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米中経済戦争(その16)(アプライドがKOKUSAIの買収を断念 背景に中国当局の思惑、中国の習国家主席、米国と同盟国を痛切に批判 名指しは避けてもどの国を指すのか一目瞭然、イエレン財務長官が前政権の対中貿易合意に疑念 対中関税賦課という方法は思慮深いとはいない、中国政府は金融デカップリングに自信?国際収支に「3つの変化」) [世界情勢]

米中経済戦争については、3月31日に取上げた。今日は、(その16)(アプライドがKOKUSAIの買収を断念 背景に中国当局の思惑、中国の習国家主席、米国と同盟国を痛切に批判 名指しは避けてもどの国を指すのか一目瞭然、イエレン財務長官が前政権の対中貿易合意に疑念 対中関税賦課という方法は思慮深いとはいない、中国政府は金融デカップリングに自信?国際収支に「3つの変化」)である。

先ずは、4月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「アプライドがKOKUSAIの買収を断念 背景に中国当局の思惑」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/267575
・『3月29日、米国の半導体大手のアプライド・マテリアルズは、旧・日立製作所系のKOKUSAI ELECTRIC(以下、KOKUSAI)の買収を断念すると発表した。 中国当局の承認を、買収完了の期限までに得られなかったことがその背景にある。 アプライド・マテリアルズがKOKUSAIを買収すれば、米国当局の規制によって、中国企業の半導体製造装置などの入手が困難になる可能性がある。そのことを中国当局が懸念したとみられる。 中国当局としては、ITなど先端分野での中国企業の優位性を、なんとしてでも維持したいと考えているのだろう。 こうした中国当局の判断は、過去にも似たケースがあった。 2018年、米国の半導体の大手のクアルコムは、オランダのNXPセミコンダクターズを買収しようとした。しかし、今回同様に中国当局は審査を長引かせ、クアルコムは時間切れを迎えて買収を断念した。その時期は、米中の通商摩擦が激化し始めたタイミングと重なる。 中国は、米国の制裁発動などへの対応手段として、独占禁止法の運用を重視し始めたようだ。今回、アプライド・マテリアルズによるKOKUSAI買収の承認が下りなかったことは、そうした中国の考えが一段と強まり、IT先端分野での米中対立がさらなる先鋭化に向かっていることを示唆する』、「中国は、米国の制裁発動などへの対応手段として、独占禁止法の運用を重視し始めたようだ」、困ったことだ。
・『アプライドによるKOKUSAI買収を中国が承認しなかった背景  中国がアプライド・マテリアルズによるKOKUSAI買収を承認しなかった理由は、買収によって、KOKUSAIの製品が、米国政府が実施している対中規制・制裁の対象になる可能性が高まるからだろう。 KOKUSAIは「成膜技術」に強みを持つ半導体製造装置メーカーだ。半導体の製造プロセスでは、シリコンウエハー(基板)の表面に、アルミニウムなどの層を形成して回路のもとをつくる。この工程を「成膜工程」と呼ぶ。KOKUSAIは世界トップレベルの成膜装置を生産し、世界の大手企業に納入してきた。中国の半導体受託製造(ファウンドリー)大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)などにとっても、その技術は欠かせない。 中国は世界最大の半導体製造装置需要国である。半導体自給率向上を目指す中国半導体関連企業とKOKUSAIとの取引は増えているため、米国政府の規制が入ることは避けなければならないのだろう。 先端分野の産業政策である「中国製造2025」を推進する中国にとって打撃だったのは、2020年12月にトランプ前政権がSMICを事実上の禁輸対象に指定したことだ。 微細化技術で世界の先頭をひた走る台湾積体電路製造(TSMC)と比べ、中国SMICの製造技術は3世代ほど遅れているといわれる。中国の半導体企業は製造能力の向上を急ぎ、米国の制裁の対象外である日本製の(日本独自の技術や知的財産を用いた)製造装置などを買い求めている。中国勢のこうした「製造装置かき集め攻勢」によって、中古の旧式半導体装置の価格は上昇中だ。 もし、アプライド・マテリアルズによる買収が成立すると、KOKUSAIは米国企業の一部になる。その結果、KOKUSAIの成膜技術が米国政府の対中規制の対象に含められ、中国の企業はKOKUSAIの製品を活用できなくなる恐れがあるのだ。そうした展開を避けるために、中国政府(独禁法当局)は買収審査を遅らせ、時間切れを狙ったのだろう。それは、早い段階で買収を承認した日・米・欧当局の姿勢と大きく異なる』、「買収審査」にかこつけて、競争政策以外の全く政治的観点が持ち込まれても、文句は言えないのだろうか。もっとも、国際司法裁判所に訴えたところで審査に時間がかかれば、合併の効果も薄らいでしまう。
・『米国はインテル、中国はSMIC 激化する米中の覇権争い  中国は、IT先端分野における米国との対立が激化する展開を想定して、独禁法などを運用しているようにみえる。中国企業と取引のある半導体の製造装置、ソフトウエア、さらには、関連する素材や部材分野での買収が今後、難航する可能性は高まっている。また、製造装置は分解できる。中国は外資企業からの技術の強制移転や産業補助金など、あらゆる方策を用いて半導体の微細化技術の開発を強化するだろう。その力は軽視できない。 トランプ政権以降の米国は、中国企業の成長力を抑えるために、企業の競争よりも、産業政策に注力し始めた。 その象徴が、米インテルだ。2020年の半導体の売り上げ規模で、インテルは世界トップだが、微細化に関しては、台湾TSMCと韓国サムスン電子の後塵を拝してきた。 インテルはアリゾナ州に工場を建設し、2024年の稼働を目指す。米国は労働コストや地代の高さを負担してでも、世界最大の半導体メーカーであるインテルの地位をより盤石のものとし、デジタル技術面での影響力を高めたい。 そのために、米バイデン政権は、半導体だけでなく人工知能(AI)の開発や活用に関しても、対中制裁などを重視する可能性がある。 中国は、そうした米国の圧力に対抗する。中国SMICは広東省深セン市に旧世代の半導体工場を建設し、2022年の生産開始を目指している。 ポイントは、稼働時期の早さだ。その狙いは、半導体の需給がひっ迫する中で、最先端の製造ラインを必要としない半導体の供給力を高め、チップの自給自足体制と、より多くの世界シェアを獲得することだ。 また、長めの目線で考えると、中国の半導体産業が米国への技術依存から脱却するために、独自の設計・製造技術を生み出し、より低価格でのチップ供給を目指す展開もあるだろう。 半導体分野における米中対立は、より熱を帯びつつあるように感じる』、「深セン市に旧世代の半導体工場を建設し、2022年の生産開始を目指している」、「最先端の製造ラインを必要としない半導体の供給力を高め、チップの自給自足体制と、より多くの世界シェアを獲得する」、狙いは確かだ。
・『米中対立の先鋭化は日本企業にとって実はチャンス  米国企業であるアプライド・マテリアルズがKOKUSAI買収を目指し、それを中国が承認しなかったことは、わが国の半導体関連技術が米中から必要とされていることを確認する機会となった。 米国は、自国を軸とする世界の半導体供給体制を確立し、中国の覇権強化を阻止したい。そのために、米国は日本と台湾との連携を強化している。それだけ、米国は、わが国のフォトレジストやシリコンウエハーなどの半導体関連部材や製造装置などに関する技術を、より重要視しているということだ。 その状況下、アプライド・マテリアルズはKOKUSAIを買収することによってその技術を取り込み、メモリ半導体向けの製造装置市場でのシェアを伸ばそうとしたのである。 他方、中国企業にとってもKOKUSAIの技術は手放せない。中国政府は米国企業による買収承認に時間をかけ、結果的に期限内に承認しなかった。それは、中国企業が用いてきた日本企業の技術が、米国の対中規制・制裁の対象に含められることは避けなければならないという危機感の表れといえる。 米中という大国の衝突が激しさを増す中で、KOKUSAIは米国からも中国からも必要とされる立場を確立した。つまり、米中対立の先鋭化は、わが国企業が成長を目指すチャンスと考えられる。 そのために必要な戦略は、国内の知的財産と技術を用いて、米中双方から必要とされる競争ポジションを確立することだ。 足元、車載半導体分野では、那珂工場(茨城県ひたちなか市)火災の発生によってルネサス エレクトロニクスの供給力は低下。世界の自動車生産への影響は追加的に深刻化している。 米中対立から、わが国企業がベネフィットを得るために、事業運営に関するリスク管理体制を強化し、世界各国の企業から信頼され、より必要とされる立場を目指すことの重要性は、かつてないほど高まっているのである』、「米中対立から、わが国企業がベネフィットを得るために、事業運営に関するリスク管理体制を強化し、世界各国の企業から信頼され、より必要とされる立場を目指すことの重要性は、かつてないほど高まっている」、同感である。

次に、4月21日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「中国の習国家主席、米国と同盟国を痛切に批判 名指しは避けてもどの国を指すのか一目瞭然」を紹介しよう。
・『中国の習近平国家主席は20日、世界的な経済統合の推進を呼び掛け、デカップリング(切り離し)に警鐘を鳴らすとともに、「傲慢な指図」は不要だと述べ、米国とその同盟国をけん制した。 習主席は海南省で開かれている「博鰲(ボアオ)アジアフォーラム」でのビデオ形式の基調演説で、米国を名指しせずに「国際関係は交渉や協議で進めるべきであり、世界の将来的命運は全ての国によって決められるべきだ」と主張。「1カ国または数カ国が他国にルールを押し付けるべきではなく、世界は数カ国による単独主義によって翻弄されるべきではない」と述べた。 習主席はまた「障壁を築こうとしたり、デカップリングを進めようとしたりする試みは経済・市場原則に反しており、他国を傷付けるだけで自らにも利益はない」と指摘。中国のサプライチェーンへの依存度を下げ、先端半導体など製品輸出を差し控える米国の取り組みを暗に批判した。 習主席は「現在の世界でわれわれが必要としているのは正義であり、覇権ではない」とし、中国が軍拡競争に関わることは決してないと表明。「他国への傲慢な指図や他国の内政への干渉はいかなる支持も得られない」とも語った』、敢えて名指しを避けたのは、余裕を示すためだろうか。
・『カーボンニュートラル実現に関して新たな提案はなし  気候変動問題に関して習氏は「グリーンな発展という理念を堅持し、気候変動対策で国際協力を進め、パリ協定の履行に向け一層の取り組みが必要だ」と指摘。「グリーン」や「持続可能性」に言及する場面が幾つかあったが、カーボンニュートラル実現に向けた道筋を巡り新たな公約や提案はなかった。 バイデン米大統領は22、23両日に気候変動問題に関するオンラインの首脳会合を開く。ダウ・ジョーンズ通信によると、習主席も参加する見通しとなっている』、なお、産経新聞によれば、英紙ガーディアンは4月23日、習政権が5年以内に予定される数百の石炭火力発電所の建設計画を認可しているとし「公約は(温暖化問題を解決する)突破口にはならない」とした』、「政権が5年以内に予定される数百の石炭火力発電所の建設計画を認可」、とは驚かされた。

第三に、5月20日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「イエレン財務長官が前政権の対中貿易合意に疑念 対中関税賦課という方法は思慮深いとはいない」を紹介しよう。
・『トランプ前米政権が中国との間で昨年1月に締結した第1段階の貿易合意の成果について、イエレン米財務長官はニューヨーク・タイムズ紙との先週のインタビューで疑念を示した。米中合意の将来に関し、バイデン政権として詳細な考えを表明するのは初めて。 イエレン長官はその中で、「私自身の個人的見解としては、対中関税賦課の方法はあまり思慮深いものではなかった」と指摘。「関税は消費者に対する課税であり、一部のケースでは、米国の措置は自国の消費者に害を及ぼしたと見受けられる。そして、前政権が交渉したような合意では多くの点で中国について米国が抱える根本的な問題に対処できなかった」と述べた』、確かに「関税」政策には慎重な検討が必要で、喧嘩腰でやるべきものではない。
・『新たな貿易合意が年内に決着するかどうかは不明  バイデン政権は合意を継続させるか破棄するか、何か新しいものに置き換えるか判断を下す必要がある。米中双方が多くの輸入品目に関税を課す状況にあって、第1段階合意はせいぜい「停戦」にすぎない一方、香港や台湾、人権問題、新型コロナウイルス感染症(COVID19)の発生源などを巡る緊張の高まりで両国関係が悪化し続ける中で一定の安定をもたらす領域にもなっている。 米国が対中政策の見直しをいつ終えるのかについての兆しは見られず、貿易合意の将来が年内に決着するかどうかは不明だ。ただ、シャーマン米国務副長官が訪中するかどうか両国が合意できずにいる様子を見る限り、近いうちに対話が行われる期待は持てそうにない』、7月26日付けブルームバーグによれば、「中国、対米関係は行き詰まりと主張-シャーマン米国務副長官訪中」、「会談は率直で、専門的だったと記者団に説明。謝氏らとの会談は4時間に及び、米国側はハッキングや香港と新疆ウイグル自治区に対する中国政府の政策を巡り懸念を表明」、「会談は4時間に及び」、かなり突っ込んだ会談になったようだ。

第四に、8月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した大蔵省出身で一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「中国政府は金融デカップリングに自信?国際収支に「3つの変化」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278403
・『「米中金融デカップリング」では中国に打撃が大きいとみられるが、最近、中国への資金流入が増加していることを考えれば、そうではないという見方もできる。 中国への直接投資や証券投資は増えており、中国政府が人民元高を容認していることで、中国国債への投資も増えている。 このような状況では、中国政府の規制強化で中国IT企業の外国市場上場が減っても、影響は少ないかもしれない。中国共産党は自信を深めて規制をさらに強化するかもしれない』、「中国共産党は自信を深めて規制をさらに強化するかもしれない」、やれやれだ。
・『中国への資金流入は増加 外国市場での上場減っても影響ない?  前回コラム(2021年7月29日付)「『米中金融デカップリング』で中国は自らの喉を絞めることになる」では、ディディなどニューヨーク市場でIPOする企業に対して中国当局が規制を強めているのは、米中間の金融的なつながりを切断する経済的に非合理な行動で、中国の今後の発展に重大な悪影響を及ぼすだろうと指摘した。 しかし、この問題については別の見方をすることも可能だ。 それは、中国がコロナ克服に成功したことからさまざまなチャネルを通じて中国への資金流入が増加しており、そのため外国市場上場という形での資金調達が減っても、もはや中国は困らない、という見方だ。 だから中国のIT企業が得た顧客データなどの情報流出の危険を冒してまで、あるいは中国のプライドを犠牲にしてまで外国市場に上場する必要はないということになる。 このような見方の背景には、中国の国際収支(金融収支)で、次のような3つの変化が最近起きていることがある(注1)。 (1)中国対外直接投資の減少 (2)対中直接投資の増加 (3)対中証券投資の増加  国際収支に関する資金の流れでは、次の関係が恒常的に成り立つ。 経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0 (注1)金融収支は、「直接投資」「証券投資」「金融派生商品」「その他投資」および「外貨準備」からなる。現在のIMFのルールでは、対外資産が増える場合にプラスと表示することになっている。図表1、2もこのルールにしたがって表示されている。ただし、中国の公式統計では、対外資産が増える場合にマイナスと表示しているので、注意が必要だ』、「中国がコロナ克服に成功したことからさまざまなチャネルを通じて中国への資金流入が増加しており、そのため外国市場上場という形での資金調達が減っても、もはや中国は困らない」、あり得る見方だ。「中国のIT企業が得た顧客データなどの情報流出の危険を冒してまで、あるいは中国のプライドを犠牲にしてまで外国市場に上場する必要はない」、強すぎる自信も困ったものだ。
・『国際収支に「3つの変化」 中国の対外直接投資が急減  国際収支の変化の第1は、中国の対外直接投資の動向だ。 企業の海外進出を奨励する「走出去」政策の後押しによって、中国の対外直接投資はこれまで拡大してきた。2000年代半ばには、経常収支黒字の拡大と海外からの直接投資の増大によって資金流入が増加し、国内に過剰流動性をもたらすおそれが起きたため、対外投資が奨励されるようになった。 その結果、対外直接投資は1990年の9億ドルから2007年の248億ドルまで拡大した。その後も2016年まで拡大傾向で推移し、中国の対外直接投資額は世界第2位となり、世界の対外直接投資に占める割合が12.7%にまで上がった。 日本でも、中国資本による不動産の買い占めなどが話題になった。 しかし、2017年以降、中国企業の対外直接投資は欧米向けを中心に急減した。19年の中国の対外直接投資は対前年比18.1%減の1171億ドルになった。 その背景には次のことがある。) 第一に不動産業や娯楽・観光業への直接投資に対して中国当局の管理が強化されたことと、第二に欧米諸国で外国企業に対する投資規制が強化されたことだ。アメリカでは18年8月に「外国投資リスク審査現代化法」が成立した。 ただし、アジアへの投資は、「一帯一路」戦略に関連したインフラ建設投資などを中心として増えている』、「「一帯一路」の失敗例で有名なのは、「スリランカで中国からの融資を受け完成させたインフラに赤字が続き、中国への11億2000万ドルの借金帳消しの条件で、株式の70%を引き渡して、南部のハンバントタ港に99年間の港湾運営権を中国企業に譲渡する事態に追い込まれた」(Wikipedia)。
・『中国への直接投資が増加 米国抜いて最大投資先国に  変化の第二は、中国への直接投資が増えたことだ。 国連貿易開発会議(UNCTAD)の年次報告によると、2020年の世界の海外直接投資(FDI)で、中国がアメリカを抜いて最大の投資先国になった。対中投資が1630億ドルで、対米投資が1340億ドルだった。 19年には、対米2510億ドル、対中が1400億ドルだったが、対米新規投資はほぼ半減し、世界トップの座から陥落した。一方、対中投資は前年比4%増だった。 このように、中国の対外直接投資が減って、投資受け入れが増えているので、ネットの対外直接投資は減少している。これは図表1に示されている。 ネット投資額は、16年にはプラス(中国対外純資産の増加)だったが、17年にはマイナス(中国対外純債務の増加)となり、20年にいたるまでその額が増え続けている』、「2020年の世界の海外直接投資(FDI)で、中国がアメリカを抜いて最大の投資先国になった」、どの国が対中投資を増やしているのだろう。日本は減らしている可能性もある。
・『対中証券投資も増加 欧米の金融緩和で中国国債購入  第三は、対中証券投資も増加していることだ。 とくに中国国債への投資が増えている。 香港経由で中国の債券を売買できる「債券通(ボンドコネクト)」などを利用した外国人の元建て債券の保有残高は、過去1年間で約6割増え3月末には3兆5581億元になった。 外国人の中国国債の保有額は、2016年初めには2500億元程度だったが、18年夏には1兆元を越えた。そして21年5月には前年同月比46%増の約2.1兆元になった。 これにもいくつかの要因がある。 新型コロナウイルスショックに対応して、米欧などの主要国は金融緩和を強化した。このため、国債利回りが顕著に低下した。他方で、中国は早期にコロナを克服して経済の正常化を進めたため、10年債の利回りは3%程度を維持している。 これに着目した機関投資家や中央銀行が中国国債を購入していると思われる。 また、人民元高が続いており、これによる為替差益の期待も国債購入を増やしている一因と思われる。 以上の状況も図表1に示されている。 証券投資は、15、16年はプラス(対外資産の増加:中国からの外国への証券投資)だったが、17年からはマイナスになり20年にはその額が拡大している』、主要国の「国債利回り」がほぼゼロになるなかで、「中国」の「10年債の利回りは3%程度を維持」、「これに着目した機関投資家や中央銀行が中国国債を購入している」、なるほど。
・『“元高容認”が意味すること  中国の経常黒字は、図表2に示すように2018年に縮小した。しかし、20年にはコロナ制圧に成功して中国経済が回復したため増加した。 通常の国なら、経常収支が黒字であれば、直接投資あるいは証券投資によって対外資産を増加させる。そして金融収支はプラスになる。その結果、経常収支と金融収支がバランスする。 ところが中国は、経常収支の黒字によって人民元高の圧力が強まることを防ぐため、商業銀行が企業から、そして中央銀行が商業銀行から外貨を買い取り、外貨準備を増やしてきた。 図表2、図表3に見られるように、13年頃には外貨準備を増やしている。 これまでの中国はこの点で特殊な国だった。 しかし、図表2に見られるように18年以降は、このようなことはなくなった。アメリカから19年8月に為替操作国と認定されたからかもしれない(なお、認定は20年1月に解除)。 人民元レートは20年5月から一貫して増価している。 昨年5月にはレートは1ドル=7.1元だったが、21年6月1日には1ドル=6.38元台に達した。7月22日では1ドル=6.47元だ。 前述したように、元高の期待が対中証券投資を増加させ、中国への資金流入をさらに増やしているのだ』、「元高の期待が対中証券投資を増加させ、中国への資金流入をさらに増やしている」、なるほど。
・『IPO規制、さらに強化の可能性も 統計の不透明、見えにくい実態  中国政府がIT企業に対する規制を強めていることは間違いない。これが「第3次天安門事件」と呼べるほど大きな方向転換であることも間違いない。 問題は、それが中国経済に与える影響の評価だ。 前回コラムでは「深刻な影響があるだろう」と書いたのだが、こうした資金流入の状況を考えると、「ニューヨーク市場でのIPOが減っても問題は大きくない」と判断することも可能だ。 1989年の第2次天安門事件の際には、外国からの投資は90年代初めまで停滞した。しかし、92年に〓小平氏が中国南部の都市を巡って大胆な外資導入などの開放政策推進を説いた南巡講話をきっかけに回復した。 今回はすでに資金流入が増加しているのだから、影響はさらに少ないかもしれない。 もしそうであれば、中国共産党は自信をさらに強め、規制を今後さらに強めるかもしれない。 ただし、「米中金融デカップリング」の影響について、どちらの見方が正しいのかは、中国の統計には不透明な部分が多いこともあって、最終的な判断はまだ下しにくい状況だ。 第一に、図表2で「誤差脱漏」が巨額だ。多くの年で金融収支より額が多い。 第二に、図表1で「その他投資」とされているものが巨額だ。多くの年で直接投資や証券投資の収支より額が多い。 これらが具体的にどのような内容のものであるかはまったく分からない。 したがって、IPO規制の影響を見極めるには、今後の事態の推移を見守る必要がある。 統計の重要な部分が内容不明になっているのは誠に遺憾なことだが、やむを得ない。ただしさまざまなチャネルを通じての中国への資金流入が、とくに2020年に増加しているという傾向には変わりはない』、「図表」は付いてないが、「統計の重要な部分が内容不明になっているのは誠に遺憾なことだが、やむを得ない」、信頼できる「統計」がないのは、いかにも社会主義国らしく、あきらめる他ないのだろう。
タグ:米中経済戦争 (その16)(アプライドがKOKUSAIの買収を断念 背景に中国当局の思惑、中国の習国家主席、米国と同盟国を痛切に批判 名指しは避けてもどの国を指すのか一目瞭然、イエレン財務長官が前政権の対中貿易合意に疑念 対中関税賦課という方法は思慮深いとはいない、中国政府は金融デカップリングに自信?国際収支に「3つの変化」) ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 「アプライドがKOKUSAIの買収を断念 背景に中国当局の思惑」 「中国は、米国の制裁発動などへの対応手段として、独占禁止法の運用を重視し始めたようだ」、困ったことだ。 「買収審査」にかこつけて、競争政策以外の全く政治的観点が持ち込まれても、文句は言えないのだろうか。もっとも、国際司法裁判所に訴えたところで審査に時間がかかれば、合併の効果も薄らいでしまう。 「深セン市に旧世代の半導体工場を建設し、2022年の生産開始を目指している」、「最先端の製造ラインを必要としない半導体の供給力を高め、チップの自給自足体制と、より多くの世界シェアを獲得する」、狙いは確かだ。 「米中対立から、わが国企業がベネフィットを得るために、事業運営に関するリスク管理体制を強化し、世界各国の企業から信頼され、より必要とされる立場を目指すことの重要性は、かつてないほど高まっている」、同感である。 東洋経済オンライン ブルームバーグ 「中国の習国家主席、米国と同盟国を痛切に批判 名指しは避けてもどの国を指すのか一目瞭然」 敢えて名指しを避けたのは、余裕を示すためだろうか。 「政権が5年以内に予定される数百の石炭火力発電所の建設計画を認可」、とは驚かされた。 「イエレン財務長官が前政権の対中貿易合意に疑念 対中関税賦課という方法は思慮深いとはいない」 7月26日付けブルームバーグによれば、「中国、対米関係は行き詰まりと主張-シャーマン米国務副長官訪中」、「会談は率直で、専門的だったと記者団に説明。謝氏らとの会談は4時間に及び、米国側はハッキングや香港と新疆ウイグル自治区に対する中国政府の政策を巡り懸念を表明」、「会談は4時間に及び」、かなり突っ込んだ会談になったようだ。 野口悠紀雄 「中国政府は金融デカップリングに自信?国際収支に「3つの変化」」 「中国共産党は自信を深めて規制をさらに強化するかもしれない」、やれやれだ。 「中国がコロナ克服に成功したことからさまざまなチャネルを通じて中国への資金流入が増加しており、そのため外国市場上場という形での資金調達が減っても、もはや中国は困らない」、あり得る見方だ。「中国のIT企業が得た顧客データなどの情報流出の危険を冒してまで、あるいは中国のプライドを犠牲にしてまで外国市場に上場する必要はない」、強すぎる自信も困ったものだ。 「「一帯一路」の失敗例で有名なのは、「スリランカで中国からの融資を受け完成させたインフラに赤字が続き、中国への11億2000万ドルの借金帳消しの条件で、株式の70%を引き渡して、南部のハンバントタ港に99年間の港湾運営権を中国企業に譲渡する事態に追い込まれた」(Wikipedia)。 「2020年の世界の海外直接投資(FDI)で、中国がアメリカを抜いて最大の投資先国になった」、どの国が対中投資を増やしているのだろう。日本は減らしている可能性もある。 主要国の「国債利回り」がほぼゼロになるなかで、「中国」の「10年債の利回りは3%程度を維持」、「これに着目した機関投資家や中央銀行が中国国債を購入している」、なるほど。 「元高の期待が対中証券投資を増加させ、中国への資金流入をさらに増やしている」、なるほど。 「図表」は付いてないが、「統計の重要な部分が内容不明になっているのは誠に遺憾なことだが、やむを得ない」、信頼できる「統計」がないのは、いかにも社会主義国らしく、あきらめる他ないのだろう。
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スガノミクス(その9)(東京五輪発の菅政権退陣に現実味 市場が恐れる「2つの巨大リスク」とは?、自民を牛耳る3A+S「今の世の中 右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」が日本の姿、菅首相 感染激増で「再選どころではない」窮地に 医療方針を転換、次期選挙は自民過半数割れも) [国内政治]

スガノミクスについては、7月18日に取上げた。今日は、(その9)(東京五輪発の菅政権退陣に現実味 市場が恐れる「2つの巨大リスク」とは?、自民を牛耳る3A+S「今の世の中 右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」が日本の姿、菅首相 感染激増で「再選どころではない」窮地に 医療方針を転換、次期選挙は自民過半数割れも)である。

