SSブログ

政府財政問題(その8)(インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環、ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔) [経済政策]

政府財政問題については、3月19日に取上げた。今日は、(その8)(インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環、ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔)である。

先ずは、4月22日付け東洋経済オンライン「インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/583890
・『日本は長年、デフレ傾向の経済下で財政赤字を続けてきたが、インフレ下ではどのように変化するのか。 インフレは、見かけ上の名目GDP(国内総生産)を膨らますため、公的債務残高の対名目GDP比を低下させる効果があったり、実質的な債務負担を減らしたりすることがたびたび強調されてきた。そのような楽観的な見方でこれからの状況に臨んでいいのか』、興味深そうだ。
・『石油高と経済の過熱が招いた「狂乱物価」  日本人がもう一度、インフレ時代の経済や財政を思い起こすためには歴史に学ぶことが大切だ。ここでは、3つのポイントに分けて、第1次石油ショックの下で典型的なインフレ対応の緊縮型予算が組まれた1974年~1975年度の状況を振り返り、今後の行方を読み解いていこう。 第1次石油ショックは、1973年10月に第4次中東戦争が勃発し、ペルシャ湾岸6カ国が石油価格を21%引き上げ、米欧日などに向けた石油生産を毎年5%ずつ引き下げると打ち出したことで火がついた。 日本ではそれ以前から、田中角栄政権の「日本列島改造論」ブームで経済が過熱しインフレとなっており、石油高や買い占め・売り惜しみが加わったことで「狂乱物価」へ突入した。 CPIの伸び率は1974年に入ると、実に20%を超え、以後同年内は10%台に戻ることはなかった。1975年初頭からは、CPIは明確に下がり始め、同年中にインフレは沈静化していった。CPI上昇率は、1974年度平均で20.9%、1975年度平均では10.4%を記録した。 インフレ傾向にある現在だが、物価上昇の激しさは第1次石油ショック時が圧倒的だ。 またもう1つ、現在との違いで強調しておくべき点は、賃金も物価と同様に大幅に上がったということだ。 当時の現金給与総額の伸び率は、1973年度が21.9%、1974年度が29.1%、1975年度が12.4%を記録しており、第1次石油ショックは石油高騰だけを原因とするのではなく、大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴だった。) これに対し、現在の現金給与総額は1~2月で前年同月比1%強であり、春闘も定期昇給込みの平均賃上げ率が2%強と振るわなかった。目下の日本銀行は「悪い円安」に見舞われても、かたくなに超低金利政策を維持しようとしているが、その主たる理由は賃上げの鈍さに代表される経済停滞にある。 第1次石油ショック時の日本銀行は景気が過熱する中、インフレ退治の姿勢を鮮明に打ち出し、1973年12月には政策金利である公定歩合を9%まで引き上げた。現在とは異なって、インフレ沈静化を優先し、急速な金融引き締めで景気を冷やす「オーバーキル」を厭わなかったわけだ。 こうした急速な金融引き締めにより、1974年度には、インフレ影響を除いた実質経済成長率で前年度比0.5%減と戦後初のマイナス成長を記録した。翌1975年度も景気は低迷し、それとともにインフレは沈静化していった』、確かに「第1次石油ショック」時は、「大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴」、その通りだ。
・『今日的な意味として引き出せる「3つの教訓」  このように第1次石油ショック時の状況は、現在とは大きく異なるが、今後の経済・財政を展望するため、引き出せる3つの教訓やポイントがある。 1つ目が「税収」の行方だ。 第1次石油ショック時に景気後退とともに顕在化したのが、税収不足だった。 上表では、1974年度の租税及び印紙収入は前年度比12.4%増となっているが、これは本来なら1975年度の税収となるべきものを1974年度補正予算に繰り入れた当時の奇策のためだ。 その反動を含めて1975年度は同8.5%減もの税収減に見舞われ、これを埋めるために国債発行による収入が約2.4倍に跳ね上がった。日本の財政が大規模な赤字国債依存を始めたのが、この1975年度である。 では、こうした状況を現在に当てはめるとどうなるか。 先述のように現在の日本銀行は超低金利政策の継続方針を掲げ、大幅な引き締めに転じる可能性は極めて小さい。そのため、第1次石油ショック時ほどのドラスティックな景気後退はないだろう。 しかし、原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない。鈴木俊一財務相が「悪い円安」と警戒するゆえんだ。) 2つ目の教訓は、「インフレになったら歳出を削減すればいい」と言われてきたが、それは机上の空論であるということだ。 すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想される。 1974~1975年度予算では、総需要抑制(緊縮)の方針が打ち出された。実際、当初予算ベースの公共事業関係費では、当時としては異例の横ばい(1974年度伸び率ゼロ%、1975年度2.4%増)が打ち出された。予算執行の面でもあの手この手の繰り延べが行われた。 ただ、前出の表にあるように補正予算を含めた最終的な決算では、公共事業費も一定の増加(1974年度20.0%増、1975年度13.5%増)を示している。世論や関連業界、政治家などの要望が強い中で、「緊縮財政」を実行することの難しさがわかる』、①原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない、②すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想、なるほど。
・『物価の上昇が進めば、歳出も増える  一方で、意識的に大幅増の予算が組まれたのが、社会保障関係費だった。 財務総合政策研究所編『昭和財政史 昭和49~63年度』によれば、当時の橋本収主計局長は次のように述べている。 「一番心配したのは、福祉の後退だと言われることなんです。公共事業というのは、産業基盤の整備とか道路ばかりと思っているけど、そうじゃなくて住宅・下水とか公園とか漁港だとか、いっぱいあるわけですね。必ず福祉の後退と言われる。(中略)当時の新聞を見てみると、やっぱり福祉の後退だということを言っていますよね、公共事業を減らしたことは。したがって、そこで年金だとか、生活保護基準とか、そういうものは思い切って増やすということをした」 インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化した。 また、物価上昇により、当時の名目経済成長率は大幅なプラス(1974年度18.6%増、1975年度10.0%増)となったが、国債発行拡大はそれ以上の伸び率となったため、公債残高(対名目GDP比)も悪化した。 当時の加藤隆司主計局総務課長は「予算の伸びは大きいようですが、中はがらんどうなんですよね。物価、賃金もみな3割上がっちゃったんですよ」(『昭和財政史 昭和49~63年度』)と話している。 「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではないことは歴史が示している。 当時と現在では社会保障の制度や給付水準も違い、一概に比較はできないことも事実だろう。ただ、インフレとなれば、政府としては物価変動の影響を受けやすい階層に対する支援に傾くのは、いつの時代でも自然と考えてよい。物価上昇が進めば、低所得者層や中小企業などへの支援策を求める声は勢いを増すだろう。) インフレに脆弱な所得層に対する支援は必要だとしても、どこまでインフレ対策を広げるかは、3つ目の重要なポイントだ。 財政支出で物価上昇の大きい財の消費の支援を行うことは、総需要の落ち込みを防ぎ、景気や税収を下支えするという効果はある。しかし、一方で需要減少による価格低下という市場原理を弱めることも意味する。とりわけ現在の日本では資源などの輸入数量が減らず、経常収支の悪化が止まらないという負の側面があることに注意すべきだ。 超低金利政策の継続(アメリカとの金利差が拡大)によって円安をサポートしながら、ガソリン補助金や購入支援など経常収支の悪化を促進する財政政策を同時に進めれば、構造的に①円安が一段と進展→②輸入物価が上昇→③さらにインフレ対策の財政支出が必要→④経常収支が悪化→⑤円安が進行という悪性のスパイラルが発生しかねない。 さらに財政赤字拡大そのものも、「通貨の信認」という面からは円安を促進するものであり、こうした悪性のスパイラルを放置しておけば、円安を通じて財政危機のリスクまでも高めてしまうだろう』、③インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化」、「「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではない」、やはり歴史的事実で検証してみるべきだ。
・『インフレ対策をむやみに拡大するのは危うい  このように考えれば、財政赤字の拡大を厭わずにむやみにインフレ対策を拡大するというやり方は回避すべきだ。野党の一部には「消費減税」など極端な主張が見られ、政策案を精査していくことは不可欠だ。物価上昇で真に脆弱な層に絞り込んだ対策こそが求められる。 加えて、金融政策においても過度な引き締めは論外であるものの、世界情勢の変化に柔軟に対応し、超低金利政策から多少の引き締めへ修正することが求められるだろう。コロナ禍やウクライナ危機を背景とした供給制約やアメリカのドル金利上昇は非常に大きな構造変化だ。リーマンショック以降、世界的な低インフレが続いた中で継続できた超低金利政策や財政赤字の垂れ流しが、いつまでも持続可能だと錯覚してはならない。 日本銀行が引き締め方向に金融政策を微修正すれば、日本銀行や政府の利払いでコストが発生するが、現状ではまだ対応可能な範囲だろう。 アメリカ国債の長期金利上昇が一服し債券購入の含み損リスクが低減すれば、国内の銀行や機関投資家は円との金利差から、日本銀行当座預金に置いた資金をアメリカ債券にシフトし、さらなる円安が起きる可能性もある。 現在の政府や日本銀行のように資源高や世界的なインフレが沈静化することを待つだけでは心許ない。対応が遅れれば遅れるほど、将来、大幅な政策修正(金利上昇)リスクに直面し、そのときの危機のマグマは計り知れない』、現在は国債利回りの上昇を抑えるため、国債オペを指値で行うという極めて異例の方式でやっている。もう異次元緩和も完全に限界に達したようだ。

次に、6月13日付けエコノミストOnline「ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220621/se1/00m/020/058000c
・『足元で高値が続いている原油価格。その対策として導入された補助金政策は実効性に疑問がある』、私もかねてから「実効性に疑問」を感じていただけに、興味深そうだ。
・『政府の原油高騰対策は“石油業界の支援”策=小嶌正稔  2022年4月26日、政府は「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を発表した。これにより、時限的・緊急避難措置とされていた「原油価格高騰の激変緩和措置」は拡充され、「原油価格高騰対策」として、7月10日の参議院選挙後の9月末まで延長されることになった。原油価格高騰対策に投入される国費は、総合緊急対策全体の4分の1を占める1.5兆円にもなる。 原油価格高騰対策が動き出したのは21年11月。開始時は時限的・緊急避難的な激変緩和措置と位置付けられ、とにかく迅速な対策実施に重点が置かれた。このため民間企業(石油元売り会社)に国費(補助金)を支給するという、通常は考えられない政策が動き出した。 具体的には、レギュラーガソリンの全国平均小売価格1リットル当たり170円を基準価格とし、価格が上昇した分は、1リットル当たり5円を上限として、石油元売り会社に補助金を支給する。基準価格は4週間ごとに1円ずつ切り上げるとした。この段階的な切り上げは、対策終了時を意識した激変緩和の措置だ』、こんな直接的な補助金制度は異例中の異例だ。発展途上国がよくやるが、先進国ではあまり例がない。
・『不可解な算定基準  対策は22年1月27日から実施されたが、原油価格の高騰は止まらず、2月21日には上限の5円を超えた。2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、政府は3月10日から補助金支給の上限を25円に引き上げたほか、基準価格の算定方式を変えた。 3月7日までは原油価格の変動分を補助金の算定基準としてきたが、これに小売価格の変動分を追加した。このため、仮にガソリンスタンドが自社の経営状況によって小売価格を変更すれば、それが補助金の金額に反映される仕組みとなった。 表1に4月19日までの補助金支給額と価格抑制効果をまとめた。抑制効果の差額がマイナスになっているのは、補助金相当分まで価格が下がっていないことを意味している。 原油価格の変動のみを基準としていた1月31日~3月7日の補助金支給額の累計は1リットル当たり27.1円で、価格上昇抑制効果は同25.3円。差の1.8円は徐々に解消される程度の水準だった。 しかし、新たな算定基準後は、支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は9.2円に拡大した。それを油種別に見ると、レギュラーガソリンが11円、軽油が10.8円、灯油は12.6円に拡大している。これらの合計34.4円が、支給額と抑制効果の差となる。これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がないのではないか。 石油元売り各社への補助金は、4月から支給上限額が1リットル=25円から35円に引き上げられた。さらに補助金の基準価格は、172円程度から168円程度に引き下げられ、基準価格を超えた分は2分の1を支援する仕組みとなった。 この変更は話題となっている「トリガー条項」と微妙に関係している。この場合の「トリガー条項」とは、揮発油税(ガソリン税)の暫定税率を一時的に停止する税制の条項で、総務省が毎月発表しているガソリンの全国平均小売価格が、3カ月連続で160円を超えた場合、暫定税率分=25.1円を停止し、原油高騰が一段落し、3カ月連続で130円を下回れば税率を元に戻すという施策だ。今までトリガー条項が発動されたことはない。 トリガー条項の160円は、10年当時の消費税5%を差し引くと本体152.38円で、これに現在の消費税10%を掛ければ167.6円となる。前述の基準価格を172円から168円に引き下げたのは、実はトリガー条項を発動することなく、これを適用した結果だ。補助金の35円への増額も同じで、4月4日の全国平均小売価格は、補助金がないと仮定すると、203円程度になる。これと168円との差は35円で、トリガー条項の基準がそのまま適用されているといえよう。 トリガー条項解除の要件の130円は、現在の税率に直すと136円で、原油をめぐる情勢を考えれば、当面の間は136円に戻るとは考えにくい。政府はトリガー条項を実質的に発動して、後のことは別途考えるという姿勢なのだろう』、「支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は」「1.8円」から「9.2円に拡大」、「これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がない」、その通りだ。
・『基準価格にも疑問  ただし、ここで注意が必要だ。トリガー条項と今回の緊急対策とでは、算定基準となる全国平均小売価格に根本的な違いがある。 トリガー条項の小売平均価格は、総務省の「小売物価統計調査」の価格であり、その価格は消費者が購入したフルサービスの現金ガソリン価格だ。現在は70%以上のガソリンがセルフサービスのガソリンスタンドで購入されていることを考えれば、時代遅れの規定ともいえる。この価格には、掛け売りや会員価格、価格割引の給油カードなどは含まれないため、消費者が購入する最も高い価格が基準となっている。ただし、この価格は消費者が実際に購入した価格の統計データだ。 一方、今回の緊急対策の全国平均小売価格は、あくまでガソリンスタンドの販売価格だ。ガソリンスタンドの価格は、現金価格、会員価格、カード会員価格など9種類の価格が存在し、看板にも複数の価格が掲示されている。緊急対策の全国平均小売価格は、小売業者が報告する報告価格であり、業者の価格意識が反映された価格のため、透明性は希薄だ。ドイツの価格表示は、基本的にそのガソリンスタンドで販売される最低価格が報告対象だ。政府は補助金を投入するならば最低限の価格を基準とするべきだろう。 ガソリンスタンドでの販売価格は、各ガソリンスタンドが決める。各店で小売価格に差があるのは、製油所や油槽所からの距離など、コスト面で違いがあるからといわれている。しかし、実際はこれでは説明できない。全国ベースで石油元売り会社からの卸売価格(22年3月時点)の差を見ると、最高で3.4円の開きがあるが、小売価格の差は12.9円もある(表3)。 表2は、製油所のある県の22年3月の小売価格、卸売価格、小売りマージンをまとめたものだ。製油所のある県同士の卸売価格の差は1.8円にとどまるが、小売価格差は10.7円もある。卸売価格が最低の大分県の小売価格は最も高く、大分県の平均マージンは25.8円で、マージン格差は43%もある。 さらに、消費者の購買データを集めた5月12日の民間調査会社のデータを見ると、最安値の愛知県が159.6円、最も高い高知県は178.2円で、18.6円も差がある。同じ愛知県内でも最安値は148円で、最高値は192円。差は44円もある。 すなわち、小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できるということだ』、「小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できる」、その通りだ。
・『整合性がない  政府の総合緊急対策では、物価高などに直面する生活困窮者への支援を打ち出しているが、ここでも原油価格高騰対策との整合性に疑問符がつく。 表4は、電気、ガス、灯油、ガソリンの支出に占める割合を所得分位別に見たものだが、地域別に大きな格差のある灯油を除けば、電気代は所得が低い第1分位の支出の割合が多く、ガソリン代は所得間格差が最も小さい。灯油は、最も支出の大きい青森市と最低の大阪市では約40倍も支出額が異なる。 灯油は地域間格差が大きいので、地域別に対策を実施すべき油種であり、全国一律に行う対策には適していない。 筆者は原油の価格高騰対策自体は否定していない。しかし、価格を通して製品の需給を調整する市場メカニズムをゆがめてはならない。ガソリン価格が高ければ節約することで需要が減少し、価格を引き下げる。また、消費者が少しでも安いガソリンスタンドで購入することで、価格は調整されていく。 だが、今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した。施策を再検証の上で必要な見直しをする必要があろう』、「今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した」、経済政策としては不必要で邪道だ。
タグ:(その8)(インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環、ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔) 政府財政問題 東洋経済オンライン「インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環」 確かに「第1次石油ショック」時は、「大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴」、その通りだ。 今日的な意味として引き出せる「3つの教訓」 ①原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない、②すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想、なるほど。 ③インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化」、「「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではない」、やはり歴史的事実で検証してみるべきだ。 現在は国債利回りの上昇を抑えるため、国債オペを指値で行うという極めて異例の方式でやっている。もう異次元緩和も完全に限界に達したようだ。 エコノミストOnline「ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔」 こんな直接的な補助金制度は異例中の異例だ。発展途上国がよくやるが、先進国ではあまり例がない。 「支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は」「1.8円」から「9.2円に拡大」、「これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がない」、その通りだ。 「小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できる」、その通りだ。 「今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した」、経済政策としては不必要で邪道だ。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

中国経済(その15)(「こんな要求は前代未聞」中国ビジネスに異変続出で 日本の中小企業が困惑、「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来を暗示か、習近平のゼロコロナ政策が新卒大学生を空前の就職難に突き落とす、中国で「大学卒業=失業だ」の悲鳴…中国の失業問題に建国以来最悪の恐れ) [世界経済]

中国経済については、本年2月19日に取上げた。今日は、(その15)(「こんな要求は前代未聞」中国ビジネスに異変続出で 日本の中小企業が困惑、「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来を暗示か、習近平のゼロコロナ政策が新卒大学生を空前の就職難に突き落とす、中国で「大学卒業=失業だ」の悲鳴…中国の失業問題に建国以来最悪の恐れ)である。

先ずは、6月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの姫田小夏氏による「「こんな要求は前代未聞」中国ビジネスに異変続出で、日本の中小企業が困惑」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304536
・『中国の対外貿易の窓口といわれる上海で断行されたロックダウンは、一部の日本の経営者の心理にも微妙な影を落とした。新型コロナウイルス感染拡大から約2年半が経過した今、中小・零細企業の対中ビジネスには微妙な変化が表れ、中国との距離が一段と広がっている』、「中国との距離が一段と広がっている」とは穏やかではない。
・『「海外からの輸入品は要注意」 比較的自由だった貿易も“終わり”の兆候  今年3月末から上海で強行されたロックダウンによって、世界の物流網が大混乱したことは報道のとおりだ。上海は2021年に4.3兆元(約85兆円)のGDPをたたき出した中国最大の経済都市だが、同市における物流のまひは多くの日本企業に打撃を与えた。 夫婦で貿易業(本社・東京都)を営む林田和夫さん(仮名)も、上海のロックダウンで通関を待たされた一人だ。中国向けに日本製の生活雑貨を輸出している林田さんは、「貨物は3月中旬に上海に到着しましたが、通関したのは6月1日。2カ月半も止められていました」と打ち明ける。 林田さんの対中貿易はこれまでトラブルもなく順調だった。ところが今回は、上海の税関から「製品に含まれる成分について、追加資料を提出せよ」と要求され、植物由来の成分についてはラテン語の学術名訳まで求められたという。 約20年にわたり対中貿易に携わってきた林田さんだが「こんな要求は前代未聞です。コロナ禍の2年半で、対中貿易がとてもやりにくくなりました」と嘆く。輸出製品は毎月同じだが、抜き取り検査(ランダムに一部を抜き取って検査)も頻度を増した。 一方、2020年に武漢のロックダウンが解除され、「中国はコロナの感染拡大を抑え込んだ」と宣言して以降、中国では「感染ルートは海外から輸入した貨物にある」という解釈が定着した。 その後も中国内で局所的に感染者が出るが、中国政府はその原因を「海外からもたらされたものだ」と主張し、今春の上海市におけるオミクロン株の拡大についても、同様の説明を行った。習近平指導部は「海外からの輸入品は要注意だ」と警告して国内の防疫体制を強化したが、“海外”を過剰に意識したアナウンスは「別の目的があるのではないか」と疑う声もある。) コロナ禍直前まで、林田さんのビジネスは、中国での日本製品ブームを追い風に上昇気流に乗っていたが、この2年半で大きく狂ってしまった。林田さんは“時計の針の逆戻り現象”を敏感に感じ取り、「中国が対外貿易のハードルを高めているのは明らか。比較的自由になった対中貿易も、この2年半ですっかり後退してしまいました」と語る』、「上海の税関から「製品に含まれる成分について、追加資料を提出せよ」と要求され、植物由来の成分についてはラテン語の学術名訳まで求められた」、明らかな嫌がらせだ。
・『中国に呑み込まれる前に、国内事業に軸足をシフト  ササキ製作所(本社・埼玉県、佐々木久雄代表取締役)は、自動車・家電部品を中心としたプラスチック材料の金型を製作する中小企業だ。 50年近い歴史を持つが、10年ほど前から中国に加工拠点を設け、仕事をシフトさせてきた。日本で受注した金型を中国で製作し、最終加工を日本で行うというモデルを構築するために、佐々木社長自らが中国に何度も訪れ、現地企業に技術指導を行ってきた。 長江デルタ地帯を中心に同社が築いてきた中国の加工拠点は、約10年の歳月とともに成熟期を迎え、上海のロックダウンでも長年培った信頼関係が力を発揮した。中国からの貨物の遅れに気をもむこともあったが、「中国人パートナーが奔走してくれて、4月23日に上海港を出る船に金型を積んでくれた」(佐々木社長)と、胸をなでおろす場面もあった。 中国には自動運転やEVなど金型の仕事が山のようにある――と語る佐々木社長だが、そこにのめり込むつもりはない。「我々のような金型業界はいずれ苦境に陥る」と楽観を許さない理由を次のように説明する。 「中国の金型業界は資金力もあれば、設備もすごい。早晩ものづくりの主流は中国になり、我々はいずれ中国から金型の仕事をもらうようになるでしょう。放っておけば“お払い箱”になりかねない。そのためにも事業構造の転換を急がなくてはいけないのです」 今、同社が心血を注ぐのは、日本の国内工場での新規事業だ。コロナ禍の混乱とはいえ、そこでつかんだのは、長期安定性が見込める日本の鉄道インフラに関わる通信機器の製造だった。 「不謹慎かもしれないですが、弊社はコロナに助けられた面もあります。銀行から調達できなかった資金を国の支援制度で工面できたおかげで、今は日本国内の3工場がフル稼働しています」(同) 事業構造の転換を進める中、同社の中国事業もメインからサブに存在価値を変えつつある』、「武漢のロックダウンが解除され、「中国はコロナの感染拡大を抑え込んだ」と宣言して以降、中国では「感染ルートは海外から輸入した貨物にある」という解釈が定着した。 その後も中国内で局所的に感染者が出るが、中国政府はその原因を「海外からもたらされたものだ」と主張し、今春の上海市におけるオミクロン株の拡大についても、同様の説明を行った。習近平指導部は「海外からの輸入品は要注意だ」と警告して国内の防疫体制を強化したが、“海外”を過剰に意識したアナウンスは「別の目的があるのではないか」と疑う声も」、「「海外からの輸入品は要注意だ」と警告」、とは完全な責任転嫁だ。
・『中国企業とオープンな会話は不可能 “まるごと中国生産”を見直す  2020年上半期、日本はコロナ感染拡大により、医療用品や衛生用品が品薄となった。 当時、「人命にかかわる医療・衛生用品の中国依存は見直すべきだ」という世論が強まった。 こうした中でも、東京に拠点を置く衛生用品メーカーのA社は、上海からマスクを調達し続けていた。今回の上海ロックダウンを経ても、長年のパートナーである上海企業のB社とは安定的な取引が続いているという。 目下、“サプライチェーンの脱中国”が取り沙汰されているが、A社は「高品質を実現できる中国の生産拠点を別の国にシフトさせる考えはない」という。 その一方、A社管理職の坂場健氏(仮名)は、上海のパートナーであるB社とのやりとりに微妙な変化が生じていることを感じ取っていた。 「今回の上海ロックダウンもそうでしたが、B社の歯切れの悪さを感じています。ロックダウン中も『大丈夫ですか』の一言さえ掛けられませんでした。答えにくいことが想像できるからです。今の中国の状況を思えば、当社としてもメールやチャットに余計な履歴を残さないよう用心しなければなりません。コロナの2年半はB社への忖度(そんたく)ばかりが増え、これまでのようなオープンな会話は、ほとんどできなくなってしまいました」(坂場氏) 長年の協力先でありながらも、日本のA社が上海パートナーB社に対し “虎の尾”を踏まないよう神経を使う様子がうかがえる。幸い、A社がB社から輸入する製品は、長年のリピート注文がベースだ。リピート注文であれば、新たな問題や交渉が生じる余地はほとんどない。 しかし、仮にA社がB社との間で新たな事業を一から立ち上げるとなると話は別だ。中国の地方政府の介入やB社の緊張が高まる中で、取引条件はさまざまな制約を受けることが目に見えているからだ。坂場氏は、今後の方向性をこう見据えている。 「新規事業については、原材料のみ中国から調達して、日本国内で製造する計画です。これができれば、為替リスクも減らせます。確かに中国は“安定したパートナー”ではあるのですが、新たな製品を企画しそれを完成品として生産する場所ではなくなりました」 ちなみに、海外現地法人を持つ日本企業を対象に、国際協力銀行(JBIC)が行った「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告(2021年度海外直接投資アンケート調査結果・第33回)」を見ると、2020~2021年度にかけて「海外事業は現状維持」「国内事業は強化・拡大」する傾向が高まっていることがわかる。 一昔前、「中国を制する者が世界を制す」といった言葉も流行したものだが、最近は「中国をあてにしていたら、食いはぐれる」という正反対の受け止め方を耳にするようになった。 “コロナの2年半”を経て転換点を迎えた中小企業の中国ビジネスは、今後ますます国内回帰を進める気配だ』、「コロナの2年半はB社への忖度・・・ばかりが増え、これまでのようなオープンな会話は、ほとんどできなくなってしまいました」(坂場氏) 長年の協力先でありながらも、日本のA社が上海パートナーB社に対し “虎の尾”を踏まないよう神経を使う様子がうかがえる」、信じ難い取引関係の変化だ。「“コロナの2年半”を経て転換点を迎えた中小企業の中国ビジネスは、今後ますます国内回帰を進める気配だ」、その通りなのだろう。

次に、6月22日付け日経ビジネスオンラインが転載したロイター「「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来を暗示か」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/062000388/
・『デービッド・フォンさんが中国中部の貧しい村を出て、急発展を遂げる南部の深センに移り住んだのは、若かった1997年のことだ。それから25年間、外資系メーカーを転々とした末、通学かばんから歯ブラシまで幅広い製品を手がける数百万ドル(数億円)規模の企業設立にこぎ着けた。 47歳になったフォンさんには、インターネットに接続できる消費者向け機器を製造して海外進出する計画がある。しかし新型コロナウイルス対策で2年にわたってロックダウン(都市封鎖)が繰り返されたことで、出荷コストは上がって消費者心理は冷え込んでしまった。今では会社が存続できるかどうかを心配している。 「この1年、持ちこたえられればよいのだが」とフォンさん。高層ビルが立ち並ぶ街を見下ろす最上階のオフィスで、商品に囲まれながら「商売の正念場だ」と語った。 フォンさんの出世物語は、深センそのものの歩みと重なる。 深セン市は、中国が経済改革に乗り出した1979年に誕生。経済特区に指定された同市は、農村が集まる地域から主要な国際港湾都市へと変貌を遂げ、中国の名だたるハイテク、金融、不動産、製造企業が拠点を置くようになった。 過去40年間は、毎年少なくとも20%の経済成長を記録。オックスフォード・エコノミクスは昨年10月時点で、2020年から22年に深センが世界トップの成長率を達成すると予想していた。 しかし今では、米カリフォルニアのシリコンバレーにあるサンノゼにその地位を奪われた。深センの今年第1・四半期の経済成長率はわずか2%と、新型コロナの第一波で中国経済が停止状態となった20年第1・四半期を除くと、過去最低となった。 深センは今も中国最大の輸出都市ではあるが、3月にはロックダウンの影響で海外向け出荷が14%近く落ち込んだ。 深センは長年、中国の改革開放政策の成功ぶりを示す都市と見なされてきた。習近平・国家主席は19年に同市を訪問した際、「奇跡の都市」と呼んだ。 オックスフォード・エコノミクスの世界都市調査ディレクター、リチャード・ホルト氏は、深センは「炭鉱のカナリア」であり、ここが苦しくなることは中国経済全体への警戒信号だと指摘する』、「習近平・国家主席は19年に・・・「奇跡の都市」と呼んだ」のが、いまや「「炭鉱のカナリア」であり、ここが苦しくなることは中国経済全体への警戒信号だと指摘」されるまでになったようだ。
・『ロックダウンで魅力あせる  人口約1800万人の深センではここ数年、地元を拠点とする大手企業が次々と災難に見舞われた。通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は米国の制裁を受け、不動産開発大手、中国恒大集団は経営危機に陥った。 加えて3月には深センその他の都市で新型コロナ感染対策のロックダウンが敷かれ、深センで製造される製品への国内需要が落ち込んだ。 政府系シンクタンク、中国開発研究所のディレクター、ソン・ディン氏は5月のエッセーに、「深センの経済はぐらつき、傾き、低迷している。深センは十分な勢いを失ったのではないかとの見方もある」と記した。 ロイターは深セン政府にコメントを要請したが、回答は得られなかった。 しかし市当局者らは内々に、深センの「奇跡」を持続させることが日増しに難しくなっていると認めている。 中国行きの国際便はほとんど停止し、ロックダウンにより港湾の作業は滞り、かつてにぎわった香港との境界も閉鎖同然となった今、深センはビジネスに向かない都市になってしまった。深セン、香港、マカオなどを結ぶ中国の「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア、GBA)」構想は棚上げになったようにみえる。 かつて自社デザインを製品化しようと深センに押しかけていた海外企業家らの来訪も途絶え、数十軒の駐在員向けバーやレストランは閉店、もしくは地元民の嗜好に合わせた店に変わった。 外国の商工会議所は中国政府に対し、海外人材が大量流出すると警告している。 「中国のシリコンバレー」とも言われる深センは、野心と才能を備えた新卒者が中国全土から集まる都市でもあり、平均年齢は34歳と全国屈指の若さだ。しかし景気減速によって新卒者の職探しも難しくなった。 ハイテク企業が集まる「ハイ・テク・パーク」地区近くにはアパートが密集しており、例年5月には不動産屋が家探しの新卒者でごった返す。しかしある不動産代理店経営者は先月ロイターに対し、取り扱い件数が昨年の半分になったと明かした。「貸します」の看板も目立つようになっている。 低賃金で働く出稼ぎ労働者の状況は厳しい。生計費の上昇に苦しみ、不動産価格は全国有数の高さとあって家を持つこともかなわない。 マッサージ師のシュー・ジュアンさん(44)の友達は最近、成都市の故郷に帰って火鍋屋を始めた。シューさん自身もそうしようかと考えている。 「飲食代ですら値上がりし過ぎているし、仕事はきついし、他の地方の生活水準はすごく良くなった。そろそろここを離れる時かもしれない」とシューさんは語った』、「中国行きの国際便はほとんど停止し、ロックダウンにより港湾の作業は滞り、かつてにぎわった香港との境界も閉鎖同然となった今、深センはビジネスに向かない都市になってしまった」、「景気減速によって新卒者の職探しも難しくなった。 ハイテク企業が集まる「ハイ・テク・パーク」地区近くにはアパートが密集しており・・・しかしある不動産代理店経営者は先月ロイターに対し、取り扱い件数が昨年の半分になったと明かした」、「カナリア」は生き続けられるだろうか。

第三に、6月27日付けNewsweek日本版「習近平のゼロコロナ政策が新卒大学生を空前の就職難に突き落とす」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2022/06/post-98970_1.php
・『ジェニー・バイさんは、北京のあるインターネット企業の厳しい面接を4回もくぐり抜け、最終的に内定を勝ち取った優秀なコンピューター科学専攻の10人の大学生の1人だった。 しかし、5月になってこの企業から内定取り消しを通告された。新型コロナウイルスの感染拡大や中国経済全般の悪化が理由だ。この点に今年1080万人と過去最高となった中国の大学新卒者が直面している大きな問題がある。 今月卒業したバイさんは「心配だ。就職先を見つけられない場合、どうすれば良いか分からない」と不安を隠せない。ただ、内定を取り消された企業名については、今後もその企業と良好な関係を維持したいと明らかにしなかった』、「内定取り消し」とは深刻だ。
・『若者の失業率は18.4%  中国経済は昨年の不動産市場の冷え込みや地政学的問題、当局によるハイテク、教育など幅広い産業への締め付けで既に減速していた。そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ政策」と言える。 一方で、数十年来で最悪の状況となった労働市場に、ポルトガルの全人口を上回る規模の中国の大学新卒者が、一斉に参入しようとしている。足元の若者の失業率は、全世代の3倍以上で過去最高の18.4%に達している。 こうした就職できない若者の大量発生が、中国社会にどう影響するかは全く読めない。 中国が何十年も高成長を続けてきた後で、職探しに苦労するという事態は、せっかく高等教育を受けてきた若者にとって全くの想定外だ。 社会の安定を最優先に考える共産党指導部にとっても、特に今年は習近平国家主席の続投が秋に正式に決まろうかという局面で、若者の雇用不安が起きるのはあまりにも間が悪い。 北京大学のマイケル・ペティス教授(ファイナンス)は「(中国の)政府と人民が交わした社会契約では、人民が政治に参加しない代わりに、生活水準が年々向上すると保証されている。だから、懸念されるのはいったんこの保証が崩れれば、契約の他の部分も変わらざるを得なくなるのではないか、という点にある」と述べた』、「足元の若者の失業率は、全世代の3倍以上で過去最高の18.4%」、「中国が何十年も高成長を続けてきた後で、職探しに苦労するという事態は、せっかく高等教育を受けてきた若者にとって全くの想定外だ」、「北京大学のマイケル・ペティス教授(ファイナンス)は「(中国の)政府と人民が交わした社会契約では、人民が政治に参加しない代わりに、生活水準が年々向上すると保証されている。だから、懸念されるのはいったんこの保証が崩れれば、契約の他の部分も変わらざるを得なくなるのではないか、という点にある」と述べた」、「習近平国家主席の続投が秋に正式に決まろうかという局面で、若者の雇用不安が起きるのはあまりにも間が悪い」、その通りだ。
・『ハイテク雇用が大幅縮小  李克強首相は、大学新卒者の雇用確保が政府の最優先課題だと明言している。実際、新卒者向けにインターンシップ枠を設けている企業には、他の一般的な雇用支援措置を差し置いて補助金が支給される。 一部の地方政府は、起業する新卒者に低利の融資を提供。いくつかの国有企業は、民間で余剰化した非熟練雇用の一部を吸収する見通しだ。) 総合人材サービス企業・ランドスタッドの広域中華圏マネジングディレクター、ロッキー・チャン氏は、中国の非熟練雇用市場は2008─09年の世界金融危機時よりも悪化しており、新規雇用は昨年比で20─30%減ると見積もっている。 20年にわたって求人業務に携わってきた同氏は、今年はこれまで見てきた中で市場が最も低調だと指摘した。 大手求人サイト、智辯招聘によると、予想給与水準も6.2%低下するとみられる。 最近まで中国の大学新卒者の大量採用してきたのが、ハイテクセクターだった。ところが、業界全体では今、雇用を縮小する動きが広がっている。 インターネットサービスのテンセント(騰訊控股)から電子商取引のアリババまで、多くの大手IT企業は規制当局の取り締まり強化のあおりで、大規模な人員削減を強いられた。ハイテクセクター全体で今年、何万人もが職を失った、と5人の業界関係者がロイターに明かした。 上海を拠点する人材管理サービスの許姆四達集団が4月に公表したリポートを見ると、ハイテク大手約10社のほぼ全てが最低でも10%の人員を減らし、動画配信の愛奇芸などさらに削減幅が大きくなったケースもあった。 教育サービスも当局からにらまれた業界の1つで、やはり何万人も解雇した。最大手の新東方教育科技集団は6万人の削減を発表している。 逆に新規採用の動きは鈍い。テンセントの人事部門幹部の1人は、「数十人」の新卒者採用を検討中と話した。以前の同社は年間に約200人を採用していた。 人材紹介会社ロバート・ウォルターズのジュリア・ジュー氏は「インターネット企業は多くの雇用を減らしている。今、彼らに採用資金があるなら、新卒者よりも経験者を選んでいる」と説明した』、「新規雇用は昨年比で20─30%減る」、「20年にわたって求人業務に携わってきた同氏は、今年はこれまで見てきた中で市場が最も低調」、「多くの大手IT企業は規制当局の取り締まり強化のあおりで、大規模な人員削減を強いられた。ハイテクセクター全体で今年、何万人もが職を失った」、「規制当局の取り締まり強化」も最悪のタイミングだ。
・『ヘッドハンターも政府系企業に鞍替え  近年はハイテク企業との仕事がほとんどだった北京拠点のヘッドハンター、ジェーソンウォン氏は目下、政府系通信企業が主な顧客だ。「インターネット企業の採用が、活発化する黄金時代は終わりを迎えた」と言い切る。 中国では大学を出た後、しばらく仕事がないまま過ごす若者は企業側から歓迎されないのが普通だ。多くの家庭もそれを不運とみなすより「一家の恥」と考える。 かといって学士号を得ながらブルーカラーの仕事に就くというのも社会的に認められにくいため、大学院などの研究職に応募する人数が過去最高に上ったことが、公式統計から確認できる。 昨年大学を卒業したビセンテ・ユーさんは、その暮れにメディア企業での仕事を失って以来、再就職できていない。貯金は1─2カ月の家賃と生活費を賄える程度。不安感や不眠症と向き合う毎日で「父親には二度と家に帰るなと言われた。私の代わりに犬を育てた方がましだったという言葉も浴びせられた」とやつれた様子で語った。 ユーさんが夜間に訪れるのがソーシャルメディア。そこには同じ境遇の若者が集う。「私のように、仕事が見つからない人たちばかりで、それが多少慰めになる」という』、「ヘッドハンターも政府系企業に鞍替え」、さすが先読みの鋭さでならすだけある。「大学院などの研究職に応募する人数が過去最高に上った」、そこでの吸収力は僅かの筈だ。「ソーシャルメディア」の動向は当局も神経質に目を光らせているのだろうが、突如、爆発しかねないだけに要注意だ。

