だと思いますが、頑張ってください」といった声も見られるのは、普段から消費者とのリレーションシップを作ってきたからに他ならない」、「船橋屋ツイッター」での努力が実を結んだのかも知れない。。
・『ブランド価値に傷がつき、社員たちの努力が…  インターネット上の情報がなかなか消せないことを、スラングで「デジタルタトゥー」と呼ぶ。渡辺氏もまた、過去のインタビューで社員の8割が辞めたと語っていたことが「パワハラ体質」だったとして、掘り起こされている。インターネットの普及によって、これまでの言動がつまびらかになるのだ。 たとえもし今後、上記のインタビュー記事が非公開になったとしても、「ハイ、終わり」とはならない。SNSには削除前のスクリーンショットが出回り、「証拠隠滅ではないか」と、さらなる悪印象を与える。 4月に発生した知床遊覧船事故も、そうだった。あの時波紋を呼んだのは、経営者本人よりも関わっていた経営コンサルタントの発言だったが、注目された末に、記事は公開停止に。のちに再公開されたが、火に油を注ぐ結果となった。 社長辞任をもって、表向きとしては、幕引きとなった。とはいえ、発覚以前のブランド価値が、そのまま回復するわけではない。残された社員達は、負のレガシーを拭いながら、改めて信頼を積み重ねていかなければならない。 そしてなにより、今回の一件を通じて、世間の船橋屋に対する消費者のイメージが悪化し、記憶を上書きされてしまった。上記のような社員たちのこれまでの努力は水の泡……とまでは言わないまでも、決してプラスの出来事ではなかった。 船橋屋は9月29日、執行役員の佐藤恭子(神山恭子)氏が、後継社長に就任したと発表した。なお、先に挙げた5本のプレスリリースは、4本が会社名義だったが、「無関係な企業と〜」は佐藤氏の名義で出されている』、「渡辺氏もまた、過去のインタビューで社員の8割が辞めたと語っていたことが「パワハラ体質」だったとして、掘り起こされている」、「9月29日、執行役員の佐藤恭子(神山恭子)氏が、後継社長に就任」、本当に見事な手際だ。
・『後継社長に感じる「船橋屋への愛」  佐藤氏は、新卒で船橋屋に入社した、たたき上げの社員だ。創業家の、渡辺氏と立ち位置は違えど、老舗企業再建の立役者として、メディアに登場する機会も多い。各社記事を読むと、職人かたぎで旧態依然の企業体質だった入社当初を振り返る場面も多々あり、船橋屋が変わりゆく姿をつぶさに見てきたようだ。採用担当者時代に、ブログに挑戦した張本人だというから、ウェブ戦略の礎を作ったと言ってもいいだろう。 船橋屋の公式note(ブログ)にも8月、佐藤氏へのインタビューが掲載されていた。就職活動中に船橋屋を全店めぐって、レポートにまとめたエピソードから、歴史好きが高じて、社史を調べに国立国会図書館へ通っているなど、端々から「船橋屋への愛」が見受けられる。 「217年の歴史を紐解くために、当主を一代ずつ調べていくと、それぞれが船橋屋の暖簾を守ってきた理由や経緯が段々と分かってくるんです。皆で繋いできた船橋屋をきちんと残していきたいと強く思いますね」 「『文献から新たな歴史を見つける』これを繰り返していくと、しっかり船橋屋の歴史を次世代に残していくことができると思います」 これらの発言を読むと、まるで2カ月後の未来を予見していたかのようだ。自分たちは、あくまで歴史の一部でしか過ぎず、後世へバトンをつなぐのが責務だという、確固たる決意が示されている。 9月30日に公式サイトに掲載された、代表取締役就任あいさつでも「歴史」に触れている。 「217年の歴史に敬愛を持ちつつも、その歴史に甘んじず、心機一転、コンプライアンスを見直し、新体制の構築をして参ります」 不祥事もまた、歴史のひとつ。歴史の重みを誰よりも感じていたのが、創業家ではなく、新卒たたき上げの人物だったのが皮肉だが、歴史とSNS感覚をあわせ持つ新社長であれば、真の意味で「歴史づくり」が期待できるのではないか』、「佐藤氏」は「採用担当者時代に、ブログに挑戦した張本人だというから、ウェブ戦略の礎を作った」、「『文献から新たな歴史を見つける』これを繰り返していくと、しっかり船橋屋の歴史を次世代に残していくことができると思います」、「歴史とSNS感覚をあわせ持つ新社長であれば、真の意味で「歴史づくり」が期待できるのではないか」、新社長の活躍に期待したい。
タグ:外資系の「P&G」から来た『牛丼マーケティングの寵児』で、「若い女性客の開拓」を目指していた人物が、このような軽率な発言をするとは、開いた口が塞がらない。「早稲田大学でのマーケティング総合講座」ということで、気が緩んだのだろうが、本音が出たとみるべきだろう。 いまだに原因が不明とはどうなっているのだろう。確かに「原因究明と対策徹底が求められる」。 「6月18日から20日にかけての漏洩は、工場内にある約3000立方メートルに上る脱硫液を溜めたタンクからの流出」、「6月30日と7月1日の漏洩は、高炉の集塵関連施設の排水ルートからの流出」、しかし、「脱硫液には本来、シアンは含まれていません」、「詳しい原因を調査中」、信じ難い事故だ。 FRIDAY「不祥事の工場が謝罪…東京湾へ猛毒流出「戦慄の真っ赤な川」」 確かに「コンプライアンス教育」よりも、「経営を誰にどう任せるかということに関した反省会に力を入れてほしい」、同感である。 日刊ゲンダイ「吉野家が“牛丼マーケティングの寵児”を電撃解任!「生娘シャブ漬け」発言で」 「「高い料理をご馳走してもらうようになった後では牛丼のファンにするのは難しい」からだと伊東氏は説明」したようだが、「高い料理をご馳走してもらうようになった後で」も、「牛丼」はコスト・パフォーマンスの良さなどそれなりの魅力を持っていると思う。「「うまい」という強みはないと発言」、は確かに違和感がある。 表現に気をつけて発言させていただくと「経営陣は新経営手法の中毒にする戦略」に巻き込まれてしまって、危険かもしれないその人物をあたかも救世主のように感じてしまう錯覚が起きるのです」、今回は、「伊東氏」が「常務取締役企画本部長」で、まだ「社長」にはなってない段階で問題が発覚したのは、「吉野家」にとって不幸中の幸いと言えるだろう。 「広報やツイッター担当者が、同業・別業種を問わず、企業アカウント同士で交流したり、消費者と直接コミュニケーションを取ったりするもので、ここ数年、頭角を現していた企業のひとつが、船橋屋ツイッターだった」、「フォロワーからは批判が絶えないが、「商品や店員さんには罪ないもんね」「中の人大変だと思いますが、頑張ってください」といった声も見られるのは、普段から消費者とのリレーションシップを作ってきたからに他ならない」、「船橋屋ツイッター」での努力が実を結んだのかも知れない。。 確かに手際の良さには感心させられた。危機管理のコンサルタントからアドバイスでも受けたのだろうか。 城戸 譲氏による「船橋屋、罵声動画拡散よりもきつい「最大の痛恨」 217年の老舗のブランド以上に傷ついたもの」 「佐藤氏」は「採用担当者時代に、ブログに挑戦した張本人だというから、ウェブ戦略の礎を作った」、「『文献から新たな歴史を見つける』これを繰り返していくと、しっかり船橋屋の歴史を次世代に残していくことができると思います」、「歴史とSNS感覚をあわせ持つ新社長であれば、真の意味で「歴史づくり」が期待できるのではないか」、新社長の活躍に期待したい。 「渡辺氏もまた、過去のインタビューで社員の8割が辞めたと語っていたことが「パワハラ体質」だったとして、掘り起こされている」、「9月29日、執行役員の佐藤恭子(神山恭子)氏が、後継社長に就任」、本当に見事な手際だ。 (その27)(吉野家が“牛丼マーケティングの寵児”を電撃解任!「生娘シャブ漬け」発言で、吉野家の常務解任騒動「プロ経営者」3つのリスク コンプライアンス教育も大事だがここも外せない、不祥事の工場が謝罪…東京湾へ猛毒流出「戦慄の真っ赤な川」写真、船橋屋 罵声動画拡散よりもきつい「最大の痛恨」 217年の老舗のブランド以上に傷ついたもの) 企業不祥事 「東芝は外部から招聘したプロ経営者によってボロボロにされてしまった典型例です。問題は招へいの段階ではそのどちらに転がるのか、招へいした側がそのリスクを評価できないことです。 何しろプロ経営者は既存の経営陣から見れば魔法のような新しい経営手法を引っ提げて登場します。 「もう1つ別の重大事」とは何なのだろう。 鈴木 貴博氏による「吉野家の常務解任騒動「プロ経営者」3つのリスク コンプライアンス教育も大事だがここも外せない」 東洋経済オンライン
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情報セキュリティー・サイバー犯罪(その9)(尼崎市USBメモリー紛失問題 大炎上した情報サービス会社「BIPROGY」の正体、今の日本はサイバー攻撃の絶好の対象 緊急・大量に必要な「デジタル戦士」はこうやって集めろ、河野太郎氏が激怒「役所でZoomは制限」なのが中国リスクだけでない残念な事情) [社会]

情報セキュリティー・サイバー犯罪については、5月19日に取上げた。今日は、(その9)(尼崎市USBメモリー紛失問題 大炎上した情報サービス会社「BIPROGY」の正体、今の日本はサイバー攻撃の絶好の対象 緊急・大量に必要な「デジタル戦士」はこうやって集めろ、河野太郎氏が激怒「役所でZoomは制限」なのが中国リスクだけでない残念な事情)である。

先ずは、7月2日付け日刊ゲンダイが掲載した経済ジャーナリストの有森隆氏による「尼崎市USBメモリー紛失問題 大炎上した情報サービス会社「BIPROGY」の正体」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/307642
・『兵庫県尼崎市の全市民約46万人の個人情報が入ったUSBメモリーが一時紛失したスキャンダルで、市から業務委託された情報サービス会社BIPROGY(ビプロジー)が大炎上している』、お粗末極まる事件だ。
・『4月に日本ユニシスから社名変更したばかり  ビプロジーは聞き慣れない社名だと首をかしげる向きがほとんどだったろうが、4月1日に日本ユニシスから社名変更したばかりの会社だ。新しい会社は発足ほやほやでの醜聞となった。 社名のBIPROGYは光が屈折・反射したときに見える7色(青、藍、紫、赤、橙、緑、黄)の英語の頭文字をとった造語。「さまざまなビジネスパートナーや多種多様な人々がもつ光彩を掛け合わせ、混沌とした社会の中で新たな道を照らし出す」といった意味を込めた。 今回の“事件”は7色の光が乱反射したようだ。 これまでの尼崎市などの説明によると、ビプロジー関西支社が市から新型コロナウイルスの給付金支給業務を受託し、別の会社に再委託していた。再委託された会社が下請けに丸投げし、その社員が、市の許可を得ずに全市民の個人情報が入ったデータをUSBに複製して持ち出していた。あろうことか、6月21日、大阪府吹田市の居酒屋で約3時間飲酒。酔って記憶をなくして路上に眠り込み、22日未明にUSBが入ったかばんの紛失に気付いた。かばんは24日に居酒屋から少し離れた吹田市のマンションの敷地内で見つかった。) ビプロジーは26日、「紛失したのは再委託先の社員」としてきた説明をひるがえし、実際には、再委託先からさらに委託を受けた企業の社員だった。再委託は市の許可が必要と定められているが、市は「再委託、再々委託のいずれもビプロジー側から報告がなかった」としている。 ビプロジーは再々委託を知っていたのだろうか。 ビプロジーの平岡昭良社長(66)は2016年に社長に就任した生え抜き。自前でシステムを構築する受け身型のビジネスモデルから提案型の営業に転換した。はっきり言う。受注したITサービスの業務を外部に委託するアウトソーシング方式で収益を高めるというやり方だ。このビジネスモデルが尼崎市で墓穴を掘ったのだから笑えない。 「建設業界は元受け、下請け、孫請け、ひ孫請けのピラミッド構造になっている。実は、IT業界もまるっきり同じ。業務を丸投げするのが“常識”だ。この丸投げのほころびが露呈したかたちだ」(IT業界担当のアナリスト) ビプロジーの歴史は古い。1958年、米ユニシスと三井物産の合弁企業として発足。2006年に米ユニシスとの資本関係は解消。三井物産も12年に保有株を売却して手を引いた。現在、大日本印刷が20.63%を保有する筆頭株主だ。) 尼崎市の稲村和美市長(49)は「契約違反があった」との見解を示し、一連の経緯を「損害賠償請求を検討する」と話している。平岡社長の首は風前のともしびだ。 「最も物議を醸したNHK会長」と評された籾井勝人氏も元日本ユニシス社長だった。籾井氏は三井物産副社長から日本ユニシスに天下り、社長になった人だった。 平岡社長は籾井元社長と肩を並べる有名人(!?)になった』、「ビプロジーは・・・4月1日に日本ユニシスから社名変更したばかり」伝統ある会社だ。「「紛失したのは再委託先の社員」としてきた説明をひるがえし、実際には、再委託先からさらに委託を受けた企業の社員だった。再委託は市の許可が必要と定められているが、市は「再委託、再々委託のいずれもビプロジー側から報告がなかった」としている」、「「建設業界は元受け、下請け、孫請け、ひ孫請けのピラミッド構造になっている。実は、IT業界もまるっきり同じ。業務を丸投げするのが“常識”だ。この丸投げのほころびが露呈したかたちだ」、「尼崎市の稲村和美市長(49)は「契約違反があった」との見解を示し、一連の経緯を「損害賠償請求を検討する」。「平岡社長の首は風前のともしびだ」。