先ずは、7月21日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「東京五輪発の菅政権退陣に現実味、市場が恐れる「2つの巨大リスク」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/277289
・『東京オリンピックがまもなく開催する。もともと「開催反対」の意見が多かったことを考えると、大会の運営に一つでもミスがあると菅政権は強い批判を浴びることになるだろう。菅政権の現在の支持率を考えると、あと一つか二つのミスや不運で退陣が十分起こり得ると考えておく必要がある。そのときに株式市場として心配しなければならない二つの大きなリスクとは?』、興味深そうだ。
・『「難しい」東京オリンピック 安全を願うも安心ではない開幕へ  東京オリンピックの開幕が迫ってきた。少なくとも前月までの各種調査では、中止ないし延期を求める世論が優勢であったものの、今や、「反対しても、どうせやるのだろう」という現実的な諦めが広がりつつある。良くも悪くも、おとなしい国民だ。 一方、「無観客」が決まったのが開会2週間前のことだった。大会の主な舞台となる東京都には、緊急事態宣言が発令されている。新型コロナウイルスの感染者が増加中で、病床使用率が上昇しており、医療体制も徐々に切迫しつつある。 アスリートを含む来日関係者のコロナ陽性が既に複数件確認されている。加えて、海外から来日する関係者と一般国民が接触しないようにする「バブル方式」に「15分程度なら自由に外出できる」という謎のような穴が指摘されている。さらには、開会式の週になってから式に使われる曲の作曲者陣の1人に問題が生じて、同人の辞任と楽曲の差し替えが決まったりするなど、準備の状況は全く心許ない。 コロナワクチンの接種は、やっと国民の約3割が1回目の接種を終えた程度の進行状況であり、「オリンピックには間に合わなかった」と言ってよかろう。オリンピックの開催が感染拡大を加速した場合、ワクチンの十分な普及が間に合うまで1〜2カ月の「危険な時期」が生じかねない。 開催される以上、国民の誰もが「安全」であることを願うだろうが、多くの国民にとって少なくとも「安心」ではない状況で迎えるオリンピックだ』、いくら無観客にしたところで、事態は変わらない。
・『菅政権はどの程度「安心」か? 支持率は危険水域へ  一方、菅政権にとっても、状況は「安心」ではないように思われる。 7月4日に投票が行われた東京都議会選挙は、最低勝敗ラインと目された「自民・公明両党で過半数」を獲得することができない惨敗だった。都議選は、国政選挙に対する先行指標だと言われている。 また各種の世論調査でも、NHKの7月の調査で内閣支持率が33%と、これまでの最低に支持率が落ち込んだ(不支持率46%は最高)。また、19日に発表されたANNの調査に至っては支持率29.6%と、30%を割り込んだ。 国民の多くが、菅内閣について「コロナ対策がうまくいっていない」と評価しており、不満が溜まっている。 政権の危機状況を表す経験則として有名な「青木率」(自由民主党の青木幹雄元官房長官の考案とされる)は、内閣支持率と自民党への支持率を合計したもので、これが「50%を割ると政権が保たない」とされる指標だ。現在は50%以上をかろうじて維持しているものの、何か一つ悪材料があれば、50%を割りかねない状況だ。 そして少なからぬ国民が、トーマス・バッハ会長以下の国際オリンピック委員会(IOC)の面々について「横暴で感じが悪い」と思っているので、オリンピック開催に伴って菅義偉首相の露出が増えることがプラスに働くとも思えない。 一つの希望は、コンディションの調整に有利な日本人アスリートが競技で活躍し、いわゆる「メダルラッシュ」がもたらされて世間のムードが明るくなることだ。しかし他方で、コロナの感染は明らかに拡大傾向にあるので、両者のバランスがどうなるかが問題だ。 もともと「開催反対」の意見が多かったことを考えると、大会の運営に一つでもミスがあると強い批判を浴びることになるだろうから、東京オリンピックは菅政権にとっても「安心」なものではない』、「メダルラッシュ」は想像以上だが、世論調査結果は厳しいままだ。
・『菅政権にとっての「2つの安心材料」とは?  ただし、菅政権について特殊なのは、分裂してまとまりを欠く「野党の弱さ」と、安倍晋三前首相が党内のライバルの芽を摘んだことによる「ポスト菅不在」の二つの要素であり、これらは相対的な安心材料だ。どちらも、安倍政権から引き継いだ遺産である。 特に野党は、「政権批判のためには選挙での連携を優先する」という基本ができておらず、主に共産党との関係を巡って愚かな分裂を止められずにいる。さらに、国民に不評だった民主党政権時代の有力者がそのまま党の目立つポジションにとどまっているので、国民の人気を集められない。 ビジネスに例えると、巨額の損失を出した会社が社長交代できないために株価が低迷するような状況だ。あるいは、品質の問題を起こして回収した商品を、名前もパッケージも変えずにまた売り出しているような状況に近い。明らかな「マーケティング的失敗」なので、いい加減に気づくべきだと思うのだが、個々の政治家には簡単に身を引けない事情があるのだろう。 一方の菅首相も、ここまでの選挙の実績や支持率の推移から見て、党内では「選挙の顔にならない」と見られている可能性が高い。与党側も「商品の包み紙」に問題を抱えている。いわば、弱者同士の均衡が存在している』、野党と与党の間に「弱者同士の均衡が存在している」とは言い得て妙だ。
・『デルタ株以外の心配 「菅下ろし」の有無は五輪運営に懸かる  さて、コロナ感染拡大の大きな原因になっている新型コロナウイルス「デルタ株」の感染力は、なかなかに手強い。 ワクチン担当の河野太郎行政改革担当大臣は、ワクチン接種が「10月ないし11月のなるべく早い時期に行き渡る」と述べている。仮にこの通りに進むとしても、オリンピックが終わる8月、さらには9月にはまだワクチンが行き渡っていないので、感染拡大が深刻な状況になる公算が大きい。そのため、その状況が世論的に「オリンピック開催を含めた菅内閣のコロナ対策の失敗」と解される可能性は低くない。 スケジュール的には、9月末が自民党総裁の任期満了で、10月21日が衆議院議員の任期満了だ。 ワクチン接種の進行を考えると、10月21日に解散して総選挙の投票日を11月に持ち込むのが与党にとっては有利だ。総裁選挙を先送りして総選挙に臨む展開が考えられる。しかし、その前に総裁選を行って「党の看板」を替える方がいいという展開になる可能性もある。こうした「菅下ろし」が生じるか否かには、東京オリンピックが無事に運営できるかどうかが大きく関わりそうだ』、首都圏でのコロナ感染爆発は、予想を上回るもので、金融事態宣言をいくら発令しても、焼け石に水だ。
・『株式市場の「心配事」 2つの巨大リスクとは?  新型コロナのデルタ株は株式市場にとっても手強い。7月19日の米ニューヨーク市場の株価(ダウ工業株30種平均)は大幅下落。前日比725ドル安は9カ月ぶりの下げ幅だった。これは、デルタ株による感染再拡大の悪影響を嫌気したものだと解釈されている。また、日本の株価の相対的な出遅れには、ワクチンの接種が海外先進国に遅れている「ワクチンラグ」の下で、デルタ株による感染が拡大している状況が関係している。 加えて、今後、菅政権が揺らぐことが日本の株価に対してネガティブに働くリスクを考える必要が出てきた。 菅首相が交代に至るケースは、(1)総選挙前の総裁選で敗れる、(2)総選挙で大幅に議席を減らして責任を取って退陣する、といった状況だろう。ただ支持率を考えると、あと一つか二つのミスや不運で十分起こり得ると考えておく必要がある。 その場合に問題になるのは、誰が菅首相の後任者になるのかだ。株式市場としては、後任者が(A)緊縮的な財政政策を採るリスクと、(B)2023年の日本銀行の正副総裁の交代人事で金融緩和に積極的でない人物を指名するリスク、という二つの大きなリスクについて心配しなければならない。 過去の言動から考えて、石破茂氏、岸田文雄氏、小泉進次郎氏といった次の首相候補に名前が挙がる人たちは、いずれも(A)(B)の両方で大いに心配があると言わざるを得ない。 特に、23年の日銀総裁人事を首相として誰がどう決定するのかという点は、日本経済の向こう10年くらいの将来に対して甚大な影響力を持っている。そのため、特に投資家は「ポスト菅」をこの点から評価する必要がある。 投資家としては、日経平均株価が2万5000円を割ろうとも、あるいは2万円を割るようなことがあっても、じっと投資を続ける以外に現実的な選択肢はない。とはいえ、株価の大幅下落は気持ちのいいものではないので、心に覚悟が必要だ。 「オリンピックは心配だ」「菅内閣のコロナ対策には不満がある」と思いつつも、「菅内閣の退陣となると後が心配だ」という別のリスクにも気を配る必要がある。 スケジュール的には、9月末が自民党総裁の任期満了で、10月21日が衆議院議員の任期満了だ。 ワクチン接種の進行を考えると、10月21日に解散して総選挙の投票日を11月に持ち込むのが与党にとっては有利だ。総裁選挙を先送りして総選挙に臨む展開が考えられる。しかし、その前に総裁選を行って「党の看板」を替える方がいいという展開になる可能性もある。こうした「菅下ろし」が生じるか否かには、東京オリンピックが無事に運営できるかどうかが大きく関わりそうだ』、「23年の日銀総裁人事を首相として誰がどう決定するのかという点は、日本経済の向こう10年くらいの将来に対して甚大な影響力を持っている。そのため、特に投資家は「ポスト菅」をこの点から評価する必要がある」、確かに重要な指摘だ。
・『株式市場の「心配事」 2つの巨大リスクとは?  新型コロナのデルタ株は株式市場にとっても手強い。7月19日の米ニューヨーク市場の株価(ダウ工業株30種平均)は大幅下落。前日比725ドル安は9カ月ぶりの下げ幅だった。これは、デルタ株による感染再拡大の悪影響を嫌気したものだと解釈されている。また、日本の株価の相対的な出遅れには、ワクチンの接種が海外先進国に遅れている「ワクチンラグ」の下で、デルタ株による感染が拡大している状況が関係している。 加えて、今後、菅政権が揺らぐことが日本の株価に対してネガティブに働くリスクを考える必要が出てきた。 菅首相が交代に至るケースは、(1)総選挙前の総裁選で敗れる、(2)総選挙で大幅に議席を減らして責任を取って退陣する、といった状況だろう。ただ支持率を考えると、あと一つか二つのミスや不運で十分起こり得ると考えておく必要がある。 その場合に問題になるのは、誰が菅首相の後任者になるのかだ。株式市場としては、後任者が(A)緊縮的な財政政策を採るリスクと、(B)2023年の日本銀行の正副総裁の交代人事で金融緩和に積極的でない人物を指名するリスク、という二つの大きなリスクについて心配しなければならない。 過去の言動から考えて、石破茂氏、岸田文雄氏、小泉進次郎氏といった次の首相候補に名前が挙がる人たちは、いずれも(A)(B)の両方で大いに心配があると言わざるを得ない。 特に、23年の日銀総裁人事を首相として誰がどう決定するのかという点は、日本経済の向こう10年くらいの将来に対して甚大な影響力を持っている。そのため、特に投資家は「ポスト菅」をこの点から評価する必要がある。 投資家としては、日経平均株価が2万5000円を割ろうとも、あるいは2万円を割るようなことがあっても、じっと投資を続ける以外に現実的な選択肢はない。とはいえ、株価の大幅下落は気持ちのいいものではないので、心に覚悟が必要だ。 「オリンピックは心配だ」「菅内閣のコロナ対策には不満がある」と思いつつも、「菅内閣の退陣となると後が心配だ」という別のリスクにも気を配る必要がある。「安心」にはほど遠い暑い夏がやって来た』、「23年の日銀総裁人事を首相として誰がどう決定するのかという点は、日本経済の向こう10年くらいの将来に対して甚大な影響力を持っている。そのため、特に投資家は「ポスト菅」をこの点から評価する必要がある」、私としては、当面の株価にはマイナスであっても、金融政策で異次元緩和からの出口を志向する総裁になってもらいたいが、その可能性は残念ながら少なそうだ。

次に、7月23日付け日刊ゲンダイが掲載した元外交官で外交評論家の孫崎享氏による「自民を牛耳る3A+S「今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」が日本の姿」を紹介しよう。
・『菅内閣が揺らいでいる。内閣支持率が30%をきり、20%台になると内閣が「危険水域」に入ったとされる。時事通信が最近実施した世論調査では29.3%と30%を切った。この時の世論調査では、内閣支持率よりも衝撃的な数字が出た。それは菅首相に退陣を求める声である。 菅首相に首相を続けてほしい期間を尋ねたところ、「今年9月末の総裁任期まで」が49.4%、「早く辞めてほしい」が17.3%、両者を合わせれば66.7%が菅首相の退陣を望んでいる。 新型コロナウイルスの感染拡大という世界的な危機の中で、その対応に全くの無能さを示したのが菅内閣である。 コロナ対応で、世界の首脳は「人的接触を軽減する」、「ワクチンの接種を行う」のいずれかの政策を取ったが、菅政権ではいずれも不十分のままである。1月の施政方針演説で、菅首相は「夏の東京五輪は、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として(実施する)」――と、寝言の様な台詞を掲げていた』、「66.7%が菅首相の退陣を望んでいる」、とは異常事態だ。「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」、が「寝言の様な台詞」とは痛烈だ。
・『菅首相には情勢を客観的に認識する能力も、事実に基づいて的確な政策を打ち出す能力もない。 できることは、反対する人々に対して報復して黙らせることであり、この手法は菅内閣の「トレードマーク」と言っていい。西村経済再生担当相が、酒類提供店への金融機関の働きかけなどの制限強化策を打ち出したのがその例だ。結局、この策は、ホリエモンこと、実業家の堀江貴文氏が外部講師を務める政治系のオンラインサロン「堀江政経塾」が、<不公平な緊急事態宣言には断固反。秋の総選挙では自民党・公明党以外に投票します>というポスターを飲食店に貼るよう呼び掛けるなどどし、さらに世論の猛反対にあって撤回に追い込まれた。 緊急事態宣言を発令しても、国民は「またか」と新たな自粛を行う気配を見せていない。 感染の中心は64歳以下であるが、この世代へのワクチン接種が進む目途も全く立っていない。つまり、コロナは拡大する。国民の命と健康不安は従来以上に拡大し、経済は停滞するだろう。菅首相には情勢を客観的に認識する能力も、事実に基づいて的確な政策を打ち出す能力もない。 できることは、反対する人々に対して報復して黙らせることであり、この手法は菅内閣の「トレードマーク」と言っていい。西村経済再生担当相が、酒類提供店への金融機関の働きかけなどの制限強化策を打ち出したのがその例だ。結局、この策は、ホリエモンこと、実業家の堀江貴文氏が外部講師を務める政治系のオンラインサロン「堀江政経塾」が、<不公平な緊急事態宣言には断固反。秋の総選挙では自民党・公明党以外に投票します>というポスターを飲食店に貼るよう呼び掛けるなどどし、さらに世論の猛反対にあって撤回に追い込まれた。 緊急事態宣言を発令しても、国民は「またか」と新たな自粛を行う気配を見せていない。 感染の中心は64歳以下であるが、この世代へのワクチン接種が進む目途も全く立っていない。つまり、コロナは拡大する。国民の命と健康不安は従来以上に拡大し、経済は停滞するだろう。菅首相には情勢を客観的に認識する能力も、事実に基づいて的確な政策を打ち出す能力もない。 できることは、反対する人々に対して報復して黙らせることであり、この手法は菅内閣の「トレードマーク」と言っていい。西村経済再生担当相が、酒類提供店への金融機関の働きかけなどの制限強化策を打ち出したのがその例だ。結局、この策は、ホリエモンこと、実業家の堀江貴文氏が外部講師を務める政治系のオンラインサロン「堀江政経塾」が、<不公平な緊急事態宣言には断固反。秋の総選挙では自民党・公明党以外に投票します>というポスターを飲食店に貼るよう呼び掛けるなどどし、さらに世論の猛反対にあって撤回に追い込まれた。 緊急事態宣言を発令しても、国民は「またか」と新たな自粛を行う気配を見せていない。 感染の中心は64歳以下であるが、この世代へのワクチン接種が進む目途も全く立っていない。つまり、コロナは拡大する。国民の命と健康不安は従来以上に拡大し、経済は停滞するだろう。 国民は、世論調査の形で菅政権に「NO」を突き付けた。 本来なら自民党が危険信号を読み取り、首相交代を行うべきだ。しかし、3A(安倍、麻生、甘利)+S(菅)が自民党を牛耳り、新たな流れを作れない。 ならば野党・立憲民主党が政権をとる絶好のチャンスだが、立憲民主もまた明確な方向を示せていない。 昭和の名俳優、故・鶴田浩二氏の「今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」が、日本の姿である』、「「菅首相には情勢を客観的に認識する能力も、事実に基づいて的確な政策を打ち出す能力もない。 できることは、反対する人々に対して報復して黙らせることであり、この手法は菅内閣の「トレードマーク」と言っていい」、その通りだ。「西村経済再生担当相」の「酒類提供店への金融機関の働きかけなどの制限強化策」が「世論の猛反対にあって撤回に追い込まれた」のは当然だ。

第三に、8月6日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「菅首相、感染激増で「再選どころではない」窮地に 医療方針を転換、次期選挙は自民過半数割れも」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/446243
・『東京五輪閉幕が迫る中、政府が突然、東京などコロナ感染爆発の状態に陥りつつある地域を対象に、入院治療は原則的に重症患者などに限定する方針を打ち出したことで、国民の不安や不満が爆発している。 コロナ感染者への医療方針の大転換ともなるだけに、関係者の間でも「政府が医療崩壊を認めた」「まさに後手後手」などの批判が噴出。与党の自民・公明両党も政府の方針撤回を要求する異常事態となっている。 菅義偉首相は急きょ、医療関係者に協力を要請するなど、国民の理解を得ようと躍起になる一方、「今回の措置は必要な治療を受けられるようにするため」と方針を撤回しない考えを表明。ただ、今回の方針転換について政府は専門家に相談せず、与党への事前報告もしなかったことも明らかとなり、批判・不満を増幅させている』、政策転換を「専門家に相談せず、与党への事前報告もしなかった」、驚くべき不手際で、その後、事実上「撤回」した。
・『現場から「すでに医療崩壊」の悲鳴  新規感染者は4日、14都府県で過去最多を更新。焦る政府は5日、「桁違いの感染急増で局面が変わった」(西村康稔経済再生担当相)として、まん延防止等重点措置の対象地域に福島、愛知など8県の追加を決定した。都内の自宅療養者は過去最多を更新し続け、現場では「すでに医療崩壊」との悲鳴が相次ぐ。 菅首相は4日のインタビューで「重症化のリスクのある方は入院していただく。悪化したらすぐ入院ができる態勢をつくる」などと国民の理解を求めた。しかし、ネット上では「患者の切り捨てだ」と大炎上し、「菅首相は即時退陣」がトレンド上位となるなど、国民世論が菅政権を窮地に追い込みつつある。 事の発端は政府が2日、感染者が急拡大している地域で、入院は重症患者や重症化リスクの高い人に限定する方針を決めたことだ。これを受けて菅首相は3日、首相官邸で日本医師会の中川俊男会長らと会談し、コロナ感染者の新たな療養方針への協力を要請した。 会談で菅首相は、中等症患者のうち、酸素投与が必要な人や糖尿病などの疾患がある人は入院対象になるとの基準を示した。中川氏は会談後、記者団に「中等症1でも医師の判断で入院させることでいいと確認したので、(国民には)安心していただきたい」と述べ、政府の方針に一定の理解を示した。 しかし、この政府方針に対し、与党や自治体から不満や注文が相次いだ。公明党の山口那津男代表は3日の菅首相との会談で、中等症患者向けの病床や人員の拡充を強く要求。菅首相が期待する「抗体カクテル療法」について、「点滴を行える場所と機会を有効に生かせるようにすべきだ」と指摘した。 同日の自民党の二階俊博幹事長と公明党の石井啓一幹事長の会談では、石井氏が「中等症患者は治療してもらえないのではないかと不安を抱く」と強い懸念を伝え、与党として政府にきちんとした説明を求める方針を確認した。 全国知事会会長の飯泉嘉門徳島県知事も同日、田村憲久厚労相とオンラインで会談。その中で飯泉氏は「中等症で入院対象から外れる場合の客観的な基準を示してほしい」と求め、田村氏は「医師の判断で必要なら入院させて問題ない」と自治体や医師の判断を優先する立場を繰り返した。 こうした状況について、立憲民主党の枝野幸男代表は同日の党会合で、「自宅療養は言葉だけで放棄としか言いようがない。まったく危機対応がなっていない」と厳しく批判。共産党の志位和夫委員長もツイッターに「大きな危険を伴う政策転換だ」と投稿するなど、政府に方針撤回を求めることで足並みをそろえた』、「現場から「すでに医療崩壊」の悲鳴」、そうだろう。与党の「公明党の石井啓一幹事長」からも「強い懸念」を示されるとはお粗末もいいところだ。
・『あふれる「患者切り捨て」との批判  コロナ治療の最前線で奮闘する現役医師では「感染者が増えて受け皿がないから入院させないというのは患者の切り捨てだ」などの批判があふれている。連日のようにテレビ情報番組などに出演している医師は、方針転換を決めた菅首相に対し、「無為無策だ。この人に政治を司る資格はない。すぐ辞めるべきだ」などとツイートした。 国会は8月4、5日、衆参両院の厚生労働委員会で閉会中審査を実施。与野党委員とも政府を追及し、田村厚労相は防戦一方となった。政府コロナ対策分科会の尾身茂会長は、「この件(政府の方針転換)に関して相談、議論したことはない」と明らかにし、委員会室は騒然となった。 尾身発言について田村厚労相は「病床のオペレーションの話なので政府で決めた」と説明。「このままでいくと中等症で入らないといけない方が病床に入れずに在宅で対応できないことが起こる。中等症で呼吸管理している重い方々は入院するが、中等症でも軽い方は(病床を空けることで)重い方が来たときに入れるような状況を作る。国民の命を守るために必要な対応だ」と強弁した。 ただ、方針転換を最終決断した菅首相はこの事実を知らなかったとして、「厚労省は(尾身氏に)必要な相談をすべきだった」と厚労省の対応を疑問視した。田村氏は5日の参院厚労委で「反省している」と述べたが、政府内の混乱を露呈した格好だ。) こうした政府の迷走に、4日の閉会中審査で公明党の高木美智代氏が「撤回を含め、検討し直してほしい」と要求。立憲民主党の長妻昭副代表(元厚労相)は「人災だ」と口を極めて批判した。これを受けて立憲民主、共産、国民民主の主要野党3党の国対委員長は同日の会談で、政府に方針撤回と臨時国会の早期召集を求めることで一致した。 菅首相や政府への批判が渦巻く中、自民党の二階幹事長が3日、菅首相の任期満了(9月30日)に伴う自民総裁選について、「再選が当たり前」と発言したことも批判を増幅させた。二階氏は「現職が再選される可能性が極めて高い。菅首相に『続投してほしい』との声が国民の間にも強い」と菅首相続投支持を明言した』、一時は地位確保が危うくなった「二階幹事長」にしたら、ここぞとばかり「菅首相」に恩を売ったのだろう。
・『尾身氏は感染者数に悲観的見通し  二階氏はさらに、「総裁選は総裁たりうる人が手を挙げる、そういう人が複数あった場合に選挙になる。今のところ複数の候補になる見通しはない」として、現状では菅首相の無投票再選が当然との見方を示した。 この二階氏発言もネット上で大炎上。「二階氏はボケている」「真夏の怪談で失笑の嵐」「(菅首相と)2人でどこか違う国へ行って永遠にやっていれば良い」などと過激で辛辣なコメントがあふれた。 緊急事態宣言発令以降も東京を中心に新規感染者は増え続け、一向にピークもみえてこない。感染爆発の象徴ともなる東京の1日当たりの新規感染者数について、4日の閉会中審査で1万人に達する可能性について問われた尾身氏は、「最悪の場合はそういうこともある。来週ぐらいには6000、7000、8000といういくつかの幅のある中で(増えるが)、急に下がることはない」と悲観的見通しを示した。 自宅療養者はすでに1カ月で10倍をはるかに超えて激増が続く。菅首相が期待するワクチン接種も停滞し、抗体投与も入院患者優先となれば劇的な効果は見込めない。まさに「コロナ禍の現状は、戦後経験したことのない国家的危機」(首相経験者)ともみえる。 8日に閉幕する東京五輪は日本選手の史上最多を大幅に更新する金メダルラッシュでお茶の間を熱狂させている。しかし「この熱狂は政治とは別世界の話で、国民の間には最悪の事態を想定せず、根拠なき楽観主義で医療態勢崩壊を招いた菅政権への怨嗟の声が満ち満ちている」(自民長老)のが実態ともみえる。 4日には東京地検特捜部が公明党衆院議員の絡む不正融資仲介事件で強制捜査に着手したことも与党を動揺させている。選挙アナリストの間では「このままなら次期衆院選で自民の単独過半数(233議席)確保は困難」との予測も出ている。与党内では二階氏の続投支持とは裏腹に、「もはや、再選どころではない」(閣僚経験者)との声が勢いを増している』、せっかくの「金メダルラッシュ」の「熱狂」も、「この熱狂は政治とは別世界の話で、国民の間には最悪の事態を想定せず、根拠なき楽観主義で医療態勢崩壊を招いた菅政権への怨嗟の声が満ち満ちている」、「熱狂」すれば支持率も回復するとの当初の楽観的観測は影も形も残ってないようだ。「東京地検特捜部が公明党衆院議員の絡む不正融資仲介事件で強制捜査に着手したことも与党を動揺させている」、この新たな地雷も要注目だ。
タグ:ダイヤモンド・オンライン (その9)(東京五輪発の菅政権退陣に現実味 市場が恐れる「2つの巨大リスク」とは?、自民を牛耳る3A+S「今の世の中 右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」が日本の姿、菅首相 感染激増で「再選どころではない」窮地に 医療方針を転換、次期選挙は自民過半数割れも) スガノミクス 山崎 元 「東京五輪発の菅政権退陣に現実味、市場が恐れる「2つの巨大リスク」とは?」 「メダルラッシュ」は想像以上だが、世論調査結果は厳しいままだ。 野党と与党の間に「弱者同士の均衡が存在している」とは言い得て妙だ。 首都圏でのコロナ感染爆発は、予想を上回るもので、金融事態宣言をいくら発令しても、焼け石に水だ。 「23年の日銀総裁人事を首相として誰がどう決定するのかという点は、日本経済の向こう10年くらいの将来に対して甚大な影響力を持っている。そのため、特に投資家は「ポスト菅」をこの点から評価する必要がある」、確かに重要な指摘だ。 「23年の日銀総裁人事を首相として誰がどう決定するのかという点は、日本経済の向こう10年くらいの将来に対して甚大な影響力を持っている。そのため、特に投資家は「ポスト菅」をこの点から評価する必要がある」、私としては、当面の株価にはマイナスであっても、金融政策で異次元緩和からの出口を志向する総裁になってもらいたいが、その可能性は残念ながら少なそうだ。 日刊ゲンダイ 孫崎享 「自民を牛耳る3A+S「今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」が日本の姿」 「66.7%が菅首相の退陣を望んでいる」、とは異常事態だ。「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」、が「寝言の様な台詞」とは痛烈だ。 「「菅首相には情勢を客観的に認識する能力も、事実に基づいて的確な政策を打ち出す能力もない。 できることは、反対する人々に対して報復して黙らせることであり、この手法は菅内閣の「トレードマーク」と言っていい」、その通りだ。「西村経済再生担当相」の「酒類提供店への金融機関の働きかけなどの制限強化策」が「世論の猛反対にあって撤回に追い込まれた」のは当然だ。 東洋経済オンライン 泉 宏 「菅首相、感染激増で「再選どころではない」窮地に 医療方針を転換、次期選挙は自民過半数割れも」 政策転換を「専門家に相談せず、与党への事前報告もしなかった」、驚くべき不手際で、その後、事実上「撤回」した。 「現場から「すでに医療崩壊」の悲鳴」、そうだろう。与党の「公明党の石井啓一幹事長」からも「強い懸念」を示されるとはお粗末もいいところだ。 一時は地位確保が危うくなった「二階幹事長」にしたら、ここぞとばかり「菅首相」に恩を売ったのだろう。 せっかくの「金メダルラッシュ」の「熱狂」も、「この熱狂は政治とは別世界の話で、国民の間には最悪の事態を想定せず、根拠なき楽観主義で医療態勢崩壊を招いた菅政権への怨嗟の声が満ち満ちている」、「熱狂」すれば支持率も回復するとの当初の楽観的観測は影も形も残ってないようだ。「東京地検特捜部が公明党衆院議員の絡む不正融資仲介事件で強制捜査に着手したことも与党を動揺させている」、この新たな地雷も要注目だ。
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最低賃金(その1)(日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」、「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由、「時給930円」を払えない経営者は 今の業態に見切りをつけるべき理由) [経済政策]

今日は、最低賃金(その1)(日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」、「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由、「時給930円」を払えない経営者は 今の業態に見切りをつけるべき理由)を取上げよう。