第四に、7月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「中国で「大学卒業=失業だ」の悲鳴…中国の失業問題に建国以来最悪の恐れ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305892
・『中国で16~24歳の失業率が上昇し続けている。2022年5月の水準は18.4%と統計開始来の最高水準を更新した。SNS上では、「大学卒業イコール失業者生活の始まりだ」などと将来の悲観を吐露する若者が増えている。より自由かつ安心できる生活の基盤を手に入れたいと考え、わが国での就職を目指す人も増えているようだ』、興味深そうだ。
・『建国以来最悪の中国の失業問題  中国で失業者が急増している。その状況はかなり深刻で、中国の労働市場は1949年の建国以来、最悪期を迎える懸念が高い。特に、16~24歳の若年層の雇用環境の厳しさが増している。中国の新卒者の中には、わが国での就職を目指す若者も増えていると聞く。 失業者急増の最大の要因は、経済成長が限界を迎えていることだ。改革開放以来、天安門事件という大きな混乱を挟みつつ、共産党政権は党の指揮によって需要増加が期待される分野に生産要素を再配分し、実質GDP成長率が10%を超える高度経済成長期を実現した。しかし、2017年の党大会以降、成長率の低下は鮮明だ。米中対立やゼロコロナ政策の徹底、ウクライナ危機などが成長率低下に拍車をかけている。 当面の間、世界の供給制約は深刻化する。資源価格の高騰も長引くだろう。中国では石炭不足などによって電力供給も不安定だ。在来分野から先端分野、中小零細企業から大企業までコスト削減を優先せざるを得ず、追加的に雇用を削減する企業が増えるだろう。中国の失業問題の深刻化が懸念される』、「建国以来最悪の中国の失業問題」とは深刻だ。
・『「大学卒業イコール失業者生活の始まりだ」  中国では、全国を対象とした失業率ではなく、都市部の調査ベースによる失業率が発表されている。21年10月に4.9%だった失業率は、11月以降に急上昇。特に、ゼロコロナ政策による物流・人流寸断のインパクトは大きく、22年4月に失業率は6.1%に達した。5月は5.9%に低下したが、状況は楽観できない。 特に、16~24歳の失業率が上昇し続けていることは深刻だ。18年5月に9.6%だった若年層の失業率は、20年2月に13.6%に上昇。22年5月の水準は18.4%と統計開始来の最高水準を更新した。若年層が労働市場から勢いよくはじき出されるかのような構図が鮮明になっている。 中国では科学技術の向上のために高等教育が強化され、22年の学部卒業生は1000万人を超えるといわれている。新卒学生の多くは、外国語やプログラミングなどの専門スキルを身に付けるなどしてより良い条件での就職を目指す。しかし、本来であれば成長期待の高いIT先端分野の企業であっても、新卒学生を雇い入れることが難しくなっている。IT企業で内定の取り消しに直面する新卒学生も増えているようだ。 中国のSNS上では、「大学卒業イコール失業者生活の始まりだ」などと将来の悲観を吐露する若者が増えている。より自由かつ安心できる生活の基盤を手に入れたいと考え、わが国での就職を目指す人も増えているようだ。 IT以外の業種でも雇用環境は厳しい。過剰生産能力の削減、ゼロコロナ政策や不動産バブルの崩壊、それらによる債務問題の深刻化によって、鉄鋼や不動産など在来分野の雇用環境が悪化している。 15~64歳の生産年齢人口の減少を背景とする労働コストの増加、トランプ政権以降の米中対立などを背景に中国での生産を見直し、ベトナムなどのASEAN地域やインドなどに事業拠点を移す海外の企業も増えた。都市への人口流出に直面してきた内陸部では需要が急速に縮小均衡していると考えられる。黒竜江省鶴崗市のように事実上の財政破綻に陥る地方政府も出始めた』、「16~24歳の失業率が18.4%」とは本当に深刻だ。「事実上の財政破綻に陥る地方政府」はこの他にも出てきそうだ。
・『限界を迎えている共産党主導の雇用創出  深刻化する失業問題の主たる要因として、改革開放以来の共産党政権の雇用政策が限界を迎えたことが大きい。 共産党政権は、人々の雇用・所得環境の安定を実現することによって求心力を維持してきた。1978年12月に改革開放路線が策定されて以降、共産党政権は一党独裁体制を維持したまま経済特区を設けて海外の企業の直接投資を呼び込んだ。それによって軽工業の基盤が整備され製鉄など重工業化も進み、社会インフラ整備によって雇用が生み出された。 さらに、国有・国営企業が事業活動を行なっていない分野では民間企業の設立を認め、今日のアリババやテンセント、ファーウェイなどの先端企業が急成長を遂げた。その結果、共産党政権による経済運営の下で雇用が増えて所得も伸びた。膨大な消費需要の獲得と生産コストの引き下げを目指してより多くの海外企業が対中直接投資を積み増すという流れも連鎖反応的に強まった。 中国の国民は、党の指示に従うことによって豊かになることができるという考えを強めたはずだ。それがあったからこそ、89年の天安門事件の後も、中国では共産党政権が一党独裁体制を維持し、党の指揮による経済運営が続いた。リーマンショック後、共産党政権はインフラ整備や不動産開発など投資を積み増すことによって景気を押し上げ、雇用の創出に励んだ。 しかし、2018年頃から党主導で雇用を生み出すことが難しくなっている。17年の党大会の終了後に公共事業が絞られた結果、想定外に景気が減速した。投資に頼った経済運営が限界を迎えた。その中で米中対立が先鋭化し、中国をはじめ世界の企業がサプライチェーンの混乱と寸断に陥った。 さらに、コロナ禍におけるゼロコロナ政策が経済成長率を低下させ、失業問題が輪をかけて深刻化している。習近平政権は金融の緩和を進め、公共事業の積み増しなど企業の経営体力を支えて雇用を増やそうとしているが十分な効果は出ていない。習政権の経済運営は正念場を迎えている』、「コロナ禍におけるゼロコロナ政策が経済成長率を低下させ、失業問題が輪をかけて深刻化している」、「ゼロコロナ政策」へのこだわりが強いようだ。
・『今後もヒト・モノ・カネの海外流出は増加  今後も若年層を中心に中国の失業問題は深刻化するだろう。中国では経済全体で資本の効率性が低下している。 まず、不動産バブル崩壊によって「灰色のサイ」と呼ばれる債務問題の厳しさが増している。共産党政権は恒大集団など債務返済能力が大きく低下した不動産デベロッパーに公的資金を注入して金融システムの健全化を目指さなければならない。 しかし、公的な救済措置の発動は民間企業の創業経営者を救済することになるため、共同富裕の考えに逆行する。結果的に不動産バブル崩壊はさらに深刻化せざるを得ない。それによって、土地の利用権の売却益は減少し、財政運営が難航する地方政府も増えるだろう。 IT先端分野の民間企業の締め付けも強められる。8月からは改正独占禁止法が施行され、データ利用などに関する罰則が強化される。貧富の格差の拡大をなんとしても阻止するために、共産党政権は改革開放の果実として成長した民間企業に対する統制を強めなければならない。 習近平政権の経済運営は、成長期待の高い分野のアニマルスピリットを伸ばすのではなく、カンナでそぎ落としているかのようにみえる。そうして浮き出た資金を、貧困や失業問題に直面する層に配分し、社会の閉塞感の解消を目指す「ポーズ」を示している。 他方で、ゼロコロナ政策の長期化懸念、台湾海峡の緊迫感の高まり、半導体や人工知能など先端分野を中心とする米中対立の先鋭化リスク上昇などを背景に、中国から逃避する資本は増えるだろう。ウクライナ危機によるインフレ懸念の高まりが加わることによって、人民元で保有してきた財産を海外に持ち出し、その価値を守らなければならないと危機感を急速に強める国民も増えるだろう。 習政権にとって、人々の自由な発言や行動を認め、人材や資本を中国国内につなぎ留めることは容易ではない。それよりも習氏は長期の支配体制の確立に向けて社会と経済の統制を強化している。今後も、中国のアニマルスピリットは減殺されてヒト・モノ・カネの海外流出は増加し、雇用・所得環境は悪化するだろう』、「習氏は長期の支配体制の確立に向けて社会と経済の統制を強化」、「中国のアニマルスピリットは減殺されてヒト・モノ・カネの海外流出は増加し、雇用・所得環境は悪化するだろう」、同感である。
タグ:ダイヤモンド・オンライン 姫田小夏氏による「「こんな要求は前代未聞」中国ビジネスに異変続出で、日本の中小企業が困惑」 「中国との距離が一段と広がっている」とは穏やかではない。 「武漢のロックダウンが解除され、「中国はコロナの感染拡大を抑え込んだ」と宣言して以降、中国では「感染ルートは海外から輸入した貨物にある」という解釈が定着した。 その後も中国内で局所的に感染者が出るが、中国政府はその原因を「海外からもたらされたものだ」と主張し、今春の上海市におけるオミクロン株の拡大についても、同様の説明を行った。習近平指導部は「海外からの輸入品は要注意だ」と警告して国内の防疫体制を強化したが、“海外”を過剰に意識したアナウンスは「別の目的があるのではないか」と疑う声も」、「「海外からの輸入 「コロナの2年半はB社への忖度・・・ばかりが増え、これまでのようなオープンな会話は、ほとんどできなくなってしまいました」(坂場氏) 長年の協力先でありながらも、日本のA社が上海パートナーB社に対し “虎の尾”を踏まないよう神経を使う様子がうかがえる」、信じ難い取引関係の変化だ。「“コロナの2年半”を経て転換点を迎えた中小企業の中国ビジネスは、今後ますます国内回帰を進める気配だ」、その通りなのだろう。 次に、6月22日付け日経ビジネスオンラインが転載したロイター「「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来 日経ビジネスオンライン ロイター「「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来を暗示か」 「習近平・国家主席は19年に・・・「奇跡の都市」と呼んだ」のが、いまや「「炭鉱のカナリア」であり、ここが苦しくなることは中国経済全体への警戒信号だと指摘」されるまでになったようだ。 「中国行きの国際便はほとんど停止し、ロックダウンにより港湾の作業は滞り、かつてにぎわった香港との境界も閉鎖同然となった今、深センはビジネスに向かない都市になってしまった」、「景気減速によって新卒者の職探しも難しくなった。 ハイテク企業が集まる「ハイ・テク・パーク」地区近くにはアパートが密集しており・・・しかしある不動産代理店経営者は先月ロイターに対し、取り扱い件数が昨年の半分になったと明かした」、「カナリア」は生き続けられるだろうか。 Newsweek日本版「習近平のゼロコロナ政策が新卒大学生を空前の就職難に突き落とす」 「内定取り消し」とは深刻だ。 「足元の若者の失業率は、全世代の3倍以上で過去最高の18.4%」、「中国が何十年も高成長を続けてきた後で、職探しに苦労するという事態は、せっかく高等教育を受けてきた若者にとって全くの想定外だ」、「北京大学のマイケル・ペティス教授(ファイナンス)は「(中国の)政府と人民が交わした社会契約では、人民が政治に参加しない代わりに、生活水準が年々向上すると保証されている。だから、懸念されるのはいったんこの保証が崩れれば、契約の他の部分も変わらざるを得なくなるのではないか、という点にある」と述べた」、「習近平国家主席 「新規雇用は昨年比で20─30%減る」、「20年にわたって求人業務に携わってきた同氏は、今年はこれまで見てきた中で市場が最も低調」、「多くの大手IT企業は規制当局の取り締まり強化のあおりで、大規模な人員削減を強いられた。ハイテクセクター全体で今年、何万人もが職を失った」、「規制当局の取り締まり強化」も最悪のタイミングだ。 「ヘッドハンターも政府系企業に鞍替え」、さすが先読みの鋭さでならすだけある。「大学院などの研究職に応募する人数が過去最高に上った」、そこでの吸収力は僅かの筈だ。「ソーシャルメディア」の動向は当局も神経質に目を光らせているのだろうが、突如、爆発しかねないだけに要注意だ。 真壁昭夫氏による「中国で「大学卒業=失業だ」の悲鳴…中国の失業問題に建国以来最悪の恐れ」 「建国以来最悪の中国の失業問題」とは深刻だ。 「16~24歳の失業率が18.4%」とは本当に深刻だ。「事実上の財政破綻に陥る地方政府」はこの他にも出てきそうだ。 「コロナ禍におけるゼロコロナ政策が経済成長率を低下させ、失業問題が輪をかけて深刻化している」、「ゼロコロナ政策」へのこだわりが強いようだ。 「習氏は長期の支配体制の確立に向けて社会と経済の統制を強化」、「中国のアニマルスピリットは減殺されてヒト・モノ・カネの海外流出は増加し、雇用・所得環境は悪化するだろう」、同感である。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

愛国、ナショナリズム(その2)(日本会議 なぜ憲法改正1000万人の署名を集められたのか、「愛国」とは自国礼讃ではない…日本を「溺愛」する人に伝えたいこと 「愛国」という考え方の歴史、世界で高まるナショナリズムが「危険な宗教」である理由 佐藤優氏が解説) [社会]

愛国、ナショナリズムについては、2018年6月25日に取上げた。久しぶりの今日は、(その2)(日本会議 なぜ憲法改正1000万人の署名を集められたのか、「愛国」とは自国礼讃ではない…日本を「溺愛」する人に伝えたいこと 「愛国」という考え方の歴史、世界で高まるナショナリズムが「危険な宗教」である理由 佐藤優氏が解説)である。

先ずは、2018年12月1日付けNEWSポストセブン「日本会議 なぜ憲法改正1000万人の署名を集められたのか」を紹介しよう。
https://www.news-postseven.com/archives/20181201_811024.html?DETAIL
・『第二次安倍政権の6年間で急速にその勢力を拡大させた組織がある。「日本会議」なる保守系団体だ。会員は約3万8000人(2016年時点)。政界には『日本会議国会議員懇談会』があり、衆参約280人が加入している。 2014年10月からはJR東海の葛西敬之・名誉会長(78)らが代表発起人となって「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を結成して国民運動を展開し、わずか4年で憲法改正に賛同する1000万人以上の署名を集めた。短期間のうちにこれだけの運動体を組織したオルガナイザーは誰なのか。組織の編成も、さらには任意団体のために資金力や経理も明らかにされていない。『日本会議の正体』の著書があるジャーナリスト・青木理氏が語る。 「事務総長として組織運営を仕切っているのは椛島有三氏(かばしまゆうぞう・73)。学生運動が激しかった1960年代に宗教団体『生長の家』が設立した右派の学生組織『生長の家学生会全国総連合(生学連)』で椛島氏は活動し、日本会議の前身の『日本を守る国民会議』の事務局長になった」 一番の謎は、どのように運動を拡大して国民に浸透し、どこまで組織の実体があるのかという点だろう。 「日本会議の活動を下支えしているのは全国約8万社の神社を傘下に置く神社本庁と右派の神道系の新興宗教団体。日本会議は独自の組織で活動しているというより、宗教右派の統一戦線と捉えた方がいい。改憲署名集めも神社の境内などで行なわれてきた」(青木氏)) 第二次安倍政権の6年間で急速にその勢力を拡大させた組織がある。「日本会議」なる保守系団体だ。会員は約3万8000人(2016年時点)。政界には『日本会議国会議員懇談会』があり、衆参約280人が加入している。 2014年10月からはJR東海の葛西敬之・名誉会長(78)らが代表発起人となって「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を結成して国民運動を展開し、わずか4年で憲法改正に賛同する1000万人以上の署名を集めた。短期間のうちにこれだけの運動体を組織したオルガナイザーは誰なのか。組織の編成も、さらには任意団体のために資金力や経理も明らかにされていない。『日本会議の正体』の著書があるジャーナリスト・青木理氏が語る。 「事務総長として組織運営を仕切っているのは椛島有三氏(かばしまゆうぞう・73)。学生運動が激しかった1960年代に宗教団体『生長の家』が設立した右派の学生組織『生長の家学生会全国総連合(生学連)』で椛島氏は活動し、日本会議の前身の『日本を守る国民会議』の事務局長になった」 一番の謎は、どのように運動を拡大して国民に浸透し、どこまで組織の実体があるのかという点だろう。 「日本会議の活動を下支えしているのは全国約8万社の神社を傘下に置く神社本庁と右派の神道系の新興宗教団体。日本会議は独自の組織で活動しているというより、宗教右派の統一戦線と捉えた方がいい。改憲署名集めも神社の境内などで行なわれてきた」(青木氏)) 生長の家を支持基盤に国会に出た村上正邦・元自民党参院議員会長は日本会議の「生みの親」とされるが、過去、本誌・週刊ポストに対し、〈安倍政権の側近連中が、ことあるごとに発言するから、大きな力になっていくんですよ。地方議会においては、椛島あたりのシニア部隊が議員をオルグしていくから、議会がそれ(日本会議)に従うような構図が生まれてくる〉と分析している。 国会議員懇談会も、安倍内閣では“お友達”である懇談会メンバーが大臣の多くを占めていることから、入閣希望者が我も我も……と入会した傾向がある。 “強大な保守系団体”という印象ばかりが巨大化した日本会議。だが、現実には1000万の署名を集めるようになった。しかし、それが具体的にどのような政治力を持っているのかが依然として見えないこともまた“当世フィクサー像”の変化といえる』、「日本会議」については、このブログで取上げたのは、新元号問題で2019年4月3日、日本の政治情勢で2019年9月17日、右傾化では2016年6月16日、2016年10月9日、2020年4月7日、2021年4月1日tp、極めて多く取上げた。母体の「神社本庁」は内部がガタついているようだ。先日亡くなった「JR東海」の「葛西敬之・名誉会長」「らが代表発起人となって「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を結成して国民運動を展開し、わずか4年で憲法改正に賛同する1000万人以上の署名を集めた」、凄い手際だが、「日本会議」のみならず、「葛西敬之」氏らの力量が大きかったのだろう。

次に、2019年8月31日付け現代ビジネスが掲載したオタゴ大学教授の将基面 貴巳氏による「「愛国」とは自国礼讃ではない…日本を「溺愛」する人に伝えたいこと 「愛国」という考え方の歴史」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66844?imp=0
・『「愛国」という言葉、使用頻度の激増  日韓関係が緊張を増している今日、日本国内で愛国ムードが高まっている。それが証拠に、ツイッターでは分刻みで「愛国」という言葉が飛び交っている。しかし、愛国への関心の高まりはごく最近の現象ではない。 最近公刊した拙著『愛国の構造』(岩波書店)で指摘したように、「愛国」という用語を含む雑誌記事は、1990年代後半から戦後初めて急激に増加し始めた。教育基本法改正問題で揺れた2006年にピークに達したのちは、やや沈静化の傾向が見られる。しかし、現在でも、戦後まもなくのレベルを超える高水準を保っていることにかわりはない(図参照)。 現代では「愛国」という言葉をメディアで目にすることが、戦時中と変わらないほど日常的になっているといっても過言ではない。 だが、そもそも愛国的であるとはどういうことなのか。「愛国」とは、すなわち、ナショナリズムである、という理解が一般に広く流通している。しかし、このような認識は歴史的にいえば、必ずしも正しくないことを読者はご存知だろうか。『愛国の構造』と同時に刊行した拙著『日本国民のための愛国の教科書』(百万年書房)で平易に解説したが、その一部をここに粗描しよう』、興味深そうだ。
・『日本人はいつ「愛国」という言葉を使い始めたか  明治時代が幕を開けたとき、日本の政治的・知的リーダーたちにとって、日本が近代国家として出発するための課題のひとつとは、日本人一人ひとりに愛国心を一日も早く持たせることだった。すなわち、明治初期の日本人は、愛国心など全く持っていなかったのである。 なぜなら、明治初期の日本人の大半にとって、愛国心とはそれまで聞いたことのなかった概念だったからである。そもそも「愛国」という言葉は、徳川時代以前の文献にはほとんど登場しない。日本人の多くは1891(明治24)年になっても、思想家・西村茂樹が“日本人の7、8割は愛国心が何であるかもわからない”と慨嘆するような状態にあったのだ。 ところが、日清戦争を経た1890年代後半に入って事情は一変する。フランスの宣教師リギョールは1898(明治31)年にこう書いている。「世界に国を成すもの沢山あり、然れども日本人程愛国々々と叫ぶ者は未だ嘗て見たることなし」。世界には国がたくさんあるが、日本人ほど「愛国、愛国」と絶叫する国民は見たことがない、というのである。日本人が愛国的な国民に生まれ変わったのは20世紀が始まる寸前のことなのだ。 もともと日本人が「愛国心」を全く知らなかったのであれば、日本人の「愛国心」の起源はどこに求めるべきだろうか。明治時代の早い段階から、愛国心は政治家や知識人たちによって論じられたが、その場合、「愛国心」という日本語は「パトリオティズム」の翻訳である、という但し書きが必ずといってよいほど添えられている。明治のリーダーたちにとって「愛国心」とは、英語にいう「パトリオティズム(patriotism)」だったのである。「愛国心」は元来、ナショナリズムではないのだ』、「明治のリーダーたちにとって「愛国心」とは、英語にいう「パトリオティズム(patriotism)」だったのである。「愛国心」は元来、ナショナリズムではないのだ」、なるほど。
・『パトリオティズムとは何か  「パトリオティズム」とは、あまり聞きなれない言葉かもしれない。それは、ラテン語にいう「パトリア」つまり「祖国」に忠実である思想を意味する。ただし、ここにいう「祖国」とは、「先祖代々住んできた国」や、「故郷の山河や人々」を意味しない。 古代ローマの哲学者キケロは、「パトリア(祖国)」が「生まれ故郷」を意味するだけでなく、「自分が市民権を有する国」を意味すると述べた上で、「自分が市民権を有する国」という意味の「祖国」に忠誠心を発揮することこそが重要だと主張した。この「市民的祖国」のためには自分の命をも惜しまない自己犠牲をキケロは説いたのである。 この「市民的祖国」とは、キケロにとって、共和主義の主張の中核をなすものだった。共和主義とは、市民の自治を通じて、市民にとっての共通善(自由や平等といった政治的価値とそうした価値を実現するための政治制度)を守る主張である。したがって、キケロ以来、ヨーロッパにおいて、愛国心パトリオティズムとは、共和主義的な政治的価値やその価値を実現する政治制度に忠誠心を抱くべきだという主張や政治的姿勢を意味してきた。 視点を変えれば、愛国心パトリオティズムにとっての“敵”とは、市民の自由や平等を脅かす暴政である。西洋政治思想史における「暴政」という概念は、暴虐非道な政治を必ずしも意味しない。「暴政」とは、一部の人々が私利私欲の追求に走り、権力を乱用することで共通善を破壊し、政治が腐敗する事態を意味する。 したがって、愛国者パトリオットとは、元来、反体制側に属する人々を意味していた。なぜなら、体制側の人々こそが、私益のために権力を私物化しうる存在だからである。愛国心パトリオティズムとは、共通善を脅かす権力の乱用に抵抗する姿勢を意味したといってもよいであろう』、「愛国心パトリオティズムとは、共通善を脅かす権力の乱用に抵抗する姿勢を意味した」、ふーん。
・『ナショナリズムとパトリオティズムの違い  これに対し、ナショナリズムの語源は、ラテン語にいう「ナティオ(natio)」であり、「同郷の人々」や「言語や社会慣習を共にする人々の共同体」を意味した。「ナティオ」は中世末期から広く流通した概念である。実際、15世紀の中世ヨーロッパを支配したローマ教会では、「ナティオ」という同郷者団体が形成され、それらの間でいわば派閥抗争が見られた。この「ナティオ」が、のちに英語で「国民」や「民族」を意味する「ネイション(nation)」となったのである。 ナショナリズムとは広く定義すれば「ネイション」の独自性にこだわる主張や政治的姿勢を意味する。「ネイション」の中身は、同一ネイションのメンバーの間で共有する言語や社会慣習、文化や宗教、歴史などといった事柄であるために、異なる言語や文化、歴史などを有する他のネイションに対して潜在的に敵対関係にある。この点、パトリオティズムが「パトリア(祖国)」=共和主義的な政治的価値と制度にこだわるのと明らかに異なっている。 さらに、パトリオティズムの場合、共和主義的な価値やそれを保証する制度がある国であれば、自分の国に限らず他国でも「祖国」でありうると考える。言い換えれば、自分の国から市民の自由や平等が失われれば、自分の国でさえも、もはや「祖国」ではないと考えるのである。 この点、ナショナリズムの場合、同郷者の間で言語や文化、歴史を共有している点にこだわるのだから、自分の生まれ育った環境と「ネイション」とは切り離すことができない。したがって、自分の生まれ育った国がどれほど劣化し暴政の下にあっても、その国が自分にとってのネイションであることにかわりはない。このように、パトリオティズムとナショナリズムは、出自も性格も大きく異なる政治思想なのである』、「パトリオティズムとナショナリズムは、出自も性格も大きく異なる政治思想」、なるほど。
・『ナショナリズムとパトリオティズムの「合流」  では、現代日本では、なぜ“愛国心=イコールナショナリズム”という理解が一般的なのか。先に指摘したように、明治時代のリーダーたちは、「愛国心」が「パトリオティズム」の翻訳であることを自覚していた。それにもかかわらず、「愛国心」がナショナリズムを意味するかのような“すり替え”が起こったのは何故なのか。 それは、明治日本が西洋から輸入したパトリオティズムが、古典的な共和主義的なものではなく、ナショナリズムの影響を受けて変質したものだったからである。キケロ以来の古典的なパトリオティズムを〈共和主義的パトリオティズム〉と呼ぶとすれば、ナショナリズムの影響を受けたものは〈ナショナリズム的パトリオティズム〉と名付けることができる、別の代物なのだ。) 〈共和主義的パトリオティズム〉はヨーロッパの歴史において、古代から中世・ルネサンス、そして17世紀を通じて生き続けた、いわば“本家本元”のパトリオティズムである。 しかし、18世紀末期のフランス革命をきっかけとして、ナショナリズムとパトリオティズムの“合流”がおこる。フランス革命は、貴族や聖職者からなる特権階級が運営した旧体制(アンシャン・レジーム)を打倒すべく、中産階級や農民、手工業者などを含む第三身分の人々が立ち上がったことから発生した歴史的大事件である。第三身分の人々は、「愛国者パトリオット」であり「国民ネイション」であると自称し、革命運動を展開した。一方、特権階級の人々は、第三身分の人々を「愛国者パトリオット」や「国民ネイション」と呼んで敵視したのだ。 革命が進展を遂げるにつれて、革命政府は全てのフランス民衆に「フランス国民」としての意識を植え付けるために、様々な祝典、儀礼、教育をおこなった。特に重要だったのは、言語教育である。 フランスという国ではもともと、各地方の独自性が強く、地方ごとに話されていた言語すら異なっていた。フランス語という「標準語」を教え込むことで言語的な統一性を生み出したのである。さらに、「フランス国民の歴史」が歴史家たちによって書かれた。異なる地方の出身の、どの時代の歴史上の人物も、全て同じフランス人であるという認識がこうして形成された。 このようにフランスの言語や歴史、文化の統一性を追求する姿勢は、紛れもなくナショナリズムの性格を帯びている。しかし、その一方で、革命勢力が謳った政治的理想は人類普遍の自由と平等であり、その点では共和主義の伝統をも継承していた。つまり、フランス革命では、共和主義とナショナリズムとが同居していたわけである。 その結果、「パトリア(祖国)」観も変貌した。共和主義的な自由や平等という政治的価値は、フランス国民が“すでに実現したもの”と理解されたのだ。すなわち、共和主義的な「パトリア(祖国)」とナショナリズム的な「ネイション」とが等号で結ばれることとなった。こうして「祖国」という言葉には、その“国民ネイションの言語や文化、歴史”という意味も盛り込まれた。これが〈ナショナリズム的パトリオティズム〉である』、「フランス革命では、共和主義とナショナリズムとが同居していた」、「共和主義的な自由や平等という政治的価値は、フランス国民が“すでに実現したもの”と理解されたのだ。すなわち、共和主義的な「パトリア(祖国)」とナショナリズム的な「ネイション」とが等号で結ばれることとなった。こうして「祖国」という言葉には、その“国民ネイションの言語や文化、歴史”という意味も盛り込まれた。これが〈ナショナリズム的パトリオティズム〉である」、なるほど。
・『愛国は「自己礼讃」ではない  さて、フランス革命から80年ほどが経過した、明治初期の日本に流入したのは、〈共和主義的パトリオティズム〉と〈ナショナリズム的パトリオティズム〉の両方だった。前者は、自由民権運動を主導した植木枝盛うえきえもりらが主張し、後者は、日本の国際的独立を説いた福沢諭吉が採った政治的立場だった。 ふたつの立場の間で論戦が戦われた結果、〈共和主義的パトリオティズム〉が敗退したが、最終的に勝利を収めたのは〈ナショナリズム的パトリオティズム〉ではなかった。論争の果てに登場したのは、「忠君愛国」というスローガンだった。つまり、〈ナショナリズム的パトリオティズム〉に「忠君」つまり、天皇への忠誠を接合することで日本独自の「愛国心」が誕生したのである。 このような歴史的経緯を踏まえれば、なぜ現代日本では「愛国心」がナショナリズムと同一視されるのか、明白であろう。日本では、〈共和主義的パトリオティズム〉を明治時代に早々と捨て去り、「愛国心」をネイションの文化や歴史によって彩られるものとしてしまったのだ。 しかし、欧米においては、〈ナショナリズム的パトリオティズム〉の勢いに押されつつも〈共和主義的パトリオティズム〉の伝統は今日なお生き続けている。アメリカでは2017年に、ジャーナリズムの重鎮ダン・ラザーが愛国心を論じた書物を発表し、ベストセラーとなった。その書物は、“権力に対して異議申し立てをすることが愛国的である”と強調している。反体制派による政治権力への批判的態度こそが、本来の共和主義的愛国心パトリオティズムなのだ。 現代日本では、一般に「愛国者」を自認する人々とは、日本の文化や歴史を誇り、現政権を支持し「嫌韓」を叫ぶ体制派である。彼らは、〈ナショナリズム的パトリオティズム〉の信奉者たちである。 しかし、本来の「愛国心」とは政治権力の横暴から市民的自由と平等を守る〈共和主義的パトリオティズム〉である。〈共和主義的パトリオティズム〉は、自国を溺愛し、自国をひたすら誇りに思う自己礼讃とは無縁である。時の政府による権力行使が、市民的自由や平等を脅かしていないか、厳重に監視する態度にほかならない。 しかし、〈共和主義的パトリオティズム〉が今日なお息づいている欧米とは異なり、日本ではこれまで共和主義的愛国心パトリオティズムが根付くことはなかった。「愛国」が体制派の“専売特許”であるかのような傾向が日本では著しい所以である』、「日本では、〈共和主義的パトリオティズム〉を明治時代に早々と捨て去り、「愛国心」をネイションの文化や歴史によって彩られるものとしてしまったのだ」、特に「「忠君愛国」は捻じ曲げの最たるものだ。「「愛国」が体制派の“専売特許”であるかのような傾向が日本では著しい所以である」、やはり歴史的に捉える必要があるようだ。

第三に、本年6月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏による「世界で高まるナショナリズムが「危険な宗教」である理由、佐藤優氏が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305578
・『ウクライナ戦争をきっかけに、第二次世界大戦後に確立した国際秩序は崩れつつあります。これから世界は、そして日本はどうなってしまうのか?われわれはいま、どう行動すべきなのか?作家の佐藤優さんは「この際重要なのは、ナショナリズムの力を正確に理解すること」だと言います。そこで今回は、佐藤優さんの新刊『国家と資本主義 支配の構造』(青春出版社)から、ウクライナ戦争をきっかけに世界中で高まる「ナショナリズム」について解説します』、興味深そうだ。
・『わたしたちはナショナリズムの意識に侵されている  2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻しました。この事件は、第二次世界大戦後に確立した国際秩序を、根本から崩す性格を帯びています。この際重要なのは、ナショナリズムの力を正確に理解することです。 ロシアの侵攻は、ウクライナの主権と国家の一体性を毀損する、国際法に違反する行為です。しかし、その構造的要因は、ウクライナにおける上からの民族形成政策と、民族よりも国家への忠誠を重視する帝国型のロシア国家体制の、軋轢にあると私は考えています。 「ナショナリズムの力」は、わたしたち日本人にも働いています。 尖閣諸島沖で中国海警局の船が挑発的な行動をとっているニュース映像を見て、彼らの行為に怒りを覚え、「圧力に屈するな」とか「力ずくでも相手をねじ伏せてしまえ」と憤ります。弱腰の政府の態度に、腹を立てることもあります。) しかし、中国や台湾の側にも言い分があります。すでに15~16世紀に、自国人によってこれらの島が発見された記録があるとして、日本側の主張する「先占の法理」(いずれの国にも属していない土地に関しては、先に支配を及ぼした国の領土とする考え方)は成り立たないと主張しているのです。 領土問題となると、政府も国民も、とてもナーバスになります。 しかしそもそも、いったいわたしたちのどんな価値判断が、われわれをナーバスにするのでしょうか? 動物は本能的に、「縄張り」に対して非常に敏感です。犬や猫、猿などの動物は、縄張りのなかのエサをとることで生存できているわけで、外敵が入ってくれば全力で威嚇し排除しようとします。生活の場を確保するために、外敵の侵入を許さないのです。人間も動物ですから、これは同じです。 ところが、犬や猫が「目に見える範囲の縄張り」だけを守ろうとするのに対して、人間は、行ったことも見たこともない土地までも守ろうとします。日本人のほとんどは、尖閣諸島に行ったことがないはずです。なのに、そこを守ろうとするのです。 行ったことも見たこともない尖閣諸島という「縄張り」を守ろうとするのは、子どものころからわたしたちが、「自分は日本人である」と教えられてきたためです。そういう価値判断の基準を持っているということです。だから日本の領海が侵犯されれば、許せないという気持ちになるのです』、「行ったことも見たこともない尖閣諸島という「縄張り」を守ろうとするのは、子どものころからわたしたちが、「自分は日本人である」と教えられてきたためです。そういう価値判断の基準を持っているということです。だから日本の領海が侵犯されれば、許せないという気持ちになるのです」、「領海が侵犯」への「怒り」は「教育」のなせるわざだ。
・『ナショナリズムとは、現代における一種の宗教である  「自分は日本人である」というような国民としての意識、国を守ろうという意識、こうした意識のことを「ナショナリズム」と言います。 領土問題のニュースを見て価値判断するとき、われわれにはナショナリズムの意識が、自然と働いているのです。 気をつけなければならないのは、この意識が本能的なものではなく、教育などによってあとから植え付けられた意識である、ということです。 わたしは「ナショナリズム」を、現代における一種の宗教だと考えています。 ナショナリズムは、日本語では「国家主義」「国民主義」「民族主義」と訳されています。自国の文化や歴史、政治体制を誇り、国内的にはその統一を図り、国外的にはその独立性を維持し強化しようとする動きです。一口にナショナリズムと言っても、その表れ方は、各国における歴史や慣習、政策などによって多種多様です。 つい先ごろまで、世界はグローバル化が進み、国家間のボーダーラインが曖昧になってきていました。おのずと、自国に対する国民の忠誠心も薄らいでいました。 ところが近年は、その反動として、ナショナリズムを煽ることで国家への求心力を高めようとする動きが、各国で起きています。とくに新型コロナウイルスの蔓延やウクライナ戦争によって、「自国優先主義」はより鮮明になりました。 国内でも、新型コロナ禍による不景気や失業で、国民には不平不満が溜まっています。国は、その不平不満が政府に向けられないよう、外交問題や領土問題など「国外」の問題に目を向けさせることで、国民のナショナリズムの意識を煽ろうとします。 このようにナショナリズムは、国家から意図的に操作されたり強められたりすることがあります。政府の外交政策や領土問題に関するニュースを見て、われわれはそれと気づかず無意識的に、ナショナリズムの意識を強めているのです。 現在、世界各国で起きているナショナリズムの高まりは、とても危険なことだとわたしは考えています。 ですからわれわれは、ナショナリズムという現代の宗教に完全に洗脳されてしまわないように、“マクロな視座”でこの現象をとらえ、突き放して見つめる必要があります』、「ナショナリズムという現代の宗教に完全に洗脳されてしまわないように、“マクロな視座”でこの現象をとらえ、突き放して見つめる必要があります」、同感である。
・『ナショナリズムがわかると、社会のカラクリが見えてくる  アーネスト・ゲルナー著『民族とナショナリズム』(加藤節 監訳、岩波書店、2000年)は、現代に蔓延するナショナリズムという現象を理解するために、マクロな視座を与えてくれる格好のテキストです。 アーネスト・ゲルナーは、1925年にフランスのパリでユダヤ人の家庭に生まれ、チェコスロバキアのプラハで育ちました。ナチス・ドイツのプラハ占領で、1939年に家族とともにイギリスに移住し、オックスフォード大学を卒業します。1962年からロンドン大学の哲学教授、1984年からケンブリッジ大学の社会人類学教授を勤めるなど、イギリスの哲学者、社会人類学者、歴史学者として、第一線で活躍した人です。 ゲルナーは、ナショナリズムについて、「産業社会の勃興のなかで、必然的に生まれてくる現象である」と説きます。 自分の国や、その伝統や文化を愛し、それを大切にする気持ちは、自然に湧き起こるもののように思えます。しかしゲルナーによれば、そういう気持ちは自然発生的なものではなく、国家の教育によって植え付けられた「後付け」の意識だ、と言うのです。 そしてなぜ、自国を愛する気持ち、すなわちナショナリズムの意識が国家にとって重要なのかというと、それが、その国の産業発展にとって都合が良いからに過ぎない、と言うのです。 『民族とナショナリズム』の与えてくれるマクロな視座によって、わたしたちは、メディアやSNSからの情報を受け取るだけでは見えてこない「社会のカラクリ」に気づくことができます』、「ゲルナーは、ナショナリズムについて、「自然発生的なものではなく、国家の教育によって植え付けられた「後付け」の意識だ、と言うのです。 そしてなぜ、自国を愛する気持ち、すなわちナショナリズムの意識が国家にとって重要なのかというと、それが、その国の産業発展にとって都合が良いからに過ぎない」、なるほど。
・『拝金教に出世教、現代に蔓延する“新宗教”から身を守れ  “現代の宗教”と言えるものは、「ナショナリズム」だけではありません。 わたしたちが、当たり前だとか当然だと思っている判断基準のなかには、じつは思い込みや妄信に過ぎないものが多々あります。 その1つが、お金への信仰です。 1万円札を実際につくるときのコストは、1枚あたり22~24円ほどだと言われています。この22~24円の紙が、1万円の価値を持つものとして、だれも疑うことなく市場で流通しているのです。 よくよく考えたら奇妙なことなのですが、日本国政府が通貨として認め、日本の人々、あるいは世界の人々が、「1万円の価値を持つものだ」と信じているからこそ、1万円札として成り立っているわけです。 このような「共同幻想」そのものが宗教的ではあるのですが、現代の資本主義社会においては、「お金は絶対的なもの」と多くの人に信じられています。愛情さえもお金で買える─。) そのように考える人が出てくるほど、お金は絶対的な価値を持つものとして君臨しています。 わたしは「拝金教」と呼んでいますが、みんながこの宗教による、ある種の洗脳を受けていると言えます。 近代以降、自然科学の発達とともに、それまで信じられていた伝統的な宗教の考え方ではなく、「合理的精神」が、人々のさまざまな価値判断の基準となっていきました。神によってこの世界がつくられたと本気で信じる人は少なくなり、神に変わる新たな価値観を求めて、人々はお金を拝んだり、国家を絶対視したりするようになります。 お金や国家への依存心は、産業社会の支配者である資本家や、国家の為政者にとっては、都合が良いことです。こうして人々は、それと知らずに社会のカラクリのなかに巻き込まれ、そこで植え付けられた価値観のなかでしか物事を判断できなくなっているのです。 『民族とナショナリズム』を読み解くことで、ナショナリズムという宗教に限らず、現代にはびこるさまざまな「宗教的なもの」を、俯瞰して見つめることができるようになります。 そうすることによってあなたは、人生を「呪縛するもの」から解き放たれることができるでしょう』、「お金や国家への依存心は、産業社会の支配者である資本家や、国家の為政者にとっては、都合が良いことです。こうして人々は、それと知らずに社会のカラクリのなかに巻き込まれ、そこで植え付けられた価値観のなかでしか物事を判断できなくなっているのです。 『民族とナショナリズム』を読み解くことで、ナショナリズムという宗教に限らず、現代にはびこるさまざまな「宗教的なもの」を、俯瞰して見つめることができるようになります。 そうすることによってあなたは、人生を「呪縛するもの」から解き放たれることができるでしょう』、なるほど。
・『◆本コラムの作者・佐藤 優氏の新刊が発売中! 『国家と資本主義 支配の構造』 佐藤 優著 青春出版社刊 2200円(税込)  ほとんどの大人が知らない、世の中の「残酷な真実」とは――? 資本主義とナショナリズムの現代に生きるわたしたちは、それと気づかず“支配の構造”に巻き込まれ、マインドコントロールされています。そしてこのなかで植えつけられた価値基準でしか、物事を判断できなくなっているのです。 現代社会で心折れずに生き抜くためには、“支配の構造”を見破り、自分の置かれている状況を俯瞰して見つめることが、とても重要になってきます。 佐藤優氏が、社会人類学者アーネスト・ゲルナーの名著『民族とナショナリズム』をテキストに、現代の“支配の構造”を解き明かし、だまされずに賢く生きるための思考法を伝授します』、時間ができたら読んでみたい。
タグ:将基面 貴巳氏による「「愛国」とは自国礼讃ではない…日本を「溺愛」する人に伝えたいこと 「愛国」という考え方の歴史」 現代ビジネス 「日本会議」については、このブログで取上げたのは、新元号問題で2019年4月3日、日本の政治情勢で2019年9月17日、右傾化では2016年6月16日、2016年10月9日、2020年4月7日、2021年4月1日tp、極めて多く取上げた。母体の「神社本庁」は内部がガタついているようだ。先日亡くなった「JR東海」の「葛西敬之・名誉会長」「らが代表発起人となって「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を結成して国民運動を展開し、わずか4年で憲法改正に賛同する1000万人以上の署名を集めた」、凄い手際だが、「日本会 NEWSポストセブン「日本会議 なぜ憲法改正1000万人の署名を集められたのか」 愛国、ナショナリズム (その2)(日本会議 なぜ憲法改正1000万人の署名を集められたのか、「愛国」とは自国礼讃ではない…日本を「溺愛」する人に伝えたいこと 「愛国」という考え方の歴史、世界で高まるナショナリズムが「危険な宗教」である理由 佐藤優氏が解説) 「明治のリーダーたちにとって「愛国心」とは、英語にいう「パトリオティズム(patriotism)」だったのである。「愛国心」は元来、ナショナリズムではないのだ」、なるほど。 「愛国心パトリオティズムとは、共通善を脅かす権力の乱用に抵抗する姿勢を意味した」、ふーん。 「パトリオティズムとナショナリズムは、出自も性格も大きく異なる政治思想」、なるほど。 「フランス革命では、共和主義とナショナリズムとが同居していた」、「共和主義的な自由や平等という政治的価値は、フランス国民が“すでに実現したもの”と理解されたのだ。すなわち、共和主義的な「パトリア(祖国)」とナショナリズム的な「ネイション」とが等号で結ばれることとなった。こうして「祖国」という言葉には、その“国民ネイションの言語や文化、歴史”という意味も盛り込まれた。これが〈ナショナリズム的パトリオティズム〉である」、なるほど。 「日本では、〈共和主義的パトリオティズム〉を明治時代に早々と捨て去り、「愛国心」をネイションの文化や歴史によって彩られるものとしてしまったのだ」、特に「「忠君愛国」は捻じ曲げの最たるものだ。「「愛国」が体制派の“専売特許”であるかのような傾向が日本では著しい所以である」、やはり歴史的に捉える必要があるようだ。 ダイヤモンド・オンライン 佐藤 優氏による「世界で高まるナショナリズムが「危険な宗教」である理由、佐藤優氏が解説」 「行ったことも見たこともない尖閣諸島という「縄張り」を守ろうとするのは、子どものころからわたしたちが、「自分は日本人である」と教えられてきたためです。そういう価値判断の基準を持っているということです。だから日本の領海が侵犯されれば、許せないという気持ちになるのです」、「領海が侵犯」への「怒り」は「教育」のなせるわざだ。 「ナショナリズムという現代の宗教に完全に洗脳されてしまわないように、“マクロな視座”でこの現象をとらえ、突き放して見つめる必要があります」、同感である。 アーネスト・ゲルナー著『民族とナショナリズム』 「ゲルナーは、ナショナリズムについて、「自然発生的なものではなく、国家の教育によって植え付けられた「後付け」の意識だ、と言うのです。 そしてなぜ、自国を愛する気持ち、すなわちナショナリズムの意識が国家にとって重要なのかというと、それが、その国の産業発展にとって都合が良いからに過ぎない」、なるほど。 「お金や国家への依存心は、産業社会の支配者である資本家や、国家の為政者にとっては、都合が良いことです。こうして人々は、それと知らずに社会のカラクリのなかに巻き込まれ、そこで植え付けられた価値観のなかでしか物事を判断できなくなっているのです。 『民族とナショナリズム』を読み解くことで、ナショナリズムという宗教に限らず、現代にはびこるさまざまな「宗教的なもの」を、俯瞰して見つめることができるようになります。 そうすることによってあなたは、人生を「呪縛するもの」から解き放たれることができるでしょう』、なるほど。 国家と資本主義 支配の構造』 佐藤 優著 時間ができたら読んでみたい。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

スポーツ界(その35)(サッカー日本代表が惨敗で危機露呈 選手の発言に見る「致命的欠陥」とは、文春砲炸裂のフェンシング合宿 「筋違い批判」に反論の武井壮会長にエールを) [社会]

スポーツ界については、3月26日に取上げた。今日は、(その35)(サッカー日本代表が惨敗で危機露呈 選手の発言に見る「致命的欠陥」とは、文春砲炸裂のフェンシング合宿 「筋違い批判」に反論の武井壮会長にエールを)である。