次に、7月10日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「今の日本はサイバー攻撃の絶好の対象、緊急・大量に必要な「デジタル戦士」はこうやって集めろ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/97202?imp=0
・『ランサムウエアの犯罪集団が、日本を新たな攻撃対象と定め、医療機関や中小企業に対するサイバー攻撃を急増させている。インターネットから隔離するだけでは、防御にならない。また、IT機器を全く使わなくても、他所で生じる情報漏洩から間接的被害を受けることがある。 こうした事態に対処できる「デジタル戦士」を、早急に養成すべきだ』、興味深そうだ。
・『サイバー攻撃は、すでに現実化している危機  ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、安全保障の問題に注目が集まっている。 確かに、安全保障の問題は、これまでとは違った意味を持つに至った。ただし、ここで注意したいのは、安全保障とは、戦車やミサイルによる攻撃への対処だけではないことだ。 いま日本で緊急に必要なのは、サイバー攻撃に対する安全保障だ。こうした攻撃は、すでに現実化している。とくに、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)型の攻撃が激増している。 これは、台湾有事や日本への核攻撃のように、将来起こりうる危機ではない。現実に起こっていることであり、現実に深刻な被害が生じていることなのだ。 しかも、政府や大企業だけではなく、中小企業や医療機関が攻撃の対象とされている。医療、教育、金融関係では被害な甚大になることが多いので、対象とされることが多い』、「現実に起こっていることであり、現実に深刻な被害が生じていることなのだ」、「政府や大企業だけではなく、中小企業や医療機関が攻撃の対象とされている」、大変だ。
・『インターネットから隔離していた半田病院が被害に  サイバー攻撃に対してもっとも広く使われている対策は、「エアギャップ」だ。これは、システムをインターネットにつながないことだ。しかし、実は、隔離していても、安心してはいられない。 2021年10月に徳島県のつるぎ町立半田病院がサイバー攻撃の被害に見舞われた事件が、それを示した。この事件が真にショッキングだったのは、この点だ。 半田病院は、システムをインターネットにつながず、隔離していた。しかし、突然、電子カルテシステムで患者情報を閲覧できなくなり、診療報酬の請求も止まった。 そして、「身代金を支払わなければ、盗んだデータを匿名ネットワークにさらす」という犯行声明が、犯罪者集団「LockBit(ロックビット)」から送られてきた。 結局のところ、身代金の支払いは拒否し、ベンダーにサーバーを借りて新たな環境を構築し、同じ電子カルテシステムを稼働させることで対処したが、費用は約2億円かかった。そして、約2ヶ月間、病院は麻痺状態に陥った』、「徳島県のつるぎ町立半田病院」では、「システムをインターネットにつながず、隔離」、「身代金を支払」えとの「要求」があったが、「身代金の支払いは拒否し、ベンダーにサーバーを借りて新たな環境を構築し、同じ電子カルテシステムを稼働させることで対処したが、費用は約2億円かかった。そして、約2ヶ月間、病院は麻痺状態に陥った」、「身代金」は「約2億円」以上であれば、「要求」に従った方が損失が少なくて済みそうだ。
・『ウイルス対策ソフトを停止させていた  同病院は、システムをインターネットから隔離していたので、安心していたらしい。しかし、保守用回線が外部とつながっており、そこが侵入口となったのだ。 安心していたためか、仕様が古い電子カルテシステムを動かすため、セキュリティー対策に必要な機能が意図的に無効にされていた。朝日新聞(2022年6月7日)によると、攻撃者に侵入されても分からず、防御が効かないという、かなりずさんな状態だった。 同様の攻撃に遭ったのは、半田病院だけではない。日本の医療・福祉施設は、「エアギャップ」でシステムを守っているケースが多いのだが、破られている。実際、21年には、医療・福祉施設のランサムウエア被害が7件、警察庁に報告された。 エアギャップを破る方法はいくつも開発されており、例えば、電力線を通じてハッキングすることも可能なのだという。製造業やインフラ企業も、エアギャップでシステムを守っている場合が多い。その中では、数十年前の脆弱なソフトが動いている。 外部ネットワークと完全に遮断した運用は難しいと、日本経済新聞(2022年6月27日)は警告している』、「システムをインターネットから隔離していた」が、「保守用回線が外部とつながっており、そこが侵入口となった」、「仕様が古い電子カルテシステムを動かすため、セキュリティー対策に必要な機能が意図的に無効にされていた」、「攻撃者に侵入されても分からず、防御が効かないという、かなりずさんな状態だった」、「日本の医療・福祉施設は、「エアギャップ」でシステムを守っているケースが多いのだが、破られている。実際、21年には、医療・福祉施設のランサムウエア被害が7件、警察庁に報告」、「エアギャップを破る方法はいくつも開発されており、例えば、電力線を通じてハッキングすることも可能」、油断は禁物のようだ。
・『日本の中小企業は、サイバー攻撃の集中砲火の対象  日本の中小企業は、危機感が薄い。「重要な情報は持っていないから、中小企業は狙われるはずがない」と思っているのだ。しかし、前記の日経新聞の記事によると、日本の中小企業は、サイバー攻撃の集中砲火を浴びている。 マルウエアは、防御の弱い中小企業にまず侵入し、サプライチェーンの上流にいる大手への攻撃の踏み台にしているのだ。 トレンドマイクロの今年1~3月の被害約5万2000件のうち、8割超が日本国内で発生し、その多くが中小企業だという。 ランサムウエアの犯罪集団は、ロシアや東欧諸国に拠点を置き、これまで主として欧米諸国を対象としてきた。しかし、欧米では、防御態勢が強くなってきた。ところが、日本は、警戒心も防御態勢も弱い。このため、犯罪集団は、最近、日本をターゲットとして攻撃を急増させているのだという』、「マルウエアは、防御の弱い中小企業にまず侵入し、サプライチェーンの上流にいる大手への攻撃の踏み台にしているのだ。 トレンドマイクロの今年1~3月の被害約5万2000件のうち、8割超が日本国内で発生し、その多くが中小企業だという」、「欧米では、防御態勢が強くなってきた。ところが、日本は、警戒心も防御態勢も弱い。このため、犯罪集団は、最近、日本をターゲットとして攻撃を急増させている」、困ったことだ。
・『専門家がいない。デジタル戦士が必要  日本の医療機関にはサイバー分野の専門家がほとんどおらず、情報システムの担当者が1人だけといった状況も珍しくない。だから、攻撃に対処するには、人材が必要だ。 つまり、いまの日本には、銃をもつ戦士だけでなく、こうした戦士がいなければならない。デジタル戦士が必要なのだ。デジタル戦士は、いますぐ現場に出かけて、戦闘に当たらなければならない。 しかし、日本では、もともとIT人材が不足している。経済産業省が公表した「IT人材需給に関する調査」(2019年3月)によると、2030年には最大約79万人のIT人材が不足する見込みだ』、「日本では、もともとIT人材が不足している」だけに、特にその傾向が顕著な「医療機関」では深刻だ。
・『多重下請け構造が、危険な状況を引き起こす  では、PCやスマートフォンを使うのは危険だから、こうしたものは一切使わないことにしたらどうか?そうすれば安全だろうか? そうとも言えないことがわかった。 6月に、尼崎市で、全市民約46万人分の個人情報が入ったUSBメモリの紛失事故が起きた。 市から業務を受託した会社から再々委託を受けた会社の社員が、市民の個人データをUSBメモリに記録。そのUSBメモリを入れたカバンを持ったまま帰宅途上で飲酒し、路上で寝込んで、かばんごと紛失したというのだ。 幸いにして、メモリは回収されたが、仮にこの情報がダークサイドに流出していたら、一般の市民が脅迫されるような事態が起こっても不思議はない。日本のIT人材には、こうした人もいるのである。 こうした事故が起きる大きな原因が、日本のIT業界の多重下請け構造だ。発注元にデジタル人材がいないので、丸投げになり、それがつぎつぎに下請けされて、コントロールできなくなる。今回も、市の許可なしに、再々委託が行われていたという。 つまり、問題の根幹は、デジタル人材の不足だ。必要なのは、最先端の技術を開発することだけではない。様々なレベル様々な問題のIT専門家が必要である。セキュリティー対策の人材は、中でも必要性が高い人材だ』、「尼崎市」での「USBメモリの紛失事故」の背景には、「発注元にデジタル人材がいないので、丸投げになり、それがつぎつぎに下請けされて、コントロールできなくなる。今回も、市の許可なしに、再々委託が行われていたという。 つまり、問題の根幹は、デジタル人材の不足だ」、なるほど。
・『デジタル田園都市国家構想とは、高齢者支援?  では、不足するIT人材を育成するために、政府は何をやっているだろうか? 政府は、6月1日、「デジタル田園都市国家構想実現会議」の会合を開き、基本方針案を取りまとめた。デジタル技術をいかした地域作りに貢献する中核的な人材を、国内の100の地域に配置するのだそうだ。 また、デジタル機器やサービスを利用する高齢者らを支援する「デジタル推進委員」を今年度中に全国で2万人以上確保するのだという。 「デジタル化が進んで高齢者が対応できないから、使い方を教える必要がある」という国の親心(子心?)は、分からなくはない。しかし、国の予算を使って進めるべきことかどうかには、疑問なしとしない。 緊急に必要なのは、サイバー攻撃に対処できる人材を大量に養成し、日本中の大企業、中小企業、零細企業で繰り広げられている戦闘に投入することではないか? そうした人材を育成する費用は、国が負担すべきだ。 防衛費を増額すべきだとの議論が始まっている。もし防衛費をGDPの2%にするなら、デジタル戦士の関連費用もその中に含めるべきだ。少なくとも、人材の育成に必要な経費は、そうだ』、「緊急に必要なのは、サイバー攻撃に対処できる人材を大量に養成し、日本中の大企業、中小企業、零細企業で繰り広げられている戦闘に投入することではないか? そうした人材を育成する費用は、国が負担すべきだ」、賛成だ。
・『220万人もいる休業者の有効活用を図るべきだ  デジタル戦士の育成は、金だけあればできるものではない。人材が必要だ。では、「人手不足」が言われる日本で、人材はいるのだろうか? 実は、余るほどいるのである。 それは、「休業者」だ。休業者とは、仕事をせずに休業し、給料もらっている人たちのことだ。休業者の総数は、2022年4月時点で約220万人。これは完全失業者よりも多い。 これほど休業者が多くなっているのは、コロナ禍で雇用調整助成金の特例措置が拡充されて、休業手当のほとんどをカバーするようになったからだ。特例措置は2020年に導入された後、何度も何度も延長され、現在もまだ存在している。そして、支給額の総額は、5兆円を超えた。 休業の多くは、働く意思を持ちながら、何の仕事もしていない。また、他の仕事に転職するための就職活動も行っていない。こうして、貴重な労働力が放置されている。 政府もこれを問題視し、就職支援する活動を始めている。ただし、対象は介護が中心だ。しかも、対象人員が約2万人と、休業者の1%程度でしかない。 仕事をする能力を持ちながら仕事をしていない人々が、220万人もいるのだ。それらの人々の中には、再教育すればデジタル人材になり得る人が大勢いるだろう。 そうした再教育プログラムを国費を用いて開始してデジタル戦士を育成し、日本のデジタル安全保障を確固たるものにすべきだ』、「休業者の総数は、2022年4月時点で約220万人」、「それらの人々の中には、再教育すればデジタル人材になり得る人が大勢いるだろう。 そうした再教育プログラムを国費を用いて開始してデジタル戦士を育成し、日本のデジタル安全保障を確固たるものにすべきだ」、同感である。

第三に、9月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したイトモス研究所所長の小倉健一氏による「河野太郎氏が激怒「役所でZoomは制限」なのが中国リスクだけでない残念な事情」を紹介しよう。この記事は、会員限定だが、登録すれば月5本までは無料で読める。
https://diamond.jp/articles/-/310451
・『河野太郎デジタル相は以前、オンライン会議ツール「Zoom」を仕事で使えないことに対して、Twitter上で怒りをあらわにしていた。その後、国会議員と各省庁のやりとりなど一部で解禁の動きがあったものの、なお利用は制限されている。理由の一つは、海外でも懸念が伝えられる「中国リスク」だ。ただ、それとは別にもう一つ、日本独自の残念な事情もあった』、「日本独自の残念な事情」とは何なのだろう。
・『世界中で使われているZoomが霞が関では利用制限  オンラインコミュニケーションツールといえば、米マイクロソフトが提供する「Teams(チームズ)」や米グーグルの「Google Meet(グーグルミート)」などいろいろある。ただ代表格といえば、米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのサービス「Zoom(ズーム)」であろう(以下、社名はズーム、サービス名はZoomと表記する)。 同社は2011年に中国山東省の出身で米国籍を取得したエリック・ヤン氏によって設立された。他のコミュニケーションツールと比べて、ズーム独自のデータ圧縮技術に優れていたことから会議中の動画品質が安定し、シェア獲得に大きく貢献した。 EmailToolTesterが21年3月に発表したオンライン会議ツールの世界シェアの推計によれば、日本、米国、英国、カナダ、ニュージーランド、韓国などでZoomはシェア1位を獲得しているという。 Zoomは新型コロナウイルス禍にあって、世界中のビジネスシーンや大学・研究機関などで大活躍した。日本でも多くの人が利用したことであろう。 しかしこのZoomだが、霞が関、すなわち日本の官公庁では使用することができない。国会議員と各省庁のやりとりなど一部で解禁の動きがあったものの、なお利用は制限されている。 理由の一つは、海外でも懸念が伝えられる「中国リスク」だ。ただ、それとは別にもう一つ、日本独自の残念な事情もあった。これらの根深い二つの問題についてお伝えしたい。(これ以下は前述の月5本の限定無料)』、なるほど。
・『Zoomの利用制限に河野太郎氏がTwitterで激怒  霞が関でZoomの利用が制限されていることについて、デジタル相に就任した河野太郎氏は、過去にこんな怒りをあらわにしてきた。 「Zoomというと条件反射のようにガチャガチャ言い始める人がいるが、多くのオンライン上の国際会議はzoomも使う。もちろんみんな当たり前に機器を使い分けたり、話す内容を変えたりしている。なんでもかんでも『こいつはzoomを使ってる』等と言って騒ぐ人は、オンラインで何をどうやっているのだろう」(2020年12月31日・Twitter、原文ママ) 「アメリカの米国国家安全保障局長官兼米サイバー軍司令官も、普通にZoomを使ってオンライン対話をしている。サイバーセキュリティは、根拠を持ってやることが大切」(2021年1月12日・Twitter) 河野氏は、Zoomが日常的な業務において使えないことに不便を感じていたようだ。しかし、米国をはじめとする多くの西側諸国はズームに中国政府が影響力を持っているのではないかと疑っていて、安全保障上の懸念を抱いているのも事実だ。 米国に拠点を置く著名な中国人活動家グループが「天安門事件31周年」を記念するZoomイベントを開催したところ、そのアカウントが閉鎖されてしまった。ズームの広報担当者は、この処置を「中国の法律を順守するため」と説明。後日、アカウントは閉鎖が解かれた。 米ニュースサイト「AXIOS」に掲載された記事(20年6月11日付)によれば、下記のような報道があった。 「ズームの製品開発拠点の多くが中国にあり、一部のZoomの通話が誤って中国のサーバーを経由していたことを同社は認めている」 「カナダのトロント大学の研究機関であるシチズンラボは、Zoomのセキュリティプロトコル(通信規約)に重大な懸念があることを発見したと述べた。また、ズームが中国に多くの労働力を抱えていることから、中国当局の圧力に反応しやすい可能性があると指摘した」 「台湾政府は安全保障上の懸念からZoomの公式使用を禁止し、米ニューヨーク州の学校や米国上院、ドイツ外務省も使用を控える、あるいは制限している」』、「「アメリカの米国国家安全保障局長官兼米サイバー軍司令官も、普通にZoomを使ってオンライン対話をしている。サイバーセキュリティは、根拠を持ってやることが大切」、分かった上で使っているようだ。ただ、多くは警戒的なようだ。
・『Zoomが取り沙汰される中国リスクの中身  ズームへのこうした懸念に対して、米セキュリティソフトウエア会社RSAセキュリティの関係者はこう打ち明ける。 「ズームは米カリフォルニア州に本社を置き、創業者であるヤン氏は米国籍を持っているが、中国・北京の強い影響下にあることが報道されてきた」 「中国での事業展開を許可された外国企業は、発言内容を規定する厳格な規則を順守する必要がある。また、ソーシャルメディア上の発言者をパトロールするインターネット上の治安組織にデータを提供しなければならない。各国のセキュリティ担当者は、Zoomの取り扱いを慎重に行うべきだ」 他にも、日経クロステックが転載した米ウェブメディア「The Intercept」の記事『ビデオ会議「Zoom」の暗号化は機密情報に不適切、中国との関係を研究者が警告』(20年4月10日)では、ズームと中国共産党のつながりに懸念を示すレポートが紹介されている。前出のシチズンラボが20年4月に掲載した「Move Fast and Roll Your Own Crypto」というレポートだ。 その内容について同記事は、以下のように報じている(二重かぎかっこ内は同レポートからの引用部分、社名の表記のみ「Zoom」から「ズーム」に変更した)。 「ズームのサービスは『機密情報に適しておらず』、ズームは中国政府に対して暗号鍵を公開するよう法律上義務付けられている可能性があるほか、同社が中国政府から圧力をかけられている」 「トロント大学Citizen Labが調べたところ、73ある鍵管理システムのうちの5つが中国に設置されているようだった」 「(米国とカナダに住む2人の研究者が)Zoomの会話をテストしてみたところ、会議で使われる共有暗号鍵が『中国北京に置かれたZoomサーバーによってTLSで暗号化した上で、もう一方の会話の参加者に送られていた』」』、やはりセキュリティ上は問題がありそうだ。
・『Zoom利用制限の裏に中国リスク以外の残念な事情  一般論だが、中国当局と強い関係がある企業の中には、「バックドア」と呼ばれる「中国当局による侵入ができる仕掛け」がソフト内に組み込まれている恐れがあるという指摘もある。 Zoomが霞が関で制限されているのは、こうした懸念が背景にある。ただ、より直接的な原因は、「ISMAP」(イスマップ、と読む)と呼ばれる「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」における資格取得を行っていないためだ。 「ISMAP」という言葉を初めて聞いた人もいるだろうから、簡単に説明をしておこう。安全保障上の理由から、政府や霞が関は安い、使いやすいからといって、何でもかんでも好きなソフトを使っていいわけではない。 そこで政府が民間企業に求めている基準がISMAPだ。これに記されている基準を満たし、認定されなければ、政府や霞が関では、そのソフトを使ってはいけないことになっている。) オンラインメディア「ZDNet Japan」が報じたズーム日本法人幹部のインタビュー記事(21年6月9日)によると、ズームは、「中国を敵視する米国の地政学的な動きによって、同社に対するネガティブなイメージが広まるなどの影響が出た」(佐賀文宣・ZVC Japanカントリーゼネラルマネージャー〈当時〉)という。そのことから、ISMAPについても「2021年中の認定取得に向けた対応を進めているという」と同記事内で報じられたが、これまでISMAPの取得はできていない。 ズームがISMAPを取得できていない理由について、デジタル庁の関係者はこう話す。 「ISMAPは1000項目以上という極めて細かいレベルの評価基準がある。この評価を受けるためには、1回当たり毎年数千万円、場合によっては1億円もの外部監査機関への支払いが必要だ。アメリカなどの諸外国と比べても過剰な項目数で、政府調達の足かせとなってきた」 「ズームと中国の関係はセキュリティ当局にとっても深い懸念材料だが、ISMAPの異常さによって、Zoomの霞が関導入は見送られていることになる」 「他方、政府側も利便性の観点から、機密性が低い用途については、自主的な判断でZoomの使用を黙認するケースが増えてきた。リスクを承知で使うのは、各省庁の判断というのが政府の言い分だ」 「しかし、リスクはあると言いながら、どんなリスクがあるのかと政府に聞いても、『中国の関与が疑われるから』などという説明は表立ってできないために、ムニャムニャと言葉を濁すばかり。非常に危険な状態だ」』、「ISMAPは1000項目以上という極めて細かいレベルの評価基準がある。この評価を受けるためには、1回当たり毎年数千万円、場合によっては1億円もの外部監査機関への支払いが必要だ。アメリカなどの諸外国と比べても過剰な項目数で、政府調達の足かせとなってきた」、欧米以上に厳しいのであれば、問題だ。「他方、政府側も利便性の観点から、機密性が低い用途については、自主的な判断でZoomの使用を黙認するケースが増えてきた。リスクを承知で使うのは、各省庁の判断というのが政府の言い分だ」、「政府」としてはそうするほかなさそうだ。
・『安全保障上の中国リスクとISMAPの過剰さは別問題  何とも不思議ないきさつではあるが、本来であれば、中国に対する安全保障上の懸念とISMAPの問題点は、それぞれにクリアしていなければならない話である。 「中国製品は調達しません」と政府が公言することは、世界貿易のルール上できない。しかし例えば、台湾有事が起きたときなどに、中国がバックドアを利用して日本の中枢を破壊しようとしてくる懸念は消えない。では、どうやったら実効性のある安全保障を構築できるのか。 その一方で、ISMAPの異常な基準によって、日本企業も含めたソフトウエア会社が霞が関の調達に参入しづらくなってしまっているのも事実だ。ISMAPをクリアできたがために、聞いたことがない会社が使いにくいソフトを霞が関に展開すると、迷惑するのは中央官僚だ。業務効率が著しく落ちるのは目に見えている。 この異なる二つの問題点の改善を早急に望みたい』、「ISMAPは1000項目以上という極めて細かいレベルの評価基準がある。この評価を受けるためには、1回当たり毎年数千万円、場合によっては1億円もの外部監査機関への支払いが必要だ。アメリカなどの諸外国と比べても過剰な項目数で、政府調達の足かせとなってきた」のであれば、少なくとも欧諸国並みにするべきだろう。なお、「ISMAP」についての政府のサイトは、ISMAPポータルだ。https://www.ismap.go.jp/csm
タグ:情報セキュリティー・サイバー犯罪 (その9)(尼崎市USBメモリー紛失問題 大炎上した情報サービス会社「BIPROGY」の正体、今の日本はサイバー攻撃の絶好の対象 緊急・大量に必要な「デジタル戦士」はこうやって集めろ、河野太郎氏が激怒「役所でZoomは制限」なのが中国リスクだけでない残念な事情) 「マルウエアは、防御の弱い中小企業にまず侵入し、サプライチェーンの上流にいる大手への攻撃の踏み台にしているのだ。 トレンドマイクロの今年1~3月の被害約5万2000件のうち、8割超が日本国内で発生し、その多くが中小企業だという」、「欧米では、防御態勢が強くなってきた。ところが、日本は、警戒心も防御態勢も弱い。このため、犯罪集団は、最近、日本をターゲットとして攻撃を急増させている」、困ったことだ。 「「建設業界は元受け、下請け、孫請け、ひ孫請けのピラミッド構造になっている。実は、IT業界もまるっきり同じ。業務を丸投げするのが“常識”だ。この丸投げのほころびが露呈したかたちだ」、「尼崎市の稲村和美市長(49)は「契約違反があった」との見解を示し、一連の経緯を「損害賠償請求を検討する」。「平岡社長の首は風前のともしびだ」。 日刊ゲンダイ 有森隆氏による「尼崎市USBメモリー紛失問題 大炎上した情報サービス会社「BIPROGY」の正体」 お粗末極まる事件だ。 「ビプロジーは・・・4月1日に日本ユニシスから社名変更したばかり」伝統ある会社だ。「「紛失したのは再委託先の社員」としてきた説明をひるがえし、実際には、再委託先からさらに委託を受けた企業の社員だった。再委託は市の許可が必要と定められているが、市は「再委託、再々委託のいずれもビプロジー側から報告がなかった」としている」、 野口 悠紀雄氏による「今の日本はサイバー攻撃の絶好の対象、緊急・大量に必要な「デジタル戦士」はこうやって集めろ」 現代ビジネス 「システムをインターネットから隔離していた」が、「保守用回線が外部とつながっており、そこが侵入口となった」、「仕様が古い電子カルテシステムを動かすため、セキュリティー対策に必要な機能が意図的に無効にされていた」、「攻撃者に侵入されても分からず、防御が効かないという、かなりずさんな状態だった」、 「徳島県のつるぎ町立半田病院」では、「システムをインターネットにつながず、隔離」、「身代金を支払」えとの「要求」があったが、「身代金の支払いは拒否し、ベンダーにサーバーを借りて新たな環境を構築し、同じ電子カルテシステムを稼働させることで対処したが、費用は約2億円かかった。そして、約2ヶ月間、病院は麻痺状態に陥った」、「身代金」は「約2億円」以上であれば、「要求」に従った方が損失が少なくて済みそうだ。 「日本の医療・福祉施設は、「エアギャップ」でシステムを守っているケースが多いのだが、破られている。実際、21年には、医療・福祉施設のランサムウエア被害が7件、警察庁に報告」、「エアギャップを破る方法はいくつも開発されており、例えば、電力線を通じてハッキングすることも可能」、油断は禁物のようだ。 「日本では、もともとIT人材が不足している」だけに、特にその傾向が顕著な「医療機関」では深刻だ。 「緊急に必要なのは、サイバー攻撃に対処できる人材を大量に養成し、日本中の大企業、中小企業、零細企業で繰り広げられている戦闘に投入することではないか? そうした人材を育成する費用は、国が負担すべきだ」、賛成だ。 「尼崎市」での「USBメモリの紛失事故」の背景には、「発注元にデジタル人材がいないので、丸投げになり、それがつぎつぎに下請けされて、コントロールできなくなる。今回も、市の許可なしに、再々委託が行われていたという。 つまり、問題の根幹は、デジタル人材の不足だ」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン 「日本独自の残念な事情」とは何なのだろう。 小倉健一氏による「河野太郎氏が激怒「役所でZoomは制限」なのが中国リスクだけでない残念な事情」 「休業者の総数は、2022年4月時点で約220万人」、「それらの人々の中には、再教育すればデジタル人材になり得る人が大勢いるだろう。 そうした再教育プログラムを国費を用いて開始してデジタル戦士を育成し、日本のデジタル安全保障を確固たるものにすべきだ」、同感である。 ズームは中国政府に対して暗号鍵を公開するよう法律上義務付けられている可能性があるほか、同社が中国政府から圧力をかけられている」 「トロント大学Citizen Labが調べたところ、73ある鍵管理システムのうちの5つが中国に設置されているようだった」 「「アメリカの米国国家安全保障局長官兼米サイバー軍司令官も、普通にZoomを使ってオンライン対話をしている。サイバーセキュリティは、根拠を持ってやることが大切」、分かった上で使っているようだ。ただ、多くは警戒的なようだ。 「(米国とカナダに住む2人の研究者が)Zoomの会話をテストしてみたところ、会議で使われる共有暗号鍵が『中国北京に置かれたZoomサーバーによってTLSで暗号化した上で、もう一方の会話の参加者に送られていた』」』、やはりセキュリティ上は問題がありそうだ。 「ISMAPは1000項目以上という極めて細かいレベルの評価基準がある。この評価を受けるためには、1回当たり毎年数千万円、場合によっては1億円もの外部監査機関への支払いが必要だ。アメリカなどの諸外国と比べても過剰な項目数で、政府調達の足かせとなってきた」、欧米以上に厳しいのであれば、問題だ。 「他方、政府側も利便性の観点から、機密性が低い用途については、自主的な判断でZoomの使用を黙認するケースが増えてきた。リスクを承知で使うのは、各省庁の判断というのが政府の言い分だ」、「政府」としてはそうするほかなさそうだ。 「ISMAPは1000項目以上という極めて細かいレベルの評価基準がある。この評価を受けるためには、1回当たり毎年数千万円、場合によっては1億円もの外部監査機関への支払いが必要だ。アメリカなどの諸外国と比べても過剰な項目数で、政府調達の足かせとなってきた」のであれば、少なくとも欧諸国並みにするべきだろう。なお、「ISMAP」についての政府のサイトは、ISMAPポータルだ。https://www.ismap.go.jp/csm。
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村上ファンド関連(その4)(異端児ではなくなった「村上ファンド」、村上ファンドVSゼネコン 水面下で蠢く攻防戦 中堅・準大手株を相次いで取得 狙いは何か、割安ゼネコンランキングで見る買収危機 西松建設騒動で最後に笑ったのはみずほと村上系?、村上世彰が15億円の課税を巡り敗訴 “アウト”とされた村上氏の手口とは、多額の“手切れ金”支払いへ…村上グループに株買い占められた「セントラル硝子」の覚悟) [企業経営]