先ずは、6月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/273063
・『日本の最低賃金はあまりにも低すぎる   私は、日本の最低賃金は低いと思っています。2020年はコロナ禍を理由に最低賃金はほぼ据え置きでした。今年もコロナ禍が理由にされるのだと思いますが、それで国民の生活が成り立つのかという疑問が湧いています。 厚生労働省が公開している最新の最低賃金の全国加重平均は、時給902円。傾向としては東京都の1013円が筆頭で、神奈川県の1012円がそれに次ぐのですが、それ以外の都道府県では首都圏、関西圏、愛知など大都市圏が900~950円程度、それ以外の道県では800円程度の水準です。 この最低賃金が注目を集めるのは、実質的に多くの職場で非正規労働者の賃金が、この最低賃金に張り付いている例が多いからです。これをなんとかして引き上げてほしいと、全国に4000万人ほどいらっしゃる非正規労働者は思っているのですが、なにしろ立場が弱く、なかなか政治家にはその声が伝わらないようです。 それでどれくらいの水準がいいのかというと、労働者の控えめな願望は全国一律1000円以上に早くのせていきたいというのがひとつの目安なのですが、全国労働組合総連合(全労連)がそれを上回る興味深い調査報告を発表しました』、「最低賃金が注目を集めるのは、実質的に多くの職場で非正規労働者の賃金が、この最低賃金に張り付いている例が多いから」、なるほど。
・『25歳の若者が人間らしく暮らすには最低賃金が全国一律で1500円必要  それによれば、25歳の若者が人間らしく暮らすためには、最低賃金は全国一律で1500円が必要だというのです。 計算根拠としては、先に一人暮らしの25歳若者が必要な生活費を社会保険料込みで積み上げて「月25万円」と算出したうえで、それを週40時間労働で逆算したということです。 まず、ここから二つの解釈ができます。一つは、現在の最低賃金で週40時間労働だと「月25万円」の水準に全然到達できないということ。そしてもう一つは、現在の最低賃金でその水準に到達するには、週60時間働かなければ無理だということです。 この試算がもう一つ興味深いのは、従来必要とされてきた大都市圏と地方都市の格差は、以前ほどではなくなってきたという主張です。全国一律がいいという背景には、地方都市では自動車が不可欠で交通費を含めれば生活費が高い一方で、大都市でもチェーン店の発達で外食や衣類など物価が下がってきているという理由があるからだそうです』、「大都市圏と地方都市の格差は、以前ほどではなくなってきた」、そこまで縮小したとは、信じ難い。
・『最低賃金が高くて豊かなオーストラリアで起きる現象  さて、低い最低賃金で働く若者が増えている今の日本の状況では、デフレ経済からの脱却は難しいと思います。一方で、最低賃金が高くてかつ豊かな国の一つに、オーストラリアがあります。10年ほど前でしたが、シドニーに出張で出掛けたときにランチがあまりに高くて驚いたことがあります。日本だと1000円ぐらいの普通のランチが、どのお店でも日本円にしてだいたい2500円ぐらいしたのです。 それで聞いてみると、お店のウェーター の時給が2000円ぐらいだというのです。オーストラリアの法律では、パートタイム従業員の最低賃金が19.84オーストラリアドルです。これは日本円にすると、だいたい1700円ぐらい。シドニーの生活は、給料も高いけれど物価も高いというわけです。 とはいえ、幸福度の調査でみると、当時のオーストラリアは世界1位を3年連続で記録しているような状態でした。現在は、北欧諸国に抜かれてランクは落ちましたが、それでもオーストラリアは12位で、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスよりもまだ上にいます。ちなみに日本は62位で、全体の中位3分の1グループ、上下にいるのはジャマイカ、エクアドル、ボリビアといった国々です。 そこから類推すれば、日本もオーストラリアのように最低賃金を1500円に上げれば、国民の生活水準も上がり、全労連が調査の前提にしたような人間らしい生活もできるようになるし、いいことが起きそうな気がしてきます』、「日本は62位で、全体の中位3分の1グループ、上下にいるのはジャマイカ、エクアドル、ボリビアといった国々」、ずいぶん落ちぶれたものだ。
・『最低賃金を1500円に引き上げると起きる経済学から予測できる「悪いこと」  さて、ここで「ちょっと待ってよ」というお話をします。 実は最低賃金政策は経済学にとっては基本的な題材で、引き上げを行った場合何が起きるのか、いいことだけでなく悪いこともすべてわかっています。 そこで、最低賃金を1500円に引き上げるという、労働者にとってはとてもいい政策を本当に実施すると、どんな悪いことが起きるのかを解説しましょう。 最低賃金のような政策のことを、経済学では「下限価格統制」といいます。よく似た例をいうと、日本では以前、米価が国によって決まっていました。それよりも安く売られている自主流通米は、法律上は厳密にいうと違法で、米は農協を通じてもっと高い価格で買い上げられなければいけなかったのです。 あまり安い市場価格で取引されると、米の生産者が廃業してしまう。それでは農業の未来が困るということで、米の下限価格が設定されていたのです。 このように、米の価格が市場価格よりも高く統制されると何が起きるかというと、米の需要が減ります。米は高いからパンを食べようという国民が増えるのです。これは農協の望まぬ方向なのですが、実際に1980年頃はそのように国民の米離れが進みました。 最低賃金の引き上げも、これと同じ問題を引き起こします。需要よりも高い水準に法律で賃金の下限を決めてしまうため、需要、すなわち求人が減るのです。実際、最低賃金を高く設定しているヨーロッパ諸国では伝統的に若者の失業が大きな社会問題になっています』、なるほど。
・『最低賃金の引き上げは失業や政府のサービス低下につながる  もし日本で最低賃金を1500円に引き上げると、経済学的にはヨーロッパと同じことが起きるでしょう。企業はなんとか人を雇わずに経営をしようと、デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資をさらに加速させて、日本全体で求人が恒久的に減ってしまうはずです。そして少なくなった仕事を若者が奪い合う、“求職ウォーズ”が社会問題になる。それでは本末転倒の未来でしょう。 しかし、それを回避する経済政策もあります。国が下限価格統制を行うと必ずその商品はだぶつきます。 例えば、酪農が盛んなデンマークではバターに下限価格が設定されています。デンマーク国内ではバターの価格が高く、結果としてバターが余ってしまいます。それを国が買い上げて、安い価格で海外にバラまくことを画策します。こうしてできたのが、スーパーで安く売られているデンマーククッキーです。 日本の場合、最低賃金を引き上げると余るのは、バターではなく労働力です。そこで、政府が余った労働力を買い上げることになります。結果として政府が無理に仕事を作る政策が横行します。道路を掘ったあとで埋めるとか、デジタルをやめて紙で処理する仕事を増やすなどして国民のために仕事を確保するわけです。 それで何が起きるかというと、政府のサービスが低下するのです。今、政府が脱ハンコとか言い出していますが、そもそも日本の行政に紙とハンコが多すぎるのは、雇用を維持する必要からです。それを行政改革やデジタル庁で変えていこうというのであれば、雇用は減ることになります。つまり、政府を効率化したいのであれば、最低賃金は引き上げるべきではないという話になるのです』、「日本の行政に紙とハンコが多すぎるのは、雇用を維持する必要からです」、言い過ぎなような気がする。
・『最低賃金を引き上げるとヤミ労働市場が拡大する  そしてもうひとつ、最低賃金の引き上げは経済学的にはさらに都合が悪い事態が起きることがわかっています。それがヤミ労働市場の拡大です。 アメリカでは、最低賃金を下回る低い賃金で働いてくれる人たちがたくさんいます。不法入国者と呼ばれる人たちです。雇われる側は仕事が欲しいし、雇う側もコストが安くて都合がいい。最低賃金が高く設定されるほど、ヤミ労働市場は広がります。 では、日本の場合はどうでしょう。最低賃金を破る企業はおそらくごく少数だと思われますが、日本の法律では企業に対してきちんとした抜け道が用意されています。自営業者に認定するのです。 わかりやすい例が、ウーバーイーツです。ウーバーイーツの配達員はウーバーが雇用しているわけではなく、みんな自営業者です。自営業者とは賃金ではなく、売り上げで働く人たちです。ですから結果的に時給が400円になろうが、その低収入は自己責任として受け入れざるをえない働き方です。 日本では他にも、美容師の業界や保育士の業界で、従業員ではなく自営業者としてしか雇用契約を結ばない企業が存在していて、最低賃金問題以上のうあしき社会問題になっています。もし、今のタイミングで日本の政府が最低賃金を1500円に引き上げたら、おそらく自営業者が激増するでしょう。 そして、企業も従業員を時給で雇う代わりに、レジ打ちを100回こなしていくらとか、弁当を100個作っていくらとか、出来高に応じて外注費を支払うようになるでしょう。そして計算してみるとわかるはずですが、その外注費を労働時間で割れば、おそらくは1500円に引き上げられた最低賃金よりも低い金額になるはずです。 とどのつまり、最低賃金を適正な形で上げていくためには、国が経済成長するしかないのです。日本の最低賃金が安いと私が感じていても、単純に引き上げればいいというものでもない。解決策は日本経済にもっと発展してもらうしかないということで、経済学から導かれる結論は結構残念なものだったというわけです』、「自営業者に認定する」という「抜け道」ががあるのは事実だ。他方、「最低賃金」を引き上げたことで、生産性を上げようと企業が努力すれば、いいインパクトになる可能性もあるのではなかろうか。

次に、6月30日付け東洋経済オンラインが掲載した元外資系証券のアナリストで小西美術工藝社社長 のデービッド・アトキンソン氏による「「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/437170
・『オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。 今回は、「国際的に見た常識的な最低賃金の水準」と、「コロナ禍を言い訳にして最低賃金を据え置いてはならない理由」を説明してもらう』、興味深そうだ。
・『国際的に最低賃金の水準は収斂している  最低賃金をめぐる議論がヒートアップしています。 中小企業経営者の利益を代表する日本商工会議所は据え置きを主張しているのに対して、全国労働組合総連合は全国一律に1500円までの引き上げを訴えています。 分析の面白いところは、分析を深めるほどに、毎日のように新しい発見があることにあります。今回もある発見をしたので、紹介します。 実は、先進国の最低賃金は一定の水準に収斂していることがわかりました。OECDのデータによると、日本を除く大手先進国の購買力調整済み最低賃金は平均11.4ドルです。2001年では、最も高い国の最低賃金は最も低い先進国の3.6倍もありましたが、2020年では1.6倍まで近づいています。 生産性と労働生産性は国によってかなり異なっているのにもかかわらず、最低賃金の絶対値がここまで収斂していることは、非常に興味深いです。当然、同じ金額になれば、労働生産性の相対的に低い国の場合、労働分配率はかなり高くなります。 おそらく、これはグローバル化の影響ではないでしょうか。確かに、EUでは各国の最低賃金を底上げして、高い金額に収斂させていくという政策的な動きもあります。なお、この表では、アメリカの最低賃金は連邦政府の7.25ドルではなく、各州の最低賃金を最低賃金で働いている人口で加重平均したものが使われています。 この国際水準を日本に当てはめると、日本の最低賃金は1178円となります。 日本の最低賃金は2001年では、ポーランドの1.8倍、韓国の2.0倍でしたが、2020年では、ポーランドより3%だけ高く、韓国より8%安くなってしまっています。 世界のどこでも、企業側は最低賃金の引き上げに必ず反対します。大昔から、最低賃金を引き上げると失業者は増える、企業は倒産する、その結果経済が崩壊すると言います。日本も例外ではありません。 日本商工会議所は、2020年には「雇用を守るため」と、据え置きを主張し、その結果、最低賃金の引き上げは全国平均でたったの1円になりました。今年もコロナ禍が収まっておらず、影響が大きいことを理由に、日本商工会議所は据え置きを訴えています。 しかし、去年はともかく、今年この理屈を振りかざすには問題があります』、「日本の最低賃金は2001年では、ポーランドの1.8倍、韓国の2.0倍でしたが、2020年では、ポーランドより3%だけ高く、韓国より8%安くなってしまっています」、国際的にみれば、日本もずいぶん安くなったものだ。
・『コロナを言い訳にしてはならない4つの理由 理由1:コロナ禍でも海外では引き上げを続けている  まず、新型コロナの経済に対するダメージは、日本より諸外国のほうがかなり深刻だったのに、2020年にアメリカでは5.1%、欧州は5.2%も最低賃金を引き上げています。2021年もアメリカは4.3%、欧州は2.5%引き上げました。 海外では最低賃金を引き上げたのに、日本では据え置きになった理由の1つは、おそらく、日本が「合成の誤謬」に弱いからです。 確かに、コロナ禍において、飲食・宿泊と娯楽業は大変な打撃を受けています。ただ、コロナの打撃はこれら3業種にほとんど集中しています。これらの業種の労働者は、海外でも日本と同様に全雇用者の1割程しか占めていないので、これらの業種には別途支援策を設けたうえで、最低賃金を引き上げています。 労働者の1割が働いている業界が大変だからといって、引き上げても問題のない9割の雇用者の最低賃金を引き上げないわけにいかないというのが、日本以外の先進国の対応です。 日本は影響が大きかった1割だけに焦点を当てて強調し、据え置きを訴えているのです。これは合成の誤謬以外の何物でもありません』、「日本」の姿勢は、なんとか引き上げを回避したいというのが見え見えだ。
・『理由2:経済回復にタイミングを合わせられる  今年の引き上げはタイミングも重要です。日本の場合、最低賃金の引き上げは10月から実施されます。今年は世界経済が約6%成長すると言われています。 仮に、今年最低賃金を引き上げなければ、次の引き上げのタイミングは来年の10月になってしまいます。ワクチンの接種が広がり、経済活動の回復の本格化が期待される今年の下半期に合わせて、個人消費をさらに刺激するためには、最低賃金も引き上げるべきでしょう』、その通りだ。
・『理由3:小規模事業者の労働分配率は大企業より低い  また、「小規模事業者の労働分配率は80%だから、最低賃金の引き上げには耐えられない」という指摘を受けることがありますが、この主張はまやかしです。 節税のために役員報酬を増やすことが認められているので、約6割の企業が赤字決算となっているのは有名な話です。さらに、赤字企業の実に94%を小規模事業者が占めます。景気と関係なく、昭和26年から赤字企業の比率がずっと上がっていますので、明らかに不自然な動きです。節税目的で赤字にしている企業が多いと考えるのが自然です。 法人企業統計を分析すると、2019年では、小規模事業者の従業員の労働分配率は51.5%で、大企業の52.5%より低いのです。大企業の人件費の中で、役員報酬は2.8%でしたが、小規模事業者はそれが38.2%も占めています。 つまり、小規模事業者の従業員の労働分配率は大企業並みに低いのですが、小規模事業者は残りの利益の大半を役員に分配して法人税を抑えているので、全体の労働分配率が高く見えるだけなのです』、「小規模事業者の従業員の労働分配率は大企業並みに低いのですが、小規模事業者は残りの利益の大半を役員に分配して法人税を抑えているので、全体の労働分配率が高く見えるだけなのです」、統計のクセをよく見ているには、さすがだ。
・『弱いところを見極め、ピンポイントで補助するべき 理由4:地方は地方創生など別のやり方で守るべき  最低賃金を引き上げたら、「地方が大変になる」というのも同じようにまやかしです。地方では小規模事業者で働く比率が高いので、小規模事業者の労働分配率が8割だというまやかしを誤解して、地方は大変なことになると言っているだけだからです。 そもそも、半分以上の中小企業の雇用者は大都市圏で働いています。地方には中小企業の数は少ないので、この地方崩壊説も意図的な合成の誤謬だと言わざるをえません。 地方の小規模事業者が大変だというのなら、地方創生などの施策でピンポイントに支援するべきです。全雇用者の最低賃金の引き上げを阻害するために、中小企業の雇用全体のうち、少数しか占めない地方の問題を悪用するべきではありません。 諸外国では企業が最低賃金の引き上げに応じ、実際に賃金を毎年引き上げているので、日本が今年も引き上げないと、日本の給料水準はさらに諸外国から引き離されることになります。 人口が減少している間は、個人消費を守り、さらに増やすには、所得の増加しか方法はありません。財政出動で持続的に支えるのは不可能です。 日本は今年こそ、キチンとした根拠とエビデンスに基づいて、総合的な判断ができるかどうかが問われています』、同感である。なお、7月15日付け日経新聞は、「最低賃金3%上げ930円 全国平均、最大の28円増 全都道府県800円超へ、雇用・消費のコロナ後見据え」とまずまずになったようだ。

第三に、8月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「時給930円」を払えない経営者は、今の業態に見切りをつけるべき理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278560
・『「時給930円」に悲鳴をあげる中小企業経営者の皆さんに「廃業」のご提案  連日のメダルラッシュで日本中が歓喜の声に溢れる中で、対照的に絶望のどん底につき落とされている人々がいる。従業員に時給930円を支払えない経営者のみなさんだ。 先月の厚生労働省の審議会で、今年度の最低賃金が、すべての都道府県で28円引き上げられ、全国平均で「時給930円」という目安となった。これを受けて、一部の中小企業経営者の方たちを中心に、「ノストラダムスの大予言」ばりの日本終末論が唱えられている。 「時給930円なんて無茶な話を通したら、中小企業の倒産が続出して日本経済はおしまいだ!」 「28円も賃上げするならバイトを1人クビにするしかない!賃上げのせいで日本中に失業者があふれかえるぞ!」 ツッコミたいことは山ほどあるが、このような恐怖や不安で頭を抱えている人たちがいらっしゃることは紛れもない事実だ。そして、困っている人を見ればどうにかしてあげたいと思うのも、人として極めて自然な感情だ。 そこで、“28円ショック”にお悩みの経営者のみなさんに提案したい。もうおやめになったらいかがだろう。 事業をたためと言っているのではなく、今のビジネスモデル、今の業態を維持することにスパッと見切りをつけて、新規事業へと舵を切っていったらどうか、と申し上げているのだ。 賃上げ分、従業員の数を減らすなどして今年度をどうにか乗り切ったとしても、世界的な潮流である賃上げは来年以降も続いていく。時給930円を捻出できない今の事業にしがみついているより、リスクはあっても事業転換にチャレンジをして、時給930円が余裕で払えるようなビジネスモデルを構築していった方がはるかに将来性がある。最低賃金スレスレで、稼げない仕事を続けさせられる従業員にとっても、そちらの方がハッピーだ』、「「廃業」のご提案」とは思い切った「提案」だ。
・『国が「業態転換」を支援して進めようとしている  と聞くと、殺意を覚える経営者の方もいるかもしれない。苦しい状況でも、自分の仕事への誇りを失うことなく、歯を食いしばって頑張っている日本の宝・中小企業を、このバカライターはおちょくっているのだ。SNS名物「誹謗中傷」で徹底的に追い込んで抹殺してやる…とスマホをいじり始めた経営者の方もいらっしゃるかもしれないが、早まらないで聞いていただきたい。 これは何も筆者がテキトーに思いついた話ではなく、日本政府が言っていることなのだ。 7月31日、経済産業省が、最低賃金の引き上げで影響が出そうな中小企業が「業態転換」を進めていくための補助金の受け付けを始めた、というニュースがあった。事業再構築補助金に「最低賃金枠」を設けて、従業員の1割以上が最低賃金に近い水準の賃金で雇う企業には投資額の最大75%を補助するという』、「事業再構築補助金に「最低賃金枠」を設けて、従業員の1割以上が最低賃金に近い水準の賃金で雇う企業には投資額の最大75%を補助」、「「業態転換」を進めていく」ためにこんな「補助金」まで新設したとは政府は本気のようだ。
・『日本を待ち受ける厳しい世界 変化できない経営者は失格  「商売ナメんな!そんな簡単にできるならとっくにやっている!」「これまで代々受け継いできた商売だし、世話になっている取引先もあるのに換えられるかよ」という中小企業経営者からの大ブーイングが聞こえてきそうだ。 筆者もクライアントに中小企業経営者がいるので、業態転換が簡単ではないことはよくわかっているつもりだ。身内や友人の中には、資金繰りに窮して会社をたたまざるを得なくなったしまった中小企業経営者もいるので、商売の厳しさも知っている。 ただ、一方で、そのような厳しい世界だからこそ、「業態転換」に挑むしか道がないのではないかと強く感じる。 従業員をフルタイムでひと月働かせても月収16万しか払えない事業というのは、残念ながら既にビジネスモデルが破綻している。これを改善する、もしくは根本から見直すのは経営者として当然の責務だ。その努力をしないで、従業員の賃金を抑えて利益を確保しようという経営センスの方が、よほど商売をナメているのではないか。 さらにもっと厳しいことを言わせていただくと、時給930円を捻出できないほど追いつめられているのに心の底から「変わらなくていい」と思っているのだとしたら、そもそも経営者としての資質がない。 経営とは「時代の変化」に対応をしていくことだからだ。 例えば、日本は人口減少でこれから毎年、鳥取県の人口と同じくらいの人口が消えていく。技能実習生という「隠れ移民」を増やしてもたかが知れているので、内需は急速に縮小していく。これまで何もしなくても売れたものがどんどん売れなくなってくる。 こういう厳しい状況なので、「業態転換なんてできるわけがない!」と開き直るような経営者が、これまで通り「社長」として会社に君臨して、従業員を低賃金でコキ使うことができるだろうか。できるわけがない。 つまり、「変わることができない企業」は自然淘汰されていってしまうのだ』、その通りだ。
・『中華麺の老舗フランチャイズが幕を閉じた本当の理由  変われなかった中小企業は潰れた時、周囲から「最低賃金を引き上げたせいだ!」とか「コロナ禍のあおりをモロに受けた!」なんていろいろなことを言われる。しかし、原因をしっかりと分析してみると、単なる「自然淘汰」だった、ということがよくある。 それを象徴するような企業倒産がつい最近あった。 中華麺の製造販売を主体に、ラーメン店「元祖札幌や」のフランチャイズ展開も行っていた南京軒食品(東京都品川区)だ。創業1914年。従業員は57人、埼玉に工場を持つこの中小企業は、個人経営のラーメン店を多く取引先として麺を卸していたという。そんな南京軒食品が4月21日、東京地裁へ民事再生法の適用を申請した。 これを受けてメディアは『コロナで相次ぐ「ラーメン店」倒産。老舗フランチャイズが100年の歴史に幕』(日刊工業新聞7月31日)という感じで報じ、いかにもコロナが悪いと匂わせているが、実は南京軒食品は17年2月期から19年2月期まで3期連続で減収、当期損益も3期連続で赤字となっていた。 残念ながら、コロナ禍の前から既にビジネスモデルが破綻していたのだ。 なぜこうなってしまったのかというと「時代による淘汰」も大きい。「全国製麺協同組合連合会の活動」(平成24年度)を見ると、生めん類の生産量の推移は、平成7年の約72万トンをピークに下降して、平成23年には約54万トンまで落ち込んでおり、「市場が伸び悩むなかでの競争激化による淘汰が進行している」とはっきりと書かれている。そして、その淘汰の中でも減少傾向にあるのは中小工場。そう、南京軒食品がそれにあたる。 これに拍車をかけたのが、「自家製麺ブーム」だ。ラーメン好きの方ならばおわかりだろうが、最近の個人経営のラーメン店は店内に製麺機を置き、自家製麺を使用しているところが多い。かつてはラーメン屋はスープで勝負していたが、この10年ほどで「自家製麺」に力を入れるようにもなった。この取引先側の大きな意識変化が、中小の製麺製造販売店の経営に打撃にならないわけがないのだ。 一見すると、南京軒食品の100年の歴史に幕を下ろしたのは「コロナ」のように映る。しかし、実際は10年前から指摘されていた「競争激化による淘汰」と「自家製麺ブーム」という時代の変化に対して「業態転換」で対応できなかったということが大きいのだ。 それはつまり、「最低賃金も払えない」「業態転換もできない」という中小企業は残念ながら、南京軒食品と同じ道をたどってしまうということだ。 だからこそ、生き残るために「業態転換」にチャレンジをしていただきたいのだ。 もしそれでもなお業態を換えたくない、かといって時給930円も払えないという経営者の方は不本意かもしれないが、潔く会社をたたんでいただいた方がいいかもしれない』、「一見すると、南京軒食品の100年の歴史に幕を下ろしたのは「コロナ」のように映る。しかし、実際は10年前から指摘されていた「競争激化による淘汰」と「自家製麺ブーム」という時代の変化に対して「業態転換」で対応できなかったということが大きいのだ」、表面だけでなく、実態を見極めることの大切さを示している。「それはつまり、「最低賃金も払えない」「業態転換もできない」という中小企業は残念ながら、南京軒食品と同じ道をたどってしまうということだ」、その通りだ。
・『失業しても労働者に戻ることが可能な現代日本 今こそ賃上げで改革を!  日本の低賃金は先進国でもダントツに低く、外国人労働者の人権問題にまで発展しているので、この先も間違いなく賃上げは続く。そこで時代に逆らって低賃金を続けても、労働監督署から目をつけられたり、SNSでブラック企業だと叩かれたり、経営者として良いことは何ひとつない。 中小企業経営者の業界団体である日本商工会議所はよく「賃上げで会社が倒産したら失業者があふれかえる、彼らの家族が路頭に迷ってもいいのか!」みたいな脅しをしているが、小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン氏がさまざまデータを示しているように、世界では賃上げと失業が連動するようなデータはない。 これは冷静に考えれば当然で、時給930円を払えない中小企業が潰れても、失業者が出ても、世の中には時給1000円を払える中小企業も山ほどあるので、条件がいい方で雇われていく。失業者は死ぬまで失業者ではなく、時が経過すれば労働者になるのだ。 「最低賃金で働いている人間はスキルもないので再就職も難しい。今勤めている会社が潰れたら死ぬしかない!」と耳を疑うようなことをいう評論家も多いが、日本は技能実習生という「低賃金奴隷」を輸入するほど、深刻な人手不足だ。最低賃金で働いている人も視野を広げれば、働き先は山ほどある。 また、この手の議論になると、何かにつけて「最低賃金を上げた韓国では」という話になるが、かの国は日本人がドン引きするほどの超格差社会で、賃金うんぬんの前に、財閥系企業に入れない若者が死ぬまで低賃金という構造的な問題があるので、まったく参考にならない(『最低賃金を引き上げても日本経済が韓国の二の舞にならない理由』参照)。 賃上げよりも税金をタダに、という人もいるが、どんなに税金をタダにしても、フルタイムで1年間働いて年収200万に満たないという、日本の異常な低賃金を改善しないことには、人口減少で冷え込む一方の国内消費はいつまで経っても活性化しないので、税収も増えない。景気が良くなる要素がゼロなので、低賃金労働者の貧困を固定化して、事態をさらに悪化させていくだけだ。 中小企業の税金をタダにしても、それが労働者に還元されない。日本は半世紀、手厚い中小企業支援策を続けてきたが、その結果が先進国最低レベルの賃金だ。中小企業経営者に渡す賃上げ支援は大概、経費扱いできるベンツやキャバクラに消えていくものだ。 昨年10月、野村総合研究所が、コロナで休業を経験した労働者がどれほど休業手当を受け取っていたのかを調べたところ、パートやアルバイトで働く女性ではわずか30.9%にとどまっていたように、国が経営者に「従業員のために使ってね」と渡した金は、ほとんど現場まで届かないものなのだ。 だから、今の日本には「賃上げ」しかない。それはコロナでも変わらない。いや、コロナだからこそ、労働者に直接カネを渡す「賃上げ」が必要だ。 中小企業経営者の中には、「社員は家族」みたいなことを言う人が多いが、もし本当に血のつながった家族が、時給930円で朝から晩までこき使われていたら、きっと怒るはずだ。 常軌を逸した低賃金にあえぐ「家族」を救うため、そろそろ経営者も腹を決めて「身を切る改革」に踏み切るべきではないか』、「日本は半世紀、手厚い中小企業支援策を続けてきたが、その結果が先進国最低レベルの賃金だ。中小企業経営者に渡す賃上げ支援は大概、経費扱いできるベンツやキャバクラに消えていくものだ」、「常軌を逸した低賃金にあえぐ「家族」を救うため、そろそろ経営者も腹を決めて「身を切る改革」に踏み切るべきではないか」、同感である。
タグ:最低賃金 (その1)(日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」、「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由、「時給930円」を払えない経営者は 今の業態に見切りをつけるべき理由) ダイヤモンド・オンライン 鈴木貴博 「日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」」 「大都市圏と地方都市の格差は、以前ほどではなくなってきた」、そこまで縮小したとは、信じ難い。 「日本は62位で、全体の中位3分の1グループ、上下にいるのはジャマイカ、エクアドル、ボリビアといった国々」、ずいぶん落ちぶれたものだ。 「日本の行政に紙とハンコが多すぎるのは、雇用を維持する必要からです」、言い過ぎなような気がする。 「自営業者に認定する」という「抜け道」ががあるのは事実だ。他方、「最低賃金」を引き上げたことで、生産性を上げようと企業が努力すれば、いいインパクトになる可能性もあるのではなかろうか。 東洋経済オンライン デービッド・アトキンソン 「「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由」 「日本の最低賃金は2001年では、ポーランドの1.8倍、韓国の2.0倍でしたが、2020年では、ポーランドより3%だけ高く、韓国より8%安くなってしまっています」、国際的にみれば、日本もずいぶん安くなったものだ。 コロナを言い訳にしてはならない4つの理由 理由1:コロナ禍でも海外では引き上げを続けている 理由2:経済回復にタイミングを合わせられる 理由3:小規模事業者の労働分配率は大企業より低い 弱いところを見極め、ピンポイントで補助するべき 理由4:地方は地方創生など別のやり方で守るべき 7月15日付け日経新聞は、「最低賃金3%上げ930円 全国平均、最大の28円増 全都道府県800円超へ、雇用・消費のコロナ後見据え」とまずまずになったようだ。 窪田順生 「「時給930円」を払えない経営者は、今の業態に見切りをつけるべき理由」 「「廃業」のご提案」とは思い切った「提案」だ。 「事業再構築補助金に「最低賃金枠」を設けて、従業員の1割以上が最低賃金に近い水準の賃金で雇う企業には投資額の最大75%を補助」、「「業態転換」を進めていく」ためにこんな「補助金」まで新設したとは政府は本気のようだ。 「変わることができない企業」は自然淘汰されていってしまうのだ』、その通りだ 一見すると、南京軒食品の100年の歴史に幕を下ろしたのは「コロナ」のように映る。しかし、実際は10年前から指摘されていた「競争激化による淘汰」と「自家製麺ブーム」という時代の変化に対して「業態転換」で対応できなかったということが大きいのだ」、表面だけでなく、実態を見極めることの大切さを示している。「それはつまり、「最低賃金も払えない」「業態転換もできない」という中小企業は残念ながら、南京軒食品と同じ道をたどってしまうということだ」、その通りだ。 「日本は半世紀、手厚い中小企業支援策を続けてきたが、その結果が先進国最低レベルの賃金だ。中小企業経営者に渡す賃上げ支援は大概、経費扱いできるベンツやキャバクラに消えていくものだ」、「常軌を逸した低賃金にあえぐ「家族」を救うため、そろそろ経営者も腹を決めて「身を切る改革」に踏み切るべきではないか」、同感である。
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インフラ輸出(その12)(失注が一転「中国製」欧州向け電車 突如登場の謎 実は「秘密裏」に進んでいた中・欧の共同開発、日立製英高速列車の亀裂は800車両 応力腐食割れが原因か 日本の製造業に打撃、日立製英国車両「亀裂発生」 その後どうなった 「乗客への情報提供」当局は評価 肝心の原因は?) [インフラ輸出]

インフラ輸出については、1月25日に取上げた。今日は、(その12)(失注が一転「中国製」欧州向け電車 突如登場の謎 実は「秘密裏」に進んでいた中・欧の共同開発、日立製英高速列車の亀裂は800車両 応力腐食割れが原因か 日本の製造業に打撃、日立製英国車両「亀裂発生」 その後どうなった 「乗客への情報提供」当局は評価 肝心の原因は?)である。