先ずは、6月23日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの藤江直人氏による「サッカー日本代表が惨敗で危機露呈、選手の発言に見る「致命的欠陥」とは」を紹介しよう。
・『カタールワールドカップ開幕を5カ月後に控えた森保ジャパンで、致命的ともいえる問題が露呈した。国内4連戦に臨んだ6月の強化マッチシリーズを終えた直後に、切り札的な存在になりつつあるFW三笘薫(ユニオン・サンジロワーズ)が「チームとして決まり事のようなものを持たないといけない」と明言した。就任から4年がたとうとしている森保一監督のもと、特に攻撃面で共通認識が設けられていない現実を前にして、日本代表は何をすべきなのか』、「森保一監督」に対しては、かねてから批判が多かったが、「攻撃面で共通認識が設けられていない」には心底驚かされた。
・『チュニジアに惨敗した理由 チームに「約束事がない」  ホームで喫した惨敗を介して、森保ジャパンの現在地があぶり出された。カタールワールドカップ開幕まであと5カ月という時間を考えれば、暗たんたる気持ちにさせられる。 14日のチュニジア代表戦で0‐3と完敗し、キリンカップ優勝を逃した直後のオンライン会見。三笘が残した言葉は衝撃的であり、同時に「やはりそうだったのか」と思わせるものだった。 「ボールを持ったときに、チームとしてどのようにして攻めるのかという意識の共有とバリエーションが不足している。そういった部分の組み立て、というものをやっていかないと」 後半途中から左サイドアタッカーとして投入され、何度も果敢な仕掛けを披露。パナソニックスタジアム吹田を沸かせたドリブラーはこう振り返りながら、さらにこんな言葉を紡いだ。 「今日のような流れになって相手のカウンター攻撃を受けて、というのはワールドカップで絶対にあってはならないこと。チームとして決まり事のようなものを持たないといけないと思っています」 三笘の言葉の中で気になったのは、言うまでもなく「チームとしての決まり事」の箇所だ。チームとしてこう攻めるという共通認識、すなわち約束事が森保ジャパンには存在しない。ゆえに個人の力量に頼る単発の形となり、相手も対策が立てやすくなる。三笘はさらにこう続けた。) 「選手同士のコミュニケーションで『こういうふうにしてほしい』と言っていますけど、チーム全員でそれを共有できているかというと、そうではないところが多いし、そこは必要かなと」 決して批判を展開しているわけではない。A代表デビューからわずか7試合目ながら大きなインパクトを残し続け、森保ジャパンにおける存在感を一気に増幅させている25歳は、攻撃陣の中心を担う自覚と責任を込めながら、現状に対する危機感を言葉へ転換し続けた。 年間を通して活動できるクラブチームほど緻密なものではないにせよ、攻守における約束事は代表チームにも必要不可欠だ。そして、それらをデザインするのはもちろん代表監督となる。船出からまもなく4年。森保監督が攻撃面で何も施さなかった跡が図らずも明らかになった。 大きな衝撃を与えたからか。オンライン会見の最後には約束事に関して、あらためて三笘へ質問が投げかけられた。ワールドカップ予選を戦ってきた今までは時間がなかったのか。チームとしての意識がそこへ向いていなかったのか。解決するためにはどうすればいのか、と。 「僕はアジア最終予選の途中から代表に入りましたけど、当時は本当に時間がなくて、コンディションを優先しないといけない、というのはありました。チームとして落とし込む時間がなかったわけではないけど、そこへ持っていけるような雰囲気はなかったですね」 三笘はA代表に初招集された昨年11月シリーズをこう振り返った。しかし、アジア最終予選の序盤でつまずき、7大会連続7度目のワールドカップ出場へ向けて一戦必勝だった時期とは異なり、今回の6月シリーズは計12回の練習を積めた。三笘は「それでも」とこう続けた。 「今回はけっこう時間もあって、みんなのコンディションもよかった。その中でコミュニケーションを取りながら、相手に対するチームとしての戦術というところで狙いはありましたけど、狙いの細かさといった部分は全然足りていない。ピッチ内での自分たちの対応力であるとか、そういったところにいってしまったところがあるので、いろいろな人たちで議論してやっていく必要があると思う」』、「攻守における約束事は代表チームにも必要不可欠だ。そして、それらをデザインするのはもちろん代表監督」、「船出からまもなく4年。森保監督が攻撃面で何も施さなかった跡が図らずも明らかになった」、何もしてこなかったとは酷い。
・『「勝っているチームはいじらない」 監督のこだわりには批判も  森保監督の采配に対して内部、すなわち選手から声が上がるのは今回が初めてではない。金メダル獲得を目標に掲げながら、4位に終わった昨夏の東京五輪直後。オーバーエイジとして参戦し、キャプテンを務めたDF吉田麻也は出演したテレビ番組でこう語っている。 「大会を通して言うと、6試合を戦っていく上で、できればローテーションしてほしかった、というのはありますね。最後の試合は僕もそうですけど、選手たちがかなり疲弊していたし、疲労からくる判断力や集中力の欠如というものがあったと思うんですよね」 グループリーグ初戦から銅メダルをかけた3位決定戦までの6試合を、森保監督に率いられたU‐24日本代表は全て中2日の過密スケジュールで戦った。吉田が言及した「ローテーション」とは、選手をある程度入れ替えながら戦っていく方法を指している。 東京五輪では吉田とともにオーバーエイジで参加したMF遠藤航、24歳以下の選手ではMF田中碧、GK谷晃生、攻撃陣をけん引した堂安律、久保建英の両MFが全6試合に先発した。 中2日では疲労やダメージが抜けにくく、日本特有の高温多湿の過酷な気候が追い打ちをかけた。久保の3試合連続ゴールなどで、グループリーグを3連勝で突破した日本は決勝トーナメントで失速。3試合で挙げたゴールは、メキシコとの3位決定戦で一矢を報いた三笘の1点だけだった。 先発メンバーを固定した戦いへの是非は、当然ながら森保監督の耳にも届く。非が占める割合が圧倒的に多かった中で、指揮官の反応は頑固とも、いい意味での鈍感ともいえるものだった。例えば東京五輪における選手起用を問われたときには、こんな言葉を返している。) 「世界の中で日本が勝ち上がろうとしたとき、先を見越して戦うことはまだできない」 実際には世界はおろか、東京五輪後の昨年9月に幕を開けた、カタールワールドカップ出場をかけたアジア最終予選を勝ち抜くのにも、一戦必勝態勢となった。チーム内に約束事が存在しない以上は、ある程度の意思の疎通が図れる、慣れ親しんだ顔ぶれで戦うしかなかったからだ。 必然的に森保監督が選ぶメンバーは“いつメン”と呼ばれるようになった。いつものメンバーを揶揄(やゆ)したものだが、対策が練りやすい点で相手にとっては大歓迎だった。加えてFW大迫勇也やMF柴崎岳ら、固定されてきた主力が調子を崩せば、その分だけチーム力も低下してしまう。 アジア最終予選で1勝2敗と黒星を先行させ、一敗も許されなくなった瀬戸際に追い込まれた森保監督はシステムを4-2-3-1から4-3-3へスイッチ。遠藤を除いた中盤の構成も変えた。 アジア最終予選の潮目を変えた決断は評価できる。迎えたオーストラリア代表との第4戦。試合終了間際のオウンゴールが決勝点となり、かろうじて土俵際で踏み止まった森保監督は、再び「勝っているチームはいじらない」なるサッカーの格言を愚直に実践し続けた。 けがで離脱した選手や累積警告による出場停止の選手を除いて、敵地で勝利したオーストラリアとの第9戦までシステムも先発する選手も基本的に同じ。その間に6連勝とV字回復を果たした森保ジャパンは、ワールドカップ出場権獲得という最初の目標をクリアした。 迎えた6月の強化試合シリーズ。いずれも日本国内で行われた4連戦で、吉田と遠藤は全てで先発に名を連ねた。本大会へ臨む代表メンバーを絞り込んでいく段階に入った中で、後半で交代した試合こそあったものの、2人は代役の利かない存在であり続けた。 しかし、最後を締めくくるチュニジア戦で、吉田は後半に喫した3失点全てに自らのミスで絡み、遠藤は攻撃時にパスが入った瞬間に標的とされ、幾度となくボールを失ってカウンターを受けた。試合後のオンライン会見。森保監督は吉田と遠藤の異変に気づいていたと明かした。) 「長いシーズンをヨーロッパで戦ってきた後の代表ウイーク4試合ということで、心身ともに疲労がかなりきていたのかなと思う。今後の対戦チームも同じような狙いを持って、われわれの意図するところをつぶしにくると考えられる中で、いいシミュレーションになったと思っています」 4試合が全て中3日で行われた6月シリーズを、森保監督は同じく中3日でドイツ、コスタリカ、スペイン各代表とグループリーグを戦うカタール大会のシミュレーションと位置付けていた。チュニジア戦で疲労が目立った吉田と遠藤を代えなかった指揮官は、さらにこう語っている。 「アタッキングサードのところで、どのようにして攻撃の形を作ってシュートまで持っていくのかを、さらに上げていかないといけない」 アタッキングサードとはピッチの全長を3分割した場合に、相手ゴールに一番近いエリアを指す。しかし、攻撃の形を作る上で森保監督が約束事を持ち合わせず、選手個々のテクニックや判断に丸投げされている実情が、三笘の言葉を介して図らずも明らかにされた』、「森保監督が選ぶメンバーは“いつメン”と呼ばれるようになった。いつものメンバーを揶揄(やゆ)したものだが、対策が練りやすい点で相手にとっては大歓迎だった。加えてFW大迫勇也やMF柴崎岳ら、固定されてきた主力が調子を崩せば、その分だけチーム力も低下してしまう」、「アタッキングサードとはピッチの全長を3分割した場合に、相手ゴールに一番近いエリアを指す。しかし、攻撃の形を作る上で森保監督が約束事を持ち合わせず、選手個々のテクニックや判断に丸投げされている実情が、三笘の言葉を介して図らずも明らかにされた」、よくぞこんな無能な「監督」を使い続けるものだ。
・『森保監督は何もしない? 選手たちはどうするべき?  これまで何もしない、いや、できなかったのだから、これから「さらに上げていく」ための術もおそらく提示できない。森保監督は、21日の取材対応でも「さらに独力でいける選手になってほしい」と、三笘をはじめとする選手個々の成長に期待した。ならば、選手たちはどうするべきなのか。 6日のブラジル代表戦を終えた後に、35歳のベテラン、DF長友佑都は「最終的な部分で、個の力で勝てる確率を上げていかなければいけない」と課題を挙げた上でこう補足している。 「いろいろなところにサポートがいる状況での1対1ならば、相手を引きつけて剥がせる場面もあるんじゃないかと。もちろん一人一人がもっと突き詰めていく必要もあるけど、おとりになるランニングを含めた味方との連携で相手のマークのずれ、意識のずれを引き起こせると思っている」 6月シリーズでは右の伊東純也、そして左の三笘の両アタッカーが個の勝負を挑み続けた。日本の攻撃の生命線になると信じて周囲もボールを託した。ブラジルはさらに強力な個の力で2人を凌駕し、チュニジアは場合によっては複数の選手を対応させて伊東や三笘を封じ込めにきた。 ここで相手の選択肢を増やさせ、少しでも後手に回らせるコンビネーションを構築できれば、状況が変わる可能性も生まれる。森保監督が手段を講じられない以上は、選手が率先して動くしかない。そうしなければ手遅れになるギリギリのところまで日本は追い詰められている。 大きな変化を好まない、頑固で保守的な性格の持ち主である森保監督だが、攻撃の約束事を作ろうと試行錯誤する選手たちの自主性は尊重する。勝負師の側面こそ持ち合わせないが、優しさと謙虚さもあって選手たちから“いい人”と慕われる指揮官の数少ないプラス材料がここにある。 カタールワールドカップへ向けて、ヨーロッパ組を含めた陣容で活動できるのは9月の国際Aマッチデー期間の9日間と、あとは大会直前の数日間しかない。この時期に露呈した危機を克服できるかどうかは、ヨーロッパ組を中心とする選手たちのアイデアと経験値に委ねるしかなくなった』、「森保監督が手段を講じられない以上は、選手が率先して動くしかない。そうしなければ手遅れになるギリギリのところまで日本は追い詰められている」、「大きな変化を好まない、頑固で保守的な性格の持ち主である森保監督だが、攻撃の約束事を作ろうと試行錯誤する選手たちの自主性は尊重する。勝負師の側面こそ持ち合わせないが、優しさと謙虚さもあって選手たちから“いい人”と慕われる指揮官の数少ないプラス材料がここにある」、さて、今さら変えられないのかも知れないが、このままでは「ワールドカップ」本戦は、早目に敗退が決まることを覚悟した方がよさそうだ。

次に、7月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家・スポーツライターの小林信也氏による「文春砲炸裂のフェンシング合宿、「筋違い批判」に反論の武井壮会長にエールを」を紹介しよう。
・『フェンシング日本代表合宿に“文春砲” 助成金の申請が見送りに  フェンシング・エペ日本代表合宿が「当初の予定と異なるレジャー中心の合宿だった」と週刊文春に報じられ、他のメディアも追随してこれを非難した。 これに対し、日本フェンシング協会の武井壮会長が謝罪会見を開くものと推測されていた。だが、7月2日の理事会で協議した後、囲み取材に応じた武井会長は、「長期遠征の合間のリフレッシュ目的だったとして、合宿内容自体には『最初に抱いた印象とは違う。単なる遊びではなかった』と理解を示した」と報じられた(日刊スポーツ)。同紙によれば、「助成金203万2905円(15人分)の申請の見送りを決議したと報告。選手とコーチの家族計4人が同行していたことについては『不適切だった』と謝罪した」という。 私は「武井会長、謝らないで!」と思っていたので、一部謝罪はしたものの、合宿の意義や目的を協会の立場で堂々と肯定した今回の姿勢には拍手を送る』、どういうことだろうか。
・『合宿ではリフレッシュしてはいけないのか? 今回の問題の「本質」とは  選手とコーチが、合宿中にリフレッシュするためプールで過ごして何がいけないのか? 合宿に家族が同行したらいけないのか? プロ野球の春季キャンプは今も単身参加だが、メジャーリーグでは家族同伴が当たり前だ。30年以上前、メジャーのキャンプに行ったとき、練習が終わる頃、選手の妻と子どもが選手を迎えに来て、一緒に帰る姿に目を丸くした。けれど、考えてみれば、結婚している選手の家族を引き裂き、約1カ月も家族離散を強いる非人道的な日本の野球界こそおかしいと気付かされた。ところが、日本は今も変わっていない。 その思い込みが全てのスポーツに適用されている。「厳しい練習に打ち込む期間、家族は邪魔な存在で、ストイックにトレーニングしなければ罪だ」という思い込みが根強いから、今回の報道も多くの怒りを誘発したのではないだろうか。 もちろん、週刊文春が切り札としてにおわせているのはコーチと選手の不倫関係だが、そのことで今回の沖縄合宿全てが否定され、スポーツ界からまた自由が奪われていくのはとても残念だ。 武井会長は、「休養と調整が必要な状態だった。世界選手権に向けた最初の1週目としてはリフレッシュが必要。私自身、アスリートの経験としても分かるし、話をした選手からも『しっかり練習をしていた』と涙ながらに聞いた」「とはいえ、我々アスリート側の考えと国民の皆さまとの感覚にはギャップがあるのは事実」(日刊スポーツ)と語っている。 メディアや世間はここ数年、スポーツにおけるパワハラや支配的な指導体制をずっと批判し続けている。今回報道された「リラックスのための過ごし方」などは、パワハラ体質と対極の新しいムーブメントとして歓迎されるべきものではないか、と私は感じる。ところが、それ自体が批判されるのは、世間のほうに相変わらず古くさい考えが染みついているからではないだろうか。 恐らく、「強化費は国民の血税が投入されているのだ」というのが最大の怒り、批判の根拠だろう。しかし、強化とは猛練習だけではない。家族の理解があって、フレッシュな気持ちで取り組めてこそ成長があり、競技への集中ができる。15人で203万2905円、1人当たり13万5527円の税金投入。その間にプールでリフレッシュしたことを非道な行為とののしるほどに、日本人のスポーツへの理解は低いのかと思うと悲しくなる。パワハラを糾弾しながら柔軟な思考がないのは世間やメディアのほうではないか。 簡単な話、日本フェンシング協会が独自の財源を持っていれば、今回の合宿をこれほど非難されただろうか。チーム内の倫理の問題は別として、必要なレジャーであれ、家族同伴であれ、法律には違反しないし、部外者にとやかく言われる問題ではない。ところが今は国がスポンサーになっている。そのため、税金を払っている国民自身にもスポンサーだという思いがあるのか、散々な言われようになっている。 グランドスラム大会を目前に控えたテニス選手が、プールサイドで恋人にサンオイルを塗ってもらっていたら、それだけで「不謹慎だ」と怒るだろうか。 サッカー日本代表が、ワールドカップのときにどれだけ豪華なホテルに泊まり、日本からシェフを連れて臨んでも、そのことに批判は起こらない。なぜなら、それが必要だという理解とともに、その財源を日本サッカー協会自身が生み出していると了解しているからだろう』、「必要なレジャーであれ、家族同伴であれ、法律には違反しないし、部外者にとやかく言われる問題ではない。ところが今は国がスポンサーになっている。そのため、税金を払っている国民自身にもスポンサーだという思いがあるのか、散々な言われようになっている」、独自の財源ではなく、税金でやっている以上は、一定の制約は当然だと思う。
・『国民が気付くべき「スポーツ界の現実」 選手の“自由と独立”を応援することこそが重要  強化は難しい。大きな舞台で成果を出す、それは本当にスペシャリストの世界だ。大きな勝負を制するには、瞬時に変わる状況をかぎ分け、賭けにも等しい判断の繰り返しが必要だ。とても部外者に理解できるものではない。信頼して任せ、応援することしかサポーターにはできないことを、スポーツファン、そしてメディアが認識し、リスペクトすべきではないだろうか。道徳的な常識とは別のひらめきや大胆な感性がそこでは重要な役割を果たす。 日本国民に、この機会に気付いてほしい現実がある。 スポーツ界は、モスクワ五輪ボイコットの反省を生かし、政治からの独立を悲願として取り組んだ経緯がある。政府が決めたボイコットの方針に従わざるを得なかったのは、組織的にJOC(日本オリンピック委員会)が国の支配下にあり、遠征費や強化費も全て国の支援に依存していたからだ。そこで、スポーツ関係者の涙ぐましい努力の結果、JOCは1989年、日本体育協会(現・日本スポーツ協会)からの独立を果たした。これで、政府の束縛を受けず、スポーツ界は独自の判断で歩めるはずだった。 ところが、現実は厳しい。全ての競技が独立採算では活動できない。資金援助は不可欠だ。さまざまな現実や思惑が交錯する中、その後、スポーツ界は事実上、政府の支配下に戻ってしまった。 しかも、パワハラ問題に端を発したスポーツ団体の組織の見直しに乗じて、政府は規制や支配を強めている。ガバナンスの整備のため、日本スポーツ協会は全ての競技団体に公益法人化を求めている。これも結局、内閣府の管理下に置かれるという意味でも、「下部組織」としての色彩を強くする傾向につながっている。 スポーツの自治と自由が侵害されるなら、公益法人化などは受け入れない判断もあっていいはずだ。が、拒否すれば、助成金を受ける資格を失い、オリンピック種目から除外される心配もある。そうやって、スポーツ界は政治的に縛られているのだ。そういうスポーツの政治支配こそ、危険だと警戒しなければならない。 スポーツ界が、政府や上部団体から独立し、自主的に運営できる体制を確立することこそ重要だ。メディアがこの本質を見逃して、スキャンダルの発掘のため結果的に権力構造の強化に加担するような動きは滑稽だ。 武井会長には、当初の予定どおり助成金を申請してもらいたいくらいだ。 私たちの務めは、スポーツ選手の自由と独立を応援することではないか』、「公益法人化を求めている。これも結局、内閣府の管理下に置かれるという意味でも、「下部組織」としての色彩を強くする傾向につながっている」、「公益法人」になれば情報公開など透明化が求められるという重要なメリットがあるのを無視している。筆者はスポーツ記者だけあって、スポーツ団体には甘過ぎるようだ。「スポーツ界が、政府や上部団体から独立し、自主的に運営できる体制を確立することこそ重要だ」、こんな独立王国化には大反対だ。
タグ:スポーツ界 (その35)(サッカー日本代表が惨敗で危機露呈 選手の発言に見る「致命的欠陥」とは、文春砲炸裂のフェンシング合宿 「筋違い批判」に反論の武井壮会長にエールを) ダイヤモンド・オンライン 藤江直人氏による「サッカー日本代表が惨敗で危機露呈、選手の発言に見る「致命的欠陥」とは」 「森保一監督」に対しては、かねてから批判が多かったが、「攻撃面で共通認識が設けられていない」には心底驚かされた。 「攻守における約束事は代表チームにも必要不可欠だ。そして、それらをデザインするのはもちろん代表監督」、「船出からまもなく4年。森保監督が攻撃面で何も施さなかった跡が図らずも明らかになった」、何もしてこなかったとは酷い。 「森保監督が選ぶメンバーは“いつメン”と呼ばれるようになった。いつものメンバーを揶揄(やゆ)したものだが、対策が練りやすい点で相手にとっては大歓迎だった。加えてFW大迫勇也やMF柴崎岳ら、固定されてきた主力が調子を崩せば、その分だけチーム力も低下してしまう」、「アタッキングサードとはピッチの全長を3分割した場合に、相手ゴールに一番近いエリアを指す。しかし、攻撃の形を作る上で森保監督が約束事を持ち合わせず、選手個々のテクニックや判断に丸投げされている実情が、三笘の言葉を介して図らずも明らかにされた」、よくぞ 「森保監督が手段を講じられない以上は、選手が率先して動くしかない。そうしなければ手遅れになるギリギリのところまで日本は追い詰められている」、「大きな変化を好まない、頑固で保守的な性格の持ち主である森保監督だが、攻撃の約束事を作ろうと試行錯誤する選手たちの自主性は尊重する。勝負師の側面こそ持ち合わせないが、優しさと謙虚さもあって選手たちから“いい人”と慕われる指揮官の数少ないプラス材料がここにある」、さて、今さら変えられないのかも知れないが、このままでは「ワールドカップ」本戦は、早目に敗退が決まることを覚悟 小林信也氏による「文春砲炸裂のフェンシング合宿、「筋違い批判」に反論の武井壮会長にエールを」 どういうことだろうか。 「必要なレジャーであれ、家族同伴であれ、法律には違反しないし、部外者にとやかく言われる問題ではない。ところが今は国がスポンサーになっている。そのため、税金を払っている国民自身にもスポンサーだという思いがあるのか、散々な言われようになっている」、独自の財源ではなく、税金でやっている以上は、一定の制約は当然だと思う。 「公益法人化を求めている。これも結局、内閣府の管理下に置かれるという意味でも、「下部組織」としての色彩を強くする傾向につながっている」、「公益法人」になれば情報公開など透明化が求められるという重要なメリットがあるのを無視している。筆者はスポーツ記者だけあって、スポーツ団体には甘過ぎるようだ。「スポーツ界が、政府や上部団体から独立し、自主的に運営できる体制を確立することこそ重要だ」、こんな独立王国化には大反対だ。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

LIXIL問題(その3)(『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より4題:「4日後に辞めてもらうことになりました」リクシル社長に突然すぎる“クビ宣告”…日本有数の大企業で起きた“疑惑の社長交代劇”、「僕は会食で辞意なんか告げていません」世間が注目した“リクシルお家騒動”の裏で…取締役会を手なずけた“創業家のウソ”、「今回の社長交代には納得できない」リクシルを追われた“プロ経営者”が創業家と全面戦争へ…CEO復帰を明言した“逆襲の記者会見”、「これで『100倍返し』をしてやった」“お家騒動中 [企業経営]

LIXIL問題については、2019年6月17日に取上げた。今日は、(その3)(『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より4題:「4日後に辞めてもらうことになりました」リクシル社長に突然すぎる“クビ宣告”…日本有数の大企業で起きた“疑惑の社長交代劇”、「僕は会食で辞意なんか告げていません」世間が注目した“リクシルお家騒動”の裏で…取締役会を手なずけた“創業家のウソ”、「今回の社長交代には納得できない」リクシルを追われた“プロ経営者”が創業家と全面戦争へ…CEO復帰を明言した“逆襲の記者会見”、「これで『100倍返し』をしてやった」“お家騒動中”のリクシルが取締役辞任を電撃発表…プロ経営者を追い込む“創業家のシナリオ”)である。

先ずは、本年6月24日付け文春オンライン「「4日後に辞めてもらうことになりました」リクシル社長に突然すぎる“クビ宣告”…日本有数の大企業で起きた“疑惑の社長交代劇” 『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #1」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/54681
・『2018年10月31日、LIXILグループ(現LIXIL)は突如として瀬戸欣哉社長兼CEOの退任と、創業家出身の潮田洋一郎取締役の会長兼CEO復帰を発表。外部から招へいした「プロ経営者」の瀬戸氏を創業家が追い出す形となった。しかし2019年6月25日、会社側に戦いを挑んだ瀬戸氏が株主総会で勝利し、社長兼CEOに“復活”する。 ここでは、一連の社長交代劇の裏側に迫ったジャーナリスト・秋場大輔氏の著書『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』(文藝春秋)から一部を抜粋。瀬戸氏が社長退任を告げられた経緯とLIXILグループの内部事情を紹介する。(全4回の1回目/2回目に続く)』、信じられないような事件だが、興味深そうだ。
・『ローマを訪問したLIXILグループ社長兼CEOの瀬戸欣哉  10月のローマは気温が東京とほぼ同じで湿度は低い。旅行のベストシーズンといわれるそんな時期に、LIXILグループ(現LIXIL)社長兼CEO(最高経営責任者)の瀬戸欣哉は仕事で訪れていた。2018年のことだ。 新型コロナウイルスが全世界で猛威を振るう前まで、瀬戸は月の3分の1、多い時は半分くらいを海外で過ごし、各地に散らばるLIXILグループの経営幹部と話し合う日々を送っていた。今回のローマ訪問はカーテンウォールを手がける子会社、ペルマスティリーザの社長であるリカルド・モロと面談するのが目的だ。 一般に大企業トップの海外出張には経営幹部や秘書といった帯同者がいるものだが、瀬戸はほとんど1人で行動する。今の時代、たくさんの部下を引き連れて大名旅行のような出張をするのは時代錯誤と考えるからだが、他にも理由があった。1人になれるからだ。 瀬戸は会社の実情を細部に至るまで可能な限り自分で把握したいと考えるタイプの経営者である。必要と思えば昼夜を問わず幹部に電話をかけたり、メールをしたりして、情報を吸い上げる。手を尽くして集めたものを頭の中で整理し、考え抜いて経営の方向性を示す。決断はできる限り早く、間違いだと気づけば修正する。時間をかけるのは悪だとすら考える合理主義者だ。 経営者には連日会食の予定を入れて人脈を広げることが仕事の1つと思う人も少なくない。しかし瀬戸は考える時間の方が大事だと思っているから、親睦を深めるぐらいの意味しか持たない会食はなるべく避ける。床に着くのは夜10時くらい。平均睡眠時間は7、8時間とやや長めで、朝5時には起きる。それから1時間ほどかけて、その日にやるべきことの優先順位を付け、仕事に取り掛かる。休日は家族団欒を優先するのでゴルフはしない。) こうしてみると公私のメリハリが相当ついているようにみえるが、それでも日本に居れば次から次へと課題が持ち上がり、自由な時間を作るのは難しい。だから海外出張をした時には、わざと「空白の1日」を作るようにしていた。海外に4日間滞在するという日程を組んでいれば、5日間にするといった具合である。むろん平日に休暇を取るわけにはいかないので、日程は週末を絡めるようにする。 「空白の1日」は誰にも居場所を知らせず、自分で予約を入れ、投宿したホテルで1日中本を読み耽ったり、見損ねていた映画を鑑賞したりする。リフレッシュをして再び仕事に臨むのに、帯同者がいることはかえって不便。だから可能な限り単独行動を取るようにしていた』、「考える時間の方が大事だと思っているから、親睦を深めるぐらいの意味しか持たない会食はなるべく避ける」、徹底した合理主義者のようだ。「海外出張」時に「空白の1日」をつくるとは上手いやり方だ。
・『突然スマートフォンが鳴り「瀬戸さん、急な話だけれど……」  2018年10月27日土曜日は、この空白の1日だった。カラッと晴れたローマにあるホテルで朝食をゆっくり取り、食後にカプチーノを飲みながら、「今日はどの本を読むかな」などと考えていた時、突然スマートフォンが鳴った。電話の主はLIXILグループ取締役会議長の潮田洋一郎だった。 「瀬戸さん、急な話だけれど指名委員会の総意で、あなたには辞めてもらうことになりました。交代の発表は4日後の10月31日です。後は私と(社外取締役の)山梨(広一)さんがやりますから」 潮田は抑揚のない話し方をする。この時もそうだった。藪から棒で、衝撃的な話を落ちついた声で伝えられるのはかえって不気味である。瀬戸の休日モードは一気に吹き飛んだ。 〈辞めろ? 指名委員会の総意? 交代発表は4日後? どういうことだ?〉 潮田とは1週間前、赤坂にあるザ・キャピトルホテル東急で会食をしたばかりだった。その場で自分の人事については話題にもならなかった。 会食には瀬戸と潮田、エグゼクティブの人材紹介を手がけるJ社の社長がいた。Jの社長は潮田と付き合いが長く、LIXILグループ幹部にはJの紹介で入社した人も少なくない。なにより瀬戸のLIXILグループ入りを仲介したのもこの人物である。3人には共通項があって、全員が東京大学経済学部土屋守章ゼミのOBだった。 食事が終わると潮田とJの社長はホテルにあるバーへ消えていった。そこで潮田と軽く飲んだJの社長はその後、瀬戸に電話を掛けてきて、「潮田さんの話を聞いた印象だけれど、瀬戸さんは長期政権になると思ったよ」と告げた。約1週間前にそんなやり取りすらあったというのに、潮田は電話で「辞めてもらう」と言った。 ローマで受けた電話で仰天したことは他にもあった。それまで瀬戸はCEOの人事権を事実上握る指名委員会のメンバーと良い関係が築けていると思っていたが、潮田は電話で、「辞めてもらうのは指名委員会の総意だ」と言った』、「ローマ」での「空白の1日」に辞任を宣告されたとはさぞかし驚いたことだろう。
・『取り付く島がない潮田と食い下がる瀬戸  「本当に指名委員会の総意なんですか」 しばらくの沈黙を経て瀬戸は潮田に二度同じことを尋ねたが、潮田は「ええ。指名委員会の総意です」と言った。取り付く島がないことはわかったが、それでもこう食い下がった。 「中期経営計画がスタートしたのはこの4月です。わずか半年で辞めるなんて無茶ですよ。しかも4日後なんて従業員に説明がつかないし、そもそも株価が暴落します」 しかし潮田は何度も「指名委員会で機関決定したのだから仕方がないでしょう」としか言わず、電話を切った。瀬戸はひとまずカップに残っていたカプチーノを一気に飲み干した。本場の味を楽しむつもりで注文したが、すっかり冷めている。美味いはずがない。レストランには休日の朝を楽しむ観光客の声が響き渡っていたが、その中で一人、瀬戸は瞬きもせず、窓の外をじっと見つめた』、「4日後」に辞めさせられるとは本当に急な話だ。
・『巨大メーカーの誕生  LIXILグループはサッシやトイレといった住宅設備機器を手がける国内最大のメーカーである。傘下に約270社のグループ会社を抱え、150以上の国と地域で商品やサービスを提供している。2022年3月期の売上高は1兆4285億円、従業員は全世界で約6万人にのぼる。 公表している会社の歩みを見ると、同社は2011年、トステムとINAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアが一緒になって誕生した会社となっている。一度に5社が統合して、巨大住設機器メーカーが誕生したという印象を与えるが、厳密にはいくつかの段階を経ている。 まずは遡ること10年前の2001年、サッシや窓、シャッターなどを製造・販売するトステムと、トイレや洗面器などを手がけるINAXが経営統合し、INAXトステム・ホールディングス(HD)が誕生した。 INAXトステムHDは2004年、住生活グループに社名を変更している。潮田の父親で、1949年にトステムの前身である日本建具工業を設立、当時はINAXトステムHDの会長だった潮田健次郎の意向によるものだった。健次郎は住宅関連商材を総合的に取り扱う会社という意味を新社名に込めたが、住宅関連以外にも手を出すといった野放図な多角化はしないという含意もあったといわれる。 住生活グループは2010年にシステムキッチンやシステムバスなどを製造・販売していたサンウエーブ工業とサッシ大手の新日軽を傘下に収め、健次郎が社名に込めた思いはさらに具体化した。残る東洋エクステリアはもともとトステムの関連会社として1974年に誕生した会社で、2000年に完全子会社となっている。つまりLIXILグループの中核となっているのはトステムとINAXで、そこにサンウエーブ工業と新日軽、東洋エクステリアがくっ付いていると理解した方が分かりやすい。 2021年に複数回にわたる情報システムトラブルで経営トップが辞任に追い込まれたみずほフィナンシャルグループは、同じメガバンクの三井住友フィナンシャルグループや三菱UFJフィナンシャルグループの後塵を拝し、常に業界3位に甘んじている。原因の1つは、みずほの母体となっている日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行出身者に旧行意識があるからといわれる。それを踏まえるとLIXILグループは5社のDNAが混ざり、せめぎ合っている会社と映るかもしれないが、歴史的な経緯もあって実際に残っているのはトステムとINAXの企業カルチャーだけである』、「実際に残っているのはトステムとINAXの企業カルチャーだけ」、そんなものだろう。
・『トステムとINAXの経営統合の裏側  もっとも中核であるトステムとINAXの力関係は対等とは言いがたかった。それは2001年の経営統合の形態をみるとわかる。表向きはHDの傘下にトステムとINAXがぶら下がる形になっているが、統合するにあたってHDを新設したのではなく、トステムがHDの母体で、ぶら下がったトステムは新設された企業体である。だから経営統合はしたものの買収企業はあくまでトステムで、INAXは被買収企業だった。 健次郎の自叙伝ともいえる『熱意力闘』(日本経済新聞出版社刊)には当時の経緯が描かれている。 INAX創業家出身の2代目社長で中興の祖と呼ばれ、当時会長だった伊奈輝三が2000年11月、健次郎に電話をかけ、面会を申し入れた。輝三がINAXの本社があった愛知県常滑市から単身で東京にあるトステム本社にやってくるというので、健次郎も1人で応対。すると輝三はいきなり「両社が一緒になってはどうでしょうか」と提案した。 健次郎は、それまで深い付き合いがあったわけでもなかった輝三の急な申し出にひどく驚いたが、その場で同意し、経営統合は事実上1時間足らずで決まった。その際、輝三は株式の統合比率やトップ人事などに一切の前提条件を付けなかった。健次郎は『熱意力闘』の中で、「あれほどの優良企業がと思うと、今も不思議な気がする」と記している。 この経営統合について、当時を知る関係者は大概こう言う。 「もともとトステムは業界6位だったが、営業の猛者たちが片っ端から商談を成立させてトップにのし上がった会社。一方、INAXは争いを好まない、お公家さん集団のような会社だった。企業体質が全く異なる2社の経営統合は驚きで、獰猛なトステムにおっとりしたINAXは飲み込まれてしまうんだろうなあと思った」 企業体質の違いはその後のLIXILグループの権力構造に如実に現れている。瀬戸が潮田からの突然の電話で辞任を迫られた2018年10月時点の取締役の構成をみると分かりやすい。総勢12人のうちトステム出身者は潮田を含めて4人、対するINAX出身者は創業家出身の伊奈啓一郎と、INAX最後の社長だった川本隆一の2人しかいない。 残る6人のうち1人は瀬戸。あとの5人はコンサルタント会社マッキンゼー・アンドカンパニー出身の山梨広一、元警察庁長官の吉村博人、作家の幸田真音、英国経営者協会元会長のバーバラ・ジャッジ、公認会計士の川口勉。いずれも潮田の要請を受けて社外取締役に就いた人たちだ。) LIXILグループは指名委員会等設置会社で、潮田と山梨、吉村、幸田、バーバラの5人がCEOの人事権を事実上握る指名委員。取締役のうち瀬戸と伊奈、川本を除く9人は濃淡こそあれ潮田に近い人物である。圧倒的にトステム系が多く、もしINAXとの間で争い事が起きれば、必ずトステムの主張が通るようになっていた』、「「もともとトステムは業界6位だったが、営業の猛者たちが片っ端から商談を成立させてトップにのし上がった会社。一方、INAXは争いを好まない、お公家さん集団のような会社だった。企業体質が全く異なる2社の経営統合は驚きで、獰猛なトステムにおっとりしたINAXは飲み込まれてしまうんだろうなあと思った」」、「INAX]のような無欲な会社があったこと自体が驚きだ。
・『怪しかったLIXILのコーポレートガバナンスの実情  指名委員会等設置会社について説明する必要があるだろう。 日本企業は長らく取締役が経営の「執行」と「監督」を兼任してきたため、株主の視点から経営されることが少なかったと指摘される。しかし、これからは株主の利益を重視した経営をするべきだとして、2015年にコーポレートガバナンス・コードが定められた。 日本語で企業統治と訳されるコーポレートガバナンスが最も機能する仕組みは指名委員会等設置会社だといわれる。株式会社は「所有(株主)」と「経営」が分離されていて、株主の負託に経営が応える形になっているが、指名委員会等設置会社は経営をさらに「執行」と「監督」に分離しており、業務は執行に委ね、それを取締役会が監督することになっている。執行が合理的で適正な経営判断をしているのかを取締役が監督し、株主の負託に応えるという建て付けだ。 LIXILグループがこの指名委員会等設置会社となったのは2011年。日本でコーポレートガバナンス・コードが導入されるより前だったこともあり、「コーポレートガバナンスの優等生」と呼ばれたが、実情はかなり怪しいものだった。 瀬戸に「指名委員会の総意で辞めてもらう」という電話をかけた潮田はLIXILグループの発行済み株式の約3%しか所有していない少数株主である。会社に顔を出すことは滅多になく、月の半分以上をシンガポールで過ごし、そこで骨董品を集めたり、プロの声楽家を呼んで発声練習をしたりする悠々自適の生活を送っていた。 しかし実質的にCEOを選任する機能を持つ指名委員会や取締役会のメンバーを自分に近い人材で固めているため、思い通りにならなければ経営トップのクビを飛ばすことができる。表向きは指名委員会等設置会社だが、実際はわずかばかりの株式しか持たない潮田がオーナーとして振る舞ういびつな会社というのがLIXILグループで、瀬戸への電話は絶対権力者の最後通牒と言えた』、「表向きは指名委員会等設置会社だが、実際はわずかばかりの株式しか持たない潮田がオーナーとして振る舞ういびつな会社というのがLIXILグループ」、なるほど。