村上ファンド関連については、2017年7月3日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その4)(異端児ではなくなった「村上ファンド」、村上ファンドVSゼネコン 水面下で蠢く攻防戦 中堅・準大手株を相次いで取得 狙いは何か、割安ゼネコンランキングで見る買収危機 西松建設騒動で最後に笑ったのはみずほと村上系?、村上世彰が15億円の課税を巡り敗訴 “アウト”とされた村上氏の手口とは、多額の“手切れ金”支払いへ…村上グループに株買い占められた「セントラル硝子」の覚悟)である。

先ずは、2019年1月21日付け日経ビジネスオンライン「異端児ではなくなった「村上ファンド」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00008/011800003/
・『アクティビストと呼ばれる物言う株主が存在感を増している。彼らは経営陣を突き上げて株主還元や再編を求め、株価を引き上げようとする。かつて世間を騒がせた村上世彰氏の動きも再び活発になってきた。 17年近く前、村上ファンドを率いる村上世彰氏を取材していた際、「異端児だな」と感じた覚えがある。当時、村上氏はアパレル大手の東京スタイル(現TSIホールディングス)と株主総会でのプロキシーファイト(委任状争奪戦)の真最中だった。時価総額を上回るほど潤沢な内部留保をため込んでいた東京スタイルに、大幅な増配や自社株買いを求めていたのだ。 資本の論理から考えると「企業価値を高めるために正しいことを求めている」(村上氏)という主張は、その通りだろう。だが当時、ほかの株主から同調する機運があまり感じられなかった。「ロジックは彼の主張の通りなのかもしれない。でも強欲な村上氏に賛同したと思われたくもないしね」。ある大手運用会社の首脳はこう語っていた。 村上氏は市場、世の中に登場するのが早すぎた。この時の村上氏は結局、プロキシーファイトで敗れている。それから17年あまり。村上氏の行動は何も変わっていないようだ。日経ビジネスの1月21日号特集「2019年M&A大予測」でも触れた通り、資本の論理を御旗に、資本効率がいいとは言い難い様々な企業の株を買っては、経営陣に論戦を吹っ掛けている。 最近もレノやC&Iホールディングス、オフィスサポートといったファンドは実質的に村上氏が率いているとみられる。現代版「村上ファンド」とも言える様々な投資主体を使い、新明和工業や日本郵船などの株を買い増している。「日本企業を変えたい」。もし村上氏に今、動いている動機を聞けば、昔と何も変わらない答えが返ってくるのだろう。 しかし、村上氏を取り巻く環境は変わった。アクティビストの存在は村上氏だけではなくなった。カール・アイカーン氏や米エリオット・マネジメントを率いるポール・シンガー氏など、ときに村上氏より激しい態度すら見せるアクティビストが日本企業の株主となり、要求を突きつける時代になった。 そして決して「物言わぬ株主」だった国内の機関投資家も、コーポレートガバナンス・コードが改定されたこともあり、資本の論理に見合った要求なら、それがたとえアクティビストの要求であろうが賛成するようになった。「モノの言いよう」で反感を買うことはいまだにあるかもしれない。だが村上氏の論調は決して異端児ではないのだ。 そして現代のアクティビストたちは、単なる株主還元などの要求にとどまらず、もっとスケールの大きな業界再編などの「ディール」を求めることも多い。電子部品専門商社の黒田電気がアジア系投資ファンドに買収されて昨年、上場を廃止したのも、半導体商社のUKCホールディングスが同業のバイテックホールディングスとの経営統合を昨年決めたのも、ともに村上ファンドの突き上げを受けてのもの。アクティビストの存在がM&A(合併・買収)につながるケースがどんどん増えている』、「アクティビストの存在は村上氏だけではなくなった。カール・アイカーン氏や米エリオット・マネジメントを率いるポール・シンガー氏など、ときに村上氏より激しい態度すら見せるアクティビストが日本企業の株主となり、要求を突きつける時代になった」、「「物言わぬ株主」だった国内の機関投資家も、コーポレートガバナンス・コードが改定されたこともあり、資本の論理に見合った要求なら、それがたとえアクティビストの要求であろうが賛成するようになった」、「現代のアクティビストたちは、単なる株主還元などの要求にとどまらず、もっとスケールの大きな業界再編などの「ディール」を求めることも多い」、やはり「村上ファンド」は「異端児ではなくなった」ようだ。

次に、2020年9月11日付け東洋経済オンライン「村上ファンドVSゼネコン、水面下で蠢く攻防戦 中堅・準大手株を相次いで取得、狙いは何か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/374587
・『「ついにきたか」。大手ゼネコンの幹部は、そう言葉に力を込めた。 通商産業省(現経済産業省)OBの村上世彰氏が率いた旧村上ファンド。「モノ言う株主」として知られたこのファンドの流れを汲む投資会社や機関投資家が目下、ゼネコンへ攻勢をかけている。 村上系ファンドのシティインデックスイレブンスやオフィスサポートなどは9月9日、中堅ゼネコンである大豊建設の保有株式に関する変更報告書を提出した。報告書によると、村上系ファンドの9月2日における保有割合は11.82%になる。 村上系ファンドは5月7日までに大豊建設株を取得し、5.12%を保有。以降も複数回にわたって取得と処分を繰り返していた。保有目的は「経営陣へ助言、重要提案行為等を行う」としている』、「ついにきたか」と言うからには、狙われてもやむを得ない面があったといことだろう。
・『潤沢なキャッシュに着目  旧村上ファンドの流れをくむ投資会社は他のゼネコンにも触手を伸ばしている。4月3日には旧村上ファンド出身者が設立した投資ファンドのストラテジックキャピタルが、関西に地盤を置く淺沼組の株式を買い増し、10.1%を保有。4月17日にはシティインデックスイレブンスなどが準大手ゼネコンである西松建設の株式を取得し、5.09%を保有した。 村上系ファンドがゼネコン業界の株式保有を増やしてきたのは、今回が初めてのケースになるようだ。冒頭のゼネコン幹部は「厳しい応酬になることを覚悟している」と警戒感をあらわにする。 村上系ファンドは各社の潤沢なキャッシュや保有資産に目をつけたとみられる。ゼネコン業界はここ数年、東京五輪関係施設や道路・橋梁の補強工事需要などを受け、活況を呈していた。野村證券の前川健太郎シニアアナリストは、「大きな投資が必要な産業ではないこともあり、(業界全般に)業績拡大につれてキャッシュがたまっている状況だった」と語る。 例えば、大豊建設の2020年3月期末の現預金は302億円と、月商の2.2倍ある。同時点の投資有価証券も、住友不動産や京浜急行電鉄株など67億円を所有している。西松建設も同時点で、住友不動産や松竹株など投資有価証券553億円を所有し、総資産の1割超を占める。 株価が割安な点でも共通する。大豊建設の9月8日時点の株価は2794円。PBR0.73倍で、時価総額487億円にすぎない。西松建設は株価1993円、PBR0.55倍で、時価総額は1107億円。淺沼組は株価4270円、PBR0.87倍、時価総額344億円だ。村上系ファンドにとっては、現預金が豊富で割安となれば”狙いやすい水準”と言える。 3社とは別の準大手ゼネコン社員は「株価が安くて、現金や株を持っている。昔の体質から抜け出せず、配当性向もたいして上げず、政策目的の保有株式も減らさないゼネコンもある。そういう会社はファンドに狙われて当たり前」と指摘する』、「「ゼネコン」は「株価が安くて、現金や株を持っている。昔の体質から抜け出せず、配当性向もたいして上げず、政策目的の保有株式も減らさないゼネコンもある。そういう会社はファンドに狙われて当たり前」(準大手ゼネコン社員)、なるほど。
・『業界再編の可能性も  3社とも借入金が少なく、自己資本比率は約40%と財務は良好だ。事業もマンション工事に偏らず、土木、建築工事をバランスよく手掛けている。経営が比較的健全な側面も、村上系ファンドの標的となった理由であるようだ。 では、村上系ファンドは次にどう出るのか。 投資ファンドの要求は一般的に、自己株取得や配当増などの株主還元の強化のほか、社外取締役の増員などがある。実際、ストラテジックキャピタルは淺沼組に対し、6月26日の定時株主総会で政策保有株式の売却や配当の増加を求める株主提案を行った(議案は否決)。 大豊建設や西松建設に対する具体的な要求は現時点では明らかになっていないが、前川氏とは別のアナリストは「キャッシュの使い道が1つの論点になる可能性はある」と指摘する。 株価の上昇を狙い、業界再編を仕掛けることも想定される。村上系ファンドが2015年にエレクトロニクス商社の黒田電気と対立した際、村上氏は「プレーヤーが多すぎる。業界再編が必要」と主張。2005年には村上系ファンドによる阪神電気鉄道株の取得が、電鉄の統合会社である阪急阪神ホールディングス誕生と阪急、阪神両百貨店統合のきっかけとなった。 村上系ファンドの手法に詳しい業界関係者は、「再編を引き金にするのが村上系ファンドの手法のひとつ。ゼネコンは再編が進んでいないこともあり、ファンド側が仕掛けることはあるだろう」と語る。 ゼネコン業界では鹿島と竹中工務店が技術連携を進めるなど包括連携の枠組みが広がりつつある。また、全国に約46万もの建設業者が存在し、中小・零細企業が多いことから「経営が非効率」と指摘されることもある。村上系ファンドの仕掛けをきっかけに、連携拡大や再編が進む可能性はある』、「全国に約46万もの建設業者が存在し、中小・零細企業が多いことから「経営が非効率」と指摘されることもある。村上系ファンドの仕掛けをきっかけに、連携拡大や再編が進む可能性はある」、全体として効率化が進めば、日本経済にとっても望ましい。
・『対応に追われるゼネコン各社  ゼネコン各社は村上系ファンドの対応に追われている。大豊建設は「個別案件なので回答できない」としているが、5月に策定した中期経営計画で配当性向30%以上(2020年3月期実績は25.3%)、臨機応変な自己株式の取得を株主還元の方針として掲げた。 西松建設も「個別の株主についての質問には回答を控える」と口を閉ざすが、すでに会社幹部がファンド側と接触したもよう。淺沼組は目下のところ、「四半期に1度の頻度でファンド側とミーティングしている。要求などに対して)受け入れられるところは受け入れていく」(広報担当者)としており、2020年3月末で純資産の19%ある政策保有株式残高を、2022年3月期までに10%未満まで削減する方針を打ち出した。 ゼネコン株を狙うモノ言う株主としては、イギリスの年金運用会社のシルチェスター・インターナショナル・インベスターズが戸田建設株を13.1%、奥村組の株式を11.88%保有している。 ゼネコンは内需関連株にもかかわらず、外国人保有比率が約2~3割と比較的高い企業が多い。村上系ファンドの攻勢をきっかけに株価上昇や業界再編などの動きが出てくれば、さらに外国人投資家の関心は高まるかもしれない。 村上系ファンドも今後、影響力向上を狙って既存出資先の株式を買い増すことやスーパーゼネコンを含めた他社の株式を取得することも考えられよう。「戦いはまだ始まったばかり」と冒頭の大手ゼネコン幹部。この先、一波乱も二波乱もありそうだ』、「「戦いはまだ始まったばかり」と冒頭の大手ゼネコン幹部。この先、一波乱も二波乱もありそうだ」、要注目だ。

第三に、2021年12月4日付けダイヤモンド・オンライン「割安ゼネコンランキングで見る買収危機、西松建設騒動で最後に笑ったのはみずほと村上系?」の無料部分を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/288614
・『物言う株主である村上世彰氏のグループが、保有する西松建設の株の3分の2超を手放した。この騒動で西松は莫大な株主還元を迫られた。関係者は結局得をしたのは村上系、そしてみずほ銀行であると指摘する。特集『ゼネコン 地縁・血縁・腐れ縁』(全15回)の#6では、キャッシュリッチで株価が割安な“お買い得”ゼネコンをランキング。ゼネコン株はまだまだ狙われるのか、この先を探った』、第二の記事の事実関係のその後の展開をこれで見てみよう。
・『アクティビスト騒動で西松は苦しみ、笑ったのは…  村上世彰氏が実質的に率いる投資ファンドが、複数の準大手や中堅のゼネコンの株を買い進めていることが昨年ごろから注目を集めるようになった。村上系は物言う株主(アクティビスト)であり、ターゲットになった準大手の西松建設は、株主還元の大胆な拡大や、成長事業への投資を強く求められた。 結果、西松建設は村上系の要求を受け入れ、配当の“大盤振る舞い”で応じることとなった。また9月から10月にかけて、総額544億円となる自社株の株式公開買い付け(TOB)を実施した。 自社株TOBは村上系との合意で行われたもので、村上系はこれに応じて25.0%保有していた西松建設株のうち、3分の2強を売却。現在の持ち分は報告義務発生日の11月12日時点で7.24%に下がった。両社は村上側が全株を売却する契約を結んでおり、残りは市場に放出される。 取りあえずの“縁切り”にこぎ着けたとはいえ、一連の騒動は西松建設にとって終始苦しいものだった。対して「最後に笑ったのは村上系」、そしてみずほ銀行であると準大手ゼネコン幹部は言う。(以下は有料)』、ここでは、「みずほ銀行」の関与は説明されてないので、よくわからないが、少なくとも「村上系」は「「最後に笑」えたようだ。
なお、「大豊建設」は、2022年3月にセメント製造の麻生の子会社になったようだ(日経新聞)。

第四に、2021年5月27日付けデイリー新潮「村上世彰が15億円の課税を巡り敗訴 “アウト”とされた村上氏の手口とは」を紹介しよう。
・『一般には馴染みがないけれど、「判例時報」は法律家必読の専門誌である。 「新しい判例など、注目すべき事件を毎号紹介しており、裁判所の考えを知る上でも同誌は欠かせません」(大手法律事務所に所属する弁護士) その判例時報の5月1日号に紹介されたのが、「X社」と国税当局の行政訴訟だ。そこには、また、X社の支配株主としてA氏なる人物も登場する。 「判決は昨年9月に東京地裁で出されたものですが、X社は『レノ』という会社です。レノはかの“村上ファンド”の関連会社の一つで、A氏とは投資家の村上世彰氏のこと。この裁判でレノは、約15億円分の課税を取り消すように求めていました」(同) 経緯はこうだ。村上氏は2011年にシンガポールに移住する際、東京にあるレノに164億円を貸し付けた。年利は14・5%。レノはこの金利分を“損金”として計上し、法人税額をゼロ円として申告した。まず、その狙いを国税庁担当の記者が解説する。 「村上氏はシンガポール移住にあたって国内の資産も移そうと考えていたのですが、うまくいかなかった。そこで考えたのがレノへの貸付による“資産フライト”だったと見られています。実際これによって村上氏は約24億円の利息を得ています」 ところが、東京国税局はこれを見逃さなかった。レノと村上氏の関係を2年かけて追跡し「過少資本税制」を適用したのだ。海外法人が日本の子会社の税負担を減らすために、わざと過大な貸付を行うことを阻止するもので、追徴税を課したのである。レノは、これを不服として訴えていたワケだ。 が、判決はレノの敗訴。 前出の弁護士によると、 「レノ側は、貸付があった時点で村上氏はまだシンガポールに転居しておらず、レノの株を直接保有しているわけでもない、つまり、過少資本税制にある『国外支配株主等』にあたらないと主張していました。しかし、裁判所は村上氏が実質的に国外からレノを動かしていたと認定したのです。過少資本税制が争われた事件としては初めての判例と言えるでしょう」 もっともレノ(村上氏)は、この判決に納得しておらず、本件は控訴審でなお係争中だという』、「裁判所は村上氏が実質的に国外からレノを動かしていたと認定」、「15億円の課税」でも納得せず、「控訴」したとは驚かされた。