先ずは、6月10日付け東洋経済オンラインが掲載した欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之氏による「失注が一転「中国製」欧州向け電車、突如登場の謎 実は「秘密裏」に進んでいた中・欧の共同開発」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/433187
・『そのニュースは、まさに突然入ってきた。6月1日、中国メディアは世界最大の鉄道メーカー、中国中車(CRRC)の子会社である中車株州電力機車有限公司(CRRC ZELC)が、オーストリアの民間鉄道会社ウェストバーン向けの新型2階建て電車を完成させ、輸出すると報じたのだ。 ウェストバーンは現行車両の更新のため、新型車両の導入を計画していたが、CRRCと争っていたスイスのシュタドラーが、同社の2階建て電車「KISS 3」6両編成15本を、製造とメンテナンスを含む総額3億ユーロで契約を獲得、CRRCは失注していたはずだった(2020年1月25日付記事「中韓鉄道メーカー、『欧州本格展開』への高い壁」)。 だが、中国メディアのニュース映像には、すでに完成したと思われる車両が完成記念式典の会場で関係者の晴れやかな笑顔とともに映し出され、この車両が出荷目前であることをうかがわせた。記念式典はウェストバーンのゼネラルマネージャー、エーリッヒ・フォースター氏を筆頭に、駐オーストリア特命全権大使やオーストリア商工会議所の会長らもオンラインで出席するなど、大々的なものだった』、「「失注が一転「中国製」欧州向け電車、突如登場」、とは欧州鉄道関係者には衝撃のニュースだろう。
・『オーストリア側に事情を聞くと…  これには、さすがのヨーロッパ各国の鉄道系メディアも寝耳に水といった感じで驚きを隠せず、一時騒然となった。ヨーロッパ側では誰もが何も把握していなかったことから、中国側の勇み足じゃないのか、といった噂話まで飛び出した。 いったい、何が起きたのか。ウェストバーンの広報へ確認したところ、以下の回答を得た。 まずこの車両について、ウェストバーンとは2019年12月に契約を締結したとのことだ。つまり、1年半前に失注したと言われたその直後から、秘密裏にこの車両の設計・製造がスタートしていたわけで、一度は決別したかに見えた両社は、今も蜜月の関係にあることがうかがえる。 とはいえ、現時点ですでに車両が完成し出荷状態にあるというのは驚きで、CRRCはこのような顧客の意向に沿ったオーダーメイド車両であっても、18カ月以内で設計・製造することが可能だと述べている。 また、すでに契約を結んでいるシュタドラー製の6両編成15本はそのまま購入し、CRRC製車両はそれとは別に6両編成4本を追加投入という形で導入するという。 車両製造については、ウェストバーンとCRRCが共同で開発を進め、中枢となる部品をヨーロッパで調達するということに、特に細心の注意を払って設計・製造を進められたと説明している。ただ、ウェストバーンはドアと連結器に関してはヨーロッパ製であることを明言しているものの、その他のパーツ、例えば電装品や信号装置、空調設備などに関しては現時点では回答できないとの返答だった。 CRRC製2階建て電車は、両先頭車2両が動力車、中間車4両は動力のない客車となっている(2M4T)。相互運用性の技術仕様(TSI/A technical specification for interoperability)に準拠し、最高速度はウェストバーンでの営業運転速度に合わせ、時速200kmで設計されている。 興味深いのは、車体の一部にカーボンファイバー製のパーツが用いられている点で、通常の平屋構造の車体と比較して、重量は約10%の増加にとどまっている。以前、イノトランスのレポートでもご紹介した、オールカーボンファイバー製の試作車両「CETROVO」を覚えている方もいらっしゃるだろうが(2018年10月5日付記事「中国が躍進『鉄道見本市』、実車展示で存在感」)、ここで車体の一部にそのカーボンファイバー製を採用してきたことは注目に値する。ダークグレーの座席を含む内装は、既存車両に近いイメージだが、木目調となった壁面化粧板が温かみのある印象を受ける』、中国側としては、破格の条件を出して極秘に受注を獲得したのだろう。
・『スイスメーカーとの契約とは別物  DEMU2と称するこの新型車両は、本国オーストリアのほか、ドイツやハンガリー、その他5カ国での営業運転を予定している。搭載されている機器の電圧は、交流15kV 16 2/3Hzおよび交流25kV 50Hzの2種類のみであるため、ルーマニア、ブルガリアやセルビアの他、チェコ、スロヴァキアの一部地域といったあたりが考えられる。 今後は、2021年夏ごろをメドにヨーロッパへ向けて出荷され、夏の終わりからチェコのヴェリム試験センターでテスト走行を開始、2023年の夏~秋ごろに営業運転を開始する予定となっている。 今回の突然の発表には非常に驚かされたが、いくつか興味深い点がある。 まず、ウェストバーンはすでにシュタドラーから新車を購入する契約を結んでいたことで、今回のCRRCとの契約は、それとは別に存在するという点である。 もともと、同社は民間鉄道会社として旗揚げ後、同じシュタドラー製2階建て電車「KISS」を6両編成8本導入し、その後の増発時に増備された「KISS 2」4両編成9本を合わせ、計17本の「KISSシリーズ」を保有していた。) だが、この「KISS」と「KISS 2」はメンテナンス費用が少々高かったことに加え、当時は需給調整で列車本数の削減を検討していたことから、新型車へ置き換える形で売却を決断し、置き換えられた車両は順次ドイツ鉄道へ売却することも後に発表された。そこで、置き換え用の新車としてシュタドラーの進化型「KISS 3」とCRRCの車両が受注を争うことになった。 当時、ウェストバーンはCRRC製車両の導入にかなり傾いていたとされ、契約は時間の問題だとも噂されていたが、その結果は意外にもシュタドラーに軍配が上がった。2019年秋、ウェストバーンはシュタドラーと新型の「KISS 3」を導入する契約を結んだと発表したのだ。 確かに、すでに同社のKISSシリーズを使用しており、それに特段の不満がないのであれば、無理に別のメーカーへ鞍替えをする必要性は考えられない。乗務員の取り扱いを考えても、むしろ同じメーカー・車種で統一するほうが望ましい。 とはいえ、CRRCが提示した契約がかなりの好条件であったと仮定すれば、国の後ろ盾があるわけではない民間企業にとっては非常に魅力的なオファーとなるに違いない。いや、民間鉄道会社のみならず、交通インフラへ十分な投資ができない中・東欧地域の国々にとっても、魅力的なオファーがあれば飛びつきたいと考えるのが自然だ』、「CRRCが提示した契約がかなりの好条件であったと仮定すれば・・・民間企業にとっては非常に魅力的なオファーとなるに違いない」、やはり決め手は安値「オファー」だったようだ。
・『欧州では実績のない中国製  一方で、まったくの新規参入メーカーとの取引には、多少のリスクが伴うということも忘れてはならない。CRRCが鉄道メーカーにおける世界シェア1位ということは揺るぎない事実だが、売り上げの約90%は中国国内へのもので、ヨーロッパでの実績は皆無に等しい。 ヨーロッパ地域におけるCRRC製車両としては、マケドニアとセルビアに貨物用の機関車が数両ずつと、ハンガリー鉄道貨物部門向けの新型機関車「バイソン」、それにチェコ民間企業レオ・エクスプレス向けの5車体連接電車「シリウス」などがある。 ただ、前2者のうちセルビアは発電所への石炭輸送という非常に限られた使い方をされており、マケドニアは国内の限定された貨物運用に供されているだけだ。後2者については、チェコ国内にあるヴェリム試験センターから出てくる気配もない。 「シリウス」に関しては、年初めの段階で2021年前半には営業運転を開始すると高らかに宣言していたが、筆者が以前の記事で指摘した通り、テストは順調に進んでおらず、現時点では少なくとも2022年まで営業運転を開始できる見込みはない、と言われている。 このようにヨーロッパ地域内においては、まだ十分な実績を残していると言えるほど多くの車両が営業運転を行っているわけではなく、とくに認証テストの難易度が高い西・中欧地域においては、クリアするまで長期間にわたって営業開始できない可能性もある。 今回の新型2階建て電車は、2023年夏~秋ごろの営業開始を目指していると発表されたが、これは最速でという意味で、実際には進捗状況により、さらに数年先延ばしになる可能性も考えられる。わずか18カ月でどんどん車両を建造できても、走る許可が出ないのであれば意味のない話だ。 このように営業開始時期がまだ不透明な車両を導入した場合、計画が大幅に狂ってしまう可能性は否定できない。ウェストバーンの場合、従来車を他社へ譲渡する話まで決まっている以上、もし納入が遅れればその影響はほかへも波及することになる。そこで確実な方法として、現行車両の増備車を導入する、というのが一番手っ取り早い解決法となる。CRRCの新車が使い物になるかどうかを見極めるまで、しばらくは現行車両に頼らざるをえないだろう。 そしてもう一点、最も注目したい点は、このCRRC製の6両編成4本24両の車両は、ウェストバーンが購入したものではなく、CRRCが保有し、それをリースするということだ。シュタドラーと新たに契約した「KISS 3」はリースではなく、同社が購入した完全な自社保有車両なので、この違いは非常に興味深い』、「ウェストバーン」としては、CRRCからの「リース」の形を採ることで、リスクを回避しているのだろう。
・『欧州で高評価を得られるか?  おそらく、ウェストバーンは今すぐにもCRRCと手を組みたいと考えているだろうが、前述のとおり現状はリスクが非常に高い。そこで、まずはお試し期間としてCRRCとリース契約を取り付け、実際に営業で使ってみたうえで、もし気に入れば車両を買い取り、追加投入も検討する、という構図が見えてくる。 リース車両の買い取りは、このケースに限らずヨーロッパでは一般的で、リース契約満了後に鉄道会社が車両を引き続き使いたい場合、契約を継続するか、そのまま車両を買い取るかを選択できるオプションがある。不要と判断した場合、リース終了後に返却することもできる。自家用車のリースとまったく同じ方法である。 CRRC側にしても、ヨーロッパでの実績がないことは重々承知しており、とにかく今は自社製品を広く知ってもらうことに注力しなければならない。このウェストバーン向け車両だけではなく、ハンガリー鉄道貨物部門向けの機関車も同様にリース契約で、フルメンテナンスと将来的な買い取りオプションも含めている。 だが、CRRCにとってはこれからがいよいよ正念場となる。リース期間中に高評価を得て、追加発注を取り付けるができれば、徐々にヨーロッパ地域で受け入れられることになるし、逆に評価を落とせば、ヨーロッパ進出は夢に終わることになるだろう』、中国側がこんな目立たない形で、鉄道輸出に進出しようとしているのは、要注意だ。

次に、6月2日付けNewsweek日本版が掲載した木村正人氏による「日立製英高速列車の亀裂は800車両 応力腐食割れが原因か 日本の製造業に打撃」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/kimura/2021/06/800_1.php
・『<「ドル箱」の高速列車の運休で運行会社は大幅な減収必至。「鉄道の日立」は信頼を損ねたが、問題はそれだけではない> [ロンドン発]イギリスで5月8日「鉄道の日立」のフラッグシップ、高速列車800系に亀裂が見つかった問題で、車両本体下のボルスタに亀裂の入った車両は800車両にのぼることが地元の鉄道記者の証言で分かった。応力腐食割れが疑われているが、根本的な原因は依然として分かっておらず、修理にどれだけの期間がかかるのか見通しは全く立っていない。 日立レールの説明では今年4~5月、ボルスタの安定増幅装置ヨーダンパー・ブラケット接続部と車両本体を持ち上げる時に使用するリフティングポイントで亀裂が見つかった。リフティングポイントの亀裂は全編成の約50%、ヨーダンパー・ブラケット接続部の亀裂は約10%で見つかった。近郊輸送用車両385系の亀裂ははるかに少なかったという。 筆者が関係者から入手したヨーダンパー・ブラケット接続部の写真を見ると、亀裂の深さは15ミリに達していたり、長さは28.5センチに及んでいたりする。 不眠不休で車両を点検している日立の車両基地を取材した地元の鉄道記者フィリップ・ヘイ氏は筆者に「800車両で亀裂が見つかったと聞かされた。亀裂の大きさはさまざまだが、小さくても列車を走行させているうちにどんどん大きくなる」と語る。 筆者が関係者から入手したヨーダンパー・ブラケット接続部に入った亀裂 亀裂は塗装や汚れに隠れて肉眼では見えにくいため、専用の検査装置を使って亀裂があるかないかを慎重に点検しなければならない。ヘイ氏が見た写真ではリフティングポイントに入った亀裂もかなり長かったという。ヨーダンパー・ブラケット接続部とリフティングポイントの亀裂はいずれも英鉄道安全標準化委員会に「国家インシデント」として報告されている。 亀裂の原因について日立レールは「われわれは応力腐食割れと考えている。まず材料、次に天候や空気、水などの環境、三番目に金属にかかるストレスが要因として関係しているとみている。疲労亀裂ではない」と説明する。営業運転開始からわずか約3年半でこれだけ多数の車両の同じ箇所(ボルスタ)に亀裂ができた原因とメカニズムはまだ解明されていない』、「原因とメカニズムはまだ解明されていない」とは深刻だ。
・『「ボルスタには車両の蛇行動を制御するヨーダンパーと、カーブを走行する際に生じる車両の傾きを抑えるアンチロールバーから異なる力がかかる。4月にヨーダンパー・ブラケット接続部から亀裂が見っかった時は疲労亀裂(部材内に発生する単位面積当たりの応力が小さくても繰り返し生じることによって亀裂が進展する現象)が疑われたが、普段は使用しないリフティングポイントからも亀裂が見つかったことが問題を複雑にしている」 筆者にこう解説するのは鉄道雑誌モダン・レールウェイズ産業技術編集者ロジャー・フォード氏だ。今年4月、英イングランド北部で列車運行会社ノーザンが運行するスペインの鉄道車両メーカーCAF製車両でもヨーダンパー・ブラケット接続部に亀裂が走り、ヨーダンパー・ブラケットが剥落した。調査の結果、86編成のうち22編成から亀裂が見つかった。 これに続いて日立製の800系でもヨーダンパー・ブラケット接続部に亀裂が見つかり、当初は疲労亀裂が疑われた。運行中にヨーダンパー・ブラケットが剥落すれば最悪の場合、列車が脱線する恐れもある。 フォード氏は「根本的な原因が分からない限り、修理は不可能だ」とみる。日本の鉄道関係者も同じ見方を示した。英メディアは全車両を修理するのに18カ月かかると報じたが、日立レールは「われわれは18カ月と言っていない。乗客の混乱を最小限に抑えるために、修理は通常のメンテナンスサイクルに合わせている」と述べるにとどめた。 ヘイ氏によると、問題のボルスタは車両本体下に溶接されており、簡単には取り外せないという。またフォード氏は「仮に溶接して修理するとなると、高圧電流が車両の電気・電子機器を損傷する恐れがあるため、すべて取り外さなければならない。複雑な工程で時間がかかる」と話す。 日立製作所は山口県の笠戸事業所で製造した高速列車395系をイギリスに輸出し、2012年のロンドン五輪では会場アクセス用列車「オリンピックジャベリン(投げやり)」としても活躍した。日立レールは「395系はイギリスで最も信頼されている列車の一つ」と胸を張る。 その技術力を買われて都市間高速鉄道計画(IEP)を受注し、800系や385系を英ニュートン・エイクリフ工場などで生産。日立が主導する特別目的会社アジリティ・トレインズが列車を保有する形で各運行会社にリースするとともに、保守事業も一括して受注した』、「運行中にヨーダンパー・ブラケットが剥落すれば最悪の場合、列車が脱線する恐れもある。 フォード氏は「根本的な原因が分からない限り、修理は不可能だ」とみる」、やはり極めて深刻だ。
・『日立レールは亀裂が見つかった車両の製造場所について「最初は日本で製造された。それからイタリアでも製造された。最終的にイギリスで完成された」と説明する。800系の車両に使われているアルミ合金のほとんどはデータ改ざん問題で揺れた神戸製鋼所から納入されている。 日立レールは亀裂の入ったボルスタが神戸製鋼所製かどうかについて回答を保留しているが、神戸製鋼所は筆者の問い合わせに「当社はアルミ押出材を日立のイギリス車両向けに納入している。日立の車両の問題が報道されていることは承知しているが、日立から当社への調査依頼などは現時点でない。調査要請などあれば真摯に対応する。品質事案の対象材については当時の納入先といずれも安全性を確認できている」と強調した。 日立レールによると、IEPでは日立側が列車運行会社にリースする列車に基づいて支払いを受け取る仕組み。列車が利用可能になった場合にのみ支払いが発生する。列車運行会社ではなく日立が亀裂問題のリスクを負うため、政府と納税者には負担は生じないという。 しかし「ドル箱」の高速列車が計画通り運行できなければ列車運行会社は大幅な減収となり、最終的に赤字になれば税金から補填されるのは避けられないのではないだろうか。 ロンドンとマンチェスター、リーズを最高時速360キロで結ぶ高速鉄道計画ハイスピード2(HS2)でも新幹線車両で実績を誇る日立もカナダのボンバルディアと組んで車両の大型受注を目指している。しかし今回の大量亀裂で「鉄道の日立」の信頼は大きく揺らぎ、HS2の受注だけでなく「モノづくり日本」の看板にも大きな亀裂が走ったのは言うまでもない』、「800系の車両に使われているアルミ合金のほとんどはデータ改ざん問題で揺れた神戸製鋼所から納入されている」、関連がありそうだ。「HS2の受注だけでなく「モノづくり日本」の看板にも大きな亀裂が走った」、挽回は容易ではなさそうだ。

第三に、7月8日付け東洋経済オンラインが掲載した 在英ジャーナリストのさかい もとみ氏による「日立製英国車両「亀裂発生」、その後どうなった 「乗客への情報提供」当局は評価、肝心の原因は?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/439213
・『今年5月、イギリスの主要鉄道路線で「都市間高速列車(IET)」として使われている日立製作所製車両に亀裂が見つかった。一時は当該車両を使った全列車が運休し、その衝撃は日英の鉄道関係者の間に大きく広がった。 亀裂は「運行には問題ない」とされ、車両は通常運用に戻っているが、英国の鉄道安全規制当局は6月、徹底的な原因調査を実施すると発表した。トラブル発生から2カ月近くを経た今、亀裂問題の究明はどの程度進んでいるのだろうか』、興味深そうだ。
・『車体を持ち上げるための部分に亀裂  金属部品の亀裂トラブルを起こしたのは、日立が英国工場などで生産した「クラス800シリーズ」だ。同シリーズは800・801・802と複数のタイプがあり、2017年から納入が始まった5両もしくは9両編成あわせて全182編成が走っている。 これらの車両を運行しているのは現在4社。主要幹線の運行を担うグレート・ウェスタン鉄道(GWR)が計93編成と最も多く、次いでロンドン・ノースイースタン鉄道(LNER)が計65編成を運行。イングランド北部の中小都市を結ぶトランスペナイン・エクスプレスは19編成、ロンドンとイングランド北東部を結ぶハル・トレインズも5編成使用している。 問題が明るみに出るきっかけとなったのは、GWRの編成で発見された亀裂だった。日立が運営を受け持つブリストル近郊ストーク・ギフォードにある車両基地で5月8日、出場前の点検をしていたさなかに「リフティングポイント」の前面に亀裂が発見された。車両の定期点検などの際に、車体を持ち上げて台車から切り離す時に用いる部分だ。 ところが、同車両をめぐっては4月の段階で「ヨーダンパー(台車と車体をつないで揺れを抑える装置)ブラケットの取り付け部」にも亀裂が起きていたことが判明していた。 こうした背景から、鉄道安全規制当局である鉄道・道路規制庁(ORR)は6月7日、日立をはじめとする関係者と共に、「列車のジャッキプレート(リフティングポイントに当たる)とヨーダンパーブラケットの取り付け部に発生した亀裂の根本的な原因を究明する」との方針を打ち出した。 最初の亀裂発見から現在に至るまでの経緯は以下の通りだ。 【クラス800シリーズ亀裂問題の経過】 4月11日:クラス800の定期検査でヨーダンパーの亀裂を発見 5月8日:クラス800のリフティングポイントの前面に亀裂発見、他編成にも亀裂の存在を確認 *GWRなど4社が運行のクラス800シリーズ全182編成を運用から外し検査実施 *ORRの支援を受け、列車が運行を再開しても安全であることを確認 *同日中に「ハル・トレインズ」運行車両が運用に戻る 5月10日:トランスペナイン・エクスプレス(TPE)運行車両が運用に戻る 5月13日:GWRとLNER、列車本数ほぼ正常に復帰 5月20日:日立レール、ロンドン西部にある車両基地でメディア向けに説明会実施 6月7日:ORR、亀裂トラブルのレビュー実施日程を発表 6月25日:利用者向け対応に関するレビュー結果を発表 9月中(予定):亀裂原因を含むレビューの暫定結果を発表予定 (英鉄道専門誌Rail Journal他から筆者まとめ)』、「亀裂の根本的な原因を究明する」との「ORR」の方針を一刻も早く達成する必要がある。
・『他車種でも亀裂発見、当局が経過を調査  亀裂は「クラス800シリーズ」だけでなく、2018年からスコットレール(スコットランド)で走り出し  日立製の近郊電車「クラス385」にも見つかった。 そこでORRは、今回のトラブル発生から関係する全車両の運用停止、運休に伴う利用客への案内、検査後の運用復帰といった一連の動きで得た「教訓」について検討を進めることとした。 ORRはこのレビューの主な目的について「鉄道業界全体に貴重な知見を提供する」と位置付ける一方、「運行の安全性と利用客への影響」についても対象として調べを進めるとの考えを示している。 レビューでは、設計、製造、メンテナンスなどの技術分野、関係するステークホルダーによる協力、検査、メンテナンス、修理、是正措置への責任といった多方面について徹底的に調査を行い、それぞれの分野をいかに改善できるかを検討するという。 ORRのジョン・ラーキンソンCEOは今回のレビューの実施について、一義的には「再発防止に向けての重要なステップ」としたうえで、「技術、プロセス、さらに契約の問題なども含む広範な内容について、安全確保ができているかどうかにフォーカスする」「利用客に対する適切な情報の公開、補償ができていたかどうかについても検証する」と述べている。 トラブルが明るみに出た当初、同型車両を最も多く保有しているGWRのメインターミナルであるロンドン・パディントン駅で、鉄道関係者は「こうした運休がいったいどのくらいの期間続くことになるのか見当がつかない」と途方に暮れていた。 しかし、駅に来たところで運休を知って路頭に迷うといった旅行者の姿がまったく見られなかったことは大きな驚きだった。ロンドンから西方向に向かう長距離列車のほぼすべてが発着する同駅は、コロナ禍といえども一定数の旅客需要がある』、「他車種でも亀裂発見」、とはやれやれだ。
・『利用者への情報提供は「合格」  ORRは、今回の亀裂トラブルに起因するさまざまなレビューを進めており、その一環として6月25日、利用客への影響に関する調査結果を発表した。その中で、亀裂により列車運行に影響を受けた鉄道4社による旅客への情報提供については「十分にできていた」との高い評価を与えている。 評価対象となった項目は大きく分けて次の4項目からなる。 +きっぷの払い戻しに関する情報の一貫性と明確さ +代替ルートの手配に関するアドバイスや代替経路の告知 +サードパーティの小売業者(アプリによる発券)の払い戻し +ウェブサイトでの「混乱への注意喚起」の告知 ORRは、今回のような「予期せぬ事態が発生し、問題が広範囲に及ぶ場合は、情報を最新の状態に保つことが非常に難しい」と指摘し、「運行オペレーター各社が適切に対応、予約済みの利用客と迅速に連絡を取るなどのサポートの実施」について評価している。) イギリスではアプリを使ったオンライン経由の事前購入が安いため、駅に来てからきっぷを買う人は相対的に減ってきている。今回のケースでは、関連各線の運行情報を顧客向けにメールや携帯メッセージなどで直接流せたことが、駅頭での混乱を最小限に抑えられた大きな要因となった。ダイヤが混乱している中、各社は「利用客が直面するトラブルの回避」を念頭に、明確で一貫した情報を提供できていたわけだ。 今回発表したレビューについて、 ORRのステファニー・トービン消費者担当副取締役は、利用客への情報提供については適切だったとしながらも、「今後このような障害が発生した際、利用客への影響をさらに軽減するための対策を講じたい」と述べ、鉄道業界と手を取りながらさらなる改善を検討するとしている』、「オンライン経由の事前購入が安いため、駅に来てからきっぷを買う人は相対的に減ってきている」のが、結果的に「利用者への情報提供は「合格」」つながったとはラッキーだ。
・『亀裂自体の原因は引き続き「調査中」  列車の運行は、亀裂トラブルの発覚5日後の5月13日までにほぼ復旧した。ところで、肝心の亀裂に関する原因究明に向けた調査の進展はどうなっているのだろうか。 6月25日の段階では、ORRはこれまで述べたように旅客サービスに関するポイントを発表するにとどまり、車両そのものの動静については一切触れていない。 ORRは今後の方針について6月7日に発表した文書で説明しており、車両導入の経緯、トラブル発覚後の運用停止、そして営業運転再開時の状況といった3つの項目について9月を目標に報告書をまとめるとしている。その後、長期的な「是正に向けたプログラム」が確立され次第、最終報告書を発表する流れとなっている。 日立や運行各社は「リフティングポイントの亀裂は、編成や各車両の構造には影響を与えない」と説明しているものの、原因が完全に究明されていない状態で時速200kmでの営業運転を行っているのは、利用者側から見れば心許ないのも事実だ。1日も早い具体的な状況の発表が待たれる』、「原因が完全に究明されていない状態で時速200kmでの営業運転を行っているのは、利用者側から見れば心許ない」、「1日も早い具体的な状況の発表が待たれる」、同感である。
タグ:インフラ輸出 (その12)(失注が一転「中国製」欧州向け電車 突如登場の謎 実は「秘密裏」に進んでいた中・欧の共同開発、日立製英高速列車の亀裂は800車両 応力腐食割れが原因か 日本の製造業に打撃、日立製英国車両「亀裂発生」 その後どうなった 「乗客への情報提供」当局は評価 肝心の原因は?) 東洋経済オンライン 橋爪 智之 「失注が一転「中国製」欧州向け電車、突如登場の謎 実は「秘密裏」に進んでいた中・欧の共同開発」 「「失注が一転「中国製」欧州向け電車、突如登場」、とは欧州鉄道関係者には衝撃のニュースだろう。 中国側としては、破格の条件を出して極秘に受注を獲得したのだろう。 「CRRCが提示した契約がかなりの好条件であったと仮定すれば・・・民間企業にとっては非常に魅力的なオファーとなるに違いない」、やはり決め手は安値「オファー」だったようだ。 「ウェストバーン」としては、CRRCからの「リース」の形を採ることで、リスクを回避しているのだろう。 中国側がこんな目立たない形で、鉄道輸出に進出しようとしているのは、要注意だ。 Newsweek日本版 木村正人 「日立製英高速列車の亀裂は800車両 応力腐食割れが原因か 日本の製造業に打撃」 「原因とメカニズムはまだ解明されていない」とは深刻だ。 「運行中にヨーダンパー・ブラケットが剥落すれば最悪の場合、列車が脱線する恐れもある。 フォード氏は「根本的な原因が分からない限り、修理は不可能だ」とみる」、やはり極めて深刻だ。 「800系の車両に使われているアルミ合金のほとんどはデータ改ざん問題で揺れた神戸製鋼所から納入されている」、関連がありそうだ。「HS2の受注だけでなく「モノづくり日本」の看板にも大きな亀裂が走った」、挽回は容易ではなさそうだ。 さかい もとみ 「日立製英国車両「亀裂発生」、その後どうなった 「乗客への情報提供」当局は評価、肝心の原因は?」 「亀裂の根本的な原因を究明する」との「ORR」の方針を一刻も早く達成する必要がある。 「他車種でも亀裂発見」、とはやれやれだ。 「オンライン経由の事前購入が安いため、駅に来てからきっぷを買う人は相対的に減ってきている」のが、結果的に「利用者への情報提供は「合格」」つながったとはラッキーだ。 「原因が完全に究明されていない状態で時速200kmでの営業運転を行っているのは、利用者側から見れば心許ない」、「1日も早い具体的な状況の発表が待たれる」、同感である。
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電子政府(その4)(大前研一「日本のシステム開発が失敗ばかりする根本原因」 デジタル庁はゼロからやり直せ、「年収 病歴 犯歴も筒抜け」プライバシーよりデジタル庁を優先した菅政権の拙速さ EUは「消去を求める権利」を明記、FAX廃止 反対する霞が関こそ絶対に廃止すべき理由) [経済政策]

電子政府については、4月20日に取上げた。今日は、(その4)(大前研一「日本のシステム開発が失敗ばかりする根本原因」 デジタル庁はゼロからやり直せ、「年収 病歴 犯歴も筒抜け」プライバシーよりデジタル庁を優先した菅政権の拙速さ EUは「消去を求める権利」を明記、FAX廃止 反対する霞が関こそ絶対に廃止すべき理由)である。

