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異次元緩和政策(その40)(日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか、黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない、今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋) [経済政策]

異次元緩和政策については、2月3日に取上げた。今日は、(その40)(日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか、黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない、異次元緩和を問う① 今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋)である。

先ずは、2月9日付け日刊ゲンダイ「 日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか」を紹介しよう。「政界」、「官界」、「財界」担当記者の対談と思われる。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/301072
・『官界通(以下=官) 日本銀行の黒田東彦総裁(77)の任期は来年4月までだが、満了を待たずに交代させる話が、首相官邸で出ているのか?  政界通(同=政) 早耳だな。確かに、くすぶっている。  財界通(同=財) それは、岸田文雄首相が進めている「脱・安倍カラー」の一環か?  政 それだけではない。在任9年になっても目標とした物価上昇率2%が実現しない一方、悪い物価上昇と景気低迷が重なる「スタグフレーション」に陥る懸念が出てきたからだ。  財 原油など資源や穀物の相場が上がり、企業のコストが膨らみ、生活用品にも値上げが続く。でも、2%目標を実現できていない黒田日銀が、米欧の中央銀行のように物価抑制のための利上げ策は取れない。そんな局面を乗り切るには、総裁を代えて、閉塞感に包まれている金融市場の雰囲気を一新したい、というわけか。  官 でも、不祥事もなく、本人が「辞めたい」と言い出さない限り、更迭は難しいぞ。 政 問題は、そこだ。中学校からエリート学歴で大事にされてきた黒田氏に、自ら退く発想はないだろう。では、誰が「そろそろ退任されては」と首に鈴をつけるか。普通なら監督官庁で人事案を決める鈴木俊一財務相の仕事だが、人柄がいい鈴木氏には向かない。  財 鈴木氏は、麻生太郎・前財務相の義弟だ。安倍政権で9年も財務相を続けた麻生氏が交代したのも、脱・安倍カラーの象徴。しかも、麻生氏は自民党の副総裁になり、岸田政権を支えている。その役を引き受けても、おかしくない。  政 その通り。ただ、麻生氏は、異次元緩和で地方銀行などの経営が悪化した副作用を追及される黒田氏を擁護してきた。強硬姿勢へ変わるには、理由が必要だ。  官 黒田氏が2月2日の衆院予算委員会で副作用について「異次元緩和の影響を認めるか」と追及されたとき、「認めません」と語気を強めた。この答弁に、与野党から失笑が漏れた。「もう辞めたら」という雰囲気だったな』、「副作用について「異次元緩和の影響を認めるか」と追及されたとき、「認めません」と語気を強めた」、苦笑せざるを得ない。確かに「任期は来年4月」を待たずに交代させるには相当な力業が必要だろう。

次に、2月11日付け日刊ゲンダイが掲載した同志社大学教授の 浜矩子氏による「黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない」を紹介しよう。
・『日銀の黒田東彦総裁の話はいつも「このボタンを押すと、このセンテンスが出てくる」という感じで、同じ言葉が繰り返されることが多いのですが、1月17、18日の金融政策決定会合の直後に行われた記者会見は、いつにも増して「ボタン」が押され、“面白い”発見がありました。 輸入価格の上昇により、ガソリンや食料品などの値段が上がっています。会見では記者から「日銀の目標である物価上昇率2%にずいぶん近づいてきています」と、何度も質問されたのですが、黒田総裁は「決定会合の見通しは2023年度末でもまだ1%程度」「金融政策を変える必要は全くありません」と繰り返しました。 この発言は、ものすごくおかしい。2%という、自分たちが9年間達成できなかった目標に、ようやく近づいてきているのだから、まともな金融政策責任者なら喜ぶはずです。異常な金融政策を解除し、いよいよ正常な道に戻れるのですからね。自分たちの力ではなく、供給サイドのリスクが物価上昇をもたらしている、という予期せぬ力学が働いていることを踏まえつつ、ここを正常化への足がかりにする。そう考えるのが、まともな政策責任者の発想でしょう』、「何度も質問されたのですが、黒田総裁は「決定会合の見通しは2023年度末でもまだ1%程度」「金融政策を変える必要は全くありません」と繰り返しました」、「供給サイドのリスクが物価上昇をもたらしている」のを無視して、「決定会合の見通し」にだけこだわるのは確かに異常だ。
・『記者会見で露呈した苦し紛れの構図  ところが黒田総裁は、正常化や出口について「全く考えておりません」「全く変わっておりません」「利上げの議論など全くしておりません」の一辺倒。一体、何回「全く」という言葉を使ったことか。その底流にあるのは、2%になっては絶対に困る、2%になりそうだという雰囲気すら広がっては困るということ。 なぜそうなるかというと、2%を達成して異次元緩和の世界から帰還しなければならなくなると、国債の買い支えという政府の指令に従えなくなってしまうからです。それで「全く」という言葉を繰り返す。いかに金融と財政が一体運営になっているか、最初から「財政ファイナンス」が狙いだったのかが分かります。そうした事実が、総裁自らの口からどんどんこぼれ出てくる会見でした。 2%の目標をセットした人たちが、2%に絶対ならすまじと踏ん張る。だから、やたら大見えを切って「全く考えていない」と歯切れよく言ってしまう。この「絶対矛盾がもたらす歯切れよさ」という苦し紛れの構図には失笑を禁じえません。 さらに黒田総裁は、物価と賃金がスパイラル状に押し上げ合っていくことを期待する発言もしていましたが、一方で、物価上昇率は2%にならない、と断じた。アホダノミクスの目指す「物価と賃金の好循環」を狙うとしながら、その実、財政ファイナンスをやめなきゃいけなくなる物価上昇は困るわけです。全くつじつまが合っていませんよね。これも矛盾。まさに、ダブルの矛盾が露呈した黒田会見でした。 いまの日本の現状は、中央銀行が政策を柔軟に動かさないがゆえに、弱者がより弱い立場に追い込まれ、生活が行き詰まっている。金融政策が弱い者イジメなどというナンセンスは、世界広しといえど、そうあることではありません。決定的に矛盾した政策をやっているからであり、アホダノミクス男はそこをどう解決するのか。これは大問題です』、「絶対矛盾がもたらす歯切れよさ」よは言い得て妙だ。「アホダノミクスの目指す「物価と賃金の好循環」を狙うとしながら、その実、財政ファイナンスをやめなきゃいけなくなる物価上昇は困るわけです。全くつじつまが合っていませんよね」、同感である。

第三に、3月7日付けエコノミストOnlineが掲載した東大名誉教授で立正大学学長の吉川洋氏による「異次元緩和を問う① 今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋」を紹介しよう。
・『2013年4月に日本銀行が始めた“異次元”金融緩和は、2%インフレ目標が未達成のまま、9年が経過しようとする今もなお続いている。連載「異次元緩和を問う」では、この実験的政策の帰結から何をくみ取るべきなのか、経済学者やエコノミストに問うてゆく。 著書『デフレーション』(日本経済新聞出版)を滞在中のパリで書き上げたのは2012年11月。マイルドなデフレ(物価下落)に対し金融政策の効果は限られると論じた。日銀に大胆な金融緩和を求める安倍政権が、衆院選の勝利を受けて誕生する直前のことだ。 当時なされていた議論は明快だった。「デフレは“貨幣的現象”だから、貨幣の量を増やせば止まる。量的緩和をやらない日銀が悪い」と。私は「それは違う」と述べた。根底にあるマクロ経済学のモデルが間違っているからだ。 モデルでは、長期的な均衡としてマネーの量と物価が比例する「貨幣数量説」が成り立つとし、将来への期待が絶大な役割を果たす。いま中央銀行がマネーを出し続けると言えば、合理的な消費者は物価が上がるに違いないと思い、そう思ったとたんに物価が上がる──と結論づける。ポール・クルーグマンはじめ、米国の著名な経済学者が1990年代後半から盛んに繰り広げていた議論だ。 確かに期待は、株価や地価、為替など資産市場では非常に大きな役割を果たす。「市場参加者が株価は上がると思っている」と市場参加者が思えば株を買い、実際に株価が上がる。 だが、消費者物価は株価とは違う。人々も価格をつける企業もマネーの量など意識していない。逆に、誰もが頭に入れている政策変数といえば消費税率だ。だから増税前に駆け込み需要が発生する。 そもそも、日銀自身、四半期ごとに行う世論調査で「2%のインフレ目標を知っているか」と聞いているが、「よく知らない」「見聞きしたことがない」との回答が半分以上を占め続けている(図)。 この9年を振り返ると「だから言っただろう」という気分になる。異次元緩和に効果はなかったことは、事実を確認すれば明らかだ。 「日銀がマネーを出せばデフレが止まり、実体経済も回復する」という論理だったが、まず物価に影響を与えられなかったことははっきりしている。肝心の実体経済を見てみると、13~19年度を平均した実質GDP(国内総生産)成長率は欧米より低い0・9%。一番ひどいのは実質消費で0・1%とほとんど伸びていない。だから閉塞(へいそく)感が強いままなのだ。 『デフレーション』では、先進国で日本だけがデフレに陥った要因を、名目賃金の下落だと指摘していた。皮肉なことに、異次元緩和への注目度が薄れる段になって賃上げが重要課題として浮上している』、「先進国で日本だけがデフレに陥った要因を、名目賃金の下落だと指摘」、その通りだ。「ポール・クルーグマン」は最近になって、かつての自分の主張が間違っていたと認めた。
・『デフレの要因は賃金下落  名目賃金には下方硬直性がある。ところが、賃金を通し物価を下がりにくくする「デフレストッパー」が日本だけ雇用形態の変化などにより外れてしまった。 米国や欧州の物価の推移をみると、95年以降モノの値段は日本と同様に下がる一方、サービスは上がっている。サービスは労働集約的で、価格は名目賃金と連動するが、欧米で名目賃金は上がっているからだ。モノとサービスを合わせた消費者物価は、サービスの価格が上がっているため下がらなかった。 20年に「研究生活をしめくくる『卒業論文』のようなもの」と記した著書『マクロ経済学の再構築』(岩波書店)を刊行。主流マクロ経済学を、都合のいい非現実的な仮定に基づいた「砂上の楼閣」と断じた。 今のマクロ経済学は、合理的・代表的な消費者を想定したミクロのモデルを相似拡大して全体を理解しようとする。そこに中央銀行というプレーヤーが登場し、期待に働きかける。難しい理論モデルが作られ、どんどん洗練されてきたが、モデルには何の根拠もなく、むしろ害悪をもたらしている。 足元を見ても、資源価格の上昇を発端とした米国のインフレは賃金上昇とのスパイラルに陥りつつあり、FRB(米連邦準備制度理事会)の対応は後手に回っている。FRBはインフレ5%の段階でも「一時的」だとしきりに言っていた。それは金融緩和で物価上昇を目指す時、2%のインフレ目標を一時的に超えること(オーバーシュート)が正しいとするモデルが念頭にあったからだ。 日銀も今後、インフレ2%が近づいた時にモデル通りオーバーシュートさせるのか、緩和基調を手じまいするのか。難しい局面を迎える。 『マクロ経済学の再構築』では、再構築の柱にケインズの有効需要の理論を置き、ミクロの裏付けとして統計物理学の手法を用いた。一方で、ケインズ経済学において不況の際に有効需要を補う方策とされる財政支出を処方箋とはしない』、「主流マクロ経済学を、都合のいい非現実的な仮定に基づいた「砂上の楼閣」と断じた」、「今のマクロ経済学は、合理的・代表的な消費者を想定したミクロのモデルを相似拡大して全体を理解しようとする。そこに中央銀行というプレーヤーが登場し、期待に働きかける。難しい理論モデルが作られ、どんどん洗練されてきたが、モデルには何の根拠もなく、むしろ害悪をもたらしている」、「FRB・・・の対応は後手に回っている。FRBはインフレ5%の段階でも「一時的」だとしきりに言っていた。それは金融緩和で物価上昇を目指す時、2%のインフレ目標を一時的に超えること・・・が正しいとするモデルが念頭にあったからだ」、手厳しい批判だ。
・『財政支出を勧めない理由  短期の実体経済の動きが有効需要で決まるのは確かだ。といっても目先の数字だけではない経済成長を目指す視点に立てば、持続性のある需要かどうかが問われる。だから、需要を創出するようなイノベーションこそが重要だ。 たとえば財政支出で大仏を作れば、GDPは増える。だが、大仏を作ってメリットはあるのか。今の日本では、日銀が国債を無制限に買う方針を掲げているため財政規律が緩み、意味のある財政支出なのか疑わしいものが混じってきている。それこそが、異次元緩和の副作用だ。 対照的に米国の主流派経済学者は、金融政策の限界が認識された2010年代後半から、低金利下で長期停滞から脱するための経済政策として財政支出を論じ始めた。 低金利環境は借り手にとって有利だから、意味のある財政支出であれば財政負荷が小さい今、国債で行えばいいという論は半分正しい。だが、「政策」は常に総合的な判断だ。低金利はいつまで続くのか。世界的に長期金利は上がり始めており、日本だけが日銀が国債を買うことで抑え続けられるだろうか。 財政の持続性では、名目成長率と長期金利の関係が重要となる。成長率が金利を上回る現状はあくまで一時的だ。そのなかで財政支出を拡大することはギャンブルに等しい。 金利は資源配分に対して手旗信号的な役割を果たす。3%の金利とは、企業が融資を受けて設備投資する時、リターンが3%を超えるものしかできないということだ。 0%の金利が意味するところは「なんでもあり」。資源配分機能が失われ、異常な状態だ。それこそ大仏でもいいとなる。国民は納得できるのか。私は納得しない』、「名目成長率」は2021年1-3月期-1.9%、4-6月期+6.1%、7-9月期-0.1%、10-12月期-0.9%、長期金利は10年物長期国債の利回りが昨日で0.185%だ。「金利は資源配分、に対して手旗信号的な役割を果たす」のがも本来の姿だが、現在のような「指し値オペ」では日銀の誘導値そのものだ。結局、「「なんでもあり」。資源配分機能が失われ、異常な状態だ」、「吉川洋氏」のみならず私も到底「納得」できない。
タグ:(その40)(日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか、黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない、今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋) 異次元緩和政策 浜矩子氏による「黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない」 「副作用について「異次元緩和の影響を認めるか」と追及されたとき、「認めません」と語気を強めた」、苦笑せざるを得ない。確かに「任期は来年4月」を待たずに交代させるには相当な力業が必要だろう。 エコノミストOnline 日刊ゲンダイ「 日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか」 日刊ゲンダイ 「絶対矛盾がもたらす歯切れよさ」よは言い得て妙だ。「アホダノミクスの目指す「物価と賃金の好循環」を狙うとしながら、その実、財政ファイナンスをやめなきゃいけなくなる物価上昇は困るわけです。全くつじつまが合っていませんよね」、同感である。 「名目成長率」は2021年1-3月期-1.9%、4-6月期+6.1%、7-9月期-0.1%、10-12月期-0.9%、長期金利は10年物長期国債の利回りが昨日で0.185%だ。「金利は資源配分、に対して手旗信号的な役割を果たす」のがも本来の姿だが、現在のような「指し値オペ」では日銀の誘導値そのものだ。結局、「「なんでもあり」。資源配分機能が失われ、異常な状態だ」、「吉川洋氏」のみならず私も到底「納得」できない。 「主流マクロ経済学を、都合のいい非現実的な仮定に基づいた「砂上の楼閣」と断じた」、「今のマクロ経済学は、合理的・代表的な消費者を想定したミクロのモデルを相似拡大して全体を理解しようとする。そこに中央銀行というプレーヤーが登場し、期待に働きかける。難しい理論モデルが作られ、どんどん洗練されてきたが、モデルには何の根拠もなく、むしろ害悪をもたらしている」、「FRB・・・の対応は後手に回っている。FRBはインフレ5%の段階でも「一時的」だとしきりに言っていた。それは金融緩和で物価上昇を目指す時、2%のインフレ目 『マクロ経済学の再構築』(岩波書店) 「先進国で日本だけがデフレに陥った要因を、名目賃金の下落だと指摘」、その通りだ。「ポール・クルーグマン」は最近になって、かつての自分の主張が間違っていたと認めた。 吉川洋氏による「異次元緩和を問う① 今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋」 何度も質問されたのですが、黒田総裁は「決定会合の見通しは2023年度末でもまだ1%程度」「金融政策を変える必要は全くありません」と繰り返しました」、「供給サイドのリスクが物価上昇をもたらしている」のを無視して、「決定会合の見通し」にだけこだわるのは確かに異常だ。
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ウクライナ(その3)(「プーチンは狂人でもナショナリストでもない」 佐藤優が読み解く「暴君」の“本当の狙い”、非核戦争はいつ核戦争に変わるのか──そのときプーチンは平然と核のボタンを押す、プーチンが「暗殺」されたら即発射か…ロシア「核報復システム」の危ない実態、「プーチンは人格が壊れた指導者」 ロシア政治専門家が語るウクライナ侵攻の「誤算」と核攻撃の可能性〈dot.〉) [世界情勢]

昨日に続いて、今日もウクライナ(その3)(「プーチンは狂人でもナショナリストでもない」 佐藤優が読み解く「暴君」の“本当の狙い”、非核戦争はいつ核戦争に変わるのか──そのときプーチンは平然と核のボタンを押す、プーチンが「暗殺」されたら即発射か…ロシア「核報復システム」の危ない実態、「プーチンは人格が壊れた指導者」 ロシア政治専門家が語るウクライナ侵攻の「誤算」と核攻撃の可能性〈dot.〉)を取上げよう。

先ずは、本年3月2日付けデイリー新潮が掲載した「「プーチンは狂人でもナショナリストでもない」 佐藤優が読み解く「暴君」の“本当の狙い”」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/05010720/
・『まさかの軍事行動に、世界は憤りと失望を禁じ得なかった。「狡猾」「冷酷」「暴虐」……そんなキーワードで語られる」とはさすがだ。大国の首領は、一体いかなる思考回路を持ち合わせているのか。本誌(「週刊新潮」)「頂上対決」でもおなじみ、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が読み解く。 侵攻の2日前、2月22日の映像では、ロシア軍の戦車と兵員輸送車に「Z」という識別符号が記されていました。ロシアとウクライナは同じ車両を使っており、何らかの形で区別する必要がある。これを見て私は、ロシアはウクライナに入る肚(はら)だと確信したのです。 プーチンの狙いはウクライナの政権転覆、つまりゼレンスキー大統領の首をすげ替えることです。彼自身が明らかにしている通り、今回はウクライナ国内のロシア系住民の保護、そして同国の非軍事化が目的。そのためにまず、現政権打倒を目指しているわけです』、「ロシア軍の戦車と兵員輸送車に「Z」という識別符号が記されていました」、筆者がこれで「ロシアはウクライナに入る肚(はら)だと確信したとは、さすがだ。
・『軍事介入を選んだ理由  コメディアン出身のゼレンスキーは2015年に主演ドラマ「国民のしもべ」が大ヒットし、19年4月の大統領選で初当選しました。ところが、当初は70%以上あった支持率も、政界に蔓延(はびこ)る腐敗を正せずに急降下、1年後には30%ほどに落ち込み、現在はさらに低迷しています。そこで支持率上昇のために、反ロシア感情を高め、領土の回復を試みようと動き始めました。 14年に親ロシア勢力が一方的に独立を宣言した東部の「ドネツク」「ルガンスク」両“人民共和国”の人たちは、多くがロシア語を話し、ロシア正教を信仰し、自らをロシア人だと認識しています。すでに70万人がロシア国籍を取得しているともいわれ、この地を取り戻そうとするゼレンスキーに対し、プーチンがそれを許せば国民を見捨てることとなり、政権が瓦解する可能性もある。そこで軍事介入というオプションを選んだのです。 ロシアの行為は全く是認できるものではありません。国際法では、国連加盟国の紛争は武力で解決してはいけないことになっています。ただし、プーチンが完全な無法行為を働いているとも言い切れません。国際法を無視ではなく、巧みに「濫用」しているのです』、「プーチンが完全な無法行為を働いているとも言い切れません。国際法を無視ではなく、巧みに「濫用」しているのです」、どういうことなのだろう。
・『プーチンが持ち出した屁理屈  2月21日には前出の二つの人民共和国を国家承認していますが、国家承認とは通常、国民がいて実効支配をしている政府があり、国際法を守る意思があると認められれば、国際法上は違法性を有しません。続けてロシアは両人民共和国との間に「友好、協力、相互援助条約」を結びました。これは日米安保と同じような同盟条約であり、その締結後に要請を受け、24日に軍を派遣したという流れで、まずは体裁を整えた格好です。 またプーチンは今回「特別軍事作戦」が国連憲章51条に該当すると主張しています。これは集団的自衛権を認める条項です。さらにプーチンは武力行使を正当化するために“ウクライナの「ネオナチ」政権から守るため”という屁理屈を持ち出したのですが、ウクライナ政府には、ナチスドイツと一時期協力したステパーン・バンデーラを民族の英雄として尊敬する人たちがいるので、こちらもこじつけることができます。 侵攻のタイミングも実に合理的でした。前日の2月23日は、1918年にソ連がドイツに勝利した「祖国防衛の日」であり、愛国感情が最も高まる日。無名戦士の墓にプーチンが献花し、盛大な軍事パレードが行われる。国民全体で戦いに思いをはせ、翌日に「ネオナチ」との戦闘に踏み切ったというわけです』、「ロシア」側には周到な準備があったようだ。
・『国境を「面」で捉える  プーチン自身は狂人でもなければ、郷愁にとらわれたナショナリストでもありません。24時間、国のために働くことができる国益主義者であり、典型的なケース・オフィサー(工作担当者)です。今回は国際社会からさまざまな経済制裁を受けるでしょうが、その反面、NATOがすでに機能していないことを白日の下に晒したともいえます。これ以上、NATOに加盟しようとする国が出てこなければ、ロシアの安全保障上、きわめて大きなメリットとなります。 彼がもくろんできたのは非共産主義的なソ連の復活です。つまりはベラルーシ、ウクライナ西部、トランスコーカサス、そしてカザフやキルギス、タジキスタンなども勢力圏に置くというもので、それがあるべきロシアの姿だと考えています。ただし、完全に版図に組み込むわけではなく、ロシアの強い影響下にある状態を望んでいる。国境を線ではなく「面」で捉えており、各国がそれぞれバッファ(緩衝地帯)でなければならないと考えているのです』、「プーチン自身は狂人でもなければ、郷愁にとらわれたナショナリストでもありません」、最近は「狂人説」も出ているが、明確に否定した形だ。もっとも、「佐藤氏」は「ロシア」問題の専門家として、「ロシア」への思い入れもあるのかも知れない。
・『プーチン独自の善と悪  これは「制限主権論」であるともいえます。社会主義共同体の利害が毀損される時、個々の主権国家の権利が制限されることがある。いわゆる「ブレジネフドクトリン」ですが、この社会主義共同体に、プーチンの思い描くロシアが取って代わった。「ネオ・ブレジネフドクトリン」と名付けるべきものかもしれません。 私の友人でロシアの政治学者であるアレクサンドル・カザコフが著した『ウラジーミル・プーチンの大戦略』には、以下の記述が登場します。 〈私がプーチンのイデオロギーと呼んでいるものは、あらゆる問題に答えを与えるような入念につくられた理論ではない。それはむしろ、現代世界における針路を決めるための海図となり得る、複雑な価値体系である。そして、「なにが善くて、なにが悪いのか」を見分けること――すなわち、意思決定の際に自覚的な選択をできるようにする、価値の座標システムなのである〉 プーチンの中には独自の価値基準があって、その中に善と悪がある。これに照らした時、ウクライナがNATOに加盟しようとしたこと、またゼレンスキーが大統領になる前の出来事ですが、19年1月にキエフ府主教がモスクワ総主教庁から独立し、イスタンブールの総主教に帰属したことも、看過できない悪であると映ったわけです』、「プーチン」のなかの「看過できない悪」に、「ウクライナがNATOに加盟しようとしたこと」や、「キエフ府主教がモスクワ総主教庁から独立し、イスタンブールの総主教に帰属したこと」があったようだ。
・『ロシアの最終目標は  無神論を掲げたソ連のKGBに勤めたプーチンは、今ではロシア正教の信仰を受け入れています。彼にとって正教は、ロシアに不可欠なアイデンティティーの一つであり、これを擁護することを義務だと捉えている。そのためには軍事力を持ち出してでも「悪」の出現を食い止めなければ、という立場にあるのです。 今回の軍事行動は、ロシアと事を構えない融和政権がウクライナで樹立されるまで続くでしょう。現在ウクライナの軍事施設は壊滅的な被害を受けており、これを再建できないようにした上で、マッカーサーが戦後日本で行ったように、自衛のための軍隊だけを認める。それらが達成されたのち、ロシアは手を引くのではないかと思われます。 実効支配していた「ドネツク」「ルガンスク」の両人民共和国は、それぞれが位置する州全体を支配することになるでしょうが、ロシアが占領するとしてもこの2州にとどまり、全土には及びません。あくまでロシアに迎合した政権が「自発的」に誕生するのを待つのではないでしょうか』、説得力ある見方だ。

次に、3月8日付けNewsweek日本版が掲載した本誌サイエンス担当のフレッド・グタール氏による「非核戦争はいつ核戦争に変わるのか──そのときプーチンは平然と核のボタンを押す」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/03/post-98245_1.php
・『<冷戦スタイルの核の恐怖が再び表舞台に躍り出た。核超大国(アメリカ、中国、ロシア)同士の睨み合い。その舞台となるのは、ウクライナだけではないだろう> ウクライナにおける戦争が始まって数日の間は、ロシア軍の戦車がガス欠になったとか、兵士たちが食糧不足にあえいでいるというのは「明るい」ニュースだった。だがこのようなロシア軍の窮状や、ウラジーミル・プーチン大統領の国内外における立場の悪化を背景に、ロシアが核兵器を使う可能性が高まっているかも知れないとの声が軍事専門家から上がっている。 ロシア軍は民間の標的に対する激しい無差別攻撃によってウクライナ軍を短期間で制圧するはずが失敗、戦線を拡大させている。もしロシアの軍事作戦が再び頓挫すれば、「プーチンに残された頼みの綱は核兵器」という事態にならないとも限らない。 「もしロシア軍の作戦が軍事的大失敗の様相を呈し始めたら、核兵器使用へと戦争がエスカレートする可能性も出てくる」と、マサチューセッツ工科大学のバリー・ポーゼン教授(政治学)は言う。 一方、本誌が話を聞いた軍事専門家らに言わせれば、核戦争に発展する可能性は現時点では低い。プーチンはロシア軍の核部隊が「特別戦闘態勢」に入ったと発表し、「われわれに干渉しようとする者は誰であれ」核攻撃の標的になりうると示唆したが、これは激しい言葉遣いでNATOが戦場に軍隊や航空機を送り込むことを食い止めようとしているのだろうと専門家は言う』、「「もしロシア軍の作戦が軍事的大失敗の様相を呈し始めたら、核兵器使用へと戦争がエスカレートする可能性も出てくる」、穏やかではないが、ありそうなシナリオだ。
・『不明な点が多い核使用の「力学」  もっとも安心はできない。「蓋然性という概念はこの状況で使うにはそぐわない」と、国連軍縮研究所(ジュネーブ)の上級研究員、パベル・ポドビグは言う。「今不可能に見えても実際には起こるかも知れない。この戦争は1度限りの出来事で、2度と同じことは起きない」 戦場において通常戦がどんな力学で核使用へと発展するのかはほとんど分かっていない。過去に核兵器が戦争で使われた例と言えば、第二次大戦の終わりの1945年8月、2つの原子爆弾が日本に投下された1度きりだ。 米ロ両国はそれぞれ、核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を何千発も保有し、互いに狙いを定めている。核兵器による交戦が紛争を拡大させ、両国間の戦いにつながるリスクに関し、信頼に足る評価は存在しない。 ただしウクライナ侵攻における「戦術核」とは、ICBMと言うより核弾頭を搭載した短距離もしくは中距離のミサイルだ。ロシアはこうしたミサイルを約2000発保有していると考えられており、その多くはウクライナ戦での利用が可能だ。 アメリカとその同盟国はこれまで、ウクライナ問題への深入りはせずロシア軍との直接対決を避けるとの姿勢を堅持してきた。だが軍事専門家は、ロシアが核兵器使用に踏み切るレベルまで軍事作戦が不利に展開するシナリオはいくつもあると考えている。) ロシア機がNATO加盟国の上空を通過するとか、NATO機がウクライナ上空に侵入するといった、何らかのミスや思い違いが核超大国同士の衝突をもたらし、ロシアが戦術核の1つを使うに至る可能性もないとは言えない。 1989年にベルリンの壁が崩壊し、その後にソ連が崩壊して以降、核による威嚇は人々の目には触れなくなった。だが冷戦スタイルの核の恐怖が再び表舞台に躍り出た格好だ。核戦争の可能性という暗雲の下で展開する、いわゆる超大国(アメリカ、中国、ロシア)の間の紛争。その舞台となるのはウクライナだけではないだろう。それほど遠くない未来に、ロシアの西側国境や中国の東岸沖を舞台にそうした紛争が起きるのは想像に難くない。 「核兵器が(国際政治の表舞台に)戻ってきた。もっとも、これまでいなくなったことなど一度もなかったが」と語るのは、ジョージタウン大学のケイトリン・タルマッジ准教授(安全保障論)だ。「現代における新しい要素としては、核兵器を保有する3つの超大国が、新たな競争的関係の時代に突入しつつあるということだ。私たちが話題にしているこの世界では、平時であれ危機の時であれ紛争の時であれ、国家間の相互関係に核の影が差している」 「ウクライナの戦争において私たちは、その影の『予告編』を見ているわけだ」』、「ウクライナ侵攻における「戦術核」とは、ICBMと言うより核弾頭を搭載した短距離もしくは中距離のミサイルだ。ロシアはこうしたミサイルを約2000発保有していると考えられており、その多くはウクライナ戦での利用が可能だ」、「ロシアが核兵器使用に踏み切るレベルまで軍事作戦が不利に展開するシナリオはいくつもあると考えている」、「核の恐怖が再び表舞台に躍り出た格好だ」、恐ろしいことだ。
・『NATOとロシアの戦争は起こり得る  今後の戦況がロシアにとって不利なものになり、ロシア軍の司令官たちが、西側から提供される武器などの物資がその原因だと考えれば、ポーランドやスロバキア、ルーマニアとの国境沿いを空爆することで、物資の流入を阻止しようとする可能性もある。そうなれば、ロシア軍の戦闘機がNATO加盟諸国との国境に接近することになり、誤ってNATO圏内の標的を爆撃する事態もあり得るだろう。そしてそのような誤爆は、紛争を大幅に悪化させることになる。 そうなったとき、NATOはどうするのか。劣勢になったNATOは、ゼレンスキーらの求めに応じて、ウクライナの上空に飛行禁止空域を設けるだろうか。そうなれば紛争はすぐに、NATOとロシアの争いへとエスカレートするだろう。「全てはあり得ない筋書きのように聞こえるだろうが」と、ある軍事アナリスト(匿名)は言う。「今やあり得ない筋書きではない。十分に起こり得ることだ」 誤解が想定外の事態や戦闘を招いた例は、過去にもあった。米ソ間の核戦争勃発についての懸念が高まっていた1983年、ソ連(当時)の領空で韓国の民間航空機が撃墜され、何百人もの民間人が死亡した。本来のルートを外れて領空に入った民間機を、ソ連側が米機と誤認して撃墜したとされている。) 2020年1月には、イラン軍が民間航空機を撃墜。イランは当時、革命防衛隊の司令官だったガセム・ソレイマニが殺害されたことへの報復として、イラク国内にある米軍基地への攻撃を行っており、民間航空機を「敵性標的」と誤認したという。2014年にはウクライナ東部の上空で、マレーシアの民間航空機が撃墜された。親ロ派の武装勢力が、ウクライナ軍の輸送機と誤認して撃墜したとみられる。 ロシアによる核の脅しは抑止目的である可能性が高いが、それでもこの脅しが「作用と反作用の悪循環」につながる可能性があると、ジョージタウン大学のタルマッジは言う。脅しを受けて、周辺のNATO諸国は東部の国境地帯に部隊や兵器を配備し、警戒態勢を敷く可能性がある。ロシア軍から地上攻撃を受けるおそれがあるバルト諸国が、部隊や兵器を国境の前進陣地に移動させれば、ロシアはそれを攻撃態勢と解釈する可能性がある。そうなれば緊張が高まり、一発の弾丸がきっかけで、ロシアとNATOの紛争が勃発することになる。 マサチューセッツ工科大学のポーゼンは、「西側諸国の間に、感情的な議論の高まりがみられるのが気掛かりだ」と指摘する。「『この戦争に勝とう。プーチンを倒せるかもしれない』と先走り、ある種の勝利の病にかかっている様子がみられる」』、「西側諸国の間に、感情的な議論の高まりがみられるのが気掛かりだ」、「「この戦争に勝とう。プーチンを倒せるかもしれない」と先走り、ある種の勝利の病にかかっている様子がみられる」、警戒すべき姿勢だ。
・『ナチス台頭の繰り返しか  プーチンは核の部隊に特別警戒態勢を取るよう命じたとしているが、これまでのところ、同部隊が戦略核を保管庫から取り出して、運搬車両に移動させた証拠は一切ないと、ロシア専門家で国際危機グループの欧州・アジア担当部長であるオリガ・オルカーは言う。 「ロシアがなんらかの攻撃を計画していることを伺わせるような、核兵器の移動があれば、私は大いに心配するだろう」と彼女は言う。「ロシアが核部隊の警戒態勢について、何かを変えた証拠がないという事実は、ひとまずの安心材料だ」 ヨーロッパでの動きが、世界中で核の緊張を高めることになる可能性もある。オリカーは、ウクライへの軍事介入を回避した西側諸国がこれを失敗と感じ、次に大国が小国を飲み込もうとしたときは必ず戦うと決意することを案じる。ウクライナでの失敗は、かつてナチスドイツの侵略を大目に見る宥和政策が、ヒトラーの台頭を招いたミュンヘン協定を思い出させるからだ。 そうなればヨーロッパはNATO軍を増強して、ロシアとの将来の紛争に備えることでより大きな危険を招く可能性がある。「NATO加盟国とロシアの戦争が、核兵器の使用につながるリスクは現実にある」とオリカーは指摘する』、「ロシアが核部隊の警戒態勢について、何かを変えた証拠がないという事実は、ひとまずの安心材料だ」、しかし、「ヨーロッパはNATO軍を増強して、ロシアとの将来の紛争に備えることでより大きな危険を招く可能性がある」、とならないように願いたい。

第三に、3月9日付け現代ビジネス「プーチンが「暗殺」されたら即発射か…ロシア「核報復システム」の危ない実態」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/93152?imp=0
・『世界中の誰もが現実に目を向けなければならない。ウクライナ侵攻によって、「核戦争」の勃発は着実に近づいている。一度始まってしまえば日本人も逃れることはできない。そのとき、何が起きるのか』、興味深そうだ。
・『「敵国」に核を一斉発射  これほど立て続けに世界各国の予想を裏切る男がいただろうか。ロシアのプーチン大統領だ。 まさかクリミアを併合するはずがない、まさかウクライナに全面侵攻をするはずがない、まさか市街地に爆弾を落とすはずがないー。ウクライナの戦況を見れば誰もがわかるように、甘い期待はすべて覆された。 今のプーチン大統領に「まさか」は通用しない。私たちが想像しうる中で、もっとも最悪の事態を彼なら起こすかもしれない。つまり、核兵器を使った「全面核戦争」だ。 そして、それは十分にありえる。なぜならプーチン大統領は、己を見失いかねないほど追い詰められているからだ。ウクライナ戦争がどうなろうが、プーチン大統領の命運は尽きたと言える。 このまま欧米諸国からの経済制裁が続けば通貨ルーブルは急落し、ロシア経済は確実に破綻する。国内での立場が危うくなれば、後がなくなったプーチン大統領が核使用という常軌を逸した判断を下す恐れが出てきた。 「良心や常識が欠如した独裁者は、自分が失脚するくらいなら全世界を巻き込んで道連れにしようと考えます。プーチン大統領なら、そんな非合理的な決断をしても不思議ではありません」(ジャーナリストの常岡浩介氏)) 仮にプーチン大統領がそこで何とか自制したとしても、「核」の危機は去らない。 「今回の大失態により、ロシア国内ではプーチン大統領に対する不満が急速に高まっている。起こりうるのは『暗殺』です。 米国の情報機関はロシア政府内に異変が起きつつある兆候を察知している。プーチン大統領が『除去』される可能性もあるのです。しかし、これが核の封印が解かれるきっかけになりうる」(防衛省関係者) なぜならロシアでは「死の手」と呼ばれる核報復システムが稼働しているからだ。 「『死の手』は、人為的な操作をせずとも自動的に核を敵に浴びせられる自動制御システムです。冷戦中の'85年、敵国からの核攻撃を想定した旧ソ連軍が、確実に報復攻撃を行えるようにするために運用が始まりました」(軍事評論家の菊池雅之氏) 今なおロシアを守り続ける「死の手」は、何度も改良を経ている。運用開始当初は人間が発射ボタンを押す必要があったが、現在は司令部の非常事態を認識したAIが核使用の判断を下す。 その判断材料の中には、最高意思決定者の不在、すなわちプーチン大統領の死も含まれている可能性が高い。 彼の死を国家の存続危機だと判断した「死の手」が、ロシア各地に配備されている約1600もの核ミサイルを一斉に発射するのだ』、「このまま欧米諸国からの経済制裁が続けば通貨ルーブルは急落し、ロシア経済は確実に破綻する。国内での立場が危うくなれば、後がなくなったプーチン大統領が核使用という常軌を逸した判断を下す恐れが出てきた」、「ロシア国内ではプーチン大統領に対する不満が急速に高まっている。起こりうるのは『暗殺』」、「しかし、これが核の封印が解かれるきっかけになりうる」・・・ロシアでは「死の手」と呼ばれる核報復システムが稼働しているからだ」、「暗殺」があれば、もっと危険な「人為的な操作をせずとも自動的に核を敵に浴びせられる自動制御システムです、「司令部の非常事態を認識したAIが核使用の判断を下す」とは恐ろしいことだ。ロシアの「AI」に信頼性の問題はないのだろうか。
・『極超音速ミサイル  アメリカと安全保障体制を築く日本は「敵国」として標的に組み込まれている。これは、すでにロシアが日本に対して不穏な動きを見せていることからも明らかだ。 3月2日には北海道・根室半島沖でロシア機と見られるヘリコプターが日本の領空を侵犯した。 「ここ最近、トヨタの関連会社など日本にある多くの企業がサイバー攻撃を受けたと発表しています。経済制裁に参加を表明した日本に『牽制』をかけるため、ロシア政府が裏で動いている可能性は高いのではないか」(経済評論家の加谷珪一氏) '18年にプーチン大統領は、年次教書演説でロシアが保有する数々の兵器について紹介している。中でも、最新型の超巨大ICBM(大陸間弾道ミサイル)の比類なき性能は、各国に衝撃を与えた。 射程は1万1000km以上、最大16個の核弾頭が搭載可能で最大速度はマッハ20という極超音速のため、アメリカや日本のミサイル防衛網は無力化される。 「10発でアメリカの全国民を殺害する威力がある」という試算結果もあり、まさに最終兵器というにふさわしい。このICBMの名は「サルマト」といい、ロシアは2021年ごろから配備を開始していると見られている。 それだけではない。さらに恐ろしいのは、サルマトに搭載されマッハ20で飛行し、高度100kmほどの高度を、探知しにくい軌道で飛んでくる極超音速滑空兵器(HGV)「アヴァンガルド」だ。 日本に向け発射されるミサイルの中に、「サルマト」や「アヴァンガルド」のような極超音速で飛ぶ核兵器が搭載されている可能性は高いと専門家は言う。そんな最悪なシナリオが現実になったら、影響範囲はどのくらいにまで及ぶのだろうか…? 後編記事『プーチンが狙う「日本の大都市」の名前…核ミサイル爆撃で起こる「ヤバすぎる現実」』で詳しく解説する』、「最新型の超巨大ICBM」に対しては、イージスなどは無力で有効な防御手段はない。なお、後編記事は、荒唐無稽な気もするので紹介は省略する。