第五に、本年9月29日付け日刊ゲンダイが掲載した経済ジャーナリストの重道武司氏による「多額の“手切れ金”支払いへ…村上グループに株買い占められた「セントラル硝子」の覚悟」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/312056
・『またしても「グリーンメーラー」に屈する形となる。村上世彰氏が主導する投資会社に食いつかれて苦吟していた国内ガラス3位のセントラル硝子が最大500億円にのぼる自己株TOB(株式公開買い付け)の実施を決めた。10月20日までの間、1428万株余りを上限に1株当たり3500円で買い付ける。 シティインデックスイレブンスや南青山不動産など村上氏系投資会社は2018年からセントラル株を買い集め、9月12日時点で発行株の30.2%、約1205万株を取得している。村上氏側は保有全株をTOBに応募することでセントラル経営陣と合意しており、最終的には「約422億円のキャッシュがその懐に転がり込んでくる」(金融関係者)格好だ。 TOBの対象となるのは発行株の約35%(既保有自己株を除く)。買い付け資金は主力行であるみずほ銀行からの借り入れや自己資金で賄う。「配当性向30%」の原則は維持する方針のため、流通株などの減少に伴い23年3月期の年間配当は期初予想の75円から115円へと40円増配となる見通しだ。 セントラルによれば同社は村上氏側の大量保有が明らかになって以降、企業価値向上策について「たびたび協議の場を設けてきた」という。こうした中、今年7月になって村上氏側が利益の柱となっている化成品事業の同業他社との統合やMBO(経営陣が参加する企業買収)による株式非公開化を提案。「資金調達や人材確保の面でデメリットが大きい」として反発するセントラル経営陣との間で交渉がこじれていた。 その結果、手元流動性の悪化や自己資本の目減りを覚悟しても「この際、村上氏との関係を断ち切った方が経営の自由度を高められる」(幹部)と判断。“手切れ金”を支払うことにしたもようだ。 村上氏は最近、西松建設や大豊建設などゼネコン各社の株を大量取得。 「無理難題を吹きかけたうえ、事実上、高値で買い取らせ、多額のキャッシュをせしめてきた」(事情通) 今回、そのいけにえにセントラルも加えられたことになる。 セントラルは今年5月で海外ガラス事業から全面撤退。国内も生産集約など構造改革を迫られている。“異物”を排除しても、厳しい経営環境は「当分、続く」(市場関係者)との見方が大勢だ』、そもそも「村上ファンド」のような「ファンド」に目をつけられるような、過大な手元流動性の積み上げなどの経営をしていたことに元々の原因があった。「村上ファンド」のえげつないやり方には、反感も覚えるが、非効率な経営が「ファンド」の圧力で是正されたのは望ましいことだ。
タグ:(その4)(異端児ではなくなった「村上ファンド」、村上ファンドVSゼネコン 水面下で蠢く攻防戦 中堅・準大手株を相次いで取得 狙いは何か、割安ゼネコンランキングで見る買収危機 西松建設騒動で最後に笑ったのはみずほと村上系?、村上世彰が15億円の課税を巡り敗訴 “アウト”とされた村上氏の手口とは、多額の“手切れ金”支払いへ…村上グループに株買い占められた「セントラル硝子」の覚悟) 村上ファンド関連 「ついにきたか」と言うからには、狙われてもやむを得ない面があったといことだろう。 東洋経済オンライン「村上ファンドVSゼネコン、水面下で蠢く攻防戦 中堅・準大手株を相次いで取得、狙いは何か」 「「戦いはまだ始まったばかり」と冒頭の大手ゼネコン幹部。この先、一波乱も二波乱もありそうだ」、要注目だ。 「全国に約46万もの建設業者が存在し、中小・零細企業が多いことから「経営が非効率」と指摘されることもある。村上系ファンドの仕掛けをきっかけに、連携拡大や再編が進む可能性はある」、全体として効率化が進めば、日本経済にとっても望ましい。 「「ゼネコン」は「株価が安くて、現金や株を持っている。昔の体質から抜け出せず、配当性向もたいして上げず、政策目的の保有株式も減らさないゼネコンもある。そういう会社はファンドに狙われて当たり前」(準大手ゼネコン社員)、なるほど。 「現代のアクティビストたちは、単なる株主還元などの要求にとどまらず、もっとスケールの大きな業界再編などの「ディール」を求めることも多い」、やはり「村上ファンド」は「異端児ではなくなった」ようだ。 「アクティビストの存在は村上氏だけではなくなった。カール・アイカーン氏や米エリオット・マネジメントを率いるポール・シンガー氏など、ときに村上氏より激しい態度すら見せるアクティビストが日本企業の株主となり、要求を突きつける時代になった」、「「物言わぬ株主」だった国内の機関投資家も、コーポレートガバナンス・コードが改定されたこともあり、資本の論理に見合った要求なら、それがたとえアクティビストの要求であろうが賛成するようになった」、 日経ビジネスオンライン「異端児ではなくなった「村上ファンド」」 ダイヤモンド・オンライン「割安ゼネコンランキングで見る買収危機、西松建設騒動で最後に笑ったのはみずほと村上系?」 日刊ゲンダイ 「裁判所は村上氏が実質的に国外からレノを動かしていたと認定」、「15億円の課税」でも納得せず、「控訴」したとは驚かされた。 デイリー新潮「村上世彰が15億円の課税を巡り敗訴 “アウト”とされた村上氏の手口とは」 ここでは、「みずほ銀行」の関与は説明されてないので、よくわからないが、少なくとも「村上系」は「「最後に笑」えたようだ。 そもそも「村上ファンド」のような「ファンド」に目をつけられるような、過大な手元流動性の積み上げなどの経営をしていたことに元々の原因があった。「村上ファンド」のえげつないやり方には、反感も覚えるが、非効率な経営が「ファンド」の圧力で是正されたのは望ましいことだ。 重道武司氏による「多額の“手切れ金”支払いへ…村上グループに株買い占められた「セントラル硝子」の覚悟」 第二の記事の事実関係のその後の展開をこれで見てみよう。
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高齢化社会(その20)(「70代以降は1カ月でも油断したらアウト…」急に要介護になる人に共通する"ある失敗" 「ダラダラ生活」「前頭葉の萎縮」「意欲の低下」負のスパイラルの怖さ、和田秀樹氏が「認知症は病気ではない」と断言する納得の理由「病気なら薬で改善したり進行を止められるが…」 『老人入門 - いまさら聞けない必須知識20講 -』より #1) [社会]

高齢化社会については、9月1日に取上げた。今日は、(その20)(「70代以降は1カ月でも油断したらアウト…」急に要介護になる人に共通する"ある失敗" 「ダラダラ生活」「前頭葉の萎縮」「意欲の低下」負のスパイラルの怖さ、和田秀樹氏が「認知症は病気ではない」と断言する納得の理由「病気なら薬で改善したり進行を止められるが…」 『老人入門 - いまさら聞けない必須知識20講 -』より #1)である。

先ずは、9月3日付けPRESIDENT Onlineが掲載した精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授の和田 秀樹氏による「「70代以降は1カ月でも油断したらアウト…」急に要介護になる人に共通する"ある失敗" 「ダラダラ生活」「前頭葉の萎縮」「意欲の低下」負のスパイラルの怖さ」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60656
・『80歳や90歳になっても活動的で元気いっぱいの高齢者が増えている。一方で、現役時代はやり手だったのに、まるで“抜け殻”にでもなったかのように意欲が減退してしまう人もいる。老年医学の専門家である和田秀樹さんは「脳機能、運動機能の維持は、実は70代の過ごし方がカギを握っています」と指摘する。新著『70歳から一気に老化する人しない人』より、70歳からの「生き方戦略」を特別公開する──。(第2回/全2回) ※本稿は、和田秀樹『70歳から一気に老化する人しない人』(プレジデント社)の一部を再編集したものです』、「70歳からの「生き方戦略」とは興味深そうだ。
・『「70代の過ごし方」がその後の元気を左右する  人生100年時代の「長い老い」の期間を健やかに過ごすためには、まずは脳の機能をいかに保つかが重要です。あわせて、70代の時点で持っている運動機能を、80代以降もいかに長持ちさせるかが大切になってきます。 カギとなるのは「70代の過ごし方」です。 70代前半までであれば、認知症や要介護になっている人は、まだ1割もいません。けがをしたり、大病を患わずらったりしなければ、中高年時代のように、たいていのことはできるはずです。 この人生最終盤の活動期にしっかり意識して過ごすことで、脳も体も、若さを保つことができますし、その後、要介護になる時期を遅らせることも可能になるのです。元気な80代へとソフトランディングしていくためには、とても大切な時期といえます』、「70代」、「この人生最終盤の活動期にしっかり意識して過ごすことで、脳も体も、若さを保つことができますし、その後、要介護になる時期を遅らせることも可能になるのです。元気な80代へとソフトランディングしていくためには、とても大切な時期といえます」、現在の「70代」が「大切な時期」のようだ。
・『「老いと闘う時期」と「老いを受け入れる時期」  今後は、「老い」を2つの時期に分けて考えることが求められていると私は考えています。それは、70代の「老いと闘う時期」と、80代以降の「老いを受け入れる時期」です。 どんなに抗あらがおうと、老いを受け入れざるをえない時期が、80代以降に必ずやってきます。そのときを迎えてもなお、若さを求めて老いと闘っていては、結局、挫折感に苛さいなまれるだけです。 80代になり、85歳を過ぎたくらいからは、誰かの手を借りることも多くなっていきます。そのときこそ、ありのままの自分の老いを受け入れる時期と考えたほうがいいでしょう。 だからといって、80歳を過ぎて老いた自分に失望したり、「老い」を嫌悪したりする必要はありません。むしろ、大病で命を落とすこともなく、事故にあうこともなく、天寿をまっとうしていく途中だからこそ、老いに直面している──そう考えてもいいのではないでしょうか』、「80歳を過ぎて」、「大病で命を落とすこともなく、事故にあうこともなく、天寿をまっとうしていく途中だからこそ、老いに直面している──そう考えてもいいのではないでしょうか」、このように前向きに捉えるようにしたいものだ。
・『老化の最大の“敵”は「意欲の低下」  70代においては、人々はより元気になり、まだまだ老いと闘うことのできる時期になった、といえるでしょう。元気でいようと努力することは、70代においては効果もありますし、大いに意味があることだと私は考えます。 いまの70代は若々しくなってきたとはいえ、この年代ならではのリスクもたくさん抱えています。その最たるものが「意欲の低下」です。 脳機能、運動機能の維持には「使い続ける」ことが重要です。たとえば、40代、50代の人が何もせずにゴロゴロと寝て暮らすような生活をしたとしても、ただちに脳機能や足腰が衰えることはまずありませんが、70代の人がそれをやるとすぐに衰えてしまいます。 70代というのは、意欲的に身体を動かしたり、頭を使ったりしないと、すぐに要介護になってしまうリスクを抱えているのです』、「70代というのは、意欲的に身体を動かしたり、頭を使ったりしないと、すぐに要介護になってしまうリスクを抱えている」、そういうリスクを抱えていることを前提に行動する必要があるようだ。
・『身体も頭も「使い続ける」こと  これは多くの高齢者自身もわかっていることですが、しかし実際に「使い続ける」ことを実践できる人はそう多くありません。 なぜなら、頭では理解していても、70代になってくると意欲の低下が進み、活動レベルが低下してくるからです。何事にもやる気が湧かず、興味が持てなくなって、人に会うのも億劫おっくうになり、出不精になる傾向も出てきます。 実は、この「意欲の低下」こそ、老化でいちばん怖いことなのです。病気やけがをきっかけに老け込んでいくということもありますが、加齢とともに意欲の減退が要因となって一気に年老いていくのです。 こうした「意欲の低下」が顕著になるのが、まさに70代といえます。つまり、70代から80代に向けて元気に過ごすことができるかどうかは、「70代においていかに意欲の低下を防ぐか」にかかっているのです』、「70代から80代に向けて元気に過ごすことができるかどうかは、「70代においていかに意欲の低下を防ぐか」にかかっている」、やはり「70代」が重要なようだ。
・『70代は「引退」などしてはいけない  定年延長や定年後の再雇用など、高齢者になっても働く環境が整備されつつありますが、それでも70代ともなれば、現役時代に長年勤めていた会社を退職している人が多いのではないでしょうか。 70代に一気に老け込む人の典型は、仕事をリタイアしたときから、あらゆる活動をいっぺんにやめてしまうというケースです。 これまで懸命に働いてきたのだから、退職したらもう何もせず家でゴロゴロ過ごしたいと、退職の日を指折り数えて待っている人までいます。 しかし、70歳まで現役で仕事をしていた人が、退職後の生活で何をするか考えることなくリタイアすると、一気に老け込んでしまうことが多いのです。 働いていれば、日々、それなりの知的活動や他者とのコミュニケーションがあり、さまざまな出来事にも遭遇することになります。しかし、ただ家で過ごしているだけでは、そういった脳の活動はなくなり、認知症のリスクが高まるだけです』、「70歳まで現役で仕事をしていた人が、退職後の生活で何をするか考えることなくリタイアすると、一気に老け込んでしまうことが多いのです」、「ただ家で過ごしているだけでは、そういった脳の活動はなくなり、認知症のリスクが高まるだけです」、その通りのようだ。
・『70代は油断すると1カ月で衰える  働いているときは、デスクワークのような仕事であっても、通勤などで思っている以上に体を使っているものです。 ところが、退職してから家にこもりがちになってしまうと、70代の人なら1カ月もすれば、運動機能がずいぶんと落ちてしまいます。 それが前頭葉の老化を加速させ、前頭葉が萎縮いしゅくすると意欲がなくなる──。まさしく負のスパイラルに陥おちいってしまいます。 そうならないためにも、退職を迎えたら、これまでの仕事の代わりに次に何をやるのか考えて、事前に準備をしておくことが大切です。 「退職して、しばらくゆっくりしてから次のことを考えよう」などと思っていると、ダラダラと時間を過ごす生活にいつの間にか流されて、それが習慣になってしまいかねません。 寿命が延びて、90歳、100歳まで生きるこれからの時代は、「引退する」という考え方自体が、老後生活のリスクになりえます。引退など考えずに、いつまでも現役の市民であろうとすることが、老化を遅らせて、長い老後を元気に過ごす秘訣ひけつです』、「退職してから家にこもりがちになってしまうと、70代の人なら1カ月もすれば、運動機能がずいぶんと落ちてしまいます。 それが前頭葉の老化を加速させ、前頭葉が萎縮いしゅくすると意欲がなくなる──。まさしく負のスパイラルに陥おちいってしまいます」、「負のスパイラル」とは恐ろしい。
・『できる範囲で一生続ける、新しいことを始める  現在は年金も少ないですから、何か新しい仕事を始めることも1つの選択でしょう。金銭的な面だけでなく、老化を遅らせるという面から見ても、退職後に、また新しい職場で働き始めるのはとてもいいことです。 臨床心理士になって第2のキャリアを得ようとするようなケースもあるでしょうし、昔から夢だった喫茶店やバーのマスターになるなどということもありうるでしょう。私の場合は、残りの人生を映画監督として生きていけないかと模索しています。 何かの商店主をやっている人、建築士や税理士など資格を取得して70代まで仕事を続けてきたような人が、「××歳を機に仕事をやめる」と宣言することがよくありますが、そのような選択はけっして得策ではありません。 農業や漁業、また職人のような仕事もそうですが、自分が「やめる」と決めない限り、続けられるような仕事であるならば、身体がもつ限り、できる範囲で一生続けることが老化を遅らせるためのいい方法です。 勤め人であっても、役職からは外されるかもしれませんが、「働く」ということからは引退する必要などありません。アルバイトや契約社員など、どのような形態であっても、「仕事」を通して社会との関わりを持ち続けることが、活動レベルを落とさず、若々しくいるための秘訣だと私は思います』、「どのような形態であっても、「仕事」を通して社会との関わりを持ち続けることが、活動レベルを落とさず、若々しくいるための秘訣だ」、綿の場合は、現役退職後は、数年前まで大学で非常勤講師をしていたが、現在は社会とのつながりは、私的な勉強会とこのブログ程度だ。
・『「定年後の起業」も選択肢になる  定年後に損をしない範囲で起業に挑戦することも、70代をアクティブに過ごすうえではよい手段です。さまざまなハードルがあった昔とは違い、いまでは資本金1円からでも株式会社を設立できるようになりました。 また、いまはインターネットの時代ですから、優れたアイディアさえあれば、やりたいことは何でもできる環境が整っています。 ただし、私が定年後起業の指南を専門に行っているコンサルタントに聞いたところ、定年後に起業して成功する人は、40代から50代のうちに計画をスタートさせた人にほぼ限られるそうです。定年のタイミングで計画を立て始める人はまず成功しないという話でした。 やはり、ある程度は前頭葉が若く、柔軟な思考ができるうちに計画を立てることが大切で、そうでないと現実のビジネスの世界では通用しない、ということなのでしょうか。 さらに、40代、50代から起業を考えている人の場合は、在職中に起業後に役立つ人脈作りに勤しみ、仕事で知り合う人たちとのつき合い方もそれなりに考えたものにするのでしょう。定年後に起業計画を立て始めたところで、もはやその遅れを取り戻せないという要因も大きいようです』、「定年後に起業して成功する人は、40代から50代のうちに計画をスタートさせた人にほぼ限られるそうです。定年のタイミングで計画を立て始める人はまず成功しないという話でした」、その通りだろう。
・『社会と関わる方法は「仕事」だけではない  退職後も社会と関わっていくという意味では、もちろん「仕事」がすべてではありません。 町内会の役員や、マンションの管理組合の役員、趣味の集まりの役職などでもいいのです。ボランティア活動も、退職後の社会参加としては1つの選択です。 誰かと協働し、誰かの役に立ったり、誰かに必要とされていると感じたりすることは、いつまでも現役意識を維持することに大いに役立つはずです。 70代になったら、ことさら「引退」などということは考えず、現役意識を維持することが大切です。それが、一気に老け込むことを防いでくれます』、「70代になったら、ことさら「引退」などということは考えず、現役意識を維持することが大切です。それが、一気に老け込むことを防いでくれます」、その通りだ。
・『「脳の萎縮」には要注意  よく「頑固な年寄り」という言い方をすることがあります。年をとって融通が利かなくなり、いつもムスッとしているような老人がいるとしたら、まさに前頭葉の萎縮が進んでいるのかもしれません。 この前頭葉の萎縮は、実は40代からすでに始まっています。医学の教科書に載っている脳の解説図のような、頭蓋骨の内側に隙間なく脳の組織が詰め込まれている「きれいな」脳の状態を、とくに努力もせず維持できるのは30代が限界です。 萎縮がどんどん進んでいくと、50代、60代くらいから「思い込みが激しくなった」「頑固になった」「怒りっぽくなった」といった傾向が少しずつ出てきます。 70代になるとこの傾向がさらに強くなるばかりか、何事にもやる気が出なくなります。これまでやっていたこともやらなくなり、会っていた人にも会わなくなり、家にこもりがちで不活発な生活になっていきます。 そうならないためにも、前頭葉の老化を防ぎ、意欲レベルを維持することが重要です』、「前頭葉の老化を防ぎ、意欲レベルを維持することが重要です」、さもないと「萎縮がどんどん進」むという恐ろしいことになるようだ。
・『「変化のある生活」を心がける  前頭葉の老化を防ぐには、「変化のある生活」をすることがいちばんです。前頭葉とは、想定外のことに対処するときに活性化する部位だからです。逆にいえば、毎日、単調な生活を繰り返していると、前頭葉は活性化せず、衰えてしまいます。 仕事やボランティア、趣味の集まりなど、外に出かける用事を生活の中に組み込むことが、単調な生活を送らないためにもっとも簡単な解決策です。用事で外出すれば誰か人に会いますし、思いがけない出来事に遭遇することもありますから、必然的に前頭葉を使います。 それ以外にも、日々の生活にどうすれば「変化」を取り入れられるか、常に考えて実践に移してみることです。 手間がかかるもの、大掛かりな準備が必要なものなどは避けて、まずはちょっとしたことから、生活に変化を作ってください。簡単なものであれば、いくつになっても新しい体験を生活に組み入れられるはずです』、「手間がかかるもの、大掛かりな準備が必要なものなどは避けて、まずはちょっとしたことから、生活に変化を作ってください。簡単なものであれば、いくつになっても新しい体験を生活に組み入れられるはずです」、同感である。