先ずは、5月14日付けプレジデントが掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「日本のシステム開発が失敗ばかりする根本原因」 デジタル庁はゼロからやり直せ」を紹介しよう。
・『マイナンバーにもCOCOAにも不具合  2021年3月中に始まろうとしていた、マイナンバーカードの健康保険証としての利用が、3月末に突如先送りされた。厚生労働省によれば、先行して試験的に運用が始まった医療機関で、患者の情報が確認できないなどのトラブルが相次いでいることが理由。田村憲久厚生労働大臣は「安心して運用するために、本格的な実施は10月めどで計画をしている」と釈明した。 官製システムの不具合はマイナンバーにとどまらない。2月3日、新型コロナウイルス対策のスマートフォン向けの接触確認アプリ「COCOA」について、新型コロナ陽性者との接触通知が一部のユーザーに送られない不具合があったと厚生労働省が発表した。この不具合は4カ月余りもの長い間、放置されていた。 同アプリを巡って、政府は4月1日から運用の委託先を変更したが、関係する企業は従来の6社から7社に増えた。不具合の再発防止のために、業務体制の見直しを試みたが、関係企業を減らすことはできなかったのだ。 マイナンバーについては、3月31日の衆議院内閣委員会で、菅義偉首相がマイナンバー制度に関する国費支出の累計が、関係法成立後の過去9年で約8800億円に上ると明らかにした。立憲民主党の後藤祐一議員が「コストパフォーマンスが悪すぎるのではないか」と指摘すると、「確かに悪すぎる」と菅総理は費用対効果の低さを認めた。) なぜ政府が開発するシステムは、こんなにも「使えないシステム」ばかりなのか。その第1の理由は、政府に発注者としての知識と経験がないからだ。システム全体の構成を的確に捉える「構想力」がないのも問題だが、これを持つ人材を発注者にしていないことが原因と捉えてもいい。 政治家や官僚は、どういうシステムをつくったらいいかイメージができない。イメージできないのでどうするかといえば、システム開発を請け負う企業、いわば「ITゼネコン」を呼んで、すべてをぶん投げてしまうのだ。これは泥棒に鍵を渡す行為に等しい。 さらに言えば、政治家や官僚がITゼネコンに声をかけると、ITゼネコン側は、役員など立場の上の人が永田町・霞が関を訪ねる。そのITゼネコンのお偉いさんというのは、実はスマホどころかパソコンにすら疎かったりする。彼らが現場で働いていた時代のコンピュータシステムは、PC以前の大型コンピュータなど旧世代のものだからだ。コンピュータは急速に進んできたこともあって、役員クラスは最新のシステム事情についていけていない。 システムについてよくわかっていない者同士がシステム開発を発注・受注しているから、システムの設計図はお互いに描けないまま。そして、できないことを下請け企業、孫請け企業に押し付けていく構造になっていくわけだ。 関連する企業が増えれば増えるほど、システム自体も複雑化していって、全体を把握できる人がいなくなる。だから、不具合を発見することも難しくなるし、マージンを手数料として取っているから開発費は膨らむし、ユーザーにとっても使い勝手が悪いものになるのだ』、「政治家や官僚は、どういうシステムをつくったらいいかイメージができない。イメージできないのでどうするかといえば、システム開発を請け負う企業、いわば「ITゼネコン」を呼んで、すべてをぶん投げてしまうのだ。これは泥棒に鍵を渡す行為に等しい」、「政治家」はともかく、「官僚」は「どういうシステムをつくったらいいか」、大枠だけでも「イメージ」すべきだ。「下請け企業、孫請け企業に」「できないことを」「押し付けていく」のではなく、大枠に基づいて発注していく正常な形にすべきだろう。 
・『欧米企業ではデザイナーが活躍  アメリカやヨーロッパの企業は、建築業界にせよ、システム開発にせよ、何かをつくろうとするときに「ゼネコン」を呼ぶことはない。欧米企業が最初に声をかけるのは、コンセプトをつくる「デザイナー」である。 日本の場合は、ゼネコンが「100人×5年でできます。費用はこのくらいになります」というレート(人工にんく)の話をしがちだが、欧米の場合は「こういうコンセプトにして、こういうシステムにしたらどうだろうか。類似のコンセプトだと、こういうシステムをつくった会社がある」といったようにデザインの話になるのだ。 また世界には、CMMI(能力成熟度モデル統合:Capability Maturity ModelIntegration)というものがあり、ソフトウエア開発の手法・プロセスが体系化されている。CMMIは、米カーネギーメロン大学ソフトウエア工学研究所によって開発された、組織におけるシステム開発の能力成熟度モデルで、5つのレベルが規定されている。これはアメリカ政府等の調達基準として利用されていて、例えば「レベル4以上の企業でないと政府が発注するシステム開発に携わることができない」というようになっているのだ。 だから、ソフトウエア開発企業はCMMIのレベル上げに必死になる。個人レベルでいえば、いわゆるアーキテクチャーまで構想できる「システムエンジニア」がどんどん育っていく。こういうことも1つの背景にあって、アメリカがソフトウエア大国になっていったわけだ。またインドのソフトウエア大手はコストが安いからではなく、レベル5故に世界中から安心して発注を受けている。 一方で、日本の役人は学生時代はテストができたかもしれないが、文系ばかり。正解・前例がある問題を解くのは得意だが、コンセプトをつくって、システムを設計するという創造力・構想力は貧弱だ。発注側は自分たちでデザインできないから、自分たちの職場に臨時の席を設け、ITゼネコンから派遣されたコンサルタントを常駐させて、システム設計を丸投げするに至るのだ』、ここで登場する「日本の役人は「文系」としているが、実際には「理工系」で、その気になれば「ラフ」な「システムを設計」は可能な筈だ。「CMMI」については、初耳だが、日本がどうして使っていないのかの説明がほしいところだ。
・『マイナンバーが失敗しているもう1つの理由  マイナンバーが失敗しているもう1つの理由は、データベースが役所起点になっているからだ。本来は人間(国民一人一人)が起点になってデータベースを構築していかなければいけないのに、「健康保険や年金は厚労省、運転免許証は警察庁、パスポートは外務省、住民票は市区町村……」というように、役所ごとにデータベースをつくっている。役所ごとにシステム発注をして、業者選定をしているから、同じマイナンバーシステムであっても、市区町村ごとに異なるベンダーがシステムを開発している状況が生まれる。 開発ベンダー側も、競合他社に仕事を奪われたくはないから、他社が容易に改修などできないようにシステムをガッチリと構築する。そうなると、システム同士の相性が悪くなり、それを噛み合わせて統合しようとすれば、悪名高いみずほ銀行のシステムのように、いざ統合というと何十年にもわたり苦闘することになるのだ。 そもそも中央集権の日本は、国民データベースとは相性がいいはずなのだ。これがアメリカであれば、州ごとに法律があり基準が違うから、国全体で国民データベースを運用するのは非常に難しい。しかし、日本は地方自治と言いつつ、憲法第8章によって地方公共団体は国が決めたことしかできない。従って基準が1つしかない日本の場合、国民データベースは人間起点でつくれば1つのデータベースで済んで、適用する基準も一律同じでシンプルだから、国民データベースの構築・運用は本来はやりやすいはずなのだ。 しかし、12省庁・47都道府県・1718市町村・23特別区などがそれぞれバラバラにシステムを開発してしまっているがために、今のような「費用対効果の悪い」マイナンバーシステムができあがってしまう。これをマイナポータルと言ってバラバラなものを統合すればなんとかなると考えているが、昔からコンピュータ業界で言われているように「ゴミを集めればゴミの山となる」だけの話だ』、「12省庁・47都道府県・1718市町村・23特別区などがそれぞれバラバラにシステムを開発してしまっているがために、今のような「費用対効果の悪い」マイナンバーシステムができあがってしまう」、地方自治体のシステムを国ではなく、地方自治体にやらせたツケが「非効率」な「システム」になったのであろう。総務省(旧自治省)の責任だ。
・『デジタル庁はゼロからやり直せ  日本のシステム開発に必要なのは、ペーパーテストが得意な役人ではなく、建築界でいうところの安藤忠雄氏のような人物なのだ。先述のとおり、システムをコンセプトからスケッチして、それを実際に構築する人に伝える「見える化」ができる人間のことである。安藤氏は世界で活躍する超一流の建築家だが、ハーバード大学の教授も務めていて、英語が流暢でなくても、クレヨンを手にして模造紙にスケッチをして「こんな感じだ、わかるか?」と学生に授業すると不思議と通じる「見える化」の天才でもあるのだ。 システムをデザインする人間は、日本人でなくてもいいし、成人である必要すらない。国内のITゼネコンよりも、クラウドソーシングサービスを通じて世界中にいる10~20代の優秀な人材につくらせたほうが、はるかに使いやすくて良いシステムが安価にできるだろう。システム開発はアーキテクチャーとプログラミング言語の世界だから、日本のことや日本語を知らなくてもソフトウエアはつくれるからだ。 菅政権は21年9月にデジタル庁を発足させるそうだが、コロナ対策の失政で支持率低迷が続く中で、どこまで効果的で持続的なデジタル政策を企画・実行できるか疑問である。期待できない政府・自民党のもとでデジタル庁長官になる人物は、貧乏くじを引くことになるだろう。私が30年ほど前に著した『新・大前研一レポート』(講談社)にある「国民データベース構想」を実行すればいいだけのことなのだから、マイナンバーの誤ちを認めた菅総理と新任されるデジタル庁長官には本稿と同書を熟読し、既存のマイナポータルの改修を進めるのではなく、「国民データベース構想」の実現にゼロからあたってほしい』、「菅総理と・・・デジタル庁長官」には多くを期待できないのではなかろうか。

次に、5月31日付けPRESIDENT Onlineが掲載したメディア激動研究所 代表の水野 泰志氏による「「年収、病歴、犯歴も筒抜け」プライバシーよりデジタル庁を優先した菅政権の拙速さ EUは「消去を求める権利」を明記」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/46447
・『世界の潮流は「集中管理」から「分散管理」だが…  デジタル改革関連法が成立し、菅義偉首相肝いりの「デジタル庁」が9月1日に発足することになった。 菅首相は「長年の懸案だったわが国のデジタル化にとって大きな歩みとなる」とデジタル庁創設の意義を強調するが、これを額面通りに受け止めることができるような単純な話ではない。 デジタル化がもたらす利便性の陰で、政府が国民の個人情報を自在に収集・保有・活用できる道を広げるものであり、言い換えれば「一億総プライバシー侵害」が現実味を帯びてきたともいえる。国家による個人情報の「集中管理」が進み、「監視社会」につながる危険性を覚悟しなければならないだろう。 個人情報を保護するためのチェック機能は脆弱ぜいじゃくなままで、情報漏洩や悪用の懸念は高まる一方だ。知らないうちに、自分の情報が漏れたり悪用されたりしているのではないかという不安がつきまとう。これでは、安全安心なデジタル社会は期待できるはずもない。 個人情報をめぐる世界の潮流は、さまざまなリスクを避けるため、「集中管理」から「分散管理」に移ろうとしている。世界に遅れた「デジタル劣等国」の拙速な改革は、さらに周回遅れの「デジタル敗戦国」を生みかねない』、「「一億総プライバシー侵害」が現実味を帯びてきたともいえる。国家による個人情報の「集中管理」が進み、「監視社会」につながる危険性を覚悟しなければならない」、とんでもない法案だ。
・『「個人情報保護より利活用」透ける政府の思惑  「誰もがデジタル化の恩恵を最大限受けることができるデジタル社会をつくり上げる」 「すべての行政手続きをスマートフォン一つで60秒以内に可能にする」 「マイナンバーに預貯金口座をひも付ければ給付金の受け取りは簡単になる」 政府は、デジタル庁の発足に向けて、デジタル社会を彩る美辞麗句を並べ立てた。そこには、個人情報の保護の強化よりも利活用を推進しようとする思惑が透けてみえる。 では、政府が描くデジタル社会は、本当に国民にとって望ましい姿なのか。もっとも留意しなくてはならないのが、国民の個人情報はきちんと保護されるのかという問題だ。 まず、個人情報保護の歴史を振り返ってみる。 プライバシー権が注目されるようになったのは、コンピューターやインターネットなどデジタル社会の進展と密接にかかわっている』、なるほど。
・『自治体から始まったプライバシー保護条例  欧米での議論が先行する中、国内では1975年に東京都国立市が「個人的秘密の保護」を盛り込んだ「電子計算組織の運営に関する条例」を制定。これが、日本における最初のプライバシー保護条例とされる。 その後、全国の自治体が相次いで個人情報の保護に乗り出し、それぞれの実情に応じたルールが定められた。1984年には福岡県春日市で個人情報全般を保護する条例が初めて制定された。 国レベルでは、自治体の動きにずっと遅れて1988年、初めて「行政機関個人情報保護法」が制定された。コンピューターで個人情報を扱う際の保護のあり方を定めたもので、対象は国の行政機関のみだった。 1990年代後半に入り、ネットの急速な普及にともなって個人情報の保護に対する関心が高まると、ようやく2003年に民間事業者、行政機関、独立行政法人をそれぞれ対象とする3本の個人情報保護法が成立した。 2015年には、ビッグデータの活用を実現するために「個人情報保護法」が改正された』、「プライバシー保護条例」は「自治体から始まった」というのは初めて知った。
・『法改正で自治体が培った厳しい規制が吹き飛んだ  そして今回、デジタル庁創設とのセットで、個人情報保護の法体系が全面的に一新された。キーワードは「統一」だ。 まず、民間事業者、行政機関、独立行政法人の3つに分かれている個人情報保護法を統合し、1つにまとめた。 次に、約1800の自治体や国の行政機関の数だけ個人情報保護のルールがあるという「2000個問題」の解消を図った。個人情報の定義を国が定めて自治体にも適用し、国と自治体のルールを統一するという大ナタを振るったのだ。 これにより、各自治体がこれまで運用してきた条例はすべてリセットされることになった。年収、病歴、犯歴といった「要配慮情報」の収集を規制するなど、国の統一基準よりも厳しいルールを定めてきた自治体は少なくないが、そんな条例は一切吹き飛んでしまった。 国に基準を合わせるということは、ルールを緩和するということにほかならない。 政府は、「自治体がもつ個人情報も匿名加工すれば民間事業者に提供できるようになる」「災害時の避難者情報が自治体間で共有しやすくなる」など国と自治体のルール統一の利点を強調するが、自治体が住民との間で長年にわたって築いてきた個人情報保護ルールが後退することは、住民にとって望ましいはずがない。 自治体が先行し国が後追いする形で整えられてきた個人情報保護の枠組みは、一大転機を迎えたのである』、「年収、病歴、犯歴といった「要配慮情報」の収集を規制するなど、国の統一基準よりも厳しいルールを定めてきた自治体は少なくないが、そんな条例は一切吹き飛んでしまった。 国に基準を合わせるということは、ルールを緩和するということにほかならない」、ずいぶん乱暴なことが決まってしまったようだ。
・『つぶされた個人の「自己情報コントロール権」  さらに懸念されるのは、プライバシー権の侵害の可能性だ。それは、個人情報を主体的にコントロールできるのかという根元的なテーマにぶつかる。 もともと、行政機関には「業務の遂行に必要で相当な理由のあるとき」は、本人の同意がなくても個人情報の目的外使用や第三者への提供を認められているが、個人情報保護法の一本化でさまざまなデータが集めやすくなるため、こうした個人情報の利活用は増大することが予想される。 この流れに対抗するためには、自分の情報の収集や利用を他人に許さず、消去や修正もできる「自己情報コントロール権」の確立が重要になる。 政府は、閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」で、「個人が自分の情報を主体的にコントロールできるようにする」とうたったにもかかわらず、「デジタル化の憲法的役割」を担う「デジタル社会形成基本法」には盛り込まなかった』、「自己情報コントロール権」を「基本方針」ではうたったのに、「基本法」には盛り込まなかった」のは何故なのだろう。野党は追求したのだろうか。
・『EUは「消去を求める権利」を明記  政府は、個人が自分の情報を主体的にコントロールすることについて閣議決定までしていたにもかかわらず、これを葬った。「さまざまな見解があり、一般的な権利として明記することは適切ではない」と弁明したが、まさに自家撞着といえる。 結局、政府は、自己情報コントロール権の明示には応じなかった。 このため、いくら本人であっても、政府がどんな情報を保有しているのか、確かめるすべはない、ということになる。 自分の個人情報について「消去を求める権利」を明記している欧州連合(EU)の「一般データ保護規則(GDPR)」には比ぶべくもない。 個人情報保護法の改正は、データの利活用拡大の歴史であって、データ保護の強化を進めてきたわけではないことがわかる』、「個人情報保護法の改正は、データの利活用拡大の歴史であって、データ保護の強化を進めてきたわけではないことがわかる」、日本政府がここまで「データ保護」に後ろ向きとは困ったことだ。
・『マイナンバーカードの落とし穴  次に、個人情報集約のカギとなるマイナンバーカードの問題点を探ってみる。 マイナンバー事業はデジタル庁の中核的業務であり、政府は「2022年度末に、ほぼ全国民にマイナンバーカードが行き渡るよう強力に推進する」と鼓舞する。 マイナンバーカードに搭載される情報(法律だけでなく政府の判断=政令や省令で決められる)を整理してみる。 個人情報は、以下のように大別できる。 +センシティブ情報=思想・信条などの憲法規定情報 +プライバシー情報=医療、教育、資産などの要配慮情報 +パーソナル情報=氏名、住所、アドレスなどの個人識別情報 +オープン情報=政治家の資産などの公開義務付け情報 このうち、当初の予定では、パーソナル情報と一部のプライバシー情報が対象となっていた』、なるほど。
・『マイナンバーカードの利便性と甚大な被害のリスク  ところが今回、プライバシー情報も全面的に搭載する形が整えられることになった。さらにセンシティブ情報に近い生体情報(指紋、顔認証など)も視野に入っている。 しかも、これまでマイナンバーカードをつくるかどうかは個人の自由だったが、健康保険証や運転免許証との一体化により、いや応なしに義務化が進むことになる。 政府は、当面の効用として、預貯金口座をマイナンバーカードとひも付けることで公金給付の迅速化を図るというが、それは個人の財布の中身をのぞき見することになりかねない。コロナ禍で起きた一律10万円の特別定額給付金の大混乱は記憶に新しいが、今後、給付金がどれだけ配られる機会があるだろうか。 さまざまな個人情報が詰め込まれたマイナンバーカードは、「これ一枚」で済む利便性とは裏腹に、情報漏洩や不正利用が起きた場合には甚大な被害につながるリスクをはらんでいることを肝に銘じておかなければならない』、「情報漏洩や不正利用が起きた場合には甚大な被害につながるリスクをはらんでいる」、のは重大で、取るに足らないメリットでは到底合理化できない。
・『デジタル社会では「性悪説」に立つことが求められる  これまで、個人情報の取り扱いの監督は、民間事業者は個人情報保護委員会、国の機関は総務省、自治体は自治体自体とバラバラで、有用な情報が共有できないという問題が指摘されてきた。今後は一元的に個人情報保護委員会が官民すべての個人情報をチェックする仕組みに変わり、権限は大幅に拡大した。 だが、「指導」「勧告」「命令」という三段階の処分のうち、省庁や行政機関に対しては「命令」ができず、バランスを欠く運用を強いられる。平井卓也デジタル担当相は「行政機関が勧告に従わない事態は想定されない」と強弁したが、保証の限りではない。 また、犯罪捜査や国防にかかわる情報は、監視の対象から事実上外されている。さらに、特定秘密保護法に基づいて秘密指定された情報は、触れることすらできない。 個人情報の監督体制は、実に脆弱なのだ。 にもかかわらず、情報漏洩などの不祥事は後を絶たない。少し前では2015年の日本年金機構の個人情報125万件流出事件、直近では5月21日に発覚した婚活アプリ「Omiai」の会員171万人分の運転免許証画像データ流出事件。「LINE」の利用者情報の海外流出リスク問題も世間を騒がせたばかり。 デジタル社会では、個人情報の漏洩や不正利用は防ぎきれないという「性悪説」に立つことが求められる』、
・『デジタル化がもたらす監視社会  首相直轄で強大な権限を持つことになるデジタル庁は、国民の個人情報が集積されれば好むと好まざるにかかわらず国民への監視体制を強めることができるようになる。 このため、「個人情報が政権中枢に吸い取られる可能性が極めて高くなる」「官邸によるデジタル独裁につながりかねない危険がある」「個人情報が利便性という美名に隠れて悪用されかねない」「個人データの利活用を優先しプライバシー権などを軽んじている」など、監視社会に進むことを懸念する声がふつふつと湧き上がっている。 菅首相は「個人情報の一元管理を図るものではなく、システムやルールを標準化・共通化して、データも利活用しようとするものだ」と火消しに躍起だが、いったん法律による枠組みができてしまえば、政権に都合のよいように拡大解釈されたり解釈変更したりして運用される事例は、枚挙にいとまがない』、「官邸によるデジタル独裁につながりかねない危険がある」、その通りだ。
・『プライバシーよりデジタル庁を優先した拙速さ  63本もの法律を束ねたデジタル改革関連法の国会審議は、衆議院でわずか27時間、参議院でも25時間行われただけだった。国民生活に重大な影響を与える法律にもかかわらず、積み残した課題は山ほどある。 衆院では行政機関などが持つ個人情報の目的外利用や第三者提供の要件の認定の厳格化など28項目、参院でもデジタル化を国民監視のための情報収集・一元管理の手段としないことなどを求める29項目もの付帯決議がついた。 デジタル庁の9月発足に間に合わせるためとはいえ、この状況は、いかに拙速だったかを物語っている。 国民の不安と不信を抱えたまま、3カ月後には、デジタル社会に向けた新たなかじ取りが始まる。情報共有の利点に惑わされず、自分の情報がどのように扱われるかを常にチェックしていかなくてはならない』、「デジタル庁の9月発足に間に合わせるためとはいえ、この状況は、いかに拙速だったかを物語っている」、「付帯決議」をつけるよりも、こんな悪法を修正させることはできなかったのだろうか。便りない野党だ。

第三に、8月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「FAX廃止、反対する霞が関こそ絶対に廃止すべき理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278549
・『霞が関で進めようとしている「FAX廃止」に官僚たちが抵抗しているという。それなりに反対する理由はあるようだが、筆者は霞が関にこそFAX廃止を強く勧めたい。真面目に仕事をする官僚にとっては、国民の期待に応え、自分自身を守ることにつながるからだ』、興味深い提案だ。
・『「FAX廃止」に対して霞が関の意外な抵抗  河野太郎行政・規制改革相が旗を振る「省庁のFAX廃止」が難航しているという(「読売新聞」7月26日『河野行革相要請の「ファクス廃止」、霞が関が抵抗…「国会対応で必要」など反論400件』)。 後に説明するが、筆者は霞が関にこそFAX廃止を強く勧めたい。だが、メールのセキュリティーを心配する声や国会対応に必要であるといった声が多く寄せられていて、印鑑廃止の際よりも抵抗が多いようだ。河野大臣は新型コロナウイルスのワクチン接種の担当でもあり、FAX廃止にまで手が回りにくい現状かもしれないが、ここは一国民として応援したいところだ』、「河野大臣は新型コロナウイルスのワクチン接種の担当」、とはいっても「FAX廃止」も大いに頑張ってほしい。
・『FAXの代替手段とは? 筆者の経験則  当面、FAXを廃止するにはどうしたらいいかを、筆者の経験から説明しよう。 あらかじめお断りしておくと、筆者は特別にデジタルに強いわけではない。仕事やプライベートなやりとりでメールやSNS(3種類くらい)を使うし、パソコンで文書を作る作業は多い。とはいえ、情報ツールに関する知識や使いこなしの度合いは年齢並み(63歳だ)の平均くらいだろう。 つまり、フェイスブックに食べ物や旅行の自慢話などを書き込んでいる暇な初老男性と同レベルだ(食べ物や旅行の話を書きたいとは思わないが)。つまり、官庁や会社の幹部クラスの管理職なら、筆者程度のことはできるはずだという前提で考えてもらっていい。 筆者は、5年前に年賀状をやめ、3年前にFAXを完全に廃止し、近い将来オフィスと自宅の固定電話を解約するか否かを検討中だ。 FAXについては、10年近く前から自分では発信しない状態になっていたのだが、受信だけできるようにしていた(受信はパソコンで。直接印刷はしない)。しかし、来るのは用のないセールスのFAXであったり、送付先の番号違いと思われる誤送信FAXであったりで、手間と紙の無駄(プリントした場合)であった。 仕事柄、原稿や書籍のゲラをやりとりすることが多いのだが、プリントに手書きで赤入れした場合でも、赤入れ後のプリントアウトをスキャンしてPDFファイルをメールで送る方がFAXよりも手間がかからない。 また、枚数が少なく手元にスキャナーがない場合は、スマートフォンで写真を撮って送ると用が足りることが分かった。もちろん、PDFをタブレットに読み込んで直接修正する方法でもいいのだが、「紙ベースで作業をしたい」と思っていてもFAXなしで問題ないのだ。 仕事に必須でないと分かると、FAXの連絡を絶ってしまう方が無駄やコミュニケーションのミスがないので好都合だ。それで、FAXの受信もやめることにした。以来3年間、一切困っていない。注意が必要だと思ったのは、ホームページや同窓会の住所録などに載っていたかつてのFAX番号を削除しなければならなかったことくらいだ』、私も「FAX」は持ってないので、どうしても送信する必要がある際にはコンビニを使っている。
・『FAX廃止の実行に当たって備えておくべき2つのツールとは?  備えるべきツールとして強くお勧めしたいのはスキャナーと、製本された書類の背表紙部分を切ることができるカッターだ。いずれも、ネットで、「自炊」という単語とセットで検索すると、具体的な商品名と使い勝手などの情報が得られるはずだ。 自炊とは、書籍を自力で電子データ化(主にスキャンしてPDF化)することを指す。筆者は蔵書を4000冊近くPDF化したが、これも大変便利だ。書棚4本分くらいのスペースを節約できた。 最近のスキャナーは、ページ数が多くてもあっという間に(毎分両面で20〜40枚くらいの速さで)スキャンが完了するし、スキャンが終わった書類をどんどん捨てるとオフィスや書斎が片付いて好都合だ。 官庁や会社の場合、スキャンした書類の原本を捨てられない場合もあるだろうが、製本された報告書や雑誌、論文、企画書、手描きのメモなどを「溜まったらスキャンして捨てる」と決めておくと、大いに片付く。 近年、手書きの文字まで含めてPDFで検索できる技術が発達したので、書類を見つけるにもPDFが便利な場合が多いことを付記しておく。 なお、年賀状もやめても何も困らなかった。今や面識のない人も含めて、本当に必要だと思った場合に連絡を取ることは難しくない。 また、電話は仕事のコミュニケーション手段として不都合かつ迷惑な場合が多いことは、以前に本連載に書いた(詳細は『ひろゆき氏の電話不要論に大賛成、電話は「不愉快で不適切」な5つの理由』)。電話の中でも固定電話がぜひとも必要だというケースはほとんどない。オフィス、自宅ともに固定電話の契約解除を検討中だ。 FAXに関してまとめておくと、個人及び小規模なオフィスにあっては、FAXを廃止することで何ら不便はなく、仕事は便利になっていることを強調しておく』、「蔵書を4000冊近くPDF化したが、これも大変便利だ。書棚4本分くらいのスペースを節約できた」、大したものだ。
・『霞が関こそ「FAX廃止」を実行すべき理由  さて、霞が関の官公庁がFAXを使い続けることの最大の問題点は仕事の能率よりも、むしろ「デジタル化されない文書のやりとり」を許容することの不都合にある。 例えばPDF化された文書なら、電子データとして残せるし、残さなければならない。メールもサーバーに残る。しかしFAXでやりとりすると、送り手と受け手が書類を捨ててしまえば、やりとりの事実と内容は残らない。 最近の複合機にはFAXの送受信記録が残るものも多いようだ。しかし件数が限られるなど、メールをはじめとしたデジタルなやりとりと比べると保存性は大きく劣る。 FAXの証拠を残さない性質は、行政や事務一般にあるべき価値観からすると不都合だが、証拠を残さないやりとりを文書ベースで行いたい向きにとっては好都合だ。この事情は、今どきまだFAXのやりとりを残したいと考える潜在的に大きな理由だろう。そしてこの性質は、国民一般にとっての不都合になり得る。 霞が関がFAXを廃止して電子的なデータとして文書を含むやりとりをし、記録するとしよう。それなら、官僚・政治家・民間のやりとりが記録に残って、よくある「言った・言わない」問題や「記憶にございません」問題を大幅に減らすことができるはずだ。 そして、今や音声データを文字に変換することが難しくなくなっているし、動画も記録として残すことができる。 ZoomやMicrosoft Teamsなどのオンライン会議ツールを使うと、政治家と官僚、あるいは官僚同士のやりとりを記録することが容易だ。もちろん、重要な会議は今も議事録作成のために録音しているのであり、音声をデータとして残すことはもともと容易だ。 例えば官僚は、政治家とのやりとりを動画ないし、少なくとも音声データとして残した上で、今まで通り要点を文書に残せばいい。 政治家(例えば大臣)のパワーハラスメントや不適切な発言、過剰な労働の強要などは、言動が全て電子データとして記録に残る形にしておくと問題が起きたときに後から検証可能になる。そして、国民・有権者の「知る権利」にもより適切に応えられるようになる』、「FAXの証拠を残さない性質は、行政や事務一般にあるべき価値観からすると不都合だが、証拠を残さないやりとりを文書ベースで行いたい向きにとっては好都合だ。この事情は、今どきまだFAXのやりとりを残したいと考える潜在的に大きな理由だろう。そしてこの性質は、国民一般にとっての不都合になり得る」、ズバリ本質を突いた指摘だ。
・『FAX廃止の要点は「取り調べの可視化」と同じ  こうした記録のデジタル化を推進することは、真面目に仕事をする官僚にとっては自分自身をプロテクトする環境を作ることになり得るはずなので、前向きに考えていいのではないか。真面目で有能な政治家にとってもメリットになるだろう。 物事の構造は「取り調べの可視化」と同じだ。被疑者への不適切な圧迫も、横暴な政治家の官僚への無理強いも、言動の記録が残るようになれば減るはずだ。正しいことを適切に発言し、自分のポジションを乱用しなければ何の問題もない。むしろ、問題のないことを立証できる点は安心材料のはずだ。 もちろん、行政を効率化するためにも、より望ましいものにするためにも、FAXの廃止に続いてデジタル化のためにやるべき多くの作業がある。デジタルな行政文書の規格化、データを残すルール、データをやりとりする上でのセキュリティーの確保などが挙げられるだろう。しかし、多くは既に技術的に可能だろうから、適切なリーダーシップの下に早急に実行してほしい。 河野規制改革大臣と平井デジタル担当大臣の二人、及びこれから発足するデジタル庁に大いに期待したい。 まずは、霞が関の業務関係にあってFAXを即刻廃止しよう。FAXなしで仕事はできるはずだし、その問題解決が行政のデジタル化を一歩進めるきっかけになるはずだ』、「横暴な政治家の官僚への無理強いも、言動の記録が残るようになれば減るはず」、その通りだが、そうした「政治家」への忖度を競い合う「官僚」も、やはり「FAX」存続を選択するのではなかろうか。
タグ:電子政府 (その4)(大前研一「日本のシステム開発が失敗ばかりする根本原因」 デジタル庁はゼロからやり直せ、「年収 病歴 犯歴も筒抜け」プライバシーよりデジタル庁を優先した菅政権の拙速さ EUは「消去を求める権利」を明記、FAX廃止 反対する霞が関こそ絶対に廃止すべき理由) プレジデント 大前 研一 「大前研一「日本のシステム開発が失敗ばかりする根本原因」 デジタル庁はゼロからやり直せ」 「政治家や官僚は、どういうシステムをつくったらいいかイメージができない。イメージできないのでどうするかといえば、システム開発を請け負う企業、いわば「ITゼネコン」を呼んで、すべてをぶん投げてしまうのだ。これは泥棒に鍵を渡す行為に等しい」、「政治家」はともかく、「官僚」は「どういうシステムをつくったらいいか」、大枠だけでも「イメージ」すべきだ。「下請け企業、孫請け企業に」「できないことを」「押し付けていく」のではなく、大枠に基づいて発注していく正常な形にすべきだろう。 ここで登場する「日本の役人は「文系」としているが、実際には「理工系」で、その気になれば「ラフ」な「システムを設計」は可能な筈だ。「CMMI」については、初耳だが、日本がどうして使っていないのかの説明がほしいところだ。 「12省庁・47都道府県・1718市町村・23特別区などがそれぞれバラバラにシステムを開発してしまっているがために、今のような「費用対効果の悪い」マイナンバーシステムができあがってしまう」、地方自治体のシステムを国ではなく、地方自治体にやらせたツケが「非効率」な「システム」になったのであろう。総務省(旧自治省)の責任だ。 「菅総理と・・・デジタル庁長官」には多くを期待できないのではなかろうか。 PRESIDENT ONLINE 水野 泰志 「「年収、病歴、犯歴も筒抜け」プライバシーよりデジタル庁を優先した菅政権の拙速さ EUは「消去を求める権利」を明記」 「「一億総プライバシー侵害」が現実味を帯びてきたともいえる。国家による個人情報の「集中管理」が進み、「監視社会」につながる危険性を覚悟しなければならない」、とんでもない法案だ。 「プライバシー保護条例」は「自治体から始まった」というのは初めて知った。 「年収、病歴、犯歴といった「要配慮情報」の収集を規制するなど、国の統一基準よりも厳しいルールを定めてきた自治体は少なくないが、そんな条例は一切吹き飛んでしまった。 国に基準を合わせるということは、ルールを緩和するということにほかならない」、ずいぶん乱暴なことが決まってしまったようだ。 「自己情報コントロール権」を「基本方針」ではうたったのに、「基本法」には盛り込まなかった」のは何故なのだろう。野党は追求したのだろうか。 「個人情報保護法の改正は、データの利活用拡大の歴史であって、データ保護の強化を進めてきたわけではないことがわかる」、日本政府がここまで「データ保護」に後ろ向きとは困ったことだ。 「情報漏洩や不正利用が起きた場合には甚大な被害につながるリスクをはらんでいる」、のは重大で、取るに足らないメリットでは到底合理化できない。 「デジタル社会では、個人情報の漏洩や不正利用は防ぎきれないという「性悪説」に立つことが求められる」、同感である。 「官邸によるデジタル独裁につながりかねない危険がある」、その通りだ。 「デジタル庁の9月発足に間に合わせるためとはいえ、この状況は、いかに拙速だったかを物語っている」、「付帯決議」をつけるよりも、こんな悪法を修正させることはできなかったのだろうか。便りない野党だ。 ダイヤモンド・オンライン 山崎 元 「FAX廃止、反対する霞が関こそ絶対に廃止すべき理由」 興味深い提案だ 「河野大臣は新型コロナウイルスのワクチン接種の担当」、とはいっても「FAX廃止」も大いに頑張ってほしい。 私も「FAX」は持ってないので、どうしても送信する必要がある際にはコンビニを使っている。 「蔵書を4000冊近くPDF化したが、これも大変便利だ。書棚4本分くらいのスペースを節約できた」、大したものだ。 「FAXの証拠を残さない性質は、行政や事務一般にあるべき価値観からすると不都合だが、証拠を残さないやりとりを文書ベースで行いたい向きにとっては好都合だ。この事情は、今どきまだFAXのやりとりを残したいと考える潜在的に大きな理由だろう。そしてこの性質は、国民一般にとっての不都合になり得る」、ズバリ本質を突いた指摘だ 「横暴な政治家の官僚への無理強いも、言動の記録が残るようになれば減るはず」、その通りだが、そうした「政治家」への忖度を競い合う「官僚」も、やはり「FAX」存続を選択するのではなかろうか。
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維新の会(その3)(吉村知事に大阪府民の怒り沸騰 在阪メディアの「共犯関係」も問題、大阪府は時短協力金支給も全国ビリ 委託先パソナに20億円、大阪以外で初めて誕生した「維新系知事」の実情 兵庫県知事選「本当の勝者」は誰だったのか) [国内政治]