次に、6月24日付け文春オンライン「「僕は会食で辞意なんか告げていません」世間が注目した“リクシルお家騒動”の裏で…取締役会を手なずけた“創業家のウソ” 『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/54682
・『2018年10月31日、LIXILグループ(現LIXIL)は突如として瀬戸欣哉社長兼CEOの退任と、創業家出身の潮田洋一郎取締役の会長兼CEO復帰を発表。外部から招へいした「プロ経営者」の瀬戸氏を創業家が追い出す形となった。しかし2019年6月25日、会社側に戦いを挑んだ瀬戸氏が株主総会で勝利し、社長兼CEOに“復活”する。 ここでは、一連の社長交代劇の裏側に迫ったジャーナリスト・秋場大輔氏の著書『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』(文藝春秋)から一部を抜粋。2018年10月31日、取締役会を終えたLIXILグループは記者会見を開き、瀬戸氏の社長兼CEO退任と、山梨広一社外取締役の社長兼COO就任、潮田氏の会長兼CEO復帰を公表。瀬戸氏はその直後、自らを退任に追い込んだ潮田氏の“暗躍”を知ることになる――。(全4回の2回目/1回目から続く)』、興味深そうだ。
・『瀬戸退任が決議された取締役会では……  記者会見とアナリスト説明会を終えた瀬戸はその日の夜、簡単な夕食を取りながら長かった1日を振り返っていた。 取締役会の直前に伊奈啓一郎と川本隆一、川口勉を見かけた。3人は瀬戸の退任に一様に驚いていて、取締役会では疑義を唱えることを約束してくれた。しかし実際に異議を唱えたのは伊奈と川本の2人だけで、その主張はかき消された。川口は退任の経緯こそ聞いたものの、逆に自分が辞任するという話が出ると大賛成といわんばかりの態度を見せたのには驚いたが、「潮田派」が多数を占める取締役会の構成を考えれば、議論の流れは想定内なのかもしれない。 しかし幸田真音が「今回の人事については、瀬戸さんがCEOを降りてもいいという話があったところから全てが始まった印象がある」という発言は意外だった。自分が辞めるのは指名委員会の総意、そうではなくとも潮田が意思統一をしていると思い込んでいたからだ。 取締役会で幸田は「用事がありますので失礼します」と言って採決には参加せず、部屋から出て行った。だから発言の真意を質すことはできなかったが、退席する際に、他の参加者に見つからないように「私は瀬戸さんにもう少し長くCEOをやって欲しかった」と書き添えた自分の名刺をそっと瀬戸に渡した。そこには幸田の携帯電話の番号が書かれていた。 自分も知りたいことがあるし、幸田も話したいことがあるに違いない。そう思った瀬戸は食事を途中でやめてスマートフォンを取り出し、名刺に書かれていた番号に電話を掛けた。そこで幸田が話した内容は瀬戸にとって驚くべきことばかりだった』、どういうことだろう。
。『幸田から聞いた“瀬戸退任劇”の驚きの裏側  指名委員会を10月26日に開くというのは急に決まったことで、事務局は24日から日程調整を始めた。忙しい身の幸田は「当日は残念ながら足を運ぶことができません。電話で参加します」と答えると、25日の夕方には潮田から直接電話があって、「瀬戸さんとは10月19日に夕食を一緒にしたんですけれど、そこで『CEOを辞めたい』と言い出したんです。びっくりしましたよ。至急後任を決めなければならない。だから私がCEOに、山梨さんがCOOになります」と言った。 幸田は唐突な話に驚きながら、「でも潮田さんは普段、シンガポールにいらっしゃるじゃないですか。経営なんてできるんですか」と聞くと、潮田は「方法は色々とありますよ」と答えた。 幸田は瀬戸にそんなやり取りがあったことを明かし、さらに「瀬戸が急に辞意を表明したため、潮田と山梨がショートリリーフで急場を凌ぐことになった。それならばリモート経営は仕方のないことかもしれない。いずれにせよ潮田CEO、山梨COOに就任は暫定的なものだ」というのが当時の自分の理解だったとも語った。 「幸田さん、僕は潮田さんに辞意なんか告げていませんよ。だいたい10月19日の会食で人事の話なんか出ていません」 瀬戸がそう言うと、今度は幸田が「驚きました」と言い、それから、26日の指名委員会の様子を説明した』、「潮田」は「瀬戸」が辞めるのは指名委員会の総意」と「瀬戸」に説明していたのとは、全く異なるようだ。
・『潮田が使った“二枚舌”の内容  指名委員会に出席したのは潮田と山梨、吉村博人の3人。自分とバーバラ・ジャッジは電話で参加した。さしたる質問は出ず、提案された人事案を指名委員全員が条件付きで賛成した。条件とは潮田が改めて瀬戸の意向を確認するというもので、31日の取締役会の前に指名委員会を再度開き、潮田の説明を聞くことが決まった。 幸田との電話で瀬戸は自分の退任が決まった経緯を理解した。つまりこういうことだ。 指名委員会を開くにあたり、潮田は幸田らに「瀬戸さんが辞めたいと言っている」と説明した。しかし指名委員会が開催された翌日の電話で、自分には「指名委員会の総意で辞めてもらう」と言った。つまり偽計を図った、言い換えれば二枚舌を使ったのだ。 翌日、瀬戸は吉村に電話を掛け、幸田から聞いた話が本当なのかを尋ねた。吉村は幸田が話した内容が概ね正しいと言い、さらにこんな経緯も明かした。 「潮田さんは『瀬戸さんが辞意を表明した』と言ったけれど、私にしてみれば『ああそうですか』と簡単には言えない。だから『潮田さんが瀬戸さんの意向を改めて確認した上でトップ交代を取締役会に諮ろう』ということにした。31日の取締役会の前に開かれた2回目の指名委員会は、潮田さんが瀬戸さんの意思を説明する場だった」という趣旨のことを言った。 事実が確認できて瀬戸は腹立たしさが募った。しかし二枚舌を使った潮田に反撃するべきなのか否か。心は揺れた。 〈クビ宣告があったことを知った幹部の中には「それはおかしいよ。泣き寝入りせず、立ち上がるべきだ」と言った人もいたけれど、指名委員会の総意なら仕方がないと考えて退任を受け入れた。しかし事実が違うのであれば話は変わってくる〉 〈とはいえ10月31日の午前中に開かれた取締役会でCEOの交代を決議している。その後の記者会見やアナリスト説明会で潮田体制はお披露目された。ここまで話が進んでいるのに、自分が暴れて会社が混乱に陥るようなことになるのは本望ではない。屈辱的なアナリスト説明会も我慢したのはそう思ったからだ。暴れることがきっかけで自分のキャリアに傷が付くのも困る。そうであれば大人しく引っ込むのも選択肢の1つではないか〉』、「瀬戸」氏が「自分が暴れて会社が混乱に陥るようなことになるのは本望ではない。屈辱的なアナリスト説明会も我慢したのはそう思ったからだ。暴れることがきっかけで自分のキャリアに傷が付くのも困る。そうであれば大人しく引っ込むのも選択肢の1つではないか」、さすがプロ経営者は考えることが違う。
・『瀬戸退任への反響  潮田に辞任を言い渡された時、瀬戸は「急に辞めれば株価は大暴落するだろうし、社員は混乱する」と言った。実際はどうだったのか。 記者会見は取引時間中に開かれたが、31日の東京株式市場でLIXILグループ株はさして反応することもなく取引を終了した。このため記者会見とアナリスト説明会の合間を控室で過ごした潮田は、同じ部屋にいた瀬戸に聞こえるよう大きな声で「山梨さん、株式市場は反応していないねえ」と言ったが、翌日になって、市場は潮田体制に露骨な疑問を呈した。11月1日の終値は1530円。前日に比べて14%下落した。 「社員は混乱する」という瀬戸のもう1つの“予言”も当たった。 瀬戸の退任はほとんどの社員にとって寝耳に水で、辞めることを知ったのは、瀬戸が社内向けSNSの「ワークプレイス」にこんなメッセージを載せたからだ。 「私は2016年1月にLIXILに参画して以来、グループ内のシナジー最大化に注力し、組織の簡素化、フラット化を進め、水回り事業を担うLWT事業をLIXILグループの成長を支える中核事業として強化してきました。また、デジタル分野への投資を進め、新しい戦略を推進することで、業界を主導する体制を築いてきました」 「しかしながら、私と取締役会の間で今後の方向性に相違があることがわかりました。取締役会の決定によりこの会社の舵取りを任されたのですが、今後の経営方針の転換という取締役会の判断を尊重したいと思います。この3年間の、みなさんの協力とこれまでの貢献に心から感謝しています」 その後、約10日間に瀬戸のコメントには400近くのリアクションが寄せられ、そのほとんどに「悲しい」というマークが付いた。中にはあえてコメントを寄せる従業員もいた。 「残念でなりません。瀬戸さんの方針がとてもオープンで大企業で働いているって思えました。仕事をしていて将来を明るく感じていたところなのに。残念です。できればやめないでいただきたいと切に思っております。方針の違いってなんだったのでしょうか。不安で仕方ありません」 「オープンな企業文化改革、フラットな組織改革、新価格制度、LIXILのあらゆる改革をスクラップ&ビルドで取り組まれており、いずれも共感できるもので軌道に乗ればきっと最高のLIXILになると思ってがんばってきたのですが、スクラップしたところでビルドの形を変えるのはあり得ません。ただただ不安です。瀬戸さんとしても本意ではないのかもしれませんが、このタイミングで退任しないでほしいです」 従業員向けの対応で、潮田、山梨と瀬戸の態度は異なった。新体制が発足した11月1日に潮田と山梨は早速一部の営業幹部を集めて檄を飛ばしたものの、従業員全員に対するメッセージを発信することはなかった。それに広報担当役員のジン・モンテサーノは苛立った』、「潮田と山梨は早速一部の営業幹部を集めて檄を飛ばしたものの、従業員全員に対するメッセージを発信することはなかった」、「広報担当役員のジン・モンテサーノは苛立っ」のも無理もない。
・『広報担当役員が苛立った理由  ジンがLIXILグループに入社したのは2014年である。当時はベルギーのブリュッセルで仕事をしていたが、瀬戸の前任だった藤森義明に「広報体制をグローバル化するのに協力してくれないか」と誘われたのがきっかけだった。その藤森が急にCEOを退任するとなった時に社内は大混乱した。瀬戸の退任も藤森の時と同じくらい急である。ここで新体制がどういうつもりなのかを従業員にはっきりさせておかないと藤森退任の時の二の舞になると思ったが、潮田も山梨もどうやらそのつもりがない。 苛立った理由はまだあった。ジンが瀬戸から「クビを宣告された」という連絡を受けたのは10月27日である。びっくりして翌日の日曜日に「事態が飲み込めません。そもそも急すぎるのではないでしょうか」と潮田に連絡すると、「落ち着いてください。月曜日に説明しますよ。ジンさんは心配性なんだから」と諫められた。しかし「説明しますよ」といった29日月曜日に訪ねると、潮田は突然、「24時間以内にプレスストーリーを作ってください」と言った。おかげでジンは突貫工事を強いられた。 〈潮田さんと山梨さんは忙しいのかもしれないが、ひょっとすると従業員など眼中にないのかもしれない。だからメッセージを出そうとしないのではないか。しかし情報を発信しないことが経営にマイナスであることにそのうち気づくだろう。「心配性なんだから」と言っておいて、後になってから急に「交代会見のプレスストーリーを作ってくれ」と言った時と同じように態度を急変させるかもしれない。そのしわ寄せは広報に来るに違いない〉 そう考えたジンは改めて潮田と山梨に「社内は動揺しています。顧客も同じに違いありません。何も言わないのはかなり不親切じゃないですか」と食い下がった。潮田はようやく「ジンさん、それでは文面を作ってください」と言った。新体制が出した所信表明は広報部が作成した文書で、それがワークプレイスに載った。 瀬戸は会社の実情を細部に至るまで自分で把握したがる経営者だが、潮田はそれとは正反対のタイプ。実務には無頓着で、「経営者とは大きな方向性を打ち出すだけでよい」と考えていたフシがある。『日経ビジネス』のインタビューでは「私は捨て石になることも多いが、布石を打つのが好きなんですよ。それに今期の利益を極大化する必要はないと思っている。10年後、20年後に花開く要素をどれだけ持っているかによって経営は決まるという考え方なんです」と語っているのはその象徴だ。 新体制スタート前後の潮田にとって、最大の関心事は瀬戸を追い出すことで、それ以外、例えば従業員向けにメッセージを出すことなどは些事だったのだろう。広報作成のメッセージには「良い会社にして欲しい」「期待している」といったコメントもあったが、潮田の姿勢を批判する辛辣なコメントも寄せられた。 「感謝している、という言葉の果てが実質的解任なんですか? 世間が言わしめるほどのプロ経営者を招いて、続けて2人も。コーポレートガバナンスとはなんですか? 創業家のエゴですか? 彼ら2人を招聘されたのは取締役会の決定という名ばかりのあなたの独断ではないですか? 世間はそう思っています」』、「瀬戸は会社の実情を細部に至るまで自分で把握したがる経営者だが、潮田はそれとは正反対のタイプ。実務には無頓着で、「経営者とは大きな方向性を打ち出すだけでよい」と考えていたフシがある」、「従業員向けにメッセージを出すことなどは些事だった」、なるほど。
・『瀬戸に掛かってきた弁護士の友人からの電話  11月2日。金曜日の深夜に、吉野総合法律事務所の弁護士、吉野正己のスマートフォンが鳴った。掛けてきたのは瀬戸だ。新聞記事で瀬戸がLIXILグループのCEOを辞任したことを知っていた吉野はどう慰めたら良いのか分からず、とりあえず「大変だったなあ」と言うと、瀬戸は「その件で相談したいんだ」と言った。 瀬戸と吉野は私立武蔵中学校時代からの友人である。共に武蔵高校へ進み、卒業後、瀬戸は東京大学文科二類に、吉野は文科一類にそれぞれ進学した。受験時代は分厚い参考書でも2、3度読めば、ほぼ内容が頭に入ったという記憶力を持つ吉野は、外務省の上級職試験に合格して東大法学部を卒業、外務省へ入省したが、わずか6年で退職。退職後に司法試験を受けて弁護士になっていた。 瀬戸が辞任の顚末を話すと、吉野はこう答えた。 「取締役会が虚偽の情報に基づいて人事を決議したのなら、決議を無効にすることはできるよ。そんなことは俺がやってやる。ただ裁判には時間がかかる。それに潮田さんのCEO選任決議が無効になっても、瀬戸をCEOに選任する決議は別にやり直さなければならない。取締役会は潮田派が多数を握っているんだろ。選任決議に持ち込んだとしても瀬戸は選ばれないよ。残念ながら裁判に訴えても瀬戸のCEO復帰は難しいということだ。むろん手がないわけではない。臨時株主総会を開いて潮田さんと山梨さんを取締役から解任すること。でもそれはちょっと過激な行動だよな」 退任発表後の従業員やアナリストの反応、株価の動き、そして吉野の話を聞いて、今後のキャリアを考えれば大人しくしている方が得策ではないかという心境に傾いていた瀬戸の気持ちは少し変わった。 〈騒がないことが会社のためになるかも知れないとも考えたけれど、退任を惜しんでくれる人がいる。少なくとも真実は明らかにしたい。しかし吉野は裁判だと時間がかかると言った。そうであれば退任の経緯を指名委員会の人にきちんと認識してもらい、決議を覆すのが最善策かもしれない〉 まずは指名委員会だ。そう思った瀬戸は指名委員会から取締役会までに何が起きたのかを教えてくれた幸田や吉村に動いてもらおうと考え、2人に面会を申し込んだ。その一方で吉野に改めて連絡をして、「とりあえず幸田さんと吉村さんに会うつもりだ。話を聞いた後に会って、また相談させてくれ」と言った。 瀬戸からの電話を受けた吉野は当初、友人として軽くアドバイスをしているつもりだったが、次第にかなり由々しき事態であることがわかり、法曹家として見過ごしてはいけない気になってきた。 吉野は週末にいつでも瀬戸に会えるよう自宅で待機していた。しかし待てど暮らせど瀬戸から電話がない。ようやく掛かってきたのは11月4日、日曜日の夜だった。瀬戸は言った。 「申し訳ない。今日は吉野に相談することがなくなっちゃった。指名委員会を動かそうと幸田さんと吉村さんに何度も電話をしているんだけれど通じない。2人とも指名委員会から取締役会までの経緯をちゃんと教えてくれたのに、なんで急に距離を置くようになったのだろう。理由が分からない」』、「幸田さんと吉村さんに何度も電話をしているんだけれど通じない。」、何が起こったのだろう。

第三に、この続きを、6月24日付け文春オンライン「「今回の社長交代には納得できない」リクシルを追われた“プロ経営者”が創業家と全面戦争へ…CEO復帰を明言した“逆襲の記者会見” 『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #3」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/55342
・『2018年10月31日、LIXILグループ(現LIXIL)は突如として瀬戸欣哉社長兼CEOの退任と、創業家出身の潮田洋一郎取締役の会長兼CEO復帰を発表。外部から招へいした「プロ経営者」の瀬戸氏を創業家が追い出す形となった。しかし2019年6月25日、会社側に戦いを挑んだ瀬戸氏が株主総会で勝利し、社長兼CEOに“復活”する。 ここでは、一連の社長交代劇の裏側に迫ったジャーナリスト・秋場大輔氏の著書『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』(文藝春秋)から一部を抜粋。2019年4月5日、東京・大手町のオフィスビルで記者会見を開いた瀬戸氏は、CEOに復帰してLIXILグループを立て直すことを表明する。(全4回の3回目/4回目に続く)』、興味深そうだ。
・『号砲を鳴らす日  2019年4月5日の東京は、雲の切れ間から時折日差しが地面に届くような天気だった。この時期にしては少々蒸し暑い日に、東京・日本橋にある吉野の事務所には朝から続々と人が入ってきて、「久しぶり」「元気だった?」などと声を掛け合った。 声の主は瀬戸が立ち上げたモノタロウのOBやOGである。モノタロウは本社を兵庫県尼崎市に置いていて、社員のほとんどは関西に住んでいる。吉野の事務所に集まった面々は前日に東京へやってきてビジネスホテルに宿泊し、この日の朝、地図を頼りに地下鉄の日本橋駅から少し離れたところにある吉野の事務所へやってきたのだ』、「モノタロウ」は「瀬戸が立ち上げた」とは初めて知った。
・『「最近は何してんの?」  「家の近くに畑を借りて、きゅうりやらトマトやらを植えてんねん。この歳やから、体がきつくてかなわんわ」 OBとOGが、まるで同窓会が開かれているかのような会話を関西弁でしているところに瀬戸が現れた。 「急なお願いで本当に悪かったね。東京へは昨日来たんでしょ。よく休めた?」 瀬戸がお礼と労いの言葉をかけると、1人が答えた。 「いや、電話をくれて嬉しかったわ。新聞やテレビで瀬戸さんが大変な目に遭うていることは知ってましたから。こんな時にお役に立てることがあるなんて、ありがたいお話ですわ」 瀬戸は2018年10月31日に開かれた記者会見の冒頭で「皆さんにお会いするのもこれで最後になると思いますけれど……」と、表舞台に立つのはこれが最後であるかのようなことを言った。 しかしその後、潮田と山梨を解任し、CEOに復帰してLIXILグループを立て直そうと考えを改めた。それがDo The Right Thingだと思ったからだ。もっともこの試みが正義であることは、指名委員会や株主からの賛同を得て初めて証明できるものでもあった。それには公の場に立ち、世間に訴える必要がある。4月5日はその号砲を鳴らす日だ。 瀬戸はこの日に備えてAというPR会社と契約を結んでいた。会見場の設営や記者会見の司会進行はもちろんのこと、当日、メディアに配る資料を作成したり、質疑応答に備えて想定問答を作ったりするのがAの仕事だった。 しかしAは記者会見の直前になって突然、契約の解除を申し入れてきた。瀬戸が理由を尋ねると、担当者はこう言った』、「PR会社と契約を結んでいた」とはさすがだ。
・『瀬戸が激怒した担当者の言葉  「うちがPRの業務委託を受けている先にLIXILグループと関係の深いところがあります。瀬戸さんの依頼を受けると、ともすれば利益相反行為になってしまいます。それで誠に申し訳ありませんがお断りしようということです」 瀬戸は激怒した。契約を結ぶ時、Aの担当者は「弊社が業務委託を受けている先には瀬戸さんと利益相反が生じる可能性があるところもあります」と確かに言った。しかし「しかし社内では完全にファイアーウォールを敷いておりますのでご安心下さい」とも語った。それが記者会見の直前になって利益相反を理由に契約の解除を申し入れてきたのだ。おまけに契約を結んでからその日までの委託料を当然のように請求してきた。 いずれにせよ関係を継続するわけにはいかない。契約はその場で打ち切った。それからしばらく「利益相反が生じる可能性がある相手」とは誰なのかを考えたが、最重要課題は目前に控えている記者会見をどう乗り切るかだと思い直し、善後策を考えた』、「利益相反を理由に契約の解除を申し入れてきた」にも拘らず、「契約を結んでからその日までの委託料を当然のように請求してきた」、とは酷い話だ。
・『記者会見には瀬戸の妻、陽子の姿も  Aが予約した会見場は大手町のオフィスビルの2階にある会議室である。記者会見に使えそうな近隣の会議室に比べると使用料は手頃だったが、その分、エントランスから会見場までの動線が少し分かりにくかった。 記者会見に参加するメディアは迷うかもしれないから会場まで案内をする人が3人必要だ。そのほか受付にも3人いるだろう。司会が1人、質疑応答の際に記者の元へマイクを運ぶ人が2人……。瀬戸は自ら会場へ足を運び、記者会見を開くのに必要な人数を割り出し、モノタロウのOBやOGに直接電話をかけた。瀬戸からの突然の電話に誰もが一様に驚いたが、事情を聞き、ほとんどが2つ返事で東京行きを決めた。 記者会見の開催を決めてから実際に開くまでの時間はわずかだったにも拘わらず、吉野の事務所に10人近くが顔を揃えた。その中にモノタロウのOBやOG一人ひとりに頭を下げ、お礼を言っている瀬戸の妻、陽子の姿もあった。同じ部屋にいた瀬戸が人数を数え、「マイクを運ぶ人がどうしても1人足りないなあ」と言うと、陽子は「それ、私がやるわ」と買って出た。 受付は陽子が営む会社で働く岩根静江が、司会はモノタロウでIRを担当していたOGの山崎知子が請け負った。記者会見で配布するプレスリリースは当日の朝までかかって瀬戸と吉野が作成した。徹夜になったのは、株主に海外の機関投資家もいて、日本語版だけでなく、英語版も2人で手分けして作ったことに加え、記者会見で出そうな質問に対する回答集も作ったからだ。 難儀だったのは取締役候補者の略歴書作りだった。社外取締役候補となった西浦や鬼丸、濱口、鈴木はさまざまな経験をして現在に至っている。これを寸分間違えることなく経歴書に落とし込む作業は、間違いがあってはいけないため意外と手間がかかる。それを瀬戸に西浦を紹介した岸田が仕事の合間を縫ってまとめた。 約20年前の2000年、瀬戸はわずかばかりの仲間と大阪の阿波座にあるペンシルビルに事務所を借りてモノタロウを創業した。当時、eコマースと呼ばれたビジネスの肝である情報システムですら自前で構築し、家賃5万円のマンションを借りて、そこにサーバーと冷却用のクーラーを何台も置いて商売を始めた。4月5日午後1時から始まった記者会見は、裏方にその道のプロが1人としていない何から何まで手作りの舞台だったが、それはモノタロウが産声を上げたころの様子をどこか彷彿とさせた。 司会の山崎に促される形で登壇した瀬戸は、自分を含む取締役候補を紹介した上で2つの話をした。1つは6月の定時株主総会に株主として瀬戸を含む8人を取締役候補として提案、選任を求めるが、今後指名委員会に対し、この8人を会社提案の取締役候補にするよう働きかけていくということである』、「社外取締役候補となった西浦や鬼丸、濱口、鈴木はさまざまな経験をして現在に至っている。これを寸分間違えることなく経歴書に落とし込む作業は、間違いがあってはいけないため意外と手間がかかる」、確かに大変そうだ。
・『「お友達内閣を作ろうとしているのではない」  もう1つは、この取締役候補が選任されれば自分はCEOに戻るつもりであり、復帰後には昨年スタートさせた中期経営計画を復活させると話した。 瀬戸は4人の社外取締役候補について説明し、「いずれも立派で実績もある方ばかりですが、もう1つ候補者には共通項があります。いずれも信頼できる第三者からの紹介で出会った人ということです。かねてからの友人ではなく、私を監督し、叱り、必要によっては交代させられる方々であり、誰の私利私欲も退けられる人ばかりです」と強調した。それは指名委員会や株主に対するメッセージで、「お友達内閣を作ろうとしているのではない」という意思表示である。 もう1つ語気を強めたのは吉田がトステム出身者であることだった。自分たちの提案にトステムもINAXもないということを伝えたかったからだ。その上で今の自分の心境を語った。 「昨年10月31日にCEOを退任してから何をすべきかをずっと考えました。正直申し上げて他の仕事をしようかと思ったこともあります。でも私の行動規範の最後の拠りどころは『Do The Right Thing』です。虚心坦懐に自分がすべきことを考えた時、LIXILグループに戻って仕事を全うすることが正しいことだと結論づけました」 「今回の経営者交代は明らかに正しい事ではなかったと思います。これを許したら、LIXILグループは正しい事をしない会社と思われてしまう。それでは従業員や株主に迷惑がかかるし、そもそも従業員に対して『正しいことをしよう』と言い続けてきた自分自身がそこから逃げたことになる。だから復帰を目指すことにしました」 質疑応答に移ると、メディアからの質問は退任の経緯に集中した。すでに『日経ビジネス』や『FACTA』、『日本経済新聞』などが報じていたことに加え、公表された調査報告書要旨にも書かれていることではあったが、瀬戸が公の場に出たのは昨年10月31日以来のこと。メディアは本人の口から聞きたいと思ったのか、さかんにこれまでの経緯を問いただした。 次に多くの質問が寄せられたのは瀬戸の潮田に対する思いだった。瀬戸は「LIXILグループを経営する機会を与えてくれたことは感謝したい」と前置きした上で、国内事業でシェアと利益率のどちらを重視するか、ペルマをどう捉えるかといった点で潮田とは考えが違ったことを指摘した。さらにシンガポールに住みながら経営が出来るのかなどと潮田の経営スタイルに疑問を投げかけ、事実上、潮田の一存で人事が決まってしまうLIXILグループのコーポレートガバナンスは正さざるを得ないと語った。 一般的に記者会見の所要時間は40分から50分程度で、長くても1時間というのが目安である。しかし、少しでも多くの世間や株主に自分たちの行動は正義であると認識してもらう必要があると考えた瀬戸は吉野と相談して会見時間を1時間半と設定し、さらに質疑応答が終わった後に発表者をメディアが囲んで追加の質問をする、いわゆる「ぶら下がり」にも応じた。会見が終わったのは午後3時を過ぎていた』、「少しでも多くの世間や株主に自分たちの行動は正義であると認識してもらう必要があると考えた瀬戸は吉野と相談して会見時間を1時間半と設定し、さらに質疑応答が終わった後に発表者をメディアが囲んで追加の質問をする、いわゆる「ぶら下がり」にも応じた。会見が終わったのは午後3時を過ぎていた」、マスコミ対応を丁寧にしたのは正解だ。
・『2通りのプロセス  3月20日に機関投資家4社と伊奈が、潮田と山梨の解任を議案とする臨時株主総会の開催を請求した。これが賛成多数で可決されたとして、LIXILグループのその後の経営をどうするか。瀬戸が4月5日に発表したのは自身を含む8人の取締役が選任され、自分がCEOに復帰して舵取りをするというものだった。 復帰は2通りのプロセスが考えられた。株主提案で8人の選任を求めて定時株主総会に臨み、株主の審判を仰ぐというものが1つで、もう1つは指名委員会や取締役会が瀬戸を含む8人を会社提案の候補者にするという方法である。それを4月5日の記者会見で話した瀬戸は、後者のプロセスの可能性が10分にあるのではないかと考えていた。この時点でLIXILグループは定時株主総会に諮る会社提案の取締役候補を決めていないからばかりではない。他にも理由があった。) 1つはメディアの報道が概ね瀬戸に好意的だったことだ。記者会見で可能な限り丁寧に対応し、その後、続々と申し込まれた単独インタビューに全て対応したことも奏功したのかもしれない。瀬戸が記者会見を開いている間にLIXILグループの株価が急騰し、4月5日は前日比90円高の1654円で引けたことも好材料だった』、「株価が急騰」は経営陣への信認の表れだ。
・『瀬戸の追い風となる2つの動き  さらに瀬戸には追い風となる2つの動きがあった。1つは豪ファンド運用会社のプラチナム・アセット・マネジメントが潮田と山梨の解任に賛成すると表明し、「瀬戸氏主導の事業再生が道半ばで、経営首脳の交代に納得できない」というコメントを出したことである。プラチナムはLIXILグループの株式を議決権ベースで4・42%保有する2位株主。それが解任に賛成すると表明したことは、他の株主にも少なからず影響を及ぼすことが予想された。 もう1つは会見当日と偶然重なった朝日新聞の報道だった。年明け以降、西村あさひ法律事務所がまとめた調査報告書の内容と開示方法を巡ってLIXILグループの取締役会はもめた。侃々諤々の議論の末、2月25日に報告書を編集した「報告書要旨」が会社名で公表され、それが機関投資家らの反発をさらに増幅させたが、朝日は「要旨」ではなく、「調査報告書」の内容を報じ、会社が意図的に公表を避けた点を明らかにしたのだ。少々長くなるが記事を引用する。 住宅設備大手、LIXIL(リクシル)グループの首脳人事の経緯が不透明だと機関投資家が疑問視している問題で、第三者の弁護士がまとめた首脳人事に関する調査報告書の全容が明らかになった。CEO(最高経営責任者)に復帰した創業家の潮田洋一郎氏に対する遠慮が多くの取締役にあったことがガバナンス(企業統治)上の問題を招いた原因だと報告書は指摘していたが、LIXILはこうした部分を伏せて公表していた。 LIXILは、首脳人事の手続きの透明性について調査・検証が必要だとする意見が一部の取締役から出たことを受け、第三者の弁護士に調査を依頼した。2月25日に調査報告書の簡略版を自社ホームページで公表したが、全文公開はしなかった。首脳人事を疑問視する機関投資家が情報開示が不十分だとして反発。全文公開を求めているが、LIXILは応じていない。 朝日新聞は2月18日付の調査報告書の全文を入手した。LIXILの監査委員会から調査を委嘱された弁護士がまとめた報告書は全17ページ。取締役全員に聞き取り調査を実施し、関連資料を精査してまとめたものだ。一方、LIXILが公表した簡略版は8ページ。社長を退任した瀬戸欣哉氏と潮田氏の対立の詳しい経緯や背景、聞き取り調査での取締役の発言など多くの記述が省略されていた。 調査に至った経緯や報告された事実をまとめ、今後の対応を記す体裁をとっており、報告書全文の章立てにも修正が施されていた。全文には「一連の手続きにおけるガバナンス上の問題点」と題する4ページにわたる章があるが、その大半が削られ、「調査結果を踏まえた当社の対応」の章が加えられており、全文に沿った要約とは言い難い内容に修正されていた。(中略) 簡略版では伏せられているが、首脳人事の「ガバナンス上の問題点」の検証結果も盛り込まれていた。指名委の議論が潮田氏主導で行われ、指名委が瀬戸氏の辞意を確認していなかったと指摘し、手続きの客観性・透明性の観点から望ましくないとの見解を示していた。 さらに、「創業家である潮田氏が自分でCEOをやると言っている状況で、それに異を唱えることのできる者はおらず、誰も反対のしようがない状況だった」という調査対象者の発言を記し、「社外取締役を含めた多くの取締役に潮田氏に対する遠慮があったことが認められる」と分析。「このことが潮田氏が提案する人事に対して、ガバナンスを効かせた議論をすることができなかった原因・背景の1つになった」と指摘していた。(朝日新聞2019年4月5日) 機関投資家と伊奈が臨時株主総会の開催を請求した時点で、指名委員会にその結果を見通すことは難しく、取りうる選択肢はいくつもあった。しかしプラチナムの発表や朝日のスッパ抜き、記者会見後の一連の報道や株価の値動きで、潮田サイドは不利な状況に追い込まれているといえた。おまけに会社は朝日新聞の報道で観念したのか、シンガポール移転のくだりなどを黒塗りにした報告書を9日に全文開示している。潮田と山梨が解任される可能性は俄然高まった。 それでも指名委員会が潮田の意向に沿った取締役候補を立てれば、今度は批判の矛先が指名委員会に向かいかねない。さらに瀬戸は記者会見で、「現在の社外取締役で、私たちの候補者チームに参加して頂ける方がいれば、それは経営の連続性の観点からも前向きに検討したい」と語り、社外取締役の中で再任に意欲を見せていた指名委員長のバーバラ・ジャッジがなびきやすい状態も作っていた。だから指名委員会は自身を含む8人、もしくはバーバラを含む9人を会社提案の取締役候補にすることもあり得る。瀬戸はそう考えた』、最終的にどうなったかは次の記事。

第四に、この続きを、6月24日付け文春オンライン「「これで『100倍返し』をしてやった」“お家騒動中”のリクシルが取締役辞任を電撃発表…プロ経営者を追い込む“創業家のシナリオ” 『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #4」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/55343
・『2018年10月31日、LIXILグループ(現LIXIL)は突如として瀬戸欣哉社長兼CEOの退任と、創業家出身の潮田洋一郎取締役の会長兼CEO復帰を発表。外部から招へいした「プロ経営者」の瀬戸氏を創業家が追い出す形となった。しかし2019年6月25日、会社側に戦いを挑んだ瀬戸氏が株主総会で勝利し、社長兼CEOに“復活”する。 ここでは、一連の社長交代劇の裏側に迫ったジャーナリスト・秋場大輔氏の著書『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』(文藝春秋)から一部を抜粋。2019年4月18日、緊急記者会見を開いたLIXILグループの潮田氏は、自ら取締役辞任を表明する。その真意とはいったい——。(全4回の4回目/3回目から続く)』、興味深そうだ。
・『突然の潮田辞任表明  瀬戸が記者会見を開いたのは2019年4月5日だった。その4日後の9日に、潮田は『読売新聞』と経済誌『週刊東洋経済』のインタビューに応じている。そこで2018年10月31日に開いた記者会見の時と同じように、瀬戸の経営は拙かったという趣旨の発言を繰り返したが、同時に今後の経営に対して意欲的とも取れることを語った。 例えば臨時株主総会で解任を求められていることについては、「希望があれば株主様には会います。分かってもらえるはずですよ」と発言。今後の経営計画を問われると、「連休明けの5月13日に決算発表を予定しています。その時に2020年3月期決算の見通しと、今後3~5年の新しい計画を発表する予定です」とも答えた。しかし10日も経たずに態度を180度変えた。 4月18日午後4時半、東京・六本木にある会議場「ベルサール六本木」でLIXILグループが緊急記者会見を開いた。ペルマの減損損失を計上したことなどで、3月期の最終損益が当初見込んでいた15億円の黒字から一転、530億円の赤字になる見通しだという業績下方修正を発表した。 この会見には潮田と山梨、CFOの松本が出席。そこで潮田は5月20日付で取締役を退任し、6月の定時株主総会でCEOも辞めると表明した。山梨は定時株主総会までは取締役とCOOを続けるが、総会後は取締役には残らないと言った。 潮田の取締役辞任表明は“奇襲”といえた。臨時株主総会が開かれれば潮田と山梨は解任される可能性がかなり高まっていたが、その臨時株主総会を開く根拠を失くすものだったからだ。しかし潮田は会見で、そうした目論見があって退任するのではないと強調した。巨額の赤字を計上することになったのは瀬戸がCEOとして手を打たなかったからで、退任するのはその瀬戸をCEOにした任命責任を取るからだという論理を展開した。 「取締役退任は臨時株主総会を回避するためではありません。今回の巨額損失の責任は瀬戸さんにありますが、彼をCEOに任命したのは当時の指名委員会のメンバーで、取締役会議長だった私の責任です。だから辞めるんです。私は38年間取締役をやってきましたが、(瀬戸の任命は)大変な、最大の失敗でした」 会見での潮田は瀬戸の退任を発表した2018年10月31日の時と同様、言いたい放題だった』、「潮田の取締役辞任表明は“奇襲”といえた」、確かにその通りだ。
・『潮田の過激な発言は瀬戸に向けられ……  「ペルマの買収を決めたのは私です。窓については世界一の技術を持つ会社を手に入れるのは夢でしたからねえ。うまく経営できるはずだったんです。しかし瀬戸さんの3年間の経営が宝石のようだったペルマを石ころにしてしまった。経営がおかしくなっているのなら、せめて取締役会で報告して欲しかったが、それもなかった」 「瀬戸さんは定時株主総会に株主提案をして、自らCEOへの復帰を目指しているようですけれど、この赤字を招いた責任をどう思っているんですかねえ。訝しく感じます」 一般的に会見に出席する記者は、発表者が口にする刺激的な発言をわざと取り上げる傾向がある。発表者が会見後に「一部が切り取られて報道された」と怒ったりするのはこのためだ。その意味で4月18日の会見は報道する材料にとって、いわば「撮れ高」の多いものだったが、ほとんどのメディアは潮田の過激な発言をカットして報じた。瀬戸への強烈な私怨を感じ取り、さすがにこれを報道するわけにはいかないと思ったからだろう。 業績下方修正を発表して、全ての責任を瀬戸に負わせる。臨時株主総会を前に潮田が辞任する。瀬戸にとって2つのシナリオは予想の範囲内ではあったが、いざ発表となると、さすがに驚き、聞き捨てならないと思った。 ペルマは確かに優れた会社だったかもしれない。しかしデジタル技術の革新で優位性は失われ、買収した時点ですでに「宝」どころではなかった。無理に受注したのは藤森時代で、そのツケが今回の決算に出たのに、潮田は会見で瀬戸の責任だと言った。 瀬戸は潮田の説明が明らかに間違いだと証明することができた。CEO就任が決まってすぐに作成したLIXILグループの経営に関する報告書では、かなりのページを割いてペルマのリスクを説明していた。正式にCEOになったのは2016年6月の株主総会後だが、その翌月の取締役会でペルマにどれくらいの損失が発生する可能性があるのか、具体的な数字を盛り込んだ資料も提出していた。取締役会の議事録を見れば、その後も報告を続けていたことは明らかだ。「取締役会への報告がなかった」という発言は、瀬戸の退任劇で偽計を使った潮田らしいと言えばそれまでだが、およそ容認できるものではなかった』、取締役会議事録を見れば分かるのに、「取締役会への報告がなかった」と強弁する「潮田」は平常心を失っているようだ。
・『潮田に反論するために瀬戸が取った行動  潮田の会見が終われば、メディアは当然、瀬戸にコメントを求めてくることが予想された。どこで応じ、どう反論するか。瀬戸がそれを考え始めた時に吉野から電話が入った。 「瀬戸、すぐに反論しよう。しかし、今から記者会見を設営するのは無理だ。20人くらいしか入れないけれど、俺の事務所でぶら下がり取材に応じるしかない」 「潮田さんの発言を聞いたけれど、よくあそこまで噓が言えるな。頭にきたからぶら下がりは霞が関ビルのエントランス前にして、時折、36階を見上げてやるパフォーマンスをしようと思ったくらいだが、吉野の事務所に集まってもらうのが現実的だな」 瀬戸は続けた。 「吉野、もちろん反論するよ。でも潮田さんと水掛け論になるのは避けたい。だからぶら下がりでは説得力を持たせることが大事だと思うんだ。LIXILグループの経営分析をした時の報告書とか、ペルマのリスクを数字で示すために作った資料が手元にあるんだけれど、これを持って話をするのはどうかなあ」 「でも、それは内部文書だろ。メディアに見せるわけにはいかないよな」 「だから『中身を見せるわけにはいかないが、証拠はここにある』と言うつもりだ」 「それならメディアは潮田さんの噓を理解するかも知れないね」 4月18日午後7時過ぎ。吉野の事務所は20人を超えるメディアで溢れかえった。「急に呼び立てたのに、広い部屋じゃなくて申し訳ないですね」。吉野が殺到するメディアに何度も詫びているところへ、瀬戸が予定よりも少し遅れて現れた。) すかさず取り囲んだ記者に潮田の取締役退任について「臨時株主総会を回避するためではないですかね」と感想を述べるなどしていると、案の定、「潮田さんは『瀬戸さんからペルマの経営状態について報告がなかった』と言っていましたが……」という質問が出た。 「そうおっしゃったみたいですが、事実と違います。私が手に持っているのがその証拠で、当時の報告書の一部です。皆さんにお見せしたいところですけれど、内部情報が含まれているから見せられない。残念です」 瀬戸はそう言いながら、数十枚に及ぶA4サイズの紙の束をくしゃくしゃに握りしめ、「悔しさ」を演出した』、「A4サイズの紙の束をくしゃくしゃに握りしめ、「悔しさ」を演出した」、「瀬戸」氏もなかなかの役者だ。
・『潮田が10日足らずで退任を表明した理由  潮田がメディアの取材に応じてから10日足らずで退任を表明することにしたのはなぜか。瀬戸は調査報告書をまとめて以降、LIXILグループからは手を引いた西村あさひ法律事務所に代わって再び前面に出てきた森・濱田松本法律事務所か、株主総会をどう乗り切るべきかというアドバイスなどをするコンサルタント会社のアイ・アールジャパン(IRJ)ホールディングスの入れ知恵だろうと考えた。 機関投資家と伊奈は3月20日に臨時株主総会の開催を請求し、そこでの潮田と山梨の解任を求めたが、潮田は当初、実際に開いたところで賛成は少数にとどまると踏んでいたフシがある。しかし時間が経つにつれて雰囲気は変わり、解任が現実味を帯びてきた。瀬戸は、潮田にそうした情勢変化を伝えたのも、取締役を退任するという「ウルトラC」を考えたのも森・濱田松本法律事務所かIRJと考えた。 会見で潮田は「6月の株主総会で会長兼CEOも辞めるが、その後、アドバイザーをやってくれと言われれば考える」と言い、山梨は「株主総会以降は取締役にはならないが、許されるのであれば執行に専念したい」と含みをもたせた。つまり山梨は潮田の後任となる会長兼CEOに就く用意があり、潮田は山梨の相談に乗るのはやぶさかでないと言った。 潮田は大掛かりなことは考えるが、細かなことには関心を持たない。一方の山梨は前年11月以降、LIXILグループのCOOとして日常的なオペレーションの舵取りをするようになったが、大事なことは必ず潮田に相談していると聞いていた。2人が会見で断定的な物言いをしていないから決めつけるわけにはいかないが、取締役ではないCEOと相談役が経営する、極論すれば「6月以降、肩書きは変わるが業務執行体制は変わらない」という前代未聞の人事を2人が考えつくとは思えない。 いずれにせよ4月18日の記者会見は事態を大きく変えた。潮田や山梨にとって臨時株主総会を開く必要がなくなったことはプラスの局面転換だっただろうが、一方、その時の2人が予想できなかったマイナスの局面転換もあった。その1つはCFOの松本が態度を一変させたことだ。 説明が必要だろう。瀬戸を陰に陽に支えたLIXILグループの経営幹部は何人もいたが、潮田や山梨にとって明確な敵は株主提案の取締役候補になった吉田と広報担当役員のジン、それに瀬戸チルドレンともいえる金澤ぐらいだった。 株主提案の取締役候補となった吉田は言うまでもない。広報担当役員のジンは昨年10月に瀬戸が事実上解任されたことについてメディアや株式市場の反応をレポートにまとめて取締役会に提出、潮田の逆鱗に触れた。その後、広報業務は潮田や山梨がIRJと同じタイミングで雇った危機管理広報コンサル会社のパスファインドが担うようになるという憂き目も見た。潮田や山梨はLIXILグループのデジタル戦略を支えるCDOの金澤に業務上では頼ったものの、瀬戸に誘われてLIXILグループ入りしている以上、潮田や山梨にとって味方とは言えない。 やや脱線するが、金澤については余談がある。瀬戸は4月5日に記者会見を開いて以降、メディアからの取材依頼を積極的に受けたが、窓口となったのは森明美という女性だった。瀬戸や吉野が作ったプレスリリースの最後には連絡先として必ずこの森の名前と携帯電話の番号が記されていた』、なるほど。
・『「森明美とは何者か」  「森明美とは何者か」。PR業界ではそれがちょっとした話題になった。この業界は横のつながりが強く、ライバル会社に所属する人であっても同業者ならば名前ぐらいは知っている。しかし森明美は聞いたことがなかったからだ。それもそのはずで、森はモノタロウOGであると同時に金澤の妻である。「金澤」を名乗れば会社側に勘ぐられかねないと考え、旧姓を名乗った。金澤は夫婦ともども瀬戸シンパだった。 しかし松本は吉田やジン、金澤とは違った。瀬戸に同情的ではあったが、瀬戸が退任し、潮田−山梨体制になってからもCFOとしての職務も忠実にこなしていた。本人は決して瀬戸と潮田−山梨を両天秤にかけていたつもりではなかった。自分の感情はひとまず横に置き、肩書きに相応しい仕事をすることが自分にとっての「正しいこと」だったと思ったからそうしたに過ぎない。 しかし潮田が退任会見を終えて、松本の堪忍袋の緒は切れた。肩書きはCFOだが、事実上、経営企画も担当しているのに直前まで潮田と山梨の人事を知らされていなかった。「ジンは知っていたの?」と聞くと、ジンは「そんなわけないじゃない」と言った。潮田と山梨は重要事項を決めるのに本来は関わらせるべき松本とジンらを外し、危機を乗り切るために雇ったIRJとパスファインド、それと森・濱田松本法律事務所に相談して物事を決めている。松本にはそう見えた。 株主から解任を突きつけられ、その流れが大勢となりそうな情勢になって潮田と山梨が多少なりとも動揺したことは間違いない。社内を見渡せば、誰と断定することはできないにしても瀬戸シンパの幹部は確実にいる。次第に猜疑心が強まって社内の人を信用せず、外部の専門家にしか頼らなくなった。それはそれで異常だが、「プロ」を名乗り、カネを渡す限りは忠実な人材で脇を固めるという心境は分からないでもない。しかし松本は会見でのペルマについての潮田の説明がどうしても許せなかった。 2016年1月に初めて出会ってから、時をおかずして瀬戸は「松本さん、ペルマを子会社として持ち続けることはリスク以外の何物でもないですよね」と言った。「最初からLIXILグループの急所を見抜いてくるとは。瀬戸という人はただ者ではないな」と思ったことを松本は鮮明に覚えている。その後、瀬戸が取締役会で具体的な数字を元にペルマ売却に言及し、それを潮田は表情にこそ出さないが、明らかに不満な様子で聞いていたことも見ている。 最終的にCFIUSが待ったをかけたため、ペルマのLIXILグループへの出戻りが決まったことが報告された取締役会で、松本は潮田が嬉しそうな顔をして会議室を飛び出して行ったことも目撃した。ところが退任を発表した会見場で隣に座った潮田は真顔で延々と「悪いのは瀬戸だ」と語った。松本はCFOの仕事を忠実にこなすことは決して「正しいこと」ではないと悟った。 〈このままでは会社がダメになる。もういい。これからは肩書ではなく、自分の気持ちに正直に行動しよう〉 松本が反旗を翻そうと決心をしたころ、ジンは金澤に相談を持ちかけていた。 臨時株主総会が開かれれば、潮田さんと山梨さんは解任される。そうしたらキンヤがCEOに復帰する可能性が一気に高まると思っていたけれど、記者会見で情勢が分からなくなった。2人は取締役にはならない。でも代わりの取締役は潮田さんの息のかかった人を据え、CEOを山梨さんにする。そして潮田さんが裏で糸を引くというのが、彼らの狙っているシナリオでしょう。そうなれば私達は間違いなくクビだけれど、考えてみたらもうクビになっているようなものじゃない。お互い次の道を歩むことになるだろうけれど、その前に『正しいこと』をしない?」 ジンが金澤に言ったアイデアはビジネスボードを活用するというものだった。前年12月にドイツのデュッセルドルフで開かれたビジネスボードのミーティングでの振る舞いを見て、メンバーのほとんどは山梨にはリーダーの資格がないと判断した。そのメンバーで「潮田−山梨体制では会社が持たない」という一種の連判状を作成し、指名委員会や主な機関投資家に送りつけて賛同を得るのはどうか。ジンはそう言った。 金澤はジンの言う「どっちにしろクビになるのだから、次の道を歩む前に自分たちができることをしよう」という考えには賛成した。しかし金澤は連判状に名を連ねるのが確実なのは自分とジン、吉田の3人しかいないと考え、「連判状を出すのなら、有志の数が多くないと意味がないよね。問題はどうやって仲間を増やすかだ」と言った。どうしたら金澤の懸念を払拭できるのか、ジンが自席に戻ってその方法を考えているところへ、松本がふと現れた。) 「ジン、先日の記者会見で、このままではうちは持たないと確信したよ。もう行動しなければダメだと思う」 松本の話に驚いたジンは、松本が旗幟を鮮明にしたのは「あの場面」ではないかと思った』、なるほど。
・『「『倍返し』、いや『100倍返し』かな」  取締役辞任という電撃発表を終えて控室に戻ってきた潮田は、メディアに対して瀬戸への思いを語ることができたという満足感からか、山梨にこんなことを言った。 「山梨さん、会見はどうだった? 臨時株主総会を請求されて、瀬戸さんには株主提案の取締役候補を発表されてと、向こうのやりたい放題だったけれど、赤字決算の原因であるペルマの責任は彼にあると言ってやった。これで『倍返し』だろう。いや『100倍返し』かな」 山梨はぼそっと答えた。 「潮田さん、ちょっと喋りすぎですよ」 2人の会話を横目で見ていた松本とジンはやり取りの意味が分かった。巨額の赤字決算を計上することになったのはペルマが主因で、それは瀬戸の経営が無策だったからである。瀬戸をCEOに招き入れたのは自分だから、その任命責任を取って自分は取締役もCEOも辞める。会見で潮田はそう言ったが、IRJは事前の打ち合わせで「ペルマを瀬戸さんのせいにするのは無理がありますね」と釘を刺しているのを2人は見た。 しかし潮田は忠告を無視して持論を展開し、「100倍返しをしてやった」と満足気に話した。 会見での潮田発言は致命的で、何としても止めなければならなかったはずだ。案の定、同日夜のぶら下がりで瀬戸は反撃している。もっともあの場面で潮田を止められたのは山梨だけで、自分たちはどうしようもなかった。 その山梨は会見中、潮田の話を黙って聞くばかりで、今度も「喋りすぎですよ」と窘めるだけ。肝心の場面でも山梨の振る舞いは昨年10月の会見やビジネスボードミーティングと同じで、潮田が経営を誤った方向に持っていった時の抑止力にはならない。これではLIXILグループの未来はないだろう・・・』、「IRJは事前の打ち合わせで「ペルマを瀬戸さんのせいにするのは無理がありますね」と釘を刺している」、当然だろう。しかし、「潮田」のお粗末さにはあきれるばかりだ。辞めさせられるのは当然だ。最後が尻切れ気味なのは残念だ。
タグ:「考える時間の方が大事だと思っているから、親睦を深めるぐらいの意味しか持たない会食はなるべく避ける」、徹底した合理主義者のようだ。「海外出張」時に「空白の1日」をつくるとは上手いやり方だ。 文春オンライン「「4日後に辞めてもらうことになりました」リクシル社長に突然すぎる“クビ宣告”…日本有数の大企業で起きた“疑惑の社長交代劇” 『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #1」 LIXIL問題 (その3)(『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より4題:「4日後に辞めてもらうことになりました」リクシル社長に突然すぎる“クビ宣告”…日本有数の大企業で起きた“疑惑の社長交代劇”、「僕は会食で辞意なんか告げていません」世間が注目した“リクシルお家騒動”の裏で…取締役会を手なずけた“創業家のウソ”、「今回の社長交代には納得できない」リクシルを追われた“プロ経営者”が創業家と全面戦争へ…CEO復帰を明言した“逆襲の記者会見”、「これで『100倍返し』をしてやった」“お家騒動中 「ローマ」での「空白の1日」に辞任を宣告されたとはさぞかし驚いたことだろう。 「4日後」に辞めさせられるとは本当に急な話だ。 「実際に残っているのはトステムとINAXの企業カルチャーだけ」、そんなものだろう。 「「もともとトステムは業界6位だったが、営業の猛者たちが片っ端から商談を成立させてトップにのし上がった会社。一方、INAXは争いを好まない、お公家さん集団のような会社だった。企業体質が全く異なる2社の経営統合は驚きで、獰猛なトステムにおっとりしたINAXは飲み込まれてしまうんだろうなあと思った」」、「INAX]のような無欲な会社があったこと自体が驚きだ。 「表向きは指名委員会等設置会社だが、実際はわずかばかりの株式しか持たない潮田がオーナーとして振る舞ういびつな会社というのがLIXILグループ」、なるほど。 文春オンライン「「僕は会食で辞意なんか告げていません」世間が注目した“リクシルお家騒動”の裏で…取締役会を手なずけた“創業家のウソ” 『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #2」 どういうことだろう。 「潮田」は「瀬戸」が辞めるのは指名委員会の総意」と「瀬戸」に説明していたのとは、全く異なるようだ。 「瀬戸」氏が「自分が暴れて会社が混乱に陥るようなことになるのは本望ではない。屈辱的なアナリスト説明会も我慢したのはそう思ったからだ。暴れることがきっかけで自分のキャリアに傷が付くのも困る。そうであれば大人しく引っ込むのも選択肢の1つではないか」、さすがプロ経営者は考えることが違う。 「潮田と山梨は早速一部の営業幹部を集めて檄を飛ばしたものの、従業員全員に対するメッセージを発信することはなかった」、「広報担当役員のジン・モンテサーノは苛立っ」のも無理もない。 「瀬戸は会社の実情を細部に至るまで自分で把握したがる経営者だが、潮田はそれとは正反対のタイプ。実務には無頓着で、「経営者とは大きな方向性を打ち出すだけでよい」と考えていたフシがある」、「従業員向けにメッセージを出すことなどは些事だった」、なるほど。 「幸田さんと吉村さんに何度も電話をしているんだけれど通じない。」、何が起こったのだろう。 文春オンライン「「今回の社長交代には納得できない」リクシルを追われた“プロ経営者”が創業家と全面戦争へ…CEO復帰を明言した“逆襲の記者会見” 『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #3」 「モノタロウ」は「瀬戸が立ち上げた」とは初めて知った。 「PR会社と契約を結んでいた」とはさすがだ。 「利益相反を理由に契約の解除を申し入れてきた」にも拘らず、「契約を結んでからその日までの委託料を当然のように請求してきた」、とは酷い話だ。 「社外取締役候補となった西浦や鬼丸、濱口、鈴木はさまざまな経験をして現在に至っている。これを寸分間違えることなく経歴書に落とし込む作業は、間違いがあってはいけないため意外と手間がかかる」、確かに大変そうだ。 「少しでも多くの世間や株主に自分たちの行動は正義であると認識してもらう必要があると考えた瀬戸は吉野と相談して会見時間を1時間半と設定し、さらに質疑応答が終わった後に発表者をメディアが囲んで追加の質問をする、いわゆる「ぶら下がり」にも応じた。会見が終わったのは午後3時を過ぎていた」、マスコミ対応を丁寧にしたのは正解だ。 「株価が急騰」は経営陣への信認の表れだ。 最終的にどうなったかは次の記事。 文春オンライン「「これで『100倍返し』をしてやった」“お家騒動中”のリクシルが取締役辞任を電撃発表…プロ経営者を追い込む“創業家のシナリオ” 『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #4」 「潮田の取締役辞任表明は“奇襲”といえた」、確かにその通りだ。 取締役会議事録を見れば分かるのに、「取締役会への報告がなかった」と強弁する「潮田」は平常心を失っているようだ。 「A4サイズの紙の束をくしゃくしゃに握りしめ、「悔しさ」を演出した」、「瀬戸」氏もなかなかの役者だ。 「IRJは事前の打ち合わせで「ペルマを瀬戸さんのせいにするのは無理がありますね」と釘を刺している」、当然だろう。しかし、「潮田」のお粗末さにはあきれるばかりだ。辞めさせられるのは当然だ。 「IRJは事前の打ち合わせで「ペルマを瀬戸さんのせいにするのは無理がありますね」と釘を刺している」、当然だろう。しかし、「潮田」のお粗末さにはあきれるばかりだ。辞めさせられるのは当然だ。最後が尻切れ気味なのは残念だ。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