次に、9月15日付け文春オンラインが掲載した精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授の和田 秀樹氏による「和田秀樹氏が「認知症は病気ではない」と断言する納得の理由「病気なら薬で改善したり進行を止められるが…」 『老人入門 - いまさら聞けない必須知識20講 -』より #1」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/57328
・『人は誰もが老いるのだが、「老い」とか「老化」についてはよくわからない、よく知らないという人も多いのではないだろうか? 老いに対する正しい知識がないと過度に不安になったりして、不幸な老い方をしてしまう可能性もある。 ここでは、老年医学の専門家・和田秀樹氏が「これだけは知っておかないともったいない」という必須知識をまとめた『老人入門 - いまさら聞けない必須知識20講 -』(ワニブックス)から一部を抜粋。「認知症は病気ではない」と話す和田氏の“認知症の捉え方”を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)』、興味深そうだ。
・『認知症は老化現象のひとつで病気ではない  「認知症にだけはなりたくない」と考えている人は多いと思います。 「歳を取るのも身体が弱ってくるのも仕方ない。でも認知症になって何もできなくなるのだけは厭だ」「家族にも迷惑をかけるし誰からも相手にされなくなる。晩年が認知症じゃ、幸せな人生とは思えない」 そういう不安に捕まってしまうと、ますます高齢になっていくことへの心細さが膨らんでくるでしょう。 そこでまず、持たなくていい不安に振り回されないためにも、認知症についての正しい知識をいまのうちにしっかりと身につけておきましょう。ポイントはふたつです。 (1)認知症は老化現象の1つである (2)老化だからゆっくり進み、個人差も大きい 認知症を恐れる人は徘徊したり妄想がひどくなって暴れるような高齢者を想像してしまいます。あるいは何もわからなくなって身のまわりのこともできないような状態です。  「ああいうふうになったらおしまいだな」と思えば、どんなによぼよぼになっても認知症にだけはなりたくないと考えてしまいます。 でも認知症は病気ではないとするのが私の考え方です。症状は現れるけど、あくまで老化現象のひとつであって、高齢になれば筋肉が落ちて足腰が弱るとか、視力や聴力が衰えるのと同じです。病気なら薬で改善したり進行を止めることもできますが、老化現象となれば薬では治せません。 徘徊や妄想は認知症の周辺症状と呼ばれます。認知症になれば全員に徘徊や妄想が現れるのでなく、まったく現れない人もいれば現れてもすぐに収まる人もいます。置かれている環境や周囲の接し方、あるいは本人の受け止め方によっても違ってくるのです。  そのかわり老化現象ですから、高齢になればほとんどの人が認知症になります。ざっくばらんに言ってしまうと、テストをすると、 80代後半でおよそ4割、90歳を超えると6割の人は認知症と診断されてしまいます。 私は高齢者専門の病院に長く勤務して数多くの解剖結果を見てきましたが、85歳以上の高齢者で脳にアルツハイマー型認知症の変性(神経原線維変化や老人斑)がない人はいませんでした。つまり老化現象として脳の変性は避けられません。あとは症状が現れるか、現れないかの違いだけです。 「いずれはボケるとしても、85歳までは逃げ切りたいものだな」 逃げ切りましょう。ボケても少しぐらいなら自分で気がつかないときもありますから、90代でもニコニコしていれば周囲は気がつきません。「覚えてないの」と言われたら「認知症かな?」ととぼけ、覚えていることは「わかった、わかった」と言われるまで説明してあげましょう。結局、認知症なのか正常なのかウヤムヤのままに逃げ切ることができます』、「老化現象ですから、高齢になればほとんどの人が認知症になります。ざっくばらんに言ってしまうと、テストをすると、 80代後半でおよそ4割、90歳を超えると6割の人は認知症と診断されてしまいます」、「逃げ切りましょう。ボケても少しぐらいなら自分で気がつかないときもありますから、90代でもニコニコしていれば周囲は気がつきません。「覚えてないの」と言われたら「認知症かな?」ととぼけ、覚えていることは「わかった、わかった」と言われるまで説明してあげましょう。結局、認知症なのか正常なのかウヤムヤのままに逃げ切ることができます」、「逃げ切」るとは面白い考え方だ。
・『「なったらどうしよう」という不安が認知症の大敵  たとえ認知症の症状が現れたとしても、いきなり家族の顔もわからなくなるようなことはありません。よく「キャッシュカードも使えなくなる」と心配する人がいますが、暗証番号を忘れるようなことはかなり症状が進んだ状態でなければ起こりません。 もちろんもの忘れは認知症の初期のころでも起こります。  同時にもの忘れは誰にでもあります。 認知症のテストで最初に「桜、電車、鉛筆」とか3つの言葉を言われて「あとで質問しますから答えてください」というのがありますね。その後いろいろ質問されて、しばらく経ってから「3つの言葉は何でしたか」と聞かれれば「えーと」と答えたきり考え込む経験はたいていの人にあるはずです。ひとつは思い出せても残りが出てこないなんてザラにあることです。 それで日常生活に不便を感じたり支障があるかと言えばとくにありません。「さっき何か頼まれたけど何だっけ?」と思ったら「もう1回言ってくれ」で済むのです。 学者や弁護士のような知的な職業に就いている人でも、じつは認知症だったということがあります。自分の専門領域のことや過去から積み重ねて学習してきたことは忘れないからです。政治家でも認知症だったと後でわかったケースがあります。) たとえばロナルド・レーガン元アメリカ大統領は退任して5年後に自らのアルツハイマー病を告白しましたが、そのときのとんちんかんな症状を見る限り、大統領在任中にすでに記憶障害くらいは発症していたと思われます。初期のころならアルツハイマー病でも大統領が務まるのです。「記憶にございません」を連発する日本の政治家だって、あとで認知症がわかって「ああ、やっぱり」ということになるかもしれません。 つまり認知症というのは、初期のころならそれがただのもの忘れなのか記憶障害の症状なのか、本人も周囲も判別できない程度の軽い症状に過ぎず、しかもそういう状態が長く続きながらゆっくりと進行していくものだと受け止めてください。恐れたり慌てることはありません。 むしろ「認知症だったらどうしよう」と不安になって、思い出せないことや忘れてしまうことだけを気にしていると、前頭葉の老化が加速されたり不安に包まれて感情の老化も進んでしまいます。 最悪、気持ちが落ち込んでうつ状態になりかねません。後述しますが、高齢になると認知症よりうつ病のほうが怖いのです』、「認知症というのは、初期のころならそれがただのもの忘れなのか記憶障害の症状なのか、本人も周囲も判別できない程度の軽い症状に過ぎず、しかもそういう状態が長く続きながらゆっくりと進行していくものだと受け止めてください」、「むしろ「認知症だったらどうしよう」と不安になって、思い出せないことや忘れてしまうことだけを気にしていると、前頭葉の老化が加速されたり不安に包まれて感情の老化も進んでしまいます。 最悪、気持ちが落ち込んでうつ状態になりかねません。後述しますが、高齢になると認知症よりうつ病のほうが怖いのです」、「高齢になると認知症よりうつ病のほうが怖い」というのは、意外だ。
・『老いればだれでもボケる、ボケを飼い慣らしながら老いていこう  「やはりおかしい」と自分でも不安になったり、家族にも勧められて医者に診てもらい、はっきり認知症と診断されたとしても落ち込まなくて大丈夫です。 「私もとうとう」とショックを受けるかもしれませんが、認知症で寝込んだり体調が悪くなることはありません。急にできないことが増えるわけでもないし、相手の話を理解できなくなるわけでもないのです。 初期のうちはせいぜい、直近のことを忘れるという程度です。何年も前のことは覚えていても、ちょっと前のことを思い出せなくなります。細部を思い出せないのでなく、全体の記憶がスポッと抜けてしまいます。よく例に出されるのが昨日の夕食です。 「昨日の夕食には何を食べたか」と訊かれて思い出せないことは誰にでもあります。「何食べたっけ?」と必死で考えて「ああ、昨夜は自宅で久しぶりに妻の手作りの餃子を食べたんだ」と納得します』、「初期のうちはせいぜい、直近のことを忘れるという程度です。何年も前のことは覚えていても、ちょっと前のことを思い出せなくなります」、なるほど。
・『初期の認知症で困ることは何もない  ところが認知症がある程度進んだ後のもの忘れでは夕食を食べたことを忘れています。  全体の記憶がなくなっているのです。 「オレ、昨日晩ご飯食べたっけ?」となります。 「何言ってんの、私が餃子を手作りしたでしょ」と妻は機嫌悪くなりますが、「そうだった、美味しかったなあ」と思い出せなくても頷いていればいいのです。 道がわからなくなってもスマホのナビがあります。  待ち合わせの約束を忘れても相手が電話をかけてきます。 壁やカレンダーに予定を書き込んでおけばたいていのことは思い出します。 買い物に出るときにリストを作るのは誰でもやっていることです。初期の認知症で困ることは何もないし、ふつうの人と同じように生活できるのです。 そして認知症はゆっくり進行していきます。いつ発症したか周囲の人にも気がつかないくらいゆっくり始まり、「ほんとに認知症なの?」と疑う人がいるくらいしっかりした論理性や思考力を保ちながらも本人だけは「やっぱり以前とは違うな」と気がつきます。その程度です。 つまり認知症とはっきりわかっても慌てることはないし、悲観することもありません。  むしろ老いれば誰にでも訪れる症状のひとつに過ぎないのですから、老いを受け入れるつもりで認知症も受け入れてしまっていいと思います。悠然と構えて、ボケを飼い慣らしながら老いを楽しんでみる。嫌なことや都合の悪いことはとぼけてしまう。そういう割り切った暮らし方を心がけてください』、「老いれば誰にでも訪れる症状のひとつに過ぎないのですから、老いを受け入れるつもりで認知症も受け入れてしまっていいと思います。悠然と構えて、ボケを飼い慣らしながら老いを楽しんでみる。嫌なことや都合の悪いことはとぼけてしまう。そういう割り切った暮らし方を心がけてください」、そんな「割り切った暮らし方」が出来ればいいと願っている。
タグ:文春オンライン 「退職してから家にこもりがちになってしまうと、70代の人なら1カ月もすれば、運動機能がずいぶんと落ちてしまいます。 それが前頭葉の老化を加速させ、前頭葉が萎縮いしゅくすると意欲がなくなる──。まさしく負のスパイラルに陥おちいってしまいます」、「負のスパイラル」とは恐ろしい。 高齢化社会 (その20)(「70代以降は1カ月でも油断したらアウト…」急に要介護になる人に共通する"ある失敗" 「ダラダラ生活」「前頭葉の萎縮」「意欲の低下」負のスパイラルの怖さ、和田秀樹氏が「認知症は病気ではない」と断言する納得の理由「病気なら薬で改善したり進行を止められるが…」 『老人入門 - いまさら聞けない必須知識20講 -』より #1) 「80歳を過ぎて」、「大病で命を落とすこともなく、事故にあうこともなく、天寿をまっとうしていく途中だからこそ、老いに直面している──そう考えてもいいのではないでしょうか」、このように前向きに捉えるようにしたいものだ。 和田 秀樹氏による「「70代以降は1カ月でも油断したらアウト…」急に要介護になる人に共通する"ある失敗" 「ダラダラ生活」「前頭葉の萎縮」「意欲の低下」負のスパイラルの怖さ」 PRESIDENT ONLINE 「70代」、「この人生最終盤の活動期にしっかり意識して過ごすことで、脳も体も、若さを保つことができますし、その後、要介護になる時期を遅らせることも可能になるのです。元気な80代へとソフトランディングしていくためには、とても大切な時期といえます」、現在の「70代」が「大切な時期」のようだ。 「70歳からの「生き方戦略」とは興味深そうだ。 『70歳から一気に老化する人しない人』より、70歳からの「生き方戦略」 「70歳まで現役で仕事をしていた人が、退職後の生活で何をするか考えることなくリタイアすると、一気に老け込んでしまうことが多いのです」、「ただ家で過ごしているだけでは、そういった脳の活動はなくなり、認知症のリスクが高まるだけです」、その通りのようだ。 「70代から80代に向けて元気に過ごすことができるかどうかは、「70代においていかに意欲の低下を防ぐか」にかかっている」、やはり「70代」が重要なようだ。 「70代というのは、意欲的に身体を動かしたり、頭を使ったりしないと、すぐに要介護になってしまうリスクを抱えている」、そういうリスクを抱えていることを前提に行動する必要があるようだ。 「手間がかかるもの、大掛かりな準備が必要なものなどは避けて、まずはちょっとしたことから、生活に変化を作ってください。簡単なものであれば、いくつになっても新しい体験を生活に組み入れられるはずです」、同感である。 「前頭葉の老化を防ぎ、意欲レベルを維持することが重要です」、さもないと「萎縮がどんどん進」むという恐ろしいことになるようだ。 「70代になったら、ことさら「引退」などということは考えず、現役意識を維持することが大切です。それが、一気に老け込むことを防いでくれます」、その通りだ。 「定年後に起業して成功する人は、40代から50代のうちに計画をスタートさせた人にほぼ限られるそうです。定年のタイミングで計画を立て始める人はまず成功しないという話でした」、その通りだろう。 「どのような形態であっても、「仕事」を通して社会との関わりを持ち続けることが、活動レベルを落とさず、若々しくいるための秘訣だ」、綿の場合は、現役退職後は、数年前まで大学で非常勤講師をしていたが、現在は社会とのつながりは、私的な勉強会とこのブログ程度だ。 「老化現象ですから、高齢になればほとんどの人が認知症になります。ざっくばらんに言ってしまうと、テストをすると、 80代後半でおよそ4割、90歳を超えると6割の人は認知症と診断されてしまいます」、 最悪、気持ちが落ち込んでうつ状態になりかねません。後述しますが、高齢になると認知症よりうつ病のほうが怖いのです」、「高齢になると認知症よりうつ病のほうが怖い」というのは、意外だ。 「認知症というのは、初期のころならそれがただのもの忘れなのか記憶障害の症状なのか、本人も周囲も判別できない程度の軽い症状に過ぎず、しかもそういう状態が長く続きながらゆっくりと進行していくものだと受け止めてください」、「むしろ「認知症だったらどうしよう」と不安になって、思い出せないことや忘れてしまうことだけを気にしていると、前頭葉の老化が加速されたり不安に包まれて感情の老化も進んでしまいます。 老人入門 - いまさら聞けない必須知識20講 -』(ワニブックス) 和田 秀樹氏による「和田秀樹氏が「認知症は病気ではない」と断言する納得の理由「病気なら薬で改善したり進行を止められるが…」 『老人入門 - いまさら聞けない必須知識20講 -』より #1」 「逃げ切りましょう。ボケても少しぐらいなら自分で気がつかないときもありますから、90代でもニコニコしていれば周囲は気がつきません。「覚えてないの」と言われたら「認知症かな?」ととぼけ、覚えていることは「わかった、わかった」と言われるまで説明してあげましょう。結局、認知症なのか正常なのかウヤムヤのままに逃げ切ることができます」、「逃げ切」るとは面白い考え方だ。 「老いれば誰にでも訪れる症状のひとつに過ぎないのですから、老いを受け入れるつもりで認知症も受け入れてしまっていいと思います。悠然と構えて、ボケを飼い慣らしながら老いを楽しんでみる。嫌なことや都合の悪いことはとぼけてしまう。そういう割り切った暮らし方を心がけてください」、そんな「割り切った暮らし方」が出来ればいいと願っている。 「初期のうちはせいぜい、直近のことを忘れるという程度です。何年も前のことは覚えていても、ちょっと前のことを思い出せなくなります」、なるほど。
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株式・為替相場(その18)(24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている、円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった、為替介入でも止まらぬ円安 「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ) [金融]

株式・為替相場については、8月26日に取上げた。今日は、(その18)(24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている、円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった、為替介入でも止まらぬ円安 「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ)である。