維新の会については、2019年9月27日に取上げた。久しぶりの今日は、(その3)(吉村知事に大阪府民の怒り沸騰 在阪メディアの「共犯関係」も問題、大阪府は時短協力金支給も全国ビリ 委託先パソナに20億円、大阪以外で初めて誕生した「維新系知事」の実情 兵庫県知事選「本当の勝者」は誰だったのか)である。

先ずは、本年5月10日付けNEWSポストセブン「吉村知事に大阪府民の怒り沸騰 在阪メディアの「共犯関係」も問題」を紹介しよう。
https://www.news-postseven.com/archives/20210510_1657951.html?DETAIL
・『新型コロナウイルスの感染爆発に歯止めがかからない大阪。3度目の緊急事態宣言を経て、吉村洋文・府知事に対する府民の怒りも沸騰している。 「この病院のコロナ病床は本来5床なのに、保健所や救急隊の強い要請でコロナ疑いを含めた患者11人が入院中です。1人が重症化したため調整役の『大阪府入院フォローアップセンター』に連絡したが、転院先も見つからない。友人が勤める小さな病院ではコロナ患者とそれ以外の患者の病床を分けることすらできていません。大阪の医療現場は最悪の状況です」 大阪府内の中規模総合病院に勤務する看護師は悲鳴を上げた。重症病床使用率がついに100%を超えた大阪では医療崩壊が現実となっている。 「感染者のうち入院できるのは10人に1人で、それ以外は自宅やホテルで療養を強いられています。療養中に呼吸不全になっても入院できなかったり、搬送先が決まるまで8時間も救急車の車内で酸素吸入したケースもある。自宅待機中に亡くなる患者も相次いでいます」(在阪ジャーナリスト) 限界を迎えている医療現場の怒りの矛先は吉村知事に向かっている。前出の看護師が憤る。 「最大の過ちは2度目の緊急事態宣言を1週間早めて解除したことやと思います。あの時点でも大阪で変異株の死亡例が出ていたのに、吉村知事は解除に舵を切った。多くの医療従事者は『火事がまだ燃えているところに油を注いだようなもんや』と唖然としていました。吉村知事のせいで、大阪はオシマイや!」』、「最大の過ちは2度目の緊急事態宣言を1週間早めて解除したこと」、なるほど。
・『テレビも同罪  第1波で矢継ぎ早に対策を打ち出し、「コロナ対策の若きリーダー」と称賛された吉村知事だが、今や聞こえるのは失望の声ばかりだ。 「吉村さん、北新地を潰すつもりですか」 と呼びかけるのは、キタの歓楽街の飲食店を束ねる北新地社交飲料協会理事長の東司丘興一氏だ。 「ずっと吉村さんを応援していたけど、最近は考えが変わりました。1度目の緊急事態宣言の時は、我々北新地の仲間は、ほぼ100%自粛に従いました。ところが、その後は多くの人が“いいかげんにせい”と声を上げ始めた。コロナ前は470軒ほどあった協会加盟店も、儲けもなく会費を払うのがしんどいと、いまや400軒を切ろうとしています。 規制をやるならやるで明確な期限や罰則を設けるなど徹底した対策を講じるべきだった。あらゆる対策が場当たり的なんです。このままでは、江戸時代から続く北新地が終わってしまいます」 吉村知事は「見回り隊」や「給付金」などの対策を講じているが、それも有名無実化している。天王寺駅近くで営業する飲食店店主が言う。 「『見回り隊』はひどいもんや。2人1組で巡回して、店の外から換気の状態やアクリル板の設置をチラッと見て、あとは店の人間と立ち話をするだけ。店内に入らへんのに、何の取り締まりもできんでしょう。 時短や休業に応じた店への協力金も、前回は申請から支給まで2か月かかった。今回もいつ給付されるかわからない。店が潰れるのが先か、入金が先かというギリギリの状態ですわ」 観光業界からも厳しい声が飛ぶ。日本城タクシーの坂本篤紀社長が語る。 「インバウンドが激減したタクシー業界は2019年の6割程度の売り上げで壊滅状態や。それもこれも吉村はんが仕事をしとらんから。これまで大阪は何でも専決処分で決めて、府立病院の職員の給料を下げたり、第3波の後にすぐ病床を減らしてきたのやから、知事の権限で医療従事者の給料を上げればいいやんか。 吉村はんは『コロナ対策のために個人の自由を制限すべき』と言ったが、まずは自分の権限でしっかりとした対策を打つべきです」 府民の不満はテレビ局にも向かう。 「吉村知事は各テレビ局に順繰りに生出演していますが、最近は視聴者から『テレビに出る暇があるならコロナを何とかしろや』『パフォーマンスばかりの奴を出演させるな』とクレームが増えている」(在阪テレビ局員) ジャーナリストの大谷昭宏氏は、吉村知事と在阪メディアの「共犯関係」を断罪する。 「この期に及んでテレビに出続ける吉村知事もおかしいし、引っ張り出すテレビ局も間違っています。吉村知事は即刻テレビ出演をやめてコロナ対策に集中し、在阪テレビ局は専門家を呼んでその対策の是非を報じるべきです。 先週、あるテレビに出演した後に吉村知事が『5月11日に緊急事態宣言解除なんて夢のまた夢ですよ』と弱々しくつぶやいたと関係者から聞きましたが、その通りになった。そして、それは自らの無策の結果であると自覚してほしい」 顔面蒼白の知事に挽回の機会はあるだろうか』、「吉村知事と在阪メディアの「共犯関係」を断罪・・・「この期に及んでテレビに出続ける吉村知事もおかしいし、引っ張り出すテレビ局も間違っています。吉村知事は即刻テレビ出演をやめてコロナ対策に集中し、在阪テレビ局は専門家を呼んでその対策の是非を報じるべきです」、同感である。

次に、6月15日付け日刊ゲンダイ「大阪府は時短協力金支給も全国ビリ 委託先パソナに20億円」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/290562
・『大阪府で飲食店の命綱「時短協力金」の支給がずばぬけて遅れていることが判明。コロナ自宅死に続き、またもや全国ワーストの汚名である。 13日付の朝日新聞によると、今年1月に2度目の緊急事態宣言が出された11都府県のうち、6府県の支給率は6月上旬時点で9割を超え、東京が84%。最下位の大阪は64%と突出。対応する職員が3月末まで2、3人しかいなかったという。府の担当者に聞いた。 「対応できる職員の人員不足などもあり、業務を全て民間に委託。委託先は人材サービスの『パソナ』です。ところが、申請書類の不備などが多く、判断に迷うケースが多々あり、保留がたまったため、遅れが生じた。パソナの人員は当初の200人から400人に増員し、助言する府職員も現在は20人で対応しています」(商工労働部経営支援課) そもそも東京都は協力金業務の委託スタッフ300人に対し、300人の都職員を充てている。支給の“フン詰まり”は起こるべくして起こったようだ。 「飲食店からは審査が遅い上、厳しすぎるとの悲鳴が上がっています。ただ、こうなるのは目に見えていた。民間スタッフには裁量権がなく、府のマニュアル通り厳格に審査し、迷ったら保留にする。本来、権限を持つ府職員が陣頭指揮を執り、臨機応変に次々とさばくべきなのに、わずか2~3人では“フン詰まり”は当然です」(府議会関係者)』、確かに「権限を持つ府職員が陣頭指揮を執り、臨機応変に次々とさばくべきなのに、わずか2~3人では“フン詰まり”は当然です」、その通りだ。
・『巨額の税金はまるでパソナ支援金  仕事はノロマでもパソナへの委託料は巨額だ。1月28日から6月末までで20億8000万円に上り、さらに業務が継続する限り、7月以降も費用が発生し続ける。 「委託先の選定は時間がない中、2社に声をかけました。もう1社は見積もりを出さず、辞退したため、パソナに発注しました」(前出の担当者) 費用が高いか、安いかも分からぬままパソナに「丸投げ」とは驚きだ。 パソナグループ広報部は、支給の遅延について「大阪府さまが仕様書に示された手続きにのっとり、適正かつ迅速に通常処理を行ってきております」とし、委託費用の内訳は「守秘義務」を理由に回答を拒んだ。 パソナグループの竹中平蔵会長は2012年に日本維新の会の最高顧問格とされる衆院選の候補者選定委員長に就任。政策ブレーンを務めるなど維新と関係が近い。 巨額の税金を“言い値”でフンだくられ、リターンは「遅さ日本一の命綱」――。まるでパソナ支援金とは、吉村知事はほんまもんのワースト首長や』、「巨額の税金を“言い値”でフンだくられ、リターンは「遅さ日本一の命綱」」、これでは確かに「まるでパソナ支援金」だ。

第三に、8月3日付け東洋経済オンラインが掲載したノンフィクションライターの松本 創氏による「大阪以外で初めて誕生した「維新系知事」の実情 兵庫県知事選「本当の勝者」は誰だったのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/444613
・『7月に行われた兵庫県知事選挙で自民党と日本維新の会の推薦を受けて当選した斎藤元彦知事(43)が1日に就任し、今日から本格的に始動する。「大阪以外で初めて誕生した維新系知事」であり、吉村洋文・大阪府知事ら維新幹部は「兵庫でも『身を切る改革』を」「大阪と一体で関西経済活性化を」と期待を寄せる。 一方で維新流の急進的改革や強引な政治手法、地方の切り捨てなどを警戒する声も根強く、選挙戦では対立陣営が「維新を受け入れるのか」「兵庫が大阪に乗っ取られる」と盛んに訴えた。出馬の経緯や本人の言葉を追うと、維新が圧倒的な与党である大阪とは異なる複雑な実情が見えてくる』、興味深そうだ。
・『斎藤新知事の維新色」はどの程度か  「自民党に一定の軸足を置く一方で、維新の改革スピリットをしっかりと一緒になってやっていく」 兵庫県知事に当選して3日後の7月21日、日本維新の会本部(大阪市)を訪れた斎藤元彦氏は、同党の馬場伸幸幹事長と並んだ記者会見でそう述べた。直前に代表の松井一郎・大阪市長、副代表の吉村大阪府知事から「改革姿勢を示すには最初の一歩が大事」と激励され、9月県議会で知事退職金5割・給与3割削減の条例化に取り組むと応じたという。維新と政策合意した「身を切る改革」の一つだ。 神戸市出身の斎藤氏は元総務官僚。19年間の在職中に新潟県佐渡市、福島県飯舘村、宮城県に出向して地方自治の経験を重ね、出馬直前は大阪府の財政課長。松井・吉村両知事の維新府政を3年間支えた。それゆえ、自民党との相乗りとはいえ、維新色の強い人物と見なす人は多く、彼がどこまで「維新スピリッツ」に共鳴し、その手法を県政に取り入れようとしているのかが一つの焦点になっている。だが、本人は慎重に明言を避け、自民とのバランスに配慮を見せてきた。 3月末の出馬会見では、行革の手法について「バサッと切るのではなく、一つひとつ検証して丁寧に作業する」「地方の切り捨てはしない。『兵庫都構想』もやらない」と明言。選挙戦では「だれひとり取り残さない県政」とSDGsの理念を掲げ、当選後のインタビューでも劇場型政治やパフォーマンス重視を否定するなど、維新の政治手法や同党の特徴である新自由主義的思想、自己責任論とは一線を画すように語っている。7月に行われた兵庫県知事選挙で自民党と日本維新の会の推薦を受けて当選した斎藤元彦知事(43)が1日に就任し、今日から本格的に始動する。「大阪以外で初めて誕生した維新系知事」であり、吉村洋文・大阪府知事ら維新幹部は「兵庫でも『身を切る改革』を」「大阪と一体で関西経済活性化を」と期待を寄せる。 一方で維新流の急進的改革や強引な政治手法、地方の切り捨てなどを警戒する声も根強く、選挙戦では対立陣営が「維新を受け入れるのか」「兵庫が大阪に乗っ取られる」と盛んに訴えた。出馬の経緯や本人の言葉を追うと、維新が圧倒的な与党である大阪とは異なる複雑な実情が見えてくる』、「斎藤氏」は実力者なのに、わざわざ「維新」の支持を取り付けたのは何故なのだろう。
・『斎藤新知事の「維新色」はどの程度か  「自民党に一定の軸足を置く一方で、維新の改革スピリットをしっかりと一緒になってやっていく」 兵庫県知事に当選して3日後の7月21日、日本維新の会本部(大阪市)を訪れた斎藤元彦氏は、同党の馬場伸幸幹事長と並んだ記者会見でそう述べた。直前に代表の松井一郎・大阪市長、副代表の吉村大阪府知事から「改革姿勢を示すには最初の一歩が大事」と激励され、9月県議会で知事退職金5割・給与3割削減の条例化に取り組むと応じたという。維新と政策合意した「身を切る改革」の一つだ。 神戸市出身の斎藤氏は元総務官僚。19年間の在職中に新潟県佐渡市、福島県飯舘村、宮城県に出向して地方自治の経験を重ね、出馬直前は大阪府の財政課長。松井・吉村両知事の維新府政を3年間支えた。それゆえ、自民党との相乗りとはいえ、維新色の強い人物と見なす人は多く、彼がどこまで「維新スピリッツ」に共鳴し、その手法を県政に取り入れようとしているのかが一つの焦点になっている。だが、本人は慎重に明言を避け、自民とのバランスに配慮を見せてきた。 3月末の出馬会見では、行革の手法について「バサッと切るのではなく、一つひとつ検証して丁寧に作業する」「地方の切り捨てはしない。『兵庫都構想』もやらない」と明言。選挙戦では「だれひとり取り残さない県政」とSDGsの理念を掲げ、当選後のインタビューでも劇場型政治やパフォーマンス重視を否定するなど、維新の政治手法や同党の特徴である新自由主義的思想、自己責任論とは一線を画すように語っている。 県の中北部に農村や山間部を、南部に淡路島や離島を抱え、郡部に根強い「維新アレルギー」への配慮もあるのだろう。その一方、大阪府と接する阪神間を中心に都市部では維新支持層が確実に増えている。6月に行われた尼崎市議選では、各党が軒並み得票を減らす中、維新は上位3位を独占。3議席増の10議席に伸ばし、自民を抑えて公明に次ぐ第2勢力となった。 斎藤氏の選挙運動を担った自民の県議や神戸市議たちは「彼はそもそも、うちの独自候補。維新の支援は拒まないが、あまり前面に立たれると困る」と言い、実際、選挙運動の日程は「自民4対維新1」で配分された。斎藤氏を囲い込み、維新を遠ざける狙いだったが、神戸・阪神間では勢いの差を見せつけられることになった。自民は兵庫県選出の西村康稔・経済再生担当相が新型コロナ対策のさなかに二度も地元入りして斎藤氏とともに各地を回ったのをはじめ、丸川珠代・五輪相、下村博文・党政調会長らも来援したが、吉村・松井両氏の街頭演説と比べれば、聴衆の数も熱気もはるかに及ばなかったのである。 特にコロナ禍以降、連日テレビに顔を出す吉村人気は絶大で、彼が姿を現すと斎藤氏本人そっちのけでスマホを手に群がり、歓声を上げる人たちが目立った。松井氏が「これからは令和の政治家の時代。斎藤さんと吉村さんの40代知事コンビに任せましょう」と呼びかけると、大きな拍手が起こる。街頭の反応だけではない。神戸新聞などが行った出口調査では維新支持層の82%が斎藤氏に投票しており、無視できない影響力を示した。 冒頭の維新本部での会見で、私は斎藤氏にこんな質問をした。 「告示日の事務所開きで馬場幹事長は『これからの自治体は再分配だけでなく、自ら儲けることが必要』と語っていた。行政が営利事業に乗り出すような考え方をどう思うか。たとえば、大阪では公園のパークマネジメント(民間企業への管理委託と商業施設化)が進んでいるが、そういう手法を取り入れるのか」 斎藤氏の答えはこうだ。 「行政だけですべての事業や社会課題の解決に取り組む時代ではなく、公民連携をしっかりやる。行政が営利事業をするという発想ではなく、民間の知恵や活力を借りて県民によい行政サービスを提供していく。公園の民間委託は大阪も成功しているが、時代の流れ。委託期間を長期化するなど、民間が投資・回収しやすいアイデアをどんどん取り入れる方がいい」 行革や民活は何も維新の専売特許ではなく、良し悪しや程度は別として「時代の流れ」であるのは確かだから、これだけで維新色を判断するわけにはいかないが、大阪を一つの成功モデルと捉えていることはわかる。一方、別の質問で馬場氏が県議会の「身を切る改革」、つまり議員報酬や定数の削減を求めたことに対しては、「いろんな形の行財政改革が必要」「まずは自分の身を処する」と答えるにとどまった』、「連日テレビに顔を出す吉村人気は絶大で、彼が姿を現すと斎藤氏本人そっちのけでスマホを手に群がり、歓声を上げる人たちが目立った」、「吉村人気」が依然高いとは驚かされた。「斎藤氏」の受け答えは、いかにも能吏らしい。
・『自民と維新相乗りになった複雑な事情  自民と維新が斎藤氏に相乗りしたのは複雑な事情が絡み合っている。背景要因として井戸敏三前知事(75)の5期20年という多選があり、直接的には新型コロナ禍がきっかけを作った。そこに端を発して最大会派の自民党県議団が二つに割れ、県政史上初めての自民分裂選挙となったのである。経緯を振り返っておこう。 兵庫県では、総務省(旧内務省~自治省)から副知事を経て知事になる禅譲体制が四代59年にわたって続いてきた。今回の選挙も当初は、井戸知事の下で副知事を11年間務めた金澤和夫氏(65)が既定路線と衆目一致していた。事あるごとに大阪の維新首長と対立した井戸氏をはじめ、県庁や自民県議の間でも維新の脅威は大きく、「兵庫に維新の知事を誕生させるな」が共通の目標になっていた。 「本格的に知事選の話をしたのは、2019年の参院選直後。維新の圧倒的な票数を見て、これは早急に動かなあかんと井戸さんに掛け合った。金澤で行くなら早く本人に伝え、県内を回らせるべきやと。ところが、井戸さんはなかなか動かない。金澤にも早く腹を固めろと何度も言ったけど、全然動かへん。井戸さんの顔色ばかり見て、指示を待っている。 真面目で人がいいのはわかるけど、選挙はケンカやからね。自分から勝負に打って出る気迫や熱意がないと勝てない。まして相手は維新や。金澤で本当に勝てるのか、資質的に無理やないかと不安視する声が周囲から出てきた」 斎藤氏を擁立した中心人物である自民党県連幹事長の石川憲幸県議が振り返る。複数の地元議員が異口同音に語り、「井戸さんはあわよくば6期目もやりたかったのでは」と訝しむ声もあった。そんな中、20年初頭から新型コロナ禍が発生。吉村知事が突然ぶち上げた「大阪・兵庫間の往来自粛」などで井戸知事は維新への対立姿勢をますます強め、コロナ対策担当となった金澤氏は忙殺された。 この状況にしびれを切らした石川県議らは、別の候補者探しに動く。 「昨年7月、国会議員の紹介で大阪府の財政課長だった斎藤氏に会った。知事選への意向を聞いたら、いつとは明言しないが、『故郷の兵庫に恩返ししたい気持ちはずっと持っている』と言う。第一印象は若さもそうやけど、とにかく爽やかでね。しかも元彦という名前は、かつての金井元彦知事(井戸氏の三代前)から取っておじいさんが名付けた、と。これは行けると、われわれの中で有力な候補になった」 斎藤氏は演説で「出馬を決意したのは1年前の7月」「コロナ対応で何かと比較され、対立する兵庫と大阪を協調関係に変えたいと思った」と繰り返し語っており、石川県議の話と時期的に符合する。 実は私も同じ頃、斎藤氏と面識を得ていた。兵庫県知事選に意欲を持つ若手総務官僚がいることは数年前から聞いていたが、大阪のコロナ対策や都構想住民投票へ向けた動きを取材する中で彼と出会ったのだった。さすがに記者である私の前で明言はしなかったが、知事選出馬の話を向けても否定せず、むしろ地元の情勢を知りたがった。何度か会って話す中で、ありありと意思を感じた』、「「大阪・兵庫間の往来自粛」などで井戸知事は維新への対立姿勢をますます強め」、維新と神戸の間には微妙なわだかまりがあるようだ。
・『自民分裂に乗じて先手を打った維新の巧みさ  地元の動きと並行して、県選出の自民党国会議員団でも議論が起きていた。次期衆院選も見据え、「維新に勝てる候補」と当初有力視されたのは、やはり兵庫出身の黒田武一郎・総務事務次官だったというが、今年に入ってから次第に斎藤氏に絞られていった。主導したのは西村経済再生担当相と言われる。その西村氏は後に、神戸新聞でこんな趣旨のことを語っている。 「斎藤氏は若いが、豊かな経験に基づく安定感と改革志向の二つを満たしている。井戸知事とはコロナ対策で緊密に連絡を取ってきたが、副知事の金澤さんとはコロナや地域経済について一度も話したことがない」 そうした中、20年12月の県議会で井戸知事が退任を表明し、ようやく金澤氏後継を自民県議団へ正式に伝える。県議団執行部はその方針通りに即決したが、異論を排除する強引なやり方に石川氏らが反発し、分裂騒動に発展してゆく。金澤氏を担ぐ多数派の32人と、斎藤氏を推す石川氏ら11人に会派が割れ、県連選対(金澤)と国会議員団(斎藤)の間でもねじれが生じた。すったもんだの末、自民党本部が斎藤氏の推薦を正式決定したのは、今年4月12日のことだった。 ここで先手を打ったのが維新である。県組織の「兵庫維新の会」は斎藤氏を候補者の一人にリストアップしていたが、必ずしも有力ではなかったという。ところが、自民の分裂騒動を見た松井氏が主導して推薦方針を決め、3月下旬に会見で明言。トップダウンが徹底している維新は、代表の指令が下れば早い。自民より1週間前の4月5日に正式決定すると、「大阪の身を切る改革を支えてきた非常に優秀な人材」と持ち上げ、自民に先んじて「維新の候補」だという印象を作っていったのである』、「自民分裂に乗じて先手を打った維新の巧みさ」、確かに「維新」の巧みさには舌を巻かざるを得ない。
・『「多選への倦怠感」と「世代交代の希求」  こうした経緯を経て突入した選挙戦で、金澤氏の陣営は「斎藤は維新が兵庫に送り込んだ」「神戸市を潰して兵庫都構想をやるつもりだ」といった類の〝維新ネガキャン〟を展開した。 井戸氏はコロナ対策に絡めて「大阪との県境に壁でも建てられたらいいのに。トランプさんみたいに」と発言し、批判を招いた。金澤氏本人は「改革か継承かと新聞は書くが、違う。井戸県政の単純な継承ではない」と訴えたが、後援会組織や支持団体は井戸氏からほぼまるごと受け継ぎ、実働部隊は元副知事を筆頭とする県庁OBたち。これで「継承ではない」と言っても無理があった。 7月18日、投票締切と同時に斎藤氏に当確が出ると、金澤事務所では「維新とメディアに負けた」という恨み節も聞かれたが、本当にそうだろうか。 多選を重ねた井戸知事が〝独裁者〟となって誰も物が言えず、組織が硬直化しているという話は県庁職員からもたびたび聞こえてきた。選挙期間中、行く先々で有権者に話を聞くと、「コロナ禍で初めて知事の肉声や人柄に触れ、こんな人だったのかと幻滅した」「県政への不満は特にないが、次は若い人にやってほしい」という声が多かった。知事公用車センチュリーの乗り換え問題や「うちわ会食」などの逆風もあったが、一番大きいのはやはり「20年は長い」という多選への倦怠感と、世代交代の希求だったと感じる。その意味で、負けたのは金澤氏ではなく、井戸氏だったのではないか。 新知事となった斎藤氏は、改革意欲のある職員を10人ほど集めて「新県政推進室」を設置し、行財政改革をはじめ、県政刷新の司令塔にするという。維新の創設者である橋下徹氏が2008年に大阪府知事に初当選した直後に設置し、大ナタを振るった──そして、公共施設の廃止や文化・地域団体への補助金カットなどで多くの禍根を残した──「改革PT(プロジェクトチーム)」を彷彿とさせる。 だが、公務員との対決姿勢を鮮明にしたタレント出身の橋下氏と異なり、斎藤氏は地方自治体の現場をいくつも経験してきた総務官僚である。県議会は自民分裂の煽りで4分の1に満たない少数与党でもある。「そう強引に無茶なことはできないだろう」と見る関係者が、今のところ多い。 斎藤氏が勝つために維新を利用したのか、維新が党勢拡大へ斎藤氏を利用するのか。分裂した自民の今後は──。「維新か反維新か」という単純な二元論にとらわれず、県政刷新の行方を注視していくしかないだろう』、「井戸氏」の「20年は長い」という多選への倦怠感と、世代交代の希求だった」、その通りだろう。今後の「県政刷新の行方」を注目したい。
タグ:「井戸氏」の「20年は長い」という多選への倦怠感と、世代交代の希求だった」、その通りだろう。今後の「県政刷新の行方」を注目したい。 「自民分裂に乗じて先手を打った維新の巧みさ」、確かに「維新」の巧みさには舌を巻かざるを得ない。 維新の会 「連日テレビに顔を出す吉村人気は絶大で、彼が姿を現すと斎藤氏本人そっちのけでスマホを手に群がり、歓声を上げる人たちが目立った」、「吉村人気」が依然高いとは驚かされた。「斎藤氏」の受け答えは、いかにも能吏らしい。 確かに「権限を持つ府職員が陣頭指揮を執り、臨機応変に次々とさばくべきなのに、わずか2~3人では“フン詰まり”は当然です」、その通りだ。 「巨額の税金を“言い値”でフンだくられ、リターンは「遅さ日本一の命綱」」、これでは確かに「まるでパソナ支援金」だ。 松本 創 「大阪以外で初めて誕生した「維新系知事」の実情 兵庫県知事選「本当の勝者」は誰だったのか」 「斎藤氏」は実力者なのに、わざわざ「維新」の支持を取り付けたのは何故なのだろう。 東洋経済オンライン 「「大阪・兵庫間の往来自粛」などで井戸知事は維新への対立姿勢をますます強め」、維新と神戸の間には微妙なわだかまりがあるようだ。 「大阪府は時短協力金支給も全国ビリ 委託先パソナに20億円」 日刊ゲンダイ 「吉村知事と在阪メディアの「共犯関係」を断罪・・・「この期に及んでテレビに出続ける吉村知事もおかしいし、引っ張り出すテレビ局も間違っています。吉村知事は即刻テレビ出演をやめてコロナ対策に集中し、在阪テレビ局は専門家を呼んでその対策の是非を報じるべきです」、同感である。 「最大の過ちは2度目の緊急事態宣言を1週間早めて解除したこと」、なるほど。 「吉村知事に大阪府民の怒り沸騰 在阪メディアの「共犯関係」も問題」 Newsポストセブン (その3)(吉村知事に大阪府民の怒り沸騰 在阪メディアの「共犯関係」も問題、大阪府は時短協力金支給も全国ビリ 委託先パソナに20億円、大阪以外で初めて誕生した「維新系知事」の実情 兵庫県知事選「本当の勝者」は誰だったのか)
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不動産(その7)(「日本の水が外国から狙われている」のは本当か 土地の所有者が、その地下水も所有できる実態、野村不動産 「超高級タワマン」のトラブルに購入者が大激怒、マンションはついに「売り時」 不動産バブルが潮時といえる理由) [産業動向]