最低賃金(その2)(最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰、「年収200万円暮らし」炎上の裏で 最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌、最低賃金を巡る「大矛盾」 正社員増加でも解決しない問題の本質とは) [経済政策]

最低賃金については、昨年8月6日に取上げた。今日は、(その2)(最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰、「年収200万円暮らし」炎上の裏で 最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌、最低賃金を巡る「大矛盾」 正社員増加でも解決しない問題の本質とは)である。

先ずは、本年6月14日付けAERAdotが掲載した経産省出身の古賀茂明氏による「最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰」を」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/wa/2022060900046.html?page=1
・『岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」の意味が分からない。 この言葉は、6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる骨太の方針)にも大きく掲げられたが、これを読んでもわかる人はほとんどいないだろう。 この骨太の方針で、「新しい資本主義」の1丁目1番地に掲げられたのが「人への投資と分配」だ。そのうち、人への「投資」については、3年間で4000億円使うと言うが、年平均では1333億円。防衛費を5兆円から10兆円にという話が進んでいるのに比べると、あまりに規模が小さい。あの日本経済新聞でさえ、8日の1面トップで「人への投資、世界水準遠く骨太方針決定」という見出しをつけ、落胆ぶりを露わにした。 一方、人への「分配」はどうか。「資産所得倍増」と掲げたので、我々の資産を「倍増」してくれそうなのだが、よく考えると、その元手がない人はどうなるのかがさっぱり見えない。唯一低所得層一般に確実にメリットがありそうなテーマが最低賃金の引き上げだ。そこで、骨太の方針に掲げられた最低賃金1000円という目標について、少し掘り下げてみよう。 実は、最低賃金の目標は、安倍晋三政権以来ずっと1000円のままだ。2016年度の骨太の方針では、年率3%程度引き上げて1000円を目指すとしていた。15年度の最低賃金798円をベースに毎年3%増やすと、23年度には1000円を超える計算だった。 この間、19年度の骨太の方針では、単に1000円を目指すのではなく、「より早期に」という言葉を書き加えて、目標達成の前倒しのニュアンスを出したが、1000円達成の年限は書いていない。 16年度の骨太の方針通りに進んでいれば、23年度、すなわち来年度には1000円に達するはずだから、「分配」を強調する岸田政権の骨太の方針では、本来は1年くらい前倒しして、今年22年度の改定で1000円達成と言ってもおかしくないはずだ。しかし、実際には、21年度が930円なので、7.5%の引き上げが必要になる。 岸田氏は、それは無理と諦めた。当初目標の23年度1000円なら、2年連続4%引き上げで何とかなるのだが、それすらも書かなかった。これでは、16年度の骨太の方針よりも後退したことになる。そこで、「できる限り早期に」という言葉を加えてお茶を濁した。本来なら、1000円どころか1500円を目指してもおかしくないのに、これが岸田氏の「新しい資本主義」における「分配」への「本気度」なのである。 もう一つ、重要なことを指摘しておこう。安倍政権直前の12年度の最低賃金は749円だったが、これは1ドル80円時代のことだから、ドル換算で9.4ドルだった。一方、仮に今すぐ目標である1000円を達成したとしても、現在の為替レート1ドル130円で換算すると7.7ドルだ。アベノミクスから新しい資本主義に入り、最低賃金は、国際的に見ると2割近く下がることになる。 こんな目標しか掲げられないなら「骨太の方針」ではなく、国民が「やせ細る方針」と名称変更した方がよい。自民党政権が続く限り、庶民の生活は貧しくなるばかり。来たる参議院選挙で、国民はこの流れを変えるための投票を行うべきだ』、岸田政権は、「最低賃金」に関してはこれまでの政権以上にやる気がないようだ。

次に、6月23日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「年収200万円暮らし」炎上の裏で、最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305211
・『「最低賃金1000円」という言葉が自民党の公約から消えた  世界各国で着々と賃上げが進む中、日本だけで賃金の横ばいが30年続き、ついには平均給与で韓国にまで抜かれてしまった。さらに、「年収200万円で豊かに暮らす」という書籍タイトルも炎上したことも受けて、「なぜ日本の賃金はいつまでも上がらないのか」という議論が活発に行われている。 その「答え」がつい先日、これ以上ないほどわかりやすい形で国民に示された。6月16日に発表された、自民党の参院選公約である。 6年前から参院選のたびに掲げていた「最低賃金1000円」という数値目標がしれっと引っ込められたのだ。野党の多くは「1500円」など数値目標を掲げているのに、自民党はサクッともみ消したのだ。 岸田政権は「最低賃金1000円の早期達成」を打ち出している。6月7日に発表した「新しい資本主義実行計画工程表」の中にも、表の「枠外」ではあるが、「できる限り早期に全国加重平均が1000円以上となることを目指す」とちゃんと明記されている。にもかかわらず、岸田首相が総裁を務める自民党ではスルー。なぜこんなダブルスタンダードが起きるのか』、「最低賃金1000円」という言葉が自民党の公約から消えた」、とは初めて知った。
・『反対勢力のご機嫌取り国民の妥協こそ低迷の元凶  報道では、「公約に目標額を記載しなかった理由には直接答えず、労働者や企業側の代表者らによる審議会での議論に委ねる姿勢を示した」(東京新聞6月16日)ということだが、「選挙対策」であることは明白だ。 「最低賃金1000円」に反対する中小企業経営者の業界団体である日本商工会議所、全国商工連合会は自民党の有力票田だ。機嫌を損ねたら大勝できない。配慮のために引っ込めたと考えるのが自然だ。実際、2カ月前、日本商工会議所は「最低賃金に関する要望」を政府に届けて、「最低賃金の引上げを賃上げ政策実現の手段として用いることは適切でない」と自民にくぎを刺している。 そう聞くと、「まあ、政治は選挙に勝たないことには何もできないんだからある程度の妥協はしょうがないだろ」と感じる人もいるかもしれないが、実はその“妥協の構図”に日本が30年賃上げできなかった原因がすべて集約されている。 政府は世論の支持が生命線なので「最低賃金引き上げます!」と国民ウケのいいことを盛んにアピールするが、自民党としては中小企業団体からの選挙支援も大事なので、その裏で「実際はそんなに上げませんのでご安心を」と賃金引き上げの足を引っ張らざるを得ない。この「選挙での勝利と引き換えに最低賃金の引き上げをあきらめる」という妥協を、自民党政治家が30年以上も続けてきた結果が、「安いニッポン」である。 この構造は、同じく有力支持団体の日本医師会と自民党の関係を思い出していただければわかりやすい。新型コロナ感染拡大で公立病院などに患者が集中しても「町医者」がノータッチという問題や、「2類相当」の扱いがいつまで経っても見直されず結局ウヤムヤにされたのは、日本医師会が自民党の有力支持団体だからだ。政治力学的に自民党政権は、日本医師会が嫌がる「医療改革」ができないのだ。 賃金もこれとまったく同じことがいえる。世界では最低賃金の引き上げは国民生活を維持するためのメジャーな経済政策だが、日本ではいつまで経ってもウヤムヤにされている。自民党的に有力支持団体の逆鱗に触れる「NG政策」だからだ』、「最低賃金の引上げ」は「骨太の方針」には書き込んであるが、選挙公約からは外したは初めて知った。
・『各国で賃金は上がっているのに 日本は労働者、消費者を貧しくさせる  こんな話をすると脊髄反射で、「最低賃金を大きく引き上げると、中小企業が倒産して失業者が大量にあふれかえるので、自民党は責任政党として慎重に判断をしているのだ」という反論する自民党支持者の方も多い。しかし、実はそういう珍妙なロジックを唱えて、最低賃金を引き上げない国は世界でもかなり珍しい。 例えば、米国のロサンゼルスでは7月1日から、最低賃金がこれまでの時給15ドルから16.04ドル(日本円で約2179円、6月22日現在)へと引き上げられる。これは中小零細だからと免除されるようなものではなく、全ての事業所が対象だ。また、法定最低賃金に物価スライド制が採用されているフランスでも、5月から最低賃金が10.85ユーロ(日本円で約1552円、同上)にアップした。オーストラリアの公正労働委員会も7月から現在の最低賃金20.33豪ドルから21.38豪ドル(日本円で約2006円、同上)に引き上げる。こちらも5.2%の引き上げ幅だ。 アジアも普通に最低賃金を引き上げる。ベトナム政府も7月1日から最低賃金を月額で全国平均6%引き上げる。これは世界的な物価高とかではなく「平常運転」で、20年1月1日にも平均5.5%引き上げている。マレーシアでも5月1日、地域により月額1000~1200リンギットだった最低賃金が全国一律で1500リンギット(約4万6305円)まで一気に引き上げられている。 これらの国々は、今回の世界的な物価上昇で慌てて賃上げをしているわけではなく、それ以前から継続的に最低賃金を引き上げているのだ。しかし、そこで日本のように、「最低賃金を引き上げたら倒産が増えて国内は地獄になる」みたいなヒステリックな終末論が叫ばれることはない。 もちろん、どの国でも反対する中小企業経営者はいる。しかし、物価が上昇して価格が上がるのが当たり前のように、物価が上昇すれば賃金もそれにともなって上がっていくのは経済の常識である。むしろその好循環を後押ししないと、経済は成長しないという考え方がベースにある。 だから日本のように「物価は上がったけど、今こそ辛抱の時だ!」なんて精神論を唱えて、労働者=消費者を貧しくして、自国経済を冷え込ませるようなことはしないのだ。 「いや、韓国を見ろ!最低賃金を引き上げたことで今は地獄のようになっているぞ」とか言う人もいるが、実はそれはウクライナ報道と同じで、「日本人は日本人がハッピーになれるような国際ニュースしか耳に入れない」といういつもの悪いクセだ。 最低賃金を引き上げても失業率には影響がないという海外の論文を紹介して、最低賃金引き上げの必要性を唱えるデービッド・アトキンソン氏の「反論」を引用しよう。 <それはやはり日本のマスコミと日本の評論家の中身のなさを反映しているだけですね。あの時(韓国が最低賃金を引き上げた時)に、失業率はボンっと跳ねた。日本では絶対にするもんじゃないって。(マスコミも)いいこと言うじゃんって。 ただマスコミはそれしか見ないですから。その後どうなったかって、みんなもう無関心・思考停止っていいますか。あの2回目(賃上げを)やった後に、韓国の労働生産性は日本より初めて上にいったんです>(nippon.com 21年10月25日) 確かに冷静に考えれば、「最低賃金を上げたら失業者増」というストーリが思考停止の賜物だということはわかる。) 社員を最低賃金ギリギリで使っている経営者は、確かに最低賃金引き上げによって会社が倒産するかもしれない。しかし、そこで失業者になるのは、その経営者だけだ。社員たちは別にこの会社と「奴隷契約」をしているわけではないので転職をするからだ。しかも、新しい就職先は、最低賃金引き上げによって前の会社よりも賃金が高い。同じスキルの人がそれまでよりも高い賃金を生み出すということは、労働生産性も上がったということだ。こういう現象が、日本全国で広がれば、日本の労働生産性も上がっていくのだ。 日本経済が成長していないから賃上げできないというが、海外のエビデンスを見ると事実は真逆だ。日本は継続的な賃上げをしないから、いつまで経っても経済が成長しないのである』、「韓国」では「あの2回目(賃上げを)やった後に、韓国の労働生産性は日本より初めて上にいった」、最低賃金引上げで生産性が上がった事実は、反対派には不都合なので、無視されたようだ。「日本は継続的な賃上げをしないから、いつまで経っても経済が成長しない」、その通りだ。
・『88年前から指摘されている日本の労働者の賃金が安い理由  では、なぜ日本だけで、「最低賃金を上げたら失業者増」というこの珍妙な経済観が根付いたのだろうか。 ひとつにはこれまで述べてきたように、日本商工会議所など有力経営者団体と自民党がしっかりとタッグを組んで半世紀以上も「最低賃金の引き上げは恐ろしい」という常識を広めてきたことが大きい。これまで自民党議員は、最低賃金の引き上げを阻止すればするほど選挙に強くなるというインセンティブがついたからだ。 そこに加えて、「賃金は低くていい」というのが日本の伝統的な美徳だったということも大きい。それが保守政党である自民党の政策的にもフィットしたし、保守的な考えの政治家も受け入れやすいということもあるだろう。 実は日本の低賃金はこの30年の問題だと勝手に思い込んでいる人が多いが、日本が「高賃金」だった時代などほんのわずかで、日本は近代からずっと低賃金だ。 例えば、今から88年前の経済書「平価切下とソシアルダンピングの話」(昭和9年 和甲書房)の中で、「日本の労働者の賃金は何故安いか」という問題が論じられている。低賃金の原因として、日本が世界第2位の人口密度をもっている「超満員の国」だからなどさまざまな考察がされているが、注目すべきは、現代にも通じる中小零細企業の問題を指摘していることだ。 「第三には我が国の企業組織だ。紡績業や鉄工業・船舶製造業等の如きは欧米各国に劣らぬ大規模な進んだ設備を持つているが、尚一般には小規模の手工業・家内工業が甚だ多く取り入れられている。(中略)家内工業の性質として、少ない資本で長い時間を働き。家族全体がこれを手伝って、一人前の仕事をするといふやうな事から、賃金はグッと低下される」(P.87) 日本企業の99.7%は中小企業で、労働者の7割が働いている。中小企業の賃金が低いので、日本の賃金は低い。約90年前から日本の産業構造と、それがもたらす低賃金という問題は何ひとつ変わっていないのだ。 このように、「小さな会社の賃金はグッと低下される」というのが日本経済の伝統だとすると、自民党が最低賃金の引き上げに消極的なのも納得ではないか。 保守政党というのは基本的に、これまで続いてきたことを続けようという考えがベースにある。そこには科学的視点や合理性はない。「続いてきたことを守る」ということが何よりも大事なのだ』、「保守政党というのは基本的に、これまで続いてきたことを続けようという考えがベースにある。そこには科学的視点や合理性はない。「続いてきたことを守る」ということが何よりも大事なのだ」、「科学的視点や合理性はない」、のは確かだが、寂しいことだ。
・『年収200万円で豊かに暮らす道は日本人にピッタリ!?  低賃金を守る、という自民党の基本スタンスを多くの日本人は消極的だが受け入れている。 今回、自民の公約から「最低賃金1000円」が落ちたということにも、ほとんど関心がない。「給料が上がらない」と文句は言っているが、そこにマグマのような怒りはなく、「まあしょうがないか」とあきらめてしまっている。 これも約90年前から続く日本人の伝統である可能性が高い。先ほどの経済書が興味深いのは、日本人労働者が低賃金である理由として、日本人の国民性も指摘していることだ。 「第四には国民の生活が伝統的に、一般的に簡易だから、安い賃金でも暮し得る。第五に、日本人は個人主義的な欧米人と違ひ、家族主義であり、家族員各自の稼ぎを出し合つて暮しを立てて行く良風があるから、自然安い賃金でも満足している。第六に、日本は資源に乏しいから、どうしても賃金が安くなる。第七に、労働能力が低いから賃金も安い。これ等の事で、日本人は安い賃金でありながら大した苦痛を感じてはいないのだ」(同上) 最近、「年収200万円で豊かに暮らす」という書籍タイトルが炎上したが、実はあれは日本人の本質をついている。我々は祖父母の世代から、「労働者ってのは低賃金で生きるものだ」と受け入れて、さまざまな理由をつけて自分たちを納得させてきた。一方、企業経営者や政治家という「上級国民」は、その低賃金労働者をこき使って、彼らがそこそこ満足をする豊かな社会をつくってやる。そういう役割分担がしっかりなされていた。 今回の自民党の公約からも、そういう日本の伝統的な社会システムが、実が100年経過してもそれほど変わらず続いているという現実を浮かび上がらせている。 中小企業経営者団体によれば昨年、日本は最低賃金を約3%ほど引き上げたが、経済に大変なダメージを負わせているという。物価高で疲弊する中小企業にはこれ以上の重い負担は課せられないという。 世界とは全く逆の考え方だが、これが日本の伝統的な経済観なのだ。自民党も参院選で大勝すると言われているので、この流れは止められないだろう。そろそろ我々も悪あがきはやめて、先人たちのように賃金が上がらない事実を受け入れて、「年収200万円で豊かに暮らす道」を模索していった方がいいのかもしれない』、「日本は最低賃金を約3%ほど引き上げたが、経済に大変なダメージを負わせているという。物価高で疲弊する中小企業にはこれ以上の重い負担は課せられないという。 世界とは全く逆の考え方だが、これが日本の伝統的な経済観なのだ。自民党も参院選で大勝すると言われているので、この流れは止められないだろう」、「日本」はますます国際的潮流から取り残されることにならざるを得ない。寂しい限りだ。

第三に、7月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表の鈴木 貴博氏による「最低賃金を巡る「大矛盾」、正社員増加でも解決しない問題の本質とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305733
・『最低賃金問題の裏にはあまり知られていない三つのファクトがある  参議院議員選挙の争点のひとつになっているのが、最低賃金の問題です。現在の日本の最低賃金は全国加重平均で930円。コロナ禍が始まった2020年が1円しか上がらなかったのを除き、過去5年では毎年3%程度上昇して現在の賃金水準に至ります。 政府はこの最低賃金を早期に1000円台に乗せたいといいますが、年3%ペースの上昇ではそこまで到達するのにあと3年かかります。海外の最低賃金を見るとEU諸国が1600円近辺、アメリカは州にもよりますが、例えばカリフォルニア州は約2000円と、G7の中では日本はかなり置いていかれた感じです。 国民感情としては最低賃金を上げてもらわないと値上げラッシュの中で生活が成り立たない一方で、以前記事に書かせていただいたように経済学的には最低賃金を人為的に動かすと逆に雇用が減るなどマイナス点が大きいことも分かっています(詳細は、『日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」』を参照)。 そもそもの問題として、最低賃金を議論する政治家も行政も有識者もメディアの社員も、基本的に最低賃金で働いているわけではないという矛盾があります。 そして、最低賃金近辺で働いている人たちがどのような生活をしているのかはSNSなどで個別の情報は入る一方で、統計的な数字はあまり知られていないものです。 実は最新の数字を見ると、最低賃金の問題は一般の読者の想像とは少し違う問題になりかけているかもしれません。あまり知られていない三つのファクトを提示したいと思います』、興味深そうだ。
・『ファクト1:コロナ禍で非正規労働者は101万人減ったが正規労働者が61万人増えている  2020年にコロナ禍が始まった当初、飲食業界や観光業界など多くの業界で「雇い止め」が問題になりました。企業が需要の急激な減少を乗り切るために、雇用の調整弁として非正規労働者の雇い止めに走ったことがニュースになったのです。 ミクロの視点では非正規労働者の苦境が報道されたものですが、マクロの数字を見てもこの2年間で非正規労働者は101万人も減少しています。これは令和3年の労働力調査からの数字です。 過去10年間で見ると、コロナ禍以前は非正規労働者が一貫して増加していたのにもかかわらず、この2年間だけ大幅に減少したことがわかります。 しかしその一方で、実はアベノミクス以降、日本の正社員の数も一貫して増えています。日本の正社員数は過去8年間で267万人増加、特にコロナ禍では伸び率が上がり2年間で正社員は61万人増えました。 この差し引きで、コロナ禍で減少した雇用は40万人ほどです。コロナ禍で雇い止めが起きた一方で、より安定した雇用を求めて正規雇用に流れた元非正規労働者も結構な人数が存在したわけです』、「コロナ禍で非正規労働者は101万人減ったが正規労働者が61万人増えている」、これほど「正規労働者」が増えたとは驚かされた。
・『ファクト2:若年層のパートアルバイトの従事者と希望者は過去10年で4分の3に減少  同じく労働力調査で年齢階級別の非正規労働者の推移を見ると、全体の中でも15歳から34歳までの若年層の非正規比率が下がっていることがわかります。特に25歳から34歳の働き盛りの層の非正規比率はアベノミクスの2014年以降、毎年一貫して下がり続けています。 そして非正規の仕事についた理由を尋ねると「正社員の仕事がない」という回答は非正規全体の1割と少なく、かつ前年から16%も減っています。 今や非正規労働者の最大の理由は「自分の都合のよい時間に働きたいから」が全体の約3分の1で、前年からは35%も増えています。 つまり、「若年層に雇用がなく仕方なく非正規を選んでいる」という就職氷河期からリーマンショックにかけてよく見られたのとは違う構造へと、非正規雇用がシフトし始めているのです』、「非正規雇用」が自発的なものに「シフトし始めている」のも初めて知った。
・『ファクト3:最低年収近辺の若年労働者世帯の5人に1人は正社員  ここまでの記事を読まれて、「正社員の仕事が増えているなら、最低賃金の問題は社会全体から見れば大きな問題ではなくなっているのではないか?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。 しかし、実は結論は逆です。最低年収近辺で働く人は減っているのではなく、むしろ増えているのです。 そもそも、最低賃金近辺で働く人の数が政府の統計ですぐに出てこないということ自体に問題があるのですが、この問題に詳しい都留文科大の後藤道夫名誉教授の試算によれば、2020年に最低賃金の1.1倍以内で働いている人の割合は14.2%で、2009年の7.5%から倍近くまで増加しています。最低賃金から1.2倍以内に範囲を広げるとその割合は23.7%と全従業員の4分の1近くに達します。 ただ、最低賃金に近い労働者はアルバイト・パートが多いことが知られていて、かつ女性のパートの多くが家計を助けるために年間103万円の壁を意識しながら働いていることもよく知られているファクトです。したがって、最低賃金を貧困の問題として捉えるならば、世帯主の年収を調べる必要があります。 では、世帯主が最低賃金近辺という比率はどれくらいなのでしょうか? これも統計を加工して分析しないと出てこないのが難点なのですが、せっかくなので分析してみました。 最低賃金930円で週40時間、年間2000時間フルタイムで働いた場合に年収は186万円になります(注:東京都や神奈川県では最低賃金が1000円を超えているので、フルタイムで働くと年収は200万円を超える)。では、世帯主の年収が200万円未満の世帯はどれくらいの比率なのでしょうか? 2019年に発表された独立行政法人労働政策研究・研修機構の「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状」というリポートの付属集計表から独自に数字を拾ってみると、次のようなことがわかります。25歳から49歳までのいわゆる若年層の世帯のうち、世帯主の年収が200万円未満の世帯は全体のちょうど10%です。 それで、今度はその世帯主年収が200万円未満の世帯主の働き方を集計すると、22%が正社員なのです。わかりやすく繰り返すと、「若い世帯の約1割が最低賃金レベルの年収で、その中の2割は正社員なのにそのような暮らしをしている」ということです。 最低賃金レベルの世帯は数としては男性世帯主と女性世帯主がちょうど半々ぐらいなのですが、男性世帯主の場合は正社員が28%、つまり若い男性のうち最低賃金レベルの生活をしている人の約3割が正社員ということです。 この「最低賃金レベル」の範囲を、世帯主年収が250万円未満までに広げると全世帯の17%で、その中での正社員比率は38%まで上がります。数字を切り上げてしまうことにはなりますが、約2割が最低賃金レベルで、そのうち約4割が正社員です。ここからわかることはワーキングプアの問題は非正規だけの問題ではなく、今では正社員の問題へと変質し始めているのです』、「ワーキングプアの問題は非正規だけの問題ではなく、今では正社員の問題へと変質し始めている」、初めて知ったが、深刻だ。
・『最低賃金問題の本質は人材の固定化にある  さて、ここからは以上の三つのファクトをもとに、これからの日本社会がどうあるべきかを考えてみましょう。 実は今、経営者の話を聞くと幅広い業種で、とにかく人が採れない状況が続いているようです。新規採用時には、最低賃金よりも上乗せしないと採れない。アルバイト・パートでも不人気職種であれば、条件を上げないとダメだという人もいます。 つまりここが一見おかしなところで、市場原理に任せていたら自然と最低賃金よりも高いところに需給がマッチするポイントが生じているのです。しかし実際には最低賃金近辺で働く人の数が増えている。この矛盾はいったいどういうことか?というのが最低賃金問題の本質です。 そうなる理由は、人材の固定化にあります。実は我が国の転職者の数はコロナ禍で2年連続して3割以上減少しています。仕事の条件よりも安定を重視する人が多いことで日本人はあまり転職しない。そして企業から見れば、固定化している部分については賃金を上げなくていいのです。 人手が足りない今の状況では求人の際には売り手市場で、私たち労働者側の方が交渉力を持ちます。「おたくの条件が悪ければ他を探しますよ」というわけです。 ところが、いったん就職して落ち着くと交渉力の関係は逆になります。従業員が安定を求めているのがわかれば、経営者の側が「他に移りたければどうぞ」という立場に変わるわけです。 最低賃金は毎年3%ずつ上がっていると説明しましたが、会社の中での賃上げが毎年3%というわけではありません。要するに最低賃金が3%上がる度に、それまで最低賃金だった人に加えて新たに最低賃金を下回る人が出てきて、その人も最低賃金の対象者になります』、「いったん就職して落ち着くと交渉力の関係は逆になります。従業員が安定を求めているのがわかれば、経営者の側が「他に移りたければどうぞ」という立場に変わるわけです」、「最低賃金が3%上がる度に、それまで最低賃金だった人に加えて新たに最低賃金を下回る人が出てきて、その人も最低賃金の対象者になります」、なるほど。
・『最低賃金を巡る「大矛盾」、正社員増加でも解決しない問題の本質とは  一番低い人だけが3%上がっていく現象が10年続けば、社会全体で最低賃金近辺で働く人の割合は増えていく。この現象が先ほど紹介した後藤名誉教授の分析結果の原因でしょう。こういった構造を踏まえて考えないと、日本の貧困問題はなかなか根絶するのは難しいという話でした。 さて、最低賃金近辺の人が増える中で日本もいよいよベーシックインカムを真剣に議論しなければいけないと思います。私の新刊『日本経済復活の書』では、ベーシックインカム論について詳しく論じていますので、ご興味のある方はこの本をぜひ手に取ってみてください』、「一番低い人だけが3%上がっていく現象が10年続けば、社会全体で最低賃金近辺で働く人の割合は増えていく」、これを避けるためには、やはり全体へのベアも重要なようだ。
タグ:最低賃金 (その2)(最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰、「年収200万円暮らし」炎上の裏で 最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌、最低賃金を巡る「大矛盾」 正社員増加でも解決しない問題の本質とは) AERAdot 古賀茂明氏による「最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰」を」 岸田政権は、「最低賃金」に関してはこれまでの政権以上にやる気がないようだ。 ダイヤモンド・オンライン 窪田順生氏による「「年収200万円暮らし」炎上の裏で、最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌」 「最低賃金1000円」という言葉が自民党の公約から消えた」、とは初めて知った。 「最低賃金の引上げ」は「骨太の方針」には書き込んであるが、選挙公約からは外したは初めて知った。 「韓国」では「あの2回目(賃上げを)やった後に、韓国の労働生産性は日本より初めて上にいった」、最低賃金引上げで生産性が上がった事実は、反対派には不都合なので、無視されたようだ。「日本は継続的な賃上げをしないから、いつまで経っても経済が成長しない」、その通りだ。 「保守政党というのは基本的に、これまで続いてきたことを続けようという考えがベースにある。そこには科学的視点や合理性はない。「続いてきたことを守る」ということが何よりも大事なのだ」、「科学的視点や合理性はない」、のは確かだが、寂しいことだ。 「日本は最低賃金を約3%ほど引き上げたが、経済に大変なダメージを負わせているという。物価高で疲弊する中小企業にはこれ以上の重い負担は課せられないという。 世界とは全く逆の考え方だが、これが日本の伝統的な経済観なのだ。自民党も参院選で大勝すると言われているので、この流れは止められないだろう」、「日本」はますます国際的潮流から取り残されることにならざるを得ない。寂しい限りだ。 鈴木 貴博氏による「最低賃金を巡る「大矛盾」、正社員増加でも解決しない問題の本質とは」 ファクト1:コロナ禍で非正規労働者は101万人減ったが正規労働者が61万人増えている 「コロナ禍で非正規労働者は101万人減ったが正規労働者が61万人増えている」、これほど「正規労働者」が増えたとは驚かされた。 ファクト2:若年層のパートアルバイトの従事者と希望者は過去10年で4分の3に減少 「非正規雇用」が自発的なものに「シフトし始めている」のも初めて知った。 ファクト3:最低年収近辺の若年労働者世帯の5人に1人は正社員 「ワーキングプアの問題は非正規だけの問題ではなく、今では正社員の問題へと変質し始めている」、初めて知ったが、深刻だ。 「いったん就職して落ち着くと交渉力の関係は逆になります。従業員が安定を求めているのがわかれば、経営者の側が「他に移りたければどうぞ」という立場に変わるわけです」、「最低賃金が3%上がる度に、それまで最低賃金だった人に加えて新たに最低賃金を下回る人が出てきて、その人も最低賃金の対象者になります」、なるほど。 「一番低い人だけが3%上がっていく現象が10年続けば、社会全体で最低賃金近辺で働く人の割合は増えていく」、これを避けるためには、やはり全体へのベアも重要なようだ。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

就活(就職活動)(その10)(「自分に合った仕事なんて探すな」 養老孟司先生の語る「働くってこういうこと」、就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛、「底辺の仕事ランキング」批判集めた6つの問題点 “誰でもできる"の罪深さ、差別で片づけられず) [社会]

就活(就職活動)については、3月12日に取上げた。今日は、(その10)(「自分に合った仕事なんて探すな」 養老孟司先生の語る「働くってこういうこと」、就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛、「底辺の仕事ランキング」批判集めた6つの問題点 “誰でもできる"の罪深さ、差別で片づけられず)である。

先ずは、やや古いが、2018年6月22日付けデイリー新潮「「自分に合った仕事なんて探すな」 養老孟司先生の語る「働くってこういうこと」」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/06220731/?all=1
・『働くとはどういうことか  就活が本格化し、連日苦戦中、内定獲得済み、内定をとりまくり等々、同世代の中でも悲喜こもごも、様々な境遇に分かれているところだろう。 面接などの際、就活生が語るのに苦労するテーマの一つは志望動機だ。絶対にやりたいこと、好きなことがあり、それが仕事となっている企業を受けるのであれば話は簡単。その熱い気持ちを伝えればいい。 しかし、往々にしてそこまでの強い動機はない場合の方が多い。安定収入だけが魅力、ということだって珍しくない。 そういう場合どう言えばいいのか。このことを考えていくと、最終的には「仕事とは何か」「働くとはどういうことか」という問題に突き当たる。 ベストセラー『バカの壁』で知られる養老孟司さんは、同書の続編にあたる著書『超バカの壁』で、若者に向けて、自身の「仕事論」を語っている。養老さんならではの含蓄に富んだ仕事論を引用してご紹介しよう。ここで養老さんは、「自分に合った仕事がない」と言ってなかなか働かないニートの人を念頭に、話を進めている(以下、『超バカの壁』より)』、興味深そうだ。
・『「自分に合った仕事」なんかない  (ニートなど働かない人を)調査をすると、働かないのは「自分に合った仕事を探しているから」という理由を挙げる人が一番多いという。 これがおかしい。20歳やそこらで自分なんかわかるはずがありません。中身は、空っぽなのです。 仕事というのは、社会に空いた穴です。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋める。それが仕事というものであって、自分に合った穴が空いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃない、と言いたくなります。 仕事は自分に合っていなくて当たり前です。私は長年解剖をやっていました。その頃の仕事には、死体を引き取り、研究室で解剖し、それをお骨にして遺族に返すまで全部含まれています。それのどこが私に合った仕事なのでしょうか。そんなことに合っている人間、生まれ付き解剖向きの人間なんているはずがありません。 そうではなくて、解剖という仕事が社会に必要である。ともかくそういう穴がある。だからそれを埋めたということです。何でこんなしんどい、辛気(しんき)臭いことをやらなきゃいけないのかと思うこともあるけれど、それをやっていれば給料がもらえた。それは社会が大学を通して給料を私にくれたわけです。 生きている患者さんを診なくていいというのも、解剖に向かった大きな理由です。一番助かったのは、もうこれ以上患者が死なないということ。その点だけは絶対安心でした。人殺しをする心配がないからです。しかし患者さんを診るという行為から逃げ出しても、遺族の面倒だとか何とかもっと大変なことがありました。 社会、仕事というのはこういうものです。いいところもあれば、悪いところもある。患者の面倒の代わりに遺族の面倒を見る。全部合わせてゼロになればよしとする。 あとは目の前の穴を埋めていれば給料をくれる。仕事とはそもそもそういうものだと思っていれば、「自分に合った仕事」などという馬鹿な考え方をする必要もないはずです。NHKの「プロジェクトX」に登場するサラリーマンも、入社当初から大志を抱いていた人ばかりではないでしょう』、「20歳やそこらで自分なんかわかるはずがありません。中身は、空っぽなのです。 仕事というのは、社会に空いた穴です。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋める。それが仕事というものであって、自分に合った穴が空いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃない、と言いたくなります。 仕事は自分に合っていなくて当たり前です」、「目の前の穴を埋めていれば給料をくれる。仕事とはそもそもそういうものだと思っていれば、「自分に合った仕事」などという馬鹿な考え方をする必要もないはずです」、同感である。
・『半端仕事はいけないよ  合うとか合わないとかいうよりも大切なのは、いったん引き受けたら半端仕事をしてはいけないということです。一から十までやらなくてはいけない。それをやっていくうちに自分の考えが変わっていく。自分自身が育っていく。そういうふうに仕事をやりなさいよということが結論です。 最近は、穴を埋めるのではなく、地面の上に余計な山を作ることが仕事だと思っている人が多い。社会が必要としているかどうかという視点がないからです。余計な橋や建物を作るのはまさにそういう余計な山を作るような仕事です。もしかすると、本人は穴を埋めているつもりでも実は山を作っているだけのことも多いのかもしれません。 しかし実は穴を埋めたほうが、山を作るより楽です。労力がかかりません。 普通の人はそう思っていたほうがいいのではないかと思います。俺が埋めた分だけは、世の中が平らになったと。平らになったということは、要するに、歩きやすいということです。山というのはしばしば邪魔になります。見通しが悪くなる。別の言い方をすれば仕事はおまえのためにあるわけじゃなくて、社会の側にあるんだろうということです』、「仕事はおまえのためにあるわけじゃなくて、社会の側にあるんだろうということです」、なるほど。
・『虫取りが仕事だったら  若い人が「仕事がつまらない」「会社が面白くない」というのはなぜか。それは要するに、自分のやることを人が与えてくれると思っているからです。でも会社が自分にあった仕事をくれるわけではありません。会社は全体として社会の中の穴を埋めているのです。その中で本気で働けば目の前に自分が埋めるべき穴は見つかるのです。 社会のために働けというと封建的だと批判されるかもしれません。「自分が輝ける職場を見つけよう」というフレーズのほうが通じやすいのかもしれません。しかしこれは嘘です。まず自分があるのではなく、先にあるのはあくまでも穴の方なのです。 向き不向きだけでいえば、私は仕事に向いていないとずっと思ってきました。仕事よりも虫取りに向いていると今でも思っています。虫取りをしている間、自分で全然違和感がない。ただ、そればかりやっていても食っていけないということはわかっています。 向いている虫取りをするためには、どうすべきかと考える。すると、財産も何もないし、とりあえず働くしかない。だから仕事には向いていないと思うけど、やめろと言われるまではやっていいのではないかと思っているのです。 本気で自分の仕事は天職だと思っている人はめったにいません。仮に虫取りが向いていても、それが仕事になっていいかというと、そうでもないでしょう。もしも虫取りが仕事になるとしてそれが嬉しいかといえばうっかりすると重荷になってしまうかもしれない。楽しんでいられることというのは、ある程度無責任だからこそなのです。 昨年養老さんは80歳になった。いまでも働いている。それは虫取りのためでもあるだろうが、きっと目の前にまだ穴がたくさんあるからなのである』、「「自分が輝ける職場を見つけよう」というフレーズのほうが通じやすいのかもしれません。しかしこれは嘘です。まず自分があるのではなく、先にあるのはあくまでも穴の方なのです」、「だから仕事には向いていないと思うけど、やめろと言われるまではやっていいのではないかと思っているのです。 本気で自分の仕事は天職だと思っている人はめったにいません」、「虫取りが仕事になるとしてそれが嬉しいかといえばうっかりすると重荷になってしまうかもしれない。楽しんでいられることというのは、ある程度無責任だからこそなのです」、浮ついた仕事論が溢れているなかで、本物の仕事論に出会えた意味は大きい。