第四に、3月10日付けAERAdot「「プーチンは人格が壊れた指導者」 ロシア政治専門家が語るウクライナ侵攻の「誤算」と核攻撃の可能性〈dot.〉」を紹介しよう。これは、第一の佐藤優氏の記事とは正反対だが、現在はこの見方の方が多数説なので、紹介する次第である。
https://dot.asahi.com/dot/2022030900020.html?page=1
・『第2次世界大戦以降、欧州での戦争としては最大規模となる、ロシアによるウクライナ侵攻。首都キエフを包囲するロシア軍の攻撃は激化し、市民の犠牲者も増え続けている。それにしても不可解な戦争である。ロシア、ウクライナとも、相手国民に対してほとんど悪感情を抱いていないにも関わらず、大戦火を交える事態となってしまった。ロシア研究の第一人者で政治学者の筑波大学・中村逸郎教授は、「ロシア、ウクライナの国民は何も悪くない。これは『プーチンの戦争』」と指摘し、「人格が壊れた指導者」が核攻撃さえしかねない脅威を訴えた。 「今回の戦争は、プーチン大統領がNATO(北大西洋条約機構)の脅威を意図的につくり出し、政治に利用した、いわば『プーチンの戦争』です。祖国ロシアを守るための戦争ではない。だから、彼の行動についていけないと感じているロシア軍の将校クラスからは公然と辞任要求が出ている」 中村教授はそう話し、同様に不満を抱くロシア国内の一部勢力、FSB(連邦保安庁。旧ソ連KGB)や軍などが、軍事機密をウクライナ側に流している、という情報もあるという。 「圧倒的な兵力を誇るロシア軍の侵攻が思うように進まず、いまも(ウクライナの)ゼレンスキー大統領の身柄を拘束できない背景には、ロシア側の情報がウクライナに伝わっているのではないか、というわけです」』、「ロシア軍」の意図的なサボタージュや情報漏洩もありそうだ。
・『8年前から始まったウクライナ侵攻計画  中村教授によると、今回のロシアの軍事行動は8年にわたり綿密に練られたもので、2014年2月の「ウクライナの危機」に始まる流れの最終段階という。 そこで暗躍してきたといわれるのが、ロシア政府に代わり秘密裏の活動を行ってきたロシアの民間軍事会社「ワグネル」だ。 「ワグネルというのは7千~1万人の兵士が所属する世界最大規模の民間軍事組織。それが初めて実戦投入されたのが14年のウクライナ危機です」 このときロシアはクリミア半島を一方的に併合。さらにウクライナ東部ではドネツク州とルガンスク州の一部を親ロ派の武装勢力が実効支配するようになった。 欧州連合(EU)は、ワグネルがウクライナ東部に戦闘員を送り込んで破壊活動や拷問など行っていると指摘し、制裁措置を課してきた。 そんなワグネルのオーナーとされるのがプーチン大統領の側近、実業家のエフゲニー・プリゴジン氏で、「プーチン氏の料理人」の異名を持つ。 中村教授によると、ワグネルは14年以降、ウクライナ国内に潜り込み、今回の侵攻の下準備を着々と進めてきた。 「ワグネルの戦闘員は『自分はウクライナ人』と称して、ウクライナ兵のなかに紛れ込み、ロシア軍の侵攻が始まれば、内側からウクライナ軍を切り崩す。そんな役割を担ってきた」』、「8年前から始まったウクライナ侵攻計画」、「7千~1万人の兵士が所属する世界最大規模の民間軍事組織」「ワグネル」、については初耳だ。
・『ロシア軍が侵攻を開始した2つの要因  ロシアは昨年秋からウクライナ国境に近いベラルーシに兵力を集結。大規模な軍事演習を行い、ウクライナに圧力をかけてきた。このタイミングには2つの要因があると、中村教授は説明する。 1つ目は、昨年9月にドイツで16年間首相を務めてきた旧東ドイツ出身のメルケル氏が退任したこと。 「これまでエネルギー資源の多くをロシアに頼るメルケル首相はプーチン大統領に気をつかい、さらに、アメリカなど西側同盟国との間を取り持つ調整役となってきた。そんなメルケル首相が退任したことで、『重しが取れ』、ロシアはウクライナに対する攻勢を一気に強めた」 2つ目は、ゼレンスキー大統領の支持率低迷だ。 「ゼレンスキー氏は19年にウクライナ大統領に就任しましたが、彼は元コメディアンで、政治手腕がなかった。それで、支持率がどんどん低下してしまった。」 一時は約70%もあった支持率は、昨年後半には30%台と低迷。さらに成果を出せない政権と財界の関係も悪化した。 「口うるさい財閥を疎ましく感じていたゼレンスキー大統領は昨年11月に『財閥解体法』を制定したんです。それで財閥との対立が決定的となり、人気もさらに下がった。そんなタイミングを狙ってプーチン大統領はウクライナへの攻撃準備を本格化した」) さらに、プーチン大統領とバイデン米大統領は、ウクライナをめぐる因縁の仲という。 「あの14年、ウクライナにポロシェンコ政権が誕生し、欧米路線をとるのですが、それをサポートしたのがバイデン副大統領(当時)だった。しかも、バイデン氏は息子ハンター氏をウクライナのガス企業ブリスマに送り込んで、テコ入れした。ですから、プーチン大統領は、ウクライナの後ろ盾となったバイデン大統領に対して大変な怒りがある」』、「メルケル」退任、「ゼレンスキー大統領」の一時の人気低迷、「バイデン氏は息子ハンター氏」をめぐる問題、などが契機になったようだ。
・『ウクライナ侵攻は「2人」で決めたか  プーチン大統領の怒りの背景にはNATOの「東方拡大」がある。1949年、設立時のNATO加盟国は12カ国だったが、現在は30カ国に増加。ゼレンスキー大統領もウクライナのNATO加盟を求めてきた。米国もそれを支持した。 これに対して「プーチン大統領は非常に敏感に、神経質に対応してきた」と中村教授は指摘し、こう続ける。 「実は、NATOは自主的に東方拡大したのではなく、東欧諸国やバルト3国はあまりにもロシアが怖いので、仲間に入れてほしかったわけです。NATOはロシアに圧力をかけるためにこれらの国々を引き込んだわけでは決してない。ところが、プーチン大統領に限ったことではありませんが、ロシアの一部の人たち、特に安全保障に関わる人は、実際に外から圧力がかかっていなくても、それを非常に過大にとらえて反応する。プーチン政権はそんなメンタリティーを利用して国内を固めてきた」 中村教授よると、3年ほど前からプーチン政権内では軍やFSBの影響力が弱まり、代わりに対米強硬派である安全保障会議の発言力が強まってきた。そのトップを務めるのがパトルシェフ国家安全保障会議書記である。 「とにかく彼は、ロシアの安全保障が第一、という思想の人。NATOに対して、どれだけ安全を確立できるかがロシア国家の存立基盤だと考えている。14年のウクライナ危機以来、ずっとロシアは経済制裁を受けていますが、安全保障が揺らぐくらいなら、どんなに経済制裁を受けても構わないと思っている」) 実は、今回のウクライナ侵攻は、軍事作戦のプロが立案したのではなく、プーチン大統領とパトルシェフ書記、この2人だけで強引に推し進めたのではないか、と中村教授は推察する。その結果、冒頭のような「誤算」が生じているのではないか、と』、「今回のウクライナ侵攻は、軍事作戦のプロが立案したのではなく、プーチン大統領とパトルシェフ書記、この2人だけで強引に推し進めたのではないか」、今回の作戦上の不手際から大いにあり得ることだ。
・『指導者としての人格が壊れている  そんな侵攻後の誤算への焦りが、3月4日、ウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所への攻撃となって表れたのではないか、と中村教授は見る。 「現場の兵士たちが暴走してやったこととは到底考えられない。ロシア指導部の何らかの関与は絶対にあったはずです。原発を狙うという、正気の沙汰とは思えないような判断に対してブレーキが効かなくなっている。プーチン大統領がこれから何をしだすか、予測できない」 これまでロシアはNATOの脅威を訴え、ウクライナに非武装化と中立化を求めてきた。しかし、今回の侵攻に衝撃を受けた西側諸国はロシアとの亀裂をこれまでにないほど深め、NATOの中心的存在であるドイツは防衛力を強化する動きを見せるほか、NATOに加盟していないフィンランドでも、加盟を求める声が強まっている。ロシアの狙いが完全に裏目に出たかたちだ。「もう、プーチン大統領はウクライナに侵攻した明白な目的を失ってきて、戦争のための戦争という状態に陥っている。合理的な判断ができなくなっている」と、中村教授の目には映る。 欧米諸国や日本はロシアへの制裁措置として国際銀行間通信協会「SWIFT」からの排除を決定。これによってロシアは貿易代金を得られなくなるなど、国際的な孤立を深めている。 「この経済制裁を受けて、プーチン大統領の取り巻きの富豪たちは大打撃を受けています。プーチン離れが急速に進んでいる。側近たちの心もどんどん離れていって、いまではおそらく、パトルシェフ書記しか彼を支える人がいないのではないか、というところまできている」 プーチン氏が大統領そして首相と、ロシア国内で権力を握って22年。長年、冷徹な現実主義者と評されてきた。 「ところがもう、政策の良し悪し以前に、一国の指導者としての人格が壊れてきたことを感じます。そんなプーチン大統領の暴走を誰が止められるのか? 最悪の場合、戦術核兵器を使用する可能性だって否定できません。現実的に、いまのプーチン大統領の精神状態からすれば、そこにいつ踏み込むか、わからない状況。まさに一瞬一瞬が危機といえます」』、「一国の指導者としての人格が壊れてきたことを感じます。そんなプーチン大統領の暴走を誰が止められるのか? 最悪の場合、戦術核兵器を使用する可能性だって否定できません」、その通りなのだろうが、実は全く正気で、狂気を装って脅している可能性も否定できない。「正気」で「核利用」に踏み切らないのがベストなのだが・・・。
タグ:(その3)(「プーチンは狂人でもナショナリストでもない」 佐藤優が読み解く「暴君」の“本当の狙い”、非核戦争はいつ核戦争に変わるのか──そのときプーチンは平然と核のボタンを押す、プーチンが「暗殺」されたら即発射か…ロシア「核報復システム」の危ない実態、「プーチンは人格が壊れた指導者」 ロシア政治専門家が語るウクライナ侵攻の「誤算」と核攻撃の可能性〈dot.〉) 「一国の指導者としての人格が壊れてきたことを感じます。そんなプーチン大統領の暴走を誰が止められるのか? 最悪の場合、戦術核兵器を使用する可能性だって否定できません」、その通りなのだろうが、実は全く正気で、狂気を装って脅している可能性も否定できない。「正気」で「核利用」に踏み切らないのがベストなのだが・・・。 「今回のウクライナ侵攻は、軍事作戦のプロが立案したのではなく、プーチン大統領とパトルシェフ書記、この2人だけで強引に推し進めたのではないか」、今回の作戦上の不手際から大いにあり得ることだ。 「メルケル」退任、「ゼレンスキー大統領」の人気低迷、「バイデン氏は息子ハンター氏」をめぐる問題、などが契機になったようだ。 「8年前から始まったウクライナ侵攻計画」、「7千~1万人の兵士が所属する世界最大規模の民間軍事組織」「ワグネル」、については初耳だ。 「ロシア軍」の意図的なサボタージュや情報漏洩もありそうだ。 AERAdot「「プーチンは人格が壊れた指導者」 ロシア政治専門家が語るウクライナ侵攻の「誤算」と核攻撃の可能性〈dot.〉」 「最新型の超巨大ICBM」に対しては、イージスなどは無力で有効な防御手段はない。なお、後編記事は、荒唐無稽な気もするので紹介は省略する。 「このまま欧米諸国からの経済制裁が続けば通貨ルーブルは急落し、ロシア経済は確実に破綻する。国内での立場が危うくなれば、後がなくなったプーチン大統領が核使用という常軌を逸した判断を下す恐れが出てきた」、「ロシア国内ではプーチン大統領に対する不満が急速に高まっている。起こりうるのは『暗殺』」、「しかし、これが核の封印が解かれるきっかけになりうる」・・・ロシアでは「死の手」と呼ばれる核報復システムが稼働しているからだ」、「暗殺」があれば、もっと危険な「人為的な操作をせずとも自動的に核を敵に浴びせられる自動制御シ 現代ビジネス「プーチンが「暗殺」されたら即発射か…ロシア「核報復システム」の危ない実態」 「ロシアが核部隊の警戒態勢について、何かを変えた証拠がないという事実は、ひとまずの安心材料だ」、しかし、「ヨーロッパはNATO軍を増強して、ロシアとの将来の紛争に備えることでより大きな危険を招く可能性がある」、とならないように願いたい。 「西側諸国の間に、感情的な議論の高まりがみられるのが気掛かりだ」、「「この戦争に勝とう。プーチンを倒せるかもしれない」と先走り、ある種の勝利の病にかかっている様子がみられる」、警戒すべき姿勢だ。 「ウクライナ侵攻における「戦術核」とは、ICBMと言うより核弾頭を搭載した短距離もしくは中距離のミサイルだ。ロシアはこうしたミサイルを約2000発保有していると考えられており、その多くはウクライナ戦での利用が可能だ」、「ロシアが核兵器使用に踏み切るレベルまで軍事作戦が不利に展開するシナリオはいくつもあると考えている」、「核の恐怖が再び表舞台に躍り出た格好だ」、恐ろしいことだ。 「「もしロシア軍の作戦が軍事的大失敗の様相を呈し始めたら、核兵器使用へと戦争がエスカレートする可能性も出てくる」、穏やかではないが、ありそうなシナリオだ。 フレッド・グタール氏による「非核戦争はいつ核戦争に変わるのか──そのときプーチンは平然と核のボタンを押す」 Newsweek日本版 あくまでロシアに迎合した政権が「自発的」に誕生するのを待つのではないでしょうか』、説得力ある見方だ 「プーチン」のなかの「看過できない悪」に、「ウクライナがNATOに加盟しようとしたこと」や、「キエフ府主教がモスクワ総主教庁から独立し、イスタンブールの総主教に帰属したこと」があったようだ。 「プーチン自身は狂人でもなければ、郷愁にとらわれたナショナリストでもありません」、最近は「狂人説」も出ているが、明確に否定した形だ。もっとも、「佐藤氏」は「ロシア」問題の専門家として、「ロシア」への思い入れもあるのかも知れない。 「ロシア」側には周到な準備があったようだ。 「プーチンが完全な無法行為を働いているとも言い切れません。国際法を無視ではなく、巧みに「濫用」しているのです」、どういうことなのだろう。 「ロシア軍の戦車と兵員輸送車に「Z」という識別符号が記されていました」、筆者がこれで「ロシアはウクライナに入る肚(はら)だと確信したとは、さすがだ。 ウクライナ デイリー新潮が掲載した「「プーチンは狂人でもナショナリストでもない」 佐藤優が読み解く「暴君」の“本当の狙い”」
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ウクライナ(その2)(ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」、ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ) [世界情勢]

ウクライナについては、2月4日に取上げた。今日は、(その2)(ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」、ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ)である。2つとも、やや早い段階での記事ではあるが、基本的な知識を得るには格好の材料である。

先ずは、2月26日杖東洋経済オンラインが掲載した哲学者・経済学者・神奈川大学副学長の的場 昭弘 氏による「ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/514936
・『ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。一方で、これまでのロシアとウクライナの対立の起源はわかりにくい。日本を代表するマルクス研究者で欧州史、欧州思想にも詳しい神奈川大学副学長の的場昭弘氏が、今回の問題と対立の起源を歴史的文脈から解説する』、基礎的知識を得るには格好の記事だ。
・『ウクライナに住む当事者の立場を見ること  今にもウクライナで戦争が起きそうだと大手メディアはかき立てている。残念ながら、すでに、ロシアは独立を求めるウクライナの親ロシアのドンバスの2つの共和国に侵攻してしまった。首都キエフなどでも戦闘が行われている。ロシアとウクライナの対立の小さな火を、扇で仰いでしまったようである。コロナ禍によって世界で多くの人が亡くなっている最中、むしろ世界の協力と平和を求めるべきなのに、第三次大戦になりそうな戦争の可能性をマスコミも大国の外交もあおってしまったのだ。いったい、世界はどうなってしまったのか。 ウクライナ問題は根の深い問題である。歴史をさかのぼればさかのぼるほど、一筋縄ではいかない問題であることが見えるはずだ。この問題を考える際に、まず考えねばならないのは、ロシアの主張は本当に不当なのかどうかである。思考停止は、最初から偏見を持つことにある。相手の立場に立って見ることも重要だ。さらにはウクライナの人々、ウクライナのロシア人、ポーランド人、そのほか普通の人々の立場に立って冷静に見ることも重要だ。 もちろん、ここでロシア政府とロシア人を同じものだと考えてはいけない。またウクライナ政府とウクライナ人(大半はロシア人だが)を同じものだと考えてはならない。ウクライナ問題の中でまったく見えてこないのは、ウクライナに住む人々の声だ。とりわけ問題のドンバス地域に住む人々の声だ。当事者抜きで、アメリカ、ロシア、ウクライナといった国家レベルだけで考えれば、住民の望むところは理解できない。 帝政ロシア時代の哲学者、作家で、『向こう岸から』を書いたアレクサンドル・ゲルツェン(1812~1870年)は、西欧の向こう岸から世界を見ればどうなるかについて書いた人物だが、彼のいう「向こう岸」は東欧にあるロシア政府ではなく、ロシアの農民であった。彼は当時のヨーロッパの良識の代表でもあった歴史家のミシュレによる、ロシア人は野蛮であるという一方的な評価に対して、彼への書簡の中でこう述べている。 「人がロシアについて語る場合にはもはや、その場にいないもの、答えることのできないもの、耳が聞こえないでかつ口がきけないものについてのように語るわけにはいかないのだということをヨーロッパに明かにするときがきたのである」(「ロシヤ民族と社会主義ミシュレへの手紙」金子幸彦訳、世界大思想全集、哲学文芸思想篇、27巻、河出書房、1954年、155ページ)。 彼は、当事者であるロシア人の声を聞けといっているのだ。当事者とは、フランス政府でも、ロシア政府でもなく、そこに住むロシア人の農民のことである。 どこまで歴史をさかのぼるかによって、その国家も民族も、その存在を正当化することも、また否定することも可能だ。どの国家や民族も昔からずっと存在してきているわけではなく、想像されたものであることは、疑いない。国民国家とは「想像の共同体」にすぎない。 19世紀の半ばから歴史を始めれば、なるほどウクライナは独立した民族であり、独立した言語をもつ、国家である。しかし、それ以前にさかのぼれば、小ロシアにしかすぎない、いやさらにローマ帝国崩壊後、北方から侵入したルーシ族が創設したキエフ公国までさかのぼればロシア人の起源はウクライナだといえないこともない』、「国民国家とは「想像の共同体」にすぎない」、どこまでさかのぼるかによって大きく変わってくる。
・『小ロシアとなったウクライナ  しかし、歴史は残酷だ。このキエフ公国はモンゴルに潰され、やがて隣のリトアニア=ポーランド王国に潰されていく。そしてウクライナのロシア人を奪回したのがロシアだ。ヨーロッパに接近することで力をもったロシアが大国になるのは、ピョートル大帝(1682~1725年)からだ。その後ロシアの拡張は進み、ウクライナはロシア本体の辺境である小ロシアになる。それが辺境を意味するウクライナということばとなって現れる。 今の大国ロシアから見れば不思議な話だが、ロシアはつねに西に位置するスウェーデンやポーランドの侵入を恐れてきた。とりわけカトリックの宗教騎士団の侵攻である。ロシアは正教会であり、13世紀のアレクサンドル・ネフスキーの名前はカトリックの侵入を阻止した人物としてロシアの歴史に刻まれている。だからこそ、ロシアにとってスウェーデンとの間に横たわるフィンランドは重要で、この国を親ロにすることが重要であった。フィンランドもスウェーデンを恐れていたからある。 スウェーデンとポーランドの侵攻を抑えるために重要なのが、プロイセンである。18世紀に起きたプロセイン、ロシア、オーストリアによるポーランド分割は、ロシアにとってリトアニア=ポーランド王国の残滓を消すことであった。 しかし、状況は19世紀に一変する。そのきっかけをつくったのが、ナポレオンである。今のリトアニアのヴィリヌスに入ったナポレオンは、1812年初夏ロシアへと侵攻する。ロシア侵攻は、結局ナポレオンの敗走によって幕を閉じるのだが、ヨーロッパに民族独立の火をつけ、その後進展する国民国家独立運動を引き起こしてしまう。) それがギリシアのオスマントルコからの独立運動である。英仏の支援を受けたギリシアは独立に成功するが、これがポーランド独立運動の高まりを生み出し、若者たちの独立運動を引き起こす(青年ドイツ、青年イタリアなど)。こうした独立運動は、当然ながら絶対王政による支配に対する抵抗運動として、社会主義者や共産主義者も巻き込み、ポーランド独立運動支援を生み出す。そんな中、1853年イギリス・フランスとロシアが戦ったクリミア戦争(~1856年)が起き、ウクライナの民族独立運動が生まれる。この頃生まれたのが、ウクライナ民族は存在し、ウクライナは独立国であるべきだという主張である。 ウクライナ民族主義がロシアのツァー体制に向けられたことで、ソ連共産党となるボリシェヴィキもウクライナ独立を支援するようになる。ソビエトが成立して、レーニンはウクライナを連邦共和国の一員として迎えることで、ウクライナをロシアとは別の民族だと認めることになる。一方、第一次大戦が終わると同時にこの地域に西欧が軍事介入し、赤軍と戦うことになる。一方、レーニンの主張に対して、マルクス主義の革命家・哲学者であるローザ・ルクセンブルク(1871~1919年)は、ウクライナ民族の創設について、民族は恣意的に創られるものではないと批判する。この問題が、ウクライナには重くのしかかることになる』、「辺境を意味するウクライナということばとなって現れる」、「ウクライナが「辺境」を意味していたとは初めて知った。「ソビエトが成立して、レーニンはウクライナを連邦共和国の一員として迎えることで、ウクライナをロシアとは別の民族だと認めることになる」、これをドイツの「マルクス主義の革命家・哲学者であるローザ・ルクセンブルク」が批判したとは面白い。
・『親米政権の発足が問題の発端に  第二次世界大戦では、ソ連はヒトラーのバルバロッサ作戦(1941年)によるソ連侵入によって、大きな被害を受ける。連合軍の勝利の後、ロシアはウクライナ共和国を拡大し、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、チェコスロバキアと直接接するように国境地域を拡大する。結果的にウクライナにロシア人以外が住むようになる。とはいえ、ウクライナの人口の多くはロシア語を話すロシア人であった。 1991年のソビエト崩壊によって、ソ連の共和国が独立していく。その中にウクライナもあったが、ロシアはこれらの地域がNATO(北大西洋条約機構)に入らないという条件付きで、独立を認めた。 ウクライナは、2014年の「マイダン」のクーデターで、ロシアと対立する資産家ポロシェンコが、大統領ヤヌコヴィッチをロシアに追放し、親米政権を創る。ここからウクライナ問題が起こる。ロシアは東部に軍隊を送り、その結果、ウクライナの中にロシアに近いルガンスク共和国とドネツク共和国が生まれたが、これをウクライナも西側も国として承認していない。一方クリミアは、ロシアに編入された。もちろんこれも承認されてはいないが。 ウクライナにとって不幸なことは、エネルギー資源を含め最も豊かなのが、この東部であることである。だからウクライナはこれらの地域の分離独立を認めることはできない。こうした問題は、何もウクライナだけではない。ボスニア・ヘルツェゴビナの北にあるスルプスカヤ共和国も同じような状態が続き、ユーゴでの紛争を長期化させた。またスペインのカタロニア独立を求める運動を、スペイン政府が認めていないという問題もある。要するに近代国民国家の独立には、認められるものと認められないものがあるということだ。 ここに当然、大国が介入する余地がある。そもそもウクライナはヨーロッパに属するのだが、EUには軍事組織がない。あるのはNATOである。ソ連時代はワルシャワ条約機構があり、それが東欧を束ねていたのだが、今ではNATOが束ねている。しかし、ウクライナがこれに入るとなると、ロシアはNATOに包囲されることになる。 EUは独自の軍事組織を持つということを課題にしていたのだが、実際にはNATOの傘下に入ることになる。これがウクライナ問題をこじらせている最大の原因である。EUに参加すると、結果的にNATOに入ることになり、ロシアと敵対することになるからだ。もちろんEU独自の軍事組織をもてば、ロシアの近隣にアメリカ中心のNATOが軍事組織を持つことはない。しかし、EUの中でそうした軍事組織をアメリカが認めるはずはない。この問題がウクライナ問題を袋小路に導いているといえる』、「1991年のソビエト崩壊によって、ソ連の共和国が独立していく。その中にウクライナもあったが、ロシアはこれらの地域がNATO(・・・)に入らないという条件付きで、独立を認めた」、「ウクライナ」が「NATO」に加入したいというのは約束違反だ。「アメリカ」としても、「EUの中でそうした軍事組織を・・・認めるはずはない」、なるほど。
・『地理的にも不幸なウクライナ  ウクライナにとって不幸なのは、地理的問題だ。ウクライナは今のロシアにとってEUとの緩衝地帯である。さらに、ウクライナを流れるドニエプル川そしてドネツ川(ドン川)が、ロシアへつながっていることだ。北の海しか持たないロシアの重要な輸送路は、黒海である。黒海に入った船はロシアに向かってこれらの川を上る。これと良く似た不幸な地理的地域がドナウ川流域だ。ドナウ川はルーマニア、ブルガリア、セルビア、ハンガリー、スロバキア、オーストリア、ドイツ(流域を含めるとウクライナも通る)を流れる。これらの国は、一蓮托生であり、勝手な行動を取ると紛争に発展する。 ましてウクライナの東部の天然ガスが、西欧へ流れていく点で、ウクライナは重要な地点である。しかし、一方でロシアとドイツとのノルドストリーム1、2が建設され、さらにはトルコからブルガリア、そしてドイツへと流れる天然ガスのパイプラインができれば、ウクライナは取り残される。それはロシアとドイツの協力による、戦後のヨーロッパ体制の崩壊であり、またEUの崩壊であり、アメリカとフランスにとっても傍観はできない。 だからこそ、この地域はバルカンと並んで重要な地域であり、アメリカの軍事戦略とロシアの軍事戦略が真っ向から対立する地域でもある。巻き込まれているのは、ウクライナだけではない。ルーマニア、ブルガリア、セルビア、ポーランド、バルト3国など周辺諸国も巻き込まれている。NATOとEUの拡大は、これらの地域をロシアとの対立へ誘うことになる。不幸な話である。) ウクライナは歴史に翻弄されてきた地域である。オスマントルコの時代には黒海沿岸部はオスマントルコの支配を受け、ロシアの南下によってロシアの支配を受け、つねにいずれかの強国の支配を受けざるをえなかった地域である。それはバルカンに極めて似ている。今ウクライナに似ているのは、バルカンのセルビアだ。セルビアは、EUとロシアの狭間に立っている。セルビア大統領ヴチッチは、アメリカとロシアの2つの大国を天秤にかけながら外交しているが、場合によってはセルビアの大統領だったスロボダン・ミロシェヴィッチ(1941~2006年)のように大国によって失脚させられるかもしれない。 最初にあげたゲルツェンの書簡は、こうした地域にとっての1つの示唆を与えてくれるかもしれない。彼はこう述べている。 「中央集権化はスラブ精神と相容れない。連邦組織の方がその性格にとってはるかに固有のものである。自由な独立的な諸国民の同盟として結集することによってのみ、スラブ世界はついに真の歴史的存在となるだろう」(前掲書、163ページ)』、「ノルドストリーム1、2が建設され、さらにはトルコからブルガリア、そしてドイツへと流れる天然ガスのパイプラインができれば、ウクライナは取り残される。それはロシアとドイツの協力による、戦後のヨーロッパ体制の崩壊であり、またEUの崩壊であり、アメリカとフランスにとっても傍観はできない」、「ノルドストリーム」などの「天然ガスのパイプライン」が、「ウクライナ」問題に影響しているとは初めて知った。
・『中立的な連邦国家としてのウクライナ  ロシアは、それがスラブ精神と相容れないのならば、望むべくは巨大な中央集権的国家であることを辞めるべきであろう。それと同時に、ウクライナも小さなルガンスクやドネツク共和国を認めるべきであろう。ソビエト連邦は少なくともそれを目指したはずだが、実際にはロシア支配になってしまっていた。バルカンでは、バルカン同盟という構想があったが、連邦制という考えはどうであろう。 長い間東欧地域はオスマントルコ帝国、オーストリア帝国、ロシア帝国の絶対主義体制が支配的であったのだが、それを打ち破る連邦制を追求したのが、ロシア革命であったとすれば、今プーチンがやろうとしていることは、ロシアのツアー体制に逆戻りすることにもなりかねない。それを受けて立つウクライナも、ロシア人地域を自国に引き留めておけば、同じ穴の狢だ。 厳しいことをいえば、ウクライナはEUに入るよりも、中立な連邦国家として存在したほうがいい。EUの拡大がNATOの拡大なら、ロシアとの対立は避けられないだろう。EUが独自の軍事機構を持ち、なおかつロシアもその仲間に入れるようになれば、状況は変わるだろうが、それは今のところ無理であろう。ならば、やはり、歴史的にも、地理的にもウクライナは、ロシア=スラブという環境の中で生きていくしかないだろう。もちろん、ウクライナに住む少数民族のルテニア人、ベッサラビア人、ガリツィア人なども小さな国を創り、連邦化するべきかもしれない』、「今プーチンがやろうとしていることは、ロシアのツアー体制に逆戻りすることにもなりかねない」、「やはり、歴史的にも、地理的にもウクライナは、ロシア=スラブという環境の中で生きていくしかないだろう。もちろん、ウクライナに住む少数民族のルテニア人、ベッサラビア人、ガリツィア人なども小さな国を創り、連邦化するべきかもしれない」、説得力がある。