不動産については、昨年10月18日に取上げた。今日は、(その7)(「日本の水が外国から狙われている」のは本当か 土地の所有者が、その地下水も所有できる実態、野村不動産 「超高級タワマン」のトラブルに購入者が大激怒、マンションはついに「売り時」 不動産バブルが潮時といえる理由)である。

先ずは、本年5月25日付け東洋経済オンラインが掲載した 水ジャーナリストの橋本 淳司氏による「「日本の水が外国から狙われている」のは本当か 土地の所有者が、その地下水も所有できる実態」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/429632
・『日本の水資源が外国から狙われている――。こんな話を聞いたことがある人は少なくないだろう。実際、世界中で水不足が発生する中、世界各地で水争奪戦は激化している。 「自分が住んでいる地域は関係ない」と思うことなかれ。例えば、あなたが所有する土地の近くに誰かが土地を取得し、その誰かが外国資本だった場合、あなたが使う水にどんな影響があるだろうか』、興味深そうだ。
・『北海道の森林を買う外国勢  「都市伝説でしょ?」と言われていた、外国資本の土地買収が明らかになったのは、いまから10年以上も前のことだ。 2010年、北海道が外国資本による森林の売買状況の調査を行った。すると、道内の私有林7か所、計406ヘクタールがすでに外国資本に買われていた。1ヘクタールは100メートル×100メートルだから野球グラウンドくらいの大きさ。それが406個分買われていたのだ。 場所は、倶知安町とニセコ町が各2件、砂川市、蘭越町、日高町が各1件。購入者の内訳は、企業が4件(中国企業3件、英国企業1件)、個人が3件(オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールの3カ国)だった。 利用目的は、資産保有、牧草地用で、水目的とはされていなかったのだが、この時、北海道議会が政府に提出した意見書には、こう書かれていた。「我が国における現行の土地制度は、近年急速に進行している世界規模での国土や水資源の争奪に対して無力であると言わざるをえない」。 なぜ北海道議会は「土地を買われた」ことを「水資源の争奪」と解釈したのか。実は、森林を取得した場合、保安林等の法的規制がかかっていなければ、所有者は比較的自由に開発できる。木を伐採してもよいし、温泉を掘っても、地下水を汲み上げてもいいと考えられる。 日本の土地取引は所有者と購入希望者の合意で成立し、取得後の所有権は非常に強い。そして、民法第207条には、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と規定されている。法的には、土地の所有者に、その地下にある水の利用権があると解釈されている。 北海道議会の動きは、国や地方自治体に大きなインパクトを与えた。各地の市町村議会では「うちは大丈夫か?」といった行政への質問が相次いだ。議員は、「水源林が予想外の地権者に渡り、乱開発や過度の取水で住民の生活が脅かされるようになっては手遅れ。いますぐ手を打つ必要がある」と口を揃えた。 これに対して行政側は「現時点で外国資本による大規模な森林買収の動きは確認していない」とし、「事態に適切に対応するため組織を設置する」などと回答した』、「行政側」がこんな寝ぼけた対応をしているようでは心配だ。
・『外国人による土地取得の規制がない日本  日本には現状、安全保障上の懸念がある地域でも外国資本による土地取得の規制はなく、外国人であっても自由に所有可能だ。外国人が土地を所有できる国はアジアでは珍しい。共産圏である中国、ベトナムなどは外国人の土地所有を認めていないし、韓国、インド、シンガポールなどでは土地の所有は可能だが、いずれも条件つきとなる。 農水省が2010年から公表し始めた外資による山林買収状況によると(累計値)、2010年は43件、831ヘクタールだったのが、2020年には465件、7560ヘクタールと10年間で面積は9倍に拡大。農地は2018年から公表され、2020年は3件、47ヘクタールだ。 一見少ないが、日本人や日本法人をダミー的に登記名義人にしたケースや未届出のケースはカウントされていない。 また、太陽光発電、風力発電の用地(推定20万ヘクタール)の中にも外資分が相当あるが、こちらも詳細は不明だ。政府のこれまでの調査では、中国系資本が太陽光発電などのエネルギー事業者として買収にかかわったとみられる土地は、全国で約1700カ所に上る。リゾート開発なども含めた中国系資本が自衛隊施設などの周辺で土地買収にかかわったとみられる事例も約80カ所確認されている。 こうした中で、重要なのは「水は誰のものか」という問題だ。日本では、水は長らく「私のもの」と解釈されてきた。1896年の大審院の判決では、「地下水の使用権は土地所有者に付従するものであるから、土地所有者は自由に使用し得る」とされた。 1938年の大審院判決はさらに強く、「土地所有者はその所有権の効力として、その所有地を掘削して地下水を湧出させて使用することができ、たとえそのために水脈を同じくするほかの土地の湧水に影響を及ぼしても、その土地の所有者は、前者は地下水の使用を妨げることはできない」とされた』、「大審院判決」とは時代があまりに違い過ぎる。
・『法律が実態に即していない現状  だが、これは手掘り井戸で小規模な取水しかできなかった時代の話であり、揚水技術の発達した現代は明らかに状況が違う。 また、土地は動かないが、水は動いている。地下水は地面の下にじっと止まっているものではなく、所有外の土地から流れて、所有する土地を通過し、所有外の土地へと流れていく。だから土地所有者のものであるという考え方は、そもそも実態と異なっているのだ。 例えば、飲料水メーカーの取水口があるとしよう。このメーカーは自分の土地の下にある自分の水を汲み上げているわけではなく、自分の土地の下を流れる地域の共有財産を汲み上げていることになる。 こうした中、日本でも戦後になると、「私水論」を前提としながらも、公の立場から地下水の汲み上げや汚染を制限する考え方が登場した。1960年代には、地盤沈下問題を受け、「工業用水法」や「ビル用水法(建築物地下水の採取の規制に関する法律)」が、1970年代には「水質汚濁防止法」が制定された。ただし、これらは地盤沈下や水質汚染などを防止するもので、直接的に地下水を管理する法律ではない。 1970年代半ばには「地下水法案」も公水論をベースに提案されたが、地下水を利用する企業の反対、地下水を管理したい省庁間の綱引きなどから成立しなかった。 2014年に成立した水循環基本法では「水は国民共有の財産」と定められている。ただ、あくまで理念法であり、具体的に地下水の保全や活用について触れたものではない。 対策として独自に条例を設けている自治体もある。条例は2タイプに分けられる。1つは土地取引のルール、もう1つは地下水の保全や活用に関するルールだ。 土地取引のルールの代表は、北海道の「水資源の保全に関する条例」だろう。内容は、①水資源保全地域を指定、②指定された区域内の土地の権利を移転する場合には、土地所有者は契約の3カ月前までに届出を行わなくてはならない、というものだ。 地下水の保全や活用に関するルールの代表は、熊本県の「地下水保全条例」だろう。地下水を大口取水する事業者は知事の許可が必要としている。この条例は地下水を「私の水」ではなく「公共の水」であるとしていることが特徴で、地下水は水循環の一部であり、県民の生活、地域経済の共通の基盤である公共水であると明記されている』、「地下水法案」の復活も真剣に検討すべきだろう。
・『条例制定も容易ではない  だが、条例制定に二の足を踏む自治体も多い。 問題は3つある。1つ目は、条例が適切かどうか。自治体としては、不適切な条例を作って、行政訴訟などのトラブルが起きるのは避けたい。2つ目は、自治体内が必ずしも一枚岩ではないこと。地下水保全を考えるグループがある一方で、地下水を資源として販売するなど積極的に活用したいグループがある。3つ目は、自治体間の調整。地下水の流れは自治体の垣根を超えるケースがあり、近隣自治体と考え方が違う場合にどう調整をつけるかなどに頭を悩ませている。 なかでも1つ目の「条例が適正かどうか」は大きな問題だ。「国に地下水に関する法律がないのに独自の規制をつくるのは不安」「行きすぎた規制をつくって行政訴訟になるのが怖い」というのが悩みだ。 土地取引ルールについて捕捉すると、前述の通り、日本には現在、土地取得に関して外資規制がなく、これを問題視する向きから「重要土地等調査法案」の審議が始まっている。自衛隊基地や国境離島など安全保障上重要な土地の利用を規制するというものだ。 法案は、防衛関係施設や原子力発電所、空港など重要インフラの周囲約1キロと国境離島を「注視区域」に指定。また、自衛隊の司令部や無人の国境離島など、特に重要な場所は「特別注視区域」と位置づけ、一定面積以上の土地取引について、当事者に氏名、国籍、利用目的の事前届け出を義務付ける。 現在、淡水は世界的に不足し、外国資本による地下水独占が住民の生活を脅かすケースが各地でおきている。今後は一層の水不足が懸念されており、同じ事態が日本で起こらない保証はまったくない。だから「外国資本が水を狙っている」という主張は理解できる』、なるほど。
・『地下水に関する一定のルールが必要  しかし、注意しなくてはならないのは、地下水を汲み上げ過ぎ、周辺に迷惑をかけるのは外国資本だけではない、ということだ。あらゆる利用者に、その可能性がある。 また、地下水があるのは森林などの水源地だけではない。地下水が大量にあるのはむしろ盆地や平野部だ。平野部では土地取引は活発に行われており、規制をかけるのも難しい。 外国資本に限らず、土地取得者による地下水濫用を避けるには、地下水に関する一定のルールが必要だろう。さまざまな議論があるなかで、今年3月、有識者で構成される水循環基本法フォローアップ委員会は「水循環基本法への地下水関連規定の追加に関する報告書」を、水制度改革議員連盟石原伸晃代表へ提出している。報告書では、地下水採取の制限を条例で定めることができる規定を条文に追加することについて提案している。 地下水の状況は地域ごとに異なるため、国が平均的なルールを作るより、自治体が主導して地元の状況にあったルール作りをすることが望ましい。そして、国はそれを後ろから支えるべきである。 たとえば、「地下水の見える化」だ。表流水と地表水の最大の違いは、目に見えるか、見えないか。地表水は人の目に触れるから実態把握が容易であり、課題がわかりやすい。一方で、地下水は実態把握が難しい。現状把握の調査について、国は支援すべきであろう。 さらに言えば、ゴールはルールをつくることではない。ルールができたあとの運用が大事だ。地域の地下水利用者が、それぞれ状況に応じて、保全しながら活用することだ』、「地下水の状況は地域ごとに異なるため、国が平均的なルールを作るより、自治体が主導して地元の状況にあったルール作りをすることが望ましい。そして、国はそれを後ろから支えるべきである」、その通りなのだろう。

次に、6月14日付けFRIDAY「野村不動産 「超高級タワマン」のトラブルに購入者が大激怒」を紹介しよう。
https://friday.kodansha.co.jp/article/185690
・『施工は清水建設、総戸数716戸で商業施設直結 ファミリー層に人気の再開発エリアに完成した「億ション」で大トラブル 設計図と違う! 耐火、耐水、防音設備に重大な欠陥があることが次々に判明 「私はサラリーマンとして働いて、30年以上かけて貯めてきたお金と退職金をつぎ込んで、8000万円以上のこのマンションを買いました。私も妻も60代後半なので、余生は都心から離れた場所に住みたいと思っていたんです。あの有名な不動産会社と建設会社が手掛けているから、間違いない物件だと安心していました。でも、それは大きな間違いでした。苦労して手に入れたタワマンは欠陥だらけだったんです……」 本誌の取材に答えた購入者のTさんはそう声を震わせた。 今、大規模な再開発が行われている東京都小金井市に聳(そび)える駅直結の超高級ツインタワーマンション『プラウドタワー武蔵小金井クロス』をめぐって大騒動が起きている。スーパーゼネコンの清水建設が施工を担当し、売り主は大手デベロッパーの野村不動産。総戸数は716戸で、価格は4LDKで最高1億9000万円だ。Tさんが言う。 「欠陥が明らかになったのは今年2月下旬でした。上階の足音がうるさいということで、管理組合の一人が民間検査会社の『日本建築検査研究所』に調査を依頼したんです。最初は防音設備にだけ問題があると思っていたのですが、調査で次々に他の欠陥も見つかったんです」 Tさんが本誌に提供した『建物調査報告書』は、全44ページにわたって重大な「施工不良」の実態を明らかにしていた。 本誌は調査を担当した建築検査士の岩山健一氏に取材を申し込み、話を聞いた。 「私が調査して見つかった欠陥は①防音設備 ②耐火設備 ③耐水設備の主に三つです。①については上下階の間にある二重床の支持脚(階を持ち上げるための脚)に遮音性のゴムが使われていない箇所が発見されました。その結果、音が響いてしまっていたんです。②は全戸に付いているメーターボックス内に使う石膏ボードの貼り方に問題がありました。石膏ボードを貼り付ける際に打つタッカー(留め金)の間隔が、国土交通大臣が定める基準を満たしていませんでした。 ここにはガスの配管などが入っています。ボードの固定が甘いと、発火した際に延焼が起きやすくなります。③はトイレ内の手洗い付近の壁には耐水石膏ボードを使用しなければいけないのに、普通の石膏ボードを使用していたんです。当然、湿気に弱くなり、腐食の原因になります」 3月27日には野村不動産と清水建設の責任者が同席して、説明会が開かれたが、Tさんの不信感は深まるばかりだったという。 「両社の責任者は、専門用語ばかりを並べた説明で購入者を困惑させたり、 『手元が暗くて確認が不十分だった』 『チェック項目から抜けていた』などと、呆(あき)れた言い訳を繰り返すばかりでした。補償についても、うやむやなままで、 『資産価値を守るため』と言って購入者に口止めもしました」 1週間後、両社はマンションの理事会で「施工不良」を認めて、購入者に謝罪したものの、住民の疑念は晴れていない』、「野村不動産」、「清水建設」と超一流の組み合わせなのに、信じられないような工事ミスだ。
・『「両社は『設計図通りに変更する』と言い、補償はこれから協議をしていく予定です。しかし、一度の調査でこれだけ問題が出てきたので、他にも重大な欠陥があるんじゃないかと不安が募(つの)るばかりです」(Tさん) 前出の岩山氏もこう指摘する。 「そもそも購入前に見せられていた設計図通りに工事が行われていなかったことが大問題です。手抜き工事も甚(はなは)だしいと言っていいと思います。欠陥が見つかった場所だけを調べて、問題を解決したというのは無理があるでしょう。とくに法令基準を満たしていない耐火設備に関しては、目視で確認できない部分があります。一度販売を中止して、他に欠陥がないか、未入居の部屋も解体するなどして、大規模な検査が行われるべきです」 しかし、驚くことに問題が解決していないにもかかわらず、野村不動産は物件の販売を続けているという。 一連の問題について野村不動産と清水建設に質問状を送付したところ、双方から次のような回答があった。 「個人資産に係ることであるため、コメントは差し控えさせていただきます」 購入者は日々の暮らしを脅(おびや)かされている。一刻も早い誠実な対応が求められる』、「法令基準を満たしていない耐火設備に関しては、目視で確認できない部分があります」、「問題が解決しいないにもかかわらず、野村不動産は物件の販売を続けているという」、コンプライアンスにはうるさい筈の「野村不動産」は、一体、どうなってしまったのだろう。

第三に、7月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したスタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタントの沖有人氏による「マンションはついに「売り時」、不動産バブルが潮時といえる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/275468
・『マンションの「売り時」「買い時」というテーマはいつも、悩ましい。だが、日本銀行による金融緩和が長期化するも、物価目標が達成されない中、コロナ禍で都心の家賃相場が低迷している。となれば、不動産価格急落の「Xデー」に備えるべき状況が近づいていると考えるべきではないだろうか』、興味深そうだ。
・『今、売却した人は割高で大成功 戸建ても竣工前に売れてしまう  コロナショックで経済的な大打撃はあったものの、不動産価格は大幅に高騰している。こうした不動産インフレが起こると、「今は買い時か?」「今は売り時か?」の議論が盛んになる。高騰はいつまでも続かない。だからこそ、潮目の変わるタイミングはとても重要になってくる。 先日、相談を受けていた方が、新築マンションの契約申し込みをし、現在の自宅を相場よりも高く売ることに成功した。相場が高騰している中、割安な価格で販売中だった新築マンションの申し込みが急増していることや、中古マンションが高値で飛ぶように売れていく様を見て決断したということだ。今でも絶妙なタイミングでの英断だったと思う。相場は高いが、買うときは割安に、売るときは割高に取引することはいつでもできるものだ。 マンション価格の高騰は、中古価格の値上がりが顕著で、1年前と比較して1~2割上がっている。その主たる要因は金融緩和だが、それは後述する。加えて、巣ごもり時間が長く、リモートワークとリモート授業が多いために、「もう1部屋需要」が明確であることで家を探している人が増えている。需要が急増しても供給は急には増やせないため、在庫が急速に減少しているのだ。 その結果、新築マンションは期を追うごとに値上がりするという、これまでにないことが起きている。通常、1期目に売り出されるものが人気住戸で、期が進むほど不人気住戸が残り、最後は値引きを行うのが常であったことを考えると、今の需要過多ぶりがよく分かる。 戸建てでも同じことが起きている。新築分譲戸建ては売れ行きが良過ぎて、値下げ幅が大幅に縮小し、着工直後に売り出されるものの、竣工するまでに売れてしまうことが多い』、「新築マンションは期を追うごとに値上がりするという、これまでにないことが起きている」、「新築分譲戸建ては売れ行きが良過ぎて、値下げ幅が大幅に縮小し・・・竣工するまでに売れてしまうことが多い」、ともに絶好調のようだ。
・『コロナ禍で悪化しているのは賃貸市場 日銀が家賃下落を憂慮する理由  住宅の中でも、持ち家市場は価格が高騰しているが、賃貸市場は需給が大幅に緩んでいる。都市圏を中心に供給される賃貸住宅は、都市圏への人口流入が急減したために需要が増えなくなっている。人口密度の高い都市圏では新型コロナウイルスの感染者が多く、新たに流入してくる人が減ったのだ。 稼働率は急減し、高稼働率ゆえの賃料の値上げという従来の手法は、単身者向けを中心に終焉を迎えつつある。回復見込みは立っておらず、ワクチン接種が一定以上進まないと情勢は変わりそうにない。家賃が下がると不都合な人は賃貸オーナーだけではない。最もこれを憂慮するのは、日本銀行だったりする。 家賃は需給バランス、つまり稼働率や空室率と連動して決まる。しかし、不動産価格において需給バランスは限定的にしか影響しない。影響する場合は、在庫が少なくて、値上がりするときだけだ。 需給が緩いので価格が下がるという事態は、ほぼ起きたことない。それは、販売が長期化しても売る側が価格を下げずに我慢する体力があるからである。誰も好んで価格を下げる人はいない。 では、不動産価格はどうやって決まるか。それは、資金の流れで決まる。不動産を現金で買う人はほぼいない。大多数はローンを借りて購入している。会計が分かる人からすると、貸借対照表(バランスシート)の資産とほぼ同額の負債が乗ってくるものだ。 このローンが借りやすい状態であれば、不動産の取引が成立しやすい。だから、金融緩和をすると、不動産価格はインフレする。それが、アベノミクス以降、8年以上続いている。金融緩和している日銀は、そんなことは百も承知で異次元の金融緩和を続けているのである。 コロナショック後の不動産価格の高騰は、金融緩和されているところに需給バランスがひっ迫したので生じたといえる。そして日銀は、金融緩和による資産インフレは容認している。それ自体を狙っているわけではないが、遠回しに、この国にとっては悪くないと思っている。 資産を持っているのはその多くが高齢者で、膨れる資産が国の借金返済に寄与するからだ。しかし、それを目的に金融緩和をしているのではなく、あくまでも副作用のようなものでしかない。 日銀は、物価が上がり、インフレターゲット2%に届くことを目標にしていると何度となく明言している。だが、黒田東彦総裁の任期があと2年となり、8年も続けてきた金融緩和で目標達成をできそうにない。 そんな折に、住宅価格が値上がりして、買える人がかなり限定されるほど高くなった。その一方で、家賃は値下がりが始まっている。消費者物価指数には家賃が含まれているため、物価を押し下げ始めている。 ワクチン接種が済むまでは都市圏への人の流入は最小限に抑えられ、賃貸の需給は悪化を続けるだろう。2020年度の都区部の人口は流出超過で、出ていく人の方が多かった。こうなると、新築の供給戸数分だけ空室が発生する事態になる。家賃が需給バランスの悪化で安くなることは容易に予想される』、「都区部の人口は流出超過で、出ていく人の方が多かった・・・新築の供給戸数分だけ空室が発生する事態になる。家賃が需給バランスの悪化で安くなることは容易に予想」、その通りなのだろう。
・『「総量規制」を断行した日銀の過去を思う 欲を張らずに「頭と尻尾はくれてやれ」  異次元の金融緩和を続けてきたので、その逆である金融引き締めは容易ではない。特に、コロナ禍の不景気の中でそんなことをしたら、経済的に何が起きるか想像もできない。しかし日銀は過去にバブル景気を崩壊させるため、総量規制という不動産へのお金の流れを止めた過去を持つ。今回も不動産インフレを容認せず、賃貸市場の需給を緩めないようにするために金融引き締めをすることは考えられないだろうか。 例えば、都市圏で賃貸需要が減退している中、供給を抑制させて需給悪化を抑えることは、できなくはない。実際、スルガ銀行の不正融資前後から個人投資家への不動産投資資金はかなり厳しくなっている。その際は、日銀ではなく、金融庁が指図をしている。 今回も、主体的に金融を引き締めるのは金融庁である可能性が高い。その場合、何が都合が悪いのかというと、賃貸マンションを供給しているデベロッパーは分譲と賃貸が一体であり、お金の流れを賃貸だけ抑えるということが実行できるのか、注目しておかなければならない。 不動産へのお金の流れが潤沢になって8年がたつ。いつか終わるならば、そろそろそのリスクに備える必要がある。しかし悲しいかな、デベロッパーという業種は方向転換するのに2年はかかる。それは、用地仕入れから竣工まで、少なくともその程度の期間を要するからだ。 つまり、賃貸市場が崩れて、分譲市場が値上がりすると分かっても、2年後でないと対応できない。そこで考えるべきことは、売り手に有利な「売り時」は今から2年間の中でピークを迎える可能性があるということだ。 販売期間は約3カ月かかることを考えると、売却を決断するには、明らかにいい時期を迎えているといえる。不動産の価格が下落するときは、バブル崩壊の時もリーマンショックの時もそうだったが、ある日突然、「サドンデス」となり急落するものだ。 そんな不動産価格の特性を考えると、株式取引の格言である次の言葉を思い出す。 「頭と尻尾はくれてやれ」(注) 自宅で不労所得を得た金額は、「住まいサーフィン」の査定結果では平均2000万円を超えている。あまり欲張らずに利益確定して、賃貸に引っ越すのも悪くない。その時期は、すでに到来している』、なるほど。
(注)「頭と尻尾はくれてやれ」:「頭と尻尾はそれぞれ天井、底値を確認するためのコストと考え、買い逃がし、売り逃しをしないために積極的に無視しましょう(トレダビ)。
タグ:「地下水の状況は地域ごとに異なるため、国が平均的なルールを作るより、自治体が主導して地元の状況にあったルール作りをすることが望ましい。そして、国はそれを後ろから支えるべきである」、その通りなのだろう。 「問題が解決しいないにもかかわらず、野村不動産は物件の販売を続けているという」、コンプライアンスにはうるさい筈の「野村不動産」は、一体、どうなってしまったのだろう。 (その7)(「日本の水が外国から狙われている」のは本当か 土地の所有者が、その地下水も所有できる実態、野村不動産 「超高級タワマン」のトラブルに購入者が大激怒、マンションはついに「売り時」 不動産バブルが潮時といえる理由) 「行政側」がこんな寝ぼけた対応をしているようでは心配だ。 「「日本の水が外国から狙われている」のは本当か 土地の所有者が、その地下水も所有できる実態」 不動産 あまり欲張らずに利益確定して、賃貸に引っ越すのも悪くない。その時期は、すでに到来している ダイヤモンド・オンライン 橋本 淳司 「地下水法案」の復活も真剣に検討すべきだろう。 (注)「頭と尻尾はくれてやれ」:「頭と尻尾はそれぞれ天井、底値を確認するためのコストと考え、買い逃がし、売り逃しをしないために積極的に無視しましょう(トレダビ)。 「野村不動産 「超高級タワマン」のトラブルに購入者が大激怒」 FRIDAY 「野村不動産」、「清水建設」と超一流の組み合わせなのに、信じられないような工事ミスだ。 「マンションはついに「売り時」、不動産バブルが潮時といえる理由」 東洋経済オンライン 「都区部の人口は流出超過で、出ていく人の方が多かった・・・新築の供給戸数分だけ空室が発生する事態になる。家賃が需給バランスの悪化で安くなることは容易に予想」、その通りなのだろう。 「新築マンションは期を追うごとに値上がりするという、これまでにないことが起きている」、「新築分譲戸建ては売れ行きが良過ぎて、値下げ幅が大幅に縮小し・・・竣工するまでに売れてしまうことが多い」、ともに絶好調のようだ。 沖有人 「大審院判決」とは時代があまりに違い過ぎる。
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女性活躍(その21)(「驚愕の事実」すべての先進国で男子よりも女子の成績が高い科学的理由 「堅実性パーソナリティ」の性差か、河合 薫らのオンライン対談2題:Y染色体がどんどん減少 やがて「男」は消える運命?、 性転換は自然の摂理? Yが消えても男は男) [社会]

女性活躍については、3月30日に取上げた。今日は、(その21)(「驚愕の事実」すべての先進国で男子よりも女子の成績が高い科学的理由 「堅実性パーソナリティ」の性差か、河合 薫らのオンライン対談2題:Y染色体がどんどん減少 やがて「男」は消える運命?、 性転換は自然の摂理? Yが消えても男は男)である。

先ずは、7月30日付けPRESIDENT Onlineが掲載した作家の橘 玲氏による「「驚愕の事実」すべての先進国で男子よりも女子の成績が高い科学的理由 「堅実性パーソナリティ」の性差か」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/48263
・『最先端の科学では人間の脳=こころの謎が次々明らかになってきている。著書『スピリチュアルズ「わたし」の謎』(幻冬舎)でその全貌を紹介した作家の橘玲氏は「すべての先進国では男子よりも女子のほうが成績が高い。男女に知能の差はないので、成績の差が生まれるのは『堅実性パーソナリティ』の性差が影響していると考えられる」という──。※本稿は、橘玲『スピリチュアルズ「わたし」の謎』(幻冬舎)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『歴史上の英雄には「多動力」タイプが多い  イギリスの心理学者ダニエル・ネトルは、「今日では障害とされている注意欠陥・多動性障害(ADHD)こそが、かつては強さだったかもしれない」と述べる(※1)。 ADHDと診断される子どもは堅実性スコアがきわめて低く、男の子の発症率は女の子の5倍と明らかに性差がある。 これは、(男の役割とされた)旧石器時代の狩猟で、目の前の刺激に対して素早く反応した方が有利だったことの名残だと考えられている。事実、プロスポーツの世界ではADHDの若者が成功している例がいくつもある。 堅実性が低いと「衝動的」「不真面目」「いい加減」などネガティブなレッテルを貼られるが、つねに不利なわけではなく、異性から「ぶっ飛んでいて魅力的」と思われたり、革命家やアジテーター、あるいは芸術家として成功することもある。 歴史上の英雄には、現代ならADHDと診断されるであろう「多動力」タイプが多い。 このことは、そもそもADHDが「病気」ではないことを示している。それは人類が進化の大半を過ごしてきた(旧石器時代の)環境では、きわめて有利なパーソナリティだった。 それが「発達障害」とされるようになったのは、わたしたちが生きているのが、人類の進化が想定しないほど「とてつもなく安定した社会」だからだ。その結果、本来であれば「正常」なパーソナリティが「不適応」になってしまったのだ』、「ADHDの若者が成功している例がいくつもある」「革命家やアジテーター、あるいは芸術家として成功することもある」、「人類が進化の大半を過ごしてきた(旧石器時代の)環境では、きわめて有利なパーソナリティだった。 それが「発達障害」とされるようになったのは、わたしたちが生きているのが、人類の進化が想定しないほど「とてつもなく安定した社会」だからだ。その結果、本来であれば「正常」なパーソナリティが「不適応」になってしまったのだ」、「ADHD」への見方が変わった。
・『「女の方が男より真面目だ」といわれる理由  安定した現代社会では、「いま、ここの自分」より「いつか、あそこでの自分」に配慮できた方が有利なことは間違いない。とはいえ、堅実性スコアが高ければ高いほどいいというわけではない。 精神医学で強迫性パーソナリティ障害(OCPD)と呼ばれる症状は堅実性が極端に高く、全成人のおよそ2%がこの診断基準にあてはまる。 興味深いことに、OCPDと診断されるのは男性が女性の2倍で明らかな性差がある。特定のジャンルの商品を大量に入手し、完全なコレクションをつくることに人生を懸けたりする熱狂的コレクターも男に多い。 堅実性が極端に低いADHDは男が女の5倍で、堅実性が極端に高いOCPDは男が女の2倍ということは、堅実性の分布のばらつきが男の方が大きいことを示している。 その結果、(男が両極にばらついているのだから)堅実性の平均近くでは女の割合が高くなる。これが、「女の方が男より真面目だ」といわれる理由ではないだろうか(図表1)』、「(男が両極にばらついているのだから)堅実性の平均近くでは女の割合が高くなる。これが、「女の方が男より真面目だ」といわれる理由ではないだろうか」、見事な謎解きだ。
・『男の子が劣化していく  アメリカにおいては、女子は小学校から大学まで、すべての学年で男子より成績がいい。 13歳と14歳の中学生で作文や読解が熟達レベルに達している男子は4分の1にも満たないが、女子は41%が作文で、34%が読解で達している。 2011年には男子生徒のSAT(大学進学適性試験)の成績は過去40年で最低だった。また、学校が渡す成績表の最低点の70%を男子生徒が占めていた。これはアメリカだけの現象ではなく、OECD(経済協力開発機構)の調査によると、先進国のすべてで男子は女子より成績が悪く、落第する生徒も多く、卒業試験の合格率も低い。 スウェーデン、イタリア、ニュージーランド、ポーランドといった国々では、PISAテスト(15歳を対象とした国際学習度到達調査)の読解力部門で女子が男子をはるかに上回り、1学年から1学年半も先を行っているという結果が出た。これでは同い年の男女を同じクラスで教えるのは困難だろう。 カナダとオーストラリアでは、すでに大卒者の60%が女性だ。イングランドでは大学の入学申込者は女子4人に対し男子は3人以下、ウェールズとスコットランドでは、女子の申し込みが男子より40%も上回り、恵まれない家庭ではこのギャップがよりいっそう大きくなっている』、ここまで世界的に男女差が明確出ているとは驚かされた。
・『知能が高いほど堅実性は低くなる  日本でも「女の子の方が男の子より優秀」と当たり前のようにいわれるが、男女の知能に(平均としては)差はない(男は論理・数学能力に優れ女は言語的知能が高いとか、知能のばらつきは女より男の方が大きいという研究はある)。 だとすればこれは、堅実性パーソナリティの性差が影響しているのではないだろうか。女の子の堅実性は平均付近に集まるのに対し、男の子は堅実性が高い方にも低い方にもばらついている。 その結果、堅実性が低い男子生徒が学校教育から脱落しはじめていると考えればこうした現象に説明がつく。 現代社会では、「賢くて真面目な子どもは成功する」と信じられている。これは間違いとはいえないが、奇妙なことに、知能と堅実性には(わずかに)ネガティブな関係があるらしい。知能が高いほど堅実性は低くなるというのだ。 これは常識に反するようだが、頭が切れるひとは前もって準備しなくてもうまくやれてしまうため、わざわざ手間暇をかけて訓練を積む必要がないと考えれば理解できるだろう。高すぎる知能は堅実性を引き下げる効果があるのかもしれない。 最後に「勤勉な日本人」と堅実性の関係だが、いまのところ人種別に堅実性スコアを比較した研究はないようだ。だが、ヒト集団で生得的なちがいがないとしても、日本人の堅実性のレベルが高く見える理由はシンプルに説明できる。 外向的なひとは欲望に向かう強力なエンジンをもっており、内向的な性格はエンジンの出力が弱い。これはアクセルを思いきり踏んでもスピードが上がらないのと同じだ。 大馬力のエンジンを制御するには強力なブレーキが必要だが、出力の弱いエンジンなら簡易なブレーキでもなんとかなる。内向的な(エンジンの馬力が小さい)日本人は、平均的なブレーキ(前頭葉の活動)でも堅実性スコアが高くなり、高い神経症傾向の影響もあって、電車の時間を1秒単位で管理するようになるのではないだろうか』、「女の子の堅実性は平均付近に集まるのに対し、男の子は堅実性が高い方にも低い方にもばらついている。 その結果、堅実性が低い男子生徒が学校教育から脱落しはじめている」、なるほど。「内向的な・・・日本人は、平均的なブレーキ(前頭葉の活動)でも堅実性スコアが高くなり、高い神経症傾向の影響もあって、電車の時間を1秒単位で管理するようになるのではないだろうか」、面白い診断だ。