次に、6月21日付け東洋経済オンラインが掲載した千葉商科大学 准教授で働き方評論家 の常見 陽平氏による「就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/596673
・『「ガクチカに悩む就活生たち」 新型コロナウイルスショック以降、このような報道をよく目にする。「ガクチカ」とは就活の選考でよく質問される「学生時代に力を入れたこと」の略だ。感染症対策のために、大学生活の自由度が制限される中、就活で自分をアピールするガクチカがなく、就活生が困っているという問題である。 ガクチカ問題は、全国紙各紙でも報じられた。関連した記事は一通りチェックしたが、パターンはほぼ一緒で、戸惑う学生の声を中心にし、企業の人事や、大学のキャリアセンターの試行錯誤が伝えられる。このような報道が就活生の不安をさらに高める』、興味深そうだ。
・『「ガクチカの父」として猛反省していること  このガクチカについて、私は複雑な想いを抱いている。実は、この言葉を日本で初めて書籍に掲載したのはどうやら、私なのだ。2010年のことだった。私は「意識高い系」をタイトルにした本を初めて世に出した者でもある。ゆえに、若者を苦しめる言葉を広げた者として悪者扱いされることもある。ともに、私が生み出した言葉ではなく、広めた言葉なのだが。 正直なところ、とばっちり、流れ弾だなとも思いつつも、とはいえ反省すべき点もある。それは、このガクチカという言葉が就活生、企業、大学関係者などに誤解を与えつつ広まってしまったことにより、混乱を招いている。これは、問題だ。 あたかも、ガクチカとして自信をもって語れることがなければ内定が取れないのではないかと就活生を焦らせたのではないか。ガクチカ=「わたしがなしとげたさいこうのせいこうたいけん」なのだと、誤解させてしまったのではないか(つまり、“すごい体験”でなければアピールできないと思わせてしまったのではないか)。 企業の面接官も、わかっていない人に限って、派手なガクチカを過大に評価してしまう。しかも、その流れにより、大学もエントリーシートの添削などで学生の体験を誇張してしまう。さらには、大学側が就活でアピールできるような機会まで用意してしまう……。) もともと、ガクチカは本人の価値観、行動特性、思考回路、学ぶ姿勢、勝ちパターンなどを読み解くための「手段」だった。「世界一周」「サークル立ち上げ」「学園祭の模擬店で大成功」などという話を期待しているわけではない。目立たなくても地道な取り組みが評価されることもある。しかし、ガクチカが学生、企業双方で過度に「目的化」してしまったのが、現代の就活なのである』、「ガクチカ」を「広めた」のは筆者、というのは初めて知った。「就活生、企業、大学関係者などに誤解を与えつつ広まってしまったことにより、混乱を招いている」、「混乱」を是正するような論文などの努力を払ったのだろうか。余りに第三者的だ。
・『学生にガクチカを問うのは、コロナ前から酷だった  もっとも、学生がガクチカに困りだしたのは、新型コロナウイルスショックのせいなのだろうか?よくある「新型コロナウイルスショックの影響で、大学生活が2019年までよりも制限され、ガクチカで学生が困っている」という言説は、本当だろうか?疑ってかからなくてはならない。 私の主張を先に書こう。ガクチカに困ると言われたこの世代は、過去最高に内定率が高い。また、ガクチカはコロナ前から悩みの種だったのだ。 就職情報会社各社が発表した、2022年6月時点での内定率は過去最高だ。たとえば、リクルート就職みらい研究所が発表している就職プロセス調査によると、6月1日時点の内定率は73.1%となっており、前年同時期比4.6ポイントアップ、6月選考解禁となった2017年卒以降最も高くなった。 これはモニター調査であり、実態よりも高くなりがちではある。就職情報会社各社の渉外担当者が大学に対して「実際はこんなに高くありません」と言うほどだ。また、最終的な数字を見なければ結果の先食いにもなる。ガクチカに自信がある学生が先に内定しているともみることもできるだろう。とはいえ、ガクチカに困っているはずの学生たちに、これだけ内定が出ている点に注目するべきだろう。 学生は新型コロナウイルスショック前からガクチカに悩んでいた。無理もない。今の学生はお金も時間もない。奨学金やアルバイトに依存しなければ、大学生活が回らない。自宅から通わざるを得ず、遠距離通学する学生もいる。筆者は千葉県市川市の大学に勤務しているが、茨城県や、千葉県の房総半島から通う学生もおり、通学時間が片道2時間以上かかる学生もいる。よく若者の○○ばなれというが、その原因はお金と時間の若者離れだ。) ゆえに、就活で跋扈するのが普段のアルバイト体験を劇的に語ろうとする学生たちだ。面接では「居酒屋でのアルバイトで、コミュニケーション能力を磨きました。笑顔を心がけ、お客様にもいつも、笑顔で帰ってもらいました。この力を営業の仕事で活かしたいと思います」という学生がよく出現する。面接官からすると「またか」とウンザリするような、お決まりの自己PRだ。お客さんが笑顔で帰ったのは生ビールが美味しかったからではないかと言いたくなる。就活ノウハウでは「だから、アルバイトネタは、差別化できないから話すな」というものが伝授される。 この問題はこじれている。アドバイスするとしたら、元面接官視点では、「もっと工夫してアピールしろ」と言いたくなる。同じ居酒屋バイトでも、チームワークや売り上げアップなどアピールできるポイントはあるだろう。大学教員視点では、勉強の話をしてほしいと悲しんだりする。 ただ、学生の状況を考えると、激しく同情する。学生生活において、時間もお金も余裕がない。アルバイトをしなければ学生生活が回らない。居酒屋でのアルバイトは人手不足で彼ら彼女たちを求めている。モチベーションアップ施策にも手厚く取り組んでいる。飲食店でのアルバイトは、彼ら彼女なりに、精一杯努力した、「学生時代に力を入れたこと」なのだ。 「コミュニケーション能力」を「アピールさせている」のは誰なのか?経団連が毎年、発表している新卒採用で重視する点として、「コミュニケーション能力」が十数年にわたり、1位となっている。 「居酒屋でアルバイトし、コミュニケーション能力を身につけた」という「量産型就活生」が、納得のいく内定に至ることができるのかどうかという問題はさておき、彼ら彼女たちはそう言わざるを得ないし、大人たちにそう言わされているのだと解釈したい。これも彼ら彼女たちなりの精一杯の「ガクチカ」なのだ』、「「居酒屋でアルバイトし、コミュニケーション能力を身につけた」という「量産型就活生」が、納得のいく内定に至ることができるのかどうかという問題はさておき、彼ら彼女たちはそう言わざるを得ないし、大人たちにそう言わされているのだと解釈したい。これも彼ら彼女たちなりの精一杯の「ガクチカ」なのだ」、確かにその通りだ。
・『供給されるガクチカ、誇張、装飾されるガクチカ  学生たちがエントリーシートに書いてきた「ガクチカ」をそのまま信用していいのか。ここでも立ち止まって考えたい。「ガクチカ」は本当に学生が書いたものなのか。この「ガクチカ」は、学生が自ら頑張ったものだろうか?大学が用意した機会に乗っただけではないか。 そのガクチカが問われる場といえば、エントリーシートだ。すでに想像がついた人もいることだろう。そう、このエントリーシートもまた必ずしも、学生が自ら一人で書ききったものとは限らない。キャリアセンターなどで、教職員が添削をしている。話題の棚卸し、意味づけ、表現の工夫などは、大学教職員のアドバイスのもと、学生はエントリーシートを書き上げる。もちろん本人がみずからは気づかない良さを引き出している面はあると思う。ただ、「盛り」「盛られ」のエントリーシート、ガクチカが製造されるのも現実である。 大学が用意したプログラムが、ガクチカのネタに使われることもある。大学は企業や地域と連携した取り組みなどを行っている。よく、新聞の教育面を読むと、各大学のユニークな取り組みが紹介される。これらは学生が自ら発案したものではない。もちろん、学生に何から何までゼロから立ち上げることを期待するのは酷だと言えよう。ただ、いかにも「私はこんなユニークな取り組みをした」という「ガクチカ」は実は、大学や教員がお膳立てした可能性があることを指摘しておきたい。 一方で私自身は大学教員だ。だからといって保身に走るわけではないが、これらの取り組みにも意味がある。別に大学は「ガクチカ」のためだけに、これらの企業や地域と連携したプログラム、ユニークなプロジェクトを立ち上げているわけではない。あくまで学びの機会である』、「いかにも「私はこんなユニークな取り組みをした」という「ガクチカ」は実は、大学や教員がお膳立てした可能性があることを指摘しておきたい」、大いにあり得る話だ。
・『学生たちは機会があれば、よく学び、成長する  文部科学省もアクティブ・ラーニングやPBL(Project Based Learning ※PはProblemとすることもある〕を推奨している。これらのユニークプログラムは、文科省の意向や産業界や地域の要請を受けたものでもある。お金も時間もない大学生に、何か貴重な体験をしてもらいたいという想いもある。 私自身、このような企業や地域とコラボしたプログラムを担当しているが、学生たちはよく学び、成長する。所詮、単位取得のためにやらされたことだとしても、それが学生にとっての成長、変化の機会になればよいと私は考えている。そもそも、お金も時間もない中、このような機会でも作らなければ、大学生活はますます単位取得と、アルバイトと就活で終わってしまう。 私も学生から相談を受けエントリーシートを添削することがある。あくまで言葉づかいの間違いを直したり、学生の考えを整理したり、彼ら彼女たちが体験したことについて、解釈する視点を提供するためのものだ。最終的には、学生に仕上げてもらう。このやり取りは、添削というよりも、面談に近い。エントリーシートというものを媒介に、何を大切にして大学生活をおくってきたのか、棚卸しと意味づけを行うやり取りだ。) ここからは私自身の意見を交えて展開したい。「ガクチカ」というものに事実上、大学も侵食されていることについて警鐘を乱打したい。大学は何のためのものなのか』、「警鐘を乱打したい。大学は何のためのものなのか」、どういうことなのだろうか。
・『若者に旧来の若者らしさを求めるな  この手の話をするたびに「いや、大学は自分でやりたいことを探す場所だろう」「ガクチカとして誇れるものがないのは自己責任」などという話が飛び出したりする。中には「俺は、苦学生だったが、アルバイトで学費をすべて払い、サークルの立ち上げまでして、充実した大学生活をおくったぞ」などという、マウンティング、ドヤリングが始まったりする。さらには「どうせ学生は、遊んでばかり」というような学生批判まで始まったりする。 いい加減にしてほしい。どれも現実離れしている意見である。構造的に、時間もお金もないことが課題となる中、それを強いることは脅迫でしかない。自分の体験の一般化は、持論であって、理論ではない。さらに、自分の時代の、しかもドラマや漫画などで妄想が拡大され美化された大学生活を前提に語られても意味はない。 これは言わば、妄想ともいえる「若者らしさ」の押し付けでしかない。自分たちが思い描く若者像を、過剰なまでに期待していないか。 そもそも、ガクチカなるものを今の大学生に期待することがいかにエゴであるか、確認しておきたい。大人たちには学生が、自分たちが理想とする学生生活を送れるように応援する気持ちを持ってもらいたいものだ。学生像を押し付けてはいけない。 企業の面接官には、学生1人ひとりをしっかり見てもらいたい。コロナ時代の彼ら彼女たちは不安な生活を乗り切った。よく勉強した。これこそが、ガクチカではないか。「学生時代に力を入れたこと」としてのガクチカを期待するよりも、「学生生活に力を入れられる」ような環境をつくらねばならない。これはガクチカなる言葉を広めた者としての懺悔と自己批判と提言である』、「コロナ時代の彼ら彼女たちは不安な生活を乗り切った。よく勉強した。これこそが、ガクチカではないか。「学生時代に力を入れたこと」としてのガクチカを期待するよりも、「学生生活に力を入れられる」ような環境をつくらねばならない。これはガクチカなる言葉を広めた者としての懺悔と自己批判と提言である」、「自己批判」が弱い気もするが、まあよしとしよう。

第三に、7月1日付け東洋経済オンラインが掲載したコラムニスト・人間関係コンサルタント・テレビ解説者の木村 隆志氏による「「底辺の仕事ランキング」批判集めた6つの問題点 “誰でもできる"の罪深さ、差別で片づけられず」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/600890
・『大学生向けの就職活動情報サイト「就活の教科書」が5月に掲載した「【底辺職とは?】底辺の仕事ランキング一覧|特徴,デメリット,回避方法も」が6月になってネット上で拡散され、この数日間はネット上で批判にさらされています。 運営会社は指摘を受けて同記事を削除しましたが、批判は加熱する一方。6月30日は朝からツイッターの検索ランキングに複数の関連ワードが上位を占めたほか、Yahoo!ニュースのコメント欄は違反コメント数が基準を超えて非表示になり、7月1日になってからも「めざまし8」(フジテレビ系)がトップ級のニュースとして扱うなど、まだまだ騒動が収まる気配はありません。 なぜこの記事はここまで人々の怒りを買ってしまったのか。単に「職業差別を助長する」だけではなく、罪深い6つの問題点が潜んでいたのです』、「底辺職とは?」とは酷いタイトルをつけたものだ。
・『配慮の言葉は免罪符にはならない  記事の冒頭には「この記事でわかること」として、「世間一般的での底辺職ランキング一覧」「底辺職と呼ばれている仕事の特徴」「底辺職で仕事をするデメリットは年収が低いこと」「底辺職を回避するための方法4つ」「未経験でも採用されやすい職種/業種一覧」をピックアップ。いきなり、ある職業を「年収が低い」「回避するべき」と決めつける強い論調に驚かされます。 さらに、「何を底辺職だと思うのかは人それぞれ」「一般的に底辺職と呼ばれている仕事は、社会を下から支えている仕事」「そのような方がいるからこそ、今の自分があるのだということには気づきましょう」「社会にとって必要な仕事」などの一定の配慮を思わせる記述がありました。 しかし、「最初にこのような配慮のフレーズを書いておけば、そのあとはひどいことを書いてもいい」というわけではありません。書き手や監修者は、「これを免罪符にしておけば、『底辺の職業ランキング』という記事が成立するだろう」と計算したのでしょうが、それがまさに誤算だったのです。) 同記事は、「①土木・建設作業員」「②警備スタッフ」「③工場作業員」「④倉庫作業員」「⑤コンビニ店員」「⑥清掃スタッフ」「⑦トラック運転手」「⑧ゴミ収集スタッフ」「⑨飲食店スタッフ」「⑩介護士」「⑪保育士」「⑫コールセンタースタッフ」と12の職業をピップアップ。 それらの特徴として「肉体労働」「誰にでもできる仕事」「同じことの繰り返しであることが多い」、デメリットとして「年収が低い」「結婚のときに苦労する」「体力を消耗する」を挙げたほか、「底辺職に就かない方法/抜け出す方法4つ」などの項目もありました』、コロナ禍で話題になったエッセンシャル・ワーカーは、上記の「「⑩介護士」「⑪保育士」」の他、医療従事者、公務員、教員などより幅広い
https://hrnote.jp/contents/soshiki-essentialworker-20220504/
・『「底辺」というフレーズは必要か  最初の問題点は、なぜ“底辺”という過激なフレーズを使わなければいけなかったのか。 その理由は「誰かをおとしめたい」という悪意というより、「多くの人々から注目を集めるため」でしょう。“ランキング”というウェブでページビューを集めやすい形式の記事であることからも、運営側の思惑が透けて見えます。 しかし、この記事を見る人々にしてみれば、「自社コンテンツへの注目を集めるためなら、多くの人々を傷つけてもいい」という悪意としか思えないものでした。運営サイドは「これくらいなら大丈夫だろう」というビジネス的な判断にすぎなかったものが、「まさかここまで悪意としてとらえられるとは……」と戸惑っているのではないでしょうか。 もし「底辺」というフレーズをどうしても使いたかったのであれば、同サイトが決めつけたものではなく、当事者が「底辺と感じている」というアンケート結果をベースにした記事であれば問題はなかったでしょう。 2つ目の問題点は、具体的な12もの職業を名指ししたうえで、「就かない方法/抜け出す方法」を挙げたこと。たとえば、特徴やデメリットだけを挙げて「底辺」と定義しただけにとどめる。あるいは「就かない方法/抜け出す方法」を挙げたとしても、12の職業を名指ししなければ、今回ほどの騒ぎにはならなかったでしょう。) 12の職業に従事する人や家族にとっては、名指しされたうえに「誰にでもできる」「同じことの繰り返し」「年収が低い」「結婚のときに苦労する」などと誹謗中傷に近いレッテルを貼られたわけですから、怒りの感情を抱いて当然。では、運営サイドは、これだけ多くの人々を怒らせてしまうことをどうして想像できなかったのでしょうか。 ビジネスシーンでは数字を追うあまり、リスクに関する想像力に欠けてしまうときがありますが、だからこそストップをかけられる組織体制が必要。メディアで言えば、その機能が乏しい「ワンマン」、または「部員任せ」の編集部は今回のような事態につながりやすいところがあるものです。今のところ『就活の教科書』編集部の内情はわかっていませんが、これらの可能性は高いでしょう』、「ビジネスシーンでは数字を追うあまり、リスクに関する想像力に欠けてしまうときがありますが、だからこそストップをかけられる組織体制が必要。メディアで言えば、その機能が乏しい「ワンマン」、または「部員任せ」の編集部は今回のような事態につながりやすいところがあるものです」、その通りだ
・『「選民意識の持ち主」というイメージ  3つ目の問題点は、なぜメリットも書かなかったのか。個人ブログではなくメディアのコンテンツである以上、公平なスタンスで書くことが大前提。今回のような記事では、いくつかフォローの言葉を入れるだけでなく、メリットとデメリットの両方を並べるくらいのバランス感覚が必要でした。 デメリットを書いたとしても、その前後に「感謝の言葉をもらいやすい」「日々の生活を支えるというやりがい」などのメリットも併記したうえでカテゴライズすれば、多少なりとも印象は変わったでしょう。また、デメリットとしての書き方にも、「世の中にとって必要であるにもかかわらず年収が低い」などのバランス感覚が求められます。 今回の記事はそんなバランス感覚に欠けていたため、「この職業がなければ“底辺”と決めつけているあなたたちの生活も成り立たないはずだ」などの批判を受けていました。 このような「自分も世話になっている職業をおとしめてしまう」という行為は、少なからず「自分は選ばれた人間」「彼らとは違う」という選民意識の強い人が犯しがちな失敗。しかも今回は、かなり多くの人々をおとしめてしまったうえに、「就活の教科書」という自信たっぷりのサイト名も影響して、「際立った選民意識の持ち主が運営しているメディア」というイメージを持たれてしまいました。) そもそも個人の価値観やスキルが多種多様な現在の社会において、挙げられた12の職業は“底辺”とは言い切れず、運営サイドの思い込みによるものでしょう。しかし、社会経験の少ない大学生たちが見る記事である以上、信じてしまい、担い手を減らしてしまう危険性があります。 私の友人・知人に、大卒の土木・建設作業員、コンビニ店員、清掃スタッフ、トラック運転手、飲食店スタッフ、介護士、保育士がいますが、彼らは決して嫌々働いているわけではありません。ところが、もし彼らが就職活動中にこのような記事を見ていたら、12の職業を目指さなかった可能性もありうるでしょう。ひいては、社会のバランスを崩しかねない危険な発想の記事であることが4つ目の問題点です』、「社会経験の少ない大学生たちが見る記事である以上、信じてしまい、担い手を減らしてしまう危険性があります」、その通りだ。
・『「インターンに書かせる」運営方式  「就活の教科書」は“底辺”の記事が削除された一方で、「【行く意味ある?】Fランク大学一覧|Fラン大学の実態,偏差値,女子あるあるも」「【低学歴でも大丈夫】Fラン大学生におすすめの企業3選|就活で失敗する共通点も」などの記事は現在も掲載されています。 「行く意味ある?」「低学歴でも大丈夫」という目線やレッテルの危うさは、“底辺”の記事と同様。では、この危うさはどこから来ているのか。 「就活の教科書」はインターンを募集していて、その筆頭に「Webライター」が挙げられています。つまり「記事の多くは、実際に就活をした内定者や、現役の就活生が書いている」ということ。それを代表取締役社長が監修者として記名することで信頼性を担保しつつ、発信しているようですが、この運営方式こそが5つ目の問題点でしょう。 この形は「新しい情報でリアリティがある」というメリットが得られる反面、「メディアとしての公平性やライターとしてのスキルに欠けやすい」というデメリットがある運営方式。もともと就活サイトに限らず、少ない報酬で記事を量産しやすい編集部の運営方式として使用しているメディアが少なくないものの、つねにリスクと隣り合わせのところがある形なのです。) 同サイトに記載されたデータを見ると、「累計3500万PV、月に就活生50万人が訪れる」「網羅的な就活情報を約1600記事掲載」「日本コンシューマーリサーチの調査で、就活情報サイト部門で3冠を受賞。自己分析の書籍も出版。新聞、ラジオ、雑誌など、多数メディアに掲載」「就活メディアではTOP5に入るほど規模の大きいサイト」などと書かれていました』、「「記事の多くは、実際に就活をした内定者や、現役の就活生が書いている」ということ。それを代表取締役社長が監修者として記名することで信頼性を担保しつつ、発信しているようですが、この運営方式こそが5つ目の問題点でしょう。 この形は「新しい情報でリアリティがある」というメリットが得られる反面、「メディアとしての公平性やライターとしてのスキルに欠けやすい」というデメリットがある運営方式。もともと就活サイトに限らず、少ない報酬で記事を量産しやすい編集部の運営方式として使用しているメディアが少なくないものの、つねにリスクと隣り合わせのところがある形なのです」、「就活メディアではTOP5に入るほど規模の大きいサイト」「規模の大きさ」の割に体制が伴ってないようだ。
・『社長も会社もまだ若くリカバリー可能  これらの規模や実績があるにもかかわらず、危機管理の対応はかなり遅いと言わざるを得ません。これが6つ目の問題点であり、当該記事の監修者でもある社長が少しでも早く謝罪したうえで、誤解があるならば自分の言葉で解いておくべきでしょう。 現在はそれがないため、他メディアやネットユーザーによる「9カ月で退職した代表取締役には無理」などの社長に対する批判や、「ウェブサイトの住所はレンタルスペースだった」などの会社に対するガサ入れのようなものが飛び交っているという状態。学生たちにとって有意義なコンテンツも多いだけに、現在の状態は残念でならないのです。 とはいえ、社長も会社もまだまだ若いだけに、今回のような失敗をしてしまうこともあるでしょう。たとえば“底辺”として挙げられたゴミ収集スタッフは、警察官や消防士などと同じように幼児たちにとっては「カッコイイ」と思うヒーローの職業。このように「“底辺”とは真逆の“頂上”だった」というケースもあるものです。社長や記事を書いた人は、まだ若く社会経験も浅いだけに、そのような視点は持てていないのかもしれません。 もちろん「今後はこのような記事を発信しない」という前提は必要ですが、「社長や会社を叩く」というより、今後の変化を見守り、正しい方向に導いていく社会であってほしいところです』、筆者は何故か「社長」には甘いようだが、いまだにきちんとした謝罪もない。やはりこんないい加減な会社は、断罪すべきなのではなかろうか。
タグ:(その10)(「自分に合った仕事なんて探すな」 養老孟司先生の語る「働くってこういうこと」、就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛、「底辺の仕事ランキング」批判集めた6つの問題点 “誰でもできる"の罪深さ、差別で片づけられず) 就活(就職活動) 「ガクチカ」を「広めた」のは筆者、というのは初めて知った。「就活生、企業、大学関係者などに誤解を与えつつ広まってしまったことにより、混乱を招いている」、「混乱」を是正するような論文などの努力を払ったのだろうか。余りに第三者的だ。 常見 陽平氏による「就活でガクチカを聞くのはもういい加減やめよう 「学生時代に力を入れたこと」に囚われる人々の呪縛」 東洋経済オンライン 「「自分が輝ける職場を見つけよう」というフレーズのほうが通じやすいのかもしれません。しかしこれは嘘です。まず自分があるのではなく、先にあるのはあくまでも穴の方なのです」、「だから仕事には向いていないと思うけど、やめろと言われるまではやっていいのではないかと思っているのです。 本気で自分の仕事は天職だと思っている人はめったにいません」、「虫取りが仕事になるとしてそれが嬉しいかといえばうっかりすると重荷になってしまうかもしれない。楽しんでいられることというのは、ある程度無責任だからこそなのです」、浮ついた仕事 「仕事はおまえのためにあるわけじゃなくて、社会の側にあるんだろうということです」、なるほど。 「20歳やそこらで自分なんかわかるはずがありません。中身は、空っぽなのです。 仕事というのは、社会に空いた穴です。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋める。それが仕事というものであって、自分に合った穴が空いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃない、と言いたくなります。 仕事は自分に合っていなくて当たり前です」、「目の前の穴を埋めていれば給料をくれる。仕事とはそもそもそういうものだと思っていれば、「自分に合った仕事」などという馬鹿 デイリー新潮「「自分に合った仕事なんて探すな」 養老孟司先生の語る「働くってこういうこと」」 「「居酒屋でアルバイトし、コミュニケーション能力を身につけた」という「量産型就活生」が、納得のいく内定に至ることができるのかどうかという問題はさておき、彼ら彼女たちはそう言わざるを得ないし、大人たちにそう言わされているのだと解釈したい。これも彼ら彼女たちなりの精一杯の「ガクチカ」なのだ」、確かにその通りだ。 「いかにも「私はこんなユニークな取り組みをした」という「ガクチカ」は実は、大学や教員がお膳立てした可能性があることを指摘しておきたい」、大いにあり得る話だ。 「警鐘を乱打したい。大学は何のためのものなのか」、どういうことなのだろうか。 「コロナ時代の彼ら彼女たちは不安な生活を乗り切った。よく勉強した。これこそが、ガクチカではないか。「学生時代に力を入れたこと」としてのガクチカを期待するよりも、「学生生活に力を入れられる」ような環境をつくらねばならない。これはガクチカなる言葉を広めた者としての懺悔と自己批判と提言である」、「自己批判」が弱い気もするが、まあよしとしよう。 木村 隆志氏による「「底辺の仕事ランキング」批判集めた6つの問題点 “誰でもできる"の罪深さ、差別で片づけられず」 大学生向けの就職活動情報サイト「就活の教科書」 「底辺職とは?」とは酷いタイトルをつけたものだ。 コロナ禍で話題になったエッセンシャル・ワーカーは、上記の「「⑩介護士」「⑪保育士」」の他、医療従事者、公務員、教員などより幅広い https://hrnote.jp/contents/soshiki-essentialworker-20220504/。 「ビジネスシーンでは数字を追うあまり、リスクに関する想像力に欠けてしまうときがありますが、だからこそストップをかけられる組織体制が必要。メディアで言えば、その機能が乏しい「ワンマン」、または「部員任せ」の編集部は今回のような事態につながりやすいところがあるものです」、その通りだ 「社会経験の少ない大学生たちが見る記事である以上、信じてしまい、担い手を減らしてしまう危険性があります」、その通りだ。 「「記事の多くは、実際に就活をした内定者や、現役の就活生が書いている」ということ。それを代表取締役社長が監修者として記名することで信頼性を担保しつつ、発信しているようですが、この運営方式こそが5つ目の問題点でしょう。 この形は「新しい情報でリアリティがある」というメリットが得られる反面、「メディアとしての公平性やライターとしてのスキルに欠けやすい」というデメリットがある運営方式。もともと就活サイトに限らず、少ない報酬で記事を量産しやすい編集部の運営方式として使用しているメディアが少なくないものの、つねにリ 筆者は何故か「社長」には甘いようだが、いまだにきちんとした謝罪もない。やはりこんないい加減な会社は、断罪すべきなのではなかろうか。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

恋愛・結婚(その6)(:過熱化する不倫報道「書き放題」の残酷すぎる現実 脳科学者・中野信子×国際政治学者・三浦瑠麗、若者のデート離れを加速させる「ゼロリスク志向」 若者の自信のなさが恋愛にも影響する時代に、「若者の恋愛離れ」というインチキ話を政府・マスコミが蒸し返し続けるワケ) [人生]

恋愛・結婚については、3月15日に取上げた。今日は、(その6)(:過熱化する不倫報道「書き放題」の残酷すぎる現実 脳科学者・中野信子×国際政治学者・三浦瑠麗、若者のデート離れを加速させる「ゼロリスク志向」 若者の自信のなさが恋愛にも影響する時代に、「若者の恋愛離れ」というインチキ話を政府・マスコミが蒸し返し続けるワケ)である。

先ずは、4月30日付け東洋経済オンラインが掲載した脳科学者の中野 信子氏と国際政治学者の 三浦 瑠麗氏による対談「過熱化する不倫報道「書き放題」の残酷すぎる現実 脳科学者・中野信子×国際政治学者・三浦瑠麗」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/581947
:芸能人やアスリートなど著名人の不倫報道やバッシングが近年かなり過熱化しています。なぜ不倫を報じ、不倫した人の社会的地位を失うまで叩くのでしょうか。『不倫と正義』から一部抜粋し再構成のうえ、脳科学者の中野信子さんと国際政治学者の三浦瑠麗さんが不倫報道について思うことを語り合います』、興味深そうだ。
・『なぜ「不倫」はこんなにも注目されるのか  中野:ここ10年くらいですかね。不倫が原因でそれまで活躍していた世界を去ることになったり、謝罪会見をすることになったり、いわゆる「世間」から指弾されて社会的制裁を受ける有名人が増えた気がするんですよね。 三浦:そうですね。 中野:それってなんでなんだろう?というのが私にはずっとあって。不倫はもちろん、配偶者から訴えられれば法的な問題になりますけど、姦通罪があった昔とは違って今は違法行為ではないですよね。 コンプライアンス意識が強くなったとか、ネット社会で相互監視が厳しくなったから見つかりやすくなったとか、いろいろな要素があるとは思うのだけれど、なぜそんなに不倫が注目されるんだろうと思ってたんです。 三浦:一方で、不倫をしている「有名人でない人」はけっこう多そうですが。 中野:あはは。そうね。昔ながらの既婚男性と若い未婚女性という組み合わせもあれば、W不倫もあれば、既婚女性と若い男性の組み合わせもある。職場内不倫もあれば、かつての同級生や恋人との焼けぼっくい不倫もあれば、出会い系での不倫に幼稚園や保育園の送迎から親同士や先生と発展する不倫なんてのもあるらしい。 パパ活、ママ活といった金銭を伴う関係までを不倫と言っていいのかわからないですけど、出会いの数だけ不倫があると言ってもいいくらいに思いますし、「実際にはすごく多いんじゃない?」というのが実感なんですよね。それなのに、有名人となると社会的地位を失うまでに叩かれる。 三浦:2020年の「ジェクス」ジャパン・セックスサーベイによれば、現在パートナー(恋人や結婚相手)以外の人とセックスをしている割合は、セックス経験者のうち男性の41.1%、女性の31.4%にのぼったそうです。すべてがいわゆる「不倫」というわけではありませんが、想像より多い数字ですよね。 20~30代が高いので、付き合っているカップルの状態での「浮気」が多いんでしょうけれども。一方で、パートナー以外としたことがないと答えた人は60代女性が最多で70.2%。年代もありますよね。私たち以下の世代で不倫したことがある人の比率は実はこの数字とそんなに変わらないんじゃないかと思います。) 中野:ですよね。だからなおさら思うんですよ。なんだろうこのギャップはと。私は脳科学者ですから、脳科学的に考えれば不倫しやすい人がいたり、実際にしてしまう脳の仕組みがあること、あるいは人が人を非難するときになぜ快感を覚えるかといったことも理解できる。 でも、実際にしている人が多い割に、非難の声があまりに大きいように思えるんですよ。そのギャップが気になっていて、これは瑠麗さんとお話ししてみたいなと思ったんですよ。私とは別の角度から人間社会を俯瞰して見てる国際政治学者の瑠麗さんなら、社会的、文化的側面から解説してくれるんじゃないかって思って。 三浦:いやいや、恐縮です。私はよく「不倫を擁護するな」って叩かれるんですけど、違法行為でもなし、擁護も否定もする気はないんですよね。かといって、ロマンチックな見方を持っているかというと、そうでもない。 そもそもそれ以前に、なぜひと様の家庭に口を突っ込むんだ?と思って報道に不快感を示すコメントをしたりします。でもそういうことを口にすると「不倫を擁護するのか」「お前も旦那に不倫されてみろ」などと言われる(笑)』、「現在パートナー(恋人や結婚相手)以外の人とセックスをしている割合は、セックス経験者のうち男性の41.1%、女性の31.4%に」、想像以上の多いようだ。「実際にしている人が多い割に、非難の声があまりに大きいように思える」、同感である。
・『不倫は増加している?  中野:そういう人って瑠麗さんが不倫する可能性は考えないんですかね? 三浦:そうねえ。不倫は男がするものだっていう社会通念があるんでしょう。ただ、興味深いのは、それぞれはどこまで正確な数字かわからないですけれど、働いている既婚女性のほうが専業主婦よりも不倫している率が高いという各種アンケート結果があること。不倫する女性の圧倒的多数は「働く女性」だということですよね。 中野:そういうことになりますね。 三浦:最近言われている不倫の増加は、女性の社会進出と密接に関係があるんではないかと私は思っているんですね。女性の地位が上がって、ある程度男女が経済的に対等になったり、場合によっては格差が逆転したりということにも関係があるんではないかなと。 専業主婦は望むと望まざるとにかかわらず、夫の収入に依存せざるをえません。一方で、結婚したら専業主婦という道も選べる、という経済的に余裕のある男性と結婚できる人の割合はどんどん少なくなってきています。働く女性に自由度が生まれたというだけでなく、結婚にオールインできるという楽観もそこなわれた可能性がありますね。 既婚男性が浮気をしても、妻は養われながら貞淑に家庭を守る、というモデルは成立しにくくなっている。私たちがなんとなく「最近、女性の不倫が増えてない?」と思っているのはあながち的外れでもないんではないかと思います。) 中野:その一方で、「不倫騒動」は相変わらず多いですよね。あえて名前は挙げませんが、何かというと報道されている。 三浦:多少の知名度があれば、本来プライバシーにあたるものが報じられてしまうのが今のメディアですよね。週刊誌報道の内容に多少脚色や不正確な部分があっても、褒められた行為ではないがゆえに反論すればするほど傷口が広がる。したがってほとんどの人がプライバシー侵害で訴えずに泣き寝入りしています。まあ、ある意味「書き放題」ですよね』、「最近言われている不倫の増加は、女性の社会進出と密接に関係があるんではないかと私は思っているんですね。女性の地位が上がって、ある程度男女が経済的に対等になったり、場合によっては格差が逆転したりということにも関係があるんではないかなと」、「週刊誌報道の内容に多少脚色や不正確な部分があっても、褒められた行為ではないがゆえに反論すればするほど傷口が広がる。したがってほとんどの人がプライバシー侵害で訴えずに泣き寝入りしています」、なるほど。
・『「世間」と「有名人」で受ける反応が非対称  中野:イメージダウンして仕事は外され収入は減る、CMは降ろされて違約金は払わねばならない、出演していた番組は放送中止になって関係各所に迷惑がかかる……ミュージシャンならコンサートに出られなくなるし、俳優が映画に出ていれば下手すればその映画はお蔵入り、というそこまでの社会的、金銭的制裁を受けながら、あげく復帰もできないという人もいるわけですよね。あまりに「世間」と「有名人」で受ける反応が非対称です。 三浦:職場不倫がバレれば、会社に懲戒解雇はされないにせよ、配置転換されてしまうことはありうるでしょう。でもそこまでの「社会的制裁」は受けない気がしますね。もちろん、パートナーから離婚されたり、慰謝料を請求されたり、さまざまな人間関係がおかしくなるということはあるでしょうけど、それはあくまで「私」の部分ですよね。 中野:もちろん、イメージを売ることで報酬を得ている芸能人の場合、不倫に代償が生じるのはやむをえないんでしょう。夫婦円満、家庭的なイメージでCMに出演している俳優さんとかね。CMを降ろされても仕方がないかもしれない。 だけど政治家だったら政治、ミュージシャンだったら音楽、お笑い芸人だったらお笑い、みたいな本業にまで差し障りが出るとなると、それはどうなんだろうとは思います。 三浦:芸人さんがスキャンダルを起こした場合、「笑えないなあ」というのはあるかもしれないですけど、でも「あいつが番組に出てると不快だから出すな」とかとなるとね、ちょっとヒステリックすぎないかなと思いますよね。 昔の“不倫スキャンダル”は夫の浮気を妻が「芸の肥やし」として認めるパターンもありましたけど、今ではちょっと考えられない。仮に平穏を守るために奥さんが我慢するという選択肢をとりたくとも、世間にバッシングされるので婚姻関係が壊れてしまう事例だってありえます。) 中野:歌舞伎役者なんかずーっと歴史的にそういうことが許容されてきた土壌があったと思うんですけど……現代はどうも、ちょっと、芸能を生業とする人には大変だなと思いますね。噺家さんとかもすごくもったいないなと思う。いろんな女性とおつきあいしたほうが芸のためにはいいこともあるでしょう?そういうチャンスを奪われているとも言えるし。 三浦:不倫の善しあしは脇に置いて、短期的な関係の積み重ねをストレスに感じず、それを肥やしにするタイプの人たちも世の中にはいるわけですよね。だけど社会的には、そういう人々はノーマルからの逸脱として罰を受けやすい状況になっているという感じはしますね』、「昔の“不倫スキャンダル”は夫の浮気を妻が「芸の肥やし」として認めるパターンもありました。今ではちょっと考えられない」、「社会的には、そういう人々はノーマルからの逸脱として罰を受けやすい状況になっているという感じはしますね」、なるほど。
・『「調子に乗ると人は不倫するのか?」  中野:そもそも芸能をやる人はノーマルから逸脱してるもんなんじゃないのかって思うところもあるんですけどねえ。 ちょっと前に話題になったオリンピアンの不倫報道でも気になったことがあって。 三浦:どんなことですか。 中野:いくつか情報番組で「順風満帆な人生すぎて調子に乗って不倫をしたのではないか」といった指摘があったんです。でも私が思ったのは、「そもそも、調子に乗ると人は不倫するのか?」という疑問で。 三浦:人間、そのとき調子に乗っているかどうかで不倫するものなのかと。 中野:別の不倫報道でもやっぱり、「調子に乗っていた」みたいな言われ方をしていたんですよね。あるいは、「あんなにできた奥さんなのになんで?」と。 それを聞くと女からしてみると「なのに」ってなによ?って思いません?(笑)。じゃあ「できた奥さんじゃなければ不倫してもいい」ということになるのか?とかね。世間の反応は私にしてみたら疑問だらけなんですよ』、「世間の反応は私にしてみたら疑問だらけなんですよ」、との「中野」氏の述懐は理解できる。