次に、3月3日付けNewsweek日本版が掲載したジャーナリスト・元米陸軍情報分析官のウィリアム・アーキン氏による「ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ」を紹介しよう。
・『アメリカが以前から構築してきた新しい戦争計画が、ロシアによるウクライナ侵攻で現実味を帯びている。非核兵器・核兵器の融合が、かえって「核戦争」を招く恐れも  この原稿が世に出る頃ウクライナ争が始まっていても、誰も驚くまい。しかし、これが昔ながらの「局地戦」に終わると思ったら大間違いだ。米ロの緊張が極度に高まるなか、アメリカは新たな「核戦争計画」を用意している。そこに描かれるのは従来とは全く異なる戦争の姿だ。(編集部注:この記事は本誌2月22日発売号(3月1日号)「緊迫ウクライナ 米ロ危険水域」特集に掲載したものです) この計画では、核兵器と非核兵器が初めて対等な兵器群として位置付けられ、統合されている。なお「非核兵器」には伝統的な通常兵器に加え、敵国の送電網や通信網に対するサイバー攻撃といったサイバー戦の領域も含まれる。この場合、伝統的な(核の)抑止力は弱まる。目に見えないサイバー戦を含め、攻撃のオプションが増えれば相手方の意図は読みづらくなる。単なる防衛的措置なのか、先制攻撃の前触れなのか。そこが読めなければ戦闘は拡大するだろうし、読み違えて核兵器のボタンを押す危険も高まる。 一触即発の危機があり、青天の霹靂で核ミサイルが発射され、地球が破滅する──というのは昔の話。今までは核兵器の使用が究極の選択肢だったが、新たな核戦争計画ではそれも多くの選択肢の1つとなる。新たな選択肢には、核兵器も通常兵器も「非通常兵器」も含まれ、従来型の物理的に攻撃する動的(キネティック)な攻撃も「非動的」な攻撃も含まれる。 現にアメリカのジョー・バイデン大統領は2月7日に、ロシアがウクライナに侵攻すればノルドストリーム2(ロシアからドイツに天然ガスを送るパイプラインで、ロシア経済の生命線でもある)を稼働させないと警告した。むろん、爆撃で破壊するという意味ではない。ある種の「非動的」攻撃を示唆したものだ』、「今までは核兵器の使用が究極の選択肢だったが、新たな核戦争計画ではそれも多くの選択肢の1つとなる。新たな選択肢には、核兵器も通常兵器も「非通常兵器」も含まれ、従来型の物理的に攻撃する動的(キネティック)な攻撃も「非動的」な攻撃も含まれる」、戦争のイメージは一変したょうだ。
・『必要以上の反撃を招いてしまう懸念  バイデンは詳細を明かさなかったが、とにかく「わが国にはそれが可能だ」と述べた。要するにサイバー攻撃だと、専門家はみている。 サイバー攻撃能力は、アメリカの新たな核戦争計画の柱の1つだ。バイデンは昨年3月に出した国家安全保障戦略の暫定指針で、「国家安全保障戦略における核兵器の役割を低減する措置を取る」としている。ミサイルを発射する代わりに、パイプラインの運営システムにサイバー攻撃を掛ける。そうした作戦が、核兵器の使用を頂点とする壮大な戦争計画の一環として、しっかり位置付けられているわけだ。 攻撃の選択肢が増えれば、どんな敵対勢力にも対応しやすい。そしてアメリカ大統領にとっては、核戦争回避の選択肢が増える。そういう見方もできるが、こちらの攻撃の幅が広がると相手方が混乱する可能性もある。その場合、非核兵器を使用した動きが核による先制攻撃の前触れと誤解され、回避したかった核戦争が始まってしまう恐れもある。 バイデン政権が唱える新たな核戦争計画は、自国で保有する全ての軍事・非軍事兵器をひとまとめに新たな抑止力と見なし、敵を物理的に打ち負かすのではなく、機能不全に陥らせることを目指している。 核兵器と通常兵器の境目は、かつてないほど曖昧になっている。それに伴い、75年以上にわたって核兵器の使用を思いとどまらせてきた「戦略的安定」という概念も時代遅れになってきた。ロシアの戦車がウクライナ領に攻め込むかどうかは別として、何らかの軍事衝突が起きれば、この新時代の戦争計画が初めて実行に移されることになる。 昨年6月、アメリカとカナダは冷戦終結以降で最大規模の合同軍事演習を実施した。カナダ北部とアラスカ、グリーンランドにある9つの基地に100機以上の戦闘機と支援部隊を展開させた。演習の目的は、北回りで侵入してくるロシアの爆撃機による攻撃を阻止することにあった。 まだウクライナ情勢が緊迫化する前の段階で、なぜそんな演習が行われたのか。冷戦時代の演習では、迎撃作戦はアメリカの国境付近で行われ、戦闘機がどう対応するかは大なり小なり搭乗員の判断に委ねられていた。しかし今回の演習では、国境から遠く離れた場所で、しかも何千キロにもわたる広い空域で戦闘機を動かした。ステルス戦闘機F22ラプターは北極圏上空でロシア国境まで約300キロの距離まで接近した。遠く離れていても各機は互いに連絡を取り合い、地上局や人工衛星からの指示や情報を受信できた。そして地上では、サイバー戦や宇宙戦のプロが目に見えぬ貢献をしていた』、「アメリカ大統領にとっては、核戦争回避の選択肢が増える。そういう見方もできるが、こちらの攻撃の幅が広がると相手方が混乱する可能性もある。その場合、非核兵器を使用した動きが核による先制攻撃の前触れと誤解され、回避したかった核戦争が始まってしまう恐れもある」、「核兵器と通常兵器の境目は、かつてないほど曖昧になっている。それに伴い、75年以上にわたって核兵器の使用を思いとどまらせてきた「戦略的安定」という概念も時代遅れになってきた」、様変わりになるようだ。
・『複数ドメインの攻撃を高度に統合  こうした複数ドメイン(領域)の統合は、現代における戦争の特徴の1つだ。戦闘機の攻撃能力が増していることに加え、今は通常兵器の長距離ミサイルやミサイル防衛システム、サイバー戦、宇宙戦、さらには敵国に潜入した特殊部隊までが統合され、一体として運用できる。 悪夢の9.11同時多発テロから20年、途切れのない紛争に対応するなかでアメリカの戦争遂行能力は高度に統合されてきた。今や通常兵器もデジタル兵器も核戦争計画に盛り込まれている。核兵器の脅威が最大の抑止力とされていたのは昔の話で、今はもっと柔軟で適応力の高い戦争計画が策定され、そこでは心理戦や秘密の偽装工作も含めて「政府の全体」が統合されている。 こうした変化を反映させるため、米戦略軍(STRATCOM)は2019年4月30日に、ほぼ10年ぶりで戦争計画の大改訂版を作成した。1000ページを超す膨大な文書だが、そこではロシアと中国、イラン、北朝鮮の脅威を念頭に、改めて「大国間の競争」に焦点を当てている。) 当然のことながら、最も厄介な相手はロシアだ。保有する核兵器数は拮抗しているし、欧米に対する敵意を隠そうともしない。アメリカ同様に「新型兵器」を保有し、「いかなるレベルでも、どの領域でも、どの場所でも一方的に暴力をエスカレートさせる能力を有している」と、米戦略軍の計画部長フェルディナンド・B・ストスは言う。 この新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった。また内容が極度に細分化されているため、政府部内でも全体像を知るのは数百人程度だった。 「バイデン政権はもうすぐ『核態勢の見直し(NPR)』を発表する予定だが、内容は乏しいだろう」とクリステンセンは本誌に語った。爆撃機、地上配備型ミサイル、原子力潜水艦など、核戦争用の装備の構成は大して変わらないからだ。 「皮肉なことに、今や核兵器は戦略効果の全スペクトラムに組み込まれている」とクリステンセンは言う。だから大事なのは、こうした変化を踏まえた全体的な「戦略態勢の見直し」だと彼は考える。特に必要なのは、こうした戦力の多様化が戦略的安定と平和に役立つのか、その逆なのかの検証だと言う。 「核兵器による戦略的安定と言うなら、頼れるのは今も昔も原子力潜水艦だ。あれは不死身で、ロシアからの先制攻撃でも破壊されない」とクリステンセンは言う。「しかし最新の戦争計画では戦力の統合が進み、核兵器以外の選択肢が増えている。(たとえ核兵器を使わなくても)そういう選択肢の行使をロシアが挑発と見なし、あるいはアメリカからの先制攻撃の始まりと見なす可能性は否定できない」』、「新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった:、情報公開がここまで進んでいるとは驚かされた。もっとも、ロシアや中国などに、事前に知らせておく狙いなのかも知れない。
・『核・非核の統合で戦争激化の道筋が増える  クリステンセンは「核・非核の統合が進み、破壊より効果に重点を置くことで、通常兵器による戦争と核戦争を隔てる壁が崩れ、戦闘激化の道筋が増える」ことを懸念する。 あまり知られていないが、もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない。現行の戦略はオバマ政権時代に採用されたもので、まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める。 戦争計画の策定に当たる人たちの言葉を借りるなら、第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。 この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃することが唯一の選択肢ではなくなる。) この場合、爆撃機や潜水艦は分散して配置し、敵を欺いて第一撃を生き延びる必要がある。動きを察知されないよう、空でも地上でも、サイバー空間でも宇宙空間でも守りを固める。そして極めて柔軟性の高い意思決定構造を保ちつつ、ロシアからの攻撃を阻む。タイミングと柔軟性が決め手になる。 当時の米戦略軍司令官だったジョン・ハイテンは、この手法の斬新さを示唆して、こう述べていた。着任してすぐ、「全ての計画に柔軟な選択肢の数々がある」ことに最も驚いたと。「世界で何か悪いことが起きて、対応するために国防長官や大統領と電話で協議するとき、私には諸々の柔軟な選択肢がある。通常兵器から大型核兵器まで、何ができるかの選択肢を進言できる」 それらの選択肢は「指揮計画選択肢(DPO)」と呼ばれる。以前は「適応的」選択肢という呼称だった。具体的には核攻撃を含む対応能力の一覧だが、大量破壊兵器を用いたテロの脅威や、本土に対する大規模な宇宙・サイバー攻撃などを想定し、核以外の広範な種類の反撃オプションも例示してある。 ロシアに関して言えば、核兵器を使わず、動的でもない方法でクレムリン(大統領府)を攻撃し、早期警報システムや通信を遮断して国家の意思決定を妨げることが重視されている。 DPOには、兵器と呼べないような新しい能力も含まれる。中には極度に細分化され、最高機密以上の扱いとなっている選択肢もあり、全体として5次元(陸海空に加えて宇宙とサイバー)的な脅威をロシアに与えることが目的だ』、「もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない」、「まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める」、「第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。 この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃することが唯一の選択肢ではなくなる」、「ロシアに関して言えば、核兵器を使わず、動的でもない方法でクレムリン・・・を攻撃し、早期警報システムや通信を遮断して国家の意思決定を妨げることが重視されている」、なるほど。
・『核攻撃で始まらない核戦争  しかし危機においては、通常兵器と核兵器の区別も、情報戦とリアルな戦闘の区別もつきにくい。だから危機対策や防衛を意図した行動が、核による第一撃の準備段階のように誤解される恐れもある。つまり、核戦争を回避するための柔軟な対応が、逆に核戦争に直結しかねない。 かつて戦略軍幹部だった人物が匿名を条件に語ったところでは、DPOは全て「実行可能」だ。理論的に可能なだけでなく、準備は万全で、いつでも実行に移せる。そもそも、危機に際して「ただちに実行」できないDPOなど無意味だ。 これからの核戦争は「青天の霹靂の核ミサイル攻撃」で始まるわけではないと、この人物は言う。むしろ早期警報や通信、意思決定といった指揮命令系統に対する組織的な攻撃のように見える可能性が高いという。核兵器のみの戦争計画から複数ドメインの戦争計画への移行は、より多くの「決断の余裕」を大統領に与え、核戦争の可能性を減らすのが目的とされる。だが実際には総合的な戦略的安定を脅かす懸念があると、この人物は考える。 「新しい戦争計画に含まれるDPOの多くはゼロ段階をカバーするものだ」と、この人物は言う。「ゼロ段階」は、6段階に分かれた戦争計画のうち「環境整備」のフェーズを指す。「これらの能力はどれも実証済みだ。核兵器ではないにせよ、アメリカ側には先制攻撃をかける準備ができていると相手方に伝える意味もある」 この人物は、今年1月に行われた空軍の演習にも言及した。アーカンソー州の小さな飛行場にB 52 爆撃機2機が飛来しただけのことだが、それは「戦力の迅速な展開」というコンセプトの実証だったという。つまり、ロシアのミサイル攻撃が来たら米軍の全爆撃機をできるだけ多くの飛行場に分散させ、戦闘能力を温存するというコンセプトだ。空軍は19年からこうした演習を繰り返しているが、ここへきてそれが新たな核戦争計画に組み込まれた。 「単なるサバイバルの話ではない。戦闘継続の手段でもある」と、この人物は言う。つまり、ロシアの先制攻撃に耐えて、すぐに反撃できる能力をできるだけ多く保持することが目的だ。具体的に言えば、2機1組の爆撃機がどこかの飛行場に緊急避難し、燃料や爆弾の補給などを済ませ、再び飛び立つまでに要する時間は数時間以内。これなら敵に居場所を特定されずに済む。 昨年12月の別の演習では、B52爆撃機がカナダ西部の空軍基地に飛来し、遠隔地への迅速な散開を試している。この演習に参加した将校の1人は空軍機関誌に、要は敵に「予測させない」ことだと語っている』、「ロシアのミサイル攻撃が来たら米軍の全爆撃機をできるだけ多くの飛行場に分散させ、戦闘能力を温存するというコンセプトだ。空軍は19年からこうした演習を繰り返しているが、ここへきてそれが新たな核戦争計画に組み込まれた」、「爆撃機がどこかの飛行場に緊急避難し、燃料や爆弾の補給などを済ませ、再び飛び立つまでに要する時間は数時間以内。これなら敵に居場所を特定されずに済む」、「数時間以内、なら敵に居場所を特定されずに済む」、とは大変だ。
・『小規模な核攻撃はやりやすく  だが、予測不可能性と柔軟性にこだわれば「アメリカの意図が伝わりにくくなる。それは私たちが過去50年間考えてきた抑止力の概念と全く相いれない」。そこに懸念があると、この人物は指摘する。 ロシアの爆撃機やミサイルに対するより確実な迎撃、ロシアの偵察衛星の破壊や妨害、ロシアのナビゲーションシステムに対する電子戦、ロシアの指揮系統や電力の妨害、さらには特殊部隊による隠密作戦まで、「核以外の戦闘能力を統合すれば新しい可能性が開ける」と、この人物は言う。「そうすると、核の全面戦争に発展しない程度の小規模な核攻撃は可能だと考えやすくなる」 現在のアメリカの核戦力(実戦配備の核弾頭数)は約1650発。原子力潜水艦に950発、地上の基地に400発、爆撃機に300発という構成だ。 地上配備のミサイルは西部の5つの州にある格納庫に、950発の核弾頭は12隻の潜水艦に搭載され、1隻を除く全ての潜水艦ではいつでもミサイルを発射できる状態が維持されている。B2およびB52爆撃機は国内3カ所の基地に配備され、さらに100発余りの核弾頭が欧州各地に前方展開されている。 この数は冷戦の最盛期から劇的に減少しているが、核戦争計画に直接組み込まれる通常兵器は急増した。通常兵器で信頼性の高い「戦略的攻撃手段」が加わったことは91年の湾岸戦争以降で「最も劇的な変化」だとクリステンセンは言う。 このカテゴリーにおける最強の通常兵器は、統合空対地スタンドオフミサイル(JASSM)だ。1000〜2000キロ以上をひそかに移動でき、たいていの標的であればほぼ全てを破壊できる。 空軍と海軍はJASSM1万発の購入を計画しており、現在はB1爆撃機にのみ配備されているが、最終的には全ての戦闘機がこの兵器を搭載することになっている。 空軍の専門家によれば、核戦争計画にある標的の3分の1以上は、理論的には通常兵器で破壊できる。JASSMの将来は、海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」と共に、ロシアに対する全方位的な脅威と、軍における核兵器の位置付けを一変させるものだ』、「統合空対地スタンドオフミサイル(JASSM)」が「核戦争計画にある標的の3分の1以上は、理論的には通常兵器で破壊できる。JASSMの将来は、海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」と共に、ロシアに対する全方位的な脅威と、軍における核兵器の位置付けを一変させる」、「通常兵器」にも強力なものが出てきたものだ。
・『サイバー戦力の重要性  核兵器や通常兵器の背後には、サイバー兵器や宇宙兵器など、数値化できない兵器や技術が追加されている。10年版の「核態勢の見直し」でサイバー領域の核戦争計画における役割が拡大され、18年の「国家サイバー戦略」ではサイバー抑止が戦略的抑止力の一部として正式に追加された。 これは米軍の指揮系統を保護する防衛の手段と考えられがちだが、今や核戦争計画に組み込まれ、攻撃オプションとして核および通常兵器と同等の存在になっている。 「今後の課題は、こうした兵器がいかにして核兵器を補強し、核に代わる存在になり得るかを理解することだ」と前出の戦略軍元幹部は言う。「核兵器の数は軍縮条約によって制限され、核戦力の3本柱の構成は将来も基本的に変わらない。だが抑止力の非核要素の進歩がもたらす影響は、その実態が広く理解されないまま増大していく危険がある」 1961年9月、当時のジョン・F・ケネディ大統領は核戦争計画の詳しい説明を受けて愕然とした。それは「オール・オア・ナッシング」の闘いであり、最善のシナリオでも死者は数億人という予測だった。ケネディは戦略空軍司令部に、もっと多くの選択肢、特に民間人の被害を減らす方法を考えるよう求めた。 以来50年かけて、核兵器そのものが抑止力だという発想を捨て、先制攻撃を考えている敵がひるむほどの損害を核以外の手段で与えるための新たな戦争計画が作成された。 デジタル時代までは、核兵器による不気味な均衡が保たれていた。しかし今は、もう核兵器によるダメージだけが問題とは言えなくなり、核兵器の抑止力も疑問視されるようになった。新しい「核」戦争計画は、もはや核以外の戦争(や軍事的な威嚇)計画と切り離せない。 一方、即応性と柔軟性の重視にも一定のリスクが潜む。互いの疑心暗鬼が募れば、どこで何が起きるか分からない。ミサイルや原潜には見掛けの安定感があるが、今は電線や電波に、そして宇宙空間にこそ社会を破壊する力が潜んでいる』、「デジタル時代までは、核兵器による不気味な均衡が保たれていた。しかし今は、もう核兵器によるダメージだけが問題とは言えなくなり、核兵器の抑止力も疑問視されるようになった。新しい「核」戦争計画は、もはや核以外の戦争(や軍事的な威嚇)計画と切り離せない」、「互いの疑心暗鬼が募れば、どこで何が起きるか分からない。ミサイルや原潜には見掛けの安定感があるが、今は電線や電波に、そして宇宙空間にこそ社会を破壊する力が潜んでいる」、「サイバー戦」への備えも重要なようだ。
タグ:ウクライナ (その2)(ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」、ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ) 東洋経済オンライン 的場 昭弘 氏による「ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 歴史で紐解く「ウクライナは民族国家なのか」」 基礎的知識を得るには格好の記事だ。 「国民国家とは「想像の共同体」にすぎない」、どこまでさかのぼるかによって大きく変わってくる。 「辺境を意味するウクライナということばとなって現れる」、「ウクライナが「辺境」を意味していたとは初めて知った。 「ソビエトが成立して、レーニンはウクライナを連邦共和国の一員として迎えることで、ウクライナをロシアとは別の民族だと認めることになる」、これをドイツの「マルクス主義の革命家・哲学者であるローザ・ルクセンブルク」が批判したとは面白い。 「1991年のソビエト崩壊によって、ソ連の共和国が独立していく。その中にウクライナもあったが、ロシアはこれらの地域がNATO(・・・)に入らないという条件付きで、独立を認めた」、「ウクライナ」が「NATO」に加入したいというのは約束違反だ。「アメリカ」としても、「EUの中でそうした軍事組織を・・・認めるはずはない」、なるほど。 「ノルドストリーム1、2が建設され、さらにはトルコからブルガリア、そしてドイツへと流れる天然ガスのパイプラインができれば、ウクライナは取り残される。それはロシアとドイツの協力による、戦後のヨーロッパ体制の崩壊であり、またEUの崩壊であり、アメリカとフランスにとっても傍観はできない」、「ノルドストリーム」などの「天然ガスのパイプライン」が、「ウクライナ」問題に影響しているとは初めて知った。 「今プーチンがやろうとしていることは、ロシアのツアー体制に逆戻りすることにもなりかねない」、「やはり、歴史的にも、地理的にもウクライナは、ロシア=スラブという環境の中で生きていくしかないだろう。もちろん、ウクライナに住む少数民族のルテニア人、ベッサラビア人、ガリツィア人なども小さな国を創り、連邦化するべきかもしれない」、説得力がある。 Newsweek日本版 ウィリアム・アーキン氏による「ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られるアメリカ」 「今までは核兵器の使用が究極の選択肢だったが、新たな核戦争計画ではそれも多くの選択肢の1つとなる。新たな選択肢には、核兵器も通常兵器も「非通常兵器」も含まれ、従来型の物理的に攻撃する動的(キネティック)な攻撃も「非動的」な攻撃も含まれる」、戦争のイメージは一変したょうだ。 「アメリカ大統領にとっては、核戦争回避の選択肢が増える。そういう見方もできるが、こちらの攻撃の幅が広がると相手方が混乱する可能性もある。その場合、非核兵器を使用した動きが核による先制攻撃の前触れと誤解され、回避したかった核戦争が始まってしまう恐れもある」、「核兵器と通常兵器の境目は、かつてないほど曖昧になっている。それに伴い、75年以上にわたって核兵器の使用を思いとどまらせてきた「戦略的安定」という概念も時代遅れになってきた」、様変わりになるようだ。 「新たな核戦争計画を見つけたのは全米科学者連盟(FAS)のハンス・クリステンセンだ。彼が情報自由法を用いて請求し、手に入れるまでは誰も、その存在すら知らなかった:、情報公開がここまで進んでいるとは驚かされた。もっとも、ロシアや中国などに、事前に知らせておく狙いなのかも知れない。 「もはやアメリカの核戦略は「先制攻撃を受けたらすさまじい反撃を食らわせる」と脅して相手に第一撃を思いとどまらせるというものではない」、「まずは敵からの攻撃の目的について評価を下すための柔軟性を旨とする。大々的な一撃なのか、限定攻撃なのか、事故による発射なのかを見極めた上で対応を決める」、「第一撃を「乗り切る」ために、まずはミサイル防衛システムなどでその衝撃を弱め、第一撃を吸収した後に、反撃の方法と規模を決めることになる。 この新戦略は大統領による意思決定の選択肢を増やす。つまり、自動的に核兵器で反撃するこ 「ロシアのミサイル攻撃が来たら米軍の全爆撃機をできるだけ多くの飛行場に分散させ、戦闘能力を温存するというコンセプトだ。空軍は19年からこうした演習を繰り返しているが、ここへきてそれが新たな核戦争計画に組み込まれた」、「爆撃機がどこかの飛行場に緊急避難し、燃料や爆弾の補給などを済ませ、再び飛び立つまでに要する時間は数時間以内。これなら敵に居場所を特定されずに済む」、「数時間以内、なら敵に居場所を特定されずに済む」、とは大変だ。 「統合空対地スタンドオフミサイル(JASSM)」が「核戦争計画にある標的の3分の1以上は、理論的には通常兵器で破壊できる。JASSMの将来は、海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」と共に、ロシアに対する全方位的な脅威と、軍における核兵器の位置付けを一変させる」、「通常兵器」にも強力なものが出てきたものだ。 「デジタル時代までは、核兵器による不気味な均衡が保たれていた。しかし今は、もう核兵器によるダメージだけが問題とは言えなくなり、核兵器の抑止力も疑問視されるようになった。新しい「核」戦争計画は、もはや核以外の戦争(や軍事的な威嚇)計画と切り離せない」、「互いの疑心暗鬼が募れば、どこで何が起きるか分からない。ミサイルや原潜には見掛けの安定感があるが、今は電線や電波に、そして宇宙空間にこそ社会を破壊する力が潜んでいる」、「サイバー戦」への備えも重要なようだ。
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人生論(その10)(「人生はドラゴンボール」 養老孟司先生が東大時代の悩みを語った発掘インタビュー、50代で「若年性アルツハイマー」になった、脳外科医の妻が見続けた「夫の過酷」 まさか自分がなるなんて…、50代で「若年性アルツハイマー」と診断された 元脳外科医の「その後の人生」 人生に絶望する必要なんてない) [人生]

人生論については、昨年12月19日に取上げた。今日は、(その10)(「人生はドラゴンボール」 養老孟司先生が東大時代の悩みを語った発掘インタビュー、50代で「若年性アルツハイマー」になった、脳外科医の妻が見続けた「夫の過酷」 まさか自分がなるなんて…、50代で「若年性アルツハイマー」と診断された 元脳外科医の「その後の人生」 人生に絶望する必要なんてない)である。

先ずは、本年2月2日付けデイリー新潮「「人生はドラゴンボール」 養老孟司先生が東大時代の悩みを語った発掘インタビュー」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/02020605/?all=1
・『養老孟司さんが、悩める若い人に向けてわかりやすい言葉で語りかけたロング・インタビュー。収録されているのは、自身が編集に携わった、ムック『養老先生と遊ぶ』(2005年刊行)だ。 旧知の編集者を相手に、対人関係が苦手だった青春時代、苦痛だった組織人時代についても赤裸々に語っている。東大に勤務している頃には、毎晩ウイスキーのボトルを空けていたような時期もあったというのだ。 そこからどう脱したか。いままさに「壁」に当たっている人には励みにもなるのではないだろうか。刊行から時間が経ち、現在は入手困難となっているムックからの発掘インタビューをお届けする(一部、原文に改行など修正を施しています)(Qは聞き手の質問、Aは養老氏の回答)』、「毎晩ウイスキーのボトルを空けていたような時期もあった」、よほどストレスにさらされていたようだ。
・『いろんなことができ始めたのは中年になってから  Q:対人関係は苦手とはいっても、医者になろうとされたわけですよね? A:母親が医者でしたからね。最初は虫を専門にしようと思ったんです。でも、調べたら、虫が思う存分できそうだったのは、九州大学だったんです。それを母親に言ったら、「そんなに遠くに行くのはやめろ」と大反対でした。父親はぼくが4歳のときに死んでいましたしね。 そこまで言われたら、まあ、虫はいつでもできるかなあ、と思ったわけです。その後、大学をやめる60歳近くまで、できなかったけどね(笑)。 それで、医者は医者でも、精神科医になろうと思ったんです。だけど、希望者が多くて、クジに外れちゃいました。そこで、考え直したんです。これは臨床を選ぶな、ということだなあと。だから、大学院に行くことにしたんです。 時代は今と違っていてね、昭和30年代、右肩上がりの時代だったんです。だから、やってみて食えなくてもなんとかなるだろうっていう腹です。「流れ」ですね。(略) 「スルメを見てイカがわかるか」と何度も解剖の意味を問われ続けて、60歳すぎて、答えが出ました。「スルメを作っているのはおまえたちだろう」って。生きている人間を「情報」としてしか扱ってないんだから。(注:養老氏の専攻している解剖学について、「死んだイカ=スルメをいくら見ても、生きているイカのことはわからないだろう」という類の疑問をぶつけられた経験について語っている) Q:60歳まで答えが出ないことがあるんですね。 A:そうですよ。そんなに簡単にはいかないですよ。それって悪いことではないんですよ。むしろ逆です。なにかをしていくときに、簡単じゃつまらないじゃないですか。 比叡山の千日行(せんにちぎょう)ってあるでしょう? あれですよ。修行なんです。解剖は修行でした。 絵描きとか彫刻家っていうのは、絵とか彫刻とか形になるからわかりやすいよね。論文がその形かというと、あれは、言語にまとめる、ただの「情報化」の作業ですしね。 「なんで解剖なんてやるの?」って言うけど、修行というのは、やった自分こそが作品じゃありませんか? 千日行なんて、山の中を歩くそのこと自体が世の中の役に立つわけじゃないでしょう。それ自体に意味があるというよりも、それをやったその人にとって意味があるということです。だから「修行」だと思うとね、いろんなことができますよ。 本気で業績をあげようなんて思っていなかったせいでしょうけれど、いろんなことができ始めたのは中年になってからです。昔から、母親にも親戚にも、「あんたは長生きしなくちゃ損だよ」といわれてましたけど(略)。 Q:お母さんは95歳まで長生きされたんですよね。それを考えると、人生の先が長いですね。 A:そうそう。覚悟しろっていうんだ。 Q:誰に言っているのかわかりませんが……先生はしつこいタイプですね。 A:追求型と言ってください。人生は「ドラゴンボール」なんです。 Q:マンガの「ドラゴンボール」ですか? A:あの話はどんどん未知の世界に出かけて自分がバージョンアップしていくでしょう? 結果がわからない。あれを読んだり見たりしている子供のほうが、大人よりもよっぽどいろんなことをわかっているんじゃないかな。 人生は、マラソンになるもんなんですよ。人によって結果はわからないから、ぼくみたいに解剖を「やれ」とは誰にも言えないけれど。これをやったらこうなるよ、なんていう因果関係は言えませんからね』、「精神科医になろうと思ったんです。だけど、希望者が多くて、クジに外れちゃいました。そこで、考え直したんです。これは臨床を選ぶな、ということだなあと。だから、大学院に行くことにしたんです」、当初は「臨床」を目指していたとは初めて知った。「解剖は修行でした」、「修行というのは、やった自分こそが作品じゃありませんか? 千日行なんて、山の中を歩くそのこと自体が世の中の役に立つわけじゃないでしょう。それ自体に意味があるというよりも、それをやったその人にとって意味があるということです」、なるほど。
・『東大をもっと早く辞めればよかった  Q:今までの人生で後悔をしていることはありますか? A:なし。後悔は、しません。起こった事はしょうがないことでしょう。でも、上手にいいほうに変えることはできます。大学の人事なんて見ているとつくづくそれを思いました。だれかがあるポストにつくとする。そうすると「なんであんなヤツが」と大モメに揉める。それよりも、決まったことを受け入れて、こうしよう、と決めて行動するほうがいいんですよ。だから、人事なんてものはいちばんの苦痛のタネでした。もっと気の利いたことをできるだろうに。(略) これはもうモタないなあ、と思って東大を辞めることを決意したのが55歳のときでした。片付けや引き継ぎで2年延びて57歳で辞めました。辞めた当日は、日差しが明るく見えて周囲の輝きが違ってましたよ。もっと早く辞めればよかった。会社でも大学でも、とにかく組織が合わなかったんです。 遊牧民タイプかな。夕方になるとちょっと寂しくなったりします。チベットを歩く夢みたり、ブータンにはこんなことがあるだろうかと考えたり。言わせてもらうと、ロマンチストなのかもしれませんよ(笑)。 Q:ロマンチストの解剖学者、ですね(笑)。以前の先生をご存じの方からすると、今は人の話を聞くようになったそうですね。 A:そうなんですよ。10年前まではひどかったらしいんです。自分ではわからないんだけど、人の話を聞かない嫌なやつだったみたいで、10年以上前にあった人には全員に謝っておきたいね。そういう人がいたら、謝っておいてください。ぼくも変わったんでしょうね』、「今は人の話を聞くようになった」が、「10年前までは・・・人の話を聞かない嫌なやつだったみたい」、ずいぶん丸くなったようだ。
・『毎日死体を見ていると「大丈夫、自分も死ぬんだな」と思う  Q:大学を辞める頃にがんを患ったという噂を聞いたのですが……? A:大学を辞める頃に、肺に影が見つかったんです。「疑いがある」というんで、CTの予約の空きを待っていた1週間は、まじめに死ぬことを考えました。勤めもクソもない、仮にガンだったらもう死ぬんだ。そう考えたら楽になりました。 1週間後の検査で、ただの昔の結核の影だったということがわかったんですけどね。でも、この結核の影はぼくへのプレゼントなんだと思ったんです。 Q:そのおかげで東大を辞める決心がついたということですか? A:それもあるし、本当に「生きる」ということを考えましたからね。 Q:自殺を考えたことというのは、ありましたか? A:ありませんよ。 Q: 一度も? A:大丈夫ですよ。 Q:大丈夫とは? A:毎日死体を見ているとね、「大丈夫、自分も死ぬんだな」と思うわけなんです。どんなに崖っぷちに立ったとしても、自殺する人の気持ちはわかりません。慌てなくても死ぬんだから。死亡率はだれだって100パーセントですから そんなことにはもっと早く気づくべきだったと思います。 昔はなにを気にしていたんでしょうね。全部忘れちゃった』、「毎日死体を見ているとね、「大丈夫、自分も死ぬんだな」と思うわけなんです。どんなに崖っぷちに立ったとしても、自殺する人の気持ちはわかりません。慌てなくても死ぬんだから」、解剖学者の余禄といえるのかも知れない。
・『一晩にウイスキーを1本空けることも毎晩のことでした  お酒を今はまったく飲まなくなりました。昔は、相手がいれば、ストレスを解消するために飲んでいたんです。一晩にウィスキーを1本空けることも毎晩のことでした。お店の人から「飲みすぎだよ」って注意されてましたからね。40代がいちばん飲んでいましたね。外部とのつきあいがはじまって、そのときに媒介になってくれたのが酒だったんです。しゃべれない自分でも、お酒があると他人としゃべれるようになったから。 でも、今は要らなくなりました。お酒のかわりに、猫がいればじゅうぶん。 ここで触れている猫が「まる」で、その後テレビ出演などを通じて人気者となっていくが、一昨年に旅立った。養老さんの精神を安定させるのに重要な役割を果たしていただけに、新著『ヒトの壁』にはまるを失った悲しみが哀切あふれる文章でつづられている』、「昔は、相手がいれば、ストレスを解消するために飲んでいたんです。一晩にウィスキーを1本空けることも毎晩のことでした」、「しゃべれない自分でも、お酒があると他人としゃべれるようになったから」、「今は要らなくなりました。お酒のかわりに、猫がいればじゅうぶん」、「「まる」が「一昨年に旅立った」あと「お酒」に戻ることはないのだろうか。

次に、2月20日付け現代ビジネス「50代で「若年性アルツハイマー」になった、脳外科医の妻が見続けた「夫の過酷」 まさか自分がなるなんて…」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92460
・『元脳外科医で日本の最高学府の教授でもあったエリート。そんな誰もが羨む経歴を持った男が、まさかの病に冒された。想像さえしていなかった試練に対して、彼は、そして妻はどう立ち向かったのか』、興味深そうだ。
・『それは徐々に始まった  「主人が若年性アルツハイマーだと診断されたときは、『やっぱりそうだったのか』と落胆しました。振り返ると、予兆は何年も前からあったのです。それでも60歳を前にアルツハイマーと診断された瞬間、これからの生活がどうなっていくのか、不安に苛まれました」 そう語るのは、1月13日に発売された『東大教授、若年性アルツハイマーになる』の著者・若井克子さん(75歳)だ。 東大医学部を卒業し、脳外科や国際保健学の第一線で走り続けてきた夫・晋さん(享年74)。若年性アルツハイマーと宣告され、もがきながら生きた彼の姿を妻の目線から綴ったのがこの本だ。 若井克子著『東大教授、若年性アルツハイマーになる』 超がつくほどのエリートだった晋さんが初めて不調を訴えたのは、東大教授を務めていた'01年のことだった。 「『最近、漢字が出てこないんだよ』。ある日、主人がそうこぼしたんです。当時、主人はまだ54歳で、アルツハイマーだとは夢にも思っていませんでした。私も『年を取れば誰だって忘れっぽくなるわよ』と、深刻には受け取らなかった。 ところが、翌年のことです。ドアの開いた書斎で主人が何かを眺めている。脳の断面を撮影したMRIの画像でした。実家のある栃木の「とちぎメディカルセンターとちのき」でMRIを撮り、自分で確認していたのです。主人は『海馬に異常がないのに、どうして……』と呟いていた。 主人は脳外科の医者として現場に立ち続けてきた人でした。医者は自分の専門領域の病にかかることを恐れます。それは、その病気がいかに恐ろしいかを知り尽くしているから。主人は自分の脳に違和感を覚え、恐怖に襲われていたのでしょう」) この頃、晋さんは国際保健学の研究を専門とし、ラオスやグアテマラなど開発途上国を飛び回っていた。そんな多忙な日々を送るなかでも、晋さんの病状は日を追うごとに深刻になっていく。 '04年7月には、大学にいた晋さんから克子さんに「ATMでおカネを下ろせない」と電話がかかってきた。暗証番号を忘れたのだ。さらに海外出張の際に行き慣れた空港で迷子になるなど、明らかにそれまでと違う行動が目立つようになった。 「主人は50代だったし、老化にしては様子がおかしい。札幌の病院で研修医をしていた次男にも相談しました。そして悩み抜いた末の'05年12月、主人に認知症の検査を受けたほうがいいと切り出した。 私は主人に、これまでのおかしな行動を箇条書きにしたメモを渡しました。主人はその紙を見つめ、『わかった。検査に行く』と言ったのです」 自分が認知症になるわけがない。この病気にかかった人は誰もがそう思うだろう。目の前の現実を受け入れられないまま、病状は進行していく。晋さんは葛藤していた。 '06年3月、東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)で細胞の動きを画像で捉えることのできる「PET検査」を受けた晋さんに言い渡されたのは、若年性アルツハイマーの診断だった』、「私は主人に、これまでのおかしな行動を箇条書きにしたメモを渡しました。主人はその紙を見つめ、『わかった。検査に行く』と言ったのです」、「これまでのおかしな行動を箇条書き」、奥さんの冷静な行動が「晋」氏に「検査」を促したのだろう。
・『『白い巨塔』を観ながら  診断を受けたとき、主人は担当医に『結果を聞いてすっきりしました』と言っていた。でも、あの言葉は本心ではありません。主人は負けず嫌いな性格だった。弱いところを見せまいと、気丈に振る舞ったのでしょう。 ちょうど診断を受ける直前のことでした。主人がドラマ『白い巨塔』を観たいと言い出したので、レンタルショップでビデオを借りたのです。ビデオを観ながら、主人は『僕はこのドラマをすべて理解できる。それなのに、本当にアルツハイマーなのかなぁ……』と呟きました。 認知症は突然なるのではなく、徐々に進行するもの。調子がいいときは本当に『普通』なんです。だからこそ本人の戸惑いも大きいのだと思います」 それまでは東大の医師として患者を治す立場にいた晋さん。「社会的強者」だった彼にとって、自分がアルツハイマーになったという事実は受け入れがたいものだったのだろう。 これまで築き上げてきたものが崩れ去っていくような恐怖。医者としての人生をまっとうできなくなる、それは晋さんにとって生きる希望を奪われたも同然のことだった。 アルツハイマーと診断された晋さんは'06年3月、59歳で東大の教授を退官した。規定の定年よりも1年早い辞職だった。 この年の4月、晋さんと克子さんは療養のために沖縄へと移住する。 「沖縄に住んでからも、主人の病状は悪化していきました。気に障ることがあると家を飛び出し、徘徊も目立つようになりました。探し回りたいのですが、土地勘のない場所なので私まで迷子になってしまう。自宅で主人の帰りを待つしかないのです。 どこかで事故に巻き込まれていないか、心配で心配で……。その後、離れて暮らす子どもたちに勧められてGPSを導入しましたが、徘徊の不安は残ったままでした。 同時に、物忘れも激しくなっていきました。日常生活でも言葉が出てこず、本人ももどかしい様子でした。『自分は何もせず、朽ち果てるのか』と怒りだして、寝床から起きてこない。自分がアルツハイマーだと周囲に公言することもできず、苦しんでいました」 アルツハイマーというと記憶力の低下や失語などの症状が知られているが、脳が萎縮することで空間把握も覚束なくなる。 晋さんも受話器が掴めず、さらに外出の際には家族と手を繋がないと不安に襲われるなど、生活に支障をきたすようになった。そのたびにフラストレーションが溜まっていった。 行き場のない過酷な日々を過ごすなか、ある出会いがきっかけで夫の晋さんは自分の病と向き合うことができたという。その具体的な中身は後編の『50代で「若年性アルツハイマー」と診断された「元脳外科医」のその後の人生』でおつたえする』、「脳が萎縮することで空間把握も覚束なくなる。 晋さんも受話器が掴めず、さらに外出の際には家族と手を繋がないと不安に襲われるなど、生活に支障をきたすようになった」、「空間把握も覚束なくなる」とは初めて知ったが、深刻だ。

第三に、この続き、2月20日付け現代ビジネス「50代で「若年性アルツハイマー」と診断された、元脳外科医の「その後の人生」 人生に絶望する必要なんてない」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92461
・『・・・前編記事『50代で「若年性アルツハイマー」になった、脳外科医の妻が見続けた「夫の過酷」』では、病気のきっかけから、アルツハイマーと診断され療養のために沖縄に移住するまでをお伝えした。苦悩の日々のなか、若井さん夫妻のそんな気持ちを一変させる出会いがあった…』、どんな「出会い」なのだろう。
・『受け入れて、吹っ切れた  同時に、克子さんにとっても看病は苦悩の連続だった。若井夫妻は4人の子どもに恵まれ、晋さんは一家の大黒柱として家族を引っ張ってきた。頑健で聡明で自信に満ち溢れていた晋さんが日に日に衰えていく。だが、どんな状況にあっても克子さんは晋さんに寄り添い続けた。 行き場のない閉塞感に、息が詰まりそうになる日々。そんな折、ふたりに大きな転機が訪れた。 '07年9月、共通の知人から世界的に有名な若年性アルツハイマー患者、クリスティーン・ブライデンさんの講演があると教えてもらったのだ。 オーストラリア政府の高官だったブライデンさんは46歳で若年性アルツハイマーを発症し、絶望の底に追い落とされる。しかし彼女は人生を諦めず、世界各地で自らの病について語る講演会を積極的に開いてきた。彼女の講演会に行けば、なにかが変わるかもしれない。そう直感した克子さんは、晋さんとともに出席を決めた。 「会場は札幌コンベンションセンターでした。講演会には、1700人もの参加者が詰めかけた。彼女は講演会で自分の来し方を熱心に語ってくれました。 そして会の最後、クリスティーンが『この中で認知症患者の人がいたら手を挙げてください』と呼びかけたときでした。主人がまっすぐな眼差しで高々と手を挙げたんです。自分の病気を人に知られまいとしてきた主人からすると、とても信じられないことです。 帰り道、主人は『自然に手が挙がったんだ』と言っていました。主人はずっと病を受け入れられず葛藤してきた。講演がきっかけになって、アルツハイマー患者である自分を認められる気持ちになったのです。それ以来、主人はどこか吹っ切れたような表情をするようになりました」 札幌での講演の後、ふたりは2年を過ごした沖縄を離れ実家のある栃木へと戻った。そんな折、医学書院が発行する「医学界新聞」から、インタビューの依頼が舞い込んだ。以前の晋さんならば断っていただろう。だが自分の病と正面から向き合うことを決めた晋さんにとって、依頼を断る理由などなかった』、「世界的に有名な若年性アルツハイマー患者、クリスティーン・ブライデンさんの講演」、「講演がきっかけになって、アルツハイマー患者である自分を認められる気持ちになったのです。それ以来、主人はどこか吹っ切れたような表情をするようになりました」、ずいぶんインパクトがある講演だったようだ。
・『人生は終わりじゃない  その記事をきっかけにして、晋さんのもとには講演の依頼が届くようになる。横浜や神戸をはじめとした「全国行脚」の始まりだった。 「もともと、主人は人と一緒にいてわいわい過ごすのが大好きな人でした。医者だった頃も時間があれば患者さんと触れ合い、コミュニケーションをとっていた。人前に立って自分の経験を話す講演会は、主人にとっても大きな刺激になったのでしょう。 その一方で、主人のアルツハイマーは着実に進行していった。自分で原稿やメモを用意することはできなくなっていったし、ちゃんと読むことも不可能な状態になっていました」 この時期になると、トイレの問題も出てきた。ある講演会の帰り、気が付けば晋さんのズボンの前がぐっしょりと濡れていた。アルツハイマーが進行することで尿意を感じにくくなり、気付いたときには「出る」直前になっているのだ。 これ以上、講演会を続けるのは難しい。そう判断した克子さんは'13年3月、東京・中野区医師会館での講演を最後に、全国行脚を終わらせた。 晩年、晋さんと克子さんは再びふたりきりになった。'15年には晋さんの要介護度が最重度の「5」に認定され、歩くこともままならなくなる。この年には誤嚥性肺炎を発症し、寝たきり生活を送るようになった。 次第に記憶も薄れ、言葉も不明瞭になっていく晋さん。それでも、克子さんは晋さんを看病し続けた。) 「主人が病気にかかれば、やっぱり放っておくことなんてできない。50年近くも一緒にいたんですから。主人が言葉を失ってからも、看病していると不思議と喜怒哀楽がわかるんです。それはきっと、他の誰にも読み取れない。長年連れ添った私だから感じることができる感情の動きでした」 離れて暮らす子どもたちも時間を見つけては晋さんを訪ねた。「パパ、元気?」そんな問いかけに、笑顔で応えることもあったという。そして'21年2月10日、晋さんは克子さんと子どもたちに見守られながら息を引き取った。 晋さんが亡くなってから1年が経った今、克子さんは夫と歩んだ道のりを振り返る。 「主人は生前のリビング・ウィルで『延命治療は不要、死後は病理解剖に付すこと、告別式は密葬で行うこと』という意思を示しました。最後の最後まで医者でありたいと願っていた主人らしい言葉でした。 アルツハイマーを抱え生きていくことは決して容易ではありません。かかった本人も支える側も深く傷つくことが沢山ある。でも、この病気になったから人生は終わりだと絶望する必要なんてない。アルツハイマーであっても、私は主人と一緒に過ごした時間が幸せでした」 記憶を失い、この世を去った最愛の人。どんなに時が経っても、克子さんが晋さんと過ごした日々を忘れることはない』、「晋さんは克子さんと子どもたちに見守られながら息を引き取った」、理解のある奥さんに支えられ、「医師」としての矜持を失わずに亡くなったようだ。冥福を祈りたい。 
タグ:「毎日死体を見ているとね、「大丈夫、自分も死ぬんだな」と思うわけなんです。どんなに崖っぷちに立ったとしても、自殺する人の気持ちはわかりません。慌てなくても死ぬんだから」、解剖学者の余禄といえるのかも知れない。 (その10)(「人生はドラゴンボール」 養老孟司先生が東大時代の悩みを語った発掘インタビュー、50代で「若年性アルツハイマー」になった、脳外科医の妻が見続けた「夫の過酷」 まさか自分がなるなんて…、50代で「若年性アルツハイマー」と診断された 元脳外科医の「その後の人生」 人生に絶望する必要なんてない) 人生論 「晋さんは克子さんと子どもたちに見守られながら息を引き取った」、理解のある奥さんに支えられ、「医師」としての矜持を失わずに亡くなったようだ。冥福を祈りたい。 デイリー新潮「「人生はドラゴンボール」 養老孟司先生が東大時代の悩みを語った発掘インタビュー」 「精神科医になろうと思ったんです。だけど、希望者が多くて、クジに外れちゃいました。そこで、考え直したんです。これは臨床を選ぶな、ということだなあと。だから、大学院に行くことにしたんです」、当初は「臨床」を目指していたとは初めて知った。「解剖は修行でした」、「修行というのは、やった自分こそが作品じゃありませんか? 千日行なんて、山の中を歩くそのこと自体が世の中の役に立つわけじゃないでしょう。それ自体に意味があるというよりも、それをやったその人にとって意味があるということです」、なるほど。 「毎晩ウイスキーのボトルを空けていたような時期もあった」、よほどストレスにさらされていたようだ。 現代ビジネス「50代で「若年性アルツハイマー」になった、脳外科医の妻が見続けた「夫の過酷」 まさか自分がなるなんて…」 現代ビジネス「50代で「若年性アルツハイマー」と診断された、元脳外科医の「その後の人生」 人生に絶望する必要なんてない」 「脳が萎縮することで空間把握も覚束なくなる。 晋さんも受話器が掴めず、さらに外出の際には家族と手を繋がないと不安に襲われるなど、生活に支障をきたすようになった」、「空間把握も覚束なくなる」とは初めて知ったが、深刻だ。 「私は主人に、これまでのおかしな行動を箇条書きにしたメモを渡しました。主人はその紙を見つめ、『わかった。検査に行く』と言ったのです」、「これまでのおかしな行動を箇条書き」、奥さんの冷静な行動が「晋」氏に「検査」を促したのだろう。 「昔は、相手がいれば、ストレスを解消するために飲んでいたんです。一晩にウィスキーを1本空けることも毎晩のことでした」、「しゃべれない自分でも、お酒があると他人としゃべれるようになったから」、「今は要らなくなりました。お酒のかわりに、猫がいればじゅうぶん」、「「まる」が「一昨年に旅立った」あと「お酒」に戻ることはないのだろうか。 「世界的に有名な若年性アルツハイマー患者、クリスティーン・ブライデンさんの講演」、「講演がきっかけになって、アルツハイマー患者である自分を認められる気持ちになったのです。それ以来、主人はどこか吹っ切れたような表情をするようになりました」、ずいぶんインパクトがある講演だったようだ。 どんな「出会い」なのだろう。 「今は人の話を聞くようになった」が、「10年前までは・・・人の話を聞かない嫌なやつだったみたい」、ずいぶん丸くなったようだ。
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漁業(その5)(英首相 和歌山沖定置網のクジラ捕獲に懸念=テレグラフ紙、熊本「アサリ偽装問題」が報道よりずっと深刻な訳 どの産地でも起こりうる!知られざる問題の本質、アサリ ワカメ ウナギ…相次ぐ国産偽装の主犯は業者でなく「安いニッポン」) [産業動向]