次に、6月23日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏と、北海道大学大学院理学研究院教授の黒岩麻里氏によるオンライン対談「Y染色体がどんどん減少 やがて「男」は消える運命?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00139/
・『健康社会学者の河合薫氏と北海道大学大学院理学研究院教授の黒岩麻里氏によるオンライン対談「やがて男はいなくなる? 消えゆくY染色体とおじさん社会」の第1回をお届けします。記事の最後のページでは対談動画をご覧いただけます(編集部)。※本記事は、対談の模様を編集してまとめたものです。 河合薫氏:今回の対談は「やがて男はいなくなる? 消えゆくY染色体とおじさん社会」という、少々刺激的なタイトルをつけさせていただいたのですが、そもそも「Y染色体がある=男性」という考え方自体が間違っている、という理解でよろしいんでしょうか。 黒岩麻里氏:その通りです。教科書的には、Y染色体を持つと必ず男性になるといわれているんですね。ところが、地球上の幅広い生物を見ると、染色体で性を決めているものもいれば、まったくそれとは関係ないものもいます。例えば、周りの環境だったり、温度だったり、自分と他者との関係だったりで性別が決まる、あるいは、いったん決まった性を変えちゃう生物もいっぱいいるんです。その仕組みの多様さというか、柔軟さがすごく面白くて研究しています』、「性」の決まり方は多用なようだ。
・『遺伝子数が40分の1に……  河合:何かもう、いきなり聞きたいことだらけになってきました(笑)。実はこの対談を告知した際に、「河合薫はいつもジェンダーでの性差を言っているけれども、生物学者としたらジェンダー論なんてないんだろうな」といったコメントが読者から寄せられたのです。今のお話だと、環境によって性が決まるとしたら、生物の社会にもセックスとジェンダーの両方の性があるってことですよね? 黒岩:そうですね。ちょっと難しいんですね。ジェンダーとセックスはあくまでも分けて考えないといけないのですが、生物学的な性差はものすごく多様で、固定的なものはないんです。だからそういう多様さ、柔軟さ、あといいかげんさを見ると、そこからジェンダーを学ぶことはあります。 河合:なるほど。では、今のお話も含めて少しずつ理解を深めていきたいと思います。まずは私たちが学生のときに学ぶY染色体について教えていただきたいのですが、黒岩先生は「Y染色体は淘汰されていく」というお話を様々なメディアでなさっていますが、なぜ、XではなくYなんですか。しかも、なぜ淘汰されてしまうのでしょうか。 黒岩:実は、淘汰も進化の形の1つなんです。 河合:えっと……進化するために淘汰する? 黒岩:研究者の中には、退化という言葉を使う人もいます。いずれにせよ、進化っていいことばかりじゃないので、退化も淘汰もどちらも進化なんです。Y染色体の進化は、遺伝子(の数)をどんどんなくしていくことです。実際に男性が持っているYというのは、遺伝子がすでに50個ぐらいしか残ってないんです。 河合:50個では、少ないのですか? 黒岩:女性、つまりXXと比較すると、少ないです。Xには2000個以上の遺伝子があるといわれています。 河合:Yの40倍!! 黒岩:もともとYにも、2000個ぐらい遺伝子があったはずですが、もう50個ぐらいに、すごく小さく、少なくなっていて、今も(減少が)進行中です。いずれ遺伝子がなくなって、Y染色体自体がなくなるといわれています。 河合:ああ……やっぱりなくなってしまうのですか……。 黒岩:でも、これも偶然なんです。「Yだけが、そんなひどい目に遭って」と思う方もいらっしゃるでしょうが、本当に進化の偶然なんですよ。XとYという2つの違う染色体が生まれたとき、最初はその違いはすごく小さいもので、ほとんど同じ。ちょっと違うという程度でした。なので、Xの遺伝子が淘汰されていっても構わなかったんです。でも、たまたまちょっとしたきっかけで、Yが選ばれたということです。 河合:先生、すみません。ちょっと頭が混乱していて、すごく基本的な質問ですが、今のお話は人のお話でしょうか? (黒岩氏略歴はリンク先参照) 黒岩:はい、哺乳類すべてが、ほぼ同じXYを持っていますから、人もそうです。哺乳類のYはどんどん小さくなって、遺伝子が減ってきています。あと私たちのXやYとは違うのですが、同じ仕組みでXやYを持っている哺乳類以外の生物もいます。そういった生物の中には、やはりY染色体がちっちゃくなっちゃっているやつらもいるんですね。染色体が小さくなって、遺伝子が淘汰されていくという運命は、別に人、哺乳類に限らず、他の生物がたどっている場合もあります』、「哺乳類のYはどんどん小さくなって、遺伝子が減ってきています」、「染色体が小さくなって、遺伝子が淘汰されていくという運命は、別に人、哺乳類に限らず、他の生物がたどっている場合もあります」、そんなことが起きているとは・・・。
・『Yオリジナルで進化した遺伝子  河合:ということは、人の場合で考えると、今の私たちが生きている時代では、XとYというのが当然のようにあって、Yが性差を決めている。しかし、古代に遡ると、Xしか持ってなかった時代とか、Yの方が多かった時代とかもあったかもしれない? 黒岩:その辺のことは、かなりしっかり研究されています。哺乳類の祖先種が生まれたのが、3億年ぐらい前です。一方、今、私たちが持っているXYの原型ができたのが、1億7000万年前ぐらいといわれています。つまり、それ以前はXYが性を決めていたわけではなかったと、考えられています。 では、どうやって性を決めていたか、ってことになるんですけど、正直分からない。研究者によっては遺伝子や染色体ではなく、環境で決めていたんじゃないかという方もいらっしゃいます。ただし、化石では遺伝子や染色体を見ることができないので、あくまでも推測にすぎません。 河合:ということは、今、弱体化してる人のY染色体が、いったん淘汰されたあとに、何かの偶然で、またY染色体が復活する可能性もあるってことでしょうか? 黒岩:一応、人のY染色体をいろいろと研究した結果、復活した遺伝子はないんです。だから、復活する可能性は否定できませんが、減る一方とみるのがメジャーな見方だと思ってください。 河合:Y染色体は、先生は今いくつあるとおっしゃっていましたっけ。 黒岩:50種類ぐらい。 河合:Yは50種類。Xは2000種類。 黒岩:はい。2000以上ですね。 河合:2000種類以上。これ、言い方が難しいのですが、Xつまり、女性の方が強くなっているということですか。 黒岩:そういう見方もできます。Xに2000種類ぐらいあるとして、女性はXXだから4000種類ですよね。男性はXYだから2050種類じゃないですか。2000種類ぐらい遺伝子の数が違いますよね。だから、女性の方が有利なんだとおっしゃる方もいます。 でも、実はYにある50種類って、Yオリジナルで進化している遺伝子なんですよね。 河合:ほーっ! Yにしかないスペシャルな遺伝子! 黒岩:50種類の遺伝子は、Yにしかない。女性は持っていないってことです。一方、Xは1本だけど男性も持っているから、数は少ないけど種類としては同じものを持っていますよね。つまり、男性は50種類も女性にないものを持っていると考えたら……、男性の方にアドバンテージがあるってことになりませんか? 河合:確かに。何かに対して、ものすごい有利な気がします。 黒岩:そういう見方、考え方もできる、ということです。 河合:最近は、LGBTやトランスジェンダーが多様性の話の中で出てくるようになりましたが、XXとXYというほど男と女というのは単純ではなく、実際にはXXXYとか、XXXYYYとか、いろいろな形がありますよね? (河合薫氏の略歴はリンク先参照) 黒岩:X染色体やY染色体の本数が違う方がいらっしゃるということは、実はものすごく昔から知られていました。ただそういう方たちは、いわゆるマイノリティー、少数例だと思われていた。ところが、最近の研究でそういう方たちの割合は、もっと多いんじゃないかということが分かってきています。 ある研究報告だと、例えばXXYの方というのは500人から1000人のうち1人の割合だという報告があるのですが、検査しない限り分からないので、実際にはXXYだけど、一生気付かない人もいます。そうやって考えると、実はXXYの方はもっと多くて、6~7割いらっしゃるんじゃないかといわれています。 つまり単純に「XXは女性、XYは男性」という分け方はできないというのが、今の考え方です』、「実はXXYの方はもっと多くて、6~7割いらっしゃる・・・つまり単純に「XXは女性、XYは男性」という分け方はできないというのが、今の考え方です」、なるほど昔学校で習った知識は古くて使えないようだ。
・『性染色体をコロコロ乗り換え  河合:そうやって考えていくと、男だの女だのと二分して、男性差別や女性差別をしてる人間って、何か残念ですよね。すごくレベルの低いことを、人間はやっているんじゃないかって、悲しくなります。 黒岩:本当に、その通りです。 河合:あの……、実は私、最近ちょっとY染色体が出てきたんじゃないかなと、思うことがあるのですが(笑)。 黒岩:調べてみますか(笑)。 河合:そういうことってあるんですか? 実は、隠れていたY染色体が出てきたとか、気が付かなかったのが出てきたとか、あるいはX染色体がY染色体に変化しちゃったとか? そういうのが、一人の人間に起こり得るですか? 黒岩:調べてみないと、本当に自分がどの染色体を持っているかなんて、正直分からないんですよ。 河合:よくひげが生えてくるおばさんがいますよね。あ、私は生えてませんが(笑)、年を重ねてくると、自分の中での性別がどっちに行っているんだか分からなくなるようなことがあるんですよね。そういう「アンタ変だよ!」と言われそうな、私の妙な感覚も、生物学的な視点に立てば当たり前のことかもしれないということですよね。 黒岩:当たり前です。性別という言葉は、やっぱり本当は語弊があるんです。生物学的に考えると、別ではない。つながっているんです。男性、女性、雌雄ってつながっていて、どの辺の位置にあるか、というのは人によってそれぞれです。男側、女側に二分できるものじゃないんですよ。 それは遺伝子の働き方もそうだし、あとひげとか体毛とかってホルモンの影響も大きいんですよね。そういうホルモンの働きも、一生涯のうちで大きく変わるので、ずっとこのタイプと決められないと思いますね。 河合:ちょっと違う話になりますけど、今先生がおっしゃったことって健康社会学でも似たような考え方をするんです。健康と不健康というのはコインの表裏ではなくて、1本の連続帯上にあるという考え方です。元気になる力があれば、どんどん健康になっていくし、逆にストレスとなるようなマイナスの力に引っ張られると健康破綻に向かいます。どちらに向かうかは、環境の影響をものすごく受けます。 黒岩:なるほど、確かにどの位置にいるかで、健康状態は変わりますよね。 河合:哺乳類以外では、XとYはどうなっているのですか? つまり、やはり男と女の連続体の両端に、何があるのかなぁ、と。 黒岩:魚のある種ではYでオスを決めるんですが、別の種は全然別の染色体でオスを決めていたり、Yを簡単に捨てたりするんですよね。性染色体を、コロコロ乗り換えたりすることもあります。 河合:乗り換え? しかも、コロコロ? うわぁ……興味津々です!(次回へ続きます)』、「性別という言葉は、やっぱり本当は語弊があるんです。生物学的に考えると、別ではない。つながっているんです。男性、女性、雌雄ってつながっていて、どの辺の位置にあるか、というのは人によってそれぞれです。男側、女側に二分できるものじゃないんですよ」、「魚のある種ではYでオスを決めるんですが、別の種は全然別の染色体でオスを決めていたり、Yを簡単に捨てたりするんですよね。性染色体を、コロコロ乗り換えたりすることもあります」、生物の世界は奥が深いようだ。

第三に、この続きを、6月30日付け日経ビジネスオンラインのオンライン対談「性転換は自然の摂理? Yが消えても男は男」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00141/
・『健康社会学者の河合薫氏と北海道大学大学院理学研究院教授の黒岩麻里氏によるオンライン対談「やがて男はいなくなる? 消えゆくY染色体とおじさん社会」の第3回をお届けします。記事の最後のページでは対談動画をご覧いただけます(編集部)。※本記事は、対談の模様を編集してまとめたものです。 河合薫氏:環境によって、性が入れ替わる生物がいるというのは、本当なんですか? 黒岩麻里氏:はい。性を途中で変える生物。性転換と呼ぶんですけれども、一番よく知られているのは魚類です。相手と自分の体の大きさを比べて、自分のほうが体が大きいとメスになる生き物がいます。 河合:体が大きいとメス、ですか。なんか逆のような……』、なお、対談の2回目は有料だったので、紹介は省略、これは第三回目である。
・『体が小さいうちはオスでもメスでもない  黒岩:はい。メスです。カクレクマノミという、アニメ映画の主人公になった魚をご存じですか? 河合:ディズニーの『ファインディング・ニモ』ですね? とてもきれいな魚ですよね。 黒岩:カクレクマノミは集団で暮らすのですが、1番体が大きい個体がメスなんです。2番目に大きいのがオスで、それ以外は一応オスなんですけど、体が成熟しないので、オスでもメスでもないというか、繁殖に参加していません。 河合:へえ。繁殖に参加しないで何をしているんですか。ちょっとお魚さんには失礼な質問ですが。 黒岩:一緒にいることが仕事です。共同生活をしているんです。 河合:そっか! 共同生活をすることによって、天敵から身を守る。繁殖のサポートをする役割ってことでしょうか。 黒岩:そういうことです。体が小さいうちに卵を産んじゃうとちょっとしか生めないので、体が大きくなってから産んだほうが効率的です。なので、小さいうちはみんなで暮らして天敵から身を守ります。それで餌をたくさん食べて大きくなってからが勝負です。 そして例えば、1番大きいメスが死んじゃったら、2番目だったオスがメスに昇格というか、性転換します。すると3番目に大きく育っている魚がオスになるという具合です。 河合:性をコロコロ変えるって、羨ましいというか不思議ですね。 黒岩:それがきっと合っているんでしょうね、クマノミには。 (黒岩麻里氏の略歴はリンク先参照)) 河合:私もコロコロ変えたいです。私は自分の中では、男とか女だとか意識したこともないし、周りに壁をつくったつもりはないんですけれど、(文章の)書き手の性別によって(読者への)伝わり方が変わることって現実にあるのですよね。社会全体を考えても、みんながハッピーになれる形って、時代によって変わるように思います。女性がリーダーになる時代があってもいいし、男性がリーダーになる時代があってもいい。 黒岩:固定観念をとにかく捨て去って考えてみるって大切ですよね。そもそも性差の研究って、平均値の比較に過ぎません。例えば、平均身長は男性のほうが女性より高い。世界中のどの民族も、どの国も必ずそうなっています。これはY染色体に性を決める遺伝子があって、そのためだといわれています。 でも、あくまでも平均値なわけです。男性の平均身長よりも背が高い女性だって当然いるし、女性の平均身長よりも背が低い男性だって当然いますよ。おのおのの個体を見れば、全然違うわけです』、「カクレクマノミは・・・1番体が大きい個体がメスなんです。2番目に大きいのがオスで、それ以外は一応オスなんですけど、体が成熟しないので、オスでもメスでもないというか、繁殖に参加していません」、アリやハチも、確か幼虫時代の食べ物で、女王、オス、働き手に分かれると記憶している。
・『男性はいなくならない!  河合:おそらく誰もが人それぞれ、いろいろな人がいるって頭では分かっていると思うんです。でも、一人ひとりで考えるより、属性でグループ化して、平均で考えたほうが楽。女は~、男は~、だけじゃなく、上司は~、部下は~、若者は~、年寄りは~、なんていうのも本当はおかしい。ある意味で、人間のずるいところなのかなぁ、と思うことがあります。 黒岩:そうやって楽ちんをしているから、つらい人も出てくるわけですよね。特に、LGBT(性的少数者)の人たちなんかは、まさしくもう、その固定観念にはめられて、つらい思いをされていると思うんですよね。 河合:私もLGBTなどの問題は、さまざまなメディアで取り上げるのですが、最近は、興味すら抱かない人が増えているように感じます。そもそも性的マイノリティーという言葉がおかしいし、プライベートな問題で仕事に一切関係ないことなのに、採用に影響したり、LGBTと分かった途端、パワハラをされてしまったり。カクレクマノミの賢さを人間も見習ったほうがいいですよね。 黒岩:はい、もっと人間は柔軟に考える必要があると思います。一貫して私がお話ししていることって、柔軟性なんです。生物の性って、とにかく多様で柔軟なものなんですよね。遺伝子の進化もいろいろな形があります。進化をしていく中で選択を繰り返し、少しずつ方向が定まっていくのが進化の蓄積なんです。 なので、どう転ぶかも、どうなっていくのかも分からない。実際の生物は小難しいことは何も考えちゃいないんですよね。 河合:人はとってもとっても小難しい。 黒岩:男はこうだ女はこうだ、それが当たり前だと思っている人は、本当にまだまだたくさんいらっしゃいます。でも、私たちも本来はそうあるべきです。なので、生物が持つ多様性とか柔軟性を、とにかく知ってもらいたいんです。 遺伝子進化ってそういうものじゃないんだよとか、性というのはそういうものじゃないんだよ、もっと多様なものなんだよということを、できるだけ私の研究を通して知ってもらいたいと思っています。 河合:今回の対談のタイトルは、かなり「男だの女だの」と限定してしまいましたが……。 黒岩:実は、こういうタイトルってキャッチーなので、私もよく使うんです。ただ、私の研究の結論としては、男性はいなくならないというのが結論なんですね。 河合:そこ、そこです! 男性はいなくならないってことは、Y染色体も? 黒岩:Y染色体はなくなると思います。 河合:本当になくなっちゃうんですか? 黒岩:はい。なくなると思います。 河合:Y染色体はなくなるけど、男性はいなくならない? しつこくてすみません。でも、大切なところなので。 黒岩:はい。Y染色体はいつか消えるけれど、男性はいなくならないというのが、私の研究成果というか結論です。それをもっと発信していけたらいいなとは思っています。 河合:えっと、ってことは、Y染色体がなくなって、今の男性が困ることってないんですか。 黒岩:今の男性が困ることはないと思います。なくなるのは将来の男性なので。その男性たちはY染色体がなくなっても、ちゃんと男性として生まれてこられる仕組みを獲得するだろうと、私は自分の研究から想像しているので、困ることはないと思います。 (河合薫氏の略歴はリンク先参照) 河合:それはもっと具体的にいうと、生殖の仕組み自体は、Y染色体がなくなっても変わらないというような理解でよろしいんでしょうか。 黒岩:そうですね。生殖の今ある基本的な仕組みというのは、おそらく変わらない。つまり、今は、Y染色体が関わっている部分を、別の遺伝子が肩代わりするというか、代わりにやってあげることで、いくらでもまかなえるように進化できると考えています。なので、今の男性としての役割とか仕組みというのは、ちゃんと引き継げるだろうと思っています』、「Y染色体はいつか消えるけれど、男性はいなくならない」、「Y染色体がなくなっても、ちゃんと男性として生まれてこられる仕組みを獲得するだろう」、なるほど。
・『男が多く生まれる理由は…  河合:じゃあ、たまたま自分は君と遺伝子が一緒だけど、何か俺はこんなの出ちゃったよとか、私はこんなふうになっちゃったわよ、みたいな、そういった社会になるかもしれないということですよね? 極論を言ってしまえば。というか、私、変なこと言ってますかね? 黒岩:どうでしょうね。それは分からないけど(笑)。 河合:要するに、Y染色体だってそのうち消えちゃうんだから、絶対的なものは何もなくて、もっと柔軟に変えられる社会になっていけばいいし、そういうふうな考えを一人ひとりが持ったほうが、実は自分も、他の人もハッピーに生きられるってことですよね。繰り返しになりますが。 黒岩:そう思います。先日、テレビで私が紹介させていただいたのですが、男の子を産んだ母親がY染色体を持つことになるケースもあるんですよ。 河合:出産が影響するということですか? 黒岩:XYの男の子の赤ちゃんを妊娠したときに、何らかの原因で、その赤ちゃんの細胞が女性の体の中に移動する場合があるんです。母親はXXで生まれているはずで、XXの細胞しかないはずなのに、出産を経験した後、体の細胞を調べるとXYの細胞が含まれているということが最近の報告で分かってきています。 河合:出産の話題でいいますと、男性のほうがたくさん生まれているというのは本当なんですか? まさか消えゆくY染色体が関係しているとか、あるいは男性のほうが生き物として弱いからたくさん生まれてくるとか? 黒岩:これは分からないんですね。私もすごく興味を持って調べたんですが、結論としては分からないというのが正直なところです。実際に日本において出生時に、0歳児の性比を見ると、男の子が1.1に対して、女の子が1ぐらいの割合とか、正確には、(男の子が)1.07とか1.05とか年によって若干変動があるんですけど、必ず男の子のほうがたくさん生まれるんですよね。 河合:社会環境が影響しているとか? あくまでも印象論ですが、テレビ業界に勤めている人の子供は女の子が多いといった、都市伝説めいたものもあったんですよね。 黒岩:そのあたりは私には分からないのですが、社会的な影響の可能性がいわれていたこともあります。例えば、男の子を望む人が多いので、出産のときに選択をして男の子を産んでいるのではないか、とか。 でも、長年のデータを見ると、男の子のほうがやっぱり生物学的にも多く生まれているようでして。じゃあ、何でなの? と考えたときに、論理的に説明できる答えが一切見つからないんですよね。 河合:染色体の影響があるとか? 黒岩:それも分かりません。Y染色体が小さいからY染色体を持っている精子のほうが軽くなるだろうとか、Y染色体を持った精子のほうが優先的に受精するから男の子が多いんじゃないかという説もあるにはありました。でも、他の哺乳類もY染色体は小さいので、それならオスのほうが多く生まれてくるはずです。ところが、そういったデータは全くないんです。人間以外は、性比のデータをちゃんと調べているわけじゃないので。散々調べたけど分かりませんでした。不思議な現象なんです。 河合:先生、そろそろお時間が迫ってきましたので、この対談を読んでくださっている読者、おそらく圧倒的に男性が多いと思いますが、先生のほうからメッセージをお願いできますでしょうか。Y染色体がなくなるのは、やはりちょっと切ない気もしますし……。 黒岩:そうですね。私、Y染色体がいつか消えてなくなってしまうというちょっと一般の方にはショッキングなメッセージ性を持った研究をしているんですけれども、実は染色体進化の分野では染色体が消えたり、新しく生まれたりって、実は普通にあることなんですよね。当たり前のことで、進化の1つです。 ただ、これが人の場合、Yは男性にとってとても大事なので、男性がいなくなっちゃうかもみたいなことにつながって、すごくショックを受ける人も多いんです。 ただ、Yがなくなっても男性がいなくなるわけではないですし、そういう単純なものではないので、そこだけは知ってほしいです。最後にお伝えします。 河合:はい。ということですので。どうかご安心を! というのも変ですね(笑)。本当にいろいろなお話をどうもありがとうございました。勉強になりました。 黒岩:はい、こちらこそありがとうございました』、「Y染色体がなくなる」「染色体進化の分野では染色体が消えたり、新しく生まれたりって、実は普通にあることなんですよね。当たり前のことで、進化の1つです」、「Yがなくなっても男性がいなくなるわけではない」、何がYの代わりになるのだろう。いずれにしろ、男と女の性差も、柔軟に考えるべきもののようだ。
タグ:「「驚愕の事実」すべての先進国で男子よりも女子の成績が高い科学的理由 「堅実性パーソナリティ」の性差か」 『スピリチュアルズ「わたし」の謎』(幻冬舎) 橘 玲 (その21)(「驚愕の事実」すべての先進国で男子よりも女子の成績が高い科学的理由 「堅実性パーソナリティ」の性差か、河合 薫らのオンライン対談2題:Y染色体がどんどん減少 やがて「男」は消える運命?、 性転換は自然の摂理? Yが消えても男は男) 女性活躍 PRESIDENT ONLINE 「ADHDの若者が成功している例がいくつもある」「革命家やアジテーター、あるいは芸術家として成功することもある」、「人類が進化の大半を過ごしてきた(旧石器時代の)環境では、きわめて有利なパーソナリティだった。 それが「発達障害」とされるようになったのは、わたしたちが生きているのが、人類の進化が想定しないほど「とてつもなく安定した社会」だからだ。その結果、本来であれば「正常」なパーソナリティが「不適応」になってしまったのだ」、「ADHD」への見方が変わった。 「(男が両極にばらついているのだから)堅実性の平均近くでは女の割合が高くなる。これが、「女の方が男より真面目だ」といわれる理由ではないだろうか」、見事な謎解きだ。 ここまで世界的に男女差が明確出ているとは驚かされた。 「女の子の堅実性は平均付近に集まるのに対し、男の子は堅実性が高い方にも低い方にもばらついている。 その結果、堅実性が低い男子生徒が学校教育から脱落しはじめている」、なるほど。「内向的な・・・日本人は、平均的なブレーキ(前頭葉の活動)でも堅実性スコアが高くなり、高い神経症傾向の影響もあって、電車の時間を1秒単位で管理するようになるのではないだろうか」、面白い診断だ。 日経ビジネスオンライン 河合 薫 黒岩麻里 オンライン対談「Y染色体がどんどん減少 やがて「男」は消える運命?」 「性」の決まり方は多用なようだ。 「哺乳類のYはどんどん小さくなって、遺伝子が減ってきています」、「染色体が小さくなって、遺伝子が淘汰されていくという運命は、別に人、哺乳類に限らず、他の生物がたどっている場合もあります」、そんなことが起きているとは・・・。 「実はXXYの方はもっと多くて、6~7割いらっしゃる・・・つまり単純に「XXは女性、XYは男性」という分け方はできないというのが、今の考え方です」、なるほど昔学校で習った知識は古くて使えないようだ。 「性別という言葉は、やっぱり本当は語弊があるんです。生物学的に考えると、別ではない。つながっているんです。男性、女性、雌雄ってつながっていて、どの辺の位置にあるか、というのは人によってそれぞれです。男側、女側に二分できるものじゃないんですよ」、「魚のある種ではYでオスを決めるんですが、別の種は全然別の染色体でオスを決めていたり、Yを簡単に捨てたりするんですよね。性染色体を、コロコロ乗り換えたりすることもあります」、生物の世界は奥が深いようだ。 「性転換は自然の摂理? Yが消えても男は男」 なお、対談の2回目は有料だったので、紹介は省略、これは第三回目である。 「カクレクマノミは・・・1番体が大きい個体がメスなんです。2番目に大きいのがオスで、それ以外は一応オスなんですけど、体が成熟しないので、オスでもメスでもないというか、繁殖に参加していません」、アリやハチも、確か幼虫時代の食べ物で、女王、オス、働き手に分かれると記憶している。 「Y染色体はいつか消えるけれど、男性はいなくならない」、「Y染色体がなくなっても、ちゃんと男性として生まれてこられる仕組みを獲得するだろう」、なるほど。 「Y染色体がなくなる」「染色体進化の分野では染色体が消えたり、新しく生まれたりって、実は普通にあることなんですよね。当たり前のことで、進化の1つです」、「Yがなくなっても男性がいなくなるわけではない」、何がYの代わりになるのだろう。いずれにしろ、男と女の性差も、柔軟に考えるべきもののようだ。
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