次に、6月28日付け東洋経済オンラインが掲載した金沢大学融合研究域融合科学系教授・東京大学未来ビジョン研究センター客員教授の金間 大介氏による「若者のデート離れを加速させる「ゼロリスク志向」 若者の自信のなさが恋愛にも影響する時代に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/598230
・『「20代独身男性の4割がデート経験なし」「30代は4人に1人が結婚願望なし」「婚姻は戦後最少」――。6月14日に公表された内閣府『令和4年版男女共同参画白書』は大きな話題を読んだ。 新著『先生、どうか皆の前でほめないで下さい――いい子症候群の若者たち』が話題の金間大介氏は、「デートしないのは、自分に自信がないから」だと指摘する。「彼らにとって恋愛は、メンタルを不安定にするリスク要因そのもの。自分で決められないという性向も、恋愛には不向き」とも。その背景には、恐怖心にも似た、人の感情に対する強い心理が関係しているというのだが――。 20代男性の65.8%は妻や恋人がおらず、39.8%はデートした人数0人。20代女性も似た傾向にあり、51.4%に夫や恋人がおらず、25.1%がデート未経験――。6月14日に公表された内閣府の『令和4年版男女共同参画白書』が大きな話題を呼んでいる。 なぜ、今の若者はデートや恋愛に対し、ここまで消極的なのか。 白書の公表以降、各種メディアでなされてきた議論は、次の4点にまとめられる。①経済力の低迷(特に男性の)、②恋愛や結婚に興味のない人の増加、③ひとり時間の充実、④出会いの減少、だ。 私は、これらの解釈にはある程度同意しつつも、やや表面的と感じる。むしろその根底に、今の若者における「変なこと言って空気を乱したらどうしよう」「ズレた提案をして後で自分のせいにされたらどうしよう」という、人の感情に対する強い恐怖心が作用しているのではないかと思う』、興味深い説だ。
・『失敗すると思い込み、最初から「デートしない」  今の若者の多くは、目立ちたくない、100人のうちの1人でいたい、自分で決めたくない、誰かが決めたことに従っていたい、(自分に対する)人の気持ち・感情が怖い、といった心理的特徴を有していて、私は彼らを「いい子症候群」と称し、その深層心理の可視化に努めてきた。) なぜ、彼らはそこまで自分に向けられた他人の感情を怖がり、空気に従おうとするのか。 それは、自分に自信がないからだ。自分に自信がないから、自分に向けられた人の気持ちに過敏になり、それをちょっとでも想像しただけで強い緊張が走る。 自分に自信がないから、100人の中の1人として埋もれていたいと願い、自分に自信がないから、ひたすらメンタルの安定を求め、微細なリスクすらも取らないゼロリスク志向へと突き進む……』、「自分に自信がない」のは若者特有の特徴なのではなかろうか。
・『自分が提案したお店へご飯を食べに行ったとしたら…  そんな心理状態では、デートどころではない。いい子症候群の若者たちにとって、デートや恋愛は、メンタルを不安定にするリスクの塊そのものだ。たとえば、仮に自分が提案したお店へご飯を食べに行ったとしよう。万が一、そのお店の雰囲気が悪かったら、もう気まずくて息もできない。ご飯の味より申し訳なさで頭がいっぱいだ。さらにそんなとき、相手が「別にいつも行く○○(チェーン店)でいいよ」なんて言ってくれようものなら、そんな神レベルの素敵な人が自分のことを好きになるはずはないので、もうデート失敗確定。今後、100年間は異性と食事には行きません。 あるいは、レンタカーを借りてドライブでも行ってみようか。でも万が一、行き場所が定まらず、「ここさっきも通ったな……」とか思われたら、もうそんな空気の中じゃ息もできない。何とか窒息死だけは免れたとしても、その心の声がトラウマすぎて、やはりデート失敗確定。今後100年間、自分からドライブには誘いません。 と、たしかにこんな心理状態では、デートどころではない。もはやその場の空気に対処することに精いっぱいで、相手のことは目に入っていない。デート後も疲労感でいっぱいだ。そして何より、そんな自分を容易に想像できるから、最初からデートしようとは思わない。) 実際、どのくらい今の日本の若者が自分に自信がないかを示すデータは枚挙に暇がない。例えば、2019年の日本財団の若者に対する調査によると、「自分で国や社会を変えられると思う」にYesと回答した割合は18.3%(アメリカ65.7%、中国65.6%)だ。 また2019年の国立青少年教育振興機構の調査によると、「自分はダメな人間だと思うことがある」に「よくあてはまる」「まあまああてはまる」と答えた割合はなんと80.8%(アメリカ61.2%、中国40.0%)だ。この値は2015年には72.5%だったから、日本の若者のダメ人間思考はさらに強まっていることになる。 もっと身近で、かつ本稿の主題に沿うところで見てみよう。私の研究室が2020年に行った大学生・大学院生281名に対するアンケート調査では、自分の見た目に自信があるかという問いに対して「ある」「少しある」が17.4%、「ない」「あまりない」が45.6%であった。同時に、自分のセンスに自信があるかという問いに対し「ある」「少しある」と回答した割合は26.7%、逆に「ない」「あまりない」とした割合は40.0%となる。 このような自己肯定感の低さが積み重なった結果、今の若者は次のような傾向を示す。 ・「有名な大学や学校に通ったほうが有利になる」→そう思う:70%(過去最高) ・「ものごとを判断するときに世間体を気にしてしまう」→そう思う:69%(過去最高) ・「人生をよりよくするためには実力よりもコネが大事」「対外的に自分の立場を説明するためには役職や肩書が重要」「資格が生きる仕事に就きたい」と考える(いずれも国際比較調査で日本は高い数値を計上) ・就職する際、「働きがいのある会社」より「安定している会社」を選択する若者がおよそ3.3倍』、「自己肯定感の低さ」は日本の若者固有の現象で、昔からあったのではなかろうか。
・『分岐点は2010~2012年頃か  あきれを通り越して、恐ろしい状況になりつつあるが、そもそもいつからこのような心理的特徴が強まってきたのか。 私は、2010~2012年頃だと思っている。根拠となるデータはやはり枚挙に暇がない。たとえば、大学生が就職先を選ぶ理由として「自分のやりたい仕事ができる会社」が低下し始め、その代わり「安定している会社」が上昇し始めたのも(マイナビ 2022年卒大学生就職意識調査)、新入社員にとって「仕事が面白い」かどうかは重要ではなくなったのも(日本生産性本部 平成31年度 新入社員「働くことの意識」調査)この頃からだ。 2010年代以降に20代を迎えた彼らは、児童・生徒のときに教育環境の変化も経験している。いわゆるゆとり教育の導入だ。このとき改訂された学習指導要領は、1993年から2010年にかけて小学校へ入学した児童に適用されており、この世代がちょうど今、20代を丸ごと形成している』、「分岐点は2010~2012年頃か」、同じ調査項目での時系列比較ができないのは残念だ。「ゆとり教育」の「世代がちょうど今、20代を丸ごと形成している」、なるほど。
・『「いい子症候群」的気質が恋愛や結婚に影響を与えている  恋愛に関しても、時期が符合するデータがある。たとえば、日本性教育協会が6年ごとに調査している「青少年の性行動調査」によると、2005年調査までは性交経験率は上昇していたが、2011年調査から男女とも低下傾向に転じている。 むろん、これらのデータを構成する要因は多様で複雑だ。ただ、ここまで多くのデータが歩調を合わせたようにタイミングを同期させていることを鑑みると、「いい子症候群」的気質が恋愛や結婚にも強い影響を与えていると考えざるをえない。 ここまで読んだ方は、今後この傾向はどうなるのか、も気になるだろう。私が主に研究対象としているのは大学生から20代であるため、現在、10代の性向をよく知る人たち、つまり中学校・高校の教諭や教育関係者との対話を精力的に進めている。 ただ、今のところ、子供たちの主体性を重んじた教育方針を強めているにもかかわらず、いい子症候群的気質が変わる兆しはなく、むしろ強化されている状況も見られる。今なんとかしなければ、今後しばらくは「いい子」を装った指示待ち人材が大量に産業界へ送り出され、若者の婚姻率は下がり続けることになるかもしれない』、「今なんとかしなければ、今後しばらくは「いい子」を装った指示待ち人材が大量に産業界へ送り出され、若者の婚姻率は下がり続けることになるかもしれない」、前述の通り実証分析に甘さはあるが、大筋はその通りなのだろう。

第三に、6月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「若者の恋愛離れ」というインチキ話を政府・マスコミが蒸し返し続けるワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304857
・『マスコミが「若者の○○離れ」と言いたがる理由  20代男性のおよそ7割が配偶者や恋人がおらず、およそ4割にいたっては「デートの経験がない」――。内閣府のそんな調査データを受けて、マスコミが「若者の恋愛離れ」だと騒いでいる。 例えば、あるワイドショーでは、「若い男性の“恋愛離れ”が進行しています」と巨大パネルを用いて解説した。スマホゲームやら1人で楽しめる娯楽が増え、恋愛が面倒になっているのではないかとか、人間関係が希薄になって異性との交際を恐れるようになっているのではないか、なんていう専門家らの指摘を紹介していた。 また、別の番組ではコメンテーターの男性が、「私も若い頃は恋愛をたくさんして、すごくいい人生勉強になりましたからこういう結果は残念です」なんておっしゃっていた。「恋愛離れ」によって人として成長できない、と苦言を呈しているようにも聞こえてしまう。 なぜこんなにも「若者の恋愛離れ」に執着するのかというと、マスコミにとって「若者の○○離れ」は大好物だからだ。 自動車が売れないのは、若者が「自動車離れ」をしているから。酒が売れないのは、若者が「アルコール離れ」をしているから。最近ではテレビの視聴率がガタ落ちしているのも、若者が「テレビ離れ」をしていることが原因だと説明されている。 なぜあらゆることを若者のせいにするのか不思議になるだろうが、これはマスコミにとって主たる読者・視聴者である高齢者の共感を得やすいからだ。 新型コロナウイルス感染症の新規感染者が増えるたび、渋谷スクランブル交差点を中継して、「ごらんください!あんなにたくさん若者が出歩いてます!」とレポーターが大はしゃぎして紹介していたことを思い出していただきたい。「まったく、最近の若者は…」「オレが若い頃は…」と高齢者に顔をしかめさせるようなニュースほど数字が稼げるという現実があるのだ。 ただ、そういうビジネス的な事情を考慮しても、「若者の恋愛離れ」をあおるマスコミの姿勢はいただけない。 「20代独身男性の4割がデート未経験」なんて話は昨日今日にはじまったことではなく、今のおじさんたちが“ナウなヤング”だった35年前から存在していた。つまり、時代に関係なく、「若い男性というのはもともとそういうもの」である可能性が高いのだ』、「なぜあらゆることを若者のせいにするのか不思議になるだろうが、これはマスコミにとって主たる読者・視聴者である高齢者の共感を得やすいからだ」、「「まったく、最近の若者は…」「オレが若い頃は…」と高齢者に顔をしかめさせるようなニュースほど数字が稼げるという現実があるのだ」、「「20代独身男性の4割がデート未経験」なんて話は昨日今日にはじまったことではなく、今のおじさんたちが“ナウなヤング”だった35年前から存在していた。つまり、時代に関係なく、「若い男性というのはもともとそういうもの」である可能性が高いのだ」、それにしても、「高齢者に顔をしかめさせるようなニュースほど数字が稼げるという現実がある」、こうしたことで、報道内容が歪められるとは困ったことだ。
・『1980年代後半から「恋愛できない症候群」というネーミング  1987年の厚生省人口問題研究所の「独身調査」によれば、20〜24歳の男性で交際している恋人・婚約者がいると回答したのは26.8%しかない。25〜29歳の男性でも25.6%だ。つまり、20代独身男性の7割が配偶者や恋人がいないという今回の内閣府データとあまり変わらない結果だ。 この恋人・婚約者のいない男性たちの中には当然、デート経験のない人もかなり含まれている。当時の調査では「デート経験」については明らかにされていないが、3〜4割くらいはいたのではないかと推察できる。 それがうかがえるのが、「性体験の有無」だ。当時の調査では、20〜24歳の男性では43%、25〜29歳では30%が「性体験がない」と回答している。もちろん、「性体験がなくてもデートまでは経験がある」という男性もそれなりにいるはずだが、「性体験がない」という男性の中には、そもそも女性と二人っきりになったことがないという人もかなりいるはずなので、「デート経験なし」も近い割合になるのではないかと思う。 3割くらいは恋愛に積極的でガツガツしているが、7割くらいは恋人や配偶者がいない。さらに3〜4割くらいはデートすらしたことがない人も存在している――つまり、2022年も1987年も、若い男性の恋愛の傾向それほど大きな違いはないということだろう。 それはマスコミの報道を見てもわかる。 実は日本では30年以上前から、さまざまな調査によって、女性との交際に積極的ではない男性たちの存在が浮かび上がり、「シングル」という言葉も普及して、今とほぼ変わらない論調が出来上がっている。 例えば、1988年の「読売新聞」では、「独身男が増えている」という連載がスタート。その第1回である『「価値ある」と進んで選択 “30代未婚”10年で倍 女性含めネットワーク』には、今の「若者の恋愛離れ」を紹介した記事の中にあっても違和感のない記述が並ぶ。 <一人で生きる男性が増えてきた。「配偶者に恵まれない」という人もいるが、「自分の世界を大切にしたいから」という人もまた、少なくない>(読売新聞1988年5月31日) さらに翌年になると、「朝日新聞」が恋愛に後ろ向きな人々に、こんなキャッチーなネーミングをする。 <恋愛したけれど相手がいない、異性とどうやって付き合えばいいわからないという「恋愛できない症候群」の若者が、都会を中心に増えている>(朝日新聞1989年7月13日) いかがだろう。この時代から「若者の恋愛離れ」という話は何も変わっておらず、それを紹介するマスコミの論調も変わっていない。厳しい言い方をすれば、なんの進歩もしていないのだ。 人はどうしても「自分が生きている今の時代は特別」と思い込みたい生き物だ。「今はスマホや多様性など、いろんな社会の変化が起きている。だから、人の行動も劇的に変わっているに違いない…」そんな先入観に縛られているので、マスコミの「若者の恋愛離れが進行しています」なんて話にコロッとだまされてしまう。 たかが35年ぽっちで、人々の意識はそれほど劇的に変わらないのだ』、「「今はスマホや多様性など、いろんな社会の変化が起きている。だから、人の行動も劇的に変わっているに違いない…」そんな先入観に縛られているので、マスコミの「若者の恋愛離れが進行しています」なんて話にコロッとだまされてしまう。 たかが35年ぽっちで、人々の意識はそれほど劇的に変わらないのだ」、同感である。
・『政府の失策を「若者の恋愛離れ」のせいにして責任転嫁  さて、そこで次に気になるのは、なぜマスコミは「若者の恋愛離れ」などという与太話をでっちあげてきたのかということだ。 ひとつには、先ほど申し上げたように「若者の○○離れ」が数字の稼げるキラーコンテンだからということもあるが、もうひとつ大きいのは、マスコミの大切な情報源である「政府」に吹き込まれたということが大きい。 <政府関係者は未婚や晩婚化、少子化に拍車をかけることにつながりかねないとして危機感をあらわにしています>(テレ朝news 6月14日) この言葉からもわかるように、日本政府は、「若者の恋愛離れ」は晩婚化や少子化の背中を押す、非常にやっかいな問題であるというスタンスだ。マスコミはその主張をノーチェックで、右から左で流している。 これは見ようによっては「悪質な情報操作」である。少子化という問題を「恋愛に興味を抱かなくなった若者が悪い」ということにして、これまでの政府の失策をウヤムヤにしようとしているからだ。 実は世間的にはあまり知られていないが、少子化というのは、「日本の無策」を象徴する問題だ。50年以上も前からこうなることはわかっていたが、政治が何も有効な手を打つことなく放置してきたからだ。 例えば、1967年4月27日の「ふえる老人 減る子供 人口問題をどうする 厚相、審議会に意見きく」という読売新聞の記事では、以下のような厚生省人口問題研究所の推計が掲載されている。  <総人口は約500万人ずつ増加しているが、これも昭和80年(1億2169万人)をピークとして減少に転じる。(中略)昭和90年には幼少17%、成人63%となり、老齢人口が20%を占めるという> 実際のところ、昭和80年にあたる2005年の人口は1億2777万人で試算よりも増えたが、昭和90年にあたる2015年の15歳未満は12.6%、65歳以上は26.6%となり試算よりも深刻なことになった。このようにある程度のバラつきはあるが、実は日本は50年以上前から現在の「危機」をある程度、正確に予見していたのである。 しかし、何もしてこなかった』、「日本政府は、「若者の恋愛離れ」は晩婚化や少子化の背中を押す、非常にやっかいな問題であるというスタンスだ。マスコミはその主張をノーチェックで、右から左で流している。 これは見ようによっては「悪質な情報操作」である。少子化という問題を「恋愛に興味を抱かなくなった若者が悪い」ということにして、これまでの政府の失策をウヤムヤにしようとしているからだ。 実は世間的にはあまり知られていないが、少子化というのは、「日本の無策」を象徴する問題だ。50年以上も前からこうなることはわかっていたが、政治が何も有効な手を打つことなく放置してきたからだ」、その通りだ。
・『50年前に予測された通りのシナリオが進行  国は、独身者への調査を繰り返すだけで、「恋愛離れだ!」「結婚に価値を見出していない」なんて「若者の意識」のせいにして、諸外国がやっているような対策をサボってきた。 例えば、少子化対策で有名なのは、「子どもへの支出」だ。OECD Family Databaseによれば、子どもに対して社会がどれだけお金を出しているのかという「家族関係社会支出」の割合が高い国であればあるほど、出生率も上がっていく傾向がある。意外に思うかもしれないが、子どもに対して社会全体で手厚いサポートがあれば、「私も親になりたい」と思う人も増えていくことがわかっているのだ。 また、「賃上げ」もそうだ。ご存じのように、日本はこの30年ほとんど賃金が上がっておらず、先進国の中でも際立って低く、韓国にまで平均年収で抜かれている。最低賃金も諸外国の中で低く、若者の貧困化も進んでいる。  「若者が結婚しないのは経済的理由だけではない」みたいなことを主張する経済評論家も多いが、結婚以前に恋愛というのは「見栄」を張る部分もあるので、ファッション、デート、プレゼントなど出費がかさむものだ。日本の常軌を逸した低賃金によって、「恋愛できない」「結婚できない」という若者もかなりいるはずなのだ。 こういう問題を政府が50年放置してきたことで、日本の少子化は拍車がかかってしまった。何もしなかったので、50年前に予測された通りのシナリオが進行しているのだ。もちろん、政府としてはそういう話になることは避けたい。結果が伴っていないのは動かし難い事実なのだが、国は少子化対策をずっと力を注いで一生懸命やってきた、としたい。 となると、誰かを「スケープゴート」にしなくてはいけない。ここまで言えばもうお分かりだろう。そう、それが「若者の恋愛離れ」である』、「こういう問題を政府が50年放置してきたことで、日本の少子化は拍車がかかってしまった。何もしなかったので、50年前に予測された通りのシナリオが進行しているのだ」、「となると、誰かを「スケープゴート」にしなくてはいけない。ここまで言えばもうお分かりだろう。そう、それが「若者の恋愛離れ」である」、「若者の恋愛離れ」を「スケープゴート」にしたとはあり得る話だ。
・『「恋愛をしない独身の若者」は格好のスケープゴート  国は少子化対策に力を入れてきたが、それ以上に足を引っ張っているのが、若い男性たちだ。彼らが恋愛に後ろ向きになってしまったことが最大の問題ということにしてしまえば、すべて解決だ。国は無策の責任を取らなくていいし、「若者の恋愛をサポートします」なんて上っ面の話をしていれば、賃上げや子ども対策という面倒な話に着手しなくて済む。 実はこれは日本という国がよくやる“お家芸”でもある。『医療危機に「国民のがんばり」で立ち向かう、戦時中と変わらぬ日本の姿』の中で詳しく紹介したが、日本は、政府が社会システムの根本から変えなくてはいけないような問題にに直面した時に、国民の責任に話をすり替えて、「個人のがんばり」で乗り切ろうとする悪い癖がある。 最近でわかりやすいのは、コロナ対策だ。他の先進国ではほとんど起きていない「医療崩壊」を2年間も大騒ぎしたのは、日本の医療供給システムに根本的な欠陥があるからであることは明白だが、そこには手をつけず、ひたすら個人のせいにした。 「ルールを守らない飲食店が悪い」「渋谷で遊んでいる若者が悪い」という感じで、医療崩壊という国のシステムエラーから国民の目をそらして、ひたすら「この非常時に協力しない身勝手な人間のせい」にして、医療提供体制の見直しなどの根本的な議論は先送りされている。 「若者の恋愛離れ」にも同じ匂いが漂う。 これから人口減少はさらに拍車がかかる。1年で鳥取県と同じ人口が消えていくので国内経済も加速度的に縮小していく。尻に火がついた時、「こんな状況になるまで放っておいたのは誰だ!」と犯人探しが始まる。 その時、「恋愛をしない独身の若者」は何度でも格好のスケープゴートにされるだろう。 「日本が衰退したのは、ゲームやアニメばかりを楽しんでデートもしない自分勝手な男が増えたからだ!」「最近の若者は何事にも臆病でダメだ!我々が若い時は女性には当たって砕けろだった!」なんて感じで、おじさんたちも怒りをぶつけやすい。政治家も選挙で叫びやすい。若者はそもそも投票に来ないので、いくらディスっても痛くない。 「若者の恋愛離れ」というインチキ話は、そう遠くない未来に始まる「若者ヘイト」の序章なのかもしれない』、「「若者の恋愛離れ」というインチキ話は、そう遠くない未来に始まる「若者ヘイト」の序章なのかもしれない」、政府・マスコミへの痛烈な批判だ。 
タグ:恋愛・結婚 (その6)(:過熱化する不倫報道「書き放題」の残酷すぎる現実 脳科学者・中野信子×国際政治学者・三浦瑠麗、若者のデート離れを加速させる「ゼロリスク志向」 若者の自信のなさが恋愛にも影響する時代に、「若者の恋愛離れ」というインチキ話を政府・マスコミが蒸し返し続けるワケ) 東洋経済オンライン 中野 信子氏 三浦 瑠麗氏 対談「過熱化する不倫報道「書き放題」の残酷すぎる現実 脳科学者・中野信子×国際政治学者・三浦瑠麗」 「現在パートナー(恋人や結婚相手)以外の人とセックスをしている割合は、セックス経験者のうち男性の41.1%、女性の31.4%に」、想像以上の多いようだ。「実際にしている人が多い割に、非難の声があまりに大きいように思える」、同感である。 「最近言われている不倫の増加は、女性の社会進出と密接に関係があるんではないかと私は思っているんですね。女性の地位が上がって、ある程度男女が経済的に対等になったり、場合によっては格差が逆転したりということにも関係があるんではないかなと」、「週刊誌報道の内容に多少脚色や不正確な部分があっても、褒められた行為ではないがゆえに反論すればするほど傷口が広がる。したがってほとんどの人がプライバシー侵害で訴えずに泣き寝入りしています」、なるほど。 「昔の“不倫スキャンダル”は夫の浮気を妻が「芸の肥やし」として認めるパターンもありました。今ではちょっと考えられない」、「社会的には、そういう人々はノーマルからの逸脱として罰を受けやすい状況になっているという感じはしますね」、なるほど。 「世間の反応は私にしてみたら疑問だらけなんですよ」、との「中野」氏の述懐は理解できる。 金間 大介氏による「若者のデート離れを加速させる「ゼロリスク志向」 若者の自信のなさが恋愛にも影響する時代に」 興味深い説だ。 「自分に自信がない」のは若者特有の特徴なのではなかろうか。 「自己肯定感の低さ」は日本の若者固有の現象で、昔からあったのではなかろうか。 「分岐点は2010~2012年頃か」、同じ調査項目での時系列比較ができないのは残念だ。「ゆとり教育」の「世代がちょうど今、20代を丸ごと形成している」、なるほど。 「今なんとかしなければ、今後しばらくは「いい子」を装った指示待ち人材が大量に産業界へ送り出され、若者の婚姻率は下がり続けることになるかもしれない」、前述の通り実証分析に甘さはあるが、大筋はその通りなのだろう。 ダイヤモンド・オンライン 窪田順生氏による「「若者の恋愛離れ」というインチキ話を政府・マスコミが蒸し返し続けるワケ」 「なぜあらゆることを若者のせいにするのか不思議になるだろうが、これはマスコミにとって主たる読者・視聴者である高齢者の共感を得やすいからだ」、「「まったく、最近の若者は…」「オレが若い頃は…」と高齢者に顔をしかめさせるようなニュースほど数字が稼げるという現実があるのだ」、「「20代独身男性の4割がデート未経験」なんて話は昨日今日にはじまったことではなく、今のおじさんたちが“ナウなヤング”だった35年前から存在していた。つまり、時代に関係なく、「若い男性というのはもともとそういうもの」である可能性が高いのだ」 「「今はスマホや多様性など、いろんな社会の変化が起きている。だから、人の行動も劇的に変わっているに違いない…」そんな先入観に縛られているので、マスコミの「若者の恋愛離れが進行しています」なんて話にコロッとだまされてしまう。 たかが35年ぽっちで、人々の意識はそれほど劇的に変わらないのだ」、同感である。 「日本政府は、「若者の恋愛離れ」は晩婚化や少子化の背中を押す、非常にやっかいな問題であるというスタンスだ。マスコミはその主張をノーチェックで、右から左で流している。 これは見ようによっては「悪質な情報操作」である。少子化という問題を「恋愛に興味を抱かなくなった若者が悪い」ということにして、これまでの政府の失策をウヤムヤにしようとしているからだ。 実は世間的にはあまり知られていないが、少子化というのは、「日本の無策」を象徴する問題だ。50年以上も前からこうなることはわかっていたが、政治が何も有効な手を打つこ 「こういう問題を政府が50年放置してきたことで、日本の少子化は拍車がかかってしまった。何もしなかったので、50年前に予測された通りのシナリオが進行しているのだ」、「となると、誰かを「スケープゴート」にしなくてはいけない。ここまで言えばもうお分かりだろう。そう、それが「若者の恋愛離れ」である」、「若者の恋愛離れ」を「スケープゴート」にしたとはあり得る話だ。 「「若者の恋愛離れ」というインチキ話は、そう遠くない未来に始まる「若者ヘイト」の序章なのかもしれない」、政府・マスコミへの痛烈な批判だ。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

地方自治体(その1)(4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”、「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ) [経済政策]

今日は、地方自治体(その1)(4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”、「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ)を取上げよう。

先ずは、本年5月25日付けデイリー新潮「4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”」を紹介しよう。
・『山口県阿武町で起きた誤送金事件は、劇的な結末を迎えた。回収が不可能と思われていた絶望的な状況から一転、町は誤送金した金額の9割に及ぶ約4300万円の回収に成功したのだ。町を救った“ヒーロー”は、昭和30年生まれの地元・山口県の弁護士。同業者の間でも、思いがけない奇策に注目が集まっているという』、新聞報道では込み入った事件が理解し難いので、大いに興味深い。
・『ドラマのような大逆転劇  「ポイントは回収先として、お金を持っていない24歳男性ではなく、決済代行業者に目をつけたこと。しかも、国税徴収法に基づき、わずかしかないであろう滞納税金に基づき、男性が決済代行業者に有していたとされる債権を全額差し押さえるという奇策に驚きました。やはり、自治体の弁護士は考えることが違うなと」 こう興奮気味に語るのは、「渥美坂井法律事務所弁護士法人 麹町オフィス」代表の渥美陽子弁護士だ。渥美氏ばかりではない。いま弁護士界隈のTwitterには、奇跡の債権回収を成し遂げた阿武町の顧問弁護士に対し、「ドラマのようだ」「これぞプロ」といった賞賛の嵐が吹き荒れているのだ。 大ピンチからの逆転劇を見せたのは、山口県で弁護士事務所を営む中山修身氏。山口県の法曹界では名の知れた、御年67歳の弁護士である。誤振込み問題が発生してからは、中山氏に対する批判の声も大きかった。「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」という声もその一つだ。 だが、「債権回収業務は結果がすべて。使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だと皆が褒め称えています」(渥美氏)。まさに、9回裏に一発大逆転のホームランを放ったのである』、確かに「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」との問題はあるにしても、「使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だ」、その通りだ。
・『公序良俗に反する契約  いったい中山氏はどのような手法で、不可能と思われた回収を成し遂げたのか。 田口容疑者は、自分の口座に振り込まれた4630万円のほぼすべてを、オンラインカジノに使ったと供述している。 カジノ口座への資金移動は、デビット決済と決済代行業者への振込みだった。賭博罪がある日本では、海外にサーバーがあったとしてもオンラインカジノでのギャンブルは違法。そのため、カジノサイトへ多額の資金を直接移動させるのは難しく、決済代行業者を利用するのが一般的だ。田口容疑者は約340万円をデビット決済で動かしたが、残りの約4300万円を国内3社の決済代行業者3社の口座に移した。 結論から言えば、中山氏はこの3社に詰め腹を切らせたわけである。 「報道によると、阿武町は男性と決済代行業者との間の委任契約は、公序良俗に反する契約で無効だと主張したようです。この主張が通ると考えるならば、決済代行業者は、口座に入金されたお金を男性に返さなければなりません。阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえたのだと考えられます」(渥美氏)』、「阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえた」、誠に見事な方法だ。
・『恫喝  その際、中山氏が持ち出したのが「国税徴収法」であった。金額は不明だが、田口容疑者はなんらかの税金を滞納していたようだ。 「滞納処分では、民間の案件とは異なり、裁判所で判決を取らなくても徴収職員が滞納者の財産を差し押さえることができます。だから、町は男性の預金とみなされた決済代行業者の預金をいきなり差し押さえることが可能だったのです」(同) それだけではない。その際に、法に基づき”恫喝”したのだ。中山氏は、決済代行業者の口座がある二つの銀行に対して、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」8条1項に基づき、犯罪による収益と関係する「疑わしい取引」が行われているとして金融庁への届出と、同庁の定める「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応を求めた。 「あなたたちは怪しい取引をしていますよねと暗に圧力をかけたのです。決済代行業者にもやましいところがあったのでは。これ以上突っ込まれることは避けたいと考え、自ら町に全額を返金してしまったのでしょう」(渥美氏)』、「国税徴収法」を持ち出したり、「「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応」、を求めるなど地方の弁護士とは思えないような獅子奮迅の働きには、驚かされた。
・『決済代行業者は泣き寝入りか?  町は、決済代行業者の預金を差し押さえたが、そこから最終的に受け取ることができるのは、あくまで、滞納されていた税金の額に限られる。しかも、決済代行業者は約4300万円を町に振り込んだため、滞納税金との差額は田口容疑者が自分のものとして、返還を求めることができた。他方、町も田口容疑者に対し、誤送金した4630万円の返還を求めることができる状況にあった。町は、これらの返還請求権を事実上相殺する“ウルトラC的手法”で、田口容疑者に対する債権の回収に成功したわけである。 割を食ったのは決済代行業者である。現在、山口県警が捜査にあたっているが、海外で運営されているオンラインカジノの金の動きを追うのは困難で、田口容疑者が実際にギャンブルで使いきったかどうかはわかっていない。だが、もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる。 「それが彼らのリスク判断なのでしょう。決済代行業者が男性に対して、損害賠償請求を検討するかもしれませんが、男性は無資力でしょうからそこから回収は難しいのでは」(同)』、「もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる」、「決済代行業者」も「自腹で穴埋め」せざるを得ないところに追い込まれたのだろう。
・『反マスク主義者?  しかも、影響は今回のケースにとどまらない可能性があるという。 「決済代行業者が阿武町からの請求を認めて男性からの入金を全額返金したということは、自ら公序良俗に反する取引をしていたと認めてしまったに等しい。今後、オンラインカジノで負けた利用者が、決済代行業者に対し公序良俗に反する取引だったため無効であり、入金額相当の債権があると主張し始めるかもしれません」(渥美弁護士) 決済代行業者にとっては思わぬ波及効果が起きかねないというのである。見事、阿武町を救ったヒーローになった中山氏であるが、24日の記者会見では、突飛なことを言い出して、「変な弁護士」とのレッテルも貼られたという。 「マスクをつけないで会見に臨んでいたのですが、いきなり話の途中で、『申し訳ありませんけれども、私はそういう義務に従うつもりがない。遵法精神がない、同調しないタイプの人間ですので』と断り出したので、ざわつきました」(地元記者) これだけのことを成し遂げたのだから、多少の変人ぶりは目をつぶってもいいのかもしれない』、信念でマスクをしないほど同調圧力に屈しない「変人」だからこそ、「阿武町を救ったヒーローにな」れたのかも知れない。

次に、5月29日付け文春オンライン「「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/54706
・『山口県阿武町役場が新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円を誤って24歳の男性に振り込み、「オンラインカジノで使い果たしたから返せない」と突っぱねられた事件。 「小さな自治体では、まともな行政ができるわけがない」などと批判する著名人もいるが、誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」と指摘する市役所職員もいる。 コロナが流行した当初は「間違ってもいいから、とにかく早くカネをばらまけ」と主張する識者もいた。確かに困窮した人には一刻も早く届ける必要がある。が、誤支給を経験した自治体では役所だけでなく、住民にも深い傷が残った。それが一気に顕在化したのが阿武町だった。 阿武町ではオンラインカジノの決済代行業者から約4300万円が役場に“返金”されるなどしたが、誤支給の判明から2年半が過ぎても、まだ返金されていない自治体がある。大阪府摂津市だ。ただしこの場合、コロナ関連ではなく、住民税還付の事例である』、「誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」、実務をやらされる地方自治体は大変なようだ。
・『1502万円も過大に還付  間違いが起きたのは2018年春。市役所の課税部門で納税申告書類をコンピュータ入力していた時、本来は166万とすべきところを職員が1ケタ多く打ち込んだ。このため住民の男性に1502万円も過大な住民税を還付してしまった。 だが、市役所で気づく職員はなく、翌19年の課税作業も終えた。「おかしい」と指摘したのは大阪府だった。 摂津市の担当者が説明する。 「国や府は毎年、自治体の課税データの比較を行っています。その過程で摂津市の数値は年度間の乖離(かいり)が大きいと分かり、府の担当者から『一度確認して下さい』と連絡が入りました。『ええっ』ということで、2019年春の課税データを調べ直したのですが、これは合っていました。 『前年の数字がちょっと大きいな』とさかのぼって調べると、2018年に過大な還付をしていたと分かりました。税関連では特に慎重にチェックをしてきたはずなのですが、膨大な事務量となる時期だけに漏れてしまったようでした』、「2018年に過大な還付をしていた」のが、すぐに判明しないような会計システムにも問題がありそうだ。
・『謝罪・説明を重ねるも裁判に  摂津市は慌てて男性に連絡し、お詫びの文章も届けた。事情説明にも訪ねた。2019年10月のことだ。 「事情は分かっていただけたようでした。すぐに返金してほしいとお願いしたのですが、これには明確な意思表示がありませんでした。その後も何度もお願いしたのですけれど……」と、市の担当者は表情を曇らせる。 翌年の2020年2月、男性は弁護士を立て、その後は代理人同士の話し合いになった。) 「3月ぐらいになって、『返還義務を負うにしても、気づかずに使ってしまったものについては返せない』と通告されました。市としては『気づかずに使ってしまうような額ではないのに、悪意があったのではないですか。返してください』と申し上げました。双方の主張は交わらず、裁判で決めてもらうしかないと大阪地裁に提訴しました」』、「摂津市」の「提訴」は当然だ。
・『市が勝訴したものの……  判決は昨年10月、市が勝訴した。地裁は「株の売買で生計を立てており、過去に多額の税金を納めていたため、不思議に思わなかった」という男性の主張を退け、「株取引の利益がどの程度残るかはまさに死活問題で、税額などを把握していなかったとは考えられない」などと認定。男性は控訴しなかったので、判決が確定した。だが、その後返金はなされていない。 このまま無視を決めていたら、事態は悪化するばかりだ。判決では男性に年利5%を付けて市に返金するよう言い渡されており、約1500万円だと1年間で75万円にもなる。返すのが遅れれば遅れるほど積み重なっていく。 「そうしたことも含めて、早く返金していただきたいとお伝えしています。今後も粘り強く交渉していきたい」と市の担当者は話していた』、「市が勝訴したものの……」「返金はなされていない」、悪質だ。「今後も粘り強く」請求していくほかないだろう。
・『定額給付金の二重振り込み  ところで、コロナ関連の給付では、多くの自治体でミスが起きている。 最も混乱したのは2020年5月から全国民に1人当たり10万円が配付された「特別定額給付金」だろう。コロナ禍で初の緊急事態宣言発出(2020年4月7日から)という事態が進行する中で議論がなされ、一度は所得が低下した世帯に30万円を給付するとされた。だが、安倍晋三首相(当時)が4月17日に「一律1人10万円」に転換。4月30日に補正予算が可決されて、バタバタと配付が決まった。 政府がマイナンバーカードを使ったオンライン申請を導入したため、暗証番号を忘れてロックがかかる人が続出し、市区町村の窓口はパニック状態に陥った。 こうした給付を決めるのは政治家で、制度を具体化させるのは省庁だ。しかし、実際に支給の作業をするのは市区町村である。自治体の現場では支給決定前から国の動きをにらみながら準備を進めたが、そもそも余裕のない状態だった。 「そうでなくても行革で職員数はギリギリにまで削っています。コロナ対応の様々な業務が発生し、多忙を極めていました。パンク寸前になった保健所への応援は住民の命にかかわりかねない問題でした。そうした時に給付金の配付が始まったのです。きちんと配付するだけでも大変なのに、マイナンバーカードなどの混乱に足を取られました。二重申請をした人がいないかどうかなどの確認や照合作業にも膨大な人数が割かれました」と、東京23区の区役所幹部が語る。 このように、誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた。 2020年5月18日、福島県天栄村で二重振り込みのミスが発覚した。 「村の指定金融機関のJAで朝から振り込み作業を始めたところ、システムにエラーが表示されたのです」と、総務課職員が話す。) それと同時に「二重に振り込まれている」と住民から役場に通報があった。当時の人口は約5500人。「住民の顔が見える村」ならではのことだろう。 JAはすぐに振り込み作業を停止したが、この日に予定していたのは375世帯1162人分(1億1620万円)だった』、「誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた」、ここまでくると、政府の責任も重大だ。
・『ミスの原因は何だったのか?  総務課ではすぐさま職員が手分けして、申請書に記された番号に電話を掛け、「そのまま口座に残しておいて下さい」とお願いした。「ほぼその日のうちに全員と連絡がつきました。何が起きたのか説明してほしいという人には、職員が訪問しました」と前出の総務課員が語る。 誤って振り込まれたうち、35人分を除いては、翌日までに金融機関で戻す手立てができた。「現金で返したいという村民もいて、職員が受け取りに行きました。こうして3週間後の6月8日には全額が戻りました」。 原因は二重のデータ作成だった。同じデータを2日間にわたってJAに渡していたのである。 「村には事務職員が60人弱しかいません。出納担当は2人。結果としてはチェックが不十分でした。その後は出納室だけでなく、他の課でも改めて確認するようにしました」と総務課では説明する。個人情報が絡むデータは少数で取り扱うのが原則だが、誤りをなくす確認作業は課をまたいで行うことにしたのだった』、「同じデータを2日間にわたってJAに渡していた」、のが「出納担当は2人」なのに、何故発生するのだろうか不可解だ。
・『寝屋川市では1000世帯近くに「二重振り込み」  一方、金融機関で食い止められなかった自治体もある。大阪府寝屋川市だ。市のチェックで翌日振り込まれる1000世帯分近くが「二重振り込み」と分かったが、銀行では既に処理が終わっていた。 寝屋川市で支給ミスが表面化したのは2020年5月21日の振り込みだ。金額が「足りない」と市民から連絡が入った。給付金は世帯ごとに代表者に一括して振り込まれる仕組みになっているのに、額が世帯人数分に足りなかったのだ。そこで、翌日にチェックすると、5月21日分の振り込みでは195世帯が「過少振り込み」になっていた。 その後、全データを検証すると、5月26日に振り込む予定にしていた993世帯2196人分(2億1960万円)が二重になっていると前日に分かった。市は急いで止めようとしたが、前述したように無理だった。 原因は市が独自に構築したコンピュータのシステムだ。 当時の寝屋川市には23万人を超える人口があり、手作業による配付作業などできるはずがなかった。このためシステムを使って配付データを作成したのだが、コロナ禍で企業活動が抑制され、外部に委託すると時間が掛かると分かった。そこで、エクセルを活用し、職員がシステムを作った。「少しでも早く配付したい」という思いからだ。 システムには二重給付を避けるため、振り込みを終えたデータと突き合わせて、重複があれば弾く仕組みを採り入れていた。ところが、993世帯分については振り込みデータが登録されていないという不具合が生じていて、突き合わせができなかった。 その後、さらに56世帯97人分(970万円)でも二重振り込みなどが起きていたと分かる。市は電話や訪問で謝罪し、理解が得られた世帯から納付書を送り、返金分を振り込んでもらった。 これまでに全体の98.9%が戻ってきたとしている』、「993世帯分については振り込みデータが登録」されたのを確認してから、処理すれば、「二重振り込み」などのトラブルは避けられた筈だ。
・『13世帯が最後まで返金に応じなかった  使ってしまったのか、一括では返金できない人もいて、少額に分けて返す人もいた。現在も9世帯が分納をしている。 最後まで返金に応じなかった13世帯については、裁判に訴えた。市が債務名義を取得し、強制執行で預金口座を差し押さえようというのである。執行額は誤支給の1人当たり10万円に加え、1割程度の訴訟費用が上乗せされる。既に5世帯で裁判が終わり、うち3世帯が強制執行などで完納、2世帯は分納するなどしている。 残る8世帯は係争中だが、「裁判所から通知が行っているはずなのに、法廷に姿さえ見せてくれず、市が証拠となる資料を提出するだけの裁判が続いています。家を訪問しても誰も出てきません。住民票はあり、交付申請では本人確認の書類も添えて手続きをしたのに、どうしたことか。預金口座にもほとんど残額がないようです」と、市の担当者はいぶかしがる。 こうして誤支給から2年以上が経過した今も処理が続き、市の負担は大きい。他業務との兼務ではあるが、担当の係(3人)を置いているほどだ。間違いは一瞬でも、後遺症は重く、長く残る』、ゴネ得を許さないためにも訴訟に訴えるのは当然だ。
・『誤支給の処理にも人件費がかかる  処理に当たる人件費もばかにならない。 寝屋川市ではないが、どれくらいかかるか、うかがい知る資料がある。 コロナ禍からさかのぼること約5年前のことだ。消費税が5%から8%に上がった2014年、政府は住民税が非課税となる低所得者を対象に臨時福祉給付金制度を設け、2014年は1人当たり1万円、2015年は6000円、2016年は3000円を支給した。作業を行ったのはもちろん市区町村だ。 香川県高松市では、この給付のためにコンピュータのシステムを構築して、対象者選びなどを行った。しかし、税関係のデータを一部組み込まなかったため、除外されるはずの人にも給付された。 誤りが判明したのは2015年の受け付け期間中だ。制度が始まった2014年からだと、451人に計501万1000円が誤支給されたと分かった。 対象者に連絡を取り、事情を説明して、返還作業をお願いしたのだが、発覚直後の2015年11月10日から12月6日までの間に職員の時間外手当などで40万円あまりが掛かっていた。この数字は当時、市に出された住民監査請求で分かっている。 500万円の返金に対して、わずか1カ月弱で40万円の経費。その後も返還がらみの業務は続いたので、額はこれ以上にかさんだと見られる』、「誤支給の処理にも人件費がかかる」のは当然だが、公正な処理のためであれば、人件費がかかってもやむを得ないと思う。
・『神戸市でも“誤支給”が起きていた  コロナ禍に話を戻そう。1人10万円の特別定額給付金に関しては、大都市でも誤支給が発生した。 兵庫県神戸市は、18世帯33人に対して二重に振り込むなどした。 同市は「人口の多い政令指定都市であっても早く支給できるように」と、コンピュータのシステムができあがる前から、手作業でエクセルに入力を開始した。 だが、「入力データの行ずれが起きるなどして人の目で行うチェックは大変でした」と、当時の担当者が語る。誤支給はそうした影響で発生したようだ。 さらにこの担当者は「制度上、やむを得ない“誤支給”もありました」と振り返る。 例えば、DV(家庭内暴力)。 「給付金は世帯ごとの支給ですが、妻が避難している場合は別世帯で配らなければなりません。しかし、避難中と認められる前に、夫から給付申請があれば妻の分も含めて支給されてしまいます。国の通知では、加害側の夫に返還請求しなければならないのに、『妻が本当に10万円もらったかどうか、俺は分からない』『確認するため妻の連絡先を教えてくれ』などと言われ、返金のお願いには大変苦労しました」 このような誤支給はどうしたら避けられるか。「内部の議論では、『全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなるだろう。全員に個別の番号があったら、アメリカのように申請すら要らない』という話になりました」と話す』、「全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなる」、その通りだが、実現するのはまだ先だ。
・『「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」  一連の作業を通しては、ミスが起きかねない要素も多々あった。申請書類に添付された預金口座の番号が書き間違えられていたり、通帳に記載された金融機関の支店が統廃合でなくなっていたりしたのだ。「各戸へ書類を郵送するにも、何十万世帯分の封書を急に印刷してくれる事業所は限られていて、調整が難しかった」と語る。 誤支給が見つかった時の対応に、回り道はなかったようだ。 「すぐに連絡をして説明し、誠意を込めて謝罪しました。その人には何ら瑕疵(かし)がないのです。むしろ返金作業で迷惑を掛けてしまいます。たいていの場合は誤支給を知らず、驚いていました。怒るよりもびっくりされていて、真摯に謝ると、気は心というか、通じる部分がありました」 村社会のような人間関係がない都市部では特にそうだろう。 「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び。これは突発業務であろうが、通常業務であろうが変わりません。仕事の基本ではないかと思います」。そう淡々と話していた』、「「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」は自治体の大小を問わず、徹底すべきだ。
タグ:地方自治体 「国税徴収法」を持ち出したり、「「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応」、を求めるなど地方の弁護士とは思えないような獅子奮迅の働きには、驚かされた。 「阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえた」、誠に見事な方法だ。 確かに「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」との問題はあるにしても、「使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だ」、その通りだ。 デイリー新潮「4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”」 新聞報道では込み入った事件が理解し難いので、大いに興味深い。 (その1)(4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”、「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ) 「もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる」、「決済代行業者」も「自腹で穴埋め」せざるを得ないところに追い込まれたのだろう。 信念でマスクをしないほど同調圧力に屈しない「変人」だからこそ、「阿武町を救ったヒーローにな」れたのかも知れない。 文春オンライン「「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ」 「誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」、実務をやらされる地方自治体は大変なようだ。 「2018年に過大な還付をしていた」のが、すぐに判明しないような会計システムにも問題がありそうだ。 「摂津市」の「提訴」は当然だ。 「市が勝訴したものの……」「返金はなされていない」、悪質だ。「今後も粘り強く」請求していくほかないだろう。 「誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた」、ここまでくると、政府の責任も重大だ。 「同じデータを2日間にわたってJAに渡していた」、のが「出納担当は2人」なのに、何故発生するのだろうか不可解だ。 「993世帯分については振り込みデータが登録」されたのを確認してから、処理すれば、「二重振り込み」などのトラブルは避けられた筈だ。 ゴネ得を許さないためにも訴訟に訴えるのは当然だ。 「誤支給の処理にも人件費がかかる」のは当然だが、公正な処理のためであれば、人件費がかかってもやむを得ないと思う。 「全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなる」、その通りだが、実現するのはまだ先だ。 「「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」は自治体の大小を問わず、徹底すべきだ。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