漁業については、2019年5月11日に取上げた。久しぶりの今日は、(その5)(英首相 和歌山沖定置網のクジラ捕獲に懸念=テレグラフ紙、熊本「アサリ偽装問題」が報道よりずっと深刻な訳 どの産地でも起こりうる!知られざる問題の本質、アサリ ワカメ ウナギ…相次ぐ国産偽装の主犯は業者でなく「安いニッポン」)である。

先ずは、本年1月16日付けロイター「英首相、和歌山沖定置網のクジラ捕獲に懸念=テレグラフ紙」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/britain-japan-whale-idJPKBN29K2Q6
・『英紙テレグラフは15日、和歌山県太地町沖の定置網に昨年入り込んだミンククジラが今週になって捕獲されたことについて、ジョンソン首相が「残酷な」クジラの捕獲に反対の考えを示したと報じた。 ジョンソン首相は同紙に「海にはますますプラスチックごみが増え、気候変動が生態系全体を脅かすなど、自然界の悲劇的で不可逆的な破壊をすでに目の当たりにしているときに、クジラの捕獲という残酷な行為に反対の姿勢を取ることはこれまで以上に重要だ」と述べた。 同紙によると、英外務省は日本側に問題を提起したという』、「和歌山県太地町」での捕鯨がまたまた批判されたようだ。西洋人の反捕鯨熱も困ったものだ。

次に、2月11日付け東洋経済オンラインが掲載した作家・ジャーナリストの青沼 陽一郎氏による「熊本「アサリ偽装問題」が報道よりずっと深刻な訳 どの産地でも起こりうる!知られざる問題の本質」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/510607
・『「熊本県産」表示のアサリに大量の中国産や韓国産が混入していた問題が波紋を広げている。2月8日から熊本県がアサリの出荷を停止。報道を受けて北海道産のアサリが高騰すると、同じ熊本県産のハマグリが大量に返品されるなどの実質被害も出ている。 だが、この件を伝える報道をみていると、国内外の食料問題や食品製造の現場を取材してきた私にとって、理解に苦しむことばかりだ。中には記事の内容の矛盾に気づいていないものがあって、かえって消費者を混乱させる。食の安全の根幹にも触れる重大な問題であるだけに、ここでしっかり」とこの問題の本質を整理しておきたい』、「報道」には、「中には記事の内容の矛盾に気づいていないものがあって」、「報道」側も混乱しているようだ。
・『熊本県の漁獲量の約120倍が流通  発端は、農林水産省が2021年10月から12月末までに販売された「熊本県産」のアサリをサンプル調査でDNA分析したところ、31点のうち30点(97%)に中国や韓国の「外国産が混入している可能性が高い」と判定されたことだった。 2月1日に金子原二郎農林水産大臣が閣議後の記者会見で、「食品の表示に対する消費者の信頼を揺るがしかねない」として発表した。 しかも、農林水産省のサンプル調査期間中の3カ月間の「熊本県産」アサリの推定販売数量は2485トンで、全国シェアの79.2%を占めていた。2020年の熊本県のアサリの1年間の漁獲量は21トンだから、その流通量は約120倍にもなって、あまりに違いすぎる。 これを受けて、熊本県の蒲島郁夫知事が同日、臨時の会見を開き、「アサリだけでなく、熊本のブランド全体への信頼を揺るがす危機的状況であり、本県にとって非常事態」として、「緊急出荷停止宣言」を発出。8日からおよそ2カ月間、熊本県産の活きアサリの出荷を停止するとした。一旦、流通を止めることで、偽装品をあぶり出す意向を示した。 ところが、報道各社がここに必ずといっていいほど付け加えるのが、アサリの「畜養」と、食品表示法上のカラクリだ。) 中国や韓国で生まれたアサリを、熊本県内の干潟に放って育てる「畜養」を行った場合、畜養期間が長ければ「国産」「熊本県産」と表示できる。これはアサリに限らず、2カ所で育った畜産物は生育期間の長いほうを「産地」と表示できる食品表示法の規定がある。 この典型が和牛だ。和牛は子牛を生んで増やす生産農家(繁殖農家)が生後10カ月ほどで競りにかけ、買い取った肥育農家が20カ月ほどかけて育て太らせ、食肉として出荷する。だから、生まれは関係なく、育ちがブランドとなる。例えば、沖縄県の八重山諸島で生まれた牛でも、三重県の松阪で買い取って育てれば、それは立派な「松阪牛」となって出荷される。ちなみに、八重山諸島はずっと子牛の生産がさかんな場所で、2000年の沖縄サミットで話題となった石垣牛は現地でそのまま肥育されたブランドだ。 と、すると、ここで単純な疑問が浮かぶ。和牛と同じように、中国や韓国から仕入れたアサリを国内でより長く畜養して出荷されたのであれば、「熊本県産」の商品から外国産の遺伝子が出てきても不思議ではない。食品表示法に従えば、海外で2年間生まれ育っても、国内で2年以上、1日でも長く育てば「国産」表示ができるからだ。 表示が変わっても、中国や韓国の遺伝子まで熊本に変わるはずもない。今回のように97%に外国産の遺伝子が見つかったとしても、その割合で畜養されたものが出荷されていれば、なんら問題はないはずだ。 どうして、外国産の遺伝子が見つかったことを大騒ぎするのか。大臣が会見で懸念を表明するようなことなのか。問題の本質はどこにあるのか』、どうも「報道する側」の消化不良が混乱を引き起こしているようだ。
・『DNA分析が産地偽装の根拠に直接結びつくわけではない  発端である農林水産省に問い合わせてみた。コロナ禍とはいえ、電話1本で済むことだ。代表番号にかけると、消費・安全局消費者行政・食育課につながれた。今回の問題となった食品表示の調査を担当する、いわば“食品偽装Gメン”だ。 そこでまず担当者に、国外から持ち込まれたアサリでも、畜養期間が長ければ「熊本県産」と表示しても問題はないはずであることを確認すると、「OKですね」との言質をとった。そのうえで、同省の行ったDNA分析の結果が、産地偽装の可能性の高いことを示していると語る。 だから、私にはそこがわからない。前述したとおり、サンプル中の97%に外国産の遺伝子が見つかったとしても、流通している熊本県産のアサリの97%以上が畜養であれば、それは産地偽装の根拠にはならないはずだ。そう問うと、あっさり「そうですね」と認めた。つまり、DNA分析の結果は、そのまま産地偽装の根拠と結びつくものではないのだ。 では、なぜ産地偽装が疑われるのか。すると、担当者はこう答えた。 「長期の畜養をしていない可能性の高いことを総合的に判断した」 総合的に判断? またあいまいな言葉が出てきた。続けて聞くと、DNA分析とは別の調査で、2年くらい育って出荷サイズになった中国産が大量に国内に入っていること、それが流通の過程で熊本県産にまぎれこむ可能性が高いことがわかったという。それで「総合的な判断」になったという。 同省ではこの実態を2~3年前から調べていた。いずれその結果を公表する予定だったが、1月22日にTBSの夕方の報道番組でこの疑惑が報じられたため、この期に及んでの大臣発表に至ったという。おそらくは、食品不正表示の“タレコミ”の情報提供があって調査に乗り出し、その裏取りの1つとして、昨年の3カ月間のサンプル調査があったのだろう。 それでもDNA分析の結果がそのまま食品偽装の直接証拠となるものではない。アサリの「畜養」は法律で認められている。そうであるなら、熊本県の「畜養」の実蹟を確認して97%という数値と比較検討する必要がある。 ところが、だった。その過程での意外な展開が私を驚愕させる』、どういうことなのだろう。
・『そもそも“長期の畜養”がアサリには存在しない  熊本県の水産振興課に、同県におけるアサリの「畜養量」を教えてほしいと問い合わせた。和牛でいえば、飼育頭数のようなものだ。すると、そんな統計はない、と即答された。 なるほど、そんなずさんさが偽装をしやすくするのだろう、と思ったのもつかの間、そもそも、海外で生まれ育った期間よりも長く国内で育てる、いわば“長期の畜養”がアサリには存在しないというのだ。だから、そんな統計がとれるはずもない。 報道が食品表示法と産地表示のカラクリを伝え、農水省の担当者が追認することを言うから、てっきり国内での生育歴の長い「畜養」が行われているものとばかり感じていた。しかし、熊本県の担当者によると、畜養自体は行われているが、「夏を越すような長期の畜養は困難で、1~2週間の短期で出荷してしまう」というのだ。 これはどういうことか? さらに問うと、アサリの畜養には3センチほどに育った「成貝」を持ってくる。その大きさになるまでには、海域によって育ちも違うが、だいたい2~3歳、早ければ1~2歳のものになる。それと同じ期間以上、国内で育てることはまずなく、畜養=出荷調整の「仮置き」にすぎないという。 輸入したアサリを一気に出荷してしまうと、値崩れを起こすこともある。畜養の目的は、生きたままアサリを出荷する調整のため、短期間だけ干潟に放して“保管”する、いわば倉庫の代わりなのだ。 従って、担当者はこう断言する。 畜養では『熊本県産』と書けないと、県として認識している」 だから2020年のアサリの漁獲量21トンはすべて「天然物」であって、農水省が公表した昨年10月から12月までの推定販売数量とはあまりにかけ離れている。しかも“長期の畜養”が存在しないだけに、なおさら熊本県では「畜養の状況を把握するため、現在調査中」という。あるはずのないことが起きているのだ』、「畜養の目的は、生きたままアサリを出荷する調整のため、短期間だけ干潟に放して“保管”する、いわば倉庫の代わりなのだ」、「畜養では『熊本県産』と書けないと、県として認識」、従って「畜養の状況を把握するため、現在調査中」との県の言い分は苦し紛れの弁明に過ぎないようだ。
・『事の本質は熊本県に限った話ではない  「畜養で○○県産とは書けない」という認識は、熊本県に限ったことではない。全国一律で共通することだ。だからこそ、サンプルのDNA分析で97%も外国産が見つかったことは、衝撃的で大問題なのだ。つまり、97%の割合で消費者が騙されていたことになる。しかも、これからも、どこの産地でも起こりうる、食の安全・安心を根底から裏切る行為なのだ。 どうやら、農水省の担当部署も現場の状況をわかっていないらしい。まして、報道が食品表示法の生育歴の長いところを産地表示する、いわば「長いところルール」を書き立てたところで、アサリにはまったく当てはまらない。国内では長期の畜養がないからだ。 もはやこれは大規模な食品偽装事件と呼ばざるをえない。それだけに名前を使われた熊本県にとって大迷惑なだけでなく、輸入品の偽装表示は日本の食料安全保障の根幹を破壊しかねない重大事案である。くだくだと畜養と食品表示法上のまったく的外れな論点を書き連ねて、消費者を誤導する報道の責任も大きいだろう』、問題を放置してきた「農水省」や「報道」の責任は極めて重いと言わざるを得ない。

第三に、2月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「アサリ、ワカメ、ウナギ…相次ぐ国産偽装の主犯は業者でなく「安いニッポン」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/296524
・『「偽装大国・ニッポン」に成り下がった原因とは  政府は公文書や統計の改ざんを繰り返し、民間企業でも品質検査などの不正が続々と発覚、そして生産者は外国産のものを国産と嘘をつく。ここまでくると、「偽装大国」の汚名を着せられても仕方ないのではないか。 これまで幾度となく発覚してきた「国産偽装」が、ここにきて再びスポットライトを浴びている。きっかけはかねて「産地偽装の温床」と指摘されていたアサリだ。農林水産省が「熊本県産」と売られていたものをDNA検査したところ、なんと97%に外国産混入の可能性が高いということがわかったのである。 こういうニュースが全国的な話題になると、各地の行政や警察を同様の事案を次々と発表して、マスコミもこぞって取り上げるため、瞬間風速的な「偽装ドミノ」が起きるのがお約束だ。 静岡では、30の卸売業者を介して県内外の400店舗以上のスーパーなどで販売されていた「鳴門産ワカメ」がすべて外国産だったことが発覚した。奈良の老舗うなぎ屋が「国産ウナギ」として提供していたものが、実は中国産だったというニュースも注目を集めている。 もちろん、これらが氷山の一角であることは言うまでもない。2001年の雪印の牛肉偽装事件からこの20年間、ありとあらゆる分野で「外国産を国産と偽る」という手口が見つかっている。「熊本産アサリ」の偽装も20年以上前から延々と繰り返されており、2019年にも佐賀の水産物販売会社が中国産・韓国産を「国産」と偽って売っていた。良い悪いは別にして、産地偽装は日本の「食」では「よくある話」となってしまっているのだ。 と聞くと、「消費者をだましてまで儲けたいなんて情けない」とか「業界内の悪しき慣習が問題では?」なんて感じで、業界の閉鎖性や、業者のモラルの低さを嘆く方も多いだろう。しかし、実はこの20年、産地偽装が続いている本当の原因は「安いニッポン」にある。) いろいろな意見はあるだろうが、根底にあるのは、「魚沼産の米を全国の消費者に安くお届けする」という大義名分に固執するあまり、モラルが壊れてしまったのではないかと思っている。 そして、このモラルハザードの背中を押しているのが、他でもない我々消費者だ。 漁獲量などの減少や原油高などで本来は「国産」はどんどん価格がつり上がっていかなければおかしい。しかし、「安いニッポン」においては、給料も上がっていない消費者は「値上げ」など到底受け入れられない。 かと言って、「じゃあ、安い外国産を買ったら」とはならない。日本政策金融公庫が、2020年に全国の20~70歳代の男女2000人にアンケートをしたところ、74%が国産にこだわっていると回答。この傾向は年齢が高いほど強くなっており、20歳代が58.7%だったが、70歳代になると85.6%となっている。 つまり、日本の消費者というのは、「安い国産」を強烈に欲しているという特徴があるのだ。生産者からすればそんなムシのいい話はありえない。しかし、この「ありえない」を実現しないことには、流通にさえ乗せてもらえないのが、「安いニッポン」の現実だ』、「こういうニュースが全国的な話題になると、各地の行政や警察を同様の事案を次々と発表して、マスコミもこぞって取り上げるため、瞬間風速的な「偽装ドミノ」が起きるのがお約束だ」、「この「ありえない」を実現しないことには、流通にさえ乗せてもらえないのが、「安いニッポン」の現実だ」、その通りだ。
・『日本人の「安さ」へのこだわりこそ「闇が深い」  それがうかがえるのが、激安価格で、庶民の味方と称されるディスカウントスーパーマーケットのオーケーが取り扱っていた花王の製品の3割の販売を取りやめたことだ。報道によればその理由は、「値上げ」である可能性が高い。「安さ」で消費者の支持を得てきたオーケー側からすれば、原材料費の高騰だなんだというのは企業側が努力で解決してもらいたいことであって、それを価格に転嫁することなど到底受け入れられないというわけだ。 日本の流通は、花王ほどの大企業が相手であっても、「値上げ」にこれだけシビアな対応をするのだ。もし、アサリ生産者や卸業者が「ピーク時の3%まで漁獲量が落ち込んでいるので、値上げさせてください」などと言おうものなら即刻、取引中止だろう。 そうなると、生産者や卸業者は生き残るために、「安い国産」を偽装するしかない。 ただ、これは流通側がプレッシャーをかけているのが悪いという話ではなく、つきつめていけばやはり我々消費者に問題がある。) 東京大学の渡辺努教授の研究室で、米国や英国などの先進国の消費者と、日本の消費者に対して「スーパーでいつも買う商品が値上がりしているのを見たときどうするか」とアンケートを行ったところ、米国や英国などの消費者は値上がりをしていても、やむなしと受け止め、高くなった商品を買うという答えが多かった。原料の価格が上がったり人件費などが上がればしょうがないと、値上がりを受け入れるのだ。 しかし、日本人は多くが、その店で買うのをやめて、元の価格で売っている別な店を探すという回答が多かったという。 つまり、日本の流通が、メーカーや生産者に対して「値上げするな」と無言の圧力をかけているのは、世界でもトップレベルで「安さ」に執着して、「国産品」に強いこだわりをもつ日本の消費者を敵に回さないためだ。流通や小売りにしても生き残るためには、生産者や卸業者に「安い国産」を求めていくしかないのである。 歴史をさかのぼれば、産地偽装というのは戦前から確認されている。 銀座のデパートで売られていた近江牛が、その他の地域の牛だったというほのぼのとしたものから、米の値段が値上がりして清国産の米が混ぜられたなんていう、現代にも通じる産地偽装が昭和初期から確認されている。 しかし、この20年ほど、産地偽装がたて続けに起こっている時代はない。 確かに、昔と比べたらチェック機能が格段に向上しているということもあるが、筆者には消費者が「安さ」をこれまで以上に強く求めるようになった「安いニッポン」の弊害もあるのではないか、と考えている。 よく産地偽装のニュースになると、その業界の構造的な問題が指摘され、「闇が深い」などと評される。しかし、最も闇が深いのは、国内生産者たちが置かれた厳しい現実を直視せず、「お客様は神様だろ」と言わんばかりに、「安い国産を食べさせろ」と叫び続ける我々消費者の身勝手さなのではないか。 【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。 37段落目:日本の流通が、メーカーや生産者に対して「値下げするな」と無言の圧力をかけているのは、→日本の流通が、メーカーや生産者に対して「値上げするな」と無言の圧力をかけているのは、 (2022年2月17日12:04 ダイヤモンド編集部)』、「この20年ほど、産地偽装がたて続けに起こっている時代はない。 確かに、昔と比べたらチェック機能が格段に向上しているということもあるが、筆者には消費者が「安さ」をこれまで以上に強く求めるようになった「安いニッポン」の弊害もあるのではないか」、概ね同意できるが、「消費者」が「安さ」を求めること自体は当然である。「生産者」や「流通」は、出来うる限りのコスト削減努力をした上で、適正な利潤が確保できるような価格で販売することが求められる。
タグ:漁業 (その5)(英首相 和歌山沖定置網のクジラ捕獲に懸念=テレグラフ紙、熊本「アサリ偽装問題」が報道よりずっと深刻な訳 どの産地でも起こりうる!知られざる問題の本質、アサリ ワカメ ウナギ…相次ぐ国産偽装の主犯は業者でなく「安いニッポン」) ロイター「英首相、和歌山沖定置網のクジラ捕獲に懸念=テレグラフ紙」 「和歌山県太地町」での捕鯨がまたまた批判されたようだ。西洋人の反捕鯨熱も困ったものだ。 東洋経済オンライン 青沼 陽一郎氏による「熊本「アサリ偽装問題」が報道よりずっと深刻な訳 どの産地でも起こりうる!知られざる問題の本質」 「報道」には、「中には記事の内容の矛盾に気づいていないものがあって」、「報道」側も混乱しているようだ。 どうも「報道する側」の消化不良が混乱を引き起こしているようだ。 どういうことなのだろう。 「畜養の目的は、生きたままアサリを出荷する調整のため、短期間だけ干潟に放して“保管”する、いわば倉庫の代わりなのだ」、「畜養では『熊本県産』と書けないと、県として認識」、従って「畜養の状況を把握するため、現在調査中」との県の言い分は苦し紛れの弁明に過ぎないようだ。 問題を放置してきた「農水省」や「報道」の責任は極めて重いと言わざるを得ない。 ダイヤモンド・オンライン 窪田順生氏による「アサリ、ワカメ、ウナギ…相次ぐ国産偽装の主犯は業者でなく「安いニッポン」」 「こういうニュースが全国的な話題になると、各地の行政や警察を同様の事案を次々と発表して、マスコミもこぞって取り上げるため、瞬間風速的な「偽装ドミノ」が起きるのがお約束だ」、「この「ありえない」を実現しないことには、流通にさえ乗せてもらえないのが、「安いニッポン」の現実だ」、その通りだ。 「この20年ほど、産地偽装がたて続けに起こっている時代はない。 確かに、昔と比べたらチェック機能が格段に向上しているということもあるが、筆者には消費者が「安さ」をこれまで以上に強く求めるようになった「安いニッポン」の弊害もあるのではないか」、概ね同意できるが、「消費者」が「安さ」を求めること自体は当然である。「生産者」や「流通」は、出来うる限りのコスト削減努力をした上で、適正な利潤が確保できるような価格で販売することが求められる。
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ネットビジネス(その12)(「不快なネット広告」が増加する理由 コンプレックスを刺激、怪しい効果…、若者の「食べログ離れ」が止まらない…信用をどんどん失いつつある"口コミビジネス"の正念場 4人に1人は「信用していない」、若者の「食べログ離れ」が止まらない…信用をどんどん失いつつある"口コミビジネス"の正念場 4人に1人は「信用していない」、前澤氏が去った後 激動の中で組織は変わった ZOZOが「最悪期」を這い上がった知られざる変貌) [イノベーション]

ネットビジネスについては、昨年10月29日に取上げた。今日は、(その12)(「不快なネット広告」が増加する理由 コンプレックスを刺激、怪しい効果…、若者の「食べログ離れ」が止まらない…信用をどんどん失いつつある"口コミビジネス"の正念場 4人に1人は「信用していない」、若者の「食べログ離れ」が止まらない…信用をどんどん失いつつある"口コミビジネス"の正念場 4人に1人は「信用していない」、前澤氏が去った後 激動の中で組織は変わった ZOZOが「最悪期」を這い上がった知られざる変貌)である。

先ずは、昨年11月3日付けダイヤモンド・オンライン「「不快なネット広告」が増加する理由、コンプレックスを刺激、怪しい効果…」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/284701
・『YouTubeを見ていれば多くの人が目にする広告。しかし、なかには真偽不明の効果をうたう商品や執拗(しつよう)に脱毛をせまる広告、陰謀論とおぼしき怪しいサイトの広告なども散見される。なぜプラットフォーム側はこのような不快かつ悪質な広告を取り締まれないのか。ITジャーナリストの三上洋氏に聞いた』、興味深そうだ。
・『企業の広告費の低下で怪しい広告が増加  「毛穴の汚れゴッソリ」というキャッチフレーズとともに添えられる気持ちの悪い画像、「デブだからモテない……」と早口なナレーションでコンプレックスを刺激する漫画など、誰しもが一度はこのような不快なネット広告を見たことがあるだろう。 不快さだけではなく、真偽不明の痩せ薬、育毛剤や「世界の真実」などと書かれた怪しげな広告も目に余る。 サイバー・コミュニケーションズ(CCI)、D2C、電通、電通デジタルの4社が発表した『2020年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析』によれば、コロナ禍でもネット広告費は成長を続け、2兆2290億円を記録。これはテレビ、新聞、雑誌、ラジオを含めた「マスコミ四媒体広告費」の2兆2536億円に匹敵し、いまやネット広告は日本の広告費全体の36.2%を占めている。 このようにネット広告は一大市場となっているのだが、冒頭のような代物があふれ、質が低く品格のない広告も増加している。特にコロナ禍に入ってから、その傾向が目立ち始めたという声も多く、コンプレックスを刺激する広告をやめるよう請願する署名活動も行われた。コロナ禍で、このような露悪な広告が目立つようになった理由を三上氏は次のように話す。 「YouTubeも含め、ネット広告は基本的にオークション形式で配信されます。自動的に最も値段が高い広告を配信する仕組みとなっているため、当然予算規模が大きい企業が有利です。しかし、コロナによって各企業が広告費をカットもしくは広告自体を減少させていきました。となると、入札する企業の数や相場が下がり、今まで目立たなかった怪しい商品を扱う広告が安い単価で表示されやすくなったと思われます。このような広告は景品表示法、薬機法、消費者安全法、特商法に触れるものが少なくありません」 不快広告は急に現れたわけではない。古くはスパムメールから始まり、Webサイトを量産してSEO、SNSでのアフィリエイト投稿などを経て、現在のディスプレー広告へと主戦場を変えてきたのだ』、「コロナによって各企業が広告費をカットもしくは広告自体を減少させていきました。となると、入札する企業の数や相場が下がり、今まで目立たなかった怪しい商品を扱う広告が安い単価で表示されやすくなった」、困ったことだ。
・『多くの事業者が関わるネット広告配信の仕組み  三上氏によれば、無法状態の一因はアフィリエーターや広告代理店にあるという。 アフィリエーターは商品やサービスを紹介して、購入されたり会員登録が行われたりするとお金がもらえます。彼らの多くは個人や零細企業なので、一部ではガバナンスも効かないし、法律無視のやり方をして稼ぐ。売り上げを上げるために誇大な効果をうたい、痩せ薬などの記事広告をWebサイトに出していくのです。また広告代理店もクリック数を稼ぐために露骨な表現やインパクトのある画像を使った広告をそのまま配信する。悲しいことにそのような表現の方が人の目に留まるので、クリックされやすい側面もあるのです」) かつてスパムメールに書かれていた「1億円をもらってください」「火星人です」などという文言に不覚にも気を留めてしまった経験が筆者にもあるが、現在でも同じようなユーザー心理を利用しているのだ。そして、クリックされるほど、そのような広告が配信される仕組みになっている。 「クリックを誘発しやすい広告が最適化アルゴリズムによって掲載されやすいことも悪質広告がはびこる原因。そのような広告でもクリックされれば自動的に配信されやすくなり、どんどん目に留まっていきます」 どんなに興味をそそられても、このような悪質な広告は出来心でクリックしてはならないのである。 昨今はコンプライアンスなど企業倫理が求められているが、媒体やプラットフォーマーはなんでもあり状態の広告を垂れ流している。この状況に疑問を持つ人も多いだろう。しかし、三上氏は「媒体は事前にどんな広告が配信されるかはわからない」と話す。 「自動で広告が表示されていく仕組みなので、媒体側が内容を事前にチェックすることはほぼできません。そもそもネット広告配信は多数の事業者が介入しています。広告主から始まり、媒体までは広告枠の買い付けを行う事業者、広告枠の仕入れ販売を行う事業者、広告枠の仕入れ販売と買い付けの需給を調整する事業者など国内外のプレーヤーが複雑に存在する。彼らによって自動的に広告は表示されていくので、責任の所在が特定しにくいのです」 新聞やテレビであれば、媒体、広告代理店、広告主という3社程度で構成されるが、ネット広告はその比ではないほど複雑怪奇な仕組みなのである』、「媒体は事前にどんな広告が配信されるかはわからない」、「自動で広告が表示されていく仕組みなので、媒体側が内容を事前にチェックすることはほぼできません。そもそもネット広告配信は多数の事業者が介入しています。広告主から始まり、媒体までは広告枠の買い付けを行う事業者、広告枠の仕入れ販売を行う事業者、広告枠の仕入れ販売と買い付けの需給を調整する事業者など国内外のプレーヤーが複雑に存在する。彼らによって自動的に広告は表示されていくので、責任の所在が特定しにくいのです」、なるほど。 
・『報告ボタンで迷惑広告排除を  このような構造、かつ広告の量も膨大であるため媒体側が事前におかしな広告をストップさせるのは非常に困難だ。 こう聞くと対策は皆無のように思えるが、三上氏は地道な手法を進める。) 「我々の対策としては、不快で怪しい広告を見たら報告ボタンをガンガン押していくことです。媒体側は、事前審査は無理にしろ、せめて報告がされた広告は事後審査の徹底をすべき。悪質な広告を排除しなければ、媒体の信用度も落ちますし、結果的に収益低下にもつながりますから」 このような状況に政府も黙ってはいない。今年3月には、消費者庁が消費者安全法に基づき化粧品に関する虚偽・誇大アフィリエイト広告に初めて注意喚起を行い、同様の育毛剤広告には景品表示法に基づく措置命令も出した。6月からは同庁で「アフィリエイト広告等に関する検討会」が定期的に開かれ、不当表示の未然防止等のための取り組みを議論しているという。 「正直、消費者庁の検討会は実質的なプレーヤーが参加していないので、抜本的な解決につなげることは難しいでしょう。ただ、国も悪質な広告の規制にようやく乗り出したということです。コロナ禍が終わり、真っ当な企業の広告費が増えれば悪質広告が目立たなくなるかもしれません。しかし、完全になくなるわけではないので、ユーザーによる報告とプラットフォーム側の審査で地道に排除していくしかないのが現状です」 ユーザーにもリテラシーが求められる。安易にクリックしてはならない』、私もせめて「不快で怪しい広告を見たら報告ボタンをガンガン押してい」る。「消費者庁の検討会は実質的なプレーヤーが参加していないので、抜本的な解決につなげることは難しいでしょう」、とはいえ、「規制」に乗り出したのは好ましい。

次に、本年2月1日付けPRESIDENT Onlineが掲載した成蹊大学客員教授の高橋 暁子氏による「若者の「食べログ離れ」が止まらない…信用をどんどん失いつつある"口コミビジネス"の正念場 4人に1人は「信用していない」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/54218
・『ネットでの「飲食店の探し方」が変わりつつある。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「食べログなどのグルメサイトは利用者が多い一方、点数やランキングを疑う声も多い。とくに若者は、Google MapやInstagramを使った検索に移りつつある」という――』、興味深そうだ。
・『若者にとってグルメサイトの優先順位は低い  ネットでの「飲食店の探し方」が変わってきている。 ある50代男性は「新入社員がGoogle Mapで店を探していた」と驚いていた。 「先日、部署のみんなで食事に行ったんです。新入社員に店探しをお願いしたら、Google Mapで会社の近くの店を調べて、評判がいいところをさらにグルメサイトで調べていた。『点数が操作されてるって聞いたことがあるし、両方使うと便利なんで』というので驚きました」 筆者が講義を行う大学の受講生もこう話す。 「飲食店を選ぶときにはいつもInstagramで検索して、おいしそうなところを選ぶことが多い。それから店名で検索して評判を確認する。Google Mapも見るけど、最初にグルメサイトを見ることはない」 こうした大学生は、Instagramで「吉祥寺」「梅田」などの駅名、町名などで検索し、出てきたハッシュタグ(「#吉祥寺グルメ」「#梅田カフェ」)で検索している。投稿された写真の中からおいしそうなもの、食べたいものを探すというわけだ。 なぜ、このような“グルメサイト離れ”が起きているのだろうか』、何故だろう。
・『独禁法違反で食べログ運営会社が訴えられる  グルメサイトの点数やランキングは操作されているといううわさは根深い。 2020年5月、首都圏を中心に焼肉・韓国料理チェーンを運営する「韓流村」が、「食べログ」運営会社であるカカクコムを相手に訴訟を起こした。食べログが評価点を算出する方式「アルゴリズム」を変更した結果、直後からチェーン店の点数評価が軒並み3.50より下になり、1カ月の売上高が2500万円ほど急減。チェーン店を不当差別する独禁法違反行為として、損害賠償とアルゴリズム差し止めなどを求めたのだ。 食べログの点数・ランキングは、各ユーザーの影響度によって重み付けされた点数や評価をベースとして算出されている。点数は毎月第1火曜日と第3火曜日の月2回更新を行って算定するなど、随時変動する。4.00点以上は全体のトップ500前後、3.50点以上4.00点未満は全体のトップ約3%とされ、直接集客力につながるため、飲食店にとっては死活問題となる。 今年1月には、この裁判の過程でカカクコム側がアルゴリズムをチェーン側に初めて開示したことが判明し、話題となった。しかし、営業の秘密に当たるとして一般には公開されておらず、アルゴリズムは依然ベールに包まれている。 その強い影響力を重視し、食べログなど複数のグルメサイトについて実態調査を行ったのが公正取引委員会だ。運営事業者が優越的な地位を利用して参加店舗に対して割引を強要したり、他のグルメサイトとの契約を制限したりしていないか、グルメサイトと飲食店にアンケートと聞き取りを行った。 2020年3月発表の調査結果では、表示される順位や店舗の評価を決める重要な要素について「飲食店及び消費者に対して、可能な限り明らかにし、透明性を確保すること」を求めている』、確かに「食べログなど複数のグルメサイト」が、「優越的な地位を利用して参加店舗に対して割引を強要したり、他のグルメサイトとの契約を制限」、などの「独禁法違反」をしている可能性を否定できない。
・『26%が「グルメサイトを信頼していない」と回答  グルメサイトに対する信頼性の低下は、数字にも表れている。 全国の利用者と飲食店従業員を対象としたTableCheckの「グルメサイトに関するユーザー&飲食店意識調査」(2020年1月)によると、「グルメサイトでの点数・ランキング表示の信頼度」に対して、「あまり信頼していない」(21%)、「信頼していない」(5%)と、全体のなんと4分の1が信頼していないという結果になった。 続いて、飲食店を検索する際に頻繁に利用する手段について聞いたところ、最多は「グルメサイト(食べログ、ホットペッパーなど)」(78.9%)だったが、「Google検索」(48.3%)、「地図サービス(Google Map、Apple Mapなど」(30.2%)、「SNS(Facebook、Instagramなど)」(23.6%)が上位となった。 最も利用頻度の高いグルメサイトは「食べログ」と答えた人が約半数を占めた(48%)。食べログは、2020年3月には予約人数が累計1億人を超え、2022年1月時点の掲載店舗数は約81万件、口コミ投稿数は約4420万件に上る。業界最大手だけに、利用者からの批判のやり玉に挙がることが多い』、「Google検索」、「地図サービス(Google Map、Apple Mapなど」、「SNS(Facebook、Instagramなど)」などが健闘しているのに驚かされた。
・『たびたび浮上する疑惑を否定する運営会社  2012年には、食べログにおける「ステマ問題」が話題になった。しかし、あくまで「好意的な口コミを書いて点数を上げる」と持ちかける不正業者と、それに乗った飲食店が問題なだけであり、食べログは利用されただけだ。 しかしそれからも、「食べログから年会費を払えば店の評価を上げるという営業電話がかかってきた」という店舗関係者の話は何度も話題に上り、そのたびに非難を集め、時には炎上につながってきた。カカクコム側はこの疑惑を否定している(※)。 ※「食べログ、『年会費を払うと評価が上がる』疑惑 運営元は否定」 「食べログ『年会費を払えば店の評価が上がる』疑惑の真相…揺らぐ“評価の公平性”」 結論から言うと、点数やランキングはおそらく操作されていないとみられる。運営会社のカカクコムは上場しており、コンプライアンスやガバナンスの観点から、わざわざ操作するのは考えにくい。しかし、このような声はあまりに多く上がっており、「営業電話」がまったく存在しないとも考えにくい。 食べログの営業をかたる業者や、売り上げを上げたい代理店などがこのような電話をかけた可能性はあるだろう。しかし、カカクコム側の見解を見てもこの点はいつも真実が明らかにならないままであり、疑念が完全に払拭ふっしょくされない原因ともなっている』、「食べログの営業をかたる業者や、売り上げを上げたい代理店など」が暗躍する裏には、順位決定方式に関する不透明性があるのだろう。
・『口コミサイトなのに対象から広告料を取るビジネス  食べログの店舗会員向けページには、有料の食べログPRサービスに加入すると、食べログの検索結果(標準検索)で優先的に表示されること、アクセスと予約数が多いゴールデンタイムの検索結果(標準検索)で上位表示されることが明記されている。 売り上げに直結するこのような操作は楽天市場やAmazonなどでも行われていることだが、問題は食べログが口コミサイトという点だ。口コミサイトが対象から広告料を取れば、口コミ自体の信頼性が下がるのは自明の理だ。 先ほど紹介したTableCheckの調査結果では、飲食店がグルメサイトと有料契約するメリットとして「認知度向上による新規顧客の獲得」「店舗情報の掲載」「予約受付」が挙がったが、逆に契約しない理由は「月額の広告掲載料が高い」「掲載情報が信用できない」が上位を占めた』、「口コミサイトが対象から広告料を取れば、口コミ自体の信頼性が下がるのは自明の理だ」、利益相反行為の典型だ。
・『勝手に掲載・評価され、削除できない不条理  さらに食べログでは、店舗側が拒否していても店舗情報は掲載されるようになっている。不快な口コミを書き込まれても、基本的には削除してもらえない。無理やり掲載され、勝手に評価・ランキングされ、しかも有料サービスに加入しないと評価が下げられるうわさまであることで、飲食店側が不審を抱いても仕方がないだろう。 他方で、食べログ側は規約やガイドラインにのっとり、一定の条件を満たしていない口コミや表現に問題のある口コミは投稿者に修正を依頼するほか、内容や表現に問題が多い場合は削除などを行っていることは認めている。こうした対応の一貫性のなさが、一般ユーザーからの信頼性の低下にもつながっている。 食べログのPRサービスは「ライト」から「プレミアム10」までの4種類あり、月額固定で1万~10万円だが、標準検索優先表示などの露出を増やすためには月額2万5000円の「ベーシック」以上のプランに加入しなければならない。ネット予約サービスを利用する場合は、ランチで一人当たり100円、ディナーで一人当たり200円の従量課金制となる仕組みだ』、「食べログのPRサービス」の価格は決して安くなく、外食店にとっては負担が大きい。
・『有料サービスがコロナ禍の飲食店にのしかかっている  食べログ以外のグルメサイトでも、有料サービスに加入しないといけないプレッシャーが飲食店にかかっている。 たとえばぐるなびでは、店舗情報の掲載に、「スタートプラン」から「ベーシックプラン」まで3種類のプランが用意されている。スタートプランでのネット予約手数料は、ランチで一人当たり40円、ディナーで一人当たり200円などの従量課金制だ。さらにぐるなびでの露出を増やしたいと思えば「ライトプラン」以上の利用が必要となり、月額固定の基本加盟料は1万1000円~3万3000円かかってくる。 しかし、コロナ禍で続く外出自粛で飲食店が経営難となり、家賃と合わせて、このようなグルメサイトの手数料が重荷になっている。その結果、日経ビジネスによると、飲食店が食べログやぐるなびなどのグルメサイトに有料会員の解除や手数料の減額を求めているという。グルメサイト側も一時的に無料などの措置を取ったものの、会員数は減少し続けている(※)。 ※「新型コロナで加速するグルメサイト離れ、今こそ外食支援を」』、「グルメサイトの手数料が重荷になっている。・・・飲食店が食べログやぐるなびなどのグルメサイトに有料会員の解除や手数料の減額を求めている」、当然だ。
・『「もうGoogle MapとSNSだけでいいでのは」  ある飲食店経営者は「無料のGoogle Map経由での来店客が増えている。もうこれとSNSをやるだけでもいいのではと思って、食べログの有料サービス登録を解除した。こちらはコロナ禍で生き残れるかどうかの瀬戸際。固定料がかかるグルメサイトは厳しい」と話す。 Google Mapで検索した場合、自分のいる場所の近くにある店が見つけられ、そのままルート検索もできる点が特徴だ。口コミなども充実しており、混雑具合が確認できるのも便利だろう。 写真投稿に特化したInstagramでも、地名やジャンルをハッシュタグで検索すると飲食店が調べやすい。検索画面右上の地図アイコンをタップすると、地図上には付近の店舗が表示され、店舗公式アカウントや来店したユーザーが投稿した料理や店舗の写真を見ることもできる。 もちろん、食べログアプリでも現在地付近の店舗を調べることができる。店舗情報を調べたり予算などの条件を指定しての検索がしやすくなっており、利便性で劣るわけではない』、無料の「Google Map」や「Instagram」が有力な対抗馬になったようだ。
・『サービスの根幹部分で信頼を失っているのが問題  食べログなどのグルメサイトは、決して使われなくなっているわけではない。しかし、グーグルやInstagramなどの台頭を考えると、信頼性がこれ以上低下した場合、形勢が逆転する可能性さえある。 これまで述べてきたように、グルメサイトにとって課題は山積みだ。しかし中でも一番問題なのは、サービスの根幹を成す点数やランキング、口コミなどの信頼性が損なわれていることだ。今こそ、これまで浮上した数々の疑惑を完全に否定し、ランキングや点数などの透明性を高くしていく必要があるのではないのか。同時に、コロナ禍で困窮する飲食店に寄り添ったり、競合サービスの良いところを取り入れるなどの工夫も必要だろう。 消費者としては信頼できる使い勝手が良いサービスを利用していくだけのこと。コロナ禍もまだ終わりそうにない。グルメサイトは、これからが正念場なのだ』、「グルメサイト」が課題にどう対応してゆくのかに注目したい。