先ずは、9月27日付け東洋経済オンラインが掲載した時事通信社解説委員の窪園 博俊氏による「24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/621273
・『政府と日本銀行は22日、急速に進む円安に歯止めをかけるため、1998年6月以来、約24年ぶりとなる円買い・ドル売り介入に踏み切った。 為替介入と言えば、デフレ圧力となった円高を阻止する円売りの為替介入を思い浮かべる読者が多いだろう。実は、頻度は少ないものの、わが国は何度か円買い介入も実施している。 ただし、今回の円買い介入は過去の介入とは意味合いが異なる。わが国にとっては変動相場制以降で初めてとなる「通貨防衛戦」の領域に突入したと考えられるのだ』、「変動相場制以降で初めてとなる「通貨防衛戦」の領域に突入した」、とは大げさな感じもあるが、確かにその通りだ。
・『「円売りが定番」だった為替介入の歴史  第2次世界大戦後は長らく、ドルの交換比率を一定にしたブレトン・ウッズ体制が続いた。それが1971年の「ニクソン・ショック」で変動相場制に移行した。 日本はそれまで1ドル360円の固定相場のもと、経済の実力と比べて大幅な円安を享受し、輸出主導で復興を遂げた。ニクソン・ショック後に急速に進んだ円高は、日本経済の実力相応の動きだったが、日本は円高を成長阻害とみなし続けた。 21世紀に入っても円高は執拗に進み、政府・日銀はたびたびドル買い・円売りの為替介入を行った。このため、為替介入と言えば「円売りが定番」となった。 過去半世紀近くの歴史を振り返ると、為替介入は円売りと円買いの双方向で実施されているが、頻度・規模とも圧倒的に前者が上回る。だからこそ、外貨準備高は円換算で180兆円台もの水準に積み上がった。 次に介入の目的である。円売り介入の目的は、経済に打撃となる「円高の阻止」に尽きる。これに対し、過去の円買い介入は「国際批判をかわすため」と「誤解を正すため」という2つの目的で実行された。 国際批判をかわす目的で介入した代表例は、1985年のプラザ合意時の円安ドル高の是正だ。当時のアメリカでは、ボルカー議長率いる連邦準備制度理事会(FRB)が悪性インフレを退治するために大幅な金融引き締めを断行。金利が上昇し、大幅なドル高となった。 同時に過度な円安が進行し、輸出好調の日本は対米中心に大幅な貿易黒字を計上した。その結果、日米間で深刻な貿易摩擦が起きた。日本はドル高を是正するために、円買い・ドル売りの協調介入を主導し、為替レートを輸出に不利な方向に自ら誘導した』、「国際批判をかわす目的で介入した代表例は、1985年のプラザ合意時の円安ドル高の是正だ」、当時は「日米間で深刻な貿易摩擦が起きた。日本はドル高を是正するために、円買い・ドル売りの協調介入を主導」、したのは確かだ。
・『国際批判を恐れ、たびたび円買い介入  当時の国際金融界では「貿易不均衡を是正するには為替の調整が有効である」と考えられていた。プラザ合意以降の相場は、ドル売り介入が効き過ぎて、これにブレーキをかけるドル買い・円売りの介入も行われたほど。しかし、日本の貿易黒字は円高が進行しても是正されず、欧米からの批判は続いた。 1990年代初頭にやや円安に振れた。と言っても140円程度のものだったが、貿易黒字増加への国際批判を恐れた政府・日銀は、円高にするための円買い介入を実施した。 財務省は1991年4月以降の介入実績を詳細に公表している。それによると、1991年5月~1992年8月までは断続的に円買い・ドル売り介入を実施し、総額は円換算で8000億円近くにのぼった。ニクソン・ショック後はもっぱら円高に歯止めをかけようとした政府・日銀だったが、80年代半ばから90年代前半は貿易黒字を国際的に批判され、自ら円高にするための円買い介入を行っていたのだ。 次に円買い介入を行ったのは1997~1998年である(総額は4兆円強)。これは金融危機に対応した日銀の潤沢な流動性供給が海外の投機筋から不健全なオペとみなされ、「悪い円安」が過度に進行したことに歯止めをかけるためだった。過去の記事にあるように、当時はなおも巨額の貿易黒字を稼ぐ力を有し、円安は一過性にとどまった。 そして今回の円買い介入だ。円安が進んだ要因は「内外金利差の拡大」と「貿易収支の赤字」というファンダメンタルズに沿ったものであり、金利差拡大を助長しているのは日銀の超金融緩和策だ。通貨の下落は金融緩和の効果であり、為替市場は日銀の意図に沿って正しく円安に動いている。 巨額の貿易赤字は「為替市場で恒常的なドル買い・円売りを招く」(大手邦銀アナリスト)とされ、もはや「輸出で稼げず、成長率が低下して低金利が常態化した日本の国力低下に沿った円安」(同)になっている』、「通貨の下落は金融緩和の効果であり、為替市場は日銀の意図に沿って正しく円安に動いている。 巨額の貿易赤字は「為替市場で恒常的なドル買い・円売りを招く」・・・とされ、もはや「輸出で稼げず、成長率が低下して低金利が常態化した日本の国力低下に沿った円安」(同)になっている」、なにやら寂しい限りだ。
・『円買い介入は無限に実行できない  ここで注意すべきは、介入はあくまでも「為替需給を一時的に締めるだけの対症療法に過ぎない」(日銀OB)ことだ。さらに、自国通貨高を阻止する介入は、自国通貨を無限に発行できるため、理論的には無限に介入できる。これに対し、自国通貨の下落を阻止する介入は保有外貨が上限となる。つまり、円安阻止の円買い介入は、円安の流れ自体を食い止められない上に、「集合すると圧倒的な規模になる投機筋に対し、有限の弾薬で立ち向かう」(同)ことになる。 政府・日銀としては、円安の反転を狙ったものではなく、円安の速度を緩める「スムージング介入」の意識が強いだろう。しかし、資本の自由な移動を容認する変動為替相場制のもとでは、為替市場の主体である投機筋は政府・日銀の都合など無視し、容赦なく利益を追求する。 円安が国力低下に沿ったトレンドなら、徹底的に円が売られると考えた方がいい。政府・日銀にとって望ましいシナリオは、近い将来にアメリカの利上げ局面が終わり、金利差の縮小観測が浮上し、円高に戻る事態であろう。 だが、根強いインフレでアメリカの金利が高止まり、円安・ドル高に歯止めがかからない場合、為替介入は消耗戦に陥る。外貨準備という弾薬の減少が顕著になると、介入規模は節約のために縮小せざるを得ない。そして、それを見越して投機筋の円売り攻勢が強まり、通貨価値の防衛戦に追い込まれる恐れもある。 これはまさに通貨防衛に失敗した国家がたどる運命と似通っている。政府・日銀はそうしたリスクがはらんでいることを自覚して投機筋と戦った方がいいだろう』、「自国通貨の下落を阻止する介入は保有外貨が上限となる。つまり、円安阻止の円買い介入は、円安の流れ自体を食い止められない上に、「集合すると圧倒的な規模になる投機筋に対し、有限の弾薬で立ち向かう」(同)ことになる。 政府・日銀としては、円安の反転を狙ったものではなく、円安の速度を緩める「スムージング介入」の意識が強いだろう」、「根強いインフレでアメリカの金利が高止まり、円安・ドル高に歯止めがかからない場合、為替介入は消耗戦に陥る。外貨準備という弾薬の減少が顕著になると、介入規模は節約のために縮小せざるを得ない。そして、それを見越して投機筋の円売り攻勢が強まり、通貨価値の防衛戦に追い込まれる恐れもある。 これはまさに通貨防衛に失敗した国家がたどる運命と似通っている。政府・日銀はそうしたリスクがはらんでいることを自覚して投機筋と戦った方がいいだろう」、同感である。

次に、9月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310373
・『円安を阻止するため、政府が24年ぶりとなる為替介入を実施した。しかしこれは、「二重の意味で無駄玉」だった。その理由をお伝えしたい。
・金融緩和継続の裏での為替介入はアクセルとブレーキを同時に踏む愚挙  何とも無駄で有害なことをしてくれた。9月22日に財務省が実施を決めた円買い・ドル売りの為替介入のことだ。筆者はこの介入を「無駄玉介入」と名付けることに決めた。 念のために補足すると、市場で介入を実施するのは日本銀行だが、介入を決めて指示するのは財務省である。日銀自身が為替市場への介入を決めるわけではない。 そればかりかこの日には金融政策決定会合が行われて、金融緩和政策を継続することが決まった。黒田東彦・日銀総裁は、日本経済は金融緩和を止めることが適当な状況ではないことと、従って今後しばらくの間は利上げが不適切であることを記者会見で丁寧に説明した。 日銀が金融緩和政策の維持に強い意思を見せたことは、外国為替市場では間違いなく円安材料であり、それは政策効果の一部でもある。しかし、財務省はこの日に円買い介入を行った。これは、アクセルを踏んでいる最中に、同時にブレーキを踏むような愚挙である。普通ならどちらかが間違っているし、直接的には介入を決めた人々が明白に「悪い」。 しかし、首相官邸か財務省の中やその近辺にいると思われる、世間の円安批判が気になる官僚や政治家にとっては、「何かやらないと気が済まない」心境だったのだろう。) 希望的な観測として、円安対策を一度やったという実績ができたので、関係者がこれで気が済んで「一回限りでやめてくれる」かもしれない。それだったら、「大人の解釈」として今回の無駄玉介入を大目に見てもいいと思う(この見解は甘すぎるかもしれないが、「皮肉」を言っているのだと分かってほしい)』、「アクセルを踏んでいる最中に、同時にブレーキを踏むような愚挙である。普通ならどちらかが間違っているし、直接的には介入を決めた人々が明白に「悪い」。 しかし、首相官邸か財務省の中やその近辺にいると思われる、世間の円安批判が気になる官僚や政治家にとっては、「何かやらないと気が済まない」心境だったのだろう」、「世間の円安批判が気になる官僚や政治家」向けの「介入」だったようだ。
・『日銀の金融緩和が続く限り為替介入は効かない  今回の介入は、円安への流れを止めるために行ったものだ。円安が生活に関連する物価上昇につながっていて、庶民の生活にマイナスの影響を与えているという認識に基づくものだろう。これを決めた当事者(例えば財務大臣)には、経済思考的には幼稚だが、ある種の「正義感」があったに違いない(そこがかえって厄介なのだが)。ただ、後で触れるがその正義感は、残念ながら実現手段を間違えている。 現在の円安は、米国を中心とする外国の金利が上昇する一方で、わが国の長短金利が低位にコントロールされている金融環境の差から、いわば「自然に」生じているものだ。この構造が変わらない限り状況が逆転することは期待しにくい。しかも、米国の金利はさらに上昇する可能性がある。 わが国の金融政策が緩和から引き締め方向に転換しない限り、円安の反転は難しい。 逆に、今はまだその時ではないが、わが国の金融政策の方向性が変われば、大幅な円高は簡単に実現するはずだ。円安に歯止めを掛ける手段はあるので、「円が無価値になる」というようなトンデモ本的な脅しに対する心配をする必要はない。 「金利を上げたら、何十円の円高になる」と軽々には言いにくいが、円高にすることだけに目的があるなら、手段はある。 ついでに言うなら、今回の無駄玉介入も、将来日本の金利が上昇した場合に、「あのときドルを売って円を買ったおかげでもうかった」という損得になる可能性は十分ある(だからといって、今の政策として正当化できるわけではないが)』、「現在の円安は、米国を中心とする外国の金利が上昇する一方で、わが国の長短金利が低位にコントロールされている金融環境の差から、いわば「自然に」生じているものだ。この構造が変わらない限り状況が逆転することは期待しにくい。しかも、米国の金利はさらに上昇する可能性がある。 わが国の金融政策が緩和から引き締め方向に転換しない限り、円安の反転は難しい」、その通りだ。
・『今回の為替介入には「限界」がある  今回の介入は、内外の金利環境を背景として起こるべくして起こっている自然な円安に抵抗するものであり、ドルを売って円を買う介入だ。そうである以上、原資となるドルが外貨準備に制約される。この2点から、「よく効くはずだ」とは言いがたい。 後者が具体的に懸念されるほどの円買い介入を続けると、それ自体が問題だ。ただ、メディアや日本政府を「カモ」としたい市場参加者が、円安批判を気にしている人たちをけしかけて追加の介入に引きずり込もうとする可能性がある。この点には少し注意したい(政策当局が、そこまで愚かだとは思いたくないが)。 もう1点注目に値するのは、今回の円安に対して米国からは文句が出ていないことだ。多額の対米貿易黒字を記録していたかつての状況や、ごく最近でもドナルド・トランプ大統領時代なら、「日本は円安で稼ごうとしている」と非難の矢が飛んできそうなところだ。しかし、歴史的な水準の円安になっても、現在そのことに対する米国からの批判はない。 米国自身の最大の問題がインフレだという事情もあろう。ただ、中国・ロシアに依存しないサプライチェーンの構築が必要な現在、日本にはその一翼を担うことが期待されていると考えることができる。 「日本よ、もう少し頑張ってくれてもいいぞ」と思われている可能性があるし、世界の政治・経済構造が冷戦時代的なものに少々戻ったという事情もあろう。ともあれ、為替市場の動向を考える上で「米国の意思」は極めて重要な要素だ。 ここまでの話を集約すると、今回の円買い介入は円安を阻止する効果が乏しい点において、まず「無駄玉介入」の名に値するということになる』、「今回の介入は、内外の金利環境を背景として起こるべくして起こっている自然な円安に抵抗するものであり、ドルを売って円を買う介入だ。そうである以上、原資となるドルが外貨準備に制約される。この2点から、「よく効くはずだ」とは言いがたい」、「歴史的な水準の円安になっても、現在そのことに対する米国からの批判はない」、「今回の円買い介入は円安を阻止する効果が乏しい点において、まず「無駄玉介入」の名に値するということになる」、その通りだろう。
・『「二重の意味で無駄玉」である理由 そもそも円安を阻止する必要がない  そして今回の介入は、二重の意味で「無駄玉介入」だ。その理由は、そもそも円安を阻止する必要がないからである。日本の経済が活性化し、多くの人の賃金が上がるような状況をつくるには、円高よりも円安の方が良い。 確かに、日本企業の生産は多くが海外にシフトしたので、かつてのように円安による輸出増加といった分かりやすいメリットは見えにくい。そして、賃金が十分上がらない中で、資源価格上昇に輪を掛ける円安が、企業のコスト上昇や、何よりも庶民の生活を圧迫している現実は存在する。 しかし、そこで思考を停止して円安悪玉論にくみするのはいかがなものだろうか。率直に言って、過去とその延長である現状を固定化しすぎた「非未来思考」に傾きすぎていないか。 日本の経済が活性化するには、日本国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況が望ましい。 では、日本国内で設備投資する場合、円安と円高ではどちらがいいか? 日本人の技術者を雇う場合、円安と円高のどちらがいいか? そもそも投資は、企業がもうかっているときともうかっていないときではどちらが活発か? 法人企業統計を見ると、当面の円安を背景に日本の企業は大いにもうかっている。 ついでにもう一つ問うが、日本の国力が衰えて円安になっていることを嘆く向きがあるが、国力が衰えた国にとって、自国通貨は高い方がいいのか、安い方がいいのか?』、「日本の経済が活性化するには、日本国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況が望ましい」、その通りだが、「日本の企業は大いにもうかっている」が「国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況」、とは程遠いのが現実だ。
・『アベノミクス開始当初と同じく今も日本には円安が求められている  「円高で苦しい方が、企業は工夫して頑張るはずだ」と思うのは、かつてまだ大いに成長力があった時代の日本がオイルショックを克服したことを懐かしむがごとき「無益な根性論」にすぎない。 日本の「将来への変化の方向」から考えると、円高よりは、円安の方がマシなのだ。特に企業人は、円安によるコスト高を嘆くばかりでなく、円安が提供している大きなビジネスチャンスをいかに生かすかを真剣に考えるべき時だ。 もともと、いわゆる「アベノミクス」が始まった時から、日本がデフレを脱却して成長力を回復するためには円安が求められていた。その事情は、現在も大きくは変わっていない。 日銀の黒田総裁は金融緩和の継続が適切だと「日銀の分をわきまえた」説明を丁寧に繰り返している(その「胆力」は大したものだと思う)。ただ、その適切性の中には、金融緩和がもたらす円安の効果も含まれていると考えるべきだ。 そもそも現在の円安は有効に利用するべきものであって、阻止すべきものではない。つまり手段としてだけでなく目的の点でも、今回の円買い介入は「無駄玉介入」だったと言えるのである』、「現在の円安は有効に利用するべきものであって、阻止すべきものではない」、「円安」を「有効に利用するべきもの」であることには、異論はないが、やれることは既にやっている筈で、追加的に利用するのはどうすれば可能なのだろう。
・『円安で困っている庶民の生活をどうするか?  「日本経済のマクロ的な成長のためには円安がいいかもしれないが、円安で困っている庶民の生活を捨てておくのか?」という議論はあり得るだろう。もちろん、庶民を捨てていいはずがない。 しかし、そのために為替レートを丸ごと円高にしようとするのは、考えとしてあまりに「雑」なのではないか。 端的に言って生活困窮者に対しては、給付金なり減税なりでより多くの可処分所得を持てるような再分配政策を強力に行う必要がある。為替レートに働きかけて、効果の乏しいところでお茶を濁されては困る。 アベノミクスの「3本の矢」として有名になった、「金融緩和」「積極財政」「成長戦略」は、いずれも必要であると同時に適切な政策だった。しかし、アベノミクスには残念ながら分配政策が欠けていた。 真剣に検討すべきは、一時の為替介入ではなく大規模な再分配政策だ。例えば、ベーシックインカムの実現を真剣に考えていい。ベーシックインカムは、丸ごと実現しなくとも部分的に実現することができる。また、「ベーシックインカム的政策」(子ども手当の支給や基礎年金の保険料の全額国庫負担など、方策は有望なものが複数ある)を実現するのでもいい。 政府には、「二重の意味で無駄玉」な為替介入などもう考えずに、広い範囲で継続的に実施される経済的弱者へのサポートを考えてほしい』、「真剣に検討すべきは、一時の為替介入ではなく大規模な再分配政策だ。例えば、ベーシックインカムの実現を真剣に考えていい」、これは為替政策・金融政策とはかなり離れたので、ここではこれ以上のコメントはしない。総じて、山崎氏とは、金融政策に対する見方は違うので、この問題でも違いが明確だった。