韓国(尹錫悦大統領)(その1)(元駐韓大使が解説3題:韓国・次期政権が暴くべき文大統領の「ウソと秘め事」、韓国経済が深刻な危機!前政権の「負の遺産」問題、文在寅政権が報復つぶし?「検察捜査権を剥奪」強行の暴挙) [世界情勢]

今日は、韓国(尹錫悦大統領)(その1)(元駐韓大使が解説3題:韓国・次期政権が暴くべき文大統領の「ウソと秘め事」、韓国経済が深刻な危機!前政権の「負の遺産」問題、文在寅政権が報復つぶし?「検察捜査権を剥奪」強行の暴挙)を取上げよう。

先ずは、4月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国・次期政権が暴くべき文大統領の「ウソと秘め事」、元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/301250
・『「三不」政策を巡り中韓で異なる主張  尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が大統領となり、最初に取り組む問題が、外交の健全化だろう。これまで文在寅(ムン・ジェイン)大統領の下で韓国は、中国・北朝鮮にすり寄り、ご機嫌伺いに勢力を注いできた。 その端的な例が、在韓米軍がTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)を配備することに対する中国の反発を受け、文在寅大統領が訪中2カ月前に「THAADを追加配備しない」「米国のミサイル防衛システム(MD)に参加しない」「日米韓軍事同盟はしない」といわゆる「三不」政策を表明したことである。これは、韓国の安保に関する主権を制限しかねない内容である。 しかし、文在寅大統領にとっては、中国の機嫌を損なわないことが最優先であった。とはいえ、THAAD問題を中国側と交渉した文政権の複数の当事者は「三不」について、「政府の考えを説明した」ものにすぎず、「約束」ではないと強調してきた。文政権としても約束とするには躊躇(ちゅうちょ)があったのだろう。 ところが、中国国営の環球時報によれば、「三不は韓中相互尊重の結果」として、中国側では約束と受け止めているようである。韓国メディアは最近、「中国が在韓米軍のTHAADに対し、『三不』に加えて『一限』まで要求していたが、文在寅政権はこれを隠していた」と報じた。ここでいう「一限」とは、すでに配備されたTHAADの運用に制限を加えるという意味である。 この報道が正しければ、「三不」政策は中韓の交渉の結果ということになる。しかも、「三不」に加え、「一限」も交渉の対象となっていたことがうかがえる。「一限」の存在は、環球時報が2017年11月、「三不と一限は韓国が取るべきマジノ線(最低条件)」と主張したことがきっかけで、外交関係者の間で取り上げられるようになった。中韓の交渉の結果であれば、単に「政府の考え方を説明した」では通らないのではないか』、「文在寅政権」の「中国」外交がこれほど事実を隠蔽していたとは驚きだ。
・『尹錫悦氏側は文政権の説明に疑義  尹錫悦氏の大統領職引き継ぎ委員会は4日、元壱喜(ウォン・イルヒ)首席副報道官が「当事者たちが真実を国民に細かく明らかにすることが道理だ」とコメントした。 元壱喜副報道官は「記事の内容が事実であれば、今も韓国の軍事主権を侵害する深刻な事案という問題意識を持っている」「事実関係がどうなっているか私たちが確認できる内容は全くないが、現政府には合意に関与した当事者たちがいるので、その人たちが真実を明らかにすることが道理だ」とコメントした。 この当事者とは、当時の康京和(カン・ギョンファ)外相および鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長を指しているようだ。 しかし、韓国政府はこれまで一貫して、「約束」を否定してきた。韓国外交部による引き継ぎ委員からの業務報告でも「三不」や「一限」に関する内容は含まれていなかったという』、「外交」は「韓国側」だけが秘密にしようと思っても、相手方の中国の事情もあるので、必ずしも守秘が貫徹できる訳ではないのに、「文政権」は何故、秘密にしたのだろう。
・『文在寅政権は次期政権に中韓交渉の真実を伝えるべきだ  尹錫悦氏は大統領選の時からTHAADの追加配備を公言しており、「三不」破棄は既定路線となっている。「三不」については、あくまで文在寅政権での考えとの前提で、追加配備を行う方針であり、これを実行すれば中国側との大きな軋轢(あつれき)を招来することになるだろう。 だが、「一限」についてはそもそも想定外のことである。さらに、「三不」と「一限」が「中韓相互尊重の結果」であれば、これを破棄することで中韓の摩擦は一層大きくなるだろう。) いずれにせよ、尹錫悦氏は中韓交渉の真実を知る必要がある。文在寅政権は、自分たちに不都合なことは外交に限らず、国内政治でも隠し続けてきた。しかし、外交ではこれは通用しない。韓国にとって極めて不適切な合意でも、合意は合意である。尹錫悦政権はその真実を知り、それでも合意を破棄すべき時は、中国との大きな摩擦を覚悟すべきである。 文在寅政権は、中国に外交の主導権を奪われ、中国の言いなりになってきた。しかもそれを国民に知られないように、ひたすら隠し続けてきた。そのツケを負うのは次期政権である。 文在寅政権は、中国の反発を招かない行動を取ることが平和への道だと思い込んでいるが、それは真の平和ではなく、中国に支配された平和である。韓国が主権を取り戻し、正常な外交を行おうとすれば、中国の反発を招く。その原因をもたらしたのは文在寅政権の外交政策である』、「文在寅政権は、自分たちに不都合なことは外交に限らず、国内政治でも隠し続けてきた。しかし、外交ではこれは通用しない。韓国にとって極めて不適切な合意でも、合意は合意である。尹錫悦政権はその真実を知り、それでも合意を破棄すべき時は、中国との大きな摩擦を覚悟すべきである」、前政権の失政のツケを払わされるとは「尹錫悦政権」も大変だ。
・『中国追随外交を続ける二つの理由  韓国にとって、中国はどのような国なのか、韓国国民は真実を知るべきである。 文在寅大統領は昨年、習近平国家主席との電話会談で中国共産党100周年に対する祝賀を述べた。中国共産党は朝鮮戦争の折、人民解放軍を派遣し、米韓を中心とする国連軍を押し返して、朝鮮半島の分断を固定化した張本人である。その中国共産党に対して100周年の祝賀を述べることは、韓国国民の朝鮮統一に対する思いを踏みにじっているとしか思えない。 また、鄭義溶外相は王毅外相に招かれて台湾海峡の対岸・厦門に、はせ参じた。米韓首脳会談を前に、台湾問題が話題となるのをけん制しようとする中国の策略に乗ったわけである。 このように、韓国政府は中国の機嫌取りに熱心である。 文在寅大統領が中国追従外交を行うのには、二つの理由がある。  第一に、中国が北朝鮮に対して影響力を行使し、北朝鮮と韓国の関係改善に尽力してくれると思い込んでいることだ。しかし、これまでの北朝鮮との交渉の過程で、中国が韓国に協力する姿勢を示してきた事例を筆者は知らない。 第二に、輸出先としての重要性だ。韓国の輸出の4分の1以上が中国向けであり、中国との円満な関係が韓国の経済にとって不可欠と考えている。 しかし、韓国の中国経済専門家は「韓国と中国は経済分野ではここ30年で互恵的な関係からライバル関係に変わったため、韓国企業の対中戦略も見直さなければならない」と指摘する。特に、中国に過度に依存してきたサプライチェーンの多角化が急務だとの声が上がっている。 韓国から中国へ輸出する品目は減り続ける半面、韓国は中国からの原材料の輸入に依存し続けており、韓国の劣勢はますます強まりつつある。多くの品目で過度な中国依存が進めば、韓国は経済的にますます中国から自立できなくなる。中国からの依存脱却は急務である。 中国に対する過度な譲歩姿勢は終わらせるべき時が来ている。現在の中韓関係において、中国はあくまでも自国の利害を基本に韓国に対応してきている。韓国も自国の利益を優先して考えるべき時に来ているのではないか』、「韓国も自国の利益を優先して考えるべき時に来ている」、その通りだ。
・『安保リスクの高まりによりTHAADの追加配備は不可避  中国は、THAADのレーダーによって国内の軍の配置が米国に明らかになることを恐れている。しかし、北朝鮮は今年に入り、極超音速ミサイル、鉄道から発射のミサイル、ICBM(大陸間弾道ミサイル)など次々にミサイルの発射を行い、近く核実験も再開すると言われている。こうした北朝鮮の兵器は、いずれも中ロの支援の下に高度化されているのである。 これに対し、韓国は防衛体制を整備し、ミサイル迎撃能力を高める必要がある。それがTHAADの追加配備であり、それは中国の軍の配置を探るためではなく、韓国の防衛のためにすることである。 北朝鮮の核ミサイル能力の向上という新たな安保リスクに対応するためには、「三不」の廃棄はやむを得ない選択である。そもそも、文在寅政権が中国に対し、北朝鮮への有効な抑止を求めることなく、「三不」を表明したことは極めて不適切であった。その表明に至る交渉の実態について、尹錫悦政権は知る必要があり、それを踏まえて中国と話し合っていくべきであろう』、「そもそも、文在寅政権が中国に対し、北朝鮮への有効な抑止を求めることなく、「三不」を表明したことは極めて不適切であった。その表明に至る交渉の実態について、尹錫悦政権は知る必要があり、それを踏まえて中国と話し合っていくべき」、その通りだ。
・『韓国籍タンカー2隻を北朝鮮に売却したことが判明  米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカは5日、韓国船籍だったタンカー2隻がこのほど、北朝鮮所有になったことが分かり、国連の対北朝鮮制裁委員会が正式調査に着手した、と報じた。 2隻のタンカーのうちの1隻である「デホ・サンライズ号」は昨年、中国企業に売却された後、北朝鮮所有のシエラレオネ船籍「オーシャン・スカイ号」に変わったという。専門家パネルは船舶の位置を示す自動船舶識別装置を逆追跡、衛星写真資料を分析してこのような情報を得た。) さらに専門家パネルは、かつて韓国船籍だった別のタンカー「ウジョン号」が北朝鮮の旗をつけていることも確認し調査を進めている。同タンカーは昨年8月8、9、10日の3回にわたり違法な船舶間積み替え方式(瀬取り)により、パラオ船籍のタンカーから油類を受け取る様子が捉えられえている。 国連安保理は2016年に採択した制裁決議2321号に基づき、国連加盟国が北朝鮮に船舶を販売することは禁止している。 しかし、文在寅政権は逆に北朝鮮への制裁を緩和するよう欧米各国に働きかけており、国際社会が一致団結して北朝鮮の核ミサイル開発を阻止しようとする動きに反する行動を取っている。 また、文在寅政権は国連の北朝鮮人権決議共同提案国への参加を4年連続で見送った。国連の北朝鮮人権特別報告者が「北朝鮮の人権状況はここ6年でさらに悪化した」と指摘し、複数の国際人権団体は書簡を通じて文在寅大統領に「任期の最後には北朝鮮人権決議案に加わってほしい」と求めたが、文在寅政権は最後まで拒否した。 文在寅政権は20年に、朝鮮労働党の金正恩総書記の妹である金与正(ヨジョン)党第1副部長(当時)の要求で、「対北ビラ禁止法」を制定した。これにより、米国議会では「人権聴聞会」の対象国となった。 また、19年には韓国への帰順の意向を伝えた北朝鮮の漁船乗組員2人を凶悪犯との理由で北朝鮮に強制的に送り返し、国連人権報告者が「深く懸念する」という事態になった。 文在寅大統領は「平和が来れば北朝鮮の人権問題も改善する」という趣旨の発言を繰り返しているが、北朝鮮の人権状況に向き合う姿勢は一向に見えない。 文在寅政権は、米朝首脳会談のお膳立てをする際にも、米国と北朝鮮にそれぞれ聞こえのいいことを伝えた結果、ベトナムでの首脳会談が不調に終わると双方から激しい反発を受けた。文在寅大統領は特にそれ以来、北朝鮮の機嫌を取ることに終始している。 繰り返しになるが、尹錫悦政権は文在寅政権の外交の実態を掌握することが不可欠である(詳細は拙書「さまよえる韓国人」ご参照)。その上で、外交の正常化を図っていかなければならない』、「韓国船籍だったタンカー2隻がこのほど、北朝鮮所有になったことが分かり、国連の対北朝鮮制裁委員会が正式調査に着手」、とんでもないことだ。「尹錫悦政権は文在寅政権の外交の実態を掌握することが不可欠である」、「その上で、外交の正常化を図っていかなければならない」、その通りだ。

次に、4月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「文在寅政権が報復つぶし?「検察捜査権を剥奪」強行の暴挙、元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/301843
・『検察捜査権剥奪法案の公布を目指す党議決定  共に民主党(以下「民主党」)は12日、議員総会を開き、検察の捜査権を完全に剥奪する法案を今月中に国会で可決し、来月3日の文在寅政権最後の閣議で公布することを目指すと党議決定した。同党所属議員全員172人の共同提案で国会に法案を提出した。 これは尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期政権となり、新大統領が同法に拒否権を発動できないようにするためである。民主党は何が何でも同法の成立を強行するという意思を明らかにしたものといえる。 同法は、「腐敗」「経済」「公職者」「選挙」「防衛事業」「大惨事災害」の6分野についての捜査権限を検察から剥奪するものである。 民主党の討議決定の翌日、尹錫悦次期大統領は側近の韓東勲(ハン・ドンフン)氏を法相に指名した。同法を巡っては、民主党と検察が全面対決していたが、これに尹次期政権が加わってきたということである。 文在寅政権は、立法・行政・司法の権限を独占し、マスコミをコントロールし、独裁政権を作り上げてきたが、その過程でさまざまな不正があった。それを覆い隠そうとするのが、検察から捜査権限を完全剥奪することの狙いである』、「文在寅政権は、立法・行政・司法の権限を独占し、マスコミをコントロールし、独裁政権を作り上げてきたが、その過程でさまざまな不正があった。それを覆い隠そうとするのが、検察から捜査権限を完全剥奪することの狙い」、党利党略でここまでするのかと驚かされた。
・『民主党の暴挙に対し検察は組織を上げて反対  大検察庁(最高検)は8日、金浯洙(キム・オス)検事総長主催の全国高等検察庁会議を開催。民主党が検察捜査権の完全はく奪を目指していることについて、「政治的な次元で性急に推進されていることを深刻に懸念している」「国民が悔しい思いをすることや人権侵害を防止するために、最低限の安全装置はいかなる場合でも維持すべきだ」としつつ、「政界が進めている検察捜査機能の全面廃止法案に反対する」との検察の立場を表明した。 さらに検察は全国各地の地検でも会議を開催し、いずれの会議も反対の立場を明確にした。 また、政権による不正を捜査する時には中核的な役割を果たすソウル中央地検は、部長検事全員が法案に反対するとの意見書を李正洙(イ・ジョンス)ソウル中央地検長に提出した。検察の中からは「金浯洙検事総長は自らの職を賭して法案を阻止すべきだ」との声が上がり、それまでの弱腰姿勢には辞任論も出た。 こうした中、検察は11日に全国検事長会議を開催した。その席上、金浯洙検事総長は「職に恋々としない」「検察の捜査機能が廃止されるならば、検事総長の私としてはこれ以上職務を遂行するいかなる意味もない。どんな責任を取ることも辞さない」と述べた。金浯洙検事総長は17日、民主党の暴挙に抗議し辞表を提出した。 全国の地検長18人は会議後、声明文を発表し、「国会に仮称『刑事司法制度改善特別委員会』を設置し、各界の専門家と国民の意見を十分に集約した上で、合理的な改善策を取りまとめることを訴える」との立場を表明した』、「検察は組織を上げて反対」、当然だろう。
・『民主党の検察改革に対し味方からも懸念の声  全国地検長会議の席上、「昨年1月の検察・警察の捜査権調整以降、事件の処理が遅れ、国民が大きな不便を感じている」との指摘があった。民主党による検察の捜査権への介入が韓国の司法制度の障害となっているということである。 それでも民主党は翌12日、検察捜査権の完全剥奪法案を4月中に国会で可決させることを党議決定した。しかし、民主党は法案が国会で成立後、施行まで3カ月の期間があることを理由に、捜査権限をどの機関に移管するかは決めなかった。民主党は捜査権を警察、もしくは新設を目指した重大犯罪捜査庁のどちらに移管するのが有利かてんびんにかけているようである。 このように肝心な問題について態度を保留していることを見ても、この党議決定が拙速なものであったことは否定できない。 こうした民主党の動きに対しては、文在寅政権の「友軍」であるはずの「民主社会のための弁護士会」(民弁)が、「いくら正しい方向でも、さまざまな検討や補完が必要だ」と懸念を表明している。 また、民主党以上に左派色の強い革新系野党の正義党も「検察捜査権の完全剥奪を強行できるほどの大義名分や国民の共感は得られているのか」と疑問を呈した。 法務部次官、検事総長として文在寅政権の不正疑惑に「免罪符」を与えようとした金浯洙検事総長までも、先述の通り、検察組織全体の反対で突然態度を変え、「検察の捜査機能を廃止すれば、検事総長として職務を遂行することに何の意味もない」と批判した。 民主党による検察捜査権完全剥奪の動きに対し、国民の支持は感じられない。しかし、それでも民主党は同法案の成立を強行しようとしている。なぜだろうか』、「捜査権を警察、もしくは新設を目指した重大犯罪捜査庁のどちらに移管するのが有利かてんびんにかけているようである。 このように肝心な問題について態度を保留していることを見ても」、やはり「党議決定が拙速なものであった」ようだ。
・『現政権が抱える多数の不正疑惑  朝鮮日報は、民主党が同法案の成立を強行する理由について、「文在寅大統領と李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事の不正に関する捜査を徹底して封じ込める意図があるとしか考えられない」と述べている。 検察は先日、産業通商資源部の局長が韓国電力公社傘下の発電会社4社の社長に辞表提出を強要したという、いわゆる「産業通商資源部ブラックリスト事件」の捜査に着手した。さらに月城(ウォルソン)原発1号機廃炉に関わる経済性評価の捏造や蔚山(ウルサン)市長選挙への介入など、現政権の不正に関する捜査をいつでも始めることができる。しかし、これらの事件の捜査はこれまで、現政権の圧力で中断していた。 李在明前知事については、同氏が関係する大庄洞(テジャンドン)土地開発疑惑や弁護士費用の代納、権純一(クォン・スンイル)元大法官(最高裁判事)との裁判取引疑惑、夫人による京畿道知事時代の法人名義のクレジットカード不正使用、城南(ソンナム)FC後援会の賄賂疑惑に対する捜査が待ち受けている。 民主党の検察に対する介入は、曺国(チョ・グク)元法相の不正に関する捜査が本格化したときから、検察改革という美名の下で捜査チームを解体し捜査権を奪い、検事総長の懲戒という形で本格化した。 現政権にとって、検察は退任後の自らの不正を暴く宿敵であり、何としても検察の捜査権を奪っておかなければ安心できないのだろう』、「現政権にとって、検察は退任後の自らの不正を暴く宿敵であり、何としても検察の捜査権を奪っておかなければ安心できないのだろう」、余りに見え見えの党利党略には驚くほかない。
・『次期法相に40代の韓東勲氏を指名  尹錫悦次期大統領は、民主党が捜査権完全剥奪法案を党議決定した翌日(13日)、次期法相候補に韓東勲司法研修院副院長を指名した。尹氏は自ら記者会見室でこの人事を発表し、「法務行政の現代化、グローバルスタンダードを満たす司法システムを確立するに適任者だ」と語った。 韓東勲氏はまだ40代であり、多くの法曹界の先輩を押しのけての指名に「破格の人事」だという声が上がっている。だが、尹錫悦次期大統領は「韓氏はさまざまな国際業務経験を持っている。絶対に破格の人事ではない」と自らの決定を擁護した。 韓東勲氏は17年、崔順実(チェ・スンシル)氏の国政介入事件で特別検事チームに尹錫悦氏と共に派遣されて以降、尹錫悦氏を補佐してきた。尹錫悦氏が検事総長に就任すると、大検察庁反腐敗・強力部長として「積弊捜査」を統括した。しかし、19年尹錫悦氏が曺国元法相一家に対する捜査を指揮して以降、4回も左遷され、自らも捜査対象とされたことがあった。しかし、最近「嫌疑なし」となった。 韓東勲氏の指名を受け民主党は、「国民に対する人事テロ」だと反発、朴洪根(パク・ホングン)院内総務は「尹氏は公正ではなく、功臣を選んだ。側近を据え、検察の権力を私有化し、強大な権力を持つ検察共和国を作るという露骨な政治報復宣言だ」と指摘した。 朴洪根氏の批判を聞く限り、文在寅政権が市民運動などの「運動圏」出身の左翼系の人々で政権の中枢を固め(韓国では「コード人事」とやゆ)、社会の不公正を一層拡大し、検察改革と称して、自らに都合のいい、新しい検察組織を作ってきたことへの反省はみじんもない。 韓国法曹界も、検察の捜査権限については米国、日本、フランス、ドイツなどで認められた民主主義国家で共通する制度であると認めている。 にもかかわらず、検察の捜査権限を維持することを「強大な権力を持つ検察共和国を作る」と批判する朴洪根の発言は理解し難い。むしろ、自分たちの論理で、自分たちに都合のいい、検察共和国を作ろうとしているのは文在寅政権ではないだろうか。 次期政権で与党となる「国民の力」の権性東(クォン・ソンドン)院内代表は、「法相には刀はなく、検事総長が刀を握っている」としており、韓東勲氏も「具体的な事件について(法相が)捜査指揮権を行使することはない」と政治報復論を否定している。他方、同党内には「民主党が『検察捜査権完全剥奪』を主張している状況で、韓氏を据えて真っ向から対決を宣言したものだ」とする声も出ている』、「次期法相に40代の韓東勲氏を指名」、腕が振るえるのだろうか。
・『文在寅政権の5年間の客観的な検証が必要  中央日報は社説「韓国次期政権、心を開いて広く人材を見たのか疑問」の中で、「尹氏が韓氏を法相候補に指名したのは『検察捜査権完全剥奪』を進める民主党への対応と受け止められている」「尹錫悦次期大統領が正面対決を選択したことで、新政権の発足から与野党の対立は絶えないと予想される。これでは『協治』は難しく、陣営間の対立が激しくなり、結局、国民が不幸になる」と指摘している。 しかし、与野党対決の構図にしているのは民主党の方である。文在寅氏と李在明氏の不正に関する捜査の阻止を目的とする検察捜査権完全剥奪法案を4月の国会で拙速に成立させようということがそもそも対決の発端である。この法案を取りやめるか否かが、与野党対決を防止できるかの分かれ目である。しかも、その意図が文在寅氏とその側近を不正追及から守るという不純なものである。 中央日報は、「文在寅の懺悔(ざんげ)、尹錫悦の寛容」という記事を掲載、「文在寅氏が最後にやるべきことは、在任中の過ちと失敗について国民の前で懺悔すること」であり、一方、尹錫悦氏は「故金大中氏が残した寛容と節制の精神を胸に刻んでほしい」と訴えている。それは政治報復の文化を打破してほしいということであろう。 しかし、文在寅政権が残した、悪弊と経済への損失はあまりにも大きい。それを見逃せば、韓国がこれから直面する困難の責任を、すべて尹錫悦政権が負うことになる。いずれにせよ、文在寅政権と民主党が行ってきた民主主義を無視した暴挙や経済への失政は見逃せないだろう。 次期政権の始動を前に、まずは文在寅政権の5年間を客観的に検証し、その弊害を除去していくことが必要だ。だが、尹錫悦次期大統領は、それが政治報復と疑われないよう自らを律する姿勢を見せることが重要である』、「まずは文在寅政権の5年間を客観的に検証し、その弊害を除去していくことが必要だ。だが、尹錫悦次期大統領は、それが政治報復と疑われないよう自らを律する姿勢を見せることが重要」、その通りだ。

第三に、6月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国経済が深刻な危機!前政権の「負の遺産」問題を元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304421
・『統一地方選挙で勝利した大統領の関心は経済危機へ  中央日報によれば、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は6月3日、「経済危機をはじめとする台風圏にわれわれは入っている」と述べたという。 その際に記者が、1日の統一地方選挙で尹錫悦大統領が率いる保守系与党「国民の力」が勝利したことについて触れ、「(国民の力の)勝利で国政運営能力を確保したという評価が多いが」と質問したところ、「みなさんは今、家の窓、庭の木が揺れていることを感じないだろうか。政党の政治的勝利を口にする状況ではない」と述べ、「選挙の勝利よりも民生経済の危機の克服が重要だ」と力説した。 尹錫悦大統領が「台風圏」と述べた理由の一つが、5月の韓国の消費者物価上昇率が5.4%と、13年9カ月ぶりの高水準になったことである。短期的に物価高・高金利・ウォン安の三つの波に襲われていることが韓国経済の展望を暗くしている。 経済的な困難に見舞われた背景には、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギーや食料価格の高騰、米国をはじめとする先進各国における物価高騰に対応した金利引き上げ、中国のゼロコロナ政策に伴う上海市の封鎖で生じた、原材料や半導体などのサプライチェーンの混乱などがあげられる。 韓国の中央銀行は物価高騰を抑えるため金利を引き上げている。それは経済成長率の低下に跳ね返ってくるだろう。物価を安定させても、成長の原動力を見つけ、経済体質を改善するという課題がある。こうした中、韓国経済はスタグフレーション(不景気下での物価上昇)に入った、入ろうとしているとの指摘がなされている』、「経済危機」は「韓国」のみならず日本も含めた先進国に共通する問題ではあるが、「韓国」固有の問題もありそうだ。
・『新政権への期待は経済の立て直し  韓国の国民が尹錫悦政権に最も望むことは、経済を立て直し、民生を安定化させることである。 文在寅(ムン・ジェイン)政権になってから、国民生活の質は低下した。製造業は韓国での投資に見切りをつけ、良質な雇用は失われている。国民は一生働いても家を持つことが夢となった。こうした経済社会の現状に対する不満が革新政権を終わらせる結果となった。 文在寅政権が行った社会主義国のような改革によって韓国経済の活力は失われ、物価高・高金利・ウォン安という悪循環脱却を著しく困難なものにしている。 尹錫悦政権に与えられた使命は、こうした韓国の経済社会を立て直すことであり、それができなければ、せっかく改善しだした支持率は低下していくであろう』、「文在寅政権が行った社会主義国のような改革によって韓国経済の活力は失われ、物価高・高金利・ウォン安という悪循環脱却を著しく困難なものにしている」、「韓国」固有の深刻な問題だ。
・『文在寅政権下で韓国経済は弱体化  グローバル統計サイト「NUMBEO」によると、韓国の「生活の質」指数は、文在寅政権が発足した2017年には67カ国中22位であった。しかし、21年になると82カ国中42位と中位圏に落ちた。その最大の原因は、ソウル市の不動産価格が2倍となるなど、文在寅政権の不動産政策の失敗である。韓国の21年の特殊出生率は0.81であるが、これは希望のない社会を反映している。 韓国の雇用状況の悪化は著しい。それは青年層ばかりでなく、韓国経済を支える40代の雇用率も最低水準に落ち込んでいる。特に、製造業などの良質な雇用が減少しているのは、「反企業的」な韓国政府の政策が原因だ。その代表例が、最低賃金の合理性のない大幅引き上げである。 30年間ソウルで勤務したあるグローバル金融機関のCEOは、「国際資本が韓国経済に興味を失っている」と話す。韓国経済の根本的問題は主要産業の国際競争力の低下である。 韓国経済のGDP成長率は、新型コロナ前の19年でさえ2%だった。それも大幅な財政支出で実現したものであり、それを除けば実質的には1%台であったといわれる。韓国で成長率1%台というのはアジア通貨危機やリーマンショックなど世界経済が困難な時にあったくらいである。19年の世界経済は好調であり、韓国だけがとり残されていた。 家計所得についても、格差が拡大し、低所得者の困難は増大しており、2020年の所得上位20%と下位20%の所得格差は5.26倍に達した。これは過去2番目に高い数字である。 急激な最低賃金の引き上げと週52時間制など無理な所得主導成長のせいで失業が増大し、雇用も非正規雇用、短時間雇用が増えているからである。 こうして韓国の国民生活が困難を極める中、物価高・金利高・ウォン安が襲ってきたのである』、確かに無理な経済政策の歪が蓄積して事態を複雑化させているようだ。
・『韓国が直面している長期低成長の危機  韓国経済にはインフレ、世界的な景気低迷、貿易収支悪化などの「警告灯」がともっている。 ロシアのウクライナ侵攻によって国際的な原油価格、食料価格が急騰している。これに加え、米国におけるインフレ加速を抑制するため、金利が急上昇している。さらに、上海封鎖などにより、中国経済が低迷している。これらの要因は海外発であり、韓国としての対応に限界がある。 韓国でも世界経済の不安でウォン安が進み、輸入物価が上昇、インフレを加速させている。 前述の通り、5月の消費者物価上昇率は5.4%であり、これはグローバル金融危機だった2008年8月(5.6%)以来の高水準である。何より軽油・ガソリンなどの石油類が34.8%と大幅上昇、生産・物流コストの上昇につながり韓国経済全般を冷え込ませている。4月の産業活動動向で全生産が-0.7%、小売り販売が-0.2%、企業の設備投資が-7.5%と、2カ月連続でトリプル減となった。 物価高は今後も続く見通しであり、6~7月には6%台に上昇するとの見通しもある。 貿易収支は、3月は1億1518万ドル(約150億円)の赤字だった。4月は1~20日までで51億9900万ドル(約6800億円)の赤字である。 主な大企業の最高責任者(CEO)は最悪の状況を前提にしたシミュレーションを作成し対応策づくりをしている。 韓国経済は中長期的には潜在成長率の基調的下落が懸念される。韓国は高齢化に直面しており、韓国経済を成長軌道に戻す原動力が見当たらない。韓国銀行の李昌ヨン(イ・チャンヨン)総裁は「長期低成長」を懸念している。 物価上昇を抑えるため、韓国銀行は政策金利を果敢に引き上げている。コロナ拡大以降、低金利政策を取ってきたため、借金をしてまで投資を行うことがブームとなり、家計債務が1900兆ウォン(約200兆円)に膨らんだ。政策金利の引き上げで貸出金利が上昇すれば、金利負担が増え、個人消費が落ち込むと同時に、債務不履行が増えるリスクがある。 尹錫悦政権は、大統領当選後に急上昇した物価高に起因する経済危機に取り組まなければならない。ただ、前述の通り、物価高・高金利・ウォン安をもたらす海外要因を韓国政府主導で抑え込むことはできず、難しい対応を求められる』、「韓国銀行の李昌ヨン・・・総裁は「長期低成長」を懸念」、確かに厳しい環境だ。
・『文在寅政権時代の悪弊を修正することが第一歩  文在寅政権時に積み上がった韓国経済の「負の遺産」が、韓国経済の物価高対応を一層困難なものにしている。それは文在寅政権が、民主労総(全国民主労働組合総連盟)という過激な労働組合の主張を大幅に取り入れた結果であり、社会主義的な論理で経済をゆがめた結果でもある。 その代表的なものが労働生産性の向上を伴わない一方的な最低賃金の大幅な引き上げと労働時間の制限、労働災害に当たり経営者に懲役刑を含む責任を負わせる法律の制定などである。 韓国経済を復活させ、国民に希望を与えるためには、こうした制度を抜本的に改革する必要がある。それは、韓国経済のあり方そのものに対する保革の論理の対立であり、文在寅政権に近かった過激な労働組合との闘争を意味するだろう。 尹錫悦政権がこれから行う経済政策は、文在寅政権および「共に民主党」(以下、民主党)の経済政策と正面から対立することになる。尹錫悦政権として経済改革は2年後の総選挙まで待つことはできない以上、和戦両様の構えで民主党に臨もうとしているのではないか。 いずれにせよ、民主党が韓国経済社会の国益と未来を考えて尹錫悦政権と建設的な話し合いができるかどうかが、韓国経済復活の分岐点になる』、「尹錫悦政権として経済改革は2年後の総選挙まで待つことはできない以上、和戦両様の構えで民主党に臨もうとしているのではないか」、乗り切るには相当の覚悟が必要なようだ。
・『文在寅前大統領と周辺への捜査は民主党の現政権への対応次第  文在寅前大統領は退任直前に非民主的手法で、検察から捜査権のほとんどを剥奪する検察捜査権完全剥奪法(検捜完剥法)を成立させた。それは、文在寅前大統領と李在明(イ・ジェミョン)前京畿(キョンギ)道知事を捜査から守るためといわれる。 同法は4カ月の猶予期間を経て、9月から施行される。検察に捜査権限のあった「6大犯罪」のうち、公職者、選挙、防衛産業、大規模な事故の四つは9月以降、警察だけが捜査を行えるようになる。また、1年6カ月後に重大犯罪捜査庁が発足すれば、検察に残された汚職、経済犯罪の捜査権も剥奪される。 文在寅前大統領は検察の捜査権を剥奪すれば安泰と考えていたのかもしれない。しかし、いずれかの機関で必ず捜査は行われる。 捜査権の多くは警察に移管される。文在寅前大統領側は、検察は敵、警察は味方と考えてきた。しかし、警察の人事を握るのは尹錫悦政権だ。尹錫悦政権は2日、警察庁長官に次ぐ7人の幹部のうち任期が特定されている1人を除く6人を交代させた。警察庁長官は7月で任期が終わるため、新たに任命された6人の中から後任の警察庁長官が選抜されるのであろう。これによって警察は文在寅色を一掃することになり、文在寅前大統領とその周辺の捜査も行いやすくなる。 また、検察は、9月までの残りの期間、文在寅政権に絡む不正の追及に本腰を入れ急いでいる。 まず、白雲揆(ペク・ウンギュ)元産業資源相の事務所を押収捜査した。狙いは経済性評価の捏造による月城(ウォルソン)原発の早期稼働停止疑惑だろう。この疑惑は文在寅政権幹部を捜査俎上に載せる可能性があり、文在寅政権と近かったハンギョレ新聞は「文在寅政権に対する捜査のシグナルか」と危機感を募らせている。) 検察はまた、李在明前京畿道知事のキム・ヘギョン夫人の公務用クレジットカードの私的使用で家宅捜索した。李在明氏は国会議員に当選したため、身柄拘束は困難であるが、まずは夫人に捜査のメスを入れたということであろう。 文在寅前大統領は政権から離れた今、検察の捜査権を剥奪する小手先の手法で自己防衛を図ることはできないことを思い知らされたことだろう。さらに今後、検捜完剥法を違憲で提訴する、もしくは国民投票にかけるということも検討されているかもしれない。 いずれにせよ、文在寅前大統領とその周辺が身を守るための最善の方法は、尹錫悦政権と国益を目指して協力することである。文在寅前大統領と民主党が現政権に協力すれば、尹錫悦政権も文在寅前大統領をたたく必要はない。半面、尹錫悦大統領との対決をあおるようなことがあれば、攻撃の矛先が文在寅前大統領に向かうこともあるだろう。 尹錫悦大統領にとっても経済危機に対応するためには民主党の協力を求めたいところだ。 政権基盤の強くない尹錫悦大統領としては、民主党との対立は避けたいところだ。民主党が協力姿勢を示せば、文在寅前大統領とその周辺に対する捜査を行って対立を深めることは望まないはずであり、尹錫悦大統領と文在寅前大統領の双方にとってメリットがあるのではないだろうか』、「尹錫悦大統領としては、民主党との対立は避けたいところだ。民主党が協力姿勢を示せば、文在寅前大統領とその周辺に対する捜査を行って対立を深めることは望まないはずであり、尹錫悦大統領と文在寅前大統領の双方にとってメリットがあるのではないだろうか」、そう予定調和的に上手くいってくれるのだろうか。
タグ:(その1)(元駐韓大使が解説3題:韓国・次期政権が暴くべき文大統領の「ウソと秘め事」、韓国経済が深刻な危機!前政権の「負の遺産」問題、文在寅政権が報復つぶし?「検察捜査権を剥奪」強行の暴挙) 武藤正敏氏による「韓国・次期政権が暴くべき文大統領の「ウソと秘め事」、元駐韓大使が解説」 ダイヤモンド・オンライン 韓国(尹錫悦大統領) 「文在寅政権」の「中国」外交がこれほど事実を隠蔽していたとは驚きだ。 「文在寅政権は、自分たちに不都合なことは外交に限らず、国内政治でも隠し続けてきた。しかし、外交ではこれは通用しない。韓国にとって極めて不適切な合意でも、合意は合意である。尹錫悦政権はその真実を知り、それでも合意を破棄すべき時は、中国との大きな摩擦を覚悟すべきである」、前政権の失政のツケを払わされるとは「尹錫悦政権」も大変だ。 「韓国も自国の利益を優先して考えるべき時に来ている」、その通りだ。 「そもそも、文在寅政権が中国に対し、北朝鮮への有効な抑止を求めることなく、「三不」を表明したことは極めて不適切であった。その表明に至る交渉の実態について、尹錫悦政権は知る必要があり、それを踏まえて中国と話し合っていくべき」、その通りだ。 「韓国船籍だったタンカー2隻がこのほど、北朝鮮所有になったことが分かり、国連の対北朝鮮制裁委員会が正式調査に着手」、とんでもないことだ。「尹錫悦政権は文在寅政権の外交の実態を掌握することが不可欠である」、「その上で、外交の正常化を図っていかなければならない」、その通りだ。 武藤正敏氏による「文在寅政権が報復つぶし?「検察捜査権を剥奪」強行の暴挙、元駐韓大使が解説」 「文在寅政権は、立法・行政・司法の権限を独占し、マスコミをコントロールし、独裁政権を作り上げてきたが、その過程でさまざまな不正があった。それを覆い隠そうとするのが、検察から捜査権限を完全剥奪することの狙い」、党利党略でここまでするのかと驚かされた。 「検察は組織を上げて反対」、当然だろう。 「捜査権を警察、もしくは新設を目指した重大犯罪捜査庁のどちらに移管するのが有利かてんびんにかけているようである。 このように肝心な問題について態度を保留していることを見ても」、やはり「党議決定が拙速なものであった」ようだ。 「現政権にとって、検察は退任後の自らの不正を暴く宿敵であり、何としても検察の捜査権を奪っておかなければ安心できないのだろう」、余りに見え見えの党利党略には驚くほかない。 「次期法相に40代の韓東勲氏を指名」、腕が振るえるのだろうか。 「まずは文在寅政権の5年間を客観的に検証し、その弊害を除去していくことが必要だ。だが、尹錫悦次期大統領は、それが政治報復と疑われないよう自らを律する姿勢を見せることが重要」、その通りだ。 武藤正敏氏による「韓国経済が深刻な危機!前政権の「負の遺産」問題を元駐韓大使が解説」 「経済危機」は「韓国」のみならず日本も含めた先進国に共通する問題ではあるが、「韓国」固有の問題もありそうだ。 「文在寅政権が行った社会主義国のような改革によって韓国経済の活力は失われ、物価高・高金利・ウォン安という悪循環脱却を著しく困難なものにしている」、「韓国」固有の深刻な問題だ。 確かに無理な経済政策の歪が蓄積して事態を複雑化させているようだ。 「韓国銀行の李昌ヨン・・・総裁は「長期低成長」を懸念」、確かに厳しい環境だ。 「尹錫悦政権として経済改革は2年後の総選挙まで待つことはできない以上、和戦両様の構えで民主党に臨もうとしているのではないか」、乗り切るには相当の覚悟が必要なようだ。 「尹錫悦大統領としては、民主党との対立は避けたいところだ。民主党が協力姿勢を示せば、文在寅前大統領とその周辺に対する捜査を行って対立を深めることは望まないはずであり、尹錫悦大統領と文在寅前大統領の双方にとってメリットがあるのではないだろうか」、そう予定調和的に上手くいってくれるのだろうか。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感