第三に、本年2月22日付け東洋経済Plus「前澤氏が去った後、激動の中で組織は変わった ZOZOが「最悪期」を這い上がった知られざる変貌」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29856
・『出店ブランドも市場関係者も疑心暗鬼だったカリスマ創業者からの世代交代。復活の裏側でどんな紆余曲折があったのか。 「1000万人というのはうれしいが、これを目標にしてきたわけではない」 1月末に開かれたZOZOの2021年度第3四半期決算会見。澤田宏太郎社長は、アナリストからの質問にそう静かに語った。 2021年12月、ZOZOが運営する国内最大のファッションEC(ネット通販)サイト「ゾゾタウン」の年間購入者数が1000万人に初めて到達した。過去1年以内に買い物をした会員とゲスト(会員未登録者)購入件数の合計は約1010万と、1年前から10.5%伸びた』、「前澤氏」が放り出した「ZOZO」をよくぞ立て直したものだ。
・『前澤時代より「今のほうが怖い」  大台を超えた心境を問われても冷静だったトップとは対照的に、最古参役員でもある栁澤孝旨副社長兼CFO(最高財務責任者)は「1つの目安だった数字を達成できたことは感慨深い」と胸の内を明かす。 「商品取扱高5000億円」――。創業者で前社長の前澤友作氏の下、ZOZOが約10年前に掲げた中長期ビジョンだ。会員の年間平均購入金額が5万円近くあった当時、社内では「1000万人に買ってもらえば達成できる」と話していた。2021年度の商品取扱高は4728億円を見込み、到達間近となった。 前澤氏が電撃退任したおよそ2年半前、ZOZOは新事業の失敗などにより収益力が大きく落ち込んだ。「前澤さんのときより、正攻法を着々と打つ今のほうが正直怖い」。あるECプラットフォーマーの幹部は、様変わりしたライバルをそう評する。実際、ZOZOは今期過去最高益を更新する見通しだ。 カリスマなきZOZOは、戦い方をどう変えたのか。 社長交代が行われた2019年は、ZOZOにとって辛抱の1年だった。「ゾゾスーツ」での自動採寸を基に、最適なサイズの商品を届けると打ち出した前澤氏肝いりのPB(プライベートブランド)事業が想定を下回り、巨額赤字を計上。会社設立以来、初の営業減益に陥った。 出店ブランドとの間でも“ゾゾ離れ”が生じて不協和音が高まった。直接のきっかけは、2018年末に開始した有料会員向けのサービス。一定の会費を支払うと、ゾゾタウンでの購入が常時10%割引される。割引分はZOZOが負担し、出店ブランドに直接の影響はないという内容だった。 しかし、あからさまな割引価格表示などによるブランド価値の毀損を懸念した一部のアパレル企業がゾゾタウン撤退を決め、サービスは5カ月で終了。当時はブランドが自社ECを強化し、Amazonや楽天もファッション領域の開拓に本腰を入れ始めた時期だった。拙速なサービス導入の裏には、集客の起爆剤にともくろんだPBが頓挫し、成長鈍化に対する焦りもあったとみられる』、「社長交代が行われた2019年は」、・・・、「前澤氏肝いりのPB・・・事業が想定を下回り、巨額赤字を計上。会社設立以来、初の営業減益に陥った」、よくぞ立て直したものだ。
・『ブランドも不安視した体制転換  苦境のさなかの2019年9月、前澤氏が社長を突如退任。前澤氏と親交のあった孫正義氏率いるソフトバンクグループ傘下のZホールディングス(当時ヤフー)がZOZOの子会社化を発表した。 後任に就いたのが、コンサル出身で2013年からZOZO取締役を務める澤田氏だ。就任後の決算会見では「トップダウンから組織型に変える」と意気込んだが、当時は業績も株価も低迷していた。プレッシャーは半端ではなく、栁澤副社長も「引き継いですぐは辛かった」と振り返る。 出店ブランドも新体制に懐疑的だった。退任直前の前澤氏の経営に批判はあったものの、世間を驚かせるようなサービスでサイトの認知を高め、ファッション業界のEC化をリードしてきたのは事実。多くの業界関係者は前澤氏が去ったZOZOを「つまらない会社になる」と危惧した。 実際、退任の前後は集客力の衰えに加えて現場の混乱も目立った。長年ゾゾタウンに出店する大手アパレルの幹部は「とくに前澤さんが辞めた直後は、以前のようなファッション好きのイメージが遠のき、売り上げばかり追うような社員が打合せに来ることもあった」と明かす。 だがそんな懸念はここに来て、過去のものとなりつつある。 コロナ禍でのEC需要の高まりを契機に、ゾゾタウンの集客力は徐々に回復。その波に乗るように2021年3月には大規模リニューアルを実施、新たなサービスも相次ぎ打ち出している。市場関係者の間では「通常だと創業社長からの世代交代は難しいが、うまく体制の転換ができた」との声が上がる。 「新しいものはすべて前澤さんがやっていた(世間の)イメージがあるが、実はそうでもない。『ゾゾグラス』や手指用の計測マットは今の体制下で情報共有しながら進め、着実に成果を出している」。ZOZOの山田貴康・計測プロジェクト本部長はそう手応えを語る。 ゾゾグラスとは、スマホを使って肌の色を自動測定し、自分に似合うファンデーションやリップなどを確認できるメガネ型のデバイス。2021年3月のリニューアルでは、ゾゾタウン内に化粧品専門モールを立ち上げた。同時にこのゾゾグラスを無料配布して、ECでの購買がアパレルほど浸透していない化粧品の販売拡大に一役買っている』、「コロナ禍でのEC需要の高まりを契機に、ゾゾタウンの集客力は徐々に回復。その波に乗るように・・・新たなサービスも相次ぎ打ち出している」、「コロナ禍でのEC需要の高まり」という神風が吹いたのもあるが、「新たなサービスも相次ぎ打ち出している」のは大したものだ。
・『プロジェクト管理をオープンに  山田本部長によれば、「いいことも悪いこともすべて共有しながら進めている点が、以前と大きく変わった」という。前澤氏のアイデアが企画化されることが多々あった時代、各プロジェクトの進行は限られたメンバーで内密に行われる傾向が強かった。 澤田体制では、そうした情報共有のあり方を抜本的に見直した。代表例が、およそ2週に1回開催しているプロジェクト進捗会議。進行中の各プロジェクトの担当社員や部長、全役員を含めた数十人がオンラインで集まり、約2時間にわたり進捗や課題を話し合う。 部署横断で情報連携する場を増やした結果、1つひとつの企画の精度が高まり、スケジュール管理の統率をとれるようになった。ゾゾスーツを筆頭に、過去にたびたび生じた新サービスの遅延は現在ほとんど起きていない。 2021年11月には、ゾゾタウンと出店ブランドの実店舗をつなぐサービス「ZOZOMO」を始動させた。ブランドの店舗別の在庫状況をゾゾタウン上で表示する機能で、ユナイテッドアローズやシップスなどが導入済みだ。プロジェクトを担った風間昭男・ブランドソリューション本部長は「コロナ禍でブランドのためにプラットフォーマーとしてできることは何かを考え、企画から1年弱で開発した」と話す。 2020年に入社した風間本部長も、この2年での社内の変化を体感している。「以前は『この打ち合わせは何のためなのか』とモヤモヤしたまま集まることもあった。それが今は会議の精度が上がり、話す内容が高度になっている」。 澤田体制では、サイトへのアクセス数や購入率など、KPIによる定量評価を精緻化させた。足元の変化を日々細かく追えば、社員がより自分の担当領域について課題認識を明確に持つようになる。 組織経営への移行に当たってZOZOが掲げた言葉は「社員が主役」だ。先述の進捗会議では、現場社員も役員の前で説明する機会がある。社員のアイデアを募るビジネスコンテストなどを定期的に行い、現場の責任感と発案力を引き上げている』、「会議の精度が上がり、話す内容が高度になっている」、組織的に仕事をする体制になったようだ。
・『熱狂が消えた市場の評価  前澤氏が得意とした派手なパフォーマンスは消えた。しかしプラットフォーマーとして必要とされる機能、サービスの増強を絶えず着実に行い、ブランドや顧客との関係性を強固にする。「今のZOZOのほうが怖い」と思われる理由がここにある。 もっとも、市場の評価にかつてのような熱狂はない。ZOZOの株価はPBのスーツ発売を大々的に発表した2018年の4875円をピークに、足元では3000円前後を推移する。 JPモルガン証券の村田大郎アナリストは「鈍化する局面にあった商品取扱高を(ヤフーが運営し、ゾゾタウンが2019年秋から出店する)ペイペイモールも加わり伸ばすことができ、いいタイミングでの交代だった」と分析。一方で「新規事業が今後の成長にどう寄与するのか、具体的なプランがまだ見えない」と指摘する。 東洋経済の推計では、国内のアパレルEC市場におけるZOZOのシェアは2019年度に微減へと転じた。その後はゾゾタウンの伸びやペイペイモールでの販売が加わったことにより、微増となっている。 機能や集客力で他のECモールと差別化できているとはいえ、各ブランドが自社ECを強化する流れは変わらない。コロナ禍での巣ごもり特需が消えた後も、市場シェアを上げ続けるハードルは高い。 ZOZOは単に商品取扱高を伸ばすのでなく、ZOZOMOなどを通じたサイトのトラフィック(消費者による訪問回数)の増加や、計測技術のライセンス販売などにより、収益源を多角化させる目標を打ち出す。ただ今は方針の提示にとどまり、これら新事業が目に見えた収益貢献にはつながっていない。 嵐の中で出航した新体制は、ようやく舵取りが板についてきた。さらに荒波が来ても巡航速度を保てるか。ZOZOの真価はここから問われることとなる』、地道に組織的に経営するようになったとはいえ、「収益源を多角化」などが本当に可能なのか、大いに注目される。
タグ:ネットビジネス (その12)(「不快なネット広告」が増加する理由 コンプレックスを刺激、怪しい効果…、若者の「食べログ離れ」が止まらない…信用をどんどん失いつつある"口コミビジネス"の正念場 4人に1人は「信用していない」、若者の「食べログ離れ」が止まらない…信用をどんどん失いつつある"口コミビジネス"の正念場 4人に1人は「信用していない」、前澤氏が去った後 激動の中で組織は変わった ZOZOが「最悪期」を這い上がった知られざる変貌) ダイヤモンド・オンライン「「不快なネット広告」が増加する理由、コンプレックスを刺激、怪しい効果…」 「コロナによって各企業が広告費をカットもしくは広告自体を減少させていきました。となると、入札する企業の数や相場が下がり、今まで目立たなかった怪しい商品を扱う広告が安い単価で表示されやすくなった」、困ったことだ。 「媒体は事前にどんな広告が配信されるかはわからない」、「自動で広告が表示されていく仕組みなので、媒体側が内容を事前にチェックすることはほぼできません。そもそもネット広告配信は多数の事業者が介入しています。広告主から始まり、媒体までは広告枠の買い付けを行う事業者、広告枠の仕入れ販売を行う事業者、広告枠の仕入れ販売と買い付けの需給を調整する事業者など国内外のプレーヤーが複雑に存在する。彼らによって自動的に広告は表示されていくので、責任の所在が特定しにくいのです」、なるほど。 私もせめて「不快で怪しい広告を見たら報告ボタンをガンガン押してい」る。「消費者庁の検討会は実質的なプレーヤーが参加していないので、抜本的な解決につなげることは難しいでしょう」、とはいえ、「規制」に乗り出したのは好ましい。 PRESIDENT ONLINE 高橋暁子さんは「食べログなどのグルメサイトは利用者が多い一方、点数やランキングを疑う声も多い。とくに若者は、Google MapやInstagramを使った検索に移りつつある」という――』 確かに「食べログなど複数のグルメサイト」が、「優越的な地位を利用して参加店舗に対して割引を強要したり、他のグルメサイトとの契約を制限」、などの「独禁法違反」をしている可能性がある。 可能性を否定できない。 「Google検索」、「地図サービス(Google Map、Apple Mapなど」、「SNS(Facebook、Instagramなど)」などが健闘しているのに驚かされた。 「食べログの営業をかたる業者や、売り上げを上げたい代理店など」が暗躍する裏には、順位決定方式に関する不透明性があるのだろう。 「口コミサイトが対象から広告料を取れば、口コミ自体の信頼性が下がるのは自明の理だ」、利益相反行為の典型だ。 「食べログのPRサービス」の価格は決して安くなく、外食店にとっては負担が大きい。 「グルメサイトの手数料が重荷になっている。・・・飲食店が食べログやぐるなびなどのグルメサイトに有料会員の解除や手数料の減額を求めている」、当然だ。 無料の「Google Map」や「Instagram」が有力な対抗馬になったようだ。 「グルメサイト」が課題にどう対応してゆくのかに注目したい。 東洋経済Plus「前澤氏が去った後、激動の中で組織は変わった ZOZOが「最悪期」を這い上がった知られざる変貌」 「前澤氏」が放り出した「ZOZO」をよくぞ立て直したものだ。 「社長交代が行われた2019年は」、・・・、「前澤氏肝いりのPB・・・事業が想定を下回り、巨額赤字を計上。会社設立以来、初の営業減益に陥った」、よくぞ立て直したものだ。 「コロナ禍でのEC需要の高まりを契機に、ゾゾタウンの集客力は徐々に回復。その波に乗るように・・・新たなサービスも相次ぎ打ち出している」、「コロナ禍でのEC需要の高まり」という神風が吹いたのもあるが、「新たなサービスも相次ぎ打ち出している」のは大したものだ。 「会議の精度が上がり、話す内容が高度になっている」、組織的に仕事をする体制になったようだ。 地道に組織的に経営するようになったとはいえ、「収益源を多角化」などが本当に可能なのか、大いに注目される。
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資本主義(その9)(セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論、大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」、大前研一「"新しい資本主義"が危険である これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する) [経済]

資本主義については、昨年12月9日に取上げた。今日は、(その9)(セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論、大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」、大前研一「"新しい資本主義"が危険である これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する)である。

先ずは、本年1月1日付け東洋経済オンラインが掲載した NHK「欲望の資本主義」プロデューサー/東京藝術大学客員の丸山 俊一 氏による「セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/477941
・『今、資本主義をめぐる議論が熱い。 「成長至上」のあり方を否定することにおいてはともに一致しつつも、現状を打開する方策、システムのあり方について意見を異にし、対立する2人が出会った。かたや思春期に共産主義を経験、その苦い記憶からそこに帰ることなく資本主義において解決策を探し続けるチェコの奇才アナリストと、アメリカでマルクスに出会い、脱成長の可能性に魅せられた夢見る俊英学者との対論だ。 『欲望の資本主義5:格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時』など、書籍化もされている新春恒例の番組「欲望の資本主義」。元日放送の「BS1スペシャル 欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを超えて」での、トーマス・セドラチェク氏と斎藤幸平氏によるチェコと東京を結ぶ熱い議論は、3時間を超えるものとなった。その冒頭部分をお聞きいただこう』、「番組」は見逃したので、有難い。
・『社会主義を支持する欧米の若者たち  斎藤幸平(以下、斎藤):セドラチェクさんの『善と悪の経済学』を読みましたが、経済成長を時に鈍化させる必要性をあなたは説いていますよね?私も著書『人新世の「資本論」』の中で脱成長について議論し、その議論は今では日本でも多くの人に受け入れられています。 今日は「脱成長は可能なのか」について議論したいのですが、いちばんのポイントは、脱成長は資本主義の中で可能なのか、あるいは資本主義を超えた先の脱成長をめざすべきなのか、だと思います。その点について、じっくり話し合えればと思います。 セドラチェク:私の国は長く共産主義を経験しましたから、その点についても話せますね。それに、この問題を環境問題に結び付けた形で議論することも可能です。なぜなら、あなたのマルクス主義に基づきつつも現実的でエコロジカルな視点に、私はとても興味があるからです。すばらしい議論ができるでしょう。 斎藤:ええ。同意できる点と異なる点と……、議論を楽しみにしています。 セドラチェク:頭脳明晰な友人とのおしゃべりは、最高の夜の過ごし方ですからね。 斎藤:ありがとうございます。ではまず、最初にアメリカのバーニー・サンダースやイギリスのジェレミー・コービンといった「社会主義」を掲げる政治家の人気について話したいと思います。彼らを最も情熱的に支持しているのが若者だというのは、注目すべき点です。「ジェネレーション・レフト」とも呼ばれる、ミレニアル世代やZ世代がますます社会主義的な考え方に興味を持つようになっている。 その背景には、資本主義が、「みんなを豊かにする」という約束を果たせなくなっているという問題があります。つまり、経済を成長させることで、あらゆる人により豊かな生活をもたらすという約束です。 若者たちが直面しているのは、深刻な経済的不平等です。若い世代の多くの人たちは、不安定で低賃金の職にしかありつけていません。学費の高い英米の若者たちは、就職後も学生ローンの返済で苦しんでいますし、ニューヨークやロンドンなどの大都市の家賃は高騰するばかりです。今の資本主義を続けることは、若い世代にとっては経済破綻を意味します。 ソ連が崩壊して30年経ち、再びある種の社会主義的な考え方に若者が共鳴するのには、十分な理由があると私は思っていますが、その点、どんなふうに捉えていらっしゃいますか?』、「今の資本主義を続けることは、若い世代にとっては経済破綻を意味します。 ソ連が崩壊して30年経ち、再びある種の社会主義的な考え方に若者が共鳴するのには、十分な理由があると私は思っています」(斎藤)。
・『食べ物の棚が空っぽの社会主義時代のチェコ  セドラチェク:サンダース現象の盛り上がりについては、私が住む欧州の視点からは、率直なところ理解に苦しみます。なぜなら私たちは資本主義を違う方法でも利用できると知っているからです。実際、過去35年の全人口の富の増加のデータを見ると、欧州に鉄のカーテンがあった時代、つまり昔の社会主義時代と比べると興味深い傾向があります。 欧州の富裕層の富はそれほど増えず、200%増加した程度です。倍になったのは大きいですが、アメリカに比べればそれほどではありません。ましてやロシアとは比べ物になりません。チェコも貧困層や中流階級の人々さえも過去30年間の資本主義の恩恵を受けています。 ですからヨーロッパの若者は、左派に対してそれほどの情熱を持っていないでしょう。とくに社会主義の時代に空っぽの棚を経験している、ここ中欧では。私は子どもの頃、フィンランドに住んでいたこともあり、鉄のカーテン 両側から見ることができました。あるとき、祖母がフィンランドに来たことがありました。彼女が亡くなった後に、遺品を整理していたら食べ物の写真が20枚ほど出てきましたよ。彼女にとっては食べ物でいっぱいの棚がたくさんあるのが珍しかったのでしょうね。 斎藤:欧州の中流階級がそれほど貧しくなっていないという点は注目すべきですね。若者たちも、史上最悪の状況に置かれているというわけではありません。 しかしながら、欧州においてさえ社会主義など、脱資本主義への関心が高まっているのは事実で、先に挙げたコービンだけでなく、ギリシャのヤニス・バルファキスなどの躍進にも表れています。 こうした現状を理解するために、もう1つ重要なポイントは、私たちが「人新世の危機」に直面しているということではないでしょうか?「人新世」とは、人類の経済活動が巨大になり、今後数千年も続くような地球全体の変化をもたらし、地質学的に大きな影響力を与えている時代のことです。つまり、資本主義が地球を壊すほどの環境危機を引き起こしているのです。そのうち最も深刻な危機が気候変動です。 コロナのパンデミックは、「人新世の危機」を象徴していますが、問題は新型コロナの感染爆発は最後の危機ではなく、むしろスタートだという点です。コロナ禍は、気候変動が引き起こす慢性的緊急事態へのリハーサルでしかないのです』、これに対し「セドラチェク」は、「欧州の富裕層の富はそれほど増えず、200%増加した程度です・・・アメリカに比べればそれほどではありません・・・チェコも貧困層や中流階級の人々さえも過去30年間の資本主義の恩恵を受けています。 ですからヨーロッパの若者は、左派に対してそれほどの情熱を持っていないでしょう」と、社会主義から「資本主義」に体制転換したことから、「資本主義」の問題点には余り関心がないようだ。
・『パンデミックは来る気候危機の予告編  セドラチェク:私はデモ版と呼んでいます。予告編ですね。 斎藤:ええ、気候危機の予告編です。摂氏2度上がった世界を想像してください。すぐにその時はやって来ます。台風やハリケーン、山火事、干ばつが増え、海面上昇も起き、人間の手に負えなくなります。そして確実に水不足や食糧危機が起き、多数の難民が生まれます。社会に大きなマイナスの影響も生まれ、排外主義や極左運動等を生み、戦争や紛争につながるのです。 そう考えれば、Z世代の不安や怒りは理解できるでしょう。彼らは近い将来に起きる危機を非常に恐れているのです。 そして若い世代は、気候危機に対する説得力のある、魅力的な解決策を提供できない現在のシステムに失望しています。そしてもし既存のシステムが解決策を提供できないならば、今のシステムの外に求めるべきだと考えています。 だから、社会主義が次なるシステムの候補に上がっているわけです。 セドラチェク:気候危機が、人々が解くべき重要な問いであることには同意します。私たちはその解決策を知りません。この惑星でこんなことが起きたのは初めてですからね。この状況は私たちが1989年に資本主義を導入すべく共産主義から離脱したときの状況と少し似ています。当時教科書がなく、どうすべきかわかりませんでしたから。確かに気候変動の原因は、普通に考えれば、資本主義です。) セドラチェク:しかし私は、資本主義自体の問題ではないと考えるのです。なぜそう思うのかと言えば、解決策を見つける国は、いつも西側の資本主義国だからです。中国の共産主義によって発案された解決策はありません。 実際、現在議論されているCOPでの温室効果ガス削減目標に関しては、皮肉にも中国が最も後ろ向きで自らが出す公害の割合を減らす覚悟ができていないのです。公共の利益を考えるべきは、ほかでもない社会主義あるいは共産主義政党のはずでしょう?ちなみに、私は過去の経験から2カ月ほど前に挑発的な論文を書いたのですが、その内容は「資本主義は共産主義ほど環境を破壊しない」というものでした。 私はこのチェコの地で育ち、革命が起きた時は12歳でした。そして30年……、共産主義による40年間にわたる環境破壊の後始末をするのに、資本主義社会で30年かかったわけです。私にとっては皮肉でした。なぜなら子どもの頃こう思っていたからです。「私欲や利益、利己主義に左右されず、中央計画経済が実行され、民衆の幸福と公共の利益の実現のみを役割とする政治体制なのに、なぜ?」と。 公共の利益の例として私たちが吸う空気に勝るものがあるでしょうか?私たちは同じ空気を吸っています。しかし、共産主義はその空気を守ることができませんでした。利己主義で利益を追求し、無秩序で組織化されておらず、命令でなく報奨金のみによって動くフィンランドの資本主義の人々ほどもね。これは大きな逆説です。フィンランドのビジネスマンは環境を守ろうと意図していたわけではなく、スープやジャガイモなどを売って儲けたかっただけにもかかわらず、旧チェコスロバキアほど環境を悪化させなかったのです』、「私たちは同じ空気を吸っています。しかし、共産主義はその空気を守ることができませんでした」、その通りだ。
・『資本主義システムではない新しいシステム  斎藤:チェコスロバキアなどの東側諸国のほうが、資本主義の西側諸国よりも大気汚染など環境に悪影響を与えていたとおっしゃいましたね。その点は理解します。 しかしながら、東西両陣営、どちらの体制の国々も果てしない経済成長を求めていたこと、そしてどちらも、生態系への影響を無視して近代化を求めていた、という点が最大のポイントです。東西ともに、成長を追求し、環境を破壊したという、その点においては、まったく同じ穴の狢だったわけです。) 斎藤:生産における古い社会主義的管理体制が非効率的で環境を破壊するものだったという点は理解しています。しかし、当時そうだったというだけであって、未来の環境を考えた場合、社会的に生産を管理・規制する必要があり、そのほうが環境にいいという可能性までも否定するものではありません。 なぜなら、市場で無秩序な競争を行い、際限のない資本増殖を追求する資本主義システムのもとでは、環境危機を悪化させるばかりで、危機を解決に導くことなどできないからです。現に気候変動問題は、ソ連崩壊後にますます悪化しています。私たちは環境危機の原因である、資本主義システムではない新しいシステムを作らなくてはなりません。 残念ながら、利潤を求め、経済を成長させるということは、ほぼ例外なく物・資源・エネルギーの消費の増大を伴うのです。成長と環境に悪い消費を短期間で切り離すことは至難の業です。 EUやアメリカは“緑の”資本主義をスローガンに掲げ、技術革新によって、経済成長と環境への悪影響を切り離す、デカップリングを目指していますが、技術的にそれが実現する保障はありません。しかし、気候危機を解決するには「今後30年のうちに解決しなければ、ポイント・オブ・ノーリターンを迎えてしまう」という深刻なタイムリミットもあります。二酸化炭素排出量を、大急ぎで大幅に削減し、ゼロにせねばならないのです。 ですから、実現の保証が定かでない技術革新だけに期待をかけて、経済成長を求めている場合ではないのです。例えば国家権力によって悪質な産業は止めることなども選択肢にせねばなりません。今われわれは、コロナのパンデミックよりも大きな問題に本当は直面しているのです』、「二酸化炭素排出量を、大急ぎで大幅に削減し、ゼロにせねばならない」という「コロナのパンデミックよりも大きな問題に本当は直面している」、その通りだ。
・『パンデミックによる「資本主義の中の社会主義」  斎藤:ただ、パンデミックから私たちが学んだこともあります。つまり、われわれは緊急モードになって、やろうと思えばロックダウンもできるし、マスクやワクチンなど、どうしても必要なモノを作るよう市場に呼びかけることもできるという点です。ロックダウン中はお金を配るよう政府に要求することもできます。 こうしたコロナ対策が証明したのは、どれほど素早くわれわれが自らの行動を変えられるか、そして政府は実際、国民の命を守るために動けるのだということです。これは、われわれの政治や経済に関する想像力が広がった経験だと考えています。 市場の規制を撤廃し民営化を進める新自由主義が国民の命を守り、生活をより豊かにする最も効率的な方法だと言われてきました。しかし、そうした社会がもたらしたパンデミックと気候危機という矛盾に直面し、より社会的規制や共同生産の可能性を模索せねばならなくなったのです。 当然、旧社会主義国の失敗を繰り返してはなりませんけどね。 セドラチェク:パンデミックが想像力を広げたことには同意します。この間、世界中が共産主義になったとも言えますからね。誇張した表現ですが。 斎藤:危機の時代にはみな社会主義者になるというジョークが昔からありますからね。 セドラチェク:そのとおりです。皆いくらかの給付金を受け取ったわけで、もしもパンデミックが続いても、何年かは持ちこたえられるでしょう』、「コロナ対策が証明したのは、どれほど素早くわれわれが自らの行動を変えられるか、そして政府は実際、国民の命を守るために動けるのだということです。こは、われわれの政治や経済に関する想像力が広がった経験だと考えています」、同感である。
・『資本主義国家と共産主義国家の違い  セドラチェク:しかしここで考えねばならないのは、持ちこたえられるのも、今私たちが豊かだからということです。共産主義の末期ではムリでした。1980年代にパンデミックはありませんでしたが、それでも店の棚に食料はありませんでした。飢餓にある人もいたのです。 「BS1スペシャル欲望の資本主義2022成長と分配のジレンマを超えて」は、NHK BS1にて2022年1月1日22:00~放送予定(写真:NHK) フィンランドのような中央計画経済とは無縁の社会が、なぜチェコスロバキアなどの中央計画経済の国々よりも当時繁栄していたのか、私にとってこれは最大の謎でした。西側のほとんどの国々では、なぜか生態系、自然へのダメージが共産主義体制の国々より大幅に少なかったのです。これはちょっと皮肉です。言葉を額面どおり受け取るなら、共産主義のほうがマシなはずですから。リーダーが「明日からCO2の排出量を減らすぞ、煙突にフィルターをつける」と宣言できるはずだからです。 ところが実際は違いました。1988年、革命が本格化する前に、チェコスロバキアの北部の町々で政権に対する抗議運動がありました。あまりの空気の悪さで、息が吸えなかったのです。民衆は共産主義体制を批判し始め、その運動が首都プラハまで波及して知識人による反乱となりました。始まりは環境問題だったのです。 当時リーダーたちを批判することは禁じられていました。これが資本主義国家と共産主義国家の違いだと思います。資本主義国家は批判に対してお金を払い、批判を求め、変化を求めるのです。 新しい制度が必要だという点ではまったく同感です。しかし私は、資本主義の中で模索します。 あくまで資本主義内での問題解決を考えるセドラチェクと、コミュニズムの実現を目指す斎藤の議論は、いよいよ核心へと入っていく……。どこまでわかり合え、どこからが異なるのか? 成長、分配、生産性……、さまざまな言葉が行き交う今、資本主義の曲がり角にあって進むべき道は? このほかにも世界各地のさまざまな経済のフロントランナーたちが登場、資本主義の可能性と限界に迫る、2017年からの新春恒例の企画ならではの、骨太でスリリングな議論が番組では展開される』、「チェコ」など東欧の民主主義「革命」も「始まりは環境問題だった」、忘れていた重要なポイントを思い出させてくれた。

次に、1月13日付け東洋経済Plus「大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29328
・『岸田文雄首相の掲げる「新しい資本主義」の評判がエコノミストの間で芳しくない。大テーマを掲げた割にはその内容が小粒で、新味に欠けるからだ。 首相が年頭所感で説明する「新しい資本主義」はこうだ。成長については「デジタル化」「気候変動」「経済安全保障」「イノベーション・科学技術」などの社会課題をエンジンとする。分配については、格差に向き合い、「企業による賃上げ」や「人的投資の強化」を行う。これを次の成長につなげ、「成長と分配の好循環」を生むことで、経済の持続可能性を追求する──。 これでは、巷間(こうかん)いわれるようにアベノミクスと変わらない。 成長のエンジンとは産業戦略にすぎない。政府がテーマを並べて税制優遇や補助金で企業の投資を誘導する、従来型の手法だ。これまでも繰り返されてきたが、イノベーションの活性化にはつながらなかった。 本来、イノベーションは企業の側から自発的に生まれる。政府の役割は、それを阻害するような規制・制度を見直し、既得権を持つ者による不当な取引慣行を排除することだ。民間のイノベーションが乏しいことが、日本の問題だ。 分配についても、「企業による賃上げ」を「賃上げ税制」という企業への優遇措置に頼ろうというのでは、アベノミクス下の官製春闘と同様に持続性はないだろう』、「分配についても、「企業による賃上げ」を「賃上げ税制」という企業への優遇措置に頼ろうというのでは、アベノミクス下の官製春闘と同様に持続性はない」、その通りだ。 
・『30年近く沈み続けて  首相は「すべてを市場や競争に任せるのではなく」、「新自由主義から決別すること」が「先進国共通の課題だ」と語る。確かに日本でも株主至上主義を促すコーポレートガバナンス・コードの導入や法人税引き下げなどの新自由主義的政策は導入された。だが、すべてを市場や競争に任せてはいない。 単純化していえば、米国ではイノベーションが活発な反面、起業家やCEO(最高経営責任者)が、突出した報酬に加えて株主利益や減税の恩恵も手にした。一部の勝者への富の集中で格差は拡大した。 日本の場合は、潜在成長率が低下してほぼゼロになる中で、中間層から下層に滑り落ちる人が増え、格差が拡大した。その背景には、新卒一括採用・終身雇用制、正社員の解雇規制がある。企業は景気に応じて調整しやすくコスト負担の少ない非正規雇用を増やした。 企業に補助金や税制優遇を与えて雇用を守ってもらう政策を変えなかったことで、低成長・低採算の産業が温存され、人材もそこに縛られて低賃金から脱却できない。結果的に、守られない非正規雇用も拡大した。これを続けるのか。 潜在成長率を引き上げるには、パッチワーク的修正でなく、経済全体の枠組み変更の必要がある。 中心に据えるべきは労働市場の改革で、ドイツや北欧の例に倣って積極的労働市場政策に転換することだ。企業倒産や解雇を容認することで、企業や事業の新陳代謝を促す。セーフティーネットとしては個人を対象とする失業手当や再就職支援、そのための職業教育などを手厚くすることで、成長分野への労働移動を促す。国内で成長の可能性が見えてくれば、企業も投資を活発化させる。 また、家計が安心して消費を増やすためには、持続可能な社会保障、財政の姿を示すことが必要で、財源の議論は避けて通れない。 ばらまき政策が多いのは、今夏の参院選で過半数を握るためで、それまでは財源など不人気な議論は封印されているのだという解釈がもっぱらだ。だが、長期化した安倍政権も改革への取り組みは希薄だった。首相が「規制改革」や「既得権益の打破」といった言葉を避けていてよいものか』、「潜在成長率が低下してほぼゼロになる中で、中間層から下層に滑り落ちる人が増え、格差が拡大した。その背景には、新卒一括採用・終身雇用制、正社員の解雇規制がある。企業は景気に応じて調整しやすくコスト負担の少ない非正規雇用を増やした。 企業に補助金や税制優遇を与えて雇用を守ってもらう政策を変えなかったことで、低成長・低採算の産業が温存され、人材もそこに縛られて低賃金から脱却できない。結果的に、守られない非正規雇用も拡大した。これを続けるのか。 潜在成長率を引き上げるには、パッチワーク的修正でなく、経済全体の枠組み変更の必要がある」、同感である。「首相が「規制改革」や「既得権益の打破」といった言葉を避け」るべきではない。