第三に、9月29日付け東洋経済オンライン「為替介入でも止まらぬ円安、「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/622359
・『止まらない円安に物価高。それに対して日本銀行は金融緩和を継続するのみ。政府は為替介入を実施したが、円安を招いている根本的な要因は何も変わっていない。 日本が抱える問題は何か、どう変わっていくべきなのか。日本や世界経済、金融市場分析を専門とするみずほ証券の小林俊介チーフエコノミストに話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは小林氏の回答)』、興味深そうだ。
・『Q:一部では政策転換の声もありましたが日本銀行は金融緩和継続を決定。一方で、アメリカでは景気後退懸念が出る中でFRB(米連邦準備制度理事会)は0.75%の連続利上げで引き締めを拡大しました。 A:市場では一部サプライズと受け止められたが、基本的にはノーサプライズだ。FOMC(連邦公開市場委員会)参加高官らは政策金利をできるだけ早く4%台に上げ、しばらく高い状態を維持すると言い続けていた。 一部では1%の利上げが予想されていたが、0.75%利上げでも早いペースであり、現在の消費者物価や雇用統計の動きを見ても、さらに加速させる理由はない。一方で、一部市場関係者は来年7月から利下げが始まると期待している中、来年は簡単に利下げしないと示したことでショックが起きた。ただFRBは事前のコミュニケーションどおりのことをやっているといえる』、なるほど。
・『日銀は市場の圧力に屈しない  日銀はなおさら事前のコミュニケーションどおりだ。従来から需給ギャップをプラスに転換して景気の足腰を強くし、過熱させてインフレにするために緩和を継続すると言っていた。一部外資系コミュニティで日銀は市場や世論の圧力に屈して政策変更するとの予想が出ていたこともあり、一部で誤解が広がった。 ただ、市場の圧力に屈して政策変更することは日銀の信頼性を傷つけることになりかねず最もやってはいけないことだ。市場が催促すればするほど日銀は政策変更しないことが今回改めて確認できた。 Q:日銀やFRBと市場で事前の意思疎通がうまくできていないのはなぜでしょうか。 A:過去、言ったこととやったことが異なったために信頼性を失ってきた面はある。FRBは昨年、インフレは一時的と緩和を続けてしまい、その巻き直しで現在急速な引き締めを行っている。出てくるデータに振り回されているとみられ、政策の一貫性への信頼性が低くなっている。 日銀も過去に消費者物価指数(CPI)の伸び率がマイナスだった際にイールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)の金利変動幅を広げ、実質的な引き締め政策を行ったことがある。また過去10年で金融緩和を維持するためにあらゆるロジックを重ねたため政策の全体像が見えづらくなっている。ミスコミュニケーションが発生しやすい状況にある。 Q:景気後退懸念がある中でのFRBの引き締めや、さらには円安や物価高の悪影響が出る中での日銀の緩和継続はそれぞれ正しい判断なのでしょうか。 A:FRBによるオーバーキル懸念があるのは事実だ。だが、現在アメリカのインフレ率が8%を超えている状況に対して政策金利はまだ3%台。もう少し上げる余地があるだろう。4.5~4.75%まで上げるべきとの見方が主流だが、5.5%まで上げる必要があるかもしれないし、4%がちょうどいいという可能性もあり、今は手探り状態なのは確かだ。 一方で日銀が金融緩和継続したことでインフレや円安を助長して日本経済を痛める可能性があるのも確かだ。かつては経済にプラスだった円安がマイナスになりつつあり、緩和継続が日本にとっていいことかわからなくなっている』、「日銀が金融緩和継続したことでインフレや円安を助長して日本経済を痛める可能性があるのも確かだ」、その通りだ。
・『金融緩和継続の目的を検討し直す必要  まず緩和は金融経済にプラスであり、株式や債券、不動産の価格高騰を助長し、輸出企業や商社は潤う。一方で輸入負担が増加することで家計や内需産業にはマイナスとなり、格差拡大要因になる。 かつては貿易収支が黒字だったためよかったが、今は貿易赤字のため円安になると支払金額が増えるデメリットが目立ってしまう。そもそも日本企業は長年の円高対策で海外現地生産を拡大するなど為替リスクを下げてきた。さらに国内労働人口が減少していることもあり、有効求人倍率はコロナ禍でも1.3倍と慢性的な人手不足だった。どんどん生産して輸出ができる状態でもない。 (小林俊介氏の略歴はリンク先参照) かつては円安進展後に短期的に貿易収支が悪化した後に黒字に向かって上昇するJカーブ効果があったが、リーマンショック以降にはその効果は検出できなくなっている。円安だから国内で生産した財を輸出して経済が伸びるという構図ではなくなった。 Q:日銀の金融政策は見直す必要がありますか。 A:格差拡大効果だけが強く出ているなら、状況や課題を鮮明にして、この金融緩和は何を目的に継続しているかを検討し直す必要がある。 (黒田東彦日銀総裁の任期は来年4月までなので)次の総裁の下でフレームワークを一度整理して、この10年間で積み上がってしまった金融政策をゼロベースで検証してきれいに組み直すことが必要になる。ただ、その際に黒田時代のすべてを否定して政策を変更していくべきではない。) Q:どういうことですか。 A:すべての政策はベネフィットに対してコストも発生するのでそのバランスの検証が重要だ。日銀の量的緩和に関しては日本国債だけでなくETF(上場投資信託)の購入も行い、金融機関の収益に打撃を与えるマイナス金利の導入や、金融市場の価格発見機能を阻害するYCCなど劇薬を複数使っている。それなりのコストと引き換えに緩和を行っている。 とは言え、ジェンガを無理矢理引っ張るように、ETFを来月から全部売る、今日でYCCをやめるなど急な引き締めをやっては、これまで行ってきた緩和効果がすべて水泡に帰す。YCCは現在のように厳しい範囲でする必要があるか、マイナス金利だけはあまり意味なかったのでやめてもいいのではないか、ETF購入は本当に企業の設備投資や雇用を活性化したかなどを1つひとつ検証してコストに見合うベネフィットがなければ徐々に政策をやめていけばいい。 黒田総裁に代わってアベノミクスや黒田政策が始まったときは、金融緩和が不十分だと思われた白川方明前総裁時代へのアンチテーゼの色合いが強かった。その結果として黒田総裁はやりすぎた面があったかもしれない。一方で、黒田氏の政策でよかった面もあるはずで、10年前と同様に逆サイドに振りきる政策転換をしないよう気をつけるべきだ』、「逆サイドに振りきる政策転換をしないよう気をつけるべき」、には同意できるが、私は出口戦略を密かに検討しておくべきと考える。
・『中央銀行の独立性の意義が問われる  Q:物価高や円安の影響が出てきて日銀の政策が問題視されている中で、国民感情に左右されずに冷静に変われるかが焦点ということですか。 A:まさにそのとおりで、中央銀行の独立性の意義も問われている。本来、政府の財政政策や雇用・労働政策と中央銀行の金融政策は一体で調整されるほうが最適なはずだが、あえて独立性を担保しようとしている理由の1つは、政治が国民感情に極端に振れて最適な政策遂行ができない可能性があるからだ。 1990年前後のバブル最終期に、不動産成金など一部で儲かる人が出た一方で、平均的なサラリーマン家庭は恩恵どころか地価高騰で住宅を購入できず苦しんでいた。そこに「平成の鬼平」とも称された三重野康氏が日銀総裁に就任して、庶民のためと急速な引き締めを行った。それが一因となり、「日本経済は失われた20年」に入ってしまったともいわれる。本来であればソフトランディングをうまく行うべきセンシティブな問題だったが、ポピュリズムが入り込んでしまった一例だ。それは避けなければいけない。 Q:次期日銀総裁の人選が水面下で始まる中、国民感情の行方も左右しそうな今後半年の日本経済の見通しはどう見ていますか。 A:国民感情を左右する最大のファクターはインフレであり、それは次の2つの要因に左右される。1つは国際商品市場だ。日本はエネルギーや食料品を輸入に頼っている。原油価格が落ち着いてきているとはいえ、基本的にはウクライナ戦争の動向次第だ。休戦で資源価格高止まりが一気に解消して日本のインフレが収まると考えるのは楽観的すぎるだろう。 2つ目は為替だが、貿易赤字は続いており、日銀が緩和を継続しているため円安が続く構図は変わらない。政府はドル売り円買いの為替介入を実施したが、あくまで円安の進行速度を調整したにすぎず、水準やトレンドは変えられない。 インフレが続くか否かのいずれの要因も外部環境に依存するため、日本政府が短期的に行える政策手段は限られる。今後も複数回、為替介入を実施して、円安のペースダウンを図るほかは、政策としてはまったく褒められないが補助金や給付金を支給することで物価高対策をアピールすることだろう。いずれも日銀に対する民意が過激な批判の方向にいかないようにする措置となる』、現在の政策に自由度が少ないのは事実だが、前述の通り、出口戦略を密かに検討しておくべきだ。
・『コロナ禍からの経済再開需要が本格化  一方で欧米が先行したコロナ禍からの経済再開需要が日本ではこれから本格化していく。欧米は経済再開による回復が落ち着き始め、金融引き締めもあり景気後退局面に入るだろう。日本もいずれは世界経済と軌を一にして景気後退に入る可能性も残るが、来年前半にかけてしばらく内需主導型の景気回復の余地がある。 FRBも利下げは先としても来春には利上げがひとまず止まるだろう。欧米の景気後退が明確になればドル高トレンドも終わる。日銀総裁の交代で実際に出口戦略(政策修正)をやるかは別として、金利の先安感は収まり、日米金利差も縮小傾向で円高方向になりやすくなる。さらに世界景気が後退することで資源価格など国際商品市場も落ち着き、輸入物価も下がれば「いいデフレ」が起き、実質所得の改善につながるかもしれない。 Q:補助金や給付金など目先のばらまき政策ばかりで大丈夫でしょうか。 A:確かに本質的な問題は別にある。そもそも日銀が黒田路線でマイナス金利やYCCなどやりすぎな面もあったが、低金利政策を余儀なくされたのは単純に日本経済が過熱しなかったからだ。それは政府の政策に問題がある。 足元ではワクチン接種率が向上し、致死率も低下した中でいまだにコロナ禍からの経済再開に向けた施策が緩慢なために需給ギャップがマイナスであり続けている。過去にさかのぼれば、安倍晋三政権時代に財政再建の文脈ではプラスになったが、機動的財政支出を継続せずに財政支出を削ったうえに消費増税を行うなど景気を冷やした。 そもそも資源高でインフレ率が高まっているのは化石燃料に頼ってしまっているからで、安全を確保しながらの原発再稼働に向けた動きも遅かった。また、より長期構造的な潜在成長率を左右する要因に目を移すと、労働力不足でも社会保険における「130万円の壁」や在職老齢年金など制度上の雇用環境の制約に対処もしていないほか、中長期で少子化に歯止めをかけるための現役世代への支援も岸田政権で削られている。外国人労働者への門戸開放も停滞している。 2013年に日銀と政府は政策協定(アコード)を結び、日銀は金融緩和を行い、政府は成長力強化に取り組むと明記した。日銀はやれることをやったし、やりすぎたところもあったが、一番の問題はこの10年間やるべきことをやらなかった政府にある。10年放置されていた課題が再び主要な問題として戻ってきている』、「一番の問題はこの10年間やるべきことをやらなかった政府にある。10年放置されていた課題が再び主要な問題として戻ってきている」、その通りだ。
タグ:山崎 元氏による「円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった」 ダイヤモンド・オンライン 「根強いインフレでアメリカの金利が高止まり、円安・ドル高に歯止めがかからない場合、為替介入は消耗戦に陥る。外貨準備という弾薬の減少が顕著になると、介入規模は節約のために縮小せざるを得ない。そして、それを見越して投機筋の円売り攻勢が強まり、通貨価値の防衛戦に追い込まれる恐れもある。 これはまさに通貨防衛に失敗した国家がたどる運命と似通っている。政府・日銀はそうしたリスクがはらんでいることを自覚して投機筋と戦った方がいいだろう」、同感である。 (その18)(24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている、円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった、為替介入でも止まらぬ円安 「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ) 株式・為替相場 「変動相場制以降で初めてとなる「通貨防衛戦」の領域に突入した」、とは大げさな感じもあるが、確かにその通りだ。 窪園 博俊氏による「24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている」 東洋経済オンライン 「自国通貨の下落を阻止する介入は保有外貨が上限となる。つまり、円安阻止の円買い介入は、円安の流れ自体を食い止められない上に、「集合すると圧倒的な規模になる投機筋に対し、有限の弾薬で立ち向かう」(同)ことになる。 政府・日銀としては、円安の反転を狙ったものではなく、円安の速度を緩める「スムージング介入」の意識が強いだろう」、 「通貨の下落は金融緩和の効果であり、為替市場は日銀の意図に沿って正しく円安に動いている。 巨額の貿易赤字は「為替市場で恒常的なドル買い・円売りを招く」・・・とされ、もはや「輸出で稼げず、成長率が低下して低金利が常態化した日本の国力低下に沿った円安」(同)になっている」、なにやら寂しい限りだ。 「国際批判をかわす目的で介入した代表例は、1985年のプラザ合意時の円安ドル高の是正だ」、当時は「日米間で深刻な貿易摩擦が起きた。日本はドル高を是正するために、円買い・ドル売りの協調介入を主導」、したのは確かだ。 「今回の介入は、内外の金利環境を背景として起こるべくして起こっている自然な円安に抵抗するものであり、ドルを売って円を買う介入だ。そうである以上、原資となるドルが外貨準備に制約される。この2点から、「よく効くはずだ」とは言いがたい」、「歴史的な水準の円安になっても、現在そのことに対する米国からの批判はない」、 「現在の円安は、米国を中心とする外国の金利が上昇する一方で、わが国の長短金利が低位にコントロールされている金融環境の差から、いわば「自然に」生じているものだ。この構造が変わらない限り状況が逆転することは期待しにくい。しかも、米国の金利はさらに上昇する可能性がある。 わが国の金融政策が緩和から引き締め方向に転換しない限り、円安の反転は難しい」、その通りだ。 「アクセルを踏んでいる最中に、同時にブレーキを踏むような愚挙である。普通ならどちらかが間違っているし、直接的には介入を決めた人々が明白に「悪い」。 しかし、首相官邸か財務省の中やその近辺にいると思われる、世間の円安批判が気になる官僚や政治家にとっては、「何かやらないと気が済まない」心境だったのだろう」、「世間の円安批判が気になる官僚や政治家」向けの「介入」だったようだ。 「日本の経済が活性化するには、日本国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況が望ましい」、その通りだが、「日本の企業は大いにもうかっている」が「国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況」、とは程遠いのが現実だ。 「今回の円買い介入は円安を阻止する効果が乏しい点において、まず「無駄玉介入」の名に値するということになる」、その通りだろう。 現在の政策に自由度が少ないのは事実だが、前述の通り、出口戦略を密かに検討しておくべきだ。 「逆サイドに振りきる政策転換をしないよう気をつけるべき」、には同意できるが、私は出口戦略を密かに検討しておくべきと考える。同意できるが、私は出口戦略を検討しておくべきと考える。 「日銀が金融緩和継続したことでインフレや円安を助長して日本経済を痛める可能性があるのも確かだ」、その通りだ。 東洋経済オンライン「為替介入でも止まらぬ円安、「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ」 「真剣に検討すべきは、一時の為替介入ではなく大規模な再分配政策だ。例えば、ベーシックインカムの実現を真剣に考えていい」、これは為替政策・金融政策とはかなり離れたので、ここではこれ以上のコメントはしない。総じて、山崎氏とは、金融政策に対する見方は違うので、この問題でも違いが明確だった。 「現在の円安は有効に利用するべきものであって、阻止すべきものではない」、「円安」を「有効に利用するべきもの」であることには、異論はないが、やれることは既にやっている筈で、追加的に利用するのはどうすれば可能なのだろう。 「一番の問題はこの10年間やるべきことをやらなかった政府にある。10年放置されていた課題が再び主要な問題として戻ってきている」、その通りだ。
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外国人問題(その8)(水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇3題((17)政府の「留学生30万人計画」で留学生争奪戦を繰り広げる専門学校、(19)古川法相が「重大な違反行為」と認めた西日本国際教育学院による“鎖拘束”問題、(20)「留学生利権」に切り込む覚悟を示した古川法相の発言)、日本に多い「外国人お断り物件」根底にある大問題 「貸さない大家」の意識変える不動産屋の存在) [社会]

外国人問題については、4月27日に取上げた。今日は、(その8)(水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇3題((17)政府の「留学生30万人計画」で留学生争奪戦を繰り広げる専門学校、(19)古川法相が「重大な違反行為」と認めた西日本国際教育学院による“鎖拘束”問題、(20)「留学生利権」に切り込む覚悟を示した古川法相の発言)、日本に多い「外国人お断り物件」根底にある大問題 「貸さない大家」の意識変える不動産屋の存在)である。

先ずは、4月27日付け日刊ゲンダイが掲載したジャーナリストの出井康博氏による「水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇:(17)政府の「留学生30万人計画」で留学生争奪戦を繰り広げる専門学校」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/304471
・『ベトナム人留学生「鎖拘束」問題が起きた日本語学校「西日本国際教育学院」を運営する福岡市の学校法人「宮田学園」は、2014年に「国際貢献専門大学校」(写真)という専門学校を設立している。近年は同様に日本語学校の経営母体が専門学校を併設するケースが全国で増えている。 政府が進める「留学生30万人計画」によってベトナムなどアジア新興国出身の留学生が急増し、最も恩恵を受けたのが日本語学校業界だった。規模を拡大し続け、大きな利益を上げた学校も多い。そんな学校が相次ぎ専門学校ビジネスに参入しているのだ。日本語学校関係者が言う。 「日本語学校は苦労して留学生を集めている。現地の留学生斡旋業者にキックバックまで払ったりしてね。だから、わずか2年で他校に留学生を取られたくないんですよ」 既存の専門学校にも、日本人学生が集まらず、留学生の受け入れで生き残りを図る学校が増えている。「日本私立学校振興・共済事業団」によれば、21年に入学者が定員割れした学校は、4年制私立大学で46%もあった。専門学校に関する調査はないが、私大同様、もしくはそれ以上に厳しい状況なのではないか。そのため「留学生」に頼ろうとする。 一方、日本語学校系の専門学校は、内部進学で留学生の確保に努める。日本語学校系と既存校の間で、留学生の争奪戦が繰り広げられているわけだ』、学生集めが激化するなかで、「日本語学校系の専門学校は、内部進学で留学生の確保に努める」、やむを得ない面があるとはいえ、困ったことだ。
・『100校超で9割以上占める  実は、かつて専門学校には、留学生を学生全体の5割以下とするよう規定があった。しかし「30万人計画」が始まって2年後の10年に文部科学省は規制を撤廃した。その後、留学生の急増に伴い、専門学校の「留学生シフト」が一気に加速する。 文科省による19年の調査では、留学生が9割以上を占める専門学校は101校にも上っていた。そのうち45校は学生全員が留学生だ。 規制がなくなった以上、留学生が過半数を占めようと構わないが、ここで問題になるのが学生の“質”である。 外国人が海外から直接、専門学校や大学に留学しようとした場合、日本語能力試験「N2」レベルの語学力がなければ、原則として入管当局からビザが発給されることはない。「N2」は同試験で上から2つ目のランクである。そのレベルの語学力がないと、日本語の授業を理解できないと判断されるのだ。) しかし、日本語学校の卒業生の場合は、進学先の学校に「合格」すれば、日本語のレベルがどうであれビザを得られる。出稼ぎ目的のアルバイトに明け暮れ、日本語が全く上達していない偽装留学生であろうと“進学”できてしまうのだ。 その結果、まったく勉強についていけない留学生が全国であふれることになる。さすがに「30万人計画」の旗を振ってきた文科省としても、これを放っておくことはできないのだろう。今月6日、全国の専門学校、大学に対して、ある「通知」を出した。=つづく』、「日本語学校の卒業生の場合は、進学先の学校に「合格」すれば、日本語のレベルがどうであれビザを得られる。出稼ぎ目的のアルバイトに明け暮れ、日本語が全く上達していない偽装留学生であろうと“進学”できてしまうのだ。 その結果、まったく勉強についていけない留学生が全国であふれることになる」、ここまで甘くするのは本末転倒だ。

次に、この続きを、4月29日付け日刊ゲンダイが掲載したジャーナリストの出井康博氏による「水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇:(19)古川法相が「重大な違反行為」と認めた西日本国際教育学院による“鎖拘束”問題」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/304600
・『4月22日の衆院法務委員会で、本連載でも報じている「日本語学校による留学生への人権侵害行為」がテーマに上った。同委員会では、実習生が被る人権侵害は過去に何度も取り上げられてきた。だが、留学生の「人権」が論じられるのは異例だ。 質問に立った市村浩一郎衆院議員(日本維新の会)に対し、政府を代表して古川禎久法務大臣はこう答弁した。 「生徒(留学生)の進路を妨害する行為、生徒に対する暴力、高額な賠償金について誓約させる行為などは、『日本語教育機関の告示基準』第2条に定められている抹消基準の人権侵害行為に該当すると考えられる」 市村氏は日本語学校で最近発覚した3件の人権侵害の例を挙げ、質問していた。 その1つが、宇都宮市の日本語学校が留学生に進学や就職に必要な証明書の発行を拒み、系列専門学校への内部進学を強要していたケース。そして、福岡市の学校で職員が留学生を鎖につないで拘束した問題。3つ目は、仙台市の学校が、中途退学して就職した場合、賠償金300万円を支払うとの誓約書を作成し、留学生に署名させていた問題である。) 宇都宮市のケースは2020年、私が新潮社の国際情報サイト「フォーサイト」で取り上げた。福岡市の一件は今年2月に「週刊新潮」に寄稿後、この連載でも詳しく書いた「西日本国際教育学院」の職員によるベトナム人留学生への「鎖拘束」問題である。仙台市の学校による「誓約書」問題については、地元紙「河北新報」が2月末、学校名を伏せて記事にしている』、「3件」とも酷い人権侵害だ。
・『「日本人の名誉にかけてあってはならない」  古川法相は「一般論」と断った上ではあるが、3件とも「告示基準」違反、つまり、日本語学校として留学生の受け入れが認められなくなる行為だと断定した。その意味は小さくない。「鎖拘束」問題も重大な違反行為だと政府が認めたわけである。 その上で古川法相は「入管庁では今年2月、人権侵害等が疑われる報道があったことから、すべての日本語教育機関を対象に、留学生への人権侵害行為を含む不適切な行為を防止し、適切な運営を行うよう、改めて注意喚起を行った」と答弁している。 「今年2月」の報道とは、「週刊新潮」拙稿もしくは「河北新報」記事を指すと思われる。それ以外に、留学生の人権侵害に関する報道はないからだ。) 「(日本語学校が留学生の)立場が弱いことにつけ込むなど、日本人の名誉にかけてあってはならない。(入管庁)職員を督励しながら、私が先頭に立ってやっていく」 入管庁を所轄する立場の古川法相は、そこまでたんかを切った。であれば、「注意喚起」の効果、また違反を犯した学校への処分の有無についても見守りたい。 さらに今回の委員会質疑では、古川法相から日本語学校業界の「留学生利権」に切り込む注目の発言も聞かれた。=つづく』、「3件とも」、「日本語学校として留学生の受け入れが認められなくなる行為だと断定」、「立場が弱いことにつけ込むなど、日本人の名誉にかけてあってはならない。(入管庁)職員を督励しながら、私が先頭に立ってやっていく」、今後の展開は要注目だ。