第三に、プレジデント 2022年3月4日号が掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「"新しい資本主義"が危険である、これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/54516
・『賃上げするほど格差は拡大する  給料を上げた企業は税金が安くなる「賃上げ促進税制」が2022年4月からスタートする。大企業と中堅企業の場合、前年度比で3%以上給料をアップすれば法人税が15%控除され、4%以上は25%控除される。中小企業の場合は、1.5%以上アップすると15%控除、2.5%以上は30%控除だ。 賃上げ税制は、岸田文雄首相が設置した「新しい資本主義実現会議」が提案した。競争原理を重視した新自由主義では格差が拡大したから、新自由主義にかわる「新しい資本主義」を目指すという。賃上げ税制は、これを実現する具体策の1つというわけだ。 この政策を本気で「資本主義」だと考えているとしたら、岸田政権は危険だと思う。「政府が賃金をコントロールするのは、資本主義ではないのではないか?」と首をかしげたのは、私だけではないだろう。 資本主義の基本は、自由なマーケットだ。マーケットで競争が起こり、強い企業が生き残る。経営者は競争を通して、商品の価格や従業員の人数、給与を決めていく。競争に勝利した企業は、利益を将来の事業に再投資して、さらに強くなる』、「賃上げ税制」「を本気で「資本主義」だと考えているとしたら、岸田政権は危険だと思う。「政府が賃金をコントロールするのは、資本主義ではないのではないか?」と首をかしげた」、確かにその通りだ。
・『介入しないことが資本主義  私が「3C」と提唱したとおり、強い企業は、顧客(Customer)、組織(Company)、競争相手(Competitor)の「3つのC」を考えて、マーケットが好む商品を提供する。現在のボーダーレス社会では、世界で最も安くて良質な材料を仕入れ、人件費が安く良質な労働力がある場所で生産し、高く買ってくれる場所で販売する。“世界最適化”は自由なマーケットを前提に成り立っている。政府はマーケットに自由な選択を与え、介入しないことが資本主義なのだ。 企業に「賃上げしたら税金を安くするよ」というのは、マーケットへの介入だ。資本主義でもなければ自由主義でもない。岸田首相の「新しい資本主義」は、すでに失敗が証明されている全体主義、あるいは計画経済の発想だ。 さらに、腰が抜けるほどびっくりした政策がある。4月以降、賃上げを表明した企業は、公共工事などの政府調達の入札で優遇するというのだ。 政府調達の財源は税金だ。企業努力をせずに賃上げだけをして人件費が増えれば、入札価格は高くなる。入札の原則は「一円でも安く」することなのに、入札価格が高い企業のほうを優遇して税金を多く払うというのは、犯罪的行為だ。 そして、「上に政策あれば下に対策あり」という言葉のとおり、合理的な経営者はきっとこう考えるだろう。 「人件費を高くするくらいなら、賃金が安い海外に、仕事をアウトソーシングしよう。その分、国内の従業員は減らす。社内には特に優秀な人間だけ残して、賃上げする。これで人件費は抑えられ、法人税の負担は減り、公共事業も受注しやすくなる」 このように、賃金と雇用は相反関係だ。賃金を上げて人件費の負担が増えれば、雇用は減る。従って、分配を訴える「新しい資本主義」こそ、実態は国内の雇用減少を促す格差拡大政策なのだ。 やはり岸田首相の「新しい資本主義」は、21世紀の経済原則を理解していない。 1980年に出版された『第三の波』で、アルビン・トフラーが脱工業化社会と情報化社会を予測した。実際にIT革命は起こり、世界中で生産性が高まった。しかし日本では、いまだに生産性が向上せず平均賃金は韓国以下。DXが進まず、仕事を奪われないようにDXに抵抗する人たちもいる。 例は、建築確認申請だ。住宅やビルを建てる際に自治体に提出する建築確認申請はIT化されていない。数十ページの申請書を風呂敷に包んで持っていき、最大35日以内に審査されることになっている。2005年に耐震強度偽装の姉歯事件が起きたあとは、高いビルは第三者機関の審査が必要となり、最大70日まで審査期間は延びた。申請にかかる手間と時間は膨大だ。) しかし、シンガポールではIT化され、CADの設計データなど、デジタルの資料を提出すれば、30分ほどで許可が下りる。生産性の差は歴然だ。 日本でIT化できないのは、第一に役所の抵抗があるからだ。私の知人が、北海道で建築基準法の電算化を試みたことがある。基準がわからない点があるからと道庁で尋ねると、担当者から「そんなことはやめろ。俺たちの仕事がなくなるじゃないか」と言われたそうだ。役所の担当者は裁量権を残したいというのだ。私の友人は役所の役に立つと思って相談したのに「担当者になじられてえらい目に遭った」と話していた。 医療分野でも、日本のDXはずいぶん遅れている。 たとえば米国の医療系IT企業プラクティス・フュージョンは、電子カルテを管理するクラウドサービスを無料で提供している。約16万の開業医と提携し、総合医療の巨大プラットフォームを構築して米国の医療システムを激変させた。患者は自分の診療データや処方箋をスマホで受け取り、薬を買える近所の薬局も表示される。アマゾンに処方箋を転送すれば、早ければその日のうちに配達される。 中国には、平安ピンアン保険グループのオンライン診療アプリ「平安グッドドクター」がある。病院や薬局、検診センターと連携し、ユーザーは24時間いつでもスマホのチャットで診察してもらえる。対面の診察が必要なら、提携する医療機関を紹介してくれる。 日本でも、メドレーなどの医療系ITベンチャーがオンライン診療に取り組んできたが、いまだに認められていない。新型コロナの影響で、かかりつけ医のオンライン診療がようやく許可された段階だ。カルテも米中とは違って、患者のものになっていない。 建築、医療のほかにも、役所の規制や抵抗によって、DXが進まない分野は数多くある。日本政府がなすべきことは、計画経済的な「賃上げ」ではなく、21世紀の経済に合った規制撤廃・緩和なのだ』、「政府はマーケットに自由な選択を与え、介入しないことが資本主義なのだ」、「日本でIT化できないのは、第一に役所の抵抗があるからだ。私の知人が、北海道で建築基準法の電算化を試みたことがある。基準がわからない点があるからと道庁で尋ねると、担当者から「そんなことはやめろ。俺たちの仕事がなくなるじゃないか」と言われたそうだ」、こんなことでは電子政府など単なる掛け声に過ぎないようだ。
・『今の小学生たちはAIに負ける  実は、DXなど既存業務の生産性向上は、IT革命の前半戦にすぎない。遅くとも45年に、AI(人工知能)が人類の知能を超えると予測されている、シンギュラリティ(技術的特異点)だ。 IT革命の後半戦はそこからはじまり、人員削減どころではない恐ろしい変化が起こる。IT化による生産性向上が“IT経済”だとすれば、次にシンギュラリティによって“サイバー経済”が到来する。 サイバー経済が進むと、まず学校の先生たちは大量に失業する。文部科学省の学習指導要領どおりに教え続けるなら、人間の教師は、予備校ナンバーワン講師のように、教えることの達人が各科目に1人ずついればいい。生徒はスマホで達人の授業を聞き、疑問が生まれたらAIに質問すればいいのだ。 教師だけでなく、「師業」「士業」の多くは同じ道をたどる。医師、弁護士、会計士などの高給なプロフェッショナル職種は、専門的な知識を多く知っていることに価値があったが、サイバー社会では知識や判断はAIに勝てない。 米国やカナダの弁護士は、裁判の戦術がすでにAI化している。「このケースでは、ここを攻めて、ここは守れ」といった指示がAIから出されるのだ。若い弁護士とベテラン弁護士の差はほとんどなくなった。AIの活躍は、医師や会計士でも起き始めている』、「サイバー経済が進むと、まず学校の先生たちは大量に失業する」、「「師業」「士業」の多くは同じ道をたどる。医師、弁護士、会計士などの高給なプロフェッショナル職種は、専門的な知識を多く知っていることに価値があったが、サイバー社会では知識や判断はAIに勝てない」、確かに「人員削減どころではない恐ろしい変化が起こる」。
・『見えないものを見る力  シンギュラリティが予測される45年は、いまの小学生たちが30歳前後で働き盛りの頃だ。文科省の指導要領は、シンギュラリティなど想定せず、記憶に偏重したカリキュラムのままだ。スマホで検索すれば数秒でわかることを覚えさせ、試験ではスマホは使用禁止で、自分の記憶が頼りだ。社会に出てから役に立たないことを頭にたたき込んでいる。 サイバー社会で“飯のタネ”になるのは、人間にしかできないことに限られる。コンピュータは記憶(記録)や大量の情報処理は得意だが、「0から1」の発想は苦手だ。従って、見えないものを見る力、構想力が鍵だ。 ただし、AIに勝つのは40人に1人くらいで十分だろう。あとの39人は、AIに勝った天才が納めた税金で生活する。普段の仕事は、介護や看護、ハンディキャップがある人の支援など、エッセンシャルワーカーとして社会的な役割を担う。 シンギュラリティで失業しない仕事はほかにもある。日本人が得意とするスポーツや芸術などの分野は、AIには真似できない。たとえば、海外のオーケストラやバレエ団では、日本人が数多く活躍している。料理人も世界中にいる。世界の上位に日本人がいるのは、観るもの、聴くもの、味わうものなど感性が発揮される分野だろう。 起業や経営にも構想力が求められる。ビジネスの構想力を鍛えるのに最も効果的なのは、起業家の話を聞いて刺激を受けることだ。ヤマハの川上源一さん、YKKの吉田忠雄さんなどの起業家の本を読むのもいい。 サイバー経済の世界は、正解がない。政府は国民の邪魔をしないように、規制を撤廃するのが仕事だ。政府がいう「新しい資本主義」は絶望的に時代錯誤な政策なのだ』、「文科省の指導要領は、シンギュラリティなど想定せず、記憶に偏重したカリキュラムのままだ。スマホで検索すれば数秒でわかることを覚えさせ、試験ではスマホは使用禁止で、自分の記憶が頼りだ。社会に出てから役に立たないことを頭にたたき込んでいる」、こんな時代遅れの教育をさせる「文科省の指導要領」の罪は大きい。「サイバー経済の世界は、正解がない。政府は国民の邪魔をしないように、規制を撤廃するのが仕事だ。政府がいう「新しい資本主義」は絶望的に時代錯誤な政策なのだ」、同感である。
タグ:資本主義 (その9)(セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論、大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」、大前研一「"新しい資本主義"が危険である これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する) 東洋経済オンライン 丸山 俊一 氏による「セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論」 「番組」は見逃したので、有難い。 「今の資本主義を続けることは、若い世代にとっては経済破綻を意味します。 ソ連が崩壊して30年経ち、再びある種の社会主義的な考え方に若者が共鳴するのには、十分な理由があると私は思っています」(斎藤) これに対し「セドラチェク」は、「欧州の富裕層の富はそれほど増えず、200%増加した程度です・・・アメリカに比べればそれほどではありません・・・チェコも貧困層や中流階級の人々さえも過去30年間の資本主義の恩恵を受けています。 ですからヨーロッパの若者は、左派に対してそれほどの情熱を持っていないでしょう」と、社会主義から「資本主義」に体制転換したことから、「資本主義」の問題点には余り関心がないようだ。 「私たちは同じ空気を吸っています。しかし、共産主義はその空気を守ることができませんでした」、その通りだ。 「二酸化炭素排出量を、大急ぎで大幅に削減し、ゼロにせねばならない」という「コロナのパンデミックよりも大きな問題に本当は直面している」、その通りだ。 「コロナ対策が証明したのは、どれほど素早くわれわれが自らの行動を変えられるか、そして政府は実際、国民の命を守るために動けるのだということです。こは、われわれの政治や経済に関する想像力が広がった経験だと考えています」、同感である。 「チェコ」など東欧の民主主義「革命」も「始まりは環境問題だった」、忘れていた重要なポイントを思い出させてくれた。 東洋経済Plus「大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」」 「分配についても、「企業による賃上げ」を「賃上げ税制」という企業への優遇措置に頼ろうというのでは、アベノミクス下の官製春闘と同様に持続性はない」、その通りだ。 「潜在成長率が低下してほぼゼロになる中で、中間層から下層に滑り落ちる人が増え、格差が拡大した。その背景には、新卒一括採用・終身雇用制、正社員の解雇規制がある。企業は景気に応じて調整しやすくコスト負担の少ない非正規雇用を増やした。 企業に補助金や税制優遇を与えて雇用を守ってもらう政策を変えなかったことで、低成長・低採算の産業が温存され、人材もそこに縛られて低賃金から脱却できない。結果的に、守られない非正規雇用も拡大した。これを続けるのか。 潜在成長率を引き上げるには、パッチワーク的修正でなく、経済全体の枠組 プレジデント 2022年3月4日号 大前 研一氏による「大前研一「"新しい資本主義"が危険である、これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する」 「賃上げ税制」「を本気で「資本主義」だと考えているとしたら、岸田政権は危険だと思う。「政府が賃金をコントロールするのは、資本主義ではないのではないか?」と首をかしげた」、確かにその通りだ。 「日本でIT化できないのは、第一に役所の抵抗があるからだ。私の知人が、北海道で建築基準法の電算化を試みたことがある。基準がわからない点があるからと道庁で尋ねると、担当者から「そんなことはやめろ。俺たちの仕事がなくなるじゃないか」と言われたそうだ」、こんなことでは電子政府など単なる掛け声に過ぎないようだ。 「サイバー経済が進むと、まず学校の先生たちは大量に失業する」、「「師業」「士業」の多くは同じ道をたどる。医師、弁護士、会計士などの高給なプロフェッショナル職種は、専門的な知識を多く知っていることに価値があったが、サイバー社会では知識や判断はAIに勝てない」、確かに「人員削減どころではない恐ろしい変化が起こる」。 「文科省の指導要領は、シンギュラリティなど想定せず、記憶に偏重したカリキュラムのままだ。スマホで検索すれば数秒でわかることを覚えさせ、試験ではスマホは使用禁止で、自分の記憶が頼りだ。社会に出てから役に立たないことを頭にたたき込んでいる」、こんな時代遅れの教育をさせる「文科省の指導要領」の罪は大きい。「サイバー経済の世界は、正解がない。政府は国民の邪魔をしないように、規制を撤廃するのが仕事だ。政府がいう「新しい資本主義」は絶望的に時代錯誤な政策なのだ」、同感である。
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貧困問題(その4)(隠れ暮らす「女性ホームレス」密着して見えた実態 京大准教授が7年かけて問題点を浮き彫りに、小学生で「自殺未遂繰り返す母」介護した彼の悲壮 全貌が見えていない「若者ケアラー」のリアル、コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境 「家がないと就職活動も難しい」日本の実態) [社会]

貧困問題については、2000年12月6日に取上げたままだった。今日は、(その4)(隠れ暮らす「女性ホームレス」密着して見えた実態 京大准教授が7年かけて問題点を浮き彫りに、小学生で「自殺未遂繰り返す母」介護した彼の悲壮 全貌が見えていない「若者ケアラー」のリアル、コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境 「家がないと就職活動も難しい」日本の実態)である。

先ずは、昨年5月16日付け東洋経済オンラインが掲載した取材記者グループのFrontline Press による「隠れ暮らす「女性ホームレス」密着して見えた実態 京大准教授が7年かけて問題点を浮き彫りに」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/428121
・『「女性の貧困」――。近年、注目されているテーマだが、2000年代初めから「女性ホームレス」に着目し、研究を続けてきた人がいる。京都大学大学院文学研究科准教授の丸山里美氏は7年間にわたって、東京と大阪で女性ホームレス33人へのフィールドワークを行い、問題点をあぶり出した。
「女性の貧困」の深淵とは何か、その実態を測る難しさはどこにあるのか。「ニッポンのすごい研究者」は今回、女性ホームレスの研究者にスポットを当てた(Qは聞き手の質問、Aは丸山氏の回答)』、興味深そうだ。
・『男性ホームレスとの大きな違いは「結婚歴」  Q:丸山さんが調査された女性ホームレスには、どんな特徴があるのでしょうか。 A:私の調査はサンプル数が33と少なく、聞き取りの方法や時期が統一されていないため、統計的な価値は高くありません。ただ、女性に特化した調査はこれまでほとんど実施されていません。 そこで女性ホームレスの特徴をつかむために、対象を男性に特化した厚生労働省の「ホームレスの実態に関する全国調査」(おおむね5年ごとに実施)の2007年版と、私が2003年から2009年にかけて実施した調査で比較しましょう。 厚労省の調査は野宿者のみを対象にし、私の調査は野宿者と施設居住者を対象にしています。 私は東京と大阪の路上で会った19人、東京の福祉施設で会った14人、計33人から生育家族や学歴、職歴、居住場所、同居人といった生活史を詳細に聞き取っています。このうち、夫が失業して2人ともホームレスになった人は11人。本人の失業でホームレスになった単身女性が15人。夫や家族との関係性を失ってホームレスになった人が7人。これらのうち、野宿経験者は26人でした。平均年齢は59歳です。 男性ホームレスとの大きな違いは、まず、結婚歴です。厚労省の調査によると、男性のホームレスには結婚経験がない人が半数以上もいるのですが、女性の場合、9割近くに結婚歴(内縁関係含む)があり、そのうち半数以上が複数回しています。 貧困女性にとって男性のパートナーを持つことは、生活を維持するための手段になっている実態が改めて浮かび上がります。ホームレスの人は総じて学歴が低いのですが、女性では「最終学歴が中学校以下」という人が半数以上で、男性よりもさらに低い。職歴も大半はパート。多くの人が清掃、水商売、旅館の住み込み、飯場の賄いなどに従事しています。 Q:その女性たちは、どのようにしてホームレスになったのでしょうか。 A:いくつかパターンがあります。夫との死別や離別によって単身となった女性が失業する場合、もともと単身の人が病気や高齢などで働けなくなる場合、夫をはじめ家族との関係がうまくいかなくなる場合などです。 (丸山里美氏の略歴はリンク先参照) 中高年の女性ができる仕事は、低賃金の不安定労働に限られていますから、失業保険や厚生年金の対象にならない人も多い。働けなくなると、すぐに生活に困窮することになりがちです。 例えば、本人が失業したケース。60代の女性は、中学校卒業後に正社員としてガラス工場で働き始め、22歳で転職します。26年間勤めますが、そこでは失業保険や年金に入っていませんでした。 給料が上がらず生活が苦しくなったため、その会社を辞めて清掃のパートを2つ掛け持ちします。でも、アパートの家賃には足りない。友人からの援助で賄っていましたが、次第に友人宅に居候するようになった。その生活が10年ほど続きましたが、高齢になって仕事を解雇されると、友人への借金が気になって居候しづらくなり、野宿に至りました』、「男性のホームレスには結婚経験がない人が半数以上もいるのですが、女性の場合、9割近くに結婚歴・・・があり、そのうち半数以上が複数回しています」、「ホームレスになった」「パターン」には、「夫との死別や離別によって単身となった女性が失業する場合」、「もともと単身の人が病気や高齢などで働けなくなる場合」、「夫をはじめ家族との関係がうまくいかなくなる場合」などです。なるほど。
・『離婚によって貧困に陥るケースも  別の50代女性のケースは、こうでした。高校中退後、縫製工場に正社員として勤め始めます。18歳で専業主婦になり、4人の子供をもうけた。その後、35歳で離婚し、水商売を始めて3年後に独立。42歳で再婚しました。夫婦2人の収入があったため、その後は自らの子供と共にマンションで豊かに暮らしています。 ところが、女性は54歳のときに体を壊して店をたたみました。実は結婚直後から夫の精神的暴力に耐えていたのですが、末っ子が結婚したのを機に離婚し、家を出ます。しばらくはホテルやサウナに泊まっていましたが、所持金が尽きて野宿になりました。 もともと精神疾患や軽度の知的障害がある女性も一定数いて、人間関係のトラブルになりやすく、仕事が続かないという背景もあります。 Q:丸山さんが調査に着手する2003年まで、ホームレスと言えば男性の問題として認知され、女性のホームレスはほとんど注目されていませんでした。そんな中、7年もかけて綿密な調査を続けた。京都から東京へは夜行バスで通っていたと聞いています。 A:京都大学の大学院に通っていたときですね。約250人がテントで暮らしている東京都内の公園に何度も通いました。そこでは女性が10人ほど暮らしていて、顔見知りになった4人の女性たちと数年間にわたって人間関係をつくり、調査を行いました。 テントは平均で3畳くらいの広さです。中には洋服や布団といった日用品があり、発電機や電池式のテレビを置いてあるテントもありました。日雇いやアルバイト、保険の外交員、ビルの清掃、廃品回収などで現金収入を得ている人もいました。 食事はコンビニなどで廃棄物として出されるもの、福祉事務所で配布されるもの、炊き出しなどで確保。カセットコンロを使って自炊する場合も多いです。日用品は自分たちで購入するか、定期的に訪れるボランティアや教会に頼んで手に入れ、生理用品など男性に頼みにくいものは女性ボランティアに頼んでいたようです』、「京都から東京へは夜行バスで通っていた」、確かに「女性のホームレス」は「東京」に多いという事情があるにせよ、大変だ。
・『何度も足を運び、一緒に時間を過ごす  Q:公園以外では、どんなところで調査されたのですか。 A:野宿者だけでなく、住居のない状態(=ホームレス)の女性たちが滞在する都内の福祉施設に泊まり込み、そこで最初はボランティア、後にアルバイト職員として働きながら、並行して聞き取り調査をしました。大阪では、女性野宿者の支援グループをつくって、その活動と並行して調査もしていました。 (こうした手法を取ったのは)まず、一緒に時間を過ごしたいと思ったからです。それに、1回だけのインタビューでわかることは限られています。何度も足を運んで人間関係をつくって話を聞けば、その分、調査は深みのあるものになると考えました。 東京で調査したのは、京都や大阪ではホームレスの女性になかなか出会えず、東京に行き着いてしまったということですね。) Q:日本では「ホームレス=中高年の男性」というイメージがあります。一般的には男性よりも女性のほうが貧困とされているのに、なぜ、女性ホームレスは少ないのでしょうか。 A:彼女たちは危険を避けるために物陰に隠れるように暮らしているので、なかなか目にとまりません。厚労省の「ホームレスの実態に関する全国調査」の2021年版によれば、全国の野宿者3824人のうち女性は197人。わずか5.2%です。 「ホームレス」の定義によるところも大きいと思います。日本でホームレスというと、一般的に路上生活をする人を指します。しかし、もっと解釈を広げ、「家のない状態の人」と定義し、インターネット・カフェやファストフード店、知人宅で夜を過ごすといった人もカウントすれば、5.2%よりずっと多いです。 女性ホームレスが少ない背景には、男性が稼ぎ主で女性は家事を主に行うことを前提にした、日本の労働や社会保障のあり方も問題として横たわっています。こうした結果、多くの女性は不安定な低賃金労働に従事している。低賃金だと1人で生きていくことが難しいので、貧困を恐れて、夫や親のいる家から出られないわけです。 また、雇用保険や年金といった保険から排除されていることも多く、単身者の場合、失業すると途端にホームレス状態になるリスクがある。 他方、男性より利用できる福祉的な選択肢は多い。そうしたことから、路上に出る一歩手前で踏みとどまっているケースが多く、数字上では女性ホームレスの比率が極端に低いのだと考えられます』、「もっと解釈を広げ、「家のない状態の人」と定義し、インターネット・カフェやファストフード店、知人宅で夜を過ごすといった人もカウントすれば、5.2%よりずっと多いです」、「多くの女性は不安定な低賃金労働に従事している。低賃金だと1人で生きていくことが難しいので、貧困を恐れて、夫や親のいる家から出られないわけです」、なるほど。
・『一貫性がなく、矛盾した言動をとることがある  Q:調査を通して、どんなことが明らかになったのでしょう。 A:女性野宿者たちは、さまざまな場面で一貫性がなく、矛盾した言動をとることがあります。例えば、DVを受けたある女性は、いったんは施設に逃げ込むけれど、その後、夫の元に戻る。また施設で暮らす、そして夫の元へ。そういうことを繰り返します。 私の家に居候したいと言った女性はある時、衝動的に公園を飛び出し、夫と違う男性とホテルで暮らし始めます。そして毎日のように電話をしてきては、「実家に帰ろうか」「公園で夫の帰りを待とうか」「生活保護を受けようか」などと言うのです。 彼女たちの多くは自らの重要な決断をする際、他者の意見や存在を考慮し、それに大きく影響されていた。女性に求められてきた社会的な期待に沿うことは、「自分で選択できる自立した生」とは矛盾するのです。 研究者として感じたことは、この合理的には理解しがたい存在のあり方が、それまでのホームレス研究から女性が排除されてきた一因ではないかということでした。 もしかすると皆さんは、「ホームレス=なくすべきもの」と思われているかもしれません。でも、すべてのホームレスが「ホームレス生活をやめたい」と願っているわけではないのです。この研究を通して、私は「その人がその人なりに望むことを実現できるような社会になればいい」と考えるようになりました。 Q:丸山さんがフィールドワークをされてから10年以上が経ちました。女性ホームレスの姿に変化はありましたか。 A:2010年代半ばには、女性の貧困が社会的に話題になりました。私の主な調査対象は中高年の女性でしたが、生活に困窮して性産業で働いている女性たちが「女性の貧困」や「女性ホームレス」としてイメージされるようになったことが、最も大きな変化だと思います。 おそらくこれからも、時が経つにつれ、女性の貧困の実態や、それに対する人々のイメージも変化していくことでしょう。 Q:そもそも、なぜ女性ホームレスの研究をしようと思ったのですか。 A:大学の卒業論文のフィールドに、釜ヶ崎(大阪市西成区の「あいりん地区」)というホームレスの人たちが多い所での炊き出しを選んで、3年間通いました。それが非常に楽しかった。 インドに1人、バックパックを背負って旅行に行ったことがあったんですが、釜ヶ崎にはそういうアジアの国に旅行しているかのような雑然とした雰囲気があって……。人間らしい行為や感情があふれていて、人々が生き生きしていると感じました。 でも、釜ヶ崎でトラブルに遭ってしまうんです。炊き出しのボランティアをしているときに知り合った男性にストーカーされて。「殺してやる」とも言われました。それまでは自分が女性であることや、ジェンダーの問題にあまり関心がなかった。だからこそ、男性ばかりの釜ヶ崎の街に楽しく通えていたんですね。 私はよそから通っていたので、そんなことがあったら釜ヶ崎に行かなければいい。でも、ときどき、街で見かけていたホームレスの女性たちは、住人のほとんどが男性という街で、きっと、私と同じような目に遭って困難を抱えているんじゃないか。人生の先輩である彼女たちがどういうふうに暮らしているのかを知りたいと思ったんです』、「すべてのホームレスが「ホームレス生活をやめたい」と願っているわけではないのです。この研究を通して、私は「その人がその人なりに望むことを実現できるような社会になればいい」と考えるようになりました」、より実態に即した考え方になったようだ。
・『世帯の中にいる女性の貧困は捉えきれていない  Q:今の新しい研究テーマを教えてください。 A:「世帯に隠れた貧困」に関心があります。貧困者支援をしている、あるNPO法人に相談に訪れた人の記録を分析したときに「統計に表れない女性の困窮」に気づきました。 例えば、夫からのDV被害に遭っている妻は、統計上「家に住んでいる」「世帯収入がある」となり、貧困とは見なされません。でもDVに耐えかねて、いざ家を出ると、その妻は「住むところがない」「お金もない」となり、途端に貧困に陥る。 従来、(研究や政策は)貧困を世帯ごとに見ていたのですが、それでは、世帯の中にいる女性の貧困の実態を捉えきれないのです。 Q:その研究で、どんなことが明らかになるのでしょうか。 A:夫婦で生活していると、多くの場合、女性が家事や育児といった無償労働を担い、それに時間を投入するせいで満足な現金収入を得られません。一方、夫が現金を得られるのは、妻の無償労働に支えられているからです。 つまり、貧困という概念を考えるときには、経済的資源についてだけではなく、「時間資源」やそれに派生する「自由度」についても考慮すべきだと考えています。 今は研究の途上ですが、研究を進めていけば、貧困の捉え方や計測の方法、さらには貧困の概念を根本から問い直すことになるのではないか、と思っています。それは、困難を抱える女性たちの生きづらさを可視化させることになる。そう期待しています』、「経済的資源についてだけではなく、「時間資源」やそれに派生する「自由度」についても考慮」した新たな「貧困」の「概念」が出てくるのが、楽しみだ。

次に、12月1日付け東洋経済オンラインが掲載したライターの大河内 光明氏による「小学生で「自殺未遂繰り返す母」介護した彼の悲壮 全貌が見えていない「若者ケアラー」のリアル」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/470794
・『近年、障害や病気のある家族などの介護を主に担う18歳未満の人々、いわゆる「ヤングケアラー」の存在が、徐々に社会的な注目を浴びるようになってきた。今年3月に公表された国の調査によると、中学生の約17人に1人、高校生では約24人に1人がヤングケアラーだという。 また2019年公表の国の調査では、ヤングケアラーにおける生活保護受給世帯が29.6%、ひとり親世帯が48.6%とも報告され、貧困とも密接に関係すると考えられる。国も支援策を検討しており、少しずつ支援の輪が広がってきている。 一方で、ヤングケアラー以上に認知度が低いのが、18歳からおおむね30代までの介護者である「若者ケアラー」だ。進学や就職に際し、収入に直結する選択を迫られる時期でもあり、その中で介護を担わなければならない負担は大きい。しかし若者ケアラーを対象とした公共的な支援は少なく、ケアラー全体を支援する埼玉県や北海道栗山町、20代も含めた「こども・若者ケアラー」を支援する兵庫県神戸市などのわずかな例があるのみだ。若者ケアラーに絞った調査や統計資料も乏しく、全体像がつかみにくい状況だ。 貧困に陥った若者たちの実態に4日連続で迫る特集「見過ごされる若者の貧困」3日目の第3回は、ライターの大河内光明氏が若者ケアラーの実像に迫った(1日目、2日目の記事はこちらからご覧ください)。 【3日目のそのほかの記事】第1回:30代女性が"夜逃げ"した「ヤバい格安賃貸」の正体 第2回:コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境』、「ヤングケアラー」より少し年上の「若者ケアラー」とは、興味深そうだ。
・『半年から1年周期で状態が変わる母  20代後半の男性Aさんは、物心ついたときから実の父がおらず、母の元で育てられた。平穏だった生活が一変したのは10歳のとき。母にうつ病(のちに双極性障害と判明)の診断がおりたのである。 元々「責任感のある完璧な人だった」という母だが、家族間での言い争いが増え、再婚した義父とは離婚し、一緒に暮らしていた祖母とも別居。さらに親戚からも離縁され、結果的に母との2人暮らしになった。 リストカットや飛び降り、過剰服薬など、たびたび自殺未遂を起こす母を子どもながらにケアする日々。経済的にも苦しかった。母は半年から1年周期で躁状態とうつ状態を繰り返した。 躁状態のときは働きに出られるが、うつ状態のときは寝込んでしまって仕事ができなくなる。このように就業状態が不安定だったため、中学、高校生活では生活保護を受給した。 「学校生活では自分だけ学食で定食を頼めなかったり、病院に行くにも医療券だったり、肩身が狭かったです。役所などでの手続きも、母が動けないときは私が代わりに行く必要があり、思い返すと不自由でした。自分がしっかりしないと終わりだと思っていました。子どもながら、緊張感のある生活でしたね」 Aさんは高校卒業後、作業療法士になるために専門学校に進学、その後、大学に編入した。作業療法士を志したのは「経済的に安定するし、母のことをもっと理解できるのでは」と考えたからだ。学費や生活費は奨学金などで賄った。奨学金の総額は800万円ほどになるという。 それでも前向きに生きていたAさん。ところが作業療法士として働き始めてから、精神的に非常にきつくなった。母の病状が悪化したからだ。 隣町に就職したAさんは、社会人1年目のある日、仕事終わりに「自殺する」という旨の連絡が母から入った。幸い大事にはならなかったが、過剰服薬していた。「自分に注目してほしいという気持ちが透けて見えました」とAさん。過激化する母からの連絡が煩わしくなり、着信拒否やブロックをすると、職場の夜間電話にも連絡するようになり、当然業務にも支障をきたした。 それ以外にもアパートで禁止されている犬を飼う、無職で借金をする、無計画に引っ越しや散財する、などを繰り返す母。その後始末をするのがAさんだった。 「訪問看護やヘルパーさんも母が自ら追い出してしまうので、手に負えませんでした」』、「アパートで禁止されている犬を飼う、無職で借金をする、無計画に引っ越しや散財する、などを繰り返す」、恐らく「躁」状態の時期の行動なのだろうが、困ったことだ。
・『母の再婚でケア生活を卒業  実はAさんは1年ほど前に、ケア生活を卒業した。きっかけは母の二度目の再婚だ。それを機に連絡が来なくなったという。「再婚しなければ、今ごろどうなっていたか」とAさん。ケアが終わった今だから言えるのかも、と前置きしながらもこう語る。 「発症前の母は掃除好きで真面目で働き者でした。クリスマスには決まって手作りケーキを作ってくれたのを覚えています。適切な処置を受けられない時期が長かったからか、躁状態とうつ状態の波の落差が激しくなり、少しずつ人格が変わってしまったんです。 今ではまるで別人で……。ただ、母は働けるときは必死に働いてくれていました。そこは感謝しています」 ケアが終わったとはいえ、Aさんの生活は楽とはいえない。奨学金は現在も月4万円近くを返済している。専門職とはいえ、作業療法士の月収も18~19万円ほどで、十分とはいえなかった。今は別の仕事を探している。 同時に、同じ悩みを持つケアラーの支援団体の運営をサポートしている。 「昔の私は孤立していました。どこにどう相談していいかわからない状態です。ケアラーと社会がつながる場所が必要です」 誰のせいでもないが、個々の家庭ですべては解決しきれない。せめて社会的な支援と人とのつながりがあればという切実な願いを聞かせてくれた。) Bさんは現在30代後半。20代から現在に至るまで、祖母、母と継続して介護してきた。 「うちは祖父母と母と私の3世代世帯でした。大学在学中に祖母が認知症になり3年ほどして他界、後を追うように祖父も亡くなりました。そこから経済的に立ち行かなくなり、生活保護を経験しました。生活保護を抜け出した後も、何とか立て直そうと20代後半で営業の仕事をしている最中に、今度は母が指定難病である前頭側頭型認知症になったんです」 前頭側頭型認知症は、同じ行動や言葉を繰り返すほか、万引きなど反社会的な行動が表れることもある。 Bさんの母親にしても、大声を出す、徘徊する、暴れるなどの行動を繰り返し、警察のお世話になったことが100回以上あるという。コロナ禍においては、マスクをつけようとすると逆上するため、出入り禁止になる施設もあった』、「警察のお世話になったことが100回以上ある」、「前頭側頭型認知症」とはいえ、本当にやっかいだ。
・『入れる介護施設がない  「母を介護施設に入れようと試行錯誤したのですが、この症状のせいで入れる施設がまったくない。親戚にも見放され、頼りにできません。母は非正規の教員だったため、年金は少額で5万円ほど。財産は一切なく、私は母のために介護離職せざるをえませんでした。 途中からネットで物を売る仕事をして月10万円前後の収入を得ているのと、会社員時代の貯金を切り崩して何とかしています。この間、国や自治体から経済的な支援は1円もありませんでした」 要介護4~5に認定された要介護者を介護する家族などに支給される家族介護慰労金は、Bさんの住む自治体では制度として組み込まれておらず、もし存在したとしても要介護度2にとどまることから利用できない。 また、重度障害者向けに支給される特別障害者手当も、日常生活動作評価で「一部体が動かせるため」という理由で対象にならないそうだ。 市の担当者からは「お気の毒ですが、あなたのような介護者には制度が何もなく支援できない」と言われたという。 生活保護を受給する方法もあるかもしれないが、それには抵抗感がある。 「生活保護を受給すると、母がこの状況の中、定期的に窓口に申請しに行かなければいけない。受給するためには家財を手放さないといけない可能性もあります。それに仕事で稼げないのもつらいんです。仕事は精神的なよりどころになっていますし、かつて生活保護から抜け出したのに逆戻りするのも抵抗感があります。 最後の手段として精神科病院に入院させる方法もありますが、患者を閉じ込めて放置しているような病院もあると聞きます。それは私がこれまでやってきた介護を否定するようなものです」 Bさんは「早急に何とか支援してほしい」と悲痛な思いを打ち明ける。 「母は眠ることなく徘徊して騒ぎます。私も夜は1時間ほどしか眠れません。もう何年ももたないかもしれない」) 「ヤングケアラーへの支援は進む一方、18歳以上の若者ケアラーの認知と支援は不十分です」 こう語るのは、自身も30代から認知症の祖母を介護し、ケアラーのコミュニティーを運営する作家・メディア評論家の奥村シンゴ氏だ。 「夜間のトイレ付き添いなどで睡眠時間も確保できない中、若者ケアラーが自分の進学や就職の準備するのは大変厳しいです。非正規雇用で働いたり、介護離職したりする人も多く、周囲と経済的な面でも差が出て結婚しにくいなどの問題も生じます。 長期化する介護でケアラー自身も心身の不調に陥るケースが少なくありません。また、コロナ禍では通う病院も限られ、デイサービスやショートステイも利用できない状況になりました。その間、国や自治体の支援はほとんどありませんでした」』、「「ヤングケアラーへの支援は進む一方、18歳以上の若者ケアラーの認知と支援は不十分です」、「ヤングケアラー」問題が大きく取上げられた結果なのだろうが、「若者ケアラーの認知と支援は不十分」は困ったことだ。
・『「家族として大切に看たい」が…  では、若者を含めたケアラーに対する支援はどういうものが考えられるのか。奥村氏はこう提案する。 「イギリスやオーストラリアなどではケアラーに給付する『介護者手当』もあります。また、税金の控除や、介護者の休息を支援するレスパイトケアという形も考えられるでしょう。民間でも企業側がリフレッシュ休暇や介護休業の制度を充実させるなどの視点も重要といえます」 今回取材した当事者に共通していたのは、「家族として大切に看たい。しかし現状の手薄な支援では苦しすぎる」という葛藤に加えて、「身近に相談できるところがない」という苦しさだ。SNSが現実の人間関係以上に重要な居場所になっているという声も多かった。 経済的な支援だけでなく、当事者が気軽に相談できる社会的な環境づくりも必要といえそうだ』、関係省庁が緊密に連絡し合った上で、「当事者が気軽に相談できる社会的な環境づくり」を進めていくべきだ。

第三に、12月1日付け東洋経済オンライン「コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境 「家がないと就職活動も難しい」日本の実態」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/471185
・『貧困問題を解決する方法の1つとして、「ハウジングファースト」を掲げるのが、生活困窮者の支援の最前線に立ち続ける稲葉剛氏だ。2014年に「一般社団法人つくろい東京ファンド」を設立し、アパートの空き室などを団体で借り上げ、住まいに困っている人に一時的な宿泊場所として提供する個室シェルターの事業を行っている。 貧困に陥った若者たちの実態に4日連続で迫る特集「見過ごされる若者の貧困」3日目の第2回は、日本が抱える「住まいの貧困」について、稲葉氏に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは稲葉氏の回答)(1日目、2日目の記事はこちらからご覧ください)。【3日目のそのほかの記事】 第1回:30代女性が"夜逃げ"した「ヤバい格安賃貸」の正体 第3回:「小学生で「自殺未遂繰り返す母」介護した彼の悲壮』、「住まいの貧困」とは興味深そうだ。
・『住まいの貧困はコロナ以前から広がっていた  Q:コロナ禍で「住まいの貧困」の実態はどうなっていますか。 A:新型コロナ以前は25室だった個室シェルターを56室まで増やしましたが、つねに満室状態です。コロナ禍で大きく変わったのは、10~20代の相談が珍しくなくなったこと。コロナ前はほとんどが中高年の単身男性でしたが、いまは17~18歳から上は70代まで、老若男女の方に個室シェルターをご利用いただいています。 われわれと連携しているNPO法人の「TENOHASHI(てのはし)」は池袋で炊き出しをしていますが、11月上旬には集まる人が430人を超えました。 これは、リーマンショック以来のことで、その中には多くの若者も含まれます。コロナで打撃を受けた飲食店をはじめとする対人サービス業に従事していた方が多く、性風俗やキャバクラなど「夜の街」関連で働いていた方も目立ちます。 ただし、間違えてはいけないのは、コロナ以前から住まいの貧困は広がっていたことです。2014年にビッグイシュー基金で若者の住宅問題に関するインターネット調査(対象は首都圏と関西圏に住む20~39歳、未婚、年収200万円未満の個人)を実施したところ、6.6%が定まった住居をもたず、ネットカフェ、マンガ喫茶、友人の家などで寝泊まりしていた経験をもつと回答しています。 中でも親と別居している若者の13.5%が定まった住居がない、つまり広い意味でホームレス状態を経験したことがあると答えました。 東京都が2017年に実施した調査でも、住居がなくネットカフェなどを寝泊まりするために利用している人が4000人いて、その半数が20~30代の若年層だとわかっています。もともと若年層の間で住まいの貧困は広がっていたんです。それが最初の緊急事態宣言のときに、ネットカフェに休業要請が行われて、可視化されたと考えています』、「6.6%が定まった住居をもたず、ネットカフェ、マンガ喫茶、友人の家などで寝泊まりしていた経験をもつ」、「中でも親と別居している若者の13.5%が定まった住居がない、つまり広い意味でホームレス状態を経験したことがあると答えました」、広義の「ホームレス状態」にある「若者」はかなり多いようだ。
・『さらに、シェアハウスの問題も浮き彫りになっています。(稲葉 剛氏の略歴はリンク先参照) 首都圏では敷金・礼金といった初期費用が高く、家賃保証の審査に通らず家を借りたくても借りられない若者がけっこういます。そこで初期費用がかからず、連帯保証人も不要なシェアハウスに暮らさざるをえない人も一定数はいるということです。 不動産仲介業者を通じて借りる通常の賃貸物件は借地借家法によりある程度は入居者の居住権が守られますが、シェアハウスの場合はインターネットで情報を提供して大家と直接契約する形になっていて、入居者に不利な脱法的な契約になっているところが多いです。 家賃を滞納すると即刻退去など居住権が侵害されやすい状況にあり、コロナ禍での失業で家賃が払えず、追い出されて路上生活になってしまう若者が増えています。 Q:追い出された人たちはどうしているのですか。 A:東京都の場合、昨年4月に都内のホームレス支援団体の連名で自治体に申し入れ、都がビジネスホテルを提供しています。そういった公的な支援で住宅を確保した人もいますが、緊急事態宣言が終わったらネットカフェに戻ったという人もいます。 ただ、コロナ禍では仕事自体が非常に少なく、あったとしても短期の仕事ですから不安定な状況は変わりません。仕事が切れると路上生活になってしまうという状況です』、「シェアハウスの場合は・・・入居者に不利な脱法的な契約になっているところが多いです。 家賃を滞納すると即刻退去など居住権が侵害されやすい状況にあり、コロナ禍での失業で家賃が払えず、追い出されて路上生活になってしまう若者が増えています」、「コロナ禍では仕事自体が非常に少なく、あったとしても短期の仕事ですから不安定な状況は変わりません。仕事が切れると路上生活になってしまうという状況です」、深刻だ。
・『住まいを失うと求職活動のハードルが高くなる  Q:稲葉さんは以前から「ハウジングファースト」を訴えていますね。 A:住まいは生活の拠点であるのと同時に、いったん失うと求職活動をするうえでハードルが高くなります。 例えば、アパートの家賃を滞納してネットカフェに移るとした場合、もといた住所に居住の実態がないとわかると、自治体は住民票を削除します。履歴書を書くときにはどうしても住所を書かないといけないですし、面接などをクリアして実際に就職するという際にも、住民票を出してくれと言われます。仕事探しのハードルが非常に高くなるんです。 今回のコロナ禍の公的な支援で典型的だったのは、昨年の特別定額給付金です。住民基本台帳のデータに基づき給付されたので、住民票のない人は受け取ることができませんでした。一部の自治体は融通を利かせて、ホームレスやネットカフェで暮らす人にも届きましたが、全体としてはほとんどもらうことができていません。公的なサービスのほとんどは住民票にひもづいているので、家がないと支援が受けづらくなります。 唯一といえる例外は生活保護で、住まいがない状態でも今いる場所で申請する「現在地保護の原則」が適用されます。ですが、自治体側が、窓口で申請を拒む水際作戦をおこなうケースがあるのです。 本来はこれ自体が違法行為で、あってはならないことです。ところが、昨年4月の第1回目の緊急事態宣言時に、東京23区で生活保護の申請件数がかなり増えたにもかかわらず、かなりの人が追い返されました。 生活困窮の相談に対して、きちんと生活保護につなげる自治体もある一方、とにかく追い返す、1人だとダメでも私たちのような支援者が同行すると応じるなど区によって対応にバラツキも見られ、若い人に対しては「親元に戻れば」と諭す職員もいました。 若年層の生活困窮者は、虐待があって親との関係が悪かったり、親自身も貧困で頼ることができなかったりすることも多いのに、そうした事情を考慮せずに追い返そうとるのです』、「もといた住所に居住の実態がないとわかると、自治体は住民票を削除」、「公的なサービスのほとんどは住民票にひもづいているので、家がないと支援が受けづらくなります」、「生活保護で・・・自治体側が、窓口で申請を拒む水際作戦をおこなうケースがある」、「本来はこれ自体が違法行為で、あってはならないこと」、けしからん自治体だ。
・『利用していない困窮者の3割超「家族に知られるのが嫌」  生活保護は世代を問わず忌避感が強く、制度につながれていない人がたくさんいます。生活保護を利用していない生活困窮者に理由を尋ねるアンケートをおこなったところ、3割超が「家族に知られるのが嫌」と答えました。 そこで、今年1月から扶養照会(申請者の親族に援助ができないかを確認すること)の運用見直しを求めるネット署名に取り組みました。その結果、4月からは本人が家族への連絡を拒む場合は、本人の意向を尊重するという運用に変更となりましたが、それでもまだ親族への照会にこだわる自治体もあります。 住まいを失いホームレス状態になると、社会的に孤立するのも特徴です。本人が「恥ずかしい」とスティグマ(負の烙印)を持ってしまい、自ら人間関係を断ってしまう人も多く見てきました。 家族や友人に打ち明けることができず、SOSを発することができないので追い詰められ、ますます孤立は深まるのです。 Q:そうなると、自力で何とかするしかない? A:リーマンショック以降、日本国内にも貧困があると知られるようにはなったんですけれども、それは個人で解決するべき問題だという意識が根強くあって、若者たちはその中で育ってきている。 私たちへのSOSも、路上生活になって所持金が数十円、数百円しかないという状態になってからが来ることが多い。そのときに生活保護などの公的な支援を利用することをお勧めするんですが、おそらく本人としては、とにかく次の仕事が見つかるまでのつなぎとしての生活費や宿泊先があればよいと言われる方が多く、また次が見つかれば自分で何とかするからという人が少なくありません。 なので、なかなか制度につながらないということはあります。日銭を稼ぐために短期の仕事でつないでいく生活を続けてきたので、そこから抜け出す方法がイメージできないという人も多いのではないかと思います。 Q:実際、それで何とかなっているんですか。 A:オリンピック関連のアルバイトとか、ワクチンの接種の電話受付とか、期間限定の仕事はあります。そうした短期の仕事で収入を得ながら、ネットカフェなどに泊まっているという方は少なくありません。ただ、それも本当に一時的なものなので、またいつ路上生活になってもおかしくないという状況です。 (ウーバーイーツなど)フードデリバリー関係の仕事をしている人もいますが、競争が激しくなってきているので、なかなか収入的には厳しいという話を聞きます。 短期の不安定な仕事をつないでいくという状況から脱して、安定した仕事を、長期で働けるような仕事を見つけるためにも、まずそのスタートラインとして住まいが必要なんです。 ネットカフェで暮らすより、低家賃の住宅を借りたほうが生活コストは安くすむのに、初期費用のハードルがあるということで、貧困から抜け出せないという状況に追いやられてしまう。 Q:では、どうやって解決すればいいのでしょう。 A:公営住宅の拡充や、民間賃貸住宅の初期費用や家賃を補助する仕組みが必要でしょう。東京の場合、都営住宅は単身だと原則60歳以上でないと入居資格がないですし、抽選倍率も非常に高い。 昨年からずっと求めているのが、住宅の現物給付です。東日本大震災以降、賃貸住宅の空き家や空き室を行政が借り上げて、被災者に提供するという仕組みが進んでいます。私たちはコロナの影響で仕事と住まいを失う人が急増する事態を「コロナ災害」と言っているのですが、その仕組みを適用すべきではないか。 ただし、日本の住宅政策の管轄は国土交通省、福祉的な支援は厚生労働省というすみわけになっていて、両方が連動していません。まずは、関係省庁の連携が重要だと思います』、「タテ割り」行政の克服はいつも容易ではないようだ。
・『地方で仕事がなく上京した若者が困っている  Q:日本では地方を中心に空き家が増えています。都心で住む場所がないなら、そういったところに移り住めば?と考える人もいそうです。 A:今、首都圏で住まいに困っている人の中は、地方で仕事がなく上京してきた人が少なくありません。なかには、地方で住み込みの仕事を見つけて移住する人もいますが、コロナ禍で仕事が減っているとはいえ、東京はまだ求人があるので、離れられない人が多いでしょう。 また、地方に空き家があったとしても、そこを貸してくれるかどうかわかりません。とくに住所がない、住民票がない方に貸すかというと、正直なところ難しいと思います。 Q:そのほかにも、打つべき施策はありますか。 A:最後のセーフティーネットである生活保護を、もっと使いやすくすることです。昨年12月から厚生労働省が「生活保護の申請は国民の権利」と情報を発信し始め、SNSでも話題になりました。 国としても貧困が広がっていることに対して、生活保護の利用を呼び掛ける方向に転換し始めたので、申請件数は少しずつ増えている状況ですが、自治体によって温度差があります。 昨年春以降、つくろい東京ファンドや反貧困ネットワークなど、首都圏を中心に40団体以上が集まり「新型コロナ災害緊急アクション」というネットワークを作り、生活に困窮した方々からのSOSをメールで受け付けて、駆け付け型の支援をするという活動を継続しています。 生活にお困りの方がいらっしゃれば、ぜひこうした民間支援団体にご相談いただければと思います』、「昨年12月から厚生労働省が「生活保護の申請は国民の権利」と情報を発信し始め」、好ましいことで、これまで抑制的だった自治体の姿勢も変わってほしいものだ。「新型コロナ災害緊急アクション」のような「民間支援団体」にも期待するところが大きい。
タグ:「昨年12月から厚生労働省が「生活保護の申請は国民の権利」と情報を発信し始め」、好ましいことで、これまで抑制的だった自治体の姿勢も変わってほしいものだ。「新型コロナ災害緊急アクション」のような「民間支援団体」にも期待するところが大きい。 「タテ割り」行政の克服はいつも容易ではないようだ。 「もといた住所に居住の実態がないとわかると、自治体は住民票を削除」、「公的なサービスのほとんどは住民票にひもづいているので、家がないと支援が受けづらくなります」、「生活保護で・・・自治体側が、窓口で申請を拒む水際作戦をおこなうケースがある」、「本来はこれ自体が違法行為で、あってはならないこと」、けしからん自治体だ。 「シェアハウスの場合は・・・入居者に不利な脱法的な契約になっているところが多いです。 家賃を滞納すると即刻退去など居住権が侵害されやすい状況にあり、コロナ禍での失業で家賃が払えず、追い出されて路上生活になってしまう若者が増えています」、「コロナ禍では仕事自体が非常に少なく、あったとしても短期の仕事ですから不安定な状況は変わりません。仕事が切れると路上生活になってしまうという状況です」、深刻だ。 「6.6%が定まった住居をもたず、ネットカフェ、マンガ喫茶、友人の家などで寝泊まりしていた経験をもつ」、「中でも親と別居している若者の13.5%が定まった住居がない、つまり広い意味でホームレス状態を経験したことがあると答えました」、広義の「ホームレス状態」にある「若者」はかなり多いようだ。 「住まいの貧困」とは興味深そうだ。 東洋経済オンライン「コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境 「家がないと就職活動も難しい」日本の実態」 関係省庁が緊密に連絡し合った上で、「当事者が気軽に相談できる社会的な環境づくり」を進めていくべきだ。 「「ヤングケアラーへの支援は進む一方、18歳以上の若者ケアラーの認知と支援は不十分です」、「ヤングケアラー」問題が大きく取上げられた結果なのだろうが、「若者ケアラーの認知と支援は不十分」は困ったことだ。 「警察のお世話になったことが100回以上ある」、「前頭側頭型認知症」とはいえ、本当にやっかいだ。 「アパートで禁止されている犬を飼う、無職で借金をする、無計画に引っ越しや散財する、などを繰り返す」、恐らく「躁」状態の時期の行動なのだろうが、困ったことだ。 「ヤングケアラー」より少し年上の「若者ケアラー」とは、興味深そうだ。 大河内 光明氏による「小学生で「自殺未遂繰り返す母」介護した彼の悲壮 全貌が見えていない「若者ケアラー」のリアル」 「経済的資源についてだけではなく、「時間資源」やそれに派生する「自由度」についても考慮」した新たな「貧困」の「概念」が出てくるのが、楽しみだ。 「すべてのホームレスが「ホームレス生活をやめたい」と願っているわけではないのです。この研究を通して、私は「その人がその人なりに望むことを実現できるような社会になればいい」と考えるようになりました」、より実態に即した考え方になったようだ。 「もっと解釈を広げ、「家のない状態の人」と定義し、インターネット・カフェやファストフード店、知人宅で夜を過ごすといった人もカウントすれば、5.2%よりずっと多いです」、「多くの女性は不安定な低賃金労働に従事している。低賃金だと1人で生きていくことが難しいので、貧困を恐れて、夫や親のいる家から出られないわけです」、なるほど。 「京都から東京へは夜行バスで通っていた」、確かに「女性のホームレス」は「東京」に多いという事情があるにせよ、大変だ。 「男性のホームレスには結婚経験がない人が半数以上もいるのですが、女性の場合、9割近くに結婚歴・・・があり、そのうち半数以上が複数回しています」、「ホームレスになった」「パターン」には、「夫との死別や離別によって単身となった女性が失業する場合」、「もともと単身の人が病気や高齢などで働けなくなる場合」、「夫をはじめ家族との関係がうまくいかなくなる場合」などです。なるほど。 Frontline Press による「隠れ暮らす「女性ホームレス」密着して見えた実態 京大准教授が7年かけて問題点を浮き彫りに」 東洋経済オンライン 貧困問題 (その4)(隠れ暮らす「女性ホームレス」密着して見えた実態 京大准教授が7年かけて問題点を浮き彫りに、小学生で「自殺未遂繰り返す母」介護した彼の悲壮 全貌が見えていない「若者ケアラー」のリアル、コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境 「家がないと就職活動も難しい」日本の実態)
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宗教(その6)(歴史・美術・音楽・建築・文学… 「教養」を「本物の教養」にするためには「宗教」の知識が欠かせない、「もうイエス様では救われないのか」信者急減キリスト教が有史以来の危機…世界的"宗教変動"の衝撃 教会が売られイスラム教のモスクに、聖なる宗教界でイザコザ勃発…「上納金拒否・人事紛糾・怪しい不動産取引」対立・分裂の穏やかではない事情 "本部"との確執で有名寺社も独立) [社会]

宗教については、昨年1月20日に取上げた。今日は、(その6)(歴史・美術・音楽・建築・文学… 「教養」を「本物の教養」にするためには「宗教」の知識が欠かせない、「もうイエス様では救われないのか」信者急減キリスト教が有史以来の危機…世界的"宗教変動"の衝撃 教会が売られイスラム教のモスクに、聖なる宗教界でイザコザ勃発…「上納金拒否・人事紛糾・怪しい不動産取引」対立・分裂の穏やかではない事情 "本部"との確執で有名寺社も独立)である。

先ずは、昨年2月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した著述家/芸術文化観光専門職大学教授の山中俊之氏による「歴史・美術・音楽・建築・文学… 「教養」を「本物の教養」にするためには「宗教」の知識が欠かせない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/228463
・『アメリカ・ヨーロッパ・中東・インドなど世界で活躍するビジネスパーソンには、現地の人々と正しくコミュニケーションするための「宗教の知識」が必要だ。しかし、日本人ビジネスパーソンが十分な宗教の知識を持っているとは言えず、自分では知らないうちに失敗を重ねていることも多いという。また、教養を磨きたい人にとっても、「教養の土台」である宗教の知識は欠かせない。西欧の音楽、美術、文学の多くは、キリスト教を普及させ、いかに人々を啓蒙するか、キリスト教を社会にいかに受け入れさせるのかといった葛藤の歴史と深く結びついているからだ。本連載では、世界94ヵ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)の内容から、ビジネスパーソンが世界で戦うために欠かせない宗教の知識をお伝えしていく』、確かに「西欧」文化を理解する上で、「宗教の知識は欠かせない」。
・『ローマ・カトリックのヴィジュアル戦略  ユダヤ教は「神とユダヤ人」の契約。キリスト教は「〈父なる神+子なる神(イエス・キリスト)+聖霊の三位一体〉と人間」の間の関係です。 ローマ・カトリックもこの原則に従うのですが、やがて三位一体と人間の間に聖職者が入るようになります。ローマ教皇をトップとするローマ・カトリックの聖職者たちです。 なぜなら、イエスの説教をまとめた聖書は、ギリシャ語で書かれたものが五世紀にローマ帝国の言葉であるラテン語に訳されました。普通の人はラテン語がわかりませんし、識字率もかなり低い。直接、神の教えを読めないのですから、聖職者の話を聞いて、「神父様、すばらしいお話をありがとうございます」と受け取るしかなかったのです。 さらに、カトリックは布教にあたって、もう一つの戦略を打ち出します。ユダヤ教同様、ローマ・カトリックでも偶像崇拝は禁じられていましたが、「字が読めないんだから、目で見て感じればいい」とばかりに聖書に関連する美術品を山のようにつくったのです。 血を流し、磔にされたキリスト像。イエスを処女懐胎した聖母マリア像。昇天するキリストを取り巻く天使たち……。どれも見覚えのあるモチーフだと思います。「キリスト教とはこういうものですよ」というのを、字が読めない人たちに絵で伝え、「情感に訴えて信者にしよう」という狙いがしっかりありました。 今日の西洋美術は、ユダヤ教やキリスト教から大きな影響を受けています。 ビジネスパーソンが、教養の一つとして絵画に通じているのは大きなアドバンテージとなります。 宗教画は、ルネサンス以降も描かれました。たとえば、一七世紀のオランダの画家フェルメールもイエスとマリアが登場する宗教画を描いています。 宗教画の背後のキリスト教が理解できなければ、西洋美術の根っこを知らないことになってしまうでしょう』、「「字が読めないんだから、目で見て感じればいい」とばかりに聖書に関連する美術品を山のようにつくった」、日本でも曼荼羅のような絵が多くつくられた。
・『もし、ロシアがイスラムの国だったら?  美術の力で布教に努めたのは、東方正教会も同じです。 私はかねてから世界の東方正教会に何度も足を運んでおり、本書の執筆にあたってウクライナ、ベラルーシを訪問しましたが、改めてイコンの多さと荘厳さに感嘆しました。 建前的には「偶像ではない」とされていますが、イコンははっきりとキリストが書かれた東方正教会の聖画。キリスト教の物語を表しているのはローマ・カトリックと同じで、多くが黄金に覆われたきらびやかなものです。「何枚も重ねて飾られたイコンの背後にある神様に祈っている」ということになっていますが、イコンの豪華さを布教や伝道のツールとしたのは明らかでしょう。 つまり、東方正教会もカトリック同様、ヴィジュアル戦略をとったわけですが、これに魂を射抜かれたのは庶民ばかりではありません。一〇世紀、キエフ公国ウラジミール大公がギリシャの東方正教会を受け入れたのは、イコンの美しさに魅せられたからだといわれています。 キエフは今のウクライナですから、いってみればこれがロシアや東ヨーロッパが東方正教会のエリアになったきっかけなのです。コンスタンティノープルがイスラム教徒の支配下になって以降は、ロシアが東方正教会の中心になりました。 かつての東ローマ帝国ではキリスト教とイスラム教が争いを繰り返し、今のトルコがイスラム化したのが同じく一〇世紀頃。キリスト教とイスラム教の覇権争いは、世界中で繰り広げられていました。ロシアはローマ・カトリックの国になる可能性はもちろん、イスラムの国になる可能性もあったということです。 もしも、ロシア一帯がイスラム教社会になっていたら、共産主義は生まれなかったかもしれず、中東のイスラム圏と似たような国になっていた可能性すらあります。 ちなみに、東方正教会の人々は、ロシア人といいギリシャ人といい、人間関係の密度が高いと感じます。お互いに助け合おうという感覚が強いというのは、東方正教会のエリアに赴任した経験がある人がよく抱く感想です』、「ロシア一帯がイスラム教社会になっていたら、共産主義は生まれなかったかもしれず、中東のイスラム圏と似たような国になっていた可能性すらあります」、想像力を掻き立てる面白い発想だ。
・『世界遺産めぐりで「宗教の教養」を高める  ローマ・カトリックや東方正教会の布教のパワーとなったのは、美術だけではありません。 一二世紀の終わりくらいまではローマ・カトリックではロマネスク建築、東方正教会ではビザンチン建築の教会が主につくられました。その後、非常に高い塔を持つゴシック建築が生まれました。ドイツのケルン大聖堂は、ゴシック建築を代表するカトリック教会。ステンドグラスの美しさに魅せられて世界中の人々が訪れますが、特徴的なのが尖塔の高さです。一五七メートルもあり、高い塔は神のいる天を目指しているとされます。 本書執筆中に火災にあったパリのノートルダム大聖堂は、聖母マリアに捧げるために建造された、やはりゴシック建築を代表する教会です。ステンドグラスやレリーフも多く、早く再建されるよう願うばかりです。 また、サン・ピエトロ大聖堂はカトリックの総本山であり、ミケランジェロが設計した一三二メートルのクーポラ(ドーム)は荘厳です。調和の美のルネサンス様式と豪華なバロック様式の両面をかね備えるとされています。 こうした教会も「世界遺産」として観光するだけでなく、知識を持って見れば、自分のなかにインプットされる情報が豊かになります』、確かに「教会」「建築」は、当時の第一流の芸術で、「世界遺産」となる価値がある。
・『モーツァルトもバッハも、キリスト教を抜きに語れない  教会では宗教音楽もつくられ、これが西洋音楽の起源となります。モーツァルト、ヴェルディなど数多くの作曲家が「レクイエム」(鎮魂曲)をつくっていますが、これはもともと死者の安息を祈るために、ミサ(ローマ・カトリックの祭礼、礼拝)で流される曲でした。聖書にインスピレーションがわいて生まれた名曲は数え切れないほどあります。 たとえば、ハイドンの代表作の一つ『天地創造』は、旧約聖書の「創世記」とイギリスの詩人ミルトンの叙事詩『失楽園』をモチーフに作曲されています。 ヘンデルの『メサイア』は曲名からして救世主、すなわちイエス・キリストです。イエスの誕生から受難、磔から復活までを扱っており、有名なハレルヤ・コーラスは、「ヨハネの黙示録」に由来します。ちなみに、「ハレルヤ」というのは、ヘブライ語で「神をたたえよ」の意味になります。 J・S・バッハの最高傑作の一つとも言われる『マタイ受難曲』は、三時間にわたる大作で、新約聖書の「マタイの福音書」に記されたイエスの受難を扱った楽曲です。 我々が普段耳にするクラシック音楽の多くが、神やイエスをたたえるためのものであったり、聖書の内容を再現するものであったりすることは、ぜひ知っておきたい事実です。 ちなみに、日本の古代からの音楽である雅楽も神道と関係があり、音楽と宗教は切っても切れない関係なのです。 西洋文学においてもキリスト教は極めて重要なモチーフになっています。 たとえば、世界文学最高峰の一つといわれるダンテの『神曲』は、地獄、煉獄、天国の各編に分かれ、キリスト教の価値観・教義を文学作品として現していると言えるでしょう。 また、時代は下りますが、ドストエフスキーの『罪と罰』やジッドの『狭き門』も、キリスト教から生まれた文学作品で『罪と罰』のテーマの一つは、法律に違反しても神からは許される犯罪もあるのではないかという深遠なもの。『狭き門』では、神の国と地上の国(=実際に生きているこの世)における幸福の探求がテーマになっています』、「宗教音楽」「が西洋音楽の起源となり」、「音楽と宗教は切っても切れない関係」にある。「キリスト教から生まれた文学作品」もあるなど、「教養」には「宗教」の理解が欠かせないようだ。

次に、昨年4月6日付けPRESIDENT Onlineが掲載した浄土宗僧侶/ジャーナリストの鵜飼 秀徳氏による「「もうイエス様では救われないのか」信者急減キリスト教が有史以来の危機…世界的"宗教変動"の衝撃 教会が売られイスラム教のモスクに」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/52070
・『欧米で「教会離れ」が進んでいる。米国の調査機関によれば、信じる宗教は何かとの問いに「キリスト教」と回答した米国の成人は2009年の77%から10年後に65%に急減した。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「逆に増えているのは“無神論者”で、特に20~30代は旧来からの教会のつながりよりも、ネット(SNS)を通じた無宗教コミュニティーを求める傾向がある。また、アップルやグーグルなどで瞑想が取り入れられたり、マインドフルネスや禅への関心が高まったりしたことで、半世紀前にはほとんど存在しなかった仏教徒も増えている」という――』、「米国」では選挙では「宗教」の影響が強まっているが、「キリスト教」の信者数が「急減」、「瞑想が取り入れられたり、マインドフルネスや禅への関心が高まったりしたことで、半世紀前にはほとんど存在しなかった仏教徒も増えている」、とは意外だ。
・『世界のイスラム教徒の数がキリスト教徒を上回る日  仏教は減退し、キリスト教は現状維持、イスラム教は繁栄の時代を迎える――。 世界三大宗教と呼ばれる仏教、キリスト教、イスラム教の勢力が転換点を迎えている。将来的にはイスラム教が世界で最大勢力を獲得する見込みで、このような宗教構造の変化は国際政治や生活習慣などにも影響を与える可能性がある。 現在、世界最大の宗教勢力はキリスト教である。世界の総人口73億人のうち23億人(人口比で32%)をキリスト教徒が占めている。次いでイスラム教徒が18億人(25%)、ヒンズー教徒が11億人(15%)、仏教徒が5億人(7%)、民族信仰が4億人(5%)だ。日本の神道は国際的な分類では、「民族信仰」のカテゴリに入る。ちなみに、無宗教は12億人(16%)である。 この宗教構造が、ドラスティックに変化する。 世界の宗教動静を調査している米調査機関ピュー・リサーチ・センターによれば、約40年後の2060年までにはイスラム教徒が30億人(人口比31%)、キリスト教徒が31億人(32%)とほぼ同等になり、その後はイスラム教が世界最大の宗教に躍り出ると見込んでいる。 数の上では仏教を上回っているヒンズー教徒も11億人から14億人(15%)に増える。ユダヤ教は1430万人から1640万人になると予測されている。 では仏教はどうか。仏教は5億人から4億6200万人(5%)に減少する。世界宗教の中では唯一の減退となる見通し。同時に無宗教者も3ポイントほど減少に転じると見込まれる。 こうした宗教構造が変化する背景には、世界人口の激増がある。世界の人口は、2015年の73億人から2060年の間に96億人にまで膨らむと予見されている。この人口増加傾向が高い地域と、イスラム教信仰圏とが重なるのだ。 たとえば、人口2億6000万人のうち9割近くがイスラム教徒というインドネシア。2060年代中頃には6000万人ほど人口が増える見通しだ。 また、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国では、民族信仰に加えてイスラム教とキリスト教を信じる割合が高い。この地域は合計特殊出生率が4~7という高水準にある。したがってこの地域では、キリスト教も爆発的に信者数を伸ばすようにも思われる。 だが、キリスト教は北アメリカやヨーロッパでは出生率が低下する傾向にあるため、伸び率を押し下げている。 もっといえば、キリスト教は米国や欧州先進諸国においては「教会離れ」「宗教転換」が進み、有史以来の危機的状況に直面している』、「米調査機関ピュー・リサーチ・センターによれば、約40年後の2060年までにはイスラム教徒が30億人(人口比31%)、キリスト教徒が31億人(32%)とほぼ同等になり、その後はイスラム教が世界最大の宗教に躍り出ると見込んでいる」、「キリスト教は米国や欧州先進諸国においては「教会離れ」「宗教転換」が進み、有史以来の危機的状況に直面している」、なるほど。
・『「キリスト教」と回答した米国成人、2009年77%から10年後に65%へ  ピューリサーチセンターが2018から2019年にかけて実施した調査では、「自分が信じる宗教は何ですか」という質問に対し、「キリスト教」と回答した米国の成人は65%。この数字は2009年の77%から12ポイントも減少している。 宗派でみればプロテスタント(51%→43%)とカトリック(23%→20%)では、ややプロテスタントのほうが、減少割合が高いという。全キリスト教徒のうち、定期的に教会に通う割合も52%から47%と減少している。 一方で「無神論者」の割合は、2009年の17%から9ポイント増えて26%になった。現在、米国ではカトリック信者よりも無神論者のほうが多数派になってきている実態があるのだ。 その背景には、日本とは異なる米国の信仰形態がある。日本の場合は「イエ」で宗教を継承していくことが多い。だが、米国では親や夫がカトリックだからといって、子供や妻までカトリックを信じるとは限らない。 特に現在25歳から40歳のミレニアル世代の教会離れは顕著である。彼らはITリテラシーに長けており、旧来からの教会のつながりよりも、インターネット(SNS)を通じた無宗教コミュニティーを求める傾向にあるとの分析もある。 ヨーロッパでも教会離れは加速している。国によって原因は異なるものの、例えばフランスやイギリス、アイルランド、オーストリアなどでは聖職者による性的虐待問題が大きく影響している。 性的虐待は21世紀に入ってから社会問題化した。フランスでは独立委員会が先月、1950年以降に虐待に関わったカトリック教会関係者が最大3200人にも及ぶことを明らかにしたばかりである。 ドイツでは教会税から逃れたいという理由で、教会からの脱会が相次いでいる。同国では教会に所属するキリスト教徒である場合、所得税の8~10%が教会税として課される。日本に置き換えれば、どこかの菩提寺の檀家であれば「寺院税」を支払う義務が発生するということと同じ。この教会税逃れのためこの数年、毎年20万人以上の信者が教会から離れている。 教会がジリ貧になった結果、教会が売りに出され、替わってイスラム教のモスクが入るという事態になっている』、「聖職者による性的虐待問題」は困ったことだ。「ドイツ」の「教会税(注)」の存在は初めて知った。
(注)教会税:教会財産を領主などの世俗権力から守るために国家が徴収。ドイツのほか、スイス、デンマーク、スウェーデンなども導入(Wikipedia)
・『「教会離れ」の受け皿のひとつが半世紀前まで存在しなかった仏教  欧米における教会離れの受け皿のひとつになっているのが、仏教である。米国では半世紀前まではほとんど存在しなかった仏教徒の割合が近年、増えてきている。 アップルやグーグルなどで「瞑想」が取り入れられてきた影響もあり、「マインドフルネス」や、「禅」、あるいは最近では「念仏」などに精神性を求める傾向がみられる。インターネットを通じて、仏教の教えに触れる「ナイトスタンド・ブディスト」という人々も増えている。 だが、欧米における仏教はまだまだマイナーな宗教であり、教会を離れた人々は「無宗教者」に転じるケースがほとんどだ。 欧米における無宗教者の拡大や、全世界的なイスラム教の広がりは良くも悪くも、国際関係に影響を与えそうだ。確かに経済面ではメリットもある。ムスリムを対象にしたハラール食品やファッションなどのマーケットの拡大が予想できる。 一方で、歴史的にイスラム教はキリスト教との対立関係にあり、宗教的価値観の違いによる摩擦が生じないとも限らない。また、女性に対する人権や教育、社会進出、あるいは表現の自由などが制限されているイスラム教の国家もあり、課題は少なくない。 グローバルな宗教変動が起きている一方で、日本の宗教は当面は安定的に推移すると予測できる。 現在、日本人の信仰は仏教徒が8500万人、神道が8900万人、キリスト教徒が190万人、諸宗が740万人だ(文化庁「宗教年鑑 令和2年」)。 人口1億2500万人にたいし、宗教人口が合計1億8330万人になっているのは日本人の多くが仏教と神道を掛け持ちしているからである。地域の寺の檀家であり、氏子であるといったふうに。 その日本において、中長期的な宗教人口の増減を予測した調査は存在しない。だが、NHK放送文化研究所が実施している宗教に関する調査をみれば、「信仰している宗教」は2008年調査と2018年調査では男性が3ポイント増、女性が5ポイント減であり、さほど大きな変化はみられない。 日本は今後、本格的な人口減少の時代に入るとはいえ、信仰形態は仏教と神道のハイブリッドである状態が当面は続くと考えられる。 日本でも「寺離れ」「無宗教化」が叫ばれ続けているが、欧米の教会離れに比べればまだ楽観視できるレベルである。世界を見回しても、宗教動静が極めて安定しているのが、日本なのだ』、「米国では半世紀前まではほとんど存在しなかった仏教徒の割合が近年、増えてきている。 アップルやグーグルなどで「瞑想」が取り入れられてきた影響もあり、「マインドフルネス」や、「禅」、あるいは最近では「念仏」などに精神性を求める傾向がみられる。インターネットを通じて、仏教の教えに触れる「ナイトスタンド・ブディスト」という人々も増えている」、「日本でも「寺離れ」「無宗教化」が叫ばれ続けているが、欧米の教会離れに比べればまだ楽観視できるレベルである」、なるほど。


第三に、本年2月17日付けPRESIDENT Onlineが掲載した浄土宗僧侶/ジャーナリストの鵜飼 秀徳氏による「聖なる宗教界でイザコザ勃発…「上納金拒否・人事紛糾・怪しい不動産取引」対立・分裂の穏やかではない事情 "本部"との確執で有名寺社も独立」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/54704
・『文化庁『宗教年鑑』の最新(令和3年)版によれば、伝統宗教も新宗教も年々施設の数や信者数が減っている。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「そうした中でどの宗教教団にも属さない“単立宗教法人”が増えている。元は大きな組織の宗教法人に属してしていたが、経営方針や人事、お金などを巡る対立やトラブルにより、独立する寺社が続出している」という――』、興味深そうだ。
・『日本を映し出す鏡「宗教」が大変なことになっているのをご存じか  毎年この時期になると、宗教学者らの元に1冊の報告書が送られてくる。文化庁が発行する『宗教年鑑』である。宗教法人を所轄する文化庁では、宗教法人の数や教師(僧侶などの宗教者)の数、信者数などを12月に取りまとめている。その統計が報告されるのだ。宗教の動態は、日本を映し出す鏡。最新の『宗教年鑑 令和3年版』で興味深いデータが示されたので解説したい。 まず宗教法人の数の変化について。宗教法人とは、大きく2つの種類に分けられる。包括宗教法人と被包括宗教法人である。 宗教法人の包括・被包括の関係文化庁「宗教年鑑」を参考に作成 仏教でいえば包括宗教法人は真言宗、天台宗といった「宗門」に該当し、被包括宗教法人はその宗門の看板を掲げる「寺院(末寺)」にあたる。神道では、全国7万9000もの神社を包括する神社本庁が包括宗教法人にあたる。 他にも包括宗教法人に所属せずに単独で活動する単立宗教法人がある。 『宗教年鑑 令和3年版』によれば、被包括宗教法人の総数は17万2957法人。前回(令和元年12月)調査よりも335法人減った。 宗教別の内訳でみると前回、仏教系では7万6970カ寺(法人)あったが7万6887カ寺(マイナス83カ寺)に減った。神道系では8万4546社が、8万4444社(マイナス102社)に減少。キリスト教系は4722カ所の教会が4747か所(プラス25カ所)、そのほかの宗教(諸教)は1万4195施設が1万4069施設(マイナス126施設)となっている。 つまり、仏教系・神道系・新宗教系の施設が減少傾向にあり、キリスト教の教会は増えつつあるのだ。近年、この傾向が続いている。 仏教寺院は2年前と比べて83カ寺減少した。それは全体の0.1%に過ぎない。統計上は大した減少率にはみえないが、実態はさにあらず。あくまでも、83カ寺の減少というのは、宗教法人を「解散」した数を意味している。 宗教法人の解散は大変、煩雑な手続きになる。宗教法人解散の実例は、2021年12月22日の本コラム『「YouTuberに荒らされる」廃墟寺が海外ブローカー、反社の“餌食”になる日』で紹介した。 そのため、多くは「空き寺(空き神社)」のまま放置される。つまり、「寺院消滅」「神社消滅」の実態は数字以上に深刻、ということが考えられる』、「多くは「空き寺(空き神社)」のまま放置される」のであれば、確かに「実態実態は数字以上に深刻」。
・『どの宗教教団にも属さない「単立宗教法人」が増えている  特に大きく減少しているのが「諸教」と呼ばれる、既成宗教に属さないカテゴリの新宗教である。126施設も減っている。諸教の主要な教団には、天理教やパーフェクトリバティー教団などがある。 例えば統計が始まった1995(平成7)年の調査では、諸教の施設数は1万6231あった。この四半世紀ほどで2162施設(全体の13%)が消えてしまっていることが判明した。寺院や神社同様、宗教法人格だけを有しながら、宗教施設として機能していない施設を入れればもっと多いはずだ。 各宗教の信者数の減少も顕著である。人口に占める仏教系の信者(檀信徒)は8397万1139人(人口全体の46.4%)となり、前回調査よりも86万3971人の減少となった。神道系の信者(氏子)は8792万4087人(同48.5%)で、103万5258人の減少。キリスト教系は191万5294人で、5537人増加した。諸教は733万5572人で6万7988人の減少だ。 日本における宗教人口の総数では1億8114万6092人(前回比でマイナス196万1680人)となった。これは、日本の人口(1億2544万人)を大きく超える数字だ。これは包括宗教法人が文化庁に「自己申告」する仕組みなので、数え方がまちまち(いい加減)なのだ。 そのほか、日本人の信仰が混淆していることも理由に挙げられる。たとえば地方都市では、寺院の檀家でありながら神社の氏子になっているケースはよくある。 また、どこかの寺の檀家だが、新宗教に入信していることも考えられる。たとえば、創価学会に継ぐ新宗教勢力の立正佼成会や、PL学園を組織するパーフェクトリバティー教団などは他宗教との掛け持ちを認めている。 複数の宗教をまたがって信仰できるもうひとつの背景には、日本が憲法20条「信教の自由」の保障がある。そのため、わが国には「国教」が存在しない。 終戦直後には国家神道が解体され、多数の新宗教が誕生し、勃興した。これは「神々のラッシュアワー」(第2次宗教ブーム)と呼ばれている。 戦争が終わり、次男以降の男子が集団で農村を出て(故郷の菩提寺を離れて)、都会に移り住み、核家族を形成。こぞって新宗教に入信した時代があった。 だが、近年、新宗教が急激に信者数を減らしている。諸教にカテゴライズされている新宗教の場合、1995(平成7)年の調査では1111万2595人いたのが、733万5572人にまで激減している(マイナス34%)。 高度経済成長期に入信した若者が高齢、死亡期に入り、同時に子供や孫へと信仰が継承されていないことが考えられる。 伝統宗教も新宗教も、施設の数や信者数を減らす中で、ひとつの奇妙な現象が起きている。 それは、どの宗教教団にも属さない「単立宗教法人」が増えていること。前回調査で単立宗教法人は7141法人だったのが、49法人増えて7190法人になっている。例えば、仏教系単立宗教法人は2019年から2020年の1年間で11法人(カ寺)が誕生している。神道系では14法人(社)が新たに誕生した。 これは何を意味するのだろうか』、「単立宗教法人」の増加は「何を意味するのだろうか」。
・『「上納金拒否・人事紛糾……」対立分裂の穏やかではない事情  この単立宗教法人の誕生の背景には、所属していた教団(包括宗教法人)からの離脱がある。近年、所属教団との確執が原因で、単立化するケースが増えているのだ。 とくに、歴史的な大寺院や大神社で単立になるケースが散見される。 2016年1月には曹洞宗の名刹で織田家の菩提寺である萬松寺(名古屋市中区)が宗門との包括関係を解消すると発表し、物議を醸した。公益財団法人国際宗教研究所宗教情報リサーチセンターによれば、以下のような経緯が報告されている。 2014年、萬松寺の住職が東京都内の浄土真宗系単立寺院の住職を兼務することになった。曹洞宗はその寺院を帰属させるように萬松寺に求めたが、寺側はそれを拒否して、単立の寺院となった。背景には納骨堂事業などの経営上の理由があるとみられている。 また、浄土宗では近年、宗門と大本山の清浄華院が同院の法主(住職)人事を巡って対立。清浄華院が浄土宗からの離脱の意向を示したが、ギリギリのところで回避された。 神道界では神社本庁から、「こんぴらさん」で知られる金刀比羅宮(香川県)が2020年に離脱を表明して、話題になった。金刀比羅宮は本庁の不動産取引にたいして不信感を抱いており、たびたび係争が起きていた。 神社本庁は2021年、天皇の皇位継承後の大嘗祭において当日祭を開催するよう各地の神社に要請。金刀比羅宮も当日祭を開いたが、神社本庁から配られる供物「幣帛料」が大嘗祭当日までに届かなかった。本庁から嫌がらせを受けたと考えた金刀比羅宮は「決して許されない無礼な行い」と表明して、本庁との関係を解消するに至った。 宗教法人の単立化はわかりやすく例えれば、コンビニがフランチャイズから離脱し、独立店になることに似ている。独立すれば、フランチャイズ加盟金を支払う必要がなくなるメリットがある。細かな規約を守ることも不要になる。 宗教法人も同様で、仏教寺院の場合、包括法人から離脱すれば収入などに応じて決められている「賦課金」と呼ばれる上納金を支払う義務はなくなる。儀式のやり方や寺院の運営などについても、宗門の伝統的なやりかたに従う必要はなくなる。信者も、宗旨宗派にこだわらずより広く集めることが可能になる。 包括法人とのしがらみを解消し、経営環境を飛躍的に改善する手段のひとつとしては十分あり得る。 しかし、私は長期的にはデメリットのほうが多いように思う。何百年という歴史を有する伝統教団の、社会的な信頼性は何ものにも変えがたいからだ。単立寺院になってしまえば、新宗教と変わらなくなってしまう。また、後継者の育成についても問題がでてくる。 大手教団は大学を運営しており、例えば仏教系宗門大学だと、そこで教師(僧侶)の養成を行うことができる。また、宗門大学に行かずとも宗門が定める規定の修行を修めれば、教師(僧侶)になることができる。単立寺院の場合は、「自家育成」が可能だが、社会から信用に値する僧侶とみられるかどうかは別問題だ。さまざまな問題があり、いったんは単立化した寺院や神社が、教団に復帰する事例も出てきているのが実情だ。 人口減少、高齢化などの社会構造に飲まれつつある宗教法人。今後の舵取りはますます、難しくなりそうだ』、「仏教寺院の場合、包括法人から離脱すれば収入などに応じて決められている「賦課金」と呼ばれる上納金を支払う義務はなくなる。儀式のやり方や寺院の運営などについても、宗門の伝統的なやりかたに従う必要はなくなる。信者も、宗旨宗派にこだわらずより広く集めることが可能になる」、など短期的にはメリットが大きそうだが、「長期的にはデメリットのほうが多いように思う」。「包括法人」にとっても、所属する「仏教寺院」に目に見える「メリット」を示すいい刺激になるのではなかろうか。
タグ:ダイヤモンド・オンライン (その6)(歴史・美術・音楽・建築・文学… 「教養」を「本物の教養」にするためには「宗教」の知識が欠かせない、「もうイエス様では救われないのか」信者急減キリスト教が有史以来の危機…世界的"宗教変動"の衝撃 教会が売られイスラム教のモスクに、聖なる宗教界でイザコザ勃発…「上納金拒否・人事紛糾・怪しい不動産取引」対立・分裂の穏やかではない事情 "本部"との確執で有名寺社も独立) 宗教 山中俊之氏による「歴史・美術・音楽・建築・文学… 「教養」を「本物の教養」にするためには「宗教」の知識が欠かせない」 確かに「西欧」文化を理解する上で、「宗教の知識は欠かせない」。 「「字が読めないんだから、目で見て感じればいい」とばかりに聖書に関連する美術品を山のようにつくった」、日本でも曼荼羅のような絵が多くつくられた。 「ロシア一帯がイスラム教社会になっていたら、共産主義は生まれなかったかもしれず、中東のイスラム圏と似たような国になっていた可能性すらあります」、想像力を掻き立てる面白い発想だ。 、確かに「教会」「建築」は、当時の第一流の芸術で、「世界遺産」となる価値がある。 「宗教音楽」「が西洋音楽の起源となり」、「音楽と宗教は切っても切れない関係」にある。「キリスト教から生まれた文学作品」もあるなど、「教養」には「宗教」の理解が欠かせないようだ。 PRESIDENT ONLINE 鵜飼 秀徳氏による「「もうイエス様では救われないのか」信者急減キリスト教が有史以来の危機…世界的"宗教変動"の衝撃 教会が売られイスラム教のモスクに」 米国」では選挙では「宗教」の影響が強まっているが、「キリスト教」の信者数が「急減」、「瞑想が取り入れられたり、マインドフルネスや禅への関心が高まったりしたことで、半世紀前にはほとんど存在しなかった仏教徒も増えている」、とは意外だ。 「米調査機関ピュー・リサーチ・センターによれば、約40年後の2060年までにはイスラム教徒が30億人(人口比31%)、キリスト教徒が31億人(32%)とほぼ同等になり、その後はイスラム教が世界最大の宗教に躍り出ると見込んでいる」、「キリスト教は米国や欧州先進諸国においては「教会離れ」「宗教転換」が進み、有史以来の危機的状況に直面している」、なるほど。 「聖職者による性的虐待問題」は困ったことだ。「ドイツ」の「教会税(注)」の存在は初めて知った。 (注)教会税:教会財産を領主などの世俗権力から守るために国家が徴収。ドイツのほか、スイス、デンマーク、スウェーデンなども導入(Wikipedia) 「米国では半世紀前まではほとんど存在しなかった仏教徒の割合が近年、増えてきている。 アップルやグーグルなどで「瞑想」が取り入れられてきた影響もあり、「マインドフルネス」や、「禅」、あるいは最近では「念仏」などに精神性を求める傾向がみられる。インターネットを通じて、仏教の教えに触れる「ナイトスタンド・ブディスト」という人々も増えている」、「日本でも「寺離れ」「無宗教化」が叫ばれ続けているが、欧米の教会離れに比べればまだ楽観視できるレベルである」、なるほど。 鵜飼 秀徳氏による「聖なる宗教界でイザコザ勃発…「上納金拒否・人事紛糾・怪しい不動産取引」対立・分裂の穏やかではない事情 "本部"との確執で有名寺社も独立」 「多くは「空き寺(空き神社)」のまま放置される」のであれば、確かに「実態実態は数字以上に深刻」 「単立宗教法人」の増加は「何を意味するのだろうか」 「仏教寺院の場合、包括法人から離脱すれば収入などに応じて決められている「賦課金」と呼ばれる上納金を支払う義務はなくなる。儀式のやり方や寺院の運営などについても、宗門の伝統的なやりかたに従う必要はなくなる。信者も、宗旨宗派にこだわらずより広く集めることが可能になる」、など短期的にはメリットが大きそうだが、「長期的にはデメリットのほうが多いように思う」。「包括法人」にとっても、所属する「仏教寺院」に目に見える「メリット」を示すいい刺激になるのではなかろうか。
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健康(その19)(アレルギーになる原因は「皮膚」にある? 最新研究が明かす真実、ダイエットにはズボラが最強!? 「だらだら食べ、食後にちょこちょこ動く」で痩せる理由、「長生きしたいなら揚げ物をたくさん食べなさい」在宅医療の第一人者がそう断言するワケ 唐揚げ、豚カツ、コロッケ、フライ…) [生活]