第三に、この続きを、4月30日付け日刊ゲンダイが掲載したジャーナリストの出井康博氏による「水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇:(20)「留学生利権」に切り込む覚悟を示した古川法相の発言」を紹介しよう。
・『「日本語学校による留学生への人権侵害」が論じられた4月22日の衆院法務委員会。古川禎久法務大臣と市村浩一郎衆院議員(日本維新の会)の間で、注目すべきやりとりがあった。 「現状では、留学生が悪質な日本語学校に入学しても、学校側の許可がなければ実質、転校が認められない。学校の許可がなくても、入管当局の判断で転校が認められるべきではないか」 そうただした市村氏に対し、古川法相はこう答えた。 「留学生は、どの日本語教育機関に入学、在籍していても、学校の許可を得ることなく自らの判断で転校することができます」 自信満々の答弁を聞き、私は唖然とした。「転校の自由」があるなら、なぜこれほど多くの留学生が日本語学校の横暴に苦しみ、私にまでもSOSが届くのか。 たとえば、本連載でも書いた、福岡の日本語学校で職員に鎖で拘束されたベトナム人留学生のホアン君(21)である。転校が簡単なら、彼は早々に別の学校に移っていた。鎖で拘束される被害にも遭わずに済んだのだ。) 留学生が転校を希望し、別の日本語学校を探したとしよう。受け入れ先となる学校は、留学生の素性が気になる。単に学費目当てではない、“まっとうな学校”ほどそうだ。そこで転校を希望する留学生に対し、在籍する学校の「出席・成績証明書」などの提出を求めるのだが、在籍先の学校は当然、証明書の発行を渋る。転校されてしまえば、学費収入が減るからだ。 留学生は入国時、学校経由でビザを得ている。そして学校側は独断で留学生を退学処分にできる。留学生は在留資格を失って日本にいられなくなるのだ。だから「転校はダメだ」と言われれば、たいてい引き下がる。 そんな事情まで古川法相が理解した上での答弁かどうか知らないが、市村氏が指摘した「実質、転校が認められない」のは、決して間違ってはいない。 転校問題に関し、古川法相はこう続けた。 「留学生から入管に相談があった場合、日本語教育機関に対して実地調査を行うなど事実関係を確認した上で、厳正な対応、つまり『日本語教育機関の告示基準』第2条に基づく告示からの抹消など厳正に対応していく」) 本当に入管が態度を改めるなら、留学生たちも大喜びするだろう。 留学生にも「問題児」はいる。何から何まで彼らの味方をする必要はないが現在の入管当局は、あまりにも日本語学校に甘く、留学生に対するさまざまな人権侵害行為が看過され続けている。 そうした現状を改めると古川法相は言い切ったのだ。日本語学校業界「留学生利権」へ切り込む覚悟を示したわけである。 入管庁は日本語学校とタッグを組んで「留学生30万人計画」を進めていた。その関係を古川法相が断ち切ってくれることを期待したい。=つづく』、「古川法相はこう答えた。 「留学生は、どの日本語教育機関に入学、在籍していても、学校の許可を得ることなく自らの判断で転校することができます」 自信満々の答弁を聞き、私は唖然とした。「転校の自由」があるなら、なぜこれほど多くの留学生が日本語学校の横暴に苦しみ、私にまでもSOSが届くのか」、「留学生は入国時、学校経由でビザを得ている。そして学校側は独断で留学生を退学処分にできる。留学生は在留資格を失って日本にいられなくなるのだ。だから「転校はダメだ」と言われれば、たいてい引き下がる。 そんな事情まで古川法相が理解した上での答弁かどうか知らないが、市村氏が指摘した「実質、転校が認められない」のは、決して間違ってはいない。 転校問題に関し、古川法相はこう続けた。 「留学生から入管に相談があった場合、日本語教育機関に対して実地調査を行うなど事実関係を確認した上で、厳正な対応、つまり『日本語教育機関の告示基準』第2条に基づく告示からの抹消など厳正に対応  していく」、「現在の入管当局は、あまりにも日本語学校に甘く、留学生に対するさまざまな人権侵害行為が看過され続けている。 そうした現状を改めると古川法相は言い切ったのだ。日本語学校業界「留学生利権」へ切り込む覚悟を示したわけである」、「古川法相」の発言が、事務方と擦り合わせた公式見解であれば、これまでの「留学生」政策の大転換だ。今後の発言が注目される。

第四に、9月29日付け東洋経済オンラインが掲載した作家のバイエ・マクニール氏による「日本に多い「外国人お断り物件」根底にある大問題 「貸さない大家」の意識変える不動産屋の存在」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/622362
・『日本では「住宅差別」は合法だ。 正確には、実質的な合法状態になっている。 日本は1996年に「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約(ICERD)」に署名したものの、人種や国籍に基づく賃貸契約拒否の問題に対処する国内法は制定されていない。そのため、差別の抜け道が存在するのだ』、「人種や国籍に基づく賃貸契約拒否の問題に対処する国内法は制定されていない。そのため、差別の抜け道が存在する」、みっともない限りだ。
・『約4割の外国人が入居を拒否された経験  札幌シティ法律事務所の片岡淳平弁護士は「外国人が不当な扱いを受けるケースは多いが、裁判になったケースはそれほど多くはありません」と話す。 「とはいえ、合理的な理由なく外国人への賃貸を拒否し、それが訴訟に発展して、損害賠償を命じられた判例はあります。裁判所は、外国人に対する賃貸拒否のすべてを違法とするのではなく、関連するさまざまな事実を考慮した上で、法的に認められないかどうかを判断するのが通常です」 つまり、ケースバイケースということになるが、外国人にとっての家の探しやすさは地域によるところも大きい。例えば、東京のように外国人が多い地域では、東京都が不動産業者に対して、国籍を理由に賃貸を拒否することは差別にあたるという啓発を行っている。 また、韓国人や中国人が多く住む川崎市では、「何人も、正当な合理的理由なく、高齢者、障がい者、外国人等であることを理由に、市内の民間賃貸住宅への入居を制限されることはない」という条例を制定している。 それでも、2016年に法務省が委託した調査によると、39.8%の外国人が、外国人であることを理由に入居を拒否され、26.8%が外国人を「外国人お断り」と公然と拒否する物件に遭遇し、実際に住居を探すのを諦めたという。「外国人であることを理由に断られた」国籍で最も多かったのがタイ(53.1%)で、これに中国(51.0%)、朝鮮(50.0%)と続いた。) こういった状況の中で、最近、東京・八王子にあるセンチュリー21系列の不動産業者「グローバルコーエイ(GLOBAL KOEI)」の前を偶然通りかかったとき、店先でほぼ逆のことを書いた看板に遭遇した私の驚きを想像してみてほしい。 同店のスタッフは英語(韓国語、中国語、フランス語なども)を話すだけでなく、看板にはこう書かれていたのだ。「We are actively fighting with discrimination in Japan! (私たちは日本に存在する差別と積極的に闘っています!)」』、「2016年に法務省が委託した調査によると、39.8%の外国人が、外国人であることを理由に入居を拒否され、26.8%が外国人を「外国人お断り」と公然と拒否する物件に遭遇し、実際に住居を探すのを諦めたという。「外国人であることを理由に断られた」国籍で最も多かったのがタイ(53.1%)で、これに中国(51.0%)、朝鮮(50.0%)と続いた」、やはりアジア人が多いようだ。
・『国際部門がある不動産屋  グローバルコーエイの国際不動産部のコンサルタントであるマザン・ジョアンナ氏は、同社の差別撤廃の取り組みについてこう語る。 「私たちの会社は、2021年3月に国際部門を開設しました。CEOの齋藤祥文は、住宅業界における差別の存在を以前から知っていたので、その影響を受ける人々、障がいのある人や高齢者、外国人のために何かしたいと考えたのです」 齋藤氏が国際部門を開設した当初は、所属していたのは台湾人と日本人のハーフであるマネージャーの根津朗代氏1人だったが、2021年11月にマザン氏が採用された。この時、私の目を引いたあの看板が誕生したのだ。 「私が入社して数カ月後、根津さんに『ここのスタッフは英語が話せます、外国人も歓迎します、という大きな字の、大きな看板を作りましょう。そしてそこには、不動産差別と戦っていることも書いてください』と提案したんです」と、フランス・ヴェスール出身のマザン氏は話す。 実際、私の友人や同僚にも残念ながら差別的な経験をしたことがある人は少なくない。中には複数回経験した人もいる。しかし、このような行為が容認され、法的救済がないことを知った人たちは、「ガイジン・タックス」、つまり日本人でない者が日本に住むことの代償として、それを受け入れてしまうのである。 「悪い状況であるとは知っていました。この仕事を始めた当初、白人、ヨーロッパ人、アメリカ人などの、日本で"人気のある国"のお客様を紹介するときでさえ、多くの大家さんが断るのを目の当たりにして、すっかり怖くなってしまいました」とマザン氏は言う。 「中には受け入れてくれる人もいます。しかし、アフリカの国や中東の国、さらに悪い例では中国や韓国など、非白人の人の場合は大変で、多くの場合、大家さんに拒否されてしまいます。外国人の中でも差別がある。『いい外国人』と『悪い外国人』がいるわけです」』、中国人など油料理を頻繁にする人種は敬遠され易いようだ。
・『入居拒否を理由に裁判を起こすのは難しい  「残念ながら、北海道でも国籍を理由にした賃貸契約の拒否が見られます」と話すのは冒頭の片岡弁護士だ。 「しかし、そのような拒絶を理由に訴訟を起こすのは、一筋縄ではいきません。1つは、費用と時間がかかるから。また、オーナーや不動産業者が、拒否の理由に国籍を挙げるのではなく、収入や滞在期間、保証人の有無などを総合的に判断した結果、賃貸を拒否していると言えば、違法性が認められにくい場合が多いのです」 そこで、グローバルコーエイは、会ったことのない外国人に対し、そうした問題意識を持つ家主に、優しくその背中を押すことにしたのだ。 「最初、私はマネージャーと一緒に、大家さんと喧嘩をしたんですよ。なぜ、そんなことをするのかと聞きました。なぜ、中国人を嫌がるんですか?って」 「言葉のせいですか?もし言葉のせいなら、言葉のトラブルがあったら、いつでも私たちに電話してください、私たちが通訳すると約束します。そう言っても、『言葉の問題ではない』が、ノーだという大家さんもいます。 外国人だからだと。大家さんの中には、自分は外国人アレルギーだと言う人さえいました。私が電話で日本人の発音で話しているので、私が外国人だとは思わなかったのでしょう」(マザン氏)) こうした大家に対してグローバルコーエイは、さまざまなサポートを提供すると説明する。例えば、ゴミの出し方など、入居者が物件や地域の規則を理解できるように十分な資料を入居者に提供したり、入居者が賃貸契約書の中身を内容を十分に理解できるように手助けをするだけでなく、大家が入居者とトラブルになった場合は、同社が間に入ってサポートする。いずれも無料で行っているという。 「これだけの説明をした後に、やっぱり外国人は入居できないか聞いてみるんです。そうすると、外国人には貸したくないと言っていた大家さんが、試しに貸してみようかということになるんです。 それでも断られたなら、『では、外国人の入居者を拒否する理由は、あなたが外国人の入居者を拒否したいから、ということですね』というお話をします。自分が差別しているという自覚を持って頂く以外に、私たちができることはあまり多くはありません。ただ、それで十分なことも多いです」』、「『では、外国人の入居者を拒否する理由は、あなたが外国人の入居者を拒否したいから、ということですね』というお話をします。自分が差別しているという自覚を持って頂く以外に、私たちができることはあまり多くはありません。ただ、それで十分なことも多いです」、確かに、「自分が差別しているという自覚を持って頂く」、そこまでされたら、「外国人の入居者」を認めてしまうかも知れない。
・『日本で育ったのに差別される人たちも  私は、マザン氏の説明を聞きながら、日本の不動産会社の中で、これだけ差別に対し、やんわりと押し返すようなことをしている会社がどれだけあるのだろうかと考えた。そう多くはないだろう。これはビジネス的にもリスキーなやり方だ。 私の言葉にならない思いに応えるように、マザン氏はこう付け加えた。「日本で育った人たち(韓国人、中国人、ハーフなど)が、断られて私たちの所にやってくることもあるんですよ」。 「普通の不動産業者は、お客様のために戦わない印象があります。大家さんに『お世話になっております。外国人はOKですか?ダメですか?わかりました。お手数をおかけしました』と言ったように、ただ聞いて、諦めます」とマザン氏。 「でも、私たちの場合は、『この女性、インド人なんです。彼女は22歳で、○○大学に留学しています。彼女は日本人の緊急連絡先を持っていて、日本語を少し話せます。彼女がとても気に入っているので、お宅のアパートを紹介してもいいですか?」といった感じで進めます」 マザン氏によると、この方法は効果的だそうだ。相手にはっきりと断られることなく、次の会話につなげることができるという』、話し方の巧拙とは別物という気もするが・・・。
・『露骨に「外国人が嫌い」という人も  彼女の経験では、入居を断られる原因の50%は言語によるものだという。家主は、外国人入居者とのコミュニケーションの問題を懸念しているのだ。それ以外は、何かほかの理由があるか、あるいは単にリスクがあると判断してのことだという。 「外国人の入居を断るのは、嫌な経験をした、あるいは嫌な経験をした人の話を聞いた、テレビでこんな国籍の人は失礼だというのを見た、などの理由が多いようです。 日本では、大家さんは年配の方が多いので、あまりリスクを取りたがりません。まれなケースですが『いやだ!外国人は嫌いだ!』と露骨に言ってくる人もいますよ。ほとんどは、先入観や思い込みが原因です」 グローバルコーエイの前にある看板は、単なる広告ではなく、この会社で働く人々の楽観的で積極的な姿勢を反映しているのだ』、「グローバルコーエイ」のような例がもっと増えてほしいものだ。 
タグ:(その8)(水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇3題((17)政府の「留学生30万人計画」で留学生争奪戦を繰り広げる専門学校、(19)古川法相が「重大な違反行為」と認めた西日本国際教育学院による“鎖拘束”問題、(20)「留学生利権」に切り込む覚悟を示した古川法相の発言)、日本に多い「外国人お断り物件」根底にある大問題 「貸さない大家」の意識変える不動産屋の存在) 外国人問題 出井康博氏による「水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇:(20)「留学生利権」に切り込む覚悟を示した古川法相の発言」 「3件とも」、「日本語学校として留学生の受け入れが認められなくなる行為だと断定」、「立場が弱いことにつけ込むなど、日本人の名誉にかけてあってはならない。(入管庁)職員を督励しながら、私が先頭に立ってやっていく」、今後の展開は要注目だ。 「3件」とも酷い人権侵害だ。 出井康博氏による「水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇:(19)古川法相が「重大な違反行為」と認めた西日本国際教育学院による“鎖拘束”問題」 出井康博氏による「水際対策緩和で蠢くベトナム人利権の闇:(17)政府の「留学生30万人計画」で留学生争奪戦を繰り広げる専門学校」 「日本語学校の卒業生の場合は、進学先の学校に「合格」すれば、日本語のレベルがどうであれビザを得られる。出稼ぎ目的のアルバイトに明け暮れ、日本語が全く上達していない偽装留学生であろうと“進学”できてしまうのだ。 その結果、まったく勉強についていけない留学生が全国であふれることになる」、ここまで甘くするのは本末転倒だ。 学生集めが激化するなかで、「日本語学校系の専門学校は、内部進学で留学生の確保に努める」、やむを得ない面があるとはいえ、困ったことだ。 東洋経済オンライン 「古川法相」の発言が、事務方と擦り合わせた公式見解であれば、これまでの「留学生」政策の大転換だ。今後の発言が注目される。 「留学生から入管に相談があった場合、日本語教育機関に対して実地調査を行うなど事実関係を確認した上で、厳正な対応、つまり『日本語教育機関の告示基準』第2条に基づく告示からの抹消など厳正に対応  していく」、「現在の入管当局は、あまりにも日本語学校に甘く、留学生に対するさまざまな人権侵害行為が看過され続けている。 そうした現状を改めると古川法相は言い切ったのだ。日本語学校業界「留学生利権」へ切り込む覚悟を示したわけである」、 「留学生は入国時、学校経由でビザを得ている。そして学校側は独断で留学生を退学処分にできる。留学生は在留資格を失って日本にいられなくなるのだ。だから「転校はダメだ」と言われれば、たいてい引き下がる。 そんな事情まで古川法相が理解した上での答弁かどうか知らないが、市村氏が指摘した「実質、転校が認められない」のは、決して間違ってはいない。 転校問題に関し、古川法相はこう続けた。 「古川法相はこう答えた。 「留学生は、どの日本語教育機関に入学、在籍していても、学校の許可を得ることなく自らの判断で転校することができます」 自信満々の答弁を聞き、私は唖然とした。「転校の自由」があるなら、なぜこれほど多くの留学生が日本語学校の横暴に苦しみ、私にまでもSOSが届くのか」、 「グローバルコーエイ」のような例がもっと増えてほしいものだ。 日刊ゲンダイ 話し方の巧拙とは別物という気もするが・・・。 「『では、外国人の入居者を拒否する理由は、あなたが外国人の入居者を拒否したいから、ということですね』というお話をします。自分が差別しているという自覚を持って頂く以外に、私たちができることはあまり多くはありません。ただ、それで十分なことも多いです」、確かに、「自分が差別しているという自覚を持って頂く」、そこまでされたら、「外国人の入居者」を認めてしまうかも知れない。 中国人など油料理を頻繁にする人種は敬遠され易いようだ。 「2016年に法務省が委託した調査によると、39.8%の外国人が、外国人であることを理由に入居を拒否され、26.8%が外国人を「外国人お断り」と公然と拒否する物件に遭遇し、実際に住居を探すのを諦めたという。「外国人であることを理由に断られた」国籍で最も多かったのがタイ(53.1%)で、これに中国(51.0%)、朝鮮(50.0%)と続いた」、やはりアジア人が多いようだ。 「人種や国籍に基づく賃貸契約拒否の問題に対処する国内法は制定されていない。そのため、差別の抜け道が存在する」、みっともない限りだ。 バイエ・マクニール氏による「日本に多い「外国人お断り物件」根底にある大問題 「貸さない大家」の意識変える不動産屋の存在」
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