健康については、本年2月2日に取上げた。今日は、(その19)(アレルギーになる原因は「皮膚」にある? 最新研究が明かす真実、ダイエットにはズボラが最強!? 「だらだら食べ、食後にちょこちょこ動く」で痩せる理由、「長生きしたいなら揚げ物をたくさん食べなさい」在宅医療の第一人者がそう断言するワケ 唐揚げ、豚カツ、コロッケ、フライ…)である。

先ずは、2月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したUCLA助教授の津川友介氏による「アレルギーになる原因は「皮膚」にある? 最新研究が明かす真実」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/295759
・『食物アレルギーに悩まされている人は多い。 しかしなぜ人はアレルギーになってしまうのか疑問に思ったことはないだろうか。 ちまたにはアレルギーの原因に関する様々な俗説があるが、科学的根拠の全くないものもたくさんある。アレルギーに関しては間違った情報により、間違った治療法を選択し、苦しんでいる患者さんも多い。 近年、アレルギーの研究が進み、徐々に発症の仕組みが分かってきた。 『HEALTH RULES(ヘルス・ルールズ) 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣』を上梓した、医師でUCLA准教授の津川友介氏が、最新の研究をもとに解説する』、興味深そうだ。
・『免疫が間違ってしまう  新型コロナウイルスの影響もあり、「免疫」という言葉をよく聞くようになった。 免疫とは、人間の身体を異物から守るための機能のことである。免疫は、細菌やウイルスに対して感染を予防したり、感染してしまったときに体内からこれらを排除するという有益な役割を持っている。 しかし、残念なことに免疫は万能ではなく、必ずしも有害な異物にのみ反応するわけではない。私たちの身体にとって無害であるはずの食物や花粉などの異物が体内に侵入したときに、免疫機能が過剰に反応してしまい、その結果として、様々な症状を発症してしまうことがある。この現象を「アレルギー」と呼ぶ。 それでは、なぜ人はアレルギーを発症してしまうのだろうか』、「アレルギーを発症」についてよく知りたい。
・『乳幼児期にピーナッツを食べるとアレルギーになる?  食物アレルギーは乳幼児に多いことから、これまでは消化機能が未熟なうちに食べることでアレルギーになってしまうと考えられていた。 このような考えから、母乳や胎盤を介したアレルゲンへの曝露を防ぐ目的で、米国小児科学会は2000年に「妊娠・授乳期の母親は食物アレルギーの原因となりやすい卵やピーナッツなどの食物の摂取を制限し、乳幼児に対しては乳製品、卵、ナッツ類、魚の摂取開始時期をできるだけ遅らせるべきである」という声明を出した。 これを受けて、日本でも予防的にこれらの食物の摂取開始を遅らせる指導が普及した。 しかし、このような指導にもかかわらず、ピーナッツアレルギーを持つ子どもの数は減らなかった。それどころか、その後も年々増え続けたのである』、「米国小児科学会」も間違った「声明」を出したというのは驚きだ。
・『アレルギーを引き起こす真の原因  2003年、世界的に権威のある医学雑誌である『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に驚くべき研究結果[*3]が報告された。1万3971人のイギリス在住の就学前の子どものデータを解析した結果、ピーナッツオイルを含む保湿剤を肌に塗布していた乳幼児のピーナッツアレルギーになる確率が、そうでない乳幼児より高かったのである。 一方で、妊娠・授乳期の母親の食事内容は、子どものピーナッツアレルギーのリスクと関係がなかった。食べ物ではなく、皮膚への曝露が食物アレルギーの原因になる可能性を示唆しているということで、驚きをもって受け入れられた。 ピーナッツアレルギーのある子どもの91%がピーナッツオイルを含む保湿剤を使用していたのに対して、ピーナッツアレルギーのない子どもの中でそのような保湿剤を使用していたのは53~59%にとどまった。 一方で、ピーナッツオイルを含まない保湿剤の使用率に関しては、ピーナッツアレルギーのある子どもとない子どもで差はなかった。 保湿剤は、乳児湿疹などで赤ちゃんの肌が荒れているときに、それを改善させる目的で使われていた。そこから、肌荒れなどでダメージがある皮膚から異物が侵入することで、食物アレルギーが引き起こされるのではないかという考え方が生まれたのだ』、「肌荒れなどでダメージがある皮膚から異物が侵入することで、食物アレルギーが引き起こされるのではないかという考え方が生まれた」、素人的にも筋が通った考え方だ。
・『気をつけるべき「経皮感作」とは?  皮膚が正常な場合には、肌に異物が触れてもバリアがきちんと機能しているので問題ない。 一方で、皮膚がダメージを受け、バリアが破れた状態で異物にさらされると、その異物が肌から体内に侵入してしまう[*4]。その異物にランゲルハンス細胞などの免疫担当細胞が反応し、アレルギーを起こす状態になる(これを感作と呼ぶ)。その結果、その異物に対する食物アレルギーを発症すると現在では考えられている。このように皮膚から異物が侵入することでアレルギーになってしまうことを特に「経皮感作」と呼ぶ』、「皮膚から異物が侵入することでアレルギーになってしまうことを特に「経皮感作」と呼ぶ」、なるほど。
・『アトピーになる原因  また、経皮感作することで引き起こされるのは、食物アレルギーだけではない。アトピー性皮膚炎も、経皮感作が発症に関わっていると考えられるようになっている。皮膚を健康に保ち、バリア機能を維持することで、アトピー性皮膚炎の発症を抑えることができるというエビデンスが出てきているのである。 例えば、堀向健太氏らが行った研究[*5]では、アトピー性皮膚炎の発症リスクが高い新生児118人を、1日1回全身に保湿剤(商品名2e[ドゥーエ])を塗布するグループと、乾燥した部分のみにワセリンを塗るグループに無作為に割り付けた実験を実施した。その結果、保湿剤の全身塗布によってアトピー性皮膚炎の発症率が低下することが示された(図4)。 この研究の追試ともいえる研究[*6]が、2020年に発表されたBEEP(Barrier Enhancement for Eczema Prevention)研究と呼ばれるものである。英国で行われたハイリスクな新生児1394人を対象としたこの研究の結果、新生児期に保湿剤を積極的に利用したグループと、標準的なスキンケアをしたグループで、2歳時点でのアトピー性皮膚炎の発症率に統計的に有意な差を認めなかった。 しかしこの研究ではいくつかの限界点も指摘されている[*7]。前述の日本の研究では保湿成分が含まれる保湿剤が使われたのに対して、BEEP研究ではエモリエントと呼ばれる保湿成分の含まれない保湿剤が使われたという違いがあった。 その他にも、標準的なスキンケアをしたグループもそれなりにきちんと保湿していたことで、差が見られなくなったなどの可能性も考えられている。保湿がアトピー性皮膚炎の予防に本当に有効かに関しては今後の研究が待たれるところであるが、子どもの皮膚をしっかり保湿することに対するデメリットはないので、ぜひしっかり保湿してあげてほしいと筆者は考えている。 また、このような経皮感作は子どもだけでなく、大人でも起こる可能性がある。 日本では、化粧品会社「悠香」(福岡県)が製造販売する「茶のしずく石鹸」を使用していた人が、小麦に対する食物アレルギーを発症した事件が有名である。合計2111人が食物アレルギーを発症し、25%がアナフィラキシーショック、43%が呼吸困難を経験するなど重篤例も多く含まれていた。[*8] この石鹸には、加水分解された小麦のたんぱく質である「加水分解コムギ」(グルパール19S)が含まれており、繰り返し石鹸を使うことで経皮感作を引き起こし、結果として小麦に対する食物アレルギーになってしまったと考えられている。 アレルギー予防の観点からみると、皮膚に湿疹や傷があるなどバリア機能が失われている状態で異物に触れることは、極力避けたほうが良いと言える。 またバリア機能を保つためにも、日ごろから保湿などのケアはしっかりしてほしい。また皮膚に異常が場合はインターネットや本で自分で調べるのではなく、ぜひ皮膚科の先生に相談してほしい。 (参考文献、著者略歴はリンク先参照)』、「経皮感作は子どもだけでなく、大人でも起こる可能性がある」、「大人でも起こる可能性がある」とは驚いた。「アレルギー予防の観点からみると、皮膚に湿疹や傷があるなどバリア機能が失われている状態で異物に触れることは、極力避けたほうが良いと言える。 またバリア機能を保つためにも、日ごろから保湿などのケアはしっかりしてほしい」、大いに気を付けたい。

次に、2月23日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した総合内科医の益江 毅氏による「ダイエットにはズボラが最強!? 「だらだら食べ、食後にちょこちょこ動く」で痩せる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/296039
・『早く痩せたくて激しい運動をしているけれど、全然痩せない――。そんな経験をした人は少なくないはず。産業医として年間5万人の健康指導をする総合内科専門医の益江毅医師は、著書『やせたい人はカロリー制限をやめなさい』の中で「少しばかり運動をしても、実際には脂肪はほとんど燃えない」と指摘する。むしろ、「運動とは言えない程度の軽作業」でも、タイミングを考えて実行することで、非常に効率よくダイエットを行うことができるのだという』、興味深そうだ。
・『運動は意外とエネルギーを消費しない!  ダイエットに挑戦するとき、結果を急ぐ人ほど、急にジョギングを始める、スポーツジムで激しくトレーニングする、といったハードな運動から始めがちです。この考えの根本には、エネルギーバランスモデルの考え方があります。肥満の原因は、消費エネルギーが足りないためであり、消費エネルギーを増やすためには運動が必要だと考えてしまうのです。 エネルギーバランスモデルの考え方だと、エネルギー摂取量とエネルギー消費量がつりあっていれば体重は変わらない、つまり体重は減らないということになります。体重を減らすには、摂取エネルギーと消費エネルギーの差をマイナスにしなければなりません。このためには、強力な食事制限(カロリー制限)を実施して摂取エネルギーを極限まで抑えつつ、消費エネルギーを最大まで増やすために、ハードな運動をすることが要求されます。こんなことができるのは、強靭な意志を持ったごく限られた人だけです。 でも、果たして本当にそうでしょうか。人間の体は、ガソリンを入れて走る車よりもはるかに複雑なメカニズムでできています。単純に、物理学の法則に当てはまるものではありません。 脂肪の蓄積には、体内の複数のホルモンがかかわっています。中でも強力に働くのが、すい臓から分泌されるインスリンです。インスリンは、血液中の糖を脂肪に変換して内臓脂肪に変える働きを持ちます。このホルモンの量をコントロールすることで、内臓脂肪もコントロールすることができるのです』、「インスリン」「の量をコントロールすることで、内臓脂肪もコントロールすることができる」、なるほど。
・『食後血糖値を抑える運動タイミングとは?  消費カロリーをいかに増やすかではなく、血糖値の上昇を抑えることに発想を転換して運動の方法を改めて見直してみると、食後15分以内に運動を始めることで効果的に血糖値を下げることができることに気づきました。消費エネルギーを増やそうと毎日ハードな運動をするよりも、タイミングを考えて実行することで、運動とは言えない軽作業でも非常に効率良くダイエットを行うことができるのです。 このタイミングを誤って、食前に運動をしても、食後の血糖値の上昇を抑える効果は全くないどころか、むしろ運動することによって食欲が増して食べすぎてしまう危険すらあります。 血糖値が上がるのを抑えるためには、食べ方とともに、食後すぐに体を動かすことも有効です。そのメカニズムを解説しましょう。 食事で糖をとり、インスリンが分泌されると、筋肉細胞の表面にある「インスリン受容体」に結合します。すると、インスリン受容体が活性化し、血液中にある糖を筋肉細胞内にとり込みます。筋肉への糖のとり込みにはもう一つ、ルートがあります。運動をして筋肉が収縮すると、細胞のエネルギー源である「ATP」が消費され、その結果、AMPキナーゼという酵素が活性化し、糖がとり込まれ、食後の血糖値が下がるのです。 このような運動による筋肉への糖のとり込みの仕組みをしっかり活かすのであれば「血糖値が上がり、血液中に糖があるタイミング、つまり食後に運動する」のが最も効果的であることを理解いただけるでしょう』、「「血糖値が上がり、血液中に糖があるタイミング、つまり食後に運動する」のが最も効果的」、かつては「食後」はゆっくり」と言われていたが、そんなことをしては駄目なようだ。
・『だらだら食べて、ちょこちょこ動く  しかし、そのためにわざわざ運動をする時間はとれないというのが忙しい皆さんの実感かもしれません。私は忙しい人にアドバイスをするときには「だらだら食べて、食後はすぐにちょこちょこ動きましょう」とお話ししています。食事はゆっくりと時間をかけることで、満腹中枢に「食べた」という信号が伝わり、最後にとる主食も食べすぎずにすみます。ゆっくり食べることで血糖値の上昇も緩やかになります。そして、食後はだらだらせずに「ちょこちょこ動き」ましょう。 なにも食後にジョギングをしましょうと言っているのではありません。わざわざ走りにいかなくても、食器を洗い、食卓を拭き、掃除機をかけるだけでいいのです。普段日常的にやっている家事を食事のあとに行うだけでダイエットが手軽にできるのです。 がまんして摂取カロリーを減らしたり、ハードな運動をして自分を追い込まなくても、このような「ちょっとした裏技」はたくさんあります。これらをなるべく多く日常生活に導入することで、苦労せずにダイエットに成功することができるのです』、「だらだら食べて、食後はすぐにちょこちょこ動きましょう」というのは、面白い、早速、実践してみよう。
・『【著者からのメッセージ】  半年で16キロ減、その後リバウンドなしのダイエット(本書でお伝えするダイエットは、私が実際に半年間で16キロの減量に成功し、その後リバウンドすることなく、今も体重を維持できている方法でもあります。 私が「インスリンを節約する」という食事のとり方を始めて、今年で約20年になります。当時、私は理想体重より実に20キロ近くもオーバーしていました。朝食もほとんど食べず、食事の量にも質にもあまり注意を払っていませんでした。 心臓病を発症したのを機に、減量に取り組む決心をした私は、医師の立場から効果がありそうだと思える様々な文献に目を通し、自ら試みては効果を確認し、試行錯誤の上に、ついにカロリー制限に頼らない現在のダイエット法にたどり着いたのです。 リバウンドをしないダイエットのカギを握るのはホルモンの働き。特に脂肪の蓄積と密接に関係のあるインスリンに着目しました。そして、糖質を摂取する際に脂質やタンパク質と合わせて摂取することで、極端に糖質を制限しなくても血糖値のコントロールが容易に行えるようになります。カロリー制限の呪縛から解放されることで、リバウンドせずに長期的に継続できるダイエットが可能となります。 また、様々な文献を調べても、たった一つの方法だけで劇的にダイエットできる方法を見つけることができませんでした。しかし、たとえ単独で大きな効果がなくとも、複数の方法を組み合わせることにより、大きな減量効果が得られることも発見しました。本書で紹介する複数の方法を全て実行していただく必要はありません。自分のライフスタイルに合った方法を選んでいただき、それらを組み合わせて自分だけのオリジナルのダイエット法を作り上げていただければ良いのです。「やせたい人はカロリー制限をやめなさい」目次(リンク先参照)』、「リバウンドをしないダイエットのカギを握るのはホルモンの働き。特に脂肪の蓄積と密接に関係のあるインスリンに着目しました。そして、糖質を摂取する際に脂質やタンパク質と合わせて摂取することで、極端に糖質を制限しなくても血糖値のコントロールが容易に行えるようになります。カロリー制限の呪縛から解放されることで、リバウンドせずに長期的に継続できるダイエットが可能となります」、夢のような「ダイエット法」のようだ。合理的でもある。「やせたい人はカロリー制限をやめなさい」、おおいに元気づけられる。

第三に、2月23日付けPRESIDENT Onlineが掲載した医療法人社団悠翔会理事長・診療部長の佐々木 淳氏による「「長生きしたいなら揚げ物をたくさん食べなさい」在宅医療の第一人者がそう断言するワケ 唐揚げ、豚カツ、コロッケ、フライ…」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/54802
・『長生きをするには、どんな食生活が望ましいのか。医師の佐々木淳氏は「高齢者になったら痩せるのは危険だ。揚げ物や肉料理がメインの惣菜や弁当を積極的に食べて、カロリーとたんぱく質をたっぷり摂ったほうがいい」という――。 ※本稿は、佐々木淳『在宅医療のエキスパートが教える 年をとったら食べなさい』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです』、私はこれまで「「高齢者になったら痩せる」方がいい」と聞いていたが、これが完全なウソだったとは・・・。
・『高齢者ほど出来合いの惣菜や弁当を食べたほうがいい  高齢になると、1日3食いちいち食事をつくるのがめんどうになることもあります。特にひとり暮らしの場合、自分が食べる分だけのために料理をするのが億劫になってくることが少なくありません。 料理をする手間を省くのは構いませんが、摂取するカロリーやたんぱくの量を減らすのはやめましょう。 いちばん手っとり早いのは、出来合いのお惣菜やお弁当を食べること。 もちろん、外食をしたり出前を取ったりするのでもよいのですが、いちいちお店に出かけたり注文したりするのも手間ですし、外食や出前を頻繁に利用していると経済的にも出費がかさみますよね。その点、スーパーやコンビニでお惣菜やお弁当を買ってしまえば、ラクして気軽に食事を調達できます。 こうしたお惣菜やお弁当をセレクトする場合、高齢者のみなさんはできるだけカロリーが高くてたんぱく質たっぷりなものを選ぶようにしてください』、出来合いの「お惣菜やお弁当」は、味が濃く塩分も多目そうなのが気になるところだ。
・『「食欲がないからごはんはいいや」は禁物  お惣菜なら唐揚げやとんかつ、コロッケ、フライ、てんぷらなどの揚げもの、脂をたっぷり使った中華系惣菜などがおすすめ。お弁当なら焼き肉弁当、すき焼き弁当、チンジャオロース弁当など、お肉がドカンと入ったこってり系がおすすめ。 逆に、「今日はサラダだけでいいや」「今日はおにぎり1個で済ませちゃおう」といったセレクトは避けてください。 こういった低カロリーで低たんぱくな食事をしていると、体重や筋肉が減少し、身体の衰弱を加速させてしまいます。「あまり食欲ないから、食べなくていいや」ではなく、「どうしたら、おいしくしっかり食べられるか」を考えてみてください。 なお、どんなに億劫でも、食事を抜いてしまうのは厳禁です。これは高齢者がいちばんやってはいけないこと。 たとえ食欲がなくても、食べるべき時間になったらちゃんと食事らしいものを口に入れるようにしましょう』、「どんなに億劫でも、食事を抜いてしまうのは厳禁です。これは高齢者がいちばんやってはいけないこと」、よく心しておこう。
・『カップ焼きそばに生卵を落としてタンパク質をプラス  もし、つくるのもめんどうだし、スーパーに買いものに行くのもめんどうという場合は、買い置きのカップラーメンでもよいのです。毎日でなく「たまの手抜き」で食べる分には、まったく問題ありません。 カップラーメンはけっこうカロリーが高く、高齢者にとっては重宝する食品なのです。とりわけ、カップ焼きそばはかなりの高カロリー食品で、普通サイズでなんと500〜600kcalもあります。 ただ、カップラーメンやカップ焼きそばは、たんぱく質が足りません。 でも、「サバ缶」でも一緒に食べれば、カロリーもたんぱく質もけっこう理想的な量を摂取できることになります。 あるいは、カップラーメンとゆで卵を一緒に食べたり、カップ焼きそばに生卵を落として食べたりしてたんぱく質を「ちょい足し」していくのもいいかもしれません』、「カップラーメンやカップ焼きそばは、たんぱく質が足りません」、「サバ缶」でも一緒に食べれば、カロリーもたんぱく質もけっこう理想的な量を摂取できる・・・あるいは、カップラーメンとゆで卵を一緒に食べたり、カップ焼きそばに生卵を落として食べたりしてたんぱく質を「ちょい足し」、「たんぱく質を「ちょい足し」」、ちょっとした技で「理想的な」食事になるようだ。
・『日本の高齢者は全体に“低体重”傾向にある  ここでちょっと、日本の高齢者がいかにやせているか、医学的データを元に状況をチェックしてみましょう。 太っているのか、やせているのかの基準となる指標にBMIがあります。これは身長(メートル)を2乗した数字で体重を割ると計算できます。一般的にはこのBMIが25を超えると「肥満」、18.5を下回ると「やせ」、中でも22が最も病気のリスクが低くなることから「標準体型」とされています。 全国の訪問看護を利用している高齢者のBMIを調査したところ、BMIが18.5もない「低体重」に該当する人が60%にも上ることが明らかになりました。中でもBMI16未満の「重度のやせ」の人が28%もいたのです。 女性の場合、BMIが16未満だと、BMI22の人に比べて死亡リスクが2.6倍にアップすることがわかっています。BMI18.5でもかなりやせ型ですが、BMI16となると、もう筋肉まで落ちてガリガリにやせた状態です。 私は、こうした日本の高齢者の低体重傾向を“危険なレベル”と考えています。 食事量が不足しているために、「低栄養→筋肉量低下→肺炎・骨折→入院→さらに筋量低下」という悪循環を自分から招き入れてしまっているのです』、私のBMIは18.3と「「低体重」に該当」するようだ。
・『「理想のBMI」は30〜59歳のデータに基づいている  低体重のリスクがピンとこない方もいるかもしれませんが、高齢者の場合、「やせていると死亡リスクが高く、太っていると死亡リスクが低くなる」ことが多くの研究で明らかになっています。アメリカで行なわれた研究でも、高齢者の死亡リスクはBMIが低くなるほど高まり、高齢者のBMIは27のちょい太めくらいが最も死亡リスクが低いとわかっています。 BMI27ということは、つまり肥満(1度)ということになるのですが、高齢者の場合、標準体型(BMI22)の人と比べて死亡リスクが29%低下することが報告されています。高齢者の場合、かなりの肥満であるBMI40の人でさえ、標準体型の人と死亡リスクがほぼ同じなのは驚きですね。 「あれ? BMIって22が最も健康にいいはずなのに、なんで?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。実は、理想のBMIは、若者と高齢者とでは別々に考えたほうがいいのです。 というのも、BMI22というのは、30歳から59歳の5000人を対象にした健診データから導き出された指数、つまり高齢者がまったくカウントされていないのです。言わば、「高齢者抜き」でつくられた体格指標であり、そのため「22がいちばんいい」というのは高齢者には当てはまらないと考えたほうがいいんですね』、「BMI」が「「高齢者抜き」でつくられた体格指標」、初めて知った。
・『年をとったら「おやつ」は好きなように食べる  ここで「間食」についても、お話ししておきましょう。高齢者は「間食」をしてもいいのでしょうか? 答えはイエス。特に食事量の少ない高齢者の場合、1日3食、白米をしっかり食べるというスタイルよりは、白米は多少控えめでも3食のおかずを多めに食べて、間食やデザートも多めにとるというスタイルのほうが、トータルでしっかりカロリーを摂れると思います。だから、ちょっと小腹が空いたときにはお菓子でもみかんでも、気にせずお好きなものをつまんでください。 若い時期には、スナック菓子などを食べ過ぎて、注意されることもあったかもしれませんが、それはあくまで若いときの話。 高齢になってからは、カロリーが高くて太りやすいのはかえって好都合というもの。だから、ポテトチップス、おせんべい、おかき、かりんとう……好きなものを好きに食べても別に問題ありません』、「食事量の少ない高齢者の場合、1日3食、白米をしっかり食べるというスタイルよりは、白米は多少控えめでも3食のおかずを多めに食べて、間食やデザートも多めにとるというスタイルのほうが、トータルでしっかりカロリーを摂れると思います。だから、ちょっと小腹が空いたときにはお菓子でもみかんでも、気にせずお好きなものをつまんでください」、なんと嬉しいことだ。歳を取るメリットのうち最大のもののようだ。
・『「太っちゃうから」甘いものをもう我慢しなくていい  きっと、お菓子類が好きな方にとっては、なんでも気兼ねなく食べられるのは夢のような状況なのかもしれませんね。ただ、間食でこういったものを多く食べていると、カロリーは摂れても、たんぱく質は不足しがちになるので、肉や魚、卵、大豆などのたんぱく質は、3度の食事できちんと摂るように留意してください。 おやつと言えば、「甘いもの」に目がない方も多いと思います。ケーキ、シュークリーム、エクレア、プリン、大福、どらやき、おまんじゅう……こういったスイーツも、高齢者は好きに食べて構いません。 高齢とはいえ現役並みに元気な人で、血糖値が高めの人はもちろんまだまだ注意が必要ですが、衰えを自覚するようになってきたら、血糖値よりも、しっかり食べて体重を守ることを優先したほうがよいと思います。 糖尿病で治療中の方は、もちろん血糖コントロールを無視していいというわけではありませんが、低体重の方は、「血糖を上げないために食べない」ではなく、食べたい量に薬やインスリンを合わせていくという考え方もあります』、私は「血糖値」はそれほど問題がないので、「スイーツも、高齢者は好きに食べて構いません」、嬉しいことだ。
・『選び放題のコンビニスイーツを活用する  ちなみに、最近はコンビニのスイーツがたいへん充実してきています。たとえば、プリンひとつをとってもたくさんの種類があり、生クリームが載ったもの、フルーツが載ったもの、高級な材料を使ったものなど、好みに合わせていろいろ選べるようになっています。 もちろん自分の好みにあったものを選択すればよいのですが、食事の量が少なく体重がなかなか増えない。そんな人は、小さくてもカロリーが高めのものをチョイスするとよいでしょう。 あくまで参考ですが、おまんじゅうのような和菓子よりも、ケーキやシュークリームのような洋菓子のほうが、生クリームなどの乳脂肪が含まれている分カロリーが高い傾向があります。ですから、もし迷ったなら、和菓子よりも洋菓子を選ぶほうがいいかもしれません。 おやつは何歳になっても毎日の楽しみ、という方も少なくないと思います。 太ってはいけない、という呪縛がなくなったいま、いろんなスイーツを試してみながら、日々の「食べる喜び」を満喫してはいかがでしょうか』、「太ってはいけない、という呪縛がなくなったいま、いろんなスイーツを試してみながら、日々の「食べる喜び」を満喫してはいかがでしょうか」、大いに「満喫」したい。
・『食欲がないときは「チョコとアイス」がおすすめなワケ  持病や体調不良があると、病気によってエネルギーを消耗するため、より多くのカロリーを摂らなくてはなりません。「今日はちょっと熱っぽいな」「どうも体調がすぐれないな」といったときほど、がんばってより多くのカロリーを摂取しなくてはならないのです。 そうはいっても、どうしても食欲が湧かないというときはありますよね。いつものように食べられないときは、どうしたらいいのでしょうか。 いちばん避けるべきは食事を抜いてしまうこと。なので、少量でもいいから、食べられそうなものを食べられるだけ食べてください。そして、できるだけ「少量でもカロリーが高いもの」を口に入れるようにするとよいでしょう。 私のおすすめは、チョコレートとアイスクリームです。両方とも少量で高いカロリーを確保することができます。板チョコは1枚で約400kcal、半分でも200kcal摂れます。乳脂肪分の多いアイスクリームのミニカップはだいたい260〜300kcal。これらを食べれば、そこそこのカロリーを摂れるのです。 特にアイスクリームはすぐに口内で溶けて舌やのどが冷たく感じるので、熱っぽいときでものどに痛みがあるときでも、食べやすいと思います』、「チョコレートとアイスクリーム」がお勧めとは、大好物なので嬉しい。
・『甘いもの嫌いなら「ナッツ」をつまむ  また、スナック系だとかりんとうが少量で高カロリー。100g食べると約450kcal摂ることができます。食欲がないときでも「甘いものなら食べられそう」という方は、こういった食品を積極的に活用していくといいのではないでしょうか。 甘いものがあまり好きでないなら、ナッツ類を食べるのもおすすめです。 アーモンドやピーナッツも10粒で60kcal。カシューナッツ、ピスタチオ、くるみなど、ナッツ類はどれもカロリーが高めです。ちょこちょこつまめば、けっこうなカロリーを摂れることになります。 高齢になったら、どんなに食欲がなくても、こういった「熱」や「力」になりそうなものを少しでも口に放り込んでおくことが重要なのです』、「ナッツ類」も常備しておくことにしよう。
・『「体調が悪い→おかゆ」は黄金の方程式ではない  逆に、実はあまりおすすめできないのが「おかゆ」です。おかゆではカロリーが決定的に足りません。普通に炊いたごはんは一膳約200kcalですが、おかゆだと半分の約100kcalになってしまいます。 熱が出て体温が1度上がると、それだけで約200kcalの熱量が消耗されます。2度上がれば約400kcalです。つまり、おかゆの100kcalでは、この熱が上がって消耗した分のカロリーすらまかなえないことになってしまいます。 こんな状態を高齢者が何日も続けていたら、風邪をひいて寝込んでいるうちに、低栄養状態になってしまいかねません。 もちろん、食事が喉を通らないほど具合が悪いときは、水分をとったりおかゆを食べるので精いっぱい……ということもあると思います。ただ、もし食べられるのであれば、これからは「食欲がない→おかゆ」という発想を捨て、新たな健康常識として「食欲がない→チョコレート&アイスクリーム」を身につけるようにしてみてください』、「食欲がない→チョコレート&アイスクリーム」、を喜んで身につけたい。
タグ:津川友介氏による「アレルギーになる原因は「皮膚」にある? 最新研究が明かす真実」 ダイヤモンド・オンライン (その19)(アレルギーになる原因は「皮膚」にある? 最新研究が明かす真実、ダイエットにはズボラが最強!? 「だらだら食べ、食後にちょこちょこ動く」で痩せる理由、「長生きしたいなら揚げ物をたくさん食べなさい」在宅医療の第一人者がそう断言するワケ 唐揚げ、豚カツ、コロッケ、フライ…) 健康 「アレルギーを発症」についてよく知りたい。 「米国小児科学会」も間違った「声明」を出したというのは驚きだ。 「肌荒れなどでダメージがある皮膚から異物が侵入することで、食物アレルギーが引き起こされるのではないかという考え方が生まれた」、素人的にも筋が通った考え方だ。 「皮膚から異物が侵入することでアレルギーになってしまうことを特に「経皮感作」と呼ぶ」、なるほど。 「経皮感作は子どもだけでなく、大人でも起こる可能性がある」、「大人でも起こる可能性がある」とは驚いた。「アレルギー予防の観点からみると、皮膚に湿疹や傷があるなどバリア機能が失われている状態で異物に触れることは、極力避けたほうが良いと言える。 またバリア機能を保つためにも、日ごろから保湿などのケアはしっかりしてほしい」、大いに気を付けたい。 益江 毅氏による「ダイエットにはズボラが最強!? 「だらだら食べ、食後にちょこちょこ動く」で痩せる理由」 「インスリン」「の量をコントロールすることで、内臓脂肪もコントロールすることができる」、なるほど。 「「血糖値が上がり、血液中に糖があるタイミング、つまり食後に運動する」のが最も効果的」、かつては「食後」はゆっくり」と言われていたが、そんなことをしては駄目なようだ。 「だらだら食べて、食後はすぐにちょこちょこ動きましょう」というのは、面白い、早速、実践してみよう。 「リバウンドをしないダイエットのカギを握るのはホルモンの働き。特に脂肪の蓄積と密接に関係のあるインスリンに着目しました。そして、糖質を摂取する際に脂質やタンパク質と合わせて摂取することで、極端に糖質を制限しなくても血糖値のコントロールが容易に行えるようになります。カロリー制限の呪縛から解放されることで、リバウンドせずに長期的に継続できるダイエットが可能となります」、夢のような「ダイエット法」のようだ。合理的でもある。「やせたい人はカロリー制限をやめなさい」、おおいに元気づけられる。 PRESIDENT ONLINE 佐々木 淳氏による「「長生きしたいなら揚げ物をたくさん食べなさい」在宅医療の第一人者がそう断言するワケ 唐揚げ、豚カツ、コロッケ、フライ…」 私はこれまで「「高齢者になったら痩せる」方がいい」と聞いていたが、これが完全なウソだったとは・・・。 出来合いの「お惣菜やお弁当」は、味が濃く塩分も多目そうなのが気になるところだ。 「どんなに億劫でも、食事を抜いてしまうのは厳禁です。これは高齢者がいちばんやってはいけないこと」、よく心しておこう。 「カップラーメンやカップ焼きそばは、たんぱく質が足りません」、「サバ缶」でも一緒に食べれば、カロリーもたんぱく質もけっこう理想的な量を摂取できる・・・あるいは、カップラーメンとゆで卵を一緒に食べたり、カップ焼きそばに生卵を落として食べたりしてたんぱく質を「ちょい足し」、「たんぱく質を「ちょい足し」」、ちょっとした技で「理想的な」食事になるようだ。 私のBMIは18.3と「「低体重」に該当」するようだ。 「BMI」が「「高齢者抜き」でつくられた体格指標」、初めて知った。 「食事量の少ない高齢者の場合、1日3食、白米をしっかり食べるというスタイルよりは、白米は多少控えめでも3食のおかずを多めに食べて、間食やデザートも多めにとるというスタイルのほうが、トータルでしっかりカロリーを摂れると思います。だから、ちょっと小腹が空いたときにはお菓子でもみかんでも、気にせずお好きなものをつまんでください」、なんと嬉しいことだ。歳を取るメリットのうち最大のもののようだ。 私は「血糖値」はそれほど問題がないので、「スイーツも、高齢者は好きに食べて構いません」、嬉しいことだ。 「太ってはいけない、という呪縛がなくなったいま、いろんなスイーツを試してみながら、日々の「食べる喜び」を満喫してはいかがでしょうか」、大いに「満喫」したい。 「チョコレートとアイスクリーム」がお勧めとは、大好物なので嬉しい。 「ナッツ類」も常備しておくことにしよう。 「食欲がない→チョコレート&アイスクリーム」、を喜んで身につけたい。
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